どこへ行くプーチン大統領

どこへ行くプーチン大統領

プーチンに 従う国民
プーチンを 無視する国民 嫌う国民 憎む国民 
ロシアから逃げ出す国民

国民の分断

 


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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア  プーチンの新冷戦 ・・・  プーチン大統領の冬支度
 
 

 

●ロシアは近代国家ではない…プリゴジン反乱ではっきりしたプーチン政権の正体 7/1
“ヨーロッパ最後の独裁者”と呼ばれる、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(68)。6月27日、彼はロシアの民間軍事会社ワグネルの受け入れを表明。創立者のエフゲニー・プリゴジン氏(62)も空路でベラルーシに到着したと発表した。
共同通信は6月28日、「ベラルーシ、部隊受け入れ 周辺国から懸念相次ぐ」との記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。記事によると、ワグネルに救いの手を差し伸べた理由について、大統領は次のように説明したという。
《ワグネルに国内で放棄された基地を提供し、必要な支援を行うと述べた。部隊に対しては慎重に監視を続ける考えを示す一方、戦闘経験は「価値がある」と評価。自国軍を強化する上で得るものがあるとの認識を示した》
ワグネルがなぜロシアで反乱を起こしたのか、依然として理由は明らかになっていない。とはいえ、反乱は厳然たる事実だ。その首謀者であるプリゴジン氏をロシアは処罰できず、隣国への“逃亡”を許してしまった。
少なからぬ専門家が、プリゴジン氏は依然として暗殺される可能性があるとは指摘している。しかしながら、現時点で既にウラジーミル・プーチン大統領(70)のメンツは丸潰れだ。政権の弱体化を意識した人は多かったのではないだろうか。
米ソ東西冷戦研究の第一人者で防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏は、「指摘する専門家が皆無なのは意外ですが、ワグネルの肥大化を許した時点で、ロシアは近代国家たる条件を喪失してしまったのです」と指摘する。
「近代国家の原点は絶対王政です。強大な権力を持つ王が官僚制と常備軍を活用して国家統一を果たしました。国内に諸公が乱立し、それぞれが私兵や傭兵を擁した状態は封建制であり、近代以前の時代です。プーチン大統領は正規軍とワグネルの併存を許し、一本化することができませんでした。これでは藩が乱立し、激しい戦争を繰り広げていた日本の戦国時代と何も変わりません」
戦犯はプーチン大統領
日露戦争で日本に完敗したニコライ2世(1868〜1918)は“最後のロシア皇帝”として知られている。失政や圧政でロシア革命を招き、帝国を崩壊させた。そのため“無能”という辛辣なレッテルを貼られることも珍しくない。
そんなニコライ2世ですら軍隊は一本化していた。ということは、プーチン大統領のガバナンス(統治)能力はそれ以下ということになる。
「プーチン政権は2000年から08年、そして12年から現在まで続いています。合計21年の長期政権ですが、ワグネルの肥大化を許したという時点で、権力が弱体化しているのは明らかでしょう。極端なことを言えば、軍隊は戦争が仕事です。2つの軍隊が併存すれば、いつか互いに攻撃を仕掛けるのは理の必然と言えます。だからこそ近代国家は自国の軍隊は常備軍として一本化したのです。プーチンによってロシアは近代国家たる条件を喪失しました。彼が国のリーダーとして失格なのは言うまでもありません」(同・佐P氏)
重要なのは、ワグネルが民間軍事会社のレベルを超えていたということだ。反乱の際、ワグネルが戦車や対空ミサイルを保有していることが明らかになった。実際にロシア空軍のヘリや軍用機を撃墜している。
こんな兵器を整備できる資金がワグネルにあるはずもなく、全てはロシア軍が与えたのだ。つまり、正規軍に匹敵する重武装をワグネルに許可し、反乱の原因を作った“戦犯”は、まさにプーチン大統領だと言える。
「世界が歪んで見える」
プーチン大統領は1952年、ソ連時代のレニングラード(現・サンクトペテルブルク)に生まれた。中学生の時にスパイに憧れ、14歳でKGBを訪問、就職するにはどうしたらいいか質問したというエピソードが残っている。
レニングラード大学では法律を学び、4年生の時にKGBのリクルートを受けた。85年に東ドイツのドレスデンに派遣され、西側諸国の情報を集める諜報活動に従事した。
「諜報活動と言えば聞こえはいいですが、KGBのやっていたことは全て“悪巧み”です。そしてプーチン大統領はその先兵でした。KGBを辞めてサンクトペテルブルクの副市長などを歴任して現在に至りますが、確固たる国家観など考えたことすらないのは、彼の統治下で建設的な政策が何も採られなかったことからも明らかでしょう。いわば“スパイの目”で国内外の情勢を判断しますから、世界が歪んで見えているのです」(同・佐P氏)
2014年、ウクライナでユーロ・マイダン革命が発生し、当時の親ロ政権が市民の抗議によって退陣を余儀なくされた。
ロシアの視点から見れば、隣国のウクライナが“親西側化”してしまうのは由々しき事態だったに違いない。EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)に加盟されてしまうと、“緩衝地帯”を失うことになる。ロシアが西側諸国と国境を接して対峙するのは、安全保障上の脅威であることは事実だろう。
プーチンの“裏街道”人生
だが、プーチン大統領は、外交で真正面から粘り尽くウクライナと話し合うことは選ばなかった。ワグネルに汚れ仕事を押し付け、最終的にはロシア軍を派遣してクリミア半島の実効支配を成功させた。
そして次に、ウクライナ全土の掌握を狙い、2022年に“特別軍事作戦”を実施した。だが、ウクライナ軍の返り討ちに遭い、現在は反攻に押されているのはご存知の通りだ。
「KGBを目指した時点で、プーチン大統領は“世間の正道”を歩むことを止めました。スパイとして“人生の裏街道”を歩んできたのです。だからこそ、ウクライナで革命が発生すると、クリミア半島の実効支配といった乱暴で姑息な政策を採ったのです。しかし、ウクライナ侵攻で多大な損害を出し、いよいよプーチン政権も“終わりの始まり”が現実のものとなってきました」(同・佐P氏)
読売新聞オンラインは6月29日、「プーチン氏は『ちょっとしたのけ者』…バイデン氏、ワグネル反乱で政権弱体化と認識」との記事を配信した。
アメリカのジョー・バイデン大統領(80)がホワイトハウスで、記者団に「プーチン政権は弱体化したか?」と問われ、「もちろんだ」と即答。続けて「彼は明らかに(ウクライナでの)戦争で負け、国内での戦いにも負けている」と述べたのだ。
「プリゴジン氏の将来を予測するのは難しいですが、少なくとも『ベラルーシに到着した』という記事が配信された時点で、プーチン政権の弱体化の裏付けになります。KGB出身らしく数々の暗殺を指示してきたプーチン大統領の手は血で汚れています。昔の彼なら、プリゴジン氏の命をロシア国内で奪っていたでしょう。これほどの政変が起きても、ロシア国民は沈黙しています。ですが来年は大統領選です。さすがに国民から、反プーチンの声が上がるのか否か、世界中が注視しています」(同・佐P氏)
●支配再強化狙うプーチン大統領、ロシア政権内は亀裂広がる−関係者 7/1
ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱がプーチン大統領の権威を揺るがせてから1週間がたった。プーチン氏は手綱を引き締め直そうとしているが、政権内の亀裂が表れつつある。
ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が主導した24日の反乱を支持したと考えられる要人の排除にプーチン氏が動く中で、安全保障当局者の内部抗争が広がっている。事情に詳しい関係者によると、ロシア軍最高幹部の1人が拘束され、尋問を受けた。
一方、ショイグ国防相の反対派は同氏を排除しようと内部で呼びかけを強めていると、公になっていない情報だとして匿名を要請した関係者が述べた。ショイグ氏はプーチン氏の長年の盟友だが、ウクライナでは長らく戦果を上げていないと、プリゴジン氏は公に非難していた。
プーチン氏は今週、軍や実業界を巻き込んだ公的なイベントを相次いでこなし、市民に健在ぶりをアピールしようとした。世論調査によるとプーチン氏への支持は引き続き強固だが、政府や実業界のエリートの間で同氏の支配力に対する疑いが増していると、関係者は語った。
混乱の継続で、ワグネル反乱がウクライナ侵攻にどのような影響を及ぼすのかという問いも深まった。ウクライナはいっそうの軍事支援を呼び掛けている。米国など一部の支援国ではプーチン氏の反応に対する警戒も依然あるものの、新たな種類の兵器供給についてこれまでの慎重姿勢を見直しつつある兆しが増えている。
「今回の危機でプーチン氏が弱体化したのは明らかだ」と欧州委員会のボレル副委員長(外交安全保障上級代表)は29日に指摘。「だが、弱ったプーチン氏はいっそう危険だ」と述べた。
西側当局者はこの反乱でプーチン氏の権威は低下したとの見解で一致している。地位低下でプーチン氏が戦争をエスカレートさせる可能性は後退したと示唆する者もいる。北大西洋条約機構(NATO)諸国は来月の首脳会議でウクライナ加盟に向けた強力な保証を打ち出そうと、働きかけを続けている。
混乱がロシアの核管理に影響を及ぼし得る兆候を米欧の当局者は注視している。だが今のところ、危険が増した兆候はないという。ウクライナ戦争での核使用をちらつかせる再三にわたるロシアの脅しに、多くの国はうんざりしていると関係者は語った。
関係者によると、ロシアでは著名な軍指導者で昨年10月から今年1月までウクライナ戦争の総司令官を務めたセルゲイ・スロビキン氏が当局の聴取を受けた。同氏はワグネルのメンバーとして登録されていたと、ロシア指導部を調査する英シンクタンクのドシエセンターの情報としてCNNが29日報じた。
ロシア大統領府と緊密な関係を持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は「大規模な調査が始まった」とし、「プリゴジン氏やワグネルと関係のあった全ての軍幹部、当局者は聴取されるだろう」と語った。
一方で、ショイグ氏の側近らに対する広範な調査も進んでいると、事情に詳しい関係者は述べた。この主張は公に裏付けられてはいない。
関係者の1人は、ワグネル反乱でショイグ氏らプーチン氏の忠実な部下の権威が失墜し、権力の空白が生じていると表現した。
ただ、西側当局者らはショイグ氏やゲラシモフ参謀総長の地位を脅かすような激震が迫っているとは見ていない。ゲラシモフ氏はプーチン氏に忠実であることで知られ、プーチン氏は圧力を受けたからといって長年の支持者を排除することには極めて消極的だ。
●「弱くなったプーチンの方がより危険」…EU首脳、ロシア内部の亀裂を警戒 7/1
欧州連合(EU)の首脳らが先週末、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が起こした「武装反乱」の余波に神経を尖らせている。
29日(現地時間)、ベルギーのブリュッセルで開かれたEU首脳会議に出席するために集まった27の加盟国の指導者たちの最大の関心事は、ワグネルの軍事反乱で明らかになったロシア軍首脳部の分裂とウラジーミル・プーチン大統領の統制力の喪失だった。ワグネルの反乱は同日の首脳会議の公式議題ではなかったが、加盟国全員が関心を持つ最も「熱い」テーマだった。会議に出席した各国の首脳はこの問題に対する様々な論評を出した。同日の会議にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はオンラインで出席した。
イェンス・ストルテンベルグ北大西洋条約機構(NATO)事務総長はこの日、加盟国首脳との昼食会前に取材陣に会い、「週末に我々が目撃した反乱はロシアのシステムの中に亀裂と分裂があることを示している」としながらも、ロシア内部の問題であり、ベラルーシなどにワグネルの隊員たちがどれだけいるかはまだ明確ではないため、「最終的な結論を下すには早すぎる」と述べた。また「NATOにとって重要なのは我々がウクライナを支援し続けること」だと強調した。ストルテンベルグ事務総長は、EU加盟国の相当数がNATO加盟国であることから今回の会議に出席した。
EUのジュセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表は「さらに弱くなったプーチンはより大きな危険」だとし、警戒を緩めなかった。ボレル代表はEUのすべての情報機関が現在の状況を分析しているとし、「プーチンは独占していた武力を失った」とし、「内部的に『清掃モード』に入り、より断固とした路線を取るものと予想される。内部的な不安定性から、我々はロシアを危険とみなすべきだ」と述べた。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は同日、「ARD」とのインタビューで、「いかなる場合であれ(今回の反乱が)ロシアに長く続く影響を及ぼすことは明らかだ。私は(プーチン大統領の力が)弱くなったとみている」と述べた。ただし、ショルツ首相は「我々の目標はロシア政権と政府の交替ではない」と付け加えた。
ワグネルの首長であるエフゲニー・プリゴジン氏が亡命したベラルーシと国境を接しているポーランドやリトアニア、ラトビアなどバルト海諸国は、ワグネルの傭兵たちの動きを警戒しながら見守っている。ラトビアのクリシュヤーニス・カリンシュ首相は、高度に訓練されたワグネルの隊員たちがベラルーシに集結する可能性を示唆し、「この脅威はおそらく全面的な軍事脅威ではないだろうが、目的が不明なまま欧州に侵入しようとしている点で、脅威と言える」と懸念を示した。リトアニアのギタナス・ナウセダ大統領は「一部の同僚たちは時々弱いプーチンよりは強いプーチンの方が危険性は低いという」とし、「私はそのような見解に同意しない。今は歴史の重要な瞬間であるため、我々は前に進み、決断力を発揮しなければならない」と述べた。エストニアのカヤ・カラス首相は、ワグネルがベラルーシに移動したことについて「ベラルーシとロシアはいずれも危険であり、また今後も危険だろう」とし、ロシア側には「亀裂」があると指摘した。さらに「我々がすべきなのは、ロシアに対し(制裁を通じて)圧力をかけ続けることだ」と強調した。
ワグネルの反乱がEUをさらに結束させる契機になったことは明らかだ。欧州議会のロベルタ・メツォラ欧州議会議長は同日午後の記者会見で、今回の事態が「ロシア内部の力学関係とシステムの脆弱性、ウクライナ侵攻と欧州の安保全体に及ぼす影響に対して多くの疑問を抱かせた」とし、「ウクライナとの連帯は我々の最優先議題であり、続けるべきだ」と述べた。
●ハグやキス…自撮りにも応じるプーチン氏 突然群衆の中に現れた狙いは? 7/1
6月28日、プーチン大統領は、イスラム教の祭りに合わせ、ロシア南部のダゲスタン共和国を訪れた。
群衆から熱烈な歓迎を受け、快く応えるプーチン大統領。顔を寄せ合って自撮りに応じる姿も見受けられた。
「とても驚いた。この数カ月の映像ではプーチンは他人からの感染を避けるため、とても長いテーブルの端にいたからだ。それが突然、群衆とハグしたり、キスしたり、握手したり、ちょっとおかしい」(CNN特派員)
ワグネルの乱が収まったこのタイミングで、公開された映像。その狙いについて、専門家はこう話す。
「今回のことはロシア国民にも大きな衝撃があったものとして、いかに現状がすでに収束されて政府も自分も正常運転でやっていると早期にアピールしたかった」(慶応義塾大学総合政策学部・廣瀬陽子教授、以下同)
今回、プーチン大統領がダゲスタン共和国で触れ合ったのは本当に地元の市民なのだろうか。
「それも謎だ。今回の戦争は主に、とにかく地方からより少数民族から人を集めている。そのなかで死亡率が一番高いのがダゲスタン。プーチンに恨みを持っている人も多い。(観衆として)集められた人というのは、もはや定番になっていて、(今回も)集められた人の可能性は高い」
●プーチン大統領が粛清を諦めたプリゴジン氏の「巨大影響力」 7/1
プーチン政権への叛乱騒動で世界中の注目を集めたロシアの民間軍事会社「ワグネル」。創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は6月24日、プーチン政権との間で身の安全と免責の保証を得た上で、首都・モスクワに迫ったワグネルの部隊を撤収させた。
同26日にはSNSにメッセージを投稿し、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介のもと、流血の事態を避けるために進軍を中止したと説明。ロシア国防省の決定により、ワグネルは7月1日に消滅する可能性があったことも明かした。
ベラルーシに出国したプリゴジン氏に対しては、ロシアの独立系メディアが「プーチンが治安部隊に始末を命じた」と報じるなど“報復”が囁かれる。プーチン氏自身も6月24日のテレビ演説で、「反逆者として武装反乱を準備し、テロリストの手段をとった者は全員が処罰される」と声明を出した。不穏な空気が漂うが、ロシア情勢に精通する筑波大学名誉教授の中村逸郎氏はこう語る。
「プーチンはプリゴジンを粛清できないでしょう。国内のプリゴジン支持者が多すぎるからです。今回の反乱でもロストフ州に入ったプリゴジンを住人が拍手で迎え入れていました。反政府デモを弾圧するロシアでは異例の光景です。
国内の世論調査機関が発表した『最も信頼できる政治家』でもプリゴジンは5位に入っています。9月に統一地方選、来年3月に大統領選を控えるなか、下手にプリゴジンを粛清すれば世論が反プーチンに傾くリスクがある」
これはプーチンの権力が弱体化していることの現われでもある。
「ウクライナ戦線で戦果が上がらず、いよいよ統制力に陰りが見えてきた。これまでプーチンの言いなりだったルカシェンコ大統領にとっても転機です。彼もまたプリゴジンの影響力は欲しい。プーチンへの重石になるし、外交カードにも使える。今後はベラルーシがワグネルの拠点になるともいわれており、ワグネルがルカシェンコの“飼い犬”になれば、ロシアとベラルーシの関係にも緊張が走るでしょう」(中村氏)
6月27日、ルカシェンコ大統領はプリゴジン氏のベラルーシ亡命を手配したのは自分だと明かした上で、「もしワグネル戦闘員がプリゴジン氏に合流したいなら、使われていない軍事基地を提供する。フェンスもあり、なんでもある。自分たちでテントを設置するといい」と述べたことを国営ベルタ通信が伝えた。“狂犬”の飼い主は誰になるのか。
●ロシアメディアは「プリゴジンの乱」の影響をどう報じているのか 7/1
6月24日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が国内で武装蜂起したあとに部隊を撤収した事件で、その代表エフゲニー・プリゴジンはその後、隣国のベラルーシにいると同国のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が明らかにしていた。
西側メディアはこの「ブリゴジンの乱」によってロシアのウラジーミル・プーチン大統領の威信は地に落ち、国内では早くもプーチンの後継者探しが始まっているとすら報じた。
プーチンはいずれプリゴジンに報復するだろうとの分析も出ているが、プリゴジンとワグネルはこれからどんな扱いを受けるのだろうか?
プーチンの威信はロシア国内で失墜していない?
ロシアの独立系メディアで、今年1月にはロシア政府が「望ましくない組織」に指定した「メドゥーザ」が、西側メディアの伝えないロシア世論について報じている。
ロシアの独立系の調査会社による最新の世論調査では、プリゴジンの支持率が武装蜂起直前の60%から、蜂起直後に29%に急落した。この支持率とは、2024年のロシア大統領選にプリゴジンが出馬した場合に投票するだろうと答えた人の割合だ。
セルゲイ・ショイグ国防大臣の支持率も蜂起前の60%から蜂起後は48%へと落ち込んだ。だが、プーチン大統領の支持率はそれほど落ちていないという。蜂起前の支持率は82%だったが、蜂起当日、79%に下がり、危機が回避されると82%に戻ったという。
だが、6月29日、ロシア政府が共有した内部報告によれば、国民の大統領への信頼は9〜14%落ち込んだとしている。政府に近い情報筋によれば、政権はプーチンの人気を回復しようと、彼が国民の前に姿を見せる回数を増やそうとしている。
ワグネルはウクライナ戦争から撤退する
プリゴジンとワグネルがこの先ロシア国内外でどんな扱いを受けるのかは不明だ。だが、ワグネルが今後ウクライナでロシア軍と共に戦うことはもうないだろうということは、はっきりしているようだ。
「ロイター通信」によれば、それはプリゴジンが、ワグネルをロシア国防省の支配下に置くとする契約書に署名することを拒否していたからだという。これはロシア下院の国防委員長であるアンドレイ・カルタポロフ上級大将が6月29日に明らかにしたことだ。
プリゴジンの居場所をめぐる情報は錯綜しているが、目下は武装蜂起した本人よりも、ロシア政府内でプリゴジンとつながっており、事前に蜂起の情報を把握していた者は誰かという追及に関係者は戦々恐々としていると米紙「ワシントン・ポスト」などは報じている。
●「戦争の長期化に拍車」「エリートの離反と愛国勢力の反発」 ワグネル反乱 7/1
反乱軍はモスクワへ200キロの距離まで迫った。首都の空港から大統領専用機が離陸したらしい。次々に飛び込んでくる速報を、世界は固唾(かたず)をのんで見守った。結局、反乱劇は武装蜂起から24時間で収束したが、これはウクライナ戦争、ひいてはプーチン政権の「終わりの始まり」となるのか。
国の最大権力者に武力で威嚇し訴える。日本では今回の反乱劇が、平安時代に白河法皇を困らせた比叡山延暦寺や奈良・興福寺の僧兵による「強訴(ごうそ)」や、室町時代に足利将軍の屋敷を守護大名が取り囲み要求を通そうとした「御所巻(ごしょまき)」に例えられた。
そんな歴史の教科書でしかお目にかかれないような出来事が、実際に起こってしまうのが現代のロシアなのである。
6月26日夜(日本時間27日午前4時過ぎ)から、ロシア国営放送はウラジーミル・プーチン大統領(70)の演説を放送した。
「武装反乱はいかなる場合でも鎮圧される。反乱を組織した者たちは、国や国民を裏切り、犯罪に引きずり込んだ者も裏切った」
プーチン大統領が憤怒の表情でそう批判する相手は、民間軍事会社ワグネルの代表であるエフゲニー・プリゴジン氏(62)だ。
組織の存続を懸けて…
自らの配下にある戦車部隊と兵士を率いてロシアの南部軍管区司令部を占拠。“正義の行進”と称してモスクワへと進軍し、セルゲイ・ショイグ国防相(68)やワレリー・ゲラシモフ参謀総長(67)の更迭を求めたが、ロシア政府との交渉は難航。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(68)の仲介で、矛を収める代わりにプリゴジン氏は“亡命者”として国外脱出を図ったのは周知の通りである。
外報部デスクによれば、「ウクライナ戦争以降、ロシア国防省は約2万人いるとされるワグネルの兵士たちに、軍との正式な契約を求めていました。かねて前線では双方の主導権争いともいえる小競り合いが頻発。ワグネルがロシア軍に吸収されることを危惧したプリゴジン氏が、組織の存続を懸けて実力行使に出たわけです」
政権発足後、内政における最大の危機
もともとプリゴジン氏は、プーチン大統領の出身地であるサンクトペテルブルクで高級レストランを経営し、政権幹部の知遇を得た。2014年のワグネル創設後はプーチン氏の片腕として、残忍な“汚れ仕事”を引き受ける代わりに対価を得る蜜月関係を築く。ところが今回のウクライナ戦争でワグネルの存在感が増したことで、両者には埋め難い亀裂が生じてしまったのだ。
「今回は二つの意味で、プーチン政権発足後、内政における最大の危機だったと言っていいでしょう」
そう話すのは、ロシアの政治や外交、安全保障に詳しい防衛省防衛研究所・研究幹事の兵頭慎治氏だ。
「一つ目は、これまでの反政府勢力などではなく、プーチン政権の中枢にいた親しい一派が、初めて反旗を翻したという事実です。しかも武装してモスクワに行こうとしたわけですから、国内外に大きな衝撃が走ったといえます。そして二つ目は、あれだけプーチンが演説では厳しい口調で“裏切者”“罰してやる”などと言っておきながら、事実上、国外追放の形で不問に付したことです」
政権内の亀裂
中途半端な後始末が、後々になって災いを招く可能性があるというのだ。
「このことは、プーチン大統領の力だけでは事態に対応できなかったことを示しており、想像以上に統治能力が低下しているのではないかと、国内外に印象付ける結果になりました」
つまりは、こう言えるという。
「そもそも盤石な政治力で統治が行われていれば今回のような反乱は起きません。仮に起きたとしても、首謀者は直ちに拘束されるか処罰される。それが不問に付されるとあっては、プーチンの求心力低下は避けられません。ブリンケン米国務長官も、政権内に亀裂が入り始めていて、この動きは続くと指摘しており、深刻な事態に見えます」(同)
「プーチン体制の終わりの始まり」
元時事通信モスクワ支局長で拓殖大学特任教授の名越健郎氏は、こんな見解。
「今回の騒乱はプーチン体制の終わりの始まりを意味するのではないか。造反の収拾に当たったのは、ニコライ・パトルシェフ安保会議書記やルカシェンコ大統領らで、プーチン大統領は国民向け演説を行うだけだった。エリートの離反やプリゴジン氏を支持する愛国勢力の反発を招く可能性がある。内乱の瀬戸際になったことで、国民にも大統領の弱さを印象付ける形になった。危機管理能力に疑問を持つ人も多いでしょう。これからロシアは9月に統一地方選、来年3月には大統領選が予定されていて“選挙の季節”に入ります。政権は締め付けを強めるものの、いい方向に作用しないのは明らかです。あと6年、任期を任せられるのかといった疑いが、エリート層を中心に沸き起こってくる可能性は大いにあります」
プーチン政権が弱体化すれば、はたして反転攻勢に出たウクライナにとっては、有利な戦況となるのか。
「戦争の長期化に拍車」
再び兵頭氏に聞くと、「国民に対する政権の求心力が低下すればするほど、戦争では敵に譲歩や妥協しづらくなりますから、強硬手段を貫くことで力を誇示しようとするでしょう。今回の反乱で戦争の長期化に拍車がかかったと思います。戦力的な観点に立っても、これまでバフムト制圧など攻める側にロシア軍が立てば、ワグネルのような突破力のある部隊の影響力は強かったのですが、今のロシア軍は攻守逆転で守る側に立たされています。短期的な軍事作戦においては、ワグネルがいなくても守りに徹することは可能でしょうし、ウクライナも納得がいくまで攻勢を続けると思いますので、まだまだ先が見通せません」
面子を潰されたプーチン大統領が暗殺指令を出したとも報じられる中、当のプリゴジン氏は姿を隠しながら、SNSでメッセージを発信し続ける。かつての「守護神」が「疫病神」と化してしまったプーチン大統領にとって、終局を防ぐための持ち駒は限られよう。
●ウクライナの反転攻勢は期待下回る、ホワイトハウスが認める 7/1
米国のバイデン政権は30日、ウクライナ軍による反転攻勢の初期段階について、戦果が期待を下回っていることを認めた。それでも米国として支援を継続することを改めて明言。支援は訓練や装備、助言を提供する形になるとした。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー報道官は同日、報道陣に対し、ウクライナ側と定期的に連絡を取り、常に状況を把握できていると説明。今後も引き続き可能な範囲で反転攻勢を支援する意向を示した。具体的には旅団レベルの訓練や追加の戦力の供与、助言及び情報の提供といった内容に言及した。
その上で、実際の反転攻勢をどの戦域で仕掛けるか、またどの程度のペースで遂行するかといった判断はあくまでもウクライナ側が下すと強調した。
一方、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は30日、当初の見立てより反転攻勢のペースが緩やかな点について「戦争が持つ本質の一部」との認識を表明。「以前述べたように、この反攻には6週間、8週間、10週間程度の日数がかかる。非常に困難かつ長い戦いになるだろう。大変な数の犠牲者が出るはずだ。誰だろうと戦況の一切について、いかなる幻想も抱くべきではない」と語った。
各国のジャーナリストが集まる米ワシントンでのイベントで述べた。
「彼らは文字通り命がけで戦っている」「確かに多少時間がかかっているが、それは戦争の持つ本質の一部だ」(ミリー氏)
CNNが先週報じたところによると、西側諸国の複数の当局者らは反攻について、現時点で「どの前線においても期待以下」だとの認識を示した。十分に強化されたロシア軍の防衛線をウクライナ軍が突破しあぐねていることなどが要因だという。
カービー報道官はウクライナ軍がある程度の進展を果たしたことを認めつつ、戦闘がいつまで続くかを示す具体的な日程への言及は控えた。
●ザポリージャ原発からロシア側関係者が退避開始…「テロ攻撃」警戒 7/1
ウクライナ国防省情報総局は6月30日、ロシア軍が占拠を続ける南部ザポリージャ原子力発電所から、露側関係者が退避を始めているとSNSで発表した。退避の理由は明らかにされていない。ウクライナは露軍が同原発で「テロ攻撃を検討している」(ウォロディミル・ゼレンスキー大統領)と見て警戒を強めている。
同局によると、露国営原子力企業ロスアトムの主任検査官ら3人が原発を離れ、ロシアが一方的に併合した南部クリミアに向かった。ロスアトムと契約するウクライナ人従業員も、7月5日までに避難するよう勧告を受けているという。
また、原発に残っている職員は「緊急事態が起きたらウクライナを非難する」よう指示を受けているとしている。同原発があるエネルホダルの町でも、軍のパトロールが減少しつつあるという。
一方、タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は6月30日の記者会見で、露軍が原発を攻撃するとのウクライナ側の訴えに対し、「全くのうそだ」と反論した。その上で、「悲劇を演出することにたけているウクライナ側の危険なゲームだ」と述べ、ウクライナを非難した。
●ロシアの凍結資産31兆円 EUがウクライナ復興費用に活用検討へ 7/1
欧州連合(EU)は6月29〜30日、ブリュッセルで首脳会議を開き、ロシアによる侵攻が続くウクライナの復興費用として、EU内で凍結されているロシア資産を活用する案について検討するよう、執行機関の欧州委員会に求めた。
フォンデアライエン欧州委員長は、会議後の会見で「ロシアによるウクライナの大規模な破壊行為を目の当たりにしている。加害者は責任を負わなければならない」と述べた。
ロイター通信などによると、EUは昨年2月のウクライナ侵攻を受け、ロシア中央銀行が国外に保有していた資産約2千億ユーロ(約31兆5千億円)以上を凍結したとされる。この資産から生じる利子を復興支援に充てる案が検討されているが、加盟国の中には、法的根拠を明確にすべきだとの声があるという。欧州委は問題点を早急に詰め、具体策を近く示すとしている。
首脳会議では、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が企てた反乱の影響についても協議した。ミシェル首脳会議常任議長は「ロシアの亀裂と、我々の揺るぎない結束は対照的だ」として、各国がウクライナ支援の継続で一致したと強調した。
また、中国政策も議題の一つになった。採択された総括文書では、経済における中国の重要性を認めつつ、サプライチェーン(供給網)などでリスク軽減(デリスキング)と多様化を図ると明記。安全保障面では、台湾海峡での緊張の高まりに懸念を表明し、武力による一方的な現状変更の試みに反対するとした。
●ウクライナ国民の8割 親族・知人がロシアの侵攻で死傷 7/1
ウクライナではロシアの侵攻によって、けがや死亡した親族・知人がいる人が国民の約8割に上ることが分かりました。
ウクライナのキーウ国際社会学研究所は29日、世論調査の結果を発表し、去年2月以降、ウクライナ国民の78%が親族や知人にロシアの侵攻によるけがや死亡した人がいることが分かりました。
親族や知人に1人以上の戦死者がいる人は国民の63%に上るということです。
キーウ国際社会学研究所は「国民の大多数が親族や知人の死傷を経験していて、ウクライナ人にとって悲劇的な集団体験である」とロシアを非難しています。
●ウクライナ、北部を警戒 ワグネル・プリゴジン氏らの移動で 7/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は6月30日、軍に北部方面の防衛強化を指示したと明らかにした。ロイター通信が報じた。北隣のベラルーシには、反乱を24日に起こしたロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏や一部戦闘員が移ったとされ、ワグネルの北からの攻撃を警戒している可能性がある。
プーチン露大統領は反乱に参加したワグネル戦闘員のベラルーシ行きを許容した。首都ミンスクから南東約90キロの場所で、ワグネルの新たな拠点が建設中との見方が報じられている。ここからウクライナ国境までは約200キロ。ウクライナ軍幹部は現時点で北方からの「直接攻撃の脅威はない」と述べる一方、警戒を強める方針を示した。
ロシア軍は昨年2月の侵攻開始当初、ベラルーシからウクライナ北部に攻め入って首都キーウ(キエフ)に迫った。ただ、同4月には撤退し、南部や東部の戦線に注力している。
●CIA長官、ウクライナ極秘訪問 停戦交渉の要望を聴取 米紙報道 7/1
米紙ワシントン・ポストは6月30日、複数の関係者の話として、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が6月初旬にロシアの侵攻が続くウクライナを極秘訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談したと報じた。ウクライナによる反転攻勢の開始と同時期で、ウクライナ側は領土奪還を早期に進め、年末までにロシアとの停戦交渉を開始したいと伝えたという。
同紙によると、ウクライナ側は今秋までに相当程度の領土を奪還することを目標に挙げた。2014年にロシアが一方的に併合した南部クリミア半島との境界付近に大砲やミサイルシステムを移動させ、東部でも反転攻勢を進めるなどと説明したとしている。
バーンズ氏の訪問は、6月24日に起きた露民間軍事会社「ワグネル」の反乱前で、蜂起の可能性などは話し合っていなかったという。一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、バーンズ氏が今回の反乱後にロシアのナルイシキン対外情報庁長官と電話協議し、米国が関与していないことを伝達したと報じた。
ウクライナの反転攻勢は一進一退の状態が続いている。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は6月30日にワシントンで講演し、「人々の予想より進展具合が遅いが、驚きではない」と述べた。ウクライナ軍の部隊は地雷原を進むため慎重な動きになっているが、「着実に前進している」と強調した。
●プーチン氏支持に影響も 軍上級大将の拘束報道 ワグネル反乱から1週間 7/1
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が、23日に反乱を起こして30日で1週間。
プーチン政権下で前代未聞の事態は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲裁して24日に収束した。しかし、中東・アフリカの紛争やウクライナ侵攻を通じて肥大化したワグネルの活動が、今後どうなるかは不透明。混乱を招いた政権の支持率にも影響が及ぶとみられている。
軍に協力者か
「プリゴジン氏に近いスロビキン上級大将が拘束された」。内外メディアは28日夜以降、国防省関係者らの話として次々と報道した。
スロビキン氏は、昨年10月〜今年1月にウクライナ侵攻を統括する総司令官を務め、メディアで「ハルマゲドン(最終戦争)」の異名を取った。力を増すワグネルを国防省が管理下に置こうとするタイミングで、総司令官は制服組トップのゲラシモフ参謀総長に交代。それでもスロビキン氏は統括ナンバー2として残り、ワグネルの勢力も保たれた。
米メディアによると、スロビキン氏は反乱を前もって把握していたとされる。連邦保安局(FSB)も事前に察知し、プリゴジン氏が敵視するショイグ国防相らがワグネルに拘束される事態には至らなかった。スロビキン氏が通報したかどうかは不明で、取り調べでは反乱への協力の有無ではなく、プリゴジン氏との近さが問題視されたという。
ワグネルが蜂起した南部ロストフナドヌーで戦闘に至らず、南部軍管区司令部がいとも簡単に占拠されたことから、ロシア軍内部に協力者がいたという見方がある。ウクライナで苦戦が続く中、プリゴジン氏に限らず保守派を中心に軍上層部への不満が高まっており、反乱の背景には国防省内の権力闘争も透けて見える。
市民と触れ合い
「軍事クーデターではない」。反乱中、拘束を警告するFSBにプリゴジン氏は反論。政権に対する挑戦ではなく、あくまでも国防省への抗議だと主張した。だが、軍を統制できていないとすれば、最終的には最高司令官であるプーチン大統領の責任となり、政権の求心力に疑問符が付くことになる。
独立系メディア「メドゥーザ」によると、世論調査機関の発表で、プーチン氏の支持率は反乱前後とも約8割の高水準を維持。だが、クレムリン(大統領府)は「9〜14ポイント低下した」可能性があるという内部データを関係者に通知した。今年9月に統一地方選、来年に大統領選を控えるプーチン氏にとっては無視できない数字だ。
プーチン氏はこのところ、国営メディアを通じた露出を増やしている。27日に軍・治安機関の2500人以上を集めて演説し、掌握をアピールした。28日には反乱後初の地方視察として、南部ダゲスタン共和国を訪問。厳しい警護よりも、市民との握手や写真撮影を優先させ、国民の支持つなぎ止めに余念がない。 
●“終わりの始まり”か…ロシア国内で語られる“ポスト・プーチン”のシナリオとは 7/1
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」による反乱は国際社会に大きな衝撃を与えました。反乱の裏側で何が起きていたのか。これはプーチン体制の"終わりの始まり"なのか。ロシアの現状を取材しました。
「我々は“正義の行進”に打って出た」プリゴジン氏がロシア軍と対立も…わずか1日で方針転換
ウクライナへの攻撃が続く中、6月24日、世界に衝撃が走った。
激戦地で戦いを続けてきたロシアの民間軍事会社「ワグネル」を創設したプリゴジン氏がロシア軍と対立し、モスクワに向け進軍した。
プリゴジン氏のテレグラムに投稿 音声メッセージ「ワグネルの解体が望まれていた。我々は“正義の行進”に打って出た」
ところが、わずか1日で方針転換。占拠したロシア南部にある軍の施設からも撤退した。
プリゴジン氏はベラルーシに逃れたとされているが、反乱収束後、姿を見せていない。
反乱の裏側には、何があったのだろうか。ワグネルの兵士とされる男性は今週、SNSに投稿された動画の中でこう語っている。
ワグネル兵士とされる男性「私は最初から(ワグネルとロシア軍の)対立を感じていた。国防省の制度は古くて、汚職が溢れている」
男性によると2022年、ワグネルとロシア軍の合併が話し合われたが、破談になっていたという。
ワグネル兵士とされる男性「去年の秋に“合併”の話が出た。国防省には人員がいて、ワグネルには完成された訓練制度がある。しかし国防省は我々の提案を受け入れなかった。結果、ワグネルを壊滅させることが決まった。我々の司令部はそれを受け入れなかった」
亡命後もプリゴジン氏はワグネルの今後についてロシア当局との交渉に動いているのではないかという見方もある。
ワグネル兵士とされる男性「プーチン大統領はワグネルを『テロ組織』としたが我々は平気。兵士たちは武装解除している。今はトレーニングをしているだけ。交渉の結果を待っている」
“反乱後もプーチン氏の強固な支持基盤に揺るぎはない”
プリゴジン氏は、反乱を起こす前、国民の間で急速に支持を広げた。
ワグネルの関連グッズも販売され、最近では、“裏切り者の処刑”に使われるハンマーまでもが商品化されるほどに。
『最も信頼できる政治家』を尋ねたロシア独立系調査機関の調査では、初めて5位にランクインした。
ロシア 独立系世論調査機関『レバダ・センター』 レフ・グドゥコフ副所長「プリゴジンが政府の汚職や無能さを非難したことは、国民の支持に繋がりました。それによって、彼がオープンで正直者で愛国者。そして、カリスマ性のあるリーダーとして評価されたのです」
一方、プーチン氏はプリゴジン氏の反乱を抑えたとアピール。国民と親しげに触れ合って見せた。
ロシア 独立系世論調査機関『レバダ・センター』 レフ・グドゥコフ副所長「自分こそが権力を持ち、状況をコントロールでき、信頼できるリーダーだと知らしめるためです。全てのネガティブな印象は、このような活動で打ち消されていくでしょう」
反乱後も、プーチン氏の強固な支持基盤に揺るぎはない、と語る若者がいる。
打倒プーチン政権を掲げ、活動してきた元大学生のミハイルさん(仮名・22歳)。
――来年は大統領選が行われるが、どう見ている?
元大学生の活動家 ミハイルさん(仮名)「もちろん、プーチンが勝つでしょう。何の疑いもありません。投票には行きません。候補者はプーチン1人だけだし、投票する意味なんてありませんから」
ウクライナ侵攻が起きた当初から何度も抗議デモに参加してきたが、逮捕され、逃亡生活を続けるうちに新たな行動を起こす意欲を失ってしまった。
元大学生の活動家 ミハイルさん(仮名)「“率先して動く者は罰せられる”というソ連の古い名言があります。沈黙して行動せず、間違いは犯すなということです。さもなければ逮捕され、刑務所に入れられ、場合によっては殺されます。私の友人も多くが投獄され、反体制派のリーダーたちは殺されました」
ロシア国内で語られる“ポスト・プーチン”のシナリオ
反乱を起こした、ワグネルの創設者プリゴジン氏。
かねてから、ロシア軍のトップ=ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を強く批判してきた。
プリゴジン氏「ショイグ(国防相)!ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにある!」
元読売新聞モスクワ支局長の古本朗氏。旧ソ連時代から、ロシアを取材し続けてきた。
古本氏は今回の反乱で、プーチン体制の亀裂を感じさせる象徴的なシーンがあったと指摘する。プリゴジン氏が、ショイグ氏とゲラシモフ氏に会わせるよう詰め寄った場面だ。
プリゴジン氏「(ゲラシモフ)参謀総長とショイグ(国防相)を出してもらいたい」
ロシア軍の幹部「どうぞ、連れて行って」
対応したロシア軍の幹部は、反乱軍のトップ、プリゴジン氏の言葉に笑みを浮かべている。
元読売新聞モスクワ支局長 古本朗 氏「(軍幹部が)どこでも連れて行ってくださいと、冗談まじりで笑って答えるわけです。反乱軍と対峙しようという意思は全く感じられなかったと言っていいですね」
金平茂紀キャスター「軍の中にも、今回の“プリゴジンの乱”という反逆行為に対してある種のシンパシーというか感じている動きはあった?」
元読売新聞モスクワ支局長 古本朗 氏「軍や秘密警察FSBの中にプリゴジン・シンパがいるという指摘は前から専門家の間ではあった。それが本当だったという事が徐々に示されてきていると言っていい」
反乱後、プリゴジン氏は隣国ベラルーシに逃れ、その動向が注目されている。
そんな中、「事前に反乱を知っていた」と報じられていたウクライナ侵攻の副司令官スロビキン氏が「逮捕された」と、複数のロシアメディアが伝えた。
元読売新聞モスクワ支局長 古本朗 氏「プーチン政権として非常に難しい問題があるのは、反乱を起こしたプリゴジン氏に対しては事実上、無罪放免にしているわけです。それで、それに“協力した”スロビキン氏を厳罰に処すとなれば、軍の世論、社会の受け止めを考えても難しい面が出てきますよね」
実は今、ロシア国内で、“ポスト・プーチン”のシナリオが語られ始めていると、古本氏は言う。そのモデルになると囁かれるのが、かつて旧ソ連で起きたクーデター未遂だ。
1991年、当時の副大統領ら保守派のグループがゴルバチョフ大統領を軟禁し、退陣を迫った事件。クーデターは未遂に終わったが政権は求心力を失い、のちにソ連崩壊へとつながっていった。
元読売新聞モスクワ支局長 古本朗 氏「この事件では、ゴルバチョフ氏が退陣を拒否したために未遂に終わりましたが、今回はプーチン氏の同意の上で、集団指導体制への権力移譲を成就させようと、国家の権力の中枢、あるいは周辺にいるエリートたちの中でそういう構想があるのではないかとの見方が強まっています」
今回の反乱でプーチン政権にほころびは出るのか。この秋には「地方選挙」が行われる。
●ワグネル反乱へ断固たる対応、「インド首相が支持」とロシアが一方的に発表… 7/1
ロシアのプーチン大統領は30日、インドのナレンドラ・モディ首相と電話で会談し、露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏の反乱について説明した。
露大統領府は、モディ氏がプーチン政権側の「断固たる対応に理解と支持を表明した」と一方的に発表した。印政府の発表では反乱に言及がなく、反乱への対応が国際的に支持されていることを印象付けたいプーチン政権の思惑がにじむ形となった。モディ氏が6月の訪米について報告したと露側は説明しており、インドに対する米国の働きかけを意識していることもうかがわせた。
印政府によると、モディ氏はウクライナ情勢の解決に向けた「対話と外交」を改めて呼びかけた。今月4日にモディ氏が議長として上海協力機構の首脳会議を開く予定で、事前のすり合わせを行ったとみられる。
●ロシア軍が占拠の原発、主任検査官ら退避… 7/1
ウクライナ国防省情報総局は30日、ロシア軍が占拠を続ける南部ザポリージャ原子力発電所から露側関係者が退避を始めているとSNSで発表した。理由は明らかにしていない。
同局によると、露国営原子力企業ロスアトムの主任検査官ら3人が原発を離れ、ロシアが一方的に併合した南部クリミアに向かった。ロスアトムと契約するウクライナ人従業員も、7月5日までの避難を勧告された。原発に残る職員は、緊急事態が起きた場合、ウクライナを非難するよう指示を受けたという。
ウクライナは、露軍が同原発でテロ攻撃を検討しているとみて警戒を強めている。ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは29日、ザポリージャ州など4州で有事に備えた大規模な訓練を始めたとSNSで明らかにした。
●ワグネル戦闘員、ウクライナに残留 脅威なしとゼレンスキー氏 7/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月1日までに、ロシアの民間軍事企業「ワグネル」の戦闘員がウクライナ東部にとどまっているものの、少人数のため脅威を及ぼす存在になっていないと述べた。
首都キーウを訪れたポーランド、リトアニア両国大統領と共に臨んだ記者会見で明らかにした。東部ルハンスク州のロシアの占領地内にいるとし、ワグネル戦闘員の多くがウクライナ軍に殺害され、その人数は2万人余に達するともつけ加えた。
また、ワグネル戦闘員はウクライナ北部で国境を接するベラルーシにも配備されているが、この部隊の規模は大きなものでないため脅威を与えていないとも指摘した。
ゼレンスキー氏は、軍司令官の報告に触れながら、ウクライナ北部の情勢に変化はなく、制御されているとも説明した。
ワグネル創設者のプリゴジン氏を説得し反乱を中止させたとするベラルーシのルカシェンコ大統領は先に、ワグネル部隊にベラルーシ内の放棄された土地の一部の提供や利用を申し出たと発表。ただ、部隊がベラルーシ内に野営地を築くわけではないとも続けていた。
同大統領は6月30日、ワグネル戦闘員を自国に招待し、軍の訓練に当たらせる提案を示したことも明らかにした。ベラルーシ国営のベルタ通信社によると、同国の独立記念日に際しての演説で表明した。
「ワグネルの教官役が戦闘経験を伝えてくれるのなら、我々は受け入れるだろう」と続けた。
一方、米国防総省のライダー報道官は7月1日までに、ワグネル部隊が武装反乱の終息後もウクライナ内に依然残っていることを確認した。この部隊の特定の配備状況や今後の移動の有無について臆測はしないとも話した。
ロシアのプーチン大統領は武装蜂起の収拾にめどがついた後の全国向け演説で、ワグネル戦闘員の処遇に言及。国防省や他の法執行機関と契約して国家への奉仕を続けることや家族や友人の元へ帰ることが可能とし、望むのならベラルーシへ移ることも出来るとしていた。
●ポーランド首相 NATOの「核共有」に参加希望 7/1
ポーランドのモラウィエツキ首相は、隣国のベラルーシにロシアが戦術核兵器を配備する方針を示していることに強い懸念を示した上で、アメリカの核兵器をNATO=北大西洋条約機構の加盟国に配備する「核共有」への参加を求めていることを明らかにしました。
ロシアのプーチン政権は、ポーランドの隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を示しベラルーシの国営通信は、先月27日、ルカシェンコ大統領が「核兵器の大部分は持ち込まれた」と述べたと伝えています。
こうした動きに対してポーランドのモラウィエツキ首相は、30日、訪問先のベルギーで開いた記者会見で「プーチン大統領があらゆる脅威をエスカレートさせている間、手をこまねいていたくはない」と述べて強い懸念を示し、安全保障を強化するため、NATOの「核共有」への参加を求めていることを明らかにしました。
「核共有」はアメリカの核兵器をNATO加盟国に配備し、有事の際は共同で運用するものでドイツなど5か国が参加しているとされていますが、ポーランドは含まれていません。
モラウィエツキ首相は「もちろん決断はアメリカやNATOのパートナー次第だが迅速な行動を望むことを宣言する」と述べ、アメリカなどに検討を急ぐよう求めました。
ロシア外務次官「核兵器の管理を移すわけではない」
ロシアは、同盟関係にある隣国ベラルーシへの戦術核兵器の配備を表明し、先月には核兵器の搬入が始まっていると明らかにしています。
これについて、ロシアのリャプコフ外務次官は1日に公開された国営のタス通信へのインタビューで「ベラルーシへの核兵器の配備は、連合国家としての枠組みで行うものであり、NPT=核拡散防止条約の規定を超えるものではない。強調すべきことは、ロシアは核兵器の管理を移すわけではないということだ」と主張し、ベラルーシに配備される核兵器はロシア側によって管理されると強調しました。
その上で「アメリカこそ、ロシアを攻撃できるように自国の領土から数千キロも離れた場所に核兵器を配備してきた」などと述べて欧米へのけん制を強めています。
またロシアの前の大統領で現在は安全保障会議の副議長をつとめるメドベージェフ氏は1日、ポーランドのモラウィエツキ首相がアメリカの核兵器を共有する「核共有」に参加することを求めていると述べたことに対し「ポーランドに核兵器が配備されたら、使用されるという脅威がある」とSNSに投稿し反発しています。

 

●「支持者にキスするプーチン大統領」は本物?それとも影武者? 7/2
支持者の群衆に囲まれたロシアのプーチン大統領が、若い女性の頭にキスする映像をめぐって「本人ではなく影武者ではないか?」とSNS上で議論を呼んでいる。
押し寄せた女性達と握手する映像を国営テレビが放送
アメリカのNBC Newsによると、問題となった映像は、ロシア国営テレビが放送した。プーチン大統領が6月28日の夕方、ロシアの構成国の一つであるダゲスタン共和国を訪問した際、女性が大半を占める多くの支持者と握手をするなどして、気さくに交流に応じる姿が映し出されている。
その中でも、積極的に話しかけてきた若い女性との2ショットに応じる中で、一瞬、頭にキスするようなシーンがあった。
この映像に関してSNS上では、「影武者ではないか?」といぶかる声が続出していると米誌ニューズウィークが報じている。
「かなり奇妙に思える行動」とウクライナ紙は指摘
ウクライナ紙「キーウ・ポスト」も、今回の映像に疑問を呈している。
同紙の公式Twitterは29日、「プーチン大統領は、新型コロナのパンデミックが始まって以来、遵守してきた衛生制限にもひるまなかった。プーチン大統領が2週間の隔離後にクレムリンを訪れる訪問者と会合を持ち、常に彼らと十分な距離を保ち、数メートルの長さのテーブルの反対側に座らせていることを考えると、こうした行動はかなり奇妙に思える」と投稿している。
反乱を起こしたプリゴジン氏の動画に触発か?
6月下旬には、ロシアの武装組織「ワグネル」が反乱を起こして首都モスクワに迫る事件が発生。ワグネルの創始者であるプリゴジン氏が反乱を中止して、ロストフ・ナ・ドヌー市から撤退する際、車に乗り込むプリゴジン氏に向かって市民が握手したり声援を送ったりする映像が公開されていた。
反乱の狼煙を上げたプリゴジン氏の人気に触発されたプーチン大統領が、自分も一般市民に人気があることを示すために思い切ったパフォーマンスをしたのだろうか。
プーチン大統領の真意は謎のままだ。
●CIA、ロシア人スパイの採用強化 「反プーチン」テコに 7/2
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は1日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱に関し「影響は当面残る」と話し、プーチン政権への不満が高まると分析した。「不満はCIAにとってまたとないチャンスを生む」と語り、ロシア人スパイの採用を強化すると言及した。
バーンズ氏が英国で講演した。ワグネルの反乱に触れ「プーチンの戦争が社会や政権を弱体化させていることを鮮明に示した」と断じた。「国家のプロパガンダ活動や弾圧のもとでも(ウクライナ)戦争への不満はロシア指導部を苦しめる」と言及した。
「我々はこの時を無駄にしない」と強調し、プーチン政権に不満を持つロシア人からの情報収集を進めると話した。
通信アプリのテレグラムで動画を最近配信し、ロシア人がCIAへ安全に接触する手法を伝えたと説明。配信から1週間で閲覧数は250万件にのぼったと話し「我々は取引にとても前向きだ」と述べた。
バーンズ氏はロシア専門家として知られる。「私が学んだことの一つはウクライナ支配やその選択に対するプーチンの異常な執着を過小評価することは常に誤りという点だ」と訴えた。
プーチン氏に関し「それ(ウクライナ)なしにロシアが大国になったり、彼が偉大なロシアの指導者になったりできないと信じている」と指摘した。
バーンズ氏は「プーチンの戦争はロシアにとってすでに戦略的な失敗だ」と言い切った。「ロシアの将来は中国の従属的パートナーであり、経済的な植民地だ」と予測した。
2022年2月のウクライナ侵攻前にモスクワを訪れた逸話にも触れた。米国が把握している侵攻計画を示したところ、プーチン氏が平静を保ち、侵攻に向けたチャンスがなくなりつつあると確信していたとの印象を受けたと説明した。
バーンズ氏はウクライナ侵攻をめぐり「(モスクワに)到着した時よりも不安になった」と振り返った。
バーンズ氏は講演で中国にも触れた。「情報を扱う専門家として我々は注意を払って指導者の発言を研究する。しかし指導者の行動にも特別な注意を払う」と話した。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が国内で弾圧を拡大し、プーチン氏との緊密な関係を構築し、台湾海峡の平和と安定を脅かしていると列挙し「看過できない」と言明した。
中国語を話す情報機関員の採用や育成を強化し「中国に関する情報収集や活動、分析に資源を大幅に集中投資している」と説明した。中国に対処するため中米やアフリカ、インド太平洋地域で情報活動を加速させるとした。
「中国と情報機関同士の(対話)ルート強化を静かに模索してきた」と明らかにした。「不必要な誤解や不注意な衝突を防ぎ、政策立案の対話ルートを補完して支援する」と訴えた。
●プリゴジン氏保有のメディア・グループ解散 プーチン政権が圧力か 7/2
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が企てた反乱をめぐり、同氏が保有するメディアグループ「パトリオット」が解散した。ロシアの有力紙イズベスチヤなどが関係者の話として、6月30日報じた。プーチン政権はプリゴジン氏の関連企業への不正調査にも乗り出しており、政権側の圧力が強まっているとみられる。
同紙によると、閉鎖はグループ内での会議で決定し、プリゴジン氏が自らグループの解散と清算を発表。全従業員は解雇の手続きに入っているという。
これに先立ち、ロシアの経済紙コメルサント(電子版)は、通信監督局がパトリオットに関係する複数のニュースサイトなどへの接続を遮断したと伝えた。
プリゴジン氏の関連企業をめぐっては、プーチン大統領が27日、ロシア軍への給食事業を手がける「コンコルド」が年間800億ルーブル(約1350億円)を稼いでいたと説明。「この過程で何も盗んでいないことを望む」と述べ、不正がないか調査する考えを示した。
●ワグネル戦闘員がベラルーシで大規模再編成の様子 7/2
ロシアで反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの戦闘員がベラルーシで大規模再編成する可能性があると、AP通信の報道や米シンクタンク、戦争研究所(ISW)のアナリストのリポートが伝えた。
ISWは、ウクライナ国境から約150マイル(約241キロメートル)北方のベラルーシ中部アシポビチにある軍基地跡地で、過去1週間に多数のテントが設営されていることが衛星画像の解析で示されているとした上で、ワグネルが同国内に3つの活動拠点を持つ見通しが伝えられていると指摘した。
ウクライナのゼレンスキー大統領が通信アプリ「テレグラム」で明らかにしたところでは、同国軍司令官は1日、北西部のリウネ原子力発電所で会合し、同施設への脅威の可能性を評価するとともに、ベラルーシ国境地帯の作戦状況について報告を受けた。
ウクライナの国境警備当局者は地元メディアに対し、ベラルーシに配備されるワグネルの戦闘員は最大8000人に上る可能性があると語った。
ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が占拠しているウクライナ南部のザポリージャ原発について、ロシア政府が自国に有利な条件での戦争終結を狙い、西側のウクライナ同盟国に圧力をかけるため、「テロ行為」を計画しているとあらためて警告した。
ウクライナ国防省情報総局は6月30日のリポートで、ロシアがザポリージャ原発でのプレゼンスを減らしており、ウクライナ人従業員も退去を勧告されたと伝えた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏が主導し未遂に終わった反乱を巡り、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官がロシアのナルイシキン対外情報局(SVR)長官に電話をし、米国の関与を否定したと事情に詳しい複数の当局者を引用して報じた。ワグネルの反乱未遂後の両国政府の接触としては、最も高官レベルと考えられるという。
●ロシアの反乱に乗じて…米、ウクライナにATACMSの支援検討 7/2
米国が最大射程距離190マイル(約305キロメートル)の長距離ミサイルである陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)をウクライナに提供する案が最終検討段階にあるとウォール・ストリート・ジャーナルが先月29日に報道した。ATACMSの最終支援が決まればウクライナ戦争のまた別の「ゲームチェンジャー」になるかもしれない。
同紙はこの日、複数の欧米政府関係者の話として、「ATACMS支援議論は最高位級の承認を残している」と伝えた。ウクライナ高位国防関係者も同紙に「最近数週間にATACMSと関連して肯定的なシグナルを受けた」と話した。
バイデン政権はこれまでウクライナが自国領土を超えロシアを打撃できる武器を支援するのを避けてきた。戦争が不必要に拡大するのを防ぐという次元からだ。これに対しウクライナはロシアが掌握しているクリミア半島を射程圏に入れるためにも長距離戦術武器が必要だという立場で、F16戦闘機とATACMSの支援を希望してきた。
ところが最近ロシアの民間軍事会社ワグネルグループが反乱を起こし米政府の気流が変わったという。ロシアが内紛で混乱する隙に乗じてウクライナが反撃を押し進めるのが有利だと判断したとみられる。
同紙によると、精密誘導が可能なATACMSは情報機関が識別した衛星航法装置(GPS)標的を高い正確度で打撃するのが可能だ。現在ウクライナ戦争で猛活躍する高速機動ロケット砲システム(HIMARS)の発射台で発射できる。ウクライナがATACMSを確保すればロシアでは最前線の後方兵站基地と指揮所などを最小200マイルは後退させなくてはならないだけに戦闘効率が落ちるとみられる。
●ワグネル傭兵事件、はたしてプーチンの失敗に過ぎないのだろうか 7/2
ウクライナ・ロシア戦争は「傭兵の戦争」だ。先週末にロシア西側地域を掻き回したワグネルは、自分たちが独自の軍事作戦を展開可能な武装組織であり、政治的主体である点を立証した。戦争法に束縛されることなく、限界を超越する残酷性を誇示する彼らの戦闘力は、ロシア正規軍を圧倒した。
ワグネルは昨年、ウクライナ東部のバフムトを陥落した後、ロシアで大衆的支持を確保した戦争の英雄になった。かなり前から彼らは、ロシア国営のエネルギー企業「ガスプロム」の下請け企業から流入する資金と、中東やアフリカで確保した利権をもとに、世界的な暴力のサプライチェーンを構築していた。大衆メディアとインターネットも得意で、2020年末の米国大統領選にも介入した。軍事作戦だけでなく、世論戦、サイバー戦、イデオロギー戦、生物化学戦の遂行能力も備えている。
ワグネルだけではない。3万人の兵力を確保したカディロフ、セルゲイ・ショイグ国防相の私設組織「パトリオット」、元ワグネル司令官が独立して作った「コンボイ」など、私設軍閥が乱立する全盛期だ。ロシアのジャーナリストのレムチュコフは、昨年の英国メディアとのインタビューで、「今回の戦争では、勝利か敗北かではなく、私設重武装組織の乱立の方がより重要」だとし、今後は「誰もが武装した派閥間の闘争が広がるだろう」と予想した。政治学者のアンドレイ・ピオントコフスキーは、これを「軍事的封建主義」と呼ぶ。政府が失敗し軍閥が乱立する中世的な秩序が来るという話だ。ロシアン・マフィアのトップであるグリシャ・モシュコフスキーも、メディアのインタビューを自ら要望し、「ワグネルとカディロフという2つの恐ろしいギャング団が誕生した」と嘆いた。
国家の統制を抜けだした民間武装組織の乱立は、ロシアの国家の失敗を示すが、こうした現象は、米国や西欧も例外でない。正規軍ではなく企業が戦争を主導するという点では、西側はさらに深刻だ。昨年、ロシアのSNSのアカウントから人物写真を約1億枚確保した米国のクリアビューという顔認識技術の企業は、ウクライナで重要な作戦を遂行した。ひどく傷ついたロシアの兵士の遺体の写真を検索欄に入力すると、数分後には95%以上の正確さでその身元が判明し、その情報を世界各地から義勇軍として募集されたウクライナ情報軍に伝える。ウクライナ情報軍はロシアの社会ネットワークに浸透しており、ロシア政府より先に知人や家族に兵士の死亡事実を伝え、ウクライナ政府に遺体の引き渡しを申し込むよう案内する。
この戦争で、国家と軍隊の通信ネットワークを提供したイーロン・マスクのスターリンク、軍需と物流の責任を担ったウーバー・タクシー、サイバー戦を遂行したマイクロソフトなどの企業は、合衆国政府が放棄した戦争初期から、事実上すべての戦闘の様相を支配した。政府の軍事衛星を性能と量的な面で圧倒した民間衛星企業は、ロシア軍の動向をリアルタイムで伝えた。その過程では、宣戦布告や議会の同意といった公的手続きは必要ない。国家の権威の外側で企業の戦争が先にあり、米国とNATOはそれから行動した。イーロン・マスクはすでに企業家の限界を超越し、直接終戦協定を提案するなど、外交官であり国際戦略家である地位に浮上した。
最近、中国の習近平主席は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツに会い、「私の最初の米国の友達」だと褒め称え、自身の隣の席に座らせた。数日後、米国のアントニー・ブリンケン国務長官を呼んだ際に末席に座らせた場面と比較するならば、ビル・ゲイツは国家首脳クラスだ。中国も独立した行為者として、巨大IT企業を認識しているという話だ。
西側の報道機関は、いっせいに民間軍事会社を統制することに失敗したプーチンの政治的危機を取りあげ論じている。ならば、今度は、米国は民間企業の戦争を統制しているのかと質問する番だ。巨大IT企業の膨大なデータと人工知能(AI)を政府の政策と制度で統制することは、すでに不可能になって久しい。これらの企業は、かなり前から「政府の規制からの解放」という自由の福音を広げていた。しかも、民間軍事会社の元祖は、ロシアでなくイラク戦争での米国だった。テロとの戦争以降、世界の民間軍事会社が創りだした経済規模は、2018年時点で3500億ドルで、現在の韓国の国防費の7倍の規模だ。
国家と政府の機能が衰退し強力な企業が統治することになる世界、これが未来だ。ロシアのプーチンの失敗であるだけでなく、現代政府の失敗だ。私たちははたして、彼らの支配に適応する準備ができているのだろうか。
●CIA長官がウクライナ訪問、大統領らと会談 米当局者 7/2
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が最近ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談していたことが分かった。
米紙ワシントン・ポストが最初に伝え、米当局者がCNNに語った。
同当局者によると、バーンズ氏はロシアがウクライナ侵攻を開始してからの1年あまり、定期的にウクライナを訪れ、ゼレンスキー氏や情報当局者らと会談してきた。
今回の訪問は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱が起きる前のタイミングで、反乱は話題に上らなかったという。
同紙は訪問の事情を知る当局者らの話として、ウクライナ当局者らはバーンズ氏に、年内にロシア支配地を奪還して停戦交渉を始めるとの戦略を明かしたとも伝えた。
別の当局者がCNNに語ったところによると、バーンズ氏は反乱が起きた後でロシアのナルイシキン対外情報庁長官と電話で会談し、米国は反乱に関与していないと言明した。この電話については、米紙ウォールストリート・ジャーナルが最初に報じた。
またバーンズ氏は1日、英国での講演で、ロシア内部で戦争への不満が政権を弱体化させていると指摘。CIAにとっては「一世代に一度」のチャンスが生まれていると述べ、「このチャンスを無駄にはしていない」と強調した。
CNNはこれまでに、CIAがSNSなどを通して戦争や生活に不満を持つロシア人に働き掛け、スパイを募る活動に乗り出していると伝えてきた。
バーンズ氏は講演の中で、ワグネルの反乱にも言及。反乱に先立って、創設者プリゴジン氏が戦争の大義名分やロシア軍指導部の戦法を厳しく批判した言動による影響は今後も広がり続け、プーチン政権や社会の消耗を浮き彫りにするだろうと述べた。
●米有力紙「ウクライナ 領土取り返し年末までに停戦交渉計画」 7/2
アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは、CIA=中央情報局のバーンズ長官が6月、ウクライナを極秘に訪問した際、ウクライナ側が、反転攻勢によってこの秋までに領土を大きく取り返し、ロシアが一方的に併合したクリミア半島に迫った上で、ロシア側との停戦交渉に持ち込む計画を明らかにしたと伝えました。
ワシントン・ポストが6月30日、複数の関係者の話として伝えたところによりますと、アメリカ・CIAのバーンズ長官は、ロシアで武装反乱が起きるより前の6月、ウクライナの首都キーウを極秘に訪問し、ゼレンスキー大統領や政府高官などと会談しました。
この際、ウクライナの戦略立案担当者らは、反転攻勢によってこの秋までにロシア側から大きく領土を取り返し、大砲やミサイルシステムをクリミア半島との境まで移動させた上で、年末までにロシア側と停戦交渉を開始する計画を明らかにしたということです。
2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島は、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点を置くなどロシアにとって戦略的に重要な場所で、ウクライナ側は、半島を孤立化させることでロシア側が交渉に乗り出さざるをえない状況を作り出そうと考えているとしています。
一方、アメリカ軍の制服組のトップ、ミリー統合参謀本部議長は30日、首都ワシントンで講演し、ウクライナ軍による反転攻勢について「人々が予想したよりも進み方が遅いが、私は全く驚かない。6週間から10週間の時間を要するだろうし、多大な流血を伴う困難なものになる」との見方を示すとともに、「誰も幻想を抱いてはならない」と強調しました。
●ザポリージャ原発めぐりゼレンスキー大統領「爆発起こす準備できている」 7/2
ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポリージャ原発をめぐり、ゼレンスキー大統領は「ロシアは爆発を起こす技術的な準備ができている」と改めて警戒感を示しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアは、ザポリージャ原発で局所的な爆発を引き起こす技術的な準備ができている。放射線放出につながる可能性があり、深刻な脅威だ」
ゼレンスキー氏は1日、ロシアがザポリージャ原発でテロ行為を行う可能性があると指摘したうえで、ウクライナの管理下に戻すよう強調しました。
この原発をめぐっては、ウクライナ国防省の情報総局が6月30日、ロシア軍の部隊が徐々に離れつつあると指摘。また、原発を離れた人の中には、ロシア国営の原子力企業「ロスアトム」の従業員も含まれていて、「ロスアトム」と契約したウクライナ人従業員には7月5日までにクリミアに避難するよう勧告が出ていると発表しています。
●ゼレンスキー氏 “戦闘機訓練の計画に遅れ”と訴え 7/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は欧米側が供与する戦闘機の訓練などの計画に遅れが出ていると訴え、反転攻勢の成果を目指しさらなる軍事支援を取り付けたいねらいとみられます。
ウクライナ軍は6月上旬から東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で大規模な反転攻勢を開始しています。
イギリス国防省は1日、さらに南部ヘルソン州でもウクライナ軍が、6月下旬からドニプロ川を渡り、ロシア側が支配する東岸にある拠点の橋の近くに部隊を送り込んでいると指摘しました。
これに対し、ロシア国防省は1日、この地域のウクライナ軍を撃退したと主張し、激しい攻防が続いているとみられます。
こうした中、ゼレンスキー大統領は1日、7月からEU=ヨーロッパ連合の議長国をつとめるスペインのサンチェス首相と首都キーウで会談しました。
そして、共同会見でゼレンスキー大統領はロシア軍が占拠するザポリージャ原子力発電所について「ロシア側が施設に局所的な爆発を引き起こす準備をしていて、深刻な脅威だ」と述べ、強い懸念を示しました。
一方、ゼレンスキー大統領は、ウクライナが求めるF16戦闘機の供与などを巡り「ウクライナ軍のパイロットの訓練を開始することで合意している。しかしスケジュールがまだ決まっておらず、一部のパートナーは時間がかかりすぎている。理由はわからない」などと訴えました。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官も6月30日付けのアメリカの有力紙ワシントン・ポストのインタビューで、反転攻勢が当初の想定よりも遅れているなどと指摘されていることについて「これはショーではない。毎日多くの血が流れている」と不満を示したうえで、兵器や弾薬などの供与が追いついていないと訴えたとしています。
7月11日からNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が開かれますが、ウクライナとしては反転攻勢の成果を目指し、さらなる軍事支援を取り付けたいねらいとみられます。  
●プーチン氏、反乱中にヨット休暇か 「現実把握できず」と警鐘―ロシア 7/2
ロシアの民間軍事会社ワグネルが反乱中の6月24日、プーチン大統領がモスクワから北西部サンクトペテルブルクに飛び、旧友のヨットで休暇を楽しんでいたという見方が浮上した。ロシアの著名ジャーナリストが関係者の話を基に、30日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)のコラムで指摘した。
政権に近いこの関係者は「プーチン氏が(危機にもかかわらず)現実を把握できていなかった最も明白な証拠だ」と警鐘を鳴らしたという。
このジャーナリストは、独立系放送局「ドシチ(雨)」の元編集長で、現政権に関する著作があるミハイル・ズイガリ氏。コラムによれば、プーチン氏は例年通り、出身地サンクトペテルブルクで夏至に合わせて24、25両日に行われたイベントに足を運んだ。河口での「光のショー」を、プーチン氏の「金庫番」と呼ばれる実業家コワリチュク氏所有のヨットから見物したという。
別のロシアのジャーナリストも29日、ユーチューブ動画で同様の情報を関係者の話として紹介した。
独立系メディア「アゲンツトボ」が先に伝えたところでは、プーチン氏が使う政府専用機は反乱の続く24日午後、モスクワから北西部に向けて出発。25日未明にモスクワに帰着していた。サンクトペテルブルクに滞在したという見方と日時が符合する。
プーチン氏を巡っては当初、反乱時に「身の安全」のためにモスクワを脱出したとささやかれていたが、ペスコフ大統領報道官は「クレムリン(大統領府)で執務に当たっている」と説明していた。
●ウクライナ軍がドニプロ川東岸に拠点か…ワグネルに制圧された露軍部隊死守 7/2
英国防省は1日、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ヘルソン州ドニプロ川東岸に、ウクライナ軍が 橋頭堡きょうとうほ を確保した可能性が高いとの見方を示した。ウクライナ軍は昨年11月に西岸地域を奪還し、渡河が課題となっていた。東岸で激しい攻防が続いているという。
ウクライナ軍は6月23日頃から東岸に展開し、27日頃から、昨年11月に爆破されたアントノフ大橋付近で戦闘が起きている。露軍は部隊を再配置して防戦しているが、カホフカ水力発電所ダムの決壊の影響を受けた戦場は混戦模様という。
一方、ロシア側の幹部は7月1日、ウクライナ軍を東岸から撤退させたと主張した。東岸を守る露軍の部隊は、反乱を起こした露民間軍事会社「ワグネル」の部隊に制圧された、露南部ロストフ・ナ・ドヌーにある露軍南部軍管区司令部の所属とされる。米政策研究機関「戦争研究所」は1日、部隊は汚名返上のため、東岸の死守が至上命令になっているとの分析を示した。
ザポリージャ州の前線で、装甲回収車の近くに立つウクライナ兵(1日)=APザポリージャ州の前線で、装甲回収車の近くに立つウクライナ兵(1日)=AP
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日、露軍が南部ザポリージャ原子力発電所を遠隔で爆発させる可能性を指摘した。キーウで記者らに語った。ゼレンスキー氏は、露軍が原発で「テロ行為を計画している」と訴えており、露側関係者が同原発から撤退しているとの情報もあることから、警戒を強めている。1日には西部リウネ原発を訪れ、関係者と協議した。

 

●ワグネル反乱当日「祭り観覧」か プーチン氏、富豪のヨットから 7/3
ロシアの独立系メディア「ドシチ」の元編集長が3日までに米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、民間軍事会社ワグネルの武装反乱が起きた6月24日、プーチン大統領が出身地の北西部サンクトペテルブルクでプーチン氏の「金庫番」と呼ばれる富豪のヨットに乗り、地元の祭りを楽しんでいたと指摘した。
寄稿したのはミハイル・ズイガリ氏。プーチン氏に近い複数の関係者の話だとしている。関係者はこの行動について「プーチン氏が現実を把握できていない証拠」だと見ているという。
プーチン氏は6月24日午前、国民向けに緊急テレビ演説を行った。収録場所は不明で、モスクワを離れたとの観測も出たが、ペスコフ大統領報道官は「クレムリンで執務している」と否定した。
ズイガリ氏によると、プーチン氏は同日夜、サンクトペテルブルクで、盟友の実業家ユーリー・コワリチュク氏のヨットから花火などを観覧した。
●5Mのテーブルに座ったプーチンが変わった…反乱後に見せた「奇異な光景」 7/3
先月24日に民間軍事会社ワグネルグループの反乱が中断された後、ロシアのプーチン大統領の公開行動が目に見えて増えた。ワグネルグループ創設者のプリゴジン氏がベラルーシのルカシェンコ大統領との交渉により「モスクワ進撃」を止めてからプーチン大統領は4日間全国を飛び回り、大衆に残らず公開された。BBCは1日、「プーチン氏が1週間全速力で走りあちこちで神出鬼没するように登場した。まるで再選に向けた運動を始めたかのようだ」としてプーチン氏の動きを集中分析した。
反乱後にプーチン大統領が初めて姿を表わしたのは先月26日の国民向け演説だった。夜10時を過ぎた時間にテレビで中継されたこの演説で彼が強調したのは流血事態を防いだという点だった。プーチン大統領は「事件初期から深刻な流血事態を避けようと私の命令により措置が取られた」と強調した。自身の指導力により事態悪化を防いだということだ。また、反乱主導者を非難しながらも「ワグネルグループの指揮官と兵士の大部分は愛国者であることを知っている」と話した。反乱勢力のうち幹部と一般戦闘員を区分したのだ。
27日には公開席上に姿を見せ健在を誇示する本格的な歩みに出た。
彼はレッドカーペットが敷かれたクレムリンの野外階段を降りてきて広場で保衛軍と近衛隊の軍人約2500人を対象に演説をした。ロシア皇帝の戴冠式の行列が歩いた場所だ。ここでプーチン大統領は「みなさんが祖国を激変から救った。事実上内戦を防いだ」として軍を称えた。この日の行事以降プーチン大統領の公開行動が増えた。彼は先月26日の国民向け演説をはじめ異例の公開席上に登場した。
翌28日には正常業務に復帰したことを見せるようにモスクワを離れ現場に出た。彼が訪問したのはロシア南西部ダゲスタン共和国デルベント。観光発展会議を主宰するための訪問だったが、話題になったのは市民の中にまぎれ込んだプーチン大統領の姿だった。
公開された映像によると、プーチン大統領は人波に囲まれて市民と握手し写真撮影をするかと思えば、ある少女の頭にキスする姿まで見せた。市民は彼に拍手と歓呼を送った。
これに対してBBCはプーチン大統領が首脳会談の時にも長いテーブルを間に置いていたと言及しながら「奇異な光景」と表現した。また「群衆に近付いて疎通する姿はとてもプーチンのようではない」と評価した。
この日の行事を報道した国営テレビは、プーチン大統領が市民の歓待を受けた事実を強調した。国営テレビ「ロシア1」の人気トークショー進行者も「ロックスターもこれほどの歓迎を受けたことはない」としながらこの日の公開行動を称えた。また「西側はプリゴジン氏の反乱により大統領の立地が弱まったと笑い話をするが、実際はその反対ということが今回証明された」と主張した。
29日にはモスクワで開かれた「新しい時代に向けた強力なアイデア」フォーラムに参加し演説した。ここでプーチン大統領は企業展示会場の黒板に絵を描き、展示された商品を視察した。BBCはプーチン大統領が絵を描く姿に注目し、「落書きする余裕がある自信ある姿を演出した」と分析した。
こうした一連の歩みに対しBBCは「プーチン氏が1週間全速力で走りあちこちで神出鬼没するように登場した。まるで再選に向けた運動を始めたかのようだ」と分析した。ただ「プーチン氏の権威が前例のない形で挑戦を受けた事件が長期的にどのような影響を与えるかはまだ明確でない」と評価した。
●ロシア下院議長、プーチン氏称賛…ワグネル戦闘員が大統領提案で任務継続 7/3
ロシアのビャチェスラフ・ウォロジン下院議長は2日、民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱に関連し、国防省と契約すれば任務を続けられるとのプーチン大統領の提案に、ワグネル戦闘員の多くが同意したと明らかにした。態度を保留している戦闘員に対し、正規軍への合流を促す狙いもあるとみられる。
ウォロジン氏はSNSで、「(プーチン氏は)ロシアを守りたい者は武器を手に任務を継続するようにと提案した。私の知る限り、多く(の戦闘員)が合意した」と投稿した。
反乱収束後、プーチン大統領は6月26日の演説で、戦闘員に関して「兄弟同士の流血に進まないという正しい選択をした」と評価した上で、今後については、「国防省と契約すれば任務を継続できるし、ベラルーシに行くこともできる」と呼びかけていた。
ウォロジン氏は、プリゴジン氏による反乱について、「流血と混乱を防ぐためあらゆる手を尽くした」とプーチン氏の対応を称賛。1917年のロシア革命や91年のソ連崩壊は、プーチン氏のような人物がいれば「なかっただろう」と述べた。
一方、ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、ワグネルはロシアで戦闘員募集を担うセンターの活動を1か月休止すると明らかにした。理由について、ウクライナ侵略のロシア側の呼称である「特殊軍事作戦」への参加休止と、ワグネルのベラルーシへの移転を挙げているという。
●プーチン氏、武装反乱を起こしたプリゴジンの暗殺をロシア連邦保安局に指示 7/3
ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の暗殺をプーチン大統領が指示していた。CNNテレビとニューズウィーク・オンライン版が2日(現地時間)に報じた。
ウクライナ国防省の情報機関「情報総局」のキリル・ブダノウ局長が「プーチン大統領はロシア連邦保安庁(FSB)にプリゴジン氏の暗殺を命じた」と述べたという。上記のメディアが伝えた。
ブダノウ局長はオンラインメディア「ウォー・ゾーン」とのインタビューで「FSBはプーチン大統領から暗殺の指示を受けたと判断している」「プリゴジン氏を除去する任務を完遂できるかは時間がたてば分かるだろう」と述べた。
ブダノウ局長は「FSBによる暗殺の企ては全て迅速に行われるものではない」と指摘し「適切な手立てを準備し、大規模な作戦遂行の段階に入るには相応の時間がかかる」とも説明した。
ブダノウ局長は「ウクライナ側はプリゴジン氏の武装反乱計画をかなり以前から把握していた」とも明らかにし「ワグネルはもはやプーチン大統領による全面的な侵攻において脅威にはならない」と指摘した。
プリゴジン氏は先月24日にワグネルの雇い兵らを動員し、ウクライナ国境に近いロシアのロストフナドヌーにある軍事拠点を占領した直後、モスクワに向かおうとしたが中止した。
当時プリゴジン氏は「血を流すのは望まない。武装反乱をやめる」と発表し、ワグネルの一部兵士らと共に「ベラルーシに向かう」と明らかにしてからは行方が分かっていない。
「プリゴジンは最終的にプーチン大統領に暗殺されると信じるか」との質問にブダノウ局長は「FSBは彼を暗殺する任務を受けたことを知っている」としか答えなかった。
その一方でブダノウ局長は「プリゴジンの暗殺が成功するだろうか、FSBがその命令を実行に移せるだろうか」と疑問も呈した。
セキュリティー会社「グローバルガーディアン」のアナリスト、チェフ・ファイントゥチ氏は「プリゴジンはプーチン大統領にとってはまだ利用価値がある」「過激な民族主義者が反発する可能性が低いと考えられるようになれば、暗殺の適切な瞬間が待っているだろう」と予測した。
●戦争と資源安でロシア財政はボロボロ…プーチン政権を襲う「地獄のインフレ」 7/3
急速に悪化するロシアの財政
ロシア政府は昨年6月27日、外貨建て国債が不履行(デフォルト)に陥った。
正確には、ロシア政府は支払いの意思と能力を持っていたが、欧米が経済・金融制裁の一環としてロシアからの支払いの受け取りを拒否したため、外貨建て国債、うちそのほとんどを占める米ドルとユーロ建ての国債の支払いが不履行となったのである。
一方で、ロシア政府は、ルーブル建て国債の発行を増やしている。デフォルトしたのはあくまで外貨建て国債であり、ルーブル建て国債は発行が可能なためだ。今年1〜3月期時点におけるロシア政府の債務残高は名目GDP(国内総生産)の15.0%と、2四半期連続で増加したが、けん引役はそのルーブル建て国債(対内債務)である(図表1)。
1998年に起きた財政危機の際、ロシア政府は外貨建て国債の支払いを継続した一方、ルーブル建て国債の支払いを停止した。今回はその逆であり、ルーブル建て国債の支払いは継続している。そのため、ロシア政府は、国内の投資家向けにルーブル建て国債を発行することができる。
原油・天然ガスの価格暴落で収入減になった
ではなぜ、ロシア政府はルーブル建て国債を増発したのか。
ロシア政府は2023年予算法で、2025年までの3年間、財政赤字を見込んでいる。そのため、国債が増発されるのは自然の成り行きだともいえる。しかし見方を変えれば、それはロシア政府が、今後も財政収支が悪化すると覚悟しているということでもある。事実、ロシアの財政収支は昨年10〜12月期以降、赤字を拡大させている(図表2)。
財政収支が悪化した理由は、原油・天然ガス価格の下落に伴う歳入の減少と、ウクライナとの戦争の長期化に伴う歳出の増加にあるようだ。
ロシア政府は今年に入って、財政統計より、歳出の細目の公表を停止した。そのため軍事費がどれだけ膨らんでいるか具体的に把握することができなくなったが、財政悪化の主因は軍事費であると推察される。
政府は予備費を取り崩して経済を回してきたが…
他方で、政府の予備費に相当する国民福祉基金(NWF)が余裕を失っていることも、国債の増発につながっていると考えられる。NWFとは、原油高の局面で上振れした税収を、政府が積み立てた予備費である。昨年前半、ロシアの財政収支は黒字だったが、一方でロシア政府は、このNWFを取り崩すことで経済を回していたわけだ。
ロシア財務省によると、ウクライナとの開戦直前の昨年2月1日時点で、NWFの規模は名目GDPの8.9%に相当した(図表3)。
その後は一貫して減少し、最悪期である今年1月1日時点には6.8%と、NWFの規模は3割近く縮小した。とはいえ、直後にNWFは回復に転じ、直近6月1日時点では8.2%となるに至っている。
NWFの詳細は月次で公表されていないが、NWFは運用部分と流動性部分(すぐ取り崩しができる資産)に分かれている。言い換えれば、NWFには、すぐに取り崩すことができる金額に限度がある。そのため、直近で規模が最も減少した今年1月1日時点で、ロシア政府はNWFの流動性部分のかなりの量を使い切っていた可能性がある。
年明け以降、NWFの規模は再拡大しているが、これは流動性部分の実質的な枯渇を受けて、ロシア政府が歳入の一部を繰り入れるなどし、その回復に努めている結果と考えられる。このように、これまで財政を補塡(ほてん)してきた予備費に余裕がなくなっているということも、ロシア政府によるルーブル建て国債の増発につながっていると推察される。
ウクライナとの開戦直後は、原油高・ガス高というボーナスが生じ、それがロシア財政の追い風となった。しかし、昨年後半より資源価格は低下したため、そうしたボーナスは一瞬にして消え去った。反面で、戦争が長期化し、軍事費はかさむばかりである。国内の景気対策に伴う歳出も増えているため、ロシア財政は着実に余裕を失っている。
増発された国債を誰が引き受けているのか
ところで、国債が増発されるということは、その国債を引き受ける先があるということだ。では素朴な疑問として、ロシアで増発された国債を、いったい誰が引き受けているのだろうか。昨年6月の対外的なデフォルトによって、外国人投資家による新発債の購入は見込めなくなった。となると、やはり国内の投資家が引き受けていることになる。
国内最大の投資家となれば、金融機関、それも銀行ということになる。ロシアの銀行のうち、最大手のズベルバンクと第2位のVTBバンクは政府系だ。それに、第3位のガスプロムバンクは、ロシア最大のガス会社で半官半民のガスプロムの子会社でもある。こうした大銀行が、政府の意向を受けて、国債の保有高を増やしているのかもしれない。
そうはいっても、ロシアの貯蓄率の低さに鑑みれば、ロシアの銀行が買い支えることができる国債の量には限界がある。ロシア政府もその点は理解しているだろうから、国債の増発は計画的に行うはずだ。しかしながら、今後も歳入が増加せず、また歳出も削減できない状況が続けば、ロシア政府は国債をさらに増発させざるを得なくなる。
「財政ファイナンス」という禁じ手
そうなると、ロシア中銀による国債の買い支えが視野に入る。それでも、流通市場を経由して買い入れるなら、マネーの膨張はまだ抑制的となる。とはいえロシア中銀が、発行市場で国債をダイレクトに買い入れる事態、いわゆる「財政ファイナンス」が定着すれば、マネーの膨張に歯止めが利かなくなり、ハイパーインフレを起こす恐れが出てくる。
ハイパーインフレが発生すれば、ロシア国民に多大な犠牲がおよぶ。2024年3月に次期大統領選を控えるウラジーミル・プーチン大統領にとって、このようなシナリオは受け入れがたい。政府がまだ冷静な判断ができるうちは、国債の増発も計画的なはずだ。しかしながら、政府が冷静な判断能力を失えば、国債を乱発する事態になりかねない。
このままだとロシアは旧ソ連の失敗を繰り返す
財政ファイナンスはマネー面からインフレ高騰を招く恐れのある禁じ手だ。ロシアの前身国家である旧ソ連では、1970年代にはこうした状況が常態化していた。政府は数量統制(配給制)を強化してそれに対応したが、そうしてインフレ高騰を表面的に封じ込めても、結局は「長蛇の列」にかたちを変えることになった(いわゆる「抑圧インフレ」)。
今のロシアが、こうした旧ソ連のような状況にすぐに陥ることは、まず考えられない。とはいっても、ロシアが今後もウクライナとの戦争を止めることができず、また欧米との関係改善も見込めないなら、ロシア政府は経済運営の在り方を、旧ソ連時代のような統制色の強い、計画経済的なシステムに見直していかなければならないだろう。
もちろん、再び原油・ガス価格が高騰し、ロシアの歳入が急増する事態も予想される。しかしそれは、ロシア自身が分かっているように、一時的な追い風に過ぎない。ウクライナとの戦争を考えるのみならず、ロシアという国の経済の在り方を考えていくうえでも、変調が著しいロシアの財政の動向には、今まで以上に注視すべきである。
●"裏切り者"に迫る死の影、ロシア軍上層部の混乱......「プリゴジンの乱」 7/3
プーチンの古いお友達≠ェ私兵を動員し、あろうことか首都モスクワへ向け進軍した「プリゴジンの乱」。世界中が固唾をのんで見守った約24時間の内乱≠フ背景と今後への影響を専門家が緊急分析する!
プーチンの汚れ仕事≠ナのし上がった政商
ロシアの民間軍事会社(PMC)ワグネル・グループの創設者エフゲニー・プリゴジンによる反乱=B結果的にワグネルとロシア正規軍や治安部隊との正面衝突は回避され、約24時間でカタがついた形だが、重武装の傭兵部隊が首都モスクワから約200qの地点までいとも簡単に進軍したことも含め、内外に与えた衝撃は大きかった。
米政府や情報機関の事情に詳しい明海大学教授・日本国際問題研究所主任研究員の小谷哲男氏が解説する。
「ワグネルはウクライナ侵攻当初からキーウ周辺の攻撃作戦に参加し、ブチャでの住民虐殺にも関わりました。また、昨年後半から今年春にかけては多大な損失を出しながら東部の重要都市バフムトを一時制圧することに成功したものの、その後撤退しています。
米当局は事件の2週間ほど前からワグネル部隊の動きを察知し、露正規軍に攻撃を仕掛ける可能性をつかんでいました。また、プーチン大統領が事前に蜂起の可能性を把握していたことも間違いないと米当局は分析しています」
プリゴジンはバフムトで激戦が続いていた今年春頃から、「国防省が弾薬をよこさない」「仲間がロシア軍に後ろから攻撃された」などとして、ショイグ国防大臣やゲラシモフ参謀総長を名指しで口汚く批判するSNS動画をたびたびアップしていた。
そして蜂起の決定打になったとみられるのが、ショイグ国防大臣が6月10日に発表した、「(民間の傭兵など)すべての志願兵は国防省と契約しなければならない」との命令だ。これは事実上、ワグネルの数万の兵力を私兵≠ニして束ねるプリゴジンの権益と政治力の源泉を潰そうとする動きだった。
しかし、なぜ一介のPMC経営者が、政権中枢の政治家と権力争いをするほど肥大化したのか? 『プーチンの正体』(宝島社新書)などの著書があり、ロシアの権力構造に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう語る。
「プリゴジンはプーチンのお膝元・サンクトペテルブルクのチンピラ出身の企業家です。プーチンと知り合ってコネで財を成し、彼の利益からプーチンの親族に相当額のカネが流れるなど、いわば企業舎弟的な存在といえます。
プーチンが国家指導者となってからは、国際的なネット世論誘導工作、傭兵部隊投入など政府が表立って関与できない裏工作を行なう際に、プリゴジンを名目上のトップとする民間企業を経由して予算を支出するスキームを組んできました。要するに汚れ仕事≠肩代わりし、政商としてのし上がっていったわけです。
ワグネルもそうした企業のひとつで、当初はGRU(露連邦軍参謀本部情報総局)の指揮下にありました。ところが、目立ちたがりのプリゴジンは傭兵ビジネスに口を出すようになり、プーチンとの関係を利用してワグネルを私物化していきました。
それでもワグネルは対ウクライナ戦で捨て駒・鉄砲玉として利用価値があったため、プーチンが予算を回し続けてきたという経緯があります」
ややこしいのは、その過程で一般のロシア国民の間でプリゴジンの人気が高まってきたことだった。本来は表舞台に立てない影の存在≠フはずのプリゴジンだが、
「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ! おまえたちのために仲間が死んでいる」(5月5日)
「ワグネルは国防省といかなる契約も締結しない。ワグネルは優れた指揮系統を持っているが、ショイグはロシア軍を正しく統制できていない」(6月11日)
といった軍上層部への猛烈な批判に加え、「ディープステート(影の政府)」「くそったれな金持ちども」といったワードをちりばめながらトランプ前米大統領をほうふつとさせる反エリート発言を主にSNSで繰り返し、庶民の心をつかんだ。
ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターによれば、今年5月には国民人気が急上昇し、「最も信頼できる政治家」の5位にランクインしたほどだ。
秘密保持のためにいずれ密殺される?
国防省に追い詰められたプリゴジンは、自らの権益を死守すべく、「プーチンとの関係」と「国民人気」を頼りに蜂起を実行した。しかし、そのシナリオは希望的観測でしかなかったと前出の黒井氏は言う。
「プリゴジンが狙ったのは、彼の主張に露正規軍の多くの兵が賛同して行動に参加すること。そして、それを見てプーチンが考えを変え、プリゴジンにこのままワグネルを任せてショイグとゲラシモフを更迭すると決断することでした。しかし、これは最初からありえないシナリオだったと私は考えています。
結果を見れば、プリゴジンは指揮権を剥奪され、ワグネル兵は国防省の指揮下に置かれます。彼らはもともと囚人中心の捨て駒部隊で、今後も同じように利用されるでしょう。
そして、今からショイグやゲラシモフを更迭するとプリゴジンの主張を認めることになりますから、当面は続投すると思われます。まとめるなら、これで得をした人は誰もおらず、プリゴジンが自爆したという事件でした」
では、ワグネルがモスクワ近くまで簡単に進軍できたのはなぜか?
「プーチン本人ではありませんが、クレムリン(大統領府)はプリゴジンの説得を試みていました。例えば『話を聞く』とだまして呼び出して拘束するなど、いざとなったら実力行使で排除しようという話も内部では当然出たと思いますが、プリゴジンの動きが早く、対応が間に合わなかったということでしょう。
また、露軍の主力はウクライナに入っているため、ワグネルの進軍ルートに配置する戦力の用意も間に合わず、モスクワを死守することを優先したのだと思われます。
もしプリゴジンが最後まで暴走し、ワグネルが大暴れしていれば、ウクライナ領内から多くの露軍部隊が転進せざるをえず、ウクライナに利益があったかもしれませんが、実際にはモスクワ防衛に呼び戻された部隊はほんの一部でした」
ロシア国外では「これがプーチン体制の崩壊につながる」「ウクライナに有利に働く」といった期待交じりの分析も多いが、少なくとも短期的には、この事件が大きな影響を及ぼすことは考えづらい。前出の小谷氏はこう語る。
「最大の注目点は、これがプーチン個人の権力の終わりにつながるかどうかですが、今のところロシアの指導層・エリート層の中でプリゴジンに追従する動きや、この事件をプーチン体制打倒のために使うような動きは見られません。
ただ、裏切り者には断固たる措置を取ると言っておきながら、表向きはほぼ無罪放免のような形でプリゴジンと取引をしたことについては、プーチンの弱さを国内外に示したともいえます。今後はクレムリンにおける権力構造に変化が生じるかどうか注目していく必要があります」
そして気になるのが、反乱の過程でウクライナ侵略の大義まで否定する発言をしたプリゴジン本人の今後だ。どうやらベラルーシへの亡命は実現したようだが......。
「一部ではすでに暗殺命令が出されたとの報道もありましたが、仮にあったとしても外部に漏れるはずはないので、基本的にはガセネタでしょう。ただし、プリゴジンはプーチンの悪行についての秘密情報を相当握っています。
当面はワグネル残党の暴発回避のために懐柔するとしても、いずれ口封じで密殺されるのでは。過去の例を見ても、自己防衛のためのリスク回避を最優先するプーチンとFSB(露連邦保安局、旧KGB)が、口の軽そうなプリゴジンをこのまま放置するとは考えにくい」(前出・黒井氏)
古今東西、多くのマフィア映画で、ボスの秘密を知りながら裏切った舎弟の悲惨な末路が描かれてきた。プリゴジンがすがった希望的観測の代償は、やはり高くついてしまうのか?
●プーチン氏の戦争でロ弱体化、ワグネル反乱で鮮明=米CIA長官 7/3
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は1日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの武装反乱について、ロシア国家への挑戦であり、プーチン大統領によるウクライナ戦争が社会を弱体化させたことを示したと指摘した。
英国で行った講演で、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が反乱を起こす前に「ウクライナ侵攻の根拠に関する政権のうそと軍指導部の戦争行為を痛烈に批判したのは印象的だ」と述べた。
こうした言動の影響はしばらく続くとし、プーチン氏の戦争が自国の社会や体制を弱体化させたことを鮮明に示していると語った。
バーンズ氏は2005─08年に駐ロシア米国大使を務めた。
ワグネルの反乱はロシアの内政問題であり、これまでも今後も米国の関与はないとも強調した。
また、北大西洋条約機構(NATO)が拡大し強固になる一方、ウクライナ侵攻はロシアの軍事的な弱さを露呈し、自国経済に何年も打撃を及ぼすという点で、ロシアにとって既に戦略的な失敗だと指摘。
「プーチン氏の過ちによって、中国のジュニアパートナー、経済的植民地としてのロシアの将来」が形作られていると述べた。
バーンズ氏はさらに、ウクライナ侵攻を巡るロシア国内の不満はスパイ採用のまたとない機会だとし、CIAはこの機会を逃さないと述べた。
●ワグネル「戦闘員募集中断」…プリゴジン氏の財産、「プーチンの恋人」確保か 7/3
軍事反乱を起こして失敗したロシアの民間軍事会社ワグネルグループが1カ月間戦闘員の募集を中断すると明らかにした。
CNNなどが2日に伝えたところによると、ワグネルグループはこの日テレグラムチャンネルを通じ「民間軍事会社ワグネル地域募集センターの業務を1カ月間一時中断する」と伝えた。
当分ロシアの「特別軍事作戦」(ウクライナ戦争)には参加せずベラルーシに拠点を移すことにしたためという説明も付け加えた。
ワグネルグループ創設者のプリゴジン氏は先月24日にロシア国防省首脳部の処罰を要求し戦闘員を率いて首都モスクワに進撃したが撤収した。
ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁によりプリゴジン氏がベラルーシに行く代わりにロシアのプーチン大統領はプリゴジン氏と戦闘員を処罰しないことにし反乱は一段落した。
ルカシェンコ大統領は先月27日、プリゴジン氏がベラルーシに到着したと公式に確認し、ワグネルグループの戦闘員には空いている軍基地にとどまることを提案したという。
FSB、ワグネルグループの「心臓」メディアを家宅捜索
これと関連しロシア国内ではワグネルを対象に事実上の「解体」の試みが本格化していると米ウォール・ストリート・ジャーナルが2日に報道した。
同紙によると、ロシア連邦保安局(FSB)要員が最近サンクトペテルブルクにあるパトリオットメディアグループに踏み込み事務室などを家宅捜索した。
パトリオットメディアはプリゴジン氏の事業のうち心臓部に選ばれる所で、FSB要員はここでプリゴジン氏に関連した証拠を探すためコンピュータとサーバーを隅々まで確認していった。
プーチン大統領がプリゴジン氏に制裁するために彼の事業に手を出すだろうと早くから予想されており、同紙はこの日従業員の陳述とショートメッセージなどを確保したと伝えた。
プーチン大統領のこうした措置によりパトリオットメディアの新たなオーナーはナショナルメディアグループになる可能性があると同紙は伝えた。
ナショナルメディアグループはプーチン大統領の「隠れた恋人」で3人以上の子どもを産んだとされる元新体操国家代表のアリーナ・カバエワ氏が率いている。
もしプーチン大統領が自身の計算通りにパトリオットメディアを含むワグネルグループを手に入れることになれば最近の歴史で政府が巨大な企業帝国を飲み込んだ数少ない事例になるだろうと同紙は予想した。
●ワグネルが戦闘員の募集を一時的に停止 東部では攻防激化 7/3
反転攻勢を続けるウクライナ軍はウクライナ東部ドネツク州のバフムトの周辺で、前進したと強調しましたが、ロシア軍が部隊を移動させ戦闘が続いているとしていて、バフムトをめぐり攻防が再び激しくなっているとみられます。
ウクライナ国防省のマリャル次官は2日、SNSでロシア側は東部ドネツク州のアウディーイウカやマリインカなどで進軍し、激しい戦闘が続いていると投稿しました。
そして、バフムト周辺ではウクライナ軍が南側で前進し、部分的に成功していると強調しましたが、バフムトの北側では、ロシア側が部隊を移動させ戦闘が続いているということです。
バフムトをめぐってはロシアの民間軍事会社ワグネルなどロシア側がことし5月に完全に掌握したと主張しましたが、ウクライナ軍の反転攻勢で再び攻防が激しくなっているとみられます。
こうした中、ゼレンスキー大統領は2日、海軍の記念日にあわせて南部オデーサ州を訪問し、海軍の司令官から黒海での作戦状況やロシア軍の海上からのミサイル攻撃能力などについて報告を受けたということです。
その後、ゼレンスキー大統領は演説し「ロシアに一時的に支配されたすべてを取り戻せると確信している」と強調しました。
一方、ロシアで武装反乱を起こしたワグネルについて、ロシア議会のボロジン下院議長は2日、SNSで、国防省が戦闘員に対し7月1日までに契約を結ぶよう迫っていたことを念頭に「私の知るかぎり多くが同意した」と投稿し、多くの戦闘員が国防省の傘下に入ることになるとの見方を示しました。
ワグネルの戦闘員をめぐってはロシアと同盟関係にある隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領が国内に戦闘員のための宿営地を提供する考えも示していて、その動向に関心が集まっています。
ワグネル 戦闘員の募集を一時的に停止
ロシアの複数の独立系メディアは2日、ロシア国内で武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルが、戦闘員の募集を一時的に停止したと伝えました。
それによりますとワグネルはSNSで「ウクライナでの特別軍事作戦に一時的に参加していないことやベラルーシへ移転することを受けて戦闘員を募集する拠点の業務を1か月間停止する」と発表したということです。
一部のメディアによりますとワグネルは6月30日の時点でロシア国内の21か所に戦闘員の募集のための拠点を設けていたということで、首都モスクワ市内では広告も設置していました。
ロシアで「国際航空ショー」が中止
ロシアの国営通信社は6月30日、首都モスクワ近郊で7月下旬に開催される予定だった「国際航空ショー」が中止となり来年に延期されることになったと伝えました。
2年に1度開催されるこの「国際航空ショー」では、これまで各国の軍事関係者が集まり、ロシアの最新の戦闘機などが披露されるなど、ロシアの軍事産業をアピールする場となっていました。
これについてイギリス国防省は2日「ロシア国内での最近の無人機攻撃を受けて、安全への懸念から中止されたのだろう」と指摘しました。
また「この戦争は、ロシアの航空宇宙業界にとって非常に厳しいもので、この分野は国際的な制裁のもとで苦境に立たされている」とし、ウクライナ侵攻をめぐる欧米の厳しい制裁の影響を受けているとの見方も示しました。
●ロシア下院議長 「ワグネル」戦闘員の多くが国防省傘下へ入るとの見方示す 7/3
先月武装蜂起した「ワグネル」について、ロシアの下院議長は、戦闘員の多くが国防省の傘下に入るとの見方を示しました。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らを巡っては、反乱の収束後、プーチン大統領が「国防省と契約を結ぶか選択できる」と説明していました。
ロシアのボロジン下院議長は2日、自身のSNSで「(プーチン大統領は)ロシアを守りたい者たちに武器を手に任務を続けるよう呼び掛けた」「私の知る限り、多数がこれに同意した」と投稿し、戦闘員の多くが国防省の傘下に入るとの見方を示しました。
また、「ワグネル」は2日、戦闘員の募集を1カ月間停止することを発表しました。
一方、アメリカのニューヨーク・タイムズは、プーチン大統領が「ワグネル」反乱中の先月24日、モスクワからサンクトペテルブルクに移動し、友人のヨットに乗って地元の祭りを楽しんでいたとするロシア出身ジャーナリストの情報を報じました。
「プーチン大統領が現実を把握できていない証拠だ」と指摘する声が上がっていると伝えています。
●プーチン大統領が暴走、ウクライナ南部のザポロジエ原発爆破を準備か 7/3
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、エフゲニー・プリゴジン氏による反乱から1週間以上が過ぎた。ワグネルに近く、拘束情報が流れた、ウクライナ侵攻の副司令官を務めるセルゲイ・スロビキン航空宇宙軍総司令官の所在は依然不明など、混乱は続いている。こうしたなか、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍について先週末、ウクライナ軍の大規模反撃を食い止めるため、「ザポロジエ原発の破壊」を狙っているとの情報が駆け巡った。職員や従業員が退避を始めたという。同原発が爆発すれば、「チェルノブイリ原発事故の10倍の被害となる」との見方もある。狂気の暴走を許してはならない。
ゼレンスキー氏重大警告
「ロシアが局地的な爆発を起こす技術的な準備が整っている」「深刻な脅威が残されている」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1日、重大警告を発した。ロシア軍による史上最悪の爆破工作「ザポロジエ原発爆破のXデー」が迫っている、というのだ。
前日(6月30日)には、ウクライナ国防省情報総局は、概略以下の重大発表を行った。
・ロシア軍が占拠する、ウクライナ南部にある欧州最大級のザポロジエ原発から、ロシア側関係者が段階的に退避を始めた。
・(同原発にいる)ロシア国営企業「ロスアトム」の主任検査官ら3人が原発を離れ、ロシアが一方的に併合した南部クリミアに向かった。
・ロスアトムと契約しているウクライナ人従業員に対しても、「7月5日までに避難するように」という勧告が行われた。
・同原発に残っている職員に対し、「(原発で)緊急事態が起きたらウクライナを非難するように」という指示が出された。
ゼレンスキー氏は6月22日にも、通信アプリ「テレグラム」に投降した動画で、「ロシアが、ザポロジエ原発でテロ(攻撃)のシナリオを検討し、(プーチン氏の承認を得て)準備に入ったという情報を(ウクライナの)情報機関が入手した」と訴えていた。
私(加賀)は、本紙5月8日発行のスクープ最前線「ロシア軍大混乱*ッ間軍事会社『ワグネル』と露政権が激しい応酬」で、1昨年末、プリゴジン氏を首謀者とするクーデター計画情報(今回の『ワグネルの乱』につながる)が浮上した2ウクライナ軍の「クリミア奪還」を含めた大規模反撃で、追い詰められたプーチン氏が「核兵器や核テロ」で暴走する危険が高まっていることを指摘し、次の情報を報告した。
《状況は緊迫している。米エネルギー省傘下の核緊急支援隊(NEST)が、ウクライナ各地に「核攻撃検知センサー」を設置する。24時間(緊急事態に)備えるためだ》
《米国とNATO(北大西洋条約機構)は、プーチン氏の「最終殲滅(せんめつ)作戦=ザポロジエ原発爆破」を警戒している。原子炉近くに爆薬が仕掛けられた。欧州全域を死の土地にし、「犯人はウクライナだ」という『偽旗作戦』に出る危険があるとみている》
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は6月30日の記者会見で、ウクライナ側の主張を「全くウソだ」と否定した。
何が起きているのか。以下、日米情報当局から入手した情報だ。
「ザポロジエ原発の周辺地域で、原発爆破、被爆を想定した特殊救出訓練が行われている。ロスアトムのアレクセイ・リハチョフ最高経営者(CEO)が6月23日、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長と会談した。リハチョフ氏は唐突に『ザポロジエ原発に対するウクライナ軍の砲撃を止めさせ、原発の安全を確保してほしい』と要請した。西側情報当局は『偽旗作戦の一環』とみている」
《ウクライナのドミトロ・クレバ外相は「ザポロジエ原発が爆発すれば、チェルノブイリ事故の10倍の被害になる」と指摘している》
プリゴジン氏のクーデター騒動で、クレムリンは崩壊危機に陥っている。ウクライナ侵攻の副司令官を務めるスロビキン氏が、「プリゴジン氏のクーデター計画」を事前に知っていた疑いで、ロシア連邦保安局(FSB)に拘束されたという情報がある。
「米CNNは、スロビキン氏らロシア軍や情報当局の少なくとも30人の高官がワグネルの『秘密のVIPメンバー』だと報じた。プーチン氏はパニック状態だ。FSBに『プリゴジン暗殺』を命令したが、周囲は敵だらけで、逆に自身の暗殺危機におびえている。西側情報当局は、プーチン氏は、2011年に反政府軍によって惨殺された『リビアの独裁者、カダフィ大佐の二の舞になることを恐れている』と分析している」
プーチン氏の暴走に、中国と北朝鮮が連動する危険がある。何度でもいう。事態は想像以上に緊迫している。
●ウクライナ大統領「東部戦線でワグネル戦闘員2万1000人射殺」 7/3
ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアの侵攻後に東部戦線で民間軍事会社ワグネルグループの兵士2万1000人を射殺したと主張した。
CNNが2日に伝えたところによると、ゼレンスキー大統領は1日にウクライナの首都キーウで開かれたスペインのサンチェス首相との共同記者会見でこのように話した。
ゼレンスキー大統領はワグネルグループが最精鋭を投じた東部戦線だけで最小2万1000人が戦死し、8万人が負傷する戦果を上げたと説明した。彼は「ワグネルグループに莫大な損失を負わせたもの」と付け加えた。
ゼレンスキー大統領のこうした主張はワグネルグループ創設者であるプリゴジン氏がロシアに向け武装反乱を起こしてから1週間ぶりに出てきたものだ。武装反乱を起こし戦闘員数千人を率いて首都モスクワに進撃したプリゴジン氏はロシアのプーチン大統領と電撃合意した後、先月27日にベラルーシに到着した。
ゼレンスキー大統領は「こうした状況をうまく利用して敵を追放する必要がある。ロシアは負け続けて責任を負わせ対象を探し始めた」と説明した。続けて反撃を急がないとして「1メートルごとに、1キロメートルごとに大切な命を失っている。人命を尊重するために慎重に攻撃する姿勢を堅持する」と話した。
ワグネルグループの武装反乱後停滞したロシアは再度攻撃に出た。ウクライナ東部ドネツク州セルヒーウカでロシア軍の砲撃により民間人3人が死亡したほか、南部ヘルソン州と北東部ハルキウ州でも最小7人が負傷した。首都キーウでも夜間のドローンとミサイル空襲が再開された。
●「反戦」の弱い指導者から「領土解放戦争」の象徴へ 7/3
プーチンの対ウクライナ戦略目標は、同国をロシアの「影響圏」に留める、すなわち、属国化することで一貫してきた。ウクライナのEU接近が顕著となった2013年以降、ロシアは、非軍事・軍事手段のさまざまな組み合わせでこの目標を追求した。
その意味で、ロシアが軍事占領してきた「ドンバス」と呼ばれるドネツク州やルハンスク州は手段であって目的ではない。プーチンは、これらの州に設置した傀儡の「人民共和国」をウクライナの国家体制に埋め込み、EU・NATO加盟に拒否権を発動させることで、戦略目標を達成しようと試みた。
一方、ウクライナでは、2019年にドンバス和平を掲げるヴォロディミル・ゼレンスキーが大統領に就任した。本稿では、あまり知られていない全面侵攻以前のゼレンスキー政権の対露政策の変遷、ロシア情報機関の浸透を振り返り、民主的選挙によるリーダー交代が侵略戦争に与える示唆について考えてみたい。
ロシア情報機関の浸透
昨年2月以降の全面侵攻は、戦車やミサイルの古典的戦争とされる。しかし、その中で最も枢要な作戦は、キーウ近郊のホストメリ飛行場を制圧して空挺部隊がウクライナ首脳部を強襲し、ロシア連邦保安庁(FSB)第5局が傀儡政権を設置する非公然の政治工作であった。
しかし、FSBはウクライナ側の抵抗を過少評価していた。同作戦は、ウクライナの猛反撃にあい、失敗に終わった。ロシアはキーウ州を含むウクライナ北部からの撤退を早々に決め、その後「特別軍事作戦」はプーチンの国内的な面子を保つ領土獲得戦争へと様相を変えていった。
一方、現在ウクライナの反転攻勢の主要な舞台となっている南部は、異なる展開を見た。2014年からロシアが不法占拠するクリミア半島に接するヘルソン州は、ほとんど抵抗もなくロシア軍の手に落ちた。同州ではロシア軍や占領行政府への利敵協力者が多く出ただけでなく、防諜機関のウクライナ保安庁(SBU)の内部にも複数のロシアのエージェントが浸透していた。
さかのぼること2020年10月、ゼレンスキー大統領は、オレフ・クリニチをSBUクリミア総局長に任命した。クリミア総局はヘルソン州を拠点とし、そのトップはロシア占領下のクリミアに展開するエージェント網から入る情報を総括する極めて重要なポジションである。
しかし、クリニチは、全面侵攻直後に同職を解かれ、昨年7月に国家反逆罪の容疑で逮捕が発表された。FSB第5局が管理するロシアのスパイだったのである。
ウクライナ国家捜査局が公表したFSB第5局ウクライナ担当幹部宛て起訴状によれば、2022年2月24日午前1時3分、クリニチは、3時間後にクリミア半島のロシア軍がヘルソン州に侵攻を開始することや関連情報を掴んだが、この情報をSBU本部に打電せずに握りつぶした。
これがウクライナ側の初動に影響し、ロシア軍に有利な状況が作り出されたとされる。また、クリニチは、全面侵攻の始まる数時間前に国外逃亡したアンドリー・ナウモフ(SBU内部保安局長)をSBU第1副長官に就任させる人事も画策していた。
「仲良し」人事は高い代償を払うことに
クリニチ任命の鍵を握るイヴァン・バカノウSBU長官は、クリニチの逮捕が発表された7月に、「公務の遂行を怠り、それによって死傷者その他の重大な結果が生じた、あるいはそのような結果の脅威が生じたこと」(ウクライナ軍懲戒法第47条)を理由に、大統領令によって公務遂行を停止され、議会によって解任された。
クリニチを通じたSBU中枢に対する浸透工作は、2019年5月にゼレンスキーが大統領に就任し、自らの幼馴染で芸能プロダクション社長のバカノウをSBU長官代行に任命した頃から始まった。「仲良し」人事は高い代償を払うこととなった。
「21世紀のチャーチル」にも喩えられるゼレンスキーだが、そこに至るまでは紆余曲折があった。2019年春の大統領選前、ロシアによる違法なクリミア併合および東部侵攻によってウクライナでは民間人含め1万3000人の死者、150万人の国内避難民が出ていた。
出馬前のインタビューで、ゼレンスキーは、ロシアが占領する領土に関し、「人命最優先」とし、軍事オプションは「即却下する」と述べ、「誰も死なせないために……まず攻撃をやめる」ことが必要であると強調した。プーチンとの具体的な交渉方針について聞かれたゼレンスキーは、双方が要求を提示すれば、「その中間あたりで落としどころがみつかる」と答えた。
大人気ドラマで大統領役を演じたゼレンスキーは、汚職撲滅を訴え、5年目に突入した東部の紛争に疲れ、ロシアへの親近感を取り戻しつつあった有権者を取り込み、73%の圧倒的得票率で当選した。
一方、「軍、言語、信仰」をスローガンにプーチンとの対峙姿勢を明確にした現職ペトロ・ポロシェンコ大統領は得票率24%で敗れた。続いて行われた議会選では、ゼレンスキー人気にあやかる政党「国民の僕(しもべ)」がウクライナ史上初の過半数議席を獲得し、有象無象の新人を議会に送り込んだ。
ゼレンスキーの仇敵は、プーチンではなく、戦争の「血で金儲けする」とゼレンスキーが思い込むポロシェンコ政権だった。ゼレンスキーは、ポロシェンコの選挙スローガンを「軍で横領し、言語で人々を分断し、あなたへの信仰をなくすことか」と嘲笑った。
プーチンはゼレンスキーを交渉に誘い込んだ
ゼレンスキーは、自軍の兵士の損失を受け入れられない弱い最高司令官であった。毎朝の参謀本部からの報告で前日の犠牲者が「ゼロ」でない日は心を痛めると自ら語った。プーチンにとってこれほど御しやすい相手はいなかった。
ドンバスの停戦ラインの戦況をエスカレートさせ、ウクライナ兵の犠牲が増えれば、ゼレンスキーは心理的に耐え切れなくなり、プーチンに電話をかけてくる。プーチンは、前任のポロシェンコとは会談すら不可能であった、とゼレンスキーに語りかけ、交渉に誘い込んだ。
ゼレンスキーは、「互いの目を見て真剣に話して戦争を終わらせる」という信念の下、プーチンとの直接交渉を最優先に模索し、ロシアを名指しする批判をことさらに避けた。2019年9月のロシアとの捕虜交換の「成功」に高揚したゼレンスキーは、譲歩を重ね、12月にパリでノルマンディー・フォーマット(独仏宇露)首脳会談に漕ぎつけた。
しかし、主権と領土一体性を固守せねばならないウクライナと、「ドンバス自治」と婉曲的に表現しながら実質的にウクライナの主権制限を追求するプーチンとの間で、「中間の落としどころ」は見つかるはずはなかった。
それでもゼレンスキーによるドンバス和平の模索は続いた。2020年7月、ウクライナ国防省情報総局(GUR)とSBUが数年かけて準備・実行した「民間軍事会社ワグネル」兵士捕獲作戦は、ゼレンスキー側近がロシアとの和平交渉へ与えうる影響に配慮して作戦を1週間延期したことで計画が露見して失敗した。
交渉は膠着し、ゼレンスキーの対露政策は、前政権と似かよったものになっていく。そして昨年2月の政権転覆の試みを目の当たりにして、ゼレンスキーは、プーチンの目標は、そもそもドンバス紛争の解決ではなく、ウクライナの属国化だと最終的確証を得たのである。
一方、プーチンの誤算は、「弱い」ゼレンスキーが、キーウを離れることなく、国民に祖国防衛を、欧米諸国に武器供与を呼びかけたことであった。
反転攻勢と選挙の行方
ロシアでは来年3月に形式的な大統領選がある。ロシア大統領府は、プーチン出馬を前提にさまざまなシナリオの検討を始めており、今年9月にある地方選で国内向けスローガンをテストするとみられる。プリゴジンの反乱を受け、国内の引き締めを一層強化し、「内戦を許してはならない」と「ロシアの団結」に訴えるだろう。
ロシアは、昨年秋に違法な「併合」を宣言したウクライナの4州で、たとえ戦時下でも偽の「地方選」を実施できるように法改正を行った。一方、ウクライナは、戒厳令を延長して、10月の議会選を延期せざるをえないだろう。
来年春の大統領選の実施も、反転攻勢の進捗にかかっている。世論調査での人気が示すとおり、ゼレンスキーが出馬すれば再選は固い。ただ、2019年との大きな違いは、ゼレンスキーはいまや「反戦」ではなく、国民の8割強が支持する「領土解放戦争」の象徴であるということである。
他方、敵国のエージェントを防諜の要職に任命した政治責任を含め、ゼレンスキー政権がロシアの全面侵攻へ十分に備えていたかという点は、選挙で最もセンシティブな争点となる。
野党は、昨年2月以降、国民統合の観点からゼレンスキー批判を抑制してきた。選挙戦になれば批判は復活する。ロシアの選挙介入は、野党によるゼレンスキー批判や国民の不満を煽ることで行われるだろう。
反転攻勢後にありうるゼレンスキー2期目は、これまで自らを批判してきた「24%」を取り込み、一層の国防強化、道半ばの汚職撲滅、戦後の復興に向けたプロの政策集団を作れるかが鍵になる。第1期ゼレンスキー政権の失敗を繰り返してはならない。
●ウクライナ紛争地域から子ども70万人が「避難」=ロシア上院議員 7/3
ロシア上院のカラシン国際委員長は2日、ウクライナの紛争地域から近年に約70万人の子どもが「爆撃や砲撃を逃れてロシアに避難した」と通信アプリ「テレグラム」で述べた。
ロシアはウクライナから自国領内に子どもを移すプログラムについて、孤児や紛争地域で置き去りになった子どもの保護が目的だとしている。
一方、ウクライナは多くの子どもが違法に連行されたと主張。米国は何千人もの子どもが家庭から強制的に連れ去られたとしている。
●ロシア、終戦世論急増したがプーチン支持率は堅固…「分裂像くっきり」 7/3
民間軍事会社ワグネルグループの武装反乱以降、ロシア国内でウクライナ戦争終息に向けた平和交渉支持世論が急増したことがわかった。ウクライナ戦争に対する不安感が大きくなったと分析される。こうした状況の中でもロシアのプーチン大統領の支持率は大きな変化がなかった。ただ核心権力層内部の分裂はさらに明確になったという診断が出てきた。
反乱後に終戦世論高まる
ブルームバーグとニューズウイークなどが先月30日に伝えたところによると、ロシアの独立世論調査機関レバダセンターはロシア全域の成人1634人を対象に世論調査を実施した。調査期間は22〜28日で、ワグネル創設者プリゴジン氏が武装反乱を起こした23日とタイミングが重なる。
この調査でウクライナとの平和交渉を支持するという回答率は1カ月前の45%から8ポイント上昇の53%を記録した。これに対し戦争持続に賛成する回答は39%で1カ月前の48%から9ポイント下落した。
レバダセンターのデニス・ボルコフ局長はブルームバーグに「今回の反乱でウクライナの戦場にいるロシア軍の作戦遂行能力に支障をきたしかねないという懸念がロシア人の間で大きくなった。概して多くの人々が戦争ができるだけ早く終わるよう望んでいる」と話した。
ロシア国内で平和交渉支持世論は戦争が自国に及ぼす影響や戦況により上下した。昨年9月にロシアの部分動員令発表直後に最高潮に達したほか、先月ロシア側がウクライナの激戦地バフムトで戦果を上げると多少下がったりもした。ロシアはウクライナが平和交渉に出ないと非難するが、ウクライナはロシア軍が自国領土を離れるまでロシアとの対話は考慮しないという立場だ。
プーチン支持率80%維持…市民らと自撮りまで
終戦世論は高まったが、80%前後であるプーチン大統領の支持率は武装反乱後も大きな変化がないと明らかになった。レバダセンターの今回の調査でプーチン大統領の支持率は81%で1カ月前より1ポイント下がるのにとどまった。
これに対し今回の反乱を主導したプリゴジン氏の反乱直後の支持率は29%で1週間前の60%と比較して急落したとロシア独立メディアのメドゥーザが報道した。
フィナンシャル・タイムズは専門家の話として「プーチン大統領の平和的な解決策とロシア国民の団結が内戦を防ぎ、プリゴジン氏は国の安定を脅かした」というロシア大統領府のメッセージがロシア国内で急速に広がっていると伝えた。
プーチン大統領は異例の市民らとの直接接触に出て健在を誇示した。彼は反乱後の28日にロシア南西部ダゲスタン共和国デルベントを訪れ、自身を囲む市民らの撮影に応じ、ある少女の額にはキスをしたりもした。プーチン大統領はこれまで新型コロナウイルス感染予防などのため閉鎖的な歩みを見せていた。
同紙はこれに対し「武装反乱で権威が揺らいだプーチン大統領は、自身が依然として大衆の支持を受けているということを見せたかった」と解釈した。
「プーチン氏の統制力に疑問」…CIA長官「ロシア情報源募集の機会」
このようにプーチン大統領は反乱の後始末に全力を挙げているが、核心権力層内部の分裂は深まっていると分析される。ブルームバーグによると、ロシア政府はプリゴジン氏が起こした反乱にかかわったと推定される高官を見つけ出そうとしており、同時にプリゴジン氏と対立したショイグ国防相など軍首脳部に反対する動きも起きている。
ロシア大統領府の内部事情をよく知る政治分析家のセルゲイ・マルコフ氏は「大規模調査が始まり、プリゴジン氏やワグネルグループと接触したすべての将軍と将校が尋問を受けることになるだろう」と話した。また別の消息筋は「ショイグ国防相の側近を狙った広範囲な調査が進行中」と伝えた。
ブルームバーグによると、今回の反乱でショイグ国防相らプーチン大統領側近の立場が弱まり、最高権力層内の混乱が続き、政財界エリートの間ではプーチン大統領の統制力に対する疑問が大きくなっているというのが消息筋の説明だ。
ケナン研究所のオクサナ・アントネンコ研究員は「最も可能性が高いシナリオはプーチン氏に対する直接的な挑戦でなくプーチン氏の統治体系が持続的に崩れ落ちるもの」と予想する。
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は1日、「戦争に対する不満はロシアのリーダーシップをむしばみ続けるだろう。ウクライナ戦争でロシア情報源を募集する絶好の機会ができた」と話した。バーンズ長官は先月ウクライナの首都キーウを非公開で訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領らと会い米国の支持の立場を再確認したとCNNなどが伝えた。
一方、プーチン大統領は30日にインドのモディ首相との電話会談でウクライナ戦争事態を議論したとロイター通信が報道した。報道によると、ロシア大統領府は声明でモディ首相が今回の武装反乱に対するロシア指導部の断固とした措置に支持を表明したと明らかにした。また、インド政府は声明を通じ「モディ首相が(プーチン大統領と)ウクライナの状況を議論し対話と外交を繰り返し強調した」と伝えた。
●バイデン大統領 NATO首脳会議出席へ ウクライナへの支援協議 7/3
アメリカのバイデン大統領は今月9日からヨーロッパを訪れ、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席し、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援について各国と協議します。
アメリカのホワイトハウスは2日、バイデン大統領が今月9日から13日までヨーロッパを訪問すると発表しました。
最初の訪問国、イギリスでは両国の関係強化に向けてチャールズ国王と面会し、スナク首相と会談します。
そして11日から12日にかけてバルト三国のひとつ、リトアニアで開催されるNATOの首脳会議に出席します。
首脳会議では、大規模な反転攻勢を進めるウクライナへの支援の継続を各国と確認するほか、将来のNATO加盟を目指すウクライナに対し、どのようなメッセージを打ち出すかが焦点となります。
このあと、ことし4月にNATOに正式加盟したフィンランドを訪れ、北欧の首脳たちとの会談に臨むとしています。 
●プリゴジンが暴いたプーチンの虚像...怒りに震え動揺──大統領の顔 7/3
あんなに動揺し、怒りに震える大統領の顔をロシア国民が目にしたのは、たぶん初めてだ。
6月24日の昼前、ウラジーミル・プーチンは突然テレビに現れ、緊急演説を行った。朝方には民間軍事会社ワグネルの戦闘部隊がロシア軍に反旗を翻し、南西部の要衝ロストフナドヌに進撃していた。正規軍の兵士や治安部隊、地元警察などが抵抗した様子は見られなかった。
この演説でプーチンは、ワグネルの領袖エフゲニー・プリゴジンの名こそ挙げなかったが、「背中にナイフを突き立てる」ような行為には迅速かつ断固たる懲罰を科すと断言した。プリゴジンがたたき付けた挑戦状を、自分は受けて立つ。テレビの前の全国民に、プーチンはそう約束した。
しかし、その決意は1日ともたなかった。実戦で鍛えた反乱勢力が(ほとんど邪魔されずに)首都モスクワに向けて進撃し、慌てた首都防衛隊が緊急配備に就くなか、クレムリン(ロシア大統領府)の報道官ドミトリー・ペスコフは大統領演説と正反対の声明を出した。プリゴジンを反逆罪に問うことはない、彼はベラルーシに亡命する、反乱に参加した戦闘員が退却すれば罪に問わない......。
国営メディアは突然の方針転換を、無用な流血を避けるための寛大な措置と言いくるめようとした。だがプーチンの最も忠実な支持者たちでさえ、それを額面どおりには受け取らなかった。
何か都合の悪いことが起きれば自分は身を引き、部下に責任を押し付けて国民の怒りをそらし、彼らが内輪もめで自滅するのを待つ。プーチンは今日まで、そうやって権力を維持してきた。
例えば新型コロナウイルスのパンデミックでは、感染予防と称して厳格な自主隔離を行い、危機対応の大部分を自治体の当局者に丸投げした。ウクライナ戦争でも、ハルキウやヘルソンからの撤退といった屈辱的な決定は国防省や軍部に発表させてきた。
そのせいで、国内の戦争支持派やロシア民族主義者の間では、国防相のセルゲイ・ショイグが最大の嫌われ者になった。プリゴジンもそれを承知で、プーチンの名は出さず、ひたすら軍の幹部を非難してきた。ネット上にプーチンの指導力を疑問視する書き込みが散見され、好戦派の一部からプーチンの辞任を求める声が出たのは事実だが、あくまでもごく一部だった。
一気に崩壊したイメージ
しかしプーチンが「われ関せず」を貫き、部下の誰かに責任を押し付けるやり方は限界にきていた。なにしろ大軍を率いて首都へ進撃し、目障りなロシア空軍機を撃墜した張本人は、プーチンの最も忠実な部下の1人なのだ。
プーチンはやむなく顔を出し、テレビを通じて反乱鎮圧を宣言した。だが、それもむなしかった。正規軍も治安部隊も秘密警察も動かず、プーチンの命令を実行しようとしなかったからだ。
ロシア国民の目には、プーチンが机上の軍隊を動かしているだけと映ったことだろう。しかも最悪なことに、この時点で大統領支持を表明する有力者が一人もいなかった。プーチンがいったん反乱鎮圧を宣言し、その方針があっさり撤回されるまでの間、彼らは様子見を決め込んで、決着がつくのを待っていたようだ。
無理もない。誰に責任を押し付けることもできずに自分自身が前面に出て、一人で事態に対処しようとする。そんなプーチンの姿は前代未聞だった。
そもそも子飼いのプリゴジンに「汚れ役」を引き受けさせ、その代わりにアフリカ諸国などで天然資源の利権を与え、ネット上で情報操作を行う「トロール工場」を運営させ、強力な傭兵部隊を養えるようにしたのはプーチン自身だ。ワグネルとロシア国防省の対立を悪化させ、顕在化させたのもプーチン自身。そして今回、反乱を実力で鎮圧すると宣言しながら撤回したのもプーチン自身だ。
どう見ても優柔不断。しかも、ワグネルの反乱は決して「無血」の政治的策動ではなかった。モスクワに向かう途中で、彼らはロシア空軍機7機を撃墜し、操縦士を含む乗員10人以上を死亡させたと伝えられる。
その情報がすぐにもみ消され、彼らが許されてしまったことに困惑し、怒りを感じた国民は少なくない。その中には、昨日までワグネルの勇猛さを絶賛し、国防省を批判していた人々も含まれる。
6月26日の夜遅く、プーチンは異例の短い演説を行った。ワグネルの戦闘員たちが反乱未遂の責任を問われないことを確認し、「友軍同士の流血」を回避した指揮官たちに感謝すると語った。しかし、自分たちの指導者が事態を掌握できていないのではないかという国民の不安を和らげる助けにはならなかった。
今回の反乱で、反プーチンの守旧派も活気づいた。以前はブロガーや元傭兵など、不満分子の寄り合い所帯にすぎなかったが、今は反プーチンで結束し始めている。
「大統領らしからぬ惨めなパフォーマンス」だとSNSのテレグラムに書き込んだのは、著名な軍事ブロガーで元軍人のイーゴリ・ギルキン(2014年にウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜された事件への関与を疑われている人物だ)。過激な民族主義者で超好戦派のウラジスラフ・ポズニャコフも、「プーチンは現実から切り離されたファンタジーの世界に住んでいる」とこき下ろした。
揺らぐ親プーチン勢力
極右民族主義集団の「怒れる愛国者クラブ」は、ウクライナ戦争でロシアが苦戦しているのはプーチンとショイグの指導力不足と政府の腐敗のせいだと主張し、プリゴジンを擁護してみせた。
この団体は26日にギルキンらを招いて会合を開き、ロシア政府がウクライナ戦争で敵に譲歩することは絶対に許さないと宣言した。しかも彼らは、自分たちの背後には1000万〜1500万の有権者がいるとし、来年に迫るロシア大統領選挙で影響力を行使できると豪語している。
多くのロシア人、とりわけ権力の中枢にいる人たちが反乱の行方を傍観したという前代未聞の事態も注目に値する。以前なら、彼らは必ずプーチンへの忠誠を表明し、口をそろえて敵を糾弾したものだ。
いい例がロシア政府の御用テレビ局RTの編集長マルガリータ・シモニャンだ。従来はプーチンを声高に支援し、プリゴジンとワグネルにも惜しみない称賛を送っていたのに、25日の晩まではひたすら沈黙していた。そして決着がついた後に、ようやくプーチン支持の発言をした。
親プーチンの中道左派政党「公正ロシア」を率いるセルゲイ・ミロノフも、以前は積極的にワグネルをたたえていたが、今回は沈黙していた。プーチンのおかげで潤ってきた政商たちも声を上げなかった。そして一般国民は、ほぼ無関心を装っていた。
危機に際して自ら動かず、決断を先送りするのはプーチンの常套手段。今まではそれで、不都合が起きても誰かに責任をなすり付けることができた。だが今回は違った。彼自身の無残な欠点が暴かれた。反乱の芽を摘むことができず、粉砕し鎮圧するという約束も守れなかった。決断力のなさと弱さは明らかだ。裸の王様であることが、ばれた。独裁者には最悪の事態だ。
プーチン体制を支えるはずの治安部隊と情報機関でさえ、今のところ動きが鈍い。ロシアは事実上の独裁国で警察国家だが、まだ反乱参加者やその支持者の一斉検挙に踏み切っていない。もはや治安部隊でさえ気付いたのだろう。無慈悲な支配者というプーチンの自画像は虚像だったと。
同じ思いは国民の間にも急速に広がっている。さて、この先に待つのは自滅の道か。
●ゼレンスキー大統領の「最側近」…プーチン氏の求心力“弱まっている” 7/3
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問が今月1日、NNNの単独取材に応じました。
去年2月の侵攻開始時、「ポドリャクも私もここにいます」というゼレンスキー大統領の”自撮り”メッセージの隣に映っていた“大統領の最側近”です。そのポドリャク氏は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏の反乱をどう見ているのか。
ポドリャク顧問「(反乱は)今のロシアの状況を端的に示しています。ロシアは、長い間欧米諸国や民主主義国で思われたほど強くないのは明らかです」
ワグネルの部隊にロシア南部の軍司令部を占拠され、モスクワまで200キロ地点まで近づくことを許したプリゴジン氏の反乱。プーチン大統領の求心力が弱まっていることが露呈したと、ポドリャク氏は分析します。
ポドリャク顧問「プーチンはロシア国内での評価を確実に失いました」「ワグネルがモスクワに向かっていた時、誰もプーチンを擁護しようとしなかった。それどころか、ワグネルを歓迎しました。反乱軍を歓迎したのです」「誰もプーチン氏を守ろうとしませんでした」
6月から続く反転攻勢については、時間はかかるものの着実に前進すると強調しました。
ポドリャク顧問「私たちは第一の防衛線で1〜2キロ食いこんで、徐々に前進しています」「 第一の防衛線、そして第二(の防衛線)を突破する以外、方法はないのです。必ずそうなると、私は楽観します」
ロシアが一方的に併合したクリミア半島を含む、すべての領土の奪還を目指すウクライナ。こうした中、アメリカのワシントンポストは、米CIAのバーンズ長官が先月キーウでゼレンスキー大統領と極秘に会談し、停戦交渉に向けた計画を伝えたと報じました。
その計画では、ウクライナ側が秋までに主要な領土を奪還し、大砲やミサイルシステムを南部・クリミア半島境界まで移動し、東部でも攻勢を強めた上で、年内にロシアと停戦交渉を開始するという内容だったということです。
ポドリャク氏は現時点での停戦交渉はあり得ないと語気を強めました。
ポドリャク顧問「(停戦になれば)ロシアは戦争に負けたことにもならず、(戦争)犯罪に責任を負うわけでもなく、賠償金を支払うことにもなりません」「ウクライナはこの戦争を公正な形で終結させたいのです。それは私たちの主権と領土を取り戻し、(ロシアの)罪人を処罰し、今後何年にもわたりロシアが賠償を行うということを意味します」「世界が安定するのはロシアが敗北し、国内で大きな変化が起こり、ロシアに新たなまともな指導者が生まれる時だけです」
ロシアによる軍事侵攻は、開始から16か月がたち、なお終わりが見えない状況となっています。ウクライナの戦いは続きます。
●ショイグ国防相「ロシア軍に影響与えず」 ワグネル反乱に初言及― 7/3
ロシアのショイグ国防相は3日、民間軍事会社ワグネルの武装反乱に初めて言及し、「挑発は(ロシア軍)部隊の行動に影響を与えなかった」と主張した。ワグネル創設者のプリゴジン氏は6月23、24両日の反乱で、ロシア軍の劣勢を背景にショイグ氏らの辞任を要求。プーチン政権としては反乱終結を受け、軍の正常化をアピールし、ウクライナの反転攻勢に備える狙いがあるとみられる。
プリゴジン氏は今月3日、SNSで音声メッセージを発表し、反乱を改めて正当化した上で「近い将来、われわれが前線で勝利を収める姿を必ず見てもらえると思う」と表明。参加を停止しているウクライナ侵攻に関与し続ける考えを示唆した。声明は、撤退後初めて出した6月26日以来。
ショイグ氏は27日、プーチン大統領がクレムリン(大統領府)に軍・治安機関の2500人以上を集めた際に姿を見せた。ただ、独立系世論調査機関によると、プリゴジン氏だけでなく、今回の事態を許したショイグ氏の支持率も低下。現時点で解任はないとみられるものの、27日に記者団に発言したのは国家親衛隊のゾロトフ隊長で、軍・治安機関の力関係に微妙な変化もある。
●ウクライナ“一部で領土奪還” ロシア 戦術核兵器で欧米けん制 7/3
ウクライナ軍は南部の一部で領土奪還を果たしたと発表し、反転攻勢を続けています。一方、ロシアのプーチン大統領は同盟関係にあるベラルーシとの結束を強調し、戦術核兵器の配備を進め欧米へのけん制を強める構えです。
ウクライナ国防省のマリャル次官は3日、SNSでウクライナ東部では先週、ロシア軍の砲撃の数が倍増したと明らかにし、バフムトなどで激しい戦闘が続いていると発表しました。
また、南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリやアゾフ海に面した港湾都市ベルジャンシクに向かう方面で作戦を続け、1週間でおよそ28平方キロメートルを奪還したと成果を強調しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は2日、ウクライナ軍は東部や南部の6つの前線で反撃作戦を実施し、一部で前進に成功したと分析しました。
一方、ロシア大統領府は3日、同盟関係にある隣国ベラルーシの独立記念日に合わせ、プーチン大統領がルカシェンコ大統領にメッセージを送ったと発表し「深刻な外部からの脅威や課題に直面する中、われわれの同盟関係が強固な基盤となっている」と結束を強調しました。
プーチン大統領は、今月上旬にベラルーシ国内に戦術核兵器を保管する施設が完成する見通しも示していて、東ヨーロッパやバルト三国に近いベラルーシに核兵器の配備を進め、欧米へのけん制を強める構えです。
●クリミア奪還まで戦争継続 ゼレンスキー大統領が発言 7/3
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日放映の米CNNテレビのインタビューで、2014年にロシアが併合した南部クリミア半島の占領が続く限り「戦争は終わることがない」と述べ、半島を奪還するまで戦闘を継続する考えを示した。
ロシアのプーチン大統領による民間軍事会社ワグネルの反乱への対応は弱々しかったとし、プーチン氏の権力構造が「崩壊しつつある」と指摘。モスクワ南方までワグネルの進軍を防げておらず「治安状況も制御できていない」との見方を示した。
インタビューはウクライナ南部オデッサで2日に収録された。

 

●ここにきて「プリゴジン」にかわって「ルカシェンコ」がプーチンを脅かす 7/4
新たな「獅子身中の虫」
たった1日で収束したものの、先月(6月)23日に、民間軍事組織ワグネルを率いるプリゴジン氏が起こした反乱は、ロシアのプーチン政権が抱える統治と安全保障体制の脆さを浮き彫りにした。そして対照的に、プリゴジン氏に矛を収めさせることによって、おおいにロシア側の陣営で株をあげたのが、ベラルーシのルカシェンコ大統領である。
ベラルーシはロシアの同盟国だ。ロシアと国境を接しており、プーチン大統領が戦術核兵器の配備を進めている国家でもある。ただ、ここに来て再び、両国の間にその扱いに関する齟齬が生じ始めている。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、30年近くにわたって強権的に国家を統治してきた人物だ。「ヨーロッパ最後の独裁者」と形容されてきたものの、ここ1、2年はすっかり勢いを失い、プーチン氏に依存する傾向を強めていた。しかし、今回の反乱の鎮圧によって、すっかり息を吹き返したともとれる状況になっている。
プーチン大統領は、プリゴジン氏にかわり、ルカシェンコ大統領という新たな「獅子身中の虫」を抱え込んだ可能性がある。
「彼の努力と献身で事態が平和的に決着した」――。
プーチン氏は6月26日の夜、プリゴジン氏の反乱の収束後に行った初めての演説で、ルカシェンコ氏をこう持ち上げて称賛し、感謝の意を表明した。
プーチン政権では、ペスコフ大統領報道官も翌27日、ルカシェンコ氏を「経験豊富で賢明な政治家」と礼賛したし、ロシア議会下院も同じ27日、ルカシェンコ氏に対する賛辞を贈った。
こうした称賛の嵐を見ただけでも、ルカシェンコ大統領が、今回の騒ぎで、存在感を高めたことは明らかである。今回、株を上げた人物は他にはいないと言っても過言ではない。
対照的に、これまで強固な体制で統治していると見られてきた、ロシアのプーチン大統領の威信は大きく傷ついた。象徴的だったのは、プーチン氏が現地時間の24日午前10時頃に行ったテレビでの演説だ。
この演説のタイミングは、ワグネルのプリゴジン氏が前夜、ロシア軍の空爆によって多数の戦闘員が死亡したと不満をぶちまけて「正義の行進」を始めると宣言し、翌朝になってワグネルの部隊がモスクワまでの距離が約400キロメートルのロストフ州の州都ロストフナドヌーに入り、同地のロシア軍施設を制圧したとした強調、返す刀でロシアのショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長への面会を要求した後、というものだった。
ロシア軍の中の深刻な亀裂
プーチン氏はこの演説で、「我々は反逆と裏切りに直面している」と認め、ワグネルの対応について口を極めて批判したうえで、「この反乱に参加したものは全員処罰する」と宣言した。
だが、はっきり言って、演出は拙かった。プーチン氏が、閉鎖的なオフィスから独りで演説をしたことは、その一因だ。孤立した指導者という印象を免れなかった。プーチン大統領は反乱に対して一方的に怒りを露わにしたものの、その表情は硬く、どこか脅えて自信のなさそうな風情にも映った。この演説を見たロシア国民の間では、プーチン氏がワグネルの行軍を恐れて早々にモスクワから脱出したという噂が駆け巡る始末だったという。
付言しておくと、この辺りのプーチン大統領の対応は、昨年2月のロシア軍の侵攻直後に、ウクライナのゼレンスキー大統領が見せた対応とは真逆である。
ゼレンスキー大統領は、戸惑う人々を勇気づける振る舞いで、強いリーダーというイメージを確立したからである。同大統領は、他の政府高官、つまり仲間とともに、戦禍に巻き込まれつつあったウクライナの首都キーウの街中を堂々と歩きながら「国と国の独立を守るため、我々はみんなここ(キーウ)にいる」と語りかける動画を流して、最後までウクライナ国民と一緒に戦い抜く覚悟を鮮明にしたのだった。
ゼレンスキー大統領とは正反対に、プーチン氏はプリゴジン氏の反乱に直面し、真価を発揮できなかった。それまでのこわもての絶対的な独裁者というイメージを大きく損ねてしまった。
また、ロシア軍の間には、深刻な亀裂、もしくは分断が存在するという見方も定着してしまった。主流派と目されるショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長は、繰り返し、プリゴジン氏による非難の対象となってきた。今回の反乱で、計画通りに進まないウクライナ戦争を指導した無能な責任者のレッテルを貼られた格好だ。
その一方で、プリゴジン氏の信頼が厚いとされてきた、ウクライナ軍事侵攻の副司令官を務めるセルゲイ・スロビキン氏は消息が不明になっている。先月24日の午前0時過ぎに、「隊列を停止し、戻れというロシア大統領の命令に従うことが不可欠だ」とワグネルに呼びかける映像を流したのを最後に、すでに1週間以上、表舞台に姿を現していないのだ。拘束されたとの報道も一部にあるが、真偽は確認されていない。
とはいえ、スロビキン氏は明らかにショイグ国防相らと立場を異にしていたとみられており、ロシア軍の中には深刻な亀裂があるとみなされている。
加えて、ワグネルがいとも簡単にロストフ州のロシア軍施設を制圧したり、23日からのわずか1日で780キロメートルも進軍してロシアの首都モスクワまで約200キロメートルの地に迫ったりしたことから、ロシア軍の中にワグネルに対する協力者がいたとの見方は根強い。軍の統制の回復は困難が予想される深刻な問題だ。
反乱を主導したプリゴジン氏は、ルカシェンコ大統領からプーチン氏の同意を取り付けたとして身の安全を保障され、反乱を収束させてベラルーシに受け入れられたことになっている。しかし、プリゴジン氏にとって、ベラルーシが将来的にも安住の地になるかは疑問だ。これまでのような勢いを維持できるとも考えにくい。
ルカシェンコの大きな手柄
民間軍事組織ワグネルはすでに、ロシア国内での活動を禁じられたという。兵士たちは、プーチン大統領から、ロシア国防省との契約か、ベラルーシへの移動か、故郷への帰還という3つの選択肢の中から一つを選ぶように求められている。ルカシェンコ大統領の言葉通りに、今後、ベラルーシにワグネルの駐留拠点ができたとしても、これまでの規模の兵力を維持することは難しそうだ。
そして、プリゴジン氏の財閥は、早くも解体の憂き目に直面している。メディアグループの「パトリオット」は、プーチン政権の圧力を受けたとも、プリゴジン氏自らが「解散させた」ともいわれ、その活動を停止した。
また、プーチン大統領は、軍の給食事業で巨額の収益を上げてきたとされるプリゴジン氏の関連会社「コンコルド」に対して、不正がなかったかの調査を徹底的に行う考えを表明している。
アフリカ各地の権益も、ロシアやロシア軍に接収されかねない。
こうした中で、ただひとり意気軒高なのが、ルカシェンコ大統領だ。6月27日には、ベラルーシの国営ベルタ通信など通じて、プーチン氏とプリゴジン氏の間に入って、武装蜂起を収束させた内幕を得意満面に明かしている。
それによると、プーチン氏がルカシェンコ氏に電話をかけてきたのは、24日の緊急テレビ演説を終えた直後だったという。プーチン氏はテレビ演説で「武装蜂起に参加した者を厳罰に処す」としていたが、ルカシェンコ氏は「(そうした処分を)急ぐ必要はない。私がプリゴジン氏と話そう。『悪い平和』でも、戦争よりはマシだ」となだめたとしている。
この時、プーチン氏は「無駄だ。彼(=プリゴジン氏)は電話にも出ないし、誰とも話そうとしない」と述べたが、ルカシェンコ氏はロシア連邦保安局(FSB)の協力を得て、プリゴジン氏との電話会談に漕ぎ着けた。
合計で6、7回に及んだ電話協議で、これまでのロシアの仕打ちに対する不満をぶちまけ続けるプリゴジン氏に対し、ルカシェンコ大統領は「(ロシア軍と戦えば)虫けらのように潰される」などと状況を解説し、説得に努めたというのである。
ルカシェンコ氏は最後に、プーチン大統領に電話し、ルカシェンコ大統領とプリゴジン氏が交わした言葉に対し、「約束したことはすべて実行する」との言質をとったと明かし、ワグネルの進軍の停止に応じさせたという。こうして、ルカシェンコ大統領がモスクワでの衝突を事前に回避させる大きな手柄を立てたというわけだ。
ルカシェンコ大統領は2020年の大統領選挙で6選を果たしたものの、選挙の不正を訴える大規模な抗議デモが発生。激しい弾圧によって事態を収拾したとはいえ、混乱は収まらず、ロシアからの低価格エネルギー供給などに大きく依存して政権の命脈をなんとか保ってきたのが実態だった。以来、ウクライナ侵攻を巡っても、従属ともとれる強い支持の表明を続けてきた。
今回、大いに株を上げたルカシェンコ大統領だが、プーチン大統領にとって、継続的に頼れる存在になることはあまりなさそうだ。
というのは、27日のベラルーシ国営ベルタ通信の報道に、早くも、ルカシェンコ大統領の今後の振る舞いに疑念を抱かざるを得ない情報が含まれていたからだ。ルカシェンコ大統領が国内演説で、ベラルーシに配備される予定のロシアの戦術核兵器のうち「かなりの部分」が領内に運び込まれたとしたうえで、核の使用権がロシアにあるとの欧米の見方を「でたらめだ。核はわれわれの兵器であり、われわれがそれを使えるだろう」と反論したというのである。
ロシア側はかねて、この問題について「(ベラルーシに核兵器を)譲渡するわけではない」と説明してきた。明らかな齟齬が生じ始めているのだ。
そもそも、この戦術核兵器の配備問題は、ベラルーシと国境を接するポーランドやリトアニアといった西側諸国が神経を尖らせてきた問題である。
そして、ここに来て急浮上した戦術核兵器を巡るロシアとベラルーシの見解の相違は、ウクライナ戦争での弾薬の供給不足に不満を唱えてきたプリゴジン氏のいら立ちとは深刻さがまったく違う問題として、戦術核のベラルーシへの配備を積極的に進めてきたプーチン大統領のアタマも悩ませる大きな火種になりかねない。
●ロシア国防省 武装反乱の影響否定“ウクライナ撃退に成功” 7/4
反転攻勢を続けているウクライナ軍に対し、ロシア国防省は国内の武装反乱の影響を否定し、撃退に成功していると主張しています。こうしたなかプーチン大統領が4日には上海協力機構の首脳会議にオンラインで参加し、欧米に対抗する上で友好国との連携を強化したいねらいです。
領土奪還を目指すウクライナのゼレンスキー大統領は3日SNSで「先週、前線は困難だったが、われわれは徐々に前進している」と投稿し反転攻勢の成果が出ていると強調しました。
今月11日からはNATO=北大西洋条約機構がバルト三国のリトアニアで首脳会議を開く予定で、ウクライナとしては反転攻勢の成果も示し、さらなる軍事支援を取り付けたいねらいとみられます。
これに対し、ロシアのショイグ国防相は3日、国防省で開いた会議で「全体として敵はあらゆる分野で目的を達成できていない」と述べ、ロシア軍がウクライナ側の撃退に成功していると主張しました。
また民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏の武装反乱について「軍の兵士が任務に忠実であったため失敗に終わった」と述べた上で、軍の統率やウクライナへの軍事侵攻に影響はなかったと強調しました。
こうしたなか、プーチン大統領は4日、インドが議長国を務める上海協力機構の首脳会議にオンラインで出席する予定です。
ロシアと中国が主導する上海協力機構の枠組みを重視するプーチン政権としては、ウクライナ情勢を巡って対立が深まる欧米側に対抗するうえで、安全保障や経済面での連携を強化したいねらいです。
ロシアで武装反乱が起きてからプーチン大統領は友好国の首脳に対し積極的に電話会談を行い政権に対する支持を確認してきましたが、国際会議に参加するのは初めてで、その発言が注目されます。
●ゼレンスキー氏、プーチン氏の対応は「弱かった」「権力構造が崩壊しつつある」 7/4
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米CNNが3日に放映したインタビューで、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱へのプーチン露大統領の対応が「弱かった」と評した。
ゼレンスキー氏は、露側がワグネル部隊の進軍や一部拠点の制圧を容易に許したことから、プーチン氏が「全ては制御できていない」とし「かつて有した権力構造が崩壊しつつある」との見方を示した。米中央情報局(CIA)との間に「秘密はない」とし、CIAのウィリアム・バーンズ長官との会談で大規模な反転攻勢とその後の青写真について説明したことを認めた。
反攻でロシアが併合した南部クリミアまで迫った上で、ロシアと年内の停戦交渉開始を計画しているとの米紙ワシントン・ポストの報道に関しては、「クリミアの占領が続く限り、終戦はあり得ない」と原則的な立場を述べるにとどめた。
インタビューはウクライナ南部オデーサで2日に行われた。
一方、プリゴジン氏は3日、ロシアの軍事SNSに音声メッセージを投稿し、「近い将来、我々の次の勝利が前線で見られることを確信している」と述べ、活動継続に意欲を示した。反乱は「裏切り者と戦い、社会を動かすのが目的だった」と正当化した。メッセージ公表は6月26日以来。発信場所は明らかにしていない。
●ゼレンスキー氏、プーチン氏のワグネル反乱対応は「弱腰」 権力崩壊も指摘 7/4
ウクライナのゼレンスキー大統領はCNNの単独インタビューに応じ、ロシア民間軍事会社ワグネルの武装反乱へのプーチン大統領の対応について「弱々しい」ものだったと指摘した。プーチン氏は国民に対する支配を失いつつあるとの見解も示した。
プーチン氏は先月、権力の座に就いて以降の20年で最大の脅威に直面した。ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が短期間ながら反乱を起こし、ロシア国内の2都市の軍施設を掌握したと主張。さらに首都モスクワに向け進軍したものの、その後、進軍中止に同意した。
ゼレンスキー氏はウクライナ南部オデーサでCNNに対し、「我々はプーチン氏の対応を注視している。弱々しいものだ」と述べた。インタビューは今月2日に撮影された。
「まず、プーチン氏は全てを支配している訳ではない。ワグネルがロシアの奥深くまで入り、一部の地域を掌握したことは、これがいかにたやすいことかを示している。プーチン氏はこれらの地域の状況を統制できていない」とゼレンスキー氏は指摘。
さらに「プーチン氏が有していた権力の垂直構造は崩壊しつつある」とも述べた。
プリゴジン氏がプーチン氏の権威に対する前例のない挑戦を主導する中、一部のロシア人からはワグネルの戦闘員を歓迎する声も上がった。CNNが位置情報の確認や真偽の検証を行った動画には、南部ロストフナドヌーを出発するプリゴジン氏の車に喝采を送る人々の姿が映っている。
ゼレンスキー氏はウクライナの情報機関の報告内容として、ロシア大統領府はプリゴジン氏への支持の大きさを見極めているところだと説明。ロシア人の半数はプリゴジン氏やワグネルによる反乱を支持しているとも主張した。
ゼレンスキー氏との今回のインタビューは重大な時期に行われた。プリゴジン氏の反乱が失敗した後に当たるだけでなく、ウクライナがロシアに占領された領土の奪還を数週間前から慎重に進めているタイミングでもある。
今月1日には米当局者がCNNに対し、バーンズ中央情報局(CIA)長官が最近ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー氏や情報当局者と会談したことを明らかにした。
ゼレンスキー氏はCNNのインタビューに、バーンズ氏との会談がメディアで報じられたことに「驚いた」と語り、「私とCIA長官のやり取りは常に水面下で行われる必要がある」「我々は重要な問題について議論している。ウクライナが何を必要としているのか、どのように対応する用意があるのか、といった問題だ」と説明した。
ウクライナの反転攻勢の主眼は南部および東部の領土を奪還することにあるが、ゼレンスキー氏はCNNに対し、究極の目標は2014年にロシアが国際法違反の併合を行ったクリミア半島の解放だと語った。
「クリミアのないウクライナは想像できない。クリミアはロシアの支配下にあるが、これが意味するのは唯一つ、戦争がまだ終わっていないということだ」(ゼレンスキー氏)
クリミア抜きで和平が実現するシナリオはあるかとの質問には、「それでは勝利とは言えない」と指摘した。
●ワグネル反乱で影響必至の中東・アフリカ情勢 7/4
ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱は同組織が活動を拡大してきた中東やアフリカにも少なからぬ影響を与えるのは必至だ。すでにシリアではロシア軍によるワグネル戦闘員の拘束も始まっている。米国はこの混乱を同地域で低下した存在感を回復するチャンスとみており、今後ロシアとの緊張が高まりそう。
先兵として十数カ国で活動
ワグネルは中東・アフリカ地域への進出とともに成長した。その過程を探ると、ロシアを再び世界の大国にするというプーチン大統領の野望を実現するため、ロシア軍の影の部隊、先兵として各地に浸透していった実態が浮かび上がってくる。情報を総合すると、ワグネルが関与した同地域の国は18カ国にも上り、現在も2万5000人前後が駐留しているとみられている。
ワグネルの活動は現在ロシアが占領しているウクライナ東部のドンバス地方で、ロシア系住民を支援してウクライナ軍に攻撃を開始したのが始まりだ。2014年のことである。
この時の司令官はロシア軍特殊部隊の指揮官だったドミトリー・ウトキンだ。ナチスの信奉者だったといわれるが、プーチン大統領はクレムリンで勲章を授けている。
元々、中東・アフリカにはロシアの幾つかの民間軍事会社が進出していたが、ワグネルとしては15年、ロシアがシリアのアサド政権を救うため軍事介入してから本格化した。プーチン氏との親密な関係をテコにワグネルをロシア軍の別動隊として拡大させていったのが今回の反乱の首謀者であるプリゴジン氏だ。内戦や紛争につけ入って独裁者らの警備を担当し、時には反政府勢力の掃討作戦に参加し、数百人規模の虐殺にも加担したと非難されてきた。
同氏は17年には、北アフリカのリビアに部隊を派遣し、東部を支配する「リビア国民軍」のハフタル将軍を支援、国連の手助けで発足した中央政府への攻撃に加わり、スナイパー部隊を動員した。リビアへの進出に当たってはロシア軍が海軍の空母にハフタル将軍を招待するなど厚遇、プーチン政権とワグネルが一体となって作戦を推進していることが浮き彫りになった。
その後はスーダンやモザンビーク、中央アフリカ、西アフリカのブルキナファソ、マリなどに部隊や顧問団を派遣、警備や軍隊の訓練、反政府勢力との戦闘など、活動を広げていった。戦闘活動に現時点も従事していると見られているのはマリと中央アフリカだ。ワグネルの行動の多くは秘密裏に行われ、場合によって報酬は金やダイヤモンド、ウラン鉱石の採掘権という形で与えられた。
こうしたワグネルとアフリカ諸国との密接な関係はウクライナ侵攻を非難する国連総会決議の採決にも如実に表れている。侵攻当初のロシア非難の国連決議は圧倒的多数で可決されたが、棄権票を投じたアフリカ諸国のうち、半数ほどはワグネルの進出国だった。
各地で明らかになっている蛮行
ワグネルの戦闘員には、今回の反乱前から元囚人が多いとされる。プリゴジン氏自身も強盗や詐欺の罪で服役した過去がある。国連などの調査によると、ワグネルの作戦の中で、最も問題視されているのがマリでの住民虐殺への関与疑惑だ。
ニューヨーク・タイムズなどによると、昨年3月、政府軍がマリ中央部のモウラでイスラム過激派の掃討作戦を展開したが、約400人の住民が虐殺された。軍はヘリコプターからの無差別乱射や住民らの処刑、略奪などを5日間にわたって続けた。政府軍にはワグネルの戦闘部隊も参加していたことが目撃者の証言から明らかになっている。
マリは元々フランスの植民地だったこともあり、過激派掃討のために仏軍が派遣されていた。しかし、フランスとマリ政府との関係が悪化したため仏軍が撤退、この穴を埋めるようにしてワグネルが進出した。同国ではこれまでにモウラの住民虐殺も含め政府軍の作戦などで約500人が犠牲になっている。
中央アフリカでもワグネルの蛮行が明らかになった。国連の調査団によると、ワグネルは2018年にトゥアデラ大統領の警備のため契約を結び、イスラム勢力との戦闘に加わった。ある時にはワグネルの戦闘員がモスクに侵入し、祈っていたイスラム教徒住民らをその場で射殺したという。
ワグネルはこの他、同国でラジオ局を開設したり、美人コンテストを開催したりし、自分たちの活躍を描いた映画も制作した。だが、失敗もある。モザンビークでは過激派組織「イスラム国」(IS)シンパ組織との戦闘で7人が殺害され、その後撤退を余儀なくされた。
反乱のきっかけはシリア情勢
そもそもワグネルの反乱はプリゴジン氏とショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長との確執が原因の一つとされているが、その始まりはシリアだった。ワシントン・ポストなどによると、18年2月、数百人規模のシリア政府軍とワグネルの部隊が北東部のガス・油田地帯にある「コノコ・ガスプラント」を包囲、このプラントをISに占領されないよう守っていた米軍小部隊と衝突した。
戦闘は4時間にも及んだが、米軍は戦闘機やB52爆撃機、ドローンなど空軍力を動員して政府軍とワグネル部隊を壊滅させた。100人以上が殺害されたが、米軍には死傷者はいなかった。
戦闘の最中、プリゴジン氏はロシア軍に空軍の応援を何度も要請したが、ショイグ国防相らに無視され、結果として多くの犠牲者が出た。この時の恨みがロシア軍との軋轢につながったという。
問題は今回の反乱失敗の影響が中東・アフリカ諸国を大きく揺さぶるのかどうかだろう。結論から言えば、ロシアにとってこれら地域でのワグネルの存在はロシアの戦略的国益に多大に寄与しており、故にプーチン政権がワグネルの活動を縮小する可能性は小さいのではないか。
しかし、混乱が生じることは否めない。ロシア軍がワグネルを吸収するという話も出ているが、米専門誌によると、シリアではワグネル戦闘員の一部が駐留ロシア軍に拘束され始めている。しかもロシア副外相が6月26日にアサド・シリア大統領と会談、軍の同意なしにワグネル戦闘員を国外に出国させないよう要請したとされ、ワグネル側には動揺が広がっているようだ。
米露の直接衝突の懸念高まる
米軍関係者らによると、ワグネルがロシア軍に統合されると、シリアでは緩衝勢力≠ェいなくなり、ロシア軍と米軍が直接衝突するリスクが高まるのではないかという。ロシア軍機による米軍支配空域の侵犯が1日3、4回にも上っており、米側は懸念を深めている。
しかし、バイデン米政権はワグネル反乱の混乱について、中東・アフリカ地域で米国が存在感を復活させるための「巻き返しの好機」と見なしており、米露の対決が今後、エスカレートする恐れがありそうだ。
●ウクライナ軍、バフムト近郊の襲撃作戦の映像公開 前週全土で37.4Km2奪還 7/4
ウクライナ軍の第3独立強襲旅団は3日、バフムト近郊での襲撃作戦を撮影したとする映像を公開した。ロイターは、この映像が撮影された場所や日付を独自に確認することはできなかった。
ウクライナのマリャル国防次官は3日、東・南部戦線について、激しい戦闘の中、ウクライナ軍が少しずつ前進しており、過去1週間で37.4平方キロメートルの領土を奪還したと述べた。
同国軍は東部ドネツク州の要衝バフムト方面に前進。ロシア軍はドネツク州のリマン、アブデーフカ、マリンカ方面を攻撃しているという。
同次官はメッセージアプリ「テレグラム」で「激しい戦闘が続いている」と指摘。東部戦線では過去1週間で9平方キロ、南部戦線では28.4平方キロの領土を奪還した。南部戦線でこれまでに奪還した領土は158.4平方キロに達したという。
マリャル次官はその後、バフムト付近での戦闘が激化し「主導権を握るための戦闘が行われている」と指摘。「きょう、ロシア軍はこの方面で前進を試みたが、ウクライナ軍は一定の成功を収めた。状況は刻々と変化しており、1日のうちに複数回、領土の支配を失ったり取り戻したりすることもある」と述べた。
その上で、ロシア軍は一部の前線で3カ所に防衛線を設置していると指摘。ウクライナ軍はバフムトの南にある集落の近くまで前進したとし、北側では戦闘が続き、市街地では激しい銃撃戦があったと明らかにした。
ウクライナ陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官は、バフムト周辺でウクライナ軍部隊が前進したとし、ロシア軍を「効果的に殲滅」したと報告した。
ゼレンスキー大統領は「前線での状況は先週は困難だったが、われわれは前進している」と対話アプリ「テレグラム」に投稿。「われわれは一歩一歩前進している。ウクライナを守る全ての人、この戦争をウクライナの勝利へと導く全ての人に感謝する」とした。
ロシアのショイグ国防相はこの日に開かれた国防省の会議で、民間軍事会社ワグネルによる武装蜂起で、ロシアがウクライナで進める「特別軍事作戦」は影響を受けていないと表明。「挑発行為は(作戦に参加している)軍部隊の行動に影響を及ぼしていない」と述べた。
ロシア側は週末、バフムトを取り囲む集落やそれより南部の地域でウクライナの攻撃を撃退し、北東部でウクライナ軍を抑え込むのに成功したと報告していた。
●ワグネル関与疑われるロシア軍幹部、なお姿見せず−国防相は反乱非難 7/4
ロシアの民間軍事会社ワグネルの武装蜂起を巡り尋問を受けたとされる軍幹部は、ショイグ国防相が出席した軍の最高幹部会議にも姿を見せなかった。この会議でショイグ氏は、ワグネルの反乱を非難した。
この軍幹部はシリアでの冷酷な戦術から「アルマゲドン将軍」の異名をとり、ウクライナ戦争の副司令官を務めるセルゲイ・スロビキン氏(56)。同氏は先週、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏との関係について数日間にわたり、明らかにされていない場所で聴取を受けたと、事情に詳しい関係者が述べていた。
ショイグ氏は3日、国営テレビが報じた国防省会合で「ロシアの状況を不安定化させようとした試み」は、軍が「誓いに忠実であり続けた」ために失敗したと主張。「この挑発行為」によるウクライナでの軍事作戦への影響はなかったとも語った。ショイグ氏がワグネルの反乱について公の場で発言したのは、これが初めて。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は先週、同国にプリゴジン氏が到着したと発言した。だが、プリゴジン氏は反乱を収束させた先月24日の夜以降、姿が確認されていない。
ソーシャルメディアを通じた発信も途絶えていたが、3日にはワグネルと関係するテレグラムのチャンネルに、プリゴジン氏からとされる短い音声メッセージが投稿された。メッセージは裏切り者に対してロシア社会を動員することが反乱の目的だったと説明し、市民に支持を呼び掛けている。声の主がプリゴジン氏なのかどうか独立した検証はされていない。
ロシア国防省はワグネルに対して1日までに同省の傘下に入る契約を結ぶよう迫り、これが反乱の引き金を引いた。ショイグ氏は会合で、国防省との契約に合意したワグネル戦闘員の数について言及することはなかった。プリゴジン氏はショイグ氏がワグネルを「破壊」しようとしていると非難していた。
ロシアに残るプリゴジン氏の遺産が解体されようとしている別の兆しもある。同氏のメディア事業は整理手続きに入り、グループに属するウェブサイトは当局がアクセスを封鎖したと、ロシア紙イズベスチヤが6月30日に報じた。
一方、ウクライナ軍はロシア軍に占領されている同国南部と東部の奪還を目指し反転攻勢を続けている。ロシアのプーチン大統領は昨年9月、同国軍が完全には支配していないにもかかわらずウクライナの4州を併合すると発表した。
プーチン氏は3日、ロシア中央選挙管理委員長とのテレビ放送された会合で、ウクライナ併合地域での地方選挙を9月に実施する計画だとしつつ、状況が悪化すれば延期の可能性もあると語った。
●徐々に南進主張 温存戦略か、勢い欠く―反転攻勢1カ月・ウクライナ 7/4
ウクライナ軍の反転攻勢が始まって1カ月。ウクライナは作戦の着実な進展を主張している。マリャル国防次官は3日、通信アプリ「テレグラム」で、南部ザポロジエ州のメリトポリとベルジャンシク方面に向かって「1週間で28.4平方キロを解放した」と発表、徐々に南進していると説明した。ビリニュスで11、12の両日開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議までに成果を示したいところだ。
要衝トクマク
ロシアのプーチン大統領は6月13日、クレムリン(大統領府)でロシア・メディアの従軍記者たちと会見し、ウクライナの反転攻勢は6月4日に始まったと述べた。戦果を誇示して対決姿勢を鮮明にしてきたが、同23日に民間軍事会社ワグネルの乱を迎えた。
ただ、ウクライナ軍の反転攻勢も勢いを欠いているとみられている。南部戦線ではアゾフ海まで到達し、クリミア半島とロシア本土をつなぐ補給線の分断を狙うが、特にメリトポリとベルジャンシクへの進撃には不可欠の要衝トクマクへの進路をロシアの厳重な防御に阻まれ、開けていない。
ロシアのショイグ国防相は7月3日、「どの方面でも、敵は目標に届いていない」と主張。旧ソ連のアフガニスタン侵攻時代の古い兵器をウクライナの占領地に持ち込んで、なりふり構わない防御態勢を敷いているとされる。
戦車隊控える
ウクライナ軍は、突破口を開いた後、ロシアの占領地を奪回するための戦力を温存していると推測されている。レズニコフ国防相は2日、ツイッターに、ドイツ製戦車「レオパルト2」の動画を投稿。「数十両のレオパルトが、能力を見せつけるためにウクライナに来た。その時が来る!」と戦車部隊による新たな展開を示唆した。
レズニコフ氏は6月28日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)とのインタビューでは、西側諸国の戦車部隊はまだ前線にほとんど投入されていないと説明していた。西側の報道では最近、反攻作戦の遅れが指摘されるようになっており、士気を高める狙いもありそうだ。
対するロシア側は3日、レオパルト戦車16両を戦闘不能にしたと主張し、「過度な期待だったことは明らかだ」(ショイグ氏)と対抗意識をむき出しにした。
独誌シュピーゲルは2日、もともと5月にポーランドに開設される予定だったレオパルト戦車の修理拠点が、同国とドイツの調整不足のため、まだ稼働していないと報じた。既に数両が修理を待っているとされ、立ち上げの遅れがウクライナ軍の作戦に支障を来しかねない状況だ。
●ロシア南部の軍用飛行場付近で爆発、ウクライナ側の攻撃再開か 7/4
ウクライナに近いロシア南部クラスノダール地方や国境を接する露西部ベルゴロド州で2日、爆発や砲撃があった。露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱後、露国内へのウクライナ側の攻撃は一時沈静化したが、再開した可能性がある。
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアの対岸にあるクラスノダールでは、軍用飛行場付近で爆発があった。露独立系メディア「マッシュ」は、飛行場敷地内の燃料貯蔵施設を標的にしたウクライナ軍のミサイル攻撃だと報じた。
ウクライナ空軍は、露軍が飛行場を自爆型無人機の発射拠点としてウクライナ各地を攻撃しているとみている。3日には、各地に飛来した露軍の無人機17機のうち13機を撃墜したと発表した。
ベルゴロド州では国境近くの集落が砲撃を受け、住宅や電線などのインフラが損傷した。同州知事が2日、SNSに投稿した。
一方、ウクライナの国防次官は3日、ウクライナ軍が南・東部で展開している大規模な反転攻勢に関し、南部ザポリージャ州一帯の戦線では過去1週間で約28平方キロ・メートルを奪還したとSNSで発表した。これまでに解放した面積は計約158平方キロ・メートルに上るとしている。
●プリゴジン氏の新たな音声公開 ウクライナ侵攻関与継続を示唆 7/4
ロシアの独立系メディアは3日、ロシア国内で武装反乱を起こし南部ロストフ州から撤収したあと公の場に姿を現していない民間軍事会社の代表、プリゴジン氏の新たな音声メッセージの内容を公開しました。
それによりますとプリゴジン氏は「近い将来、前線でのわれわれの次の勝利を見ることになるだろう」と述べ、今後も、ウクライナ侵攻に関与していく考えを示唆しました。
今回のメッセージは先月26日以来とみられますが、いつどこで録音されたものかは明らかになっておらず、引き続きプリゴジン氏の動向に関心が集まっています。
こうした中、別の独立系メディアはSNSで隣国ベラルーシにワグネルの戦闘員のためとみられるキャンプが建設され、すでに一部の部隊が移動し、戦車などを使った演習を開始していると伝えています。
●ウクライナ攻勢「遅くても驚かず」 作戦は困難と強調―NATO高官 7/4
北大西洋条約機構(NATO)のバウアー軍事委員長は3日、ロシアの侵攻に対するウクライナ軍の反転攻勢について「簡単に達成可能と考えるべきではない」と楽観論を戒めた上で、「事態が早く進まないことに驚きはない」と強調した。記者団に語った。
ウクライナ当局はこれまで、ロシア側が強固な守りを敷く南部地域での進攻は厳しいと認めつつ、領土奪還にも成功していると説明してきた。
バウアー氏は「ウクライナにはかなりの数のロシア兵がおり、防衛上の障害も多い」と指摘。「ウクライナにもっと早く進むべきだと言ってはならない。この種の作戦は非常に困難だ」と述べた。
●ワグネルの武装反乱、ウクライナ侵攻に影響なし=ショイグ国防相 7/4
ロシアのショイグ国防相は3日、民間軍事会社ワグネルによる武装反乱はウクライナにおける「特別軍事作戦」に影響しなかったと述べた。反乱以来最初の発言となった。
同相は会議で、反乱はロシアの不安定化を狙うものだったが、軍の忠誠心によって失敗に終わったとし、「この挑発行為は(作戦に携わる)軍の行動に影響しなかった」と述べた。
一方、ゲラシモフ参謀総長は反乱以来公の場に姿を見せておらず、国防省が公表した今回の会議の写真にも写っていない。 
●プーチン氏が国民の団結強調、ワグネル反乱後初めて国際会議に出席 7/4
ロシアのプーチン大統領は4日、上海協力機構(SCO)のオンライン首脳会議で「ロシア国民はかつてないほど団結している」と強調し、「ロシアの政界と社会は反乱に一致団結して対処したことで、結束と祖国の運命に対する責任感を明確に示した」と述べた。
プーチン氏が国際会議に出席するのはロシアの民間軍事会社ワグネルによる反乱が収束してから初めて。
演説で「憲法秩序と市民の生命と安全を守る」自身の取り組みを支持すると表明したSCOメンバーに謝意を示し、ロシアは西側の制裁と「挑発」に立ち向かうと表明した。
SCOとの関係を強化するとも発言。対外貿易で現地通貨決済への移行を支持すると述べた。
また、先進国の債務や食糧・環境安全保障の悪化によって、新たな世界経済・金融危機のリスクが高まっていると指摘。「そしてこれら全ての問題はそれぞれが複雑かつ多様だが、全体として見れば紛争の可能性を顕著に増大させるものだ」と語った。
●プーチン大統領 国際会議で演説“これまで以上に団結” 7/4
ロシアのプーチン大統領は、国内で武装反乱が起きてから初めて参加した国際会議で演説し「ロシア国民はこれまで以上に団結している」と述べ、みずからの政権のもとでロシアが結束していると強調しました。
ロシアのプーチン大統領は4日、上海協力機構の首脳会議にオンラインで参加して演説し、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が起こした武装反乱についても触れました。
この中で「ロシア国民はこれまで以上に団結している。武装反乱の試みに、ロシアの政界と社会全体が共同戦線を張り、結束と高い責任を示した」と指摘し、みずからの政権のもとでロシアが結束していると強調しました。
その上で「ロシアの指導部の行動に支持を表明してくれた上海協力機構の各国に感謝する」と述べ、各国から支持が得られているとアピールするねらいがあるとみられます。
また、プーチン大統領は「われわれに対してハイブリッド戦争が仕掛けられ、不当で前例のない規模の制裁が科されている。ロシアは外部からの圧力と制裁、挑発に対して、自信を持って対応していく」と訴えました。
そして、ロシアと友好関係にあるイランの正式加盟が承認されたことを歓迎するとともに、同盟関係にあるベラルーシの加盟に向けた動きについても「上海協力機構の活動に前向きの影響を与えると確信している」と述べ、欧米への対抗軸としてこの枠組みを拡大させることに意欲を示しました。
●プーチン大統領「各国に感謝したい」 ワグネル反乱後 初の国際会議 7/4
ロシアのプーチン大統領は、民間軍事会社「ワグネル」による反乱後初めて国際会議にオンラインで出席し、反乱でロシアを支持した国に、感謝を述べた。
プーチン大統領「国民の生命と安全、憲法秩序を守るためのロシア指導部の行動に支持を表明した上海協力機構の各国に感謝したい」
プーチン大統領は4日、中国とともに主導するSCO(上海協力機構)のオンライン首脳会議に出席した。
プーチン大統領は演説で「国民は、かつてないほど団結している」と強調し、反乱は自らの政権運営に影響していないとアピールした。
また、ウクライナ侵攻については、「不当な制裁が前例のない規模で実行されている」と主張し、加盟各国の連携強化を訴えた。
一方、この会議では核開発をめぐってアメリカと対立するイランの正式加盟が承認された。
中国とロシアは上海協力機構にイランを取り込むことで、アメリカへの対抗姿勢を強めそう。
●プーチン大統領が抱える「時限爆弾」 大物側近が対立、軍統制できず 7/4
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の反乱から1週間が経過したが、ウラジーミル・プーチン大統領(70)は新たな内紛の時限爆弾≠抱えている。ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏(62)とセルゲイ・ショイグ国防相(68)の確執は、ロシア軍内の「主流派」と「反主流派」の対立に発展していることも浮き彫りになった。ロシアの混乱に乗じて隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(68)が存在感を強めるなど、状況は複雑怪奇だ。
反乱を起こした後、ベラルーシ入りしたとされるプリゴジン氏だが、その後も自身のプライベートジェット機がロシアに戻ったことが確認されるなど不穏な動きもある。
そのプリゴジン氏は1990年代にサンクトペテルブルク市でホットドッグ店などの事業を展開し、地元出身で副市長を務めていたプーチン氏と蜜月関係を築いた。
猜疑心(さいぎしん)が強いプーチン氏は、地元の同市関係者を重用した。大統領就任後には、プリゴジン氏は政府の行事や軍に配食するケータリング事業、水上レストランなどで富を築いて新興財閥(オリガルヒ)となり、「プーチンの料理人」と呼ばれて信頼を勝ち得てきた。
ワグネル創設に資金を拠出し、2014年のウクライナ東部紛争やシリア、リビア内戦などにも部隊を送った。一方で、経営するネット企業がサイバーテロ事件に関与し、16年の米大統領選に干渉したとして米連邦捜査局(FBI)から指名手配された。
ワグネルの乱の際にプーチン氏の名前を出さなかったプリゴジン氏が、名指しで批判を繰り返していたのがショイグ氏とワレリー・ゲラシモフ参謀総長だった。
モンゴル国境に近いトゥヴァ地方出身とされるショイグ氏に軍歴はなく、旧ソ連時代に建築技師として経験を積み、共産党内で昇進した。エリツィン政権下の1994年に非常事態相に就任、災害や事故対応などでメディアも露出も多く、「最も人気のある政治家の1人」とされる。
プーチン政権で2012年に国防相に登用されたが、個人的な信頼関係も出世に影響したようだ。2人でシベリア方面で狩猟や釣りを楽しんだりするビデオや写真が話題を呼んだ。ともにアイスホッケーにも興じている。
英BBCによると、プリゴジン氏はショイグ氏を「長年毛嫌い」していたといい、「ワグネルが高給でロシア軍から特殊部隊の精鋭を引き抜いていた」ことも両者の緊張を生んだと伝えている。
対立は根深く、米CNNテレビは29日、拘束情報のあるロシア軍のスロビキン航空宇宙軍総司令官を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、ワグネルの秘密の「VIPメンバー」のリストに名前があったと報じた。
プーチンにはプリゴジンよりショイグが重要 畔蒜氏が解説
ロシアの外交・安全保障に詳しい笹川平和財団の畔蒜(あびる)泰助主任研究員は「ワグネル単独か、正規軍内部に同調者がいた上での行動だったのかがポイントだ。軍内には『ショイグ―ゲラシモフ体制』に不満を募らせる反主流派があり、幹部がワグネル入りしていた経緯もある。将来的に禍根が残ったとみることもできる」と解説する。
今後のプリゴジン氏とショイグ氏の処遇を受けて、微妙な均衡が崩れる恐れもある。
畔蒜氏は「プーチン氏にとってはプリゴジン氏よりもショイグ氏の方が圧倒的に重要な関係性にある。少なくともウクライナ侵攻中は国防相と参謀総長を交代させるのは難しく、解任はプリゴジン氏の要求をのんだことになってしまうため難しい。一方でプリゴジン氏を即時排除することは、ルカシェンコ氏の顔に泥を塗ることになるうえ、軍内の反主流派の反発も懸念材料になる」と指摘する。
カギを握るのが、プリゴジン氏を受け入れたルカシェンコ氏だ。前出の畔蒜氏は「プーチン体制が倒れれば、ルカシェンコ氏も危うくなる。リスクがあるが、身を守るための判断だったのではないか」と語る。
露紙ベドモスチによると、ルカシェンコ氏は、反乱の原因について、ショイグ氏と、プリゴジン氏の性格が似ていることだと指摘、「彼(プリゴジン)はショイグと同じ性格でとても直情的だ。そしてそれが始まった」と話した。
「プーチンの盟友」といわれるルカシェンコ氏は、反乱収束に一役買ってプーチン氏に貸しを作った。ロシアの戦術核兵器とワグネルの戦闘員も手に入れることとなり、ロシアにもウクライナにも脅威を与える存在となった。
もつれた思惑と人間関係がさらなる混乱を招くのか。
●危険な代理人から権力の座を狙う大物へ...ワグネル・プリゴジン台頭 7/4
ロシアに君臨して23年。ウラジーミル・プーチン大統領が、これほどの難局に直面したことはなかった。6月23日、民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンが、彼に真っ向から反旗を翻した。
事の重大さは、翌24日にプーチンが行った演説からも伝わる。名指しはしなかったが、「行きすぎた野心と利己主義の末に反逆を起こし」「祖国と民を裏切り」、ワグネルの兵士が命を懸ける「大義に背いた」とプーチンが糾弾したのは、プリゴジンしかいない。
だが、このときプーチンが語らなかったことがある。それは、前科がありながらケータリング業で成功した男が侮り難い政治力を手にするまでの道のりに、自身がいかに加担したかだ。プーチンは少なくとも3つの方法で、プリゴジンを政界の中枢に導いた。
プリゴジンはまず、国内の政敵を攻撃したり、民衆が政府を支持しているという幻想をつくり出すために忠実な代理人を使うプーチンの戦略の恩恵を受けた。
2004年のウクライナのオレンジ革命の余波を避けるため、ロシアでは青年組織「ナーシ」が設立された。反欧米デモを組織したり、反体制強硬派への攻撃を画策したが、そのナーシも11年の下院選での不正問題に対する大規模な抗議の前には無力だった。
そこでプーチンは、サンクトペテルブルクのケータリング業界の大物だったプリゴジンに助力を求めた。彼はすぐに抗議運動に潜入。デモ参加者を西側の手先として中傷したドキュメンタリー番組にも出資した。後には16年の米大統領選にも介入を試み、アメリカの制裁対象となった。
風をまき、旋風を刈り取る
次にプーチンがプリゴジンの台頭に手を貸したのは、14年のクリミア侵攻作戦のときだった。この戦争には、ロシア軍と緊密に協力する代理勢力が多数関与していた。これらの勢力は、ウクライナ南東部で民衆が蜂起したという錯覚を生み出そうとした。
ここで頭角を現したのが、同じ14年に創設されたワグネルだ。プリゴジンは志願兵の訓練に軍事施設を使う許可を求め、自らの活動にプーチンのお墨付きがあると触れ回った。15年にはシリア介入で暗躍し、治安活動の見返りに天然資源の利権を得た。アフリカ諸国でも強権的政権を支え、ロシア外交官と組んで鉱山業や林業の利権を手にした。
プーチンからプリゴジンへの3つ目の贈り物は、国家機関の無力化だ。選挙管理が強化され、独立系の政党はつぶされた。メディアは大統領府とオリガルヒ(新興財閥)に飼い慣らされた。市民社会は「外国工作員」や「望ましくない組織」を取り締まる新法により壊滅的な打撃を受けた。
そんな無法地帯で、プリゴジンは力を増した。もう誰にも邪魔されずに何でもできる。ワグネルの周辺を調べるジャーナリストは嫌がらせを受け、時には不審な死を遂げた。
そしてプーチンが2度目のウクライナ侵攻に踏み切ると、プリゴジンは政府の危険な代理人から、権力の座を狙う大物へと変貌したのだった。
旧約聖書に「風をまき、旋風を刈り取る」という言葉がある。人の行動の結果は、元の行動よりも大きくなりがちだという意味だ。プーチンのプリゴジンに対する関わり方を、見事に表している。
●押収160億円を返還か プリゴジン氏捜査終結で ロシア 7/4
ロシアの独立系メディア「フォンタンカ」は4日、武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏に対する家宅捜索で押収された現金が、代理人を通じて本人に返還されたと報じた。
プリゴジン氏に対する捜査は終結しており、現金はロシア通貨だけでも100億ルーブル(約160億円)にのぼった。
プリゴジン氏は戦闘員に支払う現金と説明。プーチン大統領は6月27日、ワグネルの「運営費の全額を国家が賄っていた」と主張しており、これほどの現金が集まった経緯は不明だ。
●中国・ロシア主導の「上海協力機構」にイラン加盟…対米欧で結束狙う 7/4
中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)首脳会議が4日、オンライン形式で開かれた。露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏による反乱後、プーチン露大統領は初めて国際会議に出席し、中国とともに米欧への対抗軸としての結束を図った。イランは9か国目としてSCOに正式加盟し、拡大路線が進んでいる。
プーチン氏は会議で「露国民はかつてないほど結束し、社会全体が反乱の試みに立ち向かった」と述べ、反乱で政権基盤がむしろ強化されたとアピールした。
SCO首脳には「憲法秩序や国民の安全を守った露指導部の行動を支持してくれたことに感謝する」とも語り、プーチン政権の反乱への対応が広範な支持を得ていると誇示した。
米欧への対抗姿勢では、中露が歩調をそろえた。中国の習近平(シージンピン)国家主席は「対外政策は独立して自主的に制定するべきだ。外部勢力がこの地域で対抗する陣営を作ることに警戒しなければならない」と述べた。台湾問題などに関与を強める米欧などを念頭にけん制する狙いがあるとみられる。
プーチン氏も米欧との関係について「ロシアは制裁や挑発行為に抵抗する」と宣言し、SCO加盟国との連携強化で対抗する姿勢を鮮明にした。
今回の会議では、エネルギー安全保障やデジタル技術の活用について議論した。オブザーバー国だったイランが正式に加盟し、ベラルーシも加盟に向けた覚書に署名した。議長のモディ印首相も「SCOはアジア地域全体の平和や繁栄、発展のための場だ。他国が加盟に関心を示しているのは、この組織が重要だとの証しだ」と拡大への意欲を語った。
一方、今回の首脳会議はニューデリーでの対面開催が想定されていたが、インドがオンライン形式での開催を決め、波紋が広がった。印政府関係者によると、国境問題などで関係が悪化する中国とパキスタンから対面開催への出席の連絡がなかったという。この日もモディ氏が「テロリストに潜伏場所を提供する国もある」と述べ、パキスタンを念頭に批判するような発言を口にした。
モディ氏は約10日前まで訪米するなど、米国との関係を強めている。米欧への対抗色が強まることを懸念し、SCOの対面開催を避けたとの見方もある。モディ氏は会議の冒頭発言でも、ウクライナ侵略については言及しなかった。

上海協力機構 / 中国とロシア、中央アジアの4か国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン)の計6か国が2001年に上海で設立した地域協力機構。17年にインドとパキスタンが加盟した。テロや過激主義への対応が当初の目的だったが、経済やエネルギーなどに協力分野を拡大し、加盟国同士による合同軍事演習も行われている。正式名称はShanghai Cooperation Organisation。
●対面取りやめ、中パと対立背景 プーチン氏に配慮も インド・SCO首脳会議 7/4
上海協力機構(SCO)首脳会議は当初、議長国インドの首都ニューデリーで対面による開催が見込まれていた。
オンライン形式になったのは係争地を巡りインドと中国、パキスタンの間で緊張が続いていることや、「ロシアのプーチン大統領に配慮した」ことが影響したという見方が指摘されている。
インドは5月末、首脳会議のオンライン開催を発表。6月2日の記者会見で理由を問われた外務省のバグチ報道官は「一つの要因だけでなく、さまざまな要因を総合的に考慮し決めた」と述べ、詳しい説明は避けた。
中印両軍は2020年、係争地のインド北部ラダック地方で衝突。45年ぶりに死者が出たことで関係が冷え込んでいる。今年4月、ニューデリーで開かれたSCO国防相会議に合わせて中印国防相が会談したが、握手を交わさないなど緊張緩和には程遠かった。
印パは建国以来、カシミール地方の領有権を巡り争っている。5月のSCO外相会議では閉幕後、インド外相がパキスタン外相を「テロ産業の推進者」などと厳しい言葉で非難。パキスタン外相の訪印は12年ぶりだったが、2国間会談は実現しなかった。
中パはその後、インドがカシミール地方で20カ国・地域(G20)の関連会合を開催したことに反発。G20メンバーの中国は同会合を欠席した。
一方、SCO首脳会議がオンラインとなったのは、インドの友好国であるロシアの事情を考慮した面もありそうだ。インドの元外交官アショーク・サジャンハール氏は地元メディアへの寄稿で「プーチン大統領は(ウクライナ侵攻中に)モスクワを離れるのは難しいと感じていたかもしれない」と推測した。外遊が困難な中、国際会議に出席することで存在感を示したいプーチン氏の意向をインド側が受け入れたことも考えられる。
●ウクライナ軍、5月にパトリオットでロシア軍機4機を撃墜…越境攻撃を初確認 7/4
ロシアの侵略を受けるウクライナが米国製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」を使って、5月13日に露西部ブリャンスク州を飛行中の露軍機4機を撃墜していたことが、ウクライナ空軍が3日公表した動画で明らかになった。パトリオットによる越境攻撃の確認は初めてだ。ウクライナと米欧との摩擦の火種になりかねない。
5月13日の攻撃では露軍のヘリコプター2機と戦闘機2機がほぼ同時に墜落し、乗員全員が死亡したとされる。ウクライナ軍が2セットを配備するパトリオットは最大射程160キロ・メートル超の地対空ミサイルを搭載可能で、5機を撃墜したとの見方もある。
一方、露国防省は4日、無人機5機を使ったモスクワとモスクワ近郊への攻撃を阻止したと発表し、ウクライナによる「テロ攻撃」と非難した。タス通信によると、1機はモスクワ近郊クビンカの軍事施設に墜落。周辺にあるブヌコボ空港は一時、発着を停止した。
ウクライナ軍が南・東部で大規模な反転攻勢を開始してから4日で1か月となった。ウクライナ軍は露軍の抵抗に直面しており、再び越境攻撃で揺さぶりを強めている可能性がある。
ウクライナ軍の報道官は3日、露軍が東部全域で約18万の兵力を集結させているとの見方を示した。ドネツク州の要衝バフムト周辺の兵力は約5万との分析も明らかにした。露軍が東部で攻勢に乗り出し、ウクライナ軍の反攻妨害を狙っているとの観測が出ている。
●ウクライナ反転攻勢 “ロシア軍が大量の地雷を設置”英国防省 7/4
領土奪還を目指すウクライナ軍の反転攻勢について、イギリス国防省は、ロシア軍が進軍を遅らせるために大量の地雷を設置し、一定の成果をあげているという見方を示しています。
ウクライナ軍が東部や南部で続ける反転攻勢について、ウクライナ国防省のマリャル次官は3日、SNSで「バフムト方面の戦況が再び激化している」と投稿し、東部バフムトをめぐる攻防が激しくなっていると明らかにしました。
ウクライナ軍は先月上旬から大規模な反転攻勢を始めていますが、当初の想定よりも進展が遅れているという指摘もあがっています。
イギリス国防省は、4日の分析で「ここ数週間のロシア軍の戦術は、南部でウクライナ軍の装甲部隊の進軍を遅らせることを優先してきた。対戦車地雷を非常に多く使い、進軍を遅らせたあと、無人機や攻撃用ヘリコプターなどでウクライナの装甲車を破壊している」と指摘しました。
そして、「反転攻勢の初期段階でロシア軍の作戦は一定の成功を収めている。しかし、ロシア軍は依然として弾薬不足などに悩まされている」と分析しています。
一方、ロシア国防省は4日、首都モスクワの南西部や西部郊外に、合わせて5機の無人機が飛来したと発表しました。
いずれも撃墜し、死傷者や被害はなかったとし、ウクライナ軍によるテロ攻撃だと主張しています。
ロシア側の当局によりますと、無人機が撃墜された地域の近くにあるモスクワ南西部のブヌコボ空港では一時、航空機の運航を制限したということです。
モスクワではことし5月30日にも複数の無人機が飛来し、市内の集合住宅で被害が出ていて、ロシア側は警戒を強めています。
●ロシア副首相 北方領土の択捉島に 政権幹部訪問は軍事侵攻後初 7/4
ロシア極東のサハリン州政府は、ロシア政府で極東の大統領全権代表を務める副首相が、4日に北方領土の択捉島を訪問したと発表しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから、プーチン政権幹部の北方領土への訪問が明らかになったのは初めてです。
北方領土を訪問したのは、ロシア政府で極東の大統領全権代表を務めるトルトネフ副首相で、サハリン州政府によりますと4日、サハリン州の中心都市ユジノサハリンスクから択捉島を訪問したということです。
プーチン政権幹部の北方領土への訪問が明らかになったのは、おととし10月に司法手続きなどを担当する副首相ら2人が択捉島を訪問して以来で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってからは初めてです。
トルトネフ副首相は択捉島で、水産加工施設などを視察したほか、サハリン州や島の代表らと会議を開いて、プーチン政権が北方領土に企業の進出を促そうと進めている、固定資産税などを免除する優遇措置の導入状況について協議したということです。
プーチン政権としては、北方領土を自国の領土として開発していく姿勢をアピールするとともに、侵攻を続けるロシアへの経済制裁を強めている日本側をけん制するねらいがあるとみられます。

 

●プーチン氏、反乱事態後初の外交活動は習氏との会議 7/5
ワグネルグループの武装蜂起でリーダーシップの危機に直面していたロシアのプーチン大統領が4日、国際会議に出席して健在ぶりをアピールした。
プーチン大統領はこの日、第23回上海協力機構(SCO)首脳会議(サミット)の画像演説で「ロシア国民は以前にはなかった方法で団結している」とし「祖国の運命に対する連帯と強い責任感で、未遂に終わった武装蜂起に対抗してロシア政界と社会全体が連合する姿をはっきりと見せた」と明らかにした。クレムリン宮が公開した演説文によると、プーチン大統領は「われわれに対してハイブリッド戦争が起きていて、不法な反ロシア制裁が前例のない規模で加えられている」と主張した。
この日のSCO画像会議は、ワグネルグループ反乱後、プーチン大統領が初めて国際外交舞台に姿を表わした場だった。この日の会議は、2018年中国青島会議時に同機構に正式加入したインドのモディ首相が議長国として主宰した。
中国の習近平国家主席はこの日の画像演説で「人類社会が団結か混乱か、平和か衝突か、そして協力か対抗かという時代の問いに直面している」とし「私自身の回答は平和・発展・協力・互恵という時代の流れを止めることはできないということ」と明らかにした。官営新華社によると、習主席は「経済グローバル化という正確な方向を堅持しなければならない」とし「保護主義と一方制裁、国家安全保障概念の一般化、『障壁作り』『デカップリングとサプライチェーンの断絶』に反対し、互恵協力で『パイを大きくすること』に努力し、発展の成果がさらに多く、さらに公平に各国の人々に及ぶようにしなければならない」と強調した。
SCOは1990年代旧ソ連崩壊によって触発された国境紛争を解消するために96年に結成された領域内の多国間安全保障機構「上海ファイブ(ロシア・中国・カザフスタン・キルギスタン・タジキスタン)」を母体としている。
●プーチン大統領 上海協力機構 イラン・ベラルーシ“加盟”歓迎 7/5
ロシアのプーチン大統領は、中国とロシアが主導する枠組み、上海協力機構の首脳会議にオンラインで参加し、友好関係にあるイランや同盟国ベラルーシの加盟に向けた動きを歓迎しました。
プーチン大統領としては枠組みを拡大させウクライナ情勢を巡って対立する欧米側に対抗したい思惑もあるとみられます。
ウクライナでは領土奪還を目指すウクライナ軍の反転攻勢が続いていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は3日、東部や南部の少なくとも4つの前線でわずかな前進があったと指摘しました。
また北東部スムイの地元当局は3日、ロシア軍がイラン製の無人機で攻撃し、3人が死亡したと発表しました。
ゼレンスキー大統領は動画で「残念ながら、すべての目標を撃墜できる防空システムはまだない。防空システムを強化するためあらゆる手段を尽くす」と述べました。
一方ロシアのプーチン大統領は4日、中国とロシアが主導する安全保障や経済協力の枠組み、上海協力機構の首脳会議にオンラインで参加して演説しました。
民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が武装反乱を起こしてからプーチン大統領が国際会議に参加するのは初めてで、プーチン大統領は「武装反乱の試みにロシアの政界と社会全体が共同戦線を張り、結束と高い責任を示した」としてロシアは結束していると強調しました。
そのうえで「ロシアの指導部の行動に支持を表明してくれた上海協力機構の各国に感謝する」と述べ、各国から支持が得られているとアピールしました。
今回の首脳会議ではロシアと友好関係にあるイランの正式加盟が承認されたほか、同盟国ベラルーシも加盟に向けた文書に調印しました。
プーチン大統領は両国の加盟に向けた動きを歓迎していて、上海協力機構の枠組みを拡大させ欧米側に対抗したい思惑もあるとみられます。
●歴史マニアのプーチン大統領の「恐れ」…内乱の1917年に言及した理由は 7/5
「プーチン大統領はいつも本を読んでいる。ほとんどがロシアの歴史に関するものだ」
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官が2011年、ロイター通信に述べた話だ。ウラジーミル・プーチン大統領は、重要な行事や決定的な局面において、ロシアの歴史を引き合いに出すことがある。過去から何が間違っていたため、そうした状況に置かれたのか、問題を正して過去の栄光を復活させるためには、どうすべきなのかを語る。

昨年2月にウクライナ侵攻を開始する際には、「ウクライナは歴史的にはロシアの一部」だとして演説で戦争を正当化した。「歴史的使命」を強調する点は、中華民族の偉大な復興を意味する「中国夢」を叫ぶ中国の習近平主席に似ている。
そうしたプーチン大統領は、先月24日にワグネルの反乱に直面すると、「1917年」の再来を防ぐべきだと述べ、100年ほど前の歴史を想起させた。プーチン大統領がその年を引き合いに出した理由は何か。
100年前の悪夢に苦しめられるプーチン大統領?
プーチン大統領はテレビ演説で、当時の混乱は「ロシアが第1次大戦で戦った際、大きな打撃を与え、勝利を盗まれるようにさせた」と述べた。また、「軍隊と人民の背後で発生した陰謀、論争、政治工作は最悪の災難であり、軍隊と国家を破壊し、広大な領土を失わせ、内戦の悲劇につながった」と語った。
1917年は、ロシアが体験した激動の20世紀のなかでも、非常にドラマチックな事件が続いた年だ。第1次世界大戦を率いだ皇帝ニコライ2世が、莫大な死傷者と経済崩壊のために発生した2月革命によって追い出され、ロマノフ王朝が幕を下ろした。
8月には、軍総司令官のラーブル・コルニーロフが、アレクサンドル・ケレンスキーの臨時政府の体制に反乱を起こし、10月革命によって、ウラジーミル・レーニンが率いるボリシェビキが権力を握った。ボリシェビキ権力は翌年3月、英国・フランス・米国などが参加した連合国陣営から離脱し、ドイツやオーストリア・ハンガリー帝国などと単独講和条約を結んだ。ボリシェビキ革命は、1923年まで続く内戦を触発した。
プーチン大統領は、そうした状況を縮約したのだ。相次ぐ革命と内乱という敵前での分裂がロシアを弱体化させ、最終的に、ブレスト・リトフスク条約という屈辱的な講和条約につながったという認識だ。
これを、ロシア全体がウクライナ戦争に死力を尽くす現在の状況になぞらえ、内乱が発生し大きな危機が迫ったと述べたのだ。プーチン大統領は「ロシア人の運命を決めることになる戦いには、すべての軍隊の団結を必要とする」とし、ワグネルの反乱は「ロシアとロシア人に刃物を刺すこと」だと非難した。
プーチン大統領の演説は、1917年の状況全般を網羅しているとみられるが、ワグネルの反乱に対する反応である点を考慮すれば、コルニーロフの反乱に焦点を合わせているとみることもできる。コルニーロフは、戦争で勝利するには国内の安定と不純分子の除去が必要だとして銃口を向け、社会主義者が掌握した当時の首都サンクト・ペテルブルクに進撃した。コルニーロフはケレンスキー臨時政府のための行動だと主張したが、これをクーデターとみなしたケレンスキーはコルニーロフを解任した。戦争に激しい拒否反応を示したロシア人は背を向け、脱走兵が続出し、反乱は失敗に終わった。
コルニーロフの反乱は、ロシア軍指導部を追放するとしてモスクワに進撃したワグネルのトップのエフゲニー・プリゴジン氏の行動に似ている。プリゴジン氏もプーチン大統領に対する挑戦ではないと主張した、最終的には反逆者というレッテルを張られ、反乱は失敗に終わった。プリゴジン氏はモスクワ進撃を宣言し、最初にウクライナとの国境に近い都市ロストフナドヌーを占領した。コルニーロフが、反乱に失敗して逮捕された後に脱獄し、ふたたび自身に従う兵士を集めたところがその近くである点も偶然だ。
プーチン大統領は、レーニンの誤りを正すことを戦争の名分として掲げつつ、「1917年」を引き合いに出す。プーチン大統領は、レーニンがソ連を多民族国家の形で設計して分裂の種をまき、いつの日か爆発する時限爆弾を設置したという認識を持っている。2016年の演説では、レーニンが政治的な必要に応じて、ドンバス地方を当時ソ連の一部だったウクライナ共和国に編入させたと批判した。ドンバスは、ロシアとウクライナの間で激しい争奪戦が繰り広げられている地域だ。
アフガニスタン戦争の影も見え隠れする
プーチン大統領は、100年以上前の歴史を呼びだしたが、開戦初期から、ウクライナ戦争を1980年代のアフガニスタン戦争と比較する見方も示していた。まず、隣接する弱小国に自国に忠実な政権を安定的に植えつけ、確実な緩衝国にしようという動機が同じだ。当時のソ連首脳部は、アフガニスタンがイスラム主義政権になったり、米軍基地が設置されることもありうると懸念した。ロシアが侵攻を決めた背景には、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟できないよう遮断しようとする目的がある。
甘くみた相手に大変な苦労をかけられる状況も似ている。1979年12月にアフガニスタン侵攻を敢行したソ連首脳部は、6カ月、長くても1年で戦争は終わると考えていた。アフガニスタンの首都カブールなどの都市地域は、容易にソ連軍の手中に落ちた。だが、ムジャヒディンのゲリラ戦にまきこまれ、戦争は10年に延びた。プーチン大統領は開戦初期、ウクライナ侵攻を戦争とは呼ばず「特別軍事作戦」と命名し、全面戦争ではないとする態度を示した。だが、ウクライナの首都キーウに向かう途中で行き詰ったロシア軍は、1年5カ月目に入り込む長期戦の泥沼に陥った。死傷者の規模は、すでにアフガニスタン戦争の数倍に達する。
米国や英国などの西側諸国が、兵力を直接投入することなく、ソ連軍やロシア軍の相手に兵器を与える状況も同じだ。
アフガニスタン戦争の際も、西側はソ連を非難して制裁を加えた。アフガニスタン戦争は、プーチン大統領が「20世紀最大の地政学的災難」と呼ぶ、ソ連崩壊の主要因に挙げられる。人命被害や経済的損失も見逃せないが、「赤い軍隊」の無敵の神話が崩壊したという点に重きを置く見方も多い。ソ連が1950〜60年代にハンガリーとチェコスロバキアに対して行ったようには武力を行使するのは難しくなったという認識によって、東欧諸国が離脱し、ソ連所属の他民族の共和国の独立の動きが本格化した。
ウクライナ戦争が長期化し、ロシア側の被害がさらに膨らみ、不満の世論が噴出すれば、今回の侵攻をアフガニスタン戦争にたとえる声も多くなるものとみられる。マイケル・マクフォール元駐ロシア米国大使は「ウクライナはプーチンのアフガニスタン」だと述べたりもした。
プーチン大統領が言わないこと
つまり、プーチン大統領が「1917年」に言及したのは、かなりの危機感の表れだ。反乱も衝撃的だが、プリゴジン氏が戦争の正当性を正面から否定したことも、プーチン大統領にとっては深刻な問題だ。プリゴジン氏は、テレグラムに投稿した動画で、ロシア国防省が「ウクライナがNATOとともにロシアを攻撃するという嘘によって、大衆と大統領をだまそうとした」と語った。また、誤った戦争準備と作戦のために多くのロシア人が銃弾の犠牲になったと述べた。プーチン大統領の後援で民間軍事会社を率いてきたプリゴジン氏が、プーチン大統領の戦争の名分が操作されたものだと非難したのだ。
プーチン大統領の歴史的比喩には妥当な点もあるが、論理的欠陥もある。プーチン大統領は、ロシアが内部分裂によって第1次大戦の勝利を盗まれたと主張した。だが、内紛が本格化したのは、莫大な人命被害と経済的な困窮のなかでも戦争が終わる兆しがみられないことに対するロシア人の不満の爆発のためだ。すなわち、内紛は、敗北の原因というよりは、結果であるわけだ。今回も、簡単に終えることができた戦争が長期化する過程で、反乱が起きた。つまり、プーチン大統領は原因と結果を逆にしたと言える。
プーチン大統領が自ら言わなことは、大帝国のなかでも政変が多かったロシアの歴史のパターンは、勝利の可能性がない戦争の泥沼から抜け出せなければ、権力が崩壊するという点だ。オックスフォード大学のロバート・サービス名誉教授は、米国誌「フォーリン・ポリシー」への寄稿で、「ロシア人は、戦争の状況が悪化すれば、1917年のケレンスキーに対してのようにプーチンに対する支持を止めるだろう」と述べた。
●ワグネルの反乱劇 各紙とも露軍の早期撤退を要求 7/5
ロシア民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏が反乱を起こした。
ワグネルの部隊にウクライナに隣接するロストフ州にある露軍南部軍管区司令部を占拠させた。部隊は「正義の行進」と称して部隊を首都モスクワへ進軍させ、露軍との間では一部で戦闘になったとの情報もある。
プーチン露大統領は「裏切りと反逆」として鎮圧する意向を示したが、翌日にはプリゴジン氏が翻意し、部隊を引き返させた。露大統領府も罪は問わないと表明した。
主要各紙の社説は、今回の反乱劇をロシアによるウクライナ侵略の欺瞞(ぎまん)とプーチン氏の独裁体制が生んだ混乱だと厳しく指摘し、ウクライナから露軍の撤退を求める論調が目立った。
産経は「反乱は一応収束したようにみえるが、プーチン政権は、混乱と弱体化を世界中にさらす羽目に陥った」と論考した上で、「国際社会は反転攻勢を進めるウクライナへの支援を強め、侵略者ロシアを敗北に追い込まなければならない」と断じた。
朝日は「雇い兵部隊が正規軍に反逆する異常事態だ」とし、「ロシアでも非合法とされる民間軍事会社に絶大な権限を与えてきたプーチン大統領の独裁体制のひずみが、自らの足元を揺るがす事態を招いたといえる」と難じた。
これに対して毎日は、反乱の遠因をつくったのは「『ワグネル』をご都合主義で利用してきたプーチン露大統領である」と批判した。その上で「これほど大規模な造反に直面したのは初めてだ。威信の低下は避けられない」と予想した。
「異論を一切許さず、反政権デモを即座に鎮圧するプーチン政権下で、大規模な反乱が起きたのは初めてだ」とした読売も、「反乱に対し、鎮圧も、処罰もできなかったプーチン氏の威信低下は避けられない」と断定した。
日経は「侵攻には最初から無理があったのだ」と分析した上で、プーチン氏についても「足元で政権を脅かす事態が起きたことで、侵攻が失敗だったといまこそ同氏は自覚すべきだ」と論難した。
各紙が注目したのは、プリゴジン氏の発言だ。
産経は、同氏が「ウクライナの非軍事化と非ナチス化に戦争は必要なかった」と語った点に触れ、「プーチン氏が侵攻の口実とした『大義』を真っ向から否定した」と指摘した。その上で「プーチン氏は自らの偽りの宣伝を率直に認め、ウクライナから直ちに全面撤兵すべきである」と訴えた。
読売も、ロシアが侵略の根拠としていた「北大西洋条約機構(NATO)がロシアを攻撃してくる」とした主張について、プリゴジン氏が「自らのSNSで虚偽だと公言した」と指摘し、「プーチン政権が、侵略の正当性に対する国民の疑問を抑え込むのはさらに難しくなるだろう」と主張した。
さらに東京も、ロシアによる侵略の口実を「プリゴジン氏が公然と否定したことも見逃せない」と注目し、戦争の大義について「国民の疑念を抑え込むのはもはや無理である」と論じた。
各紙ともウクライナから露軍の撤退を求めたが、産経はさらなる混乱の可能性にも警鐘を鳴らした。
産経は「ロシアにはワグネルの他にも30以上の民間軍事会社が乱立している。露軍にも不満がくすぶっている」としたうえで、「『大義なき侵略』との認識が国内で広がれば、第2の反乱やクーデターの可能性も排除できない」と警戒感を示した。
ワグネルの反乱劇が収束してから1週間が過ぎた。プリゴジン氏はベラルーシに入り、ワグネルの戦闘員の多くは露軍の指揮下に入ったが、火種は残ったままだ。
露軍がウクライナ軍の反攻を食い止めるため、南部のザポロジエ原発を破壊する恐れも指摘されている。核の恫喝(どうかつ)を厭(いと)わないプーチン氏は何をしでかすか分からない。国際社会は結束して、露軍のさらなる蛮行を封じ込めなければならない。
●クリミア橋が避暑で大渋滞 プーチン大統領、併合州からの迂回促す 7/5
ロシア南部と2014年にウクライナから併合したクリミア半島を結ぶクリミア橋が7月に入り大渋滞している。夏季休暇で避暑に向かうロシア人が増える一方、当局はクリミア奪還を狙うウクライナの破壊工作を警戒し全車両を厳重検査しているためだ。プーチン大統領は昨年併合を宣言したウクライナ東・南部4州からの迂回を促した。
プーチン氏は4日、政府の会議で「休暇に出る国民の安全を守らなければならない」と強調した。サベリエフ運輸相はクリミア橋が昨年10月にウクライナ側に爆破されて以降「全車両を検査する高い警戒レベルを維持している」と説明している。そのあおりでクリミアに向かう車列は3日午後に4時間待ちが発生するなど混雑した。増員による24時間の検査態勢やフェリー輸送拡大で緩和を図っているとした。観光バスやトラックは既にフェリーを利用している。 
●ロシア核使用に警告 習主席がプーチン氏に―英紙 7/5
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は5日、中国の習近平国家主席が3月にロシアのプーチン大統領と会談した際、核兵器による対ウクライナ攻撃を行わないよう警告していたと報じた。プーチン氏が国際的な孤立を深める中、友好関係を保つ習氏の発言力は増しており、一定の抑止が働く可能性もある。
中国はウクライナ情勢において「中立」を標ぼうしているが、ロシアの侵攻を非難せず、対ロ制裁にも加わっていない。核攻撃には「反対」する一方、ロシアを明確に制止する行動も取ってこなかった。ロシアのペスコフ大統領報道官は5日、記者団に「(報道は)作り話だ」と否定した。
●「習近平主席、プーチン大統領に核使用を警告」…露大統領府「確認できない」 7/5
中国の習近平国家主席が3月のロシア国賓訪問当時、プーチン露大統領に核兵器を使用しないように警告したという外信の報道が出た。これを受け、ロシア大統領府は「違う。確認できない」と否認した。
5日(現地時間)ロイター通信によると、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は同日、記者団との電話会議で「今年3月、ロシアと中国が首脳会談の結果に対する声明を発表し、その他のすべては虚構だ」と明らかにした。
当時両国は首脳会談後の声明で、「核戦争には決して勝者がいない。核戦争は絶対に起きてはならない」と強調している。また、核保有による戦略的危険緩和のため、海外に核兵器を配備してはならず、すでに配備した核兵器も撤収しなければならないと主張した。
この日、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は今年3月、ロシアを国賓訪問した習主席がプーチン大統領と会談してウクライナで核兵器を使わないように直接警告したと中国高官を引用して報じた。
これに先立ち、中国外務省は今年2月にウクライナ戦争勃発1周年を迎え、核兵器の使用および使用脅威の禁止などを求める立場を発表したが、習主席がこのような立場をプーチン大統領の面前で再確認したという。
これまで西側は、中国がロシアの肩を持っているとして仲裁の真正性を疑ってきた。今回、中国高官が習主席の努力を伝えたのは、このような視線を払拭させる狙いがあるという見方がある。
ウクライナのイェルマク大統領秘書室長はテレグラムを通じて、今回の報道に対して「狂ったロシアのテロリストからの核脅威に対する重要な立場」と明らかにした。
●「プリゴジンの乱」後のロシア政界バランスシート――敗者はプーチン大統領か 7/5
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がプーチン政権に反旗を翻した「プリゴジンの乱」は約24時間で収束したものの、前代未聞の反乱事件はプーチン体制の弱さを露呈し、政権を揺さぶった。決起から収拾までの経緯には謎が多く、事件の衝撃が続いている。
ロシアは秋から「政治の季節」に入り、来年3月17日の大統領選に向け、ウラジーミル・プーチン大統領は5選を目指して動き出すが、反乱事件が続投に影を落とすだろう。反乱の後始末を経て、権力構造に変化が生じる可能性もあり、事件をめぐる要人のバランスシートを探った。
「ロシア最高責任者はルカシェンコ」
「プリゴジンの乱」の最大の勝者は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領だろう。同大統領は6月27日の演説で、決起中に6、7回エフゲニー・プリゴジン氏に電話し、「(ロシア軍と戦うと)虫けらのように潰されるだけだ」「あなたと仲間の絶対的な安全を保証する」などと終日説得して翻意を促したと明かした。
ロシアの危機を救ったルカシェンコ大統領の役割について、右派ブロガー、ドミトリー・デムシキン氏はブログで、「6月24日に限っては、ルカシェンコがロシアの法執行機関の最高責任者だった。彼が電話をかけ、命令を下した。わが大統領がどこにいたのか知らないが……」と皮肉った。独立系の女性記者、アナスタシア・キリレンコ氏は「ルカシェンコにロシア・ベラルーシ統一国家の大統領に就任してもらいたい。プーチンには、ウクライナから遠く離れたアルタイ地方あたりの保養所で隠遁生活を送ってほしい」と書いた。
ルカシェンコ大統領はロシアに大きな貸しを作ったことになり、ウクライナへの共同参戦や国家統合に向けたクレムリンの圧力をかわすことができそうだ。
パトルシェフが陣頭指揮
パトルシェフ安全保障会議議長(左)とボルトニコフFSB長官(Wikimedia Commonsより)
一方で、ロシアの救世主を装うルカシェンコ大統領の説明について、アンドレイ・スズダルツェフ・モスクワ高等経済学院准教授は、ロシア・テレビのサイトに寄稿し、「これは実際に起こったことの真相とはほど遠い。クレムリン要人が背後で交渉に当たった」と指摘した。政治評論家のワレリー・ソロベイ氏もユーチューブ・チャンネルで、「完全にというほどではないが、嘘がある。ルカシェンコが電話交渉に参加したのは24日の夕方2時間程度で、丸一日は参加していない。彼はニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記とアレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)長官から指示を受けて話した。この間、プーチンは不在だった。しかし、クレムリンにとっては、この説明でいいようだ」と述べた。
政権の内情に詳しいとされる謎のブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は、「ルカシェンコの説明は90%嘘だ。すべての取り決めはパトルシェフによって調整され、プーチンは危機の解決から身を引いた。大統領に代わって命令を下したのはパトルシェフで、セルゲイ・ショイグ(国防相)、ワレリー・ゲラシモフ(軍参謀総長)もパトルシェフから指示を受けた。パトルシェフはルカシェンコに対し、演説では自分の名を出さないよう頼んだ」「プーチンに近いオリガルヒのユーリー・コワルチュク・ロシア銀行会長も2日間で少なくとも7回プリゴジンに電話で話した」と投稿した。コワルチュク氏は大統領とプリゴジン氏の関係を築いた後ろ盾だと、政治評論家のタチアナ・スタノバヤ氏が指摘している。
ラトビアに拠点を置く独立系メディア「メドゥーザ」もクレムリン情報筋の話として、「最終的な交渉は、アントン・ワイノ(大統領府長官)、パトルシェフ、ボリス・グリズロフ(駐ベラルーシ大使)を含むグループによって行われ、前面に出たのがルカシェンコだ」と報じた。
確かに、これほどの国家的危機の解決を外国首脳に丸投げすることには違和感がある。
日本通・ワイノ氏も活躍
これらの分析が事実なら、KGB(国家保安委員会)でプーチン氏の1年先輩に当たるパトルシェフ書記が反乱収拾で陣頭指揮に当たったことになる。「SVR将軍」によれば、同書記は長男のドミトリー・パトルシェフ農相を大統領後継にさせたい意向で、プーチン氏に息子への禅譲を迫っているという。
ワイノ長官は日本通の外交官出身で、在京ロシア大使館に勤務中の2000年、2度訪日したプーチン大統領の通訳や世話をして気に入られ、大統領府に転出。2016年に要職の大統領府長官に抜擢された。地味な存在だったが、反乱収拾後の26日に大統領が主催した幹部会議では大統領の隣に着席しており、今後影響力を高める可能性がある。グリズロフ氏はサンクトペテルブルク時代からの大統領の友人で、内相や下院議長を歴任した大物大使だ。
女性記者のインナ・レビツカヤ氏は、SNS「テレグラム」上の情報として、大統領のボディーガード出身のアレクセイ・デューミン・トゥーラ州知事がプリゴジン氏との交渉に当たったという説を伝えた。彼女が引用したテレグラムでは、これはクレムリンに近い2人の情報筋の話であるとされる。トゥーラ州はワグネル部隊がモスクワに進撃した幹線道路に近い。デューミン氏はかつて、シベリアで休暇中のプーチン大統領を熊の襲来から守った逸話を持ち、忠誠心が高い。
ゾロトフ親衛隊長官も上昇か
米誌「タイム」(6月27日)は、反乱収拾後の権力構造で、ビクトル・ゾロトフ国家親衛隊長官に注目すべきだと伝えた。プーチン大統領は6月27日、クレムリンの中庭に軍や国家親衛隊、FSBの幹部らを招き、「諸君は祖国を混乱から救い、内戦を効果的に阻止した」と称賛した。独立系メディアによれば、ワグネル部隊はモスクワ南方200キロ地点に敷かれた第一防衛線に阻まれ、進撃を躊躇したとされるが、国家親衛隊が首都防衛に動いた可能性がある。
国家親衛隊は内務省軍などを再編して2016年に発足し、約30万人の要員を抱える大統領直属の治安部隊。大統領への忠誠心が高いゾロトフ氏が初代長官に抜擢された。プーチン大統領は2022年2月21日、クレムリンに安保会議メンバーらを集め、ウクライナ問題で一人ずつ意見を表明させ、テレビで公開したが、事実上の全面侵攻を支持したのはゾロトフ氏だけだった。
強硬派のゾロトフ長官は27日の式典終了後、珍しく記者団と会見。国家親衛隊に戦車などの重車両が配備されることを明かし、「政権の一部がプリゴジンの計画を事前に知っていた可能性がある」として、究明を求めた。暗に政権や軍の粛清を訴えた発言ともとれる。
事態収拾の背後で動いたミハイル・ミシュスティン首相、戦車の首都進撃を想定して月曜を休日にしたセルゲイ・ソビャーニン・モスクワ市長の株も上昇しそうだ。同市長は9月10日のモスクワ市長選への出馬を表明している。
愛国勢力の新たな有力者はギルキン氏? 
「大統領はワグネルの軍事的反乱に遭う」と決起を予告していた右派ブロガー、イーゴリ・ギルキン氏も勝ち組で、プリゴジン氏に代わって愛国勢力の有力者になる可能性がある。ドンバス地方の親露派勢力司令官を務めたギルキン氏は、犬猿の仲のプリゴジン氏を「恥知らずで自己顕示欲の塊」と非難していた。5月に右派新団体「怒れる愛国者クラブ」を創設し、大統領選出馬も検討している。
ギルキン氏は一方で、与党・統一ロシアを「詐欺師と盗人の党」と酷評した。「詐欺師と盗人の党」とは、投獄された反政府活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏が2011年の下院選で使ったフレーズで、愛国勢力とリベラル派の接近を思わせる。
多数のエリートが首都脱出
一方、反乱事件の敗者は、勝算もなく決起し、1日で矛を収めたプリゴジン氏だろう。国防相、参謀総長の解任要求は受け入れられず、ワグネル部隊は事実上解体される。ワグネルへの汚職捜査が始まり、同氏のビジネスも縮小されそうだ。ベラルーシで亡命生活を強いられ、当分活動は難しそうだ。
プリゴジン氏と親しく、決起を事前に知っていた疑いがあるセルゲイ・スロビキン上級大将(航空宇宙軍司令官)も負け組だろう。ただし、シリアでの冷酷な戦術から「ハルマゲドン将軍」の異名を取るスロビキン氏は、軍内に隠然たる支持者を持つとされ、軍法会議にかけるなら、一部軍幹部の反発を招きかねない。
反乱の原因を作ったショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長も負け組だ。ショイグ国防相は一族のビジネス不正疑惑がとりざたされ、次女がドバイでの休暇をSNSで公開したことが、「エリートの腐敗」とプリゴジン氏から攻撃された。前出のレビツカヤ記者は、デューミン知事が次期国防相の有力候補と予測した。ゲラシモフ参謀総長は事件後、公の場にほとんど登場しておらず、尋問を受けている可能性がある。27日の式典にショイグ国防相は出席したが、ゲラシモフ氏の姿はなかった。ただし、ウクライナ侵攻作戦さ中の二人の更迭はリスクを伴う。
決起後にプライベート・ジェットでトルコに脱出したデニス・マントゥロフ副首相も更迭されそうだ。プーチン大統領は今年1月、政府のオンライン会議で、ウクライナ駐留部隊への航空機の調達作業が遅れているとし、「遅すぎる。ふざけているのか」と担当の同副首相を叱責していた。
独立系メディア「重要な歴史」によれば、政権に近いオリガルヒ、アルカディ・ローテンベルグ氏、ウラジーミル・ポターニン氏もそれぞれ、アゼルバイジャンとトルコへ自家用機で向かうなど、多くのエリートが騒乱を恐れて首都を脱出したという。ビャチェスラフ・ボロジン下院議長は「怯えた政府要人が国外に脱出した」とし、調査すると警告した。
大統領はバルダイに移動説
「プリゴジンの乱」の最大の敗者は、長年の部下に裏切られ、一触即発の危機を放置したプーチン大統領かもしれない。ウクライナを侵略するロシアでの武装蜂起は、世界の耳目を集め、中国でも大々的に報じられた。8月にはBRICS首脳会議、9月にはG20(主要20カ国・地域)首脳会議、11月にはAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合など、今後重要な国際会議が目白押しだが、威信を失墜させた大統領は、反乱の後始末に追われるとみられ、各国首脳と顔を合わせることをためらうだろう。事件はロシア外交にも悪影響を与える。
武装蜂起を通じて、プーチン大統領の役回りには謎が多い。「重要な歴史」によれば、モスクワ時間24日午後2時16分、大統領専用機がモスクワを離陸し、北部のトベリ州の空港に着陸していたことが、航空飛行データで判明した。トベリ州のバルダイには大統領公邸がある。誰が搭乗していたかは不明だが、軍事ジャーナリストのボリス・グロゾフスキー米ウィルソン・センター研究員はブログで、「プーチンは反乱に際し、最高司令官らしく振る舞わなかった。バルダイの公邸に移動し、危機が沈静化すると戻ってきた」と書いた。
大統領は24日午前に国民向けのテレビ演説を行い、「これは反乱であり、裏切りだ」とし、厳罰に処すと述べながら、プリゴジン氏らは無罪放免となった。
脅威はリベラルより愛国勢力
大統領が軍に歯向かったプリゴジン氏を大目に見て、放置していたことも謎だ。ワグネルと軍の対立は数カ月前から先鋭化し、ショイグ国防相はプリゴジン氏の行動規制を求めていたが、大統領は5月、東部バフムトを攻略したワグネルを称賛し、勲章を贈った。米紙「ワシントン・ポスト」(6月24日)は、「多くのアナリストは、対立が数カ月前から発生していたのに、プーチンが介入して危機を未然に防ごうとしなかったことに驚いている」と指摘した。
かつてのプーチン氏は、第二次チェチェン戦争や2014年のクリミア併合を電光石火で決断したが、指導力や判断力が衰えてきたかにみえる。プリゴジン氏がSNSを駆使して人気を高めていることを理解していなかったようで、インターネットを使わないアナログ型指導者の限界を示した。
有力紙「独立新聞」(6月25日)は論説で、「大統領の統治に対する前代未聞の造反であり、エリート層の深刻な抗争だ。クレムリンはすべての当事者に宝石を配るという伝統的手法で解決したが、事件は間違いなく、長期にわたって国に悪影響を与えるだろう」と書いた。
米誌「フォーリン・アフェアーズ」(6月27日)は、「プーチンの終わりの始まり?」と題した2人の学者の共同論文を掲載。「今回の出来事はロシアの暗い未来を予感させる。わずか数時間で大混乱を引き起こし、国家能力を弱体化させた。クレムリンは長年、リベラルな都市革命の阻止を重視してきたが、より大きな脅威は、改革派ではなく右派ナショナリストによって引き起こされる非自由主義的な革命だ」と述べ、「プリゴジンが最後ではないだろう」と予測した。
プーチン大統領は反乱収拾後、南部ダゲスタン共和国を視察したり、各種の経済イベントに精力的に出席するなど、何事もなかったかのように振る舞い、国家の安定を誇示している。しかし、ワグネルの反乱は国家の脆弱性と権威の失墜を示した。エリートがプーチン氏にさらに6年の治世を委ねるかどうか、ウクライナの戦況も絡んで内政が混とんとする可能性がある。
●プーチン政権による破壊秒読み≠ゥ ザポロジエ原発 7/5
ロシア軍が占領するウクライナ南部のザポロジエ原発について、国際原子力機関(IAEA)は4日の声明で、主要な外部電源への接続が切れたと明らかにした。必要な電力をバックアップの送電線に頼る状態になったという。欧州最大のザポロジエ原発をめぐっては、ロシア軍が爆破する恐れがあるとして、ウクライナのゼレンスキー大統領らが警戒を呼びかけている。
IAEAの声明によると、4日午前1時21分に接続が切れたという。原因や復旧にかかる時間は不明とした。グロッシ事務局長は、ザポロジエ原発の「不安定な安全性を示した」と訴えた。
ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は6月下旬、ロシア軍が同原発の原子炉6基のうち4基の周辺に爆発物搭載の兵器を配備したと明らかにした。爆発などで原子炉の冷却が停止した場合、最短10時間でメルトダウン(炉心溶解)に至る恐れがあるという。情報総局は、原発を支配下に置くロシア国営企業「ロスアトム」が原発作業員に対し、今月5日までの退避を勧告したとする諜報内容も公表済みだ。ロシア側は「事実無根」と否定した。
ザポロジエ原発は昨年夏ごろからロシア軍の攻撃で外部電源を喪失する事態がたびたび起きた。原発事故の危険を避けるため、昨年9月に全原子炉の稼働が停止されたが、一部の原子炉はなお高温状態にあるとみられる。
今年6月には同原発の冷却水の取水源となっていた南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムが決壊した。これについてもロシア軍の攻撃によるとの指摘がある。
ロシア軍の現状は、ウクライナ軍の反転攻勢を受けているほか、内部でも民間軍事会社「ワグネル」の反乱による動揺が収まっていない。
ロシアの独立系調査団体「ロシア・フィールド」の世論調査によると、ワグネルの創設者プリゴジン氏の行動を肯定的な態度を示したのは、2月時点の41%から反乱直前の6月中旬には55%まで上昇。反乱後には減少したものの29%は支持を続けている。
兵士の損失や腐敗を訴えるプリゴジン氏の国防省に対する批判について計46%が「妥当だ」と答えている。
これまでも非人道的な行為を重ねてきたプーチン政権とロシア軍だが、国内外に波乱要因を抱えるなかで、原発爆破という前代未聞の非道な攻撃に出る懸念は残る。
●ロシア経済は予想以上に好調=プーチン大統領 7/5
ロシアのプーチン大統領は4日、国内経済が予想以上に好調との認識を示した。ミシュスチン首相が報告した非常にポジティブな経済・インフレ見通しを受けた。
ミシュスチン氏は4日に大統領府で行われた会議で、今年の国内総生産(GDP)伸び率が2%を上回る可能性や、消費者物価指数(CPI)上昇率が5%以下にとどまる可能性についてプーチン氏に伝えた。
国際通貨基金(IMF)は今年のロシア成長率が0.7%になると予想している。
大統領府のウェブサイトによると、プーチン氏は「(経済は)少なくとも当面は慎重ながらも、以前の予想より好調と言える」と語った。
ロイターが6月末に行ったエコノミスト調査では成長率が1.2%、インフレ率は5.7%と予想された。
ロシア経済は昨年2.1%縮小。ウクライナ侵攻を受けた西側による制裁で特に同年春に打撃を受けた。
ミシュスチン氏はプーチン氏に対し、ロシア経済は制裁やあらゆる障害にもかかわらず、しっかり回復し続けていると語った。
●ロシア劣勢と習氏の打撃、西側は好機生かせ 7/5
ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が起こした武装反乱は失敗に終わったとはいえ、プーチン大統領の権力を弱めた。
それだけでなくプーチン氏にとって最も重要な盟友である中国の習近平国家主席にも、後退を強いたことになる。同時に中国は経済の低迷や、米国が主導する西側連合との対立激化という問題に直面している。
もはや中国が「世界最強の座」を手にする道筋は、おぼつかなくなってきた。
中国は今も、特に台湾にとって脅威だ。だからこそ米国と同盟諸国は警戒感を緩めていない。しかし、新たな状況の出現により、西側と中国がウクライナの和平や気候変動などで協力できるチャンスが開けてくるかもしれない。
過去2年間で国際情勢は大きく変わった。2021年当時、米国は慌てふためきながらアフガニスタンから撤兵し、同盟諸国の足並みは大きく乱れていた。
さらに中国経済は新型コロナウイルスのパンデミック中も成長を維持した半面、主要7カ国(G7)の経済は縮小。中国が米国を抜いて世界一の経済大国になるのは、時間の問題と見受けられた。多くの国も勝ち馬に乗ろうとしたことで、中国の威勢は一層高まったのだ。
ロシア支援の代償
ところが、そこから中国は下り坂の局面に入った。
ロシアによるウクライナ侵攻直前、習氏はロシアとの「無制限の」協力関係を築くと約束し、もしも、ロシアがすぐに戦争で勝利していれば、習氏は素晴らしい戦略を打ち出した形になったとみられる。この同盟は、西側諸国にとって「待った」をかける手段が乏しい、との印象をより強く与えただろう。
ただ、現実を見ると、ロシアは戦争でしくじった。そして、ワグネルの反乱はプーチン氏のイメージを弱めた上、ウクライナの反転攻勢を後押しする可能性がある。
中国のロシア支援、とりわけ石油と天然ガスの需要という部分は、誰がロシアの指導者であるかにそれほど関係ないのかもしれない。それでも、実際に中国は自らの国際的イメージが損なわれるという代償を伴う形で、プーチン氏を支えている。
一方、ロシアのウクライナ侵攻を機に米国と同盟諸国は、大西洋と太平洋の両地域で協調体制を固め、防衛費増額に動きつつある。インドの外交姿勢も米国寄りに変化し、モディ首相とバイデン大統領は6月の会談で、ハイテクや防衛の分野における関係強化に合意した。
そして、今や西側の地政学的戦略を策定する上で基幹的な存在となりつつある主要7カ国(G7)は、中国経済との関係で「デリスク(リスク低減)」や、先端半導体など軍事転用の恐れがある技術の輸出規制を共同で推進している。米国は、人工知能(AI)向け半導体の対中輸出規制も検討しているところだ。
借金頼み
これら全ての要素が、既に低調な中国経済の足をさらに引っ張るだろう。中国政府はこれまでも、ハイテク起業家に対する締め付けや、「ゼロコロナ」政策を引っ張りすぎるといった政策ミスを犯してきた。
もっとも、中国が抱える最大の問題は、2008年の世界金融危機以降ずっと、借金に頼って成長てこ入れを図ってきたことにある。この間に公的部門と民間部門の合計債務は倍増して国内総生産(GDP)の3倍まで膨らんだ。平均すると年間でGDPの1割の規模で借り入れが増えた計算になる。
借金のほとんどは、不動産など収益率が低いかマイナスとなる投資案件につぎ込まれた。その結果、地方政府や国有企業を含めた借り手は返済に四苦八苦している、と長年にわたって中国の経済成長が持続不可能だと警告してきたエコノミストのジョージ・マグナス氏は話す。
当然ながら魔法の解決策も存在しない。これから行われる債務再編は、経済成長に痛手となるだろう。
だからといって現実を直視する時期が遅れれば、その分だけ将来、直面する問題が大きくなる。長い目で見ても、中国は労働力人口が急速に減っていく以上、大幅な成長は見込めない。
投資家も懸念を強めており、過去2年間で人民元の対ドルレートは約12%下落。上海証券取引所の総合指数は、ドル建てで約20%下がっている。
経済の元気が衰えれば、中国が海外に軍事力を投入する力にも制約が加わる。防衛費の急拡大は無理だし、「グローバルサウス」と呼ばれる途上国に影響力を及ぼすための「債務のわな」も、積極的には展開できなくなる。
共通利益
こうした情勢変化を受け、中国がどう対応するかについては2通りの考え方がある。
1つ目は、強圧的な態度を慎むというアプローチだ。
もう1つは、国力が峠を越える前に早く影響力を行使しなくてはいけないという重圧を感じるというシナリオだ。
プーチン氏の経験が、中国にとって「反面教師」になるのは間違いない。プーチン氏は、他国を侵略すればそのツケをどのように払わされるのか、身をもって示してくれた。
G7は引き続き、台湾問題に関して最悪事態に備えなければならない。つまり同盟関係を強化しつつ、中国に対するデリスクの作業を加速させる必要がある。
ただ、同時にG7は、最善の展開に向けた取り組みもできる。これは、先月のブリンケン米国務長官の訪中によって生まれた緊張緩和を土台として、共通の利益が得られる分野で、力を合わせる機会を探るという意味だ。
米中は世界における温室効果ガスの2大排出国(2020年時点で中国の排出量は世界の26%、米国は11%)だけに、気候変動対策は非常に分かりやすい共通の問題となる。
理想的には、両国がそれぞれより急ピッチで国内経済の脱炭素化を進めることに合意し、他の国・地域にも同様の努力を促すのが望ましい。
そうした取り決めが今、実現する公算は非常に小さい。バイデン氏が議会で新たに大胆な気候変動対策の承認を得ることができない状況では、なおさらだ。ただし、来年の米大統領・議会選後には違った環境になるかもしれない。
ウクライナの戦争も、中国と協力が可能な問題になり得る。ウクライナ側は反転攻勢を通じて大規模な勝利を望んでいるため、これも現時点では機が熟していないが、その反転攻勢が一段落すれば「和平への窓」が開かれるのではないか。
G7は習氏に対して、プーチン氏にウクライナの主権を尊重する形の和平協定を結べ、と働きかけるよう促し続ける必要がある。ある段階で習氏は、プーチン氏は敗北者なのでそうするべきだとの結論に達するだろう。
中国と米国主導の同盟の対立は、依然として危うさをはらんでいる。それでも中国の力が落ちてきたことは恐らく、西側にとってマイナスよりもプラスを多くもたらすとみられる。

 

●プーチン大統領が愛されアピール? 8歳少女に抱擁&キス…支持急落背景か 7/6
駆け寄った少女を抱きしめてキス。ロシア国民に向けた、プーチン大統領の姿だ。
キスの相手は8歳の少女。
6月に少女の住む地域をサプライズ訪問したプーチン氏を見られず、少女が号泣した動画が評判となり、大統領自身が招待した。
動画では“プーチン流”サプライズも披露。
突然、首相に電話をかけ、少女の故郷に50億ルーブル(約80億円)の支援を決めたのだ。
少女への優しい笑顔と太っ腹すぎる決断。海外メディアは“愛される大統領”をアピールしているのではと指摘している。
背景とみられるのは、ウクライナ侵攻に対する支持の低下だ。ロシアの独立系世論調査機関が6月後半に行った調査では、ウクライナへの侵攻継続の支持が8ポイント急落して40%になった。
いわゆる”プリゴジンの乱”が影響しているとみられている。
クリミアで起きた暗殺未遂
ロシア国内で流れたニュースでは、ロシアが実効支配するクリミア半島に繋がる橋が渋滞している様子が伝えられた。
クリミアは戦場と隣り合っているが、昔から人気の保養地で、休暇を過ごす人たちが押しかけ、通過に6時間かかることもあるという。
一方、そのクリミアでは暗殺計画が起きていた。拘束されたのは、ウクライナの諜報機関で訓練を受けたとされる国籍の男。
ロシア側の事実上の知事が狙われ、爆発物を取り出したところを取り押さえられたという。
●反攻1カ月、レオパルト2が次々破壊される展開、予想以上に堅いロシアの防御 7/6
戦前人口の4分の1が故郷を追われたまま
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は7月3日、バフムートなどドネツク州の東部戦線で1週間に9平方キロメートルを奪い返したと発表した。ザポリージャ州の南部戦線では28.4キロメートルを奪還し、解放された総面積は158.4平方キロメートルだ。
だがロシア軍はクリミア半島を含め約8万6400平方キロメートルを占領している。反攻の道はまだ遠い。
英国防情報部は3日、次のようにツイートした。
「昨年7月以降、ウクライナ当局は緊急事態法に基づき、ドネツク州、北東部ハルキウ州、南部ヘルソン州のウクライナが支配する戦闘地域から市民13万9000人を避難させた。国連推計では630万人が難民として国外に逃れ、500万人以上が国内避難民となっている。戦前の人口4400万人の4分の1が故郷を追われたままだ」
6月4日に満を持して始まったウクライナ軍の反攻で「プーチンの料理番」ことロシアの民間軍事会社ワグネルグループ創設者エフゲニー・プリゴジンの反乱で、ウラジーミル・プーチン露大統領の足元はぐらつく。しかしロシア軍は前線に対戦車溝を掘り、無数の地雷を埋め、ウクライナ軍の反攻に備えてきた。最大の支援国・米国は反攻1カ月をどう見たのか。
米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は1日、英ディッチリー財団で講演し、こう語った。
「今日、国際秩序への最も深刻な地政学的挑戦はプーチンの本格的なウクライナ侵攻だ。ウィンストン・チャーチルがディッチリーの寝室でフランクリン・ルーズベルトに戦時中のメッセージを口述筆記した時以来、欧州で最大の戦争だ」
プーチンはウクライナを支配することに執着
2005〜08年まで駐ロシア米国大使を務めたバーンズ氏は過去20年の大半を、燃え上がりやすいウクライナに対するロシアの領土的野心を理解し、それに対抗するために費やしてきた。
「私が学んだことの1つはプーチンがウクライナを支配することに執着していることを過小評価するのは絶対的な間違いということだ」
「ウクライナなくしてロシアが大国として復活するのは不可能であり、プーチンが偉大なロシアの指導者になることも不可能だと彼は考えている。その悲劇的で残忍な執着はロシアの弱点を露呈させて恥辱にまみれさせ、ウクライナの人々の息をのむほどの決意を呼び起こした」(バーンズ氏)
プーチンは「ウクライナは本当の国ではない。弱くて分裂している」と主張する。しかし「本物の国」だったウクライナの人々は驚くべき勇気と粘り強さを示し、ロシアの侵攻に立ち上がって反撃した。
「プーチンの戦争はロシアにとってすでに戦略的な失敗だ。ロシアの軍事的弱点が露呈し、経済は今後何年にもわたって大きなダメージを受けるだろう」(同)
「プーチンの過ちによって、ロシアは中国のジュニアパートナーに後退し、経済植民地としての将来が運命づけられた」。モスクワまで200キロメートル圏内まで迫った「プリゴジンの反乱」について、バーンズ氏は「ジョー・バイデン米大統領が明言したようにこれはロシアの内政問題だ。米国はこれまでも一切関与していないし、これからもしない」と断言した。
「プーチンの戦争は彼自身の社会と政権を腐食させていく」
その一方でバーンズ氏は、プリゴジンの反乱の意義を高く評価している。
「プリゴジンが武装蜂起に先立ち、クレムリンによるウクライナ侵攻の欺瞞と、ロシア軍指導部による戦争遂行を痛烈に非難したことは注目に値する。プリゴジンの言葉と行動の影響はしばらくの間、プーチンの戦争が彼自身の社会と政権を腐食させていくことをまざまざと思い起こさせるだろう」(バーンズ氏)
21年11月初め、バイデン氏がバーンズ氏をモスクワに派遣した時、プーチンとその上級顧問たちは米国がプーチンの意図を把握しているにもかかわらず、ウクライナ侵攻計画を中止する考えは微塵もなかった。上質なインテリジェンスとその慎重な開示はバイデン氏がウクライナ支援の強力な有志同盟を動員し、持続させることを助けたとバーンズ氏は胸を張る。
そしてそれは、米国の情報機関にとって、プーチン政権の内奥に触手を伸ばす絶好の機会となる。
「戦争への不満は国家のプロパガンダと抑圧の下、ロシアの指導者をむしばみ続ける。こうした不満はCIAにとって一生のうちに二度とないチャンスだ。最近、勇気あるロシア人にダークウェブでCIAに安全に連絡を取る方法をテレグラムに投稿した。最初の1週間で250万回も再生された。われわれはオープンに任務を遂行する」(バーンズ氏)
一方、米軍制服組トップ、マーク・ミリー統合参謀本部議長は6月30日、米ナショナル・プレス・クラブで講演し、ウクライナ軍の反攻について「紙の上の戦争と実際の戦争は違う。本物の人間が前線にいる。車両には本物の人間が乗っている。現実の死体は爆薬などでズタズタにされている」と作戦遂行の速度が遅いことに理解を示した。
「ゆっくりとした前進は意図的なものだ」
「コンピューターがこれぐらいの速度で進むと言っても、現実の戦争では少しスローダウンするのは当然だ。1944年6月6日に連合軍がノルマンディーの海岸に上陸した時、初日で攻撃目標に到達すると考えていた。30日か40日でパリに到着すると予測していたが、実際には90日もかかってしまった。血みどろの戦闘で人々が死んでいったからだ」(ミリー氏)
「反攻は着実に進んでおり、非常に困難な地雷原を通り抜け、1日に進んでも500メートル、1000メートル、2000メートル。ゆっくりとした前進は意図的なものだ。私は6、8、10週間かかると言っていた。コンピューターの予測より遅くなっている。反攻はとても難しいし、長くなる。非常に血なまぐさくなる。誰もそのことに幻想を抱いてはならない」(同)
「プリゴジンの反乱」の影響について、ミリー氏は慎重に言葉を選んでいる。
「判断するには時期尚早だ。結局のところロシアの内政問題だ。プーチンは独裁者だ。彼は凶悪で暴力的な人物であり、多くの人々の殺害や超法規的殺害を命じてきた。私たちは決定的な証拠をまだ得ていない。プーチンがどう反応するかはまだ分からない」(ミリー氏)
では、最前線にいるウクライナ軍の兵士たちはどう感じているのか。14年から4年間、ウクライナ軍を現地で訓練し、昨年5月から将校兼軍事教官としてウクライナ軍に参加している元米陸軍兵士マーク・ロペス氏にも聞いた。
ロペス氏は筆者に「防御帯に侵入した場合、ロシア軍がどのような反応を示すかをウクライナ軍は約1カ月前から慎重に見極めてきた」と指摘した。
「重戦車を使って地雷原を偵察するのは賢明ではない」
「重戦車を使って地雷原を偵察するのはたとえ偵察車のサポートがあったとしても良い考えだとは思わない。ドイツの第3世代主力戦車レオパルト2のような重戦車は監視と制圧射撃(対峙している敵勢力に対して間断のない射撃を加え続けること)のプラットフォームとして使用すべきだった」(ロペス氏)
ウクライナの反攻の切り札の一つとされてきたレオパルト2だが、すでに数両がロシアの攻撃によって破壊されている。セルゲイ・ショイグ露国防相は3日、「ポーランドとポルトガルからウクライナに供与されたレオパルト戦車16両を100%破壊した」と述べた。
「最小限の対航空機防御しか持たないレオパルト2を広々とした野原で使ったことで、ロシア軍は攻撃ヘリコプターKa-50に搭載されている対戦車ミサイルを使用できた。さらに武器弾薬の供与と訓練などの遅れと、十分な戦車、装甲車両、長距離兵器、防空システムを西側がウクライナ軍に提供できなかったことが反攻に影響を与えた」(同)
ロシア軍の防御について、ロペス氏は「非常に固いだけでなく、長い間、何をすべきか考える時間があった。キーウ侵攻から撤退した時に得た教訓も大きい。ウクライナ軍が苦労しているのは十分に要塞化された地域を進んでいるからだ。突破エリアを見つけるのに時間がかかる。スタンドオフ攻撃ができるヘリコプターへの対処も難しい」と指摘する。
また「プリゴジンの反乱」について、ロペス氏は「プーチンの側近はプーチンのことを少しは心配しているのかもしれないが、それは戦争ではなく、経済への影響だと思う。プリゴジンが反乱を起こした時、ロシアRTS(株価指数)は急落した。ロシア通貨ルーブルも対ドルで下落している」と語った。
「この戦争は来年冬には終結している」
ロペス氏は北大西洋条約機構(NATO)に訓練された9個の装甲旅団(1旅団4000人)に加え、領土防衛隊の15個旅団が前線に配置されたという。ロシア本土とクリミア半島を結ぶ「陸の回廊」を分断するため、ウクライナ軍はメリトポリやアゾフ海に向かって進軍する正攻法をとっている。
「ロシア軍の後方補給基地へのミサイル攻撃とザポリージャ州西部トクマクへの進軍はロシア軍の防衛帯を弱体化させる最善の方法だ。ヘルソン州のドニプロ川左岸にもウクライナ軍の偵察部隊やパルチザン部隊が配置されている。反攻は計画より多少遅れても、数週間のうちに結果が出るだろう。来年の冬には戦争は終結しているはずだ」
最後にロペス氏はそう語った。
●ザポリージャ原発“爆発物” ウクライナとロシアが非難の応酬 7/6
ウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所をめぐり、爆発物が設置されたなどとされる問題で、ウクライナとロシア双方が非難の応酬を繰り広げて、不測の事態への警戒が続いています。
ザポリージャ原子力発電所をめぐり、ウクライナ軍の参謀本部は4日、「原発の3号機と4号機の建屋の屋根に爆発物のようなものが設置されたという情報がある」と明らかにし、ゼレンスキー大統領も5日、政権幹部や軍の司令官などを招集し、原発の保護に向けて対応を協議したと明らかにしました。
またウクライナ外務省は5日、SNSで「ロシアは爆発物を設置し、ヨーロッパ最大の原発が原子力事故に脅かされている。世界は直ちに行動を起こす時だ」と訴えました。
これに先だち、ウクライナ国防省の情報機関は、ロシア側が原発から退避する動きがみられ、従業員に対しても5日までに退避するよう通告したと指摘しています。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は5日、「ウクライナ政府の妨害行為による危険性が高まっていて、状況はかなり緊迫している」と述べ、主張が対立するなか、不測の事態への警戒が続いています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は4日、NATO=北大西洋条約機構が今月11日からリトアニアで首脳会議を開くのを前に、ロシアが情報戦を展開し、ウクライナや欧米側に対し揺さぶりを強めている可能性があるという見方を示しています。
●ザポリージャ原発めぐり緊張、ロシアが爆発物設置か 双方が批判合戦 7/6
ロシア軍が占拠するウクライナ中南部ザポリージャ原発をめぐり、緊張が高まっている。ロシアとウクライナの双方が原発への攻撃を画策しているとして互いを批判している。爆発などが起きれば、周辺に甚大な被害が生じかねず、国際社会で懸念が強まっている。
ウクライナ軍参謀本部は4日、原発の発電施設2棟の屋根に爆発物のようなものが設置されたとSNSに投稿。ロシアからの攻撃の可能性が「近い将来にある」とした。ウクライナ軍は、仮に爆発しても発電施設は損傷しないと分析するが、ロシアが、ウクライナ軍による攻撃を偽装する「偽旗作戦」を狙った可能性があると主張した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日夜の演説で「原発を危険にさらしているのはロシア以外にはいないことを、世界は知っている」と訴えた。また「危険な挑発行為の準備がなされている」とマクロン仏大統領に警告したとSNSに投稿。「国際原子力機関(IAEA)と協力し、状況を最大限コントロールすることで合意した」と記した。
一方、ロシア側はウクライナ軍に攻撃の意図があるとの主張を続ける。ロシアメディアは、ロシアのペスコフ大統領報道官が5日、「(原発への)ウクライナによる破壊工作について、深刻な脅威がある」と主張した、と報じた。ペスコフ氏は「その結果は破滅的なものになり得る」とも語ったという。
●「屋根に爆発物」と指摘されたザポリージャ原発、IAEAが立ち入りを要請 7/6
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は5日に発表した声明で、ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポリージャ原子力発電所で爆発物の有無を確認するため、原子炉建屋の屋上などへの立ち入り調査を受け入れるよう要請したと明らかにした。ウクライナ軍は、露軍が屋根に爆発物のようなものを仕掛けたと指摘している。
ザポリージャ原発にはIAEAの専門家が常駐している。IAEAによると、これまで爆発物は確認されていないが、原子炉建屋の屋上や冷却装置の一部などを調査する必要があるとしている。グロッシ氏は声明で「軍事的緊張が高まる中、専門家による現場の状況確認が重要だ」と強調した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、軍司令官らと原発の安全確保について協議した。5日のビデオ演説で「関係各国と最大限の連携を図っている」と述べた。
一方、ロシアはウクライナ軍がザポリージャ原発への攻撃を計画していると主張している。タス通信によると、露大統領報道官は5日、「ウクライナによる妨害行為の恐れがあり、状況は緊迫している」と語った。
●核兵器使えば「戦争すぐ終わらせられる」 ロシア前大統領 7/6
ロシアのメドベージェフ前大統領が、自身のSNSで動画を公開し、核兵器を使えばあらゆる戦争を終わらせることができるとの持論を述べ、反転攻勢を繰り広げるウクライナに揺さぶりをかけた。
メドベージェフ前大統領「1945年にアメリカが日本の広島と長崎に原爆を投下したときのようにすればいい」
ロシアのメドベージェフ前大統領は5日、自身のSNSに動画を公開した。この中で、戦争を終らせる方法に触れ、「アメリカのように核兵器を使えば、世界大戦を含むあらゆる戦争はすぐ終わらせられる」と持論を述べた。
ロシアが保有する核兵器をちらつかせることで、反転攻勢を繰り広げるウクライナに揺さぶりをかけた形だ。
また、ウクライナと平和条約を結ぶ用意があることも示したうえで、「西側諸国がウクライナへの武器供給を止めれば、特別軍事作戦は数日以内に、終了する可能性がある」と核兵器を使うか否かは、欧米の姿勢にかかっているとけん制した。
●ウクライナの反転攻勢が思惑通りに進まない理由 7/6
ウクライナ南部の地雷原には地雷があまりにも密集しているため、この地域の解放にあたる部隊は「木から木へと」じりじり進むしかない。ウクライナの反転攻勢に加わる兵士の1人はCNNにこう語った。兵役に就いて何年も経つが、これほど多くの地雷が埋まっているのは見たことがないという。
コードネーム「レジオン」と名乗るその兵士は、所属する部隊の活動が「かなり成功し、効果をあげていると思う」とCNNに語った。とはいえ、ウクライナ兵が厳重な防衛線と空からの攻撃に見舞われながら地雷原を突き進む中、世間はウクライナの動きが比較的遅いと感じているようだ。
待ち望んだウクライナの反転攻勢がキロメートルではなく、メートル単位で進んでいることに、西側同盟国は焦りを感じ始めている。自分たちの支援がなければウクライナがロシアに勝利できないことは、同盟国も十分理解している。だが期待よりもスローペースな反転攻勢は、戦争が長引けば支援が徐々に先細りする可能性があることを意味している。
ウクライナの軍事活動を支援する国々は、高いインフレ率、金利上昇、景気低迷に悩まされている。各国首脳は――そのうち何人かは今後1年半以内に選挙を控えている――自国の有権者が生活にあえいでいる中、これまでウクライナに投入してきた大量支援を正当化する必要に迫られている。戦場での成果がふるわなければ、それも難しくなるかもしれない。
だが今のところ支援は揺らいでいないようだ。複数のウクライナ当局者および西側当局者も、これまでのところ反転攻勢が大躍進には至っていないと認めつつも、誰もがその後すぐに、スローペースには理由があると付け加えた。
この数カ月間、ウクライナ南部および東部の前線には目立った動きがなかった。おかげでロシア軍の部隊は、じっくり腰を据えて反転攻勢に備える時間的余裕が十分にあった。
ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦争研究所(ISW)の分析によると、前線の戦略的要衝の一部では防衛線が何重にも敷かれ、ウクライナ軍は突破に大変難航しているという。
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長(陸軍大将)は、ウクライナ兵が「命と引き換えに」戦っていることを考えれば、こうしたスピードも意外ではないと発言した。
「我々は人道的に可能な範囲でウクライナを支援している。だが結局のところ、ウクライナ兵は地雷原や塹壕(ざんごう)の中で攻撃を行っているのだ」(ミリー議長)
「確かにその通り、ペースはやや遅い。だがそれも戦争というものだ」と、先月30日に首都ワシントンのナショナルプレスクラブでミリー議長は発言した。
またミリー議長は、遅々としながらもウクライナ兵は確実に前進している点を強調した。「(反転攻勢は)非常に困難な地雷原を抜けて、着実に、慎重に進められている……1日500メートル、1000メートル、2000メートルといった具合だ」(ミリー議長)
ウクライナ軍は地上で危険な地雷原と格闘する一方、空での優位性はいまだ得られず、上空から度々攻撃を受けている。
レジオンと名乗った兵士は、ウクライナ第47旅団の一等曹長として南部での戦闘に加わっているが、ロシア軍が何カ月も前から準備を進めていたことは明らかだと言う。
「向こうは、この地域で本格的な攻撃が行われるとわかっていたので、準備を徹底した。砲台や軍用機が集結し、戦闘機やヘリコプターが定期的に飛んでくる」(レジオン)
この地域の戦闘は、まるで「激戦状態のバフムートのようだ」とその兵士はCNNに語った。
「本格的な戦闘はこれから」
ウクライナ当局者は反転攻勢が現在進行中だとしながらも、本格的な反撃はこれからだと再三発言してきた。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官も先月、ウクライナが予備兵の一部を手元に残しており、「本格的な反撃」はまだこれからだと述べた。
またISWによれば、ロシアの軍事ブロガーが投稿した前線での状況からも、「現在ウクライナ軍が領土を一気に奪還するような大規模な作戦を仕掛けていない」ことが窺(うかが)えるという。
代わりにウクライナ軍は、1000キロメートルにわたる前線の各方面で小規模な攻撃を展開し、ロシア軍の予備兵を消耗させてから本格的な反撃に乗り出そうとしているようだ。
一方ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は、戦略的に部隊の配置を進めたい考えを述べた。
「1メートル、1キロメートルが命取りになる」「急ピッチで進めることも可能だが、戦場には地雷が埋まっている。人材は国の宝だ。だからこそ非常に慎重に進めている」(ゼレンスキー大統領)
ゼレンスキー大統領は3日、この1週間が前線の部隊にとって非常に厳しかったことを認めた。「だが我々は前進している。一歩ずつ、着実に進んでいる!」と、大統領は声明を発表した。
ミリー議長は反転攻勢が10週間にまで及ぶと予測し、状況を見守る上で引き続き忍耐が求められるとの考えを強調した。
「以前も言ったように、これは6週間、8週間、10週間に及ぶだろう。非常に厳しく、非常に長く、そしてまさしく非常に凄惨(せいさん)な戦いになるだろう。何人も戦況の一切について、いかなる幻想も抱くべきではない」 
●ロシア「ウクライナの子ども70万人滞在」 ローマ教皇、解決に意欲 7/6
ロシアがウクライナで続ける「特別軍事作戦」を巡り、プーチン露政権は戦闘地域から約500万人がロシアに避難し、子ども約70万人が含まれると説明し始めた。一方、ロシアを訪問したローマ教皇特使のズッピ枢機卿は4日、ウクライナに子どもを帰還させる「仕組み」づくりに取り組む意欲を表明。ロシアがウクライナの子どもたちを移送した疑いが指摘される中、ローマ教皇庁の仲介でこの問題が協議される可能性が出てきた格好だ。
ラブロフ露外相は6月30日、ウクライナの子どもに関する質問に対し「ロシアに滞在する全ての子どもたち(の所在)は確認されており、何も隠していない」と回答。詳細な説明は避けたが、約70万人のウクライナの子どものうち約300人がロシア人の家庭に滞在していることを明かした。
ロシア上院外交委員会のカラシン委員長も今月3日、通信アプリ「テレグラム」に、約70万人のウクライナの子どもがロシアにいると投稿した。
この問題を巡っては、ロシア政府は2022年秋の時点で、ウクライナの児童約1万1000人が同国からロシアに「国外追放された」と説明していた。ラブロフ氏らの発言が特別軍事作戦を始めた同年2月以降の人数を指しているのかは不明だが、ロシアが多くの説明を避けてきた問題に言及し始めたといえる。
フランシスコ教皇の特使を務めたズッピ枢機卿は6月28〜30日、モスクワでロシア正教会最高位のキリル総主教やウシャコフ大統領補佐官と会談。訪露後に会談で「人道問題」を話し合ったことを明らかにした。ロイター通信などによると、今月4日には「ウクライナに戻さなければならない子どもの問題」について「どのような仕組みを始められるのか見ていきたい」と言明。特に幼児の帰還に関する問題から取り組む意向を示した。
ズッピ枢機卿は6月上旬、教皇特使としてウクライナも訪れていた。一連の言動を総合すると、ローマ教皇庁が仲介し、ウクライナの子どもに関する問題が協議される可能性が示唆されている。
この問題では、国際刑事裁判所(ICC)が今年3月、プーチン露大統領が「子どもの連れ去り」に関与した疑いがあるとして逮捕状を出した。そのためプーチン氏がICC加盟国を訪れた場合に身柄を拘束される公算も出ている。
ロシアが加盟する新興5カ国(BRICS)は8月下旬、南アフリカで首脳会議を開く予定だ。南アフリカがICCに加盟していることから、プーチン氏が会議出席のため同国訪問に踏み切るのかが注目される。ウクライナの子どもを巡る問題は、ロシアの首脳外交にも影響を与えている。
●ドニプロ川の戦い、ロシアがウクライナの拠点をミサイル攻撃 7/6
ロシアが支配するドニプロ川の東岸にウクライナが築いた拠点を、ロシアが攻撃したところ、と言われる動画。
ウクライナで戦争をカバーするNOELリポーツ誌が掲載した日付不明の動画を、本誌は独自に確認していない。
NOELは7月6日のツイートで、この動画はロシア軍がロシア支配下の東岸にあるウクライナ軍の初期の拠点を破壊しようとしたものだ、と説明した。
現地の報道によると、ウクライナ軍は6月23日から南部ヘルソン州のアントノフスキー橋のそばに要員を再配備している。東岸の橋のたもとに近い集落ダチも奪還した。ロシア軍は逆に、こうしたウクライナ軍を撃退するのに苦戦しているという。
「今はまだ戦場を有利な形に整える形成作戦の段階だ」と、セキュリティ会社グローバルガーディアンのシニアインテリジェンスアナリスト、ぜブ・ファイントッチは言う。道路がもう少し乾いたら、戦車や歩兵戦闘車も含めた大規模な渡河作戦に移る。「その時こそ勝負だ」
●ロシアの生存戦略 北極海とグローバルサウス 7/6
ウクライナへのロシアの軍事侵攻による米ロの厳しい対立は北極にも広がっています。その中でロシアは国策として原子力砕氷船の建造と配備など北極海航路の整備を進めています。そして欧米の厳しい経済制裁に対してロシアは北極海とグローバルサウスの国々をむつびつけることで活路を見出そうとしています。
解説のポイントです。
   ・北極海戦略の中核企業ロスアトム
   ・中東と手を結ぶロシア
   ・高まる地政学的リスク
北極海航路はアジアとヨーロッパを結ぶ最短航路で、スエズ運河周りのルートよりも30%以上距離が短くなります。北極圏で生産した液化天然ガスなどがこの航路ですでに運ばれています。北極の氷が温暖化の中で減少する中で、ロシアは海洋国家としての未来を北極海航路の実現にかけています。ウクライナの軍事侵攻によって、ロシアとほかの北極海の沿岸国、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどとの対立は激化、しかしロシアは、北極海航路の実現を計画通り進めるとして、2035年までに輸送量を今の4倍以上の2億7千万トンにするとの強気の姿勢を崩していません。
その中核となっているのが、国営の原子力企業ロスアトムです。ロスアトムが北極海で担うのは、洋上船舶型の原子力発電所を配備するなどして沿岸のインフラを整備すること、将来的には15の洋上原子力発電所を北極海航路に沿って配備するとしています。
そしてもう一つは、原子力砕氷船の配備を特に氷の厚い東側で進め、北極海航路の通年運航を実現することです。今は7隻ですが2026年には9隻に、2030年代には13隻まで増強する計画です。
私は2018年7月にサンクトペテルブルクの造船所で原子力砕氷船の建造を取材しました。巨大な造船所の中で3隻の原子力砕氷船の建造が進められ、北極海航路にかけるロシアの強い意志を感じました。当時建造されていたのは出力60メガワットの原子力砕氷船で、厚さ3メートルの氷でも運航できるとしています。その三隻の砕氷船はすでに北極海に就航しています。さらに出力がその二倍の120メガワットの巨大な原子力砕氷船の建造も決まっていて、厚さ4メートルの氷でも運航できるとしています。
欧米からの厳しい制裁にも関わらず、なぜこのような強気の姿勢を崩さないのでしょうか。ロスアトムは世界最大の原子力企業で、ウランの濃縮から発電、再処理、そして核廃棄物の貯蔵まですべてを行う能力を持つ国営企業です。ソビエト時代は中型機械省といわれ核兵器の開発、生産にも深く関与しています。ロシアが占領したウクライナのザポリジェ原発の運営もロスアトムが行っています。
しかしロスアトムは企業としては、アメリカや日本などの制裁リストには入っていません。それは世界の原子力発電の原料である濃縮ウランの生産はロスアトムが世界の45%程度を占めていて、アメリカも含めて世界の原子力発電はロスアトムの濃縮ウランに依存しているからなのです。アメリカは今もロシアから濃縮ウランの輸入を続け、十億ドルをロスアトムに支払っています。プーチン政権としては、北極海航路の主体となる企業をロスアトムとしているのは、欧米からの制裁を受けにくい体質を利用しようとしているのかもしれません。
今、ロシアとロスアトムが北極海航路に引き込もうとしているのは中東などいわゆるグローバルサウスの国々です。先月、プーチン大統領の故郷、サンクトペテルブルクで国際経済フォーラムが開催されました。かつてはエネルギーを中心にロシア市場への投資や参加を狙う欧米や日本の企業が大挙して参加していまいた。しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻で欧米企業の姿は消えました。その会場で今年目立ったのは中東やアフリカなどグローバルサウスからの参加者です。中でも中東のUAE・アラブ首長国連邦はフォーラムのメインゲストとして大挙して代表団を派遣しました。
アラブ首長国連邦はほかの中東諸国と同様、ロシアに対する経済制裁には参加していません。欧米や日本の航空会社がロシアへの就航を取りやめる中で、首都アブダビはロシアと世界をいまだにつなぎ、人と物の行き来を支える拠点となっています。ロスアトムは、UAEの政府系の世界的な貨物輸送会社・DPワールドと、経済フォーラムで北極海航路を利用した貨物輸送や投資で協力するという協定に調印しました。DPワールドは世界各地で貨物の輸送や港のターミナルの運営も行っており、アフリカにも拠点を拡大し、カスピ海を通じたロシアや中央アジアからインド洋にいたる南北の物流の拡大にも取り組んでいます。
ロスアトム・リハチョフ社長「制裁の影響はあり遅れているが、北極海航路がグローバルな物流の道となることはUAEの同僚たちにとっても利益となる」
DPワールド・スレイヤム会長「我々は世界的なロジスティックの会社であり、ロシアは東と西を繋ぐ輸送回廊として重要だ。物流の乱れを回避するルートとして多くのメリットがあり、そのため我々は参加しサポートしている」
DPワールドとしては、欧州とアジアを結ぶ最短ルートである北極海航路に早めに関与することで、将来的な競争力を高める思惑があるでしょう。一方ロスアトムは、欧米との対立と厳しい制裁の中で、インドや東南アジア、中東、そしてアフリカなどグローバルサウスの国々へ主要な輸出品、エネルギーなど資源や食料の輸出を増やすとともに、北極海沿岸の開発を進めるためにも世界的なDPワールドのネットワークを利用して、グローバルサウスから北極海航路の開発に必要な物資や技術、資金を取り入れようという思惑があるものとみられます。
4日 上海協力機構の首脳会議がインドの議長で、オンラインで開催され、イランが正式加盟国となりました。イランの加盟には、北極海航路や中国の進める一帯一路など東西の回廊にロシアからカスピ海、中央アジア、イランを経由してインド洋にいたる南北の回廊を結び付けようという中ロの思惑もあるでしょう。
ただインドが初めての上海協力機構の議長国であるにもかかわらず、対面ではなく、オンラインにしたように、グローバルサウスの国々も欧米の対ロ制裁には同調しないもののどこまでロシアに関与するのか、ウクライナへの軍事侵攻が続く限り、その関与には限界があることを示したともいえるでしょう。
北極海航路は温暖化で北極海の氷の面積が減少したことが一つのきっかけとなっていますが、もう一つは冷戦が終結して、壁に閉ざされていた東西の物流が開かれたということも大きな契機となりました。しかしロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、欧米とロシアが厳しく対立し、北極海航路の実現に強気の姿勢を示すロシアですが、北極海航路をめぐる地政学的な状況は厳しくなったといえるでしょう。
米ロの核兵器が最短距離で向かい合うのも北極海です。冷戦時代から氷に覆われた北極海は、米ソの原子力潜水艦がお互いに追尾しあう場です。今は氷が解けて、海上でもロシアとアメリカやカナダ、ノルウェーなどNATO加盟国の対立の最前線という軍事的な性格を強めています。国際協力が必要な問題も話し合う場だった北極評議会はロシアとアメリカの対立の中で機能不全に陥っています。
微妙なバランスの上に成り立つ北極海の自然環境の保護や温暖化対策そして少数民族の保護など、国際協力が必要な問題は山積みしています。地球全体に影響を与える北極海を守るためにもどのようにロシアと対話を継続していくか、難しい課題となっています。

 

●「ロシア内戦発生する時期になった…プーチンとプリゴジンの支持率互角」 7/7
ウクライナ軍情報トップがロシアに分裂が現れたという情報を入手したとして「ロシアで内戦が発生する時期になった」と主張した。あわせてワグネル・グループを率いるエフゲニー・プリゴジン氏がプーチン大統領と互角の支持率を見せているという世論分析結果を公開した。
5日(現地時間)、英国日刊「タイムズ」はウクライナ国防省軍事情報局のキリーロ・ブダノウ局長(37)とのインタビューで、ロシア内務省の秘密報告書を分析した結果、プリゴジン氏に対する尋常でない大衆支持度を確認できたと主張した。
ロシア内務省がロシアのメッセージアプリケーションやソーシャルメディアなどを確認できるスパイウェアで世論を分析した結果、プリゴジン氏がプーチン大統領と互角の支持を受けていることが明らかになったということだ。
報告書の内容によると、プリゴジン氏がワグネルの傭兵を導いて武装反乱を起こした先月24日と25日、ロシア46州のうち17州でプリゴジン氏を支持していることが分かった。プーチン大統領を支持しているのは21州、残りの地域でプリゴジン氏とプーチン大統領の支持率はほぼ同じだった。
ブダノウ局長はこの調査結果が「ロシア社会が二つで分裂した」ということを意味すると言いながら「ロシア連邦が内戦直前状況にある」と強調した。あわせて「一つの小さな内部『事件』が起きればロシアはより一層激しい内部葛藤を経ることになるだろう」と予想した。
同氏はプーチン大統領が故郷であるサンクトペテルブルクではないモスクワの支持に依存していて、ロシア連邦共和国のうちダゲスタンではプリゴジン氏が97%の支持率を得た反面、プーチン大統領の支持率は最低値を記録したと説明した。同氏はプリゴジン氏と実際に会ったことがあるかとの質問に「もちろんだ。我々はアフリカのいろいろな国で会った」とし「『会った』という言葉には多くの意味がある」と話した。
●ロシアに帰国したプリゴジン氏の運命は?国営テレビは個人攻撃を開始 7/7
ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日、ロシアで先月武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏はもはやベラルーシにいないと述べた。一方、ロシア国営テレビは同日、プリゴジン氏への激しい個人攻撃を開始した。
ロシアで先月武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏は亡命先のベラルーシからロシアに帰国したという。
プリゴジン氏とワグネル戦闘員らに対する処遇は明らかではない。ベラルーシ亡命は、武装反乱終結への条件の1つだった。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日、プリゴジン氏が同国を離れ、サンクトペテルブルクかモスクワにいると明らかにした。
飛行追跡データによると、プリゴジン氏と関係があるとされるプライベートジェット機が5日にサンクトペテルブルクからモスクワに飛び、さらに6日もロシア国内を移動していた。ただ、プリゴジン氏が搭乗していたかは不明だ。
ルカシェンコ氏は、プリゴジン氏は自由の身で、ロシアのプーチン大統領が同氏を「抹殺することはない」としている。ロシア政府はプリゴジン氏の動向を追跡していないとしている。また亡命が、武装反乱終結の合意の一部であると認めた。
仮にプリゴジン氏が罰せられることなくロシアに戻れば、プーチン氏の権威に新たな疑問が浮上することになる。プーチン氏は先週、ロシアはかつてないほど結束していると述べた。
一方、ロシア国営テレビは武装反乱の捜査は続いていると伝えた。同テレビは6日、プリゴジン氏への激しい個人攻撃を開始。同氏の豪邸を取材し、武器庫や個人用ヘリコプター、現金などを撮影した映像を放送。ロシアの議員でもある番組司会者は、同氏を「裏切者」と呼んだ。
ワグネル戦闘員の状況も不明だ。ルカシェンコ氏によれば、ワグネル部隊がベラルーシに移転するかどうかは決まっておらず、ロシア政府およびワグネルの決定に従うとしている。
ルカシェンコ氏は武装反乱後、ワグネル部隊を自国に駐留させることを提案したが、NATOがこれに懸念を示した。同氏は、提案は依然有効だとしている。
●圧倒的人気ではなかったプリゴジン、これからルカシェンコ頼みになるプーチン 7/7
そもそもワグネルとロシア政府は突然対立したわけではない。というのも、6月10日にロシア国防省が指揮系統を効率化させるために志願兵や軍事会社に対して7月1日までに同省と契約を求める発表をして以来、ワグネルと国防省の対立がさらに表面化していっていた。
ワグネルと対立を続けてきたロシア国防省
ロシアのウクライナ侵攻が思い通りにいっていない理由の一つとして指揮系統の乱立が挙げられており、国防省との契約はこの問題を解決する上で重要なものであったが、民間軍事会社にとってこれは国防省へ吸収されることを意味する。
対立を抱えていたとしても、これまでは政府からはワグネルは特別扱いされていた。バフムト攻略の際には、ワグネル兵にも勲章は与えられ、国内でも英雄視されていた。国営メディアでは当時のバフムトの「解放」は「ワグネルの兵士たちはウクライナのバフムト難攻不落神話を解体させた」「これでウクライナはまた新しい言い訳を考えないといけなくなった」と大々的に報じた。
だが、その後ワグネルは次第に干されていき、特別扱いもされなくなっていった。そのため、プリゴジンは猛反発し、「絶対にロシアとその大統領の利益を追い求める」と国防相に対して嘆願書の提出を試みるなどのパフォーマンスに走っていた。しかし、国防省はこれを受け入れず、プーチンからも「できるだけ早くする必要がある」と契約を促されていた。
もはやワグネルと国防省の間には妥協の余地がなく、7月1日というタイムリミットも迫っていた。言葉を選ばずに言えば、ワグネルはもはや「用済み」になっていた。
プリゴジンは抵抗を続けて国防省批判だけでなく、プーチン批判にまでも踏み込んだ。そのため、プリゴジンの身も「いつ消されるか」ではなく、「どのような方法で消されるのか」という問題へ移行しつつあった。
対立が加速する中、23日の夜にワグネルは「ロシア軍からミサイル攻撃を受けた」と主張する摩訶不思議な映像をSNSにアップロードし、プリゴジンもロシア軍に対して報復を宣言した。
「プリゴジンの乱」が起きたのはこのような文脈だった。
日本や欧米諸国では、プリゴジンはアメリカ選挙への介入やワグネルの創始者として知られているが、実はロシアでは最近まではそれほどで有名な人物ではなかった。
例えば、ロシアのウクライナ侵攻1周年に際して世論調査機関のレヴァダセンターに掲載されたレポートでは、「プリゴジンの発言はメディアやSNSで頻繁に引用されているもののその認知度は全国的には認められていない」とし、「世論調査においてプリゴジンに対する好感度が上がってきたのは2022年末になってのことだ」と指摘されている。そしてその知名度が上がっているのは「一般市民よりも、専門家が戦った方がいい」という感情からきていると推測されている。
ただこの数か月でプリゴジンもすっかり認知されるようになった。バフムトの攻勢後の6月5日のレヴァダセンターのレポートでは、プリゴジンはロシアで有力な政治家トップ10に食い込み、「半年前とはほとんど区別のつかない政治家となった」と評価している。またここまで評価が上がった理由としては、弾薬不足問題と国防省との対立への同情以外には、普段ニュースにあまり興味がない多数のロシア人にとってプリゴジンはいわゆる「映える」新人であり、それで注目を浴びたという旨の推察がされている。
反乱前「あなたがもっとも信頼する政治家と公人を何名か挙げてください」
上から順に:プーチン、ミシュースチン、ラブロフ、ショイグ、プリゴジン、メドベージェフ、ジュガーノフ、ヴォローディン、ソビャーニン、ソロヴィヨフ、ペスコフ。
この「特別軍事作戦」において、プリゴジンはある意味ロシアで最も存在感を出していた人物であった。派手な言動、放送禁止用語の連発、「悪いのは汚職と国防省」というわかりやすい対立軸、(少なくとも表向きは)部下思いアピール。こうした投稿はとにかくわかりやすく、一般のロシア人にとっても受け入れやすい。
またこの戦争においては、プリゴジンはプーチンとは対照的な人物となっていた。プーチンは普段どこにいるのかがよくわからない上に、遺族に対しては面と向かって「あなたの息子は交通事故で亡くなるよりも、はるかに有意義な死に方をした」と発言した。
これに対し、プリゴジンはたとえ最前線でなかったとしても戦地に立っている映像を出していた。彼は「弾薬さえあれば、この兵士たちは死なずにすんだ」「兵士は使い捨ての駒ではなく、誰かにとっての大切な家族だ」という映像だけでなく、ワグネル兵が埋葬されている墓地を訪問している映像も出す。そして、「車が壊れてしまった」と言っている遺族に対して「ベンツでなくて申し訳ないけども」と言いながら、自分たちの乗ってきた車を譲る。
ロシアの国営メディアで取り扱われない中、こうした行動はSNS上で話題を集め、プリゴジンは一気に存在感のある人物になったが、同時に政府にとっては邪魔な存在となっていった。
ところで、この「プリゴジンの乱」の受け止めに関する世論調査がレヴァダセンターより6月29日に公表された。同調査は6月22日から28日にかけて行われ、ショイグやプリゴジン等の評価が乱でどう変わったのかについて数値を公表している。
この調査では何名かの政治家や公人の「活動を承認するか」と問われているが、見ると「プリゴジンの乱」によって、ショイグとプリゴジンは共に人気を落としている。ショイグはプリゴジンから散々罵られる中、その活動は60%の回答者から好意的に受け止められるというそれなりの数字を維持できていたが、「プリゴジンの乱」をうけて48%へと落とした。
「プリゴジンの乱」前後のショイグ国防相の承認率の変化
これに対し、プリゴジンは反乱前58%あった数値を29%にも落とした。ただ興味深いのは反乱により、プリゴジンに対するネガティブな受け止めは16%から47%に跳ね上がったが、「回答困難」と答えた割合は15%から17%になっただけである。また「彼について何も知らない」の数値は11%から8%に推移した。
「プリゴジンの乱」前後のプリゴジンの承認率の変化
筆者は以前から、ロシアの中から見ていてもロシア人が何を考えているのかがよくわからないとぼやいてきたが、このプリゴジンについての調査はなかなか面白く、反乱による数値の推移は反映できていないものの「プリゴジンのどこを評価するのか/しないのか」という項目もある。
それを見ると、プリゴジンを肯定的に評価する際の数値は「真実を語るまっすぐで正直な人(27%)」「強い軍隊を作り上げた責任感ある良い指導者(23%)」「約束を守る活発でエネルギッシュな男(18%)」「愛国者(13%)」「バフムトを占領し、ウクライナにおける勝利をもたらした良き軍人(12%)」「不正を糾弾する(8%)」「兵士のために尽くし、高賃金を与え、見捨てない(7%)」と続いている。
これに対し、批判的なものとしては「政治的な野心がある(8%)」「90年代に犯罪を起こした、ならず者なファシスト(7%)」「違法である民間軍事会社を運営し、犯罪者をかき集めている(6%)」といった旨の回答があるが、肝心の「プーチンが言ったように祖国に対して背中から刺すような反乱を起こした裏切り者」の数値は34%だった。調査中にプリゴジンが反乱を起こしたため、最後の項目の数値は正確ではない可能性が高いが、プリゴジンは反乱以外には特に目立つ理由で嫌われているわけではないように見える。実際、この項目では約1/4が「回答困難」と答えている。
また、この調査では2024年選挙でプリゴジンに投票する用意があるかについても問うている。乱以降、否定的な回答が増加している。
「2024年選挙でプリゴジンに投票する用意があるか」
「プリゴジンの乱」を受けて、ロシア政府はワグネルの事実上の解体を始めている。その中でもとりわけ力が入れられているのは、プリゴジンの影響力の低下であり、同氏はワグネルだけでなくメディアをはじめとした他の事業も手放させられている。プリゴジンは実質的には表舞台から退場させられた。
これまでのワグネルの活動はロシアにとって、「政府としては関与していない」という言い訳のできる都合のいい「民間軍事会社」であったが、反乱を受けてプーチンはついにワグネルはロシアが出資してきたと認めた。
また同時に、2022年5月から2023年5月までのワグネルに対する支援額が約862億ルーブルであったことが公表された。これは7月1日時点のレートだと日本円で1400億円にあたり、ロシアの100万人規模の都市の予算を軽く超える規模になっている。
ロシアの都市と民間軍事会社ワグネルの年間予算比較
上からカザン、ヴォロネジ、ロストフ、クラスノダール、エカテリンブルグ、ノヴォシビルクス、ワグネルと続く。いずれも100万人以上の人口を擁する都市である。
ただルカシェンコのおかげか、少なくとも現段階ではプリゴジンはロシア国内では処罰されておらず、反乱に参加したワグネル兵にも「ベラルーシに行く」「国防省と契約を交わす」「家に帰る」という選択肢が与えられた。
前編「『プリゴジンの乱』? いや『ワグネルの卒業遠足』あっけない手じまいの裏を読む」でも触れたが、ある意味ワグネルにとって「プリゴジンの乱」は最後の思い出となる「卒業遠足」となった。奇しくも反乱の起こった時期はロシアの卒業式が行われる時期と重なっている。
このプリゴジンの反乱はプーチンのロシアを揺るがしたのだろうか。少なくとも最新のレヴァダ・センターの世論調査ではプーチンの支持率は8割を超えている。これを見る限り、表面上は影響がないと言える。
プーチンの支持率の推移
レヴァダ・センター調査におけるプーチンの支持率の推移。最新のデータは6月22日から28日にかけて収集されている。
以前にも指摘したように、ロシアの世論調査がどの程度正確にロシアの実数値を反映できているかについてはよくわからないところがある。他の項目を見てみると「あなたが最も信頼する政治家」では、プーチンは圧倒的な1位ではあるものの、その数字は4割程度である。少なくとも、国民が大々的に支持している政治家であると言うのも難しい状況だ。
反乱後「あなたが最も支持する政治家と公人を何名か挙げてください」
上からプーチン、ミシュースチン、ラブロフ、ショイグ、ソビャーニン、ヴォローディン、ジュガーノフ、メドベージェフ、プリゴジン、ペスコフとなっている。
ルカシェンコの名前はまだない。
「プリゴジンの乱」はプーチンの支持基盤に直接影響を与えるような反乱にはならなかったのはたしかだ。しかし、同時にプーチン支持への影響がなかったと結論づけることもできない。
ワグネルの反乱に際して、プーチンは厳しいビデオ演説こそは公開したが、その対応は「強いリーダー」を想起させるようなものであったとは言い難いだろう。しかも国内の危機の解決が自身ではなく、普段は下に見ているルカシェンコによってなされた。
これには国外に拠点を移したある独立メディアからも、「ロシアのプロパガンダメディアも困惑をするような対応」と煽られる始末だ。
それでも、2024年の大統領選挙におけるプーチンの続投が少なくとも現時点で確実と思えるのは、プーチンが国民からの圧倒的な支持を獲得しているからではなく、ただ単に他に候補者がいないからに過ぎない。
●プーチン露大統領は「粘土の足持つ巨人」 崩壊近いとウクライナ駐日大使 7/7
ロシアに侵略されるウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使が都内で産経新聞とのインタビューに応じ、同国南部ザポロジエ原発に対する露軍の爆破に警鐘を鳴らすととともに、露民間軍事会社「ワグネル」の武装反乱を受け、プーチン露大統領の権威が大きく揺らいでいると指摘した。
――ザポロジエ原発で緊張が高まっている
「今月4日、福島大学を拠点とするチェルノブイリ、福島両原発事故を研究する日本とウクライナのチームがウクライナ首相府を訪れ、爆発後の影響やモニタリングで日本が提供可能な支援を説明した。爆破されるとすれば、11日開幕の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議前の可能性が高い。ロシアはウクライナが爆破したと主張し、ウクライナの加盟論議や、ウクライナの反転攻勢を巡るNATOとの関係強化を妨害したいためだ」
――ワグネルのトップ、プリゴジン氏は反乱失敗後、ベラルーシに移ったとされる
「義勇部隊の自由ベラルーシ軍が今、ウクライナ国内でウクライナのために戦っている。義勇部隊の自由ロシア軍がウクライナのために露西部ベルゴロド州に越境攻撃したように、自由ベラルーシ軍がベラルーシに進撃すれば、ベラルーシ国民はルカシェンコ大統領を嫌っているため国軍も自由軍を支持するのではないか。ルカシェンコは自身を守る唯一の力として、ワグネルを招待した。彼は核兵器をロシアから持ってきて有事の際にロシアが守ってくれると期待したが、ロシアはいつも味方を裏切るため、プリゴジンを招いたのだ。事態は動いており、彼の行方を注視していく」
――ワグネルがベラルーシに本格移動しウクライナ北方を攻撃する可能性は?
「攻撃は理論的にあり得るし、覚悟している。ただなぜ、ショイグ国防相が勝つのをプリゴジンが助けるのか? ワグネルが国境を超え攻撃するにしても、2万5千人では少な過ぎる」
――プーチン政権は今回の反乱に衝撃を受けている
「プーチンはユニークな独裁体制を敷いてきた。国はオリガルヒ(新興寡占資本家)のマフィアで仕切られ、500人が99・8%の住民と同等の資産を持つ。プーチンやギャングは殺害やレイプに手を染め、人々を戦争の死地に赴かせている。だが政権は住民から愛されており、犯罪の被害者が犯人に同情する『ストックホルム症候群』状態だ。ただ、どんな独裁者でもギリシャ神話にある『粘土の足を持つ巨人』だ。一度揺らげば崩壊が始まる。国民はプーチンが弱いとみている。恐怖や抑圧で支配する体制はいつか破滅する。問題はいつ起きるかだ」
――ワグネルの乱はウクライナ戦線にどう影響する
「ワグネルの部隊が去っても大きな影響はなく、私たちの計画は変わらない。兵士は1メートルずつ、血を流しながら、速度は遅いが着実に前進する。冬までには占領地域の大部分を解放したいが、F16戦闘機など外国からの兵器供与次第だ。ロシアはインドや中国、トルコに売った石油の収入で兵器製造を継続できる。ロシアと戦う武器が欲しい」
――ウクライナ戦線の趨勢は世界が注目している
「ウクライナでの戦争はアジアで起きうる戦争と関係を持ち、欧州の戦争ではなく、世界規模の戦争といえる。だからこそ、私たちは勝つ必要がある」
●ベラルーシ、ロシア核使用に拒否権保有=ルカシェンコ大統領 7/7
ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日、ロシアがベラルーシに配備する戦術核兵器について、いかなる使用に対してもベラルーシは拒否権を持っていると述べた。
ロシアのプーチン大統領は3月、ベラルーシに戦術核兵器を配備すと発表。ルカシェンコ大統領は6月、ロシアから戦術核兵器の搬入が始まったと明らかにした。
ルカシェンコ氏は記者団に対し、ロシアの戦術核兵器の使用にはプーチン氏が最終的な決定権を持っているものの、ベラルーシはいかなる使用にも拒否権を持つと表明。「管理はベラルーシとロシアが共同で完璧に行っている。ロシアが使用を決めた場合、最も近い同盟国であるべラルーシに相談すると確信している」とし、「私自身のほか、ベラルーシ国民、ベラルーシ政府が望まなければ、(核兵器の使用は)起こらない」と述べた。
その上で、米国や欧州の大国を核兵器で攻撃したいとは誰も思っていないとし、核兵器は防衛のためにのみ存在しているとの考えを表明。ただ、ベラルーシに対するいかなる攻撃にも直ちに対応すると警告した。
ルカシェンコ氏はまた、ロシア国防省の管理下にある多くの核弾頭がベラルーシ国内にすでに運び込まれていると表明。陸路で運搬されなかったため、米中央情報局(CIA)や英秘密情報局(MI6)のほか、ドイツの情報機関に察知されていないと述べた。
●ベラルーシ大統領「プリゴジン、ロシアに行った…消し去られることはないだろう」 7/7
先月武装反乱を起こしたロシアの民間軍事会社「ワグネル」の代表であるエフゲニー・プリゴジン氏はベラルーシではなくロシアにいると、ベラルーシ大統領が明らかにした。
ロイター通信など海外メディアによると、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は6日、首都ミンスクで開かれた記者会見で、「プリゴジン氏は今ベラルーシ領内にいない」と述べた。さらにプリゴジン氏はロシア第2の都市であり故郷のサンクトペテルブルクにいると明らかにした。ルカチェンコ大統領は「今朝はおそらくモスクワに向かった。もしくは、他のところに行ったかもしれない」と付け加えた。
ロイター通信はプリゴジン氏の専用機が5日にサンクトペテルブルクからモスクワに向かい、6日にはロシア南部に向かったと、航空機追跡サイトを引用して報じた。ただし、同機にプリゴジン氏が搭乗していたかどうかは確認されていない。
先月23日夜、ワグネルは武装反乱を起こし、ロシア南部のロストフナドヌー軍事基地を占領した。ワグネルの部隊員たちはモスクワに北上し、翌日の24日夕方、ルカシェンコ大統領の仲裁で反乱を中止した。当時、クレムリン(ロシア大統領府)は「ワグネルの部隊員たちを処罰せず、プリゴジン氏はベラルーシに向かう」と発表した。ルカシェンコ大統領も先月27日、プリゴジン氏がベラルーシに到着したと明らかにした。
ルカシェンコ大統領は、近いうちにロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談することにしたとし、プリゴジン氏とワグネルの状況についても話し合うと述べた。また、プリゴジン氏が「完全に自由の身」であり、プーチン大統領がプリゴジン氏を「消し去ることはないだろう」とも述べた。
プリゴジン氏のロシアへの復帰は、反乱事態の終了条件が当初知られたものと異なる可能性があるという意味だ。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は6日、「我々は彼(プリゴジン)の動きを追跡していない。その能力も意志もない」と述べた。一方、「我々はすでにこれに関する声明を(先月)出した。新たに加えることはない」とし、 反乱事態を終わらせるためにプリゴジン氏がベラルーシに行く条件が依然として有効であることも示唆した。
●ワグネル反乱で揺れるロシア それでもウクライナ侵攻を続けられる根拠がある 7/7
ワグネルの反乱がもたらしたロシア国内世論の変化
民間軍事会社ワグネルの反乱でロシアが揺れている。
ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が6月23日、ショイグ国防相らの更迭を求めて武装蜂起を宣言した。この反乱は1日で終結したものの、盤石に見えたプーチン政権のもろさが国内外に露呈してしまった。政権は事態の沈静化に躍起になっているが、「今後、ロシア国内でさらなる混乱が発生するのは必至だ」との憶測が飛び交っている。
実戦経験が豊富なワグネルの戦線離脱が、ウクライナ侵攻の今後の行方を左右する可能性も指摘されている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月1日、「(ワグネルの反乱について)戦場におけるロシアの能力に影響を及ぼした」と語り、ウクライナ軍が反攻を進める上で有利に働くとの認識を示した。反転攻勢を開始してから1カ月が経ち、当初の計画より進軍が遅れている状況下で、ロシアの混乱はゼレンスキー氏にとって願ってもない朗報だっただろう。
これに対し、ウクライナ国防省と西側の軍事専門家は「ワグネルの戦争への関与低下による影響は限定的だ」と冷ややかだ。ワグネルが中心的な役割を果たした地域は、ウクライナ東部のバフムト周辺。ただし、1000キロメートルにおよぶ戦線のうち、ワグネルの活動範囲はごく一部だった。さらに、ワグネルの戦闘員は多くが既に前線から引き揚げており、「現時点でワグネルは戦争で重要な役割を担っていない」との指摘もある(6月29日付ブルームバーグ)。
ワグネルの反乱は戦況に劇的な変化をもたらさなかったようだが、ロシア国内の世論に変化をもたらした。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターが6月30日に公表した報告によれば、ワグネルの反乱後にウクライナとの和平交渉を支持するロシア国民の割合は前月の45%から53%に増加した。
だが、早期に停戦交渉が開始される可能性は皆無だろう。
ゼレンスキー氏は7月1日、「(ロシアとの停戦交渉について)ロシアの実効支配下にある南部クリミア半島を含む自国本来の領土を回復した後にのみ可能だ」とする認識を示した。原則的な立場を改めて示したわけだが、「この原則に固執している限り、ロシアとの停戦交渉は永遠に開始されないのではないか」との不安が頭をよぎる。
侵攻後も堅調さを維持するロシア経済
ウクライナは西側諸国の支援を頼りに長期戦の構えを見せている。この戦略を成功させるためには、ロシア経済が疲弊し、継戦能力を喪失することが肝心だが、はたしてウクライナの思惑通りに事が進むのだろうか。
ワグネルの反乱後、ロシアの通貨ルーブルの売りが優勢となっている。今年のインフレ率を6.5%以内にとどめたいロシア中央銀行は、通貨安によるインフレを防止するため追加の利上げを行う姿勢を示している(6月28日付日本経済新聞)。
足元の通貨安は確かに気になるが、ウクライナ侵攻直後の下落ほどの深刻さはなく、ロシア経済への打撃は軽微なものにとどまるだろう。
ウクライナ侵攻後に厳しい制裁を科されたロシア経済は、壊滅的な打撃を被ると予想されていた。だが、インドや中国といった新興の大国が西側諸国の制裁に同調しなかったことが幸いし、危機を脱した感が強い。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は今年4月下旬「『制裁によるロシア経済の崩壊』という束の間の期待は打ち砕かれた。制裁はロシアの戦争遂行能力をある程度低下させているが、戦争を速やかに停止させるという目標はもはや実現不可能だ」と結論づけている。
ロシア経済は堅調さを維持している。
ロシア中銀は、今年第2四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年比4.2%になるとの見通しを示している。
エネルギー輸出収入が減少している中、ロシア経済を牽引しているのは製造業だ。S&Pグローバルが7月3日に発表した6月のロシア製造業購買担当者景気指数(PMI)は52.6と、好不況の分かれ目となる50を14カ月連続で上回った。
これまで内需が製造業の牽引役となっていたが、6月に入ると輸出受注も増加に転じた。
西側諸国が直視すべき「不都合な真実」
だが、「好事魔多し」。
生産拡大を目指すロシア企業が従業員の確保に躍起になっていることから、人手不足が問題になっている。ウクライナ侵攻後、ロシアから数十万人の労働者が海外に脱出する一方、部分動員令で約30万人の若者が軍に召集されたことも災いしている。
ロシア中銀は、データがある1998年以降で「最もひどい状況」 との認識を示しているが、人手不足は世界共通の「悩みの種」であり、ロシアに限った問題ではない。
ロシアの財政赤字の拡大を問題視する声も高まっている。
ロシアの財政収支は昨年第4四半期以降、軍事費増大のせいで赤字となっている。2023年予算法でも、2025年まで財政赤字になることが見込まれている。
だが、筆者は「かつてのようにロシアが財政危機に陥る可能性は低い」と考えている。
ウクライナ戦争に伴う直接的な財政コスト(兵士や機材への支出)は、ロシアのGDPの約3%(年間670億ドル)に達したと推定されているが、第2次世界大戦中の当時のソ連がGDPの約61%を軍事費に費やしたことにかんがみれば、非常に小さい(6月6日付BUSINESS INSIDER)。
ロシアは当分の間、継戦能力を失う可能性は低いと言わざるを得ない。ウクライナを始め西側諸国は、この「不都合な真実」を直視すべき時期に来ているのではないだろうか。
●ウクライナ「危機」続く中、国際秩序維持に向け結束 広島G7サミット 7/7
日本開催となった5月の広島G7サミットは、ウクライナ戦争の終結が見通せない中、「国際秩序の根幹維持」に向けてメンバー国が結束を示す舞台となった。その歴史的な重要性について解説する。
2023年5月に開かれた先進7カ国(G7)広島サミットは、ほぼ半世紀にも及ぶサミットの歴史の中でも重要なものとして記憶されるだろう。
「経済秩序の立て直し」で日本も一員に
そもそもサミットは、1970年代前半に、第二次大戦後の最大の経済的危機が生じたことに対処するため、米欧主要国の首脳が官僚的制約を受けることなく高度の政治的意思形成を行うために設けられた。
その背景には、米国の一方的行動によってそれまでの国際通貨制度が崩壊し、また石油価格の高騰が起こって、第二次世界大戦後の西側世界を支えていた経済秩序に対する危機感があった。しかも、中東戦争をきっかけにアラブの産油国が資源を外交政策上の武器として効果的に使ったことに触発され、当時は第三世界と呼ばれた多様な利害を持つ開発途上国が、既存の国際経済秩序の変革を求めて自己主張を強めたことがあった。
このような基本的に米欧主導の枠組みに、日本が1975年の第1回ランブイエサミットから参加しているのは、西側の経済秩序の立て直しのためには、当時すでに世界第2位の経済規模を持ち、石油の大輸入国であった日本が加わらなければ意味がないと考えられたからだった。
国連安保理の常任理事国でもなければ、北大西洋条約機構(NATO)のような多国間安全保障枠組みのメンバーでもない日本にとっては、主要国の首脳、とりわけ欧州諸国首脳と定期的に会合を持てるこの枠組みに参加することは貴重な外交的機会であった。いかなる条約上の根拠もなければ、常設の事務局もないサミットは、当初必ずしも定例化することが予定されていたわけではなかったが、その後今日に至るまで半世紀近くも、毎年開催され、忙しい首脳たちが直接一堂に会する場として定着している。
「G7は時代遅れ」の指摘もあった近年
この過程でサミットは制度化が進み、議題も拡大した。首脳たちが集まるまでには、共同声明も官僚レベルで入念に準備がされるようになった。ランブイエサミットではわずか12パラグラフから成っていたコミュニケは、ますます長くなり盛りだくさんな内容になった。広島サミットの首脳コミュニケもパラグラフの数は66におよび、ウクライナ問題、エネルギー問題、サプライ・チェーンの強靱化、ワクチンやパンデミックから人工知能(AI)にいたるまでの内容が盛り込まれている。
首脳会議に加えて、98年からは外相会合、財務相会合も開催されるようになり、今では農業、保険、教育、交通などの関連閣僚会議も開催されて、それぞれが成果文書を発表する。しかもG7諸国以外の首脳も招待するアウトリーチ会合などが開催されるため、多数の報道関係者も世界中から集まることになる。今やサミットは首脳が膝詰めで話し合って、高度の政治的合意をする場というより、一年を通じて展開される巨大な官僚的プロセスの終着点であり、それにともなって実質的内容に乏しいお祭りに過ぎないという批判も聞かれるようになった。
また、世界経済でG7諸国の経済が占める比重は縮小したし、冷戦後には中国やロシアも戦略的な対抗国ではなく、共通の制度のもとで協力すべきパートナー国となることが期待された。実際、冷戦後にG7はロシアを加えてG8になっていた時期もあり、プーチン大統領が議長を務めてサンクトペテルブルグで開催されたことすらあった。また2008年のリーマン危機をきっかけに起こったグローバルな経済問題に対処するためには、G7は時代遅れで、中ロやその他の新興国もメンバーに含むG20の時代が到来したという議論も強まった。
「国際秩序の根幹」維持で結束した今回
しかしながら今回の広島サミットの焦点は、差し迫った経済問題への対処でもなければ欧米中心的な課題でもない。その最大の意義は21世紀、とりわけ米国のトランプ政権下で極度に弱体化していた「西側」諸国の結束を回復するとともに、団結してグローバルで総合的な課題に対処することを、これらの諸国の首脳たちが直接会ってコミットしたことにある。
2022年のウクライナへの侵略によって、ロシアへの幻想は完全に打ち砕かれたが、そのロシアを「限界のない友好関係」で支えているのは、ロシアよりはるかに強力な中国である。中国は香港では一国二制度を反故にし、日本を含む周辺国に対して武力による威嚇とともに経済的圧力をしばしば行使している。ロシアがウクライナで成功すれば、台湾が第二のウクライナになる危険が高まるだろう。そのような事態が起これば、日本にとってはもちろん、グローバルに深刻な結果を招くだろう。
言い換えればロシアに対抗することと中国に対処することは密接不可分の課題なのである。この認識が、東アジアと言えば収益を上げる場所にすぎず、ともすれば安全保障問題への関心も責任感の薄い欧州諸国の首脳にも共有されたことの意味は大きい。そしてこういった認識に基づいて、中国との経済関係が内包するリスクが明確に意識され、サプライチェーンにおける中国依存を低減させる、いわゆるデリスキングについても共通の課題として取り組むことに合意したのも、大きな成果だろう。
つまり、目下のウクライナにおける戦争で問われているのは、ウクライナとロシアの安全保障問題や欧州の地域的安全保障問題以上のものである。それは、武力による領土変更は許されないという、国際秩序の根幹にある規範が維持できるのかどうかというグローバルな問題なのである。急きょ広島を訪れたウクライナのゼレンスキー大統領を会議室に招き入れ、同じテーブルを囲んでG7首脳が直接表明した同国への支持も、国際法に基づいた秩序を支えるというコミットメントを、劇的な形で示すものであった。
核の威嚇許さないとのメッセージも
この会議が被爆地広島で開催されたことにも、現実的な意味があった。日本では核廃絶を求める声は常に強く、今回のサミットは具体的成果が乏しく期待外れとの声も聞かれる。しかし核廃絶のためには、まずは核の不使用原則が確立されねばなるまい。
G7首脳がそろって原爆慰霊碑で献花したことの意味は、1945年8月に亡くなった十数万人の広島市民への追悼に尽きるものではない。それは、核兵器を実際に使うことはもちろん、それによる威嚇、とりわけ非核保有国に対する威嚇は許されないという、政治的メッセージを発信したことであった。言うまでもなくそのメッセージは、ロシアだけではなく、国連決議に違反してミサイル実験を繰り返す北朝鮮や、核戦力を急速に増強している中国を含む、すべての核保有国に向けられている。
今後問われる「リベラルな国際秩序」の魅力
他方、中ロに対して宥和的な態度をとる新興国や途上国を、G7諸国がどのように関与するのかも今回のサミットの焦点であった。岸田首相は、オーストラリア、韓国といった地域の準同盟国に加えて、ブラジル、コモロ、クック諸島、インド、インドネシア、そしてベトナムの首脳を招待し、活発な二国間外交の場ともなった。その中には、ロシアと比較的良好な関係を維持しているインドのモディ首相が、ゼレンスキー大統領の直接会談する場もあった。
「グローバルサウス」と呼ばれる多様な国々を関与するためにコミュニケで言及された、「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」を通じたインフラ投資や、国際開発金融機関(MDBs)の改革といった内容は、具体性を欠き力不足の感が否めない。それでも、欧米社会が推進する人権、環境、ジェンダーといった価値観を上から見下ろすような態度で語るのではなく、途上国のニーズに寄り添おうとする姿勢が強まったのは確実だろう。
G7は政治的意思形成とコミットメントを確認し、表明する場であり、具体的な行動は今後の各々の国家の手に委ねられる。しかし表明されたコミットメントに信頼性を与え、敵対国を抑止し、同志国の団結を強め、どっちつかずの態度をとっている諸国を関与するには行動が伴わなければならない。G7の合意内容を実効性のあるものにするためには、抑止のための負担や危険を分担するとともに、経済的恐喝や買収に屈しないためのデリスキングのための地道な努力を、それぞれの国が着実に続けていかねばならない。
そして開発途上国の関与のためには、何よりもG7諸国が語るリベラルな国際秩序とG7諸国の自由民主主義体制が、それらの国々にも魅力あるものとするための努力が欠かせまい。
●米元政府高官、ロシア外相と極秘会談 戦争終結に向け探り=報道 7/7
米外交問題評議会のリチャード・ハース元会長やホワイトハウスの元補佐官2人など米元政府高官らが今年4月、ウクライナでの戦争終結に向けた話し合いの可能性を探るため、ロシアのラブロフ外相とニューヨークで極秘会談していたと、NBCニュースが関係者の話として報じた。
報道によると、極秘会談はウクライナでの戦争終結に向けた話し合いの土台を築くことが目的で、バイデン政権による指示ではなかったものの政権側は認識しており、ロシアのラブロフ外相と会談した元高官らは会談後、ホワイトハウスに内容を報告したという。
米国務省の報道官はロイターに対し「バイデン政権はこの話し合いを認可しなかった」と述べた。
●ザポリージャ原発「脅威小さくなった」…ウクライナ国防省幹部 7/7
ロシア軍が占拠するウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所を巡り、ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ局長は6日、ロイター通信に「脅威は小さくなった」と述べ、テロ攻撃を受ける可能性は低下したとの認識を示した。
ウクライナはこれまで、同原発の原子炉の屋根に露軍が爆発物のようなものを仕掛けたと主張していた。一方、露側もウクライナが原発を攻撃しようとしていると非難し、緊張が高まっていた。
ブダノフ氏は「何が起きたか詳細は話せない」と前置きしつつ、「我々全員の努力で惨事を先延ばしにした」と述べた。「脅威は排除されたわけではない」として、露軍の原発占拠が続く限り緊張は再燃するとの見方も示した。
ウクライナの公共放送は5日、原発内に勤務するウクライナ人職員の話として、露軍が屋上や建屋周辺に射撃陣地を設け、戦闘を始める準備をしている模様だと報じていた。
●ウクライナ情勢緊迫 ワグネルが核兵器入手か… 7/7
ロシアの民間軍事会社ワグネルが何と核兵器を入手した可能性があるという。英紙エクスプレスが5日に報じた。そんな中、ワグネルの創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏が受け入れ先とみられたベラルーシ国内ではなく、ロシアにいることも判明。ザポロジエ原発には、ロシアが「爆発物に似た物体」を設置したという情報もあるだけに、ウクライナは今“核の恐怖”に包まれている――。
「ロシアのサンクトペテルブルクにいる。今朝モスクワに行ったかもしれない。ベラルーシ領土内にはいない」
ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日にそう明かした。
ワグネル戦闘員についても、ロシアが併合を宣言したウクライナ東部ルガンスク州の「常設の宿営地にいる」と述べた。ロシアのプーチン大統領と近く会談するという。ワグネルやプリゴジン氏への対応を話し合うとみられる。
ワグネルといえば、武装蜂起を宣言し、6月23日にモスクワから1000キロ離れた都市ロストフナドヌーにある軍管区司令部を一時占拠。その後またたく間にモスクワ手前200キロまで到達したことは記憶に新しい。結局、ルカシェンコ大統領の仲介もあって武装蜂起は頓挫。プリゴジン氏はベラルーシに行き、ワグネルには同国の宿営地が提供される予定だった。そんな中、のっぴきならない情報も入ってきた。
英紙エクスプレスは5日、「自由ロシア軍団によると、ワグネルが核兵器を入手した疑いがある」と報じた。自由ロシア軍団とは、自発的にウクライナ側へ離反したロシア軍の中隊で、ウクライナ保安庁の認可の下、2022年2月27日にウクライナ側に加わった。
軍団の司令官シーザーは同紙に「われわれが直面している危険性の深刻さを世界中に理解してもらいたい。反乱中、ワグネル部隊の一つが、ロシア国防省第12総局の指揮下にあった核兵器保管場所ヴォロネジ45を支配下に置いた。何かが起こった可能性は十分ある」と明かした。
ヴォロネジ45とはロシア南西部ヴォロネジ州ボグチャルにある巨大な軍事基地のこと。ウクライナ国境から45キロの場所にある。核弾頭は厳重に保管されており、電子的安全装置でロック。万一、第三者の手に渡った場合は装置によって無効化され、爆発しないようになっているというが…。
ロシア事情通はこう指摘する。
「ワグネルのモスクワ進軍中の動きについてプリゴジン氏もクレムリンもまったく口を閉ざしています。もしワグネルが核兵器を入手しているとすれば危険極まりない。戦闘員の中にはロシアの刑務所からスカウトされた殺人鬼やマフィアなど凶悪犯がたくさんいますからね」
そんなときにプリゴジン氏がロシア入りしていることが判明。再びワグネルに合流すれば、世界が存亡の危機に陥ることは必至だ。
同事情通は「ただでさえ、ザポロジエ原発にはロシア軍が爆発物に似た物体を設置したという情報もある。ロシア上層部の混乱によって、不測の事態も起きかねない。ウクライナは今、核の恐怖にさらされています」と話している。
●米、クラスター弾含む新たな対ウクライナ軍事支援を発表へ 7/7
米国は7日、ウクライナへの新たな軍事支援策を発表する見通しとなった。国防総省の当局者がCNNに明らかにした。クラスター弾も初めて盛り込まれる見込みだという。
CNNは先週、ウクライナが反転攻勢で大きな戦果を挙げるのに苦慮する中、バイデン政権が論議を呼ぶ兵器であるクラスター弾の供与承認を検討していると伝えていた。弾薬不足についてはウクライナのゼレンスキー大統領も懸念を表明している。
複数の当局者によると、過去2週間の戦況の変化がきっかけとなり、米当局者はクラスター弾について改めて真剣に検討したという。
クラスター弾は広範囲に「子弾」をまき散らす。着弾時に爆発せず、地雷と同様に遭遇した人に長期的なリスクを及ぼしうることから、100カ国以上によって禁止されている。ただ、米国とウクライナは禁止条約の署名国ではない。
米国はDPICM(二重用途改善型通常弾薬)と呼ばれるクラスター弾を備蓄しているものの、2016年に段階的廃止の措置を取った後は使用していない。
ロシアによる昨年2月の侵攻以降、ウクライナ、ロシア両国ともクラスター弾を使用しており、最近ではウクライナがトルコから供与されたクラスター弾の使用を開始している。 
●プリゴジン氏、プーチン氏と手打ちか ロシア滞在の情報 7/7
ロシアで反乱を起こした同国の民間軍事会社ワグネルについて、ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日、創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が「(ロシア北西部の)サンクトペテルブルクにいる」と述べた。同氏の影響力低下を条件にプーチン政権と手打ちしたとの見方がある。
プリゴジン氏は武装蜂起の停止後、ベラルーシに出国する条件でプーチン大統領の粛清を免れたとみられていた。ベラルーシ国営のベルタ通信によると、ルカシェンコ氏は6日、プリゴジン氏について「ベラルーシにいない」と主張した。
プリゴジン氏の動向を巡っては6月末以降、同氏が搭乗した可能性がある航空機がサンクトペテルブルクやモスクワなどロシア国内で発着したと独立系メディアなどが報道し、所在を巡って情報が入り乱れていた。
ロシアのペスコフ大統領報道官は6日、プリゴジン氏の居所について「把握していない」と記者団に述べ、同氏の行動について表面上は「黙認」する考えを示した。
ワグネルの反乱は6月23日の武装蜂起宣言から1日で収束した。仲介役を担ったルカシェンコ氏によると「プリゴジン氏と戦闘員の絶対的な安全を保証する」として、同氏をベラルーシが受け入れることで合意した。プーチン氏は「約束したことはすべて実行する」と応じたとされる。
ルカシェンコ氏の発言以外では、交渉の詳細は明らかになっていない。独立系メディアのメドゥーザは6月25日に関係筋の話として「彼(プリゴジン氏)が従来のような影響力や財源を持たない」ことで「手打ち」がなされた可能性があると伝えた。
実際、プリゴジン氏の力を弱らせる動きは進んでいる。プーチン氏は27日、プリゴジン氏の企業グループによる軍への食料提供ビジネスにロシア政府が年間800億ルーブル(約1200億円)を支払っていたと述べ、「すべてを調査していく」と汚職問題の調査に乗り出す方針を表明した。
6月末にはプリゴジン氏が保有するメディアグループが活動を停止したと伝わった。
ロシアの国営テレビは7月5日、ロシア当局がプリゴジン氏が保有するとされる豪勢な邸宅を捜索する映像を流した。大量の札束や偽造パスポートが画面に映り、汚職の象徴と糾弾した。プリゴジン氏のイメージ失墜を狙ったとみられる。
プーチン政権はプリゴジン氏が国内で人気を得ることに神経質になっている。
ロシアの民間世論調査会社レバダセンターが3日に発表したワグネルの武装蜂起に対する調査では、ロシア軍の腐敗や前線での兵器不足などを訴えてきたプリゴジン氏のロシア国防省への批判に対して46%が「批判は正当」と回答し、「反対」(30%)を大きく上回った。
インターネット上ではワグネルが一時制圧したロストフナドヌーから引き揚げる戦闘員に声援を送る動画があふれている。
ルカシェンコ氏は6日、「近くプーチン大統領と会談することで合意した。ワグネルについても話し合うだろう」とも述べた。プリゴジン氏やワグネルの処遇について協議する可能性がある。
●「プーチン大統領の影響力は弱まった」ゼレンスキー大統領の側近 7/7
ロシアによるウクライナ侵攻から8日で500日。ゼレンスキー大統領の側近の1人はJNNの単独インタビューで反転攻勢をめぐり、「一部でロシアの防衛線を突破した」と明かしましたが、各地で攻撃は続いています。
ゼレンスキー大統領側近取材 「一部で防衛線突破」
がれきと化した建物で救助活動を行う隊員たち。
ウクライナ内務省によると西部リビウで6日、ロシア側のミサイル攻撃があり、10人が死亡。また、東部ドネツク州でも砲撃により1人が死亡したということです。終わらないロシアによる侵攻は8日、500日を迎えます。
戦況やロシアの現状をどう見るのか。
ゼレンスキー大統領の側近の1人、ポドリャク大統領府長官顧問が首都キーウでJNNの単独インタビューに応じました。
部屋には東部の激戦地バフムトの兵士の写真が。
ウクライナ ポドリャク大統領府長官顧問「バフムトがウクライナの管轄下に戻るのは時間の問題です」
いまは占領されているとしながらも奪還に自信を見せました。
先月上旬から始まったとされるウクライナ軍の大規模な反転攻勢は遅れも指摘されています。
ポドリャク氏は「ロシア側による地雷原や、ウクライナ側の兵器の不足は問題だ」と認めつつも「一部で防衛線を突破した」と明かしました。
反転攻勢「すべて計画通り」 プーチン影響力「弱まった」
ウクライナ ポドリャク大統領府長官顧問「すべて計画通りにいっています。参謀本部のシナリオ通りに行動できています」
また、国際社会が性急な戦果を求めているとの認識を示し、こう訴えました。
ウクライナ ポドリャク大統領府長官顧問「ロシア軍はあれほど膨大な軍事資産を持っているので、戦争は1日2日では終わりません」
一方、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が起こした反乱については“一定の情報を得ていた”と発言。そして…
ウクライナ ポドリャク大統領府長官顧問「プーチンはロシア軍で起きていることを統率できていません。軍内部では多くの対立があり、公になっていないが、それらは徐々に蓄積されています」
「プーチン大統領の影響力は弱まった」との見方を示しました。
ただ、市民の犠牲者はすでに9000人を超えています。いつ、戦争は終わるのか。
ウクライナ ポドリャク大統領府長官顧問
「重要なのは、ただ戦争を終わらせるのではなく、戦争を正義にもとづき終わらせる事です」
クラスター爆弾提供へ 高い殺傷力 市民被害懸念
こうしたなか、アメリカのバイデン政権はウクライナに対し殺傷能力の高いクラスター爆弾の提供を「積極的に検討している」と明らかにしました。
クラスター爆弾は大量の小さな爆弾を広範囲にばらまく兵器。
民間人への被害も懸念されていて、使用を禁止する国際条約が締結されていますが、アメリカやロシア・ウクライナは加盟していません。
複数のアメリカメディアは7日にも提供が発表される見通しだと報じています。
●ウクライナ軍、南東部の前線で引き続き前進と説明 7/7
ウクライナ軍の南部作戦を指揮するオレクサンドル・タルナフスキー氏は6日、同軍が南東部の前線で進軍を続け、領土を奪還していると明らかにした。
タルナフスキー氏は最新の戦況報告の中で「我々は前進して敵を撃破し、土地を奪還している」と説明。過去1日でロシア軍の装備品47基を破壊したことも明らかにした。
南部部隊の報道官は6日、ザポリージャ州南部には大量の地雷が敷設されているが、「我々には攻勢を継続するための綿密な計画がある。我々の攻撃部隊は引き続き、奪取した前線の土地で塹壕(ざんごう)を構築している」と述べた。
報道官はまた、効果的な空からの偵察を行い、敵の目標を識別した場合には砲撃を行っていると説明。砲兵対策の措置も実施しているという。
報道官は「南部防衛軍はメリトポリ方面とベルジャンスク方面で攻勢作戦を展開中であり、アウジーイウカ方面では防御行動を取っている」「我々は攻勢行動を通じて組織的な圧力をかけている。この2方面で大きな進展がある」としている。

 

●プーチン氏敗色濃厚″痩ニ転落避けられず「ロシア大分裂か」 7/8
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍が、ウクライナ軍の大規模反撃を食い止めるため、占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発に爆発物を設置したとの情報が流れている。欧州最大級の同原発が爆発すれば、「チェルノブイリ原発事故の10倍の被害」との指摘もある。「ワグネルの乱」を受け、プーチン氏の求心力低下や、ロシア軍の内部分裂が顕在化してきた。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、敗色濃厚となってきたロシアの将来に迫った。「中国の子分」か、「国家大分裂」か…。わが国にとっては北方領土奪還の歴史的チャンスもあり得そうだ。
米国のウィリアム・バーンズ中央情報局(CIA)長官が1日、英国で講演し、「ロシアは中国の経済的植民地になる」と語った。欧米の識者たちの間では、ほぼ一致した見解だったが、CIA長官が語った点に説得力がある。
一方、かつてのソ連崩壊のように、「ロシアが再び、多くの共和国に大分裂する」というシナリオもささやかれている。いずれにせよ、目先の戦況はともかく、中長期的に見れば、ロシアが「敗北国家」に転落するのは避けられない。
ロシアの将来はどうなるのか。整理しよう。
バーンズ長官は「ロシアが中国の弟分、経済的植民地になるのはプーチンの失敗の結果だ」「戦争に対する不満は、CIAに100年に1度のチャンスをもたらした。われわれは、これを無駄にしない」などと語った。スパイをリクルートする絶好のチャンスとみているのだ。長官は4月の講演でも同様に語っていた。
ロシアは西側の経済制裁を受けて、原油や天然ガスの輸出先を中国に振り向けざるを得なくなった。中国は足元をみて昨年9月、代金支払いの半分を人民元建てにした。その結果、「ロシア経済の人民元化」が急速に進んでいる。
中国と国境を接するシベリアでは、ロシア女性が中国人ビジネスマンと結婚する例が相次いでいる。相手を紹介する結婚相談所は大繁盛だ。若い女性たちは、中国とロシアのどちらが将来有望なのかを、肌で理解しているのだ。
ロシアの若者は、戦争で死傷者が続出しているのに加えて、徴兵逃れで100万人単位で国外に脱出した。半導体など西側の先端部品は、制裁で入手できない。これでは、中国に頼る以外に経済が回っていかないのは自明である。
ロシアが中国の風下に立っているのは、3月の中露首脳会談で、プーチン大統領が、習近平総書記(国家主席)の言葉を聞き漏らさまいと、懸命にメモをとっている姿に示された。その様子は中国の国営テレビで放送され、国民は「プーチンは習主席の子分になった」と大喜びした。植民地化は事実上、始まっている。
ロシア敗北後に民主化の可能性も
ただ、別のシナリオもある。「ロシアの大分裂」だ。
亡命したロシア人政治家やジャーナリストらによる団体「ポストロシアの自由国家フォーラム」は1月、欧州で開かれた会議で、ロシアが41の共和国に分裂する地図(1面)を公開した。それによれば、米国の星条旗そっくりの旗を掲げた「シベリア合衆国」や「バルチック共和国」「ウラル共和国」などが描かれている。
ロシアの辺境では「資源はオレたちの地下に眠っているのに、モスクワの一部の人間が富を独占している」という不満が強まっているのだ。
いま獄中にいる反体制活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏は昨年9月、米ワシントン・ポストに寄稿し、「ロシアが議会制共和国に生まれ変わらない限り、欧州に真の平和は訪れない」と訴えた。「戦争の根本原因は独裁体制だ」という主張である。
ロシアが民主化されない限り、西側は経済制裁を解除しない。かつての日本やドイツが戦争に負けた後、民主化された歴史も踏まえれば、敗北後のロシアが民主化に向かう可能性もゼロとはいえない。そうなれば、北方領土返還の可能性も出てきて、日本には大チャンスである。
●亡命したはずのプリゴジン氏がロシア各地に出没するという「謎」 7/8
先月武装反乱を起こしたロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏について、「ベラルーシに亡命した」との見方に反し「ロシア国内にいる」との情報が相次いでいる。米ニューヨーク・タイムズは6日、ベラルーシのルカシェンコ大統領が会見で「プリゴジンはベラルーシにいない」と伝えたと報じた。ルカシェンコ大統領は「プリゴジンはこの日の午前までロシアのサンクトペテルブルクにいた」「今はおそらくモスクワか別の場所に行っただろう」と説明した。
プリゴジン氏は先月、1日だけ反乱を起こした後、反乱容疑の処罰を免れる代わりにベラルーシに亡命することでプーチン大統領と合意した。しかしルカシェンコ大統領の言葉が正しければ、この合意は守られていないことになる。
ルカシェンコ大統領はプリゴジン氏について「誰にも拘束されない自由人だ」「今後何が起こるかは分からない。プーチンが悪意と復讐心を持って明日プリゴジンを殺害すると考えるだろうが、それは起こらないだろう」とも述べた。
この言葉も武装反乱当時、プリゴジン氏を裏切り者と批判したプーチン大統領の発言やロシア国営メディアの論調とは異なっている。
プリゴジン氏は先月23日に武装反乱を起こし、モスクワまで200キロの地点まで進んだが、後にベラルーシへの亡命などを条件に撤収した。その過程でルカシェンコ大統領が仲裁役となった。
プリゴジン氏は先月27日にベラルーシに入ったことが確認されている。ところがその後、ロシア国内でプリゴジン氏を目撃したとの報道が相次いだ。英国の日刊紙テレグラフは5日「プリゴジンとその個人ジェット機がベラルーシとモスクワを行き来する様子が目撃された」と報じた。またプリゴジン氏所有の車がサンクトペテルブルクの中心街に停車している様子も目撃されたという。
これについて米国防総省の関係者は「プリゴジンは反乱後のかなり長い時間をロシアで滞在した。しかしプリゴジンは行方をくらますため影武者を使うので、彼がベラルーシにいるかどうかは不確実だ」との見方を示した。
政権転覆ともみられるほど危険な反乱を起こした準軍事組織のトップが、実はロシア国内で自由に活動していることは注目を集めている。
ウクライナの情報機関は「ロシア国内でプリゴジンはプーチン大統領に匹敵する世論の支持を受けている」として「内戦が起こる可能性」も指摘している。
NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長は「プリゴジンの動きとワグネルの兵力移動を綿密にチェックしている」と明らかにした。
ストルテンベルグ事務総長は6日、ベルギーのブリュッセルにあるNATO本部で会見し「最近の衛星写真からベラルーシがワグネルの雇い兵らを受け入れる準備をしていることは分かった」とする一方「多くの雇い兵らがベラルーシに入ったことを示す動きはこれまでのところ見えていない」とも伝えた。
●戦争終結とウクライナ再建への取り組み継続=エルドアン大統領 7/8
トルコのエルドアン大統領は8日、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談後、トルコはウクライナとロシアの戦争を終結させ、ウクライナの再建を支援する取り組みを続けると述べた。
このほか、まもなく期限切れを迎える黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)の延長を望むと語った。
●ウクライナ国防省次官 “兵器も兵員もロシアに劣る 支援を” 7/8
ロシアによる軍事侵攻から8日で500日となるのを前に、ウクライナ国防省のマリャル次官がNHKの単独インタビューに応じました。南部で優位に反転攻勢を進めているとの認識を示す一方「兵器も兵員も依然ロシアに劣っており、領土奪還を迅速に進められない」と述べ欧米からのさらなる軍事支援を強く訴えました。
ウクライナの首都キーウで今月5日にインタビューに応じたマリャル次官は、最新の戦況について「東部では主導権をどちらが握るかをめぐる争いが行われている」と述べた上で「バフムト方面は最も戦闘が激しくなっている。大部分をロシア側がおさえていることは確かだが、ウクライナ軍が取り囲み、ロシア軍が退避できなくなっている」と述べました。
また「ロシアにとっての主戦場は東部だが、その間にわれわれは南部でおおむね反転攻勢を進めている。この数週間で150平方キロの領土を奪還した」と戦果を強調しました。
一方、マリャル次官は、ロシアの民間軍事会社ワグネルについて「前線から撤収した」としたものの「戦況に基本的には影響はない。ロシア側は正規軍を投入し、自分たちの部隊を強化しようとしている。バフムト方面ではここ数日で空てい部隊が投入された」と述べました。
また先月、南部のカホウカ水力発電所のダムが決壊し、大規模な洪水に見舞われたロシア側が支配する地域の状況について「ロシアはロシアのパスポートを持つ人にだけ支援を届けている」などと述べ、支援と引き換えにウクライナ国民のロシア化を迫っているなどと批判しました。
そして「重要なのは兵器が足りていないということだ。東部でも南部でも兵器や兵員の数で依然ロシアに劣っており、このために領土奪還を迅速に進められないでいる。たとえば東部で一日に使用する弾薬はわれわれは5000発から6000発しかないが、ロシアは4万5000発も使っている。われわれにとっては防空システムや射程の長いミサイル、それに戦闘機も必要だ」と述べ、欧米からのさらなる軍事支援を強く訴えました。
マリャル次官は「ウクライナ人の誰もが友人や親族、愛する人を亡くした。SNS上で大切な誰かの死を嘆く市民を見ない日はない」と述べた一方で「生きるか死ぬかの問題であり、われわれに疲れはない。私たちの領土のため最後まで戦うつもりだ」と強調し、自国の勝利でしか戦争を終わらすことはできないとするウクライナの立場に理解を求めました。
●米 バイデン政権 “ウクライナにクラスター爆弾供与” 発表 7/8
アメリカのバイデン政権はロシアへの反転攻勢を続けるウクライナを支援するため、殺傷能力が高いクラスター爆弾を供与すると発表しました。使用を禁止する国際条約がある兵器で議論を呼びそうです。
アメリカのバイデン政権は7日、ロシアへの反転攻勢を続けるウクライナからの要請に応じてクラスター爆弾を新たに供与すると発表しました。
クラスター爆弾は、1つの爆弾から多数の小型爆弾が飛び散る殺傷能力の高い兵器です。
一部が不発弾として残り、長期的に民間人に被害を及ぼすおそれが指摘されていることから使用を禁止する国際条約がありますが、アメリカやロシア、ウクライナは加盟していません。
ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は記者会見で「供与は容易な決断ではなかった」としたうえで「民間人へのリスクは認識しているが、ロシア軍がこれ以上、ウクライナの領土や民間人を支配下におくことも大きなリスクになる」と述べて供与を正当化しました。
サリバン補佐官はまた、民間人への被害を抑えるためクラスター爆弾のなかでも不発弾になる確率が低いものを供与すると説明し、国際条約に加盟している同盟国からも理解を得たとしています。
アメリカはクラスター爆弾についてロシア軍がすでに使用し、ウクライナの反転攻勢に必要な兵器だと強調していますが国際的な人権団体はウクライナ国内で使用されるべきではないと訴えていて、今回の決定は議論を呼びそうです。
ゼレンスキー大統領「勝利に近づける決定的な一歩」
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、アメリカのバイデン政権がクラスター爆弾を供与すると発表したあと、ツイッターを更新し「アメリカからの防衛支援はタイムリーかつ広範囲に及んでいて、われわれが必要としていたものだ。ウクライナを勝利に近づける決定的な一歩であり、アメリカ国民とバイデン大統領に感謝する」などと謝意をつづりました。
ロシア大使「アメリカの挑発 新たな世界大戦に近づけている」
ワシントンに駐在するロシアのアントノフ大使は声明を発表し、「現在のアメリカの挑発のレベルは常軌を逸していて人類を新たな世界大戦に近づけている。アメリカはロシアを倒すという考えに執着し、自分たちの行為の重大さに気づいていない」などと強く反発しました。一方、ウクライナの軍事侵攻では、ロシア軍もクラスター爆弾を使用しているとアメリカ政府は指摘しています。
国連はクラスター爆弾使用に反対の立場
アメリカがウクライナにクラスター爆弾を供与することについて、国連のハク副報道官は7日、定例の会見で、記者団から国連の立場を尋ねられたのに対し「グテーレス事務総長はクラスター爆弾の使用を禁止する国際条約を支持している。当然、戦場でのクラスター爆弾の使用は望んでいない」と述べました。アメリカによる供与への直接の言及は避けましたが、国連としてクラスター爆弾の使用に反対するという立場を明確にした形です。
バイデン大統領「供与は一時的なもの」
バイデン大統領は7日、CNNテレビのインタビューに対し、クラスター爆弾の供与に踏み切った理由について、ウクライナで砲弾が不足しているうえ、アメリカでの製造が追いついていないことを念頭に、供与はアメリカが追加の砲弾を製造するまでの一時的なものだという考えを明らかにしました。バイデン大統領は「供与は難しい決断だった。われわれは同盟国や議会とも相談した」としたうえで「重要なのはウクライナがいま、ロシアを止めるための武器を持つのか、それとも持たないのかだ。彼らは必要だったと考える」と述べ、供与を正当化しました。
ウクライナ国防相 “使用にあたって5つの原則を守る”
ウクライナのレズニコフ国防相は7日、ツイッターでアメリカが発表したクラスター爆弾の供与を歓迎したうえで、使用にあたっては5つの原則を守ると表明しました。具体的には、
1 ウクライナはクラスター爆弾を国際的に認められた自国の領土の解放にのみ使用し、ロシアの領土では使用しない。
2 ウクライナ市民のリスクを避けるため都市部では使わず、ロシア軍が集中している地域でのみ使用する。ウクライナ兵の危険を最小限にしながら敵の防衛線を突破するために使う。
3 ウクライナはクラスター爆弾の使用や使用された地域について厳格に記録をとり続ける。
4 領土が解放されたあとは、これらの記録に基づいて、クラスター爆弾が使用された地域で優先的に地雷除去を行う。これにより不発弾によるリスクをなくすことができる。
5 クラスター爆弾の使用とその効果について、パートナーの国々に報告し、透明性のある報告と管理の適切な基準を確実にするとしています。
レズニコフ国防相はこうした基準に比べ、ロシアは軍事侵攻の開始直後からクラスター爆弾を無差別に使用したとし、そのうえで「われわれの立場は単純だ。占領された領土を解放し国民の命を救う必要があり、敵に損失を与える必要がある」として、クラスター爆弾を使用する意義を強調しました。
●ロシアのウクライナ軍事侵攻開始から500日 戦闘さらに長期化か 7/8
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから7月8日で500日となります。領土奪還を目指すウクライナは反転攻勢を本格化させるため、欧米側にさらなる軍事支援を求めていますが、ロシア側は占領した地域の防御を固めるとともに核戦力も誇示してけん制を強めています。
去年2月24日、ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部のロシア系の住民を保護する「特別軍事作戦」だとしてウクライナへ侵攻を始めてから8日で500日となります。
ウクライナ軍は6月上旬から反転攻勢を開始し、東部ドネツク州や南部ザポリージャ州などで欧米から供与された戦車などの兵器も投入して領土の奪還を目指していますが、進軍は当初の想定より遅れていると指摘されています。
こうした中、ゼレンスキー大統領は11日からNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が始まるのを前に、6日から7日にかけて加盟国のブルガリアやチェコ、スロバキア、そしてトルコの首脳と相次いで会談し、さらなる軍事支援を求めています。
一方、ロシアはウクライナ東部や南部の支配地域で、地雷原を広げたり、塹壕(ざんごう)を掘ったりするなど大規模な防衛線を築いていて、ウクライナ軍の反転攻勢を止めるための防御に重点をおいているとみられます。
さらに、ロシアは同盟関係にあるベラルーシへの戦術核兵器の配備を表明し、核兵器の搬入を進めているとしていてウクライナへの軍事支援を続ける欧米側へのけん制を一段と強めています。
ロシアでは6月下旬、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が国内で武装反乱を起こすなど混乱もみられましたが、プーチン大統領は軍事侵攻を続ける構えを崩していません。
ゼレンスキー大統領も占領された領土の奪還を果たすまではロシアとの停戦には応じない構えで戦闘はさらに長期化する見通しです。
双方の犠牲も拡大 ウクライナの市民9000人超が死亡
長引く戦闘により、双方の犠牲も拡大し続けています。
アメリカのシンクタンクは、ことし2月、ロシア軍の兵士や戦闘員の死者数は6万人から7万人で、死傷者数が20万人から25万人だという分析を示しています。
一方、ウクライナの市民への影響も大きく、国連人権高等弁務官事務所は侵攻開始から6月18日までの間に確認できただけでも9083人が砲撃や空爆などによって死亡したと発表しました。
ただ、激しい戦闘が続く地域では正確に状況を把握できておらず実際の総数はこれを大きく上回るという見方を示しています。
市民生活を支えるインフラへの被害も相次いでいます。
去年10月上旬にクリミアとロシア南部をつなぐ「クリミア大橋」で爆発が起きると、ロシア軍は報復としてウクライナ各地の電力施設など重要インフラを狙ったミサイル攻撃を繰り返し、厳しい冬のあいだウクライナでは電力が不足し暖房が使えない状況に見舞われました。
6月にはウクライナ南部ヘルソン州のカホウカ水力発電所のダムが決壊して貯水池の水が流出し、川の下流では大規模な洪水で犠牲者が出た一方、国連は上流では21万人が深刻な水不足に陥っていると推計しています。
ウクライナ 国民の78%「軍事侵攻で家族などが死傷」
ロシアによる軍事侵攻で家族や友人が亡くなったりけがをしたりしたウクライナの国民は、8割近くにのぼることが分かりました。
これは、ウクライナの首都キーウにある調査会社がまとめたもので、調査はことし5月下旬から6月はじめにかけて国内に住むウクライナ人を対象に電話で行われました。
このうち「ロシアの侵攻によってあなたの家族や友人に亡くなった人はいるか」という質問に対して63%が「少なくとも1人はいる」と答えたということです。
さらに「ロシアの侵攻によって家族や友人が亡くなったかけがをした」と答えた人は、78%にのぼったとしています。
調査を行った会社は「ロシアによる戦争は大多数のウクライナ人の悲劇的な共通体験となった。この感情は長期間刻まれるだろう」としてウクライナの国民はいずれロシア側と行う停戦協議などで一切妥協は受け入れないだろうという見方を示しました。
【500日間の戦況】
ロシア軍 3方向から侵攻開始 広い範囲を掌握
去年2月24日、ロシア軍はウクライナ各地にミサイル攻撃を行うとともに北部・東部・南部の3方向から侵攻を開始し、南部の主要都市ヘルソンなど広い範囲を掌握しました。ロシア軍は、首都キーウ近郊にも迫りましたが、ウクライナ軍の激しい抵抗を受けて撤退しました。その後、ロシア軍は東部と南部での攻撃を強め、5月下旬にはドネツク州の要衝マリウポリ、7月上旬にはルハンシク州の完全掌握を宣言しました。
ウクライナ軍 徹底抗戦 一部を奪還
徹底抗戦を続けるウクライナ軍は、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム=ハイマースなどを活用して反撃を進めました。去年9月にはロシアに掌握されていた東部ハルキウ州のほぼ全域を、さらに11月には、南部ヘルソン州のドニプロ川の北西側にある中心都市ヘルソンを奪還しました。
ロシア 長期戦見据えた態勢へ こう着続く
一方、ロシアのプーチン大統領は、去年9月30日、東部と南部の4つの州の併合を一方的に宣言しました。予備役の部分的な動員にも踏み切り、長期戦を見据えた態勢も整えていきます。冬の間、前線の戦況はこう着していましたが、ことしに入り、ドイツ製の「レオパルト2」など主力戦車を供与する国が相次ぐなど、欧米側の軍事支援の動きが加速します。
ウクライナ 大規模な反転攻勢へ
ウクライナは兵士の訓練など反転攻勢に向けた準備を急ぎ、ことし6月10日、ゼレンスキー大統領が「反転攻勢と防御の軍事行動が行われている」と述べ、反転攻勢の開始を認めました。作戦が行われているロシア側の支配地域には、塹壕(ざんごう)や地雷原などからなる防衛線が幾重にも張られているほか、ロシア軍による航空戦力の強化などで、反転攻勢の進展が当初の想定より遅れているという指摘も出ています。さらに、南部にある水力発電所のダムの決壊や、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏による武装反乱なども起きるなか、ウクライナ側は南部クリミアを含めた領土の奪還を目標に掲げて東部や南部で反転攻勢を進めています。 
●プーチンに「かすり傷」を負わせたプリゴジンの乱が「致命傷」になる日 7/8
エフゲニー・プリゴジン率いるロシアの民間軍事会社ワグネルの部隊が首都モスクワに向けて進軍していたとき、プーチン大統領はモスクワを離れてサンクトペテルブルクに飛んだ。怯えたプーチンが命からがら逃げ出したと、世界のメディアは報じた。
しかし、政権の内情に詳しいジャーナリストのミハイル・ジガルが得た情報によると、このときプーチンは、親しい大富豪の豪華ヨットで休日を楽しむためにサンクトペテルブルクに向かったのだという。つまり、プーチンの頭の中では、全て平常運転に見えていたのである。
このように現実が見えなくなっていることは、プーチン体制の存続に暗い影を落とす。私がロシア各地で人々に話を聞いた経験から言うと、国民がプーチンを最も評価している点は、大統領直々に社会の安定と安全を保障してきたことだった。しかし、今回の一件でプーチンが現実を全く把握できていないことが明るみに出たのだ。
プリゴジンの反乱が起きて1週間の間に、ロシアにとって最も重要な後ろ盾である中国の習近平国家主席がロシア兵の死に対してお悔やみを述べたり、支援を表明したりするために電話することはなかった。プーチンに電話した外国首脳は、確認されている限り8人にすぎない。
ロシアの人々、とりわけ大都市の住人は、プーチン時代が永遠に続くわけではないと思い始めている。今回の出来事に対するロシア国民の評価は、向こう数週間で固まってくるだろう。プリゴジンの主張が平均的なロシア人の不満を代弁していることは間違いない。
エリートの腐敗と無能を糾弾するプリゴジンの言葉に国民の過半数は共感する。ある人物は私にこう語った。「戦争が始まって以降のプリゴジンの発言とプーチンの発言を文章に書き起こして、発言者の名前を伏せて人々に読ませれば、ロシア人の80%は(プリゴジンの)主張を支持するだろう」
しかし、プーチンへの支持は今のところ揺らいでいないようだ。支持率はいったん82%から79%に下落したが、反乱が収束すると82%に戻った。それに対し、プリゴジンの支持率は、反乱前は60%に達していたが、今は30%を割り込んでいる。
プーチンの砂上の楼閣が崩れるとき
「腐敗と戦うと主張しているが、実際にはワグネルが解体される前に利益を得たいと思ったにすぎない」と、あるロシア人は私に語った。別の人物は、私にこう述べている。
「たぶんプーチンの作戦なのだと思う。プリゴジンをベラルーシに送り込んでベラルーシの支配権を握ったり、プリゴジンにベラルーシからウクライナを攻めさせたり、戦いに消極的な人たちを取り締まりやすくしたりすることが狙いなのではないか」
現時点では、プーチンはほんのかすり傷程度の打撃しか負っていないかもしれない。しかし、国家安全保障関連の元米政府高官は私にこう指摘している。
「多くのロシア人は、戦争についてあまり考えないようにしてきたが、今はこの戦争についてどう考えればいいか分からなくなっている。この点は体制にとっても危険なことだ。プーチンはプリゴジンを裏切り者と呼び、『もう心配は要らない』と請け合った。けれども、プリゴジンの部隊はロシアの兵士に向けて銃撃し、ロシア領空でロシア軍のヘリコプターを撃墜した。それなのに、誰も責任を問われていない。そんなことがあっていいはずがない」
プーチンが現実を直視し問題に対処しようとしなければ、ロシアの人々は、プリゴジンが繰り出した苛烈なエリート批判の言葉をありありと思い出すだろう。そうなったとき、プーチンの砂上の楼閣があっさり崩れないとも限らない。
●「古代のガラクタ」「戦車が尽きた」...ロシア軍、ソ連時代の戦車を戦場に 7/8
ロシアの古い戦車の一群が戦場に向けて列車で移送されているのを見ながら、地元住民たちが噂話をしていると思われる動画がツイッターに投稿された。列車に載せられているのはT-55戦車で、撮影場所はロシア南西部にあるヴォロネジ州の州都ヴォロネジだという。
投稿したのは、エストニア人軍事ブロガーの「Dmitri」(アカウント名@wartranslated)。T-55は、ソビエト連邦時代に開発された、第2次大戦後の主力戦車だ。ウクライナの軍関係者が6月に明かしたところによると、2022年2月24日にウクライナ戦争が始まって以来、ロシアは4000台以上の戦車を失っているという。
動画では、ヴォロネジ在住のあるロシア人が、移送されるT-55を眺めながら、そばにいる人に対して、「これらは、マンモス並みに古代のガラクタだ」と話している。「新しい戦車が尽きたから、古いT-55を投入しているんだ」
もう1人が「新しく見えるけど」とコメントすると、「変な色に塗ってあるだけだよ」と答え、運ばれているのはすべて同じモデルだと話している。
HIMARSがロシア軍の兵器を破壊する動画
ウクライナ戦争が始まって1年4カ月が過ぎたいま、ウクライナ軍高官は、反撃が良い方向へ向かっていると自信をみせる。同軍は7月4日、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム「HIMARS」が、ロシア軍のロケット発射システムや榴弾砲などを爆撃する様子をとらえた動画を公開した。
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は7月4日、「前線では先週、困難に直面した」とツイートした。「しかし、われわれは前進している。一歩一歩、前に向かっている。ウクライナを守っているすべての人、ウクライナの勝利を目指して戦っているすべての人に感謝したい。われわれの英雄に栄光あれ!」
このゼレンスキーの楽観的なメッセージが発信されたのは、ロシア軍がウクライナ東部バフムートで敵を撃退したとロシア国防相セルゲイ・ショイグが発表したすぐ後のことだった。バフムートは、今回の戦争が始まった直後からの激戦地だ。
ショイグは、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンが武装蜂起した際の標的となった人物でもある。プリゴジンが企てた反乱は、世界中の注目を浴びた。伝えられるところによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はその際、飛行機でモスクワから逃亡し、400キロメートルほど離れたロシア北西部にある自身の別荘に避難していたという。
ロシア軍の戦果について国内でも見解の相違が
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が7月3日に発表した最新報告書によれば、ロシア国防省とロシアの軍事ブロガーのあいだでは、最近の戦況について見解の相違が生じているようだ。
ロシア国防省は、ウクライナ東部の要衝ケルソンにあるアントノフスキー橋近くで起きた戦闘で勝利したと主張したが、軍事ブロガーらは最近、その主張は誤りだと反論したと、ISWの報告書には書かれている。同報告書によれば、プーチンはそうした軍事ブロガーたちの「検閲」を検討中のようだ。
ドネツク州バフムートは、プリゴジンがこれまで何度も「肉挽き器」と呼んできた激戦地。ワグネルがドネツク州で戦闘を主導してきたことと、ワグネルの反乱未遂事件が起きたことにより、ロシアにとってバフムートはいま、決して失うことが許されない重要な地と考えられるようになっている。
ハーグ戦略研究センター(HCSS)の戦略アナリスト、フレデリック・マーテンズは以前、本紙に対して以下のように語っている。「ロシアにとってバフムートの死守は、政治的に絶対欠かせない、重大なものになっている。そのため廃墟でしかないバフムートの町の防衛に、予備役部隊を集中させざるを得ない。これこそ、まさにウクライナが求めていたことではないだろうか」
●国連が、ウクライナでの民間人9000人殺害を非難 7/8
ウクライナ戦争開始から500日後、国連はロシアのウクライナ攻撃による民間人の死傷者数を発表し非難しました。
イルナー通信によりますと、国連から派遣されているウクライナ人権監視団は7日金曜、ウクライナ戦争開始から500日目の節目に発表した報告において、これまでに500人以上の子どもを含む9000人以上の民間人が殺害されたとしました。ただしその実数は、この人数よりはるかに多い可能性があるということです。
ウクライナ戦争における民間人死傷者数が発表される一方、アメリカはウクライナへのクラスター爆弾供与を決定しています。この爆弾が長期的に数多くの民間人死傷者を出すことが懸念されています。
人権団体アムネスティ・インターナショナルは、「バイデン米政権は、この戦争での大規模なクラスター爆弾使用につながる決定が、予想できる結果、つまりさらなる民間人の死傷者につながることを、きちんと認識する必要がある」としています。
ウクライナ人権監視団はこの報告で、戦争開始から7日までに合計9177人の民間人が殺害されており、さらに1万5993人の民間人が負傷しているとしています。
なお、死傷者の割合は男性61%・女性39%ということです。
●ウクライナ侵攻開始から500日 ゼレンスキー氏、黒海の要衝訪問 7/8
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻から500日目となる8日、同国のゼレンスキー大統領が黒海沿岸の要衝ズメイヌイ島を訪問する様子を映した動画をネット交流サービス(SNS)に投稿した。
島は侵攻開始直後にロシア軍が攻め込んだが、ウクライナの国境警備隊員が投降を要求するロシア軍に「くたばれ」と答えて拒否したとされ、不屈の精神を表す象徴的な場所として知られる。ゼレンスキー氏は「ウクライナのために戦う全ての人に感謝したい」と述べ、記念碑に献花した。
ウクライナ当局は8日、これまでに少なくとも494人の子供が死亡したと発表した。また、国連人権高等弁務官事務所も7日、6月30日時点でウクライナでの民間人の死者は535人の子供を含む9177人に上ると発表した。「本来の死者数はさらに多い可能性がある」としている。
●ワグネル反乱「計画はプリゴジン氏でない」 ウクライナ幹部が指摘 7/8
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日、ロシア独立系メディア「メドゥーザ」のインタビューで、6月にロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏が起こした反乱について、「私の理解では、計画したのは(創設者)プリゴジン氏ではない」と述べた。
ポドリャク氏は「軍参謀本部の将校らが計画したと思う。(大統領の)プーチン氏が連邦保安局(FSB)などに賭けて失った物を、取り戻したかったのではないか」と話し、FSBの情報を信じてウクライナ侵攻に突き進んだプーチン氏への反発が軍の将校らにあった可能性を指摘した。
また、「プリゴジン氏は完全にはベラルーシに移っていない」とし、ワグネルは、ロシア政府という後ろ盾を失ったが、ベラルーシは資金面でも戦略面でも代わりになれないと強調。同国に移れるワグネル戦闘員は「最大でも1千人」で、「ベラルーシからウクライナへの脅威は見えない」と語った。
●バフムトで再び激しい攻防と分析 英国防省、ウクライナ軍成果と 7/8
英国防省は8日、ロシアの侵攻に対するウクライナの反転攻勢で過去1週間、東部ドネツク州バフムト方面が再び激しい攻防の舞台になっているとの分析を明らかにした。
英国防省は、ロシア側が制圧したバフムトの北と南の両面でウクライナ軍が着実に成果を得ていると指摘。米シンクタンク、戦争研究所も7日の戦況分析で、ウクライナ軍の発表を基に「戦術的に重要な進展」と評した。
英国防省は、防衛に当たるロシア軍は「士気の低下や反撃能力が限られていることで、苦闘している可能性が高い」と言及した。ロシア指導部にとり、バフムトの確保は政治的にも重要だが、部隊増派の余地は少ないとの見方を示した。
一方、ロイター通信によると、カール米国防次官(政策担当)は7日、ウクライナ軍の反転攻勢について、一部の人々の希望より進展は遅いが、判断は時期尚早だと発言した。「ウクライナ軍はロシアの前線の弱い部分を探っている。真のテストは、見つけた際にどれだけ素早くそこを突けるかだ」と説明した。
●ウクライナ反転攻勢、苦戦 ロシア軍抵抗、奪還領土わずか 7/8
ロシアのウクライナ侵攻開始から8日で500日となった。ウクライナは6月上旬に反転攻勢に乗り出したが、地雷原や砲撃などロシア軍の激しい抵抗に阻まれて苦戦する。進軍は想定より遅く、反転攻勢後に奪還した領土はロシア占領地域の0.1〜0.2%にとどまる。ウクライナは空軍力で劣り、空爆の犠牲を抑えるため戦力を温存。強力な欧米供与兵器の到着を待ち、ロシアの防衛線突破を狙う。
米国防総省は7日、殺傷能力が高いクラスター(集束)弾をウクライナに供与すると発表した。非人道性が強い兵器だが、反転攻勢を後押しするために必要だと判断し、慎重姿勢を転換した。人権団体は反発している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、侵攻500日に合わせ、ロシア軍に一時占領された後、昨年6月に解放を宣言した黒海の要衝ズメイヌイ島を訪れた動画を公開した。
ロシアはウクライナの領土の2割弱に当たる約10万平方キロを占領し、ウクライナ軍は5日、反転攻勢開始以降、9集落の160平方キロを奪還したと表明した。

 

●自由ロシア軍の副司令官 “武装反乱後に部隊への志願者増” 7/9
ロシアのプーチン政権に反対し、ウクライナ側について戦うロシア人による武装組織「自由ロシア軍」の副司令官がNHKのインタビューに応じました。
副司令官は、民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏による武装反乱以降、自分たちの部隊に加わりたいと志願する人が増えていると強調したうえで、ウクライナ軍の反転攻勢を引き続き支援していく考えを示しました。
「シーザー」と名乗る「自由ロシア軍」の副司令官が8日、NHKのオンラインインタビューに応じ、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が先月、武装反乱を起こして以降、ワグネルの部隊を戦地で目にしていないと明らかにしました。
副司令官は「『ワグネル』はロシアにとって、どんなに大きな犠牲を出しても攻撃に使うことができる唯一の道具だった」として、ワグネルの部隊がこのまま戦闘から離脱すれば、ロシア側の戦力の低下につながっていく可能性があるという認識を示しました。
また「ワグネルの武装反乱は失敗したが、その後、自由ロシア軍に加わりたいと志願するロシア人が増えている」と強調し、今回の武装反乱がプーチン政権に反対するロシア人を勇気づける結果にもなったという見方を示しました。
一方、「自由ロシア軍」はことし5月、ロシア西部のベルゴロド州に入り戦闘を開始したと発表していましたが、副司令官はベルゴロド州での作戦は敵の後方部隊を攻撃することなどが目的だったとしたうえで「すでに完了した」としてウクライナに戻っていることを明らかにしました。
反転攻勢を進めるウクライナ軍の状況については「ウクライナは航空戦力では苦戦している。偵察用の無人機も非常に高い頻度で失われている。制空権がない中では攻撃は非常に難しい」と述べ防空システムや戦闘機の供与など、一層の軍事支援が必要だと訴えました。
そして「自由ロシア軍」としては「無人機による偵察などを行っている」としてウクライナ軍の反転攻勢を引き続き支援していく考えを示しました。
副司令官は「自由ロシア軍」の今後については「ウクライナの領土奪還という任務を達成したら、再びロシアに戻る」と述べ、将来的には再びロシアに入り、プーチン政権側と戦う意志を強調しました。
●プーチン氏と会談するトルコのエルドアン氏、黒海穀物合意延長に期待 7/9
トルコのタイップ・エルドアン大統領は8日、黒海穀物合意の少なくとも3カ月の延長をロシアに呼びかけていると述べ、8月にウラジーミル・プーチン大統領の訪問があると発表した。
エルドアン大統領はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との共同記者会見で発言した。戦争中でもウクライナの港から黒海経由で穀物を安全に輸出させるため、昨年にトルコと国連が仲介した合意の今後について、両陣営が議論した後でのことだった。
ゼレンスキー氏はブルガリアとチェコ共和国への訪問後で、NATO加盟国の首都を一部訪れるツアーの一部だった。ツアーは来週のサミットに向けたウクライナ政府のNATO加盟容認のため、具体的な段取りを踏んでくれるよう各国に働きかけることを目的としており、エルドアン氏はウクライナには資格があると述べている。
エルドアン氏によると、黒海穀物合意を7月17日の期限日以降も延長させる役目は進行中とのことだ。この合意は、来月トルコで行われるプーチン氏との会談において、最重要議題の一つになるだろうとエルドアン氏は言った。
「私たちの願いは、2カ月ごとではなく、最低でも3カ月ごとに延長されることです。この点において私たちは努力して、期間を2年間に延長させようとしています」とエルドアン氏はゼレンスキー氏との記者会見で述べた。
両氏共に、エルドアン氏とプーチン氏の会談における、もう一つの重要な問いである捕虜交換について話し合ったと述べ、ゼレンスキー氏は最重要課題であったと述べた。「すぐに結果が出ることを願っています」とエルドアン氏は言った。
ゼレンスキー氏は結果を待ってコメントすると述べたが、ロシアや他のグループへと連れ去られた、子供を含む捕虜全員の返還についての詳細にまで話し合いが及んだことを明白にした。
「捕虜、政治犯、クリミア・タタール人の返還に向けて努力しています」とゼレンスキー氏は述べ、2014年に併合されたクリミア半島のウクライナのムスリムコミュニティメンバーについて言及した。「私たちの同盟国には全員のリストがあります。この問題について全力で取り組んでいます」
エルドアン氏によると、訪問前のプーチン氏とのやり取りにおいて、この問題もまた話題に上がるかもしれないとのこと。「事前に電話をかけたら、電話でその件についても話し合います」とエルドアン氏は言った。
ロシア政府は会談を注視すると述べ、プーチン氏はウクライナとの対立を解決するため、エルドアン氏が仲介したことにとても感謝しているという。
「来たるプーチン氏とエルドアン氏の交渉において、今後しばらくの間、それは除外していません」と、7日に始まったゼレンスキー氏とのイスタンブールでの会談を前に、ロシア大統領府報道官のドミトリー・ペスコフ氏は記者に述べた。
穀物合意の履行について腹を立てていたロシアは、7月17日以降へのさらなる延長を許可しないと脅迫していた。
NATO加盟国のトルコは、ここ16カ月以上の戦争の間、ロシアおよびウクライナ両国と友好的な関係を維持しようとしており、昨年には補助交換の仲介を援助した。
トルコは、西側同盟国によるロシアへの経済制裁には参加していないが、ウクライナへの武器供与はしており、主権を尊重するよう求めている。
●ウクライナ軍 バフムトで前進か 専門家“反転攻勢はこれから” 7/9
ウクライナでは東部の拠点バフムトでウクライナ軍が前進しているという見方が出ています。ロシアによる軍事侵攻から8日で500日となるなか、ウクライナ側は領土奪還に向けた反転攻勢を本格化させたい構えです。
ウクライナ軍は先月上旬から反転攻勢を続けていて、戦況を分析するイギリス国防省は「過去7日間、バフムトが激戦地の1つとなった。ウクライナ軍はバフムトの北と南で着実に前進した」と指摘しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も7日「ウクライナ軍はバフムトで戦術的に重要な進展を果たした」としていて、ロシアが5月に掌握を宣言した東部の拠点バフムトでウクライナ軍が前進しているという見方が出ています。
ロシアの安全保障や核戦略に詳しい軍事専門家のユーリー・フョードロフ氏はNHKのインタビューに対し「ウクライナは12の旅団を投入する予定とされるが、戦闘に参加しているのは3つの旅団で、9つの旅団は温存されている」と述べ、反転攻勢はこれから本格化するという見方を示しました。
そのうえで欧米諸国から戦車だけでなく、戦闘機やATACMSと呼ばれる地対地ミサイルなどの軍事支援を得られることが重要だと指摘しました。
一方、ロシア軍の侵攻も続いていて、東部ドネツク州のリマンでは8日、ロシア軍からの攻撃で市民7人が死亡し、ドネツク州のキリレンコ知事は「ロシアのテロリストが市民を攻撃し続けている」と強く非難しました。
こうしたなか、アメリカのバイデン政権は殺傷能力が高いクラスター爆弾をウクライナに供与すると発表しましたが、ロシア外務省のザハロワ報道官は8日、声明を発表し「アメリカは敵対行為への関与をさらに深めている。クラスター爆弾の供与はウクライナ軍の反転攻勢が失敗していることの絶望の表れだ」などと批判しています。
アメリカ政府としては、ウクライナの反転攻勢の本格化に向けて後押ししたい考えですが、使用を禁止する国際条約があるクラスター爆弾の供与について、国際的な人権団体などから批判の声も上がっています。
●ロシア敵視のアゾフ大隊の元指揮官 トルコからウクライナへ 7/9
ロシアが敵視してきたウクライナ側の部隊の元指揮官らが、トルコからウクライナに帰国することが明らかになりました。ロシア側は不快感を示していて、仲介役を果たしてきたトルコとロシアとの関係も注目されそうです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、訪問先のトルコで、ロシアとウクライナの仲介にあたるエルドアン大統領と会談し、その後の記者会見でエルドアン大統領はウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟を支持する考えを示しました。
ゼレンスキー大統領はこれを歓迎したのに続いて、8日にはSNSで、ウクライナ東部の要衝マリウポリなどで防衛に関わった当時の「アゾフ大隊」の指揮官ら5人がトルコからウクライナに帰国することを明らかにしました。
元指揮官らはロシア軍の捕虜になったあと、トルコが仲介したロシアとウクライナの捕虜交換で解放され、その後、トルコで生活を続けていたということです。
捕虜交換にあたっては、元指揮官らがトルコにとどまることが条件になっていたとされ、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、国営のロシア通信に対し、捕虜交換の合意に反する行為だと不快感を示しました。
トルコのエルドアン大統領は、来月にもロシアのプーチン大統領を招いて会談を行いたい考えを示していますが、ロシアとトルコとの今後の関係に影響が出るのか注目されそうです。
ゼレンスキー大統領「帰国を心から喜ぶ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、自身のSNS上に訪問先のトルコのイスタンブールの空港で撮影した新たな動画を投稿しました。
動画には車から降りてくる5人をゼレンスキー大統領が握手で迎え、抱擁を交わす様子が写っています。
ウクライナ大統領府によりますと、5人はロシアによる軍事侵攻当初、激戦となった東部の要衝マリウポリなどの防衛に関わった準軍事組織「アゾフ大隊」の元指揮官らで、一時はロシア軍の捕虜となっていましたが、解放されたあとはトルコにいたということです。
今回、トルコとの交渉の結果、ウクライナに帰国することになり、ゼレンスキー大統領は「あなたたちはわれわれの英雄だ。祖国への帰国を心から喜んでいる」と話したということです。
●ロシアの侵攻から500日 ゼレンスキー氏「必ず勝つ」7/9
ロシアによる侵攻開始から500日となるのに合わせて、ウクライナのゼレンスキー大統領は去年奪還した黒海の要衝、ズミイヌイ島を訪れる動画を公開しました。
ロシアの侵攻開始から500日となる8日、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ南部オデーサ州沖のズミイヌイ島を訪問する動画を自身のSNSに投稿しました。
ズミイヌイ島は、侵攻開始直後にロシアに占領されましたが、去年6月にはウクライナが奪還を発表しました。動画の中でゼレンスキー大統領は、「勝利の場所であるこの島から、500日間のことを全ての兵士に感謝したい」「我々は必ず勝つ」と述べ、さらなる領土奪還に向けた決意を示しました。
ウクライナの南部や東部では、現在も両軍による激しい攻防が続いています。 
●ロシア経済への締め付け強化求める、米CIA元長官 7/9
米中央情報局(CIA)のデビッド・ペトレイアス元長官はウクライナ侵略を続けるロシアに触れ、プーチン大統領は軍事面や経済面で大きな打撃を連続的に被っており、米国はロシアへの圧力をさらに強めるべきだとの見解をこのほど示した。
CNNの電話取材に応じ、「プーチン(氏)は極めて困難な状況に追い込まれている」とし、「我々はさらに締め付けを強め続ける必要がある」と強調した。
盤石の権力基盤を築いているとされたプーチン氏の権威は先月、ロシアの民間軍事企業「ワグネル」の創始者プリゴジン氏の反乱発生で揺らぐ結果となった。反乱は短期で収束したものの、プーチン氏が実権を握った1990年代以降ではその指導力の真贋(しんがん)を問う最大の試練だったとの見方もある。
米中央軍司令官なども歴任した退役陸軍大将であるペトレイアス氏は現在、民間の投資運用企業の幹部を務める。同氏はロシア国内の状況について、プーチン氏は「戦場では自国兵を死なせ、自国の経済でも同様の苦境に遭遇している」と分析。
ロシア経済の窮境について「我々の多くが見込んでいたほどの打撃ではなかったが、それでも問題を生じさせている」と主張した。
その上でロシア経済が抱え込むことになった広範な障害に言及。膨らむ予算の赤字、西側の主要企業1000以上の撤退、優れた技術を持つ大手の石油企業の撤収や西側世界との交易の多くの途絶に触れた。
ロイター通信によると、ロシアの原油や天然ガス輸出関連の収入は今年上半期に前年同期比で47%減の3兆3800億ルーブルに落ち込んだ。ロシア財務省のデータを引用したものだが、納税申告も、物価低下や売上高の影響もあって下落したという。
ペトレイアス氏はさらに、ウクライナ侵攻が始まって以降、能力や技量を持つロシア国民の国外への頭脳流出が相当な規模で進んでいる現状に言及。「世界ののけ者になった国にはもはや住みたくないと思う最も優秀で才能ある数十万人規模の国民を失った」とも決めつけた。
欧米諸国などがロシアに科した経済制裁については致命的な効果を与えていないとの見方も出ている。米国のサマーズ元財務長官を含む一部のエコノミストは、制裁は多くの国が履行していないため想定していたほどの影響力を発揮していないとも指摘した。
一方で、米イエール大学のソネンフェルド教授は制裁はかなり甚大な規模の打撃をロシアに与えていると主張。「ロシアはもはや経済大国ではない。その経済は多量の出血を被っている」と断じた。
●東部リマンをロシアが砲撃、8人死亡=ウクライナ当局 7/9
ウクライナ東部ドネツク州のリマンで8日、ロシアの攻撃により少なくとも8人が死亡した。ウクライナ当局が発表した。
ウクライナ内務省によると、このロシアの砲撃では負傷者も13人出ている。また、住宅や店舗、車両3台などに火が付き、消防隊によって消し止められたという。
ウクライナはこの日、侵攻を受けてから500日目を迎えた。
6月に始まった反転攻勢は、東部ドネツク州や南東部ザポリッジャ州に集中している。ロシアがミサイルやドローンでの攻撃を続ける中、ウクライナ軍の前進には時間がかかっている。
リマンは鉄道の要衝で、侵攻開始直後にロシアに制圧されたものの、昨年10月にウクライナが奪還した。
ウクライナ東部軍のセルヒイ・チェレヴァティ報道官は7日、テレビの取材で、ロシアはリマンに「かなり強力な戦力を集中している」と語った。
ドネツク州のパヴロ・キリレンコ知事はソーシャルメディアに8日、「午前10時ごろ、ロシアは複数のロケットランチャーでリマンを攻撃した」と投稿。住宅1棟と店舗1軒が破壊されたと述べた。
BBCはこの主張を検証できていない。
6日には西部リヴィウで、ロシアのロケット弾が集合住宅を攻撃し、95歳の女性を含む10人が亡くなった。この攻撃では40人が負傷しており、リヴィウの市長は同氏の民間インフラに対する「最大級の攻撃」だと述べた。
その前の週には、ロシア占領地域に近い東部クラマトルスクでレストランやショッピングセンターが攻撃され、子どもを含む13人が亡くなっている。
ロシアはここ数カ月、ウクライナ各都市にミサイルやドローン攻撃を行っており、民間施設に損害を与え、大規模な停電を起こしてきた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日、昨年の開戦から間もなくロシア軍艦への降伏を拒み、ウクライナの抵抗のシンボルとなった黒海のズミイヌイ島(英名スネーク島)を訪れた映像を公開した。
ゼレンスキー氏は、「この勝利の場所から、私たちの兵士全員にこの500日間について感謝したい」と述べた。
反転攻勢についてゼレンスキー氏は先にBBCのインタビューで、前進は遅いと認めている。
アメリカ軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長は今週初め、ウクライナは順調に前進しているが、反転攻勢は困難で「大きな犠牲を伴う」だろうと話した。
ウクライナ軍によると、反転攻勢では大部分がロシアに占領されているバフムート市でも行われている。
ウクライナの軍司令官は先週、、火力不足が作戦を妨げていると述べ、西側諸国が約束した武器の納入が遅いことに不満を表明した。
こうした中でアメリカ政府は7日、ウクライナにクラスター弾を供与すると発表した。
クラスター弾は、1つの爆弾から多数の小型爆弾が飛び散る兵器。殺傷力が高く、不発として残った一部が民間人に危害を及ぼす危険があることから、100カ国以上で使用が禁止されている。このため、アメリカ政府の決定についても批判の声が多く上がっている。
しかしゼレンスキー氏はこの決定について、「タイムリーで、大規模で、なんとしても必要な防衛支援パッケージ」だと感謝を述べている。
●ゼレンスキー氏が兵士激励 ロシアは兵力増強 侵攻継続を強調 7/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から500日となった8日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、西部を訪れ、反転攻勢を進める兵士たちを激励しました。一方、ロシア側は、ショイグ国防相が新たな部隊を視察したと発表するなど、兵力を増強して侵攻を継続する姿勢を強調しました。
ロシアによる軍事侵攻から500日となった8日、ゼレンスキー大統領は西部リビウを訪問し「ウクライナの自由と独立のために戦う500日だった。戦うすべての人たちに感謝する」と述べ、謝意を示すとともに兵士たちを激励しました。
ウクライナ軍の参謀本部は9日、東部ドネツク州で激しい戦闘が続いているとし、このうちマリインカでは、すべてのロシア側の攻撃を撃退したと主張しました。
また、南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリやアゾフ海に面した港湾都市ベルジャンシクに向かう方面で反撃を継続しているとして、反転攻勢を進める姿勢を強調しています。
一方、ロシア国防省は8日、ショイグ国防相が南部軍管区の演習場を訪れ、契約軍人で構成された新たな部隊の訓練の様子を視察したとする映像を公開しました。
ロシアとして兵力の増強に力を入れ、侵攻を継続する姿勢を強調したものです。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日、「ウクライナは主導権を維持し、前線のほとんどで反転攻勢を展開している。ロシア軍は依然として占領地域を維持することにほぼ専念している」と分析しています。
●クリミア橋爆発 ウクライナ「先制攻撃だった」関与を公式に認める 7/9
去年10月に起きたウクライナ南部の「クリミア橋」爆発をめぐり、ウクライナ国防省の次官は8日、「先制攻撃だった」として関与を公式に認めました。
ロシアが一方的に併合したクリミア半島と本土を結ぶクリミア橋は去年10月、トラックに積まれた爆弾が爆発して橋が一部崩壊しました。プーチン大統領はウクライナによるものだとして報復攻撃を行いましたが、ウクライナ側は関与について認めていませんでした。
こうした中、ウクライナ国防省のマリャル次官は8日、自らのSNSに「大規模戦争の日々500日」とする振り返りを投稿し、「ロシアの兵站を混乱させるため、クリミアの橋に先制攻撃を仕掛けた」と関与を認めました。
ロシアメディアはこの投稿について、ウクライナが初めて関与を「公式に認めた」と報じています。
クリミア橋の爆破をめぐってウクライナ側は、保安局のマリュク長官が、「物流ルートを断ち切りたい」と考えて「適切な措置をとった」と発言していましたが、具体的な説明はしていませんでした。
●禁止条約に加盟しているイギリス・スナク首相が立場の違い示す クラスター弾 7/9
アメリカ政府がクラスター爆弾をウクライナへ供与すると発表したことに対し、イギリスのスナク首相は供与に否定的な立場を示しました。
スナク首相は8日、無差別に民間人を殺傷するおそれのあるクラスター爆弾について、「イギリスは製造や使用を禁止する国際条約に加盟している」と述べ、アメリカとの立場の違いを明確にしました。
そのうえで、これまで長距離兵器を供与してきたことなどを例に、「ウクライナを支援する役割を果たし続ける」としています。
一方、ウクライナのレズニコフ国防相はアメリカによるクラスター爆弾の供与を歓迎したうえで、「我々の領土を占領から解放する目的でのみ使用する」と自身のSNSに投稿。
「民間人の被害を避けるため都市部では使用しない」、「公式に認められたロシアの領土では使用しない」などとし、限定的な使用にとどめることを強調しました。

 

●プリゴジンで終わりではない…ロシア反軍奇襲予告「プーチン揺さぶる計画」 7/10
反プーチン性向の民兵隊がロシア本土攻撃を予告した。民間軍事会社ワグネルグループの武装反乱が引き起こしたクレムリンの混乱を利用してプーチン大統領を揺さぶろうとする目的だ。
英ガーディアンの日曜版であるオブザーバー紙は8日、「自由ロシア軍団」の指揮官であり報道官であるマクシミリアン・アンドロニコフ氏とのインタビューを掲載した。ウクライナの首都キーウで行われたこのインタビューでアンドロニコフ氏は「来月ごろにまた別の奇襲があるだろう。これはわれわれの3回目の作戦になるもので、4回目、5回目が続くだろう」と話した。続けて「われわれには野心にあふれた計画があり、すべての領土を解放させようと思う」と付け加えた。
「カイザル」という別名を使用しているアンドロニコフ氏はインタビューで、プーチン政権の「終末」を予想したりもした。「ワグネルグループ創設者プリゴジン氏の反乱でプーチン大統領の力が弱くなり、現政権は2024年末を越すことができず崩壊するだろう」というのが彼の見通しだ。
彼は「ロシア軍の士気が落ち内部の亀裂が大きくなっている。金のために入隊したロシア兵が金をもらえず不満を爆発させている」と主張した。
彼はスターリンのように23年の長期政権で被害妄想にとらわれたプーチン大統領を引き下ろすためには「言葉ではなく武器が必要」という主張も広げた。アンドロニコフ氏は「弱い相手を踏みにじろうとするプーチンの性向を考慮すると政治的対話は無意味だ」と声を高めた。
親ウクライナ性向のロシア人約200人で構成された自由ロシア軍団は5月と6月に国境に近いロシア西南部ベルゴロドを急襲しロシア軍と交戦したりもした。
オブザーバーによると、アンドロニコフ氏はソチとサンクトペテルブルクでフィットネスコーチとして活動した人物だ。昨年2月に戦争が勃発した後ウクライナ側に立った。ロシア国営メディアは彼に対し「極端主義者でありナチ主義者」と描写したりもする。しかしアンドロニコフ氏はこの日のインタビューで「立憲君主主義者」と自称し、「民間人を狙ったロシア軍の無差別砲撃に怒ってウクライナ側に立った。ロシアとウクライナの未来のために戦って死ぬだろう」と強調した。
●ワグネルに続き…再び武装反乱か? ロシア反政府軍が本土攻撃を予告 7/10
ウクライナを支持するロシア人武装組織がロシア本土への攻撃を予告した。民間軍事会社ワグネルによる武装反乱の影響がまだ残る中、ロシアのプーチン大統領の指導力に疑問を持たせる狙いがあるとみられる。
自由ロシア軍(FRL)の指揮官と報道官を務めるマキシミリアン・アンドロニコフ氏は「来月ごろにはまた別の奇襲攻撃が行われるだろう。これはわれわれによる3回目の作戦となり、4回目、5回目と続く」とした上で「われわれには全ての領土を開放する野心に満ちた計画がある」と述べた。英日刊紙ガーディアン日曜版オブザーバーとのインタビューで明らかにし、この記事は8日(現地時間)に報じられた。
アンドロニコフ氏は「プーチン政権は近く衰退する」との見方を示した。アンドロニコフ氏は「ワグネル創設者のプリゴジンが起こした武装反乱後、プーチン大統領の力は弱まっている。ロシア軍の士気は低下し、内部分裂が進んでいる」などと指摘し「金のために入隊したロシア軍兵士は金を受け取れず不満を持っている。プーチン政権は2024年末を越えられず崩壊するはずだ」と予想した。
アンドロニコフ氏は「プーチン大統領を引きずり落とすには武器が必要だ」とも主張した。アンドロニコフ氏は「ソ連の指導者だったスターリンが晩年そうだったように、23年にわたり権力の座にいたプーチン大統領も被害妄想にとらわれている」「彼を引きずり下ろすには口ではなく武器が必要だ」と訴えた。その上でアンドロニコフ氏は「弱い相手を踏みにじろうとするプーチン大統領の性格を考えると、政治的な対話は無意味だ」とも述べた。
オブザーバーはアンドロニコフ氏について「ロシアのサンクトペテルブルクなどでフィットネスのインストラクターとして活動した人物」と紹介した。昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻後はウクライナを支持し、ロシア国営メディアはアンドロニコフ氏を「極端主義者でありナチス主義者」と批判している。実際にアンドロニコフ氏はロシアの極右団体「ロシア帝国運動(RIM)」で活動したこともある。オブザーバーは「ウクライナを支持する別の準軍事組織『ロシア義勇軍団(RVC)』も極右集団とつながりがある」と説明した。
自由ロシア軍には約200人の兵士がいる。今年5−6月にウクライナとの国境に近いロシアのベルゴロド州でロシア軍と戦闘し、集落の一部を占領した。
●トルコ大統領、ロシアに穀物合意延長要請 プーチン氏8月訪問へ 7/10
トルコのエルドアン大統領は8日、ロシアに対し、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意を少なくとも3カ月延長するよう要請していると述べた。また、ロシアのプーチン大統領が8月にトルコを訪問するとも明らかにした。イスタンブールで、ウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談後に行われた共同記者会見で話した。
ゼレンスキー氏はトルコに先立ち、ブルガリアとチェコを歴訪。11日に始まる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でウクライナの加盟が承認されるよう、加盟国に働きかける目的がある。
エルドアン氏は、17日に期限が切れる穀物合意の延長へ向け作業が進んでおり、8月のプーチン氏のトルコ訪問で主要な議題になると明らかにした。
エルドアン氏は記者会見で「われわれが望むのは、合意の更新を2カ月に1回ではなく少なくとも3カ月に1回にすることだ。この期間が2年間になるよう努力する」と述べた。
エルドアン氏によれば、ゼレンスキー氏との会談では穀物合意の他に捕虜交換が議題に上った。
ゼレンスキー氏は、結果が出るまでコメントは控えるとした上で、ロシア側勢力により移送された子供たちを含むすべての人質と捕虜の返還に関する詳細についてエルドアン氏と協議したと話した。
NATO加盟国のトルコは、ロシアがウクライナに侵攻した後も双方と良好な関係を維持。昨年は両国の捕虜交換で仲介を支援した。
●BRICS首脳会議、対面開催か プーチン氏、身柄拘束も―南ア 7/10
南アフリカのラマポーザ大統領は9日、同国で来月開催される新興5カ国(BRICS)首脳会議について、「物理的な」会合になるだろうと述べ、対面開催の意向を示した。AFP通信が報じた。
BRICSメンバーのロシアのプーチン大統領には、侵攻したウクライナ占領地からの子供連れ去りを巡って、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。南アはICC加盟国で、プーチン氏が出席すれば、理論上は身柄を拘束される可能性もある。
ラマポーザ氏は「首脳会議の形式について、詰めの議論をしている」とした上で、「物理的なサミットにするつもりだ」と述べた。プーチン氏が出席するかどうかには触れなかった。
ラマポーザ氏は4月下旬、自身が党首を務める与党として、ICCからの脱退を目指すと発言。大統領府が直ちに発言を撤回したものの、プーチン氏の逮捕状を巡り対応に苦慮していることをうかがわせていた。
●進化し続ける世界情勢の中で進路を見出す務めを託されたトルコ新外相 7/10
5月下旬のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の再選に伴い、トルコの新外相にハカン・フィダン氏が任命され、同国の外交政策に再び注目が集まっている。
トルコ外交の指導者が交代する事を受けて、専門家らはフィダン新外相の指示の下でのトルコの今後の進路に注目している。
フィダン外相の博士過程研究が外交政策における諜報に焦点を置いたものであったことから、正常化の取り組みと安全保障主導の外交政策アプローチの制度化の両面を重視したより積極的な立場をトルコが取る可能性が高まり得ること以外は、一般的には、多大な変化は無いと考えられてはいる。
55歳の新外相は、2010年から2023年までトルコ国家情報機構長官を務め、シリアやイスラエル、エジプトを初めとした中東諸国との和解の取り組みを指揮した、トルコ国内で非常に影響力のある人物である。
「経常赤字の補填は引き続き最優先課題であり続け、そのためにトルコは欧米の同盟国とのより建設的な関係を構築して行く可能性がある。」オズグル・ウンルヒサルシクリ(アナリスト)
交渉スキルの高さで名高いフィダン外相は、高官レベルの協議で本領を発揮しており、複雑な地政学的課題を切り抜けたり、他国の入り組んだ国内情勢を把握する際立った能力を示している。
フィダン氏は、2022年、シリアとトルコの両政府間の政治協議の基盤を構築するためにシリアの情報機関の責任者と複数回会談している。これは、トルコ政府のアサド政権との関係の正常化、そして、トルコで非合法のクルディスタン労働者党とトルコ政府によって同一視されているシリアのクルド人民防衛隊(YPG)関連の安全保障上の懸念への対処のために、この方向での取り組みが継続され得ることを示している。
手堅い外交経験に加えて、フィダン氏は、国際援助機関のトルコ国際協力調整庁を通してバルカン半島や中東、アフリカ、中央アジアでインフラ整備や人道支援を推進し、トルコのソフトパワーの拡大に努めてきた。
フィダン外相は、国際原子力機関のトルコ代表を務めた経験もあり、イランの核交渉についても明るい。
今回のフィダン氏の外相への任命は、トルコ政権が地域的、世界的な課題により積極的な役割を果たしていきたいという意思を示したものと一般に解釈されている。
外相として、フィダン氏は、スウェーデンのNATO加盟の是非や米国からのF16戦闘機の納入といった厄介な問題について欧米諸国と交渉を行うという難局に挑むことになる。
フィダン外相は、木曜日、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長とブリュッセルで会談を行った。トルコ政権は、トルコが推進した反テロ法のための修正条項にスウェーデン側が同調し、テロ組織を支援する個人の訴追をスウェーデン当局が実行可能とする必要があると主張している。
「スウェーデン政府は、法改正とトルコに対する防衛産業の制限の撤廃に向けていくつかの措置を講じました」と、フィダン外相は述べた。
トルコがスウェーデンの加盟に同意する引き換えにワシントンがF16の売却を承認するか否かは依然として不明である。今年早くには超党派の上院議員のグループがトルコがスウェーデンのNATO加盟を承認するまで米議会はF16の売却を検討すべきではないとジョー・バイデン米大統領に申し入れた。
米国のジャーマン・マーシャル・ファンドのアンカラ事務所のオズグル・ウンルヒサルシクリ代表によると、フィダン外相は米政府や欧州各国政府で高い評価を受けているという。「これは、外相就任当初において、かれにとって大きな強みになります」と、ウンルヒサルシクリ代表はアラブニュースに語った。
最近、フィダン外相は米国のアントニー・ブリンケン国務長官とロンドンで会談した。その際、ブリンケン国務長官は、フィダン外相を「長年の同僚」と呼んだ。この会談では、ウクライナ情勢とNATOの拡大が最重要議題だった。
専門家らは、トルコの外交政策に根本的な変化は生じず、フィダン外相は大転換よりも継続を選択すると考えている。
「何よりも第一に、フィダン氏はエルドアン大統領の外相です。(前任者のメヴリュット・)チャヴシュオール元外相がそうだったように、フィダン氏も大統領から指示された政治的方向性に基づいて外交政策を展開することになります。フィダン氏は、トルコの諜報機関の長官だったことから、外交政策に非常に積極的で、ほぼすべての重要な外交政策分野に関わってきました」と、ウンルヒサルシクリ代表は語った。
しかし、トルコの外交政策は外貨に強く依存する同国の経済状況に左右されざるを得ず、現在のトルコリラ安の進行とインフレ率の急騰の影響を考慮に入れる必要がある。
「私は依然として今後のトルコの外交政策に変化はあり得ると予想しています。経常赤字の補填は引き続き最優先課題であり続け、そのためにトルコは欧米の同盟国とのより建設的な関係を構築して行く可能性があります」と、ウンルヒサルシクリ代表は解説した。
また、ウンルヒサルシクリ代表は、ロシアや湾岸諸国からの支援が赤字対策に役立つ可能性は短期的にはあるものの欧米の金融市場へのアクセスが中期的には肝要になるとも述べた。
緊迫するトルコ経済の下支えのために,7月17日から19日の間、エルドアン大統領はサウジアラビアやカタール、UAEを歴訪する計画である。ロイター通信によると、エルドアン大統領は、特に、エネルギーやインフラ、防衛分野での湾岸諸国からの直接投資(当初約100億ドル、やがて300億ドルまで増額)を求めると予想されているという。
独立系政策アナリストのフアド・シャバゾフ氏は、チャヴシュオール元外相とは異なりフィダン外相はある程度の柔軟性を示す可能性があると語った。
「チャヴシュオール元外相は外交上の礼儀を重視し、強引な説得を避けようとしていましたが、フィダン外相はエルドアン大統領の重要な盟友であり、一部の欧米諸国との友好関係を犠牲にしてでも大統領の保守的かつ現実的な外交政策の支持者であろうとするでしょう」と、シャバゾフ氏はアラブニュースに語った。
シャバゾフ氏は、欧米諸国と中央アジアのネットワークについてのフィダン外相のポートフォリオはやや手薄かもしれないと認めているものの問題ではないと確信している。
「エジプトやイスラエルとの外交上の雪解けが元に戻ることはないと考えています。フィダン外相自身がこれまでの過程を取り仕切ったのであり、すぐにそのフォローアップを行うはずです」と、シャバゾフ氏は締め括った。
トルコとエジプト両国の大統領は、7月27日にトルコで会談を行う予定である。
●ウクライナ東部 激しい戦闘続く NATO首脳会議で確実な支援訴え 7/10
ロシアによる侵攻が続くウクライナでは9日も東部を中心に、激しい戦闘が続いているとみられます。ウクライナではこれまでに各国から表明された支援と実態に大きな隔たりがあるという指摘も出ていて、今週開かれるNATO=北大西洋条約機構の首脳会議などを通じて確実な支援を訴えたい考えです。
ウクライナ軍の参謀本部は9日、東部ドネツク州のリマンやバフムトなどにロシア側が勢力を集中させ、ウクライナ軍を陣地から押し出そうと攻撃を仕掛けているものの、撃退に成功したと発表しました。
一方、ロシア国防省は9日、ドネツク州内でウクライナ軍の戦車や弾薬庫などを破壊したと主張し、依然、東部を中心に激しい戦闘が続いているとみられます。
ウクライナ軍による反転攻勢が続く中、ドイツのシンクタンク「キール世界経済研究所」は、各国がことし5月末までの間にウクライナに供与を発表した戦車の数は757両にのぼるものの、引き渡しを終えたのは471両と全体の60%余りにとどまり、表明された支援と実態に大きな隔たりがあると指摘しています。
これに関連して、ウクライナ国防省のマリャル次官は、5日、NHKの単独インタビューで「重要なのは兵器が足りていないということだ。東部でも南部でも兵器や兵員の数で依然ロシアに劣っている」と強調し、さらなる軍事支援を強く訴えました。
ゼレンスキー大統領もアメリカABCテレビのインタビューで、11日から始まるNATOの首脳会議に触れ「すべての同盟国によってウクライナへの支援の約束がなされるだろう」と述べていてウクライナとしては会議の場などを通じて確実な支援を訴えたい考えです。 
●“プーチン大統領がプリゴジン氏と先月会談” ロシア大統領府 7/10
ロシア大統領府はプーチン大統領が武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏と先月下旬に会談していたことを明らかにしました。プーチン大統領としては反乱は収束し国内は安定しているとアピールするねらいもあるとみられます。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、記者団に対し、プーチン大統領が武装反乱を起こしたワグネルの代表プリゴジン氏と先月29日、首都モスクワのクレムリンで会談していたことを明らかにしました。
ペスコフ報道官によりますと会談は、プーチン大統領が招き、プリゴジン氏を含むワグネルの35人の指揮官らと3時間近く行われたとしています。
そしてプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻でのワグネルの活動や、先月24日にかけて起きた武装反乱についてみずからの見解を示したうえで「彼らの説明に耳を傾け、今後の戦闘での雇用について選択肢を提供した」としていて、ワグネルの戦闘員を兵士として契約することなどについて意見を交わしたとみられます。
またペスコフ報道官は、プリゴジン氏らが「自分たちが大統領の揺るぎない支持者であり、祖国のために戦い続ける用意があると強調した」と説明しています。
プーチン大統領が、武装反乱のあと、プリゴジン氏と会談したことが明らかになったのは初めてです。
プーチン大統領としては反乱は収束し、国内は安定しているとアピールするねらいもあるとみられ、今後、プリゴジン氏に対しどのような処遇を行うのかが焦点となります。
●プーチン大統領、プリゴジン氏と会談 6月29日、反乱後初 ロシア 7/10
ロシアのペスコフ大統領報道官は10日、プーチン大統領と民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が6月29日にモスクワのクレムリン(大統領府)で会談していたと明らかにした。
ウクライナ侵攻中の6月23〜24日、プリゴジン氏がショイグ国防相らの解任を求めて武装反乱を起こしてから、プーチン、プリゴジン両氏の会談は初めてだったとみられる。
プリゴジン氏は24日、自身やワグネルが処罰されない条件として、ベラルーシに出国することでプーチン政権と合意。しかし、仲裁者で一度はベラルーシ入りを確認した同国のルカシェンコ大統領が今月6日、「プリゴジン氏はロシア北西部サンクトペテルブルクにいる」と述べるなど、同氏が合意を履行せずに両国間を行き来する実態が浮かび上がっていた。
ペスコフ氏によると、会談にはプリゴジン氏ら経営陣やワグネル部隊の指揮官ら計35人が呼ばれ、約3時間続いたという。会談の事実は大統領府、プリゴジン氏側のいずれによっても発表されておらず、一部メディアが伝えたのをペスコフ氏が確認した。
ペスコフ氏の説明では「プーチン氏は指揮官らの言葉に耳を傾け、今後(の軍務)について提案した」「指揮官らは最高司令官である国家元首の忠実な支持者かつ兵士だと強調した」という。
●ワグネル創設者プリゴジンはなぜ今もロシアで自由の身なのか? 7/10
民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンは反乱を起こした後も、ロシアで自由に活動しているようだ。そうだとすれば、彼は今もなんらかの「安全を保障される」取り決めによって保護されている可能性があると、アメリカのシンクタンクである戦争研究所(ISW)が指摘した。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は突然、自分が仲介したロシアとの取り決めによってベラルーシに避難したはずのプリゴジンが、実はロシアにいると発表した。ISWはウクライナ紛争に関する最新の分析の中で、このことを重く見ている。
「今朝の時点で、ワグネルの戦闘員たちは、バフムトから撤退した後に移動した宿営地に留まっている」と、ルカシェンコは6日の会見で語った。「エフゲニー・プリゴジンはサンクトペテルブルグにいる。あるいは今朝、モスクワに飛んだかもしれないし、他の場所にいるかもしれない。とにかく、ベラルーシにはいない」
詳細はまだ不明だが、反乱を終結させた6月下旬の取り決めでは、プリゴジンとワグネルの戦闘員に対する告発は取り下げられ、ロシア国防省の傘下に入りたくない戦闘員とプリゴジンはベラルーシに行くことになっていた。
ロシア政府は無関心のふり
ワグネルの代表がロシアにいるとなれば、いくつかの疑問が生じる。モスクワに進軍しようとした反乱の罪を、プーチンは見逃したのか。プリゴジンが合意の条件を守っているかどうかをロシア政府が懸念していないように見えるのはなぜか。
ルカシェンコが声明を出した後、プリゴジンの居場所について問われたロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は質問を一蹴し、ロシア政府にはプリゴジンの動向を追跡する「能力」はないし、「願望」もないと述べた。
ISWは、プリゴジンがロシアで自由に活動できるのは、彼が今も 「何らかの安全保障によって守られているか、ロシア政府がプリゴジンを物理的あるいは法的な標的にするよりも、ロシアでの彼の評判を落とすことを優先し続けているかのどちらか」であると報告している。
反乱が終わって以来、プリゴジンは公の場に姿を現していないが、親プーチン派のメディアは7月6日、ロシアの治安当局がサンクトペテルブルクのプリゴジンの邸宅を家宅捜索した際に撮影されたとされる画像を公開した。そこには、金の延べ棒、武器、現金、そして大量のかつらが写っていた。
ウクライナ政府当局は、反乱の失敗を理由にロシア政府はプリゴジンを暗殺するつもりでいる、と発言している。
ウクライナの国防情報部長キリロ・ブダノフ少将によれば、ウクライナ政府は、プリゴジンの反乱計画とロシアの諜報機関連邦保安庁(FSB)が進めているプリゴジン暗殺計画の両方を知っていたという。
ルカシェンコは6日、ウクライナの主張を一蹴し、自分もプーチン大統領もプリゴジンの暗殺を望んでいないと述べた。ISWによれば、ルカシェンコは、プーチンが将来的にプリゴジンを殺そうとするかもしれないという臆測を退けた。
「ロシア政府当局が、武装反乱を起こした人物のことを、本気で気にしていないとしたら素晴らしいことだ」と、ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問はツイートした。「では、プリゴジンはいったいどこにいるのか?金と武器とワグネルの傭兵と一緒に?」
ISWは6月27日の報告で、プーチンは「プリゴジンを直接的に排除すると、プリゴジンがウクライナ侵攻におけるロシア国防省の不手際の犠牲になったように見えてしまうと判断したのだろう」と分析した。
ロシアの元実業家、政治活動家で現在はイギリスで亡命生活を送っているミハイル・ホドルコフスキーは、本誌に対し、プーチンはこの問題で「窮地に陥っている」可能性が高いと語った。
厳しい処置は反発を招く
プーチンは、プリゴジンとその戦闘員たちに武力で報復するリスクを冒さないことに決めた。なぜなら、ワグネルの戦闘員が、プーチンとプーチン政権に武器を向ける可能性があるからだ。
「プーチンが反乱を起こした人物を処罰しないのであれば、プリゴジンのようなタイプの反乱が再び起こる可能性が高くなる」と、エネルギー会社ユコスの社長だったホドルコフスキーは言う。彼は2003年に脱税などの罪で逮捕・起訴され、13年まで禁固刑に服していたが、その原因はプーチン批判という政治的なものだったと反プーチン派は主張している。
「人々に罰を与え始めたら、現役のロシア軍の半数がプリゴジンに味方していることが明るみに出かねない。そうなると、処罰によってより大きな反乱と生んでしまうことになる」と、彼は付け加えた。
●プーチン大統領、「プリゴジン氏の標的」ゲラシモフ総参謀長を事実上更迭 7/10
ロシアのプーチン大統領が武装反乱を起こしたロシア民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏の「標的」だったワレリー・ゲラシモフ総参謀長(合同参謀本部議長格)を更迭したという報道があった。
ロシア独立メディアのモスクワタイムズは9日(現地時間)、ロシア軍事チャンネルを引用し、ゲラシモフ総参謀長が公式的にはロシア軍を引き続き率いるが、ウクライナ戦争の総司令官から解任され、戦争に対する発言権がなくなったと伝えた。これを受け、ゲラシモフ総参謀長は1月にウクライナ戦争の総司令官を引き受けてから6カ月で退くことになった。
モスクワタイムズはゲラシモフ総参謀長の代わりにミハイル・テプリンスキー大将が事実上、ウクライナ軍事作戦の責任を負っていると報じた。テプリンスキー氏は昨年6月にロシア空軍総司令官に就任し、4月からウクライナ戦争で副司令官の任務を遂行している。テプリンスキー氏は昨年3月にロシアがウクライナに侵攻して以降、5番目に総司令官職を引き受けることになった。
ゲラシモフ総参謀長は先月23、24日にプリゴジン氏が武装反乱を起こして以降、公開的な席に姿を現していない。セルゲイ・ショイグ国防相が反乱の2日後からロシア軍部隊を訪問し、反乱に関する発言をする姿などが公開されたのとは対照的だ。
プリゴジン氏はウクライナ戦争の功績をめぐりショイグ国防相、ゲラシモフ総参謀長と対立し、2人を拉致しようとしたが、ロシア連邦保安庁(FSB)に発覚すると、武装反乱を起こしたという。
モスクワタイムズはプーチン大統領がプリゴジン氏の反乱を口実にロシア軍高位指揮官を大々的に粛清していて、その責任からロシア軍最高指揮官のゲラシモフ総参謀長も主要な役割から排除されたとみられると伝えた。
先月末、ロシアメディアはロシア軍・情報当局の高官らがワグネルの秘密VIP会員名簿にあったという事実を報道した。これに関連し、一部のロシア軍高位層がプリゴジン氏の武装反乱を知りながらも傍観したという疑惑が提起され、粛清の対象になるという見方が出ていた。
一方、ロシアは11、12日に東欧リトアニアのヴィリニュスで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会談を控えて、ウクライナと西側に強く反発している。「プーチンの口」と呼ばれるメドベージェフ国家安全保障会議副議長はウクライナと東欧にある核施設を攻撃することも可能だと警告した。
メドベージェフ副議長は9日、テレグラムに「我々の原発に対するNATOのミサイル攻撃の動きが確認されれば、ロシアはウクライナの南部・西部などにある原発と東欧の原子力施設に対する同時攻撃シナリオを考慮しなければならない」と主張した。
これはウクライナが英国からこの日供与されたストームシャドーミサイルでモスクワから西側に約300キロ離れたデスノゴルスク原発を攻撃しようとしたというロシア宣伝チャンネルの報道と関連した脅迫性の発言と解釈される。メドベージェフ副議長はウクライナ戦争に関連して強硬発言を続けている人物だ。
●ロシア外務省、NATOはザポリージャ原発について「議論を」 7/10
ロシア外務省のザハロワ報道官は9日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の指導者は、週内に開催されるNATO首脳会議で、ウクライナ中南部のザポリージャ原発について議論すべきだと述べた。NATO加盟国の大半が直接影響を受ける範囲に入っているためとしている。
ザハロワ報道官は、273日前にロシア軍の兵站(へいたん)を破壊するためクリミア橋に最初の攻撃を行ったというウクライナのマリャル国防次官のSNSへの投稿を引用し、ウクライナはテロリストを支援する政権だと述べた。
その上で、ウクライナが「ザポリージャ原発への組織的な損害という『自己救済』計画に乗り出している」とも述べ、NATO首脳会議が議題として取り上げるべきだと主張。NATO加盟国の「大多数」が直接影響を受けるとの見方を示した。
同原発を巡っては、ウクライナのゼレンスキー大統領が先週、ロシア軍がザポリージャ原発の屋根に「爆発物のようなもの」を設置し、「おそらく原発への攻撃を模倣しようとしている」と主張したことで、警戒が広がっていた。
ザポリージャ原発は昨年3月以降、ロシア軍の支配下にある。元々のウクライナ人スタッフによって運営が続いているが、当初はロシア軍に「銃口」を突きつけられる形での勤務だったとも伝えられている。
ロシアのプーチン大統領は侵攻開始以降、核の恐怖をちらつかせてきた。ただ、今回のゼレンスキー氏の発言で、プーチン氏が核弾頭の発射ではなく、ザポリージャ原発自体を武器に変えることで核事案を引き起こす可能性があるとの見方が浮上している。
ただ、ザポリージャ原発が及ぼす影響範囲については、ザハロワ氏の主張には誤りがあるとみられる。同原発の原子炉は国際原子力機関(IAEA)が介入する形で「冷温停止状態」に置かれており、大規模な核災害の可能性は限られている。
英シンクタンク「国際戦略研究所」の専門家、ウィリアム・アルバーク氏は、報じられた設置物が爆発した場合、1986年のチェルノブイリ原発事故後のような破壊は再現されないだろうと予測。原発周辺地域は今後40年間がんになる確率が高まる放射線ゾーンになる恐れがある一方、NATO加盟国の「大半」が影響を受けるような状況にはならないとの見方を示した。
●穀物合意、ロシア・トルコ首脳会談が延長へ唯一の希み=RIA 7/10
ロシア通信(RIA)は10日、来週17日に期限が切れる黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意について、ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の交渉が延長に向けた唯一の望みとなっていると報じた。
穀物合意は2022年7月に国連とトルコの仲介によって成立。世界的な食料危機を防ぐことを目的としている。
RIAによると、交渉に詳しい関係者は合意延長に関する楽観的な見方はなく、状況を変えることができるのは両首脳の交渉だけで、これが唯一の頼みの綱だと述べた。
エルドアン氏は8日、穀物合意を少なくとも3カ月延長するようロシアに要請していると述べ、プーチン大統領が8月にトルコを訪問すると明らかにした。
ロシア大統領府は週末、電話会談は予定されておらず、両首脳の会談は確実ではないとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、南東部マリウポリでロシアに徹底抗戦した「アゾフ連隊」のメンバーら5人をトルコから連れ帰った。ロシア大統領府は捕虜交換の合意にトルコが違反したと指摘した。
●ウクライナ住宅地に空爆 「戦争犯罪」とロシア非難 7/10
ウクライナでは9日から10日にかけてロシアによる空爆が相次いだ。ウクライナ南部ザポロジエ州のマラシコ知事は10日、前線に近い町オリヒウの住宅地が誘導爆弾による攻撃を受け、40代の男女4人が死亡したと発表。人道支援が行われているさなかでの攻撃だったといい、「戦争犯罪だ」と非難した。
報道によると、爆弾は学校を直撃。ザポロジエ州では住宅地10カ所がロシアの攻撃にさらされた。南部ミコライウ州ではインフラ施設がミサイルで狙われた。
一方、ロイター通信はロシア側の情報として、ロシアが一方的に「併合」した南部クリミア半島で9日、ロシアの防空システムが巡航ミサイル1発を迎撃したと報じた。被害は出ていないという。
クリミアを巡っては、ウクライナのマリャル国防次官がロシアの侵攻開始500日目に当たる8日、「ロシアの兵たんを断つため、クリミア橋に最初の攻撃が行われた」と通信アプリ「テレグラム」に投稿。ロシア本土と結ぶクリミア橋で昨年10月に起きた爆破事件へのウクライナ側の関与を認めた。
●ロシア軍の死者4万7千人か アフガン侵攻の3倍、独立メディア推測 7/10
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は10日、昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、ロシア軍の死者が約4万7千人に上るという推測を発表した。ソ連時代に約10年間続いたアフガニスタン侵攻の3倍、ロシアになってからのチェチェン紛争の9倍だとしている。
独立系メディア「メディアゾーン」や研究者と計算した。重傷者を含めた兵力の損失は、少なくとも12万5千人になるとみている。
「ロシアの損失に関する最初の信頼できる評価だ」としている。
侵攻でのロシア兵の死者について、ロシア国防省の発表は昨年9月の5937人が最後だ。メドゥーザは「世論の反発を招きかねないという理由だけでなく、ウソが政権の基本戦略になっている」と批判している。
●カンボジア首相、ウクライナにクラスター弾使用しないよう要請 7/10
カンボジアのフン・セン(Hun Sen)首相は9日、米国がウクライナにクラスター弾供与を決めたことを受け、ウクライナに対しクラスター弾を使用しないよう求めた。カンボジアにはベトナム戦争(Vietnam War)や内戦時の不発弾や地雷が今も残っている。
フン・セン首相はツイッター(Twitter)に、ウクライナ軍が「ロシアに占領されている地域でクラスター弾を使えば、長年あるいは長ければ100年にわたりウクライナの人々を重大な危険にさらすことになる」と投稿した。
カンボジアでは1970年代に米国が投下したクラスター弾で数万人が死傷するという「つらい経験」をしたことを引き合いに出し、「半世紀以上も前の出来事だが、いまもすべてを除去する手段がない」と続けた。
「米大統領とウクライナ大統領に対し、ウクライナの人々のため、この戦争でクラスター弾を使用しないよう求める。真の犠牲者となるのはウクライナの国民だ」と訴えた。
米国はベトナム戦争の最中、カンボジアとラオスにある共産主義者の拠点を攻撃するため両国にも空爆した。
カンボジアでの地雷や不発弾による死者は過去40年で2万人に上っている。
●クリミア大橋にウクライナがミサイル、ロシアは着弾阻止と発表… 7/10
ロシア国防省は、ウクライナ軍が9日、南部クリミアと露本土を結ぶ「クリミア大橋」の破壊を狙ってミサイルを発射し、露軍が着弾を阻止したと発表した。ウクライナ軍は、大規模な反転攻勢により、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミアと露本土との分断を目指している。露軍の主要な補給路の寸断を昨年10月に続いて再び狙った可能性がある。
クリミア大橋への攻撃は、露軍のウクライナ侵略作戦の総司令官を務めるワレリー・ゲラシモフ参謀総長が10日、軍幹部らとの会合で明らかにした。ウクライナ軍が地対空ミサイルS200を地上攻撃用に改造して攻撃に使ったという。
9日には露南部ロストフ州の軍用空港や西部カルーガ州もS200で攻撃され、計4発のミサイルのうち2発を迎撃し、2発を電子戦装置で無力化したという。
旧ソ連が開発したS200の射程は約300キロ・メートル。ウクライナ軍が地上への攻撃に本格使用したとすれば、露軍占領地域の奥深くへの攻撃が今後、活発化するとみられる。
●米のウクライナへのクラスター爆弾供与めぐりNATO内で温度差 7/10
アメリカのバイデン政権がウクライナに対し、殺傷能力が高いクラスター爆弾を供与すると発表したことについて、同じNATO=北大西洋条約機構の一部の加盟国からは、クラスター爆弾の使用や供与に反対する立場も表明され、温度差が出ています。
アメリカのバイデン政権は今月7日、ロシアへの反転攻勢を続けるウクライナを支援するためとしてクラスター爆弾の供与を発表しました。
クラスター爆弾をめぐっては一部が不発弾として残って民間人に被害を及ぼすおそれがあるとして、使用などを禁止する国際条約があり、NATOでは31の加盟国のうちアメリカやトルコなどを除く23か国が批准しています。
このうちスペインのロブレス国防相は8日「主権国家アメリカの決定は尊重するが、スペインはクラスター爆弾についての決定を共有しない」と述べ、供与に反対する考えを示しました。
また、カナダ政府は、地元の公共放送CBCに対して「われわれはクラスター爆弾の使用を支持せず、市民、特に子どもたちに与える影響をなくすことに力を尽くす」と述べ、使用に反対の立場を示しました。
このほか、イギリスのスナク首相が「イギリスはクラスター爆弾の製造や使用を禁止し、その使用を抑制する条約に加盟している」と強調するなど、アメリカの決定をめぐってNATO内で温度差が出ています。

 

●ウクライナ「169平方キロメートルの領土を奪還」…主に南部戦線 7/11
5月中旬から大規模反転攻勢に乗り出したウクライナ軍は主に南部で169平方キロメートルの領土を奪還したという。ウクライナ軍がメディアセンターを通じて10日に明らかにした。
これは黒海最大の港湾都市オデッサに相当する広さで、ソウルのほぼ4分の1の領土を取り戻したことになる。ウクライナ戦争はヘルソン州とザポリージャ州を中心に南部戦線のほかドンバス地方とハルキウ州東部でも激戦が続いている。
ウクライナ軍は昨年11月初めにヘルソン州の首都ヘルソン市を奪還し、それから7カ月以上過ぎた5月中旬から6月初めには本格的な反転攻勢を再開した。しかしウクライナが西側諸国からの武器支援を待つ間にロシア軍は塹壕(ざんごう)を深く掘り進め、地雷などで防衛ラインを強固にしたため、戦果は当初期待したほどにはなっていない。
ウクライナは先週、南部のザポリージャ州メリトポルとベルディアンスク方面を攻撃し「1キロメートル以上前進した」と主張している。ロシア軍はザポリージャ州の60%を占領しており、メリトポルとベルディアンスクはこのロシア軍占領地域の北部と南部の都市だ。ウクライナは100キロ離れたこの2カ所を一気に占領することで、クリミア半島の陸上ルート遮断を狙っている。
しかしこれら一連の反転攻勢にもかかわらず、現状はまだ困難な状況が続いている。先週南部を中心に奪還した領土は10平方キロメートルにとどまった。東部戦線でもバフムトなどで5平方キロメートルの奪還にとどまっている。
進行前と初期にロシア軍がスミ州、チェルニヒウ州、キーウ州から撤退した後、ウクライナ軍は昨年9月初めにハルキウ州、10月初めにはドネツク州、11月初めにヘルソン州などで1万平方キロメートル以上の領土を奪還した。そのため最近の169平方キロメートルの領土奪還ではこれらに遠く及ばない。
ロシアは以前から占領しているクリミア半島とドンバス地方の約4万平方キロメートルに加え、昨年の全面侵攻から17カ月が過ぎた頃には6万平方キロメートル以上を追加で掌握した。そのためウクライナの全領土60万平方キロメートルのうち約17%が今もロシアの手中にある。
●ウクライナ軍、激戦地バフムトへ前進も戦況膠着 両軍で死傷者拡大 7/11
ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍は10日、ロシア軍が占拠する東部ドネツク州の激戦地バフムトの奪還に向けて進軍し、包囲網を狭めている。だが、戦闘は足踏み状態が続き、両軍で死傷者が増えている模様だ。ロイター通信などが報じた。
ウクライナのマリャル国防次官は通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ軍が最近1週間にウクライナ南部で約10平方キロ、東部で4平方キロの領土を奪還したと発表した。ウクライナ軍幹部は9日、バフムトへの前進に成功していると述べた。
ウクライナ軍によると、6月上旬の反転攻勢開始以来、同軍は南部で約170平方キロ、バフムト周辺で24平方キロを取り戻したという。ただし進軍速度は遅く、ロシア軍はウクライナ軍の優勢を認めていない。ロイター通信は、ウクライナ軍に相当数の死傷者が出ており、衛生兵が不足していると伝えた。
また、ウクライナ当局によると、ウクライナ南東部で人道支援物資の配布所となっていた学校施設がロシア軍の攻撃を受け、これまでに市民5人が死亡した。
一方、ロシア側の死傷者も拡大しているとみられる。英国防省は10日、ロシア軍が負傷兵の応急措置に苦慮しているとの分析を発表した。特に、国境地帯では負傷者の増加に医療が追い付かず、軍の病院は将校クラス以外の手当てができていない可能性があるという。
負傷兵への対応で、一部の民間医療施設も通常の医療サービスを提供できない状態に陥っているとみられる。ロシア兵の死者のうち、多く見積もると約半数は、適切な応急処置が講じられていれば助かっていた可能性があるという。
●米英首脳ロンドンで会談 ウクライナ支援“継続が重要”で一致 7/11
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議を前に、アメリカのバイデン大統領はイギリスでスナク首相と会談し、ウクライナへの支援の継続が重要だという認識で一致しました。
会談は10日、ロンドンの首相官邸で行われ、冒頭バイデン大統領は「われわれの関係は盤石だ」と強調し、スナク首相も「われわれの同盟、そしてヨーロッパ大西洋の安全保障を強化するためにあらゆる手だてを講じていきたい」と述べました。
アメリカ・ホワイトハウスによりますと、両首脳は11日から始まるNATO首脳会議に向けた準備状況を確認するとともに、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援の継続が重要だという認識で一致しました。
また、イギリスの首相官邸によりますと両首脳は、北欧のスウェーデンがNATOに速やかに加盟する必要性についても確認しました。
バイデン大統領としては、ウクライナ支援が主な議題となるNATOの首脳会議を前に、アメリカに次ぐ規模の軍事支援をしているイギリスと意見のすり合わせを図ったものとみられます。
ただ、イギリス側によりますと、会談の中でバイデン大統領は、アメリカによるウクライナへのクラスター爆弾の供与について説明したのに対し、スナク首相は、イギリスはクラスター爆弾の使用などを禁止する国際条約を批准している立場から使用は奨励しないとし、軍事支援のあり方をめぐって温度差も見られました。
●捕虜だったウクライナ司令官5人が帰国 エルドアン大統領の真意は? 7/11
先週末、ロシアの軍事侵攻開始から500日を迎えたウクライナ。
その侵攻初日に占拠されたのが、黒海に浮かぶズメイヌイ島だ。
後に奪い返したこの島を、ゼレンスキー大統領が訪問した。
記念碑にメッセージを書き込む大統領。
その映像を、食い入るように見つめる男性たちがいた。
それは、ロシア軍の捕虜になった、ウクライナ軍の司令官5人。帰国することになったのだ。
5人は2022年、ロシアとの激しい攻防が行われた南部の街・マリウポリの製鉄所で戦っていた。
300日以上踏んでいなかった母国の大地。
帰国を信じて待ち続けていた家族たちと抱き合い、再開を喜んだ。
ゼレンスキー大統領「英雄たちがウクライナに帰ってきた。トルコのエルドアン大統領に深く感謝する。」
5人はトルコにとどまることを条件にロシアから解放されたが、トルコ側は帰国を容認。
ロシアとも近いとされているエルドアン大統領だったが、週末にはさらに「ウクライナはNATO加盟にふさわしい」と述べ、NATO=北大西洋条約機構への、ウクライナの加盟を支持したのだ。
一方、8月にはプーチン大統領とも会談すると発表。トルコの真意は、どこにあるのだろうか。
●ロシア NATOの首脳会議前にウクライナ加盟に向けた議論けん制 7/11
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議を前に、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ウクライナのNATO加盟に向けた議論を強くけん制するとともに武装反乱後の国内の結束を強調する動きを打ち出しています。
反転攻勢を続けるウクライナ陸軍のシルスキー司令官は10日、東部ドネツク州の激戦地バフムトについて「街はウクライナ軍の射程に入っている」とSNSに投稿し、ロシア軍を後退させていると強調しました。
ウクライナではロシア側の攻撃による市民の犠牲も相次いでいて、地元の当局などによりますと南部オデーサへの砲撃と南部ザポリージャ州への空爆でそれぞれ4人が死亡したということです。
こうした中、11日からリトアニアで開かれるNATOの首脳会議には、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加する予定で、将来のウクライナの加盟に向けた議論も焦点となります。
クレバ外相は10日に「NATOの同盟国は、ウクライナの加盟に必要な行動計画をなくすことで一致した」とSNSに投稿し、加盟への道が短縮されるとして歓迎しました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日、ウクライナのNATO加盟をめぐり「わが国にとって確実に危険、脅威になるだろう。断固とした対応が必要となる」と述べ、加盟に向けた議論を強くけん制しました。
また、ペスコフ報道官は、プーチン大統領が先月29日、モスクワのクレムリンで民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏と会談したと明らかにし、プリゴジン氏らが「大統領の揺るぎない支持者であり、祖国のために戦い続ける用意があると強調した」としています。
ロシア国防省は10日、プリゴジン氏と確執があったロシア軍のゲラシモフ参謀総長が会議に臨む様子だとする動画を公開していて、ロシアとしては武装反乱のあとも国内の体制は揺らがず、結束が保たれていると強調するねらいがあるとみられます。
●NATO首脳会議開幕へ ウクライナへの長期的支援の内容も焦点に 7/11
NATO=北大西洋条約機構は11日から首脳会議を開きます。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、ウクライナの将来のNATO加盟に向けて、より強いメッセージを打ち出せるかや、アメリカなどが表明するとみられるウクライナへの長期的な軍事支援の内容が焦点となります。
NATOの首脳会議は11日から2日間の日程でバルト三国のリトアニアで、アメリカのバイデン大統領をはじめ加盟国の首脳らが出席して開かれます。
10日、会議に先立って行った会見でストルテンベルグ事務総長は「ウクライナへの支援を強化し、ウクライナをNATOに近づける」と強調しました。
首脳会議ではウクライナ軍への複数年にわたる支援や、NATO加盟国とウクライナが対等の立場で協議する「NATOウクライナ理事会」の創設で合意する見通しです。
さらに理事会の初会合は12日に行われ、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加する予定です。
NATOは15年前にウクライナが将来、加盟することで合意していますが、ロシアによるウクライナ侵攻が続くなかで加盟に向けてどこまで踏み込むかをめぐり、加盟国の間で立場の違いも出ていて、より強いメッセージを打ち出せるかが焦点です。
また、加盟が実現するまでの間、ロシアが侵攻を繰り返さないよう「安全の保証」を求めるウクライナに対し、アメリカなどが表明するとみられる長期的な軍事支援の内容も注目されています。
●スウェーデン加盟前進、NATOに実利 実は北欧きっての軍事大国 7/11
スウェーデンのクリステション首相は10日、北大西洋条約機構(NATO)加盟が事実上決まったことを受け、「待ち望んでいた瞬間だった。わが国は非常に大きな一歩を踏み出した」と述べた。ロシアによるウクライナ侵攻以降、共に加盟を申請していたフィンランドは今年4月に先に正式加盟を認められ、スウェーデンだけがいわば「取り残された」形となっていた。念願の加盟がほぼ確実になったことで、今後の焦点は現実的なロシアの脅威への対応に移る。
大きな意味を持つのは地政学的な変化だ。スウェーデンが正式加盟した場合、バルト海沿岸のほぼ全域がNATOの勢力圏となる。特にロシアにとって痛手なのは、ロシアの飛び地カリーニングラード州がNATO側に完全に「包囲」されることだ。
NATOにとっては、スウェーデンの軍事力も大きな魅力に映る。スウェーデンは19世紀のナポレオン戦争終結後、200年以上も外国と交戦していない中立国だったが、自国製戦闘機「グリペン」や潜水艦を保有するなど、北欧きっての軍事大国でもある。総兵力は約1万5000人。2025年までの5年間で国防予算を40%引き上げる計画も進めている。米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」によると、サイバー能力も欧州最先端の国の一つという。
北方の海域を熟知する強みもある。欧州メディアによると、バルト海の平均水深は約60メートルで、米国の原子力潜水艦などが稼働するには浅すぎるという。だがスウェーデンは20世紀初頭からバルト海で潜水艦を運用してきた経験がある。28年までには新世代型の潜水艦群をバルト海に展開する予定で、スウェーデン第1潜水艦隊のリンデン司令官はロイター通信に、「私たちは、NATOがこれまで持っていなかった地域の専門知識を有している」と語った。
バルト海では昨年9月、ロシアとドイツを結ぶ海底パイプライン「ノルド・ストリーム」でガス漏れが発生するなど、海底インフラの脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されてきた。スウェーデンの加盟により、今後はこの地域の安全保障が強化されるとの期待もある。
一方、ウクライナ侵攻前から高まっていた緊張がさらに激化する可能性もある。ロシアは16年、核弾頭を搭載可能な新型ミサイル「イスカンデルM」をスウェーデンの対岸のカリーニングラード州に配備した。こうした情勢を受け、スウェーデンは10年に停止していた徴兵制を18年に復活させた。
スウェーデンは戦後、その中立的立場から「平和国家」のイメージを定着させてきた。特にパルメ首相(在任1969〜76年、82〜86年)は軍縮に取り組む国連の委員会のトップを務め、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)政策を厳しく批判するなど人権外交を展開してきた実績もある。NATO加盟により、長年培ってきた中立外交に影響が出る可能性もある。 
●ウクライナ悩ます人口減少問題、戦争終結後も経済に打撃か 7/11
ウクライナ戦争が長引く中、同国から欧州各国に逃れた難民数百万人の一部は、今暮らす国への定住を考え始めている。
テレビディレクターで2人の子どもの母でもあるナタルカ・コルシュさん(52)は、首都キーウ(キエフ)に建てたばかりの夢の家を戦争初期に後にした。ポルトガルに慣れ始めたばかりではあるが、ウクライナで戦闘が終わっても再び居を移すつもりはない。
「52歳の今、ゼロから始めなければならない」と語るコルシュさん。ポルトガルに慈善団体を設立し、今では「家」と呼ぶラゴアの町で他の移民を助けたいと考えている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査によれば、国外に逃れたウクライナ人の大半はいつか帰還したいと考えているが、すぐに帰還する予定があるのは10人に1人程度。過去の難民危機、例えば、シリアでは難民の帰国願望は時間とともに薄れていったことを、UNHCRの調査は示している。
ロイターが取材した企業トップ4人は、多くの難民が帰国せず、労働人口が今後何年も減少し続ける可能性を見据えて格闘していた。この状況は、人口統計学者と政府も悩ませている。
ウクライナ有数の製薬会社であるファルマクは戦争の前年に3000人近い従業員を抱え、売上高は70億フリブナ(約272億円)を超えていた。
ボロディミール・コスティウク最高経営責任者(CEO)は、多くの人々が海外に流出したり、ウクライナ国内で避難生活を余儀なくされたり、軍隊に徴兵されたりしたため、有能な研究所での労働者や製造専門家の不足に直面していると語った。
「この人々をなんとかウクライナに戻らせる必要がある。海外に長くいればいるほど、戻りたいと思わなくなるからだ」とコスティウク氏は言う。
ウクライナのシンクタンク、経済調査政治研究所が同国企業約500社を対象に行った調査では、3分の1が人材不足を重要な課題と考えていることが分かった。
徴兵年齢の男性はウクライナからの出国が制限されているため、難民の大半を占めるのは働き盛りの女性や子どもたちだ。
農場や工場は、徴兵によって労働者を失っている。一方、国外に脱出する可能性が最も高いのは教育を受けた若い女性であり、高度な教育や訓練を必要とする産業で、特に深刻な人材不足を招いている。
ウクライナのシンクタンク、経済戦略センターが今年3月に発表した調査によると、欧州の他の国々に避難した女性の3分の2は高等教育を受けている。
労働人口の減少は、長期的に消費需要にも打撃を与える。
大手スーパーマーケットチェーンを運営するフォジー・グループは、戦争初期にロシア軍がキーウ周辺から撤退すると、この地域で店舗を再開した。
だが、客足は今も鈍い。新商品担当の取締役は「数百万人の人々が何も買わなくなり、国から去ってしまった現状では、回復について語れない」と言う。
男性も脱出か
ウクライナの人口問題は、数百万人の難民だけにとどまらない。国立科学アカデミーの人口学者、エラ・リバノバ氏は、ウクライナは高齢者の割合が大きく、かねて世界で最も低い水準だった出生率は戦争が勃発して以来、0.9から0.7に低下したと説明した。
100万人がロシア軍と戦っており、さらに数百万人がロシアに占領された地域に住んでいるか、ロシアに強制移動させられた。ウクライナ政府は死傷者の数を公表していないが、4月にリークされた米情報機関の推計値では、労働年齢の男性1万5000人が死傷したと考えられる。
リバノバ氏はまた、戦時中の男性の出国規制が解除されれば、多くの男性が外国で家族と一緒に暮らすようになる可能性があると警告。「大きなリスクは、男性が国外に出て行ってしまうことだ。若く、有能で、進取の気性に富み、教育を受けた人々を失うだろう。それが問題なのだ」と語った。
現在、ロシアは国内の約5分の1を占領している。リバノバ氏は、ウクライナが支配する地域の人口は、侵攻前の政府推計の4100万人から、既に2800万人にまで減少していると見積もっている。推計では2014年にロシアに併合されたクリミアは除外されており、この地域の同年初頭の人口は約200万人だった。
戦争以前から、ウクライナの人口は減少していた。
1991年の独立当時、ウクライナの人口は約5200万人だった。2001年に1度だけ行われた国勢調査では4850万人だ。
欧州連合(EU)欧州委員会の共同研究センターが3月に発表した調査によると、戦闘がいつまで続き、どれだけの人々が海外に移住するかにもよるが、ウクライナの人口は今後30年間でさらに約5分の1ないし3分の1減少する見通しとなっている。
経済的損失
政府は現在の人口を公表していない。ロシア、ベラルーシ、ロシア支配地域にどれだけの人口がいるのかが不確実なため、最良の推計値でさえ大きな誤差を伴う。
人口学者のリバノバ氏は、ウクライナ支配地域の今年初頭の人口を2800万人から3400万人と推定している。
経済戦略センターは、EU諸国の難民1000人以上を対象とした今年2月の世論調査に基づき、86万人から270万人のウクライナ人が永久に国外に留まる可能性があると推計した。その結果、ウクライナ経済は年間の国内総生産(GDP)の2.55─7.71%を失う可能性があるという。
ただ、政府はロシアによる侵略後に愛国心が急激に高まったことを理由に、難民の帰国をもっと楽観視している。オレクシー・ソボレフ経済副大臣は最近の円卓会議で、戦闘終結から3年以内に難民の最大75%がウクライナに戻るとの見通しを示した。
●仏、ウクライナに長距離ミサイル供与へ=マクロン大統領 7/11
フランスのマクロン大統領は11日、ウクライナへの長距離ミサイル供与を開始すると表明した。
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれるリトアニアに到着した際、「ウクライナが自国領土を防衛できるようにするため、われわれのドクトリンを守りながら、ウクライナ軍が深く攻撃できるよう、武器と装備の提供を増やすことにした」と述べた。ミサイルの数や種類についての詳細は明らかにしなかった。
●ウクライナ軍の反転攻勢1カ月、支配地域を広げたのはロシア軍 7/11
この夏のウクライナによる反転攻勢は、同国政府が望んでいたほど順調には進みそうにない。ウクライナ軍は、再び守りを固めたロシア軍が、両国の間に延びる長大な国境線沿いに設けた防衛線に綻びを見つけなければならない。
ウクライナ軍の兵士たちが反転攻勢を開始したのは、1カ月前の2023年6月10日。兵士たちはその初日だけで、ウクライナ東部および南部国境、そしてルハンシク州の町ビロホリウカで25の戦闘に関わり、重要地区で一握りの村を解放した。
だが、これをかつての大進撃と比べると見劣りは否めない。2022年の9月6日〜10月2日の約1カ月に実施した反転攻勢では、ウクライナ軍は500以上の集落と4600平方マイル(約120ヘクタール)の領土を奪還した。つまり現在進行中の反攻は膠着状態に陥っている。ウクライナのボロロディミル・ゼレンスキー大統領は、現在の状況を「望んでいたよりも遅い」と表現した。
今春から初夏の時期、ウクライナ軍が次の攻勢に向けた計画立案に時間をかける間に、ロシア軍は準備を整え、約966キロメートルの前線に沿って、自軍の拠点を強化した。ロシア軍がウクライナ軍を押し返し、陣地を得ることも可能になった。
米陸軍の元准将マーク・キミットはウォールストリート・ジャーナルの取材に対し、ウクライナ軍の側には「今のところ顕著な進展はみられない」と指摘し、ウクライナ軍は前線地帯で「(敵の)弱点を見極めようとしている」と述べた。
両軍にとって、ドネツク州バフムトは、軍事的に優先度が高い要衝であり続けている、とキミットは述べた。ウクライナ軍がこの街に進軍すれば、ロシアとの国境に直接向かう道を進軍できるからだ。
ザポリージャ州の都市ザポリージャおよび港町ベルジャーンシクも極めて重要だ、とキミットは指摘した。なかでも前者には、欧州最大の原子力発電所が置かれている。
一方、ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク、戦争研究所(ISW)が7月9日付で発表した報告書によると、ウクライナ陸軍司令官で大将のオレクサンドル・シルスキーは、ウクライナ軍がバフムトに向けて成功裏に進軍を続けており、ベルジャーンシクおよびメリトポリでも作戦を継続中だと述べた。
その2日前の7月7日には、ウクライナ国防次官のハンナ・マリャルが、同国軍部隊が、バフムト南部で1キロ以上前進したと報告した。ロシア側の情報筋も、ウクライナがドネツク州西部およびザポリージャ州西部を攻撃したと伝えている。
このように複数方面で前進が試みられている一方で、ロシア国防省およびロシア政府を支持する軍事ブロガー(ミリブロガー)たちは、ザポリージャ州西部で攻撃を行っているウクライナ軍部隊は小規模グループに過ぎないと指摘する。これらの部隊は、ロシア軍の後方拠点および倉庫やインフラを攻撃する目的で派遣されたものだからだ。
ISWが公開した双方向マップは、現在の戦闘において、実際にはロシアが掌握した面積の方が、ウクライナが奪還したエリアよりも広いことを明らかにしている。ドネツク州、マリウポリ、そして激戦地となっているヘルソンなどの主要地域もそうだ。
イギリス国防省は7月6日、バフムト周辺におけるロシアの防衛は、「通常はロシア西部に駐留しているロシア空挺部隊を中心におこなわれている。これらの部隊は通常、北大西洋条約機構(NATO)との間で緊張が増す事態が起きた際に緊急対応にあたる精鋭軍だ」と報告した。
●NATO首脳会議始まる ウクライナ支援強化の方針示す 7/11
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議が11日、バルト三国のリトアニアで始まり、ストルテンベルグ事務総長は冒頭、ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナへの支援をさらに強化していく方針を示しました。
NATOの首脳会議は、リトアニアの首都ビリニュスで日本時間の午後8時すぎから始まりました。
ストルテンベルグ事務総長は冒頭「われわれはきょう、ウクライナへの政治的、実用的な支援を増強する」と述べ、ロシアに対抗するためウクライナへの支援をさらに強化していく方針を示しました。
会議は2日間にわたって行われ、アメリカのバイデン大統領やフランスのマクロン大統領など31の加盟国の首脳に加え、10日のトルコとの会談で加盟に向けて大きく前進したスウェーデンのクリステション首相も参加しています。
主な議題はウクライナに対する支援でウクライナ軍への複数年にわたる支援やNATO加盟国とウクライナが対等の立場で協議する「NATOウクライナ理事会」の創設で合意する見通しです。
さらに、加盟国の間で立場が分かれているウクライナの将来のNATO加盟をめぐっても協議します。
ウクライナについてNATOは15年前「将来加盟する」ということで合意していて、今回の首脳会議でどこまで踏み込んだメッセージを打ちだすかが焦点です。
フランスとドイツ ウクライナに追加の軍事支援へ
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議に参加しているフランスとドイツは11日、反転攻勢を続けるウクライナに、それぞれ追加の軍事支援を行うことを発表しました。
このうち、フランスのマクロン大統領は「相手の敵陣深くまで攻撃する能力を持てるようにするため、武器と装備の供給を増やし、長い射程のミサイルを供与することを決めた」と述べ、ロシア側が築いた防衛線の突破などを目指すウクライナ軍への支援を強化する方針を明らかにしました。
そのうえで「私たちにとってきょう重要なのはウクライナへの支援、NATOの結束、そして、ロシアをこの戦争に勝たせないという強い決意をメッセージとして送ることだ」と強調しました。
また、ドイツ政府も、およそ7億ユーロ、日本円にして1000億円余りに相当する軍事支援を表明しました。
この中には、地対空ミサイルシステム「パトリオット」2基、「マルダー歩兵戦闘車」40両、主力戦車「レオパルト2」より旧式の「レオパルト1」25両などが、含まれています。
ドイツのショルツ首相は、報道陣に対し「ドイツはウクライナ支援の中心を担っている」などと述べ、ウクライナへの軍事支援を続ける姿勢を強調しました。
ゼレンスキー大統領 “ウクライナ抜きで議論”
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、NATO首脳会議で始まった議論を巡り、「私は、会場のリトアニアのビリニュスに向かっているが、ある文言について、ウクライナ抜きで議論されていると知った。この文言とは、ウクライナの加盟そのものではなく、加盟に向けた招待に関するものだ」とSNSに投稿し、今回、ウクライナの将来的なNATO加盟を認めることなど、ウクライナの求めに応じた議論が行われていないと不満を示しました。
さらに「NATOへの招待や加盟までの期限も示されないとすれば、なんともばかげた話だ。ウクライナをNATOに加盟させる用意もなく、これによって、ロシアはテロ行為を続けることになるだろう」と反発しています。
そのうえで、ゼレンスキー大統領は「会議で率直に議論する」と述べ、ウクライナがNATOに加盟する必要性を直接訴えるとしています。
“さらなる国防費の増額検討を” NATO首脳会議前に
今回のNATO首脳会議では、防衛力の強化に向け、各国はGDP=国内総生産に占める国防費の割合を最低でも2%にすることで合意する見通しですが、会議を前に、一部の国の首脳は、さらなる国防費の増額に言及しました。
このうち、バルト三国のラトビアのカリンシュ首相は「2027年には、GDPに占める国防費の割合が3%になる計画だ」と明らかにしたうえで、新型兵器の購入を進めた場合、早ければ来年にも3%に達する可能性があるとしました。
また、ルーマニアのヨハニス大統領も、GDPに占める国防費の割合を現在の2.5%から、今後数年のうちに増やす可能性があるとしました。
そのうえで「2%は上限ではなく、われわれのスタート地点とするべきだ」と述べ、ほかのNATO加盟国も今後、国防費のさらなる増額を検討すべきだという考えを示しました。
ロシア大統領府 「反ロシアの首脳会議」
ロシア大統領府のペスコフ報道官は11日、NATOの首脳会議について「反ロシアの首脳会議だ。われわれの安全保障を守る対策をとるために、非常に注意深く見ている」と述べ、警戒感を示しました。
そして、スウェーデンがNATO加盟に向けて、大きく前進したことに対するロシアの安全保障への影響について、ペスコフ報道官は「間違いなく悪影響がある。ロシアはフィンランドが加盟したときと同様の措置を計画している」と述べ、対抗措置を行う考えを示しました。
そのうえで、ウクライナのNATO加盟をめぐる議論について、「ヨーロッパの安全保障にとって非常に大きな危険をはらんでいる」と強くけん制しました。
一方、ペスコフ報道官は、トルコとの関係について「意見の相違はあるが、トルコとの対話と関係を発展させるつもりだ」と述べ、友好関係を維持してきたトルコとの関係の悪化は避けたい考えをにじませました。
ベラルーシ国防省 ワグネルむかえ軍と訓練行う構え
ロシアと同盟関係にある隣国ベラルーシの国防省は11日、ベラルーシの演習場で、ロシア軍との定期的な合同軍事演習の準備が行われているとしたうえで「安全保障に対する脅威が生じた場合は、安全を確保するため、両国の部隊は即時に出動できる態勢を準備している」と発表しました。
さらに、ロシアの民間軍事会社ワグネルについて「訓練を行い、経験を共有するために演習場に分散したあと、ベラルーシ軍との間で、戦闘作戦の技術や方法に注意を払うことになる」として、ワグネルをむかえ、ベラルーシ軍と訓練を行う構えを示しました。
ベラルーシとの国境にも近いリトアニアの首都ビリニュスでは、NATO=北大西洋条約機構が首脳会議を開く中、欧米側をけん制するねらいがあるとみられます。

 

●中国 習主席「10月にプーチン氏を迎える準備」 7/12
ロシア国営のタス通信は、中国の習近平国家主席が10日、北京でロシアの上院議長と会談した際にプーチン大統領を10月に迎える準備をしていると述べたと伝えました。
プーチン大統領が訪中すれば、去年2月の北京オリンピックにあわせた訪問以来となります。
習近平国家主席は10日、中国を訪問しているロシアのマトビエンコ上院議長と北京の人民大会堂で会談しました。
この会談について、ロシア国営のタス通信が、前の北京駐在の大使を務め、今回、マトビエンコ氏に同行したとするデニソフ上院議員の話として伝えたところによりますと、習主席は「一帯一路」のフォーラムに参加するためとしてプーチン大統領を10月に迎える準備をしていると述べたということです。
中国はことし、アジアとヨーロッパをつなぐ巨大な経済圏構想「一帯一路」をテーマにした国際フォーラムを開く予定で、習主席は3月にモスクワを訪れた際に、プーチン大統領に対し、フォーラムへの出席のため中国に招待したことを明らかにしていました。
プーチン大統領の訪中が実現すれば、去年2月の北京オリンピックにあわせた訪問以来となり、中ロ両国としては一層の関係強化を図るねらいがあるとみられます。
●戦争を逃れ、のうのうと海外のリゾート地で暮らすロシア人 7/12
ロシアのウクライナ侵攻から1年と4カ月が過ぎた。戦闘は続いているが、一方で、侵攻後に国外へ出たロシア人は昨年8月末までに50万人。9月に部分動員令が発出されると、さらに40万人が逃れたといわれる。
隣国トルコやペルシャ湾岸諸国のリゾート地などで暮らす富裕なロシア人も少なくない。ロシア人はビザ無しでも一定期間トルコに滞在できるのだが、そうしたロシア人たちのために現地の家賃が高騰して、地元住民が大迷惑を被っているという。
戦争はプーチンが始めたもので、一般のロシア人に罪はないというのが欧米や日本の基本姿勢だが、もし総動員令でも出れば国外に逃れるロシア人はさらに増え、混乱は増すだろう。それでも「ロシア国民に責任はない」と言っていられるのか――。国際政治学者・鶴岡路人さんの著書『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』の一部を再編成して考えてみたい。
ロシアによるウクライナ侵攻は、「プーチンの戦争」と呼ばれることが多い。侵攻を決定したのがプーチン大統領であることは明確だ。その背後には、もし大統領がプーチンでなければ、このような形での侵攻はおこなわれなかったはずだという理解も存在する。いずれにしても、悪いのは大統領、そしてそうした大統領が率いるロシア政府であって、一般のロシア国民ではないというのである。こうした言説は、戦争においてはよく使われる。「あなた方市民は敵ではない」として、人心の掌握を目指すのである。
今回、ロシアに対する米欧日などによる制裁も、基本的にこうした理解に沿っておこなわれてきた。しかし、ここにきて一般のロシア国民をどのように扱うべきかという議論を避けてとおれなくなってきた。最大のきっかけは、2022年9月21日にロシアで発表された30万人規模の動員である。これによって、一般のロシア人にとって、ウクライナでの戦争が急に自分の問題になり、動員の対象になることを恐れる成人男性の大規模な国外脱出がはじまった。そうした「動員逃れ」のロシア人をどのように扱うかという問題が発生したのである。
一般国民への制裁へ
米欧日を中心とする国際社会は、「プーチンの戦争」という前提で、対露制裁を実施してきた。実際、個人制裁の対象はプーチン大統領を筆頭とする政府関係者や政権と近い人物だった。もちろん、分野別制裁や輸出管理は個人を対象としたものではないし、金融制裁の影響は、クレジットカードが使えなくなるなど、一般国民にも広がっている。また、ロシア経済が全体として落ち込めば一般国民への影響も大きくなる。ただし、制裁の直接の標的は常に政府や(政府に近いことの多い)大企業であった。
しかしEUは、この方針から一歩踏み出すことになった。2022年9月にロシアとの間のビザ円滑化協定を完全に停止する決定をおこなったのである。一般国民を明確に標的にした措置であり、従来の対象を絞った制裁とは基本的性格が異なる。
EUによるこうした決定、さらには政権への制裁から一般国民を含む制裁への対象の変化・拡大には二つの理由が存在した。第一は、ロシアがウクライナで国土の破壊と人々の虐殺行為を続ける最中に、何事もなかったかのようにロシア人旅行者がEU諸国で休暇を楽しんでいるのはおかしい、という道徳的な反発・問題意識だった。ロシア人旅行者を受け入れ続けることへの疑問が生じたのは不思議ではないだろう。
安全保障問題としてのロシア人
しかし、それだけでは単なる「ロシア嫌い(Russophobia)」になりかねない。そこで見落としてはならないのが、第二に、特にロシアと地上国境を接するEU諸国にとって、これが安全保障問題でもあった点である。EUの場合、域内国境管理撤廃の枠組みであるシェンゲンの参加国間であれば、いずれの国からビザの発給を受けても、他のシェンゲン参加国に入国できるという事情がある。しかも制裁によって、ロシアとEU諸国の間の直行の航空便はすべて停止している。そのため、多くのロシア人が、国境を接するフィンランドやバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)に陸路で入国し、その後、EU内の航空便を使って目的国に向かうという流れが開戦後に定着していた。
結果としてそれら諸国では、ロシア人の入国者数が急増することになった。これが安全保障上の脅威とされたのである。バルト三国とポーランドは9月7日、ロシアからの入国者がそれら諸国の安全を脅かしているとして、短期滞在ビザでの入国を原則として禁止することで合意した。
「集団責任」を問うのか
加えて持ち上がったのが、動員逃れのロシア人の受け入れ問題である。9月21日に動員開始が発表された直後から、成人男性のロシア脱出が急増することになった。
そのうえでさらに議論になったのが、動員逃れのロシア人を、原則論として受け入れるべきかという問題だった。受け入れるべきだという議論の背景には、動員が集まりにくくなれば、ロシア軍の増強を防ぐことができるという説明もあったが、ロシアの全体の人口を考えれば、これはあまり説得力のあるものとはいえなかった。国外に逃れたロシア人の正確な数の算出は難しいが、数十万人規模とされる。これによって、人口1億4000万以上を擁するロシアで、30万人とされた動員が不可能になるとは現実問題として考えにくかったからである。
そこでより前面に出されたのは、彼らをプーチン政権や戦争に反対する人々として保護すべきだという政治的・人道的な見地からの議論である。従来の反体制派への支援に加えて、「良心的兵役拒否」の議論の援用ともいえた。
ここで問題となるのは、動員逃れのロシア人の多くも、自らの問題になる前は戦争に賛成していた人が多いだろうという事実である。各種調査で、戦争やプーチン政権への支持率は、開戦後も7割から8割で推移していた。支持していた人の多くは戦争を「他人事」とみていたのであろう。それが、動員によって突然に自らの問題になったのである。彼らは、個人の問題としての動員反対ではあっても、戦争反対であるとは限らない。そうした彼らを受け入れることのリスクや、道徳的妥当性が問われることになった。
リトアニアのランズベルギス外相は、「リトアニアは単に責任逃れをするだけの人々に庇護は与えない。ロシア人は国に残って戦うべきである。プーチンに対してだ」とツイートした。背後には、今回の戦争においてロシア人の「集団責任」を問うべきかという論点が存在する。これは、戦争責任論では極めて困難なテーマとして長年論争の的になってきたが、ランズベルギスの議論は、突き詰めれば、集団責任を追及しているように聞こえる。
これは一つの考え方である。しかし、具体的な戦争犯罪に関わる戦犯としてプーチン大統領などの個人の責任を問うことと、集団としてのロシア人の責任を問うこととの間には大きな断絶がある。加えて、後者の姿勢は、従来の米欧日の対露姿勢とは本質的に違う点については自覚的である必要があろう。
●ロシア軍指揮官がウクライナで死亡の報道 これまでで最も高位の将官か 7/12
ロシア軍の上級指揮官、オレグ・ツォコフ中将がウクライナで死亡したと報じられていることがわかった。ロシア軍は最も経験豊富な指揮官のひとりを失った可能性があるほか、ウクライナで死亡した将官としては最も高位の人物のひとりとみられる。
ウクライナ当局者は、ロシアが占領するウクライナ南部ベルジャンスクにあるロシア軍本拠地へのミサイル攻撃でツォコフ氏が死亡したと明らかにした。CNNは同氏の死亡を確認できていない。
SNS「テレグラム」のロシア人のチャンネル「ミリタリー・インフォーマー」は「ベルジャンスク近くの第58陸軍予備軍指揮所への英国製の長距離巡航ミサイル『ストーム・シャドー』による攻撃で、南部軍管区の副司令官オレグ・ツォコフ中将が死亡した」と伝えた。
ロシア軍の指揮系統が混乱状態にある中、ツォコフ氏はウクライナ侵攻を通じて昇進し続け、2月の大統領令で中将となった。
ロシア人の軍事ブロガーによると、ツォコフ氏は昨年9月にハルキウ州のスワトベ地域で負傷したが軍に残留。当時、同氏は第20親衛軍の指揮官で、第144自動車化狙撃師団の指揮官から昇進したばかりだった。同氏はロシア・サンクトペテルブルクの病院で手当てを受けたという。
51歳のツォコフ氏はロシア軍の期待の星だったようだ。2021年にプーチン大統領が出席したロシア大統領府での士官候補生のための式典で演説した。
ツォコフ氏は軍の近代化を進めたプーチン氏に感謝しつつ「将校という職業は単なる奉仕ではない。天職であり、そして人生の意味であり、偉大なる祖国のために喜んで命を捧げるということだ」と述べた。
独立系アナリストやCNN独自の集計によると、侵攻開始以来、ロシア軍は戦闘で約10人の将官を失っている。
●ウクライナのNATO加盟「条件付き」…首脳会議で共同声明 7/12
北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が11日、リトアニアの首都ビリニュスで2日間の日程で開幕した。共同声明にはウクライナのNATO加盟について「加盟条件が満たされ、加盟国が同意した場合」と盛り込まれた。開幕に先立ち、トルコはスウェーデンのNATO加盟手続きを進めることに同意した。
首脳会議には、バイデン米大統領ら加盟31か国の首脳のほか、日本の岸田首相らパートナー国首脳も出席する。ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も11日夕(日本時間同日深夜)、現地に到着した。
初日の協議では、NATOがウクライナ軍の兵器や装備をNATO基準に近付ける「複数年支援計画」の実施に合意した。ウクライナがNATOと同等の立場でウクライナ政策を協議する「ウクライナ理事会」の新設も決定。ウクライナのNATO加盟については、軍事・民主制度を改革する「加盟行動計画」(MAP)への参加手続きを不必要とする方針も決まった。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は初日の協議後の記者会見で「NATOからの強く前向きなメッセージだ」と強調した。
ただ、共同声明には「ウクライナの将来はNATOの中にある」と記されたものの、具体的な約束は明記しなかった。ゼレンスキー氏は11日、ツイッターへの投稿で「ウクライナをNATOに招待する準備も、同盟の一員にする準備もないようだ」と批判した。
ロシアとの戦闘を想定した「地域防衛計画」も新たに策定した。指揮系統を、北極圏や北欧地域の「北部」、バルト海や中・東欧の「中部」、黒海と地中海の「南部」に設置する。NATO高官は記者団に「ロシアとの戦争に備える。陸海空、サイバー、宇宙空間を含めた包括的で綿密な作戦が描かれた」と説明した。
●NATO、ウクライナ加盟の日程示さず 「条件が満たされれば」 7/12
北大西洋条約機構(NATO)は首脳会議初日の11日、ウクライナの加盟について、「加盟国が同意し条件が満たされれば」認めるとするコミュニケ(声明)を発表した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、同国の加盟が「ばかげているほど」遅れていると批判していた。
NATOはコミュニケで、加盟手続きを迅速に進める必要はあるが、具体的な日程は示さないとした。
ゼレンスキー氏はコミュニケが発表される前に、NATOにはウクライナを招き入れたり加盟国にしたりする「構えはない」ようだとツイッターで述べていた。
ゼレンスキー氏は現在、首脳会議(サミット)が開かれているリトアニアの首都ヴィリニュスに滞在している。
ウクライナ政府は、ロシアと戦争している間のNATO加盟が不可能なことは受け入れている。一方で、戦争が終わり次第、加盟したいと意欲を示している。
ゼレンスキー氏はこの日、加盟に向けた日程について合意がないことについて、「ウクライナのNATO加盟が、ロシアとの交渉において駆け引き材料にされる可能性が残っている。不確実性は弱みだ」とツイートした。
NATOは、ウクライナ加盟の時期と方法を明示していない様子。しかし外交関係者らは、加盟への道筋は明確に示されており、厄介な申請手続きも大幅に短縮されたと強調した。
NATOはこれまでに、ウクライナ軍がNATO軍との「相互運用性」と「政治的統合性」を高めていると認めており、ウクライナの民主主義と安全保障面での改革を支援し続けるとしている。
外交関係者らは、12日に初めて開かれる新たな「ウクライナ・NATO理事会」の創設にも着目すべきだとしている。同理事会ではウクライナも、NATOの全体会合を招集する権利を持つことになる。
それでもなお、加盟への具体的な日程をNATOが明示しないのは、ウクライナにとっては挫折だ。
NATOがウクライナ加盟の具体的な日程を発表する可能性は、もともとほとんどなかった。それにもかかわらず、その日程がないことは「ばかげている」とゼレンスキー氏はあえて発言した。このことはむしろ、大統領による外交の失敗を強調するだけだった。
NATO加盟国の一部は、ウクライナにほぼ自動的な加盟を認めれば、ロシアが戦争をエスカレートさせたり長引かせたりすることにつながりかねないと懸念している。
今後の焦点は、NATO加盟国がどのような長期安全保障をウクライナに約束するかに移る。
西側がこれまで提示してきた安全保障の約束は、ロシアの2度にわたる侵攻を食い止められなかった。NATO加盟諸国は3度目の約束で今度こそ、ロシアを説得したい考えだ。これ以上の侵攻は犠牲が大き過ぎるとロシアを説得するだけの、協力で明確な安全保障を、西側としてウクライナに約束したいというのが、NATO加盟諸国の意向だ。
ゼレンスキー氏はこの日、ヴィリニュスで群衆を前に演説。「NATOはウクライナに安全を与える。ウクライナはNATOの同盟をより強固なものにする」と訴えた。
他方、スウェーデンのNATO加盟については10日、トルコが反対を取り下げた。トルコは、スウェーデンがクルド人武装勢力を受け入れているとして、数カ月にわたってスウェーデンの加盟申請を阻止していた。
スウェーデンは、4月に加盟したフィンランドに続き、32番目のNATO加盟国となる見通し。両国ともロシアがウクライナに侵攻した後に、NATOに加盟する意向を表明した。
ウクライナへの追加支援
11日の首脳会議では、ウクライナに対するさまざまな軍事支援も発表された。
加盟11カ国は連合を結成し、ルーマニアに8月に設立される施設で、ウクライナのパイロットにアメリカ製のF-16戦闘機の操縦訓練を始めるという。
アメリカは5月、西側同盟国がF-16など新型戦闘機をウクライナに供与することを認めた。ソヴィエト連邦時代の戦闘機を使っているウクライナにとっては、重要な軍備のアップグレードとなる。
ウクライナは西側に対して繰り返し、戦闘機を供与することで、最近開始した反転攻勢を支援してほしいと訴えてきた。
ただし専門家らは、ウクライナのパイロットが西側の戦闘機を操縦できるようになるには時間がかかるとしている。
ロシアもクラスター爆弾に言及
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、アメリカがクラスター爆弾をウクライナに供与すれば、ロシアも「同様の」兵器を使用せざるを得なくなると述べた。ロシアの通信社が伝えた。
クラスター爆弾は、広範囲に小型爆弾をばらまく兵器。民間人への影響を理由に100カ国以上が使用を禁止している。
ショイグ氏は、ロシアも同様のクラスター兵器を保有しているが、これまでは使用を控えてきたとした。
しかし人権団体などによると、ロシアが昨年2月にウクライナを侵攻して以降の17カ月間で、両国とも戦闘においてすでにクラスター爆弾を使用しているという。
●NATO総長はウクライナの加盟に期限はない、ゼレンスキー「馬鹿げている」 7/12
NATO首脳は火曜日、「同盟国が同意し、条件が整えば」ウクライナの加盟を認めると述べた。
「NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は記者団に対し、「我々は、ウクライナがNATOに加盟することを再確認し、加盟行動計画の必要条件を削除することで合意した。
「これにより、ウクライナの加盟への道は2段階から1段階に変わることになる」と述べた。
多くのNATO加盟国がゼレンスキー軍に武器や弾薬を提供しているが、ウクライナをNATOに加盟させることについての31の同盟国のコンセンサスは得られていない。その代わり、同盟国の指導者たちは、ウクライナがロシアとの戦争が終われば、より早く加盟できるように、加盟の道筋の障害を取り除くことを決めた。
ゼレンスキーはこの決定に激しく反発した。
「招待にもウクライナの加盟にも時間枠が設定されていないのは、前例がなく不合理だ」と、ヴィリニュスで開催されるNATO首脳会議に向かうゼレンスキーはツイートした。同時に、ウクライナを招待するための “条件 “についても曖昧な表現が加えられている。ウクライナをNATOに招待したり、同盟の一員にしたりする用意はないようだ。”
NATOに加盟すれば、ほぼ10年前にクリミア半島を併合し、最近では東部と南部の広大な土地を奪った巨大な隣国からウクライナを守ることができる。また、NATOに加盟すれば、キエフに安全保障制度の改革、ガバナンスの改善、汚職の抑制を義務づけることができる。
ゼレンスキーの懸念について質問されたストルテンベルグは、いま最も重要なのは自国が戦争に勝つことだと答えた。
トルコがスウェーデンのNATO加盟を推進することで合意し、好意的な雰囲気が広がった直後のサミットで、ゼレンスキーの大げさな発言は緊張を新たにする可能性がある。同盟国は、シーソー状態の交渉を解決し、同盟とウクライナ支援のための明確な計画を策定することを望んでいる。
「我々は同盟国を大切にする」とゼレンスキーはツイッターに書き、「ウクライナも尊敬に値する」と付け加えた。彼はこうも言った: 「不確実性は弱さだ。そして、私はサミットでこのことを率直に話し合うつもりだ”
ゼレンスキーは水曜日、ジョー・バイデン米大統領や他のNATO首脳と会談する予定だ。
ウクライナがNATOへの加盟を希望していることをめぐっては、同盟内で鋭い対立が起きている。
さらに、サミットを主催するリトアニアを含むバルト諸国は、ウクライナを強力に支援し、加盟に向けた明確な道筋を示すよう求めてきた。
しかし、米国とドイツは慎重を期している。バイデンは先週、ウクライナは加盟する準備ができていないと述べた。彼はCNNに対し、NATO加盟には「民主化から他のあらゆる問題まで、すべての資格を満たす必要がある」と語ったが、これはキエフの統治と腐敗に関する長年の懸念に言及したものだ。
さらに、ウクライナをNATOに加盟させることは、侵略に対する抑止力としてよりも、ロシアに対する挑発として機能するのではないかと危惧する声もある。
具体的には、NATO首脳は、ウクライナが同盟とともに完全に活動できるように、ソ連時代の軍事装備とドクトリンを現代の基準に合わせるための一連の複数年プログラムを開始することを決定した。
水曜日には、ウクライナ首脳とゼレンスキーは、ウクライナの安全が脅かされた場合、すべての当事国が危機協議を招集できるNATO・ウクライナ理事会という、アップグレードされた新たな協力の場を立ち上げる予定だ。
ウクライナの将来的な加盟を早めるため、首脳は、しばしば加盟希望国に義務づけられているとされるウクライナの加盟行動計画を廃止することで合意した。
NATOの用語でMAPと呼ばれる行動計画は、NATO加盟を準備する国々に対する助言、支援、実際的な支援など、オーダーメイドのパッケージである。たとえば、ボスニアは現在MAPに参加している。
記者団から、ウクライナの加盟にどのような条件が付されているのかを問われたストルテンベルグは、次のように答えた: 「我々は近代的な防衛・安全保障制度を望んでいる。
また、キエフの希望は、統治基準の強化と汚職との戦いにかかっているかもしれないとも述べた。
ウクライナをめぐる争いは、スウェーデンの加盟を進めるための苦闘の合意とは対照的である。この合意は数日間の集中会議の末に成立し、北欧における同盟の力を拡大する構えだ。
ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障顧問は火曜日、記者団に対し、「NATOの結束が崩れるという噂は、かなり誇張されたものだった」と勝利宣言した。
この協定が発表された際に発表された共同声明によると、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、スウェーデンのNATO加盟を承認するようトルコ議会に要請する。
ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相もまた、同様の措置を取ると見られている。
ハンガリーの外務大臣は火曜日、スウェーデンのNATO加盟に対する同国の批准はもはや「技術的な問題」に過ぎないと述べた。エルドアンはまだ公にはコメントしていない。
ロシアのウクライナ侵攻がモスクワに裏目に出た例としてNATOの拡大を宣伝してきたバイデンにとっても、この結果は勝利である。
フィンランドはすでにNATOの31番目の加盟国となり、スウェーデンは32番目の加盟国になる予定だ。北欧の両国は、戦争によってロシアの侵略への懸念が高まるまでは、歴史的に非同盟だった。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対し、NATOの拡大は「現在の状況を招いた原因のひとつだ」と述べた。
「ヨーロッパ諸国は自分たちの過ちを理解していないようだ」とペスコフ報道官。ペスコフ氏は、ウクライナをNATO加盟に向けて急ピッチで進めることに警告を発した。
「ヨーロッパの安全保障にとって非常に危険だ。非常に大きなリスクを伴う」とペスコフは述べた。
エルドアンは火曜日の夕方、バイデンと会談したが、スウェーデンのNATO加盟を前進させる取り決めについては口を閉ざしたままだった。
バイデンは「あなた方が昨日達した合意」について言及したが、エルドアンはそれについて何も語らなかった。首脳会談の間、この問題について公の場でコメントしなかったエルドアンの発言は目立った。
しかし、エルドアンはバイデンとの関係を発展させたいと考えているようだった。彼は、これまでの会談は “単なるウォームアップに過ぎなかったが、今は新しいプロセスを始めている “と述べた。
トルコ大統領は、アメリカの最新鋭戦闘機とEU加盟への道を求めている。ホワイトハウスはこの2つへの支持を表明しているが、スウェーデンのNATO加盟とは無関係だと公に主張している。
バイデン政権は、40機の新型F-16と近代化キットをアメリカから購入したいというトルコの希望を支持している。
バイデン大統領は、NATOサミットを目玉とする5日間の欧州歴訪中である。
大統領は月曜日を英国で過ごし、ウィンザー城でチャールズ3世と、ロンドンでリシ・スナク首相と会談した。
火曜日にはリトアニアのギタナス・ナセダ大統領と会談し、大西洋を越えた協力へのコミットメントを強調した。
「私たちに影響しないことは、ここでは起こらない」とバイデンはナウセダに語った。ホワイトハウスによると、ナウセダはバイデンに、リトアニア大統領が授与できる最高の勲章であるヴィタウタス大王勲章を授与したという。バイデンはこの勲章を受章した最初のアメリカ大統領である。
水曜日のサミット終了後、バイデンはヘルシンキに移動する。木曜日にはフィンランドのNATO加盟を祝い、北欧の首脳と会談する。
●エルドアンのNATO Uターン トルコ大統領は何を得るのか? 7/12
アンカラ: ヴィリニュスで開催される画期的なNATO首脳会議に先立ち、トルコはスウェーデンの加盟申請に対する抵抗を断念した。この極めて重要な決定を受けて、アンカラが見返りとして確保したであろう譲歩や、同盟内でのトルコの役割がどのように発展していくのかについて、疑問の声が上がっている。
この決定に先立ち、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はEU理事会のシャルル・ミッシェル議長と会談し、トルコとEUの協力関係を復活させ、関係を活性化させる道を探った。
エルドアンは以前、スウェーデンのNATO招致と、1999年以来のEU加盟候補国でありながら2018年以降加盟交渉が凍結されているトルコのEU受け入れとを関連づけた。トルコはまた、ビザ規則の緩和と関税同盟協定の更新の重要性を強調している。
アメリカやヨーロッパとの関係を復活させることは、トルコ経済を強化し、海外からの投資を呼び込み、中央銀行の準備金を支えることにもつながる。
RANE Networkの中東・北アフリカ担当シニアアナリスト、ライアン・ボールは、トルコは現在、EU加盟を目指すストックホルムの全面的な支援を享受していると述べた。
「トルコとのEU交渉の再開という点では、まだ突破口は開かれていないが、ストックホルムはトルコの努力を支援すると約束した。また、エルドアンはトルコとスウェーデンの経済関係を強化する約束を取り付けたようだ」と彼はArab Newsに語った。
NATO首脳会議に向けて、米政府高官は集中的な外交を展開し、トルコ側と何度も会談を行った。火曜日の夕方、エルドアン大統領との会談に先立ち、ジョー・バイデン米大統領は、ユーロ大西洋地域における防衛と抑止力の強化においてトルコと協力する用意があることを表明した。
エルドアンは2021年10月、トルコ軍機79機に対する近代化キットとジェット機40機の売却を含む60億ドルの取引を要求した。
ボールは、トルコの最近の動きはワシントンで好意的に受け止められ、ホワイトハウスがF-16戦闘機売却に関する法案を議会に送る可能性が高まると述べた。
「トゥルキエの人権記録に対する懸念から、特定の議員からの障害は残るだろうが、ホワイトハウスはそれを克服するために影響力を行使するだろう」と彼は付け加えた。
月曜日、米上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、アンカラへのF-16売却の一時停止について、トルコとバイデン政権との話し合いが続いていることを明らかにし、来週中にも結論が出る可能性を示唆した。
ビリニュスでの記者会見でジェイク・サリバン米国家安全保障顧問は火曜日、バイデンがF-16をトルキエに送ることについて「明確かつ明確に」語った。
「これはわれわれの国益であり、トルコがその能力を得ることはNATOの利益でもある」と彼は付け加えた。
CNNのファリード・ザカリアとの会話の中で、バイデンは、スウェーデンの同盟加盟を促進しながら、NATO防衛能力を強化するためにトルコとギリシャとの協定に取り組んでいることを示唆した。
トルコは近々、スウェーデンの加盟議定書をトルコ議会に提出し、同議会はその承認を投票する予定である。しかし、スウェーデンの即時加盟に関する具体的なスケジュールは発表されておらず、トルコ議会は主にエルドアン党率いる連立政権が支配しており、間もなく休暇に入る。
トルコは以前から、スウェーデンが非合法組織であるクルディスタン労働者党(PKK)の活動や資金調達を許していると非難しており、また、コーランの焼却を含む最近のイスラム嫌悪デモについてもストックホルムを批判している。
こうした課題にもかかわらず、両国はトルコの安全保障上の懸念に対処するために緊密に協力してきた。スウェーデンは最近、憲法を改正し、反テロ法を強化し、トルコへの武器輸出を再開した。スウェーデンはまた、トルコの治安当局と協力してテロ活動を追跡している。
英国を拠点とするフォーリン・ポリシー・センターのエムレ・カリスカン研究員は、これはエルドアンのリーダーシップの典型的な例であり、彼にとっては常に結果よりもプロセスが重要なのだと述べた。
「彼の狙いは、トルキエが西側のシステムにとって不可欠な存在であることを示すと同時に、われわれはあなた方に屈しないというメッセージを送ることだ。そうすることで、以前は会うことを拒否していた西側の指導者たちに、週に一度は電話するように強要したのです」とカリスカン氏。
さらに、トルコとスウェーデンは、ストックホルムが現在進行中のテロ対策に関するロードマップを提示し、新たな二国間安全保障コンパクトを確立することで合意した。NATOはまた、同盟内にテロ対策の特別調整官を設置する予定である。
ボールによれば、トルコがNATOの新規加盟国であるフィンランドとスウェーデンによる防衛ボイコットをやめさせようと努力することは、同盟内の結束を高めるかもしれないが、トルコはロシアとの独自の協力関係を維持する可能性が高く、モスクワとの対立においてアンカラをNATOの異端児として位置づける可能性があるという。
5月の大統領選挙でエルドアンが勝利したことを受け、スウェーデンの加盟を妨害しないという決定は政治的・経済的に大きな楽観論を生み、トルコ・リラ安が進行する中でエルドアンの立場を強化する可能性がある。
ストックホルム大学トルコ研究所のポール・T・レヴィン所長は、アンカラがスウェーデンのNATO加盟を梃子にEUに加盟交渉を開始させたり、関税同盟の近代化やビザの自由化を推し進めたりできるとは考えていない。
「例えば、アンカラはテロ法の改正など、ビザ自由化のための多くの条件を満たしていない。しかし、私はF-16の取引が成立することを期待している。防衛協力の深化というアメリカの約束は、アンカラにスウェーデン加盟にイエスと言わせるための前提条件でした」と彼はアラブ・ニュースに語った。
レビンによれば、二国間の安全保障協定は、アンカラが拒否権を撤廃した後、スウェーデンがテロ対策に継続的に取り組んでいることについて、アンカラとトルコの聴衆が少し安心するためのものだという。
「スウェーデン政府高官との会話によれば、彼らは特にPKKに対して真剣に取り組んでおり、テロとの闘いにおいて後退することはないだろう」。
レヴィンにとって、エルドアンはスウェーデンの加盟交渉によって、NATO拡大問題の中心に位置することになった。
「しかし、それは短期的な勝利だ。長期的には、エルドアンはトラブルメーカーとして登場することで、同盟内でのトルコの立場を損なった。これは諸刃の剣だ。
●ロシア撤退の約束破ったと欧米の大手企業に非難の声 7/12
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの戦争に踏み切った時、大手企業1000社以上がロシアからの撤退を約束した。しかし一部のよく知られる企業に対して、開戦から500日が経過した現在に至っても自社の約束を守っていないとの非難の声が上がっている。
米エール大学のジェフ・ソネンフェルド教授は、ここまでの前例のない企業の流出を記録してきた。同教授のチームが名指しで非難したところによると、一部の企業はロシアからの撤退もしくは少なくとも同国での業務を大幅に縮小するとした自分たちの約束を破っているのが実情だという。当該の企業には欧州ビール大手ハイネケンや英蘭系日用品大手ユニリーバ、米たばこ大手フィリップ・モリス 、米食品大手モンデリーズといった知名度の高い企業が含まれる。
CNNにより独占的に共有されたエール大学の調査は、内部告発者や現地にいる専門家、ロシア国内で活動する学生の情報、会社資料、メディア報道に基づいてまとめたもの。
ソネンフェルド氏はCNNのインタビューに答え、「これらの企業は自らの約束を反故(ほご)にし、戦時に不当な利益を上げている」「失望を通り越して恥ずべき行いであり、道義に反する」と糾弾する。
同氏によればこれらの企業は法律こそ犯していないものの、ロシアに留まることで道徳的規範を破り、同時に「自らのブランドも毀損(きそん)している」という。
「消費者が自覚するべきなのは、こうした企業への支持を通じ、自分たちがプーチンの戦争機構を強化する仕組みを是認しているという点だ」(ソネンフェルド氏)
ロシアのウクライナ侵攻から1カ月後の昨年3月、ハイネケンはロシアからの撤退を約束したが、エール大学によるとそれから16カ月が経過した現在も、同社はロシア国内で7つの醸造所を運営、1800人を雇用している。
そればかりかロシア国内で新ブランドを立ち上げ、他の主要銘柄が去った市場のシェアを大幅に拡大したという。
一方、ハイネケンの広報担当者はCNNへの声明で、ウクライナでの戦争を「人類にとってひどい悲劇」と形容。社として「ロシアからの撤退に尽力している」と強調した。既にロシア国内ではハイネケンのブランドの販売を止めており、ロシア事業の有望な買い手も見つけてあるという。ただ実現する可能性のある契約は、今年4月にロシア当局に提出したもののまだ承認待ちの状況だとした。
「ハイネケン社にとって相当な財務上の損失を見込んでいる。現地事業を継続しているのは、経営破綻(はたん)や国有化を避けることで社員の生活を守るためだ」と、同社は声明で述べた。
オレオなどの菓子ブランドを展開するモンデリーズは昨年3月、必須ではないロシアでの活動については全て縮小し、「基本的な商品の供給」に事業を絞ると約束していた。しかし同社は依然としてロシア国内で3000人を雇用し、エール大学の調査によると「撤退に向けた進展を示す具体的な兆候もなく」、ロシアでの事業を継続しているという。
モンデリーズに対しては、欧州の食料品店などの企業から製品の発注や在庫を拒絶するボイコット運動も起きている。
同社はコメントの要請に応じなかったが、先月の声明でロシアでの活動の規模を縮小したこと、商品発売と広告への支出を停止したことを明らかにしていた。
ユニリーバはロシア向けの商品を「生活必需品」に限定すると約束したが、ソネンフェルド氏のチームによると、現在もアイスクリームや他の一般消費財を販売している。
ユニリーバにコメントを求めたところ、同社は2月に発表した声明に言及した。そこではウクライナでの戦争をロシア国家による残虐行為として非難し続ける一方、ロシアからの事業の撤退は、資産の政府への引き渡しや従業員への不利益を避ける形で進めるのが容易ではないと説明した。
フィリップモリスは昨年、ロシア撤退に向けて努力していると述べていた。それでも同社は現在ロシアに残る最大の多国籍企業の一つであり、複数の工場を含め25億ドル(約3500億円)相当の資産を国内に持っていると推定される。エール大学の調査が明らかにした。
CNNへの声明で同社の広報担当者は、「状況は複雑」であり、最近のロシア国内の規制のため活動に制約があると述べた。具体的にはあらゆる資産売却の手続きについて、当局からの承認を得なくてはならないといった条件が設定されていると説明した。国際的な規制に起因する制約もあるとしている。
●戦争は大きな岐路に、「非人道的兵器」クラスター弾でウクライナの反攻進むか 7/12
2008年オスロ条約で使用・開発・製造・貯蔵が全面禁止されたクラスター弾
ウクライナ軍の反攻を支援するため、バイデン米政権は、民間人巻き添えの危険性が大きく、2008年のオスロ条約では使用・開発・製造・貯蔵が全面的に禁止されているクラスター弾の供与に踏み切る。
米国とロシア、ウクライナはオスロ条約に加盟していないものの、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からは反対の声が上がる。
クラスター弾は複数の子弾を含む兵器。爆撃機から投下、地上や海上から発射され、空中で開いて数十から数百の子弾を放出する。
攻撃範囲内にいる者は軍人であれ民間人であれ、無差別に死亡または重傷を負う恐れが極めて高い。多くの場合、子弾は設計通りには爆発せず、危険な不発弾として残り、民間人の巻き添え被害を拡大させる。
ウクライナ緊急事態庁によると、同国の国土の約30%(17万4000平方キロメートル)が地雷や不発弾で汚染されている。
NATO加盟国の英仏独、カナダなど123カ国がオスロ条約に加盟している。その一方で、国際人権団体などでつくる「クラスター弾モニター」の調査では、34カ国が200種以上のクラスター弾を開発・製造している。
ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官はクラスター弾の供与について7月7日の記者会見でこう説明した。
「ウクライナは攻撃・防衛作戦を維持するために大砲を必要としている。大砲はこの紛争のカギを握る。ウクライナは1日に何千発もの砲弾を発射している。砲弾の生産が増強されるまでその不足を補うことが重要だ」
米軍のクラスター弾の不発率は2.5%以下
サリバン氏によると、ロシア軍は侵攻以来、クラスター弾を使用しており、不発率は30〜40%と非常に高い。砲弾が十分でなくなったウクライナは米国にクラスター弾の供与を求めてきた。
「バイデン政権はクラスター弾の不発弾が民間人巻き添えリスクをもたらすことを認識している。しかし米軍のクラスター弾の不発率はロシア軍のそれを下回る2.5%以下だ」(サリバン氏)
しかし米国の国内法では不発率が1%を超えるクラスター弾の製造、使用、譲渡を禁止しており、ウクライナへの供与は国内法を回避した恰好だ。国防総省は不発率2.35%以下のクラスター弾を慎重に選んでいるという。
サリバン氏はこう強調した。
「ウクライナは外国の領土でクラスター弾を使うことはない。ウクライナが守っているのは自分たちの国で、自国民だ。ウクライナは数週間前に自国民へのリスクを最小限に抑える方法でクラスター弾を使用すると書面で約束した」
今回の供与はウクライナ軍がクラスター弾で自国民の被害を膨らませることはないとの前提に立つ。
昨年夏、ドンバスの東部戦線ではロシア軍は1日に4万〜5万発の砲弾を発射していたのに対し、ウクライナ軍が消費していたのは1日に6000〜7000発。米国はウクライナ軍の砲兵火力の劣勢を補うため、今年5月までにM777 155ミリメートル榴弾砲など160門の榴弾砲と200万発以上の砲弾を供与した。
ウクライナは月25万発の砲弾の供与を西側に求めている。これは欧州連合(EU)域内の軍需産業が昨年中に生産した量とさほど変わらない。「大砲は戦場の神である」(旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリン)と言われる。陸上戦闘においては砲兵火力の優劣が勝敗を決する。このため、西側は武器弾薬の生産拡大に全力をあげる。
米国の155ミリメートル砲弾の生産量は今後2年で6倍を目指す
これまで米国が生産する155ミリメートル砲弾は月約1万4000発だった。米国防総省は約14億5000万ドルを投じて、今年後半には月産2万4000発に増やし、5年後には月産8万5000〜9万発を目指す。米紙ニューヨーク・タイムズ紙によれば、2年間で生産量は6倍に増え、朝鮮戦争以来の水準に匹敵する。
夏から秋にかけての反攻でウクライナ軍が砲弾不足に陥ればロシア軍の反撃に見舞われる。市民の犠牲が膨らむ恐れがある。オスロ条約に加盟している同盟国も「ロシアがウクライナを攻撃するためクラスター弾を使用することと、ウクライナが自国や自国民を防衛するために使用することの違いを認識している」とサリバン氏は強調する。
ロシア軍のクラスター弾使用について、サリバン氏は最初の1年で数千万発の子弾が使われたと分析し、(1)国際法に明白に違反して主権国家を攻撃、(2)軍事目標だけでなく、民間人の標的を攻撃――するためだと糾弾した。「ウクライナへのクラスター弾供与はこれまで先送りしてきた。民間人への潜在的被害を厳しい目で評価する必要があったからだ」
ジョー・バイデン米大統領も7日、米CNNに出演し、「非常に難しい決断だった。同盟国や米議会の友人とも話し合った。ウクライナ軍は弾薬を使い果たしつつある。これは武器弾薬の生産を巡る戦争だ。国防総省の勧告を受け、ウクライナ軍のため155ミリメートルの大砲、砲弾を増産できるまでクラスター弾供与という移行期間を最終的に認めた」と述べた。
「重要なのはロシア軍を止める武器をウクライナ軍が持っているかだ」
バイデン氏は次のように振り返った。
「ウクライナ軍は塹壕を突破しようとしている。米国はオスロ条約に署名していないものの、クラスター弾の供与を決断するには時間を要した。重要なのはロシア軍を止める武器をウクライナ軍が持っているか、いないかだ。ウクライナ軍にはクラスター弾が必要だった」
11〜12日、リトアニアの首都ビリニュスで開かれるNATO首脳会議を前に10日、バイデン氏は第二次大戦以来の「特別関係」を維持する英国を訪問した。これに先立ちリシ・スナク英首相は「英国はクラスター弾の製造や使用を禁止し、その使用を思いとどまらせる条約に加盟している」との立場を示したが、バイデン氏の決断を批判するのは慎重に避けた。
「英国はロシアの不法でいわれなき侵略に対して、ウクライナを支援する役割を果たし続ける。最近では重戦車や長距離兵器を提供することでその役割を果たしている。ロシアの蛮行は何百万人もの人々に計り知れない苦しみを与えている」(スナク氏)
スナク氏はボリス・ジョンソン元英首相、リズ・トラス前英首相時代に悪化した英米関係の修復を優先した。
英下院国防特別委員会のトバイアス・エルウッド委員長は「クラスター弾の使用は戦場に危険な不発弾を残し、戦争が終わった後もずっと民間人を殺傷し続ける」と米国に再考を促した。英国と同じアングロサクソン系のスパイ同盟「ファイブ・アイズ」のカナダやニュージーランドのほか、スペインもクラスター爆弾の使用に反対すると述べた。
「グレーゾーン」に突入するウクライナへの軍事支援
ロシア軍は昨年2月の侵攻当初からクラスター弾を多用している一方で、ウクライナ軍もクラスター弾を使っているとされる。ロシア軍が敷き詰めた地雷原に阻まれ、ウクライナ軍の反攻は徐々にしか進んでいない。クラスター弾について「ロシア軍の塹壕に対して特に有効だ」(米国防総省のローラ・クーパー副次官補)との見方が浮上する。
英国の戦略研究の第一人者、英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログで「ウクライナは弾薬不足に悩まされている。韓国がこれまでの方針を変え、大量の155ミリメートル砲弾の引き渡しに同意したことで、砲弾不足は緩和された。日本もその例に倣うようだ」と指摘する。
韓国は砲弾を米国に移し、米国はそれをウクライナに送る秘密協定を結んだと米紙ウォールストリート・ジャーナルは報じている。またロイター通信は、武器や弾薬をウクライナに輸送するため米国は155ミリメートル砲弾用の高性能爆薬TNTを日本で確保しようとしていると報道した。韓国も日本も殺傷能力のある兵器はウクライナには送っていない。
「最も重要なのは米国がクラスター弾の供給に同意したことだ。クラスター弾は榴弾砲やM142 高機動ロケット砲システム(HIMARS)から発射され、大量の子弾を広範囲に放出できる。ウクライナ軍が数カ月にわたって大砲戦を戦うのに役立つ上、地雷除去をしている間にロシアの塹壕を制圧するために使用でき、戦術的な選択肢を増やせる」(フリードマン氏)
「地雷と同様、戦闘における価値が何であれ、クラスター弾は悲劇的な遺産になる危険性がある。不発弾は今後何年にもわたって民間人に被害をもたらすだろう。しかし旧ソ連製のものがすでに双方で使用されている。ロシア軍は民間人にクラスター弾を使用したが、ウクライナは自国内で使うため、そのようなことはしないだろう」とフリードマン氏はみる。
●ウクライナ戦争でのロシア軍戦死者、4万7千人と推算…公式発表の8倍 7/12
ロシア軍が昨年2月末にウクライナを侵攻後、1年3カ月にわたる戦闘で死亡したロシア兵士は、4万7000人あまりに達するという分析が出てきた。
ロシア独立メディア「メディアゾナ」と「メドゥーザ」は10日(現地時間)、ロシアの公式の相続記録資料をもとに、ロシアの若い男性に占める超過死亡者を分析した結果、5月27日までに死亡した50歳以下の兵士は4万7000人(4万〜5万5000人)の水準と推算されたと発表した。両機関はドイツのテュービンゲン大学のデータ科学者らの協力を通じてこうした推定値を出したと、AP通信が報じた。
両メディアの推定値は、昨年9月にロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が明らかにした戦死者数5937人の約8倍に達する規模だ。また、メディアゾナが英国BBCのロシア語サービスとともにマスコミ報道などの公開資料を追跡して集計した戦死者数(先月末時点で2万6801人)よりも2万人以上多い。
両機関は、遺産を相続した人が財産を登録した記録を調査した結果、昨年と今年の若い男性に関連した相続申告件数が急激に増加したことを確認したと説明した。これを例年の相続件数など他の資料と比較分析し、昨年だけで約2万5000人が戦場で死亡したと推定した。また、今年に入ってから5月27日までの追加の戦死者は2万2000人の水準だとした。今年の戦死者の推定値は、5月に米国政府が推定した昨年12月以降の戦死者の規模とほぼ同じだと、APは報じた。
両メディアは、重傷を負い除隊した兵士まで加えると、1年3カ月の間にロシア軍全体の戦力の損失規模は12万5000人に達するとした。これにはウクライナ東部の親ロシア系分離独立勢力である「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」に所属の兵士は含まれないため、ロシア側全体の戦死者と負傷者はこれよりもはるかに多いと予想される。
メディアゾナの編集者ドミトリー・トレシャニン氏は、「メドゥーザとの協力を通じて、ロシア政府が秘密にしようとしている『隠された』死亡者を把握できた」とし、「正規軍以外にも、ワグネルのような民間企業所属の兵士も戦争に参加しており、ロシア国防省の資料でも完全なものは作れないだろう」と述べた。
一方、英国国防省は、ロシア軍の累積戦死者を2月までに4万〜6万人の水準とし、米国国防情報局は戦争初年度だけで3万5000〜4万3000人が死亡したと推定した。
●岸田首相、ポーランド首相と会談…ウクライナやインド太平洋情勢について協議 7/12
岸田首相は11日午後(日本時間同日夜)、ポーランドの首都ワルシャワでモラウィエツキ首相と会談した。両首脳はロシアの侵略を受けるウクライナやインド太平洋情勢について協議したほか、北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題などで連携していくことを確認した。
岸田首相は会談で「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため緊密に連携したい」と述べた。首相は11日夜(同12日未明)、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため、政府専用機でリトアニアに到着した。
●侵攻続くウクライナ NATO加盟求める声高まる 世論調査で89% 7/12
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議がリトアニアで開かれる中、ロシアによる侵攻が続くウクライナでは、NATO加盟を求める声が高まっています。
記者「数日前にミサイル攻撃を受けた集合住宅では、3階と4階部分が完全に壊れてしまっています」
ウクライナ西部・リビウでは6日、集合住宅がロシアのミサイル攻撃を受け、数部屋が吹き飛び、広範囲で窓ガラスが割れました。10人が死亡、42人がケガをしていて、敷地内には犠牲になった人たちの写真のパネルが設置されました。
住民「窓が割れ、妻も廊下まで吹き飛ばされました。怖かったです」
国連によりますと、ロシアの侵攻開始後、ウクライナでの民間人の死者は、確認されただけで9000人を超えています。犠牲者が増え続ける中、最新の世論調査では、ウクライナでNATO加盟を支持する人は89%と過去最高に達しました。
住民「必要な軍事支援を確保するため、NATOからの助けがとても必要です」
リトアニアで開かれているNATO首脳会議で、11日に出された声明では、ウクライナの加盟について明確な期限などは設けられませんでした。12日はゼレンスキー大統領が初開催となる「NATOウクライナ理事会」に出席する予定で、加盟に向け、どこまで今後の議論につなげられるかどうかが注目されています。
●ロシア国防相、米国のクラスター弾供与計画に警告 報復示唆 7/12
ロシアのショイグ国防相は12日までに、米国がウクライナにクラスター弾を供与する計画を進めれば報復すると警告した。
ロシアのテレビ「チャンネル5」によると、ショイグ氏は「米国がウクライナにクラスター弾を供与した場合、ロシアは対抗措置を取らざるを得なくなる」と述べた。
ロシア前大統領のメドベージェフ国家安全保障会議副議長はSNSテレグラムで、ウクライナが既に南部トクマクでクラスター弾を使用したとの情報があると言及した。
トクマクは南部ザポリージャ州の前線に近い町。
ロシアの軍事ブロガーからも、ウクライナ軍が既にクラスター弾を使用しているとの主張が出ている。ただ、ウクライナも米国も、クラスター弾が既に配備されたとは述べていない。
ホワイトハウスは10日、ウクライナにクラスター弾を送るバイデン大統領の決定は「一時的」なものだと説明した。
在米ロシア大使館は9日遅くに発表したコメントで、米国はウクライナにクラスター弾を供与することで、戦争犯罪を「事実上」認めているとの見解を示した。
米国は先週、政権内での数カ月にわたる議論を経て、新たな軍事支援策の一環でウクライナにクラスター弾を供与すると表明した。クラスター弾は物議を醸す兵器で、米国の主要同盟国を含む100カ国あまりが禁止している。
ウクライナ戦争ではロシアによる2022年2月の侵攻以降、双方がクラスター弾を使用している。ウクライナ軍は最近、トルコから供与されたクラスター弾の使用を開始した。 
●プーチン氏とプリゴジン氏の会談、「小説より奇なり」 BBCロシア編集長 7/12
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、雇い兵組織「ワグネル」の反乱の5日後に、同組織トップのエフゲニー・プリゴジン氏と会っていたと、大統領府が明らかにした。BBCのロシア編集長が、ワグネルをめぐる新たな展開を検討した。
整理しよう。
反乱が起きた6月24日の朝、プーチン氏はワグネル指導層について、「裏切った」、「背中を刺した」と非難した。同じ日、ロシア空軍のパイロットが、ワグネル戦闘員に撃墜され死亡した。
ワグネルは、ロシアの首都モスクワにあと約200キロという地点まで部隊を進めた。この時点で、大統領府とワグネルは取引をした。反乱は終結。誰も拘束されなかった。訴追された人もまだゼロだ。
プリゴジン氏は反乱を起こしたにもかかわらず、足かせをはめられ警察署に連行されなかった。それどころか、反乱5日後にはワグネル指揮官らとともにクレムリンにいた。そこでテーブルを囲んで座り、プーチン氏とおしゃべりしていたというのだ。
予想外の展開と謎だらけで、その点においてはただでさえドストエフスキー作品以上だったワグネルの物語に、もうひとひねりが加わった。
だが、プーチン氏とプリゴジン氏の会合で一体どのような発言があり、どういう結論に至ったのかは不明だ。その後の経過からすると、「キスして仲直り」ではなかった。
ロシア国営メディアは最近、プリゴジン氏の信用を失墜させようと必死だ。
プリゴジン氏のサンクトペテルブルクの邸宅が家宅捜索された際に撮影されたとされる数々の写真が、ソーシャルメディアやロシアのテレビに流出した。見ようによってはプリゴジン氏にとって決まりの悪い内容で、そこには金の延べ棒や武器、そして奇妙なことに、たくさんのかつらが写っていた。
国営放送局ロシア1はつい先日の夜も、看板番組「ニュース・オブ・ザ・ウィーク」でプリゴジン氏の人格攻撃を続けた。
「まるでロビンフッドのような義賊のふりをしたがったが、実際には全く違う。犯罪歴のあるビジネスマンだった。彼のプロジェクトの多くはいかがわしく、必ずしも法律の範囲内ではなかった」。番組はプリゴジン氏について、そう伝えた。
今回の反乱を終わらせるために大統領府とワグネルが合意した取り決めは、どうなっているのか? 取り決めでは、プリゴジン氏はロシアを出てベラルーシに向かうことになっていた。希望するワグネル戦闘員らは同行できるとされていた。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は6日、プリゴジン氏とワグネル戦闘員らはベラルーシにはいないと述べた。ルカシェンコ氏の話を要約すると、プリゴジン氏とワグネルはベラルーシに落ち着くかもしれないが、そうならないかもしれない――ということらしい。
ということで、これですべてがはっきりした……わけはない。
ワグネルはどこに行ったのか? プリゴジン氏はどこいるのか? 彼らは何を計画しているのか? プーチン氏とどんな合意をしたのか? ぜひ知りたいものだ。
いま私に言えるのは、次の(奇想天外な内容になることは必至の)「ロシア:6月の反乱とクレムリン」のエピソードをお見逃しなく――ということだけだ。
●エルドアンの賛成でNATOまた拡大、見限られたプーチン 7/12
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に近いと見られている人物だが、最近になって、プーチンに背を向けたようだ。
NATO拡大を阻止することは、プーチンがウクライナに侵攻した理由のひとつだった。だが7月10日にエルドアンがスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げた結果、プーチンが敵対するNATOは、ウクライナ戦争前の30カ国32カ国に増えてしまうことになった。ロシアの脅威を受けるフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国が、数十年にわたる中立を放棄して加盟するからだ。
これまでスウェーデンの加盟に難色を示してきたエルドアンが突然同意に転じたのは、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴンがプーチンに対して武装反乱を起こしてからわずか2週間後のことだった。
また、プーチンに連帯を示してきたもう一人の指導者、ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、エルドアンより先にスウェーデンの加盟承認を発表していた。
「エルドアンは、プリゴジンの反乱の後、プーチンに賭けるのは賢明ではないと判断したのかもしれない」と、安全保障問題に強いアメリカのシンクタンク、アトランティック・カウンシルのダニエル・フリード研究員は本誌にメールでコメントを寄せ、6月24日の武装反乱に対する対応は、プーチン政権の弱さを示していると付け加えた。
ロシアに与えた屈辱
エルドアンはこれまで、ロシアのウクライナ侵攻に反対しつつ、プーチンとの親密な関係を維持するという難しいバランスをとってきた。時には、プーチンとトルコの「特別な関係」を宣伝することもあった。
エルドアンは西側の対ロシア制裁に加わることを拒否した。その一方で、トルコがウクライナに提供した無人機はロシア軍への攻撃に使われている。またウクライナからの穀物輸出再開では国連とロシアの間を取り持ち、世界的な食糧危機を食い止めた。
「トルコは決して正式な意味での同盟国ではなかったが、対ロ禁輸措置には加わっておらず、ロシアの主要な貿易相手国だった」と、ノースカロライナ州にあるデューク大学のティムール・クラン教授(政治学)は言う。
クランによれば、エルドアンが最近、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対して、ウクライナが将来的にめざすNATO加盟を支持し、さらにウクライナ南部マリウポリでロシアの捕虜になり、トルコに留め置かれていた武装組織の司令官5人を本国に連れ帰ることを認めたことは注目に値する。ロシアはこれに対し、2022年の囚人交換協定に違反すると反発した。その後、トルコはスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げた。「すべてが72時時間以内に起きた」
「トルコは目に見える形でロシアに屈辱を与え、トルコが西側の一員に復帰することを明らかにし、ロシアの拡張主義に抵抗するNATOの結束を固めた」と、クランは本誌に語った。「その過程で、トルコはロシアをさらなる孤立に追い込んだ」
NATO加盟31カ国のひとつであるトルコは、いかなる国の新規加盟も阻止する拒否権を持っている。ハンガリーも同じで、以前はトルコ側に立ってスウェーデンの加盟に反対していた。ハンガリーはその後、加盟に前向きな姿勢に転じた。
ハンガリーのオルバン首相は、EU内の最大のプーチン同盟国とみなされており、2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻した数週間後、ゼレンスキー大統領を「敵対者」と呼んだ。彼は対ロシア制裁を批判し、ウクライナへの武器供給を拒んいる。一方、ロシアはハンガリーにエネルギー資源を提供し、パクシュ第2原子力発電所の建設にも関与している。
だが今年3月、ハンガリー議会のチャバ・ヘンデ副議長は、ハンガリーはスウェーデンのNATO加盟に賛成票を投じる見込みであることを発表した。
プリゴジンの反乱からもわかるように、プーチンは国際的にだけでなく、国内的にも味方を失いつつある。プリゴジンがワグネルの代表として国から何十億ドルもの資金を受け取るほどの立場になれたのは、プーチンとの親密な関係が前提となっていたが、プリゴジンはプーチンに楯突いた。
能力より忠誠心を重視
トルコのエルドアンは、2016年に起きた彼の政権を打倒する試みに対して、プーチンよりはるかに厳しく対応したとアトランティック・カウンシルのフリードは指摘する。クーデターの失敗で数万人が逮捕された。これとは対照的に、ワグネルが武装蜂起してモスクワをめざした5日後の6月29日、プーチンはプリゴジンと面会していたことをロシア政府は明らかにした。
「2016年のトルコのクーデター未遂に対するエルドアンの対応は、こんな矛盾したメッセージを発していない」とフリードは言った。
今年6月、プーチンはメディア界の盟友の一人で、国営タス通信のCEOセルゲイ・ミハイロフを解任した。
この人事は、ロシア政府が「ワグネル・グループの武装反乱に関するメディアの報道に不満を抱いており、専門的な業績よりもプーチンへの忠誠心が引き続き重要であることを浮き彫りにしている」と、アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は指摘した。
●ペンス氏、ウクライナのNATO加盟は「戦争に勝ってから」 7/12
米共和党のペンス前米副大統領は11日、CNNの番組でウクライナ情勢について語り、同国の北大西洋条約機構(NATO)加盟は戦争終結後に考えるべきとの見解を示した。
ペンス氏は番組の中で、米国が「自由世界と民主主義の兵器庫」を率いる立場から、ウクライナへの支援を続けることは重要だと強調。そのうえで「NATO加盟の問題については、(ウクライナの)ゼレンスキー大統領とも話した通り、戦争に勝つまで待つべきだと考える」と述べた。
バイデン米大統領も先週、CNNの単独取材に対し、ウクライナのNATO加盟を検討するにはまず戦争の終結が必要だと語っていた。
ただし、2024年大統領選への立候補を表明しているペンス氏は、再選を目指すバイデン氏や、党候補指名を争うトランプ前大統領との違いを強調。バイデン氏の外交政策を批判し、トランプ氏が「私なら24時間で戦争を終わらせる」と公言したことに対しては「24時間で終わらせる唯一の道は、プーチン(ロシア大統領)に欲しいものを与えること。米国がウクライナにそれを促すなど、もってのほかだ」と力説した。
ペンス氏は一方で、プーチン氏への強硬姿勢を貫いたトランプ前政権の政策を擁護した。
ペンス氏は共和党から大統領選に出馬表明した候補者の中でただ一人、ウクライナを訪れている。先月の訪問でゼレンスキー氏と会談し、勝利達成まで全力で支援を継続すると約束した。
●ロシア軍 各地で大規模攻撃 NATOのウクライナ支援へのけん制か 7/12
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、各地で無人機などによる大規模な攻撃を行い、NATO=北大西洋条約機構が首脳会議を開き、ウクライナを支援することへのけん制だという指摘も出ています。
ロシア軍は首都キーウなど各地で空からの大規模な攻撃を行い、ウクライナ軍の参謀本部は11日、イラン製の無人機28機のうち、26機を迎撃したなどと発表しました。
南部の港湾都市オデーサでは、地元の当局によりますと、港にある穀物などが入った倉庫が無人機の攻撃をうけ、火災が起きるなど被害が出たということです。
さらに12日もキーウなど各地で無人機による攻撃が報告されました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日に発表した分析で「ロシア軍の無人機攻撃はリトアニアでのNATOの首脳会議に対する反応だろう。ウクライナへの軍事支援を思いとどまらせる目的がある」と指摘しました。
また、ウクライナ産の農産物の主要な輸出港になっているオデーサがねらわれたことについて、農産物の輸出をめぐる合意の期限が今月17日に迫るなか、ロシア側が輸出継続を妨害しようとするけん制ではないかという見方も示しています。
一方、ウクライナ軍は反転攻勢を続けていて、ロシアの複数のメディアは11日、ウクライナ側が奪還を目指すとされる南部ザポリージャ州の港湾都市ベルジャンシクでウクライナ軍がミサイル攻撃を行い、ロシア軍の将校が死亡したと伝えました。
ロシアメディアは、死亡したのはロシア軍の南部軍管区司令部で副司令官をつとめるツォコフ中将で、死亡が確認されれば、ウクライナへの軍事侵攻を行うロシア軍の中で、最も階級の高い将校の死亡だと伝えています。
●岸田首相「ウクライナ侵略は欧州だけの問題ではない」… 7/12
岸田首相は12日午前(日本時間12日午後)、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で演説し、ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、対無人航空機検知システムなど、殺傷性のない装備品を新たに供与すると表明した。
首相は、「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だ。ウクライナ侵略は欧州だけの問題ではない」と強調した。装備品の供与は、NATOの信託基金に拠出した3000万ドル(約40億円)から行う。
演説では、「欧州の同志国でもインド太平洋への関与が一層高まっていることを歓迎する」とも述べた。
一方、首相はNATOのストルテンベルグ事務総長と会談し、新たな協力文書「日・NATO国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」に合意した。サイバーや宇宙など16項目の協力分野が明記された。

 

●エルドアンがプーチン裏切った?ロシアは苦しい立場 7/13
ロシアがスウェーデンのNATO(北大西洋条約機構)への加盟容認など、トルコの「ロシア離れ」とも取れるような動きに対して警戒を強めています。
トルコのエルドアン大統領は10日、スウェーデンのNATOへの加盟を容認する姿勢に転じました。
また、ウクライナのNATO加盟を支持する立場を表明したのに加え、ウクライナの精鋭部隊とされる「アゾフ大隊」の元司令官ら5人をロシアとの合意に反して、トルコからウクライナに帰国させました。
ロシア国内では政権寄りのメディアは「エルドアン氏の全方位外交の一環だ」と、ロシアとの関係は維持されると指摘する一方で、ロシア国内では「プーチン氏は裏切られた」とする風刺画がSNSで拡散されるなどトルコとの対立が決定的になったとの見方も出ています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は11日、「ヨーロッパでトルコ人を見たいと思うヨーロッパ人はいない」とEU(ヨーロッパ連合)加盟を目指すトルコを牽制(けんせい)する一方で、「立場の違いにかかわらず関係を発展させたい」とも述べ、トルコに反発できないロシアの苦しい立場をにじませました。
2022年のトルコからロシアへの輸入高は前の年の1.6倍以上に急増するなどロシアは侵攻以降、経済的にもトルコに大きく依存していて、トルコの動向は今後の戦況を大きく左右するものとなります。
●NATO「かつてないほど強力」 プーチン氏に対抗―バイデン米大統領 7/13
バイデン米大統領は12日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議閉幕後にリトアニアの首都ビリニュスで演説し、「NATOは歴史上かつてないほど強く、活気にあふれ、団結している」と強調した。その上で、ウクライナに侵攻するロシアのプーチン大統領に対抗するため、ウクライナを支援し続ける考えを重ねて示した。
4月のフィンランドに続き、今回の首脳会議直前にはスウェーデンのNATO加盟も確実となった。ウクライナも早期加盟を求めている。
バイデン氏はビリニュスの大学構内で行った演説で、「プーチン氏は土地と権力を求めて残忍な戦争をウクライナに仕掛けた時、NATOが崩壊することに賭けていた」と指摘。「彼の考えは間違っていた」と断じた。
バイデン氏はさらに「プーチン氏はいまだにわれわれの粘り強さを疑っている」とも述べ、「われわれの団結は揺るがない」と力を込めた。日本などインド太平洋の国々を招待したことに関しては、「大西洋と太平洋の民主主義国家のつながりを深めていく」のが狙いだと語った。
●ウクライナのNATO加盟、明確な道筋示さず… 7/13
リトアニア・ビリニュスで開かれていた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は12日、2日間の日程を終え閉幕した。焦点だったウクライナのNATO加盟は、「加盟国が同意し、条件が満たされた場合」の実現を確認するにとどめ、明確な道筋は示さなかった。加盟実現までの間、先進7か国(G7)は長期的に支援する安全保障の枠組みを設けることを表明した。
2日目はウクライナとNATOによる「ウクライナ理事会」の初会合が開かれ、同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領らが出席。NATO各首脳は追加の武器支援などを打ち出し、対露結束を確認した。
ゼレンスキー氏は12日の記者会見で、NATO加盟に向けた工程表が示されなかったことに関し、「ウクライナにとって最善の安全の保証はNATO加盟だ」と不満を示しつつ、「戦争後、ウクライナがNATOに入ると確信している。実現に向けてあらゆることを行う」と強調した。
ウクライナは加盟実現までの間、自国の「安全の保証」を米欧各国に求めている。これに関連し、G7各首脳は12日、ウクライナに長期の安全保障を約束する共同宣言を発表した。宣言は「ウクライナが国を守り、将来の侵略を抑止」できるよう、長期間の支援を行うと明記。将来ロシアの武力攻撃が生じた場合、各国の法律や憲法に沿って、支援することも明確にした。ただ、法的拘束力はない。
同席したゼレンスキー氏は「安全の保証」に関する要求が満たされたとの認識を示し、「重要な安保上の勝利だ」と歓迎した。
各国は今後、宣言に基づき、軍事、経済、財政の具体的な支援についてウクライナと2国間協議を始める。米国のバイデン大統領は「宣言は、G7の支援が長期にわたって続くことを明確にするものだ」と強調。岸田首相は「ウクライナ支援の考え方を共有するいかなる国にも宣言は開かれている」と述べ、他国に対して枠組みへの参加を呼びかけた。宣言には欧州連合(EU)も加わった。
首脳会議では覇権主義的な行動を続ける中国への対応も協議した。共同声明には「中国の野心と威圧的政策はNATOの利益、安全、価値観への挑戦だ」と盛り込み、中国に核政策の透明性の向上などを強く求めた。
●岸田文雄総理がNATO首脳会合に再び参加 その目的はどこにあるのか 7/13
今年の会議はバルド3国の1つリトアニアで開催される。昨年、マドリードで開催された首脳会議には岸田文雄総理が日本の総理として初めて出席し、ウクライナとの結束で欧米諸国と連携を強化していくことで一致した。
7月11日からリトアニアでNATO首脳会合
ウクライナ情勢ではこれまでロシア側の最前線で戦ってきた民間軍事会社ワグネルが先月一時クーデターらしき行動を見せるなど、今日、ロシア側の劣勢は明らかになっている。
しかし、ウクライナ側の攻勢もここに来てロシアの粘りに勢いが低下しており、一進一退の攻防となっている。
真の狙いはウクライナではなく中国
しかし、岸田総理の真の狙い、中長期的な狙いはウクライナではない。欧州においてロシアとNATOの軍事力の差は圧倒的なものがある一方、東アジアでは中国の軍備増強が続いており、自由民主主義陣営にとって将来的なリスクは明らかにアジアにある。
しかも、欧米諸国の中にはフランスのように、欧州の東アジアへの安全保障的関与を警戒する国々も少なくなく、フランスはNATOの東京事務所設置にも反対の意を発表している。また、欧州諸国の多くは中国と経済的に密接に結びついており、中国との軍事的摩擦によって自国経済へ影響が波及することを恐れている。
一方、岸田総理としてはNATO諸国と連携を強化する中で、欧州の東アジアへの関与をよりいっそう呼び込みたい狙いがある。
中国の軍拡に真正面から直面するのは日本であるが、米国や韓国、オーストラリアとの連携のみでそれに対処できるかは未知数だ。今回の訪問の目的は、欧州との結束を強化し、如何に多国間で中国に対抗できるかを探るものだ。
●ロシア報道官「攻撃的な同盟だ」NATOに警戒感示す 7/13
ウクライナへの支援で結束をアピールしたNATO=北大西洋条約機構について、ロシア大統領府の報道官は「攻撃的な同盟だ」と述べ、改めて警戒感を示しました。
12日まで2日間の日程で行われた首脳会議でNATOはウクライナに複数年にわたる支援を行うことで合意し結束をアピールしました。
これに対しロシア大統領府のペスコフ報道官は12日、NATOについて「安定や安全を確保するためにつくられた同盟ではない。不安定と侵略をもたらす攻撃的な同盟だ」と述べ、改めて警戒感を示しました。
ウクライナ軍の参謀本部は11日、ロシア軍が首都キーウなどウクライナ各地で無人機などを使った攻撃を行ったと発表し、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日の分析で「ロシア軍の無人機攻撃はNATOの首脳会議と重なり、ウクライナへのさらなる軍事支援を思いとどまらせるねらいがあるとみられる」と指摘しました。
一方、ロシア国防省は12日、武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルからロシア軍へ戦車などを引き渡す作業がまもなく完了すると発表しました。
国防省によりますと、2000以上の戦車や装甲車などのほか、2500トン以上の弾薬やおよそ2万丁の銃が含まれるということです。
国防省はワグネルの戦闘員に国防省と契約を結ぶよう求めていて、事実上の武装解除について発表することでワグネルを傘下に置いたことを誇示するねらいもあるとみられます。
“ロシア軍の副司令官 スロビキン氏は休暇中”国防委員長
ウクライナへの軍事侵攻でロシア軍の副司令官を務めるスロビキン氏が、先月、民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が起こした武装反乱のあと拘束されたなどと伝えられていることをめぐり、ロシアのメディアは12日、議会下院のカルタポロフ国防委員長が「彼はいま休暇中だ。連絡はできない」と述べる動画を公開しました。
一方、ロシアの独立系メディアは12日、関係者の話として、スロビキン氏が反乱に関与した疑いでFSB=連邦保安庁に拘束され、2週間あまり親族と連絡を取っていないと伝えました。
武装反乱のあと一部の欧米メディアは、プリゴジン氏と近かったとされるスロビキン氏が事前に反乱の計画を把握していたと伝え、消息に関心が集まっています。
スロビキン氏は空軍の総司令官も務めていますがイギリス国防省は12日、ロシア国防省が10日に公開した軍の会議の映像では、スロビキン氏の副官が参謀総長に報告をしていると指摘し「反乱のあとスロビキン氏が仕事を外されたという仮説が補強されている」という分析を示しました。 
●プーチン大統領が異例の会談 “裏切り者”と3時間も…  7/13
ウクライナ軍の反転攻勢が続く一方で、ロシア国内に目を向けると、依然その動向が注目されているのが民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏です。このプリゴジン氏への対応をめぐってプーチン政権は揺れ動いてきました。
先月24日に武装反乱が発生すると、プーチン大統領は「裏切りだ」と強く非難。軍に断固たる措置を取るように指示しました。
しかし、その2日後には、ワグネルの戦闘員に対し、国防省などと契約を結ぶか、あるいはベラルーシに行けば安全を保証すると選択肢を示したのです。そしてその翌日には実際に、“プリゴジン氏がベラルーシにいる”という情報も出てきました。
一方で、今月5日には、今度はプリゴジン氏の信用を失墜させるかのような情報を国営メディアが報じます。
こうした中で、日本時間の10日夜、飛び込んできたのが、こちら。プーチン大統領とプリゴジン氏との会談の情報です。先月29日に、ワグネルの指揮官らも交えクレムリンで3時間近く会談したということです。
なぜこのタイミングで会談の情報が明らかになったのか。そして大統領とプリゴジン氏の関係はどうなっているのか。旧ソビエト時代から長年ロシア取材を続けてきた石川一洋専門解説委員に聞きました。
6月の会談の情報 なぜこのタイミングで明らかに?
Q.プーチン大統領とプリゴジン氏との先月の会談の情報、このタイミングで発表された狙いはどこにあるのでしょうか?
A.会談が行われた29日は反乱終結からわずか5日後です。プーチン大統領はこの日、ロシアの起業家たちとの集会に参加して、絵を描くなどして反乱は収束したと余裕を見せていました。しかもその2日前に、大統領みずから反乱について裏切り者と非難していました。
しかし、プーチン大統領みずからが、その同じ日に3時間にわたって裏切り者と呼んだプリゴジン氏らワグネルの指導部と3時間もの時間をとって、会談するということは異例なことです。
プーチン大統領にとってのこの反乱の衝撃の大きさを示すとともに、大統領とプリゴジン氏およびワグネルの近さを示し、裏切り者と切って捨てたように見せながら、プーチン閥の身内として遇していることを示しています。
確かにロシアの国営メディアでは、プリゴジン氏の豪華な私邸を暴いたり、これまで褒めたたえていたワグネルの軍事的な功績は大きなものではないとしたり、手のひら返しのネガティブキャンペーンが続いています。
フランスの雑誌報道受けクレムリンが認める形に
しかし今回、会談の事実は、まずフランスの雑誌リベラシオンが報道したのを受けて、ペスコフ報道官がその報道を確認するという形で認めました。フランスの報道は欧米情報筋としていますが、おそらくクレムリンあるいはロシアの諜報機関によるリークで、それをクレムリンが公式に認めるという複雑な発表の形式をとっています。
ただ、クレムリンあるいはプーチン大統領としては、そのネガティブキャンペーンからは距離を置きたいということで、こうした複雑なリークの方式を取ったのではないかと思います。
伝えたいメッセージはただ一つ、ペスコフ報道官の口から「ワグネルの指揮官たちは、プーチン大統領支持のための行動で、これからも祖国のために戦う」と伝えている点です。クレムリンとしては、ワグネルを含めてプーチン大統領の周囲に国は結集していると強調したかったのだと思います。
合意事項は「再び裏方に戻る」か 今後への影響は
Q.この会談、何が中心に話し合われたのでしょうか?ワグネルの今後やロシア軍への影響をどう見ていますか?
A.合意事項は「ワグネルはロシアのために戦い続ける」ということに尽きるのではないでしょうか。
ロシア軍では、反乱以後動向が伝えられていなかったゲラシモフ参謀総長の映像を国防省が公開しました。
プリゴジン氏は、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長こそ裏切り者だと主張していたのですが、国防省はショイグ国防相およびゲラシモフ参謀総長の姿を積極的に公開することで国防省と軍は動揺していないと示したのでしょう。
ただ、3時間の会談でプリゴジン氏らは誰が裏切り者なのか自説を繰り返したのでしょう。
そのリークを今流すことは、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀長に対しても、クレムリンからのお前たちは勝者ではないという一種の警告だと思います。
プリゴジン氏については、彼がパブリックでこれだけの影響力を得たのは、ウクライナへの軍事侵攻に参加して、国防省への批判を繰り返したからです。それまでは、表で発言することはほとんどありませんでした。
合意事項としては、再び裏方に戻るということではないかと思います。
●プーチン激怒。トルコの盟友エルドアンが突如見せた「3つの裏切り」 7/13
数少ない「プーチンの理解者」の一人として数えられてきたトルコのエルドアン大統領。そんな彼がここに来て、プーチン大統領と敵対するかのような行動を取り続けています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、エルドアン氏が見せた「プーチン氏への3つの裏切り」の内容を詳しく紹介。その上で、なぜ彼が盟友を見限るに至ったのかについて解説しています。
エルドアンは【親友プーチン】を【3度裏切る】
今回のウクライナ戦争で、大活躍している男といえば、トルコのエルドアン大統領でしょう。欧米では、「独裁者」と評判が悪い。しかし事実として、エルドアンは、国連、ウクライナ、ロシアの仲介をし、「穀物合意」を成立させました。
これは、何でしょうか?
ロシアは小麦輸出量、世界一。ウクライナは、世界5位。戦争がはじまると、ロシアが黒海を封鎖した。それで、ウクライナは小麦輸出ができなくなったのです。結果、穀物価格が世界的に高騰しました。それだけでなく、アフリカや中東の一部の国では食糧危機が起こった。エルドアンは、国連、ウクライナ、ロシアをまきこんで、2022年7月、「穀物合意」を成立させたのです。
エルドアンは、ウクライナにとっても、ロシアにとっても「いいトルコ大統領」です。彼が5月の大統領選挙で再選すると、ゼレンスキーもプーチンも祝意を示しました。そして、それはおそらく、「心からの祝意」でした。なぜ、エルドアンは、対立するゼレンスキー、プーチンの両者から愛されているのでしょうか?
ウクライナの恩人エルドアン
ゼレンスキーにとって、彼は穀物合意の恩人です。これで、小麦を輸出して外貨を得ることができるようになった。
さらに、無人機バイラクタルの件でも恩人です。戦争がはじまった時、ロシア国営メディアは、「3日でキーウを陥落させる」とはしゃいでいました。長い戦車の行列が、キーウに進軍していった。ところが、ロシアはキーウの戦いで大敗北を喫し、以後東部ルガンスク、ドネツクに主戦場が移っていきます。なぜ、ウクライナは、キーウでロシア軍を撃退できたのでしょうか?
二つの武器の存在が注目されました。一つは、携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」。これがあれば、女性一人でも、戦車を破壊することができる。もう一つは、トルコ製無人機「バイラクタル」です。ロシアの戦車を破壊しまくりました。
喜んだウクライナ人は、「バイラクタルを称える歌」を作り感謝したのです。
さらに重要なことに、トルコは、バイラクタルをロシアに輸出していません。ロシアは仕方なく、イランから無人機を輸入しています。というわけで、エルドアンは、「ウクライナの友達」なのです。
プーチンの親友エルドアン
では、プーチンは、なぜウクライナを支援するエルドアンと仲がいいのでしょうか?
話は2016年まで遡ります。エルドアンが、欧米、特にアメリカを嫌いになり、ロシアに接近するきっかけになった事件があります。それが2016年7月15日に起こった「クーデター未遂事件」。トルコ軍の一部が、エルドアンに対し反乱を起こしたのです。
クーデターは失敗し、軍関係者、司法関係者約7,500人が逮捕されました。そして、警察官約7,900人、公務員約8,700人が解雇されました。
このクーデターの黒幕とされているのが、フェトフラー・ギュレンという男です。ギュレンは1960年末頃、「ギュレン運動」という社会運動をはじめました。ギュレンは、教育機関を建設したり、トルコ文化を普及たり、宗教間の対話を呼びかけたり、貧困層への支援を行っていた。2016年のクーデターに参加した人たちの多くが「ギュレンの支持者」だったとのこと。
ところで、ギュレンは、アメリカ在住です。エルドアンは、アメリカに、「ギュレンの引き渡し」を要求しました。ところが、アメリカ政府は引き渡しを拒否し、トルコとアメリカの関係は、大いに悪化したのです。ちなみにトルコの内相は、「アメリカがクーデターの黒幕だ!」と主張しています。ロイター2021年2月5日。
・トルコのソイル内相は4日、2016年に同国で起きたクーデター未遂事件について、背後に米国が存在していたとの認識を示した。地元紙ヒュリエットが報じた。
・ソイル内相は「7月15日の背後に米国の存在があったことは非常に明らかだ。(ギュレン師のネットワーク)FETOが彼らの指示を受けて実行した」と述べた。
内相が、「アメリカがクーデターの黒幕」といっている。ということは、エルドアン自身もそう思っている可能性が高いでしょう。
エルドアンが「アメリカが起こした」と思っているクーデター未遂が2016年。ここからエルドアンは、露骨にアメリカに反抗するようになっていきます。
たとえば、アメリカの同盟国でありながら、ロシアから武器を買っている。2017年、エルドアンは、ロシアから地対空ミサイル「S400」を購入することを決めました。
そして、トルコは、スウェーデンがNATOに加盟することに反対しています。スウェーデンが、トルコからの分離独立を主張するクルド労働者党(PKK)の難民を匿っているからです。これは、トルコ側の事情ですが、プーチンから見ると、「エルドアンのおかげで、NATO拡大が阻止されている」となります。
いずれにしてもプーチンは、「エルドアンは、NATO分断を引き起こせる男」として大切にしているのです。プーチンにとってエルドアンは、ただの「独裁者仲間」ではない。NATOを破壊するための「戦略的パートナーといえるでしょう。
エルドアンは、親友プーチンを3度裏切る
ゼレンスキーからもプーチンからも愛されるエルドアン。しかし、彼は最近、3度プーチンを裏切りました。
【裏切り1】エルドアンは、ウクライナのNATO加盟を支持する
NHK NEWS WEB 7月8日。
・トルコのエルドアン大統領が、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナが希望するNATO=北大西洋条約機構への加盟を支持する考えを示しました。
・両首脳は日付が変わった8日、現地時間の午前0時すぎから記者会見に臨み、エルドアン大統領はこの中で「ウクライナはNATO加盟に値する」と述べ、7月11日から始まるNATO首脳会議を前に、ウクライナが希望するNATO加盟を支持する考えを示しました。これに対して、ゼレンスキー大統領は「ウクライナのNATO加盟について大統領の考えを聞けてうれしかった」と述べて歓迎しました。
これはプーチンにとって「深刻な裏切り」といえるでしょう。なぜでしょうか?プーチンは、ウクライナ侵略を開始した理由の一つとして【 ウクライナのNATO加盟阻止 】を挙げているからです。
ところが親友のエルドアンは、「ウクライナのNATO加盟を支持する」という。プーチンは激怒したことでしょう。
【裏切り2】アゾフ大隊の元指揮官をウクライナに帰国させた
アゾフ大隊といえば、ロシア側が憎んでいた準軍事組織です。なぜでしょうか?ロシアが「ルガンスク、ドネツクで、ロシア系住民を虐殺した」というとき、その主体は、「アゾフ大隊」だからです。ですから、プーチンが「ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を救う」というとき、「アゾフ大隊から救う」という意味でした。
ウクライナ戦争がはじまると、アゾフ大隊は、マリウポリでロシア軍と戦いました。しかし、2022年5月に降伏し、生き残った大隊の兵士は捕虜になりました。アゾフ大隊の指揮官たちは、その後トルコに移されました。ロシアからトルコに移されるときの条件は、「トルコにとどまり、ウクライナに引き渡さないこと」だったのです。再びNHK NEWS WEB 7月8日。
・8日にはSNSで、ウクライナ東部の要衝マリウポリなどで防衛に関わった当時の「アゾフ大隊」の指揮官ら5人がトルコからウクライナに帰国することを明らかにしました。
すでに帰国し、その映像がニュースで流れています。
・元指揮官らはロシア軍の捕虜になったあと、トルコが仲介したロシアとウクライナの捕虜交換で解放され、その後、トルコで生活を続けていたということです。捕虜交換にあたっては、元指揮官らがトルコにとどまることが条件になっていたとされ、ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、国営のロシア通信に対し、捕虜交換の合意に反する行為だと不快感を示しました。
これも、プーチンから見ると、「深刻な裏切り行為」ですね。
【裏切り3】エルドアンは、スウェーデンのNATO加盟を支持する
そして3つ目の裏切りです。
エルドアンはこれまで、スウェーデンのNATO加盟に反対してきました。既述のように、その理由はクルド問題です。しかし、ここに来て、「スウェーデンのNATO加盟を支持する」と方向転換しています。ただし、「トルコのEU加盟交渉を再開すること」を条件に挙げています。
時事7月10日。
・トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領は10日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、長年停滞しているトルコの欧州連合(EU)加盟交渉が再開すれば支持すると述べた。
これも、プーチンにとっては本当に深刻な裏切りです。なぜでしょうか?ウクライナ侵略、トップの理由は、「ウクライナのNATO加盟阻止」でした。ところが侵略の副作用がでてきた。具体的には、これまで中立を維持してきたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を目指すようになったのです。そして、今年4月、フィンランドは31番目のNATO加盟国になりました。
しかし、トルコの反対で、スウェーデンは加盟できていない。プーチンにとってエルドアンは、「NATO拡大を阻止してくれる」ありがたい存在だったのです。ところが、今回裏切った。
というわけでエルドアンは、
   •ウクライナのNATO加盟を支持
   •ロシアとの合意を破り、アゾフ大隊の指揮官をウクライナに返した
   •スウェーデンのNATO加盟を(条件付きながら)支持
以上、3つの深刻な裏切りをしています。
なぜ、エルドアンは、サクッとプーチンを裏切るのでしょうか?
一般的に言われているのは、「プーチンが穀物合意延長に反対しているから」です。穀物合意の期限は、7月18日で切れます。エルドアンは、自分が主導している穀物合意を、プーチンがぶち壊そうとしていることに憤慨している。つまり、エルドアンに言わせれば、「最初に裏切ったのはプーチンだ」ということでしょう。
もう一つ、エルドアンは、「プリゴジンの乱」などを見て、「プーチンの権力基盤が弱体化しているから、好きにしても何もできないだろう」と考えているのでしょう。日本では、「プリゴジンの乱」について、かなりトンチンカンな説が流布されていますが。1日で終わったこの反乱は、ロシア国内の「プーチン最強神話」を粉々にしました。「川に落ちた犬は叩け」というのは、韓国のことわざだそうです。しかし、国際関係のことわざとしても使えそうですね。
プーチンが弱くなったのを見て、中央アジア諸国は、中国に走りました(中国中央アジア運命共同体創設へ)。ロシアが欧州に天然ガス、原油を輸出できなくなったのを見た中国は、ロシア産ガス、原油を【激安】で【人民元】で大量に輸入するようになりました(ロシアではなく、中国自身を助ける)。プーチンが弱くなったのを見て、アルメニアはロシア中心の軍事同盟CSTOからの離脱を検討しはじめました。プーチンが弱くなったのを見て、ウクライナ、ジョージア、モルドバは、EUに加盟申請しました。
これらの事実はすべて、「プーチンの権力基盤が弱体化していること」を示しています。
繰り返しますが、これらはすべて「事実」です。
●「ハルマゲドン将軍」失脚か 止まらないロシア混乱…「ワグネルの乱」余波 7/13
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの混乱が止まらない。同国の民間軍事会社「ワグネル」の反乱をめぐり、「ハルマゲドン(最終戦争)将軍」と呼ばれ、ウクライナ侵攻の副司令官を務めるセルゲイ・スロビキン航空宇宙軍総司令官が、失脚した可能性が出てきたのだ。ロシアメディアで、「休暇中」「拘束」と報じられ、「軍中枢部から外された」との分析も登場した。いったんは収束した「ワグネルの乱」の余波は、まだ続いている。
治安情報に詳しいロシアのメディア「SHOT」は12日、下院のアンドレイ・カルタポロフ国防委員長が、動画でスロビキン氏について「休暇中だ」と述べたと報じた。
別の独立系メディア「ビョルストカ」は同日、関係筋の話として、スロビキン氏がワグネルの反乱に関わった疑いで連邦保安局(FSB)に拘束され、2週間以上にわたって外部との接触が断たれていると伝えた。起訴はされていないという。
英国防省は12日、スロビキン氏が反乱後に軍中枢から外されたとの見方が強まっているとの分析を示した。
先月の反乱直後、スロビキン氏はワグネル戦闘員に対して「まだ遅くはない」と行動を停止するよう呼びかける動画を公表した。それ以降、所在が分からなくなっていた。
スロビキン氏は昨年10月、ウクライナに対する軍事作戦の総司令官に任命された。その後降格≠ニなったが、副司令官を務めていた。「失脚」情報が事実であれば、ウクライナ戦線への影響も避けられそうにない。

 

●NATO加盟「ロシアに脅威」 ウクライナ安全強化せず―プーチン氏 7/14
ロシアのプーチン大統領は13日、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題について「ロシアの安全に脅威をもたらすと何度も指摘してきた」と述べ、加盟問題が昨年2月に侵攻に踏み切る原因だったという認識を示した。モスクワで自国の記者団に語った。ロシアはウクライナの「中立化」などを目標に掲げている。
また「(加盟で)ウクライナの安全が強化されるわけではなく、世界がさらに脆弱(ぜいじゃく)になり、国際社会での緊張につながる」と持論を展開した。
●プーチン大統領 ウクライナや欧米側をけん制 7/14
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナが目指すNATO=北大西洋条約機構への加盟によって「ウクライナは安全保障が強化されることはなく、国際社会にさらなる緊張を生み出すことになる」などと強調し、反転攻勢を続けるウクライナや、それを支援する欧米側をけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は13日、首都モスクワで行われたフォーラムに出席したあと、国営テレビに対し「ウクライナのNATOへの加盟は、ロシアにとって脅威となる。ウクライナにとって安全保障が強化されることはなく、世界がぜい弱になり、国際社会にさらなる緊張を生み出すことになる」と強調しました。
そのうえで、11日から開かれたNATOの首脳会議でG7=主要7か国がウクライナを守るための長期的な支援を行う方針を表明したことなどに対し「NATOとG7で宣言されたことは、何も珍しくはない。われわれは反対しないが、繰り返すがロシアの安全が確保されることが必須の条件だ」と述べ、ウクライナや欧米側をけん制しました。
また「われわれは311両の戦車を破壊し、その3分の1以上がドイツ製の戦車レオパルトなど欧米製だ。新たな兵器を供与しても何の役にも立たずウクライナの状況を悪化させ紛争をあおるだけだ」と述べ、対決姿勢を鮮明にしました。
一方、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐるロシアとウクライナの合意の期限が来週17日に迫っていますが、ロシア側は自国産の農産物や肥料の輸出が欧米側の制裁措置などで滞っていると主張し、合意を延長しない構えを示しています。
これについてプーチン大統領は「まだ数日あるので何をすべきか考えていく。選択肢の1つとしてわれわれは合意への参加を一時的に停止できる。すべての約束が果たされるのであれば、直ちに合意に参加するつもりだ」と強調しました。
合意の延長に向けては、ロシア外務省が13日、ロシア側が仲介役のトルコと国連とそれぞれ電話での会談を行ったと発表していて、ロシアの出方が焦点となっています。
●プーチン氏「ロシアの安全保障に脅威」、ウクライナのNATO加盟けん制… 7/14
ロシアのプーチン大統領は13日、露国営テレビの取材に応じ、ロシアが侵略するウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は「ロシアの安全保障に脅威となる」との認識を示した。加盟が実現すれば「国際情勢の緊張がさらに高まるだろう」とも語り、NATO加盟国を強くけん制した。
プーチン氏は、米欧諸国によるウクライナへの長期的な兵器供与に関して、「ウクライナの状況悪化につながる」との見通しを示した。ドイツ製主力戦車レオパルト2など米欧製の戦闘車両は、露軍による攻撃の「最優先の標的になる」と警告した。
一方、17日に期限を迎える黒海経由でのウクライナ産穀物輸出の合意を巡っては「我々は合意への参加を停止できる」と述べた。ロシア産穀物や肥料の輸出拡大につながる具体的な確約が得られなければ、合意延長に応じない意向を示した。
●ロシアの「プーチン大統領はすでに戦争に負けている」バイデン大統領が断言 7/14
アメリカのバイデン大統領が会見し、ロシアのプーチン大統領は「すでに戦争に負けている」と断じました。
アメリカ・バイデン大統領:「プーチンはすでに戦争に負けていて、現実的な問題を抱えている。ここから彼はどう動くのか。どうするのか」
バイデン大統領は13日の会見で、ロシアに残された軍事資源などの観点から侵攻を続けるプーチン大統領が「ロシアの利益にならないと判断する時がいずれ訪れる」と述べ、ロシアに勝ち目はないと断じました。
そのうえで、「ウクライナが反転攻勢で大きな進展を見せ、どこかで交渉による決着がつくことが私の希望であり期待だ」とも述べ、何年も膠着(こうちゃく)状態が続くとは思わないとしています。
また、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟については、激しい攻防が今も続いていることを理由に「加盟すれば、第3次世界大戦に突入することが確実だ」として停戦が前提だとする見解を改めて示しました。
●バイデン氏「プーチンは既に戦争に負けた」…停戦交渉の可能性示唆 7/14
米国のバイデン大統領は13日、フィンランドのヘルシンキで行った記者会見で、ロシアによるウクライナ侵略について、「プーチン(露大統領)は既に戦争に負けた」と強調した。「ウクライナの反転攻勢が大きく前進し、どこかで交渉による解決を生み出す」との見通しも語った。
ウクライナが6月に着手した大規模な反転攻勢が今後、一定の成果を収め、その結果、停戦交渉に発展する可能性を強く示唆した。
バイデン氏は、プーチン氏について「大きな問題を抱えている。ウクライナでの戦争に勝つ可能性はない」と指摘。「戦争が何年も続くとは思わない」と語った上で、「いずれプーチン大統領が、戦争を続けることは経済的にも政治的にも、それ以外の面でもロシアの利益にならないと判断する状況になるだろう」と述べた。
●バイデン大統領 ウクライナ軍の反転攻勢に期待示す 7/14
アメリカのバイデン大統領は、ウクライナ軍による反転攻勢について「このあと大きな進展を見せるだろう」と述べて期待を示すとともに、ロシア軍による侵攻が今後何年も続くことはないという見方を示しました。
アメリカのバイデン大統領は、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席したあと訪問したフィンランドの首都ヘルシンキで13日、記者会見を行いました。
バイデン大統領は、ウクライナのNATO加盟を巡り、ロシアによる軍事侵攻中は認められないという考えを示していることが、プーチン大統領による侵攻の継続につながらないかと記者団に問われると「プーチン大統領はすでに負けている。彼が戦争に勝てる可能性はない」と述べて、これを否定しました。
そのうえでバイデン大統領は今後の見通しについて、ロシアの資源や能力に限りがあり、プーチン大統領も軍事侵攻を続けることについて経済的にも政治的にもロシアの利益にならないと気づくだろうなどと指摘し「戦争が今後、何年も続くとは思わない」と強調しました。
また、ウクライナ軍による反転攻勢について「このあと大きな進展を見せ、その先に交渉を経た合意があるだろう」と述べて期待を示しました。
●ワグネルは「単に存在していない」 プーチン大統領 7/14
ロシアのプーチン大統領は13日、同国の民間軍事会社ワグネルに関連して先月クレムリン(ロシア大統領府)で開かれた会談の内容について初めて明らかにした。会談にはワグネルの指揮官35人が参加。組織を創設したプリゴジン氏もそこに含まれていた。
先月29日の会談の数日前には、ワグネルの戦闘員が短い間ながらロシア政府に対する武装反乱を起こしていた。
プーチン氏は会談で、ウクライナの戦場におけるワグネルの戦いぶりを評価したと説明。一方で先月24日の武装反乱に関する検証内容も明らかにしたと述べた。その上で、自分たちの戦闘経験を活用しつつ引き続き軍務に就く選択肢があることを出席者らに示したという。
ロシアのコメルサント紙のインタビューに臨んだ同氏は、ワグネルを今後も戦闘部隊として保持するのかどうか問われると、「民間軍事会社ワグネルは存在していない!」と声高に発言。「我が国には民間軍事組織のための法律がない! それは単に存在していない!」と続けた。
さらに「そのような合法的な組織はない」「集団として存在はするが、法律上はそうではない」と繰り返した。
「これは現実に合法化するかどうかという別の問題に関わってくる。ただそれは議会や政府で議論されるべきで、簡単に答えは出ない」(プーチン氏)
プーチン氏は、ワグネルの指揮官35人に対し、様々な雇用の選択肢を提示したと明らかにした。そこには彼ら直属の司令官の指揮下で活動するという内容も含まれる。「セドイ」のコールサインで知られるこの司令官は、過去16カ月にわたってワグネルの戦闘員を率いてきた人物だという。
「彼らは全員ひとつの場所に集まり、引き続き軍務に就くことも可能だった」「彼らにとっては何も変わらなかっただろう。これまでと同じ人物の指揮下に入ることになる。それは常に自分たちの本当の司令官であり続けた人物だ」(プーチン氏)
●ロシア、要求満たされなければ黒海穀物合意離脱 プーチン氏が表明 7/14
ロシアのプーチン大統領は13日、来週17日に期限切れを迎える黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)について、ロシアの要求が満たされなければ離脱すると表明した。
プーチン氏は国営テレビで「ロシアはこの合意への参加を一時停止することができる」と表明。ただ、ロシアと交わされた約束の全てが履行されれば、直ちに復帰するとも述べた。
ロシア大統領府報道官によると、離脱はまだ最終的に決定されていない。
同合意は国連などが仲介。関係筋によると国連のグテレス事務総長は、制裁対象のロシア農業銀行が子会社を創設して国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網に接続できるようにすることと引き換えに同合意を延長するようロシアに提案した。
プーチン氏はグテレス事務総長から提案は受けていないとした上で、国連は満足のいく解決策を打ち出せていないと語った。
●プーチンが招いた中立国の終末…スウェーデンに続きスイス・オーストリアも 7/14
冷戦時代から「軍事的非同盟」路線を守ってきたスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟が事実上、確定した。「欧州中立国」の象徴のスイスとオーストリアもドイツが主導する欧州スカイシールド・イニシアチブ(ESSI)に合流した。ロシアのウクライナ侵攻で安保脅威を目撃した中立国が相次いで米国・西ヨーロッパ中心の安保同盟と手を取り合い、事実上、欧州で中立国の歴史が終末を迎えているという分析が出ている。
「NATOと一体」ESSIに合流したスイス・オーストリア
10日(現地時間)、スウェーデンのNATO加盟に反対してきたトルコがNATOの仲裁で既存の立場を公式撤回した。このためスウェーデンはNATO加盟の障害が事実上解消され、フィンランドに続きNATOの32番目の加盟国になる道が開かれた。北欧のスウェーデンは隣国フィンランドとともに冷戦時代から軍事的非同盟路線を守ってきた国だ。
スウェーデンは防空システム・パトリオットなど先端軍事装備を大挙保有している。ロシアと接したバルト海の真ん中にあるゴットランド島に「沈まない空母」と呼ばれる軍事インフラを構築した国防強国だ。外信はスウェーデンの加盟国加盟がNATOの安保の空白を減らすとの見方を示した。
先立って7日、スイスがオーストリアと共にドイツ主導の欧州防空システムのESSIの参加意向書に署名した。両国は国際法上中立を認められた零細中立国で、交戦国を支援したり交戦国に便宜を図った場合、国際法上の地位が消滅する。このため、BBCは「(ESSI参加は)両中立国にとって歴史的瞬間」と評した。
ESSIはNATOの統合対空・ミサイル防衛システム(IAMD)強化を目的に、防空装備とミサイルを同時に購入して防御システムを構築するための共同調達協約だ。昨年10月、ドイツなどNATO加盟国14カ国がESSI意向書に署名すると、ミルチェア・ジョアーナNATO事務次長は「NATOの防空およびミサイル防衛システム内で完全に相互運用が可能で完璧に統合された新しい資産がすべての対空・ミサイル脅威から(NATO)同盟の防御力を大きく向上させるだろう」と歓迎の意を示した。
現在、ESSIに合流した19カ国のうち、スイスとオーストリアを除く17カ国が全てNATO加盟国だ。事実上、ESSIはNATOのIAMDと一体のように動く可能性が高いため、両国のNATO依存度も高まるだろうとの見方が出ている。ただ、スイスとオーストリアは「ESSIに参加することと国際軍事紛争に加担することは別」という立場だ。
対ロシア経済制裁、NATO合同演習…「すでに中立路線を逸脱」
両国の公式立場とは異なり、国際社会では彼らがすでに既存中立路線から逸脱しているという指摘が出ている。スイス・オーストリアはロシアのウクライナ侵攻直後、欧州連合(EU)の対ロシア制裁に参加した。制裁で凍結されたスイス内のロシア人の資産は約75億スイスフラン(約1兆2000億円)に及ぶという。スイスは昨年、NATO加盟国との合同軍事演習を検討し、西側と一層密着している。
スイス議会では交戦国のウクライナへのスイス兵器の搬入を認めるかどうかをめぐり、激論している。一部のスイス下院議員は中立の基準を下げ、ウクライナに対する武器支援を認めるよう法律を改正するための交渉を続けている。ヨン・フルト社会民主党議員は「伝統的な意味での中立性は持続可能ではなく、道徳的にも受け入れられない」とし「スイスの中立性は国際法と国連憲章擁護という範囲内で認められなければならない」と主張した。スイスの歴史家マルコ・ジョリオ氏は「(すでに施行した)対ロシア経済制裁の方がスイス兵器のウクライナ搬入許容より(中立国の原則には)挑発的」と述べた。
このような親西側の行動にスイス内部の反発も出ている。右派政党のスイス人民党は「ESSIへの合流はスイスをNATOの懐に押し込んだ決定」とし「中立性に対する過度な妥協」と批判している。現地ロビー団体プロシュヴァイツのヴェルナー・ガルテンマン氏も「最近の行動はスイスの厳正な中立原則に反する」と述べた。先立ってスイス人民党のトーマス・アッシュ議員はウクライナのゼレンスキー大統領のスイス下院映像演説に反対し、「ウクライナが我々の中立性を侵害している」と批判した。
「侵略前での中立は加害者側に立つこと」
米国と西欧諸国はロシアのウクライナ侵攻を契機に中立国に対し、「欧州で中立は終末を告げた。明確な路線を明らかにする時だ」と圧迫している。開戦初期、EUのジョセップ・ボレル外交政策高位代表は「侵略の前で中立は加害者側に立つことを意味する」とし「不法な武力使用が正常化した世の中では誰も安全ではない」とし、中立国を露骨に批判した。欧州メディアのアタラヤルは「第2次世界大戦後、前例のない状況で欧州は中立政策と別れを告げる瞬間に置かれた」と伝えた。
米政治専門メディア・ポリティコは「欧州で中立とは、国防と安保分野に対する無賃乗車」と批判した。中部ヨーロッパ内陸の深いところに位置し、NATOとEU同盟国に囲まれているスイスとオーストリアが自国の安保を隣国に「アウトソーシング」し、危険に処した国は助けないという主張だ。
ニューヨークタイムズ(NYT)も「スイスが戦争中にも中立に対する立場を緩和せず、都心にウクライナ国旗をかけておくのは単純な『同情心』に過ぎない」と批判した。中東衛星放送局アルジャジーラは「ロシアの侵攻が欧州の安保地形図を新しく構築した」とし「現在、中立国は『グレー地帯』であり、地政学的空間が縮小されている」と評価した。
●ウクライナNATO加盟でロシアに配慮した米政権 7/14
ウクライナ戦争の今後の行方を占う意味で注目されていた、リトアニアの首都ビリニュスでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(2023年7月11日と12日開催)が終わった。NATO加盟に向けて正式の招待状を受け取ることを願っていたウクライナの立場からみると満願成就とはならず、「目の前のコップに半分の水が注がれた程度」で終わった。
会議に至る交渉の舞台裏で何があったのか。検証すると、そこには、ウクライナや西側でのロシアとの対決ムードに冷水を浴びせたバイデン政権の思わぬ変化があった。
「コップ半分の水」という成果
今回の会議での主な決定事項はこうだ。まず最大の焦点だった、ウクライナのNATO加盟問題を巡ってのNATOの共同声明はウクライナにとって、非常につれない内容となった。
具体的な加盟時期や道筋をいっさい示さず「加盟国が同意し、条件が満たされた時に加盟への招待状を出す」とサクッと記しただけだった。加盟時期のメドや条件を明示した招待状を期待していたウクライナからすれば、非常に不満の残る内容だ。
ロシアの侵攻が長期化する中、加盟への招待状を受け取ることが、自国の安全の究極的保証につながると期待していたからだ。共同声明の内容を事前に知ったゼレンスキー大統領がリトアニアに向かう途中で「バカげている」と怒りのネット発信をしたほどだ。
この反発を予期していた西側は埋め合わせ策として、ウクライナ側に別の形の安全保障の約束を用意した。岸田文雄首相も参加した先進7カ国(G7)首脳による共同宣言だ。
宣言は、ウクライナが主権と領土を守るうえで軍事面も含めた「永続的な支援」を約束し、将来的にロシアが再度侵攻してきた場合の支援も約束した。G7以外のNATO加盟国も将来、この枠組みに加わることも可能とした。
NATO側が用意した、この手の込んだ保証の枠組みは、逆に見れば、何としても招待状は出さないという強い意志を浮き彫りにするものだった。
NATO条約第5条に「締約国はヨーロッパまたはアメリカにおける1または2以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす」とする規定があるNATO条約と比べ、G7のこの共同宣言には法的拘束力はなく、一種の政治的宣言にすぎない。
一方で、国際社会をリードするG7がウクライナの安全保障にコミットしたことの重みは、もちろん小さくない。この意味で、ウクライナにとって「コップに半分水が注がれた状態」なのである。
終わってみれば、ゼレンスキー氏はNATO加盟が最善の安全保障としながらも「加盟するか否かの曖昧さを取り除くことができた」と歓迎してみせた。不満は残るものの、事を荒立てないという一種の外交的対応だったと言えよう。NATO側から、批判ばかりするな、との圧力があったという。
アメリカが逃げ回った理由
しかし、今回のサミット開催に至る経過を取材すると、その過程で、NATO内で共同声明を巡る議論が最後までもつれにもつれていた事実が浮かび上がった。ウクライナの軍事筋によると、どのような文書がまとまるのか。7月11日の開幕当日までわからない展開だった。
最大の要因はアメリカだった。共同声明でウクライナ加盟に対する表現を極力薄めようと動いた。「あのトルコですら、招待状を出すことに前向きだったのに、アメリカは逃げ回った」(同筋)という。ドイツも同様に動き、アメリカとドイツは招待状を出すことに「前向きさをいっさい出さなかった」という。これを知ったウクライナ政府は非常に憤慨したという。
その理由は何だったのか。それは、ロシアへの配慮である。ウクライナのNATO早期加盟に道筋を付けることで、プーチン政権を刺激して過度の軍事的エスカレーションを招く事態を回避したいとのバイデン政権の姿勢が根本にあった。
だが、実はこのバイデン政権の対ロ配慮姿勢は今回の共同声明を巡る議論で急に出てきた話ではない。伏線はもっと以前からあった。
公表されていないが2023年5月ごろから、プーチン大統領のメンツを完全につぶしてはならないとの意向がホワイトハウスから関係各国に伝えられ、同盟国やウクライナを驚かしていたのだ。
5月と言えば、ウクライナによる本格的な反転攻勢がいつ始まるのか、と注目されていた時期だ。ウクライナ国内はもちろん、西側でも反攻作戦への期待が盛り上がっていた。このタイミングでのバイデン政権の対ロ配慮姿勢は、反転攻勢の結果、軍事的にロシアを瀬戸際まで追い込むことを恐れたバイデン政権の焦りの行動だった、とみるのが自然だろう。
もともと、バイデン政権はウクライナへの軍事支援に当たっては、「ウクライナが主権と領土的一体性を守るのを助ける」と規定しており、侵攻してきたロシアに対して、ウクライナが軍事的に勝利することを目的とは掲げていない。
つまり、ウクライナが国を守ることは助けるが、かと言って、ロシアへの軍事的勝利を目指しているわけではないという曖昧さを残していた。この点では、ウクライナの「勝利」を目指して軍事支援を行うと公言するイギリスや、NATOのストルテンベルグ事務総長とは一線を画している。
ところが、最近、アメリカ政府はますます神経質に、文書などで「勝利」の表現を避けるようになってきているとウクライナの軍事筋は明かす。これは何を示しているのか。
バイデン政権がゼレンスキー政権に対し、領土面で一定の譲歩を迫る形で、ロシアとの停戦交渉開始を求める動きの前ぶれと、本稿筆者はみる。2023年6月初めから始まった反転攻勢が当初の米欧の期待を裏切る形で手間取っている現状を受け、バイデン政権がウクライナとロシア双方に何らかの妥協決着を求める可能性が現実味を帯びてきた。
これを示唆する動きはすでに表面化している。バイデン政権内でロシアに対する秘密交渉役を担っているバーンズ中央情報局(CIA)長官が2023年6月末にロシア対外情報庁(SVR)のナルイシキン長官と電話会談したことが臆測を呼んでいる。
ここでは、民間軍事会社ワグネルの武装反乱についてだけでなく、ウクライナ情勢についても協議したとナルイシキン長官が明らかにした。ナルイシキン氏がわざわざウクライナ情勢について話し合ったと公表したことも気になるところだ。
ロシア国内の混乱を恐れるバイデン政権
バーンズ長官はキーウも極秘訪問したが、その直後にアメリカのワシントン・ポスト紙は、ウクライナ側が主要な領土を奪還した後、年内にロシアとの停戦交渉を開始するとの方針を長官に伝えた、と報じた。
極秘訪問の直後、同紙にウクライナ側の発言がリークされたことに対し、キーウではアメリカの意図をいぶかる声も出た。ゼレンスキー氏はこの報道を否定する発言を行うなど、火消しに追われた。ゼレンスキー政権は、ロシア軍がウクライナ領から完全撤退することが停戦交渉の前提との立場を公式には崩していない。
ウクライナとロシア双方から感触を探ったバーンズ長官の報告を踏まえ、プーチン政権の面子も守る形で停戦交渉案をバイデン政権がまとめる可能性はある。同時にこうした動きは、バイデン政権がウクライナ紛争解決案の最終形をまだ決めきれていないことを示すものだろう。
いずれにしても、プーチン政権を窮地に追い込まないよう動き始めたバイデン政権をみるにつけ、筆者が思い出すことがある。ソ連末期の1991年夏、旧ソ連からの独立を宣言した、エリツィン氏率いるロシア連邦を承認するのに慎重だったブッシュ(父)政権の姿勢だ。
ぎりぎりまで旧ソ連ゴルバチョフ政権維持にこだわっていた。同年12月にソ連は消滅しており、アメリカは結果的に時代の変化に乗り遅れた。この時の慎重姿勢は誤った判断だったと歴史的に結論付けられた。
バイデン政権もおそらく、ステータス・クオ(現状維持)という点で当時のアメリカの政権と同じ考えなのだろう。アメリカを中心とする国際秩序の急変を避けようとするのは、アメリカの一種の伝統的「国家的本能」とも言える。
ロシアを刺激することを恐れ、プーチン政権の反応をうかがうようにウクライナへの軍事支援を段階的に進めてきたバイデン政権の慎重姿勢に対しては、アメリカの外交専門家から過剰だと批判があるのも事実だ。
そんなバイデン政権としては、プーチン政権を軍事的敗北に追い込めば、ロシアの内政が混乱し、戦略核の管理体制が混乱することを恐れていると思われる。
おまけに6月末に起きた、ワグネル社指導者プリゴジン氏による武力反乱事件を目の当たりにしたバイデン政権としては、プーチン氏に代わって、新たな未知の指導者が登場することを回避したいとの思惑がさらに強まっているのではないか。
ウクライナ戦争をどう終結へと導くのか。ゼレンスキー政権による反転攻勢の成否の行方とともに、米欧、さらにプーチン政権の思惑が「変数」として絡む複雑な展開になりそうだ。
●バイデン氏、予備兵の欧州派遣を承認 ウクライナで戦争続く中最大3000人 7/14
米国のバイデン大統領は13日、国防総省に対し、最大3000人の予備兵を欧州へ派遣することを承認した。現地ではロシアによるウクライナでの戦争が継続している。
現在欧州に駐留する米軍兵士の数は10万人を超える。この数は昨年2月にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降増え続けてきた。
新たな承認の下、予備兵らは現在交代制で展開している「大西洋決意作戦」に配備され、北大西洋条約機構(NATO)及びその東部側面の強化に当たる。新たに署名された大統領令では、同作戦を米軍の関与する軍事行動と認定。予備兵らには現役の兵士と同等の資格が与えられる。
ウクライナは現在NATOに加盟していないため、同国内での戦争に直接関与する米軍兵士は一人もいない。
今回の承認を受け、国防総省には新たな選択肢が生まれる。今後はより多くの戦力を投入して、米欧州軍を支援することができるようになる。ただ国防当局者の1人は、事前通告が義務づけられていることから、実際にこれらの予備兵を派遣するには半年ほどかかる公算が大きいと明らかにした。
追加の兵士らは、後方支援や医療分野での任務に従事するとみられる。通常こうした役割は現役の兵士よりも予備兵が担うことが多い。
米軍は2014年以降、大西洋決意作戦の下で欧州への派遣を継続。域内の同盟国や提携国と共に任務に当たってきた。 国防総省のライダー報道官は、作戦を米軍の関与する軍事行動と認定したことにより一段と質の高い体制で兵士らを支援、維持できるようになると言い添えた。
●ロシア「ワグネル武装解除の最終段階」…ウクライナ戦場から「撤退」へ 7/14
ロシア国防省に軍事装備を移管し、傭兵企業ワグネル・グループの武装解除手続きが最終段階を迎えている。ウクライナ戦争でのワグネル・グループの活動が事実上、中断されたとの見方が出ている。
ロシア国防省は12日(現地時間)、ワグネル・グループの戦車や野砲、自走砲、対戦車兵器、地対空ミサイルなど2000基以上の軍事装備と銃器約2万丁、2500トン以上の弾薬を引き継いだと明らかにした。また、これを確認する映像を共に公開し、「ワグネル・グループの武装解除は最終段階」と述べた。
さらに、ロシア国防省は「ワグネル・グループが引き渡した軍事装備は、ロシア軍の整備を経た後、戦闘で用いられる予定だ」と説明した。
このため、ワグネル・グループはウクライナ戦場から完全に撤退するための手順を踏んでいるという見方が出ている。ワグネル・グループの傭兵の多くは、武装反乱後もウクライナ東部戦線に残っているという。傭兵らはベラルーシに渡るかロシア軍と再契約を締結して戦線に復帰するか帰郷するという、プーチン露大統領が提示した3つの案の1つを選ぶものと予想される。
今回の武装解除はプーチン大統領とワグネル・グループの首長・エフゲニー・プリゴジン氏の合意によって行われたものだが、ロシア国防総省がこれを公開したのは武装反乱を成功裏に鎮圧したことを対外的に誇示するための意図があるというのが国際問題専門家らの大半の見方だ。先だって、プーチン大統領はプリゴジン氏の反乱を「反逆」と述べた。AP通信は「武装解除によりワグネル・グループの脅威を緩和するためのロシア政府の努力を反映する」とし、「ウクライナ戦争でワグネル・グループの活動が事実上、中断されたことを示唆する」と分析した。
●ワグネル、ウクライナで「もはや重要な役割果たさず」=米国防総省 7/14
米国防総省の報道官は13日、ロシアの雇い兵組織「ワグネル」について、もはや「ウクライナでの戦闘活動支援において、重要な役割は何も果たしていない」との見方を示した。
ワグネルは6月24日、反乱を起こした。ウラジーミル・プーチン大統領の権威への挑戦だったが、反乱は24時間足らずで終わった。
ロシアが2014年にウクライナ南部クリミアを併合した際、ワグネルが支援したとされている。最近の最も血なまぐさい戦闘にも、参加してきた。
ロシア軍によるウクライナ東部バフムート制圧にも貢献した。
6月末の反乱収束に至ったロシア政府との合意では、ワグネルの戦闘員たちにはロシア正規軍に加わるか、帰国するか、あるいはワグネルのリーダー、エフゲニー・プリゴジン氏とともに隣国ベラルーシへ移動するかの選択肢が提示された。
しかし、今月10日になって、クレムリン(ロシア大統領府)はプーチン氏とプリゴジン氏が先月の反乱からわずか数日後にモスクワで会談していたと明らかにした。
プーチン氏はその会談で、ワグネル戦闘員たちに明確な提案をしたと主張している。
13日付のロシア紙コメルサントの取材に応じたプーチン氏は、ワグネル戦闘員はロシア正規軍で「任務を続ける」こともできたのだと語った。
そうすれば「(ワグネル戦闘員を)今後率いるのは、これまでずっと真の司令官だった人物になるはずだった」と述べた。これは自分のことを指しているとみられる。
プーチン氏はさらに、民間の軍事組織には法的枠組みがないと強調。単刀直入に言えば、「ワグネルは存在しない」のだと述べた。
ジョー・バイデン米大統領は同日、プリゴジン氏は毒殺に注意すべきだと記者団に話した。
「何をしでかすかは、神のみぞ知る。我々は(プリゴジン氏が)どこにいて、(プーチン氏と)どういう関係なのかさえ分からない。私が彼(プリゴジン氏)だったら、自分が食べる物に気を付けるだろう。私だったら、メニューから目を離さない」
プーチン氏は「すでに戦争に負けている」=バイデン氏
フィンランド・ヘルシンキで北欧5カ国首脳と会談後、バイデン氏はプーチン氏がウクライナでの戦争で勝利する可能性はないと述べた。
「彼はすでに、この戦争に負けている」
バイデン氏は、ロシアの大統領はいずれ、「この戦争の継続が経済的、政治的あるいはそのほかの面で、ロシアのためにならないと判断するだろう。だが、どうすればそうなるのかは、正確に予測できない」とした。
バイデン氏はさらに、ウクライナが現在の反転攻勢で、交渉による和平合意の実現に十分な成果を上げてもらいたいと、「希望と期待」を表明した。
一方で、長い準備を経て始まったウクライナの反攻が1カ月以上続いたいま、ウクライナやその同盟国では、ウクライナ軍の前進の遅れを懸念する声も上がっている。
他方で、ロシアの防衛が最終的に粉砕され、ウクライナが戦略的に重要な領土を奪取し、ロシアが掌握するクリミアへ進軍できるようになると考える人もいる。
ウクライナ軍、クラスター弾を受け取る
ウクライナはかねて、ロシアの侵略に対抗するため、西側同盟国に追加の軍事支援を要請している。
リトアニア・ヴィリニュスで今月開かれた北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議では、ウクライナのNATO加盟をめぐる具体的な日程は示されなかったが、主要7カ国(G7)からは、長期的な安全保障の枠組みが提示された。
ウクライナ軍のオレクサンドル・タルナフスキー司令官は13日、アメリカがウクライナへの供与を表明し物議を醸しているクラスター弾について、ウクライナ軍が受け取ったと、米CNNに述べた。
同司令官は、クラスター弾がウクライナの前線の戦況を変えるだろうと強調。「受け取ったばかりで、まだ使用していないが、(戦況を)根本的に変えることができる」とした。
●ロシア軍将官、前線の実態訴え解任か 別の将官は攻撃で死亡との情報 7/14
ウクライナを侵攻しているロシアの軍司令官が、自らの解任を明かした音声が明らかになった。前線の悲惨な状況について軍上層部に真実を伝えたあと解任されたという。別の高官がロシア占領地域で死亡したとの情報も出ている。解任されたのは、ウクライナ南部ザポリッジャ州で戦闘を続けているロシアの第58軍の司令官だったイワン・ポポフ少将。ポポフ氏の音声メッセージによると、ロシア軍の死傷率の高さや、ウクライナ軍の砲撃に対抗する砲撃システムの欠如、軍事情報の不足などについて、疑問の声を上げたという。「黙って臆病者になるか、現実を伝えるか、どちらかをしなくてはならなかった」「私には、皆さんの名において、死んでいった戦友の名において、うそをつく権利などない。だから、現存するすべての問題について概要を説明した」この音声メッセージは、ロシアのアンドレイ・グルリョフ議員がテレグラムに投稿した。同議員は元軍司令官で、国営テレビでコメンテーターを務めることも多い。メッセージがいつ録音されたものかは不明。ポポフ氏はまた、自分の上官たちが自分の解任を要求し、セルゲイ・ショイグ国防相が承認したのだと述べた。自分の解任を求めた上官たちを、ポポフ氏は裏切り者と呼んだ。
ゲラシモフ氏が解任指示との情報
ロシアの軍事ブロガーらは、ポポフ氏の解任命令が軍トップのヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長によって出されたものだと書いている。ロシアでは政府の公式コメントがない場合、これら軍事ブロガーが誰よりも詳しい軍の内部情報を伝えることが珍しくない。ブロガーらによると、ゲラシモフ氏はポポフ氏について、「警戒心をあおり、上層部を脅した」と非難したという。ポポフ氏が、前線に長期駐留して大きな損害を被っている兵士らの入れ替えが必要だと強く訴えたのを受けたものだという。ポポフ氏は音声メッセージで、「上層部は私に何らかの危険を覚えたらしく、わずか1日で国防相からの命令をでっち上げ、私を排除した」と主張。「ウクライナ軍は前線で、私たちの部隊を破ることができなかった。ところが、私たちの上層部が私たちを背後から襲い、最も厳しく大変なタイミングで、軍の首を激しく一刀両断した」と述べた。
音声投稿した議員への批判も
ポポフ氏の解任について、ロシア国防省はまだコメントを出していない。一方、グルリョフ議員が所属する政府寄りの政党「統一ロシア」の幹部は、同議員がポポフ氏の発言を「政治ショー」に仕立てたと批判した。「ポポフ司令官の発言は公のものではなく、第58軍の司令官や隊員らの非公開のチャットに投稿されたものだった」「グルリョフが何かしらの方法でこれを入手し、政治ショーに仕立て上げた。これは本人が良心の呵責(かしゃく)にすべきことだ」と、政党幹部は批判した。この幹部はまた、ポポフ氏がやましく思うべきことは何もないとたたえ、ロシアは彼のような指揮官を誇りに思うべきだと述べた。
スロヴィキン将軍は「休養中」
1カ月ほど前に始まったウクライナの反転攻勢は、ザポリッジャ州と東部ドネツク州が焦点となっている。ウクライナ軍は、ロシアの固い防衛線を突破するのに苦労している。こうしたなか、ロシアの別の議員は12日、ウクライナ侵攻の元総司令官、セルゲイ・スロヴィキン将軍について、「休養中」だと述べた。同将軍は、雇い兵組織「ワグネル」の反乱以降、公の場で姿が確認されていない、スロヴィキン氏は、ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏と親密だったとされる。反乱が短期間で終わった後には、逮捕されたとの報道もあった。スロヴィキン氏の所在は公式に確認されておらず、コメントも出ていない。
別の将官がロシア占領地域で死亡か
一方、ロシア軍の別の高官オレグ・ツォコフ中将は、ロシアが占領するウクライナ南海岸で今週、攻撃を受けて死亡したとされる。同中将は、ロシア南部軍管区の副司令官だった。報道によると、アゾフ海沿岸の都市ベルディアンスクにある、ロシア軍司令官が宿泊するホテルが攻撃され破壊された。ツォコフ氏はそれに巻き込まれたという。ロシアのソーシャルメディアでは、攻撃は11日午前4時ごろにあったとの同国の一部メディアは、イギリスがウクライナに供与した長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」が攻撃に使われたとしている。この真偽は確認されていないが、イギリスは5月に同ミサイルをウクライナに供与したと明らかにしている。ロシア国防省はツォコフ氏の死亡を公式には認めていない。しかし、テレグラムでは広く伝わっている。BBCはツォコフ氏の死亡を確認できていない。ウクライナ当局は、同氏が死亡したとしている。
●世界の飢餓人口 最大7億8300万人 ロシアによるウクライナ侵攻など影響 7/14
ロシアによる軍事侵攻などの影響により去年、世界で最大7億8300万人が慢性的な飢えに直面したと国連機関が発表しました。
WFP=世界食糧計画などが発表した報告書によりますと、去年の各国の経済は新型コロナによる影響から回復し、飢餓に直面する人の数は2021年に比べて減少しました。
一方で、ロシアのウクライナ侵攻に伴う食料とエネルギー価格の高騰や気候変動などにより、慢性的な飢えに苦しむ人の数は最大で7億8300万人にのぼったということです。
国連は、SDGs=持続可能な開発目標の一つに2030年までの飢餓の撲滅を掲げていますが、報告書では「現状で達成は困難だ」として各国に対応を急ぐよう求めています。
●いすゞ自動車 ロシアでの生産から撤退 大手全社が撤退見通し 7/14
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、大手トラックメーカーの「いすゞ自動車」が自社工場によるロシアでの生産から撤退したことを明らかにしました。三菱自動車工業も生産の再開は行わない方針で、日本の大手自動車メーカーのすべてが撤退する見通しとなりました。
いすゞ自動車は、ロシア中部のウリヤノフスク州に現地工場を設け、2021年には年間3700台のトラックを生産していましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で去年3月から生産を停止していました。
会社によりますと、事業の再開が見込めないとして12日、現地の自動車メーカー「ソラーズ」に事業を譲渡し撤退したということです。
日本の大手自動車メーカーではすでに去年秋以降、トヨタ自動車と日産自動車、それにマツダがロシアの現地生産からの撤退を発表しています。
関係者によりますと現地生産を取りやめた三菱自動車工業も合弁相手の自動車メーカー「ステランティス」と撤退を視野に協議を進めていて、日本の大手自動車メーカーのすべてが自社工場によるロシアでの生産から撤退する見通しとなりました。
●ロシアとベラルーシ、パリ五輪に出場不可か…IOC、招待状発送国から除外 7/14
国際オリンピック委員会(IOC)が26日、2024年パリ五輪参加国に対する招待状を一括して送付したものの、ロシアとベラルーシが除外されていたことが分かった。
これは、ロシア国営タス通信が13日夕(韓国時間)、「IOCはウクライナ侵攻を理由に、2024年パリ五輪に関して、ロシアとベラルーシを招待状発送国から除外した。これはウクライナ侵攻以降、両国に取られた一連の制裁と関連したものだ」と報じて分かったものだ。
タス通信はIOCの発表として、「今月26日に2024年パリ五輪招待状を203カ国の国内オリンピック委員会(NOC)に一括して送る予定だが、ロシアとベラルーシのオリンピック委員会は同リストに含まれていない。この決定は、IOCがウクライナ侵攻以降、ロシアとベラルーシに科した制裁と関連して下された」と報じた。しかし、招待状の発送そのものはIOCのロシア代表選手・ベラルーシ代表選手の五輪参加を左右するものではなく、(ロシア代表選手・ベラルーシ代表選手の五輪参加の)最終決定は「適切な時期にIOCが決める」と伝えた。
IOCは今年3月28日、ロシアとベラルーシの選手たちが国際大会に中立的な選手としてのみ参加できるようにすることを勧告し、「『特別な軍事作戦(ウクライナ侵攻)』を支持しておらず、軍隊や国家安全保障機関と関係のない選手の場合は大会への参加を許可する」と発表した。
IOCはまた、「2022年9月から資格がはく奪されているグアテマラに対しても招待状を送らない」としている。 
●打倒プーチン政権 志願兵が増加?もう一つのロシア軍幹部語る 7/14
「ワグネルの武装反乱のあと、私たちに加わりたいと志願するロシア人が増えている」こう話すのは、ウクライナ側に立って戦うロシア人の武装組織「自由ロシア軍」の副司令官です。プーチン政権の打倒を掲げる義勇兵の彼らからみた反乱の影響は? 予想よりもスピードが遅いとも指摘されるウクライナによる反転攻勢の最新状況は? 前線でロシア軍と向き合う「もう一つのロシア軍」の幹部に聞きました。
話を聞いたのは「自由ロシア軍」の“シーザー”
2023年7月8日、オンラインでつないだパソコンの画面に姿をみせてくれた「自由ロシア軍」の副司令官。「シーザー」というコードネームで活動する幹部です。部隊の顔として、地元メディアなどの取材に応じています。もともとは前日に取材の約束をしていましたが、急きょ、延期に。作戦行動のまっただ中のため、こうしたことはよくあり、翌日には、今回のインタビューが実現しました。 (以下、副司令官の話)
ワグネルの武装反乱のあと、ロシア軍に変化は?
武装反乱以降、民間軍事会社「ワグネル」の部隊を戦地で見ていません。ワグネルは最も戦闘態勢が整った部隊だと考えられていて、実際、これまで一定の成果をあげてきました。それはロシアにとって、どんなに大きな犠牲を出しても攻撃に使うことができる唯一の道具でした。ほかの部隊ではワグネルのような戦い方はできず、ロシア軍はそれを失ったことになります。ワグネルの部隊は、ベラルーシなどに移ることになるでしょう。ワグネルの武装反乱は失敗しましたが、反乱によってロシアのプーチン政権のさまざまな問題が明らかになりました。私たち義勇兵組織の支持者は勇気づけられ、反乱のあと「自由ロシア軍」に加わりたいと志願するロシア人が増えています。
ロシア軍やプーチン政権への影響は?
プーチン政権の政治のやり方は、極端な「縦社会」になっていて、見たい情報しかプーチン氏のもとに届かず、不適切な命令がトップダウンで下されるようになっています。しかし、それは社会の実情にはあってはいません。今回のワグネルの武装反乱は、こうした政権の基盤のもろさを見せつけたと思います。また、今回のような出来事があると、戦地に赴くロシア軍の兵士にとっては否定的な影響があります。いまプーチン政権はとても不安定な状況にあると思います。プーチン政権は、プリゴジン氏を断罪することを怖がっている様子を見せています。ワグネルの部隊がロシア軍のヘリを撃墜し、パイロットを殺害したとされていることについて、プリゴジン氏は少なくとも公には処罰されていません。プリゴジン氏はこれまでのところ無傷です。このことも、プーチン政権にとっては打撃になるでしょう。
現在の作戦の状況は?いまの役割は?
(ことし5月、自由ロシア軍はロシア西部のベルゴロド州に入り、戦闘を開始したと発表していた。)
ベルゴロド州での作戦はすでに完了しました。ロシアでの作戦にはいくつかの目標がありました。まず、ロシア軍のウクライナとの国境における防衛能力を確かめることです。そして、敵の後方部隊を攻撃し、分散させることです。さらにロシア国民に対して、プーチン政権下であっても、武装反乱は可能であると示すことも重要な任務でした。私たちは、いまはすでにロシアの領土からウクライナに戻っていて、ウクライナ軍の反転攻勢の作戦に加わっています。もう1つのロシア人の義勇兵組織である「ロシア義勇軍」もウクライナに戻ったとのことです。ウクライナ側からは非常にシンプルな任務を課されています。それは、ロシア軍の人員と装備を破壊することです。また、私たちは非常に優れた無人機の偵察部隊を擁しています。このため、ロシア軍を正確に、狙ったタイミングで砲撃することができます。
反転攻勢の前線の状況は?
従来から攻撃する側は防御する側の3倍の戦力が必要だといわれてきました。ウクライナ軍とロシア軍は、車両などの数ではほぼ対等といえますが、航空戦力ではウクライナは苦戦しています。残念ながら、欧米各国などから供与された兵器は、必要な量に達しているとはいえないのです。ですから、いま何よりも必要なのは、「防空システム」や「戦闘機」の充実です。戦闘機があれば、敵の部隊を戦線の奥深くまで攻撃でき、歩兵を援護することができます。しかし、いまのように制空権がない中では、効果的な攻撃は非常に難しいのが実情です。さらにウクライナ軍は、偵察用の無人機も非常に高い頻度で失っていて、反転攻勢においては、膨大な数の無人機の調達が必要となってきます。
対するロシア軍の状況は?
ロシア軍は前線で何層もの防衛線を築いている上、多数の地雷を埋めた地雷原を作っていて、それがウクライナ側の反転攻勢における進撃を遅くさせています。いたずらに兵力を消耗するわけにはいかないからです。
また、ウクライナ軍とロシア軍は兵力ではほぼきっ抗していますが、ロシアはさらに大規模な動員を行う余力を残しています。一方で、ロシア軍は、多数の兵士を訓練したり、武器を供給したりすることにおいては、問題に直面しています。というのも、ロシア側はこれまでの戦いで、経験豊富な人材を失ってきたからです。このため現在、指揮官から一般の兵士にいたるまで、ロシア軍のレベルは大きく低下しています。兵士の士気も落ちていて、特に最近の出来事(ワグネルの武装反乱)に関連して、やがて「お金のため」という理由を除いて、何のために戦っているのかまったく理解できなくなると思います。一方でウクライナ軍は「自分たちの土地を守り、解放しよう」という意欲が高く、訓練も行き届いています。
今後の自由ロシア軍の動きは?
ウクライナの領土の奪還という任務を達成したら、ロシアを権力者の手から武力で解放するために、ロシアに戻ります。プーチン政権は永遠ではありません。私たちは新しい、自由で公正なロシアを作りたいのです。
取材後に驚きのニュースが…
インタビューの2日後、ロシア大統領府が突然、驚くような発表を行いました。ワグネルの武装反乱を激しく非難していたプーチン大統領が、実は反乱後の6月29日に張本人のプリゴジン氏や指揮官と3時間にわたって会談していたというのです。なぜ、プーチン大統領はこのような対応をとったのか。もしくは、とらざるを得なかったのか。今回インタビューした「自由ロシア軍」の副司令官は、プーチン氏の一連の対応は、政権に反対するロシア人を勇気づける結果になったという見方を示しました。 圧倒的な権力基盤をもち、時に独裁的とも非難されるプーチン政権。しかし、ロシア国内の義勇兵の存在、そして、今回の武装反乱が、政権の「終わりの始まり」の兆候になることはないのか、注意深く見ていく必要があると感じました。
●穀物4者合意、一時離脱を示唆 7/14
黒海を通じたウクライナ産穀物輸出に関するロシアとトルコ、国連の4者合意の期限切れが17日に迫った。ロシアのプーチン大統領は13日、国営テレビで「ロシアの利益に関する点は何一つ履行されていない」と述べ、合意時に国連との覚書で求めたロシア産穀物や肥料の輸出正常化が何ら進んでいないと不満を改めて表明。合意の一時離脱を強くにじませた。
プーチン氏は、国連の努力を評価する一方で「欧米諸国が約束を履行しようとせず、成功していない」と批判。「合意への参加を一時停止し、皆がロシアに対する約束を果たした後に再び合意に加わる選択肢もある」と述べた。
●発覚!激怒プーチンは「ロシア軍内の裏切り者」を闇粛清 7/14
アメリカの「ウォール・ストリート・ジャーナル」は7月13日、ロシアの民間軍事会社ワグネルが反乱を開始してからわずか数時間のうちに、治安機関が反乱に協力したロシア軍の高官らを拘束していたと報じた。
同紙によれば、少なくとも13人の軍高官が拘束されたほか、15人が職務停止や解任に追い込まれた。拘束された軍高官の中にはロシア軍副司令官セルゲイ・スロビキン氏をはじめ、軍の情報機関GRU(参謀本部情報総局)の副局長も含まれていたというのだ。
一方、ワグネルの乱を主導したエフゲニー・プリゴジン氏については、反乱から5日後の6月29日、プーチン大統領とプリゴジン氏がモスクワにあるクレムリン(ロシア大統領府)で会談していた事実を、大統領府が明らかにしている。会談にはワグネルの司令官ら35人も参加し、3時間にわたって協議が行われたとされる。
軍高官らの拘束、そして首謀者との会談。独裁者プーチンはいったい、何を考えているのか。プーチン政権の内情に詳しい国際政治アナリストが明かす。
「軍の高官らを拘束した治安機関は、FSB(連邦保安局)とみて間違いないでしょう。FSBは旧ソ連のKGB(国家保安委員会)時代から、GRUとは対立関係にあった。反乱の知らせを聞いて驚いたプーチンは、自分の出身母体であるFSBに命じて、反乱が政権を揺るがす内戦へと拡大する前に、反乱に協力した疑いのある軍やGRUの高官らを、急ぎ取り押さえたと考えられます」
ならばなぜ、軍やGRUの高官らの拘束からわずか5日後に、反乱の首謀者であるプリゴジン氏と会談を持ったのか。国際政治アナリストが続ける。
「プーチンは裏切り者を絶対に許さない、冷徹な独裁者です。しかし、このタイミングでプリゴジンを亡き者にすれば、プリゴジンがロシア国内で英雄視され、軍やGRUによる新たな反乱を招くことになる。そこでプーチンは、一計を案じた。つまり、反乱に協力した軍やGRUの高官らを秘かに粛清した後、首謀者であるプリゴジンをゆっくりと始末するというのが、プーチンが捻り出した苦肉の策だったのです」
裏切り者は闇から闇へと葬り去る──。逆に言えば、今のプーチンはそれほどまでに窮地に追い詰められ、盤石だったはずの独裁体制が揺らぎ始めているということだ。
●ウクライナ軍、ロシア軍の侵攻後から装甲戦闘車8000台破壊 7/14
「もしあなたが心が腐った侵略者だったら、あなたならどうしますか?」
ウクライナ軍は2023年7月14日にロシア軍侵攻直後から、ロシア軍の装甲戦闘車両8000台を破壊したことを発表した。
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ウクライナ軍では2022年2月24日にロシア軍に侵攻されてから殺害したロシア軍の兵士の数、破壊した戦車、戦闘機など兵器の数をほぼ毎日公表している。
ウクライナ軍によると2022年2月24日から2023年7月14日までにロシア軍の装甲戦闘車両8000台を破壊した。ウクライナ軍が破壊したロシア軍の装甲戦闘車両の数は2022年12月25日に6000台を突破、2023年4月5日までに7000台突破していた。約3か月ごとに1000台ずつ破壊している。
ウクライナ軍は公式SNSでロシア軍の装甲戦闘車両が破壊され燃えている写真とともに「破壊された金属の腐敗は戦争では問題です。しかし、もしあなたが心が腐った侵略者だったら、あなたならどうしますか?」とコメントして破壊8000台を突破したことを伝えている。
ロシア軍の装甲戦闘車両の多くはウクライナ軍のミサイルやドローンで攻撃されて破壊されることが多い。小型民生品ドローンに搭載された爆弾を投下したりして、装甲戦闘車両を破壊している。
偵察監視ドローンが装甲戦闘車両を探知したら、ミサイルを撃ったり、攻撃ドローンで攻撃している。攻撃ドローンなら上空で装甲戦闘車両を探知したらすぐに攻撃したり、爆弾を投下することができる。装甲戦闘車両は上空からでも目立つのでドローンに探知されやすいし、大きいので攻撃もしやすい。ドローンで爆弾投下されたり、神風ドローンに突っ込まれると装甲戦闘車両はすぐに燃え上がる。ウクライナ軍では小型民生品ドローンに爆弾を搭載して、ロシア軍の戦車に投下している。また小型民生品ドローンに爆弾を装着してドローンごとロシア軍の戦車に突っ込んでいく、いわゆる神風ドローンも作って攻撃している。
ドローンに見つかって攻撃されることを察知したら、ロシア兵は上空からの攻撃を回避するために装甲戦闘車両や戦車だけを置いて逃げることが多い。そのような置き去りにされたロシア軍の装甲戦闘車両にもドローンで爆弾を投下して徹底的に破壊している。ロシア軍が戻って来ても装甲戦闘車量や戦車は再利用できなくなっている。
ドローンに搭載した爆弾の量によっては戦車や装甲戦闘車両を全壊することができない場合もある。だが一部を破壊するだけでも戦車や装甲戦闘車両を利用することができなくなるので効果がある。
●ウクライナ反転攻勢 ロシア 軍上層部と現場の隔たり深刻化か 7/14
ウクライナ軍は領土の奪還に向けて東部や南部で反転攻勢を続け、一部で前進しているとみられています。一方、ロシア軍では、軍の上層部と現場の指揮官との隔たりが深刻化しているという見方がでています。
ウクライナ空軍は14日、ロシア軍が17機のイラン製の攻撃用無人機で攻撃を仕掛け、このうち16機を撃墜したと発表しました。
一方で、ウクライナ軍も東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で反転攻勢を続けていてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は13日「ウクライナ側は少なくとも3つの前線で反撃作戦を続け、一部で前進している」と指摘しています。
こうした中、ロシア側ではザポリージャ州に展開するロシア軍部隊の司令官を務めていた幹部が解任されたと訴えているとする音声が12日、公開されました。
音声は、ロシア陸軍のポポフ少将のものとされ、軍の上層部に対し、砲兵対策が行われず、ウクライナ側の砲撃により多数の死傷者が出ているといった軍が抱える問題を包み隠さず指摘したと主張しています。
そして、その日のうちにショイグ国防相の命令により解任されたとしていて「最も重要な局面で卑劣にも首を切ってきた」と非難しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ポポフ少将は、ウクライナ侵攻の総司令官をつとめるゲラシモフ参謀総長から指揮権を剥奪するようクレムリンに訴えようとしたとみられる」と指摘しています。
そして「ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の排除を求めたワグネルの代表、プリゴジン氏の反乱をほうふつさせるものだ。ロシア軍の指揮系統がさらにぜい弱になれば、将来、重大な指揮統制の危機がひき起こされる可能性がある」として、軍の上層部と現場の指揮官との間の隔たりが深刻化していると分析しています。
プーチン大統領「ワグネル 国防省の傘下入りに難色」
ロシアの有力紙「コメルサント」は13日、プーチン大統領へのインタビュー記事を掲載しました。
この中でプーチン大統領は、6月に武装反乱を起こしたロシアの民間軍事会社ワグネルについて「ワグネルの普通の戦闘員は立派に戦っていた。彼らがこうした出来事に巻き込まれたことは残念だ」と述べました。
一方、プーチン大統領は6月29日にワグネルの代表プリゴジン氏らと会談した際、ワグネルの戦闘員の今後の雇用について、ワグネルを直接指揮してきた司令官をトップに1つの部隊として戦闘を続けることを提案したことを明らかにしました。
プーチン氏はワグネルの戦闘員が国防省の傘下に入るよう改めて提案したとみられますが、プリゴジン氏は「みんなは同意しない」と述べ、難色を示したということです。
プーチン大統領はインタビュー記事の中で「ロシアには民間軍事組織に関する法律はなく、ワグネルは存在しない。合法化に関わる問題は、議会や政府での議論が必要だ。簡単ではない」と述べていて、政権が今後、ワグネルに対してどう対処していくかが注目されます。
●ドローン相次ぎ撃墜 ウクライナ 7/14
ウクライナ空軍は14日、声明を出し、前日夜から14日朝までにイラン製ドローン16機を撃墜したと発表した。ロシア軍による4夜連続の激しい空爆が続いている。
声明は「イラン製自爆ドローン『シャヘド』17機をロシア軍は南東から飛来させた。対空作戦の結果、16機を破壊した」と主張した。

 

●ワグネルに正規軍入り提案もプリゴジンが拒否 プーチン大統領が明かす 7/15
ロシアのプーチン大統領は、先月に武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルに対し、正規軍傘下の部隊として戦闘を続けるチャンスを与えたが、同社創設者のエフゲニー・プリゴジンがこれを拒否していたことを明らかにした。ワグネル戦闘員の今後に疑問を投げかける発言だ。
プーチンはロシア経済紙コメルサントのインタビューで、プリゴジンを含む35人のワグネル指揮官と協議したと説明した。ロシア大統領府はこれに先立ち、反乱から5日後に協議が行われたと明らかにしていた。
AP通信によるインタビューの翻訳によれば、プーチンはワグネルに対し、これまで戦場で同社の部隊を率いてきた「セドイ(白髪)」の通称で知られる司令官が統制する部隊として、ウクライナ侵攻に引き続き参加する案を提示したという。ただしその場合、ワグネルの戦闘員はロシア国防省と契約を結ぶことになり、事実上、軍の指導下に置かれる。
プーチンは、ワグネルがもしこの提案を受け入れていたら、「戦闘員にとっては何も変わらなかっただろう」と述べ、協議に参加したワグネル司令官の多くがうなずいて賛成の意を示していたと主張した。
だが、この案はプリゴジンによって拒否された。プーチンによると、プリゴジンは司令官らがうなずいていることに気付かず、「彼らは同意しないだろう」と言ったという。
インタビューの中でプーチンは、戦闘部隊としてのワグネルの今後については明言を避け、ロシアの法律では民間軍事組織の存在は認められていないとのみ指摘した。
また、、プリゴジンをやゆするかのように、ワグネルの「本当の司令官」はこれまでも常にセドイだったとも発言した。コメルサントによると、セドイは過去1年4カ月間にわたり、戦場でワグネルの作戦を指揮してきたという。
プーチンとロシア大統領府はこれまで、ワグネルの戦闘員は国防省と契約を結んで事実上ロシア軍の傘下に入るか、ベラルーシに移動するか、戦闘から身を引くか選択できるとしてきた。これらの選択肢のいずれかが受け入れられたかは不明だ。
ワグネルと大統領府が結んだ休戦協定には、プリゴジンがベラルーシへの出国に同意することが含まれていたとされている。だが先週には、プリゴジンがロシアのサンクトペテルブルクに戻ったと報じられた。
ワグネルは先月の反乱で、「正義の行進」と称して首都モスクワに向かって進軍。ワロシア南西部の数都市を制圧し、ロシア軍機を数機撃墜した。これは20年にわたって権力を掌握してきたプーチンに対する過去最大の蜂起と見なされた。
プーチンは、ワグネルの反乱は「裏切り」であり、ロシアの「背中を刺す」行為だと非難。だが双方は最終的に反乱の停止に合意し、ワグネルの戦闘員は罪に問われないことになった。
●米軍クラスター爆弾がウクライナ到着、プーチン「西側の戦車を優先攻撃」 7/15
米国がロシアの侵攻に対抗しているウクライナに供与することを決めたクラスター爆弾が、ウクライナに到着した。AP通信などによると、米統合参謀本部のダグラス・シムス運用部長は13日(現地時間)、クラスター爆弾をウクライナに引き渡したと明らかにした。バイデン米政権が、ウクライナに提供する砲弾の生産に時間がかかり、生産が完了するまでクラスター爆弾を代わりに供与すると明らかにして6日後に実現した。
ウクライナ陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官も同日、CNNのインタビューで、「戦場を根本的に変えることができる」と期待感を示した。クラスター爆弾は1つの大型砲弾の中に小型の自爆弾が複数入っており、「鋼鉄の雨」と呼ばれるほど破壊力が強いが、民間人被害の懸念も大きく、使用をめぐって国際的に議論されてきた。
バイデン大統領は同日、フィンランドのヘルシンキで、フィンランドのニーニスト大統領との共同記者会見で、「ウクライナ戦争がどれだけ続くと考えるか」という質問には、「ロシアが戦争を維持できるとは思わない。プーチン大統領が戦争に勝つ可能性はない。すでに負けている」と話した。ロシアの核兵器使用の可能性については、「核兵器を使用する可能性があるとは思わない」と述べた。
バイデン氏はまた、武装蜂起を起こしたロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創始者プリゴジン氏の行方について尋ねられると、「私なら食べ物に注意するだろう」と毒殺の可能性に言及した。
ウクライナに対する西洋諸国の兵器の供与が続く中、プーチン氏は同日、ロシアの国営放送ロシアTVのインタビューで、「外国製の戦車を真っ先に攻撃対象にする」と警告した。プーチン氏は「西側の戦車は旧ソ連で生産された戦車より簡単に燃える」とし、「ウクライナの兵士たちはロシア軍の攻撃対象になった西側の戦車に乗ることをためらっている」と主張した。
●ワグネルがベラルーシ入り 戦闘員が“教官”新兵を訓練 7/15
6月、プーチン政権への反乱を起こしたロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員が、隣国のベラルーシに入ったことが初めてわかった。
ベラルーシの国防省が14日、公式SNSで明らかにしたもので、地元のテレビ局は、ワグネルの戦闘員が教官として、徴兵されたばかりのベラルーシ軍の兵士に対し、戦場での移動や射撃などの訓練を行う様子を放送した。
ベラルーシ兵「彼らはとても教養がある。たくさんのことを教えてくれた。とても役立つ内容だった」
ベラルーシ当局がワグネル戦闘員の入国を認めたのは初めてで、今後の活動が注目される。
●ウクライナは大不満でも、NATO首脳会議が向かったのは停戦への地ならし 7/15
NATO首脳会議が終わった。ウクライナについて目新しい合意があったわけではない。「交戦中の国はNATOに加盟できない」、「NATOはこの戦争に直接介入しない」という基本線は、バイデン大統領が先頭に立って堅持された。ウクライナ軍がロシア領内を攻撃できる長距離兵器の供給も、これまで通り極力抑制される。
目新しいことと言ったら、G7がウクライナ支援で前面に出たことだろう。ウクライナをなだめるための一時しのぎのことだとは思うが、今後G7が、麻痺している国連安保理の役割を代行することとなれば、国際政治、そして日本外交にとって非常に大きな意味を持つ。
NATOの立ち位置は不変
ロシアや、その他世界の多くの理解と異なり、米国のバイデン政権はウクライナ戦争に直接加わることを拒否し続けている。ロシアと直接対決するのは、核攻撃を受ける可能性があるので、避けているのである。そしてウクライナ軍に長距離射程の兵器を供与して、彼らにロシア領内への攻撃を可能とすることも、極力控えている。NATOの欧州諸国の中ではポーランドなど、ウクライナ戦争への直接介入に前向きな国もある一方、ドイツ、フランスなど大多数はそれには後ろ向きである。
この基本的な制約の中で、NATOの信用をどう守るか、そしてウクライナが過度の不満、失望感を持つのをどう防ぐか。これが今回、首脳会議の課題だったが、これはうまく「しのぐ」ことができた。「NATO・ウクライナ評議会」なるフォーラムを立ち上げて、ウクライナは加盟国と同等であることを示したし、加盟国はこれまでと同様、各国ができる支援をウクライナに対して続けることを共同声明でうたった。これは、停戦が成立した後も有効で、停戦後のウクライナの安全を保証することとなるだろう。
これは今回NATO首脳会議の前から、「イスラエル方式」、つまり集団安全保障の枠組み外で、二国間の協力をベースに手厚い安保協力を続けるやり方として、諸方で議論されていたものだ。こうして今回のNATO首脳会議は、「ウクライナに加盟国の地位を安易に与えるのを避けつつ、同国の安全を保証していく」ラインをあらためて確立した。但しそれは、ウクライナに「更に戦え」と言うよりも、「停戦しても大丈夫」――ロシア軍による占領は認めたままだが――だと言っているように、筆者には聞こえる。
G7の変身・国連安保理に代わるものへ
NATO首脳会議での大きな成果は、G7を前面に打ち出したことだろう。最近はインド、中国などが新たな経済大国としてはやされるが、技術・企業経営力など経済の実力でG7にかなうものはない。
G7はもともと経済面での協力を念頭に立ち上げられたものだ。政治面では国連やNATOのような機構は持っていない。しかし政策協力、共同イニシャチブは敏速に打ち出すことができる。そしてそれは、G7の経済力、軍事力に鑑みて、非常に大きな力を持つ。
日本は1933年、国際連盟から脱退して(日本は常任理事国だった)90年目にして初めて、国際安全保障取り決めの幹事役に返り咲いたと言える。これからG7が多国籍軍組成、あるいはPKOの核ともなれば、その重みは益々増す。G7は、機能不全を越えて死に体となった国連安保理に代わる「世界の警察官」の役割を担うこととなる。日本は年末までG7の議長国なので、できること、やるべきことは多い。
もっとも、今回のG7合意が発表された場面をテレビで見ると、演壇中央でこれを発表する岸田総理の両脇に、他のG7諸国首脳、そしてゼレンスキー大統領が「?」という表情で立っている。岸田総理が日本語でスピーチしたためだろうが、この場面は、日本が西側の国際政治の場に加わろうとすると、彼らの共感を得ることは簡単ではなく、一方迎合して英語でスピーチをすると、今度は日本国内で浮き上がるジレンマがあることを示している。
ウクライナ軍、やはり苦戦
今回のNATO首脳会議で、戦局は変わらない。ウクライナは当面、領土奪還戦を続ける。
ロシア軍が縦深10キロ以上もの防御線を築いていることで、ウクライナ軍は苦戦している。まずカーペットのように地雷が敷設された地雷原を突破できたとしても、今度はジグザグに掘られた塹壕が待ち構える。ジグザグのポケットに入り込むと、左右両側から射撃される。これを越えると、ロシア軍の堡塁が待ち構え、これを突破しても、次の地雷原・塹壕・堡塁の3点セットがさらに二つもあるのだそうだ。
しかし運よく、どこかで防御線を突破できると、士気と訓練を欠くロシア兵が蜘蛛の子を散らすように逃散する可能性がある。アゾフ海北西岸にクリミア半島に至る回廊を確保しているロシア軍に、そうやってくさびを打ち込むことができれば、ロシアにとってクリミア半島の防御は難しくなり、ロシアの方から停戦を申し出ることになろう。
しかし、ウクライナ軍は苦戦している。ロシア側は、6月4日以来、ウクライナの戦車を246台破壊したが、うち13台は、西側がウクライナにこれまで納入した81台の一部だとしている。これを、6月22日のロシア国家安全保障会議で明かしたショイグ国防相は同時に、ロシア、ウクライナ双方とも、ソ連時代に蓄えた兵器は既にほぼ使い切ったと述べている。ということは、ウクライナ軍の装備はこれから西側から新規供給されるものに大きく依存、ロシア側は古い機械設備で大増産中の兵器に依存する、ということを意味する。
「工業力に優れた」西側の方が優位を持っていると思うかもしれないが、西側の兵器の多くは民間企業が製造しており、彼らは冷戦終了で設備の多くを廃棄している。政府からウクライナのために増産しろと言われても、明日には停戦するかもしれない戦争のために自分の資金を設備投資に向ける気はない。だから、「西側の兵器供給能力は限定的だ」ということは、方程式の定数なのである。
「ロシア軍は兵員も装備も十分」
一方、ロシアの方も、軍需企業はソ連崩壊後の大混乱時代にエンジニア、労働者が大量に流出し、特に現代の兵器に必須の半導体、そして電子技術に習熟したエンジニアの決定的な不足に悩まされている。それでも、ロシアの軍需企業は民営化が進まなかったことを幸い、今、政府から手厚い支援を得ている。軍需生産増強は、辣腕を誇るミシュースチン首相を筆頭とする「調整委員会」(昨年10月創設)が強引に各省庁間の調整をしている。
平時の戦車製造能力は年間数百台だが、プーチンは2025年までに1600台を生産すると豪語している。もっともこれは、旧型の戦車を近代化する分も含めているし、一年にならしてみると、これまでの生産量とあまり変わらないが、ウクライナ軍をしのぐことは確実である。国産半導体がほとんどない、という問題はあるが、これは中国から供給を受けることができるだろう。別に3ナノの先端半導体がなくとも、兵器は作れる。
更に兵員も、ウクライナ軍の諜報担当ブダーノフは、ウクライナ領内のロシア軍兵力を35万人以上と見積もっており、これだけでウクライナ軍全軍と同等以上となる。またドイツの諜報庁BND長官Bruno Kahlは5月23日、「ロシア軍は兵員も装備も十分」と発言している。
となると、ウクライナ軍が消耗した頃を見計らって、ロシア軍が占領地域を拡大して、ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州4州の占領(昨年10月には4州の「併合」を法制化している。しかしルガンスク州を除いては完全制圧していない)を完遂しようとする可能性が出てくる。首都キーウ占領、あるいは破壊の可能性もあるが、それよりは4州の占領を固め、それを政権の成果として来年3月の大統領選挙でプーチンが国民の信を問う、このような筋書きになる可能性の方が高い。
武力侵攻をする国は国際社会から村八分に
ロシア軍が攻勢に出てウクライナが劣勢になった場合、バイデン大統領は難しい選択に迫られるが、大統領選挙戦が事実上始まることもあり、停戦実現の方向を選好するだろう。その場合、停戦ラインをどこに引くか、その両側のどこらへんまでを非武装地帯とするか、あるいは国際平和維持部隊を展開するかが、主な交渉事項となる。
ロシアにとってのワイルド・カードは、プリゴージン事件を契機に上層部が割れることだ。プーチン大統領は6月29日にはプリゴージン、そして「ワグネル」幹部たちと「団交」するなど、この件をうやむやにして、「ワグネル」勢力を便利に使い続けようとしているようだ。
しかしそれは、軍の反発を招く。「ワグネル」を諜報機関の一部が支援しているとすれば、その諜報機関と軍は対立するだろう。またその諜報機関は他の諜報機関とも対立し、チェチェンのカディロフ首長などもからんでの内紛に発展するかもしれない。それぞれが核兵器の管理権を手に入れて対立すれば、それは世界にとっても危険なことになろう。
ウクライナ軍攻勢の停滞で、ウクライナはロシア軍の撤退をはかることなしに停戦せざるを得ない事態になる可能性がでてきた。もともと西側は、そのようなやり方を2015年の「ミンスク議定書」で認めているのである。
しかし、ロシアの武力侵攻を放置しておいてはいけない。武力で押し返すことができずとも、撤退しない限り、諸方の国際的枠組みでは資格を停止するなどの制裁を恒常化するべきだ。
「グローバル・サウス」が乗ってこない措置もあるだろう。しかし金融決済のメカニズムSWIFTからの追放など、「グローバル・サウス」の同意がなくてもできるもの、しかも効果の大きい措置は数多い。21世紀の世界で、他国への武力侵攻というアナクロニズムを放置しておいてはならない。
●ウクライナ侵攻めぐり米ロが非難応酬 ASEAN地域フォーラム 7/15
アジア太平洋地域などの安全保障について話し合うARF=ASEAN地域フォーラムが14日、インドネシアで開かれ、ウクライナ侵攻をめぐってアメリカとロシアが非難の応酬を繰り広げたほか、台湾情勢などをめぐって対立するアメリカと中国も互いの立場を強く批判しました。
インドネシアの首都ジャカルタで開かれたASEAN地域フォーラムにはASEAN加盟国の外相のほか、日本の林外務大臣やアメリカのブリンケン国務長官、それに中国の王毅政治局委員やロシアのラブロフ外相などが出席しました。
複数の外交筋によりますと会議ではウクライナへの侵攻を続けるロシアに対しブリンケン国務長官が「不合理な主張を続けている」などと非難したのに対し、ラブロフ外相も反論するなど非難の応酬になったということです。
また、台湾情勢や中国の海洋進出などをめぐって対立が続くアメリカと中国も互いの立場を強く批判したということです。
さらに、北朝鮮の駐インドネシア大使が出席する中、多くの国が7月12日にICBM級の弾道ミサイルを日本海に向けて発射した北朝鮮の行動を非難し自制を求めました。
議長を務めたインドネシアのルトノ外相は、「先鋭化する対立が地域を分断し続けている」と強い懸念を示し、各国の協調を呼びかけましたが、4日間にわたって開かれたASEANの一連の外相会議は、国際社会の分断を改めて際立たせる形となりました。
●国軍クーデターから2年半、沈没するロシアにすがるミャンマーの誤算 7/15
経済危機が続くミャンマーがロシアに急接近している。同国に経済支援を仰ぐため、プーチン大統領肝いりの「サンクトペテルブルク経済フォーラム」に代表団を送るなど秋波を送っている。
ロシアの電子決済システム「ミール」の導入をテコに、輸出の拡大やロシア人観光客の誘致に期待を寄せる。
中国による経済支援が期待できない中、ロシアとの距離を詰めるミャンマーだが、ウクライナ侵攻によってロシア自体の国力が低下している。「敵の敵は味方」で近づくミャンマーだが、果たして思惑通りに行くだろうか。
まだ世界がコロナ禍にあった2021年2月1日、ミャンマーで国軍がクーデターを企図し、全権を掌握した。そして、ミン・アウン・フライン総司令官が国家行政評議会議長に就任し、現在に至るまで最高指導者として君臨している。
同時にミャンマーは経済危機に陥り、21年度(20年10月〜21年9月)の実質経済成長率は20%近く減少した模様だ。
その後もミャンマーで経済危機が続いていることは、ミン・アウン・フライン総司令官が率いる現政権も認めるところである。しかし、ミン・アウン・フライン総司令官は、経済危機はアウン・サン・スー・チー初代国家顧問が率いた国民民主連盟(NLD)による前政権の失政だと繰り返し主張し、責任転嫁に終始している。
ミャンマーでは2023年度(22年10月〜23年9月)に入り、経済統計の公表が遅れている。社会経済の混乱に鑑みれば、経済統計の精度も落ちているはずだ。こうした中では為替レートが、経済危機の実情を映し出す指標として有用となる。通貨チャットの対ドル相場は、軍政が始まって以降、下落に歯止めがかからない(図表1)。
   【図表1 通貨チャットの対ドル相場】
この間、ミャンマー中銀は為替介入や資本規制の強化を通じ、通貨の安定に努めてきた。しかしながら、中銀の参考レートと市中の実勢レートの乖離を埋めるに至らず、中銀が公表する実勢レートも2022年後半から参考レートとのズレが拡大している。
市中の両替商では、チャットの対米ドルレートはさらに割り引かれている模様だ。
このように経済危機の渦中にあるミャンマーだが、その同国が今、経済支援を仰ごうとしている相手が、ウラジーミル・プーチン大統領の下でウクライナに軍事侵攻し、欧米日との間で関係が急激に悪化したロシアである。
つまり、ミャンマーはロシアを「敵の敵は味方」とみなして、経済支援の要請を試みているわけである。
プーチン肝いりの会合に代表団を派遣したミャンマーの思惑
ロシアのプーチン大統領が肝いりで6月中旬に開催した「サンクトペテルブルク経済フォーラム」に、ミャンマーは投資・対外経済関係相、電力相、ミャンマー中央銀行総裁らを含む代表団を派遣した。
会期中、ミャンマーの代表団はロシアの政治家のみならず、経済界の要人と相次いで会談を設け、経済協力を要請したと伝えられている。
この時、ミャンマー中銀のタン・タン・スエ総裁は、ロシア中銀のエリヴィラ・ナビウリナ総裁と会談し、自国通貨での決済や二国間決済の実現、関連する技術の開発協力などについて協議した。
さらに、技術的な困難が解消すれば、年内にミャンマーがロシアの電子決済システムである「ミール」を導入することで合意に達したという。
ミールはロシア中銀が2017年に導入した独自の決済システムだ。欧米日による経済・金融制裁を受けて、ロシアでは欧米の決済システムを利用できなくなったため、ミールの利用が増加している模様だ。
同様に欧米日との関係が冷え込み、米ドル不足に陥ったミャンマーも、米ドル依存を軽減させる目的でミールの利用を望んでいる。
ミールがミャンマーで利用できれば、ロシアの通貨ルーブルとミャンマーの通貨チャットの直接決済が可能になる。
ただ、ミャンマーの工業力は低く、ロシアとの間で貿易が拡大する展望は描きにくい。そのためミールが利用できても、ミャンマーを訪れるロシア観光客による決済など用途は極めて限定的になると考えられる。
それでも、外貨不足に悩むミャンマーは、ロシア人観光客の増加に期待を寄せている。
ロシア人観光客誘致に努めるミャンマーだが……
7月からミャンマー国際航空が両国間の直行便を就航し、最大都市のヤンゴンと第二都市マンダレー、ロシアの首都モスクワ、中部ノボシビルスクを結ぶ路線を、週1便ずつ運航する。またロシア人観光客向けにビザ(査証)の要件緩和を計画しているようだ。
そうは言っても、ロシア人観光客が増加する展望は描きにくい。
ミャンマーの入国者数(査証交付ベース)は、コロナ禍とクーデターで激減し、現状でも月に2〜3万人程度にまで落ち込んだままである(図表2)。また2023年1〜5月期には12.3万人が入国したが、ロシア人は1200人余りと、全体の1%程度に過ぎない。
   【図表2 ミャンマーの入国者数】
そもそも、ロシア人観光客が望むサービスを今のミャンマーが提供できる可能性は著しく低い。ロシア人観光客は一般的に、海外のビーチリゾートでホテルステイを楽しむことを好む。
一方で、ミャンマーは観光資源に恵まれているとはいえ、仏教寺院や歴史的遺構が主であり、ロシア人が好むようなビーチリゾートの開発は遅れている。
そして現在、ロシア人が海外に赴く大きな動機の一つに、資産防衛がある。不動産や耐久財の購入のみならず、米ドルに代表される外貨の購入に勤しむロシア人観光客も少なくないようだ。
このような特徴を持つロシア人観光客が、米ドル不足に悩むミャンマーに来るインセンティブはあまりないといったところではないだろうか。
ミャンマー国軍がロシアにラブコールを送る一因
もともとミャンマー国軍は、中国からの潤沢な経済支援に期待していた節がある。
5月には中国の秦剛国務委員兼外相がミャンマーのミン・アウン・フライン総司令官とクーデター以降で初めて会談したが、中国はミャンマー国軍との関係を冷静かつ慎重に見極めようとしている。つまり、両者の間にはかなりの温度差がある。
そもそも中国は、ミャンマーの開発を全面的に支援しようとはしていない。
中国が重視するのは、ミャンマーから天然ガスやレアアース(希土類)を安定的に輸入するうえで必要な開発や、中国向けの組織犯罪の温床であるミャンマー北部の国境地帯の治安の安定化に資する開発など、中国の国益に適う開発に限定されている。
ミャンマー国軍がロシアへのラブコールを強めた一因が、国軍が期待するかたちでの支援が中国から見込めないことにあるのは確かだろう。
とはいえ、ウクライナとの戦争にまい進し、戦時経済体制に突入するとともに、中国経済に取り込まれつつある今のロシアに、ミャンマーを全面的に支援する余裕がないことも、また明らかである。
民間投資家にとっても、国軍がクーデターという手段に訴えたことで、ミャンマーはカントリーリスクが非常に高い国となってしまった。クーデターの爪痕は国軍の想定以上に深いといったところだろう。
5400万人の人口を抱えるミャンマーは、そのポテンシャルを発揮できないまま、再び停滞の時代に突入したことになる。
●仏マクロン氏が印モディ氏と会談、防衛連携強化へ ロシアに圧力狙う 7/15
フランスのマクロン大統領は14日、インドのモディ首相とパリで会談し、防衛分野での連携を強化することを確認した。ロシアによるウクライナ侵攻後、インドは主要兵器の「脱ロシア化」を進めており、仏製戦闘機の購入でも合意。フランスは対ロ包囲網でもインドの協力を引き出したい考えだ。
14日はフランスの革命記念日で、マクロン氏がこの日にあわせてモディ氏を国賓として招待した。パリのシャンゼリゼ通りでは軍事パレードが行われ、インド軍の兵士も仏軍の兵士と共に行進した。
インドはこれまで、旧ソ連時代から関係の深いロシアから主要兵器の半分近くを調達してきた。近年は調達先の多角化や国産化を進めており、ウクライナ侵攻後は防衛装備品のロシア依存を低下させる必要が出ている。
仏メディアによると、モディ氏は訪仏中に、仏製ラファール戦闘機26機と潜水艦3隻を購入する契約を結ぶことで合意した。モディ氏は14日、マクロン氏との会談後の共同会見で、「防衛協力は我々の関係の強力な柱だ」と強調し、潜水艦などの共同生産や開発の促進に期待を示した。
インドはG20(主要20カ国・地域)の今年の議長国を務めており、9月には首脳会議を開催する。モディ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻がグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国に「特に悪影響を及ぼしている」と指摘し、対話と外交による解決を訴えた。
●ウクライナ産農産物の輸出 合意期限迫る 7/15
ロシアとウクライナは去年7月、国連とトルコの仲介でウクライナ産農産物の輸出再開で合意し、その後、合意の期限は3度延長されていますが、今回、ロシア側は期限の延長に応じない構えを示しています。
これに関連してロシアのプーチン大統領は13日、国営テレビのインタビューで「ロシアの利益に関する点は1つも履行されていない」と不満を示し、「選択肢の1つとしてわれわれは合意への参加を一時的に停止できる」と強調しました。
一方、仲介役を務めるトルコのエルドアン大統領は14日、記者団に対し、「プーチン大統領とは農産物の輸出合意は延長されるべきだという点で一致している。国連のグテーレス事務総長もプーチン大統領に書簡を送ったが、ロシアとわれわれの努力によって合意が延長されることを望んでいる」と述べ、国連とともにロシア側と協議を続けていく考えを重ねて示しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は14日、「追加の検討を行う」として、期限ギリギリまで対応を続ける考えを示していて合意が延長できるかどうか、仲介役のトルコなどとの協議の行方が焦点となっています。 
●プーチン氏がワグネルの新トップとして提案、トロシェフ氏とは 7/15
ロシアのプーチン大統領がコメルサント紙に語ったところによると、プーチン氏は民間軍事会社ワグネルの戦闘員に対し、幹部の傭兵(ようへい)アンドレイ・トロシェフ氏をトップに据えることを提案した。
プーチン氏はワグネルによる先月の反乱が失敗に終わって以降、同社の幹部戦闘員とトップのエフゲニー・プリゴジン氏との間にくさびを打ち込んでいるように見える。少なくともコメルサント紙に対する発言からは、そのような構図が浮かび上がる。
コメルサントで報じられた会談は、ワグネルの反乱の崩壊から5日後、プーチン大統領によって開かれた。会談にはプリゴジン氏やワグネルの幹部戦闘員数十人が参加した。
コメルサントによると、プーチン氏は会談中、傭兵数十人に対して雇用の選択肢を複数提示した。その中に、「セドイ」(「白髪」の意味)のコールサインで知られる直属の指揮官の下で戦闘を継続する選択肢もあった。
プーチン氏は「彼らは全員ひとつの場所に集まり、引き続き軍務に就くことも可能だった」と発言。「彼らにとっては何も変わらない。これまでずっと本当の指揮官だった人物に率いられることになる」と指摘した。
コメルサントの記者から「それからどうなったのか?」と聞かれると、プーチン氏は「私がそう言うと、大勢が(肯定して)うなずいた」と答えたとされる。
アンドレイ・トロシェフ氏とは?
欧州連合(EU)とフランスが公開した制裁関係の文書によると、「セドイ」のコールサインを持つアンドレイ・トロシェフ氏はロシア軍の退役大佐で、ワグネルの創設メンバーにして執行役員でもある。
シリア情勢に絡むEUの制裁では、トロシェフ氏がシリアにおけるワグネルの作戦で参謀長の役割を務めたことが詳述されている。この作戦はシリア政権を支えるものだった。
2021年12月のEUの制裁によると、トロシェフ氏は1953年4月、旧ソ連のレニングラードに生まれた。
EUの制裁文書には「アンドレイ・トロシェフはシリアにおけるワグネルの軍事作戦に直接関与した。特にデリゾール地域で深く関与した」「こうした立場から、シリアのアサド政権の戦争遂行に欠かせない貢献を行い、シリア政権を支援するとともに、そこから利益を得ている」とある。
2022年6月の英国の制裁でも「アンドレイ・ニコラエビッチ・トロシェフはワグネル・グループの経営幹部の立場にあった。従ってシリア政権を支援し、民兵組織の一員として行動して、シリアの民間人を抑圧してきた」と指摘されている。
EUの制裁によると、トロシェフ氏に近い人物としては、ワグネル・グループの創設者で参謀本部情報総局(GRU)の元情報将校でもあるドミトリー・ウトキン氏がいるという。トロシェフ氏はアレクサンドル・セルゲービチ・クズネツォフ氏やアンドレイ・ボガトフ氏といったワグネルの指揮官ともつながりがある。
ロシアのインターネットメディア「フォンタンカ」によると、トロシェフ氏はロシア内務省の北西連邦管区を担当する特殊緊急部隊の要員だった。チェチェン戦争やアフガン戦争で従軍した経験も持つ。
アフガニスタンでの軍務が評価され、際立った貢献に与えられるソ連の勲章「赤星勲章」を二つ授与された。ロシアメディアによると、チェチェンでの作戦に対しても複数の勲章が授与された。
16年12月にはクレムリン(ロシア大統領府)でのレセプションに招かれた。この時のものと思われる写真が17年にロシアメディアに掲載されたが、これを見るとプーチン氏とトロシェフ、ウトキン両氏が並んで写っており、2人とも複数の勲章を身に着けている。
ウクライナは今年2月26日、トロシェフ氏に制裁を科した。
一方、プリゴジン氏の運命は分からないままだ。プリゴジン氏は反乱後、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介した合意の一環でベラルーシに渡ったとの情報があるものの、ルカシェンコ氏は先週CNNに対し、プリゴジン氏はロシアにいると語った。
サンクトペテルブルクにあるプリゴジン氏の自宅を警察が家宅捜索する様子とされる映像も公開され、プリゴジン氏の状況に対する疑問の声が出ている。プリゴジン氏は6月2日以降、公の場に姿を見せていない。
●プーチン大統領 穀物輸出の合意めぐり不満あらわ 7/15
黒海を通じてウクライナ産穀物を輸出する合意の期限が17日に迫る中、ロシアのプーチン大統領は「ロシアの利益に関する点は一つも達成されていない」と主張し、合意からの一時離脱をちらつかせました。
プーチン大統領は13日、国営テレビで「ロシアの利益に関する点は一つも達成されていない」と述べ、合意で定めたロシア産の穀物や肥料の輸出への制裁緩和が進んでいないことへの不満をあらわにしました。
さらに、「合意への参加を停止することができる」「約束を果たすと言うなら、果たしてもらおう」「そうすれば我々はただちに合意に復帰する」と述べ、合意からの一時離脱も辞さない考えを示唆しました。
また、トルコのエルドアン大統領は14日、プーチン氏と、「合意は延長されるべきだという点で一致している」と述べ、国連とともにロシア側と協議を続ける姿勢を示しました。
一方、アメリカのブリンケン国務長官は14日、「世界中の人々を標的にしている」とロシアを非難し、合意の順守と期間の延長を求めています。
●プーチン氏のBRICS欠席提案拒否、ロシアなど 南ア「ジレンマ」 7/15
南アフリカのマシャティル副大統領は14日、地元メディアのインタビューで、中国やロシア、南アなど新興5カ国(BRICS)の8月の首脳会議を巡り、プーチン露大統領の欠席を提案したものの、ロシアなどが拒否したと明らかにした。
南アには、ウクライナ侵略に関して国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ているプーチン氏が入国した場合、拘束する義務がある。マシャティル氏は「われわれにとって大きなジレンマで、逮捕するわけにはいかない。友人を家に招待して逮捕するようなもので、欠席が最良の解決策になる」と語り、引き続き欠席を求める考えを示した。
首脳会議は8月下旬に南アの最大都市ヨハネスブルクで開催。南アはBRICS加盟国に1プーチン氏の代理としてラブロフ外相の出席2ICC未加盟国の中国への会場変更3オンラインでの開催―の3案を示したものの、いずれも受け入れられなかったという。
●ロシアは穀物合意の延長を 7/15
ロシアがウクライナ産穀物の輸出に関する合意の延長に慎重な姿勢を見せている。合意の停止は途上国の食糧危機を深刻にする恐れがあり、無責任だといわざるをえない。ロシアは17日に期限を迎える合意の延長に応じるべきだ。
軍事侵攻を受け、ロシアとウクライナは2022年7月、国連とトルコの仲介でウクライナ産の穀物を運ぶ船舶の安全な航行を可能にする「回廊」を黒海に設けることで合意した。
今回の延長期限について、プーチン大統領は13日、ロシア側の条件が満たされなければ参加を停止する可能性があると述べた。ロシアには自国の農産物輸出が欧米の対ロシア制裁で妨げられているとの不満があるが、責任は侵攻したロシア自身にある。
国連やトルコはすでにロシアの主な条件に歩み寄る提案をした。制裁対象のロシア農業銀行が国際銀行間通信協会(Swift)の決済システムに何らかの形で再接続することも含まれる。
そもそもロシア産の穀物や食料の輸出は直接の制裁対象にはなっていない。ロシア農業省によると、同国の穀物輸出量は22〜23穀物年度に過去最高を記録した。ロシアの主張は根拠に乏しい。
ウクライナは世界の小麦輸出で5位の穀物大国だ。ロシアが合意延長を拒めば、アフリカなど途上国で飢餓が広がりかねない。ウクライナ問題で中立を保つトルコなどとの関係にも亀裂が生じ、国際的な孤立をさらに深めるだけだ。
ロシアの狙いは食糧危機をあおり、国際社会にゆさぶりをかけることにある。食料品の価格上昇や飢餓拡大のリスクを突きつけ、停戦への圧力を強めようとしている。穀物を脅しの手段とするような行為を許してはならない。
合意の延長期間は当初、120日間だったが、ロシアの要求で23年3月に合意した延長から半分の2カ月間になった。軍事侵攻の長期化が予想されるなか、ロシアに振り回されない安定した枠組みにしていくことも重要だ。

 

●揺らぐプーチンへの信頼 プリゴジンの乱が見せたもの 7/16
3日で終わるはずの戦争が500日を超えた。ロシアにとって戦況は好転していない。さらに、6月23日の民間軍事会社ワグネルのプリゴジン隊長の蜂起以降、ロシアをめぐる内外の情勢は急速に流動化し、プーチン大統領の指導性にも疑問符が付いた。政治も経済も社会も混乱してきた。
多くの分析者やメディアはすでに「ロシアの崩壊」というテーマで議論している。ロシアは崩壊に向かっているのか。
揺らぐプーチンの権威
今や、ロシアではなんでもアリという状況になっている。なによりも、大統領の権威が急落し始めた。
大統領にとってはウクライナ戦争を続け、勝たなければ政治生命が更に弱体化する。そして、戦争を止めても栄光と讃辞を浴びる可能性は無い。
2024年5期目を目指す大統領にとっては、抜き差しならない状況に追い込まれた。大統領は、今やウクライナ戦の行方よりクレムリンでの権力維持の方が重要だと判断している。そういう国際世論の指摘だ。
最も深刻なダメージは、今回の事件で「全能の指導者プーチン」というイメージが粉砕されたことだ。カーネギー財団のアンドレイ・コレスニコフ上級研究員は同財団のサイトでこう論じた。
「ロシアの権威主義、全体主義の下で、プーチンとそのエリート側近は市民社会を封殺し、抑圧システムを構築した。民主主義や市民的価値観を否定し、無意味な軍事拡張を進めてきたが、そうする限りロシアは繁栄できない。その上、この反乱はロシア国家の衰退を世界に暴露した。更にロシア国民にプーチンの指導力を疑わせ、国民が思っていた全能の皇帝ではないことを明らかにした」
ロシア国内で亀裂
ロシア軍は世界でも恐らく最も統制の取れていない軍隊だとされているだろう。専門家の意見よると、作戦、運用、指揮系統、装備、連携、後方支援など、全ての側面で不十分な体制で戦争をしているらしい。米国の退役軍人で米中央情報局(CIA)長官も務めたデビッド・ぺトレイアス氏は多くのサイトでそのことを詳しく説明している。
また、著名な軍事専門の評論家であるダラ・マシコット女史はツイッターで「将校レベルでは相互不信と怨嗟、猜疑心と裏切りがはびこっている。……高級、中級ロシア軍上層部の機能不全はピークに達しており、権力に真実を語ったという理由で別の将軍が解任され、他の将軍も拘束されたり、疑いをかけられたりしている」と述べている。
経済面でも追い打ちがかかっている。
このところ、ルーブルは対米ドル、対ユーロで過去最安値を更新中だ。ルーブルは昨夏以来わずか1年で、対米ドルでその価値の4分の3近く下落し、対ユーロでは半分となった。市場がルーブルに対する信頼を失っていることを示している。
石油とガスの収入に依存する経済だ。ロシア人の豊かさは縮小している。貧困化は避けられない。
大統領が自分の支持層と考えているモスクワとサンクトペテルブルクの市民社会に悪影響を及ぼしている。ロシア人は過去数十年間慣れ親しんだ快適さを享受できなくなり、貧困に陥ると欧米の専門家はみている。
大都市以外の地方の財政の悪化はさらに深刻だ。政府からの資金の移転が縮小しているので、今までの生活水準は維持できなくなった。
貧困の度合いが増大している。基本的なインフラの維持管理、自治体が提供するサービス(ゴミ収集、造園、医療衛生、教育、幼稚園の施設など)に廻す資源は枯渇している。
その上、ワグネルは国家予算で運営されていたことまで明らかにされた。ワグネルは元来違法な私兵だとされてきたが、実は国が国費で支えて来たというのだ。相当深刻なデタラメが蔓延っているに違いない。
外交的にも面目を失う
フランスのマクロン大統領は12日、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が開催されたリトアニアの首都ビリニュスで、「ロシアは現在、軍事的にも政治的にも脆弱だ」と述べ、「ロシアには分断の兆しがある」と指摘した。
さらに、トルコの行動はプーチン大統領を激怒させたと伝えられている。エルドアン大統領はこの首脳会議でスウェーデンのNATO加盟を容認する姿勢に転じた。いずれもプーチン大統領にとっては不利な材料である。
不死身の強権治安国家ロシア
プリゴジンの乱は異常な衝撃を生み、ロシアの深刻な真実を暴露した。しかし、今のところ、国を揺るがす動きにはなっていない。少なくとも表面上はそうだ。やはり背後には「シロビキ(力の組織)」と呼ばれる強力な治安・諜報機関と軍や警察などの武力装置が国を徹底して抑え込んでいるということであるらしい。
歴史的にロシアという国では国家保安委員会(KGB) とその後継組織が常に背後で国を支配し、指導者を作り出し、それを支えて来た。要するに彼らが背後で国家の重要事項を差配してきた。プリゴジンの反乱はこの強権治安システムにとっては異常事態であり、打撃であったが、このシステムが崩壊するという議論にはなっていない。
何故このシステムは崩壊しないのか? 単純化すると組織自体の自己防衛論理だ。
ロシアの治安当局は過去1世紀の間に数千万人を虐殺し、投獄してきたとされている。当然それに加担してきた支配者層は復讐を恐れるからこのシロビキによる強圧システムを断固維持しようとする。
このようにして弾圧と暴虐はほぼ永続的に再生産されていく。そして「だからロシアでは民主化等起きるはずはない」という議論になる。
この議論はそれなりに正しいようだが、一方で暴虐は決して永続していないという現実もある。いずれは政変が起きる。現に政変はさまざまな理由で起きる。
ロシアでは民主主義への移行は困難だ。簡単にできるとは想定すべきではない。こういう意見がある。その通りだ。
しかしあの国には民主主義を志向する勢力が存在していることも確かな事実だ。そういう民主勢力が全く無力で箸にも棒にも掛からないのなら、プーチン大統領は野党指導者ボリス・ネムツォフを暗殺し、暗殺し損ねた反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイを長期間投獄し、民主化勢力の掃討作戦をあれほど徹底してやらないはずだ。
西側と日本に「対処方針」はあるのか?
6月26日、英国のリズ・トラス前首相はプリゴジン隊長の反乱のわずか2日後、英国議会下院で「ロシアの新しい事態を受けて英国政府には対処方針はあるのか?」と質問した(”Liz Truss calls for UK to have plan if Russia collapses after Wagner mutiny”)。前首相がこの反乱の持つ深刻な意味合いを深く受け止めていることを示している。
仮に今回の事件がロシアの政変に繋がるとしたら、一体これから何が起きるのか? ユーラシアの地政学を一変させる展開になる可能性がある。
そうなると、この事件は全球的にも影響を与えるかもしれない。隣国日本も当然「対処方針」を持たねばならないだろう。
●ロシア国民はなぜ今も“間違いを犯した自国”を支持するのか 7/16
民間軍事会社ワグネルの軍事的な反乱で、ロシア情勢が混沌としてきています。ロシアの権力中枢で、今後どのような事態が発生するのかは何とも言えませんが、一方でロシア国民の政府に対する支持は、それほど下がっていないように見えます。
民主国家の国民からすると、明らかに間違った戦争をしておきながら、自国を支持し続けるという感覚はなかなか分かりづらいのですが、これについてはどう考えれば良いのでしょうか。
自国を支持するという感覚は、実は国によって様々であり、大きな違いがあります。
国民感情についての国際比較調査(※)を見ると、「たとえ自国のやっていることが間違っているとしても、自国を支持すべき」と回答する人の割合は、ロシアでは何と58%もあります。一方で、ノルウェーやスウェーデンではそのような人は15%程度しか存在しません。
この調査結果を今回の戦争に当てはめてみると、ロシアの人たちは仮に戦争が間違ったものであっても、半数以上の人が政府を支持すべきと考えていることになりますから、すぐには政権批判に至らないことが想像ができます。ノルウェーやスウェーデンの人たちは、政府が間違った行為をしているのであれば、支持しない人がほとんどですから、仮に政府が侵略戦争を行っても、即座に批判が起こり、戦争継続は難しくなるでしょう。
間違っていても自国を支持する人が過半数という状況では、プーチン大統領がウクライナからの撤退を簡単に決断しないのも当然といえば当然かもしれません。
自国を支持すべきと考える人の割合が高い国としては、ロシアをはじめ、トルコやベネズエラなど民主化が進んでいないところが目立ちます。一方で、スイスや韓国も比率が高く、一概に非民主的な国がそうであるとは言い難い面もあります。
ロシアは特に強権的な政治で知られており、反体制派は容赦なく弾圧されますから、「ロシア国民は声をあげたくても怖くてできないのだ」というのが一般的な認識だったと思います。確かにその通りであり、多くのロシア人が弾圧の恐怖に怯え、「戦争反対」と叫べないのは事実でしょう。
一方で、いくら政府が怖いからといって、ここまでプーチン政権に対する支持率が高いことについて、理解しづらい面があったのも事実ではないでしょうか。しかし、一連の調査結果を見るとそれも納得といえるかもしれません。
ひるがって私たち日本人はどうでしょうか。
かつて日本は多くの国を敵に回し、勝つ見込みのない戦争をしてしまいました。一連の戦争は軍部が主導したものとされていますが、今の憲法と比較すると権限が小さいとはいえ議会も存在していたことを考えると、戦争を支持した国民が一定数存在していたことは間違いありません。当時の新聞を読むと、戦争を煽る内容も多く、国民の側が一方的な被害者であるとは言い難い状況です。
当時、同じ調査は存在していませんが、もし行われていれば、今のロシアのように、たとえ間違っていても自国を支持すると考える日本人が多かったのかもしれません。
ちなみに、2003年の調査では、間違っていても自国を支持するという日本人の割合は25%あり、ロシアほど高くはありませんが、スウェーデンやノルウェーよりは高いという結果でした。しかし最新の調査である2013年版では日本は18%と大幅に下がり、もっとも割合が低い部類に入っています。
他国は10年間でそれほど大きな順位変動はなく、10年の間に日本人の意識がだいぶ変わったことが分かります。何が原因なのか明確には分かりませんが、自国の過ちに対してノーを突きつけられる国こそが民主国家ですから、私たちは、数字が下がっていることについて誇りに思ってよいのではないでしょうか。
そして最後に重要となるのは、何が正しくて、何が間違っているのかという判断力です。
報道の自由があり、多くの人が自らの意見を制限されることなく発言できる社会であれば、ほとんどの国民は何が正しくて、何が間違っているのか、自らの力で判断できるでしょう。
ロシアの現状を見るにつけ、日本が戦後、獲得した言論の自由がいかに大事なのか分かります。最近は民主的な制度に対して疑問を投げかける人が一部出てきているようですが、こうした誤った声で、自由な社会が脅かされることがないよう、私たちは常に注意を払っていく必要がありそうです。
●プーチンの生命線を握る、サウジアラビア。岸田総理の中東訪問の成果は? 7/16
先の11日〜14日の欧州歴訪で、岸田首相はNATO首脳会議に出席、ゼレンスキー大統領との懇談の中でもウクライナへの引き続きの支援を伝えるなど、安全保障面での連携を強化しました。そしてこれからの中東訪問です。この意味と重要性はどこにあるのでしょうか。
岸田総理の中東訪問
岸田文雄総理は、本日16日から19日まで、中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの中東3カ国を訪問する。最初の訪問国サウジアラビアでは、首相を務めるムハンマド皇太子(サウジの若き皇太子、37歳)と首脳会談を実施。80超に上る両国の官民の協力プロジェクトの実施状況を確認し、水素やアンモニアといった脱炭素エネルギー分野での協力強化を打ち出す予定だ。日本の総理大臣がサウジとUAEを訪問するのは2020年1月の安倍晋三総理大臣以来、3年半ぶり。カタールは13年8月の安倍晋三総理大臣以来10年ぶり。岸田総理大臣は、外務大臣時代も含めて、サウジアラビア、UAEはなんと初の訪問である。
プーチンとサウジアラビア・ムハンマド皇太子の緊密な関係
日本が原油輸入の実に95%以上を依存する中東諸国。しかし、ロシアのウクライナ侵略以降、中東諸国は、プーチンへの支援を加速させていて、日本を含めG7などの対ロシア経済制裁が効果が出ない原因ともなっている。
原油価格の安定は、原油の輸出を基盤の一つとするロシア経済の生命線。2023年6月7日、ロシアのプーチン大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子は、電話会談を行い、石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」の協力関係を称賛した。その前の6月4日、OPECプラスは、原油の協調「減産」の枠組みを2024年末まで延長すると決めていた。プーチン氏とムハンマド皇太子は、石油需要と供給のバランスを保つ効果的な措置をとることができたとして、OPECプラスでの協力を評価した。
ロシア大統領府によると、両首脳は、「世界のエネルギー市場の安定確保」を巡り詳細に協議し、石油の需給バランス確保に向けタイムリーで効果的な措置を可能にするOPECプラスの枠組みでの協力を称賛したという。また、両首脳は貿易や経済連携、共同プロジェクトを一層拡大するための方策など二国間協力についても議論した。
サウジアラビアはロシアのウクライナ侵略については、中立的な立場を示しており、5月に開かれたアラブ連盟首脳会議にはウクライナのゼレンスキー大統領を招き、「ロシアとウクライナの間を仲介する」と強調していた。一方で、7月10日、ロシアと、ペルシャ湾岸6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)は、モスクワで第6回閣僚級会合を開催した後の声明で、「OPECプラス」の取り組みは「成功」し、世界石油市場の安定に貢献していると評価した。また、GCCは、エネルギー資源供給チェーンの発展に取り組むことでもロシアと合意したと明らかにした。このように、「プーチンの戦争」のカギを握るロシア経済の行方は、OPECプラス、GCCを主導するサウジアラビア、そして同国で実権を有するムハンマド皇太子が握っていると言えよう。
安倍中東外交を模範に
今、世界経済の、そして「プーチンの戦争」の行方のカギを握る存在であるサウジアラビアのムハンマド皇太子に対し、今回、岸田総理は、そして日本は、これからどう向き合うべきか。私は、外務省で約26年間勤務し、天皇陛下、総理や外務大臣のアラビア語の通訳として、海外に同行するだけでなく、現地の大使館でも受け入れ先の責任者としても数多くの経験を積んできた。
模範とすべきは、安倍中東外交であろう。安倍総理と言えば、トランプやプーチンとの昵懇じっこんな関係ばかりが報じられるが、実は安倍総理の中東外交は戦略的であった。総理として歴代最長の通算8年8カ月間務められた安倍総理は、外交も2013年の第2次政権発足以降、80の国と地域を訪問するなど、地球を約40周していたが、日本は中東から原油を95%輸入(ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア産原油の輸入を禁止したことで、中東への依存率はさらに上昇)しているとして、安倍総理はこの事実を、中東の戦略的重要性を強く認識し、日本のエネルギーの安定確保に全身全霊で取り組まれた。
先述の、中東・ペルシア湾岸地域における地域協力機構である、湾岸協力会議(GCC)のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートの6カ国すべての国を訪問された。これほど、中東を重要視した日本の総理は私の知る限り、安倍総理だけである。戦後最年少で、戦後生まれとしては初めての内閣総理大臣となった安倍総理は2007年(第1次)、就任後初めて米国を訪問し、ブッシュ大統領との首脳会談を行った。そして、その足でサウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、クウェート、カタール、 エジプトの中東5カ国も訪問し、各国首脳と会談した。サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、クウェート、カタールは、日本が原油を頼っている1位から4位の重要なエネルギー国。私は、同訪問の総理通訳に任命され、ワシントンD.C.まで行き、安倍総理に随行し、その後、中東5カ国を回った。
安倍総理は、アメリカと中東を一気に駆け巡る世界1周ツアーを行った最初で最後の総理である。中東に行く前にアメリカで大統領と会談し、そのメッセージを中東諸国に伝えるという理想の外交を展開された。当時、サウジアラビアのアブダッラー国王と会談。2007年、昭恵夫人も入ったカタールの皇太子(現首長)夫妻との私的な通訳も、私にとってもかけがえのない思い出となった。
また、2020年1月、安倍総理は、トランプ政権が、イラクでイランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を暗殺した事件の約10日後に、サウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)とオマーンに行く予定であった。当時、まだ外務省勤務の私は東京から出張し、オマーンの大使館で受け入れの責任者を務めた。同司令官の暗殺などで中東地域の緊張が高まる中で、事態のさらなるエスカレーションを避けるため、緊張緩和に向けての安倍総理の中東歴訪であった。アメリカとイランの緊張が高まっているこの時期に行くのは危ない、と官邸の補佐官たちは中東行きをやめるよう進言したが、安倍総理は強い決意で行くと決められた。結果、3カ国とも無事訪問され、特にサウジアラビアではムハンマド皇太子の別荘にまで招かれた(ARAB NEWS JAPAN)。
その後、コロナの爆発的感染、ロシアのウクライナ侵略が始まり、世界が、日本が、原油高で苦しむ中でも、湾岸産油国から日本へ安定的な供給がなされている強固な基盤を築いていただいた。この中東訪問が、安倍元総理として、またご本人として最後の外国訪問となってしまったのは本当に無念である。「中東地域は、世界有数のエネルギー供給源と物流の要衝であり、テロ・大量破壊兵器の拡散防止のための重要な地域。中東地域の平和と安定は、日本と世界の安定に直結します。中東は、日本にとって非常に重要な地域です」
安倍総理が常々、口にしていた言葉が今も私の脳裏にある。派手なパフォーマンスはないものの、手元のメモは見ず、アラブのような異国の文化、価値観を有する外国要人にも自らの言葉で説得力を持って語られる政治家であった。
今回、サウジアラビアを初訪問する岸田総理が、安倍総理のように異文化のアラブの首脳とも胸襟を開いた関係を築くことができるのか。G7、先進国重視の「お公家外交」と揶揄される岸田総理が、95%以上の原油を依存し日本国民の生活に直結する、中東の砂漠の大地で変身を遂げられることを切に期待したい。 
●プーチン大統領「露もクラスター爆弾使う権利ある」 ウクライナをけん制 7/16
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナがアメリカから供与されたクラスター爆弾を使用すれば「ロシアは報復する権利がある」と述べ、ウクライナをけん制しました。
プーチン大統領は16日に放送された国営テレビのインタビューの中で、アメリカがウクライナに供与したクラスター爆弾について、次のように述べました。
ロシア プーチン大統領「ロシアは様々なクラスター爆弾を十分に備蓄している。ウクライナが使った場合、我々も報復措置として使う権利がある」
国営テレビによりますと、プーチン氏がアメリカのクラスター爆弾の供与について言及したのは初めてです。
こうした中、ウクライナ側の反転攻勢をめぐりニューヨーク・タイムズは15日、当局者の話として「ウクライナは最初の2週間で兵器の2割を失ったものの、その後、戦術を変更することで損失を軽減した」と報じました。
一方で、損害が減ったのは、攻撃の勢い自体が落ちているからだとも指摘。反転攻勢が難航しているとの見方を示しました。
ただ、アメリカの政府当局者の話として、クラスター爆弾を使用することでウクライナ軍の進軍が加速する可能性があるともしています。
●プーチン大統領はブラジルでも人気絶大? 元ロシア代表が喧伝 7/16  
サッカー元ロシア代表のFWアリ(37)がブラジル国内におけるウラジーミル・プーチン大統領の印象を明かした。
ブラジル出身のアリは2018年にロシア国籍を取得し、同国代表としてA代表の試合にも出場した。15日には同国メディア「SPORT24」の取材に応じ「ブラジルでは、ロシア人と接するのはごく普通のことだ。私たちが住んでいるところには、ウラジーミル・プーチンという大統領がいる。ブラジル人はみんな彼とロシア人のことをよく話している。ロシアの悪口は聞いたことがない。あるのは米国に対する不満だけだ」と明かした。
その上で「ブラジルの人々はみんな最近の出来事を心配している。ブラジルの多くの人々は、強くて自信に満ちた人物が大統領になることを望んでいる。プーチンはそのような人物だ」と大絶賛しつつ「ブラジルの人々はこの男が自国を怒らせるようなことは誰にもさせないとわかっている」と強調した。
ウクライナ侵攻の長期化などを巡り、プーチン大統領への不信感が募っているとの声もある。しかし、アリのプーチン大統領に対する信頼度は絶大のようだ。
●ウクライナ 激しい戦闘続く ロシア軍将校のあいだで不満広がる 7/16
ロシア軍によるウクライナ侵攻では東部や南部で激しい戦闘が続いています。一方、イギリス国防省はロシア軍の将校のあいだで不満が広がっているとの分析を発表し、今後の戦況への影響が注目されます。
ウクライナ東部ドネツク州の知事はロシア側による攻撃で市民2人が死亡したと16日に発表しました。
また、南部ザポリージャ州の知事はSNSでロシア軍が州内13の集落を攻撃し、市民7人がけがをしたと投稿し、東部や南部で激しい戦闘が続き、被害が相次いでいます。
こうした中、イギリス国防省は15日、ロシア軍の将校のあいだで不満が広がっているとの分析を発表しました。
ロシア軍部隊の司令官を務めていたポポフ少将が、前線の悲惨な状況を軍の上層部に伝えたあと解任されたとする音声が今月12日に公開されました。
イギリス国防省は「多くの将校が軍上層部に対して抱いているであろう深刻な不満に注意が向けられた」と指摘したうえで、「ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長にとって、ますます大きな問題となりそうだ」と分析しています。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日、東部バフムトなどで活動してきた別の部隊の少将も解任されたと伝えられているとして、「反抗的な指揮官の処分の一環であり、ロシアの指揮系統の乱れが加速していることを示唆している」と指摘しました。
●雇い兵組織ワグネル戦闘員、ベラルーシに到着 ウクライナ当局が確認 7/16
ウクライナの国境警備サービス(DPSU)は15日、ロシアの雇い兵組織ワグネルがロシアから隣国ベラルーシに到着したことを確認したと発表した。
DPSUのアンドリイ・デムチェンコ報道官は、15日に発表した短い声明で、ベラルーシにワグネルの存在を確認したとした。
その上で、DPSUはベラルーシ側の北部国境を「引き続き状況を監視」すると述べた。
DPSUは、ベラルーシに何人の「戦闘員」がいるかに加え、正確な位置や目標を精査中だという。
未確認情報のひとつによると、ワグネルの車両約60台が、15日にベラルーシ国境を越えたという。
この日には、ベラルーシの著名な反体制派ブロガーが運営するテレグラム・チャンネルが、ワグネルの大規模な車列がロシアからベラルーシに入ったと報告した。
「ベラルスキ・ハジュン」チャンネルによると、ピックアップトラックやトラック、バスを含む車両がベラルーシの道路警察に付き添われ、首都ミンスクから南西約85キロの地点にあるオシポヴィチの町に向かっていったという。
ベラルーシ当局は、この件についてコメントしていない。当局は、このチャンネルを過激派だとしている。
ベラルーシ国防省は14日、ワグネルが同国の領土防衛隊の軍事指導に当たっていると述べた。戦闘員らはオシポヴィチの近くでベラルーシ軍に「多くの軍事訓練」を行っているという。
ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は6月24日、反乱を起こした。ウラジーミル・プーチン大統領の権威に対する挑戦で、ロシア南西部の街を制圧し、一時はモスクワから200キロの地点まで進行した。
交渉の末、反乱は24時間足らずで終わった。合意では、ワグネル戦闘員はロシア軍に参加するかベラルーシに行くかを選べることになった。プリゴジン氏もベラルーシへの移動を提案されたが、現在の居場所は分かっていない。
ワグネル戦闘員の多くは、ロシアの刑務所で雇用された。昨年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以来、特に過酷な戦いに参加している。
プーチン大統領は今週初め、プリゴジン氏がワグネル戦闘員をロシア軍の通常部隊にすることを拒否していたことを明らかにした。
経済紙コメルサントのインタビューでプーチン氏は、6月29日にモスクワで行われたワグネルとの会談では、多くのワグネル司令官がこの計画を支持していたと話した。
しかし、プリゴジン氏は「ワグネルの人間はこの決定に合意しない」と答えたのだという。
プーチン氏はさらに、民間の軍事組織には法的枠組みがないと強調。単刀直入に言えば、「ワグネルは存在しない」のだと述べた。その上で、「難しい問題」は議会で議論されるべきだと、大統領は付け加えた。
BBCのスティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長は、クレムリン(ロシア大統領府)はプリゴジン氏とワグネルの一般戦闘員を区別し、仲たがいをさせたいのだと指摘した。ロシアの国営テレビがプリゴジン氏を非難しているのもそれで理由がつくと、ローゼンバーグ編集長は述べた。
プリゴジン氏の居場所については、6月の反乱以降、矛盾した未確定の情報が飛び交っている。
プリゴジン氏はかつてはプーチン氏に忠誠を誓い、クレムリンのケータリング契約を得て「プーチン氏のシェフ」というあだ名までついていた。しかし戦争の進め方をめぐってロシア国防省との衝突が高まり、ロシア政府とも対立した。
ジョー・バイデン米大統領は13日、プリゴジン氏は毒殺に注意すべきだと記者団に話した。

 

●クラスター爆弾、ウクライナが使用ならロシアも プーチン氏が予告 7/17
殺傷能力の高い米国製クラスター(集束)爆弾がウクライナに供与されたことを受け、ロシアのプーチン大統領は親政権メディアとのインタビューで、同国も十分なクラスター爆弾を保有していると述べ、ウクライナが使った場合は使用する権利があると主張した。
プーチン氏はこの中で、バイデン米政権はクラスター爆弾を戦争犯罪と呼んでいると主張し、自身もその見解に同意すると述べた。具体的にどのコメントを指すのかは言明しなかったが、昨年米ホワイトハウスのサキ報道官(当時)は、ロシアがウクライナ侵攻を開始した時期にクラスター爆弾を使ったとの報告を受け、事実だと確認されれば戦争犯罪に当たると発言していた。
プーチン氏はインタビューで、これまでにロシアがクラスター爆弾を使用したことはないとも強調した。
国連は3月、ロシア軍が少なくとも24回、人口密集地でクラスター爆弾を使ったという信頼できる報告があると発表していた。CNNが昨年実施した調査では、ロシア軍がウクライナ侵攻の初期に同国第2の都市、北東部ハルキウにクラスター爆弾搭載のロケット弾を撃ち込んだことが判明している。
クラスター爆弾が投下されると周囲に多数の子爆弾が広くばらまかれるため、特に市民や非戦闘員に大きな危険が及ぶ。不発弾が何年も後に爆発することもある。使用を禁止するオスロ条約には、英仏独など100カ国以上が署名している。
バイデン大統領はCNNとのインタビューで、ウクライナへの供与は「非常に難しい」決断だったと話した。米国防総省の高官によれば、ウクライナは書面で、都市部では使用しないと確約している。
●プリゴジンの乱が暴いた独裁者プーチンの「砂上の楼閣」とロシア国民の傍観 7/17
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ロシアで先日起きたプリゴジンの乱を出発点として、プーチン政権のもろさ、そして中国や北朝鮮なども含めた独裁政権の弱さについて考察する。
「暴力」と「嘘」で隠されてきた権力のほころび
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンの反乱については、さまざまな分析や解釈が飛び交いました。
今後また新たな事実が出てくることもあるかもしれませんが、現時点ではプーチン政権のもろさ、その権力が絶対的ではないことを強く印象づける結果になったと私は受け止めています。
KGB(現FSB)出身のプーチンは、「暴力」と「噓」(時には部分的に真実を含ませた虚偽情報)によって大国を支配してきた権力者です。
多くの国民は暴力装置(軍や治安組織、情報機関)にあらがうよりも、政府が発信する情報を(少なくとも表向きは)受け入れ、外国から見れば並行世界≠フような社会で生きてきたわけですが、ウクライナ侵攻が始まって以降は、さすがに政府の言い分を信じ続けることが難しくなっています。
経済は悪化し、多くの若い兵士たちが亡きがらとなって戻ってくる――政府にひれ伏す主要メディアの情報と、目の前に広がる現実やネットで見られる情報との矛盾が拡大する中で起きたのが、プーチンの子飼い≠ニいわれていたプリゴジンの反乱でした。
プリゴジンはSNS(テレグラム)で、数十万人のフォロワーに向けてロシア軍幹部への罵倒、さらには「こんな戦争はそもそも必要なかった」と、プーチンが掲げる戦争目的まで否定する発信をしました。
オリジナルの投稿が削除されても、ネット空間にはそのコピーが半永久的に残り、見ようと思えばたどり着くことができる。その中長期的な影響は、決して小さくはないでしょう。
プーチンがつくり出したシステムの中では、誰ひとりとして物申す存在はいないと思われていた(そのような専門家の分析も多々あった)のに、実際には寝首をかかれてもおかしくない状況だった。軍事に関してはズブのシロウトのはずのプリゴジンにあれだけの反乱を起こさせ、しかも一部に同調者を生むほど、ロシア軍はアップデートできておらずボロボロだった。
冷静にそれらの実態を考えると、権力のほころびは「暴力」と「噓」によって巧妙に隠されていただけなのでしょう。
同時に、ロシア国民が積極的にプーチン体制を支持しているわけではなく、「ぬるく傍観している」様子も見えました。反乱を起こしたワグネルやプリゴジンに喝采を送った人々のみならず、それ以外の多くの国民や治安組織・軍の構成員も、本気で、あるいは体を張ってまでこの体制を守りたいと願ってはいない。
政権転覆のためにアクションを起こすほどの熱はなく、経済の不安定さゆえに目先の安定を優先し、ただ緩やかな日常の維持を求める――その「ぬるさ」こそが、プーチン体制を継続させているのかもしれません。
中国や北朝鮮の崩壊を真剣に考えておくべき
今、私たちが突っ込んで議論するべきなのは、こうした独裁体制のもろさ、不安定さについてだと考えます。
日本にとって安全保障上の脅威である中国の共産党政権や北朝鮮の金(キム)王朝について、私たちはしばしば独裁体制の下で権力を完全に掌握し、巨大マシンのごとく社会を動かせるかのようなイメージを持ってしまいがちです。
ただ実際にはロシアと同様に、「噓」を塗り重ねることで肥大化している部分が確実にある。それがいつ暴発するかわからない不安定さを構造の中に抱えているとみるべきでしょう。
中国の場合、民主主義国家では許されない人権度外視のAI監視体制を敷くなどして、政権の盤石さをアピールしています。
しかしその生命線は、いびつな経済構造が拡大を続けていることにより、今のところは国民が「独裁体制の打倒や民主化を求めることにそれほどメリットを感じていない」ことでしょう。逆に言えば、その凪≠フ状態からひとたび風が吹けば、大嵐となる可能性があります。
北朝鮮に至っては、核・弾道ミサイル開発で日本を含む諸外国を恫喝することにより、なんとか生き永らえている状態です。
金正恩(キム・ジョンウン)体制は、シェイクスピアの名作『マクベス』でいえば第5幕――悲劇に向けて坂を転げ落ちているといってもいい。今のままではグローバル経済から切り離されて国民は困窮し、目覚ましい発展を遂げる可能性もなく、いつか来る自壊を待つのみです。
確かに民主主義体制は、独裁と比べればわずらわしい政治的手続きや非合理に見える仕組みが多々あります。しかし歴史を見れば、民主主義体制そのものが滅んだ国は今のところなく、逆に多くの独裁体制はいつか終わりを迎える。
史上最悪の独裁者ともいわれたルーマニアのチャウシェスク(1989年没)や、アフリカの反米リーダー≠気取っていたリビアのカダフィ(2011年没)の最期も、実にあっけないものでした(どちらも記録映像が一部公開されています)。
中国による台湾侵攻の懸念を論じるなら、それがきっかけとなって共産党政権が瓦解するシナリオも検証する。北朝鮮のミサイルへの恐怖をあおるだけでなく、金正恩の失脚リスクについても考える。
そういった突っ込んだ議論をお遊びではなく真剣に、タブー視せず重ねておくことが、独裁国家に対する解像度≠上げることにつながるでしょう。
それともうひとつ、現代社会では独裁体制のほころびがリアルタイムで漏れ出てくるという要素にも注目しておく必要があります。プリゴジンがテレグラムでウクライナ侵攻を批判したように、かつての時代とは違って「異変の兆候」を権力者がすべて隠し続けることはできません。
東アジアで異変が起きたときの心構えやシミュレーションをしておくこと。その予行演習の意味も含め、ロシアやベラルーシの今後を真剣に見ておくこと。これがプリゴジンの反乱から得るべき教訓であると私はとらえています。
●プーチン大統領、ワグネルのトップに元大佐を提案 7/17
ロシアのプーチン大統領が、武装蜂起を起こした民間軍事会社「ワグネル」の新たなトップに、ワグネルの幹部で元ロシア軍大佐のアンドレイ・トロシェフ氏(61・写真)を据えることを提案した。トロシェフ氏は、チェチェン、アフガニスタン、シリアなどで活躍し、特にシリア内戦当時、アサド政権を助け、反政府勢力撃退の先頭に立った。アサド政権は反政府軍に化学兵器などを使用し、その影響でトロシェフ氏も欧州連合(EU)と英国の制裁対象となった。
ロシア紙コメルサントなどによると、プーチン氏は先月29日、武装蜂起の首謀者であるワグネルのプリゴジン氏を含むワグネルの指揮官35人を招集した席で、トロシェフ氏を新たなトップに据えることを提案した。プーチン氏は当時、会議で白髪のトロシェフ氏を指して「セドイ」(白髪)に言及し、「この指揮官の下で戦闘を継続せよ」と指示した。
また、プーチン氏はワグネルがロシア正規軍に編入すべきだとし、ほとんどの指揮官が賛成の意味でうなずいた。最前列にいたプリゴジン氏は、仲間のうなずく様子を見ることができず、プーチン氏の提案を拒否したという。
先月24日の武装蜂起後、プリゴジン氏の消息をめぐって様々な憶測が飛び交う中、ベラルーシ軍は15日、プリゴジン氏が下着姿で軍の野戦ベッドに座っている写真を公開した。ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日、「プリゴジン氏が故郷のロシア・サンクトペテルブルクなどに滞在している」と明らかにした。その後、プリゴジン氏などワグネルの一部傭兵がベラルーシ領内に入り、ベラルーシ軍の訓練に参加しているとみられる。
英紙フィナンシャル・タイムズは、ロシア当局が先月、プリゴジン氏の武装蜂起後、プリゴジン氏が設立した世論を操作する「トロール工場」の活動を禁止したにもかかわらず、活動は続いていると報じた。約300人で構成されたトロール工場は、ソーシャルメディアにロシアの侵攻を正当化し、ウクライナ戦争に参加するワグネルに対する友好的な世論を形成した。同紙は、「プリゴジン氏が設立した『偽のメディア帝国』がプーチン氏とロシアにとってより大きな挑戦になっている」と伝えた。
●クリミア橋「非常事態」で通行止め、親ロシア派が投稿 爆発の情報も 7/17
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で「首長」を名乗る親ロシア派幹部セルゲイ・アクショノフ氏は17日未明、同半島とロシアを結ぶクリミア橋で「非常事態」が発生し、橋が通行止めになったとSNSに投稿した。
アクショノフ氏は詳細を明らかにしていないが、100万人以上の読者が登録するロシアのSNS上の軍事情報チャンネル「バザ」は「暫定的な情報」としてクリミア橋で爆発が起き、「少なくとも2人が死亡した」と伝えている。
●ロシアがウクライナ市民に強制労働「拒否なら射殺」、塹壕や集団墓地掘らせる 7/17
AP通信は13日、ロシアがウクライナの民間人に強制労働をさせており、2026年までに25か所の収容所などを作る計画があると報じた。ウクライナの反転攻勢に備えた 塹壕ざんごう を掘らせるため、拘束した民間人を働かせているという。
「夜明け前に起き、凍てつく寒さの中、12時間は前線で塹壕を掘る。拒否した者は射殺された」
激しい戦闘が続いているウクライナ南部ザポリージャ州などでは露軍に拘束された市民が塹壕や集団墓地を掘っているという。ウクライナ軍の標的にさせるため、露軍の制服を着せられることもある。AP通信の調査に対し、複数のウクライナ市民が語った。
国際法は理由のない民間人拘束を禁じているが、露軍はウクライナ兵以外に民間人も拘束し、強制移送している。ロシアとベラルーシの40か所、ウクライナの63か所の拘留施設に、各4000人以上が拘留されているとみられる。
●ウクライナ軍による反転攻勢 “兵器2割失われた” 米有力紙 7/17
ウクライナ軍による反転攻勢について、アメリカの有力紙は、開始から2週間で、戦場に送られた兵器の2割が失われたと報じ、反転攻勢が遅れていると指摘しました。一方、ウクライナ産の農産物をめぐるロシアとウクライナの合意が17日に期限を迎えることから、延長できるか、協議の行方が注目されています。
ウクライナ国防省のマリャル次官は16日、東部ドネツク州の激戦地、バフムトの南側でウクライナ軍が前進したとする一方で、同じ東部のハルキウ州では、この2日間にわたって、ロシア軍による激しい攻撃を受けウクライナ軍が守勢に回っていると明らかにし、前線で一進一退の攻防が続いているとみられます。
ウクライナ軍の反転攻勢についてアメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、15日付けの電子版で欧米の当局者の話として、始まってから最初の2週間で、戦場に送られた兵器の2割が失われたと報じました。
欧米から供与された戦車なども含まれるとしています。
その後、ウクライナ軍は長距離ミサイルなどを活用した戦術に切り替えたことで損失のペースは落ちたとしていますが、「反転攻勢は遅くなり、一部の地域では止まった」と指摘しています。
こうしたなかロシアのプーチン大統領は16日に放送された国営ロシアテレビのインタビューで、ウクライナ軍の反転攻勢について「敵の試みは成功していない」と述べ、ロシア軍が優位に立っていると主張しました。
また、アメリカがウクライナへの供与を発表した殺傷能力が高いクラスター爆弾について「もしわれわれに対して使用された場合、同様の対応をとる権利がある」とけん制しています。
一方、17日にはウクライナ産の農産物をめぐるロシアとウクライナの合意が期限を迎えます。
これまで、合意期限は3度延長されましたが、今回、ロシア側は期限の延長に応じない構えも示していて、国連や仲介役のトルコなどとの協議の行方が注目されています。
●プーチン氏 一時離脱を示唆 ウクライナ産穀物輸出合意期限 7/17
世界規模の食糧危機を打開するために合意されたウクライナ産の穀物輸出が、17日で期限切れとなる。
ロシアのプーチン大統領が、一時、離脱をちらつかせるなど、延長できるか、先行きは不透明。
この合意は、ロシアによる軍事侵攻で、ウクライナ産の穀物の輸出が滞り、アフリカを中心とした国々で、食糧危機に陥る問題が浮上したことで結ばれたもの。
17日に期限を迎えるが、ロシアのプーチン大統領は「また西側諸国にだまされた」と合意からの離脱を示唆しており、ロシアメディアも「延長の情報はまだない」と報じるなど、延長か停止になるか先行きは不透明。 
●「クリミア半島侵攻なら核戦争」と警告した「プーチンの口」… 7/17
「完全に狂った西側のため第3次世界大戦が近づいている」。
最近「プーチンの口」と呼ばれているロシアのドミトリー・メドベージェフ国家安全保障会議副議長(58)が11日、米国など西側に対してこのように非難した。北大西洋条約機構(NATO)がリトアニア・ヴィリニュス首脳会議でウクライナに対する長距離巡航ミサイルと戦車・装甲車の追加提供を約束するなど軍事支援拡大を決定したからだ。メドベージェフ氏の発言はNATOがロシアを刺激すれば西側とロシアが正面対立する第3次世界大戦を迎える可能性があるという警告の意味と解釈される。
メドベージェフ氏は昨年2月、ロシアがウクライナを侵攻して以降、西側とウクライナに対する激しい発言を続け、ロシアで最も大きい強硬スピーカーの役割をしている。メドベージェフ氏は昨年3月、SNSのテレグラムにチャンネルを開設した後、一日に少なくとも一度は強硬発言を載せている。
特に戦争以前までダブーとしてきた核関連の脅威にも言及している。「クリミア半島を侵攻すれば、地球全体の終末の『最後の審判の日(核戦争)』が来るはず」「核保有国(ロシア)が通常兵器の戦争で敗れる場合、核戦争が始まる」「より多くの武器を供与すれば核による終末シナリオの可能性が高まる」など表現も多彩だ。
わが国を狙った発言もした。4月に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がウクライナに対する武器支援の可能性を示唆したという報道が出ると、メドベージェフ氏は「韓国は代価を払うことになる」「韓国国民が北朝鮮で最新ロシア産武器を見ることになれば何と言うのか気になる」と脅迫した。
それだけではない。ウクライナ支援に率先するバイデン米大統領を「認知症になったおかしな老人」とし、ゼレンスキー大統領らウクライナ指導部に向けて「狂ったナチ麻薬中毒者集団」と表現した。メドベージェフ氏の過激発言に歓呼した人たちが彼のチャンネルに集まり、現在フォロワーは111万人にのぼる。
オバマ大統領とハンバーガー食べた「親西側」
メドベージェフ氏の大統領時代(2008−2012年)の姿を知っている人は彼の変身に驚いている。AFP通信、ガーディアン、フォーリンポリシーなど西側メディアはかつてロシアの開放に率先した穏健派だったメドベージェフ氏に何があったのかに注目した。
メドベージェフ氏は2008年にプーチン大統領の指名を受けて大統領に就任した。大統領連続3期禁止条項のためにプーチン氏がしばらく退き、メドベージェフ氏を後任者に選んだ。大統領になったメドベージェフ氏は経済自由化を進め、西側との関係改善のために注力した。2010年には米国を訪問し、オバマ大統領と「ハンバーガー昼食」をして話題になった。
当時、メドベージェフ氏は「典型的に米国的な興味深いところで昼食を一緒人した」と話した。オバマ大統領は「メドベージェフ氏は思慮深くて積極的な人」とし「21世紀のロシアを立派に引っ張っている」と称賛した。両首脳が深い関係を維持しながら両国は2010年に新戦略兵器削減条約(新START)を締結して戦略核兵器数を削減することにし、2012年にロシアは米国の支持を受けて世界貿易機関(WTO)に加盟した。
AFPによると、メドベージェフ氏は西側文化好きでも有名だった。米国出身のリンキン・パーク、英国出身のディープ・パープルなどが好きなロック音楽ファンだ。アーリーアダプターのメドベージェフ氏はアップル創業者、故スティーブ・ジョブズを尊敬した。訪米時にシリコンバレーを訪れてジョブズに会い、贈り物としてiPhone4を受けた。SNSの使用にも積極的で、ツイッター本社も訪問して認証ショットを載せた。
国民との意思疎通を広げ、独立メディアにも関心を見せた。ロシア反政府メディアのノーヴァヤ・ガゼータなどのインタビューにも応じた。名門レニングラード大(現サンクトペテルブルク大)で法学を専攻して教授になり民法などを教えていたメドベージェフ氏は、腐敗した官僚組織と劣悪な人権状況を革新するために司法改革も強調した。

 

●プーチン氏、クリミア橋爆発「対抗策を準備」 報復示唆 7/18
ロシアのプーチン大統領は17日、2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島とロシアを結ぶクリミア橋が17日未明に爆発で損傷したことについて「ロシア国防省が対抗策を準備している」と述べた。関与が指摘されるウクライナへの報復を示唆した。
プーチン氏は同日にフスヌリン副首相らとビデオ会議を開いた。ロシア通信によると、プーチン氏は今回の爆発についてウクライナが関わる「テロ行為」と指摘し「罪のない市民が亡くなった」と非難した。
クリミア橋の爆発について、ウクライナ軍報道官は同日、爆発への関与を否定した。ただ、同国の複数のメディアは関係筋の話として、ウクライナ保安局と海軍の共同作戦により橋が攻撃されたと報じた。
プーチン氏はロシア連邦保安局(FSB)などが調査に着手しており「すべての事実が解明されることを確信している」と述べた。「クリミア橋でのテロ行為は2回目だ。戦略的に重要な交通施設として安全の確保が必要になる」と具体的な対策を検討する考えを示した。
クリミア橋では22年10月に爆発が発生し、橋桁が落下する事態が発生した。ロシアはウクライナ側の仕業と判断し同国のエネルギー、軍事、通信施設を標的に大規模な攻撃を実施した。ウクライナ軍は当初は否定していた爆発への関与を事実上認めていた。
●プーチン氏、報復攻撃を予告 クリミア橋「攻撃」で 7/18
ロシアの実効支配下にあるウクライナ南部クリミア半島と露領土を結ぶ自動車・鉄道橋「クリミア橋」がウクライナに攻撃されたとロシアが主張した問題で、プーチン露大統領は17日、関係当局者らを集めた緊急会議をオンライン形式で開いた。プーチン氏は「橋がテロ攻撃を受けた」とし、「ロシアから返答があるだろう。国防省が適切な提案を準備している」と述べた。報復名目でのウクライナへの攻撃を予告した形だ。
会議でプーチン氏は「橋は長い間、軍事物資の輸送には使われていなかった。橋への攻撃は軍事的に無意味だ」と主張した。
会議ではまた、フスヌリン副首相が状況を報告。自動車橋の一部が完全に破壊され、当面の自動車の通行は損傷が軽微な片側車線を使って行うと説明した。完全復旧には11月までかかるとの見通しも示した。
ロシアは今月17日未明にウクライナが無人艇を使って橋を攻撃したと主張。民間人3人が死傷したとした。ウクライナメディアは同国治安当局者が攻撃を暗に認めたと伝えたものの、同国政府は公式には自身の関与に言及していない。
クリミア橋では昨年10月にもトラックの爆発で一部が損傷。ロシアはウクライナによるテロだとし、報復名目でウクライナの電力インフラを標的としたミサイル攻撃を激化させた。昨年10月の爆発に関し、ウクライナは最近、露軍の輸送路の破壊を目的とした作戦だったことを認めた。
前線の戦況を巡り、ウクライナのマリャル国防次官は17日、南部ザポロジエ州方面での反攻で過去1週間に約11平方キロメートルの領土を新たに奪還し、反攻開始後に解放した領土は計約180平方キロメートルになったと発表した。東部方面を含めると、解放した領土は計約210平方キロメートルになったとした。
●補給ルート寸断、プーチン政権の威信失墜狙ったか…クリミア大橋攻撃 7/18
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島と露本土を結ぶ「クリミア大橋」に対する17日の攻撃を巡り、露軍への大規模な反転攻勢を展開するウクライナ軍が露軍の補給妨害と、プーチン政権の威信失墜を狙ったとの見方が出ている。プーチン政権は黒海経由のウクライナ産穀物の輸出を巡る合意からの一時離脱を決め、余波は両国以外にも広がりそうだ。
17日の攻撃で道路橋は通行止めになった。クリミア大橋を通じた露軍の兵器、兵員、食料の補給は、鉄道が主に担っているものの、露軍に一定の打撃となっているとみられる。
タス通信によると露大統領報道官は17日、プーチン大統領がクリミア大橋にマラト・フスヌリン副首相を派遣しており、同日中にオンライン形式で会合を開いて対応を協議すると明らかにした。
日本時間18日午前6時で失効するウクライナ産穀物の輸出を巡る合意に関しては「ロシアの要求が履行されれば速やかに復帰する」と述べ、自国産穀物と肥料の輸出拡大に向けた確約が得られれば復帰するとの立場を改めて説明した。
ロシア外務省は17日、ウクライナ産穀物の輸出合意からの離脱理由を説明する声明で、船舶の安全な通航を確保する「回廊」をウクライナがロシアの民間・軍事施設に対する「テロ攻撃」に利用したと主張した。
ウクライナ軍南部方面部隊の報道官は17日、地元テレビで、クリミア大橋の攻撃は露側が穀物合意からの離脱を正当化するための「自作自演」だったとの見方を示した。
ただ、ウクライナ国営通信は「橋に到達するのは困難だったがようやく成し遂げた」とする関係者の声を交えながら、海軍と情報機関「保安局」(SBU)が関与したと報じている。
ウクライナ軍が6月4日に始めた反攻は、露軍が地雷原や 塹壕ざんごう などで事前に準備した重層的な防衛線に阻まれ、地上部隊は苦戦が続く。ウクライナ軍は、長射程兵器などで露軍占領地域の後方にある露軍拠点を攻撃して反撃能力を低下させる戦術に切り替えている。
露国防省は9日にもクリミア大橋を狙ったミサイル攻撃を防いだと発表している。ウクライナ軍が、反攻でクリミアと露本土との分断を目指しているのは間違いなさそうだ。
●クリミア橋爆発はウクライナの「テロ行為」、ロシアは報復=プーチン氏 7/18
ロシアのプーチン大統領は17日、ロシア南部とクリミアを結ぶ橋が爆発により損傷したことについて、ウクライナによる「テロ行為」との見方を示し、ロシアは報復すると表明した。
プーチン氏は、クリミア橋はウクライナで戦うロシア軍に補給するためには何カ月も使われていなかったとし、橋への攻撃はウクライナによる無分別で残酷な行為だと非難。国防省が対応案を準備していると述べた。
プーチン大統領はクリミア橋の爆発の影響を評価するための当局者との会合を開き、会合のもようがテレビ放映された。
フスヌリン副首相は同会合で、損傷した橋は11月1日までに完全に修復されるとの見通しを示した。
クリミア橋は2014年のロシアによるクリミア「併合」後にプーチン大統領の命令で建設。ウクライナ政府は今回の爆発について公式見解を発表していないが、ウクライナのメディアは、ウクライナ治安当局が背後にいるとの匿名の当局者の発言を報じている。
●クリミア橋損壊 プーチン大統領「報復は当然行う」 7/18
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシアをつなぐ橋が17日、損壊したことについて、ロシアのプーチン大統領はウクライナによるテロ行為だとした上で「報復は当然行う」と述べ、軍事的な報復措置をとる構えを強調しました。
クリミアとロシア南部をつなぐ橋は17日、道路の橋桁が損壊して車の通行ができなくなっていて、ロシアの治安機関などでつくる「国家反テロ委員会」は「ウクライナの2つの無人艇により攻撃が行われた。男女2人が死亡、子ども1人が巻き込まれた」と発表しています。
17日に国営テレビで放送されたオンライン会議でプーチン大統領は、「ウクライナによる新たなテロ行為だ。まったく罪のない市民が巻き込まれて亡くなった残酷な犯罪だ」と述べ、ウクライナが関与したとして非難しました。
その上で「ロシア側からの報復は当然行う。相応の案を国防省が用意している」と述べ、軍事的な報復措置をとる構えを強調しました。
また、現場を視察したフスヌリン副首相は会議の中で「橋脚には損傷がない」と報告しました。
橋を構成する道路2本のうち1本を使い、18日には片側通行で利用を再開し、ことし9月には対面通行を始めるとしています。
プーチン政権としては、クリミアを自国の領土だと誇示する象徴的な意味を持つ橋が去年10月に攻撃されて以降、再び通行できない事態となったことを受け、ウクライナを強くけん制するとともに、復旧を急ぎたい考えとみられます。
●ロシアの合意停止「遺憾」=プーチン氏に書簡も実らず―国連総長 7/18
グテレス国連事務総長は17日、ロシアによるウクライナからの穀物輸出合意の停止発表について「非常に遺憾だ」と述べた。国連本部で記者団に語った。
グテレス氏は、合意によってこれまでに3200万トンを超える食料が輸出され、世界の食料価格引き下げに貢献してきたと指摘。「(合意停止という)ロシアの決定はあらゆる場所で困窮している人々に打撃を与える」と非難した。
先週、グテレス氏は合意存続を目指してロシアのプーチン大統領に書簡を送付。ロシアが求めていた銀行決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」への復帰仲介などを提案したが、受け入れられなかった。
●ロシア ウクライナ産農産物 輸出合意の履行停止 批判相次ぐ 7/18
ロシア政府は、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行停止を発表し、ロシア産の農産物などの輸出が実現されない限りは、合意に復帰することはないと強調しました。これに対し、国連のグテーレス事務総長が「困窮しているすべての人たちに打撃を与える」と述べるなど、世界的な食料危機への懸念が高まっています。
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐるロシアとウクライナの合意について、合意の延長期限となっていた17日、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「合意の履行を停止した」と発表しました。
また、ロシア外務省は「約束や保証ではなく、具体的な結果を得られた場合のみ、ロシアは合意の再開を検討する用意がある」としていて、滞っていると主張するロシア産の農産物などの輸出が実現されない限りは、ウクライナ産の農産物をめぐる合意に復帰することはないと強調しています。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアは明らかに政治的な問題を解決するため圧力をかけている」と強く非難しました。
また、仲介役を担ってきたトルコのエルドアン大統領は「合意の延長に向けた外交努力を続けている。プーチン大統領と電話で話す」などと述べ、ロシアへの働きかけを続ける考えを強調したほか、同じく仲介にあたる国連のグテーレス事務総長は「深く失望している。ロシアの決定は、困窮しているすべての人たちに打撃を与えるだろう」と述べるなど、世界的な食料危機への懸念が高まっています。
ゼレンスキー大統領「ロシア抜きでも合意継続を」
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日に公開した動画で、「この合意を受けて、これまでおよそ3300万トンの農産物が45か国に輸出された。その60%はアフリカとアジアの国々に届いている」と述べ、合意の意義を強調するとともに、農産物がアフリカ諸国などには届いていないとするロシア側の主張に反論しました。
また、ゼレンスキー大統領は合意について「ロシア抜きでも続けることはできるし、そうすべきだ」と述べました。
そのうえで、トルコのエルドアン大統領と国連のグテーレス事務総長に書簡を送ったことを明らかにし「トルコと国連、それにウクライナの3者で似たようなものか、いまの合意を継続することを提案した」と述べ、ウクライナ産農産物の輸出継続に向けて仲介役のトルコや国連と連携していく考えを示しました。
EU委員長「ロシアの身勝手な行動だ」
ロシア大統領府の発表についてEU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長はツイッターに投稿し「ロシアの身勝手な行動だ」と述べて強く非難しました。
その上で「世界の弱い立場の人たちの食料安全保障のためEUは対応している」としてウクライナ産の農産物をEU域内の港から輸出するという支援の取り組みを続ける考えを強調しました。
米 ブリンケン国務長官「許しがたい、あってはならない」
アメリカのブリンケン国務長官は17日、記者会見で「ロシアがウクライナとの戦争で、食料を武器として利用したために食料を切実に必要としているところでの入手がより困難になるだろう。許しがたいことであり、あってはならないことだ」と述べ、ロシアを強く非難しました。その上で、ロシアに対し速やかに合意に復帰するよう求めました。
また、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者会見で、「われわれは引き続きウクライナがほかのルートを含め、穀物を必要としている市場に届ける取り組みを支援する」と述べ、同盟国などとともに取り組んでいくと強調しました。
一方、ロシアが欧米側の制裁措置によって農産物の輸出が滞っていると主張していることについて、「ロシアの食料や肥料は制裁対象ではない」と述べ反論するとともに、これまでどおりロシアの農産物の輸出を制限することなどはしないとしています。
エジプト市民 「パンが買えなくなる」
ウクライナなどから多くの農産物を輸入している中東のエジプトでは、今後、パンなどの価格がさらに高騰するのではないかと懸念の声が上がっています。
エジプトは、主食のパンの原料となる小麦を世界で最も多く輸入していて、その大半をロシアとウクライナからの輸入に頼ってきました。
ロシアによるウクライナ侵攻によって小麦の輸入が滞るなか、エジプトではほかの地域から輸入を増やそうと努めていますが、国内消費に追いつかず、一部の商店では、パンの価格が侵攻前と比べ、5倍以上に跳ね上がっています。
首都カイロの市場で買い物をしていた市民からは今後、パンなどの価格がさらに高騰するのではないかと懸念の声が上がっています。
市場で買い物をしていた男性は「エジプト人にとって、パンは水と同じで生活に不可欠なものだ。これ以上値上がりしたら、パンが買えなくなる。遠い国の戦争で私の生活も厳しくなっている」と話していました。
また、別の女性は「すべての商品が値上がりしていて、生活ができない。元の生活に戻るためにも早く戦争が終わってほしい」と話していました。
小麦の先物価格 乱高下も
シカゴ商品取引所では小麦の供給が滞るとの見方から、国際的な小麦の先物価格が一時、大きく上昇しました。その後は急落し、乱高下しています。
17日のシカゴ商品取引所では、ロシア政府の発表を受けて国際的な取り引きの指標となる小麦の先物価格が一時、大きく上昇し、先週末の終値と比べた上昇率は7%を超えました。
ロシア政府が、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行停止を発表したことを受けて世界有数の小麦の輸出国、ウクライナからの供給が滞るとの見方が出たことが主な要因です。
その後、小麦の先物価格は、発表前を下回る水準まで急落するなど、ロシアによる今回の発表がウクライナ産の小麦の輸出にどのような影響を及ぼすかさまざまな見方が交錯し、乱高下しています。
ウクライナは「ヨーロッパの穀倉」とも言われ、FAO=国連食糧農業機関によりますと、2021年の小麦の輸出量は世界第5位となっています。
市場関係者は「ロシアによる合意の履行停止の影響に加え、世界的な気温の上昇が、小麦の収穫に影響して需給が引き締まることも懸念されて小麦の先物価格は上昇しやすい状況にあり、先行きは不透明だ」と話しています。
アメリカ農務省 “ロシアの小麦輸出量はむしろ増加”
ロシアは、欧米側の制裁によって農産物の輸出が滞っていると主張していますが、アメリカ農務省は、ロシアの小麦の輸出量はむしろ増加しているとする報告書を発表しています。
アメリカ農務省がことし5月にまとめた報告書によりますと、輸出先の国からのデータなどをもとに調べたところ、去年からことしにかけての1年間ではロシアの小麦の輸出量は、前の年に比べて36%増えて4500万トンとなり、過去最多を記録することが予想されるとしています。
輸出先としてはトルコやエジプト、イラン、サウジアラビアのほか、スーダンやアルジェリアといった中東やアフリカの国々が上位を占めているということです。
さらに、ロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」の加盟国にも陸上輸送で小麦が輸出され、なかでもカザフスタンへの輸出量が多いということです。
一方、ロシアのインターファクス通信は、6月、ロシアのパトルシェフ農業相が「ことしの農産物の輸出額はおよそ15%から20%、前の同じ時期を上回っている」と述べたと伝えています。
国営のタス通信も今月7日、パトルシェフ農業相の話として「今月から来年6月にかけての1年間で、最大で5500万トンの穀物を輸出する計画だ」という見通しを伝え輸出先としては、ロシアに友好的な国が9割近くを占めるとしています。
●穀物合意離脱のロシアに非難集中 7/18
国連安全保障理事会は17日、ウクライナ情勢を協議する公開会合を開いた。黒海を通じたウクライナ産穀物輸出に関する同国とロシア、トルコ、国連の4者による合意から離脱したロシアに対し、食料危機を懸念する日米欧から「世界の他の地域を人質にしている」(武井俊輔外務副大臣)などと非難が集中。合意復帰を要求する声が相次いだ。
国連のグテレス事務総長は記者団に「非常に残念だ」とロシアへの失望を表明。食料価格が高騰すれば「困窮する全ての人々にとって打撃になる」と懸念し、ウクライナ産穀物の輸出継続を目指して打開策を模索すると述べた。
ウクライナのクレバ外相は安保理会合で「ロシアはアジアとアフリカなどの最も弱い立場にある人々を傷つけ、飢えをもてあそぶのをやめるべきだ」と語り、合意離脱の影響は各国に波及すると強調した。
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使も食料危機が悪化すれば貧しい地域が最も影響を受けると指摘。合意離脱を「残虐な行為だ」と表現した。
●プーチン大統領、ウクライナの穀物輸出を遮断すると警告 7/18
ウクライナの戦争中にも小麦やトウモロコシなどウクライナ産穀物の安全な輸出を保証していた「黒海穀物輸出合意」の延長をめぐって、プーチン大統領が根拠はないとの見解を示した。猛暑や洪水など異常気象が全世界を襲う中、18日午前0時の期限終了の前に延長に同意しない考えを示し、穀物市場の不安定化が懸念される。
ロシアのモスクワ・タイムズなどによると、プーチン氏は15日、南アフリカのラマポーザ大統領との電話会談で、「(この合意は)ロシアの利益を全く考慮していない。これまで合意の主要目標も達成されていない」と述べ、延長しない可能性を示唆した。ロシアは延長の条件として、ウクライナ侵攻後、欧米の制裁で輸出の道が閉ざされたロシア産農産物の輸出再開、ウクライナを通るロシア産肥料輸送管の稼働再開などを求めた。
これに先立ち、ロシアは昨年11月と今年3月にも、合意終了前に今回と同様の態度を見せたが、直前に延長に同意した。一種の「食糧の武器化」だ。
17日、ウクライナ南部のクリミア半島とロシア本土を結ぶ唯一の橋であり、ロシア軍がウクライナ占領地に主要物資を輸送する通路である「クリミア大橋」で爆発が発生し、少なくとも3人の死傷者が発生した。車で橋を渡っていたロシア南部ベルゴロド州の夫婦が死亡し、娘が負傷したと、BBCが報じた。
ロシア国家反テロ委員会(NAC)は同日、声明で、「ウクライナの特殊機関が今回の攻撃を行った」とし、テロ攻撃と規定した。ウクライナ保安局の消息筋もBBCに、「ウクライナ海軍と保安局の特殊作戦」と語った。
2014年にクリミア半島を一方的に併合したプーチン氏は、天文学的な金額を投じてクリミア半島とロシア本土を結ぶこの橋を建設した。18年の開通式では、自らトラックを運転して橋を渡るパフォーマンスを行い、「プーチン橋」とも呼ばれた。昨年10月にもウクライナの攻撃で大橋の上で爆弾が爆発し、橋の一部が崩壊した。プーチン氏は同年12月、大橋の復旧現場にも訪れるほど、この橋に力を入れている。
●習主席の軍門に下るプーチン大統領 ロシア国内で人民元取引拡大 7/18
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議に合わせて10月にも訪中し、習近平国家主席と会談する可能性が浮上した。西側諸国による制裁や封じ込めが続くなか、ロシア国内では人民元取引が拡大し、中国企業や製品の市場参入も相次ぐなど「中国依存」が強まる一方だ。習氏の優位な立場は圧倒的で、ロシアにとっては「中国の属国化」ともいえる屈辱的な状況だ。それでもプーチン氏は習氏の軍門に下るしかないのか。
習氏は10日にロシアのマトビエンコ上院議長と会談し、10月に開催予定の一帯一路の国際会議に合わせてプーチン氏を迎える準備をしていると述べたとタス通信が報じた。
米ウィリアム・アンド・メアリー大のエイドデータ研究所の統計では、2000〜17年の間、一帯一路を含む中国からロシアへの公的融資は1254億ドル(約17兆2600億円)にのぼった。だが、中国・上海の復旦大学グリーン金融研究センターによると、ロシアのウクライナ侵攻を受けた22年1〜6月、一帯一路関連の新規契約は前年から100%減、つまりゼロになった。「債務の罠」も指摘される一帯一路だが、プーチン氏は訪中で融資の再拡大を求める可能性がある。
新興国経済に詳しい第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「中国は欧米の制裁違反回避や、米国との正面衝突を避けるためロシアへの投資を止めたが、ロシア側は制裁の抜け穴を探っている。実質的に優位な立場の中国が、資源保有国という強みを持つロシアのプライドをいかに傷つけずに議論を進めるかが注目される」とみる。
ロシア市場で中国の影響力は無視できないほど拡大した。ロシア連邦中央銀行は、3月の外国為替市場で人民元の取り扱い比率が39%に達したと発表した。輸入決済に占める人民元の割合も22年1月の4%から12月に23%に急増した。今年1〜3月の中露間の貿易総額は前年比38・7%増の538億4000万ドル(約7兆4100億円)になった。中国の自動車メーカーの市場参入や中国製スマートフォンのシェア拡大なども報じられ、ロシアが「中国経済圏に入ることは避けられない」と前出の西濱氏は話す。
露紙モスクワ・タイムズは、中国国外で初めてロシア科学アカデミーが習氏の教えに特化する研究センターを開設するとも報じた。
筑波大学の中村逸郎名誉教授は「中国製の食料品や家電も量販店に並んでいるとの情報もある。ロシア人女性と中国人男性との結婚も増えているというが、今後は中国人と結婚した方が有利と考えている人が増えているとも読める」と解説する。
北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を防ぐためにウクライナ侵略を決めたプーチン氏だが、皮肉にも事態は逆に進み、今年に入ってフィンランドに続きスウェーデンもNATO加盟の見通しとなった。バルト海沿岸をNATO加盟国が取り囲む形となり、ロシア海軍にとっては痛手だ。ハンガリーも近く批准に入る見通しだという。
8月には南アフリカで、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アの新興5カ国(BRICS)の首脳会議が対面で開催されるが、国際刑事裁判所(ICC)はプーチン氏の逮捕状を出している。ICC加盟国の南アには拘束義務があり、プーチン氏の出席は不透明だ。外交もままならないプーチン氏は、ますます習氏頼みとなりそうだ。
前出の中村氏は「プーチン氏は石油や天然ガスなどの資源を背景に中国と対等な関係を望んでいるだろうが、習氏はこのタイミングでロシアを安く買いたたき、属国化≠狙う可能性もある。プーチン氏は政権維持のためにも中国の保護下に入らざるをえない状況にあるのではないか」と指摘した。
●ロシア財政は一段と逼迫へ、来年3月の大統領選挙迫り赤字拡大の圧力 7/18
民間軍事会社ワグネルの反乱は、ロシアの国内防衛体制がおざなりであることを浮き彫りにした。プーチン大統領の権威を揺るがし、ウクライナの戦場から数千人のベテラン戦闘員を排除する結果となった。
この影響から立ち直るには、多額の資金が必要だ。1年5カ月にわたる戦争と制裁で経済は疲弊しているが、大統領選挙を来年3月に控えているため財政を膨らまさざるを得ない。17日にはクリミアとロシアを結ぶプーチン氏にとって象徴的な橋が攻撃を受け、ロシアが直面する脅威があらためて思い起こされた。
予算への影響は、ウクライナでの陣地を強化するためだけの費用にとどまらない。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の試算によると、戦争へのさらなる資源投入と合わせモスクワ周辺での大がかりな安全保障体制構築などで、政府は現行の予算計画に対して支出を5%増やさざるを得なくなる可能性がある。今年度の歳出は1兆3000億ルーブル(約2兆円)増える計算だ。
大統領としてさらに6年間の任期確保を目指すプーチン氏にとって優先されそうなのが、有権者の歓心を買うことだ。過去の選挙期間中には公務員賃金の引き上げなどがあった結果、実質賃金は12%程度上昇していたとBEは見積もる。
ロシア政府の財政支出は上期で通年目標額の4分の3を超え、2兆6000億ルーブルの赤字となっている。この予算で既に最も大きな支出項目だった一部が、ワグネルの反乱に押される形でさらに増額されることになるだろう。
今年はこれまでに財政のアクセルが全開状態になっていた。プーチン氏は反乱が起きる数カ月前に、来年から最低賃金が18.5%引き上げられると発表していた。この賃上げの影響は、国内約500万人の労働者に及ぶ。
BEのロシア担当エコノミスト、アレクサンドル・イサコフ氏は「反乱で財政の逼迫(ひっぱく)は深刻化し、財政収支安定化の取り組みは脱線することになるだろう。選挙が近づく中で中核的な有権者の支持をつなぎとめるため公務員賃金も上昇するだろう」と述べた。
ロシアの「世論調査基金」が実施した調査によると、7月初め時点でプーチン氏の支持率は76%と、なお高い支持率を維持していた。ただ、水準としては部分的動員令が発表された昨年9月以来の低さだった。
「ワグネルの反乱で不透明性が増したため、ロシア政府はプーチン体制に対する市民の支持を買おうといっそうの資源を進んで投入しようとするかもしれない」とロンドン大学スラブ東欧研究所でロシア政治を専門とするベン・ノーブル准教授は分析。「とりわけ反乱を受けて、ロシア政府が2024年の大統領選挙でこれまで以上のプーチン氏圧勝を狙うとしても不思議ではない。ただ、それを確保するには極めて高くつくだろう」と述べた。
●英、ロシア教育相らに制裁 ウクライナの子ども連れ去り巡り 7/18
英国は、ウクライナの子どもが強制的に連れ去られたことをめぐり、新たにロシア人14人に制裁を科した。英外務省が明らかにした。新たに制裁の対象となった人物には、ロシアのクラフツォフ教育相らが含まれる。
英政府の声明によれば、これらの当局者らは、ロシアが1万9000人以上のウクライナの子どもたちをウクライナからロシアやロシアの支配地域に強制送還する際に「狡猾(こうかつ)な役割」を果たした。声明によれば、ロシア国営テレビ「RT」の元司会者で、ウクライナの子どもたちについて、「おぼれ死ねばよかった」などと発言したアントン・クラソフスキー氏に対しても新たに制裁が科されるという。
英国のクレバリー外相は17日、子どもたちを強制送還するプログラムや悪意に満ちたプロパガンダの中にロシアのプーチン大統領の本当の狙いが見えると指摘。プーチン氏の狙いは、ウクライナを地図から消し去ることだとの見方を示した。
クレバリー氏は今回の制裁について、ウクライナが破壊され、国民的なアイデンティティーが解体され、ウクライナの未来が消え去ることを望む人々を含んだ、プーチン政権を支える人々の責任を問うものだと述べた。
●EU、中南米・カリブ海諸国に投資拡大へ 対中ロ依存低減目指す 7/18
欧州連合(EU)は17日、中南米・カリブ海諸国への投資を拡大すると表明した。ロシアによるウクライナ戦争や中国を巡る警戒感の高まりを受けた国際関係見直しの一環。
ブリュッセルで開かれたEUと中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)の首脳会議で明らかにした。会議開催は8年ぶり。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、この3地域はこれまで以上に互いを必要としていると指摘。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、ウクライナ戦争、中国の国際的影響力拡大が及ぼす影響という課題に共に取り組むべきとした。
また、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗するEUのインフラ投資計画「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、中南米・カリブ海地域に450億ユーロの投資を計画しているという。
会議では主に共通の価値観について議論されたが、共同声明を巡っては、ウクライナ戦争や奴隷貿易における欧州の歴史的役割の扱いで見解の相違が浮き彫りになった。
●トランプ前大統領、ロシアが停戦しなければウクライナに「もっと兵器を渡す」 7/18
ドナルド・トランプ前大統領は再選を果たせばウクライナ戦争を「24時間以内」で終わらせることをこれまで繰り返し主張してきました。
具体的にどのようにして戦争を終わらせるかについてトランプは言明は避けてきましたが、先日FOXニュースで行われたインタビュー中にその計画の全容を明らかにしました。
「【新着記事】アゴラ編集部:トランプが「24時間以内」にウクライナ戦争を終結させると公言」— アゴラ (@agora_japan) February 2, 2023
まず、トランプはゼレンスキーが「名誉ある人物」だと前置きをしたうえで、すぐに停戦するようにウクライナに対して働きかけると述べました。
「トランプは、アメリカがウクライナの「名誉ある」ゼレンスキー大統領に「多くの」武器と資金を与えるとプーチンに伝え、ロシアを脅すという。」
トランプは米国の停戦要求をウクライナに呑ませるためにウクライナ支援を停止する可能性にも言及したことがあります。
「トランプ氏「最優先でウクライナ支援停止する」 大統領への返り咲きに自信:TV朝日 ロシアの工作はこんな感じで効果を発揮するというわけ。」— JSF (@rockfish31) March 5, 2023
また、トランプはウクライナだけではなく、ロシアに対しても停戦圧力をかける必要性にも触れています。
もし、ロシアが停戦に応じない場合、トランプはバイデン政権よりも積極的ににウクライナへの軍事支援を行うことを示唆しました。
「トランプは今日、ウクライナでの戦争を24時間で終わらせるという秘策をついに明らかにした。彼は、ゼレンスキーは電話で密告しなかったので「とても立派」だと言い、そしてバイデンよりも多くの軍事援助をウクライナに与えるとプーチンに言うという。」
トランプはロシアに対して親和的であると一般的に思われていますが、大統領の時にはオバマ政権が躊躇していたウクライナへの軍事支援を決断しています。
そのため、トランプが再選して、ロシアが停戦をする気がないと判断した場合には、バイデンよりも強力にウクライナを支援することも考えられます。
「トランプが大統領になれば、バイデンが2016年に勝利したときにオバマ以上のことをしたように、ウクライナを武装し支援するためにバイデン以上のことをするだろう。
このダイナミズムがわかるだろう。彼は2分間ハトのようなことをしようとし、それが失敗すると完全にタカ派になる。」
ここ最近の米国大統領選が大接戦で勝敗が決したことを鑑みると、2024年大統領選も同じような結果になることが予測されます。そのため、トランプ再選は現実性のあるものだと見なされており、欧州諸国は第二次トランプ政権が来ることを見越し準備を進めています。
「ドナルド・トランプ氏の当選が、欧州の右派強硬派のミニ・トランプをどの程度後押しすることになるのか。ジョー・バイデンがアメリカの力がヨーロッパ人を団結させることを証明したように、トランプ氏はまだ彼らを分裂させる力を発揮するかもしれない。」
ドイツ政府に至っては既にトランプ陣営と連絡を取っており、トランプ再選によるリスクをなるべく抑えたいという意図が透けて見えます。
「恐怖のシナリオ: ドイツ、ドナルド・トランプ再選の可能性に備える」
トランプが仮に再選すれば、結果的に米国はウクライナを見捨てるのか?それともロシアに対してより強硬的な姿勢を見せるのでしょうか?答えは第二次トランプ政権が誕生してからのお楽しみです。 
●制裁受けているはずが…“ロシア産小麦輸出量増” 米農務省 7/18
ロシアは、欧米側の制裁によって農産物の輸出が滞っていると主張していますが、アメリカ農務省は、ロシアの小麦の輸出量はむしろ増加しているとする報告書を発表しています。現状についてロシアの「友好国」のイランなどで取材しました。
アメリカ農務省がことし5月にまとめた報告書によりますと、輸出先の国からのデータなどをもとに調べたところ、去年からことしにかけての1年間ではロシアの小麦の輸出量は、前の年に比べて36%増えて4500万トンとなり、過去最多を記録することが予想されるとしています。
また輸出先としては、トルコやエジプト、イラン、サウジアラビアのほか、スーダンやアルジェリアといった中東やアフリカの国々が上位を占めているということです。
さらに、ロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」の加盟国にも陸上輸送で小麦が輸出され、なかでもカザフスタンへの輸出量が多いということです。
一方、ロシアのインターファクス通信は、先月、ロシアのパトルシェフ農業相が「ことしの農産物の輸出額はおよそ15%から20%、前の同じ時期を上回っている」と述べたと伝えています。
国営のタス通信も今月7日、パトルシェフ農業相の話として「今月から来年6月にかけての1年間で、最大で5500万トンの穀物を輸出する計画だ」という見通しを伝え、輸出先としては、ロシアに友好的な国が9割近くを占めるとしています。
ロシア“友好国”のイラン ロシアからの穀物輸入量増加
イラン税関の統計によりますと、ロシアから輸入した穀物の量は、先月までの3か月間でおよそ74万トンと、前の年の同じ時期と比べておよそ1.5倍、侵攻前のおととしと比べておよそ2.5倍に増えています。
イラン港湾海事局でアンザリ港を担当するナザリ氏は「ことしはロシアから輸入するトウモロコシの量が増えている。大事なのは取り引き先の国の要望に沿うことなので、私たちは、ロシア側の求めにもっと応える用意がある」と話していました。
ロシアとしては、カスピ海航路でイランを経由して、その先の中東の湾岸地域へ穀物などを輸出したい思惑もあるとみられます。
アンザリ自由貿易区域庁のニアジ長官は「ロシアにとって湾岸諸国とつながることはとても重要な成果となるため、ロシアは渇望している」と話していました。
ロシアとイランつなぐ両国間に位置する“カスピ海ルート”
日本の国土とほぼ同じ広さを持つカスピ海はもともと、チョウザメの卵から作るキャビアや、豊富な埋蔵量を誇る海底油田などで知られます。
イラン側は否定しているものの、イランがカスピ海を輸送路としてロシアへ無人機や弾薬などの兵器を供与していると、欧米からは指摘されています。
さらに、ロシアとしては、軍事侵攻が長期化する中、ロシア経済を維持する上で、カスピ海は重要な貿易ルートとなっています。
ロシアとイランの両国は、ともに欧米から制裁を科される中、「南北輸送回廊」と呼ばれ、ユーラシア大陸を縦断する物流網の構築に力を入れてきました。
道路や鉄道を使うルートではほかの国を通過する必要があるのに対し、カスピ海航路を利用すれば、両国がどの国も介さずに直接、物資を輸送できることになります。
イランの港にはロシア国旗掲げた多くの船が
イランの首都テヘランから北西におよそ250キロ離れたアンザリ港は、カスピ海に臨むイラン側の主要な港です。ふだんは、安全保障上の理由などから報道機関の立ち入りが制限されていますが、先月末、NHKの取材班は当局から許可を得て港での撮影が認められました。
港には、確認できただけで4隻のロシアの貨物船が停泊していて、多くのロシア国旗がはためいていました。
このうち、取材当日の朝、イラン側の港に到着したばかりだという船には大麦が積まれていて、港ではダンプカーに積み替えて、港内の貯蔵庫に次々と運ばれていました。
イラン港湾海事局によりますと、ロシアとの取り引き拡大に伴い、アンザリ港で去年1年間に取り扱ったコンテナの量はおととしと比べ、およそ40%増えたということです。さらに、港を国内の鉄道網と接続する線路の建設もことし9月の完成を目指して進められていて、完成すれば、この港からペルシャ湾までが鉄道でつながることになります。
この港を管轄するアンザリ自由貿易区域庁のニアジ長官は「周辺国の地政学的な状況が、この経済特区の輸送路としての役割をより重要にしている。この港を回廊に組み込むことでイランは制裁に立ち向かうことができる」と話しています。
ロシア大統領府 “ロシア抜き輸出 リスク考慮する必要”
ロシア政府がウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行停止を発表したことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は反発し、ロシア抜きでも輸出を継続したい考えを示しています。
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、記者団に対し、農産物が輸出される黒海の輸送ルートは戦闘地域に近いとしたうえで「適切な安全の保証がなければ、一定のリスクが生じる。このためロシア抜きで行われる場合、リスクを考慮する必要がある」と警告し、ウクライナ側の動きをけん制しました。
また、ペスコフ報道官は、ロシアはアフリカなどの国々に対し、ロシア産の農産物を無償で提供する考えを維持していると強調しました。
そのうえで、来週27日と28日にロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開くアフリカ諸国との首脳会議で、ロシア産の農産物について意見が交わされるという見通しを示し、アフリカ諸国との関係強化を図るねらいがあるとみられます。
●韓国防衛産業にウクライナ特需、欧州の需要を取り込み武器輸出大国目指す 7/18
韓国は武器生産大国としての地位を固めつつあり、武器輸出額は今後4年間で2021年比で最大87%増加する見込みだ。
国営シンクタンクの韓国産業研究院の研究を引用した韓国英字紙コリア・タイムズの記事によれば、2021年には125億ドルだった韓国の武器輸出額は、2027年までに約234億ドルに達する見込み。また韓国防衛産業の雇用者数は2021年の3万3000人から2027年までに約6万9000人に増加するという。
ウクライナ戦争で軍装備品や武器の需要が拡大するなか、韓国は武器輸出を急速に拡大しており、武器売却大国の仲間入りを果たそうとしている。ただし、戦争中のウクライナに殺傷力のある武器を直接供給することは拒否しており、戦争遂行に必要な人道支援や軍需品に限って提供している。ウクライナに殺傷力のある武器を供与することで、ロシアを敵に回すことを警戒しているのだ。
ロイターは5月、2022年の韓国の武器売却額は2021年比で100億ドル近く増加し、170億ドルを超えたと報じた。韓国の尹錫悦大統領は、今後数年間で、アメリカやイギリス、中国、ドイツなどと競合する世界有数の武器輸出国になると宣言している。
4大輸出国目指す
尹は2022年夏、「アメリカ、ロシア、フランスと並ぶ世界4大防衛輸出国の仲間入りを果たすことで、韓国の防衛産業は戦略産業となり、韓国は防衛大国になるだろう」と述べた。
韓国の武器輸出拡大は、大部分がポーランド向けのものだ。尹は2023年7月13日、ポーランドが韓国から武器を追加購入することで合意したと発表した。韓国とポーランドが2022年に合意した韓国史上最大137億ドルの武器輸出合意に続くものだ。
ポーランドは2022年9月、韓国から軽戦闘爆撃機「FA-50」48機を購入する契約を結び、2028年までに納入されることになった。韓国国防部は2023年6月中旬、ポーランドが旧ソ連時代の戦闘機を退役させた後、FA-50がポーランド空軍の後継機になると述べた。
韓国国防部のプレスリリースによれば、2023年末までに12機をポーランドに納入する予定だ。ポーランドはウクライナの同盟国であり、ソ連時代のMiG-29戦闘機をウクライナ空軍に寄贈している。
ポーランドはまた、韓国のK2主力戦車とK9自走りゅう弾砲も購入する。
ポーランドのマリウシュ・ブワシュチャク国防相は2022年11月、「2022年が、ポーランドと韓国の実りある防衛産業協力の始まりになることを確信している」と述べた。韓国とポーランドは同月、韓国のK2主力戦車とK9自走りゅう弾砲の供給に関する57億ドル相当の契約に合意した。
ポーランドの取引実績のおかげで、韓国防衛産業の存在はヨーロッパ市場で注目を浴びることになった。韓国最大の防衛関連企業ハンファ・エアロスペースのディレクターを務めるオウ・キエワンはロイターの取材に対し、「チェコ、ルーマニア、スロバキア、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニアなどはもともと、防衛品をヨーロッパで調達しようと考えていた」が、「今では韓国企業から買えば安く、納期も短縮することが可能であることが知られるようになった」と述べている。
●ウクライナ 南部オデーサ州 ロシア軍のミサイル攻撃でけが人 7/18
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシアをつなぐ橋が17日、損壊したことを受けて、プーチン大統領はウクライナによるテロ行為だとしたうえで報復措置をとる構えを示しています。こうした中、南部オデーサ州では、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、けが人も伝えられています。
ウクライナ軍は、17日夜から18日未明にかけて南部のオデーサ州やミコライウ州にロシア軍の巡航ミサイルと無人機による攻撃があり、このうちミサイル6発と無人機32機を迎撃したと発表しました。
オデーサ州の知事は、ミサイルの破片の落下などにより、オデーサの港湾施設や住宅に被害が出て、市民1人がけがをしたとSNSで明らかにしています。
一方、ロシア国防省は18日「ロシアへのテロ行為を準備していた施設に対して報復的な攻撃を行った」として、攻撃は成功したと主張しています。
これを前に、ウクライナ南部のクリミアとロシア南部をつなぐ橋が17日、損壊し、プーチン大統領は、ウクライナによるテロ行為だとしたうえで「報復は当然行う」と強調し、報復措置をとる構えを示していました。
この橋の損壊について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は17日の分析で「ウクライナ南部でのロシア軍の物資補給に長期間、影響する可能性が高い」と指摘し、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍の補給に対して打撃となるという見方を示しています。
●米高官「ロシアは食料を戦争の武器にした」 ウクライナ産輸出合意離脱非難 7/18
ブリンケン米国務長官は17日の記者会見で、ロシアが黒海を通じたウクライナ産穀物輸出に関する合意から離脱したことに関し「不当で、あってはならないことだ。ウクライナとの戦争の武器として食料を使っている」と非難した。食料価格が高騰すれば困窮する人々に食べ物が行き渡らなくなるとして、一刻も早い合意復帰を求めた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も記者会見でロシアの合意停止を「無責任で危険な決定だ」と批判し、他のルートを通じたウクライナの穀物輸出を支援する考えを示した。欧米諸国の制裁で自国の農産物の輸出が滞っているとするロシア側の主張については「ロシアの農業は制裁の対象ではない。ロシアのプロパガンダだ」と反論した。
●G20財務相会議、共同声明なしで終了へ ウクライナ巡り分断 7/18
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は18日、ウクライナ戦争を巡る主要国間の意見相違により、共同声明が発表されることなく2日間の協議を終了することになりそうだ。議長国インドの当局者が明らかにした。
インドは多国間銀行の改革、暗号資産(仮想通貨)に関するグローバル指針、脆弱国の債務処理加速についてコンセンサス形成を望んでいるが、ロシアとウクライナの紛争が影を落としている。
当局者によると、米国、英国、ドイツ、フランスを含むほとんどの西側諸国はロシアとウクライナでの戦争を断固として非難するよう求めていたが、ロシアとその友好国である中国はそのような動きに反対していた。全てのメンバーに受け入れられる最終的な声明をまとめることができていないという。

 

●プーチン侮りがたし…!意外にも「経済が強いロシア」、戦争が終わらない事情 7/19
ロシアを侮ってはいけない…
ロシアがウクライナに侵攻してから500日が経過した。
ウクライナの反転攻勢、ワグネルの反乱などで、プーチン大統領の求心力やロシアの戦争継続能力が限界に来ているとの見方が日本に広がっているが、それは甘い発想かもしれない。
ウクライナは6月10日から西側諸国の軍事支援を受けて反転攻勢に出ている。反転攻勢が順調に進んでいないウクライナにとって、6月23日にロシアで起きた民間軍事会社ワグネルの反乱は願ってもない朗報だっただろう。ウクライナのゼレンスキー大統領は7月1日、ワグネルの反乱はウクライナ軍が反攻を進める上で有利に働くとの認識を示した。
だが、ウクライナ国防省と西側の軍事専門家は「ワグネルの戦争への関与低下による影響は限定的だ」と冷ややかだ。
長期戦をえらんだウクライナ
ウクライナ東部のバフムトとの攻撃で中心的な役割を果たしたとされるワグネルの活動範囲は、1000キロメートルに及ぶ戦線のうちごく一部に限られていた。ワグネルの戦闘員の多くは既にウクライナの前線から引き揚げており、現時点でワグネルは戦争で重要な役割を担っていない(6月29日付ブルームバーグ)。
「ワグネルが離脱したことで戦線の指揮が統一され、ロシア軍全体の作戦遂行能力が高まった」との指摘もある(7月7日付中央日報)。「反転攻勢によりウクライナが領土を奪還した」との報道が流れているが、過去1ヵ月の戦闘で支配地域を広げたのはむしろロシア軍だったことが明らかになっている(7月11日付ニューズ・ウイーク)。
苦境に立たされているウクライナは西側諸国の支援を頼りに長期戦の構えを見せている。 
この戦略を成功させるためには、ロシア経済が疲弊し、継戦能力を喪失することが肝心だが、はたしてウクライナの思惑通りに事が進むのだろうか。
おそらくはそうはならないだろう。ロシアを現段階で侮るのは危険ではないか。
ウクライナは長期戦の構えを見せているが、この戦略を成功させるためには、ロシア経済が疲弊し、継戦能力を喪失することが肝心だ。
はたしてウクライナの思惑通りに事が進むのだろうか。
堅調なロシア経済
ウクライナ侵攻後に厳しい制裁を課されたロシア経済は、壊滅的な打撃を被ると予想されていたが、インドや中国といった新興の大国が西側諸国の制裁に同調しなかったことが幸いし、危機を脱した感が強い。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は今年4月下旬「『制裁によるロシア経済の崩壊』という束の間の期待は打ち砕かれた。制裁はロシアの戦争遂行能力をある程度低下させているが、戦争を速やかに停止させるという目標はもはや実現不可能だ」と結論づけている。
ロシア経済は堅調さを維持している。
プーチン大統領は7月4日「国内経済が予想以上に好調だ」との認識を示した。「今年の国内総生産(GDP)の成長率が2%を上回り、消費者物価指数(CPI)の上昇率が5%以下にとどまる可能性がある」との報告を受けての発言だ。
エネルギー輸出収入が減少している中、ロシア経済を牽引しているのは製造業だ。
S&Pグローバルが7月3日に発表した6月のロシア製造業購買担当者景気指数(PMI)は52.6となり、好不況の分かれ目となる50を14ヵ月連続で上回った。
これまで内需が製造業の牽引役となっていたが、6月に入ると輸出受注も増加に転じた。
昨年2月のウクライナ侵攻後、グローバル企業1000社以上がロシアからの撤退を表明したが、欧州ビール大手ハイネケンや米たばこ大手フィリップ・モリスなどは現地で活動を続けており(7月12日付CNN)、ロシア国民は日常生活で深刻な「モノ不足」に直面していない。
西側企業のシェアが大きかった自動車の販売は昨年、大幅に減少したが、中国製自動車のおかげでこのところ深刻な供給不足は解消しつつある。
ロシアに急所は見えない…
好調に見えるロシア経済にも悩みの種がある。
ロシア企業が生産拡大のため従業員の確保に躍起になっているため、人手不足が問題になっている。ウクライナ侵攻後、ロシアから数十万人の労働者が海外に脱出する一方、部分動員令で約30万人の若者が軍に召集されたことも災いしている。
ロシア中銀は「1998年以来で最もひどい状況だ」との認識を示しているが、人手不足は世界共通の「悩みの種」であり、ロシアに限った問題ではない。ロシアの財政赤字の拡大を問題視する声も高まっている。
ロシアの財政収支は昨年第4四半期以降、軍事費増大のせいで赤字となっている。2023年予算法でも2025年まで財政赤字になることが見込まれているが、筆者は「かつてのようにロシアが財政危機に陥る可能性は低い」と考えている。
ウクライナ戦争に伴う直接的な財政コスト(兵士や機材への支出)は、ロシアのGDPの約3%(年間670億ドル)に達したと推定されているが、第2次世界大戦中の当時のソ連がGDPの約61%を軍事費に費やしたことにかんがみれば、非常に小さい(6月6日付BUSINESS INSIDER)。
軍事物資の調達も支障ないロシア軍
ロシアは軍需品の調達でも支障をきたしていない。
マイクロチップを中国やカザフスタン、トルコ、ベトナムなどから購入して、巡航ミサイルなど精密誘導兵器を国内で製造し続けている。イラン製のドローン(無人機)のライセンス生産も順調だ。
戦時経済化が着実に進むロシアに対し、西側諸国、特に欧州では武器供給の遅れを巡って政府と企業が責任を押し付け合っており、ウクライナへの迅速な武器供給は今後も期待薄だ(7月11日付ブルームバーグ)。
軍事専門家の間では「武器・弾薬不足のせいで今年の冬にウクライナは敗北する」との悲観論が生まれている。
ロシアは当分の間、継戦能力を失う可能性は低いと言わざるを得ない。ウクライナを始め西側諸国は、この「不都合な真実」を直視すべき時期に来ているのではないだろうか。
●プーチンの権威失墜した今こそウクライナ支援強化を 7/19
英フィナンシャル・タイムズ紙の6月30日付の社説‘Putin’s fragility is a moment for western resolve’が、プリコジンの反乱によりプーチンの権威が失墜した混乱に乗じてウクライナへの支援や安全保障を強化する決意を示すべきであると論じている。要旨は次の通り。
プーチンのウクライナ戦略は、ロシアが西側諸国よりも長く持ちこたえられるという信念に基づいているようだ。クレムリンの論理では、キーウに対する西側の支援は時間とともに衰えるのは避けられず、その間わが物と見なす領土を再征服するモスクワの決意は損失に耐えられるというのだ。ところが、プーチンは今、プリゴジンの反乱の後、自らの権威を立て直すために奔走している。西側諸国は モスクワの混乱に乗じて、キーウへの支援を加速させるべきだ。
プーチンは非常に危険な指導者である。彼は第二次大戦後の欧州で最大の戦争を引き起こし、国際規範を踏みにじり、核兵器による威嚇というタブーを破ってきた。キーウに時期尚早の「和平」を迫りプーチンに軍事的利益の大半を保持させることは、将来、プーチンがウクライナや他の国に対して新たな攻撃を仕掛けるのを助長するだけかもしれない。
西側指導者は、どのような行動をとるにせよ、モスクワがさらに不安定化する可能性に備えなければならない。しかし、プーチンの脆弱さが明らかになったことは、より大きな決意を示す時が来たともいえる。ウクライナが今日、より多くの支援を受ければそれだけ、次の米国での選挙までに実質的な進展を遂げる可能性が高まる。特に、ロシアの指導者が長期戦に耐える能力を疑い始めれば、キーウの望む条件でクレムリンをテーブルに着かせることができる。
英国は、引き渡しを始めたが、他のウクライナの同盟国も弾薬と長距離ミサイルの供給を早めるべきだ。北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合(EU)加盟7カ国は、西側の戦闘機の提供とウクライナのパイロットの訓練を約束しており、ウクライナの反攻における重要なギャップを埋めるための準備を加速させるべきだ。
西側諸国首脳は、キーウに対し、ロシアの侵略に対する将来の安全保障を提供する用意があることを示すべきだ。そして、戦争が終結し条件を満たせば、ウクライナがNATOに加盟する確かな道へと導くべきである。行動が、これ以下にとどまれば、落ち込んでいるプーチンを元気付けてしまうことになる。

プリコジンの反乱の余波はいまだ流動的であり、情報の中には操作されたものや希望的観測もあろうが、鉄壁の国内支配体制を誇ったプーチンの権威が揺らいだこと、プーチンは必死で立て直しを図っているがその影響は今後無視できないものがあることは分析筋の一致した見方であろう。
状況が我慢比べのようになりつつあったところで起きたプリゴジンの反乱は、ウクライナおよび西側にとって大きなチャンスをもたらしている。これを機にロシアに対する圧力をさらに強めるべきとの指摘は妥当である。
この事件自体、まだ疑問が多いが、そのいくつかは比較的短期に結果が判明するものがあり、そこからプーチンの被った打撃や今後の影響をより正確に評価できるのではないかと思われる。
この反乱の直接の動機は、全ての軍事会社の兵士は7月1日までに国防省と契約を結ぶべしとの命令をプリコジンが承服せず、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の更迭を要求するためだったとされる。そのような展開となったのは、空軍総司令官など、軍や諜報機関のハイレベルにプリゴジンの要求に同調する勢力があったためのようである。これら軍人などは、早々に粛清されるだろうが、それがどの程度の範囲に及ぶのかが注目される。プーチンとしては組織の動揺を極小化するために少人数の粛清に留めたいかもしれないが、そうすると不満分子が残るというジレンマがある。
プリゴジンはロシア軍のヘリコプターや軍用機を撃墜した責任があり、6月23日のSNS動画でNATOやウクライナはロシア攻撃の意図はなく、ロシア国防省がプーチン大統領をだまして特別軍事作戦が始まったと主張し、プーチンのウクライナ侵攻の大義を真正面から否定した。プリゴジンの処遇は、プーチンの指導者としてのリーダーシップや信頼性にかかわる問題である。
ウクライナ侵攻の一翼を担っていたワグネルの行方は
民間軍事会社ワグネルは、ロシア国内では解体されるようであるが、ベラルーシに建設された駐留拠点は何をするためのものなのであろうか。どのぐらいのワグネル兵士がベラルーシに向かったのであろうか。ウクライナ侵攻の兵力からワグネルがいなくなれば、ロシアにとって痛手であることは間違いないのではなかろうか。逆に、ベラルーシを拠点に何らかの活動を続けることは新たな脅威となる。
アフリカや中東に展開しているワグネル組織はどうなるのだろうか。これらの活動や利権をロシア国防省がそのまま引き継ぐわけにはいかないであろう。では、プリゴジンとワグネルは、これらの地域については活動の継続が許されるのであろうか。いずれにせよ、ワグネルへの資金提供を公に認め、プリゴジンがそれを不正使用していたとして責任を追及しようとする動きもある中、ワグネルを通じたこれら地域での工作が混乱、停滞すればロシアの影響力が後退するのは避けられず、プーチン政権への打撃となるであろう。
いずれにせよ一貫性のないプーチンの対応やロシア指導部内の対立、ワグネルの処理をめぐる混乱などは、プーチンの指導力や前線の兵士の士気にも更に影響を与える問題である。従って、上記社説が指摘しているように、持久戦になればロシアに有利とのプーチンの戦略をくじく意味でも、西側同盟国がその決意を新たにすべき時であり、ウクライナへの支援の強化、将来のウクライナの安全保障についてのコミット、加えてアフリカなどでの巻き返し、更には、ロシア国民への情報提供の強化などに努力すべきなのであろう。
●ウクライナ反攻、徐々に前進 南部の集落で戦闘開始 7/19
ロシアに対するウクライナの反攻作戦で、ウクライナ国防省の広報官は18日、東部ドネツク州西部の集落スタロマイオルスコエまでウクライナ軍が到達し、露軍と市街戦を開始したと明らかにした。ウクライナメディアが伝えた。同集落は反攻の主軸の一つである南部ザポロジエ州方面に位置しており、ウクライナ軍が徐々にだが着実に前進していることが示された形だ。
米シンクタンク「戦争研究所」も16日、ウクライナ軍がスタロマイオルスコエ周辺で一定の前進に成功したと分析していた。
ウクライナ軍はザポロジエ州方面での反攻で、アゾフ海まで南下して露軍の支配下にある「陸の回廊」を分断し、露軍の補給を困難にすることで、隣接する南部ヘルソン州などの被占領地域の奪還につなげる戦略だとされる。ただ、露軍が構築した強固な防衛線に直面し、ウクライナ軍は慎重な前進を強いられている。
ウクライナのシルスキー陸軍司令官も英BBC放送が18日に報じたインタビューで、露軍の防衛線と地雷原を突破するのは容易ではないと説明。「反攻の早期成功は現実的に不可能だ」と述べ、反攻が長期化するとの見通しを示した。
ウクライナは17日、ザポロジエ州方面での反攻に関し、これまでにアゾフ海までの距離約100キロのうち9キロ超の前進に成功し、約180平方キロメートルの領土を奪還したと発表。ドネツク州バフムト方面を含めると、奪還した領土は計約210平方キロメートルになったとした。
●ロシア、クリミア大橋損傷で「報復攻撃」…海軍拠点オデーサなどにミサイル 7/19
ウクライナを侵略するロシア国防省は18日、露軍が南部オデーサ、ミコライウ両州などに海上発射型の高精度ミサイルで「報復攻撃」を行ったと発表した。ロシアが一方的に併合した南部クリミアと露本土を結ぶ「クリミア大橋」が攻撃されたことを受け、プーチン大統領が17日の緊急会合で「国防省が対抗策を準備している」と述べ、軍事的な報復を示唆していた。
露国防省は18日の攻撃を巡り、「テロ行為を準備していた施設を狙った」と主張した。オデーサはウクライナ海軍が拠点にしている。
ウクライナ軍南部方面部隊によると、露軍はオデーサなど南部一帯を自爆型無人機やミサイルで攻撃し、ウクライナ軍が無人機25機と巡航ミサイル「カリブル」6発を撃墜した。オデーサの港湾施設などにミサイルの破片で被害が出たという。
クリミア大橋への攻撃について、ミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタル化担当相は17日、「無人艇が使われた」とSNSで明らかにし、ウクライナの関与を認めた。
一方、露軍はウクライナ北東部でも攻勢を強める構えを見せている。ウクライナ軍の報道官は17日、東部ハルキウ州東端クピャンスクからドネツク州の要衝リマン方面に延びる戦線に、露軍が兵力約10万人や戦車約900両を集結させているとの見方を地元テレビで示した。露軍は、ウクライナ軍の戦力分散と制圧地域の拡大を同時に狙っているとみられる。
●ウクライナ国家警備部隊幹部 ロシア軍 10万人以上の兵士集結 7/19
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの前線で戦う国家警備隊の幹部がNHKのインタビューに応じ、「ロシア軍がウクライナ東部で10万人以上の兵士を集結させている」と指摘し、南部などで反転攻勢を続けるウクライナ軍の部隊を分散させる狙いがあるという見方を示しました。
取材に応じたのは、ウクライナ軍とともに前線でロシア軍と戦っているウクライナ国家警備隊の幹部、エフゲニー・クリボビャズ氏です。
クリボビャズ氏は、自身が戦闘に参加しているウクライナ東部のルハンシク州やハルキウ州などの戦況について「ロシア軍はルハンシク州などの方面で、10万人以上の兵士を集結させている」と述べ、ロシア軍が多くの兵力を東部に集めていると指摘しました。
その上で、東部の戦況について「ロシア軍はある程度の成功を収めている」と述べ、一部ではロシア軍が優勢になっているとしています。
こうしたロシア軍の動きについて、クリボビャズ氏は「ウクライナ南部や、東部ドネツク州のバフムト方面でウクライナ軍が前進する中、敵はわれわれの部隊を引き付けようとしている」として、ロシア軍は、南部などで反転攻勢を続けるウクライナ軍の部隊を東部にも分散させることで、前進を食い止めようとしているという見方を示しました。
その上で「私たちに必要なのは、第1に戦闘機、第2に防空システムだ。ウクライナの空を守る必要がある」として、ウクライナに対する一層の軍事支援を訴えました。 
●プーチン氏逮捕は「ロシアへの宣戦布告」と南ア大統領 BRICSサミットを控え 7/19
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は18日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を南ア訪問の際に逮捕すれば、ロシアに対する宣戦布告になるとの見解を示した。
南ア・ヨハネスブルクでは来月、ブリックス(BRICS)と呼ばれる新興5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳会議が予定されており、プーチン大統領も招待されている。
しかし、国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、ウクライナにおける戦争犯罪に関わった疑いがあるとして、プーチン氏に対する逮捕状を発行。ICC加盟国の南アフリカは、プーチン氏が来訪した場合には、同氏を逮捕しなくてはならない。
ただ、南アはそうした義務を果たすことを拒否した過去がある。2015年には、自国民に対する戦争犯罪で指名手配されていたスーダンのオマル・バシル大統領(当時)の安全な通過を許可している。
南アの最大野党・民主同盟は、プーチン氏が入国した場合に当局に逮捕を強制できるよう、裁判を起こしている。
裁判書類によると、ラマポーザ大統領は国家安全保障のリスクを理由に、こうした動きに断固として反対している。
宣誓供述書でラマポーザ氏は、「南アフリカは、プーチン大統領の逮捕と引き渡しの要求を実行する上で、明らかな問題を抱えている」と主張。
「ロシアは、現職の大統領を逮捕することは宣戦布告になると明言している。ロシアと交戦するリスクを冒すことは、わが国の憲法と矛盾する」
ラマポーザ氏はさらに、南アはロシアやウクライナと「戦争を完全に終結させることを視野に入れて」協議を続けているアフリカ諸国の一つであり、プーチン氏を逮捕しようとするのは逆効果だと述べた。
ラマポーザ氏は6月、アフリカ7カ国によるロシアとウクライナに提示する平和イニシアチブの一環として、プーチン氏や、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談。和平の道を模索したものの、最終的には失敗した。
ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連総会決議にアフリカ諸国が消極的なのはよく知られている。
特派員らはその理由として、南アにおけるアパルトヘイト(人種隔離政策)反対運動と旧ソヴィエト連邦の関係や、マリがジハーディスト(イスラム聖戦主義者)との戦いでロシアの雇い兵組織「ワグネル」に依存している現状など、さまざまな要因が絡んでいると指摘する。
また、南アは言うまでもなく、アフリカの国々とロシアには経済的なつながりもある。
さらに、対ロ制裁の対象になっているロシアの富豪(オリガルヒ)ヴィクトル・ヴェクセルベルグ氏は、南アの与党・アフリカ民族会議(ANC)の最大の寄付者の一人とされている。
●BRICS首脳会議 プーチン大統領はオンライン参加 ロシア発表 7/19
ロシア大統領府は、8月に南アフリカで開かれる予定のBRICS=新興5か国の首脳会議に、プーチン大統領は対面では欠席し、オンラインで参加すると明らかにしました。プーチン大統領をめぐっては、ICC=国際刑事裁判所が逮捕状を出していて、出席した場合の南アフリカの対応が注目されていました。
南アフリカ大統領府は19日、8月に南アフリカで開催する予定のBRICSの首脳会議にロシアのプーチン大統領が欠席し、代わりにロシア政府の代表としてラブロフ外相が出席すると発表しました。
プーチン大統領の欠席は双方の合意によるものだとしています。
これについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「プーチン大統領はオンライン形式で首脳会議に参加することを決定した」と述べ、プーチン大統領は対面での出席は見送り、ラブロフ外相が直接、対面で出席することになると明らかにしました。
プーチン大統領をめぐっては、南アフリカも加盟するICCがウクライナへの軍事侵攻に関連して戦争犯罪の疑いで逮捕状を出しています。
南アフリカのメディアなどは、ラマポーザ大統領がICCに対してプーチン大統領を拘束して引き渡す義務の免除を求めたと報じるなど、BRICS首脳会議にプーチン大統領が出席した場合の南アフリカの対応が注目されていました。
●ロシア軍、オデーサを連日攻撃…ウクライナ産穀物輸出再開を妨害の狙いか 7/19
ウクライナ空軍は、ロシア軍が19日未明、ウクライナ産穀物の主要積み出し港があるオデーサなど南部を中心にミサイル31発と自爆型無人機32機を発射し、うちミサイル14発と無人機23機を撃墜したと発表した。ウクライナの農業政策・食料相はオデーサとチョルノモルシクの穀物倉庫が被害を受け、チョルノモルシクだけで穀物約6万トンの損害が出たと発表し、ロシアを「テロ国家」と非難した。
露軍がオデーサなど南部を攻撃するのは2日連続だ。17日の「クリミア大橋」への攻撃に対する報復と主張するが、ウクライナ産穀物の輸出再開を妨害する狙いもあるとみられる。
露外務省によると、セルゲイ・ラブロフ露外相は18日、黒海経由での穀物輸出合意を仲介したトルコのハカン・フィダン外相と電話で会談し、ロシアの離脱で「安全な航行の保証は取り消され、黒海は危険区域になった」と警告していた。
一方、穀物輸出再開を模索する動きも続いている。国連の報道官は18日、ウクライナの穀物とロシアの穀物・肥料を確実に供給するための「複数のアイデアが浮上している」と述べた。
ウクライナ産穀物の輸出では、ドナウ川沿いの港から黒海へ抜けるルートの利用が増えていたが、積み替え作業に時間がかかるなど課題も多い。ウクライナの駐トルコ大使は19日、地元テレビで、ブルガリアとルーマニアの領海を通過する「新ルート」が検討されていることを明らかにした。
●橋攻撃受け、ロシアで強硬論拡大 オデッサ制圧、首都キーウ攻撃も 7/19
実効支配するクリミア半島と本土を結ぶクリミア橋が昨年10月に次ぎ2度目の攻撃を受けたロシアで、ウクライナへの強硬論が高まっている。「民間インフラを狙ったウクライナのテロ行為」との治安当局の発表を受け、上下両院議員らは南部の主要都市オデッサ、ミコライウの制圧や首都キーウ(キエフ)への攻撃が必要だと一斉に主張。報復を口実にロシア軍が都市部への攻撃を強化する可能性がある。
ケルチ海峡に架かる全長約19キロの長大な橋をミサイルや無人機(ドローン)攻撃から完全に守るのは不可能に近い。新たな攻撃を防ぐには半島に近い南部のウクライナ軍拠点や、軍を指揮する政権の中枢をたたくしかないとの議論だ。
ロシア上院国際問題委員会のジャバロフ第1副委員長は17日、半島が面する黒海をウクライナから遮断しなければ「攻撃が繰り返される」と指摘。沿岸有数の港湾都市オデッサと造船業が盛んなミコライウを制圧し、ドネツク州など東部・南部4州と同様、ロシアに併合すべきだと主張した。

 

●英情報機関 MI6トップ「プーチン大統領 明らかに苦境に」 7/20
イギリスの対外情報機関「MI6」のトップは19日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「明らかに苦境にある」という見方を示したうえで、体制に不満を抱くロシアの人たちに情報の提供など協力を呼びかけました。
MI6のリチャード・ムーア長官は、アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」が19日にチェコの首都プラハで開いた催しに出席しました。
この中で、ロシア国内で先月、民間軍事会社ワグネルが起こした武装反乱について、「驚くべきことだった。MI6の長官にとっても、誰がプーチン大統領の味方で誰が味方ではないのか見極めるのは難しい」と述べました。
そして「プーチン大統領は明らかに苦境にある。ワグネルの代表プリゴジン氏は、いわば彼が作り上げた存在だったが、それでも反旗を翻した」と指摘しました。
さらに、ロシアの軍事侵攻が始まって以来、体制に不満を抱く多くのロシア人から情報の提供を受けていることを示唆したうえで、「われわれはいつでも待っているし、秘密は必ず守る。流血を終わらせるため、ともに力を合わせよう」と、さらなる協力を呼びかけました。
●ロシア、条件満たされれば黒海穀物合意に復帰=プーチン氏 7/20
ロシアのプーチン大統領は19日、ロシアが延長に合意しなかった黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)について、西側諸国が自らの目的達成のために歪めていたと非難した。同時に、ロシアが提示している条件の全てが満たされれば、ロシアは「直ちに」復帰すると改めて表明した。
プーチン大統領は「黒海イニシアティブには当初は極めて重要な人道的意義があったが、西側諸国はこの本質を完全に骨抜きにし、変質させた。困窮している国々を支援する代わりに、西側諸国は穀物取引を政治的な恐喝の手段として利用しただけでなく、世界の穀物市場で投機を行う多国籍企業を富ませる道具にした」と述べた。 
その上で、西側諸国がロシアが提示する5つの重要な要求を満たせば、同合意に直ちに復帰するとの見解を改めて表明した。
プーチン氏が挙げた要求は、1)ロシア農業銀行の国際銀行間通信協会(SWIFT )決済システムへの再加盟、2)ロシアへの農業機械とスペア部品の輸出再開、3)ロシアの船舶と貨物に対する保険と港湾施設へのアクセス制限の撤廃、4)ロシアのトリヤッチとウクライナのオデーサをつなぐアンモニア輸出パイプラインの復旧、5)ロシアの肥料会社の口座と財務活動の遮断解除。
プーチン氏は「これらの条件が全て満たされ次第、ロシアは直ちに黒海イニシアティブに復帰する」と述べた。
ロシアは17日、トルコと国連が仲介した黒海イニシアティブを延長せず、履行を停止。これを受け、ロシア国防省は19日、モスクワ時間20日午前0時(19日2100GMT)から、黒海沿岸のウクライナの港に航行する全ての船舶を軍事物資を運搬している可能性のある船舶と見なすと表明した。
●ロシア「ウクライナへの船は軍事物資輸送の可能性とみなす」 7/20
ロシアは、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止したことを受け、ウクライナに向かうすべての船舶は軍事物資を輸送している可能性があるとみなすと警告しました。また、プーチン大統領はロシアに科された制裁の解除を改めて要求し、欧米側へのけん制を一段と強めています。
ロシア政府は今月17日、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行停止を発表し、各国からは世界の食料安全保障を脅かすと懸念の声が強まっています。
こうしたなか、ロシア国防省は19日、声明で「モスクワ時間の20日午前0時からは、黒海でウクライナの港に向かうすべての船舶は軍事物資を輸送している可能性があるとみなす」と発表しました。
さらに、その船舶が所属する国はウクライナ政府の支援に関与しているとみなすと警告していて、ウクライナに向かう船舶を強く威嚇した形です。
また、ロシアのプーチン大統領は19日、政府関係者との会議の中で、農産物輸出をめぐる合意の履行停止について言及し、「われわれは忍耐や寛容を示してきた。しかし、西側諸国はこれを破綻させるためにあらゆることをした」と述べ、欧米側がロシア産の農産物輸出を阻害していることが原因だと主張し、合意の履行停止の決定を正当化しました。
そのうえで、ロシア産の農産物輸出に向けて銀行に対する制裁解除などを改めて要求し、「合意に復帰する可能性も検討するが、すべての条件が例外なく満たされる場合だけだ」と述べ、欧米側へのけん制を一段と強めています。
さらに、ロシア国防省は、18日に続き19日もウクライナ南部で黒海に面し、ウクライナ産の農産物を積み出す港があるオデーサ付近に、ミサイルなどで攻撃を行ったと発表しました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで「ロシアのテロリストは意図的に穀物合意のインフラを標的にしている」と述べ、農産物の輸出に関わる港湾施設などを攻撃していると批判しています。
●ロシア、ウクライナへの入港認めず 黒海経由 穀物価格上昇の恐れ 7/20
ロシア国防省は19日、モスクワ時間の20日午前0時(日本時間同6時)以降、黒海経由でウクライナの港に向かう全ての船舶は軍事関連物資を積んでいる可能性があるとみなすと表明した。黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出合意離脱を受け、ウクライナへの船舶入港を原則認めない強硬姿勢を示したとみられる。
ウクライナが模索するロシア抜きでの穀物輸出継続は困難になった。世界有数の穀物輸出国ウクライナからの輸出は大幅な減少が避けられず、小麦などの国際価格上昇に拍車がかかる恐れがある。
国防省の声明は、黒海からウクライナに入港する船舶に国旗を掲げた国は「ウクライナ側に立つ紛争当事国とみなす」と警告。黒海の北西部と南東部の公海上は「時限的に船舶航行の危険地帯とされる」と宣言し、ロシア軍の攻撃対象になる可能性を示唆した。
昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、黒海に面するクリミア半島に基地を置くロシア黒海艦隊はウクライナ海軍と交戦。黒海は事実上封鎖された。
●プリゴジン、反乱後初の動画か ウクライナ侵攻からの離脱宣言 7/20
ロシアの雇い兵組織ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンが、ベラルーシでワグネルの戦闘員を前に話すところを写したとみられる動画が19日、通信アプリ「テレグラム」のプリゴジンのチャンネルで共有された。CNNが報じた。本人だとすれば、先月下旬に起こした反乱後、公の場に姿を見せたのは初となる。
動画のなかでは、プリゴジンと思しき男が、ワグネルの戦闘員らをベラルーシにようこそと歓迎している。男はある戦闘員から「エフゲニー・ビクトロビッチ」と、目上の人への敬意を示す父称付きの名前で呼ばれている。これはプリゴジンの名前と一致するが、動画は画質が粗く、本人かどうかははっきりしない。
男は、ワグネルはウクライナではもう戦わず、「アフリカへの新たな旅を始める」と宣言。ただし、「われわれや、われわれの経験を辱めることを求められないという確信を得られれば」ウクライナに戻るだろうとも語っている。一方、「(対ウクライナの)前線で起きているのは恥ずべきことだ」と断じ、ロシア国防省をあらためて批判した。
プリゴジンは6月23〜24日、「正義の行進」と称してワグネルの部隊をモスクワに向けて進ませた。その途中で、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲裁案を受け入れて行進を停止させ、反乱は収束した。
ワグネルはロシアを離れ、ベラルーシに移るという取り決めだったとされる。だがルカシェンコはその後、プリゴジンは「ベラルーシ領にいない」とし、ワグネルの部隊についてもまだウクライナに駐留していると述べていた。
米紙ワシントン・ポストによると、プリゴジンはロシアの治安機関に押収された資金や武器を取り戻すためにサンクトペテルブルクに戻っていたという。ただ、その後の消息は不明だった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、反乱から数日後、ロシアの経済紙コメルサントのインタビューで、ワグネルにロシア軍傘下の部隊としてウクライナでの戦闘を続けることを提案したが、プリゴジンが断ったことを明らかにしていた。
●“プリゴジン氏演説映像がSNSに”ロシア独立系メディア伝える 7/20
ロシアの独立系メディアは19日、ロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が、戦闘員らを前に演説する様子だとする映像を伝えました。映像ではプリゴジン氏の姿をはっきりと確認することはできませんが、ワグネルはロシアの隣国ベラルーシに滞在するとしていて、周辺国は警戒を強めています。
ロシアの独立系メディアは19日、プリゴジン氏の主張などを伝えてきたSNSのアカウントに、プリゴジン氏の映像が公開されたと報じました。
映像は撮影された日時や場所が不明な上、暗く不鮮明で、プリゴジン氏の姿をはっきりと確認することはできません。
この中で、プリゴジン氏とされる人物は、戦闘員に対し「われわれはしばらくの間、ここベラルーシに滞在することを決めた。ベラルーシ軍を世界で2番目の軍隊にする」と述べ、ロシアの隣国ベラルーシに滞在するとしたうえで、ベラルーシ軍を支援する考えを示しています。
また、「アフリカへの新たな道に進もう」とも述べていて、ワグネルの関与が指摘されてきたアフリカ諸国での活動を続ける考えを示した可能性があります。
ベラルーシではルカシェンコ大統領がワグネルの戦闘員を受け入れる考えを示し、今月14日、国防省は戦闘員がベラルーシの兵士への訓練を行ったとする映像を公開していました。
ベラルーシの独立系監視団体は19日にかけてワグネルの複数の車列がベラルーシ中部のキャンプに入ったとし、戦闘員2000人以上が到着したと推計しています。
一方、リトアニアのナウセーダ大統領は19日、「ワグネルがわれわれの国境の間近にいるという事実がさらなる脅威となっている」と述べるなど、周辺国は警戒を強めています。
●プリゴジン氏、ベラルーシで演説 またロシア国防省批判 7/20
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が、出国先のベラルーシで演説したとされる動画が19日、通信アプリ「テレグラム」に投稿された。
同氏は「(ウクライナの)前線における今の出来事は恥ずべきであり、われわれは参加する必要はない」と発言。「出来事」とは、ウクライナの反転攻勢を受ける中でのロシア軍・国防省の混乱を指すとみられ、これまでと同様の批判を繰り返した。
プリゴジン氏は6月23〜24日に反乱を起こした後、同26日と今月3日に音声メッセージを出したが、所在は明らかにしていなかった。ベラルーシ東部に拠点を移したワグネル戦闘員を前に演説する様子が伝えられるのは初。出国は反乱で免責を受けるための条件だが、プリゴジン氏はロシアとの間を行き来しているもようだ。
プリゴジン氏は演説で、ウクライナにおけるワグネルの貢献をたたえた上で、ロシア軍・国防省の混乱を理由に侵攻から距離を置く考えを表明。「ベラルーシに当面とどまることを決めた。(ベラルーシ軍を)世界第2の軍隊に育てられると信じている」と述べ、戦闘員を軍事顧問として活用する方針を強調した。 
●プーチン氏、欧米の「傲慢さ」を非難 穀物合意に関するロシアの要求拒否で 7/20
ロシアのプーチン大統領は19日、国連が仲介した黒海穀物合意の延長に関するロシアの要求に欧米が応じなかったことに触れ、「傲慢(ごうまん)さと厚かましさ」を示すものだと批判した。
条件が満たされれば、ロシアは合意復帰を検討するとも述べた。
プーチン氏は19日に公開された他の閣僚とのリモート会議で、「純然たる傲慢さと厚かましさに他ならない。約束と空疎なおしゃべりだ。彼らは自らの立場を損なっているに過ぎない」と発言。「中でも、穀物合意の保証人の役割を果たしていた国連事務総長の権威は弱まった」と指摘した。
ロシアは過去に何度も合意を延長することで、「奇跡的な忍耐と寛容さ」を示していたとも主張した。
プーチン氏は「欧米は穀物合意を頓挫させるため、あらゆる手を使ってきた」とも指摘し、最貧国へ肥料を寄付するロシアの取り組みが妨害されたとの見方を示した。
また、合意に含まれる全ての原則が例外なく考慮され、実施されれば、ロシアは合意復帰を検討すると表明。食料や肥料の供給支援に当たるロシアの銀行や金融機関に対する障害は全て除去されなければならないと述べ、「国際銀行間通信協会(SWIFT<スウィフト>)」への即時接続などを求めた。
●ロシアから「若い才能脱出」 プーチン氏への支持低下指摘 英外相 7/20
クレバリー英外相は19日、米西部コロラド州アスペンで開かれた安全保障フォーラムに出席し、ウクライナ侵攻を続けるロシアから「聡明(そうめい)で才能にあふれた若い技術者や実業家らが、大挙して脱出している」と強調した。
「ロシア国民は不満を募らせている」とも述べ、プーチン大統領の支持離れが進んでいる可能性に言及した。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が6月に起こした反乱について、クレバリー氏は「ロシアで最初の亀裂が生じている」と説明。「クーデター未遂は決して見栄えが良いものではない」として、ロシア国民の間でプーチン政権へのいら立ちが広がっているとの見方を示した。 
●プーチン大統領愛人<Jバエワ氏 体操の国際舞台復帰条件に不満 7/20
元新体操の五輪女王・アリーナ・カバエワ氏(40)が、国際体操連盟(FIG)の決定にモノ申した。
ウクライナ侵攻に伴い国際大会から除外されているロシアとベラルーシの選手についてFIGは19日、来年1月から個人資格の中立選手であることを条件に復帰を容認すると発表した。
除外から一歩進んだ決定となったが、これでも不服を示したのが、カバエワ氏だ。自身の体操スクールの公式サイトで声明を発表。「国際体操連盟(FIG)がロシアの選手の出場を認める決定を下したことを歓迎する。しかし、それだけでは十分ではありません」と注文。
「ロシアの選手たちは、自国の旗の下で競技する権利を持たなければならない。個々の国が国際スポーツ組織を独占することは容認できない。スポーツへの政治的干渉はスポーツを破壊する。同時に、政治から自由な国際スポーツシステムを構築する必要がある」とロシアの旗の下でプレーすべきと訴えた。
カバエワ氏は長らくロシアのプーチン大統領と「愛人関係」「事実婚」にあると言われ、両者の間には双子の娘、2人の息子がいると伝えられている。それだけにカバエワ氏の声明を報じたロシアメディア「スポーツ」のコメント欄には「カバエワこそスポーツと政治の混ぜ合わせの象徴」「これは彼女の夫が考えた言葉だ」といった言葉が並んでいる。
●「モスクワへの進軍は当たり前になる」 ウクライナ側で戦うロシア義勇兵 7/20
「ワグネル」の創設者プリゴジン氏とみられる人物が新たな動画で“また”ロシア国防省を批判しました。そして、ロシア人ながらロシアと戦う組織のメンバーが単独取材に応じ、「今後、モスクワへの進軍は当たり前になる」と語りました。
薄闇のなか、ワグネルの部隊に語りかける男性。ロシアで反乱を起こしたプリゴジン氏とみられる人物です。
プリゴジン氏とされる人物「戦場で起きていることは恥ずべきことで、我々は参加する必要はない」
ウクライナ侵攻について「戦場で起きていることは恥ずべきこと」だと改めて国防省を批判。「しばらくの間、ベラルーシに滞在することが決まった」と述べる一方、今後、ウクライナでの戦闘に戻る可能性も示唆しました。
こうしたなか、私たちはロシア人でありながら、ウクライナ側に立って戦う義勇兵の単独インタビューを行いました。反プーチン組織「ロシア義勇軍」のイリヤ・ボグダノフ氏です。
ロシア義勇軍 イリヤ・ボグダノフ氏「最終的な目的はプーチン政権の打倒。それはロシア連邦の現代の政治システムの完全な解体です」
「ロシア義勇軍」が注目されたのは今年5月末から始まったロシア西部・ベルゴロド州での戦闘。ロシアが「ウクライナによる攻撃」と発表するなか、「ロシア義勇軍」らが関与を表明したのです。
「ロシア義勇軍の戦果だ!」
鳴り響く銃声のなか、前進するロシア義勇軍の兵士たち。建物を襲撃し、中に立てこもっていたロシア兵をとらえる様子もみられます。
こうした攻撃の目的は“ウクライナによる反転攻勢を手助けすること”だと強調しました。
ロシア義勇軍 イリヤ・ボグダノフ氏「目的は可能なかぎり、(ロシアの)多くの軍を他の最前線から自分たちの方へと引き寄せることです。その目的は完全に達成されました。(ロシア軍は)予想以上に我々の方に移動しましたから」
「ロシア義勇軍」は去年8月に結成。人数は数百人規模で、入隊を希望するロシア人は増え続けていると話します。
武器は店で購入したものや戦闘で得たものを使用しているというボグダノフ氏。去年からウクライナ国内での戦闘にも参加していると言います。
ロシア義勇軍 イリヤ・ボグダノフ氏「(Q.ウクライナ軍と何らかの関係はあるか)我々は誰の助けも受けていません。これはロシア連邦の国民の内部の問題です」
そして、ロシアの将来について、「ワグネルの反乱」のような動きがさらに広がっていくだろうと締めくくりました。
ロシア義勇軍 イリヤ・ボグダノフ氏「『プーチン政権と戦うことができる』『彼が恐れるのは武装蜂起だけだ』。それを我々が見せ、その後、プリゴジンが見せました。2024年は我々が見たプリゴジンのようなモスクワへの進軍は当たり前になるでしょう」
●エスカレートするロシア軍の攻撃 そのねらいとは 7/20
連日続くロシア軍のウクライナ南部オデーサへの攻撃、そしてウクライナに向かう船舶への威嚇。これは何を意味するのでしょうか。食料までも戦争の武器にする、ロシア軍の攻撃のエスカレーションだという見方もあります。ロシアがオデーサなどへ攻撃している現状について解説します。
18日に続いて19日もロシア軍はオデーサなどへの攻撃を行い、穀物の貯蔵庫が被害を受けています。農産物そのものにも攻撃が加えられたのです。また、オデーサの港への攻撃には、農産物の輸出の機能を破壊するねらいもあると見られます。オデーサの港には、ウクライナ各地から穀物が運び込まれ、そこで一時的に貯蔵されたあと、船に積み込まれて世界中に輸出されています。しかし、攻撃によって、穀物の積み込みのための機械が被害を受けている写真も公表されています。
2022年11月、オデーサで取材したときには港に至る道路には、小麦を積んだトラックが数キロにわたって長い列をつくり、船に積み替える作業を待っていました。トラックの運転手たちは道路脇で数日間待つことが常態化していると話していました。港が機能しなくなれば、ここからの輸出が止まってしまいます。
ロシアは、さらに、ウクライナに船が向かうことまでも妨害しようとしています。ロシア国防省は、「ウクライナの港に向かうすべての船舶は、軍事物資を輸送している可能性があるとみなす」と言い出して、攻撃の対象とすることを示唆して、威嚇しました。
ロシア国防省は、この一方的な措置を、日本時間の20日午前6時から適用するとしています。ロシアは17日に、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行停止を発表しましたが、物理的な手段を使ってでも、輸出を妨害することにやっきになっています。輸出が寸断されるような事態になれば、その影響は甚大です。
農業大国のウクライナでは、輸出による収入が途絶えれば経済への打撃になります。それに加えて、ウクライナの食料は世界中に輸出され、中東やアフリカなどで多くの人の命を支えています。食料までも戦争の武器のようにする、極めて悪質な行為は決して許されることではなく、多くの批判が出ています。
●ウクライナ港湾都市をロシアが攻撃、穀物6万トンが被害 7/20
ウクライナ当局は19日、南部の港湾都市オデーサでロシア軍のミサイル攻撃があり、貯蔵インフラが被害を受け、約6万トンの穀物が失われたと発表した。
ミコラ・ソルスキー農業相によると、「相当な量の」輸出インフラが稼動していないという。
ウクライナ産の穀物をめぐっては、黒海経由で輸出する国際協定の期限延長にロシアが応じず、トルコ時間18日午前0時(日本時間同午前6時)に協定は失効した。ロシアはそれまで、協定にもとづき、黒海に面するウクライナの支配地域にあるオデーサ、チョルノモルスク、ユージネ・ピヴデンニの港からの穀物出荷を認めていた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、西側諸国が穀物取引を「政治的恐喝」に利用していると非難した。
そして、「ロシアが協定に参加することに同意したすべての原則が完全に考慮され、履行された場合にのみ」昨夏から実施されていたこの国際協定への再参加を検討すると付け加えた。
ロシア国防省はプーチン氏のコメントに先立ち、19日深夜から、ウクライナの港に向かう船舶はこの紛争に関係している軍事物資の運搬船とみなされる可能性があると発表した。
また、黒海の北西部と南東部のいくつかの地域は、船舶輸送にとって一時的に危険な状態になるだろうとした。
穀物の輸出拠点が狙われる
ロシアは18日未明、穀物取引の協定から離脱してから数時間後にウクライナの港を標的にした。
さらに同日夜から19日にかけても攻撃があり、オデーサと黒海沿岸チョルノモルスクにある穀物ターミナルと港湾インフラが狙われた。標的となった三つの港のうち二つは、出荷拠点として穀物取引に含まれている。
ウクライナ軍当局によると、9歳の少年を含む少なくとも12人の民間人が負傷した。複数の集合住宅も被害を受けたという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ミサイル攻撃はウクライナだけでなく「正常かつ安全な生活を求めて努力している世界中のすべての人々」に対する打撃だと述べた。
多くは撃墜できなかったか
フランスとドイツもこの攻撃を非難した。ドイツのアナレーナ・ベアボック外相は、プーチン氏はオデーサを爆弾の雨で覆い、ウクライナ産穀物に対する希望を世界から奪い、「世界で最も貧しい人々を襲っている」と述べた。
ウクライナのインフラ省は、サイロやそのほかの穀物施設の被害を示す一連の画像を公開した。ウクライナ当局者によると、埠頭(ふとう)や貯水池も被害を受けたが、国際的な貿易業者とウクライナの貿易業者が最も被害を受けたという。
ロシアの戦争評論家たちは、こうした被害は、ウクライナ政府がロシア軍のミサイルやドローン(無人機)の大部分を撃ち落とせなかったことを証明していると指摘した。
ウクライナ当局者によると、今回の攻撃では、黒海やクリミア、ロシア南部から巡航ミサイル「カリブル」や対艦ミサイル「Kh-22」、いわゆる「神風ドローン」が発射された。37発のミサイルとドローンは撃墜されたが、そのほかはウクライナの防衛網を突破したという。
ロシアはオデーサへの当初の攻撃を、ロシア占領下のクリミアとロシアを結ぶケルチ橋への攻撃に対する「大規模報復攻撃」だとした。
同橋での爆発では、ロシア人夫婦が死亡した。水上ドローンが使用されたとされる。
クリミアは19日、さらなる混乱に見舞われた。弾薬庫で火災が発生し、数時間にわたり爆発が続いたため、軍事訓練場近くの四つの村の住民約2200人が避難する事態となった。
また、ロシアに任命された地元当局者は、クリミア南部シンフェロポリとセヴァストポリにつながるタヴリダ高速道路を12キロにわたって閉鎖した。ロシアの占領当局による同道路の建設は2017年に始まった。
同地域では19日午前4時半ごろから複数の爆発音が確認された。
当局はスタリー・クリム市近郊で起きた火災の原因について説明していない。しかし、ソーシャルメディアには、ウクライナによる3度の空爆があったとの未確認情報が上がっている。
ロシアに任命されたクリミア地域行政トップのセルゲイ・アクショノフ氏は、軍事施設での火災の原因は調査中だが、負傷者は1人もいないとしている。
●55億ドルも大盤振る舞い ウクライナへの支援継続は日本の国益になるか? 7/20
兵器や弾薬の供与こそ行っていないものの、今や世界有数の「ウクライナ支援国」である日本。その是非を巡っては国民の間に賛否両論が渦巻いていますが、はたしてウクライナ支援は我が国の国益に叶うものなのでしょうか。国際政治を熟知するアッズーリ氏は今回、海外支援が果たす役割や重要性を詳しく解説。その上で、日本のウクライナ支援について自身の見解を記しています。
ウクライナ支援継続は本当に「日本の国益」になるのか?
ウクライナ戦争では一向に解決の兆しが見えないでいる。今年2月の時点の情報になるが、日本政府はこれまでにウクライナ経済の再建のために6億ドル、緊急無償資金協力などの人道支援に4億ドルなど合計で15億ドルの支援を表明し、実行している。
人道支援では避難民を受け入れている周辺国やウクライナに対し、医薬品や食糧など生活必需品を国際機関や日本のNGOを通じて提供し、停電やそれに由来する交通事故を念頭に、発電機300台、太陽光で充電できるソーラーランタン8万3,500台、反射材付きのベスト2万着、リストバンドタイプの反射材16万個など積極的に支援を行っている。
さらに、軍事面では自衛隊の防弾チョッキやヘルメット、化学兵器に対応した防護マスクや防護服、また地雷や不発弾の除去を進めるため地雷探知機4台の提供が発表されるなど、日本は多方面で積極的にウクライナ支援を行っている。岸田総理大臣は最近新たに55億ドルの追加支援を行うことを表明しており、日本は世界でも有数のウクライナ支援国と言えよう。
しかし、日本国内でも昨今の九州における壊滅的な豪雨被害のように、日本世論では“日本が大変なのに海外にカネをぶちまける時か!”と岸田総理への不満や怒りの声が少なくない。確かに、一般市民の中で何億、何十億という国民の税金が海外に流出しても、それがどのように使用されたのか、将来的にどのように日本に利益として還元されるのかを一般的に把握することは難しく、国民とすれば単にカネが外へ流れる程度にしか理解が及ばないだろう。
欧米の支援で戦後復興を果たした日本
一方、海外支援は極めて重要との考えもある。実際、日本も海外支援によって今の姿がある。戦後の焼け野原となった日本は、政治的にも経済的にもゼロからの再出発となった。その当時、日本の経済力はインドネシアやフィリピンなどより貧しかったとの指摘もある。
戦後、日本は欧米からの経済支援もあり、急速に経済復興を進め、高度経済成長を経験し、いつの間にか米国に匹敵する経済大国の地位まで上りつめた。これほどの経済成長をこのスパンで成功させた国は世界にも類はない。日本の交通の心臓となっている東海道新幹線も、実は欧米からの経済協力によって建設されたものだ。歴史を辿れば、海外支援がその国の運命を左右する場合があるのだ。
今後頼りになる日本が支援してきた国々
そして、海外支援を積極的に行っていけば、その分それによって経済成長を遂げた国と日本との関係はより強固なものになる。日本は長年、東南アジアや南アジア、アフリカなど多くの国々に積極的な経済支援、人道支援を行ってきたが、グローバルサウスの存在感が世界で強まるように、日本が支援を継続してきた国々による経済成長が近年著しい。
人口減少や労働力の確保に悩む日本としては、今後そういった国々から労働力を支援してもらえる可能性が高く、また今後日本が経済的に落ち込み、台湾有事など米中による戦争に巻き込まれた場合も、多くの国が日本を支援することになろう。人間の心理として、自分が苦しい時に支えてくれた人には感謝が深く、日本としては自らが落ち込んだ際、今度は頼む!という形でこれまで海外支援を積極的に行ってきた。
ロシアの戦略転換で長期化必至のウクライナ支援
しかし、ウクライナ情勢では今日、どこまで支援すればいいのかという限界説も聞かれる。それは、今日のロシアの軍事戦略から考えられる。日本が行ってきたこれまでの支援とウクライナ支援が大きく異なるのは、それが戦争被害による支援かどうかにある。当然だが、ロシアがウクライナに侵攻していなければ、冒頭で紹介したような支援は絶対になかったはずだ。
そして、長期間に渡って軍事的劣勢に立たされるロシアは今日、勝つ戦争(当初プーチンが描いていた首都キーウを掌握し、ゼレンスキー政権を崩壊させ、親ロシア政権を立ち上げる)をあきらめ、負けない戦争(劣勢の中でも今支配している領域を最大限、長期間にわたって死守し、ウクライナに諦めさせそこで休戦とする)に舵を切っている。そうなれば、侵攻前の状態まで回帰することは難しく、戦闘や緊張は長期的に続くことが避けられない。
そうなれば、日本のウクライナ支援も長期的なものになる。しかし、日本の財政にも限界があり、どこまでウクライナを支援するべきかという議論が強くなってくるだろう。しかも、日本はウクライナ以上に大きな脅威を抱えており、台湾有事などが勃発すれば、ウクライナへの関心はすぐに薄れ、ウクライナ支援もすぐに停止となるだろう。今後は、ウクライナ支援継続は日本の国益になるのかという議論が大きくなることは間違いない。
●ロシア 90日の期限内に制裁解除行うよう国連に求める 7/20
ロシア外務省は、ロシア産農産物の輸出が滞りなく進むよう90日という期限内に制裁の解除を行うよう国連に求めました。その対応を見極めながら、ウクライナ産農産物の輸出を認めるかどうか判断するとして、揺さぶりを強めるねらいとみられます。
ロシア政府は、去年7月にロシアと国連との間で交わした覚書に基づき、ロシア産の農産物や肥料の輸出が滞りなく進むよう求めてきました。
しかし、ロシア外務省は18日に発表した声明で、国連が覚書に基づいてロシア産農産物の輸出について真剣に取り組んでこなかったことが、ウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行停止につながったと主張しました。
そして、この覚書について、ロシアは「3か月前に事前通知することで終了できる」という項目に基づいてすでに終了したい考えを通知したことを示唆したうえで国連は、覚書が破棄されないよう90日という期限内にロシア産農産物の輸出に向けた対応をとるよう迫りました。
具体的には、ロシアの主要な銀行「農業銀行」を国際的な決済ネットワークであるSWIFTに再び接続できるようにすることなど、ロシアに対する制裁の解除を行うよう求めています。
ロシアとしては、具体的な期限を明示して制裁解除という要求を突きつけたうえで、その対応を見極めながらウクライナ産農産物の輸出を認めるかどうか判断するとして揺さぶりを強めるねらいとみられます。
●ロシアが黒海を封鎖、ウクライナ入港の全船に攻撃警告…機雷増設の情報も 7/20
ロシア国防省は19日、黒海沿岸のウクライナの港を利用する全ての船舶を軍事物資の運搬船とみなすと表明し、攻撃する可能性があると警告した。ロシアが黒海を経由したウクライナ産の穀物輸出合意から離脱したのに続く強硬策で、侵略直後以来の海上封鎖となる。
露国防省は声明で、20日午前0時以降、ウクライナに入港する船舶は軍事的な標的になり得ると指摘し、国籍にかかわらずウクライナ支援国と判断すると強調した。ロシアは輸出合意継続の条件として国際決済網への復帰などを要求していたが、米欧は容認していなかった。
ロイター通信などによると、米国家安全保障会議(NSC)の報道担当者は19日の声明で、ロシアがウクライナの港につながる航路に機雷を増設したとの情報があることを明らかにした。
ウクライナの大統領府顧問は19日、地元テレビで、露国防省の声明を巡り、「ウクライナの港にあえて船を送る国はないだろう」との見方を示した。ウクライナ国防省は20日、対抗措置として21日午前0時以降、ロシアや露軍占領地域の港に黒海経由で向かう全ての船舶を軍事物資の運搬船とみなし、ウクライナ軍の標的になり得ると発表した。
一方、露軍は20日未明、穀物の主要な積み出し港があるオデーサやミコライウなど南部をミサイル19発や無人機19機で攻撃した。ウクライナ軍の迎撃は半数程度にとどまり、オデーサ中心部などに着弾し、中国総領事館も被害を受けた。オデーサへの攻撃は3日連続となり、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日のビデオ演説で「世界の全員がロシアのテロの影響を受けている」と訴えた。
南部クリミアの露側「首長」はクリミア北西部で20日未明に無人機攻撃があり、子供1人が死亡し、行政庁舎などが被害を受けたと主張しており、黒海沿岸の緊張が高まっている。
●ウクライナがクラスター弾使用 米国供与、南東部の前線 7/20
米紙ワシントン・ポストは20日、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍が、南東部の前線で米国供与のクラスター(集束)弾の使用を始めたと報じた。複数のウクライナ当局者の話としている。ロシア軍も対抗するとみられ、戦闘の激化は必至だ。
親爆弾から数個〜数百個の子爆弾をまき散らすクラスター弾は民間人を無差別に殺傷する危険がある。オスロ条約で生産や使用が禁止されているが、米ロやウクライナは加盟していない。
英BBC放送は18日、ウクライナのシルスキー陸軍司令官が数日以内に使用する準備が整うと発言したと報じていた。

 

●プーチン氏「強硬」背景にロシア国内の「弱腰」批判…穀物輸出停滞長期化 7/21
ロシアのプーチン政権が黒海を経由したウクライナ産の穀物輸出合意からの離脱に続き、海上封鎖へ対応をエスカレートさせた背景には、露国内で高まる強硬論の圧力がある。ロシアは国際決済網への復帰など米欧が認められない要求を掲げており、穀物輸出の停滞が長期化する恐れがある。
「西側がウソ」
プーチン露大統領は19日、閣僚らとのオンライン会合で、穀物の輸出合意に関し「我々は奇跡的な忍耐と寛容性をもって合意を何度も延長してきた」と述べ、合意離脱を正当化した。
米欧などがロシアの主要金融機関を国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する制裁を科したのは、ロシアのウクライナ侵略が原因だ。しかし、プーチン氏はロシアの要求が一切満たされなかったとして、「西側諸国は世界中にウソをついた」と一方的な持論を繰り返した。
「露産穀物や肥料を無償分も含めて供給し、ウクライナの供給を穴埋めする用意がある」と述べ、穀物輸出大国としてライバル関係にあるウクライナの追い落としを図りたい本音もにじませた。
暫定航路を妨害
プーチン政権はこれまでも同様の主張を繰り返しながら、最終的に合意延長に応じてきた。今回、海上封鎖に至った背景には、露国内でくすぶる「弱腰」批判があるようだ。
合意期限だった17日に「クリミア大橋」が攻撃されたことで、強硬論に拍車がかかっていた。露上院国際問題委員会の第1副委員長は18日、「黒海をウクライナと遮断しなければ、クリミアの平穏は取り戻せない」と述べ、南部オデーサ、ミコライウ両州の軍事制圧を求めていた。
ウクライナはロシアの合意離脱を受け、18日付の文書で黒海北西部に暫定的な航路を設置すると国際海事機関(IMO=本部ロンドン)に通知した。黒海経由の穀物輸出を継続するための措置だったが、ロシアの海上封鎖には、これを妨げる意図があった模様だ。
米欧は拒否姿勢
ただ、プーチン氏が輸出合意に即時復帰する条件として挙げたロシア農業銀行のSWIFTへの復帰などは、米欧が拒否する姿勢を堅持する。欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(EU外相)は20日、黒海封鎖を巡り「唯一の解決策はウクライナへの軍事支援を増やすことだ」と述べた。
輸出合意を仲介したトルコのタイップ・エルドアン大統領は、8月にプーチン氏との対面会談を実現させたい考えで、事態打開に意欲を見せているが、ロシアの態度は容易に軟化しないとみられる。
●プーチン氏、日本参加の露LNG事業の式典に出席「予定通りに稼働を期待」 7/21
ロシアのプーチン大統領は20日、北部ムルマンスク州で、日本も権益を持つ北極圏での液化天然ガス(LNG)開発事業「アークティックLNG2」の最初の生産ラインとなる構造物を採掘現場に送り出す式典に出席した。アーク2を主導する天然ガス大手、ノバテクの工場で開かれた。
政府系テレビ「第1チャンネル」によると、プーチン氏が出発の合図を出すと、船舶に曳航(えいこう)された構造物が工場からヤマロ・ネネツ自治管区のギダン半島に向かった。プーチン氏は「アーク2の予定通りの稼働が期待できる」と語った。
アーク2の施設建設は、昨年2月にウクライナへ侵攻したロシアに対する制裁で支障を来した。ノバテクのミヘルソン社長は三つある生産ラインのうち、第1ラインは予定通り2023年に稼働させたいと表明していた。
●ロシア検察、「プーチン大統領の政敵」ナワリヌイ氏に懲役20年求刑 7/21
ロシア検察は反体制派の指導者として刑務所に服役中の「プーチン大統領の政敵」アレクセイ・ナワリヌイ氏に対し、過激派団体を創設した罪などで懲役20年を求刑した。モスクワ・タイムズやAP通信などが20日に報じた。
報道によると、ナワリヌイ氏は過激派団体を創設して資金援助を行い、過激な活動を扇動するなど6項目の刑法に違反した罪に問われている。
ナワリヌイ氏は「一連の容疑は政治的な動機によるあり得ない話」として容疑を否認している。
ナワリヌイ氏は法廷での審理でロシアによるウクライナ侵攻も非難したという。
ナワリヌイ氏への判決は来月4日に予定されている。
欧州連合(EU)はロシア検察が懲役20年を求刑したことを受け、ナワリヌイ氏を抑留しているロシアの刑務所長を制裁リストに追加した。
ナワリヌイ氏は2020年8月にシベリアのトムスクからモスクワに旅客機で移動中、機内で毒物中毒の症状が出たためドイツで治療を受けた後、昨年1月にロシア当局に拘束された。
ナワリヌイ氏は現在独房に数カ月にわたり収監中で、劣悪な環境のため健康状態が悪化しているという。
ナワリヌイ氏は詐欺、法廷冒とく、仮釈放違反などの容疑で合計11年6カ月の刑が宣告され今も服役中だ。
●ロシア、ウクライナに入港する「全船舶」に攻撃の可能性と警告 7/21
ロシアは20日、ウクライナ南部の港湾都市ミコライウとオデーサを3夜連続で空爆した。またロシア国防省は19日、日本時間20日午前6時から、黒海沿岸のウクライナの港に航行する全ての船舶を軍事物資を運搬している可能性のある船舶と見なすと表明した。
20日朝、ウクライナ南部の港町に再び凄惨な光景が広がっていた。ロシアのミサイルが夜間にオデーサとミコライウを攻撃。これらの地域への空爆は3夜連続となった。当局によると、今回の攻撃で少なくとも21人が負傷した。
ロシアは、ウクライナの穀物輸出を認める合意から17日離脱。その後、黒海沿岸の港への攻撃を強化している。
さらにロシアは、ウクライナの港に向かう船はすべて標的となり得ると発表、再び緊張を高めた。ルーマニア水域を経由して輸出を再開しようというウクライナの計画を阻止する可能性がある。
今回の攻撃で保管されていた穀物や港湾施設も破壊され、世界の食料供給不安と価格高騰への懸念が再燃している。
欧州連合(EU)の外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は、これによって「世界的な食料危機が引き起こされる」と述べた。ボレル氏は、欧州はウクライナが穀物輸出の代替ルートを見つけるのに協力する必要があると述べた。
ウクライナは、今回の攻撃を「ロシアによるテロ」と非難。世界の食料安定供給を妨害するものだと述べた。ロシア当局はコメントしていない。
ロシアのプーチン大統領は前日、穀物輸出合意の復活には反対ではないと述べた。だが、西側がロシアの輸出に関する約束を履行しなかったため、合意は破綻したと主張した。
20日、国際市場に余波が広がった。穀物供給への長期的な混乱を警戒して、小麦価格が再び上昇した。
●英MI6長官「中国は明らかにロシアによるウクライナ侵攻を支援」 7/21
英秘密情報局(SIS)のトップがプラハでの演説で中国政府と習近平・国家主席を批判し「ロシアによるウクライナ侵攻において絶対的に共犯としての役割を果たした」と指摘した。
英ガーディアン紙などによると、英国外で情報収集を行うSISを2020年から率いるリチャード・ムーア長官は19日、米政治専門メディアのポリティコ主催でチェコのプラハで行われた公開演説で「プーチンがウクライナを侵攻した時、中国は明らかにロシアを支持した」と述べた。
外交的にロシアを完璧なほど支援し、国連での非難関連の主な投票では棄権を続け、ロシア支持票が多い南米やアフリカではロシア・メディアの報道をそのまま引用することで、今の戦争を「NATO(北大西洋条約機構)と西側が原因で起こった」と堂々と主張してきたというのだ。
昨年2月24日にロシアがウクライナに侵攻する20日前の2月4日、北京で習主席とロシアのプーチン大統領が両国の「限界のない」パートナーシップに署名した事実はよく知られている。中国は戦争が始まると同時に中立的な平和の仲裁役として一歩引き、同時に習主席がウクライナ戦争に不満を表明するシグナルを発することもあった。しかし中国政府がロシアによる侵攻を対外的に非難したことは実質的に一度もなく、戦争をやめさせようとする行動などなおさらなかった。
ムーア長官はこれら一連の事実を指摘し、改めて強調した上で「MI6(SISの通称)は他のどの部門よりも中国関連の業務にリソースを集中している」と述べた。中国が世界でそれだけ重要であり、かつ中国政府の意図と能力を把握することが決定的に必要ということだ。
ムーア長官の一連の発言は中国の怒りと非難を呼び起こす可能性が非常に高い。ムーア長官の前に米中央情報局(CIA)のバーンズ長官も、強い力を持つようになった中国の「行動」に警告を出した。バーンズ長官は「ロシアによる攻勢は手いっぱいの挑戦であることは間違いないが、中国は国際秩序を再び築く意志と共に、それができる経済的、外交的、軍事的、そして技術的な力を同時に持つ唯一の国だ」と指摘した。
ムーア長官はプラハでの演説で「ロシアと中国のパワーバランスは中国の方に傾いている」とした上で「このことがプーチン大統領の立場を弱めてきた」と述べた。
●プリゴジン氏「ウクライナ戦線で起きているのは恥ずべきこと…関与しない」 7/21
先月武装反乱を起こした後、ベラルーシに移動したロシア民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が、当分ウクライナ戦争には関与しないと宣言した。
AP通信など海外メディアの報道によると、プリゴジン氏は19日(現地時間)、ワグネルと連動したソーシャルメディアのチャンネルを通じて公開した動画で、ワグネルの部隊員たちがベラルーシに来たことを「歓迎」するとし、「私たちは気高く戦った。ロシアのために多くのことをやり遂げた。今日、最前線で起きているのは、我々が関与してはならない恥ずべきことだ」と述べた。ただし、「我々は自ら恥じなくていいと確信した時、『特別軍事作戦』(ウクライナ戦争)に戻ることもできる」と述べ、含みを持たせた。
今後の自身とワグネルの計画については、「私たち自身を完全に見せられる瞬間を待たなければならない」とし、「だからこそベラルーシで時間を過ごすことにした」と述べた。さらに、「我々はベラルーシ軍を世界で2番目に強い軍隊にする。我々は訓練を重ねて我々のレベルを高め、アフリカに向けた新たな旅に出る」と語った。これと関連し、ベラルーシ国防省は14日、ワグネルが首都ミンスクから約105キロメートル離れたアシポビチ近くのキャンプで兵士たちを訓練する教官として活動している事実を公開した。
2014年に創設されたワグネルはシリア内戦に介入し、アフリカ諸国からの政府軍の支援など、中東・アフリカ地域でのロシアの影響力を拡大する活動を行ってきた。プリゴジン氏はこの過程でロシアが直接処理しにくいことを解決し、ウラジーミル・プーチン大統領の「汚れた手」とも呼ばれている。
動画はプリゴジン氏が先月23日の武装反乱後にベラルーシに移動したワグネルの部隊員たちが滞在している野戦キャンプで行った演説を撮ったもの。氏が反乱以降、自分の心境と今後の計画を盛り込んだ動画を公開したのは今回が初めて。動画の中で、プリゴジン氏は音声に比べて姿が多少ぼやけており、動画の正確な真偽は確認できないと海外メディアが報じた。
●ウクライナ、世銀が15億ドル融資へ 日本政府が保証=首相 7/21
ウクライナのシュミハリ首相は20日、世界銀行から15億ドルの融資を受けると発表した。日本政府が保証を提供するという。
シュミハリ氏はメッセージングアプリ「テレグラム」への投稿で、融資は社会保障の強化、ロシアによる対ウクライナ戦争に巻き込まれている人々への支援、経済の再建に充てられると説明した。
またその後のツイートで、世界銀行と国際金融公社(IFC)がウクライナの新たなプログラムに80億ドル強を投じる計画であることも明らかにした。
世界銀行とパートナーはこれまでにウクライナに対して340億ドルの支援を打ち出し、ウクライナは既にこのうち220億ドル余りを受け取っているという。
ウクライナは財政赤字の穴埋めを海外からの資金支援に頼っている。
●ウクライナが警告、ロシアの黒海沿岸港に向かう船は攻撃対象にも 7/21
ロシアの港に向かう船舶は21日から軍事攻撃の対象になり得ると、ウクライナ国防省がテレグラムに投稿した声明を通じて警告した。ロシアがウクライナの穀物輸送船を標的にする可能性を示唆したことに対応し、報復措置をとった。
ウクライナ国防省は20日、ロシアおよびウクライナのロシア占領地域それぞれの黒海沿岸港に向かう船は全て軍事貨物を積載していると見なされ得ると、ロシアが前日に発表したのと同じ言い回しを使って説明した。
ウクライナの穀物輸出を可能にしていた合意から離脱して以来、ロシアはウクライナの穀物貯蔵施設を繰り返し攻撃。ウクライナの港に向かう船舶は全て武器運搬船だと見なすと主張した。
小麦価格は19日に急騰。20日はウクライナの発表後に上昇した後、上げをほぼ解消した。
両国の措置は戦争のエスカレートであり、重要な食料の供給を含む世界のコモディティー市場では、この戦争から受ける影響が一層深刻になる。ウクライナの輸出は戦争で甚大な被害を受ける一方、ロシアは世界の小麦貿易でシェアを拡大させている。両国はいずれも小麦の主要輸出国だ。
黒海は両国にとって農産物輸出の主要ルートで、ロシアの大型石油ターミナルも立地する。黒海沿岸のノボロシースクは1日当たり50万バレル余りのロシア産原油を輸出するほか、肥料や穀物、石炭の主要港でもある。20日の市場では原油価格に大きな変動はなく、供給混乱の可能性に市場が懐疑的であることを示唆する。
クリミアと海峡を隔てて向かい合うタマニ近郊にも、ロシアは石油製品の積み出しターミナルを幾つか構える。ブルームバーグがモニターするタンカー追跡データによると、この海域には現在、比較的小型のタンカーを中心に28隻の石油タンカーが航行している。
サンクトペテルブルクを拠点とする用船会社シーラインズの最高経営責任者(CEO)、アレクサンドル・クリコフ氏によると、20日のノボロシースク港は通常通り稼動している。クリミア橋で爆発があって以来、ケルチ海峡の通航は閉鎖されており、再開時期は明らかでないという。南側からケルチ海峡を通過するために待機している船が同氏は2隻あると述べた。ノボロシースク港の広報担当者にコメントを求めたが、すぐには返答はなかった。
ウクライナの脅しがどれほど現実的かは、すぐには判然としない。ウクライナが現時点で保有するミサイルで、最長の射程を持つものでもノボロシースクや同港へのアプローチには届かず、海域に展開できる海軍もない。ロシア国防省もまた、ウクライナの港に入ろうとする船舶に対して具体的にどのような行動をとるのか明示していない。
●ロシア、ウクライナ南部オデーサなどに3夜連続攻撃し1人死亡 7/21
ロシアは20日、ウクライナ南部の港湾都市ミコライウとオデーサ(オデッサ)を3夜連続で空爆した。ウクライナ当局によると1人が死亡し少なくとも27人が負傷した。中国領事館も被害を受けたという。
また、北東部ハリコフでもロシア軍の砲撃で1人が死亡した。
オデーサ州のカイパー知事はオデーサにある中国領事館の窓ガラスが少なくとも1枚割れている写真を投稿した。それ以外の被害は確認されていない。
この件に関し、中国政府は現時点でコメントしていない。
ロシアは「報復攻撃」を実施したと発表。ロシアのプーチン大統領は17日、ロシア南部とクリミアを結ぶ橋が爆発により損傷したことについて、ウクライナによる「テロ行為」との見方を示し、ロシアは報復すると表明していた。
ミコライウ州のキム知事によると、市中心部の3階建て住宅が攻撃を受けた。知事は死者も出ていると書き込んでいたが、その後の投稿で詳細は明らかにしていない。
ウクライナ軍はロシアのミサイル19発のうち5発と無人機19機のうち13機を撃墜したと発表した。
キム氏はミコライウで19人が負傷し、住宅数棟が損壊したと述べた。
一方、オデーサの当局者は同市への攻撃で建物が損傷して火災が発生し、2人が病院に搬送されたと明らかにした。市外でも攻撃が報告されているという。
カイパー知事は警備員1人が死亡し、子供を含む少なくとも8人が負傷したと述べた。
ロシアは19日、黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)の履行停止に伴い、モスクワ時間20日午前0時(日本時間同日午前6時)から黒海沿岸のウクライナの港に向け航行する全ての船舶を軍事物資を運搬している可能性のある船舶と見なすと表明。同地域の港湾都市では緊張が高まっている。
20日は港湾インフラへの大きな被害は報告されていない。
●小麦価格が上昇、ロシアがウクライナ産穀物輸送船を軍事標的にすると脅し 7/21
ウクライナの港へ向かう船舶を軍事標的と見なす可能性があるとロシアが表明して以降、世界市場で小麦の価格が上昇している。
ウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出する国際協定「黒海穀物イニシアチブ」は18日、ロシアがこれを延長しないと通知したため、失効した。ウラジーミル・プーチン大統領は、西側がロシアの要求に応じれば協定に復帰するとしている。要求には、ロシアの農業銀行を世界の決済システムに再接続させることなどが含まれている。
欧州の株式市場では19日、小麦が前日比8.2%値上がりし、1トンあたり253.75ユーロ(約4万円)となった。トウモロコシの価格も5.4%上昇した。
アメリカの小麦先物価格はこの日8.5%急騰し、ロシアのウクライナ侵攻開始以降で最も高い伸び率を示した。
ロシアの国防省は、20日以降に黒海でウクライナの港へ向かう船舶は、この紛争に関係した軍事物資の運搬船とみなされる可能性があると発表。「そのような船舶が籍を置く国は、キエフ(キーウのロシア語読み)の政権側につき、ウクライナ紛争に関与しているとみなされる」としている。
米ホワイトハウスのアダム・ホッジ報道官は、ロシアが民間船を攻撃し、その責任をウクライナに押し付けるつもりだと非難した。
また、そのための作業の一環として、ロシアがウクライナの港への航路に機雷を追加敷設していると述べた。
ロシア政府はこの疑惑についてコメントしていない。
ロシアの警告を受けてウクライナ側も、ロシアや、ロシアが制圧する黒海沿岸の港へ向かう船舶は、軍事貨物を運んでいるとみなす可能性があると警告した。
●EU、ウクライナ軍事支援の基金創設を協議 4年間で200億ユーロ 7/21
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は20日のEU外相理事会で、今後4年間のウクライナへの武器、弾薬など軍事支援に充てる200億ユーロ(約224億ドル)の基金を設けることを提案した。
ロシアの侵攻を受けるウクライナの安全を長期的に保証しようとする国際的な動きが活発になっており、主要7カ国(G7)は先週、永続的な安全保証支援に向けた国際的な枠組みを発表したばかり。EUとしても長期的にウクライナを支援する基盤を整えたい考え。
ボレル氏は理事会後の記者会見で、EUの既存の基金「欧州平和ファシリティ(EPF)」にウクライナ専用枠を設け、年間最大50億ユーロの支援を4年間実施できるようにすることを提案したと説明した。
EPFは2021年に創設され、紛争の阻止、平和構築、国際的な安全保障強化のための行動に資金を提供することを目的としている。規模は当初の57億ユーロから120億ユーロに拡大した。
EU加盟国が域外の国々に提供する軍事支援にかかる費用の少なくとも一部を基金が負担している。
外相理事会で複数の加盟国は、ウクライナへの長期的軍事支援の提案を歓迎したが、規模など詳細はさらに協議が必要とした。
ボレル氏は、8月末の会合で外相と国防相が詳細を話し合うとの見通しを示した。 
●プーチン大統領 反転攻勢の失敗強調「ウクライナ 多大な損失」 7/21
ロシアのプーチン大統領は21日、関係閣僚を招集した安全保障会議を開催し、このなかで、ウクライナ軍が6月上旬から開始した反転攻勢について「少なくともまだ結果がでていない。ウクライナに供与された戦車やミサイルなども役に立っていない。重要なことは、ウクライナ軍が多大な損失を被ったことだ。何万人もの人々だ」と述べ、ウクライナ軍の反転攻勢は失敗していて、ロシア側が撃退に成功していると強調しました。
●プーチン「世界のシェアを取り戻す」液化天然ガス事業の製造ライン開始式 7/21
ロシアのプーチン大統領は20日、三井物産なども権益を持つ北極圏の液化天然ガス事業の製造ライン開始式に出席し、「世界のシェアを取り戻す」と述べました。
プーチン大統領は、北極圏・ムルマンスク州に建設されている液化天然ガスプラント「アークティックLNG2」の最初の製造ラインの開始式に出席し、自らレバーを操作して、稼働させました。
官報「ロシア新聞」によりますと、「アークティックLNG2」はロシアのガス大手・ノバテク社が2024年初頭までの稼働を予定していて、3つの製造ラインが完成すると、年間1980万トンのLNGが生産できるといいます。
このプロジェクトには三井物産と日本の共同企業体も出資していて、北極海航路を使って日本などにLNGを輸送する計画です。去年2月のウクライナ侵攻開始以降、欧米企業が相次ぎ撤退しましたが、プーチン大統領は「世界のシェアを取り戻す」とエネルギー分野での主導権獲得に自信を見せました。
●ウクライナ、クラスター弾による攻撃開始…ロシア軍前線の陣形に影響 7/21
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は20日、米国が供与したクラスター弾をウクライナ軍がロシア軍に対して使い始めたと明らかにし、「非常に効果的に使っている」と述べた。前線の露軍の陣形に影響を与えているという。
クラスター弾は、内蔵した大量の小型爆弾を広範囲にばらまくものだ。殺傷力が高い一方、不発弾による民間人への被害が懸念されている。カービー氏はウクライナから使用の報告を受けたとし、「適切に使われている」とも強調した。
米国防総省のサブリナ・シン副報道官は20日の記者会見で、ウクライナが使用場所を記録し、「戦争が終わった時に(不発弾の)除去作業を行えるようにすると約束した」と語った。
米政府は、 塹壕ざんごう を拠点とする露軍陣地に対する攻撃の効果が高いとみている。米紙ワシントン・ポストによると、ウクライナ軍はウクライナ南東部の前線で使用したという。
●ロシア下院、超過利潤税法案を採択 財政悪化に対応 7/21
ロシア下院は21日、大企業の超過利益に追加課税する超過利潤税の法案を採択した。ウクライナ軍事侵攻を巡る対ロシア制裁や軍事費増大の影響で国家財政が悪化していることに対応する。3000億ルーブル(約4700億円)規模の増収を見込んでいる。
超過利潤税の法案は政府が6月、下院に提出した。追加の課税は1回限りとし、2024年1月までに支払うよう義務付けた。課税対象からは中小企業や石油・天然ガスの開発、農業、住宅建設の関連企業などが除外された。
ロシアは軍事侵攻で歳入が落ちこんでいる。財務省が7日に発表した1〜6月の財政状況によると、歳入額が前年同期に比べて11.7%減少した。一方、歳出は19.5%増え、約2.6兆ルーブルの財政赤字となった。
今回の超過利潤税の課税規模は23年暦年予算の歳入の約1%にとどまり、大幅な歳入不足を補塡することは難しい。このため、政府はたばこやアルコール飲料、乗用車に対する課税強化など様々な増税策を進めている。
●日本海で中国とロシアがいま大規模な合同軍事演習を始めた理由 7/21
7月20日、中国軍とロシア軍が日本海で大規模な合同軍事演習を開始した。「北部・連合2023」と呼ばれるこの合同軍事演習は、23日まで続くと発表されている。なぜこの二国がいま、しかも日本海でこうした動きを見せているのか。
アジア太平洋の平和と安定を守るため?
中国共産党傘下の国際メディア「グローバル・タイムズ」が、中国側の言い分を伝えている。
その記事によると、この4日間にわたる演習は二国の軍事協力を強化し、緊張と潜在的な脅威が高まるアジア太平洋の平和と安定を守ることに寄与するものだと中国の専門家らは述べている。
中国海軍の専門家によれば、今回の軍事演習では、戦略的な海路を守るというテーマの下、空中、水上、水中の標的に対する基本的な戦闘行為が練習されるという。この演習を導くために、合同本部が中国海軍の駆逐艦「斉斉哈爾」に設置されたと両陣営が認めている。
同メディアは、この中ロ合同演習はアジア太平洋地域の緊張が高まっているために実施されているのだと述べる。日本は中国の台湾問題に介入して「台湾有事は日本有事」などと主張しており、一方、米国はここ40年で初めて原子力潜水艦を韓国に配備し、北朝鮮を抑止しようと試みているではないかというのだ。
われわれにも仲間がいる
英紙「フィナンシャル・タイムズ」によれば、中国軍とロシア軍は2005年以来、合同演習を実施してきたが、ロシアの海・空軍が参加するのは今回が初めてで、しかもこれまでと違ってロシアと日本の領土問題がある地帯での演習だと指摘している。
そして、二国は何十年と軍事的連携を構築してきたが、その協力関係はロシアのウクライナ侵攻後、さらに進んでいるとしている。
同紙は、人民解放軍軍事科学院の防衛戦略の専門家にも取材し、中国側の本音を引き出している。
「われわれ両国とも、正当な安全保障上の利益に対する挑発を受ける側にある」と述べるその専門家は、最近のNATO首脳会議でロシアとの空中戦が想定されたことで、米国の同盟ネットワークに対する警戒心が中国でも強まったとして、こう主張している。
「米国はその同盟諸国と協働して中国を抑止すると言い続けている。われわれにも仲間がいることを見てもらいましょう」

 

●プーチン政権批判の強硬派ギルキン氏拘束 “最長で禁錮5年も” 7/22
ロシアの複数のメディアは21日、政権を批判してきた強硬派のイーゴリ・ギルキン氏が首都モスクワで拘束されたと伝えました。国営のロシア通信によりますと、ギルキン氏はインターネット上で過激な活動を呼びかけた疑いがもたれ、最長で5年の禁錮刑を科される可能性があるということです。
ギルキン氏は9年前、ウクライナ東部で親ロシア派の武装勢力の軍事部門を率いていました。そして2014年7月、オランダ発のマレーシア航空機が撃墜され乗客乗員298人が死亡した事件に関与したとして去年、オランダの裁判所から終身刑の判決を言い渡されています。
ギルキン氏は、ロシアによる軍事侵攻を支持する一方で、進め方が効果的でないとしてプーチン政権やロシア国防省などを批判してきました。
今月18日には「臆病で凡庸な人間がさらに6年も政権を握ることにロシアは耐えられないだろう。彼が最後にできる有益なことは、真に有能で責任感のある何者かに権力を譲ることだ」とプーチン大統領を批判しています。
●プーチン氏がポーランドに警告、ベラルーシ「侵略」はロシアへの攻撃 7/22
ロシアのプーチン大統領はポーランドに、同盟国ベラルーシに対するいかなる「侵略」もロシアへの攻撃として扱うと警告した。ベラルーシがロシアの民間軍事会社ワグネルの兵士らを受け入れたことに対応し、ポーランドは東部国境の兵力強化を決定していた。
プーチン氏は21日、テレビ放送された安全保障会議の会合で、「ベラルーシに対する侵略は、ロシアへの侵略を意味する」と主張。ベラルーシとロシアが長く連合国家を組んでいることに触れ、「ロシアは利用可能なあらゆる手段を使って、これに対応するだろう」と述べた。
ロシアがポーランドに対して脅しをかけるのは初めてではなく、プーチン氏の発言はロシアと欧州の緊張を悪化させる可能性がある。ポーランドは最大のウクライナ支援国の一つだが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあり、一方的で正当な理由のない軍事的措置をとる意向を示したことはない。
ポーランドが表明したのは、ベラルーシ国境付近の軍事的プレゼンス増強と同地域での新たな防衛体制の構築だ。ポーランド政府当局者はこれまでに、ワグネル兵士がベラルーシへの入国を許可されたことや、移民がポーランド国境を越えるのをベラルーシが支援しているのは欧州に対するロシアの攻撃計画の一部だと指摘し、「ハイブリッド戦争」の新たな段階だと警告していた。
安全保障会議の会合でナルイシキン対外情報局(SVR)長官は、ポーランドがウクライナ、リトアニアとの相互防衛協定の下でウクライナ西部を管理することを計画している情報をロシアはつかんだと報告。ただ、証拠は提示されなかった。ロシアはウクライナの一部の掌握をポーランドが狙っているという根拠のない同様の主張をこれまでにも繰り返している。
●ベラルーシ攻撃はロシアへの攻撃、プーチン氏 ポーランドに警告 7/22
ロシアのプーチン大統領は21日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドが旧ソ連構成国に領土的野心を抱いていると非難し、ロシアの隣国で緊密な同盟国のベラルーシへのいかなる攻撃もロシアに対する攻撃とみなすと警告した。
プーチン氏は安全保障の会合で、ベラルーシはロシアとの緩やかな「連合国家」を形成しているとして「ベラルーシへの攻撃は、ロシア連邦への攻撃を意味する」とし、「われわれはあらゆる手段を用いてこれに対応する」と主張した。
この発言はテレビで放送された。
ポーランドはベラルーシへのいかなる領土的野心も否定している。
国営のポーランド通信(PAP)の21日の報道によると、ポーランドの安全保障当局は19日、ロシア民間軍事会社ワグネルの戦闘員がベラルーシに到着後、ポーランド軍を同国東部に移動させることを決定した。
ベラルーシ当局は20日、ポーランド国境から数マイルしか離れていない軍事演習場でワグネルの戦闘員がベラルーシ特殊部隊の訓練を始めたと発表した。
ロシアはここ数週間、ベラルーシで初めてとなる戦術核兵器の配備を始めた。ロシア大統領府によると、プーチン氏は23日にロシアでベラルーシのルカシェンコ大統領と会談することを予定している。
●プーチン氏との会談、黒海穀物合意復活につながる=トルコ大統領 7/22
トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領との会談が黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)の復活につながる可能性があると述べた。トルコの放送局が21日報じた。
黒海イニシアティブの履行停止は世界的な食料価格の上昇や特定地域の食料不足などの問題を引き起こし、新たな移民の波につながると指摘。「この問題をプーチン大統領と徹底的に話し合うことで、この人道的な取り組みの継続を確保できると確信している」と述べた。
その上で、プーチン大統領は西側諸国に一定の期待を寄せており、西側諸国が行動を起こすことが重要とした。
●ワグネル、現在はウクライナ戦争に参加せず=米大統領補佐官 7/22
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は21日、ロシア民間軍事会社ワグネルは現在、ウクライナでの戦争に参加していないとの見解を示した。
また、ウクライナの操縦士を対象としたF16戦闘機の訓練が数週間以内に開始されるとした。
●国連安保理緊急会合 ウクライナ産農産物 ロシア輸出合意停止で 7/22
ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行をロシアが停止したことを受けて、国連の安全保障理事会で緊急会合が開かれ、欧米各国などが国際的な食料危機を招くものだと非難したのに対して、ロシアはウクライナの農産物は主に先進国に輸出され途上国への影響はわずかだなどと激しく反論しました。
国連安保理で21日、開かれた緊急会合では、ロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止したことや、農産物の積み出し港があるウクライナ南部への攻撃を繰り返していることについて、各国から非難が相次ぎました。
このうちアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「ロシアは黒海で脅迫を行っている。政治的な駆け引きのために人類を人質に取っている」と非難したほか、日本の石兼国連大使も「食料を武器として使うことなく、速やかに国際的な枠組みに復帰して輸出を再開するよう、強く求める」と訴えました。
またウクライナ産の農産物を輸入する国が多いアフリカのうちガーナの代表は「停止した合意が再び実現することはないだろう。合意が更新されなかったことに深く失望している」と述べました。
これに対してロシアのポリャンスキー国連次席大使は「合意によって輸出された農産物のおよそ70%が所得の高い国に輸出され、エチオピアやイエメン、スーダンなどの最貧国が受け取ったのはわずか3%未満だ」として、ウクライナ産の農産物が途上国にはほとんど輸出されてこなかったと反論した上で、ロシア産の穀物や肥料などに科されている制裁などがすべて解除されないかぎり合意は履行できないと、改めて主張しました。
●駐英ウクライナ大使解任発表 背景にゼレンスキー大統領批判か 7/22
ウクライナ大統領府は21日、イギリスに駐在するプリスタイコ大使の解任を発表しました。解任の理由は明らかにしていませんが、イギリスメディアは、プリスタイコ氏が各国からの軍事支援への対応をめぐってゼレンスキー大統領を批判したことが背景にあると報じています。
ウクライナへの軍事支援をめぐって、イギリスのウォレス国防相がウクライナは各国にもっと感謝の意を表すべきだと述べたことについてゼレンスキー大統領は今月12日の記者会見で「これ以上どうやって感謝すればいいのか。国防相はその方法を手紙に書いて教えてほしい」などと応じました。
これについて13日、プリスタイコ大使はイギリスのテレビ局スカイニュースの番組で「こうした皮肉は不健全だ。われわれの関係に何かがあるとロシアに見せる必要はない」と大統領の発言を批判していました。
イギリスの一部メディアは、これが今回の解任につながったという見方を伝えています。
プリスタイコ氏は、ウクライナの外相と副首相を経て2020年からイギリス大使を務めてきました。
イギリスからアメリカに次ぐ規模の軍事支援を取り付ける上で大きな役割を果たしてきたとしてイギリスメディアからは解任の影響を指摘する声も上がっています。
●戦争支持のロシア人ブロガー、モスクワで拘束 プーチン氏を猛然と批判 7/22
プーチン大統領やウクライナでの軍の不手際を批判していたロシアの著名な戦争支持派ブロガー、イーゴリ・ギルキン氏が21日に拘束された。民間軍事会社ワグネルによる先月の反乱後、反対派に対するロシア大統領府の許容度が低くなっていることを示す動きとなった。
ギルキン氏は旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元将校で、クリミア半島の奪取を支援した人物。ウクライナ東部で起きたマレーシア航空17便の撃墜に関与したとして、殺人罪で有罪判決を受けた。
国営メディアや同氏のテレグラムアカウントに妻が投稿した内容によると、ギルキン氏は21日、治安要員によって首都モスクワの自宅から連行され、「過激主義活動」の疑いで訴追された。
ギルキン氏は「ミルブロガー」と呼ばれるロシアの軍事ブロガーで最も知名度が高い人物の一人。こうした戦争特派員はウクライナ侵攻を支持しつつも、軍の作戦が難航している状況に批判を強めている。ギルキン氏はここ数カ月で批判のトーンを一段と強め、ロシアの国家やプーチン氏自身に矛先を向けていた。
ギルキン氏は今春、超国家主義の政治団体「怒れる愛国者クラブ」を共同設立。ロイター通信に対し、ロシアは「破滅的な性格を帯びた重大な国内政変の瀬戸際にある」とコメントしていた。
ワグネルの反乱が短時間で終わった翌日の25日には、もしプーチン氏が「戦争即応体制の創出にリーダーシップを発揮する用意がないのであれば」、「そうした厳しい仕事を遂行できる誰かに適法な形で権力を譲る必要がある」と述べた。
ただ、プーチン氏の我慢が限界に達したのは今月18日の発言かもしれない。ギルキン氏は自身のテレグラムチャンネルへの激烈な投稿で、プーチン氏を「ごろつき」「臆病な無能」とこき下ろしていた。 
●露プーチン政権を“クズ批判”軍事ブロガー拘束 7/22
ロシアによるウクライナ侵攻を支持する一方でプーチン政権批判を繰り返していた軍事ブロガーが拘束されました。
拘束されたのはFSBロシア連邦保安庁の元大佐で軍事ブロガーのイーゴリ・ギルキン氏(53)です。モスクワの裁判所によりますと、ギルキン氏は過激派活動を呼びかけたとしてFSBに拘束され、9月18日まで勾留されることが決まりました。
ギルキン氏は、2014年にウクライナ・ドネツクで親露派の戦闘を指揮し、その後、マレーシア航空機撃墜事件にも関与したとしてオランダの裁判所から終身刑を言い渡されています。
ギルキン氏はウクライナ侵攻を支持していますが、作戦停滞についてプーチン政権批判を繰り返していました。
18日にはSNSでプーチン大統領を念頭に「23年間、国民の大半の目を欺くことに成功した下衆野郎」「この国は卑怯なクズ政権にあと6年も耐えることはできない」などと投稿していました。
このタイミングでの拘束について、イギリスBBCは「ワグネルの反乱が失敗に終わり軍が勢いを増した」のではとする専門家の分析を紹介しています。
●CIAとMI6長官 “プーチン政権に不満抱くロシア人を工作員に” 7/22
アメリカとイギリスの情報機関のトップは、民間軍事会社ワグネルがロシアで起こした武装反乱をきっかけにプーチン政権に不満を抱くロシア人たちを情報工作員などとして取り込みながら諜報活動に生かしたいとする考えを示しました。プーチン政権内部に関わる情報の収集や分析を強化するねらいとみられます。
アメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官は20日、アメリカで開かれた安全保障のフォーラムに出席し、民間軍事会社ワグネルがロシアで起こした武装反乱について「これほどわれわれをひきつけたものはなかった。ロシアでは、エリート層もそれ以外の人たちも多くの不満を抱えている。この機会を無駄にはしない」と述べました。
そして、こうしたロシア人たちを情報工作員などとして取り込みながら諜報活動に生かしたいとする考えを示しました。
また、その前日の19日、イギリスの対外情報機関「MI6」のムーア長官もワグネルによる武装反乱について「ロシアの独裁政治がどうしようもなく衰退していることを露呈した」と指摘した上で「われわれはいつでも待っているし、秘密は必ず守る。流血を終わらせるため、ともに力を合わせよう」と述べ政権に不満を抱くロシア人たちとの協力関係を生かしたいとしています。
こうした協力についてCIAのバーンズ長官は「MI6と同じ方向に向かっている」として連携する姿勢を示し、プーチン政権内部に関わる情報の収集や分析を強化するねらいとみられます。
一方、バーンズ長官とムーア長官は、いずれも、ウクライナ軍が続けている反転攻勢について「楽観している」と述べ、ロシア軍は、政権や軍内部の混乱が弱点となり今後、戦況はウクライナ側に好転する可能性があるとしています。
CIA「ヒーローになるということは立ち向かうこと」
CIAはプーチン政権に不満を抱くロシア人たちを情報工作員として取り込もうと、ことし5月、ロシアの今のあり方に疑問を抱かせるような動画をSNSなどに投稿しています。
このうち、「私がCIAに連絡した理由:私の決断」という2分近い動画では、「これが私の夢見た人生なのだろうか」とか「ヒーローになるということはきぜんと立ち向かうことだ」などというロシア語のナレーションが入っていて、機密情報を扱っているとみられる人たちがCIAに連絡をとるまでの様子が描かれています。
また、別の動画では、CIAに連絡をとる時には自宅や職場のパソコンを使わないなど、プーチン政権側に気づかれないよう安全に注意することが必要だと伝えています。
CIAのバーンズ長官は、20日のアメリカで開かれた安全保障フォーラムで、こうした動画が投稿されて最初の1週間で250万回もの再生回数があったと述べ、ロシア側にゆさぶりをかける狙いがあるとみられます。
●クリミアで弾薬庫爆発、半径5キロの住民避難 ウクライナ攻撃認める 7/22
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で「首長」を名乗る、親ロシア派幹部セルゲイ・アクショノフ氏は22日、ウクライナ軍がクリミアをドローン(無人航空機)で攻撃し、弾薬庫が爆発したとSNSに投稿した。ウクライナ軍の戦略コミュニケーション局はSNSで「石油施設と弾薬庫を破壊した」と述べ、攻撃を認めた。
アクショノフ氏は、クリミア中央部のクラスノフバルジースキー地区の弾薬庫が攻撃によって爆発したが、大きな損害や負傷者は確認されていないとしている。半径5キロ範囲の住民の避難と鉄道の運行停止を決めたという。
ロシアが軍事拠点化したクリミアをめぐっては、17日にクリミア橋で男女2人が死亡する爆発があり、19日にも弾薬庫が爆発した。
●クリミア橋攻撃を示唆 ゼレンスキー氏「破壊すべきだ」 7/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシアの占領下にある南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ自動車・鉄道橋「クリミア橋」について、「攻撃目標だ」との認識を示し、破壊すべきだと述べた。
米西部コロラド州アスペンで開かれた安全保障フォーラムでオンライン演説した。
橋では17日に爆発があり、3人が死傷。ゼレンスキー氏の発言は、ウクライナ軍による攻撃だったことを示唆するものだ。 

 

●プリゴジン氏の支持率急落 反乱1カ月、プーチン氏ほぼ無傷―ロシア 7/23
ウクライナに侵攻するロシアの民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こして23日で1カ月となる。事態は丸1日で収束し、首謀した創設者プリゴジン氏は世論調査で支持率が急落。一方、侵攻停滞で保守層の軍・国防省への不信感が高まる中、権力バランスに変化も生じている。プーチン大統領のダメージは最小限にとどまったもようで、政権は来年の大統領選で圧勝するシナリオを堅持している。
イメージ悪化
「目標は得票率80%超を実現すること」。独立系メディア「メドゥーザ」は18日、複数の当局者の話として、プーチン氏が大統領選で2018年の前回得票率(約77%)を上回るよう、政権が選挙対策を練っていると伝えた。戦時下で国民の愛国心が高まる一方、弾圧で反体制派の勢いが衰えているとはいえ強気な目標。背景には、保守層に人気のプリゴジン氏が6月の反乱で評判を落とし、プーチン氏の支持率がほぼ無傷だったという分析もあるとみられる。
政権と一線を画す独立系世論調査機関レバダ・センターが今月1日までに、約1000人に「反乱後のイメージの変化」を尋ねたところ、プーチン氏は改善(19%)が悪化(10%)を上回った。対照的にプリゴジン氏は悪化(36%)が改善(5%)に比べて顕著で、批判の矛先を向けたショイグ国防相よりも人気を落とす結果となった。
レバダ・センターが6月29日に公表した調査でも、プリゴジン氏の支持率は反乱前後で58%から29%に急落。捜査終結など政権の対応は甘いと言われるが、そもそも影響力の低下が甚だしいのが実情だ。
プリゴジン氏は6月24日の南部ロストフナドヌー撤退時、歓声を上げる市民に取り囲まれたが、この光景に民意は反映されていないことになる。
元SPに存在感
逆に存在感を増しているのは、国家親衛隊(旧内務省軍)のゾロトフ隊長だ。プーチン氏の元警護官(SP)で、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身。ワグネルの反乱後、プーチン氏が6月27日にクレムリン(大統領府)で軍・治安機関を集めて事態掌握をアピールした際、ゾロトフ氏がテレビカメラの前で経緯や対応を説明した。
プーチン氏が6月29日、やはりクレムリンでプリゴジン氏やワグネル戦闘員と極秘会談した際も、軍・国防省は遠ざけられ、ゾロトフ氏が同席したと仏紙リベラシオンが伝えている。
16年に創設された国家親衛隊は、主に反体制派のデモ鎮圧を担ってきた。今回の反乱では、ワグネルがモスクワに向けて行軍するのを防げなかった反省点もある。ただ、政権はゾロトフ氏の責任を追及せず。逆に、国家親衛隊を強化すべく戦車を配備する法案が19日に下院で可決された。
●クラスター爆弾巡り ロシア“記者死亡” ドイツ“取材陣負傷” 7/23
ロシア国防省は、ウクライナ南部の支配地域でロシアの記者団がウクライナ軍による攻撃を受け1人が死亡したと発表しました。「クラスター爆弾が使われた」と主張していて、ロシア軍がウクライナ側による使用を口実にクラスター爆弾の使用を繰り返す事態も懸念されます。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は22日、ウクライナ南部ザポリージャ州の支配地域で、ロシアの記者団がウクライナ軍の攻撃を受け、国営通信の記者1人が死亡したほか、3人がけがをしたと発表しました。
ロシア国防省は1つの爆弾から多数の小型爆弾が飛び散り殺傷能力が高い「クラスター爆弾が使われた」と主張していますが、具体的な根拠は示していません。
アメリカのバイデン政権は、反転攻勢を続けるウクライナからの要請に応じてクラスター爆弾を引き渡し、今月20日には、ウクライナ軍がロシア軍に対して使用を始めたと明らかにしています。
今回の発表を受けてロシア議会上院のコサチョフ副議長は「民間人に対して使われることはないというアメリカやウクライナの主張はウソだと判明した」とSNSで非難しました。
一方、アメリカはロシア軍がすでに戦場でクラスター爆弾を使用しているという認識を示しているほか、国際的な人権団体が、ロシア軍がウクライナ侵攻でクラスター爆弾を使用し多くの民間人が殺害されたとする調査結果を公表しています。
クラスター爆弾をめぐって、ロシアのプーチン大統領は今月16日「われわれに対して使用された場合、同様の対応をとる権利がある」とけん制していて、ウクライナ側の使用を口実にロシア軍がクラスター爆弾の使用を繰り返す事態も懸念されます。
“ロシア側のクラスター爆弾でカメラマン負傷”ドイツメディア
ドイツの放送局「ドイチェ・ヴェレ」は22日、ウクライナ東部ドネツク州で取材中のカメラマンがロシア側のクラスター爆弾による攻撃で負傷したと発表しました。
声明によりますと、取材チームは、現地時間の22日正午すぎ、ドネツク州でウクライナ軍の訓練場を撮影中にロシア側の攻撃を受け、カメラマンの男性がクラスター爆弾の破片で負傷したということです。
男性はウクライナの病院で手当てを受けているということですが、今のところ容体は安定しているということです。
取材チームの特派員は「射撃訓練中のウクライナ軍を撮影していたときに突然、数回の爆発音が聞こえた。私たちが地面に伏せるとさらに多くの爆発が続き、人々が負傷した。その後、ウクライナ軍がクラスター爆弾による攻撃と確認した」と証言しています。
この攻撃でウクライナ軍の兵士1人が死亡し、数人が負傷したということです。
「ドイチェ・ヴェレ」の会長は「ジャーナリストたちはロシアの侵略戦争を報道するために日々、命をかけており、最大級の敬意と感謝に値する。あらゆる安全対策がとられ、ロシア軍の前線から離れているにもかかわらず、戦地にいるわれわれの同僚の仕事は依然として危険なものだ」とコメントしています。
●ロシア国防省「ウクライナ軍のクラスター爆弾使用でロシアメディア記者死亡」 7/23
ロシア国防省はウクライナ南部でウクライナ軍の攻撃によりロシアメディアの記者1人が死亡したと発表しました。クラスター爆弾が使われたと主張しています。
ロシア国防省は22日、ウクライナ軍が南部ザポリージャ州でクラスター爆弾を使って攻撃を行ったと指摘。ロシアメディアの記者4人が負傷し、そのうち国営ロシア通信の記者1人が死亡したと主張しました。
クラスター爆弾は多数の小さな爆弾を広い範囲にまき散らす殺傷力の高い爆弾で、非人道性が指摘されていますが、今月、アメリカがウクライナに供与。その後、使われはじめたことを明らかにしていました。
ロシア上院のコサチョフ副議長は「非戦闘員に対しては使わないというアメリカとウクライナによる保証は完全なウソだと分かった」と非難しています。
ロシアは“ウクライナでのクラスター爆弾の使用は控えている”としていますが、JNNの取材ではロシアが使った痕跡が確認されています。
プーチン大統領はクラスター爆弾について「ウクライナが使った場合、我々も報復措置として使う権利がある」と話していて、今回の事態を受け、ロシア軍による使用がさらに増えるおそれがあります。
●黒海での船舶臨検、ロシア示唆「軍事品運搬していないか調査」… 7/23
ロシアがウクライナ産穀物輸出の合意離脱後に海上封鎖した黒海を巡り、ロシアのセルゲイ・ベルシニン外務次官は21日、黒海沿岸のウクライナの港を利用する船舶について、「必要に応じて軍事物資を運搬していないか調査する」と述べ、臨検などの実施を示唆した。
ロシアはこれまで、ウクライナの港を利用する船舶全てをウクライナの軍事物資運搬とみなし、攻撃の可能性があると警告していた。今回の発言は、即時に無差別攻撃するのではないと沈静化を図ったとみられる。ベルシニン氏は「人道的回廊がなくなり、軍事的衝突の危険性が高まっている」とも語った。
穀物合意の停止で世界的な食料危機が懸念されることについて、ベルシニン氏は「アフリカ諸国に悪影響を与えないよう努力している」と述べた。英紙フィナンシャル・タイムズはロシアがカタールとトルコに協力を要請し、アフリカ向けに露産穀物を輸出する新ルートを計画していると報じた。穀物市場からウクライナを排除し、経済的打撃を与える思惑があるとみられる。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、トルコのタイップ・エルドアン大統領と電話会談し、ウクライナ産穀物輸出の再開を目指す方針で一致した。
ゼレンスキー氏は21日、米国の安全保障に関する会合にオンラインで出席した。米CNNによると、ゼレンスキー氏は、ウクライナ南部のクリミア半島と露本土を結ぶ「クリミア大橋」について、「(露軍の)補給路になっており、正当な軍事目標だ」と述べ、攻撃を示唆した。
●G20エネルギー相会合 共同声明まとまらず 各国で意見対立 7/23
22日にインドで開かれたG20=主要20か国のエネルギー相会合は、化石燃料からの脱却や再生可能エネルギーの導入拡大などをめぐって各国の意見が対立し、去年に続いて共同声明のとりまとめはできませんでした。
インド南部のゴア州で22日に開かれたG20のエネルギー相会合には、日本から西村経済産業大臣が出席しました。
エネルギー安全保障や脱炭素の取り組みを議題に意見が交わされましたが、化石燃料からの脱却や再生可能エネルギーの導入拡大を求めた欧米の先進国と、経済成長が続く中で火力発電に大きく依存する途上国などとの間で 意見に隔たりがあったということです。
また、ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギーや食料への不安が高まっているとして各国が強く非難し、去年に続いて今回の会合でも共同声明のとりまとめはできませんでした。
一方で、議長国のインドは合意した項目を成果文書として公表し、「各国の事情に配慮し、多様な道筋を通じて脱炭素を進めるべき」だとして各国が一致したと明らかにしました。
また、脱炭素に向けた次世代燃料として水素などの活用でも合意しました。
今回の会合では、ウクライナ侵攻以降の欧米とロシアの対立に加えて、脱炭素を急ぐ欧米の先進国と、化石燃料を必要とする途上国などとの立場の違いが浮き彫りとなりました。
西村経産相“残念だが とりまとめに尽力したインドに敬意”
会合のあと、西村経済産業大臣は記者団に対し、「今回の会合で意見がまとまった部分は成果文書として、残りは議長総括とすることで合意が得られた。すべてがまとまらなかったことは残念だが、インドが各国の主張を丁寧に聞きながらとりまとめに尽力したことに敬意を表したい」と述べました。
そのうえで、西村大臣は「会合では、日本が取り組む水素やアンモニアなどイノベーションの重要性、世界全体で脱炭素を進めることの重要性を強調した。エネルギーの安定供給を確保しながら経済成長に取り組む姿勢はかなり各国で共有されたので、世界をリードしていきたい」と述べ、新興国や途上国との連携を進める考えを強調しました。
インド電力相が会見 各国の立場に隔たり
会合の閉幕後、議長国インドのシン電力相が記者会見を開きました。
シン電力相は共同声明をまとめられなかった理由について「化石燃料を廃止するよりも二酸化炭素の回収や貯蔵を選ぶ国があった」と述べ、各国の立場に隔たりがあったことを挙げました。
また、閉幕後に発表された議長総括によりますと、ロシアがウクライナ情勢についてほかの参加国とは異なる立場を表明したほか、中国は「地政学的な問題を議論をする場ではない」と主張したとしていて、ウクライナ侵攻をめぐっても一致した対応がとれなかったとみられます。 
●「ワグネル戦闘員、ポーランドに行きたがっている」…ベラルーシ大統領 7/23
ウクライナ空軍などによると、ロシア軍は23日、穀物の輸出拠点となっているウクライナ南部の港湾都市オデーサをミサイル19発で攻撃し、大聖堂などの歴史的建物が被害を受けた。昨年2月にロシアがウクライナ侵略を開始してから24日で17か月となるが、双方の激しい攻防が続いている。
ウクライナ空軍は、露軍が発射したミサイルのうち9発を撃墜した。オデーサ州知事によると、40以上の建物が被害を受け、1人が死亡、20人以上が負傷した。大聖堂はロシア正教会の傘下にあるが、侵略を機に距離を置いている。
ミサイル攻撃を受けたオデーサの歴史地区は今年1月、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録された。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、SNSで「ロシアのテロに対する報復が必ずある」と警告した。ロシアは黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出合意からの離脱を17日に宣言して以降、連日オデーサを含む南部をミサイルで攻撃している。
一方、ロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミアの露側「首長」は22日、ウクライナ軍がクリミア中部にある露軍の弾薬庫を無人機で攻撃したと発表した。
ロシアのプーチン大統領は23日、露西部サンクトペテルブルクで、ロシアの侵略に協力している隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談した。
露大統領府によると、ルカシェンコ氏は会談冒頭に地図を持ち出し、ポーランド軍がベラルーシとの国境付近に部隊を集結させていると主張した。
その上で、6月24日に露国内で反乱を起こし、ベラルーシが受け入れている露民間軍事会社「ワグネル」戦闘員について、「ポーランドに行きたがっている」と述べた。北大西洋条約機構(NATO)内で対露強硬派のポーランドをけん制した発言とみられる。

 

●NATOとロシア衝突か…プーチン「ポーランド、ベラルーシ侵攻時に対抗する」 7/24
ロシアのプーチン大統領がポーランドを狙って「ベラルーシに対するいかなる攻撃もあらゆる手段を動員して対応する」と警告した。ベラルーシがポーランドから攻撃を受けた場合、ロシアが直接対抗するという意味だ。今回の発言でポーランドとベラルーシ間の緊張がさらに高まり、北大西洋条約機構(NATO)とロシアとの直接衝突に対する懸念が高まっている。このような中、ベラルーシのルカシェンコ大統領は23日(現地時間)、プーチン大統領とロシアで首脳会談を行う予定だ。
ロイター・ブルームバーグ通信などによると、プーチン大統領は21日の定例国家安全保障会議で「ベラルーシはロシア連邦国家の一部だ。ベラルーシに対する侵略はロシアに対する侵略であり、我々が持っているあらゆる手段を動員して対応する」と述べた。
このような発言は、ポーランドとベラルーシ国境で軍事的緊張感が高まっている状況から出た。ポーランドは最近、ベラルーシとベラルーシに駐留しているロシアのワグネル傭兵の侵攻の可能性に備え、国境地域に2つの旅団を配置するなど警戒態勢を強化した。ポーランドとベラルーシの両国はいずれもウクライナと国境を接している。しかしポーランドはNATO加盟国であり、ウクライナ最大の友好国であり、ベラルーシはロシアが戦術核兵器まで配備した親ロ国家だ。
プーチン大統領は、ポーランドがウクライナとベラルーシの領土占領を狙っていると主張した。また「ポーランドがリトアニア、ウクライナと連合部隊を創設するという報道があった」とし「彼らはウクライナ西部の安保保障が目標だというが、実際は該当領土の後続占領のためのもの」と主張した。「ポーランドはベラルーシの土地を夢見ている」とも語った。
プーチン大統領は「ポーランドは、自国の西部領土の一部がヨシフ・スターリン(世界第2次大戦当時、旧ソ連指導者)からの贈り物であることを忘れている」と述べ、ポーランドの反発を買った。ポーランドはロシア大使を招待して抗議した後、「虚構的な歴史主張」と批判した。
ポーランドとロシア・ベラルーシ間の緊張が高まるにつれ、NATOとロシア間の直接衝突の可能性が高くなったのではないかという懸念も出ている。
CNNによると、ポーランドは東部国境にさらに多くの兵力投入を予告した。ベラルーシ軍とワグネル傭兵がポーランド国境近くで合同練習を行い、脅威が大きくなったという判断からだ。ウクライナ政府は22日、「現在、ベラルーシにワグネルの傭兵が5000人ほど配置されている可能性がある」と伝えた。これに先立って、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は21日、「ドイツとNATOは東部国境を防御するため、ポーランドを支援する準備ができている」と明らかにした。
ロシアのワグネル傭兵は先月24日、首長エフゲニー・プリゴジン氏の主導で武装反乱を起こし、1日後に撤退した後、ベラルーシに根拠地を移した。
ロシア大統領府は23日、「ルカシェンコ大統領がプーチン大統領と首脳会談を行い、両国の戦略的パートナーシップ発展について話し合う」と述べた。ロイター通信は「プーチンがルカシェンコ大統領にウクライナ戦争に参戦するように圧力をかける可能性がある」と見通した。
このような中、米国情報当局が「戦術核をベラルーシに配備した」というプーチン大統領の主張を事実と判断しているという外信報道が出た。CNNによると、21日、米国防総省傘下の国防情報局(DIA)高官らはプーチン大統領のこのような主張に対して「疑う理由はない」と述べた。
プーチン大統領は先月、「ロシアの核弾頭がベラルーシ領土に配備された」と明らかにしている。ただ、米高官はこのように判断する根拠は公開しなかったとメディアは伝えた。
●プーチン氏、ウクライナの反攻「失敗」 ベラルーシ大統領と会談 7/24
ロシアのプーチン大統領は23日、サンクトペテルブルクでベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、ウクライナの反攻は失敗したとの認識を示した。
ロシアの通信社によると、「反攻はない」とルカシェンコ氏が発言したのに対し、「それは存在するが、失敗している」と答えた。
プーチン氏は、24日にもルカシェンコ氏と会談し、安全保障などの問題について「詳細かつ深く」話し合うと述べた。
ウクライナは先月、反攻を開始したが、自国領土の6分の1以上を支配するロシア軍に対し、今のところ小規模な奪還にとどまっている。
ルカシェンコ氏とつながりのあるテレグラムチャンネルによると、同氏はおどけた様子で、現在ベラルーシ軍を訓練しているロシア民間軍事会社ワグネルの戦闘員が国境を越えて北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドに入ることを望んでいると明らかにした。
同氏は「『ワルシャワと(ポーランドの都市)ジェシュフに旅行に行こう』という感じでワグネルの連中は西に行きたがっている」と語ったという。
●プーチンを支持、ウクライナを叩き潰せ。メディアが報じない“もう一つの真実” 7/24
ウクライナとNATOを引き離す。成功したプーチンの画策
「私たちはフェイクワールドにどっぷり浸かって生活している」
これはモスクワにいる友人がつぶやく言葉です。
「しかし、ウクライナとの戦争に勝つかどうかは実はあまり関心がなく、ロシア国民一般の最大の関心は日々の生活を維持できることであり、プーチン大統領の統治がしばらく続く見込みであることから、今は彼を信じてついていくしかない」と続けていました。
多方面からの情報でもロシア国内でも厭戦機運は高まっているのは確かなようですが、予てより根強くある「ロシアはいつも欧米から虐められ、蔑まれている。だれもロシアのことを理解しようとしない」という感情も健在どころか、日に日に強まっているようで、その観点からプーチン大統領とロシア政府・軍が進めるウクライナ侵攻を後押しするという構図になっています。
「ロシアは冬の時代を経験し、苦難を耐え抜くことに慣れている。今回の戦争も長期化するだろうが、ロシアは耐え抜く」とすでにロシア国内でもウクライナ戦争の長期化を覚悟しているようです。
その背景には、先ほど触れた“感情”も強くありますが、2014年以降、ウクライナがウクライナ東南部のロシア系(ロシア正教会教徒)への執拗な攻撃と迫害をしてきたことにも怒っており、その迫害されるロシア人を守るために立ち上がったプーチン大統領の方針を支持し、ウクライナを“ロシア化”するか、叩き潰すことが必要と答える市民が多いこともあります。
なかなかショッキングな感情と発言であり、メディアでは報じられないもう一つの“真実”と言えます。
また、聞いてみるとモスクワにいるロシア人(モスクワ市民)にとっての“ウクライナ”はシンパシーを感じる対象ではあるようですが、ウクライナはウクライナ東部のドンバス地方と、対立こそしても同じ正教系が多く住む中部(キーウ含む)であり、ポーランド系でカトリックエリアと称されるEuro-Ukraine、つまりウクライナ西部へのシンパシーはほとんどないという答えが多く返ってきます。
ゼレンスキー大統領はそのEuro-Ukraine出身であり、就任当初は“話し合いによる東部問題の解決”を掲げていたにもかかわらず、国内のナショナリスト勢力に押され、ウクライナ東部のロシア系コミュニティへの攻撃を容認したと見られています。
これについては、ゼレンスキー大統領の言い分も聞いてみないといけないと考えますが、私たちがよく耳にするOne-sided gameというわけではなさそうです。
その感情の存在が、ウクライナ東部戦線における反転攻勢の膠着化につながっており、ゼレンスキー大統領が掲げる「2014年以降ロシアに占拠された領土をすべて取り返す」という目的を実現困難にしているようです。
NATO諸国はウクライナの反転攻勢を支え、大規模な軍事支援もウクライナ軍に提供していますが、それと並行して、ウクライナに対して一時停戦を促し、時間を稼ぐことを勧めているようです。
それがNATO首脳会談での“ウクライナ加盟問題に対する条件”に「戦争状態にないこと」が掲げられた背景と思われます。
ウクライナ産穀物輸出協定の停止を突き付けたプーチンの思惑
その“意図”はプーチン大統領にとっては明白で、それが18日に一方的に停止を突き付けた「黒海におけるウクライナ産穀物の輸出協力」につながっているようです。
表面的には「ロシアのSWIFTへの復帰」を協定の復活の条件に挙げていますが、それと並行して、ウクライナ経済の首を絞めることで、暗に停戦に向けた呼びかけをしているとも受け取れます。
しかし、現時点での停戦を行う場合、most likelyなケースでは、【クリミア半島のロシアによる実効支配は揺るがず、一方的にロシアが編入したウクライナ東南部4州の帰属もロシアになることを受け入れ、ウクライナは中部と西部を確保して、領土的一体性を保つという選択肢】になってしまうというのが、調停グループの見解です。
これはゼレンスキー大統領にとっては、自身の存在と立場を保持するためには、受け入れることができない(受け入れることが許されない)状況となりますが、実際にNATOとの確執が起きるきっかけにもなっていることから、進むも地獄、退くも地獄という非常に難しい状況にあると理解できます。
ゆえにゼレンスキー大統領にとっては、苦難を予想し、実際にロシア側の倍以上の犠牲を出している現状下においても、東部の奪還(そしてさらに困難なクリミア半島の奪還)に邁進し、少しでも領土を取り戻したという状況作りが必要となりますが、それゆえに戦況の痛々しいまでの泥沼化につながっています。
そこに舞い込んできたのがロシアによる穀物輸送の安全確保に関する協定の一方的な停止だったのですが、この決定への報復なのか、元々計画されていたのかは分かりませんが、ウクライナ軍はクリミア大橋に対するドローン攻撃を加え、(ロシアの発表によると)通行中のロシア人夫婦2人を殺害しました。
クリミア半島そして大橋への攻撃は、2014年の勝利、そして自身の支持率を一気に高め、リーダーとしての威厳のシンボルへの攻撃とみなすため、プーチン大統領は同日そして19日に報復措置としてオデーサの港・港湾施設への精密誘導ミサイルによるピンポイント攻撃を行いました。
オデーサの港は、ウクライナ最大の港で、先述の穀物輸出の窓口でしたので、今回の爆撃で実質的に使用不可になったわけですが、元々一方的に協定の停止を宣言したのにはどのような狙いがあったのでしょうか?
ちなみに、世界第5位の穀物輸出国であるウクライナからの安価な穀物の共有が停止し、それが長期化する場合、世界的な食糧危機へとつながる恐れが予測されますが、確実に非難を拡大することになる手段を取ってまで叶えたい目的は何なのでしょうか?
表向きは欧米による対ロ金融制裁の解除、特にSWIFTへの再接続を条件に掲げていますが、本当の目的がほかにあるのではないかと思われます。
SWIFTに接続していないことで支払いが滞るという実務的な問題は起きていますが、外貨のアクセスと決済については、中国とインド、中東諸国と接続していることで、それなりに賄うことが出来ていると言われていますので、本当にそれが目的だったのかは謎です。
今回の協定の停止により、表出する効果は【ウクライナの国民生活の締め付け】がありますが、それに加えて、反ロシア包囲網(欧米とその仲間たち)に対する圧力の増幅もあるのではないかと思います。2022年2月のウクライナ侵攻以降、ロシアに課した経済制裁が今、じわじわと欧州経済と家庭生活に大きな痛手を与えています。欧州で止まらないインフレ、特に小麦などの穀物価格の高騰などがそれですが、欧州国内からの突き上げを誘発する起爆剤との見方ができます。
プーチンが摘むことに成功したNATOによる対ロ直接攻撃の芽
もう一つはグローバルサウスの国々を欧米諸国からさらに引き離すための工作という見方です。
今回の一方的な協定の停止と並行してロシア産の穀物を無償でアフリカ諸国などに供する枠組みを提唱するようですが、これによりアフリカやラテンアメリカ諸国、そして中東諸国、そして東南アジア諸国の取り込みを図ろうとしていると思われます。
「ウクライナによる協定下での輸出は、ほとんどが欧州各国に向けられており、本当に必要とする国々には到達していない。欧州各国によるまやかしの善意だ」と非難して、対欧米批判を引き起こし、ロシアシンパを増やす作戦です。
これには中国とインド、南アとの協力が存在していて、各国の国民生活を盾にpolitical gameが行われているという、なんとも恐ろしい現状を垣間見ることが出来ますが、ウクライナ国民への締め付けと欧州市民への圧力を加えることで、対ロ制裁の結束を綻ばせ、欧米諸国による対ウクライナ支援にもムラを持たせようとしているように見えてきます。
そしてこれはNATO諸国における対ウクライナ支援疲れに繋がっていきます。
先のNATO首脳会議では「ウクライナに対する支援の継続」が合意されていますが、NATO諸国、特に今年秋口から来年の大統領選挙に向けた動きが本格化するアメリカは、何とか秋口までに一旦停戦させることを念頭に置いて合意したようですが、同時にNATO諸国は、この戦争に決着がつく形での停戦が実現するというシナリオは現時点で非現実的であることも分かっているため、ウクライナに選択を委ねるため、NATO加盟問題の議論を始めるタイミングと停戦状態をセットにしたようです。
ただプーチン大統領が予想していたであろう形で、ゼレンスキー大統領とその周辺は「馬鹿げた話」と一蹴していますので、NATO側としては“寄り添う”形は維持しつつも、「結局はウクライナの戦争であり、NATOの戦争ではない」との一線を保つチョイスをしたと言えます。
これで目論見通り、NATOとウクライナの切り離し、つまりNATOによる対ロ直接攻撃の芽は、現時点で摘むことが出来、ロシアは対ウクライナ戦争とBeyondに集中できることになります。
ここで効いてくるのが、6月末の乱以降、動静も思惑もつかめないプリコジン氏とワグネルの存在です。
プリゴジンは今、どこで何を
今週に入り、プーチン大統領がワグネルの“新しい”指揮官について言及し、プリゴジン外しを演出していますが、ワグネルは解体されておらず、ロシアにとって特殊部隊的な役割を果たすという見込みが出てきています。
プリコジン氏は「ベラルーシをとっくに離れ、サンクトペテルブルクに戻ったという説」と「ロシアとベラルーシを行き来できている」という説が混在しますが、20日にSNS上に投稿された動画では、プリコジン氏らしき人物がワグネルに対して薫陶し、「ワグネルはベラルーシ軍を世界第2位の軍隊にする」と宣言をしているところを見ると、恐らく彼はベラルーシとロシアを行き来できる“自由”を獲得していると見ることが出来ます。
そして乱の後も、実際にはワグネルはまだ死んではいません。20日の英国情報機関の分析では、乱直後に用意されたベラルーシ国内の8,000人収容可能な施設とは別に、ワグネル用の軍事基地が建設・設備されているようで、ワグネルの主力2万5,000人から3万人の勢力がベラルーシを拠点とする準備が進められていることが分かります。
プーチンの料理人としての立ち位置を維持するプリゴジン
乱の後、プリコジン氏の力が削がれているという情報もあるのですが、プリコジン氏とワグネルを切り離してみておく必要があります。
プリコジン氏はワグネルの創始者でありますが、作戦の指揮を握る現場の指揮官であったことはありませんし、彼は、ワグネルを傘下に収めるコンコルド社の社長であり、給食サービス、金融、メディアなどを同じく傘下に収めているオリガルヒです。乱の後、メディアの放送権が取り消されたとか、軍への給食の配給の契約が取り消されたといった情報が錯綜していますが、実際には表舞台に出ることを控えているだけであり、失脚はしておらず、今も“プーチンの料理人”としての立ち位置を維持しているようです。
裏切りは決して許さないプーチン大統領ですが、プリコジン氏が率いるワグネルは、経済的な権益を保持したまま、アフリカ諸国における軍事的なプレゼンスを維持して影響力を行使しつつ、アフリカ諸国における政権維持のために用意されてきたワグネルの勢力のうち、余剰勢力をベラルーシに集めて、対ウクライナ戦線に追加投入する計画であることが見えてきました。
つまりプーチン大統領もその手足として工作活動を行うプリコジン氏とワグネルも勢力を温存したまま、利権を維持し、政治的な工作も行って親ロシア派の“輪”を拡げています。その威力は今、国連やG20などで発揮されており、かつローバルサウスの国々との距離を縮めることで、中国との適度なパートナシップの下、発言力を強化しています。
非欧米諸国を欧米諸国から遠ざけ、中国と築いてきた国家資本主義陣営を拡大して、多様な政治形態を飲み込んだ緩やかだが大きな協力体制を築き上げ、欧米型の統治形態と対峙する勢力を育て上げるという目標は、皮肉にも、叶えられつつあります。
もちろん非欧米諸国もロシアが武力によって現状を変えようとしていることに対しては非難していますが、多くが「それよりもこれまでアメリカや欧州各国が途上国に対して行ってきた過去の悪行に比べるとましだし、何よりも上から目線で他国の国内情勢に口出しし、土足で踏み込んでこない」という見解で一致しており、積極的にではないにせよ、ロシアに対するシンパシーと、ロシアに対する一方的な制裁措置の発動への反感で、非欧米諸国グループの連携が強まってきているように見えます。
ただ、プーチン大統領とロシア政府中枢が気にしているのが、中国への過度な依存と、勢力圏での中国の発言力の拡大です。今回のウクライナ戦争におけるロシアへのサポートには心から感謝しつつも、中国側に大きく傾いてしまったパワーバランスを何とか均衡に戻したいとする意図が見え隠れします。
その戦略をいかに実行するのかは分かりませんが、ロシアがターゲットになっている現在から、近未来的に中国がターゲットにされるまでの間は、Frenemy(Friend-Enemy)的なパートナシップを保ち、新しい勢力圏を共に築き上げ、欧米諸国とその仲間たちからの攻撃に協力して備えるという関係は続くと考えられるので、しばらくは中ロ間の直接的な衝突は起こりえないと思われます。
現実的にはあり得ないウクライナのNATOへの加盟
ウクライナの反転攻勢開始から1か月。NATO各国やウクライナが期待したような成果は得られていません。実際には目立った成果はなく、最近、アメリカのWar Instituteや英国の王立研究所などが出した分析では、現時点までのNATOによる支援内容が続いても、このままではウクライナは大きな成果は得られないと考えられるという内容です。
では大きな成果を実現するために、NATOは対ウクライナ支援を拡大し、アップグレードするかと言えば、恐らくNOでしょう。
今後、オランダやポーランドなどの協力を得てF16の飛行・操縦訓練が急ピッチで進められることになっていますが、戦局を有利に進めるレベルまでの熟練度に達するには半年から2年かかると言われており、正直、あまり大きな期待は持てません。
ただ、準備が出来たものから試験的に投入し、ロシア空軍が誇るSu57やSu75をおびき出すことには貢献できるかもしれませんが、決定的な制空権の確保には至らないものと考えられます。
そうすると、ゼレンスキー大統領が掲げる「クリミア半島を含むウクライナ領をすべて取り戻す」という目標を叶えるためには、今後、NATOによる支援が強化され、かつ勝利の日まで支援が続き、拡大されることがベースになったとしても、かなりの時間を要するか、ミッションインポッシブルと思われ、結果、ウクライナの戦意喪失という結果になるか、NATOの支援疲れの加速による脱落という結果が濃厚になります。
先のNATO首脳会議でも示されたように、停戦がウクライナのNATO加盟審査の大前提になるが、領土奪還目標にこだわると、停戦はしばらく望めず、その分NATO加盟の可能性も遠のくというジレンマに陥ることを意味します。そこから導き出せる結論は、つまり、現実的にウクライナのNATO加盟はないということになります。
ちなみに、そもそも欧州加盟国はウクライナを欧州とは見ていないし、NATOの精神をシェアしているとも見ておらず、それはロシアに侵攻された今も変わっていません。ゆえにEUへの加盟の方がハードルが低いとする専門家もいますが、それは“ウクライナの西部(ポーランド国境近くで、ポーランド系がマジョリティのカトリックエリア)のみ”を指すという意見もあり、Ukraine as a whole(ロシア色が強く、ロシア正教系の影響圏の東部や、キーウを含むウクライナ正教の影響圏も含む)では話が違うと考えられるため、ウクライナという国家の一体性を前面に押し出しての加盟申請であれば、トルコのケースのように、蛇の生殺しのようにnever ending processに陥ることになるでしょう。
ロシアからの圧力と恐怖に対峙し、ウクライナ国家を取り戻すために考えうるいろいろな可能性の門が順々に閉じていく中、いつまでウクライナ国内でゼレンスキー大統領の方針が支持され続けるかは不透明です。2014年以降高まるウクライナ国内のナショナリスト勢力の影響も無視できないですし、親ロシア派もまだ根強く存在していますし、そしてウクライナの3分割を主張する勢力も支持を伸ばしてきています。
このような非常にデリケートな力のバランスの上に成り立っているゼレンスキー政権に見切りをつける動きが出てきたとき、ウクライナは分裂または消滅の危機に瀕することになるかもしれません。
そうなると、昨年2月24日のウクライナ侵攻当初にプーチン大統領が主張していた“特別軍事作戦”が掲げた目的──ゼレンスキー大統領の追放と親ロシア派の政権の確立が、実現されるようなことになるかもしれません。
そして詳しくは書きませんが、プーチン大統領とその周辺の表現では、今回のウクライナ侵攻は今でも“特別軍事作戦”のままであり、これが“戦争”に名称変更された場合、そのロシアの刃はウクライナに留まらず、周辺国にも広がっていくことになる恐れがあります。
それをNATOとその仲間たちはどこまで本気に防ぐ気があるのか。
今一度、この問いを投げかけておきたいと思います。
●ウクライナ軍の反転攻勢 米国務長官「今後 数か月続く」 7/24
アメリカのブリンケン国務長官は、ウクライナ軍がこれまでにロシアによって奪われた領土のおよそ50%を取り戻したものの、さらなる奪還に向けて厳しい戦いに直面しているとして、反転攻勢が今後数か月続くという見通しを示しました。
ブリンケン国務長官は23日に放送されたCNNテレビのインタビューで、ロシアによるウクライナ侵攻について「プーチン大統領はウクライナの独立と主権をなくし、ロシアに取り込もうとしたが失敗した。ウクライナはこれまでにロシアに奪われた領土のおよそ50%を取り戻している」と述べました。
その一方でウクライナ軍による領土の奪還に向けた反転攻勢について「ロシア軍は強力な防衛線を築いており、ウクライナ軍はいま非常に厳しい戦いに直面している。1週間や2週間ではなく、数か月はかかるだろう」と述べて、反転攻勢が今後数か月続くという見通しを示しました。
またブリンケン長官はウクライナが供与を求めているF16戦闘機について「ウクライナが戦闘機を手に入れると信じており、彼らが機体を維持管理し的確に使えるようになることが重要だ」と述べて、各国とともにパイロットの訓練などを進める考えを示しました。
●ウクライナ、ロシアによる占領地域の半分を既に奪回=米国務長官 7/24
ブリンケン米国務長官は23日、CNNテレビのインタビューで、ウクライナが「当初(ロシアに)占領された地域の約50%を既に取り戻した」と語った。
ただブリンケン氏は「まだ反転攻勢は序盤の段階にある」と指摘。残る地域の奪回に向けては、ウクライナは「非常に激しい戦い」に直面しており、すぐに成果が得られることはないだろうとの見通しを示した。
ウクライナはこれまでに南部の幾つかの村と、東部ドネツク州バフムトの周辺地域を取り戻しているが、ロシアの強力な防衛線の大規模な突破は果たしていない。ゼレンスキー大統領は先月、反転攻勢の進展スピードが期待よりも遅いと述べた。
ブリンケン氏は、ウクライナが米国製のF16戦闘機を入手することになるかとの質問に、そうなると信じていると回答。「大事なのは彼らへ実際に届けられた際に、適切な訓練や保守管理を行い、うまく使いこなせるようになることだ」と強調した。
欧州などの11カ国は8月にデンマークで、ウクライナのパイロットに対するF16の操縦訓練を開始する予定で、ルーマニアにも訓練センターが設けられる。  
●ロシア軍の攻撃で世界遺産に被害 ユネスコが非難「戦争犯罪に当たる」 7/24
ロシア軍による攻撃でウクライナ南部オデーサにある世界遺産が被害を受け、ユネスコが「戦争犯罪に当たる」と非難しました。
ウクライナ当局によりますと、23日、南部オデーサへのロシア軍のミサイル攻撃で2人が死亡したほか、世界文化遺産に登録された歴史地区にある大聖堂の一部が破壊されました。
これに対し、ユネスコ(=国連教育科学文化機関)は「歴史的建築物へのロシア軍の度重なる攻撃は非常に遺憾で最も強い言葉で非難する」と声明を発表しました。また、「意図的な文化遺産の破壊は戦争犯罪に当たる可能性がある」と指摘し、数日中に調査員を派遣して被害状況を調べるということです。
一方、ロシア国防省は「ウクライナの防空システムのミサイルが落ちた」と主張しています。
●ウクライナのドローン、クリミアの弾薬庫に攻撃=ロシア側当局者 7/24
クリミア半島のジャンコイで24日未明、ウクライナのドローン(無人機)が弾薬庫を攻撃した。ロシア側当局者が明らかにしたもので、ロシア防空部隊はこの地域上空で11機の無人機を迎撃・制圧したという。
住宅も被害を受けたとしている。弾薬庫がドローンによって直接攻撃されたのか、ドローンの破片が落下して損傷したのかは今のところ不明だ。
ロシア側当局者によると、「安全上の理由から」同地域の鉄道と道路の交通網は停止している。
ロシアはジャンコイ付近に空軍基地を置いている。ウクライナは以前から、この都市と周辺地域がクリミアにおけるロシア最大の軍事基地になっていると訴えている。
ロイターはこの攻撃情報を独自に確認することはできなかった。ウクライナ側からコメントは出ていない。
●ロシア中銀、戦争中にも拘らずインフレを警戒して大幅利上げを決断 7/24
要旨
ロシア経済は同国のウクライナ侵攻を受けた欧米などの制裁強化により深刻な景気悪化に直面した。その後は中国などが制裁の「抜け穴」となるなかで景気は底入れしているが、実質GDPが侵攻前の水準に回復するにはまだ1年近く掛かると見込まれる。一方、昨年大きく上振れしたインフレ率はその反動により低下しているが、インフレ鈍化や政府のバラ撒き政策が内需を下支えする一方、労働力不足やルーブル安がインフレ圧力を招く動きが顕在化している。こうしたなか、中銀は21日の定例会合で利上げ実施を決定し、戦争中にも拘らず金融引き締めに舵を切るとともに、追加利上げに含みを持たせるなどタカ派姿勢を示した。テクノクラートが機能していることは同国経済にとって唯一の救いである一方、ウクライナ情勢は見通しが立たない状況が続いており、事態が一段と長期化する可能性を念頭に置く必要性は高まっている。

ロシア経済を巡っては、同国によるウクライナ侵攻を理由に欧米などが経済制裁に動くとともに、その後も事態悪化を受けて制裁が強化されたことで深刻な悪影響が出ると予想された。事実、ロシアの一部銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除するとともに、欧米などの経済制裁強化を受けて主要国との貿易取引が縮小したほか、外資系企業が相次いで同国事業から撤退したことなども重なり、直後の同国景気は大幅なマイナス成長に陥った。さらに、通貨ルーブル相場を巡る混乱や経済制裁に伴う物資不足も重なりインフレ率が大きく上振れするなど、幅広く国民生活に悪影響が出る事態に発展した。しかし、その後は軍事費増大や様々なバラ撒き政策の動きが景気を下支えするとともに、欧米などの経済制裁強化にも拘らず世界的なエネルギー需要の堅調さを追い風に輸出は底堅く推移する一方、輸入の減少が景気下振れを喰い止めることに繋がった(注1)。また、中国やインドをはじめとする新興国がロシア産原油の輸入を拡大させたことで輸出が下支えされる一方、中国やトルコ、中央アジア、モルディブなどからの迂回輸入や並行輸入を拡大させるなど経済制裁の『抜け穴』となる動きも顕在化している。結果、昨年半ば以降は緩やかながらプラス成長で推移するなど、ウクライナ情勢の悪化を理由に大きく下振れした景気は一転底入れしており、こうした状況を勘案すれば景気を巡る最悪期は過ぎつつあると捉えることが出来る。ただし、足下の景気底入れの動きは緩慢なものに留まっており、先行きもこのペースでの景気底入れの動きが続いたと仮定した場合、実質GDPがウクライナ侵攻前の水準を回復するのは来年4-6月と試算される。よって、同国経済は欧米などの経済制裁強化にも拘らず、当初想定されたほどに下振れしなかったものの、その影響は長期に及んでいると捉えられる。他方、昨年上旬はルーブル相場の急落による輸入インフレに加え、商品市況の高騰を受けた生活必需品を中心とする物価上昇、欧米などからの輸入減少に伴う物資不足なども重なりインフレ率は一時20%近くまで加速したものの、その後は一転して頭打ちの動きを強めている。足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標(4%)を下回る推移が続いており、この動きだけをみればインフレは鎮静化していると捉えられる。しかし、この動きは昨年大きく加速した反動に拠るところが大きい。事実、足下では食料品やエネルギーなどの物価は落ち着きを取り戻す一方、戦争状態が長期化するなかで国民の間に膨らむ不満を抑えるべく政府は様々な給付金を実施するバラ撒き政策に動いたことに加え、インフレ鈍化に伴う実質購買力の押し上げの動きが家計消費を活発化させている。さらに、労働力不足の深刻化を受けて賃金上昇を通じたインフレ圧力に繋がる兆候も強まっている。そして、中国との経済関係が深化する背後で通貨ルーブル相場は人民元との連動性を高めているほか、そのことがルーブル安を通じた輸入インフレを招くなど新たな懸念要因となる動きもみられる(注2)。よって、中銀はインフレ鈍化にも拘らず慎重な政策運営を維持する姿勢をみせてきたなか、21日に開催した定例会合では主要政策金利を100bp引き上げて8.50%とする決定を行うなど、戦争中にも拘らず1年強ぶりとなる金融引き締めに動いた。会合後に公表した声明文では、足下の状況について「需要拡大の動きが労働力の制約などに伴う生産能力を上回っている」とした上で、「ルーブル安もインフレ促進リスクを著しく増幅させている」との認識を示している。また、年末時点におけるインフレ見通しを上方修正するとともに、次回会合における追加利上げの可能性を残しているとの説明を行うなど、タカ派姿勢を強めている様子がうかがえる。同国の財政運営を巡っては、軍事費増大が圧迫要因となるなかでソブリン・ウェルス・ファンドである国民福祉基金を取り崩して対応するなどの対応みられるが、金融政策についても慎重な対応が続いている様子がうかがえる。その意味では、テクノクラートがきちんと機能していることが同国経済にとっての唯一の救いと捉えることが出来る一方、ウクライナ情勢を巡っては依然見通しの立たない状況にある上、黒海の穀物回廊を巡る動きもきな臭さを増すなかで事態が一段と長期化することを念頭に、対応策を考える必要性は高いと判断出来る。

注1 2月24日付レポート「ロシア経済が当初の想定に比べて下振れしなかったのは何故か?」 / 注2 4月21日付レポート「ロシア経済は中国との結び付きを強めるなかで新たな問題も顕在化」
●「ロシアから100万人流出」 ウクライナ侵攻以降、革命以来の規模 7/24
フランスのシンクタンク「国際関係研究所」(IFRI)が、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ロシアから国外に移住した人の数が100万人に上るとの報告書を発表した。1917年のロシア革命後に起きた人口流出に匹敵する規模だと指摘。教育水準が高い中間層が多いといい、欧州各国は移住者を受け入れ、経済成長に生かすべきだと提言している。
報告書は、ロシア人経済学者のウラジスラフ・イノゼムツェフ氏がロシア政府の統計や民間調査機関のデータなどを基に作成した。
報告書によると、移住者の86%がロシアの平均年齢(45歳)以下の若い世代で、うち80%が高等教育を受けていた(ロシア全体の平均は27%)。移住者の大半は人口50万人以上の都市部出身で、所得水準も高く、外国語を話し、平均的なロシア人よりも異文化に寛容でデジタル文化への理解が深いなどの特徴があるという。こうした人たちの移住により、侵攻前の21年末時点でロシアの銀行に預けられていた個人貯蓄の11・5%に当たる約4兆ルーブル(約6兆2200億円)が国外に移転したと分析している。
また、移住の影響として、中間層を対象としていた都市部のレストランやホテルなどのサービス業が打撃を受けていると指摘。IT産業では10万人以上のエンジニアが国外に流出したと推定した。戦争の影響や、国の将来が見通せないことから、ロシアの出生率は93年以降の最低水準に低下しており、移住者が帰国しない限り、さらなる人口減少を招き、ロシア経済の構造的リスクになるとした。
一方、移住者の半数以上が、ロシア語が通じやすく、比較的物価の安い旧ソ連のジョージア、カザフスタン、アルメニア、キルギスの4カ国に滞在していると分析。トルコ、イスラエル、セルビア、モンテネグロを加えると移住者の8割を超えると推定している。ただ、これらの国々では安定した長期的な働き先を確保しにくいため、今後、欧州への移住希望者が増えると予測する。
欧州連合(EU)は22年9月以降、ロシア人のビザ取得を厳格化している。報告書は、今後40万〜50万人規模になるとみられる欧州への移住希望者に居住や就労、起業を認めることで、EUへの年間の資金流入額が数年間のうちに300億ドル(約4兆2460億円)に達する可能性があると指摘。欧州への移住者が将来、ロシアの社会変革の担い手になる見通しもあるとして、EUは移住者の受け入れを拡大すべきだと提言している。

 

●ロシア、国連提案に沿って黒海穀物合意に復帰を=グテレス氏 7/25
国連のグテレス事務総長は24日、グテレス氏がプーチン大統領に提案した内容に沿って、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)に復帰するようロシアに求めた。
ローマで開催された国連食料システムサミットで「黒海イニシアティブの停止により、最も脆弱な人々が最も高い代償を払うことになる」と指摘。「食料価格が上昇すれば、誰もがその代償を払うことになる」と述べた。
グテレス氏は今月11日、制裁対象のロシア農業銀行が子会社を創設して国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網に接続できるようにすることと引き換えに黒海イニシアティブを延長するよう提案していた。
●穀物輸出協定、輸送の確保に「失敗」 プーチン氏 7/25
ロシアのプーチン大統領は、世界的な食料価格の安定と発展途上国の救済を目的とした黒海からの穀物輸出に関する協定からロシアが離脱したことについて、穀物の輸送が「失敗」したためだと述べた。
穀物輸出に関する協定は1年前に締結された。ウクライナは協定によって、ロシアによる黒海の港湾封鎖を回避し、トルコのボスポラス海峡までの安全な航路を通じて、世界市場に穀物を輸出できるようになった。
船舶はウクライナに到着する前に、ロシアとウクライナ、トルコの当局者による検査を受け、武器をウクライナに密輸していないことが確認された。
ロシアは協定からの離脱後、ウクライナの重要な穀物輸出の港湾都市であるオデーサを継続的に攻撃している。
週内に開催されるロシア・アフリカ首脳会議に先立ちクレムリン(ロシア大統領府)のウェブサイトで公開された論説の中で、プーチン氏は、ロシアがウクライナ産穀物の不足分を補えると主張した。
プーチン氏は「今年もまた記録的な収穫が予想されていることから、ロシアが商業上でも無償でも、ウクライナ産穀物の代替となり得るということを保証したい」と述べた。
プーチン氏は「制裁にもかかわらず、ロシアはアフリカに穀物や食料品、肥料などを精力的に供給し続ける」と述べた。
プーチン氏は、穀物輸出の協定について、米国や欧州の大企業を豊かにするために使われたと主張。必要としている国々に対して肥料を供給しようとするロシアの取り組みに障壁が築かれたとし、こうした取り組みについては、いかなる制裁も免除されるべきだと述べた。
プーチン氏は「これらのすべての事実を考慮すると、本来の人道的な目的を果たせていないことから、『穀物協定』を継続することに、もはや何の意味もない」と結論付けた。
欧州委員会によれば、世界の小麦市場に占めるウクライナの割合は10%。トウモロコシ市場では15%、大麦市場では13%を占める。
国連によれば、ロシアの離脱前には、ウクライナの港から協定を通じて約3300万トンの食糧が輸出されていた。
●中国 王毅政治局委員とプーチン大統領最側近が会談 結束を確認 7/25
中国で外交を統括する王毅政治局委員とロシアのプーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記が国際会議が開かれている南アフリカで会談し、両国の結束を改めて確認しました。
中国で外交を統括する王毅政治局委員とロシアのパトルシェフ安全保障会議書記はBRICS=新興5か国の会議が開かれている南アフリカのヨハネスブルクで24日、会談しました。
中国外務省によりますと、この中で王氏は「中国はロシアと戦略的な意思疎通をさらに強化したい」と強調しました。
そのうえで「中国はロシアなどのBRICS諸国と緊密に協力し多くの発展途上国の共通の利益を守ることを望む」と述べ、欧米に対抗し、多極化した国際秩序の構築を目指す考えを示しました。
これに対し、パトルシェフ氏はウクライナ情勢や米中対立を念頭に「ロシアと中国は地域と国際情勢に緊張をもたらす冷戦思考に反対する」と述べたということです。
中ロ両国としては、結束を改めて確認するとともに、BRICSの枠組みを重視する姿勢を示すことでアメリカをけん制するねらいがあるとみられます。
●油価回復で潤うはずのロシア財政、実際は赤字拡大で苦境に 7/25
プロローグ/ロシア経済は 「油上の楼閣」
ロシア経済は「油上の楼閣」です。油価が上がると「油上の楼閣経済」は強固となり、油価が下がると弱体化します。
ただし、ここで一つ注意が必要です。この場合の油価とは、ロシア産原油の主要油種「ウラル原油」(中質・サワー原油)のことです。
このウラル原油の油価はロシア国家予算案を策定する上で、重要な指標になっています。ロシア国家予算案想定油価とはこのウラル原油の油価であり、他の油種ではありません。
この点を理解していない日系マスコミ報道が多々ありますので、要注意と言えましょう。
ご参考までに、「ウラル原油」とは何かと申せば、シベリア産高品質原油(軽質・スウィート原油)と南部ヴォルガ川沿線地域の重質油(重質・サワー原油)のブレンド原油です。
軽質油と重質油をブレンドする結果、ロシア産原油の代表油種「ウラル原油」は中質・サワー原油になります。
詳細は省きますが、重質・中質・軽質とはAPI(米国石油協会)で定められた比重、「サワー(酸っぱい)原油」は硫黄分1%以上含む原油、「スウィート(甘い)原油」は硫黄分0.5%以下の原油を指します。
なお、硫黄分1%以下の原油を総称して「低硫黄原油」と呼ぶ場合もあります。
欧米の対露経済制裁措置強化により、ロシア産原油の油価は昨年12月5日に上限バレル$60に設定されました。
ただし、この$60は海上輸送によるFOB(Free on Board=本船渡し)油価であり、パイプライン(PL)輸送により輸出されているロシア産原油は適用外です。
欧米による対露経済制裁措置に関しては、テレビなどでよく「欧米による対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している評論家もいますが、とんでもない間違いです。
欧米による対露経済制裁措置により、ロシアの代表的油種「ウラル原油」は既存の輸出市場を喪失。
その結果、ウラル原油はバナナの叩き売り原油となり、ロシア経済に大きな打撃を与えています(後述)。
北海ブレント(軽質・スウィート原油)とウラル原油の本来の値差はバレル$2〜3程度です。
これは品質差に基づく正常な値差ですが、昨年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻開始後、一時期は最大バレル$40以上の値差になりました。
ウラル原油の油価は現在回復基調にあり、バレル$60前後の油価水準まで戻り、北海ブレントとの値差は$20程度まで縮小しました。
これは下がりすぎた油価が正常値(正常値差)に戻る過程ですが、依然として$20程度の大幅な値差が続いています。
本稿では、ウラル原油の油価下落がロシア経済にどのような影響を及ぼしているのか定量的に分析・評価して、これが何を意味するのか、プーチン・ロシアは今後どうなるのか占ってみたいと思います。
結論を先に書きます。
「金の切れ目は縁(戦争)の切れ目」
ロシア経済は油価に依存しています。ウラル原油の油価下落はロシア軍のウクライナ侵攻の結果です。
油価に依存するロシア経済は大打撃を受けており、その責任は偏にV.プーチン大統領が負うべきものです。
すなわち、ロシア国家最大の敵はプーチン大統領その人と言うことになります。
第1部 2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価動静
(2021年1月〜23年7月)  最初に2021年1月から23年7月までの2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末まで上昇基調でしたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落開始。ウラル原油以外は乱高下を経て、同年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油とヴォルガ流域の重質・サワー原油のブレント原油で、中質・サワー原油です。
付言すれば、日本が輸入していたロシア産原油は3種類(S−1ソーコル原油/S−2サハリン・ブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油です。
露ウラル原油の7月10〜14日週次平均油価は$60.75/bbl(前週比+$4.05/黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)、北海ブレントは$79.79(同+$3.19/スポット価格)となり、ブレントとウラル原油の大幅値差が続いています。
この超安値のウラル原油を輸入し、自国で精製して石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して、“濡れ手に粟”の状態がインドです。直近では、中東諸国やパキスタンなども露ウラル原油を輸入開始しました。
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油FOB)はバレル$45.3、実績$69.0。22年の予算案想定油価は$62.2、実績$76.1。今年の予算案想定油価は$70.1です。
上記のグラフをご覧ください。黒色縦実線はロシア軍がウクライナに侵攻した昨年2月24日です。
この日を境として北海ブレントは急騰。6月に最高値更新後に下落。今年4月2日のOPEC+原油協調減産サプライズ発表後、油価は上昇開始。その後下落に入り、7月は上昇傾向に入りました。
一方、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に下落開始。今年4月に入り一旦油価上昇後、同じく下落。現在はバレル$60前後で推移しています。
今年の露予算案想定油価は$70.1で、2.9兆ルーブル(約5兆円)の赤字予算案です。ゆえに、現在の油価水準が続けば国家予算案赤字幅がさらに拡大することは不可避です。
第2部 3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)月次油価動静
(2021年1月〜23年6月)  次に、3油種月次油価推移を確認します。
油価を確認すればすぐ分かることですが、ウクライナ侵攻後、露ウラル原油は下落しています。日系マスコミでは「ウクライナ侵攻後油価上昇したので、ロシアの石油収入は拡大した」との報道も流れていましたが、この種の報道は間違いです。
昨年2月度の露ウラル原油(FOB)はバレル$92.2。以後毎月ウラル原油の油価は下落しており、今年6月度は$55.3、今年上半期(1〜6月度)の平均油価は$52.2になりました。
すなわち、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油の油価は実にバレル約$40も下落しているのです。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線はロシア軍がウクライナに侵攻した昨年2月24日です。
ロシア連邦統計庁発表によれば2022年の井戸元原油生産コストは24.6千ルーブル/屯にて、これはバレル約$50相当になります。
仮に露国内のPL輸送費をバレル$5程度と想定すれば、今年上半期の平均油価$52.2は露石油企業にとり損はあまり出ないが利益も出ない油価水準になります。
ポーランドやバルト3国やウクライナが主張するように上値をバレル$30〜40に上限設定すればロシアの石油産業は崩壊し、そのブーメラン効果として油価は天文学的数字となり、欧米経済も破綻することでしょう。
換言すれば、欧米による海上輸送原油FOB上限$60設定はロシア石油企業を生かさず・殺さず原油生産を継続させる、非常によく練られた、頭の良い人が考えた上値設定になります。
ロシア経済は油価依存型経済構造ですから、油価(ウラル原油)と原油生産量が下落すれば露経済・財政を直撃。
油価・生産量下落→露経済弱体化→戦費枯渇となり、ウクライナ戦争終結に貢献するでしょう。
第3部 ロシア国庫税収はウラル原油油価次第
ロシア経済は「油上の楼閣経済」にて、油価(ウラル原油)依存型経済構造です。
下記グラフをご覧ください。ロシア国庫税収は油価(ウラル原油)に依存していることが一目瞭然です。
なお、この場合の石油・ガス関連税収とは2018年までは地下資源採取税(石油・ガス鉱区にかかる税金)と輸出関税(天然ガスはPLガスのみ)のみでした。
2019年からは露国内石油精製業者に賦課される税収も加わりましたが、補助金対象にもなっており、現在でも石油・ガス関連税収の大宗は地下資源採取税です。
露財務省は毎月、石油・ガス関連税収と非石油・ガス関連月次税収を発表していますので、本稿では油価(ウラル原油)と露国家予算に占める石油・ガス関連税収を概観します。
露プーチン大統領は2000年5月にロシアの新大統領に就任したので、ここでは2000年から2022年までの油価と国家予算案実績と2025年までの国家予算案を概観したいと思います。
プーチン新大統領誕生当時、露国家予算案に占める石油・ガス関連税収は約2割でした。
ところが、プーチン大統領就任後、油価は徐々に上昇開始。ウラル原油がバレル$100を超えた2011年から数年間は、露国家予算案に占める石油・ガス関連税収は上記2種類の税金のみで50%を超えていました。
2022年の国家予算案想定油価は$62.2(石油・ガス関連税収シェア38.1%)、実績は$76.1(同41.6%)になりました。
今年のウラル原油想定油価はバレル$70.1(同34.2%)です。
露財務省発表によれば、今年上半期(1〜6月度)のウラル原油平均油価は$52.2ですから、今年通期では露国家予算案に占める石油・ガス関連税収は大幅に減少することが予見されます。
付言すれば、天然ガス輸出の場合、PLガス輸出は輸出金額の50%が輸出関税(2022年までは30%)、LNG(液化天然ガス)輸出は関税ゼロです。
第4部 油価下落がロシア経済に与える影響
上述の通り、ウラル原油の油価が国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存しています。
ロシアの原油・天然ガス生産量が減少し油価が下落すると、それはロシア財政にどのような影響を与えるのでしょうか?
答は簡単です。ロシア財政は破綻の道を歩むことになり、既に歩んでいます。
露財務省は7月7日に今年1〜6月度の国家予算案遂行状況を発表したので、本稿では要旨のみご報告します。
2021年と22年の国家予算案実績、今年の期首予算案と上半期の実績は以下の通りです。
ロシアの2022年国家予算は期首予算案1.3兆ルーブルの黒字案でしたが、実績は3.3兆ルーブルの赤字になりました。
期首想定油価(ウラル原油)バレル$62.2に対し実績$76.1ですから、本来ならば1.3兆ルーブル以上の大幅黒字になる筈が大幅赤字です。
これが何を意味するかは説明不要と思います。
ではここで、具体的に油価がロシア経済に与える影響を数字で検証します。
IEA(国際エネルギー機関)は7月13日、7月度 OMR(Oil Market Report)を発表。7月度OMRのロシア関連部分の要旨は以下の通りです(mbd=百万バレル/日量)。
IEA7月度報告書によれば、今年6月度のロシア石油輸出量は7.3mbd(前月比▲0.6mbd)、石油輸出金額(暫定値)は118億ドル(同▲15億ドル)、前年同期比半減。露石油輸出量は2021年3月以降、最低水準となりました。
なお、ここで一つ注意が必要です。この場合の石油とは(原油+石油製品)のことです。
すなわち、欧米による対露経済制裁措置強化策が効果を発揮していることが数字で検証可能になりました。
ロシアの原油生産量と石油輸出量を概観すると以下のようになり、この概算数字を覚えておかれると何かと便利です(露原油生産量にはコンデンセート類を含む)。
露原油生産量   10 mbd
露原油輸出量  5 mbd + 露国内製油所への原油供給量 5 mbd
露石油製品輸出量 2.5 mbd + 露石油製品国内供給量2.5 mbd
ロシアは国内原油生産量の半分を輸出して、残りを国内製油所で石油製品(主に軽油と重油)に精製。石油製品の半分を輸出し半分を国内で消費しているので、ロシア石油輸出量は約7.5mbdになります。
昨年2月のウラル原油はバレル$92.2、今年上半期の平均油価は$52.2となり、$40下落。この油価下落分を金額で表示すると、$40×5mbd×6カ月=360億ドルになります。
ウクライナ侵攻がなく、ウラル原油の油価が$92.2で推移していたと仮定すれば、今年上半期の原油輸出分のみで、プーチン大統領はロシア経済に360億ドルの損害を与えたことになるのです。
昨年分と石油製品輸出分、および天然ガス輸出分も考慮すれば、その2倍以上の損額をプーチンはロシア経済に齎したことになり、ロシア最大の敵はプーチン大統領その人となります。
第5部 拡大するロシア財政赤字/戦費財源減少に直結
本稿では露国家予算案を概観します。
今年1〜5月度の国家財政赤字は3.4兆ルーブルを超えました(予算案▲2.9兆ルーブル)。
露国家歳入の骨格たる石油・ガス関連税収は前年同期比半減、企業の利潤税(日本の法人税相当)は▲15%です。
不利な情報も発表するところに、露財務省の矜持が透けて見えてきます(露連邦統計庁は一番重要な露原油関連生産量を発表停止。露ガスプロムは自社天然ガス生産量未発表)。
注目すべきは、石油・ガス税収は前年同期比半減した点です。
非石油・ガス税収は増えていますが、増えているのは付加価値税(消費税)であり、企業に賦課する利潤税(利益税)は15%減少しています。
これは企業収益、特に石油・ガス関連企業の財政状況が急激に悪化していることを示唆しています。
ご参考までに、露財務省発表の2023年1〜5月度国家予算案遂行状況は以下の通りです。
   露国家予算案遂行状況(2023年5月度速報値/単位:10億ルーブル)
上記に対し、今年上半期の実績は以下の通りとなりました。
油価は低迷しているのに赤字幅が減少したのは、企業、特に石油・ガス関連企業に対する臨時大幅増税策によるものです。
   露国家予算案遂行状況(2023年1〜6月度速報値/単位:10億ルーブル)
第6部 減少するロシア原油・天然ガス生産量 ロシア経済破綻の兆候
昨年2月24日のロシア軍ウクライナ侵攻後、欧米は対露経済制裁措置を強化。主要欧米メジャーと石油サービス企業はロシア市場から撤退開始。
筆者はその時点で、「今後、ロシアの原油・天然ガス生産量低下は不可避」と孤高の論陣を張ってきましたが、今年に入り当方予測が数字で検証可能になりました。
ロシアでは今後情報統制が進み、原油・ガス生産量が発表されなくなるのではないかと筆者は懸念していましたが、懸念は的中。
露政府は今年4月26日付け政令「1074−r」にて、2023年3月度分から原油・随伴ガス生産量が発表停止となり、来年4月1日まで11か月間、原油・ガスコンデンセート・随伴ガス生産量発表を全面禁止することになりました。
生産量減少が数字で検証可能になるや否や、その数字が発表停止となったのです。
生産量が順調に伸びていれば、統計数字を非公開とする理由はありません。
都合の悪い情報は隠す。欧米による対露経済制裁措置強化がロシアの石油・ガス産業に悪影響を与えていることが分かってしまうので、原油・ガス生産量発表禁止措置が導入・発動されたものと筆者は理解します。
ご参考までに、昨年2022年と今年5月度までの露連邦統計庁発表公開情報は以下の通りにて、4月度以降、露原油・ガスコンデンセート・随伴ガス生産量は発表停止となりました。(bcm=10億立米)
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池であり、利益の源泉でした。
ところが昨年のウクライナ侵攻結果、ガスプロムは欧州市場を喪失。同社の欧州市場向けPL天然ガス輸出量は激減しています。
さらに、欧州ガス大手需要家側はガスプロムとの長期契約解除の動きも表面化してきました。
欧州天然ガス市場を喪失したガスプロムは中国以外PLガスの輸出先がなくなり、今後経営危機も視野に入ってくることでしょう。
原油の叩き売りと欧州ガス市場喪失により、石油・ガス企業の弱体化とロシア経済の破綻も透けて見えてきたと筆者は考えます。
第7部 ロシア国民福祉基金資産残高推移
ロシアには「国民福祉基金」が存在します。
これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。
露原油(ウラル原油)の油価が国家予算案で設定された基準を上回ると「安定化基金」に組み入れられ、国家予算が赤字になると、「安定化基金」から補填される仕組みでした。
この仕組みを考案したのが、当時のA.クードリン財務相です。
この基金は発足時の2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで積み上がりました。
この安定化基金は2008年2月、「予備基金」(準備基金)と「国民福祉基金」(次世代基金)に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資用目的として発足。
分割時、「予備基金」は約1200億ドル強を継承、残りを「国民福祉基金」が継承。
この石油基金のおかげでロシアはリーマンショックを乗り越えられたと言われています。
その後「予備基金」の資金は枯渇してしまい、2018年1月に「予備基金」は「国民福祉基金」に吸収合併されました。
ただしこの資産残高は預貯金残高ではなく、あくまでも資産残高です。
過去に投融資した資産が含まれており、その中には不良資産も入っています。このことは流動性のある真水部分は少ないことを意味します。
露財務省は2023年7月1日現在の資産残高は1455.8億ドル(GDP比8.4%)と発表しました。
ただし露ルーブルは減価しており、年初より対ドルで20%以上ルーブル安となっていますので、ドル表示をルーブル表示するとルーブルでは資産残高は増えています。
この国民福祉基金に関して日本では誤解されている報道が多々あります。
ある経済評論家は、「ロシアには国民福祉基金が潤沢にあるので、戦費の問題はない」とテレビ番組で実況解説していました。
2021年も2022年も政府予算案想定油価より実際の油価は高くなりました。ゆえに資産残高は右肩上がりになるはずが右肩下がりになっているので、真水の資産は益々減少していることが推測されます。
第8部 ウクライナ戦況 ロシア軍の被害状況と戦争の帰趨 (2023年7月23日現在)
ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから7月23日で≪プーチンのウクライナ戦争≫は515日目となり、丸1年と5カ月が過ぎました。
短期電撃作戦の筈が長期戦・消耗戦となり、プーチン大統領は何一つ目的を達成できず、ウクライナ侵略戦争は≪誤算の連続≫です。
プーチン大統領は今年2月21日の大統領年次教書の中で、「NATO(北大西洋条約機構)との戦い」と「祖国防衛」を繰り返し強調しました。
しかしこの戦争の戦場はウクライナであり、ロシアではありません。
この戦争はロシアの≪侵略戦争≫です。ロシアの祖国防衛戦争ではなく、ウクライナの祖国防衛戦争なのです。
誤算はさらに続きます。6月24日には盟友のプリゴージン氏がモスクワ近郊200キロまでワグネル軍を進めると云う反乱事件も発生しました。
同日の大統領声明で反乱軍を賊軍と規定し、反乱首謀者を裏切り者と断罪しましたが、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介役となり、プリゴージン氏は転進を命令。
ワグネル部隊は野営地に引き返し、流血事件は避けられました。1日で反乱が収束したことに対しプーチン大統領の勝利と見るむきもありますが、筆者はプーチン大統領の権力基盤の弱体化が表面化したと理解します。
来年3月17日には露大統領選挙が予定されています。
今後プーチン大統領が権力の座に居座れば、ロシアは大きな北朝鮮になる可能性大と筆者は判断します。
ここで、ウクライナ戦況を概観します。
7月23日朝のウクライナ参謀本部発表によれば、ロシア軍が全面侵攻した昨年2月24日から今年7月23日朝までのロシア軍累計損害は以下の通りですが、新規に生産、あるいは修理している兵器もあるはずです。
ゆえに、あくまでも一つの参考情報として記載する次第です。
もちろん、ウクライナ大本営発表ですからこのまま上記の露軍戦死者数を信じることは危険ですが、それにしても信じられないようなロシア軍の被害です。
他方、ロシア軍の自軍被害に関する大本営発表は2022年3月25日に発表したロシア軍戦死者「1351人」が最初です。
その後、ショイグー国防相は同年9月21日に「ロシア軍戦死者は5937人」と発表しましたが、以後戦死者に関する公式発表はありません。
この戦死者数自体、もちろん大本営発表の偽情報ですが、ここで留意すべきは「ロシア軍戦死者」とはロシア軍正規兵の将兵が対象であり、かつつ遺体が戻ってきた数字しか入っていないことです。
ロシア軍の遺族年金支払対象者はこの「戦死者」のみで、「行方不明者」は対象外です。
近代戦は補給戦、継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済は油価に依存しており、油価低迷は財政を破綻に導きます。小競り合いは今後も続く可能性ありますが、現在のような大規模戦争はあと1年も続かないでしょう。
今年末までに戦争の帰趨は見えてくるものと筆者は予測します。
エピローグ/歴史は繰り返す
最後にロシアの近未来を総括したいと思います。ただし、あくまでも筆者の個人的見解にすぎない点を明記しておきます。
上述の通りロシア経済は油価依存型経済構造にて、ソ連邦崩壊の底流は油価低迷が続いたことです。
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」です。
この戦争は露プーチン大統領が主張するような「祖国防衛戦争」ではなく、1956年の「ハンガリー動乱」や1968年の「プラハの春」の延長線上にあると筆者は理解しております。
ウクライナ戦争長期化を予測する人は多いのですが、油価低迷が継続すればロシア経済は破綻の道を歩み、財政悪化により戦費が減少・枯渇する結果、年内に戦争の帰趨は見えてくるものと筆者は予測します。
油価(ウラル原油)下落と欧米石油企業撤退により、ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しています。
この結果、ロシア経済は弱体化し、財政は破綻寸前です。
このまま戦争を継続すればロシア国内は流動化して、中央アジア諸国のロシア離れと対中接近はますます加速化され、ロシアの対中資源植民化が進むこと必至です。
中国の習近平国家主席にとっては内心笑いが止まらないことでしょう。熟柿が落ちるのを待っていればよいのですから。
もちろん、ウラル原油が高騰すればロシアの継戦能力は増大し、ウクライナ戦争は新たな局面に入ることになります。
ヘーゲル曰く、「歴史は繰り返す」。
1991年8月19日のモスクワ・クーデター騒乱は三日天下で終わりましたが、ソ連邦崩壊のトリガーになりました。
プーチン大統領の足元は揺らいでいます。
今回のプリゴージン反乱騒動はプーチンの勝利で収束したのではなく、≪プーチン、終わりの始まり≫となり、ロシアはこれから「動乱の時代」に入るような予感がします。 
●「プーチンにエルドアンの力を無視する余裕はない...」黒海穀物合意は崩壊 7/25
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、トルコとロシアの対決をたき付けているかにみえる。
きっかけは、ウクライナの穀物を黒海経由で安全に輸出するための国際合意「黒海穀物イニシアティブ」が、ロシアの離脱で破綻の危機に瀕したことだ。
ゼレンスキーは、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領とアントニオ・グテレス国連事務総長に「公式書簡」を送り、困難な交渉を経て昨年7月に成立した合意を、ロシア抜きで継続するよう要請したと語った。
ウクライナによるクリミア大橋への攻撃などに反発し、ロシアが離脱を宣言したのは7月17日のことだった。
ゼレンスキーはすぐさま声明を出し、「ウクライナと国連とトルコが力を合わせれば、黒海の食糧回廊は存続できる」と、語りかけた。「食糧回廊は世界中の人に必要であり、これを支持する者は全てモロッコから中国、インドネシアからレバノンの広大な地域で人命を救うことになる」
さらにセルギー・ニキフォロフ大統領報道官を通じて、ゼレンスキーはこう述べた。「われわれは恐れてはいない。船を所有する物流企業からも(輸出の継続を求める)話が来ている。ウクライナとトルコにその構えがあるなら、企業は穀物の提供を続けるつもりだ」
一方で、ロシアもトルコに働きかけている。
ロシア外務省によれば、18日にはセルゲイ・ラブロフ外相がトルコのハーカン・フィダン外相と電話で会談。「ウクライナとその西側の擁護者の破壊行為に左右されず、食糧を最も必要とする国々に穀物を提供する」ため、「黒海穀物イニシアティブに代わる枠組み」を提案したという。
本誌が合意に復帰する可能性について尋ねると、ロシア外務省はイニシアティブの結果を「期待外れ」と批判した17日の声明を示した上で、こう付け加えた。
「西側諸国が本当に『黒海穀物イニシアティブ』を尊重するならば、合意の義務を果たし、ロシア産の肥料と食糧に対する制裁の解除を真剣に考えるべきだ。彼らが口先だけの約束だけでなく具体的な成果を見せて初めて、わが国は『取引』の再開を検討する用意ができるだろう」
表向きはウクライナ支持
ウクライナとロシアがトルコのエルドアン大統領の歓心を得ようと競い合うのは、今回が初めてではない。
ロシアのウクライナ侵攻に関して、エルドアンはいわば東西の亀裂にまたがった立場を取っている。仲介役を引き受け、戦略的要衝である黒海の緊張を率先して和らげようとしている。
ロシアには合意復帰を説得し続けるつもりだ。「ウラジーミル・プーチン大統領は(離脱の)声明とは裏腹に食糧回廊の存続を望んでいると、私は信じる」と、エルドアンは17日に述べた。「ロシア産の肥料と穀物の輸出を再開するために何ができるか(プーチンと)話し合いたい」
かつてトルコのNATO大使を務めたファティ・ジェイランは本誌の取材に対し、「エルドアン大統領は間違いなく説得を重ねるだろう。しばらく交渉が続くはずだ」と予想した。だが早期の合意復帰は期待できないという。
NATOの一員でEU加盟に意欲を見せるトルコはロシアがウクライナに侵攻すると、地中海と黒海をつなぐボスポラス海峡、ダーダネルス海峡をロシアの軍艦が通過することを禁じた。
大量の武器をウクライナに無償供与し、トルコの企業がウクライナにドローン工場を設立することを許可した。6月には捕虜交換でトルコに滞在していたアゾフ大隊の幹部を、戦争終結まで留め置くというロシアとの協定を破ってウクライナに帰国させた。
これまでの態度を翻しスウェーデンのNATO加盟を容認したことにも、ロシアは失望しただろう。
とはいえトルコは昔からロシアと経済的な結び付きが強く、今もその恩恵を受けている。EUやG7諸国が対露制裁に踏み切って以来、ロシアとの貿易は大幅に拡大した。
6月のトルコの輸出額は、年初から約88%増加した。今年1〜6月の対露輸出額は49億ドルで、前年同時期の26億ドルから飛躍的に伸びた。
避けたい露との直接対決
関係の変化により、エルドアンは影響力を増した。
「トルコがロシアを必要とする以上にロシアはトルコを必要としていると思う」と、ジェイランは言う。「今のロシアにトルコの力を無視する余裕はない。だが関係が緊張することはあるだろう。ロシアは楽な交渉相手ではない」
合意の復活について、ジェイランはこうみている。「交渉の余地はあり、トルコの主導で妥協点を見いだすことは可能だろう。それが4者──トルコ、国連、ウクライナ、ロシア──の枠組みになるのか、3者あるいは2者間の協定で補い合う枠組みになるのかは分からない」
ロシアが離脱したイニシアティブとはかなり異なる枠組みになると、ジェイランは考える。「異なる条件が盛り込まれるだろう。だがそれを特定するには時期尚早だ」
合意が破綻したことで、商船に対する攻撃が再燃する恐れもある。元ウクライナ海軍大佐アンドリー・リジェンコは本誌に対し、ロシアが「間接的な挑発行為」を行い、商船の航行を邪魔する可能性があると述べた。
リジェンコによれば、ロシアは22年にエストニアの貨物船を沈めたような機雷をさらに設置するかもしれない。あるいは民間の船舶を、後で言い逃れをするのが比較的容易な空爆やドローン攻撃の標的にするかもしれない。
「1隻でも犠牲になれば大騒ぎになり、商船の航行はストップするだろう。ストップしなければ物流会社のイメージダウンを招く」と、リジェンコは言う。
トルコが強大な海軍力を武器に、商船の安全航行を確保するのは難しい。そうした決断を下せば、NATO共々ロシアと直接対決するリスクを負うことになるからだ。「たとえ可能でも、トルコはそんな危険は冒さないと思う」と、リジェンコは言う。
ジェイランも同意見だ。「黒海の食糧回廊における航行の安全を、トルコが先頭に立って保障している姿は想像しづらい。ロシアとの対決をトルコは避けるはずだ」
●ロシアと「意思疎通強化」 プーチン氏側近と会談―中国外交トップ 7/25
中国外交トップの王毅共産党政治局員は24日、ロシアのプーチン大統領の最側近パトルシェフ安全保障会議書記と訪問先の南アフリカで会談した。両氏は「戦略的意思疎通の強化」で一致し、中ロの連携を再確認した。
王氏は新興5カ国(BRICS)関連の安全保障会議に出席するため南アを訪問。中国外務省によると、王氏は「中国はロシアなどのBRICS諸国と緊密に協力し、発展途上国の共通利益を守りたい」と強調した。パトルシェフ氏は、米国を念頭に「少数の国の利益を守るための覇権的な行為に抵抗する」と述べた。
●「黒海封鎖」プーチンに経済制裁効かない? 7/25
ウクライナ侵攻から1年半。ロシアは世界の食糧危機を人質に、「黒海封鎖」という暴挙に出た。
西側諸国の経済封鎖などまるで効いていないかのようだ。そのうえ、戦時中の国としては考えにくい大幅な利上げに踏み切った。
プーチン大統領のこの自信たっぷりのふるまい。ロシア経済はどうなっているのか。エコノミストの分析を読み解くと――。
「反ロシア」「親ウクライナ」一枚岩ではない欧州の事情
ロシアの横暴が止まらない――。
報道をまとめると、ロシアは7月17日、ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出させる4者合意から離脱することを発表。さらに、ウクライナ南部の港湾都市オデーサを連日空爆したうえ、黒海経由でウクライナの港に向かう船舶は、軍事物資を運んでいる可能性があるとみなす、と警告した。
いわば、「黒海封鎖」だ。狙いは、世界の穀物価格高騰を人質にとり、欧米の経済制裁解除を引き出すことだ。この狙いは、的を射ている。ウクライナ産穀物の陸路での輸出は、周辺国に歓迎されていないからだ。
さっそく、ポーランドやハンガリーなど東欧5か国は7月19日、共同声明を発表し、9月15日が期限になっていたウクライナ産穀物の輸入規制措置を延長すると表明した。
東欧5か国は陸路での輸出の経由地となっているが、そこに安価なウクライナ産穀物が滞留すると、穀物価格が下落し、5か国の農家に打撃を与える。そのため、ウクライナ産の小麦、トウモロコシなどの輸入を制限してきたが、ロシアの黒海封鎖によって再びウクライナ産穀物輸出の経由地になるのは困ると、牽制の声明を出したかたちだ。
つまり、欧州は「反ロシア」「親ウクライナ」で一枚岩ではないわけだ。こうした事情もあり、ウクライナ産農産物の輸出を陸路に振り替えることは容易でない。
そんななか、ロシア中央銀行は7月21日、政策金利を8.5%に引き上げた。利上げ幅は市場予想の0.5%を上回り、1.0%と大幅なもので、さらなる追加利上げも示唆している。ウクライナとの戦争を続けているロシアにとって、景気下振れのリスクを伴う「大幅な利上げ」は避けたいはずだ。
それだけ自信があるということか。欧米の経済制裁は、ロシアに効いていないのか。今回の事態、エコノミストの分析はどうみているのか。
「プリゴジンの反乱」が終わりの始まり、と見るのは早計
「ロシアにはまだ豊富な資金力がある、過小評価は禁物だ」と警鐘を鳴らすのは丸紅経済研究所所長代理の榎本裕洋氏だ。
榎本氏は、経済評論サイト「世界経済評論IMPACT」に掲載したリポート「ロシアにはまだカネがある。侮るべからず」(7月17日付)の冒頭で、こう述べている。
「いわゆる『プリゴジンの反乱』を受けて『プーチン政権の終わりの始まり』といった論調が目立つ。これが西側にとって吉報なのか悲報なのか定かではないが、十分な情報が得られない環境下では保守的な分析、つまり分析対象を過小評価しないことが肝要であると考える。要するに『侮るべからず』ということだ」
そのうえで、「最近気になっているのは、ロシア政府の財政赤字をもって『ロシア経済は苦境に陥った』とする論調だが、それは本当だろうか」として、こう指摘する。
「ロシア財務省が普通に機能しているという前提に立てば、財政赤字が確定したということは、その赤字分が借入などで無事埋め合わされたということでもある。もし、財政赤字分を埋め合わせることが出来なければ、その分の財政支出ができないので、そもそも財政赤字にすらならないはずである。つまり、ロシアの経済的継戦能力をみるには、政府の借入や増税の原資となる企業・家計も含めたロシア全体の資金余剰・不足を観察する必要がある。太平洋戦争下で日本でも企業や家計の資源が総動員されたことを思い出してほしい。戦時は特別なのだ」
その際に注目するのが「経常収支」だとして、ロシア中央銀行の統計を引き合いに榎本氏はこう続ける。
「ロシアの経常収支は、四半期ベースでは2022年4〜6月期(プラス767億ドル)を直近ピークに、2023年1〜3月期(プラス148億ドル)まで減少傾向が続いているがそれでも黒字だ。注意したいのは、財政収支(赤字)を埋め合わせてなお経常黒字、つまり企業・家計に資金余剰(貯蓄余剰)があるということだ。フローで見る限りロシアにはまだカネがある」
そして、こう結んでいる。
「経常黒字が減少傾向にあるとしたが、これを経済制裁、特に(欧米諸国が課した)原油価格の上限設定の効果とする見方にも疑問が残る。世界経済減速による油価下落がロシアの経常黒字を減らしている可能性もあるからだ。実は、ロシアの月次ベースの経常収支を見ると、4月(プラス23億ドル)を底に、直近5月はプラス52億ドルと増加に転じている。単月の動きだが侮れない」
優秀なテクノクラートが、ロシア経済の唯一の救い?
ロシア中央銀行が戦争中にもかかわらず、景気下振れリスクが恐れずに大幅な利上げに踏み切った背景に何があるのだろうか。
ロシアの優秀なテクノクラート(経済・技術系官僚群)の存在がある、と指摘するのは、第一生命経済研究所の主席エコノミストの西濱徹氏だ。
西濱氏はリポート「ロシア中銀、戦争中にも拘らずインフレを警戒して大幅利上げを決断〜機能するテクノクラートが唯一の救いか、一方でウクライナ情勢は一段の長期化も念頭に置く必要〜」(7月24日付)のなかで、実質GDP(国内総生産)と成長率のグラフ【図表1】を示した。
   (図表1)ロシアの実質GDPと成長率の推移
そして、ウクライナ侵攻直後は欧米の経済制裁を受け、深刻な景気悪化に見舞われたが、現在は回復途中にあり、1年後には進行前の水準に戻る見通しだとして、こう説明する。
「軍事費増大や、さまざまなバラ撒き政策の動きが景気を下支えするとともに、欧米などの経済制裁強化にもかかわらず、世界的なエネルギー需要の堅調さを追い風に輸出は底堅く推移する一方、輸入の減少が景気下振れを喰い止めることに繋がった。また、中国やインドをはじめとする新興国がロシア産原油の輸入を拡大させたことで輸出が下支えされる一方、中国やトルコ、中央アジア、モルディブなどからの迂回輸入や並行輸入を拡大させるなど、経済制裁の『抜け穴』となる動きも顕在化している。大きく下振れした景気は一転底入れしており、こうした状況を勘案すれば、景気を巡る最悪期は過ぎつつあるととらえることが出来る」
経済制裁の「抜け穴」を大いに活用したのだった。一方、インフレはどうか。西濱氏はインフレ率の推移グラフ【図表2】を示しながら、こう説明する。
   (図表2)インフレ率の推移
「欧米などからの輸入減少に伴う物資不足なども重なり、インフレ率は一時20%近くまで加速したものの、その後は一転して頭打ちの動きを強めている。足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標(4%)を下回る推移が続いており、この動きだけをみればインフレは鎮静化しているととらえられる」
それなのに、なぜ市場予想(0.5%)を上回る1.5%もの大幅な利上げに踏み切ったのか。
それは、中国との経済関係が深まるなか、ルーブル相場が人民元との連動性を高めたため、ルーブル安の傾向にあり、物価上昇の動きが見られるからだった。西濱氏はこう結んでいる。
「(ロシア中央銀行が)タカ派姿勢を強めている様子がうかがえる。同国の財政運営を巡っては、軍事費増大が圧迫要因となるなかで、国民福祉基金を取り崩して対応するなどの対応みられるが、金融政策についても慎重な対応が続いている。その意味では、テクノクラートがきちんと機能していることが、同国経済にとっての唯一の救いととらえることができる」
撤退するには8年も、欧米企業を逃がさないしたたかさ
ロシアのウクライナ侵攻直後、欧米企業のロシアからの相次ぐ撤退がニュースになった。しかし実は、こうしたロシア・テクノクラートのしたたかさによって、撤退はなかなか進んでいないようだ。
ジェトロ(日本貿易振興機構)調査部欧州課のリポート「外国企業撤退にさまざまな思惑が交錯(ロシア)現状と背景を探る」(7月6日付)によると、全体像は定かではないが、2022年2月から2023年5月までの間に、外国企業が200社以上ロシアから撤退した一方で、2022年11月下旬時点で、ロシアに進出済みのEU・G7企業の9割がロシアに残留しているとの調査結果もあるという。
なぜ、残っているのか。企業自身が、将来を見据えて足場を残す例も少なくない。また、自動車など戦略的に重要な産業では、ロシア政府が直接関与して事業の継続を図る例が目立つ。
たとえば、フランスのルノーは保有していたロシア最大の自動車メーカー、アフトワズの株式をロシア政府の自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に売却した。トヨタと日産も同様に工場をNAMIに売却している。
モスクワ市政府に売却したルノーの旧モスクワ工場では、すでに中国車のノックダウン生産が始まっており、産業商務省が主導し、中国メーカーとの協業が進められているという。つまり、撤退した欧州や日本の自動車メーカーの代わりをロシアや中国メーカーが担っているわけだ。
もう1つ、ロシアから撤退を表明した企業は、撤退までに長い時間を要する羽目になっている。
事業譲渡にあたっての株式売却など、撤退に関連する実務を進めるためはロシア政府の小委員会の承認が必要だが、2023年3月時点で約2000の企業が小委員会の承認待ちだ。
しかし、小委員会の開催は月3回にとどまり、1回あたり最大7社の案件だけしか審査できないとする報道がある。つまり、毎月審議されるのは21社だけで、2000社全部が済むのは約8年先ということになる。
リポートは、こう結んでいる。
「どの順序で審査されるかは、ロシア政府にとっての案件の重要度によって『小委員会』が決定するという話も耳にする。売却価格が適正かどうかも懸念材料だ。平均の売却価格は算定市場価格から70%を割り引いた額だったという。カナダのキンロス・ゴールド(金採掘)、米国のアーコニック(アルミ生産)、フィンランドのノキアンタイヤ、米国のブンゲ(食用油製造)など、いずれも売却価格は算定市場価格を大幅に下回ったとされる。事業価値に対しての大幅な割引をよしとせず、事業売却ができなかった例もある。撤退しにくくなるよう外資に働きかけるロシア政府の政策誘導も垣間見える。それらが複雑に交錯しているというのが実情だろう」
●エセ科学に頼って命を落とすロシア富豪が続出、戦争の緊張と不安の犠牲か 7/25
ロシアの著名なエリートが、自らの心身不調について代替的な治療手段に救いを求めた結果、亡くなるケースが相次いでいる。背景には、ウラジーミル・プーチン大統領が主導するウクライナでの戦争が続いて先が見えないなかで、スピリチュアルな事物や神秘主義への関心が増しているという事情がある。
プーチンがウクライナへの本格侵攻を開始してからの1年5カ月の間に、ロシアでも有数の富豪が複数名、命を落としている。うち少なくとも2件では、支配層に属する人物がキセノン吸入療法が原因で死亡している。
キセノンは毒性のないガスで、鎮静および鎮痛作用を持つことで知られており、ロシアでは、不安障害やうつ病の治療法として一部に人気がある(アメリカの食品医薬品局[FDA]はこうした用途では認可していない)。
7月22日には、ハイテク起業家のアントン・チェレペニコフ(40歳)が、モスクワにある自らのオフィスで死亡しているのが発見された。死因は「医療用ガス」の過剰摂取と伝えられている。チェレペニコフは、ロシア最大のIT企業、ICSホールディングスのトップで、プーチンの盗聴オペレーションをほぼ一手に引き受けていた人物。
不安障害の治療のために?
ロシアの報道機関によると、チェレペニコフの死因は今のところ心不全とされている。しかし法執行機関の情報筋は、ロシアメディアのRTVIに対し、チェレペニコフは「薬効を得るために」服用していた医療用ガスを過剰摂取したと伝えた。本当の死因はいまだ捜査中で、ニューズウィークではこの情報源の主張の裏付けを取ることはできなかった。
1年前の2022年7月には、プーチン政権でトップクラスの武器設計者だったドミトリー・コノプレフが、キセノン吸入療法を受けている最中に死亡したと、ロシアの独立系新聞ノーバヤ・ガゼータが報じた。
「ドミトリー・コノプレフは、酸素マスク治療の最中に死亡した。彼は、頭痛と不安障害を治療するため、キセノンを吸入していた。医師たちはいまだに死因を確定できていない」と、ロシアのテレグラム・チャンネル「マッシュ」は当時伝えていた。
ロシアの週刊タブロイド紙「エクスプレス・ガゼータ」は、ロシア国内では、スターや実業家が「ストレスと不安を緩和する風変わりなこの療法」にすっかり夢中になっていると、雑誌「タトラー・ロシア」のアリアン・ロマノフスキー元編集長の発言を伝えた。ガゼータ紙の記事によると、キセノン吸入療法の費用は、1回6万ルーブル(約9万4000円)に達することもあるという。
ほかにも、トップクラスの実業家が複数人、奇妙な状況下で亡くなっている。死亡者の中には、ロシアの石油会社ルクオイルの元幹部で億万長者のアレクサンドル・スボーチンの名前もある。スボーチンは2022年5月、モスクワから北東12マイル(約19キロ)にある街、ムィティシにあるシャーマン(呪術師)の家で、遺体で発見された。
スボーチンの死因は心臓まひで、代替医療の治療を受けたのちに亡くなったと報じられている。ある情報筋は、ロシア国営タス通信に対して、スボーチンは死の1日前、重度のアルコールおよび薬物中毒状態で、シャーマンの家に転がり込んだようだと語った。
スボーチンの遺体は地下室の、ブードゥー教(ジャマイカの民間信仰)の儀式に使われていた部屋で見つかったと、タス通信は報じている。一部の地元報道機関は、スボーチンはヒキガエルの毒で二日酔いを治してもらうためにシャーマンを訪問したと伝えたが、裏付けは取れていない。
神秘主義に逃避
オンラインショップ「ズベルマーケット」の創業者であるロシア人実業家、ドミトリー・ズーリンは、免疫促進効果があると言われるヒト胎盤抽出物を自らに投与したのち病院に運ばれたと、ロシアのテレグラム・チャンネル「112」と「バザ」が伝えている。
ロシアの日刊紙コメルサントは2023年に入り、ロシアのメディアでは神秘主義に関連するトピックの需要が高まっていると伝えた。プーチンがウクライナへの本格侵攻を開始した2022年以来、こうしたコンテンツの人気は高まる一方だという。「現実逃避の手段だ」と、ある情報筋はコメルサントに語った。
プーチン自身も、疑似科学やオカルトに関心があると伝えられている。調査報道ジャーナリストたちは2022年4月、プーチンは各地を訪問する際に複数の医師を帯同させていると伝えた。代替医療にも関心があり、鹿の角から採取した「鹿の血」の風呂に入っているとも報じられている。

 

●プーチン大統領 10月に中国訪問へ 軍事侵攻前の去年2月以来 7/26
ロシア大統領府の補佐官は、プーチン大統領がことし10月に中国を訪問する意向があると明らかにしました。プーチン大統領の中国訪問が実現すれば、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始する直前の、去年2月以来となります。
ロシア大統領府のウシャコフ補佐官は25日、国営の通信社などに、プーチン大統領がことし10月に中国を訪問する意向があると明らかにしました。
習近平国家主席の招待を受け、アジアとヨーロッパをつなぐ巨大な経済圏構想「一帯一路」をテーマにしたフォーラムに参加するためだとしています。
習主席はことし3月、モスクワを訪れた際、プーチン大統領に対し、このフォーラムへの出席のため中国に招待したことを明らかにしていました。
プーチン大統領の中国訪問が実現すれば、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始する直前の去年2月以来となります。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は先に、プーチン大統領の中国訪問では両国の経済協力から国際情勢まで幅広く意見が交わされる予定だとしています。
ロシアとしてはウクライナ情勢をめぐってアメリカなどとの関係が悪化する中、今回の訪問で中国との一層の関係強化を図るねらいがあるとみられます。
●ロシア産原油を買い叩いたインドの心変わり 7/26
中国とともに、ウクライナ戦争下のプーチン体制を支えてきたインドのロシア産原油輸入拡大だが、ピークアウトの兆しが見える。何が起きているのか。
インド商工省外国貿易部が発表する通関統計を確認すると、インドは5月に221億トンの原油を輸入したが、うちロシアからの輸入量は89億トンと全体の実に4割を占めた。いまや中国とともに、ロシア産原油の一大需要家に躍り出たインドであるが、そのインドが、今後はロシア産原油の輸入を減らす可能性が高まっている。
ロシア産原油の値引き幅が縮小
最大の理由は、ロシア産原油の値引き幅の縮小にある。ロシアがウクライナに侵攻する以前、インドにとって最大の石油の輸入元はイラクであり、全体の輸入量の約4分の1を占めていた。しかしウクライナ侵攻後、ロシアからの輸入が急増し、イラクにとって代わることになったが、それはロシア産原油の価格が極めて安かったからである。
インドがロシアから原油を輸入する際には、主にウラル原油価格が適用される。それと中東産原油の価格指標であるドバイ原油価格の推移を比べると、ロシアのウクライナ侵攻後、両者の間にはバレル当たり20〜30ドル程度の価格差が生じていたことがわかる。その分だけ、ウラル原油価格は割安だったということだ。
そして2022年12月には、いわゆるG7(主要7カ国)と豪州が、ロシア産原油にバレル当たり60ドルを超えないように、制裁を科した。具体的には、バレル60ドルを超えた場合、G7と豪州の保険会社が海上輸送保険を適用しないと取り決めた。その結果、ウラル原油価格は、バレル60ドルを下回って推移するようになった。
しかしウラル原油価格とドバイ原油価格の価格差は次第に縮小しており、7月に入り20ドルを下回るようになった。世界的に原油の需給が引き締まってきたことに加えて、一方でG7と豪州による制裁を回避したシャドーフリート(影の船団)による原油の輸送が横行しており、ウラル原油価格の需要が逼迫したことが、同価格の上昇につながったもようだ。
決済が困難化したこともハードルに
ウラル原油価格の割安感が弱まったことに加えて、貿易決済の多様化が思うほど進んでいないことも、インドがロシア産原油を輸入するうえでの新たなハードルになっている。インドでは、原油の輸入決済をドルもしくはアラブ首長国連邦(UAE)の通貨ディルハムで行っているが、ロシアとの取引ではドルが利用できなくなった。
今年5月には、インド最大の国営石油精製企業であるインド石油公社(IOC)が、中国の通貨である人民元で、ロシア国有石油大手ロスネフチとの間で支払いを済ませるという出来事があった。IOCは当初、ドルでの決済を希望したが、国内最大の金融機関であるインドステイト銀行(SBI)が、このIOCによる申し出を拒絶したためである。
インドは欧米日による対ロ制裁には参加していないが、一方でインドの銀行は、制裁に抵触してアメリカから圧力を受けることがないようドルでの決済に対して慎重となっている。そのためSBIは、IOCによるドルでの決済の申し出を拒否したわけだが、こうした状況を受けて、ほかの国営石油精製会社も人民元での決済の道を探り始めているようだ。
とはいえ、インド企業が中国企業との貿易決済を人民元で行うならまだしも、中国以外の国の企業との貿易決済まで人民元で行うようになるには、まだまだ時間がかかる。人民元のオフショア市場はまだ規模が小さく流動性が低いことから、多額の人民元を調達するには、ドルよりも高いコストを負担する必要があるためである。
それに、インド政府が中国元での決済に慎重な姿勢であることも見逃せない。印中両国は国境紛争も抱えており、全面的な友好関係にあるわけではないからである。むしろインド政府は、インドとロシアの間の決済を両国での通貨やUAEのディルハムで決済することを望んでいるが、ドルでの決済を代替するまでには、もちろん至っていない。
インドは中東産原油の輸入を増やす公算
ロシア産原油の輸入に「うまみ」がなくなってきたなら、インドはロシア産以外の原油の輸入を増やすことになるだろう。ロシアの代替先として可能性が高い国は、かつてインドが最も原油を輸入していた国であるイラクだろう。またイラクのみならず、サウジアラビアやUAEからも、インドは原油の輸入を増やすことになると予想される。
中東産の原油はもちろん、欧米の保険会社による海上保険の対象だし、ドルやUAEのディルハムでの決済が可能だ。ロシア産原油の価格が上昇し、中東産原油の価格との間で割安感が弱まれば、海上保険が付与されておらず決済手段も限られるロシア産原油を無理して輸入するよりも、中東産原油を輸入したほうがインドにとって合理的である。
結局インドは、ロシア産原油が国際価格、特に中東産原油よりも安いから積極的に輸入してきたに過ぎない。ロシア産原油の価格が上昇して割安感が弱まれば、インドは中東産原油の輸入を増やすまでである。ロシアがインドとの取引を手放したくないなら、ロシアは原油を中東産原油の価格よりも低い水準でインドに輸出せざるを得ないのである。
このように、ロシアとインドの原油取引は、その実として需要家であるインドに有利なゲームとなっている。今年の2月、ロスネフチのイーゴリ・セチンCEO(最高経営責任者)は、ウラル原油価格の基準価格を決定する相手は欧州からインドに変わるという見方を示したが、結局、それはロシアに不利な価格形成方式となっている。
この点は中国との関係でも同じである。中国とロシアを結ぶESPO(東シベリア・太平洋石油)パイプラインを通じて取引されるロシア産原油の価格(ESPO価格)もまた、需給の引き締まりを受けて上昇している。しかし割安感が弱まれば、中国は国際価格よりも低いイラン産原油の輸入量を増やせばよいだけで、ロシアの立場は不利である。
「第2市場」で取引され続けるロシア産原油
ロシア産原油は、国際市場から排除された原油であり、一種の第2市場で取引される原油と化している。その第2市場では、国際市場での価格から割引かれた価格が形成される。ロシアは本来、原油の一大生産国であるため、国際市場での価格形成に大きな影響力を持つはずだが、現在、その影響力は極めて限定的となってしまった。
仮にロシアの原油の減産幅が中東の産油国よりも大きければ、ロシア産原油の価格の上昇幅は、国際市場での原油価格の上昇幅よりも大きくなるだろう。ドバイ原油とウラル原油の価格差はさらに縮小するが、欧米から海上保険が付与されず、またドルでの決済も不可能であるロシア産原油が値上がりすれば、それを輸入する理由がインドにはなくなる。
一方で、ロシアが不当廉売(ダンピング)を仕掛けることも容易でない。他の産油国との間で軋轢を生むし、ロシアが秋風を送るサウジアラビアとの関係が、それこそ決裂しかねない。結局は、ほかの生産者や需要家に配慮しつつ、国際価格に比べてある程度の割引をされた価格で原油を売ることしか、ロシアに残された選択肢はないのである。
確かにロシアは、インドや中国に対して原油を輸出できており、それが経済の底割れを防いでいる。とはいえ、本稿の見込みどおりにインドがロシア産原油の輸入を減らし、中東産原油の輸入を増やすなら、生産者であるロシアは不利で、需要家であるインドや中国が有利なゲームであることを示す、格好の例となるだろう。
●プーチン氏、アフリカ首脳とウクライナ巡り28日協議━高官=報道 7/26
ロシアのプーチン大統領が28日に予定されるロシア・アフリカ首脳会議のワーキングディナーでウクライナを巡りアフリカの首脳らと協議すると、ウシャコフ大統領補佐官(対外政策担当)が25日明らかにした。国営通信社が報じた。
ウシャコフ氏によると、27━28日にサンクトペテルブルクで開催されるロシア・アフリカ首脳会議では、アフリカの首脳17人が発言する見通し。
また、プーチン大統領は29日に南アフリカのラマポーザ大統領と個別会談を行う予定。
先月には、ラマポーザ大統領とセネガルのサル大統領が率いるアフリカ諸国首脳の平和使節団が、ロシアとウクライナの紛争の調停に向けた取り組みとして、サンクトペテルブルクとウクライナの首都キーウを訪問した。
●ロシア、予備役の年齢上限を5歳引き上げ…「総動員令」見据え人員規模拡大 7/26
ロシアのプーチン大統領は24日、予備役の対象となる年齢の上限を5歳引き上げる改正法案に署名し、法律が成立した。将来的な総動員の発令を見据え、動員可能な人員規模を拡大する狙いがあるとみられる。
上限は退役時の階級などによって細分化されている。法改正の結果、下士官や准尉クラスは最高55歳、下級将校は最高60歳、高級将校の多くは65歳がそれぞれ上限となる。高級将校の一部は70歳で据え置く。来年1月から2028年までに段階的に実施する。法案は先週、上下両院が相次いで可決していた。
ロシアでは、年2回に分けて実施している徴兵の対象年齢についても、拡大する動きが出始めている。露下院のアンドレイ・カルタポロフ国防委員長(元国防次官)は21日、対象年齢を現在の18〜27歳から18歳〜30歳に拡大する方針を明らかにした。
●「核のボタン」握るプーチン大統領に認知症疑惑が再燃…情緒不安定に拍車 7/26
ウクライナ戦争の開戦から1年5カ月。欧米の支援を受けたウクライナが反転攻勢に出てから2カ月近くが経った。
米国のブリンケン国務長官は23日(現地時間)に放送された米CNNで、「ウクライナはロシアに奪われた領土のおよそ50%を取り戻している」と発言。一方で反攻について「1週間や2週間ではなく、数カ月はかかるだろう」との見通しを示す中、プーチン大統領をめぐる認知症疑惑が再燃している。
膵臓がん、パーキンソン病、認知症。時折見せる不自然な言動からプーチン氏の健康不安説が消えないが、認知機能に深刻な問題を抱えているとしたら、シャレにならない。「核のボタン」をチラつかせるプーチンに異変が見られたのは、19日に開かれたNPOとの会合だった。ロシアの著名ブロガーが西部ニジニノブゴロド市の副市長と会話するプーチン氏の様子を収めた動画をツイート。それで疑惑が深まった。
動画によると、入隊の決意を語る副市長にプーチン氏は「ただ素晴らしい」「結局は、これは私たちの子どもたちとあなたの子どもたちの未来のための闘いなのだ」などと応じ、子どもの年齢を質問。副市長は「一番下は9歳」「最年長は23歳」と答えたのに、プーチン氏はすぐさま「あなたの一番下の子どもは3歳」と返していた。会話の怪しさもさることながら、この間のプーチン氏は絶えず両足を動かしたり、指で机を叩いたり。言葉に詰まるようで天井を見上げたりもしていた。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)は言う。
「ウクライナ侵攻以降のプーチン氏は情緒不安定に拍車がかかり、非常に怒りっぽくなっています。認知症を疑う声は国内にも広がっている。症状の悪化を懸念する側近らはプーチン氏に情報を上げなくなっているとも聞きます。5月上旬に発生したドローン2機によるクレムリン襲撃をめぐり、記者団とのオフレコ懇談でトンチンカンな発言をしたと報じられた。詳細を知らされていないのか、あるいは1週間前の記憶がないのか。プリゴジンの乱の真っただ中では蚊帳の外に置かれ、逐一状況を把握しておらず、そのため判断が二転三転したとみられています。精神的に不安定な指導者が戦争の当事者となっている、恐ろしい状況です」
同じく「核のボタン」を握るバイデン大統領もおかしな発言を連発し、認知症を疑われている。一刻も早い戦争終結が何よりだが、世代交代も急務だ。
●ロシア軍も反攻、ウクライナ北東部でM-55S戦車撃破 7/26
ロシア軍はウクライナ軍の反攻の妨害を試みている。
ロシア軍はウクライナ北東部のロシア占領下にあるスバトベのすぐ西からクレミンナ郊外まで伸びる約64キロの前線に沿って多方面から攻撃を仕かけた。この結果について、米シンクタンクの戦争研究所はロシア軍が「主張する前進」と表現した。
ロシア軍による攻撃の犠牲となったのは、ウクライナ軍のM-55S戦車だった。ロシア軍が撃破した、初のスロベニア供与の戦闘車両とみられる。
7月22日にネット上に出回った動画には、M-55Sが真昼間に樹林帯にそっと入る様子が映っている。乗員が車両を枝でカモフラージュするが、無駄だった。ドローンが監視していた。ロシア軍が発射した砲弾が炸裂し、M-55Sは炎に包まれた。
戦車は完全に損壊したようだ。もちろん、ロシア軍がM-55Sを破壊したと思われた前回のように、その後の映像で戦車が無事であることが示されて我々を驚かせることがない場合の話だが。
スロベニアは昨秋、ドイツが軍用トラックを提供するのと引き換えに、所有していたM-55S戦車28両すべてをウクライナに提供した。重量36トン、乗員4人のこの戦車は元々、1950年代半ばに製造された旧ソ連のT55戦車をイスラエルが1990年代に改良したものだ。
M-55Sは爆発反応装甲が追加で施されているが、防御力は低い。それでも、それなりに近代的な英国製の105ミリ砲とイスラエル製の優れた火器管制装置を備えている。最近のM-55Sは、ウクライナ軍が運用するドイツ製レオパルト1A5戦車と同様、戦車というより移動砲だ。防御力はそうないが、火力はある。
旧式の戦車であるM-55Sがスバトベ・クレミンナ戦線に配備されているのは、その脆弱性のためかもしれない。我々が知る限り、M-55Sはすべてウクライナ軍の第47独立機械化旅団が運用しているが、同旅団は南西に160キロ離れたザポリージャ州で戦闘の真っただ中にいる。
「作戦レベルではウクライナ軍が主導権を握っている」というが
ウクライナ軍南部司令部に属している第47旅団は、これらの古い戦車を東部司令部に渡したようだ。それは8週間前、待望の南部での反攻開始を翌日に控えていた夜には理に適っていたかもしれない。当時、ウクライナ北東部は比較的静かだった。
7月になって状況は一変した。ロシア軍はウクライナ軍が南部と東部バフムート周辺に重点を置いていることを逆手にとって北東部を攻撃した。
ロシア軍はそれほど進軍していない。だが、ウクライナ軍も主要な攻勢軸に沿って攻め込めていない。どちらも守勢に回ると予想される区間沿いに陣地を固めている。攻撃する軍は、近くに塹壕や掩体(えんたい)壕がある地雷原を横切らなければならない。
これは困難だ。第100旅団のウクライナ国防軍は先週、近くに展開している第67機械化旅団のおそらくT72戦車の支援を受けながら、クレミンナ西方の森でロシア軍の攻撃を撃退したようだ。
M-55Sはクレミンナ前線のどこにいるのか。1両が初めてロシア軍の砲撃の餌食になったが、戦線を維持できたのか。正確なところはわからない。
ウクライナ軍の反攻、その反攻に対するロシア軍の反攻もまだ始まったばかりだ。「東部ではウクライナ軍がバフムートの戦いで主導権を握っている」とオーストラリア軍退役少将のミック・ライアンはツイートした。「だがロシア軍はクレミンナ・スバトベ軸で攻撃している」とも指摘した。
全体的には、ライアンはウクライナ軍の優勢を確信している。「作戦レベルではウクライナ軍が主導権を握っており、予備の戦闘部隊も有している」と説明する。
しかし、その予備兵力にはもはや第47旅団のM-55Sは含まれていない。同旅団はM-55Sが当面、大規模な戦闘に使われないことを願っていたかもしれない。だが、ロシア軍はウクライナ軍の裏をかいた。
●「NATO東京事務所」設置案にフランスが反対、マクロン大統領“親中シフト” 7/26
NATO東京事務所の設置に 反対したフランス
NATO(北大西洋条約機構)がアジア初の連絡事務所を東京に設置する案が先送りされることになった(以下、「NATO東京事務所」とする)。
NATO東京事務所の設置は7月のNATO首脳会議で正式に採択する予定だったが、フランスが反対に回り、採択に必要な全会一致での賛同が得られなくなった。
NATO東京事務所の設置は、安倍政権も日本のNATO加盟を目指して働きかけていた。言うまでもないが、日本の安全保障を強化するための方策だった。
今回はストルテンベルグNATO事務総長が自ら日本政府に提案したもので、当初、採択はほぼ確実だと考えられていたが、フランスの反対で頓挫した。マクロン大統領はNATOが「北大西洋条約機構」の略であり、アジア・オセアニアなど「インド太平洋」とは切り離すべきだと主張している。
NATO側は、アジアにおいてはNATO加盟国に最も近い立場にある日本に拠点を作ることで、アジア・オセアニアの民主主義陣営に連携を広める計画であったが、フランスが反対したことで、年内の採択を目指して調整を続けていくと述べた。
中国重視を隠さなくなった マクロン大統領
今回のマクロン大統領のNATO東京事務所の設置反対には、その予兆となる出来事があった。
マクロン大統領は4月5日から8日まで中国を訪問した。この訪問には約50人ものフランス大企業のトップを引き連れており、フランス側にとっては明らかにセールス外交だった。
中国側はエアバス160機の受注、フランス産豚肉など農産品の輸出拡大を約束して、航空宇宙や原子力発電での協力やカーボンニュートラルの拠点を共同で建設するなど経済協力を深めている。マクロン大統領は、中国市場を利用して、自国経済の活性化を狙ったのだろう。
さらに驚いたことに、マクロン大統領は中国に国賓待遇で迎えられており、マクロン大統領の地方視察にも習近平主席が自ら対応し、首脳会談は非公式のものを含めれば2日連続で行われた。文字通り破格の待遇であり、中仏があたかも世界に向けて蜜月関係をアピールするかのような様子だった。
日欧米から孤立している中国がフランスとの蜜月ぶりをアピールするのは理解できるが、フランスが中国包囲網の方針に逆らって中国との蜜月をアピールした裏には、それなりの意図的な政治的な演出があると考えるべきだ。
マクロン大統領が「親中」にシフトしたことは、中国訪問の後で明らかになった。マクロン大統領は中国からの帰国の飛行機内でのインタビューで、「EUは米中対立と距離を置いて、第三極を目指すべきだ」「台湾における緊張の高まりはEUに利害がない」として、米中対立に追随すべきではないと主張している。つまり、EUは台湾有事に関わるべきではないと述べたのである。
この発言については欧米各国から批判を浴びて撤回を強いられたが、「台湾に関わるな」はマクロン大統領の本音だろう。
また、マクロン大統領はウクライナ戦争の仲介を習主席に求めており、もはやフランスにとって中国が仮想敵ではないのは明らかである。NATOは一貫して中国を仮想的としているので、その中国にウクライナ戦争の仲介を求めることは、フランスがNATOやアメリカの方針を拒否して、独自に中国との連携を図っている証左である。
ちなみに、7月6日の習主席との1時間半にわたる首脳会談で、マクロン大統領は「ウクライナとの戦争でロシアが使えるもの」を何も提供しないように求めている。それに対して、習主席からはウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談する準備があるという言葉を引き出している。習主席が間接的ながら仲介を引き受けたと考えるべきだろう。
また、マクロン大統領はNATOがアジアに拡大することに否定的なコメントを出しており、フランスが対中包囲網に参加するつもりがないのは明らかである。これだけ親中にシフトしていれば、もはやフランスはNATO東京事務所の設置を阻止するつもりだと考えるほうが自然なくらいである。
問題はこれがマクロン大統領のスタンドプレーだったのか、フランス国内のコンセンサスだったのかにある。
また、中国との蜜月を演出するというのは、フランスが加盟しているEUの方針ともぶつかる。EUは中国のウイグル人への人権じゅうりんに対して抗議している立場だが、フランスは人権問題に言及しつつも、それより関係強化のほうが重要だと示したことになる。
マクロン大統領の親中シフトが強まる中、今回の台湾発言に対するフランス国内の反応についても、筆者が調べた限り、それほど強い反発は出ていないように思われる。
マクロン大統領が 対中方針を大きく変えた理由
ところが、マクロン大統領はそれまでとは反対の態度を取ってきていた。その典型が南太平洋についてである。
南太平洋のフランス領ニューカレドニアでは何度も独立の機運が高まり、そのたびに独立を図る住民投票を行ってきたが、3度とも否決された。そして2020年頃には中国が独立派住民に接触して、独立派と反独立派の分断工作を行っていたことが問題になっている。
フランス国防省の軍事学校戦略研究所が出版している報告書では、2021年に中国が沖縄とニューカレドニアを中国の浸透政策の事例として取り扱い、当時、日本でも話題になった。同じような事例は南太平洋の島しょ部を中心に散見されるが、フランスはもともと海外領土保全のために、対中包囲網に積極的に参加していたのである。
実際、マクロン大統領は2021年に同じく南太平洋にあるフランス領ポリネシアを訪問した際、「外国による雇用創出計画に気をつけよ」と、間接的ながら中国の一帯一路に警戒を促して、独立を思いとどまらせることに成功している。
かつてマクロン大統領は、EUは中国に対して警戒すべきだと主張していたが、現在は180度態度を改めている。これはなぜなのか?
マクロン大統領が中国との蜜月を演出する理由として、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が強面を演出する一方で、マクロン大統領が柔和に接することで、中国からの果実を引き出しやすくする策略だという説がある。いわゆる「グッドコップ・バッドコップ(よい警官と悪い警官)戦略」と呼ばれるものである。
しかし、マクロン大統領は一貫してEUとは関係なく外交を展開しており、今回だけ両者が連携している可能性は低いのではないだろうか。
マクロン大統領が親中にシフトした理由の一つは、よく言われるように、フランスが中国を重要な市場として認識している点がある。今やフランスハイブランド商品の最大の購買者は中国であり、ヨーロッパが中国離れを起こしている今は、フランスにとって中国市場を拡大するチャンスでもある。
フランスで6月に起きた、警察による17歳少年の射殺事件をきっかけとする暴動は、フランス全土に広がった。これは移民を中心にした暴動と言われるが、実は略奪が多く、広くは貧困層が不満をぶつけた「経済格差」をめぐるものだとみるべき暴動である。つまりは、フランス経済の停滞が引き起こした面があり、それだけ経済問題が深刻化しているわけである。
フランスが中国市場を重視しているのは今に始まったことではないが、マクロン大統領は、コロナ禍と資源高で悪化したフランス経済の立て直しに、どうしても中国との連携が必要であると判断したのだろう。
また、フランスは原発大国であり、エネルギーの多くをウランに頼っている。濃縮ウランは禁輸品には入っておらず、フランスにとって最大の輸入元はいまだにロシアである。エネルギー危機以降、フランスのロシア依存はさらに強まっているのである。
そのため、マクロン大統領は西側の首脳としては例外的に、ウクライナ軍事侵攻以後もプーチン大統領と何度も会談を重ねて粘り強く交渉を続けてきた。ロシアはフランスにとっては原発の生命線であり、他のNATO加盟国のようにアメリカと同じスタンスを取ってウクライナ側に一方的につくことができないわけである。
仏ロ関係を壊さずにウクライナ戦争を和平に持ち込むには、フランス側としては中国の手を借りるしかないと判断したのだろう。NATOがさらなるエネルギー禁輸を行い、濃縮ウランがロシアから入手できなくなれば、フランスにとっては悪夢である。また、ロシアがNATOから完全に切り離されれば、中国との連携が強まり、ロシアはこれまで以上に制御不能になる可能性もある。
いずれにしても、フランスの利益にとっては中国との連携が欠かせないと判断したと見るしかない。
ロシアとウクライナを 仲介できる首脳はいない
その習近平主席にしても、ゼレンスキー大統領が「クリミアを取り戻すまではやめない」と述べている以上、現状でロシアとウクライナを和平合意に持ち込むのは難しい。
確かに習近平主席はゼレンスキー大統領にも一定の影響力があるが、そもそもロシア・ウクライナ関係に中立を保っていた中国を、一気にロシア寄りにしたのが習主席その人である。マクロン大統領がいかに手を尽くそうが、中国を和平の仲介者として引っ張り出すことが基本であれば、日米やEUがそれを望んでいない以上、中国主導の和平合意など絶望的だろう。
ロシアとウクライナ両方にアクセスできて仲介が取れる主要国としては、中国のほかに、トルコ、イスラエルなどが考えられるが、いずれの首脳も和平まで持ち込む腕力に欠ける。
最も可能性があるのはアメリカのバイデン大統領だが、就任早々に「プーチンは殺人者だ」と述べて、「ウクライナのNATO加盟を支援する」とゼレンスキー大統領と約束するなど、むしろロシアによるウクライナ軍事侵攻のきっかけの一つを作っており、和平の仲介など望むべくもない。
アメリカでトランプ大統領が復活すれば「もしかしたら」とも考える。トランプ大統領の4年間、北朝鮮もロシアもおとなしかった。トランプ大統領が退任してから、わずか2年で世界はこれほど崩れてしまったのだ。いずれにせよ、ウクライナ戦争が長期化するのであれば、アメリカで腕力のある大統領が誕生することが望まれる。
●ウクライナ軍、激戦地バフムトでクラスター弾使用…ロシア軍を押し返している 7/26
ウクライナ軍は25日、東部ドネツク州の要衝バフムト周辺で米国から供与されたクラスター弾を使用したことを明らかにした。激戦が続くバフムト周辺ではウクライナ軍が優位に戦いを進め、ロシア軍を押し返していると主張した。
ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」などによると、東部を担当するウクライナ軍報道官は25日、テレビ局のインタビューで、クラスター弾について「パートナーから提供された全ての種類の弾薬を効果的に使用している」と述べた。
クラスター弾は、内蔵した大量の小型爆弾を広範囲にばらまくものだ。殺傷能力が高い一方、不発弾による民間人への被害が懸念されている。ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相は23日、米国との確約に基づき使用状況を近く米国防総省に報告すると明らかにしていた。
侵略開始以降、露軍とウクライナ軍はいずれもクラスター弾を使用していると報じられている。ウクライナの前線付近では、クラスター弾で取材中の記者らが死傷したとの報道もある。
●米、ウクライナに4億ドルの追加軍事支援 偵察ドローンなど 7/26
米国防総省は25日、ウクライナに対する4億ドルの追加的な安全保障支援を発表した。防空ミサイルや装甲車「ストライカー」、高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」用弾薬、ドローン(無人機)などが含まれる。
また、今回初めてフリアーシステムズ社製の偵察ドローン「ホーネット」が供与されるという。
米国による対ウクライナ軍事支援策はロシアの侵攻開始以降43件目となり、総額は430億ドルを超える。
ブリンケン国務長官は今回の追加支援について、ロシアが先週、黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)履行を停止以降、ウクライナの港やインフラを攻撃していることを指摘。戦争の終結まで「米国とわれわれの同盟国やパートナーはウクライナとともに立ち向かう」と述べた。
●正規軍に見切り?ロシアは国中ワグネル式準軍事組織だらけになる 7/26
ロシアの各地方自治体の首長が、独自に準軍事組織を設立できるようにする法律が、ロシア連邦議会下院で可決された。
7月25日の朝に発表されたこの法律によれば、準軍事組織には、連邦予算と地方予算から資金が提供され、「戦時における動員あるいは戒厳令の期間中、公共の秩序の保護を強化し、公共の安全を確保する」活動を行う。
ウクライナの反攻が始まって1カ月以上、ロシア正規軍が戦場で大きな損失を被っていると報じられるなかで、この法律は成立した。
悪名高い準軍事組織、民間軍事会社ワグネル・グループは、特に東部ドネツク州の激戦地バフムトでロシア軍を支援して戦ってきた。だが、ワグネルの創設者で代表を務めるエフゲニー・プリゴジンは6月に武装反乱を起こした。現在、プリゴジンは手勢の一部と共に、ベラルーシに亡命している。
ベラルーシの野党指導者でリトアニアに亡命中のスベトラーナ・チハノフスカヤの最高政治顧問を務めるフラナク・ビアコルカは本誌に、ベラルーシを拠点とするワグネルの戦闘員は現在3000〜4000人で、まもなくさらに増えるだろうと語った。プリゴジンもこの宿営地を訪ね、次の活躍の場が訪れると約束したという。
公的な武器支給が合法に
今回成立した法律によって、地方の首長が設立することができる地域軍事組織は、ロシア内務省やロシア連邦保安庁、ロシア国防省を支援する形で、ロシア連邦の国境を守り、破壊工作や外国の偵察部隊を阻み、非合法の武装集団と戦うことを求められる。
また、この法律によれば、「この軍事組織のメンバーは、敵の攻撃に反撃するために、無人航空機、水上船および水中船、各種車両、無人車、その他の無人自動システムの運転を停止させる権利を有する」
こうした準軍事組織は解散した場合、ロシア国防省から支給された武器を返還しなければならない。
この法律は、2024年1月1日からロシアにおける徴兵年齢を拡大する点で物議を醸している法案の一部として導入される。
今年7月上旬、ウクライナと国境を接するロシア・ベルゴロド州のヴャチェスラフ・グラドコフ知事は、国境沿いに配備される領土防衛大隊の兵士に武器を支給すると約束。武器は「現行法の枠内で」提供されると述べた。
当時の法律では、防衛大隊に武器を支給することは認められていなかった。
グラドコフがこの約束をしたのは、6月にウクライナ軍が保有するロシア製戦闘機がベルゴロド州に侵入した後のことだった。
●“ロシア 黒海に最新鋭の軍艦配備か” 航行の安全に懸念も 7/26
ロシア軍がウクライナの東部や南部への攻撃を続ける中、南部の黒海では、海軍が最新鋭の軍艦を配備し民間の船を妨害することもあるとの分析が出ていて航行の安全に懸念が広がる可能性もでています。
ロシア軍は25日もウクライナ東部や南部への攻撃を続けています。
このうち、ウクライナ東部ドネツク州の知事は、ロシア側のミサイル攻撃などで市民2人が死亡し、2人がけがをしたと26日発表しました。
南部ヘルソン州の知事もロシア軍による砲撃で2人が死亡し、3人がけがをしたとしています。
これに対してウクライナ側は、軍の参謀本部が26日、東部ドネツク州の一部の地域でロシア軍の攻撃を撃退したほか、南部ザポリージャ州などでは、ロシア軍の進軍を阻止していると発表しました。
また、アメリカ政府は25日、ウクライナに対し、地対空ミサイルシステムの追加のミサイルなど最大4億ドル相当、日本円にして最大564億円相当の追加の軍事支援を行うと発表し、ウクライナの反転攻勢を後押しするねらいです。
こうした中イギリス国防省は26日、ロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止したあと、ロシア海軍の黒海艦隊が最新鋭のコルベット艦を黒海の南部に配備したとの分析を発表しました。
イギリス国防省は、コルベット艦はボスポラス海峡とウクライナ南部のオデーサとの間をパトロールしていることから、ウクライナへ向かうとみなした民間の船を妨害することもあるとして「黒海で暴力の範囲と激しさが増すおそれがある」と指摘し航行の安全に懸念が広がる可能性もでています。
●王氏、トルコ訪問 外相復帰後の初外遊 ウクライナ情勢巡り協議 7/26
中国外相に復帰した王毅氏が26日、トルコの首都アンカラを訪問し、フィダン外相とウクライナ情勢を巡り協議した。トルコ外務省筋が明らかにした。エルドアン大統領とも会談したという。
中国全国人民代表大会(全人代、国会)常務委員会は25日、秦剛外相を解任し、前外相だった王氏を後任とする人事を決定。トルコ訪問は王氏にとり新外相として初の外遊となる。
トルコ外務省筋によると、王氏とフィダン外相はウクライナ情勢や世界金融システム、トルコと中国の経済貿易関係の発展について協議し、議題には「一帯一路と中東回廊の構想の調和」や原子力エネルギー、農業、民間航空などが含まれたという。
また、中国の新疆ウイグル自治区の少数民族を巡る状況を巡る議論も行われた。
トルコ大統領府によると、エルドアン大統領は王氏との会談で、トルコと中国が世界および地域的な問題で重要な役割を担っていることを踏まえ、両国の協力強化に期待を表明した。

 

●ロシア「穀物合意離脱」の裏に透けるプーチンの「冷徹な計算と戦略」… 7/27
市場の反応は意外と冷静
ロシアは7月17日、黒海を経由するウクライナ産穀物の輸出に関する合意から離脱すると発表した。
この穀物合意は、ロシアの侵攻で停滞したウクライナ産穀物の輸出を再開させることで、一気に高騰した世界的な食料価格の安定を取り戻し、特にアフリカなどの低所得国を支援する目的で、昨年7月にトルコと国連が仲介して成立したものだった。
ところが今回、ロシアは、この穀物合意が自国の国益を満たしていないとし、期限となった17日に合意からの離脱を表明した。
これに対して米国のリンダ・トマス=グリーンフィールド国連大使は、ロシアに穀物合意の履行を停止する正当な理由はないとし、「ロシアは単に黒海を脅迫に使っている」と非難した。
国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)も国連安全保障理事会で、ロシアが穀物輸出合意の履行を停止したことで穀物価格が急騰し、途上国を中心に何百万人もの人々が飢餓の危険に晒されるおそれがあると懸念を示した。
私も当初は同様の懸念を持ち、このロシアの動きを、世界を敵に回す単純な暴挙のように捉えていたのだが、その後の小麦価格の値動きを見てから考えを改めた。
穀物合意離脱直前の安値は1ブッシェル(35リットル)あたり6.55ドル程度だったが、合意離脱後に7.27ドルまで上昇したものの、その後は7.00ドル程度まで再び下落した。ちなみにロシアのウクライナ侵攻直前の安値は8.00ドル程度程度だから、実は現在の小麦価格はウクライナ侵攻前よりも安いのだ。
しかも、価格上昇は穀物合意離脱後の2日間に限られ、その後は落ち着きを見せた。この穀物合意がなくなったことに、市場は意外と冷静に反応しているのである。
輸入業者は既に別ルートに切り替え済み
ロイターは7月21日に「中東・北アフリカの穀物輸入業者、黒海輸送路閉鎖に反応冷静」との記事を公開した。
この記事では、ある欧州の穀物トレーダーの話として、「ロシアのウクライナ侵攻後の価格急騰に匹敵する輸入業者によるパニック買いは、今回は起きていない」「買い手は数日間は状況を見極めたいと考えており、誰も急いだり、パニックに陥ったりしていないようだ」との声を紹介している。
ロシアやルーマニアなど黒海沿岸の生産国から小麦を中心に大量の穀物が供給されており、EUで収穫作業が進む間、備蓄用の穀物を購入することができる。このため、供給は潤沢となる見通しだとも記されている。
つまり、ロシアやルーマニアから大量の供給が行われていて、さらに現在、EU諸国で穀物の収穫が進む中で、1年前から備蓄してきた穀物がどんどん吐き出されるようになっていて、それが供給を支える状況になっているというのである。
さらに過去数ヵ月間、黒海を経由したウクライナからの輸送が小規模にとどまっており、輸入業者は既に、ルーマニアやブルガリアの港を経由した陸路か、ドナウ川を経由した西欧の港への輸送に切り替え始めていることも指摘されている。
ウクライナの港から直接輸出するのは、ロシアがどういう動きに出るのかわからない中でリスクが高いから、ウクライナ産穀物を陸路で一旦ルーマニアやブルガリアまで運び、そこから海上輸送する流れが強化されていることがわかる。
ロシアにとっては一石二鳥
ウクライナはルーマニアとの間を流れるドナウ川を国境としている。ドナウ川の水運を利用できる都市として、イズマイールやレニなどが発展してきた。
例えばイズマイールの場合には、港町のオデーサから鉄道が走っており、ウクライナ国内で取れた穀物を鉄道で運ぶことができる。その上で、ここからドナウ川を使った水上輸送に切り替えるルートが、かなり使われるようになってきているようだ。
こうしたドナウ川を利用した輸送ルートがすでにかなり開発され、オデーサなど、黒海に面した港から直接輸出する割合は比較的小さくなっていたというのが、どうやら実情だったようだ。
ただし、こういう代替ルートを使うのは、ウクライナには大きなコストを必要とするものになる。コストが掛かった分だけ高値で売ることができるかと言えば、そんなことができるわけがない。
またドナウ川の水深はかなり浅く、大型船の通行は不可能だ。この点でのコストアップも無視できない。従ってこれはウクライナにとってかなり大きなダメージになる。
プーチン大統領は、穀物合意から離脱しても、穀物の需給関係を大きく崩すことにはならないから、ウクライナ産の穀物に依存していた国に対しても大きなダメージにはならない、従って穀物合意から離脱しても、ロシアがアフリカ諸国などから大きく恨みを買うことにはならないと読んでいたのだろう。
さらには、この穀物合意からの離脱によってウクライナの輸出のコストが跳ね上がることで、ウクライナ産の穀物の国際競争力を削ぐことができ、一石二鳥だと考えたのだろう。
プーチンのしたたかな計算
さて、7月20日、時事通信は「ウクライナ穀物の輸入規制延長 東欧5ヵ国が共同声明」との記事を公開した。
この記事には次のような記述がある。
「ウクライナ産品の陸路での輸出の経由地となっている東欧5ヵ国には、安価なウクライナ産穀物が滞留。この結果、農産物の価格が下落し、国内農家が打撃を受けているとして、5ヵ国は4月以降、小麦とトウモロコシ、菜種、ヒマワリの種の輸入を制限している」
ポーランド、ハンガリーなど近隣の5ヵ国では、ウクライナ産の穀物が大量に流入することで需要と供給の関係が崩れて値崩れが発生し、国内農家が打撃を受けるのを避けるために、ウクライナ穀物の輸入規制が行われているのだ。そして、この輸入規制がさらに延長されることになった。
5ヵ国はウクライナ産穀物が国内に滞留することなく通過するのであれば、邪魔だてしない姿勢を示している。しかしながら、ウクライナ産穀物が国内産よりも割安であるなら、その一部が国内に流れ込む可能性は排除できない。
ウクライナが黒海から直接輸出できないようになれば、その分が陸路に流れやすくなる。その一部が国内に流れ込めば、国内農家の反発を招くことができる。そうなれば、ウクライナと近隣諸国の関係を悪くすることができる。
おそらくプーチンはこのようなことも計算に入れているのだろう。どこまでもしたたかである。
西側の制裁による妨害はウソだった
ところで、ロシアは、今回の穀物合意から離脱するのは、欧米側の制裁によってロシアの農産物や肥料の輸出に対する障害が取り除かれていないことを主張しているが、果たしてこの主張は正しいのだろうか。
アメリカ農務省は、去年からことしにかけての1年間ではロシアの小麦の輸出量は、前の年に比べて36%増えて4500万トンとなり、過去最多を記録すると予想している。
ロシアのパトルシェフ農業相も「ことしの農産物の輸出額はおよそ15%から20%、前の同じ時期を上回っている」と述べている。これはロシアのインターファクス通信が伝えている。
さらにパトルシェフ農業相は「今月から来年6月にかけての1年間で、最大で5500万トンの穀物を輸出する計画だ」という見通しを国営タス通信を通じて公表している。ロシアの農産物の輸出が大きく伸びている以上、西側の制裁によって大きな打撃を受けていないのは明らかだ。
またロシアの2022年肥料輸出は、数量ベースでは前年比10%程度減少したものの、価格ベースでは前年比並みになったと見られている。ロシアは肥料輸出では事実上、打撃を受けていないと見るべきだ。
そもそも数量ベースの落ち込みにしても西側の制裁によるというよりも、ロシアによる輸出制限によるものと言うべきだろう。
ちなみに現在、ロシアは、輸出用無機肥料について輸出関税を課すことまでやっている。もっと輸出を推進したいのに、西側が邪魔しているというのは、事実とは明らかに違う。
冷徹な計算に基づいた戦略
これまでのところで、プーチン大統領の頭の中がかなりはっきりわかってきたのではないだろうか。
穀物合意から離脱するのは、一見すると穀物輸入の多いアフリカ諸国などの反発を大いに買いそうに見えるけれども、実際のところは穀物の供給に大きな影響を与えず、穀物価格の上昇も大したことにはならないから、あまり反発を買うことにはつながらない。
一方で、穀物を輸出しようとするウクライナには様々な手間が加わることで、穀物輸出で上げられる利益がしぼむことになる。黒海から直接輸出できなくなったウクライナの穀物が近隣の東欧諸国に陸路を通じて流れることで、近隣の東欧諸国とウクライナとの関係悪化にもつながりやすくなる。
こうした全体図を見切った上で、プーチン大統領は穀物合意からの離脱を選択したのだろう。
そして穀物合意からの離脱には大義名分が必要になるが、そのために選ばれたのが欧米の制裁によってロシアの穀物輸出に深刻なダメージが加えられているという架空の話だ。こういう話は、事実関係を丁寧に追わなければ、このことが本当かどうかには気づきにくい。
ここまで考えた上で、プーチン大統領は嘘話を持ち出して、穀物合意からの離脱を選択したと見るべきだと思う。
プーチン流の外交手法は決して善良なものとは言えないだろう。だが、こうした冷徹な計算に基づいた戦略をリアリズムに基づいて評価することは重要である。
政策として現実に行うかどうかは別として、こうした戦略思考に基づくシミュレーションくらいは、日本政府も行うべきではないかと、私は思う。
●ロシアのショイグ国防相、金正恩氏と会談…プーチン氏の親書伝達 7/27
朝鮮中央通信によると、北朝鮮の 金正恩キムジョンウン 朝鮮労働党総書記は26日、訪朝しているロシアのセルゲイ・ショイグ国防相と会談した。安全保障問題について意見交換したという。ショイグ氏はプーチン露大統領の親書を正恩氏に伝達した。
正恩氏が外国要人と会談するのは、北朝鮮が新型コロナウイルスの防疫対策で2020年1月に国境の封鎖措置を取って以降、初めてとみられる。
ショイグ氏は27日で朝鮮戦争休戦協定締結70年となるのに合わせ、訪朝した。
●プーチン氏、エジプト首脳と会談 支援中の原発建設「予定通り」 7/27
ロシアのプーチン大統領は26日、北西部サンクトペテルブルクでエジプトのシシ大統領と会談した。インタファクス通信などが報じた。
プーチン氏は、ロシアが支援するエジプトでの原発建設は「予定通りに進んでいる」と指摘。両国間の貿易額も増大していると評価した。
シシ氏は「アフリカ大陸との関係を強化するロシアの計画を歓迎する」と述べた。
プーチン氏はエチオピアのアビー首相とも会談。原子力エネルギー分野の協力の用意を示した。
シシ、アビー両氏はともに、27日開幕のロシア・アフリカ首脳会議出席のため訪ロした。
●北朝鮮とロシアの武器取引の可能性に「だれもプーチン助けてはならない」 7/27
米ホワイトハウスは26日、北朝鮮の「戦勝節」(韓国戦争休戦協定記念日)70周年行事にロシアの代表団が参加し北朝鮮と武器取引関連の協議をした可能性に「驚かない」としながらロシアのプーチン大統領を支援すべきではないと糾弾した。
ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官はこの日の会見で、ロシア代表団の訪朝を契機に武器供給議論がなされる可能性に対する質問に「プーチンはウクライナ戦争への支援を受けるために他の国々と接触している」としてこうした事実を米国政府は何度も指摘してきたと話した。
彼は「知っての通りこの中には北朝鮮も含まれている。これは国防調達問題と在庫問題によりロシア軍が不利な状況に直面しているという事実をプーチン大統領自身がわかっており、それを埋め合わせるために努力しているという証拠」と指摘した。
続けて「だれもプーチンがウクライナでさらに多くの人を殺す手伝いをしてはならない。しかし彼が北朝鮮と接触しているということは驚くことではない」と付け加えた。
これに先立ちホワイトハウスはロシアがウクライナ侵攻後に北朝鮮から弾薬を受け取り、食糧供給を見返りに追加で弾薬の供給を受ける案を議論中だと明らかにした。昨年には北朝鮮がワグネルグループに歩兵用ロケットとミサイルなどを販売したと発表し、北朝鮮がこれを否定すると関連衛星写真を公開した。
一方、ロシアのショイグ国防相は北朝鮮の招きにより平壌(ピョンヤン)を訪問し、戦勝節70周年記念行事に参加し、北朝鮮の強純男(カン・スンナム)国防相と会談して両国間の軍事協力案を話し合ったという。
●ロシアに示すべきウクライナ戦争の落としどころ 7/27
6月23日のワグネル傭兵隊のプリゴジン隊長の反乱はプーチン大統領の統治力の薄弱さを暴露した。混乱したクレムリンが突然白日の下に晒された。
なぜあれほど強力な治安組織がこの反乱を事前に察知できなかったのか?察知したが敢えて行動しなかったケースなのか?クレムリンの権力構造にどの亀裂がどの方向に走ったのか?
明らかにプーチン大統領は虚を突かれたのだ。事件勃発直後、ショック状態に陥り、混乱し、怯えているようだったと評されている。
大統領は威信を失墜し、「全能の支配者」ではなかったことをロシア国民と世界は知るに至った。俄然、国際論壇ではロシアの政権交代を予想する議論が増えた。国の崩壊を論ずる議論すらある。
大統領はいつどのようにクレムリンを去るのか?誰が次の大統領になるのか?そして一体ロシアはこれからどうなるのか?
ロシアの著名なジャーナリストであるボリス・グロゾフスキー氏は米国のウイルソン・センターへの寄稿文で「プーチン大統領は弱体化し、国民は政権交代を望んでいる」と論じた。そして、ロシアのエリートたちはウクライナ戦を戦うより同僚エリートと争うほうが自分の利益だと考え始めたという。
明らかにエリートたちは政権交代を視野に入れ始めた。
そして次の権力構造に関してエリート間で合意が出来なければ、暴力的な国内紛争に発展し、治安部隊も介入する熾烈な闘争が始まるとされている。
第一次世界大戦時のウィルソン大統領を思い起こせ
プリゴジンの乱を契機にロシアは突然混沌とした政治の季節に突入した。この緊迫する局面で、米国のロシア専門の著名な戦略家が一つの重要な提案を行った。もしかすると局面の打開に繋がるかもしれない。
米国の戦略国際問題研究所(CSIS)欧露ユーラシア部長のマックス・バーグマン氏はフォーリン・アフェアーズ誌の最新号で、次のように論じた。「ロシアがプーチン大統領を交代させ、戦争を終わらせたら、ロシア自体は敗北と衰退に陥らないで、平和的に繁栄できる。このことをバイデン大統領がロシア人に保証するべきだ」と。
バーグマン氏はここで米国のウッドロー・ウィルソン大統領が第一次世界大戦の末期の1918年にドイツを降伏に導いた「公正な平和」のビジョンに言及している。当時、ウィルソン大統領はドイツに「公正な平和」を約束し、ドイツ人が他国の基本的権利を否定しなければドイツ人にも同様の権利が与えられると保証したのだ。これが最終的にドイツを降伏に導いた。
参考になる前例があるのだ。この前例に倣って、バイデン大統領は今や「プーチン後のロシア」がどのようなものになるのかをロシア人に説明するべきだというのがバーグマン氏のポイントだ。同氏によればそれは「プーチン後のロシアは欧米社会の一員として迎えられ、平和的に繁栄できる」という保証だ。
重要なことは、ロシア人がプーチン大統領の交代に向けて動くべきことを示唆している点である。抑々、プーチン大統領はこの戦争を「ロシアと西側諸国との間の壮大な文明的衝突」として描こうと躍起になってここまでやってきた。そしてロシア国民には自分をそういう文明史的な戦争を勝ち抜く英雄的存在だというイメージを刷り込んできた。 
しかし、私見では元々この戦争はそれ程大それた話ではない。これは米国を何としても懲罰したいというプーチン大統領の個人的な憤怒と嫉妬と怨嗟と野心に由来するものだ。壮大な文明戦を戦っている最中だから最高司令官を変えられないという議論があるとすると、それは当てはまらないはずだ。
ロシア転換≠ナ西側が支援体制を
バーグマン氏は、「プーチン氏を交代させたら欧米社会はロシアを受け入れ、ロシアは欧米社会の一員として平和的に共存共栄の道を辿ることが可能になる」と論じ、さらにそのことをバイデン大統領がロシア人、特にロシアを動かしているエリート層に直接伝えるべきだと主張している。このような展開をバイデン大統領が起爆すべきだというのがバーグマン氏の趣旨だ。
要するにプーチン大統領が交代したら、西側は戦争犯罪や賠償などの問題解決を前提に対ロシア制裁を解除し、逆にロシア支援に廻る。新生ロシアに向けて経済的に大きな資源と技術の移転が起きる。自治体レベル、職域レベル、学術レベルの交流、学生交流などの面でロシア社会と欧米は大規模な接触を始める。
バーグマン氏は2024年夏のフランス・パリでのオリンピック・パラリンピック大会にロシアは誇りを持って出場できるとも論じている。さらに、ロシアの青年は欧米の大学で学ぶことが出来ると論じ、兎に角、「脱プーチンを実現したロシアは貧困と孤立ではなく、繁栄とヨーロッパとのつながりによって定義される未来を持つと確信できるようになる」と強調している。
なお、ロシアと欧州は運命共同体だという趣旨は既に欧州側からつとに強調されている。欧州諸国が本稿で論ずるバイデン演説を全面的に支持することは全く疑いが無い。
「苦難のロシア」からの出口で主導権を握れ
私見では、この期に及んで欧米側がロシアに断固敗北を認めさせようとする戦略では成功しないはずだ。そうではなく「プーチン大統領無きロシア」は欧米社会に迎えられ、平和的に繁栄できるというメッセージであれば、ロシアのエリート層と国民大衆を動かす可能性がある。
難しいだろうが可能性が全くないとは言えない。ロシアは尊敬される国際社会の一員になるという展望をロシア人に示すのだから。
ロシア問題の専門家であるバーグマン氏は「これは要するにプーチン大統領の基盤を弱体化し、排除しようとするメッセージだ。従って、このメッセージは必ずロシア諜報機関の受信妨害を受ける。しかしロシアのエリート層は必ず密かに聞き耳を立てて聞いている」と論じている。
もちろん、プーチン大統領は当然盛大に反論し、対抗して強圧措置を取る可能性がある。しかし、それに対してエリート層、治安組織、そして国民がどう反応するかが問題だ。
今やロシアは選択の時期に直面している。ロシア兵士14万人以上が戦死し、15万人が負傷し、100万人の優秀な人材が国外に出た。3日で済むはずの戦争は500日を超え、勝利のめどは無い。
経済は惨状を呈し、社会は混乱している。プリゴジンの乱はクレムリンの無力さを暴露した。ロシア人は長い長い道をトボトボと歩き、降りかかる途方もない運命に翻弄されている。
筆者はそういう「苦難のロシア」に名誉ある出口と希望の燭光(しょっこう)を提供する役回りをバイデン大統領が担うことを強く願う。この重要な局面でバイデン氏にはウッドロー・ウイルソン大統領のように歴史に名を刻んでもらいたい。
そうすることで中国ではなく米国がこの戦争終結とその後の和平展開の全ての局面、そしてユーラシア全体の地政学的展開に向けて主導権を握ることになるからだ。日本をはじめ西側諸国はこの米国のイニシアチブを一致して強力に支持するべきだ。
一方、プーチン大統領にとっては万事受け入れ難い話だが、プリゴジンの乱で大統領の政治力は既に失墜した。エリートたちはそこを凝視しているに違いない。残された選択肢はもはやほとんどないはずだ。落としどころは狭まったのではないか?
●国連安保理の緊急会合 欧米各国がロシア非難もロシアは反発 7/27
ウクライナ情勢をめぐって国連の安全保障理事会で緊急会合が開かれ、欧米各国はロシアがウクライナ南部に攻撃を繰り返していることを強く非難したのに対し、ロシアは会合での発言を拒否して参加しませんでした。
ロシアは、ウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止して以降、農産物の積み出し港があるウクライナ南部オデーサ州などでミサイルや無人機による攻撃を繰り返していて、ユネスコの世界遺産に登録された歴史地区の大聖堂にも被害が出ました。
26日、国連安保理でウクライナの要請に基づいて開かれた緊急会合では、欧米各国からロシアを非難する意見が相次ぎ、このうちアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「世界は、ロシアの野蛮な攻撃の代償を払っている。ただ1国だけが食料を武器として使っている」と述べたほか、日本の志野国連次席大使も市民や文化遺産への攻撃は断じて容認できないと非難しました。
一方、ロシアのポリャンスキー国連次席大使は、ロシアが要請して直前に行われた会合での議長国イギリスの議事運営が不平等だなどと反発し、ウクライナが要請した会合には参加しませんでした。
議場の外でポリャンスキー国連次席大使は記者団に対して「非常に恥ずべき事態だ。議長国イギリスへの抗議として会合で発言しないことに決めた」と述べて立ち去りました。
●ロシア 27日からアフリカ各国と首脳会議へ 各国の取り込み図る 7/27
ロシアはウクライナへの軍事侵攻を受け欧米との対立が深まる中、27日からアフリカ各国との首脳会議を開きます。プーチン政権としては自国産の農産物の輸出などをはじめとする協力を打ち出し、アフリカ各国の取り込みを図ることで欧米に対抗していく構えです。
ロシアとアフリカの首脳会議は2019年に続いて2回目で、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで27日から2日間の日程で開催されます。
ロシア大統領府のウシャコフ補佐官は25日、記者団に対し、会議にはアフリカ54か国のうち17か国の首脳が参加し、49か国から政府関係者や企業の代表などが参加すると発表しました。
また、会議では多極化に基づく新しい世界秩序やアフリカ各国に対するロシア産の農産物や肥料などの支援について重点的に議論が交わされるとしています。
ロシアは今月、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止すると発表し、ウクライナ南部の積み出し港があるオデーサ周辺などへの攻撃を行っていて、アフリカ各国では食料危機への懸念が高まっています。
プーチン政権としては自国産の農産物の輸出などをはじめとする協力を打ち出し、多くが中立を保つアフリカ各国の取り込みを図ることで欧米に対抗していく構えです。
ロシアとアフリカ各国との関係
ロシアのプーチン政権は、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり欧米との対立を深める中、アフリカ各国との関係をいっそう深め、取り込みを図ろうとしています。
冷戦時代には、かつてのソビエトがアフリカでヨーロッパ諸国の植民地支配からの独立闘争を支援するなど影響力を持っていましたが、ソビエト崩壊とともに関係はいったん弱まりました。
2000年に「大国ロシアの復活」を掲げて就任したプーチン大統領のもと、ロシアは再びアフリカで、政治的な影響力の拡大や巨大市場の獲得に乗り出すようになります。
特にロシアは2014年にウクライナ南部のクリミアを一方的に併合し、欧米諸国との対立が深まると、国際的な孤立を避けようと、アフリカとの関係強化の動きを加速させていきます。
2019年には、プーチン政権ははじめてアフリカ各国の代表をロシアに招いて国際会議を開催し、幅広い分野での関係拡大をアピールしました。
ロシアはアフリカ各国との関係において、特に軍事面での協力を通じて影響力を強めてきました。
これまでに30か国以上と軍事協力協定を結んでいるほか、武器の輸出や兵士の軍事訓練などを進めてきました。
また中央アフリカやマリなど政情不安が続く国などでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が戦闘員を派遣する一方で、鉱物資源の権益を拡大するなど、プーチン政権の利益と密接に結びつきながら暗躍していると指摘されています。
こうしたロシアのアフリカとの関係は、国際政治の場にも反映されています。
去年3月、国連総会でのウクライナに侵攻したロシアを非難する決議案の採決で、アフリカ54か国のうちエリトリアが反対したほか、棄権票を投じた国とそもそも投票しなかった国が25か国にのぼり、ロシアへの配慮だと受け止められています。
さらにロシアは、ウクライナ侵攻後、世界的に小麦の価格が高騰するなど食料危機への懸念が高まるなかで自国産の農産物などの供給を新たな手段としてアフリカとの関係をいっそう深めようとしています。
ロシアは今月、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐるロシアとウクライナの合意の履行を停止しました。
ロシア側は、ウクライナ産の農産物は多くがヨーロッパなどに輸出される一方、アフリカのエチオピアやスーダンなど最貧国への供給は3%も満たないと主張し、ウクライナや欧米側を非難してきました。
その一方で、アフリカなどの国々にはロシア産の農産物を無償で提供する考えを示しています。
プーチン大統領は、今回のアフリカ各国との首脳会議を前に発表した論文の中で「ロシアはことし記録的な収穫が見込まれ、ウクライナ産の穀物を代替できることを保証したい」とも強調し、アフリカ諸国に寄り添う姿勢をみせて、取り込みを図ろうとしています。
専門家 “ロシア 東アフリカの市場に着目”
ロシアとアフリカとの関係に詳しい、「高等経済学院」のアフリカ研究センター長、アンドレイ・マスロフ氏は、NHKのオンラインインタビューで「ロシアはアフリカの多くの国に穀物、肥料、エネルギー資源、石炭を供給している。こうした経済協力は、アフリカにとって不可欠なものだ」と述べた上でウクライナ侵攻後もその協力関係について「維持している」という見方を示しました。
マスロフ氏は、ロシアがアフリカ諸国の中で戦略的な協力関係を結ぶ、エジプト、アルジェリア、南アフリカを主なパートナーとして挙げた上で「さらに東アフリカの市場に目を向けている。新しい物流の手段や倉庫などができれば、状況は徐々に変わっていく」と述べて、東アフリカのケニアなどとの経済関係を発展させていくと指摘しました。
一方、欧米側がアフリカの国々にロシアへの制裁に加わるよう圧力をかけているとして「世界情勢の中でアフリカが堅持する『中立性の維持』がわれわれの課題だ」と述べ、政治面でも関係強化が重要だという見解を示しました。
また、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐり、ロシアが今月に合意の履行を停止したことで、アフリカの国々からも食料危機への懸念が示されていることについて「ロシアは人道的な危機が発生しうる重要な地域を特定し、2国間で解決策を提案しようと考えている」と述べ、ロシアはアフリカ各国へ直接支援していく可能性を指摘しました。
そのうえで今回の首脳会議を通して、具体的な支援策を見いだすだろうとしています。
●ハンガリー外相 “スウェーデンのNATO加盟 妨げず” 7/27
NATO=北大西洋条約機構へのスウェーデンの加盟について、トルコとともに承認していないハンガリーの外相は「妨げになることはない」と述べ、今月加盟を承認する立場を表明したトルコよりも早く、国内の議会で承認の手続きが行われる見通しを示しました。
スウェーデンのNATO加盟をめぐっては、すべてのNATO加盟国の承認が必要ですが、トルコとハンガリーが承認していません。
このうちトルコは、今月承認の手続きを進めることでスウェーデンと合意し、エルドアン大統領は議会での承認が閉会中の議会が再開することし10月以降になるという見通しを示しています。
これについて、日本を訪れているハンガリーのシーヤールトー外相は26日、都内でNHKのインタビューに応じ「われわれは加盟に反対したことはない。政府は支持している」と強調しました。
そのうえで「決定はすでに議会にゆだねられている。9月中旬の議会の開会前には議員が集まるはずだ。ハンガリーが妨げになることはない」と述べ、スウェーデンのNATO加盟についてトルコよりも早く、議会で承認の手続きが行われるという見通しを示しました。
また、ハンガリーがウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアからエネルギーの輸入に頼っていることについては、「現実的な関係を維持したいと思っている。ロシアとの対話のチャンネルが開かれていれば、和平に向けた交渉が行われる希望がある」と述べ、ロシアとの関係を維持しながらロシアとウクライナの和平交渉の実現に向けて働きかけていく考えを示しました。 
●ロシアがアフリカ6カ国に穀物を無償提供 プーチン大統領が表明 7/27
ロシアのプーチン大統領は27日、アフリカ6カ国に対して穀物を無償提供すると表明した。ロシアがウクライナ産の穀物輸出に関する合意から離脱し、世界的な食糧価格高騰が懸念される中、貧困国に配慮して批判を避ける狙いがあるとみられる。同日、ロシア・サンクトペテルブルクで開会したロシア・アフリカ首脳会議で演説した。
ロイター通信によると、対象はブルキナファソ、ジンバブエ、マリ、ソマリア、中央アフリカ、エリトリアで、いずれもロシアとの関係が深い国だ。マリと中央アフリカは露民間軍事会社「ワグネル」も受け入れている。各2万5000〜5万トンを3、4カ月以内に届けるという。演説で、プーチン氏は合意で輸出されたウクライナ産穀物の7割超が富裕・中所得国に渡り、貧困国が恩恵を受けていなかったと批判した。
首脳会議は28日まで2日間の日程で開かれ、ロシア側の説明によると、アフリカ54カ国のうち49カ国が参加。南アフリカのラマポーザ大統領やエジプトのシシ大統領、セネガルのサル大統領ら十数カ国は首脳が出席する。
●ロシア内務省、ICC赤根裁判官を指名手配 プーチン氏逮捕状で 7/27
タス通信は27日、ウクライナ侵攻に絡んでプーチン・ロシア大統領らに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子裁判官をロシア内務省が指名手配したと報じた。関連の手配は3人目。逮捕状が出たことでICC加盟国はプーチン氏が入国すれば身柄拘束の義務が生じる。ICC加盟の南アフリカで8月に開かれる新興5カ国(BRICS)首脳会議にプーチン氏がオンライン参加を余儀なくされるなど首脳外交に支障が出ており、赤根氏手配はロシアのいらだちを反映しているとみられる。
ICCは今年3月17日、ウクライナからの子供連れ去りに関与した疑いがあるとして戦争犯罪容疑でプーチン氏と、子供の権利を担当する大統領全権代表マリア・リボワベロワ氏に逮捕状を出した。
赤根氏は愛知県出身。函館地検検事正などを歴任し、2018年3月にICC裁判官に就任した。
●アフリカ、ロシアに平和訴え プーチン氏は穀物供与表明 7/27
ロシア北西部サンクトペテルブルクで27日、第2回「ロシア・アフリカ首脳会議」が始まった。アフリカ連合(AU)議長国コモロのアザリ大統領は関連フォーラムで演説し「ロシアとウクライナの平和共存を呼びかける」と述べた。ロシアのプーチン大統領に侵攻の停止を促した形。ウクライナ危機が食糧供給に深刻な影響を及ぼしているとし「ウクライナとロシアの穀物の供給促進を強く求める」とも訴えた。
プーチン氏はこれに先立つ演説で「ロシアはウクライナ産穀物を代替できる」と主張し、マリや中央アフリカなど6カ国への穀物無償供与の準備が3〜4カ月で整うと表明した。
●バイデン政権は「ウクライナにのめり込みすぎ」の声が、アメリカで強まる... 7/27
米国防総省から2023年2月に流出した文書は、アメリカがロシアの情報収集活動をかなり詳しく知っていること、そしてウクライナに対してもスパイ活動をしていることを示していた。アメリカはロシアに直接的な宣戦布告こそしていないが、ロシアと戦うウクライナに資金や武器だけでなく、軍事情報まで提供し続けていたことも見て取れる。
この戦争に、まだ終わりは見えない。そして、アメリカの関与にも終わりは見えない。この流れを見て、国際政治学者である筆者は、特にイラク戦争(03〜11年)を思い起こしている。
もちろん、イラク戦争とウクライナ戦争には大きな違いがある。例えば、イラクでは数千人の米兵が命を落としたが、ウクライナに米軍は派遣されていない。それでも、イラク戦争とその余波を改めて見直すことは、米本土から遠く離れた土地での激しい戦いに巻き込まれることのリスクを再認識させてくれるはずだ。重要なポイントは3つある。
1 軍事介入が成功するとは限らない
03年にジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)がイラク侵攻を発表したとき、アメリカにはまだ、01年9月11日の米同時多発テロの影が強く残っていた。首謀者であるウサマ・ビンラディンはサウジアラビア出身のイスラム原理主義者で、アメリカの情報機関の懸命の捜索にもかかわらず、まだ逃亡中だった。
ビンラディンがまんまと逃げおおせている事実は、怒りの矛先をどこかに向けたい米政府の焦燥感を募らせた。イラクは9.11と明確なつながりはなかったが、独裁者サダム・フセインは、長年アメリカと同盟国を愚弄してきた。またIAEA(国際原子力機関)の査察を回避し続け、大量破壊兵器を保有しているかのような印象を生み出した。
ブッシュは、フセインが大量破壊兵器を使ってアメリカを攻撃するのではないかと、強い懸念を抱いていたとされる。そんなことになれば、9.11テロをはるかに超える被害が出るだろう──。こうしてアメリカを中心に、イギリスやオーストラリアなどを加えた「有志連合」が組織され、イラク侵攻が始まった。たちまち首都バグダッドは陥落し、フセイン政権は崩壊した。
ブッシュの支持率は、イラク侵攻直後は上昇したものの、「対テロ戦争」が長引くにつれ降下していった。アメリカはイラクの政治や社会をろくに理解していないのに、占領して「国家再建」を図ろうとして、イラク全体に大きな混乱を招いた。
とりわけ、03年5月のイラク軍を解体するという決定は反政府武装勢力の台頭を招く致命的なミスだった。宗派間・民族間の対立も激化し、イラクは内戦状態に陥った。ひとまず07年に終結したものの、今もイラクは政治的に不安定で、アメリカが目指した民主主義国には程遠い状況だ。
2 明確な目標を定義する必要がある
フセインは24年にわたる独裁体制で自らは豪勢な生活を楽しむ一方、市民や政敵を厳しく弾圧した。03年に米軍に捕らえられた後、イラク国内で裁判にかけられ、処刑された。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も、長年にわたり自国民を力で黙らせ、世界でも指折りの汚職まみれの政権を率いてきた。だが、プーチンはフセインよりもずっと危険だ。なにしろロシアには本物の核兵器が大量にある。
そんなロシアから自国を守るために、多くの人命を犠牲にしながら戦い続けるウクライナをアメリカが支持するのは理解できる。ロシアは中国と連携を深めて、拡張主義的な政策を取っているから、アメリカの国家安全保障の点から考えても、ウクライナ支援は理にかなっている。ただ、その関与を、アメリカの国益の範囲内にとどめることも重要だろう。
3 アメリカが分断される恐れがある
イラク戦争は、アメリカ国内で外交政策をめぐり激しい党派対立を引き起こした。最近の世論調査では、イラク戦争によってアメリカが安全になったと考えるアメリカ人はほとんどいなかった。
そして今、アメリカの人々はウクライナ戦争への関与に疑問を抱きつつある。23年6月に発表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、アメリカのウクライナ支援は行きすぎだと考える人が28%と、ここ数カ月でじりじりと増えていることが分かった(1月は26%、22年9月は20%だった)。ただ、ウクライナの防衛を支援すること自体は75%が支持している。
平均的なアメリカ人は、イラクやウクライナについてほとんど知識がない。外国の戦争を支援するコストがどんどん高くなり、それでもアメリカが報復を受ける可能性がなくならないなら、人々の支持が低下するのは無理もない。
ウクライナ支援は、連邦政府の債務上限引き上げ論争にも大きく絡んでくるだろう。
だが、ウクライナがロシアの攻撃に耐え、独立を維持できるだけの支援をしなければ、ロシアや中国、イランといった国々は、傍若無人な活動にアメリカのゴーサインが出たと受け止める恐れがある。
アメリカの指導者たちは、イラク戦争の教訓を踏まえて、ウクライナに提供する支援の種類や量を決定するとともに、アメリカの国家安全保障上の目標を国民に明確に説明するべきだ。
ロシアの侵略に対して戦うウクライナは支援に値するという声は多いが、実際の政策立案では過去の経験を無視するべきではない。イラク戦争の経験はそれを物語っている。

 

●経済フォーラム プーチン大統領「アフリカ6カ国に穀物無償提供」と表明 7/28
アフリカの49カ国が参加予定の「ロシア・アフリカ首脳会議」が始まり、ロシアのプーチン大統領はアフリカ諸国に対し、最大で5万トンの穀物を無償提供する考えを表明した。
プーチン大統領は、首脳会議前の経済フォーラムで演説し、マリやソマリアなどアフリカの6カ国に対し、「今後3、4カ月の間に2万5,000トンから5万トンの穀物を無償で提供する用意がある」とアフリカ諸国にアピールした。
ロシアはウクライナ産穀物の輸出に関する合意の履行を停止したが、プーチン大統領はこの合意によってウクライナから輸出された食糧は、ほとんどアフリカに届いていなかったと持論を展開。
ウクライナ産穀物の輸出分をロシアの無償提供などで代替できると主張した。
また、プーチン大統領は演説の中で、「西側諸国がロシアの穀物や肥料の供給を妨害している」とロシアに対する制裁を批判した。
●プーチン大統領、アフリカに穀物供与提案「障害を作っているのは西欧側」… 7/28
ロシア・アフリカ首脳会議が27日、露西部サンクトペテルブルクで開幕した。黒海を経由したウクライナ産の穀物輸出合意から離脱したことを受け、プーチン露大統領は代替案として、アフリカ6か国に穀物を無償供与する計画を発表した。孤立回避のための取り込み策とみられる。
首脳会議は2019年以来、4年ぶり。28日に共同宣言を発表する予定だ。露政府の25日の発表によると49か国が参加し、首脳の対面での出席は17か国。前回は43の首脳が集まった。ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官は「米欧による圧力のせいだ」と大幅減に不満を表した。
プーチン氏は開幕のあいさつで「(穀物輸出の)障害を作っているのは西欧側だ」と主張した上でブルキナファソ、ジンバブエ、マリ、ソマリア、中央アフリカ、エリトリアの6か国に対して3、4か月以内に最大5万トンの穀物を無償供与する計画を明らかにした。ソマリアを除く5か国は、昨年10月の国連緊急特別総会でロシア非難決議を無投票か棄権だった。
会議では、穀物輸出停止を巡るアフリカ諸国の対応が焦点となる。アフリカでは輸出停止の影響を大きく受ける国が多く、10か国以上が小麦の輸入の1割以上をウクライナに依存していた。ロシアのウクライナ侵略を巡り、アフリカは中立を保つ国が多いが、合意離脱にあからさまに失望の声をあげる国も出ていた。ロシア擁護の国に無償供与を表明したことで、残るアフリカ諸国がロシアになびくかどうか注目される。
露産肥料の輸出も、つなぎ留め策の一つとなりそうだ。ロシアは世界最大の窒素肥料の輸出国で、輸出量を制限して価格高騰を引き起こしている。農業生産性の低いアフリカでは肥料は欠かせない。価格高騰は農家を直撃し、食料価格の上昇につながっている。プーチン氏は、アフリカに有利な提案を示す可能性がある。
ウクライナ情勢を巡り、和平案も議題に上りそうだ。アフリカ連合(AU)の議長国コモロのアザリ・アスマニ大統領は「ウクライナ危機の解決が食料を必要とする人々の命を救う」と訴え、戦争の早期終結による根本的な解決を求めた。
●「天然ガス」に国の命運を賭けたプーチンの戦略眼 7/28
プーチンの戦略と指導力
2000年に大統領に就任して以降、プーチン政権はエネルギー戦略によって世界への影響力を拡大してきました。当時のロシアは経済的にどん底の状態にありました。そのようななか、石油や天然ガスといった資源に目を向け、国家的プロジェクトとして積極的な投資を行い、ロシア財政を支える一大産業にまで復活・成長させたのがプーチンです。
現在、ウクライナ侵攻によって、その評価は地に堕ちた感がありますが、ロシアを世界最大の資源国の地位に押し上げた背景として、プーチンがとった適切な戦略とその指導力を見逃すわけにはいきません。
わずか十数年のうちにエネルギー強国となるロシアの歴史は、プーチン政権が西側技術の移転促進をはかったことは大きな意義を持ちました。こうした取り組みによって、たとえば、イギリスのBPがロシアでのビジネスを拡大し、またサハリンでは、シェルやエクソンといった外資と連携をしていくことになります。
一方で、資源の採掘や輸出を国家プロジェクトと定め、自国での強力な国営企業の育成にも乗り出します。それが国営ガス企業ガスプロムと国営石油企業のロスネフチです。これらの国営企業がプーチン政権の武器となりました。
ガスプロムは、ロシア最大の企業のひとつであり、世界最大のガス生産量を誇ります。1989年に旧ソ連ガス工業省の改組を起源とし、1993年にロシア連邦の内閣決定によって株式会社化したガスプロムは、ロシア政府が50%超の株式を所有し、ロシア産ガスの輸出パイプラインを独占的に管理する世界最大のガス企業として存在しています。
ガスプロムの経営改革を推進しようとしていたプーチン大統領は、2001年5月に自分の側近でエネルギー省次官であったアレクセイ・ミレル氏を新社長に就任させ、ガスプロムに対する影響力を強めました。そして、ガスプロムはいくつかの企業を取り込みながら拡大し、2006年にロシアから天然ガスを独占的に輸出する利権を獲得しました。
こうしてガスプロムは、巨大な天然ガス産業の約7割を生産し、国内の幹線パイプラインを保有するに至っています。生産から流通、そして外国への輸出までを一貫して支配する国営独占企業体となったのです。
最高の技術を持つ天然ガス会社
ガスプロムはロシア国内にとどまることなく、ヨーロッパ、アジアなどの旧ソ連以外への輸出を増やし、国際的な企業に成長してきました。また、設備の更新や操業技術のレベルが飛躍的に向上したことによって、産出量が増えるだけでなく、技術革新によってすでに産出している地帯でも新たな埋蔵を確認できるようになる、という好循環のサイクルに入りました。さらに、開発技術の進展と価格の高騰によって、たとえば、北極圏のような、これまでは採算が合わなかった難しい場所でも産出が可能になっています。
天然ガスの可採年数を見ても、通常は、掘削を続けると埋蔵量が年数とともに低減していくものですが、ロシアの天然ガス埋蔵量はプーチン政権発足後の2000年代に増加しています。可採年数は世界平均を大きく上回る約60年であり、今後もまだまだ掘り続けることが可能です。
また、天然ガスの輸送手段については、既存の欧州向けの天然ガスパイプラインを拡充させるとともに、ウクライナの迂回ルートを多様化・充実させました。さらに、中国にもパイプラインをつなげています。つまり、欧州とアジアへの市場にアクセスし、より広い成長市場へのアクセスを確保したことになります。
もう1つのロシアを代表する国営企業が、世界最大級の石油企業であるロスネフチです。ロスネフチは、サハリン、シベリアといったロシア北部、東部、チェチェンを含む南ロシアで石油、天然ガスの生産を行っています。
2007年にロシアの民間石油企業ユコスの資産を取り入れ、2012年には大手BP系の一部を買収し、合併・買収に伴って保有埋蔵量・日産量の面で世界最大級の石油会社となりました。一時はガスプロムとの合併計画もありましたが、実現していません。
OPECプラスを主導し価格に影響力
プーチンのロシアが、エネルギー国家としての地位を強固なものにした背景として、OPEC諸国との連携を深めたことは見逃せません。2016年、プーチンは、ロシアの主導によって、原油生産の世界シェア20%を占めるOPEC非加盟10カ国を、OPECと連携させたOPECプラスという組織を立ち上げました。
この組織は、以前は圧倒的であったOPECの原油生産の世界シェアが過半を切り、41.5%(2019年)まで落ち込んだことをきっかけとしています。影響力の低下が懸念されたOPECでしたが、OPECプラスは、世界全体の原油生産の60%以上を有することとなり、世界の原油価格支配権を取り戻しました。
このOPECプラスのなかで、生産量が突出して多いのがロシアとサウジアラビアであり、この2つの国がリーダーと言える存在です。つまり、ロシアはOPECプラスを動かすことで石油の価格形成に深く関与できるようになり、さらには、石油と連動する天然ガスの価格についても大きな影響力を持つようになったのです。
ここまでロシアが台頭できた背景として、アメリカで起こったシェール革命の影響を無視するわけにいきません。シェール革命によってエネルギー自給国となったアメリカは、OPECの動向に対して、以前ほどの関心を示さなくなっていたのです。
こうしてエネルギー強国となったロシアは、経済的な豊かさを取り戻していきました。プーチン就任前に比べ、国民1 人当たりのGDPは実に5倍にまで成長しています。また、プーチン大統領は就任直後に、それまでの12%、20%、30%という累進課税であった所得税を一律13%とし、多くの国民に歓迎されました。
同時に、世界もロシアより供給されるエネルギーを基に経済や産業を成長させ、安定した豊かな社会を手に入れようとしていました。ところが、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻が世界を一変させることになります。
ウクライナは、ロシアと欧州にとって、基幹パイプラインが通過する重要な国でした。ロシアからウクライナ、スロバキア、チェコなどを経由して、ドイツに天然ガスが大量に輸送されていたのです。ロシアからドイツに輸出されていた天然ガスは、ドイツ国内で消費されるだけでなく、ドイツから欧州各国に輸出されているため、ウクライナの重要性は非常に高いものでした。
このウクライナ経由のパイプラインは、ソ連時代の1964年に建設されました。「ドルジバ(友情)」という名前がつけられ、コメコンなど共産圏の国々へのエネルギー供給を担っていました。
特筆すべきことは、1985年当時、厳格な管理をしていたベルリンの壁を一旦壊してまで、西ベルリンまでパイプラインをつなげたことです。それによって、西ベルリン(旧西ドイツ)の9割のガス供給を行うようになりました。このように、東西冷戦時代からソ連とドイツはエネルギー外交によって、深い連携を行っていたのです。
ウクライナの反ロシア攻勢と新パイプライン
1991年にソ連が崩壊して、ロシアとウクライナは別の国になりました。そこから、パイプラインをめぐる難しいやり取りが始まります。ロシアの国営ガス会社ガスプロムは、パイプラインの管理権をウクライナに要求したのですが、ウクライナはこれを断りました。
これに怒ったロシアは、ウクライナを迂回するベラルーシ、ポーランド経由や黒海経由のパイプラインを建設するようになります。そして、2004年にウクライナで反ロシア政権が誕生すると、ロシアは兄弟価格を廃止し、従来の5倍という大幅な値上げを実施したり、2006年や2009年には、ウクライナ向けのガス供給を突然停止することで、ウクライナの政権に揺さぶりをかけるようになりました。
さらにロシアは、ウクライナを迂回する大容量のパイプラインを建設するため、2011年にドイツとロシアを直結するパイプラインである「ノルドストリーム」を開通させます。ロシア北西部のヴィボルグからバルト海の海底を通り、ドイツ北東部のルブミンにつながり、ウクライナの迂回を充実させました。
ドイツにとっては、政治問題により、ウクライナ経由のパイプラインが途絶されるリスクがなくなり、またロシアにとっては、ウクライナの影響を排し、ガスプロムが管理できるパイプラインを手に入れたという画期的な出来事でした。
2021年には「ノルドストリーム2」というさらに容量を増したパイプラインが完成したことで、両国の共通の利益はますます強固なものとなりました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、両国の関係を根本的に変えることになりました。ドイツをはじめ欧州諸国は、エネルギーの「脱ロシア」を急ぐようになります。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、エネルギー分野で注目しなければならないのが、ロシアと中国の連携強化です。ロシアの中国への原油輸出量推移を見ると、2012年、2013年以降から急増しています。ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア制裁に積極的ではない中国は、ロシアからの原油輸入量がいっそう増えていくことでしょう。
中露を直結する2つのパイプライン
天然ガス輸出については、2019年12月に完成した「シベリアの力」というパイプラインによって、東シベリアから中国に天然ガスを輸出しています。さらに、西シベリア、東シベリアからの天然ガスを、モンゴル経由で中国に輸出する「シベリアの力2」も建設予定です。
2022年2月4日、北京五輪開会式出席のために北京を訪れたプーチン大統領は、習近平国家主席と会談しました。そこでは、年間100億㎥の天然ガスをロシアの極東から中国に追加供給し、年間480億㎥に拡大する意向を示しています。まるで2月24日からのウクライナ侵攻前にわざわざ締結したかのようなタイミングでした。
ヨーロッパ諸国がロシアからの石油を禁輸し、天然ガスの脱ロシアを急ぐなか、新たな売り先を求めなければならないロシアと、グラスゴー合意を受けて、石炭消費の低減に向かいつつ、経済成長を支えるエネルギーを安定的かつ安価に確保する必要のある中国にとって、双方にメリットのある契約です。今後はロシアと中国を直結するパイプラインによって、両国の連携がさらに深まることが予想されます。
ロシアがいかにして世界最大の資源国になったのか、また、いかに世界に対して影響力を行使するようになったのかについて見てきました。日本もサハリンでの天然ガス開発ではロシアと協業しており、そこから日本に液化天然ガス(LNG)が輸入されています。また、ロシアと中国との接近は、今後の日本の国防や安全保障にも少なからず影響があるでしょう。その意味でも、ロシアのエネルギー事情について、より理解を深める必要があるのです。
●プーチン大統領とアフリカ連合議長 立場の違い浮き彫りに 7/28
ロシアのプーチン大統領は、アフリカ各国の首脳を前にロシア産の農産物を無償で提供する用意があると強調し、アフリカ各国の取り込みを図っています。これに対してAU=アフリカ連合の議長は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して平和的な解決を早期に見いだすよう求め、立場の違いを浮き彫りにしました。
ロシアのプーチン大統領は27日、アフリカ各国から首脳などが参加してロシアのサンクトペテルブルクで開かれている国際会議で演説しました。
この中でプーチン大統領は「ロシアは無償援助という形でもウクライナ産の穀物を代替できる」と述べ、今後3、4か月の間に、マリやソマリアなどアフリカの6か国に対してロシア産の農産物を無償で提供する用意があることを表明しました。
ロシアが、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止し食料危機への懸念が高まる中、欧米に対抗するためアフリカ各国の取り込みを図るねらいがあるとみられます。
これに対してAU=アフリカ連合の議長国、コモロのアザリ大統領はプーチン大統領を前に「ロシアとウクライナの危機が続けば、ロシアとアフリカの将来的な協力関係も損なわれることになる」と述べロシアに対して平和的な解決を早期に見いだすよう求めました。
AUの代表として、軍事侵攻の継続はアフリカの利益にはならないとの姿勢を示した形で、ロシアとの立場の違いが浮き彫りとなっています。
ウクライナでは、穀物の積み出し港がある南部オデーサ州でロシア軍による攻撃が繰り返され、地元の知事は27日、港湾インフラを標的に巡航ミサイルが撃ち込まれて警備員1人が死亡したほか、貨物ターミナルが被害を受けたとSNSで明らかにしました。
一方、プーチン大統領は27日、ロシアメディアの質問に答える形で、ウクライナ軍との戦闘が南部ザポリージャ州の方面で激しくなっているという認識を示しながら「反転攻勢の試みはすべて阻止された」と主張し、ウクライナ軍の反転攻勢を退けているとロシア国内向けにアピールするねらいがうかがえます。
●ついに「プーチンの排除」が始まった…ロシア「反戦派エリート」 7/28
ラブロフ外相が関わる1.5トラック
ウクライナ戦争をめぐる米国とロシアの非公式・秘密協議について、参加している元米高官がロシア・メディアのインタビューに応じた。「クリミア半島を失えば、ロシアが核を使うのは、ほぼ確実」「プーチンを排除するのは不可能ではない」などと衝撃の内幕を語っている。
参加したのは、米側がシンクタンク、外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース前会長ら、ロシア側がセルゲイ・ラブロフ外相らだ。米NBCが報じた特ダネだが、ハース氏が自分のブログで事実と認めている。
だが、肝心の中身はいま1つ、判然としなかった。今回、協議に参加している元米高官は匿名で、ロシアの英字メディア「モスクワ・タイムズ」のインタビュー(7月25日付)に応じた。
読者は「ロシアのメディアが信用できるのか」と思われるかもしれない。彼らが自分のサイトに載せている自己紹介によれば、モスクワ・タイムズは1992年に創設された独立系の新聞だ。
当初はモスクワで発行されていたが、ウクライナ侵攻後、ロシア議会でメディア弾圧を狙った法律が可決され、自由で独立した報道を守るために、記者と編集局をアルメニアのエレバンに移した。現在、紙の新聞は発行していない。記事を執筆したのは、英国人だ。
インタビューで、元米高官は次のように語った。
〈世界が現在のように閉じられたとき「1.5トラック外交」には意味がある。私は、少なくとも3カ月に1度はモスクワを訪れてきた。私たちが望んだほどではないが、クレムリンが何を考えているか、ある程度はアクセスできた〉
1.5トラックというのは、政府間の公式協議をトラック1とすれば、完全な民間の協議はトラック2、今回はラブロフ外相が関わっているので、1と2の間のトラック1.5という意味だ。
秘密協議がどれくらいの頻度で開かれたのか、NBCの報道では明らかでなかったが、記事は「少なくとも1カ月に2回、しばしばオンライン形式で開かれた」と書いている。非公式とはいえ、協議は定例化されていた。
〈彼らは、自分たちの勝利や敗北をどう定義したらいいのか、分かっていない。我々が話したエリートたちの何人かは、そもそも戦争を望んでいなかった。「それは完全な間違いだった」とさえ言っていた〉
NBCによれば、ロシア側の参加者はウラジーミル・プーチン大統領にも助言できる立場のシンクタンクや政府関係者たちだ。そんなトップ・エリートたちの間でさえ「この戦争は、そもそも間違いだった」という意見があったのだ。
〈だが、彼らはいま戦争の渦中にある。彼らの選択肢に屈辱的敗北はない。そこで、我々は「米国がロシアの安全保障上の懸念に建設的に応える準備がある」点を明確にした〉
そのうえで、元高官はこんな見解を明らかにした。
〈ロシアに恥をかかせたり、崩壊させるほど孤立化、弱体化させようとする試みは、交渉をほとんど不可能にしてしまう。モスクワの高官たちの沈黙から、我々はそれを理解している。実際、我々は「周辺地域の安定を維持するために、米国は十分に強力なロシアを必要としている」という点を強調した〉
〈米国は中央アジアで外交を前進させるために、ロシアの戦略的自立性を求めている。「欧州での完全勝利は米国の他の地域での国益を害する」という点を理解しなければならない。ロシアのパワーは必ずしも、悪いものではない〉
ロシアを停戦に向かわせるための「アメ」という点を割り引いても、注目すべき発言だ。
戦術的な核の使用に懸念
昨年4月29日公開コラムで指摘したように、ジョー・バイデン政権は昨年春時点で「ロシアの弱体化」を目指す方針を公言していた。今回の元高官発言がバイデン政権のスタンスなのかどうかは分からないが、これは後で記すように、微妙な意味がある。
〈それは、我々がウクライナや欧州を放棄する、という意味ではない。むしろ、我々はロシアを欧州安全保障のより創造的なプレイヤーにする一方、ウクライナの独立を保障する方策を見つけたい〉
〈欧州の安全保障に関する米国とロシアの対話には不十分な点があった。ウクライナ侵攻に先立つ2022年初頭時点で、我々の交渉は秘密裏にされるべきだった。だが、ロシアが細部をリークしてしまった。それが交渉をはるかに難しくした〉
〈すべての関係国の希望を満たすように、複数の外交チャンネルを開くよう、我々は提案した。まずは米ロ間の真剣なチャンネルだ。両国こそが欧州の安全を交渉するのに、十分な力を持っている。もちろん、ウクライナとロシアのチャンネルも必要だ。ロシアと欧州連合(EU)、それからロシアとグローバル・サウスの間もだ〉
重大な懸念も語った。ロシアの核である。
〈もしも、ロシアがクリミア半島を失うかもしれないと思ったら、彼らが戦術核に訴えるのは、ほとんど確実だろう〉
元高官は「米国がドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリージャ各州でロシアとウクライナのどちらを選ぶか、帰属をめぐる公正な住民投票の実施を支援する用意がある、と提案した」ことも明らかにした。だが、ロシアは断ったという。
そのうえで、大胆な打開策を口にした。
〈いまやロシアの外交は、すべてがリンクしている。建設的な外交を不可能にしている戦争の周囲に、すべてが集まっているのだ。プーチンが進展の障害物だ。米政権は、少なくとも1度はクレムリンと対話しようとした。だが、プーチンが断った〉
〈したがって、ワシントンはロシアの反戦派エリートに接近して、彼らと前進しなければならない。もしも、彼らが別の指導者を支持するなら、プーチンを追放するのは不可能ではない〉
以上は、あくまで非公式な秘密協議に加わっている元米高官の発言であり、バイデン政権の関与は不明だ。だが、先週のコラムに書いたように、協議の内容はホワイトハウスにも伝わっている。しかも、米側の代表格であるリチャード・ハース氏は「米外交サークルの学部長(ディーン)」とまで言われるほどの大物だ。
このタイミングで元高官がインタビューに応じたのは、米国とロシア双方の反応を探るアドバルーンの意味もあるだろう。米国の主要メディアではなく、マイナーなロシア・メディアを使ったのは、衝撃度をコントロールする狙いである。
そうだとしても、米国が停戦に向けて水面下で動き出しているのは、間違いない。
ロシアの弱体化はしない
私が元高官発言で、もっとも注目したのは、最後の「反戦派エリートへの接近」と「プーチン排除」を語った部分だ。米中央情報局(CIA)のウイリアム・バーンズ長官や英情報局秘密情報部(MI6)のリチャード・ムーア長官は最近、相次いで、ロシアからのスパイをリクルートする意欲を語っている。
これは元高官発言と整合的だ。米国は反戦派への接近やスパイのリクルートを通じて、プーチン排除を狙っているとみていい。プーチン排除と「ロシア弱体化を目指さない」のは矛盾しない。プーチンさえいなくなれば、ロシアの影響力を残すのは可能だし、むしろ残すべきだ、とみているのだ。
トップが世界に公言したからには、CIAやMI6のスパイ・リクルート作戦は、すでに水面下で動き出しているだろう。戦争はウクライナの戦場だけでなく、モスクワの奥深くでも始まっている。
●「ロシアはウクライナ産穀物を代替できる」プーチン アフリカ各国取り込み 7/28
ロシアのプーチン大統領は、ロシアがウクライナ産穀物の輸出合意から離脱したことで食糧供給への懸念を深めるアフリカ諸国に対し、「穀物を提供する用意がある」と表明しました。
ロシア プーチン大統領「わが国はウクライナ産の穀物を商業的にも無償援助という形でも代替できる」
プーチン大統領は27日、アフリカ各国の首脳らが参加する国際会議でこのように述べ、マリや中央アフリカなど6か国に対し、今後3〜4か月の間に穀物を無償提供する用意があると表明しました。穀物合意からの離脱については、「西側がロシア産穀物の輸出を妨害した」と主張。食糧危機への懸念が高まる中、アフリカ各国の取り込みを図るとともに欧米側に揺さぶりをかける狙いがあるとみられます。
また、プーチン氏はウクライナ軍が南部ザポリージャ州を中心に反転攻勢を激化させているとしたうえで、「すべての攻撃を撃退し、大きな損害を与えた」と主張しました。
一方、ロシアの有力紙コメルサントなどは27日、反乱を起こした民間軍事会社「ワグネル」の創設者・プリゴジン氏が、国際会議が行われているサンクトペテルブルクでアフリカの高官とみられる人物と握手する写真を報じました。
写真はプリゴジン氏と近い関係者がSNSに投稿したものとされ、プリゴジン氏は「マリ、中央アフリカ、ニジェールの代表と会談を行った」としています。
ワグネルは部隊を再び中央アフリカに送るなどしていますが、プリゴジン氏が反乱後も一定の影響力を保持している可能性があります。
●ロシアの“裸の王様”に恨み骨髄! 認知症悪化の「プーチンおろし」狙う3人組 7/28
「プーチンの戦争」はウクライナをメチャクチャにするばかりか、ロシアを疲弊させ、権力者の足元も揺るがせている。仏シンクタンク「国際関係研究所」(IFRI)によると、ウクライナ侵攻以降、ロシアから100万人超が流出。大半が教育も所得水準も高い若い世代で、兵役逃れが要因だ。プーチン大統領は性別変更や性別適合手術の原則禁止、徴兵年齢上限を30歳に引き上げるなどして対抗しているが、いたちごっこの様相である。
膵臓がん、パーキンソン病、認知症など、プーチン氏の健康不安説が強まる中、米ワシントン・ポスト(電子版)は「ワグネルの乱」に直面したクレムリンがマヒ状態に陥ったと報道。欧州当局者は「プーチン氏は鎮圧や首謀者の逮捕を決める時間があったのに、いざ反乱が始まると動揺と混乱しかなかった」と指摘したというが、反プーチンの動きも見え隠れする。
認知症で権力固執?
「認知症の悪化が懸念されるプーチン氏に対し、ワイノ大統領府長官をはじめとする側近が情報を上げなくなっている」と言うのは、筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)だ。こう続ける。
「政権の実質的ナンバー2のパトルシェフ安全保障会議書記とプーチン氏の関係悪化も影響しています。パトルシェフ氏もサンクトペテルブルク出身の元KGBで、2人は盟友だった。プーチン氏の後継に長男のドミトリー・パトルシェフ農相を据えることで合意していましたが、来年3月の大統領選をにらみ、パトルシェフ氏が2月ごろに首相への格上げを求めると、プーチン氏が拒否。一気に亀裂が深まりました」
ロシアの権力移譲は、首相→大統領代行→大統領のステップを踏むのが王道だ。プーチン氏もそうやって上り詰めた。記憶がないのか、翻意なのか。プーチン氏が約束を反故にした理由は定かではないが、「プーチンおろし」の種火になったようだ。
「激怒したパトルシェフ氏はプーチン氏に不信感を抱くワグネル創設者のプリゴジン氏をたきつけ、蜂起に誘導したとみられています。プリゴジン氏もサンクトペテルブルク人脈です。行き場を失ったプリゴジン氏らをベラルーシのルカシェンコ大統領が引き受けたのは、パトルシェフ氏の差し金。ルカシェンコ氏はベラルーシを属国化するプーチン氏を苦々しく見ており、ワグネルと自国軍を一体化し、ロシア軍に対抗し得る戦力を蓄えようとしている。プーチン憎しで結束する3者は、プーチン氏に戦争責任を押し付けてICC(国際刑事裁判所)に突き出し、新体制への移行をもくろんでいます」(中村逸郎氏)
プーチン氏の10月訪中は怪しくなってきた。
●プーチン露大統領、金正恩氏に祝電 朝鮮戦争の共闘を強調 7/28
ロシアのプーチン大統領は27日、朝鮮戦争(1950〜53年)の休戦協定締結から70年に合わせ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記に祝電を送り、朝鮮人民軍とソ連兵が当時、共に戦ったとし「歴史的経験は両国関係発展の支えとなる」と強調した。大統領府が発表した。
ウクライナ侵攻や主要な国際問題での両国の連帯は「多極的な世界秩序構築を妨げる西側諸国に反対する共通の決意を示している」と指摘した。
●ウクライナ、東部の村奪還 ロシア大統領も反攻激化認める 7/28
ウクライナ軍・国防省は27日、継続中の反転攻勢により、東部ドネツク州のスタロマイオルスケ村を奪還したと明らかにした。昨年5月にロシア軍に制圧された同州の港湾都市マリウポリに向け、わずかに前進したことになる。ゼレンスキー大統領はSNSに部隊の動画を投稿した。
一方、ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナ軍の反転攻勢が南部ザポロジエ州で激化したと述べた。ロシア北西部サンクトペテルブルクで「ロシア・アフリカ首脳会議」に出席中、政府系テレビの取材に急きょ応じた。臨時声明を出した形で、重大局面として国民に周知したとみられる。
●クリミアのロシア軍補修拠点をウクライナのSu-24が巡航ミサイルで叩く 7/28
ロシアの占領下にあるウクライナ南部クリミア半島の北部ジャンコイから南へ1.5キロメートルほど下ったノボステプネという場所に、ロシア軍の車両置き場(車廠)がある。ウクライナ南部で戦闘を行っているロシア軍部隊は、損傷した車両をここに送って修理している。
24日、そこで爆発が起きた。ロシアの複数の情報筋によると、ウクライナ空軍のSu-24爆撃機から発射された1発の英国製巡航ミサイル「ストームシャドー」の仕業だった。
ウクライナ軍による攻撃を受けた際に、この車両置き場にどのくらいの数の車両があったのかは定かではない。攻撃で何両が破壊されたのかも不明である。
想定される損害のうち、ウクライナ側にとって最良のケースは、巡航ミサイル1発で100両以上の車両を破壊したというものだろう。この場合、ウクライナ軍南部司令部が7週間前にザポリージャ州やドネツク州で満を持して反転攻勢に出て以降、ロシア軍の車両に与えた全損害にほぼ匹敵する損害を、1度の攻撃で加えたということになる。
他方、最悪のケースはロシア軍車両の損害が最小限にとどまった場合だが、それでもなおウクライナ側にとっては果報と言える。というのも、この攻撃によってロシア側は少なくともウクライナ南部で兵站基盤の分散を強いられ、その結果、車両の補修作業に支障が出ると見込まれるからだ。
24日の攻撃について、クリミアの住民はまず、立ち昇る煙や砂ぼこりで何かあったことに気づいたようだ。ほどなくしてロシアの軍事ブロガーらがウクライナによる攻撃だと認めた。
「ウクライナ空軍のSu-24がストームシャドー4発を発射した」。通信アプリ「テレグラム」で人気軍事チャンネル「Rybar」を運営するロシア人ブロガー、ミハイル・セルゲービチ・ズビンチュクはそう説明している。
ズビンチュクによれば、うち3発はジャンコイの南15キロメートルほどに位置するビルネ付近の弾薬庫が攻撃目標だった。そして、残り1発がノボステプネを狙ったものだった。「4発とも目標に命中した」という。
この補修拠点に置かれている車両数は、ロシアが2022年2月にウクライナでの戦争を拡大してから現在までの間に変化してきたが、1年ほど前には数百台集められていた。2022年8月に撮影された衛星画像には、戦車や戦闘車両、軍用トラックが所狭しと並べられている様子が写っている。
重量1.5トンのストームシャドーが戦車か戦闘車両に直撃すれば、その車両はまず間違いなく撃破されるだろうし、周囲数百メートルにある車両が最低でも激しく損傷するのは確実だろう。
実弾を搭載した車両があった場合、連鎖的な爆発が起きた可能性もある。これがどれほど大きな損害をもたらしうるか、よくわかる実例を紹介しよう。1991年7月、クウェートにあった米陸軍の基地「キャンプ・ドーハ」の車両置き場で火災が偶然発生し、それによって弾薬が次々に爆発する事態になった。その結果、M-1戦車4両を含む車両およそ100両が破壊された。
ただ、ノボステプネに対する攻撃に関しては、独立系の調査機関「コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)」が二次爆発はなかったと報告しており、連鎖的な爆発は起きなかったのかもしれない。
クリミアにあるロシア軍の補給拠点に安全な場所はない
いずれにせよ、今回の攻撃はロシア側にとっては不吉な兆候だ。ウクライナ空軍はまだSu-24を数十機保有している可能性があり、ストームシャドーやそのフランス製版「スカルプ」についても、クリミアやほかの占領地にあるロシア軍補給拠点を継続的に攻撃していくのに十分な量を確保しているかもしれない。
車両置き場も安全ではない。たとえ防空部隊に護られていてもだ。ステルス性能をもつストームシャドー/スカルプは迎撃がきわめて難しいことがわかっている。射程はウクライナに供与されたタイプでも最大250キロメートルに達する。
ロケット砲、ドローンそして巡航ミサイルと、ウクライナが深部に対する攻撃能力を急速に高めていることへの懸念から、ロシアはすでに昨年、補給拠点を前線からさらに離れた場所に移すようになっていた。
前出のCITは、ウクライナ軍はそのため「より後方にある既知の補給拠点を目標にせざるを得なくなった」と解説している。ノボステプネと前線からの距離は150キロメートル弱。Su-24がウクライナ側の安全な場所からストームシャドーを十分撃ち込める距離だ。
ウクライナ南部に展開しているロシア軍の野戦部隊は、大規模な補給拠点をクリミア南部などさらに奥に引っ込めることもできるだろう。だが、それによってストームシャドーの脅威を減らせても、完全に取り除くことはできない。
ウクライナ空軍は昨年、南部の自由港オデーサの南約130キロメートルに浮かぶズミイヌイ(スネーク)島を占拠していたロシア軍部隊に継続的な爆撃を実施し、このエリアでの作戦行動能力を証明している。このロシア軍守備隊は昨年6月末に撤退に追い込まれている。
ズミイヌイ島からクリミアへの距離は160キロメートルもない。Su-24は黒海西部の上空から、クリミアのあらゆる場所を巡航ミサイルの目標にできるということだ。
ロシア側は補修拠点をたんに移動させるのではなく、分散させることも可能だろう。確かにそうすれば、ウクライナ側はより小さな目標をより多く目標に据えなくてはいけなくなるため、全体的なリスクは下がるかもしれない。だが、兵站は規模がものをいう以上、分散すれば効率性が低下する。言い換えれば、車両の修理ペースは落ちることになる。
つまり、どうやってもウクライナ有利・ロシア不利という関係は動かない。ウクライナ軍の巡航ミサイルによって、ロシア軍がウクライナ南部で旅団に完全な装備をさせ続けることは一段と難しくなっている。
●中国とロシアに依存し過ぎていたドイツの悲劇…ウクライナ戦争 7/28
欧州統合の前進
ポスト冷戦時代で第1に思い浮かぶのは欧州統合の飛躍的前進である。1990年のドイツ統一の勢いもあったのだろう。
1992年に調印された欧州連合条約、別名マーストリヒト条約は第1にEU(欧州連合)の創設を高らかに宣言している。
EUは従来のEC(欧州共同体)に共通外交・安全保障政策と警察・刑事司法協力を加えて3本柱で構成されることになった。第2は単一通貨ユーロの創出である。すでに1987年に発効した「単一欧州議定書」に基づき、92年に市場統合が完成したのを受けて、「One Market, One Money(単一市場には単一通貨を)」のキャッチフレーズの下でユーロ導入を決めたのである。
当時、ベルギーの首都ブリュッセルにあるEU本部の欧州委員会を訪れると、迎えてくれた経済金融総局のシューベルト局長は欧州統合の前進にすこぶる上機嫌だった。欧州統合の旗振り役の欧州委員会官僚にとって統合前進は我が意を得たりというところだろう。
これに比べて、アンカー通貨の座をユーロに明け渡さざるを得なくなった独マルクの守護神「Bundesbank(独連銀)」の幹部連中には法律で決められたこととはいえ、金融政策という主権をECB(欧州中央銀行)に移譲しなければならない悔しさが感じられた。
実際に1999年にユーロが誕生すると、世界からの訪問客でごった返していた独連銀の1階ロビーには人影が失せて一抹の寂しさを覚えたものだ。
ロシアへのエネルギー依存の高まり
次に欧州で起こったのは、ユーロ誕生とポスト冷戦による国際資本移動の増加の結果、ギリシャなどEU周縁国ではユーロ危機と呼ばれる債務危機が起きたことである。
第3はドイツはじめEUが、ロシアと中国との経済関係を緊密にして、安価で豊富な天然ガスをロシアに依存して、生産した工業製品を巨大マーケットの中国に売り込むという欧州成長モデルを構築していったことである。
ドイツがロシア産天然ガスの輸入を開始したのは1973年の石油危機でエネルギー調達先の多様化を迫られていた時である。当時のヴィリー・ブラント西独首相は東方政策を掲げ、ソ連・東欧など共産圏諸国との融和政策を進めていたので、ロシア産ガス輸入開始は絶妙のタイミングであった。79年ソ連のアフガン侵攻で東西の緊張が高まる局面でもソ連は安定的にガス供給を続けたことから、ソ連を引き継いだロシアも信頼できるエネルギー供給国という誤った見方が醸成されていった。
ロシア依存が高まった理由は第1にオランダ、ノルウェー、英国などのガス生産が減少して、2000年時点でドイツの需要の50〜60%しか賄えなくなったこと、第2は03年のイラク戦争によるエネルギー供給不安、第3はゲアハルト・シュレーダー首相が03年のイラク戦争で国連決議を経ずイラクに侵攻した米国を批判したことから、米独関係が急速に冷え込んだこと、第4は11年の福島原発事故を契機としてドイツが原発廃止を決めたからである(実際の廃止は23年4月)。
シュレーダーは個人的にも親しいプーチンのロシアへの接近を強め、2005年にはガスパイプライン「ノルドストリーム」の建設プロジェクトがスタートした。この独露蜜月関係は基本的にアンゲラ・メルケル政権にも引き継がれ、ノルドストリーム2の建設プロジェクトが動き出すなど、ドイツはますますエネルギーのロシア依存を高め、15年に35%だったガス消費量のロシア依存率は21年には55%にまで上昇していった。
日本よりも中国重視だったドイツ政権
一方の中国との関係だが、ドイツが中国と国交を樹立したのは1972年、ちょうど、東西ドイツ統一を夢見るブラント西独首相が実務面での協力と交流拡大を謳った東西ドイツ基本条約の仮調印を済ませたタイミングだった。
その後、独中関係は1989年の天安門事件やチベットの人権弾圧を巡って非難の応酬が続くなど必ずしも平穏ではなかったが、独中緊密化に舵を切ったのが98年から2005年まで政権を担当したシュレーダー首相であり、続くメルケル首相も同じ路線を歩んだ。
二人とも経済重視の傾向が強く、人権問題に深く突っ込むことは避けていたようだ。ここらは独露蜜月関係とよく似たパターンである。特にメルケルは在任中、中国訪問回数は12回なのに、訪日は6回、しかもう3回は洞爺湖・伊勢志摩でのG7サミット、大阪でのG20サミット出席が目的であるので実質3回、メルケルの中国重視がよくわかる数字だ。
メルケルの中国傾斜でドイツの輸出総額に占める対中輸出比率は、2020年時点で8%と米国に次ぐ第2位の輸出先となった。また、中国への外国直接投資に占めるドイツの割合は2020年で43%と高く、直接投資残高は20年で900億ユーロと10年前の3倍になっている。一方、中国企業によるドイツ企業買収も目立ち、それも15年に公布された「中国製造2025」で掲げられた重要産業に集中している。
そのためドイツでは近年、経済安全保障の観点から技術流出の懸念が強まり、とりわけウクライナ戦争を境に専制国家中国と緊密な経済関係を結ぶことへの警戒感が急速に広がっている。
●プーチンの大誤算…ドイツへの「ガス供給停止」がまさかの不発…
プーチンの天然ガス供給停止
ウクライナ戦争と米中対立に象徴される新冷戦構造は、ドイツ及び欧州の成長モデルを崩壊させた。
前編でも述べたように、ロシアがノルドストリームによる欧州向けガス供給を停止したために、ロシアと欧州の双方に致命的な打撃を与えることになった。特に福島原発事故を契機に原発廃止を決めたドイツのエネルギー事情は深刻である。
ウクライナ戦争でEUと共にロシア制裁に踏み切ったドイツに対して、プーチンはガス供給の停止という禁じ手で応じたため、ここで初めてドイツはロシアが信頼できるエネルギー供給国との見方は幻想に過ぎなかったことを思い知らされた。
厳しいドイツの冬を越せるか不安視されたが、ドイツはカタールとの間で年間200万トンのLNGを購入する15年の長期契約を結び、さらにノルウェー、カナダなど調達先の多様化を進め、なりふり構わず高値でのガス調達に奔走した。
幸い、暖冬のせいもあって、ガス貯蔵タンクは満杯となり、ドイツ各地のクリスマスは例年通り煌びやかな光で飾られた。北海沿岸にはドイツ初のLNG受け入れ基地も完成、プーチンの思惑は外れドイツはガス輸入における脱ロシアに大きく舵を切った。
しかし、問題はこれで解決したわけではない。企業の中にはエネルギー価格高騰を事業リスクと認識するところも出てきており、燃料不足で生産減少に追い込まれた粗鋼、アルミニウム、化学などの業種ではドイツ工場の海外移転も検討している。特にエネルギーが豊富で価格面での優位性を持つ米国はドイツ製造業にとって魅力的な移転先である。
ドイツ産業へのエネルギーの安定供給を長期的に維持していくことが容易でないことが、ウクライナ戦争で明らかとなった。将来のドイツのエネルギー確保の見通しについてドイツ政府は2035年までに電力は100%再生可能エネルギーで賄う方針であるが、エネルギーの安定供給、エネルギー価格の安定、再生可能エネルギーへの転換をいかに実現するかドイツ経済にとって大きな課題であることに変わりはない。
産業立地で優位なはずだったドイツがエネルギー危機で製造業者に動揺を与え、産業空洞化のリスクが大きくなった。
中国との関係見直し
中国の露骨な覇権主義と激化する米中対立も独中関係の見直しにつながりそうだ。第1に南シナ海、東シナ海で法の支配を無視して、力による一方的な現状変更を試みる中国の軍事的脅威は、戦後ドイツの価値観からも見過ごすことのできないレベルまで高まっている。
2021年にはドイツ海軍フリゲート艦「バイエルン」をアジア太平洋に派遣し、日本にも寄港するなど、中国を牽制し始めている。
第2に経済安全保障の観点から自分に都合が悪くなると、すぐにレアアースなど重要資源の供給を停止したり、相手国からの輸入を禁止する中国との関係を緊密化することに警戒感が強まっている。
第3は同盟国・友好国に限定されたフレンド・ショアリングから中国が排除されるので、中国に生産拠点は置けなくなるし、先端技術製品の中国向け輸出も制限されることになる。
2023年3月、ドイツ閣僚として26年ぶりとなるシュタルクワツィンガー教育・研究相が突然台湾を訪問したが、これはこの文脈で捉える必要がありそうだ。
安価で豊富なロシア産ガスに依存して、巨大な中国マーケットへの輸出を増やして成長するポスト冷戦時代のドイツ及び欧州の成長モデルは、新冷戦の下で崩壊の憂き目にあうことになる。
新たな成長戦略が見えず
残念ながらそれに代わる欧州の新たな成長戦略が見えて来ない。問題はウクライナ戦争でEUの分断が進むことだ。
第1に2009年からのユーロ危機で緊縮財政を強いられたギリシャなど周縁国は、ドイツなどEUリーダーに対する不満が鬱積している。
第2に流入する移民難民に比較的優しい西欧加盟国と受け入れを拒否する東欧加盟国で意見が対立している。第3にウクライナ戦争による経済エネルギー危機に金にまかせて対応したドイツなど豊かな国と、それができない東欧・南欧加盟国との間で軋轢も生じている。
EUの連帯にヒビが入ると、各国で極右が台頭するし、インフレが加速すると労働争議が頻発する。ウクライナ戦争以後、独ルフトハンザ航空のスト、仏パリの地下鉄など公共交通機関のスト、英国でも鉄道、空港スタッフ、ゴミ清掃員のストが頻発している。また、自由・民主・人権尊重のEUの中にハンガリーのオルバン政権のような独裁者も誕生している。
このように欧州では分断が目立つようになってきており、欧州統合が大きな曲がり角に来ているのは確かである。新冷戦時代の欧州経済はポスト冷戦時代とは打って変わって厳しいものにならざるを得ないだろう。
●北朝鮮、ウクライナ侵攻を全面支持 訪朝の中ロと足並みそろえる 7/28
朝鮮戦争の休戦協定締結70年に合わせて訪朝しているロシアと中国の代表団が27日、首都・平壌で北朝鮮の「戦勝記念日」を祝った。3カ国はロシアのウクライナ侵攻をめぐって足並みもそろえた。
北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が伝えたところによると、ロシアのショイグ国防相と代表団を歓迎するレセプションで、北朝鮮の強純男(カンスンナム)国防相はウクライナでの戦争に言及し、「国の主権と安全保障を守るためのロシア軍と人民の正しい闘争」に対する北朝鮮の全面的な支持を表明した。
ショイグ氏は朝鮮人民軍(KPA)は「世界最強の軍隊になった」と述べ、継続的な協力を約束した。
米シンクタンクのカーネギー国際平和基金で核政策を専門とするアンキット・パンダ氏は、ショイグ氏の「戦勝記念日」祝賀行事への出席は特に注目すべきと指摘。昨年のロシアのウクライナ侵攻以来、北朝鮮とロシアが親密になっていることを示している、との見解を示した。
一方、オーストラリアの米国研究センターの研究員、ブレイク・ハージンガー氏は、平壌での3カ国の集まりは弱点も示していると指摘した。ハージンガー氏は「中国とロシアの友好国リストの乏しさと、ならずもの政権を支持する両国の姿勢を如実に表している」と述べた。
●中国、ロシアに軍事技術提供か 米情報機関が報告書 7/28
国家情報長官室(ODNI)は27日出した報告書で、中国がウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、国際社会の制裁を回避して戦闘機部品や電波妨害技術といった軍事技術や軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術を提供していると指摘した。ロイター通信が伝えた。
報告書は、中国の国有軍事企業がナビゲーション機器などを制裁対象のロシア政府系軍事企業に提供していることが通関記録で示されていると強調した。こうした技術を使って「ロシアはウクライナでの戦闘を継続している」と非難した。 
●プーチン大統領「40以上のアフリカの国々と軍事協力」 7/28
ロシアのプーチン大統領は、アフリカ各国の首脳との会議で、40以上の国々と軍事協力などの協定を結び、武器などを供与していると明らかにしました。軍事面などでの協力関係を強調してアフリカ各国の取り込みを図り、対立を深める欧米に対抗するねらいもあるとみられます。
この会議は、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで27日から開かれていて、アフリカの54か国のうち49か国から政府関係者や企業の代表などが参加しています。
28日は、プーチン大統領が各国の首脳との会議に臨み、軍事侵攻を続けるウクライナ情勢について「ウクライナ危機の解決に向けてアフリカ諸国がイニシアチブをとっている。われわれはその検討を避けていない」と述べ、和平の実現に向けた働きかけを行っているアフリカ側に対して一定の配慮を示しました。
また「ロシアは、40以上のアフリカの国々と軍事技術協力の協定を結んでおり、武器や装備を供与している。アフリカの治安機関などとの緊密な協力にも関心がある。アフリカの軍人などへの訓練を継続するつもりだ」などと述べ、アフリカ各国との防衛協力を強化していく考えを強調しました。
プーチン大統領は、27日にはアフリカの6か国に対してロシア産の農産物を無償で提供する用意があることを表明しました。
ロシアとしては、アフリカ各国との軍事や農業をめぐる協力関係を強調して各国の取り込みを図り、ウクライナへの軍事侵攻を受けて対立を深める欧米に対抗するねらいもあるとみられます。
ワグネルなど民間軍事会社 アフリカ各地で活動
ロシアの民間軍事会社ワグネルは、アフリカで政情不安が続く国々に戦闘員を派遣する一方、鉱物資源の権益を拡大するなど、プーチン政権の利益と密接に結び付きながらその活動を広げてきました。
アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所は、2016年から2021年までの期間にワグネルなどロシアの民間軍事会社がアフリカの17か国で活動していたとみられると分析しています。
またその多くは、天然資源が豊富でありながら、内戦や政治的な対立などによって国内情勢が不安定な国々だと指摘しています。
なかでもワグネルは、2017年ごろからアフリカの国々での活動を活発化させていったとみられています。
反政府勢力やイスラム過激派との戦闘が続く中央アフリカやマリでは、ワグネルの部隊は政府軍の兵士の訓練や掃討作戦の支援を行い、政権側との関係を深めていきました。
両国では政府を支援してきた旧宗主国のフランスなどが軍を撤退させる動きが続き、その空白を埋めるようにロシアやワグネルが影響力を拡大していったと指摘されています。
一方、国内での対立が続いているリビアやスーダンでは、ワグネルの部隊は政府軍ではなく対立する勢力側を支援してきたとされています。
こうしたことからワグネルは、プーチン政権の意向にも沿いながら、戦略的に支援先を選んできたものとみられています。
また、ワグネルは部隊を展開する国々で、軍事支援の見返りに金やダイヤモンドなどの鉱山の利権を押さえるなど、資源輸出ビジネスも展開し大きな利益を上げてきたと指摘されています。
さらにインターネット上などで旧宗主国など欧米諸国をおとしめる情報を流して、反欧米感情をあおる一方、ロシア人部隊のアフリカでの活動を英雄視するアクション映画を制作するなど、ロシアへの親近感を作り出す情報戦も展開してきたとみられています。
一方、ワグネルは去年、マリで、市民ら500人以上が殺害される事件への関与が指摘されるなど、各地で民間人に対する暴力や拷問、性的暴行など人権侵害を繰り返しているとして非難も相次いでいます。
6月にワグネルの代表プリゴジン氏がロシアで武装反乱を起こしましたが、ワグネルのアフリカでの活動について、ロシアのラブロフ外相は「マリや中央アフリカでの民間軍事会社の活動はこれからも続ける」と述べ、今後も継続していくという考えを示しています。
ワグネル 2021年ごろから政情不安のマリで活動
西アフリカのマリでは、2012年ごろからイスラム過激派が北部の広い範囲で活動を活発化させ、10年以上にわたって不安定な状況が続いています。
旧宗主国のフランスなどが過激派の掃討作戦を進めてきましたが、治安は回復せず、3年前のクーデターで政権を握ったマリの暫定政権との対立も深まり、去年、完全に撤退しました。
マリの暫定政権はフランスの代わりに、ロシアとの関係を深め、2021年ごろから民間軍事会社ワグネルの部隊がマリで活動するようになったと言われています。
国連の平和維持部隊も2013年から駐留してきましたが、マリ政府の要請に基づいて活動を終了させることが決まりました。
現地に駐留する国連平和維持部隊のファトゥーマタ・シンクーン・カバ報道官は、「我々はマリで様々なインフラを整備するなど平和の構築に向け多くの成果を上げてきた。その成果が引き継がれることを願っている。いま我々にできることは年末までに安全に撤退を完了させることだけだ」と話していました。
アメリカ政府は、マリの暫定政権がワグネルの活動を支えていると非難し、今月24日にはマリ政府の国防相ら3人を制裁対象に指定したと発表するなど、ワグネルへの依存を高めることを警戒しています。
プリゴジン反乱後も ロシア支援歓迎ムード続く
首都バマコの中心部の広場では7月中旬にもマリの国旗と並んでロシアの国旗が売られるなど、ロシアの支援を歓迎するムードがプリゴジン氏の反乱の後も変わらずに続いていました。
SNS上の世論の動向や偽情報を分析している団体のメンバーは、「反乱直後は、ロシア支持者の間で落胆や懸念が広がったが、24時間で事態が収束するとロシア支持者は希望を取り戻した。世論の多数派はいまもロシアを支持している」と話しています。
また、ロシアに留学して医学を学びバマコで診療所を経営しながらロシアとの関係強化を訴える活動をしてきたジブリル・マイガさん(56)は、プリゴジン氏の武装反乱によってプーチン政権はむしろより盤石になったと考えていて「あの騒ぎによって、ロシアで誰が外国勢力とつながりプーチン政権を裏切っているのかあぶりだすことができた」と主張していました。
マリの安全保障に詳しい地元シンクタンクの研究員、アルファ・アルハディ・コイナ博士は、「ロシアは欧米諸国と違い、マリに必要な武器などを内政に干渉することなく提供してくれる。ロシアだけに頼ることには危険もあるが、現状、安全保障面ではロシアと協力することがマリにとって最善の選択だ」と話していました。
避難民からワグネル批判も
マリ北部や中部では過激派や武装勢力の襲撃や略奪が繰り返され、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、現在も37万人以上が国内避難民となっています。
首都バマコにある4000人近くが身を寄せる避難民のキャンプの一角には、過激派の掃討作戦を支援するロシアの国旗が掲げられていましたが、避難してきた人たちの多くは治安はむしろ悪化していると訴えています。
10か月ほど前に中部の村から避難してきた45歳の男性は、「マリの治安は日々悪化していてとても村に戻ることはできません。自分の国の政府と問題を抱えるワグネルがマリを救えるとは思えません」と話していました。
また、5か月前に避難してきた73歳の男性は、この半年ほどの間、マリ軍の兵士とともに、ロシア人とみられる兵士が村に来て、過激派との関わりがないか村人を調べるようになったとして「白人兵士が村に来て、村人を連れ去り時には殺すようになったので私たちは逃げてきた。彼らは我々はみなイスラム過激派だと考えている。少しでも疑われたら、男も女も老人も子どもも殺される」と話していました。
専門家「戦争がロシアに不利になるほどアフリカ重要に」
ワグネルのアフリカでの活動をめぐっては、代表のプリゴジン氏が6月にロシアで武装反乱を起こしたことを受けて影響力が弱まるのではないかという見方も出ていました。
これについてアフリカの安全保障などに詳しい日本エネルギー経済研究所中東研究センターの小林周主任研究員は「反乱から1か月がたつが、実質的な変化は起きていない」との見方を示しています。
その理由として、ワグネルがアフリカで広げてきた天然資源の採掘などに関する経済的な利権のネットワークがプーチン政権にとっても大きな利益になっていること、欧米との対抗上、アフリカの地域情勢に影響力を持つことが戦略的に重要になっていること、それに、アフリカの国の指導者がワグネルの軍事支援に深く依存していることをあげています。
そして「ウクライナでの戦争がロシアにとって不利になればなるほど、アフリカという地域がロシアにとって重要になる」と述べ、ロシアがアフリカで影響力を拡大しようとする試みは続くとの見方を示しました。
そのうえで「欧米諸国の中にはウクライナへの支援などにかかりきりで、アフリカに支援を割くことが難しくなっている国も多いが、ワグネルは欧米の関与が減った空白を突いて拡大しており、G7をはじめとする諸国は、アフリカへの関与を続けていく必要がある」と指摘しています。
●立場が変わった? 会談相手が現れず「待たされる」プーチン大統領 7/28
アフリカとの関係強化を狙うロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、7月27日に開幕した「ロシア・アフリカ首脳会議(サミット)」で訪ロしたアフリカの各国首脳と個別の会談も行っている。だがこの会場で、会談相手がなかなか現れずにプーチンが「待たされる」一幕があった。これまで「遅刻魔」で知られてきたプーチンが、手持ち無沙汰でうろうろ歩き回って相手を待つ様子は、大きな注目を集めた。
この時の様子を収めた動画はSNSでも拡散されているが、プーチンがエジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領が入室してくるのを待ち、20秒以上にわたって居心地悪そうにしている様子が映っている。プーチンは両手を後ろに組んで黙って部屋の中を歩きまわったり、テーブルの上にあるものの位置を直したりしている。
サンクトペテルブルクで7月27日から2日間の日程で開催されているロシア・アフリカ首脳会議は、ロシアとアフリカ諸国の間で貿易や経済、投資、科学やテクノロジーなどの分野で数々の合意を交わすことを目指したもの。日程には個別会談も含まれ、この中ではウクライナでの戦争や、6月にサンクトペテルブルクで立ち上げられたアフリカ和平イニシアチブ(アフリカ諸国によるウクライナ和平交渉の仲介)の今後について話し合われたようだ。
中東問題研究所(ワシントン)の上級研究員で、同研究所のエジプト研究プログラムのディレクターでもあるミレット・マブルークは、シシをはじめとするアフリカ諸国はロシアと西側諸国の関係を均衡させる上で重要な役割を果たしていると指摘する。
またロシア・アフリカ首脳会議については、ウクライナで続く戦争が(ロシアの)世界的な同盟関係に悪影響を及ぼすなか、プーチンとロシアにとって政治的なリセットの機会になるという見方もある。
過去にも話題になった「待たされるプーチン」
そうした中で話題になった「待たされるプーチン」の動画だが、ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問はツイッターに、「プーチンはエジプトの大統領をしばらく待たなければならなかった」と投稿し、さらにこう書き込んだ。「プーチンが外国の要人に待たされたのは、これが初めてではない」
2022年7月、プーチンは訪問先であるイランの首都テヘランで、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアンと会談を行った。この時には、エルドアンに約50秒間待たされてそわそわするプーチンの姿がカメラに捉えられた。
さらに同年9月、ウズベキスタンのサマルカンドで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会談に合わせてトルコ、アゼルバイジャン、インド、キルギスタンの指導者と個別会談を行った際にも、プーチンは彼らに待たされる羽目になった。
ロシアとエジプトは互いに重要な相手
マブルークは、エジプトは世界最大の穀物輸入国であり、エジプトが輸入する穀物の約80%をロシア産(50%)とウクライナ産(30%)が占めていると指摘した。
「エジプトにとってそれらの穀物はきわめて重要で、彼らがそれを危険にさらすようなことはしないだろう」と彼女は述べ、さらにこう続けた。「エジプトはこの関係の維持に努め、関係を断つことはしないだろう。国民のために食糧を確保する責任があるからだ。これはエジプトのみならず、アフリカ諸国であれインドであれ中国であれ、ロシアと取引を行っているほぼ全ての国に当てはまることだ」
ロシア政府によれば、プーチンとシシは80年に及ぶ両国の外交の歴史や、昨年の貿易量が29%増加したことについて話し合った。プーチンはまた、エジプトのエルダバ原子力発電所の建設など、エネルギー分野の取引についても言及したということだ。
●アフリカ諸国提示のウクライナ和平案、プーチン氏「慎重に検討」 7/28
ロシアのプーチン大統領は28日、サンクトペテルブルクで開催されたロシア・アフリカ首脳会議で、アフリカ諸国が提示したウクライナ和平案について、尊重しており慎重に検討していると述べた。
ロシアはアフリカへの食料供給を増やしているとした上で、軍事協力にも関心を持っていると語った。プーチン氏は前日、3─4カ月以内にアフリカ6カ国への穀物の無償供給を開始する意向を示している。
ウクライナ和平交渉仲介を目指すアフリカ諸国代表団は先月、プーチン氏とウクライナのゼレンスキー大統領の双方に和平案を提示したが、どちらの側からも支持を得ることはできなかった。
プーチン氏は首脳会議2日目のきょう、ロシアはアフリカの安全保障を強化するため、一部の武器を無償で提供する用意があるとしたほか、アフリカの法執行機関や情報機関と緊密に協力する構えを示した。
また、農産物の輸出を増やし、信頼できる食料供給国であり続けると強調した。ロシアは230億ドルの債務を免除したとも述べたが、時期や対象国には言及しなかった。
●“中国がロシアに戦闘機部品など輸出は規制の抜け道” 米警戒 7/28
アメリカ政府は、中国がロシアに対し戦闘機の部品や民生用にも軍事用にもどちらにも使われる機器を輸出するなどして支援していると指摘し、輸出規制の抜け道になっている可能性があると警戒感を示しました。
アメリカ議会下院の情報特別委員会は27日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する中国の支援について、アメリカの情報機関を統括する国家情報長官室が今月とりまとめた報告書を公表しました。
それによりますと、中国国有の複数の軍事企業はロシアの軍事企業に対し、戦闘機の部品や民生用にも軍事用にもどちらにも使われる機器を輸出するなどして、ロシアを支援していると指摘しました。
中国は、ことし3月の時点で1200万ドル、日本円にして16億8000万円を超える無人機や無人機の部品をロシアに輸出したとしています。
また、報告書は「中国は、ロシアがウクライナで使用している重要な技術を供給している可能性がある」として、アメリカが行っているロシアへの半導体などの輸出規制の抜け道になっている可能性があると警戒感を示しました。
アメリカのバイデン政権は、中国に対しロシアに殺傷兵器を供与しないよう繰り返し警告し、これまでこうした兵器の供与には踏み切っていないとの見方を示していますが、中国によるロシアへの支援を強く警戒しています。
中国 報道官「世界各国と正常な経済貿易協力」
アメリカ政府の指摘について、中国外務省の毛寧報道官は28日の記者会見で「中国は一貫して平等と相互利益を基本に、ロシアを含む世界各国と正常な経済貿易協力を行ってきた」と反発しました。
そのうえで「中国とロシアの協力は第3国を対象にしたものでも、第3国の干渉や脅迫を受けるものでもない」と述べ、アメリカ政府をけん制しました。
●ウクライナの攻勢、なぜ西側兵器でもつまづいているのか 7/28
ウクライナの南部での反転攻勢がつまづいている。この地域を担当する司令官は、ロシアが何重もの地雷原と要塞化した防衛線を張っていることから、西側諸国から供与された戦車や装甲車などの兵器をもってしても前進が難しい状況だと語る。
オレクサンドル・タルナフスキー司令官はBBCの取材で、「そのため、ほとんどの任務は兵士がこなさなくてはならなくなっている」と話した。
また、ロシア軍について、ウクライナ軍の「迅速な前進」を阻んでおり、「プロとしての資質」を示していると語った。
「私は敵をあなどっていない」と、タルナフスキー司令官は付け加えた。
アメリカの未確認の最新報告によると、反転攻勢の主要作戦が始まったとされる。米シンクタンクの戦争研究所は、ウクライナ軍が「事前に準備されたロシアの防衛拠点」を突破したようだとしている。
しかし現在のところ、西側諸国が供給した戦車や装甲車が、戦況をウクライナに大きく有利なものに変えたという証拠はほとんどない。
オリヒウ市近郊では、反転攻勢の最初の数日で、戦車「レオパルト」や「ブラッドレー戦闘車」数台が損壊した。
西側から装備や訓練を供給され、ロシアの防衛線突破を狙っていたウクライナの第47旅団は、すぐに地雷に前進を阻まれ、その後、砲撃の標的となった。
ロシアは、ウクライナの攻勢がすでに失敗しているとする動画を複数公開している。ただ、実際には決定的な敗北より、早期の痛手と言うべきものだ。
BBCはこの旅団の野外作業場を取材した。前線の後方の森に隠れた場所で、十数台の装甲車の修理が試みられている。その多くがブラッドレー戦闘車だ。
最初に到着した時は無傷だったが、今では戦闘の傷に覆われている。駆動部分が破損し、タイヤは曲がっている。ロシアの地雷を踏んだことは明らかだ。
エンジニアのセルヒイさんは、「手早く修理すれば、その分早く前線に戻して、誰かの命を救える」と語った。
一方で、中には修理不可能なものもあると認めた。そうした車両はスペア用に部品を取り出すか、再製造のために「パートナーに返還」されるという。
西側諸国の装甲は、ウクライナ部隊より高い防御能力を備えている。だが、ロシアの地雷の列を突き破るには至っていない。これこそ、ウクライナの前進を阻んでいる最大の障壁の一つだ。
南部の前線を移動するうち、我々はイギリスが提供した装甲車「マスティフ」が損壊しているのを目撃した。
第47旅団は現在、ソヴィエト連邦時代の古い戦車を使って地雷を取り除いている。だがそれも、特殊な地雷除去装置を付けていたとしても、地面に隠された爆発物からは逃れられない。
前線近くでは、戦車長のマクシムさんが、最近被害を受けた「T-64」型戦車を見せてくれた。この戦車の前面にはローラーが2個ついており、これで地雷を爆発させる。前夜、部隊が通る道の地雷を除去するために戦車を走らせ、片方のローラーが破損したと、マクシムさんは話した。
マキシムさんによると、「通常ならこのローラーは爆発物4個まで耐えられる」。しかしロシア側は、地雷除去装置を壊すために地雷を重ねて配置しているのだという。
「とてもたくさんの地雷があって、非常に困っている」とマキシムさんは話し、ロシアの防衛線の前には、4列以上の地雷原があるのが普通だと付け加えた。
ウクライナ義勇軍のドローン偵察チームが繰り広げる戦いを見るのは、つらいものがある。
「ドク」というコールサインで呼ばれている男性は昨年、ヘルソンで成功した奪還作戦に参加していた。しかし、今回はもっと厳しい戦いになっているという。この戦争で初めて、砲撃によるけが人が地雷によるけが人を上回っていると、ドクさんは語った。「前に進むと、辺り一面が地雷原だ」。
ドクさんは私たちに、ウクライナ部隊がロシアの塹壕に向かって前進する様子をドローンで撮影した映像をみせてくれた。
兵士が塹壕に入った瞬間、大きな爆発が起きた。塹壕は空だったが、地雷が仕掛けられていた。ドクさんによると、ロシア軍は現在、遠隔操作ができる地雷を使っている。
「我々の兵士が塹壕に入ると、ロシアはボタンを押して地雷を爆発させ、我々の友人を殺す」
この戦術はここ2週間ほど使われている。ドクさんはこれを「新しい兵器」と呼んでいる。
ウクライナの南部攻勢には軍事的な理論がある。ロシア軍を分断し、占領されているメリトポリとマリウポリ、そして2014年に併合されたクリミア半島に到達するために、重要な攻勢とされている。しかし、ここを軸に戦うことは、ロシアの最も強力な防衛線を攻撃することでもある。
タルナフスキー司令官は、ウクライナ軍は「困難で苦痛を伴う仕事」をしていると話す。「どんな防衛も破ることはできるが、それには忍耐と時間と巧みな動きが必要だ」。
また、ウクライナは徐々に敵を消耗させていると信じていると話した。さらに、ロシアは兵力を失うことを気にしないし、最近のロシア軍の指導者交代は「すべてが大丈夫ではないことを示している」と説明。その上で、ウクライナはまだ主要な攻撃部隊を投入していないと示唆した。
「たとえ遅かろうが、攻勢は進んでいるし、確実にゴールにたどり着く」と、タルナフスキー司令官は述べた。
どうやって成功か失敗かを判断するのかと聞くと、司令官は笑顔を浮かべて答えた。
「もし攻勢が成功していなければ、こうやってあなたと話していないでしょう」
●岸田政権の無策がプーチンの戦争に加担する―海外メディアも批判 7/28
先日、筆者が配信した記事で、岸田政権が石炭火力発電の廃止に後ろ向きであり、世界的な脱炭素の動きの足を引っ張っていることについて述べた(関連記事)。今、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料への依存を減らすということは、地球温暖化対策だけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻への対応という意味でも重要だ。侵攻前にロシア産原油・天然ガスへの依存が大きかったEU各国は、再生可能エネルギーの普及をさらに押し進め、「経済の脱ロシア」を実現しつつある。他方、日本は欧米の脱ロシアに同調しつつも不十分であり、既に一部の海外メディアでは、化石燃料に固執する日本のスタンスが、対ロシアの国際的な結束を乱すとの指摘もされ始めている。
ウクライナ侵攻の戦費となる化石燃料の収入
ロシアは世界最大規模の化石燃料の輸出国だ。ウクライナ侵攻前の2021年の統計では、原油では世界第2位、石炭では第3位、そして、天然ガスでは1位である(関連情報)。こうした化石燃料による収入は、ロシアの同国政府歳入の4割強を占める。そして、当然であるが、こうした化石燃料による収入は、ウクライナ侵攻の軍事費にも投じられているのである。だからこそ、ウクライナ侵攻の直後から、EU各国はロシアの化石燃料への依存から脱却することを急ピッチで進めてきた。侵攻前は、EU全体でのロシアへの依存度は原油で約3割、天然ガスで4割近くであった(関連情報)。
EU「ロシアからの脅迫に打ち勝った」
これらの原油・天然ガスの輸入を他の国々からのものへと切り替えた他、EUは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及を強力に推し進めてきた。元々、EU諸国には、温暖化対策として再生可能エネルギー普及に熱心な国が多かったが、ウクライナ侵攻を受け、再生可能エネルギーの新規導入は記録的なものとなり、2022年のEU全体の発電量で再生可能エネルギーの発電量が天然ガスのそれを超えた。英シンクタンク「エンバー」も、脱ロシア依存で貢献したのは、「太陽光や風力」と強調。「再生可能エネルギーの発電量が50テラワット時(=約500億キロワット時)増加したおかげで、天然ガスに使うはずであった120億ユーロ(=約1兆4000億円 今年2月のレート)のコストを節約できた」と分析した。
欧州委員会の副委員長で、脱炭素経済・社会の実現を担当するフランス・ティメルマンス氏は、今年2月、AP通信の取材に対し、「我々は、資源を使ったロシアの脅迫に打ち勝った」と誇らしげに語っている。
不十分な日本の「脱ロシア」に批判も
一方、日本の「脱ロシア」は不十分だとも指摘されている。2022年度の日本の対ロ貿易は、輸出入ともに減少したものの、天然ガスは前年度比で6.2%の減少にとどまった上、天然ガス価格の高騰で、金額では、むしろ19.8%も増加してしまっている(関連情報)。日本のロシア産原油の輸入は8割減と、大幅に減ったものの、一方で、欧米が対ロシア制裁の一環として定めているロシア産原油の取引価格の上限を超えた価格で、日本が輸入している。これについて、米紙「ウォールストリートジャーナル」は、今年4月2日付の記事で「日本による購入は、ロシアの原油輸出総額では、無視できる量に過ぎないが、ロシア産原油に対して価格制限を課そうとする世界的な取り組みを台無しにするものだ」と批判した。
この件は、上述の記事を引用するかたちで、ウクライナでも、同国メディア「Mind.UA」が報じている。また、昨年末にロイター通信が報じたところによれば、日本政府は、日本の商社が出資しているロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」での安定的な生産のため、同事業から原油を購入するよう主要石油元売り会社に打診したのだという(関連情報)。
日本の原油・天然ガス輸入全体において、ロシア産のものは1割弱ほどで、割合としては、決して大きくない。これを太陽光や風力などの再生可能エネルギーで補うことは十分可能であるはずだし、ウクライナ危機への対応という点でも、日本での脱炭素社会の実現という点でも、やるべきことである。岸田政権は、化石燃料優遇のエネルギー政策を改め、再生可能エネルギー活用のため、EUが行ったような強いリーダーシップを発揮するべきだろう。
●カタールの首相、ウクライナを訪問 7/28
カタールのシェイク・ムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニー首相兼外相は28日、ウクライナに到着した。カタール外務省が発表した。
ツイッターに投稿された同省の声明によると、同首相はウクライナのデニス・シュミハリ首相およびドミトロ・クレーバ外相と共に「重要な問題」について協議する予定だという。
同省のマジド・ビン・モハメド・アル・アンサリ報道官は次のように述べた。「首相はキーウでの会談において、ウクライナの主権および国際的に承認された国境内の国土の安全の尊重と、国連憲章および国際法の確立された原則の遵守を呼びかけるというカタールの立場を改めて強調する予定である」
また、首相による訪問は、ウクライナ戦争の激化を抑制し、戦争が引き起こしている人道ニーズに応えるためのカタールの取り組みの一環として行われると付け加えた。
アル・アンサリ報道官はさらに、アール・サーニー首相はウクライナの首相および外相との会談において、穀物輸出合意の延長を目指す国際努力に対するカタールの支持を改めて強調する予定だと述べた。
また、様々な分野における協力強化の方法を探るとともに、カタールのウクライナにおける「開発努力」について振り返る予定だという。

 

●プーチン大統領「アフリカ40か国と軍事協力」 アフリカ側から立場の違い指摘 7/29
ロシアのプーチン大統領は、アフリカ各国の首脳との会議で「40か国以上と軍事協力の協定を結んだ」として各国との連携をアピールしましたが、アフリカ側からは立場の違いを指摘する声も出ています。
ロシア プーチン大統領「ロシアはアフリカの40か国以上と軍事技術協力に関する協定を結んでいる」
プーチン大統領は28日このように述べ、アフリカ各国との軍事面での連携を強調しました。そのうえで「ウクライナ危機の解決に向けたアフリカの取り組みを尊重し、慎重に検討している」と述べ、アフリカ側への配慮を示しました。
一方、コンゴの大統領が「ロシアとウクライナの紛争終結を改めて呼びかける」と平和的な解決を求めたほか、エジプトの大統領はロシアが離脱したウクライナ産の穀物輸出をめぐる合意への復帰を促すなど、アフリカ側からはロシアとの立場の違いを指摘する声も出ています。
●プーチンも青ざめた……クリミア大橋撃破で見せたアメリカの「マジな怒り」 7/29
「勝ち馬」はどちらだ
多くの場合、国際紛争には、キーパーソンとなる第三国の政治家が登場するものだ。実際のところは、「漁夫の利を狙うハイエナ」なのだが、ともかく紛争当事国の間で巧みに暗躍し、どちら側にもいい顔をしつつ、結局は「勝ち馬」の方に乗っていく――。
昨年2月に「開戦」したウクライナ戦争で、そのような役割を果たしている政治家と言えば、トルコのレジェップ・エルドアン大統領(69歳)をおいて、他にいないだろう。5月28日に行われた大統領選挙の決選投票で勝利し、すでに丸20年も続く「強権体制」を、さらに揺るぎないものとした。
そんな「トルコの独裁者」のことを、これまでロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「私の友人」と呼んできた。そのココロは、トルコを「NATO(北大西洋条約機構)の防波堤」にすることだった。
「全会一致の原則」を貫くNATOは、1ヵ国でも反対すれば議決できないからだ。トルコは、NATOが発足して3年後の1952年に、早々と加盟を果たしている。
2019年、ロシアはトルコに対して、トルコが切望していたロシア製の地対空ミサイル防衛システム「S―400」を配備した。最近でも、前述のトルコ大統領選で、エルドアン再選をバックアップし続けた。具体的には、経済危機にあるトルコに十分なエネルギーや食糧を与え、選挙直前にはエルドアン大統領の求めに応じて、トルコとシリアの外相会談の仲介までした。
それなのに、エルドアン大統領はここのところ、プーチン大統領に「恩を仇で返す」ことばかりし続けている。例えば、トルコの攻撃用ドローン「バイラクタルTB2」をウクライナに供与し、ロシア軍は甚大な被害を被った。ロシアが抗議すると、エルドアン大統領は、「あれはただの民間ビジネス」と、平然と言い放つ始末だ。
トルコの寝返り
7月8日には、停戦の時までトルコに停留させることを条件に、ロシアから預かっていたウクライナのアゾフ大隊の捕虜5人を、あっさりウクライナに帰還させてしまった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が直々に出迎え、ウクライナ軍は俄然、活気づいた。この一件についても翌日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、トルコに猛烈な抗議の電話を入れたが馬耳東風だ。
その抗議電話の二日後の7月11日、エルドアン大統領は、リトアニアの首都ビリュニスで開かれたNATO首脳会議に出席し、ジョー・バイデン米大統領と会談した。そして再び、「アメリカとのビッグディール」が、ロシアを唖然とさせたのだった。
何とトルコは、それまでプーチン大統領の意を受けて、「断固反対」していたスウェーデンのNATO加盟を、あっさりと承諾したのである。その「見返り」は、長年切望していた「F-16戦闘機」の供与だ。
これが実現すれば、トルコはアメリカ製「F-16」で攻撃し、ロシア製「S-400」で防衛することになる。こんな国は、世界広しといえども他にない。プーチン大統領も舐められたものだ。
アメリカからすれば、どちらかと言えば「アチラ側」の国だったトルコを、「コチラ側」に寝返らせた意味は大きい。それによって、黒海沿岸の国々――時計回りに北側からウクライナ、ジョージア、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、モルドバという6ヵ国を結集させ、「黒海ロシア包囲網」を築くことが可能となったからだ。
ロシア統合の象徴が
その究極的な目標は、黒海に浮かぶクリミア半島の「奪還」であろう。東部戦線が膠着(こうちゃく)状態に入ったいま、アメリカとその「先兵」としてのウクライナ軍は、クリミア半島に改めて標的を定めた――。
7月17日、クリミア半島とロシア南部をつなぐクリミア大橋が、攻撃を受けて破壊された。この全長18・1km大橋は、2014年3月にロシアがクリミア半島を一方的に併合した後、プーチン大統領の「鶴の一声」で建設が決まった。そして、ロシアへの統合を象徴するインフラとして、3年の歳月をかけて完成した。
クリミア大橋は、昨年10月にも一度、ウクライナ軍によって破壊されたが、12月に修復を終え、プーチン大統領自らが電撃訪問している。もっとも、この時に訪れたのは「プーチンのダミー(影武者)」だったという説が有力だが。
ともあれ、そんなクリミア大橋が、再び攻撃を受けたのである。プーチン大統領はすぐに、緊急のオンライン会議を招集し、画面に向かって吠えた。
「これはウクライナ側による新たなテロ行為だ。無辜(むこ)の市民を巻き込んで殺した残酷な犯罪だ。今後は当然、ロシア側から報復を行っていく。それにふさわしい案を、すでに国防省が準備している」
「ふさわしい報復案」とはどうやら、「黒海制圧作戦」とでも言えるもののようだ。ロシアはまず同日(17日)、黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出合意の一方的停止を発表した。
これは通称「黒海穀物イニシアチブ」と呼ばれるもので、昨年7月に国連の仲介で、ロシアとウクライナ、それにトルコが署名した。ウクライナ産穀物を輸出する船舶の安全航行を確保することが目的だ。有効期間は120日だったが、延長を重ね、今年5月に再度、60日間延長した。
バイデンの目論見
このロシアの「黒海穀物イニシアチブ」停止宣言を受けて、ウクライナの黒海に面した南西部のオデッサ港に、穀物が滞留し始めた。すると、ロシアは7月19日から連日、オデッサ港にミサイルの雨を降らせた。23日未明には、世界遺産となっているウクライナ正教会の大聖堂まで半壊させた。
これに対し、ゼレンスキー大統領は、怒りに満ちた表情で演説した。
「ロシアが19種類ものミサイルを、オデッサに撃ってきた。それは都市や村落、人間を破壊し、ヨーロッパ文明そのものを標的にしている」
ウクライナ側も、非難の声を強めているばかりではなかった。翌24日未明には、クリミア半島の北部ジャンコイにあるロシア軍の弾薬庫を、大量のドローンで攻撃し、炎上させた。
前述のように、東部戦線はロシア軍が鉄壁の塹壕を掘り、戦況は膠着状態に陥っている。そんな中、バイデン政権は、クリミア半島の奪取に全力を傾けるよう、ゼレンスキー政権に「知恵」をつけているように思える。
「クリミアを獲られプーチン青ざめる」――これこそが、来年3月のロシア大統領選でプーチン大統領を失脚させる早道と、バイデン政権は捉えているのではないか。
●米紙“ウクライナ軍 数千人規模の兵士を投入” 反転攻勢強化か 7/29
ロシアによるウクライナへの侵攻が続く中、アメリカの有力紙は26日、アメリカ当局者の話としてウクライナ軍が数千人規模の兵士を南部に投入したと伝えました。ウクライナが反転攻勢を強めているとみられ、南部での攻防が全体の戦況にどのような影響をもたらすのかが今後の焦点となりそうです。
26日付けのアメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、アメリカの当局者の話としてウクライナ軍が数千人規模の兵士をウクライナ南部に投入したと伝えました。
投入したのはザポリージャ州とみられ、兵士の多くが欧米各国による訓練を受け、供与された兵器を装備しているということです。
ロシアが一方的に併合したクリミアに通じるロシアの支配地域を東西に分断させるねらいで、まずはザポリージャ州の要衝トクマクを目指すとしています。
こうした中、ロシア国防省は26日朝からウクライナ軍がザポリージャ州のオリヒウ方面で大規模な攻勢を再開したと26日発表し、ロシア軍がすべて撃退したと主張しました。
ロシアのプーチン大統領は27日、国営メディアのインタビューで前線の状況について問われたのに対し、「ここ数日、戦闘が激化していることは確かだ」としたうえで「主な戦闘はザポリージャ方面で起きた」と述べて、南部で激しい戦闘となっていることを認めました。
ウクライナが反転攻勢を強めているとみられ、南部での攻防が全体の戦況にどのような影響をもたらすのかが今後の焦点となりそうです。
東部ドニプロ 地元当局“ロシアのミサイル攻撃で9人けが”
ウクライナ東部ドニプロの地元当局などは28日、ロシアによるミサイル攻撃で、12階建ての高層住宅と治安機関の建物が被害を受け9人がけがをしたとSNSで発表しました。
現地からの映像では攻撃を受けたとみられる建物の外壁が崩れ、辺り一面にがれきが散乱している様子や救急隊員たちが活動している様子などが確認できます。
けが人の中には、14歳と17歳の子どもや77歳の女性も含まれていて、体を強く打ったり、切り傷を負ったりしているもののいずれも入院はしていないということです。
●ウクライナ東部の村をロシア軍から奪還、港湾都市マリウポリへわずかに前進 7/29
ロシアへの大規模な反転攻勢を進めるウクライナのハンナ・マリャル国防次官は27日、東部ドネツク州のスタロマイオルスケ村を露軍から奪還したと明らかにした。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日、SNSにウクライナ国旗を手に奪還を表明する兵士らの動画を投稿した。アゾフ海に面する同州の港湾都市マリウポリに向けて、わずかに前進したことになる。
ゼレンスキー大統領は27日、南部の戦線を視察し、前線の補給や防空システムについて高官らと協議した。南部ザポリージャ州では主力部隊を投入し、攻勢を強化している。
米紙ニューヨーク・タイムズは26日、米国防総省の複数の高官の話として、米欧から装備の提供と訓練を受けた兵士らで構成される数千人の部隊が投入され、ウクライナ軍が主要作戦を開始したと報じた。ウクライナ軍はこれまで主力部隊を温存しており、部隊投入は「消耗した兵士の補充の可能性」(米紙ワシントン・ポスト)との見方もある。
露国防省は26日、同州の南部戦線で、ウクライナ軍の3個大隊による大規模攻撃を受けたと発表。いずれも撃退したと主張している。米CNNによると、ウクライナ軍は27日、同州オリヒウ南方の露軍占領地域の要衝トクマクへ激しいロケット弾攻撃を行った。
一方、露軍はウクライナ南部オデーサ州への攻撃を続けている。州知事は27日、港が露軍の潜水艦からのミサイル攻撃を受け、警備員1人が死亡し、貨物ターミナルが損壊したと明らかにした。オデーサを訪問したゼレンスキー氏は27日、SNSで「我々はオデーサと南部地域を守る防空システムを求めている」と述べ、激化する攻撃に対し、より精度の高いシステムが必要だとの見解を示した。 
●「プーチン大統領はウクライナ戦争終結法を模索する意向あり」 7/29
AUアフリカ連合のアザリ・アスマニ議長が、「プーチン・ロシア大統領は、ウクライナ戦争を終結させる意向がある」としました。
ロシアとウクライナの間の戦争が開始されて以来、アメリカとヨーロッパはウクライナに武器を供与し、対ロシア制裁を行使したことで、この軍事的紛争やウクライナ軍の攻撃を煽っています。
イルナー通信が29日土曜報じたところによりますと、アザリ議長は、ロシア・サンクトペテルブルクで、「プーチン大統領は、(戦争終結のための)協議を行う意向を示しており、我々は、今後ウクライナ側がこれに対してどのような立場をとるのかを見守っていく」と語りました。
また、「AUとしてアフリカ大陸における人材の能力強化、教育へのロシアの約束履行に感謝する」とした上で、「ロシアがアフリカに投資を行っていることは決して、同大陸の扉が他の地域・勢力に対して閉ざされていることを意味しない」と述べました。
ロシア・サンクトペテルブルクで開かれていた第2回アフリカ・ロシア経済・人道フォーラムは28日金曜夕方、終了声明を採択して閉幕しました。
この会議では、アフリカ諸国とロシアの間で多数の合意書・合意覚書が調印された他、WTO世界貿易機関の構造改革の必要性が強調されています。

 

●プーチン大統領の“誤算” 長引くウクライナ侵攻…ロシアのイスラム過激派 7/30
8月でロシアによるウクライナ侵攻から1年半となる。この1年半、ロシアのプーチン大統領は自分の首を自分で絞め続けているといっても過言ではない。侵攻当初はロシア軍の優勢が大方の見方で、プーチン大統領もウクライナの首都キーウを短期間で掌握し、ゼレンスキー政権を崩壊させ、親ロシアの傀儡政権を樹立するなどを頭の中で描いていたはずだ。
しかし、時間の経過とともにロシア軍の劣勢が顕著になり、昨年秋の軍隊経験者などの予備兵を招集するための部分的動員令、ウクライナ東部南部4州の併合宣言などはそれを物語る。そして、プーチン大統領が長年NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大に不満を募らせるなか、侵攻によって安全保障上の懸念を強めたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を急ピッチで進め、今年4月にフィンランドが正式に加盟し、スウェーデンの加盟も今後発表される。ウクライナ侵攻が返ってNATOの“北方”拡大をさらに押し進めることになった現実は、プーチン大統領にとって大きな誤算となった。
さらに、追い討ちをかけることになったのが、ウクライナ戦争でロシア側の最前線で戦ってきた民間軍事会社ワグネルによるクーデター未遂である。これはワグネルの指導者プリゴジン氏の名前にちなんでプリゴジンの乱とも言われるが、6月末、ワグネルは突如首都モスクワに向けて進軍を開始した。その後、ワグネル部隊はロシア軍の戦闘機を撃ち落とすなどしながら進軍し、モスクワまで200キロのところまで迫ったが、その直後プリゴジン氏は突如進軍を停止すると発表した。プリゴジン氏はプーチン政権を崩壊させる意図はないと声明で発表したが、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長などへは戦闘中にネット上で弾薬が足りないと不満をぶちまけるなど、進軍の目的は両者を拘束することだったとも言われる。
極めて異例…南部ダゲスタンで“熱烈歓迎”
今日、ロシア軍はウクライナ東部に戦力を集中させているが、ロシア軍の劣勢と疲弊は明らかに進んでおり、ワグネルだけでなくロシア各地から若者らが徴兵され、戦闘の最前線に動員されているという。そして、ロシア軍の軍事的弱体化が進むだけでなく、プーチン大統領の政治的権威も劣化し続けている。クレムリンは6月末、プーチン大統領が南部ダゲスタン共和国を訪問し、フェンス越しに手を伸ばして集まった人々と握手を交わし、群衆に手を振って投げキスをするなど熱狂的な支持者と交流する動画を公開したが、これは一種のパフォーマンスとの見方が強い。
ダゲスタンはチェチェンやイングーシと同じくカフカス地域を構成し、ロシアでは圧倒的少数となるイスラム系住民が多く、第一次チェチェン紛争、第二次チェチェン紛争のように、長年プーチン政権から虐げられてきた。カフカス地域はロシアの火薬庫とも呼ばれ、反プーチンの声が最も強い地域であり、カフカスからも多くの住民がウクライナの戦場に動員されているとみられ、ダゲスタンで多くの支持者がプーチン大統領を歓迎するなどは極めて異常な光景となる。
そして、このダゲスタンのケースにも関連するが、ロシア軍の弱体化と疲弊、プーチン大統領の権威劣化などの風潮が強く漂ってくれば、カフカス地域から再び分離独立、また21世紀以降ではアルカイダやイスラム国などジハード系イスラム過激派と連帯する動きも顕著になり、クレムリンを攻撃対象とするテロの動きが活発化してくるシナリオも考えられる。
ロシア国内で相次いだテロ…イスラム過激派は息を吹き返すか
近年では殆どメディアで報道されないが、ロシア国内では長年カフカス地域を拠点とするイスラム過激派によるテロ活動が続いてきた。その中でも、アルカイダが掲げるサラフィジハード主義を共鳴するイスラム過激派にカフカス首長国(コーカサス首長国)があるが、カフカス首長国が関与したテロ事件としては、2009年11月特急列車ネフスキー爆破テロ、2010年3月モスクワ地下鉄爆破テロ、2011年1月ドモジェドボ国際空港爆破テロなどがある。特に、ドモジェドボ国際空港のテロ事件では、ナイジェリアやドイツ、タジキスタン、イタリア、イギリス、モルドバなど被害者の国籍が多様化し、ロシアという“ローカル”なものを標的としてきたカスカス首長国が、国際空港というより国際的な場所でテロを実行したことで、米国などもカフカス首長国をテロ組織に認定している。
また、カフカス首長国の当時の指導者ウマロフがインターネット上に2014年2月のソチ冬季五輪開催阻止に向けたテロを呼び掛ける動画を公開したが、ロシア南部ボルゴグラードでは2013年10月(路線バスで自爆テロ、6人死亡)、12月(鉄道駅で自爆テロ 16人死亡)、12月(トロリーバスで自爆テロ、14人死亡)、それぞれテロ事件が発生した。幸いにもソチ五輪でテロ事件が起きなかったが、当時クレムリンはテロの脅威を深刻に捉え、厳重なテロ対策を徹底していた。五輪直前の2014年2月上旬、欧米各国の情報機関も、ロシアのソチ冬季五輪期間中のテロの脅威が非常に高く、カフカス首長国が最大の脅威とする見方を示していた。
ロシア治安当局も、こういったイスラム過激派へ厳しい姿勢を貫いてきた。ロシア連邦保安庁の特殊部隊は2015年8月、ダゲスタン共和国でカフカス首長国のアジトを急襲し、同組織のリーダーを含む4人を殺害した。また、同年11月には、北カフカス地方のカバルジノ・バルカル共和国の首都ナリチク近郊で、カフカス首長国の中でイスラム国に忠誠を誓う武装勢力のメンバー11人を殺害した。カフカス首長国は2015年4月にイスラム国へ忠誠を宣言し、ロシアからイスラム国が活動するシリア・イラクへ渡った者は2000人を超えたというが、2016年3月、イスラム国カフカス州を名乗るグループは、ロシア国内でイスラム国支持者に対して一匹狼型の自発的なテロ攻撃を実行するよう呼び掛ける声明を出した。
ロシア国内では、2017年4月のサンクトペテルブルク地下鉄自爆テロ事件(14人が死亡、50人あまりが負傷)以降、大規模なテロ事件は起こっていないが、イスラム国支持者による単独的な事件、ロシア当局による摘発は断続的に続いている。
ウクライナ侵攻以降、プーチン大統領も世界のメディアもその問題に集中し、この問題がクローズアップされることはない。しかし、この問題は決して終わっていない。もっと言えば、カフカス首長国やイスラム国カフカス州を名乗る組織とそのメンバー、それに共鳴する個人たちは、ロシア軍が弱体化し、プーチン大統領が劣勢に立たされるという状況を都合良く捉えているだろう。今日、こういったテロの問題は深刻化していないが、テロ組織が好むような環境はむしろ到来しているようにも捉えられる。
●来月初旬にロシア・トルコ首脳電話会談 穀物合意の再開焦点 7/30
ロシアのプーチン大統領は29日、トルコのエルドアン大統領と8月初旬に電話会談することで合意したと明らかにした。「水曜日(2日)になると思う」と述べた。トルコと国連の仲介で成立したものの、ロシアが履行を停止した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意を巡り協議する見通しで、再開の糸口を見いだせるかが焦点。
北西部サンクトペテルブルクで開催された「ロシア・アフリカ首脳会議」の閉幕を受け、ロシアの記者団に語った。
首脳会議では、食料価格高騰に見舞われるアフリカ側から輸出合意の再開を求める声が上がった。プーチン氏は最貧国に穀物の無償供給を約束したが、南アフリカのラマポーザ大統領から「贈り物を乞うためにここに来たわけではない」と苦言を呈されていた。
プーチン氏は記者団に対し、合意再開について、ロシア産穀物・肥料の輸出に向けた西側諸国の制裁解除が先決だと改めて強調した。態度を軟化させたわけではなく、再開にこぎ着けられるかは予断を許さない。
●ゼレンスキー大統領 前線で兵士を激励 士気高めるねらいか 7/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は、激しい戦闘が続く東部のバフムト方面を訪問し、兵士たちを激励しました。反転攻勢を進めるウクライナ軍の苦戦も指摘されるなか、みずから前線を訪れることで、兵士たちの士気を高めるねらいがあるとみられます。
ゼレンスキー大統領は29日、東部ドネツク州の拠点、バフムト方面を訪問したことを明らかにしました。
SNSに投稿された動画では、大統領が兵士一人一人に声をかけて表彰するなど、激励する様子が写されています。
今回はとくに特殊部隊の兵士らを激励するために訪問したということで、ゼレンスキー大統領はその後投稿した動画で「特殊部隊はいつでも前線の最も厳しい地域にいてくれる」とたたえました。
先月始まったウクライナ軍による反転攻勢を巡っては、アメリカのCNNテレビが29日、シンクタンク「戦争研究所」の研究員の話などを引用したうえで「ロシアの厚い防衛を突破する努力をしているものの南部で始まった反撃の勢いを増すのに苦労している」と伝えています。
ウクライナ軍の苦戦も指摘されるなか、ゼレンスキー大統領としてはみずから前線を訪れることで兵士たちの士気を高めるねらいがあるとみられます。
一方、南部オデーサ市によりますと、ロシア軍の大規模な攻撃による文化財などの被害状況を確認するためユネスコ=国連教育科学文化機関の調査団が29日、現地入りし、世界遺産に登録された「歴史地区」にある大聖堂などの状況を調べるとしています。
●ウクライナとロシア、互いに住宅地をミサイル攻撃… 7/30
タス通信などによると、ロシア国防省は28日、ウクライナ国境に近い露南部ロストフ州タガンログの住宅地がウクライナ軍の地対空ミサイルS200による攻撃を受けたと発表した。露側は迎撃したが、住宅地にある美術館の爆発や住宅の窓の損壊などがあり、14人が負傷したという。
露側は爆弾によるものとの見方を示し、露外務省のマリア・ザハロワ報道官は「厳しい報復措置」を取る権利があると主張した。同日には露南部サマラ州でも石油精製所で爆発があった。
ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は、SNSに「タガンログなどで起きていることは全て、ロシアが始めた戦争によるものだ」と投稿した。
ウクライナ東部ドニプロでは28日夜、露軍によるミサイル攻撃があり、団地や治安機関の建物が損壊し、米CNNが伝えたウクライナ軍高官の話によると、少なくとも9人が負傷した。
●ベラルーシにワグネル1200人、大半がポーランド国境に…リトアニア内務次官 7/30
ポーランド通信によると、ベラルーシと国境を接するリトアニアの内務次官は28日、ベラルーシに入ったワグネルの戦闘員は約1200人に上り、その大半がポーランド国境に近いオシポビチ近郊の軍事キャンプにいるとの見方を示した。
ロシアと対立する両国は、ロシアがワグネルを操って揺さぶりをかけてくる事態を警戒しており、深刻な展開になればベラルーシ国境の閉鎖も検討するという。ポーランドは、ベラルーシ国境に警察要員500人を追加派遣し、軍、国境警備隊とあわせて7500人態勢で警戒にあたる構えだ。
●ロシア紙“米元高官がロシア高官と協議” 米政府は関与を否定 7/30
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、アメリカ政府の元高官らがモスクワを訪れるなどしてロシア大統領府の高官と協議を行っているとロシアメディアが伝えました。アメリカ政府は、関与を否定しています。
ロシアの英字紙「モスクワ・タイムズ」は27日、アメリカ政府で安全保障を担当していた元高官らが、ロシア大統領府の複数の高官と少なくとも月に2回、オンライン形式などで協議を行い、3か月に1度はモスクワを訪問していると伝えました。
この元高官は、「ヨーロッパの安全保障の面でロシアをより創造的な役割を果たす国に戻しながら、ウクライナの独立を保証する方法を探りたい」と述べ、協議の目的は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、事態打開の糸口を探ることだとしています。
また、元高官は「ロシアは、併合しているクリミアを失ってしまうと考えれば、ほぼ間違いなく戦術核兵器の使用に頼るだろう」としています。
こうした協議については今月、アメリカのNBCテレビも伝えていて、アメリカ側は、元国防次官補など、安全保障を担当していた元高官らが、ロシア側は、シンクタンクの関係者など、ロシア政府に近い人物らが参加したとしています。
「モスクワ・タイムズ」の報道を受けてホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のワトソン報道官は27日「裏の対話ルートを設けることは求めていない」として政府の関与を否定しています。 
●ロシアはウクライナとの和平協議を拒絶しない=プーチン氏 7/30
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は29日夜、ロシアはウクライナとの和平協議を拒絶しないと述べた。サンクトペテルブルクでアフリカ諸国首脳と会談後、記者会見で発言した。
プーチン氏は、アフリカ諸国あるいは中国による和平イニシアチブが、ウクライナとの停戦実現の土台になると述べた。
大統領はさらに、ウクライナ軍が攻勢に出ている間は、停戦の実施は難しいとも話した。
ウクライナとロシアはこれまでに、一定の前提条件が満たされない限りは和平協議に臨むことはないとそれぞれ述べている。ウクライナは1991年時の国境の回復を強く求めているが、ロシアはこれに強硬に反対する。対してロシア側は、和平協議を始めるにはまずウクライナ側が「領土に関する新しい現実」を受け入れる必要があるとしている。
プーチン大統領は29日深夜の記者会見で、ウクライナとの前線で現時点で攻撃を強化する予定はないと話した。
さらに、ロシアの国内からロシアに敵対する者もいるとして、反体制派の逮捕は正当なことだと述べた。
幅広い話題に触れた記者会見でプーチン氏は、今月17日にクリミアのケルチ大橋で起きた爆発を受けて、ロシア軍が「予防的攻撃」をいくつか実施したのだと話した。
2人が死亡したケルチ大橋の爆発後、プーチン氏はウクライナによる「テロ行為」に報復すると表明していた。ケルチ大橋は、ロシアが2014年に併合したクリミア半島とロシア本土を結ぶ重要な輸送路。この大橋での爆発について、ウクライナ政府は公式には責任を認めていない。
ロシアとアフリカ諸国の首脳会議は27日に始まった。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領らアフリカ7カ国の首脳らによる使節団は6月、ウクライナ・キーウでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談後、ロシアとウクライナに提示する平和イニシアチブの一環として、サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談している。
ウクライナ各地で砲撃続く
ウクライナの現場では、北東部スーミが砲撃され、1人が死亡、5人が負傷したという。ウクライナ内務省が発表した。
内務省はメッセージアプリ「テレグラム」で、ロシアのミサイルが29日夜に教育施設を直撃したと明らかにした。BBCはこの情報を検証できていない。
さらに南部ザポリッジャの現地当局によると、ミサイル攻撃で2人が死亡し1人が負傷。「敵のミサイル」による衝撃波で集合住宅の窓が割れ、教育施設やスーパーが被害を受けたという。
ゼレンスキー大統領は東部の激戦地バフムート近くで、特殊部隊を訪問している。
ウクライナ当局によると、ロシア軍が今年5月に制圧したバフムート市に向かって、ウクライナ軍がじわじわと前進しているという。
●ロシアは和平交渉拒否せず、停戦しなければ実現困難=プーチン氏 7/30
ロシアのプーチン大統領は29日、アフリカ諸国が示しているウクライナ和平提案について、和平の基礎となり得るがウクライナの攻撃により実現は難しいとの見解を示した。
ロシア・アフリカ首脳会議が開かれたサンクトペテルブルクで記者会見し「この和平イニシアチブの中には、実行に移されつつある項目もある。しかし実行が難しいものや不可能なものもある」と述べた。
この構想のポイントの一つは停戦だと指摘。「しかしウクライナ軍は攻勢に出ており、攻撃を仕掛け大規模な戦略的攻撃作戦を実施している」とし「攻撃を受けているときに停戦することはできない」と語った。
和平交渉の開始について「われわれは拒否していない。このプロセスを開始するためには、双方の合意が必要だ」と述べた。
●プーチン大統領 式典で海軍力誇示も モスクワで無人機攻撃か 7/30
ロシアのプーチン大統領は、海軍の記念式典で演説し「ロシアは一貫して海軍力を増強してきた」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を続ける中で軍事力を誇示しました。こうした中、首都モスクワでは無人機が飛来して複合施設に墜落し、プーチン政権は神経をとがらせているものとみられます。
ロシアでは30日、各地で海軍の記念式典が開かれ、このうち第2の都市サンクトペテルブルクではプーチン大統領が式典に出席しました。
式典でプーチン大統領は「ロシアは一貫して海軍力を増強している。ことしだけでも30隻が艦隊に加わる」と演説し、ウクライナへの軍事侵攻を続ける中で軍事力を誇示しました。
こうした中、ロシア国防省は30日早朝、日本時間の30日午前「モスクワ市内の施設に対し無人機攻撃が仕掛けられた」とSNSで発表しました。
ウクライナによる攻撃だと主張した上で、2機の無人機がロシア側による妨害電波で制御を失い、市内にある複合施設の「モスクワシティ」に墜落したとしていて、建物の一部が損壊しました。
「モスクワシティ」はモスクワ中心部のクレムリンからおよそ5キロ西にある、高層ビルが建ち並ぶビジネスセンターで、ロシアメディアは政府の3つの省庁も入っていると伝えています。
また、ロシア国防省は、別の無人機1機がモスクワ近郊に飛来し、上空で破壊したとしています。
ロシア国営のタス通信は、プーチン大統領が無人機の攻撃についてすでに報告を受けているとする大統領府の報道官の話を伝えていて、政権側は神経をとがらせているものとみられます。
●中国のロシアへの技術供与、ウクライナ戦争で重み増す 米報告 7/30
ロシアによるウクライナでの戦争に関連し、中国がロシアにとって重要性が増す一方の技術や装備を供与していると分析する報告書を米国家情報長官室が30日までにまとめた。
新たに公表された報告書は機密扱いの指定はされず、一般公開のデータや報道機関の記事などを大きく取り入れている。ただ、「ロシアによる戦争遂行の取り組みで重要な支柱としての中国の役割が一層募っている」などとの米情報機関内の分析も盛り込んでいた。
米下院情報委員会の民主党議員たちが出した報告書によると、今年3月時点で中国がロシアへ輸出したドローン(無人機)や関連部品は1200万米ドル以上に達した。この数字はロシアの税関上のデータを「第三者」が精査した結果に基づく。
中国国営の国防企業は欧米の制裁対象にあるロシア国営の国防企業に、ウクライナでの戦争続行に利する軍事転用が可能な技術を供与しているとも指摘。これらの技術には、航法装置、電波妨害技術や戦闘機の部品などが含まれるとした。
中国からロシアへの半導体輸出も2021年以降、激増していることも判明。欧米による厳しい制裁や輸出規制があるにもかかわらず、ロシアへ流出している米国製あるいは米国の商標がある半導体は数百万ドル規模に相当することがわかったとした。
中国企業はこれら制裁をかわすためにロシアをおそらく手助けしているとも指摘。ただ、その支援の規模を突き止めるのは困難とも認めた。
米情報機関は中国内で関係者との面談や調査を行ったものの、中国が輸出規制など履行する米国の努力を意図的に妨害しているのかは確信が持てないともした。
その上で、中国はロシアのウクライナ侵略が始まった昨年2月以降、ロシアにとって経済的に必要不可欠な協調国としての存在感を深めていると形容した。
中国によるウクライナ侵攻への対応についてバイデン米政権はこれまで中国企業がロシアへウクライナで用いられる非致死性の装備を売り付けていることを示唆する証拠を取り上げ、懸念を再三表明。一方で米政府当局者は中国が兵器そのものやあるいは殺傷能力がある軍事支援をロシアに行ったとの形跡は把握していないともつけ加えていた。
米国はロシアが侵略を始めた当初、中国はウクライナへ流れるであろう致死性兵器を引き渡すだろうとの見方を強めていた。米政府当局者が以前、CNNの取材に明かした見立てだったが、中国は結局、戦争が続くと共にこの計画を大幅に縮小した。バイデン政権が勝利として受け止める展開だったとした。
●ロシア外務省報道官、「ウクライナ戦争は米にとって利益」 7/30
ロシア外務省のザハロワ報道官が、ウクライナ戦争はアメリカにとり大きな利益になっていると指摘し、「この戦争により米国は、自国をめぐる問題の議論を避けることができている」と述べました。
イルナー通信によりますと、ザハロワ報道官は29日土曜、ロシアのタス通信とのインタビューで、「米国は、ウクライナ戦争でロシアを戦略的敗北に追い込もうと全精力を傾けており、同国政府が公式に取る立場もそのようなものである」と述べました。
また、公式・非公式ルートを通じて約30件のウクライナ戦争解決に向けた和平構想がロシアへ寄せられていることを明らかにしながら、「米国の行動は、ウクライナ問題をめぐる和平協議の道を閉ざすものだ」と指摘しました。
ザハロワ報道官のインタビューは、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが29日、サウジアラビアが来月上旬に西部ジッダでロシアの参加しないウクライナ和平協議を開催すると報じた中で行われました。
一方、ロシアのプーチン大統領は28日金曜、同国サンクトペテルブルクで開かれた第2回ロシア・アフリカ首脳会議において、「我が国には和平協議の用意があるが、西側はそのような協議開催を望んでいない」と述べていました。
●ザポリージャ原発4号機、高温停止状態に…ウクライナ当局「冷温停止」要求 7/30
国際原子力機関(IAEA)は29日、ロシアが掌握するウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所4号機について、原子炉が100度を上回る高温での停止状態に移行したと発表した。ウクライナ側は原子力災害のリスクを下げるため、100度以下の「冷温停止」に戻すよう要求している。
IAEAの発表では、ロシア側は排水処理に使う蒸気を発生させる目的で、原子炉を高温に保つ措置を取っている。IAEAは、ボイラーを設置するように働きかけているという。
同原発では、ロシア軍とウクライナ軍との戦闘で原子炉の冷却に必要な外部電源や冷却水の確保が不安定な状況が続いている。ウクライナ当局は、原子炉6基すべてを「冷温停止」とするよう求めている。

 

●メドベージェフ氏 「ウクライナ反撃するならロシアは核兵器使わねば」 7/31
ロシアのプーチン大統領の最側近であるメドベージェフ国家安全保障会議副議長がウクライナの反撃が成功するならば核兵器を使わなければならないと主張した。
ロイター通信が30日に伝えたところによると、メドベージェフ副議長はソーシャルネットワークサービス(SNS)を通じ「もし北大西洋条約機構(NATO)が支援する(ウクライナの)攻撃が成功し彼らがわれわれの領土の一部を占領するならばわれわれはプーチン大統領の命令により核兵器を使うほかないだろう」と明らかにした。
メドベージェフ副議長はウクライナ侵攻後連日西側に強硬な発言を浴びせており「プーチンの口」と呼ばれる人物だ。
彼は「他の選択肢はないだろう。したがってわれわれの敵(ウクライナなど)はわれわれの戦士らの成功を祈らなければならない」とした。
「ロシア軍が世界の核兵器に火が付かないようにしているためだ」と話しながらだ。
ロイター通信はこの発言が「ロシアの国家存立を脅かす攻撃に対応して核兵器を使うことができる」と明示した核使用原則の一部に言及したものと解釈した。
ウクライナはまだロシアが一方的に併合した領土を奪還しようとしており、ロシアはこれを自国に対する攻撃と受け止めている。
この日プーチン大統領も「ウクライナが攻勢を継続しておりロシアが攻撃を受ける状況で休戦を宣言できない」として戦争の責任をウクライナに転嫁した。
最近ロシアは親ロシア国であるベラルーシに戦略核兵器を配備している。
メドベージェフ副議長はNATOのウクライナ支援に対するこれまでの発言でも「第3次世界大戦が近づいた」と発言するなど、すべての戦争が平和条約または核兵器使用で終わると主張している。
●プーチン大統領「新たに艦船30隻投入」 ロシア海軍の日に演説 7/31
ロシアのプーチン大統領が、2023年中に、新たな艦船30隻を海軍に投入することを明らかにした。
ロシアのプーチン大統領は、第2の都市・サンクトペテルブルクで行われた、30日の「ロシア海軍の日」に合わせて、ロシア海軍およそ3,000人の前で演説した。
この中で、プーチン大統領は「今日、ロシアは国家海洋政策の大規模な任務を自信を持って遂行し、一貫して海軍の力を増強している」と強調。
「ことしだけでも、さまざまなクラスの艦船30隻が投入される」とさらなる海軍増強を明らかにした。
そのうえで「わが海軍の発展の歴史は、祖国を守ることだ」とし、海軍の使命は祖国防衛にあると愛国心に訴えた。
●ロシア国旗を振りながら「プーチン万歳」と叫んだ…ニジェール数千人がデモ 7/31
軍事クーデターで混乱した西アフリカのニジェールで30日(現地時間)、クーデターを支持する数千人の市民がロシア国旗を振りながらデモを行った。
AP、AFP通信など外信によると、ニジェールの首都ニアメではクーデターを起こした軍部勢力を支持する数千人のデモ隊が街頭行進でロシア国旗を振りながら「ロシア万歳」「プーチン万歳」と叫んだ。また、植民地支配をしたフランスを強く非難するスローガンを叫んだ。
目撃者の証言と流布された映像によると、デモの途中で現地駐在フランス大使館が攻撃を受けて出入り口に火がつき、ニジェール軍人たちがデモ隊を解散させた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は自国民に対する攻撃に報復すると警告した。
マクロン大統領は「フランス国民、軍隊、外交官を攻撃してフランスの利益を侵害する者は誰であれ、即時かつ過酷なフランスの対応を見ることになるだろう」と強調した。
また「ニジェールの憲政秩序を復元し、モハメド・バズム大統領の復権に向けたすべての計画を支持する」と伝えた。
ロシアの傭兵集団ワグネルグループは、ニジェールの隣国であり、同様に軍部がクーデターを起こして政権を握った隣国マリで活動している。ロシアのプーチン大統領も、ニジェールなどアフリカで自国の影響力を拡大しようとしている。
ただ、ニジェールのクーデター軍部がロシアに手を差し伸べるのか、それともかつての西側パートナーと密着するのかは分からないとAP通信は伝えた。
ニジェール軍部は27日、モハメド・バズム大統領を拘禁し、クーデターを宣言した。クーデターを主導した大統領警護隊トップのチアニ将軍は自らを国家元首だと宣言した。
米国や欧州連合(EU)などはクーデターに反対し、ニジェールへの援助を中止する方針を明らかにした。
一方、ワグネルグループの首長エフゲニー・プリゴジン氏はニジェールのクーデターを「西側からの独立宣言」と称し、アフリカで活動を拡大するという意志を表明した。
西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)がクーデターをめぐる議論を行うために首脳会議を開こうとすると、ニジェール軍部は「この国々が軍事的に介入しようとしている」と非難した。
ECOWASの首脳らは同日の会議で、ニジェールとの外交関係を停止させる一方、1週間以内にバズム大統領が復権しない場合、軍隊を動員することにした。
●ロシア・モスクワのビジネスセンターにドローン墜落 7/31
ロシア国防省は30日、首都モスクワ中心部にあるビジネスセンターにドローンが墜落したとして「ウクライナによる攻撃」だと主張しました。
ロシア国防省は30日、「ウクライナによるドローン攻撃」でモスクワの中心部にあるビジネスセンターで高層ビルの一部が損壊したと主張しました。ロシアメディアは1人が負傷したと伝えていて、モスクワへのドローンの飛来は今月だけで4回目です。
ウクライナ側は公式に関与を認めていませんが、ゼレンスキー大統領は30日のビデオ演説で「戦争はロシア国内に戻りつつある。それは不可避で公平なプロセスだ」と述べ、今後、ロシア国内への攻撃がさらに増えることを示唆しました。
●戦争は最終フェーズへ。プーチンが始めた「ウクライナ総攻撃」の準備 7/31
全てがプーチンの思い通り。進むウクライナの孤立化とグローバルサウスの欧米離れ
「プーチンは自分の思惑通りに戦いを進めている」
これはロシア・ウクライナという当事者のみならず、ウクライナを支援するNATO諸国も共有する有力な分析内容です。
昨年2月24日にウクライナ全土への侵攻を始めてからもうすぐ1年半が経ちますが、当初予定していたよりもはるかに長く戦い、かつ多くのロシア兵の被害を出していますが、負けることなく、じわりじわりとウクライナの首を絞め、その背後にいるNATO加盟国間の対応の温度差を拡大しています。
まずアメリカを見てみると、対応に苦慮している様子が覗えます。
アメリカ政府内の分析によると、ウクライナが直面している戦況はかなり厳しく、NATOからの重火器の支援が増大されているにもかかわらず、この1か月で反転攻勢において予定されていた40%から45%ほどの成果しか挙げられておらず、実際には徐々にロシア軍に押される傾向が鮮明になってきているようです。
もしかしたらアメリカ軍“お得意”の軍事支援増大のための誇張かもしれませんが、「徐々にロシア軍に押され始めている」という見解は、どうも正確な見方のようです。
これまでNATO諸国内でも抜きんでるレベルでウクライナの戦いを後押しし、膨大な支援を行ってきたアメリカ政府と軍ですが、予想以上に長引く戦況と、当初の予定を遥かに上回る軍事支援は、アメリカ軍の全世界的な防衛網と自国の国家安全保障上の装備不足を引き起こし始めており、これ以上、気前の良い支援へのコミットメントはできないというのが大方の見解です。
そこで「本国にも兵器がないからしかたない」とまで大統領に発言させる形でクラスター爆弾をウクライナに供与することになったわけですが、これは実際には、アメリカ政府も批准しているオスロ条約違反であり、NATO諸国間での摩擦も引き起こす結果になっています。
例えば、最も近しいはずの英国政府でさえ、スナク首相自身がアメリカによるクラスター爆弾の供与に異を唱えて反対していますし、ルールを非常に重んじるドイツも「クラスター爆弾の供与と使用は、我々の支援における一線を超えるもの」と強く反発し、先日のNATO首脳会談時にも大きくもめる対象になったようです。
そして今週、NATO加盟国も懸念を表明していたウクライナ軍によるクラスター爆弾の使用が明らかになり、欧州各国の対米批判が顕在化しています。
これこそが実はプーチン大統領が目論んでいた内容だと思われます。NATO内での分裂が加速すると同時に、アメリカ政府が国際情勢において用いる自分勝手なダブルスタンダードを顕在化することによって対米批判の輪が拡大してきています。
これでNATOの欧州加盟国はアメリカの立場と、これまで以上に距離を置き始めていますし、NATO首脳会議時に思い切りNATO寄りになったと噂されたトルコも非難を強めています。
特に「ロシアもウクライナもオスロ条約締約国ではないので、クラスター爆弾をウクライナに提供することも、ロシア国内での使用も国際法違反にはならない」という苦し紛れの言い訳は、同盟国を呆れさせるだけでなく、支援の拡大を狙っていたグローバルサウスの国々のアメリカ離れと非難をさらに加速する結果になっています。
アメリカ離れをさらに増幅させるバイデンの発言
それをさらに増幅しているのがF16供与をめぐるアメリカの姿勢です。
より深堀すると、同盟国が保有するF16をウクライナに供与することにはOKしたものの、必要とされるウクライナ空軍のパイロットに対する訓練に米軍は参加しないことを、NATO首脳会議の場でバイデン大統領が明言してしまったことで、デンマークやオランダといったNATO加盟国で、パイロットへの訓練供与を表明していた国々が混乱し始め、実際に訓練への参加を見合わせるという議論が出てきているようです。これでgame changerになり得ると言われたF16の実戦投入は確実に予定よりも遅れることになります。場合によっては、F16の実戦投入は実施されないかもしれません。
そうなるとNATOの足並みが乱れ、対ウクライナ支援が滞り、欧州各国ではクラスター爆弾を供与し、ウクライナに使用させたアメリカへの同調を非難する論調が強まってくることは確実だと思われ、英国を含む欧州各国がこれまでのように米国と歩調を合わせてウクライナを支援するという結束にほころびが出事に繋がります。
欧州各国は元々、ロシアを非難しつつも、ポスト・ウクライナの世界において、ロシアとの関係修復を望んでいることもあり、“戦争がすぐ近くで起こっている”という現実には対峙するものの、少しずつウクライナ支援のフロントラインからの撤退を始める可能性が高くなります。
ここに予てより高まってきている“ウクライナに供与された武器・装備が行方不明になっている”という国内での非難が加わり、一層「立ち止まる欧州」の傾向が出てくるように思われます。
ドイツではすでに「戦況はかなり厳しく、ウクライナが負けてしまうことも覚悟しなくてはならないが、こうなったのはウクライナの責任だ」と責任転嫁をはじめ、手を退き始めているという情報も入ってきています。
そこに欧州に見限られることを良しとしないアメリカ政府内の感情と、来年には大統領選挙を控えているという国内政治の日程が重なることと、国内でも高まるクラスター爆弾の供与というダブルスタンダードへの非難が重なることで、アメリカもじわりじわりと対ウクライナ支援に後ろ向きになったり、手を退きはじめたりすることに繋がりかねません。
そうなるとNATOの分裂を画策し、ウクライナを結果的に孤立させ、見捨てさせるというプーチン大統領の“狙い“が実現に向けて進んでいくことになります。
機能していない欧米による対露制裁
この動きはまた別のところでも鮮明になり始めています。
それはロシアが18日に一方的に停止を宣言した黒海におけるウクライナ産穀物に関する協定にまつわる狙いです。
このロシアの一方的な離脱は、当初、穀物価格の高騰を引き起こすと見られていましたが、実際に価格が上がったのは2日ほどで、その後は低い水準(実際にはロシアによる侵攻前の価格よりも安い水準)で安定しています。
その背景には、「“黒海経由の輸送は危険”という見解からすでに陸路でのdivertが定着化していること」と「ロシア産穀物の輸出量の拡大による供給の安定化」があります。
後者については、中国やインドを経由するルートと、南アなどのアフリカ諸国やイラン、そして旧ソ連の中央アジア諸国が制裁に加わらず、business as usualで穀物取引を行っていることがあります。
つまり欧米諸国とその仲間たちがロシアに課す制裁は機能しておらず、黒海経由のウクライナ産穀物の供給が不安定になっていることで、ロシア産の穀物の取り扱いと販売高が大幅に増加していることを意味します。ロシアの農産物の売り上げは、侵攻前に比べて3割ほど増加しているというデータもあります。
「途上国の欧米離れ」の加速化に成功しつつあるプーチン
前者については、危機管理の観点からは正しい動きだと考えますが、これが何を引き起こしているかというと、ウクライナに隣接する中東欧諸国5か国におけるウクライナ産穀物の滞留による国内市場の混乱です。今週に入って5か国が連名でウクライナ産穀物の引き受け停止を宣言し、純粋に通過する場合を除き、引き受けない方針を提示しています。
隣接する5か国の農業保護の必要性が一番の理由とされていますが、この措置により陸路でdivertするルートが断たれ、ウクライナの農産物輸出による収入が減るだけでなく、欧州各国向けの穀物の流通も遮断されることになり、欧州で食糧危機が引き起こされる恐れが懸念され始めています。
「ロシアによる非協力的な姿勢は、途上国における食糧危機を引き起こす」として、ロシアを非難してきた欧州も、実際には陸路でのdivertで流通してきていたウクライナの穀物をほぼすべて欧州が独占してきたことが明るみに出てくることで、グローバルサウスの国々からの非難が強まってきています。
そこに狙いを定めたかのように、ロシア政府はグローバルサウスの国々に対するロシア産の穀物の無償提供を大々的に発表して、一気にグローバルサウスの国々を味方に引き込むだけでなく、欧米各国の矛盾を浮かび上がらせることで、途上国の欧米離れを加速させる後押しになっています。
アメリカ政府は国連安全保障理事会の場でグリーンフィールド大使を通じて「ロシアによる措置は人類に対する挑戦」と非難させて批判をそらそうとしてみたものの、今回の情報戦は不発に終わったようです。
これもまたプーチン大統領の思惑通りに進んでいると見ることが出来ます。
暴かれ始めた“ウクライナの嘘”
そして情報戦と言えば、戦況に関する情報戦も次第にロシア側に有利に働き始めています。
これまでウクライナ側が戦略的に“ロシアの嘘”を暴き、世界に訴えかけ、国際世論を味方につけてきましたが、クリミア大橋の爆破が実はウクライナ軍によるものだったと認めたことを皮切りに「悪いのはロシアで、ウクライナは被害者」というイメージがじわりじわりとはがれ始めてきています。
2014年以降、ウクライナ政府が行ってきた東部ロシア人地域への迫害の実情が暴かれ始め、一時期は英雄と奉られたアゾフ連隊は実は欧米によってテロリスト集団認定されていたことが思い出され始めたことで、次第に“ウクライナの嘘”も表出し始めています。
そしてそれは以前の“ウクライナのミサイルがポーランド領内に着弾した事件”を思い出させ、「これはロシアによる民主主義への挑戦で、第3次世界大戦の始まりだ」と大騒ぎし、世界から顰蹙を買ったゼレンスキー大統領の姿をまた思い出させることに繋がってきています。
またNATO、特にアメリカがウクライナに対してタブーとしてきた“ロシア領内への越境攻撃へのアメリカ産武器の使用”が公然と行われたことや、すでにウクライナが欧米産兵器・弾薬のブラックマーケットになってきていることが明るみに出だしたことで、情報戦における綻びも明らかになってきています。
これは欧米各国の政府・議会の目を覚まし、ウクライナ支援に対する躊躇へとつながり始めていると言われています。
同時にウクライナが行ったと思われるモスクワへの無人ドローン攻撃やクラスター爆弾の実戦使用などが、ロシア側のレッドラインを超え、NATO各国を戦争に引きずり込む理由を与えかねないと感じることで、ウクライナの継戦のための支援を控える動きが出始めています。
もちろんどのような理由があったとしてもロシアによる侵攻は正当化できるものではないのは変わりませんが、じわりじわりと対ロシアシンパシーが強まってきているのはとても気になるところです。
やはりプーチンの演出か。「ワグネルの乱」の真相
そして情報戦の極みは「ワグネルの乱の正体」です。
プリコジン氏の動静は様々な憶測がありつつも、はっきりしませんし、消息不明のスロビキン司令官の動静も不明ですが、どうもロシアによるウクライナ総攻撃の準備を進めているようです。
ルカシェンコ大統領が情報を一転二転と変え、ワグネルの実際の動きを分からなくしていますが、主力はベラルーシ入りし、北方からのキーウ攻撃を計画していると言われています。
乱から数日後にはモスクワでプーチン大統領とプリコジン氏が会談し、その際、プーチン大統領から「ゼレンスキー大統領の首を取ってこい」と発破をかけられて、無罪放免ともとれる形で泳がされていることから見て、プリコジン氏とワグネルに偽のクーデーターを引き起こさせ、ロシア国内とプーチン大統領の権力基盤の揺るぎを印象付けるように演出し、欧米諸国の目をそちらに向けさせている間に、作戦を次の段階に移すことに成功していると分析することが出来るようになってきました。
ルカシェンコ大統領がグルになって「どうもワグネルはポーランドを攻撃する」と発言していますが、これはNATO加盟国であり、ウクライナの隣国でもあるポーランドをターゲットにすることで、実際にNATOはどう動くのか、そして非政府組織で軍事会社という位置づけのワグネルによる仕業であった場合にもNATO憲章第5条による報復措置は発動されるのかを探る“情報戦”がロシア・ベラルーシ合同作戦として展開されている模様です。
ここで肝となるのは、ポーランドへの圧力と脅威の投射を行っているのが、正規のロシア軍ではなく、あくまでも非政府組織のワグネルであるという点で、NATO側に真正面からの反撃・報復の口実を与えにくい状況を作り出し、NATOの存在意義への挑戦を行っているという点です。
NATOが反撃すれば、過剰防衛行為として糾弾し、反撃せず、ウクライナ同様、ポーランドも見捨てる形になったら、ロシアに隣接するバルト三国などはNATOへの信頼が失墜し、NATOの分裂が引き起こされる可能性が高まり、その後はドミノ倒しのように崩れることになるかもしれません。
これももしプーチン大統領の計画に含まれているのだとしたら、とても恐ろしいですが、妙に納得しませんか?
戦術核兵器使用の可能性に言及して脅していますが、実際に使用することなく、総崩れにつなげることが出来るかもしれませんし、NATO加盟国間での不信感と、特に中東欧諸国に根強くある“西欧諸国は我々を見下している”という感情に火をつけ、NATOの東進を反転させることにつながるかもしれません。
もしそうであれば、プーチン大統領の戦略がぴたりとはまることになりますが、果たしてどうでしょうか?
自国の勢力圏拡大の動きを強める中国・イラン・北朝鮮
こんな議論をしている間にも、ロシア・ウクライナ双方で死傷者が増え続け、オデーサ大聖堂をはじめとする文化・世界遺産が次々と破壊されていき、攻撃が見境のないものになり、戦闘のエスカレーション傾向を阻むものがない状況になりつつあります。
このような地獄の状態を防ぐためには一刻も早い停戦と戦後復興のための合意が必要になりますが、残念ながらロシア政府側にも、ウクライナ政府側にもそのための心理的な基盤が存在しませんし、NATOや中国・イラン・北朝鮮、そしてインドなどが当事者化し、背後でいろいろと動き出すことで、状況が極めて複雑化してきている中、和平に向けた環境は全く揃っていません。
久々の世界的な戦争を前に血が騒いでいるのかどうかは分かりませんが、各国は間違いなくこの状況下において、自国の勢力圏の拡大に勤しむ動きを強めています。
もしこのような状況まで読んで、若干の計算違いは許容しつつ、絵を描いていたのだとしたら、まさに今の状況はプーチン大統領の思惑通りに進んでいるのかもしれません。
混乱の中で事実はどこにあるのか?
なかなか見えづらくなってきました。
●ゼレンスキー氏「戦争はロシア領土に戻りつつある」 ドローン攻撃も 7/31
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日夕のビデオ演説で、「戦争は次第にロシアの領土に戻りつつある」と述べ、ロシア国内への攻撃など、停滞が伝えられていた反転攻勢が進んでいることを示唆した。ロイター通信などが伝えた。
SNSへの投稿によると、ゼレンスキー氏は同日、ウクライナ西部で戦場で負傷して療養している兵士たちのもとを激励に訪れた。ビデオ演説では、ロシアが当初、1〜2週間で終わると想定していた「特別軍事作戦」がこの日で522日目を迎えたことから、「ロシアの侵略は失敗している」と指摘した。
その上で、「ウクライナは強くなっている。戦争はロシアの象徴的な中心地や軍事基地に戻りつつある。これは避けようのない、自然で絶対的に公平なプロセスだ」と訴えた。
ロシア国防省によると、29日夜から30日未明には、モスクワ中心部のほか、ロシアが実効支配するウクライナ南部のクリミア半島でもウクライナのドローン(無人機)25機による攻撃があった。同省はいずれも撃墜し、死傷者はいなかったとしているが、モスクワではオフィスビル2棟が被害を受けた。
●ウクライナ 教育施設など被害 モスクワでは無人機がビルに衝突 7/31
ウクライナの南部や北東部でロシア軍によるミサイル攻撃が相次ぎ、教育施設などが被害を受けてあわせて4人が死亡しました。
一方、ロシアの首都モスクワでは、無人機が飛来して高層ビルに墜落し、ロシア側が警戒を強めています。
ウクライナ軍が東部や南部で反転攻勢を続ける中、南部ザポリージャでは29日、ロシア軍によるミサイル攻撃で男女2人が死亡したと地元当局がSNSで明らかにしました。
29日には、北東部スムイでもミサイル攻撃があり、ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、教育施設が被害を受けて2人が死亡、およそ20人がけがをしたとSNSに投稿し、ロシアを強く非難しました。
一方、ロシア国防省は30日、首都モスクワで無人機による攻撃が仕掛けられ、2機が市内にある複合施設に墜落したと発表しました。
ロイター通信は、高層ビルの一角に無人機が衝突した瞬間だとする映像を配信しました。
モスクワでは、7月24日にも2機の無人機が飛来してオフィスビルに衝突するなど、無人機の飛来は7月に入ってこれで4回目で、ロシア側が警戒を強めています。
こうした中ゼレンスキー大統領は、30日に公開した動画で「ウクライナは強くなっている。戦争は徐々にロシアの領土、つまり、象徴的な中心地や軍事基地に戻りつつある」と述べました。
その一方で「ロシアのテロリストは、この冬もウクライナのエネルギー部門や重要施設を攻撃する可能性がある」と述べ、軍事侵攻が長期化する中、ロシア軍がこの冬に再び電力インフラへの攻撃を仕掛けてくる可能性があるという認識を示しました。
●ロシアは穀物合意復帰を 戦争「神に対する罪」―ローマ教皇 7/31
フランシスコ・ローマ教皇は30日、日曜恒例の祈りの集会で、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、黒海経由のウクライナ産穀物輸出に関する合意への復帰を訴えた。ロシアは合意に盛り込まれた自国産肥料の輸出が停滞していると主張し、ウクライナとの合意の履行を停止。その後、小麦の価格は上昇している。
教皇は「戦争は小麦を含め全てを破壊している。神に対する重大な罪だ。なぜなら小麦は人類を養うための神の贈り物だからだ」と強調。「飢えに苦しむ兄弟姉妹数百万人の叫びが空に上っている」と述べた。
●G7とグローバル・サウス ウクライナ情勢めぐり協議へ 7/31
G7=主要7か国とグローバル・サウスと呼ばれる新興国などの政府高官らが、8月5日からサウジアラビアでウクライナ情勢などについて協議することになりました。
G7としては、この枠組みでの協議を継続し、ウクライナ支援などを巡ってグローバル・サウスの国々への働きかけを強めるねらいもあるとみられます。
外交筋によりますと、協議は8月5日と6日にサウジアラビア西部のジッダで行われ、G7とグローバル・サウスの国々の安全保障担当の政府高官が出席するほか、ウクライナからイエルマク大統領府長官が出席する方向で調整が進められています。
この協議はG7に加えて、インドやブラジル、トルコといったグローバル・サウスの国々の政府高官も出席するのが特徴で、6月デンマークで初めて開催されたのに続いて2回目となります。
協議では、ウクライナやロシアの情勢を巡って意見が交わされるほか、ことし9月の国連総会に合わせてアメリカで開く予定のウクライナの安全保障などを議論する首脳級の会議に向けた調整が進められるということです。
G7は7月リトアニアで開いた首脳会議で、ウクライナへの長期支援などを確認しましたが、グローバル・サウスの中にはロシアとの関係に配慮する国もあります。
G7としては、今回の枠組みでの協議を継続し、ロシアに対する圧力やウクライナ支援を巡ってグローバル・サウスの国々への働きかけを強めるねらいもあるとみられます。
●NPT準備委員会きょう始まる 核めぐり各国間で激しい論争も予想 7/31
世界の核軍縮を目指すNPT=核拡散防止条約の準備委員会が、31日からオーストリアで始まります。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが同盟関係にあるベラルーシに核兵器を配備する方針を示すなど、核をめぐる世界の状況が厳しさを増す中、各国の間で激しい論戦が交わされることも予想されます。
世界の核軍縮の方向性を議論するNPTの再検討会議は、去年8月、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの反対で「最終文書」が採択されず、核軍縮は停滞しています。
こうした中、次の2026年の再検討会議に向けた準備委員会が31日から2週間にわたってオーストリアの首都ウィーンで開かれます。
ウクライナ情勢をめぐって、ロシアは核兵器を使用する可能性を示唆し威嚇を続けているほか、同盟関係にある隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を示しています。
こうした動きに対抗して、NATO=北大西洋条約機構の加盟国のうち、ポーランドがアメリカの核兵器を国内に配備する「核共有」への参加を求めるなど、核抑止力への依存を強める動きも出ています。
また東アジアでも、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返し、核・ミサイル開発を推し進め、中国も核戦力を拡大していると指摘されています。
NPTの準備委員会では、国連や一部の非保有国が核兵器の非人道性などを改めて訴え、核軍縮の機運を再び高めたい考えですが、厳しい国際情勢を受け、各国の間で激しい論戦が交わされることも予想されます。 
●プーチン氏の戦時経済支える「カスピ海ルート」の実態 7/31
「この貨物船は、けさロシアから到着したばかりだよ」ロシアは、欧米の制裁網をかいくぐり、一部の国と活発な取り引きを続けている。その拠点である港の1つで、今回、特別な撮影許可を得た。そこで目にしたのは、ロシア国旗を掲げる貨物船の数々、笑みを浮かべながら私たちに手を振るロシア人とおぼしき作業員たち・・・。“脱制裁”の最前線、ロシアと世界をつなぐカスピ海の港を取材した。
港に次々と到着するロシア船
私たちが訪れたのは、カスピ海の南岸にある中東・イランのアンザリ港。ふだんは、安全保障上の理由などから報道機関の立ち入りは厳しく制限されている。数か月の交渉の末、イラン当局から特別に許可を得て、6月末に現地に向かった。さっそく目に入ってきたのは、ロシアの国旗を掲げるいくつもの船だ。私たちが取材を許されたエリアの中だけで、4隻のロシアの貨物船が停泊していた。撮影していると、私たちに気づいて手を振る船員たちもいた。しかも、笑みを浮かべている。意外だった。欧米の制裁を科された国どうしでの取り引きがこんなにも平然と、堂々と行われているとは思わなかったからだ。港湾当局の担当者によると、朝、到着したばかりだという船が運んできたのは大麦だった。岸壁ではそれをクレーンでダンプカーに積み替え、貯蔵庫へ運ぶ作業が繰り返されていた。
“脱制裁” カスピ海ルートとは
カスピ海を臨むアンザリは、イランの首都テヘランから北西におよそ250キロの場所に位置する。町の通りには南国風の街路樹が植えられ、水族館や土産物店などが建ち並ぶ。ビーチには家族連れの姿が見られ、ちょっとしたリゾート気分を味わえる。目の前に広がるカスピ海は、日本の国土とほぼ同じ広さを持つ。もともとはチョウザメの卵から作るキャビアや、豊富な埋蔵量を誇る石油資源などで知られる。ロシアは、カスピ海を挟んでイランとは南北に向きあっている。両国がともに欧米から制裁を受け、各国との取り引きが困難となるなか、このカスピ海ルートであれば、どの国も介さずに直接モノを送れる。そのため両国は「最も実用的な輸送路」として期待を寄せるようになった。
穀物・エネルギー 増える両国の取り引き
ことしに入り、イランはロシアからの穀物輸入を増やしている。イラン税関が公表している統計をもとに計算すると、ことし6月までの3か月間にロシアから輸入した穀物の量はおよそ74万トン。前の年の同じ時期と比べておよそ1.5倍、侵攻前のおととしと比べると、およそ2.5倍に増えたことになる。イラン当局もさらに貿易を拡大させたい考えだ。
イラン港湾海事局アンザリ港担当 ナザリ氏「ことしはロシアから輸入するトウモロコシの量が増えている。大事なのは取引先であるロシア側の求めに応じることだ。そのための用意がある」
さらにエネルギー取り引きも活発になっているという。公式の統計はないが、イランの業界団体トップは、NHKの取材に対し、去年からカスピ海ルートを使ってロシアからガソリンの輸入を始めていると明らかにした。
“ロシア市場に続々参入”「欧米制裁は商機」と見るイラン
港ではロシアへ向かうというイランの貨物船も見かけた。積んでいたのはトマトペーストと石油化学製品だった。イランからロシアへの輸出額は、ことし3月までの1年間におよそ7億4400万ドルと、前の年に比べ、およそ1.3倍に増えている。取材に応じた自動車関連機器メーカーは、欧米企業などが軍事侵攻でロシア市場から撤退したため、むしろビジネスチャンスが広がっていると言う。
イランの自動車関連機器メーカー ニクラバン副社長「欧米によるロシアへの制裁は、私たちにとっては良い機会だ。ただ、ロシア市場に参入しようとする競合他社はイランにたくさんいるので、急ぐ必要がある」
ロシアが見据えるのはインド、中東各国
ロシアの視線は、イランの先にも向かっている。その1つが、今や世界で人口が最も多くなったとされるインドだ。従来のスエズ運河を通る航路の距離が1万6000キロあるのに対し、鉄道やトラック、それにカスピ海の船を駆使することで、半分以下の7000キロに短縮できる形だ。これが「南北輸送回廊」と言われるルートだ。さらに、イラン側の関係者はそろって「ロシアの今の関心は中東の湾岸諸国だろう」と指摘する。背景にはイランが、長年対立してきたサウジアラビアをはじめ、アラブ諸国と関係改善を進めていることがある。イランの手を借り、ロシアから湾岸諸国へ自国産品を輸出しようという構想だ。イラン側も乗り気の構えを見せる。新しい大使としてサウジアラビアに赴任することが決まっているイラン外務省のエナヤティ湾岸局長は「南北輸送回廊が湾岸地域とつながるとき、モノの流れはイランを通ることになる」と“物流ハブ”への野心を隠さない。
進むインフラ整備 鉄道でペルシャ湾へ
イランはインフラ整備にも積極的に乗り出している。アンザリ港では船着き場の数を、ことしに入って2つ増やして22に。将来的には倍以上の45に増やす計画だという。さらに、港の力を最大限引き出そうと進められているのが、港を国内の鉄道網と接続する線路の建設だ。9月の完成を目指しているということで、この日も急ピッチで作業が行われていた。完成すれば、この港からペルシャ湾までが鉄道でつながることになる。
イラン アンザリ自由貿易区域庁 ニアジ長官「周辺国の地政学的な状況が、この港の輸送路としての役割をより重要にしている。この港を回廊に組み込むことで、イランは制裁に立ち向かうことができる」
軍事的な結びつきも? どうなる両国関係の未来
カスピ海の港は、商業取引にだけ使われているのだろうか。欧米はことしに入り、イランがカスピ海ルートを使ってロシアへ、ウクライナでの攻撃に使われる無人機や弾薬などの兵器を送っていると指摘している。イラン側は否定しているが、6月にはイギリスメディアが、両国が結んだ弾薬供与の契約書だとする文書を公開。その中で輸送路の1つとして想定されていたのが、私たちが取材したアンザリ港だった。実は港を取材した日も、アンザリ港にはロシアのミサイル駆逐艦が寄港してニュースとなり、私たちも姿を確認している。「海軍どうしの交流を深めるため」とされるが、実態はわからないままだ。
イランはロシアとの蜜月を続けるのか?
ロシアにとっては、カスピ海ルートは、戦時経済を維持する上で「新たな生命線」とも言える重要な航路になりつつあるようにも感じた。ただ、今後の両国関係は国際情勢に大きく左右される。イランのメディアの中には「ウクライナ情勢次第で、ロシアのカスピ海ルートへの関心も変わる可能性がある。ロシアに頼り切るのは危険だ」と警鐘を鳴らすものもある。欧米の制裁を回避するために活発化したカスピ海ルート。その将来は、軍事侵攻の行方とも密接に関係することになりそうだ。
●モスクワにドローン攻撃とロシア政府、プーチン氏は先祖の栄光を強調 7/31
ロシア国防省は30日、首都モスクワが同日早朝にウクライナのドローン(無人機)による攻撃を受けたと発表した。オフィスビル2棟が被害を受けたほか、ヴヌーコヴォ国際空港が一時的に閉鎖されたという。
ロシア国防省によると、ドローン3機を破壊したものの、2機が市内のオフィスビルに落下したという。同省は声明で、「テロ攻撃の試み」が「阻止された」と発表した。
同日夜、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「戦争は徐々にロシア領に戻りつつある。ロシアにとって象徴的な中心地や軍の基地へ。これは不可避で自然で、まったく公平なプロセスだ」と主張した。
他方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は同日、サンクトペテルブルクで海軍記念日の式典に出席し、先祖の栄えある戦いぶりを強調した。
BBCロシア編集長のスティーヴ・ローゼンバーグ記者は、「この国は現在を正当化するために過去に生きている」と説明する。
●透ける習近平国家主席の野望 下落が続くロシア原油を高額購入 7/31
ロシアによるウクライナ戦略戦争の膠着(こうちゃく)状態が続いている。西側による対露制裁はロシアの財政基盤を破壊する威力に欠ける。ロシア財政と金融を背後で支えているのは中国である。
中国の習近平共産党総書記(国家主席)は昨年2月4日、北京でロシアのプーチン大統領に対し、「限りない友情と協力するうえで禁じられた分野はない」と約束した。以来、中国はロシアに対し、財政、金融両面で協力してきた。この中国の行動に対し、バイデン米政権をはじめ、西側は黙認し続けている。
対露支援を代表するのはロシア産原油の国際相場を上回る価格での購入である。グラフを見よう。
油種が「ウラル原油」と呼ばれるロシア産原油は米金利高や西側の輸入制限措置を受け、昨年半ば以降、下落が続いている。ウラル原油は成分が似ている油種である北海油田産出のブレント原油相場とはウクライナ戦争前は同水準だったが、最近では1バレル当たり20〜30ドルもウラルが安くなっている。ところが、中国の税関統計データから算出してみると、中国はウラル原油の国際相場よりもバレル当たり16〜20ドル余りも高い値段で輸入していることがわかる。しかも輸入量は急増しており、この6月には日量256万バレルに達した。
中国と並ぶロシア原油輸入大国はインドであり、最近の輸入は日量約200万バレルである。だが、インドの対露輸入価格はウラル原油の国際相場に沿っている。インドはちゃっかりとロシア原油を国際市況通り安く買っている。インドに劣らず計算高い中国がインドよりも年間平均で27%も高くロシア原油を買っている。インドはウクライナ戦争で「中立」の立場をとり、ロシアとは「友好関係」を自認している。
中国もまたウクライナ戦争に関しては「中立」の建前で、双方に対し和平仲介のそぶりをしきりに示す。しかし、この数値が示すのは、習政権の欺瞞(ぎまん)である。実際の対露関係は北京での合意通り、盟友なのだ。これに対し、米欧日の先進7カ国(G7)が対中制裁の気配もないというのは異様である。
ロシア原油輸入を一日当たり250万バレル、国際相場より20ドル高く買い続けた場合、年間では182億ドル、16ドル割高の場合、146億ドルである。ロシアのウクライナ戦費は200億ドル超とみられるが、その大半が中国による割り増し価格での輸入で賄える。中国がインドのように国際相場を基準に購入すればプーチン氏はたちまち財政難に追い込まれ、戦争継続が困難になるだろう。
習氏がなぜこうもプーチン氏を助けるのか。ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ロシア経済の窮迫化が進み、長大な国境を接する中国への依存を強め、ロシアの東部は中国の属州同然になりかねない。それこそは習氏の野望「中華民族の偉大なる復興」の道だ。他方、ロシアの弱体化を狙うバイデン政権とも利害は一致する。
●アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ 7/31
難航していたウクライナ軍の反攻作戦に新たな動きがあった。さまざまな試行錯誤の末、ウクライナ軍は2023年7月末、大規模な攻撃作戦用にと温存してきた精鋭部隊の一部を満を持して初めて南部戦線に投入したのだ。
反攻作戦開始から約2カ月、反攻作戦のギアを一段上げたと言える。しかし、いよいよこれから、というこの時期、ウクライナ政府に今春までのような高揚感が乏しいのが実情だ。むしろ、今後に対する不安感が霧のように立ち込め始めている。それはなぜか。その内実を深掘りしてみた。
ウクライナ顧問「何か、くさい臭いがする」
「憂鬱なアレストビッチ」。今キーウではこの言葉が政治的流行語のようにしきりに語られている。前ウクライナ大統領府長官顧問である安保問題専門家オレクシー・アレストビッチ氏が2023年7月半ばにネット上で行った発言がきっかけだ。少し長くなるが、悔しい思いのたけをぶちまけた彼の発言の内容を、以下に紹介する。
「(全占領地の奪還を意味する)1991年の国境線まで戻すことがわれわれの憲法上の義務であり、その目標は変わっていない。しかし、戦場でわれわれが決定的優位性を得るための武器が供与されない。なぜだ? 何か、くさい臭いがする」
この「くさい臭い」発言に込められたのは、アメリカへの強い憤懣だ。ウクライナ側が強く要請している、アメリカ製F16戦闘機や、長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与がいまだに実現しないのは、アメリカのバイデン政権の意向を反映したもので、それがゆえに反攻作戦が思い通りに進まない、という不満だ。
F16に関してバイデン政権は2023年5月、ヨーロッパの同盟国が供与することを容認する方針に転じたものの、供与の前段階であるウクライナ軍パイロットの訓練すら始まっていない。
これについて、アメリカは公式的には様々な技術的理由を挙げているが、アレストビッチ氏は、実際には技術的な事情ではなく、ロシアに対する軍事的な「決定的優位性」をウクライナ軍に与えたくないというバイデン政権の戦略が隠されていると指摘したのだ。
曰く「われわれの外交上の目標は、われわれの主要なスポンサーのそれとは異なるのだ」。つまり、バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っているという見方をアレストビッチ氏は示したのだ。
そのうえで、アレストビッチ氏は今後、領土奪還のテンポが大きく上がらず、反攻作戦が膠着状態に陥った時期を見計らって、バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行うよう提案するだろうとの見立てを示した。
この見立てを前提に、アレストビッチ氏は「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定を受け入れるという個人的立場を示した。
つまり、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有するとの考えだ。この案を受け入れる前提として、アレストビッチ氏はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟が認められることを挙げた。ロシアに移譲される国土については、将来的に「非軍事的手段」で取り戻すと強調した。
アレストビッチ氏は、その言動が世界中のウクライナ・ウォッチャーから注目されている。元ロシア下院議員との掛け合いスタイルでアレストビッチ氏が流すユーチューブ・チャンネルは、侵攻に関するチャンネルの中で最もアクセスが多いと言われている。ウクライナ政府の意向を探るため、プーチン大統領も欠かさずチェックするといわれるほどだ。
それだけに、アレストビッチ氏としては、水面下に潜むバイデン政権の「本音」をウクライナ内外に広く知らせるため、意図的に今回刺激的発言をしたとみられる。
「領土分割やむなし」発言の真意
そのアレストビッチ氏による、今回のアメリカ批判と領土分割やむなし発言は、全領土奪還を掲げるゼレンスキー政権の公式的立場とは大きく異なる。しかし、筆者が取材した結果、実はゼレンスキー政権内部でもアレストビッチ氏と同様に、反攻作戦が膠着状態になればアメリカが「タオルを投げ入れ」、停戦協議の開始を提案してくるのではと真剣に警戒され始めていることがわかった。
すでにウクライナ政府は水面下で、ウクライナを最も強く支持しているバルト3国やポーランドなどの隣国に対し、仮にアメリカが停戦交渉開始を提案してきた場合、引き続きウクライナへの軍事支援を継続するか否か、を問い合わせ始めている。停戦交渉開始提案がワシントンから来た場合の対応策を真剣に検討し始めたことを示すものだ。
今回のアレストビッチ発言と、その背景にあるゼレンスキー政権の危機感の直接の引き金になったのは、2023年7月11、12日の両日にリトアニアの首都ビリニュスで開かれたNATO首脳会議だ。
ゼレンスキー政権は、会議でNATO即時加盟が決まることが無理なのことは事前に承知していたが、「ウクライナ戦争終了後」などという形で具体的な加盟の時期や道筋が明示されることを期待していた。
事実、ヨーロッパ各国やトルコは道筋明示を支持していたが、結局アメリカとドイツがこれに反対した。NATO加盟に関してはまったく具体的道筋が一切盛り込まれない、事実上ゼロ回答の共同声明が発表された。
これを受けて、ゼレンスキー政権は、アメリカがロシアとの対決回避のため、停戦交渉による紛争凍結に傾いており、NATO加盟が約束されたものでないことを思い知ったのだ。
これに加えもう1つ、ウクライナが神経を尖らせているアメリカの動きがある。バイデン政権内で対ロシア秘密交渉役を担っているバーンズ中央情報局(CIA)長官の閣僚級への格上げだ。今後、より権限のある地位になったバーンズ氏がロシアとウクライナの間に入って、停戦交渉開始に向けた外交工作を始める前触れではないかとゼレンスキー政権は警戒している。
バーンズ氏はすでに2023年6月末にロシア対外情報局(SVR)のナルイシキン長官と電話会談したことが明るみに出ている。ウクライナの軍事筋によると、本稿執筆時点で、バーンズ氏がロシア政府側と何らかの秘密交渉をしたという形跡はないという。
こうしたバイデン政権に対し、アメリカ内からもすでに公然と批判が出ている。その代表的人物が、ホッジス元アメリカ駐欧州陸軍司令官だ。
あるユーチューブ・チャンネルに出演したホッジス氏は、そもそも論として、バイデン政権には当初からウクライナに全占領地を奪還させる、つまり勝利させるつもりはなかったと指摘した。
アメリカはウクライナが勝つことを望んでいない
バイデン政権がウクライナへの軍事支援を巡り、合言葉のように掲げていた「as long as it takes (必要とされる限り)」という原則について、ホッジス氏はこう解説する。「必要な兵器をなるべく早く渡すという善意を意味しているだけで、必要な軍事支援を今全部行うとは約束してはいない。空虚な宣言だ」と。
つまり「アメリカは、ウクライナが敗戦することを望んでいないが、一方でウクライナが勝つことも望んでおらず、国際的に承認済みの1991年の国境線を回復することも望んでいないようだ」と指摘する。こうした見方はウクライナ側と軌を一にするものだ。
ホッジス氏は、最終的にどのような形で戦争を終わらせるか、についてバイデン政権内で明確な戦略が決まっていないようだと指摘する。この点では、停戦交渉を提案してくると警戒を強めるウクライナ政府とは若干見方が異なる。「今、ホワイトハウス、国務省、国防総省の間で今後どうするか、議論が行われていると思う」と指摘し、アメリカはATACMSなどを早く供与すべきと述べた。
いずれにしても、ホッジス氏はバイデン政権がプーチン政権を倒すつもりがないとの見方を示す。プーチン政権に対する戦略的姿勢として「ロシアとはいかなる問題が発生しても、話し合いで問題を最終的に解決できると考えている」と指摘する。
ここで話を反攻作戦に戻そう。戦況は地点ごとに、ウクライナが攻勢に出ている方面とロシア軍が主導権を握っているところがあり、まだら模様状態だ。
例えば、東部ドネツク州の要衝都市バフムトは、ロシアの民間軍事会社ワグネル部隊に一度は制圧された後、ウクライナ軍が周辺部からジリジリ盛り返して半ば包囲状態だ。包囲網が完成すれば、守るロシア正規軍に投降を呼び掛ける可能性があるという。
一方で同じく東部のクプヤンシク・リマン方面ではロシア軍が約10万人規模の増援部隊を投入して、激戦が続いている。
しかし、現在最も注目されているのは南部戦線だ。ウクライナ軍はドネツク州のマリウポリ、ザポリージャ州のベルジャンスクとメリトポリという3つのアゾフ海沿岸の都市に向け、ジリジリと南下作戦を続けている。
キーウの軍事筋は、詳しい場所を明らかにしていないものの、西側でNATO流の訓練を施され、NATO式の戦術や兵器を身に着けた、虎の子の8旅団(1旅団は3000人程度)のうち1個旅団程度が南部に投入されたことを明らかにした。
ウクライナは精鋭中の精鋭旅団を投入か
筆者はこの旅団の投入先を、南部の交通の要衝でもあるメリトポリ方面だとにらんでいる。メリトポリは、ロシア本土からウクライナ東部、アゾフ海沿岸を経由して最終的にはクリミア半島に至る、いわいる地上輸送回廊の要所だ。上記した3都市の中で最もロシア軍の防御態勢が強固といわれる。
執筆時点でウクライナ軍はメリトポリの北方にあるトクマクまで約25キロメートルの地点まで進んできた。これからウクライナ軍を待ち構えるのが、俗に「スロビキン・ライン」とも呼ばれるロシア軍の堅固な防衛線だ。
「竜の歯」と呼ばれる、戦車の侵入を阻むためのコンクリート製の障害物が延々と並べられ、その後ろには塹壕線があり、さらに砲撃用陣地が並んでいるといわれる。また地雷原が広がっている。これらの防御線を突破しないとトクマクには到達できない。
戦況に詳しいイスラエルのロシア系軍事専門家グリゴーリー・タマル氏によると、地雷原は過去例がないほど密なもので、ロシア軍は敷設記録の地図さえ作らないまま、大慌てで地雷を敷設したという。
この地雷原がウクライナ軍の進軍を妨げる大きな要因になっていたが、タマル氏はアメリカが最近供与に踏み切ったクラスター(集束)弾が効果をあげていると強調した。
この弾が投下されると、中から多数の子爆弾が散らばって爆発し、地雷原を広く無効化するからだ。同時に榴弾砲などの火砲面でも、一時は砲弾数で優位に立つロシア軍に押されていたが、最近は高い命中精度を持つ西側製火砲を生かして優位に立ち始めたという。
当面トクマク制圧の可否が今後の戦況の分かれ目になるとみられる。ここからメリトポリに対し、高機動ロケット砲システム、ハイマースで集中的に砲撃できるようになるからだ。射程約80キロメートルのハイマースはゲームチェンジャーと呼ばれるほどこれまで効果を上げてきたが、最近はロシア軍のジャミング(電波妨害)作戦の結果、有効射程が約60キロメートルへ短縮され、命中精度も落ちてきているという。このためメリトポリまで約60キロメートルにあるトクマク制圧の重要性が増している。
ウクライナ軍としては、メリトポリ方面へのハイマース攻撃で、クリミアへの地上輸送回廊を寸断し、さらにアゾフ海沿岸に到達することでクリミアへの攻撃を強めることを狙っている。
しかし、先述したアメリカ政府の動きがあり、筆者はウクライナ軍にとってこの1カ月、つまり2023年8月末までが極めて重要だとみる。その時点までに、それなりの戦果を挙げることができないと、アメリカがタオルを投げてくる可能性が現実味を帯びてくるのではないか。
ウクライナ政府も同様の危機感を持っているとみられる。逆に言えば、今後ウクライナ軍が一定の戦果を確実に重ねていけば、ワシントンが停戦交渉提案を持ち込むタイミングを見失う可能性もあるとみる。
最近、ウクライナ軍はモスクワへのドローン攻撃など、実際の軍事的効果より宣伝効果を狙ったとみられる攻撃を増やしている。これも、アメリカをにらんでウクライナの継戦への強い意志を誇示する狙いがあるのではないかと筆者はみる。反攻作戦継続か、紛争凍結か――。ウクライナにとって、極めて重要な夏の決戦になりそうだ。
●もはやイーロン・マスク頼み。ウクライナ戦争の鍵を握る「スターリンク」の力 7/31
スペースX、テスラ、ツイッターを経営するイーロン・マスク氏、国家を超えるような影響力を持ち始めています。
彼がウクライナ戦争に及ぼしている影響について7月28日のNYタイムズが面白い記事を出していたので紹介しましょう。
スペースXを率いるイーロン・マスク氏は、戦略的に重要な衛星インターネットの分野で着実に力を蓄え、宇宙で最も支配的なプレーヤーとなった。
マスク氏はほぼ毎週スペースX社のロケットを宇宙に送り、ソファぐらいの大きさの衛星を何十基も軌道に送り出している。
衛星は地球上の端末と通信するため、地球上のほぼ隅々にまで高速インターネットを送ることができる。現在、4,500機以上のスターリンク衛星が上空にあり、全活動衛星の50%以上を占めている。
ウクライナ戦争ほど、スターリンクの力、そしてマスク氏の影響力を示した出来事はない。
ウクライナでは現在、4万2,000台以上のスターリンク端末が軍や病院、企業、援助団体によって利用されている。
ウクライナのデジタル担当大臣はインタビューで、「スターリンクはまさに今、私たちの通信インフラ全体の血液なのです」と語った。
解説 / 戦争になれば地上の基地局は破壊されて機能しなくなります。頼れるのは衛星通信だけです。つまりイーロン・マスクに頼らざるを得ないのです。
さらに記事は続きます。
マスク氏は一人で顧客や国のスターリンクインターネットアクセスの停止を決定することができる。そしてサービスが収集する機密情報を活用する能力を持っている。
彼に匹敵する企業や政府は存在しない。そのため懸念が高まっている。彼の不規則で個性的なスタイルは、世界中の軍や政治指導者をますます不安にさせているのである。
ウクライナでは、いくつかの懸念が現実のものとなった。マスク氏は戦争中、何度もスターリンクへのアクセスを制限した、と事情に詳しい関係者は語る。
ある時は、ロシアが支配するクリミア付近でスターリンクをオンにしたいというウクライナ軍の要求を拒否し、戦場の戦略に影響を与えた。
「スターリンクがなければ、我々は飛ぶことも通信することもできない」と、ウクライナのある副司令官は語った。
戦線の変化に伴い、マスク氏はジオフェンシングと呼ばれるプロセスを使って、前線でスターリンクが利用できる場所を制限した。
スペースX社は、自社のサービスによって収集された位置情報を利用して、ジオフェンシングの制限を実施している。
スターリンクはウクライナのロシア支配地域ではサービスを提供していない。ウクライナ軍は秋にロシアが支配する地域を奪還したため、サービスを受けられないことがあった。
ウクライナの地図を見ると、スターリンクが機能していた地域はウクライナの支配地域に限られており、ウクライナ軍がロシアから奪還していた地域ではスターリンクは停止していた。
マスク氏は昨年、黒海に停泊するロシア船に爆発物を満載した海上ドローンを送り込むことができるというウクライナの要求を拒否した。
マスク氏は後に、スターリンクは長距離無人機攻撃には使えないと述べた。
解説 / まさにイーロン・マスク氏の胸先三寸でウクライナのロシアへの反撃能力が限定されます。
どの地域でスターリンクが使えて、どの地域で使えないかをコントロールすることによって、ウクライナ軍の行動を制限できます。
つまりウクライナ軍とロシア軍との境界線を決める力を有しているのです。
もちろん、彼の力はウクライナ戦争に限りません。
たとえば昨年、イランで反政府デモが発生した際、マスク氏は活動家たちが通信を維持できるよう、現地でスターリンクが利用できるようにしました。
イラン政府はスペースXが主権を侵害していると非難しています。
また中国政府はイーロン・マスク氏に対して中国内でスターリンクを稼働させないように強く要望しています。中国政府の情報統制が完全に崩れるからです。
情報通信の統制をしている国にとっては、イーロン・マスク氏のスターリンクは自らの権威基盤を揺るがす脅威でもあるのです。
現代においては、個人が原子爆弾をもっているような影響力でしょう――
 
 

 

●ウクライナ軍「まもなくクリミア入り」の衝撃証言 8/1
ウクライナ軍の進撃は想像以上なのか。反転攻勢を進めるウクライナ軍が、まもなくクリミアに入るという。ANNニュースが伝えている。
2014年にロシアに侵攻されたクリミア半島について、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は「ウクライナ軍はまもなくクリミアに入るだろう」と語ったという。
ロシア軍はクリミアの北側に塹壕を掘り、地雷原を築くなど強固な防衛ラインを敷いている。突破するのは簡単ではないとみられてきた。それだけに“近くクリミア入り”は、情報戦の可能性も捨てきれない。
ただ、米軍の元欧州軍司令官は6月、ニューズウィーク誌に「夏の終わりまでにクリミア奪還も可能」と語っていた。ウクライナ軍がクラスター弾を投入しはじめてから2週間足らず。予想以上の効果をあげている可能性もある。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「クリミアから住民が避難しているという情報も流れています。クリミア半島には、14年、最後までロシアに抵抗した、イスラム教徒のクリミア・タタール人がいます。彼らは半島全体の人口の10%前後を占めている。ウクライナ軍とクリミア・タタール人が内と外で呼応することもあり得るでしょう」
もし、クリミア半島を奪還されたらロシアが受ける衝撃はハンパじゃない。プーチン大統領は、メンツもプライドもズタズタにされる。
14年、クリミア半島を併合したロシアは、クリミアの標準時間をモスクワと同じ時間帯に変更し、通貨もロシアのルーブルに切り替え、地元住民にパスポートも発給している。18年には、ロシア本土とクリミアを結ぶ「クリミア大橋」も開通させている。クリミアを奪還されることは、プーチンにとって、レッドラインなのは間違いない。
「クリミア半島を奪われたら、プーチン政権は、もう国内的に持たないのではないか。22年のウクライナ侵攻は、なんだったのかという世論が強まるでしょう。とくに、ワグネルを率いていたプリゴジンなど強硬派が『プーチン大統領ではダメだ』『戦争に勝てない』と騒ぎ出し、プーチン降ろしがはじまる可能性があります」(中村逸郎氏)
最悪なのは、ウクライナ軍がレッドラインを越えた時、破れかぶれになったプーチンが核使用に走るリスクが強まることだ。
●北朝鮮がプーチン氏支援、ロシアへの人民軍極秘提供′渉 8/1
北朝鮮は27日夜、首都・平壌(ピョンヤン)の金日成(キム・イルソン)広場で、朝鮮戦争の休戦協定締結70年を記念する軍事パレードを行った。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相や、中国の李鴻忠・共産党政治局員と並んで閲兵した。ウクライナ侵略を続けるロシアと、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の「ならず者同盟」。北朝鮮が、ロシアに武器や兵士を極秘提供≠キる懸念が浮上している。日米韓はどう対峙(たいじ)するのか。ジャーナリストの加賀孝英氏の最新リポート。
「脅威は非常に現実的だ」「前触れもなく、数日のうちに戦争状態に入る可能性がある」「(正恩氏は)予測不可能な指導者だ」
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は22日、日本メディアの取材に突然、「第二次朝鮮戦争勃発危機」をこう警告した。
北朝鮮は27日夜、平壌で軍事パレードを行った。「戦勝記念日」と位置付けた朝鮮戦争(1950〜53年)の休戦協定締結から70年の祝賀行事だ。
正恩氏は、ロシアのショイグ国防相と、中国の李政治局員とひな壇に並び、米本土を射程に収める自慢の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」や「火星18」、新型の「偵察・攻撃ドローン」、核無人水中攻撃艇「ヘイル(津波)」などを観覧した。全世界に、米国と断固たる対決姿勢をとる3カ国の結束を誇示した。
だが、防衛省関係者は「正恩氏は最近、狂乱状態だった。韓国・釜山(プサン)の海軍基地に18日、世界最強の核兵器搭載型米海軍戦略原子力潜水艦『ケンタッキー』が寄港したからだ。北朝鮮は翌19日、短距離弾道ミサイル2発、22日には核弾頭搭載可能な巡航ミサイル数発を発射。朝鮮中央通信に20日、『先制核攻撃』の警告声明まで発表した。水面下で、『韓国と在日米軍基地を核で殲滅(せんめつ)する』と脅し、韓国側が『(その時は)正恩政権は終焉する』とやり返していた」と明かした。
事態は極度に緊迫していたのだ。
ショイグ国防相の訪朝目的は武器調達
外事警察関係者は「米国は、北朝鮮とロシアの動きを警戒していた。正恩政権下では軍事パレードが14回行われた。だが、ロシア代表団が招かれたのは初めてだ。ウクライナ侵略戦争の最中に、国防相が訪朝するなど、あり得ない。正恩氏とショイグ氏の極秘会議が確認された。2人は『朝露秘密軍事協定を結んだ』とみられている。ショイグ氏は必死だ。ウクライナ侵略戦争は敗北濃厚で、ウラジーミル・プーチン大統領はぶち切れ、ショイグ氏を怒鳴りまくり、ショイグ氏は小型戦術核兵器使用の決断を迫られ、慌てている」といった。
何が起きているのか。
以下、日米情報当局関係者から入手した驚愕(きょうがく)情報だ。
「英紙フィナンシャル・タイムズが28日、ウクライナ軍が北朝鮮製のロケット弾を使用していると報じた。ウクライナ国防省は『ロシア軍から奪ったものと示唆した』という。ロシアは武器が枯渇し、北朝鮮から弾薬や砲弾、ロケット弾をひそかに入手している。北朝鮮は見返りに食料と石油、資金を得て、核・ミサイル開発の協力を受けている。ロシアへの武器供与は、国連安全保障理事会の決議違反だ。米国は絶対許さない。何度も警告している。ショイグ氏の訪朝目的は、砲弾や武器の調達だろう」
「戦略原潜『ケンタッキー』の釜山寄港は、4月の米韓首脳会議後に発表された『ワシントン合意』(=米国の拡大抑止の実行力強化のため、戦略原潜や戦略爆撃機などを韓国に積極展開させる)に基づく。北朝鮮の暴走を断固阻止するものだ。ジョン・ボルトン元大統領補佐官が一部メディアに明かしたが、米韓首脳会談では『正恩政権の交代促進』『飢餓に苦しむ北朝鮮人民の解放』も極秘課題だった。米韓は、北朝鮮の核ミサイル発射前に、北朝鮮を撹乱(かくらん)・破壊、先制攻撃まで行う『キル・チェーン』システムを構築した。米国は24時間、正恩氏を監視している。正恩氏は震え上がっている」
「核」使用視野に秘密会議
ロシアと北朝鮮の幹部は、ウクライナ侵略直後から何度も秘密会議を重ねている。続く日米情報当局の情報はこうだ。
「北朝鮮はショイグ氏に対し、ウクライナ侵略戦争の全面支持を表明した。ショイグ氏は、朝鮮人民軍を『世界最強の軍隊だ』と絶賛した。朝露の秘密会議で、1ウクライナ侵略戦争への朝鮮人民軍兵士の正体を隠した極秘派遣2核兵器使用での朝露連携作戦などが話し合われている―という情報がある」
ジョー・バイデン米大統領は8月18日、岸田文雄首相と、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を、首都ワシントン郊外の大統領山荘キャンプデービッドに招いて日米韓首脳会談を開く。北朝鮮問題とウクライナへの支援が主要議題だ。3カ国の結束を全世界に示す。
岸田首相に、あえて言わせていただきたい。
日本を取り巻く安全保障環境は極度に緊迫している。官邸の危機管理は大丈夫なのか。国民生活を苦しめる「増税・負担増」路線を続けるつもりなのか。木原誠二官房副長官の説明責任をいつまで放置しておくつもりか。こんな体たらくで国家と国民を守れるのか。国民の政治不信は日に日に高まっている。
●ニジェール市民「フランス打倒、プーチン万歳」…西欧VSロシア構図へ? 8/1
26日のクーデターで混乱に陥っている西アフリカのニジェールで、市民たちが長きにわたって植民地支配したフランスに対する怒りを爆発させた大規模デモを行った。アフリカのサヘル地域(サハラ砂漠の南縁)の唯一の民主国家であるニジェールで混乱が深まるにつれ、この地域で影響力を拡大していたロシアと西側の対立構図が強まりつつある。
米国CNNなどは30日、クーデターを支持する数千人のニジェール市民が首都ニアメのフランス大使館前に集まって抗議デモを行い、窓に石を投げつけ、大使館の看板を踏んだと伝えた。彼らはフランス国旗を燃やしながら「フランスを打倒せよ」と叫んだ。フランスは1960年8月の独立までニジェールを長きにわたって植民地支配していた。デモに参加した大学生のハディザ・カントさんは放送で「私たち全員を強奪したフランスに反対するためクーデター指導者たちを支持する」と述べた。この日の集会は「ロシア万歳」、「プーチン万歳」などの親ロシアのスローガンもあふれていた。
大統領警護隊のトップだったアブドゥラハマネ・チアニ将軍は26日、2021年に民主的手続きを経て当選したモハメド・バズム大統領とその家族を監禁するクーデターを起こした。チアニ将軍は2日後の28日に国営テレビに出演し、「国が徐々に滅びゆくのを見て、今のような国家運営のあり方は持続できないと判断した」として、現行憲法を停止し、自身が新たな指導者に就任したことを発表した。
北アフリカを東西に横切るサヘル地域の「クーデターベルト」で唯一西側とのつながりを維持していたニジェールで、建国後6度目のクーデターが発生したことに、西側諸国は緊張を高めている。2020〜21年にマリ、2021年にギニア、2022年にはブルキナファソでもクーデターが起きているが、ニジェールは民主的に選出された大統領によって統治されていた。
米国、英国、フランスなどは声明で「バズム大統領を直ちに釈放せよ」と述べた。国連、欧州連合(EU)、アフリカ連合(AU)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)も、1人当たりの国内総生産(GDP)が594ドル(2021年世界銀行)に過ぎない世界最貧国であるニジェールに、援助を中止すると述べて圧力をかけている。特にECOWASは、バズム大統領を1週間以内に復帰させなければ、ニジェールに対する武力行使を承認すると警告した。しかしニジェール軍部は圧迫に屈せず、東に国境を接するチャドとの「潜在的同盟」を試みつつ、勢力を広げているとCNNは説明した。
外国の諸メディアは、反フランス・親ロシア感情にもとづくニジェールの混乱は、サヘル地域においては新しい現象ではないと指摘する。ロシアは最近、同地域で民間軍事会社「ワグネル」や反植民地感情などを掲げて勢力を拡大してきた。そのため、ワグネルが今回のクーデターにも介入していた可能性が示されている。ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏は27日にテレグラムチャンネルで「ニジェールで起きたことは植民地の支配者に対する国民の闘争」だとし「彼らは効率的に独立を得た」と述べた。
●ロシア、子ども連れ去り正当化 大統領全権代表「親の同意得た」 8/1
ウクライナ侵攻を続けるロシアが占領地から子どもを連れ去っている問題で、ロシアのリボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)は7月31日までに、プーチン大統領に昨年、ウクライナの養護施設から孤児ら1500人を受け入れたほか、親の同意を得て保養地に子どもを送ったなどとし、連れ去りを正当化する報告書を提出した。
7月30日に公表された報告書によると、昨年2月の侵攻開始後、ウクライナ東部の親ロ派支配地域を含め、ウクライナからロシアが受け入れた避難民は約480万人。うち70万人以上が子どもで「大半は親や親戚と共に到着した」としている。
昨年の夏から秋にはウクライナ南部ヘルソン、ザポロジエ両州や東部ハリコフ州で安全のため親が「自発的に子どもを休暇に送り出した」と主張、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島やロシア南部クラスノダール地方の保養施設などに送られたとした。
ウクライナは、ロシアが実際は保養名目などで子どもを親元から強制分離し、ロシアでの養子縁組などで同化を図っていると非難している。
●ウクライナ ミサイル攻撃で被害拡大 ロシアも無人機攻撃相次ぐ 8/1
ウクライナではゼレンスキー大統領の出身地が、ロシア軍によるミサイル攻撃を受け少なくとも6人が死亡するなど被害が広がっています。一方、ロシアでは首都モスクワでも無人機による攻撃が相次いでいてロシア側は警戒を強めています。
ウクライナ東部のドニプロペトロウシク州のクリビーリフで7月31日、集合住宅などがロシア軍によるミサイル攻撃を受け、地元の知事は子どもを含む6人が死亡したほか、75人がけがをしたと発表しました。
クリビーリフはゼレンスキー大統領の出身地で、ゼレンスキー大統領はSNSで建物が崩れ落ちた映像を公開し、「占領軍は平和な都市や人々を恐怖に陥れ続けている」と強く非難しました。
一方、ロシアでは首都モスクワでも無人機による攻撃が相次いでいてゼレンスキー大統領が30日「戦争は徐々にロシアの領土に戻りつつある」と述べたほか、ウクライナ空軍のイグナト報道官も「モスクワなどでは常に何かが飛んでおり、戦争と無関係だった人々にも向かってきている」と述べました。
これに対しプーチン大統領の側近、パトルシェフ安全保障会議書記は31日、ロシア北西部で行った会議で「ウクライナの治安当局は、欧米の協力を得て、モスクワやクリミアなどで空や海から多くの無人機で攻撃を仕掛けている」と主張しました。
またショイグ国防相も国防省で行った会議で、「ウクライナ軍はこの1か月で2万800人以上の兵士や、ドイツ製の戦車レオパルト10両などを失った」という見方を示したうえで、「ウクライナは反転攻勢に失敗する中、民間のインフラ施設へのテロ攻撃に集中している」と非難しました。
ロシア側はウクライナがモスクワなどで無人機によるさらなる攻撃を仕掛けるのではないかと、警戒を強めています。
ウクライナ軍兵士“地獄を経験した”
ウクライナ軍は、東部ドネツク州のバフムト周辺、ドネツク州の西部地域、南部ザポリージャ州の西部地域の、主に3つの地域で反転攻勢の作戦を展開しているとされています。
このうち、ドネツク州西部のベリカ・ノボシルカ周辺にあり、ウクライナが7月下旬奪還したと発表したスタロマヨルシケでの戦闘について7月29日付けのイギリスのタイムズ紙が伝えています。
このなかでは、スタロマヨルシケは、人口839人と小さい集落で「血を流して戦う価値があるとは思えない」としながらもアゾフ海に面した戦略的な要衝のマリウポリに続く重要な道路が通っていて、ここを奪還してさらに南下したいウクライナと、防御に徹するロシアとの間で激しい戦闘が繰り広げられたということです。
その道路は細く曲がりくねっていて、ここでは戦車などではなく歩兵による銃撃戦が中心になったということです。
現地で戦ったというウクライナ軍の兵士は、タイムズ紙の取材に対し、「相手は、われわれを20メートルほどの距離まで接近させてから撃ってきた。単純な攻撃はもう通用しない」と述べ、ロシア軍は、ざんごうなどで待ち伏せして攻撃をしかけてきたと証言しました。
さらに「私たちの部隊は地獄を経験した。血まみれになった仲間もいて、1人は殺された。ロシア軍の装甲車が集落に入ってきた時はもうだめだと思った」などと述べました。
また、タイムズ紙は、スタロマヨルシケの北にある集落ネスクチネをウクライナ軍が奪還したときの様子について「ウクライナは、ロシアの占領から集落を解放するために、そこを破壊しなければならなかった」としてウクライナ軍は、前進するために消耗と破壊を繰り返すソビエト式の戦術をとらざるを得なくなっていると指摘しています。
●サウジ開催のウクライナ和平会議、ロシアも参加を=メキシコ大統領 8/1
メキシコのロペスオブラドール大統領は31日、ウクライナでの「不合理な」戦争の終結を求め、サウジアラビアで開催予定の和平会議にはウクライナとロシア双方の代表が出席すべきとの見方を示した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は29日、サウジが8月5─6日にジッダでウクライナに関する会合を開くと報道。西側諸国やウクライナのほか、インド、ブラジル、メキシコなども招かれているが、ロシアは除外されているとみられる。
ロペスオブラドール氏は定例会見で、ウクライナとロシア双方が出席する場合に限りメキシコも参加すると述べ、和平実現に向けた解決策の模索を双方が受け入れることが条件になるとした。
ウクライナ紛争を巡り、メキシコはロシアを非難する幾つかの主要な国連決議を支持する一方、中立的な立場を維持しようとしており、ウクライナへの武器供与やロシアへの制裁は行っていない。
●NPT準備委 ロシアの核兵器による威嚇に各国の非難相次ぐ 8/1
オーストリアで開かれている世界の核軍縮を目指すNPT=核拡散防止条約の準備委員会では、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが核兵器による威嚇を繰り返し、隣国ベラルーシへの核兵器の配備も進めているとされることに、各国からの非難が相次ぎました。
NPTの次回2026年の再検討会議に向けた準備委員会は、7月31日からオーストリアの首都ウィーンで始まり、初日は各国の代表による演説が行われました。
会合ではウクライナ情勢をめぐりロシアが核兵器を使用する可能性を示唆して威嚇を続けていることを非難する意見が相次ぎ、このうちアメリカの代表は「ロシアによる無責任な核をめぐる主張や原子力発電所での無謀な行動が続いている。NPTの取り決めの核心や核抑制のシステムを脅かしている」と訴えました。
また、ロシアが同盟関係にあるベラルーシに戦術核兵器の配備を進めていると主張していることについて、隣国のリトアニアの代表は「ベラルーシへのあらゆる種類の核兵器の配備は NPTのもとの国際公約違反だ。ロシアの行動は新たな挑発であり、世界の安全保障をさらに危うくしている」と非難しました。
これに対してベラルーシの代表は「ベラルーシとロシアは核兵器のない世界に向けて取り組む国際社会の努力を共有している」と述べるにとどまり、核兵器の配備には一切言及しませんでした。
会合2日目の1日にはロシアの代表も演説する見通しで、ウクライナ情勢をめぐる緊張が続く中、長期的な核軍縮に向けて各国が歩み寄ることができるのか楽観できない情勢です。
武井外務副大臣“核兵器ない世界への道のり厳しく”と演説
準備委員会で日本は武井外務副大臣が演説し、「国際社会の分断の深まりや、ロシアによる核の威嚇などで『核兵器のない世界』への道のりは一層厳しくなっている」とロシアを非難しました。
中満泉国連事務次長 “核リスク 冷戦と同レベル”と強い危機感
NPT=核拡散防止条約の準備委員会を前に国連の軍縮部門トップを務める中満泉国連事務次長がNHKのインタビューに応じ、現在の核をめぐる国際環境について「非常に憂慮すべき状況だ。核のリスクが冷戦の真っ最中と同じくらいのレベルまで高まっている。現在のような状況は、非常に危険なものだと厳しく評価している」と述べ、強い危機感を示しました。
そして今回の準備委員会について「当然のことながら難しい事柄なのですぐに合意が形成されるとは考えていない」と述べ、厳しい議論になるという認識を示しました。
一方で、去年8月のNPT再検討会議ではロシア1か国の反対で「最終文書」が採択されなかったものの、他のすべての国や地域が草案に同意していたとして「去年突っ込んだ話し合いをして草案に落とし込んだ内容をたたき台にして、NPTの条約の実施状況や核兵器の透明性をどのように高めるのかについて議論を始めることになる」と述べ、今回の会合の意義を強調しました。
その上で「締約国には、現在の非常に厳しい状況をしっかり認識し、だからこそNPTの枠組みを効果的に使ってこのリスクを軽減し、軍縮の道筋に戻れるような方策をきちんと探してほしい」と訴えました。 
●モスクワで無人機攻撃相次ぐ ウクライナでは市民の犠牲拡大 8/1
ロシアでは1日、首都モスクワに無人機が飛来し、高層ビルの一部が損壊するなどモスクワで無人機による攻撃が相次いでいます。一方、ウクライナでは東部や南部でロシア軍がミサイル攻撃を続け、市民の犠牲が広がっています。
ロシア国防省は1日、首都モスクワと近郊でウクライナ側が3機の無人機による攻撃を仕掛けこのうち1機が、高層ビルが建ち並ぶビジネス街「モスクワシティ」の一角に墜落したと発表しました。
モスクワのソビャーニン市長は「ビルの21階部分が損壊し150平方メートルほどの範囲でガラスが割れた。けが人は出ていない」とSNSに投稿しました。
被害を受けたビルの隣の建物で働いているという女性は「正直なところ、とても怖い。国がしかるべき対策をとり、同じことが起きないようにしてほしい」と話していました。
「モスクワシティ」では7月30日にも、飛来してきた無人機が墜落して建物の一部が損壊する被害が出たばかりです。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は1日、記者団に対し「脅威が存在することは明らかだ。対策が講じられている」と述べました。
また、ロシア国防省は1日、ウクライナ南部クリミアの軍港都市セバストポリから南西340キロの黒海海域で、ロシア軍の艦艇がウクライナ軍の3隻の無人水上艇から攻撃を仕掛けられ、これを撃退したと発表しました。
一方、ウクライナでは、東部や南部でロシア軍による攻撃が相次ぎ、市民の犠牲が広がっています。
ゼレンスキー大統領の出身地である東部ドニプロペトロウシク州のクリビーリフで31日、集合住宅などがロシア軍によるミサイル攻撃を受けて6人が死亡したほか、南部ヘルソン州の州都ヘルソンでも地元の州知事はロシア軍の砲撃で4人が死亡したと明らかにしました。
また、東部ハルキウ州でも1日、地元の州知事は、ロシア軍の無人機による攻撃で学校やスポーツ施設などが破壊され、1人がけがをしたと発表しました。
「モスクワシティ」 ビルの窓割れ怖がる市民も
「モスクワシティ」はモスクワのクレムリンから西に5キロほど離れた場所にある、高層ビルが建ち並ぶビジネス街です。
無人機によって損壊したと伝えられた高層ビルでは、高さ数十メートルのところにある複数の窓が割れて抜け落ち、窓の周りが焼け焦げたように見えます。
周囲には警察や消防の車両が集まり、近くを通る人たちは壊れた所を心配そうに見上げたり、スマートフォンで写真を撮ったりしていました。
このビルで働いているという男性は、「まったく予想していなかった事態だ。日曜に起きたことの続きだと思われ、恐ろしく、深刻な状況になっている」と話していました。
また、隣のビルで働く女性は「正直なところ、とても怖い。国がしかるべき対策をとり、同じことが起きないようにしてほしい」と話していました。
一方、近くで働く女性は「憂うつな気分だ。軍に守ってほしい。ここには多くの人がいるので、パニックを引き起こすにはちょうどいい標的なのだろう」と話していました。
●モスクワ中心部の高層ビルに再び無人機攻撃… 8/1
タス通信によると、ロシアの首都モスクワで1日午前、無人機による攻撃があり、中心部の高層ビルに被害があった。露国防省はウクライナによる攻撃と主張している。このビルは7月30日にも無人機の攻撃を受けており、再び標的となった可能性がある。
露国防省は、無人機1機が制御を失ってビルに衝突したと主張している。モスクワ市長によると、21階部分が壊れ、約150平方メートルでガラスが割れるなどの被害が出た。死傷者はいなかった。
1日には別の無人機2機も飛来し、モスクワ近郊で撃墜された。
ウクライナは攻撃への関与を認めていないが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月30日のビデオ演説で露領内への攻撃が増えると示唆していた。ウクライナ空軍報道官も「モスクワなどでは常に何かが飛んでいる」と述べていた。
ゼレンスキー氏は7月31日にSNSで、中南部の工業都市クリビー・リフに露軍が同日に行ったミサイル攻撃の死者数が10歳の少女を含む6人に上ったと明らかにし、「テロだ」とロシアを批判した。欧米各国に十分な長距離兵器の供与を訴えた。
ウクライナのメディアによると、発射されたミサイルは2発で、集合住宅と大学施設に着弾した。クリビー・リフはゼレンスキー氏の出身地。
●ロシアの反プーチン包囲網、プリゴジン氏ら3人が画策 8/1
ロシアのプーチン大統領は7月29日、ウクライナとの早期停戦などを求めるアフリカ諸国の和平提案について「ウクライナが攻撃を続ける限りは『非現実的』だ」と述べました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」によりますと、ウクライナはメリトポリやドネツクなど、ロシアに奪われた領土を奪還しています。両国の戦いが激化する中、民間軍事会社「ワグネル」の動向に注目が集まっています。ワグネルによる武装反乱から1か月。今、数千人規模の戦闘員が隣国・ベラルーシに移動し、訓練を開始しました。
そこで、筑波大学名誉教授でロシアの政治と社会に詳しい中村逸郎さんに話を聞きます。
――「ワグネル」のトップであるプリゴジン氏が反乱を起こしました。中村さんの話によると、この黒幕の1人はベラルーシのルカシェンコ大統領とのことですね。ベラルーシといえばロシアと友好関係だったと思いますが、なぜその大統領が黒幕になるのでしょうか。
実は、ルカシェンコ大統領は、プーチン大統領にずっと反感を抱いていました。プーチン大統領は連合国家をつくるという政策を掲げていますが、実質的にはベラルーシをロシアに吸収するという思惑があります。そのためルカシェンコ大統領は、ロシア国内でプーチン大統領に対して反乱を起こしたプリゴジン氏率いるワグネルを迎え入れることによって、今度は逆に脅しとして使うという思惑があります。
――プーチン大統領にとっては、ベラルーシとワグネルが結びつくと強大な存在になる、だからこそ脅しとして成立するということでしょうか。
そのため、先日ロシアはベラルーシに対して戦術核兵器を配備しました。そのことによって、ルカシェンコ大統領としては逆に危機感が一気に高まりました。なぜなら、ベラルーシに向けて配備された戦術核兵器を、ロシアがウクライナに対して使用する事態になった場合、一時的に世界や国際社会の非難がベラルーシに向いてしまいます。それも含めて、ルカシェンコ大統領はプーチン大統領に対して大きな不満を持っているといえます。
――ルカシェンコ大統領がプーチン大統領に圧力をかけるような動きになった場合、今後の関係性はどうなりますか。
ワグネルは、実はウクライナとの戦争で兵力の80%を喪失したといわれています。ワグネルはベラルーシに向かい、ベラルーシの正規軍と一体化することによって体制を立て直していく。そしてルカシェンコは、ワグネルと正規軍が一体化することによって、プーチン大統領に対して圧力をどんどん加えていくことができるという情勢に、今なりつつあります。
――ワグネルが力を取り戻せば、ベラルーシと一緒になってプーチン大統領を劣勢に追い込めるという考えもありますか。
これは実は非常に大切なことですが、ルカシェンコ大統領とプリゴジン氏の仲間、この2人組をプーチン大統領の側近の中で結びつけることができる人がいます。
それは、プーチン大統領がこれまで最も信頼を置いてきた30年来の友人であるパトルシェフ安全保障会議書記という人物です。このパトルシェフ氏、プリゴジン氏、ルカシェンコ大統領が3人で反プーチン包囲網をつくろうとしています。
パトルシェフは、息子をポストプーチンにしてほしいとプーチン大統領と約束を交わしてきました。しかし、2023年2月にプーチン大統領がその約束を反故にしてしまい、パトルシェフ氏はプーチン大統領に対して怒っています。
そのため、ルカシェンコ大統領、パトルシェフ氏、プリゴジン氏という3人が中心となって、プーチン大統領を追い込んでいる状況になってきています。
●これはもはやジェノサイド...ウクライナを歴史から抹消、若い血をロシアに移植─ 8/1
ロシアのウクライナ侵攻がジェノサイド(集団虐殺)戦争であることが次第に明らかになっている。ジェノサイド目的で断固として遂行されるウクライナ戦争は、ウクライナの人々と国家だけでなく、ウクライナ人の国民性そのものに対する攻撃だ。無差別殺人や集団レイプに加え、ロシアによるウクライナの子供たちの連れ去りも明らかになっている(1948年のジェノサイド条約は、集団の児童を他の集団に強制的に移すことをジェノサイドと規定)。
昨年12月24日付のワシントン・ポスト紙はロシアの計画を詳細に報道した。ウクライナの大勢の子供たちを船でロシアに移送し、ロシア人の養子にしてロシア人として育て、ウクライナを消滅させるというものだ。
こうした話は、過去1年間にロシアによる占領を経験したウクライナ各地にあふれている。ロシアの侵攻で親を殺された孤児までもがロシア軍部隊によってロシアに送られ、「おまえたちは最初からロシア人であって、ウクライナ人だったことなどない」と言い聞かされるという。ロシアのジェノサイド戦争をより大きな枠組みで文化的に解釈すれば、ウクライナは今も昔も存在せず、歴史から抹消されるべきだ、というのがロシア当局の考えなのだ。
ニューライン研究所とラウル・ワレンベリー人権・人道法研究所(スウェーデン)は昨年5月、ロシアによるジェノサイドの法的側面に関する共同報告書で、ジェノサイドの文化的側面にも言及した。「ロシア高官はウクライナの言語や文化や国民性の存在を繰り返し否定し、ウクライナ人を自任する人々はロシア人とウクライナ人の『一体性』を脅かすとほのめかしている」
ロシア当局のこうした考え方がピークに達したのは、2014年にウクライナ南部のクリミアを併合し、東部ドンバス地方で開戦してからだ。ロシアの国営メディアや政府系シンクタンクは、ロシア人とウクライナ人は「兄弟」だという考えに基づく報道を続けた。
ロシア政府直属のシンクタンクであるロシア戦略調査研究所(RISS)は14年、クリミアとドンバスの一部制圧を受けて「ロシア世界の一体性のため」に「ウクライナはロシアである」と題した論文集を発表。ある寄稿は「ウクライナ人の国民性」なる概念を「ロシア南部特有の欧米主義」と呼んだ。自身をウクライナ人だと考える人々は精神を病んでいるか外国かぶれだ、と主張するためのゆがんだ表現だ。
「ロシア化」されるウクライナ
ウクライナ文化の存在自体を否定したいという願望は強いものだった。16年3月、RISSのアナリストのオレグ・ネメンスキーは「ウクライナ住民の大多数はウクライナ文化とは無関係」と主張。この世界観では、存在するのはロシア文化のみで、ウクライナ住民には彼らが自分たちの文化だと主張するものとの接点は全くない。
これらがことごとくウラジーミル・プーチン大統領に影響を与えた。プーチンは21年7月、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」と題する論文で、両者は「一つの民族」と明言。「現在のウクライナ人はソ連時代の産物」であり「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップにおいてのみ可能だ」と書いた。ウクライナの政府と国民があくまで国家の独立性と文化の完全性にこだわるなら、彼らはネオナチだとも主張した。
22年2月のウクライナ侵攻直後からロシア軍はウクライナ文化の弾圧を開始。占領地の街頭に掲げられたウクライナの国民的詩人タラス・シェフチェンコの肖像は引き裂かれるか覆い隠された。町名標識はウクライナ語からロシア語表記に、色もウクライナ国旗の青と黄からロシア国旗の白・青・赤に塗り替えられた。
同年9月、プーチンはドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ヘルソン、ザポリッジャの4州をロシアに併合することを一方的に宣言。その際の演説で、過去8年間にわたりプーチン政権とその政策を支配してきたジェノサイド的主題に立ち返った。「自らの文化、宗教、伝統、言語によって自分をロシアの一部だと見なし、先祖代々、何世紀にもわたって統一国家で暮らしてきた何百万もの人々の決意ほど強いものはない。真の歴史的祖国へ戻るという彼らの決意ほど強いものはない」
ロシア軍の占領地域(現在は撤退中)で実施された偽りの住民投票の結果、そこで暮らす人々はウクライナ人ではなくなった。ロシア政府から見れば、彼らはロシア人であり、そうでないと主張する人々はナチス、もしくは頭がおかしいとされる。
急激に進む高齢化も根底に
ロシアの占領下でウクライナ系住民が受けた残虐行為の全貌は不明だ。マリウポリで何が起きたのかは国際調査を待たねばならない。ロシア軍に連れ去られたウクライナの子供たちの総数も不明のままかもしれない。ロシアの学校で再教育を受け、ロシア人の両親と名前を新たに与えられ、ロシアでの生活が長引くほど、ウクライナとのつながりは薄れる──それこそがロシアのジェノサイド政策の狙いだ。
私たちが集めた目撃証言によれば、ロシア軍の占領地域ではウクライナ関連のタトゥーをしていた男性らは処刑され、ウクライナ語で授業をしようとした教師はロシア軍に拷問された。併合地域の至る所で、自分たちはウクライナに住むウクライナ人であり、自らの言語や文化や歴史を大切にし表現する権利があると信じる人々がひどい仕打ちを受けた。昨年10月にはヘルソンでコンサート出演を拒んだウクライナ人指揮者がロシア兵に殺されている。
ウクライナが軍事的勝利を収め、併合を拒絶するだけでは不十分だ。このジェノサイド戦争の本質は今も変わらない。ウクライナ全土が奪還されても、ロシアのエリート層は考えを改めそうにない。
最悪なのは子供の連れ去りだ。ロシアはウクライナの子供たちを誘拐してロシアに強制移送している。彼らは新たな養父母とロシアのパスポートを与えられ、次第にかつての祖国を嫌い、さげすむようになる。
子供の連れ去りと再教育によるジェノサイドは、ロシアの侵略者が一人残らずウクライナの領土を去っても当分続くだろう。ロシアが敗れてもロシアのエリート層はジェノサイドにつながった文化的物語を信じ続け、連れ去られた子供たちが祖国に帰ることもないだろう。
連れ去りの根底にはロシアの急激な高齢化という厳しい現実もある。何万人もの若者がウクライナで戦死し、最も積極的で将来性のある国民は動員を免れようと国外へ。老い先短いプーチンは死にかけた祖国に若い血を「移植」しようと焦っている。
ウクライナは必ずこの戦争に勝ち、子供たちの連れ去りも阻止しなければならない。
●プーチンを追い詰めたら…政治学者・姜尚中が語る 8/1
韓国元大統領が語った 金正日総書記の印象
――2000年6月に、分断後初めての南北首脳会談が実現し、金大中(キム・デジュン)大統領と金正日(キム・ジョンイル)総書記が握手を交わした瞬間には、思わず「歓声を上げた」と書かれています。このとき何をお感じになり、どのような未来をイメージされたのか教えてください。
金大中さんが大統領をおやめになった時に、「金正日はどんな人でしたか」と個人的に質問しました。金大中さんはしばらくじっと考え、「クレバーな男だった」と言いました。この「クレバー」という言葉には、いろんな意味がこめられていたと思います。
そして驚いたのは、その後に金大中さんが日本語で吐き捨てるように「彼は独裁者だった」と付け加えたことです。金大中さんが私に言いたかったことは、独裁者とも話をしないと戦争になってしまうということです。
私は2人が握手を交わしたから、すぐに南北の統一が実現するなどとは考えませんでした。しかし「戦争の時代はもう来ないだろう」とは思いました。そして、他の国からそう言われるのではなく、自分たちでそれを成し遂げたことに感無量でした。
じつはあの時、金正日が出てきて会談に応じるかどうか、金大中さんは平壌に着くまで分からなくて不安だったそうです。しかし、到着したら突然歓声が上がった。それで金正日が来たことを直感したそうです。日本人の感覚からすれば「あんな独裁者に会いに行くなんて」と思う人も多いかもしれませんが、「では戦争でいいですか」ということです。
これは現在のプーチンに対する対応でも同じことが言えます。ロシアとウクライナは戦争をしている。でも、私たちが戦争しているわけではない。だったら、戦争をやめさせるためにもプーチンと会えばいい。なぜ「プーチンと会ったらロシアを利する」という考えになってしまうのか。アメリカの大統領だってゼレンスキーに会えるならば、プーチンとも会えばいい。
金大中さんの発想からすると、今のような展開はあり得ない。ウクライナにたくさん武器を供与して「がんばれ、がんばれ」と手をたたく。戦地で実際に亡くなるのはいったい誰なのか。「なぜ、私たちの税金で大砲の弾を買って援助しなければならないのか」と疑問を語るアメリカの国民もたくさんいる。
南北の関係にしてもそうです。周りの国がたくさん武器やお金を提供して死の戦争が始まってしまうかもしれない。それは避けなければならないと思ったから、金大中さんは独裁者である金正日に会いに行った。独裁者と話をしに行くことさえ許されないのであれば、デタント(緊張緩和)という考え方自体が成り立ちません。
冷戦崩壊後に強まった「サイドの思想」
――ロシアとウクライナ双方とそれぞれ話をして、両国にとって可能な落としどころを見つけるよう尽くすべきだということですね。
そうです。北朝鮮を理解する。ロシアを理解する。今は理解することが必要であるにもかかわらず、ロシアを研究することすらも許されないといった空気があります。しかし、相手を理解することは許すことではない。もっと深い原因を探るためには、むしろ「理解」が必要なのです。
パレスチナ系アメリカ人の文学研究者であるエドワード・サイードは、このような「あちらにつくか、こちらにつくか」の考え方を「サイドの思想」と呼びました。こういったサイドの思想が冷戦崩壊後に強まっている。
これでは「非武装地帯」という考え方もあり得ない。しかし、朝鮮半島は2キロの非武装地帯があるから共存できている。私は思想の中の非武装地帯が必要だと思うのです。ただ、世界をグループに分けているばかりでは対話をすることはできない。
金大中さんは、この考え方をくぐり抜けないと未来はないと考えました。彼は自分を暗殺しようとした朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領とも「会って話したかった」と言っていました。そして、言いたかったのです。「我々はエネミー(敵)ではない、ライバルなのだ」と。今日の中国もアメリカもエネミーではありません。ライバル関係なのです。
サウジアラビアとイランの断絶を中国の仲介で修復できた理由
――日本では「中国脅威論」が大きくなっていますが、これと矛盾した動きとして、中国の仲介により、スンニ派の総本山ともいうべきサウジアラビアと、シーア派の最大の拠点であるイランが関係の正常化に向けて動き出したことについて、書籍で書かれています。もし、中国がロシアとウクライナを停戦に導くことができたら、それは何を意味すると思いますか?
最近私が注目しているのが、アメリカの経済学者ジェフリー・サックスです。彼は旧ソ連を含む複数の国の経済アドバイザーを務めた経験があり、同時に国連の開発アドバイザーでもあります。彼は先日、ニューヨーク・タイムズに即時停戦論を出しました。
そして、もう1人注目しているのがシカゴ大学政治学部教授のジョン・ミアシャイマーです。彼は10年前から一貫して「ロシアをこれ以上追い詰めると大変なことになる」と言ってきた。彼はアメリカの外交政策が冷戦崩壊後になぜ失敗してきたのか、ということを「ナショナリズム」「リベラリズム」「リアリズム」という三つの観点から説明している。
彼はアメリカの覇権を「リベラル・ヘゲモニー」と呼びます。これは分かりやすく言うと、自分の似姿に世界を作り変えようという試みです。こういう考え方が冷戦崩壊後いたる所で失敗してきた。これはある種のアイデアリズム(理想主義)です。しかし、リアリズムの観点から見たら、もっと異なるやり方が見えてくる。
さらに、ネオコンさえアメリカのリベラリズムの一変種に過ぎないと彼は言います。これは、アメリカ型のリベラルなデモクラシーに作り替えていくことで、世界は平和になるし、アメリカも安全になるという考え方です。アメリカ各地のシンクタンクや国家機関にそういう考え方の人が多数いる。しかし、この状態が続けば、リベラル・ヘゲモニーは徐々に崩壊していくとミアシャイマーは考えます。
なぜ中国にサウジアラビアとイランの仲介ができるのかというと、中国がある意味ではリアリズムに立っているからです。主権国家の内部に人権弾圧があったり、不正があったりするときに、場合によっては強引に介入するのがアメリカ型リベラル・ヘゲモニーの考え方です。しかし、中国はそういうことはしない。
今の世界には武力を持った国家以上の枠組みはありません。そうであれば、それぞれの主権国家の持っている不可分性と一体性を認めざるを得ない。認めた上でどのように国家間の関係をハンドリングできるか、中国が今やっていることはこれです。だから、中東の国々がそれを受け入れる態度を見せる。
ロシアとウクライナに対しても、そういった姿勢で妥協点を見いだすことができるかもしれない。これはつまり、リベラル・ヘゲモニーが凋落(ちょうらく)するということです。そして、リベラル・ヘゲモニーは、世界にあるおよそ800の米軍基地によって成り立っている面もある。しかし、それが今世界の舞台で実効性を持っていない。
アメリカのリベラル・ヘゲモニーの今後を占う米大統領選と台湾総統選
ジョン・F・ケネディ元大統領のおいにあたる弁護士のロバート・ケネディ・ジュニア氏が米大統領選に出馬を表明し、世界中にある米軍基地を引き揚げようと提案している。トランプのアメリカ・ファーストとは異なる、ある種のモンロー主義を主張している。
アメリカの軍隊をコンパクトにして、アメリカの本土を守るための自衛力に収めたい。膨大なカネを垂れ流し続けながら、巨大な軍産複合体を維持することをもうやめよう、その分、教育や福祉を充実させればいい、こう提案している。
実際アフガニスタン戦争だけで1兆ドル(およそ140兆円)かけたといわれる。20年で1兆ドル使い、最後はあのお粗末な撤退です。あのカネはどこへ行ったのか。軍産複合体や、アメリカの戦争請け負いシンジケート、政権幹部たちの懐に全部消えていった。
ウクライナ戦争にしてもそうです。まだ、1兆ドルはかけていないと思いますが、すでに膨大な額を投入している。ミアシャイマーが言う通り、もうこんなことはできないし、ばかげている。
ジェフリー・サックスも言っています。こんなに格差が開いて、毎年数千万人もの人が満足な医療保険にも入れない。この状況を放置して、なぜあんなことを続けているのか。私は、リベラル・ヘゲモニーはすぐには衰退しないにしても、相対的には後退すると思います。
アメリカのリベラル・ヘゲモニーが後退しているからこそ、アメリカは日本、韓国、オーストラリア、そしてNATOやG7の協力が必要なのです。仲間に引き入れなければ、リベラル・ヘゲモニーが維持できなくなっている。
今後の状況を占うのは、来年のアメリカの大統領選挙、そして、台湾の総統選挙です。この選挙で、中間路線をアピールする第三勢力の台湾民衆党(民衆党)の柯文哲・前台北市長が政権に就く可能性がある。彼は、与党・民主進歩党(民進党)、最大野党・中国国民党(国民党)とも違い、適度な距離で中国とうまく付き合っていきたいと考えている。
そうすると、今とはガラリと変わった大陸政策になる。これは中国が時間をかけて達成しようとしていることだと言う人もいます。いずれにしてもこれは台湾の人が選ぶことです。日中国交正常化以降、日本は、台湾は中国の一部だと認めている。そうすると、この問題は基本的には、中国と台湾という当事者たちに任せるしかしない。
しかし、その上で決して武力行使に至らないようにと外から言うことはできる。台湾に対しても強引な独立が危険を招く場合は、拙速なことはしないようにと声をかけていく必要がある。台湾の中でも国民の声は半分に分かれており、およそ8割の人は現状維持を望んでいる。
およそ100万人が中国に移住しているし、中国と経済交流しながら、台湾は独自のポジションを維持して、豊かさを維持したいと考える人もたくさんいる。なぜ、ことさらに「台湾有事」を唱える人たちがいるのか、私は少し不思議に感じています。
●ウクライナ軍が東部の村奪還、「反転攻勢が新たな局面」 8/1
防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事と大和大の佐々木正明教授が1日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ウクライナによるロシアへの反転攻勢について議論した。
ロシア軍が展開していたウクライナ東部ドネツク州スタロマイオルスケ村をウクライナ軍が奪還したことについて、兵頭氏は「反転攻勢が新たな局面を迎えつつある」と分析した。佐々木氏はモスクワへの無人機攻撃について、「心理的な圧力を狙っている可能性がある」と述べた。

 

●相次ぐ“ドローン攻撃” 「標的はモスクワ」 反プーチン派「自由ロシア軍」幹部 8/2
ロシアの首都モスクワで相次いで起きたドローン攻撃について、ウクライナ側について戦っているロシア人武装組織の幹部が、都内でインタビューに応じ、攻撃はウクライナからのものと示唆した。
モスクワでは2日前に続き、1日未明も、中心部の高層ビルにドローン攻撃があった。
反プーチン派のロシア人武装組織「自由ロシア軍」の幹部、イリヤ・ポノマリョフ氏は都内でインタビューに応じ、攻撃について明言は避けたものの、「誰がやったか知っている」と述べ、使われたドローンが長距離飛行するものだったとして、ウクライナからの攻撃だと示唆した。
ポノマリョフ氏「われわれの標的はモスクワだ、それだけは明らか」
また、攻撃を受けたビルは、戦争で重要な役割を担う行政機関が入っているため、ターゲットになったとの見方を示した。
●金正恩総書記、プーチン大統領の巨大な肖像画でロシア国防相を歓迎 8/2
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、ロシアのウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領の巨大な肖像画で壁を飾った。
肖像画は、北朝鮮の指導者がロシアのセルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防相をエスコートしている写真に写っていた。
デイリーメール紙によれば、ショイグ国防相は平壌の労働党中央委員会本部でのパーティーに出席した。それは、北朝鮮が1950年から1953年まで続いた朝鮮戦争の休戦70周年を祝う中でのひとつのイベントだった。
この画像では、プーチンと金正恩の巨大な肖像画が左右から迫ってくる中、金正恩とショイグが廊下を歩いているのが見える。
別の写真では、金正恩とプーチンが握手している大きな写真が背景を埋め、関係者がワイングラスのようなもので乾杯している。この両首脳の写真は、2019年にロシアのウラジオストクで行われた会談の際に撮影されたものだとデイリーメールは報じている。
AP通信によると、朝鮮中央通信は金総書記とショイグ国防相が7月26日、「国防と安全保障の分野、地域と国際的な安全保障環境に関する相互の関心事」について合意に達したと報じている。
しかし、デューク大学サンフォード公共政策大学院助教授でソビエト連邦と米ソ関係の歴史家であるサイモン・マイルズ(Simon Miles)は、ショイグの北朝鮮訪問はロシアにおける彼の現在の立場を表しているとInsiderに語った。
マイルズ助教授は、「ロシアにとって、そしてショイグ個人にとっても、北朝鮮とパンを食べ、喜んで手を握らなければならないのは屈辱だろう」と語った。
北朝鮮は、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐってロシア側に立っているようだ。バイデン政権は、北朝鮮がウクライナ侵攻を助けるためにロシアに武器を送ったと非難しているが、北朝鮮はこれを否定しているとAP通信は報じている。
金総書記は6月、プーチン大統領へのメッセージの中で、平壌とモスクワの「戦略的協力」に向けて努力したいと述べ、「ロシア大統領としっかりと手を取り合う」ことを望んでいると述べた。
●NPT準備委 ロシア代表が演説で欧米側けん制 反論相次ぐ 8/2
世界の核軍縮を目指すNPT=核拡散防止条約の準備委員会で、ロシアの代表はNATO=北大西洋条約機構の拡大などでロシアの安全保障が脅かされたと主張し、「現在の危機は解決にはほど遠くさらに激化する危険性をはらんでいる」と述べて欧米側を強くけん制しました。
オーストリアの首都ウィーンで開かれているNPTの次の再検討会議に向けた準備委員会は1日、2日目の議論が行われ、ロシアの代表が演説しました。
この中で、ウクライナへの軍事侵攻については直接言及しませんでしたが、NATOの拡大などでロシアの安全保障が脅かされたとした上で、「自国の安全を確保するために必要な措置を取らざるを得なかった」と主張しました。
そして「核保有国を巻き込んだ直接的な武力衝突が起きる瀬戸際の危険な状態だ。現在の危機は解決には程遠くさらに激化する危険性をはらんでいる」と述べ、欧米側を強くけん制しました。
さらに、去年のNPT再検討会議でロシアの反対で「最終文書」が採択されなかったことに関連し「各国は互いを尊重し、文書には明らかに容認できない条項を入れるべきではない」と述べました。
こうしたロシアの演説に対し、オランダや韓国などが相次いで反論を行い、このうちポーランドは「ウクライナで始めた戦争から国際的な注意をそらすための発言だ。ロシアこそ国際秩序を破壊している」と非難しました。
しかしロシアはこれに対して再び発言を求めて反論を行った国々を非難して双方による応酬となりました。
●林外相 南ア外相と会談 ウクライナの和平実現へ協力を確認 8/2
林外務大臣は訪問先の南アフリカでパンドール国際関係・協力相と会談し、ロシアのウクライナ侵攻について和平を実現するため国際秩序の維持に向けて協力していくことを確認しました。
林外務大臣は、日本時間の1日夜、南アフリカの首都プレトリアでパンドール国際関係・協力相と会談しました。
南アフリカは、ウクライナ情勢をめぐり、中立的な立場を主張していますが、ロシアと軍事演習を行うなどロシア寄りとの見方も出ています。
会談でパンドール協力相は、南アフリカをはじめアフリカ7か国の首脳が、ウクライナの和平を実現するために取り組んでいると説明しました。
林大臣は、取り組みを評価した上で「1日も早い平和の実現が重要だ」と述べ、両氏は国際秩序の維持に向けて協力していくことを確認しました。
また、林大臣は、ロシアがウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止したことについて「極めて遺憾で再開に向けてともに努力したい」と述べ、アフリカの食料安全保障を確保するため協力していくことで一致しました。 
●穀物輸出「合意延長の意味がない」プーチン氏 トルコ大統領に主張繰り返す 8/2
ロシアのプーチン大統領はトルコのエルドアン大統領と電話会談し、離脱したウクライナ産穀物の輸出合意をめぐって、ロシア側の要求が認めらないかぎり合意に復帰しないと改めて主張しました。
ロシア大統領府によりますと、エルドアン大統領との電話会談でプーチン大統領はウクライナ産穀物の輸出合意をめぐり、ロシアが求める自国産穀物の輸出への制限が解除されていないとして「進展がみられなければ、合意を延長する意味はない」と伝えました。
また、食料危機への懸念を深めるアフリカ諸国を念頭に、無償を含むロシア産穀物の提供について検討を進めていることを明かしたということで、トルコに協力を求めたとみられます。
一方、トルコ大統領府が「プーチン氏のトルコ訪問について合意した」と発表したのに対し、ロシア側は「会談の準備を含め、様々な接触を続けることで合意した」との表現にとどまっています。
エルドアン氏は当初、今月中にもプーチン氏をトルコに招きたい考えを示していましたが、トルコが先月、捕虜交換で解放されたウクライナの軍事組織アゾフ連隊の幹部らをトルコからウクライナに帰国させたことを受け、ロシア側が反発していました。
●エルドアン氏、穀物合意再開へ努力 プーチン氏は制裁解除要求 8/2
ロシアのプーチン大統領は2日、トルコのエルドアン大統領と電話会談し、ロシアが7月中旬に延長を拒否した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意について協議した。双方の発表によると、エルドアン氏は「合意の再開に向けて努力する」と伝えたが、プーチン氏は制裁解除を求める立場を改めて示した。
エルドアン氏は電話会談に先立ち、プーチン氏が「8月中にトルコを訪問する」と指摘していた。しかし、トルコ大統領府が発表した声明は「両首脳はプーチン氏のトルコ訪問で合意した」とするにとどまり、日程への言及はなかった。
●プーチン政権の恫喝的行動≠ノ国際司法が怒り 8/2
国際刑事裁判所(ICC)が、ロシアのウラジーミル・プーチン政権の恫喝(どうかつ)的行為を非難した。ロシア内務省が戦争犯罪の容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出したICCの赤根智子裁判官を指名手配したことを受け、締約国会議の議長名の声明で「深い懸念」を表明したのだ。ロシアの非道な行動は、国際司法の世界でも批判にさらされている。
ロシア当局は3月、プーチン氏らの逮捕状を出したICCのカーン主任検察官や赤根氏ら4人に対する捜査を始め、5月にカーン氏ら2人を本人不在のまま起訴して指名手配。赤根氏については、タス通信が7月27日、指名手配を報じていた。
この報道を受け、ICCの締約国会議は同月31日付で声明を発表した。声明では、「ICCの国際的使命を損なう行為だ」とロシア当局による赤根氏の指名手配を批判し、裁判官らに対する「断固とした支持を改めて表明する」と強調した。
ウクライナ戦線でも、ロシアは守勢に立たされている。ロシア国内では最近、ウクライナのものとみられる無人機による攻撃が頻発。1日にも、モスクワ中心部のクレムリン(大統領府)から西に約5キロ離れた高層ビルに無人機が突っ込んだ。
●プーチンは国内の反乱再燃が怖くて攻撃できなくなっている─ウクライナ高官 8/2
ウクライナの政府高官は8月1日、ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア国内の反政府デモの広がりを恐れるあまり、ウクライナに対する再攻撃に踏み出せずにいるかもしれない、という認識を示した。
ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障・国防会議書記は1日、ロシア政府が2022年2月に開始したウクライナ侵攻に「不満」をいだくロシア国民の抗議に直面する可能性があると、ツイッターで警告した。
プーチンは当初、この「特別軍事作戦」が迅速な勝利をもたらすことを期待していた。だが、同盟国からの数十億ドルの援助によって強化されたウクライナの予想以上に強力な抵抗によって、ロシア軍の目標達成は妨げられている。
ここ数週間、ウクライナは現在ロシア軍に占領されている地域の奪還をめざして反攻を開始、すでに、占領されていた領土の大部分を取り戻している。ロシアでは、軍幹部の戦争への対応に対する批判も出ている。
こうした批判の声は、ウクライナでロシア軍とともに戦った民間軍事会社ワグネル・グループが6月に起こした反乱未遂事件で頂点に達した。反乱は最終的に失敗し、ワグネルの部隊はベラルーシに追放されたが、この事件は、開戦以来最も直接的なプーチンの権力に対する脅威となった。
反プーチンデモの脅威
ダニロフによれば、ロシア政府はその指導力に対する批判を将来的な脅威と感じており、それがロシア軍のキーウに対する第二次攻撃の実施を妨げている可能性があるとウクライナ当局は考えている。
「ロシア政府の現状は、さらなる反政府デモに対応する準備を急ぐ必要があるため、キーウに再度攻撃をかけたい気持ちはあっても、二の足を踏んでいるというところだ」と、彼は書いている。
ロシア政府はこれまでのところ、こうした指摘を認めていない。
昨年、ウクライナ侵攻を開始したロシアはまず首都キーウの制圧を試み、市の郊外で破壊行為を繰り広げ、民間人に対する人権侵害でおおいに非難された。だが首都制圧の試みは失敗に終わり、戦闘は現在もウクライナの最東部に集中している。
ダニロフは、ロシア政府に対するさらなる抗議行動が「そう遠くない時期に起こる」可能性を示唆した。ただし、これは第三者によって検証された話ではない。
「ペーストはチューブから絞り出された」と、ダニロフはツイートした。「様々な不満を持つ人々による抗議行動がロシア各地で拡大している。ペーストは、いったんチューブからしぼり出したら元に戻すことはできない」
この発言は、2014年にプーチンがウクライナから併合したクリミア半島の親ウクライナ派住民と、半島に駐留するロシア軍との対立が「高まっている」というウクライナ国防省情報総局(GUR)の報告に基づいている。
高まる反戦の気運
一方、ロシアにおける7月の世論調査では、国民の間でウクライナ戦争に対する支持率が低下している可能性が示された。
モスクワに本社を置く超党派の調査会社ロシアン・フィールドが6月16日〜19日にかけて実施した調査によると、ウクライナとの戦争継続を支持すると答えた回答者はわずか45%で、ロシアは紛争終結のための和平交渉に参加すべきだと答えた人は44%だった。世論調査はロシア全土から1604人を対象に電話で行われた。
この調査では、ロシアが再び兵士を動員することになれば、和平交渉への支持が高まることもわかった。新たな徴兵を必要とする場合でも戦争継続を支持すると答えた回答者は、わずか35%だった。
ロシアの元大物実業家で亡命中のミハイル・ホドルコフスキーは以前、本誌の取材に対し、再び反乱が起きた場合、ロシア連邦保安庁(FSB)内部のプーチン支持は、3分の1未満になるだろうと語っている。
●プーチンはアフリカに「無償武器供与も厭わない」 ── 8/2
軍事クーデターでニジェール情勢が緊迫化するなか、隣国ブルキナファソの暫定大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がブルキナファソに武器を無償供与する用意があるとの意思を表明したと明かした。
昨年のクーデターでブルキナファソの暫定大統領に就任したイブライム・トラオレは、7月31日に親ロシア系メディア「スプートニク・アフリカ」のインタビューでロシアからの支援に言及し、イスラム過激派のテロと戦うために同国が必要とする武器に関して、プーチンは「あらゆる可能性を否定しなかった」と語った。
「何の制約もなく、(武器の)ライセンス供与を拒まず、それも納得がいく価格での供与だ。ロシアはまた、我々に無償で武器を供与する用意もあると言った」
ニジェールでは7月26日、選挙で民主的に選ばれたモハメド・バズム大統領が、自国軍兵士によって権力の座を追われ、アブドゥラハマネ・チアニが権力を掌握した。
軍によるこのクーデターは、アメリカを含む多数の国々や国連安全保障理事会から非難を受けているが、ブルキナファソと同じく隣国のマリはクーデターを支持している。
「西側の介入は宣戦布告に等しい」
アルジャジーラによると、マリの軍事政権は、ニジェールの軍事クーデターに反応してこう述べた。「ブルキナファソとマリの暫定政権は、友愛の念から連帯を表明する。(中略)自分たちの運命に全責任を負い、有史以前からある主権を全守る決意を示したニジェール国民と連帯する」
さらに、「ニジェールに対する軍事介入があるなら、それはブルキナファソとマリに対する宣戦布告に等しい」と述べたと、アルジャジーラは伝えている。
一方で西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、今回のニジェールでの軍事クーデターを非難。バズムが大統領に戻されなければ、「必要なあらゆる手段をとる用意があり、それには力の行使も含まれる可能性がある」と警告した。
ロシア大統領府は7月はじめ、トラオレとの会合ののち、以下のような声明を発表していた。「ロシアとブルキナファソの2カ国間関係は、従来から友好的なものであり続けてきた。2022年には、両国は外交関係の締結から55周年を祝った。ブルキナファソの人々が、共感と関心を持ってロシアに接していることを、我々は承知している」
さらに声明はこう続ける。「我々は、貿易および経済協力を発展させるために協力していく用意がある。両国間の貿易は、ロシアとアフリカの全体的な関係の中で見てもまだ大規模とは言えないが、今日この点について討議することになると私は確信している。成長の余地があるからだ」
西側の武器はアフリカへ
トラオレはスプートニク・アフリカとのインタビューで、ロシアとウクライナの間で進行中の戦争についても触れている。トラオレは、この争いについて何らかの立場をとるものではないとしながらも、ウクライナに送られた武器が、最終的にはアフリカに流出していると指摘した。
「我々が厳しく非難しているのはただ1つ、ウクライナに送られたはずの武器が、実際には我々の大陸に存在し、我々の戦争を活発化させ続けていることだ。それこそ、我々が痛烈に非難している点だ」と、トラオレは語った。
●ウクライナの子供2万人を拉致...未曽有の戦争犯罪に突き進むプーチンの目的 8/2
ロシアによるウクライナ侵略で顕在化した深刻な問題の1つに、「子供の連れ去り」がある。
ウクライナ当局によれば、これまでに少なくとも1万9000人のウクライナ人の子供たちがロシア支配地域およびロシア本土に連れ去られているという。そのうち、帰還を果たした子供たちの数はわずか400人足らずといわれ、一度連れ去られてしまった子供たちを取り返すのは容易なことではない。
子供の連れ去りは、ロシアによる侵略開始後、ロシアの支配下に入ったウクライナの東部・南部4州の各所で報告されている。侵略開始からわずか2カ月後の2022年4月の段階では、激戦地となったマリウポリからの女性や子供の連れ去りが英メディアによって報じられ始めた。
その後、同年夏には「子供たちを安全な場所に避難させる」という名目の下、「夏季キャンプ」と称して占領地域の多くの子供たちが連れ去られたことが発覚した。また同年10月には、ウクライナ軍が東部ハルキウ州奪還作戦を進めるなか、撤退間際のロシア軍が急きょ、地域の子供たちをいったん学校に集め、その後集団で連れ去ったという報告もある。連れ去られた先として挙げられるのは、ロシアが14年以降支配を続けるクリミア半島やロシア本土が多い。広大なロシアに連れ去られた子供たちを取り返すことは至難の業である。
現在ウクライナは、国際社会の協力を仰ぎながら、連れ去られた子供たちを取り返すべく全力を挙げている。奮闘しているのは、ウクライナ政府系の組織であれば「チルドレン・オブ・ウォー」、NGOであれば「セーブ・ウクライナ」など。これらの組織により、連れ去られた子供たちがどのような経験をしたのかが徐々に明らかになってきた。
連れ去られた子供たちは「レクリエーション・キャンプ」と呼ばれる施設に送られることが多い。施設の充実度はまちまちで、粗悪な環境に耐える子供も少なくなかったという。ウクライナ語の使用は許されず、ロシア語の教育が実施される。そして「あなたの親はあなたを捨てたのだ」「あなたたちはウクライナから不要だと見なされた」「ウクライナはネオナチの国だ」「ウクライナを捨ててロシア人となれ。大きくなったら祖国ロシアのために戦う兵士となれ」と繰り返し説得される子供たちもいるという。
施設を出されると、ロシア人家庭の養子となる子供も多い。その場合は姓も変更されるため、ウクライナに残された親が子供の行方をたどることは容易ではない。
プーチンに出された「逮捕状」
ロシアがこうした連れ去りを行う真の目的は十分に解明されているとは言い難い。かつて日本が経験したシベリア抑留のように、人口減が見込まれるロシアにおける労働力の確保という見方もある。ロシア当局はこの連れ去りを「戦争に伴う一時的な子供の保護措置」と説明し、ウクライナ側は「民族浄化の試み」であるとしており、両者の言い分は真っ向から食い違う。
しかし仮にこれがロシアの主張どおりに「一時的な保護措置」であるなら、前述したようなロシア語の使用の強制や、ウクライナ人としてのアイデンティティーを奪うための措置を行うことの説明がつかない。
ウクライナの多くの識者はこの措置を、同国の将来を担う子供たちを物理的に引き離し、ウクライナ人の子供を「元手」として、「ウクライナに敵対的なウクライナ出身者」を人工的につくり上げる試みであると指摘する。ロシアが将来的に再びウクライナに侵攻を試みるのならば、真っ先に動員されるのはこうしたウクライナから連れ去られた子供たちだろう、とも。残念ながらこのような見方が排除できないほど、ロシアによる子供の連れ去りは組織的かつ徹底的に実施されている。
こうした状況の中、国際刑事裁判所(ICC)は今年3月17日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)に逮捕状を出した。ウクライナにおけるロシア占領地域から子供たちをロシアに不法に移送したことは戦争犯罪に当たるとの理由だ。ICCのカリム・カーン検察官は「子供たちを戦争の戦利品として扱うことは許されない」と、ロシア当局を非難している。
問題発覚から1年足らずでICCが逮捕状の発出に踏み切ったことは、事態の深刻さとロシアの行為の悪質性をめぐる国際社会の認識が共有された結果と言える。しかしそれでも、ICCがプーチンを戦争犯罪人として名指しし、逮捕状を出す決定に至ったことは、多くの人を驚かせた。
ICCがなぜこのような重大な決定に踏み切ったのか。その背景には、プーチンが子供の連れ去りに関して直接的に指示を出していることを示すさまざまな証拠が存在したことが挙げられる。
逮捕は「ほぼ不可能」
まず、侵略開始3カ月後の22年5月30日、プーチンはウクライナ人孤児をロシア人家庭の養子にし、ロシア国籍を付与するプロセスを簡素化するための大統領令に署名している。さらに22年後半にかけて、クリミアを中心とした地域でウクライナ人の子供たちがロシア人家庭に引き渡される映像が、ロシアのメディアで頻繁に流されるようになった。
さらに今年3月16日には、プーチンが大統領公邸執務室にリボワベロワを招き、ウクライナの子供たちのロシア家庭への養子縁組が順調に進展していることを報告させた。この会談の一部はテレビで放映され、その際にリボワベロワがマリウポリ出身の10代の男子を養子としたことも、本人の口から語られた。
つまり、ロシア側はウクライナ人の子供をロシア支配地域やロシア本土に連れ去り、積極的に養子縁組を進めていることを一切隠していない。むしろ、ウクライナの子供たちを戦禍から救うための人道支援や慈善事業であるかのように喧伝している。こうした側面が皆無であることを立証するのもまた困難ではあるが、最大の問題は保護者や関係者の同意なく、そして当事者である子供の意思に反してロシア当局が連れ去りを主導し、ほぼ強制的にロシア人の家庭に養子縁組させている事例が大多数を占めていることである。
ウクライナ人の家族が望んでも、子供を捜すことも取り返すことも困難を極めるのであれば、ロシア側による「人道支援」という主張は一気に信憑性を失う。ICCの判断の背景には、プーチンに逮捕状を出さなければ同種の犯罪の再発を止められないとの判断があったとされる。
とはいえ、プーチンの逮捕の実現はほぼ不可能とみられていることもまた事実である。ICCから逮捕状が出た以上、ICCの設置法「ローマ規程」に加盟する123カ国には、プーチンを逮捕する義務が生じる。しかし逆に言えば、プーチンがロシア国外に出てICC加盟国に入国しなければ逮捕することはできない。
それでも、ICCによる逮捕状の効果は確実に出つつある。プーチンは8月に南アフリカで開催が予定されているBRICS首脳会議への対面出席を取りやめている。ICC加盟国の南アフリカはプーチンが入国した場合には拘束する義務があったが、同国はプーチン拘束に後ろ向きの姿勢を見せていた。今回のプーチンの対面出席の取りやめは、南アフリカがICC加盟国としての義務とロシアとの関係の板挟みで苦境に陥ったことを、ロシアとしても無視できなくなったことを示唆している。
われわれにできること
「夏季キャンプ」を名目とした子供の招集という手口が明らかになった今、今後は同様の手段は使えなくなるとみられている。また逮捕状発出後、ロシア当局は今年4月に「子供を帰してほしいウクライナ人の親は名乗り出るように」との声明を出し、ごく一部の子供は逮捕状発出後に帰還を果たしている。
国際社会の継続的な取り組みも極めて重要である。既に22年11月、G7は初の法相会合を開き、「ベルリン宣言」を採択した。同宣言は子供の連れ去りを「最も強い言葉で非難」し、ロシアの戦争犯罪にG7諸国が一丸となって取り組む意思を表明した。この取り組みは今年5月のG7広島サミットで採択された「ウクライナに関するG7首脳声明」にも引き継がれ、子供の連れ去り問題が言及された。
6月に南アフリカをはじめとしたアフリカ7カ国の代表団がウクライナの首都キーウを訪問した際にも、ロシアとウクライナの双方に対して提示した「10項目の和平案」では子供の帰還問題に言及がなされている。ロシアによるウクライナ侵略を強く批判せず、ロシアとの関係を損ないかねない行動には慎重なアフリカ諸国でさえ、この問題を無視できなくなっていることが浮き彫りになった。
ロシアによるウクライナ人の子供たちの組織的な連れ去りは戦争犯罪である。子供たちの帰還には多くの困難が伴い、長い時間を要するかもしれない。われわれにできることは、この戦争犯罪が忘れ去られないよう声を上げ、真相究明のために連携し、一刻も早い子供の帰還をロシアに要求し続けることである。

 

●プーチン氏、穀物輸出協定更新の「用意あり」 ロシアの条件が満たされれば 8/3
ロシアのプーチン大統領は2日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、黒海からの穀物輸出に関する協定について、西側諸国が協定に定められた義務を全て実行し次第、ロシアが協定に復帰する用意があると伝えた。クレムリン(ロシア大統領府)が声明で明らかにした。
声明によれば、プーチン氏は、輸出協定の停止と、ロシアの食料や肥料の供給解除に関連するロシアの原則的な立場について説明した。
穀物輸出に関するロシア側の条件の履行が進んでいない状況では、協定の次の延長は意味を失っていると指摘。西側諸国が協定で定められたロシアに対する義務が実際に全て履行されればすぐに、協定に復帰する用意があることを確認したという。
ロシアは先月、黒海からの穀物輸出に関する協定への参加を停止した。世界の食料安全保障にとって重要とみなされている協定は昨年7月に国連とトルコの仲介によって始まり、3回にわたって期間が延長されていた。ロシアは協定からの離脱を繰り返し警告した後、昨年10月に協定から初めて離脱し、数日後に復帰していた。
●ロシア、またもドナウ川沿いの港を攻撃 ルーマニアの対岸 8/3
ウクライナ南部のドナウ川沿いのイズマイル港で2日、ロシアのドローン(無人機)による攻撃があり、施設が破壊された。
同港は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のルーマニアから、ドナウ川を挟んですぐの距離にある。
穀物貯蔵施設と、穀物を積載するための昇降機が損壊した。
ウクライナは、アフリカ各国や中国、イスラエルに輸出される予定だった穀物4万トン近くが被害を受けたとしている。
ロシアは7月、ウクライナが黒海経由で小麦やトウモロコシなどを安全に輸出できるようにする協定から離脱。その後、ウクライナの港への攻撃を開始した。
ウクライナのオレクサンドル・クブラコフ・インフラ担当相はツイッター(現在は「X」)に、「きょう攻撃を受けたのは、世界の食料安全保障の基礎となる港そのものだ」と投稿した。
現場から3キロほど離れたドナウ川のルーマニア側から撮影された映像では、2日にイズマイルの港湾地区から大きな炎が上がっているのが確認できる。
ルーマニアのクラウス・ヨハニス大統領は、ロシアが「ルーマニアに近い」ウクライナのインフラを攻撃し続けていることは容認できないと非難した。
オデーサ州のオレフ・キペル知事は、現場では救急隊が作業に当たっているが、犠牲者は報告されていないと述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「残念ながら損害が出ている」と述べた。キペル知事はソーシャルメディアに、攻撃を受けた複数の施設の写真を投稿した。
ウクライナ国防省によると、昇降機も被害を受けている。当局は、貨物ターミナル、倉庫、昇降機が被害を受けたとして、イズマイル地区検察が捜査を開始したと述べたが、オデーサ州のどこかは明かさなかった。
ウクライナは世界有数の小麦とトウモロコシの輸出国だ。
国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、ソマリアは2021年、消費する小麦の90%をウクライナとロシアに頼っていた。
ソマリアやケニア、エチオピア、南スーダンなどの5000万人以上が、数年にわたる降雨不足で食料支援を必要としている。
国連は、ロシアとウクライナの穀物協定によって、アフガニスタンやエチオピア、ケニア、ソマリア、スーダン、イエメンなどに合わせて62万5000トンの食料が人道支援物資として輸出されたと述べている。
フランス外務省は、ウクライナの港で穀物輸出に被害が出たことを受け、ロシアが「意図的に世界の食料安全保障を危険にさらしている」と非難した。
ロシアは先週にも、ルーマニアに近いドナウ川沿いのレニ港にドローン攻撃を行っている。
ルーマニアのヨハニス大統領は2日、同国に近い地域への攻撃は戦争犯罪であり、「ウクライナがその食料品を必要としている世界各地に送りだす能力」にさらに影響が出たと述べた。
また先には、黒海沿岸のオデーサ港およびチョルノモルスク港を攻撃。当局によると6万トンもの穀物が破壊された。
西側諸国は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が食料を「兵器化」していると非難している。しかしプーチン氏は、2日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と行った電話会談で、ロシアの穀物と肥料の輸出が保証されるまでは国連の協定に復帰しないと強調した。
ロシア政府もまた、輸出が困難な状況にいらだっており、制裁の緩和を求めている。
ロシアは7月17日に穀物協定から離脱した際、黒海のウクライナの港に向かう船舶を軍事的な標的にすると脅迫した。こうした港では多くのウクライナ船舶が出入りしており、実質的な海上封鎖だった。
これにより、ウクライナは輸出のために主要な黒海の港が使えなくなったため、ドナウ川の港が最善の選択肢とみられている。
しかし河川を使っても、ウクライナの穀物輸出量はさらに半減するとみられている。また、輸送コストも割高だ。
ロシアがウクライナの港を継続的に攻撃することで伝えようとしているのは、「穀物を輸出するには私たちが必要だ」というさりげないメッセージだ。
交渉の要になっているのはウクライナの疲弊した経済と、ウクライナの穀物が届かなければ飢餓(きが)に陥る危険のある数百万の人々だ。
船舶は黒海を渡り、ドナウ川沿いのウクライナの港まで航行を続けている。また、穀物はウクライナだけでなく、モルドヴァを経由して、道路や鉄道でドナウ川に到達することもできる。
穀物はドナウ川に到着すると、黒海に面するルーマニアのコンスタンツァ港へ輸送され、安全に南へと輸出される。
ウクライナの港湾管理局では、2日もイズマイルの港は「営業」となっていた。しかしロイター通信の取材に応じた関係者は、同港の運用は中止されていると話した。
ウクライナの穀物はまた、ポーランド経由で陸路で輸出されている。
ウクライナは欧州連合(EU)の「連帯の経路」の助けを借り、他の輸出ルートを模索している。今週にはドミトロ・クレバ外相が、クロアチアとドナウ川およびアドリア海の港を使用する可能性について合意したと発表した。
だが、EU加盟国経由でのウクライナの穀物輸出は、地元市場に影響を与えるため、いくつかの国で難しい内政問題となっている。ポーランドやルーマニアなど数カ国は、ウクライナ産小麦とモロコシの輸送は認めているものの、国内販売を一時的に禁止している。
ロシアが穀物協定から離脱した直後、世界の各市場で小麦価格が高騰した。
また、アフリカやアジアの途上国での食料安全保障にも懸念が出ている。
ウクライナの首都キーウでは2日に10機以上のドローンによる攻撃があったと、当局が発表した。
これらは全て防空システムで破壊されたが、落下した破片で住宅ではない建物数棟が被害を負ったという。
ロシアはこの攻撃について声明を出していない。
●ロシア観光船の入港に反対 デモ隊がジョージア寄港抗議 8/3
ロシア人乗客約800人を乗せた定期クルーズ船「アストリア・グランデ」は7月31日早朝、イスタンブールからの帰途、黒海に面したジョージア第2の都市バトゥミに入港したが、ロシアのウクライナ侵攻に反対するデモ隊の抗議に出迎えられた。
デモ参加者らは、ロシアのウクライナ侵攻と、侵略戦争を開始したプーチン大統領を非難する横断幕を掲げ、抗議集会を繰り広げた。
抗議デモに参加したのは約200人の学生と野党議員や市民活動家らで、クルーズ船の乗客の下船と、市内へ向かう観光バスへの乗車を妨害したとして、9人が警察に拘束された。
同クルーズ船はロシアのソチからイスタンブールに向かう途中の7月27日、バトゥミに寄港したが、地元と首都トビリシに住む数百人のジョージア市民からの抗議を受けて、予定よりも早く出港せざるを得なくなった。今回の抗議デモはクルーズ船の帰路を狙った2度目となった。
乗客の中にいたロシア人やベラルーシ人のセレブが、ジョージアのメディアに、プーチン大統領とウクライナ侵攻を支持するコメントをしたことがきっかけとなって、抗議デモにつながったといわれている。
ロシア企業所有の「アストリア・グランデ」は、ソチからバトゥミを経由してイスタンブールに向かう定期クルーズ船だが、この抗議騒動の結果、今後ジョージアには寄港しなくなる。
●ウクライナ反転攻勢は弾切れで頓挫、ロシア軍大攻勢で戦争終結へ 8/3
ウクライナ戦争はロシア軍の攻勢が始まり最終局面を迎えている。半面、ウクライナ軍を支援してきた米軍はじめNATO(北大西洋条約機構)は装備と弾薬が枯渇しかかっており、北東アジア有事の米軍の支援能力にも制約を及ぼしている。
反転攻勢失敗とロシア軍の本格攻勢開始
泥濘期明けから始まったロシア軍の攻勢に対し、ウクライナ軍は6月4日頃から反転攻勢をかけ、2週間あまりが経過した。
しかしウクライナ軍は、弾量も火砲数も約10倍と言われる優勢なロシア軍の火力と堅固な陣地帯に阻まれ、攻撃戦力を消耗している。
退役米陸軍大佐のダグラス・マグレガー氏は、ウクライナ軍の累積戦死者数を約30万〜35万人、戦傷者等を合わせた損耗は約60万〜80万人に達したと見積もっている。
ウクライナ軍の6月の攻勢開始時点の基幹戦力は、約3万〜3.5万人のNATO加盟国で訓練された兵員であり、総兵力は約20個旅団、約6万人とされていた。
しかし、攻勢開始以降その約半数が死傷し、7月中旬には約10個旅団、3万〜3.5万人に減少したとみられている。
ロシア軍の戦力は圧倒的に優勢である。
ロシア軍の総兵力は約75万人、そのうち各約10万人の兵力が、南部のザポリージャ正面、バフムト以南の東部ドンバス正面、バフムトより北の東部ドンバスのリマン正面に展開され、ベラルーシにも約10万人が集結中とみられている。
その他にロシア領内も含めて約三十数万人が展開している。
ロシア軍は、戦車1800両、装甲車3950両、火砲2700門、戦闘機400機、ヘリ300機などを準備していると『フォーリン・アフェアーズ』は報じている。
英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)はロシア軍の戦術・戦法について、今年3月19日付で詳細な報告書を出している。以下は、同報告に基づいている。
ロシア軍の陣地帯は、工兵部隊により機械力を利用して、昨年来組織的に建設されており、現在のウクライナ軍とロシア軍の接触線後方約7〜8キロ付近の地線に、全正面約1000キロにわたり、少なくとも1線、南部正面などでは3線にわたり構築されている。
各陣地帯は、主陣地帯のみで深さ約5キロ、予備陣地と後方を含めると深さ30キロ以上に達する長大かつ堅固なものであり、翼側に回ることも突破することも困難である。
主陣地帯の前方には、両軍の接触線から3〜4キロに警戒陣地、7〜8キロに主陣地帯の地雷原があり、ウクライナ軍の部隊は警戒陣地を駆逐し主陣地帯に接触することさえ、なかなか成功できない状況が続いた。
この際ロシア軍は、警戒陣地をわざと後退させ、ウクライナ軍を火力集中地帯に誘致導入し、主陣地帯の地雷原と障害帯に接触し前進が阻まれたところで、後方に散布地雷原をロケット砲等で撒いて退路を断ち、侵入したウクライナ軍に壊滅的損害を与えるという戦法をしばしば用いている。
地雷原は、対戦車地雷と対人地雷の複合地雷原で、対人地雷は指向性の複数の起爆方式による地雷で威力が大きく、処理は容易ではない。
さらに地雷原に連接し、対戦車壕、対戦車障害物、鉄条網等からなる堅固な障害帯が構成されている。
これらの地雷原と障害帯の後方に主陣地帯がある。主陣地の壕は、コンクリートで固められ掩蓋で覆われた堅固な塹壕からなっている。
塹壕内から、対戦車砲、対戦車ミサイル、戦車、対空ミサイル、機関銃などの火力網が、前方の地雷原や障害帯に向けられている。
掩蓋陣地に配備された火力は事前の発見も制圧も困難である。
防御では、歩兵部隊は、突撃、陣地守備、使い捨て、特殊作戦などの機能に分かれ運用されている。
使い捨て部隊とは、敵の陣地線に絶え間なく襲撃をかけてその反応を引き出し、敵陣地の射撃位置や弱点などを解明することを任務とする部隊である。
そのような部隊は損耗率が高く、迅速に部隊交替をできる態勢をとっている。
特に多用されたのがワグネルなどの民間軍事会社で、ワグネルは約2割の損耗を出したとみられている。
ロシア軍の最大の弱点は、歩兵部隊が規律に欠け、団結と相互協力が劣っている点にあると、RUSI報告は評価している。
防御においては、戦車が機動的な襲撃部隊として使われるのはまれで、主として砲兵火力の補完火力として砲塔ごと塹壕内に埋め、掩蓋をかけて使用される。
このため、戦車の損害は限られ、また旧式の戦車も火点として有効に活用されている。
旧式戦車を使用しているから、ロシア軍の戦車数が不足しているとみるのは誤りである。
ロシア軍骨幹戦力遠距離精密誘導火力の威力
ロシア軍では砲兵は骨幹戦力として重視されている。
マグレガー氏によれば、昨年10か月間にロシア軍は約1200万発、1日平均約4万発を射撃している。
今年に入ってもロシア軍は、1日1.2〜3.8万発、平均2.5万発を発射している。
ロシア軍の砲弾・ミサイルの開戦前の備蓄量はNATO見積りの約3倍、緊急増産能力は約2倍だったと米軍も再評価している。
NATOはロシア軍の戦争準備態勢を過小評価していたと言える。
ロシア軍の、GPSと連動し精密誘導された各種遠距離ミサイル、ロケット砲、火砲、迫撃砲などの火力が、偵察衛星、ドローン、偵察兵などからもたらされたリアルタイムの目標情報に基づき、目標確認から数分以内に精密誘導され指向される。
ウクライナ軍の損害の約75%が、これら遠距離精密誘導火力によるものとみられている。
RUSIの前記報告によれば、砲兵部隊は予備隊地域に展開され、発射後直ちに陣地変換を行い機動的に運用されている。
そのため、敵の反撃射撃から残存する能力は高い。今年に入り120ミリ迫撃砲などの近距離火力の配備が強化されている。
対空火網は濃密で、敵航空機がその威力圏内に入ることは容易ではない。NATOなどが供与したドローンも、ロシア軍の電子戦と対空火力網により威力を発揮できていない。
ロシア軍航空戦力は残存性を重視し、味方の対空火網から出てウクライナ軍側対空火網内に入ることは回避し、大型滑空爆弾、巡航ミサイルなどによるスタンドオフ攻撃をかけている。
そのため、ウクライナ軍の弾薬・装備の集積地点、集結あるいは移動中のウクライナ軍部隊などが数十キロ以上の遠距離から攻撃され、しばしば大損害を受けている。
特に大型滑空爆弾は精度は劣るものの威力が大きい。
司令部、通信指揮統制システム、補給処などはHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)の射程外の前線から当初は120キロ、現在も80キロ以上の離隔した地域に、分散して地下化して配備されており、その防護に細心の注意が払われている。
前線との通信はウクライナの既存の民間回線なども併用されている模様である。
「プリゴジンの乱」後のロシア軍攻勢
このような堅固なロシア軍の陣地帯に、ウクライナ軍が領土奪還を目指し、10分の1以下の兵力で攻勢をかけるのは無謀であった。
その結果、ウクライナ軍の攻勢は6月22日頃には攻撃衝力が尽きて止まった模様である。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、同月16日、次のように述べている。
「ウクライナ軍は外部からの支援で戦っている。我々はそれらを撃破できる。ウクライナ軍は長くは戦えない。NATOは戦争に巻き込まれる」
「ウクライナ軍の戦死者数はロシアの約10倍だ。これは事実だ」
「ウクライナ軍の戦車160両、装甲車260両を破壊したが、ロシア軍の戦車の損失は54両に過ぎない」
6月22日にプーチン大統領は、「ウクライナの攻勢は止まった。ウクライナ軍はこれまでに、戦車234両と装甲車約678両を失った」と述べている。
これに対し同日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は攻勢について、「うまくいっていないが、何としても成功させる」と表明している。
また同日、ウクライナ軍のマリャル国防次官は、戦況に変化はないと、事実上反転攻勢が進展していないことを認めている。
さらに翌23日同次官は、「ロシア軍の頑強な防御を前に、多大な犠牲を強いる作戦は控え、急がず合理的に進軍する戦略をとる」ことを公表している。
このようなウクライナ軍の攻勢頓挫という状況の中で突発したのがプリゴジンによる反乱だった。
彼はロシアの民間軍事会社ワグネル・グループを率い、6月23日に武装蜂起を呼び掛け、翌24日にはロストフ州の南部軍管区司令部を占拠、セルゲイ・ショイグ国防相、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長ら軍首脳の引き渡しを要求した。
それが拒否されるとモスクワに向け北上を開始したが、軍内に応じる者はなく、モスクワまであと200キロのところで交渉により妥結したとして前進を停止、反乱は約1日で終息した。
プリゴジンの反乱は、交渉を仲介したアレクサンドル・ルカシェンコ・ベラルーシ大統領の存在感を増したものの、プーチン大統領の指導力やショイグ国防相はじめ軍首脳の戦争指導に大きな打撃を与えたとは言えない。
ただし反乱の影響か、一時ロシア軍の攻勢は停滞した。
ロシア軍の停滞を突いて7月1日頃から、ウクライナ軍は主として南部ザポリージャ正面とバフムト南北で攻勢を再度試みた。
しかし、ウクライナ軍の攻勢はバフムト南部では局地的な地域奪還を果たしたものの、その他の正面ではロシア軍の陣地線と火力、増援部隊により再び頓挫した。
これに対し、ロシア軍は東部ドンバス北部地区に約11万人の兵力と900両の戦車を集中して7月中旬から本格的な攻勢を開始した。
この北部からの攻勢については、ロシア軍としては異例だが、ショイグ国防相自らが、この攻勢開始を公表している。
ロシア軍がこの攻勢に力を注いでいたことを示唆している。
その他の正面ではロシア軍は堅固な陣地線とそれに連接した障害帯と火力により、ウクライナ軍の攻勢を阻止し、その多くを撃破している。
このため、7月16日にプーチン大統領は、ウクライナのロシア軍防衛網を突破しようとする試みはすべて失敗したと語っている。
米軍関係者によれば、この時点でウクライナ軍攻勢戦力は半減し、約10個旅団、3〜3.5万人にまで減少したとみられている。
その後7月21日、衛星画像分析結果などから、ロシア軍は、東部ドンバス北部のカルマジニフカでウクライナ軍の陣地帯を突破したとみられている。
ロシア軍はその後も西進を続け、数日後には3か所のオシキル川渡河点まで数キロのところまで前進したが、7月26日頃からオシキル川東岸の高地帯のウクライナ軍陣地線に阻まれ、前進が停滞している。
7月21日の北部での陣地線突破とほぼ同時に、戦車900両を基幹とする戦車軍が、ウクライナ軍陣地帯を突破し、リマンからスラビャンシク方向に向け南進していると報じられ、バフムトで激戦中のウクライナ軍部隊の背後に進出し包囲下に置く態勢をとるかに見られた。
しかし同戦車軍は、オシキル川東岸でのロシア軍前進の停滞を受け、7月末現在、南進を停止している模様である。
他方、背後を絶たれ包囲下に入ることを危惧したバフムト西部で交戦中の数千人のウクライナ軍部隊は、7月26日頃全面撤退し他正面に転用されたとみられる。
ウクライナ軍は、南部正面とオシキル川東岸での戦闘に戦力を集中しているのであろう。
7月26日頃から南部ザポリージャ正面ロボティネ付近のウクライナ軍の攻撃が強まり、ロシア軍主陣地帯前面数キロの警戒陣地に接触するようになった。
しかし、ロシア軍の地雷原と火力を連接した陣地帯は堅固で、ウクライナ軍部隊は火力集中地帯に誘致導入され、戦車、装甲車計22両が短時間に殲滅され撃退されたとロシア軍は報告している。
7月26日以降の、東部ドンバスのリマン正面におけるロシア軍戦車軍の攻撃停止、バフムトからのウクライナ軍撤退、南部戦線の戦闘膠着など、双方の軍事作戦がほぼ同時に全正面で一時的に停滞しているのは、ロシアとウクライナ間で密かに停戦交渉が進められている兆候かもしれない。
米国の支援能力の限界と弱体化した米軍
このように、地上戦の帰趨はロシア軍の圧倒的優位で推移しているが、その最大の原因は、前述した弾量と装備密度の差にある。
米国防総省は今年7月25日、ウクライナに対する4億ドルの追加的な安全保障支援を発表した。
防空ミサイルや装甲車「ストライカー」、高性能地対空ミサイルシステム「NASAMS」用弾薬、ドローン(無人機)などが含まれる。
また、今回初めて偵察ドローン「ホーネット」が供与されるという(『ロイター』2023年7月25日)。
しかし、戦車等の攻撃的兵器は含まれず、総額4億ドルの規模ではウクライナ軍の所要を満たすには不十分とみられる。
米軍の弾薬とミサイルの備蓄は尽きてきている。
昨年10月12日付『時事通信ニュース』は、「戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン氏は最近の分析で、一部軍需品の備蓄量が「戦争計画や訓練に必要な最低レベルに到達しつつある」と指摘。
侵攻前の水準まで補充するには数年かかるとの見方を示した。
匿名で取材に応じた米軍関係者は、大国が関わる戦争で必要な弾薬数について、米国がウクライナ紛争から「教訓を学んでいる」と説明。
必要な弾薬数は予想より「はるかに多かった」と認めた。
米国では1990年代、ソ連崩壊を受けた国防費の削減により、国内の軍需企業が大幅な減産を余儀なくされ、その数は数十社から数社にまで激減した」と報じている。
さらに同報道によれば、「米政府の武器調達官を務めていたキャンシアン氏は、米国が携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」と携帯型地対空ミサイル「スティンガー」同様にHIMARS用ロケット弾の備蓄の3分の1をウクライナに供与した場合、その数は8000〜1万発に相当すると説明。
「これは数か月持つだろうが、在庫が尽きると代替手段がない」と指摘した。
HIMARS用ロケット弾の生産ペースは年間5000発程度で、米政府は増産を目指して予算を割り当てているものの、それには「何年もかかる」と見積もられている。
今年7月22日CNNは、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は22日までに、ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援が続く中で、米軍が保持する弾薬の備蓄量が低水準に陥っていることを明らかにしたと報じている。
スコット・リッター退役米海兵隊大佐は、弾薬等は今夏末には尽きると警告していたが、今年7月米軍関係者も「長くてもあと3か月」しか持たないと認めている。
またジョー・バイデン大統領自らも弾薬不足を認めており、米国は日本の防衛省にも弾薬の増産を要請している。
「米国が、砲弾の増産に必要な火薬を日本企業から調達しようとしていることが分かった」と6月2日付の『ロイター』は報じている。
米国内の見積もりでは、緊急増産については、早くても数カ月、キャンシアン発言にもあるように、HIMARSのような複雑な装備の場合、数年はかかるとみられている。
またオランダから供与する予定の「F-16」戦闘機24機についても、今年7月24日CNNは、訓練が開始されるのは今年の8月からで、少なくとも6カ月間はかかるとの、ウクライナのレズニコウ国防相の発言を伝えている。
これでは、今年秋には間に合わない。
弾薬不足を補うためか、バイデン政権は今年7月7日非人道的兵器とされているクラスター爆弾の供与を発表、ホワイトハウスは7月20日には、ウクライナ軍がロシア軍に対し既に使用し始めたことを認めている。
米露ともにクラスター爆弾禁止条約を署名しておらず、ロシア軍も米軍以上の弾量を保有しているとみられ、投射手段の航空戦力、ロケット砲などもロシア軍が圧倒的に優位に立っている。
このためロシア軍のより大規模な反撃を招き、民間人を含めたさらに多くの犠牲者を出す可能性がある。
また散布された子弾の位置が特定できず不発弾も多いため処理が困難で、奪還した場合に味方部隊にも損害が出るうえ、散布時や戦後に民間人に多数の犠牲者を出すおそれもある。
これらからみて、決して効果的な兵器とは言えない。
一部では、策に窮したウクライナ側が、放射性物質を散布するダーティーボムを使用するのではないかとの懸念が出ている。
しかしダーティーボムを仮に使用したとしてもロシア軍の防護力と処理能力からみて、戦局を覆すような効果は期待できないであろう。
既に、ウクライナ側が地上戦において優位に立ち全土を奪還できる見通しはほぼなくなっている。
今後ウクライナ軍が戦闘を続けても、人的物的損害を増やし支配領域を失う結果に終わるとみられる。
一刻も早く停戦交渉に応じるのが、ウクライナとしてもNATOとしても賢明と言えよう。
中国に祖国統一の好機、備えのない日本
米国は弾薬・装備の不足から、台湾向けのHIMARS、各種ミサイル・弾薬などをウクライナに転用している。
このため、台湾有事や尖閣有事が発生しても、米国は兵員はもちろん、装備も弾薬も台湾にも日本にも送る余裕はないという状況が今後1年程度は続くと見なければならない。
また来年は台湾総統選挙、米大統領選挙があるが、台湾では中国寄りの総統が選出される可能性がある。
加えて、米国内では政治的社会的分断が深刻化しており、選挙不正をめぐる対立が暴動や内戦にまで発展するおそれもある。
不法移民の流入、麻薬の一種である「フェンタニール」中毒の蔓延が社会問題となり、一部の地区では略奪が野放しにされるなど治安も悪化している。
米国は当面、内向きにならざるを得ないであろう。
中国国内も不動産バブルの崩壊と地方政府の累積赤字、2割を超える若者の失業率、外国資本の撤退と海外からの技術の途絶、貧富格差の拡大など内部矛盾が深刻化している。
長期的には、少子高齢化もあり経済停滞が続き、共産党独裁体制の権力基盤が弱体化するとみられる。
しかし他方で、中国共産党の独裁下で新型駆逐艦、潜水艦、大型揚陸艦などの艦艇の建造、第五世代航空機用エンジンの国産化、大規模演習の実施、ロシアとの連携強化、核弾頭の増産、弾薬・食糧の備蓄など、戦争準備とみられる活動も引き続き強化されている。
共産党独裁体制が崩壊しない限り、祖国統一を標榜する中国の武力に拠る台湾と尖閣の併合という脅威はなくならない。
経済の長期的停滞を前提とすれば、中国の軍事力の蓄積効果は、ここ数年がピークになると予想される。
前記の米国の弾薬・装備の枯渇、内政の混乱などの時期と重ね合わせると、来年が中国にとり米国の介入を顧慮せず、祖国統一のための思い切った行動に出る絶好の時期になるであろう。
これに対し台湾では、国家を挙げた大規模な軍事演習や避難訓練が行われ、「全民国防」をスローガンとして、予備役制度の充実と予備役の増強も進められ、各処には核シェルターも整備されている。
台湾総統選挙で反中国の独立派に近い総統が選出され、今後も台湾の防衛態勢が整備されるなら抑止力が高まり、中台紛争の可能性は低下するであろう。
半面、何らかの領土統一の実績を必要とする習近平政権が、備えのない尖閣諸島占領の挙に出る誘因は高まるであろう。
台湾の独立運動が過激化するか、抑止が破綻すれば、中台紛争となり、日本特に尖閣・沖縄にも紛争が波及することになるであろう。
台湾総統選挙の結果、親中派の総統が選出され、両岸関係が政治的平和統一に向かう可能性もある。
そうなれば、台湾に向けられていた中国の軍事的圧力は尖閣・沖縄に集中することになる。
いずれの場合も、日本特に尖閣・沖縄に対する中国の脅威が顕在化する可能性はあり、侵略が起きる可能性は排除できない。
しかし、日本にはそのような事態に対する備えはいまだ不十分であり、侵攻の可能性が最も高い尖閣諸島は無人のまま放置されている。
最近、中国海警船の警告により日本漁船が尖閣諸島近海から立ち退かされるという事案も生じている。
今後は、臨検・拿捕、銃撃事件も起こりかねない。事態区分の適否を判断する暇もなく、事態は急速に展開する可能性が高い。
このようなグレーゾーンから急速に危機がエスカレーションするような事態に対して、日本政府が適時に防衛出動下令などの決断に踏み切れるのかが、いま問われている。
韓国も朝鮮半島危機に備え、国を挙げて防衛力強化に努めているが、日本は台湾にも韓国にも国家を挙げた防衛努力という点で後れを取っている。
中国も北朝鮮も日本の弱点を熟知している。
ウクライナ戦争支援で米国の弾薬・装備が底を尽き、選挙で内向きになる来年が最も危機の年となる可能性が高い。
しかもその際に、まず狙われるのが、最も備えのない尖閣、さらには尖閣を直接支える地政学的歴史的地位にありながら、琉球独立論の宣伝など分断工作が進む沖縄となることは十分にありうる。
沖縄の馬毛島からは旧石器時代の遺跡が出土し、沖縄の言語、習俗、信仰などには縄文期以来の日本文化の源流がいまも伝えられている。
沖縄は紛れもなく日本の一部であり、むしろ日本文化の本家本元でもある。
沖縄とその一部である尖閣諸島を他国の征服に委ねることがあっては、これまで日本国土の一体性を護り抜いてきた祖先に対しても、これから生まれてくる子孫に対しても申し訳が立たない。
国土を守り抜けるか否かという瀬戸際に、今を生きる日本国民は立たされている。
●3日で2回、ドローンに衝撃 「戦争身近」とウクライナ警告―ロシア 8/3
ロシア・モスクワの新都心「モスクワ・シティ」の高層ビルで7月30日と8月1日に起きたドローン墜落に関し、現地メディアは「3日間で2回目」と頻発した点を強調した。経済官庁が入る高層ビルが連続して被害を受け、プーチン政権の衝撃は大きいとみられる。
「(ロシアは)本格的な戦争を急に身近に感じるようになった。戦争は近く首謀者の領土に最終的に移る」。ウクライナのポドリャク大統領府顧問は1日、X(旧ツイッター)でこう警告した。
ゼレンスキー政権は公式に関与を認めていないが、ポドリャク氏は「今後ロシアで起こることはすべて客観的な歴史的プロセスだ。未確認の無人機、荒廃、内戦、戦争が増えることになる」と不安をあおった。
これに絡み、ロシアのザハロワ外務省情報局長は1日、2001年の米同時テロと比較し、軍事施設ではなく民間施設に損害を与えるという「方法が同じだ」と持論を展開。「同じ光景が繰り返されている」と主張した。
プーチン政権の立場には揺らぎが見られ、ペスコフ大統領報道官は7月30日、「(ゼレンスキー)政権の失敗を背景とした絶望的な行為のようなもの」とドローン攻撃を矮小(わいしょう)化しようとしていた。しかし、1日は「脅威を目の当たりにしている」と警戒を隠さなかった。
報道規制により主要テレビはドローン攻撃に沈黙している。一方で、ロシア国営タス通信は、対空防衛システムを担当する人物の証言として、1日のドローンは「ウクライナ領内から飛来した」と報じた。
●プーチン政権崩壊近い@日のロシア反体制派幹部言及 8/3
ロシアのウラジーミル・プーチン政権は風前のともしびか。ロシアの元下院議員で、ウクライナ側に外国人義勇兵として参加する「自由ロシア軍団」幹部のイリヤ・ポノマリョフ氏(47)が来日し、夕刊フジの取材に「近い未来のうちにロシア政権の崩壊が起きると信じている」と述べた。ウクライナの反転攻勢や民間軍事会社「ワグネル」の反乱、政権中枢の内部抗争によって政権の疲弊は著しいという。ポノマリョフ氏も参加したロシア反体制派らの会合では、参加者から「ロシアの崩壊で数十の新しい国家ができる」と「解体宣言」も飛び出した。
ポノマリョフ氏は2007年からロシアの下院議員を務め、14年3月のロシアによるウクライナのクリミア半島編入に反対票を投じ、同9月には事実上、米国に亡命した。
その後はロシアの反体制運動に関与し、現在はウクライナ側で闘う武装組織「自由ロシア軍団」の政治部門指導者などの立場にあり、義勇兵の取りまとめ役を務めているとみられる。5月下旬には「自由ロシア軍団」や「ロシア義勇軍」がウクライナからロシア西部に越境してロシア軍や治安部隊と交戦し、ベルゴロド州の一部地区を「解放した」とする声明を発表した。
自由ロシア軍団は通信アプリに「自由を守るために武器を取った。クレムリン(大統領府)の独裁政治を終わらせるときが来た」とも投稿している。
6月下旬に起きたワグネルの反乱は短期間で収束したものの、ロシア軍内部の亀裂が浮き彫りになった。ポノマリョフ氏は「ロシア政府は緩んでおり、いままで思われていたほど強固ではない。政権は崩壊寸前であることを示しており、われわれはそれを利用するつもりだ」と語る。
さらに政権中枢では内部抗争も生じているとポノマリョフ氏はみている。
「プーチンは派閥の衝突を起こすことによって、自分の政権を保とうとしてきた。あらゆる派閥は互いに争い、プーチンはその上に立って裁くような立場だ。ただ、プーチンを守りたがるエリート層はどんどんいなくなりつつある」と分析した。
ロシアの大きな変化を望んでいるとし、「ウクライナ軍によるクリミアへの攻略が実現すれば、われわれ自由ロシア軍団も大きなインパクトを与えたい」と意気込みを示した。
ポノマリョフ氏は亡命ロシア人政治家や、少数民族による分離独立運動の指導者らでつくる「ロシア後の自由な民族フォーラム」の会合に出席するため、来日した。ロシアのウクライナ侵略を受け、昨年5月以降、ポーランドの首都ワルシャワなど6都市で会合を開催。「クレムリンの帝国主義からの諸民族の解放」や「ロシアの再建と構造転換」などを目指している。
今年1月の会議では、ロシアが41の共和国に分裂する地図を公開し注目された。3月には露政府から「好ましくない団体」に指定されている。
1日に開かれた国会内での会合には、日本の与野党の国会議員や研究者、海外からポノマリョフ氏のほか、チェチェンやブリヤート、シベリア、バシキールなど少数民族の運動指導者、欧米の研究者らが出席した。創設者のオレグ・マガレツキー氏は「ロシアの崩壊はソ連崩壊以上にこの世界に良い影響を与える」とし、「(崩壊後は)数十の新しい国家ができる。日本にとって必然的に貿易、政治的、外交的相手になるだろう」と語った。
チェチェン・イチケリア共和国亡命政府外相のイナル・シェリプ氏は「チェチェン共和国も一部の領土を不法占拠されている。日本も不法占拠されている地域がある。侵略しない民主的な隣国を望むなら、少数民族の独立運動とも力を合わせて協力すべきだ」と訴えた。
フォーラムは北方領土問題にも言及しており、宣言文には「占領された北方領土問題の即時解決を求める」との文言も加えられた。前出の地図では、ロシアの分裂により、北方4島に加え、千島や南樺太も返還されると主張する。
モデレーターを務めた神戸学院大学の岡部芳彦教授は「ロシアの『脱帝国主義化』を目指す団体が日本に集まったことはかつてなかった。自由で平和な世界の第一歩であると信じている」と語った。
●侵攻後に殺された民間人1万人以上 ウクライナ検事総長室 8/3
ウクライナ検事総長室の戦争犯罪調査部局は2日、ロシアの侵略が昨年2月に始まって以降、これまで殺害された民間人は約1万749人で、負傷者は1万5599人に達したと報告した。
同部局の責任者はインタファクス・ウクライナ通信との会見で、犠牲者の中には子ども499人が含まれると述べた。
ロシアの占領地が解放されれば、殺害された民間人の人数は「何倍も増加する」と予想しているとした。「(東部ドネツク州の)マリウポリ市だけでも数万人規模の死者がいるとみている」と続けた。
同部局が今回示した数字は国連のような国際機関が発表したデータと似通っている。国連は先月7日、子ども500人余を含む民間人9000人以上の死亡を確認したと報告。実際の数字はより多いとみられるともつけ加えていた。
戦争犯罪調査部局の責任者はまた、侵攻開始以降にロシア軍が関与した戦争犯罪は9万8000件に上ることも突き止めたと主張した。
●ロシア占領下のウクライナ南部、拷問や性的暴行が多発=調査 8/3
ロシア占領下のウクライナ南部の仮設拘置施設に拘束されていた多数のウクライナ人が拷問や性的暴行を受けていたとする調査結果を、国際的な専門家チームが2日公表した。
国際法律事務所グローバル・ライツ・コンプライアンスが設立した「ザ・モバイル・ジャスティス・チーム」がウクライナ南部ヘルソンの戦争犯罪摘発機関と協力し、ロシアによる占領が終わった昨年11月から調査を進めていた。調査に当たり英国、欧州連合(EU)、米国が資金を提供した。
調査はヘルソンの35カ所で320件の事例を分析。被害者の「43%が拘置所での拷問について明確に述べ、ロシア人看守による性的暴行が日常的に行われていたと証言した」という。
ロシア国防省は調査結果についてのコメント要請に応じなかった。
ウクライナ当局は戦争犯罪に関する9万7000件余りの報告について調査中で、既に容疑者220人を国内の裁判所に起訴している。重大な罪を犯した疑いがある容疑者はオランダのハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)で裁判にかけられる可能性がある。
●大統領夫人「ロシアの勝利は最悪のシナリオ…民主主義のために戦う」 8/3
ウクライナを侵攻したロシアの勝利は人類にとって最悪のシナリオになると、ウクライナのオレーナ・ゼレンシカ大統領夫人が警告した。
ゼレンスカ夫人は2日(現地時間)、公開された英インディペンデント・テレビジョン・ニュースとのインタビューで、「ウクライナ兵士たちが世界の民主的均衡のために戦っている」とし、ウクライナに対する持続的な関心を促した。
そして、「ロシアの広範にわたる脅威を世界が過小評価しており、非常に心配だ」とし、「ロシアの勝利は国際社会の抑止力が作動しないという意味であり、力と十分な資金力さえあれば何でもできるという意味であるため、これを防がなければならない」と強調した。
さらに、「より良い装備で武装したロシア軍と戦うためには、迅速な支援が切実に必要だ」とし、「この戦争で勝利するためには長期的な支援の約束よりは迅速な支援が必要だ」と述べた。
ウクライナは戦争の代価を国民の命で払っており、他の国々は彼らが持っている資源に代わっているとし、「そのため迅速な支援を求めている」と説明した。
そして、「ウクライナの国民は疲れる権利もない状態だ」とし、「友好国も疲れずにウクライナへの支援を続けてほしい」と繰り返し訴えた。
また、「ロシアが何でもできるということを知っているので、今はロシアのいかなる攻撃にも驚かない」とし、「ウクライナの国民が待っているのは良いニュースだ」と話した。
お笑い番組の作家出身であるゼレンスカ夫人は、夫の大統領選の出馬に反対するほど公の場に出ることを憚ってきたが、戦後は国際社会の支援を引き出すための対外活動を活発に行っている。
今年5月にはゼレンスキー大統領の特使資格で韓国を訪れた。
●ウクライナのドローン6機、モスクワ近郊で撃墜 ロシア国防省 8/3
ロシア国防省は3日、ロシア首都モスクワの南西に位置するカルーガ州で、夜間にウクライナのドローン(無人機)6機を撃墜したと明らかにした。
ロシア国防省はSNS「テレグラム」への投稿で、ウクライナ政府が行った無人航空機を使ったカルーガ州に対するテロ攻撃を阻止したと述べた。
国防省によれば、死傷者や被害の報告はない。
ウクライナは攻撃についてコメントしていない。ロシアは、ウクライナが1日にモスクワへ向けて3機のドローンを発射したと明らかにした。ウクライナの高官は「モスクワは急速に本格的な戦争に慣れつつある」と述べた。
●ローマ教皇、ウクライナ情勢めぐり欧州諸国に質問 「どこへ向かっているのか」 8/3
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は2日、訪問先のポルトガルで演説し、ロシアによるウクライナでの戦争を終結させるための取り組みについて、西側諸国に対して質問を投げかけた。
教皇は、カトリックの若者の祭典である「世界青年の日」に合わせて、5日間の日程で、ポルトガルの首都リスボンなどを訪問している。
教皇は、欧州に質問するかもしれないとし、ウクライナでの戦争や多くの流血を引き起こしている世界各地の紛争を終結させるための創造的な方法、和平への道筋を世界に提供しないのであれば、欧州はどこへ向かっているのかと問いかけた。教皇はまた、「範囲を広げて、西側諸国よ、あなたはどのような航路を進んでいるのですか」と述べた。
教皇は今年に入り、バチカンがウクライナの戦争の終結に向けた取り組みに参加すると発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領が5月にイタリアを訪問した際には、教皇はゼレンスキー氏と会談し、戦争によって引き起こされたウクライナの人道的状況や政治状況について話し合った。
●ロシア、子供70万人含む住民480万人を「受け入れた」…強制移送を否定 8/3
ロシアのマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)は自身の活動に関する報告書で、ロシアがウクライナ侵略を始めた昨年2月以降、ウクライナから子供約70万人を含む住民約480万人を「受け入れた」と発表し、移送の強制性を否定した。活動継続に意欲も示した。ロシアによる子供の強制移送の被害者が増える可能性がある。
報告書は7月末に公表された。約70万人の子供に関して「大半は親か親戚と一緒に到着した」と主張した。ロシアの侵略開始直前にウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)から避難した住民に言及しており、自発的に家族と避難した子供が含まれているとみられる。ただ、ウクライナ政府が移送を特定した子供の人数(1万9546人)とは大きな開きがある。
報告書では昨年4月から10月だけで、ドンバス地方の子供約380人がロシア人の養子となり、露国内各地で暮らしていると報告した。侵略後に一方的に併合した東・南部4州の15〜17歳を主要な対象に戦災に伴う「心のケア」を名目に、愛国教育なども施す新プロジェクトに取り組んでいることも明らかにした。
国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、子供の強制移送に関与した戦争犯罪の疑いでリボワベロワ氏とプーチン大統領に逮捕状を出している。プーチン氏は7月29日の記者会見で、「子供たちは拉致されたのではなく救われている」と述べ、正当性を改めて強調した。
●ロシアに急接近?パキスタン いったいなぜ?その思惑は? 8/3
「パキスタンとロシアの関係は前向きに進んでいる」NHKのインタビューでこう語ったのは、パキスタンのビラワル・ブット外相です。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに急接近しているとも指摘されるパキスタン。
いったいなぜ?その思惑はどこにあるのか。話を聞きました。
話を聞いたビラワル・ブット外相とは?
ビラワル・ブット・ザルダリ外相は1988年生まれの34歳。母親は1980年代と90年代、2回首相を務め「イスラム世界初の女性首相」として知られる、ベナジル・ブット元首相です。2007年、選挙運動中に自爆テロで暗殺されました。父親は、その翌年から5年間大統領を務めたアシフ・アリ・ザルダリ氏。祖父は1970年代に大統領と首相を務め、パキスタン人民党を創設したズルフィカル・アリ・ブット氏です。パキスタンでは政治の名門一族として知られるブット家の御曹司で、“政界のプリンス”とも言われるブット外相が7月に来日。6月にロシア産原油を積んだタンカーがパキスタンに相次いで到着するなど、強化が進むロシアとの関係は今後、どうなるのか。話を聞きました。※以下、ビラワル・ブット外相の話。インタビューは7月2日に行いました。
なぜロシアからの原油輸入を始めたのか?
パキスタンの国民にとって当面の関心事は、エネルギー需要です。いままさに、エネルギー危機に直面しています。私たちは国民のニーズを満たす必要があり、多くの国と同じように、ロシアからの調達を始めただけです。特定の国を選んだということではありません。しかし、長期的に見れば、私たちにとって重要なのは、国内の生産に重点を置くことです。太陽エネルギーなど、より環境に優しいエネルギーへの移行も必要です。それは達成可能な目標だと思いますが、長期的な目標です。
欧米との関係悪化は懸念していないのか?
パキスタンは、いかなる制裁措置にも違反しておらず、自国民の利益を追求しているだけです。パキスタンは若い人口の多い発展途上国で、私たちは皆、成長する人口のニーズを満たすために開発、成長する権利があります。そして、その成長にはエネルギーが必要になってくるので、西側の友人たちはそのことを気にするべきではありません。そうは言っても、最近は地政学的な対立に過敏になっている面があるので、私たちは常にどこからの懸念にも対処するよう努めなければなりません。しかし、パキスタンはいかなる制裁にも違反していません。真の友人たちはそのことを理解していると思います。
制裁の効果が失われるという懸念もあるが?
それは私の関心事ではありません。私の関心事は国民に食料を供給し、日々の生活に必要なエネルギーを提供することです。私たちはアフガニスタンでの“永遠の戦争”から抜け出したばかりで、新型コロナという100年に1度のパンデミックに見舞われました。その上、パキスタンは去年、歴史上経験したことのないような壊滅的な洪水災害にも見舞われました。国民は苦しんでいるのです。生活していくことが難しくなっていて、こうしたニーズに対応することが私たちの優先事項です。国民は私たちに地政学的な対立に巻き込まれるのではなく、生活の問題を優先的に解決してほしいと期待していると思います。
ロシアとの関係 どのように発展していく?
パキスタンとロシアの関係は前向きに進んでいて、ますます強くなっていくことを望んでいますが、ほかの国のように特定の政治権力圏に入ることは望んでいません。パキスタンは、世界中のあらゆる国と関係を強化するつもりですが、新たな冷戦の一部になることは望んでいません。しかし、ロシアやヨーロッパの友人、その他の国との関係をそれぞれ発展させるためには、ウクライナでの紛争を解決する必要があります。ウクライナでの紛争が世界に影響を及ぼしているからです。私たちの立場としては、自国や自国民のために経済関係や外交関係を強化すること、そして、最終的にこの紛争を解決することを望んでいます。この紛争の解決がなければ、パキスタンとロシアの2国間関係の潜在的な可能性を最大限に発揮することもできません。
ウクライナへの軍事侵攻についての立場は?
パキスタンは一貫して公平な立場を維持し、外交と和平の重要性を強調しています。そして、責任のなすり合いではなく解決策を見つけるべきだと考えています。意味のある解決のためには、両国、または全ての国が外交の道を探る必要があります。もし、「誰が悪い」などと非難することから始めるのであれば、その道を追求することは難しくなるでしょう。私たちは、誰が非難されるべきかを強調することはありません。パキスタンはウクライナともロシアとも良好な関係を築いてきました。紛争や戦争から脱却し、深刻な経済的課題に焦点を当てることは、私たち全員の利益であり、すべての国の人々の利益でもあります。私は、関与と対話、紛争解決の重要性を強調しています。ウクライナの紛争も最終的には対話によって終結するでしょう。ウクライナの人々にとって遅かれ早かれ対話をすることが利益になると信じています。これらの決断は最終的にウクライナやロシアの人々が下すものです。
米中の緊張高まる中でどういう外交を?
パキスタンは中国、そしてアメリカとの関係も非常に重視しています。私たちは、これらの国との関係を相互に排他的なもの、あるいはゼロサムゲームだとは考えていません。パキスタンは常に橋渡し役であり、米中間の外交関係の樹立においても重要な役割を果たしました。まさにいま、私たちは橋渡し役を担っていて、今後もそうありたいと考えています。最近の地政学的な対立で確かに難しい問題となっていますが、橋渡し役を続けていきたいと考えています。
日本とはどのような関係を築くのか?
非常に多くの可能性があります。日本は高齢化していますが、パキスタンは人口の60%が若者でその層は拡大しています。日本とパキスタンは互いに補完できるのです。私たちは同じような労働倫理を持っていて、文化や伝統、歴史、年長者に対する敬意を持っています。私は労働力について例を挙げましたが、これは私たちが協力を強化することを熱望している分野です。特に農業分野やIT分野でパキスタンは多くの潜在能力を持っています。日本がパキスタンを通じて中央アジアやその先へのアクセスから利益を得ることもできます。地政学的なレンズではなく、経済的な機会のレンズでこれらのものを見るべきなのです。その文脈で、パキスタンと日本の関係は多くの可能性があると思います。
●ウクライナ安保会議書記 2度のクリミア大橋攻撃認める 8/3
ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は2日夜、ロシアの本土と同国が一方的に併合したクリミア半島を結ぶクリミア大橋で2022年10月と23年7月に起きた2度の爆発について、両方ともウクライナの特殊機関が攻撃したと認めた。同国の通信社ウニアンが3日伝えた。
トラックの爆発でクリミア大橋が大きく損傷した22年10月の攻撃については、ウクライナがすでに実行したと認めていた。ダニロフ書記は軍事作戦に関するテレビ番組で、今年7月の水上無人機(ドローン)によるとされる攻撃も「われわれの治安機関の代表が参加した」と語った。
ロシアによる軍事侵攻を巡り、ウクライナはロシア領やクリミア半島を攻撃する姿勢を公然と示すようになっている。ゼレンスキー大統領は7月30日、「戦争は徐々にロシア領に戻っていく、その象徴的な中心地や基地に」と述べた。
ダニロフ氏も、ウクライナ軍は「ロシアが100%守られているとみなしている多くの対象」を標的にしていくと述べ、ロシア領内への攻撃を増やしていく方針を示した。

 

●プーチンはなぜウクライナ侵攻をやめないのか…こだわる「謎の信念」の正体 8/4
なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が重版を重ね、話題になっている。地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは? 
はたして、地政学は役に立つのか?
ここ数年、「地政学」という言葉がタイトルに入った本が増えている。
そもそも、地政学は役に立つのだろうか。
〈地政学の視点を持つことは、構造的な要因で発生してくる傾向を知ることである。その有用性は、傾向を知ったうえで情勢分析を行うことにある。構造的な要因による傾向をふまえて分析を行うほうが、それをふまえずに分析を行うよりも、重要な要素を取りこぼすことなく適切な分析を行える蓋然性が高まる。その範囲において、地政学の視点は、有用である。〉(『戦争の地政学』より)
「構造」が生み出す「傾向」を知ることができるということだ。
ロシア・ウクライナ戦争と地政学の世界観の衝突
では、地政学の視点でロシアによるウクライナ侵攻を見てみると……。
〈有名になったプーチンの2021年の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」論文によれば、そもそもロシア人とウクライナ人は民族的一体性を持っており、つまりウクライナはロシアの一部であるべきだとされた。
翌年の軍事侵攻へとつながる2021年の重要論文は、汎スラブ主義と呼んでもいいし、ユーラシア主義と呼んでもいい、ロシア人を中核にした広域民族・文化集団がユーラシア大陸の中央部に存在する、という信念が、プーチンをはじめとするロシア人の思想の中に根深く存在していることを、あらためて示した〉(『戦争の地政学』より)
〈プーチンは、戦争の原因は欧米諸国側にある、と繰り返し述べている。確立された国際秩序に反した世界観を振り回し、その世界観を認めない諸国はロシアに罪深いことをしていると主張するのである。それは、確立された国際秩序を維持する側から見れば、身勝手なわがままでしかなく、認めるわけにはいかないものだ。〉(『戦争の地政学』より)
ロシア・ウクライナ戦争は、英米系地政学と大陸系地政学の世界観の衝突という性格を持っている。
地政学の視点はそのことを教えてくれるのだ。
●“プーチン政権寄り”記者が語る「ワグネルは生き物。彼らは今も1万5000人いる」 8/4
たった1日だったが世界の注目を集めたロシアで起きた“プリゴジンの乱”。一時はプーチン大統領から反逆者と呼ばれたが、その後も、ワグネルの創設者プリゴジン氏はどうも自由なようだ。サンクトペテルブルクで開催されたアフリカ諸国との首脳会議の際も、中央アフリカの高官と明るい表情で写真を撮るなど健在ぶりをアピールしている。果たして、ワグネルという組織、今どうなっているのか。
一に国益 金はその後…
ロシアのジャーナリスト アッバス・ジュマさん「ワグネルはロシアの国益が無ければ、戦ったりすることはありません。彼らは、唯一の目的をもって戦っています。ロシアを偉大な国にすることです」
こう語るのは、ロシアの国際関係を専門としているジャーナリスト、アッバス・ジュマさん。ロシアの国営メディアでたびたび記事を載せている、いわゆる“プーチン政権寄り”の記者だ。ワグネルについても長年取材していて、“プリゴジンの乱”に参加したワグネルの指揮官にインタビューもしている。
アッバス・ジュマさん「インタビューした指揮官は、『これは反乱ではなく、クーデターの試みでもなかった』と何度も強調していました。彼も、プリゴジンも、クレムリンに行くつもりは一切ありませんでした。彼らに対して公正ではない行動をとっていた人との関係をはっきりさせたかっただけです。これは私の言葉ではなく、ワグネルの指揮官と隊員がそう答えているんです」
ワグネルはアフリカや中東など各国の紛争でもその名をとどろかせた組織。これまではロシアが公式に存在を認めたことはなかったが、ウクライナ戦争と“プリゴジンの乱”で半ばプーチン大統領の“別班”であることが公になった形だ。その彼らが戦う理由について、一つの法則があるという。
アッバス・ジュマさん「彼らはただお金のため戦っているのではなく、愛国心の気持ちがあるから戦っているのです。彼らには、『思想』があり、お金のために、どんな紛争にでも介入するわけではありません。まず、何よりもロシアはその紛争に関係があるかどうか考えます。ロシアの国益につながるかどうかです。その次に、いくらもらえるかを見るわけです」
ワグネルはウクライナ戦争で囚人を刑務所からリクルートして戦場に送っている。戦場にいた兵士が愛国心のために戦っていたのだろうか…“政権寄り”でワグネルとも近い関係の記者の言葉なので、差し引いて考えなければならない部分もあるかもしれない。
「ワグネルは生き物のようなもの」
ワグネルの隊員はこのウクライナ戦争で、一時は5万人以上になっていたと言われている。そのうち生き残った隊員たちは今どうしているのだろうか。
アッバス・ジュマさん「ドンバスで戦い続けたい隊員の一部は国防省と契約を締結しました。しかし、今回インタビューした指揮官や、私が連絡を取っている他のワグネルの隊員によると、そういう人は多くない。絶対的少数派だとみんなが言っています」
現在、国防省と契約していないワグネル兵の人数は1万5000人ほどだとジュマさんは明かす。しかし、潜在的な人数はそれよりもはるかに多いのだという。
アッバス・ジュマさん「必要があれば、すぐに何万人の人を募集できないわけではありません。ただ、今人数としてはそれほど必要がないのです。私が理解している限り、資金の面から、
現在、5万か10万人の隊員を維持するのは採算が合わないのです」
そして、彼らの行き先は2か所だと指揮官が語ったといいます。
アッバス・ジュマさん「行き先は2つあります。ベラルーシとアフリカです。私がインタビューした指揮官は、もうウクライナにはいません。恐らくアフリカに戻りました。彼がキャリアを始めたアフリカに戻ったんです。最近ではアフリカのあちこちでロシア国旗が見られるようになりました」
ジュマさんは、いずれにしてもワグネルの今後は、プリゴジン氏が握っているといいます。
アッバス・ジュマさん「ワグネルというのは、特別な存在で生き物のようなものです。強調しますが、生き物です。頭だけが残っていても、手と足がなければ、戦うことができません。逆も然りです。今まで話した全ての隊員、指揮官にとってプリゴジンは絶対的権威です。彼がいなければ、何も動きません。ワグネルにとって、彼はそういう存在なのです」
●ロシアによる穀物港への攻撃、ウクライナが戦争犯罪として調査 8/4
ウクライナ検事総長事務所は3日、7月以降激化しているロシア軍によるウクライナの農業インフラへの攻撃について、「戦争犯罪の可能性があるとして調査している」とロイターに対し明らかにした。
穀物港などウクライナの農業関連施設への攻撃は、ロシアが7月17日に黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)から事実上離脱して以降、激しさを増している。同事務所によると、ロシアのウクライナ侵攻開始以降、ウクライナの穀物や港湾インフラは100回以上攻撃を受けたという。
2日には、ウクライナ南部オデーサ(オデッサ)州の河川港イズマイルがロシア軍のドローン(無人機)攻撃を受け、アフリカなどに出荷予定だったウクライナ産穀物に被害が及び、国際穀物価格が一時上昇した。
●司令官の演説を聞いていたロシア軍、HIMARS1発で兵士200人死亡 8/4
ウクライナ軍は米国製の高機動ロケット砲システム(HIMARS、ハイマース)でロシア軍兵士200人を殺害したと伝えた。当時ロシア軍兵士らは屋外で体操したり、約2時間にわたり指揮官の話を聞いたりしていたが、その時に攻撃目標になったようだ。
キーウ・ポストなどが2日(現地時間)に報じた内容によると、ウクライナ政府は前日にフェイスブックを通じ、ヘルソン州の島に駐留するロシア軍部隊にハイマースで攻撃を加えたことを明らかにした。死傷者の正確な数は公表されていないが、メディアは「ロシア第20近衛連合軍所属の兵士200人が死亡したと推定」と報じた。
ウクライナ政府が公開した映像には、攻撃を受ける前のロシア軍兵士らの様子が映っていた。ウクライナ軍の無人機(ドローン)カメラで撮影されたもので、複数のロシア軍兵士が集まり、体操をしたり、指揮官とみられる人物の前で列に並んだりしていた。映像の最後にはウクライナ軍が発射したハイマースが落下し、巨大な炎が上る様子が出てくる。
匿名を求めたあるウクライナ政府関係者はメディアの取材に「ロシア軍兵士らは2時間にわたり屋外で指揮官の演説を聴いていた。これはウクライナ軍がハイマースを操作しロシア軍を標的とするには十分な時間だった」と説明した。ロシアの複数の軍事ブロガーも「今年6月にも指揮官の演説を聴いていたロシア軍兵士100人が攻撃を受け犠牲になった」「愚かで不注意だ」と批判した。
今回の戦争でハイマースは、ウクライナ軍がロシア軍の攻撃を防いで反転攻勢を成功させる際に決定的な役割を果たした。そのためハイマースは戦争の版図を変える「ゲームチェンジャー」とされている。精密誘導ロケット弾6発を同時に発射できる誘導式多連装ロケット砲システムをトラック型の装甲車に設置したものだ。射程距離は80キロほどだが、その正確さが特に優れている。攻撃命令から2−3分で発射でき、また移動にも20秒しかからないため報復攻撃から逃れることもできる。そのためいわゆる「撃って逃げる」という形の戦略によく使われている。
●3隻の貨物船が黒海を航行しウクライナ南部の港へ 緊迫状況続く 8/4
ロシアは先月、ウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止し、黒海でウクライナに向かう船舶は軍事物資を輸送している可能性があるとみなすと警告しました。
黒海にコルベット艦を配備するなどしたロシア海軍が、ウクライナに向かうとみなした船舶を妨害するという見方も出ています。
こうした中、複数の海外メディアは船舶が発する位置情報をもとに、先月30日、3隻の貨物船が黒海を航行し、ウクライナ南部のドナウ川沿いにあるイズマイルの港に向かったと伝えました。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、3隻はウクライナに向かう際、ロシアの軍艦や機雷を避けるためNATO=北大西洋条約機構に加盟するブルガリアとルーマニアの領海内を航行したと報じています。
さらに欧米メディアは、3隻が航行している際に、アメリカ軍のP8哨戒機や無人偵察機「グローバルホーク」それにNATOの早期警戒管制機がルーマニアや黒海などの上空を飛行していたと伝えていて、NATOが警戒と監視を強化しロシアを強くけん制したとする見方も出ています。
今回3隻の貨物船は、ロシア側の妨害などは受けなかったとみられますが、黒海では緊張した状況が続いていてウクライナ産の農産物がほとんど輸出できていない状態に変わりはありません。
●北朝鮮による弾薬提供に懸念示し米政府『国連安保理決議違反』とけん制 8/4
ホワイトハウスは、北朝鮮がウクライナ侵攻を続けるロシアに弾薬を提供しようとしていると懸念を示しました。
アメリカNSC=国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は3日、先月下旬に北朝鮮を訪問したロシアのショイグ国防相が北朝鮮の高官に対し、弾薬などの提供を拡大するよう求めたと指摘しました。
カービー氏は「プーチン氏が制裁と輸出規制によって追い込まれている表れ」だとしたうえで、ロシアと北朝鮮によるいかなる武器の取引も国連安保理決議に違反すると牽制(けんせい)しました。
ホワイトハウスは去年12月にロシアの民間軍事会社「ワグネル」が北朝鮮から武器の提供を受けたと断定したほか、今年3月にはロシアが食料と引き換えに北朝鮮から武器を獲得しようとする新たな情報を得たと発表しています。 
●「プーチン氏の共同侵略者」“ロシアの傀儡”ベラルーシへの思いとは? 8/4
「ベラルーシはプーチン氏の共同侵略者になってしまった」ロシアの隣国ベラルーシで民主化運動を率いてきたスベトラーナ・チハノフスカヤ氏の言葉です。3年前の大統領選挙で“ヨーロッパ最後の独裁者”とも呼ばれるルカシェンコ大統領の対立候補として注目を集めたチハノフスカヤ氏。ロシアによる軍事侵攻を一貫して支持するルカシェンコ政権とどう対じしていくのか。国外での活動を余儀なくされているチハノフスカヤ氏に祖国への思いを聞きました。
チハノフスカヤ氏とは?
スベトラーナ・チハノフスカヤ氏(40歳)は2人の子どもの母親で、もともと政治経験はありませんでしたが、3年前の大統領選挙で直前に拘束された夫に代わって立候補しました。「政治犯の解放」や「公正な選挙」を訴え、強権的なルカシェンコ政権に不満を抱く国民の支持を集めましたが、結果はルカシェンコ氏の圧勝。“選挙に不正があった”と訴える人々の先頭に立ち、大規模な抗議活動を繰り返しました。これに対して政権側は治安部隊を使って徹底的に弾圧、チハノフスカヤ氏は隣国リトアニアに拠点を移し活動を続けています。8月で大統領選挙からちょうど3年となる中、NHKのインタビューに応じたチハノフスカヤ氏にその思いを聞きました。
身の危険を感じることは?
私は2020年からいつも恐怖と不安の中で暮らしています。ベラルーシの人々、政治犯、そしてもちろん家族を思っての恐怖です。ルカシェンコ政権はあらゆる手段を使って自らの権力を守ろうとしていて、私や私のチームはたびたび危険にさらされています。私たちは周りでKGBやロシア連邦保安庁のエージェントが活動していることを知っています。私にはすでに何度か「夫が刑務所で死んだ」というメッセージが送られてきました。私たちに関するプロパガンダが拡散され、さまざまな嘘が国営テレビから拡散されています。政権側が自分たちの利益のために、どれだけ人をおとしめることができるのかと驚くこともありますが、私たちは立ち止まりません。
そもそもなぜ亡命を決意?
「国を離れるか、あなたの子どもたちがあなたなしで育つことになるかだ」と言われました。国を離れなければ、私は何年も何年も刑務所に投獄され全く何もできなくなるということです。私にとってとても困難な決断でした。なぜなら私は、人々が私に投票したことを知っていたからです。ですが、あのとき、私の心の中では“母親としての自分”が“政治家としての自分”に勝ったように感じられました。私の夫はすでに刑務所にいて、私は子どもたちの面倒を見なければなりませんでした。それで、投獄されて闘争を続ける可能性が一切なくなるよりも、外国にいて国のためにせめて何かできる可能性がある方がいいと決断したのです。子どもはいま、私と一緒にリトアニアで暮らしていますが、私の両親と、夫の母親はベラルーシに残っています。彼らのことをとても心配しています。私の活動や、夫のせいで圧力がかかる可能性があるからです。ですが、両親にベラルーシを離れるよう強いることはできません。故郷ですから。そして、介護が必要な祖母や祖父がいます。いつも不安とともに暮らしていますが、出国を強いることはできないのです。
なぜ“母親としての自分”が勝ったのか?
私の長男は障害を抱えています。2020年までの10年間、私はこの子が社会に適合できるよう彼のリハビリをしていました。そして私は、息子には母親の愛情こそが必要だということが分かっていました。母親として、年下の娘はもちろんですが、特に息子に対する責任を負っています。母親が注意を向けることが欠かせないのです。10年間、毎日、息子の面倒を見て彼が回復するように取り組んできました。トンネルの向こうの光は見えませんし、うまくいくかどうか分かりません。毎日息子に向き合う日々でした。ただ、この経験がいまとても役に立っています。ベラルーシの状況も、私たちがいつルカシェンコ政権に勝つことができるかわからないからです。それでも、自分の目標を達成するために毎日根気強く働かなければならないということはわかるのです。
拘束されている夫との連絡は?
私はすでに3年、夫と話ができていません。夫は2020年5月から刑務所にいます。ルカシェンコ氏は、大統領選挙に立候補したというだけで、選挙開始前に夫を拘束してしまいました。そしてこの3年間、2020年の秋に一度、電話があっただけです。以前は弁護士が訪問して「子どもたちは元気か、彼の母親は元気か」といった私からの情報を伝えていました。子どもたちが彼に手紙を書くこともできましたし、彼からも子どもたちへの手紙が届いていました。ですが、弁護士が最後に彼のもとを訪問できたのはことしの3月9日です。その後、弁護士は拘束され、免許をはく奪されてしまいました。夫から子どもたちへの最後の手紙も3月に届きましたが、それから4か月、私には彼について何の知らせもありません。彼が獄中で死亡したという情報が出回ったあと、政権側は短い動画を公開しました。私は自分の夫だと分かりました。とても疲れ果て、彼らしくありませんでしたが、でも生きていて、屈服していませんでした。いま、受刑者たちは世界や家族から完全に切り離される、外部との接触を断たれた状態になっています。政権側は、受刑者たちが「みんな自分たちのことを忘れてしまった。見捨てた、自分たちを裏切った」と考えるようにさせたいのです。政治犯の意志をくじくことができないので、このような卑劣なことをしているのです。
軍事侵攻後のベラルーシの現状どう見る?
私たちは、ベラルーシが主権を急激に失っているのを目にしています。ルカシェンコ氏はロシアの核兵器をベラルーシに配備し、同時に私たちの土地にロシアのプレゼンスを定着させています。そして今、ワグネルの戦闘員がベラルーシ中を自由にかっ歩しています。ワグネルの戦闘員が私たちの国で何をしているか分かりませんが、私たちは彼らの“栄光”を知っています。私たちは彼らの犯罪を目にしたのです。ルカシェンコ氏はベラルーシを完全なロシア依存に追い込んでおり、ウクライナに対する戦争でプーチン氏の共同侵略者となったのです。
侵攻前後でベラルーシは変わったか?
侵攻開始直後、ベラルーシでは反対運動が行われました。およそ10万人がデモを行い、1000人以上が逮捕され、殴打され、拷問を受けました。これはベラルーシの人たちがウクライナに対するロシアの戦争を支持しておらず、独裁者たちがベラルーシ人のこの考えを変えさせることはできないという明確なシグナルです。ベラルーシ人は、ルカシェンコ氏が政権に留まるためだけに私たちの国をロシアに売り渡しているということを理解しています。すべての民主国家の人々がウクライナをできる限り支援していますが、ベラルーシの人がこのような支援をすれば、刑務所に投獄される危険性があります。ウクライナ軍に寄付した20ユーロのために5年の実刑を科された人や、ウクライナ語の歌を歌っただけで2年の実刑となった若い女性もいます。いま、ベラルーシ国内でウクライナ支持のためにウクライナの国旗を掲げた人は数年の実刑を科されます。いま受刑者になるのは、ルカシェンコ政権に反対している人だけでなく、この戦争でウクライナを支持しようとしている人も同じなのです。
ウクライナ支援 どのような活動を?
私たちは積極的にウクライナの利益を代弁しています。ロシアの侵略に対抗するための兵器が必要だということなら「兵器をください」、NATOに加盟する必要があるということなら「NATOに加盟させてください」などと、ウクライナが求めるものをすべて与えるよう要請しています。なぜなら、いまウクライナは自分たちの土地のためだけに戦っているのではないからです。彼らはロシアの帝国主義的野心と戦っているのです。政治的弾圧から逃げて外国にいるベラルーシの難民は、ウクライナから逃れてきた母親と子どもたちを支援しています。なぜなら私たちは、子どもを連れてカバン1つで国から逃げ出すということがどういうことか分かっているからです。私たちは迫害から逃れ、ウクライナの人たちは爆撃や暴力から逃げています。私たちはお互いのことを理解しています。もちろんいまはウクライナに注目が集まっていて、私たちは全面的にウクライナを支持しています。ただ、私は、ベラルーシのことも忘れられないように、「私たちはウクライナを解放したが、ベラルーシは?」、「何ということだ、ベラルーシのために戦いましょう」となるように取り組んでいます。ルカシェンコ政権はクレムリンの傀儡かいらいとなりました。ですが、ベラルーシは1人の人間のものではありません。ベラルーシは、ヨーロッパの一員となること、民主的な未来を望む人々のものなのです。
ベラルーシの変革実現できるか?
私たちに「これは実現できない」と言う権利はありません。なぜなら、ベラルーシでは数百万人が政権の人質にとられ、数千人が刑務所にいます。私たちの目標はその全員を解放することです。もし私たちが「すみません、これは実現不可能です」と言ったら、この闘争を続けるために自らを犠牲にした人々を裏切ることになります。家族を取り戻し、自分のルーツのある家に帰ることができるのは、私たちがルカシェンコ政権に勝利し、祖国を取り戻すことができたときだけだと認識しています。私たちは、自分の子どもたちが、私たちの国で育ち、独裁者から解放され、戦争から解放され、自分たちの権利が尊重される世界で育つことを望んでいます。子どもたちは、親たちがまさにベラルーシのための闘いにその身をささげているのを見ています。ベラルーシ国内の民主主義がどれほど重要か、どれほど大きな代償によってこれが得られているか。子どもたちの目の前に、自分の持つものを大切にすることがどれほど重要なのか、その実例があるのです。孤独を感じることはありますし、親族や知っている場所が恋しくなることもあります。ですが、その気持ちが憤りに変わり、立ち止まって「私は疲れた、私にはもうできない」と自分に言わせないエネルギーに変わるのです。「目標は見えている。着々とそれに向かって進んでいるじゃないか」と。
●ロシア軍に今年入隊の契約兵、23万人超 前大統領 8/4
ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)安全保障会議副議長は3日、今年に入ってから3日までにロシア軍に入隊した契約兵が23万人超に上ったと明らかにした。
ウクライナ軍の反転攻勢に対抗し、占領地域の奪還を阻止するため、ロシア政府は今年、軍隊への勧誘活動を積極的に展開している。
2008〜12年に大統領を務めたメドベージェフ氏は「国防省によると、1月1日から8月3日までに、計23万1000人以上が従軍契約を結んだ」と述べた。
昨年9月、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が第2次世界大戦(World War II)以来初の「部分的」動員を発令し、国内に大きな衝撃を与えた。
動員令の再発動は避けたいロシア政府は、金銭的なインセンティブを提示して大規模な勧誘活動を実施している。
当局は増員目標を公表していないが、志願兵40万人の確保を目指しているとの推算もある。
セルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu) 国防相は昨年、兵力を150万人規模に増強するとの方針を示していた。
●ニジェール、フランス離れ加速 軍事政権、ロシア接近に懸念 8/4
クーデターが起きた西アフリカ・ニジェールの軍事政権は3日、フランスとの軍事協定の破棄を発表し、旧宗主国フランスからの離反を加速させた。ロイター通信が伝えた。隣国マリはクーデター後にイスラム過激派対策のパートナーをフランスからロシアに切り替えており、ニジェールにもロシア接近の懸念が高まる。
フランス外務省は4日、協定破棄の発表を受け「合法的な」政府のみが協定を破棄できると述べ、駐留フランス部隊の引き揚げを否定した。フランスメディアが伝えた。
4日でクーデター発生から10日目を迎えても、情勢の混乱が続く。周辺国は解決の道を探るが、膠着が長期化する可能性も出てきている。
●ロシアの攻撃拡大 農産物の輸出を徹底的に妨害か 8/4
ウクライナ産の農産物の輸出を阻もうとするロシアの攻撃が、いっそう拡大しています。黒海に面した港への攻撃にとどまらず、さらに、ウクライナが代替ルートとしているドナウ川沿いの港にまで攻撃を広げていて、ウクライナの農産物が世界に出ていくのを徹底的に妨害しようとしていると見られます。「キャッチ!世界のトップニュース」別府正一郎キャスターが詳しく解説します。
まず、これまでの経緯です。ウクライナへの軍事侵攻開始後、ロシアは黒海を封鎖して、ウクライナ南部の港からの農産物が輸出できない状態になりましたが、去年7月に国連とトルコが仲介して合意が結ばれ、オデーサなど3つの港からの輸出は再開しました。しかし、ロシアは7月、この合意の履行を停止しました。その直後からオデーサなどへのミサイル攻撃を強め、穀物の貯蔵庫などが被害を受けました。さらに、ロシアは、「ウクライナの港に向かうすべての船舶は、軍事物資を輸送している可能性があるとみなす」と言い出して威嚇し、黒海を、再び、事実上封鎖したのです。
こうした状況で、ウクライナが代替ルートにしようとしてきたのがドナウ川沿いの港です。オデーサから、さらに南の方向に行くとドナウ川があります。ドナウ川はヨーロッパの大河のひとつです。川沿いの港まで穀物を陸路で運んで、ここから船に乗せかえて、黒海の端などを通して輸出しています。もちろん、オデーサなどからに比べると輸出量は格段に少なくなり、コストも高くなります。それでも、なんとか農産物を輸出するための、いわば苦肉の策となっています。
ところがロシアは、今度はドナウ川沿いの港までも標的にし始めました。7月24日、レニの港が攻撃されたのに続き、8月2日にはイズマイルの港が無人機で攻撃され、港の施設が損壊しました。ロシアのねらいとして、ウクライナの農産物の輸出を徹底的に妨害し、ウクライナに対する締めつけを強めることがあると見られます。
農産物が輸出できなければウクライナの経済はいっそう弱体化します。また、ウクライナ産の農産物に依存する中東やアフリカの国々の食料事情も悪化します。こうした中でプーチン大統領は、先週開かれたアフリカ諸国との首脳会議で、ロシア産の農産物を無償で提供する用意があると表明したのです。
欧米との対立が深まる中、アフリカ各国の取り込みを図る狙いと見られますが、こうした露骨ともいえる姿勢には批判が出ています。ロシア寄りの姿勢が目立つ南アフリカのラマポーザ大統領ですら「われわれはアフリカへの施しをお願いするために会議に来ているわけではない」と述べ、不快感を示したと伝えられています。食料までもを戦争の武器にするロシア。その攻撃はますますエスカレートしています。
●ウクライナ、クリミア半島に架かる橋への攻撃認める 7月に爆発 8/4
ウクライナは3日、ロシアとクリミア半島との間に架かるロシアのケルチ橋が先月、攻撃されたことについて、ウクライナ軍が実行したと認めた。
ロシアにとって戦略上重要なケルチ橋には、7月17日に2度目の攻撃があった。同日の攻撃では2人が死亡。ロシアは、水上ドローン(無人機)が使われたとした。
ウクライナはこれまで、ケルチ橋への攻撃を実行したのか、あいまいにしてきた。
しかし、ウクライナ治安当局の最高幹部オレクシー・ダニロフ氏は3日、ウクライナがロシアの防衛を十分突破できることを示したと発言。
ケルチ橋はロシア側が厳重な警備下に置いていて「手出しできない」とされる施設の一つだとしたうえで、そのような評判は実情とは異なるものだと、ダニロフ氏は示唆した。
ケルチ橋は、ウクライナ南部を部分占領しているロシア軍にとって、重要な補給ルートになっている。また、ロシアが2014年に併合したクリミア半島と、ウクライナ南部ヘルソン州に展開している部隊を増強するうえでも鍵となっている。
ロシアは戦略上重要なルートが攻撃されたことを受け、橋が架かるケルチ海峡とその上空について、船や航空機の通過を制限した。
また、ウクライナが「無分別」で「残酷」な攻撃を行ったと非難。報復を誓った。
ウクライナは現在、南部と東部で領土奪還を目指す反転攻勢を加速させようとしている。橋を経由した交通の制限をロシアに強いる攻撃は、同国軍の物資補給をさらに困難にする。
ケルチ橋は昨年10月にも大規模な爆発があり、部分的に閉鎖された後、今年2月に通行が全面再開された。

 

●ロシア 反体制派の指導者 ナワリヌイ氏に禁錮19年の判決 8/5
ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、刑務所に収監されている反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏に対し、ロシアの裁判所は4日、過激派団体を創設した罪などで新たに禁錮19年の判決を言い渡しました。
これはロシアの国営通信社などが伝えたものです。
ナワリヌイ氏は、過激派団体の創設や過激な活動への資金提供など6つの罪に問われ、検察は禁錮20年を求刑していました。
ナワリヌイ氏は、毒殺未遂事件でおととし、療養先のドイツから帰国した際に過去の経済事件を理由に逮捕され実刑判決を受けて刑務所に収監されていて、今回の判決を受けて刑期が大幅に延長されることになります。
ナワリヌイ氏は判決を前にした3日にSNSで「判決の最大のねらいは威嚇だ。プーチン大統領は数百人を投獄することで何百万もの人たちをおびえさせようとしている。冷静に受け止めなければならない」と訴えていました。
ナワリヌイ氏はプーチン政権を批判する急先ぽうとして若者たちを中心に一定の支持を集めていて、ことし6月の誕生日にあわせて国内各地で行われた抗議活動では100人以上の支持者が拘束されました。
また、毒殺未遂事件の犯人の特定や犯人との接触を試みるナワリヌイ氏の活動に密着したドキュメンタリー映画はことしのアカデミー賞、長編ドキュメンタリー賞に選ばれています。
ナワリヌイ氏 SNSに「判決の年数は あなた方に向けられたもの」
禁錮19年の判決を受けて、ナワリヌイ氏はSNSに「年数は問題ではない。判決の年数は私に向けられたものではなく、あなた方に向けられたものだ。あなた方が脅かされ、抵抗する意志を奪われている。抵抗する意志を失ってはならない」と投稿しました。
●プーチン「徴兵対象年齢の上限」引き上げる法律に署名 27歳から30歳に 8/5
ロシアのプーチン大統領は4日、義務である徴兵の対象となる年齢の上限を、27歳から30歳に引き上げる法律に署名しました。
ロシアの徴兵制度では、1年間の兵役につくか、同じレベルの訓練を受けることが義務付けられています。
現在の徴兵の対象となる年齢は18歳から27歳までですが、新たな法律では、上限を30歳に引き上げます。この法律は、来年1月から施行されます。
ロシア軍参謀本部は、「徴兵された兵士は前線には送らない」としていますが、軍務の経験者を増やす狙いがあるとみられます。
プーチン大統領は7月、予備役の上限年齢を5歳引き上げる法律にも署名し、成立させていて、兵力の確保を進めています。
●徴兵年齢拡大法に署名 ロシア大統領、出国も禁止 8/5
ロシアのプーチン大統領は4日、徴兵の対象年齢上限を27歳から30歳に引き上げる法律に署名した。同時に、招集令状が出された者の出国を禁じる法律にも署名した。タス通信などが報じた。
ロシア紙コメルサント電子版は同日、下院のカルタポロフ国防委員長が、軍への動員を拒否した場合は最長で懲役5年の刑事罰を科すことができる刑法改正案を今秋に提出する考えを明らかにしたと伝えた。
ロシアではウクライナ侵攻の長期化で兵員不足が深刻化し、徴兵や動員の忌避を取り締まる動きが強まっている。昨年9月に30万人規模の動員が発表された際はロシアから数十万人が近隣国に出国したとされる。
●ウクライナの反転攻勢、バフムトなどで苦戦…「常軌を逸した」地雷原 8/5
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日のビデオ演説で、東部ドネツク州の要衝バフムトや南部の戦線に触れ、大規模な反転攻勢が困難に直面しているとの認識を示した。大規模反攻の開始から4日で2か月がたったが、ロシア軍が東・南部に築いた強固な防御陣地を切り崩すのに苦戦している。
戦線に露軍が仕掛けた地雷原も進軍の妨げとなっている模様だ。ウクライナのオレクシー・ダニロフ国家安全保障国防会議書記はウクライナメディアに対し、地雷の数が「常軌を逸している」と説明した。反攻に「期限はない」とも語った。
ゼレンスキー氏は3日の演説で、自軍が優勢としつつも「戦闘は厳しい。占領者は全力で我々を阻止しようとしている」と述べた。露軍が使った自爆型無人機が少なくとも1961機に上ると明らかにし、防空システム強化への支援を国際社会に訴えた。
米政策研究機関「戦争研究所」は3日、ウクライナ側が自軍の損失を最小限に抑えることを反攻の目的としてきたと指摘し、「ペースが遅く忍耐が必要だが、成功する可能性はある」と分析した。米欧が装備品支援を続けることが重要になるとの認識も示した。
一方、ウクライナメディアは4日、黒海に面した露南部ノボロシスク港近くの海軍基地をウクライナが水上無人艇で攻撃し、約100人が乗った露大型揚陸艦が戦闘任務を遂行できなくなったと報じた。ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、露揚陸艦の船体に大きな穴が開いた。露当局は攻撃に使われた無人艇2隻を破壊したと発表し、被害を否定している。
ノボロシスクには、南部クリミアを拠点とするロシアの黒海艦隊の艦艇が、ウクライナの攻撃を避けるため移動していたと指摘されている。ロシアも黒海港湾への無人機攻撃を強化しており、ウクライナ側が反撃に出た格好だ。
●中国がサウジ国際会議に特使 ウクライナ和平へ「建設的役割果たす」 8/5
中国外務省は4日夜、ウクライナ情勢の特使を務める李輝ユーラシア事務特別代表が、サウジアラビアで開かれるウクライナ和平の国際会議に出席すると発表した。中国紙が伝えた。サウジ国王の招きに応じたものとしている。
汪文斌副報道局長は「中国は国際社会と協力し、ウクライナ危機の政治的解決を促進するため、建設的な役割を果たしていく」とコメントした。
ロイター通信などによると、会議はウクライナとサウジが各国の国家安全保障担当の高官らを招待し、6日まで行われる。ウクライナを支援する欧米各国のほか、対ロシア制裁から距離を置くインド、ブラジル、南アフリカなどの「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国も参加する。
李氏は5月にウクライナとロシアのほか、フランスやドイツなどを訪れ、和平に向けた取り組みについて各国と協議していた。
インタファクス・ウクライナ通信によると、ウクライナのクレバ外相は中国の特使派遣について「とても大きな前進」「歴史的な勝利だ」と語り、高く評価する姿勢を示した。
ウクライナは、ロシア軍の全面撤退なしに和平はあり得ないとの原則を強調する考えだ。中国は2月にロシア軍の撤退に触れない和平提案を発表しているが、ロシアが「戦略的パートナー」と位置づける中国の姿勢を変えることができれば、他国にも大きな影響が及ぶとの期待がある。 
●ウクライナ無人艇攻撃が活発化、ロシアのタンカー損傷…露軍が報復に 8/5
ロシア運輸当局は、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島近海のケルチ海峡で4日深夜、ロシアのタンカーが水上無人艇による攻撃で損傷したと発表した。4日には露南部ノボロシスク港近くの海軍基地でも露軍の大型揚陸艦が水上無人艇の攻撃を受けており、ウクライナが無人艇による海域での攻撃を活発化させている模様だ。
ウクライナ海事当局は4日付で黒海沿岸にあるロシアの6港一帯の海域を「戦争危険地域」とする警報を出し、攻撃の標的とすることを示唆した。ロシアが石油や穀物などの主要な輸出ルートにしている黒海沿岸の港や船舶への攻撃は、ウクライナ産穀物の輸出を妨害するロシアへの報復とみられる。
ケルチ海峡での攻撃後、クリミア半島と露本土を結ぶ「クリミア大橋」の通行が中断した。ウクライナの情報機関「保安局」(SBU)の幹部は5日、SNSに「ウクライナの領海で行われる特別作戦は完全に合法だ」と投稿し、関与を示唆した。
4日には露南部ノボロシスク港近くの露軍海軍基地で露軍の大型揚陸艦が水上無人艇による攻撃を受けた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日のビデオ演説で、SBUから報告を受けたとした上で、「侵略国に戦争を戻しているSBUに感謝している」と述べ、攻撃への関与を認めた。
これに対してプーチン露大統領は4日、定例の安全保障会議を開催して対応を協議しており、露軍が報復に出る可能性がある。
●ロシア占領地で「洗脳」される子どもたち ウクライナ 8/5
ウクライナのロシア占領地に住むアンナマリアちゃん(6)。ウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領を「ボバおじさん」と呼び、「世界の大統領」だと信じていた──。
アンナマリアちゃんの母親である、ウクライナ軍高官のカテリーナ・スコピナさんは昨春、東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)で自身と夫がロシア軍に拘束された際、娘を親戚に預けるしか選択肢がなかった。
ロシアから解放された後、ウクライナ西部に住むスコピナさんはAFPに対し、親ロシアの親戚たちは、アンナマリアちゃんをロシア占領地域に1年以上もとどめていたと語った。娘はマリウポリ郊外の村にある幼稚園に通い、「洗脳プログラム」を受けていたという。
子どもの救出を手掛けるNGO「セーブ・ウクライナ(Save Ukraine)」のミコラ・クレバ(Mykola Kuleba)代表によると、親ロシア派がウクライナ東部で支配地域を広げた2014年以降、アンナマリアちゃんのように、ロシア支配地域に住む子どもの数は約150万人に上っている。
クレバ氏は、アンナマリアちゃんのような子どもの多くがロシア人に「洗脳」され、ロシアの支配地域にとどまりたいと思うようになっていると話す。
「ウクライナを憎悪」
クレバ氏によると、多くはロシア市民権を持つ若者に成長し、洗脳され、ウクライナを憎んでいる。
スコピナさんは、ロシア側との交渉に当たるウクライナ当局者の協力を得て、5月に娘を取り戻した。
AFP記者が訪れた際、アンナマリアちゃんは父親と一緒に庭で楽しそうにサッカーに興じていた。
アンナマリアちゃんは、母親に後でどこに行くかをロシア語で尋ねた。ウクライナ語を話したがらなくなっているという。「『(ウクライナ語を)話したくない。ロシア語で話そうよ』と言ってくることがある」と、スコピナさんは明かした。
クレバ氏は、こうした傾向は、ロシアの占領地域で暮らした子どもたちによく見られると話す。
「ロシアの主な目標は子どもたちをロシア人化し、ウクライナ人としてのアイデンティティーを破壊することだ。ただ破壊するだけでなく、ウクライナに対する憎しみを植え付けることだ」。クレバ氏は「ウクライナに戻りたがらない子どもも多い」と語った。
進むロシア化
「何十万人もの子どもたちがすでにロシア市民権を得て、ロシアが救世主であり、そこにとどまる方が良いとの考えを受け入れている」とクレバ氏。「私たちが取り戻した全ての子どもたちは、収容施設やロシアの学校にいた子どもたちで、ロシア人に教えられた通り、ウクライナは国家ではないと信じ込んでいる」と嘆いた。
スコピナさんは、2014年以降、アンナマリアちゃんはロシア人になったと主張する義父母から、娘を取り戻した。娘はウクライナでの生活にすぐに適応したという。
アンナマリアちゃんは最近、昨年の欧州国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)」で優勝したウクライナ出身のバンドの楽曲「ステファニア(Stefania)」を覚え、口ずさんでいる。「子どもたちに何かを教える必要はない。自分たちで学んでいく」と、スコピナさんは話した。
●名前を呼び間違えられ、プーチンが何とも言えない表情で「苦笑」… 8/5
ロシア正教会のトップであるキリル総主教が、ウラジーミル・プーチン大統領の名前を「言い間違える」ハプニングがあった。これを聞いたプーチンが何とも言えない表情で苦笑いする様子もカメラに収められたが、言い間違えた名前が恐怖政治を行ったことでも知られるかつてのロシア皇帝だったことから、ネットではプーチンの内心を予想するさまざまな意見が飛び交う事態となった。
7月28日、サンクトペテルブルグで開催されたプーチン主催のロシア・アフリカ首脳会議で演説したキリル総主教は、プーチンの父称(ミドルネームに相当)を間違え、「尊敬するウラジーミル・ワシリエビッチ......いや、ウラジーミル・ウラジーミロビッチ、ロシア連邦大統領」と言い直した。
この時の映像を見ると、プーチンは総主教の明らかなミスに対して苦笑いを浮かべた後、穏やかにうなずき、動揺している様子はない。ロシアでは姓を使わずに、ファーストネームと父親の名を基にした父称で相手を呼ぶことが多い。
総主教が単に言い間違えた可能性は高いが、ソーシャルメディア上では、「ワシリエビッチ」という父称を持つロシアの支配者は、16世紀のイワン4世(イワン雷帝)だけだとの指摘が相次いだ。
自らを「ロシア皇帝」と重ねるプーチン
イワン4世は、ロシアを広大な帝国に変え、シベリア進出を開始したことで知られる。また、正式なロシア軍を創設し、初の議会を設立し、モスクワの有名な聖ワシリイ大聖堂を建設した「歴史に名を遺す」皇帝だ。
一方でイワン4世は、「ノブゴロド虐殺」を主導し、少なくとも1万5000人の死者を出したという記録もある。また、27歳だった自らの後継者に激怒し、殺害したとも言われる。
プーチンは、特にウクライナ侵攻以来、絶対君主として君臨しようとしていると見られている。ロシア皇帝に関する歴史書を愛読するプーチンを、側近らは「皇帝」と呼んでいるとも言われている。昨年12月には、ウクライナとの戦争をめぐり、自らをヨーロッパに軍事侵攻したピョートル大帝になぞらえたとされる。
しかし、プーチンは、ウクライナ侵攻に対する国際社会の非難が高まる中、今回のロシア・アフリカ首脳会議への参加者が激減したことで、嘲笑の的となっている。首脳が参加した国は、前回の2019年は43カ国だったが、今回はわずか17カ国だけだった。
●漏洩文書が明かす、プーチン氏専用「幽霊」列車の知られざる全容 8/5
2022年8月5日。ウクライナはいつもと変わらない1日だった。前夜のロシアからの爆撃の被害が、暁光の中に浮かび上がる。
その朝ミコライウ近郊の住宅地を狙ったロシアの攻撃は、州知事の当時の言葉を借りれば「甚大な被害」をもたらし、少なくとも10人が負傷した。
同じ日モスクワではウラジーミル・プーチン大統領の側近らが、ウクライナの凄惨な戦争とは無縁の問題に奔走していた。
ロシア政府関係者の記述によると、「運輸局はスポーツヘルス車両021−78630号のフィットネス機器を、Abductor−StandardとAbductor−TechnogymからHoist社製HD3800とHD3200に交換する必要があるとの要請を受理した」。
最近漏洩(ろうえい)した文書によると、こうした「スポーツヘルス車両」を使用していたのは何を隠そうプーチン氏本人であるという。
プーチン氏のプライベートについては驚くほど知られていない。同氏の表向きのイメージが入念に手を加えられたものであることは、短命に終わったエフゲニー・プリゴジン氏の反乱後にも明らかになった。だがロンドンを拠点にロシア関係の捜査を行う団体「ドシエセンター」が独占入手し、CNN、南ドイツ新聞、ドイツの公共放送局NDRとWDRに公開された貴重な書類と画像からは、ロシア政府が一般大衆からひた隠しにしている詳細や、パラノイアが嵩(こう)じて隔離状態となったプーチン氏の様子が窺(うかが)える。
ちなみにドシエセンターは、ロシアの元石油王で、後にロシア政府を批判して亡命したミハイル・ホドルコフスキー氏が支援している団体だ。
プーチン氏が列車を利用している話は有名だ。ロシア政府も華美に飾られた列車内の会議室で会議が行われた時の画像を公開している。だが、それ以外の20両余りの車両については、秘密のベールに固く閉ざされている。
ドシエセンターいわく、漏洩文書は国営ロシア鉄道から、大統領執務車両の内装を請け負った下請け会社「ツィルコンサービス」の内部関係者が提供したものだという。
詳細に記載された内容のひとつに、021−78630号という車両がある。ドシエセンターによると、ツィルコン社が作成した立派なパンフレットには、豪華ジムとスパを備えたプーチン氏専用車両とある。
車両が完成したのは18年。画像が撮影された当時はイタリアのテクノジム社のウェートマシンと筋力トレーニングマシンが備え付けられていたが、後に米ホイスト社製の機器に交換されたようだ。
ドアを抜けた先には、マッサージ施術台やあらゆる最新美容機器など――漏洩文書によれば肌にハリを与える高周波マシンもある――完全装備のエステセンターがある。ドシエセンターが入手した書類によると、部屋全体に盗聴機器が使用できないような装備が施されているという。
車両の一番奥は、トルコ式蒸し風呂とシャワーを完備したタイル張りのバスルームだ。
ドシエセンターが入手した文書には、ジム車両も含む車両の設備に関して大統領府高官に直接宛てた書簡もあった。
ロシア政府はドシエセンターが入手した書類について完全否認し、「プーチン大統領はこのような車両を使用していないし、所有もしていない」とCNNに語った。
CNNはツィルコンサービス社とロシア鉄道にもコメントを求めたが、返答はなかった。
18年11月2日、ジム車両021―78630号の残りの作業を評価する会議が行われた。やはりドシエセンターが入手した議事録によると、ツィルコンサービス社とロシア鉄道の重役に加え、ロシア大統領の警護を担当するロシア連邦警護庁(FSO)の職員10人も出席していた。
ドシエセンターの手に渡った数十におよぶメンテナンス契約書の中には、ジム車両021−78630号車が記載されているものもあり、車両に関する作業はすべてFSOと連携して進めなければならないと記載されている。
20年、ロシア鉄道の幹部ドミトリ・ペゴフ氏はFSOのオレグ・クリメンティエフ副長官宛に書簡を送り、事前に送った2つの居住用車両の建設提案書を精査するよう求めている。
「現在に至るまで、提案内容についてはFSOから一切承諾を得られていない。そのため契約締結の手続きを進められず、車両建設に取りかかることができない」とペゴフ氏。「オレグ・アテストヴィッチ殿(訳注:ミドルネーム)、どうか提案書の概要を精査していただき、最終決定をご連絡いただきたい」
CNNはペゴフ氏とクリメンティエフ氏にコメントを求めたが、返答はなかった。
かつて技術者としてFSOに従事し、昨年ロシアから亡命したグレブ・カラクロフ元大尉は極秘でドシエセンターとのインタビューに応じた。同氏いわく、プーチン氏の列車移動が次第に増えていったのは、追跡防止のためだという。
「飛行機は離陸した瞬間にフライトレーダーで捉えられてしまう」。昨年12月に収録されたインタビューで、カラクロフ氏はこう語った。「そうした移動を何とか隠すために使われるのが列車だ」
カラクロフ氏は14年ごろから列車の作業に関わり、通信機器を設置したという。同氏の話では、ちょうどロシアがウクライナへの全面侵攻を準備していた21年後半から、列車利用が頻繁になったそうだ。
戦争が勃発してからというもの、プーチン氏専用列車はモスクワとサンクトペテルブルクの間にある田舎町、バルダイ近辺に停車していることが多いとカラクロフ氏は言う。牧歌的な湖と森で有名なこの地域に、プーチン氏も大邸宅を所有している。
「FSOのスタッフは特別車両のためにわざわざ隔離された」とカラクロフ氏はドシエセンターに語った。「戦争が勃発して以来、彼らはバルダイ方面の某所に40日間、ときには45日間も送られたらしい」
「監視の下で出発する予定がなくても、常時出動できるよう待機していたのだろう」(カラクロフ氏)
だが、列車のプライバシーは完璧ではなかった。落とし穴は鉄道マニアという形で現れた。
「我が国の鉄道に、見知らぬ幽霊列車が走っている」とは、rutrain.comに投稿された鉄道マニアのコメントだ。プーチン専用列車と思われる画像が添えてある。「時刻表にも、ロシア鉄道のシステムにも載っていない」
鉄道マニアが特別列車を見分けられたのは、2両の機関車を使用していることと、ツィルコンサービス社が作成したパンフレットに記載されていた特徴のおかげだ。ドシエセンターいわく最新通信アンテナを内蔵した特徴的な白いドームが、車両のひとつに搭載されているのがはっきり見える。
通常のロシア鉄道車両にはドームはない。だが19年にロシア政府が公開した公式動画には、ロシア本土と占領地クリミアを結ぶクリミア橋が新設された際にプーチン氏が乗車したロシア鉄道の特別チャーター車両に、しっかりとドームが映っている。
ドームの画像からは、プーチン氏専用列車が一般的なロシア鉄道車両と同じ外観をしていることが分かる。数年にわたって繰り返し鉄道マニアに目撃され、撮影もされている。
プーチン氏の胸の内を理解するには、根本的に臆測に頼るしかない。最良の方法は、プーチン氏とともに過ごした人物に意見を求めることだ。
そうした人物の一人が、長年プーチン氏のスピーチライターを務めたアッバス・ガリヤモフ氏だ。
現在はイスラエルに居を構えるガリヤモフ氏は、「プーチン氏は政治的不安を抱え、次第に身体的な不安も抱くようになったのだろう」と語った。「側近の中には、プーチン氏のこうした不安を利用しようとする者も大勢いる。ほら、ここにも危険が、あちらにも危険がありますよ、というように」
ガリヤモフ氏が言うところの「パラノイア」が原因で、このロシアの指導者は次第に周囲との間に壁を作っていった。
「戦争は劣勢で、政治的勢いも失いつつあり、支持率も落ちている」とガリヤモフ氏。「次第に敵も増え、どんどん犯罪を重ねている。本人は現状を四面楚歌(そか)だと感じ、こうしたことすべてから身を守りたいという心理状況に陥っている」
おそらくこうした防護で距離が生まれたことが、プーチン氏の当面の問題だとガリヤモフ氏は臆測する。皮肉な話だが、自分専用の車両に極度の安心感を求めた理由もそこにあるのかもしれない。
「同氏が移動することはほとんどない」とガリヤモフ氏。「国民との接点を失いつつある。大統領府の人間もこの点を懸念している」
「(ロシア政府関係者は)これがプーチン氏の支持率低下をもたらす問題のひとつだと理解している。だからこそ同氏が外出して可能な限り快適に移動できるよう、手を尽くそうとしているのではないか」(ガリヤモフ氏)。
そうした隔離に近い対策は、短命に終わったワグネルの乱で揺さぶられた。反乱後の数日間、プーチン氏は異例の数の会議をこなし、一般市民に挨拶(あいさつ)する姿さえも見せた。
その際、プーチン氏が特別列車で移動したかどうかは分からない――だが今回の反乱で、同氏が抱えているとみられる「パラノイア」が収まることはなかったようだ。
●ウクライナ戦争の構図を変えたインターネット…「宇宙権力者」イーロン・マスク 8/5
電気自動車の商用化と民間宇宙開発の時代を開拓したイーロン・マスク氏の影響力が、グローバルな安全保障分野で拡大している。世界を衛星インターネットでつなげたマスク氏の「スターリンク(Starlink)」が、戦争の構図まで変えるほど強大な力を持つに至ったからだ。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は7月29日(現地時間)、「マスクはいかなる企業や政府とも比肩し得ない支配的な権力を行使している」とし「規制や監督がない状況で、彼の気まぐれかつ個人中心的スタイルに対する世界の懸念が高まっている」と伝えた。
ウクライナ戦争まで左右するマスク氏
NYT紙によると今年3月、マーク・ミラー米統合参謀本部議長とウクライナ軍総司令官のワレリー・ザルジニー将軍との会談で、スターリンクが主な案件として話し合われた。通信が円滑でない戦場では、衛星を利用するスターリンクが事実上唯一の通信手段だからだ。NYT紙は「ウクライナ軍は、スターリンクへの安定的な接続が維持されるようにしてほしいと米国に要請したが、米国政府は、明確な回答ができなかった」と報じた。スターリンクをサービスしているスペースXは民間企業で、防衛産業ではない商用サービスだというのが理由だった。実際、マスク氏はクリミア半島攻略作戦など幾つかの状況でスターリンクへの接続を拒否し、ウクライナ軍は作戦を変更したり、遂行に困難が生じたりしたという。戦争が始まったころはウクライナに積極的に協力してスターリンクを提供していたマスク氏の気まぐれが、戦況に直接的な影響を及ぼしているのだ。マスク氏は今年2月、「ウクライナのスターリンク使用が新たな世界大戦を触発する危険がある」と語った。ウクライナのロシア攻撃の状況ではスターリンクの使用を許容するつもりはないと宣言し、米国の外交政策に正面から歯向かったのだ。
マスク氏は2019年からスペースXのロケットを宇宙へ送り、スターリンクの衛星を60基ずつ、地球の上空540−570キロの軌道に打ち上げている。現在、4500基の衛星が軌道を回っているが、この数字は世界のアクティブな衛星の50%を超える。スターリンクのインターネットのダウンロード速度は毎秒100メガビットで、有線の超高速インターネットサービスと同じレベルにあり、600ドル(現在のレートで約8万5000円。以下同じ)水準の専用アンテナシステムさえあれば、韓国をはじめとする世界50カ国で月75ドル(約1万700円)程度で利用できる。マスク氏は今後数年間で4万2000基のスターリンク衛星を運用する計画で、彼は「地球上の誰もが、早くて途切れないインターネットを持つことになるだろう」と豪語した。
NYT紙は「スターリンクについての懸念を米国政府に表明している国は9カ国以上」と伝えた。こうした国々は、マスク氏が特定地域や国家のインターネット接続を拒否したり許可したりすることにより、戦略資産である衛星インターネットで権力を行使している、と主張する。マスク氏がいつでもスターリンクの情報にアプローチできることも問題だ。彼は今年4月、ツイッターに「テスラ、スターリンク、ツイッターを利用して私は誰よりも多くのグローバルなリアルタイム経済データを頭に収めることができる」と誇示した。チョ・テゴン韓国科学技術院(KAIST)経営学部教授は「400万台を超えるテスラ車の運行データ、リアルタイムで入ってくるスターリンクの通信データ、毎日数億人が使うツイッターのデータを一人の人間が握っていることになる」と語った。
米国政府最大の悩みの種
テック(技術)業界では、マスク氏の影響力はますます拡大するだろうとみている。マスク氏のスペースXは米航空宇宙局(NASA)と共に月・火星探査を主導しているが、これといった対抗馬はいないほど圧倒的な技術力を持っている。マスク氏が、人類の未来の懸かった宇宙探査市場も独占しているのだ。最近では、人工知能(AI)関連企業「xAI」を設立し、オープンAIのチャットGPTやグーグルのBardをしのぐAIを作ると宣言した。ツイッターを金融・経済・配車などを融合したスーパーアプリとして育てていく作業も進めている。地下車道を建設し、超高速列車「ハイパーループ」を走らせる「ボーリング・カンパニー」、人の脳にチップを移植して仮想空間に移す「ニューラリンク」といった事業も進めている。一つ一つが全地球的な波及力を持つプロジェクトだ。ブルームバーグ通信は「世界に帝国を構築し、ますますコントロールしにくくなっていくマスク氏は、米国にとって最大の悩みの種」と評した。
●ウクライナ無人艇、ロシア海軍基地を攻撃…大型揚陸艦から黒い液体 8/5
タス通信は5日、ウクライナ南部クリミア近海のケルチ海峡で、ロシアの貨物船がウクライナの水上無人艇の攻撃を受けたと伝えた。クリミアと露本土を結ぶ「クリミア大橋」の通行も一時遮断されたという。ウクライナが無人機を使って、クリミアや露本土への集中攻撃を行っている可能性がある。
タス通信によると、ケルチ海峡への攻撃では、貨物船の機関室が損傷した。露西部クルスク州でも無人機による攻撃があり、行政庁舎などが損壊した。死傷者はいないという。
4日には、露南部ノボロシスク港近くの露軍海軍基地が水上無人艇で攻撃され、露軍の大型揚陸艦が標的となった。ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」は、攻撃後の揚陸艦を捉えた衛星写真を基に、黒い液体が確認できるとして、揚陸艦が燃料漏れを起こすほどに損傷している可能性を指摘した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日のビデオ演説で、情報機関「保安局」(SBU)から報告を受けたとした上で、「侵略国に戦争を戻しているSBUに感謝している」と述べ、ノボロシスク港攻撃への関与を認めた。
●「無数の火球」が都市に降り注ぐ...ウクライナで、カミカゼドローンが撃墜される 8/5
ウクライナの防空システムが、首都キーウに飛来したロシア軍のドローンを撃墜した瞬間を捉えたとみられる新たな動画が、インターネット上に出回っている。爆破されたドローンはいくつもの破片となり、閃光を放ちながらキーウのビルに落下していく。
各種ソーシャルメディア上で共有されている問題の動画に映っているのは、キーウにある集合住宅の上空で、イラン製の「カミカゼ(自爆型)」ドローンがウクライナの防空システムによって撃墜される様子だ。動画にはその後、機体の残骸とみられるものが建物に降り注ぐ様子も映っている。
ロシアはキーウをはじめとするウクライナの複数の都市に対して、頻繁に「シャヘド(ロシア名はゲラニ2)」ドローンによる攻撃を行っている。だが本誌は今回の動画について、信ぴょう性を独自に検証できておらず、ウクライナ国防省にメールでコメントを求めたが返答はなかった。
ロシア軍はこれまで、ロシア国内やクリミア半島にある拠点から長距離ドローンを発射して多くの攻撃を行ってきた。ウクライナの標的を攻撃する上で、ミサイルの一斉発射よりもドローンを使用した方が遥かに安上がりだからだ。だがドローンは動きが遅く、ウクライナ側にとっては(検知できれば)比較的撃墜しやすい。
シャヘドによる大規模な攻撃が続く
ウクライナ側は西側諸国に対して、軍事支援として要請したいものの上位として防空システムを挙げてきた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8月2日の夜に行った演説の中で、キーウの当局者たちは「パートナー諸国と共に、防空システムの供給を増やすべく最善を尽くしている」と述べた。
3日には、ロシア軍が夜間にロシア国境地帯のブリャンスク州から15機の「シャヘド」を発射したと、ウクライナ軍が発表した。ウクライナ空軍は声明を出し、「敵の無人機は全て破壊した」と発表。キーウの軍当局トップを務めるセルヒイ・ポプコはこれに先立ち、キーウはこれまで8回連続「シャヘド」による攻撃を受けているとして、「今回も昨日のように、大規模な攻撃だった」と述べていた。
ウクライナ空軍は2日、防空システムにより一晩で「シャヘド」23機を撃墜したと報告した。その大半がキーウと、この数週間激しい攻撃を受けている南部の港湾都市オデーサの上空で撃墜されたものだ。
同空軍は「残念ながら、敵が発射したドローンの一部がオデーサ州の港湾インフラに着弾した」と述べた。ウクライナ南部軍司令部によれば、これにより非居住用の高層ビルが「重大な」被害を受けたという。
ゼレンスキーは2日朝、メッセージアプリ「テレグラム」に投稿を行い、「戦争のなか迎えた新たな夜、またもや我が国の英雄的な防空システムが活躍した」と書き込んだ。
ウクライナもロシアもドローン開発に多額の投資
ウクライナにおけるドローン戦争は、無人機技術の開発、試験や使用の大きな進歩を促している。ウクライナもロシアも、陸・海・空での無人機の開発に多額の投資を行ってきた。
ロシアはこの数カ月、ウクライナが大量のドローンを使ってモスクワ攻撃を組織していると非難しており、モスクワへの攻撃を捉えた映像には「ビーバー」として知られるウクライナ製の最新鋭ドローンとみられるものも映っている。ウクライナはモスクワへのドローン攻撃の多くについて、自分たちが行ったものとは特に主張していないが、ウクライナの当局者らはウクライナ政府の関与をほのめかしている。
●ロシアで徴兵事務所に放火相次ぐ…露「ウクライナが電話で特殊詐欺」主張 8/5
ロシア語の独立系メディア「メドゥーザ」は7月29日から8月2日までの5日間で、ロシア国内の徴兵事務所や関連施設への放火や放火未遂が少なくとも28件発生したと報じた。露情報機関「連邦保安局」(FSB)職員などを名乗る人物から電話で放火を強要された事例が多いとも指摘した。FSBは関与を否定し、ウクライナによる「特殊詐欺」と主張している。
一連の事件は、モスクワや国内第2の都市、西部サンクトペテルブルク、極東ハバロフスク、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミアなど、広範囲で発生した。
モスクワ近郊の徴兵事務所は7月31日に2度被害に遭った。最初は飲食店勤務の男(22)が火炎瓶を投げ、次に76歳と50歳の父子が放火した。2件とも容疑者は現金をだまし取られた経験があり、金融機関の職員を名乗る人物らから電話で徴兵事務所に放火するよう誘導されたという。
FSBは昨年末頃からウクライナからの発信とみられる電話を使った同種の事件が相次いでいるとして、警戒を呼びかけていた。ロシアでは総動員の発令を意識した法整備が進んでおり、露国内での反戦機運の醸成を狙う勢力による組織的な活動の可能性もある。

 

●ロシア「プリゴジンの乱」はプーチン核使用への「壮大な芝居」… 8/6
6月末、ロシアに反旗を翻した民間軍事会社「ワグネル」。この前代未聞の軍事クーデター未遂に全世界が驚愕したが、それは各国の情報機関でも同様だった。
世界に冠たる米国のCIA(中央情報局)ですら寝耳に水であり、事前情報を受けていなかったバイデン大統領は大リーグ中継を見ている最中に事を知り、「びっくりした」と漏らしたほどだという。
だが、そこはCIA。その後の巻き返しは早かった。すぐさま関連の全データを精査の上、今後、起こり得る事態をも想定した情勢分析レポートをまとめ上げたのである。
その中身を知らされた日本の当局筋が語る。
「ふたつの警告が骨子だ。ひとつは『愛人の反乱』とネーミングされた事態で、もうひとつが『壮大なる芝居』というものだ。いずれも、大いに懸念される事態であり、日本も関係がないわけではない」
同筋の解説によれば、それぞれの概要は以下のようなものだという。
まず「愛人の反乱」だが、こちらは、プーチン大統領が側近たちの寵愛の順位争いを前に判断に迷い、優柔不断さを露呈したというもの。さしずめ本妻はロシア軍を管轄するショイグ国防相、側室が軍トップのゲラシモフ参謀総長といったところのようだ。前者は12年から国防相を務めており、プーチン大統領の最古参の側近と言われている。また、後者は国防相に就任したショイグ氏によって参謀総長に抜擢され、やはり12年以来、現在に至るまで軍を統率しているが、16年にはプーチン大統領から「ロシア連邦英雄」の称号を授与されている。
対する、側室にすら手が届かず、「愛人」レベルとされるのがプリゴジン氏だ。そもそもフダ付きだ。弱冠18歳にして窃盗罪で有罪になり、その2年後には強盗、詐欺、売春などの罪に問われ、9年間も服役した経歴の持ち主なのである。
転機となったのは出所後、ホットドッグの屋台業で成功し、レストラン業に進出する中、大統領就任前のプーチン氏と知り合って気に入られたことだ。これを機に、プーチン氏と密接な関係を築いていく。
12年に年間12億ドル相当の食事をロシア軍に供給する契約を結んだことは、2人の密接さを象徴する事例としてしばしば取り上げられるが、やはり最たるものは「ワグネル」だ。14年、クリミア危機に際してプーチン大統領に請われ、鍛え抜かれたロシアの元特殊部隊兵を集めて精鋭部隊を創設し、戦線に投入したのだった。以後、「ワグネル」はプーチン大統領の密命を受け、アフリカやシリアなどで暗躍することになる。換言すれば、プーチン大統領の懐刀として動き回ったのである。
かくしてプリゴジン氏はプーチン大統領の寵愛のもと、財力も権力もあっという間にほしいままにしたのだが、それでも「愛人」であることに変わりはなかった。由緒正しき「本妻、側室」の2人は見下し、嫌悪感をにじませたばかりか、排除するような動きまでみせたのだ。
それに、プリゴジン氏が猛反発。プーチン大統領に「どちらかを選べ」というメッセージを込めた声明も出したが、プーチン大統領は動かなかった。そこで決起し、実力行使に及んだ─。
以上が反乱の概要だというのだ。当局筋は、こう続けた。
「この事態が指し示しているのは、プーチン大統領は誰を選ぶか決められない、ガバナンスが効かせられないということ。この優柔不断さが今後も続くなら、ウクライナ問題は泥沼化するだろう。しかも、領土欲を剥き出しにするような提言が側近から上がれば、中国との連携を視野に日本にも戦端を広げるような暴挙も容認しかねない。ロシアは今、非常に危険だ」
プーチン大統領の決断力のなさと側近たちの肥大化を警告しているわけである。だが、これとはまったく異なる背筋が寒くなるような分析をしているのが、もうひとつの「壮大なる芝居」だ。
「端的に言えば、プーチン大統領は実はしっかりしており、隣国のベラルーシをカモフラージュとして利用し、プリゴジンを飛び道具にしようとしている。そのための大がかりな芝居だとの見方もCIAはしている」
同筋はそう語り、プーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領との関係は複雑で一筋縄ではいかないものの、現時点では友好関係にあると解説した。
「ルカシェンコ大統領はプーチン大統領を後ろ盾にすることで今、地位を保っている。20年の大統領選で不正疑惑が浮上し、退陣を求める抗議デモが拡大した際、プーチン大統領がベラルーシに介入する姿勢を見せ、デモを鎮圧したのを見ても明らかだ」
その上で、核兵器の配備も友好関係の延長線上のことだとした。また、ウクライナ侵攻への協力についても言及。22年2月、ロシア軍とベラルーシ軍は共同軍事演習を実施したが、その後、ロシア軍がベラルーシに駐留し続け、同月24日、その地から国境を越えてウクライナに侵攻したことなど、具体的な事例も挙げた。そして、こう続けた。
「信頼できる親密な関係になければ、核を渡したりしない。特殊部隊から成る精鋭たちも同様。CIAは、こうした事象を踏まえ、こんな分析をしている。ロシアに楯突き、追放されたと見られているプリゴジンらがウクライナに核を撃ち込む。表向きはロシアの仕業ではないとする『核攻撃』に関わる極秘計画が進行中なのではないかと。プリゴジンが一度、ロシアに戻ったのは、それを前提とした条件闘争のためとみられている」
CIAは「ワグネル」が解散しなかった点にも着目し、今回の件がプリゴジン氏の国防相や参謀総長への不満を契機に、それを利用して仕組まれた「壮大なる芝居」の可能性が高いと示したのである。そして、こう付言した。
「こうした一見わかりにくい緻密な策謀はロシアの十八番であり、対日本でも使われかねない。プリゴジンの代わりが金正恩なのかもしれないし、他の用意があるのかもしれない。いずれにせよ、不気味な国だ。CIAの警告は真摯に受け止めるべきだろう」
陰謀に長けたロシアの動向が気になるところだ。
●ロシアがウクライナの輸血施設を攻撃 「戦争犯罪」と非難 ゼレンスキー氏 8/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、北東部ハリコフ州クピャンスクにある輸血施設をロシアが誘導爆弾で攻撃したと明らかにした。
死傷者の情報があると述べた上で、「この戦争犯罪一つだけでもロシアの侵略の性質を余すところなく示している」と非難した。 
●ウクライナ保安庁長官「作戦は合法」露タンカー攻撃めぐり 8/6
ウクライナ南部のクリミア半島沖でロシアのタンカーが無人艇による攻撃を受けたとみられることについて、ウクライナ保安庁の長官は「ウクライナの領海で行われる作戦は完全に合法だ」と強調し、関与を示唆しました。
ロシア側は報復措置をとる構えを示しています。
ロシアの運輸当局は、ロシアが一方的に併合したクリミア半島の東側の沖合で、ロシアのタンカーが無人艇による攻撃を受けたとみられ、機関室付近が破損したと5日、SNSで発表しました。
ウクライナや欧米の一部メディアは、ウクライナ保安庁の関係筋の話として、保安庁が軍とともに、ロシア軍に燃料を輸送していたタンカーへの攻撃を行ったと伝え、ロイター通信は、ウクライナの情報筋から入手したとして、無人艇がタンカーに向かっていくとする映像を配信しました。
攻撃についてウクライナ保安庁は5日、マリュク長官のコメントを発表しこの中で「敵に対する極めて論理的で効果的な措置だ。ウクライナの領土や領海で行われる特別作戦は完全に合法だ」と強調し、関与を示唆しました。
その上で「ロシア側が攻撃をやめてほしいなら、ウクライナから去るしかない」として、軍事侵攻を続けるロシア側に撤退を迫りました。
これに対してロシア外務省は5日、ザハロワ報道官のコメントを発表し、ウクライナ保安庁が事実上、攻撃を認めているとした上で「このような行為が放置されることはなく、処罰は避けられない」と述べ、報復措置をとる構えを示しています。 
●ロシア軍 ウクライナへ攻撃続け死傷者も ロシアにも無人機攻撃 8/6
ロシア軍は、ウクライナへのミサイルなどによる攻撃を続け、東部では、輸血のための施設が被害を受け、死傷者が出ているということです。一方、ロシア国防省は6日、モスクワ州で無人機による攻撃が仕掛けられたものの、破壊され、被害はないと発表し、ウクライナ側によるものだと非難しています。
ウクライナ空軍は6日、ロシア軍が5日の夜から6日の朝にかけて巡航ミサイルやイラン製無人機などを使った大規模な攻撃を仕掛けたと発表しました。
ミサイルは、40発のうち30発を迎撃し、無人機はすべて破壊したとしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、SNSでロシア軍がウクライナ東部ハルキウ州のクピヤンシクにある輸血センターを攻撃し、死傷者が報告されていると投稿しました。
そのうえで「この戦争犯罪1つとってもロシアの侵略を物語っている」として、非難しました。
一方、ロシア国防省は6日、モスクワ州にある施設へ無人機攻撃が仕掛けられたものの、防空手段により破壊され、死傷者や被害はないと発表しました。
攻撃はウクライナ側によるものだと非難していて、首都モスクワでは、このところビジネス街の高層ビルなどに無人機が相次いで飛来したことから、ロシア側は警戒を強めているとみられます。
こうした中、ウクライナ政府は4日、黒海に面するロシア南部クラスノダール地方のノボロシースクなど6つの港の海域を軍事的脅威が及ぶ地域にすると発表しました。
これについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日の分析で、ウクライナ側による攻撃の可能性を船舶の関係者などに警告したものだと指摘していて、今後、ウクライナ側が黒海での動きを強める可能性もあります。
●【世界核戦争回避に先制核攻撃】 ロシア学者“必要論”破局阻止の暴論 8/6
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、核使用の危機感が現実味を帯びる中、広島への原爆投下から78年が経過し、「原爆の日」を迎えた。
ロシアの著名学者で外交防衛評議会の名誉議長を務めるセルゲイ・カラガノフ氏(70)が、戦術核の限定的使用の必要性を訴える論文を発表した。カラガノフ氏は「世界規模の核戦争を回避するため、侵略行為の全てに報復する先制攻撃の用意がある」と、核による先制攻撃を主張する。また、米国主導による西側の報復はないと同氏は強調する。ロシアの日刊紙「コメルサント」は、「核戦争での問題解決は悪い方法だ」と糾弾し、同氏の論説に対する批判記事を掲載した。
ウクライナ軍による反転攻勢が進行する中、今後、カラガノフ氏の主張が、ロシアによる核使用を正当化する論拠とされるのか。今回の核先制攻撃を巡る論考が出された背景と事情を解読するとともに、戦争被爆国である日本の役割を考察する。
●露が民間人2万5000人拘束 ウクライナ人権代表、「キャンプ」は数百カ所 8/6
ウクライナ最高会議(国会)のドミトリー・ルビネツ人権問題全権代表(42)は6日までに産経新聞のインタビューに応じ、ロシアが占領下のウクライナ領で拉致し、不当に拘束している民間人が約2万5000人にのぼることを明らかにした。「これらの民間人を解放するのは(ロシアとの交換交渉で主な対象となる)軍事捕虜よりも難しい」と述べ、日本を含む国際社会に支援を訴えた。
ルビネツ氏が念頭に置いている約2万5000人は、ウクライナ領で強制的に拘束され、ロシア領やロシアの支配地域で「事実上、獄中にある民間人」だ。
ロシアは占領地に「フィルター・キャンプ」と呼ばれる数百カ所の施設を設け、ウクライナ人を思想・信条や経歴、交友関係によって選別している。不当に拘束されている民間人の多くは、フィルター・キャンプで「親ウクライナ的な立場」や「治安機関での勤務歴」を問題視され、連行されたとみられる。
ルビネツ氏によれば、露軍が昨年9月まで占領していた東部ハリコフ州では、大学の法学部に在籍しているだけで「潜在的な治安機関員だ」とみなされ、逮捕された学生がいた。77歳の年金生活者でも「元治安機関員」というだけで逮捕された。ロシアは占領地の住民が逆らわないよう、「圧力をかけるシステム」(ルビネツ氏)として民間人を連行しているもようだ。
国際人道法(戦時国際法)の柱であるジュネーブ諸条約は民間人の保護を定めており、住民の不当な移送や追放を禁じている。
昨年2月からのウクライナ侵略戦争では、ロシアが占領地の子供を強制的にロシア領に連れ去っていることが問題視されてきた。国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、子供の強制移送について、プーチン露大統領と担当高官に戦争犯罪容疑で逮捕状を出した。拘束されている約2万5000人の民間人に、子供は含まれていない。ロシア領に連れ去られた子供は「確認されただけで1万9546人」という。
「国際人道法はロシアのような侵略国にとって単なる紙切れだ。ロシアが占領地で好き勝手に振る舞うことを誰も止めることができない」。ルビネツ氏はこう嘆き、「今日の世界で生命や人権を守るには、自らが強くあること、自国ないしは同盟国が強力な軍隊を持つこと以外に方法がない」と力説した。
ルビネツ氏は、民間人でない軍事捕虜の処遇についても、「解放されたウクライナ人捕虜の体重が数十キロも減っているなど、露収容所での危機的状況は明らかだ。拷問が横行している」とロシアを非難。「ジュネーブ諸条約で捕虜の救援を担うとされている赤十字国際委員会(ICRC)はロシアの収容所を訪問できていない」とし、ICRCの権限や活動のあり方にも強く疑問を呈した。
軍事捕虜についてはジュネーブ諸条約で処遇が詳細に規定され、紛争終結後には帰還させることが定められている。ロシアとウクライナの間では軍事捕虜交換の交渉ルートもある。しかし、ウクライナは露民間人を拉致・拘束しておらず、民間人解放に関する交渉はきわめて難しいという。
ウクライナがこれまでに捕虜交換などで帰還させた人は2576人で、このうち民間人は144人にとどまっている。
「今、世界に問われているのは侵略を止め、侵略に対応する効果的なメカニズムを見いだせるかどうかだ。それができなければ、ウクライナで起きていることが次は別の場所で起きてしまう」とルビネツ氏は訴えた。

 

●中国が異例のロシア批判−観光客の入国拒否、対応「野蛮」と主張 8/7
モスクワの中国大使館は、中国人観光客がカザフスタン経由でロシアに入国しようとしたところ4時間にわたる事情聴取を受け入国を拒否されたとし、ロシア側の対応を「野蛮」だと非難した。
同大使館は4日、「ロシアの野蛮かつ過剰な法執行は中国国民の合法的な権利と利益を著しく侵害している」と中国のソーシャルメディア、微信(ウィーチャット)に投稿した。
在ロシア中国大使館によると、7月29日にカザフスタンからロシア入りしようとしていた中国人5人が国境検問所で「4時間にわたって繰り返し事情を聴かれた」という。5人の入国は拒否され、観光ビザ(査証)も取り消されたと同大使館は説明した。
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は昨年2月、「無制限」の友好関係をうたっており、中国によるロシア批判は異例。中国はロシアのウクライナ侵攻を巡りプーチン大統領を非難していない。
同大使館はこの問題に関与した人物から提供された動画を確認した後、ロシアの外務省と連邦保安局、連邦国境警備隊に抗議したとしている。
中国大使館によるロシア批判の数日前、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音」に100万人近いフォロワーを持つ中国人インフルエンサーが、ロシア・カザフ国境の検問所での出来事を捉えた動画を投稿していた。
●語られない「台湾有事」 ロシアの重要な立ち位置、「漁夫の利」を得るかも 8/7
台湾有事が議論される際にロシアの名前が挙がるのはめずらしいことではない。2022年2月にロシアがウクライナを侵攻して以来、西側と日本の専門家の多くは、中国が台湾に対して同様の”暴力的行動”を取るかどうかを検討してきた。
ロシアによるウクライナ侵攻は、台湾に対する中国の行動についていくつかの教訓を与えている。しかし、ロシアは別の点でも台湾有事に関連している。ロシアは中国との緊密なパートナーシップにより、台湾有事に直接巻き込まれる可能性もある。中国による台湾への軍事侵攻を研究するほとんどのシミュレーションでは、ロシアの役割は考慮されていない。これは見落としだ。
ますます緊密になっている露中関係
ロシアと中国の関係は、ほぼ四半世紀にわたって着実に緊密になってきている。転機となったのは、1989年のミハイル・ゴルバチョフソ連共産党書記長(当時)の中国訪問だった。
この首脳会議は、冷戦時代の共産主義大国間の緊迫を終わらせた。ソ連崩壊後、ロシアと中国は1996年に戦略的パートナーシップを発表。2001年に中露善隣友好協力条約に署名し、2004年には二国間領土問題を解決した。
ロシアのウクライナ侵攻により、この傾向は加速した。2014年のクリミア併合の結果、ロシアは西側諸国から孤立し、結果的にロシアの中国への政治的、経済的依存は増大した。
この傾向の「頂点」は、2022年2月のプーチン大統領の北京訪問だった。首脳会談では、プーチン大統領と習近平国家主席は「ロシアと中国の関係は冷戦時代の政治的・軍事的同盟よりも優れている」という主張を盛り込んだ共同声明に署名した。声明はさらに、「両国間の友好は無限であり、協力の禁止された分野はない」とも述べている。
日本を含む地域諸国にとって最も懸念される点は、中国とロシアの軍事協力の深化である。ロシアと中国は2005年に初の軍事演習を実施し、その後 20年間で演習の規模は着実に拡大し、頻度も増加してきた。さらに近年両国は、演習中の共同作戦を促進するため、臨時の合同司令部を立ち上げるようになった。
過去にロシア政府は、中国への最先端兵器の販売を拒否した。しかしクリミア併合後、ロシアは心変わりし、S-400対空ミサイルとSU-35戦闘機の中国への輸出に同意。現在、ロシアと中国はいくつかの共同軍事生産プロジェクトを進めているが、この中には重量物輸送ヘリコプターと通常動力潜水艦の共同開発が含まれる。
また、両国は人工知能と宇宙の分野でも協力しており、ロシアはさらに、中国の弾道ミサイル発射を検知する早期警戒システムの開発を支援しており、これにより中国の核抑止力が強化される。
ロシアの対台立場
ロシア政府の台湾に対する立場は単純かつ首尾一貫している。中華人民共和国を最初に正式に承認した国はソビエト連邦だった。これは中華人民共和国が設立された翌日の 1949年10月2日のことだ。10月3日、ソ連は台湾に逃げた中華民国政権との中ソ友好同盟条約を破り、関係を全部断った。1950年代、ロシア政府はアメリカ軍全員の台湾からの撤退を求めた。
ソ連崩壊後、ロシア政府は「1つの中国」という政策を維持した。ロシア連邦の正式な立場によれば、中華人民共和国政府は中国を代表する唯一の合法的な政府であり、台湾は中国の不可欠な一部である。さらにロシアは、2005年に中国政府が導入した反分裂国家法への支持を表明した。この法律は、中国政府が台湾の独立を阻止するために非平和的手段を用いることを認めている。
2022年2月の露中共同声明ではロシアの中国政府への支持を改めて表明しており、この文書では、ロシアと中国は「核心的利益の保護のための強力な相互支援を再確認する」と述べている。中国政府にとって、台湾より重要な核心的利益はない。
ロシアと台湾の関係はけっして温かいものではなかったが、ウクライナ侵攻以降、さらに冷え込んだ。台湾政府はウクライナ侵攻直後、経済制裁を導入し、ロシアが半導体を含む台湾の先端技術を軍事目的で使用することを防いでいる。ロシア政府は報復として台湾を非友好国・地域のリストに加えた。
また、2023年7月には、台湾政府が最近退役したホーク地対空ミサイルをアメリカに売り返す意向であると報じられた。その後、アメリカはこの兵器をウクライナに供与することになる。台湾のコメンテーターで元政治家の郭正亮氏は、もしこれらのミサイルがロシア航空機を撃墜すれば、ロシアは台湾に対して報復しようとするだろうと警告した。
消極的なアシスタント? 
中国が本当に台湾を侵攻した場合、ロシアは中国にとって有益な軍事力を持っている。ロシア陸軍はウクライナ戦争によって大幅に弱体化したが、ロシア空軍と海軍は比較的影響を受けていない。
理論的には、ロシアの飛行機や艦艇が侵攻の第一段階となる台湾への大規模攻撃に参加する可能性がある。この最初の攻撃の目的は、台湾の防衛能力を破壊し、中国の水陸両用強襲部隊に道を開くことである。
2019年、中国とロシアの爆撃機が日本海と東シナ海の上で定期的な共同飛行を開始した。6回目となる最新の共同飛行は今年6月に行われた。ロシアと中国の海軍も東アジアで頻繁に演習を実施している。
例えば、ロシアの太平洋艦隊は、7月20日に日本海で始まった中国主導の演習に艦船と航空機を派遣。中国国防省によると、この演習は「さまざまな安全保障上のチャレンジに対処する際に、地域の平和と安定を共同で守る両国の能力を強化する」ことを目的としている。
6月下旬にはロシア海軍のフリゲート艦2隻が、台湾と日本の与那国島の間の海峡を通過した。中国の李尚福国防相は、4月にモスクワを訪問した際、プーチン大統領がロシアの太平洋艦隊について「艦隊の個々の部隊は確かにあらゆる方向の紛争に使用される可能性がある」と述べている。
プーチン政権は、ロシアが中国にとって重要なパートナーであり、インド太平洋地域にも影響力を持っていることを示したいのだろう。だが、実際にはロシアが中国に加勢する可能性は高くない。これは軍事的な問題ではなく、政治的意思の欠如によるものだ。
台湾有事はロシアにとって「いい流れ」
とはいえ、ロシアでは多くの政治アナリストが、台湾有事はロシアにとって「いい流れになる」と考えている。中国が侵攻すれば、世界の注目はウクライナから台湾に移るだろう。
特に、アメリカが台湾の防衛に時間と軍事資源を追加で割り当てなければならない場合、ウクライナに対するアメリカの支援は減少するだろうとの望みがある。西側兵器の供給が減れば、ウクライナ政府はロシアによるウクライナ領土の占領を認める和平協定の受け入れを余儀なくされる可能性がある。
ロシアは台湾有事に直接関与しなくてもこの利点を享受できる。したがって、ロシア政府が積極的に軍事参加したい理由はない。ロシアと中国は同盟国ではないため、中国本土が攻撃されてもロシアが助ける必要はない。そしてもちろん、ロシア軍はウクライナでの「特別軍事作戦」が続くのと同時にもう1つの戦争に巻き込まれることを望んでいない。
したがって、中国が台湾に侵攻した場合、ロシア政府は傍観し、正式には中立の立場を取るつもりだろう。ロシアはある程度の外交的支持を表明し、国連で中国の侵攻を批判しようとする西側の姿勢に対抗すると思われる。
今の中国と同じ「スタンス」に
プーチン政権は、戦争がアメリカによって引き起こされたという中国のプロパガンダを繰り返すだろう。また、自らを責任ある国際プレーヤーであるというイメージを作るよう試み、中国に有利な場合でも即時停戦を要求するのではないか。言い換えれば、台湾危機に対してロシア政府が取りたい立場は、ウクライナ戦争に対する中国の立場と同様になるにと予想される。
しかし、中国はロシアに対して、はるかに大きな影響力を持っている。ウクライナ侵攻開始後、プーチン政権は中国に対し武器供与などのより直接的な支援を求めていたが、ロシアには中国に政策変更を強制するほどの影響力がなかった。
近年、西側諸国から孤立するロシアは、中国への依存度を着実に高めている。中国はロシアにとって最も重要な経済パートナーである。2022年には中国がロシアの輸出の30%、ロシアの輸入の40%を占めた。第2次世界大戦後はソ連が「兄」の役割を果たしたが、現在、ロシアの立場は中国よりはるかに弱い。
これまで中国政府はロシアを同等の地位の国として扱い、より大きな影響力をあまり行使していない。台湾危機の場合はこれが変わるだろう。たとえロシアが参加したくなくとも、中国は経済的圧力を利用してロシア政府に中国を支援する行動をとらせるだろう。
最も可能性の高いシナリオは、台湾侵攻と同時に、中国がロシアに日本の北方への軍事行動をとるよう圧力をかけるというものだ。
これには大規模な軍事演習やミサイル発射も含まれるだろう。ロシアの軍用機や軍艦が日本の領空や領海に侵入する可能性がある。ロシアが日本の民間船を沈没させる可能性さえ排除できない。もちろん、ロシア政府は同船がロシア領海に不法侵入したと主張するだろう。
これはロシアの台湾攻撃を意味するものではないが、こうした行動は中国にとって非常に重要となる。中国の台湾侵攻の成否は、双方が展開できる船舶、潜水艦、航空機の数に依存する。
中国の侵攻を確実に「失敗」させるには
中国の侵攻を確実に食い止めるには、台湾、アメリカの軍隊は、中国が台湾に主要な橋頭堡を築く前に、中国の侵攻艦隊を破壊しなければならない。
日本の自衛隊もこの紛争で重要な役割を果たす。台湾侵攻時、中国は日本周辺でアメリカ軍の艦艇や航空機を攻撃し、在日基地をミサイル攻撃する可能性がとても高く、日本の直接参加は避けられなくなる。しかし、ロシアの挑発に応じて一部の艦艇や航空機が北方に派遣された場合、中国の侵攻艦隊を破壊する目的の達成はさらに困難になる。
重要な点は、たとえプーチン政権が台湾有事にかかわりたくないとしても、ロシアが中国のアシスタントになる可能性があるということだ。ロシアの役割は台湾有事の結末に決定的な影響を与える可能性があるため、中国侵攻のシミュレーションの中でロシアの潜在的な役割も適切に研究することが不可欠である。
●ゼレンスキーの絶望。世界中からウクライナに向けられる「停戦圧力」 8/7
ゼレンスキーに向けられる停戦圧力。ウクライナ戦争の落としどころ
「今年末までには、何とか停戦、または休戦に持って行くというプレッシャーが至る所でかかってきている」
ウィーンでお目にかかることになったいろいろな専門家や、調停グループの仲間たちからこのような分析を示されました。
「いつまでもこの戦争を継続させることはできない。欧州では経済的なスランプと物価高が国民生活を脅かしているし、アフリカやアジア、そしてラテンアメリカの国々における食糧・エネルギー資源の危機が、もう持続不可能なレベルにまで迫っている。そして何よりも、欧州各国、特に中東欧諸国内で巻き起こっているウクライナからの避難民に対する反感の高まりは危険なレベルに達しており、国内での政情不安につながりかねない事態になってきている」
さまざまな利害を持つグループが入り混じった会合でシェアされた分析です。
ロシアの関係者に聞くと「そらみたことか。これは欧米諸国が自ら作り出した問題だ」という反応でした。
ウクライナの関係者については、「ウクライナからの避難民に対する反感については、実際に耳にしており、非常に懸念している。ただこればロシアの蛮行が作り出した事態であり、我々は被害者だ」という反応が返ってきました。
ここで言われる【ウクライナからの避難民に対する反感の増大】ですが、さらに分析を深めてみると、どうもこのようなことみたいです。
「ウクライナから国外に逃げることが出来た人たちは、逃げることが出来るだけの財産・余裕があるものたちだ。それなのに中東欧諸国の政府はイメージづくりなのかわからないが、彼ら・彼女たちに対して社会サービスを無償で、優先的に与えている。このことで各国の社会福祉システムがおかしくなり、教育現場もおかしなことになってきている。各国の財政はひっ迫し始め、その煽りが、本来国内で社会支援が必要な層に転嫁されている。このことに対する反感の増大は、もう抑えきれないレベルにまで達しており、中東欧諸国での政情不安につながる恐れがある」
とのこと。実際に、今、滞在しているオーストリア・ウィーンでも対ウクライナ避難民に対する特別措置が講じられており、昨夜、お話ししたオーストリア政府の関係者からも、その制度の危険性が言及される状況になっています。
オーストリア政府関係者も、中東欧諸国の政府関係者も国内でこの問題が大きくなり始めていることに気づきつつも、なかなか他に先駆けて“一抜けた”ができないと言っていましたが、「近く限界が来るだろう」とも言っていました。
そのような中で一刻も早い停戦または休戦に向けた圧力がアメリカだけでなく、欧州でも強まっています。
それぞれの背景には国内政治事情が大きく絡んでいますが、少し事情の内容が異なり、またその“圧力”も一方向ではないようです。
終戦ではなくあくまで「一時停戦」を求めるアメリカ
アメリカについては、先日もお話ししましたが、来年秋の大統領選挙に向けて、ウクライナへの支援とロシアとの対峙が議論の大きなテーマになっています。民主党側としては、大盤振る舞いでウクライナ支援を行い、他のNATO諸国とは比較にならないほどの規模で軍事支援を実施してきましたが、予想以上に苦戦しており、国内でも「これ以上の支援は…」という声が大きくなってきていることに神経をとがらせているようです。
実際にバーンズCIA長官がキーウ訪問した際に、ゼレンスキー大統領に秋ごろまでには停戦に向けた動きを始めたいというアメリカ政府の意向を伝えていますし、最近はオースティン国防長官が「年末、遅くとも来年春までには反転攻勢で成果を上げ、停戦に向けた協議を本格化する必要がある」と発言しています。
大統領選との兼ね合いで何らかの“成果”をアピールする必要があるという、ウクライナの国内事情とは全く別の次元でのお話しなのですが、日に日にウクライナは最大の後ろ盾であるアメリカ政府からも圧力をかけられるようになってきます。
ただ、アメリカ国内には、軍需産業の大躍進が国内経済を引っ張っているということもあり、戦争が終わってしまうことに後ろ向きな勢力もあり、現在、政府が口にする“停戦”は一時的なものという見方が優勢です。
分けて考える必要のある欧州各国の思惑
では欧州各国はどうでしょうか?ここでは先ほどお話しした中東欧諸国と、フランス・ドイツ・イタリア・英国などの西欧グループ、そしてバルト三国や北欧諸国を分けてみる必要があります。
中東欧諸国とバルト三国については、常に“ロシアの次のターゲット”と言われ、同時にウクライナからの避難民受け入れに絡んで国内での圧力が増大している事情があります。
ロシアにシンパシーが強いハンガリーのオルバン政権は、国内で増大するウクライナからの避難民に対するネガティブイメージを非常に気にし、停戦(または休戦)が成立したら、ウクライナからの避難民を送り返したいという意図があるとのことです。
バルト三国については、プーチン大統領からは“典型的な裏切り者”というレッテルを貼られており、戦況がロシアに有利に傾くようなことがあり、かつウクライナに対するNATOからの支援が滞るような事態になった場合、自国がロシアのターゲットになり得ることを感じていて、それを防ぐには一刻も早く戦況の“凍結”が必要という意見のようです。
同様の思いはポーランドもシェアしており、NATOメンバーではありませんが、ウクライナの隣国モルドバも同様のようです。
北欧については、フィンランドとスウェーデンの加盟をもって、すべての国がNATO陣営に入ることになりますが、核兵器の傘に比較的寛容なスウェーデンの姿勢に比べ、先に加盟を果たしたフィンランドは、ロシアからの侵略の際に孤立することがないようにしたいというのが加盟の最大の理由であり、核の傘というNATOの軍事同盟にある性格に対しては賛同しないという姿勢を取っているという温度差が存在します。現時点で両国ともNATO、特にアメリカの核兵器を国内に配備することは求めておらず、NATOのメンバーになった今も、ロシアに近接または隣接する国として、デリケートなバランスをロシアに対して取ろうとしている姿勢が見えます。その側面からも早期の停戦に向けた動きが望ましいとの見解を持っています。
では、対ウクライナ軍事支援を行っている西欧諸国はどうでしょうか?これらの国々については、アメリカと類似する国内政治事情が背後にありますが、その主な理由は経済的なスランプと物価高と言われています。アメリカに比べると、ロシアとの物理的な距離も近く、北欧や中東欧諸国ほどではないにせよ、直接的な安全保障上の脅威も感じており、一旦、情勢をリセットし、態勢の立て直しを図りたいという意図があります。
2つしか残されていないウクライナが選択しうるオプション
そのような圧力を受けて、ウクライナはどう動くのでしょうか?
欧米諸国からの停戦に向けてのプレッシャーを感じる中で選択しうるオプションは、実はあまりなく、実質的には反転攻勢のレベルアップとスケジュールの前倒ししかありません。
先のNATO首脳会議でのバイデン米大統領のアメリカによるF16のパイロット飛行訓練への不参加の表明は、これまでにF16の供与と飛行訓練の実施を表明していたオランダや英国のやる気をそぐことにつながり、これによってF16の投入が遅れることになると、戦場における制空権の掌握という戦略は有名無実化することとなります。
反転攻勢を進め、停戦交渉において有利な条件を得るためには、これまで行ってきた無人ドローンによる攻撃やNATO諸国の戦車をはじめとする地上戦力の投入の度合いを高めることが必要になりますが、これではロシアによる精密誘導ミサイルによるインフラへの攻撃を防ぐことは出来ず、戦況の大きな転換は見込めません。
近々アメリカがエイブラハム戦車を供与し、9月には実戦に投入するというお話もありますが、それが結果を好転させるか否かは、ウクライナ兵のエイブラハム戦車の操縦熟練度の度合いと、ロシアによる攻勢の度合いおよび投入される兵器と戦力との微妙なバランスにかかってくることになります。
兵器が一気に最新鋭のものに変わりはじめたロシア
ではロシア側はどうでしょうか?
プリコジン・ワグネルの乱をきっかけに政府内・ロシア軍内の統制が崩れ、プーチン大統領の権力基盤の著しい悪化を印象付けようとする試みはありますが、入ってくる情報や分析からは、正直なところ、よくわかりません。
ただ、投入され、使用される兵器が一気に最新鋭のものに変わりはじめ、これまで以上に精密誘導ミサイルや無人ドローンで多数の都市を同時に攻撃する戦略に変わりだしていることは、いろいろな見解を生み出します。
それは「当初、古く廃棄処分にするほどの兵器を投入するだけでも十分に成果を出すことが出来ると考えていたが、ウクライナの反攻が想定外に強く、またNATOからの最新鋭に近い兵器が投入され始めたことに焦り、ロシアも本当は温存したかった最新鋭の兵器を投入せざるを得ない」という焦りからくる変化なのか。それとも「予定されていた作戦の一環で、ウクライナ侵攻における攻撃のグレードを上げた“だけ”」なのか。
その“答え”は、今後、考えられる落としどころの性質を変えることになります。
相手がなかなか負けないことに苛立ちが募り、かつ厭戦機運が広まってきているのは、ロシア国内もウクライナ国内も同じですし、それらを支える国々も程度の差こそありますが、同じです。
「負けることはできないが、一刻も早くこの戦争を終わらせたい」という想いは共通です。
国際交渉人が定義する停戦・休戦・終戦
ではどのような形式で“戦争を終える”のでしょうか。
停戦(cease fire)なのか?休戦(armistice・truce)なのか?
停戦は一般的に軍が前線に対して「戦闘行為の停止」を命じて攻撃を止めるという段階と定義されており、戦争は終わっていません。「とりあえず一旦戦いを停止して、落としどころを探ろう」と双方が合意することが出来れば、私などの調停人が関わる停戦協議になります。
そこで当事者同士(政府や組織)が停戦に合意し、戦闘状態を一旦終わらせるのが休戦と定義できます。ちなみにまだ休戦の段階では戦争は終わっておらず、いつ何時、戦争が再開されるか分かりません。実例では、1953年7月27日に休戦協定が結ばれた朝鮮戦争があり、協定では北緯38度線で両軍が対峙したまま、現在に至るまで完全な和平には至らず、終戦の時を迎えていません。
そして当事者間(今回の場合は、ロシアとウクライナ)が、平和条約を締結することで戦争を公式に終結させ、国交を回復することが終戦と定義でき、将来にわたる相互侵略を禁じる不戦条約を含むことも多くあります。
この3つの状態は、実際には曖昧な形で表現されることが多いように思いますが、個人的にはこのように定義して、実際の調停に臨んでいます。
いち早く休戦状態に持ち込みたい欧米各国
では、今回のロシア・ウクライナ戦争はどうでしょうか?
ロシア・ウクライナという当事者間と、“当事者”になろうとするアメリカ、中国、NATO各国(この場合、想定されるのはNATOではなく、英仏独イタリアなどだと考えられる)、そしてUNが関係者として協議に関わることになると思われますが、「船頭多くして船山に上る」ということわざがあるように、それぞれの思惑が交錯することで、協議はかなり難航することが容易に予想できます。
一番現実的なのは【(一時)停戦】で、これはアメリカ政府が水面下でウクライナ政府に求めている形式です。
この場合、「一旦戦闘を止めて、相互に頭を冷やす」という目的がありますが、ほとんどの場合、休戦協定や平和条約のように、領土的な合意などは含まれず、ただ戦闘状態を一旦停止する“だけ”という性格と考えられます。
この場合、アメリカや中国などの両サイドの背後にいる国々は何らかの口出しをしがちですが、実際に表に出てきて当事者になることは避ける傾向が強いと思われます。
そしてまた、私のような調停人が直に関わることが稀な段階とも考えられますが、私は時折、この段階から呼ばれることも多く、調停グループも停戦の手助け・仲介を行う準備をしています。
ただこの停戦状態は、私たちがニュースでもよく見聞きするように、偶発的な戦闘や小競り合いを機に破れ、戦争の激化につながることも多く、今回のロシア・ウクライナ戦争でも何度となく“停戦”が試行されていますが、これまでのところ機能していません。
今、国内の政治事情、アメリカの場合は来年の大統領選挙に向けて何らかの“成果”をアピールしたいという狙いから、ウクライナに“停戦”を要請していますが、それをウクライナが受け入れるかも分かりませんし、ロシアが受け入れるかどうかも見えません。
今のところ「できれば年内に、遅くとも来春までに、一旦停戦することを求める」という要求がアメリカからウクライナ、そして水面下でロシアにも届いていますが、先ほども触れたように、その見通しは明るいとは言えません。
唯一、動くとしたら、ロシア・ウクライナが戦争疲れしていて、一旦、態勢の立て直しを図りたいと“同時期に”感じるという条件が満たされる場合になりますが、いろいろと入ってくる分析を見ても、その可能性はあまり高いとは思えません。
ただ最近の話し合いの中で「休戦を目指すべき」という考えが頻繁に出てきています。
休戦となると、先ほど定義したように何らかの合意が当事者間で成り立ち、戦闘状態を半永久的に停止することになりますが、ロシア・ウクライナという交戦当事者はもちろんですが、他に誰が当事者・関係者、協定の実施者になるのかは非常にもめることになります。
あり得る構成としては、ロシア、ウクライナ、米国、中国、UN、英・仏・独・伊の欧州各国、NATO、そしてトルコが考えられますが、恐らくバランスの不均衡が問題になると思われます(ちょっと欧米側に偏りすぎとの指摘)。
戦争疲れを経験し、国内からの突き上げを受けている欧米各国にとっては、いち早くこの休戦状態に持ち込みたいという想いがあり、ロシアもウクライナも「お互いの顔を見たくもない」といいつつも、“条件が満たされれば”協議を進めることは否定していません。
休戦を唯一可能にする「ゼレンスキーの失脚」
ただこの時の“条件”が大きな問題で、提示されている内容はかなり乖離しており、それぞれの主張の強さに鑑みると、かなり実現は困難だと思われます。
イメージしていただきやすいように例示しますと「朝鮮戦争の休戦協定で定めた北緯38度線のような両陣営の分離線を、今回のケースでどこに引くのか」という問題です。
ウクライナにとっては「2014年のクリミア半島を含むすべてのウクライナ国土の回復」が条件ですから、“独立”当時のウクライナ国境線の確保であり、それはクリミア半島、ウクライナ東南部4州の回復がラインとなります。
ロシアにとっては、クリミアはすでにロシアに編入された(取り戻した)デフォルトのラインであり、今回、編入に“合意”したウクライナの東南部の保持の承認がラインと考えられます。
最近の外野の皆さんが推す内容は、実はロシアの側の要求に近い内容で、休戦時点の状況・現実で凍結することで休戦、可能であれば終戦に持ち込みたいという意見をよく耳にするようになりました。
先日のNATO首脳会議の際に“ウクライナのNATO加盟の是非”が話題に上りましたが、NATO側は「停戦・休戦状態の存在」を条件にして、現時点では加盟協議も時期尚早との結論を出している背景には、先に挙げたような停戦・休戦へのプッシュ・圧力が存在しているようです。
ゆえにゼレンスキー大統領がSNSで表明した“失望(どちらかというと絶望に近い)”に繋がり、ウクライナはNATO各国からの軍事支援を継続的に受けつつも、自国の運命を他国に委ねさせられているという感触を受け、ウクライナ国内でのナショナリスト勢力や親ロシア勢力からの攻撃に晒される現状に絶望していると思われます。
今週、調停グループのメンバーや様々な関係者と話した内容では、「現時点での休戦は、条件の乖離の問題があるため、実質的には実現不可能と言える。ロシア側は侵略した側だが、じわりじわりとウクライナ領を手中に収めていることに変わりはなく、この状況を認めさせることを絶対条件に挙げてくる。または、状態を表す表現を変えて領土の拡大を永久化する狙いを打ち出してくることも考えられる。ウクライナ側はもちろんそれを受け入れることは出来ず、全土回復以外の内容から1ミリでも妥協することがあれば、ゼレンスキー大統領は国内勢力によって追いやられることになる」
「ただ、唯一、休戦が可能になる場合があるとしたら、戦争の結果に関わらず、ゼレンスキー大統領がウクライナ国内で力を失い、ウクライナの中で親ロシア政権が打ち立てられる場合だが、それは例えが悪いが、今のベラルーシとよく似た状態で、実際にウクライナは失われることになる」
「しかし、ゼレンスキー大統領の追放の結果、ウクライナのナショナリスト勢力が実権を握るようなことになったら、この戦争はさらに泥沼化し、血で血を洗うような凄惨な終わりなき戦いに突入することとなるだろう」という見解が“シェア”されました。
ウィーンにおいていろいろな話ができた結果、これまでとは違った見解と分析に触れることが出来たのはとても良かったのですが、非常に複雑に絡み合った困難な問題にどっぷりと首を突っ込むことになってしまい、調停スタンスと内容について、再検討を要することがよくわかりました。
水面下の折衝で意味ある働きを見せる日本
「この戦争はいつ終わるのか?」
答えがなかなか見つからない問いですが、この“戦争の終わり”を私たちはどのような定義と意味で語るのかによって、その答えの内容が大きく変わり、異なることを自覚しておく必要があると感じます。
ちなみに停戦・休戦に向けた当事者にあえて日本を加えていませんが、実際には報じられない水面下の折衝において、とても“意味のある”働きをされていることは、最後に申し添えておきたいと思います。
●ウクライナ、クリミアの橋を攻撃 本土のロシア占領地域結ぶ 8/7
ウクライナ軍は6日、南部クリミア半島と本土のロシア占領地域を結ぶ2本の橋を攻撃した。双方の当局者が明らかにした。
ロシアが2014年に一方的に併合したクリミアのロシア側トップは、同半島とウクライナ本土を結ぶ3本の道路の一つであるチョンガル橋がミサイル攻撃で破損したと述べた。ロシアが任命した別の当局者は、半島北部とヘルソン州ゲニチェスクを結ぶもう一つの橋も砲撃され、運転していた民間人が負傷したと述べた。
チョンガル橋はロシア軍がクリミアとその他の占領地域を行き来するために使用するルート上にあり、6月にもウクライナの攻撃を受けている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日のビデオ演説で、米国やドイツの防空システムが既に重要な結果をもたらしていると述べた。
ウクライナ軍はロシアがミサイル30発を発射し、48回の空爆を行ったと発表。民間人が死傷し、住宅や民間インフラに被害が出たと明らかにした。
ゼレンスキー氏は5日夜に東部ハリコフ州の前線から16キロほどのクピャンスクにある輸血施設に攻撃があったとし、戦争犯罪だと非難した。
一方、ロシアでは6日、首都モスクワのブヌコボ空港でフライトが一時停止された。ソビャニン市長はモスクワの南でドローン(無人機)が撃墜されたと明らかにした。モスクワへの無人機攻撃はここ1週間で3回目。
ロシア国防省は、ウクライナ西部リブネ州とフメリニツキー州、南部ザポロジエ州の軍事拠点への攻撃に成功したと発表。長距離兵器や海上精密兵器を使用し、全ての標的を無力化したという。
●ロシアの補給路、クリミアの橋2本を攻撃…英仏共同開発のストームシャドーか 8/7
ウクライナ軍は6日、ロシア軍が占領する南部ヘルソン州と、ロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミアを結ぶ2本の橋をミサイルで攻撃したと発表した。英仏が共同開発し、供与された長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われた模様だ。ウクライナによる反転攻勢の一環で露軍の前線への主要な補給ルートを狙った攻撃とみられる。
このうち、チョンハル橋は、6、7月に続いて3度目の攻撃となる。ロシアが一方的に任命したクリミアの「首長」によると、負傷者はいない。ヘニチェスク橋への攻撃では、橋を通行中の市民1人が負傷し、橋に並行して敷設されているガスのパイプラインも損壊したという。
露側のヘルソン州の「暫定知事」は、攻撃にはストームシャドーが使われたと主張した。ウクライナ軍は、陸路を標的としたミサイル攻撃に加えて、水上無人艇を使った攻撃も繰り返している。
6日、ウクライナ空軍の式典に出席したゼレンスキー大統領=ロイター6日、ウクライナ空軍の式典に出席したゼレンスキー大統領=ロイター
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、ウクライナ空軍の式典に出席し、兵士らとともに最新兵器や装備品を視察した。同日のビデオ演説で欧米から供与された地対空ミサイルシステム「パトリオット」が戦果を上げていると明かし、SNSには「供与された新しい防空システムや戦闘機はロシアのテロを打破する一歩になるだろう」と投稿した。
ウクライナ軍は同日、これまでロシアのミサイルや無人機など約3500の 飛翔ひしょう 体を撃墜したと発表。軍用機350機、ドローン2000機が含まれるという。
●ロシアのウクライナ領土「併合」、中国も不承認…侵略終結へ関係国会合 8/7
ロシアによるウクライナ侵略の終結に向けた道筋を模索する関係国の会合が5、6両日、サウジアラビアで開かれた。ロイター通信などは、ウクライナの主権と領土の一体性の尊重を和平の中核に据える方針で一致したと報じた。成果文書の発表は見送られたが、中国を含む参加国が、ロシアによるウクライナ領土の併合を承認しない原則的な立場を確認したことになる。
イタリア紙コリエレ・デラ・セラによると、ウクライナが昨年11月に提示した「10項目の和平案」の主要項目について協議する作業部会も設置される見通しとなった。ウクライナ大統領府の発表によると、会合にはオンラインを含め40か国以上が参加した。ウクライナの大統領府長官は「非常に生産的な協議だった」と意義を強調した一方で、「様々な意見の相違があった」との認識も示した。
ウクライナが露軍の全面撤退を前提とした自らの和平案に固執しない立場を示したほか、サウジなど複数の参加国が独自の和平案を提案したとの報道もある。会合は安全保障担当の高官や首脳の特使らが出席し、非公開だった。
日本からは山田重夫外務審議官が出席した。外務省によると、山田氏は、5月の先進7か国首脳会議(G7サミット)で主権と領土の尊重をうたった国連憲章の順守や力による現状変更への反対など四つの原則で一致したことを指摘。「これらの原則がウクライナにおける公正かつ永続的な平和の実現に向けた議論の土台になり得る」と訴えた。
●ウクライナ大統領府 サウジアラビアで開催の和平協議を評価 8/7
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、中東のサウジアラビアでウクライナが提唱する和平案について話し合う協議が開かれウクライナ大統領府は「国家の主権と領土保全の不可侵性を尊重することについて、各国が関与する意思を示した」などとして、評価する見解を発表しました。
ウクライナ南部へルソン州の親ロシア派のトップ、サリド氏は6日、SNSで、ロシアが一方的に併合している南部クリミアと、ヘルソン州のロシア側の支配地域を結ぶチョンハル橋がミサイル攻撃を受けたと明らかにしました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、SNSで、ロシア軍が東部ハルキウ州にある輸血センターを攻撃し、死傷者が出ているとしてロシアを非難しました。
こうした中サウジアラビア西部のジッダではG7=主要7か国のほか、インドやブラジルといったグローバル・サウスの国々の政府高官が出席する協議が6日までの2日間、開かれ、ロシア軍の撤退や領土の回復などウクライナが提唱する和平に向けた10項目について議論が行われました。
この形式の協議は2回目で、参加した国と国際機関はあわせて40以上とおよそ3倍に増え、中国も初めて参加しました。
協議について、ウクライナ大統領府は6日、参加した国や機関が増えたことは世界の関心の高さを示すものだとした上で「さまざまな見解が示されたが、国連憲章の原則や国際法、それに国家の主権と領土保全の不可侵性を尊重することについて、各国が関与する意思を示した」などとして、評価する見解を発表しました。
ウクライナは、今後、首脳級での協議も実現したいとしていることから、今回の協議を踏まえて、どこまで調整が進められるかが焦点となります。
●サウジアラビアでウクライナ和平会議を開催 8/7
サウジアラビアは8月5日、ウクライナや欧米諸国、中国、インドなど約40カ国の国家安全保障顧問や各国代表を西部の商業都市ジッダに招き、ウクライナ和平会議を開催した。同会議の開催見込みについては、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」が7月29日に報道していた。
サウジアラビア政府は、今回の会議が政治的・外交的手段を通じた紛争解決につながるよう、国際平和と安全保障を強化し、国際レベルでの意見交換や調整、検討によって対話と協力が促進されることを期待するとしている〔8月5日付サウジアラビア国営通信(SPA)〕。
今回の会議は、6月24日にデンマーク・コペンハーゲンで開催された会議に続くもので、世界経済に打撃を与えているウクライナ情勢の平和的終結に向け、ウクライナがグローバル・サウス(注1)の国々に働きかけ、支持を得ようとする外交的施策の1つだ。会議では、ウクライナが提案した10項目の和平合意案について議論をしたと報じられている(8月5日付「アラブ・ニュース」)。
今回の会議にロシアは招待されていない。デンマークでの前回会議への参加を見送った中国はサウジアラビアの招待に応じるかたちで参加し、他のBRICS(注2)諸国も、ロシアとの関係性を維持しつつも、今回の会議に参加した。ロシアは、同会議に参加したBRICS諸国と今回の協議結果について議論したいとの意向を示している(8月6日付「タス通信」)。
サウジアラビアは、ウクライナ情勢の初期段階から、ロシアとウクライナ両国間の仲裁役の1カ国として、積極的な動きを見せてきた。2023年5月にジッダで開催されたアラブ連盟首脳会議では、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領を招いた。
(注1)インドやインドネシア、南アフリカ共和国など、主に南半球に位置するアフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国・途上国の総称。(注2)ブラジル、ロシア、インド、中国、南アの5カ国で構成する新興国のグループ。
●イラン外相「ロシアは重要な近隣国 貿易分野などで協力関係」 8/7
日本を訪れているイランのアブドラヒアン外相は、ロシアとの関係について「重要な近隣国であり、貿易分野などで協力関係にある」と述べ、欧米などからともに制裁を受けるなか、ロシアと経済的な取り引きを活発化させたい考えを示しました。
イランのアブドラヒアン外相は7日午前、都内のイラン大使館で記者会見を行いました。
このなかで「ロシアはイランにとって重要な近隣国だ。ロシアとは貿易、経済、観光などさまざまな分野で協力関係にある」と述べ、欧米などからともに制裁を受けるなか、ロシアと経済的な取り引きを活発化させたい考えを示しました。
一方、イランがウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに無人機などを供与していると指摘されていることについて、「われわれはウクライナの戦争でロシア側にイラン製の無人機や兵器を供与したことは一度もない」と主張したほか、「欧米によるウクライナへの兵器供与こそが、さらなる殺りくと破壊をもたらしている」と述べ、欧米各国によるウクライナへの軍事支援を非難しました。
イランは先月、ロシアや中国が主導する上海協力機構への正式加盟が認められていて、アブドラヒアン外相は「中国とは2国間関係だけでなく国際的な枠組みでも協力をしている」と述べるなど、イラン政府としては、アメリカなどと対立を深めるロシアや中国との関係を強化する姿勢を鮮明にしています。 
●「9割得票で来年再選」 プーチン氏報道官、前のめり発言―ロシア 8/7
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は6日、ロシアのペスコフ大統領報道官が「プーチン大統領は来年、得票率90%以上で再選されるだろう」と述べたと伝えた。大統領選はウクライナ侵攻が続いても来年3月に行われる見通し。プーチン氏本人は出馬を明言していないが、政権高官が前のめりに語った。
ペスコフ氏はこの報道後、自国メディアに対し「タイムズ紙が誤って伝えた」部分があると一部を否定しながらも「プーチン氏の圧勝は明白だ」と、おおむね同様の説明を繰り返した。
このうちロシア紙RBK(電子版)によると、ペスコフ氏は再選について「プーチン氏を中心とした社会統合のレベルの高さに鑑み、個人的に確信している」と指摘。「(選挙は)民主主義の要請と大統領の決定で実施するが、理論的には行わなくていいほどだ」と持論を展開した。
ペスコフ氏は、タイムズ紙が報じた「得票率90%以上」の発言に関し、自国メディアに認めていない。独立系メディア「メドゥーザ」は7月、当局者の話として「得票率80%超」という政権の目標を伝えていた。
政権に従順な左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首は、早くも2月時点で「最も正しい愛国的な決定」として、大統領選でのプーチン氏支持を打ち出した。だが、今回は政権中枢の大統領報道官が、出馬を前提に見解を表明した点が異例だ。
プーチン氏は自国内で「戦時大統領」として支持率が安定し、ウクライナ軍の反転攻勢や民間軍事会社ワグネルの反乱による悪影響も、今のところ最小限にとどまっている。本人の出馬表明は、今年秋になるのではないかとささやかれる。政権は反体制派だけでなく、批判的な保守派も拘束するなどして国内の引き締めを図り、プーチン氏「独り勝ち」への布石を打っている。
●ロシア、企業に超過利潤税導入 プーチン氏が法案に署名 8/7
ロシア政府は4日、プーチン大統領が国内企業に超過利潤税を導入する法案に署名したと発表した。
議会で先月可決された同法案は、3000億ルーブルの税収が見込まれ、ウクライナ戦争が重しとなっている予算状況を改善するのが狙いという。
ロイターは同日、今年の国防予算を9兆7000億ルーブル(1050億ドル)に倍増したと報じた。国防予算は国家予算全体の3分の1を占めることになる。
超過利潤税の税率は、21/22年の企業利益と18/19年の利益の差額の10%。11月30日までに納税すれば50%の減免となる。
中小企業、石油、ガス、石炭会社など、免税対象の部門もある。
●「戦争当事国に加担せず」 対ロ無人機供与で反論 イラン外相 8/7
来日したイランのアブドラヒアン外相は7日、東京都内で記者会見し、ロシアによるウクライナ侵攻に関し「われわれは、いかなる戦争でも一方の当事国に加担はしない」と述べ、ロシアに対する軍事支援を否定した。
アブドラヒアン氏は、イランが防衛分野で高い技術力を誇り、関係が良好なロシアとも防衛協力に注力してきたと強調。一方で「イランのあらゆる防衛力は、イランの国家安全保障と中東の平和と安定のために使われている」と明言した。
欧米諸国は、イランが攻撃用ドローン供与を通じてウクライナ侵攻に肩入れしていると批判を強めている。アブドラヒアン氏は「いかなる国にも、ウクライナで使うためにドローンを供与したことはない」と主張。ウクライナ側との協議でイラン製ドローンがロシアへ提供された証拠を求めたが、いまだ提示されていないと指摘し、「根拠のない言い掛かりをやめるべきだ」と反発した。
●ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被害── 8/7
黒海でロシア軍のタンカーが無人艇に攻撃されるようすを捉えた動画がSNSに投稿され、話題になっている。この前日にもロシア軍の大型艦艇が無人艇の攻撃を受けている。
黒海でロシア軍の標的に対する攻撃が相次いでいるのは、ウクライナ軍がこの地域でより大規模な反転攻勢の地ならしをするためだと、米シンクタンクの戦争研究所は指摘する。「ウクライナ軍は、ロシアのより深くを攻撃し、海の標的も取り込んでいる」
ロシアは7月、ウクライナ産穀物の黒海経由での輸出に関する協定から離脱。それ以来、黒海周辺では双方の攻撃が激化している。
SNSに投稿された動画は、アゾフ海と黒海をつなぐケルチ海峡で、無人艇がロシアの石油・ケミカルタンカーを攻撃した際に撮影されたもの。この攻撃により、同海峡にかかるクリミア半島とロシアを結ぶ橋の通行は3時間にわたり遮断された。
ロシア当局は、タンカー「SIG」(乗員11人)が4日午後11時20分頃に攻撃を受けたと明らかにした。ウクライナの英字紙キーウ・ポストが報じたところでは、このタンカーはロシア軍部隊に燃料を補給する任務に就いており、ロシア軍が保有するタンカーの中でも性能はトップクラスだという。
動画は無人艇に搭載されたカメラで撮影されたもので、無人艇が水面ぎりぎりをタンカーに向けて急速に近づいていく様子が捉えられている。そして映像は衝突とともに消える。
この攻撃でタンカーは機関室近くの喫水線あたりに穴が開いた。ロシア当局はメッセージアプリのテレグラムで「無人艇攻撃の結果とみられるが、船は沈んではいない」と述べている。ロシアメディアの報道によれば攻撃によるけが人はおらず、石油の流出もないという。
前日には大型揚陸艇が攻撃で大破
英BBCはウクライナの公安当局者の話として、攻撃には無人艇が使われたと伝えている。一方でウクライナ保安局(SBU)のワシリ・マリュク長官は、ウクライナ側が攻撃を行ったかどうか明言は避けたが、そうした攻撃は「非常に論理的で」なおかつ「完全に合法的」だと述べた。
親ウクライナ派のX(元ツイッター)アカウント「ウォー・トランスレイティッド」はこの動画を「黒海におけるロシア軍タンカーに対する攻撃のすばらしい記録映像。当初は違法な橋に対する攻撃だと勘違いされた」というテキストとともに投稿した。
「確かにこの事案は他の(ロシア)軍艦艇にちょうど24時間前に起きた事案によって影が薄くなっているが、双方の事案の影響は大きい。ロシア艦艇が沈められるのはこれが最後だと信じる理由はどこにもない」
24時間前の事案というのは、ロシア海軍の大型揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」が、ロシア南部ノボロシスク付近で攻撃されたことを指している。ノボロシスクには大きなロシア軍の海軍基地があるほか、石油積み出し港としても知られる。
オレネゴルスキー・ゴルニャクは全長約110メートル、3600トンで、水陸両用部隊を運んでいる。ロシアの北方艦隊で運用されることが多いが、ウクライナ侵攻が始まってからは黒海艦隊で使われていた。
ウクライナの情報当局の話としてロイターが伝えたところでは、攻撃をしかけたのはウクライナ保安庁と海軍だ。イギリスの国防関係者によれば、昨年4月13日に巡洋艦モスクワが撃沈されて以降、深刻な被害を受けたり破壊されたロシア海軍の艦艇としては、オレネゴルスキー・ゴルニャクは最大級のものだという。
セキュリティ企業S-RMの企業情報部門を率いるマーティン・デベニシュは本誌に対し、今回の攻撃はロシアの石油インフラに対する初の軍事攻撃だが、「市場を大きく揺るがす可能性は低い」と語った。
また、ロシアは受けた被害を小さく見せようとしつつ、同時に軍事作戦の継続の正当化を再び訴え始めるだろうとデベニシュは考える。
「標的の種類が目に見えて変わることはたぶんないだろう。たとえロシアが報復として、攻撃の回数や規模を一時的に増やしたとしてもだ」とデベニシュは述べた。
4日、ウクライナ海軍は、ロシア側の黒海のノボロシスクやソチなどの港周辺の6つの海域は「戦争リスク」エリアだと宣言した。将来的に攻撃の対象となりうるという警告とみられる。
前日の3日にはロシア国防省が、黒海において哨戒艇2隻に対するウクライナによるドローン攻撃を阻止したと発表した。2隻は黒海艦隊の本拠地セバストポリから約330キロ南西を航行中だったという。
ロシア軍はウクライナからの海上輸送を妨害すべく海上封鎖を新たに行おうとしている。ロシアはウクライナ南部の港湾都市オデーサを含む広い地域を攻撃、食糧関連の施設も被害に遭っている。
●危機に瀕するウクライナ。長期の消耗戦へ突入でロシアに傾く戦況 8/7
ウ軍・ロ軍ともに消耗戦に突入
ウ軍は、諸兵科連合作戦が行えないようである。ウ軍の下士官の多くがロシア式の訓練を受けているので、諸兵科連合作戦の指揮ができずに、欧米で訓練してきた兵員のいうことが理解できないようで、作戦実行が無理のようだ。このため、ロ軍と同様な消耗戦での戦い方になっている。砲兵戦で、敵の砲兵を叩き、その後、敵陣地の砲撃を行い、その後地上部隊を前進させて、敵陣地を攻略する手法である。ロ軍は、砲兵戦で負けて、砲撃での敵陣地の消耗ができないことで、航空攻撃にシフトして敵陣地への空爆を行い、その後地方部隊を突入させる方向になっている。ロ軍には誘導弾もないので、無誘導弾での空爆になり、低空飛行を行っている。もし、スティンガーがあれば、撃ち落せするが、東部戦線にスティンガー携帯ミサイルが配備されていないようである。どちらも消耗戦へのスタイルになってきた。ウ軍に機甲部隊の電撃戦を期待したが、それはできないことになっている。
クピャンスク方面
ロ軍はシンキフカに攻撃したが、撃退さえている。その東のペルショットウブネバ付近では、南に前進している。また、ロ軍はペトロパブリフカとキシリフカのウ軍陣地に空爆を行っている。
スバトバ方面
ロ軍は、カジマジニフカでゼレバッツ川を渡河し低地帯を占領したが、ウ軍は高地から低地の露軍を砲撃し、その後、ウ軍増援部隊が低地に攻撃して、ロ軍をゼレベッツカ川の西側から完全に追い出した。しかし、ロ軍はノボセリフカの市内に攻撃して占領した。
クレミンナ方面
ロ軍は、ディプロバの南からセレブリャンスキーの森方向に空爆後地上部隊で、ウ軍陣地を突破して、ドネツ川に到達したようだ。逆に、ウ軍は、ディプロバの西で攻撃を行い、わずかに前進している。どうも、ロ軍は先に地上部隊の攻撃をせずに、空爆後の攻撃にシフトしたようである。
リシチャンスク方面
ロ軍は、激しく空爆をビロホリフカの北側に行い、その後、地上部隊の攻撃で、高台にあるウ軍陣地のいくつかを占領したようである。ロ軍の攻撃パターンができつつあるようだ。もう1つ、ロ軍はテルミット焼夷弾から白リン焼夷弾に切り替えたようであり、構造の簡単な白リンの方が製造が楽なのであろう。このため、ウ軍は、ロ軍空爆を阻止する必要になっている。英国はASRAAM空対空ミサイルをトラックに搭載した急造対空兵器をウクライナに供与することで、ロ軍空爆を阻止するようである。
バフムト方面
市内南側では、クリシチウカ付近や線路の西側一帯からロ軍は撤退した。代わりに、この一帯にロ軍は激しい砲撃を行っている。アンドリウカ付近のウ軍は、線路の東側に偵察隊を送り、ロ軍砲兵の位置を見つけている。クデュミウカは市街戦になって、西側をウ軍、東側をロ軍という配置で攻防戦をしている。ウ軍は、北西方向の攻撃部隊を南に回して、南で攻撃を加速しているようである。ロ軍も同様に南に予備兵力を回して、防御するようである。
ドネツク市周辺
ロ軍は、アウディーイウカ要塞とプレボマイスクを攻撃したが撃退されている。ロ軍は、マリンカに攻撃したが、ウ軍に撃退されている。ウ軍は、ミキルスク付近、ノボミハイリフカの南、ボロデミリウカの北、ボハレダラの南で攻撃を開始している。この付近のロ軍は、予備兵力をベルアノボシルカ軸やオリヒウ軸に取られて、手薄になっていることを、ウ軍が突き止めて、攻撃を開始したようだ。
ザポリージャ州方面
   1.ベルカノボシルカ軸
中央では、ロ軍は、スタロマイオルスクとウロジョイナのウ軍を攻撃したが、事前に分かり、待ち伏せて反撃したことで、ロ軍に大きな損害を与えたようである。
   2.オリヒウ軸
ウ軍は、ロボティネの東側一帯を奪還して、ベルポベ方向、ノボポクロフカ方向に進軍して、この地域の地雷原を除去し、マリャル国防次官によると、この地域のロ軍の第1防衛線を数カ所で突破したが、ロ軍は、主要な高地にコンクリートの要塞を建設し、これ以上のウ軍の突破が難しいという。しかし、ウ軍は、ロ軍の弱点を見つけたようだ。
南部作戦司令部のフメニウク報道官は、「南部戦線でロ軍は砲兵の優位性を失いつつある。主導権は、非常にゆっくりと、しかし非常に自信をもって、ウ軍に移っている。弾薬庫の破壊の為に、ロ軍は弾薬の数量で負け、領土的にも負け始めている」とした。
これは、ロ軍の兵站を止めたことによる。クリミアと南部メルトポリを結ぶチョンガル道路橋を6月22日に攻撃・破壊し、7月29日にはチョンガル鉄道橋も破壊した。このチョンガル橋経由の補給が7割を占めるので、それを破壊されたことで、前線への弾薬・食糧の補給が遅れているようだ。その上に、ストームシャドーで、後方の兵站拠点や弾薬庫を叩いたことも大きく影響している。
その上にクリミア大橋も破損しているので、南部戦線への補給は、東部からマリウポリ経由で行うか、クリミアとヘルソン州を結ぶアルムヤンスク橋経由で行う必要がある。
補給が少なく、砲兵戦でもロ軍はウ軍に負けていることで、ウ軍は徐々に前進している。
ヘルソン州方面
ロ軍は、ここでも空爆を増加させ、ウ軍は砲撃を強化して、ロ軍砲兵隊を潰している。それにより、ウ軍は、アントノフスキー橋の橋頭保、南西に第2の橋頭保を構築したが、更に南西に第3の橋頭保を構築して、そこから偵察部隊をロ軍占領地に送っている。ウ軍は本格攻撃を準備しているようにも見える。ウ軍は精密砲撃ができる利点を最大限活用して攻撃をし、ロ軍は航空勢力優位の利点を活用して攻撃するという、両方ともに、自軍の優位を最大限活用した攻撃になってきた。
その他方面
5日、ロシアの商業タンカーがケルチ海峡付近でウ軍の水上ドローンに衝突され爆発して、航行は困難となっているようだ。航続距離の長いウ軍の水中ドローンができて、4日にノボロシスクのロ海軍基地で、揚陸艦オレネゴルスキー・ゴルニャクが、このドローン攻撃を受けて、深刻な損害を受けた。ロ海軍は、クリミア半島セバストポリからロシア領内のノボロシスクに移したが、それも攻撃されることから、ソチにロ海軍基地を移すしかない可能性がある。特に、この水中ドローンの発見は難しいようであり、特に夜間攻撃時には、より難しいようである。ロ軍は対水中ドローン用に水雷防御網を復活させたようだ。この他、モスクワ地方のアハカソポ村の酸素電池倉庫が爆発炎上した。クリミアのベルジャンスク空港も弾薬庫が爆発、フェオドシアの大規模な石油貯蔵施設を攻撃、モスクワ・シティの政府関連機関の入るビルをドローンで2日連続で攻撃した。
ウクライナの状況
F-16戦闘機の訓練を行う西側プログラムに参加するウクライナ人パイロット8人が選ばれたが、訓練開始日はまだ決まっていない。さらに英語が多少できる20名は今月から語学コースを開始できる見込みであり、さらに32名を訓練予備軍に指名した。ウ軍は、早くF-16が欲しい。
しかし、デンマークも退役するF-16を、アルゼンチンに売却することが決まり、ウ軍への供与はなくなったようである。次にオランダとベルギーのF-16がF-35と入れ替えになるが、このF-16の供与になるのであろうか。
そして、5月のゼレンスキー大統領のベルリン訪問後、約束された110両のレオパルド1戦車のうち引き渡されたのはわずか10両のみで、20台のマーダー歩兵戦闘車とアイリス-T防空システムはまったく引き渡されていない。というように、西欧の「ウクライナ支援疲れ」が見えてきている。ドイツではウクライナ支援を止めるという政党の支持率が上昇している。
ウ軍が機甲戦から消耗戦にシフトしたことで、戦車より弾薬の方が優先度が高くなってきたことにもよるが、トルコからウクライナはDPICMクラスター弾の供与を受けている。もう1つが、防空システムであり、リトアニアがNASAMS発射装置をウクライナに供与のようだ。
その上、ブルガリアは、ウクライナへの装甲兵員輸送車ほぼ100台の供与が決まった。ロシアの脅威を感じる東欧諸国の供与が多くある。
ウクライナは、8月5日〜6日のサウジで開催される和平会議で、グローバル・サウスの支持を得る方向で、準備をしている。40カ国が参加予定で、中国も参加する。
もう1つが、停戦・和平後のウクライナの安全保障の協定作りを開始した。まず、米国との間で行うが、そこでの協議で決まったことをEU全体にも拡大する思惑であろう。この戦争の終わり方に米EU共に目を向き始めている。
西欧の「ウクライナ支援疲れ」や2024年11月の米国大統領選挙でトランプ大統領が当選すると、ウクライナも米国の援助を受けられなくなることも考慮する必要があるからだ。
その上、ポーランドとの関係もおかしくなっている。ウクライナの穀物をリトアニアの港から積み出すことが決まり、ポーランドを貨物列車で通過するだけであるのに、ポーランドはウクライナ産穀物の自国内への持ち込みを拒否した。
これに対して、ウクライナ外務省は、ポーランドの拒否はおかしいと述べたが、ポーランド政府はポーランド農民の利益のためにそうするという。
ポーランドとしても、ウクライナ産穀物が輸出できないことで国際穀物価格が上昇することを望んでいることがわかる。
ということで、リトアニアの港の利用もできないことになった。
ウクライナ産穀物の輸出阻止は、ロシアだけではなく、ポーランドなどのEUの農業国も望んでいることがわかる。
トルコのエルドアン大統領も、プーチンと話し穀物合意への復帰を持ちかけたが、条件が整えば、復帰するという。
ロ農業銀行へのSWIFT接続が条件であり、ウクライナもその条件を飲むしかないと思われたが、その途端に、イスラエル船など6隻がウクライナの港に到着した。
ロ海軍は、黒海で、ウクライナに向かう船を攻撃するとしたが、ウ軍の水上、水中ドローンの攻撃を受けるので、手出しができなかったようである。トルコ海軍艦艇もいるし、トルコとの関係も悪くなり、ロ海軍は、口だけの攻撃しかできないようである。
一方、ウクライナでのドローン技術が発展して、モスクワの特定ビルにドローンを2度も突入させている。空中ドローン「ビーバー」の航続距離は、1,000km程度であり、モスクワに到達可能である。
ノボロシスクのロ海軍基地まで届く、水中ドローン「マリッチカ」も開発した。
S200ミサイルを地対地ミサイルと活用して、ロシア領内を攻撃している。この戦争でウクライナの軍事技術は大きく進展している。ソ連時代の一大軍事産業地域だけはある。その開発スピードも早い。
それでも、長期の消耗戦になると、ウクライナが不利になる。ロシアの防衛産業の規模は、西側全体の防衛生産量を仰臥している。このため、ウクライナに支援できる量もロシアが使用できる量と比べると少なくなる。
ロシアの状況
ロ国防省は、ベルゴルド州とクルスク州の領土防衛隊に武器と車両を供与したが、武器は猟銃であるという。プーチンは、領土防衛隊が反乱することを恐れているのであり、チェチェンのアフマド軍をベルゴルド州の国境に配備したが、地元民の家に押し入り、その家の住民を追い出している。
このため、領土防衛隊を組織しているが、これは反乱のリスクがあるということで、プーチンに忠誠を誓うチェチェンのアフマド軍を使うことになる。すると、狼藉をチェチェン軍はするので評判が悪い。このため、反乱のリスクも高まるということになる。
一方、ウ軍参謀本部は、ロ軍が同国の戦闘損失の規模を隠すために自らの死者を焼いているとし、ロ軍はザポリージャ州メリトポリに火葬場を設置したという。ロ軍内では負け戦であることを認識され始めている。ロ軍は手一杯で、兵站、物資、人員、武器に問題を抱えている。特にウ軍の後方補給拠点への攻撃で物資が足りない。
このため、ウ南軍報道官のフメニュク氏は、ロシア占領軍・政府の家族や財産はすでにクリミアから避難している。これらはすべて、ロシア上層部が将来の和平交渉の準備をすでに整えていることを示す兆候だという。
負け始めたロシアは、ベラルーシに対して「スバウキ回廊」への攻撃を指示しているのはないかということで、ポーランドとラトビアは、ベラルーシとの国境の防衛を強化している。そして、ワグナー軍が、スバウキ回廊付近にいることである。
ロ軍は人員不足であり、早く追加の動員をしないと前線が維持できない。しかし、7月29日から8月2日までの5日間で、ロシア国内の徴兵事務所や関連施設への放火や放火未遂が少なくとも28件発生した。ロ情報機関「連邦保安局FSB」職員を名乗る人物から電話で放火を強要されたともいうが、この裏には国民の動員に対する嫌悪感が大きいことも分かる。
そして、今年の国防予算は当初4兆9,800億ルーブル(540億ドル)から9兆7,000億ルーブル(1,050億ドル)に倍増し、国防予算は国家予算全体の3分の1である。
戦闘における「ロシア劣勢」との報道、民間軍事会社ワグネルの武装蜂起などをきっかけに、ルーブルの下落が止まらず、対ドル94ルーブル、対ユーロ105ルーブルになっている。
ロシア中央銀行は、自国通貨の下落によって輸入物価はさらに上昇し、インフレ懸念が高まる展開を懸念し、7月21日、予想外の大幅利上げで8.50%にした。
その上、ロシアから海外へ、ヒト・モノ・カネの流出は増加している。ヒトは100万人も流出した。それによっても通貨安になり、輸入物価は上昇している。
しかし、「プーチンは、トランプが自分を助けてくれることを知っている。来年の米国選挙は事態を複雑にする。プーチンによれば、トランプが勝てば、ウクライナへの政治的支援は損なわれる」とダニエル・フリード前駐ポーランド米国大使は言うが、2024年大統領選挙で、トランプが選挙に出られないように、または選挙で勝たないように、バイデン政権は、国会議事堂襲撃事件などの訴訟を起こしている。
これに対して、トランプ前大統領は、2021年1月6日の国会議事堂暴動と2020年の大統領選挙を覆すための捜査に関連した連邦政府への無罪申し立てをした後、多くの法廷闘争に時間と費用を費やしている状況に不満を漏らし、最高裁による「仲裁」を求めた。
このようなトランプ氏の行為に対して、トランプ氏の弁護士ジョン・ラウロ氏は、トランプ氏がマイク・ペンス氏に法律を破るよう圧力をかけたことを認めた。ペンス氏もトランプ氏は大統領選挙に出るべきではないと言っている。
しかし、トランプ当選の希望がある限り、ロシアは戦争を止めないことも確かである。2024年11月までは続くことになる。
●第3次世界大戦はすでに始まっている… 8/7
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した日から今日まで続く、ウクライナ戦争。このままでは世界的な戦争に発展するのではないかという危惧もあるが、すでに第3次世界大戦は始まっているという…それはいったいどういうことなのか。
フランス人人口学者のエマニュエル・トッド氏と、ジャーナリストの池上彰氏による対談本『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』より、一部抜粋・再構成してお届けする。
第3次世界対戦はもう始まっている
池上彰(以下、池上) トッドさんは22年から、ウクライナ戦争によって「第3次世界大戦はもう始まっている」ともおっしゃっています。どうしてそういうことが言えるのでしょうか。
エマニュエル・トッド(以下、トッド) ロシアとウクライナ2国間のこの戦争が、世界大戦に発展するのではと心配している人は多いと思います。でも、もうすでにアメリカを中心とする西側とロシアの間で展開されている世界戦争、という段階に入っていると見ています。
そしてそれは「まず経済面から始まった」とも言えると思います。
ウクライナへの爆撃で市民の多くが殺されていることはもちろん、まさに戦争という状態なのですが、ヨーロッパやアメリカがロシアという国を経済的に、最終的には社会的にもつぶすという目的で始めた経済制裁もまた、戦争の一端であるわけです。
この経済制裁に、ロシアは耐えています【図3】。その後ろには中国やインド、それからもしかしたらサウジアラビアなどの国がいるわけです。
そして、この対立、戦争が、こうしてヨーロッパの制裁が失敗することによってさらに広がっていった。つまり経済面で広がっていっているわけですね。そしてこの経済の問題というのは、今は西ヨーロッパのほうでも、その影響がひじょうに感じられるようになってきているわけです。
この「制裁のメカニズム」というのは、その本質からして、自然と広がっていくものなんです。それを広げるために、世界に対して、それぞれの国に立場を取ることを求めたりするのが制裁なんですね。そういう意味では、制裁の失敗というのは世界システムというものにとって、ひじょうに危険だったのではないかと思います。
経済制裁は、アメリカにむしろマイナスに効いてくる可能性がある
池上 確かに、いまだにロシアの経済が安定していることは、西側が驚いている点だと思います。これはなぜなのでしょうか。
トッド 実は経済のグローバリゼーションが進んでいくなかで、「生産よりも消費する国=貿易赤字の国」と「消費よりも生産する国=貿易黒字の国」との分岐がますます進んでいるんです。ロシアはインドや中国とともにまさに後者の代表で、天然ガスや安くて高性能な兵器、原発や農産物を世界市場に供給する「産業大国」であり続けています【図4】。]
一方で、前者の貿易赤字の国とはアメリカ、イギリス、フランスなどです。財の輸入大国としてグローバリゼーションのなか国の産業基盤を失ってきている。つまり互いに科している経済制裁は、消費に特化したこれらの国のほうにむしろマイナスに効いてくる可能性があるわけです。
一種の神話的な立場だった「経済大国アメリカ」は、いまは生産力の点で非常に弱体化してきています。1945年時点でアメリカは世界の工業生産の約半分を占めていましたが、いまは違います。ウクライナ戦争はロシアにとって死活問題であると同時に、アメリカにも大問題なのです。
先ほども少し触れましたが、アメリカの生産力でとくに問題となってくるのが「兵器の生産力」です。
この先、ウクライナ戦争が長期化したとき、工業生産力の低下するなかでウクライナへの軍需品の供給が続けられるのか。むしろロシアの兵器生産力のほうが上回っていくのではないか。そこは西側としては心配な点でしょう。
ただそれでも、アメリカはこの戦争から抜け出せないのではないか、とも言えると思います。アメリカがこの戦争から抜ける、それはアメリカにとって「ウクライナへ供給する兵器の生産力が追いつかなかった」という点で、「負け」を意味するからです。
ウクライナ政権が危機的状況にあるということを明らかにしているソ連時代的な汚職の対処
池上 その世界大戦に巻き込まれた形のウクライナですが、トッドさんは戦争が始まる前の段階で、ウクライナは破綻国家であり、国家としての体をなしていないとおっしゃっていました。
ただ、戦争が始まり、その真っただなかで政府の汚職高官が追放されるなど汚職撲滅の動きもあるようです。国としてのまとまりが全くなかったウクライナが、ロシアの攻撃で自分たちの土地を守らなければならなくなったという、きわめて皮肉な形ではありますが、むしろウクライナの民族意識が深まってきた。この戦争をきっかけに国家として成立しつつあるようにも見えるのですが。
トッド そのとおりだと思います。この戦争によって国家意識、国民意識が強化されている面はあるでしょう。戦争前は、私はウクライナの国家意識がどれほど強いのか疑問に思っていたのですが、軍事的に非常に耐えている姿を見て、その意識が強くなっていると認めるようになりました。
ただ、ウクライナにおけるロシア語圏は、この戦争によって崩壊しつつあるのではとも思っています。ロシア語圏にいる中流階級がどんどん国外に流出しているからです。中流階級がいなくなった国は崩壊していく傾向があります。国家意識、国民意識というのはウクライナ語圏で強化された、と言えるのではないかと思います。
一方で、ご指摘のように国内のさまざまな汚職に関して、いろんな、謎の多いことが行われているようなんですね。いま、「汚職撲滅に取り組んでいるように見える」とおっしゃいましたけれども、たとえば、辞めさせられた人々の、その国のなかでの立場的なものを見てみると、かなり粛清に近いような、なんとなくソ連時代的なものを感じてしまうわけです。
そういうやり方で汚職に対処しているとしたら、これはウクライナ政権が危機的状況にあるということを明らかにしているだけのことであって、ウクライナがこれからしっかりとした民主主義の国になろうとしているというようには、私は解釈できないんじゃないかなと思いますね。
池上 ウクライナ戦争が始まる前には「ウクライナって、やっぱり破綻国家だ」と思っていたトッドさんも、極めて皮肉なことですけれど、侵略を受けてしまったことによって国家のまとまりというものが出てきた。あるいはウクライナが民族主義的に団結心というのが出てきたということを、お認めになったのは印象的です。
●ロシア、クリミアへの輸送遅延か ウクライナ、補給路に攻撃 8/7
ウクライナ軍は6日、ロシアが実効支配するウクライナ南部のクリミア半島とヘルソン州を結ぶチョンガル橋とゲニチェスク橋を攻撃したと明らかにした。米シンクタンクの戦争研究所は、補給路に打撃を与えたことで、ロシア側は半島の西側にあるアルミャンスクを迂回する別ルートに頼らざるを得なくなり、輸送の遅延をもたらす可能性があると分析した。
戦争研究所は橋の修復の見通しは不明としている。ウクライナは半島とロシア本土を結ぶクリミア橋を7月に攻撃するなど、補給路を重点的に狙っている。
ロシアが半島を併合して創設した「クリミア共和国」のアクショーノフ首長は6日、チョンガル橋にミサイル1発が命中し、自動車道が損傷したと通信アプリに投稿した。ヘルソン州のロシア側行政府トップ、サリド氏は、英国供与の巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたとし、穴が開いた路面の写真を公開した。
●ウクライナ「クリミアへの橋攻撃」、修復には時間要するか…物流の混乱 8/7
ウクライナ軍は6日、ロシア軍占領下の南部ヘルソン州とロシアが一方的に併合した南部クリミアをつなぐ2本の橋を、ミサイルで攻撃したと発表した。南部の戦線で、ウクライナの反転攻勢を受ける露軍の補給に影響するとみられる。
攻撃されたのは、露軍が前線に弾薬や燃料を輸送する補給路として使ってきたチョンハル橋とヘニチェスク橋。露側のヘルソン州の「暫定知事」は、英仏が共同開発し、ウクライナに供与された長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたと主張した。チョンハル橋は6、7月にも攻撃を受けている。
暫定知事はヘニチェスク橋への攻撃により、ガスのパイプラインも損壊し、住民2万人以上に影響が出たとした。
米政策研究機関「戦争研究所」は6日、ヘニチェスク橋の修復には時間がかかりそうだと指摘した。露軍が陸路の交通を、東側の短いルートから西側の長いルートへ変更することを余儀なくされる可能性が高いと分析した。今後、西側ルートに補給が集中することで物流の混乱や交通渋滞が起きる可能性があるとの見方も示した。
ウクライナ空軍は6日、これまでにロシアのミサイルや無人機、ヘリコプターなど3500以上の 飛翔ひしょう 体を撃墜したと発表した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、露軍が今週だけで攻撃に使った無人機178機のうち「かなりの数」を撃墜したと強調した。欧米から供与された地対空ミサイルシステム「パトリオット」が効果をあげているとの考えも示した。
●ウクライナ軍 南部クリミアとヘルソン州を結ぶ2つの橋を攻撃 8/7
ウクライナ軍は6日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアと、ヘルソン州を結ぶ2つの橋を攻撃したと発表しました。ロシア軍の補給路を混乱させることで、反転攻勢を有利に進める条件を整えるねらいがあるとの指摘も出ています。
ウクライナ軍が6日、攻撃したと発表したのは、ロシアが一方的に併合した南部クリミアとヘルソン州のロシア側の支配地域を結ぶ2つの橋で、ロシア軍にとっては重要な補給路です。
このうちチョンハル橋については、へルソン州の親ロシア派のトップ、サリド氏は橋に穴があいたとする写真をSNSに投稿し、攻撃にはイギリスなどが供与する巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたと主張しています。
またもう1つの橋についても、橋の近くに敷設されていたガスのパイプラインが破損したとしています。
今回の攻撃についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「物流に大きな混乱をもたらし遅延や交通渋滞を引き起こす可能性が高い」と指摘し、ロシア軍はクリミアから前線への補給のためにより遠回りとなる西側のルートをとらざるを得なくなると分析しています。
「戦争研究所」はウクライナ軍がロシア軍の兵員や物資などの輸送を混乱させることで、反転攻勢を有利に進める条件を整えることをねらっていると指摘しています。

 

●プーチン大統領、ロシア製無人機の増産指示 無人機による攻防激化の可能性 8/8
ロシアでウクライナの無人機によるとみられる攻撃が相次ぐ中、プーチン大統領はロシア製の無人機を増産するよう指示しました。
プーチン大統領は7日、兵器メーカーの幹部らとの会談で、ロシア製の無人機「ランセット」の攻撃能力を評価した上で、「増産する必要がある」と述べました。
ロシア・メディアによりますと、「ランセット」は偵察と攻撃を行うことができる無人機で、国防省も戦果をアピールする映像を公開しています。
一方、モスクワでは先月から無人機による攻撃が相次いでいます。ウクライナ側は、関与は明らかにしていませんが、アメリカの戦争研究所は「いくつかの情報源は、無人機がウクライナ製であること示唆している」と分析しています。
戦争が長期化する中、無人機による攻防がさらに激化する可能性があります。
●ロシア、「反プーチン」東京会合に抗議 日本大使館は反論 8/8
ロシア外務省は7日、プーチン政権に反対する勢力の会合「ロシア後の自由な民族フォーラム」が今月初旬に東京で開催されたことに関し、在ロシア日本大使館に断固抗議したと発表した。日本側は「政府は関与していない」と反論している。
フォーラムには、ウクライナ軍傘下の武装勢力「自由ロシア軍団」に協力するロシアのポノマリョフ元下院議員のほか、日本の研究者や衆院議員らが参加した。
分離主義などを掲げるこのフォーラムはロシアで「好ましからざる団体」に指定され、活動が禁止されている。ロシア外務省は声明で、岸田文雄政権の同意なしに開催は不可能だと一方的に決め付けた上で「内政干渉と見なすほかない」と日本政府を批判した。
大使館によると、日本側は「日本政府が関与して行われたものではなく、そのような抗議をされること自体受け入れられない」とロシア外務省に伝えた。
●“ロシア 年間国防予算 当初の約2倍に” 軍事侵攻長期化影響か 8/8
ロシアはウクライナへの軍事侵攻で軍事費が増大しているとみられ、ロイター通信は年間の国防予算が当初のおよそ2倍に膨らんだと伝えています。プーチン大統領は企業への追加課税の法律を成立させ、税収確保を急ぎたいものとみられています。
ロイター通信は、ロシアのことしの国防予算が、当初のおよそ2倍にあたる9兆7000億ルーブル、日本円にして14兆2000億円余りに膨らんでいると今月4日に伝えました。
これは国家予算全体の3分の1を占める規模だとしています。
その結果、学校や病院、道路などに使われる予算が削減されているとも伝えています。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻が長期化していることで軍事費が増大しているとみられています。
また、G7=主要7か国などがロシア産原油に上限価格を設ける制裁を発動したことでロシアは石油輸出によって得られる収入が減少しているとアメリカ財務省は分析しています。
こうした中、プーチン大統領は、企業への追加課税を行うための法律に4日付けで署名し、成立させました。
この法律ではエネルギー関連などを除いた企業を対象に、利益に10%を課税する内容となっています。
支払いの期限は来年1月28日ですがことし11月末までに納めれば税率を5%にするとしていて、ロシアの有力紙「コメルサント」は「政府は税金をなるべく早く受け取りたがっている」と伝えています。
●ロシア、新しい歴史教科書を公開 ウクライナ侵攻称賛 8/8
ロシア政府は7日、9月に始まる新年度に向けて、同国軍とウクライナ侵攻を称賛する新しい歴史教科書を公開した。
ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の下、ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は学校の歴史教育の統制を強めているが、こうした傾向は昨年のウクライナ侵攻以降、さらに加速。ウクライナ紛争は、ロシアの歴史的な使命の一環として教えられている。
セルゲイ・クラフツォフ(Sergei Kravtsov)教育相はモスクワで行われた記者会見で、11年生(17歳)を対象にした新しい教科書を紹介。目的は「(ウクライナ侵攻の)狙いを生徒に伝える」ことにあり、「任務は非軍事化と非ナチス化だと納得してもらう」内容になっているとして、昨年2月にプーチン氏がウクライナへの侵攻を開始した際に述べた言葉を繰り返した。「9月1日からすべての学校」で使用されるという。
新教科書の表紙には、ロシアが併合したクリミア(Crimea)半島と本土を結ぶ橋が描かれている。この橋はプーチン政権の象徴で、侵攻が始まって以来たびたび攻撃を受けている。
クラフツォフ氏は新教科書について、「5か月弱」で執筆されたもので「(ウクライナでの)特別軍事作戦が終了し、わが国が勝利した後、補足する予定だ」と説明した。
新教科書は1945年から21世紀までの出来事をカバー。2014年のクリミア併合でロシア兵が「平和を守った」という項目がある他、西側の制裁については1812年にロシアに遠征したフランス皇帝ナポレオン・ボナパルト(Napoleon Bonaparte)より悪辣(あくらつ)だと非難する論調で書かれている。
●中ロ外相 電話で会談 両国の結束を改めて確認 8/8
中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相が7日、電話で会談し、両国が結束していくことを改めて確認しました。
中国の前の外相だった秦剛氏が解任されたあと再び外相に任命された王毅外相は、ロシアのラブロフ外相と7日、電話で会談しました。
中国外務省によりますと、この中で王外相は「中国とロシアの貿易額は過去最高を更新し、エネルギー協力は着実に発展している」と述べ、ロシアとのあいだで石油や天然ガスなどエネルギーの取り引きを続けていく考えを強調しました。
その上で、ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナ情勢について「中国はいかなる国際的な多国間の場でも独立かつ公正な立場を守る」と述べたということです。
これに対し、ラブロフ外相はロシア軍の部隊の撤退を求めずにロシアやウクライナなどに対話と停戦を呼びかけた中国の文書を支持し、中国の建設的な役割を歓迎すると応じたとしています。
一方、ロシア外務省によりますと、両外相は両国関係の発展を高く評価した上で「ロシアと中国に制裁を科し、発展を抑え込もうとする欧米諸国の試みをともに拒絶する」として両国が結束していくことを改めて確認したということです。
●“ロシア揚陸艦 攻撃受けたのは事前の警告に違反の結果” 8/8
ウクライナ海軍はロシアの揚陸艦がウクライナ側の無人艇の攻撃を受けたと伝えられたことに関連し、黒海で、ロシアなどの港に向かう船舶に対するウクライナ側の事前の警告に違反した結果だと指摘しました。
ロシアがウクライナから一方的に併合したクリミアに近いロシア南部ノボロシースクの海軍基地では、今月4日、ロシアの揚陸艦がウクライナ側の無人艇の攻撃を受けて損傷したと伝えられました。
この攻撃についてウクライナ海軍のプレテンチュク報道官は7日、オンラインで記者会見を行いました。
このなかで揚陸艦が攻撃を受けたのは、ウクライナ国防省が7月に発表した、黒海で、ロシアの港やロシアに一時的に占領されているウクライナの港に向かうすべての船舶は、軍事物資を輸送している可能性があるとみなすとした警告に違反した結果だと指摘しました。
ウクライナ海軍の関与は否定しました。
また、黒海とアゾフ海をつなぐケルチ海峡の状況についてロシアの国境警備隊の船舶の動きが活発化しているとしてロシアが警戒を強めているとの見方を示しました。
一方、ウクライナ国防省のマリャル次官は7日、ウクライナ東部でのこの1週間の戦況について「極めて困難だった。敵は我々の前進を阻止するためにあらゆる手段を講じている」とSNSに投稿し、ロシア側からの砲撃数が大幅に増加したことを明らかにしました。
●「ロシアの補給路に打撃」 クリミアの橋への攻撃、米研究所が分析 8/8
ロシアが占領しているウクライナ南部クリミア半島とヘルソン州を結ぶ二つの橋に対するウクライナ軍の攻撃について、米シンクタンク「戦争研究所」は6日、ロシア軍の補給路に打撃となったとの分析を明らかにした。ロシア側は今後、物流などを半島西側の別ルートに頼らざるを得なくなり、同研究所は「物資輸送に大きな混乱をもたらし、遅延や渋滞を引き起こす可能性が高い」と指摘した。
同研究所によると、ウクライナ軍が6日に攻撃したのは、半島北側のチョンガル橋とゲニチェスク橋。ロシア側の前線への主要な補給ルートとみられ、ともに損壊したという。ウクライナ軍は6月にもチョンガル橋を攻撃していた。
半島の橋を巡っては、半島とロシア本土を結ぶ「クリミア大橋」で昨年10月に爆発が起き、ウクライナ軍が後に攻撃を認めた。今年7月にも同じ橋で爆発が発生。ウクライナ軍がロシア側の補給路を分断する目的で、半島のインフラを狙った攻撃を強化している可能性がある。
ロイター通信などによると、親露派幹部は今回の橋への攻撃について、ウクライナ軍が英仏共同開発の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」を使用したと主張した。
●メディアに流れる「日本企業はダメだ」論にだまされるな 8/8
昨年度は大幅な円安が進んだにもかかわらず、貿易収支は赤字となり、経常収支も黒字が減少したので「日本企業の国際的な収益力が落ちている」さらには「日本企業の競争力低下で経常収支が恒常的に赤字になる」というような言説がメディアで目につく。しかし、これは控えめに言っても皮相で一面的な認識だ。
むしろ輸出額は2021年度と2022年度とも前年度比で二桁%の大幅な伸びとなっている。また日本企業の対外直接投資から受け取る所得(配当、利息、利益留保等)は2022年には27.6兆円と額で最大となった。同時に直接投資残高をベースに計算できる所得のリターン(%)も過去最高水準に上がっている。今回はこうした点をご説明しよう。
まず輸出、輸入額を含めた日本の貿易収支と経常収支推移を概括してみよう。図表1の上向きの青色の縦棒で示したのが輸出総額(四半期)であり、下向きの黄色の縦棒は同様に輸入総額だ。輸出総額は2021年度プラス25.3%、2022年度プラス16.4%と高い伸びとなっている。これは1997年までさかのぼって最も高い伸び率だ。
それにもかかわらず2022年度の貿易収支(青線)が18兆円の大幅な赤字に転じ、経常収支の黒字(黒線)も半減した。これは言うまでもなく、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けた国際エネルギー価格の高騰で輸入資源価格が高騰した結果、輸入総額が2022年度は前年度比で約35%も増加したからに他ならない。
しかしながら、これはエネルギー資源を海外に依存している日本経済の宿命のようなものであり、その点は昔も今も変わらない。ただし国際エネルギー価格の高騰は昨年度で終わり、すでに価格下落に転じている。それを受けて直近5月の輸入総額はマイナス10.2%(前年同月比)と減少に転じており、2023年度通期では貿易赤字の大幅な縮小と経常収支黒字の増加が見込まれる。
もっとも、貿易収支や経常収支の黒字をその国の「儲け」、赤字を「損失」のように受け止めるのは経済学的なナンセンスなのだが、今はその点には立ち入らないで議論を進めよう。
今年度以降、日本の貿易赤字は縮小するが、それでも1980年代、1990年代までのような大幅な貿易収支の黒字は見込めない。それは日本の製造業が1990年代以降、国内での生産・輸出を海外現地での生産・販売にシフトするグローバル化を進めてきた結果だ。その結果、日本の対外直接投資残高は図表2が示す通り、1996年末の31兆円から2022年末の275兆円に急増した。
対外直接投資について少し補足的説明をすると、国際的な標準ルールに基づいた国際収支統計作成上、日本の法人が海外における現地法人の株式の10%以上を保有する場合は、経営権のある投資として「対外直接投資」として計上される。10%未満の場合は「証券投資」の扱いになる。非居住者による対日直接投資も同様だ。
直接投資と証券投資などから生じる対外的な受け取り所得と支払い所得の差額である第一次所得収支(図表1の紫色の縦棒)の黒字は年々増加し、2022年度には35.6兆円と過去最高を記録した。この黒字がかつての貿易収支黒字に代わって、今の日本の経常収支の黒字を維持する主要素となったわけだ。
世界的にも屈指の日本の対外資産・負債規模
ちなみに日本の対外資産全体も増加トレンドをたどり、今や対外資産残高1338兆円(名目GDP比2.39倍)、対外負債920兆円(同1.64倍)、資産と負債の差額である対外純資産は419兆円(同0.75倍)になっている(2022年12月末時点)。275兆円の対外直接投資残高が全対外資産に占める比率は20.5%だ(補注1)。
この規模を米国と比べると、米国の対外資産は31.6兆ドル(名目GDP比1.24倍)、対外負債47.8兆ドル(同1.88倍)、対外純負債16.2兆ドル(同0.64倍)である。また対外直接投資9.3兆ドル(時価ベース)の全対外資産に占める比率は29.3%である。米国の特徴は世界最大の対外資産国であると同時に世界最大の対外負債国かつ対外純負債国であることだ。
日本は世界最大の対外純資産国である一方、米国は対外純負債国という違いはあるものの、日本のグロスの対外資産のGDP比率2.39倍は、すでに米国の同比率1.24倍の2倍近いものとなっている。また絶対的な規模でも米国のグロス対外資産は円換算4424兆円(1ドル140円換算)、日本は同1338兆円であり、米国には及ばないものの日本はこの面で世界屈指の存在だ。
さらに対米国直接投資残高の国別ランキング(2022年末)では、日本が7752億ドルで首位、2位がカナダ6838億ドル、3位が英国6606億ドル、4位がドイツ6188億ドル、5位フランス3602億ドルとなっている(補注2)。
なぜか日本のメディアでは、こうした国際投資面で日本が世界的に巨大な存在である事実が報道されることは比較的まれだ。逆に日本にネガティブな材料は強調して報道されるという奇妙なバイアスが感じられる。
日本の対外直接投資からの受け取り(グロス)所得年間27.6兆円(2022年)を、国・地域別にまとめると、次の通りとなる(2022年間)。米国7.3兆円(全体に占める比率26.3%)、アジア(中国と香港を除く)5.4兆円(19.4%)、中国と香港3.9兆円(14.1%)、欧州連合(EU)3.1兆円(11.2%)、英国2.6兆円(9.3%)、その他地域5.3兆円(19.7%)。
また海外からの対日直接投資は46兆円と日本の対外直接投資275兆円の約6分の1と小さく、日本の直接投資の非対称性としてよく問題になる。しかしながら海外からの対日株式投資残高は220兆円と相対的に大きいことを指摘しておこう(2022年末時点)。
ここで統計データに関連した補足をしておく。直接投資残高は他の対外資産・負債残高同様に、毎年末時点で日銀・政府が各機関からの報告に基づいて集計しているが、時価評価ベースか簿価ベースかが問題となる。米国政府が公表しているデータは、時価(market value)ベースと記帳簿価(historical cost)ベースの2つがある。
日本政府(財務省と日銀)が公表している直接投資残高は、日銀の統計窓口に問い合わせたところ、報告対象の各機関の保有する記帳簿価情報である。ただし完全な取得原価ベースというわけではなく、時価で記帳されている場合はそれが使用されているようであり、また投資後に生じた利益で現地法人にそのまま再投資されている残高も反映されている。大ざっぱに見て、米国の記帳簿価(historical cost)ベースに相当すると考えられる。
過去最高となった日本の対外直接投資のリターン
さて、こうした事情を頭に入れて、日本の対外・対日双方の直接投資残高の所得のリターンを見てみよう。国際収支統計の日本の対外直接投資からの受け取り所得額(年間)を対外直接投資残高で割った値が「受け取りリターン」となる。同様に支払い所得額(年間)を対日直接投資残高で割った値が「支払いリターン」となる。
直接投資残高は年々の増加傾向があるので、前期末残高でリターンを計算するとリターンの過大評価、当期末残高を使うと過小評価になる。そこで前期末と当期末の平均値をとって、リターンを計算する分母にしてある。
日本の対外直接投資のリターン(日本の受け取り)は図表2の青い折れ線、反対に対日直接投資のリターン(日本の支払い)は赤い折れ線で描いてある。見て分かる通り、日本の受け取りリターンは支払いリターンを下回る時期が過去目立った。ところが直近3年間では2020年の6.2%を底に2021年9.4%、2022年10.8%と大きく向上し、2022年には支払いリターン10.2%を上回るようになった。
受け取りリターンは1998年アジア通貨危機、2002年ITバブル崩壊、2008年リーマンショック、2020年新型コロナショックと1990年代後半以降4つの世界経済の危機局面では一時的に落ち込みながらも、そのリターンの底を次第に切り上げながら長期的に上昇トレンドをたどっている。
ただし問題は、2022年の受け取りリターンの上昇は為替相場の円安・外貨高の影響を受けている面もあることだ。今後日銀の金融政策の修正が進み、またドル金利の低下で大きく円高に揺れ戻した際には、どの程度リターンの低下が起こるのだろうか?
それを推計するために、2000〜2022年の年間データで、対外直接投資の受け取りリターンを対象(被説明変数)に、1OECD景気動向指数の年間平均(OECD Composite Leading Indicator、G20諸国対象)、2円相場(ドル円相場の年間平均値)の前年比(%)を説明変数(要因)にして回帰分析を行った。
結果は、12の要因とも受け取りリターンとの関係性は有意であり(関係が偶然ではない)、説明度を示す決定係数は0.43となった。これは2つの要因で受け取りリターンの変化を43%説明できることを意味する。
100を基準に計測されるOECD景気動向指数(対象期間の変域は最低97.1から最高102.3)1ポイントの上昇は日本の受け取りリターンを0.86%押し上げる。ドル円相場(年間平均)の10%のドル高は、同リターンを0.6%押し上げることが分かった。もちろん、いずれの要因も変化方向が逆なら、リターンに与える影響も逆である(補注3)。
円高に揺れ戻しても受け取りリターンの低下は限定的
この回帰結果に基づいて見込みを立てると、ドル円相場が昨年の平均値131.37円から10%円高に振れて118.23円になっても、円高による受け取りリターンは2022年の10.8%から0.6%押し下げられて10.2%になるだけだ。要するに円安効果だけではない、地力の受け取りリターンの趨(すう)勢的な向上が起こっている可能性が高そうだと言える。
また世界的に高いリターンを上げていると言われる米国の対外直接投資の所得リターンは2018〜22年の平均で9.6%だ(投資残高簿価ベース)。従って2022年以降の円安効果を除いても日本の対外直接投資は10%前後の所得リターンを上げるようになったという筆者の推計が妥当ならば、このリターンの向上は注目に値する。冒頭に述べた「日本企業の海外での収益力が低下している」などという言説は、皮相で一面的なものであることがお分かりいただけただろう。
最後に言い添えると、「だから日本企業の経営に問題はない」と筆者は言っているのではない。むしろ抱えている問題は小さくない。それは2020年の論考「スガノミクス脅かす最大の難敵「賃金停滞」の背後にある日本企業経営の病巣」(2020年11月4日掲載)で書いたことなので、ここでは繰り返さない。
ただ一言だけ言い添えると、日本企業は労働生産性を引き上げるために、国内での設備投資をもっと増やし、労働者一人当たりの労働装備率を引き上げ、急速に進む技術環境に適合するように業務フローの抜本的な変革を進める必要がある。人手不足が強まる状況下でそうした動きが次第に強まっていることは良い兆候だ。
ともあれ世の中は何事も白と黒に峻別できるものではない。過去10余年の日本企業の変化に目を向ければ、「陰の中に陽が広がる」ようなポジティブな変化が、国内外の両面での企業利益率の向上として生じていると言えるだろう。
そうした観点から日本の企業経営に詳しい研究者の著作を最後に一冊紹介しておこう。ウリケ・シェーデ「再興 THE KAISHA 日本のビジネス・リインベンション」(日経BP 日本経済新聞出版、2022年8月)。著者は米国カリフォルニア大学で国際企業経営戦略を専門とする教授であり、バランス感覚の良い分析眼が参考になる。 
●プーチン大統領 軍事企業にロシア製自爆型無人機の増産指示 8/8
ロシアのプーチン大統領は国営の軍事企業の責任者と会談しウクライナへの軍事侵攻で使用しているロシア製の自爆型無人機の増産を命じました。外国製の兵器に対しても効果的だとしていて、欧米各国によるウクライナへの軍事支援をけん制した形です。
ウクライナ内務省は、東部ドネツク州のポクロウシクで7日、ロシアのミサイル攻撃があり、5階建ての集合住宅など、およそ20棟が被害を受けたと発表しました。
この攻撃で7人が死亡したほか、子どもを含む80人以上がけがをしたということです。
現場の映像からは、攻撃を受けた集合住宅の上層階が激しく壊れて、周辺にはがれきが散乱し、救助活動が行われている様子がわかります。
ゼレンスキー大統領はSNSで「われわれはロシアのテロを止めなければならない」と述べ、ロシアへの非難を強めています。
こうした中、ロシア大統領府は7日、プーチン大統領が国営軍事企業「ロステク」のチェメゾフCEOと会談したと発表しました。
この中でプーチン大統領は、軍事侵攻で使用しているロシア製の自爆型無人機「ランセット」などについて、「とても効果的だ。強力な打撃力で、外国製を含めたいかなる装備も単に燃やすだけでなく、爆発させることができる」と強調しました。
そのうえで、「生産をさらに増やすことが必要だ」と述べ、増産を指示しました。
ウクライナに対して、戦車の供与などの軍事支援を続ける欧米各国をけん制した形です。
●プーチン大統領、ロシアには最新兵器の増産が「必要」 8/8
ロシアのプーチン大統領は7日、ロシア国営企業ロステクのチェメゾフ社長と会談し、防衛産業における技術不足と賃金の急激な上昇について協議した。クレムリン(ロシア大統領府)が声明で明らかにした。
声明によれば、プーチン氏は、最新型の兵器の生産比率を高める必要があると述べた。チェメゾフ氏は、ロステクが高度な技術を持つ人材を十分に確保しようとしていると伝えた。
チェメゾフ氏によれば、防衛産業では昨年、賃金が17.2%上昇した。多くの工場が週末や休日、夜間に稼働したためで、こうした稼働日の賃金は割増で支払われる。
チェメゾフ氏はプーチン氏に対し、2022年の国からの防衛関連の受注について、達成率が99.5%と「非常に高かった」と述べた。
プーチン氏は、ロステクによるドローン(無人機)の増産の必要性についても言及した。
プーチン氏は、「クブ」や「ランセット」といったドローンが効果的だったと指摘。こうしたドローンの爆発は強力で、外国製を含むあらゆる装備を燃やすだけでなく、弾薬を爆発させるという。
プーチン氏は、クブやランセットの増産が必要だと語った。
プーチン氏は3日、産業界幹部との会合で、軍事費への支出と内需の組み合わせがロシア経済をけん引しており、製造業の雇用は安定していると述べていた。
●日米欧との租税条約停止 ロシア大統領、ウクライナ侵攻で制裁に対抗 8/8
ロシアのプーチン大統領は8日、日本を含む西側諸国が「非友好国」に当たるとして、租税条約を停止する大統領令に署名した。ウクライナ侵攻を巡り、西側諸国が対ロシア制裁を発動していることへの対抗措置で、即日発効した。
租税条約の停止は今年3月、ロシア財務、外務両省が提案。財務省は「(西側諸国による)一方的な制限は国際法違反であり、ロシアには報復措置を取る根拠がある」と訴えていた。
プーチン政権はロシアに制裁を科す西側諸国を非友好国と認定している。現地メディアによると、今回、日本や欧米など38カ国との租税条約が停止された。
租税条約は、投資や経済交流の促進を目的に、2国間で二重課税を防止するための仕組み。日本とロシアの新たな租税条約は2017年に署名、18年に発効した。
●戦争の「隠れた前線」、ウクライナで家庭内暴力が大幅増加 8/8
1月8日夜、リューボフ・ボルニアコワさん(34)の遺体がウクライナ中部の都市ドニプロの自宅で発見された。検視官は75カ所の打撲傷が確認されたと報告している。
リューボフさんの親族と隣人によれば、夫のヤコフ・ボルニアコフさんは軍を脱走し、事件前の1カ月間は自宅アパートに身を潜めていた。リューボフさんの死に至るまでの2週間、夫は酒浸りになり彼女を何度も殴っていたという。
「腕、顔、足、殴られた跡がない部分がなかった」
リューボフさんが死亡した数時間後にアパートに到着したおばのカテリーナ・ウェドレンセワさんは、そう振り返った。
ドニプロ警察の広報官は、リューボフさんの死に関して刑事捜査が行われていると述べ、詳細については明らかにしなかった。
2022年2月にロシアによる侵攻が始まった当初は、ウクライナにおける家庭内暴力(DV)の報告件数は減少していた。数百万人が戦火を逃れて避難したためだ。
だが今年に入り、避難していた家族が自宅に戻ったり新たな住居に落ち着くなかで、DVの件数は急増しているという。ロイターが検証した、これまで報道されていなかったウクライナ警察のデータから明らかになった。
データによれば、今年1─5月に報告された件数は昨年同時期と比べて51%増加した。過去の最多記録である2020年よりも30%以上も多い。専門家は、この年はコロナ禍によるロックダウンが背景にあると指摘していた。
ロイターがDV問題に取り組む当局者や専門家10数名に取材したところ、こうした増加は、ストレスや経済的な困難、失業、侵攻に関連したトラウマが原因だという。事件の大半では、被害者は女性だ。
ウクライナでジェンダー政策担当委員を務めるカテリナ・レフチェンコ氏は、5月にロイターのインタビューに応じ、「(DVの増加は)心理的な緊張と、多くの困難のためだ。人々はすべてを失った」と述べた。
警察では、2023年1月から5月までに34万9355件のDV事件を記録している。これに対し、2022年の同時期は23万1244件、2021年は同19万277件だった。
ロイターの取材に応じた専門家や弁護士の大半は、戦争が続く限りDVを巡る状況は悪化し、戦争終結後も、前線から戻った戦闘員が負った心的外傷のために長期化するのではないかと懸念している。
中継地点
ドニプロは、ロシアに占領された地域から逃れる人々と、東部や南部の前線に向かう人々の中継地点となっている。
この街では、政府と国連人口基金(UNFPA)が、DVから逃れた人のための救援センターを運営している。昨年9月の開設から5月中旬までに800人に支援を提供したが、その大半は女性だった。
救援センターで働くケースワーカーによれば、支援を受けた人のうち警察に被害を届け出たのは約35%にすぎないという。DV問題に取り組む専門家や弁護士が指摘するように、警察のデータが示すよりもDVが広がっている可能性がある。
救援センターの心理学者テチャナ・ポゴリラ氏によると、戦火を逃れてドニプロに避難してきた人々のなかには、不慣れな土地にいるせいで、自分を虐待する者への依存を強めてしまうDV被害者も存在するという。
「ドニプロに逃れてきて、一家が1つの部屋で暮らすことになる場合もある」とポゴリラ氏は語る。「仕事が見つかればいいが、見つからずに生活が苦しくなる人もいる。さらにウクライナを巡る国際情勢と不安が加われば、ストレスと対立が増大する」
戦争により、国の財源も限界に近づいている。
前出のレフチェンコ氏は、女性のためのシェルターの一部は戦火を逃れてきた人々を収容するために転用されており、ジェンダーを理由とする暴力への対策に割り当てられた国家予算の一部が防衛費に振り向けられていると話す。
ジェンダー関連暴力対策の予算は、2021年の約1000万ユーロ(約15億6000万円)から、今年は420万ユーロまで減少したとレフチェンコ氏は言う。
ウクライナ検察庁で子どもの利益保護及び暴力対策局を率いるユリア・ウセンコ氏によると、警察・検察当局は、前線から帰還する心的外傷を負った兵士たちを巡る潜在的な課題を警戒してきたという。
ウセンコ氏は、検察庁は2月、DV関連の裁判手続きを検証する部門を設立したという。
だが、社会福祉関係者は財源不足を懸念している。
避難民のためのシェルターを運営するドニプロ社会福祉センターのリリア・カリテイウク所長は、「DV発生率が非常に高くなると予想している」と語る。
暴力の連鎖
ロイターが閲覧した資料によれば、夫のヤコフさんは11月に軍を脱走した。隣人のオルガ・ドミトリチェンコさんの話では、夫はドニプロに戻ると自宅で酒を飲んでは妻のリューボフさんを殴るようになり、彼女は外出しなくなったという。
リューボフさんは亡くなる数日前、西部の都市リビウに向けて出発する計画を立てたが、「間に合わなかった」とドミトリチェンコさんは言う。「早く逃げなさいと言ったのだけど」
現在リューボフさんの3人の子どもは、ドニプロにある母親の墓まで車ならさほど時間のかからない場所で、いとこたちと共に暮らしている。
ロイターが閲覧した1月27日付の警察の報告書によると、リューボフさんの死因について医師が心臓発作であると結論づけたため、警察は当初、捜査を打ち切った。
遺族の弁護士であるユリア・セヘダ氏はこの決定に対して、心臓発作は激しい殴打によって引き起こされたものだとして異議を申し立て、受理された。3月28日付の裁判所の文書では、リューボフさんの死に対する刑事捜査が再開されている。
「DVで起訴されれば、それだけでも大きな勝利だ」とセヘダ氏は述べ、いまだにDVは夫婦間で解決すべき私的な問題だという意見を持つ裁判官や警察官がいると説明する。
DVに対して有罪判決が出るとしても、ウクライナ法のもとでは禁固2年が最も厳しい量刑となる。加害者の多くは、170−340フリブナ(650─1300円)の罰金を科されるか、社会奉仕を命じられるだけだ。
レフチェンコ氏は、2015年の警察及び司法制度の改革を経て、DVはようやく犯罪として処理されるようになり、専門の法執行機関が設けられたと語る。
レフチェンコ氏によれば、DV事件の報告件数が増加しているのは、警察がこの問題に対してより大きな関心を払うようになったことの反映だという。
隣人のドミトリチェンコさんは、リューボフさんが夫の暴行について正式な通報をしたことは1度もなく、ドミトリチェンコさんが11月に警察を呼んだときも、ドアを開けようとしなかったと語った。
リューボフさんの遺族は、彼女の墓から夫の苗字を削除し、旧姓に変えようとしている。
「彼女の名前は、リューボフ・ピリペンコです」
おばのウェドレンセワさんは、リューボフさんの墓参りをしながらそうつぶやいた。

 

●ロシアへの制裁強化 中古車など新たに750品目 輸出禁止に 政府 8/9
ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁を強化するため、政府は9日から中古車を含む自動車など、新たにおよそ750品目の輸出を禁止する措置を始めました。
8日から、新たにロシアへの輸出が禁止されたのは、自動車や光学機器など合わせて758品目です。
このうち、自動車の分野では、排気量が1900CCを超えるガソリン車やディーゼル車をはじめ、ハイブリッド車や電気自動車、大型車のタイヤなどの自動車関連の部品が対象です。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、政府はすでにトラックや高級車などの輸出を禁止していますが、今回の追加制裁には、ロシアで人気の高い日本の中古車も含まれ、一部の小型車を除けば、乗用車の多くが輸出できなくなります。
ことし5月のG7広島サミットでは、ロシアに対する制裁の継続や強化で各国が一致し、その後、アメリカやEU=ヨーロッパ連合が乗用車の禁輸措置の強化に動いていて、日本も足並みをそろえた形になります。
●ロシア・プーチン大統領 日本などとの租税条約の一部停止、制裁に対抗か 8/9
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻をめぐりロシアに制裁を科す日本など「非友好国」を対象に租税条約の一部を停止する大統領令に署名しました。
ロシアメディアによりますと、プーチン大統領が8日に署名した大統領令では、日本や欧米など38か国との租税条約の一部を停止するとしています。
大統領令は「ロシアへの非友好的な行動に対し緊急措置を講じる必要がある」としていて、ウクライナ侵攻をめぐる対ロ制裁への対抗措置とみられます。
同時に、租税条約の停止による国内経済への影響を軽減するための措置を講じるようロシア政府に指示しています。
租税条約は投資や経済交流を促進するため課税のルールなどを定めたもので、日本とロシアの間では5年前に新たな条約が発効しています。
●ロシア大統領、農産物輸出のルーブル決済可能にする法令に署名 8/9
ロシアのプーチン大統領は8日、農産物輸出のルーブル建て決済を可能にする法令に署名した。
ウクライナ侵攻を受けて国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済システムから排除されており、ロシアは友好国への制裁圧力を緩和する手段としてルーブル建て決済を推進している。
プーチン氏は7月にサンクトペテルブルクで開催されたロシア・アフリカ首脳会議の演説で、自国通貨での貿易に移行する必要性を強調した。
アブラムチェンコ副首相は先月、この法令について「友好国による食料市場へのアクセスを簡素化」し、ロシアの輸出業者と友好国を制裁圧力から守ると述べた。
●ロシア教科書、ウクライナ侵略で戦死した兵士を「英雄」と紹介… 8/9
ロシアのウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官らは7日、モスクワ市内で記者会見し、日本の高校生に相当する学年の生徒が9月から授業で使う歴史教科書の内容を公表した。1970年代以降の記述を全面的に書き直し、ロシアが「特殊軍事作戦」と称するウクライナ侵略に関する章を新設した。若年層に侵略の「大義」を植え付けたいプーチン政権の思惑が色濃くにじんでいる。
公表したのはロシアと世界の現代史を扱う教科書で、ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミアと露本土を結ぶ「クリミア大橋」を表紙にあしらったものもある。
露有力紙RBCなどによると、教科書ではウクライナを「超民族主義国家」と非難。米欧の「究極的な目的はロシアの分割と資源の管理にある」と強調するなどプーチン大統領の主張を踏襲し、侵略を正当化する記述が目立つ。侵略で戦死した露軍兵士を「英雄」として紹介しているという。
教科書は、過激な民族思想で知られる元文化相のメジンスキー氏が監修し、9月の新学年に間に合わせたとしている。メジンスキー氏は中学生向けの教科書についても1年以内に完成させる意向を表明した。
●プーチン氏、南ア大統領と電話会談 BRICS会議へ協力 8/9
ロシア大統領府は8日、プーチン大統領が南アフリカのラマポーザ大統領と電話会談したと発表した。両氏は今月下旬に南アで開かれる新興5カ国(BRICS)首脳会議の準備などで協力を続ける考えで一致した。
プーチン氏はBRICS首脳会議にオンラインで参加することを決めている。ウクライナ侵攻に絡んで国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に逮捕状を出したため、ICC加盟国の南アへの入国を避けたとみられる。
●“サイバー兵器”と化すDDoSやWeb攻撃 背景にはウクライナ・東アジア情勢 8/9
ロシアのウクライナ侵攻や徐々に緊迫度を増す東アジア情勢などの地政学的なリスクの高まりは、引き続きサイバー攻撃のアタックサーフェス(攻撃対象領域)と攻撃の手法に変化をもたらしている。
日本を狙うDDoS 「犯行声明なし」に注意
2022年9月、親ロシアを標榜するハッカー集団「KILLNET」が行ったと考えられるDDoSで、デジタル庁などの行政システムや民間のサイトが一時的なサービス停止を余儀なくされた。また2023年の2月には、同じく親ロシア派のハクティビスト(何らかの主張を持ったハッカー集団)の一つ、「Noname057(16)」 が、防衛省の弾道ミサイル防衛などに対抗してサイバー空間でのDDoS攻撃を実施したと主張。金融や製造業、エネルギー関連企業のサイトに攻撃を試みたとみられる。
同時期にアカマイ・テクノロジーズ(以下アカマイ)でも、官公庁、金融、製造、重要インフラ関連企業へのDDoSの試行を観測してこれを阻止している。
近年の日本でのDDoS対策は、当初の東京オリンピックの開催年の2020年に合わせたものだった。同大会のスポンサー企業だけでなく、国土強靭(きょうじん)化政策の一環として中央省庁や重要インフラ事業を行う民間企業などで対策が進められた。
しかしその導入が一段落した後は事情が違う。20年以降に作られた組織や、企業の新規サービスの中にはまだ十分対策が取られていないものがあり、たびたび起きるDDoSによってサービス停止などの被害を出している。
最近では、23年5月19日から本会議が開催されたG7広島サミットにあわせ、5月20日夕刻には広島市が、さらに一連の関連会議の開催期間中に複数自治体の公式サイトがDDoSと考えられる攻撃でアクセス困難に陥った。
実はアカマイでも、これに類すると思われるトラフィックの急増を19日夜に観測。防御に成功し、短時間で攻撃試行は収束した。一連の攻撃には、ハクティビストのような犯行声明が確認されていない。攻撃者のプロファイルが異なっているとも考えられる。
DDoSを行う攻撃者の属性は一様ではない。KILLNETやNoname057(16)のようなハクティビストによって行われる攻撃は、犯行声明が出されることが多く、起きた事象との関連性を比較的推測しやすい。一方で、国家が主導して行うDDoSは”兵器”として運用されるため、一般的に攻撃の意図が読みづらい。
これら“サイバー兵器”としてのDDoSは、周到な予備調査や準備を行なったうえで、作戦上必要なときに確実に標的のサービスを停止できるよう調整されるので、より警戒すべき事案だといえるだろう。
ロシアや中国など旧共産圏の国では、国家や政府系の組織と、犯罪組織やハクティビストの境界があいまいであることも理解しておくべきだ。民間の組織に偽装して国家が組織を運用するケースの他、ロシアは国家機関が既存の民間/有志の組織に接触を図り、必要になったら徴用する仕組みづくりに長けている。
ハクティビストのDDoSでは、攻撃の協力者を募集するケースもある。下図は、NoName057(16) がSNS「Telegram」上でDDoSを行うツールを配布し、さらに攻撃成功に応じた報酬(インセンティブ)を渡す仕組みまで用意して協力者を募る様子をまとめたものだ。
このように一般人が攻撃に加担するようになると、もともと見分けにくいDDoSと正規のユーザーアクセスがさらに見分け辛くなる。状況によっては、一般市民に広がったネットワークを持つ民間組織を、国家機関が操ろうとする可能性も考慮しておく必要もある。
今のところ、国家の介在するハイブリッド戦で観測されているDDoSの手法や攻撃の規模とハクティビストや犯罪者が行うDDoSに大きな乖離は見られない。十分な予防措置をとっておけば、深刻な被害は抑止できると考えて良いだろう。ただし、攻撃ベクトルの傾向を観測すると、既知の手法が用いられているものの、その比重にこれまでにない変化が見られた。
DNSが主な標的に データが示すDDoS攻撃の変化
DDoS対策においてつい見落としがちなのが、企業や組織のドメイン、サーバ名と、IPアドレス変換のマスターテーブル(変換に必要な基礎データの対応表)を管理する「権威DNS」の処理飽和を狙うDDoSの存在だ。権威DNSが処理不能に陥ると、Webだけでなく、その他のデータベースや認証などの多様なサーバの機能や、メールの配信にも影響が及ぶ。
2023年4月末、複数の国の省庁と関連機関および自治体がDDoSを受け、サイトが数分から数時間繋がりにくい状態に陥った。この攻撃には「DNS水責め攻撃」が用いられたとみられている。なかでも最近は「ランダムサブドメイン攻撃」がよく用いられているようだ。
ランダムサブドメイン攻撃とは「インターネット上に多数存在するオープンリゾルバー(アクセス制限をしていないDNSサーバ)に対して、DNSの階層型キャッシュのしくみで応答できないよう、実際に存在しないサブドメイン付きのリクエストを送ることで、標的とするドメインの権威DNSサーバにリクエストを集中させ、サービス不能状態に陥らせる」という攻撃だ。
攻撃の手法としては既知のものであり、一般的に「DNS Flood」として観測される。アカマイの観測では、DDoS攻撃数全体に占めるDNS Floodは、2022年にわずか5.3%だった割合が、2023年に入ってから約35%に急増し、主要な攻撃ベクトルとなった。
DNS Floodに使われるDNSのクエリは、攻撃を意図したものか正規のクエリかの見分けが事実上できない。従って理想的な解決策としては「大量のDNSクエリを全て受け止め切って応答できる総処理キャパシティーを備えた権威DNSサーバ」 が必要となる。
現在の大規模化したDNS Floodに対抗できる現実的な解としては、この種のDNS攻撃を緩和するために専用に設計された複数のクラウドによって構成される、特別な権威DNSサービスが用いられるようになっている。
これからのDDoS対策で重要なポイントは?
ここで、すでにある程度DDoS対策を取っている組織を想定し、今後のDDoS対策で重要となるポイントを具体的挙げてみよう。
まず、運用面では、どのサービスを停止から守るべきか、対策の優先順位と緊急時に確保すべきサービスレベルについて、主要なサービス部門を管轄する経営層とコンセンサスを取っておくことが重要だ。また、DDoS緩和に専門ベンダーのマネージドサービスを契約している場合、攻撃時の対処手順書を委託先と共に用意し、最新の攻撃動向の変化に合わせて適切に更新できているかも確認しておくとよいだろう。
システム面では、DDoSに狙われそうな公開Web系(スマホアプリやIoTなどで用いられるAPIサーバを含む)のサービスは、他と隔離されたセグメントやクラウド上に配置することをおすすめする。
これは、DDoSに狙われて回線の帯域が塞がった際に、メールサーバなど他の重要なシステムに影響が及ばないようにするためだ。同様に、クラウドやデータセンター内で近くに配置された他社のサーバがDDoSを受けた際に、巻き込み事故で自社サービスが停止する恐れがないか、契約するクラウドやデータセンターに用意している対策について確認しておくとよいだろう。実際このような巻き込み事故が、最近の日本のDDoS被害でしばしば起きている。
この他、今回解説した権威DNSへのDDoS対策も必要だ。DDoS耐性の高い権威DNSサービスにマスターレコードを移すには、サブドメインを管理する各部門との社内調整が必要になるケースがある。全社のインフラ/セキュリティ統括部門は、余裕を持てる平時に、停止時の影響を各部に説きながら準備と移行を図っておくのがよいだろう。
さらに、botを使ってHTTP/HTTPSのリクエストを大量に繰り返す“レイヤ7(OSS7層)DDoS”への対策も進めておく必要がある。このタイプのDDoSは、攻撃用のリソースを確保するコストが一般的なDDoSで用いられる攻撃ベクトルより割高になるので、これまであまり多用されていなかった。
しかし2020年ごろから、攻撃全体に占める割合はまだ多くないものの、標的を絞ったDDoS攻撃キャンペーンでよく観測されるようになっている。特に最近の攻撃では、単純なCDNのWebキャッシュ機能による緩和が難しい「POSTリクエスト」を、botを使って大量に送りつけるDDoSが見られる。こうした攻撃には、人間とbotのアクセスを見分けるbot対策ソリューションが効果を発揮している。
変化するWeb攻撃 狙われる製造、公共、ハイテク業界
WebアプリケーションやAPIの脆弱性をつく攻撃の変化と地政学リスクとの関係についても触れてみたい。いま起きている変化を一言で述べると「ECなどの消費者向けサイトだけでなく、B2Bビジネスを展開している企業や組織が狙われるようになった」ことだ。
その詳細と背景については、前回の記事で洞察しているので参考にしてほしい。今回はそれを裏付けるデータが、アカマイのレポート「Akamai SOTI Security Report セキュリティギャップのすり抜け」による分析で、明らかになったのでいくつか示してみよう。
まずこちらは、アカマイが捉えたWebアプリケーション攻撃の試行数をもとに、全体の傾向を示す中央値の増減を業界別に示したグラフで、2021年と2022年とを比較している。
世界全体では、製造業、デジタルメディア、公共が2021年比の増加率で上位を占めた。一方APJ(日本を含むアジア太平洋地域)では、金融サービス (+248%)、製造業 (+162%)、公共 (+139%) が特に大きく増加を示した業界となった。この他に、日本のハイテク業界への攻撃も+116%となり、2021年の2倍以上と顕著な増加を示している。ここから連想できるのは、いずれも地政学的リスクが反映しやすい業界だということだ。
製造業や公共分野では、これまで攻撃の主要な標的となってきた金融、小売業などのB2C系のサービスと比較すると、多層防御を意識した高度なWebセキュリティ対策の導入が遅れがちだ。これらの業界ではまずアタックサーフェス(攻撃対象となる領域)が自分たちの業界に広がった事実を強く意識すべきだろう。
ハイテク分野の機密情報、政府や防衛分野の情報、それらを入手するための諜報活動に利用できる従業員やサプライチェーンの情報は、対立する国家にとって最優先の標的だと考えられる。また、情報流出の防止だけでなく、従業員を他国の諜報活動に伴う物理的な危険に晒さないためにも、サイバーセキュリティの強化が必須だと言える。
Webサーバの乗っ取りや踏み台化が顕著に
Webアプリケーション攻撃試行数を主要な攻撃ベクトルごとに分け、2022年と2021年とを比較した下記のグラフを見ると、Webに連携したデータベース中の顧客情報などを狙うSQLインジェクション(SQLi)の増加率が鈍化する一方で、LFI(ローカルファイルインクルージョン)が特に増加したことが分かる。この傾向と背景については前回の記事でも考察したが、その流れが続いていることが分かった。
LFIは、本来閲覧権限のないサーバ内のファイルの読み込みや実行ができる脆弱性を利用する攻撃手法で、Webサーバを乗っ取って踏み台にし、システム管理者や組織内部への侵入に有効な情報を集めたり、ランサムウェアを送り込んだりする攻撃に用いられる。PHPベースで構築されたWebはこの攻撃を受けやすいので特に注意が必要だ。
Webサーバの踏み台化でよく用いられるのが「Webシェル」だ。サーバに仕込むことで外部からサーバを自由に操れるようになる。有名なものに、中国系のAPTグループ (「APT41」や「Hafnium」など、入念な準備の上で標的型攻撃を行う集団)がよく使う「中國菜刀(China Chopper)」や「Behinder」などがある。現在の攻撃は複数の手法やツールを組み合わせて多段階に行われる。LFIなどの主要な攻撃ベクトルだけでなく、こうしたWebシェルを検知できるかも、攻撃の変化に対応できる、れた WAF (Web Application Firewall) を選ぶ際の重要な要件になるだろう。

前回の記事から約1年を経てより鮮明になってきた地政学的なリスクが、DDoSとWebアプリケーション攻撃に与えている影響をさまざまなデータから改めて検証してみた。
地政学的なリスクや、巧妙でかつ先鋭化する攻撃の兆候は、最初漠然としていて見えにくいものだ。しかし最新のデータをもとに、攻撃者が次に悪用しようとしている「弱点となるポイント」を自組織に照らし合わせて洞察することはできる。
実は日本の製造やハイテク業種などを中心に、今回解説したようなリスクの変化や高まりをとらえてWebベースのシステムを多層防御で強化する動きが徐々に出始めていると感じている。
身近な社会に迫りつつある脅威を抑止するために、見落としていたセキュリティリスクを見抜く目と、予防のための取り組みが、他の業種や官公庁に加えてそれらにWebベースのSaaSを提供しているベンダーにも広がることを期待したい。
   ●RFI・LFI
RFIはリモートファイルインクルージョン(Remote File Inclusion)の略で、主に外部で用意したスクリプトファイルを攻撃対象サイトに読み込ませ実行させるといった攻撃となります。
LFIはローカルファイルインクルージョン(Local File Inclusion)の略で、攻撃対象サーバー内のファイルを閲覧するためにファイルパス(例:..etc/passwd)をリクエストのパラメータに挿入して送信し、対象ファイルを表示させる攻撃となります。
どういった影響があるのか / 外部のファイルを実行できてしまう場合、情報の漏洩、サイト改ざん、不正な機能実行、踏み台として利用され他サイトへの攻撃といったことに繋がります。
   ●SQLi
SQLインジェクションは、データベースを侵害できる一般的なハッキング技法です。SQLコマンドまたはコードの断片を正当なデータ入力フィールド(パスワードのフィールドなど)に「注入」することにより、攻撃者はSQLを使用してデータベースと直接通信することができます。こうした技法がうまく機能するのは、SQLがコントロール・プレーンとデータ・プレーンを区別しないからです。悪用に成功すると、データベースの機密データを共有させ、データを変更し、データベースに対して管理操作(例:Db2などのDBMSのシャットダウン)を実行して、DBMSファイル・システムに存在する特定のファイルの内容を復元し、さらにはオペレーティング・システムに対してコマンドを発行することもできます。SQLiは一種のコード・インジェクション攻撃です。
   ●CDN
CDN(Contents Delivery Network)とは、数多くのキャッシュサーバーなどで構成されたプラットフォームを用いることにより、Webサイト上のコンテンツを迅速にエンドユーザーに届けるための仕組みです。通常のWebサイトでは、コンテンツを配信するためのWebサーバーの処理能力やインターネットに接続されているネットワークの帯域幅などが制約条件となり、大量のユーザーがWebサイトにアクセスするとレスポンスが低下してしまいます。また、物理的に離れた場所からのアクセスに対しては、ネットワークの遅延によってレスポンスが低下する場合があります。こうした課題を解決するのがCDNです。
各地に配置した多くのキャッシュサーバーにWebサイトのコンテンツを一次的に保存(キャッシュ)し、リクエストしたユーザーから近い場所にあるキャッシュサーバーからコンテンツを配信することで、Webサーバーやネットワークの状態、あるいはユーザーがアクセスする場所との物理的な距離にかかわらず、安定したコンテンツ配信を実現します。
   ●DNS
DNSとはDomain Name System(ドメイン・ネーム・システム)の略で、インターネット上におけるホスト名(FQDN)やドメイン名に対応するIPアドレス情報を管理・運用するシステムのことです。
簡単にいうと、ホスト名(たとえば、www.idcf.jp)を入力すると、DNSサーバーへ問い合わせを行い、そのホストのもつ IP アドレスを検索する「名前解決」(IPアドレスとホスト名を指し示して相互解決するための仕組みのこと)を行い、その結果としてWebサイトが表示されたり、メールが届いたりしています。
DNSのインターネットにおけるその役割は非常に重要です。ドメイン管理を行うDNSサーバーが万一停止すれば、ドメインでの名前解決ができなくなり、インターネットを利用するユーザーはドメインを使用したサイトの閲覧やメール送受信など、ほとんどのインターネット上の操作が不可能になってしまいます。普段は意識されることのないDNSですが、インターネット利用において大切な技術なのです。
   ●DDoS
「DoS攻撃(Denial of Service attack/サービス拒否攻撃)」とは、ウェブサイトやサーバーに対して過剰なアクセスやデータを送付するサイバー攻撃です。
そして、このDoS攻撃を、対象のウェブサイトやサーバーに対して複数のコンピューターから大量に行うことを「DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack/分散型サービス拒否攻撃)」といいます。読み方は「でぃーどすこうげき」です。
DDoS攻撃を受けると、サーバーやネットワーク機器などに対して大きな負荷がかかるため、ウェブサイトへのアクセスができなくなったり、ネットワークの遅延が起こったりします。その結果、対象とされた企業や組織では、金銭面だけでなく信用面でも大きなダメージを被ることになります。
DoS攻撃とDDoS攻撃との違い
DoS攻撃とは、1台のコンピューターから攻撃をしてくるサイバー攻撃です。それに対してDDoS攻撃は、複数のコンピューターから一斉にサイバー攻撃をしてくるという違いがあります。そのため、DDoS攻撃は、DoS攻撃よりもさらに膨大なデータが送られてくるようになり、攻撃対象に対して、より過剰な負荷がかかるのです。
DDoS攻撃の特長
DDoS攻撃は、コンピューターシステムへの不正侵入、プログラムの破壊、データ改ざんといった行為をする攻撃者が、複数の一般コンピューターを乗っ取って行います。
他人のコンピューターを乗っ取ってサイバー攻撃に利用することを「踏み台」といいます。この踏み台行為を行うため、攻撃を受けたウェブサイトやサーバーは、サイバー攻撃の仕掛け人を割り出すことは難しいという特長があります。
また、DDoS攻撃で受ける大量のアクセスは、一見すると通常のアクセスと見分けがつきません。そのため、DDoS攻撃で受けるアクセスだけを、選択して排除することが難しいという特長も持っています。
DDoS攻撃への対処法
DDoS攻撃をされないための対処法はいくつかあります。
ひとつは攻撃元のIPアドレスを特定して、そのIPアドレスからのアクセスを遮断することです。ただし、この方法は、1台のコンピューターから攻撃を行うDoS攻撃には有効ですが、複数のコンピューターから一斉に攻撃してくるDDoS攻撃には効果が少ないといえます。
そこで、海外からのアクセスを遮断するのもひとつの対処法です。サイバー攻撃の主流は海外からのものが多く、アクセスを国内だけにしぼってしまうのもDDoS攻撃への対策になります。
しかし、これらの方法だけでは、DDoS攻撃を100%防ぐことはできません。そこで行いたいのが、DDoS攻撃対策ツールの導入です。ツールの導入にはコストがかかりますが、その効果は高いものがあります。
また、ネットワークに流れるデータの量の異常を監視することで、DDoS攻撃が表面化する前に感知し、被害の拡大を防ぐネットワーク監視システムもあります。このようなシステムを導入しておくことが、DDoS攻撃対策に有効だといえます。 
●ロシアの武器調達に関わったトルコやUAEなど25の企業や個人に制裁 英政府 8/9
イギリス政府は、ウクライナに侵攻するロシアの武器調達に関わったとして、新たにトルコやUAE=アラブ首長国連邦などの企業や個人に対し制裁を科すと発表しました。
イギリス政府は8日、ロシアの武器調達に関わったとして、新たにあわせて25の企業と個人に対しイギリス国内の資産凍結や渡航禁止の制裁を科すと発表しました。
対象となるのは軍事備品に必要な電子機器を輸入するロシアの3つの企業のほか、ロシアに電子機器を輸出していたトルコの2社、ドローンを供給していたUAEの企業、ドローンの供与が指摘されているイランの企業などです。
また、ロシアと北朝鮮の間の武器取引に関わったスロバキア人やロシアの金融サービスに関与したスイス人ら個人も含まれます。
イギリス外務省は、ロシアは西側諸国の制裁により性能の低い半導体を冷蔵庫などから回収しなければならないほど追い込まれていると指摘していて、クレバリー外相は「今回の制裁はロシアの軍備をさらに縮小させ、軍事産業を支えている供給網を狭めるものだ」としています。
●突然の「検閲緩和」に垣間見える習近平の苛立ち 8/9
微博(ウェイボー)には堰を切ったようにロシア批判が!
長引くウクライナ戦争のかたわら、中露は日本海で合同軍事演習を行うなど、緊密なパートナーシップを国際社会に見せつけている。ところが中国人ジャーナリストの周来友氏によれば、最近、中国SNSに見られるある変化から、中露関係に広がった溝が見て取れるという。
7月30日未明、ロシアの首都・モスクワでウクライナによるドローン攻撃が行われました。この攻撃でモスクワ市内の複合施設に被害が出たほか、7月に入り行われた2度のドローン攻撃によって市内のオフィスビルが損壊しています。中国国営メディア・環球時報もウクライナによるモスクワ攻撃について大々的に報じています。
こうしたウクライナによるロシア本土攻撃については、中国のネット世論ではこれまでウクライナ側を批判する投稿が多数を占めていました。ところが最近はある変化が見られます。
増え始めた反ロシア投稿
今回のウクライナによるドローン攻撃について報じた環球時報のコメント欄には、「プーチンよ。あなたの国の国民のためにも投降し自首しなさい」「ウクライナ必勝!侵略者を追い出せ!」「ロシアの防空システムレベルの低さが露呈している。侵略者の自業自得だ」など、ウクライナ支持の声が圧倒的に多かったのです。
中国のSNS上では、ロシア支持派とウクライナ支持派による応酬合戦が繰り広げられるなど、中国国内の世論が大きく割れていることがうかがえます。
さらに、駐中国ウクライナ大使館の公式ウェイボー(中国版旧Twitter)には、「ロシアの独裁植民地支配を徹底的に打ち破ってほしい」「必勝ウクライナ」「ロシアによって奪われた領土を奪還し領土統一を成し遂げろ」「侵略者に裁きを」などのコメントが寄せられ、ウクライナ支持のコメントは現在も増え続けています。
過去に中国では、友好国である北朝鮮の金正恩の蔑称「金三胖(三代目のデブ)」という言葉が、表示検索NGとなったこともありました。今回のウクライナ戦争に関しても、SNS上の昨年までの投稿を見返す限り、ロシアを直接的に批判する投稿は、ほとんどといっていいほど見られません。当局による検閲が働いていたものと考えられます。
それが最近になって、プーチンを名指しする批判コメントなど、反ロシア的な投稿が削除されず放置されているのは、中国政府のスタンスの変化が裏にあるとも読み取れます。
プーチンの逮捕状を報じた中国メディア
ネット言論だけでなく、政府から直接的な統制を受けている中国メディアも、プーチンに不利な情報を伝え始めています。今年3月、国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナ侵攻をめぐり、ウクライナから子供を連れ去った戦争犯罪容疑で、プーチン大統領に逮捕状を出したことを発表しました。
中国外務省は、記者会見の場で、国際刑事裁判所に対し、客観的で公正な立場を求める一方、他国への違法な侵入や戦争犯罪には強く反対することを表明してきました。
この頃から、中国の民間メディアでは、「プーチンがウクライナから子供連れ去りで指名手配、牢獄の危機(網易新聞)」、「プーチンのほか、国際刑事裁判所に指名手配された女とは?(騰訊新聞)」などの見出しで、ロシアによる児童連れ去りを報じています。
この件に関しては登録者2億人を超える中国最大のQ&Aサイト「知乎」で、著名ブロガーが「ウクライナから19000人の児童を連れ去ったプーチン一派の犯罪行為を見よ」というタイトルの文章を投稿。今回のウクライナ戦争におけるロシア軍やプーチンの悪行の数々を発表しています。
こうしたメディア報道や非難の文章は、現在も中国の検索サイトで閲覧できる状態となっていることからも、中国政府が敢えて黙認していることが分かります。さらにはロシアとの友好関係を見直し、ウクライナを支援するべきとの中国政府の方針に「口出し」する専門家も出てきています。
プーチンを持て余しはじめた中国
軍事や外交上では、反米という価値観を共有するロシアとの結束を維持しています。今年7月には、中露は日本海で合同軍事演習を行ったほか、中国産ドローンなどがロシアに輸出されていることなども明らかになっています。
一方で、英紙フィナンシャル・タイムズは、習近平国家主席とプーチンが今年3月に会談した際、習主席が直接、プーチンに対し核兵器を使用しないよう警告していたことを報じています。しかし、ロシアは核兵器使用の可能性をちらつかせ、国際社会に対し挑戦的な姿勢を示しています。対米共闘のパートナーとはいえ、自身の忠告に耳を貸さないプーチンに関して、多かれ少なかれ習政権は苛立ちを覚えていることでしょう。
思い返してみればそれもそのはずです。ウクライナ戦争をきっかけに、国際社会の現状変更に関する警戒感は更に高まり、中国は台湾統一のタイミングを失いました。またこの戦争は、習政権最大の目玉政策である「一帯一路構想」の完成を遠ざけた一因でもあるのです。このところの中国国内の反ロシア言論の黙認は、習政権によるロシアとの蜜月への終止符のようにも見えます。 
しかし、中国という唯一無二のパートナーに見限られたとしたら‥‥。ロシアの行く先は和平のテーブルなのか、はたまたさらなる暴走なのか。注視が必要です。
●プーチン、反乱から身を守るために私兵の「国家親衛隊」を再武装 8/9
新たな情報分析によれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、6月に起きた民間軍事会社ワグネル傭兵部隊の反乱の後、大統領直属のロシア国家親衛隊の強化を図り、「重火器」で武装させるようだ。
英国防相が8月8日に発表した新情報によれば、プーチンは8月4日、国家親衛隊として知られるロシア政府直属の部隊に戦車や攻撃ヘリコプターを含む重火器を供給する新たな措置を導入した。
国家親衛隊を武装強化する動きが明らかになったのは、6月23日〜24日にかけてのワグネルの反乱の後だった、と同省は付け加えた。
ワグネルの反乱は短期間で終わったが、劇的だった。ワグネルを創設した新興財閥(オリガルヒ)エフゲニー・プリゴジンが指揮する部隊はロシア南部の都市ロストフナドヌーを占拠した後、モスクワに向かって進軍を始めた。だが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介したとみられる取引により、反乱は中止された。そして現在、多くのワグネルの戦闘員がベラルーシに拠点を置いている。
ワグネルが提供する傭兵部隊は、ロシア政府にとって都合のいい存在だった。部隊は2023年5月下旬まで、ウクライナ東部で最も激しい戦闘に参加していた。
政権の安全確保をめざす
反乱を中止したワグネルは、2000以上の軍事装備、2500トン以上の弾薬、20000丁を越える小火器を引き渡したとロシア国防省は7月中旬に発表した。ただし、この数字は第三者機関によって検証されていない。
「反乱の後、ロシア軍はワグネルの武器と重装備を押収した」と、リトアニア国防省の広報官は7月下旬に本誌に伝えた。「重火器と戦闘装甲車がなければ、この部隊は非常に限られた任務しか遂行できない」
8月4日のプーチンの発表を受けて、国家親衛隊はまもなく重火器を受け取ることになるが、英国防省はこの措置はワグネルの反乱と直接関係があると見ている。
2016年に創設された国家親衛隊はプーチンの「私兵」と呼ばれており、正式にはロシア軍と関係がない。大統領に直接報告する機関となっており、プーチンの護衛を務めていたビクトル・ゾロトフが率いている。国家親衛隊を創設した大統領令によれば、この部隊は「国家と公共の安全を確保し、人間と市民の権利と自由を守る」ために存在する。
英国防省は、国家親衛隊は「最大20万人の兵員を擁する大規模な組織」であり、重火器を装備することで、ロシア政府が「政権の安全を確保する重要な組織の一つとして、国家親衛隊への資金供給を倍増させる」可能性があると付け加えた。
ゾロトフはワグネルの反乱時に国家親衛隊が優れた働きをしたと主張している。だが、英政府は「ワグネルはまさに国家親衛隊が対処するべき国内の安全保障上の脅威だったといえるが、国家親衛隊がワグネルに対して効果的な行動をとったという証拠はない」としている。
国家親衛隊はウクライナでも活動している。22年9月にモロシアがウクライナの東部と南部の4つの地域の併合を宣言した際にも、関与していた。
英国防省は当時、国家親衛隊が国際的に承認されていないこれらの地域の住民投票に関わっていたことを指摘した。昨年9月に「国家親衛隊の部隊は、ウクライナの戦闘と後方地域の安全保障の両面で重要な役割を果たしてきた」と発表している。
●ゼレンスキー大統領 「意図的なものだ」とロシア側を強く非難 8/9
ウクライナ東部ドネツク州で、ロシア軍のミサイル2発が集合住宅に相次いで撃ち込まれ9人が死亡した攻撃について、ウクライナ政府は1発目のミサイル攻撃で救助隊などが集まっていたところに2発目のミサイルが撃ち込まれたとしています。ゼレンスキー大統領は「最大の苦痛と損害を与えるための意図的なものだ」と述べ、ロシア側を強く非難しました。
ウクライナ東部ドネツク州のポクロウシクでは7日、5階建ての集合住宅などにロシアのミサイル2発が相次いで撃ち込まれ、ウクライナ側によりますと、9人が死亡、82人がけがをしました。
この攻撃について、ウクライナ非常事態庁は8日、首都キーウで記者会見し、1発目のミサイル攻撃で救助隊などが集まっていたところに2発目のミサイルが撃ち込まれたと明らかにしました。
この結果、被害が拡大し、死者の中には救助隊員1人が含まれているほか、けが人の中にも救助隊や警察官などが含まれているということです。
ゼレンスキー大統領は、8日に公開した動画の中で「最大の苦痛と損害を与えるための意図的なものだ。テロリストには処罰が下されなければならない」と述べ、ロシア側を強く非難しました。
一方、ロシア国防省は9日、日本時間の9日午前、2機の無人機による攻撃が仕掛けられたものの、首都モスクワ近郊の上空で破壊し阻止したと発表しました。
ウクライナ側による攻撃だと主張していますが、具体的な根拠は示していません。
これに先立って、モスクワのソビャーニン市長は、2機の無人機がモスクワの南部と西部の近郊に飛来したものの、いずれも撃墜され、けが人の情報は入っていないとSNSに投稿しました。
モスクワやその周辺では7月以降、無人機の飛来が相次いでいて、8月に入っても、1日にはビジネス街の高層ビルに無人機が墜落して建物の一部が損壊したほか、6日にもモスクワ近郊に無人機が飛来し、ロシア側は警戒を強めています。
●ウクライナ反攻、欧米支援国に届く情報は厳しさ増す 「最も困難な局面」 8/9
ウクライナの反転攻勢が始まって数週間が経過し、欧米当局者の間ではウクライナ軍の領土奪還能力に関して厳しい見方をする傾向が強まっている。最新の情報について報告を受けた米高官や欧米当局者4人がCNNに明らかにした。
上級外交官の一人は「今後2〜3週間は引き続き、戦果を挙げるチャンスがあるかどうか見極める時間が続くだろう。ただ、紛争のバランスを変えるほどの戦果を本当に挙げられるかと言えば、その可能性は極めて低いと思う」と語った。
米民主党のマイク・クイグリー下院議員は、「我々に寄せられている報告は厳しい内容だ。ウクライナが直面する課題について思い知らされている」と説明。「今回の戦争で最も困難な局面に差し掛かっている」との見方を示した。クイグリー氏は欧州でウクライナ軍装甲部隊の訓練に当たる米軍幹部と会談した後、最近帰国した。
ウクライナ軍は依然、東部や南部に幾重にも敷かれたロシアの防衛線を突破するのに苦慮している。こうした地域には多くの地雷が埋められ、広大な塹壕(ざんごう)網が張り巡らされている。ウクライナ軍は甚大な損失を出しており、司令官は再編や死傷者低減のために一部の部隊を待機させている状況だ。
上級外交官の一人は「ロシア軍は多くの防衛線を築いている。(ウクライナ軍は)実際には第1防衛線も突破していない」と説明。「今後数週間にわたって戦闘を続けたとしても、この7〜8週間で現状以上の突破口が開けなかったのであれば、ますます兵力が消耗する中で不意に突破口が開ける可能性がどれだけあるというのか。状況は非常に厳しい」と指摘した。
天候や戦闘環境の悪化が見込まれる秋が近づく中、ウクライナ軍が前進するには限られた時間しか残されていないとの声も多い。
さらに、反攻進展の遅れにより、ウクライナ軍を機械化諸兵科連合部隊に変える難しさが露呈したとの見方も出る。西側から供与された戦車などの訓練時間が8週間しかなかったケースもあるという。ウクライナがこれまでより頻繁にロシア領内を攻撃して、「ロシアの脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにしようと試みている」のは、一つには地上作戦の進展の乏しさが原因だと、米軍幹部は指摘する。
こうした最新の分析は、反転攻勢開始時の楽観的な見方が一変したことを示す。取材に応じた当局者らは、当初の期待感は「非現実的」なものだったと指摘。今や一部の欧米諸国からウクライナに対し、和平協議の開始を迫る声が出ている状況だと明らかにした。領土割譲の可能性を検討するよう求める声も出ているという。
期待と結果のギャップが広がるにつれ、ウクライナ当局者と欧米の支援者の間で「非難合戦」が始まるだろうと懸念する当局者もいる。戦争開始から2年近くほぼ盤石だった協力関係に亀裂が入る可能性もある。

 

●ロシア 新しい歴史教科書公表 軍事侵攻正当化の思惑 鮮明に 8/10
ロシアで来月迎える新学期にあわせて新しい歴史教科書が公表され、ウクライナへの軍事侵攻についての記述が新たに盛り込まれました。プーチン政権が、若い世代に対して軍事侵攻を正当化しようとする思惑が鮮明になっています。
ロシア政府は、日本の高校生にあたる学年の生徒を対象にした新しい歴史教科書を作成し、今月7日にモスクワで公表しました。
新しい教科書には去年2月にロシアが始めたウクライナへの軍事侵攻についての記述が新たに盛り込まれ、軍事侵攻の理由としてウクライナ東部のロシア系住民の保護や安全保障上の脅威を取り除くためといったプーチン政権の主張が書かれています。
また、ウクライナを支援し、ロシアに制裁を科す欧米に対する批判なども展開しています。
みずから執筆に携わったというメジンスキー大統領補佐官は記者会見でNHKの質問に対し「教科書は国家の立場を示したものだ」と強調しました。
ロシア政府によりますと、教科書は来月迎える新学期からすべての学校で使われるということで、プーチン政権が教育を通して若い世代に対して軍事侵攻を正当化しようとする思惑が鮮明になっています。
軍事侵攻が続く中で歴史教科書に記載されることへの懸念や批判の声もSNSや独立系メディアから出ていますが、クラフツォフ教育相は「今や誰もが考え、家庭でも学校でも話しあっている『特別軍事作戦』について触れないのは偽善だ。作戦が終わり、われわれが勝利したあと、さらに改訂していくだろう」と述べて正当化しています。
●ロシア国防相 西部国境で軍部隊強化方針 欧米へのけん制強める 8/10
ロシアのショイグ国防相は、NATO=北大西洋条約機構に加盟するポーランドが隣国ベラルーシの国境付近で兵力を増強させる動きなどに対抗するとして、ロシア西部の国境で軍の部隊を強化する方針を明らかにし、欧米へのけん制を強めています。
ロシアのショイグ国防相は9日、国防省の会議で演説し、欧米によるウクライナへの軍事支援は「状況をいっそうエスカレートさせる深刻なリスクをつくり出している」と主張しました。
また「ロシアの西部と北西部では安全保障に対する脅威が増している」と述べ、隣国のフィンランドが加盟したことでNATOとの境界線が大幅に延びたほか、NATO加盟国のポーランドがアメリカなどから兵器の購入を進め軍備を強化していると指摘しました。
その上で「こうした脅威には適切な対応が必要だ」と述べ、ロシア西部の国境で軍の部隊を強化する方針を明らかにし、欧米へのけん制を強めています。
ポーランド ベラルーシとの国境付近に兵士2000人追加派遣へ
ポーランド政府は、隣国のベラルーシがロシアで武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの戦闘員の受け入れを進めているとして警戒を強めていて、9日には副内相が地元メディアに対し、新たに2000人の兵士をベラルーシとの国境付近へ派遣すると明らかにしました。
ポーランド政府はベラルーシがロシアと連携し中東などからの移民を意図的にポーランドへ越境させ地域の不安定化を計画しているとも非難していて、派遣される兵士は越境の防止にも携わることになります。
ポーランド政府の対応の背景にはことし10月の議会選挙を前に安全保障を重視する政権の姿勢を強調する思惑もあるとの見方も出ていますが、ベラルーシ軍は今週、ポーランドやバルト三国のリトアニアに近い地域で軍事演習を始めたと発表していて、緊張の高まりが懸念されます。
プーチン大統領「ベラルーシに対する侵略はロシアに対する侵略」
ロシアと同盟関係にあるベラルーシとの国境でのポーランドの動きに対してプーチン大統領は先月「ベラルーシに対する侵略はロシアに対する侵略を意味する」と威嚇していて、今回のショイグ国防相の発言もこれに沿ったものとみられます。
ベラルーシでは国防省が今週、ポーランドに近い地域で軍事演習を始めたと発表していて、緊張の高まりが懸念されます。
●中国関係で立ち位置を変えるインド 背に腹は代えられず米との防衛協力も 8/10
国際通貨システムに対しても発言権を高めるBRICS
ウクライナ戦争の勃発後、国際社会でグローバルサウスの存在感が高まっている。
グローバルサウスにはっきりとした定義はないが、NHKの解説では「冷戦時代に『第三世界』と呼ばれていた東南アジアやアフリカ、中南米などの新興国や途上国を指すのが一般的」とされている。代表的な国としては北半球ならインドやサウジアラビア、南半球ならブラジルや南アフリカなどが挙げられる。
グローバルサウスの人口は2050年に全世界人口の3分の2を占めるとの試算もあるが、内政が安定していない国が多いことから、グローバルサウス全体が発展する可能性は未知数だ。そのなかで、BRICSは「勝ち組」グループとして脚光を浴びている。
BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのことだ。この5カ国は21世紀に入り、広い国土と多くの人口、豊かな天然資源を武器に急成長を遂げ、実質国内総生産(GDP)は今や世界の4分の1を占めている。
世界経済で脱ドル化の流れが生じている中、BRICSの動向に関心が集まっている。
BRICS首脳の中で最も積極的に発言しているのはブラジルのルラ大統領だ。ルラ氏は8月2日、「米ドル依存から脱却するため、BRICS諸国は共通通貨の開発を検討すべきだ」と改めて強調した。
今年8月22日から24日にかけて、南アフリカでBRICS首脳会議が開催される。今回の会議で重大決定がなされることはないとの見方が一般的だが、経済規模を拡大し続けるBRICSが今後、国際通貨システムに対して発言権を高めていくことは間違いないだろう。
中国との関係が悪化の一途をたどるインド
BRICS首脳会議に例年以上の注目が集まっているもう1つの理由は、「BRICSの加盟国が大幅に拡大される」との観測が出ているからだ。
南アフリカ外務省は7月20日「(BRICS加盟について)22カ国が正式に申請し、同数の国が関心を示している」との声明を発表した。加盟に関心を示している国には、イラン、アルゼンチン、バングラデシュ、サウジアラビアなどが含まれるという。
米国との深刻な対立を抱えるようになった中国は、自らの影響力拡大のためにBRICS加盟国の拡大を強く主張しており、西側諸国と断交状態にあるロシアも同じ思いだ。
「BRICSの地位が低下する」と、新たな国の参加に難色を示していたのはブラジルだ。だが、ここにきてルラ大統領が加盟国の拡大に前向きな発言をするなど、「BRICS加盟国の拡大にゴーサインが出た」と思われていた。
だが、その矢先にインドが「待った」をかけるという予想外の展開になっている。
インドのモディ首相は首脳会議に対面で出席する意向を示しているが、加盟国の拡大には難色を示しているという。8月3日付ロイターは政府筋の話として、「BRICSなど中国主導のグループに所属することをめぐり、政府内で不満が高まっている」と報じた。
モディ政権は当初、経済面を中心に中国との関係強化に取り組んできた。だが、その後に事態が悪化し、現在の足元は険悪と言っても過言ではない状況だ。
その最たる事例が7月下旬、インド政府が中国の電気自動車(EV)大手「BYD」の同国内の工場建設計画を拒否したことだ。複数のメディアは、インド側が「中国によるインド投資に関する安全保障上の懸念」を挙げたと報じている。
インドと中国の関係が急速に悪化したのは、2020年6月、ヒマラヤの両国の国境係争地でインド軍兵士と中国軍兵士が死亡する軍事衝突が発生したからだ。
インドは国境地域での軍事拡張を行うとともに、多数の中国アプリの使用を禁じたほか、中国との貿易や同国からの投資に様々な制限措置を講じてきた。
中国の侵略を防ぐために米国との防衛協力を強化
インドの中国に対する警戒感は高まるばかりだ。
インドのジャイシャンカル外相とフィリピンのマナロ外相は今年6月、会談後の共同声明で「2016年の南シナ海仲裁判決の順守の必要性を強調する」と表明した。判決の順守についてインドが言及したのはこれが初となる(8月2日付東京新聞)。
2020年6月にインドのカシミール地方でインド軍と中国軍が衝突し、20人以上が死亡してから、中国とインドの国境地帯では緊張が続いている。昨年12月にも、インドのアルナーチャル・プラデシュ州で両軍の殴り合いが発生した。
中国の侵略を防ぐためには米国との軍事協力を拡大するしかない。2020年以降、インドは米国との合同軍事演習の回数を増やす一方、米国も自国の衛星情報を提供してインド軍の国境監視能力の強化を支援している。
極めつけはモディ首相が6月下旬に訪米した際、両国が「米印防衛パートナーシップは世界の平和と安全の柱だ」と宣言したことだ。
グローバルサウスの代表を自認するインドは、西側諸国のロシア非難に追随せず独自の路線を維持してきたが、背に腹は代えられない。中国の侵略を防ぐために、米国との防衛協力強化に舵を切らざるを得なくなっている。
米国との良好な関係を維持するため、インドはBRICS加盟国の拡大を反対せざるを得ない立場に置かれてしまっているのではないだろうか。
●ウクライナ軍、全海兵旅団を16kmの狭範囲に集中投入 8/10
ウクライナ軍の海兵隊のほぼ全部隊が、ドネツク州南部の前線の16kmほどのエリアに展開している。
4個ある海兵旅団のすべてがモクリ・ヤリー川沿いに展開しており、その兵力は総勢ざっと8000人だ。ウクライナ軍がこの攻勢軸で大きな突破を成し遂げれば、決定的な戦力になるだろう。
だが、ウクライナ軍が南部方面で待望の反転攻勢を始めてから2カ月たつなか、精鋭の海兵旅団をすべて同時に展開させたことには、大きなリスクもともなう。
ウクライナ軍の戦闘序列において、海兵隊は、同じく独立した軍種である空中機動軍(空挺軍)や、最も経験豊富で装備も充実した数個の陸軍旅団と並び、最も強力な攻撃戦力に位置づけられる。とはいえ、どんな旅団も、休養や装備の修理、兵士の補充のために短期の休暇を挟まなければ、戦い続けることはできない。
つまり、これらの海兵隊もいずれ接触線から引き下げる必要が出てくる。そうなると、その空白をより戦闘力の低い部隊で埋めなくてはならなくなるかもしれない。この入れ替えはロシア側にとって反撃の好機になる。
ウクライナ海兵隊は5月に、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の命令によって独立した軍種になった。ゼレンスキーは海兵隊について「敵を壊滅させ、ウクライナの国土を解放し、最も困難な状況で最も困難な任務を遂行する強力な戦力だ。わたしたちはこの戦力をもっと必要としている」と述べている。
ロシアがウクライナ侵攻を始めた2014年(まず南部クリミア半島を強奪し、次に東部ドンバス地方を攻撃した)以前には、ウクライナ軍に海兵旅団は1個しかなかった。海軍に属していた第37海兵旅団である。
その後、戦争がエスカレートするなか、新たな海兵旅団が編制される。2015年に第36海兵旅団、2018年に第35海兵旅団が設立され、今年春には最新の第38海兵旅団がつくられた。第38海兵旅団は7月25日ごろ、南部前線到着のあいさつ代わりとばかりにロシア空軍のKa-52攻撃ヘリを撃墜し、鮮烈なデビューを飾っている。
軽装備ゆえの機動力が強み
各2000人規模のウクライナの海兵旅団は、他国の海兵隊がするように強襲揚陸艦に搭乗して移動するわけではない。ウクライナ海軍は古い揚陸艦を1隻保有するだけであり、この艦船は最近はドニプロ川の河口付近に隠されている。
ウクライナの海兵隊はもっぱら陸上で戦う。彼らを海兵隊たらしめているのは、その編制や訓練、精神である。
海兵旅団は一般的な陸軍旅団よりも軽装備だ。陸軍の旅団は通常、装軌(キャタピラ)式の歩兵戦闘車(IFV)各30両を装備する3個大隊と、戦車30両を装備する1個完全大隊から成る。これに対して海兵旅団は、装軌式IFVと、それと同数かそれ以上の自走式IFV(いずれもIFVでなく装甲トラックということもある)を装備するのが普通だ。
戦車について言えば、海兵旅団は装備数10両ほどの1個戦車中隊しか置かれていないこともあるし、あるいは戦車をまったく保有しない場合もある。たとえば、ウクライナの第37海兵旅団の海兵隊員は米国製のM-ATV装甲トラックやフランス製のAMX-10RC偵察車に乗っている。戦車はもたない。
この軽さがスピードを生む。たしかにウクライナ軍は最近、多数の装軌式IFVと大量の砲撃やロケット弾攻撃に支援された、ゆっくりとした歩兵先行の攻撃にシフトしている。ウクライナ軍指導部はこうした戦い方によって、部隊が戦車やIFVを許容できないほど失うのを避けながら、ロシア軍の設けた地雷原や塹壕線を少しずつ突破していくことを期待しているのだろう。それでも、海兵隊はやはり海兵隊らしい戦い方をしている。
海兵隊戦力の集中投入で大きな突破狙う
海兵隊は数両の戦車の支援を受けながらトラックの車列で電撃的に移動し、走行間射撃でロシア兵に衝撃を与える。それから歩兵部隊を配置し、決定的な接近戦に臨む。第35海兵旅団と第37海兵旅団はこうした戦術によってモクリ・ヤリー川沿いに南進し、スタロマイオルスケなど一連の集落を解放してきた。
第35海兵旅団と第37海兵旅団が同川の渓谷一帯を強襲する間、姉妹旅団である第36海兵旅団はそこから16kmほど西のステポベ近辺で戦闘を続けている。もうひとつの第38海兵旅団は先週、スタロマイオルスケの東に隣接するウロジャイネの外れでロシア軍の地上部隊と初めて交戦した。
海兵隊はこの攻勢軸で、陸軍がより西で進めている反攻よりも成功を収めている。もちろん、これは地形の違いも一因である。
陸軍の作戦区域、とくにトクマク方面の軸に沿ったエリアは広く開けており、大半は平坦で樹木もあまり生えていない。そしてTM-62対戦車地雷が大量に敷設されている。一方、モクリ・ヤリー川渓谷周辺はもっと複雑な地形をしていて、広大で密集した地雷原も比較的少ない。攻撃はこちらのほうが進めやすいと言えるだろう。
もっとも、これは海兵隊の機動性や規律、攻撃力が信用されていないということではない。ウクライナ軍が海兵旅団をすべてこの軸に配置したのには理由がある。反攻開始から3カ月目に入ろうとするなか、大きな突破を達成しようと必死になっているのは明らかだ。軍の指導部は、いまこそ海兵隊の全戦力を投入すべき時と考えているようだ。
ただ、近いうちに突破できなければ、これら全海兵旅団に休養が必要になるかもしれない。現在、戦闘を行っている4個旅団と入れ替わる5個目、6個目、7個目の海兵旅団は、ウクライナにまだ存在していない。 
●プーチン氏、ロシア国営銀VTBに造船会社USCの管理要請 8/10
ロシアのプーチン大統領は10日、ロシア最大の造船企業ユナイテッド・シップビルディング・コーポレーション(USC)の財政問題を解決するため、ロシア大手国営銀行VTBに国が保有する100%のUSC株式を管理するよう要請した。
USCは民間船舶のほか、原子力潜水艦や航空母艦なども建造。ロシア全土で約40の造船所、設計事務所、修理工場を運営し、9万5000人を雇用している。
プーチン氏はUSCには多くの財務上の問題と「疑問」があり、解決する必要があると指摘。デニス・マントゥロフ産業商務相によると、VTBは5年間にわたり、USC株式を信託管理するという。
●中露共助に異常? 中国外交部長が「独立公正」 ロシア外相「立場一致」8/10
ウクライナ問題を巡り中露の共助に微妙な亀裂が生じたとシンガポールの聯合早報が9日、報じた。5〜6日サウジアラビアのチェダで開かれた第2回ウクライナ平和会議直後に行われた中露外相電話会談の後、ロシア側は西側に対する共同対応と立場の一致を強調した反面、中国側は「独立的で公正な立場」を強調したためだ。
中国はこれに先立ち、6月24日にデンマークで開かれた第1回会議にロシアとともに参加しなかったが、サウジアラビアが仲裁した今回の第2回会議には予想を破って出席した。韓国からは趙太庸(チョ・テヨン)国家安全保障室長、米国はサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が出席するなど約40カ国の代表がチェダに集まった今回の平和会談に中国は李輝ユーラシア事務特別代表を派遣した。
チェダ会議が終わった後の7日、中国の王毅・党中央政治局委員兼外交部長はロシアのラブロフ外相と電話会談を行い、ウクライナ危機問題などを議論したと中国外交部が発表した。今回の電話会談は王毅氏が秦剛氏の失脚によって空席になった外交部長に復帰してから初めて行われた。
王氏は会談の中で「習近平主席の3月訪露以降、両国間の戦略的協力および実務的協力はともに新たな進展を収めた」とし「国際および多国間舞台で世界の多極化、国際関係の民主化を推進するのは中露が当然引き受けなければならない国際的責任」と両国の協力を強調した。
ただしウクライナ問題の立場の違いを隠さなかった。王氏は「ウクライナ危機問題で中国はあらゆる国際多国間会議で独立的かつ公正な立場を堅持しており、客観的かつ理性的な声を出し、平和会談を積極的に追求しながら政治的解決を精一杯模索した」と強調した。
反面、ロシア外務省は中国と意見の一致を強調した。同じ日、ロシア外務省は「両国の長官はロシアと中国に対する西欧ブロックの対立的な政策を受容できず、制裁と非合法的な方法で中露の発展を阻もうとする試みに注目した」とし「今回の会議を通じてモスクワと北京は国際問題で同一か大きく一致するアプローチ方式を有していることを再確認した」と強調する発表文をホームページに掲載した。
専門家は中露のウクライナ問題への対応の違いを「グローバルサウス」の主導権争いとみている。台湾政治大学ロシア研究所の魏百谷所長は「中国がウクライナ問題と同じくらい『独立公正』の立場を繰り返し明らかにした」とし「ロシアが中国と西欧ブロックに反対すると強調して国際事務で立場の一致を強調したことと違い、中国は微妙な温度差を露出した」と指摘した。魏氏は「中国がコペンハーゲン平和会談に参加せずチェダ会談には出席したことは、西欧が主導するウクライナ議題には参加を避けながら『グローバルサウス』の議題には支持を表明した」と分析した。
中国「ロシア、野蛮的な法の執行」抗議文発表も
これに先立ち、中露は領事問題でも衝突した。今月4日、在ロシア中国大使館はロシア外交部に対して珍しく「野蛮な法の執行を糾弾する」という内容の抗議文を発表した。モスクワ中国大使館のWeChat公式アカウントを通じて7月29日にカザフスタンを通じてロシアに入国しようとしていた中国国民5人がロシア検問所で4時間の調査を受けた後、ビザが取り消しになり入国を拒否されたと明らかにした。
在ロシア中国大使館は「ロシアが今回の事件で野蛮な法の執行と過度な行為で中国国民の合法的権益を重大に侵害した」とし「これは中露関係の友好的な流れに符合しない」と批判した。
中露の微妙な亀裂は今月22〜23日、南アフリカ共和国ヨハネスブルクで開かれるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の新興経済5カ国)首脳会談でも現れるとみられている。国際刑事裁判所(ICC)の令状発給によって逮捕対象となったロシアのプーチン大統領は先月すでにラブロフ外相が出席し、プーチン氏自身はオンラインで参加すると明らかにした状態だ。
これに伴い、今年BRICS首脳会談は3月モスクワ訪問以降、今年に入って2回目の海外歴訪を出発しようとしている習近平主席の「独壇場」になる見通しだ。今年のBRICS首脳会談にはイランの最高指導者ハメネイ師も出席する予定だと9日、香港フェニックステレビが報じた。
●ザポリージャにミサイル、住人2人死亡…ウクライナ「精密誘導」で住宅地狙う 8/10
ウクライナ政府の発表によると、ウクライナ南部ザポリージャで9日、ロシア軍が発射したミサイルが住宅地に着弾し、住民2人が死亡した。住民らが通う教会と周辺の商店の建物が被害を受けた。当局者は「精密誘導」で住宅地が狙われたとしている。
9日、ウクライナ南部ザポリージャで、ロシア軍の攻撃を受けた建物=ロイター9日、ウクライナ南部ザポリージャで、ロシア軍の攻撃を受けた建物=ロイター
ザポリージャはザポリージャ州の州都で、ロシア軍占領地域に近い。州南部を占領するロシア軍に対し、ウクライナ軍が反転攻勢を進めている。
●ウクライナ南部にミサイル攻撃、12人死傷 大統領「防空強化を」 8/10
ロシアによるウクライナ侵攻で、南部ザポロジエの市街地が9日にミサイル攻撃を受け、3人が死亡、9人が負傷した。ウクライナ軍当局者が10日明らかにした。西部では給油施設がドローン攻撃で破壊された。
ゼレンスキー大統領は9日、「ウクライナ全土で防空システムの強化が必要だ」と強調。いずれ米国製F16戦闘機が供与されると確信していると述べた。
ただ、米CNNテレビが先週報じた世論調査では、米国民の55%がウクライナ追加支援に反対。「もう十分支援した」との意見が過半数を占める結果となった。
●米国民の過半数、ウクライナへの追加援助に反対 CNN世論調査 8/10
ウクライナに対する軍事援助などについて米国民の55%が連邦議会はさらなる資金援助を提供すべきではないとし、逆の意見は45%だったことが最新の世論調査結果で10日までにわかった。
調査はCNNが米調査機関SSRSに委託して実施。51%は米国は既に十分な援助をしたとし、一層の支援を促したのは48%だった。
ロシアが昨年2月下旬にウクライナ侵攻に踏み切った数日後に行った同様の調査では、62%が米国によるウクライナへの追加支援に同調していた。
米国がウクライナへ差し向けられる援助の種類については、63%が情報収集を選択し、軍事訓練が53%、兵器供与が43%などだった。米軍による戦闘作戦への参加を求めたのは17%だった。
ウクライナでの戦争が米国の国家安全保障を脅かしているとしたのは56%だった。昨年2月の調査での72%からは大幅に落ち込んでいた。
今回調査で民主、共和両党の党派別の垣根を越えてより大きな懸念事項となっていたのは、ウクライナでの戦争が解決の糸口も見つからずに長期化している現状だった。調査対象者の10人のうちの約8人がこの危惧を表明。党派別に見ると民主党支持者が82%、無党派系が75%、共和党が73%だった。
調査対象者の約3分の2はウクライナ紛争が世界の他の地域の民主主義への脅威を増大させるとの認識を保持。ロシアは他の場所でも攻撃を仕掛け得るとしたのは64%で、欧州でのより広範な戦争につながり得るとの不安を共有したのは59%だった。
米国がウクライナへどの程度の援助を提供すべきかについては、党派別あるいはイデオロギー的に大きなばらつきが見られた。
共和党では追加の資金援助を控えるべきとしたのは71%で、既に十分に果たしたとするのが59%。民主党では新たな援助に賛成が62%で、これ以降の新規分も支持したのが61%だった。
ただ、両党内でのイデオロギーを異にする各分派の意見を見ると、相違もあった。民主党のリベラル派の74%が援助継続に同意し、穏健派や保守派ではこの数字は51%だった。共和党の保守派の76%は追加支援に反対し、穏健派あるいはリベラル派での反対は61%だった。
無党派系の大半の56%は、米国は支援の責務を十分に務めたとし、新たな資金援助には55%が異論を唱えた。
今回調査は今年7月1日〜31日に全米規模で無差別に選んだ成人1279人を対象に最初は郵便で実施。オンライン上や電話での意見聴取の結果も追加された。
●ウクライナ侵攻は「野蛮」 ロシア版グーグル創業者が批判 8/10
ロシア検索エンジン最大手「ヤンデックス(Yandex)」の創業者が10日、同国によるウクライナ侵攻について「野蛮」だと批判した。侵攻を批判するロシアの著名実業家は少ない。
アルカディ・ボロズ(Arkady Volozh)氏は声明で、「ロシアのウクライナ侵攻は野蛮だ。明確に反対する」「ウクライナでは、人々の家が日々爆撃されている。私の個人的友人やその親族も多い」と述べた。
「私は戦争に反対だ」
ボロズ氏は、2014年にイスラエルに移住。昨年、欧州連合(EU)の制裁対象となり、6月にヤンデックスの最高経営責任者(CEO)を退任した。
ヤンデックスはAFPの取材に対し、コメントをしなかった。
ロシア当局は近年、かつては言論の自由の最後のとりでと考えられていたインターネットに対する統制を強めている。
●ロシアの新歴史教科書、ウクライナ侵攻を正当化 人類の文明守るためだと 8/10
ロシア政府は7日、ウクライナ侵攻を正当化し、西側諸国がロシアを破壊しようとしていると主張する新しい教科書を発表した。17〜18歳の子供が学ぶ学年で使用されるという。
ロシアのメディアが伝える抜粋によると、教科書は生徒に、ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対する「特別軍事作戦」を開始していなければ、人類の文明はおしまいだったかもしれないと教える。
「ロシア史:1945〜21世紀初頭」と題された教科書は、共著者にかつてロシアの文化相だったウラジーミル・メディンスキー大統領顧問が名前を連ねている。
ロシア政府が認定した教科書が、昨年2月に始まったウクライナ侵攻など最近の出来事を内容に含むのは、これが初めてとなる。
今年9月から、17〜18歳が学ぶ11年生の授業で、この教科書が使用される。
教科書は、「西側諸国は、ロシアの国内情勢をなんとしても不安定化させようとしている」と書き、この目的実現のため西側は「あからさまなロシア嫌悪」を広めているのだと、生徒に教えることになる。
教科書はさらに、西側がロシアをさまざまな紛争に「引きずり込む」ようになったのだと書く。西側の究極的な目的は、ロシアを破壊してロシアの天然資源を奪うことなのだと、教科書は主張している。
クレムリン(ロシア大統領府)がプロパガンダで繰り返す決まり文句が、教科書にも数多く登場する。たとえば「ウクライナは国家主義の過激派が支配する侵略国家」で、「西側に操られて」おり、「西側はロシア打倒の道具としてウクライナを利用している」のだという内容が含まれる。
教科書では、ウクライナという国がそもそも西側がロシアへのあてつけとして作り出したものに過ぎず、ウクライナの青と黄色の国旗さえ、「君たちはロシアとは違う」とウクライナ人に信じ込ませるためにオーストリア人が発明したことになっている。
事実を意図的にゆがめた記述も散見される。
たとえば、ロシアが2014年に最初にウクライナを攻撃した時のことは、「ロシア人のままでいたかった」東部ドンバス地方の住民による民衆蜂起で、そこにロシアの「志願兵」が参加したのだと、この教科書は書いている。ロシアが当時、そしてその後の8年間にわたり、ドンバスに送り込み続けた軍事物資や人員については、教科書はまったく触れていない。
2022年2月の「特別軍事作戦」開始については、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟するかもしれないことを、大きな理由に挙げている。
もしもウクライナがNATOに入ってから「クリミアかドンバスで挑発行動を起こし紛争を仕掛けていたら」、ロシアはNATOの全加盟国相手に戦争する羽目になっていたと教科書は書いている。
「そのようなことになれば、文明の終わりだったかもしれない。それは到底、許されなかった」と教科書は主張する。
ただし、ウクライナのNATO加盟は当時も今も、実現の見通しははるかに遠い事柄だった。
教科書はさらに、ロシアが2014年にクリミアを併合する前、ウクライナはセヴァストポリ(ロシア黒海艦隊の母港)をNATO基地にしようとしていたのだと、事実無根の主張をしている。ウクライナ政府が核武装を目指すと発言していたのだという、虚偽の主張もしている。
加えて教科書は、2014年までウクライナの人口の80%が、ロシア語を母語と認識していたと、事実と異なる内容を書いている。定評あるキーウのシンクタンク、ラズムコフ・センターが2006年に公表した世論調査によると、ロシア語が母語だと答えたウクライナ住民は30%に過ぎず、自分の母語はウクライナ語だと答えたウクライナ住民は52%に上った。
教科書は生徒たちに、「やらせ映像や偽の写真・動画を大量に作り出す世界的な産業」に留意するよう警告もしている。これは、ウクライナでロシア軍がさまざまな残虐行為を重ねたと示す資料が、オンラインに大量に掲載されていることへの言及と思われる。
「西側のソーシャルメディアや報道機関は、実に積極的に偽の情報を拡散する」と教科書は、「特別軍事作戦」の章で書いている。
ロシア当局はこれまでに、ロシア軍がウクライナの民間人を攻撃していると批判するロシアの活動家たちを、刑務所に入れている。たとえば、反政府活動家のイリヤ・ヤシン氏は昨年12月、キーウ近郊ブチャでロシアが戦争犯罪を重ねた疑いについてオンラインのライブ配信で言及した後、禁錮8年半の判決を言い渡された。
ロシアのウクライナ侵攻後に西側諸国が科した対ロ制裁についても、新しい教科書は、「ロシア経済を破壊しようとする」行為だと批判。さらに、西側による制裁は「西側が何かというと口にしたがる国際法の規範に、何から何まで違反している」と、誤った主張を展開している。
同時に教科書は、西側企業がロシアから次々と撤退したことは、ロシアのビジネスパーソンにとって「素晴らしい機会」だと位置づけている。
●ウクライナ反攻2カ月 欧米の支援継続へ迫られる「成果」 8/10
ロシア軍に対するウクライナ軍の反攻作戦は、同国のゼレンスキー大統領が開始を認めてから10日で2カ月が過ぎた。反攻は現時点でウクライナや欧米が期待したほどの成果を挙げられておらず、欧米側メディアには、反攻の遅れが欧米の軍事支援の見直しにつながる可能性を指摘する声も出始めた。ウクライナは反攻の成果を示す必要性に迫られているが、大きな損害を受けるリスクも高く、困難な状況に置かれている。
軍の兵站破壊に重心移す
ウクライナ軍は、ザポロジエ州など南部方面と、ドネツク州など東部方面で反攻を展開している。南部ではアゾフ海まで南下し、露軍の支配下にある「陸の回廊」を分断することで露軍の補給路を断ち、南部一帯の奪還を目指している。東部では露軍によるドネツク州全域の制圧を阻止する構えだ。
ウクライナ国防省によると、反攻開始後、南部方面で200平方キロメートル、東部方面で37平方キロメートルの領土を奪還した。ただ、奪還面積は被占領地域のごく一部にとどまる。地雷原など露軍の防衛線に前進を阻まれているのが実情だ。
こうした中、ウクライナ軍は現在、人員や兵器の損害が大きい強行突破策を見直し、露軍の兵站を破壊する作戦に重心を移している。今月上旬、ロシアの実効支配下にあるクリミア半島とウクライナ南部を結ぶ2つの橋を攻撃したほか、兵員輸送を担ってきた露揚陸艦を海上ドローン(無人艇)で攻撃し、損傷を与えたことはその一例だ。露軍を疲弊させ、反攻を有利に運ぶための戦術だが、その半面、地上部隊の前進はさらに遅れる見通しだ。
反攻停滞は米国に影響
米CNNテレビは9日、「反攻の停滞は特に米国に影響を与えるだろう。それは大統領選を来年に控える中、米国の戦争支援に疑問を投げかけるためだ」と指摘。「ウクライナには反攻を成功させるよう(欧米側から)強い圧力がかけられている」とも伝えた。反攻の成果が出ない場合、欧米の支援が見直される可能性を示唆した形だ。同様の見方は最近、他の欧米側メディアでも伝えられている。
ウクライナもこうした情勢を把握し、ゼレンスキー氏や同国政府高官らは「反攻は長期に及ぶ」と説明。支援継続を呼びかけるとともに、欧米が停戦論に傾く事態を防ぎたい構えだ。ただ、欧米も国内世論や内政を無視した永続的な支援は困難で、ウクライナは支援継続のためにも反攻での成果が求められている。

 

●ロシアの弾圧 極まる民主主義の破壊 8/11
自由な政権批判や街頭での異議申し立てを封じた末に、無謀な侵略戦争に突き進む。隣国を焦土にし、自国民の未来までも奪う。ロシアで起きていることは、私たちにも重い教訓を投げかけている。
ロシアの反体制派指導者のナワリヌイ氏が先週、過激派組織を創設した罪で禁錮19年の判決を受けた。政権幹部の腐敗を暴露したり、反政権デモを呼びかけたりしたナワリヌイ氏率いる団体について、検察当局は「リベラルな呼びかけを装い、社会を不安定化させる条件を作ろうとした」と指弾していた。
しかし、市民による政権監視は、健全な民主主義の維持に欠かせない営みだ。ナワリヌイ氏に科された厳罰は、プーチン政権による市民社会への理不尽な弾圧にほかならない。
ナワリヌイ氏は3年前、毒物による暗殺未遂で意識不明の重体に陥った。ロシアの治安機関が関与した疑いが濃厚だ。一命を取り留め、ロシアの獄中からSNSを通じてウクライナ侵攻批判などの発信を続けている。
プーチン大統領は、そんなナワリヌイ氏への憎悪を隠そうとしない。毒殺未遂事件への関与は否定しつつ、若者へのデモの呼びかけを「テロリストと本質は同じ」と批判した。
プーチン氏は近年、政権への正当な批判であっても「国家転覆の試み」とみなす傾向を強めている。象徴的なのが、批判的な団体を欧米スパイを意味する「外国の代理人」に指定し、活動を制約する制度だ。
2012年の導入時は、外国から資金提供を受けるNGOが対象だったが、その後メディアや個人などに対象範囲を拡大。侵攻後は資金提供の有無にかかわりなく、「外国の影響下にある」と認められれば指定できるようになった。
20年以上権力の座にいるプーチン氏には、もはやロシアという国家と自分自身の区別がつかなくなっているようだ。
政権に逆らう者はスパイや反逆者とみなされる。三権分立の制度は形骸化し、司法も立法もプーチン氏を抑制できない。今年4月には国家反逆罪の最高刑が終身刑に引き上げられた。
プーチン氏は大統領選に初めて立候補した00年、「民主主義とは法の独裁であって、法を守る義務を負う者の独裁ではない」と表明した。その民主主義はすっかり破壊され、ロシアは独裁国家と化した。
選挙や議会など民主主義の仕組みは整っていても、政権を握った側が権力を乱用し、批判勢力を封殺して独裁化する事例は冷戦後の世界で増えた。まさにその轍(てつ)を踏んでいることを、プーチン氏は自覚すべきだ。
●ザポリージャのホテルにミサイル攻撃、1人死亡16人負傷… 8/11
ウクライナ国防省によると、ロシア軍は10日午後7時(日本時間11日午前1時)頃、ウクライナ南部ザポリージャ中心部のホテルをミサイルで攻撃し、1人が死亡、16人が負傷した。ウクライナ国防省はSNSで、ホテルでは攻撃の約1時間前まで「サマー・アート・キャンプ」と銘打った子供向けのイベントが行われていたと指摘し、露軍が「子供を狙った」と非難した。州知事によると、負傷者には子供4人が含まれている。
地元警察はSNSで攻撃には短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が使われたことを明らかにした。このホテルは、外国の報道関係者が好んで利用しているという。
露軍による7日の東部ドネツク州ポクロウシクへのミサイル攻撃でもホテルが被害を受けた。 
●ウクライナ、サウジでの和平協議を評価 8/11
サウジアラビアで開催された、ウクライナ戦争に関する協議はロシアに「大打撃」を与えたと8月7日にウクライナ政府高官が述べた一方で、ロシアの重要な同盟国である中国はこの協議に参加した後、紛争に中立な立場を堅持すると宣言した。
週末に開かれたこの協議は、中国、インド、米国、欧州諸国を含む40ヵ国以上が参加し、ロシアは不参加。ウクライナが和平のビジョンに支持を得るため、より広範囲な大国の連合を構築する試みとみなされていた。
ウクライナの戦争を平和的に終結させる原則の確立を目的としたこの協議に対しロシアは8月6日、ウクライナ側にグローバル・サウスをつかせようとする西側の破滅的な努力だと断じた。
アンドリー・イェルマーク大統領府長官は首都キーウでの会見で記者団に対し、「われわれは1ヵ月から1ヵ月半以内に再び会合を開き、首脳会談の開催に向けて動き出す」と述べた。
ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、2022年2月にロシアが始めた全面戦争を終結させるため、ウクライナが和平の基礎として望む10の原則(10項目の和平案、平和フォーミュラ)を推進している。
●米共和党がウクライナ支援に背を向ける理由 8/11
2カ月間の過酷な戦闘を経て、ロシアに対抗するウクライナ軍の反転攻勢にはようやく一定程度の進展の兆しが見えつつある。
ウクライナ軍は昨年2月のロシアによる侵攻で失った領土を徐々に奪還している。先週は水上仕様の無人艇攻撃で重要なロシアの軍艦を航行不能にした。
ただここへ来て米国人の過半数、そして相当数の共和党議員がこの戦いを見捨てたがっている。CNNが米調査機関SSRSに委託して実施した新たな世論調査でそれが明らかになった。まずい考えが最悪の時期に勢いを得ることになるとは、レーガンの政党も落ちたものだ。
4日に公表されたCNNの世論調査では全回答者の55%が、連邦議会はウクライナ政府への新たな軍事支援の承認を止めるべきだと答えた。筆者の視点からはさらに悪いことに、共和党の方が民主党よりも格段に支援停止を擁護しがちだという恥ずべき事実も明らかになった。
調査によると、共和党の71%がこれ以上の支援を送るのは止めるべきだと回答。民主党では62%がウクライナへの一段の資金援助に賛成している。
筆者の立場からすれば、世論調査の結果が明らかにしたのは、自身の所属する党の多くが友人に背を向けようとしているということだ。命がけで民主主義のために戦っている友人に対して、彼らは背を向けるつもりでいる。ウクライナ軍がロシア軍を戦争初期の占領地から追い出し始めたまさにそのタイミングで。それほど勇敢に戦っている軍隊と国家にとって、これ以上士気を失わせる話もなかなかない。彼らは18カ月近くにわたり戦い、米国の支援を頼みにしている。
ここでは二つの要因が絡んでいるとみられる。一つ目はウクライナ側の戦場での進展が遅いことだ。ウクライナ政府による夏の反転攻勢で、同軍が広大な範囲の領土を奪還するだろうとの期待は、ロシア軍の防御設備という現実の前に押しつぶされた。「衝撃と畏怖(いふ)(訳注:2003年のイラク戦争で米軍が実施した軍事作戦を指す言葉)」に代わって我々が目の当たりにしているのは、第1次世界大戦の塹壕(ざんごう)戦だ。
共和党の感情をかき立てる二つ目の要因は、「トランプ効果」と呼べるかもしれない。目下、ホワイトハウスへの復帰を目指す選挙活動の中で、前大統領は党の意識を極めて強力に支配しているため、本人が抱くウクライナ支援を巡る疑念は、共和党全体に多大な影響をもたらす。
トランプ氏以前の共和党はそんな党ではなかった。戦略的パートナー国が民主主義を勝ち取ろうとする戦いを見捨て、ロシアのプーチン大統領に潜在的な勝利を手渡したりはしなかった。我々はかつて冷戦の戦士として、ソビエト連邦の崩壊を実現している。
かねてプーチン氏を受け入れているトランプ氏と共に、一部の共和党員は米国が果たすべき民主主義と自由の防波堤としての役割を忘れつつある。こうした共和党員はそれに代わって、悲惨な孤立主義を選択している。これはヒトラーとの戦いに加わるのに反対した者たちの考えだ。当時は「ラジオ司祭」と呼ばれたチャールズ・カフリンが、行動しない人々の間で強い影響力を誇った。現在の彼らはFOXニュースに慰めを見出す。
トランプ氏が自らの立場を構築する手法は、政策に対する自身のけちな取り組みに典型的に表れている。同氏は戦争資金援助の停止をちらつかせることで、連邦政府による調査から資料を入手する考えを示した。この調査はバイデン大統領の息子、ハンター氏のビジネス取り引きを対象にしている。米国は「ただ一つの追加支援の承認も拒否するべきだ。我が国の兵器の備蓄は枯渇している」。トランプ氏は先月そう主張した。しかしこの措置には、連邦捜査局(FBI)、司法省、内国歳入庁(IRS)が議会共和党によるバイデン一家の調査に対して証拠を手渡すまでという条件を付けた。同氏はまた、米国はウクライナ支援よりも学校の安全を優先するべきだとも語っている。
学校の安全やハンター氏をどうにかしてウクライナ支援に結びつけようとする考えは、一見馬鹿げている。しかしこうした意見表明の中で前大統領が強調した二つの重要な問題は、支持者の注意を引くものとみられる。
保守派の共和党員である筆者の目から見て際立っているのは、CNNの世論調査が示すように、民主党がウクライナを強く後押ししていることだ。それは左派が米軍をより前向きに捉えつつある長期的な傾向を反映する。
2022年、米スワースモア大学の政治学教授、ドミニク・ティアニー氏はアトランティック誌でこう指摘した。トランプ政権の間に民主党はより好意的な見解を軍隊に対して取り入れたが、これは軍隊が法の支配と伝統を支持していたからだと。ティアニー氏の主張は推論だが、筆者はどちらかと言えばこれに同意する。
確かにCNNの世論調査が示唆するところによれば、民主党の相当程度が地政学上の危機に対する軍事的解決を支持している。
筆者は元連邦議会議員として、米国の海外での義務を巡る問題に注力した。また空軍州兵のパイロットとして、イラクとアフガニスタンでの戦争に従軍した。そうした中でどのように米国が世界の安定化を支援するのかを目の当たりにしてきた。それは孤立主義者たちの理解の及ばない手法だ。
条約や対外支援、貿易を通じて、我が国は他国が堅固かつ豊かな社会を展開する手助けをする。我が国の直接的な軍事支援は、とりわけアフガニスタンで重要だった。同国では我が国の不在により、抑圧的なイスラム主義勢力タリバンが再び実権を握った。我が国の撤退は、アフガニスタンの人々と世界に悪い結果をもたらした。
24年の大統領選でトランプ氏と共和党の指名獲得を争う最大のライバルであるフロリダ州のデサンティス知事は3月、米国にとっての重大な国益はウクライナには存在せず、戦争は「領土紛争」だと主張した。本人は領土紛争についてのコメントを撤回したものの、筆者の見たところ、共和党の有権者は同氏が戦争への資金援助に懐疑的だと理解している。
この立ち位置のおかげで、デサンティス氏は不満の声を浴びずに済むかもしれない。トランプ氏のもう一人のライバル、ペンス前副大統領は先月、アイオワ州で開かれた保守派の集会でウクライナ支援を支持したところブーイングを受けた。前ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏は4日、ウクライナの首都キーウで戦争への支持を表明したが、それが誰かの耳に届いたのかどうかは判然としない。
ウクライナ支援に正式に異議を唱えることは、議会でこれ以上ない重要性を持つ。それは実際の援助の流れに一定の役割を果たす。7月、下院の共和党議員70人がウクライナ支援の完全打ち切りに賛成票を投じた。この数字は政策を転換するのに不十分だったが、支援に反対したのは共和党でも極端に右寄りの議員らだ。予備選では、彼らの役割が非常に大きくものを言う。こうした勢力の存在が意味するように、候補者らに対しては反支援を訴える集団に加わるよう圧力がかかっている。
民主主義を守るための戦いを信じない我が党の一般党員の姿に、筆者は保守主義が消え去りつつある事例を改めて目の当たりにする。筆者がかつて認識し、米国が信頼を置いていた保守主義は、今まさに消滅しようとしている。
専制に対し断固として立ち向かったレーガンの政党はもはや跡形もない。今その地位を占めようとしている共和党は、世界が米国の指導力を求めても反応を示さず、一国家の苦難にも関心がないように見える。本来なら我々は、戦いが終わるまでその国を助けて然(しか)るべきなのだが。
●ウクライナ、海上ドローン攻撃強化 ロシア艦艇相次ぎ損傷 反攻支援狙う 8/11
ウクライナが最近、黒海海域でロシア海軍の艦艇などを標的とした海上ドローン(無人艇)攻撃を強化している。今月上旬には露軍艦と燃料タンカーを相次いで損傷させたほか、7月にはケルチ海峡にかかるクリミア橋も損傷させた。ウクライナの狙いは、露海軍の物資輸送能力やミサイル攻撃能力を低下させ、地上での反攻作戦を有利にすることだと分析されている。
露国防省は8月4日、黒海に面する南部クラスノダール地方ノボロシースクの軍港に対する海上ドローン2機によるウクライナの攻撃を撃退したと主張。同省は1、2日にも海上ドローン攻撃を阻止したと主張しており、当初は4日も損害がなかったかに思われた。
しかしその後、同軍港に停泊中の露大型揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」が損傷し、海上で傾いている映像がインターネット上で拡散。ウクライナメディアは、同国の情報機関「ウクライナ保安局(SBU)」当局者が同国海軍との共同作戦だったことを認めたと伝えた。海上ドローンにはTNT火薬450キロが積まれていたという。
英国防省は5日、同艦が重大な損傷を受けたのは確実だと分析。全長113メートルの同艦はクリミア橋が損傷した際、露領土と露実効支配下にあるウクライナ南部クリミア半島の間の兵員輸送などを担っていたとし、同艦の損傷は露海軍にとって大打撃だと指摘した。
さらにロシアは5日、ケルチ海峡付近で露燃料タンカー「シグ」の機関室に穴が開き、海上ドローン攻撃を受けたとみられると主張した。同艦は露軍の燃料補給に関与していたという。
7月17日には南部に展開する露軍の補給路となってきたクリミア橋が水上ドローン攻撃で損傷した。
SBUのマリュク長官は今月5日、一連の攻撃は「完全に合法だ」とし、ウクライナの関与を事実上認めた。
海軍力に乏しいウクライナはロシアの侵略後、水上ドローンに着目。水上ドローン製造のための募金サイトを作り、生産を進めてきた。ボート型の機体に爆薬を積んだ水上ドローンは軍艦に比べて安価な上、小型・高速で発見される可能性も低い。ウクライナの水上ドローンは1艇25万ドル(約3600万円)だという。
一連の攻撃に関し、米シンクタンク「戦争研究所」は5日、「反攻に有利な条件を作り出すための妨害作戦の一環である可能性が高い」と指摘。ウクライナが露軍の兵站(へいたん)と防衛能力を低下させる戦略に基づき、クリミアや周辺海域といった「後背地」への攻撃を強化していると分析した。
ウクライナは今後も水上ドローン攻撃を続ける構えだ。同国は今月、ノボロシースクやソチなど露南部6つの港の周辺海域を「戦争危険区域」に指定。攻撃を警告した形だ。
ウクライナのゼレンスキー大統領も最近、中南米メディアとのインタビューで、露軍が黒海を封鎖してミサイル攻撃を続ければ、「戦争終結までにロシアは一隻の艦艇も持たなくなるかもしれない」と攻撃継続を示唆した。
●ウクライナ南部 国連の関係者利用するホテル 攻撃受ける 8/11
ロシアの軍事侵攻に対し、ウクライナ軍の反転攻勢が続く中、ロシア軍は10日もウクライナ東部や南部に攻撃を続け、被害が出ています。南部のザポリージャ州では、国連の関係者も利用するホテルがロシア軍によるミサイル攻撃を受けたということで、国連は「全く受け入れられない」と非難しました。
ウクライナ東部ハルキウ州の知事は、10日にロシア軍による大規模な砲撃があり、住宅などが被害を受けて1人が死亡し、複数のけが人が出ていると明らかにしました。
また、南部ザポリージャ州の知事は、10日にロシア軍によるミサイル攻撃で民間施設が被害を受けて1人が死亡し、4人の子どもを含む16人がけがをしたと発表しました。
国連は10日に声明で、この施設は国連の関係者や人道支援を続けるNGOの関係者が頻繁に使うホテルだとして、「全く受け入れられない」と非難しました。
一方、ウクライナ国防省のマリャル次官は10日、「東部の状況は厳しい」とした上で、ハルキウ州のクピヤンシクやドネツク州のリマンの方面ではロシア軍の攻撃を抑えていると強調しました。
また、ドネツク州のバフムト方面の南側では反転攻勢を継続し、ザポリージャ州のメリトポリやアゾフ海に面したベルジャンシクへ向かう方面では、極めて困難な状況であるものの、部分的な成功をおさめているとしています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も10日、ウクライナ軍は少なくとも3つの地域で反転攻勢を続けていると指摘し、双方の激しい攻防が続いているとみられます。

 

●米国やゼレンスキー氏に偏る論調を指摘 「終結に向け別の視点も重要」 8/12
ウクライナ戦争の終わりが見えない。背景にあるロシアと米国の思惑、その責任は。長期化する戦争について、元外交官で評論家の孫崎享さんに聞いた。AERA 2023年8月14-21日合併号の記事を紹介する。
長期化するウクライナ戦争。その責任は、はたしてロシアだけにあるのか。侵攻当初からひじょうに偏った声が日本を覆ってきたと、私は感じています。
いま思えば重要な意味合いを持つ発言がありました。侵攻から3日後の昨年2月27日、安倍晋三元首相はテレビ番組で、「プーチンの意図は、NATO(北大西洋条約機構)がウクライナに拡大することを許さない、そして東部2州(ドネツク、ルハンスク州)で言えば、かつてコソボが独立した際にも西側が擁護したではないか、という論理をプーチンは使おうとしている。プーチンは領土的野心ではなく、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしている」という趣旨を話し、ロシア側にもそれなりに「理解しうる理由」があることを説明しました。
さらに安倍氏は5月の英エコノミスト誌の取材では「ゼレンスキーがNATOに加盟しない、東部2州に自治権を与えると言っていればロシアの侵攻はなかった」とも語っていました。
しかし、政界で最も力を持つ政治家の声でさえ、私たちに共有されることはその後ほとんどなく、昨年3月23日に国会で行われたゼレンスキー大統領のオンライン演説では、安倍氏の言葉とは矛盾するスタンディングオベーションが起きたのです。
この頃から政界もマスコミも米国やゼレンスキー氏の声に偏り、客観的に状況を把握しようとする力が働かなかった。それを示す象徴的な例だと思います。
安倍氏が指摘した通り、1990年のドイツ統一に際し、米国のベーカー国務長官がソ連のゴルバチョフ書記長に「NATO軍の管轄は1インチも東に拡大しない」と発言するなどの「約束」を覆したことが、戦争が起きてしまった最も大きな要因です。条約という形をとらない約束は破っていいという論理は、私は成立しないと考えます。
西側諸国が行った経済制裁が思ったように機能しなかったこと、そしてこのところロシアが「併合した地域から撤退させられる状況になれば、核兵器を使う」姿勢を鮮明に打ち出してきたことで、米国は「悪のロシアを率いるプーチン政権の打倒」をウクライナ戦争の動機付けにするのが難しくなってきました。
バイデン政権はいま、軍事組織であるNATOを米国のイデオロギーで固める、つまり米国の主導体制のもとに欧州の安全保障体制を作ることを、戦争継続の大きな動機付けにしているのではないかと思います。
ただ、政権内にも「ウクライナ全土からすべてのロシア人を追い出すことは軍事的に非常に困難。交渉のテーブルが最終的に解決される場所だ」(マーク・ミリー統合参謀本部議長)などの意見も存在します。ウクライナの反転攻勢の効果を10月頃までは見極めたうえで、何らかの次のステップへ、という可能性もあると見ています。
「ロシアが悪い」だけでなく、米国や他の国にも問題があるのでは。そんな別の視点を持つことは、この戦争をどう終結させるかを考えるうえでも重要です。
ウクライナでは人口約4千万のうち約1300万人が自分の家を追われている状況と言われています。
戦場では1日に100人以上の兵士が命を落とすことも。一方で、ロシアから領土を取り戻すまでは戦い抜く、これが「正義」だと。二つの選択肢のうち、私たちはどちらを是とするべきか。難しい問題です。
ただこの戦争は、戦場では終わらないでしょう。正義を貫くことで平穏な生活や人命が損なわれ続けるなら、たとえ正義が後退したとしても、外交による和平を模索し「命と平和」を重視すべき。それが私の見解です。
●米英は核抑止政策の対象 露外務省が声明 8/12
ロシア外務省は11日、互いに相手国を戦略核ミサイルの照準から外すことを約した1994年の米国、英国との合意は「政治的性格のもので国際条約ではない」とし、米英両国はロシアの核抑止政策の対象になるとする声明を発表した。ロシアは「国の安全保障と領土の一体性確保に必要なあらゆる手段を行使する」とも表明、国家主権維持のため核兵器の使用も辞さない立場を改めて示した。
ウクライナ侵攻を非難して対露制裁を科し、ウクライナへの兵器供与を続ける米英両国をけん制した形。同時に、侵攻長期化でプーチン政権への不満を強めるロシアの保守強硬派の批判をかわす狙いもあるとみられる。
声明は、94年1月にエリツィン・ロシア大統領とクリントン米大統領(いずれも当時)が調印し、戦略核ミサイルの照準を互いに外すとした「モスクワ宣言」と、同年2月にエリツィン氏がメージャー英首相(同)との間で調印した同様の共同声明について「順守すべき法的義務はない」と説明した。
●ウクライナ、徴兵担当を解任 出国希望者から収賄の疑い 8/12
ウクライナ政府は11日、徴兵を逃れたい希望者から賄賂を受け取り、国外脱出を支援していたとして、国内各地の徴兵担当者を解任した。政府が進める汚職撲滅運動の一環。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はソーシャルメディアに投稿した動画で、ウクライナ保安庁(SBU)などの捜査の結果、全国の徴兵担当者33人を112件の罪状で訴追したと明らかにした。
大統領は、訴追された徴兵担当者らは徴兵対象者から現金あるいは暗号資産を受け取り、出国の手助けをしたと発表。戦争中にこうした賄賂を受け取ることは、「国に対する重大な裏切り」だと非難した。
「我々は地方の軍事委員全員を解任する」とゼレンスキー大統領は言い、「この(徴兵の)システムは、戦争が何かをはっきり認識し、戦時中の冷笑や賄賂がなぜ国に対する重大な裏切りなのかはっきりわかっている人間が動かすべきだ」と述べた。
大統領は現在の徴兵制度が「まともに機能していない」として、各地の徴兵担当が「戦士を、まるで自分の職務を扱うようにずさんに扱っている。まったく道徳にもとる」と批判した。
大統領は声明で、こうした汚職の疑いは「ウクライナの国家安全保障を脅かし、ウクライナ国家の制度・機関に対する信用を損なう」ものだと述べた。
徴兵担当者の後任は、戦地での経験を持ち、保安庁が身元確認などを済ませた対象者から選出するという。
ウクライナでは総動員令が施行されており、18歳以上で戦闘可能な男性は全員が徴兵対象。加えて、60歳未満の成人男性のほとんどが出国を認められていない。
ウクライナもロシアも、2022年2月の侵攻開始から何人の兵士が戦死したか、公表していない。しかし、消耗戦が続く中で両国ともさまざま方法で兵員を増やそうとしている。
ゼレンスキー政権は汚職撲滅の取り組みを続けており、今年1月には汚職の疑いを指摘された高官11人が辞職。2月には富豪や元内相を家宅捜索し、5月には国家反汚職局と反汚職専門検察が汚職の疑いで最高裁長官を拘束した。
ウクライナでは開戦前から、公務員の汚職問題が長年にわたりはびこってきた。欧州連合(EU)への加盟を求めているウクライナにとって、汚職対策はEUから課せられている重要な要件のひとつ。他の西側機関も、ウクライナに汚職対策を要求している。
各国の腐敗・汚職に取り組む非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルの2022年の汚職国家ランキングでは180カ国中116位。前年は180カ国中122位だったため、近年の対策が評価されている様子がうかがえる。
●NPT準備委最終日 ロシアへの非難相次ぐも 各国対立のまま閉会 8/12
世界の核軍縮を目指すNPT=核拡散防止条約の準備委員会は最終日を迎え、議長が会期中の議論をまとめた総括文書の草案を示しましたが、ロシアやイランなどが公式の記録とすることに反対して採択されず、各国が対立したまま委員会は閉会しました。
先月31日からオーストリアの首都ウィーンで開かれていたNPTの次の再検討会議に向けた準備委員会は、11日、最終日を迎え、ビーナネン議長が会期中の議論をまとめた総括文書の草案を示しました。
草案では、締約国が世界の核軍縮や核拡散防止に向けNPTの役割の重要性を改めて確認した上で、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関連して、各国が核兵器による威嚇を非難し、ロシア軍が占拠を続けるザポリージャ原発の安全性にも懸念を示したとしています。
さらに福島第一原子力発電所の処理水に関連しては、各国がIAEA=国際原子力機関の取り組みを強く支持したとしています。
しかし、この文書は、ロシア、中国、イランが委員会の公式の記録とすることに強く反対して採択されず、これまでの慣例に反して記録から除外されました。
準備委員会では終始、各国から核による威嚇を続けるロシアへの非難が相次いだのに対し、ロシア側は「欧米による安全保障上の脅威が原因だ」などと反論し、対立が際立つかたちとなりました。
閉会にあたってビーナネン議長は「次の再検討会議でも合意が得られなければ、NPTの信頼性が揺らぎかねない」と危機感を示したうえで、各国に歩み寄りを呼びかけました。
日本の引原大使「処理水 正しい理解広がる」
今回の準備委員会では、福島第一原発にたまる処理水を基準を下回る濃度に薄めて海に流す日本の計画について、IAEA=国際原子力機関が「国際的な安全基準に合致する」という報告書を公表したことも、議論になりました。
日本代表部によりますと、日本やIAEAの取り組みに欧米やアジアなど10か国以上が理解と支持を表明し、中国だけが日本の計画を非難したということです。
また、ビーナネン議長がまとめた総括文書の草案も、「締約国はIAEAの関連作業を強く支持した」としたうえで「IAEAの公平で客観的な安全審査の重要性と、科学的アプローチを続ける必要性を認めた」としています。
総括文書は採択されず公式の記録とはならなかったものの、日本の引原大使は記者団に対し「もちろん記録に残った方がよいが、より大切なのは実際に我々が行っていることを各国が理解してくれているかどうかだ。正しい理解が広がり、それを自ら積極的に発言してくれる国が増えてきたことは、非常に意義が大きいと思う」と述べました。 
●軍事支出と国内需要がロシア経済を牽引と誇示、プーチン氏 8/12
ロシアのプーチン大統領は12日までに、軍事支出と国内需要が自国経済を牽引(けんいん)しており、製造業での雇用規模は2021年の水準と同じ約1000万人と安定しているなどと報告した。
大統領府で産業界の首脳らと会談した際、工業生産の伸び率の3分の2は国防部門、残りは消費者の需要で賄っていると指摘。給与額も増えており、昨年の水準を20%以上上回っているとし、労働力不足が主因になっていると述べた。
労働生産性も約5%上昇したとしたが、対象の期間には触れなかった。生産の拡大は特にコンピューター分野や冶金の完成品で顕著だったとした。
ロシアの経済規模は世界の上位10カ国から脱落し、国内総生産(GDP)はオーストラリアとほぼ同じ水準に落ち込んだ。ただ、中国やインドなどを含む世界のエネルギー源輸出市場では最大手の供給国の一つとしての地位を保っている。
ウクライナ侵攻を受け、西側諸国がロシアに科した経済制裁に直面しながらの地位の維持ともなっている。
経済アナリストらは、ロシア経済が今年、マイナス成長に陥る可能性は少ないとしながらも自国通貨ルーブルの弱さがリスク要因になっていると指摘。
コンサルティング企業「ユーラシア・グループ」はルーブルの切り下げは「財政面での不安定さを強め、既に高まっているインフレ圧力に今後数カ月内に拍車がかかるのは必至」との見方を示した。賃金の伸び率の大幅増加もインフレ圧力をあおる可能性があるとした。
専門家たちは、ロシアの今年の国家予算の赤字幅はGDPの2〜2.5%に達すると予想。アジア地域の顧客が調達するロシア産石油の価格の回復を想定した上での数字となっている。
●“中古車など輸出禁止”日本の措置 ウラジオストクで懸念拡大 8/12
日本政府がロシアへの制裁を強化し、中古車を含む自動車の輸出を禁止したことを受けて、日本の中古車の輸入拠点、ロシア極東のウラジオストクでは、地域経済に影響が及ぶことへの懸念や動揺も広がっています。
ウラジオストクの街中では、いまも右ハンドルの日本の中古車が多く走っていて、市内には広大な中古車のマーケットがあるほか、愛好家たちが設立した日本車をテーマにした民間の博物館もあります。
今回の禁輸措置について、日本車を所有する43歳の男性は「もちろん、悪いことだ。日本車が好きで、日本車で育った」としたうえで「部品があるかぎり、ギリギリまで乗り続けるつもりだ」と話し、メンテナンスへの不安はあるものの、今後も日本車を乗っていくという考えを示しました。
また40歳の女性は、「選択肢がなくなるだろう。中国製の車を試す可能性もある。ただ、日本車の方が身近で、高品質だろうから、決めかねている」と話していました。
ウラジオストクの税関当局によりますと、ことし6月に輸入した外国車の数は2万8000台あまりで、去年の1万5000台あまりと比べて、ほぼ倍増したということで、日本の禁輸措置前の駆け込み需要だという見方もでています。
日本車を専門に扱う自動車の輸入販売会社の代表、ドミトリー・クラタエフスキーさんは、去年は日本から中古車1000台以上を輸入したと明かしたうえで「私たちにとって大きな打撃だ。台数は大幅に減少するだろうし、雇用も失われるだろう」と述べ、会社だけでなく、地域経済にも大きな影響が出ると懸念を示しました。
一方、クラタエフスキーさんは、こうした事態に備えて、8月、中国東北部の黒竜江省に事務所を設立し、隣国・中国からの新車や中古車の輸入を強化する予定だということです。
クラタエフスキーさんは「中国で人を雇い、より本格的な体制をつくっていくつもりだ。日本に投資してきた資金が中国へ行くだけだ」と話し、中国とのビジネスを拡大していく考えを示しました。
ロシア国内では中国メーカーの自動車がシェアを拡大
ウクライナ侵攻を続けるロシアに対して、欧米や日本は乗用車の禁輸など制裁を強化し、自動車メーカーはロシアでの生産や販売から撤退する一方、ロシア国内でシェアを拡大しているのが中国メーカーの車です。
ロシア国営のタス通信は、7月、自動車産業に詳しい専門家の話を引用し、ことし上半期のロシアの自動車市場における中国メーカーの新車のシェアは、去年の上半期と比べて4倍に増え、46.8%になったと伝えています。
また、民間の調査会社「アフトスタット」によりますと、ロシアの自動車市場において中国メーカーは、侵攻開始前の去年1月とことし1月を比べると、10%から38%と3倍以上に増えた一方、ヨーロッパメーカーは、27%から6%と4分の1以下に減少、日本メーカーも18%から6%と3分の1に減ったということです。
専門家 「暗黙のねらいとしては…」
ロシア経済に詳しい、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授は、中古車の禁輸を含んだ日本政府の制裁強化について「日本が中古車をロシアに輸出してもしなくてもプーチン政権の戦争継続能力に関わりはない。暗黙のねらいとしては、ロシアの一般国民にも不自由な思いをしてもらい『この戦争が間違っている』という事に目覚めてほしいという意味合いも強いと思う」と指摘しました。
また、今後の影響について「昨年以来、ロシア市場では、中国ブランドの販売が急激に伸びているので中国車販売に有利になる。正規に供給される自動車としては、ロシア国産ブランドと中国ブランドにかなり絞られていく」としています。
そのうえで、ロシアと中国は自動車産業のみならず、経済的な連携が深まっていくと指摘し「いまのロシアにとって、産業面での連携で言えば、中国ぐらいしか頼れる存在はない。どれほど中国政府が意図的に支援しているかは別として、中国発のさまざまな戦略的物資の流れがロシアの戦争継続能力を支えるという実態があることは間違いない」と指摘しました。
●“ウクライナ軍 南部の戦線で前進 ロシア軍 再配置余儀なく” 8/12
領土の奪還を目指して反転攻勢を続けるウクライナ軍は南部ザポリージャ州の戦線の一部で前進し、ロシア軍が再配置を余儀なくされているという指摘が出ています。一方、ロシア軍は東部ハルキウ州で攻撃を強め、ウクライナ軍の部隊を分散させるねらいとみられます。
ウクライナ軍は東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で反転攻勢を続け、マリャル国防次官は10日、ザポリージャ州の主要都市メリトポリなどへ向かう方面では部分的な成功をおさめているとしています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日の分析で、ウクライナ軍の部隊がメリトポリの北東およそ70キロに位置するロボティネの郊外まで前進し、ロシア軍が部隊の再配置を余儀なくされている可能性があると指摘し「戦術的に重要だ」との見方を示しました。
また、イギリス国防省は12日、ロシアが精鋭の空てい部隊を南部ヘルソン州から、激しい戦闘が続くザポリージャ州の戦線に再配置した可能性が高く、その結果、ロシア側が支配するドニプロ川の南東側の防衛力が弱まると分析しています。
一方、東部ハルキウ州クピヤンシクの周辺ではロシア軍が激しい攻撃を繰り返し、州知事は12日、近郊の集落への砲撃で高齢の女性が死亡したとSNSに投稿しました。
ウクライナ軍の東部方面部隊の報道官は地元メディアに対してこの地域でロシア側が戦闘の主導権を握ろうとしているものの、ウクライナ軍は防衛を大幅に強化し前線を守っていると強調しています。
こうした状況について「戦争研究所」は、ロシア軍がウクライナ軍の部隊を戦線のより重要な地域から引き離して分散させるためクピヤンシク方面での攻撃を活発化させているとみられると分析しています。
●ポーランドが、ウクライナ支持国の化けの皮を剥がす 8/12
ポーランド大統領の最近の発言から、米国主導のNATO北大西洋条約機構におけるウクライナ支持者たちが同国の防衛を口実に、一部では使い物にならない旧式兵器の供与を計画したり、数十億ドルを出費しながら、ただロシア軍への圧力行使のために戦争の長期化を目論んでいることが明らかになりました。
ウクライナ戦争は、西側からの数十億ドルの軍事援助を費やし、双方の前線で数千人の兵士を犠牲にしながらも、ウクライナは反撃でいまだ効果を上げられず、現場ではロシア側が優勢なまま、の開戦から1年半を迎えようとしています。
この間、多くの国や国際機関が和平や停戦案を提示してきましたが、アメリカがこれらを拒否した後、ウクライナも冷たくそれをやり過ごしてきました。
ロシアがウクライナを攻撃した最も重要な理由の一つは、ウクライナのNATO加盟阻止でしたが、これまでにウクライナ支援者らは同国のNATO加盟条件としてロシアに対する勝利を挙げており、そこから、ウクライナは引き続き西側諸国の対ロシア代理戦争の舞台となることが予想されます。
ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は米紙ワシントン・ポストのインタビューで、「米兵は死なないので、ロシアを安価に阻止できる」と、ウクライナ兵の命を軽視するような発言をしました。
ウクライナメディアの多くはこの発言を批判し、ウクライナでの「反撃」中に殺された数万人の兵士の命を無視していると報じました。
ルカシェンコ・ベラルーシ大統領は、「緊張の激化はポーランド自身ではなく、アメリカによるものである」と語っています。
また別のウクライナ戦争支援者である英国国防省は、11日金曜夜に発表した声明の中で、約900人のウクライナ海兵隊員が英国海兵隊と特殊部隊による6か月の訓練コースを終えて帰国すると発表しました。
英国国防省の声明によりますと、この訓練期間中、ウクライナ海兵隊は次世代軽対戦車兵器「スティンガー対空ミサイル」と呼ばれる有人携行型および、シャワー発射型ミサイルシステムの使用方法、迫撃砲、無人機の制御と使用法を学ぶことになります。彼らはまた、ドラゴンズトゥース対車両要塞などの障害物に対する爆発物処理訓練も受けました。
ウクライナ兵士の訓練の種類から、将来同国に送付される武器が何か予想できますが、西側諸国はウクライナ国内への戦争拡大を防ぐため、ウクライナ軍により殺傷能力の重器を送り続けています。
ワシントン・ポスト紙がウクライナ政府と軍高官の話として報じたところによりますと、ウクライナ人パイロット6名からなる第1団は来年夏までにはF-16戦闘機の操縦訓練を完了できず、少なくともあと1年はかかる見込みだということです。
これらのニュースは、西側諸国が対ウクライナ計画において長期消耗戦を視野に入れており、近い将来に和平と停戦を実現させる可能性が薄いことを示しています。
●ウクライナ 全州の軍事委員会トップを解任 徴兵逃れに絡む汚職相次ぐ 8/12
ウクライナでは徴兵逃れに絡んだ汚職が相次ぎ、すべての州の軍事委員会のトップが解任されました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、国家安全保障国防会議を開き、徴兵の責任者である軍事委員会のトップをすべての州で解任したと発表しました。ウクライナでは軍事委員会の幹部らが徴兵逃れに絡んで賄賂を受け取る汚職が相次ぎ、112件の刑事手続きが進められているということです。
ゼレンスキー大統領は、後任について「最前線で負傷しながらも尊厳を保っている勇敢な兵士」を据えたとしています。ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナでは「国家総動員令」が出されていて、18歳から60歳の男性は原則、出国が禁止されています。
●ウクライナ海軍、黒海に民間船舶が航行する回廊を設定 8/12
ウクライナ海軍は12日までに、黒海で民間の船舶が航行出来る暫定的な海上回廊を設置したと発表した。
ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する協定からロシアが先月離脱したことを受けた措置。
ウクライナ海軍は、「この暫定的な回廊を通じ商船はウクライナの港湾への出入りが可能」との通達を出した。同時に、ロシアが及ぼす軍事的な脅威や機雷の危険性は全ての航路沿いに存在し続けているとも警告した。ロシアとの合意はない回廊であることを示唆している。
現段階でウクライナ南部のオデーサ港や近辺の港湾で商船の出入港は起きていない。結果的にこれらの港からの穀物輸出は途絶えており、オデーサ港を離れた穀物搭載の船舶は先月16日が最後となっていた。
ウクライナ海軍の今回の通達が、商船が黒海西部のドナウ川沿いの港湾からさらに以東の港への航行へどれだけ踏み切るのかは不明となっている。
回廊と設定した航路は、ロシアによるウクライナ侵攻が昨年2月24日に始まって以降、チョルノモルスク港、オデーサ港やユズニー港に停泊している民間船舶の出航用に主に使われるだろうともした。

 

●クリミア橋上空でミサイル2発撃墜 ロシア当局 8/13
ロシアの当局者は12日、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミアとロシア本土を結ぶクリミア橋の上空で、ウクライナ軍が発射したミサイル2発が撃墜されたと明らかにした。
同橋はロシアがウクライナに侵攻して以来、繰り返し攻撃を受けてきた。
ロシアがクリミアの「首長」に任命したセルゲイ・アクショノフ氏は「敵のミサイル2発がケルチ海峡近くで防空軍によって撃墜された。橋に被害はない」と述べた。
ソーシャルメディアに出回った写真や映像には、橋から白い煙が立ち上っている様子がうつっている。CNNはこれらの写真を独自に検証していない。
当局者によると、攻撃未遂を受けて橋は一時通行止めとなった。
ケルチ橋としても知られるクリミア橋はロシアのウクライナでの戦争の物資供給の大動脈。ウクライナ南部と東部のロシア占領地に人や物を送るのに使われている。
同橋はまた、ロシアのプーチン大統領にとって個人的な意味合いを持っている。クリミアとロシア本土の「再統合」の象徴としてとらえている。
同橋は昨年10月、燃料タンカーの爆発で道路が大きく損傷し、部分的に破壊された。ロシア大統領府はすぐさまウクライナの仕業だと非難し、プーチン氏はウクライナの情報機関による「破壊工作」だと主張した。
そして7月にも2回攻撃を受けた。この攻撃についてはウクライナの治安当局者がCNNに同国の関与を明らかにした。
●ウクライナ 約60か国の大使らが和平への道筋を協議 8/13
ウクライナでG7=主要7か国やグローバル・サウスと呼ばれる国々など、あわせておよそ60か国の大使らが参加して和平への道筋を話し合う協議が開かれ、ことしの冬のロシアによるエネルギー関連施設への攻撃に備えて、対策を強化していくことなどを確認しました。
ウクライナ大統領府などによりますと、首都キーウで11日、開かれた協議にはG7=主要7か国やグローバル・サウスと呼ばれる国も含めて、あわせて58か国の大使らが出席したほか、ハルシチェンコ・エネルギー相など、ウクライナの閣僚らも参加しました。
協議は、今月5日からサウジアラビアで開かれた、こうした国々の政府高官らの協議を踏まえて行われたもので、ウクライナが提唱する和平に向けた10項目のうち、エネルギー安全保障の分野をめぐって議論が交わされました。
協議では、ロシアは、ことしの冬も、ウクライナ国内の発電所など、エネルギー関連施設への攻撃を続ける可能性が高いとして、ミサイルなどを迎撃する防空システムの供与や発電所の発電量を増やす取り組みを進めるなどの対策を強化していくことを確認しました。
また、ロシアが制裁を回避してミサイルの部品などを輸入し、ウクライナのインフラへの攻撃を続けているとして懸念を共有し、こうした大使級での議論も踏まえて、首脳級の枠組みでの協議の実現に向けて調整を続けることも確認しました。
●地球温暖化で氷が溶ける北極海、ロシアと中国の進出で変わる地政学的条件 8/13
2023年8月現在、ロシア・ウクライナ戦争の報道を目にしない日はない。また、中国が虎視眈々と台湾侵攻を目論んでいるというニュースも頻繁に見聞きする。
そのロシアと中国が、北極海に対するプレゼンスを高めようと躍起になっている。もちろん、欧米諸国も同様だ。このような北極海にかかわる動きは、日本ではあまり話題にはならない。
しかし、ロシアと中国の北極海でのプレゼンス強化は、今後日本にも影響を及ぼす。そう指摘するのは、石原敬浩氏(海上自衛隊幹部学校教官・二等海佐/慶應義塾大学非常勤講師)である。
ロシアと中国は北極で何をしようとしているのか、欧米諸国はそれらの動きにどのような対応をしているのか、地球温暖化は北極海をどう変化させるのか──。『北極海 世界争奪戦が始まった』(PHP新書)を上梓した石原氏に話を聞いた。
──なぜ今、北極海に注目が集まっているのか、改めてご説明をお願い致します。
石原敬浩氏(以下、石原):北極海が着目される理由としては、昨今のロシアの戦略的な挑戦と地球温暖化の2点が挙げられます。
2022年8月、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は「ロシアと中国が連携して北極におけるプレゼンスを高めようとしている。これは、NATOに対する戦略的な挑戦である」と発言し、強い警戒感をあらわにしました。
また、地球温暖化により北極海の氷は減少の一途をたどっています。それにより、これまで氷で閉ざされていた北極海を船が航行できるようになる。新しい航路が開発されるのです。
ドイツのハンブルクから横浜への航路を例にすると、現在のインド洋を経由する航路では、およそ2万1000キロ。北極海航路が開発されると、それが1万3000キロになる。約6割に短縮されるのです。
──そのほかに、地球温暖化により我々が北極海から享受できるメリットはあるのでしょうか。
石原:世界中の未発見の天然ガスの30%、石油の13%が北極圏に眠っていると言われています。
現在の北極海は氷で覆われているために、掘削作業を行うことが困難です。でも、氷が融けると普通の海になります。そうなると、既にある掘削技術を利用して、海底から資源を掘り出すことが可能になる。
グリーンランドとアイスランドの地政学的な意味
──2008年、北極海の沿岸5カ国(ロシア、ノルウェー、グリーンランドを自治領として保有するデンマーク、カナダ、米国)により、イルリサット宣言が発表されました。この宣言の目的はどのようなものなのでしょうか。
石原:南極には南極条約が適用され、平和利用、資源開発の禁止、領有権凍結などが定められています。
南極は大陸ですが、北極の場合は海です。海ならば、国連の国連海洋法条約にのっとって管理するのが適切である。これが、イルリサット宣言の言わんとすることです。
国連海洋法条約では、海岸を有する国は、海岸から200海里(約370キロ)の海底及び海底下をその国の排他的経済水域及び大陸棚とし、天然資源の探査・開発の権利などを認めています。北極海にこのルールを適用させることで、北極海沿岸5カ国は、北極海のさまざまな権益を支配することができるのです。
──第二次世界大戦から冷戦終結に至るまで、グリーンランドとアイスランドには米軍基地が設置されていました。グリーンランドとアイスランドの基地は、軍事的にどのような意味を持つのでしょうか。
石原:まず、第二次世界大戦における大西洋の戦いについて説明しましょう。
北米から、イギリスに物資を輸送する際には北大西洋を航行しなければなりません。当時、ドイツはデンマーク海峡(グリーンランドとアイスランドの間)経由で世界最強の不沈戦艦と呼ばれたビスマルクを出撃させたり、北大西洋海域全体にU-ボート(潜水艦)を哨戒させ、ヨーロッパと北米の海上交通の遮断作戦を行います。
グリーンランドは現在に至るまでデンマーク領ですが、第二次世界大戦中はアイスランドもデンマークの一部でした。
1940年4月、ナチス・ドイツがデンマーク本土を占領します。これを受け、デンマーク駐米大使の独断により、グリーンランドは米国の保護下に置かれることになりました。これにより、米国はグリーンランドに基地を設営することができました。
グリーンランドに加え、アイスランドに基地を構えることができれば、ドイツに対して優位に立つことができます。もちろん、ドイツも同じように、北米やイギリスに対して優勢に立つため、アイスランドを攻略しようと目論みます。
結果的には、ドイツより早くイギリスがアイスランドを占領。その後、イギリス軍の守備部隊に代わり米海兵隊が駐在することが決定します。
こうして1945年までの間、ドイツによる海上交破壊作戦と、海洋交通保護のための連合国軍の作戦が続けられることになりました。
冷戦期に入ると、ワルシャワ条約機構に加盟しているソ連および東欧諸国と西欧諸国のにらみ合いが始まります。このときは、東西ドイツの境界、フルダギャップからワルシャワ条約機構軍が西ドイツに攻め込み、西欧諸国へ進軍、ヨーロッパで地上戦が起こることが危惧されていました。
ヨーロッパで戦争が勃発した場合、北米から支援物資や弾薬、兵員を輸送する必要が生じる。海上交通破壊のため、ソ連が北大西洋に潜水艦を展開させるのではないか。第二次世界大戦中の大西洋の戦いが再現されるのではないか、とまことしやかに囁かれていたのです。
そのため、冷戦期には、グリーンランド、アイスランド、イギリスを結ぶライン(G-I-UKギャップ)で、ソ連の海上交通破壊を阻止しよう、という考え方が生まれました。
冷戦後、米軍はいったんアイスランドから撤退しますが、2018年基地の再活性化を図ります。グリーンランドの米軍基地はミサイル防衛の最前線として能力を向上させ活動を継続しています。
北極圏で軍事増強を進めるロシアの思惑
──昨今のロシアの北極圏での軍備増強状況や政策などについて教えてください。
石原:この10年間で、ロシアは北極圏で既存の軍事基地および飛行場の拡大や近代化を進めてきました。さらに、北極圏で少なくとも3つの基地を新設しています。
また、2021年1月1日から、ロシアの北方艦隊が軍管区に格上げされました。
北方艦隊は、ロシア連邦海軍の艦隊の1つで、北極海の防衛を主業務とします。軍管区とは、軍隊の管轄区域です。
それまでロシアには、西部、南部、中央、東部の4つの軍管区しかありませんでした。北方艦隊の軍管区への格上げにより、5つ目の軍管区が誕生した。北極圏でのプレゼンスを強化するために、北極海専用ともみられる海軍中心の北方軍管区をわざわざ新設したのです。
2022年8月には、ロシアの海洋戦略に関する文書「ロシア連邦海洋ドクトリン」が改定されました。これは55ページからなる文書なのですが、そのうちの22ページで北極について言及されていました。2022年8月と言えば、「すぐに終わる」とされていたウクライナ侵攻が終わらず、先行きが見えない状況になっていた時期です。
そのタイミングにもかかわらず、ロシアは北極を重視するような海軍戦略を掲げ、北極に対して意欲的な姿勢を世界に見せつけたのです。
中国が北極海進出のために得ている軍事情報
──次に、中国の北極政策についてお話を伺えればと思います。中国は、北極海には接していません。にもかかわらず、北極海に積極的に関与しようとしている。中国は、どのような手段で北極にプレゼンスを確立していこうとしているのでしょうか。
石原:中国は2000年代後半から、着実に大国としての道を歩み始めました。積極的に海外に出ていき、プレゼンスを示していこう、という機運が高まったのもその頃です。
当時から、中国は既に北極海も視野に入れていたと思われます。
例えば、2012年に中国は北極海の第五次観測を実施しました。このとき、中国の砕氷船「雪龍」は、復路でまっすぐに北極を横断する最短ルートでの航海に挑戦。無事、本国に帰還しました。これは、北極海沿岸5カ国以外では初めての快挙でした。中国は、世界各国に対し、この成果を大々的に宣伝したのです。
2014年にロシアはクリミア半島を併合。米国および西側諸国は、ロシアに対し経済制裁措置をとります。すると、ロシアと中国が急接近します。ロシアの依頼で中国企業が海洋調査船を派遣し、地震探査や自律型水中ロボットによる観測を実施したのです。
中国としては「ロシアからの依頼で北極海の科学調査をサポートしています」という言い分でしょう。しかし、ロシアの石油会社の依頼で中国企業が2016年に実施した地震データの収集においては、軍事利用もできるデータが収集された可能性も指摘されています。
詳細は省きますが、地震データの収集により、水中や海底の地形の情報を得ることができます。このような情報は、有事には敵国および自国の潜水艦の存在場所を特定するために用いられます。つまり、軍事機密情報なのです。
このようにして、中国は北極海進出のための軍事情報を得ていると推測できます。
また、中国は、2018年1月に「北極政策文書」を発表しました。これは、中国の一帯一路構想に北極の氷上シルクロードも正式に含む、とするものです。
これまで中国は、一帯一路構想の一環として、インド洋諸国や東南アジア諸国に様々なかたちで資金援助を行ってきました。北極政策文書により、グリーンランドやアイスランドへの投資、インフラ整備についても、東南アジア諸国への援助と同様、公的に実施可能になる。他国はそんな疑念を抱きました。
それまでも、中国の北極圏進出と、そこでの権益確保について、欧米諸国は警戒を強めていました。北極政策文書は、欧米諸国の警戒感をあおるのには十分すぎるほどのインパクトを持っていました。
ロシアと中国のプレゼンス拡大で日本が受ける影響
──最後に、今後、ロシアおよび中国が北極圏におけるプレゼンスを拡大していった場合、世界はどのような影響を受けるのか、また、日本はどのような影響を受け、どのような対処をすべきなのか、この点についてはいかがでしょうか。
石原:ロシアの海域でロシアが資源開発をすることは何ら問題ありません。そこから採掘される資源を日本が輸入する可能性もあります。
しかし、中国海軍艦艇が北極海に出入りするようになると、日本にも影響が及びます。中国から北極海にワープすることはできません。中国の艦艇は、日本周辺海域を通過し、日本列島、北方領土沿いに北上していかなければなりません。海上自衛隊が中国艦艇の動きをしっかりと監視する必要が生じます。
北極海の経済的な権利は、イルリサット宣言により沿岸5カ国が有しています。その一方で、地球温暖化などに関する科学調査は世界各国が協力してできる仕組みが既に構築されています。
北極圏の科学調査には、日本も積極的にかかわっています。国立研究開発法人 海洋研究機構(JAMSTEC)では、2021年から北極域研究船の建造がスタートしました。2026年に就航予定、現在名称募集中です。
2023年5月には、G7の科学技術相会合で、北極海の観測を強化する共同声明が発表されました。
日本には、権益確保や資源獲得ではなくサイエンスという観点で、どんどん北極海に進出していってほしいと思っています。それこそ、海洋国家日本のあるべき姿なのではないでしょうか。
●ウクライナNATO加盟に慎重な米国 「ロシアの反応を過度に恐れている」 8/13
ウクライナ侵攻について、米国とロシアの責任を比べることはフェアではありません。いかなる理由があろうとも、侵攻を開始したロシアの責任が圧倒的に重いことは、疑いようのない事実です。
5月、ウクライナのゼレンスキー大統領は、G7広島サミットに参加するために緊急来日し、インドなどグローバル・サウスの首脳らと対面し、平和と終戦の条件である「平和の公式」を説明し、理解を求めました。サミット期間中には、米国のバイデン大統領が「戦闘機連合」への参加を表明し、希望する国が米国のF16戦闘機をウクライナに対して供与することに合意。さらに操縦士訓練の支援も明言しました。それらの成果を得たゼレンスキー大統領は6月以降、ロシアへの「反転攻勢」を開始しています。
ウクライナは「反転攻勢」を可能な限り早く開始したいと考えていましたが、欧米からの兵器支援が遅れ、なかなか開始する態勢が整いませんでした。開始後も、兵器や訓練の不足が裏目に出て、ウクライナ側に多大な犠牲を出しています。それでも少しずつ領土奪還は進んでいると主張していますが、この一連の流れから、ロシアはウクライナを完全に見くびっているのが現状です。
侵攻開始から1年半。中国やアフリカ諸国のように両国に停戦を呼びかける動きもありますが、ロシアはさらなる動員のための準備を整えつつあるとも指摘されます。ロシアには停戦の意思は全くなく、戦争を拡大する方向に動いているようです。プーチン大統領は、時間はロシアに味方すると考えているのでしょう。欧米諸国からの支援が先細り、ウクライナ全体の弱体化を期待していると思われます。
過小評価で長期化
一方、7月の北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議では、ウクライナを複数年にわたって支援する方針を盛り込んだG7の首脳宣言が発表されました。これは戦闘が長期化してもNATO諸国は支援をやめないというロシアへのメッセージでもあります。とはいえ現状は、ロシアが軍事的優位を保っていることは確かで今後、ウクライナが反転攻勢を継続していくためには欧米からの追加支援が鍵です。
最も不足しているのは、弾薬です。米欧諸国の在庫は底をつき、米国はクラスター弾の提供に踏み切っています。一方、バイデン政権はウクライナが求めているATACМS等の射程の長い兵器の提供は「戦闘がエスカレートし、第3次世界大戦になる恐れがある」と渋ってきました。ウクライナのNATO加盟問題についても、慎重だと言われます。米国がロシアの反応を過度に恐れ、このような優柔不断な姿勢を取り続けることは、ロシアがウクライナや支援諸国を過小評価することにつながり、戦争を長期化させようとするロシア側の誘因を増大させています。ウクライナ侵攻における米国の責任を挙げるとすれば、この点に尽きると思います。
ゼレンスキー大統領は当初、侵攻された昨年2月24日の状態までロシア軍を押し返すことを目標としていましたが、今は1991年の独立時の国境線を取り戻すとしています。その実現可能性については議論が分かれますが、ウクライナの目的は明確です。対してロシアは、ウクライナを短期間で属国化できないと気づいて以降、戦争の終着点を見失っているのでしょう。ロシアの意図の見極めという困難な作業を我々はこれからも続けていくしかありません。 
●ロシア砲撃で乳児ら7人死亡 ウクライナ南部 8/13
ウクライナ南部の集落2カ所に13日、ロシア軍が砲撃を加え、乳児を含む計7人が死亡した。
ウクライナのクリメンコ内相が、通信アプリ「テレグラム」への投稿で明らかにした。
このうちシロカバルカでは、夫婦を含む大人3人と生後23日の女児、12歳の男性が死亡。スタニスラフでは、57歳と71歳の男性が犠牲になった。これ以外に13人が負傷した。クリメンコ氏は「テロリストを力で食い止めなければならない」と訴えた。 
●ロシア侵攻で子ども500人死亡 ウクライナ、負傷も千人超 8/13
ウクライナ検察当局は13日、昨年2月のロシア侵攻後、ウクライナの子どもの死者が少なくとも500人に達したと発表した。負傷した子どもも1097人に上るという。ロシアが実効支配を続けるウクライナ東部や南部での正確な人数は分かっておらず、実際の被害者はさらに増えるとみられる。
ウクライナ南部ヘルソン州の二つの村に13日、ロシア軍の攻撃があり、乳児と子どもを含む計7人が死亡した。南部ザポロジエ州オリヒウでは12日、ロシア軍の爆撃で警察官1人が死亡し、12人が負傷。東部ハリコフ州クピャンスク付近でも12日、ロシア軍の攻撃で高齢女性が死亡した。ウクライナメディアなどが伝えた。
米シンクタンク、戦争研究所は12日、反転攻勢中のウクライナ軍が、ザポロジエ州と東部ドネツク州の境界付近で戦術的に重要な前進を果たしたとの分析を公表。ウクライナ軍参謀本部は同日、ザポロジエ州ロボティネ付近で前進し、陣地を固めていると発表した。
ウクライナ軍はロシア支配地域の東西分断を目指し南下を続けている。

 

●初のロシア国定歴史教科書、プーチン史観の裏に若者への懸念も 8/14
ウクライナ侵攻後にロシア国内の引き締め強化を進めるプーチン大統領の下で、ついに初めての全国統一歴史教科書が導入された。
9月の新学期から16―18歳の学生向けに使用される国定教科書をメジンスキー大統領補佐官がお披露目。そこにはソ連崩壊からプーチン氏統治時代、ウクライナ侵攻の原因に至るまで、完璧なまでにプーチン氏の歴史観と政権が用いている解釈が映し出されている。
つまり超大国になったソ連に対する誇りや、その崩壊を巡る憤りと屈辱、1999年末から始まったプーチン氏治下でのロシアの「再生」といった考え方だ。
ロシア側が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ侵攻について、国定教科書ではプーチン氏が掲げる開戦の大義に重点が置かれた。また、冷戦終結後にせっかく差し伸べた友好の手を振り払った西側に対するプーチン氏の幻滅もにじみ出ており「西側諸国はロシア国内を不安定化させようと手を組んだ。その目的がロシアを分割し、天然資源を支配しようとしているのは明らかだ」と記されている。
プーチン政権がこの教科書を通じて学生に理解させようとしているのは、ソ連崩壊の悲劇性と西側の背信行為、そして偉大な母国ロシアに捧げる自己犠牲の大切さだ。
プロパガンダ
国定教科書は西側の「仕打ち」を列挙。北大西洋条約機構(NATO)がそうしないとの約束を破って東方拡大を続けていることや、ロシア人が迫害される事態を無視していること、ロシア恐怖症を拡散させていること、ジョージアとウクライナに「カラー革命」を起こして旧エリート層を一掃したことなどを指摘した。
西側の指導者やロシアの反体制派はもちろん、ロシアの一部歴史家さえ、このような見方を否定し、ウクライナ戦争はロシアの弱点を露呈し、国家としてのウクライナのナショナリズムを確立した戦略的な大失敗であると批判している。
ウクライナ侵攻後にロシアを去ったロシア人の歴史教師ミハイル・コピツァ氏は、教科書について「これは教科書ではなくプロパガンダだ」とロイターに語った。
現在、モンテネグロの学校で教えている同氏に、この教科書はロシアの強さと弱さのどちらを表しているのかを聞くと、両方だと答えた。
「プーチン体制が持つ力を示している。われわれは欲することを行い、国民はじっと耐えなければなない事態を受け入れよ、と言っているからだ」と説明した。
一方、体制が抱える不安も明らかで「インターネット世代やズーム世代がプロパガンダを全く受け付けない、もしくは受容が不十分にとどまる恐れがあり、体制側はプロパガンダをどんどん強力にしていく必要がある」と付け加えた。
国難の強調
国定教科書の内容を裏から見れば、冷戦終結後にプーチン政権と西側の距離がいかに開いていったか、また、ソ連崩壊に伴う混乱を収めてロシアに秩序と繁栄、平和を築き上げたとされる「プーチン氏の遺産」が今後どうなっていくかの不安が大きいことも、浮き彫りになってくる。
権威あるモスクワ国際関係大学のアナトリー・トルクノフ学長が共同執筆者に名を連ねる国定教科書は、学生に「ロシアが特別軍事作戦を強いられた理由」を問いかけ、その答えを詳しく記載。これはウクライナ支配権を巡るロシアと西側の闘争であり、西側は「ウクライナのネオナチ」をそそのかしてロシアの弱体化を目論んでいると主張する。
さらに「米国とNATOは、ウクライナをロシアに打撃を与える主な道具へと仕立てる準備を徐々に始めている」とも描写している。
国定教科書は、ウクライナ侵攻を巡ってロシアを罰しようとする西側の企ては失敗に終わったが、かつてナポレオンが英国に対して実施した「大陸封鎖令」になぞらえ、西側にあった1兆ドル余りのロシア資産が「強奪」されたと指摘した。
教科書は、ウクライナで戦死して表彰された人物の紹介にもページを割いているが、ロシア軍のウクライナにおける戦死者数には言及していない。
●ロシア、新型原潜に極超音速ミサイル搭載へ 8/14
ロシアは新型原子力潜水艦に極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」を装備する作業を進めている。ロシア最大の造船会社ユナイテッド・シップビルディング・コーポレーション(USC)のアレクセイ・ラフマノフ最高経営責任者(CEO)が国営ロシア通信(RIA)のインタビューで明らかにした。
14日に掲載されたインタビュー記事によると、同CEOは「ヤーセン─Mプロジェクトの多目的原子力潜水艦は定期的にツィルコン・ミサイルシステムが装備される。この方向で作業がすでに進行している」と述べた。
ヤーセン級潜水艦は原子力を利用した巡航ミサイル潜水艦で、軍と艦隊の近代化プログラムの一環として、ソ連時代の攻撃型原潜を置き換えるために建造された。
ツィルコンは射程900キロで、音速の数倍のスピードを備え、防御が難しい。
プーチン大統領は今年2月、核戦力の一段の強化に努めると表明し、ツィルコンの大量供給を開始すると明らかにした。
今年初めに大西洋で攻撃能力をテストした多目的フリゲート艦「アドミラル・ゴルシコフ」にはすでにツィルコンが搭載されている。
●ロシアの「海賊行為」とウクライナが非難…黒海で貨物船に臨検 8/14
ロシア国防省は13日、露海軍の哨戒艦が同日朝に黒海南西部でパラオ船籍の貨物船に警告射撃を行って停船させ、臨検を実施したと発表した。貨物船はウクライナ南部オデーサ州にある穀物輸出拠点のイズマイール港へ向かっていた。ウクライナ大統領府顧問はSNSで「明白な国際海洋法違反で海賊行為だ」と批判した。
ウクライナは、黒海経由での自国産穀物の輸出再開に向けた動きを活発化させており、けん制する狙いがあるとみられる。ロイター通信は、露軍艦艇がウクライナから離れた海域で民間船に発砲したのは、7月のウクライナ産穀物の輸出合意からの離脱後初めてと伝えた。
露国防省の発表によると、貨物船が停船要求に応じなかったため、小火器で警告射撃を行ったという。臨検はヘリコプターで兵員を貨物船に派遣して行い、貨物船は積み荷の検査を受けた後に航行を再開した。
ロシアは輸出合意からの離脱後、黒海沿岸のウクライナの港を利用する全船舶を軍事物資の運搬船とみなすと表明し、攻撃や臨検の可能性を警告していた。
ただ、露軍の活動を監視している国際調査団体「インフォルムナパルム」は13日、露軍艦は貨物船に警告はしたが射撃はせず、臨検に失敗したと指摘した。
●黒海で貨物船に威嚇射撃 ウクライナは非難、穀物拠点行き ロシア 8/14
ロシア国防省は13日、黒海南西部で同日朝、パラオ船籍の貨物船を停止させるため、海軍の警備艦が威嚇射撃を行ったと発表した。
貨物船は、ウクライナ南部オデッサ州のドナウ川沿いにある穀物輸出拠点イズマイル港が目的地だった。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問はX(旧ツイッター)で「海賊行為」に当たるとロシアを非難した。
プーチン政権は7月、穀物輸出合意の延長を拒否。失効に伴い、ウクライナの港湾に向かう全船舶について、潜在的に軍事物資を積んでいると見なし、強硬措置を取ると発表していた。 
●ロシア海軍、黒海でウクライナに向かう民間貨物船に警告射撃 8/14
ロシア国防省は13日、黒海でウクライナに向かっていた民間の貨物船に対し、黒海艦隊の哨戒艦が警告射撃を行ったと発表した。ロシアは7月に黒海を経由するウクライナ産穀物の輸出合意から離脱した後、ウクライナに向かう船舶は軍事関連物資を積んでいるとみなすと表明していた。ロイター通信によると、黒海でロシア海軍が民間船に発砲したのは初めて。
露国防省によると、哨戒艦が発見したのはパラオ船籍の貨物船で、ウクライナ南部イズマイル港に向かっていた。停船の呼びかけに応じなかったことから哨戒艦が警告射撃を実施して停止させ、臨検を行った。貨物船は検査後、イズマイル港に向けて出発したという。
穀物合意は昨年7月、国連とトルコの仲介で成立。武器を積んでいないことを確認したうえで、民間船が安全に航行できることを保証していた。だが、今年7月にロシアは自国産穀物の輸出が正常化されていないとして離脱。ウクライナ南部オデッサの港湾などを空爆したほか、黒海で軍事演習も実施した。これを受け、ウクライナもロシア海軍に対して無人小型船(水上ドローン)による攻撃を繰り返しており、黒海での緊張が高まっている。
一方、ウクライナの検察当局は13日、ロシアの侵攻によりこれまでに少なくとも500人の子供が死亡し、1097人が負傷したと発表した。ロシア占領地での被害状況は全容が把握できておらず、実際はさらに多い可能性がある。ロイター通信によると、13日にもウクライナ南部ヘルソン州の村で民家が砲撃を受け、生後23日の乳児や12歳の男児ら少なくとも7人が死亡している。
●ベラルーシ、ワグネルに資金提供か 英国防省 8/14
英国防省は、ロシアの民間軍事会社ワグネルについて、ロシアがワグネルに対して資金提供しなくなる「現実的な可能性」があるとの見方を示した。
英国防省はX(旧ツイッター)への投稿で、ワグネルの創業者エフゲニー・プリゴジン氏が6月にロシア軍幹部に対する反乱を率いて以降、ロシア政府がプリゴジン氏のビジネス上の利益に反対する行動を取っていると指摘した。
英国防省によれば、ロシアがワグネルに資金提供をしていないのであれば、2番目に有力な候補はベラルーシ当局だという。
英国防省は「しかし、この大規模な戦力は、ベラルーシのささやかな国力にとっては影響が大きく、うれしくない支出となる可能性がある」と言い添えた。
英国防省によれば、その結果として、ワグネルは財政がひっ迫して、主に職員の給与の節約のために、規模の縮小や再編に向かう可能性が高いという。
短命に終わったワグネルの武装蜂起は、ロシアのプーチン大統領にとって過去20年余りにわたる支配の中で最大級の挑戦となっていた。
●ウクライナ軍 南部で陣地固めるも 東部でロ軍と激しく攻防か 8/14
ロシアの軍事侵攻が続く中、反転攻勢に力を入れるウクライナ軍は、南部ザポリージャ州の一部で攻勢を続け陣地を固める一方、東部ハルキウ州ではロシア軍とウクライナ軍が激しい攻防戦を繰り広げているとみられます。
ウクライナ軍の参謀本部は13日、南部ザポリージャ州のメリトポリやアゾフ海に面したベルジャンシクへ向かう方面で攻勢を続け、このうちロボティネ付近では部分的に成功を収め、陣地を固めて砲撃を行っていると発表しました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は12日の分析で、ザポリージャ州のウロジャイネ付近でロシア軍が陣地を放棄した一方、ウクライナ軍の攻撃をロシア軍が撃退したという情報もあるとしていて、一進一退の戦闘を続けているとみられます。
一方、東部ハルキウ州のクピヤンシクの周辺では、ロシア軍の攻撃は成果を上げていないものの、ウクライナ軍の反撃も一部で失敗したという情報があり、双方が激しい攻防戦を繰り広げているとみられます。
こうした中、ウクライナのクリメンコ内相は13日、SNSで、南部ヘルソン州の2つの集落にロシア軍の砲撃があり、あわせて7人が死亡したと発表しました。
この中には、夫婦2人と生後23日の女の子1人が含まれているとしていて、クリメンコ内相は「テロリストは力によって食い止めなければならない」と非難しました。 
●ワグネルがロシアに復帰の情報 「反乱第2幕」の火種か 8/14
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が同国内で武装反乱を起こしたのが6月下旬。創設者のプリゴジン氏とプーチン大統領の間で何らかの手打ち≠ェあり、ワグネルは隣接する同盟国のベラルーシに移動、収拾が図られたとの観測が広がっていた。だが、ここにきて戦闘員が続々とロシア領内に戻ってきているという。ウクライナの大反攻潰しに利用するプーチン氏の強かな計算とみられるが、専門家は、それが逆に「反乱第2幕」のきっかけとなり、命取りになりかねないと指摘する。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は9日のリポートで、ワグネルの500人から600人の部隊が、ベラルーシからロシア南部クラスノダール地方、ヴォロネジ州、ロストフ州まで移動していると、内部情報筋の話として伝えた。
6月下旬の武装反乱後、プーチン氏がプリゴジン氏との間で何らかの合意をし、ワグネルの戦闘員はベラルーシに移動。同国軍に協力して訓練を開始していた。
ロシアが侵攻したウクライナの最前線では、ウクライナの反転攻勢が続く一方、ロシアの首都モスクワやクリミア半島周辺でドローン(無人機)攻撃が続き、真偽は不明だが、ウクライナの関与が囁かれている。
「プーチン氏は結局、(この状況を見て)ワグネルを呼び戻さざるを得なかったのではないか」と話すのは、ロシア政治を専門とする筑波大学の中村逸郎名誉教授だ。
「ウクライナは8月24日にソ連からの独立記念日を迎えるが、大規模な反転攻勢に出るとの推測もある。反攻に対峙するため、ワグネル戦闘員の力を借り、正規軍を立て直す必要があったと考えられる。結果、プリゴジン氏はプーチン氏に貸しをつくることになり、政治的影響力を増すかもしれない」
このプリゴジン氏の存在は中長期的にプーチン氏の脅威となり、「反乱第2幕」に結びつきかねないという。武装反乱で、先のロシア政権内部が揺らいだほか、プーチン氏の側近や盟友もプリゴジン氏と手を組んでいるとの見方があるからだ。
中村氏は「ベラルーシのルカシェンコ大統領はロシアを中心とした連合国家構想や、ロシアの戦術核兵器をベラルーシ国内に配備されてしまうなど、ロシアの配下にあるような立場に不満を持っている。また、プーチン氏の側近、パトルシェフ安全保障会議書記は、息子を後継者にする約束をプーチン氏にほごにされ、不満を抱いているようだ。このプリゴジン、ルカシェンコ、パトルシェフ三者で反プーチン連合を組んでいる可能性もある」と明かす。
8月下旬にプーチン氏がオンラインで参加する新興5カ国(BRICS)首脳会議があるほか、国内では9月に首都モスクワの市長選をはじめ、統一地方選が控え、重要な政治日程が続く。この政治日程が一つのターゲットになりうるという。
●ウクライナ軍、反転攻勢は「一定の成功」…ロシア軍精鋭部隊の一部は撤退 8/14
ウクライナの国防次官は14日、ロシア軍への大規模な反転攻勢を展開しているウクライナ軍が南部ザポリージャ州一帯の戦線で「一定の成功を収めている」と述べ、進展を強調した。米紙ニューヨーク・タイムズも12日、ウクライナ軍が南部の二つの戦線で「戦術的に重要な前進を果たした」と評した。
ウクライナの国防次官は記者会見で、アゾフ海に面した港湾都市マリウポリやベルジャンシク奪還への足がかりとなるドネツク州南西部ウロジャイネ周辺での戦果に触れた。
ウロジャイネは、反攻の起点ベリカノボシルカから約10キロ・メートル南方にあり、露軍が地雷原や 塹壕ざんごう などで強固な防御陣地を構築している。露側幹部は13日、集落の北側を奪還されたことを認めた。
露軍の補給拠点メリトポリを目的地とするザポリージャ州西部の戦線でも起点のオリヒウから約13キロ・メートル南にあるロボティネから露軍精鋭部隊の一部が撤退したとの情報がある。
ウクライナ軍南部方面部隊の報道官は13日、地元テレビで、露軍が占領している南部ヘルソン州ドニプロ川東岸コザチラヘリ一帯で拠点確保に向けた作戦を実施したことを明らかにした。
ただ、ウクライナ軍が奪還を目指す拠点都市に年内到達するのは困難との見方が出ている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、ウクライナ軍の進軍ペースが遅いため、米欧諸国が来年春の反攻に向けた支援策の検討を開始したと報じた。ニューヨーク・タイムズは最近、ウクライナ軍兵士の死傷者数が15万人を超えたとの推計を伝えており、ウクライナ側の人的犠牲も膨らんでいる。

 

●ロシアの攻撃で住民に犠牲 ウクライナ側 “依然緊迫した状況” 8/15
ウクライナの東部や南部では、ロシアによる攻撃で14日も住民に犠牲が出ています。反転攻勢を続けるウクライナ側は、東部での一定の成果を強調しながらも、依然として困難で緊迫した状況だという認識を示しました。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、14日も各地で攻撃を繰り返し、南部ザポリージャ州ではロシア軍のミサイル攻撃で住民2人が死亡したほか、東部ハルキウ州でもロシア軍の砲撃で男性1人が死亡したと、それぞれ地元当局がSNSで発表しました。
戦況について、ウクライナのマリャル国防次官は14日、東部ドネツク州のウロジャイネ周辺で「前進し陣地を固めつつある」とSNSに投稿し、反転攻勢で一定の成果を強調する一方、州都ドネツク近郊ではロシア側が進軍を試みていて、依然として困難で緊迫した状況だという認識を示しました。
こうした中、ロシアの首都モスクワ郊外で14日、各国の軍事関係者を招いて軍事フォーラムが開幕しました。
ロシアメディアによりますと、中国やインド、アフリカ諸国などおよそ70の国から代表団が参加するということで、中国国防省は、李尚福国防相がフォーラムで演説を行うほか、ロシア側と会談すると発表しています。
開幕式ではロシアのプーチン大統領が冒頭、ビデオメッセージで「ロシアはさまざまな最新兵器をパートナーに提供している」と述べ、多くの最新兵器を輸出してきたと強調しました。
さらにショイグ国防相は「大々的に宣伝されている西側の軍備は、完璧とは程遠いことが明らかになった」と主張し、プーチン政権としては、軍事侵攻で多くの兵器を失う中にあってもロシア製兵器の優位性に変わりはないとする強気の姿勢を示した形です。
●財政赤字対策のため超過利潤税を導入 ロシア 8/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月4日、超過利潤税の導入を決めた連邦法第414-FZ号に署名した。超過利潤税とは、国税基本法上の益金から損金を差し引いた2021〜2022年の平均所得が2018〜2019年のそれを上回った場合、超えた部分の10%を2024年1月までに徴収するもの。課税の対象となる所得は、通常の企業利潤税(法人税)算出の計算方法に基づく(注1)。超過利潤税の徴収は1度限りとされている。
納税義務者は、一部の例外(注2)を除く、ロシア企業およびロシアに所在し納税対象となる外国企業。超過利潤税の課税対象は、2021〜2022年の所得の平均額が10億ルーブル(約15億円、1ルーブル=約1.5円)を超えた部分。
他方で、課税対象の減免規定もある。2022年の所得から控除を引いた額が同年の所得の2分の1を超える場合、2021〜2022年の平均所得と2018〜2019年の平均所得の比が、2021年末と2022年末の総資産の帳簿価格の平均額と、2018年末と2019年末の総資産の帳簿価格の平均額の比よりも低い場合、超過利潤税の課税対象は2022年の所得の半分となる。
超過利潤税法の発効は2024年1月1日で、納税期限は2024年1月28日。ただし、発効前でも超過利潤税の前払い分として2023年10月1日から2023年11月30日までに納税した場合には、納付すべき税額の半分を上限に、前納した分が控除される。
超過利潤税導入の背景には、2023年に入り顕著な歳入不足(2023年5月31日記事参照)がある(ティンコフ・ジャーナル2023年7月21日)。ロシア政府は、同税の徴収により3,000億ルーブルの歳入増を見込む(「RBK」2023年8月4日)。
超過利潤税導入について、ビジネス界の受け止め方は複雑だ。ロシア産業家起業家連盟(RSPP)のアレクサンドル・ショーヒン会長は、一度限りの追加徴収よりも(対ロ制裁下の)新たな状況に即した抜本的な税制を構築すべきだった、と評する(インターファクス通信2023年7月17日)。ボリス・チトフ起業家権利保護大統領全権代表は8月4日、自身のテレグラム・チャンネルに、ビジネスには明確なルールが必要で、後付けの、場当たり的な対応は事業展開の障害となる、とのコメントを投稿した。
(注1)ただし、一般的に規定される減税措置は一部適用されないものがある。
(注2)中小企業、2021年1月1日以降に設立された企業、2022年中にロシアの法令により貸与された箇所でのエネルギー資源採掘に従事した企業、2021〜2022年の平均所得が2018〜2019年のそれを下回った企業など。
●金正恩氏とプーチン氏 植民地解放78年で祝電交換=関係強化に言及 8/15
北朝鮮の朝鮮中央通信は15日、日本による朝鮮半島の植民地支配からの解放記念日に当たる「朝鮮解放の日」78周年を迎え、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)がロシアのプーチン大統領と祝電を交わしたと報じた。
両首脳は祝電で両国関係の強化に言及した。金正恩氏は「有名無名の赤軍(旧ソ連軍)の勇士たちが朝鮮人民革命軍の隊員たちと共に苛烈な朝鮮解放戦闘で流した血は朝鮮の山野に宿っており、彼らが発揮した英雄的な犠牲精神は朝ロ親善の歴史と共に後世に長く伝えられるだろう」とつづった。
そのうえで「朝ロ間の親善団結が新たな時代の要求に応えて百年の計の戦略的関係へとさらに発展し、共同の目標と偉業を成し遂げるための旅程で両国が互いに強く支持・連帯しながら常に必勝不敗であることを強く確信している」と強調した。
プーチン氏も正恩氏に送った祝電で、解放記念日が「日本の植民地統治から貴国を解放するため共に戦った赤軍の軍人たちと朝鮮の愛国者たちの勇敢さと英雄主義の象徴になっている」と評価。この厳しい闘争の時期に生まれた親善と協力の伝統がロシアと北朝鮮間の善隣関係発展の礎になったとし、「今後もわれわれが両国人民の福利のため、そして朝鮮半島と北東アジア地域全般の安定と安全を強固にするため、あらゆる分野で協力を強化していくものと確信する」と表明した。
北朝鮮とロシアの首脳は毎年、解放記念日に合わせて祝電を交換している。
●ルーブルが1ドル=100ルーブル台に下落、中銀は緊急会合開催へ 8/15
ロシア・ルーブルが昨年3月以来初めて、心理的に重要な水準である1ドル=100ルーブルを割り込んだ。ロシア銀行(中央銀行)は15日に緊急会合を開く。
ロシア中銀によれば、会合後のモスクワ時間午前10時半(東京時間午後4時半)に主要金利に関する声明を発表する。それ以上の詳細は明らかにしていない。同中銀は7月に主要政策金利を1ポイント引き上げ、8.5%とした。利上げはウクライナ侵攻後の緊急措置以来だった。
中銀は年内いっぱい国内市場での外貨購入を停止すると9日遅くに発表したが、ルーブル安に歯止めがかかっていない。プーチン大統領の経済顧問は、中銀がルーブル安に寄与していると批判した。
マキシム・オレシュキン大統領主任経済顧問は国営タス通信が14日配信したコラムで、「ルーブル安とインフレ加速の源は、軟弱な金融政策にある」と主張した。
同顧問のコラム執筆はまれで、ロシア中銀が公に批判されるのも異例。ルーブルがウクライナ侵攻開始後数週間に付けて以来の水準まで売り込まれる中で、この対応を巡り政権幹部の間に不和があることが示唆される。
プロパガンダを拡散するロシア国営テレビの有名司会者が放送中に、外国は「われわれを笑い物にしている」と述べるなど、過去数日のルーブル安に対する非難は広がっている。
●’23平和考 「終戦の日」と世界 連帯の力が試されている 8/15
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、「終戦の日」を迎えた。侵略戦争を許さない意思を再確認し、戦火に苦しむ人々への連帯を行動で示す時である。
ウクライナ東・南部をロシアが占領し、一進一退の攻防が続く。ウクライナでは1万人近い民間人が犠牲となり、両国軍兵士の死傷者は数十万人に上るとされる。
「世界の食糧庫」である両国からの穀物輸出が滞り、途上国を中心に3億6200万人が人道支援を必要とする。コロナ禍での経済混乱やエネルギー価格高騰と合わせ、地球規模の危機の様相だ。
侵攻の影響もあり、紛争や迫害などから逃れた難民や国内避難民は5月時点で推計約1億1000万人と過去最多を記録した。
侵攻開始から1年半。国際社会に突きつけられているのは、いったん始まった戦争を止めるのは難しいという現実だ。
「止める」ことの難しさ
「せんそうがなくなりますように」。川崎市で開かれたウクライナ伝統の夏祭り「クパーラ祭」。会場となった公園の小枝に結びつけられた短冊には、切なる願いが記されていた。
企画したのはNPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY」。理事のスビドラン・オレナさん(40)は「願いはウクライナ全域が自分の国のままで、平和になること。戦争は早く終わってほしいが、今は戦うしかない」と語る。協会では、ウクライナ地図の刺しゅう作品を制作中だ。
これは単に「ロシアとウクライナの戦争」ではない。他の主権国家を侵略しないという国際ルールへの重大な挑戦である。「力による現状変更」を認めない国際社会の覚悟が問われている。
奪われた領土の回復というウクライナの「正義」を尊重しつつ、地域の安全という「平和」をいかに実現するか。
三つの取り組みに力を入れなければならない。
まず、ウクライナ支援の強化である。最大支援国の米国は来年の大統領選を控えて「内向き化」が懸念される。エネルギー需要が高まる冬に向け欧州に支援疲れが出る恐れもある。日本は76億ドル(約1・1兆円)の支援を表明しているが、追加拠出を検討すべきだ。
ロシアに撤退を求める国際圧力も高めなければならない。カギを握るのは、ウクライナを軍事面で支える米国と、ロシアの原油を買い支える中国だ。
和平調停・平和構築が専門の東大作・上智大教授は「世界大戦や核戦争のリスクを避けるには、侵攻前ラインまでロシア軍を撤退させる必要がある。米中がその線で意見をすり合わせられるよう、日本は役割を果たすことができる」と指摘する。
深刻な食糧危機に見舞われている新興・途上国への支援も欠かせない。日本は政府開発援助(ODA)などをテコに中東・アフリカ・中南米諸国と良好な関係を維持する。「法の支配」の重要性を説明し、ロシアに撤退を迫る国際世論づくりに汗を流すべきだ。
今夏、ウクライナを訪れた国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長は「ウクライナを支援すると同時に、複合的な危機で困っている国々を手助けする。それが国際社会の連帯感を培い、日本の長期的な国益につながる」と説く。
危機の連鎖防ぐ努力を
ウクライナ危機が他地域の情勢悪化に波及するような事態は避けなければならない。
岸田文雄政権は軍事大国化する中国を念頭に防衛力を増強し、相手国の基地をたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有を打ち出す。安全保障環境の変化に備える必要はあるが、対話の外交努力を欠けば軍拡競争に陥りかねない。
「ザワザワした感じは、日本が戦争を始めた当時とそっくり」。営農指導に従事したフィリピンで終戦を迎えた坂上多計二(たけじ)さん(98)は今の世相への懸念を口にする。
世界に紛争は絶えないが、平和を希求する市民の取り組みは続く。認定NPO法人「聖地のこどもを支える会」の招待で来日したイスラエルとパレスチナの若者10人は広島などで交流を深めている。
日本国憲法は前文で「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とうたう。戦争や弾圧で、その権利を奪われている人々の存在を忘れないと「終戦の日」に誓う。それが連帯への一歩である。
●ウクライナ軍の反転攻勢、地道な成果積み上げにロシア軍が悲鳴 8/15
ウクライナ軍が6月初旬に反転攻勢を開始して以来、多くの西側主流メディアや相当数の軍事専門家は「ウクライナ軍の反攻作戦は遅い。失敗しているのではないか」と主張している。
しかし、彼らの主張は的を射ていない。
ピューリッツァー賞を2度受賞した元戦争特派員のトーマス・リックス氏は次のように主張している。
「戦闘の取材は危険だが、比較的簡単だ。見聞きしたことを書き留めるだけでいい。しかし、戦争を正確に取材するのははるかに難しい」
「戦略、兵站、士気など、しばしば観察することができないものをある程度理解する必要があるからだ」
また、セント・アンドリュース大学のフィリップス・オブライエン教授も同じようなことを主張している。
オブライエン教授は、ロシア・ウクライナ戦争の開始から現在に至る戦況を的確に指摘し続けている戦略研究の大家だ。彼はフォーリン・アフェアーズ誌に以下のように書いている。
「ウクライナ侵攻は、国家が大規模な敵対勢力を打ち負かすには、優れた兵站と強力な経済力が必要であることを明らかにした。しかし、大規模な戦争に勝つためには、この2つの要素だけでは十分ではない」
「国家はまた、モチベーションが高く、よく訓練された兵士で構成された軍隊も必要とする。そして、ウクライナの軍隊は、敵であるロシアよりもはるかに決断力があり、熟練していることを繰り返し証明してきた」
リックス氏やオブライエン教授の適切な指摘は、「ウクライナ軍の反攻作戦は遅い」としか言わない論者への批判にもなっている。
航空劣勢下における攻勢作戦
ウクライナ軍の反転攻勢の本質は「航空劣勢下における攻勢作戦」だ。
米国は、ウクライナが求める「F-16」戦闘機の供与を頑なに拒否してきた。しかし、米国をはじめとするNATO(北大西洋条約機構)加盟国は、航空劣勢下にあるウクライナ軍にNATOが理想とする諸兵科連合作戦(Combined Arms Operations)の実施を求めた。
諸兵科連合作戦はあらゆる兵科の総合力を結集する作戦であり、その前提は航空優勢の獲得であるにもかかわらずだ。
この点は明らかに米国などのNATO加盟国の落ち度であるが、ウクライナ軍の苦難の原因はここにある。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、次のように記述している。
「ウクライナが大規模な反攻を開始したとき、西側の軍事関係者は、ウクライナ軍がロシア軍を撃退するために必要な訓練や砲弾から戦闘機までのすべての武器を持っていないことを知っていた」
「それでも、彼らはウクライナの勇気と機知に期待した。しかし、ウクライナ軍の大幅な攻撃進展はほぼ阻止された」
特に、米国のマーク・ミリー統合参謀本部議長は、早くからウクライナの反転攻勢が戦力不足のために遅延することを予言していた。
それではなぜウクライナが要求するF-16や長距離射程のミサイルATACMS(Army Tactical Missile System)の提供を拒否したのか。
ジョー・バイデン政権がロシアを刺激し、戦線が拡大することを恐れたからだ。バイデン政権の兵器供与に関する遅すぎる決定、小出しの決定がウクライナの作戦を難しくしている。
   戦い方を変えざるを得なかったウクライナ軍
ウクライナ軍は6月初旬にザポリージャ州を主作戦正面として反転攻勢を開始した。
しかし、当初のトクマク軸(オリヒウ軸)の戦闘において、戦車を中心とした機甲部隊で攻撃を開始したが、地雷原の処理に手間取り損害を出して攻撃は失敗した。
この失敗を反省し、その後のウクライナ軍が採用したのが「阻止作戦(Interdiction Operation)」と慣れ親しんだ小部隊による戦い方だ。
阻止作戦については後で詳述するが、歩兵を中心とした慣れ親しんだ戦い方は以下のとおりだ。
小部隊(小隊や中隊レベル)を中心として、機械力と人力による地雷処理を確実に行い、夜間や森林などを利用して隠密裏に敵に近づいて敵に接触し、確認した敵に対して砲迫火力を浴びせるという戦い方だ。
この戦い方を批判する欧米の専門家がいるが、その批判は的を射ていない。
航空劣勢下、史上最強レベルの地雷原という非常に厳しい状況を前にして、機甲部隊中心の機動戦を実施しなさいと言うのは酷である。
NATO軍がこれを批判するのであれば、自分たちでやってみなさいというウクライナ軍の反論は妥当だ。
現在のウクライナ軍の戦い方を評価しているのは、皮肉なことにロシア軍の方だ。
ロシア軍第58諸兵連合軍長だったイワン・ポポフ少将は典型例で、ウクライナ軍の戦い方を脅威だと評価するロシア軍人やロシア人軍事ブロガーは多い。
   クリミア半島、ザポリージャ州、ヘルソン州の分断・孤立化
航空劣勢下でもウクライナ軍は反転攻勢を成功させなければいけない。 そのためにウクライナ軍が最も重視している作戦が阻止作戦だ。
阻止作戦は、敵軍や補給品の戦闘地域への移動を阻止、遅延、混乱、破壊することを目的とする。
つまり、阻止作戦は、ロシア軍の兵站組織の破壊を重視し、図1の赤い✖印が示す兵站上の要点を破壊し、クリミア半島、ヘルソン州、ザポリージャ州を兵站的に分断することを目指している。
例えば、クリミア半島を完全に孤立した島にするために、クリミア大橋(自動車橋と鉄道橋)を破壊し、ヘルソン州・ザポリージャ州とクリミア半島を連接するチョンガル橋(自動車橋と鉄道橋)やヘニチェスク付近の橋を破壊しているのだ。
もしもウクライナ軍が航空優勢を確保していれば、阻止作戦の主体は航空戦力が担うことになる。
しかし、ウクライナ軍は、十分な航空戦力がない。そこでウクライナ軍は、F-16の代わりに長射程空対地ミサイル・ストームシャドー、高機動ロケット砲システムHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=ハイマース)、榴弾砲などを使用した阻止作戦を行っている。
つまり、攻撃前進を無理に急ぐのではなく、射程の長い精密なミサイルや砲弾を使用して、ロシア軍の奥深くに存在する高価値目標(弾薬補給所などの兵站施設、司令部、榴弾砲やロケット砲、予備部隊、電子戦機器)を徹底的に破壊し、ロシア軍の戦力を弱体化する作戦を重視しているのだ。
阻止作戦の効果は明らかに出てきていて、ロシア軍の第一線部隊に補給が十分に届けられない状況、ロシア軍の榴弾砲・ロケット砲および砲弾が不足する状況になっており、ウクライナ軍の攻撃前進が可能になってきたのだ。
   図1:攻撃軸と破壊目標
   対砲兵戦の重視
ウクライナ軍は、特に対砲兵戦(大砲同士の撃ち合い)を重視し、ロシア軍の榴弾砲やロケット砲の破壊を重点的に行っている。
ウクライナ政府関係者は7月22日、「ウクライナ軍の阻止作戦は、後方地域の軍事目標に対して実施され、ロシア軍の兵站能力と対砲兵戦能力を低下させることに成功している。ロシア軍の損害の約90%はウクライナ軍のミサイル・砲兵部隊によりもたらされたものだ」と表明している。
つまり、ウクライナのミサイル・砲兵部隊は、西側の高精度ミサイルと砲兵(榴弾砲や多連装砲)による強力で正確な打撃により、ロシア軍の砲兵部隊に大きな損害を与え、ロシア軍はもはや効果的な対砲兵戦を行うことができない状態だというのだ。
ウクライナ南部作戦軍司令部スポークスマンは7月22日、次のように指摘した。
「ウクライナが後方地域の奥深くにあるロシアの弾薬庫を攻撃していることが、露軍に兵站上の問題を引き起こしている」
「この傾向はヘルソン州における露軍の砲撃の減少に反映されており、露軍がこの地域で『砲弾飢餓』を経験していることを示している」
国防次官のハンナ・マリャルはウクライナの国営テレビで、「我々が今直面している主な仕事は、前進することに加えて、敵の防衛能力を弱めることだ」と述べている。
ウクライナ軍の反転攻勢は、人員の損耗を局限しつつ、ロシア軍の人員と装備を徐々に損耗させることを優先する作戦である。つまり、攻勢作戦においてスピード重視の領土奪還を優先していないのだ。
ウクライナ軍の反転攻勢の成果が出てきた
ニューヨーク・タイムズは8月12日付けの記事「ウクライナ、反転攻勢で『戦術的に重要な』進展を見せる」で、以下のように記述し、ウクライナ軍の反転攻勢が進展している事実を明確に評価している。
・ウクライナ軍は、地雷原や村落、草原での過酷な戦闘を数か月にわたって繰り返してきたが、2つの主要な攻撃軸、つまりトクマク軸(オリヒウ軸)、ベリカノボシルカ軸(図1参照)でやや大きな前進を見せている。
・占領した領土は、両攻撃軸とも16〜19キロと比較的短いが、ロシア軍に前線の他の正面から兵力を転用させるという点で重要である。
・ワシントンのシンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、ウクライナ軍の攻撃進展は「戦術的に重要」であり、ロシア軍の再配置は「ロシア軍の防衛ラインを全体としてさらに弱体化させる可能性が高い」、「ウクライナ軍の突破口が決定的なものになるチャンスを生み出す可能性がある」と記述している。
また、8月12日付けのISWの報告書には次のように書かれている。
「ウクライナ軍は8月12日、戦線の少なくとも2つのセクターで反攻作戦を継続し、ザポリージャ州とドネツク州の行政境界線に沿って戦術的に重要な前進(ウロジャイネの奪還など)を行ったと報告された」
「ウクライナ軍参謀本部は、ウクライナ軍がメリトポリおよびベルディアンシク方面で攻撃作戦を継続したと報告した」      
   トクマク軸(オリヒウ軸)の戦況
ウクライナ軍にとってトクマク軸は主作戦軸であり、反攻作戦用に準備されていた9個機械化旅団の中の4個旅団(33、 47、116、118旅団)がこの正面に投入されている(図2参照)。
ISWは8月11日の報告書で、次のように記述している。
「ウクライナ軍は8月11日、戦線の少なくとも3つのセクターで反攻作戦が続く中、ザポリージャ州西部で戦術的に重要な前進を行った」
「ウクライナ軍はザポリージャ州西部のロボティネ(オリヒフの南10キロ)の北の郊外に到達した」
「ロシア軍が防衛に多大な労力と時間、資源を費やしているロボティネの郊外まで前進するウクライナ軍の能力は、ウクライナ軍の戦果が現時点では限定的であるとしても、依然として重要である」
ウクライナの反攻作戦は、西部ザポリージャ州で守備しているロシア軍を横方向に再配置することを余儀なくさせているようで、ウクライナの努力がロシアの防衛力を著しく低下させている可能性を示している。
その例として、ロシアのミルブロガー(軍事ブロガー)は8月11日、第7近衛空挺(VDV)師団の部隊がザポリージャ州西部のロボティネ近郊で激しい戦闘に巻き込まれていると主張した。
第7VDV師団のロボティネ地域への到着は、この地域へのロシアの新しい編成と部隊の最初の明確なコミットメントを意味する。
第7VDV師団は、6月6日のカホフカ水力発電所ダムの破壊後、ヘルソン州東岸(左岸)からザポリージャ方面へ移転し、その後、7月にザポリージャ州とドネツク州の行政境界線に沿ったスタロマヨルスケ地区で、同師団の部隊が防衛しているのが観測されている。
つまり、第7VDV師団は現在、戦線の少なくとも2軸、場合によっては3軸に分かれていることになる。
このことは、ロシアの作戦予備部隊が不足していることを示していて、ロシア軍司令部が今後戦線の特定のセクターを強化したいのであれば、より多くの横方向の再配置を実施しなければならないことを意味する。
   図2:トクマク軸(オリヒウ軸)の戦況
   ベリカノボシルカ軸の戦況
ベルディアンスク沿岸の港を狙ったベリカノボシルカ軸は、トクマク軸と比較すると地雷等の障害が少なく、配備されているロシア軍も少なく、ウクライナ軍の攻撃正面としては適切な正面だ。
この正面は、戦い慣れた4個の海兵旅団がすべて(35、36、37、38旅団)投入されていて、ウクライナ軍がいかにこの正面を重視しているかが分かる(図3参照)。
この正面の攻撃では、ウクライナは7月下旬に奪還したスタロマイオルスケ周辺での戦果を拡張してきたが、8月12日になって戦況が一挙にウクライナ側に傾いた。
ロシアの軍事ブロガーは8月12日深夜、テレグラム・チャンネルを通じて、ロシア軍が数日間の激しい戦闘の後、ウロジャイネを放棄したと伝えた。
複数の西側の軍事ブロガーも、ウロジャイネから撤退するロシア軍の動画をSNSで発信している。
その撤退の状況は、慌てふためくロシア軍に対してウクライナ軍のクラスター爆弾攻撃が降り注ぐ悲惨なものである。
ウロジャイネの奪還によりこの地域で最も重要だと言われるスタロムリニフカ(Staromlynivka)の奪還が注目される。
   図3:ベリカノボシルカ軸の戦況
   ヘルソン州のドニプロ川東岸の戦況
ウクライナ軍が重戦力を含めた部隊でドニプロ川の渡河作戦を行うと、南部戦線に決定的な影響を与える。この反転攻勢の帰趨を決定する作戦になりうるだろう。その兆候らしき動きはある。
8月12日付けのISWの報告書は次のように記述している。
「ロシアの軍事ブロガーは、ウクライナ軍がヘルソン州のドニプロ川東岸(左岸)に存在していることを認めた」
「クレムリン系の軍事ブロガーは8月11日夜、ウクライナ軍がドニプロ川を数日間限定的に襲撃した後、コザチ・ラヘリの西に陣地を確立したと主張した」
「ロシアの軍事ブロガーは、ウクライナの破壊工作グループと偵察グループがコザチ・ラヘリの西で活動を続けているが(図4参照)、集落自体はまだロシアの支配下にあると主張している」
「ドニプロ川の東岸にウクライナ軍が駐留しているというロシアの主張は、ウクライナ軍が川向こうに半永久的な陣地を築いていることをロシア軍が懸念していることを示唆している」
   図4:ドニプロ川渡河作戦
多くの西側のブロガーは、「ウクライナ軍が橋頭堡を築いた」と主張している。
しかし、ハンナ・マリャル国防次官は8月12日、「ドニプロ川東岸に橋頭堡が確保されてはいない。ウクライナ軍の特定の部隊が特定の任務を東岸で行っている。現在は、対砲兵戦に集中している」と慎重な発言をしている。
いずれにしても、東岸のウクライナ軍が、東岸で広範な攻勢作戦を実施するためには、橋頭堡の確立とその拡大は不可欠であり、そのためには戦車等の重戦力の渡河が必要になってくることは明らかだ。
一方、ドニプロ川東岸のロシア軍の間ではパニックが広がり、脱走者が増えているという。
そのため、ヘルソン州ホルノスタイフカ集落では、ロシア軍のパトロール隊や司令部の軍人が、脱走兵がいないか一軒一軒探しているという。
同司令部がこのような行動に出たのは、占領地とその周辺に新たに到着したロシア軍兵士の中に、脱走兵だけでなく、アルコールや麻薬を摂取する者が著しく増加しているためである。
彼らは勤務地を離れ、廃墟に隠れようとしているという。
いずれにしても、ヘルソン州におけるウクライナ軍の渡河作戦は今後とも要注目だ。
結言
第1次世界大戦の米陸軍大将ジョン・パーシング氏は、「歩兵は戦いに勝ち、兵站は戦争に勝つ」という格言を後世に残した。
まさに航空劣勢下におけるウクライナ軍が行っている反転攻勢にぴったりの格言だ。
歩兵の戦いのみを見るのは「木を見ること」であり、「兵站を観察することが森を見ること」だ。
ウクライナ軍の阻止作戦と工夫された第一戦部隊の戦いが相まって、その反転攻勢はゆっくりとではあるが確実にロシア軍に支配された領土を奪還していくであろう。
今後、8、9、10月のウクライナ軍の反転攻勢の進捗がこの戦争の帰趨に大きな影響を与えるであろう。
そのためにも、米国による射程300キロのATACMS、F-16、弾薬等の供与が急がれる。 
●「西側が火に油を注いでる」プーチン大統領 中国国防相ら出席の国際会議 8/15
ロシアのプーチン大統領は安全保障に関する国際会議でウクライナ侵攻をめぐり「西側が火に油を注いでいる」と主張しました。
ロシア プーチン大統領「ウクライナをみれば火に油を注いでいるのは明らかだ。紛争をさらに煽り、他国を紛争に引き込むためにあらゆることが行われている」
プーチン大統領は15日、各国の軍事関係者らを集めた安全保障に関する国際会議にビデオメッセージを寄せ、世界各地で起きている緊張は「西側の利己的な新植民地主義的な行動が原因だ」と主張しました。
会議ではショイグ国防相が演説し、ウクライナがアメリカから供与された殺傷力の高いクラスター弾を使用しているとして、「ロシアはクラスター弾を使用してこなかったが、その方針は見直すことができる」と述べました。
国際人権団体はロシアとウクライナの双方がクラスター弾を使用していると発表していますが、ロシアが今後、クラスター弾の使用を本格化させるおそれもあります。
会議には中国の李尚福国防相のほか、ベラルーシなどの国防相らが参加しました。
この会議はモスクワ郊外で14日から始まった国際軍事フォーラムの中で行われ、ロシアとしては中国などとの軍事的な結びつきを一層強めたい狙いがあるとみられます。
●ロシア ウクライナ各地にミサイル攻撃 3人死亡など被害 8/15
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは各地にミサイル攻撃を仕掛け、西部で住民3人が死亡したほか幼稚園などの施設にも被害が出ました。こうした中、ロシアのプーチン大統領は中国の国防相などを招いた会議でウクライナへの軍事支援を続ける欧米を改めてけん制しました。
ウクライナ空軍は15日、ロシア軍が各地に巡航ミサイル少なくとも28発を撃ち込んだほか、東部のドニプロペトロウシク州や南部ザポリージャ州で地対空ミサイルによる攻撃が仕掛けられたと発表しました。
このうち巡航ミサイル16発を撃墜したとしていますが、ウクライナ大統領府のクレバ副長官は、一連の攻撃によって西部の都市ルツクで住民3人が死亡したほか、東部ドネツク州のクラマトルシクで1人が死亡したとSNSに投稿しました。
また、西部リビウの市長によりますと、ロシア側の攻撃であわせて100棟以上の家屋が損壊し、幼稚園にも被害が出たということです。
攻撃を受けてウクライナ大統領府のイエルマク長官はSNSに「ロシアの目的はわれわれの戦意をくじくことだ。しかし、敵はわれわれを打ち負かすことはできない」と投稿し、徹底して反転攻勢を進めていく姿勢を強調しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は15日、中国の李尚福国防相など各国の軍事関係者を招いて開いている国際会議にビデオメッセージを送り、欧米が「多額の資金を投入して武器や弾薬を供与し、軍事顧問などを送り込むことで紛争をさらに激化させている」と主張し、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米を改めてけん制しました。
ゼレンスキー大統領 “無人機生産は最重要課題のひとつ”
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、東部ドネツク州の前線を訪問して部隊を激励し、SNSでその様子を公開しました。
その後に公開した動画では無人機をめぐって「ウクライナでの生産やパートナーからの供給などを増やす必要があり、最重要課題のひとつだ」と述べ、ロシアへの反転攻勢にあたって無人機の有効性を重視しているものとみられます。
●ロシア通貨ルーブル、対ドルで一時1年5カ月ぶりの安値 戦争の影響顕在化 8/15
ロシアの通貨ルーブルは14日、対米ドルで一時1年5カ月ぶりの安値を付け、欧米の制裁や輸出収入の落ち込みで経済への圧迫が強まっている状況が浮き彫りになった。
ルーブルは一時1ドル=100ルーブルを下回り、年初来で4割近く値を下げた。ウクライナでの戦争が重荷になっている。
ロシアのプーチン大統領は欧米による制裁の影響は限定的だと主張するが、ルーブル下落は数あるロシア経済の悪材料のひとつに過ぎない。
ルーブルは2022年2月のウクライナ侵攻開始直後に暴落し、翌3月には1ドル=136ルーブルまで落ち込んだ。その後は石油・天然ガス価格が高騰する中、昨年6月に1ドル=約50ルーブルまで上昇していた。
だがそれ以降、欧州経済はロシア産石油・ガスからの脱却を進め、米国やカナダ、ノルウェーからの輸入を増やしている。
これがロシアの財政を逼迫(ひっぱく)させているほか、戦費増大も財政の圧迫要因になっている。
ロイター通信が確認した政府文書によると、ロシア政府は2023年の国防予算の目標額を倍増させ、予算全体の3分の1に当たる1000億ドル超に引き上げた。
このほか欧米の制裁もロシアへの外国投資の減退や、輸出減少につながっている。
ロシア中央銀行のナビウリナ総裁によれば、輸出減に旺盛な内需による輸入増が重なり、一段とルーブル安が進行している状況だという。
ロシア中銀は14日、政府需要の高止まりなどが原因となり、全体的に経済活動が押し上げられていると指摘。これが物価上昇圧力やルーブル安につながっているとの見解を示した。
また、物価抑制のために近く利上げを行う可能性に言及し、CNNに寄せた声明で「今後の会合で主要金利を引き上げる可能性があることを認める」と述べた。
ロシア中銀は先月、インフレ高進や通貨安を理由に政策金地をここ1年あまりで初めて引き上げ、8.5%としていた。
ロシアの政策立案者は開戦直後の緊急措置で金利を2割引き上げたものの、その後は7.5%まで徐々に引き下げ、ルーブルにさらなる下押し圧力がかかっている。
プーチン氏の経済顧問であるマキシム・オレシュキン氏は、通貨下落の原因は中央銀行にあると非難し、ルーブル安がロシア経済に悪影響を与えていることを認めた。
オレシュキン氏は14日の国営タス通信に掲載された寄稿で、「ルーブル安とインフレ加速の主因は緩和的な金融政策にある」と指摘。「中央銀行は近い将来に状況を正常化するために必要な全ての手段を持つ」「ルーブル安は経済改革を複雑化させ、国民の実質所得に悪影響を及ぼす」としている。
●米政府、ウクライナへ290億円の追加軍事支援…パトリオットやHIMARS弾薬 8/15
米政府は14日、ロシアの侵略を受けるウクライナに対する2億ドル(約290億円)の追加軍事支援を発表した。地対空ミサイルシステム「パトリオット」や高機動ロケット砲システム「HIMARS」の弾薬、地雷除去装置などを供与する。ブリンケン国務長官は声明で「ロシアが戦争を終わらせるまで同盟国などと団結し、ウクライナとともに立ち向かう」と強調した。

 

●ロシアが西アフリカで支持拡大 プーチン氏がマリ軍事政権幹部と電話会談 8/16
ロシアのプーチン大統領は8月15日、アフリカ西部マリの軍事政権トップであるゴイタ暫定大統領と電話会談を行い、最近クーデターのあったニジェールの情勢について協議した。ロシア大統領府によると、電話会談はマリ側が要請したもの。西側諸国は、西アフリカにおけるロシアの影響力拡大に懸念を強めている。
プーチン大統領は8月15日、西アフリカのマリの軍事政権トップと電話会談。マリのゴイタ暫定大統領による、X(旧ツイッター)への投稿によると、最近クーデターのあった隣国、ニジェールの情勢について協議した。
西アフリカにおけるロシアの影響力に、西側諸国の懸念が高まっている。
ニジェールは米、中、欧、ロシアにとって戦略的に重要な国であり、現地のイスラム教反体制派と戦う外国軍の拠点となっている。ウランや石油資源も豊富だ。
ロシア大統領府によると会談はマリ側が要請したもの。ニジェールの状況を平和的な政治・外交手段のみによって解決することの重要性を強調したという。
西側が西アフリカでの影響力を失うにつれ、ロシアへの支持が高まっている。
ニジェールでは7月下旬バズム大統領が失脚して以来、クーデター支持者がロシアの旗を振り集会を開いている。マリとブルキナファソの軍事指導者は旧宗主国フランスの軍を追放する一方、ロシアとの関係を強化している。
ニジェールはバズム政権時代、西側の同盟国だった。
米、仏、独、伊は、退陣した文民政府との協定に基づき軍隊を駐留させている。
プーチン大統領は、ニジェールに憲法秩序を取り戻すよう呼びかけた。ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏はニジェールのクーデターを歓迎しているという。
●ついに最後のカードを切ったロシア軍、空軍を対地支援に本格投入 8/16
今、ウクライナの戦場はどうなっているのか、本論に入る前に米戦争研究所(ISW=Institute for the Study of War)などの報告書をまとめる。
東部戦線の地上戦闘では、ロシア地上軍が局地的に攻勢を仕掛けている。
ザポリージャ正面などの南部戦線では、ウクライナ地上軍がロシア軍の防御線を突き破ろうとして、少しずつではあるが、戦場の要点を奪回しつつある。
南部戦線のへルソン正面では、ウクライナ軍特殊部隊など少人数がボートに乗船し、ドニエプル川を渡河し、ロシア側陣地に潜入した。
そして、今後の渡河作戦のために、小さな橋頭保を3か所作りつつある。
これらの作戦に連携して、後方連絡線となるクリミア半島とロシア本土を繋ぐクリミア大橋、クリミア半島とザポリージャ州を繋ぐ2つの橋梁を部分的に破壊している。
また、弾薬や兵員の後方補給点となるロシアが占拠している地域内の弾薬・燃料施設、訓練施設、武器保管施設などを長射程巡航ミサイルで破壊している。
ウクライナ軍としては、この戦況は期待通りではない。
戦場の第一線地上部隊の反撃が、ロシア地上軍の防御線における抵抗を受け、戦場の要点の奪回に時間がかかり、損害も出ている。
その理由に、ロシア軍の防御準備のほかに、ロシア空軍の戦い方で一つ大きく変化したことが挙げられる。
ロシア空軍戦闘機と攻撃ヘリが、都市攻撃から近接航空支援(対地攻撃支援:戦場の地上軍を目標に攻撃すること)に、重点を移したことである。
具体的には、ロシア軍戦闘機や攻撃ヘリコプターが、ウクライナ軍防空網の外から対地攻撃支援を行っているのである。
これによる、ウクライナ軍の被害状況は詳細に報告されてはいない。
しかし、戦闘機等によるミサイルと爆弾による被害がかなり出ているとみてよいだろう。しかも、ロシア軍戦闘機に手出しができていないのが現状である。
そこで、ロシア空軍の戦い方が変化したことによってウクライナ軍に出た影響、さらに、ウクライナ軍の期待について、考察する。
1.やっと対地攻撃支援を始めたロシア軍機
『ミリタリーバランス2021』によれば、ロシア空軍が保有する戦闘機・攻撃機(戦闘機等)は、864機であった。
ウクライナでの戦争では、これまでの17か月間に315機を失った。保有機数に対する損耗率は36%で、残存しているのは64%、まだ約550機ある。
ウクライナ軍が当初に保有していた戦闘機等は116機で、これまでに多くが撃墜された。残存機数は不明だ。
ウクライナ軍機の半数が撃墜され、50〜60機あるとしても、その相対戦力数は、ロシア軍が約10倍である。
   ロシア戦闘機等の損失数の推移
グラフの推移を見れば、ロシア戦闘機等は、侵攻の3〜4か月目以降は損失が急激に減少しているのが分かる。
侵攻当初2か月は、ウクライナ領土内を飛行して撃墜され、多くの損失を出したのだ。
しかし、その後、撃墜されるのを恐れてロシア領土内、ウクライナ防空兵器の外からミサイル攻撃を行い、都市部の攻撃を重点としていた。
ウクライナ軍が2023年の6月頃に反攻を開始した頃から、戦場の戦闘支援を重視するようになった。
2.火砲が不足、戦闘機が対地攻撃支援に
両軍地上軍部隊は、現在の接触線で防御ラインを突き抜けるか、くい止めるかの瀬戸際にある。ウクライナ軍が突き抜けようとしている正面もある。
ここで、ロシア地上軍と空軍が連携して、ウクライナ軍の反撃を止めようとしている。
ロシア空軍戦闘機が、ウクライナ地上軍の攻撃に対してミサイルや爆弾を投射して、地上部隊の戦闘を支援している。
ロシア軍の火砲が多く破壊されてきているので、これを補うように航空攻撃をしているのだ。
航空攻撃は、爆弾の威力が大きい。そのため、ウクライナ軍にとっては砲撃よりもダメージが大きい。
特に、ウクライナ軍が地雷などの障害を処理し、その後、障害を通過ために戦闘車両が蝟集(狭い地域に密集すること)した時、航空攻撃を受ければ、その被害は大きくなる。
ウクライナ地上軍は、ロシア軍戦闘機からの攻撃には、やられっぱなしの状態だ。
3.ロシア軍「戦闘機」の対地攻撃支援
ウクライナは、基本的に都市防空のためにパトリオットミサイルなどの長距離防空ミサイルを、戦場(接触線付近)では、短距離防空ミサイルや高射機関砲を配置している。
パトリオットミサイルなどを第一線部隊付近に配置すれば、戦闘部隊がロシア軍戦闘機からの攻撃を受けることはないが、反面、航空攻撃を受け、破壊されやすくなる。
戦場で運用して破壊されてしまったら、キーウなどの防空ができなくなり、その影響は大きい。
そのため、戦場にはパトリオットミサイルなどを配置しない。
その代わり、射程は短いが発見されにくく移動が容易な自走のミサイルや機関砲を配置するのだ。
では、このような戦場での防空環境において、ロシア軍戦闘機はどのような対地攻撃支援を行うようになったのか。
ロシア軍の「Su(スホイ)」戦闘機は現在、接触線の戦場でウクライナ軍の短距離防空ミサイルの射程外(接触線から概ね10キロ)の安全な空域から、射程40キロ以内の空対地ミサイルを発射している。
つまり、ウクライナ軍第一線部隊から、40キロ以内まで接近してからの攻撃である。
しかし、この対地攻撃に対して、ウクライナ軍の防空ミサイルでは撃墜できず、阻止できていない。
ウクライナ軍は、自軍防空兵器射程外からのロシア軍機ミサイル発射そのものを止めたい。止められるのは、長射程ミサイルを使った空対空の戦闘だ。
ロシアの「Su-30・34・35」戦闘機が保有する空対空ミサイル「R-77(アムラームスキー)」の射程は120〜190キロである。
ウクライナ軍「MiG-29」戦闘機のミサイルの射程は約75キロだ。
これだと、ウクライナ軍機は、ロシア軍機に接近する前に撃墜されることになる。
ウクライナ軍にF-16が供与されれば、F-16に搭載される空対空ミサイルには、「AIM-120 AMRAAM(アムラーム)」のD(160〜180キロ)タイプを搭載し、160km離隔した空中目標に対して攻撃することができる。
単機の戦いでは、F-16とSu機とはほぼ互角の空中戦闘ができると予想される。
現在、F-16戦闘機が供与されていないため、少数のMiG機を改良し、米欧のミサイルや爆弾を搭載し対応するしかない。
だが、数的にロシア空軍が圧倒的に有利なので、ロシア軍戦闘機を撃墜できず、ロシア軍戦闘機からのミサイル発射自体を止めることはできないのだ。
ウクライナにとって、ロシア軍機のミサイル攻撃を制限できるのは、今のところ欧米日が、ミサイル部品の供給を確実に禁止することだけだ。
ロシア軍戦闘機を撃墜し、地上戦闘に協力させないために、F-16を早急に供与すべきだ。
F-16戦闘機が供与されれば、同機が搭載する空対空ミサイルに撃墜されないように、ロシアの戦闘機は飛行しなければならなくなり、対地攻撃支援はできなくなる。
4.ロシア軍「攻撃ヘリ」の対地攻撃支援
攻撃ヘリは、侵攻当初1か月間はウクライナ領土内まで侵入し、地上作戦を支援していた。
だが、その期間に損失が多くなり、その後、活動が低調になった。ウクライナ軍防空兵器から攻撃され、撃墜されるのを恐れたからだ。
そのため、地上作戦をほとんど支援しなくなった。これまでの戦いでは、攻撃ヘリの「戦車キラー」としての活躍はなかったのだ。
ロシア軍は、攻撃ヘリを約400機保有していた。
侵攻からこれまで、40%近くが撃墜されたが、まだ大量に残っている。詳細なデータはないが、260機ほどは残っているだろう。
   ロシア軍ヘリの損失数の推移
ロシア軍の攻撃ヘリは、どのような対地攻撃(対戦車戦闘)を行うようになったのか。
現在は、防空ミサイルの射程外から、長射程対戦車ミサイルを発射している。
今後、米欧の戦車等とロシア軍の攻撃ヘリの戦いは、どのようになるのかについては次の通りである。
ウクライナ軍の防空網が充実してきたため、ロシア軍攻撃ヘリは、ウクライナ軍の作戦範囲に侵入して攻撃ができなくなった。
ウクライナ軍の防空網は、ウクライナ軍防空兵器の射程などから、接触線から最大10キロ以内だ。
そのため、接触線から約10キロ離れた安全な位置から攻撃している。
そのため、ロシア軍攻撃ヘリの撃墜は少ない。1か月にたった1機だけの時もある。
稀に、ウクライナ軍陣地に侵入して、撃墜されているだけだ。
これに対して、ウクライナ軍の攻撃ヘリ保有数は35機であり、侵攻開始から、多くの攻撃ヘリが撃墜されている。
ロシア軍攻撃ヘリのアウトレンジからの攻撃には、現在のウクライナ軍としては、対策がない。
このことをもってしても、空対空戦闘ができるF-16が喫緊に必要な状況である。
5.反攻を妨害する最後のカードか
米欧から供与された防空兵器によって、ウクライナ軍の防空網が出来上がっている。その防空網には、都市防空網と戦場防空網がある。
都市防空の実情は、日々報告されている通り、ミサイル攻撃や自爆型無人機の攻撃を一部撃ち漏らしてはいるものの、かなり対応できるようになった。
戦場の防空はどうなのか。
ロシア軍機は、戦場の上空を飛行してはいない。上空を飛行すれば、ウクライナ軍の短距離と近距離の防空ミサイル等に撃墜されるからだ。
ロシア軍機はウクライナの戦場の防空網の外から、ミサイル等を発射し、反撃するウクライナ軍を攻撃している。
これは、航空優勢を取れないロシア軍機の最後のカードといってよい。
一方で、前線で戦っているウクライナ軍地上部からすれば、ロシア軍機がこの防空網の中に入ってこなければ、撃墜することはできない。
このアウトレンジからの攻撃は阻止することはできず、壕の中に逃げるしかない。
ウクライナ軍としては、ロシア軍機が対地攻撃を行うために、ウクライナ防空網の外で、対地攻撃用のミサイルなどを発射する位置に来た時、それが射程に入る長距離の空対空ミサイルで撃破が可能になる。
これらのことができる戦闘機はウクライナ軍にあるのか。
米欧の空対空の長射程ミサイルが発射できる戦闘機は、MiG-29を改良したものが数機あるが少ない。
改良機では、敵機の情報との共有や機搭載のレーダーで敵機を捜索できるかというと、かなり難しいだろう。
これらの能力を有するのは、供与される予定のF-16だ。
ウクライナ軍としては、反撃を妨害するアウトレンジからの対地攻撃を止めたい。すなわち、それを実施するロシア軍機を撃墜したいと、強く期待していると思う。
ロシア軍機のアウトレンジからの攻撃は、ウクライナ軍の反攻を妨害する最後のカードだ。
F-16戦闘機は、ウクライナ軍がそのロシア軍最後のカードにとどめを刺すことになる。
ウクライナとしては、できれば1機でも早く受領し、逐次投入でいいから戦場防空にあてたいところだ。
●西部にミサイル攻撃、3人死亡 「心血注げ」総動員訴え―ウクライナ大統領 8/16
ウクライナ西部で15日、ロシア軍による大規模なミサイル攻撃があり、現地からの報道によると、3人が死亡し、多数の負傷者が出た。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は14、15両日に東部バフムトと南部ザポロジエ方面の前線を相次いで訪問。ビデオ演説で、「国全体が心血を注ぐべきだ」と総動員で部隊を支えるよう訴えた。
ウクライナ空軍によると、15日未明に少なくとも28発のミサイルが発射され、うち16発を撃墜した。しかし、一部が北西部ルツクにあるスウェーデンのベアリング大手「SKF」の工場に着弾し、従業員3人が死亡。西部リビウでは住宅地が攻撃され、10歳の子どもを含む15人がけがをした。東部ドニプロでも被害が出た。
主戦場の一つとなっているバフムト方面の拠点を訪れたゼレンスキー氏は「未来は皆に懸かっている。大事なのは自分を気遣いつつ、勝利に向かって進むことだ」と激励した。国民に向けては「前線では命をささげて戦っている。酒場やクラブに行くのではなく、他のやり方で兵士を助けなければならない」と述べ、引き締めを図った。
●ロシア、防空網手薄なウクライナ西部にミサイル攻撃… 8/16
ウクライナ西部のルーツィクやリビウなどで15日未明、ロシア軍によるミサイル攻撃があり、ルーツィク市長によると、工業施設が被害を受け、3人が死亡した。ルーツィクは、ウクライナ支援の拠点ポーランドとの国境から東に約85キロ・メートル。首都キーウと比べて防空網が手薄な地域を狙い、米欧の武器支援を妨害する狙いがあるとみられる。
英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、14日未明には穀物の輸出拠点の南部オデーサがミサイルや無人機の攻撃を受け、教育機関や医療施設を含む建物203棟が被害を受けた。露国防省はこの攻撃について、「ウクライナ軍がテロ攻撃で使う無人艇の工場と保管庫を攻撃した」と主張した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、東部ドネツク州の要衝バフムトなどの前線を訪れ、兵士らを激励。ビデオ演説では弾薬不足などに言及し、支援を呼びかけた。 
●プーチンの焦りでロシア特殊部隊が"ほぼ全滅"…「ソ連のターミネーター」 8/16
無謀な作戦の犠牲になったロシアの特殊部隊
ロシアの特殊部隊「スペツナズ」が、ウクライナ侵攻後の1年間でほぼ壊滅状態に追い込まれている。
米ワシントン・ポスト紙はインターネット上に流出した米国防総省の機密文書をもとに、旅団によっては兵員の90〜95%が失われたと報じている。2022年夏にウクライナから帰還した5つのスペツナズ旅団は、「1旅団を除くすべてが大きな損失を被っている」ことが判明したという。
スペツナズはロシアの特殊部隊の総称だ。なかには暗殺など秘匿性の高い任務を担う部隊もある。要員の育成に少なくとも4年間のトレーニングが必要とされており、プーチン大統領や軍部にとって再建への道は険しい。
米ワシントン・ポスト紙によると機密文書は、スペツナズ第346旅団は兵士900人中775人が死傷し、「旅団全体をほぼ失った」状態にあると分析している。こうした「驚異的な死傷者数」により、ウクライナ以外の地域でもロシア軍の活動レベルが低下する可能性があると文書は指摘する。
米国防総省の流出文書は、本来高度な訓練を受けているスペツナズが大きな打撃を被った原因は、ロシア司令官らの無謀な作戦にあると指摘している。ウクライナ侵攻を加速したいあまり、高難度のミッションに投じるべき高スキルの人材を前線に放り込み、こうした専門部隊が「格好の餌食」になる状況を自ら招いたようだ。
東部ドンバス地方から生還できたのは7人に1人だけ
軍事・防衛産業関連のニュースサイトである米タスク&パーパスは、スペツナズは「ロシア連邦が擁する最高のエリート部隊」であるとしたうえで、こうした部隊が「ウクライナで破壊されつつある」と報じている。流出文書の内容を取り上げ、スペツナズはウクライナの地で「全滅しつつある」とする内容だ。
スペツナズの戦闘員は昨年来、マリウポリやウグレダルの街、そして東部ドンバス地方の作戦に投入されてきた。ところが同文書によると、スペツナズ第346旅団は900人のコマンドー(特別奇襲隊員)が所属していたところ、戦闘から帰還したのは125人だけだったという。7人に1人に満たない。
ワシントン・ポスト紙も流出文書を分析し、スペツナズが「大量の死者とけが人に苛まれている」と指摘する。ロシアの複数のスペツナズ部隊がウクライナ侵攻で「完全に破壊された」とし、プーチン政権はその再建に数年単位の歳月を要するとの見方を示している。
記事によると一連の流出文書には、例えばロシア南部の第22スペツナズ旅団が使用する基地について、侵攻の前後を写した衛星写真が含まれていた。侵攻数カ月前の2021年11月と、その1年後に撮影されたものだ。
衛星写真で明らかになった“全滅”の実態
前者には「ひしめく車両で賑わう車両保管所」が写っていた。一方、ウクライナからの帰還後にあたる後者では、参戦前に保有していたティグル小型戦術車両の数が半分以下に減っていた。こうした情報をもとに米当局は、車両が「極度の枯渇状態」にあると結論付けたという。
兵員の損耗はさらに激しいようだ。ワシントン・ポスト紙によると流出文書は、この第22旅団を含む3つのスペツナズ旅団について、兵員の90〜95%が死傷したと分析している。「全滅しつつある」との表現も、あながち誇張ではないようだ。
記事はさらに、2月には東部ドネツク州ウグレダルの町で、スペツナズ旅団長の死亡が明らかになっていたとも報じている。
ロシア軍に詳しい米外交政策研究所のロブ・リー上級フェローは、「(上官が)あれほどまで前方に出ているということは、おそらく何らかの問題があるのだろう。部隊の損失が大きすぎるか、あるいは想定外の使われ方をしているかのどちらかだ」との見解を示している。
「ソ連のターミネーター」という残虐なイメージ
スペツナズは1957年、冷戦下のソ連時代にロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)内に創設された。戦場の偵察や破壊工作を担うほか、暗殺や諜報(ちょうほう)活動を担う専門性の高い部隊もある。米インサイダーは、その秘匿性の高さやソ連亡命者が記した書籍の影響から「ソ連のターミネーター」との残虐なイメージを帯びた部隊であると紹介している。
記事はスペツナズの具体例として、いわゆる暗殺部隊と位置づけられる参謀本部・特殊作戦指揮部の特殊作戦部隊(KSSO)を筆頭に挙げる。ほか、陸軍スペツナズとして8旅団と1独立連隊、および海軍スペツナズとして4艦隊など、約1万7000人がいるという。
実際には、必ずしもすべての部隊が暗殺をミッションとしているわけではない。同記事は、「FSB(ロシア連邦保安庁)特別指定センターのまさにエリートの対テロ部隊から、連邦林業局のそれほど手ごわくない即応部隊まで」のさまざまな部隊が存在すると述べている。
このようにスペツナズは、秘匿性に関してはさまざまなレベルが存在する。だが、いずれにせよ、専門の訓練を積んだ精鋭部隊であることは確かだ。
元スペツナズの退役軍人はインサイダーに対し、一般の部隊とは異なり、スペツナズは勇気ではなく決断力に重きを置いていると語っている。その意味するところを問うと、「勇気とは、目的達成のために死をいとわない覚悟である。決断力とは、死なずに目的を達成する方法を見つける意志である」と答えたという。
最前線に送られ格好の餌食になった
そのスペツナズが、ウクライナ戦争で壊滅状態に陥っている。何故か。
軍事サイトの米タスク&パーパスは、「この大規模な損失は、戦争の初期に用いられた戦術に起因している」と分析する。首都キーウの迅速な攻略を図ったロシアの司令官らは、一気に片を付けるべく、高度な専門スキルを備える貴重なスペツナズ部隊を惜しげもなく前線へと派遣した。
だが、砲弾が飛び交う戦場の只中に特殊部隊が派遣されたところで、本来の専門性を生かした諜報活動や工作を実施できるわけではない。この愚行が「専門部隊を格好の餌食へと変えた」と同サイトは論じる。
ワシントン・ポスト紙は、スペツナズは本来、例えばゼレンスキー大統領の捕縛のようなリスクの高い隠密行動に投じられるべき部隊だと指摘している。あるアナリストは同紙に対し、開戦当初からロシアの上級指揮官たちがロシアの戦闘機の能力を疑問視しており、侵攻を加速する目的でスペツナズを投入したと述べた。
外交政策研究所のリー上級フェローは、ロシアにとって陸軍の兵士の能力も心許なかったと指摘している。自動車化狙撃団の歩兵らが十分な成果を上げておらず、キーウ攻略や東部と南部での作戦が不調に終わったことを受け、エリート空挺(くうてい)部隊やスペツナズなどを前線に出すよう方針を転換したと氏は語る。
高度なボディーアーマーや暗視ゴーグル、熱検知機器など最新の装備と共に戦場に投入されたスペツナズだが、活躍の機会は限定的だったようだ。ワシントン・ポスト紙は、リー氏による分析をもとに、「その多くが殺されたり、捕虜になったりした模様だ。ビデオや写真によると、彼らの特殊車両の一部は破壊された」と述べている。
一部部隊はボランティアの寄せ集めになっている
スペツナズ自体の能力も、部隊によっては欧米の特殊部隊ほどは高くないようだ。ロシア独立紙のノーヴァヤ・ガゼータは、スペツナズの一角を成す民間軍事企業の部隊にボランティアで加わった若者の話を報じている。
38歳エンジニアのこの男性は、NATOの軍拡を防ぐためになるのだと信じ、スペツナズの義勇軍に参加したという。メッセージアプリのTelegramで見た情報をもとに応募すると、6カ月の参加が許された。隊の兵士の半分はこの男性と同じように、まったくの軍隊未経験者だったという。高校を出たばかりの若者から、白髪の老人までが、ボランティアとして同じ隊に所属していた。
スペツナズとは名ばかりで、訓練は十分でなかったようだ。「訓練場には2〜3回行っただけです。AKやマシンガンを何発か撃ちました」と男性は語っている。1カ月ほどを訓練に費やしたが、いかに狙いを定めるかといった技法は、ついに教わることがなかった。新人の足下を教官が狙撃し、戦場に慣れる訓練などを受けたという。
インサイダーは、結局のところ多くの、あるいは大半のスペツナズは、徴兵制による寄せ集めであると指摘している。通常の兵士よりは「特別」だが、アメリカのグリーンベレーやイギリスのSAS(陸軍特殊空挺部隊)とは比肩しないとの評価だ。
短期決戦というプーチンの目論見が裏目に出た
一方、ロシア軍内に視点を絞れば、比較的高いスキルと装備を有する部隊であることに間違いはない。その壊滅はロシアにとって大きな痛手だ。米CNNは「特殊部隊は数年にわたる訓練を要し、攻撃上重要な役割を担っている。よって、このような損失が痛手であることは疑いようもない」と指摘している。
ワシントン・ポスト紙は流出文書をもとに、スペツナズ崩壊の影響は非常に大きいと述べている。スペツナズの人員を補うには、新規に採用した戦闘員の訓練を一からやり直す必要があるためだ。
高度な部隊では少なくとも4年の専門的な訓練を必要とすることから、侵攻前の状況にまで回復するには、今後10年ほどかかると流出文書は分析しているという。
短期決戦を目指したロシアは焦りが高じるあまり、特殊部隊のスペツナズを消耗の激しい前線に送り込むという失敗を犯した。この焦りこそが兵士の消耗率を高め、攻略の失敗と長期化を招いた一因にもなったようだ。
●ウクライナ、新たに集落奪還 アゾフ海方面へ前進 8/16
ロシア軍への反攻を進めるウクライナのマリャル国防次官は16日、交流サイト(SNS)で、東部ドネツク州西部の集落ウロジャイノエをロシア軍から奪還したと発表した。
ウクライナ軍はこれに先立つ7月下旬、ウロジャイノエに隣接する集落スタロマイオルスコエの奪還も発表。両集落はウクライナ軍が奪還を目指すアゾフ海沿岸地域の都市ベルジャンスクやマリウポリへの進出ルート上に位置しており、ウクライナ軍が一定の前進に成功した形だ。
●ウクライナ 輸出停止後初の貨物船出港も穀物倉庫など攻撃被害 8/16
ウクライナ政府は16日、ロシアがウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止して以降、初めての貨物船が南部オデーサの港を出たと発表しました。しかし、オデーサでは16日もロシア軍の無人機による攻撃で穀物倉庫などが被害を受けていて、ウクライナ産農産物の輸出が安全に再開できるかは不透明です。
ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相は16日、SNSで、食料を含む3万トン以上の貨物を積んだ香港船籍の貨物船がオデーサの港を出たと発表しました。
7月にロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止して以降、船舶がウクライナの港を出るのはこれが初めてだとしています。
貨物船は、黒海に面した港に民間の船舶が出入りできるよう、ウクライナが8月に新たに設けた臨時航路を使って、ボスポラス海峡に向かっているということです。
一方、そのオデーサ州の港湾インフラがロシア軍により無人機で攻撃されたと16日、ウクライナ空軍が発表しました。
オデーサ州と、隣接するミコライウ州でイラン製の無人機、合わせて13機を撃墜したとしていますが、オデーサ州の知事は、ドナウ川沿いの港が攻撃されて、穀物倉庫などが被害を受けたとSNSに投稿しました。
ロシアは7月以来、オデーサ州の港などに向けてミサイルや無人機による攻撃を繰り返していて、ウクライナ産農産物の輸出が安全に再開できるかは依然不透明です。
ドネツク州の集落 “ウロジャイネ解放”
ウクライナのマリャル国防次官は16日、東部ドネツク州のウロジャイネを解放したとSNSに投稿し、現地で守備を固めつつあると主張しました。
ウロジャイネは、ウクライナが7月末に奪還したとみられるドネツク州のスタロマヨルシケに隣接する集落で、ウクライナ側が着実に反転攻勢を進めていることをアピールした形です。
ウロジャイネについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は15日、ロシア軍の大部分が中心部から撤退した可能性があるものの、ウクライナ軍が完全におさえているわけではなく、限定的な攻防が続いている可能性が高いと分析しています。
初めての貨物船 黒海の臨時航路使いオデーサ出港
ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相は16日、SNSで、黒海に面した港に民間の船舶が出入りするためにウクライナが8月に新たに設けた臨時航路を使って、初めての貨物船がオデーサの港を出たと発表しました。
それによりますと、貨物船は香港船籍で、16日にオデーサの港を出て、食料を含む3万トン以上の貨物を積んで、ボスポラス海峡に向かっているということです。
発表では「船が最後にオデーサの港を出たのは、先月16日だった」として、7月にロシアがウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止して以降、船舶がウクライナの港を出るのは、これが初めてだとしています。
今回、貨物船が使用した臨時航路は、ウクライナ海軍が8月10日に民間の船舶が黒海に面したウクライナ南部の港に出入りするために設けたと発表したものです。
黒海での船舶の航行をめぐっては、ロシア国防省が、8月13日に黒海の南西海域でロシア海軍の哨戒艦がウクライナに向かっていたとするパラオ船籍の貨物船に警告のための発砲を行い、強制的に停船させて検査を行ったと発表するなど、緊迫した事態も起きていました。

 

●米、ウクライナ穀物輸出の代替経路模索 ロシアに合意復帰も要求 8/17
米国務省は16日、ウクライナの穀物輸出を確実にする代替経路を模索するためにパートナーと協力していると明らかにした。
パテル副報道官はブリーフィングで、併せてロシアに黒海穀物合意への復帰を要求。「(ロシア大統領の)プーチンは世界の食料安全保障など気にしていない」と述べ、ロシアによるウクライナの穀物インフラへの攻撃が食料不足を悪化させていると非難した。
●北朝鮮とロシアの武器取引仲介企業に制裁 米政府 8/17
米政府は16日、北朝鮮とロシアの間の武器取引を仲介する企てに関与したとして、スロバキアなどを本拠地とする3企業に制裁を科したと発表した。米国はウクライナへの侵攻を続けるロシアによる北朝鮮からの武器調達を懸念している。
財務省によると、3企業は米政府が3月に制裁を科したスロバキア国籍の武器商人が社長などを務める。この武器商人は北朝鮮が原料などと引き換えにロシアに数十種類の武器や弾薬を提供する取引を仲介しようとしたという。北朝鮮当局者と連携し、制裁対象となった企業を他企業との交渉に利用したとしている。制裁により米国内の資産が凍結される。
ネルソン米財務次官(テロ・金融情報担当)は声明で「同盟国やパートナーと共に、プーチン(ロシア大統領)によるウクライナでの残忍な戦争を支援する武器取引を暴き、途絶えさせる取り組みを続ける」と強調した。
●シリア大統領の発言がトルコとシリアの和解プロセスをめぐる議論を再燃させる 8/17
シリアのバッシャール・アサド大統領が最近、スカイ・ニュース・アラビアのインタビューに応じた際の発言が、ダマスカスとアンカラの関係改善にダメージを与えたかどうかの議論を巻き起こしている。
アサド大統領はインタビューの中で、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との会談を拒否し、エルドアン大統領が会談を求める動機は、シリアにおけるトルコの存在を正当化することにあると示唆した。「なぜ私とエルドアンが会わなければならないのか?ソフトドリンクを飲むためか?アサドはそう言い放った。
アサドの発言に反応したトルキエのヤサル・グレール国防長官は、安全保障上の懸念を強調しながらも、トルキエが和平を望んでいることを強調した。「トルコは心から和平を望んでいるが、我々には繊細さもある。国境と国民の安全を保証せずに撤退することは考えられない。シリア大統領はこの問題に関して、もっと理性的に行動してくれると信じています」とグラーは述べた。
トルコが360万人のシリア難民の帰還を優先させたのは、主に地方選挙が近づいているためだ。有権者の主な懸念は、何百万人ものシリア人を受け入れることでトルコ経済に負担がかかっていることだ。
アサド大統領はまた、政権転覆を狙うシリアのさまざまな武装グループをトルコが資金面で支援していると非難した。
「シリアのテロリズムはトルキエでつくられている」とアサドはインタビューの中で述べ、ヘイ・アット・タハリール・アル・シャムを含むトルコが支援する民兵組織に言及した。
このような緊張にもかかわらず、トルコとシリアは昨年以来、特に国防相と外相の間で政治協議を行っている。
話し合いはイランとロシアによって進められており、両隣国間の関係融和を目指している。5月には、両国の閣僚が関係改善のためのロードマップをまとめることに合意した。しかしダマスカスは、このロードマップにはトルコ軍のシリアからの撤退スケジュールを盛り込むべきだと主張している。
アサドの厳しい暴言にもかかわらず、専門家によれば、トルコはシリア政権との和解に向けてゆっくりとした歩みを続けている。プーチン・ロシア大統領のトルキエ訪問と、トルキエ、ロシア、イラン、シリアの4カ国外相会談は、トルキエとシリアの和解プロセスを再燃させる可能性を秘めている。
「イスタンブールにあるマルマラ大学のロシア・トルコ関係専門家、エムレ・エルセン教授はアラブ・ニュースに語った。
「アンカラは経済的な懸念から西側諸国との関係を修復することに注力しているようだが、ウクライナ戦争はロシアの外交政策を支配している。トルコとロシアの関係も、アンカラと(ウクライナのヴォロディミル・)ゼレンスキー政権との緊密な関係や、モスクワが穀物取引からの離脱を決めたことで、ここ数カ月でやや冷え込んでいる」。
エルセンにとって、これは和解のプロセスがもう少し時間がかかるかもしれないことを意味する。
「ロシアのウクライナ侵攻によって、アサドに対するプーチンの影響力が著しく弱まったことも念頭に置くべきだ。アサドの今回の発言も、こうした状況の表れと考えられる」と述べた。
とはいえ、外交的なデタントへの道は依然として複雑だ。シリアのクルド人グループから解放された、国境沿い30kmの緩衝地帯を作るというトルコの主張は、シリア北部に約5000〜1万人の軍隊を駐留させ続ける上で重要な役割を果たしている。エルドアン大統領は7月17日、トルコは現在進行中の対テロ活動のため、これらの地域に留まることを確約していると述べた。
アンカラにあるシンクタンクORSAMでレバント研究のコーディネーターを務めるオイトゥン・オルハンは、トルコがシリアからの撤退に同意するのは、紛争が絶えないシリア北部でクルド人が自治を求める動きに対して国際的な保証を得るまでだろうと考えている。
「アンカラは、撤退を決定する前に、共同ロードマップに合意し、信頼醸成措置を実施することを優先する。今回のアサドの声明は、対話プロセスの後退を意味する」と彼はArab Newsに語った。
オルハンは、ダマスカスとアンカラの間の信頼を回復する方法として、政権が支配する地域と反政府勢力が支配する地域、そして国内の地域間の貿易を復活させることを提案している。さらに、地中海沿岸とアレッポや北部の他の地域を結ぶイドリブの戦略的高速道路M4の開通にも合意すべきだ。
「アンカラが現在の状況下で断固として拒否する前提条件を主張するよりも、このような措置は(アサド政権が)現在直面している経済的課題を緩和し、アンカラによる親善のジェスチャーとみなされるだろう。
しかし、アンカラとダマスカス間のより広範な正常化プロセスは、トルコのより広範な外交関係、特にロシア、アメリカ、西側同盟国との関係と密接に結びついている。
「トルキエの最近の西側諸国への歩み寄り、スウェーデンのNATO加盟への支援、黒海穀物イニシアティブをめぐる不確実性、さらにはアゾフ連隊の重要人物のウクライナへの帰還……は、ロシア国内の不安を煽るかもしれない」とオルハンは警告する。
「これらすべての措置が(トルコ側の)外交政策の転換をもたらすのであれば、(ダマスカス政権の)最強の同盟国であるロシアの要因によって、トルコとシリアの和解プロセスが崩壊することにもなりかねない」と彼は付け加えた。
一方、国内の難民をどのように処理するかは、2024年3月に予定されているトルコ市長選挙のために今高まっている、分裂を引き起こし続けている。オルハンは、政府は緩和的なアプローチをとるべきだと提案する。
以前の地方選挙では、難民問題が極めて重要な役割を果たし、主要都市では野党候補が勝利を収めたが、今度の選挙では、抜本的な決定を下すことなく、この問題に対処するための段階的なジェスチャーが見られるかもしれない。
オルハンは、カタール政府からの資金援助によって、シリア北部に新たな入植地が誕生するシナリオを描いている。難民の一時的な救済を目的としたこのような構想は、選挙戦のシナリオに巧みに織り込まれ、有権者に希望を与えることができるだろう。選挙前にシリア人を完全に送還することは不可能である。
ここ数週間、アンカラは強制送還を強化しており、何千人ものシリア人が突然、何のつながりもないシリア北部に送られた。この動きは、100万人のシリア難民を帰国させるという、最近の選挙勝利後のエルドアンの公約の一部である。
●「ウクライナ、領土放棄の代わりにNATO加盟もありうる」NATO高官が提案 8/17
ウクライナがロシアに占領された領土を放棄する代わりにNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、戦争を終わらせるべきだという主張が、NATO側から発せられた。
ノルウェーの日刊紙ベルデンスガングなどが報じたところによると、NATO事務総長秘書室長のスティアン・イェンセン氏は15日、ノルウェーのアレンダルで開かれた討論会「NATOにおけるウクライナの未来」で、ウクライナ戦争と関連して「解決策の一つとして、ウクライナが領土を放棄し、その見返りにNATO加盟国の資格を得るということもありうる」と述べた。イェンセン氏は、どんな和平案もウクライナが受け入れられるものでなければならないが、NATO加盟国は18カ月にもなるこの戦争をどうやって終わらせることができるかを討論しているとして、このように述べた。
ウクライナ戦争でウクライナに対する積極的な支援を主導するイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長の最側近である秘書室長のこのような発言は、NATO内でもロシアが占領した領土をウクライナが回復する可能性が少ないという現実を認め、妥協すべきだという議論が進んでいることを示すものと受け取れる。
イェンセン氏はこの日の討論会で「いつ、どんな条件で交渉を望むかを決めるのはウクライナにかかっている」ということを前提にしつつも、戦争が終わる時にウクライナがどのような安全保障状況にあるのかに対する考えは持たなければならないと述べた。また「我々がこのようなことを通じて我々の道を討論することが重要だ」とし、ウクライナの戦後の地位についての討論が外交界で続いていることも付け加えた。
ウクライナは直ちに反発した。英日刊紙のガーディアンによると、ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領補佐官は「領土とNATO加盟を交換する? 笑わせる話だ」として「これは意図的に民主主義の敗北を選び、世界的な犯罪をあおり、ロシアの政権を保存し、国際法を破壊し、戦争を他の世代に渡すことだ」と激しく非難した。ポドリャク補佐官は「もしプーチンが壊滅的な敗北を喫しなければ、ロシアの政治体制は変わらず、戦犯たちは処罰されず、この戦争はロシアがより多くの戦争を望む結果を無限に生むだろう」と述べた。
NATOもイェンセン氏の発言がもたらした論議の火消しにあたった。NATOのスポークスマンは「我々はウクライナが必要とする限り支援を継続し、公正かつ永続的な平和を達成すると誓う」とし「NATOの立場は明確で変わっていない」と述べた。
しかし、イェンセン氏は「占領地放棄とウクライナのNATO加盟の交換はNATOの見解か」というメディアの質問に対し、戦争後の可能な地位についての議論はすでに進んでおり、ロシアに領土を渡す問題は他の人々によって提起されたものだと述べた。同氏は「私はそのようにならなければならないと言っているのではない」とし、「だが、一つの解決策にはなりうる」と再度述べた。
●「戦争が終わるまで支援を続ける」ウクライナで一番有名な日本人、土子文則 8/17
今年75歳の土子文則は、いま「ウクライナで一番有名な日本人」だ。
「人生の最後は好きなことをしたい」と思い、2021年9月からヨーロッパへ長期旅行に来ていた時にロシアの侵攻が始まる。当時滞在していたポーランドで多くの避難民を見て、「自分にも何かできることはないか?」と、昨年4月にウクライナに入国した。
まず領土防衛隊に入隊し、病院などで衛生兵としてボランティアで働いた。ロシアと国境を接する北東部のハルキウ市で地下鉄構内に人々が避難しているニュースを見て、6月から現地入り。それから約6カ月間、避難民と一緒に地下鉄構内で生活を共にした。
団塊の世代で、戦後の報われない貧しさや学生運動を経験した。ハルキウの地下鉄構内で避難しない、できないウクライナ人の姿を目の当たりにしたとき、彼らを助けたいという思いに火が付いた。
その後、戦争が長期化しそうな状況に危機感を感じ、使い慣れていないSNSで支援を呼びかけるようになる。それが日本の支援グループのもとに届いて次第に支援者が増えていった。昨年末に地下鉄構内を退去した後も近所のアパートに住み続け、日本から送られた物資の配給を続けた。
次の一手として、クラウドファンディングを使って約700万円の資金を集め、今年4月にハルキウ北東部のサルティフカ地区で子供や貧しい人々のための無料食堂FuMi Caffe(フミカフェ)をオープンした。
逮捕からやり直した人生
共同経営者でレストランをやったことのあるウクライナ人女性ナターシャのアイデアで、カフェは年中無休で毎日正午〜午後3時まで営業。1日に約1000食を提供する。ウクライナ人スタッフを10人ほど雇い入れ、大きな課題の1つである雇用創出にも一役買っている。
ハルキウは昨年9月にウクライナ軍が奪還してから状況が安定しており、食材などの流通には支障がない。食堂の運営はナターシャが受け持ち、土子は宣伝と資金集めを担当。倉庫整理やテーブルの片付けもする。土子は英語は片言で、ウクライナ語はできない。カフェには英語を話す人がいないため、ほぼスマートフォンのグーグル翻訳に頼っている。
カフェのオープン後、ウクライナはもちろんヨーロッパ各国のメディアで取り上げられ、土子はウクライナで一番有名な日本人になった。個人、団体、企業、ハルキウ州、駐日ウクライナ大使館など着実に支援の輪が広がっている。「フミがいなかったら、私たちはどうなっていたか......。フミはもう家族です」と、ナターシャは言う。
東京都練馬区で生まれた土子の人生は決して平坦ではなく、3度の結婚や妻との死別も経験した。大学卒業後は公務員や一般企業の社員をしていたが、3人目の妻と死別した後で自暴自棄になり、生活苦の末、窃盗で逮捕されたこともある。「終わり良ければ全て良しというわけじゃないけど、最後くらいは良いものにしたい」
今後はどうするのか、いつまでウクライナにとどまるのか。「私はここから一歩も引きません。戦争が終わるまで支援を続けます」
この夏、近隣エリアにフミカフェ2号店をオープンする予定だ。
●ウクライナを蝕む汚職と腐敗、戦費6兆3700億円に群がる白アリたち 8/17
徴兵逃れの不正112件、容疑者は33人
「本当の戦争を知っている人が地域の徴兵センターを運営すべきだ」―ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日、徴兵逃れの不正により国民と西側支援国の信頼を根本から揺るがせたとして各州の徴兵センターの責任者24人を全員解任した。6月4日に始まった反攻が消耗戦に陥る中、国民や兵士の士気を削ぐ大スキャンダルだ。
ゼレンスキー氏は国家安全保障・国防会議で国家捜査局、保安庁、内務省、検事総長、国家腐敗防止庁、国家反腐敗局から州徴兵センターの責任者である軍事委員に対する査察の報告を受けた。それによると州徴兵センター職員の刑事責任を問う案件は合計112件、容疑者は33人もいた。オレクシー・レズニコフ国防相が交代するとの報道もある。
「ドネツク、ポルタヴァ、オデーサ、キーウ、リビウなどで州や市、地方の軍事委員、軍事医療委員会の職員、その他の公務員の中に現金を受け取った者もいれば、暗号資産を受け取った者もいる。冷笑主義はいずこも同じ。不法収益で豊かになり、そうした不正資金を洗浄する。そして不正資金や兵役義務者の違法な国外移送…」と大統領は侮蔑の色を浮かべた。
「戦争とは何か、戦時下における冷笑主義や賄賂がなぜ反逆罪にあたるのかを正確に知っている人々によって徴兵制度は運営されるべきだ。前線を経験した兵士や、手足を失ってもう塹壕に戻ることはできないものの威厳を保ち、冷笑主義に陥っていない兵士に徴兵制度の運用は任せるべきだ。犯罪捜査が行われた軍事委員はすべて法廷で刑事責任を問われる」
ゼレンスキー「名誉を回復したいのであれば前線に赴くべきだ」
21年にゼレンスキー氏からウクライナ軍総司令官に任命されたヴァレリー・ザルジニー大将が今後、徴兵制度の運用を任される。新しく採用される軍事委員は保安庁の身辺調査を受ける。「解任された軍事委員や、犯罪や違反の証拠が見つからなかったためその職に留まったに過ぎない人が名誉を回復したいのなら前線に赴くべきだ」(ゼレンスキー氏)
健康診断で兵士の適性を審査する軍事医療委員会についても「この制度はまともに機能していない。兵士の扱い方、服務のあり方など不道徳としか言いようがない。2週間後に国家安全保障・国防会議がこの問題に関する会合を開く。査察が進行中で、その時に決定が下されるだろう」とゼレンスキー氏は吐き捨てるように言った。
当初、ウクライナの常備軍は26万人だったが、動員をかけて70万人にし、国境警備隊、国家警備隊、警察を含め計約100万人(レズニコフ国防相)の体制を整えた。
ウクライナ軍もロシア軍も航空優勢を確保できなかったため、兵士をすり潰すような地上軍による消耗戦に陥り、ウクライナ軍の死者は2万人、負傷者13万人、ロシア軍の死者は5万人、負傷者18万人(今年5月、米当局者推定)にのぼっているとみられる。手足を失ったウクライナの負傷兵や市民は2万人から5万人という報道もある。
ウクライナでは兵員を確保するため昨年2月のロシア軍の侵攻後、18歳から60歳までの男性は原則、出国が禁止された。徴兵が免除されるのは大学に在籍していたり、障害があったり、子どもが3人以上いたりする場合などに限られる。消耗戦となった今回の反攻で犠牲がさらに膨らみ、動員の範囲が広がるのは必至だ。
長蛇の列ができる徴兵センター
今年5〜6月、ウクライナ中部クリヴィー・リフを拠点に戦闘外傷救護を兵士や市民に指導している元米兵マーク・ロペス氏(ウクライナ軍将校兼軍事教官)に地元の徴兵センターのそばまで案内してもらった。若者から中年、60代の男性まで徴集兵や志願兵で長蛇の列ができていた。徴兵検査とは名ばかりで、片目がなくても高齢でも徴兵されるのが実態だ。
キーウ国際社会学研究所と国家民主主義研究所が6月30日に発表した世論調査によると、ウクライナ国民の約95%がウクライナ軍を、約80%がゼレンスキー氏を信頼していると答えた。約80%が復興と腐敗撲滅の任務を遂行する中央政府を信頼しており、ゼレンスキー氏の取り組みは国民に支持されている。しかし金の切れ目は縁の切れ目とも言われる。
独立系国際メディアプラットフォーム「openDemocracy」(今年3月)によると、ロシア軍がキーウに攻めてきた時、ゼレンスキー氏は兵士たちに毎月1万3000フリヴニャ(約5万円)の基本給に加え、10万フリヴニャ(約40万円)の「戦闘ボーナス」を支給した。これまでの7倍増という大盤振る舞いだった。
しかし今年3月以降、兵士の基本給は負傷者や戦線離脱者を含め2万フリヴニャ(約8万円)に引き上げられたが、「戦闘ボーナス」の10万フリヴニャが支給されるのは前線で戦う兵士に限定された。食料品、生活必需品、電気料金の高騰は戦時下のウクライナに深刻な「生活費の危機」をもたらし、兵士の事実上の給与カットは死活問題だ。
「戦闘ボーナス」は部隊の共同募金箱に
ウクライナ政府は昨年、ロシアとの戦争で国内総生産(GDP)比16.3%の財政赤字を計上した。軍から支給される装備は十分ではなく、ボディーアーマー、ヘルメット、ブーツ、その他の装備を兵士が募金で集めて購入するケースは決して少なくない。10万フリヴニャの「戦闘ボーナス」も部隊の共同募金箱に寄付された例が報告されている。
筆者はドネツク州の前線に決死の市民ボランティアが食料や飲料水の支援物資、ロシア軍が放置した戦車や大砲、軍用救急車を修理して届けている様子を目の当たりにしてウクライナ軍が置かれている苦境を実感した。西側の装備を供与されている機甲師団もあるが、「2リットルの飲料水を7人の兵士で分け合っている班もある」(ロペス氏)。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、ウクライナの国防費は昨年640%増え、GDPの34%の440億ドル(約6兆4000億円)。しかし軍にはびこる官僚主義は旧ソ連譲り。徴兵逃れの不正だけでなく戦費をくすねる悪質事例は後を絶たない。openDemocracyが兵士から入手した文書によると、本来の支給額の10〜20%しか受け取っていない例もあった。
軍紀の乱れを防ぐため、ゼレンスキー氏は今年1月、軍への不服従、戦闘拒否(いずれも10年以下の服役)、脱走(12年以下の服役)に対する処罰を強化する法律に署名した。上官を脅したり(7年以下の服役)、戦場から逃亡したり、お酒を飲んだりした場合もより厳しい制裁が科せられるようになった。
有罪が確定した兵士に裁判所が減刑や執行猶予付きの判決を下すことも禁じた。
腐敗のオンパレード
7月には国家捜査局と保安庁の捜査で、ドネツク州の軍司令官とその部下4人が7カ月間にわたって、ドネツク州の前線から遠く離れた場所に配備された軍部隊があたかも戦闘任務に従事していたように装って約500万フリヴニャ(約2000万円)の「戦闘」ボーナスを不正に引き出していたことが分かった。
少し古くなるが、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(3月23日付電子版)によると、不適切な招集や招集を拒否した男性が担当将校に乱暴される様子を映した動画が流出した。両手が不自由だったにもかかわらず、兵役に適していると宣告された障害者もいる。10日間の訓練後、前線に送られ、1カ月以内に死亡した徴集兵もいた。
38歳の溶接工は3人の子どもの父親で、がんを患う母親の介護をし、自らも健康上の問題を抱える徴兵除外対象者であるにもかかわらず、5回の招集令状を受け取った。ウクライナの国境警備隊は1日平均20人を逮捕している。女装をしたり、密入国業者に金を払って出国しようとしたり、ハンガリーとの国境を流れる川を渡ろうとしたりした男性たちだ。
長距離トラックの助手になりすましたり、医師にわいろを渡して健康問題をデッチ上げたり、ニセ書類で大学に入学したり、手口はさまざまだ。大学に入学した上、兵役不適格の書類、ボランティアワーカーの証明を入手するため1万ドル近くを支払った男性もいた。昨年、ボランティアや人道支援の出国許可で6万6374人が出国し、9300人以上が帰国していない。
ウクライナはロシアに次いで2番目に腐敗した国
最近では2人の徴兵担当官が兵士に兵役不適格のレッテルを貼る書類を偽造し、1人当たり1万ドルを集めて私腹を肥やしていたとして告発された。軍用食料の価格を大幅につり上げたり、徴兵担当将校がスペインの海岸に数百万ドル相当の不動産や車を購入したりしていたことも明らかになっている。
シンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のリアム・オシェイ上級研究員は「ウクライナは、トランスペアレンシー・インターナショナルの腐敗認識指数で欧州ではロシアに次いで2番目に低い国だ。ウクライナ政府と支援国は積極的に行動し、腐敗した個人を訴追し、ウクライナ社会全体の回復力を促す必要がある」と指摘する。
「ウクライナにおける効果的な改革にはゼレンスキー政権の強力かつ持続的なリーダーシップが不可欠だ。国内で政治的な腐敗撲滅連合を構築するとともに、支援国は腐敗撲滅がウクライナ政府にとって必須事項であることを確実にするために強い圧力をかけ続けることが肝要だ。腐敗撲滅のための集団行動を強化する取り組みに投資することだ」(オシェイ氏)
「この戦争はロシア軍をウクライナから追い払う以上のものだ。ロシアとは対極的に効果的な公共サービスを提供する政府モデルを構築しなければならない。戦争はウクライナ人の連帯を強化し、腐敗に対する効果的な集団行動を構築する土台となった。ガバナンスに確実に反映させられるかどうかはゼレンスキー政権と支援国の対応にかかっている」と強調する。
●「ワグネル」、ベラルーシで「教育関連企業」として登記 8/17
ロシアの雇い兵組織「ワグネル」が、ベラルーシで今月4日、「教育関連」の有限会社として登記されていたことが16日に明らかになった。ベラルーシ国内でのワグネルの拠点とされる場所が、会社の所在地として記録されている。
ワグネルは6月にロシア国防省に対する反乱を起こして以来、政府との取引の結果、その隊員の大部分がベラルーシに移動。首都ミンスクの南にある拠点で、ベラルーシ兵を訓練している様子が確認されている。
ベラルーシの法人登記当局によると、ワグネルはオシポヴィチ地区のツェリ村を所在地に、「教育活動」を目的とする法人を登記した。複数報道によると7月に同じ住所で、不動産業「コンコルド・マネージメント・アンド・コンサルティング」も法人登記されている。
「コンコルド」は、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が代表を務めるロシアの持ち株会社コンコルドが、100%保有しているとされる。
BBCは7月に、ツェリ村にあるワグネルの拠点と、ワグネル隊員の到着、さらにプリゴジン氏が隊員を出迎えたのを確認した。
ワグネルは6月23日夜から24日、ウクライナ国境を越えてロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌに入り、ロシア軍の南部軍管区司令部を掌握。部隊は首都モスクワをめがけて北上した。ウクライナでの戦争をめぐりプリゴジン氏はそれまでロシア軍幹部を激しく非難していた。6月にロシア軍が、ワグネルを吸収し傘下に置く方針を示していたことにも、プリゴジン氏は強く反発していた。
ワグネルの反乱を収束させるため、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仲介に入り、その結果、ワグネル戦闘員はロシア軍に入るか、あるいはベラルーシに行くかが選べることになった。
ルカシェンコ大統領は、ワグネルをベラルーシ防衛に投入する可能性に言及しつつ、国内でのその行動はしっかり注視するとも話していた。
●途上国襲う「複合危機」 コロナ禍に戦争、気候変動も 8/17
世界銀行など国際開発金融機関(MDBs)の機能強化を求める声が強まっている。
途上国や低所得国でコロナ禍をきっかけに食料不足や債務問題が悪化し、気候変動への対応も迫られる「複合危機」(世銀の西尾昭彦副総裁)が深刻化しているためだ。貧困層の再拡大を防ぐため、MDBsによる融資への期待は大きい。
世銀によると、新興国の経済成長を背景に、世界人口に占める貧困層は1990年の35%超から、2015年に約10%まで低下。しかし、その後は足踏みが続き、コロナ禍後、中南米では貧困層の割合が上昇に転じた。
コロナ禍に加えロシアのウクライナ侵攻も背景に、食料不足や過剰債務が深刻化。穀物をロシアやウクライナからの輸入に依存していたアフリカや中東への打撃が大きく、最貧国の3分の1で食料危機が迫っているという。スリランカやガーナといった国では、観光収入の減少や経済危機で債務負担が膨張し、苦境に拍車を掛けている。
気候変動問題への対応も急務だ。西尾世銀副総裁は、干ばつや洪水の増加、降雨パターンの変化により、作付けができなくなり、「生活が成立しない地域も出ている」と指摘する。
世銀グループで最貧国支援を手がける国際開発協会(IDA)は21年12月、コロナ禍からの回復支援のため、日本が主導する形で計画より1年前倒しで、930億ドル(約13兆5000億円)の増資を決めた。
途上国では、世界的な金利上昇などで資本市場からの資金調達が細る一方、資金需要は拡大しており、「MDBsの重要性が一層高まっている」(日本政府高官)。サマーズ元米財務長官らの専門家グループは、危機を乗り切るには、IDAの支援能力を30年までに現行水準の3倍に引き上げる必要があると指摘している。 
●ウクライナから貨物船出港 輸出安全に再開できるか不透明 8/17
ウクライナ南部のオデーサの港からは、ロシアがウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止して以降、初めての貨物船が出ました。ただ、ロシアはオデーサ州への攻撃や黒海を通る船舶への威嚇を続けていて、ウクライナ側は警戒感を示しています。
ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相は16日、SNSで、食料を含む3万トン以上の貨物を積んだ香港船籍の貨物船がオデーサの港を出たと発表しました。
7月17日、ロシアがウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行の停止を発表したあと、ウクライナは黒海に面した港に民間の船舶が出入りできるよう、臨時航路を設けていて、初めて利用されたとしています。
一方、ロシアは先月以来、オデーサ州の港などに向けてミサイルや無人機による攻撃を繰り返していて、16日も、オデーサ州の知事は、ドナウ川沿いの港が攻撃され、穀物倉庫などが被害を受けたとSNSに投稿しました。
また、ロシアは、黒海をウクライナに向かうすべての船舶は軍事物資を輸送している可能性があるとみなすと警告し、今月13日には貨物船を強制的に停船させ、検査を行ったと発表するなど威嚇しています。
これに対し、ウクライナのクブラコフ副首相は16日の投稿で、「ウクライナの港への航行に影響を与えようとする挑発が試みられている」と警戒感を示していて、ウクライナ産農産物の輸出が安全に再開できるかは依然不透明です。
●ウクライナ産穀物の輸出再開へ、黒海の「人道回廊」運用始まる… 8/17
ウクライナ政府は16日、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出再開に向け、民間船舶が安全に航行できるよう暫定的に黒海に設定した航路「人道回廊」の運用が始まったと発表した。食料など3万トンを積んだ香港籍の貨物船が同日、南部オデーサ港からトルコのボスポラス海峡に向けて出港した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日、「黒海の航行の自由を回復するための重要な一歩だ。海は誰にとっても安全でなければならない」とX(旧ツイッター)に投稿した。
発表によると、オデーサ港からの貨物船の出港は、ロシアが7月に黒海を経由したウクライナ産穀物の輸出合意を離脱して以降、初めてとなる。今回出港した貨物船は、ロシアの侵略が始まる前日の2022年2月23日からオデーサ港に停泊していたという。
ロシアはウクライナの港を利用する全ての船舶を軍事物資運搬船とみなし、攻撃する可能性があると警告し、港への攻撃を強化している。16日未明には穀物輸出拠点であるオデーサ州のレニ港がロシアのミサイル攻撃を受け、穀物倉庫が被害を受けた。
ロシアはウクライナに向かう貨物船への臨検も実施するなど、黒海経由の往来を妨害する構えを見せており、「人道回廊」が安定的に機能するかは不透明だ。 
●もはやジェノサイド…ウクライナの子供たちを誘拐、洗脳するプーチンの野望 8/17
ロシアのウクライナ侵攻がジェノサイド(集団虐殺)戦争であることが次第に明らかになってきた。無差別殺人や集団レイプに加え、ウクライナの子供たちを連れ去る事例も報告されている。
ウクライナを歴史から抹消し、若い血を「移植」しようとしているロシア。誘拐とロシア化教育にみるプーチンの野望とは──。
昨年12月24日付のワシントン・ポスト紙で、ウクライナの大勢の子供たちを船で移送し、ロシア人の養子にしてロシア人として育て、ウクライナを消滅させる──というロシアの計画の詳細が報じられた。
ロシアのジェノサイド戦争をより大きな枠組みで文化的に解釈すれば、ウクライナは今も昔も存在せず、歴史から抹消されるべきだ、というのがロシア当局の考えだ。
2014年にウクライナ南部のクリミアを併合し、東部ドンバス地方で開戦して以降、ロシア当局のこうした考え方はピークに達した。ある寄稿は「ウクライナ人の国民性」なる概念を「ロシア南部特有の欧米主義」と呼んだ。
22年2月の侵攻直後からロシア軍はウクライナ文化の弾圧を開始した。占領地の街頭に掲げられたウクライナの国民的詩人タラス・シェフチェンコの肖像は引き裂かれるか覆い隠された。町名標識はウクライナ語からロシア語表記に、色もウクライナ国旗の青と黄からロシア国旗の白・青・赤に塗り替えられた。
占領地域(現在は撤退中)では偽りの住民投票が実施され、そこで暮らす人々はウクライナ人ではなくなった。ロシア政府から見れば、彼らはロシア人であり、そうでないと主張する人々はナチス、もしくは頭がおかしいとされる。
拷問や処刑も報告されてきたが、最悪なのは子供の連れ去りだ。ロシアに強制移送されたウクライナの子供たちは新たな養父母とロシアのパスポートを与えられ、ロシアの学校で再教育を受ける。ロシアでの生活が長引くほどかつての祖国を嫌い、さげすむようになってしまう。
こうした行為の根底には急激な高齢化というロシアの厳しい現実がある。何万人もの若者がウクライナで戦死し、将来性のある国民は動員を免れようと国外へ逃れた。プーチンは死にかけた祖国に若い血を「移植」しようと焦っている。
●ウクライナ軍が南部で前進と分析 東部の集落奪還も確認、米戦争研 8/17
米シンクタンク、戦争研究所は16日、反転攻勢を進めるウクライナ軍が南部ザポロジエ州オリヒウの南十数キロにあるロボティネ周辺に進軍したと指摘した。ウクライナ軍は数週間にわたり付近の森林地帯で作戦を続けており、広範囲に前進したとみられると分析した。
戦争研究所は、ウクライナ当局が16日に発表した、ザポロジエ州との境界に近い東部ドネツク州の集落ウロジャイネの奪還を確認したと報告。分析によると、ドネツク州バフムト方面を合わせた少なくとも3方面で反攻作戦を継続している。
ウクライナ空軍のイグナット報道官は16日、地元テレビでウクライナが供与を求めるF16戦闘機を今年の秋冬までに配備できないと述べた。これまでに操縦士の訓練の遅れが報じられているが、イグナット氏は「訓練の問題は動き出した」と述べ、前進していると強調した。
NATO事務総長側近のイェンセン氏は16日、ウクライナが占領された領土の一部を諦めれば、NATOに加盟できる可能性があるとした自身の発言は「間違いだった」と訂正した。
●ロシア支持の波、アフリカ・中東に ウクライナ反転攻勢に試練 8/17
ウクライナ戦争の終結の兆しが見えない。ロシアに全領土の2割弱を占領されているウクライナは、6月上旬から南部などで反転攻勢に出ているが、思ったほどの戦果は上げられていないようだ。
8月上旬、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「反撃は複雑だ。誰もが望むよりも遅く進んでいる」と語った。塹壕(ざんごう)を掘り、多くの地雷を埋めたロシアの防御に手を焼いている。
ゼレンスキー大統領は「これほど長く戦い、兵器が不足していれば非常に難しい」とも述べた。欧米からの武器の供給も遅れているようだ。ドイツのキール世界経済研究所の5月末までの調査によると、欧米諸国はウクライナに計757両の戦車の提供を約束したものの、実際に届いたのはその62%である471両にとどまるという。
西側諸国は経済制裁によりロシア経済を疲弊させ、同国の継戦能力を弱めようとしてきたが、その目的は果たせていない。ロシア経済発展省は6月のロシアの国内総生産(GDP)成長率が前年同月比5.3%だったと発表した。ロシア中央銀行は2023年のGDP成長率を1.5〜2.5%と予想している。22年に景気が減速した反動があるが、インフラ投資などが下支えしているようだ。
インドはロシアからの原油輸入が10倍に
そのロシア経済を支えているのが、中国やグローバルサウスである。グローバルサウスはアジアやアフリカ、南米などの新興国や発展途上国を指し、その中でインドが盟主のような存在になっている。西側諸国がロシアからの原油輸入を縮小する中、インドは22年にロシアからの原油輸入を大幅に増やしている。インドのバローダ銀行によると、22年の輸入量は21年の10倍に上るという。
インド以外にもロシアと取引関係にあるグローバルサウスの国々は多い。中国やトルコもロシアからの原油輸入を増やしている。アフリカには食料や肥料、軍事物資の調達をロシアに依存する国が多い。
こうしたグローバルサウスの姿勢は、ウクライナ戦争にも現れている。23年2月に実施された国連総会におけるロシア軍の即時撤退要求決議では、ロシアや北朝鮮など7カ国の反対に加えて、アフリカ諸国などの32カ国が投票を棄権した。さらに22年11月の国連総会のロシア賠償請求促進決議は賛成多数で採択されたものの、反対や棄権、無投票だったのはグローバルサウスを中心に90カ国以上に達している。・・・
●ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べで暴露した「大損失」 8/17
ウクライナ軍に拘束されたと報じられていたロシア軍司令官の動画が8月13日にインターネット上に投稿され、注目を集めている。この人物は取り調べを撮影した動画の中で、指揮下にある大隊が被った大きな損失について語っている。
   ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐の取り調べ動画
動画の中の人物は、ロシア軍第1822大隊の司令官を務めるユーリ・トモフ少佐と名乗っており、ウクライナ軍が先週実施した攻撃作戦の際に、ロシア軍の支配下にあるウクライナ南部のドニプロ川東岸地域で行方が分からなくなったと報じられていた。この地域は2022年2月にロシア軍がウクライナに本格侵攻を開始した当初から、ロシア軍が占領している。
14分間に及ぶこの取り調べ動画は、ウクライナの「ニコラエフスキー・バニョク」というテレグラムのチャンネル(購読者数は120万人)が公開したものだ。同チャンネルは投稿の中で、トモフがロシア軍の受けた損失や、ロシア軍による戦争の見通し、兵士たちの訓練不足などについて語ったと述べている。
本誌は動画の信ぴょう性について独自に検証できておらず、14日にロシア国防省にメールでコメントを求めたが返答はなかった。拘束された戦争捕虜たちが偽のビデオメッセージ収録に利用されている可能性を懸念する声もある。
「うつ状態に陥り任務の実行を拒む」兵士たち
動画の中でトモフは自分について、2022年9月にロシアのウラジーミル・プーチンが発令した部分動員令に基づいて徴兵され、同年10月15日からウクライナに配備されていると語った。司令官に任命される前は、第1822大隊の参謀長を務めていたとつけ加えた。
またトモフは、自分が指揮する部隊がこれまでに失った兵士は、全体の約30%にのぼる可能性が高いと述べた。彼によれば、ロシア軍の兵士たちは短期間でうつ状態に陥り、自らに割り当てられた任務の実行を拒んだという。「そのような要員ばかりでは、戦闘活動の実行は不可能だ」とトモフは述べた。
さらに彼は、ウクライナ軍に身柄を拘束される前は、ウクライナ軍について「ナチス」で「ファシスト的な考え方」を支持している者たちだと考えていたと述べ、プーチンやロシア政府のプロパガンダによって押しつけられたこの論調を自身の部隊にも伝えていたと語った。だがその後、自分の考えが間違いだったこと、全てが自分の想像とは違っていたことに気づいたと明かし、「ウクライナで拘束された後にこの結論に至った。私は実際にウクライナの人々に会い、彼らと話をした」と述べた。
トモフはまた、プーチンが始めた戦争は侵略であり残酷な戦争で、平和を好む人々、ロシアとウクライナ両国の国民の生活と健康を救うものではないことに気づいたともつけ加えた。ロシア軍が一般市民を殺害している理由については説明できず、それはとても難しい質問だとも述べた。
「人々の考え方がどうやって劇的に変化して、ウラジーミル・プーチンの狂った考え方を進んで受け入れるようになったのかは分からない。平和に暮らしたいと思っていた人々がなぜ、ほかの人々を殺し始めたのか分からない。プーチン大統領の理想は、現実とはかけ離れている」とトモフは語った。
取調官がトモフに対して、ウクライナの領土で死ぬことよりもロシアの指導部の方を恐れているのだろうと言うと、トモフはロシア軍の高官や仲間の兵士たちに次のように訴えかけた。
「戦闘に参加している全ての将校、全ての戦友たちに、ウクライナの領土でのこの無意味な戦争をやめるよう呼びかけたい。我々はこの戦争に負けるだろう。そしてこの戦争は我々の祖国に、何ら良い結果をもたらすことはないだろう」と彼は述べ、さらにこう続けた。「ロシア領内の自らの部隊に戻り、国内の秩序を回復させる必要がある」
ほかにも複数のロシア兵と将校が行方不明
これに先立ち、ロシアの戦争支持派の複数のチャンネルが、トモフはウクライナ南部ヘルソンでの作戦中にウクライナ軍に拘束されたと報道。その後、トモフが地図に何かを書き込んでいる様子を撮影したとみられる未確認の短い動画が浮上していた。
トモフについて報じたロシアの軍事ブログの一つが「Trinadtsatyi」というチャンネルだ。ここの複数の投稿によれば、ウクライナによる攻撃作戦の中でロシア軍の兵士16人と将校2人が行方不明となり、その中に「トモフ少佐」も含まれていた。トモフはヘルソンの拠点の様子を確認するために、下士官たちに同行して現地を訪れていたという。
「トモフが連絡してきたら彼に謝罪し、彼の健康を祈りたい。いいコニャックを贈ろう」とある投稿は述べ、さらにこう続けていた。「だが彼の大隊は規制点に到達しなかった。現在は16人全員との通信が途絶えている状態だ」
●黒海で動けなくなっていた商船、オデーサ港を出港 攻撃される恐れも 8/17
黒海を航行する船がロシアの標的にされる恐れがあるなか、香港の商船が16日、ウクライナ南部オデーサ港を出港した。
黒海を行き来する船をめぐっては、ウクライナの穀物を安全に輸出するための国際合意が成立していた。しかしロシアは先月、この合意から離脱。ウクライナの港に向かう船を軍事目標とみなす可能性があるとした。
それを受けてウクライナは先週、黒海に「人道回廊」を設定したと発表した。
ロシアはこの回廊を認めるのか明言していない。
16日に出港したのは、香港船籍のジョセフ・シュルテ号。ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した2022年2月から、オデーサ港で動けなくなっていた。
ウクライナのオレクサンドル・クブラコフ副首相は、「最初の船舶が、グレート・オデーサの港を発着するための商船用の臨時回廊を利用した」とフェイスブックに書き込んだ。
副首相によると、この船はコンテナ2114個を積んでおり、食料など3万トン以上の貨物が中に入っているという。副首相は、この回廊は黒海に閉じ込められた船を退避させるために使われるとした。
ロイター通信によると、ジョセフ・シュルテ号を中国の銀行と共同所有するベルンハルト・シュルテ・シップマネジメントは、船がトルコ・イスタンブールに向かっていることを認めた。
ウクライナは穀物と油糧種子の主要輸出国。黒海で輸送船の航行が封鎖され、世界的な食料価格高騰を招いている。
ドナウ川の港に攻撃
一方、オデーサの南西約260キロメートルにあるドナウ川沿いの河川港レニでは、ロシアの空爆で穀物貯蔵施設が損壊した。ウクライナ当局が明らかにした。
ウクライナ当局が公表した写真では、貯蔵施設が破壊され、穀物やひまわりが散乱している。レニはモルドヴァやルーマニアと国境を接している。
業界関係者はロイター通信に、レニ港は操業を続けていると話した。
ロシアは今回の攻撃についてコメントしていない。
ロシアは今週に入り、ウクライナに向かう船に警告射撃を行っている。
他方、ウクライナ当局は、東部ドネツク州の小集落ウロジャイネをロシア軍から奪還したと発表した。
ウクライナ軍はここ数カ月、主に東部と南東部で大規模な反転攻勢を展開している。西側から何十億ドル相当もの軍事物資を提供されているが、わずかしか前進できていない。
今週になって、ドネツク州バフムート周辺で3平方キロメートルを奪還したと発表したが、南部では「強力な抵抗」に直面しているとしている。
激しい戦闘となっている東部では、多くの住民が避難している。
こうしたなか、ロシアは防空システムが一晩で、ドローン(無人機)3機をモスクワ近郊で撃墜したと発表した。このところ、ロシアの都市が狙われる攻撃が続いている。

 

●プーチン大統領 “ウクライナ東部へ鉄道網広げる必要” 8/18
ロシア軍は、ウクライナ東部や南部への攻撃を続ける一方、ウクライナ軍は、東部の集落の奪還を発表するなど反転攻勢を続けています。こうしたなか、ロシアのプーチン大統領は、ロシアが一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部2州まで鉄道網を広げていく必要があるという考えを示し、支配の既成事実化を一層強めたいねらいがあるとみられます。
ウクライナ軍の参謀本部は17日、ミサイルなどによるロシア軍の攻撃を受け死傷者が出ているほか、インフラ施設に被害があったと発表しました。
ウクライナ東部ハルキウ州の知事は17日、ロシア軍がクピヤンシクに砲撃し1人が死亡し、1人がけがをしたと発表しました。
一方、ウクライナのマリャル国防次官は16日、東部ドネツク州のウロジャイネを解放し、現地で守備を固めつつあると主張しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は16日「ウクライナ軍は前線の少なくとも3方面で反撃を続けて、ウロジャイネも解放した」としてウクライナ側は南側に向け反転攻勢を強めようとしていると分析しています。
こうしたなかロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は17日、首都モスクワで行われた新しい鉄道路線の開通式に出席し「国家の発展の強力な原動力となる」などと述べて高速鉄道の建設の重要性を強調したうえで、去年9月に一方的な併合に踏み切ったウクライナ東部2州まで鉄道網を広げていく必要があるという考えを示しました。
ロシアは、これまでも支配する地域で攻撃によって破壊されたインフラ施設の建設を一方的に進めていて、支配の既成事実化を一層強めたいねらいがあるとみられます。
●ウクライナ侵攻終結させるにはロシアの石油・ガス収入を遮断せよ 8/18
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、自身の背中に代償を負っているかもしれない。それでも同大統領やウクライナ、つまり自由と西欧化を求める国の決意が揺らぐことはない。ゼレンスキーは以前、宿敵であるロシアのウラジーミル・プーチン大統領に、あと10年は生き残れないだろうと言い渡していた。
だが、両国の紛争を早急に終結させるには、ロシアの資金源を断ち、同国が略奪した富を没収することが鍵となる。実際、ロシアは石油や天然ガスを世界中に輸出して、1日当たり5億〜10億ドル(約730億〜1500億円)もの収入を得ており、ウクライナ侵攻の資金源にしている。世界がロシア産天然資源の購入を停止すれば、軍事侵攻は終結し、計り知れない死と殺りくを防ぐことができるだろう。
英国のBPやシェル、米エクソンモービル、ノルウェーのエクイノールをはじめとする欧米の大手石油企業はすでにロシアから撤退している。その上で、国際社会は現在凍結されているロシアの資産を差し押さえ、その資金をウクライナの復興支援に充てるべきだ。
ロシア市場に特化した資産運用会社のエルミタージュ・キャピタルマネジメントの創設者であるビル・ブラウダーは、ロシアがウクライナに与えた損害の規模を1兆ドル(約146兆円)と試算。「開戦以降、西側諸国は3500億ドル(約51兆円)に上るロシア中央銀行の準備金を凍結した。明らかにやるべきことは、その資金を凍結して没収することだ。これは道義的にも、財政的にも、また政治的にも正しいことだ」と述べた。
米国のドナルド・トランプ前大統領と顧問弁護士のルドルフ・ジュリアーニが、当時のジョー・バイデン前副大統領に対する犯罪捜査を開始したと発表するようウクライナに「依頼した」というニュースが流れた2019年9月、筆者はウクライナにいた。これによりトランプは弾劾されたが、渦中のゼレンスキーはひるむことがなかった。
トランプとジュリアーニがゼレンスキーを力で操ろうと考えたように、プーチンも同じ罠にはまった。元喜劇俳優のゼレンスキーは、ロシアが軍事侵攻を開始した時点で逃げ出すこともできた。ところが、プーチンが地下壕に身を潜めている間に、ゼレンスキーは国際政治家として堂々と立っていた。ウクライナは今、世界からの財政支援と軍事支援によって完全に勝利する可能性がある。
そして現在、プーチンは国際刑事裁判所からの逮捕状やクーデター未遂、首都モスクワのビジネス街を攻撃する無人航空機など、さまざまな要因によって衰勢に向かっており、ウクライナ国民に対する攻撃を強めている。プーチンはロシア国内外で指名手配犯となり、もはや一国の絶対的権力者として恐れられることも、見なされることもないだろう。プーチンは今月末、いわゆる新興5カ国(BRICS)首脳会議のために南アフリカを訪問する予定だったが、逮捕を恐れ、代理人を派遣することを決めた。プーチンは現在、孤立しており、北朝鮮に接近しようとしている。
先述のブラウダーは次のように語った。「プーチンは信じられないほど恐れを抱いており、リスクを取ろうとしない。これまでは厚かましく攻撃的な男で、殺人を犯しても逃げ回ってきた。ところが突然、旅行ができなくなった。これは自身の威信にかかわることだ。プーチンは国内でも弱々しく見える」
ウクライナが勝利すれば、プーチンはお払い箱に
プーチンは2000年5月、民主化への移行を急速に進めようとした当時のボリス・エリツィン大統領に代わってロシアの大統領に就任した。しかし、伝統的に独裁主義者によって運営されてきた政府に、国民に権力を譲るよう求めるのは前代未聞のことだ。ロシア人は恐れられた指導者に従う。いわば、マキャベリ版の「力は正義なり」だ。
プーチンは母なるロシアを愛していると思われている。だが、実際は脅しによって統治している。ブラウダーが指摘するように、下は交通警官から上は大統領まで、ロシアでは公職に就く者の多くが上前をはねる。こうしてプーチンは世界一の大金持ちになった。
この国の新興財閥オリガルヒは資金を握ってはいるが、本質的には大統領の「金融コンシェルジュ」だ。オリガルヒが生き残り、繁栄し続けるためには、従わなければならないのだ。
けれども、こうした統治がロシアを悲しい状態に追いやった。モスクワ郊外に15キロほど車を走らせればよくわかるだろう。未舗装の道路、疲弊した病院、設備の乏しい学校など……。プロパガンダが通用するのもここまでだ。国民が苦しんでいる一方で、超富裕層や政治的にコネのある人々は贅沢な暮らしをしている。文化的で教養のある市民が大勢いるこの国の悲しい現実だ。
プーチンは国内での抗争を避けるためにウクライナという外敵を必要とし、同国との戦争に突入した。だが、ウクライナを簡単に征服できると考えたのは誤算だった。プーチンの軍隊は今、数千人単位で死者を出している。
ブラウダーは「私が想像できるのは、プーチンに忠誠を誓う人々が、他の誰かに支持を表明することだ」と語る。「ウクライナが勝利すれば、プーチンは自分の命を失う。そうならないために、さらに100万人もの兵士を肉挽き機に放り込むだろう。理性的な人間ならとっくの昔にやめていたはずだ。ところがプーチンにとって、国益などどうでもいい。自分が生き残ることしか考えていないからだ。こうしてプーチンはすべてを犠牲にするのだ」
権力の掌握を維持するために、プーチンは面目を保つ方法を必要としている。それはウクライナが断固として反対する「平和のための土地」を含む可能性がある。ロシアは、欧米には持続力がなく、ウクライナが戦い続けるには限界があると想定している。ロシアの資金は来年の米大統領選挙でのトランプ勝利にも向けられているが、これは憶測に過ぎない。
世界的に見れば、ロシアの生命線である石油・ガス収入を断ち切ることが賢明な賭けだ。戦争を終結させ、ロシアが国際社会に復帰できるようにすることで、同国を長期的に救うことができるだろう。戦争が長引けばロシアの孤立は一層深まり、イランや北朝鮮と手を組まざるを得なくなる。そうなれば、英雄的で千里眼の持ち主というゼレンスキーのイメージが強くなる。プーチンはただ、時間稼ぎをしているだけだ。
●プーチン氏、ベラルーシに参戦強要せず=ルカシェンコ氏 8/18
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアのプーチン大統領はベラルーシをウクライナ戦争に参加させようとしていないと述べた。
ルカシェンコ氏は親ロシア派のウクライナ人ジャーナリスト、ディアナ・パンチェンコ氏のインタビューに応じ「ウクライナが国境を越えない限り、ベラルーシは参戦しない」とし、「ベラルーシを巻き込むことで得られるものは何もない」と語った。
同時に「ロシアはベラルーシの同盟国であるため、ベラルーシは常にロシアを支援する」とも述べた。
また、ロシアが「特別軍事作戦」と呼んでいるウクライナ全面侵攻について、ロシアはすでに目的を達成したとの考えを表明。双方は交渉の席に着き、クリミアなどロシアが領有を主張する地域の将来の扱いを含め、全ての問題を話し合う用意を整える必要があると指摘。
「ロシアの目的はすでに達成されている。この戦争が終わった後、ウクライナがロシアに対し攻撃的に振る舞うことはない」とし、「外交の基本に従い、交渉は前提条件なしに開始されなくてはならない。交渉のテーブルに着き、クリミア、ヘルソン、ザポロジエ、ドネツク、ルガンスクを含む全てについて協議する必要がある」と語った。
同時に、ロシアがクリミアを手放すことはないと指摘。ベラルーシが侵略されれば戦術核を使用する姿勢も示し、「ポーランド、リトアニア、ラトビアからベラルーシへの侵略が始まれば、ベラルーシは即座にあらゆる手段を講じて対応する」と表明。「ウクライナがベラルーシを侵略すれば、核兵器だけでなく、それ以外のものでも対応する。レッドライン(越えてはならない一線)を超えた場合、警告なしに意思決定の中枢部を攻撃する」と述べた。
このほか、ウクライナとベラルーシとの間で直接的な接触があったものの、ウクライナのゼレンスキー大統領がこうした接触を停止させたとも表明。最後の接触があったのは数カ月前で、ベラルーシがロシア側について参戦する可能性や核兵器使用の可能性のほか、一部が活動の拠点をベラルーシに移したロシアの民間軍事会社ワグネルについて協議されたとした。
ベラルーシはロシアの同盟国であると同時に、ロシアとウクライナのほか、ポーランドを含む北大西洋条約機構(NATO)加盟国3カ国と国境を接している。
インタビューの内容は17日に公開された。
●プーチン氏、イランのBRICS加盟巡り協議 首脳電話会談=タス通信 8/18
ロシアのプーチン大統領は17日、イランのライシ大統領と電話会談を行い、イランが将来的に新興5カ国(BRICS)に加盟する可能性について協議した。タス通信がロシア大統領府の発表として報じた。
タス通信によると、両首脳は貿易、輸送・物流、エネルギー分野での二国間関係の一段の発展についても改めて確認した。
BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成。南アで22─24日に開かれる首脳会議ではBRICS拡大も議題になるとみられている。
●ロシア兵とチェチェン兵、口論きっかけ銃撃戦…少なくとも20人死亡・40人負傷 8/18
ロシア軍が占領するウクライナ・ザポリージャ州のロシア軍部隊内で武器を使った銃撃戦が起こり、少なくとも20人が死亡、40人が負傷した。
米ニューズウィークとキーウ・ポストは14日(現地時間)「ウクライナ民族抵抗センター」の報告書として上記のように報じた。報告書によると、この戦闘は今月12日午後8時ごろ、占領地のザポリージャ州ミハイリウカ中央公園とその周辺で起こったという。ロシア側で戦うチェチェン軍兵士とロシアのダゲスタン共和国正規部隊兵士の間で起こった口論から問題の銃撃戦につながった。
口論の際にまず1人が小型の自動小銃を空中に発砲したという。その後1人の兵士が致命的な刺し傷を負い、これをきっかけに争いが激しくなり最終的に銃撃戦となった。双方とも銃や手りゅう弾を使って相手を攻撃した。
双方で少なくとも20人が現場で即死し、40人以上が負傷した。戦闘はダゲスタン部隊の勝利で終わり、敗れたチェチェン軍の司令官はその処罰として最前線に送られたという。
今回の争いが起こった正確な理由はまだ分からないようだ。ロシア国防省はこの問題について正式にコメントしていない。
ロシア連邦を構成するチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長はプーチン大統領と古くから親しく、チェチェン軍はウクライナとの戦争でロシア軍として戦ってきた。チェチェン軍は規模は小さいがウクライナに駐留するロシア軍ではかなりの比重を占めている。
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏が武装反乱を起こし、ワグネルが抜けたことで生じた戦力面での空白を埋めているのがチェチェン軍だ。カディロフ首長は今年5月にメッセージアプリのテレグラムで「7000人の兵力がすでにウクライナに駐留しており、さらに2400人が訓練を受けている」と明らかにした。
ロシア国内で最貧地域の一つとされるダゲスタン共和国の召集率は2.6%と高い方で、戦死者も多く発生している。
●ロシア・イラン首脳が電話会談 BRICS巡り協議 8/18
ロシア大統領府は17日、プーチン大統領がイランのライシ大統領と電話会談したと発表した。国際問題での両国の協力拡大を協議。イランが7月に正式加盟した上海協力機構(SCO)や、新興5カ国(BRICS)加盟への関心についても話し合った。
貿易やエネルギー分野で2国間関係を発展させる意向も確認した。ロシアはウクライナ侵攻後、同様に米欧の制裁で苦しい立場にあるイランとの結束を強めている。 
●ロシアは近い将来「核実験」再開か 8/18
ロシアのプーチン大統領は近い将来、北極のソ連時代の核実験場ノヴァヤ・ゼムリャ島(Nowaja Semlja)で1990年以来初めての核実験を実施するのではないか、という懸念の声が欧米軍事関係者から聞かれる。英日刊紙デイリー・メールが12日付の電子版で報道した。
ロシア海軍は北極の地で大規模な軍事演習を実施中だ。表向きの目的は「欧州とアジア間の北洋海路を保護するため」という。海軍関係者によると、「北方艦隊の海軍軍事演習には8000人以上の軍人、20隻の戦艦、潜水艦、物流船、5機の航空機が参加し、その他、特殊装備最大50台が導入されている」という。
セルゲイ・ショイグ国防相は12日、ロシアの国営原子力エネルギー公社(ROSTOM)の最高経営責任者のアレクセイ・リハチョフ氏を連れて海軍の軍事演習を視察するためにノヴァヤ・ゼムリャを訪問したことから、ロシアの核実験再開の憶測が更に現実味を帯びて報じられているわけだ。すなわち、「ウクライナ戦争で戦略核兵器を使用するために準備中」というわけだ。
国防省関係者は、「プーチン大統領によって命令された核実験の再開準備は確実に遂行される。ノヴァゼメリスキー試験場(The Novozemelsky test range)は常にその準備を保ってきた」と説明している。国営通信社RIAノヴォスチは、「ショイグ国防相は北方艦隊の遠隔北極駐屯地を視察し、特にノヴァヤ・ゼムリャでの公式活動の組織をチェックした」と報じている。
参考までに、ロシア軍は上記の軍事演習のほか、バルト海でOceanicShield2023と呼ばれる海軍演習を行い、30隻以上の戦艦と他の船舶、30機の航空機、約6000人の兵士が参加したという。
ロシアの愛国主義的政治家ドミトリー・ロゴジン氏は5月、「私たちは(西側諸国の)尻が恐怖で震え始めることを確認しなければならない」と強調し、「今直ぐにノヴァヤ・ゼムリャで核実験をすべきだ」と発破をかけたことがある。
ノヴァヤ・ゼムリャでの核実験は、1955年9月21日から90年10月24日までの間に130回行われた。核実験の内訳は、88回は大気中、3回は水中、39回は地下実験だ。一部では、ロシアは現在まで、少量のプルトニウムによる臨界前核実験などの未公表実験を除き、約224回の核実験が行われているという情報がある。
ちなみに、旧ソ連時代の最大の核実験地は現在のカザフスタンにあったセミパラチンスク核実験場で456回の核実験が実施された。具体的には、大気圏実験86回、地上実験30回、地下実験340回。最初の実験は1949年8月29日。最後の実験は89年10月19日だ。その総爆発力は広島に投下された核爆弾の2500倍という。
プーチン大統領は昨年9月21日、部分的動員令を発する時、ウクライナを非難する以上に、「ロシアに対する欧米諸国の敵対政策」を厳しく批判する一方、「必要となれば大量破壊兵器(核爆弾)の投入も排除できない」と強調し、「This is not a bluff」(これははったりではない)と警告を発した。
プーチン氏の発言を受け、インスブルック大学国際関係の専門家ゲルハルド・マンゴット教授はオーストリア放送とのインタビューの中で、「ウクライナ軍の攻勢を受け、戦局が厳しくなった場合、ロシアが戦略核兵器を居住地でない場所で爆発させ、威喝する可能性は考えられる」と指摘していた。また、独週刊誌シュピーゲル(昨年10月29日号)は、「ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争で核兵器を投入するか」について特集した。そして人類の終末を象徴的に表示した終末時計(Doomsday Clock)が「0時まで残り100秒」という見出しを付けていたほどだ。終末時計は、米国の原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)が毎年、発表しているものだ。
プーチン氏はウクライナ戦争で即戦略核兵器を使用すれば国際社会の反発が大きいことを知っているから、核実験を実施して核兵器の怖さをウクライナと欧州諸国に誇示する作戦に出るのではないか。最近の核実験は北朝鮮の2017年9月3日に実施したものだが、欧州大陸でのロシアの核実験は1990年10月以降はない。それだけに、ロシア連邦領のノヴァヤ・ゼムリャ島で核実験が行われれば、欧州諸国へのインパクトは大きい。ウクライナを軍事支援してきた欧州諸国の国民の中にも反戦の動きが活発化することが予想できる。すなわち、核兵器の投下より核実験の実施のほうが効果的だという考えだ。
ロシアのプーチン大統領は今年2月21日、年次教書演説でウクライナ情勢に言及し、米国との間で締結した核軍縮条約「新戦略核兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表した。それだけではない。ウィーンの外交筋によると、ロシアはウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約(CTBT)から離脱する意思をちらつかせているという。
CTBTは署名開始から今年で27年目を迎えたが、法的にはまだ発効していない。ロシアは署名、批准を完了しているが、核保有国の米国と中国がまだ批准していない。だからロシアがCTBTから離脱しても、米国はロシアを批判できない。ロシアが核実験モラトリアム(一時停止)を破った最初の核保有国となったとしても国際社会の批判は限定的だ、という読みもあるだろう。
以上、北極のロシア連邦領でのロシア海軍の大規模軍事演習の動向やショイグ国防相の現地視察から、ロシアが近い将来、核実験を実施する可能性が極めて高いと予想できる。なお、8月29日は「核実験反対の国際デー」だ。
●ロシアの将官が死亡、昨年最高司令官としてウクライナでの戦争を指揮と報道 8/18
昨年ウクライナでの戦争で、ロシア軍の最高司令官として指揮を執ったと報じられた将官が18日までに死亡した。ロシアの国営メディアが明らかにした。
ロシア軍のゲンナディ・ジトコ陸軍大将は16日、「長い闘病の後に」死亡した。58歳だった。国営タス通信が伝えた。
ジトコ氏は昨年5月から10月にかけ、ロシア軍東部軍管区の司令官を務めた。報道によるとウクライナにおけるロシア軍全体の戦域司令官として同年夏、リシチャンスクとセベロドネツクに対する攻勢を指揮した。
ジトコ氏の死亡はロシア極東ハバロフスク地方のミハイル・デグチャレフ知事がSNSのテレグラムで最初に発表したが、現時点で当局による公式発表は出ていない。
タス通信が公開したジトコ氏の略歴に、司令官としてウクライナで指揮を執ったことへの言及はない。
報道によれば、同氏がウクライナでのロシア軍の指揮を引き継いだのは昨春、首都キーウ(キエフ)の制圧が失敗に終わった後だったという。司令官への任命は公式に発表されなかったものの、2022年6月に行われたウクライナでの自軍の視察ではショイグ国防相の隣に座るジトコ氏の姿が確認できる。
米ワシントンに拠点を置くシンクタンク、戦争研究所(ISW)は当時、ジトコ氏の任命を「思い切った措置」と説明。同氏が政務官であり、部隊を率いる司令官ではなかったことを理由に挙げた。同氏は前の職務でロシア軍におけるイデオロギーの教化と士気に責任を負う部局のトップを務めていた。また国防省の次官も兼務していた。
タス通信によれば、ジトコ氏にはシリアでロシア軍の参謀総長を務め、勲章を授与された経歴もある。
ISWは、ジトコ氏が昨年10月に戦域司令官並びに東部軍管区トップの役職を解かれたと説明。これに先駆けウクライナ軍は、北東部ハルキウ州で攻勢をかけ急速に領土を解放していた。
この後、ロシア国防省はウクライナでの戦争の新たな総司令官にセルゲイ・スロビキン上級大将を任命。スロビキン氏は今年6月に起きたロシアの民間軍事会社ワグネルによる短期間の武装反乱以降、公の場に姿を見せていない。
●ウクライナ軍、ザポリージャ戦線に精鋭部隊投入か… 8/18
米誌フォーブスは15日、ウクライナ軍が大規模な反転攻勢を展開する南部ザポリージャ州の戦線に、英国供与の「チャレンジャー2」など米欧の戦闘車両を装備する精鋭部隊を投入したと報じた。ロシア軍の補給拠点都市メリトポリの奪還に向け、攻勢を強める狙いとみられる。
投入されたのは2000人規模の第82空中強襲旅団。ドイツの歩兵戦闘車「マルダー」や米国の装甲車「ストライカー」も保有し、ザポリージャ戦線のロボティネ周辺に配置されたという。
メリトポリ攻略は、ロシアが一方的に併合したクリミアと露本土の分断につながり、ウクライナにとって戦略上、重要な意味を持つ。旅団は既に露軍陣地近くまで進軍したとの情報もある。
一方、米紙ワシントン・ポストは17日、ウクライナ軍は年内にメリトポリに到達できないとする米情報機関の分析を報じた。
要因として、地雷原と 塹壕ざんごう で強固な防衛線を築いた露軍が激しく抵抗していることを挙げている。米国防総省は大規模兵力を一つの戦線に集中させるよう勧告したが、ウクライナ軍は戦線の絞り込みをせず、三つの戦線に分散する戦術を採用したという。「メリトポリの近接都市の奪還さえ難しい」(軍事アナリスト)との見方もあると伝えている。
●ロシアの電子戦、ウクライナ軍の無線妨害…「侵略当初から最新装備を使用」 8/18
元陸上自衛隊東部方面総監の磯部晃一氏と神戸学院大の岡部芳彦教授、日本文学研究者のロバート・キャンベル氏が18日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ウクライナ軍の通信を妨害するロシアの「電子戦」について議論した。
ロシアは戦場でウクライナ軍の無線通信を妨害し、部隊間の連携を困難にしている。磯部氏は「ロシアは旧ソ連時代から電子戦に強く、能力は高い」と分析し、岡部氏は「ウクライナ侵略を始めた当初から最新の電子戦装備を使っている」と指摘した。キャンベル氏は「ロシアのサイバーオペレーションは、実戦で有効に使われている」と述べた。
●米大使「ロシアは中国に同調」 北朝鮮情勢の安保理対応 8/18
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は17日、共同通信などのインタビューに応じた。ロシアが北朝鮮との関係を深める中でも、国連安全保障理事会では中国が北朝鮮情勢で主導権を握っていると指摘。「ロシアはその決定に同調するだろう」との見方を示し、米国は中国への働きかけを継続していると語った。
安保理では中国とロシアが北朝鮮を擁護し、2018年以降、相次ぐ弾道ミサイル発射への対応を取れずにいる。
ロシアはウクライナ侵攻以降、北朝鮮との関係を深めている。今年7月下旬には訪朝したショイグ国防相が金正恩朝鮮労働党総書記からICBMなどの性能の説明を受けた。
●ウクライナ設置の臨時航路を初通行の商船、ボスポラス海峡に到達 8/18
ロシアが軍事的圧力を強める黒海にウクライナが民間船舶用として独自に設置した「臨時航路」を経て、コンテナ船がトルコのボスポラス海峡に到達しました。「臨時航路」を初めて利用した民間船となります。
黒海を抜け、トルコのボスポラス海峡を航行するのは香港船籍のコンテナ船「ジョセフ・シュルテ」号です。
ロシアが去年2月にウクライナへの全面的な軍事侵攻を開始して以降、黒海沿いのウクライナ南部オデーサで足止めされていました。ウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意からロシアが離脱し、黒海への軍事的圧力を強めるなか、ウクライナは民間船舶を出入りさせるため「臨時航路」を設けましたが、第一便としてこのコンテナ船がオデーサを出港。
ウクライナのインフラ相は、船が食料など3万トンの貨物を積みボスポラス海峡へ向かっているとSNSに投稿していました。
ロイター通信は、地元放送局の話として、イスタンブール近郊のアンバルリ港に入港する見通しだと報じています。

 

●「ロシアは必要」 サルコジ元仏大統領発言が物議 8/19
フランスのサルコジ元大統領(68)が「われわれはロシアを必要とし、彼らもわれわれが必要だ」などと述べ、物議を醸している。
ロシアが侵攻するウクライナを軍事面で支える一角フランスからの、今なお影響力を保つ人物の発言だけに、波紋は大きい。ウクライナ高官は17日、「ロシアによる侵略戦争の正当化だ」と強く非難した。
ロシア寄りの発言の数々は、仏紙フィガロ(電子版)が16日に伝えたインタビューで飛び出した。サルコジ氏はロシアのプーチン大統領の誤りを認めつつ「出口を見つける必要がある。ロシアは引き続き欧州の隣国だ」と強調。外交や対話が「受け入れ可能な解決策」を探る唯一の手段だと述べた上で、侵攻以前の状態を回復できると考えるのは「幻想」であり、ロシアに占拠された領土の完全な奪還を目指すウクライナの譲歩なくして和平はあり得ないと訴えた。
「ウクライナは西側と東側の橋渡し役で、中立的な国であるべきだ」とも主張。欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟は難しいとの認識も示した。
これに対し、ウクライナのポドリャク大統領府顧問はX(旧ツイッター)で「犯罪者の友人だからといって、他国の領土を取引(の道具に)してはならない」と反発。仏国内からも「サルコジ氏はロシアに買収された」「恥ずべき発言だ」と批判する声が上がった。
サルコジ氏は大統領当時の2008年、ロシア軍がジョージア(グルジア)領内に侵攻した紛争の和平合意をEU議長国として仲介。仏メディアによれば、最近はエリゼ宮(仏大統領府)にマクロン大統領を訪ね、さまざまな政策について意見交換や助言を行っている。 
●バイデン米大統領、ウクライナ支援で日本の貢献を強調 8/19
米国のバイデン大統領は18日、ロシアによるウクライナ侵攻への日本の対応について、「G7(主要7カ国)を通じて強いリーダーシップを示し、財政・人道的支援や非軍事的な装備の提供で大きく貢献した」と語った。
米ワシントン郊外の大統領専用山荘「キャンプデービッド」で岸田文雄首相、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談した後の共同記者会見で話した。「日本のリーダーシップは当初から、戦争がもたらす結果が欧州以外にも及ぶことを明確に示してきた」とも語った。
ロシアのプーチン大統領が、ロシアの大国化を進めたピョートル大帝と自身を重ね合わせるなどしながらウクライナ侵攻を正当化したことに触れ、「ばかばかしい」と一蹴。「こうしたことはどこでも起きる可能性がある状況なのだ。もし我々が何もしなかったら、台湾をめぐって中国にどのようなメッセージを送ることになっただろうか」とも述べ、西側諸国のウクライナへの対応が、中国の将来の意思決定に影響を与えうるという見方を示した。
●選挙監視団体トップ拘束 統一地方選見据え弾圧強化―ロシア 8/19
ロシア当局は17日、選挙監視団体「ゴロス」の共同代表グリゴリー・メリコニヤンツ氏を拘束した。モスクワの裁判所は18日、10月17日まで拘束継続を決定した。2000年に創設されたゴロスはプーチン政権の選挙不正疑惑を追及し、当局から「外国エージェント(スパイ)」に認定されていた。
ゴロスが参加した選挙監視団体の国際ネットワークは21年、ロシアで活動が禁止される「好ましからざる団体」に指定されており、メリコニヤンツ氏はこれを理由に拘束された。国内の関係先も一斉捜索を受けた。
ロシアでは統一地方選が9月10日に迫り、首都モスクワ市長選や、昨年秋に一方的に併合したウクライナ東・南部4州の議会選も含まれる。来年3月に見込まれる大統領選の前哨戦の意味合いがあり、選挙の正当性に疑問を挟まれないよう政権が弾圧を強化した格好だ。
●ウクライナ戦争で両軍の死傷者が約50万人と推計 NYタイムズ 8/19
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、ロシア軍とウクライナ軍の死傷者の数があわせて50万人に近づいているとニューヨーク・タイムズが報じました。
ニューヨークタイムズは18日、アメリカ当局者の話としてロシア軍の死者の数が最大で12万人、負傷者が17万から18万人。ウクライナ軍については死者がおよそ7万人、負傷者が10万から12万人と推計されると報じました。
1年半前のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、両軍の死傷者はあわせて50万人に近づいているということです。
当局者は、東部の要衝バフムトをめぐる攻防とその後長引くウクライナによる反転攻勢で死傷者の数が激増していると指摘。
一方で、ロシアは戦死者や負傷した兵士の数を常に少なく発表しているほか、ウクライナは死傷者数を公式に公表していないため推計は困難だとしています。
また、兵力について専門家は、ウクライナは予備役や民兵を含めておよそ50万人。ロシアはおよそ133万人で、その中には民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らも含まれていると分析しています。
●東京で開かれるG7下院議長会議 ウクライナ議長出席へ 8/19
来月、東京で開かれる予定のG7=主要7か国の下院議長会議に、ウクライナの議会にあたる最高会議の議長らが参加することがわかりました。ウクライナに対する軍事支援の強化に向けては、各国議会の判断がカギを握るとして、直接、協力を求めるねらいがあるとみられます。
来月7日から東京でG7の下院議長会議が開かれる予定で、複数の関係者によりますと、ウクライナの議会にあたる最高会議のステファンチュク議長をはじめとする10人以上の議員団が参加するということです。
ことしは日本がG7議長国であることから東京で開催されるもので、議員団は日本滞在期間中、岸田総理大臣への表敬訪問のほか、G7各国の議長らとの個別の会談も行う方向で調整が進められていて、ウクライナの首都キーウの姉妹都市である京都市も訪れる予定だということです。
ウクライナは、軍が反転攻勢の作戦を進めていますが、ロシアによる軍事侵攻からまもなく1年半となるなか、欧米各国の間に支援疲れが広がらないか危機感を募らせています。
ウクライナの議員団としては、ウクライナに対する軍事支援や、復旧・復興のための支援の強化に向けては、各国議会の判断がカギを握るとして直接、協力を求めるねらいがあるとみられます。
●日米韓首脳 共同記者会見 8/19
岸田総理大臣は、アメリカのバイデン大統領、韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領との首脳会談後の共同記者会見で「今、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が危機にひんしている。ロシアによるウクライナ侵略により、国際社会は根幹が揺るがされている。東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みは続き、北朝鮮による核・ミサイルの脅威はますます増大している」と指摘しました。
その上で、「こうした状況において、日米韓3か国の戦略的連携の潜在性を開花させることは必然で、時代の要請でもある。われわれ3人は『日米韓パートナーシップの新時代』をひらいていく決意を示す。日米同盟と米韓同盟の連携を強化し、日米韓3か国の安全保障協力を新たな高みへ引き上げる。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くため、今後とも日米韓3か国の戦略的連携の一層の強化に取り組んでいく」と述べました。
今後の日韓関係については、「日韓両国は国際社会の課題の対処に協力していくべき重要な隣国どうしで、ユン大統領との友情と信頼関係のもと、パートナーとして力を合わせて新しい時代を切り開いていきたい。安保や経済を含むさまざまな分野で前向きで具体的な取り組みが、すでにダイナミックに動いている。こうした取り組みをひとつひとつ積み上げることで、さらに関係を強化していきたい」と述べました。
日中関係については、「去年11月の首脳会談で得られた前向きなモメンタムを維持しながら主張すべきことは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含めて対話をしっかりと重ね、共通の課題では協力する建設的かつ安定的な関係を双方の努力で構築していくことが、私の政権の一貫した方針だ。こうした考えに基づいて、地域の安定に向け努力を続けていく」と述べました。
バイデン大統領「毎年、首脳レベルで会談を行う」
バイデン大統領は共同記者会見で3か国による今回の首脳会談について「とてもすばらしい会談だった」と述べるとともに「この会談は私が大統領としてキャンプ・デービッドで行う初めての会談だ。新たな始まりや可能性の力を長い間にわたって象徴してきた場所であり、協力の新たな時代を始めるのにこれほどふさわしい場所はない。この先、われわれは揺るぎない結束と比類のない決意で共に可能性をつかんでいく。これは1日、1週間、1か月の話ではなく、何十年にもわたって築き上げていく関係だ」と述べました。
また、日韓の関係改善を念頭に「日本と韓国、そしてアメリカとの緊密な関係の中で長い間立ちはだかっていた困難な問題を解決するために、2人が示した政治的な勇気をたたえたい。アメリカの全面的な支援のもと、2人のリーダーシップがわれわれをここにもたらした」と述べました。
会談の成果について「毎年、首脳レベルで会談を行うほか、閣僚が定期的に会談することを約束した。ことしや来年だけでなく、この先ずっとだ」と述べ、3か国の会談を定例化することで合意したと明らかにしました。
また「さまざまな領域で毎年、軍事訓練を行うなど、3か国の防衛協力をかつてないレベルまで高める。北朝鮮のミサイル発射やサイバー攻撃に関する情報共有や弾道ミサイルに対する防衛協力を強化する。そして何より重要なことは、私たちの国のいずれかに脅威が発生した場合、互いに迅速に協議することを約束したことだ。つまりホットラインを設ける」と述べました。
さらに北朝鮮について「暗号資産による資金洗浄やウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの武器の供与の可能性など、北朝鮮への脅威に立ち向かい続ける」と述べました。
バイデン大統領はまた覇権主義的な行動を強める中国を念頭に「われわれは台湾海峡の平和と安定を維持し、経済的な威圧に対処していくことを確認した。われわれは、国際法、航行の自由、そして南シナ海における紛争の平和的な解決を支持する」と述べました。
   ロシアへの懸念示す
さらにウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアについて「すでに負けている」と述べるとともに「もしわれわれが軍事侵攻を見過ごせば台湾に関して中国にどのようなメッセージを送ることになるか」と述べ、軍事侵攻への対応が不十分であれば中国に誤ったメッセージを送りかねないと懸念を示しました。
   拉致問題「共に取り組み続ける」
また、拉致問題については「去年5月に日本を訪問した際に拉致被害者の家族と面会し、彼らの痛みや思いを感じ取った。まだ心配して待ち続けている多くの家族がいることを理解している。われわれは彼らやその愛する人たちのことを忘れない」と述べました。
その上で「われわれは立場を共有している。拉致された人たち全員が帰ってくるまで共に取り組み続けていく」述べました。
ユン大統領 北朝鮮のサイバー攻撃への対応強化
ユン大統領は「北の違法な資金の調達を阻止するため、サイバー活動に対応するための実務者によるグループを新設する」と述べ、日米韓の3か国で北朝鮮のサイバー攻撃への対応を強化すると明らかにしました。
太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題については、韓国政府が進める解決策が国内では反対の世論もあると認めつつ、「国民は何よりも未来志向の観点から、日本との関係改善と3か国の協力が、安全保障と経済発展にとても重要だという共通認識を持っている」と述べました。
   処理水の放出「透明性のあるチェック必要」
またユン大統領は、福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する計画について今回の首脳会談では議題にならなかったとした上で、「科学に基づき透明性のある過程を通じて処理されなければならない。国際的に評価されているIAEA=国際原子力機関の調査結果を信頼しているが、日本や韓国を含む国際社会による責任ある、そして透明性のあるチェックが必要だ」と述べ、引き続き注視していく立場を示しました。
●日本政府により隠された「中国からのハッキング」の衝撃… 8/19
米紙ワシントン・ポスト(WP。8月7日付)の記事「China hacked Japan’s sensitive defense networks, officials say」は実に衝撃的だった。
同紙記事を大々的に報じた読売新聞(9日付朝刊)の見出し「中国軍 防衛機密侵入―米、日本に警告―20年秋、米紙報道」からその重大性が理解できる。
読売記事を要約すると、概ね以下の通りである。《WPは7日、中国軍のハッカーが不正アスセスにより、日本政府の防衛機密を扱うコンピューターシステムに侵入していたと報じた。米国家安全保障局(NSA)が2020年秋に発見し、日本政府に不正アクセスの重大性を警告したという。……発覚直後、事態を重くみたポール・ナカソネNSA局長と、当時のマシュー・ポッティンジャ―大統領副補佐官(国家安全保障担当)が来日し、「日本の近代史で最も損害の大きいハッキングだ」と伝えた》。
2020年秋と時期の具体的な言及がある。米国はトランプ政権であったが、当時の日本が安倍晋三、菅義偉のどちらの政権下での出来事であったのかは特定していない。だが、米側から指摘を受けた後、日本政府はサイバー防御策を強化したが、国防総省(ペンタゴン)は安全性が依然、十分でないと評価している(読売記事の概略)。
由々しき出来事であるが、当時の政権(安倍、菅政権のいずれ? )が公表しなかったので我々ジャーナリズムは知る術がなかった。
国家安全保障のプロフェッショナル
では、このWP記事に信憑性はあるのか? いや、これはまさしくスクープ記事なのだ。新聞各紙(9日付)は全く報じなかったが、件のWP記事を執筆したEllen Nakashimaは2014年と18年にピューリッツァー賞を受賞した日系米国人の敏腕記者である。1995年に記者としてWPに入社。その後、ホワイトハウス担当、東南アジア移動特派員を経て、09年から国家安全保障を担当しているプロフェッショナルなのだ。すなわち、信憑性は極めて高い。
「読売」報道には警告を受けた当時の日本政府がサイバー防御策を強化したとある。具体的にどのような防御策を講じたのか。同紙記事は、《政府は現在、重大なサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)」の導入に向けた法整備の検討を進めている。自衛隊は、サイバー専門部隊(2022年度末時点で約890人)を27年度末までに約4000人に拡充する見通しだ。ただ、サイバー対策強化には、高度な能力を持つ人材が欠かせない。民間からの登用が必要になるが、政府高官は「次官級の待遇でもトップ人材は集まらない」と指摘する。官民の協力体制を築く観点からは、機微情報に触れる権限を付与する「セキュリティ・クリアランス(適性評価)制度」の整備も喫緊の課題だ》と続く。
やっと具体策の一端が見えて来た。そこで筆者は、手元に保管している国家安全保障局(NSS)が年初に政府・与党の要路向けブリーフイング用に作成したペーパー『サイバー安全保障の強化に向けて』(A4版カラー刷り7頁)を改めて繰ってみた。
同ペーパーには、2022年2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻直前の21年1月からのウクライナ戦争とサイバー攻撃(物理空間とサイバー空間)のタイムラインが記述されているほか、「アクティブ・サイバー・ディフエンス(ACD)」の定義を次のように記している。「現状、国際的・普遍的な用語の定義はないが、脅威情報の活用により攻撃被害が出る前にリアルタイムな検知と阻止を目指すアプローチ」――。
我が国は内閣のサイバーセキュリティ戦略本部(本部長・官房長官)の下に各省庁の総合調整機関として内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(センター長・官房副長官補)が設置されている。
だが周知のように、日本のサイバーセキュリティ政策推進体制の内実は、米国の担当機関全体のそれと比して組織規模、予算、人員、法整備のいずれも彼我の差がある。そもそも防衛省が8月11日、24年度予算案の概算要求でサイバー防御や防衛装備の開発を担う技官や事務官を500人程度増員すると発表したことがニュースになるほど“お寒い現状”を露呈している。
嘆いているだけでは物事は進まない。松野博一官房長官はWP報道翌日の8日、記者会見で「米国とは平素から様々なレベルで緊密にやりとりしている」と語った。だが、バイデン米政権は「やりとりする」だけでは不十分であり、一日も早く中国などからのサイバー攻撃(工作活動)に耐えられる「普通のサイバーセキュリティ国家」になるべきと、米紙WPにリークしたのではないか。筆者は、実は古くて新しい米国の日本への「ショック療法」と疑っているのだ。 
●プーチン大統領 前線近くの司令部へ “こう着状態”指摘も 8/19
ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が、前線に近いロシア南部にある司令部を訪れたと発表し、ウクライナ侵攻の総司令官などから報告を受けたとしています。ウクライナでは、ロシア軍の攻撃による被害が相次ぐ一方、ほとんどの前線ではこう着した状態だとの指摘も出ています。
ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が、ウクライナと国境を接し前線に近い南部ロストフ州の司令部を訪れて会議を開いたと発表し、ウクライナ侵攻の総司令官をつとめるゲラシモフ参謀総長などから報告を受けたとしています。
国営通信社が公開した映像には、プーチン大統領が車から降り、司令部とみられる建物で会議に参加する様子が映されていて、前線の状況や今後の対応について報告を受けたとみられます。
一方、ウクライナでは、ロシア軍による攻撃の被害が相次いでいて、南部ヘルソン州の検察当局は、18日、ロシア軍による砲撃で1人が死亡し、1人がけがをしたと発表しました。
また、東部ドネツク州の知事は19日、ロシア側による攻撃で5人がけがをしたことを明かし、西部フメリニツキー州の当局は、ロシア軍の攻撃による爆風などで少なくとも2人がけがをしたとしています。
イギリス国防省は19日、ウクライナ軍が、東部ドネツク州西部にある川に沿って前進し、ウロジャイネを解放したとする一方、この1週間、ほとんどの前線はこう着状態だとの分析を発表しました。
そしてウクライナ、ロシア双方とも、相手の強固な防衛線の突破を試みているものの、新たな攻撃のための戦力は限られているという同じ課題に直面していると指摘しています。
●プーチン氏、南部司令部訪問=6月にワグネル占拠―ロシア 8/19
ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が同国南部ロストフナドヌーの作戦司令部を訪問したと発表した。ウクライナ侵攻を統括する総司令官を兼任するゲラシモフ軍参謀総長らから報告を受けたという。
ロストフナドヌーはウクライナに近く、南部軍管区司令部があるロシア軍の一大拠点。6月下旬に民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が武装反乱を起こし、一時占拠した。プーチン氏の現地視察は、事態収拾後初となる。
●ウクライナ北部にロシアのミサイル7人死亡129人負傷 8/19
ウクライナ北部にロシア軍のミサイル攻撃があり、子どもを含む7人が死亡、129人が負傷しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、「ロシアのミサイルが北部チェルニヒウの中心部を攻撃した」として映像を公開。「普通の土曜をロシアが苦痛と喪失の日にした」と非難しました。
内務省は、6歳の子どもを含む7人が死亡、129人が負傷したとしています。また、南部ザポリージャ州の当局者によると、砲撃で1人が死亡、1人が負傷したということです。
一方、ロシア国防省は19日、北西部ノブゴロド州の軍用飛行場に、「ウクライナによるドローン攻撃があった」と発表しました。駐機場で火災が発生し、航空機1機が損傷したということです。すでに鎮火され死傷者はいないとしています。
こうしたなか、ロシア大統領府は、プーチン大統領が、南部ロストフ州の州都ロストフナドヌーにある作戦司令部を訪問したと発表しました。ウクライナ侵攻の総司令官を務めるゲラシモフ参謀総長らから報告を受けたとしています。
ロストフナドヌーをめぐっては、今年6月に民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が反乱を起こし、一時、軍の施設を占拠しました。プーチン氏の訪問は反乱後初めてで、自らの統制をアピールする狙いもあるとみられます。
●ロシア併合4州で裁判所始動急ぐ 統合を既成事実化 8/19
ロシアのプーチン大統領は18日、モスクワの大統領府でレベジェフ最高裁判所長官と会談した。レベジェフ氏は、侵攻したウクライナでロシアが昨年9月に併合を宣言した東部・南部4州での裁判所システム構築を急いでいると報告、今年9月の最高裁の会議までに4州の裁判所の活動開始日を決めると述べた。
4州では9月10日のロシア統一地方選に合わせて議会選があり、地方議会が誕生する。プーチン政権はこれに合わせて裁判所も始動させ、4州のロシアへの統合を既成事実化する狙いとみられる。プーチン氏は「ロシアは非常に困難な発展の道を歩んでいる。司法システムは国家存続の基盤だ」と述べた。
●ロシア、ウクライナ両軍の死者計19万人 米推計 8/19
米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は18日、ウクライナによるロシアへの反転攻勢が続く中、両軍の死傷者が計50万人に迫ったと報じた。複数の米当局者の推計として伝えた。死者はロシアが約12万人、ウクライナが約7万人に上り、合計で約19万人。負傷者はロシア17万〜18万人、ウクライナ10万〜12万人と見積もった。
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は昨年11月、侵攻開始から約8カ月間で、死傷したロシア兵は10万人を超えたとの見方を示し、ウクライナの死傷者も同水準の可能性があると発言。両軍死傷者は昨冬以降、急増しているもようだ。同紙は、侵攻開始から約1年半で、ウクライナが失った兵士はベトナム戦争での米兵死者数、約5万8千人を上回ると指摘した。
両国ともに死傷者数を積極的に公表していない。
●ウクライナが重視するクリミア攻撃、米政権内では懐疑的な見方も 8/19
南部で激しい戦闘が続く中、ウクライナはこのところロシアの支配下にあるクリミア半島へのミサイル攻撃を強化して、ロシアの兵站(へいたん)や補給の妨害を図っている。ただ、米政権内ではこの戦略に懐疑的な見方も出ている。
米軍やバイデン政権当局者の一部にとっては、クリミア攻撃は良くいっても集中の妨げ、悪くいえば貴重なリソースの無駄遣いでしかない。多くの専門家はここにきて、ウクライナが複数の攻撃軸に戦力を薄く分散させすぎているとの見方を示している。
国防総省の高官はCNNに対し、「(クリミア攻撃は)ロシアのバランスをやや崩したが、決定的な効果は出ていない」「反転攻勢だけに焦点を絞った方が、おそらく誰にとっても良い結果になる」と指摘した。
ウクライナは最近、長距離ミサイルでクリミア半島とウクライナ南部の占領地域をつなぐ橋2本を攻撃したほか、12日にはクリミアとロシア本土を結ぶ唯一の橋を狙った攻撃も行った。欧米の情報当局高官によると、今やクリミア半島の約3分の1が高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」の射程内に入っており、ウクライナは半島内にあるロシアの弾薬庫や、他の兵站・補給インフラへの攻撃も強化しているという。
前出の高官は「クリミアにかかる圧力は増している」「言ってみれば、猛攻撃だ」とも語った。
2014年に軍にクリミア侵攻と違法併合を命じたロシアのプーチン大統領にとって、クリミア半島の象徴的な重要性は大きい。加えて、黒海に面するクリミアは何世紀も前から要衝となっており、ロシアの戦争にとって戦略的に重要な兵站拠点の役割も果たす。
ウクライナの立場からすればクリミア攻撃は反攻の不可欠な一部であり、クリミアの孤立化を図り、ウクライナ本土におけるロシアの軍事作戦維持をより困難にさせる狙いがあると、戦略に詳しいウクライナの情報筋は語る。
欧米の情報当局者によると、全体的に見れば、南部での攻撃はロシアの補給や兵站の動きを遅らせることに成功しているという。別の米当局者は、最終的にウクライナがロシアの長大な防衛線を突破した場合、クリミアの弾薬庫や補給線を狙う攻撃が反攻にとって有効になるとの見通しを示した。
ただ、欧米の複数の当局者は、クリミアが重視されるようになったのは比較的最近のため、ロシアの耐久能力にどれほど影響が出ているのかは判断しにくいとの見方を示す。
現状では、クリミア攻撃が大きな効果を上げているようには見えないとの指摘もある。10週間の戦闘でウクライナはロシアの防衛戦を突破できていないが、これについて一部の批判的な向きからは、ウクライナがどれか一つの作戦を優先せず、多くの戦線にリソースを薄く分散させているためだとの声が出ている。
前出の国防総省高官によると、米国は今のところ、ウクライナにクリミア攻撃を控えるよう積極的に助言しているわけではない。ただ、目立った戦果がないまま反攻が長引けばその分、失敗の可能性も増すと専門家は指摘する。
●ウクライナの反転攻勢、戦略的要衝に到達できず 米情報機関分析 8/19
米紙ワシントン・ポストは18日付朝刊で、ロシアの侵攻を受けるウクライナが、反転攻勢で当面の目標にしている同国南東部の戦略的な要衝メリトポリに到達できないとする米情報機関の分析を報じた。関係者の話として伝えた。ウクライナ軍はメリトポリを奪還してロシアの実効支配地域を東西に分断することを狙っているが、年内の達成は困難と見られている。
メリトポリは南部ザポロジエ州の主要都市で二つの幹線道路が交差し、鉄道も走る。ロシアはメリトポリを経由して、2014年に一方的に併合した南部クリミア半島から侵攻後に実効支配した地域に兵員や装備などを移送している。
同紙によると、ウクライナ軍はメリトポリから北東に80キロ以上離れたロボティネから南下している。しかし、大量の地雷やざんごうが張り巡らされたロシアの防御線が進撃を困難にしているといい、このままではメリトポリから10キロ前後離れた場所にまでしか到達できないと分析されているという。
ウクライナ軍は6月上旬に反転攻勢を開始。米国から供与されたブラッドレー歩兵戦闘車やドイツ製戦車レオパルト2などを投入したが、最初の1週間で大きな犠牲を出した。
米英とウクライナが共同で実施したシミュレーションでは、ウクライナ軍は相当の犠牲を受け入れて防御線を突破すると想定していたという。しかし、ウクライナ軍は犠牲を抑えるため、小規模の部隊でさまざまな方面から攻める戦略に転換。米国防総省は、ウクライナ軍に大規模な兵力を1カ所に集中させて突破するように繰り返し助言したとされる。
米国や欧州は侵攻以降、ウクライナに巨額の軍事支援を実施してきている。同紙は、反転攻勢の行き詰まりで米欧とウクライナ側で責任のなすりつけ合いが始まったり、米国内で軍事支援のあり方を巡る議論が活発化したりする可能性を指摘している。

 

●ウクライナ北部にロシアのミサイル7人死亡144人負傷 8/20
ウクライナ北部にロシア軍のミサイル攻撃があり、子どもを含む7人が死亡、144人が負傷しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、北部チェルニヒウの中心部にロシア軍のミサイル攻撃があったと明らかにし、「普通の土曜日をロシアが苦痛と喪失の日にした」として、攻撃を非難しました。
ウクライナ国家警察などによりますと、6歳の子どもを含む7人が死亡、144人が負傷したということです。
一方、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は、南部ロストフ州の州都ロストフナドヌーにある作戦司令部を訪問しました。ウクライナ侵攻の総司令官を務めるゲラシモフ参謀総長らから報告を受けたとしています。
プーチン氏のロストフナドヌーへの訪問は、6月に民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏が反乱を起こし、一時、軍の施設を占拠した後初めてで、自らの統制をアピールする狙いもあるとみられます。
●ロシア 西部の駅に無人機突っ込む モスクワ郊外にも無人機飛来 8/20
ロシアでは20日、無人機が首都モスクワの郊外や西部にある駅など3か所に飛来したと発表されました。相次ぐ無人機攻撃により、空軍に防空を強化すべきだという強い圧力がかかっているという見方が出ています。
ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州の当局は、20日未明、中心都市クルスクの駅に無人機が突っ込み、屋根や外壁が破損したと、SNSに投稿しました。
駅には利用客など50人がいて、ガラスの破片で5人がけがをしたとしています。
また、ロシア国防省は20日、首都モスクワ南部の郊外上空を市内に向かって飛行していた無人機1機を発見して、妨害電波で墜落させたと発表し、ウクライナによる攻撃だとしています。
さらに、南部ロストフ州の知事も、州内に無人機3機による攻撃が仕掛けられたとSNSで発表しました。人的被害や建物の損傷はないとしています。
ロシア国内では、無人機が相次いで飛来していて、国防省は19日も、モスクワ郊外やウクライナとの国境付近などで無人機攻撃が仕掛けられたと発表していました。
イギリス国防省は20日に発表した分析で、モスクワや郊外などで相次ぐ無人機攻撃について、「国境から遠い地域に対する攻撃には戦略的な重要性がある」として、侵攻に踏み切ったプーチン政権が、当初は想定していなかったような国民への直接的な影響が増していると指摘しています。
その上で、防空を担当する空軍について、「上層部には、ロシア西部の防空を強化すべきだという強い圧力がかかっている可能性が高い」という見方を示しています。
●ロシアとウクライナ 双方兵士の死傷者数50万人近くに 米有力紙 8/20
アメリカの有力紙は18日、ロシアとウクライナ双方の兵士の死傷者の数が、あわせて50万人近くにのぼるという見方を伝えました。ロシアによる軍事侵攻からまもなく1年半となるなか、双方の犠牲が拡大し続けています。
アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは18日、複数のアメリカ当局者の話として、軍事侵攻が始まった去年2月以降、ロシアとウクライナ双方の兵士の死傷者の数が、あわせて50万人近くにのぼっていると伝えました。
それによりますと、ロシア側の死者はおよそ12万人、けが人は最大およそ18万人で、ウクライナ側の死者はおよそ7万人、けが人は最大およそ12万人にのぼるということです。
双方が正確な兵士の死傷者の数を公表しておらず、把握は困難だとしていますが、ウクライナによる反転攻勢が続くなか、東部での死傷者が増え続けているうえ、ウクライナ側には前線で負傷した兵士への医療態勢が整っておらず、死者を増加させる要因になっていると指摘しています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、スウェーデンを訪問してクリステション首相と会談し、スウェーデン製の戦闘機グリペンの供与について協議が始まったことを明らかにしました。
また、その後公開された動画でゼレンスキー大統領は、スウェーデンの歩兵戦闘車CV90について「前線で必要とされるものだ。われわれが生産しなくてはならない」と述べ、ウクライナ国内で生産することをスウェーデンと合意したと明らかにしました。
ロシアによる軍事侵攻からまもなく1年半となり、双方に犠牲が増え続けるなか、欧米の軍事支援を背景にしたウクライナの反転攻勢の行方が焦点となっています。
●ウクライナ情報機関の長官、クリミア大橋爆破への関与認める 8/20
ウクライナメディア「ニュー・ボイス」は19日、ロシア本土とウクライナ南部のクリミア半島を結ぶ「クリミア大橋」で起きた昨年10月と今年7月の爆発について、ウクライナの情報機関「保安局」(SBU)のワシリー・マリウク長官自身が作戦に関与したことを認めたと報じた。
インタビューに対し、マリウク氏は、「ウクライナの機関だけで計画し、外国の協力は得ていない」と強調した。昨年10月の爆発では、金属探知機などによる発覚を避けるため、爆薬をフィルムでロール状に包んで民生品に偽装した。大型トラックに載せて橋の中央付近で爆発させた。
今年7月には海軍と共同で作戦を行い、レーダーに捕捉されにくい素材でできた無人艇を使った。昨年秋の露軍黒海艦隊への攻撃で実戦下での試験を行い、爆薬の量を増やすなどの改良を加えたという。
クリミア大橋は、露軍の主要な補給ルートになっている。2回の爆発では橋が通行止めになり、露側に一定の打撃を与えた。 
●ナワリヌイ氏毒殺未遂3年 戦時下、在外記者らに同種事件 8/20
ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が2020年8月、軍用神経剤ノビチョク系とされる物質による毒殺未遂に遭ってから20日で3年を迎えた。
ナワリヌイ氏はプーチン政権の弾圧で収監され、今月4日、新たに禁錮19年を宣告された。リベラル派の記者や活動家はウクライナ侵攻の中、安全とみられる国外に逃れたが、謎の中毒症状に陥る例が後を絶たない。
「プーチンは殺人者だ」。ナワリヌイ氏の在外陣営は、節目の20日に全世界でこのスローガンを発信するよう呼び掛けた。参加者は各国語で動画を作り、SNSで拡散。弾圧により「ロシアでデモを行えない人々のため」(陣営)に抗議する試みで、西側諸国からプーチン政権への外圧を強める狙いがある。
毒殺未遂はナワリヌイ氏が最後というわけではない。「外国なら安全」と必ずしも言えないような不審な事件も繰り返し起きている。ロシアの独立系メディア「インサイダー」によると、戦争が続く昨年秋以降だけで、在外の女性3人(記者2人と活動家1人)が毒物を盛られたとみられる症状を経験した。
うち記者2人は、ナワリヌイ氏が20年8〜9月に入院したドイツ・ベルリンのシャリテー大学病院を受診。中毒症状から時間が経過し毒物の特定に至らなかったが、独当局に被害を届け出た。
標的となるリベラル派は、国外で暗躍するロシア当局の関与を疑っている。18年には英南部ソールズベリーで、元ロシア情報機関員がノビチョクで暗殺されかかる事件が発生。さらに前の06年、プーチン政権を批判した元ロシア情報機関員が、ロンドンで放射性物質ポロニウムを盛られて死亡した。いずれの事件も英政府は、ロシアが関与したと断定している。

 

●「ルーブル」の価値崩壊&中国不況のダブルパンチでプーチンが大ピンチ… 8/21
ロシア人がロシアを見放した
足許で、ロシアの通貨“ルーブル”の下落が鮮明だ。
7月末、1ドル=91ルーブル台だった為替レートは、8月14日に1ドル=101ルーブル台まで下げた。2023年の年初来からの対ドル下落率は約40%に達した。
新興国通貨の中でも、ルーブルの下落率はかなり大きい。
ルーブル下落の要因として、ロシア人自身がロシアを見放していることだろう。富裕層中心に、ルーブルを打って外貨に乗り換える動きが鮮明化している。
その背景には、軍事支出増加による財政の悪化、西側諸国の制裁などを背景とする経常黒字の減少がある。
国内経済の悪化懸念は高まり、海外に資金を持ち出そうとする国民は増加しているようだ。
ルーブル下落は輸入物価を押し上げ、ロシアのインフレ圧力は急速に上昇し始めた。
8月15日、ロシア中銀は通貨下落に歯止めをかけてインフレ圧力を抑えるために、大幅な追加利上げを急遽実施した。
一方、戦費の拡大などによって財政の悪化は急速に進んでいる。
追加利上げを実施したとしても、ルーブル安、インフレ懸念の高まりを食い止めることは難しいと考えられる。ロシアはさらに厳しい状況に直面するだろう。
国際金融から孤立
ウクライナ紛争の発生後、ロシアの経済環境は悪化した。まず、軍事費の増大によって財政赤字は拡大した。
西側諸国による金融・経済制裁のインパクトも大きかった。
米国や欧州委員会は、ロシアの大手銀行を国際送金・決済システムである“SWIFT(国際銀行間通信協会)”から排除した。
ガスプロムバンクとズベルバンクは制裁から除外されたが、事実上、ロシアは国際金融システムから孤立した。
西側諸国はウラル産原油に上限も設けるなど制裁を強化した。
原油、天然ガス、穀物などを輸出して外貨を獲得してきたロシアの経常黒字は急速に減少した。
インドや中国などがウラル産原油を購入したことはロシア経済を一時的に下支えしたが、中国経済にかつてのような強さは見られない。
インフレ懸念も上昇
海外企業の撤退などを背景に、半導体や自動車部品などの資材も枯渇した。
ロシアから流出する資金は増加した。紛争の長期化によってロシア国内の社会心理も徐々に不安定化し、海外への移住や資金の持ち出しを企図する国民は増加の一途をたどる。
そうした要素に下押しされ、2023年の年初以降、ルーブルはドルに対して下落した。
自国通貨の下落は輸入物価を押し上げ、ロシアのインフレ懸念は上昇している。
7月、中銀はインフレを抑えるために政策金利を1.0ポイント引き上げ、年8.5%にすると発表した。利上げ幅は市場予想(0.5ポイント)を上回った。
また、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.25%上昇と、中銀目標の4%を下回った。
その状況下での予想を上回る利上げ実施は、経済統計から確認できる以上にルーブル安による輸入物価押し上げが強かったことを示す。
その後、7月のCPIは同4.30%上昇し、インフレは加速した。
財政悪化が止まらない
ウクライナ紛争の長期化や制裁の影響によって、ロシアの財政悪化は止まらない。
対応措置としてロシア政府は、大企業に対する課税を強化した。
今後、中小企業などに対する課税も強化される可能性は高い。それによって企業の業績は悪化する。
ロシアの雇用、所得環境の悪化も避けられず、個人消費は減少するだろう。
輸出面では、中国経済の停滞が大きい。
中国では不動産市況の悪化に歯止めがかからない。土地の譲渡益減少によって地方政府の財政は悪化し、本格的な景気回復には時間がかかる。
原油の需要は簡単に盛り上がらず、ロシアは原油輸出を削減した。
ロシアから資金が流出する
西側諸国による制裁が続くこともあり、経常収支は悪化する。
海外企業の撤退などによってロシア国内の設備投資も停滞するだろう。
ロシア経済の縮小均衡は避けられない。
そうした懸念の高まりに押されて、8月に入って以降、ルーブルの下落ペースは加速した。
通貨下落を食い止めるために、ロシア中銀は緊急利上げに追い込まれた。
8月15日、政策金利を3.5ポイント引き上げて年12%にすると発表した。
発表の直後、ルーブルがドルに対して反発する場面はあったがロンドン時間に入ると、再び売りが増えた。
財政赤字の拡大、経常収支の悪化を背景に、ロシアから流出する資金は増加する。
これまで以上にルーブルの下落は鮮明化し、輸入物価も上昇する。インフレ圧力は追加的に高まる。ロシア国民の生活の苦しさは増すだろう。
そうした展開が現実のものとなるにつれて、政権批判も増えそうだ。
●プーチン氏、ルーブル安定化に躍起−来年の選挙で5期目続投狙う 8/21
ロシアでは通貨ルーブルが急落し、失敗に終わった武装蜂起が与えた衝撃もまだ収まっていない。ウクライナでの戦争は終わりが見えないまま、侵攻開始から1年半が経過した。
政府高官や財界の大物たちの間では将来への不安が広がっているが、プーチン大統領は5期目続投を目指し2024年3月の選挙に向けた準備をすでに進めている。政府に近い関係者4人が明らかにした。
ロシア中銀が先週行った緊急利上げは、足元のルーブル急落への対応のみならず、選挙前にインフレを抑えるための広範な取り組みの一環だと、関係者の1人はいう。
ロシア中銀は選挙に配慮する必要がなければ、次回の金融政策会合まで待って行動した可能性があった。だが、足元の状況を受けて、プーチン氏の側近らは中銀に公然と圧力をかけている。為替相場を安定させるとともに、家計の実質所得がこれ以上目減りしないよう確実にするためだ。
ある関係者によると、ロシア政府は有権者に対する選挙前の「アメ」として、追加の景気刺激策を含む3カ年予算案を策定している。こうした措置はインフレを助長しかねず、ルーブル相場を安定させる緊急性を高めているという。
ブルームバーグエコノミクス(BE)のロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏は「国内の政治的配慮から金融引き締めが優先されている」と指摘。 「ルーブル安が続けばインフレ率は1−1.5ポイント上昇し、3月の選挙を控えた最悪のタイミングでインフレ率がピークを迎えることになるだろう」と述べた。
ロシア政府は選挙について、プーチン氏が国民の支持で選ばれた正統な指導者であると示す機会になることを期待している。国内情勢と、米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)加盟国との対立の双方において、プーチン氏が支配を握っているとのイメージを打ち出すことも狙いだ。
プーチン氏が有する権威の絶大さは、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏の反乱で失われた可能性があるが、明白な対抗馬がいないのが現状だ。そのためロシアのエリート層は少なくとも今のところは、プーチン氏が生き残りを保証してくれる最善の選択肢だと考えている。こう指摘するのはドイツ国際安全保障研究所(SWP)のニコライ・ペトロフ客員研究員だ。
「プーチン氏が去った後の状況がどうなるのか不透明なため、エリートにとっては現状維持が自らの利益となる」とペトロフ氏は指摘した。
●プーチン氏周辺で40人が怪死<Iルガルヒ、科学者、軍幹部、官僚… 8/21
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領周辺で、不審死が相次いでいる。特に顕著なのが昨年2月のウクライナ侵略開始以降で、オリガルヒ(新興財閥)や科学者、技術者、軍幹部、政治家、官僚ら約40人の死が「事故」や「自殺」として片付けられているという。政敵に暗殺を仕掛けたり重罪を科すなど粛清を強めている。識者は、プーチン政権内の混乱が背景にあると指摘する。
米政府は17日、ロシア反体制派のアレクセイ・ナワリヌイ氏毒殺未遂に関わったとして、ロシア連邦保安局(FSB)の職員4人に対する制裁を発表した。FSBはプーチン氏の出身母体であるソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむ諜報組織だ。
ナワリヌイ氏は2020年8月20日にロシア国内でお茶を飲んだ後、意識を失い救急搬送された。ドイツでの療養を経て21年1月に帰国した際、過去の経済事件で有罪判決を受けながら出頭を怠ったなどとして逮捕され、刑務所で服役。「過激派団体を創設した罪」などで新たに懲役19年の刑を言い渡された。
「ガスプロム」科学者も
米CNNは、昨年だけで少なくとも13人の実業家が怪死したと報じた。ガスプロムやルクオイルなど石油大手企業の幹部らの遺体が「転落死」や「無理心中」とみられる状況で発見された。露独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」は、ガスプロムの汚職疑惑について調査報道を展開していた。
航空研究所や造船所の所長、物理学者など科学者、技術者のほか、政界や行政関係者も怪死を遂げている。今年5月には科学・高等教育省のピョートル・クチェレンコ次官がキューバから帰国中の航空機内で体調を崩して死亡した。クチェレンコ氏は死の直前、ジャーナリストの友人との会話でウクライナ侵攻を批判していたという。友人が公開した会話では「抗うつ薬と精神安定剤を同時に飲んでいる。あまり役に立たない」「アブラムシのようにたちまちつぶされる」などと語っていた。
昨年12月には西部ウラジーミル州議員で、富豪としても知られるパベル・アントフ氏らが滞在先のインドのホテルで死亡しているのが見つかった。アントフ氏は「プーチン大統領の支持者だ」と強調していたが、ウクライナ侵略に批判的なメッセージを発信したとみられる。
国防省幹部が転落死
さらに今年1月には、南部ダゲスタン共和国のナンバー2まで上り詰めたマゴメド・アブドゥラエフ氏が交通事故で死亡。2月にはプーチン氏の盟友とされた国防省幹部が転落死したとされる。
筑波大学の中村逸郎名誉教授は「オリガルヒや反体制派らの不審死は治安当局の関与をにおわせるものも多かったが、政権に近い政治家や官僚の不審死は侵略前はあまりなかった。周辺国が関与した可能性もゼロではないが、プーチン政権内部の権力闘争を反映しているとも考えられる。プーチン氏が政権内のバランスをとるのに苦心しているかもしれない」と分析した。
●G20議長国インドの高官 ウクライナめぐる合意文書まとめに自信 8/21
来月開かれる、G20=主要20か国の首脳会議を前に、各国と協議を続けるインド政府の高官が、NHKの単独インタビューに応じ、ウクライナ侵攻をめぐる内容を盛り込んだ合意文書のとりまとめに自信を示しました。
20日、NHKの単独インタビューに応じたのは、G20の議長国インドの政府高官で、モディ首相を補佐する「シェルパ」として、各国と水面下で協議を続けるアミターブ・カント氏です。
カント氏は「世界はさまざまな大きな課題を抱えていて、G20首脳会議は解決策を見つけ出す機会となる」と述べ、議長国として議論を主導する意欲を強調しました。
そのうえで、各国の立場が分かれるウクライナ侵攻についても「すべての国と議論を進めている。一部の内容については、おおむね合意を得られていて希望を持っている」と述べ、ロシアと中国を含めた参加国による合意文書のとりまとめに自信を示しました。
去年インドネシアで開かれたG20首脳会議では「ウクライナでの戦争についてほとんどの国が強く非難する」などとする内容を盛り込んだ首脳宣言が採択されました。
ただ、このところG20の閣僚会議では、ロシアと中国がウクライナ侵攻をめぐる内容に反対し、共同声明がまとまらない事態が相次いでいます。
来月の首脳会議で議長国インドがどこまで踏み込んで合意文書をとりまとめられるか注目されます。
●ウクライナで徴兵逃れ続出、国境では毎日偽装出国者を拘束 8/21
ウクライナがロシア軍への大規模な反転攻勢に必要となる兵員を確保するために総動員体制を強化したことで、徴兵逃れが相次いでいる。偽装出国や徴兵担当者の汚職が広がっており、政府は徴兵対象の規則を変更して取り締まりを強化している。
企業にノルマ
ウクライナ政府は開戦直後の昨年2月、総動員令で18〜60歳の男性の出国を原則として禁じた。当初は愛国主義者らが大挙して軍に志願したが、反転攻勢に向けた兵員の確保が急務となり、今年4月に徴兵規則を変更した。
地方在住者が主要な対象だった制度は廃止され、都市部の住民にも徴兵が拡大された。企業にノルマを課し、社員を動員させる仕組みも導入した。住民票の登録地と違う場所に住んで招集令状の受領を逃れる市民の摘発を目的として、街角で「動員状態」を尋ねる点検も行っている。
「死ぬ覚悟ない」
一方で増えているのが徴兵逃れだ。30歳代のITコンサルタントの男性は昨年冬にウクライナを出国し、欧州に滞在している。知人を介して密出国業者に「4桁の米ドル(1000ドル=約14万円以上)」を渡し、ボランティア名目で出国許可の書類を入手した。期限はすぎたが、帰国するつもりはない。
男性は出国直前の昨秋以降、死を身近に感じるようになったという。同僚2人が露軍のドローン攻撃などで死亡し、親友が徴兵されて前線に赴いた。「心も魂も友人も思い出もすべてウクライナにある。だが、国のために死ぬ覚悟があるかと問われれば、答えはノーだ。命より大切なものはない」と吐露した。
賄賂の授受
検察によると、国境では毎日平均20〜30人が偽装出国で拘束されている。徴兵対象から逃れるため、医者に賄賂を渡して偽装診断書を得るなどの事例が横行している。政府は徴兵の非対象者の規則を変更した。
徴兵逃れに絡む汚職も横行しており、政府は摘発に乗り出している。保安局は11日、賄賂授受などの112件で全国の徴兵担当者33人を訴追したと発表した。国内各地域の徴兵責任者全員が解任され、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「重大な裏切り」と非難した。
反転攻勢を受けたウクライナの動員計画は公表されていない。昨年5月時点の動員数は70万人で、死傷者の増加により相当数の動員が見込まれている。8月からは法改正で、一度兵役を終えた人も再徴兵の対象となった。「年内にあらゆる人が徴兵されるだろう」と指摘する声もある。
露、出稼ぎ労働者に触手
ロシアのプーチン政権は昨年秋に行った予備役の部分的な動員に伴う大混乱の再発を避けるため、強引な手法も駆使して契約軍人を集める「隠れ動員」で兵員確保を進めている。同時に招集逃れ対策の法整備を進め、長期戦に備えている。
メドベージェフ前大統領は今月上旬の会合で、今年1月以降、約23万1000人が契約軍人になったと述べた。
メドベージェフ氏が挙げた数字は、露国防省の傘下に入ってウクライナでの戦闘に参加している民間軍事会社の戦闘員を含んでいるとの見方がある。年内に40万人の契約軍人の獲得を目指すとされるプーチン政権の取り組みは、必ずしもうまくいっていないようだ。
このため、最近はロシア国籍を持つ中央アジアなどからの出稼ぎ労働者にも触手を伸ばしている。タス通信は16日、情報・治安機関の連邦保安局(FSB)が露西部サンクトペテルブルクにある倉庫を捜索し、外国人労働者約400人のうち、ロシア国籍を持つ約100人を徴兵事務所に連行したと報じた。
今月4日には招集令状が出された国民の出国を禁じる法律も成立した。プーチン政権が大規模動員の再開に向け、世論の見極めに入ったとの臆測も出ている。
●プーチン大統領、南部の軍事拠点訪問 ゲラシモフ参謀総長らと面会 8/21
ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が南部ロストフ州ロストフナドヌーの軍事拠点を訪問したと発表した。ウクライナでの軍事作戦を指揮するゲラシモフ参謀総長や他の指揮官らから報告を受けた。
大統領府は会議の詳細を明らかにしておらず、訪問した日時も不明。国営RIA通信は、夜間とみられる時間帯にゲラシモフ氏がプーチン氏と握手を交わし、建物の中に案内する様子が映った動画を伝えた。
ゲラシモフ氏はウクライナ侵攻におけるロシアの失敗を巡り民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏や一部の軍事ブロガーらから激しい批判を浴び、ここ数カ月間は公の場にほとんど姿を現していなかった。
ロストフナドヌーはウクライナ国境からわずか100キロほどに位置し、ロシア軍の南部軍管区司令部が置かれている。
ウクライナ軍は16日、南東部の集落をロシア軍から奪還したと発表した。 
●総動員令や戒厳令など求める声…強硬派はショイグ国防相の解任要求 8/21
米ブルームバーグ通信は20日、ロシアのプーチン政権の情報・治安部門から、総動員令や戒厳令の発令などを求める声が上がっていると報じた。プーチン大統領はウクライナ侵略を開始して以来、国内世論の反発を警戒して総動員には慎重姿勢を維持していた。
政権の内情に詳しい5人の関係者の話として伝えたもので、情報・治安部門の強硬派はセルゲイ・ショイグ国防相の解任も要求しているという。戒厳令発令となれば来年3月に予定される大統領選は延期となる公算が大きく、報道ではプーチン氏が結論を出したかどうかは明らかにしていない。一方、政権がプーチン氏の大統領選出馬を前提に、低所得層へのバラマキ政策も準備しているとも伝えた。
プーチン氏は最近、戒厳令の発動手続きに関する法改正に着手。今月8日には、アレクサンドル・グルシコ外務次官を議会との折衝担当に任命する大統領令を出した。ロシアは昨年10月、ウクライナの東・南部4州に戒厳令を発令している。
●ロシア、ウクライナが南西部の鉄道駅にドローン攻撃と主張 8/21
ロシアは20日、ウクライナと国境を接する南西部クルスク州の鉄道駅がウクライナのドローン(無人機)攻撃を受け、5人が負傷したと発表した。
同様にウクライナと国境を接するロストフ州にもドローン攻撃があったが、負傷者は報告されていない。
ロシアはまた、モスクワに向かっていたドローン1機を阻止したとしている。このドローンはその後、人口の少ない場所へ墜落したという。
ロシア国内でドローン攻撃があったという主張は、ここ数カ月でその頻度を増している。
ウクライナ側は特定のドローン攻撃について関与を主張していない。しかし、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は以前、「戦争は徐々にロシア領に戻りつつある。ロシアにとって象徴的な中心地や軍の基地へ。これは不可避で自然で、まったく公平なプロセスだ」と述べていた。
BBCが検証した動画では、ウクライナ国境から約150キロ離れたクルスク市の鉄道駅の窓ガラスが割れ、炎が上がっているのが確認できる。
ロシア国営通信社RIAノーヴォスチによると、ガラスの破片で5人が負傷。駅の屋根や外壁、プラットホームが損傷した。
ロシア外務省は、クルスクでのドローン攻撃を「強く非難する」としている。
「ウクライナのナショナリストたちが文字通り、我々の共通の歴史に打撃を与えた」と、同省のマリア・ザハロワ報道官は声明で述べた。
モスクワに向かうドローンを「電子戦」で破壊と
ロシア国防省は独自の声明で、20日午前4時ごろに「ウクライナ政府がモスクワのインフラに対するドローンを使ったテロ攻撃を企てたが、それを阻止した」とした。
モスクワに向かっていたドローンは「電子戦」によって破壊され、制御不能に陥り人口の少ない地域に墜落したという。
ロシアの航空当局は、モスクワ州のドモジェドヴォ国際空港とヴヌコヴォ国際空港へ向かうフライトが「一時的に制限された」と明らかにした。
ロシアによる侵攻が続くウクライナでは19日、北部の都市チェルニヒウ中心部にある劇場がロシア軍によるミサイル攻撃を受け、6歳の少女ら7人が死亡した。また、子供15人を含む148人が負傷したと、当局が明らかにした。
ゼレンスキー大統領は「このテロ攻撃について、目に見える回答でロシアに対応する」と約束していた。
●いまや欧州も韓日米の領域…3カ国首脳がまとまりロシアを追い詰める 8/21
18日に米キャンプ・デービッドに集まった韓日米首脳はロシアのウクライナ侵攻を狙って「災害のような残酷な侵略戦争」と声を高めた。特に今回の首脳会議で導出された「3カ国協議公約」の範囲にウクライナ戦争関連状況も含まれる余地があり、3カ国共助の影響力が欧州まで広がるよう望む米国の構想が一層具体化したという分析が出ている。
ロシア共同対応示唆
この日発表された3カ国共同声明の「キャンプ・デービッドの精神」序文で「ロシアのウクライナ侵略戦争」は他のどんな懸案よりも最初に言及される。3カ国首脳が「地政学的競争、気候危機、ロシアによるウクライナに対する侵略戦争、そして核による挑発がわれわれを試している歴史の分岐点において、キャンプ・デービッドに集った」としながらだ。
特にロシアのウクライナ侵攻を狙っては「破滅的な侵略戦争」「悪質な行動」などこれまでなかった強力な表現が使われた。また「われわれは、ウクライナ支援において結束している。国際秩序の根幹を揺るがすロシアによるいわれのない残酷な侵略戦争に対し、ウクライナと共にあるとのコミットメントを再確認する」などの内容が盛り込まれた。
また、3カ国首脳が別に採択したコミットメント文書では「共通の利益及び安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦、挑発及び脅威に対する3カ国の対応を連携させるため、3カ国の政府が相互に迅速な形で協議することにコミットする」とされている。北朝鮮の核・ミサイル挑発、台湾海峡での中国の緊張を高める行為だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻もまた、3カ国協議を稼動できる「地域的挑戦・挑発・脅威」の範疇に含まれるとみる余地がある。
これと関連し、実際に「キャンプ・デービッドの精神」のウクライナ戦争関連部分には「領土一体性、主権及び紛争の平和的解決の原則を堅持するとの根本的な原則の拒絶は、われわれの地域への脅威となるとの見地をわれわれは再確認する」とされている。原則を破ったロシアはすでに3カ国共同の脅威に該当するという趣旨と解釈できる。
3カ国首脳はまた「国連安全保障理事会の現・次期理事国として、地域及び世界の平和と安全を強化する」と声明で約束した。来年には韓日米が同時に国連安保理理事国の地位を持つことになるが、これまでロシアと中国の「嫌がらせ」でウクライナ戦争の前でも無力になった安保理に3カ国がひとつになって動力を吹き込むという構想だ。
武器取引も狙う
3カ国共同記者会見ではロシアに向けた鋭い警告メッセージが主にバイデン大統領の口を通じて出た。彼は「北朝鮮が武器取引を通じてロシアのウクライナ侵攻を支援する可能性に積極的に対処するだろう」と宣言した。これまで米国は北朝鮮とロシアの間の武器取引の証拠を先制的に提示しながら対北朝鮮、対ロシア独自制裁に出たが3カ国首脳レベルでこれを言及したのは初めてだ。
●ウクライナ、無人機で「核」搭載可能な戦略爆撃機を初めて完全に破壊か 8/21
ロシアの独立系英字紙モスクワ・タイムズは20日、ウクライナが露北西部ノブゴロド州にあるソリツイ2空軍基地に対する19日の無人機攻撃で核兵器搭載可能な露軍の戦略爆撃機を初めて完全に破壊したと報じた。
ノルウェーのニュースサイト「バレンツ・オブザーバー」によると露軍は19日、超音速長距離爆撃機「Tu(ツポレフ)22M3」少なくとも6機をソリツイ2から1000キロ・メートル以上北方のムルマンスク州にあるオレニャ空軍基地に移動させた。新たな攻撃を警戒したとみられる。ウクライナの連日の無人機攻撃は、露軍の航空戦力に打撃となっている模様だ。
モスクワ・タイムズはソリツイ2空軍基地でTu22M3とみられる露軍機が炎上する写真もSNSに投稿した。ソリツイ2はウクライナの北方約650キロ・メートルに位置する。
露本土への無人機を使った攻撃は21日も続いた。露国防省などによると、モスクワを標的にしたとみられる無人機計2機が21日朝、相次いで近郊に飛来し、撃退した。この影響で首都と近郊にある4空港全てが一時、離着陸を停止し、40便以上の旅客機に影響が出た。4空港が一時的に上空を閉鎖したのは18日に続き2回目だ。

 

●マスク氏、プーチン大統領と個人的に会話したと国防総省に話す−米誌 8/22
米宇宙開発企業スペースXを率いるイーロン・マスク氏が、ロシアのプーチン大統領と個人的に話をしたことを米国防総省高官に明らかにしたと、米ニューヨーカー誌が報じた。スペースXがウクライナ軍に供給する衛星ベースのインターネット接続について、マスク氏が同省高官と電話で話した際にそう語ったという。
21日の同誌によれば、ロシア軍の進軍領域にウクライナ軍が入るとスペースXの「スターリンク」に接続できなくなることについて、マスク氏は昨年10月、国防総省で当時政策当局者トップだったコリン・カール氏と話した。この時マスク氏はプーチン氏と会話したことを明らかにしたという。
カール氏はニューヨーカー誌に対し、「私の推測では、マスク氏はスターリンクの関与がウクライナの戦争遂行を可能にしているとの見方をロシアが強めつつあったことに神経をとがらせ、ロシアの懸念を和らげる方法を探していた」と述べた。
マスク氏に電子メールでコメントを求めたが、まだ返答は得られていない。米スタンフォード大学での職務に先月復帰したカール氏にもコメントを求めたが、返答は得られなかった。国防総省の報道官はコメント要請に応じなかった。
マスク氏は10月にプーチン大統領との会話を否定。同氏は単文投稿のツイッター(現在はXに名称変更)で、この1年半ほど前にプーチン大統領と一度だけ宇宙について話したことがあると述べていた。
●外国企業などのロシア国内資産凍結を可能にする法律成立 8/22
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月4日、連邦法第422-FZ号「幾つかの法令の改正について」に署名した。発効は2024年2月1日。この改正により、在ロシアの外国企業や駐在員の金融取引制限や資産凍結の法的根拠が整備された。現地報道によると、ロシア企業などの国外資産凍結への対抗や、ロシアからの撤退を意図する企業への牽制とみられる。
改正のポイントは次のとおり。
a. 改正を反映した連邦法第281-FZ号「特別経済措置および強制措置について」(2006年12月30日付)に定めた外国・外国機関・外国人など(注1)を「ブロック対象者」として指定する権限を大統領に与えた。
b. 同じく連邦法第281-FZ号に定めた各種制限措置(特別経済措置)の一部、特に金融関連措置の具体化と新たな条項の追加により、ブロック対象者のロシア国内資産を凍結する法的根拠を与えた。
大統領が安全保障会議の提言に基づいてブロック対象者を決定し、それを受けて連邦政府が具体的な措置を定める。金融機関など(注2)に対して、ブロック対象者が関係する取引を禁止することも明記した。
金融資産が凍結されても、ブロック対象者が個人の場合、次の行為は可能だ。
a. 本人と同居家族1人当たり月額1万ルーブル(約1万5,000円、1ルーブル=約1.5円)を上限とする額の給与などの受け取り、使用すること。
b. 上記に加え、本人と同居家族1人当たり月額1万ルーブルまで医療費として支出すること。
c. 税金、行政手続き関連手数料、反則金などを支払うことなど。
企業を含む外国機関の場合、従業員に対し生活最低限度額(2023年8月時点で月額1万5,669ルーブル)を上限に給与の支払いが可能だ。
同法の施行により、資産凍結以外に労働法上の問題が生じる可能性がある。外国企業の活動に詳しいロシア人弁護士はジェトロのヒアリング(8月16日)に対し、「生活最低限度額を上回る額の給与を被雇用者の口座に送金しようとしても拒否される可能性が高い。その場合、雇用契約上の雇用主の義務違反となり、労働争議に発展するリスクがある」と指摘する。また、外国人駐在員が高度熟練専門家(HQS)の資格で労働許可を取得している場合、生活最低限度額ではその要件(注3)も満たせなくなり、資格喪失の恐れもあるという。
(注1)外国、外国機関、外国人が議決権の50%以上を有するロシア法人を含む。
(注2)銀行などの金融機関のほか、証券会社、保険会社、投資ファンド、リース会社、不動産会社などを含む。
(注3)月額給与が16万7,000ルーブル以上であること。2024年3月1日以降、これが四半期当たり75万ルーブル以上に引き上げられる。
●ロシアや中国など新興5か国 BRICS首脳会議 22日に開幕 8/22
ロシア、中国、インドなど新興5か国で作るBRICSの首脳会議が22日、南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで始まります。ロシアや中国は、欧米への対抗軸としてBRICSの枠組みの強化を目指していて、加盟国の拡大などについて話し合われる見通しです。
BRICSは、中国、ロシア、インド、ブラジル、そして南アフリカの新興5か国で作る国際的な枠組みで、毎年、持ち回りで首脳会議を開催しています。
ことしの首脳会議は新型コロナウイルスの感染拡大以降、初めて対面で開催されることになり、南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで22日から3日間の日程で始まります。
初日は、中国の習近平国家主席やインドのモディ首相らも出席して、ビジネスフォーラムが開かれることになっています。
一方、今回の首脳会議では、ウクライナへの侵攻をめぐって、ICC=国際刑事裁判所から逮捕状の出ているロシアのプーチン大統領は、ICC加盟国の南アフリカへの訪問を見送り、オンラインで参加することになっています。
ロシアや中国は、欧米への対抗軸としてBRICSの枠組みの強化を目指していて、首脳会議では、アメリカの通貨、ドルではなく、自国の通貨を用いた貿易の促進や、新たな加盟国の拡大などについて話し合われる見通しです。
中国 習主席 “BRICSの影響力の拡大に意欲”
中国の習近平国家主席は、BRICSの首脳会議に出席するのを前に、南アフリカのメディアに寄稿しました。
中国外務省が発表したもので、この中で、習主席は「いま、ますます多くの国が、BRICSのドアをたたき、協力の枠組みに参加しようとしている。BRICSの活力と影響力の大きさを示している」として、国際社会におけるBRICSの存在感が増していると強調しました。
そして「中国は、BRICSのパートナーとともに、協力の枠組みが、国際的にさらに重要な役割を発揮し、BRICSの声がさらに大きくなるようリードしていきたい」として、BRICSの影響力の拡大に、さらに取り組みたいという意欲を示しました。
国連事務総長 首脳会議に出席へ
国連のデュジャリック報道官は21日、グテーレス事務総長がBRICSの首脳会議に出席すると明らかにしました。
国連によりますと、事務総長がBRICSの首脳会議に出席するのは初めてだということです。
事務総長が出席する理由についてデュジャリック報道官は「危機に打ちのめされ、分断が進む世界において、協力に代わる信頼できる選択肢はない、という明確なメッセージを伝える予定だ」と説明しています。
そして、各国首脳との会談を積極的に行い、気候変動や国際的な金融システムの再構築など一連の課題について連帯し、早急に対応するよう求めるとしています。
●ウクライナ、24日に2度目の戦時下独立記念日 ロ軍戦車残骸を展示 8/22
ウクライナは24日に32回目となる旧ソ連からの独立記念日を迎える。首都キーウ中心部の通り沿いには焼け焦げたロシアの戦車や戦闘車両などの残骸が並べられ、戦死者の軍事パレードの様相を呈している。
24日はまた、ロシアによる侵攻開始からちょうど1年半にあたる。
キーウ中心部の市民は、ロシアの兵器の残骸が展示されていることに好意的見方を示し、「わが軍の実力を示し、(ロシア軍の)戦闘能力の低さを示すいい案だと思う。こうした勝利の例を見ることは重要だ」と述べた。
独立記念日の祝賀は、戦争の犠牲者数が拡大しているため控えめなものになるとみられている。 
●“反乱の地”にプーチン氏 プリゴジン氏“天敵”出迎え 8/22
行方がわからなかったあの人物が、ついに1人でカメラの前に。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏。場所はアフリカとされている。
プリゴジン氏「アフリカの人たちに正義と幸せを届ける。(過激派組織)『イスラム国』や(国際テロ組織)『アルカイダ』...すべての悪党どもに悪夢を見せてやる!」
プリゴジン氏のはっきりした姿が動画で確認されるのは、2カ月ぶり。
その間、死亡説が飛び交ったり変装写真が表に出たり、さらには、シルエットのおぼろげな演説動画が出回ったり。最後にはっきりと姿が確認されたのは、ワグネルの反乱の時。
ロシア南部ロストフ州の軍事拠点を一時占拠した。
そのロストフ州を訪れたプーチン大統領。出迎えたのは、プリゴジン氏が目の敵にしてきた人物。
そう、ウクライナ侵攻を指揮するゲラシモフ参謀総長。プーチン大統領に戦況を報告した。
かつての戦場のボスはアフリカへ。ウクライナ侵攻にどんな変化が起こるだろうか。
●プリゴジン氏、反乱後初めて動画で演説 アフリカに言及 8/22
雇い兵組織「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が、ロシアでの反乱以降で初めて、動画での演説に登場した。動画では、プリゴジン氏はアフリカにいるように思われる。
BBCは、この動画の撮影場所を特定できていない。
メッセージアプリ「テレグラム」のワグネル提携チャンネルに投稿された動画で、プリゴジン氏は戦闘服姿で、ワグネルがアフリカを「もっと自由にする」と語った。
動画の中でプリゴジン氏は、ワグネル派鉱物を探索したり、イスラム主義者や犯罪者と戦ったりしていると述べた。
「我々は働いている。気温は50度を超えているが、すべてが思い通りだ。ワグネルは偵察と捜索活動を行い、ロシアをすべての大陸でさらに大きくし、アフリカをさらに自由にする」
「アフリカの人々には正義と幸福を。イスラム国(IS)やアルカイダや悪者たちは、我々によって、悪夢のような日々を送っている」
また、戦闘員を募集していると話し、ワグネルは「今後も与えられたタスクをこなしていく。成功すると約束した」と述べた。
ワグネルは、ビジネス上の利益があるアフリカに、数千人の戦闘員を置いているとみられている。
戦闘員は、マリや中央アフリカ共和国などに滞在している。人権団体は国連は、ワグネル戦闘員がこれらの国で戦争犯罪を行っていると非難している。
イギリスは7月、中央アフリカ共和国で活動するワグネルの指導者2人に対し、民間人への拷問や殺人を行っているとして制裁を科した。
アメリカも、ワグネル戦闘員がアフリカでの不正取引で利益を得ていると非難している。
●ロシア、同国一の億万長者を汚職容疑で訴える 資産差し押さえの一環か 8/22
複数の報道によると、エネルギー会社の買収で「汚職的な結託」があったとして、ロシア政府は同国で最も裕福な事業家アンドレイ・メルニチェンコを提訴した。ウクライナとの戦争が続く中、ロシア当局は富の確保に奔走している。
米通信ブルームバーグや英紙フィナンシャル・タイムズによると、ロシア政府はシベリアに複数の火力発電所を持つSibecoの資産を差し押さえようとしており、メルニチェンコが元政府閣僚のミハイル・アビゾフから同社を買収したのは汚職だったと主張している。
アビゾフは2018年に買収取引が完了した数カ月後に逮捕された。横領し、またSibecoと別の会社の株主を欺いたとしてロシアの刑務所に収監されているとフィナンシャル・タイムズは報じた。
米政府が運営するRadioFreeEurope/RadioLibertyのニュースサービスによると、メルニチェンコはSibecoを360億ルーブル(2018年の為替レートで5億7000万ドル強)で買収した。
メルニチェンコの広報担当者はブルームバーグに、今月初めにロシア・シベリアのクラスノヤルスクで起こされた訴訟は受理され、審問は9月7日に予定されていると語った。
ウクライナ戦争が始まって以来、ロシア政府は国内に富を取り戻そうとしている。3億ドル(約435億円)のヨットをアラブ首長国連邦(UAE)に停泊させ、現在は同国を主な拠点としているメルニチェンコに対する訴訟は、そうしたなかでの最新の動きだとフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。別のロシア人の富豪オレグ・デリパスカのソチにある10億ドル(約1450億円)のホテルは、デリパスカがウクライナ侵攻反対の声をあげた後に差し押さえられたと報じられた。ロシアのプーチン大統領は、海外に資産を持つ裕福なロシア人は、資産と家族を国に戻すまで「二流のよそ者」のままだと述べている。
プーチンは西側の企業からも資産を取り上げようとしている
一方で、プーチンは西側の企業からも資産を取り上げようとしている。ロイター通信によると、ロシアの戦力をそぐために先進7カ国(G7)がロシアへの制裁強化を求めた後、ロシア大統領府は4月にフィンランドのフォータムとドイツのユ二パーがロシア国内に所有する発電所を差し押さえた。ロシア企業に対する制裁が続けば、欧米の資産をさらに差し押さえるとプーチンは脅している。フィナンシャル・タイムズによると、ウクライナとの紛争が続く中でロシア政府に忠誠を誓った裕福な実業家らは経済的な報酬を与えられ、食品グループであるダノンの現地法人やバルチカ醸造所など、差し押さえられた資産を購入する機会を与えられている。
メルニチェンコの純資産は8月20日時点で244億ドル(約3兆5500億円)。世界の富豪ランキングで63位、ロシア国内ではトップだ。メルニチェンコは1991年のソビエト連邦崩壊の2年後に、ロシアで最も成功したプライベートバンクの1つであるMDM銀行を設立。その後、肥料製造会社EuroChemや石炭エネルギー会社SUEKも創業した。メルニチェンコの金属・鉱業企業は10万人以上を雇用している。ウクライナでの戦争を受けて肥料価格が高騰したため、メルニチェンコの純資産は2022年から2023年にかけて111億ドル(約1兆6150億円)増えた。
ロシアのウクライナ侵攻後、メルニチェンコとその妻は、米国と欧州連合(EU)から制裁を受け、EuroChemとSUEKを所有する信託の受益者から外れた。さらにイタリア当局も昨年、メルニチェンコのヨットを押収している。メルニチェンコの広報担当者は以前、EUの制裁は「不合理でナンセンス」だとフォーブスに語っている。
●F16“念願の兵器”供与決定も反転攻勢厳しい見通し 8/22
オランダとデンマークは、ウクライナにアメリカ製のF16戦闘機の供与を決定したことを明らかにしました。F16戦闘機は、ウクライナ政府が強く求めてきた念願の兵器です。しかし、実戦配備には多くの課題があり、欧米のメディアの間では年内の反転攻勢に厳しい見通しを示す論調が目立ち始めています。
オランダ ウクライナにF16戦闘機供与決定
20日、オランダを訪問し、ルッテ首相と会談したゼレンスキー大統領。ウクライナ大統領府は、会談で、オランダがウクライナにアメリカ製のF16戦闘機の供与を決定したと表明し、オランダの決定に感謝の意を伝えたということです。
ゼレンスキー大統領「F16戦闘機は兵士や民間人に自信とモチベーションを与える。ウクライナとヨーロッパに新たな成果をもたらすだろう」
また、ゼレンスキー大統領は、SNSで供与される戦闘機の数について「42機だ」と投稿しましたがオランダ側は数について明らかにしていません。
デンマークも供与決定
また、ゼレンスキー大統領はこの日、デンマークでフレデリクセン首相とも会談。ウクライナへのF16戦闘機の供与については、デンマークもオランダとともに供与を決めたことを明らかにしました。
フレデリクセン首相「本日、19機のF16戦闘機をウクライナに供与することを発表した。今後、他国も追随することを期待する」
ウクライナの軍事専門家“解決しなければいけない問題多い”
ウクライナ・ユナイテッドニュースでは、ウクライナの軍事専門家が供与されるF16戦闘機の課題について次のように指摘しています。
Q. F16戦闘機が来年以降、飛ぶことになるのでしょうか。反転攻勢に影響はあるのでしょうか。
A. そのときの状況しだいでF16を使用するかしないかを決めます。ウクライナのパイロット、そしてスタッフも早く習得し、F16を操作できるようになるかが重要です。
Q. スタッフはどのくらいで習得できますか。
A. 短期間にF16の技術を習得できるかは疑問に思います。簡単な計算をすると、1名のパイロットに対して、操作や修理をするスタッフが5人から7人必要になります。
ウクライナの軍事専門家「スタッフの問題に限らずウクライナ空軍のシステム作りの準備も重要になってきます。全く新しい兵器なので、操作や修理する場所も用意しなければなりません。ナビゲーションや保管する場所、燃料の入れ方なども全く別物です。F16を使用する前に解決しなければいけない問題がたくさんありますので、早く解決できるように取り組んでいます」
警戒強めるロシア ウクライナでは被害続く
一方のロシア側は、警戒を強めています。ロシア国防省は21日、首都モスクワの西部近郊に無人機が飛来してきたものの阻止し、けが人など被害はないと発表。さらにモスクワの北西部近郊にも無人機攻撃が仕掛けられ、上空で破壊したと発表しました。国営通信社は、この影響で複数の空港で一時、航空機の発着が制限されたと伝えていて、ロシア側は、無人機攻撃はウクライナによるものだとして相次ぐ飛来に警戒を強めています。一方、ウクライナでは20日もロシアによる攻撃で被害が続き、ウクライナ東部ハルキウ州の知事は1人が死亡、10人がけがをしたと発表したほか、南部ヘルソン州の知事は2人が死亡、3人がけがをしたとしています。
F16はウクライナ政府“念願の兵器”
(油井キャスター) F16戦闘機は、ウクライナ政府が強く求めてきた念願の兵器です。ゼレンスキー大統領は、ことし6月には「なぜF16が必要なのか」と題した、動画をSNSに掲載しました。
(動画のナレーション) 「ウクライナのミグ29戦闘機のレーダーは70〜85km」「一方ロシアのミグ31戦闘機のレーダーは155kmで巡航ミサイルも探知できる」
ウクライナが保有する戦闘機ミグ29は画面の左側。レーダーが古くて、敵の位置を把握できる距離が短いとして、画面右側のロシア空軍の戦闘機ミグ31に対抗できないと訴えたのです。ロシアの軍事侵攻が始まって今週で1年半となりますが、ロシア軍は、陸軍こそ大量の戦車を失うなど大きな打撃を受けたものの、空軍はほとんど無傷と言われています。それだけに、ウクライナ軍は、先週、反転攻勢を進める上でロシア空軍の存在が大きな障害になっていると主張しました。
ウクライナ空軍報道官「敵の空軍の軍用機の数はあまりにも多い、どうすべきか皆知っているはずだ」
「これを抑えるためにF16戦闘機が必要だ」
強大なロシア空軍に対抗するのに必要なのが、F16戦闘機。今回、オランダから42機。デンマークから19機のF16戦闘機が供与されるとしていますが、実戦配備の時期は来年になる見通しです。その時期についてデンマークの首相は「新年の頃に6機、来年に8機、そして再来年に5機をウクライナに送りたい」と述べていて、今後2年から3年かけて段階的に送る計画です。ウクライナ政府は、当初、ことしの秋にもF16戦闘機を投入し、年内の反転攻勢を後押ししたい意向でしたが、非常に厳しい状況です。
その反転攻勢をめぐっては、欧米メディアの間では、年内の反転攻勢に厳しい見通しを示す論調が目立ち始めています。
「アメリカの情報機関はウクライナが反転攻勢の重要な目標を達成できないと主張」(ワシントン・ポスト)
「ウクライナの苦戦で焦点は来年の戦闘に」(ウォール・ストリート・ジャーナル)など
欧米の一部の間では、ウクライナが年内の反転攻勢で領土の多くを奪還できれば、年内にもロシアとの和平交渉に持ち込めるという見方もありました。しかし、戦闘は来年以降も続く見方が広がっていて、犠牲者の増大が懸念されそうです。
●ローマ教皇、米軍制服組トップと会談 ウクライナ情勢について協議 8/22
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は21日、バチカンで、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長と会談し、ウクライナでの戦争について話し合った。
ミリー氏の報道官によれば、両者は約30分にわたって話し合いを行った。ミリー氏はフランシスコ教皇に合衆国憲法のコピーを贈呈したという。
ウクライナ情勢をめぐる話し合いのなかで、フランシスコ教皇は、現在も戦われている戦争における民間人の犠牲者数について特に懸念を示した。
フランシスコ教皇は、ウクライナでの戦争について、率直に批判の声を上げている。フランシスコ教皇は今月、ポルトガル滞在時に、ウクライナでの戦争を終結させないのであれば、欧州はどのような道を歩んでいるのかと疑問を示した。フランシスコ教皇は、ロシアに対して黒海からの穀物輸出に関する協定に復帰するよう促しているほか、バチカンがウクライナでの戦争を終わらせるための使命の一端を担っていると述べた。
ミリー氏は、軍関係者や各国要人と会談する際は通常、礼装用の軍服を着用するが、今回は背広を着用していた。
●パレスチナ人が憂慮すべきロシアのイスラエルへの譲歩 8/22
ロシア・ウクライナ間の戦争の始まりに続いて、世界規模の冷戦も始まった。米国の有力な同盟国で、ロシア系やウクライナ系、東欧系のユダヤ人たちが有権者の多くを占める彼らの父祖の地イスラエルが、国際的な紛争の渦の中心となるのは至極当然のことだった。
ロシア・ウクライナ戦争が始まった時、イスラエルは右派、中道、左派の寄せ集めの奇妙な連立政権によって統治されていた。こうした党派は、その多くが1980年代後半のソ連崩壊に続いてイスラエルにやって来たロシア系ユダヤ人たちの選挙戦における重要性を認識していた。この急速に拡大しているかなりの規模の有権者層はその大部分がロシア政権に対して批判的であることを世論調査が示している。
こうした人口動態が、イスラエルの米政府に対する忠誠心と相俟って、イスラエルの立場を複雑にした。一方では、イスラエル政権はロシアを非難する2022年3月の国連総会決議に賛成票を投じた。これに対して、ロシア政権はイスラエルに「失望」したと表明した。さらには、イスラエルはウクライナ人に加えて戦闘地域からの避難を希望するロシア系ユダヤ人も受け入れたのだった。
他方、当時のイスラエルのベネット首相は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、仲介役を果たそうと試みた。さらには、イスラエルは再三将来の交渉の場の候補となり、メディア報道においてのみではあるものの和平調停国扱いされるに至った。
こうしたことは何の成果も生み出さなかった。それどころか、後には、いくつもの論議すら呼んだのだった。ウクライナがナチスの協力者を崇拝しているとイスラエルが考えていることに関連した外交問題などである。また、もう一つの見苦しいエピソードは、プーチン大統領が自らを殺害しないという確約をゼレンスキー大統領がベネット首相を通して求めたというベネット首相の申し立てである。ウクライナ側はこれを否定している。
「ネタニヤフ首相は、ロシア・ウクライナ戦争とそれに続く世界的な冷戦においてある程度の中立性を保つことを強く望んでいた」ラムジー・バロード
しかし、世界的に重要な大国としてイスラエルがこの紛争に一枚嚙むようベネット首相が尽力している一方で、当時のヤイール・ラピード外相は公然とロシアを避難した。
イスラエルの立場は、同国の政治的、人口動態的な構成の反映だったのかもしれない。また、それは、ベネット首相がロシア政権を宥め、彼の連立政権のパートナーであるラピード外相が米政権を安心させようとした政治的な策略だった可能性もある。
米とロシアは時折イスラエルを非難したが、いずれの政府が用いる表現も、自国の方針に不服従である他の国々に対する脅迫とは比較にならない程度のものだった。実際のところ、ロシア政権はイスラエル政権に対して2月に最も強い警告を発したが、それは、ロシア外務省のマリア・ザハロワ広報官が記者たちに語った「武器を(ウクライナに)提供する全ての国々は、我々ロシア政府はそれら(の武器)をロシア軍の正当な標的と看做すのだということを理解すべきです」というものだった。
ザハロワ広報官が発言の中で行った言及をイスラエルは理解した。その発言が、CNNによるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のインタビューの直後のものだったからだ。そのインタビューの中で、ネタニヤフ首相は、イスラエルは人道援助とは別枠で「他の種類の援助」をウクライナに送ることを「検討中」だと語っていた。同じインタビューの中で、ネタニヤフ首相は、イスラエル政権とロシア政権との関係は「複雑」なものであり、その理由は両国のシリア関連での利益の対立や、中東地域におけるイスラエルの宿敵であるイラン政権とのロシア政権の強い関わりに由来するのだと述べた。
ネタニヤフ首相は、ベネット首相やラピード首相というそれまでの2人の首相とは異なり、ロシア・ウクライナ戦争とそれに続く世界的な冷戦においてある程度の中立性を保つことを強く望んでいた。ネタニヤフ首相が誠実であったかどうかは別問題として、ロシア政権は新たなイスラエル政権の姿勢に対して、以前の政権の姿勢よりは、はるかに強い安心感を持っているように見受けられる。
「パレスチナの指導者たちは、ロシア・ウクライナ戦争の開始以降に開けた地政学的空間を活用することにほぼ失敗している」ラムジー・バロード
例えば、2022年7月、ロシア法務省は、100年前に設立された、ユダヤ人のパレスチナへのそしてその後イスラエルへの移住の促進を目的とする政府機関「イスラエルのためのユダヤ機関 」に対して、法的闘争を宣言した。このロシアの動きは明白に政治的なものだった。それは、イスラエル政権がウクライナ側を過剰に支持した場合には、ロシアは多数の報復手段を意のままに使用可能であるという強いメッセージをイスラエル側に送ることにあった。これに対して、イスラエルは、シリアに対する空爆の頻度を上げることで、自国にも選択肢があるのだというメッセージをロシア政権への返信とした。
実際の所、ユダヤ機関への法的措置はイスラエルにおいて深刻な警鐘となった。この件は、イスラエルの政治的策略や一貫性を欠く政治的思惑に対峙するロシアの真剣さを示したのだった。
それでも、ロシアとイスラエルの間の亀裂は、パレスチナ人に対して未だに何の影響も与えていない。それには理由があるのだ。
その1つ目は、ロシアの、そしてそれ以前にはソ連の、イスラエル観は歴史的にロシア自身の政治的優先順位に基づいていたからという理由である。
2つ目は、ロシアのイスラエル政権に対する外交政策における言説は、最近数十年間は、イスラエル政権に対するアラブ諸国の全体的姿勢と概ね連動したものだったということだ。これは、ロシア政権とイスラエル政権の関係が、1967年のアラブ・イスラエル戦争で途絶え、1991年のイスラエル・パレスチナ・アラブ和平交渉で回復したことにも示されている。パレスチナに対するアラブの統一見解が不在の現在、イスラエルの占領に対するロシアの影響力の行使を強める切迫した理由は無いに等しい。
3つ目は、パレスチナの指導者たちは、ロシア・ウクライナ戦争の開始以降に開けた地政学的空間を活用することにほぼ失敗しており、パレスチナ自体がロシアの政治的思惑にとって全く重要ではなくなっているという理由である。
実のところ、イスラエルがロシア・ウクライナ戦争関連でより一貫した、より非攻撃的な立場を取り始めるや否や、イスラエルはその報酬を得るようになった。7月には、エリ・コーヘン外相は、西エルサレムに領事館を開設するというロシアの決定を受け、イスラエルの「外交的成果」を祝った。この予期しない発表では、ロシア政府系メディアの一部が、イスラエルの首都を、テルアビブではなく、「西エルサレム」という表現で言及したことも驚きだった。
パレスチナ問題に対するロシアの姿勢は依然として強固であり、ロシアのイスラエルに対する譲歩は恐らく一時的なものに過ぎず、ロシア・ウクライナ戦争でそうすることが必要になっただけだと論じることも可能だ。強いアラブ支持層がクレムリンにもロシア連邦議会下院にも存在することを念頭に置けば、確かにその通りなのかもしれない。
そして、また、ロシアのイスラエルとパレスチナに対する現時点での外交政策は完全にロシアの優先事項によって理由付けられていると考えることも可能だ。実際、これが真実だ。つまり、ロシア政権がパレスチナの支持者であって当然と考えるわけにはいかず、また、ロシアがエルサレムをイスラエルの首都として完全に承認することも絶対に無いわけではないということなのである。
●ウクライナ南部ザポリージャ、ロシア無人機による集中攻撃… 8/22
ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、ウクライナ南部ザポリージャ州の州都ザポリージャで22日未明、ロシア軍の自爆型無人機による集中攻撃があり、爆風でビル4棟が損壊した。南方のロボティネなどでは反転攻勢を展開するウクライナ軍の前進が伝えられており、露軍が補給の妨害を狙った可能性がある。
一方、露国防省は22日、モスクワ州内と西部ブリャンスク州で、ウクライナの無人機攻撃があったと発表した。いずれも撃墜したとしている。黒海にあるロシアのガス生産施設の区域では、ウクライナの偵察艇1機を破壊したという。
ロシア語の独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」は22日、無人機2機は、モスクワ郊外にある愛国者公園から6〜7キロ・メートルの地点に落下したと伝えた。この公園では最近まで、露軍が戦場で得たウクライナ軍兵器の展示会が開催されていたという。ウクライナは24日に旧ソ連からの独立記念日を控え、露本土を標的にした攻撃を強めているとみられる。
●ロシア 無人機の飛来相次ぐ 一部はロシア国内からという見方も 8/22
ロシアの首都モスクワ近郊などでは、22日も無人機の飛来が相次ぎました。一部の攻撃はロシア国内から行われているという見方も出ています。
ロシア国防省は22日、モスクワの近郊と、ウクライナと国境を接する西部のブリャンスク州に、それぞれ無人機2機が飛来したものの、阻止し、けが人はいないと発表しました。
ウクライナによる攻撃だとしています。
モスクワ州の知事は、車や建物に被害が出たとして、窓が割れた車などの写真をSNSに投稿しました。
さらにロシア国防省は22日、黒海にあるロシアのガス採掘施設付近で、ウクライナ軍のボートを破壊したと発表しました。
ロシア側は国内への攻撃が相次いでいるとして警戒を強めています。
一方、今月19日、ロシア北西部ノブゴロド州の軍用飛行場で無人機による攻撃があり、航空機が破損したことについて、ロシア国防省は回転翼式の無人機が使われたとしています。
これについてイギリス国防省は22日、「ウクライナとの国境から650キロ離れている。回転翼式の無人機の航続距離で到達できる可能性は低い」と指摘し、攻撃がロシア国内から行われた可能性があるという分析を示しました。
これに加えてウクライナの地元メディアは国防省情報総局関係者の話として、今月21日にも無人機がモスクワに隣接するカルーガ州の飛行場を攻撃し、爆撃機2機を損傷させたとしています。
この攻撃について情報総局の報道官は別の地元メディアに対し、「情報総局が調整したグループが成果を上げ、ロシアの中心部から帰還することに成功した」と述べ、ロシア国内から攻撃を行ったと主張するとともにさらなる攻撃を示唆しました。
プリゴジン氏 反乱後初 動画メッセージ公開
ことし6月にロシア国内で武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏の動画メッセージが21日、SNSで公開されました。
プリゴジン氏の動画メッセージが公開されるのは反乱後、初めてです。
動画は40秒ほどで、撮影された日時や場所は明かされていませんが、アフリカのある国にいるとしています。
広い大地に立つプリゴジン氏は、迷彩服姿で銃を持ち「仕事をする。気温は50度。ワグネルは偵察活動を行っており、すべての大陸でロシアをより偉大に、アフリカをより自由にする」などと話し、ロシアに貢献していくことを強調しています。
そのうえで「英雄を雇い、定められた任務を遂行する」と話し、戦闘員を募集する意向を示したものとみられます。
ワグネルの部隊は、反乱のあと、ロシアの隣国ベラルーシへ移動していましたが、これまで活発に活動してきたアフリカに拠点を移すとの見方も出ていました。

 

●BRICS首脳会議が開幕 ロシア・プーチン大統領はビデオメッセージで参加 8/23
中国、ロシア、インドなど新興5か国でつくるBRICSの首脳会議が南アフリカで開幕しました。中国やロシアは欧米との対抗軸としてBRICSの強化を目指していて、加盟国の拡大について明確な方針を打ち出せるかどうかが焦点です。
中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの新興5か国でつくるBRICSの首脳会議が22日、南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで開幕しました。
対面での首脳会議は4年ぶりで、4か国の首脳が会場に集合した一方、ウクライナへの侵攻をめぐってICC=国際刑事裁判所から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領は、訪問を見送りビデオメッセージで参加しました。
中国やロシアは欧米との対抗軸としてBRICSの強化を目指していて、加盟国の拡大について明確な方針を打ち出せるかどうかが焦点です。
議長国 南アフリカ ラマポーザ大統領「我々はBRICSの一員になりたいという各国の様々な要望を考慮するつもりです」
BRICS首脳会議は24日までの3日間の日程で行われる予定です。
●BRICS、「世界の多数派」の願望満たす=プーチン氏 8/23
ロシアのプーチン大統領は22日から南アフリカで開幕した新興5カ国(BRICS)サミット(首脳会議)向けの発言で、BRICSは世界人口の大半の願望を満たす方向に向かっていると述べた。
「われわれは平等、パートナーシップの支援、相互利益の尊重という原則に基づいて協力している。これがBRICSの未来志向型の戦略的方針の本質であり、世界共同体の主要部分、いわゆる世界の多数派の願望を満たすものだ」とした。
BRICS加盟国であるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは世界人口の40%以上を占めている。今回のサミットでは新たな加盟国についても協議される予定。
プーチン氏はまた、サミットでは加盟国間貿易の米ドルから自国通貨への切り替えについて詳しく議論すると言及。「われわれの経済関係の脱ドル化という客観的かつ不可逆的なプロセスは勢いを増している」とした。
さらに、ロシアはアフリカに対する信頼できる食料供給国であり続けると言及。先月のロシア・アフリカ首脳会議(サミット)で確約したように、アフリカ諸国グループへの穀物の無償提供について最終的な話し合いを進めていると明かした。
●プーチン大統領、資本流出を規制するよう政府と中銀に指示 8/23
ロシアのプーチン大統領は22日、同国からの資本流出を規制し、金融市場のボラティリティーを軽減させる措置を講じるよう求め、通貨ルーブルの下落に伴う物価上昇の脅威を警告した。
プーチン大統領はテレビ放映された当局者らとの会合で、政府とロシア銀行(中央銀行)は「とりわけ、経済における非生産的かつ投機的な需要を制限し、資本流出を規制するとともに、他の金融市場参加者の行動を監視するために取り組む必要がある」と述べた。
●プーチン大統領がインフレに警戒感、当局へ対応指示 8/23
ロシアのプーチン大統領は22日の政府幹部向けテレビ演説で、インフレのリスクが増大しつつあると警戒感を示した上で、当局に物価抑制への取り組みを改めて指示した。
来年3月の次期大統領選で再選を目指すプーチン氏にとって、物価高騰による国民の生活水準低下は大きな逆風になりかねない。昨年2桁の伸びだったロシアの物価上昇率は今年春にいったん落ち着いたものの、なお中央銀行が目標とする4%を上回り、足元でじわじわと高まってきている。
プーチン氏は「われわれが解決しようとしている課題の大きさと複雑さは、非常に異例の性質を持っている」と主張。全体的な状況は安定しているとはいえ、事態を注視して適宜適切な決断をしなければならないと付け加えた。
ロシアではウクライナ侵攻に伴う財政支出の大幅な拡大や、深刻な人手不足が絶えず物価押し上げ圧力になっている。通貨ルーブルも下落し、先週には中銀がこれに対応して350ベーシスポイント(bp)の利上げを余儀なくされた。
プーチン氏は金融市場の不安定化についても、企業の投資判断の妨げになると指摘し、制御が必要だとの見方を示した。
●プーチン氏が空軍司令官を解任 ワグネル反乱関与か、独立系メディア 8/23
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ侵攻で軍の副司令官も務めるスロビキン・航空宇宙軍司令官を解任したと、ロシアの独立系メディアが22日、報道した。スロビキン氏は民間軍事会社ワグネル反乱後から消息が分からなくなり、反乱に関与した疑いで拘束されたと伝えられていた。
ロシアのリベラル系ラジオ「モスクワのこだま」のアレクセイ・ベネディクトフ元編集長が同日、スロビキン氏が航空宇宙軍司令官を大統領令で解任され、国防省預かりとなったと投稿した。
ロシアの独立系メディアによると、解任は18日とみられ、大統領令は非公開だという。
スロビキン氏はワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏に近いとされ、事前に反乱を知っていたとの情報もある。6月24日、動画でワグネルに投降を呼びかけた後、消息不明となっていた。 
●プーチン大統領、ロシア航空宇宙軍・スロビキン総司令官を解任 8/23
ロシアのプーチン大統領が航空宇宙軍のスロビキン総司令官を解任したと複数のロシアメディアが報じました。
ロシアの有力紙「RBC」などは22日、大統領令によってスロビキン氏がロシア航空宇宙軍の総司令官を解任されたと報じました。
さらに、ウクライナでの軍事作戦の副司令官のポストも解任されたとしています。
スロビキン氏はロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏と近く、今年6月の武装反乱を支援した軍人の1人だったと指摘されていて、反乱後は公の場に姿を現していません。
国営ロシア通信は23日、航空宇宙軍の総司令官代行にビクトル・アフザロフ参謀長が任命されたと報じています。
ブルームバーグは20日、関係者の話として、クレムリン内部の一部の強硬派は、ショイグ国防相らの解任を求めるプリゴジン氏の考えを今も支持していると報じていて、プーチン政権内部の対立は続いているとみられます。
●米、ウクライナにロシア領内への攻撃奨励せず=国務省 8/23
米国務省の報道官は、ロシア領内への攻撃を奨励したり可能にすることはないとの政府の立場を表明した。ロシア当局がモスクワ攻撃を試みたドローン(無人機)を撃墜したと発表したことを受けた。
報道官は、ロシアの侵攻からどのように自国を守るかはウクライナが決めることだと述べるとともに、ロシアはウクライナから撤退することでいつでも戦争を終わらせることができると強調した。
ロシア国防省は23日未明、モスクワ攻撃を試みたドローン3機を撃墜したと発表した。
ロシアのタス通信によると、モスクワの空港では航空便の運航が停止された。
●戦略爆撃機を破壊し、モスクワを恐怖に陥れるーウクライナドローン軍 8/23
ウクライナ国境から数百キロメートル離れたロシアの主要空軍基地で、超音速爆撃機を標的にしたドローン攻撃がおこなわれたことが注目を集めている。この攻撃はロシア領内から仕掛けられた可能性があると、新たな検証で指摘されたからだ。
英国防省が8月22日に発表したところによれば、モスクワとサンクトペテルブルクのあいだ、ウクライナ北部にあるロシアとの国境から約650キロに位置するノブゴロド州のソルツイ2(Soltsy-2)空軍基地で、ロシアのTu-22M3(ツポレフ22M3)爆撃機が破壊された可能性が「きわめて高い」という。
ロシア政府は、モスクワ時間8月19日午前10時ごろ、ウクライナがヘリコプター型無人航空機(UAV)で空軍基地を攻撃したと述べ、航空機1機が損傷を受けたと付け加えた。
英国防省はX(旧ツイッター)への投稿のなかで、この攻撃をヘリコプター型無人航空機(UAV)がおこなったのであれば、「ロシア軍に対する一部のUAV攻撃は、ロシア領内を起点としているとする見方の信憑性が高まる」と述べている。
攻撃はロシア国内から?
英国防省によれば、ヘリコプター型UAVの航続距離では、ロシア国外からソルツイ2空軍基地に到達できない可能性が高いという。ニューズウィークは、ウクライナとロシア両国の国防省にコメントを求めている。
ヘリコプター型ドローンは、ウクライナが重点的に投資している幅広い技術の一つであり、現在では、ウクライナ政府の戦争遂行の取り組みに深く組み込まれている。
注目を集めたいくつかの攻撃では、ロシアが併合したクリミア半島とロシア本土を結ぶ主要な橋や、黒海に位置するロシア軍の海軍基地、ロシアの首都そのものが攻撃用ドローンの標的になっている。ロシア国防省は22日未明、モスクワ上空でウクライナのUAV2機を撃墜したほか、国境付近のブリャンスク州上空でさらにドローン2機を撃墜したと発表した。
ロシア国防省は週末、ノブゴロド州でロシアの複数の超音速爆撃機を攻撃したドローンを「小火器で撃墜した」と述べ、基地で発生した火災は消防隊が鎮火したと続けた。
だが、その後すぐに、少なくとも1機のTu-22M3爆撃機が完全に炎に包まれていることを示す画像が出まわりはじめた。ロシアはTu-22M3爆撃機を、戦争初期のころから使用している。2022年4月におこなわれた港湾都市マウリポリの包囲戦でも、無誘導爆弾の投下にTu-22M3爆撃機が用いられた。また、ウクライナは2023年8月、ソルツイ2空軍基地を拠点とするTu-22M3爆撃機が、ウクライナ領内にKh-22ミサイルを発射したと発表している。
英国防省によれば、ロシアはTu-22M3爆撃機を、「不正確さで悪名高いKh-22長射程空対艦ミサイルをウクライナに向けて」発射する際にも用いている。
だが、ロシア領内の奥深くで戦闘機が破壊されたことは、戦争がロシア国民の近くに迫っているのに、ロシア政府が空軍基地や戦略的に重要な拠点を守れていないという印象を与える。
英国防省は、「LRA(長距離戦闘機)の飛行場に対する攻撃が成功したのは、今回で少なくとも3回目だ。領内の奥深くに位置する戦略的拠点を防衛するロシアの能力に、またもや疑問符がつけられた」と述べている。過去の攻撃には、サラトフ州の州都サラトフに近いエンゲリス空軍基地を標的にしたものも含まれている。ウクライナの前線から数百キロ離れた同基地は、ロシアの戦略的爆撃機の多くが拠点としている。
ワシントンDCを拠点とする米国のシンクタンク戦争研究所(ISW)は8月20日、ロシア軍に対するとりわけ大きな批判は、影響力の大きいロシアの軍事ブロガーコミュニティから出ていると指摘した。一部の軍事ブロガーは、航空機を格納庫に入れておかなかったことや、ヘリコプター型ドローンの攻撃をかわす「もっとも初歩的な保護設備」やサイバー防御さえ用いていなかったことについてロシア政府を非難しているという。
ロシアのTu-22M3戦略爆撃機2機を破壊、もしくは損傷させたことは、「それだけでは軍事的に大きな影響を与えないだろう」とISWは述べている。「だが、この攻撃に対するロシアの軍事ブロガーの反応は、領内深くへの攻撃には、ロシア国民の士気を大いにくじくと効果があることを示している」
●露軍ミサイル6500発・無人機3500機「大半は民間施設を狙った」… 8/23
ウクライナ空軍などによると、ロシア軍は23日未明、ウクライナ南部ザポリージャ州やオデーサ州を自爆型の無人機で攻撃し、同州の穀物保管施設が炎上した。ロシアの首都モスクワ中心部にも23日未明、無人機攻撃があった。ロシアによるウクライナ侵略は、24日で開始から1年半となる。両軍の無人機攻撃の応酬が激しさを増している。
ウクライナ軍は、露軍が無人機最大20機を発射し、11機を撃墜したとしている。エジプトとルーマニア向けの穀物約1万3000トンが被害を受けたという。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は20日の記者会見で、露軍が侵略開始以降にウクライナを攻撃したミサイルは約6500発、無人機は約3500機だったとし、「大半は民間施設を狙ったものだった」と非難した。
一方、露国防省によると23日のモスクワ方面への攻撃では無人機3機が発射され、1機が中心部のビジネス街「モスクワ・シティ」にある建設中の建物に衝突した。ウクライナと国境を接する露西部ベルゴロド州知事は23日、ウクライナが無人機から爆弾を投下し、3人が死亡したと主張した。
露大統領府は23日、プーチン大統領が、占領した東・南部4州のうち2州の露側トップと会談し、支援を継続する姿勢を強調したと発表した。撤退に応じる意思がないことを示すものだ。
ウクライナ政府は23日、ロシアが2014年に併合した南部クリミアの解放を目指して21年に創設した多国間の外交枠組み「クリミア・プラットフォーム」の首脳会議を開いた。首脳会議の開催は3回目となる。
●新興5か国 BRICS首脳会議“加盟国拡大”議論の行方は 8/23
中国、ロシア、インドなど新興5か国でつくるBRICSの首脳らによる会議が南アフリカで開かれ、中国の習近平国家主席は「BRICSの拡大のプロセスを加速すべきだ」と述べ、加盟国の拡大に意欲を示しました。ロシアとともに欧米への対抗軸としてBRICSの強化を目指す中、加盟条件などの議論の行方が注目されています。
焦点は“加盟国の拡大”
中国、ロシア、インド、ブラジルそして南アフリカの新興5か国でつくるBRICSの首脳会議は南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで22日から開かれていて、2日目は首脳らによる全体会議が開かれています。今回の会議では加盟国の拡大が大きな焦点となっていて、中国の習近平国家主席は「BRICSの拡大のプロセスを加速し、より多くの国を参加させて知恵を集め、国際秩序をより公正な方向に発展させていかなければならない」と述べ、改めて加盟国の拡大に意欲を示しました。
中国やロシア“欧米への対抗軸”目指す
また、対面での出席を見合わせたロシアのプーチン大統領もオンラインで演説し、「BRICSの戦略的な方向性は将来を見据えたもので、世界の多数派の期待に応えている」と述べ、BRICS各国との連携と枠組みの強化を進めていきたい考えを示しました。中国やロシアが欧米諸国への対抗軸としてBRICSの強化を目指す中、これまでにイランやサウジアラビア、アルゼンチンなど、20か国あまりが参加を希望していて、新規加盟の条件などをめぐる議論の行方が注目されています。
ロシアと欧米の間で板挟みの南アフリカ
ロシアがウクライナに侵攻した後も、南アフリカはロシアとの友好関係を維持していますが、その姿勢をめぐっては国内でも意見が割れています。南アフリカはロシアの軍事侵攻を非難する内容の国連総会の決議をいずれも棄権しているほか、侵攻から1年となることし2月にはロシアや中国との軍事演習も行いました。南アフリカの政権与党、ANC=アフリカ民族会議は、かつてアパルトヘイト=人種隔離政策の撤廃に向けた闘争で当時のソビエトの支援を受けた経緯があり、現在もロシアとの関係を重視する傾向があります。
国際関係・協力省報道官「ロシアとの間に歴史的つながり」
これについて、南アフリカの国際関係・協力省の報道官は「われわれとロシアの間には歴史的なつながりがある。ロシアがウクライナとの紛争を抱えているからといって、その事実が変わるわけではない。われわれは国益に基づき、外交を展開する」と述べ、ロシアとの関係の維持を正当化しています。
野党は批判「国際的な地位と経済 大きく損ねる」
これに対して南アフリカの野党からは、政府がロシアによる軍事侵攻を非難せず、友好関係を維持していることで、南アフリカの国際的な地位と経済的な利益を大きく損ねていると非難の声が出ています。
市民の意見も分かれる
市民の意見も割れていて、南アフリカ第2の都市ケープタウンで市民に話を聞いたところ、「南アフリカはロシアと協力すべきではなく、首脳会議を開くべきではない」とか、「ロシアとの友好関係を維持するのは疑問で、欧米との重要な関係を損なうことになる」などと否定的な意見も聞かれました。その一方で、「南アフリカとロシアは長年、友好関係で結ばれてきた。離れることはできない」とか、「アメリカだってイラクやアフガニスタンに侵略し、多くの市民を殺したことには変わりない」などと、ロシアとの関係を支持し、欧米に反感を抱く声も聞かれました。
政治アナリスト「南アフリカにどちらかを選択する余裕はない」
南アフリカの政治アナリストで、国際関係に詳しいダニエル・シルク氏は「南アフリカの与党にはロシアへの長年の友好関係に加え、欧米への不信感が今もあり、ロシアはそこを巧みに突いた外交を展開している。しかし、経済が著しく低迷する中、欧米との関係も重要で、南アフリカにはどちらかの陣営を選択するような余裕はない」と指摘しています。
アメリカは警戒強める
南アフリカがロシアと友好関係を維持していることにアメリカなどは警戒を強めています。ことし5月には、南アフリカに駐在するアメリカの大使が、「去年12月、南アフリカの海軍基地からロシアの貨物船に武器や弾薬が積み込まれ、ロシアに運ばれた」と指摘しました。南アフリカ政府はこれを否定していますが、独立した調査委員会を設けて事実関係を調べています。また、ことし6月にはアメリカの有力な上院議員らが、南アフリカはロシアの軍事侵攻を事実上、支持しているとして、アフリカ諸国からの輸入品への関税を免除する優遇措置から排除される可能性があると警告しました。そのうえで、ことし南アフリカでの開催が予定されているアメリカとアフリカ諸国の通商協議の開催地を変更するようアメリカ政府に求めています。南アフリカにとってアメリカは中国に次ぐ第2の貿易相手で、ラマポーザ大統領がアフリカ諸国の代表とともにウクライナとロシアの双方を訪れ、和平に向けた仲介を申し出るなど、ロシア寄りだとする指摘の解消を図る動きも見せています。
経済界からは懸念の声
しかし、経済界からは、今回、BRICSの首脳会議を南アフリカで開くことで、アメリカからの圧力がますます強まるのではないかとの懸念の声が出ています。南アフリカの西ケープ州でかんきつ類を生産する農場では、アメリカの貿易優遇措置の恩恵を受けてオレンジの輸出を進めていて、売り上げの45%をアメリカ向けの輸出が占めているということです。1000ヘクタールの農地で年間4万トンのかんきつ類を栽培し、収穫のピーク時にはおよそ2000人の労働者を雇用するなど、地域経済の要となっています。しかし、最近は肥料や農薬、燃料などの価格高騰や船での輸送費用の値上がりで、ことしの生産コストは去年に比べて20%上昇していて、ウクライナ情勢の影響に加え、アメリカとの関係が悪化しないか懸念を強めています。
農場経営者「アメリカの優遇措置を失えば大きな損害」
農場を経営するへリット・ファン・デル・メルウェさんは「私たちにはアメリカとの貿易が必要です。もし、大国間の争いに巻き込まれ、アメリカの優遇措置を失えば、われわれだけでなく、地域全体も大きな損害を受けることになります」と話していました。

 

●プーチン氏、予定通り公務 ウクライナ国境州訪問―ロシア 8/24
ロシアのプーチン大統領は23日夜、ウクライナと国境を接するクルスク州を訪れ、第2次大戦で独ソが戦車戦を繰り広げた「クルスクの戦い」から80年の記念行事に出席した。国内で同日夕、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の自家用ジェット機が墜落する惨事があったが、報道によると、予定通り公務をこなして深夜にモスクワへ戻った。
●プリゴジン氏死亡…搭乗機撃墜 反プーチン派組織幹部「ロシア国防省が犯人」 8/24
ロシア非常事態省の23日の発表によると、モスクワから第2の都市・サンクトペテルブルクに向かい飛んでいたプライベートジェット機が北西部トゥベリ州で墜落。
この飛行機には乗客乗員10人が乗っていたが、全員死亡したという。
乗客名簿にはロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏の名前が載っていて、ワグネル側も死亡を認めた。
ロシア反体制メディアによると、反プーチン派のロシア人武装組織「自由ロシア軍」の幹部は、「ショイグ国防相の命令を実行した、ロシア国防省が犯人だ」と指摘している。
●プリゴジン氏の搭乗機墜落、プーチン氏関与の可能性 バイデン氏ほのめかす 8/24
バイデン米大統領は23日、ロシアの首都モスクワ近郊で起きた航空機の墜落に触れ、ロシアのプーチン大統領が関与していたかもしれないとの考えをほのめかした。
墜落機の搭乗名簿には民間軍事会社ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏の名前がある。バイデン氏は、プリゴジン氏が狙われたとしても驚かないと語った。
バイデン氏はCNNの取材に「覚えているかもしれない。私はこれについて聞かれたことがある」と述べ、反乱に失敗したプリゴジン氏は自らの身の安全を心配すべきだと指摘した7月のコメントに言及した。
「私なら何に乗るか気をつけると言ったんだ。何が起きたのか事実は分からないが、驚きではない」(バイデン氏)
バイデン氏は7月、フィンランドの首都ヘルシンキで行った記者会見で、自分がプリゴジン氏なら「食べるものに気をつけ、メニューから目を離さないだろう」と述べていた。
バイデン氏は今回、「ロシアで起きることでプーチン氏が背後にいない事案は多くない。ただ、私は答えを知るだけの情報は持っていない」と述べた。
●バイデン米大統領「驚かない」=プーチン氏主導を示唆―ロシア機墜落 8/24
バイデン米大統領は23日、記者団に対し、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が搭乗機リストに記載されている自家用ジェット機が墜落し、乗員全員が死亡したとの情報に関し、「何が起こったのか、真相に関しては分からないが、驚きはない」と述べた。
バイデン氏は「ロシアで起きることでプーチンが関わっていないことは多くない」と述べ、プーチン大統領が関与していたとの見方を示唆した。ただ、「答えを知るほどには十分に分かっていない」として、詳細には触れなかった。・・・ 
●プリゴジン氏死亡報道 ウクライナ幹部「プーチン氏は待っていた」 8/24
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏が死亡したとみられるジェット機墜落を巡り、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は23日、ソーシャルメディアに「彼(プーチン露大統領)が時機を待っていた」と投稿し、プーチン氏が関与した暗殺の可能性を示唆した。
ポドリャク氏は真相解明には「戦争(ロシアによるウクライナ侵攻)の霧が晴れるのを待つべきだ」としつつ、「プーチンが6月に自らを無力化しようとした獣のような恐怖を誰にも許さないのは明らかだ」と、ワグネルによる6月の反乱に言及した。
また、「プリゴジンが(プーチン氏との仲介役となって反乱を収束させたベラルーシ大統領の)ルカシェンコの奇妙な『保証』とプーチンのばかげた『正直な言葉』を信じた瞬間に、自ら死刑執行命令書に署名したことも明らかだ」と主張。今回の事態は、2024年3月のロシア大統領選を前に、「忠誠を尽くさなければ死ぬ」という「ロシアのエリートたちへのシグナルだ」と指摘した。
●プリゴジン氏死亡か ロシア 自家用ジェット機墜落 8/24
ロシア非常事態省は23日、首都モスクワからサンクトペテルブルクに向かっていた自家用ジェット機が北西部のトベリ州で墜落したと発表しました。ロシアの航空運輸局によりますと乗客7人と乗員3人が搭乗していたということで、10人の氏名を公表しました。この中には民間軍事会社ワグネルの代表と同じ「エフゲニー・プリゴジン」という名前が含まれています。
テレグラムのチャンネル「プリゴジン氏が死亡」
また、プリゴジン氏に近いとみられるテレグラムのチャンネルは、日本時間の24日朝早く「プリゴジン氏が死亡した」と伝えました。墜落を受けて、ロシアで重大事件を扱う連邦捜査委員会は、10人全員が死亡した可能性があるとした上で現場に調査チームを派遣して墜落の原因を調べる方針を明らかにしました。
6月にはワグネルの部隊率いて武装反乱
プリゴジン氏はウクライナへの軍事侵攻で東部の激戦地バフムトの前線にワグネルの戦闘員を送り込み、戦果を強調するなど存在感をアピールしましたが、国防省との確執を深め、ことし6月24日、ワグネルの部隊を率いて武装反乱を起こしました。その後ロシアと同盟関係にある隣国のベラルーシへ移動していましたが、今月21日にはアフリカで撮影したとする動画メッセージをSNSで公開していました。
機体とみられる物体 上空から回転しながら落下
ロイター通信は、ロシアの北西部トベリ州で飛行機が墜落する様子だとする映像を配信しました。映像では、機体とみられる物体が上空から回転しながら落下していくようすが確認できるほか、「2回爆発があった」と話す声も入っています。また、墜落現場をうつしたとされる映像では、機体の残骸とみられるものが激しく燃え、黒い煙が上がっているのが確認できます。さらに、別の角度から撮影された映像では残骸とみられるものが燃える中、何かが爆発するような音も聞こえます。ロイター通信は、プリゴジン氏が実際に搭乗していたかは確認できていないとする一方、映像から、墜落した場所などは確認できているとしています。
国営ロシアテレビも墜落伝える
国営ロシアテレビも自家用ジェット機の墜落について伝えています。この中でロシア非常事態省の話として墜落した飛行機には乗客7人と乗員3人が搭乗していて、「搭乗者名簿にエフゲニー・プリゴジン氏の名前が載っている」と伝えています。また、飛行機の破片とみられるものが空から落ちてくる様子や、機体とみられるものが激しく燃えている映像を伝えています。
米バイデン大統領「驚いてはいない」
アメリカのバイデン大統領は23日、滞在先の西部ネバダ州で記者団に対し「実際に何が起きたかはわからないが、驚いてはいない」と述べました。そのうえでプーチン大統領が墜落に関係していると考えるかどうか問われると「ロシア国内での出来事でプーチン大統領が背後にいないことはあまりない。ただ、その質問に答えるに足る情報を得ていない」と述べました。またNSC=国家安全保障会議の報道官はNHKの取材に対し、「報道は把握している。事実が確認されたとしても誰も驚かないだろう。ウクライナにおける悲惨な戦争が民間の部隊によるモスクワに向けた進軍へとつながり、今回のことにつながったように思われる」とコメントしました。このほかアメリカ国防総省の報道担当者は「事態を注視している」とコメントしています。
機体データ 上昇と下降を繰り返した直後に途絶える
旅客機が発信する位置や高度の情報をもとに飛行コースを公開している民間のホームページ「フライトレーダー24」は、墜落したとされる機体の動きを示しています。それによりますと、機体はモスクワ州の上空を画面左上の北西方向に向かって移動している様子が確認できます。その後機体のデータは、現地時間の午後6時11分、高度がおよそ2万8000フィート、およそ8500メートルまで上がった時点で位置情報は途切れています。しかし「フライトレーダー24」はその後、機体の位置情報の発信が途絶えたあともおよそ9分間、高度や速度などのデータの送信は続いていたと発表しました。それによりますと、高度8500メートル付近を飛行していた機体は、午後6時19分から上昇と下降を繰り返し、その直後におよそ20秒間に2400メートルほど急降下し、午後6時20分ごろ、高度6000メートル付近で機体からのデータの送信が途絶えたということです。また「フライトレーダー24」は、機体の位置情報の発信が途絶えた原因について、その地点において人工衛星の測位システムに対する妨害があった可能性があるとしています。
プリゴジン氏とは
民間軍事会社「ワグネル」の代表のエフゲニー・プリゴジン氏は1961年生まれの62歳。プーチン大統領と同じ、現在のサンクトペテルブルク出身です。1996年、レストランを開くなど飲食事業を展開し、店を訪れたプーチン大統領と関係を深めたとされています。設立したケータリング会社は、ロシア大統領府や軍への食事の提供まで手がけ、「プーチン大統領の料理人」とも呼ばれました。2014年ごろ、民間軍事会社「ワグネル」を設立したとみられ、その年のウクライナ東部での紛争で、ウクライナ軍と戦闘を繰り広げたほか、中東のシリアや、アフリカの国々などにも部隊を派遣し、ロシアの国益のために活動してきたと指摘されています。去年、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めると、特にウクライナ東部の激戦地バフムトに、多くの戦闘員を送り込み、犠牲をいとわない戦術で激しく攻撃を繰り返したとみられています。一方、プリゴジン氏は、最前線のワグネルの部隊に弾薬を十分に供給していないとして、ショイグ国防相らを名指しで批判するなど、対立を深めていきました。
ロシア国防省がことし6月、ワグネルの部隊を含む志願兵は、国防省と契約を結ぶ必要があるとする命令を発表すると、プリゴジン氏は拒否し、6月24日にワグネルの部隊を率いて武装反乱を起こしました。首都モスクワに向けて部隊を進めましたが、流血の事態を避けるためだとして、一転して部隊を引き返しました。その後の動向に関心が集まる中、今月21日には、反乱後、初めてとなる動画メッセージが公開され、撮影の日時は明かさず、アフリカのある国にいるとしていました。
岸田総理大臣は
岸田総理大臣は24日午前9時半すぎに改めて総理大臣官邸に入る際、記者団に対し「報道は承知しているが、ロシアの国内情勢についても引き続き重大な関心を持って注視していきたい」と述べました。
●ウクライナの反転攻勢「とても良い方向」 チェチェン独立派の幹部に聞く 8/24
都市への無差別攻撃や民間人虐殺などロシアのウクライナ侵攻の「原型」とされるのが、プーチン大統領誕生につながったとされる第二次チェチェン紛争(1999〜2009年)だ。この紛争でプーチン政権支持に転じ、ロシア南部チェチェン共和国のトップを務めるカディロフ首長の部隊は、ウクライナ侵攻に積極的に参戦。一方、欧州に亡命した独立派はウクライナ軍傘下で戦う。ベルギー在住で、侵攻1年半を前に来日した独立派幹部(亡命政府外相)のイナール・シェリプ氏(52)に現状を聞いた。
「クリミア奪還がカギ」
――ウクライナの反転攻勢をどう見るか。
とても良い方向に進んでいる。ウクライナは派手な戦果より損失を最小限に抑えつつ主導権を握り、目標に近づいている。年内に具体的成果があると思う。
――チェチェンの現状は。
ロシアが占領した結果がカディロフの恐怖政治だ。任務はロシア帝国国境を守ることで、どれほど死者が出ようが関係ない。テロリズムだ。プーチンはカディロフ部隊が精強との神話をつくり上げたが、実際には配下の戦闘員はさほど多くはない。大部分はロシア人らでチェチェン人以外だ。
――ウクライナ議会は昨秋、亡命政府を承認した。
(独立への)重要なステップだ。ウクライナとの間で軍事協定が結ばれ、われわれも戦っている。パスポートも発行し、ウクライナは承認してくれた。バルト三国やポーランドとも(承認を巡り)交渉中だ。
――今後の展望は。
近い将来(チェチェンに)帰還するだろう。軍事作戦になるので内容は明かせない。一つだけ言えるのはロシアが北カフカスから撤退しつつあることだ。最も重要なシグナルはウクライナによるクリミア半島の奪還だ。その後は全てが変わるだろう。チェチェン全土には地下組織があり、独立に備えている。
●ブラジル大統領、国連批判 「BRICSはウクライナ紛争終結に尽力」 8/24
ブラジルのルラ大統領は23日、新興5カ国(BRICS)諸国はウクライナやロシアと戦争終結に向けた取り組みを行っていると述べ、国連安全保障理事会による対応の限界を批判した。
南アフリカのヨハネスブルグで開催中のBRICSサミットでの発言。ルラ氏は、BRICS加盟国を含め、ロシアやウクライナ政府と直接接触する国が増加していると述べた。「われわれは、迅速な停戦と公正で永続的な平和に効果的に貢献するための取り組みに参加する用意がある」と述べた。
また、「ウクライナでの戦争は国連安保理の限界を浮き彫りにしている」と批判した。ロシアのプーチン大統領もリモートで出席する中、「BRICSは、理解と協力のための力として行動しなければならない。ウクライナ紛争解決に向けた取り組みに対する中国、南アフリカ、そしてわがブラジルの貢献に、われわれの意欲が表れている」と述べた。
●ロシア、またウクライナの穀物輸出代替ルートを攻撃 輸出減狙いか 8/24
ウクライナに侵攻するロシア軍は23日未明、ウクライナ南部オデッサ州イズマイルの穀物関連施設を無人機(ドローン)で攻撃した。ウクライナ政府は、ロシア側が意図的にウクライナの穀物輸出を減少させる戦略を取っているとして批判した。
ウクライナのクブラコフ副首相が23日、通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。攻撃を受けたのは、ドナウ川の物流拠点となるイズマイル港で、輸送施設や倉庫などが損傷した。同日だけで同港の輸出能力は15%低下し、エジプトとルーマニアに輸出される予定だった計1万3000トンの穀物が失われたという。
ロシアが7月にウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する合意の履行停止を表明して以来、ウクライナはドナウ川を主な代替輸出ルートとしてきた。これに対し、ロシアは代替ルートへの攻撃を強めており、ウクライナ政府によると、これまでに計27万トンの穀物が失われた。クブラコフ氏はテレグラムで「ロシアは農産品の輸出を停止させるために、計画的に倉庫などを攻撃している」と非難した。
ロシアによる河港施設以外への攻撃も続いている。ウクライナ内務省によると、ロシア軍は23日、ウクライナ北東部ロムヌイの学校施設をドローンで攻撃し、学校関係者4人が死亡した。
一方、ウクライナ国防省は23日、ロシアが占領するクリミア半島に設置されたロシアの地対空ミサイルシステム1基を破壊したと発表した。ロイター通信によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は同日、クリミア半島に関する国際会議に出席し、「クリミア半島はロシアに占領された他の地域と同様、奪還されるだろう」と述べた。
●ゼレンスキー大統領“クリミア奪還へ”国際会議で連帯呼びかけ 8/24
ウクライナ南部のクリミアの奪還を目指して、ウクライナ政府が各国に連帯と支援を呼びかける国際会議が23日、首都キーウで開かれ、ゼレンスキー大統領がクリミアの奪還を目指す決意を改めて強調しました。
クリミア・プラットフォームと呼ばれるこの会議は、9年前にロシアに一方的に併合されたクリミアの奪還を目指して、おととし立ち上げられたもので、今回はロシアによる軍事侵攻が始まって1年半となるのに合わせて、23日、首都キーウで合わせて63の国や国際機関の代表らが参加して開かれました。
この中でゼレンスキー大統領は「クリミアでのロシアの専制政治を解体し、平和的で民主的な生活を取り戻すための明確な展望がある。ロシアは暴力で支配するが、われわれは法の支配を確立する」と述べ、クリミアの奪還を目指す決意を改めて強調しました。
また会議では各国の首脳らがウクライナへの支援を表明し、日本の岸田総理大臣もビデオメッセージで「戦後の復興や災害からの復旧など、日本が蓄積してきた経験や知見を生かしながら日本らしい支援を切れ目なく進めていく」と述べました。
会議のあとの記者会見でゼレンスキー大統領は「われわれは、奪われた領土を取り戻し、そこに住んでいた人々を帰還させることで終止符を打ちたい」と述べ、ロシアに占領された地域の奪還を目指す考えを重ねて示しました。 
●プリゴジン氏の自家用機が墜落、プーチンに反抗したワグネルは指導者を失う 8/24
ロシアの雇い兵組織ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏とその戦闘員が、2カ月前の6月23日夜にロシア政府に対する反乱を起こした際、ウラジーミル・プーチン大統領は自分の気持ちを明確に示した。「わが国民を後ろから刺す」「裏切り」だと。そして、犯人は処罰されると約束した。
だからこそ、プリゴジン氏らが処罰されなかったことに、ロシア国民は驚き、不信を抱いた。プリゴジン氏とクレムリン(ロシア大統領府)との間で、反乱を終わらせるための合意が結ばれたことに。そして、あいまいなままあっという間におわった反乱で、複数のロシアの軍人が命を落としたにもかかわらず、ワグネル創始者とその戦闘員に対するすべての罪状が取り下げられたことに。
こうした対応は、プーチン大統領を弱く見せた。
訴追免除と引き換えに反乱を終結させるという合意について、ロシアの新聞はこう書いた。 「この種の妥協は通常、政敵との間でなされるもので、犯罪者やテロリストと結ぶものでは決してない。では我々は今後、プリゴジン氏を政治家として見るべきということなのだろうか?」。
ところが突如として、見え方が一変する出来事が起きた。
反乱からちょうど2カ月後、プリゴジン氏の自家用機がトヴェリ州クジェンキノ村近くの野原に墜落し爆発した。同氏は死亡したとみられる。ワグネルの共同創始者で司令官のドミトリー・ウトキン氏も、同乗していたとされる。
ロシアの政財界エリートは、プリゴジン氏の死亡報告に涙を流したりしないはずだ。同氏が公然と声高に非難し、解任を求めたロシア軍指導部も同様だ。ワグネルの指導者はいわゆる、本人が「正義の行進」と呼んだ反乱について、標的はクレムリンではなく、セルゲイ・ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長だと主張していた。
しかし実際には、ワグネルの反乱はプーチン大統領の権威に対する直接的な挑戦だった。そして、クレムリンにとっては屈辱的な24時間でもあった。プーチン氏は国からワグネルに資金を提供していたことを、反乱後に自ら説明した。つまり、明らかに金で忠誠心は買えなかったわけだ。
今回の航空機墜落が権力者による報復行為だとすれば、プリゴジン氏の忠実な支持者たち、そして武力抵抗を検討していたかもしれないロシア国内の人物に対して、2つの明確なメッセージを発したといえる。
一つは、抵抗など「しようとするな」。
そして、「実際に抵抗した者がどうなったか、見てみろ」というメッセージだ。
つまり、プーチン大統領はこの劇的な出来事を経て、国内的には力を増す可能性があるということだ。
しかし、プリゴジン氏が殉教者扱いされるようになったら? 彼に忠誠を誓った熟練の戦闘員たちが、報復を呼びかけたとしたら? その場合は、どうなるのだろうか。
プリゴジン氏が死亡したとされるこの件について、ワグネル系テレグラム・チャンネル「グレイ・ゾーン」は、「ロシアの裏切り者」のせいだと非難した。
この裏切り者が誰を指すのか、そしてワグネルがどのような対応を取るつもりなのかは、明らかにしなかった。
この飛行機墜落が仮に不正行為によるものだったとしても、ロシアの多くの人にとっては決して意外なことではない。反乱以来、プリゴジン氏の取った行動が本当にこのまま許されるのか、その行く末をめぐり激しい憶測が飛び交っていた。
本人はそのことを承知していたはずだ。しかしこの数週間、自家用機であちこちを飛び回っていた様子から、空での移動が危険だと思っていなかったのは明らかだ。もしかして、自分はあまりにも強力で、今日のロシアにおいてあまりにも重要な人物なので、排除されるはずはないと信じていたのだろうか。
●お茶に放射性物質、不審死…プーチン政権、刃向かえば次々消される? 8/24
ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者、エフゲニー・プリゴジン氏の所有機が23日に墜落し、死亡が確定的となった。ロシアの航空当局は、プリゴジン氏が搭乗していたと発表した。
原因はまだわかっていないが、6月に起こした反乱への「粛清」との見方が強い。プーチン政権下ではこれまでも、政権に刃向かった人物が次々と殺害される事例などが相次いでいた。
政権を批判したロシアの元スパイ、アレクサンドル・リトビネンコ氏は2006年、亡命先のロンドンで殺害された。体調を崩す直前に放射性物質のポロニウム入りの緑茶を飲み、3週間後に死亡した。捜査にあたった英当局は、プーチン大統領が「おそらく承認していた」と結論づけ、世界に衝撃が走った。
オリガルヒ(新興財閥)の一人ボリス・ベレゾフスキー氏は、プーチン氏を政治的に支援していたが決裂。13年に、亡命先のロンドン郊外の自宅で首をつった状態で見つかった。
15年には、野党指導者のボリス・ネムツォフ氏がモスクワ中心部で射殺された。エリツィン政権時代の第1副首相で、プーチン大統領の最大の政敵と呼ばれる人物だった。
相次ぐ「ノビチョク」使った犯行
ロシアの元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏は18年、英南部で娘とともに神経剤「ノビチョク」で襲われた。英国はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の将校による犯行だと断定した。
また、2010年代を代表するロシアの反政権派で、現在国内で収監されているアレクセイ・ナワリヌイ氏は20年8月、国内を航空機で移動中に意識不明の重体となり、ドイツの病院に搬送された。一命を取り留めたが、ドイツ政府は体内からノビチョク系の毒物が検出されたと発表。「ロシア政府だけが答えられる問題だ」としてプーチン政権に説明を求めた。
プーチン氏を批判するジャーナリストの不審死もあった。
チェチェン紛争でロシア政府の残虐行為などを批判したロシアのリベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」のアンナ・ポリトコフスカヤ記者が04年、機内で出された紅茶を飲んで意識不明の重体に。このときは奇跡的に回復したが、2年後に自宅アパートのエレベーター内で射殺体で見つかった。
●プーチンは裏切りを許さなかった、ワグネル創設者プリゴジン死す 8/24
「裏切者は代償を支払わされた」
[ロンドン発]モスクワの北西にある露トヴェリ州で墜落し、乗客7人乗員3人が全員死亡した民間航空機に「プーチンの料理番」こと露民間軍事会社ワグネルグループ創設者エフゲニー・プリゴジン(62)と同ドミトリー・ウトキン(53)が搭乗していたと23日、ロシア民間航空局が発表した。航空機はモスクワからサンクトペテルブルクに向かっていた。
英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア・ユーラシアプログラム副ディレクター、オリシア・ルツェビッチ氏は英BBC放送にこう語った。
「プリゴジンは6月にワグネルの反乱に失敗して以来、いつまで生き延びられるのかと専門家は推測してきた。ウラジーミル・プーチン露大統領にとって明らかな裏切り者の彼は代償を支払わされたようだ」
プリゴジンと、ロシア治安組織や軍情報機関内のシンパはセルゲイ・ショイグ露国防相やワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長が主導するウクライナ戦争の戦い方を辛辣に批判してきた。「ロシアは大きな損失を被っているため、プーチンはその地位に安住できず、プリゴジンはその座を脅かす存在だった」とルツェビッチ氏は指摘する。
米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は7月、米メディアにこんな見方を示していた。
「プリゴジンは試食係をクビにせず、プーチンに気をつけるべきだ。プーチンは『復讐は冷めてから食べるのが一番だ』と考えている。プーチンはプリゴジンをワグネルから引き離し、彼を弱体化させようとするだろう」
他の1機はモスクワに引き返す
英大衆紙デーリー・メールによると、墜落の目撃者は民間航空機が空から落ちてくる前に大きな音が聞こえた。高度8800メートル近くまで上昇したあと、突然、墜落した。
ソーシャルメディア上で地元住民が野原で燃えさかる民間航空機の残骸を撮影した画像を共有している。黒い煙が空に向かって立ち上り、残骸が完全に炎に包まれているのが見える。
ワグネル関連チャンネルは未確認情報として「航空機はロシアの防空網によって撃墜された」と伝えた。航空機はワグネルの所有で、残骸に機体番号「RA-02795」の一部「795」の数字が確認できる。しかしワグネルは普段、別の「RA-02748」機を利用しており、2機のうちこの機はモスクワに無事、引き返した。
プリゴジンは6月に24時間という非常に短い反乱を起こして以来、暗殺を警戒して公の場に姿を現していなかった。ロシアウォッチャーの何人かはプリゴジンを「歩く死人」と表現していた。事故を恐れて高い建物に入らないよう警告され、入念なセキュリティー対策の一環として影武者を使っていたことでも知られる。
ショイグとゲラシモフに嫉妬され、ウクライナ戦争統合軍総司令官から副司令官に降格された「ハルマゲドン将軍」ことセルゲイ・スロビキン上級大将は「プリゴジンの反乱」を黙認したとして拘束され、8月22日、ロシア国防省によって正式に解任された。国防省指導部を批判したウクライナ南部の指揮官イワン・ポポフ少将も粛清の犠牲者になった。
プリゴジン「ワグネルはアフリカでの存在感を高めている」
2014年の東部ドンバス紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮した極右の国家主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官もプーチンのリーダーシップに公然と疑問を唱えたため、7月21日、ロシア当局に逮捕され、8月17日にはガーキンの弁護士も拘束された。ショイグとゲラシモフ、その背後にいるプーチンを批判する勢力は次から次へと粛清された。
米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、プリゴジンはワグネルを存続させるためアフリカでワグネルを再構築しようとしていると指摘していた。ワグネル代表者とプリゴジンが8月19日に西アフリカのマリに到着し、地域の安全保障や、軍事クーデターが起きたニジェールとの協力について話し合った可能性があるという。
21日にはワグネルがアフリカでの存在感を高めていると主張するプリゴジンの動画がテレグラムチャンネルで公開された。撮影場所はアフリカとみられる。プリゴジンは「摂氏50度の熱暑の中、働いている。ワグネルは偵察・捜索活動を行っている。すべての大陸でロシアをより偉大にする。アフリカをより自由に。アフリカの人々に正義と幸福を」と唱えている。
「プリゴジン」は迷彩服を着て自動小銃を手に砂漠に立ち、遠くには武装した男たちとピックアップトラックが映っている。この「プリゴジン」が本物か、影武者かは分からない。撮影場所もはっきりしない。しかし、動画がプリゴジンとワグネルのアフリカでの存在感をアピールしたのだけは確かだ。
戦闘員の月給削減はワグネルの財政難を物語る
悪夢の過激派組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカイダに対して、ワグネルが対処するとプリゴジンは強調していた。ニジェールのクーデター政権がワグネルの介入を懇願したため、ワグネルはニジェールとの契約を確保したという筋立てのソーシャルメディア・キャンペーンをプリゴジンが始めたとロシアの内部情報筋はみていた。
不発に終わった「プリゴジンの反乱」後、ワグネルは国防省や軍の締め付けで兵員と財源の確保に苦しんでいた。「ワグネルがニジェールとの契約を確保し、ロシアとベラルーシから兵員を派遣することができれば、アフリカでの作戦に専念できる。その結果、数千人の兵員を確保できる可能性が高い」とISWは分析していた。
ワグネルのリクルート用テレグラムチャンネルは7月30日、ワグネルがすべてのリクルートを停止し、すべてのロシア地域リクルートセンターは無期限で業務を停止したと発表していた。しかしワグネルは8月21日に新しい求人広告を出し、中東とアフリカでも戦闘員を募集していた。
中東での求人では月給15万ルーブル(約23万円)、アフリカでの求人は月給19万5000〜25万ルーブル(約30万〜38万円)が提示されている。ワグネルのリクルート用テレグラムチャンネルは今年初めから一貫してウクライナでの戦闘員の月給を24万ルーブル(約37万円)と宣伝しており、報酬削減はワグネルの財政難を物語る。
「より危険で予測不可能なロシアと戦わなければならない」
ロシア情勢に詳しいカーネギー国際平和財団ロシアユーラシア・センターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は米外交雑誌「フォーリン・アフェアーズ」に「プーチンのカオスの時代、ロシアが無秩序に陥る危険性」と題して寄稿し「プリゴジンの蜂起は世界の注目を集め、モスクワのエリートたちを深く動揺させた」と指摘している。
「事態は迅速に収拾されたが、モスクワの多くの人々はプーチンの危機管理を理解できずにいる。昨年2月、プーチンがウクライナ侵攻を開始した後、ロシアのエリートは戦争によって国内は何も変わらなかったかのように振る舞った。作戦が頓挫し、西側諸国がロシア経済への制裁を強化する中でもモスクワの権力者たちはいつも通りを貫いているように見えた」
「ロシア国内では新たな前線が開かれている。正体不明の襲撃者たち(ウクライナの治安組織に関係している可能性が高い)がドローンでモスクワを攻撃した。準軍事組織が国境を越えてロシアのベルゴロド州に突入した。そして最も衝撃的だったのはプリゴジンの反乱だ。これらの出来事は現代ロシアでは前例のないことだった」
スタノバヤ氏は「プリゴジンの反乱は状況を極限まで悪化させ、より急進的でタカ派的で冷酷な国家の出現に道を開くかもしれない。クレムリンの弱点の暴露は必ずしも反旗を翻させ、政権を崩壊させることにはならない。プーチンが築き上げた秩序はより無秩序になり、世界はより危険で予測不可能なロシアと戦わなければならなくなるだろう」と指摘している。
●米・バイデン大統領「プーチンが背後にいない案件などロシアではない」 8/24
搭乗者名簿に民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の名前が載ったプライベートジェット機がロシア西部で墜落しました。ワグネルに近いSNSのチャンネルはプリゴジン氏が死亡したとしています。
ロシア西部トベリ州で23日、プライベートジェット機が墜落しました。
ロシアの非常事態省によりますと、ジェット機には乗客乗員あわせて10人が搭乗していて、全員死亡したということです。
航空当局は搭乗者名簿にロシアで反乱を起こしたワグネルの創設者プリゴジン氏の名前があったとしていますが、本人が実際に乗っていたかどうかは確認されていません。
一方、ワグネルに近いSNSのチャンネルはプリゴジン氏について「ロシアの裏切り者の行動により死亡した」と投稿。墜落原因をめぐっては、撃墜や機内での爆発など様々な憶測が飛び交っています。
一方、墜落について報告を受けたアメリカのバイデン大統領は次のように話しました。
アメリカ バイデン大統領「前に聞かれた時、私なら飲み物や乗り物に気を付けると言いましたよね。何が起きたかはわからないが、驚きはしません。(Q.プーチンが背後にいると思いますか)プーチンが背後にいない案件などロシアではあまりない。ただ答えはまだわからない」
●戦争に参加したくないウクライナの男性たち 8/24
ウクライナが、必要な兵士を集めるのに苦労している。
志願兵では足りない。ウクライナでは常に、亡くなったり負傷したりした数万人の兵士の代わりが必要だ。ロシアの侵攻が始まって18カ月がたった今、それ以上の兵士がただひたすら疲弊している。
だが、戦いたくないという男性もいる。わいろを支払ったり、徴兵担当者から逃れる手立てを探したりして、国を離れた人が何千といる。一方で徴兵担当者らは、強引な手口を非難されている。
「システムがとても古い」のだと、イエホルさん(仮名)は言う。イエホルさんは、ソヴィエト時代にアフガニスタン戦争に参加した父親がメンタルヘルス(心の健康)を害したのを見てきた。だから彼は戦いたくないのだ。自分の身元を明かしたくないので、仮名を使いたいと本人が希望した。
ウクライナではロシアの侵攻以前、宗教上の理由で兵役に就きたくない男性には、農作業や社会福祉関連の労働といった他の選択肢が与えられていた。
昨年に施行された戒厳令によって、こうした代替案は消えた。しかしイエホルさんは、戦いたくない各自の理由はなんであっても、選択肢を与えられるべきだと考えている。
「状況は人それぞれだ」とイエホルさんは言う。「全ての男性市民は戦わなくてはならないと憲法に記されていること自体、私の考えでは、現代の価値観にあっていない」
イエホルさんは最近、首都キーウで警察に呼び止められ、兵役を避けていると非難された後、募兵センターに送られた。背中に故障があるのだと訴え、最終的には帰宅を許されたものの、次は許されないだろうと恐れている。
健康状態が悪い場合や、ひとり親の場合、誰かの世話をしている場合などは、兵役を免除される。しかし、徴兵逃れで有罪判決を受けると、罰金あるいは3年以下の禁錮刑が科される。
「それぞれの状況が考慮される状態で、誰もがこの戦争に貢献することが許されるべきだ」とイエホルさんは言う。「最前線にいる人々を気の毒に思うが、平和主義者のための代替案が与えられていない」。
ウクライナ政府の徴兵方法は、その根本から腐敗していると非難されている。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8月半ば、国内各地の徴兵担当者を全員解任した。収賄や脅迫が横行しているというのが、その理由だった。
オデーサ州で徴兵を担当する幹部の家族は、車やスペイン南岸の不動産など数百万ドル相当の資産を最近になって買ったと非難された。この担当官は、身に覚えがないと述べているという。
ウクライナ国防省の関係筋はBBCに対し、こうした疑惑は「恥ずべきことで、容認できない」と話した。
徴兵により、60歳未満の男性のほとんどがウクライナから離れられなくなっている。こっそり抜け出そうとする多くの人は、多くの場合、カルパチア山脈を越えてルーマニアへ向かう。
一方、国内に留まる人々は、大規模なチャットグループの助けを得て招集を逃れている。メッセージアプリ「テレグラム」では、徴兵担当者のパトロール場所が共有されている。地域や街ごとにチャットグループがあり、中には10万人以上が参加しているものもある。
徴兵担当者は、制服の色から「オリーブ」と呼ばれている。この職員に呼び止められた場合、募兵センターで登録するよう命令する紙が渡される。しかし、その場でセンターに連れていかれ、家に帰るチャンスがなかったという報告も出ている。
ウクライナ国防省は国民に対し、政府データベースの情報を最新のものにするよう呼びかけている。また、招集の際には、各自にあった部署に配属するとしている。
しかし、徴兵担当者が厳しい、あるいは脅迫的な手段を使ったとの主張もある。わずか1カ月の訓練で最前線に立つことになった人の報告もある。
当局は信頼回復に必死なようだ。
「怖いと思ってもいい」というのが、最新の情報キャンペーンのスローガンだ。この言葉で、子供のころの恐怖心と、今日の心配事の類似性を引き出そうとしている。
キーウではいざというときのために、市民がロシア兵に抵抗する訓練を受けている。小道をパトロールすると、「第2グループ! 手榴弾だ!」と教官が叫ぶ。男性も女性も素早く地面に身を投げ出す。
手にしているライフルは偽物だ。しかし、参加者の中から、本物を使う軍務に登録する人が出てほしいという、その期待はある。
22歳の学生、アントンさんはすでに決心している。
「戦争が始まったときは、徴兵される覚悟ができていなかった」と、草むらの中で転がる訓練を終えて一息つきながら、私に語った。
「でも今は、いずれ戦争に行くための準備をしないといけない」
アントンさんは、徴兵回避をよくは思わないが、戦いたくない人の気持ちは理解できるという。
戦場へ行くことが怖いかどうか、彼に尋ねた。
「もちろん」と、彼は答えた。「誰だって怖い。だけど、これ以上戦況が悪化したら、キーウで座っているわけにはいかない」。
ロシアの全面侵攻に対する防衛において、ウクライナはあらゆる予想を裏切ってきた。
ウクライナ全土の掌握を目指していたロシア政府は今や、ウクライナ領土の2割をなんとか支配し続けることに、注力する羽目になっている。
それでもウクライナの側も、戦い方を再調整しなくてはならない。
自国の反転攻勢が大勢が期待していたよりも進展が遅いのをどうするかだけでなく、自国民の士気をどのように高め、戦いに臨むようにするか、ウクライナ政府は取り組まなくてはならない。
兵士が必要なのは、否定しようがない事実だ。しかしそれと同時に、誰もが戦場に適しているわけではない。それも不都合だが真実だ。
●ロシア専門家 経済制裁続くも「ロシアまだ耐久力かなりある」 8/24
プーチン政権に近い、ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」でことし3月まで会長をつとめたアンドレイ・コルトゥノフ氏がNHKのインタビューに応じ、欧米による厳しい経済制裁が続くロシア国内について述べました。
この中でコルトゥノフ氏は欧米側が制裁を科した当初に予想したような状況の悪化は見られないとして「ロシアのシステムの安定性はかなり過小評価されてきた。ロシアでは多くの人々が最悪の状況は過ぎ、社会や経済が活発化し、今後状況は改善すると考えている」と述べました。
また、コルトゥノフ氏は侵攻から1年半が経過し「ある種の疲労感がロシアと欧米側の双方にある」としながらも「ロシアで生活水準が10%下がっても政治指導部にとっては致命的ではないが、西側で同じことが起きれば影響はより大きいだろう」とし、情報統制などによってプーチン政権への国民の支持は維持されていると分析しました。
さらに「この1年半の状況を考慮すると、ロシアにはまだ耐久力がかなりあることを示している」と述べ、プーチン政権が侵攻を継続するための土台は揺らいでいないとの見方を示しました。
一方、対立深まる米ロ関係について、コルトゥノフ氏は、接触が中断されているとし「残念ながら、主題は両国が直接的な武力衝突を起こさないということだ。それができれば私の見方では成果だ。非常に控えめな目標を掲げることしかできない」と述べ、危機感を示しました。
歩み寄りの兆候はないかという質問に対しては「何らかの試みはあるが前進はない」と指摘する一方「バイデン政権はウクライナの反転攻勢の結果を待っている。求める結果が得られなければ、何らかの対話への関心が高まるかもしれない。来年のアメリカの選挙キャンペーンが近づくにつれて高まるという見方もある」と述べ、状況次第では対話の機会が生まれる可能性もあるとの見方を示しました。
●ウクライナ軍、南部の集落ロボティネを解放 突破に勢い 8/24
ウクライナの陸軍と空中機動軍(空挺軍)の部隊が、南部ザポリージャ州の集落ロボティネをロシア軍の支配から解放した。
ウクライナ軍は11週間前、南部と東部のいくつかの主要な軸でロシア占領軍に対する反転攻勢を始めた。ロボティネを経て、アゾフ海近くの都市メリトポリに向かう軸はその1つだ。そしてこのほど、ウクライナ陸軍第47機械化旅団の兵士は、ロボティネ中心部にある建物の上にウクライナ国旗を掲げた。
T0408道路に沿ってメリトポリに到達するには、まだ80キロメートルほど前進する必要があるが、ウクライナ側には勢いがある。ロボティネの次の主要な拠点はトクマクで、ここのロシア軍陣地を落とせば、メリトポリ、さらにアゾフ海沿岸まで一気にたどり着けるだろう。
ウクライナ軍部隊が沿岸部まで進み、ロシアの占領下にあるクリミア半島への陸路の補給線を断ち切る考えであるなら、ここ、つまりメリトポリに続く道路沿いの野原や細い樹林帯でそうする可能性がある。
この方面の反攻は2つの旅団が主導している。第47機械化旅団と、空挺軍の第82空中強襲旅団である。
第47機械化旅団は6月上旬にロボティネ方面の攻勢を開始した。第47機械化旅団とパートナーの陸軍第33機械化旅団は、最初の数日で大きな損害を出した。6月8日、ロボティネの北にロシア軍が設けた地雷原を突破しようとして、レオパルト2A6戦車、M-2歩兵戦闘車、レオパルト2R重地雷処理車といった保有する最高の車両20数両失ったのだった。
第47機械化旅団はこの大きな失敗から立ち直り、戦い続けた。レオパルト2やM-2の優れた暗視装置を生かし、夜間に攻撃を仕かけた。突撃大隊がロシア軍の掘った塹壕に突き当たると、M-2が25ミリ機関砲で制圧射撃を行い、歩兵は手榴弾を投げながら突進した。
予備の空挺軍「最強」部隊投入で勢い保つ
他方、チャレンジャー2戦車やマルダー歩兵戦闘車、ストライカー装甲車を擁する強力な部隊である第82空中強襲旅団が戦闘に参加したのは、つい先週のことである。第47機械化旅団がM-2数十両を失うなど大きな損害を被り、攻撃が鈍るおそれが出るなか、第82空中強襲旅団の加勢によってウクライナ側は火力を大幅に増強し、攻撃の勢いを保った。
陸軍と空挺軍の部隊がメリトポリに向かう軸で周到に進めている攻撃は、ロボティネの東100キロメートルほどに位置するモクリ・ヤリー川渓谷沿いで、海兵隊部隊が戦車とトラックを駆使して行っている電撃戦ほど派手ではないが、それに劣らない結果を出している。
米国の一部識者の間では、ウクライナによる反攻は「失敗している」だとか「停滞している」だとか、あるいは兵力や火力の「割り当てを間違っている」などとする見方が散見される。だが、ロボティネの解放は真実を浮き彫りにした。ウクライナ軍はゆっくりと、だが着実に、ロシア軍をウクライナから追い出しているのだ。
ロシア軍はウクライナ東部ルハンスク州西部の都市クレミンナ方面の1つの軸で「反・反攻」を行っているが、これまでのところほかの軸でのウクライナ軍の前進を頓挫させるにはいたっていない。
反攻が頂点に達し、ウクライナに対するロシアの19カ月におよぶ戦争が新たな局面を迎えるまでに、ウクライナ軍が自国をどれだけ解放できるかは、ウクライナの予備兵力の質に左右されるかもしれない。
反攻開始から10週目に、消耗した第47機械化旅団の増援のため予備の第82空中強襲旅団が投入された。しかし、20週目にはどの旅団が第82空中強襲旅団の増援にあたることになるのだろうか。
優位に進める砲撃戦でロシア軍の防御弱める
ウクライナの戦闘序列には、まだ戦闘に投入されていない旅団がいくつかある。陸軍の第61機械化旅団のほか、国家親衛隊や領土防衛隊の数個旅団などだ。また、支援国は、損失分を埋め合わせるストライカーやM-2数十両のほか、M-1エイブラムス戦車、レオパルト1戦車、F-16戦闘機など、ウクライナに対する兵器の大規模な追加供与を調整している。
さらに重要なのは、ウクライナの砲兵部隊が、およそ1000キロメートル近くにわたる前線で安定した弾幕を張り続け、自軍の攻撃部隊を直接支援すると同時にロシア軍の砲兵部隊を攻撃目標にしていることかもしれない。これらの部隊は北大西洋条約機構(NATO)式の大砲やロケットランチャーを装備し、米欧製の弾薬を提供されている。
ウクライナ軍の砲兵は、ロシア側によって味方の大砲を1門撃破されるごとに、敵の大砲を3門以上撃破している。ロシア軍の最も危険な兵器を見定めて攻撃しているウクライナ軍はこれまでに、ロシア軍が開戦時点で保有していた2S4チュリパン迫撃砲の3分の1を破壊した。
ロシアの砲撃力低下は、ロシアの防御を弱め、ウクライナの攻撃を強めそうだ。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は「ウクライナ軍部隊はロボティネエリアでの前進によって、ロシア軍の築いた第2防衛線への攻撃開始に近づく」と指摘し、このエリアでの第2防衛線は第1防衛線に比べると弱い可能性があるとの見解を示している。
●クリミア西部で爆発、ロシア軍の防空ミサイルシステム「完全に破壊」… 8/24
ウクライナ国防省情報総局は23日、ロシアが一方的に併合したクリミア半島西部で同日朝に爆発があり、露軍の防空ミサイルシステム「S400」が「完全に破壊された」と発表した。ウクライナ側が関与したかどうかは明らかにしていない。
情報総局は爆発の映像を公開した。露側にとって痛手となり、「今後クリミアで起こる出来事に深刻な影響を与えるだろう」との見方を示した。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は23日、クリミアの不法占拠終結を目指す外交枠組み「クリミア・プラットフォーム」の首脳会議で演説し、「ウクライナの他の地域と同様にクリミアの占領も解除される」と奪還を目指す決意を表明した。
一方、英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、露軍の無人機が23日、ウクライナ東部スムイ州の学校を攻撃し、校長ら4人が死亡した。
●ウクライナ“クリミア半島岬に一時上陸”独立記念日に特別作戦 8/24
ウクライナ国防省の情報総局は、旧ソビエトから独立した記念日にあたる24日、ウクライナの部隊が特別作戦を行い、ロシアが一方的に併合したクリミア半島の岬に一時上陸したと主張しました。
ウクライナ国防省の情報総局は24日、SNSで「ウクライナ海軍の支援を受けて、国防省の情報総局による作戦が24日、クリミアで実施された」と明らかにしました。
特別作戦の様子だとする動画も投稿し、水上艇に乗った特殊部隊が、ロシアが一方的に併合したクリミア半島の西側の岬に上陸したと主張しました。
上陸した部隊は、ロシア側の人員に損害を与えたり設備を破壊したりしたうえで、クリミアにウクライナの国旗も掲げたとしていて、作戦の終了後、現場を去ったとしています。
ロシアの一部メディアも目撃者の話として、クリミアの海岸で銃撃やボートに乗った男の姿を見たなどと伝えています。
24日はウクライナが旧ソビエトから独立した記念日で、作戦はこの日にあわせて行われた可能性があるという見方を示しています。
ウクライナ国防省の情報総局は、23日もクリミア半島でロシアの最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」を破壊したとアピールしていて、ウクライナ側としては、反転攻勢の作戦でクリミアの奪還を目指すなか、ロシア側に対して揺さぶりをかけるねらいもあるとみられます。

 

●プーチン氏沈黙破る、プリゴジン氏遺族らに哀悼の意表明 8/25
ロシアのプーチン大統領は24日、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が搭乗した自家用ジェット機が墜落し乗員全員が死亡したとされる事件後初めて沈黙を破り、プリゴジン氏の遺族らに「心から哀悼の意を表したい」と述べた。
ロシア非常事態省によると、モスクワからサンクトペテルブルクに向かっていたジェット機は23日、モスクワ北西のトベリ州で墜落。ロシア航空当局は、プリゴジン氏と同氏の右腕であるドミトリー・ウトキン氏を含む乗客7人と乗組員3人が事故機に搭乗していたと確認した。生存者はいないもよう。
当局は原因究明に向け刑事捜査を開始したが、墜落した原因はまだ不明。墜落現場から回収された10体の遺体の身元も公式には確認されていない。
プーチン大統領は「航空事故は常に悲劇だ」とし、犠牲者の家族に哀悼の意を表明。「予備段階のデータが示しているように、ワグネル関係者が巻き込まれたとすれば、彼らはウクライナのネオナチ政権との戦いに大きく貢献したと強調しておきたい」と述べた。
また、墜落事故の公式調査の結果を待つ必要があるとし、調査には時間がかかると述べた。
プリゴジン氏については、才能ある実業家であり、自分の利益を守る術を心得ていたほか、依頼があれば共通の目的のために一役を担う人物だったと賞賛。同時に欠点もあり「困難な運命を背負った男で人生で重大な過ちを犯した」とも述べた。
事故の原因を巡り憶測が飛び交う中、米政府当局者2人はロイターに対し、まだ情報の精査が行われているものの、米国はロシア国内から発射された地対空ミサイルが同機を撃墜した公算が大きいとみていると、明らかにした。
一方、米国防総省は24日、地対空ミサイルによる同機撃墜を示唆する情報は今のところないと発表した。
ロシアのメディア、バザによると、捜査当局は機内に1─2つの爆弾が仕掛けられていた可能性があるという説に注目しているという。
墜落を目撃したある住民はロイターに対し「爆発音か、ドンという音が聞こえ、見上げると白い煙が見えた」と語り、その後ジェット機が「片方の翼を失い、片翼で滑るように落ちていった」と説明した。
ロイターの記者は24日未明、墜落現場から黒い遺体袋が運び出される様子を目撃した。
プリゴジン氏は6月23─24日にロシア軍上層部に対する反乱を主導。プーチン大統領は当時、プリゴジン氏とその部隊の行動を「反逆」に当たると非難し、「裏切りの道に足を踏み入れた者、武装蜂起を企てた者、脅しやテロに訴える者は処罰する」と表明していた。
●H&M、ウクライナでの店舗営業再開へ…「顧客や従業員の安全は最優先」 8/25
スウェーデンのアパレル大手「ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)」は24日、ウクライナで11月から、大半の店舗の営業を段階的に再開すると発表した。首都キーウや西部リビウ、東部ハルキウ、南部オデーサで計9店舗を運営していたが、ロシアが侵略を開始した2022年2月から営業を一時停止していた。
H&Mは声明で、当局と緊密に協議して再開を決めたとし、「ウクライナを支援する最善の方法を地元の関係者と検討している。顧客や従業員の安全は最優先とする」と説明している。
H&Mは、172店舗を運営していたロシア国内からは、22年11月末までに完全撤退している。
●米が制裁 “ウクライナの子どもロシア連れ去り” 国連安保理 8/25
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから1年半となった24日、国連の安全保障理事会でウクライナ情勢をめぐる会合が開かれました。各国からロシア軍の即時撤退を求める意見が相次いだほか、アメリカは、多くの子どもがロシア側に連れ去られているとして、関与した団体と個人に制裁を科したと明らかにしました。
24日は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから1年半に当たるとともに、ウクライナが旧ソビエトから独立した独立記念日でもあり、これに合わせて国連安保理ではウクライナ情勢をめぐる会合が開かれました。
各国からは、ロシア軍の即時撤退を改めて求める意見が相次ぎ、日本の石兼国連大使は「われわれはウクライナへの支援を続けることを改めて表明する。ロシアはウクライナの独立と主権を尊重しなければならない」と述べました。
また、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、この1年半で多くの子どもたちがロシア側に連れ去られたと非難し、関与した団体2つと個人11人に対して、新たにアメリカ政府が資産凍結などの制裁を科したことを明らかにしました。
トーマスグリーンフィールド大使は「ロシアによる戦争犯罪や人道に対する罪をわれわれは傍観しない」と強調しました。
これに対してロシアのネベンジャ国連大使は、軍事侵攻を改めて正当化した上で、「ロシアが子どもたちを連れ去っているというのはうその情報で、実際には子どもたちを救っている」などと主張しました。 

 

●プーチン大統領が訪印断念 G20首脳会議、オンライン出席検討 8/26
ロシアのプーチン大統領はインドの首都ニューデリーで9月9〜10日に開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席しないことを決めた。ペスコフ大統領報道官が25日、タス通信などに語った。
ロシアがウクライナで続ける「特別軍事作戦」を巡り、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に逮捕状を出していることから、逮捕される危険を冒してまで、インドを訪問するのかが焦点の一つだった。プーチン氏は南アフリカで24日まで開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会議をオンライン形式の出席にとどめていたが、今回も国際会議の開催地訪問を断念した。
プーチン氏は2022年11月にインドネシアで開かれたG20首脳会議でも現地を訪れなかった。ペスコフ氏によると、今回の会議ではオンライン形式で出席するかを検討するという。
ICCは今年3月、ロシアによる特別軍事作戦に関し、プーチン氏がウクライナの子どもの連れ去りに関与していると見なし、戦争犯罪の容疑で逮捕状を出した。それ以降、プーチン氏は外国を訪れていない。
一方、中国は10月に自国で開く巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議に合わせて、プーチン氏に訪中を招請している。これまでプーチン氏は前向きな姿勢を示しており、訪問に踏み切るのかが注目される。
●プーチン、漁夫の利狙う 中国の日本産水産物禁輸受け、対中輸出拡大目指す 8/26
ロシアが中国への水産物輸出の拡大を目指す。中国が東京電力福島第1原発の処理水放出開始を受けて日本の水産物を全面禁輸としたことを受けた動きだ。
食品安全監視当局は25日夜の声明で、輸出業者の増加に取り組むと表明。「中国はロシアの水産物にとって有望な市場だ。認証を受けたロシア企業や船舶、製品の量と種類の拡大を目指す」と述べた。
水産物の安全問題について中国と対話を続け、ロシア産水産物の対中輸出に関する規制に関する交渉を終える予定だとした。
1─8月のロシア産水産物の輸出は半分以上が中国向けで、主にスケトウダラ、ニシン、ヒラメ、イワシ、タラ、カニだったという。具体的な数字は示していない。
同当局は7月、同国が中国の主要な水産物輸入先で、国内894社が海産物の輸出を許可されていると明らかにしていた。
●プリゴジン氏暗殺計画 プーチン氏から目をそらす狙いか ベラルーシ大統領 8/26
ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ルカシェンコ大統領は25日、ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏に対する第三者の「暗殺計画」をつかみ、プーチン大統領に通報していたと主張した。
ロシア政府は確認していないが、事実なら今年1月のこととみられると、ロシアのメディアは伝えた。
ルカシェンコ氏は、プリゴジン氏の搭乗機墜落へのプーチン政権の関与を否定しており、黒幕は別にいると印象付ける狙いがありそうだ。
ルカシェンコ氏は「(1月に)アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した際、プリゴジン氏暗殺に関する情報が飛び込んできた」「約2時間後に駐UAEロシア大使を呼び、彼を通じてプーチン氏らに暗殺計画を伝えた」と説明した。
その後、ルカシェンコ氏がプリゴジン氏と面会した際、プーチン氏から警告を受け取ったことを確認できたという。ただ、面会の時期は明らかにしていない。 
●ウクライナ政府 JT子会社を「戦争支援企業」に指定 8/26
ウクライナ政府はJT(日本たばこ産業)の海外子会社がロシアの軍事侵攻後も事業を継続し、ロシア経済を支えているとして「戦争支援企業リスト」に加えたと発表しました。日本企業の指定は初めてです。
ウクライナの国家汚職防止庁は軍事侵攻後もロシア国内で事業を続け、多額の納税でロシア経済を支えているとしてJTの海外子会社のJTインターナショナルとアメリカのフィリップ・モリスの2社を「戦争支援企業リスト」に新たに加えたと発表しました。日本企業の指定は初めてです。
このうち、JTインターナショナルについてはロシアのたばこ市場でシェア34.9%を占め、「最大の投資者であり主要な納税者だ」と指摘しています。
これを受けて、JTは「ウクライナ国家汚職防止庁の決定は承知している。ウクライナでの我々の事業は通常通り行われており、支援を必要とする人々に援助の提供を行うことでウクライナ経済に貢献していく」とコメントしています。
●ウクライナの「決定は承知」 戦争支援企業リスト追加で―JT 8/26
ウクライナ国家汚職防止庁が、日本たばこ産業(JT)の海外子会社JTインターナショナルを「戦争支援企業」のリストに加えたことに関し、JTは26日、「決定は承知している」などとコメントした。
同社は、ウクライナでの事業は通常通り行われているとした上で、「必要とする人々に援助とサポートを提供し、ウクライナ経済に貢献し続けている」と強調した。
JTインターナショナルはロシアで約3分の1の市場シェアを持っており、JTは制裁措置などを順守した上でロシア事業を継続する方針を示してきた。同庁は「ロシアで事業を続けて多額を納税し、侵略国の経済を支えている」と批判している。
●ウクライナ、クリミアの基地攻撃公表 モスクワ近郊にドローンも 8/26
ウクライナ国防省情報総局は25日、ロシア占領下の南部クリミア半島にある軍事基地をドローンで攻撃したと明らかにした。ロイター通信が報じた。被害規模は不明だが、基地から爆発音が聞こえたほか、死傷者が出ているとの情報がある。
ロシア国防省はこれに先立ち、ウクライナがクリミア半島にドローン攻撃を仕掛け、42機すべてを撃墜したと発表していた。クリミア半島に対するウクライナ側の攻撃としては、これまでで最大級の規模だったとみられる。
ドローン攻撃は、ウクライナ支配地域から200キロ以上離れたクリミア半島南部に位置するロシア軍の基地に対して行われた。ウクライナの情報総局報道官は「命中を確認した」と強調した。
また、ロシアの首都モスクワ西方では26日未明、ウクライナによるとみられるドローン攻撃が行われた。モスクワのソビャニン市長は防空システムによって攻撃を阻止したと発表。この攻撃に伴い、シェレメチェボ空港を含む三つの空港で数時間にわたり、離着陸が中断されたという。

 

●ロシア、義勇兵も国家に誓約 大統領令署名、ワグネル統制へ 8/27
ロシアのプーチン大統領は27日までに、ウクライナでの軍事作戦に自発的に加わる義勇兵らに対し、国家に献身し司令官の命令に服するとの誓約を義務付ける大統領令に署名した。6月に反乱を起こし、今月23日に搭乗機の墜落で死亡したとみられるプリゴジン氏が創設した民間軍事会社ワグネルの戦闘員を念頭に、国防省の統制を強化して事実上、軍に編入する狙いとみられる。
大統領令は、軍務を遂行する者やウクライナでの「特別軍事作戦」従事者は、国旗の前で「憲法を順守し、ロシアの独立を守るために献身する」と誓うよう命じている。
ロシア紙、新イズベスチヤ電子版は26日、ワグネル戦闘員を国の支配下に置く動きだと指摘した。
墜落ではワグネル幹部で軍事面の指導者だったウトキン司令官も死亡したとされる。プーチン氏は反乱を「裏切り」と糾弾していたため、政権側の関与を疑う声が出ている。
プーチン氏は反乱収束後の6月29日にプリゴジン氏らと会談。トロシェフ司令官を新たな指導者として軍務を継続するよう提案したが、プリゴジン氏が拒否していた。
●「彼はロシアの『ガーシー』」「自作自演」「プーチンによる公開処刑」 8/27
8月23日、ロシアの首都モスクワ北方で小型飛行機が墜落したというニュースが世界を震撼させている。ロシア当局が公表した搭乗者名簿には、これまでシリアやウクライナで暗躍してきた民間軍事企業(PMC)ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏らの名前があった。
機体に爆発物が仕掛けられたのではないかとも報じられている
外信部記者が語る。「落ちたのはプリゴジン氏のプライベートジェットと見られ、3人の民間乗組員を含む10人が搭乗していたようですが、生存者は確認されていません。墜落直前に爆発音を聞いたとか、片翼になった飛行機が滑り落ちるように落下していくのを見たといった証言があるほか、米当局者の見立てとして機体に爆発物が仕掛けられたのではないかとも報じられています」
24日、プーチン大統領が遺族への哀悼の意を表明。その中で、プリゴジンについて、「1990年代初めから知り合いで、才能があり依頼があれば共通の目的のために一翼を担う人物」と称賛した一方、「困難な人生を歩み、深刻な過ちを犯したこともあった」と述べた。
突如武装してモスクワに進軍した『正義の行進』で決裂
「プリゴジン氏は強盗の罪で服役経験があり、出所後はマフィアとの繋がりを利用しながらレストランを経営、その過程でプーチン大統領と知り合って親交を深めたといわれています。『プーチンのシェフ』という二つ名の通り、料理だけでなく、PMCの創設やトロール工場(フェイクニュース拡散などを通じて世論工作などを行うグループ)の設立など、“裏のオーダー”を請け負い、忠実にこなすことで成り上がった人物でした」(同前)
政治上のパートナーとして長期にわたり蜜月関係にあった2人が袂を分かったのは6月末。プリゴジン氏はウクライナ戦争の責任者であるショイグ国防相を批判する言葉とともに、「正義の行進」と称し、ワグネルを引き連れ急遽モスクワに進軍を始めた。
“裏切り”は許さないプーチン政権
このときプーチン大統領は緊急演説を行い、ワグネルの行進を「裏切り」と非難。あわや内乱の危機も予想されたが、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲立ちなどもあり、わずか1日で反乱劇の幕は下りた。プーチン大統領の喉元に匕首を突き付けたプリゴジン氏だったが、ベラルーシに居を移す条件で無罪放免となっていた。
プリゴジン氏が搭乗した飛行機の墜落は、そんな矢先に起こった。単なる事故か、はたまた暗殺か。これまでもロシアではプーチン政権にとって不都合な人物が殺害されてきた。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が語る。
「プーチンの命を受けたロシアの諜報機関であるFSBが、プリゴジンを始末したと捉えていいと思います。これまでもプーチンを批判した元KGBのエージェントが、亡命先の英国で放射性物質を盛られ殺害されるなど、自身の支配体制にとって邪魔になる者は許さないのがプーチン政権。むしろ、この2カ月生きていたのが不思議なくらいでした」
予兆はあったのか。
「2カ月間、比較的自由に行動させたのが今回の粛正劇の特徴です。油断させて泳がせ、仲間の炙り出しをしたのではないかと思います。プリゴジンはプーチンの悪事を詳しく知っているため、裏情報が漏れることを相当警戒していたはずです」(同前)
民衆の一部でウケた「ロシア版ガーシー」
一時はウクライナ戦争の戦況を変えた大立者のプリゴジン氏を“消す”ことに問題はなかったのか。
「本人に大した才覚があったわけではなく、古くからのプーチンの子分というだけの男。耳目を集める存在となったのはむしろウクライナ侵攻後。自分を前面にだし、まるで軍事指揮官のように、ときに銃を携え前線までやってきて演説する様子を動画配信。さらに『弾薬が足りない』と戦況を“暴露”し、ショイグ国防相や政府官僚を批判する様が、ロシアの民衆の一部でウケただけ。暴露系YouTuber的存在という点では、いわば“ロシア版ガーシー”みたいなものです」(同前)
“危険”はすでに年頭からプリゴジン氏の身に迫っていたという。
「軍との対立が大きくなった。自分はプーチンに可愛がられていると思い上がり軍上層部批判をした結果、軍からワグネル兵士に対して軍と直接契約するよう通達があり、ワグネルを取り上げられそうになった。結局、後が無いプリゴジンは暴発し、粛清された。端的に言うとそういうことです」(同前)
ワグネルの自作自演か? プーチンにとってメリットがない暗殺
こうした意見がある一方、驚きの見立てを示すのは、プリゴジンの乱を“予言”したことでも話題の中村逸郎筑波大学名誉教授だ。虫の知らせを感じ取ったのは25日早朝のことだったという。
「日本時間の午前3時くらいに最初の報道がでたんですが、その時に偶然目が覚めたんですよ。しばらく報道を追っていたのですが、次第に違和感を覚えました。墜落後、ワグネルと近いとされているテレグラムチャンネルがどんどん情報をだしていたのですが、本部が追悼の場所をすぐに設けたり、今週の日曜日に追悼集会をやろうと呼びかけたり、あまりにも対応が早い。これはワグネルの自作自演で、実はプリゴジンは生きているのではないか、と私は思っています」
いささか突飛な推察に聞こえるが、中村名誉教授が自作自演を疑うのも故なしではない。
「19年10月に、アフリカのコンゴ共和国でロシアの輸送機が墜落した際にも、搭乗者名簿にプリゴジンの名前がありました。一時はワグネルが死亡を発表する騒ぎになったのですが、その数日後にプリゴジンの肉声とともに生存が報じられたことがあった」(同前)
プリゴジンは生きていた――仮にそんなどんでん返しがあれば一体何が起きうるのか。
「そもそも、今回の暗殺はプーチンにとってあまりメリットがない。来月上旬には統一地方選挙も控えているのに、ワグネルが国内で暴れるリスクがあるからです。裏切り者への報復はこれまで何度もプーチンがやってきたことですが、今回はプーチン政権の仕業ではないのではないか。今後、プリゴジンが不死身の男として再び人々の前に現れ、民衆の支持を集めて来年3月の大統領選にでる。そういうシナリオもあるんじゃないでしょうか。まずは全国で行われる追悼集会の様子に注目です」(同前)
プーチンによる「公開処刑」か? 米国の機密文書流出がきっかけ
対して、プーチンによる粛清はロシア国内の結束を強めると分析しているのが、ロシアの諜報戦略に詳しい国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員の保坂三四郎氏だ。
「実はプリゴジンが死んでいない可能性は私も考えたのですが、プーチンが追悼のコメントを出したことで、今はその可能性はほとんど排除しています。今回の墜落は事故ではなく、プーチンによる“公開処刑”と見ています」
プーチンがプリゴジンを許すことができなかった理由のひとつは、アメリカの機密文書流出という説がある。
「リーク文書の中に、プリゴジンがアフリカなどでウクライナ軍の情報機関と接触しているという内容があった。実際にプリゴジンの反乱をウクライナ側はかなり早くに掴んでいました。これは想像ですが、プーチンは、プリゴジンがウクライナ側からそそのかされて反旗を翻したと疑いをもったのではないか」(同前)
さらに、反乱に伴いロシア国内ではある変化が起きていた。
「ウクライナの戦況が芳しくない中で、プーチンはワグネルの反乱を抑えたことを、『国家を内戦の危機から救った』と政治的な手柄にしています。実際反乱後に行われた調査でもわずかではありますが、プーチンの支持率はむしろ上がっていました」(同前)
プーチンの権力基盤が更に強まる可能性も
そしてこう嘆息するのだった。
「プリゴジンの反乱後、プーチンの権力基盤が揺らいでいるといわれましたが、私は逆だと思います。反乱鎮圧後、数十名の軍高官が尋問又は逮捕されたという情報もあり、政権が引き締めにかかっているのは明白。今回の“公開処刑”を見たロシアのエリートは震えあがっているでしょう。掟を破ればこうなると見せつけた。いわばマフィアの世界です」(同前)
仁義なき戦いは、ロシアの国内外で起きている。
●ウクライナ軍南部で前進か 東部はロシア軍が攻勢強める可能性 8/27
領土奪還を目指すウクライナ軍は南部ザポリージャ州で戦略的な要衝に迫ろうと部隊が前進しているとも指摘されています。一方、ウクライナ東部の前線についてイギリス国防省はロシア軍が前進し、今後攻勢を強める可能性があると分析しています。
ウクライナ軍は反転攻勢を続けていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は25日、南部ザポリージャ州のロボティネ周辺の戦況について「ロシア側から兵力不足の声も指摘されるなか、ウクライナ軍の前進が伝えられている」と分析しました。
アメリカのCNNテレビも「ザポリージャ州でウクライナ軍はロシアの防衛線の一部を突破し戦略的な要衝トクマクに向けて前進しているとみられる」と伝えています。
また、イギリス国防省は26日、「ウクライナ軍の反転攻勢で東部バフムトと南部でロシア軍が圧力を受けている。ウクライナ軍は徐々に前進している」と指摘しました。
ただ、ロシア軍は東部のハルキウ州クピヤンシクからドネツク州リマンにかけては局地的に前進したとしていてイギリス国防省は、ロシア軍がこの前線で今後2か月以内に攻勢を強める可能性があると分析しています。
一方、ロシアでは、自家用ジェット機の墜落で民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が死亡したとみられていて、ロシアの連邦捜査委員会は現場で10人の遺体を収容してDNA鑑定などによる身元の確認を急いでいるとしています。
ロシア各地ではワグネルの事務所などを人々が追悼に訪れ、首都モスクワ中心部のクレムリンの近くでもプリゴジン氏らの写真に花を手向ける市民の姿が見られました。
墜落をめぐっては、アメリカの複数のメディアは、機内に仕掛けられた爆発物による可能性があると伝えているほか、ロシアの治安機関が関与した可能性が高いという見方も報じられていますがロシア大統領府は25日「全くのウソだ」としてプーチン政権が墜落に関与したとする見方を全面的に否定しています。 
●ロシア元将官、獄中で急死 「プーチンの宮殿」の詳細握る 8/27
ロシア国営のRIAノーボスチ通信は27日までに、黒海にあるプーチン大統領の邸宅の建設の詳細に通じているとされ、汚職の罪などで刑務所に収監中だった同国連邦保安局(FSB)の元将官が収監中に死亡したと報じた。
ゲンナジー・ロピレフ元将官で、同通信によると「突然、病状を訴え」、地元の病院に搬送されたが今月16日に死亡したという。
2017年に汚職の罪で有罪となり、ロシア中央部リャザン州にある矯正施設に9年以上、服役していた。国営タス通信によると、総額約7万4000米ドルの収賄の罪に問われていた。
RIAノーボスチ通信によると、ロピレフ元将官は短銃や弾薬の違法所持でも有罪が言い渡されていたが、控訴してこれらの罪状は取り消されていた。
ロシアのメディア「RBC」は、裁判の開廷時に元将官の弁護士の発言を引用し、裁判所は金融詐欺での有罪を認めたと報道。この罪状は、ロシア南部ソチにあるプーチン氏の夏季用の邸宅の通信工学設備を修理する契約に絡むものだった。
ロピレフ受刑者は全ての容疑で無罪を主張していた。
米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、同受刑者の死亡について「不審な点がある」と指摘。「内部の関係筋は、ロピレフ元将官はこの邸宅の建設に関する秘密事項を握っていた」ともつけ加えた。邸宅は「プーチン(氏)の宮殿」ともしばしば呼ばれている。
●プーチン大統領、ワグネル戦闘員らに「国家忠誠の誓約」義務づけ… 8/27
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ侵略に自発的に参加する戦闘員らに対し、「国家への忠誠の誓約」を義務づける大統領令に署名した。23日にジェット機の墜落で死亡したエフゲニー・プリゴジン氏が創設した民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らを念頭に国防省の統制を強化し、事実上、軍に編入する狙いがあるとみられる。
大統領令は25日に公布された。露独立系紙「モスクワ・タイムズ」によると、戦闘員らは「ロシア連邦への忠誠を誓うこと」や「指揮官や上官の命令に厳格に従うこと」が義務づけられた。
セルゲイ・ショイグ露国防相は6月上旬、作戦に参加する志願兵部隊などに対し、7月1日までに国防省との契約を求める命令を出した。猛反発したプリゴジン氏が公然とショイグ氏の交代を求め、6月23日の武装蜂起につながった。
ロイター通信は、大統領令について、ワグネルなどの民間軍事会社を国家の厳しい管理下に置こうとする動きと指摘した。
一方、ロシア国内では、プリゴジン氏らワグネル幹部を追悼する動きが続いている。モスクワ中心部の教会近くにはプリゴジン氏やワグネルの名付け親とされるドミトリー・ウトキン氏の写真が置かれ、連日、多くの人が花を手向けている。地元メディアは、訪れた人が「プリゴジン氏らは国家に多大な貢献をした」と語る様子を報じている。
●国家忠誠を義務付け、ワグネルなど非正規兵 ロシア大統領令 8/27
ロシアのプーチン大統領は25日、民間軍事会社ワグネルなどの義勇兵に国家への忠誠誓約を義務付ける大統領令に署名した。非正規戦闘員を本格的に統制する動きに出たもようだ。
大統領府が公表した大統領令は、ウクライナへの「特別軍事作戦」の支援や正規軍に代わって作戦を実行する者に、国家への忠誠の誓いを義務付けた。国家防衛の精神的・道徳的基盤を構築するための措置として、指揮官や上級指導者の命令に厳格に従うことを約束するという文も含まれている。
「プーチン氏のシェフ」と呼ばれたワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が6月に反旗を翻し、プーチン氏はメンツをつぶされる形になった。プリゴジン氏の墜落死を巡っては、ロシア政府が殺害指示を出したとの見方が西側で出ている。
●ウクライナ空軍機同士が空中衝突、著名パイロット「ジュース」含む3人死亡 8/27
ウクライナで高名な戦闘機パイロットを含むウクライナ空軍パイロット3人が25日、ウクライナ北部で起きた訓練機同士の空中の衝突事故で亡くなった。ウクライナ国防省が26日、発表した。
アンドリー・ピルシュチコフ少佐は、昨年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まった当初、首都キーウ防衛戦でロシア軍機を多数撃墜し、一躍有名になった。
ウクライナ軍はパイロット3人を失ったことを「痛ましく取り返しのつかない」喪失だと述べ、ピルシュチコフ少佐を「膨大な知識と膨大な才能」のパイロットだったとたたえた。
ウクライナ空軍によると衝突事故は、前線から数百キロ離れたジトミル州上空で起きた。低空飛行する訓練機L-39同士が衝突したという。飛行前の手順が正しく守られていたか、空軍は事故原因を調査している。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩定例の動画演説で、パイロット3人の事故死について触れ、「ウクライナの自由な空を守ったすべての人」をウクライナは決して忘れないと述べた。
ロシアが大量の巡航ミサイルやドローンで攻撃を重ねていた昨年秋、コールサイン「ジュース」で知られたピルシュチコフ少佐はBBCの取材に応じ、敵の攻撃を途中で迎撃する任務を負った戦闘機「ミグ29M」のパイロットとしてのプレッシャーについて話していた。
「自分の任務は巡航ミサイルを途中で迎撃し、地上の人たちの命を守り、街を守ることです。失敗すれば、誰かが死んでしまのだと、ひどい気持ちになる。数分のうちに誰かが死んでしまう、自分はそれを防げなかったと」と、少佐は語っていた。
少佐はさらに、ウクライナ空軍に入ることが自分の幼いころからの夢で、戦闘機パイロットとして働くことが自分の「任務」なのだと話した。
ピルシュチコフ少佐の友人、メラニヤ・ポドリャクさんも友人の死を確認し、少佐の空軍バッジの写真をソーシャルメディアに投稿した。
今回の衝突事故とパイロット3人の死亡は、西側の同盟国からF-16戦闘機61機の提供を控えるウクライナにとって、重大事となる。ウクライナは高性能のF-16を駆使して、ロシアに対する反撃をいっそう強力に展開しようとしている。
24日には米国防総省が、F-16に搭乗するウクライナのパイロットたちに9月からテキサス州で英語訓練を開始すると発表。F-16の操縦訓練は10月にアリゾナ州で始める予定という。他の西側諸国は、ウクライナのパイロットたちの訓練を今月末にも開始する予定で、準備を進めている。
F-16の操縦訓練は約5カ月かかる見通し。
アメリカ政府は今年5月、従来の方針を大きく変えて、ウクライナへのF-16供与を容認した。それまでアメリカをはじめ北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国は、核保有国ロシアとの紛争のエスカレーションにつながるとして、F-16の提供に否定的だった。
ウクライナ空軍のユーリ・イーナト報道官はフェイスブックで、ピルシュチコフ少佐を追悼し、その功績をたたえた。
「アンドリーは昨年アメリカで、アメリカ政府の関係者と会い、ウクライナ空軍が何をすぐにでも必要としているか伝えた。カリフォルニアのパイロットたちと常に連絡を取り合い、F-16の供与に関する数々の決定を推進するため、働きかけ続けたグループの中心的存在だった」とイーナト氏は書いた。
さらに、「英語が上手だったので、戦争中にたくさんの西側のメディアの取材を受けた。その際、彼にとって何より大事だったのは、会話の話題だった。ウクライナのために何を話せるか、何を話すべきか!」と報道官は続けた。
「彼がどれだけF-16を操縦したがっていたか、皆さんには想像もつかない(中略)せっかく今、アメリカの戦闘機がもうすぐやってくるというのに、彼は乗れない」
「アンドリー・ピルシュチコフは単なるパイロットではなく、素晴らしい知識と素晴らしい才能を持った若い将校だった」
「コミュニケーション能力に優れ、空軍の保有機改革を推進し、さまざまなプロジェクトに参加していた。彼のとんでもないアイディアを私はしばしば応援したし、それはどれも見事な結果を生んだ」
●ウクライナ軍「キーウの幽霊」パイロットら3人 空中衝突で死亡 8/27
ウクライナ軍が各国からF16戦闘機の供与の表明を受けてパイロットの育成を急ぐ中、ロシア軍との戦闘で活躍し、「キーウの幽霊」とも称されたパイロットを含む3人が任務中に死亡し、ウクライナ国防省は「悲劇的な損失だ」としています。
ウクライナ空軍は北西部ジトーミル州の上空で25日、軍用機2機が任務中に衝突し、3人が死亡したとSNSで明らかにしました。
発表によりますと、3人の中には「JUICE」というコールサインで知られた著名なパイロットも含まれるということです。
このパイロットについてアメリカのCNNテレビなどは、ロシアによる侵攻の初期に首都キーウなどの防衛を担い「キーウの幽霊」とも称された部隊の1人だと伝えています。
ゼレンスキー大統領は「ウクライナの自由な空を守った者たちを決して忘れない」と述べ、哀悼の意を表しました。
ウクライナ軍は各国がF16戦闘機の供与を表明する中、パイロットの育成を急いでいて、ウクライナ国防省は3人の死を「悲劇的な損失だ」としています。
一方、ウクライナ軍の反転攻勢は続いていて、イギリス国防省は26日に、「東部バフムトと南部でロシア軍が圧力を受け、ウクライナ軍が徐々に前進している」と指摘しました。
ただ、東部のハルキウ州からドネツク州にかけては、ロシア軍が局地的に前進した地域もあるとしていて、ロシア軍がこの戦線で今後2か月以内に攻勢を強める可能性があると分析しています。
●ウクライナ軍 南部でロシア軍“最も強固な防衛線”一部突破か 8/27
領土奪還を目指すウクライナ軍は南部ザポリージャ州でロシア軍の最も強固な防衛線の一部を突破したとも伝えられ、今後、南部でのさらなる前進につなげられるかが焦点です。
南部での反転攻勢を続けるウクライナ軍について、ロイター通信は26日、南部ザポリージャ州のロボティネを奪還したとする部隊の指揮官の話として、ウクライナ軍がロシア軍の最も強固な防衛線の一部を突破したという見方を伝えました。
部隊の指揮官はロイター通信の取材に対し「われわれは地雷が埋められた主要な道路を通過した。ここからはより早く進むことができる」と述べて進軍のスピードが今後、早くなると自信を示しました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」も26日に「ウクライナ軍は最も困難と考えられているロシア軍の防衛線を突破して前進している」と分析しています。
一方で「ウクライナ軍にとって次のロシア軍の防衛線もすでに射程圏内にある。ただ、次の防衛線はこれまでよりはぜい弱かもしれないがそれでもかなりの難関になる」として、ウクライナ軍は今後も対戦車用の障害物や地雷などによる防衛線を突破する必要があるとも指摘しています。
反転攻勢の遅れも指摘される中でロボティネを奪還したとするウクライナ軍が今後、南部でさらなる前進につなげられるかが焦点です。
ウクライナ軍部隊指揮官“少しずつ前進もロシアは常に兵補充”
ウクライナ南部で反転攻勢の作戦に参加しているウクライナ軍の指揮官がNHKのオンライン取材に応じ、一部の地点では、ロシア軍が構築した第1の防衛線を突破するなど少しずつ前進していると明らかにしました。その一方で「ロシア側は常に兵力を補充している」と述べて警戒感を示し、ウクライナ側としては消耗を抑えて兵力を温存しながら着実に作戦を進めていくと強調しました。
今月24日、NHKの取材に匿名で応じたのは、ウクライナ軍の「第71独立猟兵旅団」に所属する偵察部隊の指揮官で、この部隊は現在、反転攻勢の焦点となっている南部ザポリージャ州で戦闘に参加しているということです。
指揮官は、部隊の詳しい位置は明かせないとしつつ、前線の状況について「いくつかの地域で成功し、成果が増えている。ロシア軍の1つ目と2つ目の防衛線の間で戦闘が行われているところもある」と述べ一部の地点では、第1の防衛線を突破するなど、少しずつ前進していると明らかにしました。
ただ、ロシア軍の防御について「地雷が密集している。手薄な部分を探しているところだ」と述べたうえで「ロシア側は常に兵力を補充している」と述べ、ロシア軍は、適宜、兵士を入れ替えるなど戦力を維持、増強しているとして警戒感を示しました。
また「敵は、航空戦力において優勢であるだけでなく電子戦のシステムや無人機においても優位に立っている」として、ウクライナ軍の通信が妨害され、部隊間のコミュニケーションにも問題が生じていると明らかにしました。
一方、ウクライナ軍の戦い方に関して指揮官は、偵察や攻撃の手段として無人機が重要な役割を担っているとして「無人機なしでの作戦は考えられない。ただ、航続時間は20分ほどで機材の損失も激しい」と述べ、一層の無人機の確保が必要だと強調しました。
反転攻勢の遅れを指摘する声もあることについては「ロシア軍のように大きな損失を出すことは受け入れられない。装備をむだにできず、まずは兵士を大切にしなければならない。ことを急ぐことは望ましくない」としたうえで「作戦は必ず成功する」と述べ、勝利に向けて兵士や装備の消耗をおさえて兵力を温存しながら着実に作戦を進めていくと強調しました。
●ウクライナ全土にミサイル攻撃 ロシア軍、東部で攻勢強化か 8/27
ロイター通信は27日、ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)を含む全土にミサイルなどによる攻撃を仕掛けたと伝えた。重要インフラに被害はないという。北東部と東部では、ロシア軍が攻勢を強めているとみられる。
ウクライナ空軍は、26日夜から27日朝にかけてロシアによるミサイル攻撃があり、北部と中部で巡航ミサイル4発を撃墜したと明らかにした。ロイターによると、ウクライナでは27日早朝、空襲警報が全土で発令されていた。キーウ州では、ミサイルの破片で建物10棟に被害が出たという。
一方、ロシア国防省は、ウクライナと国境を接するブリャンスク、クルスク両州で27日未明にウクライナによるドローン攻撃があり、「2機を撃墜した」と発表した。
ウクライナ軍は6月以降、反転攻勢を続けている。反攻作戦の停滞が指摘される中、英国防省は26日の戦況報告で、東部ドネツク州バフムトや南部で「ウクライナ軍がロシア軍に圧力をかけている」との見方を示した。
ただ、ドネツク州リマンから北東部ハリコフ州クピャンスクにかけては、ロシア側に「局所的な前進があった」と分析。この地域では今後2カ月ほど、ロシア軍の攻勢が強まる可能性を指摘した。

 

●ロシア、ワグネルに忠誠誓約義務づけ…「プーチン氏、さらに危険な人物に」 8/28
ロシアのプーチン大統領が民間軍事会社ワグネルグループなどに忠誠誓約を義務化する法令に署名した。ワグネルグループ創設者のプリゴジン氏が専用機の墜落事故での疑問死から2日ぶりだ。これと関連し外信では「プーチンがワグネルグループに対する直接統制権を強化しさらに危険な人物になった」という評価が出てきた。
ロイター通信などが26日に伝えたところによると、プーチン大統領が前日に署名した大統領令には「ロシア軍に代わり作戦を遂行したり特別軍事作戦(ウクライナ戦争)を支援するすべての者は義務的にロシアに対する忠誠を誓わなければならない」という内容が盛り込まれた。トップを失ったワグネルグループを狙った統制権強化目的という解釈が出ている。この忠誠誓約には指揮官と高位指導部の命令に厳格に従わなければならないという文言も含まれたと外信は伝えた。
英日刊テレグラフは「ワグネルに対するプーチン氏の統制権掌握はプーチン氏にウクライナ戦争を長引かせる能力を持たせるだろう」と分析した。ウクライナの戦場でワグネルグループは残酷性で悪名をとどろかせ、バフムトなど一部の戦闘で戦果を上げた。
ニューヨーク・タイムは専門家の話として「プリゴジン氏の疑問死はいくら使える人物も裏切れば断罪を避けられないというシグナルを送った」と評した。ロシアのジャーナリスト、コンスタンチン・レムチュコフ氏は今回の事件と関連し「ロシアのエリート層みんなが恐れている。すべての人が『何でも可能だ』ということを知ることになった」と雰囲気を伝えた。
モスクワの政治分析家ミハイル・ビノグラドフ氏は「ロシア執権層の核心人物が国が支援したという疑惑がある暗殺で死亡したことはない。苛酷な先例」と話した。
プリゴジン氏は、一時はプーチン氏の最側近としてワグネルグループを率いてウクライナ戦争に参戦した。しかしロシア軍首脳部に反発し6月に武装反乱を起こし、2カ月後の23日に専用機の墜落事故で死亡した。米国を含む西側は彼が暗殺された可能性にウエイトを置き、暗殺の背後としてプーチン氏を指定している。
これと関連しロシアの同盟国ベラルーシのルカシェンコ大統領は「プーチン背後説」に反論した。彼は25日に自国メディアとのインタビューで「私が知るプーチン大統領はとても計算的で冷静な人物。彼がそんなこと(プリゴジン氏暗殺)をしたと想像できない」と話した。
その一方で彼は「プリゴジン氏に気を付けるよう2度警告したが彼はこうした警告を無視し、(自身に)身辺保護を要請することもなかった」とした。
これに先立ちロシア大統領府のペスコフ報道官もこの日プーチン氏の背後説と関連し「完全に嘘」としながら否定した。彼はプーチン氏のプリゴジン氏の葬儀出席に関しては「葬儀日がまだ決まっておらず話せない」と答えた後、「プーチン大統領は業務日程が非常に多い」と付け加えた。英ガーディアンはプリゴジン氏の葬儀が数週以内に彼の故郷であるサンクトペテルブルクで開かれると予想した。
プーチン氏は事故翌日の24日にプリゴジン氏の死去に哀悼の意を示し、死亡原因に対するロシア当局の捜査状況を見守ると話している。
プリゴジン氏の死亡事件を捜査するロシア当局は事故機墜落現場で10人の遺体とフライトレコーダーを回収したと25日に明らかにした。AFPなどによると、ロシア連邦捜査委員会はこの日「犠牲者の遺体10体を発見し身元確認に向けたDNA検査が進められている」と伝えた。捜査委は「事故の経緯と関連し可能なすべてのケースを慎重に検討するだろう」と付け加えた。
●「TICAD30周年記念イベント」岸田総理ビデオメッセージ 8/28
御列席の皆様、1993年、TICAD(アフリカ開発会議)は、アフリカの開発をテーマとした国際会議として、ここ東京で産声を上げました。それから30年がたち、本日こうして、皆様と共に、TICAD30周年を記念するイベントを開催できることを心からうれしく思います。
冷戦終結後、アフリカ開発の重要性をいち早く訴え、国際社会のアフリカへの関心を高めたのが日本であり、TICADでした。そして、TICADが打ち出した重要な開発哲学が、アフリカ開発における「アフリカ自身のオーナーシップ」と「国際社会のパートナーシップ」です。この考えは、アフリカ諸国の支持を集め、国際社会にも浸透し、定着しました。
日本は、過去30年間の長きにわたり、アフリカの成長を推進するとのコミットメントを、アフリカに寄り添いながら具体化してきました。私がTICAD8で、日本はアフリカと「共に成長するパートナー」でありたい、と述べたのも、こうした取組を更に一歩前進させるためであります。3年間で官民総額300億ドル規模の資金投入を行うことなどを始め、公約を着実に実施していきます。
激動する国際情勢の中、アフリカは、パンデミック後も続く経済の停滞、ウクライナ情勢による食料・エネルギー価格の高騰、不透明・不公正な開発金融による影響など、様々な課題に直面しており、紛争・テロにも苦しんでいます。その一方で、国際社会におけるアフリカの重要性や発言力は、年とともにますます高まってきています。このような状況を踏まえ、私は、G7広島サミットの直前に、アフリカの東西南北の主要国を訪問し、各国が直面する様々な課題に耳を傾け、その成果をサミットでの真剣な議論につなげました。
本日お集まりの皆様、こうした時代の変化を踏まえ、これからのTICADはどうあるべきでしょうか。30周年というこの節目の機会に、TICADのこれまでの歩みと今後の展望について、活発な意見交換が行われ、皆様の知恵と経験、そして熱気が、日本とアフリカの将来を担う若者たちへのメッセージとなり、2025年に横浜で開催予定のTICAD9を始め、今後のアフリカの発展と安全につながることを心より祈念いたします。
御清聴ありがとうございました。
●ワグネル代表プリゴジン氏の死亡確認 ロシア連邦捜査委 8/28
ロシアの連邦捜査委員会は27日、北西部で墜落した自家用ジェット機に乗っていて死亡した10人の身元についてDNA鑑定などを行った結果、ことし6月に武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏の死亡が確認されたと明らかにしました。
ロシア北西部のトベリ州で23日に起きた自家用ジェット機の墜落について、連邦捜査委員会は25日、現場で10人の遺体を収容したと発表し、DNA鑑定などによる身元の確認を進めていました。
そして27日「10人の犠牲者全員の身元が確認された」として、ことし6月に武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏の死亡が確認されたと明らかにしました。
これに先立って、ロシアのプーチン大統領は24日「ワグネルのメンバーが搭乗していた。プリゴジン氏は人生で重大な過ちを犯したが、私の求めには必要な結果も達成した。才能のある人物だった」などと述べ、哀悼の意を表していました。
墜落をめぐってアメリカの複数のメディアは、機内に仕掛けられた爆発物による可能性があると伝えているほか、ロシアの治安機関が関与した可能性が高いという見方も報じられています。
これに対して、ロシア大統領府は25日「まったくのウソだ」としてプーチン政権が墜落に関与したとする見方を全面的に否定しています。
プーチン大統領 志願兵などに「命令に厳格に従う」宣誓義務づけ
ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻に関わる志願兵などに対して「国家への忠誠を誓い、指揮官の命令に厳格に従う」と宣誓することを義務づける大統領令に25日署名しました。
ウクライナ侵攻をめぐっては民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が国防省との対立を背景にことし6月、武装反乱を起こしていて、プーチン大統領としては民間軍事会社などの戦闘員を政権の統制下に置くねらいがあるとみられます。
この大統領令はロシア北西部でプリゴジン氏らが自家用ジェット機の墜落によって死亡した2日後に公布されています。 
●ロシアのネオナチ戦闘部隊「ルシッチ」がプーチンに戦線離脱を通告 8/28
ウクライナ戦争でロシア軍と共に戦ってきた極右のネオナチ戦闘部隊「ルシッチ」のリーダーであるヤン・イゴレビッチ・ペトロフスキーが先日、フィンランド警察に逮捕された。ルシッチはリーダーの解放を求めて、ウラジーミル・プーチン大統領に最後通牒を突き付けた、と戦争研究所(ISW)は8月26日のリポートで伝えた。
フィンランド当局がペトロフスキーを拘束したのは「ウクライナの要請によるもの」であり、ウクライナはテロ容疑に関連してペトロフスキーの身柄引き渡しを求めている、とフィンランドのテレビ局MTV3は8月25日に報じた。
ペトロフスキーは個人としてEUとアメリカから制裁を受けている戦争犯罪容疑者だ。米財務省は、ペトロフスキーをルシッチの「軍事訓練指導者」と認定し、2022年9月に制裁を科した。それは同年2月にプーチンが開始したロシアのウクライナ侵攻が、明らかに正当性を欠き、人権侵害が疑われるとして世界的な非難が巻き起こっていたときだ。
フィンランドは今年4月にアメリカ、カナダ、ヨーロッパの軍事同盟であるNATOに加盟したばかり。ロシアが欧州の近隣諸国により大きな影響力を行使しようとする懸念が高まるなかで、ペトロフスキーを拘束したことは、フィンランドと他の欧州諸国との結びつきを強化する効果があった。
リーダーの解放を要求
ロイター通信によれば「露骨なネオナチ部隊」として設立されたルシッチは、2014年にウクライナのドンバス地方でロシアが支援するルガンスク人民共和国軍の一部として戦闘に参加、その後もウクライナ侵攻の一翼を担ってきた。
だがアメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)によれば、ルシッチはペトロフスキーが解放されなければ、ウクライナ戦争から撤退するとロシア政府を脅しているという。
「ロシアの極右非正規準軍事組織である『ルシッチ破壊工作偵察グループ』は8月25日、ロシア政府が現在フィンランドに拘束されているルシッチの司令官ヤン・ペトロフスキーが釈放されるまで、ウクライナでの戦闘任務を拒否すると発表した」とISWは報告している。
ISWによれば、ルシッチはロシア政府を非難し、「ロシア政府が在外ロシア人を保護する義務を果たさないなら、われわれにもロシアを守る義務はない」と言ったという。
ルシッチは、ロシアの民間軍事会社ワグネルともつながりがあるとみられている。ワグネルは、創設者のエフゲニー・プリゴジンが飛行機「事故」で死亡したことで混乱している。今年6月、ワグネルはウクライナ侵攻の停滞を理由にロシア軍指導部に対して反乱を起こし、プーチンとプリゴジンの関係は悪化した。
●プーチン氏、G20出席見送り 外相が代理出席へ 印首相に伝達 8/28
ロシアのプーチン大統領は28日、インドのモディ首相と電話会談し、ニューデリーで9月に開催される20カ国・地域(G20)首脳会議を欠席し、代理にラブロフ外相が出席する考えを伝えた。
インド政府は声明で「モディ首相はロシアの決定に理解を示した上で、インドが議長国を務めるG20が進める全てのイニシアティブに対するロシアの一貫した支援に謝意を表明した」と明らかにした。
電話会談ではまた、宇宙協力や貿易、エネルギーを含む二国間関係のほか、新興5カ国(BRICS)の拡大などについても協議した。ロシア大統領府が明らかにした。
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成するBRICSは先週、南アフリカで首脳会議を開催。プーチン大統領はオンライン形式で参加した。
ロシア大統領府は声明で電話会談では「特に特権的な戦略的パートナーシップの精神で進展しているロシア・インド関係の時事的な問題が検討された」と指摘。「貿易と経済協力のポジティブなダイナミクスも確認された」とした。
●ウクライナの反転攻勢「とても良い方向」 チェチェン独立派の幹部 8/28
ロシアのウクライナ侵攻から24日で1年半が経過した。都市への無差別攻撃や民間人虐殺など、ウクライナでの戦争の「原型」として、再び注目が集まっているのが、第2次チェチェン紛争(1999年〜2009年)だ。
開始当時、無名の首相だったプーチン大統領は、チェチェン侵攻の指揮を執り、短期間で最高権力の座に登り詰めた。その意味で、同紛争はプーチン体制の「原点」でもある。
同紛争でロシアを追われ欧州に亡命中の独立派武装組織は、チェチェンへの帰還を目指しウクライナ軍傘下で、ロシア軍や親ロ派チェチェン部隊と戦う。
このほど来日した独立派幹部(亡命政府外相)のイナール・シェリプ氏(52)にウクライナでの戦争やチェチェンの現状を聞いた。
ウクライナが主導権強化
――ウクライナの反転攻勢の進展をどう見るか。
とても良い方向に進んでいる。ウクライナは派手な戦果より損失を最小限に抑えつつ主導権を強め目標に近づいている。年内中に具体的な成果が出ると思う。主な軍事的サプライズはクリミアになるとみている。
――ウクライナ侵攻ではプーチン氏に近いロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長が率いる私兵集団「カディロフツィ」がウクライナとの戦闘で存在感をアピールするが。
実際には、カディロフにはそれほど多くの戦闘員はいないだろう。たぶんこれ(精強部隊の存在)は神話だ。ロシア全土で人を集めているのだろう。ロシア内外ではチェチェン人は悪者で、誰もが恐れるべき存在というイメージがあり、それを利用しているわけだ。
カディロフ氏の恐怖政治
――現在のチェチェン共和国はカディロフ首長の恐怖政治といわれるが、現状をどうみるか。
チェチェンは現在もロシアの占領下にあり、その結果が恐怖政治だ。カディロフは(ロシア政府の方針の)実行者で、その任務はロシアの帝国国境を守ることだ。そのためには、どれほど死者が出ても許される。だから当然、そこで起こることの全てがテロリズムだ。人々は監獄の中で生活しているようなものだ。プーチンは、このようなことを奨励しているのだ。
――プーチン氏とカディロフ氏の関係の実態はいかなるものか。いずれプーチン氏を裏切る可能性は。
プーチンはカディロフを忠実な下僕にした。プーチンがカディロフを発明したのだ。プーチンはカディロフを創作し、カディロフ神話を作り上げた。
カディロフは父親(故アフメド・カディロフ氏)と一緒に第2次紛争で、チェチェンを裏切っている。生きるか死ぬかという状況になれば、裏切るかもしれない。
帝国的思考
――チェチェン独立派として、ウクライナ侵略の本質をどう見るか。「帝国ロシア」のもたらした、ある意味で必然的な帰結か、それともあくまでプーチン氏の暴走で偶然的な要素が大きいのか?
いや、それは(ロシアで培われてきた)帝国的思考の結果だ。ロシアには広大な領土がある。世界の陸地面積の10%を占めている。シベリアの人口は極端に少なく、日本の北方領土は必要ではない。チェチェンも小さな国で、彼らには必要ないのだが、帝国の野望があるので、決して手放すことができない。
プーチンは(ウクライナという)新たな領土を征服した男として歴史に名を残したかったのだが大失敗だった。
ロシアのプロパガンダに気付いた世界
――ウクライナ侵略戦争であらためてチェチェン紛争に注目が集まっている。
1997年、マスハドフ大統領とロシアのエリツィン大統領との間で結ばれた「ロシア連邦とチェチェン・イチケリア共和国の和平と相互関係条約」でチェチェンは独立し、われわれは対等な関係を確立した。
しかし、その後プーチンが戦争を始めた。プーチンは私たちをテロリストに仕立て上げる必要があったのだ。(プーチン氏にとって)チェチェン紛争は、私たちの民族独立運動をイスラムのテロリストにする情報戦争だった。プーチン・ロシアは常に中東と良好な関係を築いており、中東はプーチンを助けた。われわれだけがプーチンと戦い、全世界は沈黙した。
しかし昨年2月、ウクライナで戦争を始めた後、プーチンは、ウクライナ人は過激な民族主義者で、テロリストだと非難し、チェチェン独立派に行ったのと同じプロパガンダを発動した。だから今日、世界の人々はプーチン発言がすべてナンセンスだと気づいたわけだ。
ウクライナの独立派承認は重要なステップ
――ウクライナ議会は昨秋、チェチェンはロシア占領下にあるとして、独立派の「亡命政府」を承認した。その意義はなにか。
(独立へ向けての)重要なステップだ。ウクライナとの間で軍事協定が結ばれ、ウクライナ軍の一部として戦っている。われわれは独自のパスポートも発行しウクライナはそれを承認した。ラトビア、リトアニアとエストニアのバルト三国やポーランドとも(亡命政府の正式承認を巡り)交渉中だ。
――バルト三国やポーランドが独立派を支持するのはなぜか。
彼らは「帝国ロシア」とは何かをよく知っている。もしチェチェンが独立すればロシアは帝国ではなくなるわけだ。
――チェチェンの経済状態は? チェ
チェンは本来、産油地域なのに政権は(紛争で)破壊された石油精製所の再建を許さない。分離独立することがわかっているからだ。だから失業率がロシアで最も高い。
独立チェチェンは自由と民主主義
――独立派の目指すチェチェンの方向性は自由で民主的な体制なのか。
チェチェン(イチケリア)には1992年に制定した憲法がある。(基本原則は)民主主義と世俗的な国家であり、何も変えるつもりはない。欧州で暮らすチェチェン人は欧州の教育を受け、市民権を持ち、5ヶ国語を操り、大企業で働いている。この人たちが戻ってきて、民主主義の旗を掲げる。準備は万端なのだ。
――成功した映画監督だったあなたは何故、亡命政府の外相になったのか?
ウクライナでの戦争はすべてを変えた。私は、自国民(チェチェン人)の利益のために自分の利益を犠牲にする必要があった。これからの変化は、何世紀にもわたって残るものであり、亡命政府に入った。(亡命政府首相の)ザカエフ氏は元俳優でもあり、彼とは30年来の友人だ。
――ウクライナでの戦争と同様、チェチェン紛争でも多くの戦争犯罪が確認されている。将来、犯罪の責任者は法廷で裁かれる可能性は。
もちろん裁かれる。国際法廷が開かれ、われわれが調査することになる。実際、第1次チェチェン戦争後、チェチェン政府はロシア政府との条約に基づき、ロシアはチェチェンに1700億ドルを賠償する義務を負った。私たちが分離独立した後には、ロシアはまず第一に、以前の条約に基づき私たちが独立した際の条約に基づいて賠償金を支払う義務があります。
チェチェンと北方領土
――ロシアによる不法占拠の続く北方領土問題についてどうみているか。
チェチェンが占領されているように、日本の領土もロシアに占領されている。私は、ロシアがそれを日本に返還する義務があると確信する。ウクライナも北方領土を日本の領土と承認している。これはロシアにとって非常に重要な問題だ。
(ウクライナ戦争後の)将来のロシアについて、私たちが検証できる重要な判断基準は、占領した領土、つまりチェチェン独立と日本の北方領土に対する態度だ。プーチンに続く新しい指導者が「我々は民主主義者であり、帝国主義者ではない」と明言した場合、チェチェン独立と日本の北方領土の不法占拠を認め、返還するのであれば、民主的であるとみなすことができる。
――今後の展望は。
近い将来、われわれは(チェチェンに)帰還するだろう。軍事作戦になるので内容は明かせない。ただ一つだけ言えるのは、ロシアが北カフカスから撤退しつつあることだ。最も重要なシグナルは、(ロシアが占領した)クリミア半島の奪還だ。その後は全てが変わるだろう。チェチェン全土には地下組織があり独立に備えている。
チェチェン紛争とは
北コーカサスのチェチェン人は18世紀以降、南下したロシア帝国に対し激しく抵抗したが、19世紀半ばに併合された。チェチェン指導者のドゥダーエフ氏は1991年、旧ソ連崩壊前年、ソ連からの独立と「チェチェン・イチケリア共和国」建国を宣言。しかし独立を認めないロシアは94年末に軍事介入。(第1次チェチェン紛争)96年に停戦合意が成立、翌年には平和条約が結ばれチェチェンは事実上の独立状態に。
しかしプーチン首相(当時)が指揮をとった99年以降の第2次チェチェン紛争ではロシア軍が独立派を首都から一掃。親ロ派のカディロフ政権を誕生させた。一方でロシア軍による民間施設への無差別攻撃や多くの人権侵害で国際社会の強い批判が起きた。独立派の中のイスラム過激派は2002年10月のモスクワ劇場占拠事件や2004年2月のモスクワ地下鉄テロ、北オセチア共和国での学校占拠事件などのテロを繰り返した。
一方、独立穏健派の指導者、マスハドフ元チェチェン大統領は2005年、ロシアの連邦保安庁(FSB)により殺害された。紛争での死者数は計16万人とされる。
●BRICS首脳会議「共通通貨は見送り」も「拡大は続ける」虚実の背景 8/28
8月22日から24日まで3日間、南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで、2023年のBRICS首脳会議が開催された。今回で15回目にもなるBRICS首脳会議だが、今年ほど注目を浴びたことはないだろう。ロシアのウクライナ侵攻に端を発して、欧米対中露という見方が広がり、その中露に新興国全般を重ねる見方も広がったためだ。
今回のBRICS首脳会議の最大の果実は、2010年に南アがBRICSに加わって以来の「拡大」が決定されたことにある。会期の最終日に当たる8月24日、南アのシリル・ラマポーザ大統領が共同記者会見で、2024年1月付で、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦がBRICSに加わることを明らかにしたのだ。
BRICSという呼び名の由来
そもそもBRICSとは、2001年に米金融大手ゴールドマンサックスが、今後高成長が見込まれる新興国として、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国に対して当てた言葉だった。当初はBRICsと呼ばれたが、その後に各国が自発的に首脳会議を開催するようになり、さらに2010年に南アフリカが加わって、BRICSと称されるようになった。
このBRICSに新たに6カ国が加わるわけだが、そうなると、BRICSという呼称そのものが、妥当性や正統性を失うことになる。対等の発言権を持つ6カ国が新たに加わる以上、先行する5カ国だけの頭文字を意味するBRICSという呼称は不適切だろう。新たな新興国グループを意味する呼称が、今後、生まれることになると考えられる。
BRICS間にあった「拡大の温度差」の正体
今回、BRICSの拡大に積極的だったのは、中国とロシアだった。中国は近年、欧米との間で政治経済的な摩擦を強めている。またロシアは、ウクライナ侵攻を巡って欧米から事実上、排除された経緯がある。両国にとって、BRICSは欧米に対する重要な対立軸になりえるプラットフォームである。したがって、中露はBRICS拡大を支持した。
南アも拡大に理解を示す一方、ブラジルとインドは慎重だった。
両国とも、加盟国の増加で自らの発言力が低下することを恐れているためだ。さらにインドの場合、中国とは必ずしも蜜月ではなく、欧米との関係も重視している。中国の主導でBRICSが拡大し、BRICSのスタンスが反欧米的となる事態は、インドとしては受け入れがたい。
そのインドは、いわゆる「グローバルサウス」の盟主を自負している。反欧米でもなければ、親中露でもない。かつての言葉で言えば「第三世界」といったところだろう。BRICSというプラットフォームに魅力を感じなくなったとき、インドがBRICSから分離し、自らを頂点とするグローバルサウスを率いることになる可能性も否定できない。
その実、加盟を申請する新興国の側にも、国内では温度差がある。新興国の中には、親中露派の国民もいれば、親欧米派もいる。親欧米とまでは言えないまでも、欧米との対立を望まない国民も多くいる。
そうした国民はBRICSを欧米との対立軸にしたい中国やロシアの思惑からは距離を置くべきだと考えるのである。
2024年1月にBRICSに加盟するアルゼンチンも、欧米に対するスタンスで国内対立を抱えている。アルベルト・フェルナンデス大統領を擁する与党ペロン党は、反米左派の立場からBRICSへ加盟を申請した。しかし8月に行われた次期大統領選の予備選で勝利したのは、親米右派で経済のドル化を主張するハビエル・ミレイ下院議員に他ならない。
またしても見送られた「BRICS共通通貨構想」
ところで、BRICSの中には共通通貨の導入を目指す動きがあった。日本でも、米ドル覇権に対して疑問を持つ論者にとっては、金本位制に基づくとされたBRICS共通通貨の構想は非常に魅力的に映ったようだ。しかし、今回の首脳会議の宣言文書にも共通通貨の導入に関する言及はなく、単に自国通貨での決済を奨励する旨の記載があるだけだった。
そもそも、複数の国で共通通貨を導入するためには、まず共通通貨と各国通貨との間で為替レートを固定する、正しくは「極めて狭い変動幅で、為替レートを維持すること」が必要となる。そして、その為替レートを数年にわたって維持することが可能となった場合に、完全に各国通貨に変わる共通通貨が採用されるという段階を踏むことになる。
共通通貨の先行例といえば、欧州連合(EU)の通貨ユーロがまず思い浮かぶ。ユーロの場合、その前身となる欧州通貨単位(ECU)が1979年に用意され、それに各国の為替レートを固定する試みが1998年まで続けられた。そのうえで、1999年に11カ国で統一通貨ユーロが採用され、2002年から現金が流通することになった。
この間、実に25年近い歳月を要したわけだが、EU各国は為替レートを安定させるため、インフレの抑制に腐心してきた。国内の景気を考えた場合、財政・金融政策を拡張させることが望ましい局面でも、インフレ抑制のためにEU各国は財政・金融政策を引き締めた。そこまでしてようやく、EUはユーロを導入することができた。
BRICS共通通貨は貿易決済に限定し、現金流通を予定していない。つまりEUの通貨統合プロセスに準えれば、「ユーロは発行しないが、ECUのような通貨バスケットを目指す」ということだ。したがって、BRICS諸国もまた、為替レートを固定するために、マクロ経済の安定運営、とりわけ、インフレの抑制に努める必要がある。
あまりに異なる各国の経済事情。共通通貨が導入できるわけがない
   RICSの消費者物価の推移
ここでBRICS5カ国の近年の消費者物価の動きを確認すると、かなりのバラツキがみられる(図表)。2022年だけでも、ロシアの消費者物価上昇率は13.8%、ブラジルは9.3%、南アフリカは7.0%、インドは6.7%、中国は2.0%と、差が著しい。各国でそれぞれ需給ギャップが異なるため、インフレにバラツキが出るのは当然だ。
とはいえ、BRICS共通通貨を導入するなら、その信用力の中心は中国であるから、中国のインフレ目標(近年は3%前後)まで、各国は消費者物価の上昇率を抑制しなければならない。そうなると、全ての国々が財政・金融政策を引き締めて景気を減速させる必要に迫られる。そうした厳格な経済運営が、果たしてBRICS諸国に可能だろうか。
BRICSは「実効性のある連帯」を継続できるのか
各国とも、共通通貨を導入するには、財政を引き締めてインフレを抑制する必要がある。しかしウクライナとの戦争にまい進するロシアの場合、多額の軍事費を必要としている。それにロシアは今後も、ウクライナや欧米との対立を念頭に、巨額の軍事費を必要とするはずだ。そうした国に、共通通貨導入のための財政引き締めなどできない。
共通通貨構想が見送られたということは、結局のところ、BRICSは緩やかな連帯に過ぎないということを証明している。「勝てば官軍、負ければ賊軍」の格言のとおり、今はBRICSに近付いていても、それを実効性がないプラットフォームだとわかってしまうと、BRICSから離れる新興国も増えてくるのではないか。
●ウクライナ侵攻が影響…北方領土・択捉島にロシア人観光客が急増 8/28
28日は、78年前に旧ソ連軍が北方領土に上陸した日です。日本との交流が途絶えて4年がたった択捉島では、ウクライナ侵攻の影響で海外旅行がしづらくなったロシア人観光客が急増しています。さらに、ロシアは択捉島の「軍事拠点化」を進めています。
ロシアが実効支配する北方領土・択捉島では、ロシア人観光客が海岸線沿いでダイナミックにドライブを楽しみ、透明度の高いビーチをカメラに収めていました。
モスクワからの観光客「極東にはずっと前から来たいと思っていました。本当に素晴らしい場所です」
「極東の僻地(へきち)」としてあまり知られていなかった島で、ウクライナ侵攻後、観光客が急増。各国から制裁を受け、海外旅行がしづらくなったロシア人にとって、択捉島が新たなリゾートとなっているのです。
1泊1人7万円以上の高級ホテルは9月末まで満室。6月には択捉島初のグランピング施設が開業し、モスクワやサンクトペテルブルクから多くの観光客が訪れるなど、富裕層向けの開発が急激に進んでいます。
観光ガイド「択捉島の観光はいま大盛況です。多くの人が極東の美しさにひかれています」
一方、街のコンビニにはロシア製の商品と並んで、コーヒーなど、わずかに日本製の商品がありました。
戦前、3600人の日本人が暮らしていた択捉島。4年前まで、ビザなし交流で多くの日本人が訪れていましたが、新型コロナウイルスの影響とウクライナ侵攻後の日露関係の悪化で中断。元島民らによる墓参りも再開のめどはたっていません。
択捉島の住民「この島は投資や開発が盛んで、どんどん発展しています。プーチン大統領のおかげです」「制裁の影響はありません。日本人がいらっしゃるなら歓迎します。ここは私たちの土地だから」
さらにいま、ロシアが進めているのが、択捉島の「軍事拠点化」です。観光客や住民の目につかない場所には地対空ミサイルが配備され、ウクライナ侵攻で兵力不足が指摘されるなかでも、大規模な軍事演習が行われました。
択捉島ではウクライナ侵攻後、軍を支持する「Z」や「V」のマークをつけた車も見られました。また、「我々の英雄に栄光あれ」と、ウクライナの戦地に向かった兵士をたたえるポスターもありました。島からは20人が戦闘に参加し、2人が死亡したといいます。
プーチン大統領が「戦略的に重要」とする北方領土。日本との交流が途絶えるなか、実効支配がさらに強まっています。
●北方領土の洋上慰霊始まる 「困難な情勢だけど」元島民ら先祖を供養 8/28
北方領土の元島民らが船の上で先祖を供養する「洋上慰霊」が28日始まった。ロシアによるウクライナ侵略の影響で日ロ関係が悪化し、北方墓参をはじめとする四島交流等事業は実施の見通しが立たない状況が続いている。四島の近海で先祖の霊を慰めたいという元島民らの思いを受け、千島歯舞諸島居住者連盟(千島連盟)と北方領土問題対策協会、道が共催した。
午前9時半すぎ、元島民やその家族、行政関係者ら68人が交流専用船「えとぴりか」に乗船。根室市の根室港から歯舞群島沖へ向けて出港した。
あいにく海上は霧に覆われ、歯舞群島の島影を見ることはできなかったが、元島民らは船上での慰霊式に参加して祈りを捧げた。
この日、乗船した千島連盟理事長の松本侑三さん(82)は「船の中でみなさんと、北方領土について色々な話をすることができた。こういう機会をもっと多くしていく必要がある。国に対しては、困難な情勢ではあるが、まずは北方墓参の実現に取り組んでもらいたい」と語った。
洋上慰霊は、歯舞群島コースと国後島コースの2種類がある。今後は9月2日と7日に歯舞群島コース、同14日、21日、30日に国後島コースで慰霊が行われる予定だ。

 

●ウクライナ国防省「ロボティネを解放」 南部要衝トクマク奪還に向けて進軍 8/29
ウクライナ国防省は南部ザポリージャ州の要衝につながる集落ロボティネを解放し、さらに南部に向かって前進していると公表しました。
ウクライナのマリャル国防次官は28日、南部ザポリージャ州のロボティネをロシア軍から解放したと公表しました。
ロボティネは、主要な道路が通る要衝トクマクにつながる集落で、マリャル国防次官は「我々の軍はロボティネから南東へ進んでいる」と述べました。ロシアが実効支配するクリミア半島とドネツク州を結ぶ陸路を断ち切りたい考えです。
アメリカの「戦争研究所」は、ウクライナ軍は今後戦車を妨害する構造物などを突破する必要があると指摘しました。
●世界最大のコメ輸出国なのに…インドがまた輸出統制カードを切った 8/29
世界1位のコメ輸出国であるインドが物価を押さえるために一部品種のコメ輸出を禁止したり制限するなど特段の対策を断行し、世界の食糧安保に厳しさが増している。再執権を狙うモディ政権が来年春の総選挙を意識した措置という見方が出ている。
気候変動による作況不振まで重なりアジアの主食であるコメの需給が危機状況に追い込まれた形だ。専門家の間では「食糧危機が安保危機に広がった2008年の前轍を踏むことになりかねない」という警告も出ている。
ブルームバーグと現地メディアなどが27日に伝えたところによると、インド商務省はこの日バスマティ米を1トン当たり1200ドル以下で輸出しないよう関連機関に指示した。
インドは最近になりコメ輸出統制水準を引き上げている。昨年9月に動物飼料やエタノール製造などに使われるくず米の輸出を禁止したのに続き、先月20日にはバスマティ米を除くすべての白米に対する輸出を禁止した。また、25日にはパーボイルドライスに対して20%の関税賦課措置を下した。
世界で取引されるコメは大きく4種類で、そのうち細く長い形のインディカ米が世界のコメ貿易の約70%を占める。インドが先月から輸出を統制している品種がインディカ米だ。バスマティ米の場合、香りが強く主にインドとパキスタンで人気がある。
インド商務省によると今回バスマティ米に対する価格制限にまで出たのは、輸出が禁止されたインディカ米が高級バスマティ米に偽装されて違法に輸出されるのを牽制するための措置だ。バスマティ米もやはり細長くインディカ米と混ぜると分別が難しい。
インド政府がこのように一連のコメ輸出措置を取るのは気候変動による豪雨と日照りなどが続きコメをはじめとする各種農産物の収穫量が急減したためだ。このためインドは主要食材であるタマネギにも40%の輸出関税をかけている。また、砂糖生産1位のインドは10月から自国で生産した砂糖の輸出を7年ぶりに禁止することにした。
生産量急減で物価は上昇を続けている。インド統計庁によると、先月のインドの食品物価上昇率は11.5%で、2020年1月以降で最高値を記録した。そこで来年4月の総選挙を控えたインド国民党(BJP)政権が物価上昇による不満世論を鎮めるために相次いで食料輸出の締めつけに出たという分析も出ている。
周辺国と国際食糧機関所属の専門家らはこうした状況を大きく懸念している。インドの主要外交パートナーであるシンガポール、インドネシア、フィリピンの3カ国は23日にインドにコメ輸出再開を促す書簡を送った。
国連食糧農業機関(FAO)の担当官は「ウクライナ戦争とロシアの黒海穀物協定中断に続きインドのコメ輸出制限まで加わり世界の食糧安保が変曲点に来ている」と話した。国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストのピエール・オリビエ・グランシャ氏は「最近のインドのコメ制限措置で世界の穀物価格が最大15%まで上がる恐れがある」と話す。
インド国内でも懸念の声が出ている。インド国際経済関係研究委員会のアショ・グラティ研究員は「インドが主要20カ国(G20)でグローバル・サウスの責任感あるリーダーになろうとするならこうした突然の禁止措置は避けなければならない。インドが信じられるほどのコメ供給地ではないものと見られることこそさらに大きな損失だろう」と話した。
●ウクライナ軍、ロボティネ完全奪還…ロシア軍の防衛線突破し南進さらに加速か 8/29
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は28日、南部ザポリージャ州で南下を図る「ザポリージャ戦線」上の集落ロボティネを完全に奪還したと発表した。軍は南進を続けており、露軍が周到に準備した防衛線打開の兆しが出てきた。
ロボティネは戦線の起点オリヒウから約10キロ・メートル南方に位置する。露軍は地雷原や 塹壕ざんごう などで一帯に強固な防御陣地を築き、ウクライナ軍の進軍を拒んできた。露軍占領地域の要衝トクマクにつながる道沿いにあり、奪還は今後の進軍の足がかりとなる。
ロボティネ入りした部隊の指揮官は、「地雷が埋まった主要道路を越えた。ここからはより速く前進できる」とロイター通信に述べていた。
25日、ウクライナ南部ザポリージャ州ロボティネ近郊で戦車に乗るウクライナ兵=ロイター25日、ウクライナ南部ザポリージャ州ロボティネ近郊で戦車に乗るウクライナ兵=ロイター
足踏みしていた戦況の打開には、ウクライナ軍が精鋭部隊を投入するなど戦力を集中させたことが影響した可能性がある。
英紙ガーディアンは26日、関係筋の話として、米英とウクライナ軍の最高幹部が8月中旬にポーランドとウクライナの国境で非公開の会談を行った後、ウクライナ軍が戦力を「ザポリージャ戦線」に集中させる戦略に切り替えたと伝えていた。ウクライナ軍はこれまで三つの戦線に戦力を分散させていたが、米側から兵力を一つの戦線に集中するよう勧告を受けていた。
東部ハルキウ州クピャンスクからドネツク州リマンに延びる戦線では、露軍の砲撃が連日続くなどウクライナ軍は苦戦を強いられている。英国防省は26日の分析で、「今後2か月間で露軍が攻勢を強める可能性がある」と指摘した。
●ウクライナ軍 南部ザポリージャ州で集落奪還を発表 南下目指す 8/29
ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で集落の奪還を発表し、部隊がさらに南下してロシア側が支配する交通の要衝のトクマクまで進軍できるかが焦点となっています。
ウクライナ国防省のマリャル次官は28日、南部ザポリージャ州にあるロボティネを奪還したと発表しました。
ロボティネ周辺はロシア軍によって設置された地雷原が広がるなど最も強固な防衛が続く場所でその一部を突破した形です。
今後はウクライナ軍の部隊がさらに南下し、ロシア軍が支配する交通の要衝トクマクまで進軍できるかが焦点です。
また、ウクライナ側はロシアが一方的に併合している南部クリミアの奪還を目指し軍事的な揺さぶりを続けているとみられ、ロシア国防省は28日、クリミアでウクライナ側の無人機を撃墜したほか、クリミアの沖合でウクライナ側の巡航ミサイルを迎撃したと発表しました。
こうしたなか、イギリス国防省は28日、ロシア軍が来月にロシア西部で予定していた大規模な軍事演習を中止した可能性が高いとする分析を発表しました。
中止の理由としては演習に必要な人員や装備品の不足を指摘しているほか、ウクライナへの侵攻を続ける中で大規模な軍事演習は国内から批判が出かねないとロシア指導部が神経をとがらせている可能性もあるとしています。
●米情報機関がゼレンスキー大統領らを「監視」「盗聴」 8/29
ウクライナによるロシアへの直接攻撃を警戒してきた米国は、そのスタンスを微妙に修正しつつも、依然としてNATOへの戦線拡大リスクに神経を尖らせている。だが、対露交渉で優位に立つことを視野に入れたウクライナ側とは意識にギャップがあるようだ。米情報機関によるゼレンスキー大統領らへの「監視」「盗聴」で、そうした実態が明らかになった。
激戦が続くロシアのウクライナ侵攻で、ジョー・バイデン米政権はウクライナに巨額の軍事援助を供与してきた。
それと同時に米国はウクライナに対して、ロシア領への越境攻撃や「秘密工作」を控えるよう求めた。ロシア領内で米国製兵器を使用しないというルールも課した。
ロシアは直接攻撃を受けたら報復のために戦線を拡大し、北大西洋条約機構(NATO)同盟諸国を攻撃するような事態に陥る可能性を米国は恐れている。
だから、米情報機関はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領やキリロ・ブダノフ国防省情報総局(GUR)長官らの言動を監視し、盗聴などの手段で、彼らの本音を探ってきた。その事実が『ワシントン・ポスト』が入手した米国家安全保障局(NSA)の機密文書から明らかになった。
欠ける意思疎通
米国とウクライナはがっちりスクラムを組んでいるように見えるが、実際には相互の意思疎通を欠いている。
実は、ゼレンスキー大統領は部内で、ロシア国内の「都市占拠」やロシア―ハンガリー間の「石油パイプライン爆破」といった過激な工作を提案している。ブダノフ長官は今年2月24日の開戦1周年記念日に「大規模な対露攻撃」の準備をするよう指示していた。
開戦記念日の攻撃計画に対し、米国が「延期」を要請したためウクライナは折れ、2日前の22日、米中央情報局(CIA)は「GURは延期に同意した」と報告している。
しかし、こうした米国の配慮の結果、ロシアによるNATO諸国への戦線拡大が抑えられてきたわけではなさそうだ。現実には、ウクライナがドローンでモスクワを爆撃し、ベルゴロド地域の村々に対して砲撃するといった越境攻撃を続けても、ロシアは報復のためにNATO諸国を攻撃しようとはしていないのだ。
このため米国は5月下旬に政策を変更、ウクライナに対し、ロシアへの直接攻撃の禁止を求めないことになった。
米国は「どこを攻撃するな」とは言わない
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は5月31日の記者会見で、次のような新しい政策を公表した。
〈わが国は彼らにどこを攻撃するな、とは指示しない。どのような作戦行動を行うか、についても言わない。装備を与えるし、訓練もする。助言もするし協議もする。図上演習で支援もする。だが、最終的には軍事行動はゼレンスキー大統領と彼の司令官たちが決定する〉
というのだ。そもそも論だが、欧米の戦争の現実として、もっぱら防衛に徹して、敵と戦うのもウクライナ領土内だけ、という戦争論は通常あり得ない、という事実も考慮した結論のようだ。
しかし、その翌週6月5日の記者会見で、カービー調整官は再びこの問題で、極めて微妙な米国の立場を次のように説明した。
〈わが国はロシア領内での攻撃を奨励もしないし、可能にすることもしない。わが国の努力は、彼らが自衛し、領土を防衛、主権を守ることを支援することである。彼らが独立と領土を取り戻すのをわが国は助ける〉
この部分は、バイデン大統領の『ニューヨーク・タイムズ』への寄稿の一部とほぼ重なる。
つまり、ウクライナによる対露直接攻撃を積極的に賛成しているわけでもない、ということをあえて主張したのだ。米国はロシアを過度に刺激することをなお恐れている。だが、ウクライナ側からすれば米国は「優柔不断」としか映らないだろう。
核使用の危険性がある3ケース
その裏には、なお核戦争ないしは第3次世界大戦への展開という危険なリスクの芽を摘んでおきたいというバイデン政権の意図も隠されているとみていいだろう。
『ニューヨーク・タイムズ』によると、米情報当局は、ロシアが戦術核を使用するケースは次のような3つの局面だと指摘している。
・ウラジーミル・プーチン大統領の政権維持が脅かされた場合
・ロシア軍がウクライナで完全に崩壊し始めた場合
・ロシアがクリミア半島を失う局面に直面した場合
またウクライナ軍のロシア国内攻撃でも、
・誤算や失敗の結果、想定以上のダメージをもたらした場合
・より強力な反撃が必要だとクレムリンが考えた場合
・ウクライナの戦線拡大に反対する欧州諸国間で緊張と対立が深まった場合
こうした事態は、相当危険な状況をもたらすとみている。
「プリゴジンの乱」に手を出すな
こうしたリスク予測からみて、これまでで最悪の危機に瀕する可能性があると米国が恐れたのは、6月の「プリゴジンの乱」だったとみられる。
実は「乱」の進行中に、バイデン米政権はウクライナに対して、次の3点を要請した、と『ニューヨーク・タイムズ』は伝えている。
その3点とは、
(1)ロシア国内で秘密裏に攻撃作戦を実施しない
(2)「乱」の結果に影響を与えることをしない
(3)混乱状態に乗じる行動に出ない
ウクライナ側にこうした警告をした理由は、
・「乱」は米国かウクライナが画策した、と主張する口実をロシア側に与える
・ウクライナ軍がプリゴジン氏の目標に大きい影響を与えることはなさそうだが、プーチン大統領には西側非難の口実を与える
――とみられたからだ。
その後、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はロシアのテレビで「米国がウクライナに対して、この機を捉えてロシア国内で破壊活動をしないようにと指示していた」と発言しており、米側の動きを知らされていたようだ。
またウィリアム・バーンズCIA長官は「乱」の翌週、ロシア側のカウンターパート、セルゲイ・ナルイシキン対外情報局(SVR)長官に電話し、米国はプリゴジン氏の蜂起とは無関係、と伝えたという。
プーチン政権の維持に関わるこうした問題に、米国は極めて神経質であることが分かる。
ゼレンスキー大統領の過激な提案
しかし、戦争の当事国ウクライナは立場が異なり、対露工作でも米側が反対するような過激な計画を進めてきた。『ワシントン・ポスト』が入手したNSAの機密文書からその生々しい現実が明らかになった。
機密文書は、マサチューセッツ州兵空軍部隊基地で、若い州兵が漏洩し、ゲーム仲間とチャットルーム「ディスコード」で共有していた(2023年4月28日『米機密文書漏洩“21歳州兵に最高機密”という事情:スーダンでは貴重な情報も』)ものだ。
それによると、今年1月の部内の会議で、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍地上部隊がロシア領内に進軍し、「国境地帯の未特定の複数の都市を占領する」という軍事作戦を提案した。「ロシアとの交渉でウクライナ側が優位に立つ」のが目的だと述べたという。
恐らく、停戦交渉になった場合、クリミア半島や東部ドンバス地方のロシア軍が占拠する領域に対抗して、ウクライナ側もロシア領土を占領し、強い立場から交渉する必要性を主張したとみられる。
また2月中旬、ユリア・スヴィリデンコ第1副首相との会議で、ウクライナは「ハンガリーに石油を供給する旧ソ連製の石油パイプラインを爆破すべきだ」と述べたという。
世界的にその指導力を称賛されるゼレンスキー大統領が、こうした過激な提案をしたことに驚かされた。しかし雑なアイデアで、いずれも提案は実行されなかったようだ。
大橋爆破でロシアがウクライナ長官に逮捕状
他方欧米の政府は、ブダノフGUR長官の手腕を認めている。だが同時に、彼の大胆な工作の危険性も警戒している。3年前に34歳の若さで抜擢された長官は、ゼレンスキー大統領の期待も大きい。
米情報コミュニティは長官の通信を監視している。彼をインタビューした『ワシントン・ポスト』によると、GUR本部の彼のオフィスは盗聴を避けるためか、恒常的に音楽と雑音が流されていた。
対外秘密工作はGURの権限とされており、これまでさまざまな工作に関与した可能性が注目されてきた。
関与したとみられる最も大規模な工作は、2022年10月8日のクリミア大橋爆破事件だ。今年4月21日、ブダノフ長官自身が「首謀者」として、モスクワの裁判所から逮捕状が出ており、ロシア情報機関「連邦保安局(FSB)」の監視対象にもなっている。
FSBは事件の4日後、関係者として5人のロシア人と3人(内訳不明)のウクライナ人、アルメニア人を逮捕したと発表した。ただ彼らが自供したかどうかは不明だ。
発表によると、事件の約2カ月前の昨年8月に、ウクライナ南部のオデーサ港からロシア南部に向けて重さ22トンの爆弾が積み出され、その後トラックに搭載、クリミア大橋で爆発させたという。大橋はウクライナ侵攻では戦闘用物資の主要な供給ルートで、ウクライナへの輸送に利用されてきた。
また、GURはシリアに展開するロシアの民間軍事会社「ワグネル」の傭兵をクルド人組織の支援を得て攻撃するという異例の工作にも関与したと伝えられているが、詳細は不明だ。
いずれにしても、ロシアに対する直接的な攻撃はウクライナ市民の間で「意気高揚」の効果があると言われ、ロシア国内でのミステリアスな爆発の煙をあしらった模様のTシャツに人気があるという。ウクライナ側は、米国が懸念する「秘密工作」の危険なリスクには深刻に向き合っていないようだ。 
●プーチン氏、プリゴジン氏葬儀参列せず ロシア大統領府 8/29
ロシア大統領府は29日、搭乗機の墜落で死亡した民間軍事会社ワグネル(Wagner)の創設者エフゲニー・プリゴジン氏(62)の葬儀について、ウラジーミル・プーチン大統領は参列しないと明らかにした。
2か月前にロシア軍指導部打倒を目指して武装反乱を起こしたプリゴジン氏は、23日に死亡した。
記者会見でプーチン氏による葬儀参列について質問を受けたドミトリー・ペスコフ報道官は、「大統領の参列は予定されていない」と述べた。
プリゴジン氏の埋葬の日程や場所は公表されていない。ペスコフ氏は「葬儀に関する情報は把握していない。家族と友人が決めることだ」と話した。
●ベラルーシの大統領、プリゴジン氏に「気を付けろ」と警告していた 8/29
ベラルーシのルカシェンコ大統領は25日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏に対し、搭乗機の墜落に先立ち「気を付けろ」と警告していたと明らかにした。国営ベルタ通信が伝えた。ワグネルの戦闘員はベラルーシに残るとも語った。
ルカシェンコ氏は、プリゴジン氏らが面会に来た時に警告したと語った。会話の具体的時期は不明。ルカシェンコ氏は、プリゴジン氏が6月に武装反乱を起こした際も、モスクワへの行軍を続ければ「死ぬことになる」と同氏に伝えていた。
墜落へのプーチン氏の関与については、「プーチン氏がやったとは想像できない。あまりに雑でプロの仕事ではない」と否定的見方を示した。
●インフラ施設への攻撃、ウクライナ警戒…ゼレンスキー大統領「冬への準備」 8/29
ウクライナ政府は、ロシアが秋に重要インフラ(社会基盤)施設を標的とした攻撃を行う可能性があるとみて警戒している。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は28日夜のビデオ演説で、今後の課題に「安全保障を含めた冬への準備」を挙げ、重点的に取り組む考えを示した。
RBCウクライナ通信は28日、国防省高官の話として、露軍が最近、偵察でウクライナの防空システムの位置や攻撃に最適なルートを研究していると報じた。暖房需要が高まる冬を前にした9月から10月に、エネルギー施設への大規模な攻撃を行う可能性があるという。
高官は、ロシアで兵器が不足しているため、同時にミサイルを70〜100発発射した昨年10〜12月のような集中攻撃の再発に否定的な見方を示した。10〜30発のミサイルを発射しつつ、多数の無人機を投入する複合的な攻撃が行われる可能性に言及した。
ゼレンスキー氏は28日にSNSで、軍司令官らとの会議でエネルギー施設の防御計画について議論したと明らかにした。
一方、ウクライナ国営通信によると、ウクライナ中部ポルタワ州で28日、植物油の工場が露軍のミサイル攻撃を受け、従業員3人が死亡した。
●ウクライナ軍 南部ロシア防衛線の一部突破“ロボティネ奪還” 8/29
反転攻勢を進めるウクライナ軍は、南部ザポリージャ州でロシア側の防衛線の一部を突破したとみられ、さらに南方の要衝に部隊を進軍させるねらいです。一方、ロシア軍は、精鋭とされる空てい部隊を展開したと指摘され、攻防が一段と激しくなるとみられます。
ウクライナ軍は28日、南部ザポリージャ州の集落、ロボティネを奪還したと発表しました。
ロシアが築いた防衛線の一部をウクライナ軍が突破した形で、今後、部隊を南下させ、ロシア側が支配する交通の要衝、トクマクまで進軍させるねらいです。
こうした動きに対して、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は28日、ロシア軍は、ロボティネ周辺の陣地を強化するため東部ルハンシク州から精鋭部隊とされる「第76親衛空てい師団」を展開したとみられると指摘し、双方の攻防が一段と激しくなるとみられます。
一方、ロシア国防省は28日夜「クリミア半島に向かってアメリカ空軍の無人機、MQ9『リーパー』と『グローバルホーク』が黒海の南西部上空を飛行しているのを28日探知した。ロシアの戦闘機が緊急発進し、無人機は進路を変更した」などと主張しました。
ロシア国防省は、27日も黒海上空でアメリカ空軍のMQ9「リーパー」を探知したと発表しています。
ロシアが一方的に併合した南部クリミアに対しては最近、ウクライナ側が無人機による攻撃を続けているほか、上陸作戦も実施したとされ、ロシア側は警戒を強めているものとみられます。
“約20キロ先のトクマクまで進軍できるかが焦点”
ウクライナ軍の報道担当者が28日、地元テレビ局のインタビューで現在の戦況について説明し「解放した南部ザポリージャ州のロボティネを固めている。地雷を除去し、さらなる行動の準備をしている。ロボティネの南東では一定の成功を収めている」と強調しました。
そのうえで、解放したロボティネやその周辺について「この地域をあしがかりにすれば、さらなる兵士を追加し、幅広い行動をとることができる。トクマクへと続く重要な補給路の1つだ」と述べ、当面は、ロボティネの南部に位置する集落ノボプロコピウカなどでの戦果を重ね、およそ20キロ先の交通の要衝トクマクまで進軍できるかが焦点になるという見通しを示しました。
一方、ロシア軍の状況については「ロシア軍は簡単には去らないだろう。1日に300人が死傷しているがそれを補うため、敵は兵士を送り込んでいる。残念だが、ロシアには多大な人的資源がある」と指摘し、ロシア軍は兵士の補充を続けているとして警戒感を示しました。
ただ、新しく投入されているロシア軍の兵士について「それまでの部隊よりも訓練が十分でないか、全くできていない部隊もある」と述べ、練度は必ずしも高くはないと主張しました。

 

●ロシアでプリゴジン氏の葬儀 プーチン大統領は出席せず 8/30
自家用ジェット機の墜落で死亡した、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ・プリゴジン氏の葬儀が、出身地のサンクトペテルブルクで非公開で行われた。
プリゴジン氏の葬儀は29日、彼の出身地で、ワグネルの本部があったロシア第二の都市、サンクトペテルブルクで行われた。
地元メディアなどによると、葬儀は遺族の希望で非公開で行われ、関係者や親しい友人だけが参列したあと、プリゴジン氏は父親の隣に埋葬されたという。
ワグネルのSNSには、「さよならを言いたい人は墓地を訪れることができる」と書かれている。
プリゴジン氏の葬儀についてロシア大統領府は、「日程などはわからない。プーチン大統領は出席しない」とあらかじめ表明していた。
●プリゴジン氏、父親の隣に埋葬…非公開の葬儀 プーチン氏は出席せず 8/30
自家用ジェット機の墜落で死亡した、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ・プリゴジン氏の葬儀が、出身地のサンクトペテルブルクで非公開で行われた。
プリゴジン氏の葬儀は29日、彼の出身地で、ワグネルの本部があったロシア第二の都市・サンクトペテルブルクで行われた。
地元メディアなどによると、葬儀は遺族の希望で非公開で行われ、関係者や親しい友人だけが参列した後、プリゴジン氏は父親の隣に埋葬されたという。
ワグネルのSNSには「さよならを言いたい人は墓地を訪れることができる」と書かれている。
プリゴジン氏の葬儀について、ロシア大統領府は「日程などはわからない。プーチン大統領は出席しない」とあらかじめ表明していた。
●ロシア国民に「穴倉爺さん」とバカにされた理由/暗殺が怖い!プーチン 8/30
独裁者プーチンは「暗殺」や「クーデター」に加え、不慮の「病死」に対しても、神経を尖らせてきた。中でも2019年から世界的大流行が始まった新型コロナに対しては、常軌を逸した異常な警戒感を示してきたという。
その尋常ならざる警戒ぶりとは、具体的にどのようなものか。この点について昨年10月、トルコに亡命したFSO(ロシア連邦警護庁)の元情報将校グレブ・カラクロフ氏は、ロシアの犯罪活動などを追跡する機関の調査に対して、「以前のプーチン大統領は活気に満ちて活動的だったが、コロナ禍以降、自身を世の中から完全に遮断する生活を送るようになった」と指摘した。その上で「コロナ恐怖症」とでも呼ぶべき異常極まる行動について、以下のように暴露している。
・プーチンと接触する機会が多い大統領補佐官に対しては、1日に何度もPCR検査を受けさせていた
・わずか15分程度の職務上の接触であっても、クレムリン(ロシア大統領府)の職員に対しては2週間の厳格な隔離を義務づけていた
・プーチンと同じ部屋で仕事ができるのは、2週間の隔離を経た職員だけだった
・コロナ禍以降、プーチンはシェルターに身を置き、出張も年数回程度にまで激減した
そして、このような遮断生活の結果、現実を把握することが次第に困難となり、ウクライナ侵攻という暴挙に及んだと、カラクロフ氏は断言している。
「ロシア国内のSNS上では、コロナを恐れて地下に身を潜めているプーチンに対して『ブンケルヌイ・ジェード』と揶揄する声が上がりました。これを日本語に訳すと『穴倉爺さん』になります(笑)。ロシア国民は、プーチンが小心で臆病な独裁者であることを、ハナから見抜いていたのです」(ロシア専門家)
まさに「幽霊の正体見たり枯れ尾花」である。
●ロシア北西部の空港にドローン攻撃、軍用輸送機が損傷=報道 8/30
ロシアの複数の報道によると、同国北西部ペスコフの空港で29日、ドローン(無人機)による攻撃があり、軍用輸送機が損傷した。
タス通信は当初、救急当局の話として、輸送機「イリューシン76」4機が被害を受けたと報じた。うち2機は「炎上」したと伝えた。
国営RIA通信もその後、2機が炎上したと伝えた。
ペスコフのミハイル・ウェデルニコフ市長はメッセージアプリ「テレグラム」で、ロシア軍が攻撃を撃退したと説明。大規模な火災の様子を映した映像を投稿した。映像には爆発音も入っている。
また、「初期情報では犠牲者は出ていない」とした。
ウクライナはこの件についてコメントを出していない。ロシア国内への攻撃について、ウクライナが発表することはめったにない。
ペスコフはウクライナ国境から約600キロ離れており、エストニアに近い。ペスコフ州では今年5月にもドローン攻撃があった。
ウクライナはここ数週間、ロシア国内を標的とした、爆発物を積んだドローン攻撃を繰り返しているとみられている。
19日には、ロシア西部ノヴゴロド州のソルツイ2空軍基地で、超音速爆撃機「ツポレフ22」が破壊された。23日には、モスクワ州で複数のドローン攻撃があった。
ウクライナはこれらのドローン攻撃に関与したとはしていないが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は以前、「戦争は徐々にロシア領に戻りつつある。ロシアにとって象徴的な中心地や軍の基地へ。これは不可避で自然で、まったく公平なプロセスだ」と述べた。
一方ロシア軍は、30日午前0時ごろに黒海での作戦で、最大計50人の兵士を乗せたウクライナ船4隻を破壊したと発表した。ウクライナは直ちにはコメントしなかった。
ロシア軍はまた、南部ブリャンスクで3機、中部オリョールで1機、ウクライナのドローンを撃墜したと発表した。
タス通信は、モスクワのヴヌコヴォ国際空港の上空が封鎖されたと報じている。
●ロシア各地にドローン攻撃 “ウクライナ侵攻以降最大規模” AP通信 8/30
ロシア各地でウクライナによるとみられるドローン攻撃がありました。AP通信は、侵攻開始以降、最大規模だと伝えています。
バルト3国のエストニア、ラトビアと国境を接するロシア北西部プスコフ州の知事は30日、空港がドローン攻撃を受けたとして映像を投稿しました。けが人はいないとしています。
タス通信は、ロシア軍の輸送機4機が損傷し、2機が炎に包まれたと伝えています。
また、ロシア国防省は、29日から30日にかけて国内の5つの州に対してウクライナによるドローン攻撃があり、すべて撃墜したと明らかにしました。
AP通信はこれらの攻撃について、ロシアの侵攻開始以降、ウクライナによる最大規模のドローン攻撃だと伝えています。
●米、新たなウクライナ軍事支援を発表 防空ミサイルなど2.5億ドル 8/30
ブリンケン米国務長官は29日、ウクライナに対する総額2億5000万ドルの新たな軍事支援を発表した。
医療車両や追加的な地雷除去装置のほか、防空用ミサイル、高機動ロケット砲システム「ハイマース」向けの弾薬、300万発を超える小火器弾薬などが含まれる。
ブリンケン長官は「米国は同盟国、パートナー国と共に、必要な限りウクライナと共にある」と表明した。
2022年2月のロシアによる全面侵攻開始以降、米国はウクライナに対し430億ドルを超える軍事支援を実施。議会では民主・共和両党がウクライナ支援を支持しているが、トランプ前大統領を支持する一部の共和党議員の間では支援縮小を呼びかける声も出ている。
●国連「核実験に反対する国際デー」で会合 米ロが非難の応酬 8/30
国連が定める「核実験に反対する国際デー」にあわせて国連総会で会合が開かれ、国連の軍縮部門はCTBT=包括的核実験禁止条約を早期に発効する必要性を訴えましたが、最大の核保有国であるアメリカとロシアは非難の応酬を繰り広げました。
「核実験に反対する国際デー」の29日、国連総会で開かれた会合では、国連の軍縮部門のトップの中満事務次長が、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まっている現状に強い危機感を示したうえで、CTBT=包括的核実験禁止条約の早期発効の必要性を訴えました。
CTBTは1996年に採択され、日本など178か国が批准しているものの、条約の発効に批准が必要な国のうちアメリカや中国、北朝鮮など8か国が批准していません。
またロシアは条約を批准しているものの、プーチン大統領はことし2月、アメリカが新たな核実験を行えばロシアも実験に踏み切る姿勢を示しています。
会合ではアメリカの代表が「最近のロシアによる核の威嚇と核実験再開を示唆するプーチン大統領の発言に懸念を表明する」と述べたのに対し、ロシアの代表は「懸念されるのは、唯一核兵器を実際に使用し多くの核実験も行ってきたアメリカが、条約を批准していないことだ」と反論し、双方の非難の応酬となりました。
さらに会合では、各国から北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念も示されましたが、北朝鮮の代表は演説を行いませんでした。 
●プーチン氏との首脳会談調整 トルコ外相がロシア訪問へ 8/30
ロシア外務省のザハロワ情報局長は30日の記者会見で、トルコのフィダン外相が31日〜9月1日に訪ロし、ラブロフ外相と会談すると発表した。エルドアン大統領は来週、ロシア南部ソチでプーチン大統領との首脳会談に臨む見通しで、事前の調整が目的。
ザハロワ氏は、外相会談で「首脳会談について詰める」と述べ、ウクライナ、シリア、リビア情勢なども議論されると明らかにした。トルコ外務省もフィダン氏の訪問を確認した。
●露の“歴史戦”、外務省が警戒 「軍国主義化」など日本批判連発 8/30
ロシアが戦前の歴史問題を取り上げて日本批判を続けているとして、外務省が警戒感を強めている。ウクライナ侵攻に伴って対露制裁を科した日本に対抗し、「歴史戦」を仕掛けているとみられる。
外務省の小野日子報道官は30日の記者会見で「ロシア側が過去の歴史に関連し一方的な発言を繰り返している。日本が再軍国主義化しているかのような主張は全く当たらない」と述べ、平和国家としての歩みは揺るがないと強調した。
ロシアのプーチン大統領は6月、それまで「第二次大戦終結の日」としてきた9月3日を「軍国主義日本への勝利と第二次大戦終結の日」に名称変更すると決定。「非友好国」と位置づけた日本への対抗措置とみられるが、ロシア外務省は8月に入ると歴史に関連した日本批判を連発した。
同2日と11日の声明は、旧日本軍で細菌兵器開発などを実行した731部隊(関東軍防疫給水部)と、1938年夏に旧日本軍と旧ソ連軍が武力衝突した「張鼓峰事件」にそれぞれ言及。「軍国主義日本」が「侵略に対する責任を全面的に認める必要性」を強調し、旧ソ連の対日参戦と北方領土支配の正当化を試みている。
同6日の広島原爆の日に合わせた声明でも、原爆投下がなくても「1945年8月初旬までに旧日本軍は疲弊しており、ソ連の参戦が敗戦に決定的な役割を果たした」との認識を示した。
日本外務省関係者はロシア側の狙いについて「中国と協調しながら、9月3日に向けて日本の国際的評価を損ねようとしている」とみる。小野氏は会見で「過去の戦争をめぐり、無用な感情的対立をあおることがないよう強く求める」と呼びかけた。
●ウクライナの戦死者が大幅増 東部の死体安置所をBBCが取材 8/30
ウクライナの戦死者が大幅に増加していると、米当局が推定している。日々、兵士の命が失われているウクライナ東部の前線を、BBCのクエンティン・サマヴィル記者が取材した。
ドネツク州の前線からそう遠くない場所にある小さなレンガ造りの死体安置所では、無名の兵士たちが山積みになっていた。マルゴさん(26)はここで、死者に語りかけているという。
「変に聞こえるかもしれないが(中略)この人たちが死んだことに対して謝りたい。どうにかして感謝の気持ちを伝えたい。(兵士たちは)聞こえているように思うが、返事はできない」
死体安置所の重いドアの前には、散らかった机がある。そこで死者の詳細を記録するのが、彼女の仕事だ。
ウクライナ当局は、戦死者数は国家機密だとして、人数を明らかにしない。しかしマルゴさんは、その数が膨大だと知っている。
米紙ニューヨーク・タイムズは最近、米当局の話として、ウクライナ側の戦死者が7万人、負傷者は12万人に上っていると報じた。ウクライナ軍の兵士は50万人強なので、驚異的な人数だ。民間人の死者については、国連が9177人だとしている。
「たまらなくつらいのは、20歳や22歳にもなっていない若者が死んでいるのを見たとき。そして、自らの意志で死んだのではないと思い知らされるとき」とマルゴさんは言う。「兵士たちは殺された。自分たちの国土のために殺された。それが一番つらい。これに慣れることはない。今はただ、この男の子たちが家に帰るのを手助けするだけだ」。
これまで最もつらかった日は、事実婚の夫が死体安置所に運び込まれたときだったという。アンドレさん(23)は、昨年12月29日に戦死した。
「彼は祖国を守るために死んだ。その後、私はここで戦死者の手助けをすべきなのだと、自分に何度も言い聞かせてきた」
アメリカ国防総省から流出した推定データでは、ウクライナの死者は4月時点で1万7500人とかなり少なかった。それが一気に7万人以上に跳ね上がったのは、南部での反転攻勢が一因と考えられる。反攻の初期は、ウクライナの歩兵にとって特に厳しかった。ある旅団司令官は「バフムートよりひどい」と言った。
ウクライナは現在、戦術を変更している。だが、ロシア軍の守備の突破を目指し始めた6月は、訓練を受けたばかりの若い兵士らに多くの犠牲が出た。連日、何十人も死んでいると、当時ドネツク州ウェリカ・ノヴォシルカ村の周辺で戦っていた上級軍曹は話していた。
前線沿いの死体安置所の一つでは、戦場から運ばれた身元不明の遺体に名前をつける作業が行われている。
遺体袋を一つずつ外に運び出し、手がかりを探す。最初の遺体袋に入っていたのは若い男性だった。まだ目は開いている。両手が太もものあたりで丁寧に組まれている。顔は切りつけられ、足の側面に傷がある。次に運ばれてきた遺体は右手の指がなかった。軍服が血と戦場の泥で汚れている。
死体安置所のスタッフがポケットを切り開いた。鍵、携帯電話、家族の写真が入った財布など、日用品が詰まっている。兵士が死んだいま、これらの物が家族との再会の手がかりとなる。
別の遺体袋は、黒いペンで「身元不明」と書かれていた部分が、男性の名前と所属部隊の詳細に書き換えられている。
遺体袋はもっと運び込まれていたが、報道規制のため、その数を言うことはできない。
指揮官らがピックアップトラックでやって来て、たばこを吸いながら安置所の外を歩き回っている。一人の遺体について、自分たちの部隊の兵士か確認を始めた。その遺体は頭の一部が欠け、体には深い傷がある。ひっくり返すと、損傷はさらにひどかった。
「困難で、いやな作業だ。しかし、必要な任務の一部だ。私たちには、若者らをきちんと見送る義務がある」。「アヴォカト」と呼ばれる副大隊長は、そう話した。
彼の部隊からは、遺体の身元確認のためにさらに多くの隊員が派遣される予定だという。
ウクライナの墓地では、犠牲者の規模がはっきりと見て取れる。
ドニプロのクラスノピルスケ墓地の周辺には、掘られて間もない墓がどんどん増えている。その一つで、オクサナさん(31)が一人、涙を流していた。夫パヴロさんは、ウクライナが最初の反転攻勢に出た昨年11月、イジューム市付近で車列がロシアのヘリコプターのミサイル攻撃を受けて死亡した。屈強な体つきの、重量挙げの王者だった。
「彼は自分の意志で、国を守りに行った」とオクサナさんは言った。「根っからの戦士で、自由を愛していた。ウクライナ精神を体現していた」。
パヴロさんの遺体確認には時間がかかった。一緒に車に乗っていた兵士たちとともに、体がひどく焼けていた。最終的にはタトゥーで身元が判明した。
墓の一つひとつで、黄色と青色のウクライナ国旗がそよ風になびいている。それが何百基とある。東部と南部の戦場で命が次々と失われており、ウクライナ各地の墓地で墓が増えている。
オクサナさんとパヴロさんは、パヴロさんが戦死したらオクサナさんが戦場に行くと約束していたという。オクサナさんはこの2カ月、バフムート郊外で、偵察ドローン部隊の一員として戦闘に参加している。
ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は先ごろ、死傷者数を公表した人物は刑事訴追の対象になると警告し、次のように説明した。
「なぜこのデータが秘密なのか? 戦争が続いている間は、敵は死傷者数から私たちの行動を予測するからだ。(中略)敵がこの情報を握れば、私たちの次の動きについて理解するようになる」
クピャンスク近郊の東部戦線では、第68独立猟兵旅団がロシアの進撃を食い止めるために戦っている。旅団長のオレクシイ大佐は、部下の少佐の葬儀から戻ったばかりだった。
大佐は、「(ロシアの攻撃は)大きなものが2回あった。私たちはかなりうまく対処したと思う。死体を35体ほど見つけた。ということは、基本的に1個中隊を壊滅させたとのだと思う」と話した。
全体的には、ロシアの犠牲者のほうがはるかに多い。アメリカの最新の推定では、約12万人が死亡している。しかしロシアは軍も人口も、ウクライナよりはるかに規模が大きい。痛みを引き受けるロシアの能力は無限大にみえると、前線のウクライナ兵たちは言う。
私はオレクシイ大佐に、戦死者の家族にはどんなことを話すのかと聞いた。
「十分な安全を提供できなかったことに対して、許しを求めるだけだ。私はだめな指導者、だめな立案者だったかもしれない。そして、この戦いに捧げてくれたものへの感謝を伝える」
●空対空ミサイル「サイドワインダー」など、米がウクライナに追加軍事支援 8/30
米政府は29日、ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、2億5000万ドル(約360億円)の追加軍事支援を行うと発表した。
ウクライナ軍の防空能力強化に向け、空対空ミサイル「サイドワインダー」を供与する。高機動ロケット砲システム「HIMARS」用の弾薬や300万発超の小火器用弾薬、地雷除去装備なども提供する。
●ウクライナ侵攻批判に歴史修正で対抗 ロシアが「カチンの森の虐殺」を否定 8/30
ロシアが旧ソ連時代の1940年、ポーランドの将校ら2万2000人以上を殺害した「カチンの森の虐殺」の事実を否定しはじめた。今般のウクライナ侵攻でロシアの戦争犯罪が非難されるなか、自国の負の歴史を書き換える意図がある。
スターリンらが決定、プーチン氏も認めていたのに
モスクワから400キロのカチンの森には、ポーランド語で刻まれた墓碑と十字架が並ぶ。
1943年、ソ連領内まで攻め込んだナチス・ドイツ兵が、地中からポーランド将校の銃殺遺体を発見した。国際調査団の鑑定で、殺害はナチスの侵攻前と特定され、39年にポーランド東部を併合して将兵らを自国領に連行したソ連の犯行と疑われた。疑いに対し、ソ連は全面否定し、「ナチスの犯行」と主張した。
だが90年には、最高指導者ゴルバチョフ氏が進めたグラスノスチ(情報公開)の下、内務人民委員部(秘密警察)による集団殺りくだったと初めて認めた。ソ連崩壊後の92年には、スターリンら指導部が捕虜殺害を決定した事実も公表された。現大統領のプーチン氏も首相時代の2010年、「事件は正当化できない」と過ちを認めていた。
ところがウクライナ侵攻から1年余り経過した今年4月、国営ロシア通信は「ポーランド将校らを殺したのはナチスの首領ヒトラーの部隊で、ソ連ではない」と報道。殺害時期も「1941年だった」とし、ナチス占領下で起きたと見解を再び一転させた。
記事では「ナチスが自らの犯行をソ連がやったように見せかけた」と断定。さらにウクライナの首都キーウ近郊ブチャで昨年春、多数の市民の遺体が見つかったことに関しても、「ウクライナや米欧がロシアの犯行に見せようとして住民を殺害した」との主張を展開した。
「他国を攻撃したことは歴史上、一度もない」?
こうした主張に、ロシアの独立系メディア、ノーバヤ・ガゼータ欧州は「あからさまなウソ」と断じる。
プーチン政権には歴史を都合よく改ざんして、国民を結束させる狙いがありそうだ。ロシア大統領府は「ロシアは他国を攻撃したことは歴史上、一度もない」(ペスコフ報道官)とも主張する。さらに法改正も行われ、第2次大戦前後にソ連が東欧諸国を侵略したことに言及すれば刑事罰が科される恐れが生じる。このためロシアで外国メディアがカチン虐殺について報じることは事実上、不可能となっている。
冷戦時代はソ連を批判できなかったポーランド
津田塾大の吉岡潤教授(ポーランド史)の話 ポーランドはソ連の勢力圏に組み込まれていた冷戦時代、表立っては「カチン虐殺はドイツの犯行」としか言えなかった。一方、米英に亡命したポーランド人コミュニティーでは、ソ連の責任を問う声が出ていた。
カチン虐殺は、共産党独裁のソ連が「階級闘争」のイデオロギーに基づき、ポーランドの指導層を抹消しようとした「階級浄化」との分析もあった。現在ではポーランドとロシアの民族的・歴史的対立から検討されるケースが多い。
今般のウクライナ侵攻を受け、ポーランドではカチン虐殺と重ねてロシアに対する反発が強まっている。ロシアが自らの負の歴史を直視しようとしたのはつかの間だった。ポーランドとロシアの関係修復は極めて難しい。

カチンの森の虐殺 / ソ連の秘密警察が第2次大戦中の1940年春、ポーランドの将校や教員、官僚ら指導層2万2000人余をカチンなど複数の場所で銃殺した事件。犠牲者らは、ソ連が独ソ不可侵条約に基づき占領していたポーランド東部から連行されてきた。米英は早い段階でソ連の犯行との情報を得ていたが、ともに対独戦を戦うソ連との関係に配慮し追及を避けた。一方、ナチス・ドイツも占領下のポーランド西部で多数の市民を殺害した。
●クレバリー英外相が訪中、戦争終結への協力促す−英中関係改善探る 8/30
中国を訪れているクレバリー英外相は30日、ロシアがウクライナで始めた戦争の終結に向け取り組むよう中国側を促した。同相は今回の訪中を通じ英中関係の改善を図りたい考えだ。
クレバリー外相は北京でインタビューに応じ、ウクライナの領土一体性を支持するという過去の約束を守るよう中国当局に求めたことを明らかにした。
同相は今回の訪中について、「英中の2国間関係」に焦点を絞ったものだとしながらも、「ロシアによるウクライナへの残忍な侵攻は、ロシア政府であろうと、他のどこであろうと正当化することはできないと私は言ってきた」と語った。
クレバリー外相による中国訪問は、来月インドで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に参加するスナク英首相と中国の習近平国家主席による初の直接会談実現に向けた地ならしとなる可能性がある。

 

●ロシアと北朝鮮が武器供与協議 8/31
米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は30日の記者会見で、ウクライナ侵攻を続けるロシアに北朝鮮が武器や弾薬を提供するため、両国が協議を「積極的に進めている」と述べた。金正恩朝鮮労働党総書記とプーチン大統領が2国間協力の強化を誓約した書簡を交換したとしている。
米政権は北朝鮮とロシアの軍事協力に警戒を強め、機密情報を積極的に開示することでけん制する狙いがあるとみられる。
カービー氏によると、7月に北朝鮮を訪問したロシアのショイグ国防相が弾薬を提供するよう北朝鮮を説得し、別のロシア当局者が武器取引を協議するため北朝鮮を訪れた。カービー氏は、ロシアは提供される武器をウクライナで使うことを計画していると指摘した。
トーマスグリーンフィールド米国連大使は日本と韓国、英国との共同声明を発表し、北朝鮮からの武器輸入が安全保障理事会の決議違反に当たると指摘した上で「ロシアに武器を売れば核兵器開発で支援を受けられるという誤ったメッセージを、核保有を目指す国々に送ることになる」と批判した。
●プリゴジン氏葬儀、SNSで「英雄視」拡散警戒か…プーチン政権「非公開」指示 8/31
ロシアの独立系英字紙「モスクワ・タイムズ」は30日、ジェット機の墜落で死亡した民間軍事会社「ワグネル」創設者のエフゲニー・プリゴジン氏の葬儀について、ロシア大統領府などの指示によって非公開で行われたと報じた。多くの支持者が集まり、写真や動画がSNSなどで拡散されるのを防ぐためだという。
プリゴジン氏が英雄視されるのを、プーチン政権が警戒する様子がうかがえる。
葬儀は29日、出身地のサンクトペテルブルクで親族や親しい友人のみが参列して行われた。同紙は複数の政府関係者の話として、葬儀の形式は、大統領府や情報機関「連邦保安局」(FSB)が協議したと報じた。国内政策を統括するセルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官も協議に関与したという。
●プーチン大統領、BRICS首脳会議で輸送・金融面の協力アピール 8/31
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月23日、南アフリカ共和国のヨハネスブルク市内で開催された第15回BRICS首脳会議にオンラインで出席し、演説を行った。その中で同大統領はBRICS加盟国間の関係強化について期待感を表した。
演説では、BRICS加盟国間で関係強化を目指す特定の分野と関係強化のための優先事項について言及が幾つかあった。1つ目に、安全な輸送ルートの新設について。プーチン大統領は「BRICS内に、南北輸送回廊(注)だけでなく、より広範に、地域間および世界的な物流・輸送回廊の開発を扱う常設の輸送委員会を設立する時が来た」と呼びかけた。2つ目は、金融システムの協力拡大についてだ。「国際通貨・金融システムにおける各国の役割の拡大や、銀行間協力の発展、自国通貨の使用拡大、税務・関税・独占禁止当局間の協力の深化」が重要と指摘した。さらに「ロシア側としては、デジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)の応用分野を含め、蓄積された経験を共有する用意がある」として、研究とイノベーションの分野での協力の必要性をアピールした。
8月24日には、BRICSに新たにアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国の加盟が発表された(2023年8月25日記事参照)こともあり、ロシア政府は今後の国際社会でのBRICSの影響力は強まるとみている。ロシア国営の第1チャンネルで放送されたテレビ番組で、セルゲイ・ラブロフ外相は既に拡大しているBRICSのG20における地位は強化されると強調し、「形式的には、(G20の国々)がG7派とBRICS派に二分されることは現実味を帯びつつある」として、今後のBRICSの影響力が拡大する考えを明らかにした。
BRICS首脳会議は今回で15回目。翌年に開催が予定されている第16回首脳会議ではロシアが議長国を務め、ロシアのカザンが会場となる見込み。
(注)イランなどを経由して、インドとロシアを結ぶ複合輸送網。
●キーウに集中攻撃、2人死亡… 「ウクライナ軍高速艇撃破」は「偽情報」 8/31
ウクライナの首都キーウの軍当局によると、ロシアが30日未明、無人機の一群やミサイルでキーウを集中攻撃した。企業の敷地内に破片が落ち、男性警備員2人が死亡した。今春以降のキーウへの攻撃では最大規模だという。
ワレリー・ザルジニー総司令官は30日朝、キーウや南部オデーサ州などで巡航ミサイル28発や無人機16機の攻撃が確認され、無人機1機を除いて撃墜したと明らかにした。
一方、タス通信によると、露北西部プスコフ州の空港で30日未明、無人機攻撃があった。軍用飛行場にあった大型輸送機「IL(イリューシン)76」4機が損傷し、うち2機は炎上した。空港は滑走路の状態を確認するため、同日の離着陸を全て停止した。
露国防省は30日、黒海艦隊の航空機が同日未明、最大50人のウクライナ軍特殊部隊員を乗せた高速艇4隻を黒海で撃破したと発表した。ウクライナ軍は30日、この発表について、「偽情報」だとSNSに投稿した。
●ロシア軍 キーウに集中的攻撃 2人死亡 “春以降で最も大規模” 8/31
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は30日、首都キーウに対して集中的な攻撃を行い、2人が死亡しました。キーウの当局はことしの春以降で最も大規模な攻撃だったとしています。
ウクライナ軍は、ロシア軍が30日、28発のミサイルと16機の無人機による攻撃を行ったと発表しました。
無人機1機を除いて迎撃したとしていますが、首都キーウでは迎撃した一部が市内の複数の場所に落下し、市当局によりますと、中心部で2人が死亡、3人がけがをしたということです。
その上で、ことしの春以降で最も大規模な攻撃だったという見方を示しました。
キーウ中心部にあるショッピングセンターでは迎撃した一部の破片が屋上に落下し、一時、火災が発生したということで、近くに住む女性は「どこから攻撃が来るのかわからず、とても怖かった。大きな爆発音が聞こえ、死んでしまうかもしれないと思った」と話していました。
こうした中、ロシア国防省は、ショイグ国防相が30日、地方の軍事産業の企業を視察し、幹部に対して24時間態勢で生産するよう強く求めたと発表しました。
一方、ロシアで武装反乱を起こしたプリゴジン氏らを乗せた自家用ジェット機が8月墜落したことをめぐって、ロシア大統領府のペスコフ報道官は30日、記者団に、「調査は進んでいる。ロシア独自の調査であり、国際的な関与という話にはならない」と述べ、あくまでロシアの当局が原因の究明を進めていると強調しました。
その上で、「当然、さまざまな見方を調べており、中には意図的な行為といった見方もある。調査結果を待とう」と述べ、当局が事件の可能性についても調べているという認識を示しました。 
●ロシアと北朝鮮が「秘密交渉」加速、弾薬支援でプーチン氏と正恩氏が書簡 8/31
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は30日、記者団に、ウクライナ侵略を続けるロシアが北朝鮮から弾薬の支援を受けるための「秘密交渉」が加速しているとして、強い懸念を示した。プーチン露大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が書簡を交わし、2国間協力の強化を確認したことも明らかにした。
カービー氏によると、書簡は、セルゲイ・ショイグ露国防相が7月に訪朝し、弾薬支援を北朝鮮側に求めた後に交わされた。複数の露政府関係者が平壌(ピョンヤン)を訪れるなど、弾薬支援に向けた交渉が本格化しているという。
北朝鮮は、公式にはロシアとの武器取引を否定しているが、カービー氏は今後数か月間、露北間でハイレベルの交渉が行われるとの見通しを示した。交渉がまとまれば、ロシアはウクライナ攻撃に使う砲弾や多様な弾薬を大量に手に入れ、米欧の対露制裁を回避して露国内の兵器生産に必要な電子部品などを得ることになるとみられるという。
カービー氏は「ロシアと北朝鮮のいかなる武器取引も多くの国連安全保障理事会決議に明確に違反している」と非難し、北朝鮮に交渉停止を要求した。
これに関連し、米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は30日、ロシアと北朝鮮との間で進められている武器供与の交渉を非難する声明を出した。声明には日本や英国、韓国が名を連ねた。ロシアがイランからも兵器供与などの支援を受けていると指摘し、国連が「ロシアの違反行為について調査し、文書化する必要がある」と訴えた。
●ウクライナ キーウ 今春以降 最大規模攻撃 ロシアによる報復か 8/31
ロシア国内では、無人機による攻撃が相次ぐ一方、ウクライナの首都キーウにも、ことしの春以降で最も大きな規模とみられる攻撃がありました。キーウへの攻撃についてロシアによる報復だった可能性が高いとの見方も出ています。
ロシア国内では無人機による攻撃が相次いでいます。
29日から30日にかけて6つの州で無人機による攻撃があり、このうち北西のプスコフ州では軍用飛行場に駐機してあったイリューシン76型輸送機4機が損傷したなどと国営メディアが伝えています。
また31日、ロシア国防省は首都モスクワ郊外で無人機による攻撃が仕掛けられたものの、破壊して阻止したと発表し、ウクライナ側によるものだと主張しています。
イギリス国防省は31日、ロシアは今月、25件の攻撃を受け、そのほとんどが無人機によるものだったと指摘しました。
そのうえで「無人機の多くは、目標に到達しており、ロシアは防空態勢を見直しているとみられる」との分析を示しました。
一方、ロシア軍は30日、ウクライナの首都キーウに対して集中的な攻撃を行い、市当局によりますと2人が死亡し、3人がけがをしたということです。
そのうえで、ことしの春以降で最も大きな規模の攻撃だったとしています。
この攻撃についてアメリカのシンクタンク戦争研究所は30日「モスクワとプスコフ州への攻撃に対する報復であった可能性が高い」と分析しています。
●ウクライナ軍、南部で前進 クリミアまでロシア軍押し戻す可能性も=外相 8/31
ウクライナのドミトロ・クレバ外相はこのほど、ウクライナ軍が南部の前線で領土を奪還しており、ロシア軍をクリミア半島まで押し戻す端緒になるかもしれないとの見方を示した。
「戦略的に重要な」ザポリッジャ州ロボティネ村を解放した後、こうした見通しが出てきたという。
ロシア軍は、ロボティネ村をなお掌握しているとしている。
一方のウクライナ軍は、2014年に不法に併合されたクリミア半島とロシア本土をつなぐ陸の回廊を断とうとしている。
成功すれば、ロシアがウクライナ南部で占領している地域を分断でき、ロシア軍の供給路を複雑化できるという。
両軍のこうした主張は、どちらも独立した検証ができていない。
クレバ外相はパリでフランス大使らと会談した際、「ロボティンの側面を固めた今、我々はトクマクへの道を開き、最終的にはメリトポリおよびクリミアとの行政上の境界を目指す」と語った。
ロシアが占領しているトクマクとメリトポリは、ロシアにとって軍事面でも供給面でも重要な中継地だ。
クレバ氏は、今年6月に始まったウクライナの反転攻勢は続いていると強調。ただし、「非常に困難な」作戦だと認めた。
「前例のない数の地雷原と要塞がある。ロシアのドローンやヘリコプター、飛行機が空を支配している。それでも我々は徐々に成功している」
また、戦闘員31人からなるある部隊が、「文字通り腹ばいいになって、何キロにも及ぶ地雷原をはい回り」、ついには旅団によるロボティネ奪還を可能にしたと説明した。
ウクライナ軍は30日の戦況報告でも、ロボティネの南および南東方面で「成功を収めた」と発表している。
●ウクライナ軍 「数週間内に反転攻勢のブレイクスルーがある」── 8/31
ウクライナ軍の反転攻勢はウクライナ南部でじわじわと進んでいるが、いまだにゼレンスキー政権が望む決定的な前進、つまり軍の士気を一気に高めた昨年9月のハルキウ奪還のようなブレイクスルーは実現していない。
このままでは、はかばかしい戦果を挙げられないまま、秋雨により大地がぬかるみ、さらには冬季の凍結で攻勢が阻まれる季節に突入しかねない。だが米欧州軍司令官を務めたベン・ホッジス元米陸軍中将はそれまでにウクライナ軍が大きな突破口を切り開く可能性があると、本誌に語った。
「今の感触では数週間以内に(ハルキウ並みの)ブレイクスルーがありそうだ」
ウクライナ政府は軍が反攻に手間取っている理由として、地雷原や塹壕などの強固な防御を慎重に避けながらロシアの戦力を削がなければならないためだと、以前本誌に説明したが、この戦術の正しさがこれから証明される可能性があると、ホッジスは言う。
数カ所突破で戦況が激変
ロシア軍は1500キロに及ぶ戦線の全域に地雷を敷設しているが、「それを全て突破する必要はない」と、ホッジスは言う。「2、3カ所か、多くても4カ所貫通できればいい。それだけで戦況はがらりと変わり、はるかにダイナミックな攻勢が可能になる」
本誌はこの見解についてロシア国防省にメールでコメントを求めている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、反転攻勢の進捗が「期待したより遅い」ことを認めた。西側諸国はウクライナに成果を出すよう圧力をかけ、今年に入って各国が行なったような大量の武器供与を来年も繰り返すのは難しいと警告している。
NATOの軍事的支援の強化を求めるウクライナに以前から理解を示してきたホッジスは、西側諸国に辛抱強く待つよう呼びかけている。
「情報を守る点では、ウクライナ人は私の知る誰よりもよくやっている。いわゆるオプセク、つまり作戦上の情報セキュリティに関しては規律が徹底している。何が起きているのか、誰が何をしているのか、それぞれの部隊がどういう状況にあるのか、われわれは知らないし、知る資格もない」
つまり、誰もが限られた不確かな情報に基づいて結論を出しているわけだ。
米国防総省内では、東部から南部まで前線沿いの複数地点に兵力を分散して攻撃を始めたウクライナ軍の戦術が間違いだったという批判も聞かれる。ウクライナ軍は、激戦地となったドネツク州のバフムト、ザポリージャ州とドネツク州にまたがるウロジャインとスタロマイオルスケ地域、ザポリージャ州のロボティネ村などで前線突破を試みてきた。
大きな進展もあった。ウクライナ政府の発表によると8月28日、ウクライナ軍はロボティネ村の奪還に成功した。ロシアの地雷原を超え、さらに南の要衝トクマクへに進軍する突破口を開いたのだ。
こうした攻撃はいずれも一定の戦果を挙げてきたが、いまだに決定的な突破口は切り開かれていない。反転攻勢の究極的な目標は、ウクライナ南部のロシアの支配地域に延びる、クリミア半島とロシア西部を結ぶ「陸の回廊」を断ち切ることだ。作戦の進捗が遅れているため、秋までにこの目標を達成することは望めないとの悲観論も浮上している。
成功率を上げるため、攻撃地点を1つに絞り、兵力と兵器をそこに集中するよう、米高官がウクライナ政府に求めたと、ニューヨーク・タイムズが今月伝えた。ホッジスによると、こうした提案は「全くもってナンセンス」だ。「ペンタゴンの批判には心底うんざりしている」
第2次世界大戦中にドワイト・アイゼンハワー将軍がノルマンディー上陸作戦を命じたときに、「ペンタゴンの『天才戦術家たち』がいなかったのは幸いだった」と、ホッジスは皮肉る。
公式には理解を示す米政府
ホッジスはさらに、ウクライナ軍が反転攻勢の開始後2カ月を掛けて、ロシア軍の航空戦力に決定的なダメージを与えた意義を強調する。
「これは侮れない。ウクライナ軍は地上部隊を空から支援できないからだ。われわれなら制空権を確保せずに兵士を前線に送り出したりはしない」が、ウクライナには今のところ他に選択肢がない。
ホッジスは1991年の湾岸戦争を勝利に導いた「砂漠の嵐作戦」を例に挙げ、戦いにおいて航空戦力がいかに重要か想像してほしいと述べた。
「米軍主導の多国籍軍は6週間連続で10万回もの空爆でイラク軍をたたいてから、有名な『左フック作戦』(前線の後方のサウジアラビアからイラク領内を攻撃)と4日間にわたる地上戦を展開したのだ」
米国防総省高官や米軍関係者はオフレコではいら立ちを見せているが、公式発言ではウクライナに理解を示している。
マーク・ミリー米統合参謀本部議長は「計画より時間が掛かっている」としながらも、「ウクライナ軍は限定的ながら前進している」と認めた。
アメリカは「紛争が膠着状態に陥っているとは思っていない」と、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は述べ、こう続けた。「この反転攻勢を通じて領土を奪還するウクライナの試みを、アメリカは引き続き支持する。ウクライナは秩序立った組織的なやり方で領土を取り戻そうとしていると、われわれは考えている」
米国防総省のサブリナ・シン副報道官は8月29日の記者会見で、反転攻勢の進捗について、ウクライナは「引き続きじわじわと前進しており、今後も何カ月かこの戦いを続けるだろう」との見方を示した。
 
 

 

●プリゴジン氏葬儀“プーチン政権の決定で非公開”一部メディア 9/1
自家用ジェット機の墜落で死亡したロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏の葬儀についてロシアの一部メディアは、プーチン政権の決定で非公開になったと報じました。プリゴジン氏を英雄視するような世論を抑えるねらいがあったとする政府関係者の見方を伝えています。
プリゴジン氏の葬儀は先月29日、出身地のサンクトペテルブルク郊外で、親族や親しい友人のみで執り行われたと伝えられています。
ロシアの英字紙「モスクワ・タイムズ」は、先月30日付けの電子版で、複数の政府関係者の話として葬儀は、プーチン政権の決定で非公開になったと報じました。
葬儀を巡っては、ロシア大統領府とFSB=連邦保安庁の幹部が事前に協議し、プーチン大統領の側近の1人で大統領府のキリエンコ第1副長官も関わったとしています。
非公開を決めた理由として「多くの支持者が集まることなく、また、埋葬の様子がSNSで拡散しないようにするのが目的だった」としています。
また、首都モスクワなどでは、市民がプリゴジン氏らを追悼する姿が見られる中、「モスクワ・タイムズ」は、武装反乱を起こしたプリゴジン氏を英雄視するような世論を抑えるねらいがあったとする政府関係者の見方も伝えています。
一方、ロシアメディアなどは、墜落したジェット機にともに搭乗していたワグネルの軍事部門の指導者ウトキン氏が31日、モスクワ近郊の墓地に埋葬されたと報じました。
●「プーチンの自尊心」まで攻撃…1000キロ飛行するウクライナのドローン 9/1
ロシア軍の占領地域を奪還するためのウクライナ軍の「大反撃」に3カ月間ほど大きな進展がない中、ロシア本土に対するウクライナ側のドローン(無人機)攻撃が拡大している。
先月30日(現地時間)のBBC放送によると、ウクライナは今年、ロシア本土とクリミア半島に約190回のドローン攻撃を実施した。この日もウクライナのドローンがロシア本土で6カ所以上の地域を空襲した。これは昨年2月末の開戦以降、ウクライナがロシアに向けて実施した最大のドローン攻撃だと、フィナンシャルタイムズ(FT)が伝えた。
この日のドローン攻撃で、ロシア北西部プスコフの軍民共用空港にあったロシア空軍の主力輸送機イリューシンII−76が4機も破壊された。またモスクワ一帯をはじめ、オリョール、ブリャンスク、リャザン、カルーガなどにもドローン攻撃があった。これら地域では大きな被害はなかったという。
モスクワでドローン攻撃が日常化
ウクライナのドローン攻撃は年初から激しくなった。昨年末はクリミア半島の軍施設を中心に打撃し、2月にはモスクワ近隣まで飛行した。5月にはロシアのプーチン大統領が主に過ごすクレムリン(大統領府)とノボオガリョボ(大統領官邸)付近まで攻撃した。7月からはモスクワ中心部の商業地区ビルを打撃するなど民間地域までがドローン攻撃の対象になっている。この数週間はロシア当局がモスクワ一帯の空港を一時閉鎖する状況が繰り返された。
ニューヨークタイムズ(NYT)とBBCによると、ドローン攻撃の主な目標は飛行場と油類庫、エネルギーインフラ、保安本部、政府庁舎などで、主に軍事・兵たん関連施設を目標物としている。
黒海では海上ドローンを利用し、クリミア大橋を集中攻撃している。クリミア大橋はクリミア半島とロシア本土をつなぐ唯一の橋で「プーチンの自尊心」と呼ばれる。開戦以降は戦争物資の補給路として活用されている。NYTは「このドローンはウクライナに対するロシアの攻撃が始まる場所を攻撃している」と伝えた。
●「ロシア義勇軍」司令官 “支援の目的が不明瞭”欧米側を批判 9/1
ロシアのプーチン政権に反対し、ウクライナの側に立ってロシアと戦闘を続けている「ロシア義勇軍」の司令官がNHKのインタビューに応じました。
この中で、ウクライナへの軍事支援を続けている欧米側の対応について「勝つために必要なだけの兵器を与えていない」と述べ、ロシアを敗北させてウクライナを勝利に導く覚悟があるのか支援の目的が不明瞭だとして批判しました。
「ロシア義勇軍」の創設者で、司令官としても戦闘に加わっているデニス・カプースチン氏が先月、ウクライナの首都キーウでNHKの単独インタビューに応じました。
この中でカプースチン氏は祖国のロシアと戦う理由について「『ポスト・プーチン』の新しい国家を建設するという目標もある」と主張しました。
その上で、ことし3月から6月までの間にあわせて4回、ウクライナからロシアの国境地域に越境攻撃を行ったと明らかにしました。
攻撃は自分たちの判断で行い、ウクライナ側に事前に通告したとしています。
また、ロシア国内で相次ぐ無人機攻撃については関与しているのか明言しませんでしたが「戦争に反対せず、沈黙していたからこそ無人機が飛んできたと気付くべきだ」と述べ、ロシア人に当事者意識を抱かせ、反戦の動きを起こすことがねらいだとしています。
一方、ウクライナでの戦闘について「ロシア軍の完全撤退が目標だ」と述べ、ウクライナ軍と緊密に連携して後方支援などを担っていると明らかにしました。
その上で、カプースチン氏は、ウクライナへの軍事支援を続けている欧米側の対応について「負けないための兵器は与えているが、勝つために必要なだけの兵器を与えていない。不明瞭であいまいな状況になっていることが反転攻勢の遅れにつながっている」と述べロシアを敗北させてウクライナを勝利に導く覚悟があるのか支援の目的が不明瞭だとして批判しました。
一方、ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏について「ロシアの愛国者だ。彼はほかのロシア軍の将校たちとは違って正直に前線に立っていた」と評価しました。
カプースチン氏は、プリゴジン氏が乗った自家用ジェット機が墜落した翌日の先月24日、SNSを通じてワグネルの戦闘員たちに対し「あなたたちの指揮官を殺害した者に仕えるのか、かたき討ちをするのか」と訴え、ロシア義勇軍への合流を呼びかけました。
●ワグネル事業のロシア軍移管、プリゴジン氏激しく反発…追い詰められていた 9/1
ロシアのプーチン政権が、民間軍事会社「ワグネル」がアフリカで請け負っていた事業を露軍に移す計画をワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏が23日に墜落死する前から進めていたとの見方が浮上している。プリゴジン氏が激しく反発したとの情報があり、墜落死の引き金になった可能性がある。
プリゴジン氏=ロイタープリゴジン氏=ロイター
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、プリゴジン氏は墜落の5日前、アフリカで活動の拠点とする中央アフリカの首都バンギをプライベートジェット機で訪れた。大統領と会談し、自身が6月に起こした反乱は、戦闘員の派遣や投資などワグネルの同国への支援に影響しないと明言したという。
プリゴジン氏はその後、もう一つのアフリカの活動拠点のマリにも立ち寄り、ロシアに戻ったとされる。
アフリカ諸国への行脚の背景には、プーチン政権が進める計画があった。
露情報機関「連邦保安局」(FSB)のリーク情報に詳しいロシアメディアは23日の事故直後、露軍参謀本部情報総局(GRU)が事故前から、ワグネルのアフリカでの事業を完全に露軍の管轄下に移管する計画を進めていたとSNSで報じた。2万人以上の戦闘員を訓練する計画だった。プリゴジン氏は「激しく反対し、妨害するため、あらゆる努力を尽くした」という。
プリゴジン氏はアフリカ諸国高官らへの接触を試み、巻き返しを狙ったようだ。7月末に露西部サンクトペテルブルクで開かれた「ロシア・アフリカ首脳会議」では、プリゴジン氏がアフリカ高官とみられる人物と握手した写真が公開された。
●ゼレンスキー大統領、再選出馬へ 来年の実施可否に議論 ウクライナ 9/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は、再選を目指し来年の大統領選に出馬する意向を明らかにした。
現地メディアが31日、ポルトガル公共放送RTPのインタビュー内容として一斉に伝えた。
ゼレンスキー氏は2019年に就任後、支持率が低迷した時期もあったが、昨年2月からロシアの侵攻を受ける中で「戦時大統領」として国民を団結させた。「(ソ連崩壊後)過去30年で最良の大統領を得た」(イェルマーク大統領府長官)と評価する声も出ていた。
ただ、ウクライナは現在、戒厳令下にある。こうした状況で選挙が実施できるのかどうか、ウクライナ国内で議論になっている。
ゼレンスキー氏は今回のインタビューで「24年、もし戦争が続いており、それでも選挙が行われるとしよう。私は人生において自分の国を見捨てることは決してない」と強調した。その上で「憲法を保障し、いかなる場合も擁護する」と決意を示した。
選挙を実施する場合、ロシア軍の攻撃が続く前線などで安全を確保するとともに、国内外にいる大勢の避難民にも投票の機会を与える必要性があるとも語った。
●イギリス ウォレス国防相が辞任 ウクライナへの軍事支援を主導 9/1
イギリスで4年余りにわたって国防相を務めたウォレス国防相が31日、辞任しました。ウクライナへの軍事支援などを主導しましたが、辞任の理由について「家族との時間を犠牲にした」としています。
53歳のウォレス氏は陸軍の出身で、2005年に国会議員に初当選したあと、2019年、当時のジョンソン首相から国防相に任命され、3人の首相のもとで4年余りにわたって国防相を務めてきました。
去年2月以降は、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの戦車や射程の長い巡航ミサイルの供与に各国の中で初めて踏み切ったほか、イギリス国内でウクライナ兵の訓練を行うなどの軍事支援を主導してきました。
また、国際情勢が今後さらに不安定になるとして、国防費を増やす必要性を訴え続け、政権内からはNATO=北大西洋条約機構の次の事務総長に推す声も上がっていました。
スナク首相に宛てた辞表でウォレス氏は「私は国のためにみずからをささげてきた。しかしそれは、家族との時間を犠牲にすることで成り立っていた」とし、激務で家族との時間が十分とれなかったことが辞任の理由だとしました。
ウォレス氏の後任の国防相にはエネルギー安全保障相だったシャップス氏が任命され、ウクライナへの全面的な支援を続ける方針を表明しました。
●ウクライナ軍 南部のロシア軍拠点まで前進か 交通要衝の奪還は 9/1
反転攻勢を続けるウクライナ軍は、南部ザポリージャ州ですでに奪還したとする集落から部隊をさらに前進させたとみられ、南部の交通の要衝にまで迫れるか注目されています。
ことし6月上旬から反転攻勢を開始したウクライナ軍は、ロシア側の強固な防衛線を前に想定されていたような大きな成果が出ていないとみられていますが、先月28日、南部ザポリージャ州でロボティネの奪還を発表するなど反撃を強めています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は30日、ウクライナ軍がロボティネからおよそ10キロ東に位置するベルボベ近郊にあるロシア軍の拠点まで部隊を前進させたとみられると指摘しました。
また、アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は31日、欧米の情報機関の高官の話として、ウクライナ軍の部隊がさらに南方に位置する交通の要衝トクマクを奪還する可能性について「ウクライナ軍がここ数日、進軍したことによって、慎重ながらも楽観的な見方が広がっている」と伝えるなど、部隊がトクマクにまで迫れるか注目されています。
一方、ロシア軍もウクライナ側の進軍を阻止するため防衛線をいっそう強固にするとともに、精鋭とされる空てい部隊をこの地域に展開したと指摘されていて、双方による攻防はいっそう激しくなるとみられます。
●ウクライナ軍、南部ベルボベ周辺で第1防衛線を突破 9/1
ロシア軍はウクライナ南部で今春から初夏にかけて、セルゲイ・スロビキン上級大将の監督のもと、ウクライナ軍の反転攻勢を見越して3重の主要な防衛線を大急ぎでこしらえた。
工兵部隊と民間請負業者はコンクリート製の対戦車障害物をばらまき、塹壕(ざんごう)を掘り、そしてこれがおそらく最も重要だが、何十万個という地雷を埋めた。こうして、「スロビキン・ライン」と称される、世界でもほとんど類を見ない強固な軍事要塞を築いた。
ウクライナ軍はその後、6月4日に反攻を始めたが、これまで南部と東部の主要な攻勢軸でわずか数kmしか前進できていない。ロシア軍が防衛線の北側に設けた地雷原が最大の理由である。
だが、こうした遅々とした進軍ペースは近く変わるかもしれない。8月30日かその少し前、ウクライナ空中機動軍(空挺軍)の第82空中強襲旅団が、南部ザポリージャ州の集落ベルボベ周辺で第1防衛線を越えたからだ。
ロシア陸軍の第100偵察旅団が30日にオンラインに投稿したドローン映像には、旅団からの要請でウクライナ兵に向けて砲撃が行われる様子が映っている。第100偵察旅団はこの映像を戦場での勝利を示す証拠とみなしているのかもしれないが、砲撃が加えられている場所がどこかよく見てほしい。そこは、スロビキン・ラインのいちばん外側の塹壕の内側、つまりロシア側が以前守っていたところなのだ。
軍事ウォッチャーたちの予想どおりの展開である。1週間ほど前、ザポリージャ州メリトポリに向かうルートの要衝であるロボティネをロシア軍の支配から解放した第82空中強襲旅団や第46空中機動旅団は、この攻勢軸にある次の集落であるノボプロコピウカに焦点を移していた。
ロシアによる全面侵攻を受ける前、800人ほどが住んでいたとされるノボプロコピウカは、幹線道路のT0408号─0401号沿いにある。この道路を南下していくとトクマクがあり、そこからさらに80kmほど南に下るとザポリージャ州の拠点都市のひとつメリトポリに出る。
ところが、第82空中強襲旅団や第46空中機動旅団は、ノボプロコピウカのロシア軍陣地を直接攻撃するつもりはないようだった。両旅団は東に進路を変え、人口1200人の集落ベルボベに向かった。まずベルボベを解放し、そこからノボプロコピウカを側面から攻める狙いのようだ。その過程で、最も越えやすそうな場所を見定めて、スロビキン・ラインの最も外側の塹壕の突破を図ったということだろう。
ノボプロコピウカのすぐ南には、スロビキン・ラインの第1防衛線が倍の厚みで張り巡らされている。ロシア軍の第58諸兵科連合軍やほかの野戦軍は、ベルボベの2倍の連隊をノボプロコピウカに配置している。そこにロシア軍の作戦予備の中核である第76親衛空挺師団が到着すれば、戦力バランスも変わるかもしれない。
ただ、同師団の到着はベルボベのロシア軍守備隊を救うには遅すぎるかもしれない。また、攻撃側の第82空中強襲旅団と第46空中機動旅団はウクライナ軍の戦闘序列でも強力な部類に入り、反攻に投入されて間もないので消耗も少ない。
スロビキン・ラインを越えるのは容易ではない。ウクライナ全面侵攻の副司令官や総司令官を務めたスロビキンは最近、ロシア航空宇宙軍の総司令官を解任されている。反乱を起こした民間軍事会社ワグネルのトップ、故エフゲニー・プリゴジンとのつながりが理由とみられる。
それでも、スロビキン・ラインは彼の有能さを証明している。ウクライナの軍人オレクサンドル・ソロニコは「塹壕や地下掩蔽(えんあん)部、場所によってはさらに地下トンネルまで組み合わせた、全体的なシステムになっている」と評している。
第82空中強襲旅団と第46空中機動旅団にとって次の任務は、一部の部隊がスロビキン・ラインの第1防衛線に開いた突破口を利用して、すべての大隊をその先に押し込んでいくことだ。メリトポリにいたるルートの中間に位置する拠点トクマクまで進軍するには、防衛線をあと2つ突破する必要がある。
●ロシアの高校教科書、ウクライナ侵攻を正当化 9月の新学期から使用 9/1
ロシアでは新学期が始まる9月から、17〜18歳の11年生(日本の高校生に相当)向けに、ウクライナ侵攻を正当化する内容を含む新たな国定歴史教科書が使用される。現代史を学ぶこの教科書ではソ連末期の政治・社会改革「ペレストロイカ」(立て直し)を批判するなど、プーチン政権の歴史観が色濃く反映され、教育への統制強化を露呈している。
「私たちの仕事は現代史について分かりやすく、論証しながら伝えることだ」。プーチン大統領の側近で、教科書の監修と執筆に携わったメジンスキー大統領補佐官は8月上旬、記者会見でこう語った。タス通信によると、執筆陣にはエリート養成校であるモスクワ国際関係大学の学長らも加わり、継続中の侵攻については約30ページが割かれた。
20世紀前半について学ぶ10年生向けの歴史教科書も改定され、記述の約3分の1が独ソ戦に割かれた。愛国路線による国民の団結を図るプーチン政権にとって、ソ連のナチス・ドイツに対する勝利は最重要の史実といえるためだ。
ロシアではウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼ぶ。地元紙RBKによると、11年生用教科書はこの作戦に触れた部分で、欧米の最終目的は「ロシアを分裂させ、資源を管理下に置くことだ」と記述する。
米国と北大西洋条約機構(NATO)が、ウクライナをロシアに対する「突入部隊」にしようとしたと訴え、ウクライナ人に関しては「1990年代以降の数世代はネオナチ思想の中でロシアへの敵意を抱いて育った」と断定した。作戦の目的は「(ウクライナ東部)ドンバス地方の防衛とロシアの安全保障」と位置づける。
メジンスキー氏は大衆紙コムソモリスカヤ・プラウダのインタビューに、「内容は全て事実に基づく」と主張した。
ロシアの在外・独立系メディア「メドゥーザ」は、新教科書に対して「主な目的は愛国主義教育だ」と批判。特別軍事作戦についての記述には「侵略を正当化するロシアのプロパガンダの再現にすぎない」と指摘した。
新しい歴史教科書を巡っては、2022年9月の教育法改定で国定教科書の使用が義務化された。5年間の移行期間が設けられており、RBKによると、11年生用の新教科書は当初65万人の生徒が使う見通しという。 
●ロシアのプーチン大統領、プリゴジン氏創設のワグネルの掌握急ぐ 9/1
ロシアのプーチン大統領は、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が進めていたアフリカと中東での広大な作戦行動を迅速に掌握しようと動いている。プリゴジン氏は数日前に謎の飛行機墜落事故で死亡した。
国防省に近い関係者1人とワグネルに近い他の2人が匿名を条件に語ったところによると、国防省系の軍事請負業者が中央アフリカ共和国でのワグネルの作戦を引き受ける構えだという。
ロシア政府に近い人物と国防省に近い別の関係者によれば、ワグネルの陰の海外ネットワークは全てロシア軍の実質的な指揮下に入る予定。プーチン大統領に否認権というベールを与えながらも、プリゴジン氏が6月に大胆な反乱を起こすのに十分な独立性を築くことを可能にした状況に終止符が打たれる。
プーチン大統領は先週遅く、ワグネルの戦闘員やその他の雇い兵にロシア国家への忠誠を誓うよう命じる大統領令に署名した。これに先立ち、ロシア軍高官はリビアとシリアを訪問し、以前ワグネルに委託していたロシアの作戦に対する政府の統制を主張したと、ロシア政府に近い人物は明らかにした。
ワグネルの作戦の行方は、アフリカと中東で西側諸国に対抗するというロシア政府の目標にとって極めて重要だ。ワグネルは何千もの雇い兵を配備することで、ロシアが旧ソ連時代の影響力の一部を資源豊富な地域で回復することを可能にした。
雇い兵を公的組織に吸収することは、ロシアがその利点を放棄することを意味するものの、複数の国での影響力は維持・強化される。
米国のシンクタンク、大西洋評議会の専門家で、中東・北アフリカ政策について複数の政府に助言しているアリア・ブラヒミ氏は「ならず者のワグネル・グループがロシア政府の鎖に再びしっかりとくくりつけられることは常に予想されていた」と指摘。「しかし、プーチン大統領にとって悪い知らせは、ワグネルの搾取と虐待、そして危険性について、今度はプーチン氏自身が責任を問われるようになることだ」と分析した。
ロシア政府は取材要請に対し、国防省に照会させた。同省は質問に応じなかった。
プリゴジン氏と同氏の側近を乗せたエンブラエル製レガシー600は8月23日にモスクワからサンクトペテルブルクに向かう途中で墜落し、乗員乗客全員が死亡した。
●中国習主席と近く会談へ=プーチン大統領 9/1
ロシアのプーチン大統領は1日、中国の習近平国家主席と近く会談すると述べた。ただ、自身が中国を訪問するとは明言しなかった。
プーチン氏が新学期初日に小学生らと会ったもようがテレビ中継され、インタファクス通信によると、プーチン氏は「近くいくつかのイベントがあり、中国国家主席との会談もある」と指摘。習主席は「ロシアと中国の関係発展に向け多くのことを行う人物」とし、互いに友人と呼び会えることを「うれしく思う」と述べた。
ロシアのウシャコフ大統領補佐官は7月、プーチン大統領が10月に開かれる第3回「一帯一路」フォーラムに合わせ中国を訪問すると述べている。ただ、国際刑事裁判所(ICC)が3月にウクライナでの戦争犯罪容疑でプーチン大統領に対し逮捕状を出してからは、プーチン氏は国外に出ていない。
プーチン氏は8月に南アフリカで開催された新興5カ国BRICS首脳会議にビデオ形式で参加したほか、今月9─10日にインドで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議にはプーチン大統領の代理としてラブロフ外相が出席する。
●ウクライナ軍 南部で一部前進も 各地でロシアによる被害相次ぐ 9/1
ウクライナ国防省は南部ザポリージャ州で反転攻勢を続け、一部で成功したと発表し、部隊を前進させている可能性があります。一方でウクライナの国内各地で、ロシアによる砲撃などがあり、被害が相次いでいます。
ウクライナ国防省のマリャル次官は31日、8月に奪還を発表した南部ザポリージャ州の集落ロボティネから、およそ4キロ南のノボプロコピウカ方面で一定の成功を収めたとSNSに投稿しました。
また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は30日、ウクライナ軍がロボティネからおよそ10キロ東に位置するベルボベ近郊にあるロシア軍の拠点まで部隊を前進させたとみられると指摘しました。
反転攻勢を続けるウクライナ軍は、ロボティネのさらに南方に位置する交通の要衝トクマクの奪還を目指すとみられ、部隊を前進させている可能性があります。
一方、ウクライナ国内ではロシア軍の砲撃などによる被害が相次いでいて、東部ドネツク州で市民1人が死亡したほか、ザポリージャ州や、西部ビンニツァ州でそれぞれ市民3人がけがをしたと、地元の知事が明らかにしました。
また、ロシア国内では1日も、首都モスクワ近郊や、ウクライナと国境を接するクルスク州とベルゴロド州で無人機攻撃が仕掛けられたと地元当局が発表し、クルスク州では、建物に被害が出たということです。
●クリミアを捨てるロシア人観光客、人気行楽地に迫る戦争 9/1
クリミア半島で休暇を過ごすロシア人観光客はこの9年あまり、自国がウクライナに戦争を仕掛けていることをさほど意識せずに済んだ。日光浴用の折り畳みベッドを置いている場所が占領地だということも――。
しかし、ウクライナの反転攻勢が進行する中、もはやクリミア半島は2014年のロシア併合以降に観光客が慣れ親しんできた安全地帯ではなくなっている。
最近のクリミア半島は相次ぐ攻撃にさらされており、8月24日にはウクライナ特殊部隊による海からの急襲、25日にはドローン(無人機)攻撃を受けた。クリミアとロシア本土やウクライナ南部をつなぐ複数の橋もここ数カ月、繰り返し攻撃を受けている。
ウクライナはこのうち一部については関与を認めており、レズニコウ国防相はさらなる攻撃を続けると警告した。
相次ぐ攻撃を受け、ロシア人観光客は予定の見直しを迫られている。クリミアの旅行代理店で管理職を務めた経験があるロシア人女性、スビトラーナさんはCNNに対し、治安情勢が原因で仕事が枯渇したと語った。
スビトラーナさんは欧米メディアの取材に応じた影響が及ぶのを恐れ、名字を伏せるよう求めた。今年初夏にクリミアを離れ、ロシアのサンクトペテルブルクに引っ越したという。
「先日クリミアを再訪した。近いうちに全てが終わり、紛争終結に向けた合意が成立するとの期待からだった。だが、4カ月滞在してみて、すぐに終わることはなさそうだと気付いた」
「観光は完全に消滅した。昨年の時点で減っていた観光客は今年、完全に姿を消した。昨年は戦争開始に伴い予約をキャンセルする動きが広がったが、今年は予約さえもなかった」(スビトラーナさん)
クリミア経済は観光業が頼みの綱だ。そのためロシアが任命した地元当局は、相次ぐ攻撃にもかかわらず旅行客に来訪を促している。クリミアのリゾート観光省はこの夏、ロシア人観光客向けに新たな相談窓口を開設。ホテルと協力して、治安の問題で到着や出発が遅れる場合も、追加料金の支払いやキャンセルを行わずに済むよう対応している。
ツアー運営会社やホテルも観光客を誘致するため、大幅割引や無料サービスを打ち出している。ロシア旅行産業連合によると、今夏のクリミアのホテル価格は需要減から昨年比で3割下落した。
ただ、値引きの効果は出ていない。ロシアが据えた行政府によると、8月の平均予約率は40%にとどまり、ホテルの部屋の半数以上は夏を迎えても空室のままだった。
スビトラーナさんによると、それでもクリミアで休暇を過ごす人は低予算のプランを組み、野営したり格安ホテルや民宿に泊まったりしている。高級リゾートに滞在する余裕がある人は、他のより安全な行き先に向かっているという。
クリミアにいた時間は楽しめなかったと、スビトラーナさんは振り返る。「本当にうんざりした。ひっきりなしに上空を飛ぶ軍用機、街中に常時展開する軍隊、負傷者、おびえた目で逃げる貧しい人たち。軍の装備に押しつぶされそうになったことも2回ある」と語り、車が装甲兵員輸送車に衝突しかけた経験を振り返った。
人気の行き先
多くのロシア人はソ連時代にクリミアで休暇を過ごした思い出があり、クリミアは常にロシア人観光客に人気の場所だった。ただ、半島を訪れる人の数が膨れ上がったのは2014年の併合後のことだ。
ロシアが据えたクリミア観光省によると、ロシアの支配下に入って初の1年となった15年には500万人が来訪し、その数は21年までに940万人に増えた。
スビトラーナさんは今も当時の好況を覚えている。「あの年の利益は過去10年を上回る水準だった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中、人々は家にこもり、活動が再開すると(クリミアに)殺到した」
ウクライナによると、ロシア人の流入は観光に限った話ではない。ウクライナのベレシチュク副首相の3月の発言によると、併合後クリミアに永久移住したロシア人は80万人に上る。
クリミア半島には観光収入が流れ込み、ロシア政府もクリミアのインフラに資金をつぎ込んだ。
インフラ投資の目玉が37億ドルをかけて建設されたケルチ海峡橋だ。欧州最長のこの橋は、プーチン氏肝いりのプロジェクトでもある。18年に開通すると、クリミアとロシア本土の物理的な「再統合」を示すものとして歓迎された。
全長19キロの橋の登場により、ロシアの観光客は他国への渡航費用が高騰する中でも、以前にも増してクリミアに渡航しやすくなった。多くの欧米諸国はクリミア併合後に対ロシア経済制裁を科し、通貨ルーブルの価値は急落した。
ロシア政府が昨年2月にウクライナ全面侵攻を開始すると、多くの国はロシア人観光客への扉を閉ざした。欧州連合(EU)がロシアとのビザ円滑化協定を停止したことで、ロシア人によるEUビザの申請は一層困難に。ロシアのツアー運営会社でつくる団体ATORによると、ロシア人の欧州への旅行件数は今年前半、渡航禁止措置や新型コロナ規制を受ける前の最後の年となった2019年前半に比べ88%減少した。 
こうしてクリミアは突然、ロシア人観光客が大金を投じずに訪問できる残り少ない陽光あふれるビーチとなった。
「人々がクリミアに来るのは、欧州の扉が閉ざされ、トルコで物価が極めて高騰しているから。ロシア人が他にどこで休暇を過ごせるというのか。(ロシアのリゾート地)ソチは混雑しているし、物価が極めて高い。他に場所がないのでクリミアに行っている」。スビトラーナさんはCNNにそう語った。
ただ、ケルチ橋はその戦略的、象徴的な重要性から、ウクライナの格好の攻撃目標にもなる。
最初に攻撃があったのは昨年10月。巨大な爆発により、橋の道路部分と鉄道の通行に著しい支障が出た。ウクライナ政府は当時この件に言及しなかったものの、今年6月になってウクライナ保安局(SBU)が関与を認めた。
7月にも別の大規模攻撃があった。ウクライナの実験的な水上ドローン(無人艇)が橋の道路部分に深刻な損傷を与え、ロシアの当局者によると、民間人2人が死亡した。
この攻撃が決定打となり、それまでクリミア訪問を検討していた多くのロシア人観光客の足は遠のいた。ロシアが任命したクリミア自治共和国議会のコンスタンティノフ議長は、攻撃後に休暇予約の10%がキャンセルされたと明らかにした。
ATORによると、7月後半のホテル予約件数は前半に比べ45%減少したという。
一連の攻撃を受けて橋の警備は強化され、ATORの先月の発表によると、約13キロに及ぶ渋滞ができることもあった。
当局は観光者に対し、橋を避けてウクライナの占領地経由で渡航するよう要請。このルートはおよそ800キロに上り、昨年春の爆撃でほぼ壊滅したマリウポリを含め、戦争の影響が色濃い地域をいくつも通過することになる。
治安情勢がすぐに改善する見込みは乏しい。
ウクライナ軍はこの2カ月攻撃を強化しており、クリミア半島とその周辺のウクライナ領海を航行する船を数回攻撃した。クリミアの港湾都市セバストポリはロシア軍黒海艦隊の主要な海軍基地となっている。
ウクライナ軍によると、24日午前に行った直近の作戦では少なくとも30人のロシア人が死亡した。
ウクライナは無人機や無人艇を使用し、弾薬庫や石油貯蔵施設などを狙っている。レズニコウ国防相はCNNとの7月のインタビューで、「これらの目標はいずれも正式な攻撃目標に当たる。ロシアの戦闘能力を低減させ、ウクライナ人の命を救うことにつながるためだ」と語った。
ウクライナの目標は橋を永久に使用不能にすることかとの質問に、レズニコウ氏は「敵の補給線を破壊し、弾薬や燃料、食料を入手する選択肢を阻止するのは通常の戦術だ」と答えた。
「クリミアなしのウクライナは想像できず」
ウクライナ政府によると、併合後にクリミアから国内の他地域に避難した人は5万人を超える。ただ、すべての人が政府に正式に届け出ているわけではないため、クリミアの非政府組織(NGO)は避難民の人数はその2倍に上る可能性があると見積もっている。
併合前、クリミアには約250万人が暮らしていた。
避難した住民の多くは財産を没収され、ロシア当局によって競売に掛けられた。当局によると、競売の収益はロシア軍の懐に入るという。クリミア自治共和国議会のコンスタンティノフ議長によると、他地域に住むウクライナ人の別荘(ヤルタにあるゼレンスキー大統領のアパートを含む)もロシアによって国有化された。
スビトラーナさんはCNNの取材に、ロシア当局によって押収された財産の一部はロシア人住民や、ウクライナ南部のロシア支配地域から来た人に譲渡されたと明らかにした。
ウクライナ政府を支持する住民は過酷な管理を受ける。人権団体は活動家や政治家、公人、住民が拉致され、親ロシア当局に拘束された事例を記録している。
クリミアに残るウクライナ人住民はロシア国籍の申請を強制され、人権団体によると、拒否した住民は迫害を受けているという。
CNNの取材に応じたウクライナ人住民は、まん延する恐怖感について確認した。この住民は身の安全への不安から匿名を希望し、発言を掲載しないよう求めた。
ゼレンスキー大統領を含むウクライナの当局者は、クリミアを奪還するまで戦争は終わらないと繰り返し強調してきた。
併合前のクリミアにはウクライナの人口の約5%が暮らし、国内総生産(GDP)に占める割合も4%近かった。「クリミアなしのウクライナは想像できない。クリミアがロシアの占領下に入っている間、それが意味することはただ一つ。戦争はまだ終わらないということだ」。ゼレンスキー氏はCNNの7月のインタビューにこう語っている。
●ロシア、新型ICBM実戦配備 ウクライナ侵攻下、核の威嚇強化へ 9/1
ロシア国営宇宙企業ロスコスモスのボリソフ社長は1日、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」が実戦配備されたと明らかにした。
インタファクス通信が伝えた。
ロシアはウクライナ侵攻を続ける中、ゼレンスキー政権を支援する西側諸国に対して核の威嚇を強めることになる。

 

●ロシア 新型ICBMを実戦配備 ベラルーシで5か国合同軍事演習 9/2
ロシアのプーチン政権は、複数の核弾頭を搭載できる新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの実戦配備を表明し、核戦力を誇示することで、ウクライナへの軍事支援を強めるアメリカなどをけん制するねらいがあるものとみられます。
反転攻勢を続けるウクライナ軍は、8月に奪還を発表した南部ザポリージャ州の集落ロボティネに続き、東や南にそれぞれ部隊を前進させている可能性があり、今後、南方に位置する交通の要衝トクマクにまで迫れるか注目されています。
一方、ロシアでは、国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」のボリソフ社長が9月1日、複数の核弾頭を搭載できる、新型のICBM=大陸間弾道ミサイル「サルマト」が実戦配備されたと表明しました。
サルマトは、ウクライナへの軍事侵攻が続く中、去年4月、発射実験に成功したと発表され、プーチン大統領はことし6月、近い将来実戦配備されるという見通しを示していました。
プーチン政権としては、核戦力を誇示することで、ウクライナへの軍事支援を強めるアメリカなどをけん制するねらいがあるものとみられます。
また、ロシアと同盟関係にある隣国ベラルーシでは、9月1日から6日までの日程で、ロシアが主導する軍事同盟のCSTO=集団安全保障条約機構の加盟国による合同軍事演習が始まりました。
演習は、ロシアとベラルーシに加え、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの5か国、2500人以上の兵士が参加し、6か所の演習場で実施されるということで、ロシアとしては、NATO=北大西洋条約機構との対立が深まる中、勢力圏とみなす旧ソビエト諸国の軍事的な連携を誇示したい思惑とみられます。
ただ、演習には、加盟国の一つ、アルメニアが参加しておらず、ウクライナへの侵攻後、ロシアの影響力が低下しているとも指摘されています。
●ロシアが新型ICBMを実戦配備 プーチン大統領とエルドアン大統領 4日に会談 9/2
ロシアは複数の核弾頭を搭載できる新型のICBM=大陸間弾道ミサイルを実戦配備したと明らかにしました。
ロシア国営の宇宙開発企業ロスコスモスのボリソフ社長は1日、10個以上の核弾頭を搭載できるとする新型ICBM「サルマト」が実戦配備されたと表明しました。配備の場所など詳細については明らかにしていません。
射程は最大1万8000キロでアメリカのミサイル防衛網を突破し本土を攻撃できるとされ、プーチン大統領が6月、「近く実戦配備する」と表明していました。
こうした中、ロシアの大統領府はプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が4日にロシア南部ソチで会談を行うと発表しました。
ロシアは7月、ウクライナ産穀物の輸出をめぐる合意の履行を停止し、食料危機への懸念が広がっていて、今回の会談が事態の打開に繋がるのかが焦点となります。
こうした中、プーチン大統領は1日、9月の新学期が始まるのに合わせて子どもたちを前に特別授業を行いました。
その中で一方的に併合したウクライナ南部ザポリージャ州出身の子どもの質問に答える形で、併合した地域の開発のため大幅に予算を組んだとアピールし、ロシア化を進めていく考えを示しました。
また、プーチン氏は5つの地域の学校とオンライン形式で会合を行い、このうちウクライナ南東部マリウポリに新たに作られたロシア式の学校で1年生の生徒が「マリウポリを気遣ってくれてありがとう」と述べる場面などが国営テレビを通じて放送されました。
●ウクライナ併合地域の開発に200億ドルを拠出=プーチン大統領 9/2
ロシアのプーチン大統領は1日、ウクライナ東・南部4州の開発に向け、今後2年半にロシア連邦予算から1兆9000億ルーブル(200億ドル)を充てる方針を表明した。
ロシアは昨年、ロシアはウクライナのドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソンの4州について「併合」を宣言した。
●ウクライナ戦争「ロシア国内に移行段階」、攻撃増加へ=大統領府顧問 9/2
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は1日、ロシア国内でのドローン(無人機)攻撃は増加していくとの見方を示し、こうした攻撃が頻発していることはウクライナの戦争が徐々にロシア国内に移行していることを示していると述べた。
ポドリャク氏は首都キーウ(キエフ)でロイターのインタビューに応じ、ウクライナはロシア軍に占領された地域への攻撃を強化しているとし、ロシア国内でも「工作員」や「パルチザン」による攻撃が増加すると指摘した上で「敵対行為が徐々にロシアの領土に移行する段階に入っている」と語った。
その上で、ウクライナ軍は前進を続けているとし、欧米からの軍事援助が今後も継続されることを望んでいると述べた。
ロシアと和平交渉については、現時点で行わないと表明。「いかなる交渉もウクライナの屈服、そして民主主義世界全体の屈服を意味する」とし、ウクライナに多額の兵器を供与してきた西側の同盟国はロシアに対する「妥協」はあり得ないと理解していると確信していると語った。
●ゼレンスキー大統領 国連総会や安保理に初めて対面で出席へ 9/2
ウクライナのゼレンスキー大統領が、9月下旬にアメリカ ニューヨークを訪れ、国連総会や安全保障理事会の会合に対面で出席する見通しになりました。
国連安保理の今月の議長国、アルバニアのホッジャ国連大使は9月1日、記者会見で、9月20日にウクライナ情勢を話し合う首脳級の公開討論を開くと発表しました。
その上で「ウクライナのゼレンスキー大統領がニューヨークに来るだろう。国連のグテーレス事務総長との会談も、すでに予定されていると聞いている」と述べ、ゼレンスキー大統領がニューヨークを訪問し、この会合に対面で出席する見通しだと明らかにしました。
また、9月19日から始まる国連総会の一般討論演説のスケジュールによりますと、初日の19日にウクライナは国のトップが出席すると登録されていて、ゼレンスキー大統領は総会議場での首脳演説も行うとみられます。
去年2月に始まったロシアによる軍事侵攻以降、ゼレンスキー大統領は、国連総会や安保理の会合にオンラインで出席してきましたが、対面で出席すればこれが初めてとなります。
国連総会の一般討論演説の期間中は、世界各国の大統領や首相がニューヨークに集まるため、ウクライナ情勢をめぐる首脳外交が繰り広げられることになります。 
●ウクライナ大統領府顧問「戦争はロシア領土へと移行する段階に」 9/2
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は1日、ロシア国内でのドローン(無人機)攻撃は増加していくとの見方を示し、こうした攻撃が頻発していることはウクライナの戦争が徐々にロシア国内に移行していることを示していると述べた。
ポドリャク氏は首都キーウ(キエフ)でロイターのインタビューに応じ、ウクライナはロシア軍に占領された地域への攻撃を強化しているとし、ロシア国内でも「工作員」や「パルチザン」による攻撃が増加すると指摘した上で「敵対行為が徐々にロシアの領土に移行する段階に入っている」と語った。
その上で、ウクライナ軍は前進を続けているとし、欧米からの軍事援助が今後も継続されることを望んでいると述べた。
ロシアと和平交渉については、現時点で行わないと表明。「いかなる交渉もウクライナの屈服、そして民主主義世界全体の屈服を意味する」とし、ウクライナに多額の兵器を供与してきた西側の同盟国はロシアに対する「妥協」はあり得ないと理解していると確信していると語った。
●ロシア空軍基地へのドローン攻撃はロシア国内から=ウクライナ国防省 9/2
ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長は9月1日、ロシア北西部プスコフの空港で8月29日夜から30日未明にかけてあったドローン(無人機)攻撃について、ロシア国内から出撃したものだったと明らかにした。ブダノフ氏は、攻撃を仕掛けたのがウクライナ人か、あるいはロシア人かは明らかにしなかった。
ブダノフ情報総局長は8月31日、ウェブサイト「War Zone」に対して、「我々はロシア領内から活動している」と述べた。使用したドローンの種類や数については明らかにしなかった。
ブダノフ氏によると、この攻撃で輸送機「イリューシン76」2機が破壊され、2機が損傷した。ロシアは4機が損傷したとしている。
同氏は、ドローンは輸送機の燃料タンクや、翼の桁(けた)の重要部分が位置する機体の上部を狙ったのだと説明した。
プスコフへの攻撃について、ウクライナ当局者はこれまでにすでにBBCに、ウクライナによるものだと認めていた。
ウクライナ国境からプスコフまでは700キロ近くあるため、これまでウクライナが使用する武器の射程距離についてさまざまな憶測がされていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は31日夜、定例の動画演説で、「ウクライナ製の新しい兵器は今や700キロメートルだ」と述べていた。
ドローン攻撃で被害を受けたロシア軍機は、長距離貨物機だった。軍の部隊や装備品の長距離輸送に適しているため、ロシアにとっては貴重な軍用資産になっている。
ウクライナ当局は総じて、ロシアでの攻撃については口を閉ざしている。しかし、ドローン攻撃が活発化するにつれ、それらがウクライナによる戦争行為の一環だと認める姿勢を、以前より見せるようになっていると、BBCのポール・アダムス国際問題担当編集委員は指摘する。
8月31日から9月1日にかけても、ロシアの複数地点がドローン攻撃を受けた。
未確認情報によると、首都モスクワ郊外のリュベルツィでは、ロケットの電子部品を作る工場が攻撃された。ただし、モスクワのセルゲイ・ソビャニン市長は、リュベルツィ上空のドローンは迎撃し、被害は出ていないとソーシャルメディア「テレグラム」に書いた。
モスクワ周辺にドローン攻撃がある際に繰り返される対応として、1日朝にはモスクワ周辺の複数の空港で発着便が遅延したりキャンセルされたりした。
ロシア西部でウクライナ北東部と国境を接するクルスク州のロマン・スタロヴォイト知事は、クルチャトフの町で住宅1棟と行政庁舎1棟がドローン攻撃を受けたと明らかにした。近くにはクルスク原子力発電所がある。
ウクライナ軍は、ロシア占領下にあるウクライナ領での反転攻勢も続けている。
アメリカのシンクタンク、戦争研究所は31日、東部バフムートや南部ザポリッジャで、ウクライナ軍が前進したと述べた。
米ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報担当調整官は1日、ウクライナ軍がそれまでの72時間の間にザポリッジャで「顕著な進展」を実現したと述べた。
状況を客観的に観察している者にとって、ウクライナ軍によるこの成果は「否定しがたい」ものだとカービー氏は述べ、ウクライナ軍の前進が遅いと匿名で批判する「当局者」たちの発言は、「何の助けにもならない」と付け加えた。
ウクライナ政府は8月28日、ザポリッジャ州のロボティネ集落を奪還したと発表。同集落を足掛かりに、さらに南へ部隊を進められるとウクライナは期待しているという。
●最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」 9/2
ロシアとウクライナの戦争が始まって以来、戦場の様子を捉えた(プロパガンダを含む)さまざまな動画が大量に出回っている。最新鋭の戦車やロケット砲システム、ドローンなど「現代の戦争」を象徴する兵器の有効性をアピールするものが多いが、そうした中で最近、はるか昔から戦場で恐れられてきた「スナイパー」の脅威を示す動画が拡散され、注目を集めている。
これは「ウクライナ軍の狙撃手が、用を足そうとズボンを下したロシア兵を遠距離から銃撃した」様子を捉えた動画だとされる。動画には(画質が粗いが)、一人の人物が茂みにしゃがみ込み、その後、倒れる様子が映っている。
動画には、いつ・どこで撮影されたのかを示す情報はなく、本誌はこの動画の信ぴょう性について独自に確認を取ることができていない。この件についてロシア国防省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
ウクライナで続いている戦争の様子を捉えた動画は、頻繁にソーシャルメディア上で共有されており、その多くはウクライナ軍当局などの公式チャンネルが公開しているものだ。前線の様子を撮影したとされる動画の検証は困難だが、これらの動画は戦場の現実を垣間見せるものであると同時に、効果的なプロパガンダのツールにもなる。
敵部隊の士気を削ぐスナイパーの存在
新たな動画は、戦争におけるスナイパーの重要度を表す役割も果たしている。比較的平坦な地形を前線が少しずつ移動する現在の戦況においては、孤立した部隊は敵軍の狙撃手から狙われやすい。狙撃は、敵の部隊の士気を削ぐ効果も期待できる。
ウクライナ軍は8月31日の朝、ロシアが過去24時間でまたもやウクライナ領内に空爆やミサイル攻撃を行ってきたと明らかにした。ウクライナ軍参謀本部は声明で、ウクライナの防空システムが巡航ミサイル31発のうち28発を迎撃し、またイラン製の自爆型無人機「シャヘド131」と「シャヘド136」合わせて15機を撃墜したと述べた。
一方のロシア国防省はソーシャルメディアへの投稿の中で、同日朝にウクライナ軍から無人機を使った攻撃があったと主張。ロシアの防空システムがモスクワ州ボスクレセンスク地区の上空で複数のドローン(無人機)を撃墜したと述べた。ロシア国防省はこれに先立つ投稿の中で、8月30日の夜にウクライナとの国境地帯にある西部ブリャンスク州にもウクライナ軍のドローン2機による攻撃計画があり、これを阻止したと述べていた。
ロシアの攻勢展開は「失敗」とウクライナ軍
ロシア国防省は30日の戦況報告の中で、南部ザポリッジャ州のロボティネとベルボベ周辺からロボティネ東部にかけてのロシア軍掌握地域で、ウクライナの空挺攻撃部隊による「9件の攻撃を撃退」したと述べた。ウクライナ側は今週に入って、南部で軍が前進しており、ロボティネからオリヒウにかけての地域を奪還したとしている。
ウクライナ軍参謀本部は8月31日に、ウクライナ軍の複数部隊がベルボベ周辺でロシア軍の攻勢作戦を阻止したと述べ、またロシアがベルボベやロボティネをはじめとするザポリッジャ州内の複数の集落に空爆を行ったとつけ加えた。
同参謀本部はまた、同日更新した戦況報告の中で、ウクライナ軍は東部ドネツク州のバフムト南部で「順調に」作戦を展開し、新たな拠点を強化したと述べた。ウクライナ軍は、ロシア軍の兵士たちがバフムト南部にあるクリシチウカやクルジュミウカの集落周辺で「攻勢を展開したが失敗した」と述べた。
ロシアは5月半ばにバフムトの制圧を宣言し、その後民間軍事会社「ワグネル」の傭兵部隊が現地から撤退していた。
●ウクライナ軍「段ボール製無人機」活用 低コストで120キロ飛行 9/2
オーストラリアに駐在するウクライナの大使は8月29日のSNSへの投稿で、「オーストラリアから受け取った段ボール製の無人機がロシアの空港への攻撃に使用された」と主張しました。
ウクライナと国境を接するロシアのクルスク州の空港が無人機の攻撃の標的になったとしています。ウクライナや欧米の複数のメディアも、この段ボール製の無人機はオーストラリアの企業が開発し、ウクライナ軍に供与されたものだとみられると伝えています。
このオーストラリアの企業はことし3月、オーストラリア政府によるウクライナへの支援の一環として、この無人機の供与が決まったと発表していました。
企業のホームページによりますと、段ボール製の無人機は航続距離が最大120キロある、低コストの機体だということです。
イギリスの新聞デイリー・メールはこの無人機について、1機あたりの価格がおよそ2750ポンド、日本円でおよそ50万円と安く、毎月およそ100機がウクライナに送られ、攻撃や偵察などに活用されていると伝えています。
さらに、機体が主に段ボールと輪ゴムで組み立てられているため、敵のレーダーに映りにくいという特徴もあるとしています。
●ロシア クリミア橋を警戒 防衛策を強化か ICBM配備表明も 9/2
ロシア国防省は2日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシアとを結ぶ橋をねらった無人艇による攻撃が相次いだと発表しました。いずれもウクライナ側によるものだとしています。
ロシア国防省は2日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部のクリミアとロシアとを結ぶ橋をねらった無人艇による攻撃が、1日の夜から2日の未明にかけてあわせて3回仕掛けられたものの、黒海で破壊したと発表しました。
いずれもウクライナ側によるものだとしています。
イギリス国防省は1日の分析で、ウクライナが反転攻勢を強める中、ロシア側はウクライナ東部や南部の支配地域への軍事物資の補給のため、クリミアとロシアとを結ぶ橋や付近を航行する船舶を重視していて、一層、防衛策を強化していると指摘しています。
一方、ロシアでは国営の宇宙開発公社「ロスコスモス」のボリソフ社長が1日、複数の核弾頭を搭載できる新型のICBM=大陸間弾道ミサイル「サルマト」が実戦配備されたと表明しました。
「サルマト」はウクライナへの軍事侵攻が続く中、去年4月、発射実験に成功したと発表され、プーチン大統領はことし6月、近い将来、実戦配備されるという見通しを示していました。
プーチン政権としては核戦力を誇示することで、ウクライナへの軍事支援を強めるアメリカなどをけん制するねらいがあるものとみられます。
●制裁下のロシア経済、プラス成長に 軍事支出頼みで持続性疑問 9/2
ロシアによるウクライナ侵略が1年半を超えるなか、欧米や日本などの経済制裁を受けるロシアの2023年4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4・9%増(速報値)と、侵攻後初めてプラス成長に転じた。消費回復や昨年の製造業の低迷の反動があったためで、プラス成長は5四半期ぶり。昨年の年間の成長率も前年比2・1%減のマイナス成長にとどまり、ロシア経済は底堅さを見せている。ただ、軍事費など公的資金の投入に支えられている側面もあり、成長の持続性には疑問符が付く。
今年4〜6月期の実質GDPはロシア国家統計局が8月上旬に発表した。ロシアが昨年2月に侵攻を始めた後の同年4〜6月期以降、前年同期比でマイナス成長が続いていた。前期比では昨年7〜9月期から小幅なプラスとなっていたが、前年同期比でもプラスに転じ景気回復の動きが確実となった。
侵攻後、欧米や日本などは相次ぎ対露経済制裁を発表した。原油、天然ガスの輸入を制限し、ロシア産原油の購入価格を1バレル=60ドル(約8700円)以下とするなど、エネルギー分野からの税収を押さえ込む施策を打ち出した。
しかし、実際の22年のロシアの原油生産量は前年比で2・1%増に。爆発的にロシア産原油の購入を増やした中国、インドなど、欧米諸国に代わる市場をロシアが獲得したことが大きい。
ロシアNIS貿易会(ロトボ、東京)によると、ロシア産原油の対中輸出は22年、数量で前年比8・3%増の8625万トン、金額で44%増の584億ドル(約8兆5千億円)だった。対インドでは数量で6・9倍の3145万トン、金額では9・1倍の210億ドル(3兆円)となった。
22年の実質GDPは10%前後のマイナス成長に陥るとみられていたが、原油の輸出などに支えられ、実際のマイナス幅が大きく圧縮された。
ただ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員は、ロシア産原油価格が上昇に転じ、価格面での魅力がそがれれば「中印は再び中東産原油の輸入を強化する可能性が高い」と指摘。「ロシアは値引きの提示など、不利なビジネスを余儀なくされる」とする。
土田氏はまた、ロシア経済のマイナス成長が一定程度に押しとどめられているのも「軍需産業への支出が大きく貢献している」と見る。ただ、たとえば兵器を生産しても、産業用の機械と違い、長期間、新しい製品を生み出し続けることができない。このため、軍事支出は「(中長期的で継続的な)成長への寄与度は低い」と推測する。
ロシアはまた、撤退した外資に代わり、自国企業が部品や製品を生産する「輸入代替政策」を強化している。ロトボの中居孝文ロシアNIS経済研究所長は「海外企業と比べ品質が劣るロシア企業の部品などを使って製品を作り続ければ、結果的にロシアの産業の国際競争力を押し下げかねない」と分析。「ウクライナ侵攻が終わり再び外資がロシアに流入すれば、競争力が落ちたロシアの産業は、極めて厳しい打撃を受けるだろう」と警告している。

 

●ロシアの歴史観 独善的な解釈は看過できない 9/3
ロシアのプーチン政権が、北方領土の不法占拠やウクライナ侵略の正当化につながる歴史解釈を宣伝している。不見識で身勝手な言い分は、到底受け入れられない。
ロシアが「第2次世界大戦終結の日」としていた9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日」に変更した。日本が降伏文書に署名した1945年9月2日の翌日にあたる。3日は記念行事が行われるという。
「軍国主義日本に対する勝利」が付け加えられたのは、日本のウクライナ支援に対するロシア側の反発を示す意図とみられる。
プーチン政権は、米国との同盟強化を進める日本が「新たな軍国主義に向かっている」と主張してきた。戦後日本の平和国家としての歩みを無視し、日本のイメージをことさら傷つけようとする狙いがあるのだろう。
だが、隣国を侵略し、核兵器使用の脅しをかけているロシアこそ軍国主義そのものではないか。
そもそも、旧ソ連が大戦末期に日ソ中立条約を一方的に破って参戦し、その後、北方4島を不法に占拠したのは歴史的事実だ。占拠を「大戦の結果」とするロシア側の主張に何ら正当性はない。
プーチン政権による「歴史の書き換え」は、対日本に限らず、現代史全体に及んでいる。
日本の高校生にあたるロシアの生徒が9月から授業で使う歴史教科書は、1970年以降の記述が全面改訂された。ロシアが「特殊軍事作戦」と称するウクライナ侵略に関する章もある。
そこでは、北大西洋条約機構(NATO)拡大などで、ロシアが「作戦」を強いられ、米欧はウクライナを利用してロシアの弱体化を進めている、と記されているという。プーチン露大統領が演説で強調している内容と同じだ。
自らが侵略した側であるのに、被害者であるかのように主張する「プーチン史観」は、危険極まりない。教科書を通じて、ロシアの若者の間に誤った歴史認識や米欧観が広がることを懸念する。
3日は、中国でも「抗日戦争勝利記念日」となっている。18日には、満州事変のきっかけとなった柳条湖事件から92年を迎える。
東京電力福島第一原子力発電所からの処理水放出後、中国国民の反日的行動が広がっている。歴史の節目を機に、反日デモに発展する可能性も否定できない。
日本政府は中国に対し、在留邦人の安全確保に万全を期すよう、改めて強く求めるべきだ。
●ウクライナはロシアに勝てるのか?〜戦時の経済力が違いすぎる 9/3
歴史上、ウクライナはこれまで3度、ロシアと戦争をしてきた。
まず18世紀はじめ、ロシアとスウェーデンが戦った北方戦争時、ウクライナ・コサックのへトマン(首領)マゼッパはスウェーデンと手を結んで、ロシアからのコサック国家独立を賭けて戦った(ポルタヴァの戦い)。
次に20世紀はじめのロシア革命時、キーウに樹立されたウクライナ中央ラーダ(議会)政府が独立を宣言し、革命政府のボリシェヴィキ軍と戦った。そして第二次世界大戦期、西ウクライナのガリツィアでウクライナ蜂起軍(UPA)が結成されてソ連軍と戦った。
熾烈な戦闘がおこなわれ、その度に多くの犠牲を生み、結局は3度とも敗北した。歴史は4度、繰り返すことになるのだろうか。
持てる富と戦争遂行力の違い
果たして、ウクライナはロシアに勝てるのか。
なにしろ国力、つまり持てる富(資源、技術、工業生産力など)に裏打ちされた戦時の経済力が違い過ぎる。人口や予備役の数、兵器の生産能力などでも、ロシアがウクライナに優ることは明らかだ。
西側による経済制裁はショックを与えたが、あにはからんや、侵攻を始めて半年後にはロシア経済はその耐性を示した。それを私は、昨年10月にモスクワを訪問して実感している。
ロシア経済のパフォーマンスを示す国内総生産(GDP)は、開戦直後にはマイナス10%以上の後退が避けられないとみられたものの、2022年通年ではマイナス2.1%に止まるまで回復した。国際通貨基金(IMF)は、23年のそれを1.5%のプラスに転じると見通している。
これに対し、22年のウクライナのGDP成長率はマイナス30.4%で、「破綻」と呼ぶにほぼ等しい。しかも、電力はじめ重要インフラの破壊により、この一年で国力をさらに削がれている。欧州委員会(EC)は23年のそれを0.6%のプラスと予想するが、破綻状態からのわずかな浮上に過ぎない。
それでもなんとか回っているのは、キーウやハリキウ、オデーサなど大都市における商業、飲食、運輸はじめ生活まわりのサービス産業ぐらいで、輸出産業はほぼ麻痺状態にあることは想像に難くない。
経済の屋台骨ともいうべき鉄鋼、石炭はじめ鉱工業の多くは、ロシアが一方的に併合を宣言した東部から南部にかけての一帯と、ドニプル川の流域に集まるが、その多くは半ば廃墟と化している。マリウポリ製鉄所は破壊され、国内最大のクレメンチュク製油工場も損壊した。黒海やドナウ川沿いの穀物倉庫や積出し施設も爆撃された。
財政は西側からの「仕送り」頼み
当然ながら、国家財政も破綻している。ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナのゼレンスキー大統領は全土に戒厳令を布告し、政府は「平時の国家予算のほぼ全額を軍需に充ててきた」という(シュミハリ首相)。
財政赤字は毎月30億ドルから40億ドルに達すると見られている。国連とトルコが仲介して一時実現した黒海経由の穀物輸出は、せいぜい毎月10億ドルに過ぎないが、ロシアが船の安全航行に関する合意から離脱したせいで、それもいまは滞ったままだ。
すでに1年半以上にわたり、西側は国際機関の融資プログラムを動員し、あるいは二国間の金融支援をおこなって、巨額の歳入不足を補填してきた。早い話が送金、つまり「仕送り」である。これらの資金が、政府機能や公共サービスの維持、戦費、通貨の買い支えなどに当てられてきた(日本の資金も含まれることは言うまでもない)。
それに、十分な武器もない。ウクライナ軍は西側から武器が供与されなければ戦えない。ちなみに、上記の融資には、米国による空前の430億ドルをはじめ、西側による軍事支援額は含まれない。冷静に考えれば、戦争の帰趨など、はじめから予想できたことなのだ。
それでも、もっと武器をくれ、(戦車に加えて今度は)最新の戦闘機が必要だ、というゼレンスキー大統領の「同盟国」への訴えは、ここへきてのロシア軍の踏ん張りの裏返し? としてしか響かない。
西側にとって重要なのは・・・
それにもかかわらず、西側はなぜ戦争を止めないのか。それどころか、侵攻から丸一年を迎えたこの春、西側はウクライナ軍による反転攻勢の背中を押して、最新型の戦車やミサイルなどの追加供与に踏み切った。
だがそれは、この戦争でロシアに勝たせてはならない、と考えるからだ。昨年5月、G7首脳はオンライン会議後の声明で、「プーチン・ロシア大統領がウクライナとの戦争で勝利することがあってはならない」と宣言した。
西側の狙いは、第一に「主権と領土の一体性の維持」という、国際秩序の根幹とも言うべき理念を守る抜くこと、第二に汎ロシア主義を捨てられず、ついに隣国へ侵略したロシアの国力をこの機会にできるだけ削ぐことの2点に尽きる。
前述のG7会合に先立って、昨年4月にキーウを訪問した米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、この戦争におけるアメリカの立場として、「ロシアが、再びウクライナ侵攻のようなまねができない程度に弱体化することを望む」と語っている。
けれども他方で、西側はそのロシアを必要以上に傷つけることには躊躇(ためら)いを隠さない。ロシアは、言わずと知れた、米国と並ぶ世界最大の核保有国だからだ。
そのせいか、西側メディアの報道も、いきおいロシア情勢に注がれる。メディアの関心はロシアが中心で、ウクライナ情勢には向けられない。ルーブル下落と、民間軍事会社ワグネルと創設者プリゴジンをめぐる最近の報道ぶりを見れば容易に知れよう。
つまり、西側の目標は、実は国家としてのウクライナの安寧そのものにあるわけではない。ということは、ウクライナに対する西側の支援も永遠ではあり得ない。やがて兵器の供給が滞った時、最後に泣きを見るのはウクライナ国民なのだ。
復興支援への動きもあるが、援助を目的として設立された機関を別とすれば、いまも戒厳令下にあって、いつミサイルが飛んでくるかわからないようなリスキーな国へ進出する企業などあろうはずがない。停戦後を見据えた政治論議の域を出ない。
政権の崩壊か、国内の分裂か
だがしかし、この戦争について私が憂慮するのは、そのことではない。
ウクライナの人々は、いまはロシア敵視でひとつにまとまっているように見える。ゼレンスキー政権としては、奪われた領土を取り返すための戦いという「正義の旗」をいまさら降ろすことはできないだろう。降ろせば、それこそ政権が崩壊するかもしれない。
かたや、ロシアのプーチン大統領も敗けるわけにはいかない。その限りで、戦争は続く。死傷者の数も、さらに増える。開戦以来のその数は、両軍合わせてすでに約50万人に迫る、と米紙ニューヨークタイムズ(8/18)は報じている。
他方、先日、ドバイで暮らすウクライナの旧友は、ひとりでも多くの知人を安全な国へ出したい、協力して欲しい、とメールを寄こした。電気のない、お湯の出ない冬が再び来る前に、多くの国民が国を出る方策を考えはじめているという。
たしかに、いま停戦すれば、占領地域におけるロシアの実効支配を容認することになる、それは国際社会の根幹を揺るがすことになる、という議論もある。正論である。
しかしながら、もともと30年前、国内に構造的な矛盾を内包したまま独立したのがウクライナという国だった。先の見えない戦争がいつまでも続けば、停戦に向けてのプロセスが始まる前に、すなわち、この戦争に終わりが来る前に、ゼレンスキー政権自体が弱体化し、政治が再び混乱し(この国が、この30年間に何度も経験してきたように)、ウクライナそのものが内側から分裂する可能性もあるのではないか。私が思うのは、そのことだ。
そのとき、ウクライナはいったいどういう形で安定へ向かうか。
だが、それを決めることができるのは、もはや西側ではない。ウクライナの人々自身のはずである。
西側が守ろうとする国際秩序の理念が揺れている。国際政治とは、言うまでもなく政治であり、リアルな現実との妥協を探るゲームの場なのかもしれない。「正義」を通すばかりが、唯一の解とは限らない。私たちは、そういう時代を生きている。
●ゼレンスキー氏「軍は前進」 反転攻勢遅れ指摘に反論 9/3
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は2日、「誰が何と言おうと軍は前進している。われわれは活発に動いている」と通信アプリに投稿した。ロシア軍に対する反転攻勢の遅れを指摘する声に反論した。
ウクライナ南部ヘルソン州のプロクジン知事は2日、同州の村にロシア軍の攻撃があり、1人が死亡し負傷者も出たと明かした。誘導弾が民家に当たったとした。ウクライナメディアによると北東部スムイ州では2日、ロシア軍の攻撃で警察官1人が死亡。東部ドネツク州では攻撃で夫婦が死亡した。
マリャル国防次官は今月1日、南部ザポロジエ州の一部でロシア軍の第1防衛線を突破したと語った。 
●日本の「軍事化」は遺憾、アジア太平洋を複雑に=ロシア前大統領 9/3
ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は3日、日本の「軍事化」がアジア太平洋地域の状況を複雑にしているとの見解を示した。
タス通信によると、同氏は「日本当局が新たな軍事化への道を進んでいることは遺憾」と表明。「クリル諸島(北方四島と千島列島)周辺で軍部隊の演習が行われており、アジア太平洋地域の状況を著しく複雑にしている」と主張した。
ロシアは今年、9月3日を「軍国主義日本への勝利の日」に定めており、日本政府が抗議を申し入れた。
メドベージェフ氏は、日本が米国の協力を得て、軍事インフラを拡大し、軍事装備の購入を増やしていると指摘した。
●ウクライナ軍が南部ザポリージャ戦線で前進、ロシア防衛線の一部突破… 9/3
ロシア軍への反転攻勢を強めているウクライナ軍が最近、南部の「ザポリージャ戦線」で露軍の防衛線の一部を突破し、前進を続けている。
英紙オブザーバー(電子版)は2日、戦線を指揮するオレクサンドル・タルナフスキー司令官が「我々は第1防衛線と第2防衛線の間にいる」と述べたと報じた。露軍は地雷原などで幾重にも防衛線をめぐらせているが、ウクライナ軍が一部で最前線の第1防衛線を突破したと明らかにしたものだ。タルナフスキー氏によると、第2防衛線の地雷原はそれほど整備されていないという。
米政策研究機関「戦争研究所」は露関係筋の情報として、露軍内部で足並みの乱れが顕著になっていると分析している。
タス通信によると、メドベージェフ露前大統領は3日、サハリン州ユジノサハリンスクでの式典で、今年に入ってからの露軍への入隊者が約28万人に上ると述べた。露軍は兵員を補充するため、「志願」を前提にした契約軍人の獲得を急いでいる。

 

●「プーチンの口」メドベージェフ氏、日本に「新軍国主義の計画をあきらめよ」 9/4
ロシアのプーチン大統領の最側近であるメドベージェフ国家安保会議副議長が日本に向かって「新しい軍国主義の計画をあきらめよ」と求めた。
メドベージェフ副議長は3日(現地時間)、ロシア極東のユジノサハリンスクで開かれた「軍国主義日本に対する勝利と第二次大戦終結の日」78周年記念行事に出席し、「日本の新しい軍国主義の推進はアジア・太平洋地域の(安保)状況を深刻に複雑化させている」と明らかにした。
第二次世界大戦当時、1945年9月2日に日本が公式の降伏文書に署名したことを記念して毎年9月3日を「第二次世界大戦終戦日」と記念してきたロシアは、今年からこの日の名称を「軍国主義日本に対する勝利と第二次大戦終結の日」に変えた。
メドベージェフ副議長は「日本当局が新しい軍国化に向かって進むのは残念なこと」とし「彼らは一時不名誉な終末を迎えた日本の後継者になった」と批判した。
特に、日本が米国の支援を得て攻撃用を含む外国兵器を買い入れるなど軍備拡充に乗り出しており、自衛隊の海外作戦制限の解除、千島列島付近での訓練を推進した点を問題視した。
また「日本は我々が称えているこの歴史的な日から教訓を得て、第二次大戦の結果を完全に認識し、第三次大戦が勃発することを防ぐためにあらゆることを尽くさなければならない」とし「自国民の利益のためにも軍国主義の計画をあきらめなければならない」と強調した。
メドベージェフ副議長はしばしばプーチン大統領の代わりに強硬な発言を吐き出し、「プーチンの口」というニックネームがついた人物だ。
この日、メドベージェフ副議長は「今年の予備軍を含め28万人がロシア軍に入隊した」と明らかにした。
先月初めに発表した今年の入隊者数23万人から1カ月間で5万人が増加した。
ウクライナと戦争中のロシアは、現在115万人水準の全体兵力規模を2026年までに150万人に増やすという目標を立てている。
●ロシアで「対日戦勝記念日」名称変更後初 9/4
ロシアでは3日、「軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日」の記念行事が各地で開かれました。この名称は6月にプーチン大統領が署名し、導入したものです。
「悪いのは、すぐ隣の日本がウクライナをますます活発に支援し、軍事紛争に巻き込まれていることだ」(ロシア・メドベージェフ前大統領)
タス通信などによりますと、メドベージェフ前大統領が3日、極東サハリンの式典に出席し、ウクライナへの支援を続ける日本について「軍事化の道を進んでいる」などと批判しました。また、首都モスクワでもロシア共産党が集会を開きました。
ロシアは2023年6月、これまで「第2次大戦終結の日」としてきた9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日」に改めました。名称の変更は、ウクライナ侵攻でロシアに制裁を科す日本への対抗措置の一つだとしています。
●ドナウ川の港に無人機攻撃、ロシア・トルコ首脳会談控え 9/4
ロシア軍は2日夜から3日未明にかけ、ウクライナ南部オデーサ(オデッサ)州の港湾施設やその他のインフラ施設にイラン製無人機シャヘドで波状攻撃を行った。ウクライナのメディアは、ルーマニアとの国境に近いドナウ川沿いのレニ港で爆発と火災があったと報じた。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるルーマニアは、レニの港湾インフラに対する攻撃を確認し、「国際人道法のルールに著しく反する」行為だと批判した。
ウクライナのイェルマーク大統領府長官はテレグラムへの投稿で、ロシアは「世界に食糧危機と飢餓を引き起こせると見込んで」港湾を狙い続けていると指摘した。
4日にはロシアのプーチン大統領がトルコのエルドアン大統領とソチで会談する予定。エルドアン氏は、ロシアが7月に離脱した黒海穀物輸出合意に戻るようプーチン氏を説得するとみられている。
●ウクライナ国防相更迭へ 汚職疑惑で引責か 9/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日のビデオ声明で、レズニコフ国防相の更迭を近く議会に諮ることを決めたと明らかにした。今年初めに国防省の汚職疑惑が報じられ、監督責任を追及する声が上がっていた。ゼレンスキー氏は「国防省に新たなアプローチが必要だ」と述べ、組織改革の必要性を強調した。
後任には国有財産基金のトップ、ウメロフ氏を起用すると述べた。
1月にウクライナ軍の食料調達を巡って汚職疑惑が浮上。国防次官が解任されたほか、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされる。国防省ではその後、別の汚職疑惑も伝えられていた。
●ウクライナ国防相を交代…省内に不正や汚職の疑惑相次ぐ 9/4
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日夜(日本時間4日未明)のビデオ演説で、オレクシー・レズニコフ国防相を交代させる方針を明らかにした。理由については「国防省は、軍と社会全体の双方との関係について、新しいアプローチを必要としている」と説明した。
国防省では食料調達などの発注を巡り、不正や汚職の疑惑が相次いで指摘されている。綱紀粛正で交代に踏み切った可能性がある。
レズニコフ氏は2021年11月、国防相に就任し、ロシアの侵略開始前から軍事戦略の指揮を担ってきた。
●反転攻勢に一定の成果で、米国がウクライナに停戦協議呼びかけか 9/4
領土奪還を目指して、ウクライナ軍が6月初旬に開始した反転攻勢は、ロシアの強固な防御ラインを前に苦戦を強いられている。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、8月8日に公開した中南米メディアとの会見の動画で、「誰もが望むよりも遅く進んでいる。これほど長く戦い、兵器が不足していれば非常に難しい」と述べ、思うようなペースでは進んでいないという見方を示した。
その上で「反転攻勢とは進軍することであって後退はしない。ウクライナが主導権を握っているのはいいことだ」として、今後も反転攻勢を続けていく姿勢を強調した。
このようにウクライナ戦争が、長期化し、消耗戦になる様相が色濃くなってきたのも事実である。
消耗戦とは、敵軍の物的交戦能力(兵員、装備、施設等)を殺傷・破壊することによって敵を疲弊させ、降伏や政治的解決を強制することを狙った戦い方である。
消耗戦は、長引けば長引くほど、ウクライナより人口が多く、経済力でも軍事力でも優位にあるロシアが有利になることは明らかである。
また、戦争の長期化は、欧米各国の「ウクライナ支援疲れ」を掻き立て、世論の動き次第では、今後のウクライナへの軍事支援態勢に影響が生じる恐れもある。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の狙いはそこにあるとみられる。
もともと、欧州では「ウクライナにロシアとの交渉を促すべき」という立場の「和平派」と「ウクライナの徹底抗戦を支援すべき」という立場の「正義派」の2つの立場が対立している。
そうした中、この7月から8月にかけて、2人の影響力のある人物から、ウクライナは領土を割譲してもロシアとの停戦を進めるべきだという提案がなされている。
一つは、NATO(北大西洋条約機構)事務総長官房長(事務総長の首席補佐官的な役割)のスティアン・イェンセン氏の発言だ。
解決策の一つとして、ウクライナが領土を放棄し、その見返りにNATO加盟国の資格を得るということもありうると述べた。
もう一つは、前ウクライナ大統領府長官顧問オレクシー・アレストビッチ氏の提案である。
ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割し、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有することを前提として、ウクライナのNATO加盟が認められることを提案した。
安保問題専門家であるアレストビッチ氏の言動は、世界中のウクライナ・ウォッチャーから注目されている。
話は変わるが、ウクライナが旧ソ連邦から独立した記念日である8月24日、ウクライナ軍の特殊部隊がロシアに占領されている南部クリミアの海岸に一時上陸した。
上陸している間、特殊部隊はウクライナの国旗を掲げたという。ロシア側と戦闘になったが、部隊は死傷者を出さずに撤収したとされている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、この上陸作戦の前日23日に開催された国際枠組み「クリミア・プラットフォーム」の首脳会合で「他の占領地と同様、クリミアは占領から脱する」「領土では交渉しない」と語った。
ゼレンスキー大統領は、ロシアが実効支配するクリミア半島にウクライナ軍を上陸させ、南部4州だけでなくクリミアも奪還するという強い決意を新たに示した。
ロシアによる侵攻が始まって1年半、ウクライナと同国政府は生き残っただけではなく、反撃を仕掛けている。
そして、軍だけでなく国民が国を守ろうと戦い続け、ウクライナは存続している。しかし、西側からの軍事支援がなければ戦えない。
ところが、ロシアによる核の脅威により、西側諸国のウクライナへの軍事支援は慎重にならざるを得ない。
本稿では、様々な制約の中で、停戦交渉について、ゼレンスキー大統領はどのような決断をするかについて考えてみたい。
本稿では、初めに欧州各国の「和平派」と「正義派」について述べ、次に、NATO事務総長官房長発言の概要について述べ、次に、オレクシー・アレストビッチ氏の提案の概要について述べる。
最後に、停戦協議提案の背景とゼレンスキー大統領の決断について述べる。
1.欧州各国の和平派と正義派
   (1)欧州外交評議会の報告書
欧州連合(EU)のシンクタンクである欧州外交評議会(European Council on Foreign Relations: ECFR)は、2022年5月中旬に実施した10か国8000人の世論調査の結果に基づき、2022年6月15日、「和平対正義:ウクライナ戦争をめぐってヨーロッパの分裂が訪れる(Peace versus Justice:The coming European split over the war in Ukraine)」と題する報告書を公表した。
本項は、同報告を参考にしている。
      1報告書のサマリー
サマリーは次のとおりである。
・ロシアの対ウクライナ戦争の最初の100日間、欧州の世論は欧州の政治的対応を固めるのに役立った。
しかし、最新の世論調査では、国民の好みの相違がこの団結を弱める可能性があることが明らかになった。
・ECFRの調査によると、欧州人はウクライナに対して大きな連帯感を持ち、対ロシア制裁を支持しているものの、長期的な目標については意見が分かれている。
彼らは、戦争をできるだけ早く終わらせることを望む「和平派」(国民の35%)と、より差し迫った目標はロシアを懲罰することだと考える「正義派」(国民の22%)に分かれている。
・ポーランドを除くすべての国で、「和平派」が「正義派」よりも大きい。
欧州国民は経済制裁の代償と核エスカレーションの脅威を懸念している。何かが劇的に変わらない限り、彼らは長期にわたる戦争に反対するだろう。
ポーランド、ドイツ、スウェーデン、フィンランドだけが、軍事支出の増大に対して実質的な国民の支持を得ている。
・各国政府は、欧州の結束を強化し、国家間および国内の二極化を回避するために、これらの「和平派」と「正義派」間の溝を埋める解決策を見つける必要があるだろう。
      2世論調査の結果
ア.欧州全体の各陣営の割合
   図表1 欧州全体の各陣営の割合
欧州全体の各陣営の割合は、和平派(Peace camp)35%、正義派(Justice camp)22%、どちらでもない(Swing voters)20%、その他(The rest)23%であった。
イ.国別の各陣営の割合
報告書は「和平派」と「正義派」について、次のように記載している。
「理論的には、戦争をいつ停止し、和平の形に同意するかを決定するのはウクライナ人次第であるという点で、すべてのヨーロッパ諸国の政府は同意している」
「しかし、たとえウクライナが譲歩することになっても、欧州はできるだけ早く戦争を終わらせることを目指すべきなのか、それとも、たとえそのような道が紛争の長期化とさらなる人的苦痛につながるとしても、最も重要な目標はロシアの侵略を懲らしめ、(ウクライナの)領土を回復することなのかを有権者が選択する際に、世論調査では明らかな意見の分断が浮かび上がっている」
世論調査による国別の各陣営の割合は図表2のとおりである。
   図表2 国別の各陣営の割合
ポーランドを除くすべての国で、和平派が正義派よりも多い。
各国の差は何か。筆者はロシアに対する脅威認識の違いであると見ている。
上記の世論調査の対象となっていないが、バルト三国が対露強硬派としてよく知られている。
ポーランドとバルト三国は、ウクライナの次は自分たちがロシアのターゲットになるかもしれないという切迫感を抱いているからである。
ウ.欧州国民のウクライナ戦争に関する最大の懸念事項
報告書は欧州国民のウクライナ戦争に関する最大の懸念事項について、次のように記載している。
「欧州の人々は経済制裁の代償と核エスカレーションの脅威を懸念している。何かが劇的に変わらない限り、彼らは長期にわたる戦争に反対するだろう」
世論調査の結果は、1位が、生活費とエネルギー価格の上昇61%とロシアによる核兵器使用の脅威61%で、3位が、ロシアによる化学兵器使用の脅威46%で、以下は次のとおりである。
4位、自国に対するロシアの軍事行動の脅威42%、5位、経済不況または雇用の喪失28%、6位、ロシアの報復による自国の政府および企業に対するサイバー攻撃26%、7位、ウクライナからの避難民の自国への移住13%。
   (2)筆者コメント
初めに、欧州外交評議会の報告書における和平派と正義派の定義を確認する。
和平派は、たとえウクライナが領土を譲歩することになっても、できるだけ早く戦争を終わらせることを目指すべきであると考えている。
一方、正義派は、紛争の長期化とさらなる人的苦痛につながるとしても、ロシアの侵略を懲らしめ、ウクライナの領土を回復すべきと考えている。
正義派には、プーチン氏を国際法廷で罰することとウクライナの領土回復の2つの目標がある。
プーチンを国際法廷で罰するには、プーチン政権が崩壊していることが前提となるであろう。
現時点で、ゼレンスキー大統領およびウクライナ国民は、プーチン氏を国際法廷で罰することとウクライナの領土回復の2つの目標達成を目指して死闘を繰り広げている。
ウクライナを支援している西側諸国の政府や国民は、そのウクライナの強い願望を承知しており、表向きは、停戦協議や和平協議を開始するかを決定するのはウクライナであることに同意している。
そして、直近のリトアニアでのNATOサミットでは、G7首脳は次のような共同声明を発出している。
「我々G7首脳は、国際的に認められた国境内において自国を守り、将来の侵略を抑止することができる、自由で、独立し、民主的で主権国家としてのウクライナの戦略的目標に対する我々の揺るぎないコミットメントを再確認する」
「(中略)我々は、必要とされる限り、ロシアによる侵略から自らを守るウクライナとともにある」
「我々は、共通の民主的な価値および利益、とりわけ国連憲章ならびに領土一体性および主権の原則の尊重に根差した、ウクライナに対する長期にわたる支援について結束している」
この共同声明の文言は、ウクライナの2つの目標達成を長期に支援すると読める。しかし、共同宣言は法的義務を伴わない、しょせん紙切れ一枚である。
今、ウクライナに対して、領土を譲歩することになっても、できるだけ早く戦争を終わらせることを目指すべきであるとする提案が相次いでなされている。
次項以降でそれらの提案について述べる。
2.NATO事務総長官房長発言の概要
   (1)発言の顛末
ノルウェーの日刊紙ベルデンスガングなどが報じたところによると、NATO事務総長官房長(Director of the Private Office of the NATO Secretary General)(事務総長の首席補佐官的な役割)のスティアン・イェンセン氏は8月15日、ノルウェーのアレンダルで開かれた討論会「NATOにおけるウクライナの未来」で、ウクライナ戦争と関連して次のように述べた。
「解決策の一つとして、ウクライナが領土を放棄し、その見返りにNATO加盟国の資格を得るということもありうる」
イェンセン氏は、どのような和平案もウクライナが受け入れられるものでなければならないが、NATO加盟国は18カ月にもなるこの戦争をどうやって終わらせることができるかを討論しているとして、上記のように述べた。
ウクライナは直ちに反発した。
英国の日刊紙のガーディアンによると、ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領補佐官は「領土とNATO加盟を交換する? 笑わせる話だ」と反発し次のように激しく非難した。
「これは意図的に民主主義の敗北を選び、世界的な犯罪をあおり、ロシアの政権を保存し、国際法を破壊し、戦争を他の世代に渡すことだ」
さらに、ポドリャク氏は「もしプーチンが壊滅的な敗北を喫しなければ、ロシアの政治体制は変わらず、戦犯たちは処罰されず、この戦争はロシアがより多くの戦争を望む結果を無限に生むだろう」と述べた。
NATOは、イェンセン氏の発言がもたらした論議の火消しにあたった。
NATOのスポークスマンは「我々はウクライナが必要とする限り支援を継続し、公正かつ永続的な平和を達成すると誓う」とし「NATOの立場は変わっていない」と述べた。
イェンセン氏は8月16日、ノルウェーメディアとのインタビューにおいて、15日の自身の発言は「間違いだった」と訂正した。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は8月17日、ロシアのウクライナ侵攻を巡る和平交渉について「交渉のための条件が整ったかどうかを判断し、いつ交渉入りするかを決めることができるのはウクライナだけだ」と語った。
また、イェンセン氏の発言について「彼のメッセージは私のメッセージであり、NATOのメッセージでもある」とした。その上で「ウクライナを支援するというNATOの方針は変わらない」と述べた。
   (2)筆者コメント
直近のリトアニアでのNATOサミットの焦点は、ウクライナのNATO加盟問題と加盟までの間のウクライナの安全保障問題であった。
ウクライナのNATO加盟問題では、ウクライナは「ロシアとの和平後の加盟」の確約を求めた。
しかし、ロシアを過度に刺激することを望まない米独の慎重論を反映し、NATOは8月11日に発出した共同声明では、「同盟国が同意し、条件が満たされれば、我々はウクライナに同盟への参加を要請する立場にある」とするにとどめ、明確な道筋は示さなかった。
一方、NATO加盟までの間のウクライナの安全保障問題では、NATOは当初、相互防衛義務がなくても米国がイスラエルに対し長期的に膨大な軍事支援を継続して支える「イスラエル型」を参考にウクライナとの安保協定の締結を模索した。
しかし、膨大な国庫支出を長期で求められる協定には「加盟国一部の反対」があり、代わりにG7が長期的に支援する安全保障の枠組みが設けられた。
NATOサミットの詳細については拙稿「実は危うい日米同盟、ウクライナ独立からの歴史・同盟の種類と実態を総点検」(2023.7.26)を参照されたい。
さて、NATOサミットでは停戦交渉や和平交渉については議論がなされなかったようであるが、イェンセン氏が述べたように、NATO加盟国は、18カ月にもなるこの戦争をどうやって終わらせることができるかを内部で議論していることは事実であると筆者は見ている。
開戦当初は、ウクライナ側にも戦争をやめてほしいという思いがあったし、ロシア側も条件が合えば、軍事作戦を進めなくてもいいという態度であったと言える。
実際、第1回目の停戦交渉(2022年2月28日)から第5回停戦交渉(2022年3月29日)の5回の停戦交渉が行われていた。
だが、ブチャの虐殺が停戦交渉にとって大きな転換点となった。
ゼレンスキー大統領は2022年4月4日、多数の民間人が犠牲となった首都キーウ近郊のブチャを訪れ、「ロシア軍がウクライナでした残虐行為の規模を見るとロシアとの停戦交渉は非常に難しくなった」と語った。
筆者は、この時にゼレンスキー大統領は戦争に勝利し、プーチン氏を戦争犯罪の罪で必ず処罰しようと決意したのだと見ている。これ以降、停戦交渉機運は急速に萎み、交渉は一度も開催されていない。
ウクライナとロシアの停戦交渉の経緯は、拙稿「国土割譲もやむなし、ウクライナに必要な早期和平協定」(2022.12.2)を参照されたい。
ウクライナは「戦場が交渉の場だ」とし、戦況で優勢を築いた上でロシアから譲歩を引き出そうとする構えを崩していない。
イェンセン氏は、領土を放棄すれば、ウクライナは即NATO加盟国になれると言っているが、31カ国のNATO加盟国すべてが同意することは容易でない。
既述したが、NATOのストルテンベルグ事務総長は、「交渉のための条件が整ったかどうかを判断し、いつ交渉入りするかを決めることができるのはウクライナだけだ」と語っている。
これが米国を含むNATO加盟国の公式見解であろう。
3.オレクシー・アレストビッチ提案
前ウクライナ大統領府長官顧問である安保問題専門家オレクシー・アレストビッチ氏は、この7月半ばにネット上で「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定を提案した。
本項は、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長吉田成之氏の「アメリカの“弱腰"を懸念し始めたウクライナ〜戦争の終わりが見えないまま反攻に最大注力へ」(東洋経済2023年7月31日)を参考にしている。
   (1)提案要旨
アレストビッチ氏は、バイデン政権は侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っているという見方を示した。
そのうえで、今後、領土奪還のテンポが大きく上がらず、反攻作戦が膠着状態に陥った時期を見計らって、バイデン政権がウクライナとロシアに対し、戦争を凍結し、停戦協議を行うよう提案するだろうとの見立てを示した。
この見立てを前提に、アレストビッチ氏は「ウクライナ全領土をキーウ側とロシアの間でそれぞれの実効支配地域ごとに分割する」といった内容の停戦協定を受け入れるという個人的立場を示した。
つまり、ウクライナ政府側がほぼ現状のまま全土の約80%、ロシアが約20%を占有するとの考えである。
この案を受け入れる前提として、アレストビッチ氏はウクライナのNATO加盟が認められることを挙げた。ロシアに移譲される国土については、将来的に「非軍事的手段」で取り戻すと強調した。
   (2)筆者コメント
アレストビッチ氏は、ウクライナで人気があり、またその言動が世界中のウクライナ・ウォッチャーから注目されているので、今回の発言が注目されているが、アレストビッチ氏の発言は特別目新しいものではない。
アレストビッチ氏の発言のポイントは、バイデン政権の長期的戦略を明らかにしたことである。
「バイデン政権は、ウクライナ軍が負けないよう軍事支援はするものの、圧倒的に勝つような軍事的優位性は与えないという戦略的目標を持っている」ということは広く報道されている。
また、その理由は、プーチン氏を追い詰めれば核使用の恐れがある、核大国ロシアが混乱に陥ると核兵器がテロリストに流出する恐れがあるということであることも広く知られている。
もう一つの、アレストビッチ氏の発言のポイントは、全領土奪還を掲げるゼレンスキー政権の公式的立場とは大きく異なることである。
前ウクライナ大統領府長官顧問であったアレストビッチ氏が、ゼレンスキー大統領を裏切ることは考えられない。
アレストビッチ氏が、ゼレンスキー政権と調整しているならば、今回の提案は、国民の反応を見るという観測気球ということになるであろう。
前出の吉田成之氏の取材によれば、ゼレンスキー政権内部でもアレストビッチ氏と同様に、反攻作戦が膠着状態になれば米国が「タオルを投げ入れ」、停戦協議の開始を提案してくるのではと真剣に警戒している。
すでにウクライナ政府は水面下で、ウクライナを最も強く支持しているバルト三国やポーランドなどの隣国に対し、仮に米国が停戦交渉開始を提案してきた場合、引き続きウクライナへの軍事支援を継続するか否か、を問い合わせている、とのことである。
4.停戦提案の背景とゼレンスキー氏の決断
ロシアに対する反攻作戦を進めるウクライナへの支援に関する米国内の世論調査で「議会は追加支援を認めるべきではない」との回答が55%に上ることが明らかになり、米政権に衝撃を広げている。
調査はCNNテレビなどが実施しこの8月4日に公表された。
ジョー・バイデン米大統領はこの7月13日、フィンランドの首都ヘルシンキでの記者会見で、「プーチン氏がウクライナでの戦争に勝つ可能性はない。すでに負けている」と答えた。
バイデン大統領は、ロシアはリソースをそれほど長く維持できないため、ウクライナでの戦争が何年も続くとは考えていないと発言。
その上で、ウクライナ軍が現在展開している反攻で前進し、交渉による解決につながることを望んでいると述べた。
バイデン大統領の上記の発言は、ウィリアム・ジョセフ・バーンズ米CIA長官がこの7月1日、英国で行った講演の発言と呼応している。
バーンズ氏は次のように述べている。
「ロシアがウクライナで続ける戦争は、プーチン大統領の指導力を腐食させている」
「プリゴジン氏の行動は、プーチンの行動が本人の社会と体制にいかに腐食的な影響をもたらしているか、まざまざと見せつけるものだった」
「戦争への不満が今後も、ロシアの指導体制を侵食し続けるはずだ」
2005〜2008年に駐ロシア大使だったバーンズ氏は、プーチン氏とロシアを最もよく理解している人物と評価されている。
バーンズCIA長官は、パトルシェフ安全保障会議書記やナルイシキン対外情報庁(SRV)長官などプーチン政権の要人と会談するなど米露直接交渉の要となっている。
ちなみにバイデン大統領は7月21日、バーンズCIA長官をバイデン政権の閣僚に格上げすると発表した。
以上のように米政府は、プーチン氏の指導力が低下し、政権内部にもプーチン氏に対する信頼が揺らいでいる今が、停戦協議を提案する好機であるとみている。
米紙ワシントン・ポストは6月30日、ワグネルの反乱の少し前にバーンズ長官が密かにキーウを訪れた際のウクライナ政府幹部との協議では、ウクライナの反転攻勢が成功し、ウクライナが相当の領土を奪還すれば、ウクライナが優位な立場で交渉に臨める状況が開けるかもしれないという内容が取り上げられたと報道されている。
さて、かの軍事思想家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、その著書『戦争論』で、「現実の戦争において講和の動機となりうるものが2つある。第1は、勝算の少ないこと、第2は、勝利のために払うべき犠牲の大きすぎることである」と書いている。
現時点でウクライナ、ロシアとも和平交渉の席につく気配は見られない。なぜならば、両国とも勝算は我にありと思っている。
また、犠牲の大きさについても、ウクライナには犠牲を厭わない高い士気があり、ロシアには犠牲を何とも思わない人命軽視の風潮がある。
したがって、ロシア・ウクライナ戦争終結の見通しは立っていない。
ただし、ウクライナにとっては、西側諸国の兵器などの軍事支援の継続がなければ勝算は小さくなる。
今、ウクライナを支援している西側諸国のリーダーである米国が停戦協議の開始をウクライナに提案するという可能性が浮上してきた。
ゼレンスキー大統領は、2022年5月21日に、自身で次のように語っている。
「ロシア軍を2月の侵攻開始前のラインまで押し戻せばウクライナ側の勝利である」
「ロシア側に占領されたすべての土地を取り戻すのは簡単ではないし、重要なのは、命を惜しまず戦うウクライナ軍人の犠牲を減らすことである」
「今、貪欲になるべきではない」
ウクライナ軍は、現在展開している反転攻勢で、できるだけの領土を奪還し、そのラインを停戦ラインとして、停戦交渉を開始すべきであると筆者は考える。
停戦時点では、両国の国境線を画定させず、国境の画定は和平交渉において実施するものとする。停戦交渉がまとまった時点で、NATOは、ウクライナのNATO加盟の手続きを開始する。
ゼレンスキー大統領には、原点に返り、政治家として妥協できるところは妥協して、米国から停戦協議の提案があったならば、それを受け入れほしいというのが筆者の願いである。
●中国経済停滞にチャンスとリスク見て取るG7各国−米欧でギャップも 9/4
中国が経済的苦境に見舞われる現状にあって、米国をはじめとする主要7カ国(G7)にとっては、地政学的ライバルの中国に対する西側の立場を最終的に強化することになる根深い構造的問題の兆候を目にする機会が増えている。
日米やイタリアなどG7各国の当局者が最近数日間にブルームバーグ・ニュースに主に匿名で語ったところでは、過去数十年にわたり世界中の資金の流れの指針となってきた主流の経済的シナリオは急速に反転しつつあるとの見解が浮上している。
衰退する米国に代わり中国が世界をリードする経済大国になるのは不可避だとかつて見受けられたとしても、もはやそういう状況にはない。絶対的衰退にはまだないとしても、勢力的ピークに近づいている可能性のある中国をどう扱うべきかが米国などで分析の対象になりつつある。
バイデン米大統領は8月10日、政治資金集めのイベントで、債務問題や人口動態といった長期的課題を理由に中国の経済問題を「爆発するのを待っている時限爆弾」と呼び、G7各国で広がりつつある認識を浮き彫りにした。
また、レモンド米商務長官は同月29日、中国はますますリスクが高過ぎて「投資できない」国になりつつあるとの指摘が米企業から聞かれると、北京から上海へ向かう高速鉄道の車中で語った。
ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のリチャード・フォンテーヌ最高経営責任者(CEO)は「一般的な見解は中国の勢力の制止できない台頭を巡る懸念から、中国の経済および人口の取り返し不可能な落ち込みに関する心配に転じている様子だ」と話した。
これはバイデン政権内でひそかに広がりつつある見方だ。イエレン米財務長官は北京訪問に先立つブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、中国の人口減少は「成長と投資の観点から課題」だと指摘するとともに、若者の失業率上昇や以前は総需要の約4分の1を占めた不動産セクターの落ち込みなど他の問題にも言及した。
米当局者は中国について、一層の経済開放を進めるべきだとする過去数十年来のアドバイスを無視したことで誤りを犯したと考えており、中国がピークに近づきつつあるかピークに達したと判断するには時期尚早としつつも、長期的な問題が成長のブレーキとなるとみている。
レモンド商務長官の発言内容と同様、アデエモ米財務副長官は今週のブルームバーグとのインタビューで、「外国直接投資や外国企業にとって、中国の環境はあまり好ましくないものとなっている」との認識を示した。  
18兆ドル(約2620兆円)規模の中国経済の不振が自国の市場にどう影響するかについても、G7各国の当局者は真剣に考えている。世界でも抜きん出た成長のエンジンである中国がさらに動揺した場合、既に揺らぎつつある見通しに打撃が加わるとの懸念も一部にある。一方で英国の場合、ディスインフレの弾みとなって物価抑制の取り組みを後押しするとして明るい兆しも感じられている。
センチメントの変化は当局者以外にも及んでいる。
米外交問題評議会(CFR)が発行する外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」最新号は、中国の成長の奇跡の終わりと停滞の時代の始まりを宣言する論文が並び、中国台頭へのレクイエム(鎮魂曲)のように読み取れる。
米議会の米中経済安全保障審査委員会(USCC)はかつて超党派議員にとって中国台頭の影響を警告する場であったが、8月21日の公聴会で証言した民間部門のアナリストが伝えたメインテーマは中国経済の脆弱(ぜいじゃく)さだった。
調査会社ロジウム・グループの中国市場リサーチディレクター、ローガン・ライト氏は「中国政府が世界経済における優位性を疑問の余地なく主張することは決してできないだろう」と証言した。
中国経済の減速がどの程度続くのかは不透明だ。同国には景気を刺激して経済の崩壊を回避する財政力があると複数のG7当局者は指摘する。中国当局はほぼ毎日、不振にあえぐ不動産業界の支援策を打ち出しているが、習近平国家主席と同氏の経済チームは持続不可能な債務への依存を断ち切ろうとしており、全面的な刺激策はこれまでのところ控えている。
不動産セクターをてこ入れし、成長を促す広範な取り組みには財政面の緊張が伴い、中国当局が他の優先課題とのバランスを取るのは難しくなるだろう。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のシニア地経学アナリスト、ジェラード・ディピッポ氏は、こうした困難でも中国当局が産業政策のために資金を投じるのが妨げられることはないとしても、政策の効果は落ちるだろうと分析した。
以前確実と考えられていたことに関しても疑念が増している。中国経済が将来のある時点で米国経済を抜いて世界最大になるというものだ。BEの分析によれば、米経済はドル高も一因となってこのところ中国経済との差を広げ、この傾向は続く公算が大きい。「成功は自己増強的となる可能性がある」とディピッポ氏はリポートで論じた。
そうであっても、日米欧の当局者は、それぞれが自国・地域の課題を抱え、中国の需要後退が世界経済や自国・地域の企業に与える影響を懸念して、勝ち誇った態度を取る理由はないと主張する。
これらの当局者はまた、方針転換の必要性はまだ見当たらないと強調しつつも、センチメントの変化が西側の政策に影響し始めている兆候もある。
バイデン政権は8月に対中投資制限を発表したが、その内容は比較的ソフトで対象も絞られていた。これは一部には米国の投資家によるロビー活動の結果だが、意図的に抑制気味とした部分もある。
米当局者の1人が非公式に話したことろでは、敵対的な性格を強める中国自体の政策と同国の経済的緊張状態が、米国のいかなる制限措置で期待されるよりも対中投資を思いとどまらせる方向に作用しているとホワイトハウスは判断している。
米欧の当局者は中国経済の減速を巡り、輸出基地としての同国への依存を減らし、自国・地域の貿易・投資・産業政策を見直した新型コロナウイルス禍後の取り組みの妥当性を示すものだと主張する。リスク低減を図る「デリスキング」を主導したのは米国だが、それはG7共通の利害となっている。
当局者はまた、中国は引き続き多くの戦略的セクターで手ごわい課題であり、今後何年にわたってもそうあり続ける公算が大きいとしている。これは、G7各国がそれぞれ強化した産業政策の下で代替的なサプライチェーンの増強を進めることを意味する。
長年にわたり一段と強固な貿易・産業政策を提唱し、今年初めまでバイデン政権の国家安全保障会議(NSC)でシニアディレクターを務めたジェニファー・ハリス氏は「二つの事実がある」と話す。一つ目は「中国は豊かになる前に高齢化が進む」という点だが、それでも電気自動車(EV)のような「特定の戦略的産業に向けた中国当局の産業政策の取り組みの有効性」という、同じく重要なもう一つの要素の意義は減じることはほとんどないという。
米政権内外の他の識者は、中国経済が減速したのは同国が大規模な改革を実施して国有セクターの重要性を減じることに消極的である結果だとしている。
米通商代表部(USTR)次席代表を長く務め、現在はアジア・ソサエティー政策研究所副所長のウェンディ・カトラー氏は「われわれが目にしているのは楽観的な米国と、率直に言ってあらゆる方向から一連の経済問題を抱える中国だ」としつつも、「だからといって米国は自慢げに振る舞うべきでない。弱みを抱えても、中国は手ごわい経済的ライバルだ」と述べた。
実際、中国は「グローバルサウス」との経済的関係を深めており、新興5カ国(BRICS)が新たなメンバーに迎える国々のリストは新興国における中国の影響力拡大をあらためて浮き彫りにしている。
ただ、中国が掲げる権威主義的モデルのアピールは長年、同国経済の台頭・成長に基づいていた。このモデルは現在、少なくとも傷ついたと見受けられ、その魅力は薄れている。中国の景気減速はコモディティーなどの需要後退を意味し、アフリカなどの地域で中国による地政学的要因主導の投資や影響力発揮が減る可能性がある。
これはさらに、先進国においても経済的パートナーとしての中国の影響力低下につながる。米当局者の一部は、ときどき懐疑的な姿勢を示す欧州などの同盟国に中国離れを説得する上でも、同国経済の減速が追い風になっているとみる。そして、このような見解を支える証拠は幾らでもある。
フランスの代表的シンクタンクの一つ、戦略研究財団(FRS)のリサーチフェロー、アントワーヌ・ボンダス氏は、中国経済の構造的減速の結果として、欧州企業は中国から撤退するかインドや東南アジアに新たに賭けることになると予想。「欧州は中国から離れつつある」とコメントした。
ドイツが新たな戦略の一環として、中国以外に経済的関係を多様化する取り組みも同国の減速が背景にある。
ドイツの駐米大使に新たに着任したアンドレアス・ミャエリス氏は米戦略国際研究所(CSIS)が8月28日に主催したイベントで、「中国経済は以前のようなペースでは成長していない」とし、中国市場は「従来ほどは有望でない」と発言した。
イタリアはチャンスを見いだしている。10月に発表する運びの新たな外交政策イニシアチブはアフリカにおけるイタリアのパートナーシップを拡大し、アフリカ大陸から欧州へのエネルギーフローで一段と大きな役割を果たすことを狙ったものだ。イタリアのエネルギー企業ENIの創業者エンリコ・マッテイ氏にちなんで「マッテイ・プラン」と名付けられる。
事情に詳しい複数の関係者によると、ロシアがウクライナでの戦争に気を取られている状況と相まって、中国の減速はイタリアにはプラスとなる一方ではないかという。
イタリアでは最近、人工知能(AI)や半導体、エネルギーを含む戦略セクターで、外国へのテクノロジー移転を阻止する「ゴールデンシェア」の特別の権限行使を政府に認める法案が通過した。これは中国への移転を制限する手段と広く受け止められている。
イタリア政府はまた、習主席が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の投資協定について、離脱するかどうか年末までに決める必要があり、中国経済の減速はイタリアが関与を続ける論拠を弱める。
中国が現在想定されているよりも速いペースで経済を立て直せば、戦略バランスは早急に転換する可能性があるとして、慎重を呼び掛ける声も欧州にはある。トランプ前米大統領が来年の大統領選勝利すれば、政権に復帰する可能性という、不確定要素も指摘される。
欧州は米国に比べ、引き続き中国を重商主義的な観点でみており、米欧の政策アプローチには常にギャップがある。ゴールドマン・サックス・グループの元チーフエコノミストで、「BRIC」という頭文字の生みの親であるジム・オニール氏は、「欧州においてドイツは決して米国が望む規模のことを承認しないだろう。ドイツが輸出国家であり続けるのであれば、対中関係を本当に変えることはできない」と説明した。
英当局者は中国政府を経済的パートナーであると同時に国家安全保障上のリスクとして慎重にバランスを取っているが、英政府の考えに詳しい関係者1人の話では、中国の減速はG7で最も高水準かつ粘着的なインフレに悩む英国の抑制の取り組みを後押しするとして、おおむね歓迎すべきニュースと見なされている。
国際通貨基金(IMF)は7月、「中国の低インフレを主な理由」として、今年の世界のインフレ率見通しを0.2ポイント下方修正した経緯がある。
他方、日本の当局者は中国の減速が日本に及ぼす潜在的影響を注視し、中国指導部が人口高齢化などの問題にどのように取り組むのか見守っている。
米国など各国の政策担当者およびその側近にとって重要な疑問は結局、中国経済の不振が一層好戦的な態度につながるのか、同国が協調的な姿勢になるかという、今後の展開だ。
中国の経済的苦境について、共産党指導部が米国などの外部の勢力を非難し、緊張がさらに高まるのではないかとの懸念がある。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、米国として「中国経済を減速させたり経済成長を弱めたりしようとしていない」と述べ、中国が米国の政策を非難することがないようけん制した。
サリバン補佐官をはじめとする多くのバイデン政権当局者は米中の2大経済大国間の対話継続の必要性と、米国として中国デカップリング(切り離し)を求めていない点を強調している。
サリバン氏のNSCの元同僚で、米国の経済政策の新ビジョンを示した同氏のスピーチ草案策定にも携わったハリス氏は、中国経済の不安定化で指導部が軽率に行動する可能性を懸念する1人だ。「中国経済の停滞が地政学的ボラティリティーが高まる方向に北京を駆り立てることも考えられる」と話す。
一方で、西側民主主義国が推進する経済モデルに代替するモデルを中国が売り込もうとする動きに打撃になるとして、中国の減速を比較的警戒しない見方や、中国指導部が国内の懸案に重点を置いて、世界的なステージでの自己主張が後退するとの予想もある。
アジア・ソサエティー政策研究所のカトラー氏は「米中間の競争の一種の緩和につながるかもしれない」と語った。
いずれの見解を採るにしても、中国経済の減速で競争が一時的に和らいだ場合も、同国が今後何年にもわたって世界経済で強力な競争相手であり続けるという点では、当局者の意見は一致している。
CNASのフォンテーヌCEOは「中国は主要分野で強力かつ野心的であり続ける。国防支出と軍備が増加し続け、外交は世界展開で、米国が関与していない経済協定に加わっている。地政学的崩壊を伝えるのは完全に時期尚早だ」と論じた。 
●ロシア・トルコ首脳会談始まる プーチン大統領「穀物協議応じる用意」 9/4
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領がロシア南部のソチで約1年ぶりに直接対面し、首脳会談を行いました。
ロシア プーチン大統領:「穀物合意についてあなたが話すつもりだと分かっています。我々は交渉に応じる用意があります」
プーチン大統領は会談の冒頭でロシアが7月に離脱した黒海を通じた「穀物回廊」=ウクライナ産穀物の輸出合意について「交渉に応じる用意がある」と述べました。
ただ、ロシア産農産物の輸出などを条件に挙げていて、合意が再開できるかは不透明な状況です。
トルコのエルドアン大統領は「トルコとロシアの関係において今、最も重要なことは穀物回廊についてだ」と述べたほか、トルコメディアはロシアとウクライナの停戦交渉に向けて仲介役を申し出るつもりだと報じています。
エルドアン大統領はプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の双方と対話ができる数少ない首脳です。
●ウクライナ国防相、突然の「更迭」のなぜ? 後任人事に込められたメッセージ 9/4
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9月3日、オレクシー・レズニコフ国防相(57)を交代させると発表した。
ロシアとの1年半にわたる戦争を経て「新たなアプローチが必要だ」とゼレンスキーは述べたが、国防省では軍備の調達に関する汚職疑惑が相次いで発覚しており、事実上の更迭とみられる。
ゼレンスキーは後任に国有財産基金のルステム・ウメロフ総裁(41)を起用する方針で、議会の承認を経て正式に決まる。
国防省スキャンダルの荒波
米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、ウクライナ大統領府の高官の話として、解任の要因は主に3つあると報じている。
ひとつは、戦争が長引くにつれ新たなリーダーシップが必要だったこと。2つ目は、国防省の契約スキャンダルをめぐり市民団体やメディアから批判が強まっていたこと。そして最後に、レズニコフ自身から退任要求があったという。
国防省のスキャンダルは今年になって相次いで浮上している。契約した9億8600万ドル相当の兵器が期日までに納入されていなかったり、兵士らの食料や防寒着の調達で市場価格を大幅に上回る額を支払っていたりしたことが明るみになったのだ。
ウクライナ政府はこのような汚職疑惑について調査を進めており、すでに今年初めには国防次官が解任されている。
米メディア「アクシオス」によれば、レズニコフ自身はこうした汚職に直接関与していないとされるが、監督責任を追及する声は高まっていた。
ゼレンスキーはウクライナのEUとNATO加盟には国内の汚職撲滅が必須条件と考えており、対策に力を入れている。
後任はイスラム系少数民族から
ニューヨーク・タイムズによると、投資銀行出身のウメロフは野党の政治家ではあるが、戦争が始まって以来、ゼレンスキー政権でさまざまな重要な役割を担ってきた。
ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出するためのロシアとの取り決めや、戦争捕虜の交換においてウクライナ側の交渉団を率いたのが彼だった。
ウメロフはまた、クリミア半島の先住民族クリミア・タタール人でもある。クリミア・タタール人は大半がイスラム教徒で、ロシアが2014年にクリミアを併合した後に迫害された少数民族だ。米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、ウメロフが国防相に指名されたことはウクライナ政府がクリミア半島を取り戻すという意志の表れだ、と報じている。
●ロシア ウクライナ南部オデーサ州のドナウ川沿いを2夜連続攻撃 9/4
ロシアはウクライナ南部オデーサ州のドナウ川沿いを2夜連続で攻撃しています。この地域はウクライナが黒海にかわる農産物の輸出の代替ルートの拠点としていることからロシア側が攻撃を強めているとみられます。
ウクライナ軍は4日、ロシア軍が3日に続いて南部オデーサ州のドナウ川流域にある港湾施設などのインフラ施設を標的に無人機による攻撃を仕掛けてきたと発表しました。
州当局は無人機17機をウクライナ軍が撃墜したとしていますが、ドナウ川沿いの都市イズマイルにある倉庫や工場が被害を受けたほか、複数の場所で火災が発生したとしています。
ロシア軍はその3日夜にも、ドナウ川沿いの都市レニの燃料貯蔵施設に対して集中的に無人機攻撃を行ったと発表していました。
イズマイルなどドナウ川沿いの地域にはウクライナが黒海にかわる農産物の輸出の代替ルートの拠点としていることから、ロシア側が攻撃を強めているとみられます。
一方、反転攻勢を続けるウクライナ国防省のマリャル次官は4日、東部の戦況についてドネツク州のバフムトの南側の集落で一定の成果があったと発表しました。
さらに南部では、ザポリージャ州の主要都市メリトポリ方面で攻勢を続けているとしたほか、先月奪還を発表した南部ザポリージャ州の集落ロボティネから、およそ4キロ南のノボプロコピウカ方面などで「陣地を固めつつある」としています。
ただロシア軍による攻撃での犠牲者は相次いでいて、地元当局は東部ドネツク州と南部ヘルソン州で、それぞれ1人が死亡し、5人がけがをしたと発表しています。

 

●ロシアとトルコ首脳が会談、黒海のウクライナ産穀物の輸出合意復活進展なし 9/5
ロシアのプーチン大統領とトルコのタイップ・エルドアン大統領は4日、ロシア南部ソチで会談した。ロシアが7月に離脱した黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出合意が復活するかどうかが焦点になったが、プーチン氏は従来の主張を繰り返し、具体的な進展は見られなかった。
プーチン氏は会談後の記者会見で、米欧の制裁によって「ロシアは穀物輸出合意の離脱を余儀なくされた」と一方的に主張。露産穀物の輸出拡大などが実現すれば「すぐ復帰を検討する」と改めて訴えた。エルドアン氏は「進展は可能だ。短期間で解決策に到達できると信じている」と語った。
プーチン氏は「穀物輸出合意の停止は、世界の食料市場に影響を与えていない。穀物価格は下がり続けている」とも主張。カタールの支援を受けて露産穀物をトルコに輸出し、加工後に途上国に供給する「代替案」を協議したとも明かした。
両首脳の会談は昨年10月以来。トルコは8月にプーチン氏を招こうとしたが実現せず、エルドアン氏がソチを訪れることになった。
エルドアン氏は、ロシアとウクライナの双方と関係を保ち、和平実現に向けた仲介の努力を続けてきた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどはエルドアン氏が7月、トルコに滞在していたウクライナ内務省系の武装組織「アゾフ大隊」司令官5人の帰国を認めたことや、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に賛成したことがプーチン氏の不興を買ったとの分析を伝えた。
●プーチン大統領 従来の立場強調 農産物輸出 合意復帰進展なし 9/5
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が会談し、ロシアがことし7月に合意の履行を停止したウクライナ産の農産物の輸出について話し合いました。しかしプーチン大統領はロシアへの制裁が解除され、ロシア産の農産物が滞りなく輸出されることを前提とする従来の立場を強調するにとどまり、合意の復帰に向けた進展は見られませんでした。
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は4日、ロシア南部のソチで会談しました。
会談後の記者会見でプーチン大統領は「ロシアは合意の復帰を検討する用意がある。しかし、それはロシア産の農産物の輸出に関するすべての合意が履行された後だ」と述べ、あくまでロシアへの制裁が解除され、ロシア産の農産物が滞りなく輸出されることが前提となるとする従来の立場を改めて強調しました。
一方、トルコのエルドアン大統領は合意への復帰に至らなかったと明らかにしました。
そのうえで「溝を埋めるための活動を続ける必要がある。国連が用意した新たな提案について、短期間で解決すると信じている」として、国連とともに引き続きロシアに対し合意への復帰を働きかけ続ける考えを示しました。
一方で「ロシアと歩調を合わせるためにもウクライナも態度を軟化させる必要がある」として、ウクライナ側にも歩み寄りを求めていく考えを示しました。
ウクライナは世界有数の穀物の輸出国で、エルドアン大統領の仲介でも合意への復帰に向けて進展が見られなかったことで、食料危機への懸念が広がるものとみられます。
ウクライナ外相「代替ルートの構築に引き続き取り組む」
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の首脳会談についてウクライナのクレバ外相は4日、「トルコ側は今回の訪問に先立ちウクライナと協議しわれわれの立場を一致させた」と述べトルコとウクライナが連携していると強調しました。
そのうえで、ロシアが履行を停止した合意に復帰することが重要だとしながらも「ウクライナはこの数週間で、ロシアが参加しなくても海での穀物の輸出が可能であることを証明した。ロシアが関わらない代替ルートの構築に引き続き取り組んでいく。これが最も安全で最善の方法だ」と述べ、ウクライナ南部を出発し、ルーマニアやブルガリアなどの海岸沿いを通過してトルコの沖合に向かう臨時航路を活用していく考えを示しました。
●穀物輸出協定への復帰、ロシアは「交渉の用意」 プーチン氏 9/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ロシア・ソチで、トルコのエルドアン大統領と会談し、ロシアが黒海からの穀物輸出に関する協定への復帰をめぐる交渉を行う用意があると語った。
プーチン氏はエルドアン氏に対して、協議に先立ち、「この地域の安全保障の確保を含めて、我々には話し合うことが数多くある」と述べた。
プーチン氏は、ウクライナ危機に関する話題を無視するつもりはないとしたほか、穀物輸出に関する質問をしようとしていることも分かっていると述べ、穀物輸出に関する協議では交渉の用意があるとの姿勢を示した。
エルドアン氏はプーチン氏に対し、穀物回廊に関する協議は「非常に重要だ」と述べた。
エルドアン氏は、穀物回廊の問題について注目が集まっているとし、「記者会見でのメッセージが、特にアフリカの発展途上国にとって非常に重要な一歩になると信じている」と述べた。
ロシアのペスコフ大統領報道官は、両首脳による会談が建設的なものだったと述べた。しかし、穀物輸出に関する協定を含めて、協議されたいかなる議題についても文書に署名する予定はない。
ペスコフ氏によれば、協議は、首脳による一対一の形で継続される。
●金総書記がロシア訪問を計画、武器提供めぐりプーチン大統領と会談へ 9/5
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が今月、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と会談する計画があると、アメリカメディアが4日に伝えた。ウクライナ侵攻で使用される武器の提供について話し合うという。
BBCがアメリカで提携するCBSが米政府関係者の話として報じた。
それによると、両首脳は、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支援する目的でロシアに武器を提供する可能性について話し合うという。
具体的な会談場所は明らかになっていない。
ほかの米メディアもこの計画について報じているが、北朝鮮とロシアは即座にはコメントしていない。
情報筋が米紙ニューヨーク・タイムズに語ったところによると、金氏は装甲列車でロシアまで移動する可能性が高い。
同紙はまた、会談はロシア東岸のウラジオストクで行われる可能性があると報じている。
同紙のエドワード・ウォン外交担当編集委員は、北朝鮮の先遣チームが先月末にウラジオストクとモスクワを訪問していたと、BBCニュースに説明。
同チームには北朝鮮の「指導者の移動に関する手順を担当する安全保障担当者も含まれており、この件に注目している当局者にとっては強力なサインとなった」とした。
ウォン氏はさらに、北朝鮮が人工衛星と原子力潜水艦計画の手助けとなる「先端技術」をロシア政府から得ようとしているかもしれないと補足。
「北朝鮮は世界で最も貧しい国の一つ」で「集団飢餓の状態に陥ることがよくあるため、ロシアからの食料援助も求めている」と述べた。
北朝鮮とロシアの両政府はこれまで、北朝鮮がウクライナ侵攻で使用される武器をロシア側に供給しているという指摘を否定してきた。
2006〜2008年にイギリスの駐北朝鮮大使を務めたジョン・エヴァラード氏は、金氏がロシアを訪問するかもしれないという話が知れ渡ったことで、「この訪問は今や、実現しない可能性が高いとみている」とBBCに語った。
「金正恩氏は彼個人の安全について完全に偏執的になっている。自分の動向を秘密にしておくためにどんな労力も惜しまないが、プーチン大統領と会うためにウラジオストクに行こうとしていることが知れ渡ったとなれば、すべてキャンセルする可能性が高い」
北朝鮮政府はロシア側が軍需品の獲得に「必死」だと分かっているため、軍需品の対価を「涙が出るほど高額」に設定するだろうと、エヴァラード氏は付け加えた。
ただ、北朝鮮が備蓄している兵器の「状態は非常に悪い」という。
武器交渉が「活発に進んでいる」
今回の報道に先立ち、米ホワイトハウスは、北朝鮮とロシアの武器交渉が「活発に進んでいる」ことを示す新たな情報を得たと発表した。
米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が先月に訪朝した際、ロシアに「火砲弾薬を売却するよう北朝鮮政府を説得」しようと努めたと述べた。
北朝鮮は先月、ショイグ氏が率いるロシア代表団に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星」などを披露した。新型コロナウイルスのパンデミック後、北朝鮮が国境を開いて外国からの訪問者を招いたのは初めてだった。
カービー氏によると、プーチン氏と金氏はその後、「二国間協力の拡大を約束する」書簡を交わしているという。
「我々はDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)に対し、ロシアとの武器交渉を停止するよう、そして北朝鮮政府がロシアに武器を提供または売却しないという公約を守るよう求める」
北朝鮮がロシアに武器を供給すれば、アメリカは制裁を含む措置を講じると、カービー氏は警告した。
4年前にロシアで首脳会談
金氏とプーチン氏が最後に会談したのは2019年4月だった。金氏は専用列車でロシアに入り、ウラジオストクで初会談を行った。ロシアにはパンと塩で客を歓迎する伝統がある。金氏にもパンと塩が差し出された。
プーチン氏は会談後、北朝鮮が核開発を打ち切るためには、同国の安全が国際的に保証される必要があると述べた。
この会談は、金氏とドナルド・トランプ米大統領(当時)による2回目の首脳会談で北朝鮮の非核化交渉が決裂に終わってから、わずか数カ月後に行われた。
●金正恩氏、プーチン氏と会談へ…軍事支援の見返りに食糧支援希望か 9/5
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は4日、北朝鮮の 金正恩キムジョンウン 朝鮮労働党総書記が今月、ロシア訪問とプーチン大統領との会談を計画していると報じた。対露武器供与などについて協議する見通しという。
米国や同盟国の政府関係者の話として伝えた。正恩氏は列車で露極東ウラジオストクを訪れ、プーチン氏に会う見通しだという。両首脳は、今月10日から13日までウラジオストクで開かれる国際会議「東方経済フォーラム」に出席する。
同紙は当局者の話として、プーチン氏が北朝鮮から砲弾や対戦車ミサイルの供与を望んでいるのに対し、正恩氏は、ロシアから衛星や原子力潜水艦の技術の提供のほか、食糧支援を望んでいると報じた。北朝鮮当局は8月下旬、約20人の代表団が 平壌ピョンヤン からウラジオストクまで列車で移動した。その後、モスクワに飛行機で移動したという。正恩氏の訪露の下見とみられている。
北朝鮮は9日に建国75年を迎える。正恩氏は平壌での記念式典に出席した後、ロシアに向かう可能性がある。正恩氏は2019年4月にも、専用列車でウラジオストクを訪問し、プーチン氏と会談した。
同紙によると、正恩氏は、7月に訪朝したセルゲイ・ショイグ露国防相と会談した際、軍事協力について協議したほか、プーチン氏の訪朝を打診した。これに対し、ショイグ氏は正恩氏の訪露を要請したという。
米国は、露朝の軍事協力が今後、加速していく可能性があるとみて警戒を強めている。米国家安全保障会議(NSC)の報道官は4日の声明で「我々は、金氏がロシアでの首脳レベルの外交を含む協議継続を期待しているという情報を得ている」と明かした。
●ウクライナ新国防相に指名されたウメロフ氏 クリミア・タタール人の中心的存在 9/5
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国防相の解任を決めたのは、汚職対策の一環だと主に受け止められている。しかし、ルステム・ウメロフ氏の登用は、ウクライナがクリミア奪還について真剣だという合図だ。クリミアは2014年にロシアに併合された。そしてウメロフ氏は、クリミア・タタール人のイスラム教徒なのだ。
オレクシー・レズニコウ氏は2021年11月からウクライナの国防相を務め、ロシアによる全面侵攻の初日から、ゼレンスキー氏の隣にいた。その後任は誰になるのか、さまざまな憶測がこの数カ月もの間、飛び交っていた。
レズニコウ氏自身が何かの不正にかかわったとされているわけではないものの、国防省にはびこる汚職を止めることができないと判断された。
軍用品の調達に関する不正疑惑や、募兵センターの担当官に対する収賄疑惑が相次いだことで、ウクライナ社会はレズニコウ国防相に冷ややかな目を向けている。そしてウクライナ社会は現在、反転攻勢の進展ペースが期待されていたよりも遅いという状況で、社会を活気づける何かを必要としている。
そこで、ルステム・ウメロフ氏の登場だ。
41歳のウメロフ氏はこの1年、ウクライナ国有財産基金のトップを務めていたが、ロシアと捕虜交換の交渉を成功させたことで有名になった。
まったくの無名ではなかったものの、特にマスコミの注目を集めていたわけでもない。家族がソヴィエト連邦によって追放された先のウズベク・ソヴィエト社会主義共和国(当時)で生まれたクリミア・タタール人で、自分の同胞の地位と文化的アイデンティティーを世界において再確立しようと、積極的に活動してきた。
ウクライナ人にとっては、汚職や横領や利権誘導などの不正を指摘されたことがない人物だというのが、何より大事だ。
ウメロフ氏の政界入りは2019年7月。改革派政党「ホロス」から最高議会(国会)に当選し、昨年9月に議会から国有財産基金のトップに任命された。
議員になる以前は民間で働いた。最初は通信業界で仕事をし、のちに通信技術やインフラへの出資を専門とする投資会社を創設した。
2013年には自ら立ち上げた基金で、ウクライナの若者を次世代のリーダーとして米スタンフォード大学で訓練を受けさせる慈善プログラムを発足させた。
そうしたなかでウメロフ氏は、クリミア・タタール人だという自分のルーツを重視。クリミア奪還というウクライナの断固たる目標の実現に、クリミア・タタール人が重要な役割を果たせるという姿勢を貫いてきた。
クリミア・タタール人とは
クリミア・タタール人は、クリミアがロシア帝国に併合される以前、クリミア半島を中心に先住していたテュルク系ムスリム住民を起源とする。第2次世界大戦ではナチス・ドイツとの協力を疑われ、ソヴィエト軍によって中央アジアに追放された。
1944年5月18日、計20万人超のクリミア・タタール人がいきなり強制移住を命じられた。荷物をまとめる余裕はほとんど与えられず、列車に押し込まれ、数千キロ離れたソヴィエト連邦領内に送られた。
当時のウズベクやカザフへ移送される最中、あるいはその直後に、数万人以上が死亡したとされている。
最高指導者ヨシフ・スターリン支配下のソ連では、クリミア・タタール人のほかにも、複数の民族グループが同様の扱いを受けた。そしてクリミア・タタール人は、数十年にわたり故郷への帰還を目指した。
ウメロフ氏の家族もスターリン政権によって追放され、同氏は1982年にウズベク・ソヴィエト社会主義共和国で生まれた。1980年代後半になると、ウメロフ氏の家族を含む多くのクリミア・タタール人がクリミア半島への帰郷を許された。
ウメロフ氏は長年にわたり、クリミア・タタール人の民族運動家でウクライナ議員のムスタファ・ジェミレフ氏の顧問を務めた。ジェミレフ議員は、クリミア・タタール人の代表機関「メジリス」の初代代表。ウメロフ氏は現在、民族自治組織クリミア・タタール民族会議「クルルタイ」の議員でもある。
ロシアによるクリミア併合の解消を目指してゼレンスキー大統領が2021年に立ち上げた国際的交渉枠組み「クリミア・プラットフォーム」でも、ウメロフ氏は幹部となった。
「クリミア・タタール人の追放は、ソヴィエト政権による最大の犯罪の一つだ」と、ウメロフ氏は2021年にウクライナのニュースサイト「Liga.net」に書いた。「当時の独裁者たちが、一つの民族をまるごと殲滅(せんめつ)するために始めたことだ」とも、ウメロフ氏は非難した。
ウメロフ氏はロシアによる2014年のクリミア併合を非難し続けると共に、同年クリミアで逮捕されたクリミア・タタール人数人の解放とウクライナ送還を求め、ロシア政府と交渉を続けた。
2022年2月に全面侵攻が始まって間もなく、ウメロフ氏はBBCに対して、「この残虐な侵略について政治的・外交的な解決法を何としても見つける」つもりだと話していた。
ゼレンスキー大統領は3日夜、テレビ中継された動画演説で、国防相交代を発表。国防省には「軍と社会全体との関係において、新しいアプローチやかかわり方が必要だ」として、新しい国防相としてウメロフ氏を承認するよう議会に呼びかけた。
クリミア奪還のための総力戦はまだしばらく先のことかもしれない。ウクライナは2014年以前の国境の回復を目標としているが、クリミア奪還が含まれるこの目標は非現実的だという意見も一部にある。
しかし、ゼレンスキー氏はその目標実現に向けて中心的な役割を果たすことになるポジションに、クリミア・タタール人を据えることにした。そこには明確なメッセージが込められている。つまりウクライナ政府の目指す最終目標は、まさにそこにあるのだと。
●ウクライナが奪還作戦実行で感じた「手応え」 9/5
2023年6月初めの開始以来、難航していたウクライナの反攻作戦が8月半ばから一転、進展し始めた。それはなぜなのか。その舞台裏を検証し、今後の反攻作戦の行方を占ってみたい。
まず舞台裏を検証するうえで、反攻作戦の歯車が回り始める直前、ウクライナにとっての2023年7月末のどん底状況を振り返りたい。
アメリカ軍提案の作戦をウクライナが拒否
筆者は東洋経済オンラインで「アメリカの“弱腰”を懸念し始めたウクライナ」(2023年7月31日付)を書いた。この中で、反攻の膠着化を受けて、アメリカのバイデン政権がゼレンスキー政権に対し、戦争を凍結し停戦協議を行うよう求めてくるのではないかとの懸念がキーウに広がっていると報告した。当時、アメリカとの二人三脚を何とか維持するためにも、2023年8月が外交的にも軍事的にも正念場になると筆者はみていた。
2023年8月に入りゼレンスキー政権はある覚悟を決めた。膠着打開のため、アメリカ軍が提案してきたペンタゴン流作戦を、あえて拒否する道を選択したのだ。それよりもウクライナ軍が正しいと信じる自らの反攻作戦を続けて活路を見出すという「自らを貫く路線」を採用した。
なぜウクライナはこの時期、このような選択をしたのか。それは2023年8月中旬にウクライナ軍とアメリカはじめ北大西洋条約機構(NATO)側との間で、連続秘密交渉が控えていたからだ。
秋へと季節が変わる9月を前に、年内の戦いにどのような戦略で臨むのか。ウクライナとアメリカが立場のすり合わせをする、大きな節目となる交渉だ。最初の協議は2023年8月10日にオンライン形式で行われた。
アメリカ側からは軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長のほか、NATO欧州連合軍最高司令官を兼務するクリストファー・カボリ欧州軍司令官などが参加。さらにイギリスからもトニー・ラダキン国防参謀総長が参加した。ウクライナ軍からはザルジュヌイ参謀総長らが出席した。
2回目の会議は8月15日、ウクライナとの国境に近いポーランド東部で開かれた。メンバーには大きな変更があった。アメリカ側からミリー議長が参加しなかったのだ。
これはミリー議長がウクライナ政府に毛嫌いされていたためとみられる。ミリー議長が2022年秋以降、反攻作戦の見通しについてつねに悲観的見解を表明して、キーウ側から反発を受けていたのだ。
一方で参加者を巡ってウクライナ側にもある思惑があった。イギリスのラダキン軍総長にこの協議への参加を要請したことについて、ウクライナの軍高官はこう解説した。「ペンタゴンばかりだとわれわれが協議で押される可能性があったので、イギリスからも招いた」。
この協議前、ゼレンスキー大統領はキーウでラダキン軍総長と会談した。この秘密交渉をワシントンとキーウ双方がいかに重視し、交渉相手に神経を使っていたのかを示すエピソードだ。
交渉に当たってアメリカ側とウクライナ側との間に相違点は大きく分けて2点あった。1つ目は戦線の絞り込みだ。ウクライナ軍は現在、東部(ルハンスク、ドネツク両州)と、南部(ザポリージャ州やヘルソン州)の2方面で領土奪還作戦を行っている。これに対し、アメリカ軍は、南部方面に兵力、攻撃作戦を集中すべきと戦略変更を求めていた。
2023年内の作戦で欧米とすり合わせ
もう1つは、ロシア軍防御線の攻略作戦の変更だ。反攻難航の大きな要因となったロシア軍の強固な防御線を克服するため、ウクライナ軍は比較的中規模の部隊が分散して慎重に進めてきた。これに対し、アメリカ軍は地上部隊、戦車などの機甲部隊や空軍などすべての兵科を統合した大規模作戦を一挙に行うよう促したのだ。
アメリカ提案をまとめると、南部ザポリージャ州に集中的な攻撃を掛け、アゾフ海沿岸の要衝メリトポリの奪還を急ぐべきとの意見だ。
しかし、ウクライナ側はアメリカ軍の提案には納得しなかった。理由は2つある。1つは大規模な作戦が仮に失敗すれば、それで反攻自体が一貫の終わりになるリスクがある点だ。
もう1つは、自軍兵士の犠牲があまりに大きくなるリスクだ。協議でザルジュヌイ参謀総長はアメリカ側に対し「あなた方はこの紛争の意味がわかっていない」ときっぱり反論したという。
東部要衝バフムトの奪還を延期するわけにはいかないとも述べた。あるウクライナの軍事専門家は、アメリカ側提案の真意への疑念をこう率直に口にしていた。「南部に集中しろと言うことは、東部をロシアに差し出して、われわれに領土面でモスクワと妥協をさせようという意図ではないのか」と。
最終的には協議の結果、ウクライナ側はアメリカ側提案を拒否し、アメリカ軍は折れる形で、渋々ウクライナ側の立場を受け入れた。この結果が意味するのは、年内の反攻戦略を巡り、ウクライナとアメリカの間でとりあえず、立場のすり合わせができたということだ。早期の停戦実現に向け、アメリカが「タオルを投げ込む」可能性はなくなったと言っていいだろう。
2023年7月末、キーウでは軍事面での最大のスポンサーであるアメリカから、紛争凍結の一環として、領土面でのロシアへの譲歩を押し付けられるのではないか、との警戒心が高まっていた。
前ウクライナ大統領府長官顧問オレクシー・アレストビッチ氏は当時、ウクライナが全土の約80%、ロシアが東部約20%を占有する形でほぼ現状のまま停戦合意し、その見返りとして、ウクライナのNATO加盟を認めるとの妥協を強いられる可能性に言及していた。
「ワシントンは見捨てなかった」
しかし、アレストビッチ氏も今回の協議結果を受け、「ワシントンはわれわれを見捨てなかった」とSNS上で安どの表情を浮かべた。
アメリカ側が折れた背景には、ちょうど連続交渉の頃から反攻作戦が徐々に動き始めたこともある。ウクライナの軍事筋が2023年9月初めに明らかにしたところによると、ウクライナ軍はザポリージャ州の交通の要衝トクマクに向け、大きく前進した。
反攻開始以降、ロシア軍は戦車壕、「竜の歯」と呼ばれる戦車阻止用障害物、広大な地雷原からなる複数の防衛線を張り巡らせて、ウクライナ軍の進軍を阻んできた。
しかしウクライナ軍はすでに第1、第2の防御線を突破したという。防御線突破のコツをつかんできたからだ。まず戦車が地雷原に近付き、この間に工兵部隊が地雷の撤去をうまく進めることができるようになった。
アメリカが供与に踏み切ったクラスター(集束)弾も効果をあげている。温度センサーの付いた偵察用無人機(ドローン)を使って地雷が発する熱を頼りに敷設場所を特定し、クラスター弾で一気に広い地域の地雷原を吹き飛ばす作戦が奏効している。
仮にトクマクを攻略しても、さらに約50キロメートル南にあるメリトポリまでには、第3、第4の防御線があるが、第1防衛線と比べると防御力は落ちるという。地雷原はあるものの、ロシア軍が部隊を防御線に張り付けていないからだ。このため、今後の進軍はより容易になるとウクライナ軍はみている。
反攻の見通しに悲観的になっていたバイデン政権の見方も変わってきた。アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も2023年9月1日、ザポリージャ州での反転攻勢で「注目すべき進展があった」と指摘したほどだ。
NATOのストルテンベルグ事務総長も2023年8月末、アメリカCNNテレビとのインタビューで「ウクライナはわれわれの期待を上回っている。ウクライナを信用すべきだ」と述べた。
今後の反攻作戦の行方で最大の注目点はクリミア半島だ。ウクライナ軍にとって、クリミアのロシア軍にロシア本土からの軍事物資を届ける輸送ルート「陸の回廊」を遮断することが急務だ。
そのために回廊の要衝であるトクマク、さらにメリトポリの掌握を急いでいる。この回廊の遮断ができれば、ロシア軍に残された輸送ルートはロシア南部とクリミアを結ぶ、もう一つの大動脈であるクリミア大橋だけとなる。
ウクライナ軍は今後、この橋をミサイル攻撃などで通行不能状態にすることを図るだろう。こうして2つの輸送ルートを断ち切ることで、クリミアのロシア軍を完全に兵糧攻めにする戦略だ。
ゼレンスキー大統領は2023年8月末、ウクライナ軍が南部ヘルソン州とクリミアとの境界線に達した段階で、クリミアの解放についてモスクワとの間で外交的解決を図ることは可能との考えを示した。軍事力と交渉をミックスした解放策だ。この前提となるのが、この兵糧攻めの完了だ。
一方でウクライナは、この兵糧攻め以外にクリミア攻略に向け新たな動きも見せ始めた。2023年8月24日未明、クリミア半島西部に陸軍部隊と特殊部隊の合同部隊が初めて上陸作戦を敢行したのだ。
クリミア支配の認識崩す
合同部隊はタルクハンクト岬にあるS-400地対空ミサイルシステムを破壊して、撤収した。このミサイルシステムはクリミア全域の防空体制の要であり、ロシア軍にとって打撃は深刻だ。ウクライナのある軍事専門家は「クリミアはもはやウクライナ軍のシステム的攻撃の対象になった」と主張する。
筆者はウクライナ軍が今後も上陸作戦を行う可能性が高いとみる。実際、発表していなものの、すでに再上陸作戦を行ったとの未確認情報もある。近い将来クリミアの一部を占拠して、軍事的橋頭保を築く狙いがあるのではないか。
これが実現すれば、ロシア軍にとって軍事的脅威となるのは勿論だが、政治的にも大きな打撃となる。なぜなら、クリミアは2014年の一方的併合以来、ロシアが実効支配してきた地域だという国際的認識を変えることになるからだ。
一方で2023年8月に入ってから、ウクライナ軍はロシア国内への攻撃も波状的に開始した。モスクワへの自国製ドローン攻撃はもはや常態化しており、基地への攻撃も続いている。これには複合的な目的があるとみられる。
まずプーチン大統領の権威を揺るがし、政界での侵攻反対論の高まりを引き出すとの狙いがあるだろう。同時に、ロシアが侵攻を続ける限り、ウクライナが停戦を拒否し、反攻を続けるとの意志を米欧に示す政治的思惑もある。
さらにロシア国民に向けたメッセージもある。多くのロシア市民は、ウクライナで多くの民間人に犠牲を出しているロシア軍の侵攻の実態に目をつぶり、無関心な生活を送っている。
ウクライナの攻撃は「戦争とは双方向の軍事行動であり、戦争を始めた以上、必ず自分たちにも戻って来るとロシア国民に思い知らせるためだ」とウクライナの軍事専門家ジュダノフ氏は指摘する。
いずれにしても、ウクライナ軍の反攻は2023年末までが勝負になるだろう。最終的には翌2024年も戦闘は続くだろうが、2023年末までの結果がウクライナ戦争の帰趨を決めると言っても過言ではない。
2023年内に仮に大きな進展がない場合は、アメリカから再度、停戦論が頭をもたげる可能性は十分ある。ウクライナ戦争終結のあるべき最終形を未だに描き切れていないバイデン政権のふらつきが、大統領選を2024年11月に控えさらに増幅する可能性もある。
アメリカからの「停戦論」を懸念
ゼレンスキー政権もこうしたアメリカの状況は十分承知している。F16戦闘機の実際の供与は2023年内に間に合いそうもない。射程300キロメートルの地対地ミサイル「ATACMS」の供与もワシントンが首を縦に振らない。
それでもウクライナはわが道を進むしかないと腹をくくった。ウクライナ国防省は最近、こんなビデオ・クリップを公開した。「われわれに必要なのは助言ではない。弾薬だ」と。軍高官はこうつぶやく。「これからも愚直にやるしかない」。
●ウクライナ産穀物輸出の妨害狙い、ドナウ川流域への攻撃激化… 9/5
ウクライナ外務省などによると、ウクライナ南部オデーサ州で4日未明、ロシア軍の無人機が、ドナウ川流域のイズマイール港周辺などを攻撃し、倉庫や農業設備などが損壊した。攻撃を受けたのは穀物の輸出拠点で、露軍がドナウ川ルートのウクライナ産穀物輸出を妨害するため、流域の攻撃を激化させているとみられる。
ロシアが黒海経由のウクライナ産穀物の輸出合意を離脱後、ウクライナにとってドナウ川は主要な代替ルートとなっている。
ウクライナ外務省の報道官は4日、SNSに、同港などを攻撃した無人機はイラン製自爆型無人機の「シャヘド」で、一部が「ルーマニア領内に落下し、爆発した」と投稿した。
ルーマニアの国防省は声明で「露軍の攻撃が脅威をもたらしたことはない」と領内への落下を否定した一方で、「ウクライナの民間設備への攻撃は国際人道法に反している」とロシアを非難した。
ドナウ川流域では3日にも露軍の無人機攻撃があり、少なくとも2人が負傷した。
一方、ウクライナ国防省は3日、南部ヘルソン州の黒海の海岸でウクライナ海軍が露軍の高速艇を攻撃し、露兵6人が死亡、2人が負傷したと発表した。 
●プーチンが世界中に潜伏させていた「スリーパーセル」を起動しはじめた 9/5
ロシア政府は外交官という名目で世界中にスパイを派遣していたが、ウクライナ侵攻後、各国はロシア外交官を追放した。従来の諜報活動が難しくなったロシアはいま、眠らせていたスリーパーセル(潜伏工作員)を起こしはじめている。
ロシアのスパイが次々と“身バレ”
スロベニアに住むアルゼンチン人夫妻、アテネで毛糸店を営むメキシコ系ギリシャ人の写真家、そして英国で逮捕された3人のブルガリア人……。この1年ほどの間に、世界中の警察や治安当局が、一見普通の生活を送っている多くの人々をロシアの諜報員や工作員として告発してきた。
ベルリンの英国大使館に勤務していた警備員は、ロシアに情報を流した罪で禁固13年を言い渡された。ポーランドでは、十数人がロシアの情報機関のためにさまざまな任務を遂行していたとして逮捕されている。
冒頭で述べた3人のブルガリア人に関しては、すでに2月に身柄を拘束されており、最近になって逮捕されていたことが明らかになったのだが、まだ不明な点が多い。起訴されたものの裁判は2024年1月まで予定されておらず、罪状認否もまだおこなわれていないうえ、英当局は容疑の詳細を公表していない。
しかし、はっきりしていることが一つある。ロシア政府はウクライナに侵攻した2022年2月以降、よりリスクの高い、従来とは異なるスパイ活動に頼らざるを得なくなっているのだ。
その理由は、ヨーロッパで外交的な隠れ蓑の下に置かれていた多くのロシア人スパイが追放されたためだ。
従来、ロシアの主要な3つの情報機関──連邦保安庁(FSB)、対外情報庁(SVR)、連邦軍参謀本部情報総局(GRU)──は、外交官という名目で国外に諜報員を派遣していた。加えて、ロシア人ビジネスマンや旅行者、ジャーナリストを装ったスパイも使ってきた。
だが、戦争でそのすべてが困難になった。米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の推計によれば、開戦から3ヵ月の間に450人以上の外交官が世界各国のロシア大使館から追放されている。その大半がヨーロッパからだ。
この春、あるヨーロッパの国の情報機関高官はこう語っていた。
「外交官が次々と追放された開戦直後は、ロシアのインテリジェンスにとって致命的な時期だった。それ以降、彼らは他の手段で穴埋めしようとしている」
●金正恩総書記 「列車」でロシアへ? プーチン大統領と“会談”の可能性 9/5
北朝鮮の金正恩総書記が今月、ロシアを訪問しプーチン大統領との会談を計画しているとアメリカメディアが報じました。
ニューヨーク・タイムズが4日、アメリカ政府当局者などの話として伝えたもので、“金総書記とプーチン大統領はロシアのウラジオストクで今月10日から行われる東方経済フォーラムの場で会談する可能性があり、金総書記は平壌から列車で移動するとみられる”としています。
会談はモスクワで行われる可能性もあるとしていますが、実現すれば2019年以来で、プーチン大統領は砲弾や対戦車ミサイルを送るよう求めている一方、金総書記は人工衛星や原子力潜水艦に関する先端技術に加え、食料の提供を望んでいるとしています。
アメリカ政府高官は先週、“両者が軍事協力の強化に向け書簡を交わした”としていて、会談でも武器供与などについて話し合われるとみられます。
●12日にプーチン氏出席 正恩氏訪問報道のフォーラム ロシア 9/5
ロシアのペスコフ大統領報道官は5日、プーチン大統領が極東ウラジオストクで開催される東方経済フォーラムの12日の全体会合に出席すると発表した。
タス通信が伝えた。全体会合は現地時間午後3時(日本時間同2時)からといい、同席者は明らかにしなかったが「興味深い議論を期待している」と述べた。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は4日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記がフォーラムに合わせてプーチン氏と会談する計画だと報道。フォーラム自体は10〜13日の日程だが、プーチン氏の現地入りは12日の全体会合の直前とみられる。正恩氏の訪ロが実現した場合、首脳会談も全体会合の前後になりそうだ。 
●穀物輸出協定の破綻、西側諸国を非難 プーチン氏 9/5
ロシアのプーチン大統領は、黒海からの穀物輸出に関する協定が破綻(はたん)したことについて西側諸国を非難したほか、ロシアが協定から撤退した後も世界市場では食料不足が起きていないとの見方を示した。
プーチン氏は今回の発言前に、ロシア・ソチで、トルコのエルドアン大統領と数時間にわたり協議を行っていた。
プーチン氏は「西側諸国は、控えめに言っても、発展途上国を支援するための人道的な黒海イニシアチブによって、人道的な目標について、我々を欺いた」と述べた。
ロシアは協定から離脱する際、ロシアの農産物や肥料の輸出に関して約束された保証が守られていないと述べていた。
プーチン氏は協定からの離脱について、「前にも述べたように、我々はこの決断をせざるを得なかっただけだ」と述べた。
プーチン氏は、ロシアが協定から離脱しても世界市場には影響が出ておらず、穀物価格は引き続き低下しているほか、食料不足も起きていないと指摘した。
プーチン氏によれば、エルドアン氏に対して、ロシアが協定の復活を検討する用意があると伝えたほか、アフリカのいくつかの国にロシア産の穀物を無償で提供することについて協議した。
●G20初の欠席、習近平氏に異変 プーチン氏と並び「中露トップ不在」深刻事情 9/5
中国外務省は4日、インドで9〜10日に開かれるG20(20カ国・地域)首脳会議に、李強首相が出席すると発表した。習近平国家主席は欠席する見通しとなりそうだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も欠席を発表しており、中露トップが出席を見送るかたちになる。中国は軍事的覇権拡大を進める一方、国内経済の危機的状況も伝えられる。習氏の欠席の背景に何があるのか。
中露トップ不在に
「中国はG20を重視し、積極的に関与している」
中国外務省の毛寧副報道局長は4日の記者会見で、こう強調した。中国は2008年の第1回会議以降、一貫して国家主席が出席しており、習氏は初の欠席となる。
G20は今年、ロシアによるウクライナ侵略を非難する日米欧が中露と対立し、閣僚会議の共同声明が採択されない事態も起きている。中露は、新興5カ国(BRICS)や、上海協力機構(SCO)といった中露を中心とする枠組みの影響力拡大を図っている。
「自由主義国」対「専制主義国」の対立構図に加え、中国の覇権主義も背後にありそうだ。
中国は現在、G20議長国のインドと係争地をめぐる国境紛争で関係が悪化しており、習氏はインド訪問に後ろ向きとみられていた。中国政府が先月下旬に公表した23年度版標準地図でも、インド北東部のアルナチャルプラデシュ州も中国領として記載され、インド政府が抗議している。
一方、国内事情が影を落としている可能性もある。
中国不動産大手「碧桂園」(カントリーガーデン)の債務危機や、同「中国恒大集団」の米国での破産法適用申請など、不動産バブルの崩壊が注視されている。失業率悪化も伝えられ、経済崩壊が現実味を帯びてきた。
習指導部と党長老が、河北省の避暑地で非公式に意見交換する「北戴河会議」が8月開かれ、対米関係悪化や経済低迷が議題に挙がったとされる。7月には秦剛外相が突如解任されるなど、異変が確認された。
中国事情に詳しい評論家の石平氏は「中国は現在、インドとの係争や、日本との処理水をめぐる対立など、近隣国と問題を起こしている。G20で当事国から問い詰められ、不利な立場に立つ修羅場から逃げている可能性がある。インドのナレンドラ・モディ首相と、ジョー・バイデン米大統領がG20を主導するなか、習氏は中心的立場になれない。出席しても国内へのアピール材料にならない。習氏は目標は高いだけで、実力がない『眼高手低』の人物といえる。中国に国際社会の覇権を握る資質はないが、習氏はなおさらだ」と語った。
●係争地域も「中国領土」と記された「公式地図」にロシアが強く言えない理由? 9/5
中国の自然資源省が8月28日、新たな公式地図を発表したが、これに抗議したのがマレーシアやフィリピン、インド、台湾。自国との係争地域が中国領土と記されたからだ。
一方でロシアは、ボリショイ・ウスリースキー島を含む係争地域が中国領土とされても沈黙を貫く。長年の論争の末、2008年に中ロ間で分割された土地だ(編集部注:ロシアは8月末、領土問題は解決済みと声明)。
ロンドン大学東洋アフリカ学院中国研究所のスティーブ・ツァン所長は「これはプーチン政権が中国との戦略的パートナーシップを優先している表れ」と本誌に語る。
背景にあるのがウクライナ戦争だ。欧米から制裁を科されるロシアは、中立を表明している中国との経済的つながりを強めている。
ロシアの野党政治家ガルリ・カスパロフは、ロシア崩壊が将来起きたら、中国は清朝末期にロシアに割譲した極東部など、ロシア領土への主張をさらに強めるだろうと語っている。
●ロシア、拘束のスロビキン司令官を釈放か 私服姿の写真がSNSに 9/5
ロシア軍への反乱を企て、ジェット機の墜落で死亡したロシアの民間軍事会社ワグネル創設者プリゴジン氏に近いとされ、反乱後に拘束されたとみられていたロシアのスロビキン航空宇宙軍司令官が釈放されたと4日、米ニューヨーク・タイムズが報じた。米政府高官2人とロシア国防省に近い人物の情報として伝えた。
また、ロシアのジャーナリスト、クセニア・サプチャーク氏も同日、私服姿でサングラスをかけて屋外を歩いている男性と、腕を組んで歩く女性の写真をSNSに投稿。「セルゲイ・スロビキン将軍が出てきた。生きて、健康で、モスクワの家に家族と共にいる」と記した。
スロビキン氏は昨年10月、ウクライナ侵攻の総司令官に任命されたが、今年1月に副司令官に降格。背景には、ロシア軍主流派との対立があったとされる。
6月にはプリゴジン氏が企てた反乱に関与した疑いで拘束され、8月には航空宇宙司令官を解任されたとも報道されていた。
●ロシア軍の「第2防衛線」に進軍、ウクライナ軍「強固ではなく地雷原も少ない」 9/5
タス通信などによると、ウクライナに侵略するロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は5日の軍関係者との電話会議で、ウクライナ軍が南部ザポリージャ州一帯で展開している反転攻勢に関し「最も緊迫した状況がザポリージャ方面で起きている」と述べた。ロシアがウクライナ軍の攻勢に危機感を抱いていることを示唆する発言だ。
ウクライナ公共放送は3日、露軍がザポリージャ州の補給拠点都市メリトポリを死守するため、精鋭とされる 空挺くうてい 部隊を戦闘の最前線に投入し始めたと報じた。最前線からメリトポリまでは70キロ・メートル程度離れている。
露軍が地雷原などで重層的に構築している防衛線に関し、ウクライナ国営通信は3日、後方の方がもろいとする見方を伝えた。ウクライナ軍は最近、最初の主要な防衛線を突破している。
国営通信によると、ウクライナ軍の報道官は露軍がメリトポリ方面の戦線で、三重の防衛線を用意していると指摘し、戦力配分の割合は「60%、20%、20%」との見方を示した。2番目の防衛線は「技術的にはそれほど強固でなく、地雷原も少ない」とも語った。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日、ザポリージャ州と東部ドネツク州との境界線一帯で戦闘に参加するウクライナ軍の部隊を視察した。
●ウクライナ支援に反対が過半数 揺れるアメリカの“潮目” 9/5
既に2年半に及んでいるウクライナ戦争。ウクライナが大国ロシアと互角以上に戦っている理由は欧米からの軍事的且つ経済的な支援に他ならない。その欧米による支援の多くを占めるのは言うまでもなくアメリカだ。ところがこのほどウクライナにとって衝撃的な調査結果が出た。“ウクライナを支援する予算を承認すべきでない”。これにアメリカ国民の55%が賛成したのだ。民主主義の代表格・アメリカで世論は大きな力を持つ。そして、もしアメリカが手を引いたら・・・。今後のウクライナ支援を読み解いた。
「私が就任したら24時間以内に戦争を辞めさせる」
戦争が始まって以来ウクライナへの支援額の合計は日本円換算で約26兆円。そのうち支援に積極的なイギリスが約1.7兆円。EUが約5.5兆円。日本は約1兆円。どれも小さな数字ではないが、アメリカは桁が違う。約11.2兆円で全体のおよそ3分の1を占めた。
そのアメリカでCNNが出した調査結果。それによると”ウクライナへの支援のための追加資金を承認すべきか”という問いに対し、全体の55%が“すべきではない”とした。民主党支持者でも38%。共和党支持者では実に71%がウクライナ支援に消極的だった。
民主党支持者でも4割弱がいわゆる“支援疲れ”なのか支援に消極的だ。支援に積極的なバイデン大統領も大統領選を来年に控え、世論は無視できないだろう。
上智大学 前嶋和弘教授「(支援に反対する共和党大統領候補の支持率)これを足すと7割を越えます。調査によっては85%を超えるものもあります。トランプ氏が言っているのは『私が就任したら24時間以内にウクライナ戦争は止めさせる』と。どうやってやめさせるのかみんな首を傾けるんですが、支援を止めるんです。つまりウクライナに徹底して不利な妥協をさせるということ…。この調査結果で私自身はこう思います。“潮目が変わった”と…。共和党が(大統領選で)優位になったらウクライナ支援は止める…。かなりの確率でそうなると見えてます」
アメリカの潮目を変えた存在の一人がトランプ氏であることは間違いないだろうが、トランプ氏とまさに2人3脚でウクライナ支援を止めるべきだと訴え続ける人物がいる・・・。
「“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない“と・・・」
タッカー・カールソン氏。59歳。元FOXニュースの人気番組司会者で“過激な司会者”と呼ばれてきた。現在は自らのSNS番組で陰謀論的な話題やウクライナ支援に否定的なコメントなどを発信している。例えば…。
タッカー・カールソン氏「なぜ我々はロシアと戦争をしているのか。我々のとる外交政策によって重大な悪影響がもたらされている。経済の崩壊はもちろん、人類が絶滅する可能性すらある。多くに罪のない若者たちが殺され何千億ドルのも金が浪費された…」
またゼレンスキー大統領について、“彼は汗っかきでネズミのよう”“キリスト教の迫害者だ”など罵詈雑言を繰り返している。
カールソン氏についてアメリカで政治学を教えるピットニー教授は言う。
クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授「政治的右派がロシアをキリスト教の庇護者としてみている。彼らはプーチンの威勢の良さや男らしさの誇示などを称賛している。つまりプーチンには一定の指示があるのでタッカー・カールソンはその支持を代弁しているのです」
政治的右派の代弁者という立場をとるタッカー・カールソン氏は、大統領選では当然トランプ氏を支持する。トランプ氏もタッカー・カールソン氏の番組に度々出演してきた。先日も共和党候補者討論会を欠席したトランプ氏は、タッカー・カールトン氏のSNS番組に出演し、持論を語っている。
トランプ前大統領「恐ろしい恐ろしい戦争から国民を救出するのがバイデンの仕事だ。それは容易にできる…。そもそも戦争を始めさてはならなかった。私が大統領だったら絶対に始まっていない…」
因みにこのインタビューは再生回数2億6千万回以上にのぼった。トランプ氏とタッカー・カールソン氏、どちらも一定の支持層に熱狂的人気を誇る。
クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授「(タッカー・カールソンは)トランプ氏の政策を明確に表現している。トランプ氏は24時間以内に戦争を終わらせられると主張しますが、それを信じる人は殆どいません。しかし、“ウクライナは我々には関係ない”と考えている共和党支持者にとっては響くメッセージです。彼らはロシアやプーチンの支持者ではないかもしれないが、“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない“と考えているからです」
確かにインフレで生活が苦しい人々にしてみれば、“他国を助ける前に自国民を何とかしてくれ”と考えるだろう。しかし、世の趨勢から思っても口に出せなかった…。タッカー・カールソン氏はそれを代弁したのだろうとピットニー教授は言う。
クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授「タッカー・カールソンは公然とロシアを応援していたし、公然とロシアの味方だと言った。そして、冷戦時代とは違い現在アメリカの政治的右派にはロシアを支持する人がかなり多くいます。(中略)トランプやタッカー・カールトンは共和党の暗部に訴えています。共和党の政治に携わったことのある私くらいの年の人間なら“移民に対する憤り”“非白人に対する憤り”貿易保護主義や孤立主義の系統が常に根底にあったことを知っています」
しかし、タッカー・カールソン氏に限っていえば現在の言動が“信条”というわけではないと前嶋教授は分析する。
上智大学 前嶋和弘教授「この人の経歴見ると不思議なんです。最初はCNN。次にMSNBCという今、左寄りの…。それからFOXニュース…。そもそもこの人は政治的にどこに行ったらいいかを見ていて、“私たちは報道じゃない。意味を伝えることだ”と言ってる。だから今はトランプについてるのが一番いいんだって考えてる。(だから今は2人3脚で)トランス氏が板門店に行って金正恩と会った時、タッカー・カールトン一緒にいたんですよ。トランプ氏がタッカー氏に行くべきか聞いて、絶対に行くべきって言われたんで行ったんですよ。彼に言われて…」
トランプ氏とタッカー・カールソン氏のタッグが生み出したアメリカ国民の潮目の変わり様は、簡単には元に戻らないようだ。
ロシア的な法を一切無視した行動を・・・、アメリカの民主主義が結果的に認めてしまう
上智大学 前嶋和弘教授「アメリカって世論の国でありますが、気が短い国で…。勝ち馬に乗ってないといけないんです。戦争は勝っている国を応援する。判官びいきで負けてる方に頑張れって言うんじゃなくって、負けてたら“そんなところにアメリカのお金使ってどうするの”ってなる…」
反転攻勢が膠着状態であることもアメリカの支援離れの風潮を後押ししているという。このままだと、共和党政権になる前に支援の先細りは十分に考えられるが、番組のニュース解説、堤氏は懸念を語った。
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏「万が一アメリカが支援を減らす、あるいはやめるとなった場合、ヨーロッパだけでは支えきれない。結果的に非常に不利な停戦案を受け入れなきゃならない。極端な場合、敗戦…。そうなった時、ロシア的な法を一切無視した行動が是認され、それを支持した北朝鮮、あるいは支援してきた中国、そういうところが結果的に勝利に終わってしまう。せっかく冷戦が終結して、これから冷戦終結後の恩恵を世界が受けるという時から30年余りで全く違う世界なってしまう。残念ながらそれを世界一の軍事力経済力を持ったアメリカの民主主義が結果的に認めてしまう。それを考えると、背筋が寒くなった…」

 

●北朝鮮はロシアに武器支援で「代償払うことになる」 米高官が警告 9/6
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は5日の記者会見で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記がロシアを訪問してプーチン露大統領と武器取引の交渉に臨むと報じられていることについて「金氏が直接に首脳レベルの話し合いを期待しているという情報がある」と明らかにした。北朝鮮がウクライナに侵攻するロシアに武器を提供した場合は「国際社会で代償を支払うことになる」と警告した。
サリバン氏は、朝露の武器取引の協議について「積極的に進められている」と述べた。一方で、「これまでに北朝鮮からロシアへの膨大な量の武器弾薬の活発な提供は確認できていない」とも指摘した。米欧を中心とした制裁が効果を上げており、ロシア側が激しく支援を求めているとし、「北朝鮮側に武器弾薬の提供に踏み切らないよう求め続ける」と強調した。
米紙ニューヨーク・タイムズなどは4日、米政府関係者らの話として、金氏が今月に平壌からロシアの極東ウラジオストクまで列車で向かい、そこでプーチン氏と会談する見通しだと報道。米政府は朝露の軍事協力が拡大するとみて警戒している。
●西側、「ナチズム賛美」隠蔽にゼレンスキー氏を大統領に=プーチン氏 9/6
ロシアのプーチン大統領は5日、西側諸国は「ナチズム賛美」を隠蔽するために、ユダヤ人であるゼレンスキー氏をウクライナ大統領に据えたと述べた。ただ、根拠は示さなかった。
プーチン大統領はロシアのジャーナリスト、パーベル・ザルビン氏のインタビューで「西側諸国は現代ウクライナのトップにユダヤ人の出自を持つ人物を据えた。西側諸国はこうして、現代ウクライナ国家の根底にある反人間的な本質を隠ぺいしようとしているように見える」と述べた。
その上で「ウクライナでは150万人がホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の犠牲になったが、一時的にウクライナでホロコーストを主導した勢力をユダヤ人が隠ぺいしようとしていることで、全体的な状況が強い嫌悪感をもよおさせるものになっている」と語った。
インタビューはテレビ放映された。
ロシアは「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ全面侵攻を正当化するために、ウクライナの指導者がウクライナ国内の数百万人のロシア語話者を「ネオナチズム」に基づき「大量虐殺」していると非難。プーチン氏はこれまでも、現代ウクライナの民主的に選ばれた政府を、第二次世界大戦時のナチス・ドイツとウクライナのナチス協力者によるユダヤ人の大量殺害と関連付けようとしてきた。
2019年に民主的にウクライナ大統領に選出されたゼレンスキー氏の第一言語はロシア語。祖父のきょうだいの何人かがホロコーストの犠牲になったとしており、ウクライナの「ネオナチ」を支援しているとのロシアの非難を繰り返し否定している。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問はプーチン氏の今回の発言について、「他国の国民に対する集団的な犯罪を醜悪なうそで正当化しようとすることに嫌悪感を覚える」と語った。
●クラスター爆弾、ロシアによるウクライナ戦争で使用急増 死傷者8倍に 9/6
非政府組織(NGO)「クラスター弾連合」は5日、クラスター爆弾による死傷者が昨年8倍に増加し、1000人を超えたとの報告書をまとめた。
クラスター爆弾の大半はウクライナ戦争で特にロシアが使用しているという。
クラスター爆弾は空中でさく裂し、広い範囲に多数の小型爆弾を飛散させる兵器で、100カ国以上で使用が禁止されている。爆発による怪我や火傷で一生治療が必要になるケースもある。
昨年の被害者は1172人で、うち353人が死亡した。14年前に年次報告書の作成を開始以来、最悪の水準という。
被害者はほぼ全て民間人で、4分の3が子供。不発弾で遊んでいて被害に遭うケースが多いという。
報告書によると、ウクライナではロシアが「繰り返し」クラスター爆弾を使用。ウクライナもクラスター爆弾を使用しているが「頻度は相対的に少ない」という。内訳は明らかにしていない。
報告書は昨年の被害状況をまとめたもの。米国は今年7月からウクライナにクラスター爆弾を供与している。
報告書によると、昨年はミャンマーでも初めてクラスター爆弾の使用が確認された。アゼルバイジャン、イラク、ラオス、レバノン、シリア、イエメンでも使用されている。
●「ウクライナ軍の損失、3カ月で6.6万人」ロシア国防相が主張 9/6
ロシアのショイグ国防相は5日、ウクライナ軍の反転攻勢が始まって以降、「敵の損失は6万6000人を超える」と国防省幹部との電話協議で述べた。また、相手側が7600の兵器を失ったとも指摘し、「この3カ月間の反攻の間に目標を達成できておらず、『多大な損失』を被っている」と話した。インタファクス通信が伝えた。
ショイグ氏は、ウクライナ軍について、「攻撃の失敗を隠そうと民間施設を攻撃し、それらのテロ行為を軍事的勝利だと偽っている」と主張。「今後も欧米から軍事的、経済的援助を受けるため、攻撃が成功していると必死に強調しようとしているが、それは紛争を引き延ばすだけだ」と非難した。
一方、米戦争研究所によると、ウクライナ軍は4日、南部ザポロジエ州西部で反攻作戦を続け、戦術的に重要な前進があったという。映像の分析から、同州の集落ロボティネやベルボベで前進が確認されたとしている。ウクライナのマリャル国防次官は1日、ウクライナ軍が複数の地点でロシア軍の第1防衛線を突破したとテレビ放送で表明している。
●ウクライナが前線での成果報告、ロシアは「反転攻勢は失敗」と分析 9/6
ウクライナ軍は5日、対ロシア戦の最前線で前進し、強固な防衛態勢を敷いていると明らかにした。一方、ロシアのショイグ国防相は同日、ロシア軍が占領するウクライナ南部ザポロジエ州の一部で情勢が緊迫していると認めつつも、ウクライナの反転攻勢は完全に失敗しているとの見方を示した。
東部ウクライナ軍の報道官は国営テレビに「われわれはバフムトで攻勢を強めている。(バフムト南西にある)クリシチウカで1メートルずつ前進している」と語った。
また、ウクライナ軍は昨年奪還した北方のリマン付近で猛攻に耐えたとも述べた。
参謀本部は、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミアと占領した東部を結ぶ陸橋を遮断するため、ウクライナ軍が南部メリトポリに向け移動していると明らかにした。
一方、ロシア国防省によると、ショイグ国防相は「ウクライナ軍はどの戦線でも目標を達成していない。最も緊迫しているのはザポロジエの戦線だ」と述べた。
ウクライナのアナリストは、村落を次々と占領する作戦は成果を上げているが、今後については冬までの2カ月間、作戦を続行できるかどうかにかかっていると指摘した。
●英政府、ワグネルをテロ組織に指定へ 支援など違法に 9/6
イギリス政府は5日、ロシアの民間軍事組織「ワグネル」をテロ組織に指定する案を議会に提出した。ワグネルに所属したり、支援したりすることが違法となる見通し。
指定されれば、ワグネルの資産はテロリストの資産に分類され、接収が可能になる。
イギリスのスエラ・ブラヴァマン内相は、ワグネルは「暴力的で破壊的な(中略)ウラジーミル・プーチンのロシアの軍の道具だ」と述べた。
また、ウクライナやアフリカ諸国でのワグネルの活動は「世界の安全保障を脅かしている」と指摘した。
「ワグネルはクレムリン(ロシア大統領府)の政治的目標のためだけに、不安定化を招く活動を続けている」
「彼らは単純かつ明快にテロリストだ。今回の禁止令は、イギリスの法律としてそれを明確にするものだ」
ワグネルはロシアのウクライナ侵攻で重要な役割を果たしてきたほか、シリアやリビア、マリといったアフリカ諸国でも活動している。
また、ウクライナでの民間人の殺害や拷問など、さまざまな犯罪行為を指摘されている。
アメリカ政府は2020年、ワグネル戦闘員がリビアの首都トリポリ周辺に地雷を設置したと指摘した。
今年7月にはイギリス政府が、ワグネルが「マリと中央アフリカ共和国で処刑と拷問」を行ったとした。
ワグネルをめぐっては、今年6月に創設者のエフゲニー・プリゴジン氏によるロシアの軍トップに対する反乱が失敗に終わって以来、先行きが見えない状況だ。この反乱はベラルーシの仲介により1日で終了した。
8月24日には、プリゴジン氏とワグネル幹部らが乗っていた飛行機が墜落。全員の死亡が確認されたとされる。プリゴジン氏は故郷のサンクトペテルブルクに埋葬された。
BBCのフランク・ガードナー安全保障担当編集委員は、ワグネルは6月の反乱とプリゴジン氏の死により、深刻に弱体化していると指摘。法律で支援などが禁止されれば、さらに資金繰りが厳しくなるだろうと報じた。
また、ウクライナ国民などがイギリスの法廷で、巨額の損害賠償請求を行う法的根拠にもなると説明した。
「政府がようやく行動」と野党
イギリスの「2000年テロリズム法」では、テロ行為に関わるとみられる組織を禁止する権限を内相に与えている。
この法律では、そうした組織が活動を広げるための集会を開くことや、人々が組織の目的に対して支持を表明すること、旗やロゴを掲示することなどの支援活動が刑事罰の対象となる。有罪となれば、最長14年の禁錮刑、あるいは5000ポンド(約93万円)の罰金が科せられる。
今回の禁止案を議会が認めれば、ワグネルはイギリス国内で、パレスチナのイスラム武装組織ハマスや、ナイジェリア拠点のイスラム武装組織ボコ・ハラムと同等の扱いを受けることになる。
イギリス政府は数カ月にわたりワグネルをテロ組織に指定するよう、議員らから圧力をかけられていた。
最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は今年になって、ワグネルは「ウクライナや世界各地での残虐行為に責任がある」と述べ、禁止するよう求めていた。
ラミー氏はソーシャルメディアで今回の禁止案を歓迎。「これはずっと遅れていたことだが、政府がようやく行動を起こしたことは歓迎すべきだ。今こそ政府は、プーチンを侵略罪で起訴する特別法廷の設置を求めるべきだ」とつづった。
イギリスの外務省はすでにワグネルに制裁を科しており、プリゴジン氏を含む幹部の資産を凍結している。
しかし、議会外交委員会のアリシア・カーンズ委員長(保守党)は7月、「制裁では不十分だ。イギリスはワグネルを、そのありのままの姿であるテロ組織として禁止するべきだ」と指摘していた。
外交委はまた、イギリス政府が「驚くほど自己満足的」であり、「ワグネルが欧州を超え、特にアフリカ諸国を掌握していることへの理解が著しく欠けている」と批判する内容の報告書を発表している。
●来年国防費、GDP比4%超 ウクライナ侵攻受け―ポーランド 9/6
ポーランドのドゥダ大統領は5日、2024年の国防費について「1370億ズロチ(約4兆8000億円)となる予定で、国内総生産(GDP)の4%を上回る」と述べた。ポーランド通信(PAP)が報じた。隣国ウクライナにロシアが侵攻したことを受け、ポーランドは今年、国防費をGDP比4%とする方針を示していた。
ドゥダ氏は、ポーランド中部キエルツェで開かれた軍事装備品の見本市を視察。「東部国境の先(ウクライナ)で起きている危機を見た時、ポーランドの自由、主権、独立を確実にするため、たとえいくらであっても払う価値がある」と語った。GDP比4%超の国防費は、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に定める基準の「2%」を大きく上回る。
ポーランドはロシアの侵攻開始以来、ウクライナを積極的に支援する一方、ベラルーシに対する警戒も強めている。6月には、米国から供与されることが決まっている366両の主力戦車「エイブラムス」の一部を受領した。米国は8月、ポーランドに対する総額120億ドル(約1兆7700億円)に上るアパッチ攻撃ヘリコプターの売却を承認した。 
●プーチン大統領、サウジ皇太子と電話会談 原油市場の安定で認識一致 9/6
ロシア大統領府は6日、プーチン大統領とサウジアラビアのムハンマド皇太子が電話会談し「世界のエネルギー市場を安定させる」との認識で一致したと発表した。
両国は5日、原油の減産を延長すると相次いで発表。5日のニューヨーク原油先物相場は需給逼迫懸念から買い注文が広がり、指標の米国産標準油種(WTI)10月渡しが1バレル=86ドル後半を付け、昨年11月中旬以来約9カ月半ぶりの高値水準となった。
会談でムハンマド皇太子は、先月決まったサウジの新興5カ国(BRICS)加盟に対するロシアの一貫した支持に謝意を表明。プーチン氏は歓迎の意を示した。
●戦時下の好景気か ロシア経済の“耐久力” 意外な強さのワケ 9/6
ロシアはいつまで戦い続けられるのか…そのカギを握る経済は、西側から厳しい制裁を受けながらも、今年4-6月期のGDPがプラス成長に転じました。今年通年でも前年を上回る見通しで、それは戦時下の好景気とも言える様相。いったい何が、ロシア経済を支えているのでしょうか。ロシアの専門家に聞きました。
アンドレイ・コルトゥノフ氏「全体としてロシア経済は、かなりの耐久力を見せています。今年は、大きくはないものの、はっきりとした経済成長が見込まれています」
ロシア経済は、かなりの耐久力を発揮していると語るのは、プーチン政権に近いシンクタンク、「ロシア国際問題評議会」の前会長、アンドレイ・コルトゥノフ氏。その粘り強さのわけを聞くと…
アンドレイ・コルトゥノフ氏「軍事費の増加、兵器製造のための支出の増加も全体の統計に反映されているのを忘れてはなりません。当然、成長の大部分は国防調達によるものです」
戦争の長期化で膨れあがる軍事費が、経済を押し上げていると指摘するコルトゥノフ氏。他にも戦時下の好景気を支えるものがあると話します。
アンドレイ・コルトゥノフ氏「例えば、今年は建設部門の大きな伸びがあり、ロシアの経済成長の推進力のひとつになっています。おそらく、今年は、農業部門も良いでしょう。ロシアの農業部門は、輸出を含め、成長の大きな推進力のひとつです。西側やロシアの多くの専門家が1年から1年半前に予想していた以上にロシア経済が成長しているのは、複合的な理由によるものです」
ロシア経済は、プーチン政権になってからエネルギーや穀物の輸出を柱に成長してきましたが、西側諸国に比べるとグローバル化は進展せず、西側の制裁が効きにくい構造だとも指摘します。更に耐久力の裏には、国民の気質も…
アンドレイ・コルトゥノフ氏「忘れてはならないのは、人々が現在の状況を考えるとき、20年前のロシア、例えば90年代の状況と比較することが非常に多いということです。人々は、現在の状況は、当時よりも良いと考えるのです。そのため、ロシアの社会は順応性が高いと言うことができ、たとえ、現在の状況が消費に影響を及ぼし、何らかの問題を引き起こしたとしても、新しい状況に自らを適応させていくのです。特別軍事作戦の開始やロシアと西側の断絶に特に不満を抱いていたのは、ほとんどがロシア国外に去った人々であることも忘れてはならないでしょう」
そして、コルトゥノフ氏は、ロシア経済の今後について3年程度の短期では崩壊しないと予測します。
アンドレイ・コルトゥノフ氏「私の推定では、少なくとも今後1〜2年、あるいは3年程度の短期では、ロシア経済の劇的な崩壊は起こらないでしょう。西側の政治家が話していましたが、ロシアは自らがこうありたいと思うほどには決して強くはないが、私たちが考えるほど弱くはないということはよくあるのだと。これは、現在のロシア経済とロシア社会を特徴づけていると私は考えています」
●ウクライナ外相、穀物合意巡り「ロシアによる古典的な恐喝」…露トルコ会談不調 9/6
ウクライナ国営通信によると、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出合意について、同国のドミトロ・クレバ外相は4日、記者団に「合意は復活させなければならないが、ロシア側の恐喝の犠牲によって復活させてはならない」と述べ、ロシアの対応を非難した。
プーチン露大統領は4日、露南部ソチでトルコのタイップ・エルドアン大統領と会談後、共同記者会見に臨み、露産穀物の輸出制限解除が完全に実現すれば合意復帰を「検討する用意がある」と主張した。
クレバ氏はプーチン氏の発言はロシアによる「古典的な恐喝だ」と断じ、「もし我々が譲歩すれば、ロシアは1か月後にまた新たな条件を提示するだろう」と強い不信感を示した。
プーチン氏とエルドアン氏の首脳会談は、穀物輸出合意の復活の成否が焦点となった。エルドアン氏は記者会見で「進展は可能だ」と自信をみせたが、会談では目立った進展はなかった。
プーチン氏は、カタールの支援で露産穀物をトルコに輸出し、加工後に途上国に供給する「代替案」も提案しており、ロシアが主導権を握る構えを崩していない。
●東部でロシアの攻撃、17人死亡 ウクライナ軍は南進継続 9/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、通信アプリへの投稿で、前線に近い東部ドネツク州コンスタンチノフカでロシアの攻撃があり、市場や薬局などが被害を受けたと明らかにした。
クリメンコ内相によると、少なくとも17人が死亡、32人が負傷した。ミサイル攻撃との情報もある。
また、穀物輸出の中心地、南部オデッサ州のキペル知事によれば、5日夜から6日未明にかけドナウ川河口に近い港湾都市のイズマイルが約3時間にわたりロシア軍のドローン攻撃を受け、農業関連企業の従業員1人が死亡した。地元メディアが伝えた。穀物輸出合意を停止させ、ウクライナ経済に打撃を与えたいロシアは、ドナウ川の輸出ルートに執拗(しつよう)な攻撃を続けている。
ウクライナ空軍は、6日未明にロシア軍による短距離弾道ミサイル「イスカンデル」やドローンによる攻撃が計33発あったと発表。うち23発を撃墜したと主張した。
一方、米シンクタンク戦争研究所は5日、同日公開された位置情報付きの映像から、ウクライナ軍が、ロシアから解放した南部ザポロジエ州ロボティネの南部と東部方面に前進したとの見方を示した。ロボティネ周辺で、地雷原など強固なロシア軍の防衛線の突破を試みている。
●ウクライナ東部ドネツク州でロシア軍の攻撃 16人死亡 9/6
ウクライナの東部ドネツク州の都市で6日、ロシア軍による攻撃が市場付近を直撃し、子ども1人を含む16人が死亡し20人以上がケガをしました。
ゼレンスキー大統領は6日、SNSで東部ドネツク州の激戦地、バフムトから20キロ余り西にある都市、コスチャンチニウカの市場付近でロシア軍による攻撃があり16人が死亡したと明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は普通の市民や商店が被害を受けたとした上で「多くのけが人がいる。残念ながら死傷者の数は増えるかもしれない。悪のロシアに一刻も早く勝たなければならない」と強調しました。
ゼレンスキー大統領が投稿した動画では商店が並ぶ通りで何かが飛んでくるような音の後に突然、爆発が起き、煙と火の手があがる様子が確認できます。
またシュミハリ首相はSNSで死亡した16人のうち1人は子どもで、少なくとも20人がケガをしたとしています。
ウクライナの内務省は火災が300平方メートルに広がり、およそ30の商店が被害を受けたと明らかにし警察などががれきの除去や救助活動にあたっているとしています。
●ロシア軍が南部を無人機攻撃 ウクライナ軍は進軍か 攻防激化 9/6
ロシア軍はウクライナ南部オデーサ州のドナウ川沿いを無人機で攻撃し、ウクライナ側が農産物輸出の代替ルートの拠点としている地域に対し、揺さぶりを強めているとみられます。一方、ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で部隊を進軍させているとみられ激しい攻防が続いています。
ウクライナ軍は6日未明、ロシア軍が南部オデーサ州に無人機による攻撃を仕掛け、15機を撃墜したと発表しました。
州当局によりますと、この攻撃でドナウ川沿いの都市イズマイルで、農業関連の企業の従業員1人が死亡したほか、港湾や農産物の施設が被害を受けたということです。
イズマイルなどドナウ川沿いの地域はウクライナが黒海にかわる農産物輸出の代替ルートの拠点としていて、ロシア側はこの地域への攻撃を繰り返し、揺さぶりを強めているとみられます。
一方、ウクライナ軍が反転攻勢を続ける南部ザポリージャ州では、親ロシア派のトップがウクライナ側が奪還したと主張していたロボティネについて「われわれは戦術的に立ち去った」とロシアのメディアに対して述べ、ロシア軍がすでに撤退したことを明らかにしました。
ウクライナ軍は州内の交通の要衝トクマクへの進軍を目指していて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は5日、「ウクライナ軍はザポリージャ州西部で進軍を続けている」として部隊を進めているという分析を示し、激しい攻防が続いています。
●南部でさらに前進、メリトポリ目指し−ウクライナ軍 9/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は同国東部の前線を視察した。ロシアの防衛線突破を目指した反転攻勢が続く中、同国軍は南部でさらに前進したと報告した。
ウクライナ南部オデーサ州のドナウ川沿いのイズマイル港がロシア軍の軍用ドローンの攻撃を受けて、少なくとも1人が死亡した。州知事が6日、ソーシャルメディアのテレグラムで明らかにした。ウクライナの穀物輸出にとって重要なイズマイルは以前から攻撃の対象とされてきた。
ウクライナの首都キーウも夜から朝にかけてミサイル攻撃を受けた。ただ同市の軍当局は全てのミサイルを撃墜したと明らかにした。
ウクライナ軍によると、部隊はロシア軍が支配する南部サボリージャ州の要衝メリトポリを目指しており、奪還した集落ロボティネのさらに南に前進した。米シンクタンク、戦争研究所(ISW)によれば、歩兵部隊は同地域の対戦車障害物を越えて進んだ。
●ブリンケン米国務長官ウクライナ訪問、大統領と会談へ…反転攻勢の意見交換 9/6
米国務省は6日、ブリンケン国務長官が同日、ウクライナを訪問したと発表した。首都キーウでウォロディミル・ゼレンスキー大統領らとの会談を予定しており、ウクライナによる反転攻勢の見通しや、復興に向けた今後の支援の内容について意見交換する。
ブリンケン氏のウクライナ訪問は昨年9月以来となる。インドで9〜10日に開催される主要20か国・地域(G20)首脳会議を前に、ウクライナへの支援を継続する姿勢を鮮明にする狙いがあるとみられる。
国務省は声明で、ウクライナのエネルギー、安全保障、人道分野で「米国が支援し続ける方法について表明する」と述べた。ロイター通信によると、ウクライナに対する10億ドル(約1470億円)超の追加支援を行う考えを伝達する見通しだ。
ブリンケン氏は今回、侵略開始後、初めてキーウに1泊する予定だ。ブリンケン氏は、昨年4月にもオースティン国防長官とともにキーウを訪れている。
●ウクライナ 新国防相にウメロフ氏が就任 9/6
ウクライナでは事実上、更迭されたレズニコフ前国防相の後任として、国有財産基金のトップを務めていたウメロフ氏が新しい国防相に就任しました。ロシアによる軍事侵攻が続く中での要職の交代で、今後の手腕が問われることになります。
ウクライナの議会は6日、新しい国防相にウメロフ氏を任命するというゼレンスキー大統領の提案を賛成多数で承認しました。
ウメロフ氏は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの少数民族、クリミア・タタール人で、ソビエト時代に多くのクリミア・タタール人が強制移住させられた中央アジアのウズベキスタンで生まれました。
地元メディアによりますと、政治家としてクリミア・タタール人の権利の擁護に取り組んできたということです。
軍事侵攻後は、ロシア側と捕虜交換の交渉にあたり、激戦となった東部マリウポリの製鉄所で戦っていた「アゾフ大隊」の隊員などの解放に貢献したということです。
去年9月から国有財産基金のトップを務めていました。
前任のレズニコフ氏は国防省での汚職疑惑が相次いで伝えられる中、事実上、更迭されたと見られています。
ウメロフ新国防相は汚職疑惑の対応にあたるとともに、ウクライナ軍の反転攻勢のための国防政策を担うことになり、今後の手腕が問われることになります。

 

●プーチンが本気で “終身独裁”を狙い始めた? 9/7
8月23日、小型ジェット機がロシアのモスクワ北西、トベリ州で墜落し、民間軍事会社「ワグネル」の創設者であるエフゲニー・プリゴジン(62)ら、乗客10名の死亡が確認された。「ワグネル」共同創設者とされ、軍事部門を統括していたドミトリー・ウトキン(53)ら、同組織の幹部も複数搭乗していたことで、2カ月前に起きたワグネルによるショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任を求めた反乱への粛清とみなす見方が圧倒的だ。
なぜプリゴジンは暗殺されたのか。彼の死はウクライナ戦争やロシア情勢にいかなる影響を与えるのか? 

プリゴジン氏の乗っていた飛行機が墜落した件ですが、普通に考えて暗殺だと思います。撃墜という報道も一部でありましたが、機内での爆発による墜落という説が現在では有力視されています。彼が乗っていたのは、ブラジル製のエンブラエル社製ビジネスジェット機で、世界的に普及しているものです。プリゴジンの乗った機体だけが都合良く爆発するというのは考えにくい。反乱から2カ月が経ち、なおかつプリゴジン氏との関係が噂されていた航空宇宙軍総司令官のセルゲイ・スロヴィキン氏が前日に退任させられているというタイミングをみても、ロシア政府によって組織的に暗殺されたとみるのが自然です。
プリゴジン暗殺事件によって、どういう政治的、軍事的影響があるかという点については、僕はあまりないだろうと考えています。まず、政治的なインパクトでいうと、氏は元々、プーチン大統領の“インナーサークル”にいた人物だとは言い難い。プーチン大統領の本当のインナーサークルはやはり、クレムリンの中です。プリゴジン氏はその外にいた。昔からのプーチン氏との“腐れ縁”的な関係があり、資金も持っていたため、インナーサークルの周りでさまざまな裏工作、汚れ仕事を任されていた人物という評価が正しいと思います。
言い換えれば、プリゴジン氏は、クレムリンの政策決定に口を出せる人物ではありません。彼がいなくなってもプーチン大統領の権力構造に根本的な変化があるわけではないのです。プリゴジン氏は「近代ロシア史上、初の武装反乱を起した男」でした。専門家の間でも、「このままプリゴジンを野放しにしていると、プーチン体制に影響があるのでは?」と考えていた向きは多かったと思います。案の定、スルーされずに暗殺されてしまったという感想です。
異例の“ハートウォーミング”な追悼演説
ただ、プーチン大統領がプリゴジン氏に対して、一定の好感を持っていたことは事実だと思います。暗殺した人物に対して、プーチン大統領が哀悼することはこれまでなかったはずですが、プリゴジン氏への言葉は暖かい。
暗殺された後のテレビ放送では、「1990年代から、彼のことを知っているが、プリゴジンは才能のある男だった」「ロシアのために成果を上げた」と語っています。そして、「複雑な運命を辿った人物で、重大な間違いを犯した」と語っている。表現の仕方がずいぶんと“ハートウォーミング”で、プリゴジン氏のことを人間としては決して嫌いじゃなかったんだな、と思いました。他の政治的暗殺で亡くなった人と比べると、扱いが全然違う。
プリゴジン氏は「プーチンの料理人」で、プーチン氏が大統領になった2000年以降、プリゴジン氏のレストランに行くようになったというのが公式的な説明だったんです。それが今回のテレビ放送では、1990年代から関係があったことをみずから明かしている。プリゴジン氏は「ホットドッグ屋で身を立てた」と言われていますが、おそらくそれは嘘で、本当はサンクトペテルブルグの闇カジノでのし上がったようです。そして当時のサンクトペテルブルグ市闇カジノ撲滅委員会の委員長が、プーチン氏だった。推測するに、このときから2人の関係はズブズブだったのだと思います。だからこそ、プリゴジン氏は闇カジノで半グレのように儲けることができたのではないでしょうか。このあたりの関係をプーチン氏は認めているわけではありませんが、今回のあいさつでも「昔から関係があった」と認めています。
なぜ「2カ月後」にプリゴジンは殺されたのか
今回の爆発工作を主導したのが、連邦保安庁(FSB)なのか、連邦軍参謀本部情報総局(グルー)なのかはわかりません。が、プーチン大統領の意思決定のもとで殺されたのは確実だろうと思います。浅からぬ関係にあった2人ですが、大統領としてはクーデターを起そうとした人物を見過ごすわけにはいかない。「俺に逆らったヤツをちゃんと処罰したぞ」という姿勢を示しておく必要があったんだと思います。
プーチン氏が恐れていたのは、来年の3月18日に行われるだろう次の大統領選への影響でしょう。国内が「弱腰のプーチンには任せられない」という空気になるのは最悪です。武装蜂起の2カ月後というタイミングで粛清されたわけですが、これは、プリゴジン氏が二度と逆えないように牙を抜くための準備期間だったというだけでなく、プーチン氏が“内政モード”に入っていく時期と重なっていたとも考えられます。
もし、仮に次の大統領選が2024年3月だとすると、これまでの通例では11月から12月初旬には出馬表明をすることになる。あと、3カ月ほどで国民に対して、「大統領選に出るぞ」と言わなくてはいけなくなるわけです。つまり、プリゴジン氏を消しておくなら今だった、ということなんじゃないでしょうか。
プーチン氏にとって、今回の大統領選はこれまでとは違う“大きな意味”があります。というのも今回は、これまでならば憲法上、出られなかった大統領選挙だからです。プーチン氏が初めて大統領に就任したのは2000年ですが、第2期が終わった2008年時点では憲法の規定により、連続で3期以上、大統領を続けることはできなかった。だから一度、首相に退き、後輩のメドヴェージェフを大統領に据えたタンデム(二頭)体制をとったわけです。
一度、首相に退くというやり方は、明確に憲法の規定に抵触はしていないけれども、グレーに近い。「連続で3期やらなければいいんだろう」ということで一回、首相をはさんで6年の任期を2度務め、現在の通算4期目に至るわけです。そして、彼が心血を注いだ憲法改正キャンペーンの結果、3年前の2020年7月の憲法改正で連続3期も認められるように変えてしまいました。
だから、通算5期目の次の選挙で、プーチンは本気で“終身独裁”を狙い始めるのだと思います。次の選挙で通れば、彼はロシア連邦の歴史上、初の連続3選の大統領になります。プーチンからすれば、「国民から俺の終身独裁が認められた」くらいに思ってもおかしくはない。来年の選挙にかける意気込みは大変に強いのだと思います。
モスクワへのドローン攻撃が続いていることで、プーチン政権への批判が高まっているという報道もありますが、あれは「ウクライナが悪い」と言い訳ができるので大きなダメージにはならない。やはり、「プリゴジンの乱」のほうがずっと大きな問題だったわけです。
動画がバズった「プリゴジン人気」
例えば、私も驚いたのですが、「プリゴジンの乱」のとき、ロストフの街から撤退するプリゴジン氏が熱狂的に見送られている様子が報道されました。反乱を起こした軍事会社の親分が国民にはめちゃくちゃウケている。「なんだ、この国は」と思いましたよ。それに忘れがちですが、そもそもロシアでは民間軍事会社の存在自体が違法なんですよ。
●戦争の重さに軋むロシア経済 9/7
ロシアの政府統計局によると、今年6月の自動車、トレーラー、セミトレーラーの生産台数は2022年6月より50%以上多かった。
一方、ロシアの中央銀行は、今年第1四半期の工業系企業における労働力不足が1998年に統計が始まって以来最も深刻だったと報告した。
中銀はまた、過去3カ月間のインフレが年率7.6%だったと推計している。年4%の目標を大きく上回る水準だ。
戦争経済を支える手段はまだある
当然、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアの公式経済統計はかなり慎重に扱わなければならない。
だが、これら3つの指標が描く光景は恐らく、真実からそう遠くかけ離れていない。
全面的なウクライナ侵攻から1年半経った今、インフレや労働力不足、政府の歳出増加、赤字財政など、ロシアは戦時経済の典型的な症状を見せている。
ウクライナ政府と西側の支援国にとって問題は、ロシア経済にかかる圧力が著しく激化し、将来どこかの時点でウクライナ併合を狙うクレムリンの戦争を完全に頓挫させるかどうか、だ。
西側の制裁は、特にロシアの石油・ガス輸出収入を大幅に落ち込ませることによって、こうした圧力を間違いなく強めている。
しかし、クレムリンの政策立案者にはまだ、軍事化された経済を維持する手段が残されている。
例えば、金(ゴールド)や中国人民元を含む流動資産の一種の予備ファンドであるロシア国民福祉基金からの資金の引き出しを増やすことは可能だ。
当局は国内での債券発行を増やすこともできるだろう。
クレムリンが守りたい日常生活の幻想
資本逃避とルーブル安の問題に対処できるかもしれないその他の選択肢には、資本規制の導入や、輸出企業に外貨収入をルーブルに交換することを義務付ける策が含まれる。
最後になるが、政府は増税か軍事費以外の歳出削減、または両方を実施することもできる。
市民のために、戦争にもかかわらず生活は多かれ少なかれ普段通りに送れるという幻想を守ろうとしてきたクレムリンにとって、最後の2つの対策は魅力的に映らない。
この幻想はある程度、今は亡き軍閥のエフゲニー・プリゴジンによる反乱未遂や民間人の部分動員といった出来事、そして戦争がこれほど長く続いているという事実そのものによって打ち砕かれた。
しかし、経済的な観点では、クレムリンは来年の大統領選挙に先駆け、生活水準を圧迫して国民を遠ざけるリスクを冒す対策は避けるか、せめて最低限に抑えたい。
大統領選は正真正銘の争いではなく、厳格に組織化された政治的儀式になるが、当局はそれでもプーチンの圧倒的な勝利をもたらしたいと考えている。
投票率が高ければ高いほど、ロシアの一般市民がしっかりとクレムリンの手中に収まる――。
少なくとも当局者はそう考えている。
対ウクライナ支援の停滞を期待
そこで時間が何より重要な要因になる。
クレムリンの明らかな計算は、西側諸国、何より米国で政治的な世論の潮目が変わるまで、ロシア経済を何とか持たせる必要がある、というものだ。
来年の米国の選挙まで15カ月を切っており、ロシア政府は間違いなく、選挙でウクライナの自衛戦争の資金を負担することについて熱意を欠く大統領と議会が誕生することを期待している。
ウクライナに対する米国と同盟国の軍事・予算支援を取り除いたり減らしたりすると、ロシアの侵攻に対するウクライナの抵抗の展望は明らかに暗く見える。
この支援があっても、ウクライナの国内総生産(GDP)は今年第1
何百万人もの避難民がウクライナを去った。国の南部、東部の大部分はロシアの占領下にある。
ロシア政府はウクライナの工業製品と農産物の輸出を著しく阻害し、ウクライナの都市やインフラ、その他の資産の物理的破壊は数千億ドルもの被害をもたらした。
ロシア経済がどんな困難を経験しているとしても、ウクライナのそれとは比べ物にならない。
ウクライナには生き残りをかけた戦い
過去のロシアの戦争と比べても、事情はそれほど深刻ではない。
第1次世界大戦の最中のハイパーインフレは、1917年2月のロシア革命での帝政崩壊の引き金となった国内の社会不安の要因だった。
第2次世界大戦では、ナチスによる侵攻が多大な人命喪失だけでなく驚異的な経済的損失をソビエト連邦に負わせ、この大戦が生き残りをかけた戦いになった。
ウクライナ人にとっては、現在の戦争は独立国家として、そしてロシアとは異なるアイデンティティーを持った国民国家としての生き残りをかけた戦いだ。
ロシア人にとっては、この戦争は国の生き残りとは何ら関係がない。
いつの日か、ウクライナ戦争はプーチン体制の存亡がかかった戦いになるかもしれない。
だが、純粋に経済的な観点から判断すると、その日が訪れるのはまだ遠い先だ。
●東部でロシアの攻撃、17人死亡 ウクライナ軍は南進継続 9/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、通信アプリへの投稿で、前線に近い東部ドネツク州コンスタンチノフカでロシアの攻撃があり、市場や薬局などが被害を受けたと明らかにした。クリメンコ内相によると、少なくとも17人が死亡、32人が負傷した。ミサイル攻撃との情報もある。
また、穀物輸出の中心地、南部オデッサ州のキペル知事によれば、5日夜から6日未明にかけドナウ川河口に近い港湾都市のイズマイルが約3時間にわたりロシア軍のドローン攻撃を受け、農業関連企業の従業員1人が死亡した。地元メディアが伝えた。穀物輸出合意を停止させ、ウクライナ経済に打撃を与えたいロシアは、ドナウ川の輸出ルートに執拗(しつよう)な攻撃を続けている。
ウクライナ空軍は、6日未明にロシア軍による短距離弾道ミサイル「イスカンデル」やドローンによる攻撃が計33発あったと発表。うち23発を撃墜したと主張した。
一方、米シンクタンク戦争研究所は5日、同日公開された位置情報付きの映像から、ウクライナ軍が、ロシアから解放した南部ザポロジエ州ロボティネの南部と東部方面に前進したとの見方を示した。ロボティネ周辺で、地雷原など強固なロシア軍の防衛線の突破を試みている。
●米国、ウクライナへ劣化ウラン弾を初めて供与…1470億円超の追加支援を表明 9/7
米国のブリンケン国務長官は6日、訪問先のウクライナの首都キーウでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、軍事や人道面などで総額10億ドル(約1470億円)超の追加支援を表明した。米国が供与表明済みの主力戦車「M1エイブラムス」から発射できる劣化ウラン弾を初めて供与する。
●ASEAN 日米中ロなどが参加の「東アジアサミット」開催へ 9/7
インドネシアで行われている、ASEAN=東南アジア諸国連合の一連の首脳会議は、7日、日本やアメリカ、中国、ロシアなどが参加するEAS=東アジアサミットが開かれます。会議では、北朝鮮の核・ミサイル開発やウクライナ情勢などについて話し合われる見通しで、国際社会の分断が深まる中、議論の行方が注目されます。
ASEANの一連の首脳会議は、7日、最終日を迎え、加盟国の首脳に加えて岸田総理大臣やアメリカのハリス副大統領、中国の李強首相、そしてロシアのラブロフ外相などが参加する東アジアサミットが開かれます。
会議では、中国が海洋進出を強める南シナ海情勢や、核・ミサイル開発を推し進める北朝鮮、それにロシアによるウクライナ侵攻などが議題として取り上げられる見通しです。
ただ、南シナ海情勢をめぐっては、ASEANとの間で紛争防止のルール作りを進める中国に対して、アメリカはASEAN各国と安全保障面での連携強化を打ちだすなど、ASEANを舞台にした米中の駆け引きが鮮明になっています。
また、北朝鮮やウクライナ情勢でもアメリカと中国やロシアで立場が大きく異なるなど、国際社会の分断が深まる中、激しい議論が交わされるものとみられます。 
●プーチンの最強兵器「プロパガンダ」が機能不全に...ちぐはぐな報道 9/7
ロシアのプロパガンダ機関は、広範囲に及ぶその影響力と世論操作の巧みさで知られる。ソーシャルメディアを兵器化し、欧米の選挙に介入。「文化戦争」と呼ばれるアメリカの保守vsリベラルの対立や政治的分断をあおってきた主要プレーヤーでもある。
国内の世論操作も抜かりない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は以前から国営メディアの再編を進め規制を強化し、政権批判を圧殺してきた。プーチンの報道官であるドミトリー・ペスコフが毎週、主要紙の編集長と会合を持ち、報道内容に一貫性を持たせていると伝えられている。どういう路線でどういう記事を載せるか、編集方針にも「内密の指示」が出されるというのだ。
だがウクライナ戦争における作戦の失敗と混乱が、プーチンの政治宣伝マシンに生じた亀裂の拡大を浮き彫りにした。国営メディアは戦争の大義を国民にうまく説明できていない。戦闘が長引き終わりが見えないなか、つじつまの合わない報道が増え、国民に知られてはまずい真実をぽろりと漏らすようにもなった。
国営メディアの混乱がピークに達したのは6月に起きた「ワグネルの乱」の後だ。ロシアの民間軍事会社ワグネルとその創設者エフゲニー・プリゴジンはウクライナ東部の要衝バフムートを占領した手柄などでロシアの英雄扱いされていたが、反乱を起こしたからには「裏切り者」の烙印を押さざるを得ない。それでもロシアの一部政治家やメディアは反乱を大したことではないように見せかけようとした。プーチンは反乱収束後、プリゴジンとワグネルの指揮官らと会談したが、ペスコフは当初この事実を否定。その後に渋々認めるという失態を演じた。(編集部注:プリゴジンは搭乗機の墜落で8月23日に死亡)
ロシア版「大本営発表」と現実の戦況との違いがこれまで以上に明らかになり、公然の秘密となっても、プーチンは「鉄の統制」を緩めようとしなかった。だが国民の間に不信感が高まり、長期的にはプーチンの統制が崩れる可能性があることは、一部の観測筋の見解や最近の世論調査の結果から容易に推測できる。
「体制が不安定だと、いろんな場所にほころびが生じ、問題が起きるものだ」と、今はロシアでの放送が禁止されているロシアの独立系テレビ局ドーシチの編集局長ティホン・ジャドコは言う。「戦争の終わりが見えない状況で、ロシア政府とプロパガンダ機関の連中も自軍が押され気味なことに気付いている。開戦当初に占領した地域を失いつつあることも分かっているはずだ」
バフムート陥落に難癖を
一方、ロンドン在住の政治学者マーク・ガレオッティは違う見方をしている。許容範囲内なら反対意見の表明を許し、多様な見解があるように見せかけるのはプーチン政権の常套手段だというのだ。「部下たちが全員、自分に忠実なら、部下たち同士が争うのは結構なことだというのが、プーチンの流儀だ」と、ガレオッティは言う。
プーチンの長年の腹心だったプリゴジンは、反乱に至る何カ月かの間、プーチンが始めた戦争を最も声高に批判していた。ついにはメッセージアプリのテレグラムで戦争は偽りの口実で開始され、ロシア政府の高官たちは腐敗し無能だとまで断じた。ロシア、ウクライナ双方の民間人が殺され、「何も知らないおじいちゃん」(プーチンを指すらしい)は蚊帳の外に置かれている、というのだ。
6月24日、プリゴジンはワグネルの戦闘員たちと共に首都モスクワを目指した。あっけなく終わったこの反乱で、ワグネルはロシア南部の2つの軍事拠点を掌握し、首都まで200キロ圏内まで迫ったが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介で矛を収め撤収した。
この一連の不可解な動きに対し、ロシアの国営メディアの混乱ぶりは目に余るほどだった。「プリゴジンとワグネルは国家の英雄であり、成果を上げていた。だが突然この珍事が勃発し、彼らは首都に進軍する裏切り者となった」と、ロシアのプロパガンダ機関に詳しい米シンクタンク・ランド研究所の研究員クリストファー・ポールは言う。「虚偽にまみれた公式報道もこの事態をどう扱えばいいのか途方に暮れたようだ」
反乱とその影響についての報道で、プーチンの政治宣伝マシン内部の足並みの乱れや方向性の欠如が露呈した。一部の国営メディアは手のひらを返したようにプリゴジンを酷評。バフムートの重要性に難癖をつけ、この都市の掌握になぜ200日余りもかかったのかと疑問を呈した。
5月に国営テレビはこぞってバフムート陥落の「歴史的な意義」を強調していたが、政府系の第1チャンネルは6月30日、バフムートは「最前線の最も重要な都市ではない」と報じ、ロシアの正規軍は昨年ウクライナ東部のマリウポリをはるかに短期間で陥落させたと付け加えた。
一方で、プリゴジンの肩を持つような報道をするメディアもあった。国営のメディアとテレビも反乱においてほぼ「血は流れなかった」とする立場で、「(ワグネルは)誰を攻撃したわけでも何を壊したわけでもない」し、「何も悪いことはしていない」というロシア下院国防委員会のアンドレイ・カルタポロフ委員長の発言を報じた。カルタポロフは軍出身で、プーチンの与党、統一ロシアの重鎮でもある。
それと対照的だったのが、ロシア政府寄りのブロガーや、テレビ番組にゲスト出演した人々の一部の発言だ。彼らの中には少数ながら、反乱で死んだ十数人のパイロットは何のために命を落としたのかと問いかけ、罰せられるべきは誰か明らかにすべきだと主張する人々もいた。
ロシア下院国防委員会に属するアンドレイ・グルレフはロシアのテレビ局RTVIに対し、ワグネルは「わが軍の兵士の死」の責任の「100%を負う」ことになるだろうと述べた。国営テレビの「ロシア1」のトーク番組『60分』の司会を務めるエフゲニー・ポポフはプリゴジンのことを「反逆者」と呼んだ。
プーチンは2回にわたってテレビに短時間、「生中継」で出演した。それも同時に、別々の場所からだった。テレビ局側からの説明はなく、「プーチン影武者説」を勢いづける結果となった。
プリゴジンの乱は、ロシア政府の宣伝マシンの欠陥を白日の下にさらした。だがウクライナ侵攻が始まって間もない頃から、その欠陥は目につき始めていたし、侵攻が泥沼化するなかで傷口は広がっていった。
侵攻開始直後の昨年3月、ロシア政府は、ロシア軍に関する「フェイクニュース」を意図的に拡散した場合に最長で禁錮15年の刑に処するという法律を作って情報統制を強化しようとした。それ以来、この「戦争=フェイクニュース法」はプーチンと主張の合わない人々を弾圧するのに使われている。この法律ではメディアがウクライナ侵攻のことを「戦争」と呼ぶのも禁じられており、国営メディアはプーチンの言う「特別軍事作戦」という用語を使っている。
宣伝工作の指導と解釈にずれ?
だが侵攻開始から半年がたった頃には、国営テレビでも「戦争」という言葉を耳にするようになっていた。口火を切ったのは、ロシア政府寄りで、「プーチンの声」とあだ名される人気司会者のウラジーミル・ソロビヨフだ。その後、複数の司会者やゲストたち、それにセルゲイ・ラブロフ外相やプーチン自身まで、この言葉を使うようになった。
「あえて統一しないほうがいいという考えでそうしたケースもあるだろうが、組織的な欠陥という面もある」と、ランド研究所のポールは言う。「紙媒体とテレビメディアの間にはたぶん、統制のメカニズムに違いがあるのだろう。そして異なる指揮が広がったり、組織の中の中間管理職や指導者や官僚の間で解釈違いが起きたのかもしれない」
侵攻開始直後に政府の弾圧の犠牲になったのが独立系テレビ局のドーシチだ。ウクライナ報道をめぐり、「戦争=フェイクニュース法」によって当局から放送を禁じられたのだ。昨年3月上旬の最後の番組では、スタジオからスタッフが「戦争にノー」と言いながら去って行く様子が生中継で放送された。
「戦争の始まりが、ロシアにおけるドーシチの終わりの始まりであることは、明らかだった」と、ドーシチのジャドコは言う。ドーシチは現在、オランダを拠点に運営されている。
ジャドコによれば、ロシア政府によるメッセージ発信の失敗は、戦争自体の性質と目的をめぐる根本的な「混乱」に端を発している。「こうしたずれは最初からあったし、その理由は明らかだ。ロシアがなぜ(戦争を)始めたのか誰も理解していないからだ」とジャドコは言う。「政府ですら分かっていないし、ロシア政府の宣伝工作(部門)はさまざまな事態にどのように反応すべきか理解するのに悩み、状況の変化に付いていこうと必死だ」
「ウクライナを『非武装化』するという話もそうだ。ウクライナの軍事増強がこれまでになく進んでいると(プーチンは)言うけれど、それはこの『作戦』がうまくいっていないということだ」とジャドコは言う。
ロシアメディアの報道によれば、今年6月に連邦議会のコンスタンティン・ザトゥリン議員も、政府はウクライナ侵攻における目標を達成できていないという趣旨の発言をしたという。昨年12月には、政府寄りのテレビ司会者オリガ・スカベエワが、ウクライナにおける戦争は「あらゆる面で」ロシアを「疲弊させ」ており、多くのロシア人は戦争を終わらせたいと思っているとまで国営テレビで発言。だがザトゥリンもスカベエワも起訴されたりはしていない。
原因は「アップデートの失敗」
こうした逸脱は自由化やメディアへの締め付け緩和を示すものではないと、専門家はクギを刺す。
政治学者のガレオッティによれば、ロシアの国営メディアには通常「多様な意見」が存在する余地があるものの、「範囲はかなり狭い」と言う。「これは愚かな戦争だった、すぐに撤退すべきだと、実際に口に出して言える人間はいない」
ランド研究所のポールは、「ロシア政府のさまざまな部門が言いたいことを理解するのに時間がかかる」こともあると指摘する。「この種の矛盾は、プロパガンダ機関のさまざまな部門が広めたいと考える情報や現時点での解釈を、部分的に切り取っているだけの場合もある」
例えばロシア国営通信社RIAノーボスチは今年3月、戦場で負傷し、プーチンが約束した補償金を受け取っていない兵士たちの不満を記事にした。「どこかの組織の誰かが政府からメッセージを受け取っておらず、おそらく誰かが懲罰を受けただろう」と、ポールは言う。
報道官のペスコフは状況に合わせてストーリーを変えるやり手の外交官だが、プリゴジンの乱の直後、当初はロシア政府は「プリゴジンの居場所については何も知らないし、興味もない」と主張した。だが数日後、西側メディアがこの件を取り上げると、プーチンが反乱直後にプリゴジンらと会っていたことを認めた。ロシアの基準でも衝撃的なレベルの手のひら返しだ。
さらにペスコフは6月26日夕方のプーチンの国民に向けた演説について、「真に重要なものだ」と記者団に語ったと、インタファクス通信が報道した。その後、主要報道機関がこぞってこの演説を大げさに報じると、ペスコフはこの発言を否定した。実際、この短い演説は国民に不評で、当局の厳重な監視下にあるはずのロシアのソーシャルメディアでも、政府寄りのメディアやプーチン自身を酷評する声が上がった。
ポールによれば、ロシアのプロパガンダがうまくいっていない理由の1つは「アップデートの失敗」だ。プーチンがクリミア半島を不法に併合した14年には「実にうまく」機能したと、ポールは言う。「おそらく同様のアプローチで同様の成果と成功が得られると期待したのだろう」
クリミア併合は人的犠牲が比較的少なく、国内で支持されていた。だが、今回のウクライナ侵攻とロシア側の苦戦ぶりを国民に売り込むのは、それよりずっと難しい。
コロンビア大学ハリマン研究所のアントン・シリコフによれば、政府のプロパガンダ機関は22年9月、プーチンの「部分的」動員令は軍隊経験のあるごく一部のロシア人に影響するだけだとして国民を説得しようとしたが、この試みは失敗に終わった。大量の男性が徴兵を逃れようと近隣諸国に脱出したのだ。
シリコフは、22年9月のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ヘルソン、ザポリッジャの4州併合をロシア国民は信じていないとも指摘する。「これらの併合・占領された地域はロシア領だと政府は主張してきたが、大半のロシア人はそれを完全には受け入れていないと思う。当局のプロパガンダはこれらの地域が今や『拡大ロシア』だと国民に信じ込ませることにあまり成功していないようだ」
国民の実感と大きく乖離
この現状はプーチンにとって長期的な問題になり得る。モスクワに拠点を置く超党派の民間調査機関ロシアン・フィールドが行った世論調査によると、「特別軍事作戦」の続行に賛成する意見はわずか45%で、22年4月の前回調査から9ポイント低下した。
一方、ロシアは和平交渉に臨むべきだという回答は44%で前回より9ポイント上昇した。「紛争が拡大し、第2波の動員を伴う場合」という条件を付けると和平交渉派は54%に増えた。
結局のところ、ロシア政府の戦略に一貫性がないため、プロパガンダ機関の担当者はその場その場で即興的に対応せざるを得ないと、ドーシチのジャドコは指摘する。
「ロシア政府が成功していない以上、プロパガンダも成功していない。1日に2〜3時間番組を放送していれば、当然誰かが『真実』を口にする。彼らの大半は実情を理解している。彼らとしても、『ロシアは強く、西側は弱い』『ウクライナは弱体化している』などとばかげたことを言い続けるわけにはいかないのだ」
最高レベルのプロパガンダといえども「魔法ではない」と、ランド研究所のポールは指摘する。
「国家が『正しいこと』を語り、正しいメッセージと広報活動でそれを支援するだけでは、外交政策の目標達成は不可能だ。公式発表と国民が実感する現実との間に、ある程度の関連が存在する必要がある」
●ロシアは北極海航路も中国とインド頼み 9/7
ロシアは北極圏における中国との貿易拡大を計画しているが、砕氷船の不足が障害になるかもしれない。
ロシアの北極圏開発を担当するアレクセイ・チェクンコフ極東・北極圏発展相は、ロシアの経済紙RBCに対し、来年までにロシア北極海航路経由で供給される貨物量3400万トンを2倍以上に増やす計画があるが、世界的に原子力砕氷船の数が不足している、と述べた。
今年3月に中国の習近平国家主席がモスクワを訪問した際、ウラジーミル・プーチン大統領は、北極海航路を開発するための共同作業組織の設立を発表した。北極海航路はノルウェーとの国境に近いムルマンスクからアラスカに近いベーリング海峡に至るヨーロッパとアジアを結ぶ最短航路ルートで、ロシアにとってスエズ運河の代わりになる重要な航路だ。
ロシアのバルト海から中国北部の石油精製所までの所要時間を劇的に短縮することが可能なこの航路について、ロシアは、インドとも協力体制を模索している。
プーチンは今年6月、インド、ブラジル、中国、南アフリカを含むBRICsサミットで、北極海航路を含むロシアの旗艦プロジェクトをどのように開発したいかを語った。北極海航路の開発には、新しい港、燃料ターミナル、砕氷船の数を増やす必要がある。
新たな船の建造も困難
チェクンコフはRBCの取材に答え、「私の最大の懸念は、十分な数の耐氷船団を確保できるかどうかということだ」と語り、2031年までに2億トンを輸送するというロシアの目標を達成するには船の数が足りないことを認めた。
最大の問題は、砕氷船を製造する造船所が不足していることだ。船の建造には「数カ月ではなく数年」かかるという。チェクンコフによれば、ロシアは新しい船の建造について中国やインドと協議している。
ロシア政府は2022年に、北極海航路で操業するための砕氷船と耐氷船50隻を建造し、港湾、サテライト、石炭、石油、液化天然ガス用のターミナルなど、操業に必要なインフラを整備する13年計画を承認した、とRBCは報じている。
今年3月、ロシアの北極圏開発プロジェクト室専門家会議のコーディネーターであるアレクサンドル・ボロトニコフは、ロシアのニュースメディアUra.ruに対し、ロシアは北極海ルートを開発するために、「財源と必要な技術」がある中国のようなパートナーを必要としている、と語った。
ロシアのドミトリー・メドベージェフ安全保障会議副議長副議長と北極海航路の運営会社で国営原子力企業ロスアトムの代表は昨年、砕氷船の数が不足していると警告した。RBCによると、メドベージェフは、ロスアトムが管理する砕氷船6隻の船のうち3隻が技術的に時代遅れになっていると述べた。
北極海航路は今年7月に開通し、ロシア産原油の代表油種ウラル原油を積んだタンカーがバルト海のプリモルスク港とウスチ・ルーガ港から中国山東省南部海州湾の日照市に向け出航した。
●東アジアサミット、2年ぶりに声明採択−ウクライナの戦争触れず 9/7
インドネシアのジャカルタで7日に開催された東アジア首脳会議(サミット、EAS)に参加した首脳は、ウクライナでの戦争に触れない声明を採択することで合意した。
昨年のカンボジアでの東アジアサミットでは米国とロシアが声明の文言について対立したため、声明が出されるのは2年ぶりとなった。
今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務めるインドネシアでのサミット閉幕後、東アジア首脳による「成長の中心地としての地域の維持と推進」に関する声明が発表された。
声明で18カ国の首脳は「平和と安定、海洋の安全と安全保障、航行と上空通過の自由、その他の国際的に合法的な海洋の利用、および妨げられない合法的な海上通商を推進する」ことに同意した。
今回の東アジアサミットには、ASEAN各国の首脳のほか、岸田文雄首相やハリス米副大統領、中国の李強首相らが出席した。
米国のエイブラハム駐ASEAN大使はサミット後記者団に対し、声明草案の段階でウクライナでの戦争を巡りロシア側から「極めて強硬な姿勢」が示されたことを明らかにしたが、米国が声明に同意した理由については直接的な回答を避けた。
一方、ASEANが発表した東アジアサミット議長声明はロシアのウクライナ侵攻を強く非難するとともに、核兵器使用を認めない厳しい内容となった。同声明によれば多くの参加国が戦争に反対した。
声明では「ほとんどの加盟国はウクライナに対する攻撃を強く非難し、公正で永続的な和平の必要性を強く主張する」と記述された。
●日中の混み合う商店街に攻撃、17人死亡 ウクライナ東部 9/7
ウクライナ東部ドネツク州の前線に近いコスチャンティニウカで6日、攻撃があり、少なくとも17人が死亡した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「平和な都市」に対する「意図的な」攻撃だとロシアを非難した。
午後2時ごろ、混み合う商店街が攻撃された。こうした攻撃はまれ。死者には子ども1人も含まれている。
けが人は少なくとも33人に上っているとされる。市場や薬局、商店などが被害を受け、火災が発生したという。
一般市民に対する攻撃としては、今春以降で最悪レベルとなった。
ソーシャルメディアに投稿された動画からは、買い物客らがいる通りの奥で爆発が起こり、明るいオレンジ色の光が広がった様子がわかる。
ロシアはこの攻撃についてコメントしていない。同国はこれまで、市民を標的にしたことはないと主張している。
ゼレンスキー大統領はロシアを非難。「何も悪いことをしていない人々」が殺されたとし、「全くの非人道的行為」だとした。また、死者数は増える可能性があると述べた。
さらに、ロシアを相手にすることは悪の大胆さに目をつぶることだとした。
妻のオレナ・ゼレンスカ氏も、「恐ろしいまでの残酷さ」を示すものだと述べた。
商店主のダイアナ・ホダクさんは、「閃光(せんこう)」を目にし、店員や客らに「床に伏せる」よう言ったと、ロイター通信に話した。その後、「足から骨が突き出ている」女性を兵士が運ぶのを見たという。
ウクライナの検察当局は、捜査を開始したとする声明を発表。「戦争関連の法と慣習への違反に対する刑事手続き」を進めているとした。
そして、「ロシア連邦による戦争犯罪を記録するため、可能かつ適切なあらゆる手段を講じている」と付け加えた。
これまでも攻撃で被害
コスチャンティニウカは、激戦地となっているバフムート市から約27キロメートルの距離にあり、今年に入ってたびたび攻撃を受けている。
4月2日には、集合住宅と保育園にミサイルとロケットが着弾し、市民6人が死亡。5月13日には、ロケット弾「スメルチ」による攻撃で、高層ビル、住宅、ガソリンスタンド、薬局、商店が被害を受け、15歳の少女を含む2人が死亡した。
7月24日にも攻撃があり、子ども3人が死亡。ウクライナ側はこの攻撃について、ロシア軍がクラスター爆弾を使用したと非難した。
ドネツク市は2014年以来、ロシアの代理当局が統制している。昨年2月にロシアがウクライナを侵攻してからは、代理当局は、ウクライナ軍が同市を狙っていると繰り返し非難している。
コスチャンティニウカへの攻撃があった6日には、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官がウクライナを訪問し、ゼレンスキー氏らと会談した。
ブリンケン氏が到着する数時間前には、ウクライナ全土でサイレンが鳴り響いた。防空システムは、首都キーウを狙ったミサイルの迎撃で忙しかった。
ブリンケン氏がキーウを訪れるのは、この1年半で4度目。戦争で荒廃したウクライナに対する総額10億ドル(約1470億円)超の新たな支援策を発表した。
●国連安保「機能してない」 来日中のウクライナ国会議長 9/7
ウクライナ最高会議(国会)のルスラン・ステファンチュク議長(47)が7日、都内の日本記者クラブで記者会見した。ロシアの侵略を念頭に、第二次大戦後に作られた国連の安全保障メカニズムが「機能していない」と主張し、戦争を起こさない体制や侵略国を処罰する仕組みを作るなど改革の必要性を訴えた。
ステファンチュク氏は8日、都内で開かれる先進7カ国(G7)下院議長会議にゲストとして出席するために来日。会見では、ウクライナ戦争の勝敗が世界の今後100年を左右するとし、「独裁主義ではなく、強い民主主義に基づく発展を望む」と強調した。
ウクライナでは10月に最高会議選、来年3月に大統領選が予定されているが、法律で戒厳令下の選挙が禁止されている。ステファンチュク氏は「今後、何らかの妥協点が見いだされる」としたが、前線の兵士や国外避難者の投票権確保など課題が多く、実施に向けた難しさを示唆した。
汚職対策にも質問が及んだ。今月3日に発表されたレズニコフ前国防相の解任も汚職が原因とされ、「汚職が深刻な国という恥ずかしいラベルを外すため社会全体で取り組んでいる。国際社会の信頼を裏切らないため、解決しなければならない」と述べた。
ウクライナ軍の反転攻勢については「長距離射程の兵器や戦闘機が勝利を加速させる」と述べ、「支援疲れ」が叫ばれる国際社会に支援継続を要請した。直近の世論調査で国民の8割超が領土奪還まで戦い続ける意志を示したといい、戦争長期化への覚悟があることも付け加えた。
また、民間軍事会社「ワグネル」の武装反乱が起きたロシアで混乱が生じ、露軍が訓練をろくに受けていない兵士を盾にウクライナ軍を食い止める作戦を取っており、全体の士気が低下しているとも指摘した。
●ウクライナ、困難な戦況で前進 ルーマニア情勢にも言及 NATO事務総長 9/7
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は7日、ブリュッセルで開かれた欧州議会の外交委員会に出席し、ウクライナ軍によるロシアへの反転攻勢について「激しく困難な戦いだが、前進している」と述べた。
西側諸国による支援の重要性を改めて強調した。
ウクライナ軍の反攻は6月上旬に始まったが、遅れも指摘されている。ストルテンベルグ氏は、「期待したほどではないかもしれないが、1日に数百メートルほど、徐々に足掛かりを得ている」と指摘した。「ウクライナ支援はわれわれの責任だ」とも訴えた。
ウクライナの隣国ルーマニアで、ドローンの破片とみられる物体が見つかったことにも言及した。NATOとしても警戒を強める一方で「ロシアによる意図的な攻撃を示すような情報は持ち合わせていない」と説明した。

 

●マスク氏がウクライナ軍への衛星通信「切断」指示、新たな伝記が指摘 9/8
12日発売予定の米実業家イーロン・マスク氏の伝記本に、同氏が昨年、ウクライナ軍によるロシア軍艦隊への奇襲攻撃を止めるため、経営する会社が展開している衛星通信スターリンクのウクライナ南部クリミア近くのネットワークを切断するよう、エンジニアにひそかに命じていたことを示す記述があることがわかった。
伝記を執筆したウォルター・アイザックソン氏は、爆発物を搭載したウクライナ軍の無人潜水艇がロシア軍艦隊に近づいた時、「潜水艇は通信の接続を失い、危害を加えることなく海岸に打ち上げられた」と書いている。
アイザックソン氏によると、通信を切断するというマスク氏の判断はロシアの高官らとの会話から、ウクライナのクリミア攻撃にロシアが核兵器で応じるのではないかと激しい恐れを抱いたためだった。ウクライナの当局者はマスク氏に通信を元に戻してほしいと要望したという。
マスク氏が言うところの「小さな真珠湾」となる恐れはクリミアでは現実のものとはならなかった。だがこのエピソードは、ウクライナで戦争が展開される中で、マスク氏が特異な立場に置かれていることを物語っている。自身の意図の有無にかかわらず、マスク氏は米当局者が無視できない影の実力者となった。
アイザックソン氏は、高く評価されているアップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏や物理学者のアルベルト・アインシュタインの伝記も書いている。
新たな著書ではマスク氏に関する新たな洞察が得られる。戦争を拡大させることへの恐れから、マスク氏がロシアへの攻撃に使用される可能性があるスターリンクシステムについて、ウクライナ側の要請を拒んだことがうかがえる。
ロシアは昨年2月にウクライナに全面侵攻する直前にウクライナの通信システムを混乱させた。その後、マスク氏は自身の宇宙事業会社スペースXが製造したスターリンク衛星通信端末をウクライナに提供することに同意した。スターリンクはウクライナの軍事作戦にとって極めて重要なものとなった。携帯電話やインターネットのネットワークが破壊されても、スターリンク端末のおかげでウクライナ軍は戦ったり、互いに連絡を取ったりすることができた。
だがウクライナがロシアへの攻撃にスターリンク端末を使い始めると、マスク氏は提供の決定を再考し始めたようだ。
マスク氏はアイザックソン氏に「私はどのようにこの戦争に関わっているのか」と尋ね、「スターリンクは戦争に巻き込まれるはずではなかった。ネットフリックスを観たり、勉強のためにネットに接続したり、平和目的で利用するものだ。ドローン攻撃をするためのものではない」と述べている。
伝記によれば、マスク氏はすぐにサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)やミリー統合参謀本部議長、駐米ロシア大使と電話で話し、米国からロシアに広がる懸念に対応しようとした。
一方、ウクライナのフェドロフ副首相はマスク氏にテキストメッセージで無人潜水艇の有用性を伝え、通信接続の回復を求めた。「世界をテクノロジーで変えているあなたに、ただこのことを知っておいてもらいたい」とも記述していた。
マスク氏やスペースXはCNNのコメント要請に返答していない。
マスク氏はフェドロフ氏への返信で、無人潜水艇の設計に感銘を受けたものの、ウクライナが「行き過ぎていて、戦略的な敗北を招きつつある」との理由でクリミアで衛星通信を戻すつもりはないと伝えた。
ウクライナと米国の当局者が過去に経験の無い状況に踏み込む中、戦場での通信手段の確保では予測困難な富豪の厚意に依存する形が続いた。そしてこれは昨年秋、スターリンクの端末費用を誰が負担するのかを巡る対立に発展した。
マスク氏によれば、スペースXはウクライナ向けの衛星機器の費用数千万ドルを自社で負担していた。CNNは昨年10月、同社がこうした費用の支払いを継続しないと米国防総省に通告したと報じた。
だが、マスク氏はCNNの報道後に方針を変え、ツイッターへの投稿で「ウクライナ政府への資金提供を続ける」との意向を示した。
アイザックソン氏によれば、スペースXのグウィン・ショットウェル社長はこのマスク氏の方針変更に怒り心頭だった。
ショットウェル氏は「国防総省は私に1億4500万ドルの小切手を手渡す準備を整えていた」「それをイーロンはツイッター上のたわごとや、この話をリークした国防総省内の敵対者に屈したのだ」と語ったという。
伝記によると、スペースXは結局、今年初めに米国や欧州の政府と新たな10万基の衛星アンテナの支払いで契約を結ぶことができた。
スターリンクが戦争で果たす重要性は今も衰えていない。
先週には米国や米国と機密情報を共有する「ファイブアイズ」の構成国が、ロシア人ハッカーがウクライナ軍司令官の戦場での通信を標的にしたと非難した。ウクライナによれば、ロシアの悪意のあるコードがスターリンクの衛星に送るデータを妨害するように設計されていた。
●「オリガルヒ」資産をウクライナ支援に充当へ 米国務長官 9/8
アメリカのブリンケン国務長官はロシアへの制裁の一環として、プーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪などから差し押さえた資産の一部をウクライナの支援に充てると明らかにしました。
ウクライナの首都キーウを訪れたアメリカのブリンケン国務長官は6日、ゼレンスキー大統領やクレバ外相らと会談したあと記者会見を行いました。
この中でブリンケン長官は、アメリカ政府がロシアのプーチン政権に近いオリガルヒと呼ばれる富豪などから差し押さえた資産の一部をウクライナの支援に充てると明らかにしました。
アメリカはウクライナに軍事侵攻したロシアに対する制裁の一環として、オリガルヒなどの資産を差し押さえていて、ロイター通信は、今回、その一部にあたる540万ドル、日本円にして8億円近くをウクライナ側に送ると伝えています。
ブリンケン長官は送られた資金は退役軍人の支援のために使われるとした上で、オリガルヒについて、「プーチン大統領による侵略戦争を可能にした者たちはその代償を支払うべきだ」と述べました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は7日、「ロシアの国家や個人の資産を差し押さえることなどは違法行為だ。一件たりともこうした違法な押収が見過ごされることはないだろう」と強く反発しました。
●ロシアの崩壊を活用しようとする国はどこか 9/8
今やロシアの崩壊は世界の論壇で公然と語られている。一つには今の状況がソ連の崩壊に似て来たからだ。
カナダの専門家ディアーヌ・フランシス女史は2023年6月「ロシアは崩壊する」と題する論文でこう論じている。「1979年のソ連・アフガン戦争はアフガニスタンを破壊し、ソ連を崩壊した。今日ロシアは、財政は破綻し、経済は低迷し、軍備は低下し、名誉は毀損され、少数民族出身の兵士は大砲の餌食に供され、民族国家の分離主義運動は急速に拡大している。要するにロシアは崩壊に向けて突進しているのだ」
ウクライナ侵略がロシア自身にもたらしている非常事態とその深刻さについて既に綿密に報道されているが、公けになっていないもっと深刻な事情が沢山あるに違いない。1991年のソ連崩壊の事例に徴しても、今やロシアの崩壊を想定しない訳にはいかない事態だ。そして識者が論じている崩壊のシナリオは深刻なものだ。
事態がどのように進むのか? ロシアはどこに向かうのか? そして結局ロシアはどういう国になるのか? 
ロシアの指導者が変われば事態はより残酷になるとする議論もある。米国外交問題評議会のリアナ・フィックス女史とジャーマン・マーシャル基金のマイケル・キメージ研究員はフォーリン・アフェアーズ誌の最近号で、ウクライナ戦争が終結し、ロシアの権威主義が弱体化するというシナリオを望むが、最悪のシナリオにも備え、西側は慎重で注意深い対応をして行くべきだと論じている。核兵器の扱いなどもその一つだろう。
多数の民族国家へ分裂の可能性
これまでの経緯からすると、熾烈な権力闘争、連邦の分裂、内戦の勃発、経済的な破綻、そして中国への従属。その方向で事態が進行することは十分にある。連邦の分裂はロシアが世界最大の多民族国家であることに鑑みれば非常にあり得ることだ。
プーチン大統領が権力の座を去る場合、ロシア国内で権力闘争が始まるとされている。あらゆる種類の争いだ。
戦争継続の是非と既存の政治的ヒエラルキーの維持強化をめぐり諸勢力の間で熾烈な議論が起きる。誰が勝っても政権は弱体化し、ウクライナ戦の継続は不可能になるだろう。
機能不全の経済とも相まって国民の不満は巨大化し、抗議デモが起き、国内は騒然とする。更に重要で深刻なことは世界最大の地理範囲を持つロシアは多数の民族が連邦を構成していることだ。
当然彼らは自治権拡大を目指す。それは更に深刻な事態を生むに違いない。複雑な闘争が一斉に噴き出してくる危険がある。混沌とした大混乱に陥る可能性がある。
新生ロシアは欧米に接近するか
現代ロシアを綿密に解説した名著「Failed State: A Guide to Russia’s Rupture」の著者である米国のジェームスタウン財団のヤヌス・ブガイスキー氏はむしろ前向きな展望を論じている。来るべきロシアの崩壊は恩恵を生むというのだ。
経済的に困窮するロシアはとどのつまり外国侵略を企てることは出来ないだろう。その結果、北極から黒海に至るまで、北大西洋条約機構(NATO)の東部戦線はより安全になる。一方、ウクライナ、ジョージア、モルドバはロシアの反応を恐れることなく占領された土地を取り戻し、欧州連合やNATOへの統合を志向するだろう。 中央アジアの国々もますます解放された気分になり、欧米側とエネルギー、安全保障、経済的なつながりを強化して行くことになるだろうと論じている。
ロシア連邦内から欧米に親近感を持つ新しい国家が誕生し、ヨーロッパとユーラシアのいくつかの地域の安定が高まる可能性があると云うのだ。
ブガイスキー氏はさらに、この際、西側はロシア社会に対して西側諸国は一体どの価値を大切にしているのかをロシア社会に明確に伝えるべきだとも論じている。「西側はロシア打倒の一心で攻めてくる」と思っているロシア人に対し、「西側はロシアの多元主義、民主主義、連邦主義、公民権、共和国や地域の自治を強く支持していると伝えることがロシア国民に実は自分たちは世界で孤立していないことを自覚させ、彼らを勇気づけるのに役立つ」としている。これがロシア研究の第一人者の一人である学究の意見だ。
米欧によるロシア支援が歴史的な新展開も
私見では、ロシアが民主化に向かって行動を起こそうとする時、欧米社会は必ず建設的な行動を取り、ロシアを全面的に支援するだろう。西側では第二次世界大戦後、ソ連・ロシアという大国を民主世界に招き入れなかった失敗が強く意識されているからだ。
だから次の機会には欧米側は全力を挙げてロシアの変化を促し、歴史的な方向転換を全面的に支援し、欧米リベラル社会の一員として共存し共栄して行こうと決心している。多くの文献がそれを論じている。
中国は必ず動く
東部ロシアはどうなるのか? 欧州に近いロシア西部では、欧州自由圏との交流が始まりその近接性が将来の政治形態に影響を与えるだろう。その際、ロシア東部へ欧州の自由圏が接近を試みようとしてもヨーロッパは遠い。このような形で国の分裂が始まると地政学上は危機的様相を呈する。
中国という専制国家がこの機会を最大限に活用しようとするはずだ。そうなると今のロシアはイデオロギーで東西に二分されてしまう。
ロシアの分割と崩壊は恐ろしい結果を産み出しかねない。そうなると「百年に一度の大変局」を世界政治の大舞台で主導しようとしている中国が当然干渉してくる。どう転んでもユーラシアの地政学はトンデモナイ方向に向かう危険がある。
しかしこの危険は識者によって先刻察知されている。ロシアの民主化を目指して行動している世界的に著名な二人のロシア人はフォーリン・アフェアーズ誌で「限定的な中央権力と強力な地方自治の二本立てで「ならず者独裁国」から議会制連邦共和国に変身する」という提案をしている。
要するにロシア国内の地方国家に自治を許しながら、中央がロシアという一つの議会制連邦国家でまとめていくという発想だ。 そして、まさにこの両名が、もしロシアがこの民主化に失敗したら、ロシアは中国の属国になると危機感を表明しているのだ。民主世界は彼らの願望と危機感を軽視してはならないだろう。
最も当事者となるのは日本
とにかく、日本と欧米諸国はロシアの崩壊に備える必要がある。もちろん、中国ではどう対応するべきかを真剣に議論しているはずだ。
ロシアの崩壊は世界的な規模で非常に深刻な地政学的変更を生み出す。もっと重要なことは中国にとってはユーラシアにおいて勢力圏の拡大に繋がる。
西側諸国内で綿密な状況分析と対処策を検討するべきだ。そして自由主義を基調とする真に歴史的な新しいユーラシア地政学状況を生み出すために綿密な作戦を練り上げなければならない。日本の安全保障上最も深刻で重大な事態が生まれようとしている。日本が最も重要な当事者なのだ。
●ウクライナ情勢を討議 G7下院議長会議 9/8
先進7カ国(G7)下院議長会議が8日、東京都内で開かれ、ロシアによるウクライナ侵攻、エネルギー安全保障について討議した。日本からは体調不良で入院した細田博之衆院議長に代わり、海江田万里副議長が出席。ウクライナ危機に関し、「ロシアが部隊を撤収させるまで支援を続けなければならない」と呼び掛けた。
会議には米国のマッカーシー下院議長らが出席。ウクライナ最高会議のステファンチュク議長も参加した。
●G20サミット、議長国インド宣言取りまとめに意欲 中ロ見解反映 9/8
今週末開催される20カ国・地域(G20)首脳会議の議長国を務めるインドは、ウクライナ情勢を巡り西側諸国とロシアや中国との分断が深まる中、ロシアと中国の見解を反映させることで首脳宣言の採択を目指している。インド政府高官が明らかにした。
G20首脳会議は9─10日にインドのニューデリーで開催される。西側諸国はデリー宣言に合意する条件として、ロシアのウクライナ侵攻への強い非難を望んでいる。
一方、ロシアのプーチン大統領の代わりに出席するラブロフ外相は、首脳宣言に自国の立場が反映されない場合は阻止すると述べている。
インドは、首脳宣言を採択できるようG20は地政学の場ではないというロシアと中国の見解を反映させることを提案しているという。
あるインド政府高官は「全員がこの文書の構成に賛同する限り、それはコンセンサスとなる。われわれは、ロシア、G7、中国を含む全ての国・地域が自分たちの意見がそこにあることに満足するような状況を目指している」と述べた。
●ASEAN 東アジアサミット 北朝鮮情勢など議論も対立浮き彫りに 9/8
日本やアメリカ、中国、ロシアなどが参加するEAS=東アジアサミットがインドネシアの首都ジャカルタで開かれ、南シナ海情勢などについて話し合われましたが、大国がみずからの主張を繰り広げ、対立が浮き彫りになりました。
7日に行われた東アジアサミットにはASEAN加盟国の首脳に加えて、岸田総理大臣やアメリカのハリス副大統領、中国の李強首相、そしてロシアのラブロフ外相などが出席し、中国が海洋進出を強める南シナ海情勢や、北朝鮮による核・ミサイル開発、それにウクライナ情勢などについて話し合われました。
冒頭、議長国インドネシアのジョコ大統領はウクライナ情勢や米中の対立などを念頭に、「サミットを対立が激化する場所にするのではなく、連携や協力を強化する場所にしてもらいたい」と述べて、大国間の緊張緩和を呼びかけました。
ロシア外務省によりますと、ラブロフ外相はNATO=北大西洋条約機構が浸透し、東アジアで軍事化のリスクが生じているなどと主張し、ウクライナ侵攻で対立を深めるアメリカを改めてけん制したということです。
また、中国外務省によりますと、李首相は南シナ海について、「域外にある国は南シナ海の平和と安定を守る努力を十分に尊重することを望む」と述べ、ASEANへの関与を強めるアメリカなどをけん制しました。
会議では大国がみずからの主張を繰り広げて、具体的な進展はなかったものと見られ、対立が改めて浮き彫りになりました。
岸田首相「協調の国際社会を実現することが重要」
岸田総理大臣はウクライナ侵攻を続けるロシアや海洋進出の動きを強める中国の動向を念頭に、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、協調の国際社会を実現することが重要だ」と述べるとともに、力による一方的な現状変更の試みや経済的威圧に反対する立場を強調しました。
一方、日中関係については「習近平国家主席とともに、建設的かつ安定的な関係の構築を双方の努力で進めていく」と述べました。
また、北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念を示し、国際社会が一体となって自制を求めていく必要性とともに、拉致問題の即時解決への協力を呼びかけました。
このほか、岸田総理大臣は東京電力福島第一原発の処理水放出の安全性などを説明し、各国に理解と支持を求めました。
さらに、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことを踏まえ、「一部の国が突出した行動をとっている」と指摘し、科学的根拠に基づく行動や正確な情報の発信を求めていく考えを重ねて示しました。
ロシア ラブロフ外相“東アジアでの軍事化に懸念”
ロシア外務省は7日、「東アジアサミットに参加しているラブロフ外相は、NATO=北大西洋条約機構がこの地域に浸透していることで東アジアで軍事化のリスクが生じているとして、このことに注意を払った」と発表しました。
そして、「核を含む戦略的な兵器の配備を想定したAUKUSを推進している」などと懸念を表明し、ウクライナ侵攻で対立を深めるアメリカを改めてけん制しました。
中国 李強首相 アメリカなどをけん制
中国外務省によりますと、李強首相は東アジアサミットの中で、「新たな情勢と挑戦に直面する中、東アジアサミットは引き続き、地域の長期的な安定と持続的な繁栄の実現のために、より大きな役割を果たすべきだ」と述べたということです。
また、南シナ海については「中国とASEAN諸国は『行動規範』の協議を積極的に推進している。域外国は南シナ海の平和と安定を守る努力を十分に尊重することを望む」と述べ、ASEANへの関与を強めるアメリカなどをけん制しました。
さらに、李首相は海洋環境についても触れ、「海洋汚染の影響は深く、歴史や人類に対して責任ある態度で海洋の生態環境を守らなければならない」と述べ、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を始めた日本への批判をにじませました。
●ロシア 統一地方選挙始まる ウクライナの4州でも強行 9/8
ロシアで8日に統一地方選挙の投票が始まり、プーチン政権は来年3月の大統領選挙もにらみ与党の圧勝を演出したい考えです。一方、ロシアが去年9月、併合を一方的に宣言したウクライナ東部のドネツク州など4つの州でもロシア側の代表を選ぶ、選挙だとする活動が強行されていて、支配の既成事実化を一層進めるねらいがあるとみられます。
ロシアでは首都モスクワの市長のほか、20の地域の知事などを選ぶ統一地方選挙が行われ、8日、順次投票が始まりました。
極東のウラジオストクでは日本時間の8日午前7時から始まりました。
市内中心部にある投票所には出勤前に立ち寄った会社員などが訪れていて、投票した50代の女性は「現状に満足しているわけではない。安定と生活の質の向上をのぞむ」と話し、20代の公務員の男性は「世界の課題は非常に複雑で、われわれを不安にさせる。地域にどれほど強い指導者が必要かは明らかだ」などと話していました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、政権にとっては、来年3月に行われる大統領選挙もにらみ、プーチン政権を支える与党「統一ロシア」の圧勝を演出したい考えです。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は7日、「プーチン大統領もモスクワの市長選挙で投票するつもりだ」と述べました。
投票は9月10日まで行われ、即日開票される予定です。
一方、ロシアが去年9月、併合を一方的に宣言したウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州の4つの州でも、ロシア側の代表を選ぶ、選挙だとする活動が強行されています。
ウクライナ軍が反転攻勢を強める中、プーチン政権としては、占領地域で支配の既成事実化を一層進めるねらいがあるとみられます。
米国務長官「占領地域で偽の選挙を実施しようとしている」
アメリカのブリンケン国務長官は7日、声明で、「ロシアはウクライナの占領地域で偽の選挙を実施しようとしている。ロシア政府はあらかじめ決められ、ねつ造された結果がウクライナの一部の地域を支配しているとする、ロシアの違法な主張を強めるものになると期待しているが、これはプロパガンダ以外のなにものでもない」と非難しました。
そのうえで、「ロシアの行動は国家の主権と領土の一体性を尊重する国連憲章の原則をあからさまに軽視するものだ。アメリカがウクライナの領土をめぐるロシアの主張を決して認めることはない」と強調しました。 
●プーチン大統領 “ドンバス地域 何世紀にもわたるロシア拠点” 9/8
領土の奪還を目指して反転攻勢を続けるウクライナは、東部や南部で着実にロシアによる占領地を解放していると強調しています。一方、ロシアのプーチン大統領は、第2次世界大戦中、当時のソビエト軍がウクライナ東部をナチスから解放したことを祝うとするビデオメッセージを発表し、占領地域の支配を正当化するねらいがあるとみられます。
ウクライナ軍は8日、ロシア軍の第1防衛線を突破したとする南部ザポリージャ州で、主要都市メリトポリに向けて反転攻勢を続け、占領された地域を着実に解放していると強調しました。
8月下旬に奪還を発表したロボティネから軍を進め、さらに南の地域でも成功を収めたと発表しました。
また、東部ドネツク州の激戦地バフムトの南でロシア軍を撃退したとしています。
一方、ウクライナ当局によりますと、8日、東部ドニプロペトロウシク州のクリビーリフが攻撃され、警察の庁舎が破壊されて警察官1人が死亡したほか、44人がけがをしたということです。
6日には、ドネツク州コスチャンチニウカの商店街で、ロシア軍の攻撃により17人が死亡するなど、ロシア軍は市街地を標的にした攻撃を続けています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は8日、第2次世界大戦中に当時のソビエト軍がウクライナ東部ドンバス地域をナチスから解放して80年になるのを祝うとするビデオメッセージを発表しました。
この中でプーチン大統領は、ドンバス地域を「何世紀にもわたるロシアの拠点」と表現したうえで、およそ700日間の抵抗の末に解放したと強調しました。
みずからの歴史観と重ね合わせることで、ウクライナの占領地域の支配を正当化するとともに、ウクライナ侵攻が長期化する中で、国威発揚を図るねらいがあるとみられます。
●ロシアのプーチン大統領、G20「完全欠席」…オンラインでも参加せず 9/8
タス通信によると、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は7日、インドで9〜10日に開かれる主要20か国・地域(G20)首脳会議にプーチン大統領がオンライン形式でも参加する予定はないと記者団に語った。ビデオメッセージを出す予定もないという。会議にはセルゲイ・ラブロフ外相が代理で出席する。
G20首脳会議は、中国の 習近平シージンピン 国家主席も欠席する見通しだ。
●ドローンからハッキングまで…ウクライナの前線で繰り広げられるハイテク戦争 9/8
ウクライナのサイバー作戦チームが、ロシアとの戦争の前線に送られ、新たなハイテク戦を繰り広げている。
ウクライナ保安庁(SBU)サイバー部門のトップ、イリア・ヴィチュク氏は、「私たちのところにも直接、戦闘に関与する部隊がいる」と話した。
厳戒態勢下のSBU本部内でヴィチュク氏は、このチームがどのようにハッカーと特殊部隊のスキルを組み合わせているか説明した。チームは、ロシアのシステムに入り込み、狙撃手と共に動き、最新技術を展開しているのだという。
この部門では人工知能(AI)を用いた映像認識システムで、ドローン(無人機)が空から集めた情報と、人材や人工衛星、その他の技術的資源から得た情報を分析し、軍に標的の情報を提供している。
「ロシア側がどの兵器を使い、どの方向に攻撃してくるのか、こちらはわかっている」と、ヴィチュク氏は述べた。
ヴィチュク氏のチームはまた、ロシア占領地域の監視カメラをハッキングし、ロシア部隊の動きを見ているという。また、ウクライナ側の動きを偵察しているロシアのカメラに、ドローン攻撃を仕掛けている。この攻撃のため、チームはしばしば標的の近くまで潜入しなくてはならないという。
この戦争ではドローンが技術革新の最先端を担い、偵察にも攻撃にも使われている。
SBUのサイバーチームは自分たちのドローンを飛ばし、ロシアのドローンといたちごっこを繰り広げている。他のドローンを検知するセンサー機器も展開することで、オペレーターはただ相手を妨害するだけでなく、着陸命令を送り、制御を試みる。
こうした作戦は、近距離の操作を必要とすることが多い。つまり、チームのメンバーへの危険が伴う。ヴィチュク氏は、「現場の隊員を守らなければならないので、周辺の警備が必要だ」と話す。
首都キーウの近郊では、ドローンの操縦訓練が行われている。
アントンさんはかつて、富裕層相手の旅行ガイドとしてドローンを操縦していた経験がある。アントンさんによると、最も重要な訓練は、ドローンを飛ばし方ではなく、いかに居場所を察知されずに生き延びるか、その方法を教えることだという。
戦争の初期には、小さなドローンを前線から最大10キロ離れたところから飛ばしていた。しかしウクライナのドローン操縦士は現在、ロシアの妨害電波をかいくぐるため、さらに近いところから作戦に当たっている。
頭上を飛ぶドローンを見ながら、アントンさんは「前線までの距離はどんどん短くなっている」と話す。「妨害電波より、我々とドローンの接続の方が強力でなくてはならないので」。
ヴィチュク氏によると、ロシアの情報機関もサイバーチームの一部を前線に近づけているという。
これは軍との通信を高速化し、押収したウクライナの機器や近くの通信手段に迅速かつ直接アクセスできるようにするためだ。
押収したウクライナの機器からは、ロシアの手に渡ったと相手が気づくまでの間、戦術情報が収集できる。
サイバー紛争は、2022年2月の全面侵攻が始まる前から軍事作戦と密接に結びついていた。侵攻の1カ月前、ロシアはウクライナの複数の公的機関ウェブサイトをオフラインにすることで、市民をパニックに陥れようとした。
「明らかに心理作戦だった」とヴィチュク氏は言う。ウクライナはほとんどのシステムを復旧できたが、侵攻の数時間前にも新たなサイバー攻撃の波があった。最も効果的だったのは、ウクライナ軍が通信に利用していたアメリカの人工衛星プロバイダーを数時間ダウンさせたことだ。
短期決戦を目指したロシアの作戦が失敗し、残虐行為の報告が出るにつれ、情報の流れをコントロールする重要性が増した。このことは、2022年3月1日にキーウのテレビ塔がミサイル攻撃とサイバー攻撃を受けて、いっそう明確になった。
ウクライナの通信サービス保護当局のユーリイ・シュチホル氏は、「ロシアは、ウクライナ国民が信頼できる情報を得る手段を奪おうとした」と話した。シチホル氏の後ろに立つテレビ塔には、ミサイル攻撃による黒い傷跡がまだ残っている。この時はエンジニアが代替機器を探し回り、数時間でテレビ放送が復旧した。
ミサイルは同じ場所にあるデータセンターにも直撃した。しかし重要なデータは、西側のテクノロジー企業の支援で、この年の初めに遠隔地のサーバーに移してあったという。
「ウクライナがこの戦争に耐えられたのは、システムを構築したウクライナのスペシャリストのおかげ、そしてパートナーからの支援のおかげだ」と、シュチホル氏は話した。
ウクライナの技術者たちも、戦争に寄与している。キーウにある狭いオフィスでは、若いボランティアが「グリセルダ」と呼ばれるシステムをどのように構築したかを説明している。グリセルダはソーシャルメディアやその他のソースからデータをかき集め、最新の状況情報を提供する。これをもとに軍や政府は、地雷がどこに敷設されている危険があるかから、どこのどういうインフラの修理が必要かまで、さまざまな内容を把握できる。
テレビ塔とデータセンターを襲ったミサイル攻撃と共に、サイバー攻撃も行われた。それ以降、ミサイル攻撃とサイバー攻撃は同時に行われることが多くなった。
ウクライナのサイバー防衛を監督するウクライナ国家特殊通信・情報保護局副局長のヴィクトル・ゾラ氏は、サイバー攻撃は今も容赦なく続くと話す。24時間365日稼働している事故対応施設を案内しながら、ゾラ氏は「これがウクライナのサイバー防衛の心臓部分だ」、「いつも忙しい」と語った。
壁にかけられたスクリーンには、開戦以来の浮き沈みが表示されている。政府が最大の標的だ。我々がオフィスにいる間、若いスタッフたちはインフレ率の発表を遅らせようとする、国家統計局への攻撃に対処していた。
一方、SBUではヴィチュク氏のサイバーチームが、ロシアのスパイ組織のエリートハッカーに対抗するため、自分たちのハッカーにコンピューターシステムに侵入させ、通話を盗聴させていた。
「『ロシアには最強ハッカー集団がいる』という神話がかつてあったが、ウクライナはそれを打ち壊したと、私は常々言っている」とヴィチュク氏は言う。ウクライナとロシアのサイバ戦はむしろ、お互いをよく知る、ほぼ互角の格闘家同士が、リングの中でぶつかりあっているようなものだとも言う。簡単な戦いではないし、危機一髪の状況もあったと付け加えた。
その上で、ウクライナはロシアのシステムに働きかけることで、そのサイバー攻撃に耐えてきたのだと話した。
ロシア政府はサイバー技術のほとんどすべてを、ウクライナに対してつぎこんでいる。そのため、西側の標的を攻撃する余力はほとんどない。
しかし、もしウクライナが陥落すれば、ロシアのサイバー攻撃は別の場所に向かうだろうと、ヴィチュク氏は警告する。
しかし、ロシアの敵対勢力と戦う中で、ウクライナや他の同盟国もまた、テクノロジーを現代の戦場に統合する新たな方法を学んでいる。
●反転攻勢ロボティネ奪還 強固な防衛線を突破したウクライナ軍の戦いとは 9/8
防衛線を突破し、南部ザポリージャ州のロボティネを奪還したウクライナ軍。1平方メートル当たり5個の地雷があるとも言われる強固な地雷原を、どうやって突破したのでしょうか。そして、ロシア軍を凌駕したという対砲兵戦と、塹壕を攻略した兵士の命を守る戦いとは…。南部戦線の激戦のリアルをよく知る元ウクライナ軍参謀本部の報道官に聞きました。
軍事アナリスト ゼルジニョフ氏「ウクライナ戦争は『火砲の戦争』だと言われています。破壊された敵の火砲の数が多ければ多いほど、ロシア軍の利用できる火砲は少なくなります。対砲兵戦は敵の戦闘能力を低下させるのです」
ウクライナで展開されているのは「火砲の戦争」だと指摘するのは、元参謀本部の報道官で、現在は軍事アナリストのゼルジニョフ氏。ウクライナ軍が、ロシアの最初の防衛戦を突破し、南部ザポリージャ州の町・ロボティネを奪還できたのも、大砲を打ち合う対砲兵戦で優位に立ったからだと指摘します。
ゼルジニョフ氏「ウクライナ軍は空中偵察、後方偵察を使って敵の大砲の位置を特定し、それを射程距離の長い高精度の兵器で攻撃をしかけ、ロシア軍の戦闘能力を低下させることができました」「直近3カ月でウクライナ軍は2000以上の火砲などを破壊しました。これは非常に大きな数値です」
大きな戦果にはわけがあります。2014年、ロシアがクリミアに侵攻した時から開発を始めた火砲を制御するソフトウェアが威力を発揮したと言うのです。
ゼルジニョフ氏「9年にわたって開発してきたソフトのおかげで火砲の設定は時間がかからなくなり、数10秒で攻撃が出来るようになりました。ロシア軍は攻撃を行った後、急いで別の場所に移動しようとしますが、その最中にウクライナ軍に攻撃されるので、逃げられないのです」
その結果、ロシア側からの砲撃が減り、地雷の除去が進みました。しかし、ロシア軍の地雷原は想像を超えたものでした。
ゼルジニョフ氏「ロシア軍が設定した高密度の地雷原は、レズニコフ元国防大臣によると1平方メートルあたり5つの地雷があります」「地雷除去のための兵器が不足しているため、多くの場合は手作業で地雷を取り除いていました。『工兵は一生に1回だけ失敗できる』ということわざがあるぐらいなので、どれだけ危険な作業だったのか想像できると思います」
地雷を除去した後、ウクライナ軍は少人数の部隊で敵陣を襲撃。 ロシア軍の塹壕を攻略し、前進を続けたと言います。その時、あえて少人数の部隊を編成しましたが、それは、兵士の命を守るためでした。
ゼルジニョフ氏「戦地にいる兵士曰く、露軍の一番恐ろしい兵器は戦車ですが、それよりも恐ろしいのはヘリだと言います。ヘリは空中に浮いている戦車のようなもので、ウ軍の陣地が良く見えるし、ピンポイントで攻撃を行うことができます。このような状況なので、大きな損失を避けるためには小さなグループを使うしかありません。兵士や装甲車等を一か所に集中させると、致命的な損失を追うことになるからです」「ウクライナ軍は、慎重に合理的に行動することで過剰な損失を避けるようにしているのです」
●ウクライナ各地にミサイル攻撃 行政庁舎も破壊、警備員1人が死亡 9/8
ウクライナのゼレンスキー大統領と英国のスナク首相は7日、電話で協議し、黒海を通じた食料輸出について話し合った。両国が発表した。英首相官邸によると、スナク氏は9日にインドのニューデリーで開幕する主要20カ国・地域首脳会議(G20)で、諸外国との協力を強めることをゼレンスキー氏に約束したという。G20首脳会議でも、ウクライナの食料輸出やロシアへのエネルギー関連への制裁など、ウクライナ情勢も議題の一つになるとみられる。
ロイター通信によると、ニューデリーに到着したイエレン米財務長官は8日、「ロシアのウクライナ侵攻が世界の成長を妨げている」と批判。G20の場でウクライナに対する国際的な支援の強化に取り組むと述べた。ロシアのプーチン大統領はオンラインも含め、G20首脳会議を完全に欠席する。
一方、ウクライナでは8日も各地でロシア軍によるミサイル攻撃が相次いだ。
ゼレンスキー氏の故郷であるウクライナ中部ドニプロペトロウスク州クリビーリフでは8日朝、警察署など市の行政庁舎がミサイル攻撃を受け、警備員1人が死亡、これまでに52人が負傷した。ウクライナ非常事態庁や市当局がSNSに投稿した。
さらに、ウクライナ非常事態庁のSNSによると、同日朝、北東部スーミ州の集合住宅にロシア軍のミサイル攻撃があり、20以上の住居が被害を受けた。中南部ザポリージャ州ザポリージャ市でもロシア軍による攻撃があり、1人が負傷したという。

 

●支配の既成事実化進めるロシア、ウクライナ4州で「選挙」強行… 9/9
ロシアで8日、統一地方選の投票が始まった。プーチン政権が昨年9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州の露軍支配地域では、露側の代表を選ぶ「選挙」が強行されている。プーチン政権は支配の既成事実化を進めている。
今回の統一地方選は、モスクワ市長選など21か所で首長選、ウクライナの4州を含む20か所で議会選が行われる。多くの地域で投票は3日間行われ、開票日は10日。プーチン政権は来年3月の大統領選を前に、与党「統一ロシア」の圧勝を演出したい考えだ。
ロシアが一方的に併合を宣言したルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの4州の議会選は、政党名を選ぶ比例代表制。ロシアの支配を望まない住民は多くが避難しており、いずれの州でも与党が圧勝するとみられる。
4州では8月末から期日前投票が行われており、ロシア通信によると、ヘルソン州の露側関係者は「投票率は50%を超えた」と語った。安全確保を目的に多数の人が集まる投票所を置かず、選挙管理委員会の職員が投票箱を持って住居などを巡回するケースも多いという。
ウクライナや米欧各国は選挙を強く非難し、各国に結果を認めないよう呼びかけている。米国のブリンケン国務長官はX(旧ツイッター)で、「ロシアによるウクライナの占領地域での偽の選挙は違法であり、国連憲章への侮辱だ」と非難した。
●ゼレンスキー氏、プーチン氏との妥協を否定 プリゴジン氏の死を引き合いに 9/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、CNNのインタビューで、ロシアの軍事指導部への反乱を主導したエフゲニー・プリゴジン氏が搭乗機墜落で死亡した件に触れ、プーチン大統領と取引した時に何が起きるかを示していると指摘した。
ウクライナの反転攻勢は4カ月目に入り、これまでのところ戦果は控えめなものにとどまっている。こうした中でCNNのインタビューに応じたゼレンスキー氏は、ロシアと和平交渉する時期が来たとの見方を否定した。
「誰かと妥協や対話をしようとする時、相手がうそつきでは無理だ」(ゼレンスキー氏)
プリゴジン氏はプーチン氏の権威を脅かす反乱を試みた後、劇的な死を遂げた。ゼレンスキー氏はこれを警鐘として受け止めるべきだと示唆した。
米国や他の主要支援国はウクライナへの兵器供与を続けており、「公正で持続的な」和平を模索する状況はまだ整っていないと強調している。ただ、ブラジルのルラ・ダシルバ大統領など一部の指導者からは、戦争を集結させる責任はウクライナにあるとの見方も出ている。
ゼレンスキー氏は自らの立場の証拠として、ロシア軍に攻撃され、今なお部分占領されている国々に言及。「プーチン氏が他の問題で妥協するのを目にしたことがあるか。ジョージアやモルドバに関して妥協しただろうか」と問いかけた。
前線からの情報によると、ウクライナはロシア軍との激しい戦闘のなか、南部で徐々に戦果を挙げている様子だ。
撮影地が確認された8日の動画には、砲弾で空いた穴や放棄された塹壕(ざんごう)、破壊された兵器が散乱する荒廃した土地が映っている。一帯はロボティネ村、ベルボベ村、ノボプロコピウカ村の間にある地域で、ウクライナがロシアの守備の要衝トクマクに接近するためにはこの3村が重要になる。
●米副大統領、「北朝鮮、ロシアへの弾薬供給は大きな間違い…孤立が深まる」 9/9
ハリス米副大統領が、北朝鮮とロシアの兵器取り引きの可能性について「大きな間違いであり、国際社会で両国の孤立を深めるだろう」と批判した。
ハリス氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席するため訪問中のインドネシア・ジャカルタで7日(現地時間)、米CBSニュースのインタビューを受け、「(北朝鮮がロシアに)弾薬を供給するという構想は大きな間違いになるだろう」とし、「ロシアと北朝鮮の孤立を深めることになると強く信じている」と強調した。
ウクライナ戦争の長期化と物資の不足に苦しむロシアが非常に切迫した状況だと診断し、「彼らはすでに戦略的失敗を経験している」と指摘した。昨年2月のウクライナ侵攻当時、ロシアは「わずか数日でウクライナ全体を占領することができる」と自信を持っていたが、完全に誤った判断であることが明らかになり、今も戦闘を続けていることを指摘した。
シドニー・サイラー元米国家情報局北朝鮮担当官は同日、「ロシアが北朝鮮の通常戦力を最新化できるよう支援すれば、北朝鮮の核の脅威も大きくなる可能性がある」と懸念した。一部では、北朝鮮とロシアの接近で、米国と同盟国もアジア版北大西洋条約機構(NATO)を推進する可能性が高まるなど、北東アジア全体の緊張が高まっていると指摘した。
●イーロン・マスク氏 衛星通信網の利用 ウクライナの要請応じず 9/9
アメリカの起業家、イーロン・マスク氏は、自身の会社が開発した衛星通信網について、ウクライナ政府から、戦況の焦点の1つとなっている南部クリミアで利用したいという要請を受けたものの、戦争の激化に加担することになるとして応じなかったと明らかにしました。
マスク氏は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻以降、ウクライナ国内で深刻な通信障害が発生していることを受けて、自身が率いる「スペースX」の衛星を使ったインターネット接続サービス、スターリンクを提供してきました。
このサービスをめぐり、アメリカメディアは近く発売されるマスク氏の伝記に触れる形で、マスク氏が戦況の焦点の1つとなっている南部クリミアのロシア海軍の艦隊に対するウクライナの奇襲攻撃を防ぐため、接続を切るよう社内の技術者に命じていたなどと報じました。
これについて、マスク氏は7日、自身の旧ツイッター、Xへの投稿の中で「問題となっている地域では、スターリンクの接続は有効でなかった」として、接続を切ったとする報道を否定しました。
そのうえで、ウクライナ政府からスターリンクを利用したいという要請を受けたことは認め、「ロシア艦隊を沈める意図は明白だった。同意していたら戦争の激化に加担することになっただろう」と述べ応じなかったことを明らかにしました。
マスク氏は、一連の投稿の中で戦争に若者たちの命を奪う価値はないとして、ウクライナとロシアの双方に停戦を呼びかけています。
●マスク氏、ウクライナのスターリンク使用要請を拒否 「ロ攻撃を意図」 9/9
米起業家のイーロン・マスク氏が昨年、同氏が率いる宇宙開発企業スペースXの衛星通信サービス「スターリンク」をクリミアの港湾都市セバストポリで使用したいとするウクライナ側の要請を拒否していたことが分かった。
CNNが来週発売される同氏の伝記の抜粋を報じた後、マスク氏自身がX(旧ツイッター)に投稿した。
伝記によると、マスク氏は昨年、クリミアの沿岸付近でスターリンク・ネットワークの停止を命じていた。ウクライナ側からセバストポリまでスターリンクを稼働させるよう緊急要請があったが、これには停泊中のロシア艦隊を攻撃するという明らかな意図があったとみられ、重大な戦争行為と紛争の激化に明確に加担することになるため拒否せざるを得なかったとした。
要請があった日付は明らかにしなかった。
●ウクライナ大統領、対ロシア制裁の強化を同盟国に呼びかけ 9/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、同盟国がロシアに対する制裁の手を緩めているとし、ロシア制裁を強化するよう求めた。
ゼレンスキー大統領は毎夕のビデオ演説で、制裁を逃れようとするロシアの動きは非常に活発と指摘。「世界の制裁攻勢は再開されなければならない」とし、とりわけロシアのエネルギー部門やマイクロエレクトロニクスへのアクセス、金融部門に圧力をかけることに焦点を当てるべきと述べた。
またこれに先立ち、ウクライナの首都キーウ(キエフ)で行われた会合で、ロシア軍を撃退するための武器の確保が困難かつ、ペースが遅くなっているとし、「戦争は減速している」と言明した。さらに、ウクライナ軍がより強力な武器を入手できれば、南部と東部における戦闘でより迅速に前進することが可能という認識を示した。
●プーチン大統領がプリゴジン氏を殺害、ウクライナ大統領が主張 9/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏が死亡した背後にはロシアのプーチン大統領がいると述べた。ただ根拠は示さなかった。
キーウ(キエフ)で開かれた会議で、プーチン大統領に関する質問に対し「プーチン氏がプリゴジン氏を殺害したという事実は少なくともわれわれ全員が知っている情報だ」と語った。
●国連、ロシアにSWIFT決済網への30日以内の接続可能と伝達 9/9
国連がロシアに対し、ロシア農業銀行がルクセンブルクにある子会社を通じて国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網に30日以内に「実質的に接続できるようにする」と伝えたことが8日、分かった。ロイターが書簡を確認した。
国連のグテレス事務総長は8月28日、ロシアのラブロフ外相に「SWIFTは、RSHBキャピタルが現在の債券発行者としての地位に基づいて加盟を申請し、SWIFTの食品・肥料取引にアクセスする要件を満たしていることを確認した」と伝えた。
ロシアは今年7月に黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意を離脱しており、グテレス氏はロシアに復帰するよう説得するためにロシアの穀物・肥料輸出の改善を促進させる4つの措置を説明した。
グテレス氏はラブロフ氏に対し、国連は「ロシア連邦の黒海イニシアティブへの復帰と全面的な運営再開につながるという明確な理解に基づいて」あらゆる措置を直ちに進める用意があると語った。
ロシア外務省は今月6日の声明でグテレス氏の提案に懐疑的な見方を示し「ロシアが得たのは実際の制裁の適用除外ではなく、国連事務局からの新たな約束だけだった」と表明。「これらの最近の提案に新しい要素は含まれておらず、わが国の農産物輸出を正常な状態に戻すという点で具体的な進展をもたらす基盤にはなり得ない」と主張した。
●併合4州のロシア議会選挙を批判 安保理で日米欧「茶番」 9/9
国連安全保障理事会は8日、ウクライナ情勢を協議する公開会合を開いた。ロシアが昨年9月に併合を宣言したウクライナ東部・南部4州で議会選の投票が始まったことに対し、日本と欧米からは「茶番だ」(フランスのドリビエール国連大使)などと批判が相次いだ。
議会選は今月10日のロシア統一地方選に合わせたもの。日本と欧米は、ロシアが併合の根拠とする昨年9月の「住民投票」に正当性はなく、併合は無効だと強調した。
米国のウッド国連次席大使は、4州を支配下に置いているとアピールするための「プロパガンダでしかない」と一蹴した。日本の石兼公博国連大使も「全く受け入れられない」と語った。
●日トルコ首脳が会談、ロシアのウクライナ侵攻巡り協議 G20控え 9/9
日本の岸田文雄首相とトルコのエルドアン大統領は、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)前にインドの首都ニューデリーで会談し、ロシアによるウクライナ侵攻について議論したと、日本の外務省が声明で発表した。
両首脳は会談で、地域情勢についても意見を交換したほか、両国間の経済パートナーシップについても議論したという。 
●ロシアは既に「敗北」、国力も「衰退の過程に」 西側当局者 9/9
西側政府の当局者は9日まで、ウクライナでの戦争に触れ、ロシアは征服を狙った初期のもくろみに失敗しており、敗北を喫した状態に既にあるとの見方を示した。
記者団への背景説明で述べた。前線におけるウクライナ側の戦果は、ロシアの侵略にあらがう全般的な成功を読み解く目安とはなり得ないとも主張した。
ウクライナ側が約2カ月前に着手した反転攻勢は、ロシア軍側の十分な防御態勢もあり、段階的にしか進展していない状況にある。初期の見立てより遅々としているが、ロシアは既に支配地をめぐる戦いで負けていると指摘した。
制圧地域をめぐる戦いは非常に長引くだろうとしながらも、戦況の分析あるいは侵攻でロシアが見据えていた目標の達成の有無などに基づくのなら、「ロシアは(既に)敗れた」と断じた。「ロシアの力は弱まっている。衰退の過程をたどっている」とも言い切った。
ロシアが奪った(ウクライナの)領土を保持し得るなら、それは勝利を意味するとの考え方はばかげているとも断言。「ロシアは(侵攻で)北大西洋条約機構(NATO)の結束を強めさせ、フィンランドとスウェーデンが新たに加盟する勢力圏拡大の機会を招いた」と続けた。
「ウクライナをNATO加入への道に導き、欧州連合(EU)にも合流させる可能性も生じさせた」とも説いた。
「仮にあなたがプーチン(大統領)なら、トランプ前米大統領が次の大統領選で勝利することにまず賭けるだろう。ただ、これには長い時間がかかる」とも話した。ロシアの民間軍事企業「ワグネル」の創始者プリゴジン氏による反乱行動にも触れ、「ウクライナでの戦争がうまく進んでいたのなら起きてはいなかった」とも結論づけた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は最近、今年6月半ばに踏み切った反攻は前進を果たしているとの認識を表明。ウクライナ軍は先に、反攻の主要戦場の一つとなっている中南部ザポリージャ州でロシア軍の「第1防衛線」を突破したとの戦果も発表していた。
●G20共同声明草案、ウクライナ戦争巡り相違解消できず 9/9
20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で議長国を務めるインドのシェルパ(首脳の個人代表)は8日、共同声明案の策定に取り組んだものの、ウクライナでの戦争に関する見解の相違を解消することはできず、最終的な声明の内容は首脳会議での決定に委ねられることになった。
38ページに及ぶ草案では、気候変動や暗号通貨、多国間開発銀行の改革を含む75のパラグラフでは合意に至ったものの、「地政学的状況」に関する部分は空白のままとなっている。
モディ首相のシェルパ、アミターブ・カント氏は記者会見で「声明はほぼ出来上がっている」とし、首脳会議に提出され承認されると述べた。詳細は明らかにしなかった。
声明は「グローバルサウス」と途上国の「声」になるという。
ある関係筋筋はロイターに対し、共同宣言は全会一致とはならない可能性もあると語った。共同宣言には、各国の見解を記した異なる記述がなされる場合や、一つのパラグラフに合意と反対を併記する場合があり得るという。
また、別の関係筋によると、「見解の相違を取り繕い、世界全体で平和と調和を保つべきという一般的な声明」が出される可能性もある。
G20加盟国のある高官によると、ウクライナの戦争に関するパラグラフは西側諸国間で合意され、ロシア側に送付され意見を求めたという。
欧州連合(EU)外交筋は、インドは合意点を探る議長国として「素晴らしい」仕事をしていると述べた。その上で「今のところロシアが、他の誰にとっても受け入れ可能な妥協案を阻止している」とした。
中国の習近平国家主席はサミットに出席しないものの、中国外務省の報道官は8日、サミットで前向きな成果を得ることを後押しするため、全ての関係者と協力する用意があると言明した。
●G20首脳が共同声明で合意、ウクライナ戦争巡る相違解消−印首相 9/9
20カ国・地域(G20)首脳会議がインドの首都ニューデリーで9日開幕。首脳らはウクライナ戦争に言及する文言に関する立場の違いを乗り越え、共同声明で合意した。インドのモディ首相が明らかにした。同首相によると、米国が2026年のG20サミットを主催する計画だという。
ソーシャルメディアに投稿された動画によれば、モディ氏は他の首脳らに、「朗報がある。われわれのチームの懸命な取り組みにより共同声明に関してコンセンサスが成立した」と伝えた。
この数時間前、G20の外交官らはウクライナでの戦争に関する文言の妥協案で合意していた。ロシアと同国以外のメンバーとの立場の違いからサミットで共同声明がまとまるかどうか不透明になっていた。
内部の協議に関する情報だとして事情に詳しい複数の関係者が匿名で明らかにしたところでは、ウクライナ戦争に関する文言は昨年のバリ・サミットで合意したものに近い内容。
米国と同盟国はバリ・サミットよりも強くロシアを非難する文言を求めていた。一方、ロシアはより穏やかな文言を要求。結局、双方が外交的勝利を主張できる妥協案で落ち着いた。
●ウクライナ軍精鋭旅団 集落を奪還 “戦術変更が成果に” 9/9
ウクライナ南部の要衝につながる集落を奪還したウクライナ軍の精鋭とされる旅団の兵士がNHKの取材に応じ、反転攻勢が始まった当初の戦術を変更し、より小さなグループに分かれて前進を試みたことが、成果につながったと明らかにしました。
NHKのオンライン取材に8日応じたのは、第47独立機械化旅団の兵士、オレグ氏です。
この旅団は、欧米から供与された主力戦車の「レオパルト2」などを運用する精鋭として知られ、南部ザポリージャ州の最前線でロシア軍と戦闘を続けています。
旅団は先月、ザポリージャ州の要衝トクマクにつながる集落、ロボティネを奪還していて、オレグ氏は「長い時間をかけて住民のもとへたどりつくことができた。感無量で、戦いを続ける上での自信となるような経験だった」と述べました。
この旅団は、ことし6月に反転攻勢が始まった当初は、ロシア軍の地雷原で欧米から供与された複数の戦闘車両を失うなど、大きな損失を出したと伝えられています。
これについてオレグ氏は「私たちの当初の失敗は、大きな部隊で前進したことだった。幾度かの失敗のあと、5人から10人程度の小さなグループで敵の陣地に向かうことにした」と述べ、より小さなグループに分かれて損失を最小限に抑えながら前進を試みたことが、成果につながったと明らかにしました。
また、ウクライナ軍は、欧米による支援で夜間の戦闘を可能にする暗視装置がロシア軍より充実しているということで、暗闇にいる敵の位置を把握できたことも前進する上で役立っているとしています。
ただ、オレグ氏は「突破口を広げるためには、より広い範囲で地雷を撤去しなければならない」と述べ、より多くの地雷撤去の機材が必要だと訴えました。
また、偵察などで大きな役割を果たしてきた無人機が、ロシア軍の電子戦システムで妨害を受けているとして、敵の陣地にある電子戦の兵器を破壊するためにも、F16戦闘機を含めた航空戦力の強化が不可欠だと強調しました。
今後の反転攻勢の見通しについては「防衛線の突破は、すぐにはできない。損失を抑えつつ、慎重に進む方がよい」としながらも「ザポリージャ州では秋の雨が降るのが他の地域より遅い。私たちは行けるところまで行くだろう」と述べ、ロシア軍の補給を断つため要衝のトクマクを経てアゾフ海に近い都市のメリトポリやベルジャンシクにまで部隊を進めたいと意気込みました。
第47独立機械化旅団とは
ウクライナ軍の第47独立機械化旅団は、主力戦車の「レオパルト2」や歩兵戦闘車の「ブラッドレー」など、欧米から供与された主要な兵器も運用する精鋭部隊として知られています。
現在は、南部ザポリージャ州の最前線でロシア軍と激しい戦闘を続けています。
ウクライナの軍事専門メディアなどによりますと、この部隊は、ロシア軍による侵攻直後の去年4月に結成され、その後、増強を繰り返して去年の秋、独立した旅団として再編されたということです。
旅団の規模について、アメリカの「フォーブス」誌は、発足当初は、400人ほどだったとしていますが、去年の秋に再編されたころには、およそ4000人に拡大したと伝えています。
ことし6月に始まった反転攻勢の当初は、ロシア軍が設置した地雷原を進む中で、複数の「レオパルト2」や「ブラッドレー」を失ったと報じられましたが、その後、およそ2か月かけて少しずつ南下を続け、先月22日、戦略的な要衝トクマクにつながる集落ロボティネに到達。
解放を喜ぶ住民の姿や、破壊された学校にウクライナ国旗を立てたとする映像を公開し、集落の奪還をアピールしました。
この旅団についてはロシアの国営通信社も「ドイツにあるアメリカ軍の基地などで訓練を受けていた」と指摘し、ウクライナ軍の「精鋭部隊」だと表現しています。
●ロシア軍 ウクライナ東部 南部で攻撃 各地で犠牲者相次ぐ 9/9
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、9日朝にかけてウクライナ東部や南部など8つの地域に攻撃したと伝えられ、各地で犠牲者が相次いでいます。一方、ウクライナ軍は南部ザポリージャ州でロシア側の強固な防衛線に進軍しロシア軍を消耗させているとの分析もあり、反転攻勢を加速させられるか焦点となっています。
ウクライナでは8日、東部ドニプロペトロウシク州のクリビーリフで、ロシア軍による攻撃があり、内務省などによりますと、警察署や集合住宅などが被害を受け、警察官1人が死亡しました。
地元メディアは9日、この攻撃で74人がけがをしたと伝えています。
さらに、南部ヘルソン州の当局は、ロシア軍による砲撃で市民3人が死亡したと明かすなど、各地で犠牲者が相次いでいてウクライナの地元メディアは、9日朝にかけて、ロシア軍による攻撃が8つの地域に及んだと伝えています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、首都キーウで行われた会合で、各国からの軍事支援に感謝の意を示すとともに「解放された面積ごとに人の命がかかっている。より強力で長距離であればあるほど反転攻勢はスピードが上がり領土回復も早まる」と述べ、さらなる支援を訴えました。
こうした中イギリス国防省は9日、ウクライナ軍が先月下旬に奪還を発表した南部ザポリージャ州の集落ロボティネの東にあるロシア側の強固な防衛線に前進し、ロシア軍を消耗させているとの分析を発表しました。
ロシア軍はほかの前線の部隊をロボティネ周辺に再配置した可能性が高く、部隊を送った前線では攻撃能力が低下している可能性が高いと指摘していて、ウクライナ軍が反転攻勢を加速させられるか焦点となっています。
●国連高官 “ロシアのウクライナ占領地域の選挙 法的根拠なし” 9/9
ロシアが、併合を一方的に宣言したウクライナの4つの州で、選挙だとする活動を行っていることについて、国連安全保障理事会の会合で国連の高官は「占領地域での行為で法的な根拠がない」と指摘したほか、アメリカなど欧米各国からは「偽の選挙だ」などと非難が相次ぎました。
国連安保理では8日、ウクライナ情勢をめぐる会合が開かれ、ロシアが去年9月に併合を一方的に宣言したウクライナ東部と南部の4つの州で選挙だとする活動を行っていることについて発言が相次ぎました。
はじめに報告した国連の高官は去年の一方的な併合宣言は国際法違反で無効だとした国連総会の決議を強調し「占領地域でロシアが実施しているいわゆる選挙には法的な根拠がない」と指摘しました。
このあとアメリカのウッド国連次席大使は「偽の選挙はプロパガンダにすぎない。ウクライナでの軍事的損失をロシア国民から隠すため選挙での成功をねつ造しようとしている」と非難したほか、日本の石兼国連大使は「違法な併合に続く行為で断じて容認できない」と述べるなど、欧米など各国から非難が相次ぎました。
これに対してロシアのネベンジャ国連大使は「去年の投票で住民たちは自由な選択を行い私たちの国を支持した」と述べて併合を改めて正当化し、「われわれに対する新たな攻撃の口実にしようとしている」とアメリカなどを非難しました。
●林外相 ウクライナ訪問 ゼレンスキー大統領と会談 9/9
林外務大臣は、日本時間の9日、ウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領を表敬訪問しました。これに先だち、ロシアによる軍事侵攻で多くの市民が犠牲となったキーウ近郊のブチャを訪れ、犠牲者を追悼しました。
ポーランドを訪れていた林外務大臣は日本時間の9日午前、列車でウクライナに入りました。
去年2月にロシアによる軍事侵攻が始まってから、日本の外務大臣がウクライナを訪問するのは初めてです。
まず、日本時間の午後2時すぎ、ロシアによる侵攻で多くの市民が犠牲となった首都キーウ近郊のブチャを訪問し、遺体が埋められていた教会を訪れ、犠牲者を悼んで慰霊碑に献花を行いました。
このあとキーウでゼレンスキー大統領を表敬訪問しました。
会談では、ロシアへの制裁とウクライナへの支援を維持・強化するため、G7=主要7か国の議長国として国際社会での議論をリードしていく姿勢を伝えたものと見られます。
そして、ことし7月にG7が発表したウクライナの安全保障に関する共同宣言に基づいて、2国間の協力文書を作成することを確認したものと見られます。
今回の訪問には楽天グループの三木谷浩史社長など通信や医療分野の日本企業の幹部数人が同行し、現地の企業関係者と意見交換を行うことにしています。
林大臣としては、こうした取り組みを通じて日本が官民で連携して支援にあたる方針を強調することにしています。
ゼレンスキー大統領 “日本は重要なパートナー 支援に感謝”
ウクライナのゼレンスキー大統領は、9日SNSに、首都キーウを訪れた林外務大臣と握手をしている写真とともに「日本の林外務大臣をウクライナにお迎えした。日本がアジアにおける重要なパートナーであり続け、ウクライナを支援してくれていることに感謝する」などと投稿しました。
林外相 “2国間協力文書作成へ交渉開始で一致”
林外務大臣は、訪問先のウクライナでゼレンスキー大統領を表敬訪問したのに続き、クレバ外相と会談し、共同記者会見に臨みました。
そして、ゼレンスキー大統領との間で、先にG7が発表したウクライナの安全保障に関する共同宣言に基づいて、2国間の協力文書作成に向けて交渉を開始することで一致したことを明らかにしました。
林大臣は「侵略の生々しい傷あとを自分の目で見て、美しい大地に平和が戻るまで、日本はウクライナとともに歩んでいくとの決意を新たにした。今回の訪問を契機に、両国政府間の連携をさらに強化していきたい」と述べました。
クレバ外相「2国間の関係はこれまでにない高いレベル」
ウクライナのクレバ外相は林外務大臣との共同記者会見で「林大臣を迎えて会談できたことはとてもうれしい。われわれの2国間の関係は歴史的にこれまでにない高いレベルに達した。日本がこれまでにウクライナに供与してくれた人道支援や財政支援を決して忘れない」と強調しました。
また、クレバ外相は、会談で、領土の回復やウクライナからのロシア軍の撤退などを盛り込んだゼレンスキー大統領の和平案に対する支持をアジアで広げていくための議論も行ったとしています。
その上で今回、交渉を始めることで合意したウクライナの安全保障をめぐる日本との2国間協定について今後、積極的に協議を行っていきたい考えを示しました。
●ロシア軍、ベラルーシの部隊撤収 ウクライナ攻撃の兵力もはやなし 9/9
ウクライナ国境警備隊当局者は9日までに、北方の隣国ベラルーシに配備され訓練など受けていたロシア軍の大半が他の地域へ移動し、ベラルーシからウクライナへ地上戦を仕掛けられるほどの十分な兵力の準備はもはやないとの見方を示した。
同隊の報道担当者が首都キーウでの会見で述べた。「(7日の)現段階でロシアは交代制で派遣していた部隊を含めほぼ全ての兵員をベラルーシから撤収させた」と述べた。「新たな部隊の到着もない」と述べた。
一部の中立的な軍事アナリストらは、ベラルーシにいた部隊はウクライナの北東部の前線へ送られたと説明。転戦の地は、北東部ハルキウ州クピャンスク市と東部ルハンスク州クレミンナ市の間ともした。
報道担当者は、ロシア軍は北部チェルニヒウ州、北東部スーミ州やハルキウ州へ頻繁に砲撃を浴びせていると指摘。これらの州はベラルーシの東部と接し、ウクライナとロシアの北部の国境線沿いに位置してもいる。
これら諸州で「敵側はウクライナ領への侵入を試みる破壊工作や偵察の要員集団を動かそうとしている」とし、「これら謀略の大半はスーミ州で起きている」と話した。
ウクライナは最近、北部の国境線の警備強化などを図る措置を発表。国境線近くで一部の活動を禁じてもいた。
ベラルーシは、ロシアによるウクライナ侵略に肩入れする国の一つ。侵攻では、ウクライナ領内に踏み込み、キーウの北部地域まで迫ったロシア軍部隊の出撃拠点ともなっていた。ウクライナとベラルーシの国境線は約1000キロに達する。

 

●ロシアルーブル安と地方選 9/10
9月10日にロシアで行われる地方選は来年3月の大統領選の行方を見極める手がかりとして注目されます。通貨ルーブルの大幅安は一服したものの、インフレ再加速で同国経済の混乱は鮮明。求心力低下が取り沙汰されるプーチン氏の再選シナリオにも影響しそうです。
足元のロシアルーブルは不安定ながら、1ドル=90ルーブル台を維持しています。ただ、春先以降はほぼ一貫して下げ続け、8月には一時100ルーブルを突破。昨年3月以来、1年半ぶりの安値水準で、年初来から4割超も減価しました。下押し圧力は弱まっておらず、一度はサポートラインとして機能した100ルーブルの水準が、今度はレジスタンスラインに変わる可能性もあります。
最近のルーブル安は、主力のエネルギー製品の輸出が大きく落ち込む一方、欧米による制裁を逃れるため欧米以外の友好国からの輸入が膨らんだことが背景とみられます。ロシアはウクライナ戦争以降、この1年半は戦時モードを強めており、その過程で抑止したはずのインフレが夏場以降に再び加速してルーブルを下押し。経常収支の悪化で一段のルーブル安を招く通貨安の連鎖に陥っています。
ロシアの国内総生産(GDP)はコロナ禍によるダメージを克服し、2021年4-6月期にプラスへ浮上。その後22年4-6月期からウクライナ侵攻による制裁で再びマイナスに沈んだものの、今年4-6月期には前年比+4.9%となり、5四半期ぶりにプラスに転じました。インフレ加速やルーブル安でもプーチン氏は2023年のGDPは+1-2%と、21年以来2年ぶりのプラス成長を確保するとの強気な見通しを示しています。
そうしたなか、10日の地方選の結果が注目されます。通常の州議会選挙に加え、ロシアが昨年併合したウクライナ東部など4州の州知事選が焦点です。ウクライナ戦争に突入後、初の重要選挙で、侵攻の是非を問う意味合いもあります。プーチン氏を支える与党「統一ロシア」が多数派を形成できれば来年の大統領選で再選を果たし、2期12年間も政権を維持するシナリオが想定されます。
ただ、直近の議会選で「統一ロシア」は議席を減らしつつあり、これまでのプーチン政権に対する不満が噴出すれば与党は退潮に向かう可能性もあります。プーチンの求心力低下に関する報道が事実だとすれば、選挙結果にも反映されるでしょう。対ロ制裁の継続で経済の回復が期待できないなかでの選挙は、政権運営の盤石さを確認するための試金石になりそうです。
●G20で首脳宣言採択 ウクライナ情勢めぐり ロシアへの直接的非難避ける 9/10
インドで開かれているG20サミット=主要20か国首脳会議で、首脳宣言が採択されました。ウクライナ情勢をめぐり、「核兵器の使用や威嚇は許されない」と強調しています。
ニューデリーで9日開幕したG20サミットには、岸田総理やアメリカのバイデン大統領のほか、中国の李強首相やロシアのラブロフ外相らが参加し、ウクライナ情勢や世界経済の課題について議論しました。
ロシアの侵攻をめぐって各国の対立が深まり、取りまとめが困難とみられた首脳宣言について、議長国インドはロシアを含む各国の合意を得て採択したと発表。
首脳宣言では、ウクライナ情勢に関しロシアへの直接的な非難は避けましたが、「国連憲章に沿って、いかなる国に対しても領土保全や主権に反する武力の行使は慎まなければならず、核兵器の使用や威嚇は許されない」などと明記されました。
●G20で首脳宣言を採択 ウクライナ情勢に「武力行使や威嚇を慎め」 9/10
G20サミットでは首脳宣言が採択されました。ウクライナ情勢を巡っては、「領土を得るための武力行使や威嚇を慎まなければならない」などと明記されています。
首脳宣言では、ウクライナ情勢について「全ての国家は、領土を得るための武力行使や威嚇を控えなければならない」「核兵器の使用や、使用すると脅すことは許されない」と記されています。
さらに「我々は、ウクライナでの戦争が世界の食料とエネルギーの安全保障に及ぼす悪影響を強調した」などとしています。
一方で、「この状況に対する異なる見解や評価があった」として、ロシアに配慮したとみられる文言も盛り込まれています。
●G20 首脳宣言 ロシアを名指しで非難する文言は盛り込まれず 9/10
インドで開かれているG20サミット=主要20か国の首脳会議は9日ウクライナ侵攻について「威嚇や武力の行使を控えなければならない」とする首脳宣言を採択しました。ただロシアを名指しで非難する文言は盛り込まれず、首脳宣言のとりまとめを優先した形となりました。
インドの首都ニューデリーで開幕したG20サミットは、日本時間の9日夜のセッションで、モディ首相が首脳宣言を採択したと発表し、首脳たちが拍手で歓迎しました。
宣言では、最大の焦点となっていたウクライナへの軍事侵攻について「すべての国は領土の獲得のための威嚇や武力の行使を控えなければならない」と明記したほか、「核兵器の使用や威嚇は容認できない」などとしています。
議長国インドのジャイシャンカル外相は「ウクライナの戦争を中心とした地政学的な問題にかなりの時間を費やした」と述べて、ロシアとアメリカなどが激しく対立するなか、議長国として、各国の意見をとりまとめた成果を強調しました。
しかし去年、インドネシアでのG20サミットで盛り込まれたロシアを名指しで非難する文言は盛り込まれず、ウクライナ外務省の報道官はSNSへの投稿で「G20は何も誇れるものはない」などと批判しました。
一方、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意の履行をロシアが停止したことについて、宣言は合意の履行の必要性や、途上国や新興国への支援の重要性を強調しています。
議長国インドとしては欧米とロシアそれにグローバル・サウスの国々の主張を反映させ、首脳宣言のとりまとめを優先した形となりました。
G20サミットは、10日、最後の議論を行ったあと閉幕する予定です。
インド ジャイシャンカル外相「1年前とは状況は異なっている」
インドのジャイシャンカル外相は会見で首脳宣言の採択について、「ここ数日は、ウクライナの戦争を中心とした地政学的な問題にかなりの時間を費やした。特にこの問題においてはインドネシア、インド、ブラジル、南アフリカといった新興国が主導的な役割を果たした」と述べ、インドとともにグローバル・サウスの国々がウクライナ侵攻をめぐる表現のとりまとめに重要な役割を果たしたことを明らかにしました。
一方で去年、インドネシアのバリで開かれたG20の首脳宣言にはあったロシアを名指しで非難する文言がなくなったことについて、会見では記者団からロシアの合意を得るために表現を弱めたのではないかという質問がありました。
これに対しジャイシャンカル外相は「バリはバリ、ニューデリーはニューデリーとしか言いようがない。1年前といまでは、状況は異なっている」と述べるにとどまりました。
その上で、「地政学的な問題に関する8つのパラグラフのうち、7つはウクライナ問題に焦点を当てている。それらは穀物輸出の問題や、食料や肥料の円滑な供給に関する懸念、それに関連するインフラへの攻撃の問題など、いま抱えている重要な問題に応えるものだ」と述べ、成果を強調しました。
ウクライナ報道官 SNSで首脳宣言の一部表現を批判
G20についてウクライナ外務省のニコレンコ報道官は9日、SNSで「強い文言を盛り込もうとしたパートナーに感謝している。しかしロシアによるウクライナ侵攻について、G20は何も誇れるものはない」と述べ、首脳宣言の一部の表現を批判しました。
その上で首脳宣言は現実を反映していないとして、宣言文を赤字で添削したような写真をのせました。
「ウクライナでの戦争」を「ウクライナに対する戦争」に変えているほか、「すべての国は領土の獲得のための威嚇や武力の行使を控えなければならない」としている部分については、「すべての国」を「ロシア」と特定すべきだなどと指摘しています。
EU大統領ら ロシアを非難
EU=ヨーロッパ連合によりますと、ミシェル大統領はG20サミットで演説し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「ヨーロッパの安全保障だけでなく世界に影響を及ぼす」と述べ、地球規模で安全保障やエネルギー環境を悪化させているという認識を示しました。
そのうえで、ロシアがウクライナ産農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止したことについて、「合意から離脱するだけでなく港湾インフラを攻撃し、黒海へのアクセスを妨害している」と述べ、厳しく非難しました。
また、フォンデアライエン委員長も「ウクライナの穀物が黒海を経由して世界の市場に届けられることを求める」と訴えました。
中国 李強首相 処理水の海洋放出には触れず
中国外務省によりますと、李強首相は9日午前、G20サミットで演説し、「G20のメンバーは、団結と協力の初心を守り、平和と発展の責任を担うべきだ」と強調しました。
また「われわれは、地球の緑の故郷をともに守り、海の生態環境を保護しなければならない」と指摘したとしていますが、発表では、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海洋放出には触れていません。
●中国代表 ウクライナ情勢に関する安保理会合で停戦推進を呼びかけ 9/10
国連安全保障理事会は8日、ウクライナ情勢に関する臨時会合を開きました。中国の耿爽国連次席大使は発言し、停戦を促すよう国際社会に呼びかけるとともに、「安保理はしっかりと役割を発揮し、あらゆる平和イニシアチブの実行を推進し、国連による集団安全保障メカニズムの中心的役割を果たすべきだ」と指摘しました。
耿次席大使は発言の中で、「ウクライナ問題における中国の立場は一貫して明確である。すべての国の主権と領土保全は守られるべきであり、国連憲章の趣旨と原則は遵守されるべきであり、あらゆる当事者の安全保障上の合理的な懸念は重視されるべきであり、危機の平和的解決に資するすべての取り組みは支持されるべきであると常に考えている」と改めて強調しました。
また、「ウクライナ危機は複雑に絡み合った要因によるものであることから、その解決にはあらゆる当事者の共同の努力が必要であり、たやすく成功するものではない。いかに困難であろうとも、政治的解決の扉を閉ざしてはならず、戦争を止め、交渉を促す努力を怠ってはならず、外交交渉のプロセスを停滞させてはならない」と指摘しました。
●ウクライナ反攻3カ月 露軍の防衛線突破、要衝トクマク奪還が焦点に 9/10
ウクライナが6月上旬にロシアへの反転攻勢を始めてから3カ月が過ぎた。ウクライナ軍は南部ザポロジエ州でロシア軍の1番目の防衛線を複数地点で突破したとされ、膠着(こうちゃく)状態にあった戦況が徐々に動きつつある。
「我々は今、第1防衛線と第2防衛線の間にいる」。ウクライナ軍で南部作戦を指揮するタルナフスキー司令官は2日付の英日曜紙オブザーバー(電子版)でこう語った。
反転攻勢に備え、ロシア軍が同州に築いた主要な防衛線は3本とされる。地雷原や戦車の走行を阻む溝、障害物などから成る強固なラインだ。ウクライナ側は8月末に第1防衛線の一端がある同州の集落ロボティネを奪還したと発表。9月1日にはマリャル国防次官が第1防衛線を複数地点で突破したと明らかにした。
ウクライナ軍は南下を続け、次の第2防衛線の攻撃に入った模様だ。タルナフスキー司令官は「露軍は時間と資源の6割を第1防衛線の構築に割いた」と推定。第2防衛線に敷設された地雷は限定的で、ウクライナ軍に有利に働くとみる。
ウクライナ軍は反攻開始後、膨大な数の地雷の除去に苦戦し、進軍ペースの遅れが指摘されてきた。米国防情報局(DIA)のモール分析部長は6日付の英誌エコノミスト(電子版)で、今回の第1防衛線の突破は、ウクライナが年内に3本の防衛線を突破する「現実的な可能性」につながるとの見方を示した。
ウクライナ軍は、帯状に広がるロシア占領地域を東西に分断するため、アゾフ海を目指して南進する。「ゆくゆくはザポロジエ州メリトポリや、(ロシアが2014年に併合した)クリミア半島との境までの道を開いていく」(ウクライナのクレバ外相)のが目標だ。
その足掛かりとして、露軍が拠点としている同州の要衝トクマクを奪還できるかが当面の焦点となる。トクマクは、奪還したロボティネの南約25キロに位置する。
一方、露軍側では、東部ルガンスク州に配置していた部隊を南部戦線へと移動させる動きが出ている。米シンクタンク「戦争研究所」は1日付の報告書で、再配置の動きについて「ウクライナ側の前進を踏まえ、防衛の安定性に対するロシアの懸念が高まっていることを示唆する」と分析した。
今後、秋に入るとウクライナでは長雨によって地面がぬかるみ、戦車などの移動が困難になる。その先の厳冬期も戦闘は容易ではない。欧米の軍事支援を継続させるためにも、ウクライナ側がそれまでにどれだけの成果を出せるかが注目されている。 
●ロシア極東で経済フォーラム開幕 12日にプーチン氏演説 9/10
ロシアの極東ウラジオストクで国際会議「東方経済フォーラム」が10〜13日の日程で開幕した。ウクライナ侵攻が長期化し欧米の対ロ制裁が強まる中、プーチン大統領は資源や食料の輸出で中国など「友好国」との連携を強調するとみられる。
ロシア大統領府は9日、プーチン氏が11、12日に東方経済フォーラムに出席すると発表した。11日に極東地域の都市計画についての会合に参加するほか、12日にフォーラムの全体会合に出席し演説する。
外国からは中国の張国清副首相やラオスのパーニー国家副主席が出席する。プーチン氏は各国の代表と個別に会談する予定としている。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が同フォーラムに合わせて訪ロするとの見方も出ている。米紙ニューヨーク・タイムズは4日、ウラジオストクでプーチン氏と金正恩氏が会う計画があると伝えた。実現すれば兵器の取引を協議する可能性がある。
東方経済フォーラムはロシア極東への投資を促進する目的で2015年に初開催され、今年で8回目となる。11日からは各国の政府・企業幹部らが出席するパネル討論が予定されている。
●「プーチン大統領の歴史観」侵攻を続けるプーチンの考え方の根底にあるもの 9/10
ウクライナへの侵攻を止めないロシアで強まっているもの。それは子どもたちへの「軍国教育」です。そこから歴史を都合よく利用しようとするプーチン政権の姿勢が見えてきます。
侵攻を“正当化”するための愛国教育
9月1日、新学期が始まったロシアで行われた、子どもたちへの特別授業。講師を務めたのは…プーチン大統領です。
プーチン大統領「なぜ大祖国戦争(第2次大戦の独ソ戦)に勝てたのか分かった。我々ロシア人に勝つのは不可能だからだ。ロシアは絶対無敵だ」
ロシアの過去の栄光を称え、愛国心を鼓舞するプーチン氏。
生徒「私たちに最も伝えたい思想はどんなことですか?」 
プーチン大統領「ロシアを愛することです」
生徒「素晴らしいアドバイス、ありがとうございます」
ロシアが一方的に併合した地域の子どもからはこんな質問も…
ザポリージャ州出身生徒「この地域はどのように発展していきますか?」
プーチン大統領「人々が大国の一部だと感じられるようにしていきます」
子どもたちに政権のプロパガンダを刷り込むロシア。新学期から使用する歴史教科書でも、「ロシアは英雄の国だ」など、今回の侵攻を正当化する記述が目立ちます。
義務化される“軍国教育”。その影響は
さらにこの秋から全国の高校で義務化されたのが、軍事訓練の授業でした。それに先駆けて行われた訓練では…
その中には毒ガスや生物兵器を想定したものまで…
教官「君たちはいつでも戦地にいる同志に代わる用意ができていなければならない」
生徒「訓練を通して祖国への愛がもっと深いものになりました」
ではなぜ今、ロシアは愛国教育を加速させているのでしょうか。
現在、反転攻勢を続けるウクライナは、南部でロシアの防衛線の一部を突破。
一方のロシアは兵員不足を補うため、2022年9月、予備役の動員に踏み切ったものの、数十万人が国外に脱出するなど混乱が広がりました。
こうした状況の中、愛国教育を受けた若者や子どもたちも将来、戦地に送り込まれる日が来るかもしれません。
ロシアから逃れた元教師は、愛国教育が将来に及ぼす危険性について…
ロシアの元歴史教師「戦争が終わったら軍事化の要素は学校教育から一瞬で消えるが一回覚えてしまうと、子どもの頭の中から簡単には消えない」
軍国主義的な動きを加速するプーチン政権は、真実を隠す動きも
さらに、プーチン政権は、自らに不都合な事実を隠蔽する『言論統制』の動きをエスカレート。
ロシア政府は新たに9月1日、ノーベル平和賞を受賞した独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長ムラトフ氏を、スパイを意味する「外国の代理人」に指定。その活動を制限しました。
19世紀の「絵」から読み解けるものは
軍国主義的な動きを強めるロシア。その根底にあるものは何なのでしょうか?
その象徴として著名な歴史学者が見せたものは“1枚の絵”でした。
19世紀ロシアで描かれた“三姉妹”とされる絵。剣を持つ中央の女性がロシア、左右の2人が妹のウクライナとベラルーシ。プーチン氏はこの絵も引用しながら「3つの国は1つ」と主張しているといいます。
ウクライナ史研究の第一人者は、この絵をもとに、プーチン氏の歴史観をこう説明します。
米ハーバード大学・セルヒー・プロヒ教授「ウクライナは個別に存在する国ではなく、大きなロシア帝国の一つという捉え方。侵略戦争を正当化する手段として、歴史は何度も悪用されてきたが、その最も顕著な人物が、プーチン大統領だ」
“終戦”をめぐっても歴史を利用
過去の歴史を利用するプーチン政権は、いま対日批判の手段としても歴史を持ち出しています。
9月3日、ロシア各地で行われた、「第2次大戦終結の日」の式典。
日本では8月15日を終戦の日としていますが、ロシアでは、日本が降伏文書に調印した翌日9月3日を、これまで「第2次大戦終結の日」としてきました。 
ところが今年は名称を変更。「軍国主義日本に対する勝利」という言葉が加わったのです。
サハリンでの式典に参加した、メドベージェフ氏は日本を一方的に非難しました。
メドベージェフ前大統領「日本は歴史の教訓を学び、第2次大戦の結果を完全に認めるとともに、第3次大戦を防ぐよう努めるべきだ」
そこにはウクライナ侵攻で制裁を科す、日本への敵意が見え隠れします。
自らの都合に合わせ、過去の歴史を利用するロシア。プーチン大統領の偏った歴史観がもたらした戦争は、いまだ終わりが見えません。
●プーチン氏「わが国では逮捕されない」 ブラジル大統領が明言 9/10
20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の次期議長国ブラジルのルラ大統領は9日、ロシアのプーチン大統領が来年のG20サミットに出席する場合、ブラジルで逮捕されることはないと明言した。
プーチン氏はウクライナ侵攻を巡り国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を出されており、ブラジルはICC加盟国。
G20サミットのためニューデリーに滞在しているルラ氏は、出演したテレビ番組で「私が大統領である限り、プーチン氏がブラジルに来て逮捕される可能性はない」と述べ、「簡単に来られるはず」と強調。新興5カ国(BRICS)首脳会議のため、ロシアを訪問する意向も示した。
ニューデリーのG20サミットには、ロシアからラブロフ外相が参加している。
●南部第3防衛線へ前進 ロシア重要拠点“トクマク”攻略の現実味は 9/10
ウクライナ東部ドネツク州コンスタンチノフカで6日、ロシアによる攻撃があり、日中の人出で混み合う商店街が被害を受け、子どもを含む17人が死亡、32人が負傷した。ロシア軍は、地対空ミサイル「S-300」を発射したと見られる。南部クリビー・リフ中心部で7日、ロシア軍の攻撃があり、1人が死亡、73人が負傷した。さらに、ロシア軍は、北東部スムイ州や南部オデーサ州でも大規模なドローン攻撃を仕掛けた。ウクライナ国防省情報総局のスキビツキー副局長は「エネルギーインフラに対するロシアの攻撃が9月下旬か10月上旬に開始される可能性がある」と指摘する。
ウクライナ軍が南部戦線でロシアの防衛線を突破したことで、今後の戦況に及ぼす影響に注目が集まる。米シンクタンク・戦争研究所は7日、米国国防情報局のモール分析ディレクターが「ウクライナ軍が最初の防衛線を突破したことで、2023年末までに、残りのロシアの防御線を突破する現実的な可能性を得た」と述べたことを指摘した。また、同分析ディレクターは「ウクライナ軍は第3防衛線にも進出している」と語った。ウクライナ軍は南部ベルボベの西にあるロシア軍の対戦車塹壕と戦車等の移動を妨げる「竜の歯」を越えるなど、顕著な前進を見せている。大規模反転攻勢の開始から3カ月を迎え、ロシア軍の重要拠点である要衝トクマク攻略が視野に入った。
一方、極東ウラジオストクで4日間の日程で開催されるロシア政府主催の「東方経済フォーラム」で、プーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が12日にも会談を行う可能性が報じられた。金総書記の訪ロ実現により、ロシアが友好国との結束を誇示し、不足する武器の調達を図る狙いがあると見られる。北朝鮮がウクライナに侵攻したロシアに武器供与を行う可能性が懸念される中、サリバン米大統領補佐官は5日、「北朝鮮がロシアに武器を提供すれば代償を払うことになる」と厳重に警告した。
●ロシアのラブロフ外相「ウクライナに議題を集中させる西側の試みは失敗」… 9/10
タス通信によると、ロシアのラブロフ外相は10日、インド・ニューデリーで記者会見を開き、主要20か国・地域(G20)の首脳会議について、米欧などの西側諸国が会議の議題をウクライナ情勢に集中させることに失敗したと強調した。
ラブロフ氏は、「G20は成功に終わった」と述べたうえで、「正当な利益を守るというグローバル・サウスの立場が強固だったため、ウクライナに議題を集中させようとする西側諸国の試みは失敗に終わった」と語った。
9日採択された首脳宣言では、ウクライナを侵略するロシアを名指しで非難するのは避け、「全ての国は領土獲得のため武力を行使してはならない」と明記した。
●G20サミット、1日目に予想外の進展 ウクライナは共同宣言の内容を批判 9/10
インドの首都ニューデリーで9〜10日の日程で開催されている20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、共同宣言の内容が合意に至った。ウクライナでの戦争についての言及も盛り込まれた。
10日に正式に採択される共同宣言では、領土拡大での武力行使を非難したが、直接ロシアを非難するには至らなかった。
ウクライナ政府は、共同宣言について「誇れることは何もない」と述べている。
ロシアの「ウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席は、今回のサミットを欠席している。
サミットではこのほか、気候変動や途上国の債務問題などが話し合われた。
ウクライナは共同宣言の内容を批判
サミット初日の9日は、予想外に大きな見出しが並ぶ一日となった。ウクライナ紛争をめぐるグループ内の対立を考えれば、少なくともこの日に共同宣言を期待する者はほとんどいなかった。
それでもインドのナレンドラ・モディ首相は、宣言の内容で合意に至ったと発表した。
BBCが9日に入手した宣言の草案は、ウクライナの項目だけ空白になっており、土壇場での交渉が続いていることを強く示していた。
昨年11月のバリでのG20サミットと同様、会議の争点はウクライナでの戦争だった。
デリー宣言は、西側とロシアの双方が前向きな面を見いだせるように設計されている様子。しかしその過程では、昨年のバリでの宣言ほど強くはない言葉でロシア政府を非難している。
G20は昨年、ロシアによるウクライナへの侵略を「最も強い言葉で」非難した。ただし、「その状況や制裁について、他の見解や異なる評価もあった」と付け加えた。
一方、デリーでの共同宣言は、戦争についてロシアを直接非難していない。
しかし、「ウクライナにおける戦争が、世界の食料とエネルギーの安全保障に及ぼす人的被害と負の付加的影響」については言及している。また、「異なる見解と評価」を再度認めた。
重要なのは、宣言では「ウクライナに対する戦争」ではなく「ウクライナにおける戦争」と明記されていることだ。この言葉の選択は、ロシアが宣言を支持する可能性を高めたかもしれない。
昨年のG20サミットに招かれたウクライナは、今年は参加していない。今回の共同宣言については批判的な反応を示している。
ウクライナの外務省はソーシャルメディアで、「ロシアのウクライナに対する侵略行為に関して、G20が誇れることは何もない」と指摘した。
ウクライナ政府にとって、ロシアの「侵略」への言及がなくなったのは厳しい状況だ。この戦争の位置づけをめぐり、いわゆる「グローバルサウス(世界の南側に偏っている途上国)」との論争に西側諸国が敗れつつある表れだと、ウクライナとしては受け止めざるを得ない。
アフリカ連合が常任メンバーに
モディ首相はまた、アフリカ連合(AU)をG20の常任メンバーにすると発表した。
インド政府は、開催国の基盤としてこれらの国々の声を高めることを優先した。そして近い将来、アジアとアフリカ全域での影響力をめぐって中国と争うことになる中で、この戦略的選択から報酬を得ようとしている。
14億人の人口を抱えるアフリカ大陸にとっても、G20のような世界的なフォーラムでより広い代表権を持つことになったのは歓迎すべき展開だった。
気候変動でも途上国に焦点
気候変動も活発に議論された。
サミットに先駆けて行われた省庁レベルの会議では、この件に関する合意はなされなかった。しかし関係者らは、「100%の合意」に至ったとしている。
宣言の中で、気候変動に関するギブ・アンド・テイクが起きていることは明らかだ。
G20は、世界の温暖化ガス排出量の75%以上を占める。宣言では、各国は「既存の目標や政策を通じ、再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にする努力を追求し、奨励する」とした。
途上国はこれまで、再生可能エネルギー使用目標の引き上げや化石燃料の段階的削減などについて、抵抗していた。
温室効果ガス排出量のピーク到達については、途上国は時間稼ぎに成功した。ピーク到達後は、排出量を減らさなくてはならない。
今回の宣言では、「持続可能な開発、貧困撲滅の必要性、公平性、そしてさまざまな国情に沿って、ピーク到達の期間を設定できる」と述べている。
専門家らは、今後10年にわたり、世界的な協力を通じて環境危機に取り組む「グリーン開発に関する取り決め」も重要だとしている。
このほか、途上国が低排出移行を支援するため、低コストの資金調達に向けて協力することを約束した。
コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の南アジア主任を務めるプラミット・パル・チャウデュリ氏は、インドはグリーン融資について「そこそこ」の成果を出したと述べた。
「グリーン融資は現在、富裕国から他の富裕国に向けられており、民間資本が中心となっている。新興国でさえ受け取れていない。インドはこれを変えようと、努力してきた。その中心となるのは、多国間開発銀行がグリーン分野で、民間資本の流れのリスクを抑えるための作業を始めることだ」
途上国の債務問題にも懸念が広がっている。世界銀行の計算によると、世界の最貧国は二国間債権者に対して年間600億ドル以上の債務を負っており、これが債務不履行(デフォルト)のリスクを高めている。この債務の3分の2は中国に対するものだという。
G20は今回、こうした国々の債務負担の管理を支援したいと述べている。デリー宣言は、途上国の債務の脆弱性に対処することを約束した。
経済回廊を設置
経済面ではこのほか、アメリカがインドや中東諸国、欧州連合(EU)などと、これらの地域を結ぶ鉄道と海運の経済回廊を設置することで合意した。中国の「一帯一路」構想に対抗するものとして、注目されている。
回廊はインドからサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン、イスラエル、EUを結ぶ予定。貿易に加え、エネルギー資源の行き来やデジタル面での接続性も向上したいとしている。
会見には、アメリカのジョー・バイデン大統領とインドのモディ首相のほか、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子や欧州連合(EU)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長も出席した。
●G20サミット閉幕 ウクライナ侵攻の事態打開の難しさ浮き彫りに 9/10
インドで開かれていたG20サミット=主要20か国の首脳会議は、2日間の日程を終えて閉幕しました。ウクライナ侵攻をめぐり、立場が異なる各国の主張を反映させた首脳宣言が採択されましたが、事態打開の難しさが改めて浮き彫りとなりました。
インドの首都ニューデリーで9日から開かれていたG20サミットには岸田総理大臣やアメリカのバイデン大統領、中国の李強首相、それにロシアのラブロフ外相らが参加し、最後のセッションを終えて閉幕しました。
今回のG20サミットでは、アフリカの国々などが加盟するAU=アフリカ連合が正式なメンバーとして承認され、インドのモディ首相は「2日間の議論で参加したすべての国がさまざまな提案を行った」と述べた上で、今回の成果を来年の議長国ブラジルが引き継ぐことに期待を示しました。
ウクライナ侵攻をめぐり、欧米とロシアなどの激しい対立が続くなか、首脳宣言がとりまとめられるかが焦点となっていましたが、初日に採択されました。
宣言では「すべての国は領土の獲得のための威嚇や武力の行使を控えなければならない」などと欧米の立場を反映した表現を明記したものの、ロシアを名指しで非難する表現は盛り込まれませんでした。
これについて、EU=ヨーロッパ連合の高官は記者団に対し「ロシアがより孤立したと考えている」と述べて評価しましたが、議長国インドが友好関係にあるロシアに配慮して、表現が弱まったとの見方が広がっています。
首脳宣言が出せない事態は避けられましたが、立場が異なる各国の主張を盛り込んだ形で、ウクライナ情勢で深刻化した食料やエネルギー問題などの事態打開の難しさが改めて浮き彫りとなりました。
南ア大統領報道官 “双方と積極的に関わり続ける”
今回の首脳宣言のとりまとめにあたっては、議長国インドだけでなく、ほかのグローバル・サウスの国々も対立する各国との調整に役割を果たしました。
これに関連して、南アフリカのマグウェニャ大統領報道官はNHKなどの取材に対し、ウクライナ情勢について、ロシアとウクライナを念頭に「われわれアフリカ諸国は、食料供給の面で影響を受けている。双方と積極的に関わり続けることがわれわれの利益になる」と述べました。
また、今回の会議でアフリカの国々などが加盟するAU=アフリカ連合がG20の正式なメンバーとして承認されたことについて「大きな成果であり、グローバル・サウスを首脳会議の議論に含めるという確固たる基盤が出来た」と高く評価しました。
習主席 欠席で中国の存在感低下か
中国の習近平国家主席は今回、G20サミットを初めて欠席し、代わりに共産党で序列2位の李強首相が出席しました。
李首相は、議長国インドのモディ首相と笑顔で握手をするなど友好ムードを演出しましたが、インドとの係争地をめぐって両国関係が冷え込むなか、サミットにあわせた2国間の正式な首脳会談は行われない見通しです。
また、習主席は例年サミットで多くの国と個別に首脳会談を行ってきましたが、李首相はイタリアなど数か国にとどまるとみられ、中国の存在感が低下したという受け止めが広がっています。
一方、中国国内では習主席に関するニュースが相次いで報道され、李首相がサミットで発言した内容や、9日に採択された首脳宣言などは大きく取り上げられていません。
中国政府は「G20の活動を一貫して非常に重視し、積極的に参加してきた」としていますが、習主席の欠席でサミットに対する国内の関心が低くなっています。
ロシア ラブロフ外相「西側の企てを阻止できた」
ロシアのラブロフ外相は閉幕後の記者会見で首脳宣言について「ウクライナ危機は言及されているが、あくまでも世界の紛争を解決する必要があるという文脈においてであり、これは非常に重要なことだ」と述べ、ロシアを名指しで非難する表現が盛り込まれなかったことなどを受けて議長国インドの役割を高く評価しました。
そして「グローバル・サウス諸国の強固な立場のおかげで議題全体を『ウクライナ化』しようとする西側の企てを阻止することができた。西側諸国は覇権国家であり続けることはできない」などと述べて欧米をけん制しました。
岸田首相「ロシアが参加し一致できたことに意義」
岸田総理大臣は訪問先のインドで開いた記者会見で「去年の首脳宣言に比べても新たな表現で新たな要素を盛り込むことができている。領土取得を追求するための威嚇や暴力行使を慎むことや、ウクライナにおける包括的公正かつ恒久的な平和、国連憲章の原則の堅持は、去年の首脳宣言には含まれていない。これらがロシアが参加する形で改めて確認され、一致できたことは意義があると考えている」と述べました。
●G20首脳宣言をウクライナ報道官が批判 9/10
主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で9日に採択された首脳宣言について、ウクライナのニコレンコ外務省報道官が内容を批判する声明をX(ツイッター)に投稿した。ウクライナ情勢を巡る日本時間10日までの動きをまとめた。
「誇れるものは何もない」 G20宣言をウクライナ報道官が批判
主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で9日に採択された首脳宣言を巡り、ウクライナのニコレンコ外務省報道官は同日、「ロシアのウクライナに対する侵略という点では、G20は何も誇れるものはない」と批判する声明をX(ツイッター)に投稿した。
首脳宣言ではウクライナ侵攻について、「全ての国が、領土獲得のための武力による威嚇や行使を控えなければならない」と記述し、ロシアへの名指し批判を避けた。ニコレンコ氏は「こうすれば文書はより現実に近くなる」として、宣言文の「全ての国」を消し、その上に「ロシア」と赤字で書き込んだ画像も合わせて投稿した。
ただ、「強い文言を盛り込もうとしたパートナーに感謝している」とも述べ、支援国には一定の配慮を示した。
ウクライナ、女性医療従事者を招集対象に 徴兵免除基準も厳格化
ウクライナ政府は10月1日から、医学や薬学などの教育を受けた女性の国民を対象に兵役登録を義務付ける。登録されると、招集を待機する間、国外への移動が制限される。戦闘の長期化で、徴兵を免除する基準の厳格化も進んでいる。
ウクライナ軍の9月7日の発表によると、兵役登録の対象となるのは医師、歯科医師、看護師、薬剤師、助産師など医療現場で勤務経験のある18〜60歳の女性。学位や勤務先などから適格かどうかを判断する。軍はこうした女性について「男性と対等な立場で軍務に従事する」としており、特別に一時的な出国が認められる場合を除き、国外への移動も制限される。ただし、学生や妊娠中、健康上の理由がある場合は免除される。
ロシアによる侵攻を受けるウクライナでは、戦場で死傷する兵士の補充や医療が課題となっている。米紙ニューヨーク・タイムズは8月、米政府当局者からの情報に基づき、ウクライナ側の死者が7万人、負傷者は10万〜12万人程度だと推計した。
戦闘の長期化に伴い、徴兵を回避しようとする人も増加しているとみられる。ウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」によると、これまで学位を二つ以上持つ30歳以上の学生は兵役を免除されていたが、ウクライナ政府は今月、この免除規定を廃止する法案を議会に提出した。ウクライナの25歳以上の学生数は2019〜21年に約4万人だったのが、その後1年間で10万6000人に激増。政府は、この一部は徴兵回避だとみている。
ウクライナ政府は8月、徴兵免除対象となる疾病などの基準も厳格化した。結核やウイルス性肝炎で、すでに治療が施された人、進行の遅い血液疾患、軽度の精神障害などの人が、新たに徴兵対象に加えられた。
また国内各地で徴兵回避と関連する汚職が横行しているとみられ、ゼレンスキー大統領は8月、徴兵事務所のトップを務める軍事委員を全ての州で解任すると決めた。
英BBCによると、徴兵を回避したい人は、徴兵担当者がどこを巡回しているか、通信アプリで情報を共有するなどしている。10万人以上の人が情報共有に参加している地域もあるという。
徴兵を回避する動きは、これまで約12万人に上る死者を出したとみられるロシア側でも起きている。22年9月に発令された「部分的動員令」で約30万人が招集された際には、徴兵事務所が襲われる事件が相次ぎ、多くの人がジョージアなど国外に脱出した。プーチン大統領は今年8月、徴兵対象者の上限年齢を27歳から30歳に引き上げる法律に署名している。
林外相がウクライナ訪問、侵攻後初 支援巡る2国間文書作成確認
外務省は9日、ポーランドなどを歴訪中の林芳正外相のウクライナ訪問を発表した。既に同国入りしており、民間人虐殺があったブチャで慰霊の壁に献花するほか、首都キーウ(キエフ)ではクレバ外相らと会談し、ウクライナ支援に関する2国間文書の作成を進める。2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、外相がウクライナを訪れるのは初めて。
今回の訪問では、今年7月に主要7カ国(G7)が発表したウクライナ支援に関する共同宣言に基づき、日本とウクライナの2国間文書の作成推進を確認する。官民を挙げたウクライナの復旧・復興のため、来年初めに日本で開催する予定の「日ウクライナ経済復興推進会議」に向けた両国間の連携を改めて確認するほか、重機供与や越冬に備える支援も進める。クブラコフ復興担当副首相との会談や、大使館視察も予定している。
また楽天グループの三木谷浩史会長兼社長や遠隔医療を手がける企業「アルム」の坂野哲平社長、経団連関係者が現地に同行し、ウクライナ支援への民間企業の関与促進を図る。
林氏は3日からヨルダン、エジプト、サウジアラビア、ポーランドの4カ国を歴訪中で、10日に帰国予定。日本の首相や閣僚のウクライナ訪問は今年3月の岸田文雄首相以来となる。ロシアのウクライナ侵攻後、G7の外相では唯一、日本の外相が訪れていなかった。

 

●戦争によるエネルギー危機で、リチウムイオン電池代替製品の研究が加速 9/11
・ウクライナでの戦争がリチウムイオン電池を含むクリーンエネルギーの研究に拍車をかけている。
・リチウムイオン電池の製造には児童労働が伴うことが多く、環境に悪影響を及ぼす可能性もある。
・ポーラー・ナイト・エナジーによると、砂の電池は、リチウム電池と同等の効果があり、児童労働などの人権侵害や環境破壊を軽減すると言われている。
ウクライナへのロシアの侵攻は、奇妙なことではあるが良い結果ももたらしている。それは、ロシアの原油への依存を減らし、再生可能エネルギー利用の目標を達成するため、ヨーロッパ全体が新たに活性化したことである。
また、拡大を続ける電気自動車(EV)市場で使用されるリチウムイオン電池に代わる、より安全な電池の研究にも拍車をかけている。
ウクライナ戦争がヨーロッパ全域でのクリーンエネルギー研究を加速させている
太平洋評議会(Atlantic Council)のグローバル・エネルギー・センター(Global Energy Center)で欧州エネルギー安全保障担当副局長を務めるオルガ・ハコヴァ(Olga Khakova)は、「ロシアによるウクライナへの侵攻は、ヨーロッパにおけるクリーンエネルギーへの関心を高めた」と述べた。
「ロシアは、ウクライナでの地政学的な目的をできるだけ容易に達成するために、ウクライナが同盟国からの支援を受けられないか、最低限の支援しか受けられないようにしたかった」とハコヴァは言う。
「それを確実にする方法のひとつが、ロシアのエネルギー供給へ大きく依存させることによって、ヨーロッパを人質に取ることだった」
クリーンエネルギーによる解決への取り組みは、ヨーロッパ全体のエネルギー専門家間の協力を促進し、あらゆる面で新たなイノベーションにつながっているとハコヴァは述べた。
「気候政策のいくつかに関しては常に緊張があり、異なる見解が存在する」とハコヴァは述べ、「しかし、ヨーロッパがこのような多くの問題を脇に置いて、一致団結してこのエネルギー危機を乗り越えようとしているのを見ていると、レジリエンスとイノベーションはまだ存在している」とした。
その結果もたらされた重要なイノベーションのひとつが、人権侵害や環境破壊につながるリチウムイオン電池に代わる新たな電池の開発である。
リチウムイオン電池の代替品は砂の電池
このような新しい研究が相次ぐ中、フィンランドのポーラー・ナイト・エナジー(Polar Night Energy)は、リチウムイオン電池に匹敵するパワーを持つ砂でできた電池を製造しているとワシントン・ポストが伝えている。
研究者がワシントンポストに語ったところによると、「砂電池」は太陽や風によって生成されたエネルギーを蓄え、熱に変換する。その熱をエネルギーとして使用するときまでファンの助けを借りて、砂が保持し、維持することができるという。
この電池の開発は、リチウムイオン電池の2つの重要な構成要素、コバルトとニッケルの採掘に伴う人権侵害や環境破壊の軽減に役立つ可能性がある。
アムネスティ・インターナショナルによると、コバルトの採掘は児童労働に大きく依存しているという。世界で最もコバルトを産出しているコンゴ民主共和国だけでも、約4万人の子どもたちがコバルト鉱山で働いているとアムネスティ・インターナショナルは推定している。
ハコヴァは、ウクライナでの戦争はこれらの重要な鉱物の採掘と加工に適切な基準を設定する方法について、ヨーロッパ中のエネルギー専門家間の議論を加速させていると述べた。
コバルト産業で蔓延している人権侵害にとどまらず、リチウムイオン電池は環境に有害な影響を与えている。リチウムイオン電池による火災は増加の一途をたどっており、中には消火に数百人の消防士を必要とする事故も発生しているとCNNは2023年初めに報じている。
●なぜウクライナはEUに加盟できないのか…「汚職まみれ」の厳しい実態 9/11
ウクライナはなぜEUに加盟できないのか。国際政治学者の舛添要一さんは「ウクライナはロシアと同様に賄賂なしでは事が進まない。汚職を追放しなければEUに加盟できないため、ゼレンスキー大統領は汚職撲滅に躍起になっている」という――。
戦争の最中にも汚職がはびこる
1月21日、ウクライナのインフラ省のヴァシル・ロジンスキー副大臣が罷免(ひめん)された。
発電や暖房関連の設備調達に関して、契約額をつり上げ、業者を潤した見返りに、35万ドル(約4600万円)超の賄賂(わいろ)を受け取ったという。
また、1月24日、ウクライナでは多数の政府高官が解任された。贈収賄などの汚職が原因である。
ロシアとの戦争の最中に汚職がはびこるということは、常識では考えられないことである。ウクライナ国民が苦難に耐えて一致団結して抗戦しているという「美しい神話」が世界中に流されていただけに、驚きを以てこのニュースを受け止めた人が殆どだろう。
ウクライナでは汚職は日常茶飯事
しかし、実はウクライナでは汚職は日常茶飯事なのである。
解任された高官をリストアップする。
まずは、大統領府のキリロ・ティモシェンコ副長官である。彼は高価なスポーツ用多目的車(SUV)を複数台所有していると非難されていた。これらの車はアメリカの自動車メーカーが住民避難用に提供したものである。
次に、ヴャチェスラフ・シャポヴァロフ国防副大臣は、軍用食料品を小売価格よりも高値で調達していたという。無名の食品会社だっただけに、贈賄が疑われている。
なお、オレクシイ・レズニコフ国防相も同じことを疑われている。
オレクシイ・シモネンコ副検事総長も解任された。正月にスペインで10日間の休暇を家族とともに過ごしていたという。成人男性の出国が厳しく制限される中での出来事である。
休暇をドバイで過ごしたティモシェンコ元首相
1月27日に、『ウクラインスカ・プラウダ』紙は、ティモシェンコ元首相が、新年休暇をドバイで過ごしたと報じた。五つ星の最高級ホテルに滞在中の写真も掲載された。
彼女は、野党「祖国」の党首であり、最高会議(国会)の議員であるが、2022年の新年休暇もドバイで過ごしている。
ゼレンスキーの与党「国民の僕(しもべ)」も同じ穴の狢(むじな)で、所属議員がタイに外遊する計画を立てていたことが発覚している。
その他にも、地域開発・領土副大臣のイワン・ルケリヤとヴャチェスラフ・ネゴダ、ヴィタリー・ムジチェンコ社会政策担当副大臣、さらにはドニプロペトロウシク、ザポリージャ、キーウ、スーミ、ヘルソンの5州の知事が解任されている。
ウクライナ、ロシアともに汚職が当たり前の政治風土
Transparency Internationalの調査による腐敗認識指数世界ランキング(2021年)を見ると、全対象国180カ国中、最もクリーンな1位はニュージーランド、2位がフィンランド、3位がデンマークとなっている。
日本は18位である。ドイツが10位、イギリスが11位、カナダが13位、フランスは22位、アメリカは27位、イタリアが42位である。
最下位の180位は南スーダンで、ウクライナは122位、ロシアは136位。いずれも汚職が当たり前の政治風土となっている。
共産主義体制の下では、「万民が平等」という謳(うた)い文句とは正反対に、権力者に富が集中し、生き残るためには、上から下まで賄賂を使うのが日常茶飯事となっていた。
ロシア人もウクライナ人もそのような社会の中で生きてきたのであり、それはソ連邦が解体した後も全く変わっていない。
富が一部のオリガルヒに集中
ソ連邦崩壊の過程で、ロシアと同様に、ウクライナでも国営企業が民営化され、富が一部のオリガルヒに集中する状況になった。
たとえば、ドネツクの大富豪リナト・アフメトフはウクライナで一番の富豪で、マリウポリのアゾフスタリ製鉄所などを所有し、2022年1月時点で137億ドル(約1兆8700億円)の資産を保有していた。
親米派のオリガルヒのイーホル・コロモイスキー、「チョコレート王」のペトロ・ポロシェンコ前大統領も有名である。
また、「ガスの女王」と呼ばれ、政界に進出してオレンジ革命(2004年)のジャンヌ・ダルクと讃えられ、首相にもなったユーリヤ・ティモシェンコは、天然ガス部門のオリガルヒである。
先述した彼女のドバイでの新年休暇も、戦争で国民が塗炭(とたん)の苦しみの中にある状況で、オリガルヒがいかに裕福であるかを示すエピソードでもある。
また、2014年のマイダン革命でロシアに亡命したヴィクトル・ヤヌコーヴィチ元大統領は、自ら財閥を形成し、巨額の富を着服していたことが判明している。
賄賂なしには事が進まない
オリガルヒのみならず、官僚機構を含むあらゆる社会システムに汚職がつきまとっており、賄賂なしには事が進まないソ連時代の悪弊(あくへい)がまだ続いている。
それが経済を低迷させ、ウクライナをヨーロッパで最も貧しい国の一つにしたのである。
そして、ウクライナ戦争はオリガルヒの所有する資産を激減させており、たとえばアフメトフは、資産を開戦前の3分の1にまで減らしているという。
しかし、この戦争中でも汚職が止まないのである。
ウクライナがEUに加盟できない理由
ウクライナのような汚職まみれの国は、EUに加盟することはできない。汚職の撲滅(ぼくめつ)が加盟の条件だからである。
ウクライナ戦争が、オリガルヒの弱体化のみならず、汚職構造の破壊までももたらすかどうかは、まだ分からない。
コメディアンだったゼレンスキーは、汚職と戦うために高校教師が大統領に昇りつめる成功物語のドラマ「国民の僕」の主人公を演じたが、2019年の大統領選で国民は実際に彼を大統領に選んだ。それほど政治の腐敗が酷(ひど)かったということである。
ゼレンスキー政権下でも汚職が続いている
そのゼレンスキー政権下で、まだ汚職が続いていることが問題であるが、2月1日、当局はオリガルヒなど疑惑が囁(ささや)かれている人物の家宅捜査を行った。
まずは、合金鉄、石油製品、金融、マスメディアなどの分野で広範な事業を手がけるプリヴァト・グループの創立者、オリガルヒのイーホル・コロモイスキーである。
彼は、親米派であるだけに、ゼレンスキーの盟友であった。彼の所有するテレビ局が、ゼレンスキー主演のドラマ「国民の僕」を放映し、大統領への道を準備したのである。
2014年3月には、反露派のコロモイスキーはドニプロペトロウシク州の知事に任命されたが、プーチンは「稀代(きだい)の詐欺師」と呼んで彼を軽蔑(けいべつ)している。
家宅捜査の容疑について、ウクライナ保安局(SBU)は、彼が所有していた石油会社と石油精製会社で10億ドルを超える資金を横領する計画が発覚したことを明らかにしている。
次の人物は、アルセン・アワコフ元内相である。家宅捜査が入ったが、容疑の詳細な内容は不明である。6年前にエアバス社のヘリコプターをウクライナが購入したこととの絡(から)みだとされている。
1月18日にキーウでヘリコプターが墜落し、内相ら14人が死亡した事故調査の一環とされている。
「使いものにならない防弾ベスト」で着服
さらに、政権幹部によると、税関の全管理職が解任され、国防省高官も疑惑の対象となっているという。
この国防省の調達担当責任者は、使いものにならない防弾ベストを購入して、調達費を着服したという。
また、税務当局のナンバー2も捜査対象であり、450億フリブナ(約1500億円)の脱税を見逃す見返りに、多額の現金、高級時計、車などの賄賂を受けたという。
ゼレンスキー政権が汚職の捜査に躍起(やっき)になったのは、2日後の2月3日にEUとの首脳会議が行われる予定だったからである。
ウクライナは、2022年6月にEU加盟候補の資格を得たが、EUからは汚職対策の強化を求められていた。
EU加盟の可能性について協議されても、汚職が蔓延(まんえん)している国はEUに加盟できないことになっており、今のウクライナは失格である。
そこで、ゼレンスキー政権としては、汚職追放に努力しているところを見せたかったのである。
ウクライナ利権に絡むバイデン大統領の息子
オバマ政権のときにバイデンは副大統領であったが、息子のハンターとともにウクライナ利権に深く関わっていたのではないかと疑われている。
ハンターは、2014年にウクライナのガス企業ブリスマの幹部に就任したが、この企業は検察の捜査を回避するために裏金を使ったという不正疑惑が明らかになっている。
2020年9月、米議会上院は、この件について「利益相反の疑いがある」という報告書をまとめており、中間選挙後の下院は共和党が多数派となったので、この件が蒸し返される可能性がある。
支援が賄賂に使われている
多数のウクライナ政府高官が汚職で更迭されたことは、西側からの支援にブレーキをかける可能性がある。
対ウクライナ支援の財源は、西側諸国の国民の血税である。ウクライナ戦争で光熱費や食料品価格など、諸物価が高騰し、国民は苦しい生活を強いられている。
それにも拘わらず、支援の裏側で、それが一部の者の私腹を肥やすために使われたとすれば、怒り心頭に発するのは当然である。「ウクライナ疲れ」どころの話ではない。
湯水の如く国民の税金をウクライナに注ぎ込んでも、その25%程度が賄賂に使われているとすれば、支援額を25%削減せよという要求が出てきても不思議ではない。
所詮は「狐と狸の化かし合い」
侵略者ロシアが弾劾(だんがい)されるのは当然だが、「ウクライナが無謬(むびゅう)で100%善を体現している」などという幻想は捨てたほうがよい。
この国は、ロシアと並ぶ汚職、腐敗大国であることを再認識すべきである。
武器支援にしても、背後で贈収賄が行われている可能性がある。しかし、ウクライナの戦場を新兵器の実験場とし、巨万の富を得ているアメリカの軍需産業にとっては、ウクライナの汚職などはどうでもよい。
アメリカ兵は戦争に参加しておらず、一滴の血も流れない以上、バイデンも、ウクライナの腐敗など我関せずである。
ウクライナとロシア、それは「狐と狸の化かし合い」である。
ナイーブに狐(ウクライナ)の言うことのみを100%信じる愚は避けなければならない。 
●プーチン大統領に三重苦=uルーブル暴落・人材流出・兵器不足」 9/11
ウクライナとの戦争が長期化しているロシアだが、国内にも地雷が埋まっている。通貨ルーブルが対ドルで下落基調が続き、ウクライナ戦線への動員の影響で労働力不足も深刻だという。一方で、ウクライナの前線で兵器も不足しているとみられ、北朝鮮を頼らざるを得なくなるなど、プーチン大統領は「三重苦」に陥っている。
ルーブルは8月中旬、ウクライナ侵略開始直後の昨年3月以来となる1ドル=100ルーブル台の安値水準を付けた。ロシア中央銀行の利上げでやや買い戻されたが、ここにきて再び98ルーブル台まで下落しており、資金流出リスクを抱える。
新興国経済に詳しい第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「ロシア経済は欧米の制裁をかいくぐる『迂回(うかい)貿易』で難を逃れており、急回復もしなければ、急失速することもない状態が続くだろう。ただ、背後にいる中国の事実上の属国状態になることは避けられない。一方、国内の侵攻推進派からは軍備費調達のため財政拡大を求める声がある一方、国民生活のためには物価安定のための利上げも必要という板挟みで、プーチン氏も政策運営面での軋轢(あつれき)は避けられないかもしれない」と語る。中央銀行の企業調査では、人材不足が過去25年で最悪の状態だという。
露紙RBKによると、人手不足はあらゆる業種に及び、首都モスクワと第2の都市、サンクトペテルブルクの失業率は「ゼロに近い」という。昨秋の30万人規模の部分動員や、70万〜80万人と推定される動員忌避者の出国が主な原因のため、今後の経済回復に足かせになる懸念がある。
筑波大学の中村逸郎名誉教授は「ウクライナの反攻を受け、兵員や兵器製造の工場労働者も必要になるなか、人手不足は深刻だ。ロシアの将来を悲観する若者の出国もあると考えられる。『1ドル=100ルーブル』はロシア人にとって精神的にギリギリのラインともいわれ、今後の国外脱出にも拍車をかけかねない」とみる。
プーチン大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記と首脳会談を開くとみられるが、武器や弾薬不足が大きな要因とみられる。
そしてロシア軍が2020年に北方領土の択捉、国後両島に配備していた複数の地対空ミサイルS300V4が島外に搬出された。東京大の小泉悠専任講師が衛星画像を基に分析した。ウクライナの攻撃に備えるため、ロシア本土に再配備したとみられる。
サハリンの軍施設で保管されていた旧型戦車や大砲も昨年秋から相次いで姿を消した。小泉氏は「ロシア軍は極東の兵器を引き抜いている。戦車や大砲がウクライナの前線に送られているのは間違いない」と指摘した。
●ロシア統一地方選 プーチン政権与党が圧勝 9/11
ロシア統一地方選挙でプーチン政権の与党「統一ロシア」が圧勝しました。一方的に併合したウクライナの4つの州で強行された投票でも7割を超える得票率になったとしています。
ロシアでは統一地方選挙の投票が8日から10日にかけて、一斉に行われました。
中央選挙管理委員会によりますと、開票の結果、モスクワ市長に現職でプーチン大統領の側近の一人、ソビャーニン氏が76%の票を得て当選するなど、ほとんどの地域でプーチン政権与党「統一ロシア」の候補が当選しました。
また、投票はロシアが去年9月に一方的に併合を宣言したウクライナの4つの州でも強行されましたが、4州それぞれでの「統一ロシア」の得票率は7割を超えたとしています。
プーチン政権としては公正な選挙結果と主張し、占領地域での支配を既成事実化したい考えとみられ、来年3月に大統領選を控える中、安定した政権基盤を目指しています。
●プーチン氏、通算5選へ基盤整う ロシア地方選で与党圧勝 9/11
来年3月の次期ロシア大統領選の前哨戦となった統一地方選の投票が10日締め切られ、即日開票された。プーチン政権与党「統一ロシア」は首都モスクワの市長選やモスクワ州知事選をはじめ各地で軒並み圧勝。ロシアが併合を宣言したウクライナ東部・南部4州の議会選でも多数を占め、侵攻が長期化する中でプーチン大統領の通算5選に向けた基盤が整った。
プーチン氏は次期選挙への態度を表明していないが、他に有力候補は見当たらない。4州併合を成果として年内に立候補を表明する見込みで、当選は確実とみられている。
モスクワ市長選では統一ロシアが推した元大統領府長官で現職のセルゲイ・ソビャニン市長が2位以下を大きく引き離し3選を決めた。10日夜、開票終了を待たず選対本部で有権者に謝意を表し「これから大事な仕事が待っている」と勝利宣言した。現職のボロビヨフ・モスクワ州知事も11日までの開票で約83%を得票し、再選を決めた。
統一ロシアは計21の首長選のうち19で擁立候補が勝利する見込み。
●ワグネルのアフリカ事業、ロシア軍傘下にする狙いか…プーチン氏 9/11
ロシアのプーチン大統領は10日、露民間軍事会社「ワグネル」のアフリカでの活動拠点マリの軍事政権、アシミ・ゴイタ暫定大統領と電話会談した。プーチン氏は、ワグネルのアフリカ事業を露軍傘下の民間軍事会社に継承させる狙いとみられる。
マリでは昨年8月に仏軍が撤退後、イスラム過激派によるテロが悪化しており、9月7日には民間人49人を含む64人が死亡した。露大統領府の発表によると、両者はテロ対応や経済、人道面での協力強化について話し合った。ゴイタ氏は、ロシアが8月30日の国連安保理で、マリに対する制裁継続の決議案に拒否権を行使したことに謝意を述べた。
8月31日には、露国防次官らが、マリともう一つのワグネルの活動拠点中央アフリカを訪問したと報じられた。マリ軍事政権が期待するテロ対策で協力し、露軍によるワグネルの事業継承を急ぐ狙いとみられる。
マリ軍事政権は、米欧のイスラム過激派掃討作戦が成果に乏しいことに不満を抱き、ワグネルに期待した。マリからは昨年、仏軍部隊約2400人が撤退し、国連平和維持活動(PKO)約1万5000人の部隊も年内に撤退する。
●ウクライナの反転攻勢、冬の到来まで「30日しかない」可能性=米軍トップ 9/11
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は10日、ウクライナのロシア軍に対する反転攻勢について、活動の妨げとなる厳しい冬の到来までに残された期間は30日余りだとの見解を示した。BBCのインタビューで語った。
BBCのテレビ番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」のインタビューでミリー統合参謀本部議長は、寒さが厳しくなればウクライナの作戦遂行がより難しくなると指摘した。
ミリー氏は、攻勢の進展ペースが期待されていたよりも遅いことを認めつつ、「激しい戦争は依然続いている」と述べた。
「ウクライナ軍はいまも努力を継続し、着実に前進している」
また、反転攻勢が失敗したかどうかを判断するには時期尚早だとし、ウクライナ軍は「ロシア軍の前線を非常に安定したペースで進んでいる」と述べた。
「まだそれなりの時間、おそらく30日から45日ほど、戦う価値のある天候が続くため、ウクライナ軍の作戦は終わっていない」
「まだ終わっていない戦闘がある(中略)彼らが成し遂げようとしていることのための戦闘を終えていない」
ウクライナは今夏に開始したロシア軍に対する反転攻勢で、ロシアに占領された地域の解放を目指している。これまでのところ、わずかな成果しか得られていない。
しかし、ウクライナ軍の将官たちは、同国南部でロシア軍の「第1防衛線」を突破したと主張している。
「私はこの(戦争が)始まった当初、長期にわたる、進展の遅い、困難かつ多くの犠牲を伴う戦いになると指摘した。まさしく今、そういう状況になっている」と、ミリー氏は述べた。
英軍トップ、「ウクライナが勝ち、ロシアが負けつつある」
同じインタビューの中で、英軍制服組トップのトニー・ラダキン国防参謀総長は、「ウクライナが勝ち、ロシアが負けつつある」と述べた。
「ロシアの目的は、ウクライナを征服し、ロシアの支配下に置くことだ」
「そういうことは起きていないし、今後、決して起きない。だからウクライナが勝ちつつあると言える」と、ラダキン氏は述べた。
また、ウクライナ軍は領土奪還のための戦いで前進しており、ロシアが占領した土地の50%を奪還していると付け加えた。
ウクライナの前進スピードについては、ロシアに対する国際社会の「経済的圧力と外交的圧力」にかかっていると指摘。「こうした圧力により、ロシアは苦しんでいる」とした。
プーチン氏は「絶望的な状況」
一方で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の同盟関係が、プーチン氏が絶望的な状況に置かれていることを示していると、ラダキン氏は指摘した。
また、ロシアがパートナー関係を築ける国が他にはほとんどいないことが、ロシアと北朝鮮の結びつきからうかがえるとした。
アメリカメディアは4日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が今月、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と会談する計画があると報じた。ウクライナ侵攻で使用される武器の提供について話し合うという。
米韓両政府の間では、北朝鮮がロシアに武器を売却する見返りに何を得るのかということが懸念されている。アジアにおける北朝鮮とロシアの軍事協力が強化される可能性もある。
ラダキン氏は、北朝鮮とロシアのこうした同盟関係は、「ロシアがウクライナに侵攻したことで犯した、壊滅滅的な過ちを反映している」と指摘した。
同時に、ロシアの国内情勢をも映し出しているという。
「ロシア経済がひっ迫し、制裁がより大きな影響を及ぼしているという事実を見れば、ロシアにはそれほど多くの国際的パートナーがいないことが分かる」
「ロシアは国民の50万人を失っている。彼らは国外へ逃れてしまったので。少なくともあと100万人以上が出国を望んでいる」
「この戦争を支え続けるのに必要な人数の確保に苦慮している」
トランプ前米大統領について
インタビューでは、ドナルド・トランプ前米大統領についての言及もあった。ミリー氏は、最高司令官が収監された場合も仕えるかどうか尋ねられると、アメリカ軍の忠誠は「憲法に対する」ものだと答えた。
トランプ氏は2024年米大統領選の共和党候補の座を狙っている。しかし、前回の米大統領選をめぐり複数の罪で起訴されているトランプ氏は、有罪となれば禁錮刑が科される可能性がある。
「我々は合衆国憲法という文書に対して宣誓している」とミリー氏は述べた。
「なので、誰がホワイトハウスに住もうとも、我々は常にその憲法に忠実だ」
その上で、正式に選ばれた大統領であれば誰であろうとも、軍はすべての合法的な命令に従うとした。
ミリー氏は、自らの政界進出は否定したうえで、数週間後に引退したら「最高のおじいちゃん枠に立候補したい」と話した。
●ロシア外相、G20共同宣言を評価 ウクライナでの戦争めぐる文言で 9/11
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は10日、インド・デリーで開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の共同宣言の内容を評価すると発言した。この共同宣言では、領土拡大での武力行使を非難したが、直接ロシアを非難するには至らなかった。
ロシア外相が評価
サミットに出席したラヴロフ氏は、ロシアは合意を期待していたわけではないとした上で、その文言が「正しい方向に一歩進んだ」と述べた。
一方、ウクライナはこの宣言の内容を批判している。
10日に採択された共同宣言は、「ウクライナにおける戦争が、世界の食料とエネルギーの安全保障に及ぼす人的被害と負の付加的影響」について触れた。
また、国家に対し、「領土獲得を目的とした武力による威嚇(いかく)や行使を控える」よう求めている。これはロシアに向けられたものとも言えるが、一方で「状況に対する異なる見解や評価」にも言及している。
G20は昨年11月のバリ・サミットでは、「ロシアによるウクライナへの侵略を、最も強い言葉で遺憾とする」と非難していた。
ラヴロフ氏はデリーでの記者会見で、ロシアは「マイルストーン」に到達したと述べた。
BBCのヨギータ・リマエ記者の質問に対しラヴロフ氏は、「率直に言えば、私たちはこのような事態を予想していなかった。我々の文言を擁護する準備をしていた。グローバル・サウス(世界の南側に偏っている途上国)は、もはや説教されることを受け入れない」と述べた。
アメリカとイギリスはこの共同宣言を評価するとしているが、ウクライナは「誇れる内容は何もない」と批判した。ウクライナは昨年のサミットには出席したものの、今年は参加していない。
いきなりの「共同宣言合意」に驚き
今年のG20は当初、共同宣言が採択される見込みが少なかった。加盟国には、昨年のロシアのウクライナ侵攻をめぐって対立がある。また、今年はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が出席せず、下位の代表が参加した。
こうした中でインドのナレンドラ・モディ首相はサミット初日の9日、共同宣言のウクライナをめぐる文言について合意に至ったと発表。サミット開始から数時間後のこの発表には、大勢が驚いた。
今年のG20では、アフリカ連合(AU)が新たな常任メンバーに加えられた。
55カ国・地域が参加するAUの加盟は、議長国インドの掲げる目標の一つであり、いわゆるグローバルサウス各国の存在感を高めてG20をより包括的にするものだ。
気候変動対策や経済回廊設置
気候変動についても、大きな進展があった。
共同宣言では、各国は「既存の目標や政策を通じ、再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍にする努力を追求し、奨励する」とした。G20は世界の温暖化ガス排出量の75%以上を占める。
インドはまた、よりクリーンな燃料の利用を促進するため、アメリカおよびブラジルと世界的なバイオ燃料同盟を発足させた。この同盟では、植物や動物の排泄物などを原料とするバイオ燃料の取引を促進することで、ネットゼロ(温室効果ガスの実質ゼロ)目標の達成に向けた世界的な取り組みを加速させるという。
このほか、アメリカやインド、中東諸国、欧州連合(EU)などが、これらの地域を結ぶ鉄道と海運の経済回廊を設置することで合意した。中国の「一帯一路」構想に対抗するものとして注目されている。
世界の指導者としてのインド
モディ首相と閣僚たちは、G20サミットを大成功と称し、世界の指導者としての能力が証明されたと述べた。
モディ政権は今回のG20サミットで、最初から最後まで豪華なショーを繰り広げた。代表団は文化的なパフォーマンスやガラディナーパーティー、そして最高のインド式のもてなしを受けた。
最終日の10日には、各国首脳らがインド独立運動の指導者マハトマ・ガンジーの記念碑に集まり、献花した。閉会式では、議長がブラジルに引き継がれた。
ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領のスピーチの大半を占めたのは、途上国が直面する問題だった。
「私たちは、富が集中し、何百万人もの人間がいまだに飢えに苦しみ、持続可能な開発が常に脅かされ、世界の統治機構がいまだに前世紀半ばの現実を反映している世界に生きている」
一方で、開幕式でモディ首相の前に置かれた英語の国名プレートに、「India」ではなく「Bharat(バーラト)」と書かれていたことが、波紋を呼んでいる。「バーラト」はヒンディー語でインドを意味する言葉で、モディ政権が近々、国名を変えるのではという憶測が飛び交っている。しかし、国内では野党などから反発が出ている。
G20サミットに参加する各国首脳へ夕食会の招待状を送った際にも、主催者のインド大統領を「バーラト」大統領と記載していた。
モディ氏の与党、インド人民党(BJP)とその支持者の間では、「バーラト」を国名とすることを歓迎する動きがある。
●松野官房長官 林外相ウクライナ訪問の成果踏まえ さらなる支援 9/11
林外務大臣のウクライナ訪問について、松野官房長官は、平和の実現や復旧・復興に向けた連携を確認する機会になったとしたうえで、訪問の成果も踏まえ、官民一体となって、さらなる支援に取り組んでいく考えを示しました。
林外務大臣は、日本時間の9日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談しました。
これについて、松野官房長官は午前の記者会見で「公正かつ永続的な平和をもたらすために、ウクライナ側と直接突っ込んだ意見交換を行い、復旧・復興に向けた連携を確認したことなど、成果が上がったと評価している」と述べました。
また通信や医療分野の日本企業の幹部が同行したことも触れ「復旧・復興には民間企業の関与の促進が不可欠というのが国際的な認識だ。日本企業の関与の深化の出発点となるもので、非常に意義深かった」と述べました。
そのうえで、今回の訪問の成果も踏まえ、来年はじめに日本で開くウクライナの復興に関する会議なども通じて、官民一体となって、さらなる支援に取り組んでいく考えを示しました。
●ウクライナ軍が南部で前進か 大統領、反攻の成果強調 9/11
米戦争研究所は10日、ウクライナ軍が南部ザポロジエ州ロボティネ南方で前進を続けたとの分析を発表した。ロボティネはロシアが占領する要衝トクマクに向かう道路沿いにある。東部ドネツク州バフムト周辺でもウクライナ軍の前進が伝えられたと指摘した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日のビデオ声明で、東部と南部で「過去7日間、私たちは前進した」と表明し、反攻の成果を強調した。
バフムト周辺では10日、人道支援団体のスタッフを乗せた車両が攻撃を受け、スペイン国籍とカナダ国籍の外国人ボランティア2人が死亡した。AP通信が報じた。団体はロシア軍による攻撃だったとしている。
●ウクライナ、クリミア付近の海洋石油・ガス掘削施設奪還と発表 9/11
ウクライナの軍事情報当局GURは11日、軍が「ユニークな作戦」でクリミアに近い複数のガス・石油掘削海洋プラットフォームの支配権をロシアから奪還したと発表した。
「ボイコ・タワーズ」として知られるこのプラットフォームは、ロシアに2015年から占拠され、22年2月にロシアがウクライナへ本格的な侵攻を開始してからは軍事目的で使用されていたという。
GURは同プラットフォームの支配権を取り戻すことは戦略的に重要だったとし、「ロシアは黒海海域を完全に支配する能力を奪われ、これによりウクライナはクリミア奪還に大きく近付いた」としている。
ロシア側からは今のところコメントを得られていない。
ロイターはGURの情報を独自に確認することはできなかった。
●キーウに無人機攻撃、ウクライナ軍「26機を破壊」 9/11
ウクライナ当局によると、首都キーウ(キエフ)で10日未明、ロシアによる30機以上のドローン(無人機)を使った攻撃があり、3つの地区に破片が落下した。深刻な被害は出ていないが、4人が負傷したという。
キーウ州のクラフチェンコ知事はインフラ施設1カ所と住宅8棟が被害を受けたとフェイスブックに投稿した。
ウクライナ空軍はキーウや周辺地域を狙った無人機33機のうち26機を破壊したと明らかにした。
ロシアはこの攻撃についてコメントしていない。

 

●プーチン大統領とキム総書記会談へ 武器をめぐり話し合いか 9/12
ロシアと北朝鮮はキム・ジョンウン(金正恩)総書記が近くロシアを訪問し、プーチン大統領と会談すると発表しました。ウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、ロシアとしては武器の供与について話し合うねらいもあるとみられます。
“キム総書記がロシア訪問のため専用列車で出発”北朝鮮機関紙
北朝鮮は、キム・ジョンウン総書記が10日午後、ロシアを訪問するため首都ピョンヤンを専用列車で出発したと、12日付けの朝鮮労働党機関紙「労働新聞」などを通じて発表しました。
キム総書記の外国訪問は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、これが初めてです。
公開された写真では、赤いカーペットが敷かれた駅のプラットホームに儀じょう兵が整列し、黒い人民服姿のキム総書記が、チェ・ソニ外相らとともに緑色の車体の専用列車に乗り込む様子が確認できます。
具体的な日程などは明らかにされていませんが、専用列車は北朝鮮北東部の国境を越えてロシア極東のウラジオストクへ向かうとみられています。
ロシアと北朝鮮 近く首脳会談と発表
ロシアと北朝鮮は、キム・ジョンウン総書記がプーチン大統領の招きで近くロシアを訪問し会談を行うと11日、発表しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、首脳会談は、代表団を含めた形式以外にも通訳だけを交えた1対1の会談も行われるという見通しを示しました。
韓国メディアは韓国政府関係者の話として、キム総書記を乗せたとみられる専用列車がロシア極東のウラジオストクに向けて出発したと伝えています。
プーチン大統領は、国際経済会議の東方経済フォーラムに出席するため11日からウラジオストクを訪問していて、近く首脳会談が行われるものとみられます。
キム総書記のロシア訪問は、2019年4月以来、4年ぶりで、プーチン大統領との会談は2回目です。
ロシアとしては、ウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、武器の供与について話し合うねらいもあるとみられます。
一方、北朝鮮は、アメリカなどに対抗するため、中国と並ぶ後ろ盾のロシアとの結束を誇示するとともに、原子力潜水艦や軍事偵察衛星などを保有するために必要な軍事技術の支援を求めるという見方が出ています。
両国の関係 ウクライナ軍事侵攻後 一層強まる
両国の関係は、去年2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、一層強まっています。
北朝鮮は、侵攻が始まった直後、外務省の談話を通じてロシアを全面的に支持する立場を表明し、去年10月には、ロシアによるウクライナ東部や南部の4つの州の一方的な併合を支持する談話を発表しました。
ことしに入っても、1月にキム・ジョンウン総書記の妹、キム・ヨジョン(金与正)氏が談話でアメリカによるウクライナへの戦車の供与を非難したほか、先月には、キム総書記がプーチン大統領に対し「両国の団結が、新時代の要求に即して共同の偉業を成し遂げる上で常に必勝不敗であると固く確信する」とする祝電を送っていました。
一方、ロシアも北朝鮮の立場に理解を示す動きを強めます。
去年5月、北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイルの発射を受けて、国連の安全保障理事会で北朝鮮に対する制裁を強化する決議案の採決が行われました。ロシアは、中国とともに拒否権を行使し、決議案は否決されました。
北朝鮮に対する安保理の制裁決議は、2006年以降、採択が続けられてきましたが、拒否権によって否決されたのは、はじめてでした。
その後も、ロシアは中国とともに北朝鮮を擁護する姿勢を示し、安保理として一致した対応をとることができないなか、北朝鮮は、核・ミサイル開発に一段と拍車をかけています。
北朝鮮のミサイル ロシアから技術協力か
ウクライナ侵攻の長期化と、北朝鮮の核・ミサイル開発の加速化のなかで、懸念が強まっているのが、両国の軍事面での協力です。
ことし1月、アメリカ・ホワイトハウスは、北朝鮮が、ロシアの民間軍事会社ワグネルに対してウクライナで使用する兵器を提供していると非難した上で、兵器を積んだとする貨物列車を捉えた衛星写真を公開しました。
北朝鮮が7月に再び発射実験を行った固体燃料式の新型のICBM=大陸間弾道ミサイル級の「火星18型」をめぐっては、アメリカのシンクタンクが、ロシアのICBMと形状や軌道のデータが一致しているとしてロシアからの技術協力の可能性を指摘しています。
そして7月には、朝鮮戦争の休戦から70年の節目に合わせて、ロシアの代表団が中国とともに首都ピョンヤンを訪問し、キム総書記は代表団を率いたショイグ国防相と会談しました。
キム総書記は、ショイグ国防相と最新兵器の展示会を一緒に見て回ったほか、軍事パレードを並んで観覧するなど、厚遇ぶりが目立ちました。
北朝鮮を訪れたショイグ国防相について韓国の情報機関は今月、中国も加えた3か国による合同軍事演習を提案したという見方を示し、ショイグ国防相も今月4日、北朝鮮と合同の軍事演習を検討していると認めました。
ロシアの元外交官 武器売却が合意される可能性も示唆
北朝鮮のピョンヤンに駐在経験のあるロシアの元外交官でロシア科学アカデミー東洋学研究所のアレクサンドル・ボロンツォフ氏はNHKのインタビューに対し、ことし7月にショイグ国防相が北朝鮮を訪問した際に、キム総書記のロシアへの訪問を打診したのではないかと指摘したうえで、「ウクライナに対する特別軍事作戦の開始以来、北朝鮮はロシアへの断固たる支持を打ち出してくれている。ロシアはそれを高く評価していて、北朝鮮の重要性がとても大きくなった」という見方を示しました。
一方、北朝鮮については「ロシアとの対話をより高いレベルに引き上げる準備ができているという意図を示していた」と述べ、両国の間で首脳会談に向けた機運が高まっていたという見方を示しました。
そのうえで、首脳会談では、▽ロシアと北朝鮮の安全保障問題、▽欧米への制裁に対抗した2国間の経済協力などが主要な議題となるとの見方を示しましたが、ウクライナへの軍事侵攻を巡りプーチン大統領が北朝鮮に武器の売却を求めるのではないかとの指摘があることについては「多くの臆測はあるが、ロシアは要求していないというのが公式な立場だ」と明言を避けました。
ただ、先月中旬にアメリカ、ワシントン郊外にある大統領専用の山荘、キャンプ・デービッドで日本とアメリカ、韓国の首脳が会談を行ったことがロシアと北朝鮮への大きな圧力となった可能性があると指摘し「これまではやりたくなかったこともやらざるを得なくなった。合意してもおかしくない」として、会談で武器の売却が合意される可能性もあると示唆しました。
一方、ボロンツォフ氏は「北朝鮮は多くのものを必要としていて、ロシアは経済面で支援できるだろう」としてロシアとしては、見返りとして小麦などの食料を提供するという考えを示しました。
経済分野でも関係強化の可能性
北朝鮮はことしに入り、国境管理を厳しくした新型コロナウイルスの感染対策を段階的に緩和する中、今後、経済分野での関係も強化する可能性があります。
去年12月にはロシアから北朝鮮への石油の輸出が2年ぶりに再開したことが国連の統計で確認されたほか、先月にはピョンヤンとウラジオストクの間を結ぶ北朝鮮国営のコリョ(高麗)航空の臨時便が3年半ぶりに運航されました。
北朝鮮にあるロシア大使館は、今月7日、新型コロナの感染拡大で出国していた外交官らが戻ったと明らかにし、北朝鮮との外交活動を本格化するとみられます。
ロシア報道官「敬意を表し公式な食事会も予定」
ロシア大統領府のペスコフ報道官は日本時間の12日未明、国営ロシアテレビの記者がSNSに投稿した動画の中で「近日中に行われるだろう。敬意を表し公式な食事会も予定されている」と明らかにしました。
そのうえで「北朝鮮は隣国でありわれわれは良好で互恵的な関係を築く義務があるだろう」と述べ、両首脳が2国間関係の強化について話し合うという見通しを示しました。
米「武器供与 国連安保理の複数の決議に違反」
アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は11日、声明で「北朝鮮のキム・ジョンウン総書記によるロシアへの訪問中に、両国の間で武器の供与についての協議が行われるとみられる。北朝鮮はこれまで、ロシアに武器を供与しないと公言しており、アメリカは北朝鮮が約束を守るよう求める」とけん制しました。
また、国務省のミラー報道官は記者会見で「北朝鮮からロシアに対するいかなる武器の供与も国連安全保障理事会の複数の決議に違反する」と強調したうえで、新たな制裁も辞さない考えを示しました。
さらに国防総省のライダー報道官は記者団に対し「キム総書記がロシアに向けて出発したという情報を得ている」と述べたうえで会談を注視していく姿勢を強調しました。
●ロシアが8月24日に黒海の民間貨物船をミサイル攻撃、英が非難 9/12
英国は11日、ロシアが8月24日に黒海の港に停泊中の民間貨物船を標的としたミサイル攻撃を行ったと非難した。ただミサイルはウクライナ軍によって撃墜されたという。
スナク首相は英議会で「機密情報が解除されたことにより、ロシア軍が8月24日に黒海で民間貨物船を複数のミサイルで標的にしたことが分かった」と述べた。
また英外務省は声明で、ミサイルは港に停泊していたリベリア船籍の貨物船を標的としていたが、撃墜に成功したと表明。ミサイルにはロシアの黒海艦隊のミサイル母艦から発射された巡航ミサイル「カリブル」2発が含まれていたという。
ロシア国防省は現時点でロイターのコメント要請に応じていない。
クレバリー英外相は「プーチン氏は勝てない戦争に勝とうとしており、これらの攻撃はプーチン氏がいかに必死かを示している」と指摘。「貨物船とウクライナのインフラを標的にすることで、ロシアは世界の他の国々を傷つけている」とした。
●ついに天下分け目の戦いに入ったウクライナ戦争、トクマク攻防へ 9/12
ウクライナによるオリヒウからトクマクまでの軍事作戦は、南部戦域の一つの攻撃正面である。
ここでの戦いは、ウクライナにとってはクリミア半島と2州を奪回する糸口であるが、敗北すれば領土の奪還はほぼ不可能になる。
この地の戦いは、今のところ全域から考えると小さな戦場である。
しかし、ウクライナとロシア軍の研ぎ澄まされた先端部分の戦いであり、全力を尽くして正面からぶつかり合っている。
さらに、クリミア半島を奪回するかしないかがかかっている。ウクライナでの戦争において、完全に流れが変わる決戦場と言ってよい。
日本の戦国武士の戦いに例えるならば、豊臣と徳川両軍の関ヶ原の戦いに似ている。
1.4部戦線の攻防概要
改めてウクライナとロシア両軍の地上作戦を見ると、正面幅は約700キロととてつもなく広く、縦深も100キロ以上ある。
これらは、ルハンシク州の北部戦線、ドネツク州の東部戦線、ザポリージャ州の南部戦線、へルソン州の西部戦線に概ね区分されている。
北部戦線では、ロシア軍が攻勢に出てはいるものの、ウクライナ軍に撃破されて止められている。
東部戦線では、ウクライナ軍がバフムトの南北から攻勢に出ているが、ロシア軍が攻勢に出ている地域もある。
   4つの戦線
ウクライナ軍の東部での攻勢は、ロシア軍が戦略的に重要と考えるバフムトを奪還して、ロシア軍に心理的敗北感を与えようとするものである。
一方、敵対するロシア軍の攻勢は、ウクライナ軍が南部で攻勢に出ているために、その背後に脅威を与えようとするものだ。
とはいえ、両軍ともこの正面に展開する戦力量から評価すれば、北部と東部に配置されている軍部隊を南部に移動させないように拘束するためのものである。
とすれば、これら2つの戦線では、南部戦線が決着するまでの間、停滞が続くであろう。
2.予想通り南部戦線での攻勢作戦実行
今、最も注目されているのは南部戦線である。
ウクライナ軍が南部戦線で実行している攻勢作戦の狙いは、アゾフ海まで、突き進むことである。
具体的には、アゾフ海に近接する主要都市のメリトポリあるいはベルジャンスクを奪還するか、アゾフ海に近接して東西に走るM14道路を獲得することにある。
この戦線は、ウクライナ軍がアゾフ海に突き進み、ロシア軍を分断、孤立させ、その後、クリミア半島に向かおうとする正面だ。
ウクライナ軍は、米欧等の地上兵器を受領し、この地に最も多く戦力を集中する。
ロシア軍もこのことが分かっていたので、最も重視して戦力を集め、準備したのがこの南部戦線である。
南部戦線でのロシア軍は、この地で防御戦闘を行い、ウクライナ軍の攻撃を阻止して、撃退する計画を策定して、前進陣地、第1線防御ライン、第2線防御ライン、第3線防御ラインを構成してきた。
半年以上も準備して構築した陣地と守備部隊で、絶対に負けられない戦いであるということを意識していたはずだ。
敵方から見て、対戦車壕、竜の歯の対戦車障害、その間に地雷を設置し、その後ろに兵器と兵が入る壕を構築した。
ロシア軍守備部隊は、隙のない火網(かもう)を作り、ウクライナ軍を火力ポケットに誘導して撃破する準備をしてきた。
火砲と連携する機動打撃も、何度も訓練していたに違いない。
それらの中でも最も強靭に作られたのが、前進陣地と第1線防御ラインである。
その一つであるオリヒウからロボティネまでの突破作戦をウクライナ軍は実行した。
3.ロボディネへの突破作戦が成功
今、両軍の攻防が動き出したのは、ウクライナ軍がロシア軍の固い陣地に攻撃を仕掛け、一部の地域で突破口を開けたからである。
ロシア軍は、半年以上もかけて作った陣地で必死に守ろうとした。しかし、ウクライナ軍は、その固い陣地を突き破ったのである。
6月、ウクライナ軍は東部と南部戦線で攻勢を仕掛け、戦闘の経過とともに、オリヒウからロボティネの攻撃軸に戦闘力を集中して戦った。
8月下旬、ザポリージャ州のロボティネを奪還した。
第1線防御陣地に楔を打ち込み、大きくはないが突破口が開いたということだ。これは、両軍が睨み合う約700キロという広大な正面のほんの一部である。
一部ではあるが、防御陣地の表面から内部まで、3枚のうちの1枚に穴を開けたことになる。
3枚の内の1枚といえども、60%の準備と戦力を集中した陣地(ウクライナ軍ダブリア作戦戦略グループ司令官の評価)であり、極めて固い陣地である。
ここを突き破れば、その後の戦闘は、3か月もかかることはないだろう。
   オリヒウからロボティネの戦いでの占拠地域(6月から9月7日まで)
ロシア軍の固い陣地というのは、その防御線を守るために主力の部隊も投入し、地雷などの障害を大量につぎ込んでいる。
ロシア軍はウクライナ軍との戦闘において、突破されたならば、機動打撃によって何度も奪回を試みたほどである。
第2線や第3線の陣地で強く抵抗するのであれば、第1線陣地で損失が多く出る機動打撃を何度も実行することはないはずだ。
この地を守りたいために、あるいはこれ以上の陣地を失いたくないために戦ってきた。
ロシア軍は、その最も固い殻を破られたのである。
ロシア軍首脳部は、かなり危機感を持ち、焦っていることだろう。
4.ロボティネまで1回目の突破作戦成功
ロボティネ奪回で行われた地上軍の作戦は、突破作戦であった。
軍事的に言う攻撃機動の3つの方式である迂回作戦、包囲作戦、突破作戦の典型的な作戦である。
   迂回・包囲・突破作戦の形
突破作戦はどのような順番で行われるのか。
戦術書には、第1段階は「突破口の形成」、第2段階は「突破口の拡大」、第3段階は「突破目標の奪取」と書いてある。
その後、突破目標を奪取したならば、その成果を拡張して敵を包囲殲滅に導き、さらに後方の目標の奪取を図るものである。
   突破の3段階
ウクライナ軍の攻勢は当初、東部戦線のドネツク南部〜西部戦線まで、4から5か所の突破作戦を実施した。
現在は、オリヒウからロボティネの方向に戦力を集中して攻撃し、ロボティネを奪回し、さらに南下している。
他の突破正面は、攻撃を継続しているか圧力を加え続けているかであり、ロボティネほど戦力を集中して攻撃してはいない。
オリヒウからロボティネまでは、ロシア軍の前進陣地から第1防御ラインにあたる。
ウクライナ軍は、他の正面の戦力を削って、ロボティネ正面だけに攻撃衝力(攻撃を与え続ける力)を与え続けている。
5.トクマクを攻撃する戦略的価値
トクマクあるいはトクマクを含む東西の線(以下トクマク)までの戦いは、ウクライナでの戦争の最大の山場(死命を制する戦い)と言える。
なぜなら、トクマクの価値を軍事的に捉えれば、両軍にとってこの都市を有するか失うかで、ザポリージャ州、ヘルソン州、クリミア半島を獲得するか、失うかどうかの分水嶺となるからである。
その理由について考えるとどうなのか。
ウクライナ軍がトクマクを占領すれば、ロシア軍の主要な陣地(第2・3線防御陣地)を突破したことになる。
そして、さらに進めばアゾフ海に近いメリトポリ奪回の足掛かりになり、メリトポリおよびM14 道路への砲撃も可能となる。
結果的に、メリトポリは安全な都市ではなくなるし、2州およびクリミア半島とロシア領域をつなぐ東西に走るM14道路が使えなくなる。
ロシアは、これら3州への進出と撤退が不可能になる。補給路や撤退路が安全に機能しなくなり、3州が孤立することになる。
   トクマクからヤゾフ海に達する分断作戦
孤立したロシア軍は、ウクライナ軍から攻撃を受ければ撤退はできず、戦闘のための弾薬の補給も受けられない。
また、負傷者は救済を受けられず、医療品も補給してもらえなくなる。
時間が経過すれば、いずれザポリージャ州とへルソン州の2州、戦闘展開が上手くいけばクリミアまで、ウクライナに占領されることになる。
大量の兵士も捕虜になるだろう。ロシアに完全な敗北感が漂うことになる。
反対に、ロシア軍がトクマクの占領を維持すれば、この3州の占領の維持が可能になる。
したがって、ウクライナ軍がこの地を占領できなければ、損害も多く被り、その後の奪回作戦も不可能になる。
6.トクマクを奪回するまでの戦い
今後は、ウクライナ軍はトクマクまでのこの地域に地上軍を限りなく集中して、アゾフ海まで突破作戦を継続するだろう。
一方で、へルソンでの渡河作戦を併用するかは、ウクライナ軍に渡河作戦を実施する戦力があるかどうかの判断による。
   ウクライナ軍の南部および西部戦線の攻撃
とにかく、この戦いが決戦なのだから、ウクライナ軍はトクマクまでの線まで引き続き突破作戦を実施する。
戦車や歩兵戦闘車を集中するのは当然のこと、砲兵火力や少ないが航空火力も、電子戦も集中させて戦うだろう。
そのため、北部・東部では、ロシア軍の攻撃に対しては、防御し、それらを撃破することに専念している。
7.南部戦線でのロシア軍の戦い
ロシア軍は、集められるかぎりの戦力を南部戦線のトクマクまでの防衛に投入する。
できれば、ロボティネも奪回したい願望がある。
ここで、ずるずるとトクマクやヤゾフ海に面するメリトポリやベルジャンスクに到達させては、ロシア軍に敗北感が漂うからだ。
   ウクライナ軍の突破攻撃とロシア軍の防御戦闘
ロシア軍首脳部は、守備部隊に対して「この地だけは死守せよ」と檄を飛ばすだろう。
ロシア軍は、防御ラインを使って陣地を守ることと、併せてロシア軍首脳部の意向と本来十八番とする機動打撃により、攻撃するウクライナ軍を撃破する方法を取るであろう。
ロシア軍のこれまでの戦い方を見ていると、防御ラインを使った陣地防御だけでなく、積極的に何度も何度も、機動打撃を行っている。
これは、陣内の逆襲というよりは、陣前に出撃した機動打撃である。
火砲や航空戦力、無人機を投入してウクライナ軍の南下を止める。弾薬もこの正面に優先的に配分している。
8.戦争全体の衰勢を決める戦い
両軍ともに戦力を多く集めて、ノボティナからトクマクのラインまでで戦う。つまり、両軍が激突するのだ。
それは、両軍が最大限の力(戦力と戦術)を振り絞って戦うことだ。
つまり、この戦場での戦いの結果が、戦争全体の命運を決する。
ここの勝敗で、戦争の結末が見えてくるといっても過言ではない。世界がこの戦いを注視している。
ウクライナ軍は、700キロという広大な正面の大部分で、ロシア軍を止める戦いを行い、突破正面では、約100キロの縦深を突き破るため、突破作戦を3回以上実施しなければならない。
●ウクライナ クリミア近くの石油掘削施設奪還と発表 9/12
ウクライナ国防省は、ロシア軍が2015年以降占拠していたクリミア近くの石油掘削施設を奪還したと発表しました。
ウクライナ国防省の情報総局は11日、ロシアが一方的に併合したクリミアの沖にある複数のガス・石油の掘削施設を奪還したとし映像を公開しました。
この施設についてロシアが2015年に占拠し、去年侵攻を始めるとともに軍事目的で使用され、ヘリコプターの発着場やレーダー装備の配備のために使われていたとしています。
奪還作戦の中でロシア軍のミサイルや船舶の動きを追跡できるレーダーを手に入れたと指摘。
また、ウクライナの部隊がボートで移動中にロシア軍の戦闘機から攻撃を受けて応戦し、ロシア機は被弾して撤退を余儀なくされたということです。
ウクライナ情報総局はこの施設の支配権を取り戻すことは戦略的に重要だったとし「ロシアは黒海海域を完全に支配する能力を奪われ、これによりウクライナはクリミア奪還に大きく近付いた」としています。 
●プーチン大統領 ウラジオストクの国際会議で演説 9/12
ロシアのプーチン大統領は12日、極東のウラジオストクで開かれている国際経済会議の全体会合で演説し「欧米側はみずからが築いてきた世界の金融や貿易、経済のシステムを破壊している」と述べ、ウクライナ情勢をめぐってロシアへの制裁を強化するなど対立を深めている欧米諸国を非難しました。
北朝鮮 キム総書記との首脳会談に関心高まる
そして、司会者から極東のアムール州にあるボストーチヌイ宇宙基地について「ボストーチヌイに行かれるという話が出ていますが?」と質問されたのに対し「私はそこでしかるべき予定がある。私が到着すればわかるだろう」と答えました。
プーチン大統領は、ロシアを訪問中の北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記との会談については言及しませんでしたが、このボストーチヌイ宇宙基地で首脳会談が行われるのではないかとの見方もでています。
首脳会談がどこで行われるのか、関心が高まっています。
ウクライナの反転攻勢を撃退 戦果を誇示
ウクライナ軍がことし6月から開始した反転攻勢について「もちろん成果は出ていない。大きな損失がでている。反転攻勢の開始以来、ウクライナ側では7万1500人の人員が失われた」と述べ、ウクライナ軍を撃退しているとして、戦果を誇示しました。
また、プーチン大統領はロシア軍の兵力について「過去6か月から7か月の間に27万人が軍などに入る契約に自発的に署名した」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を進める中で多くの国民が契約軍人としてロシア軍に参加しようとしていると強調しました。
●金正恩氏、プーチン氏と首脳会談へ ロシアに到着 9/12
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は12日、陸路でロシアに入国した。複数のロシアメディアが伝えた。プーチン大統領とのロ朝首脳会談に13日にも臨む見通しだ。両首脳の会談は2019年4月以来、およそ4年半ぶり。武器取引や共同訓練について協議するとみられる。
金正恩氏は10日午後に専用列車で平壌を出発し、12日に北朝鮮との国境を越えてロシアに入った。その後も北上しているとみられる。
首脳会談の場所や日程は明らかになっていない。韓国の聯合ニュースは、専用列車がロシアの宇宙基地があるアムール州方面に向かっていると報じた。プーチン氏は12日、宇宙基地で「予定がある」と述べた。金正恩氏との会談を示唆したとみられる。
ペスコフ大統領報道官は12日、首脳会談にはショイグ国防相が同席すると記者団に述べた。ロシア紙RBK電子版は同日、情報筋の話としてプーチン氏と金正恩氏が13日に会談すると伝えた。
会談では2国間の兵器取引を協議するとの見方が出ている。北朝鮮が弾薬などをロシアに提供する一方、ロシアから食料に加え、人工衛星や原子力潜水艦に関する技術を受け取るとみられている。
両国は欧米を中心とした国際社会から制裁を受け、経済苦境に陥っている。ロシアはウクライナ侵攻の長期化で不足がちな弾薬の確保が欠かせない。一方で北朝鮮はロシア支援をテコに軍事力強化につなげる狙いがあり、今回の協議で相互補完する狙いがあるようだ。
ロシアは足元で北朝鮮に接近する姿勢を示している。プーチン氏は9月上旬、北朝鮮建国75年を記念して金正恩氏にあてた祝電で「今後もあらゆる分野で2国間関係を構築していくことを確信している」と表明し、北東アジア地域などの安全保障強化に向けて一致して協力するとした。
プーチン氏は12日、ウラジオストクで開催中の東方経済フォーラムで演説した。「欧米側は、みずからが構築した金融、貿易、経済のシステムを破壊している」と述べ、対ロ制裁を強める西側諸国を批判した。
米国はロシアと北朝鮮の動向を懸念している。米国務省のミラー報道官は11日の記者会見で、プーチン氏が北朝鮮に軍事支援を「懇願している」と指摘した。武器取引を進めれば制裁を科すと重ねて警告した。
●ロシア大統領、物価が制御不能なら経済に打撃 為替は問題ない 9/12
ロシアのプーチン大統領は12日、インフレ率の上昇により中央銀行は先月12%へ利上げせざるを得なくなったと述べ、物価上昇が制御不能になればロシア経済は打撃を受けると警告した。
ウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」で「高インフレの状況では事業計画を立てることは事実上不可能だ」と語った。
通貨ルーブルの変動は問題ないとし、当局には為替と市場を制御するための手段があると述べた。
ルーブルは12日序盤の取引で、ドルに対し約6週間ぶりの高値を付けた。
プーチン氏はルーブル相場について、輸出企業による「抑制された」外貨売却などによる影響を受けているが、資本規制などのボラティリティー抑制策を突然導入することはないとの考えを示した。政府は現時点で増税の必要はないとも述べた。
ルーブル急落を受けてロシア中銀は先月、緊急会合を開催し政策金利を12%へ引き上げた。
プーチン氏は中銀が適切なタイミングで行動したと述べる一方で、高金利が融資と経済成長を抑制していると指摘した。この状況を変える必要があるが、インフレが制御不能になれば長期的に経済にとってさらに悪くなると語った。
●ロシア大統領選、プーチン氏出馬なら「誰も対抗できない」 大統領報道官 9/12
ロシア大統領府のペスコフ報道官は11日、2024年のロシア大統領選について、現職のプーチン氏が出馬を決断した場合、「誰も対抗することはできない」と述べた。
ロシア国営メディアによれば、ペスコフ氏は、プーチン氏が「国民からの絶対的な支持を楽しんでいる」と述べた。
ペスコフ氏は、プーチン氏はまだ出馬を宣言していないものの、プーチン氏が出馬宣言をすると仮定すれば、現時点ではロシアで対抗できる人が誰もいないことが明らかだと述べた。
ペスコフ氏によれば、ロシア大統領府ではまだ、選挙戦に対する準備は始まっていない。
ロシアの大統領選は24年3月に実施される予定。理論上は4月に決戦投票が行われる可能性がある。
ロシアでは20年に憲法改正が行われて大統領の任期に関して変更が行われた。このため、プーチン氏は事実上、36年まで大統領の座にとどまることができるようになった。
●ウクライナ反攻撃退とプーチン氏 ロシア軍は27万人志願と強調 9/12
ロシアのプーチン大統領は12日、極東ウラジオストクでの東方経済フォーラムで、ウクライナ軍が6月に始めた反転攻勢は成功しておらず、ウクライナ側が7万1500人の人員と、戦車543両などを失ったと主張した。一方、ロシア軍には過去6〜7カ月に27万人が志願したとし、人的に優位だと強調した。
プーチン氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領が昨年10月に署名したプーチン氏との停戦交渉は「不可能」とした法令について「ウクライナに交渉の用意があるというのなら、米国は法令を取り消させるべきだ」と批判した。
プーチン氏は全体会合の冒頭で演説した後、司会者の質問を受けてウクライナ侵攻に関し発言した。
●ウクライナの人々、戦争の長期化に備える 9/12
ウクライナの首都キーウの住民は、ロシアとの戦争はもうしばらく続く可能性があるとのゼレンスキー大統領の警告に反応している。
ゼレンスキー氏は10日に公開された英経済誌エコノミストとのインタビューで、自身や自身のチームが長い戦争に備えなければならないとの認識を示した。
産休中のイリーナ・シュプンドラさんは子どもと1年半の間、海外で過ごしたと語った。シュプンドラさんは「ウクライナの人々は精神的に強く、長い戦争に備える準備ができている。なぜなら、なんらかの形で戦争を止めることはできず、死亡した人々や現在我々のために戦っている人々を忘れることはできないから」と力を込めた。
シュプンドラさんは、もし現状のまま放置すれば、ロシア軍に準備を整えて再び侵攻するための時間を与えるだけになり、さらに残虐な行為が行われると指摘。「小さな子どもを持つ母親としては、もちろん可能な限り早く戦争が終わってほしいし、最高の人々を死なせたくない。しかし、現実は異なる」と語った。
元大学講師で年金生活を送っているユリ・テプレンコさんはCNNの取材に対し、「戦争があした終わることはない。それは確かだ。来年も終わらないかもしれない。それは非常に悪いことではあるが、停戦はさらにひどい」と述べた。
テプレンコさんは、ロシアのプーチン大統領に言及し、「あの悪党を倒さなければ我々の命はない。ここに他の選択肢はない。客観的に言えば、戦争がウクライナの勝利で終わると信じたいが、何が起こるかわからない」と語った。
コールサインが「レッド」の兵士も、ゼレンスキー氏に同意する。「攻勢は続いているものの、ペースは遅い。我々の領土は毎日徐々に解放されている。全ての前線で同時に攻撃を行うというようなことは不可能だ。なぜなら、それはさらに大きな損失につながるからだ」と述べた。
●北朝鮮によるロシアへの武器提供、戦況左右せず=軍事アナリスト 9/12
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は12日早朝、専用列車でロシアに到着した。プーチン大統領との会談では武器売却が話し合われるとみられる。ウクライナとの戦争を続けるロシアに北朝鮮が砲弾やその他の兵器を提供すれば、ロシア軍の弾薬在庫はその分だけ長持ちするかもしれないが、戦況を変化させることはないと軍事アナリストは分析している。
北朝鮮は旧ソ連時代の兵器と互換性のある砲弾やロケット弾を大量に備蓄しているとされ、そうした弾薬を製造してきた歴史もある。
国際戦略研究所のジョセフ・デンプシー国防研究員は「北朝鮮が持つ武器備蓄の規模や経年劣化の程度については、生産の規模と同様に不明な部分も多いが、ウクライナ戦争で枯渇したロシア軍の備蓄の補充に役立つ可能性がある」と話す。一方で「備蓄が補充されれば、戦争を長引かせるかもしれないが、結果を変える可能性は低い」と指摘した。
ストックホルム国際平和研究所のシーモン・ウェゼマン氏は「(北朝鮮が提供する可能性がある)弾薬はハイテクではないだろうが、ロシア軍の能力は短期的には大幅に向上すると分析した。「北朝鮮の弾薬はとても『先進的』とは言えないものであり、伝統的な弾幕作戦には役立つだろうが、ロシアに精密弾薬を提供することにはならない」とした。
北朝鮮の武器の質を疑問視する見方も出ている。英国王立防衛安全保障研究所のパトリック・ヒントン英陸軍研究員はロイターに対し、北朝鮮の砲弾の品質について、許容できない程度の欠陥があった場合は影響が生じる可能性があると語った。「粗悪な弾薬は性能に一貫性がなく、飛行に悪影響を与え、精度を低下させるかもしれない」とし「これらは全て高い仕様で作られる必要がある。そうでなければ想定していた場所に着弾できず、壊滅的な結果を招きかねない」と指摘した。
●「ウクライナ弱体化させない」、ゼレンスキー大統領が強調 9/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、ロシア軍に対する反転攻勢が遅れが出ているとの声が出る中、引き続き国の防衛に集中しなければならないと強調した。
夜のビデオ演説で「ロシアとの戦争は565日目を迎えたが、引き続き国家の防衛に集中しなければならない」と強調。「ロシアは勝利を望んでいない。敵が期待しているのはわれわれが耐えられなくなることだ」と述べ、「ウクライナを誰にも弱体化させない」と強調した。
ゼレンスキー氏は週末に掲載されたエコノミスト誌とのインタビューで、勝利がすぐに訪れるという幻想は禁物だと述べる一方で、夢物語ではないとも語った。

  

●プーチン大統領 極東の宇宙基地へ 13日にも北朝鮮・金正恩総書記と会談か 9/13
ロシアのプーチン大統領は極東のボストーチヌイ宇宙基地を訪問すると明らかにしました。現地で13日にも北朝鮮の金正恩総書記と会談するとみられます。
金正恩総書記が12日朝、国境沿いのロシア側にあるハサン駅に到着した時の映像です。まだ暗い中、専用列車から笑顔でホームに降り立った金総書記をコズロフ天然資源環境相らが出迎えます。金総書記はコズロフ氏や地元知事らとの会談後、専用列車でロシアを北上しているとみられます。
一方、プーチン大統領は12日、国際会議「東方経済フォーラム」で演説し、アムール州のボストーチヌイ宇宙基地を訪問する計画があることを明らかにしました。現地で13日にも金総書記と会談するとみられます。
会談ではウクライナ侵攻を続けるロシアへの武器供与についても協議を行うとみられ、ペスコフ大統領報道官はショイグ国防相も会談に同席するとしています。
●プーチン大統領「もう強制動員令は下さない…毎日1500人が軍服務を志願」 9/13
ロシアのプーチン大統領が「毎日1000人〜1500人が軍服務を志願して契約署名している」とし、これ以上の強制動員令は不要だという趣旨で述べた。
12日(現地時間)、タス通信などによると、プーチン大統領は同日午後、ウラジオストクで東方経済フォーラム(ECF)出席中に質疑応答で「ウクライナ戦争のために新たに強制動員令を下す計画はあるか」という質問を受け、このように答えた。ロシア大統領府(クレムリン)は昨年末から、追加の強制服務はないと繰り返し強調してきた。
ロシアは戦争開始から7カ月が過ぎた昨年9月末、30万人の部分動員令を下した。プーチン大統領はウクライナ侵略戦争を戦争と呼ばず、「特別軍事作戦」と呼んでいる。そのため、全面的な動員令は下せず、部分動員令だけを下した。
この過程で強制入隊を懸念し、拒否する若者数十万人がロシアから逃げたことがある。
しかしプーチン大統領は「それから6〜7カ月間、毎日1000人から1500人程度の服務志願者がおり、計27万人が契約して軍に入ってきた」と主張し、このような理由で今後追加の強制動員令は不要だと述べた。
ただし、英国国防省は11日、ウクライナ戦況について知らせ、強制動員令が行われないと予想する理由として2024年3月に予定された大統領選挙を挙げた。
一方、米国情報当局は7月を基準にウクライナ戦争でロシア軍12万人が戦死し、19万人がけがしたと推算している。
●金正恩氏「ロシアは正義」 プーチン氏に支持表明 9/13
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記はロシアのプーチン大統領と会談し、「ロシアは自らの主権と安全を守るための正義の偉業」とロシアへの支持を表明した。ウクライナ情勢を巡る日本時間13日までの動きをまとめた。
約4年5カ月ぶりの首脳会談
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で会談した。両首脳の会談は2019年4月に極東ウラジオストクで会って以来、約4年5カ月ぶり。
ロシアがウクライナで続ける「特別軍事作戦」について、金氏は「ロシアは自らの主権と安全を守るための正義の偉業」を行っていると強調し、ロシアへの支持を表明した。
ロシアに武器供与なら、米は追加制裁
米国務省のミラー報道官は11日の記者会見で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と近く会談するとみられるロシアのプーチン大統領について「金正恩に軍事支援を懇願するために国内を出張する」と述べた。そのうえで、北朝鮮からロシアへの武器供与が決まれば、追加の制裁を科す方針を示した。
ウクライナ4州の選挙は「偽り」
主要7カ国(G7)と欧州連合(EU)は12日、ロシアが併合を一方的に宣言したウクライナ東部・南部の4州(ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポロジエ)とクリミア半島で地方選挙を実施したことについて、ウクライナの独立や主権、領土一体性のさらなる侵害だとして「偽りの『選挙』の演出を断固として非難する」とする外相声明を発表した。
8〜10日にロシア各地であった統一地方選は、ロシアが併合を宣言したウクライナの東部・南部の地域でも実施され、政権与党「統一ロシア」が勝利したとされている。
ロシア、併合宣言のウクライナ4州で選挙
ロシア各地で8〜10日に統一地方選があり、政権与党「統一ロシア」の候補が軒並み勝利した。
ロシアが2022年9月に併合を宣言したウクライナ東・南部4州でも「州議会選挙」が強行され、同党の勝利が発表された。この4州の一つ、東部ドネツク州の住民からは選挙への複雑な反応が示されている。
ミサイル供与も議題か
米国のオースティン国防長官は11日、前任者の更迭に伴って今月就任したウクライナのウメロフ国防相と電話で初めて協議した。
米国防総省によると、両氏は、ウクライナがロシアの侵攻に対する反転攻勢を進展させるために必要な支援内容について意見交換した。米政府は長距離地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」の新規供与を検討しており、11日の電話協議でも話し合われた可能性がある。
ウクライナ、ポーランドの穀物輸入規制に反発
ポーランド政府は12日、自国農業への打撃を防ぐために実施しているウクライナ産穀物の輸入規制を15日の期限後も継続する方針を発表した。ウクライナ政府は反発し、世界貿易機関(WTO)に仲裁を求める可能性があると警告した。
ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国は、黒海経由に代わるウクライナ産穀物の輸出ルートとして国内通過を認める一方、安価な穀物の流入による自国農業への打撃を懸念し、ウクライナ産の小麦やトウモロコシなどの国内での販売を禁止している。
●クリミア半島の造船所で火災、ウクライナの攻撃で=ロシア国防省 9/13
ロシア国防省は13日、クリミア半島の港湾都市セバストポリがウクライナによるミサイル10発と高速ボート3隻の攻撃を受け、造船所で火災が発生し、船舶2隻が損傷したと発表した。
うち7発は防空システムで撃墜し、ボートは3隻とも巡視艇で破壊したとメッセージアプリのテレグラムに投稿した。
損傷した船舶2隻は修理中だったが、巡航ミサイルの直撃を受けたという。
セバストポリのラズボザエフ知事は少なくとも24人が負傷したと明らかにした。「全ての緊急サービスが活動に当たっており、市内の民間施設に危険はない」とテレグラムに投稿した。
ロシアが2014年に併合したクリミア半島にあるセバストポリ造船所は、ウクライナに攻撃を仕掛けているロシア黒海艦隊の船舶や潜水艦を建造・修理している。
知事は港湾施設とみられる場所で暗闇の中、大きな炎が上がる写真を投稿した。
ロイターはこの報道を独自に確認できていない。ウクライナは現時点でコメントしていない。
●ロシア国防省“クリミア ウクライナ軍のミサイル攻撃で被害” 9/13
ロシア当局は一方的に併合しているウクライナ南部クリミアの軍港都市に、ウクライナ軍によるミサイル攻撃があり、24人がけがをしたほか修理中の艦船2隻が被害を受けたと発表しました。
ロシア国防省は13日、一方的に併合しているウクライナ南部クリミアの軍港都市セバストポリにウクライナ軍が巡航ミサイル10発と無人艇3隻による攻撃を行い、修理中の艦船2隻が被害を受けたと発表しました。
地元のロシア側のトップは、SNSに24人がけがをしたと投稿しています。
ウクライナ空軍の司令官はSNSに港のような場所で火の手があがっている写真とともに「空軍のパイロットのすばらしい戦果に感謝する」と投稿し、攻撃への関与を示唆しました。
ロイター通信はウクライナ国防省の情報総局の報道官の話として、ロシア軍の大型の揚陸艦のほか潜水艦に被害を与えたと伝えています。
クリミアの奪還も掲げるウクライナ軍はロシア軍の施設に対する攻撃を強化しているものとみられます。
一方、ウクライナ側は南部オデーサ州などにロシア軍による無人機攻撃があり、イラン製の無人機44機のうち32機を迎撃したと発表しました。
オデーサ州の知事によりますと、この攻撃でドナウ川沿岸のイズマイルとレニで港湾施設などが被害を受け、7人がけがをしたということです。
ウクライナは農産物の輸出のために黒海の代わりにドナウ川を利用していますが、ロシアは川沿いの港湾施設を繰り返し攻撃しています。
●ローマ教皇特使が中国・北京を訪問へ ウクライナ侵攻めぐる和平実現に向け 9/13
ローマ教皇庁は、教皇フランシスコの特使が中国・北京を訪問すると発表しました。
ローマ教皇庁によりますと、教皇フランシスコの特使ズッピ枢機卿は、ロシアのウクライナ侵攻をめぐる和平実現に向けた取り組みの一環として、13日から15日にかけて北京を訪問するということです。
中国外務省は、ズッピ枢機卿が滞在中に李輝ユーラシア特別代表と会談すると明らかにしました。
中国外務省 毛寧 報道官「ウクライナ問題において、中国は常に平和を進め、交渉を促すことに取り組む」
中国外務省の報道官はこのように述べたうえで、「情勢の緩和を推進するため、引き続き建設的な役割を果たしたい」と述べました。
バチカンは台湾と外交関係を結んでいて、中国と国交がないなかでの枢機卿の訪中は異例ともいえます。
ただ、今月上旬には教皇フランシスコ自らが中国の隣のモンゴルを訪れミサを執り行い、中国のカトリック教徒に対しても「良きキリスト教徒、良き市民であってください」とメッセージを送っていて、今回の枢機卿の訪中も、中国との関係を改善する狙いがあるものとみられます。
●「ロシアの決定を常に支持」金総書記 プーチン大統領との首脳会談が終了 9/13
ロシアと北朝鮮の首脳会談が13日午後に終了しました。金正恩総書記は「ロシアの決定を常に支持する」と連帯を表明しています。
ロシア極東のボストーチヌイ宇宙基地に到着した金総書記は、会談の冒頭で「我々は常にプーチン大統領とロシア政府の決定を支持する」「我が国にとって最優先事項はロシアとの関係だ」と連帯を示しました。
また、ウクライナ侵攻を巡って「ロシアは主権と安全を守るため聖戦に立ち上がった」と支持する姿勢を示しました。
プーチン大統領自ら基地を案内し、宇宙分野での発展が「北朝鮮に興味深いものであることを願う」とも述べました。
●プーチン氏と金正恩氏が会談、ロシア極東の宇宙基地で1時間あまり 9/13
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記は13日、ロシア極東のボストーチヌイ宇宙基地で約1時間にわたり、非公開で会談した。
会談に先立ち、記者団の前で正恩氏とともに席に着いたプーチン氏は、歓迎の言葉に続いて「経済協力の問題や人道問題、地域の現状について話し合わなければならない。議題はたくさんある」と述べた。
正恩氏はプーチン氏の招待に感謝の意を表し、両国が協力すべき点は多いとしたうえで、「これを機に両国の関係が次の段階、新たな高みに発展することを確信している」と述べた。
同氏はまた、宇宙基地という「特別な場所」で会談に臨めること、「宇宙大国」としてのロシアの現状や将来をより深く理解する機会が得られたことは光栄だと語った。
さらに、ロシアは自国の主権と安全を守るために「覇権勢力」に立ち向かっていると称賛し、同国への「全面的かつ無条件の支援」を改めて表明した。欧米との対立を意識した発言とみられる。
ロシアの国営テレビはその後、両氏が1時間あまりの会談を終えたと報じた。
またペスコフ大統領報道官の話として、両氏がこの会談に関する文書に署名する予定はないと伝えた。
報道によると、ペスコフ氏は北朝鮮からの武器供与をめぐる交渉について問われ、両国間の関係には軍事交流のようにセンシティブな分野の対話や交流も含まれるとしたうえで、「そのほかはすべてわれわれ主権国家間だけの問題であり、第三国が懸念すべき対象ではない。両国の協力は他者との対立でなく、両国民の利益のためになされる」「北朝鮮はわが国にとって近しい隣国だ。わが国は外部からのいかなる意見にもかかわらず、わが国自体と近隣諸国の利益になるやり方で、近隣諸国との関係を構築する」と強調した。
●金正恩氏、プーチン氏に「常に全面支持」 ロシアで4年5カ月ぶり会談 9/13
北朝鮮の金正恩キムジョンウン朝鮮労働党総書記は13日、ロシア・アムール州のボストーチヌイ宇宙基地を訪問し、プーチン大統領と会談した。両首脳の会談は4年5カ月ぶり。ウクライナ侵攻で兵器不足に陥ったロシアへの砲弾提供や、軍事偵察衛星開発を進める北朝鮮への技術支援など、軍事協力拡大について協議したとみられる。
会談冒頭で、正恩氏は「われわれはプーチン氏の決定を常に全面支持してきた。帝国主義に対抗して主権国家を建設するため、ともに歩んでいく」とウクライナ侵攻への支持を表明。ロシアとの関係を最優先とする意向を示し、「今回の会談が両国関係を新たな段階に引き上げる」と語った。
プーチン氏は「経済協力や人道問題、朝鮮半島情勢について話し合う必要がある」と述べた。宇宙基地での首脳会談について「ロシアの宇宙産業発展を誇りに思っている」と強調した。
聯合ニュースによると、プーチン氏は記者団の質問に対し、北朝鮮の衛星開発を支援する考えを示した。同ニュースは両氏が会談に先立ち、ロケットの組み立て施設や発射施設などを視察したと伝えた。
北朝鮮は、2021年の兵器開発5カ年計画で重要課題に掲げた軍事偵察衛星の打ち上げに2回連続で失敗し、技術改良の必要性に迫られていた。国際的な経済制裁や新型コロナウイルス禍で食料事情が悪化し、餓死者も出たとされるなど経済困窮が深刻。ロシアへの砲弾などの提供は収入源確保としても利点がある。
ロシアは、朝鮮戦争の休戦協定から70年となった北朝鮮の「戦勝節」に合わせて7月27日にショイグ国防相を平壌ピョンヤンに派遣。正恩氏と面会し、「武装装備展示会」をともに見学するなど、軍事面での結束をアピールしていた。

 

●ロシア国防省“クリミア ウクライナ軍のミサイル攻撃で被害” 9/14
ロシア当局は一方的に併合しているウクライナ南部クリミアの軍港都市に、ウクライナ軍によるミサイル攻撃があり、24人がけがをしたほか修理中の艦船2隻が被害を受けたと発表しました。
ロシア国防省は13日、一方的に併合しているウクライナ南部クリミアの軍港都市セバストポリにウクライナ軍が巡航ミサイル10発と無人艇3隻による攻撃を行い、修理中の艦船2隻が被害を受けたと発表しました。
地元のロシア側のトップは、SNSに24人がけがをしたと投稿しています。
ウクライナ空軍の司令官はSNSに港のような場所で火の手があがっている写真とともに「空軍のパイロットのすばらしい戦果に感謝する」と投稿し、攻撃への関与を示唆しました。
ロイター通信はウクライナ国防省の情報総局の報道官の話として、ロシア軍の大型の揚陸艦のほか潜水艦に被害を与えたと伝えています。
クリミアの奪還も掲げるウクライナ軍はロシア軍の施設に対する攻撃を強化しているものとみられます。
一方、ウクライナ側は南部オデーサ州などにロシア軍による無人機攻撃があり、イラン製の無人機44機のうち32機を迎撃したと発表しました。
オデーサ州の知事によりますと、この攻撃でドナウ川沿岸のイズマイルとレニで港湾施設などが被害を受け、7人がけがをしたということです。
ウクライナは農産物の輸出のために黒海の代わりにドナウ川を利用していますが、ロシアは川沿いの港湾施設を繰り返し攻撃しています。
●北朝鮮にすがるロシア 侵攻長期化、弾薬不足の解消狙う 9/14
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻が長期化する中、北朝鮮の軍事協力にすがり、弾薬不足を解消する狙いがあるとみられている。先に閉幕したインドの首都ニューデリーでの20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を欠席する一方、金正恩朝鮮労働党総書記を歓待しており、制裁下で孤立する両国の結束を演出した。
「ショイグ(国防相)、弾薬はどこだ」。侵攻に協力した民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏(8月に自家用ジェット機墜落で死亡)はかねて、緊張関係にある軍・国防省を批判する材料として「弾薬不足」を挙げ、動画メッセージで糾弾していた。
これは根拠のない主張ではなさそうだ。ロイター通信は9日、西側諸国の話として、ロシアは昨年、ウクライナで弾薬1000万発以上を消費していたと報道。今後数年間、従来の2倍の年200万発まで増産できるかもしれないが、それでも戦場の需要は満たせないと厳しい分析を伝えていた。
反転攻勢を続けるウクライナは、ロシア軍の強固な防衛線に阻まれ、多数の兵器を失っているもよう。しかし、西側諸国による軍事支援は継続しており、戦況は双方による持久戦の様相を呈している。北朝鮮の弾薬供給が実現すれば、ロシアに自爆ドローンの技術を供与したイランに続く大きな支援となる。
ショイグ氏は今回の首脳会談に同席。7月に訪朝して正恩氏にプーチン氏の親書を手渡し、会談の立役者となった。プーチン氏は正恩氏に対し、7月の朝鮮戦争休戦70年、8月の北朝鮮の「祖国解放記念日」、今月9日の建国75年の3回も祝電を発表。その中で特に、ウクライナ侵攻中のロシアに対する北朝鮮の「断固たる支持」を高く評価していた。
●ロ朝首脳 軍事協力に意欲 金正恩氏 ウクライナ侵攻でロシア支持 9/14
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で会談した。金氏は対ロ関係について「最重視し発展させていく」と述べ、新段階に引き上げると強調。プーチン氏は北朝鮮との軍事技術協力に「展望がある」として、連携強化に意欲を表明した。北朝鮮へのミサイル技術提供も示唆し、日米韓は警戒を強めた。
両首脳の会談は2019年4月以来、約4年半ぶり。ウクライナに侵攻したロシアへの武器・弾薬の支援や、核開発を続ける北朝鮮に対する軍事技術の供与について協議したとみられる。
金氏は「ロシアの全ての措置を無条件で支持してきた。今後も共にあると断言する」と述べ、プーチン政権を全面支持する姿勢を鮮明にした。会談後の夕食会で、侵攻ではロシアが「正義の戦いで偉大な勝利を収める」と主張した。
会談はショイグ国防相や強純男国防相ら複数の閣僚も参加した拡大会合後、通訳だけを伴う一対一でも行われ、夕食会も含めて両首脳は5時間以上を共にした。
プーチン氏は会談場所に宇宙基地を選んだことについて記者団に、北朝鮮がロケット技術に関心を寄せていると指摘。同じ技術を用いたミサイル技術の供与を示唆した。
プーチン氏は会談後、地域情勢や2国間関係について率直に意見交換したと指摘。北朝鮮の新型コロナウイルス対策で停滞した物流の拡大や農業開発、人道支援も協議したと明らかにした。
ロシアのラブロフ外相は13日、北朝鮮に国連安全保障理事会で新たな制裁を科そうとする欧米などの試みは「葬られた」と述べ、今後は対北朝鮮制裁に同意しない考えを示した。
韓国軍によると、北朝鮮は首脳会談に先立つ13日午前、日本海に向けて短距離弾道ミサイル2発を発射した。北朝鮮の最高指導者が国外にいる状況でのミサイル発射は初めての可能性がある。
タス通信によると、プーチン氏は、金氏が今後、コムソモリスクナアムーレの航空機工場や、ウラジオストクのロシア太平洋艦隊を訪問すると明らかにした。
10日夕に平壌を出発した金氏の特別列車は、13日午後に宇宙基地に到着し、プーチン氏が出迎えた。
●金正恩氏「ロシアは聖戦に立ち上がった」…プーチン氏と軍事協力合意か 9/14
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の 金正恩キムジョンウン 朝鮮労働党総書記は13日、露極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で会談した。正恩氏は冒頭で、ウクライナ侵略を続けるプーチン氏の「全ての決定を支持する」と強調。会談では、宇宙開発でロシアが北朝鮮を支援することで合意した。軍事協力も議題となり、北朝鮮からロシアへの武器供与などで合意があった可能性が高い。
プーチン氏は会談で「経済協力や人道問題、地域情勢について話し合う必要がある」と述べた。正恩氏はウクライナ侵略を念頭に「ロシアは国家の主権や安全を守る聖戦に立ち上がった」と主張し、ロシアとの関係強化が「我が国の最優先事項」だと語った。
会談は両国外相や国防相らが同席した拡大会合に続き、通訳だけを交えた1対1の形式でも行われ、計約2時間に及んだ。露政府によると、セルゲイ・ラブロフ外相が10月に北朝鮮を訪問することでも合意した。
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は会談後、軍事協力についても協議したと記者団に明らかにした。北朝鮮がウクライナ侵略で使う大量の弾薬などを提供する見返りに、軍事分野の技術支援などを得る合意があったかが焦点となる。北朝鮮から武器提供を受けるのは国連安全保障理事会の決議に違反するため、合意を公表しない可能性がある。
ボストーチヌイ宇宙基地は露国内の宇宙開発の主要拠点だ。会談に先立ち、プーチン氏は正恩氏をロケット発射施設などに案内した。
ロシア通信によると、プーチン氏は記者団から北朝鮮の人工衛星の開発を支援するのか問われ、「それがここに来た理由だ。北朝鮮の指導者はロケット技術に大きな関心を示しており、彼らは宇宙開発を試みている」と述べ、支援すると認めた。北朝鮮は軍事偵察衛星の開発を急いでいる。
両氏の会談は、極東ウラジオストクで行った2019年4月以来となる。
●4年半ぶり会談で金正恩氏…ウクライナ侵攻は「正義の偉業」と支持表明 9/14
13日、約4年半ぶりに、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記の会談が行われました。日本時間の夕方に行われた夕食会では、プーチン大統領が“ことわざ”を用いて両国の関係を語る場面もありました。
ロシア プーチン大統領「“服は新しい方がいいが、友は古い方がいい”ということわざが北朝鮮にはあります。同じように、ロシアでも“古い友は新しい友よりいい”と言われています。いまの両国の関係にあてはまります」
北朝鮮 金正恩総書記「プーチン大統領と、安定的で未来志向的な両国関係を百年の計画で構築し、その力で強い国の建設を進め、真の国際正義を実現していきます」
この4時間ほど前(日本時間 午後1時すぎ)、ロシア・ボストーチヌイ宇宙基地で2人の首脳は再会し、がっちり握手を交わしました。
プーチン大統領「こんにちは。旅はどうでしたか?」
金正恩総書記「お忙しいなか招待いただき、また温かく迎えていただき、ありがとうございます」
2019年、初対面の時は、金総書記がプーチン大統領の方へ歩み寄る形でしたが、今回はプーチン大統領が、金総書記が降りてくる車の前で待ちうけていました。2人は約40秒間、握手をしながら言葉を交わしました。
プーチン大統領「行きましょう。ここが私たちの新しい宇宙基地です」
その後、プーチン大統領は「宇宙基地」へと案内しました。
金総書記は宇宙基地の中で説明を聞くと、モニターを指したり、ロケットの発射台をのぞき込んだり、ロシアの宇宙技術に興味津々な様子でした。
金正恩総書記「ここから発射できる、一番大きいロケットの発射推進力は、どれくらいですか」「最近の発射ですか?」
ロシア側「はい、最近です」
また、外にとめてあったロシア製の車が気になり、プーチン大統領と乗り込む場面もありました。
そして、日本時間午後2時半ごろ、首脳会談が始まりました。
プーチン大統領「我々は経済協力や人道的な問題について話し合わなければなりません。地域情勢についても、多くの議題があります」
金正恩総書記「プーチン大統領がとられるすべての措置に、全面的かつ無条件の支持を表明します。これからも反帝国主義との戦いで、ロシアと共にあると断言します」
国際社会で孤立する国同士の会談――。
金総書記は、ロシアのウクライナ侵攻について、「正義の偉業」だと強い支持を表明しました。
金総書記「ロシアは覇権主義勢力に対抗し、 主権と安全を守るための“正義の偉業”を繰り広げている」
蜜月関係に見える両国の“思惑”は、どこにあるのでしょうか。
専門家によりますと、ロシアは「ウクライナ侵攻における武器や弾薬の提供」を、北朝鮮は「宇宙開発に関する技術支援」を得たいという狙いがあるといいます。
アジアの安全保障が専門 明海大学 小谷哲男 教授「特に軍事面において、ロシアはウクライナで、かなり砲弾が不足している。この砲弾を、北朝鮮から供与してもらいたい」
一方、北朝鮮は今年2度にわたり、軍事偵察衛星の打ち上げに失敗しています。
小谷哲男 教授「首脳会談の場所として、ロシアのスペースセンターが選ばれたのも、今後、両国間で“宇宙開発・宇宙技術に関する協力”が議論される…そういうことを表していると考えられる」
会談前、ロシアメディアの「北朝鮮の衛星技術を支援するのか」という質問に対して、プーチン大統領は「そのために金正恩総書記とここに来た」と答えました。
プーチン大統領は13日夜、記者の質問に対し、今回の会談について「地域の状況や二国間関係について、非常に生産的で率直な意見交換ができた」と話しました。
金総書記は、14日以降、軍事工場やウラジオストクを視察して、北朝鮮に戻るということです。
●ロシアと北朝鮮 軍事協力どこまで具体化するか 欧米警戒か 9/14
ロシア極東にある宇宙基地でプーチン大統領と首脳会談を行った北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、ロシアによるウクライナ侵攻への支持を表明し、プーチン大統領もミサイルの関連技術を提供することを示唆するなど、両国の軍事的な連携を印象づけました。
欧米側は軍事協力がどこまで具体化するのか、警戒を強めているとみられます。
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン総書記は13日、極東のアムール州にあるボストーチヌイ宇宙基地で、4年ぶり2回目となる首脳会談を行いました。
プーチン大統領が「経済協力や地域情勢などを話し合う必要がある」と述べたのに対して、キム総書記は「両国関係を最重視して発展させていく」と強調した上で、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に、「ロシアはみずからの権利と安全などを守るために正義の偉業を進めている」と述べ、支持する考えを伝えました。
会談に先立ち、プーチン大統領は宇宙基地にある施設で、「北朝鮮の指導者はロケットの技術に大きな関心を示している」と述べ、ミサイルの関連技術を提供することを示唆しました。
一連の日程を終えたプーチン大統領は国営テレビなどの取材に応じ、北朝鮮との軍事技術協力について、「展望がある」と述べていて、今回の首脳会談は両国の軍事的な連携を印象づけました。
キム総書記は引き続き、極東地域に滞在し、戦闘機などの製造工場やウラジオストクにある海軍の太平洋艦隊を訪れるということで、ロシアとの軍事協力の可能性を探っています。
ウクライナ情勢や核・ミサイル開発などを巡ってロシアや北朝鮮と対立を深める欧米側は、両国の軍事協力がどこまで具体化するのか、警戒を強めているとみられます。
アメリカ「注視していかなければならない」
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン総書記の会談について、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は13日、記者会見で、「どのような結果が生じるのか、また、どのような武器の取り引きが実現するのか、注視していかなければならない」と述べました。
そのうえで、「もし、なんらかの武器の取り引きが行われれば、北朝鮮はアメリカや国際社会からしっぺ返しを受けることになる」と述べて、北朝鮮に対し、ロシアを支援しないよう改めてクギを刺しました。
さらに、ロシアが北朝鮮にミサイル関連技術の提供を示唆していることについて、「北朝鮮の軍事力を向上させるいかなる合意も大きな懸念となる」と述べて、両国が軍事協力を具体化することに警戒感を示しました。
松野官房長官「懸念を持って注視」
松野官房長官は14日午前の記者会見で、「首脳会談の結果について政府として答える立場にないが、北朝鮮との間の武器や関連物資の取り引きを全面的に禁止している、関連する国連安保理決議違反につながる可能性を含め、懸念を持って注視している」と述べました。
その上で、「第三者に対し、ロシア軍などへの支援を行わないよう求めてきており、こうした観点からも懸念を持って注視している。引き続き、関連情報の収集・分析を行うとともに、アメリカや韓国をはじめとする国際社会と緊密に連携していく」と述べました。
●米、追加制裁の構え ロ朝接近を警戒 9/14
米政府は、ロシアと北朝鮮の接近に警戒を強めている。北朝鮮がウクライナに侵攻するロシアに対して軍事支援に乗り出せば、追加制裁に踏み切る構えだ。
国務省のミラー報道官は12日の記者会見で、ロ朝の接近について、「ロシアがウクライナ侵攻に失敗して1年半が過ぎ、絶望的な状況に陥っていることの表れだ」と批判。さらに「必要なら責任追及のための行動を取ることをためらわない」と強調した。
国防総省のライダー報道官も「武器取引が(ロ朝首脳会談の)主要議題だと理解している」と指摘し、北朝鮮にロシアへの軍事支援を行わないよう求めた。
米政府はロシアの侵攻開始以降、情報機関などが把握したロシアと北朝鮮の武器取引交渉の実態を明らかにしてきた。昨年12月には北朝鮮がロシアの民間軍事会社ワグネルに武器を納入したと公表。今年7月にロシアのショイグ国防相が訪朝した後にも、「訪朝の目的は武器を売るように働き掛けることだった」と暴露した。
●「米国で政敵の迫害が…」プーチン氏の発言にトランプ氏が同調 9/14
トランプ前米大統領は13日、自身の起訴をロシアのプーチン大統領が「(バイデン政権による)政敵の迫害だ」と評したことに関して、「バイデン(大統領)がライバルを違法なやり方で扱ったことが、米国非難の材料に利用されている」と主張した。プーチン氏の論評はトランプ氏のこれまでの主張と軌を一にしており、バイデン氏批判の格好の話題として飛びついた形だ。
AP通信によると、プーチン氏は12日、極東ウラジオストクでの国際会議「東方経済フォーラム」で、トランプ氏が4事件で起訴されたことについて「政敵の迫害が米国の大衆や全世界の目の前で行われている。米国の政治システムの腐敗を示し、我々にとっては良いことだ」などと評した。
これを受けて、トランプ氏は13日、ネット交流サービス(SNS)で、自身の起訴は「(政治的に不安定で腐敗した途上国を指す)『バナナ共和国』のような手法だ」と改めて批判。「米国が引き裂かれていくのを全世界が見ている」と訴えた。
トランプ氏は2017〜21年の大統領在任中、プーチン氏と友好的な関係を構築。16年の米大統領選介入への関与を否定するロシア側に同調(後に撤回)するなど、「過度に融和的だ」との批判も受けていた。ロシアのウクライナ侵攻に対しては「大きな過ち」と指摘しているが、ウクライナへの支持を明言せず、「大統領になれば、24時間以内に(戦争を)終わらせる」などと主張している。
●国連グテーレス事務総長「現実的な解決策のために集まるとき」 9/14
来週から始まる国連総会の一般討論演説を前に、国連のグテーレス事務総長は世界の首脳たちに対し、「現実的な解決策のために集まるときだ。よりよいあすのために歩み寄るときだ」と呼びかけ、ウクライナ情勢など世界の課題の解決のために加盟国の協力を改めて訴えました。
グテーレス事務総長は13日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、現在の世界情勢について、「地政学的な分断がわたしたちの対応能力を弱体化させている」と述べ、強い危機感を示しました。
そして、今月19日から始まる国連総会の一般討論演説に参加する世界の首脳たちに対し、「わたしの訴えは明確だ。現実的な解決策のために集まるときだ。よりよいあすのために歩み寄るときだ。政治、外交、効果的なリーダーシップとは歩み寄りだ」と述べ、気候変動やウクライナ情勢など世界の課題の解決のために加盟国の協力を改めて訴えました。
一方、記者団がウクライナ情勢をめぐり、国連にできることはあるのかと質問すると、グテーレス事務総長は、加盟国をまとめるのは難しい情勢にあると認めた上で、「この危機に対処する状況を作り出すための仲介に全力を尽くす」と述べ、国連として今後も仲介などにあたる考えを示しました。
また、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン総書記が会談し、軍事技術協力の拡大などを協議したとみられることについて、「いかなる形でも北朝鮮と協力する国は安保理の制裁決議を尊重しなければならない」と述べ、北朝鮮からの武器の調達を禁止した安保理決議をすべての国が順守しなければならないと強調しました。
モロッコやリビアへ“緊急支援届けるため あらゆる手段講じる”
グテーレス事務総長は13日、記者会見の冒頭、「北アフリカで相次いだ悲劇的な出来事について、はじめに触れたい」と切り出し、「モロッコの壊滅的な地震とリビアの大洪水の影響を受けたすべての人たちに深い哀悼の意を表明したい」と述べました。
その上で、グテーレス事務総長は「国連は必要とする人たちに緊急支援を届けるため、あらゆる手段を講じていく」と述べ、国連として支援に全力を尽くす考えを強調しました。 
●プーチン氏と金正恩氏がロシアで会談 主要なポイントは何か? 9/14
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記の会談を報道するのは、絵解きの腕を競い合うようなものかもしれない。両首脳はクレムリン(ロシア大統領府)が言うところの「極めて実のある」議論を13日に行った。しかしいくつかの写真撮影の機会を別にすれば、非公開の会談で何があったのか、我々に分かることはほとんどなかった。
プーチン氏と金氏は、ロシア極東アムール州にあるボストーチヌイ宇宙基地で握手を交わした。北朝鮮のリーダーは、プーチン氏専用のロシア製リムジン「アウルス」の乗り心地を楽しんだ。それから同氏のために乾杯し、ロシアが「悪しき勢力」に罰を与えるだろうと断言した。独裁者らしい言い回しで、プーチン氏によるぞっとするような対ウクライナの消耗戦への支持を表明したようだった。
しかし両首脳は記者会見を開かず、声明も出さなかった。いかなる協定も、公式には発表されていない。ロシア極東で開かれた首脳会談から真のポイントを見出すのは至難の業だろう。ただ、この会談によって世界が被る影響は相当に大きい。
7月、ロシアのショイグ国防相が平壌を訪問した時、買い物リストを持参していたのは明らかだ。ウクライナでの強度の高い戦闘が1年半続いた後で、ロシアの弾薬の備蓄は大幅に低減した。米国の当局者は、北朝鮮とロシアが協定を結び、ロシアに対してウクライナでの戦争に必要な武器の供給を取り決めることを検討する可能性があると警告していた。北朝鮮は朝鮮半島に相当量の武器を保有している。
このような取り決めがロシア国内で成立したとするなら(これまでのところそれを示す証拠は一切確認できていないが)、それは北朝鮮が米国及び北大西洋条約機構(NATO)の産業基盤との競争に乗り出すことを意味する。米国とNATOは徐々に、しかし着実にウクライナがロシア相手に戦い抜くための武器を供給している。状況はまさに生きるか死ぬかだ。米国が大統領選シーズンに突入する中、プーチン氏はウクライナへの支援が弱体化するのを当てにしているとみられる。
さらに北朝鮮にとっても何らかの見返りがありそうだ。金氏の体制は国際社会から著しく孤立する。核と弾道ミサイルの開発プログラムを理由に、度重なる制裁を受けている。ロシアも過去には、北朝鮮への制裁に署名したことがあった。
しかし、自らの政権がウクライナへの全面侵攻による制裁の対象となる中、プーチン氏は金氏の命脈をつないでいるように見える。ニンジンの代わりにぶら下げているのは、ロシアの有する技術だ。
宇宙基地訪問に当たり、ある記者がプーチン氏に尋ねた。ロシアは北朝鮮が「自前の衛星とロケットを打ち上げる」のを支援するのかと。プーチン氏は答えた。「我々はまさしくそのためにここへ来た」
「北朝鮮の指導部は、宇宙への大きな関心を示している。ロケット工学への関心だ。そして彼らは宇宙開発に取り組んでいる。我々の新しい開発品をお見せする」。プーチン氏はそう語った。
金氏の宇宙に対する関心は、当たり障りのない話に聞こえるかもしれない。しかしプーチン氏の言い回しは、コメディアンのモート・サルがベルナー・フォン・ブラウンについて口にしていた古いジョークを思い起こさせる。フォン・ブラウンはドイツのロケット科学者で、第2次大戦中ナチスドイツの弾道ミサイル技術を先導した。サルのジョークとはこうだ。「彼は星を狙っていたが、時々イングランドに当てた」
フォン・ブラウンがミサイルの技術や米国の宇宙開発プログラムにどれほど貢献したかはよく知られる。彼の業績は、宇宙探査と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発の両方に道を開いた。後者は核兵器を世界中に打ち上げる性能を有する。
つまり、北朝鮮とロシアの間で技術の交換が行われる可能性については、依然として未知の部分が大きいのが実情だ。米国は、北朝鮮が既にウクライナ戦争のプレーヤーになったと確信し、ロシアの傭兵(ようへい)集団ワグネルに武器を提供していると考えている。
ワグネル創始者のエフゲニー・プリゴジン氏は、そうした疑惑を「ゴシップや臆測にすぎない」と一蹴していた。同氏は先月、搭乗していた航空機が墜落して死亡した。
もしロシアがこうした打ち上げ技術を北朝鮮に手渡すなら、その時世界は、1945年以降の欧州で最大の地上戦の影響がより広範囲に及ぶのを目の当たりにするかもしれない。そして2つののけ者国家による結束は、予想外かつ危険な形で展開していく恐れがある。
●米政府、北朝鮮・ロシアが武器取引なら制裁強化へ… 9/14
北朝鮮の朝鮮中央通信は14日午前、ロシアのプーチン大統領と 金正恩キムジョンウン 朝鮮労働党総書記が露極東で行った首脳会談について報じた。焦点となっている北朝鮮からロシアへの武器供与などの軍事協力の詳細には触れなかった。米政府は露朝の武器取引が明らかになれば、ロシアと北朝鮮への制裁を強化する方針だ。
露極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で13日に行われたプーチン氏と正恩氏の会談について、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は同日の記者会見で、「成果について両首脳が何を語るかを注視している。武器取引を進めれば適切に対処する」と語り、制裁を強化する可能性を示唆した。
カービー氏は、軍事的な関係を深めている露朝について「互いに信頼や信用があるわけではない」とも強調した。ウクライナ侵略を続けるロシアは弾薬が不足しており、今回の首脳会談で北朝鮮からロシアへの武器提供の合意があった可能性が指摘されている。
朝鮮中央通信によると、両首脳は「帝国主義者の軍事的脅威や専横を粉砕するために、共同戦線で連帯する」ことで一致した。具体的な言及はないが、ロシアのウクライナ侵略を北朝鮮が支持することなどを含んでいるとみられる。
両首脳は国家建設における「戦略的目標の実現」のためとして、政治や経済に加えて軍事分野でも意見を交換したという。同通信は両首脳が一連の会談で「満足な合意と見解の一致をみた」と伝えた。
一方、ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官によると、プーチン氏は正恩氏に北朝鮮人宇宙飛行士の養成を打診した。首脳会談では国際情勢や地域情勢に関する意見交換が行われた。ペスコフ氏によると、正恩氏の分析は「プーチン氏にとって非常に興味深いものだった」という。
正恩氏は会談に続く夕食会終了後、「都合の良い時期」に訪朝するようプーチン氏に求めた。プーチン氏は快諾し、「露朝友好の歴史と伝統を変わることなく継いでいく意志」を表明したという。
プーチン氏の訪朝が実現すれば、2000年7月に正恩氏の父・ 金正日 キムジョンイル 総書記と平壌で会談して以来となる。露政府は13日、セルゲイ・ラブロフ露外相が10月に訪朝すると明らかにした。
正恩氏は14日以降に露極東地域のコムソモリスク・ナ・アムーレにある戦闘機工場、ウラジオストクのロシア太平洋艦隊の拠点を訪問するとの観測がある。
●プーチン大統領の訪朝受諾認める ロシア報道官、日程は未定か 9/14
ロシアのペスコフ大統領報道官は14日、プーチン大統領が13日にロシア極東で行われた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との首脳会談で、金氏からの北朝鮮訪問の招請を「感謝とともに受け入れた」と述べ、訪朝を原則として受諾したことを明らかにした。タス通信などが報じた。
「今後は外交チャンネルを通じて合意が図られる」とも述べ、具体的な日程などは決まっていないことを示唆した。
ペスコフ氏は13日の会談終了後、プーチン氏の訪朝は「現段階では計画されていない」と述べていた。
ペスコフ氏によると、会談の際にプーチン氏は金氏に記念品として、宇宙飛行士が何度か使用した宇宙服の手袋とカービン銃を贈った。金氏もプーチン氏にカービン銃をプレゼントしたという。
プーチン氏は14日に主宰したオンラインでの安全保障会議で、首脳会談の内容をロシア政府高官らに説明した。
●次はどこか、これからどうなるのか……ロシアの隣国が抱えるリスクと不安 9/14
「前線にサウナを」。ウクライナでの戦争に関する資金調達のスローガンとして、真っ先に思い浮かぶものではないだろう。ウクライナ政府が長距離ミサイルや戦闘機「F16」を西側同盟国に要求するのは理解でいる。しかし、なぜサウナなのか?
エストニアの映画監督イルマー・ラーグさんによると、ウクライナ軍は実際にサウナを所望しているという。ラーグさんは人道支援に参加する中で、頻繁にウクライナを訪問している。
ラーグさんは現在、ウクライナ兵のための移動式サウナを作るべく、クラウドファンディングで資金を募っている。シャワーと軍服用の洗濯機付きで、ロシアの砲火から兵士を守るため、入念にカモフラージュを施す。
カスタムメイドのサウナを探すなら、大きなサウナ文化を持つエストニア人を頼るのは理にかなっている。衛生面でも士気を上げるという点でも、凍える冬の夜にサウナで体を温めるのは大事だ。
エストニア兵は移動式サウナなしでは移動しない。アフガニスタンの砂漠や中東レバノンでの作戦にも持ち込んだ。これは100年近く前のロシアからの独立戦争以来の伝統で、国立鉄道は前線付近にサウナ車両を止め、数週間を塹壕で過ごした部隊に入浴・消毒の機会を与えた。
ラーグさんは、ウクライナ兵が数日、あるいは数週間にわたって洗濯もできず、靴も脱げない状態にあると聞いたという。バフムート周辺の前線で戦うある司令官が、フェイスタイムで私に、エストニア製のサウナは神からの贈り物だと話した背景には、そういう事情があったのだ。
ロシアと国境を接する欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の加盟国では、多くの人々があらゆる方法でウクライナを支援している。
エストニアとラトヴィア、リトアニアのバルト三国は、第2次世界大戦の直後から数十年にわたり、ソヴィエト連邦に支配されていた。これらの国の人々は、ロシアの侵攻によるウクライナの痛みが分かると話す。
これらの国々はまた、経済規模比でみればアメリカやイギリスを含むどの国よりも多く、短期的な援助を行ったり約束したりしている。戦争開始以降、ウクライナに送られた支援を追跡しているドイツのキール研究所の最新データによると、長期的な貢献を含めてもこれらの国を超えるのはノルウェーだけだという。
リトアニアのドリフト競技チャンピオンであるゲディミナス・イヴァナウスカスさんは、ロシアの侵攻が始まったその日に、避難する市民を助けるためにウクライナに向かった。
イヴァナウスカスさんは目に涙を浮かべながら、そこで目撃した人々の苦しみを語った。支援したいという願いと、国際的な援助活動のペースがしばしば遅いことへの不満、そしてあらゆる自動車に関する専門知識が、イヴァナウスカスさんを動かした。クラウドファンディングで何十台もの自動車を調達し、リトアニアの田舎に借りた小さなガレージで装甲メッキを施している。ウクライナ軍に四輪駆動救急車として使ってもらうため、丹念に装備したものもある。
一方、ウクライナの国際大隊で狙撃手を務めるミンダウガス・リートゥヴニンカスさんは、別の動機で戦争を助けていると話した。
彼は誇りあるリトアニア国民として、ウクライナで戦うことでリトアニアを守っていると考えている。
前線に戻るための荷物をまとめながら、リートゥヴニンカスさんは「ロシアを今、ウクライナで止めなくてはならない」と話した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナで成功すれば、次はバルト三国が狙われる可能性があると、彼は考えている。
リトアニアは、NATOに加盟しているロシアの隣国の一つだ。ロシア政府の拡大主義的な計画や、西側を弱体化させ不安定化させようとするプーチン氏の意図について、リトアニア国民は長い間、声高に警告してきた。同盟国は長い間それを、国境を接しているが故の被害妄想だとしてきた。だが、もはやそうではない。
ロシアがウクライナに全面侵攻を掛けたことで、NATOには新たな目的が生まれた。ロシアに近い同盟国での存在感を新たに強化し、熱心な新メンバーを獲得することだ。プーチン氏の玄関の目の前で。
フィンランドはロシアと1300キロにわたって国境を接している。これまでは大きなクマのような隣国を敵に回すのを恐れ、常にNATO加盟を拒否してきた。しかしフィンランド国民は、ウクライナの領土にロシアの部隊が進軍する様子を見て、全面的に意見を変えた。2022年5月には、バルト海の大国スウェーデンと共にNATO加盟申請を提出した。
これはロシア政府にとって大きなオウンゴールとなった。
フィンランドではまた、兵器の訓練に参加する若者が劇的に増加した。同国では若い男性に兵役が義務付けられており、その後は予備役となる。人々は、隣国ロシアがフィンランドに落としている大きな影が、より脅威を感じさせるようになったと語っている。
この戦争はフィンランドの企業活動に大きな影響を与えている。戦争が始まるまで、ロシア人観光客は年間6億3000万ドル(約927億円)の経済効果を生み出していた。
しかし、ロシアやその同盟国ベラルーシと国境を接するEU各国と同様、フィンランドもロシア国民への渡航ビザの発行を停止している。
雪に覆われたラップランドで、私はスキーリゾートを経営するヴィル・アホさんと会った。彼の所有するシャレーからは、ロシアの山々が見える。アホさんは、長年にわたってロシア人旅行者と1対1の親交を深めてきたと話した。しかし今は、こうした人たちに戻って来てほしくはないという。また、普通のロシア人、特にロシアに住んでいない人々が、もっと声高に戦争に反対してくれればと願っていると語った。
ウクライナについて話し出すと、アホさんは目に見えて感情的になった。戦争が血なまぐさく長引くなか、誰も無関心ではいられないはずだと強調した。
「ロシアが勝利し、プーチンが権力を伸ばした場合の結末を考えることさえできない。次は誰なのか? フィンランド、ポーランド、エストニア、それともリトアニアか? プーチンは自発的にはウクライナで止まらないだろう。でもこれはウクライナで終わらせなければいけない」
プーチン大統領は伝統的な戦争だけを好んでいるわけではない。西側諸国に対するサイバー攻撃や偽情報の拡散活動の多くは、ロシア政府によるものと批判されている。しかし、アホさんが挙げた国々に軍事攻撃を仕掛けることは、プーチン氏にとっても大きな賭けだ。
そうした事態になれば、アメリカやイギリス、フランスといった核保有国を含む全NATO加盟国が支援に回るだろう。だが、これは鉄で固められた保証ではない。どう対応するかは、究極的には各国に委ねられるだろう。
ロシアと国境を接し、ロシア系住民の多いラトヴィアは、こうした事態に神経質になっている。
ラトヴィア第2の都市ダウガフピルスは、ベラルーシから25キロ、ロシアからは120キロの地点にある。家族とラトヴィア語ではなくロシア語で話す住民は8割に上る。その多くはロシア語で学校教育を受けている。彼らは伝統的に、ロシアのテレビやラジオ、ウェブサイトなどから日々の情報を得ている。
私はすぐに、この街にウクライナ国旗がないことに気が付いた。ラトヴィアの他の地域では、学校や市民会館、店舗の入り口などで、連帯を示すウクライナ国旗がはためいている。ラトヴィア系ロシア人が全員、プーチン氏を全面的に支持しているわけではないが、街で取材した人々は戦争について話したがらなかった。ロシアを侵略者、ウクライナを被害者とみているかという質問には、回答を拒否した。
ラトヴィアは、プーチン氏がこの国でもロシア系住民を「救出」しようとするのではないかと懸念している。これは2014年、ロシア国境に近いウクライナのドンバス地方の一部をロシアの武装集団が占拠した際に、プーチン氏が与えた口実の一つだ。
ロシア系住民をロシアのプロパガンダとされるものから切り離すため、ラトヴィア政府は現在、ロシアのテレビを禁止した。ロシア語での学校教育も終了したほか、旧ソ連時代の記念碑なども取り壊した。
しかし、ラトヴィアは非常に繊細な橋を渡っている。
新たな政策はロシア系住民の融和を目指すものだが、政府が欧米志向を国民に強要しようとしているという批判の声も出ている。多くのロシア系住民を完全に疎外し、プーチン氏の腕の中にその人たちを追いやる危険さえあると。
こうした複雑さと繊細さは、ウクライナでの戦争が終わった後も続きそうだ。
今回の取材では、ウクライナでの戦争の影響が、前線から遠く離れた場所でもどれほど広く、深く、個人的なものになっているかを痛感した。
今後どうなるかは全く分からない。
この紛争がどう終わるかに、あまりに多くがかかっている。しかし戦争後、我々はロシアとどのような関係を持てるのか、あるいは持つべきなのだろうか? 協力や信頼はどうなるのだろうか?
これは私が訪れた、ロシアと国境を接し、多くの歴史を共有している国々だけの問題ではない。欧州全土、そしてウクライナの同盟国すべてが考えなければならないことなのだ。とても慎重に。
●韓国与党議員「露が北にロケット技術与えれば、我々はウクライナに武器供与」 9/14
韓国与党・国民の力に所属する国会国防委員の成一鍾(ソン・イルジョン)議員が北朝鮮とロシアの軍事技術協力について「韓国政府は対応をうまくしなければいけない」とし「(韓国が)武器をウクライナに支援すればロシアも打撃を受けるはず」と述べた。
成議員は14日、MBCラジオ番組「キム・ジョンベの視線集中」に出演し、「露朝が首脳会談場所に衛星発射現場を選択したが、先端技術が北に流れるという信号を持っているので象徴的な意味が大きい」と話した。
これに先立ち北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とロシアのプーチン大統領は13日、首脳会談を行い、ロシアのウクライナ戦争に対する北朝鮮の武器支援、北朝鮮に対するロシアの技術支援を示唆した。
成議員は「旧ソ連の軍事武器体制は北と互換性が非常に高い」とし「ロシアは北の弾薬など武器支援を必要としているため、今は北が有利な状況とみられる」と説明した。
続いて「この部分について韓国政府も制御をしなければいけない」とし「我々が持つK防衛産業の先端武器をウクライナに支援すれば、ロシアも大きな打撃を受ける可能性がある」と主張した。
司会者が「ウクライナへの殺傷用武器支援も検討すべきということか」と再度確認すると、成議員は「先端技術が北に入る場合、安保地形に問題が生じるため、大韓民国政府が可能なあらゆる検討をして選択肢を持っておくべきだ」とし「政界では与野党を問わずいくつか代案について検討しなければならず、こうしたメッセージがロシアにも明確に届かなければいけない」と強調した。
ロシアにいる同胞と企業については「他の国には同胞がいないのか」とし「大統領がウクライナを訪問した時も同胞と企業はどうするのかという話をしたが、米国・日本・欧州の同胞と企業もロシアに入っている」と話した。
ただ、成議員はウクライナ武器支援に関する意見について「与党で十分に議論されたものではない」とし「国防委員として当然話せることではないだろうか。党で検討していないが、外交的な選択肢について確実に政界で話をして政府は検討しなければいけない」と語った。
これに対し最大野党・共に民主党の尹建永(ユン・ゴンヨン)議員は「非常に危険な発想だ」とし「大韓民国の参戦宣言に該当する」と批判した。
成議員の発言後、尹議員はインタビューで「単純な白黒論理で、北とロシアが近づけば我々が軍事武器を支援すべきという論理がどこにあるのか」とし「ロシアが韓国を敵対国と見なすことになる」と叱咤した。
●ウクライナ、クリミアのロシア黒海艦隊攻撃…「開戦後最大規模の空襲」 9/14
ウクライナ軍が13日にクリミア半島のロシア黒海艦隊司令部を攻撃し、艦艇2隻が破壊され海軍造船所で大規模火災が発生した。外信は今回の攻撃が昨年の戦争勃発後ロシア黒海艦隊本拠地に対するウクライナ軍の最大規模の攻撃だと伝えた。
ニューヨーク・タイムズとガーディアンなどによると、ウクライナ軍はこの日未明の攻撃によりクリミア半島のセバストポリ海軍基地でロシア軍の大型船舶1隻と潜水艦1隻を修理不可能なほど破壊したと発表した。
ロシア国防省も声明を通じウクライナ軍が巡航ミサイル10基と無人艇3隻でセバストポリ海軍基地の造船所を攻撃し、修理中だった軍艦2隻に被害をもたらしたと明らかにした。
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にはセバストポリ海軍基地から火柱が上がる写真が投稿された。
ロシアが任命したセバストポリのラズボザエフ知事はこの日、攻撃により造船所で最小24人が負傷したと明らかにした。
元ウクライナ海軍大尉のアンドリー・リジェンコ氏はロイター通信に「今回の攻撃は戦争が始まって以来セバストポリに対する最大規模の攻撃」と話した。
ニューヨーク・タイムズも「19カ月前にロシア軍が全面的な侵攻を始めてからロシア海軍基地に対する最大の打撃。ロシアの占領地の奥深くまで打撃するウクライナ軍の能力が強化されていることを見せる」と伝えた。
クリミア半島最大の港湾都市であるセバストポリは2014年のロシアによるクリミア併合後にロシアの黒海艦隊が駐留してきた戦略的要衝地だ。ロシア軍はこの海軍基地を活用してウクライナの黒海穀物輸出を封鎖してきた。
ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は「ロシア黒海艦隊の非武装化は黒海穀物輸出での安全を長期的に確保するためのもの。これは食糧難を武器として活用しようとするロシアの試みに対する唯一の正しい対応であり、アフリカとアジアにウクライナ穀物輸出を保障する唯一の方法」と話した。
●ロ朝が関係強化−ロシア人富豪、欧州から資産引き揚げ 9/14
ロシアのプーチン大統領は13日に行った北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との会談で、金氏の訪朝招請を快諾した。北朝鮮の国営朝鮮中央通信が報じた。プーチン氏は「都合のよい時」に平壌を訪れるという。
特別列車でロシア入りした金氏は、アムール州のボストーチヌイ宇宙基地でプーチン氏と約4年ぶりに会談。米国によれば、ウクライナで戦争を続けているロシアに北朝鮮が武器を供与する可能性を中心に話し合いがなされたとみられる。金氏は今後数日、ロシアで軍事関連施設を視察する可能性がある。
ウクライナの防空部隊は南部と北部、中央部に向けて夜間に発射されたロシアのイラン製ドローン「シャヘド」22機のうち17機を撃墜したと発表した。
ロシアは、ウクライナとの国境の北方に位置するブリャンスク近くでドローン6機、クリミア半島のエフパトリヤ付近で11機をそれぞれ撃墜したと報告。ロシアのメディアは現地の救急サービスの情報として、ウクライナから数百マイル離れたロシアの都市サラトフ近郊で、天然ガスのパイプラインが火災を起こしたと報じた。原因については明らかにされていない。
国際社会の制裁に直面し、プーチン氏から資産をロシアに還流させるよう迫られてもいるロシア人富豪らは、ウクライナ侵攻以後、欧州から巨額の資産を引き揚げた。ロシアのオリガルヒ(新興財閥)がここ数十年続けてきた慣行が反転しつつある。

 

●米政府、ロシアのエリート層や企業に新たな制裁−対象は100近くに 9/15
米バイデン政権は、ロシアのエリート層や金融機関、サプライチェーンなどを対象とした新たな制裁を発表した。制裁対象の数は100近くに及ぶ。ウクライナでの戦争を続けるプーチン大統領を追い込むための新たな大規模な取り組みとなる。
制裁対象の大半はロシアの企業と個人だが、今回はフィンランドを拠点とする企業1社とトルコ企業2社も含まれた。フィンランド拠点の企業はロシアに外国製電子機器を出荷。トルコの企業は、ウクライナ戦争向けのドローンと巡航ミサイルを製造するための機器の出荷に関連している。
イエレン米財務長官は発表文で、「本日の制裁措置を踏まえ、米国はロシアの軍事サプライチェーンを標的とし、プーチン大統領がウクライナに対する野蛮な戦争を遂行するのに必要な機器やテクノロジー、サービスを奪うための絶え間ない取り組みを続けていく」と述べた。
ロシアの鉄道車両メーカー、トランスマッシュホールディング、同社のアンドレイ・ボカレフ社長も今回制裁の対象となった。同社の最近の事業状況は、ロシアが戦争支援のため国内の製造業を活用せざるを得なくなっており、民間産業と軍需産業との境界があいまいになっていることを示していると、米国は説明している。
トランスマッシュホールディングは世界有数の鉄道車両・機器メーカーで、2021年の売上高は14億ドル(約2060億円)。インドやエジプトなど複数の国と契約を結んでいる。米財務省によれば、ウクライナ侵攻を受けて同社は歩兵戦闘車の部品製造を開始した。
今回の制裁ではこのほかロシアの自動車、建設、石油・ガス業界の企業も対象となった。
●ICC、ウクライナに事務所開設 本部以外で最大 9/15
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は14日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの首都キーウ(キエフ)に事務所を開設したと発表した。ICCは、ロシアによる戦争犯罪の捜査で、ウクライナとさらなる連携強化を図る。
ウクライナのコスチン検事総長はX(旧ツイッター)で、事務所開設について「正義の回復に向けて極めて重要な一歩を踏み出した」と歓迎した。同氏によれば、ウクライナ事務所はICC本部以外で最大規模だという。
ICCは3月、ウクライナ占領地からの違法な子供の連れ去りに関与した戦争犯罪の疑いで、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。 
●プーチン大統領 北朝鮮に続きベラルーシ大統領と首脳会談 9/15
ロシアのプーチン大統領は、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記に続いて隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領と首脳会談を行い、ウクライナへの軍事侵攻をめぐって連携を確認したものとみられます。
ロシアのプーチン大統領は、9月13日に北朝鮮のキム・ジョンウン総書記と極東の宇宙基地で首脳会談を行ったのに続いて、15日には、南部の保養地ソチに同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領を招き、首脳会談を行いました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「北朝鮮の指導者と地域情勢について、どのような議論を行ったのか知らせたい」と述べ、キム総書記との会談の内容を伝えたものとみられます。
これに対して、ルカシェンコ大統領は「以前あなたと訪れた宇宙基地で、キム総書記との会談が行われたことは喜ばしい。今後、北朝鮮とわれわれによる三者協力も考えていけるのではないか」と応じました。
また、プーチン大統領は「われわれの喫緊の課題であるウクライナ危機をめぐっても議論したい」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻をめぐって、ベラルーシとの連携を確認したものとみられます。
ロシアでは、9月18日に中国の王毅外相が首都モスクワを訪れ、ラブロフ外相との会談が行われる予定で、欧米との対立を深めるプーチン政権が外交を活発化させています。
●ルーブル下落・プーチン大統領を支える黒服の中銀総裁 9/15
ロシアの通貨ルーブルが下落する中で、プーチン大統領の信頼厚い黒服の中央銀行総裁の手腕が注目されています。
A はい、このジェットコースター、ロシアの通貨ルーブルの対ドルレートを示しています。
下に下がれば、数字が大きくなれば下に向かいルーブル安というジェットコースター、先月には一ドル101ルーブルのルーブル安となり、今も96ルーブルです。プーチン大統領は、石油とガスに裏打ちされた強く安定した“黄金のルーブル”を唱え、政権安定の基盤となっていました。
しかし今や崩壊寸前! 魔王プーチンを支える魔女のような黒服の女性、ロシア中銀ナビウリナ総裁、先月13日政策金利を一気に3.5%引き上げ、12.6%とする思い切った金融引き締めの政策を取り、ルーブルの守護神です。プーチン大統領も頼りにする彼女の黒を基調としたファッションに注目が集まっています。
Q なぜファッションが注目されるのですか?
A 彼女は服装で今後の景気の見通しや金融政策を示唆するといわれています。ウクライナへの軍事侵攻した時には真っ黒な服で悲観的見通しを示し、政策金利を一気に20%まで引き上げてルーブルを防衛しました。それ以来黒を基調とした服を着ていますが、徐々にブラウスを明るめの色とするなど楽観的な見通しを示唆しつつ、金利を引き下げ、金融を緩和してきました。しかし再び黒を基調として服でルーブル防衛への強い決意を示しています。ただそうしたナビウリナ氏に対して強い批判があります。
Q どのような批判ですか?
A かつての同僚の経済学者やロシアを去った反プーチン派からは、不道徳だという強い批判です。元々はリベラルな考え方だった彼女は、軍事侵攻がロシアにとっても有害であることを重々知りながらプーチン体制を支えているとことへの批判です。
ナビウリナ総裁への批判は体制を支える官僚などテクノクラート全体への批判ともいえるでしょう。
●ウクライナ軍、バフムト近郊の集落奪還と発表 9/15
ウクライナ軍は15日、東部ドネツク州バフムト近郊の集落アンドリーフカを奪還したと発表した。
同軍によると、ロシア側に多数の犠牲者が出た。ロシア軍は装備も失い、ウクライナ軍は一部の地域を要塞化できたという。
アンドリーフカは、ロシア軍が5月に占領した激戦地バフムトの南に位置する。
ウクライナ軍は、バフムトの南に位置する集落クリシチウカでも「部分的な成功」を収めたと表明した。
●ウクライナ穀物輸出が背景…ロシアのドローンがルーマニアに NATOどうする 9/15
ウクライナと、ドナウ川を挟んで隣り合うルーマニアの領土内で、ロシア軍のものとみられるドローンの破片が相次いで見つかっています。
ルーマニア東部・トゥルチャ県。ウクライナとの国境に近い森の中で、草木がなくなって開けている場所があります。地面には大きな穴。辺りの木々は、焼け焦げています。
3日夜、ロシアは、国境近くにあるウクライナの港湾施設を攻撃。ウクライナは、その際にドローンがルーマニア側に落下したとしています。
近所の住民:「20メートル先に落ちたような大きな音でした。幸いにも、その夜は、とても激しい雨が降ったので、炎が村に近づきませんでした」
ルーマニア政府は5日、破片の落下自体を否定しました。
ルーマニア・ヨハニス大統領:「ルーマニアにはドローンも破片も落ちていない。我々は国土を完全にコントロールしている」
NATO=北大西洋条約機構加盟国であるルーマニアが、仮に攻撃されたとしたら、NATO全体として対応しなければならない事態です。その後、ルーマニア政府は落下については認め、“領空侵犯”だと非難しました。ただ、領内で爆発したものではなく、偶発的なできごとだと強調しています。
ただ、ロシアのドローンとみられる破片は、その後も相次いで見つかっていて、13日には国境から15キロほど離れた場所でも確認されました。
ルーマニア側では、けが人は出ていませんが、地元の人々にとっては、もう、他人事ではありません。
地元住民:「やっと平穏な年金生活を迎えたのに、ご覧の通りです。騒がしい(Q.夜に起こされることも)はい、時々、向こうから警報が鳴ります」
この事態に、ルーマニア軍は、領空の警戒監視を強化するとともに、シェルターの建設を始めました。当局は、スマホなどで警報が出たら、ここへ避難するよう呼び掛けることにしています。
ロシアによる侵略行為がルーマニアに飛び火した背景にあるのは、ウクライナからの穀物輸出の問題です。
ロシアは、7月、黒海を経由した穀物輸出の合意から離脱。ウクライナの港からの輸出が危機的状況となっています。そこで、代わりに活用されているのが、ルーマニアとの国境まで陸路で運び、ドナウ川やルーマニアの運河を通じて黒海に出るルートです。このルートによる穀物輸出も阻止しようと、ロシアは港湾施設などにドローン攻撃を繰り返し、その破片がルーマニアに落ちる事態となっています。
一方、ウクライナは、この数日、ロシアが一方的に併合したクリミアへの攻撃を強めています。ロシア黒海艦隊の拠点、セバストポリの造船所を破壊。補修中の大型揚陸艦と潜水艦が損傷したとみられています。
ウクライナ・ポドリャク大統領府顧問:「ロシア黒海艦隊の非武装化は、穀物の輸出ルートの長期的な安全確保につながるものだ」
※いま、戦況に変化が起きているのでしょうか。
アメリカのシンクタンクによりますと、東部・バフムトでは周辺地域を奪還するなど、ウクライナ軍が進軍。南部・ザポリージャ州の西部では、ウクライナ軍は攻勢をかけるも、ロシア軍も前進はできていないため、一進一退となっています。
そんななか、ロシア軍が攻撃を強めているのが、黒海周辺のミコライウやオデーサという地域。この地域のウクライナの穀物輸送ルートを狙うためです。海上ルートだけでなく、川を使った輸送ルートも攻撃されていて、ウクライナとルーマニアの国境にまで広がっています。今回、攻撃に使われたロシアの無人機の破片が、NATO加盟国のルーマニアで見つかりました。
ウクライナは、ポーランドやルーマニアなど、NATO加盟国4カ国と国境を接しています。NATOのストルテンベルグ事務総長は「NATO境界付近で戦闘や空爆が多発していることは事実。意図的に攻撃したとは見受けられないが、無人機攻撃は不安定化をもたらす」とコメントしています。
※今後、NATOはどのように対応するのでしょうか。
ヨーロッパの安全保障に詳しい二松学舎大学・合六強准教授は「NATOはロシアとの戦闘を避けたいので、できるのは“守りの対策”。アメリカ軍のF16を派遣して、防空警備の強化。ルーマニア国民へ安心を与えるとともに、ロシアに対してのけん制のメッセージになる」と話します。
※NATOには“集団的自衛権の行使”もありますが、発動するのでしょうか。
さんは「そもそも“集団的自衛権の行使”は、直接、ロシアとの戦争を意味するので簡単に発動しない。NATOはロシアとの戦闘を避けるため、今回も『意図的ではない」と処理した。ただ、“意図的と捉えられる攻撃が”あった場合、協議のうえで発動の可能性もある」と指摘しています。
●ゼレンスキー大統領“ロシア軍防空システム破壊は重要な成果” 9/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにあるロシア軍の防空システムを破壊したと明らかにし「極めて重要な成果だ」と強調しました。
ウクライナ軍は14日、クリミア半島の西部エウパトリヤ近郊にあるロシア軍の地対空ミサイルシステムを攻撃したと発表しました。
これについてウクライナのゼレンスキー大統領は14日に公開した動画で「占領軍の防空システムの破壊というすばらしい勝利に感謝する。極めて重要な成果だ」と述べ、ウクライナ保安庁と海軍をたたえました。
クリミアでは、先月にもロシア軍の最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」が破壊されています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日「ロシアにとって重要な防空システムへの攻撃は2度目で、このような戦術的な失敗は、クリミア占領下のロシアの防空体制に広範なシステム上の問題があることを反映している可能性がある」と分析しています。
また、ウクライナ軍は15日、東部ドネツク州の激戦地バフムトの南およそ10キロにある集落アンドリーイウカを奪還したと発表しました。
ウクライナ軍参謀本部は、バフムトや、南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリに向けて反転攻勢を続けていて、ロシア軍の激しい攻撃を受けながらも占領された地域を少しずつ解放していると強調しました。
英国防省 “ロシア海軍に与えた打撃大きい”
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは、今月13日、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市セバストポリにウクライナ軍が巡航ミサイルなどで攻撃を行い、揚陸艦と潜水艦に損傷を与えました。
これについてイギリス国防省は15日「公開された証拠に基づけば、ドックで整備中だった2隻のうち揚陸艦はほぼ確実に破壊され、潜水艦も壊滅的な損傷を受けた可能性が高い」と指摘しました。
このうち潜水艦は、黒海艦隊に所属する巡航ミサイルが搭載可能な潜水艦4隻のうちの1隻で、ウクライナを攻撃し、黒海などにロシアの力を誇示する上で大きな役割を果たしたということで、ロシア海軍に与えた打撃は大きいとの見方を示しました。
また潜水艦の復旧には相当の年数と巨額の費用がかかり、ドックは残骸の撤去作業などで何か月も使用できなくなる可能性があるとして艦船の補修作業が困難になると分析しています。

 

●30万人志願、動員回避 「北朝鮮から派兵」強く否定―プーチン氏 9/16
ロシアのプーチン大統領は15日、ウクライナ侵攻が長期化する中で契約した志願兵が「けさの段階で30万人」に上ると述べ、十分な兵員を確保できたという認識を示した。北朝鮮が軍事協力に絡み、義勇兵を派遣するのではないかと一部でささやかれていることについては「ばかげている」と否定した。
黒海沿岸の保養地ソチで、ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談冒頭で発言した。
プーチン氏は6月、志願兵が「1月以降で15万人以上集まった」と明らかにしており、その数が2倍に増えたことになる。昨年秋の部分動員令で対象となった予備役は30万人で、志願兵に頼れば、追加動員に踏み切らなくてもいいと示唆した格好だ。
●ウクライナ、EU穀物禁輸解除を歓迎 違反なら「文化的に」対応 9/16
欧州連合(EU)が中東欧5カ国がウクライナ産穀物の輸入を禁じるのを認める措置を15日の期限切れをもって延長しなかったことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は同日、歓迎の意を示した。ただ、EU加盟国がEU規則に従わない場合、ウクライナは「文化的な方法で」対応すると表明した。
ゼレンスキー氏はEUの決定について「ウクライナとEUの真の結束と信頼の一例だ。規則や協定が履行されれば、欧州は常に勝利する」と対話アプリ「テレグラム」に投稿した。
ただ、EUの決定発表直後にEU措置の対象となっていた5カ国のうち、ポーランド、スロバキア、ハンガリーの3カ国がウクライナ産穀物の輸入を独自に制限すると表明した。
これについてゼレンスキー氏は恒例の夜のビデオメッセージで、ウクライナはロシアとの戦争が続く間、隣国の支援を必要としているとし、欧州の結束に隣国と二国間レベルで協力することが重要になっていると指摘。「隣国が隣人らしくない決定を行った場合、ウクライナは文化的な方法で対応する」と語った。
ウクライナのシュミハリ首相はテレグラムへの投稿で「EU加盟各国に対し、ウクライナの農産物に対する違法、かつ一方的な規制を控えるよう呼びかける」とし、「こうした規制は世界貿易機関(WTO)の仲裁の対象になる可能性がある」とした。
同時に、ウクライナにはEUの執行機関である欧州委員会のほか、近隣諸国と協力する用意があるとし、「共通ビジョンと互恵的な対応」を見出すことができると確信していると述べた。
●「朝鮮半島関連の合意違反ない…北朝鮮のウクライナ参戦はナンセンス」 9/16
ロシアのプーチン大統領が15日(現地時間)、「朝鮮半島状況に関連するいかなる合意も違反しない」と述べた。ウクライナ戦争に北朝鮮軍が投入される可能性があるという一部の見方に対しては「ナンセンス」と一蹴した。
スプートニク通信、インタファクス通信などロシア現地メディアによると、プーチン大統領はこの日、ロシア南部ソチでベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、このように述べた。プーチン大統領は「北朝鮮は我々の隣国であり、良い隣国関係を樹立しなければいけない」とし「我々は何も違反していないし、そのような意図もない。国際法の枠組みの中で露朝関係発展の機会を模索する」と強調した。
プーチン大統領のこうした発言は、米国など国際社会がロシアと北朝鮮の武器取引の可能性を懸念しながら追加制裁などを警告している中で出てきた。ロシア大統領府のペスコフ報道官もこの日、記者らに対し「ロシアと北朝鮮は首脳会談で軍事問題やその他の分野でいかなる公式的な協定も締結していないし、いかなる協定にも署名する計画はない」と伝えた。
プーチン大統領は13日、ロシア・アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と首脳会談を行った。4年5カ月ぶりの露朝首脳会談で北朝鮮はロシアにウクライナで使用する砲弾など武器を支援する一方、ロシアは北朝鮮の衛星開発を支援する意思を明らかにするなど軍事協力の可能性を表した。
このためロシアが北朝鮮と武器および軍事技術協力をし、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議を違反するのではという懸念が提起された。ロシアは国連安保理常任理事国だ。
プーチン大統領は北朝鮮軍のウクライナ戦争投入については「現在ウクライナで進行中の特別軍事作戦に外国の軍人を投入する必要はない状況」とし「北朝鮮軍がこの作戦に投入される可能性があるという一部の主張は話にならない(ナンセンス)」と強調した。これに先立ちロシア大統領府も露朝首脳会談で北朝鮮軍のウクライナ戦争派兵問題は議論していないと明らかにしていた。
プーチン大統領はルカシェンコ大統領に対し「北朝鮮指導者と会談したが、この地域の情勢に関する議論がどのように行われたかを知らせたい」とし、露朝首脳会談の結果を説明すると明らかにした。ルカシェンコ大統領はプーチン大統領に「ロシア、ベラルーシ、北朝鮮が協力する案を考えることができる」として3カ国協力を提案した。
●ウクライナ軍 ロシア一方的に併合のクリミアへ攻撃強める 9/16
ウクライナ軍は、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市に巡航ミサイルなどで攻撃を行い、揚陸艦と潜水艦に損傷を与えたのに続いて14日地対空ミサイルシステムを攻撃したと発表するなど、ロシアが一方的に併合したクリミアへの攻撃を強めています。
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは、ウクライナ軍が今月13日、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市セバストポリにイギリスから供与された巡航ミサイルなどで攻撃を行い、揚陸艦と潜水艦に損傷を与えました。
これについてイギリス国防省が15日に発表した分析によりますと、損傷した潜水艦は、ウクライナを攻撃し、黒海などにロシアの力を誇示するうえで大きな役割を果たしていて、ロシア海軍に与えた打撃は大きいという見方を示しました。
また、ウクライナ軍は14日、クリミア半島の西部エウパトリヤ近郊にあるロシア軍の地対空ミサイルシステムを攻撃したと発表しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日に公開した動画で「占領軍の防空システムの破壊というすばらしい勝利に感謝する。極めて重要な成果だ」と述べ、ウクライナ保安庁と海軍をたたえました。
反転攻勢を進めるウクライナ軍は、東部や南部で占領された領土の奪還を進めるとともにクリミアへの攻撃を強めています。
●ユネスコ ウクライナの2つの世界遺産「危機遺産」登録を決定 9/16
ユネスコの世界遺産委員会は、ウクライナの2つの世界遺産がロシアの軍事侵攻で破壊される脅威に直面しているとして、緊急に保存や修復などが求められる「危機遺産」に登録すると決めました。
サウジアラビアの首都リヤドで開かれている、ユネスコ=国連教育科学文化機関の世界遺産委員会は15日、各地の世界遺産の保全状況の審査などを行いました。
この中で、ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナの世界遺産のうち、首都キーウの「聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群、およびキーウ・ペチェルシク大修道院」と、西部リビウの歴史地区について、緊急に保存や修復などが求められる「危機遺産」に登録するかどうか審査が行われました。
その結果、これらの世界遺産がロシア軍による攻撃で破壊される脅威に直面し「保護を保証する条件が満たされていない」として、危機遺産に登録されることが決まりました。
ユネスコ関係者によりますと、危機遺産への登録は、遺産がある国の保全管理に問題があることが根拠となりますが、今回は現在のウクライナの特別な事情が考慮されたということです。
これに先立つ14日には、イタリアのベネチアについても観光客の増加への対策が不十分だなどとして審査されましたが、改善に向けたイタリア政府の対応が評価され、危機遺産への登録は見送られました。
●EU ウクライナ産農産物の禁輸認めない決定 ポーランドなど反発 9/16
EU=ヨーロッパ連合は、これまで自国の農業を守るためとしてウクライナ産の農産物の輸入を禁止してきたポーランドなどの加盟国に対し、今後は禁輸を認めないことを決めました。ポーランドなどはこれに反発して禁輸を続ける方針で、EU内の足並みの乱れが表面化しています。
EUはロシアの軍事侵攻によってウクライナが黒海の港から輸出できなくなった農産物を陸路で域内に受け入れ、アフリカなどに輸出する支援を行ってきましたが、ポーランドやハンガリーなど5つの加盟国が安価な農産物の流入によって自国の農業が打撃を受けていると主張してきたため、これらの国については輸入の禁止を認めてきました。
この措置についてEUの執行機関、ヨーロッパ委員会は15日、ウクライナ側が輸出の管理を強化することなどを条件に、16日以降は各国による輸入の禁止を認めないと発表しました。
EUの決定に対し、ポーランドのモラウィエツキ首相は15日に開かれた与党の集会で強く反発し、輸入の禁止を続ける方針を示したほか、ハンガリー政府も独自に輸入の禁止を続けると発表しました。
EUはウクライナへの支援を可能なかぎり続けるとしていますが、軍事侵攻が長期化する中、加盟国の間で立場の違いも表面化し、一致した対応をとることが難しくなってきています。
●“プーチンの敵の筆頭”ビル・ブラウダーが語る「ウクライナ侵攻の真の動機」 9/16
「プーチン支持者」から「ロシアの敵」へ
2005年11月13日。場所はモスクワのシェレメーチエヴォ国際空港。ビル・ブラウダーは英国のヒースロー空港からのフライトで到着したばかりだった。
ブラウダーはロシア最大の大口外国投資ファンド「エルミタージュ・キャピタル」のトップだ。普段なら、VIP待遇でパスポートを見せれば数分でゲートが開かれる。だが、このときは到着からすでに約45分も過ぎたのに、待たされ続けていた。時間がかかりすぎだ。
「入国拒否となっています」
ビザが失効しているので、ヒースロー空港に戻らなければならないという。ブラウダーは何かの間違いなのではないかと考えた。数週間後、当局から届いたメールに簡潔に記された入国拒否の事由を読んだが、釈然としない気持ちが募るだけだった。
「『国家の安全、公共の秩序、公衆の衛生』のためならば何人も入国拒否できる」
ブラウダーはロシア市場のパイオニアだった。プーチンが掲げる大義も長い間、支持してきた。そんな自分が、なぜ「ロシア国内に潜む敵」とみなされてしまったのか。
思い当たるのは、少し前にロシア金融界の汚職の撲滅を狙うキャンペーンを始めたことだった。これが原因で、ロシア政府の要人の誰かが不利益を被ったということなのか。
あれから17年。後に世界のメディアから「プーチンの敵として筆頭に挙がる人物」と呼ばれるようになったビル・ブラウダーに、当時の話を聞いてみた。それは税金還付詐欺、腐敗したオリガルヒ(新興財閥)、警察の癒着が絡むロシア金融界の壮大な物語だった。
ブラウダーがこの闇を解明するために2007年に雇ったのが弁護士のセルゲイ・マグニツキーだったが、この弁護士は死に追いこまれることになる。ブラウダーはマグニツキーの死後、実業家から熱心な人権活動家に転身した。2012年には米国で「セルゲイ・マグニツキー説明責任法」を成立させ、マグニツキーの死に関与したロシア人官吏に制裁を加えた。
今回のインタビューでは、プーチン政治がいかにクレプトクラシー(泥棒政治)に変質したのか、そしてブラウダーが「血も涙もない殺人者だが、つねに合理的」と評するプーチンの狙いを語ってもらった。

──ロシア当局があなたを「公共秩序の脅威」とみなすようになった経緯を教えてください。
私がまだ自分の投資ファンドのトップを務めていたときのことです。1998年、自分の投資先の企業の多く(どこもロシアを代表する大企業ばかりでした)で横領が起きていて、法外な額のお金が腐敗したロシアのオリガルヒの懐に入る仕組みになっていることを発見しました。
これではファンドに投資していただいた投資家の皆様にも、私自身にも何の得もありません。それで私たちはオリガルヒの横領の手口を調べ上げ、その調査結果を英国の「フィナンシャル・タイムズ」紙、米国の「ニューヨーク・タイムズ」紙や「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙など、世界の有力紙に載せたのです。
この汚職撲滅キャンペーンがもたらした効果は二つありました。狙いどおり、横領される金額を減らせたのはよかったのですが、その一方で、こうした盗みに手を染めていた人たちの逆鱗に触れてしまいました。しかもロシア政府の上層部に、そんなことをしていた人が相当数いたのです。私が2005年にロシアから追放され、「国家の安全に対する脅威」とみなされたのは、それが理由でした。
その2年後、今度は私の会社にロシアの警察の強制捜査が入り、数千の書類が押収されました。そのとき私が雇ったのが、若い弁護士のセルゲイ・マグニツキーでした。なぜ強制捜査が入ったのか。警察が押収した書類は何に使われるのか。マグニツキーを雇ったのは、それを調べてほしかったからでした。押収された書類のなかには、投資持株会社の所有権の証明書も含まれていました。
マグニツキーの調査でわかったのは、警察が押収した書類を使って、これらの投資持株会社の所有者を別人に書き換え、その別人の所有者が、これらの投資持株会社を使って2億3000万ドルの税金を不正に還付させていたことでした。これはロシア史上最大の税金還付詐欺事件でした。マグニツキーはこの不正を告発し、これに関与していたロシア政府の高官の名も証言しました。
マグニツキーは逮捕され、358日間、拷問を受け、拘置所内でロシアの警察の手で殺害されました。マグニツキーが殺された2009年11月16日が、私にとっての転換点になりました。
それ以後、私はビジネスマンではなくなりました。自分の時間とエネルギーとリソースのすべてを投じて、マグニツキーを殺した者たちを追跡し、裁きを受けさせることにしたのです。
独裁者プーチンが抱える「不安」
──その不正税金還付事件を見つけるまでは、プーチンのことをどう考えていましたか。
プーチンに対する私の見方は大きく変わりました。彼の名前を最初に聞いたのは1999年、エリツィン政権の首相に任命されたときです。
当時のロシアは、報道の自由を含む政治的自由がある国でした。ただ、大きな問題もあり、それはエリツィンのもとで、22人のオリガルヒが国の40%の富を我が物にし、他を顧みなかったことです。ロシアの経済は混乱し、国全体がカオスと貧困でした。
プーチンが権力の座に就いたとき、国民に語ったのは、オリガルヒから権力とお金を奪い返し、それをロシア国家に戻すという話でした。それを聞いて多くの人が希望を抱き、未来に前向きになりました。私もその一人でした。もしかしたら理想を信じすぎていたのかもしれません。プーチンなら秩序を回復し、変革の風を吹かせ、ロシアを普通の国に戻せると考えていたのです。
しかし、月日が経つとともに、プーチンにオリガルヒ時代を終わらせるつもりがないことがはっきりしていきました。プーチンの最大の目標は、自分がオリガルヒのなかの最有力者になることだったのです。
プーチンがその目標を達成したのが2003年、ミハイル・ホドルコフスキーを逮捕したときです。ホドルコフスキーは、ユコスという石油会社のオーナーで、大きな影響力を持っていました。そのホドルコフスキーが逮捕されたのだから、残りのオリガルヒは全員、肝をつぶしました。ロシア第一の富豪が逮捕されるなんて、信じられなかったのです。
ホドルコフスキーに10年の拘禁刑が言い渡されると、残りのオリガルヒは挙って「プーチン詣で」をしました。プーチンと自分たちの利害が一致する場がどこにあるかを探り、ホドルコフスキーと同じ運命になるのを避けようとしたのです。
そのときプーチンは「50%」とでも言ったのでしょう。要するに、オリガルヒが横領したお金の半分はプーチン個人の分け前にしろという話です。
──プーチンがなぜウクライナ侵攻を決めたのかについては、さまざまなことが言われています。プーチンのことを「非合理的」だと言う人もいます。
プーチンは血も涙もない殺人者ですが、その判断は合理的です。どういうことか解説しましょう。
たしかに彼には、ある種、常軌を逸したところがあります。サイコパスの特徴をすべて持っているといえばいいでしょうか。他人が苦しんでいても、いっさい同情はしませんし、良心の呵責もなければ、道徳心もありません。
ただ、何を目標にウクライナに侵攻したのかという視点でその決断を分析すると、プーチンの行動は完全に合理的なのです。サイコパスの彼は、自分のことしか考えない人間ですが、ロシアの独裁者としてわかっていることがあります。それは、権力を失ったら、自分には死しかないということです。
プーチンの初期の目標は、できるだけ多くのお金を自分のものにすることでした。しかし、権力の座に就いて23年が経ったいま、プーチンは権力の座にとどまることに万策を尽くしています。
プーチンの常套手段は、ロシア国民の心が自分から離れてきたと感じると、軍事紛争に打って出ることです。2008年にジョージアに侵攻すると、プーチンの支持率は80%まで上がりました。2014年のクリミア併合も同じです。下落し続けていた支持率が、80%を超える数字にまで跳ね上がりました。
プーチンがウクライナに侵攻した最大の理由は、NATOでもなければ、ロシアに関する帝国的ビジョン云々でもありません。プーチンは、自分の支配体制がロシア国民によって転覆されてしまうのではないかと不安だったのです。それを避けるための最も簡単な手段が、敵国を作り上げることなのです。
私はそのような意味で、プーチンのウクライナで戦争をするという決定は完全に合理的だったと考えています。権力を失ったら、自分には死しかないという強い不安がプーチンにはあるのです。
●ビル・ブラウダーが確信「西側諸国が“これ”を断行すれば戦争は終わる」 9/16 
経済制裁のダメージ、本当のところは…
──ロシア連邦国家統計局が先日、公表した数字を見ると、ロシア経済は制裁の打撃を受けたものの、持ちこたえていることが示されています。経済制裁の効果はもうなくなったと見るべきですか。
まず言っておくべきなのは、ロシアの統計がどれもこれも捏造されているので、現実を反映していないことです。
ロシア国内の自動車販売台数は、おそらく75%くらい減っているはずです。ロシアから撤退した西側の企業の数は3000社を超えます。ロシアは欧州向けの天然ガスの販売も大幅に減らしました。
いま、ロシアの金融機関はどこも資本市場にアクセスできない状態です。ロシア中央銀行が西側諸国に持っていた3500億ドルの資産も凍結されました。44人のオリガルヒの資産も同様に凍結されています。
それから、エンジニアやプログラマーなどの高度な技能を持つ生産性の高い人材が100万人以上、ロシア国外に流出しました。ウクライナでの戦争に巻き込まれて殺されたくなかったからです。そんな状況ですから、ロシア経済が好調だといわれても信じる気にはなれません。
経済制裁に話を戻すと、制裁には二つの狙いがあることを頭に入れておくべきです。一つ目は、人々がある種の行動をとらないようにさせる抑止効果です。二つ目は、人々がしてはいけない行動を実行したときの懲罰効果です。
ロシアはこの20年間、ひどい所業に手を染めてきました。しかし、私たちは適切に経済制裁を科してきませんでした。そのせいで経済制裁は、ウクライナ侵攻を思いとどまらせるのに充分な抑止効果を持たなかったのです。
──経済制裁は失敗だったと考えるべきですか。
ロシア軍をウクライナに侵攻させたいま、プーチンが軍を撤退させることはありません。ですから、経済制裁をどう使えば懲罰効果が出るかというところを考えなければなりません。
これまでに実施してきた経済制裁はある程度、有効でした。ただ、私たちが実施する経済制裁は、仕組みに大きな欠陥があります。制裁を科しているにもかかわらず、ロシアは石油や天然ガスを売り続けて富を得られるようになっているからです。1日で数億ドルがロシアに入るときもあります。そのお金がウクライナで戦争をする資金に回されているのです。
私たちが直面しているジレンマは最悪です。西側諸国は、ロシアから石油と天然ガスを買い、ロシアにお金を渡し、そのお金がウクライナ人を殺すために使われています。その一方で、西側諸国はウクライナにもお金を与え、ロシアと闘わせています。
私たちはどこかの時点で、自らを奮い立たせて決断を下さなければなりません。この戦争に真剣に向き合うなら、ロシアの石油と天然ガスを完全に禁輸にしなければなりません。当然、インフレが起きるのは想定しなければなりませんが、それを断行すれば戦争を終わらせられると私は確信しています。
軍事力も、経済も、諜報機関も、すべてが「見せかけ」
──プーチンの抑圧的な支配体制を間近で見てきた経験をもとに、プーチンの弱点を指摘できますか。
プーチンの弱点は、彼が作り上げた自分自身のイメージです。これが見せかけでしかないのです。ロシアはプーチンのもとで汚職が横行した結果、中身のない国になってしまいました。だからウクライナ人がロシアに軍事的に立ち向かうと、すぐにロシアが米国に次ぐ世界第2位の軍事大国ではないとバレました。
プーチンのロシアでは万事がこの調子です。経済は空っぽの貝殻です。情報機関の諜報活動能力も同じです。私たちはプーチンを実際より過大に評価しがちです。私たちは現実のプーチンではなく、プーチンのイメージに怯えています。見かけ倒しだと気づくべきです。
そのことに気がつくのが早ければ早いほど、この悪夢を早く終わらせられます。ただ、そのためには、私たちに胆力がなければなりません。現時点では、世界はまだプーチンに怯えています。
──英国のあの名高い王立国際問題研究所が先日、報告書で「西側諸国はウクライナ政府への軍事支援を増強する必要がある」と書いています。欧州のこれからの安全を保障できるのは、ウクライナの明確な勝利だけだという議論です。これについてはどう考えますか。
プーチンがこの戦争に関して交渉をする可能性はゼロだというのが、私の見方です。私は20年間、彼の手口を見てきましたが、彼は交渉する人間ではありません。相手に歩み寄ろうとすることがありません。相手に歩み寄ってしまえば、ロシア政府を牛耳る強権政治家というイメージに綻びが出るからです。
ウクライナ側は、開戦後の1〜3週目くらいまで交渉に応じる可能性がありました。しかし、その後は、ジェノサイドがあり、女性たちがレイプされ、子供たちが連れ去られ、ウクライナ全土の都市が破壊されました。そのため、交渉に向かおうとする気持ちはないに等しいです。
つまり、西側諸国がロシアとウクライナを交渉のテーブルにつかせられると考えるのは幻想です。交渉が実現する可能性はゼロです。
この戦争の出口は二つしかありません。一つはロシアの勝利です。その場合、ロシアはポーランドやエストニアというNATOの軍事同盟国に軍を進める可能性があります。そうなると、これは私たちにとって、ウクライナよりも大きな問題になります。それはNATOが直接、ロシアとぶつかることを意味しますからね。
この戦争のもう一つの出口はウクライナの勝利です。こちらのほうが望ましいのですが、それを実現させるには、戦いに勝てる充分な量の軍装備品が必要です。ロシアは文字通りウクライナの5〜10倍のリソースを持っています。私たちはウクライナに戦車や長距離ミサイルを充分な数、与えているでしょうか。与えていませんよね。
もし私たちがウクライナに勝ってほしいなら、ウクライナが同等の兵器で戦えるようにしなければなりません。ロシアの敗戦で利を得るのは、ウクライナと西側諸国だけではありません。それはもはやロシア国民の支持を失ったといっていいプーチン時代の終わりをもたらすことになります。
「この戦争の責任の5%は西側諸国にある」
──あなたは2022年のダボス会議でこう発言しています。
「この戦争の責任の95%はプーチンにあります。爆弾を落とし、民間人の命を奪っているのはプーチンです。しかし、いまウクライナで起きていることの責任の5%は西側諸国、とりわけドイツにあります」
この発言で何を言いたかったのですか。
この戦争が始まった責任のほぼすべてはプーチンにあります。それは誰も否定できません。しかし、この戦争の前から、プーチンのひどい所業は幾つもありました。ジョージアに侵攻し、クリミアを併合し、シリアを空爆し、世界各地で反体制派を毒殺し、五輪では不正行為に手を染めました。ひとつひとつリストに書き出したら、とてつもなく長いものになります。
ところが、私たちはプーチンをおそれて経済制裁を科さず、厳しく対処しませんでした。それどころか、プーチンに優しく接して、配慮を示したのです。これは私たちがロシアと緊密な経済的利害関係を築いていたことと無関係ではありません。
ドイツはロシアから天然ガスを得るつもりでした。英国は、国内で暮らすロシアのオリガルヒから経済的恩恵を受けていました。ある意味、プーチンに青信号を出したのは私たちだったのです。ウクライナに侵攻しても、費用便益分析で自分のプラスになるとプーチンが考えるのを許容してしまったわけですからね。
──戦争は戦場の戦いだけでなく、ロシアが仕掛ける情報戦との戦いなどもあります。ロシア敗戦となった場合、ロシアが仕掛ける情報戦との戦いも終わるのですか。
西側諸国には、情報戦に勝つための武器が揃っています。透明性を確保し、何が実際に起きているのかがわかるようにしているからです。
開戦前夜、私たちが情報戦で勝利できたのがいい例です。あのときは、英国と米国と欧州の情報機関が侵攻開始の6週間前に、プーチンが侵攻すると予告しました。西側諸国は、これを秘密にせず、繰り返し伝えていきました。ロシアはそれを否定しましたが、米国と英国はその予測を言い続けました。フランスとドイツはプーチンの誠意を信じようとしましたが、プーチンの侵略が始まると、米国と英国の情報の信憑性が示されたのです。
それでフランスやドイツといった、これまではプーチンに理解を示すことが多かった国々も、力強く反応したのです。これはプーチンが仕掛けた情報戦に、私たちが明確に勝利を収めた事例です。諜報の水準も私たちのほうがロシアより上でしたし、情報の共有という点でも、私たちのほうが透明性が高く、明快で、タイミングもよかったのです。 
●ベラルーシ、ロシア・北朝鮮との「3カ国協力」を提案 プーチン氏に 9/16
ロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領は15日、露南部ソチで会談した。ルカシェンコ氏は、両国と北朝鮮による「3カ国協力」を提案した。
ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ルカシェンコ氏は13日に極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で行われたプーチン氏と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記の会談を「素晴らしかった」と称賛した。そのうえで「私たちは3国間協力について考えることができる。北朝鮮の人々はロシアとの協力に多大な関心を寄せていることを私は知っている」と語った。
ルカシェンコ氏が具体的にどのような協力を想定しているのかは不明だが、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り深まる欧米諸国との対立を念頭に置いているとみられる。
ベラルーシは、自国領に露軍を駐留させるなど同盟関係にあるロシアの侵攻に協力してきた。領内には5月に結ばれたロシアとの合意に基づき、ロシアの戦術核兵器が搬入されている。欧米はベラルーシの動きを非難し、制裁を強化している。
●「ワグネル」反乱後に消息不明、スロビキン氏はアルジェリア訪問か… 9/16
ロシア有力紙コメルサントは15日、6月の露民間軍事会社「ワグネル」による反乱後に消息不明だった露航空宇宙軍のセルゲイ・スロビキン前司令官が国防省訪問団の一員として、北アフリカのアルジェリアに滞在していると報じた。
露軍関係筋の情報として伝え、本人とみられる写真も掲載された。スロビキン氏は8月に飛行機墜落で死亡したワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏に近く、反乱計画を事前に知っていたとされる。アルジェリア訪問はプーチン政権が依然としてスロビキン氏を信頼していることを示しており、今後、軍の要職に就く可能性があるという。
●ウクライナ軍、東部集落を奪還…ゼレンスキー氏「待望されていた重要な成果」 9/16
ウクライナ軍は15日、東部ドネツク州の要衝バフムト南方にある集落のアンドリーウカを奪還したと明らかにした。さらなる攻勢の拠点になるという。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日の演説で「待望されていた重要な成果だ」と強調した。
アンドリーウカは、バフムトの南方約10キロに位置する。ゼレンスキー氏は別の集落のクリシチウカ周辺などでも「ウクライナ軍の活発な行動が続いている」と述べた。
一方、ロイター通信によると、露国防省は16日、アンドリーウカを奪還したというウクライナ側の主張を否定した。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 16日の動き 9/16
ウクライナ 南部クリミアへの作戦に力を注ぐ
アメリカのCNNテレビは15日、ウクライナはロシアが一方的に併合し、ロシア海軍が戦略的な拠点にしている南部クリミアへの作戦に、ここ数週間、力を注いでいるとしています。そのうえで、戦略に詳しいウクライナの情報筋の話として、今回の攻撃はクリミア半島を孤立させ、ロシア軍がウクライナ本土で軍事侵攻を続けることを困難にさせるために行ったもので、反転攻勢を進める上で不可欠だったと伝えています。また、アメリカのニューヨーク・タイムズは13日、今回の攻撃は軍事侵攻が始まって以降、ウクライナ軍が軍港都市セバストポリで行ったものとしては最大で、ロシアの占領地域への攻撃能力を高めていることを浮き彫りにしたとしています。
“損失したロシア海軍の艦船は16隻”
ウクライナの戦地に投入された兵器の状況などを分析しているサイト「Oryx(オリックス)」によりますと、去年2月にウクライナ侵攻が開始されてから9月14日までに損失したロシア海軍の艦船は、今回攻撃を受けた2隻を含めて16隻に上ったということです。このうち破壊されたのは、いずれも今回攻撃を受けた潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌー」や揚陸艦「ミンスク」、それに去年4月沈没した黒海艦隊の旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」を含めてあわせて11隻。損傷が加えられたのは、8月に攻撃を受けた揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」など5隻だということです。
ゼレンスキー大統領 領土奪還の成果強調
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアで防空システムを破壊したほか、東部の激戦地に近い集落を奪還したとして「重要な成果だ」とアピールしました。反転攻勢の遅れも指摘される中、来週の国連総会への出席などを前に着実に領土の奪還を進めていると強調した形です。
ウクライナ軍 クリミアへ攻撃強める
ウクライナ軍は、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市に巡航ミサイルなどで攻撃を行い、揚陸艦と潜水艦に損傷を与えたのに続いて、14日地対空ミサイルシステムを攻撃したと発表するなど、ロシアが一方的に併合したクリミアへの攻撃を強めています。ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは、ウクライナ軍が今月13日、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市セバストポリにイギリスから供与された巡航ミサイルなどで攻撃を行い、揚陸艦と潜水艦に損傷を与えました。これについてイギリス国防省が15日に発表した分析によりますと、損傷した潜水艦は、ウクライナを攻撃し、黒海などにロシアの力を誇示する上で大きな役割を果たしていて、ロシア海軍に与えた打撃は大きいという見方を示しました。
米高官 “来週 バイデン大統領がゼレンスキー大統領と会談”
ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は15日、記者会見し、来週、国連総会に出席するためニューヨークを訪れる見通しのウクライナのゼレンスキー大統領を、バイデン大統領が21日にホワイトハウスに招き、会談すると発表しました。そして、首脳会談について「バイデン大統領はウクライナへの支援で世界を主導し続けるという決意を再確認する」と述べ、来週中にウクライナへの新たな軍事支援を発表する見通しだと明らかにしました。また、サリバン補佐官は、今月13日に行われたロシアのプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記との首脳会談について、「キム総書記のロシア訪問の前後も、北朝鮮からロシアへの武器の供与について、協議が進んでいるとみている」と述べ、警戒感を示しました。
EU ウクライナ産農産物の禁輸認めない決定
EUは、ロシアの軍事侵攻によってウクライナが黒海の港から輸出できなくなった農産物を陸路で域内に受け入れ、アフリカなどに輸出する支援を行ってきましたが、ポーランドやハンガリーなど5つの加盟国が安価な農産物の流入によって自国の農業が打撃を受けていると主張してきたため、これらの国については輸入の禁止を認めてきました。この措置についてEUの執行機関、ヨーロッパ委員会は15日、ウクライナ側が輸出の管理を強化することなどを条件に、16日以降は各国による輸入の禁止を認めないと発表しました。EUの決定に対し、ポーランドのモラウィエツキ首相は15日に開かれた与党の集会で強く反発し、輸入の禁止を続ける方針を示したほか、ハンガリー政府も独自に輸入の禁止を続けると発表しました。EUはウクライナへの支援を可能なかぎり続けるとしていますが、軍事侵攻が長期化する中、加盟国の間で立場の違いも表面化し、一致した対応をとることが難しくなってきています。
ウクライナの2つの世界遺産 「危機遺産」に
ユネスコ=国連教育科学文化機関の世界遺産委員会は15日、各地の世界遺産の保全状況の審査などを行いました。この中で、ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナの世界遺産のうち、首都キーウの「聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群、およびキーウ・ペチェルシク大修道院」と西部リビウの歴史地区について、緊急に保存や修復などが求められる「危機遺産」に登録するかどうか審査が行われました。その結果、これらの世界遺産がロシア軍による攻撃で破壊される脅威に直面し「保護を保証する条件が満たされていない」として、危機遺産に登録されることが決まりました。ユネスコ関係者によりますと、危機遺産への登録は、遺産がある国の保全管理に問題があることが根拠となりますが、今回は現在のウクライナの特別な事情が考慮されたということです。

 

●弾切れのプーチンと金正恩、本当に困っているのはどっちだろうか 9/17
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で会談した。今回の会談を通じて浮かび上がったのは、ウクライナ侵攻で弾切れにあえぐロシアの姿と、それ以上にタマ(お金)切れに苦しむ北朝鮮の姿だった。
正恩氏の乗った特別列車を追っていた日米韓の政府当局が驚きの声を上げたのが12日昼。列車が会談場所の一つとして予想されていたウラジオストクに向かわず、更に北のウスリースクも通過し、ひたすら北に向かったからだ。結局、会談場所は宇宙基地になった。今年、軍事偵察衛星の発射に2度失敗した北朝鮮の状況から、ロシアが北朝鮮に宇宙開発で協力するサインだという受け止めがあったが、別の理由もあったようだ。正恩氏の安全確保だ。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT/電子版)が、金正恩氏がロシア極東ウラジオストクを訪れ、プーチン大統領と会談する計画だと報じたのは今月4日だった。韓国政府関係者は「米国による情報抑止戦略だと思う」と語る。米国は、ウクライナ侵攻で弾不足に陥ったロシアが、北朝鮮に武器の供与を求めていると再三言及してきた。この関係者は「あえて、正恩氏の訪ロ情報をメディアに流し、訪ロを思いとどまらせようとしたのではないか」と語る。ロシアのウクライナ侵攻直前、米国が侵攻関連の情報を流してロシアに侵攻を思いとどまらせようとした手法と同じだ。
北朝鮮の指導者は非常に臆病だ。だから、攻撃されたり工作されたりしたら逃げ場がない空路よりも陸路を好む。正恩氏は実際、NYTが報じたウラジオストクには向かわなかった。報道をみて危機感を覚えた北朝鮮側が会談場所の変更を申し入れたのかもしれない。別の見方をすれば、身の危険も顧みず、正恩氏にはプーチン氏と会わなければならない理由があったとも言える。
各メディアが指摘しているのは、北朝鮮は武器を売る対価として、原子力潜水艦や軍事偵察衛星の技術協力を求めるというものだ。だが、本当に北朝鮮は真剣なのだろうか。航空総隊司令官を務めた武藤茂樹元空将は軍事偵察衛星について「低軌道で日本や朝鮮半島を5分間隔で撮影しようとすれば、単純計算で衛星が200機程度必要になるとの試算もある」と語る。原潜についても防衛省関係者は「北朝鮮がたとえ原潜の建造に成功しても、定期的な炉心交換など、莫大な費用と高度な安全管理が必要になる」と指摘する。
それよりも、北朝鮮が解決しなければならないのは貧困の問題だろう。国連児童基金(ユニセフ)が今年7月に発表した報告書によれば、2020年から22年にかけ、北朝鮮で約1180万人(全人口の45,5%)が栄養失調の状態にある。04〜06年にかけての同調査結果では、栄養失調の状態にある人が全人口の34.3%だったため、20年足らずの間に10%以上悪化したことになる。
金正恩氏は8月21日、西部・南浦市にある干拓地の堤防決壊による被害復旧現場を視察した。その際、正恩氏が膝まで水につかって視察する写真が公開され、関係者を驚かせた。北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「いくらパフォーマンスとはいえ、最高指導者がそこまでやるのかと驚いた。よほど余裕がなくなっているのだろう」と語る。
もちろん、北朝鮮は日米韓を脅して抑止力とするため、ロシアとの軍事協力の可能性をほのめかし続けるだろう。しかし、足元は激しくぐらついている。
金日成主席の時代、北朝鮮の最高指導者がモスクワを訪れるのは、災害などによってソ連の支援を必要としているケースがほとんどだった。あまり指摘がされていないが、ロシアの最高指導者が2000年以降、北朝鮮を訪れたのは、同年のプーチン大統領だけだ。これに対し、北朝鮮は金正日総書記が01年と02年、11年にロシアを訪問。正恩氏も19年と今回の2度にわたってロシアを訪れた。このうち、モスクワを訪れたのは、01年のケースしかない。外交のプロトコルで考えれば、明らかに、北朝鮮の方が「お願いする立場」にある。しかも、ロシアの指導者が極東などに来たとき、ついでに会ってやっているというのが実情だ。
ロシアの弱みにつけ込んで商売している、というよりも、ロシアの弱みにつけ込んでようやく会ってもらったというところが現実に近い状態なのではないだろうか。
●ウクライナ軍 クリミア半島や沖合で連日攻撃 9/17
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合した南部クリミア半島や沖合でロシア海軍への攻撃を繰り返し、揚陸艦や潜水艦に続いて、別の艦艇にも損傷を与えたと地元メディアが伝えました。
複数のウクライナメディアは、クリミアの軍港都市セバストポリの近くでウクライナ軍が14日、ロシア海軍の黒海艦隊のコルベット艦を無人艇で攻撃し、右舷の後部に損傷を与えたと、15日、情報機関の関係筋の話として伝えました。
一方、ロシア国防省は14日、ウクライナ軍がコルベット艦への攻撃を仕掛けたものの迎撃したと発表し、主張が食い違っています。
ウクライナ軍は13日の揚陸艦と潜水艦に続いて、翌14日にはクリミア沖の黒海で無人艇による攻撃を行い、哨戒艦2隻に損傷を与えたと発表するなど、この地域での攻撃を活発化させています。
アメリカのCNNテレビは15日、戦略に詳しいウクライナ情報筋の話として、一連の攻撃は補給の拠点となっているクリミア半島を孤立させ、ロシア軍が軍事侵攻を続けることを困難にさせるために行ったもので、反転攻勢を進める上で不可欠な作戦だと伝えています。 
●プーチン氏に尽くすチェチェン首長が重病か、ウクライナ情報機関 9/17
ウクライナ国防省情報総局のユソウ報道官は16日、ロシアのプーチン大統領の忠実な配下ともされる同国チェチェン共和国のカドイロフ首長が重病に陥っていると主張した。
医学界や政界の様々な関係筋を引用してウクライナのメディアに明らかにした。「戦犯のカドイロフ(首長)の容体が深刻な状態にあるとの情報がある」とし、「抱えていた病気が悪化した」と続けた。
「この病状は負傷によるものではない。長く患っている病気で、体全体の健康に影響を及ぼす問題である」と指摘。「過去数日間、症状が重くなっている」とつけ加えた。
CNNは同報道官の発言内容を独自に立証できていない。
カドイロフ氏の健康状態についてはこれまで、チェチェン共和国の一部の元当局者による証言を含め、「肝臓と腎臓に問題がある」との情報が絶え間なく流れていた。首長自身は今年3月、多数の医療検査を受け、間違いなく健康であるとの診断結果が出たと強調していた。
ただ、最近は公の場に姿を見せていない。今月12日には会合に出席した様子を伝える動画がSNS上の自らのアカウントに掲載されたが、動画の撮影時期は不明となっている。
カドイロフ首長は、自らに忠誠を誓い、ロシアの治安機関網にも正式に組み込まれているかなりの規模の民兵勢力を率いている。以前には自らとこの勢力の戦闘員がウクライナで活発に活動し、ロシアによる勝利獲得を支援しているとも述べていた。
一方で、強権体制を敷くチェチェン共和国内などでは深刻な人権侵害行為が指摘され、同首長は国際的な非難も浴びている。
●北朝鮮が合同演習?…プーチンに「北東アジア軍事介入」の名分与える 9/17
北朝鮮とロシアが武器取引に続き海上合同演習に出る可能性が提起され軍事的緊張を一層引き上げている。ウクライナ戦争による欧州の安全保障危機が韓半島(朝鮮半島)周辺に一気に拡張する姿だ。専門家らは北朝鮮の海上戦力が劣るだけに演習を行なっても軍事的な効果は大きくないとみる。それでもひとまず演習を実施すればロシアが東アジアに軍事的に介入する名分を要求するのに悪用されかねないと批判する。
これと関連し、米国防総省は14日、「朝ロ合同演習が米韓日の北朝鮮核ミサイル抑止能力に影響を及ぼすことはできない」という立場を明らかにした。米国防総省のシン副報道官はこの日の定例会見で関連質問を受け「彼らの意図が何なのかに対しては話せない。(朝ロ合同演習の可能性が)韓国や日本と、あるいは米韓日3カ国の合同演習をどんな形であれ抑止できないと考える」と話した。続けて「いまのように米韓日同盟(三角協力)が強力だったことはなかった。キャンプ・デービッドでの首脳会談で見たように3カ国首脳は相互防衛と国民安保に向けた非常に野心あふれる計画を立て、『自由で開かれたインド太平洋』という共同の目標を支援するためいつになく緊密に協力している」と強調した。
これに先立ち韓国国防部はこの日「(北朝鮮とロシアが海上で合同演習をする)可能性を念頭に置いて鋭意注視する」と明らかにした。実際に北朝鮮とロシアが合同演習に出る場合には「(韓日米間でのミサイル防衛演習の実施を)合同参謀本部で十分に検討できるだろう」とした。
北朝鮮の艦艇800隻のうち使えるのは少数
多くの専門家は現段階で北朝鮮とロシアの合同演習現実化の可能性を高いと見ない雰囲気だ。北朝鮮が遠海で運用できる艦艇が不如意なためだ。『国防白書2022』によると、北朝鮮の艦艇数は潜水艦70隻を含めて合計800隻ほどで、韓国海軍の140隻の約5.7倍に達する。だがほとんどの艦艇で老朽化が深刻化しているほか、サイズが小さく近海だけで運用可能な「はりぼて軍艦」だ。
峨山(アサン)政策研究院のヤン・ウク研究委員は「北朝鮮海軍が東海(日本名・日本海)遠海で運用できる艦艇は新型護衛艦である鴨緑級(1500トン級)1〜2隻のほかは見られない。言葉こそ合同演習だが、事実上ロシア単独の演習に北朝鮮が合流する水準にとどまるのではないか」と話した。
過去に北朝鮮が対南海上攻勢で「ヒットアンドアウェイ」式の奇襲攻撃を主に駆使した理由もこうした戦力的な劣勢のためという評価もある。1998年と2002年の2度にわたる延坪(ヨンピョン)海戦当時、北朝鮮は小さな警備艇を利用して速いスピードで黄海の北方境界線(NLL)を行き来して攻撃した。また、北朝鮮は2010年3月に潜水艇を秘密裏に送り白翎島(ペクリョンド)近海で魚雷により韓国の哨戒艦を撃沈した。いずれも艦隊単位の正面対決を避け境界の死角地帯を狙って虚を突く奇襲挑発だった。
北朝鮮が70年間守ってきた「外勢に依存しない」という対外方針を破棄するかも注目される。北朝鮮は1953年の休戦後一度も外国と演習を行ったことがないためだ。梨花(イファ)女子大学北朝鮮学科のパク・ウォンゴン教授は「北朝鮮とロシアの合同演習実施は北朝鮮が新たな軍事文法を使うもの。北朝鮮は冷戦時代にも中国とロシアを『教条主義』『形式主義』として遠ざけ、『主体』で形象化された自主路線を歩んだが、これさえも破棄するというシグナル」と話した。その上で「北朝鮮内部を説得しなければならないほどとても新しい試み」と説明した。
ただ北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の予測不可能なリーダーシップがこうしたタブーを崩し、これ見よがしに東海でロシアと合同演習に出る可能性を排除することはできない。韓米合同演習と韓日米連帯に正面から対抗する次元でだ。これに対しヤン委員は「北朝鮮とロシアの軍事協力を公式化し同盟がしっかり作動しているというメッセージを出すことができる」と指摘した。
「中朝ロ合同演習の可能性はさらに低い」
韓国国防研究院のパク・ヨンハン上級研究員も「北朝鮮の核兵器搭載潜水艦は近海だけで運用が可能だが北朝鮮はロシアが地理的に近いだけにロシア太平洋艦隊の戦力を韓日米の軍事的防衛能力を遮断するレバレッジに見せようとするかもしれない」と指摘した。これはロシアが東海で軍事的影響力を大挙拡大するよう刺激する手順につながりかねない。
中国が参加する中朝ロ3カ国演習に対しては「現在としては可能性はもっと低い」というのが専門家らの大半の意見だ。中国の立場ではウクライナ戦争の渦中に3カ国が演習に出れば実益はなく国際社会で否定的なイメージばかり強調されかねないためだ。ただ、中国がこれまでロシアと合同演習の範囲と強度を高めてきただけに、長期的には北朝鮮を引き込んで米中戦略競争に活用する可能性があるという観測も出ている。
●ロシア軍 ウクライナの農産物輸出拠点への攻撃繰り返す 9/17
ウクライナ軍は、ロシア軍が17日、ミサイルと無人機による攻撃を行い、南部オデーサ州で農業用の施設が被害を受けたと明らかにしました。ロシアは、ウクライナの農産物輸出の拠点への攻撃を繰り返しています。
ウクライナ軍は17日、ロシア軍が10発のミサイルと6機の無人機で攻撃し、このうち4発のミサイルをのぞいて迎撃したと発表しました。この攻撃で、南部オデーサ州では農業用の倉庫などが被害を受けたということです。
ロシアは、ことし7月にウクライナ産の農産物輸出をめぐる合意の履行を停止してから農産物輸出の拠点となるオデーサ州で港湾施設や農業用施設への攻撃を繰り返しています。
ロシア国防省 “モスクワ近郊の無人機攻撃を撃墜”
一方、ロシア国防省は17日、未明の時間帯に首都モスクワの北西と南の近郊で無人機による攻撃が相次いで仕掛けられ、いずれも撃墜したと発表しました。ウクライナによる攻撃だと主張していますが、具体的な根拠は示していません。
モスクワのソビャーニン市長は、これまでのところけが人の情報はないとSNSに投稿しています。ロシアの国営通信社は、周辺の空港では航空機の発着が一時、制限されたと伝えています。
国防省は、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島でも17日の未明にウクライナの無人機合わせて6機による攻撃が仕掛けられ、防空システムで撃墜したと発表しました。
ウクライナ側はこのところクリミアでロシア海軍の艦艇や防空システムをミサイルや無人艇で攻撃し損傷を与えたり破壊したりしたと発表していて、攻撃を強めているものとみられます。
ウクライナのフェドロフ副首相兼デジタル転換相は15日、クリミアでの攻撃について「無人機は増え、攻撃は増え、ロシアの艦船が減るのは間違いない」と述べ、今後、無人機による攻撃が一層増えると示唆しました。
●米中高官がマルタで2日間会談、ハイレベル交流維持で一致… 9/17
米中両政府は17日、米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官と中国の 王毅ワンイー 外相(共産党政治局員)が16〜17日、地中海の島国マルタで会談したと発表した。米中関係やロシアによるウクライナ侵略、朝鮮半島やアジア太平洋の情勢について議論し、両国間のハイレベル交流を維持していくことなどで一致した。
米中双方は、両氏が率直で建設的な議論を行ったとしている。両氏は首脳外交を取り仕切る立場にある。バイデン大統領と 習近平シージンピン 国家主席の会談についても調整した可能性がある。
中国外務省によると、会談は複数回にわたって行われ、アジア太平洋情勢や海洋問題、外交政策に関する三つの協議を両国間で実施していくことでも合意。王氏は台湾問題を巡り、「中米関係で越えてはならない最初のレッドラインだ」と従来の主張を繰り返した。
米ホワイトハウスによると、サリバン氏は台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘。両氏は「さらなるハイレベルでの協議を追求することを約束した」という。

 

●プーチン氏、兵器取り引き懸念に「韓半島関連でいかなる合意にも違反しない」 9/18
ロシアのプーチン大統領は15日(現地時間)、露朝首脳会談後に提起された国連の対北朝鮮制裁の違反や北朝鮮軍のウクライナ戦争への投入などを強く否定した。
​タス通信などによると、プーチン大統領は同日、ロシア南部ソチでベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、「韓半島(朝鮮半島)状況に関するいかなる合意も違反しない」と述べた。そして「北朝鮮は我々の隣人であり、我々は良い隣人関係を作らなければならない」とし「我々は何も違反せず、その意図もない。国際法の枠組みの中で露朝関係の発展の機会を模索する」と述べた。
​クレムリン宮(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官も同日、「ロシアと北朝鮮が首脳会談で軍事問題や他の分野などにおいていかなる公式的な協定も締結しておらず、また、いかなる協定にも署名する計画はない」と伝えた。プーチン大統領とペスコフ報道官のこのような発言は、米国など国際社会がロシアと北朝鮮の兵器取り引きの可能性を懸念し、追加制裁を科すると警告している中で出た。
​プーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は13日、ロシア極東ボストーチヌイ宇宙基地で開かれた首脳会談で、北朝鮮の衛星開発など両国の協力強化について話し合った。このため、ロシアが北朝鮮と兵器および軍事技術を取引し、国連安全保障理事会(安保理)の対北朝鮮制裁決議に違反するのではないかという懸念が提起された。ロシアは国連安保理常任理事国だ。
​さらにプーチン大統領は、ロシアがウクライナ戦争に北朝鮮の志願兵を連れてこようとしているという主張を強く否定した。そして、「現在、ウクライナで進行中の特別軍事作戦(戦争)に外国軍人を投入する必要はない」とし、「北朝鮮軍がこの作戦に投入される可能性があるという一部の主張は『ナンセンス』だ」と強調した。クレムリン宮も、露朝首脳会談で北朝鮮軍のウクライナ派兵問題は論議しなかったと伝えた。
​プーチン大統領はルカシェンコ大統領に「先日、北朝鮮の指導者と会談したが、この地域の情勢に関する議論がどのように進められたのかを知らせたい」と述べ、露朝首脳会談の結果をブリーフィングすると述べた。これを受け、ルカシェンコ大統領はプーチン大統領に「ロシア、ベラルーシ、北朝鮮の三国が協力する案を考えられる」として三国間協力を提案した。
●戦時下のキーウで反転攻勢の根源にみる「頑固さ」 9/18
ロシアによるウクライナ侵略開始以来、すでに1年半を経過したが、国力の違いにもかかわらず、ウクライナの抵抗は粘り強く、反転攻勢の進捗も伝えられる。侵略を受けた国が自衛戦争を継続するのは当然ではあるが、ウクライナ国民の強い意志はどこから来るのだろうか。5月にキーウで取材した際にインタビューしたシンクタンク研究員や外交官の話を中心に、その背景を探る。
クリミアを含む全土解放の決意
キーウを訪問する前、日本のウクライナ研究者から、元外交官でキーウのシンクタンク「防衛戦略センター」オレクサンドル・ハラ研究員(47歳)を紹介してもらっていた。連絡を取ると、5月14日日曜の午後、自宅で話をするのが、一番時間が取れるとのことだった。
キーウの中心部から地下鉄でドニエプル川対岸のリヴォベレジュナ駅で降りると、眼前に高層アパート群が並んでいた。ハラ氏の自宅は駅から数分歩いたアパートの一室だった。
ウクライナ軍の反転攻勢が開始されたと報じられていた時期であり、話の取っ掛かりはその意図や見通しだった。
ハラ氏はまず、「われわれはすべての領土からロシア軍を駆逐し、領土を奪回できると信じている」と述べて、クリミア、ドンバス地方を含む占領地解放への決意を語った。
ハラ氏によれば、ウクライナが妥協できない理由は、ロシアが国際法秩序を破壊し、ウクライナ人の人権を侵害していることが明らかなことだが、安全保障上の理由も大きい。
「クリミアはロシアが、黒海を通じてシリア、リビア、北アフリカへと外に向かって軍事力を発揮するために、つまりロシアが大国としてあるために必要だ。逆にウクライナにとってクリミアがロシアの手にあることは、シーレーンを容易に切断されることを意味する」
ウクライナにとってクリミアの重要性は、黒海経由の穀物輸出がロシアにより妨害されたことからも明らかだ。
8月下旬、ハラ氏に反転攻勢の現状をどう見ているか、改めて問い合わせると、「ウクライナ軍は通信ライン、司令部、弾薬庫、対空火器や火砲を主要な標的に攻撃を継続している。ロシア軍の地雷原や塹壕等を除去しながら、ゆっくりだが前進している」と攻勢が成果を上げているとの見方だった。
領土での妥協はない
「ウクライナ軍が防衛線を突破し、ロシア本土とクリミアを結ぶ(ロシアによる占領地である)『クリミア回廊』を断ち切ることができれば、クリミアは孤立する。ドンバス地方はロシアに隣接しているため、鉄道を破壊しても車で補給ができるが、クリミアのほうが奪還するのはむしろ簡単」と見通しを語った。
ハラ氏のロシアに対する不信感は徹底している。
「ロシアの侵略は、ウクライナの独立や国民性の否定が目的。3万人のウクライナの子供を連行し、ウクライナのアイデンティティを消滅しようとしている」
プーチン大統領を排除すれば、問題は解決するという見方も取らない。
「ウクライナ侵略をプーチン氏の戦争と言うのも間違い。戦争はロシア国民の75〜80%から支持されている。
ロシアで世論調査をすると、強力な軍隊を持ったり、他国を脅迫したり征服したりできる状態がよいとする回答が多数を占める。ロシアの帝国主義イデオロギーは、自国が穏健な小国であることに満足しない。領土面で偉大でないとだめなのだ。帝国主義はロシアのDNAの一部だ」
ハラ氏はロシアとは戦うしかないと断言する。
「西側にも停戦交渉を求める動きがあるが、領土に関する妥協によって停戦に至る可能性はない。多くの領土を取ったほうが交渉の時に有利だという人がいるが、ばかげている。
ロシアは交渉しない。ロシアを負かさねばならない。そして、ロシアの体制変換(レジームチェンジ)が起きることを望む。新政権ができたとしても民主的ではないだろう。しかし、プーチン氏が約束した大国としての地位の獲得に失敗したことを示す意味はある」
ロシアの権威主義体制への嫌悪感
ウクライナとロシアはまったく価値観をたがえるという認識が根底にある。
「ウクライナとロシアが兄弟国家という考え方は、共産主義者によって作り出された概念だ。ロシアは国を支配する神聖な権力があるという考え方だが、ウクライナは何にもまして自由を尊ぶ。気に食わなければすぐに政治家を追い出す」
ソ連を構成していただけあって、われわれ日本人のイメージではウクライナとロシアは歴史的、文化的に近いと見がちだが、「全く別の国」とハラ氏は強調する。ウクライナが防衛戦争を進める大本には、ロシアの権威主義体制への嫌悪感があるのだろう。
キーウの国際問題シンクタンク「新ヨーロッパセンター」のセルジー・ソロドゥキー副所長(44歳)も、ロシアに対する厳しい認識と、防衛戦争を遂行しない限りウクライナは消滅するという強い危機感を語った。
「われわれは、人命を考慮に入れず、国際法を無視し、インフラの破壊も辞さない非常に残酷な国と対峙している。ロシアはその残酷性において予測不可能な国だ。ブチャやマリウポリで起きた惨状を考えれば、長期間の占領で、ロシアの支配を受け入れない人に対して何が起きるかは容易に想像がつく。ロシアの侵略は生存の問題、生か死の問題なのだ」
ソロドゥキー氏はこう語る。
「多様性をつぶすことは、ロシア帝国、ソ連の目標だった。ウクライナ語は禁止された。それはウクライナ人に自分自身のアイデンティティを忘れさせるのが目的だった。ロシアにとってウクライナは頭痛の種だったが、それはウクライナが常に自由を夢見ていたからだ」
ソロドゥキー氏によれば、プーチン氏が主張する西側の「脅威」とは、ロシアの安全保障上と言うよりも、プーチン氏個人の政権喪失の懸念から来るものだ。
安全保障よりも政権喪失の懸念
「かつてプーチン氏は北大西洋条約機構(NATO)に加盟したいと言っていた。NATOにとって受け入れは可能だったが、ロシアは民主主義の価値と基準を満たさねばならない。しかし、プーチン氏が民主主義の価値に服するなどとは考えられない。
今回の戦争はNATOやアメリカとロシアとの間の戦争ではない。プーチン氏は自分の政権を維持したい。レジームチェンジこそ最も恐れていることだ」
ソロドゥキー氏も、プーチン氏はロシア国民の価値を体現している指導者とみる。
「ロシアの指導者が代わったとしても、ロシア人の社会的態度(Social Attitude)は変わらない。ロシアに民主的リーダーはほとんどいない。多数がスターリン時代を誇りに思っていると回答する。民主的ロシアが近い将来、現れることはない」
キーウでは先進7カ国(G7)のある国の在ウクライナ大使にも話を聞いたが、クリミア奪回について、「クリミアは象徴的な意味を持つ。軍事的に奪回することは難しいが、射程が長距離の最新兵器で不安や困難を生じさせれば、いつか、ロシア軍が撤退するという可能性もなくはない」と言う。
この大使も、「ウクライナ人はロシアに対するあらゆる幻想を失った。ウクライナ社会は全面的に戦争を支持している。この状態は続くだろう。ウクライナ人は信じられないくらい頑固な国民」とウクライナの継戦意志は固いという見方を示した。
政権担当者や知的階層のナショナリズムは強く、ロシアに対する不信感は根深い。今後の戦争の展開がどうであれ、この基本的な考え方の枠組みが崩れることはないだろう。
キーウ中心部、聖ミハイル黄金ドーム修道院の前の広場には、ロシアから捕獲した兵器が置かれ、親子連れが記念写真を撮る姿が見られた。日本人にとって戦争とはどこか無縁の世界の、倫理的に否定する対象でしかないが、ウクライナ人にとって戦争は、すっかり日常の一部となっている。
国立歴史博物館を訪れると、展示はほぼ戦争関連のもので占められていたし、市内の至る所に兵士の写真とともに戦意を鼓舞するポスターが掲げられていた。
言論の自由が保障されているウクライナであっても、戦時下のこともあり、本当の感情を話すことをためらわせる雰囲気もあるのだろう。
戦時下の国民感情
国民の意識を知る一つの手がかりは世論調査だが、国営メディアのウクルインフォルムが報じるキーウ国際社会学研究所の世論調査(調査期間2023年5月26日〜6月5日)によれば、「ウクライナはどのような状況下でも領土を断念すべきではない」84%、「一定の領土の断念はあり得る」10%となっている。
他方、徴兵逃れが相当程度広がっていることも、報じられている。読売新聞(2023年8月21日付)によると、8月には徴兵逃れに絡む112件の汚職で、徴兵担当者33人が訴追され、国内各地域の徴兵責任者全員が解任された。
国民の大多数が領土奪還を望んでいることは事実だが、肉親や知人の犠牲、国内外での避難生活が続く中、戦争が長期化するにつれて、「戦争疲れ」が広がるとしても不思議ではない。
●ウクライナ軍 “東部の激戦地に近い集落奪還” 反転攻勢強化か 9/18
ウクライナ軍は、東部の激戦地に近い新たな集落を奪還したと発表し、東部と南部でウクライナ軍の反転攻勢が強まっているという見方が出ています。
ウクライナ陸軍のシルスキー司令官は、17日、SNSに東部ドネツク州の激戦地バフムトの南西、およそ6キロにある集落クリシチーイウカを奪還したと発表しました。SNSには兵士たちがクリシチーイウカとみられる場所で、国旗を掲げる様子の動画も投稿しています。
ゼレンスキー大統領もSNSに自撮りの動画を投稿し「バフムトの周辺でウクライナの領土を着実に取り戻している兵士たちについて触れたい。よくやった」と述べて、たたえました。
ウクライナ軍は15日にバフムトの南、およそ10キロにある集落アンドリーイウカを奪還したと発表したばかりで、バフムト周辺で続く反転攻勢にとって新たな成果だとしてアピールしています。
一方、ウクライナ軍がロシア側の第1防衛線の一部を突破したとされる南部では、イギリスの国防省が17日、ロシア軍が南部ザポリージャ州の交通の要衝トクマク周辺で新たなざんごうを掘るなど防衛を強化していると指摘しました。
その上で防衛強化の動きは、ウクライナ軍の第1防衛線への進軍にロシア軍の懸念が高まっていることを示すものだと分析しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は16日、ウクライナ軍がこの数週間で、南部のロシア側の防衛線に対し戦術的に重要な切れ目をつくり、広げ続けていると分析していて、ウクライナ軍が東部と南部で反転攻勢を強めているという見方が出ています。
●ロシア、ウクライナ侵攻戦費1670億ドル超 9/18
昨年2月、ロシアがウクライナに侵攻して以来、つぎ込んだ戦争費用は1670億ドル(約24兆6500億円)を超えたという報道が出た。
17日(現地時間)、キーウ・インディペンデントやフォーブスなどの外信はウクライナ軍総参謀部が発表した資料を引用し、開戦後8月24日まで使われたロシア戦費がこのように桁外れの金額に達したと伝えた。
総参謀部によると、ウクライナ軍はこれまでロシア軍の340億ドル相当の兵器装備を破壊した。
最大の支出は軍需品供給に使われ、513億ドルに達した。軍人給与は351億ドル、戦死者遺族に補償金として210億ドルを支出した。
国際社会の経済制裁によってルーブルの価値が下がり、ロシア軍の人件費は1日200ドルから120億ドルへと大幅に減少した。
戦費にはウクライナ戦争と直接関係のない軍事支出と西側制裁による経済的損失は含まれなかった。
ロシアメディアの推定では、ロシアは2023年上半期だけで軍事費としてほぼ5兆6000億ルーブル(約8兆5000億円)を投入した。
これはロシアが今年編成した国防予算をすでに上回っている。メディアはロシアが2023年国防予算を当初想定した規模の2倍に増額、全体予算に比べて3分の1水準まで増やさざるを得なくなったと観測した。
●EU「ウクライナ産農産物の輸入制限措置を解除」 9/18
欧州連合(EU)が東欧5ヵ国に一時的に許可した「ウクライナ産穀物輸入制限」措置を解除することを決めた。ウクライナは、EU内の自国農産物の輸出の道が開かれ安堵したが、EU加盟国であるポーランド、ハンガリー、スロバキアの3ヵ国はこれを受け入れなかった。ウクライナを支援しようとするEUと自国農産物の価格下落を防ごうとする東欧加盟国の間で連帯に亀裂が入るのではないかという指摘が出ている。
16日(現地時間)、CNNなどによると、欧州委員会は同日からウクライナ産農産物のすべての輸入制限措置が解除されると明らかにした。5月にEUは、ウクライナの主要輸出通路だった黒海航路が戦争で封鎖されると、小麦・トウモロコシ・菜種・ヒマワリの種などウクライナ産穀物4品目に対して、ブルガリア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキアなどEU東欧国家5ヵ国を経由してアフリカ、中東に輸出できるよう支援した。
その結果、東欧を経由するのではなく、これらの国に直接流入するウクライナ産農産物が急増し、当該国で生産された農産物の価格が暴落する副作用が続出した。このため各国の農家の反発が続き、EUは5ヵ国の経由のみ許可し、ウクライナ産の直接輸入は一時禁止した。欧州委員会は、「この措置の施行後、5ヵ国の副作用が解消された」と解除の理由を説明した。 
●中国外相、ロシアと戦略対話へ プーチン氏訪中の地ならしも 9/18
中国外務省は18日、王毅共産党政治局員兼外相が18─21日にロシアを訪問すると発表した。10月にも実現する可能性があるプーチン大統領の訪中に向けた地ならしをするとみられている。
中国外務省によると、王氏はロシアのパトルシェフ安全保障会議書記と年次戦略安全対話を行う。
また、北京で開催が予定される「一帯一路フォーラム」へのプーチン氏出席に向けた調整が行われる可能性がある。中国の習近平国家主席は3月にモスクワを訪問した際、プーチン氏を招待していた。
国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に逮捕状を出して以降、同氏の外国訪問は伝えられていない。
ICC加盟国は自国領内にプーチン氏が入国した場合、同氏を逮捕することが義務付けられているが、中国はICC設立につながったローマ規程を批准していない。
王氏は訪ロに先立ち、16─17日に地中海の島国マルタでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談した。
●米大統領補佐官、中国外相と「建設的」協議 マルタで会談 9/18
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国の王毅外相が地中海の島国マルタで週末に会談したと、両国が17日に個別に発表した。
ホワイトハウスと中国外務省の声明によると、会談は16日から17日にかけて複数回実施され、双方は「率直で実質的かつ建設的」な話し合いを行ったという。
また米政権高官は、途絶えている両国軍の対話再開の可能性を示す「限定的な」初期の兆候があったと述べた。
軍の対話に関する見通しについて、中国政府高官はコメントしなかった。
両国は一連のハイレベル協議を行ってきており、年内の米中首脳会談実現に向けた基礎固めとみられる。
米政権高官が記者団に語ったところによると、マルタでの会談は2日間で約12時間に及んだという。
中国外務省は、双方がハイレベルの交流を維持し、アジア太平洋問題、海洋問題、外交政策について2国間協議を行うことで合意したとした。
米高官によると、米国は中国によるロシア支援や、中国軍機の台湾海峡中間線越えなどへの懸念を表明しながらも、麻薬対策、人工知能(AI)、気候変動といった分野で協力する用意があると伝えた。
中国外務省によると、台湾問題は「中米関係で乗り越えられない最初のレッドライン」と王氏は警告した。
王氏はまた、中国の発展には「強い内部的な勢い」があり、止めることはできないと指摘。「発展に対する中国人民の正当な権利を奪うことはできない」とも述べた。
米国は、両国に利益をもたらす公正なルールに基づく中国との健全な競争を目指す姿勢を示しているが、中国は競争を促しているにもかかわらず、米国が中国の成長抑止と封じ込めに従事しているとしている。
ホワイトハウスは声明で、米中間の会談がさらに増えることを強く示唆し、双方が「この戦略的な意思疎通のチャンネルを維持し、今後数カ月の間に重要分野でさらなるハイレベルの関与と協議を追求することを約束した」とした。
●プーチン氏、北朝鮮労働者の派遣を要求か 金正恩氏との会談中に 9/18
ウクライナ軍の関連組織「国民抵抗センター」は17日、ロシアのプーチン大統領が13日に行われた北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記との会談中、ウクライナ東部のロシア占領地域に北朝鮮の労働者を連れてくるように求めたとみられるとの見方をサイトに投稿した。ウクライナのキーウ・インディペンデントが18日、伝えた。
センターの投稿によると、ロシア側は、ロシア占領下にあるウクライナ東部ドネツク州とルハンスク州に「外国使節団」を設置するよう北朝鮮側に求めたという。州内の要塞(ようさい)やインフラ施設の建設作業に、北朝鮮の労働者を従事させることが目的だとしている。
センターは、ロシア外務省が7月末、これら2州に外国人労働者の受け入れを促進するための事務所を設置したとしている。
●「ウクライナ敗北なら世界大戦」 ゼレンスキー氏が警告 9/18
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は17日放送の米CBSテレビのインタビューで、ウクライナが敗北すればロシアはポーランドやバルト3国に迫り、第3次世界大戦に発展しかねないと警告した。「プーチン(ロシア大統領)を食い止めるか、世界大戦を始めるか、全世界が選ばなければならない」と述べた。
ゼレンスキー氏はこれまでの米国の支援に感謝を表明した。その上で、追加の軍事支援に対する消極的な意見が米国内で広がっているのを念頭に、世界を守るため「最も高い代償を払っているのは実際に戦い、死んでいくウクライナ人だ」と訴えた。インタビューは14日に収録された。
●ウクライナ軍、ロシア軍の「竜の歯」を突破したのか? 9/18
ウクライナ軍の将官たちは9月に入り、ロシア軍の「第1防衛線」を突破したと主張している。BBCヴェリファイ(検証チーム)は、実際にウクライナ軍の部隊がどこまで進んだのか、そして前線沿いで今後どういう展開があり得るのかを探った。
ウクライナは今年6月初め、ロシア軍が制圧した自国領土からロシア軍を追い返そうと、大々的な反転攻勢を開始した。全長約970キロに至る前線の3か所を、攻撃の重点とした。
南東部ザポリッジャ周辺の地域が、戦略的に最も重要だ。
アゾフ海へ向けて部隊を進めた上で、もし戦線突破に成功すれば、ロシア領ロストフ・ナ・ドヌの街とクリミア半島を結ぶロシアの補給線を断つことができる。
ただし、ザポリッジャ州の集落、ロボティネとヴェルボヴェの周辺を除けば、この地域での戦いであまり成果は出ていない。
もしロシア領とクリミアを結ぶ補給線の分断にウクライナが成功すれば、ロシアは2014年に併合したクリミアでの大規模な駐留を維持することが、ほとんどできなくなる。
ウクライナにとってかなりの難関は残るが、南部戦線では、ウクライナの部隊がロシアの防衛用障害物「竜の歯」などを突破した様子が、複数の個所で確認されている。
私たちはヴェルボヴェ村に近い前線沿いで撮影され、ソーシャルメディアに投稿された動画のうち9本が、本物だと確認した。
このうち動画4本は、ヴェルボヴェの北でウクライナ軍がロシアの防衛線を突破する様子を映している。
ただしこれはウクライナが前線を突破したと示すもので、その一帯を掌握したと示すわけではない。
今のところ、ロシアの防衛線を越えているのはウクライナの歩兵隊のみ。その突破口からウクライナの装甲車列が次々とロシアの陣地に入り、そのまま国土を奪還し掌握したという様子は、まだ目にしていない。
ウクライナの速い前進を妨げているのは? 
ロシア側はもうずっと前から、ウクライナのこの反転攻勢を予測していた。そして、世界最強の防衛線を何カ月もかけて構築した。
衛星画像で見ると、複数の防衛用障害物や塹壕(ざんごう)、地下要塞(ようさい)や地雷原が多重に組み合わさって連なり、それぞれが砲撃拠点に守られている。
広大な地雷原がウクライナの前進を押しとどめている。ロシアはウクライナの野原に大量の地雷を敷設した。場所によっては、1平方メートルにつき地雷が5発も埋まっている場所もある。
ヴェルボヴェ近くの野原の様子を、8月21日と9月7日の衛星画像で比較すると、緑だった場所が9月7日には穴だらけになっているのがわかる。
ウクライナ軍は6月にこの地雷原を一気に突破しようとしたが、それはあっという間に失敗に終わった。西側諸国が供与した最新兵器は大破し、炎上した。ウクライナの歩兵部隊も、悲惨な数の死傷者を出して後退する羽目になった。
ウクライナが軍はその後、ロシアの地雷を個々に撤去する作戦に変更した。作業のほとんどは夜間で、しばしば砲火の下で行われる。ウクライナ軍の前進が遅いのは、そのためだ。
ウクライナの戦車や装甲車が、ロシアの地雷やドローン、対戦車ミサイルによって破壊されることもある。私たちが検証した動画では、イギリスが提供したチャレンジャー2戦車がロボティネ近くで破壊されていた。
そのため、ウクライナの戦車や装甲車がまとまって前進するには、地雷原を無事に通過できる、一定の幅がある通路が確保される必要がある。さらには、その場においてロシアの砲撃を抑制することも必要だ。
ウクライナ反攻の今後は
「ウクライナにとって今の課題は、部隊をもっとロシアの陣地に送り込めるだけの大きな突破口を確保すること」だと、英キングス・コレッジ・ロンドン戦争研究学部のマリナ・ミロン博士は言う。
他方、ロシアは兵や装備の補給を送り込んでおり、この戦線は流動的に動いている。ウクライナが奪還した領土を、ロシアが再度奪い返す可能性もある。
ロシア軍の精鋭、空挺(くうてい)軍が、ヴェルボヴェ村の近くに配備されたという情報を裏付ける、ロシアのドローン撮影映像を、私たちは確認した。この展開は、ウクライナの反転攻勢によって前線に空いた隙間(すきま)を埋めるためのものだ。
イギリスのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のロシア専門家、カテリナ・ステパネンコ氏によると、「ウクライナ軍は依然として戦場で、ロシア軍の抵抗に遭っている」。
「砲撃やドローン攻撃、防衛用の障害物に加え、ロシア軍は幅広い電子戦を展開し、ウクライナ軍の通信やドローン使用を妨害しようとしている」
ウクライナ軍は、沿岸までの距離の約10%しか前進できずにいる。しかし、実情ははるかに複雑だ。
ウクライナの反転攻勢が始まってから3カ月。激しい攻撃にさらされ、補給線への長距離砲撃も受け続けてきたロシア軍の兵士たちは、疲れ果て、士気が下がっている可能性もある。
ウクライナ軍が残るロシア軍の防衛線を突破し、トクマクの町まで到達できれば、ロシア本土とクリミアを結ぶ鉄道と道路、つまりロシアの補給線が、ウクライナ側の砲撃の射程圏に入る。
もしそれが実現すれば、今回の反転攻勢は一定の成果を収めた成功と評価できるものになる。
それで戦争が終わることはないかもしれない。この戦争は2024年に入っても、あるいはさらにその先までも続く可能性がある。しかし、今回の反転攻勢が成功すれば、ロシア側の戦争遂行を大きく損なうことになる。そうすれば、いずれ和平協議が始まった時、ウクライナは強い立場で交渉に臨めるようになる。
とはいえ、ウクライナに残された時間は限られている。数週間もすれば雨季になり、道はぬかるみ、これ以上の前進が難しくなる。
さらにその先には、アメリカ大統領選がどうなるかわからないという、不安要素が控えている。もし共和党が勝てば、アメリカからのウクライナ支援は激減するかもしれないのだ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、そこまでなんとか持ちこたえなくてはならないと理解している。そしてウクライナ側は、それだけに今回の反転攻勢をなんとしても成功させなくてはならないと、重々わかっているのだ。
●「習氏は独裁者」中国、ドイツ外相の発言に猛反発 9/18
ドイツのベアボック外相がアメリカメディアのインタビューで習近平国家主席を「独裁者」と表現したことに対し、中国外務省は強く反発しました。
ベアボック外相は先週、アメリカメディアのインタビューでロシアによる侵攻に対してウクライナを支援する理由について、「もしプーチンが勝ったら、中国の習氏のような他の独裁者にどんなサインを送ることになるだろうか」と述べました。
これに対して中国外務省は18日の会見で「発言は極めてでたらめで、中国の政治的尊厳に対する重大な侵害であり、公然とした政治的挑発だ」と強い不満を表明しました。
そのうえで、発言内容に断固反対するとして「外交ルートを通じて厳正な申し入れを行った」と強調しています。
●中国の王毅外相がロシア訪問 9/18
中国の王毅外相は18日、モスクワを訪れ、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相と会談した。ロシア国営メディアによると、両外相は会談後、ウクライナでの戦争を終わらせる取り組みは、ロシアの利益を考慮する必要があると述べた。
ロシアのメディアは、王外相のロシア訪問を通じて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による中国訪問の調整が行われると伝えた。
これに先立ち中国外務省は同日、王毅外相が「戦略的安全保障協議」のため18日から4日間の日程でロシアを訪問していると発表。
ロシア国営タス通信は同国政府関係者の話として、王外相とラヴロフ外相、ウクライナでの戦争や北大西洋条約機構(NATO)軍の拡大、アジア・太平洋地域のインフラ、国連など国際協議の場での協力などを話し合うと伝えていた。
今月初めにプーチン氏は、中国の習近平国家主席と会う予定だと言及したが、具体的な時期には触れなかった。
今年3月に国際刑事裁判所がウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチン大統領らに逮捕状を出して以来、プーチン氏は国外に出ていないとされている。昨年12月にベラルーシとキルギスタンを訪れたのが、プーチン氏の最後の外国訪問とされる。
ロシアと近い関係にある中国政府は、間接的にロシアの対ウクライナ戦争を支援していると西側から批判されている。中国はそのような支援を否定している。
シンクタンク、アジア・ソサイエティ政策研究所のローリー・ダニエルズ氏は、中国は欧州との関係改善のためにもウクライナでの戦争の終わりを望んでいるものの、ロシアに対しても同情的なため、「(戦争終結の)結果と、戦争の責任追及を切り離したい」のだと指摘する。
「プーチンの中国招待はロシアに支持を表明する方法だが、それはロシアを交渉のテーブルに着かせるための正当な取り組みという文脈に位置付ける必要がある。中国が欧州諸国との関係を悪化させないためにも」と、ダニエルズ氏は言う。
王外相の訪ロに先立ち、プーチン大統領は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記を歓迎。ロシアと北朝鮮は、「軍事協力」のほか、北朝鮮の人工衛星打ち上げ事業への協力などについて両首脳が話し合ったと発表した。
長引くウクライナ侵攻で武器や砲弾が不足しているロシアに、北朝鮮が武器を提供する取引をしたのだろうと、アメリカは指摘している。
プーチン大統領と金総書記の会談について聞かれ、中国外務省は、「両国の間のことだ」とのみ答え、コメントを避けた。
ただし、中国がロシアと北朝鮮の双方と緊密な関係を維持していることから、金総書記のロシア訪問について中国はあらかじめ承知、場合によっては承認していただろうと、一部の専門家は話す。
中国と北朝鮮の関係は、政治思想や西側への不信という共通点を超えている。中国はかねて貿易を通じて北朝鮮の経済的生命線であり続けてきた。それと同様、昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以降は、中国はロシアの原油や天然ガスを買い支えてきたため、今や中国はロシアの経済的生命線にもなりつつある。
「ロシアと北朝鮮の間で何が起きているにせよ、中国のあずかり知らないところで起きているはずがない」、「中国政府の了解なくして、ロシアと北朝鮮が軍事的に協力するなど、ありえないと思う」と、豪ニューサウスウェールズ大学で中ロ関係を専門とするアレクサンダー・コロレフ博士は言う。
ウクライナ侵攻で自分たちに代わってロシアを支援するのに、北朝鮮は便利な代理役だとさえ、中国が考えている可能性もあると、コロレフ博士は話す。
「北朝鮮に、ロシアと軍事協力してもいいよと青信号を出すだけで、中国は自分たちの評価をほとんど落とすことなく、ロシアを助けることができる。自分たちに何の関係もない北朝鮮のならずもの政府がやることだと、中国は北朝鮮のせいにできるだろう。もしそうなら、頭のいいやり方だ」
前日には米大統領補佐官と会談
中国の王外相は17日には、地中海のマルタで、アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談したばかり。両政府の発表によると、両氏は二国間関係について協議したほか、地域の安全保障とウクライナに対する戦争についても話し合った。
北朝鮮によるロシアへの協力をやめさせるため、中国から北朝鮮に圧力をかけるよう働きかけることが、マルタ会談のアメリカ側の狙いだったかもしれないが、中国がそれに応じる可能性は低いと、コロレフ博士は言う。
「アメリカ流に応じるつもりが中国にあるなら」、中国は「1年以上前から」ロシアとウクライナの停戦に向けて動くことができたはずだが、そうしなかったと、博士は指摘する。
ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、中国は経済的に、さらには重要技術提供の形で、ロシアを支援してきたと、アメリカは非難している。
今年7月に公表されたアメリカ国家情報長官の報告書によると、「西側の制裁や輸出規制の打撃を緩和するため、中国はロシアに対して、さまざな経済支援の仕組みを推進している」のだという。
同報告書は、中国はロシア産エネルギーの購入を増やし、ロシアとの間で人民元建ての取引を増やしたほか、ウクライナでの使用を念頭にドローンなど軍民両用技術を「おそらく」提供していると指摘した。
中国はこうした指摘を一貫して否定し、ロシアのウクライナ侵攻について自分たちは客観的な立場を維持していると主張してきた。
中国は今年2月に独自のウクライナ和平案を提案。王外相はそれに先駆け欧州各国を歴訪したのち、モスクワを訪れ、プーチン大統領と会談している。
●ウクライナが要衝の村奪還 ロシア補給路への正確な砲撃が可能に 9/18
ウクライナ東部軍は17日、ロシア軍の支配下にある東部ドネツク州バフムートから南に3・5キロ離れたクリシチウカ村を完全に掌握したと明らかにした。ウクライナのニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」が同日、伝えた。村を占領していたロシア軍と反転攻勢を続けるウクライナ軍との間で、9月に入り激しい戦闘が続いていた。
ウクライナ東部軍の報道官は17日夜のテレビで、「今後の領土奪還に向けて橋頭堡(きょうとうほ)を得た」と述べ、クリシチウカ村奪還の意義を強調した。近くを走るバフムートへの補給路に対し、より正確な砲撃が可能になると説明。鉄道の争奪戦も続いているとした。
一方、ウクライナの内閣は18日、6人の国防省次官全員と国防官房長を解任したと発表した。これまでたびたび戦況を伝えてきたハンナ・マリャル次官も含まれる。今月初めのレズニコウ前国防相の解任に伴う措置とされるが、一部メディアは「(国防省の)完全な刷新が進行中」と伝えた。
●要衝バフムト包囲へ、ウクライナ軍「急襲作戦を継続中」… 9/18
ロシアへの反転攻勢を進めているウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー司令官は17日、激戦が続く東部戦線で、ドネツク州の要衝バフムトの南方にある集落クリシチウカを奪還したことを明らかにした。ウクライナ軍が目指すバフムトの包囲に向け、弾みになるとみられる。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日のビデオ演説で、「バフムト地域で領土を徐々に取り戻しつつある戦士たちを評価したい」と述べた。ウクライナ軍は18日、「クリシチウカ周辺で急襲作戦を継続中」とSNSに投稿し、戦闘は続いているとみられる。
英国防省は17日、南部の「ザポリージャ戦線」の要衝トクマク周辺で、露軍が防衛態勢を強化しているとの分析を明らかにした。対戦車用の障害物や新たな 塹壕ざんごう を設置しているという。
一方、露国防省は17日、ウクライナ軍による無人機やミサイルでの攻撃が続くクリミア半島で、同日未明と夜間に無人機による攻撃があったと発表した。防空システムが撃墜し、「攻撃の試みは失敗に終わった」としている。

 

●中ロ外相、対米国の結束で一致 プーチン氏訪中調整か 9/19
ロシアのラブロフ外相は18日、同国を訪問中の中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相とモスクワで会談した。両国の外務省によると、米国に対抗するため結束する方針で一致した。
中国・北京で10月に開く広域経済圏構想「一帯一路」首脳会議へのロシアの参加に向けた準備について議論した。プーチン大統領の訪中への調整を進めたとみられる。
王氏は「中ロは単独行動や覇権主義の台頭に直面しており、戦略的協力を強化しなければならない」と語った。対中包囲網や対ロ経済制裁を主導する米国をけん制するため連携する意向を示した。ラブロフ氏は経済貿易などの協力深化に意欲を示した。
両外相はウクライナを巡る情勢について議論し、ロシア抜きでウクライナの危機を解決しようとする(西側諸国の)試みは意味をなさないなどと指摘した。王氏は「危機の政治的解決のため中国は建設的役割を果たす」と強調した。
ラブロフ氏は9月に極東でプーチン氏と首脳会談を開いた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の訪ロについても外相会談で伝えたという。
両外相は中ロにブラジル、インド、南アフリカを加えたBRICSが8月の首脳会議でイランなど6カ国の加入を決めたことを評価した。ラブロフ氏は「中国と協力し、BRICSをさらに発展させていく」と述べた。
王氏はプーチン氏側近のパトルシェフ安全保障会議書記の招待を受け、18〜21日の日程で訪ロした。
ロシアは今春以降、政権幹部が相次いで訪中するなど中国と接近する姿勢を強めている。5月に訪中したロシアのミシュスチン首相は習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談。7月にはマトビエンコ上院議長が北京で習氏と会った。
プーチン氏は9月13日、北朝鮮の金正恩総書記と極東アムール州の宇宙基地でおよそ4年半ぶりのロ朝首脳会談を開いた。15日には同盟国であるベラルーシのルカシェンコ大統領と会談した。
ロシアによるウクライナ侵攻を非難する米国や欧州連合(EU)などが対ロ制裁を強める中、ロシアは制裁に加わらない非欧米諸国との連携を強化する方針を鮮明にしている。
●ロシアが、ウ侵攻巡り国際司法裁での審理停止要求 「訴えに絶望的欠陥」 9/19
ウクライナがロシアによる侵攻の停止を求めて国際司法裁判所に訴えている審理で、ロシア側は9月18日、ウクライナの法的立場には「絶望的に欠陥がある」として訴訟を破棄するよう求めた。プーチン大統領はこれまで、ロシアの「特別軍事行動」は、ウクライナ東部で「大量虐殺にさらされている(ロシア系の)住民を保護するため」に必要だと主張。ウクライナは事実無根だとして争っている。この訴訟は、両国が署名した1948年の大量虐殺防止に関する条約の解釈が焦点となっている。
「ウクライナ侵攻は、ロシア系住民を ウでの大量虐殺から守るため」――ロシア政府のこの主張に対し、ウが国際司法裁に訴えている審理で、ロシアは「絶望的に欠陥がある」として訴訟の破棄を求めた。
週末に公開されたこのウクライナ軍のビデオは、奪還したとする村での戦闘を撮影したものだという。
ロシアの弁護団は9月18日、1948年の大量虐殺防止に関する条約をウクライナが乱用していると主張。
ロシア側代表「ウクライナは、(ロシア系住民の)大量虐殺は起きてないと言っている。それだけで、この訴訟を却下するには十分だろう。なぜなら、裁判所の法理によれば、大量虐殺がなければ、大量虐殺条約の違反は成立しないからだ」
国際司法裁判所での審理は27日まで行われる予定。裁判を継続させる管轄権が司法裁にあるかどうかが議論されている。
国際司法裁には判決の執行手段がなく、ロシア政府はこれまで、侵攻停止を求める裁判所の命令を無視してきた。
専門家によれば、ウクライナ側に有利な判決が出たとしても戦争を止めることはできないが、将来の賠償金の支払いに影響を与える可能性があるという。
●NATO事務総長、ウクライナでの戦争の長期化を警告 9/19
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、ウクライナでの戦争について、長期化する可能性があると警告した。ウクライナによるロシアに対する反転攻勢は領土の奪還がわずかなものにとどまっている。
ウクライナの支援国はここ数週間、反攻の成果を強調しようとしている。しかし、反攻は数カ月間にわたって行われているものの、大きな突破口を見いだせていない。秋になれば、現地の状況も変化し、ロシアが再び、ウクライナのエネルギーインフラを破壊しようとする可能性がある。
ストルテンベルグ氏は17日に発行された独紙の取材のなかで、「戦争の大部分は、始まった当初に予想されていたよりも長く続く。したがって、我々はウクライナでの長期戦に備える必要がある」と述べた。
ストルテンベルグ氏は「我々はみな、一刻も早い平和を望んでいる。しかし、同時に、次のことも認識しなければならない。もし、ゼレンスキー大統領とウクライナの人々が戦いを放棄すれば、彼らの国はもはや存在しなくなる。もし、プーチン大統領とロシアが武器を置けば、平和が訪れる」と語った。
ストルテンベルグ氏は「この戦争を終わらせる最も簡単な方法は、プーチン氏が軍を撤退させることだ」と指摘した。
多連装ロケット砲に砲弾を詰めるウクライナ兵=バフムート付近/Sofiia Gatilova/Reuters
多連装ロケット砲に砲弾を詰めるウクライナ兵=バフムート付近/Sofiia Gatilova/Reuters
ストルテンベルグ氏は、プーチン氏がウクライナで核兵器を使用する可能性について、プーチン氏の核のレトリックは危険で冷酷なものであるが、NATOはあらゆる脅威と課題に備えていると強調した。
ストルテンベルグ氏は「NATOの目的は、戦争、特に核戦争を阻止することだ。我々は信頼できる抑止力を保有している」と述べた。
●アメリカ 中国 ロシア 3か国の外交的な駆け引きが活発化 9/19
中国の王毅外相がロシアを訪問してラブロフ外相と会談し、中ロ首脳会談に向けた調整が行われたものとみられます。一方、アメリカでは、ブリンケン国務長官と中国の韓正国家副主席が会談し、アメリカと中国、ロシアがそれぞれ外交的な駆け引きを活発化させています。
中国の王毅外相は18日、ロシアの首都モスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談しました。
会談の冒頭、王外相は「覇権主義や陣営の対立といった逆流が激しくなればなるほど、われわれは、大国のふるまいを示し、果たすべき国際的な責務を履行しなければならない」と述べ、アメリカを念頭に、ロシアとの協力をさらに深めていく考えを示しました。
これに対し、ラブロフ外相は「世界情勢における正義を確保するために中ロ両国の協力は重要だ」と述べ、ウクライナ情勢で対立を深める欧米と対抗していくため中国との連携を強化する姿勢を強調しました。
会談では、ウクライナ情勢について意見が交わされたとみられるほか、先にロシア極東で行われたプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン総書記の首脳会談について、ラブロフ外相が説明した可能性があります。
また、10月、中国で開かれる巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムに、習近平国家主席の招待を受けてプーチン大統領が出席する見通しで、中ロ首脳会談に向けた調整も行われたものとみられます。
一方、アメリカのニューヨークでは、ブリンケン国務長官と中国の韓正国家副主席が会談し、11月にアメリカで開催されるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議などにあわせた米中首脳会談の実現に向けて協議した可能性があります。
今月16日から17日にかけては、ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官と王外相が会談しており、アメリカと中国、ロシアがそれぞれ外交的な駆け引きを活発化させています。
松野官房長官「ロシアと中国の動向を注視」
松野官房長官は閣議の後の記者会見で「政府として第三国間の外交上のやりとりにコメントすることは差し控えたいと思うが、ウクライナ情勢をめぐるものを含むロシアと中国の動向を注視している」と述べました。
その上で「ロシアに対する制裁をいっそう効果的なものにするには第三国を通じた制裁のう回、回避を防ぐことが重要であり、国連総会の場も含めさまざまな国との間で協力を確認していきたい。また中国にはロシアが軍事的侵略を停止するよう圧力をかけることを求めていく」と述べました。
●上川氏、G7外相会合を開催 ウクライナ情勢で連携確認 9/19
上川陽子外相は18日(日本時間19日)、米ニューヨークで先進7カ国(G7)外相会合を開いた。ウクライナ情勢を巡り、侵攻を続けるロシアへの毅然とした対応とウクライナへの支援継続で連携を確認した。日本は今年のG7議長国。13日に就任した上川氏にとってG7外相会合の開催は初めてで、本格的な外交デビューとなった。
会合では11月7、8両日に東京で対面の会合を開催することも決めた。上川氏は記者団に「率直かつ突っ込んだやりとりをすることができた。G7に初めて参加し、各国外相から大変温かく受け入れていただいた」と述べた。
●ウクライナがポーランドなどをWTOに提訴 農産物輸入禁止措置で 9/19
ウクライナ政府は、ポーランドなど隣国の3か国が、ウクライナ産農産物の輸入の禁止に独自に踏み切ったことについて、WTO=世界貿易機関に提訴したと発表しました。軍事侵攻を受けるウクライナへの支援を進めるポーランドなどとの間で関係悪化につながることも懸念されています。
EU=ヨーロッパ連合は、今月15日、自国の農業を守るためとしてポーランドなどに認めてきたウクライナ産農産物の輸入禁止の措置について、延長を認めないことを決め、これに反発するポーランド、スロバキア、それにハンガリーの3か国は、今月16日以降も独自に輸入禁止を続けることを決めました。
これを受け、ウクライナ経済省は18日、輸入禁止の措置は国際的なルールに違反するとして3か国をWTOに提訴したと発表しました。
そして、3か国に対して協議に応じるよう求めています。
しかし、ポーランド政府の報道官は18日、地元メディアに対し「われわれの立場は変わらない。正しいことだと考えている」などと述べ、方針を撤回する考えはないと説明しました。
ポーランドなどはウクライナへの軍事支援などを積極的に進めていますが、農産物の問題をきっかけに、関係悪化につながることも懸念されています。
●“ロシアの人権状況 著しく悪化” 国連の特別報告者が改善訴え 9/19
去年2月に始まったウクライナへの軍事侵攻以降、ロシア国内の人権状況が著しく悪化したとする報告書を国連の特別報告者がまとめ、改善を訴えました。
この報告書は、ロシアの人権状況について調査を行った、国連の特別報告者であるマリアナ・カツァロバ氏がまとめ、18日に公表されたものです。
報告書によりますとロシアでは軍事侵攻開始後の去年3月、刑法が改正され、軍の活動について、うその情報を拡散したとみなされた場合、懲役などが科されるようになったことを指摘し、それ以降この法律で、少なくとも185人が起訴されたとしています。
また、市民による抗議活動への取り締まりも強化され、軍事侵攻への抗議デモに参加し、拘束された市民の数は、2万人を超えたとしています。
また、ロシア当局によって活動停止に追い込まれるなどしたメディアの数も、軍事侵攻以降300以上にのぼるとしています。
こうしたことから報告書では、国内での集会の自由や表現の自由などの権利が著しく制限されているなどとして、ロシア政府に関連した法律の見直しや、すでに拘束されている活動家らの解放を求めています。
報告書は、国連人権理事会が去年、ロシアの人権状況の調査のため特別報告者の設置を決めて以来、初めて公表されたものです。 
●プーチン大統領、10月に訪中 習主席と会談へ=ロシア高官 9/19
ロシアのプーチン大統領は10月に中国を訪問し習近平国家主席と会談する。インターファクスが19日、パトルシェフ安全保障会議書記の発言として報じた。
パトルシェフ氏は中国の王毅共産党政治局員兼外相との会談で「(両首脳が)10月に北京で会談することを待ち望んでいる」と述べた。
プーチン氏は北京で開かれる「一帯一路」首脳会議に参加するという。
●プーチンの「右腕」、チェチェンの独裁者カディロフも死んだ? 9/19
ロシア南部チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長の健康状態をめぐってはさまざまな憶測が飛び交っており、重病説や死亡説も報じられている。
ロシアのウラジーミル・プーチンに絶対的な忠誠を誓うカディロフは、2007年からイスラム教徒が多数派を占めるチェチェン共和国の首長を務めている。圧政で知られ、複数の国際団体から人権侵害や弾圧を行っていると非難されている。
カディロフの配下にあるチェチェンの特殊部隊は、ウクライナでの戦争でロシアのために戦い、重要な役割を果たしている。だがカディロフ本人は、プーチンの名前こそ出さないものの、ウクライナ侵攻を頻繁に批判してきた。
こうしたなか、ウクライナ国防省情報総局のアンドレイ・ユソフ報道官が先週、ベラルーシのニュースサイト「Nexta(ネクスタ)」に対して、カディロフが「しばらく前から」「全身性の健康問題」を抱え体調不良だと述べたことをきっかけに、その健康状態についてさまざまな噂が囁かれるようになった。
ウクライナのニュースサイト「Obozrevatel(オボズレバテル)」は、カディロフが昏睡状態に陥って、治療のためロシアの首都モスクワに搬送されたと報道。9月18日には、カディロフが腎臓移植を受けて「重体」だと報じた。
「主治医に毒を盛られた説」も
9月上旬には、ロシアの治安情報に詳しいテレグラムチャンネル「VChK-OGPU」がロシア治安当局の内部情報として、カディロフは主治医に毒を盛られたと考えていると主張した(同サイトはこの主張について証拠を提示していない)。
同チャンネルによれば、健康状態が突然悪化したことについて、カディロフは主治医のエルハン・スレイマノフが自分に毒を盛ったと糾弾。複数の情報筋の話として、スレイマノフはその後「生き埋めにされた」可能性もあると伝えたが、証拠は何もない。
ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問は9月17日、X(旧ツイッター)への投稿の中で、カディロフが「既に死亡している」と言う者もいれば、彼が「重篤な腎不全か毒を盛られたことにより」昏睡状態に陥っていると考える者もいると述べた。
このほかにも、カディロフが死亡したとする未確認の報道が複数ある。
チェチェンの人権活動家アブバカル・ヤングルバエフは17日、自身のテレグラムチャンネルに「カディロフが死亡した」と投稿したものの、それ以上の情報は提示しなかった。
22万4000人超の登録者を持つあるロシア語のテレグラムチャンネルは17日、カディロフが週末に死亡したと投稿。ウクライナの報道機関も同日、カディロフが16日夜に死亡したと報じたが、それを裏づける証拠は示さなかった。
週末には本人の自撮り動画が
こうしたなか、週末にはカディロフのテレグラムチャンネルに、カディロフ本人による自撮り動画を含む複数の動画が投稿された。
撮影された場所も時期も不明なこれらの動画の一つには、「真実とインターネット上の嘘の区別がつかない者は、散歩に出て新鮮な空気を吸うよう強く勧める」という言葉が添えられている。動画の中のカディロフもレインコートで散歩中だ。
おかげでカディロフの動静への関心はますます高まっている。ロシア政府によるメディアへの締め付け強化を受けて閉鎖されたラジオ局「エホ・モスクワ(モスクワのこだま)」で編集長を務めていたアレクセイ・ベンディクトフは、自身のテレグラムチャンネルに、カディロフは「重篤な腎不全」を患っており、「頻繁に」透析が必要だと投稿。透析はモスクワにある病院で行われていると述べた。
ゲラシチェンコはXに、ロシアの複数のテレグラムチャンネルから得た情報として、チェチェンのナンバープレートをつけた車が、「カディロフが検査・治療を受けているとされている」モスクワの大統領府中央病院に入っていったと書き込んだ。
皆でスクープ合戦
独立系のロシア語報道番組「Current Time」は、カディロフとつながりがあるとされているビジネス用ジェット機が17日午後7時50分にモスクワを出発し、カスピ海上空を通過して、チェチェン共和国の首都グロズヌイ方面に飛んだと報道。飛行中、この航空機の自動応答装置は切られていたということだ。また同番組によれば、この航空機は今月に入ってから、これまでに3回モスクワに向かったことが分かっている。
18日、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は、カディロフの健康状態はプーチンとは関係のない問題だと述べた。ロシア国営タス通信によれば、ペスコフは「この問題について、我々は何の情報も持っていない」
●ウクライナ戦争は中長期で続く、米国とG7同盟国が見込む−米当局者 9/19
米国と主要7カ国(G7)の同盟国はウクライナでの戦争が中長期的に続くと理解しており、それを反映した計画策定が求められていると、米国務省高官が語った。
この高官は19日、G7当局者が前日行った夕食会について、ニューヨークで始まる国連総会に際して記者団に概要を説明。プーチン大統領の計画失敗と十分な負担の分担を同盟国は確実にする必要があると高官は述べた。
米国と欧州連合(EU)は戦争を拡大させるような直接的な行動を避けているものの、ロシア軍の撃退を助けるためウクライナに多額の軍事的・人道的支援を提供してきた。
ウクライナ向けの長期的な支援にはエネルギーやインフラが含まれ、同国経済を強化して将来的にロシアを抑止することも期待されていると、高官は語った。
●ウクライナ軍 東部と南部で反転攻勢 ロシア軍損失拡大の見方も 9/19
領土奪還を目指しているウクライナ軍は東部ドネツク州や南部ザポリージャ州で反転攻勢を強めていて、ロシア軍の損失が広がっているという見方がでています。
ウクライナ軍は東部ドネツク州のバフムトの周辺で反転攻勢を強めていて、バフムト南西にある集落、アンドリーイウカや、クリシチーイウカの奪還を17日までに相次いで発表しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は18日、バフムト南方の戦況について「ロシア軍の防御力が低下し、3つの旅団が戦闘不能になった可能性がある」として、ロシア側が大きな打撃を受けた可能性を指摘しました。
さらに「戦争研究所」は南部ザポリージャ州でもウクライナ軍の進軍によって、ロシア軍の防衛線が弱まっているとしていて、東部と南部の両戦線で占領するロシア軍の損失が広がっているという見方を示しています。
またイギリス国防省は19日、南部ヘルソン州ではドニプロ川をめぐる攻防が激しくなっていて、双方がこの地域を戦略的に重要だと位置づけていると分析しています。
一方、ロシア軍は無人機などを使ってウクライナ各地での攻撃を続けていて、19日にはウクライナ西部リビウで、無人機攻撃によって大型の倉庫で火災が起き、1人が死亡したと地元当局が発表しています。
●中国 王毅外相 ロシア外相などと会談 米にらみ結束確認 9/19
ロシアを訪問している中国の王毅外相が、ロシアのラブロフ外相やパトルシェフ安全保障会議書記と相次いで会談しました。対立を深めるアメリカをにらみ結束を確認するとともに、ロシア側からは来月北京で習近平国家主席とプーチン大統領の首脳会談が行われることへの期待が示されました。
中国の王毅外相は18日、ロシアの首都モスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談しました。
ロシア外務省によりますと、この中でラブロフ外相は、今月13日にロシア極東で行われたプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記の首脳会談について、説明したということです。
一方、王毅外相からはアメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官との今月16日から17日にかけて行われた会談内容について説明があったとしています。
また両外相はウクライナ情勢についても詳しく協議したとしています。
さらに19日には王毅外相とプーチン大統領の側近、パトルシェフ安全保障会議書記との会談も行われました。
会談でパトルシェフ氏は「プーチン大統領と習主席の会談が10月に北京で行われることを期待している」と述べ、来月、北京で開かれる予定の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムに合わせて、首脳会談が行われることへの期待が示されました。
対立するアメリカをにらみロシアと中国は結束を確認するとともに、外交活動を活発化させています。
韓国第1外務次官 ロシア大使に軍事協力の中止求める
ロシアと北朝鮮が協力関係を強化する動きを見せる中、韓国のチャン・ホジン(張虎鎮)第1外務次官は、19日午後ソウルに駐在するロシアのクリク大使を呼び、北朝鮮との軍事協力の動きを直ちに中止するよう求めました。
チャン次官は「ロシアは北朝鮮への制裁決議を採択した国連安保理の常任理事国であり責任を持った行動をしなければならない」と指摘した上で、「韓国政府は、安保理決議に違反して安全保障を重大に脅かす行為に対して、国際社会と協力して明確な代価が伴うように強力に対処していく」と警告したということです。
韓国外務省によりますと、クリク大使は、韓国側の立場を注意深く聞き、本国に正確に報告すると述べたということです。
●ウクライナ戦争で苦戦するロシアに追い打ち ポーランドが国防費増額 9/19
ウクライナ侵攻から1年半。戦況は一進一退の攻防だが、ウクライナ周辺の国々は防衛力を強化。ロシアにとっては都合の悪いことが続く。
ウクライナ戦争が続くなか、ポーランドのドゥダ大統領は9月上旬、2024年の国防費を国内総生産(GDP)比で4%以上に増額すると明らかにした。
ポーランドが国防費を大幅増加
ウクライナの隣国ポーランドでもロシアへの安全保障上の懸念が拡がっている。
最近ではポーランド東部と国境を接するベラルーシでロシアの民間軍事会社ワグネルの存在が確認されるなど、ポーランド軍がウクライナ国境に増強される事態となった。
ポーランド国民の間でも安全保障への懸念が拡がっており、国防費が増強されることには賛成の意見が多数のようだ。
拡がる対ロシア懸念のドミノ
しかし、懸念を強めるのはポーランドだけではない。これまで世界最大の軍事同盟、北大西洋条約機構NATOに加盟してこなかったフィンランドとスウェーデンはNATO加盟申請を昨年行った。
そして、今年4月にフィンランドのNATO加盟が正式に実現し、今後スウェーデンの加盟も正式に発表される見込みだ。NATO条約には、加盟国1国に関する攻撃は全加盟国への攻撃とみなすとの文言があり、要はたとえばNATO加盟国のフィンランドにロシアが攻撃すれば、米国や英国、ドイツやフランスなど他の加盟国が一緒になってロシアと対峙することにあるのだ。
当然のことだが、ロシアがNATOに軍事的に勝てるわけはなく、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟はプーチンにとって頭の痛い問題である。ウクライナ戦争では一進一退が続いているが、ウクライナ周辺の安全保障環境は急激にロシアにとって厳しいものとなっている。
今後もNATO加盟や各国の防衛費増額はいっそう進むことだろう。
●ポーランド政府、ウクライナ避難民支援を来年打ち切ると示唆 9/19
ポーランド政府は、同国内に滞在する約100万人のウクライナ避難民に対する財政支援を打ち切る可能性が高いと発表した。穀物輸入を巡って対立し、緊張する両国の関係がいっそう悪化しそうだ。
ロシアの侵攻から領土を防衛するための戦いを続けるウクライナに対し、ポーランドは熱心な支援国の一つだった。財政的・軍事的支援の提供のほか、西側が物資を供給する際の拠点にもなっている。だが、ポーランドで予定される10月の総選挙を前に、両国の関係は険悪化しつつある。
ミュラー政府報道官は18日、居住に必要な条件の免除や労働許可証の付与、教育や医療機関、家族手当の無償提供などの避難民向け支援を来年は続けないと語った。
「こうした規則は来年、単純に失効する。大きく延長されることはない」とミュラー氏はポルサット・テレビに述べた。
シュミット副家族・社会政策相によると、ポーランドは戦争から逃れてきたウクライナ人家族の児童支援で、今年5月までに約24億ズロチ(約810億円)を支出した。
ポーランドの与党「法と正義」はウクライナ産穀物の禁輸解除を決定した欧州連合(EU)に逆らって輸入禁止を延長しただけに、支援打ち切りの表明は関係悪化に拍車をかけそうだ。ポーランドでは10月15日に総選挙を控えており、法と正義は農村部の支持確保に努めている。

 

●韓国、ロシアに北朝鮮と軍事協力行わないよう要請 大使呼び出し 9/20
韓国外務省は19日、ロシア大使を呼び出し、ロシアが北朝鮮との軍事協力を行わないよう要請した。
韓国外務省の張虎鎮(チャン・ホジン)第1次官はロシア大使を呼び出し、北朝鮮との軍事協力を拡大するいかなる動きも直ちに停止し、国連安全保障理事会の決議を順守するよう求めた。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は13日、ロシアのプーチン大統領と会談。金総書記はロシア滞在中に戦闘機工場のほか、核兵器を搭載可能な戦略爆撃機や極超音速ミサイル「キンジャル」などを視察しており、ロシアと北朝鮮の軍事協力を巡る懸念が出ている。
●G7外相、ロシアがウクライナ戦争の長期化想定と認識=米高官 9/20
主要7カ国(G7)はロシアがウクライナ戦争の長期化を想定しており、ウクライナへの持続的な軍事的・経済的支援が必要なことを認識していると、米高官が19日、G7外相会合後に述べた。
ブリンケン米国務長官を含むG7外相は18日夜、ニューヨークで開催されている国連総会に合わせて夕食会を開催。米国務省の高官は匿名で記者団に対し「ロシアが中長期的にこの戦争に落ち着くとの認識があった」とし、これは西側諸国によるウクライナへの支援継続と中期的な安全保障支援および経済支援の確保を意味するとした。
また、冬季が近づく中でウクライナの防空体制を強化することは戦場だけでなく重要なインフラを守るためにも重要だとした。
G7外相は18日にニューヨークで開いた会合後に共同声明を発表。中国に対しロシアにウクライナでの侵略阻止に向け圧力をかけるよう呼びかけた。
●バイデン氏、世界首脳にウクライナへの支持訴え 国連総会で演説 9/20
バイデン米大統領は19日、国連総会で演説し、ロシアによる侵略に対しウクライナを支持するよう世界各国首脳に訴えた。
バイデン氏は、ロシアは世界が疲弊しロシアによるウクライナへの残虐行為が罰を受けることなく許されると考えていると指摘。このような考えがまかり通るなら、全ての国の独立性が危ぶまれるとの見方を示した。
また、米国およびその同盟国はウクライナの自由を求める戦いを支持すると強調。「ロシアのみがこの戦争の責任を負っている。ロシアのみがこの戦争を直ちに終わらせる力を持っている」と述べた。
さらにロシアによる2022年2月のウクライナ侵攻および領土の占領は主権と領土保全の尊重を大原則とする国連憲章に違反していると主張した。
国連のグテレス事務総長も国連総会の冒頭演説で、ロシアによるウクライナ侵攻は国連憲章違反であり、この戦争によって「恐怖の連鎖が解き放たれた」と述べた。
●バイデン氏、米中競争による衝突回避へ「責任を持って管理」…台湾問題には言及せず 9/20 米国のバイデン大統領は19日に行った国連総会の一般討論演説で、「唯一の競争相手」と位置づける中国に関し「我々は両国間の競争が衝突にならないように責任を持って管理する」と述べた。中国が「レッドライン(越えてはならない一線)」と位置づける台湾問題への言及はなく、中国への配慮をにじませた。
バイデン氏は、中国との「デカップリング」(切り離し)ではなく、戦略物資の依存度を引き下げる「デリスキング」(リスク回避)を目指すと強調し、気候変動問題などでの連携に期待を示した。米中両政府は閣僚級などの交流を通じ、11月に米国で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での首脳会談実現を模索している。
ロシアのウクライナ侵略に関しては「私たちはむき出しの侵略に立ち向かい、明日の侵略者を抑止しなければならない」と述べて、ロシアを非難した。「もしウクライナ(領土)を切り分けることを許せば、どの国の独立も安全だろうか」と問いかけ、武力で他国の領土を奪うことを禁じた国連憲章の堅持も訴えた。
北朝鮮の核・ミサイル開発については、国連安保理決議違反だと非難し、朝鮮半島の非核化へ外交努力を続けると強調した。
●G20首脳宣言でウクライナにとって最大の誤算は? 9/20
G20首脳宣言について「誇るべきものは何もない」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9月11日、「引き続き国家の防衛に集中しなければならない」と強調した。ウクライナ戦争に対する国際社会の反応が厳しくなる中、ゼレンスキー氏はロシアへの徹底抗戦の姿勢を改めて示した形だ。
インドのニューデリーで開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は9月9日に首脳宣言を採択したが、ウクライナ戦争に関する記述は昨年よりも後退した内容だった。
ロシアの侵略を強く非難し、ロシア政府に軍の撤退を求めた昨年の首脳宣言とは異なり、ロシアへの非難には言及されず、領土獲得を目的とした武力による威嚇や行使を控えることを求める内容に留まった。
「ロシアの侵略から世界を守っている」と主張するウクライナ政府はG20宣言について「誇るべきものは何もない」と切り捨てた。日本を始め西側メデイアも同じ論調だが、筆者は「この宣言こそが国際社会の総意なのではないか」との思いを禁じ得ないでいる。
西側色が強いG7とは異なり、G20は「グローバルサウス」と呼ばれる発展途上国の国々が多く参加している。彼らが求めているのはロシア打倒ではなく、自国に多大な打撃を及ぼしているウクライナ戦争の一刻も早い停戦だからだ。
ゼレンスキー氏が停戦に踏み切れない事情
ウクライナにとってのさらなる誤算は、同国に対する最大の支援者である米国がこの宣言を容認したことだ。
ウクライナ問題でG20の議論を膠着させるよりも、中国を封じ込めるためにインド太平洋地域との結びつきを強化したい米国は、このサミットを外交的な成功としたいインドのナレンドラ・モディ首相に花をもたせたとの指摘がある(9月12日付クーリエ・ジャポン)。
「中国への対抗」という点で米国とインドの利害が一致したわけで、米国は戦略の軸足をロシアから中国に移行させようとしているのかもしれない。
ウクライナが望んでいる「戦場での勝利」が得られず、国際社会での支持が得られなくなれば、「そろそろ停戦の潮時だ」という声が高まるのは当然の流れだ。ゼレンスキー氏にとって望ましくない展開であるのは言うまでもない。
ゼレンスキー氏には停戦に踏み切れない事情がある。
独日曜紙「ビルド・アム・ゾンターク」(日刊紙「ビルド」の姉妹紙)は9月10日、ウクライナ世論調査機関「民主計画財団」に依頼した調査の結果を報じた。それによると、ウクライナ市民の90%が「ロシアが占領している地域をすべて奪還できる」と確信している。ロシアとの交渉についても63%が拒否し、賛成したのは30%に過ぎなかった。
ウクライナ政府は国民の期待に反するロシアとの停戦交渉を口にできないことから、この戦争は来年以降も続く可能性が高まっている。
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は9月10日、「戦闘の妨げとなる冬の到来までに残された期間は約6週間」と指摘した。今後の戦闘再開は来春以降となるが、ウクライナに勝算があるとは思えない。
ウクライナ支援国の間でも悲観的な見方が
ウクライナ政府は反転攻勢の成果を強調しているが、はたしてそうだろうか。
欧州で最もウクライナ支援を明確にしている英国でも、「反転攻勢は失敗しつつある」との見方が増えている。
英国立防衛安全保障研究所は9月4日に発表した報告書で、「ウクライナ軍は装備に大きな損失を被っている。欧米諸国が提供する訓練も彼らの戦闘に適していない。反転攻勢を急いだせいで持続不可能なレベルに達している」と悲観的な見方を示した。
英BBCも8月30日、ウクライナ東部前線の状況について「米当局は『ウクライナの戦死者が大幅に増加している』と推定している」と報じた。
兵役を逃れて多くのロシア人が国外に脱出する現象を西側メディアがたびたび報じているが、ウクライナでも同様の事態が発生している。
9月1日付のAFPは「『自分の居場所ではない』 兵役逃れ出国するウクライナ男性たち」と題する記事を配信した。徴兵逃れに関する組織的な汚職も蔓延しており、ウクライナ検察は8月下旬、200以上の徴兵事務所を一斉捜索した。
軍で相次ぐ汚職事件の監督責任を問われ、戦時中にレズニコフ国防相が解任されるという異常事態も発生しており、ウクライナ軍の士気が下がっているのは間違いないだろう。
一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権基盤は揺らいでいないようだ。
戦時経済体制を確立しつつあるロシア
9月11日に実施されたウクライナ占領地4カ所を含む統一地方選挙で与党・統一ロシアが圧勝した。投票不正疑惑が指摘されているものの、来年の大統領選挙でプーチン大統領が再選されることが確実な情勢だ。
ロシアが西側諸国の制裁を回避する形で兵器の生産を拡大していることも明らかになっている。9月13日付の米紙「ニューヨークタイムズ」は、「ロシアの砲弾の年間生産能力は欧米の7倍に匹敵する200万発に上り、戦車の生産能力も侵攻前の2倍に達しており、冬に向けてウクライナへの攻撃が激化することが懸念される」と報じた。
西側の軍事支援頼みが続くウクライナに対し、戦時経済体制を確立しつつあるロシア。
戦争が長期化すればするほどウクライナは国力を毀損し、国の統一すら危うくなるのではないかとの不安が頭をよぎる。G20宣言が求める早期停戦は、ウクライナの将来にとっても必要なことなのだ。
西側諸国もこれまでの方針を転換し、ウクライナ政府にロシアとの停戦交渉の再開を強く求めるべきではないだろうか。
●ウクライナ、穀物禁輸のポーランド・スロバキア・ハンガリーをWTOに提訴… 9/20
ウクライナ政府は18日、同国産穀物の禁輸を続けるポーランド、スロバキア、ハンガリーの3か国の措置は不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。ユリヤ・スビリデンコ第1副首相兼経済相が発表した。ロシアの侵略を受けるウクライナと、ウクライナを軍事面などで支援する中東欧諸国との亀裂が浮き彫りになった。
3か国が加盟する欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は15日、ブルガリア、ルーマニアを含む中東欧5か国を対象にウクライナ産穀物の輸入規制を認めてきた異例の措置を打ち切った。これを受け、ポーランド、スロバキア、ハンガリーは15日、禁輸を独自に続ける方針を発表した。ルーマニアは今後の輸入量によっては禁輸延長を検討、ブルガリアは禁輸を解除する方針だ。
スビリデンコ氏は声明で、ウクライナ国内の穀物輸出業者は多大な損失を被ってきたと指摘。通商政策はEUの排他的権限に属し「加盟国の一方的行動は容認できないはずだ」として3か国の措置は「国際義務違反だ」と主張した。
ウクライナ産穀物を巡っては、EUが昨年春、経済支援の一環として関税を免除した結果、中東アフリカ向け産品が中東欧諸国の市場に流入し各国で価格が下落した。ポーランドなどは自国農業保護のため国内の通過は認めつつも自国市場では受け入れない措置を打ち出していた。
●ロシアの侵攻に対し「団結」を、ゼレンスキー氏が国連総会で呼びかけ 9/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、国連総会の一般討論で演説を行い、世界各国にロシアの侵攻に対して団結するよう呼びかけた。
ゼレンスキー氏は2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻開始以降で初めて国連総会に出席。トレードマークとなったカーキ色のシャツ姿で登壇し「ロシアによる侵攻を受け、世界のどの国も他の国を攻撃することがないよう、ウクライナはあらゆることを行っている。武器化を抑制し、戦争犯罪を罰し、国外に連れ出された人々を帰国させ、占領者を自分たちの土地に戻らなければならない」とし、「われわれは団結してこれを実現しなければならない」と述べた。
その上で、 ロシアは占領したウクライナ領の領有権を国際的に認めさせようと、世界の食料市場の操作を画策していると非難。ロシアがウクライナからの子どもを連れ去っていることも非難し、「ロシアにいる子どもたちはウクライナを憎むように教え込まれ、家族との絆を断ち切られている。憎悪がある国家に対して武器化されれば、明らかにジェノサイドとなる」と語った。
ゼレンスキー氏は昨年、ウクライナの領土保全の回復、ロシア軍の撤退と敵対行為の停止、ウクライナの国境の回復などを含む10項目の計画を発表。この日の国連演説で、同計画に基づき和平サミットの準備を進めていると表明し、20日に国連安全保障理事会の特別会合で詳細を発表すると明らかにした。
●ゼレンスキー氏「私たちは団結しなければならない」…対面での国連演説 9/20
ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日午後(日本時間20日未明)、国連総会で一般討論演説を行った。「戦争犯罪は処罰され、送還された人々は家に戻り、占領者は自分の土地に戻らなければならない。私たちはそれを達成するために団結しなければならない」と述べ、共にロシアに立ち向かうよう各国に訴えかけた。
侵略開始後、ゼレンスキー氏が国連で対面により演説するのは初めて。
ゼレンスキー氏はロシアの占領地域で、数万人の子供が誘拐され、ロシアに送還されたと指摘。「子供たちはウクライナを憎むことを教えられ、家族の全てのつながりが断たれるだろう」と懸念を示し、「これは明らかにジェノサイド(集団虐殺)だ」と非難した。
また、ロシアがウクライナの穀物輸出を阻止して世界の食糧価格を引き上げているとして、「食料価格を武器化している」と批判した。
ウクライナは露軍の完全撤退や領土保全を盛り込んだ「10項目の和平案」を提唱している。ゼレンスキー氏は和平案への支持と、賛同する国による首脳級会合の年内開催に向けた支援を呼びかけた。
●ウクライナ、占領された領土の54%を奪還 米軍トップ 9/20
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は19日、ウクライナ軍はこれまでにロシアに占領された自国領土の54%超を解放したと明らかにした。
ミリー氏はドイツのラムシュタイン米空軍基地で開催された、ウクライナへの軍事支援国54カ国で構成する「ウクライナ防衛コンタクトグループ」の会合に出席。その後臨んだ記者会見で、ウクライナのこれまでの成果と「一つ一つの領土の奪還」は「ウクライナ国民と軍の勇敢さ、そして途方もない犠牲」によるものだと称賛した。
「ウクライナは引き続き慎重かつ着実にロシアの占領からの解放を進める」とも指摘した。
また、「これまでにウクライナはロシアに占領された自国領土の54%を解放し、戦略的な主導権も維持している」と明らかにした。
ミリー氏の広報官によると、同氏が言及した54%の領土は昨年2月の侵攻以降に解放された土地を指しており、キーウ州やハルキウ州、ヘルソン州の周辺が含まれる。 
●プーチン氏、10月訪中の招待を正式に受諾=ロシア紙 9/20
ロシアのプーチン大統領は10月に中国を訪問する招待を正式に受諾した。ロシア紙ベドモスチが20日、報じた。
実現すれば、国際刑事裁判所(ICC)が3月にプーチン氏に対しウクライナでの戦争犯罪の責任を問う逮捕状を出して以来、初めての外国訪問となる。
プーチン大統領はこの日、ロシア第2位の都市サンクトペテルブルクで中国の王毅国務委員兼外相と会談。前日にはプーチン氏の側近、パトルシェフ安全保障会議書記が、プーチン氏が10月に中国を訪問し習近平国家主席と会談すると明らかにしていた。
●プーチン氏、10月訪中確認/「一帯一路」構想を支持 9/20
ロシアのプーチン大統領は20日、北西部サンクトペテルブルクで中国外交トップの王毅共産党政治局員兼外相と会談、習近平国家主席の招請を受け入れ、10月に北京で開かれる巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議に合わせて訪中すると述べた。タス通信が報じた。
プーチン氏は「一帯一路」の構想について、ユーラシア地域の統合というロシアと中国双方の利益にかなうと支持を表明した。
●プーチン大統領 中国 王毅外相と会談 来月訪中の意向明らかに 9/20
ロシアのプーチン大統領は中国の王毅外相と会談し、来月中国を訪問する意向を明らかにしました。プーチン大統領の中国訪問が実現すれば、ウクライナ侵攻後では初めてとなります。
ロシアのプーチン大統領は20日、ロシアを訪問中の中国の王毅外相をサンクトペテルブルクに迎え、会談を行いました。
この中でプーチン大統領は「ことし10月の中国訪問という習近平国家主席の招待を喜んで受け入れる」と述べ、来月、北京で開かれる予定の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムに合わせて中国を訪問する意向を明らかにしました。
これに対し、王外相は「両国共通の正当な利益を共に守るとともに、国際秩序が公正で合理的な方向に発展するよう推し進める」と述べ、プーチン大統領の中国訪問を歓迎しました。
習主席は、ことし3月にモスクワを訪れた際、プーチン大統領に対してこのフォーラムへの出席のため中国に招待していて、首脳会談も行われるものとみられます。
プーチン大統領の中国訪問が実現すれば、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以降では初めてとなります。
プーチン大統領は王外相との会談で「われわれは多極化した世界を形成するという立場で一致している」と述べ、ウクライナ情勢をめぐって欧米との対立が深まる中、中国との関係をいっそう強化するねらいがあるとみられます。
●「テロリストは便所でぶち殺す」プーチン氏の発言を振り返って読み解くと… 9/20
来年3月17日に予定されるロシア大統領選まで半年を切った。プーチン大統領(70)の5選出馬が有力視され、現体制が継続するとみられる。国家観や核兵器などに関するプーチン氏自身の言葉から、同氏の政治手法やウクライナ侵攻という暴挙に至った背景などを探る。(小柳悠志、写真も)
政治手法の極意は「対立煽ること」
プーチン氏は時に粗野な言葉遣いを用いる。首相だった1999年、ロシアからの分離独立を期すイスラム教徒チェチェン人との戦いで「テロリストは便所でぶち殺す」と宣言、国民から「強い指導者」との評価を得て、翌年の大統領選で初当選した。
政治評論家マカルキン氏はプーチン氏の政治手法の極意は「対立を扇ること」と分析する。プーチン氏は政権に逆らう野党や報道機関、少数民族を「テロリスト」「スパイ」と糾弾。欧米発の民主主義に関しては「ロシアを崩壊させようとするたくらみ」として、国民が米欧を敵視するよう仕向けてきた。
一方、自身の休暇を優先し、災害や事故の対応で後手に回ることも多い。2000年、ロシア軍の潜水艦クルスク号が沈没、艦内に残された乗組員が死亡した事故について記者から追及されたプーチン氏は「艦は沈んだ」とだけ答えてはぐらかした。同氏の冷酷さを示す言葉として知られる。
チェチェン進攻に異議を唱えたジャーナリスト、ポリトコフスカヤ氏や、野党指導者ネムツォフ氏らは暗殺された。8月には反乱を起こした民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏も自家用ジェットの墜落で死亡した。
プーチン氏は2000年、チェチェンの分離独立について「容認すれば他の地域も独立を要求し始める」と指摘し、ロシアの領土一体性に強く執着してきた。一方、隣国ウクライナについては「ロシア系住民の自決権」を訴え、14年からクリミア半島併合などで段階的に侵略する。
米欧とは01年の米同時テロ直後、イスラム過激派への対応で協調し、一時は良好な関係を築いた。しかし次第に米国が主導する国際秩序に不満を募らせ、07年にドイツ・ミュンヘンで開かれた安全保障会議では米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を批判。旧ソ連諸国への軍事干渉を進めた。
08年、憲法が定める多選禁止に沿って盟友メドベージェフ氏に大統領を譲った後、12年に再び自身が大統領になり、より独裁を強めた。ウクライナ侵攻後、アルゼンチンに亡命した人権団体OVDインフォの弁護士は「プーチンの3選でロシアは決定的に進路を誤った」と振り返る。
ウクライナ侵攻でも繰り返している核使用の威嚇は18年にさかのぼる。プーチン氏は米欧との対立を念頭に「ロシアが核で反撃すれば人類にとって破局だ。ロシアのない世界に何の意味がある?」と訴えた。「核戦争が起きればわれわれは殉教者として天国に行く。敵は悔い改める時間もない」と過激な発言を繰り返した。ウクライナ全面侵攻から約5カ月後には「われわれはまだ、少しも本気を出していない」とも発言した。
プーチン氏は新型コロナウイルス感染を恐れて外出を一時控えるなど「極度の怖がり」(外交筋)との分析もある。核使用した場合はNATOが反撃する恐れがあり「プーチンは満ち足りた生活を捨てたくないので、核は最後まで使いたがらない」(ヤコベンコ元下院議員)との見方もある。
プーチン氏はソ連時代、国民を監視・弾圧した保安委員会(KGB)の元スパイだが、民主的統治を装う発言もある。00年に「民主主義とは法による独裁だ」、08年には「(私がいなくても)ロシアの全政府機関がスイス時計のように正確に動いてほしい」と語った。
●ドイツ ショルツ首相 “ロシアに有利な和平は受け入れられず” 9/20
ドイツのショルツ首相は19日、国連総会で演説し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をやめさせるため、国際社会の結束した対応が不可欠だと訴えるとともに、「ニセの解決策に注意が必要だ」と述べ、ロシアに有利な一方的な和平は受け入れられないと強調しました。
ドイツは、ウクライナに対してドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与するなど、積極的に軍事支援を行っています。
19日に国連総会で演説したショルツ首相は「この戦争の責任がロシアにあることを忘れてはならない。大統領のたった1つの指令で戦争はとめられる」と述べ、ロシアのプーチン大統領に侵攻をやめるよう改めて求めました。
そのうえで、「そのためには、修正主義や帝国主義は、21世紀の多極化した世界では許されないという原則を維持することに、われわれ国連加盟国が本気だと理解させなければならない」と述べ、ロシアの侵攻をやめさせるために、国際社会の結束した対応が不可欠だと訴えました。
そして、和平を模索する動きは支持するとしながらも、「ニセの解決策に注意しなければならない。自由なき平和は抑圧であり、正義なき平和は強制と呼ばれるからだ」と述べ、ロシアに有利な一方的な和平は受け入れられないと強調しました。
●ウクライナ大統領、トランプ氏に和平計画の公表を要求 9/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は米国のトランプ前大統領に対し、ウクライナとロシアの戦争終結に向けた自らの和平計画を公表するよう強く求めた。ただ、ウクライナが領土をあきらめる内容であれば、いかなる和平計画も受け入れられないと警告した。
19日のCNNとのインタビューで述べた。この前には国連総会で一般討論演説も行ったゼレンスキー氏は、「彼(トランプ氏)は自らの考えを今、公表すればいい。時間を無駄にすることはない。人命も失ってはならない。自分の解決策はこうだと言えばいい。戦争を止め、あらゆる悲劇に終止符を打ち、ロシアの侵攻を阻止する方法はこれだと宣言すればいい」と述べた。
一方で「それでももしその考えが、我が国の領土の一部を取り上げてプーチン(ロシア大統領)に与えるという内容なら、それは平和の解決策ではない」と付け加えた。
2024年大統領選で共和党候補の指名争いの首位を走るトランプ氏は、自分ならゼレンスキー氏とプーチン氏に協定を結ばせ、ウクライナでの戦争を24時間以内に終わらせることができると語っている。17日に出演したNBCの番組で協定の結果プーチン氏は手にした領土を維持するのかどうか問われると、トランプ氏は否定的な見解を示唆。誰にとっても公平な協定にする意向を表明した。
ゼレンスキー氏が国連に出席する中、ウクライナは米国からの支援を巡ってこれまでで最も厳しい逆風に直面している。共和党の下院議員の一部は、ウクライナに向けた今後一切の追加支援への反対を公言。マッカーシー下院議長が一段の資金拠出に署名する方針なのかどうかも依然として不透明だ。
インタビューの中でゼレンスキー氏は、ウクライナ軍による現行の反転攻勢について前向きな評価を下した。この反転攻勢を巡っては、期待された戦果が出ていないと懸念する声が上がっている。ゼレンスキー氏は改めて、ウクライナが長距離ミサイルの米国からの供与を熱望しているとし、それが実現しなければウクライナにとって「損失」になると訴えた。長距離ミサイルのウクライナへの供与について、バイデン大統領はなおも検討中だとしている。
マッカーシー下院議長とは、今週のワシントン訪問時に会談する計画を立てていると、ゼレンスキー氏は明かした。ウクライナ支援に懐疑的な人々について問われると、戦争の様子を間近で見ていない人々が人権やエネルギーと言った国内問題と一国の存続に関わる脅威とを比較するのは難しいと述べた。
ゼレンスキー氏はこの後、ホワイトハウスでバイデン氏とも会談する予定。
●EU、ウクライナの「公正な和平」実現で中国にロシアの説得要請へ 9/20
欧州連合(EU)のミシェル大統領は、ウクライナの「公正な和平」実現をロシアに働きかけるよう国連安保理で中国に直接要請する。
ロイターが演説原稿を入手した。
ミシェル氏は20日開催される安保理で「国連憲章とその基本原理である主権国家の領土の一体性を尊重する公正な和平」を呼びかけ、その上で中国の代表に対し「責任ある国家として、力を合わせよう。多くの人々を苦しめているこの犯罪的な戦争を終わらせるため、ロシアを説得するのだ」と直接訴える。
中国の韓正・国家副主席は国連総会出席のためニューヨークを訪れており、外交筋によると、現時点では韓氏が安保理に出席するとみられている。ウクライナのゼレンスキー大統領も出席する見通しだ。
●アゼル、ナゴルノカラバフで軍事行動継続を表明 米の停止要請後 9/20
アゼルバイジャンは20日、隣国アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフで開始した軍事行動について、米国が停止を求めている中でも作戦を成功裏に継続していると表明した。ロシアは両国に戦闘停止を呼びかけていた。
アゼルバイジャン国防省はメッセージアプリ「テレグラム」への投稿で、軍事行動を成功裏に継続させ、兵器や軍事装備を破壊したと述べた。
ブリンケン米国務長官はアゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相とそれぞれ電話会談し、アゼル側に「直ちに軍事行動を停止」し、緊張緩和を図るよう求めた。
米国務省の声明によると、アリエフ氏は戦闘行為を停止し、ナゴルノカラバフの代表と会談する用意があると応じたという。
ブリンケン氏はパシニャン氏に対し、米国がアルメニアを全面的に支援していると伝えた。
ロシアの通信社はアゼル大統領府の発表を引用し、アリエフ氏がブリンケン氏に対し、作戦停止はアルメニア軍兵士が武器を捨てて降伏することが条件になると述べたと伝えた。
欧州連合(EU)、フランス、ドイツもアゼルバイジャンの軍事行動を非難。国連のグテレス事務総長は直ちに戦闘を停止するよう呼びかけた。
●岸田総理の多国間主義とウクライナ情勢に関する安保理首脳級会合出席 9/20
現地時間9月20日午前11時頃(日本時間21日午前0時頃)から約95分間、国連総会に出席するためニューヨークを訪問中の岸田文雄内閣総理大臣は、効果的な多国間主義とウクライナ情勢に関する安保理首脳級会合に出席しました。
1 同会合では、同月の安保理議長国アルバニアのラマ首相が議長を務め、日本を含む安保理理事国15か国及びゼレンスキー・ウクライナ大統領を含む非理事国から首脳・閣僚級等が参加した他、グテーレス国連事務総長が、ブリーファーとして出席しました。
2 岸田総理大臣からは、ロシアによるウクライナ侵略を改めて強く非難するとともに、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くためには、国連憲章の原則に基づく包括的、公正かつ永続的なウクライナの平和を実現させる重要性を強調しました。また、国連憲章に沿った基本原則を平和フォーミュラにおいて掲げるゼレンスキー大統領の真摯な取組みを支持することを表明しました。
3 また、岸田総理大臣から、ロシアの侵略が世界各地で引き起こしている問題により苦しむ人々の尊厳を守り、支援を継続することを確認するとともに、 「協調の精神に根ざした多国間主義」を目指す決意を表明しました。
4 さらに、岸田総理大臣から、今こそ、国連設立以来、国連加盟国が積み上げてきた、国連憲章を始めとする揺るぎない原則に立ち返り、分断や対立ではなく協調の世界を目指すべきであり、安保理改革を含め国連の機能強化に向け、未来サミット、国連創設80周年を見据え、今こそ具体的行動に移るべきときであると訴えかけました。
5 多くの国の代表からは、ロシアによるウクライナ侵略への非難や懸念 に加え、効果的な多国間主義を擁護するため国連憲章を堅持することや、紛争の平和的解決の重要性等について発言がなされました。
●ウクライナ、東欧3カ国を提訴 穀物禁輸巡り 対露結束に亀裂も 9/20
ウクライナ政府は20日までに、隣国のポーランドとスロバキア、ハンガリーが表明した同国産穀物に対する禁輸継続の措置が不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。3カ国の措置は「国際的な義務への違反だ」としている。ロシア対応で維持してきた東欧とウクライナの結束に亀裂が生じる可能性もある。
ウクライナ産穀物を巡っては、欧州連合(EU)が昨年春、関税を免除した結果、東欧諸国に流入し、各国で価格下落を招いた。ポーランドなどは自国産業保護のために独自に規制し、EUは今春から東欧5カ国の規制を容認してきたが、今月15日、「市場のゆがみは解消された」として、この措置を撤廃した。
しかし、ポーランドなど3カ国は禁輸を続けることを決定。ウクライナは18日に提訴を発表し、スビリデンコ第1副首相兼経済相は声明で、3カ国の禁輸で国内の業者が多大な損失を被っていると指摘した。EUでは通商政策は加盟国でなくEUの専権事項であることから「個々の加盟国は禁輸できない」と強調した。
ウクライナのカチカ通商代表は米メディアとのインタビューで「報復を余儀なくされる」とも言及し、ポーランド産の果物や野菜の輸入を規制する可能性も示唆した。
一方、ポーランド政府は「EU法と国際法を根拠とした正しい措置」(ミュラー報道官)と反論。同国は18日、ウクライナ避難民への財政支援を来年にも打ち切る可能性があると発表した。穀物問題が引き金になった可能性がある。ポーランドなどはウクライナへの軍事支援にも積極的で、関係悪化によるウクライナ情勢への影響も懸念される。
3カ国以外ではブルガリアはEUの決定に従う方針だが、ルーマニアも禁輸継続を検討している。

 

●首相、ウクライナ侵攻「最も強い言葉で非難」 安保理首脳級会合 9/21
岸田文雄首相は20日(日本時間21日)に開かれた国連安全保障理事会の首脳級会合で、ロシアによるウクライナ侵攻について「国際法の明白な違反であり、最も強い言葉で非難する」と改めて表明。軍の即時無条件撤退を求め、ロシアの核の威嚇は「断じて受け入れられない」と訴えた。
国際秩序の維持に向け「法の支配を擁護し、国際の平和と安全に関する課題解決を一層強化していく」と強調。「分断や対立ではなく協調の世界を目指すべきだ」と呼びかけた。
これに先立ち、首相は19日(同20日)、国連総会で一般討論演説を実施。「国連の分断・対立を悪化させる拒否権の行使抑制の取り組みは安保理の強化につながる」と述べ、安保理改革の必要性を強調した。
●岸田首相 “ロシアの侵攻は国際法の明白な違反 平和の実現を” 9/21
ニューヨークを訪れている岸田総理大臣は、ウクライナ情勢をめぐる国連安全保障理事会の首脳級会合に出席し、ロシアによる侵攻を国際法の明白な違反だと強く非難した上で、法の支配による国際秩序を守り抜くためには、永続的なウクライナの平和の実現が不可欠だと訴えました。
ウクライナ情勢をめぐる国連安全保障理事会の首脳級会合は、日本時間の21日未明、国連本部で開かれました。
この中で岸田総理大臣はロシアによるウクライナ侵攻について「国際法の明白な違反で、最も強い言葉で非難する。侵略を直ちに停止し、即時かつ無条件に軍を撤退させなければならない」と述べました。
その上で「ウクライナ侵略は『無法の支配』への懸念を深刻化させている。法の支配に基づく国際秩序を守り抜くためには、国連憲章に基づいて公正かつ永続的なウクライナの平和を実現させることが不可欠だ」と訴えました。
また即時撤退を求める決議案に拒否権を行使しているロシアなどを念頭に「安保理の決定を妨害し、その信用を失墜させる拒否権を乱用することは国際社会として認められるものではない。分断や対立ではなく、協調の世界を目指すべきで、そのためには国連の機能強化が喫緊の課題だ」と述べ、国連改革の必要性を訴えました。
●来年3月のロシア大統領選、プーチン圧勝で「無風選挙」の怪 9/21
ロシア統一地方選は与党系候補が全勝、昨年までの番狂わせや混乱は皆無だった。電子投票を選挙結果の偽造に使い、選挙監視システムを解体し、戦争を選挙の争点から徹底して排除するなどで「官製選挙」化は一層進んだと、ロシアのリベラル系メディアや政治学者は指摘する。来年の大統領選挙も政権による対立候補の吟味が進み、「プーチン圧勝」の環境は整いつつあるようだ。

2024年3月17日のロシア大統領選まで半年を切り、ロシア政局の焦点は大統領選の動向に移る。ウラジーミル・プーチン大統領は5選を目指す構えで、年内に出馬表明し、クレムリンは過去最高の得票率で圧勝を狙うと伝えられる。
8月23日の航空機事故でエフゲニー・プリゴジン氏ら民間軍事会社「ワグネル」幹部らが殺害され、不測の事態につながる「ワイルド・カード」が一掃された。9月8〜10日の統一地方選も、与党が勝利する「無風選挙」だった。
プーチン氏は大統領選勝利を経て、ロシア・ウクライナ戦争を長期戦に持ち込み、ウクライナや欧米諸国の疲弊を待つ構えだ。内政や戦況でサプライズがない限り、プーチン続投は揺らぎそうにない。
「官製選挙」徹底に電子投票システムを利用
大統領選の前哨戦とされた統一地方選は、21の知事・首長選で与党「統一ロシア」候補19人など現職が全勝した。地方議会選では、2地域を除いて、与党候補が7割の議席を占めた。政権側が強引に実施したウクライナ東部・南部4州の議会選は、政党名を選ぶ投票となり、統一ロシアの得票率は、ドネツク州(76%)、ルハンシク州(72%)、サポリージャ州(66%)、ヘルソン州(63%)だった。
昨年までの統一地方選では、大都市部や極東で与党候補が敗北することもあり、昨年は地方議員が反戦を訴える共同アピールを発表したが、今回は番狂わせや混乱はなかった。
リベラル系の「モスクワ・タイムズ」紙(9月13日)は、「クレムリンは選挙結果を操作し、投票率を上げるため、電子投票システムを使用した。投票用紙の水増しや企業・組織の投票強要など、より粗暴な手段を混在させた。例年、与党候補は無所属で出馬するケースがあったが、今回はモスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長らも与党から出馬した」と指摘した。
政権側はロシア・ウクライナ戦争を統一地方選の争点にしなかった。独立系メディア「メドゥーザ」(9月13日)は、「候補者らは選挙戦を通じ、ウクライナ侵攻にほとんど触れなかった。与党の知事や議員の大半は演説やSNSで戦争に言及せず、経済の安定や開発問題を取り上げた。モスクワは反戦意識が最も強い都市だが、ソビャーニン市長は戦争の話題を極力避けた」と伝えた。
ロシアの選挙専門家、フョードル・クラシェニンニコフ氏は、独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」で、「今回の統一地方選が、従来に比べてインパクトが薄かったのは驚くべきことではない。開戦後、多くの野党活動家や記者は国外に脱出し、数少ない野党は解散した。批判的なメディアは潰され、選挙監視システムも解体された。選挙はあらかじめ設計されたシナリオ通りに進み、何事も起きなかった」「来年の大統領選がどうなるかを知るには、今回のモスクワ市長選を見るのがいい。主要な候補者はいるが、対立候補は真剣に挑戦するそぶりも見せない。選挙を監視する者もいなければ、関心を持つ者もいない。ネット投票でボタンををクリックしても、誰が誰に投票したかは分からない」とコメントした。
選挙監視団体「ゴロス」のスタニスラフ・アンドレイチュク共同議長は「ロシアではどのレベルでも、選挙を望む人の数が激減している。最近では、署名を集める必要のない人や、政権と合意した人だけが候補者になり、無所属で立候補するのは不可能だ。候補者や活動家、有権者への圧力も強まった。すべての野党議員らは逮捕、拘留、裁判の危険にさらされている。検閲が蔓延し、政党が禁じられた話題を避け、有権者との対話も難しい。投票所の管理者は選挙結果を改竄したが、システム全体が透明性を欠いているため、何が問題なのか分からない。選挙管理委員会の独立性が根本的に損なわれている」と批判した。
不正の多い「官製選挙」で、政権の厳しい統制下、選挙がすっかり儀式になったとの見立てだ。
先進7カ国(G7)外相は、ウクライナ4州での「選挙」強行を「違法な占領を正当化しようとする喧伝工作」と非難したが、ロシア側は無視し、4州の「ロシア化」を進める構えだ。大統領選の前哨戦としては、クレムリンの望み通りの展開だった。
「高齢問題」隠しでジュガーノフ氏に出馬要請
現状では、来年3月の大統領選もプーチン氏の当選を確認する「無風選挙」となりそうだ。「メドゥーザ」(7月19日)によれば、クレムリンはプーチン氏が少なくとも80%の得票率で勝利することを目指しているという。過去4回の大統領選で、プーチン氏の得票率は50〜70%台だった。大統領府のセルゲイ・キリエンコ第一副長官が選挙戦略を指揮し、支持者の組織化や行政・企業を動員、電子投票を有効に活用する方針という。
与党の推薦候補となるプーチン氏の出馬宣言は、11月にモスクワの見本市で開催予定の愛国イベントの場になる可能性がある。プーチン氏は9月12日の「東方経済フォーラム」で、大統領選への出馬を問われ、「年末の選挙公示後に話すことになるだろう」と述べていた。独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン氏の支持率は80%台前半で安定している。「メドゥーザ」は、プーチン氏が昨年中止した国民とのテレビ対話を今年後半に実施したい意向で、そこで発表する可能性もあるとしている。
政権側は着々と5選の準備を整えている。
この夏、プリゴジン氏だけでなく、左右両派の反プーチン勢力が弾圧された。服役中の活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏に対して新たな裁判で19年の刑が言い渡されたほか、多くのリベラル派が拘束された。続投に反対した極右活動家、イーゴリ・ギルキン氏も過激行動の容疑で逮捕された。
下院は8月、選挙監視団体の活動を大幅に規制する法律を制定した。従来の選挙では、民間選挙監視団体が不正や混乱の実態を動画で撮影して公表したが、今後は投票所や開票所の監視活動が制限される。最大の監視団体「ゴロス」の幹部らも逮捕された。
政権側は対立候補の人選も進めており、野党第一党の共産党に対しては、79歳のゲンナジ・ジュガーノフ委員長に出馬を要請したという。これは、10月で71歳になるプーチン氏の高齢問題が争点になるのを防ぐためで、対立候補は高齢者やアピール度の低い候補で固める意向という。
「スパーリング・パートナー」と呼ばれる対立候補は、下院に議席を持つ政党が無条件に擁立できるが、野党第2党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首はプーチン氏を支持し、候補者を出さない方針だ。ミロノフ氏は個人的に親しかったプリゴジン氏を大統領候補に擁立する動きを見せていたが、反乱後、政権寄りに寝返った。野党第3党の自由民主党の候補は、レオニード・スルツキー党首になる見通し。野党第4党の「新しい人々」が誰を擁立するかが注目点だ。
無所属での立候補には30万人の署名が必要で、ハードルが高い。ただし、「民主選挙」を装うため、クレムリンが承認した中立系、リベラル系候補が参加する可能性もある。
投票日翌日の3月18日は、クリミア併合記念日であり、政権は社会にユーフォリア(多幸感)が広がった2014年のクリミア併合の記憶をプレーアップして選挙に臨みそうだ。
政権は戦争長期化への国民の反発を防ぐため、「安全運転」を進めるとみられる。プーチン氏は最近の演説や発言で、戦争にあまり触れず、もっぱら経済の安定や地方の開発に言及している。総動員令や戒厳令は避け、年金や公務員給与増などバラマキ政策も進めそうだ。
当選すれば、6年のフリーハンドを手にし、民意を気にせず、戦争継続が可能になる。
「プーチン氏の信任投票」に広がる悲観
筆者らは最近、ロシアの政治学者とオンラインで会見したが、政治情勢にはシニカルで悲観的な意見が多かった。
カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフ研究員は大統領選について、1政権から最も遠い立場の候補への投票を訴えるナワリヌイ氏のスマート投票戦術は、候補者が政権のコントロール下に置かれるため、機能しない2独立監視機関の選挙監視活動ができなくなった3電子投票が拡大し、結果の偽造が可能になった――とし、「選挙はプーチン氏の支持を問う信任投票になる」と予測した。
また、「戦争長期化の中で、プーチンは社会が正常であることを国民に錯覚させようとしている。国民は戦場に動員されない限り、体制に我慢するだろう。経済が悪化し、我慢の限界になるレッドラインがどこかは見えない。戦争が長期化すれば、体制は侵食されるが、社会には耐久力がある」と語った。
後継者候補には、ドミトリー・パトルシェフ農相、ミハイル・ミシュスティン首相、ソビャーニン市長、アンドレイ・トルチャク上院第一副議長らがいるが、プーチン氏が恒久政権を目指す以上、後継者論議は意味がないという。
レバダ・センターのレフ・グドコフ副所長は、「6月の調査でプーチン続投を望む人は68%だった。ロシア人は二重思考で、公の発言と内心は異なることがあるが、ロシアの安全を保証する守護者としてプーチンを支持する人も多い。戦争に反対しても、国家の危機に直面して体制に抵抗したくない意識も働く。しかし、軍事的に敗北すれば、プーチンの権威が揺らぎ、安定の保証者ではなくなる」とし、プーチン政権の存続は戦争の行方次第と述べていた。
グドコフ氏によれば、中堅官僚や地方幹部の中には早期終戦を望み、汚職・腐敗まみれの現体制一掃を望む人々が多く、将来的な体制転換の中核になり得るという。一方で、新生ロシア32年の歴史において、3分の2はチェチェン、ジョージア、ウクライナ、シリアで戦争をしており、戦争が常態となったことが国民の危機感を失わせていると指摘していた。
健康不安がサプライズ
無風選挙にサプライズがあるとすれば、プーチン氏の健康問題かもしれない。反プーチンの政治学者、ワレリー・ソロベイ氏は自らのユーチューブ・チャンネル(9月14日)で、「プーチンは重い病気で回復の見通しはない。極東で金正恩が会ったのは、プーチンの影武者だった。金正恩は中国の情報機関からそのことを通報され、知っていた」と話していた。
しかし、コレスニコフ氏は「プーチンは元気で健康問題はない。影武者は安全対策以外に使う意味がない」と否定していた。
「プーチンの戦争」を終結させる最も効果的な手段は、プーチン氏が不在になることだが、政権存続と戦争継続は一体化しているだけに、「退陣」の二文字はプーチン氏にはなさそうだ。
●ロシア国防相 イランとの軍事協力 一層強化したい考え示す 9/21
ロシアのショイグ国防相は、訪問先のイランで「両国の協力関係は新たな段階に達している」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、無人機などの供給を受けているとされるイランとの軍事協力を一層強化したい考えを示しました。
ロシアのショイグ国防相はイランの首都テヘランを訪問していて、20日、アシュティアニ国防軍需相と会談しました。
ショイグ国防相は「アメリカなど欧米側の制裁の圧力にもかかわらず、ロシアとイランの協力関係は新たな段階に達している。われわれの活発な動きは戦略的な関係と軍事協力のさらなる強化を裏付けるものだ」と述べ、イランとの軍事協力を一層強化したい考えを示しました。
さらにロシア国防省によりますとショイグ国防相は、テヘランでイラン革命防衛隊の兵器の展示会を視察し、イラン製のミサイルや最新の無人機などを視察したということです。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻を続ける中、イラン製の自爆型無人機を購入しているほか、ロシア国内でもイランの協力で無人機の製造を進めようとしていると指摘されています。
ロシアは北朝鮮とも今月、プーチン大統領がキム・ジョンウン(金正恩)総書記と会談するなど関係を強化していて、ウクライナ情勢の長期化で兵器不足に直面する中、欧米と対立する北朝鮮やイランとの軍事的な連携を深める動きを見せています。
●ナゴルノカラバフ アルメニア側“事実上敗北” 死者200人超か 9/21
アゼルバイジャン軍が隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで開始した軍事行動で、ロシアを後ろ盾にしてきたアルメニア側が現地での武装解除などを受け入れ、事実上、敗北したかたちとなりました。一方、攻撃による死者数は当初の発表より大幅に増え200人を超えたと報告されました。
アゼルバイジャン軍は19日、隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで「対テロ作戦」だとする軍事行動を開始し、アルメニア側は翌日の20日、ナゴルノカラバフでの完全な武装解除などを受け入れ、停戦することで合意したと明らかにしました。
一方、アゼルバイジャンのアリエフ大統領も演説で「対テロ作戦の結果、主権が回復された。重要な成功を収めた」と述べ、戦闘は終結したという考えを示しました。
こうしたなかアルメニア側の人権監視団は20日夜、アゼルバイジャン軍の攻撃で少なくとも200人が死亡し、400人以上がけがをしたと発表していて、犠牲者の数は当初の発表から大幅に増えました。
ナゴルノカラバフでは2020年にアゼルバイジャンとアルメニアの武力衝突が起きロシアの仲介で停戦していましたが、今回、ロシアを後ろ盾にしてきたアルメニア側が事実上、敗北したかたちです。
アルメニア国内では首都エレバンで抗議デモが起きるなど、政府への批判が高まっていて地域の安定が回復するのか不透明な状況です。
アルメニア側 ロシアに不満をあらわに 影響力低下の印象も
アゼルバイジャン軍がナゴルノカラバフで攻撃を行ったことについて、アルメニアのグリゴリアン安全保障会議書記は地元メディアのインタビューの中で「ロシアの平和維持部隊はアルメニア側に対する義務を果たしていない」と述べロシアの部隊が機能していないと不満をあらわにしました。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は20日に「そのような非難は全く根拠のないものだ」と反論しました。
また、プーチン大統領は20日に行った中国の王毅外相との会談の中で、ナゴルノカラバフをめぐる情勢についてもみずから切り出したうえで「ロシアの平和維持部隊はすべての紛争当事者と積極的に協力している。市民を守るためにあらゆることをしている」と述べロシアの役割を強調しました。
ただ、ナゴルノカラバフの問題を巡って、ロシアは同盟関係にあるアルメニアの後ろ盾となってきましたが、アゼルバイジャンが始めた今回の攻撃に対し、アルメニア側は降伏に追い込まれた形で、ロシアの影響力が低下していることを強く印象づけました。
●ゼレンスキー「終戦交渉?プーチンが信頼できるのかプリゴジンに聞いてみよ」 9/21
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は国連総会で、ロシアが食糧・核・子どもなどを「武器化」しているとし、これを止めるべきだと訴えた。
ゼレンスキー大統領は19日(現地時間)、米ニューヨークの国連本部で開かれた国連総会の一般討論演説で、「今最も恐ろしいのは核兵器ではない。侵略者は多くのものを武器化しており、これは我が国だけでなくあなた方の国に対しても敵対的に使われる」と述べた。また、ロシアは10年ごとに新しい戦争を始めるとし、ウクライナに対する今回の侵略に成功すれば、「国連総会長の多くの席が空席になるかもしれない」と警告した。そして、モルドバとジョージア領土の一部がロシアの占領下に入り、ロシアが化学兵器を動員してシリアを廃墟にしたうえ、ベラルーシをほとんど飲み込んだと語った。さらに、カザフスタンとバルト海沿岸国家まで脅かしている主張した。ゼレンスキー大統領は昨年、国連総会にはオンラインで出席した。
ゼレンスキー大統領の演説のキーワードはロシアの「武器化」だった。現在、武器自体を制限する多くの協約があるが、「武器化」に対する実質的な制限はない点を指摘し、3つの例を挙げた。
一つ目は「食糧」。ゼレンスキー大統領は、ロシアが昨年の侵攻後、ウクライナの主要穀物輸出ルートである黒海の航路を遮断し、今はその代案であるドナウ川港を狙ってミサイルとドローン攻撃を続けていると述べた。これは「占領した領土の一部を認めてもらうために食糧を武器化しようとする明らかな試み」だとし、「ロシアが食糧価格を武器化し、アフリカから東南アジアに至るまで広範囲な地域に影響を及ぼしている」と語った。
ゼレンスキー大統領はさらに、ロシアが「核エネルギー」を武器化していると批判した。欧州最大の原発であるウクライナのザポリージャ原発を砲撃して占領し「現在は放射能流出もあり得ると脅している」とし、「ロシアが原発を武器化しているのに、(世界が)核兵器を減らすことに意味があるのか」と問い返した。
最後にロシアがウクライナ領土で「子どもたち」数十万人を拉致し追放した証拠を確保しているとし、国際刑事裁判所(ICC)が3月にこの疑いでプーチン大統領に対する逮捕状を発行した事実に触れた。また「この子どもたちはロシアでウクライナを憎むよう教育を受けており、家族とのすべての関係が途絶えた」とし、「これは明白な大量虐殺」だと主張した。これについては、ロシアに友好的な南アフリカ共和国大統領でさえも「ウクライナから追放された子どもたちを返さなければならない」とし、(ゼレンスキー大統領を)支持する立場を表明した。
ゼレンスキー大統領はさらに、ロシアが気候を武器化する可能性があると警告した。「幸いまだ気候を武器化する方法を学んでいない」としながらも「一部のならず者国家はそれ(気候危機の結果)もやはり武器化するかもしれない」と述べた。
ゼレンスキー大統領は同日、昨年の主要7カ国(G7)首脳会議で公開したウクライナの「平和の公式」を再度強調し、ロシアの「武器化を止めなければならない」と訴えた。この公式には、ロシアの敵対行為の中止、ウクライナ全土からの完全な撤退、安全保障などの内容が盛り込まれている。
戦争開始から1年7カ月が過ぎた状況で、一部では今回の戦争の「外交的」な解決を図るべきだという声も上がっている。ウクライナが領土の一部をロシアに与え、戦争を終結すべきだという主張だ。ゼレンスキー大統領はこれに対し、「背後にある怪しい取引」だとし、ロシアとは交渉できないという点を明確にした。ゼレンスキー大統領はロシアに対抗して武装反乱を起こし、先月疑問の飛行機墜落事故で死亡したロシアの民間軍事会社「ワグネル」の首長だったエフゲニー・プリゴジン氏に言及し「プーチンの約束を信じる人がいるのか、プリゴジンに聞いてみるべきだ」と語った。
●「国連に期待できない」…安保理会合でロシアの拒否権はく奪求める 9/21
国連安全保障理事会は20日、ウクライナ情勢に関する首脳級会合を開いた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、侵略を続けるロシアを厳しく非難するとともに、ロシアの拒否権行使で機能不全に陥っている国連の改革を訴えた。
昨年2月のロシアのウクライナ侵略開始後、ゼレンスキー氏が安保理会合に対面で出席するのは初めて。各国に先立って演説したゼレンスキー氏は、「ロシアは少なくとも数万人のウクライナ人を殺し、家屋を破壊して数百万人を難民にした」と強調した。「世界のほとんどは、この戦争がウクライナの領土と資源を奪うための犯罪的な侵略と理解している」とも指摘した。
ゼレンスキー氏はロシアの侵略を止められなかったとして、「人類はもはや、国連に期待することができない」と述べ、国連改革を急ぐよう求めた。常任理事国のロシアから拒否権を 剥奪はくだつ すべきだとの考えを示した上で、国連加盟国の3分の2以上が決議案に賛成すれば拒否権を覆すことができるようにする案を示した。
常任理事国を拡大し、日本やドイツ、インド、アフリカ連合(AU)などを加えるべきだとも主張した。
一方、ロシアは、ラブロフ外相が「ウクライナの崩壊は、西側諸国が全責任を負っている」などとする主張を展開した。拒否権を不当に行使しているとの批判に対しては、「米国と同盟国が公然と国連を私物化している」と反発した。
会合では、ゼレンスキー氏とラブロフ氏がそれぞれの発言の際に離席し、顔を合わせることはなかった。ただ、会合開始前にロシアの国連大使がゼレンスキー氏が安保理理事国よりも先に発言することに異議を唱え、議長国のアルバニアの首相と口論になる場面があった。
会合には岸田首相も出席し、ロシアのウクライナ侵略について「ただちに停止し、即時、無条件に軍を撤退させなければならない」と訴えた。「世界の現実をよりよく反映させなければならない」として、安保理理事国の拡大を求めた。
●ウクライナ情勢で首脳級会合 国連憲章堅持を確認―安保理 9/21
国連安全保障理事会は20日午前(日本時間21日未明)、ウクライナ情勢を協議する首脳級会合を開いた。長期化するロシアのウクライナ侵攻が国際秩序を揺るがしているとして、武力行使を禁じた国連憲章の順守の重要性を再確認する。
今月の安保理議長国を務めるアルバニアが、各国の首脳が集まる一般討論演説の期間に合わせた開催を決めた。理事国以外も参加できる公開討論の形とすることで、和平実現の機運醸成につなげる狙いだが、ロシアは反発。各国演説に入る前に会合開催の手続きに異議を唱え、議長のラマ・アルバニア首相が「ロシアが戦争をやめれば問題は解決する」と一蹴する一幕があった。
会合冒頭に演説したグテレス事務総長は「国連憲章は、より平和な世界に向かうためのロードマップだ」と強調した上で、ロシアの侵攻は「憲章の明確な違反だ」と非難。国際情勢がこれ以上悪化しないよう、各国がそれぞれできることに取り組むよう求めた。
会合には岸田文雄首相のほか、ウクライナのゼレンスキー大統領も出席した。昨年2月の侵攻開始後、ゼレンスキー氏が対面で安保理会合に参加するのは初めて。同氏はロシア軍撤退など、自らが提唱する10項目の和平計画「平和の公式」に基づき、賛同国と協議を重ねた上で首脳級の「平和サミット」を開催する意向を示し、広く参加を呼び掛けた。
ロシアからはラブロフ外相が参加する見込みだったが、ゼレンスキー氏が議場を去るまでに登場せず、顔を合わせることはなかった。
●ウクライナ軍 クリミアのロシア軍司令部をミサイル攻撃と発表 9/21
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにあるロシア海軍の司令部をミサイルで攻撃したと発表しました。領土の奪還を目指して反転攻勢を続ける中、クリミアでの攻撃を活発化させています。
ウクライナ軍は20日、ウクライナ南部クリミアにある軍港都市セバストポリ近郊で、ロシア海軍の黒海艦隊の司令部に対するミサイル攻撃が成功したとSNSで発表しました。
詳しいことは明らかにしていませんが、この発表に先立って現地でロシア側のトップを務めるラズボジャエフ氏はSNSで「敵のミサイル攻撃を阻止した」と主張しています。
ウクライナ軍はこのところクリミア半島や沖合でロシア軍への攻撃を繰り返し、揚陸艦や潜水艦など複数の艦艇に損傷を与えたとしたほか、ゼレンスキー大統領もクリミア半島の西部にある防空システムを破壊したと今月14日に発表するなど、攻撃を活発化させています。
一方、ウクライナ東部ではハルキウ州の知事が20日、クピヤンシクで人々の避難支援にあたっていたボランティアなど8人がロシア軍のミサイル攻撃で死亡したとSNSで明らかにしました。
ウクライナの反転攻勢について、アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は19日、記者会見で「着実に前進している」と評価しながらも「占領地域に展開している20万、30万のロシア兵を追い出すのは困難だ」とも述べ、ウクライナにとって今後も厳しい戦いが続くという認識を示しました。
●ウクライナ軍、セバストポリのロシア黒海艦隊司令部を攻撃 9/21
ウクライナ軍は20日、南部クリミア半島のセバストポリ近郊にあるロシア黒海艦隊の司令部を同日朝、攻撃したと発表した。
ウクライナ軍は攻撃は成功したとしているが、詳細は明らかにしていない。
ロシアは2014年にクリミアを一方的に「併合」。 ロシアが送り込んだセバストポリの「知事」はこの日、セバストポリに対するミサイル攻撃を阻止したと表明している。
●クリミアと黒海上空でウクライナ無人機19機破壊、ロシア軍が発表 9/21
ロシア国防省は21日未明、対空部隊が黒海とクリミア半島上空でウクライナのドローン(無人機)19機を破壊し、さらに他の地域上空でも3機を破壊したと発表した。
20日から21日にかけての夜間にウクライナによる「テロ攻撃の試み」を阻止したと説明。黒海とクリミア以外で破壊した3機はロシア中南部のクルスク、ベルゴロド、オルロフ地域の上空で撃墜したという。
死傷者や被害の詳細は不明。
ウクライナ軍は2014年にロシアに併合されたクリミアの標的に対する攻撃を強化しており、20日にはセバストポリ近郊にあるロシア黒海艦隊の司令部を攻撃したと発表した。
●ゼレンスキー氏、ブラジル大統領と初の直接会談 戦争終結の道筋協議 9/21
ブラジルのルラ大統領は20日、国連総会が開かれているニューヨークでウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ロシアによる侵攻の平和的な終結に向けた道筋を協議した。
ルラ氏は1時間以上続いた会談後、「平和構築への道筋の重要性について良い会話ができた」とX(旧ツイッター)に投稿した。
ゼレンスキー氏も、両首脳がそれぞれの外交担当者に「2国間関係および和平の次のステップに取り組むよう」指示したと投稿した。
ブラジルのビエイラ外相は先に、ルラ氏がウクライナとロシアの双方と対話することに前向きな姿勢を示し、他国の領土侵犯を非難するブラジル政府の立場を改めて示したと述べていた。
ゼレンスキー氏とルラ氏が対面で会談するのは今回が初めて。5月に広島で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議の際に会談が実現しなかったこと受け、ウクライナ政府が今回の会談を要請していた。
●中国、対ロシア制裁を批判 ウクライナ和平協議引き続き訴え 9/21
中国の馬朝旭外務次官は20日、ニューヨークでウクライナ情勢に関する国連安全保障理事会の会合に出席し、米欧による対ロシア制裁を念頭に、世界のサプライチェーン(供給網)安定のため「一方的な制裁をやめるべきだ」と訴えた。ウクライナ侵攻を巡る和平協議の必要性を訴える従来の主張を繰り返した。
中国は和平仲介に積極的な姿勢をアピールしている。一方でロシアのプーチン大統領が10月に訪中するなど緊密な中ロ関係を維持している。
馬氏は「ウクライナ危機は世界経済に大きな衝撃を与え、食料・エネルギー安全保障や金融に深刻な影響を及ぼしている」と述べた。「真っ先に被害に遭っているのは発展途上国だ」とし、ウクライナ情勢を巡って米欧と距離を置く途上国に寄り添う姿勢を強調した。
黒海を通じたウクライナ産穀物輸出の合意再開に向けた関係国の協議を「支持する」と語った。
●ロシア国防相がイラン訪問 ウクライナ侵攻で協力強化を確認 9/21
ロシアのショイグ国防相は20日、イランの首都テヘランでアシュティアニ国防軍需相と会談し、軍事協力などについて協議した。イランはウクライナ侵攻を続けるロシアに対し無人機(ドローン)などを提供しているとされ、引き続き協力を強化することを改めて確認した形だ。
両国のメディアなどによると、会談でショイグ氏は両国の関係が「新たな段階に達している」と称賛。アシュティアニ氏は「米国の単独主義など共通の課題に対応することが重要な戦略的問題だ」と述べた。イランはウクライナ侵攻が始まって以来、ロシア支持の姿勢を明確にしている。ウクライナ侵攻を巡っては、ロシアがイラン製の自爆型無人機を使っているとの指摘や、イラン人軍事顧問がロシア兵にドローン操縦を指導しているとの批判もある。
ショイグ氏は19日にイラン入りし、イラン革命防衛隊の幹部とも会談。両国が軍事介入しているシリアなどの地域情勢について協議した。テヘランでは無人機やミサイルの展示会も視察した。 
●侵略についてプーチン大統領、中国外相に「対話と交渉通じて解決」 9/21
ロシアのプーチン大統領は20日、中国の 王毅ワンイー 外相(共産党政治局員)と露西部サンクトペテルブルクで会談した。中国外務省の発表によると、プーチン氏は、王氏に対し、上海協力機構(SCO)や新興5か国(BRICS)の枠組みを通じた密接な協力を呼びかけた。王氏も中露両国の連携を確認した。
プーチン氏は会談で「覇権や陣営による対抗を拒み、国際秩序の公正や正義を守りたい」と主張した。米国は19日、中露両国が重視する中央アジア5か国と初の首脳会議を開催しており、中露が主導的な役割を担う外交枠組みも使って対抗する構えとみられる。
王氏は「双方は協力を強めて両国の正当な権益を守り、国際秩序が公正で合理的な方向に発展するよう努力しなければならない」と応じた。
中国外務省によると、プーチン氏は、ロシアのウクライナ侵略に伴う対露制裁に関し「既に影響を克服し、経済は回復し始めている」と強弁した。ロシアが侵略を停止する兆しは見えないが、プーチン氏は「対話と交渉を通じて解決する」と語ったという。露大統領府の発表では、この発言に触れていない。
●指揮官は「ネズミのように逃げ出し」、戦闘を拒んだ兵士たちは捕らえられた 9/21
ウクライナで戦うロシア軍の指揮官らが前線から「ネズミのように逃げ出し」、配下の兵士たちは戦うことを拒否したという情報が報じられた。
ロシアの独立系ジャーナリストによるテレグラムチャンネル「アストラ」によると、9月19日、所属ジャーナリストの元にエフゲーニャという女性が接触してきた。彼女の夫はロシア軍の兵士としてウクライナで戦う「エフゲニーP」で、所属部隊の指揮官から負傷した仲間と共にウクライナ東部の戦闘に参加するよう命じられたが、当の指揮官らはウクライナからの激しい砲撃を受けると部隊を見捨てて逃げ出したという。
「アストラ」によれば、エフゲニーPはロシア軍の第27独立自動車化狙撃旅団に所属し、5月にウクライナ東部ドネツク州バフムト近郊での戦闘の際に砲弾の破片で負傷し、病院に搬送されたものの治療は施されなかった。彼はその後、「リハビリ」のために帰還させられ1カ月を自宅で過ごした後、再びウクライナの戦地に派遣された。
同旅団の兵士たちは、ウクライナ東部「スバトベの方角」に連れて行かれ、「生活に最低限必要な物資も手段もないまま森の中に置き去りにされた」。そしてウクライナ側からの攻撃の標的にされると、「指揮官や将官など、責任ある立場にある者は部下を見捨ててネズミのように逃げ出した」という。
「指揮官の敵前逃亡」は初めてではない
置き去りにされて戦闘を拒否したエフゲニーPら複数の兵士は、指揮官に捕らえられ、ウクライナ東部ドンバス地域のザイツェボにある建物の地下で身柄を拘束された。
「アストラ」のテレグラムチャンネルは以前にも、ロシア軍に動員された兵士300人が、前線に戻ることを拒んだという理由で、ザイツェボの地下室で身柄を拘束されていると報じたことがある。
エフゲニーPは9月18日に妻エフゲーニャに自らの苦境について連絡してきたが、その後、連絡がつかなくなったという。
本誌はエフゲーニャの主張について独自に裏付けを取ることはできず、この件についてロシア国防省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
ロシア軍の指揮官がウクライナの戦場から逃げ出したことが報じられたのは、今回が初めてではない。
2022年11月には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が発令した部分動員令によって徴兵された別の兵士が、ロシア軍の上官が戦闘から逃げ出したと主張した。
この告発を行った兵士オレクシー・アガフォノフはロシアの反体制メディア「Verstka」に対して、ウクライナ東部ルハンスク州のマキイフカ近郊で、ウクライナ側から砲撃を受けたと証言。自身が所属する大隊は2022年11月2日、塹壕を掘って防衛陣地を守るよう命令を受けたが、ウクライナ軍による砲撃が始まると、指揮官は兵士たちを見捨てて逃げ出したと語った。
部分動員令で徴兵された兵士らは「戦いたくなかった」
「私たち兵士は現地に投入されるとすぐに塹壕を掘るよう命じられた。1つの大隊につきシャベルは3本しかないが、最善を尽くして掘り続けた。朝になると敵の砲撃が始まった。迫撃砲やミサイルなどが飛んできた」とアガフォノフは言った。「砲撃が始まると、上官たちはすぐに逃げ出した。私たちは砲撃が止んだ隙に塹壕を掘って隠れようとしたが、すぐにヘリコプターで居場所を特定されて撃たれた」
アガフォノフは、プーチンが2022年9月21日に発令した部分動員令の一環として徴兵された者たちは、そもそも戦闘に参加したくなかったのだ、と説明した。
●ゼレンスキー氏や各国首脳、其々の立場で戦争に言及 国連総会や安保理で 9/21
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日、米ニューヨークで始まった国連総会の一般討論で演説した。ロシアによるウクライナ侵攻開始以来、ゼレンスキー氏が国連本部で直接演説するのは初めて。
一般討論では、ジョー・バイデン米大統領をはじめ各国首脳も、それぞれの立場からロシアによる侵攻への姿勢を表明した。各国は共通の立場や解決策を模索するものの、現状の解決方法について立場の違いもあらわになった。
ゼレンスキー大統領は20日には安全保障理事会に出席。ロシアが同理事会の常任理事国として拒否権を持つことを念頭に、「侵略者の手に拒否権があるせいで、国連は膠着(こうちゃく)状態に陥っている」と批判し、国連総会の3分の2が支持すれば、安保理での拒否権行使を無効にできるよう、憲章の改正を求めた。しかし現状ではこの改正案そのものが、安保理採決で拒否権行使の対象になる。
この日の安保理にはロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相も出席したが、ゼレンスキー氏らウクライナ代表団が退場するまで、ラヴロフ氏は入室しなかった。
ロシアの侵攻開始後に初めて安保理に出席したゼレンスキー氏について、会合冒頭にはロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使が、理事国15カ国の代表より先にゼレンスキー氏が発言することに抗議した。
これに対して現在の議長国アルバニアのエディ・ラマ首相は、「解決策がある」とロシア大使に返答。「もしロシアが、戦争をやめると合意するなら、ゼレンスキー大統領はここで発言しない」と返した。
●カナダ首相、ロシアの「違法な戦争」に対する行動を呼び掛け 9/21
カナダのトルドー首相は20日、ロシアによるウクライナ侵攻に対して行動を起こすよう呼び掛けた。
トルドー氏は国連安全保障理事会の会合で、「今何が起きているのか、100%明確にする必要がある。安保理の常任理事国であるロシアが違法な戦争を開始し、今も続けている」と述べた。
トルドー氏は、ロシアが安保理で拒否権を行使し、ウクライナでの戦争と国連の原則の侵害を助長していると指摘した。
ウクライナのゼレンスキー大統領も同様の見方を示し、ロシアによる拒否権が戦争を止めることを不可能にしているとして、ロシアから拒否権をはく奪するよう求めた。
例えば、ロシアは2022年9月、ロシアによるウクライナ領の占領を非難して、ウクライナからの撤退を求める決議案に拒否権を行使した。
ロシアは自国の拒否権を擁護している。ロシアは、英国、フランス、米国、中国と並び拒否権を持つ安保理の常任理事国のひとつ。
●ゼレンスキー氏、ブラジル大統領と初の直接会談 戦争終結の道筋協議 9/21
ブラジルのルラ大統領は20日、国連総会が開かれているニューヨークでウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ロシアによる侵攻の平和的な終結に向けた道筋を協議した。
ルラ氏は1時間以上続いた会談後、「平和構築への道筋の重要性について良い会話ができた」とX(旧ツイッター)に投稿した。
ゼレンスキー氏も、両首脳がそれぞれの外交担当者に「2国間関係および和平の次のステップに取り組むよう」指示したと投稿した。
ブラジルのビエイラ外相は先に、ルラ氏がウクライナとロシアの双方と対話することに前向きな姿勢を示し、他国の領土侵犯を非難するブラジル政府の立場を改めて示したと述べていた。
ゼレンスキー氏とルラ氏が対面で会談するのは今回が初めて。5月に広島で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議の際に会談が実現しなかったこと受け、ウクライナ政府が今回の会談を要請していた。

 

●アゼルバイジャン大統領、プーチン氏に謝罪 ナゴルノ作戦でロシア巻き添え 9/22
ロシア大統領府によると、プーチン大統領とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が21日、電話会談した。アリエフ氏は、アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフでの自国の軍事作戦の巻き添えとなり、ロシアの平和維持部隊に犠牲者が出たことに謝罪と哀悼の意を示した。
軍事作戦は、アルメニア系勢力が降伏する形で停戦。両首脳は「平和維持部隊が仲介した停戦合意の履行が重要」という認識で一致した。
巻き添えについて、ロシア国防省は20日、死者が出たと発表。アゼルバイジャン最高検は21日、人数はアルメニア系勢力に撃たれた1人を含む6人だと明らかにした。独立系メディアなどによると、うち1人は平和維持部隊の副司令官で、潜水艦部隊の副司令官を務めた北方艦隊から今年、ナゴルノカラバフに派遣された大佐だった。
●ロシア 予備役動員から1年 根強い国民の不満 地方で兵員補充か 9/22
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン政権が予備役の動員に踏み切って21日で1年となりました。政権側は、国民の間で不安や不満が根強いことから追加の動員は避ける一方で、地方などで兵員の補充を進め、侵攻を継続する考えとみられます。
ロシアのプーチン大統領は去年9月21日、予備役の動員を発表し、30万人の動員に踏み切りました。国内では抗議デモが起きたほか、招集を免れようと多くの人が国外に逃れました。
その後、抗議デモは政権側に抑え込まれていますが、国民の間では追加の動員があるのではないかという不安や不満が根強く、独立系の世論調査機関はことし5月、24歳以下の若年層の4人に1人が恐怖などを感じているとする調査結果を発表しました。
こうしたなか、プーチン政権は「追加の動員はない」として不安の払拭に努めながら志願兵の募集活動を活発化させ、国営テレビなどを通じた動画の広告まで展開しています。
さらに、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は20日、ロシア中部のウドムルト共和国で、国防省が高額の報酬と恩赦を約束しながら受刑者を兵役に就かせているとする事例を紹介しています。
プーチン政権は、地方などで兵員の補充を進め、侵攻を継続する考えとみられます。
ただ、イギリス国防省は21日に発表した分析で「ロシア軍は動員兵らに対する高度な訓練を行っておらず、こうしたことも複雑な作戦の遂行を難しくしている」と指摘しています。
●東方経済フォーラム、今回は外国首脳の出席なし 9/22
ロシアのウラジオストクで9月10〜13日に、東方経済フォーラムが開催された。主催者の発表(9月15日)によると、フォーラム期間中には、373件、総事業規模にして3兆8,180億ルーブル(5兆7,270億円、1ルーブル=約1.5円)に上るビジネス関連文書が締結された。前回(2022年9月12日記事参照)と比較すると77件増加、規模も5,000億ルーブル以上増加した。
締結された主な協定をみると、開発金融機関のVEB.RF、ズベル(ズベルバンク)、極東・北極圏発展省と極東・北極圏発展公社が、極東連邦管区における、総額1兆970億ルーブルの投資プロジェクトの実施に関する協定に調印した。極東・北極圏発展公社とハバロフスク地方にあるエルガ港の運営会社が、同港石炭海上ターミナル建設のための協力協定に調印。施設の建設に1,360億ルーブル以上が投じられる予定で、少なくとも3,000人の新規雇用の創出が見込まれる。また、極東・北極圏発展公社と水産大手アンテイグループ間で投資協定が締結され、カニ漁船8隻の建造、港湾インフラ複合施設2棟の建設、カニ漁用地8区画の取得に対して1,240億ルーブルの資本投資が行われる見込み。
12日の全体会合にはウラジーミル・プーチン大統領とラオスのパニー・ヤートートゥー国家副主席が出席した。2022年はミャンマー、アルメニア、モンゴルの首脳が出席していたが、今回は外国首脳の参加はなかった。全体会合の中でプーチン大統領は、2014年から2022年にかけてロシア全国への投資の伸びは13%だった一方、極東地域は39%となり全国と比べて3倍の伸びとなったことや、過去5年間において極東地域のほとんどが地域総生産成長率において国内の上位に入っていることに言及し、極東地域の潜在力についてアピールした。
東方経済フォーラムは2015年からほぼ毎年開催され、今回で8回目となった。
●ゼレンスキー、安保理で露大使と対峙…露の反発に議長「戦争をやめることだ」 9/22
20日の国連安全保障理事会は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、敵国であるロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使と同じテーブルで向かい合う異例の機会となった。ゼレンスキー氏は侵略の不当性を突きつけ、日本や米欧は対露非難を展開。出席した約60か国からロシアを擁護する声はほとんどなく、国際社会での「孤立」が際立った。
「なぜウクライナの大統領が優先されるのか」
開始早々、ネベンジャ氏が、安保理の理事国より先にゼレンスキー氏が発言することに反発した。議長を務めたアルバニアのエディ・ラマ首相が「特別な運用ではない」と反論すると、ネベンジャ氏は「議長の汚点だ」とまくし立てた。ラマ氏は「それには解決策がある」と切り返し、「ロシアが戦争をやめることだ。そうすればゼレンスキー氏がここに立つことはない」と 一蹴いっしゅう し、異例の幕開けとなった。
ゼレンスキー氏は、英語で演説した前日の国連総会から一転、ウクライナ語で語り始めた。「ロシアは少なくとも数万人の我々の市民を殺害し、家を破壊して数百万人を難民に変えた。犯罪的でいわれのない侵略だ」。演説中、ロシア代表団に厳しい視線を送る場面もあったが、ネベンジャ氏らはうつむき加減で目を合わせることはなかった。
岸田首相は「ロシアは無条件に軍を撤退させなければならない」と強調し、「第2、第3のウクライナを生み出してはならない」と訴えた。ブリンケン米国務長官は「我々は傍観せずに立ち上がるという明確なメッセージを送らなければならない」と呼び掛けた。
侵略に中立的な立場を取る新興・途上国「グローバル・サウス」からも批判や懸念の声が相次いだ。ガーナのナナ・アクフォアド大統領は「ロシアの侵略は明らかに間違っている」と強調し、ブラジル代表は「民間インフラの破壊は人道危機を悪化させる」とロシアを批判した。
ロシアと歩調を合わせてきた中国は「すべての当事者は自制し、緊張を高める行動は避けるべきだ」と米欧をけん制するにとどめた。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ゼレンスキー氏の退席後に姿を現し、「ウクライナを支援する欧米が世界的な紛争のリスクを高めている」と約25分間にわたって演説で批判した。ロシアを擁護したのは同盟国ベラルーシなどに限られた。
●国連は「もう終わり」なのか…中国が西側諸国を「猛批判」し対立が激化 9/22
英仏ロ中の4カ国首脳は総会を欠席
ニューヨークで開催中の国連総会が、かつてなく求心力を失っている。肝心の安全保障理事会メンバー国は、米国のジョー・バイデン大統領を除いて、英仏中ロの首脳が欠席した。中国やインドは新興途上国を集めて、独自にサミットを開いた。国連は、もう「終わり」なのか。
ロシアによるウクライナ侵略戦争は、昨年2月の開始から1年7カ月が過ぎたが、収束する見通しはない。それどころか、ウクライナの反転攻勢は期待されたほどの成果がなく、戦争は長期化必至の情勢だ。戦火が他国へ広がる可能性すらある。
本来なら、国連こそが停戦と平和の実現に向けて、積極的に動くべき局面だ。ところが、指導力を発揮するはずの安保理メンバー国であるロシアが、侵略の当事者になった。ロシアは安保理で拒否権を握っている。ロシアに同調する中国もそうだ。これでは、国連が機能麻痺に陥るのも当然だ。
そんな現状を見極めたかのように、今回の総会には、安保理メンバー国のうちバイデン大統領が出席しただけで、英仏ロ中の4カ国首脳は欠席した。中ロは最初から相手にせず、英仏は匙を投げたも同然である。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は初めて国連総会に出席し「侵略者を打倒するために、結束して行動しなければならない」と訴えた。バイデン大統領も「ウクライナに寄り添い続ける」と支援を約束したが、英仏首脳さえ欠席したとあっては、空しく響く。
西側専門家の間では、総会前から「国連加盟国の大半は『停戦交渉をすべきだ』と考えている。もしも、ゼレンスキー大統領が総会で『我々は永遠に戦い続ける』と訴えれば、債務や貧困問題を抱えている多くの非西側諸国と不協和音を生じるだろう」という声が出ていた。
国連加盟国の7割近くを占める、いわゆるグローバル・サウスの新興途上国にとって、重要課題は重い債務や貧困、さらにウクライナ戦争が引き起こした食料のインフレ、供給不足問題だ。「西側のウクライナ支援が我々に対する支援不足の原因になっている」という見方もある。
ゼレンスキー大統領は総会の合間を縫って、新興5カ国(BRICS)のメンバーである南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領と会談するなど、新興途上国からの支援取り付けに動いたが、成果が上がったとは言えない。演説中には、途上国代表の欠席も目立った。
それどころか、総会の真っ最中に、積極的に支援してきたポーランドがウクライナへの追加武器供与停止を発表する事態も起きた。マテウシュ・モラヴィエツキ首相は「自国の防衛に集中する必要がある」という理由を挙げた。
だが、背景には、ウクライナの穀物輸出問題がある。ロシアが黒海を経由したウクライナの穀物輸出を禁止したのを受けて、欧州はウクライナ産穀物の輸出先になったが、欧州連合(EU)は5月、地元農業保護を理由に、ポーランドなど5カ国の穀物輸入を禁止した。
ところが、EUは最近「市場歪曲効果は消えた」として禁止措置を解除した。これにポーランドが反発し、国内農業保護のために輸入禁止を続行する方針を表明したのだ。ゼレンスキー大統領は総会演説で「一部の国は穀物問題でロシアに味方している」と訴えたが、これが、ポーランドの逆鱗に触れた。
モラヴィエツキ首相は「我々はもちろん、ウクライナの問題を理解している。だが、我々にとって、農業者の利害は最重要事項だ」と地元メディアに語った。武器支援の停止が、穀物問題にリンクしているのは明らかだろう。食料問題はウクライナ支援にも飛び火した形になってしまった。
中国が西側諸国を批判
抜け目なく動いているのは、中国だ。
中国は国連総会直前の9月15日、キューバの首都、ハバマで新興途上国77カ国の首脳らを集めて「G77と中国サミット」と題する会議を開いた。中国代表は「中国は世界最大の発展途上国であり、グローバル・サウスの1員だ」と演説し、途上国に寄り添う姿勢を強調した。
そこで採択したハバマ宣言は、西側の政策を厳しく批判している。
〈我々は、現在の不公平な国際経済秩序が開発途上国に及ぼしている問題を深く懸念している。たとえば、新型コロナの悪影響や地政学的緊張、一方的な強制措置、経済・金融危機、脆弱な世界経済見通し、食料への圧力の増大、エネルギー、人々の避難、市場の変動、インフレ、金融引き締め、対外債務の負担の増加などだ〉
〈我々は治外法権の効果を持つ法律や規制、開発途上国に対する一方的制裁や、強制的な経済措置を拒否する。それらは直ちに撤廃されるべきだ。そうした行動は、国連憲章と国際法の原則を損ない、とくに発展途上国における科学、技術、イノベーションの進歩と経済社会発展を著しく妨げている〉
こうした途上国の声をまとめたうえで、中国は国連総会に乗り込んできた。ただし、先に触れたように、習近平総書記(国家主席)は姿を見せず、代わりに演説したのは韓正国家副主席である。それで十分、とみたのだろう。
中国共産党の「環球時報」の英語版、グローバル・タイムズは17日付の社説で「米国など西側諸国はグローバル・サウスを勝ち取る努力を続けている。だが、それは発展途上国に平等な地位と開発の機会を与えるためではなく、彼らを『中心と周辺システム』における『周辺』に閉じ込めようとする試みなのだ」と批判した。
途上国の囲い込みに走るインド
中国だけではない。インドも途上国の囲い込みに走っている。
インドは1月12、13日、途上国125カ国の代表を集めてリモートで会議を開いた。採択された宣言は「国際情勢の断片化に懸念を表明し、グローバル・サウスの優先事項に資する環境を作り出す方法について意見交換した。閣僚は食料、燃料、肥料の不足という3つの課題に対処するよう国際社会に促し、現実を反映した包括的な多国間主義を求めた」と訴えた。中国が主催した会議に比べれば、表現は穏やかだが、食料問題などへの懸念は共有している。
こうしてみると、ウクライナ戦争への対応を最重要課題に据えた西側と新興途上国との落差は明白だ。バイデン大統領やゼレンスキー大統領が支援を訴えても、新興途上国との間で「不協和音」が生じているのは、否定しようがない。
日本と欧米の報道ギャップも気になる。
欧米メディアは、中ロとグローバル・サウス、西側の利害対立に焦点を当てているが、日本では、相変わらずウクライナ支援を呼びかける米国やゼレンスキー大統領の言動に注目している。これでは、世界の流れを読み違えかねない。
岸田文雄首相もそうだ。首相は総会で「核軍縮は被爆地広島出身の私のライフワークだ。核兵器のない世界に向け、NPT体制を維持・強化し、現実的・実践的な取組を継続・強化していく」などと、相変わらずの「核なき世界」論を展開した。
ついでにいえば、首相はことあるごとに「被爆地広島出身」とアピールしているが、それは父親の話にすぎない。本人は東京都渋谷区生まれ、永田町小学校、麹町中学校、開成高校、早稲田大学出身で、どこから見ても、紛れもない東京出身である。「国連総会で自らのフェイクを語った首相」は初めてだろう。
そんな岸田政権が続く限り、日本のピンボケは改まりそうにない。
●アゼルバイジャンとアルメニア「泥沼の100年抗争」 均衡を崩したウクライナ侵攻 9/22
2023年9月19日、アゼルバイジャンがアルメニアに対して攻撃を始めました。両国はなぜいがみ合っているのでしょうか。実はこの2か国のあいだには、日本ではあまり知られていない領土問題が横たわっているのです。
旧ソ連時代から内包していた領土問題
2023年9月19日、アゼルバイジャンは同国西部のナゴルノ・カラバフ地方で、アルメニア軍の攻撃に対する局地的な対テロ作戦を開始したと発表しました。同地方は、かねてからその帰属をめぐって両国間の火種となっており、今回も緊張が高まっていたと伝えられます。
ナゴルノ・カラバフ地方は、南カフカスのさらに南部に位置しており、古くからその帰属をめぐってイスラム教徒のアゼルバイジャン人と、キリスト教徒のアルメニア人のあいだで紛争が続いてきました。しかし1920年代初頭にソ連(ソビエト連邦)が成立してアゼルバイジャンとアルメニアが連邦に属すると、ソ連の力で同地方は前者に組み込まれ、同地在住のアルメニア人によるナゴルノ・カラバフ自治領とされて表面上の平静が保たれるようになりました。 ところが1980年代末に冷戦が終結し、ソ連中央政府の威光が弱まって連邦の結束力が緩むと、アルメニア人はナゴルノ・カラバフ地方のアルメニアへの帰属を求めるようになります。そして1991年にソ連が崩壊すると、それと軌を一にするようにして、アゼルバイジャンとアルメニアは独立。同時期に、同地をめぐって両国は衝突し、ナゴルノ・カラバフ戦争が勃発しました。 この戦争は、ロシアの仲介でいったんは停戦したものの火種はくすぶり続け、2016年と2020年に両者間で再び紛争が起きています。そして現在、ナゴルノ・カラバフ地方は、国際社会の承認は得られていないものの、「アルツァフ共和国」として独立しています。
アルメニアは直近まで合同演習をやっていたばかり
長引いている両国間の武力対立ですが、旧ソ連に属していた国だけに、どちらの国の軍隊も旧ソ連・ロシア系の装備を運用しています。たとえば戦車はT-72系列のものが多く、航空機もアゼルバイジャン空軍はMi-8やMi-17のようなヘリコプター、MiG-29戦闘機やSu-25攻撃機を保有しています。一方、アルメニア空軍は規模が小さく、わずかな機数のSu-30戦闘機やSu-25攻撃機を保有しているにすぎません。 このように、兵力面で比べるとアルメニアはアゼルバイジャンよりも劣勢です。しかしアルメニア軍将兵の士気はきわめて高く、兵力は多くとも将兵の戦意に欠けるアゼルバイジャン軍に何度も勝利。かなりの数量の戦車や装甲戦闘車両、火砲などをアゼルバイジャン軍から鹵獲(ろかく)していると伝えられています。両軍とも同じ旧ソ連・ロシア系の兵器なので、整備・調整のうえで再使用できるというのが強みになっているようです。
このような情勢下、2022年9月にロシアがウクライナへ侵攻を開始し、事実上の戦争が始まったことで、ナゴルノ・カラバフ地方の緊張はさらに高まりました。それまでロシアはアルメニア寄りの姿勢を示し、一方のアゼルバイジャンはトルコなどが支持する構図となっていました。ところがウクライナ侵攻が勃発したことで、ロシアはそれまでのようにはアルメニアを支持できなくなっていました。 これに不満を表明していたアルメニアは、なんと2023年9月11日から20日にかけて、アメリカとの合同軍事演習「イーグル・パートナー2023」を自国領内で実施しています。この事態を受けたロシアは、よりにもよってウクライナ戦争で対立しているアメリカと合同演習するとは、との思いで不快感を表明。 今回、こうした状況下に、アゼルバイジャンが対テロ作戦を開始したわけです。そして早くも20日の時点で、ロシアの仲介によりアルメニアとの停戦が成立しました。しかし紛争の根本的原因が解消されたわけではなく、継続中のウクライナ戦争との絡みもあり、アゼルバイジャンとアルメニアは、今後も武力衝突する危険性をはらんでいるといえるでしょう。 両国の動向を注意深く見守っていく必要がありそうです。
●バイデン氏、ウクライナに480億円の追加軍事支援を表明… 9/22
米国のバイデン大統領は21日、ホワイトハウスでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、防空システムを含む総額3億2500万ドル(約480億円)の追加軍事支援を表明した。ゼレンスキー氏は米連邦議会も訪れ、「(米国の)支援を受けられなければ、我々は戦争に負ける」と述べ、軍事支援の継続を求めた。
両首脳はニューヨークで国連総会に出席後、ワシントンに移動して会談に臨んだ。ホワイトハウスでの会談は昨年12月以来。ロシア軍への反転攻勢の見通しや終結後を見据えた安全保障協力、ウクライナの経済復興などを話し合った。
米政府の発表によると、追加軍事支援では、主力戦車「M1エイブラムス」31両、高機動ロケット砲システム「HIMARS」38機、地対空ミサイルシステム「パトリオット」、クラスター弾を含む155ミリ砲弾などを供与する。射程300キロ・メートルの地対地ミサイル「ATACMS」の供与も検討されたが、今回は見送られた。
バイデン氏は、M1エイブラムスの第1弾が来週中にウクライナに届くことを明らかにし、「(侵略から)575日が経過した今も、私たちはウクライナを支持し、これからも支持し続ける」と述べた。ゼレンスキー氏は米国の新たな支援に謝意を示し、「我が国の兵士が今必要としているものだ」と語った。
ゼレンスキー氏は会談後、「ウクライナと米国は兵器と防衛システムの生産で協力することに合意した」とSNSに投稿し、米国の支援を受けて防空システムを国内生産することに意欲を見せた。
この日、ゼレンスキー氏は下院で共和党のケビン・マッカーシー下院議長、民主党のハキーム・ジェフリーズ院内総務らとも会談した。上院では全議員を対象にした会合に参加し、戦況を説明するとともに、ウクライナに対する具体的な支援について意見交換した。
ゼレンスキー氏は上下両院議員との会談後、記者団に「米国による支持を心からうれしく思う。支援や戦場の状況、我々の計画など全てを話した。非常に強い対話ができた」と述べた。一連の会談後、ゼレンスキー氏はオレナ夫人と共にワシントンの国立公文書館で演説した。
下院で主導権を握る共和党では、保守強硬派を中心に支援継続に否定的な意見が根強い。ゼレンスキー氏は昨年12月のワシントン訪問時に議会演説を行ったが、今回は共和党の反対で開催が見送られた。ゼレンスキー氏の米議会訪問は、長期の支援を確実にする狙いもある。
●ゼレンスキー氏、米大統領・議員らと会談 新たな軍事支援に謝意も 9/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、バイデン米大統領とワシントンで会談した。国防総省や連邦議会も訪問し、ロシアとの戦争に対する支援継続を訴えた。ただ、野党共和党内ではウクライナへの追加支援に懐疑的な見方も出ている。
バイデン氏は会談の冒頭で「パートナーや同盟国と共に、米国民は世界があなた方と共に立つよう、できることを全てやる決意だ」と述べた。
ゼレンスキー氏は「ウクライナの子どもや家族、家、世界の自由と民主主義を守る力を強化するためワシントンに来た」と語った。
両首脳はホワイトハウスで2時間会談した。
ゼレンスキー氏は、バイデン氏に武器など3億2500万ドルの新たな軍事支援策について謝意を示し、「われわれの兵士がまさに今必要としているものだ」と述べた。
ウクライナから穀物輸出を拡大するための具体的な措置についてバイデン氏と合意したと話したが、詳細は明かさなかった。
バイデン氏は年内のウクライナ国防・人道支援向けに2400万ドルの増額を求めているが、下院の共和党強硬派による反対で手続きが停滞している。
どのように反対派に対処するかを問われ、「米国議会の適切な判断に期待している。代替案はない」と語った。
また、米国の戦車「エイブラムス」が初めてウクライナに来週供与されるという。
バイデン氏はさらに、2基目となるレイセオン社製「ホーク」防空砲台と関連装備をウクライナに送ると述べた。米当局者によると、間もなくウクライナに到着するという。
民主党のクリス・マーフィー上院議員のX(旧ツイッター)への投稿によると、ゼレンスキー氏はこれより先、議会議事堂の歴史ある旧上院議場で上院議員全員と会談し、何度もスタンディングオベーションを受けた。
民主党のチャック・シューマー上院院内総務によると、ゼレンスキー氏は上院議員に対し、ウクライナの戦争に向けた取り組みには軍事支援が不可欠で「支援が得られなければ、戦争に負ける」と述べたという。
国防総省ではオースティン国防長官ら高官と協議した。
一方、共和党議員の間では、米政府によるウクライナ支援を疑問視する声が高まっている。
共和党のJ.D.バンス上院議員は、米国は「無期限の紛争に際限のない資金を提供するよう求められている」と指摘。上下両院の共和党議員が署名し行政管理予算局(OMB)局長に宛てた、支援に疑問を呈する書簡をXに投稿し、「もうたくさんだ」と書き込んだ。
●ロシア、ウクライナを大規模空爆 エネルギー施設に被害 各地で停電 9/22
ロシア軍は21日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を含む各地に大規模な空爆を行い、全土でエネルギー・インフラ施設が被害を受けた。政府当局者によると、空爆で2人が死亡したほか、9歳の少女を含む少なくとも18人が負傷した。
この日の空爆は過去数週間で最も規模が大きく、ウクライナ当局者は冬季を前にロシア軍がウクライナの電力網を標的に新たな空爆を開始したとの見方を示している。昨冬はロシア軍の重要インフラに対する度重なる空爆で大規模な停電が引き起こされ、何百万人もの人々が厳しい寒さにさらされた。
この日の攻撃を受け、ウクライナ西部、中部、東部の5つの地域で停電が発生。アンドレイ・オサドチュク議員は「冬季を前に(ロシア軍は)ウクライナのエネルギーインフラに対するミサイル攻撃を再開した」と短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に投稿した。
ウクライナの電力会社ウクルエネルゴによると、ロシア軍によるウクライナの電力インフラへに対する攻撃は6カ月ぶりで、西部と中部の施設が被害を受けた。リブネ、ジトーミル、キーウ、ドニエプロペトロフスク、ハリコフの各地域で停電が発生したという。
ロシア国防省は声明で、軍事産業施設、無線情報施設、破壊工作グループの訓練センターを攻撃したと表明。全ての標的を攻撃したとしている。
訪米中のウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍による大規模な攻撃を非難。バイデン米大統領との会談を前に「(ウクライナに対する)一段の防空を。(ロシアに対する)一段の制裁を。最前線のウクライナ兵士に対する一段の支援を」と対話アプリ「テレグラム」に投稿した。
全土に被害
ウクライナ当局者によると、ロシア軍は一晩のうちに43発の巡航ミサイルを数回に分けて発射。このうち36発を迎撃したとしている。
ウクライナのクリメンコ内相は早朝の空爆で北部キーウ州、中部チェルカスイ州、東部ハリコフ市で負傷者が出たとメッセージアプリ「テレグラム」に投稿した。多数の州で爆発音が聞こえたとも述べた。
キーウのクリチコ市長は、9歳の少女を含む7人が市内で負傷したと明らかにした。市中心部にはミサイルの破片が落下し、インフラ施設や数軒のビルが損傷したという。
西部リビウ州のコジツキー知事によると、ポーランドとの国境から約60キロのドロホビッチ市にロシア軍が発射したミサイル3発が着弾したという。
内務省や地方当局は、東部ハリコフ州、西部のフメリニツキー、リブネ、リビウ、イワノフランコフスクの4州、中部ビンニツァ州で爆発があったとしている。
これとは別に、南部ヘルソン州のプロクジン知事は夜間にヘルソン市の寮がロシア軍の砲撃を受け、2人が死亡したと明らかにした。
ウクライナ軍、クリミアの空軍基地を攻撃と表明
ウクライナ軍は、ロシア占領下のクリミアにあるサキ空軍基地を攻撃したと発表。ウクライナ軍は詳細は明らかにしていないが、ウクライナの情報筋は基地の設備が深刻な被害を受けたとしている。
ロシアは2014年にクリミアを一方的に「併合」。クリミアのロシア側責任者、セルゲイ・アクショーノフ氏の顧問は、ウクライナのミサイルはどれも標的に命中ししていないと述べ、主張が食い違っている。
●ウクライナ、穀物輸出巡り外交解決模索 ポーランド・スロバキアと 9/22
東欧3カ国がウクライナ産穀物の輸入を制限している問題で、ウクライナは21日、スロバキアへの輸出に許可制度を導入することで同国と合意した。ポーランドとの間でも解決策を模索する。
欧州連合(EU)は先週、中東欧5カ国によるウクライナ産穀物の輸入禁止を認める措置を延長せず撤廃したが、このうちスロバキア、ポーランド、ハンガリーの3カ国は独自に輸入を制限すると表明した。
これに反発したウクライナが世界貿易機関(WTO)に提訴し、対抗措置として3カ国からの輸入を制限する可能性を示唆したことを受けて対立が深まった。
スロバキア農業省は「ライセンスの発行と管理に基づく穀物取引制度」を設けることでウクライナと合意したと発表。制度創設後にウクライナ産農産物の禁輸を解除すると述べた。
同省によると、ウクライナ側はWTOへの提訴を取り下げることに同意した。ウクライナ当局者はコメントしていない。
一方、ウクライナの発表によると、同国とポーランドの農相は電話協議し、双方の利益のために解決策を見いだすことで合意した。
●ポーランド、ウクライナへの武器支援停止に言及 農産物巡り対立 9/22
ポーランド政府報道官は21日、ウクライナに対して新たな武器の供給を行わない考えを示した。
ポーランドはこれまでロシアの侵攻を受けるウクライナを強力に支援してきたが、ウクライナ産穀物の欧州への輸入規制問題を巡り同国と対立を深めている。
モラウィエツキ首相は20日、ウクライナへの武器供与を止めて、自国の軍備を増強すると発言した。
ミュラー報道官も21日、ウクライナとこれまで合意した弾薬と武器の供与のみを行うと説明した。
サシン国家資産相はモラウィエツキ首相のコメントについて「現時点では首相が述べた通りだ。将来的にはどうなるか分からない」と述べた上で、穀物輸入を巡る問題は、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援をポーランドが止めたことを意味するのではないと説明。ポーランドは自国の武器備蓄を拡充する必要があると述べた。
ポーランドでは10月15日に総選挙を控えているが、与党「法と正義」はウクライナへの従属的姿勢を極右勢力から批判されている。
世論調査では、反ウクライナ感情を代弁してきた「コンフェデレーション」が支持率で3位に浮上している。アナリストは与党のウクライナへの厳しい姿勢について、コンフェデレーションが支持を広げていることへの対応だと指摘する。
●“冬を前にロシア軍がエネルギー施設攻撃” ウクライナが非難 9/22
ウクライナでは21日、ロシア軍が大規模なミサイル攻撃を各地に行い、一部の地域では電力施設が被害を受け、停電も発生しています。ウクライナ側は、暖房需要が高まる冬場を前にロシア軍が再びエネルギー施設を狙って攻撃していると非難しています。
ウクライナ側の発表によりますとロシア軍が21日未明、43発の巡航ミサイルによる攻撃を首都キーウなど各地に行ったということで、シュミハリ首相は、少なくとも20人がけがをしたと明らかにしました。
また、国営の電力会社「ウクルエネルゴ」によりますとキーウ州や北西部ジトーミル州などで電力施設が被害を受け、停電も発生しているということです。
ウクライナでは、去年10月頃から、エネルギーインフラ施設を標的にした攻撃が繰り返され、市民は冬の間、電気や暖房が使えなくなるなど、厳しい生活を強いられました。
アメリカを訪問中のゼレンスキー大統領は21日「ロシアのテロリストがまた大規模な攻撃を仕掛けた」とSNSに投稿するなど、ウクライナ側は、暖房需要が高まる冬場を前にロシア軍が再びエネルギー施設を狙って攻撃していると非難しています。
一方、ウクライナ軍は21日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの西部にあるロシア軍の基地に対して複数の攻撃を行ったと発表しました。
ウクライナ軍は、東部や南部で反転攻勢を続けるとともに、ロシア軍にとって攻撃や補給の拠点となっているクリミアに対する攻撃を活発化させています。
●ウクライナ軍装甲車、ロシア防衛線を突破 9/22
ウクライナ軍が南東部でロシアの主要防衛線を装甲車で突破した。3カ月半に及ぶ反転攻勢ではウクライナはロシア軍の占領地域を二つに分断することを目指しており、重要な節目となる。
南東部ザポロジエ州のベルボベ村付近で、ウクライナ軍は塹壕(ざんごう)やコンクリートで構築された「竜の歯」と呼ばれる戦車に対する防御網を突破し、装甲車両が通り抜けられるようになったと、現地のウクライナ空挺(くうてい)部隊の将校が語った。公開情報に基づく分析では、ウクライナ軍車両に対する砲撃が映されたロシアの動画は防衛線突破を裏付けるものとみられている。
今回の防衛線突破の規模は小さく、現地では激しい攻防が続く。ロシア軍は砲撃を強化し、反撃している。ウクライナ側では多くの死傷者が出ている。
だが、ウクライナ軍が拠点を確保することができれば、突破口からより多くの装甲車を送り込み、厳重に要塞(ようさい)化されていない地域で攻撃を仕掛けることが可能になる。
前出の将校は「われわれは前進している」とした上で、ロシア軍を「破壊している。ただ、その代償は...」と話した。
ウクライナの反転攻勢は極めて重要な局面を迎えている。ウクライナは、ロシア本土と2014年にロシア占領下に置かれたクリミア半島を結ぶ補給ラインを分断するため、アゾフ海に向かって南下したい考え。ロシアはウクライナの領土の約2割を占領し続けており、ウクライナは攻勢を仕掛けて奪還を目指す。
たとえウクライナ軍がアゾフ海に到達できなくても、前進を続けることでロケット弾や大砲でロシアの補給ラインを攻撃することができるようになる。 
●“支援疲れ”ロシア有利に…ゼレンスキー氏“直談判”も「ATACMS」供与見送り 9/22
ニューヨークでの国連総会に続いてワシントンを訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。異例の日程で、支援継続を“直談判”しましたが、アメリカ議会からは、冷ややかな反応も飛び出しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、4日間に渡るアメリカ訪問を終え、カナダに到着しました。カナダはウクライナ支援に最も協力的な国であり、今回の訪問でも新たな兵器の供与が予定されているといいます。
カナダ トルドー首相「カナダは最も弱い人々への影響を緩和するため、連帯と資金面での支援に邁進(まいしん)します」
カナダの熱量からは、アメリカが見せた熱量との差を感じざるを得ません。
アメリカ バイデン大統領「我々は、ウクライナが長期的な安全保障に加えて、主権・領土・自由を守れる軍を編成できるよう取り組んでいきます。未来の自由こそがすべてあり、アメリカが背を向けることは絶対にありません」
ゼレンスキー大統領への土産は、約480億円の追加軍事支援。防空システムの追加供与など一見、充実した支援のようにも見えますが「ついに供与が発表されるのでは」と言われていた重要兵器が入っていません。
『ATACMS』は、最大300キロ先のターゲットに精密射撃が可能な、いわゆる“戦術弾道ミサイル”です。弾頭の種類にもよりますが、200キロ以上の爆薬も搭載可能で、敵の指令基地や兵站施設の破壊に効率的とされています。ドニプロ川沿いに配備されれば、ウクライナが奪還を表明している、クリミア半島全土を狙えます。
ゼレンスキー大統領「ウクライナには長距離ミサイルが必要です。前線の遠くから都市を破壊する能力を占領者から奪うためです。ATACMS等の最重要兵器が供与されるよう全力を尽くします」
ただ、アメリカは「ロシア本土に届く兵器は渡せない」として、慎重姿勢を続けてきました。それが訪米直前「アメリカ政府がATACMSの供与に傾いた」という報道が駆けめぐりました。背景には、一足先にイギリスが供与したミサイル『ストームシャドー』がクリミアへの攻撃で成果を挙げているという情報があったのかもしれません。
アメリカ サリバン大統領補佐官「(Q.ATACMS供与を検討しているそうですが)検討した結果、今回はATACMS提供を見送りますが、将来的な可能性は排除していません」
先々の供与の可能性を示しつつも、今回はお預けとなりました。理由について、アメリカ側は明らかにしていません。
ウクライナ支援への温度感の低下は、アメリカ議会でも感じられます。9カ月前、初めてアメリカを訪問したゼレンスキー大統領。議会での演説は、上下両院の議員から大喝采を浴びていました。今回も連邦議会を訪れましたが、演説のためではありません。目的は議員への直談判です。現在、下院で多数を占める野党共和党。ウクライナ支援の予算案を通すには、共和党の賛成票が不可欠ですが、一部から反対を訴える声が上がっています。
アメリカ マッカーシー下院議長:「ゼレンスキー大統領との議論は生産的でした。多くの課題を投げかけました。問題は“金の使い道”に説明責任を果たせるのか。我々は単に現金を送っているだけではない。私は国内の財政を優先したい。優先順位というものがある『二兎を追う者は何とやら』だ」
ゼレンスキー大統領「(Q.追加支援を渋る議員らに何を伝えた)支援や戦況、わが国の計画、あらゆる議題に触れました。皆さんに詳細をお伝えすることはできないが、上院議員とは非常に踏み込んだ話ができました。(Q.プーチン大統領に伝えたいことは)何もない」
ウクライナにとって、満足のいく訪米ではなかったのかもしれません。ただ、ATACMSが一番必要になるのはクリミア奪還に本腰を入れる時であり、もっと未来の話という見方もされています。逆に、今すぐ必要なもの。追加供与が決まった防空システムはそれかもしれません。21日、ウクライナ各地に大規模なミサイル攻撃が行われました。首都で鳴り響いた空襲警報は、全面侵攻開始から累計1000時間を超えたといいます。アメリカを発つ前、ゼレンスキー大統領はこんなメッセージを残しました。 ゼレンスキー大統領「ウクライナ兵はかみついたら絶対に放さない。ロシアの侵略者をかみ砕き、息の根を止めます。ロシアの独裁者は、これほどの抵抗にあったことはないはずです。私たちは他国がこの戦闘に軍隊を投入する必要はないと確信しています。ウクライナは自らの手で戦争を終結させ、皆さんと勝利を分かち合うことができます」
日本時間22日午後8時ごろ、ロシア国防省が、軍港都市セバストポリにウクライナによるミサイル攻撃が行われたと発表しました。迎撃したものの、黒海艦隊司令部の建物が被害を受け、兵士1人が安否不明だといいます。2日前にも司令部に攻撃が行われ、ウクライナ側が関与を認めていました。
“重要兵器”供与見送り 影響は
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.今回のゼレンスキー氏の訪米、成果はあったのでしょうか)
兵頭さん「追加の支援を引き出すことはできましたが、長距離ミサイル『ATACMS』の供与は見送られました。ゼレンスキー大統領が期待した成果は必ずしも得られなかったと思います。国連の演説は、去年はオンラインで、今年は初めて対面で行ったにもかかわらず、スタンディングオベーションはなく、会場も空席がありました。ゼレンスキー大統領は今回、ロシアの批判のみならず、国連の批判を行っています。国際社会の関心をつなぎとめて、支援を維持することの難しさ。ゼレンスキー大統領の発言からもいら立ち・焦りのようなものを感じました」
(Q.『ATACMS』の供与が見送られたことについては)
兵頭さん「ウクライナ軍はクリミア半島への攻撃を強めていいて、後方の軍事拠点を攻撃することで、前線のロシア軍の勢いを弱めたい。『ATACMS』の射程は300キロで、より効果的な攻撃が可能になるため、ゼレンスキー大統領は切望していましたが、今回は見送られました。年明けから戦車、戦闘機と軍事支援のレベルが引き上げられてきましたが、どうも頭打ち感が出てきました。今後、アメリカの軍事支援のレベルアップが行われるのかどうか、不透明感も出てきました」
(Q.“支援疲れ”に拍車がかかる可能性もあるのでしょうか)
兵頭さん「旗振り役であるアメリカが慎重姿勢を見せると、ヨーロッパの国も支援レベルを引き上げることが難しくなる可能性があります。アメリカがどのような支援をしていくことができるか。ここが大きな焦点になると思います」
アメリカのシンクタンクによりますと、ザポリージャ州の西部でウクライナ軍が前進し、ロシア軍の防御線を突破しようとしていて、ロシア側は防ぐことができていないと分析しています。また、ウクライナ軍はクリミア半島をドローンとミサイルで攻撃し、黒海艦隊の施設に打撃を与えているとも分析。さらに、米CNNによりますと、アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が「ウクライナ軍は、ロシアに占領された地域の54%以上を解放した」と発言しています。
(Q.現状の戦況をどう見ますか)
兵頭さん「南部のザポリージャ州で、ウクライナ軍は確実に前進しています。ただ、面積からすると、それほど大きなものではありません。ミリー統合参謀本部議長も“開戦直後から全体で計算したら”54%は解放したと言わざるを得ない状況です。本来であれば、ウクライナ軍は年内にも、ロシアの支配地域を分断、アゾフ海に到達して、大規模な奪還を目指していましたが、どうやら難しくなっています。まずは、交通の要衝であるトクマクまで、年内に進軍できるかどうかが大きな焦点になると思います」
(Q.今後の戦況はどうなると思いますか)
兵頭さん「来月の後半から地面がぬかるんでくるので、戦車を使った戦闘は難しくなります。ロシアは来年3月の大統領選までは、追加動員は難しくなります。ただ、最近、北朝鮮に接近して大量の砲弾を入手しようとする動きもありました。プーチン大統領は選挙後の来年春以降、追加動員で戦力を増強し、攻勢に転じるのではないかという見方があります。一方、ウクライナは、兵器の支援がどこまで継続されるのか。兵器供与のレベル引き上げを実現できるかどうか。気がかりは来年秋のアメリカ大統領選です。共和党が政権を握るとなると、支援が弱まっていく可能性が高まります。今後、アメリカの内政も戦況に大きな影響を与えると思います」
●いまだ続くウクライナ侵攻、対ロシア制裁の「抜け穴」 効果を発揮していない 9/22
ロシアがウクライナに侵攻してからおよそ1年半、西側諸国はロシアに対してさまざまな経済制裁を行ってきました。しかし、そこにはいくつかの「抜け穴」があったとライターの沢辺有司氏は語ります。ウクライナ侵攻に至るまでの流れを踏まえ、対ロシア経済制裁の実態と日本への影響について紹介します。
ウクライナ戦争にいたった背景
2022年2月におきたウクライナ侵攻をめぐっては、西側諸国からロシア制裁が発動されています。経済制裁は地経学的な戦略です。どのような制裁が行われ、どのような影響がでているのか、ウクライナ戦争にいたる流れとともに見てみましょう。
2014年3月のクリミア併合後、その衝撃はウクライナ東部のドンバス地方に伝わり、ロシア系住民によるロシア編入を求める分離独立運動がおきました。ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国が樹立され、それぞれ独立を宣言しました。
これに対しウクライナ政府は軍を投入し、鎮圧にかかりました。ロシアからは「義勇兵」が送り込まれ、ウクライナは事実上の内戦状態に突入します。
2015年2月、フランスとドイツの仲介のもと停戦合意(ミンスク2)が結ばれますが、その後も散発的な戦闘がつづきます。2019年2月、ウクライナは憲法を改正し、将来的なNATO加盟の方針を決めました。その後に大統領に就任したゼレンスキーもこの方針を引き継ぎました。
ロシアがもっとも恐れているのは、このウクライナのNATO加盟です。
そもそも冷戦終結後、東西陣営間で「NATOは東方に拡大しない」という約束があったとされ、それを反故にされているというのがプーチンの主張です。
独立後のウクライナは、NATOに対して「中立」の立場をとってきましたが、2004年のオレンジ革命で発足したウクライナの親欧米政権のときからNATOやEUへの接近がはじまりました。親欧米政権のウクライナがNATOに加盟すると、ロシアの首都モスクワに向けたミサイル攻撃システムがウクライナ東部に配置される可能性があります。ロシアの安全保障が一気に脅かされることになります。
ヨーロッパの国々が強硬にでられない理由
2021年春以降、ロシアはウクライナとの国境付近に大軍を集結させ、西側ににらみをきかせました。一方、欧米諸国はロシアに経済制裁をかけ、ロシアの軍事行動を自重させようとしました。
しかし、ヨーロッパの国々はそれほど強硬にでられません。ロシアにエネルギーを依存しているからです。
アメリカは「ロシアのウクライナ侵攻がはじまる」とウクライナ危機をあおりましたが、この時点では、深刻なエネルギー不足の問題を抱えるドイツをはじめとするEU諸国はロシアとの関係悪化を望んでおらず、足並みはそろいませんでした。その意味では、エネルギーを依存させるロシアの地経学的戦略は効果を発揮していました。
プーチンは、ウクライナにNATO加盟断念の意思がないとみて、ウクライナ侵攻に踏み切ります。
ウクライナはNATO加盟国ではないので、アメリカやイギリスは軍事介入しませんが、かといって停戦の仲介もしません。ウクライナに武器弾薬を送って戦争を継続させます。
アメリカ、イギリスはオフショアから戦略をコントロールし、ウクライナとロシアを戦わせて、ロシアの弱体化、もっというとプーチン政権の転覆をねらいます。ウクライナ戦争は、「ウクライナを利用したアメリカ、イギリスとロシアの代理戦争」というのが実態といえます。
ロシアに痛手のはずが、ドイツやEU諸国にダメージ
ウクライナ侵攻後、西側諸国からロシアへの厳しい経済制裁が科されました。
対ロシア制裁のうち最初の重要な動きは、ドイツが「ノルドストリーム2」のプロジェクト承認を停止したことです。ノルドストリーム1は、従来のウクライナ経由のガスパイプラインにかわり、ウクライナを迂回してバルト海経由でドイツへつなぐパイプラインで、これとほぼ同じコースをとる新しいパイプラインがノルドストリーム2です。
天然ガス供給の拡大を見込んでいたロシアには痛手となるはずでした。ところが、これはどちらかというとエネルギー不足に悩むドイツやEU諸国にダメージとなったといえます。
ロシアは中国向けのガスパイプライン「シベリアの力」を開通させるほか、インドなどにも輸出を拡大させています。供給先には困っていません。原油についても、中国やインドに輸出しています。ロシアの原油生産量は、ウクライナ侵攻前と比べてやや減少に転じたものの、大きくは変わっていません。
次に金融制裁を見てみましょう。
欧米や日本は対ロシアの金融制裁として、ロシアの特定の銀行を国際的な決済ネットワーク「SWIFT」から締め出す措置をとりました。これは金融制裁のなかでももっとも強力な制裁です。これによりロシアの銀行は決済ができなくなるので、ロシア企業は輸出をしても代金をうけとれなくなります。ロシア経済には打撃となるはずです。
では、実際にロシア経済はどうなったでしょうか?  ロシアの2022年のGDPは、制裁の影響があらわれる前の2022年第1四半期は前年比プラス3.5%でしたが、第2四半期は前年比4.1%減、第3四半期は前年比4%減です。制裁がロシア経済にダメージをあたえています。しかし、当初の予測では2桁のマイナスになるといわれていたなかで、比較的小さなダメージにとどまっているという見方もできます。
理由として考えられるのは、今回の金融制裁はすべての銀行をSWIFTから締め出したわけではなく、国営ガス企業ガスプロムのグループ銀行など、一部の銀行を残したことです。
ヨーロッパには、いまだロシア産天然ガスに依存している国があります。エネルギー関係の決済までできなくしてしまうと、そうした国々がロシアから天然ガスの供給を受けられなくなる恐れがあることから、決済手段を残したのです。これがロシアの「抜け穴」になってしまったのです。
ハイテク部品のロシアへの輸出を禁止
地経学的な手段を使うときには、相手のチョーク・ポイントをピンポイントで攻撃することで大きな成果がえられます。
ロシアのチョーク・ポイントは、自国で製造できない半導体などのハイテク部品です。そこで西側諸国は、こうした製品のロシアへの輸出を禁止しました。
これによりロシアでは半導体などの部品不足が深刻になりました。自動車や航空機などの産業を中心に打撃をうけています。半導体は兵器にも使われますので、半導体の在庫が枯渇すれば、ロシアの兵器製造にも打撃となります。
しかし、ロシアはここでも「抜け穴」を探していて、対ロシア制裁には加わっていない中国やアラブ首長国連邦(UAE)などから半導体を調達しているとみられています。
制裁は制裁する側にも跳ね返ってくる
以上、いずれの制裁も期待された効果を発揮しているとはいえません。制裁の目的は、経済的にロシアを追い込んで、ロシアに戦争継続を断念させることですが、その段階にいたっていません。
対ロシア制裁に加わるのは、世界的にみれば一部の国であり、制裁に加わらない国々がロシアにとっての抜け穴となっています。
ちなみに2022年、ロシアがもっとも接近している中国との貿易額は前年比で3割増えました。ロシアは世界的な経済大国となった中国を利用するだけ利用して、この苦境をしのごうとしています。
しかし、中国依存が進みすぎるとロシアのアキレス腱となるリスクがあります。ロシアと中国は国境を接する「潜在的な敵国」です。
一方、制裁は制裁する側にも跳ね返ってくることを忘れてはいけません。ロシアは食料・肥料、エネルギーを自給していて、世界中に輸出している国です。このような国に制裁をすると、制裁した国の食料・肥料、エネルギーが不足し、物価が高くなり、インフレになります。事実、制裁に加わる欧米や日本では、インフレが進行する結果となっています。
●ポーランド政界に漂う「ウクライナ疲れ」の影 支援の論調はなぜ変わったのか 9/22
ウクライナをめぐるポーランド政府の論調の変化には驚かされる。
ロシアのウクライナに対する全面侵攻が始まった当初から、ポーランド政府はウクライナ政府の強固な支持者だった。
軍事援助や装備を率先して送ることも多かった。ロシアの侵略からポーランド自体を守るには、こうした支援が不可欠だと、熱弁を振るってきた。
しかしいま、突如として、ウクライナ政府に政治のナイフを突きつけているように感じる。
ウクライナはポーランドの支援に「感謝」すべきだという話が聞こえてくる。ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は20日、ウクライナへの武器供与を停止するという警告を発した。与党内には、このメッセージが与える影響を慌てて和らげようとする者もいた。
だが、ポーランド大統領の言葉には誤解の余地がなかった。アンジェイ・ドゥダ大統領はウクライナを、救助者を引っ張って巻き添えにする恐れのある溺れた人間になぞらえたのだ。
ロシア政府は、このコメントを喜々として受け止めた。
総選挙を念頭に
この隣国間関係の急激な悪化は、いまだ解決されていないウクライナ産穀物の輸入をめぐる論争から始まった。
ウクライナは収穫した農産物を輸出する必要がある。ロシアは黒海とドナウ川の両方の港を意図的に攻撃しており、現在は陸路の輸出ルートが非常に重要になっている。しかしポーランドは、自国の農家を守るために、安価なウクライナ産穀物が国内市場に出回ることを許可していない。唯一認めているのは、欧州連合(EU)のほかの国に運ぶ目的でウクライナ産穀物が自国を通過することだ。
ポーランドの与党・法と正義(PiS)にとっては、簡単な方程式だ。ポーランドの農家はウクライナ産穀物との競争を望んでいない。そして、PiSは10月の総選挙で農家から票を集めたい。そういうことだ。
ウクライナ政府はこれに激怒しているが、ポーランド国内の放送メディアやソーシャルメディアは、選挙に絡んだ話題であふれかえっている。その論調は時に、衝撃的なほど悪意に満ちている。
世論調査ではPiSが優勢ではあるものの、僅差の戦いになっている。大半のコメンテーターは「あまりに接戦で勝敗の予測がつかない」としている。
PiSは票の争奪戦において、自らをポーランドの利益を守る最強の擁護者と位置づけている。つまり、ウクライナをどのように支援するかを再定義することは、移民政策といった一般大衆に向けた大義名分と並ぶ手段のひとつに過ぎない。
ポーランドのポリティカ・インサイト分析グループのピョートル・ルカシェヴィチさんは、「穀物や武器が問題なのではない。重要なのは保守的な有権者の心情だ。これはPiSにとって大きな問題であり、この心情の波に乗らなければならない」と述べた。
「ウクライナは(ポーランドの支援に対して)十分な感謝を示しておらず、ウクライナ人は社会サービスや財政面であまりに多くのことを得すぎている、という見解から生まれた流れだ」と、ルカシェヴィチさんは説明した。
PiSは極右政党「コンフェデラツィア」を支持する有権者を獲得しようとしている。コンフェデラツィアの現在の支持率は約10%。
コンフェデラツィアのメンバーは今週、ポーランドの首都ワルシャワにあるウクライナ大使館でピケを張り、ポーランドの支援に対する偽の請求書を掲げた。同党は、ウクライナ政府支援には総額1000億ズウォティ(約3兆4200億円)超がかかっていると主張。紙には「支払い:ゼロ。感謝:なし」と書かれていた。
野党の政治家たちは、政府の行動を危険なナショナリズムだと非難している。
しかし、ポーランドでのこうした論調の変化は、単独で起きているわけではない。
「ウクライナ疲れ」の影は、選挙キャンペーンが展開されているスロヴァキアからアメリカまでにおいて漂っている。ロシア軍と戦い、欧米諸国からの継続的かつ強固な支持を必要としているウクライナ政府にとっては非常に深刻な状況といえる。
ポーランド東部ルツェツォフは、戦車から銃弾まであらゆるものが集まる重要な拠点となっている。ポーランド政府は、ルツェツォフを経由して、ウクライナの前線にはこれからも国際援助が届き続けると強調している。こうした中、ウクライナとポーランドの間では、穀物をめぐる協議が続けられている。
「言葉が重要」
舌戦が本格的な危機へとエスカレートするのを防ごうとする努力は、ウクライナとポーランド双方にあるように見える。
PiSが地方の保守票を追い求める中、ここワルシャワでは依然、ウクライナ支持が根強い。
「援助を制限するのは明らかによくない。ロシアがやっていることは容認できない。私たちは私たち自身を守り、ウクライナが自分たちの自由を守るのを助けるべきだ」と、ヴィクトリアさんは私に話した。この街ではいまも、連帯を示すためにアパートの窓からウクライナ国旗がたくさん掲げられている。そして、ウクライナからの難民も大勢暮らしている。
「政府が選挙に勝つために使う手段なんだと思う。政府はあらゆる感情を利用して、選挙前に汚い演説を行う」と、ラファさんは示唆した。
「口先だけであることを願っている。誰が選挙で勝つかによる。1カ月後にははっきりするだろう」
一方、ポーランドへの損害がすでに出ていると見ている人もいる。
「言葉が重要だ」と、前出のルカシェヴィチさんは主張する。「(言葉は)結果をもたらすだろう。ポーランドにとって悪い結果を。私はそう思う」。
●ウクライナ戦争で「一人勝ち」米国が世界一のエネルギー供給国へ 9/22
昨年のロシアによるウクライナ侵攻から1年半が過ぎましたが、いまだ決着のめどが立ちません。ウクライナの反転攻勢も狙い通りの成果が上がりません。ゼレンスキー大統領は19日、国連で演説し、各国の理解と支援を求めました。こうした膠着状態の裏で周辺国の明暗がはっきりしてきました。米国の一人勝ちに対して、中国の劣勢が顕著となっています。
ウクライナ戦争に勝敗の目途立たず
今回のウクライナ戦争、初めから不自然な戦争でしたが、ロシアもウクライナももう1つ決め手に欠けています。
ロシアは親ロシア地域の救済を超えてウクライナ全土を攻める大義がなく、世界の批判を招き、経済の疲弊も見えます。
ウクライナもNATOが戦争の矢面に立ちたくないだけに、中途半端な反転攻勢にとどまり、混乱が長引くばかりです。ウクライナ国民の「敗者」は明白ですが、「勝者」は見えません。
攻めているだけのロシアには「負け」がないとしても、勝てない侵攻のまま終わるわけにはいきません。ウクライナも単独ではロシアに劣勢ながら、NATOの支援があり、NATOも簡単には引き下がれません。
ロシア、ウクライナともに国民に「成果」を示すものをもって停戦交渉に持っていくしかありません。いずれもそのための「有利な条件」を模索しています。
米国の一人勝ち
その中で、米国の「一人勝ち」が目立ちます。
戦争当事国はもとより、その影響を受ける多くの国が、エネルギーや穀物の供給減、価格高騰に苦しみ、経済の悪化を余儀なくされています。
欧州ではロシア産ガスの供給減でドイツ経済が大きな打撃を受けました。アフリカや途上国でも食糧難、物価高で経済が悪化しています。
その中で米国だけがウクライナ戦争の恩恵を大きく受けていて、あたかも「一人勝ち」の様相です。
昨年の戦争開始以来、米国の武器産業はクラスター爆弾やダーティ・ボムの在庫整理ができただけでなく、武器弾薬の生産が高まり、フル操業と言います。そのすそ野産業も潤い、雇用、所得増につながっています。
さらに欧州でロシアからの天然ガスの供給が減った分、米国がシェールガスの生産を増やして肩代わりし、今年は天然ガスの輸出でもカタールを抑えて世界一の座を奪いそうです。石油についてはすでに米国が世界一の産油国になっていて、ウクライナ戦争を機に、米国は世界一のエネルギー生産、供給国にのし上がりました。農産物の生産輸出も好調です。
ウクライナ特需に湧く米国
この「ウクライナ特需」もあって、米国は旺盛な需要を獲得、FRBの急激な金融引き締めの中でも高い成長を維持しています。
金融引き締めの影響が懸念された今年の成長率は、1-3月の年率2%成長のあと、4-6月も2.1%と、長期トレンド成長率と目される1.8%を超える成長を続けています。さらに、アトランタ連銀の「GDPナウ」によると、この7-9月はここまでのでデータで推計すると年率4.9%成長に加速していると言います。
ウクライナ戦争の「裏の勝者」は米国と言えそうです。
米英の「軍産系」もそろそろ停戦の準備に入った?
もともとウクライナの親ロシア地域を不安に陥れ、ロシアをウクライナにおびき寄せたのが米英の軍産系とも世界支配層ともいわれています。実際、軍産系は明らかにこの戦争で利益を得ていて、戦争をいつまでも続けるインセンティブを持っています。
またバイデン大統領は息子のハンター氏とともに、ウクライナで地位を利用した利益を得たとの疑惑があり、これを守ってくれるゼレンスキー大統領を支援する必要があります。
しかし、来年の大統領選挙で負ければ、共和党はウクライナ支援を縮小する可能性があり、バイデン親子の秘密保持も怪しくなります。
このため、現政権はその前にウクライナ優勢の形に持って行き、その下で西側主導の停戦交渉を考えている節も見えます。
それが最近打ち出したウクライナへの10億ドルの追加支援です。ウクライナの反転攻勢を強化し、プーチン大統領に打撃を与えれば、停戦交渉が有利に展開できるとの算段です。
中国が敗者
この米国と対照的に、中国の「負け」が濃厚となっています。
西側によるロシアの金融機関制裁、つまりSWIFTからの排除は、中国に大きな衝撃を与えました。中国は実質的にドルリンクの経済で、ドル調達の道を閉ざされれば経済は窒息死します。中国が台湾進攻に出れば、米国が中国の金融機関をSWIFTから排除するリスクを強く感じたはずです。実質的に台湾進攻が困難になりました。
それだけではありません。実質ドルリンクの中国は米国の金融政策に合わせなければなりませんが、米国の急激な金融引き締めは大きな負担になります。ドル金利に合わせて利上げをしないと、中国の資金は米国など海外に流出し、人民元が下落します。
しかし、現在の中国は不動産バブルの実質崩壊、地方債務の膨張で引き締めどころではありません。
実際、逆に部分的な利下げ、預金準備率の引き下げなどを余儀なくされ、人民元は1ドル7.3元の危機ラインを超えました。それだけ資金が流出し、意図せざる金融引き締めが起きています。政府は強烈な資本規制で資金の流出を抑制せざるを得なくなっています。中国の経済があまりに弱まると、習近平政権が揺らぎ、米国の中国に対する「新冷戦」が維持できなくなります。
このため、日銀に圧力をかけ、金融緩和を維持して中国を支援するほか、FRBもインフレ抑制の利上げに手加減するようになりました。弱すぎる中国では利用価値が下がるためです。
ロシアもトルコに裏切られた
ウクライナ戦争の決着はつきませんが、ロシアも実質的には敗北と言えます。
ウクライナ東部の親ロシア地域の奪回とウクライナのNATO加盟阻止が直接的な狙いでしたが、NATOの東進阻止には失敗しました。トルコのエルドアン首相に裏切られた感があります。
NATOに加盟するトルコのエルドアン首相はプーチン大統領と近く、NATOとロシアの橋渡しの役割を果たしていましたが、そのトルコがスウェーデンのNATO加盟を認めてしまいました。ロシアには大きな打撃で、NATOが東側に拡大してロシアを脅かす形になります。ウクライナを抑えているすきにスウェーデンのNATO加盟を許してしまいました。NATOの東進を許したという点で、これはロシアの敗北です。
ウクライナ戦争膠着の裏で米国が微笑み、中国の地位が低下していますが、そのほかではインドが中国に変わって影響力、存在感を高め、イランがかつてのペルシャ帝国を、トルコがかつてのオスマン帝国の復活を目指して台頭しつつあります。
ウクライナ戦争の裏で、世界では大きな地殻変動が起きています。
●ウクライナ軍 南部でロシア防衛線さらに突破か 9/22
領土奪還を目指すウクライナ軍は、南部ザポリージャ州でロシア側の防衛線をさらに突破したという見方が出ています。ウクライナ軍は南方のロシア軍の交通の要衝を目指していて、激しい攻防が続くとみられます。
ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で反転攻勢を続けていてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、21日「ウクライナ軍の装甲車部隊がザポリージャ州西部で最終防衛線を突破しようしている」と指摘しました。
「戦争研究所」は、完全に突破したかどうかは確認できないとする一方で「ロシア軍が設置した3重の防衛線を越えた所でウクライナ軍の装甲車が確認されたのは初めてだ」と分析しています。
またアメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は21日、現地のウクライナ軍空てい部隊の将校の話としてザポリージャ州西部のロシア軍の拠点ベルボベ近くでロシア側が設置した戦車を阻止する障害物などを乗り越え、ウクライナ軍の装甲車の移動が可能になったと伝えました。
ウクライナ側にも多くの損害が出ていると指摘していますが「3か月半にわたるウクライナ軍の反転攻勢の重要な節目だ」と報じています。
ウクライナ国防省の高官は今月1日ロシア軍の第1防衛線を突破したと主張し、さらに南方のロシア軍の交通の要衝トクマクの奪還を目指していて、激しい攻防が続くとみられます。
一方、南部ヘルソン州の当局は、22日、ロシア軍が住宅街で砲撃を行い、これまでに8人が死亡したと発表し、ロシア軍による激しい攻撃が続いています。
●北朝鮮の金総書記、政治局会議で訪ロの成果説明 関係強化策を協議 9/22
北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は22日、金正恩朝鮮労働党総書記が20日の党中央委員会政治局会議で先のロシア訪問について説明し、今後の方針を協議したと伝えた。
金氏は先週、ロシアでプーチン大統領と会談し、軍事・経済協力の強化で合意した。
KCNAによると、政治局会議の出席者らは訪ロの成果を実践的かつ包括的に実行に移す方法や、ロシアとの関係発展に向けた建設的で長期的な措置について議論した。
金氏はあらゆる分野の協力を全面的に拡大・発展させるため、両国の関連分野間で緊密な連絡と協力を強化する必要性を強調したという。
KCNAはまた、金氏の訪ロが両国関係を「新時代の要請に応える新たな戦略的レベルに位置づけ、世界の地政学的状況に激変をもたらした」とした。
●ロシア セバストポリのロシア黒海艦隊司令部が“攻撃受けた” 9/22
ロシア国防省は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアにあるロシア海軍の黒海艦隊の司令部がミサイル攻撃を受け、損壊したと発表しました。
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアのロシア側の地元幹部は22日、SNSで軍港都市セバストポリにあるロシア海軍の黒海艦隊の司令部がミサイルによる攻撃を受けたと明らかにしました。
ウクライナのメディアはセバストポリで爆発音がしたとしているほか、白い煙があがっているとする写真などを伝えています。
またロシア側の地元幹部は、黒海艦隊司令部で消火活動が行われているとしているほか、ロシア国営のタス通信は司令部への攻撃によって、およそ200メートルにわたってがれきが散乱していると伝えています。
ロシア国防省は「ウクライナ軍のミサイル攻撃に対し、5発のミサイルを迎撃した。攻撃で黒海艦隊司令部の施設が損壊した」と発表しました。また、兵士1人が死亡したと発表しましたがその後訂正し、「兵士1人の安否が確認されていない」としています。
一方、ウクライナ空軍の司令官はSNSで黒海艦隊の司令部とみられる施設から煙があがっている様子の映像とともに「われわれは新たな攻撃があると言っていた。セバストポリはウクライナ海軍の都市だ」などと投稿し攻撃への関与を示唆しました。
領土の奪還を目指して反転攻勢を続けるウクライナ軍は、最近、クリミアの黒海艦隊に対してミサイルや無人機による攻撃を続けているとみられ、ロシア側も警戒を強めています。

 

●ロシア・プーチン政権の威信は失墜、ナゴルノ・カラバフでアルメニア降伏 9/23
9月19日から20日にかけて、アゼルバイジャンは隣国アルメニアとの係争地ナゴルノ・カラバフで軍事作戦を展開し、アルメニア人勢力を降伏させました。今回の軍事作戦はウクライナ戦争の動きとも連動しており、アルメニアを支援してきたロシアの威信失墜にもつながります。プーチン政権にとっては外交上の痛手となるわけですが、今回はこのナゴルノ・カラバフ紛争や、アゼルバイジャンとアルメニアについて歴史を振り返りながら解説します。
これまで2回の紛争が発生
これまで、アゼルバイジャンとアルメニアの間で、2回のナゴルノ・カラバフ紛争が起こっています。
1922年以降、両国はソ連に編入されていましたが、1991年、ソ連の解体によって、独立します。しかし、それまで、ソ連の存在によって抑えられていた両国の民族対立が表面化し、アルメニアとアゼルバイジャンの間で、ナゴルノ・カラバフ地域の帰属問題が発生します。
軍事的な衝突が起き、第1次ナゴルノ・カラバフ紛争となります。この紛争では、アルメニアが優勢のまま、周辺地域を含めて実効支配します。もともと、ナゴルノ・カラバフ地域では、アルメニア人が多数派を占めていました。
   ナゴルノ・カラバフの場所
2020年、両国の間で紛争が再燃し、第2次ナゴルノ・カラバフ紛争が起こります。双方が相手国を空爆し、多くの犠牲者が出ました。ナゴルノ・カラバフ地域はアゼルバイジャンに奪い返されました。アルメニアは停戦に合意しています。
それまでの十数年、アゼルバイジャンはバクー油田などを持つ産油国として、急激に経済成長を遂げました。アゼルバイジャンは豊かな財政で軍備を増強するなど、アルメニアに大きな差を付けます。
一方、アルメニアでは、2018年、民主化で自由主義的な政権が誕生し、新政権は従来の親ロシア路線を修正し、欧米に接近しました。アルメニアとロシアの不和を見越したアゼルバイジャンがトルコの支援を得て、強硬路線に踏み切り、第2次ナゴルノ・カラバフ紛争に勝利したのです。
2020年の第2次ナゴルノ・カラバフ紛争で、既に、アゼルバイジャンの優勢と同地域の実効支配が固まっていましたが、その後も同地域のアルメニア人武装勢力は抵抗を続けていました。
それが今回、アゼルバイジャンは最終的にアルメニア人武装勢力の排除に成功したのです。
ウクライナ戦争で訪れた軍事作戦の好機
ウクライナ戦争に忙殺されるロシアには、ナゴルノ・カラバフに介入する余裕はないことは明らかであり、アゼルバイジャンにとっては、今が電撃的な軍事作戦を展開する好機だったのです。
メディアでは、「ロシアの平和維持部隊の提案を受けて、アルメニア人武装勢力が停戦を決めた」ということが報道されていますが、実際には、ロシアがさじを投げた格好です。
ウクライナ戦争はナゴルノ・カラバフ紛争の最終決着という、思わぬ副産物を生んだのです。同地域におけるロシアの影響力もまた、完全に排除されたと言えます。
民族系統はどうなっているのか
「コーカサス三国」という言い方がありますが、これはコーカサス山脈の南部のジョージア(旧名グルジア)、そして、アルメニアとアゼルバイジャンの3つの国を指します。
コーカサス三国は旧ソ連から独立した共和国です。コーカサス山脈の北側地域はロシア連邦領となっています。コーカサス地方はコーカサス山脈周辺の国や地域一帯のエリアで、黒海とカスピ海の間に挟まれたアジアとヨーロッパを結ぶ回廊を成す地域です。
北にロシア、南にトルコとイランが隣接しています。「コーカサス」は「カフカス」とも発音されます。ヨーロッパ、アジア、中東の結節点であり、地球上で最も多様な民族が集まる「人種のるつぼ」として、様々な民族の混血が存在しています。
コーカサス三国の人々はロシア白人に近いのでしょうか、それとも、トルコ人やイラン人に近いのでしょうか。
はっきりしているのはアゼルバイジャン人です。アゼルバイジャン人の多くはトルコ人です。「アゼルバイジャン・トルコ人」と呼ばれることもあり、カスピ海を挟んで対岸のトルクメニスタン人とほとんど同じです。
ただし、かつてロシア領(帝政時代)、ソ連領だったこともあるため、ロシア人とも混血しています。容貌は中央アジア人とほとんど同じです。
言語であるアゼルバイジャン語はトルコ語に属し、トルコ共和国語やトルクメニスタン語(トルクメン語)に近似しています。主な宗教はイスラム教です。
「多重多層民族」であるアルメニア人
一方、アルメニア人はコーカサス人、トルコ人、ロシア人、イラン人などの容貌の全ての要素を含みます。アルメニア人がどの民族に最も近いかを言うのは困難です。アルメニア人は「コーカサス三国」の民族の中で、最も混血が複雑多様化している民族です。各民族の行き交う十字路にあって、様々な民族の血を複合的に取り込んだ「多重多層民族」であり、それだけに、美しい容貌を持つ人が多いとされます。
アルメニア語はインド・ヨーロッパ語族に属します。アルメニア文字はギリシア文字から創案され、ペルシア語の影響も強く受けています。彼らの言語もまた、ヨーロッパ語に近いのか、ペルシア語に近いのかを言うのは困難です。
主な宗教はキリスト教(アルメニア正教)です。かつて、アルメニア人がロシア人と連携して、アゼルバイジャンに対抗していたのは同じキリスト教正教を奉じているからです。一方、イスラムのアゼルバイジャンはロシアとの関係は良好ではありません。
アルメニア人は自らの国家を持ちませんでした。セルジューク朝やオスマン帝国のトルコ人に支配されたり、イラン人に支配されたり、ロシア帝国に支配されたり、その時代における強者に従属し続けました。従属を嫌ったアルメニア人は故郷を離れ、世界中に離散します。こうしたことから、ユダヤ人のディアスポラ(離散)にたとえられることもあります。
世界各地のアルメニア人はアルメニア正教会を中核とした連帯意識を強く持ちながら、交易を活発に行い、富を蓄えました。アルメニアは301年、世界で最初にキリスト教を国教としています。
コーカサス地域でトルコが優位に
第1次世界大戦がはじまると、オスマン帝国は領土内の多数のアルメニア人をロシアに協力する敵性民族として、迫害します。1915年、アルメニア人虐殺がはじまります。
現在、アルメニア政府はこの事件を、民族根絶を狙った「ジェノサイド(集団虐殺)」であると主張し、その犠牲者は150万人以上になるとしています。研究機関によっては、数十万人ともされており、はっきりとした犠牲者の数はわかっていません。この事件を巡って、今日でも、アルメニアとトルコとの間で、論争が続いています。
こうした背景からも、トルコはアルメニアと敵対し、アゼルバイジャンを支援しています。19世紀、コーカサス地域の支配権を巡り、ロシア帝国とオスマン帝国が対立してきましたが、今日、この地域への影響力では、ロシアに対するトルコの優位が定まったと言えます。
●バイデン政権、ウクライナにATACMSを少数提供へ−関係者 9/23
米バイデン政権は、ウクライナに長距離ミサイルシステム「ATACMS」を少数提供することで合意した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ゼレンスキー大統領からの提供要請に応えたものだという。
バイデン大統領は当初、ATACMSの提供に消極的だったが、方針を転換した。ゼレンスキー大統領は、ロシアが占領する奥深くの地域にある標的を攻撃できるよう、バイデン大統領に対しATACMSの提供を繰り返し要請してきた。
バイデン大統領はゼレンスキー大統領が21日にワシントンを訪問した際、決定を伝えたと、関係者の1人は述べた。
ホワイトハウスと国務省はコメントを控えた。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は21日の記者会見で、バイデン大統領はこれまで「ATACMSを供給しないと決意しているが、同時に将来の選択肢からは外していない」と説明していた。
この決定については、NBCニュースが22日に先んじて報じた。
米当局者はこれまで、ATACMSを提供すればウクライナがロシア国内の標的攻撃に利用する可能性があり、ウクライナ国外に戦争が拡大する恐れがあるとして、慎重な姿勢を続けていた。ウクライナ以外の紛争に必要になる可能性があるため、米国のATACMSの在庫に不安があるとの懸念も当局者は挙げていた。
ATACMSの供給決定で、ドイツが一段と射程距離の長い巡航ミサイル「タウルス」の提供に踏み切る道も開かれそうだ。米国の決定に対し、ドイツ政府の反応は今のところない。
●バイデン大統領 地対地ミサイルATACMS ウクライナに供与方針か 9/23
アメリカのNBCニュースはウクライナが強く求めている射程の長い地対地ミサイル「ATACMS」について、アメリカのバイデン大統領がゼレンスキー大統領に供与する方針を伝えたと報じました。反転攻勢を進めるウクライナ軍を後押しするねらいがあるとみられます。
アメリカのバイデン大統領は21日、ウクライナのゼレンスキー大統領とホワイトハウスで会談しました。
これにあわせてバイデン政権は最大で3億2500万ドルの追加の軍事支援を発表しましたが、ウクライナが強く求めている最大射程が300キロの地対地ミサイル「ATACMS」は含まれていませんでした。
このミサイルについてアメリカのNBCニュースは22日、複数のアメリカ政府当局者などの話として、バイデン大統領がゼレンスキー大統領に対し、供与する方針を伝えたと報じました。
ただ、当局者らは、ミサイルが実際に供与される時期や発表の時期については明らかにしなかったとしています。
「ATACMS」をめぐっては、ロシア領内の奥深くまで攻撃できるため、ロシアを過度に刺激するおそれがあると指摘され、バイデン大統領はこれまで供与に慎重な姿勢を示していました。
バイデン大統領としては、ウクライナ軍が反転攻勢を進める中、ウクライナ軍を後押しするねらいがあるとみられます。
ブリンケン国務長官 ゼレンスキー大統領 ともに明言避ける
アメリカのブリンケン国務長官は22日、ニューヨークで開いた記者会見で「ATACMS」のウクライナへの供与について質問され「何も言うことはないし、発表することもない」と述べました。
一方、ゼレンスキー大統領は訪問先のカナダで記者団から問われ「バイデン大統領と協議したことの大半は合意に達することができるだろう」と述べるにとどめ、明言を避けました。
●ゼレンスキー氏、カナダの支援に謝意 「ロシアに敗北を」 議会演説 9/23
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日、訪問先のカナダで首都オタワの議会で演説し、ロシアと戦う中でカナダの支援が数千人の命を救うのに役立ったと語り、カナダの援助に謝意を表明した。
カナダ政府は2022年2月のロシアによる全面侵攻開始以降、ウクライナの防衛を力強く支持。22年初め以降、カナダはウクライナに約18億カナダドルの軍事援助を含む80億カナダドル(約59億ドル)を超える支援を確約している。
ゼレンスキー氏がカナダを訪問するのは全面侵攻開始以降で初めて。議会で「カナダがウクライナに兵器や装備を供与したおかげで、何千人もの命が救われた」とし、「ロシアに対する制裁でカナダがリーダーシップを発揮したことで、世界の他の国々がカナダに続いた」と語った。
その上で「ロシアがウクライナにジェノサイド(民族大量虐殺)を再び持ち込むことがないよう、また、そのようなことを再び試みることが決してしないよう、ロシアを決定的に敗北させなければならない。そしてロシアは敗北する」と述べた。
ゼレンスキー氏が登壇する直前、カナダのトルドー首相はウクライナに装甲車50台を供与するため、3年間で6億5000万カナダドルの追加軍事支援を実施すると発表。このほか、西側諸国の戦闘機「F16」でウクライナ軍のパイロットを訓練するためにトレーナーを派遣することも明らかにした。
トルドー首相は「揺るぎない支援を提供し続けるため、カナダは北大西洋条約機構(NATO)を含むパートナーとの協力を続ける。そして、ウクライナが強く、ダイナミックで、豊かな民主主義国家であり続けられるよう、来年もウクライナに対する経済支援を継続する」と述べた。
その後、両首脳は共同記者会見に臨み、トルドー首相は「カナダによるウクライナへの支援は揺るぎなく、今後も変わることはない」と改めて表明。「ウクライナはわれわれ全てを守るルールに基づく秩序のために立ち上がり、戦い、命を落としている。ウクライナがこの戦争に勝利することはカナダ国民の利益になる」と述べた。
トルドー首相はまた、ウクライナ戦争に関与している疑いのある63のロシアの個人と団体を制裁対象に新たに加えると表明。ウクライナと共同で、中央銀行資産を含むロシアの資産の差し押さえと没収について、政策決定者に助言を行う専門家チームの設立を支援することも明らかにした。
カナダ訪問に先立ち、ゼレンスキー氏は19日に米国のニューヨークで国連総会に出席した後、21日にワシントンでバイデン米大統領と会談。国防総省や連邦議会も訪問した。 もっと見る
米国では野党・共和党内ではウクライナへの追加支援に懐疑的な見方も出ているが、カナダではそうした分断はない。ただ、カナダには米国やドイツなどの主要支援国のような財政力や軍事的な蓄えはない。
ゼレンスキー氏はこの後、カナダ最大都市トロントに移動し、カナダのビジネスリーダーとの会合などに参加する。
カナダには140万人のウクライナ系住民がおり、ウクライナ、ロシアに次いで世界で3番目に多い。
●ゼレンスキー大統領 カナダの軍事支援に感謝 9/23
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻後、初めてカナダを訪問し、議会での演説でカナダからの軍事支援に感謝を示しました。
ゼレンスキー大統領は、軍事侵攻後、初めてカナダを訪れ、22日、首都オタワでトルドー首相や閣僚らと会談しました。
このあと、ゼレンスキー大統領はトルドー首相とともに議会で演説しました。
冒頭、トルドー首相はウクライナへ装甲車50台を供与するため、新たに3年間で6億5000万カナダドル、日本円にしておよそ715億円の支援を行うことや、ウクライナに供与されたF16戦闘機のパイロットを訓練するためのトレーナーを派遣することなど、新たな支援を約束しました。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「カナダによるウクライナへの武器や装備の支援は、何千人もの命を救った」と述べて、これまでの支援とともに新たな軍事支援にも感謝を示しました。
カナダではウクライナ系の住民がおよそ140万人と、ウクライナとロシアに次いで多く、軍事侵攻以降も、避難してきた17万5000人以上を受け入れていることもあり、ゼレンスキー大統領が感謝を述べるたびに議場では盛大な拍手が何度も沸き起こっていました。
●ウクライナ、クリミアのロシア黒海艦隊司令部をミサイル攻撃 9/23
ウクライナ軍は22日、ロシアが2014年に一方的に「併合」した南部クリミアのセバストポリにあるロシア黒海艦隊司令部の攻撃に成功したと発表した。ウクライナ軍は詳細を明らかにしていないが、ロシア国防省は同司令部が少なくとも1発のウクライナ軍のミサイル攻撃を受け、軍人1人が行方不明になっていると発表している。
ロシア国防省は以前の声明でこの軍人が死亡したとしていたが、これを修正した。合計5発のミサイルを迎撃したとしている。
セバストポリでロシア側のトップを務めるミハイル・ラズボジャエフ氏によると、攻撃により火災が発生しており、当局は住民に対し海軍の建物がある市中心部を避けるよう呼びかけている。民間人の死傷者や民間インフラへの被害は出ていないという。
また、クリミアのロシア当局者によると、大規模なサイバー攻撃によってクリミア半島のインターネットサービスが中断されている。
●ウクライナでの戦闘、欧州経済にさらに悪影響=スイス中銀調査 9/23
スイス国立銀行(中央銀行)は22日に公表した調査で、ウクライナでの戦闘が欧州全体の経済成長を低下させ、インフレ率を「大幅に」押し上げ、今後さらに悪影響を与えるとの見通しを示した。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、欧州ではエネルギー価格の高騰や金融市場の混乱、ロシアとウクライナ両国の経済の急激な悪化が見られたと指摘。
戦闘がドイツ、英国、フランス、イタリア、スイスに与えた経済的影響を調べたところ、ウクライナ侵攻がなかった場合には22年第4・四半期の国内総生産(GDP)は0.1─0.7%高くなり、それぞれの国の消費者物価指数(CPI)は0.2─0.4%押し下げられていたと試算した。
調査には「戦闘の悪影響は、中長期的にはとりわけ実体経済ではるかに大きくなる可能性が高い」とし、「1─2年後の影響はおよそ2倍となる可能性が高い」と記した。
最も大きな影響を受けたドイツは、ウクライナ侵攻がなければ22年第4・四半期のGDPは0.7%高く、インフレ率は0.4%低くなっていたと試算した。
調査は議論のたたき台を提供するもので、必ずしもスイス中銀の見解ではない。 
●ウクライナ “クリミア ロシア黒海艦隊へ攻撃成功”狙いは? 9/23
ウクライナ国防省は22日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにあるロシア黒海艦隊の司令部への攻撃が成功したと発表しました。領土の奪還を目指して反転攻勢を続けるウクライナ軍は、このところクリミアにあるロシアの軍事施設への攻撃を強めています。
ウクライナ国防省 “ロシア黒海艦隊司令部への攻撃 成功”
ウクライナ国防省は22日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの軍港都市セバストポリにあるロシア海軍の黒海艦隊の司令部に対する攻撃が成功したとSNSで発表しました。
黒海艦隊の司令部への攻撃について、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は地元のメディアに対して、ロシア側では少なくとも9人が死亡、16人が負傷し、けが人の中には軍の司令官も含まれていると主張しています。
軍がクリミアにあるロシア軍の施設への攻撃を強めていることについて「ロシアの防空システムが十分に機能していないことを示すものだ」と強調しています。
ウクライナ軍は23日もロシア軍施設への攻撃を続けているとみられ、ウクライナのメディアは黒海艦隊の施設の付近で火災が起きていると伝えているほか、地元のロシア側の幹部も、防空システムが作動しミサイルの破片が落下したと、SNSに投稿しています。
ロシア国防省“兵士1人の安否確認できていない”
ロシア国防省も22日、黒海艦隊の司令部の建物がミサイル攻撃を受け、兵士1人の安否が確認できていないとしています。
クリミアへの攻撃 8月から9月にかけ活発に
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは、8月から9月にかけて、ウクライナ軍による攻撃が活発になっています。
ウクライナ軍は9月13日、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市セバストポリに、イギリスから供与された巡航ミサイル「ストームシャドー」などで攻撃を行いました。これによってドックで修理中だった潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌー」や、揚陸艦「ミンスク」に損傷を与えたと伝えられています。
またイギリス国防省は「ドックは、残骸の撤去作業などで何か月もの間使用できなくなり、黒海艦隊にとって運用面で重大な課題を突きつけた」としています。
ウクライナ側はその翌日14日、クリミア半島の西部エウパトリヤ近郊にあるロシア軍の最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」を攻撃したと発表しました。クリミアでは、先月もS400が破壊されたばかりで、クリミア周辺の防空に力を入れるロシア軍に深刻な影響を与えたとみられます。
またウクライナ国防省情報総局は、特別作戦を実施して黒海にある天然ガスなどの掘削施設を奪還したと今月11日、発表しました。この施設には、船の動きなどを追跡できるレーダーシステムがありロシアが軍事目的で使用していたとしています。
情報総局は特殊部隊が施設に踏み込んで奪還したとする映像をSNSに投稿し「これはウクライナにとって戦略的な意味がある。ロシアは黒海の海域を支配できなくなった。ウクライナはクリミアの奪還に何歩も近づいた」と作戦の意義を強調しています。
クリミア攻撃激化 ウクライナ政府高官「3つのねらい」
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、今月18日、NHKのインタビューに応じ、ウクライナ南部のクリミアで攻撃が活発化していることに関連し、ウクライナの軍や特殊部隊には3つのねらいがあると明らかにしました。
1つ目のねらいについてポドリャク氏は「クリミアの空を穴だらけにすることだ」と述べ、効果的に攻撃を進めるためにもまずは、クリミアにあるロシア軍の防空システムを破壊することが重要だと指摘しました。
そしてポドリャク氏は、ロシア軍はクリミアに200以上の備蓄倉庫などを持ち、前線への供給の80%がクリミアを通じて行われているとした上で「補給路を破壊することでロシアの戦闘能力も大幅に引き下げられる」と述べクリミアからの補給路を断つことが2つ目のねらいだとしています。
3つ目のねらいについては、ウクライナ産の農産物輸出に欠かせない黒海の制海権をロシアから取り戻すことだとした上で「われわれの無人艇は、ロシアの黒海艦隊を非常に効果的に脅かしている。今後も脅威は増す」と述べ攻撃は続くと強調しました。
一方、クリミアへの攻撃が増えた背景についてポドリャク氏は「ウクライナには、クリミアにあるロシアのすべての違法な軍事施設を攻撃する権利があると民主主義の国々がようやく理解したためだ」と述べ、クリミアへの攻撃に欧米側から支持が得られたことを挙げました。
そして「クリミアが解放され始めればロシアは間違いなく国内で重大な政治的な問題に直面する」として作戦の意義を強調しました。
一方、ポドリャク氏は、ロシア軍は1800キロ近くに及ぶ前線に非常に多くの兵士や兵器を投入していると指摘し「複数の方向で同時に攻撃をすればロシアは集中できなくなり、ロシア軍の防衛線を突破する機会が生じる」と述べ、東部や南部の複数の攻撃軸に沿って同時に反転攻勢を続ける重要性を指摘しました。
クリミア奪還の試み「ロシアにとってレッドライン」
ウクライナ南部クリミアを巡って、ロシアのプーチン政権は、2014年3月、住民投票で圧倒的多数の賛成を得たとして、一方的な併合を宣言しました。
それ以降、クリミアはロシアにとって海軍の黒海艦隊が駐留する戦略的に重要な拠点であるとともに、プーチン大統領にとってもみずからの力を誇示する象徴的な場所となっています。
プーチン大統領は、これまでもたびたびクリミアを訪れ、ロシアの領土として発展させる姿勢を示してきましたが、ことし3月、軍事侵攻後でははじめてクリミアの軍港都市セバストポリを訪問しました。
これに先だって行われたクリミアのロシア側のトップとの会議でプーチン大統領は「安全保障の問題が優先事項だ。われわれはあらゆる脅威を阻止する」と強調していました。
クリミアを含む領土の奪還を掲げるウクライナはこのところ、セバストポリを拠点とする黒海艦隊やクリミア周辺の防空の要である地対空ミサイルシステムなどの軍事施設を標的にした攻撃を活発化させています。
プーチン政権は、こうした攻撃に警戒を一段と強めているとみられます。
政権内でも強硬派として知られる安全保障会議のメドベージェフ副議長はことし3月、ウクライナがクリミア奪還に向けて重大な攻撃を行う場合を念頭に「核抑止力の原則に規定されたものを含むあらゆる防衛手段を使う根拠になる」と述べ、核戦力を使用する可能性に触れけん制しています。
プーチン政権に近い、政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」の会長をつとめたアンドレイ・コルトゥノフ氏もことし3月、NHKの取材に対して「クリミアを奪還する試みはロシア指導部にとってはもちろんレッドラインだ」と指摘しています。
●ロシア黒海艦隊司令部にウクライナが攻撃、ロマンチュク大将ら将官が重傷 9/23
ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ局長は23日、クリミア半島南西部セバストポリの露軍黒海艦隊司令部を標的にした22日の攻撃で、少なくとも9人が死亡し、16人が負傷したと明らかにした。重傷者には、アレクサンドル・ロマンチュク大将など複数の露軍将官も含まれているという。ロシアによるウクライナ侵略は24日で1年7か月を迎え、ウクライナ軍は領土奪還に向けた反転攻勢を強めている。
米政府の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のウクライナ語版で明らかにした。
ウクライナ特殊作戦軍は23日、攻撃は露軍艦隊司令部の幹部会議中に行われたとSNSで明かした。特殊作戦軍の情報を基に空軍が攻撃したという。死傷者は「艦隊幹部を含め数十人」に及ぶとも指摘している。
英スカイニュースは、ウクライナ空軍の話として、攻撃には英仏共同開発の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたと報じた。
ロシアが一方的に併合したクリミア半島のセバストポリにある黒海艦隊司令部は露軍のウクライナ攻撃の拠点。ウクライナ軍は13日の攻撃で露大型揚陸艦や潜水艦に損傷を与え、14日にはロシアがクリミア半島防衛のために設置した防空システムを破壊したとしている。ロシアの防衛力が低下している可能性がある。
一方、ロシア軍は22日、ウクライナ中部ポルタワ州のクレメンチュクにミサイル攻撃を行った。現地当局によると1人が死亡、子ども3人を含む31人が負傷した。

 

●ロシア外相、停戦は検討せず 欧米を「うその帝国」と批判 6/24
ウクライナ侵攻を続けるロシアのラブロフ外相は23日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、ウクライナとの「いかなる停戦案も検討しない」と明言した。ウクライナに武器を提供する欧米は「ロシアと真っ向から戦争をしている」と主張。会見に先立つ国連総会一般討論での演説で西側諸国を「うその帝国」と呼び、欧米批判を展開した。
ラブロフ氏は記者会見で、ウクライナのゼレンスキー大統領が提唱する和平案「平和の公式」を「誰もが理解しているように、絶対に実現不可能だ」と一蹴した。
ロシアが離脱したウクライナ産穀物の輸出合意への復帰は「現実的でない」と否定。ロシア産穀物の輸出正常化の約束が果たされず、合意は「ごまかしだった」と訴えた。
ラブロフ氏は、10月に北朝鮮を訪問する考えを示した。金正恩朝鮮労働党総書記が今月13日のプーチン大統領との会談でプーチン氏の訪朝を要請しており、実現へ調整を進める。北朝鮮側とロシアへの武器提供について話し合う可能性もある。
●北朝鮮との蜜月、ロシア国民の視線は 9/24
「北朝鮮と蜜月となると、ロシア国民の受け止めも、だいぶ違ってくるだろう。『我が国はそこまで落ちぶれてしまったのか』と幻滅する国民が、一定割合はいるのではないか」
9月14日配信の記事「『プーチン氏が北朝鮮を訪問』 ロシア報道官が招待受け入れ認める」に、北海道大学教授(ロシア地域研究)の服部倫卓さんは、こうコメントした。
記事は、北朝鮮の朝鮮中央通信が14日、金正恩(キムジョンウン)総書記とロシアのプーチン大統領が13日の首脳会談で「満足な合意と見解の一致をみた」と報じたことを伝えた。また、金氏がプーチン氏に北朝鮮訪問を要請し、ロシアのペスコフ大統領報道官が14日、プーチン氏が招待を受け入れたと話したこともあわせて伝えた。
服部さんは、このニュースについて「ロシアの一般国民の受け止めという観点」から考察した。
ロシア国民は現在、国営メディアによる「欧米はロシアを崩壊させようとしている」との論調を「なんとなく受け入れて」おり、欧米との対立を「やむをえないものと捉えている可能性が高い」との考え方を服部さんは示した。
そんな欧米との対立により、まずロシアは旧ソ連の近隣諸国やグローバルサウスといった「『友好国』と付き合う以外に、選択肢がなくなっている」。さらにウクライナ侵攻をめぐって国際刑事裁判所(ICC)が3月、プーチン氏に逮捕状を出したため、「友好国」の中でも、プーチン氏が安心して訪問できる国は少なくなっていると指摘した。
そこで「やはり最重要なパートナーとなるのが中国」だが、実際はロシアは中国にとって格下となっているにもかかわらず、ロシア国営メディアでは演出によって同格のパートナーと描かれていると紹介。かつては中国を下に見ていたロシア国民も、中国ブランドの乗用車を選ぶなど、その状況を受け入れていると見る。
だが、北朝鮮との蜜月となると話は異なるという。プーチン氏はいま、来年3月にあるロシア大統領選のキャンペーンの一環として外遊をこなしたいはずと推し量るが、「中国以外の選択肢が北朝鮮くらいしかないとすると、求心力には繫(つな)がりそうもない」。
●戦場で解決を…ラブロフ露外相、ゼレンスキー氏和平案に 9/24
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は23日、米ニューヨークの国連本部で記者会見を行い、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が提唱する「10項目の和平案」について「完全に実現不可能だ」と断言した。「ウクライナと西側諸国がそれに固執するなら、紛争は戦場で解決されるだろう」とも述べた。
10項目の和平案は、ウクライナ側が露軍の完全撤退や全領土の返還などを求めているもので、ゼレンスキー氏が20日の国連安全保障理事会の演説でも説明した。ラブロフ氏は、ウクライナとの協議について「用意はあるが、停戦の提案は検討しない」と語った。
このほかラブロフ氏は、今月行われたプーチン大統領と北朝鮮の 金正恩キムジョンウン 朝鮮労働党総書記の首脳会談を受け、10月に平壌を訪れ、交渉を継続するとも述べた。
これに先立ち、ラブロフ氏は国連総会の一般討論演説に臨んだ。ウクライナを支援する欧米諸国などを「世界を民主主義と専制主義に分断し、自分たちの新植民地主義的なルールだけを全ての人に指示している」と非難。国際的な議論の議題を「ウクライナ化」する試みは「西側の利己主義」だと指摘した。
日米韓や日米豪印の枠組み「クアッド」(Quad)などの連携が「新たな地政学的な緊張を生み出す危険性がある」とも批判した。
また、ナゴルノ・カラバフ自治州を巡るアゼルバイジャンとアルメニア系住民との対立について、「双方が信頼を築く時が来た。ロシアの平和維持部隊はこのプロセスを全面的に支援する」と語った。
●「灯台を修理した」 ロシア国旗に十字架設置 北方領土の貝殻島 9/24
国旗に十字架さらには9年ぶりの点灯など、北方領土・貝殻島の灯台でロシア側による動きが活発化しています。
ロシア側の思惑とは―
STVは「灯台を修理した」というロシアの関係者に話を聞きました。
根室半島の先端・納沙布岬から見えたのは―
煌々と灯った白いあかり。
先月下旬、海上保安庁の巡視船が貝殻島灯台が点灯しているのを確認しました。
およそ9年ぶりの点灯です。
7月以降、この北方領土・貝殻島には次々と動きが―
灯台の最上部にはためくロシア国旗。
ことし7月下旬に撮影された写真です。
外務省は即座にロシア大使館に抗議。
しかし、そのわずか2週間後…
今度はロシア正教会が「イコン」と呼ばれる宗教画と十字架を貝殻島灯台に設置。
さらに先月24日には、灯台の外壁が白く塗られているのを海上保安庁の巡視船が発見。
数人が何らかの作業をしているのも見えたといいます。
納沙布岬からわずか3.7キロの距離にある北方領土の貝殻島灯台。
この灯台が建てられたのは戦前の1937年。
船の安全な航海のために建設したのは日本です。
しかし北方領土が占拠されて以来、ロシアによる実効支配が続けられてきました。
ここ最近の急速な動きは、誰がなんの目的で…?
STVはこの写真を撮ったロシアの団体の関係者に直接話を聞きました。
(ロシア地理学会の職員)「今年の8月の終わりに私たちの専門家とロシア地理学会のメンバーでこの灯台を修理した。灯台は長い間運用されていなかったが、ようやく運用されるようになった。つまりこの海域の航行の安全性を高めるという、ごく普通のことなんだ」
貝殻島と同じ歯舞群島のひとつ、勇留島出身の元島民は怒りを隠せません。
(勇留島出身 角鹿泰司さん)「怒りを覚えています。ロシアが実効支配を誇示していることは間違いない。私たちは猛反対しなければならない」
専門家は、まずロシア国内にメッセージを伝える思惑があると指摘します。
(東海大学 山田吉彦教授)「貝殻島コンブ漁や北方領土産のウニを根室側が買い取っているということに関して、ロシア国内に対して日本と交流していても(ロシアの)主権を守っているんだということを主張したい」
なぜここにきて動きが活発になっているのか。
それは日本に対してのメッセージだといいます。
(東海大学 山田吉彦教授)「北方領土はロシアの支配下にあるのだということを、このウクライナ情勢下でも改めて日本に伝えている」
貝殻島でいまなにが…
灯台は日本人の目に入りやすい立地だけに、ロシアが自らの主張をアピールする格好の場になっていると言えそうです。
●ウクライナが激怒。JTの子会社が「戦争支援者リスト」に追加された理由 9/24
日本を代表するグローバル企業として知られるJT(日本たばこ産業)。そんなJTの子会社がウクライナから猛烈な批判を浴びていることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では著者の伊東さんが、ウクライナがJTインターナショナルをロシアの「戦争支援者」リストに加えた理由を紹介。さらに日本におけるたばこ規制が緩すぎる裏事情を解説しています。
発展途上国にも売りまくり。ウクライナがロシア1位のたばこシェア持つJTを猛烈批判
JT(日本たばこ産業)がロシアからの侵攻を受けるウクライナから猛烈な批判を浴びている。
8月下旬、ウクライナ政府はJTの海外の子会社「JTインターナショナル」が、軍事侵攻を続けるロシアでの事業を継続し、ロシアを経済的に支援しているとして、「戦争支援者」のリストに加えたと発表。
日本企業の子会社が、戦争支援者に指定されるのは初めてのことだ。同時に、アメリカのフィリップモリスもリストに加わった。
ウクライナ政府は、ロシアで事業を続け、ロシア国内で税金の支払いなどを通じて軍事侵攻を支えているとみなした国際的な企業を「戦争支援者」とみなし、ロシアでの事業の停止や撤退を強く迫っている。
このうちJTインターナショナルについては、ロシアのたばこ市場におけるシェアを最多の34.9%を占め、ウクライナの国家汚職防止庁は8月24日、JTインターナショナルを、「ロシアのたばこ産業への最大の投資者で、主要な納税者だ」と強く非難する。さらに、2021年には、JTインターナショナルから戦闘機100機を購入できるおよそ36億ドル(約5200億円)がロシアの国家予算に直接入っているとし、「企業の代表は、ロシアでの新たな投資とマーケティング事業を停止したとしているが、ロシアでの製品の製造や流通を続けている」と続けた。
「戦争支援者」リストには、これまでに中国やアメリカなどに本拠地を置く30社以上が指定されている。一方、JTは、「ウクライナ政府の決定については承知している。ウクライナでは今も通常どおり事業を行っていて、必要な支援によってウクライナ経済に引き続き貢献していきたい」とコメント。これまで通り、ロシアでの事業を続けるとした。
「世界にたばこを売りまくれ!」JTが狙い定めたたばこ規制の“緩い”市場
今回の問題の背景には、世界的な健康意識の高まりで喫煙率が減少するなか、しかし、とくに発展途上国でJTがたばこを“売りまくり”、さらにロシアのような海外事業にも力を入れているという事実が隠されている。
JTグループは、世界120カ国以上でたばこ事業を展開し、2013年の時点では、海外のたばこ収益が47.7%と、国内の収益32.4%を上回っている。
JTインターナショナルは、世界70カ国に事業所を抱え、28カ所の生産・加工場を持ち、全世界で2万4000人の従業員を抱え、100カ国以上の国籍の労働者が働いている、超巨大グローバル企業だ。
他方、近年は世界的な海外M&A展開を行い、積極的な海外事業を進めていった。まだ日本で「M&A」という用語が身近でなかった時代、JTは1992年にイギリスのマンチェスターたばこを買収、1999年にはアメリカのRJRナビスコを9400億円で買収。
この時点で、JTは世界第3位のたばこ事業者という地位を手に入れた。
その後も、2007年にはイギリスのギャラハー社を買収。その規模は、2兆2000億円に上り、同時期にソフトバンクがボーダフォン(イギリス)を買収したときの買収額1兆9000億円を上回る。
同時にJTは、ロシアやトルコなどの新興国のたばこ企業を買収。新興国だけでなく、2011年にはスーダンの大手たばこ企業を、2012年にはエジプトの企業を買収しており、アフリカへの進出も果たした。
現在のたばこの消費量は、先進国市場における減少を、発展途上国や新興国での増加で補っている状態だ。とくに、アジアや中東、アフリカや中国、ロシア、インド市場におけるたばこ消費量は著しいものがある。
このような市場は、他の市場と比べてもたばこ規制の“緩い”市場であることは言うまでもない。要は、たばこメジャー企業は、規制の厳しい先進国をすり抜け、規制の緩い市場へとシフトしている。
もちろん、WHO(世界保健機関)もこの動きを察知し、発展途上国におけるたばこ規制の重要性を強調する。
背後に「たばこ利権」。日本のたばこ規制が緩すぎる訳
JTがここまで巨大化した背景には、日本における緩すぎるたばこ規制がある。事実、日本のたばこ規制は、たばこ規制枠組条約が求める規制から大きく遅れを取っている。
その背景には、「たばこ利権」という存在がある。「たばこ事業法」の下、日本は財務省とJTを中心に、葉タバコ農家、たばこ小売店、たばこ族議員が結束し、たばこの生産と製造、流通の既得権を守り続けてきた。
そのことにより、日本は長らく、罰則付きの受動喫煙防止法またはたばこ規制法を制定してこなかった。そのような国は、たばこ規制枠組条約180か国のうち、アフリカや日本と北朝鮮だけだった。
たばこは、脳血管疾患、心臓疾患、肺疾患そして癌を誘発する大きな原因の一つであり、さらに喫煙者のみならず、非喫煙者も受動喫煙により健康被害を受ける可能性がある。
WHOたばこ規制枠組条約は、2003年にWHOで採択され、それには、「たばこの消費及びたばこの煙にさらされること」が、死亡や疾病、障害を引き起こすと科学的証拠におる明白に証明されているとし、さらにたばこの需要を減らし、たばこの煙にさらされることを防ぐための措置を講じるよう、求めている。
2007年からは、締約国は、たばこの煙にさらされる受動喫煙の防止については、2007年に条約締約国による全会一致で採択された、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」を遵守しなければならない。
そのガイドラインでは、「100%禁煙以外のアプローチが不完全である」と分煙は不完全であるとし、「すべての屋内の職場、および屋内の公共の場は禁煙とすべきである」「たばこの煙にさらされることから保護するための立法措置は強制力を持つべきである」とし、その期限として2010年2月までに屋内の公共の場における完全禁煙を実現させるための法的措置を求めた。しかしながら日本は、それを長らく実現できずにいた。
「たばこ無害論」で世論を操作するJTの卑劣
そもそも、日本は2003年の規制枠組条約の採択にあたり、アメリカ、ドイツとともに厳しい規制の反対意見を述べ、WHOのほかの締約国から、「悪の枢軸」とも呼ばれた“たばこ大好き”国家だ。さらに、2007年のガイドライン採択時には、日本だけが一部の記載の削除や変更を求めるなど、国際社会の場で孤立しかねない態度を取ってきた。
たばこ規制枠組条約には、「店頭におけるたばこ製品の展示を規制すべき」(第13条ガイドライン)とあるが、それに従うならば、コンビニのレジ裏のたばこ陳列など、“即アウト”だ。
それどころか、現在ではJTのたばこの売り上げの約75%をコンビニが占め、コンビニの売上の3割はたばこが占めるなど、「コンビニ=たばこ屋」と化す現状がある。
しかしながら、2023年、令和の時代にもなってなお、ときどきインターネットなどで「たばこ無害論」という陰謀論が跋扈する始末だ。
なぜこのような状況に陥っていたのだろうか。第5条第3項「公衆衛生の政策をたばこ産業から守る」のガイドラインには、「締約国は、たばこ産業の雇用するいかなる人物も、たばこ産業の利益にために働く団体も、たばこ規制や公衆衛生政策を立案・実施する政府機関、協議会、諮問委員会の構成員として認めるべきではない」とある。しかし、実際には日本においては、財務省をはじめとする霞が関からJTへの天下りだけでなく、JTから各省庁のたばこ関係部署をはじめとする霞が関の“天上がり”も常態化しているのが実情だ。
「たばこ無害論」は、JTによる巧妙な世論操作の一環だ。2013年には、JTインターナショナルはイギリスでたばこの包装に関するロビー活動を行っていたと暴露。ロビー活動に200万ポンド(約3億1400億円)を費やしていたことが分かった。
もちろん、日本でもロビー活動が行われていることは確実であり、日本において禁煙が進まないのはそのためだ。 
●ロシア経済、西側の「前例ない圧力」に耐える強さ誇示 プーチン氏 9/24
ウクライナへの侵略を続けるロシアのプーチン大統領は24日までに、国内経済の現状に触れ西側諸国による「前例のない圧力」に耐えているとし、「安定かつ均衡の段階」にある強靱(きょうじん)な力を示していることを誇示した。
連邦国家予算の2024〜26年の編成に関するテレビ会議に参加して述べた。ロシアの国内総生産(GDP)は21年以来の水準に達したとし、政府は安定的かつ長期的な開発をさらに進めるための環境条件づくりに乗り出しているともした。
今年7〜8月期における石油・天然ガスの歳入額は昨年の規模にほぼ回復したとし、活発な増大基調にあるとも主張した。
ただ、ロシア通貨のルーブルは先月、対ドルで一時は米1セント以下までとなる過去17カ月間での最安値を記録。これを受けロシアの中央銀行は緊急会合を開き、政策金利の引き上げを発表していた。
一方でロシアの戦費支出が国内経済の安定的な運営を損ね続けているとのデータも伝えられている。
ロイター通信は先月初旬、確認した政府文書の内容として国防費の今年の支出は約9兆7000億ルーブルと当初の見通しの倍増の水準になったと報道。昨年2月に始まったウクライナ侵攻前の2021年の水準に比べほぼ3倍とも伝えた。
世界各国の軍事費を追っているスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、この数字は過少評価の可能性があるともした。ロシアの公式予算枠の中で「国家防衛」への支出額は全体的な軍事費の中で約4分の3を占めていると推定した。
英国の王立防衛安全保障研究所の専門家はロシアによる今年の軍事費は1000億ドルを突破するだろうと示唆。ウクライナ侵略の前のロシアの防衛費は年間あたり、国内総生産(GDP)比で通常は約3〜4%だったとし、現段階では8〜10%に達する可能性があるとした。
プーチン大統領は昨年12月、軍首脳との会合で予算的な制約はないと豪語。「国や政府は軍が何を求めてもこれに応える」と請け負ってもいた。
侵略開始から長期間が経過し、この約束は果たしているようにみられる。12月の会合の数週間前、プーチン氏は23年の国家防衛予算に4兆9800億ルーブルを割く予算案に署名していた。昨年の支出額をわずかに上回る水準だった。
●ウクライナ親ロ派トップ承認 プーチン政権占領地の「統一地方選」、既成事実化 9/24
ロシアが占領するウクライナ東・南部4州で今月強行された「ロシア統一地方選」で誕生した、新たな「地方議会」が23日、現在の親ロシア派トップ4人をそれぞれ「知事・首長」として承認した。ロシアのメディアが伝えた。プーチン大統領は昨年秋の「併合」時、4人を「代行」として任命しただけだった。
日本を含む先進7カ国(G7)はウクライナ侵攻のみならず、占領地の併合も選挙も認めていない。G7の外相らは「領土の違法な占拠を正当化しようとするための喧伝(けんでん)工作」と「統一地方選」を非難している。
各「知事・首長」は、今回選ばれた各議会を通じ間接投票で選出する格好になっている。ウクライナの反転攻勢が続く南部ザポロジエ州では、バリツキー「知事」を承認した。
ロシア連邦構成主体(地方)は中央に上院議員を送り込める。バリツキー氏は早速、ロシア国営宇宙企業ロスコスモスのロゴジン前社長を上院議員に選んだ。
ロゴジン氏は政界でのキャリアが長く、下院議員や副首相などを歴任した。副首相時代の2015年には、メドベージェフ首相(当時)の北方領土訪問に日本政府が抗議したのを受け、SNSで「真の(日本の)男なら、伝統に従ってハラキリをして落ち着いたらいい。今は騒いでばかりいる」とやゆした人物だ。
タス通信によると、ロゴジン氏は上院議員の課題として、ウクライナのゼレンスキー政権が死守している州都ザポロジエの「解放」を挙げた。ロゴジン氏は昨年、ロスコスモス社長を退いた後、ウクライナ東部ドネツク州の州都ドネツクに滞在中に砲撃に巻き込まれて負傷している。
23日はウクライナ東・南部4州のうち、ドネツク州(ロシア名ドネツク人民共和国)のプシリン氏が「首長」、東部ルガンスク州(同ルガンスク人民共和国)のパセチニク氏も「首長」、南部ヘルソン州ではサリド氏が「知事」として、それぞれ承認された。占領の既成事実化が着々と進められている。
●ゼレンスキー氏、西側の戦争疲れにどう取り組む  9/24
国同士の関係は親しく、交わした握手はがっちりとしたものだったかもしれない。それでも、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今回の北米訪問で、アメリカやカナダの両政府を前に、懸命に努力する必要があった。
カナダの方が、相手としては楽だった。ジャスティン・トルドー首相は「必要なだけいつまでも」ウクライナを支えると約束したし、そのために超党派の支持を取り付けている。
対してアメリカは、資金力は豊富だが、その国内政治ははるかに複雑だ。
ゼレンスキー大統領はホワイトハウスから、3億2500万ドル(約481億円)の追加軍事支援を確保した。しかし、望んでいた240億ドルの大規模支援には及ばなかった。その大規模支援の案は、米連邦予算をめぐる連邦議会での対立に巻き込まれて膠着(こうちゃく)している。
大変なのはそれだけだはない。
ワシントンでゼレンスキー氏は、ジョー・バイデン大統領だけでなく、野党・共和党の幹部たちとも会談した。共和党内では、ウクライナ支援継続の意義を疑う懐疑的な声が高まっており、共和党幹部はそれを抑え込むのに苦労している。
「私たちは自由主義世界を守っている。それは共和党にも響くはずだ」。ウクライナ政府の顧問は私にそう言った。「戦争が始まった時の方が大変だった。あの時はカオス状態だったので」。
「今の私たちはもっと個別具体的な要求ができる。協力してくれる国々が何を持っていて、どこに保管しているか承知しているからだ。我々の大統領は複数の国で、国防大臣ができる!」
しかし、ウクライナにとって残念なことに、ゼレンスキー氏は複数の国の国防大臣ではないし、課題は山積しつつある。
「どうしてウクライナにいつまでも、白紙委任でなんでも渡すのか? 勝利とは何を意味するのか?」
この二つの疑問に、ゼレンスキー氏は国際舞台で答えようとしてきた。
だからこそ昨今の彼の取り組みは、以前のように支援を強く求める働きかけではなく、西側の支援が途切れないようにするための交渉に傾いているように見える。
しかも同じ週には、ウクライナ産の穀物をめぐり、最も忠実にウクライナを支えてきたポーランドと仲たがいしたばかりだ。
ロシアの海上封鎖を受けるウクライナは現在、陸路で穀物を輸出せざるを得ないが、ポーランドは安価なウクライナ農産物の輸入を禁止した。これを受けてゼレンスキー氏は間接的に、ポーランドが「ロシアを助けている」と非難したのだった。
ポーランドではこれに大勢が立腹した。アンジェイ・ドゥダ大統領はウクライナを、「こちらを引きずり込んで一緒に沈みかねない、おぼれている人間」にたとえた。
両国の対立は今では、沈静化へ向かっている。
どれほど経験豊かな戦時指導者にとっても、現在の状況は外交的にきびしい。
ポーランド、スロヴァキア、アメリカといった協力国は近く選挙シーズンを迎える。これが、さらに情勢を不透明にしている。ウクライナへの軍事支援をわきに置いて、国内問題を最優先にする候補者もいる。
「軍事支援と、有権者の満足のバランスをとらなくてはならない。このせいで、事態は本当に複雑だ」。ウクライナの外交シンクタンク「プリズム」のセルヒー・ゲラシムチュク氏はこう言う。
「ウクライナは協力国と欧州連合(EU)の状況を考慮しつつ、ありとあらゆる手法を駆使して、いかに自国利益を相手に働きかけるかを算段しなくてはならない」
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、民主主義国家につきもののこうした選挙をめぐる配慮を、気にする必要がない。
だからこそウクライナは、今のこの戦いは自分たちの主権のためというだけでなく、民主主義そのもののための戦いなのだと、そういう文脈で語ろうとしている。
「この戦争の道徳的側面は、とてつもなく大きい」と、上述のウクライナ政府顧問は話す。
ソヴィエト連邦が崩壊した後、ウクライナ、ロシア、アメリカ、イギリスは1994年、「ブダペスト覚書」に署名した。ウクライナは自国領内に残る核兵器を放棄する、それと引き換えにロシア、アメリカ、イギリスはウクライナの領土的一体性を尊重し、安全を保障する――という内容だった。
しかし、2014年から9年間続くロシアの侵略行為を思えば、当時のこの約束は完全に破綻しているように思える。
ウクライナ政府は目下のことだけでなく、長期的な対外関係を見据えた動きもしている。ロシアの侵攻についてこれといった反応をしてこなかったブラジルや南アフリカといった国々とも、関係改善を目指している。
ただしこの外交戦略が、速やかに成果を出したとは言えない。
「前線での成功次第だというのは、その通りだ」と、ウクライナ政府顧問は言う。
ウクライナの反転攻勢について、各国のマスコミの取り上げ方が過度に単純すぎると、この政府顧問は言う。報道は戦果がきわめて限定的な前線の情勢にばかり注目し、クリミアやロシア軍艦へのミサイル攻撃が相次ぎ成功していることはあまり取り上げないと。
この戦争をめぐる政治は、戦いの進展とますます密接にからみあっている。それだけに、そのことがこれまでにないほど試されている。
●ウクライナ“南部のロシア軍拠点で敵排除”も激しい戦闘継続か 9/24
領土奪還を目指すウクライナ軍はロシア軍の第1防衛線を突破したとする南部ザポリージャ州で、新たにロシア軍の拠点で敵を排除したと主張しました。一方で、完全には拠点を奪還していないという見方もあり、激しい戦闘が続いているものとみられます。
南部ザポリージャ州で反転攻勢を続けるウクライナ軍は24日、8月下旬に奪還したロボティネからおよそ10キロ東のベルボベで、ロシア軍を排除し陣地を固めていると主張しました。
これに先立ち、前線のウクライナ軍の指揮官は22日、CNNテレビのインタビューに対し、ベルボベで敵陣を突破したと述べ、今後さらに突破口を開くことができるだろうとしています。
一方で、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は23日に「ウクライナ軍はベルボベ近郊にあるロシア軍の防御陣地をすべて奪還したわけではない」と分析し、一部の陣地は、ロシア軍がいまだに支配している可能性が高いとしています。
ウクライナ軍はロボティネから、さらに南の交通の要衝、トクマクを目指していますが、ウクライナのメディアは、前線の部隊の報道官の話として、ロシア軍の防御が固く、進軍が1日に50メートルから100メートルのときもあると伝えていて、激しい戦闘が続いているものとみられます。
●ザポリージャ戦線、ウクライナが「第3防衛線」突破…車両の通過も可能に 9/24
ウクライナ南部でロシア軍への反転攻勢を指揮するウクライナ軍将官のオレクサンドル・タルナフスキー氏は23日、米CNNのインタビューで「ザポリージャ戦線」で露軍が築いた「第3防衛線」を突破し、前進を続けていると述べた。
タルナフスキー氏によると、ウクライナ軍が要衝のトクマク奪還に向けた足がかりとなるロボティネ近郊の村ベルボベでの戦闘で露軍の「第3防衛線」を破ったと明かし、「大きな突破口になる」との見方を示した。
米政策研究機関「戦争研究所」などは21日、ウクライナ軍が露軍の第3防衛線の一部を突破した可能性を指摘していた。現場の指揮官は米紙ワシントン・ポストに対し、歩兵はすでに2〜3週間前に第3防衛線を越えており、最近になって車両の通過も可能になったと語った。激しい露軍の抵抗で、ウクライナ軍の前進は「ゆっくりしたもの」という。
一方、露軍は23日、ドネツク州の村やスムイ州の住宅地を砲撃し、市民2人が死亡した。
●ロシア外相、黒海穀物輸出提案を否定 和平案は「実現不可能」 9/24
ロシアのラブロフ外相は23日、黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意の復活について、ロシアは国連の努力を否定しないが提案は非現実的と一蹴した。
国連のグテレス事務総長は先月、ラブロフ外相に充てた書簡で、ロシアが黒海穀物輸出合意再開に同意するとの理解があれば国連が直ちに着手可能な4つの措置を示した。
ラブロフ氏は国連総会演説での記者会見で「事務総長になぜ彼の提案が機能しないか説明した。拒否はしない。単に現実的でないだけだ。実行は不可能だ」と述べた。
国連の提案は西側諸国と民間部門の善意に依存している。しかしロシアはウクライナの港や穀物倉庫への空爆を繰り返しており、グテレス氏は今週、ロシアは自国の食料と肥料の輸出を促進する国連の努力を台無しにしていると非難した。
ラブロフ氏はまた、ウクライナが提唱する「10項目の和平案」について、「完全に実現不可能」だと断言。ウクライナと西側諸国がこれに固執するなら紛争は戦場で解決されると述べた。
●ウクライナ、軍の動員対象拡大 人員不足、女性医師も 9/24
ロシアの侵攻が続くウクライナで軍の動員対象を拡大する動きが出ている。10月1日から医師ら医療従事者の女性に兵役登録を義務付け、動員に備える。免除の条件を厳しくする議論も活発化。侵攻長期化で犠牲者は増えており、恒常的な人員不足が背景にある。
ゼレンスキー大統領は侵攻が始まった昨年2月、総動員令を発令し、繰り返し延長してきた。動員対象となる18〜60歳の男性の出国は原則的に禁じられている。
の発表によると、新たに登録が義務付けられるのは18〜60歳の医師や看護師、薬剤師の女性。政府は国民に動揺が広がらないよう「即時動員を意味するものではない」と説明している。
ウクライナ軍は戦死者を公表していないが、米紙ニューヨーク・タイムズは8月、約7万人に上るとの米政府の見方を報道。反転攻勢を進める上で、人員確保が課題となっている。
ウクライナメディアによると与党議員は9月上旬、大学など二つ以上の高等教育を受けた30歳以上の人たちを新たに動員対象とする法案を最高会議(議会)に提出した。

 

●プーチンの最強兵器「プロパガンダ」が機能不全に…ちぐはぐな報道 9/25
ロシアのプロパガンダ機関は、広範囲に及ぶその影響力と世論操作の巧みさで知られる。ソーシャルメディアを兵器化し、欧米の選挙に介入。「文化戦争」と呼ばれるアメリカの保守vsリベラルの対立や政治的分断をあおってきた主要プレーヤーでもある。
国内の世論操作も抜かりない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は以前から国営メディアの再編を進め規制を強化し、政権批判を圧殺してきた。プーチンの報道官であるドミトリー・ペスコフが毎週、主要紙の編集長と会合を持ち、報道内容に一貫性を持たせていると伝えられている。どういう路線でどういう記事を載せるか、編集方針にも「内密の指示」が出されるというのだ。
だがウクライナ戦争における作戦の失敗と混乱が、プーチンの政治宣伝マシンに生じた亀裂の拡大を浮き彫りにした。国営メディアは戦争の大義を国民にうまく説明できていない。戦闘が長引き終わりが見えないなか、つじつまの合わない報道が増え、国民に知られてはまずい真実をぽろりと漏らすようにもなった。
国営メディアの混乱がピークに達したのは6月に起きた「ワグネルの乱」の後だ。ロシアの民間軍事会社ワグネルとその創設者エフゲニー・プリゴジンはウクライナ東部の要衝バフムートを占領した手柄などでロシアの英雄扱いされていたが、反乱を起こしたからには「裏切り者」の烙印らくいんを押さざるを得ない。それでもロシアの一部政治家やメディアは反乱を大したことではないように見せかけようとした。プーチンは反乱収束後、プリゴジンとワグネルの指揮官らと会談したが、ペスコフは当初この事実を否定。その後に渋々認めるという失態を演じた。(編集部注:プリゴジンは搭乗機の墜落で8月23日に死亡)
ロシア版「大本営発表」と現実の戦況との違いがこれまで以上に明らかになり、公然の秘密となっても、プーチンは「鉄の統制」を緩めようとしなかった。だが国民の間に不信感が高まり、長期的にはプーチンの統制が崩れる可能性があることは、一部の観測筋の見解や最近の世論調査の結果から容易に推測できる。
「体制が不安定だと、いろんな場所にほころびが生じ、問題が起きるものだ」と、今はロシアでの放送が禁止されているロシアの独立系テレビ局ドーシチの編集局長ティホン・ジャドコは言う。「戦争の終わりが見えない状況で、ロシア政府とプロパガンダ機関の連中も自軍が押され気味なことに気付いている。開戦当初に占領した地域を失いつつあることも分かっているはずだ」
バフムート陥落に難癖を
一方、ロンドン在住の政治学者マーク・ガレオッティは違う見方をしている。許容範囲内なら反対意見の表明を許し、多様な見解があるように見せかけるのはプーチン政権の常套手段だというのだ。「部下たちが全員、自分に忠実なら、部下たち同士が争うのは結構なことだというのが、プーチンの流儀だ」と、ガレオッティは言う。
プーチンの長年の腹心だったプリゴジンは、反乱に至る何カ月かの間、プーチンが始めた戦争を最も声高に批判していた。ついにはメッセージアプリのテレグラムで戦争は偽りの口実で開始され、ロシア政府の高官たちは腐敗し無能だとまで断じた。ロシア、ウクライナ双方の民間人が殺され、「何も知らないおじいちゃん」(プーチンを指すらしい)は蚊帳の外に置かれている、というのだ。
6月24日、プリゴジンはワグネルの戦闘員たちと共に首都モスクワを目指した。あっけなく終わったこの反乱で、ワグネルはロシア南部の2つの軍事拠点を掌握し、首都まで200キロ圏内まで迫ったが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介で矛を収め撤収した。
この一連の不可解な動きに対し、ロシアの国営メディアの混乱ぶりは目に余るほどだった。「プリゴジンとワグネルは国家の英雄であり、成果を上げていた。だが突然この珍事が勃発し、彼らは首都に進軍する裏切り者となった」と、ロシアのプロパガンダ機関に詳しい米シンクタンク・ランド研究所の研究員クリストファー・ポールは言う。「虚偽にまみれた公式報道もこの事態をどう扱えばいいのか途方に暮れたようだ」
反乱とその影響についての報道で、プーチンの政治宣伝マシン内部の足並みの乱れや方向性の欠如が露呈した。一部の国営メディアは手のひらを返したようにプリゴジンを酷評。バフムートの重要性に難癖をつけ、この都市の掌握になぜ200日余りもかかったのかと疑問を呈した。
5月に国営テレビはこぞってバフムート陥落の「歴史的な意義」を強調していたが、政府系の第1チャンネルは6月30日、バフムートは「最前線の最も重要な都市ではない」と報じ、ロシアの正規軍は昨年ウクライナ東部のマリウポリをはるかに短期間で陥落させたと付け加えた。
一方で、プリゴジンの肩を持つような報道をするメディアもあった。国営のメディアとテレビも反乱においてほぼ「血は流れなかった」とする立場で、「(ワグネルは)誰を攻撃したわけでも何を壊したわけでもない」し、「何も悪いことはしていない」というロシア下院国防委員会のアンドレイ・カルタポロフ委員長の発言を報じた。カルタポロフは軍出身で、プーチンの与党、統一ロシアの重鎮でもある。
それと対照的だったのが、ロシア政府寄りのブロガーや、テレビ番組にゲスト出演した人々の一部の発言だ。彼らの中には少数ながら、反乱で死んだ十数人のパイロットは何のために命を落としたのかと問いかけ、罰せられるべきは誰か明らかにすべきだと主張する人々もいた。
ロシア下院国防委員会に属するアンドレイ・グルレフはロシアのテレビ局RTVIに対し、ワグネルは「わが軍の兵士の死」の責任の「100%を負う」ことになるだろうと述べた。国営テレビの「ロシア1」のトーク番組『60分』の司会を務めるエフゲニー・ポポフはプリゴジンのことを「反逆者」と呼んだ。
プーチンは2回にわたってテレビに短時間、「生中継」で出演した。それも同時に、別々の場所からだった。テレビ局側からの説明はなく、「プーチン影武者説」を勢いづける結果となった。
プリゴジンの乱は、ロシア政府の宣伝マシンの欠陥を白日の下にさらした。だがウクライナ侵攻が始まって間もない頃から、その欠陥は目につき始めていたし、侵攻が泥沼化するなかで傷口は広がっていった。
侵攻開始直後の昨年3月、ロシア政府は、ロシア軍に関する「フェイクニュース」を意図的に拡散した場合に最長で禁錮15年の刑に処するという法律を作って情報統制を強化しようとした。それ以来、この「戦争=フェイクニュース法」はプーチンと主張の合わない人々を弾圧するのに使われている。この法律ではメディアがウクライナ侵攻のことを「戦争」と呼ぶのも禁じられており、国営メディアはプーチンの言う「特別軍事作戦」という用語を使っている。
宣伝工作の指導と解釈にずれ?
だが侵攻開始から半年がたった頃には、国営テレビでも「戦争」という言葉を耳にするようになっていた。口火を切ったのは、ロシア政府寄りで、「プーチンの声」とあだ名される人気司会者のウラジーミル・ソロビヨフだ。その後、複数の司会者やゲストたち、それにセルゲイ・ラブロフ外相やプーチン自身まで、この言葉を使うようになった。
「あえて統一しないほうがいいという考えでそうしたケースもあるだろうが、組織的な欠陥という面もある」と、ランド研究所のポールは言う。「紙媒体とテレビメディアの間にはたぶん、統制のメカニズムに違いがあるのだろう。そして異なる指揮が広がったり、組織の中の中間管理職や指導者や官僚の間で解釈違いが起きたのかもしれない」
侵攻開始直後に政府の弾圧の犠牲になったのが独立系テレビ局のドーシチだ。ウクライナ報道をめぐり、「戦争=フェイクニュース法」によって当局から放送を禁じられたのだ。昨年3月上旬の最後の番組では、スタジオからスタッフが「戦争にノー」と言いながら去って行く様子が生中継で放送された。
「戦争の始まりが、ロシアにおけるドーシチの終わりの始まりであることは、明らかだった」と、ドーシチのジャドコは言う。ドーシチは現在、オランダを拠点に運営されている。
ジャドコによれば、ロシア政府によるメッセージ発信の失敗は、戦争自体の性質と目的をめぐる根本的な「混乱」に端を発している。「こうしたずれは最初からあったし、その理由は明らかだ。ロシアがなぜ(戦争を)始めたのか誰も理解していないからだ」とジャドコは言う。「政府ですら分かっていないし、ロシア政府の宣伝工作(部門)はさまざまな事態にどのように反応すべきか理解するのに悩み、状況の変化に付いていこうと必死だ」
「ウクライナを『非武装化』するという話もそうだ。ウクライナの軍事増強がこれまでになく進んでいると(プーチンは)言うけれど、それはこの『作戦』がうまくいっていないということだ」とジャドコは言う。
ロシアメディアの報道によれば、今年6月に連邦議会のコンスタンティン・ザトゥリン議員も、政府はウクライナ侵攻における目標を達成できていないという趣旨の発言をしたという。昨年12月には、政府寄りのテレビ司会者オリガ・スカベエワが、ウクライナにおける戦争は「あらゆる面で」ロシアを「疲弊させ」ており、多くのロシア人は戦争を終わらせたいと思っているとまで国営テレビで発言。だがザトゥリンもスカベエワも起訴されたりはしていない。
原因は「アップデートの失敗」
こうした逸脱は自由化やメディアへの締め付け緩和を示すものではないと、専門家はクギを刺す。
政治学者のガレオッティによれば、ロシアの国営メディアには通常「多様な意見」が存在する余地があるものの、「範囲はかなり狭い」と言う。「これは愚かな戦争だった、すぐに撤退すべきだと、実際に口に出して言える人間はいない」
ランド研究所のポールは、「ロシア政府のさまざまな部門が言いたいことを理解するのに時間がかかる」こともあると指摘する。「この種の矛盾は、プロパガンダ機関のさまざまな部門が広めたいと考える情報や現時点での解釈を、部分的に切り取っているだけの場合もある」
例えばロシア国営通信社RIAノーボスチは今年3月、戦場で負傷し、プーチンが約束した補償金を受け取っていない兵士たちの不満を記事にした。「どこかの組織の誰かが政府からメッセージを受け取っておらず、おそらく誰かが懲罰を受けただろう」と、ポールは言う。
報道官のペスコフは状況に合わせてストーリーを変えるやり手の外交官だが、プリゴジンの乱の直後、当初はロシア政府は「プリゴジンの居場所については何も知らないし、興味もない」と主張した。だが数日後、西側メディアがこの件を取り上げると、プーチンが反乱直後にプリゴジンらと会っていたことを認めた。ロシアの基準でも衝撃的なレベルの手のひら返しだ。
さらにペスコフは6月26日夕方のプーチンの国民に向けた演説について、「真に重要なものだ」と記者団に語ったと、インタファクス通信が報道した。その後、主要報道機関がこぞってこの演説を大げさに報じると、ペスコフはこの発言を否定した。実際、この短い演説は国民に不評で、当局の厳重な監視下にあるはずのロシアのソーシャルメディアでも、政府寄りのメディアやプーチン自身を酷評する声が上がった。
ポールによれば、ロシアのプロパガンダがうまくいっていない理由の1つは「アップデートの失敗」だ。プーチンがクリミア半島を不法に併合した14年には「実にうまく」機能したと、ポールは言う。「おそらく同様のアプローチで同様の成果と成功が得られると期待したのだろう」
クリミア併合は人的犠牲が比較的少なく、国内で支持されていた。だが、今回のウクライナ侵攻とロシア側の苦戦ぶりを国民に売り込むのは、それよりずっと難しい。
コロンビア大学ハリマン研究所のアントン・シリコフによれば、政府のプロパガンダ機関は22年9月、プーチンの「部分的」動員令は軍隊経験のあるごく一部のロシア人に影響するだけだとして国民を説得しようとしたが、この試みは失敗に終わった。大量の男性が徴兵を逃れようと近隣諸国に脱出したのだ。
シリコフは、22年9月のドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ヘルソン、ザポリッジャの4州併合をロシア国民は信じていないとも指摘する。「これらの併合・占領された地域はロシア領だと政府は主張してきたが、大半のロシア人はそれを完全には受け入れていないと思う。当局のプロパガンダはこれらの地域が今や『拡大ロシア』だと国民に信じ込ませることにあまり成功していないようだ」
国民の実感と大きく乖離
この現状はプーチンにとって長期的な問題になり得る。モスクワに拠点を置く超党派の民間調査機関ロシアン・フィールドが行った世論調査によると、「特別軍事作戦」の続行に賛成する意見はわずか45%で、22年4月の前回調査から9ポイント低下した。
一方、ロシアは和平交渉に臨むべきだという回答は44%で前回より9ポイント上昇した。「紛争が拡大し、第2波の動員を伴う場合」という条件を付けると和平交渉派は54%に増えた。
結局のところ、ロシア政府の戦略に一貫性がないため、プロパガンダ機関の担当者はその場その場で即興的に対応せざるを得ないと、ドーシチのジャドコは指摘する。
「ロシア政府が成功していない以上、プロパガンダも成功していない。1日に2〜3時間番組を放送していれば、当然誰かが『真実』を口にする。彼らの大半は実情を理解している。彼らとしても、『ロシアは強く、西側は弱い』『ウクライナは弱体化している』などとばかげたことを言い続けるわけにはいかないのだ」
最高レベルのプロパガンダといえども「魔法ではない」と、ランド研究所のポールは指摘する。
「国家が『正しいこと』を語り、正しいメッセージと広報活動でそれを支援するだけでは、外交政策の目標達成は不可能だ。公式発表と国民が実感する現実との間に、ある程度の関連が存在する必要がある」
●弾圧のロシア 独裁者は真実を恐れる 9/25
ノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長を、プーチン政権が「外国の代理人」に指定した。
外国の代理人とはロシアでは欧米のスパイを意味する。目障りな存在の社会的信用を落とすとともに、圧力をかけて黙らせることを狙った常套(じょうとう)手段だ。ムラトフ氏は指定を不服とし、裁判で争う間は編集長を退く意向という。
当局はムラトフ氏を指定した理由を「内外政に否定的な意見を形成、拡散させることに参画した」としている。異論を唱える者をスパイ呼ばわりするのは、無辜(むこ)の民に「人民の敵」というレッテルを貼って大量処刑に血道を上げたスターリン時代を想起させる。
そのスターリン時代の犠牲者の記録を掘り起こしてきた人権団体「メモリアル」も「外国の代理人」に指定され、法律違反をしたとして2021年に解散を命じられた。メモリアルの活動は国際的にも高く評価され、翌22年にはノーベル平和賞を受けた。
ウクライナ侵攻以来、プーチン政権は弾圧による国内引き締めに躍起になっている。
国連人権理事会から委任された特別報告者は18日、侵攻以来ロシアの人権状況が著しく悪化した、との報告書を公表した。それによると、反戦デモへの参加で拘束された人は2万人を超えた。「外国の代理人」に指定された団体・個人は7月末時点で649に上り、半年間で25%以上増加した。
民間軍事会社「ワグネル」の総帥プリゴジン氏の不可解な死は、プーチン大統領に盾突いた者がどんな末路をたどるかを見せつけたが、ノーバヤ・ガゼータも大きな代償を払わされてきた。チェチェン紛争の闇を告発した女性記者アンナ・ポリトコフスカヤさんをはじめ計6人の記者・寄稿者が命を落としている。
ウクライナ侵略を「特別軍事作戦」と強弁し、「戦争」と呼ぶことを禁じる欺瞞(ぎまん)性とおびただしい流血が示すように、プーチン体制の本質は噓(うそ)と暴力である。
真実が広まれば統治能力を失うと恐れているのではないか。社会に沈黙を強いる恐怖支配の先に国の展望は開けない。
●ロシア外相が来月訪朝を確認、「朝ロ首脳会談合意を受けた後続措置」 9/25
ロシアが、高官級使節団の訪朝計画を公式化し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の9泊10日のロシア訪問で緊密になった朝ロ関係がさらに接近している。ロシアのラブロフ外交相は23日(現地時間)、国連総会が開かれている米ニューヨークの国連本部で記者会見を開き、「来月平壌(ピョンヤン)を訪問する」とし、「これはプーチン大統領と金正恩氏の合意によるもの」と明らかにした。
ロシアが高官級の訪朝を公式化したことで、今後プーチン氏の平壌訪問につながる可能性があるという観測も流れている。ラブロフ氏と北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が平壌で会談し、首脳会談の日程なども調整するのではないかということだ。ラブロフ氏が今回の訪朝の背景に関連し、「朝ロ首脳間の合意」を受けた措置だと言及したことも、こうした解釈を後押しする。これに先立ち、北朝鮮の朝鮮中央通信は14日、朝ロ首脳会談に続く夕食会で、プーチン氏が金正恩氏の招待を「快く受け入れた」と明らかにし、その後、ロシア大統領府も「プーチン大統領はこの招待を有難く受け入れた」と確認した。プーチン氏が訪朝すれば、大統領就任後の2000年7月に平壌を訪れ、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談して以来23年ぶりとなる。2011年末に金正恩氏が政権を握ってからは初めて。
ロシアが国連の舞台で公式に訪朝計画を明らかにしたのは、国際社会の各種制裁で孤立した両国が兵器取引や技術移転など軍事的な密着を通じて難局を打開する意志を露骨に示したと解釈される。
政府高官は、「ロシアとウクライナの国境地帯に地雷が過剰に埋設され、両国軍いずれも身動きが取れなくなり、戦争が小康状態となっている」とし、「ロシアは砲弾など大規模な兵器支援を北朝鮮から受けなければならない状況だ」と強調した。また、「(プーチン氏としっては)このような小康局面を転換して戦争を終わらせることが急務であるため、早期に訪朝する可能性が高い」と指摘した。
●プーチン氏、平壌答礼訪問の日程を加速化か…露外務省 「来月訪朝」 9/25
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が23日(現地時間)に開かれた第78回国連総会最終記者会見で、「北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長とロシアのプーチン大統領が合意した通り、我々は平壌(ピョンヤン)で協議を始める」とし、「来月と予想される」と明らかにした。ロシア国営タス通信などによると、ラブロフ外相は「両首脳が首脳会談後、我々の協力分野について明確に明らかにした」と述べた。
クレムリン宮殿によると、今回の会談はラブロフ外相−北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相の外交ラインが主導することになる。今回の訪朝を通じて、双方はロシアが緊急な北朝鮮の在庫砲弾の確保と追加生産の可否などを論議し、これに対する北朝鮮の反対給付を優先的に扱う可能性がある。
これに先立ち、ラブロフ外相は13日、国営メディアとのインタビューで、「過去の対北朝鮮制裁は全く異なる地政学的な状況で行われた」と述べ、対北朝鮮制裁を薄めるような発言が出た。また「西側は政治路線によって安保理が追求する人道主義的支援の約束を破り、中国と北朝鮮はもちろんロシアもだました」と主張した。
プーチン大統領の「答礼訪問日程表」も具体化する見通しだ。これに先立ち、北朝鮮の朝鮮中央通信はプーチン大統領が金委員長の訪朝招待を「快く受諾した」と発表した。クレムリン宮(ロシア政府)のドミトリー・ペスコフ報道官も首脳会談関連記者会見で「プーチン大統領が招待をありがたく受け入れた」とし「追加協議は外交チャンネルで行うことになるだろう」と明らかにした。4年前の2019年4月の朝露首脳会談の時は北朝鮮側が金委員長の招待を発表したが、いざロシア側では答礼訪問に対してこれといった反応がなかった。今回はロシアがより積極的な態度を見せている。
●ウクライナ南部ヘルソンに爆撃、2人死亡・8人負傷… 9/25
ロイター通信などによると、ウクライナ南部ヘルソン州の各地で24日、露軍の爆撃があり、少なくとも2人が死亡、8人が負傷した。2人が死亡したドニプロ川西岸地域では、露軍が占拠する東岸から攻撃があったという。
一方、ウクライナと国境を接するロシア西部クルスク州当局は24日、行政施設がウクライナの無人機攻撃を受け、屋根を損傷したと発表した。ウクライナ政府は公式に攻撃への関与を認めていない。ウクライナメディアはウクライナ国防省関係者の話として、攻撃を受けたのは露情報機関「連邦保安局」(FSB)の施設だったと伝えている。
●ゼレンスキー氏、ウクライナ復興協力で米実業家らと協議 9/25
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、国連総会などに合わせて訪米した際、ウクライナ復興のための投資について米実業家らと協議したと明らかにした。
ゼレンスキー氏によると、金融情報サービス大手ブルームバーグの創業者であるマイケル・ブルームバーグ氏や資産運用大手ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)、著名投資家ビル・アックマン氏などがウクライナの復興に向け、大規模投資を行う用意があると表明した。  
●「プーチン孤立」説は本当か? 国連の加盟国中3割以上が“ロシア寄り” 9/25
ロシアによるウクライナ侵攻は言うに及ばず、世界各地で発生する紛争や止まらぬ人権侵害を解決することができずにいる国際社会。国連や安保理の機能不全が叫ばれていますが、もはや国際協調の時代に戻ることは不可能なのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、分断がほぼ固定化されブロック化が進む世界の現状を詳しく解説。その上で、自身が国際交渉人として日本政府に期待すべき役割を提示しています。
もう戻らない世界協調の時代。分断が固定化された国際社会
「国連安全保障理事会がウクライナの問題を取り上げ、支援について話し合うように、世界が直面する気候変動の脅威に対して国連はもっと関心を示し、コミットメントを高めるべきだ。ウクライナにおいてかけがえのない生命が奪われている現実に心を痛めるが、気候変動による自然災害により、より多くの人の生命が世界中で奪われ続けている。国連は本気でグローバルな問題に目を向け、真剣かつ迅速に対応しなくてはならない」
これは9月19日にUNで開催された気候変動対策についての首脳級会合で、バルバドスのミア・モトリー首相が訴えかけた内容です。
この発言を聞いたとき、正直驚くと同時に、国際情勢における関心の潮流が変わったことを実感しました。
ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した際、バルバドスを含む多くの国々はロシアによる蛮行を非難し、ウクライナの人々に思いを寄せる姿勢を明確にしましたが、侵攻から1年半以上が経ち、戦況が膠着化する中、ロシア・ウクライナ双方による破壊と、欧米諸国とその仲間たちが課す対ロ制裁の副作用が、途上国を苦しめている状況に直面すると、報道されている内容とは違い、その他大勢の国々の関心はウクライナ問題から離れていることが分かります。
そして同時に途上国を中心に広がる国連および先進国への焦りと怒り、そして苛立ちも明確になってきました。
“正義のために”という名目の下、欧米諸国とその仲間たちは湯水のようにウクライナに資金提供を申し出て、継続的な支援を約束していますが、世界レベルで深刻化する気候変動問題や、スーダンにおける内戦と国民的な悲劇、ミャンマー情勢、アフガニスタン情勢をはじめとする多くの国際問題に対して及び腰または無関心を装う国連と欧米諸国とその仲間たちへの不満が爆発し始めています。
ブラジルのルーラ大統領も「ロシアによるウクライナ侵攻は看過できない蛮行であると考えるが、ウクライナにも負うところはあるはずだ。世界はあまりにもウクライナ問題に関与しすぎ、本当に助けを必要とする大多数の人々から目を背けていないだろうか」と自省も込めて発言していますし、グローバルサウスの軸を務めるインドのモディ首相も、他の国々と共に、国際問題に対して積極的に関与することを発言しています。
欧米諸国とその仲間たちが何もしていないかというと語弊がありますが、ウクライナに対する熱狂(とはいえ、日ごとに冷めてきている気がしますが)に比べて、スーダンの問題やエチオピアでのティグレイ問題、ミャンマー情勢やアフガニスタン情勢に対するコミットメントへの熱情を感じることができません。
実際、国連の人権高等弁務官であるヴォルカ─・ターク氏も、人道支援を統括するマーティン・グリフィス事務次長も、国連安全保障理事会の場で「スーダンの惨状について報告し、その際、安保理の実質的な機能マヒにより、スーダンの人々に対する人道的支援が停止しており、スーダンはすでに国際社会から見放されている」という厳しい指摘がされていますが、安保理常任理事国の完全なるスプリットの影響を受けて、何一つ効果的な策を講じることが出来ていません。
かつて国連安全保障理事会のお仕事もしていた身としては、非常に残念であり、強烈に懸念を抱く事態になっています。
より紛争を激化させる方向に進む国際社会
国連および国連安保理が機能していない現状を受けて、各国・各地域は、国連に図ることなく、自ら“気の合う仲間”と“問題解決”に乗り出す傾向が強まっていますが、どうしてもその対応は公平とは言えないため、より紛争を激化させる方向に進んでいます。
私も調停に携わったナゴルノカラバフ紛争についても、今週、アゼルバイジャン側からアルメニア人勢力に対する攻撃を行い、あっという間にナゴルノカラバフにおける実効的な支配を確立しましたが、本件の解決に際し、国連の姿は全くなく、実質的にはロシア軍の平和維持軍が両国の仲介をする形で停戦に導いています。
ただこのナゴルノカラバフでの武力衝突におけるロシアの平和維持軍の仲介の背後には、現在の国際情勢を映し出す特徴が見え隠れしています。
先のナゴルノカラバフ紛争の際には、ロシアは軍事同盟に基づき、アルメニアの後ろ盾としての立場を取り、停戦協議においては、アゼルバイジャン側の後ろ盾であるトルコ政府と直接協議の上、紛争を収めたという経緯がありますが、今回は、アルメニア政府を説得し、アゼルバイジャン側が求めるアルメニア人勢力の武装解除を飲ませる以外に方法はなく、実質的にはアゼルバイジャン側の全面的勝利のアレンジをしたことになります。
これにより、地域におけるロシアの影響力の大きな低下が明らかになり、頼る相手がいなくなったアルメニア政府のパシニャン首相としては、取り急ぎ、アゼルバイジャン側の停戦条件を呑み、急ぎ新たな後ろ盾を探す必要に駆られています。
国内からの非難を受け、「無計画な強硬措置に出るべきではない。ただし、攻撃を受けた場合には、軍事的な対抗措置を取ることを排除しない」という発言をし、争いを避けようとしているように見えます。
しかし、現在、あまり報じられていませんが、アルメニア国内ではパシニャンは弱腰だと非難し、退陣を要請するような事態に発展しています。
今年7月に米軍と合同軍事演習を行い、アゼルバイジャン側への対抗をしようと目論んでいたようですが、これがロシアとトルコを刺激し、パシニャン政権に圧力をかけて欧米への接近を一時的に停止したため、見捨てられたと感じたナゴルノカラバフにアルメニア人勢力が一方的に作ったステパナケルト市を中心とする“ナゴルノカラバフ共和国”の構成員が蜂起し、それを好機ととらえたアゼルバイジャン軍が一気に“制圧”にあたったというのが、どうもストーリーのようです。
このような状況に本来ならば国連安保理が乗り出し、何らかの調停案を提示するのですが、今回も“地域における解決”という形で、国連の出番は与えられないままという状況になっています。
そしてこれまでであれば、ここでロシアが乗り込んできて紛争を“解決”するのですが、ロシアはウクライナへの侵攻を機に、遠くの友人は増えるものの、自らが裏庭と呼ぶ近隣諸国の支持を失い、次第に影響力を失っています(そしてそこに滑り込んでくるのが、中国とトルコです)。
この状況は実はウクライナ情勢にも大きな影響を与えることになっています。
先述の通り、ロシアは対ウクライナではまだ軍事的には優勢を保っているという分析が多いのですが、これが全世界的なレベルで見てみると、ウクライナへの侵攻で消耗するがゆえに、近隣諸国への差配にまで手が回らず、ロシアがもっとも嫌う欧米諸国がどんどん影響力を強めるという状況になっています。
国連加盟の33%の国々が見せるロシア寄りの姿勢
中東諸国やアフリカ、南アジアなどではまだまだロシアの影響力は強く、ウクライナ侵攻の後でも拡大傾向にあると言われていますが、旧ソ連の共和国で、かつプーチン大統領が目指す“大ロシア帝国の再興”のパズルの駒になるはずのスタン系諸国(カザフスタンやウズベキスタンなど)が挙って欧米諸国への接近を進めていることで、仮にロシアに有利な形でウクライナ侵攻が一段落したとしても、かつてのような大ロシア勢力圏は戻ってはこないと思われます。
そして中央アジア諸国が、ロシアによるウクライナ侵攻に対して距離を置く理由は「次は我が身」という恐れによるものより、「もともとロシア、ウクライナ、ベラルーシは不可分の兄弟姉妹のようなものであり、この紛争も内輪もめに過ぎない」という、他国とは違った見方をしているからだと考えられます(そして、限りなく現実的な認識だと思われます)。
とはいえ、ロシアがいつ自国に牙をむいてくるかわからないという恐れはあるため、ウクライナがNATOやEUへの加盟を模索するように、スタン系の国々も欧米諸国を対ロバランサーとしての存在に据えようとしています。
ただ、スタン系の国々もウクライナに加担する気はなく、淡々と自国の安全保障のための外交的な画策を行っています。中国との関係強化もその一例ですし、欧米との協力関係の格上げも同じです。
それは先述のアルメニアも同じで、欧米諸国、特に対ロ・対トルコを見越したアメリカとの協力を強化しようとしています。
このようにロシアは次第に自国周辺における勢力圏を失いつつありますが、果たしてロシア、そしてプーチン大統領は追い詰められ、孤立を深めているのでしょうか?
その答えはクリアカットには出てきません。
ウクライナ侵攻の強硬と苦戦は確実に影響力を奪っていますし、今回の対ウクライナ戦争においてロシアが苦戦する姿を晒すことで、これまで強大な力をベースに周辺国を抑え、かつ旧ソ連圏の盟主として振舞ってきたメッキがはがれていることは確かです。それが先ほど触れた近隣国のロシア離れに繋がっています。
しかし、ロシアの国際情勢における影響力はさほど下がっていないと思われます。特にロシア支持の傾向は、途上国で高まっており、EIU(Economist Intelligence Unit)の統計によると、ロシアによるウクライナ侵攻後も着実にロシアへの親近感が向上していることが分かります。特に中東、アフリカ、南アジアでの親ロシア感情の高まりは、ウクライナ侵攻以降のAntiロシアの風潮を目にしている私たちには理解しがたい状況です。
EIUによると、国連加盟国中、33%の国々はロシア支持かロシアにシンパシーを感じていると回答しており、それはロシア非難を行い、対ロ制裁を行う32%の国々に匹敵する割合になっています(残りは立場を明らかにせず、ウクライナ情勢からは距離を置いています)。
この状況から見えるのは、ロシアによるウクライナ侵攻から574日(9月21日で)が経った現在において、国際社会の分断はほぼ固定化され、ブロック化されているため、国連型国際協調の構図は描きづらくなっているという現実です。
その分断のコアにはロシアがいて、中国が存在します。そして中ロが推し進める国家資本主義体制に加わる国や、中ロとは微妙な緊張関係にありつつも、実利に基づいて中ロとも手を結ぶことを厭わないグローバルサウスの国々がそのコアを取り巻く構図があります。
そして別の場所に欧米諸国とその仲間たちの輪が存在し、それは、実態は別としても“自由民主主義体制”という旗印のもとに団結しています。
失意の下に帰国することになる可能性が高いゼレンスキー
その両方に上手に加わるのがグローバルサウスの国々ですが、決して大きな2陣営に染まりきることなく、別の勢力圏を構成しています。
EIUのデータによると1980年代はG7全体で世界のGDPの約6割を占め、国際情勢に大きな影響力を誇っていましたが、2020年代に入り、その割合は3割を割り込み、グローバルサウスの国々の著しい成長と発展により、国際社会においてG7がごり押しできる環境は消滅しつつあります。
まだ圧倒的な軍事力は存在するものの、ロシアによるウクライナ侵攻を真っ向から否定し非難する立場を取る以上、その圧倒的な軍事力にものを言わせて何かを強要する構図は選択できなくなっています。
この力のバランスの大きな変化と移行により、国際社会は分断されていますし、これまで散々欧米に押さえつけられてきた“その他大勢”が今、国際情勢のパワースポットと化して、国際情勢の趨勢を左右するまでになってきています。
その顕著な例が見られるのが、国連における各国の発言力です。ちょうどロシアによるウクライナ侵攻以降、国連安保理が完全に分裂し、機能不全に陥っている中、インドやトルコ、ブラジル、サウジアラビア、南アフリカなどの影響力が高まり、それぞれが属する地域の勢力圏を率いて、地域ならではのニーズを実現すべく、外交的な駆け引きを主導し始めています。
いくらアメリカや欧州各国が対ロ制裁を訴えかけても、これらの地域に属する国々は、ロシアによるウクライナ侵攻は非難するものの、欧米主導の制裁には与しないという外交姿勢が成立していますので、想像以上に対ロ制裁の輪が広まらず、代わりに実利に基づいた制裁逃れと穴づくりが活発になるという図式になってきています。
ロシアは孤立し、プーチン大統領もかつてのような神通力が効かなくなってきていると言われていますが、それはウクライナとゼレンスキー大統領にも同じことが言える状況になってきています。
今回の国連総会での一般討論演説の際、総会議場がガラガラだったことや、ゼレンスキー大統領が勤しんだ2国間会合も聞く限りでは不発になり、冒頭のバルバドスの首相の言葉ではないですが、「ウクライナが我々の発展を阻み、我々の問題を悪化させている」という恨み節を浴びせられるケースもあったと聞いています。
また一般討論演説でウクライナ産の穀物の流通を停止する決定をしたポーランド政府を名指しで非難してしまったことで、ポーランド政府が激怒し、今後、一切ウクライナに武器供与をしないと公言するような事態に陥ってしまいました。
実は、ゼレンスキー大統領の失言はただのトリガーであり、すでにポーランド国内で進んでいる対ウクライナ避難民に対する特別扱いの停止や国内の農業保護の政策の強化などとともに、ウクライナ支援よりも自国の安全保障環境の充実に舵を切ったポーランド政府の決断が背後にあります。
あくまでも今回の事件は、なかなかウクライナ切りを決断できなかったモラヴィツキ─首相の背中を押しただけに過ぎませんが、これでNATOおよびEUにおける対ウクライナ支援の網の一端、それも最前線で無視できない綻びが生じることになりました。
恐らく同じようなことは今後、ドミノ倒しのように中東欧諸国で起きるのではないかと思われます。
そうなると、ウクライナの頼みの綱はアメリカと西欧諸国となりますが、ワシントンDCで待ち受けるアメリカ政府関係者と議会関係者は、膨らみ続ける対ウクライナ支援の延長に及び腰と言われており、特に来年の大統領選挙の行方に響くとの予想が高まってきていることもあって、ゼレンスキー大統領は期待通りの結果を得るどころか、失意の下、キーウに帰還することになる可能性が高いと思われます。
国際協調体制の灯火を再び輝かせる先頭に立つべき日本
欧州各国については英国も、ドイツも、フランスも、イタリアも、すでに方針の転換が始まっており、口頭で宣言されている対ウクライナ支援の継続と拡大も、実質的には絵に描いた餅になる恐れが高まっています。
アメリカ国防省の分析では、ロシアとウクライナの攻防は長期化・泥沼化が必至で、現在の戦い方が続く限り、何らかのブレークスルーが起こるとしても2025年以降になるとの見通しが示されています。
ここには、もちろんロシアが核兵器を用いず、NATOが戦争に直接的に巻き込まれないという大前提が存在しますが、ロシアおよびプーチン大統領の“孤立”が進み、国内の過激派が勢力を増すにつれ、ロシアによる核兵器の使用を含む軍部の暴走の可能性も高まるという分析も増えてきていることは決して無視できない脅威だと考えます。
一部にロシア国内でのクーデターや内戦の可能性を指摘する情報もありますが、神通力が劣ってきていると言われていても、プーチン大統領が存命で権力の座についている限りにおいては、混乱は起きても、それがロシアの崩壊につながり、そして自動的に対ウクライナ戦争が終結するという事態には至らないと考えます。
戦争は続き、多くの人たちが傷つき、そしてロシア・ウクライナはもちろん、物理的・経済的な疲弊はどんどん波のように周辺に波及し、それが国際経済を蝕み、私たちの心理をネガティブな方向に振り、uncontrollableな状態に導く可能性が指摘され始めています。
国連安保理でのゼレンスキー大統領の演説において、国連改革と常任理事国システムの見直しなどが提唱されましたが、それは残念ながら総会マターではなく、安保理マターであり、当事者のロシアが常任理事国を務める現実から、安保理における手続き条項にかかる案件には確実に拒否権が発動されるため、ロシアが自ら国連を脱退するという暴挙に出ない限りは、実現することはありません。
分断は深化し、世界各地で見向きもされてこなかった様々な紛争の種が一斉に芽を出し、大混乱が訪れることになってしまうかもしれません。
私が国連で紛争調停官を務めたころにも分断は存在しましたが、その頃には国際的な問題を、UNを通じて皆で協力して解決しようという思想と動きが強く存在していました。
今、UNの外から国際情勢を見つめ、直に関わってみると、その“協調の時代”は、しばらくの間は戻ってこない気がしています。そしてその象徴であるはずの国連UNの存在意義も、存在の仕方も、急ぎ再検討される時期がやってくるように感じます。
日本の岸田総理は国連で行われた様々な会合において、協調の大事さと核なき世界に向けた国際的な歩みの強化の重要性を説きました。今年、中間年を迎えるSDGsの首脳級会合や気候変動問題に関する首脳級会合にも出席し、“あるべき世界観”について触れました。
今、UN不要論が強まってくる中、これまでのように少し遠慮した立ち位置から、もっと前面に旗振り役として躍り出て、国際協調体制の最後の灯火を再度、煌々と輝かせる先頭に立つリーダーシップを発揮してもらいたいと願います。
できるかどうかは分かりませんが、今こそ、戦後のジレンマから脱却し、真の国際社会のリーダーになるために、リーダーシップを発揮すべく脱皮してもらいたいと思います。
ポスト・ウクライナの世界が存在するのであれば、国際協調の下に成り立つ世界にするために本気を出してみませんか? そんな夢を見たくなる今週の国際情勢の裏側でした。
●ウクライナ戦争に投入されたロシア軍、平均4.5カ月で戦死 9/25
ウクライナ戦争に投入されたロシア将兵が平均して4.5カ月で戦死することが分かった。
21日(現地時間)、米ニュース週刊誌ニューズウィークは、ロシアの探査報道メディア「IStories」および独立系調査組織「紛争情報チーム」(CIT)の報告書を引用し、1年前のロシア当局の部分的動員令発令によって新たに徴集された約30万人に関連した死亡事例を分析し、入隊後戦死するまでの期間を報じた。
​この団体は1年前の昨年9月21日、ロシア当局の部分的動員令発令によって新たに徴集された約30万人に関連した死亡事例を分析し、報告書を出した。調査対象になったロシア軍戦死者約3000人はマスコミの報道や公式発表、親戚の言及などで確認した。
​その結果、動員令で軍に入隊した彼らの半分以上が戦線に投入された後、平均的に5カ月足らずで戦死したことが分かった。また、公開的に確認可能な戦死者のうち5分の1程度は2カ月も生存できなかった。
​部分的動員令で徴集され戦死した人々の半分以上は30〜45歳に該当した。20〜29歳が3分の1程度で、25歳未満は10分の1だった。最年少戦死者は19歳、最高齢は62歳だった。
​ロシアでは軍名誉毀損防止法によって戦死者の規模に言及した場合、処罰を受ける可能性がある。このため、正確な戦死者数は知られていない。
●武器供与の保留でウクライナ人が「殉教者」に ローマ教皇 9/25
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、ウクライナへの武器供与を保留することでウクライナの人々が「殉教者」となると述べた。
フランシスコ教皇は23日、記者団に対し、2日間の仏マルセイユ訪問を終えてローマに戻る機内で語った。
フランシスコ教皇は、「今、一部の国が前言を取り消し、武器を供与しないことを目の当たりにしている。殉教者がウクライナ国民となる過程が始まっており、これはひどいことだ」と述べた。
フランシスコ教皇はまた、各国がウクライナに対して武器を供与しながら、それを奪うという「矛盾」について言及し、そのことでウクライナの人々が「殉教者」のままとなっていると述べた。
フランシスコ教皇によれば、武器を売買する人々は自分の選択の結果について報いを受けることは決していないが、ウクライナの人々のような殉教者がその報いを受けるという。
ウクライナ産穀物の一時的な禁輸措置をめぐりポーランドとウクライナの対立が深まったことで、ポーランドがウクライナに対する武器の供与を停止する決断を下したが、フランシスコ教皇はこのことに言及した可能性がある。
バチカンの報道官は教皇の発言について説明を求められた際、フランシスコ教皇は各国がウクライナに武器を供与し続けるべきか、あるいはやめるべきかについて、一定の立場を示しているものではないと指摘。報道官は、フランシスコ教皇の発言はむしろ、軍需産業がもたらした結果についての考えだと説明した。
●9月のウクライナ穀物輸出は半減、黒海封鎖とロシア軍攻撃で 9/25
ウクライナ農業食料省が22日発表した統計によると、9月1〜21日の穀物輸出量は145万トンと、前年同期の約294万トンから半減したことが分かった。
トレーダーと農業組合は、黒海沿岸諸港の封鎖が続いていることに加え、穀物輸送の代替ルートであるドナウ川流域の港がロシア軍の攻撃を受けたことが主因との見方を示した。
2023─24年度(23年7月─24年6月)の穀物輸出は、現時点で計600万トンと、22─23年度同期の720万トンを下回った。内訳は小麦290万トン、トウモロコシ250万トン、大麦59万6000トンなど。 23年の穀物と油糧種子の収穫量は少なくとも8000万トンと見込まれている。

 

●中国のロシア・ウクライナ和平仲介は実現するか? 習近平 9/26
中国・習近平国家主席が、ロシア・ウクライナ戦争の和平仲介をしようと前のめりになっている。3期目に入って親ロ外交に大きく舵を切っており、プーチン大統領の立場を守ろうとしている。「中国は平和の使者」「米国は戦争屋」といったイメージを流布する背景には、どのような思惑があるのだろうか。
JBpressの人気コラムニストであるジャーナリストの福島香織氏は、こうした動きは台湾有事への布石であると読み解く。
地域の小国が大国の対立に巻き込まれる戦争 
2022年2月にロシアが仕掛けたウクライナ戦争はすでに1年を超え、ひょっとすると3回目の冬を迎えるかもしれない、という欧州連合(EU)の危機感を利用するかたちで、中国はロシアとウクライナの和平協議を斡旋できる影響力をもてるというそぶりを見せ始めた。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、台湾の安全保障と無関係のようでいて、深く関係している。ロシア・ウクライナ戦争の本質はロシアによるユーラシアの安全保障の枠組みの再構築を目指すものであり、台湾有事は中国によるアジア・太平洋の安全保障の再構築を目指すものだ。ともに地域の小国が大国の対立に巻き込まれるかたちの戦争ともいえる。ウクライナの場合はロシアvs米国・北大西洋条約機構(NATO)であり、台湾の場合は中国vs米国の対立がある。
ウクライナは一方的に侵略された被害者側であり、巻き込まれた側であり、台湾も中国から一方的に武力統一の危機にさらされている。だからロシア・ウクライナ戦争において台湾世論はウクライナに非常に同情的で、多くがウクライナ勝利を願っている。ウクライナはもともと親中的な国柄であり、ゼレンスキー大統領もかねて台湾は中国の一部という認識を示していたが、中国がロシア・プーチン体制寄りなのを見て、ウクライナ議会には台湾友好会派が発足している。
歴史的に過去に自国の領土であった(あるいは一方的に領土と見なしていた)という理由で武力侵攻し、占領して自国領土にしてしまうという行為が1度許されるならば、今後、2度、3度と世界各地で同様の侵略を許してしまう可能性が高まる。侵略戦争の時代が幕を開けてしまうという意味でも、ロシア・ウクライナ戦争の決着の在り方が台湾の安全、そして世界の安全保障の枠組みに関わってくるという意味でも、ウクライナと台湾は遠く離れていてもつながっているのだ。
ウクライナ和平仲介は台湾有事への布石
そして、こうした戦争のテーマが本質的に国際社会、国際安全保障の枠組みの再構築であるとなると、まさにロシア、中国、そして米国とその同盟国による陣取り合戦的な意味合いがある。ロシア・ウクライナ戦争が碁盤の左上隅だとしたら、台湾有事は右下隅にあり、その2つの競り合いは異なる戦のようで、最終的にその布石はつながる可能性がある。
そして、ロシアがウクライナ戦争の疲弊によって大国の地位が保てない状況になったとき、米国に対峙するメインプレイヤーは当然、中国であり、中国は自分に有利なようにロシア・ウクライナ戦争を着地させようと、まさに考えているところだろう。
だから中国が2023年2月24日、ロシアとウクライナの和平協議を呼び掛ける提案を行なったのも不思議ではない。中国は「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題した、12項目の和平協議に必要な条件を提示した。
   (1)各国の主権・独立・領土の保全
   (2)冷戦思考の放棄
   (3)戦闘停止
   (4)和平交渉の開始
   (5)人道上の危機の解決
   (6)民間人と捕虜の保護
   (7)原子力発電所の安全の確保
   (8)核兵器の不使用
   (9)食糧の海外輸送を保障
   (10)一方的制裁の停止
   (11)産業チェーン・サプライチェーンの安定の確保
   (12)戦後復興の推進
この12項目には、ウクライナが和平の前提として打ち出している10項目の核心であるロシア軍の占領地からの全面撤退が含まれておらず、(2)冷戦思考の放棄(NATOの東方拡大を暗に批判)、(10)一方的制裁の停止、というロシア寄りの立場に立ったものであった。
ただ、(1)各国の主権・独立・領土の保全と(7)原子力発電所の安全の確保、(8)核兵器の不使用についてはウクライナ側も評価しており、ここから中国が仲介力を発揮できるか、というのが国際社会の注目点だった。当初は米英欧とも、中国の仲介提案が現実的具体的なものではない、と批判的で、むしろ中国がロシアに武器など軍事的支援をすることを警戒し、牽制をかけていた。
国際社会のルールメーカーを狙う
ここで中国に一つの大きな追い風が起きる。2023年3月10日に北京で中国の仲介によって、2016年以降断交していたサウジアラビアとイランの外交関係回復が発表されたことだ。これで国際世論の空気が微妙に変わった。もちろん、サウジとイランのこじれた関係が本当に修復されるかは、今後の推移を注意深く見守る必要がある。だがとりあえず、米国が搔(か)き乱し、安定させることができなかった中東において、中国がスンニ派とシーア派の争いの最大当事者の関係改善合意を発表させた意味は大きい。
折しも中国では、習近平が3期目の国家主席に選出される全人代(全国人民代表大会)が開催中で、第3期習近平体制は「新時代の大国平和外交」を強く打ち出していたが、この事実が説得力をもたせていた。仮に、サウジとイランの代理戦争的な側面のあったイエメンの内戦や、シリアとアラブの関係改善につながっていけば、習近平の功績は「平和の使者」としてノーベル平和賞にノミネートされてもおかしくないくらいだろう。
習近平は3月20日にロシアを訪問し、プーチン大統領と会見した。新華社によれば、ここでプーチンは中国側のウクライナ問題に関する客観公正な立場をポジティブに評価。双方は、国家あるいは国家集団が政治的優位性を求めて他国の安全・利益に損害を与えるあらゆる行動に反対すると、国連憲章の宗旨と原則遵守に基づく発言を行なった。
さらに、プーチンは和平協議を早急に再開するために力を尽くすと繰り返し述べ、中国側はこれを賞賛した。またプーチンは、中国側が政治外交ルートでウクライナ危機に積極的な影響力を発揮することを歓迎し、「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」文書に記された建設的主張を歓迎する、とした。
双方はウクライナ危機解決について、陣営の対抗を形成すること、火に油を注ぐようなことを阻止しなければならないと指摘。責任ある対話が問題を解決する最善の道であると強調した。このため、国際社会は解決に向けた建設的努力を支持するべきだとした。
さらに「情勢を緊張させ、戦争をずるずる引き延ばすような行いをいっさいやめさせよう」「危機が悪化してコントロール不能となるようなことを回避すべきだ」「国連安保理が権利を授けていない、いかなる一方的制裁にも反対する」などと、暗に米国が戦争の火に油を注いでいるようなニュアンスで訴えた。
習近平は会談後の共同記者会見で、中ロ関係について「両国関係はもはや二国間の範囲を大きく超え、世界の枠組みと人類の前途・運命にとって非常に重要なものになっている」「新たな歴史的条件のもと、双方が広い視野をもって、長期的な視点で中ロ関係を把握し、人類のために事業を進歩させ、さらなる貢献を行う」「上海協力機構(SCO)と新興5カ国(BRICS)の協力の枠組み、G20などの国際的な多極的フレームワークの中での協力を強化し、ポストコロナの経済回復を促進し、多極的な世界の枠組みを構築し、グローバルガバナンス体系を整備する建設的パワーを強大化し、世界の食糧安全保障、エネルギー安全保障、産業チェーンの安定を守る面で多くの貢献をし、力を合わせて人類運命共同体の構築を推進していく」などと語って、あたかも中ロが今後の国際社会のルールメーカーになるかのような口ぶりだった。
親ロ外交を復活させた習近平
この会談の意義について、こうした新華社が伝える発言から私なりに解釈すると、習近平はプーチン擁護のスタンスをはっきりさせたことが一つある。
習近平が最終的に望んでいるのは、国際社会のフレームワークの再構築において習近平の中国が米国に代わる地位に立って、中国の価値観、秩序で国際社会を支配するルールメーカーになる、ということだ。そのために形成する中国朋友圏を一帯一路沿線に拡大していくのが習近平の青写真だが、それに対してロシアは、長年、中国と最も長い国境を接する隣国としてそれなりに警戒心をもって抵抗もしていた。だから、中ロ関係は「同盟を結ばず、対抗せず、第三者を標的にしない」という原則が維持されてきた。
だが習近平は、そうした中ロ緊張関係を蜜月に転換してきた。2022年2月、プーチンが訪中したとき、中ロは共同声明で「上限のない協力関係」を打ち出した。その後、ロシアとウクライナ戦争の泥沼化で、中国ではロシア専門の外務次官が左遷され、党内で習近平の親ロシア外交路線を阻止しようとする動きが出た。中国はロシア・ウクライナ戦争については、中立維持の立場をとってきた。
だが習近平が総書記、国家主席の3期連任に成功し、独裁化をさらに進める動きになったとき、習近平は親ロ外交を復活させたのだ。ロシアはすでに戦争で疲弊して大国の地位から転落し、中国は恐れる必要はない。むしろ、その命綱を握っている状況なのだ。全人代直後のロシア訪問の本当の意味は“親ロ外交路線の復活表明”と受け取っていいのではないか。
ロシアを敗戦させないシナリオ
では、習近平はなぜ親ロ外交にそこまで固執するのか。一つの理由は、習近平がプーチンを個人的に好きだということがある。
CCTV(中国中央テレビ)が流した中ロ首脳会談直前の映像の中に、プーチンが習近平に「中国がうらやましい」と語った場面があった。なぜなら「中国は非常に効果的な政治体制システムを打ち立て、経済を発展させ、国家実力を増強させたからだ」という。
そのときのプーチンの老いてむくんだうつむき加減の顔と、習近平のうれしそうな顔は、なかなか印象深かった。プーチンは、ゴルバチョフによって崩壊寸前に陥ったロシアを立て直し、常に厳しい決断を迷いなく行なってきたという点で、習近平にとって憧れの政治家だったといわれている。ウクライナ戦争の戦況がこれだけ厳しくなっても西側にノーと言い続けるその強さも、習近平がプーチンに好感を抱く理由であるという。
そのプーチンに「強い中国をつくった」と羨ましがられたのだから、習近平は自分のやり方に自信をもったことだろう。
もう一つが、ロシアの惨敗を何としても避けることが、中国習近平体制にとって重要だということだ。ロシアの惨めな敗戦はプーチン体制の崩壊を意味する。プーチン体制崩壊後に親米政権ができたりすると、中国としてはこれほど危ういことはない。
ロシアを敗戦させないシナリオは2つ。ウクライナにロシア・プーチンの面子を守るかたちで和平協議を調印させること、あるいは中国による本格的軍事支援によって戦況をロシア有利に逆転させたのちに、ウクライナに和平条件をのませること。
米国は2023年2月、中国が殺傷力を伴う支援をロシアに提供することを検討している、と警告していた。中国はそれを完全否定しているが、ロシアに武器供与をする選択肢が、習近平3期目再選とともに再検討されていたのは事実らしい。また、ウクライナ情報当局によれば、ロシアが使用する武器には中国製部品がかなり含まれているともいう。
中国がロシアにさらに武器供与をすれば、戦争はさらに長引き、ウクライナ側が絶体絶命の淵に追いやられる可能性がある。ウクライナにとっても中国の出方が生死を決するのだ。そういう意味では、中国はロシア、ウクライナ双方に対して生殺与奪の権を握っているともいえる。
米国がどういう意図をもって中国の対ロ武器供与情報を公表したかはさておき、中国がロシアに武器供与する可能性は、ウクライナを慌てさせたことだろう。これはウクライナの対中態度を硬化させる可能性もあるが、和平を急がせる理由にもなろう。
いずれにしろ、習近平のロシア・ウクライナ戦争の仲介役ができるそぶりを見せているのは、第一にプーチンの立場を守ること、第二に中国を「平和の使者」、米国を「戦争屋」にする国際イメージを浸透させること、そしてそのうえで台湾統一問題に関して中国に有利な国際環境をつくっていこう、ということだろう。
●ロシアが国際刑事裁判所の所長ら3人を指名手配、プーチン逮捕状への報復 9/26
ロシアの独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」は25日、露内務省が国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のピオトル・ホフマンスキ所長ら3人を指名手配したと報じた。ICCはロシアのウクライナ侵略をめぐってプーチン大統領らに逮捕状を出しており、プーチン政権による報復の一環とみられる。
露内務省のデータベースの情報に基づく報道で、ICC副所長と裁判官1人も指名手配された。ロシアの刑法に違反したのが理由だと主張している。
ICCは今年3月、ロシアがウクライナ各地から多くの子どもを露国内に強制移送しているとして、プーチン氏ら2人に戦争犯罪の容疑で逮捕状を発付した。
これに対し、露当局は5月にICCのカリム・カーン主任検察官らを指名手配し、7月には逮捕状を出す決定に関わった赤根智子裁判官も指名手配した。
●ロシア黒海艦隊司令官を「殺害」、先週の攻撃で=ウクライナ特殊部隊 9/26
ウクライナ特殊作戦部隊は25日、南部クリミアのセバストポリにあるロシア黒海艦隊司令部に対する22日の攻撃で、同艦隊のビクトル・ソコロフ司令官が死亡したと発表した。
ロシア国防省はソコロフ司令官の死亡を巡るロイターの取材に対し、今のところ応答していない。
ウクライナ軍はロシアが2014年に一方的に「併合」したクリミアのほか黒海周辺への攻撃を強めており、22日にロシア黒海艦隊司令部の攻撃に成功したと表明。ロシア国防省は同司令部が少なくとも1発のウクライナ軍のミサイル攻撃を受け、軍人1人が行方不明になっていると発表していた。
ウクライナ特殊作戦部隊はこの日「ロシア黒海艦隊司令部に対する攻撃で同艦隊の司令官を含む34人の将校が死亡した。このほか105人の軍人が負傷した。司令部の建物は復旧できない状態にある」と対話アプリ「テレグラム」に投稿した。
ウクライナ特殊作戦部隊が死傷者の数をどのようにして確認したのかは現時点で分かっていない。
●米製戦車「エイブラムス」がウクライナに到着=ゼレンスキー氏 9/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、米国の戦車「エイブラムス」がウクライナに到着したと述べた。
対話アプリ「テレグラム」で「ウメロフ国防相から朗報が届いた。エイブラムスはすでにウクライナに到着しており、わが旅団を強化するための準備が進められている」と明かした。ただ、ゼレンスキー大統領はテレグラムのメッセージアプリで述べた。ただ到着した戦車の両数は明言しなかった。
●オデーサにミサイル撃、穀物施設損傷 全土で6人死亡=ウクライナ当局 9/26
ウクライナ当局は25日、南部のオデーサ(オデッサ)港がロシアによる夜間のミサイル・ドローン(無人機)攻撃を受け、港湾インフラと穀物貯蔵施設が大きな被害を受けたと発表した。このほか、南部ヘルソン州ベリスラフにも空爆があり、全土で計6人が死亡したとしている。
オデーサ州のオレフ・キペル知事によると、約1000トンの穀物を貯蔵していた施設が攻撃を受けた。
エネルギー省によると、送配電網が被害を受け、1000人以上の契約者で停電となっている。数年間休業しているホテルで火災が発生したものの、すぐに消火されたという。
ウクライナ軍が南部と東部で反転攻勢を続ける中、ロシア軍はこのところ空爆を強化。ウクライナのスビリデンコ経済相は「オデーサが再び大規模な攻撃を受けた。穀物貯蔵施設が破壊され、港湾施設に大きな被害が出た」と短文投稿サイトのX(旧ツイッター)に投稿した。
ウクライナ空軍によると、ロシアが夜間にオデーサを中心とするウクライナに向けて展開させたイラン製ドローン「シャヘド」19機、巡航ミサイル11発、極超音速ミサイル2発を防空システムが破壊。これに先立つ24日には他の無人機3機を破壊したという。
ロイターはこの情報を独自に確認することができなかった。
この攻撃についてロシア側からコメントは出ていない。
一方、ロシア国防省は25日、防空システムが黒海北西部とクリミア半島上空でウクライナの無人機4機を破壊したと発表した。死者はいないとしている。
ロイターはこの情報を独自に確認することができなかった。ウクライナ側からコメントは出ていない。
これとは別に同省は、ロシアのクルスクとベルゴロド地方上空で夜間に無人機4機を破壊したと発表した。
●ロシア、西部でウクライナのドローン撃墜 ベルゴロド州とクルスク州 9/26
ロシア西部のベルゴロド州のグラドコフ知事は25日、同州南部上空でロシアの防空部隊がウクライナのドローン(小型無人機)7機を撃墜したと明らかにした。
グラドコフ知事によると、負傷者は出ていない。
ロシア国防省はその後、西部クルスク州の上空でロシア軍が無人機2機を破壊したと発表した。詳細は明らかにしていない。
ベルゴロド州とクルスク州は共にウクライナと国境を接している。 
●プーチン大統領 10月 キルギスを訪問 同盟国首脳と会談見通し 9/26
ロシア大統領府は、プーチン大統領が来月中央アジアのキルギスを訪問し、同盟国の首脳と会談する見通しを明らかにし、旧ソビエト諸国との結束を確認したい思惑もあるとみられます。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は26日、プーチン大統領が来月中央アジアのキルギスを訪問し、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領と会談する予定があることを明らかにしました。
これに先立ち、ルカシェンコ大統領は来月15日にキルギスでプーチン大統領と会談すると述べていました。
キルギスでは、来月13日にベラルーシや中央アジアの国々など旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議が開かれる予定で、プーチン大統領は、旧ソビエト諸国との結束を確認するためにこの会議に出席する可能性があるとみられます。
プーチン大統領は、ICC=国際刑事裁判所がウクライナへの軍事侵攻をめぐって逮捕状を出す中、先月南アフリカで行われたBRICSの首脳会議への対面出席を取りやめていましたが、来月には中国を訪問して習近平国家主席との首脳会談にも臨む見通しで、外交活動を活発化させようとしています。
●ロシア政府は次期大統領選を見据えて「大盤振る舞い」に傾く 9/26
要旨 / ロシアでは来年3月に次期大統領選が予定され、改憲によりプーチン氏の出馬が可能になるとともに、事実上の永世大統領となることが可能となっている。ウクライナ侵攻直後の景気は大幅に減速したが、欧米などの経済制裁への様々な抜け穴によりその後の景気は底入れが進む。こうしたなか、政府は侵攻の継続と大統領選を見据える形で来年度予算での大幅な歳出増を計画している模様である。軍事費増大やバラ撒き姿勢を強める一方、原油収入の底入れによる歳入増を受けて財政赤字は抑えられるとするが、赤字膨張は避けられない。他方、足下ではインフレが再燃するなかで中銀は物価と為替の安定を目的に断続利上げを余儀なくされているが、歳出増は新たなインフレ圧力となるなど難しい対応を迫られよう。政策運営を巡る政府と中銀の対立も予想され、中銀は金融市場と政府の間で板挟みの様相を強めることになろう。

ロシアでは、来年3月に次期大統領選(第1回投票)が予定されているが、2020年の憲法改正において現職大統領(プーチン氏)については大統領任期を巡る制限が解除されたことでプーチン氏の立候補が可能になっている。よって、仮にプーチン氏が出馬の上再選を果たすとともに、改めて連続2期(12年)に亘る任期を全うすれば、最長で83歳まで大統領で居続けることで事実上の『永世大統領』に向けた道が開けた格好である。なお、ロシアは昨年2月にウクライナへの侵攻に動き、プーチン政権とは短期決戦による決着を狙っていたとみられるものの、現時点においても事態はこう着化している上、先行きの見通しが立たない状況が続くなどさらなる長期化が避けられなくなっている。他方、同国経済を巡っては、ウクライナ侵攻を受けて欧米などが経済制裁を強化する対抗措置に動いたことで、直後は大きく下振れする事態に直面した。しかし、その後は中国をはじめとする欧米などの制裁に同調しない国々との連動を強めるとともに、これらの国々との迂回貿易や並行貿易を拡大させているほか、原油や天然ガスなどエネルギー資源の輸出も拡大させている。結果、昨年半ばを境に景気は底入れの動きを強めており、今年4-6月時点における実質GDPの水準は依然としてウクライナ侵攻直前を下回るものの、仮に足下のペースで景気の底入れが進めば年末にはウクライナ侵攻前の水準を回復すると見込まれるなど、欧米などによる経済制裁の影響を着実に克服している様子がうかがえる。さらに、足下ではロシアとサウジアラビアが価格維持を目的とする自主減産を年末まで延長する方針を示したことを受けて、同国産原油価格は欧米などが設定した上限(1バレル=60ドル)を上回る推移が続くなど原油関連収入は底入れしている。ウクライナ侵攻に伴う歳出増が財政の足かせとなる状況が続く一方、原油関連収入は欧米などの想定に比べて底堅い動きをみせており、結果的に財政的な観点でみた継戦能力はむしろ高まっていると考えられる。こうしたなか、プーチン大統領と主要閣僚が来年度予算(2024-26年度予算)に関するビデオ会議が開始され、この会議においてミシュスチン首相が来年の歳出規模を36.8兆ルーブルと今年度当初予算比で25.8%増と大幅に拡充する方針を明らかにしている。歳出規模が大幅に増加する背景には、プーチン政権が『特別軍事作戦』と称するウクライナ侵攻に伴う軍事費の膨張が影響しており、今年の国防予算は前年比で2倍となる9.7兆ルーブルに達しているうえ、侵攻が長期化するなかで国民の間に不満がくすぶる事態を抑えるべく年金給付額の拡充や子育て世代や公務員への現金給付実施といった社会支出の増大のほか、景気下支えに向けた企業への資金繰り支援や補助金給付などのバラ撒き政策に動くことが影響するとみられる。ただし、大幅な歳出増にも拘らず原油や天然ガス関連の歳入増を追い風に歳入は35兆ルーブルに達することで財政赤字は1.6兆ルーブルに留まる見通しを示しているものの、今年は8月時点における財政赤字が2.361兆ルーブルに達していることを勘案すれば、赤字が膨れ上がる可能性は高いと見込まれる。とはいえ、8月末時点の外貨準備高は4,369億ドルに達している上、その一部は財政赤字の補填に用いる国民福祉基金として運用されていることを勘案すれば、上述したように原油収入の底入れが進んでいることと相俟って継戦能力の高さに繋がっている。他方、足下では商品市況の底入れの動きに加え、通貨ルーブル安に伴う輸入インフレの動きも重なりインフレ圧力が再燃するなか、インフレ率は中銀目標を上回る伸びに再加速しており、中銀は戦争中にも拘らず物価と為替の安定を目的に今月の定例会合でも3会合連続の利上げに動くなど難しい対応を迫られている。ただし、上述のように政府が次期大統領選を見据えて『大盤振る舞い』の様相を強めることは、戦争長期化に伴う労働力不足も相俟ってインフレ圧力を増幅させると見込まれるため、中銀による政策対応を一段と困難にすることは避けられない。中銀をはじめとする政府内のテクノクラートは慎重な政策運営により最悪の事態の回避を目指しているとみられる一方、プーチン大統領をはじめ、その側近を中心に戦争を推進する右派が台頭して中銀に対して批判の矛を向ける動きがみられるなか、先行きの中銀は金融市場と政府との『板挟み』の様相を強めることになろう。
●ロシア軍、ウクライナ占拠地域で残酷な拷問 死者も=国連調査委 9/26
国連のウクライナ調査委員会は25日、ロシア軍が占拠した地域で残酷な拷問を行い、死者が出ていると報告した。家族が近くにいる中で性的暴行を加えるケースもあったという。
調査委のエリック・モーセ委員長はジュネーブの国連人権理事会で、「占拠地域におけるロシア軍の拷問が広範かつ組織的に行われていたことを示すさらなる証拠を得た」と説明。「被害者を死に至らしめるほどの残虐な拷問も行われた」と述べた。
また、ヘルソン州の占領地域で「ロシア兵は19歳から83歳までの女性に性的暴行を加えた」と語った。
多くの場合、家族は隣の部屋に監禁され、暴行の様子を聞かされていたという。
ロシア国防省は現時点でコメント要請に応じていない。
モーセ氏はまた、ウクライナ軍による違反行為も少数あったと指摘。無差別攻撃やロシア人拘束者に対する不当な扱いに関するものだと述べた。
●アルメニア事実上敗北 ロシアへの不満強める ロシアは批判も 9/26
アゼルバイジャンが隣国アルメニアとの係争地のナゴルノカラバフで起こした軍事行動でアルメニアは事実上、敗北し、同盟関係にあるロシアへの不満を強めています。これに対し、ロシア側は「同盟関係を破壊しようとしている」と厳しく批判し、両国の関係が一層冷え込んでいます。
アゼルバイジャンは隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで19日に「対テロ作戦」だとする軍事行動を行い、これに対し、アルメニア側は武装解除などを受け入れ、事実上、敗北しました。
アルメニアのパシニャン首相は同盟関係にあるロシアの平和維持部隊が役割を果たさなかったなどと不満を表明していますが、これに対し、ロシア外務省は25日、声明で、「ロシアに対する容認できない攻撃だ。外交や内政の失敗を押しつけている。欧米に触発され、ロシアとの同盟関係を破壊しようとしている」などと強く批判しました。
ウクライナへの軍事侵攻以降、ロシアはアルメニアへの影響力の低下が指摘され、一方、アルメニアはアメリカと合同軍事演習を行うなど欧米側に接近する動きを見せています。
一方、およそ12万人のアルメニア系の住民がいるとされるナゴルノカラバフからはアルメニアに避難する人が相次いでいて、アルメニア政府はこれまでに1万3000人余りが到着したと発表するなど、混乱が続いています。
こうした中、ロシアのメディアによりますと、情勢を安定させるため、アルメニアがEU=ヨーロッパ連合などの仲介で来月、パシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領との会談を模索していると伝えています。

 

●「金正恩は罠に落ちた」プーチンが企む12月「北朝鮮&ベラルーシから戦術核」 9/27
「テロリストに核を保有する権利はない」
9月20日(日本時間)、ウクライナのゼレンスキー大統領が国連総会で、ロシアをこう批判した1週間前――。
北朝鮮の金正恩総書記は、ロシアのプーチン大統領から破格のもてなしを受けていた。
「9月13日、露朝首脳会談がおこなわれたボストーチヌイ宇宙基地は、ロシア国内に5つあるなかでも、最新鋭かつプーチン肝入りの基地です。そこに金正恩総書記を招待したのは、ただならぬ理由があると、私は考えています」
そう語るのは、ロシア政治が専門である中村逸郎筑波大学名誉教授だ。
表向きの会談内容は、「人工衛星開発で協力していく」と、結束強化を打ちだすもの。だが、中村氏は4年半ぶりにおこなわれた首脳間の対話から、大きな変化を読み取った。
「2019年にプーチンと金正恩が初めて会談したとき、2人は13秒間、握手しました。今回は40秒間も手を握っていたんですね。さらに前回、プーチンは30分、遅刻して会談に臨んだのが、今回は先に会場に入り、建物の前で金正恩の到着を待っていたんです。格別のもてなしを見せつけたわけです」(中村氏、以下同)
過去に、プーチン大統領から同様の厚遇を受けた外国の要人がいた。
「2022年4月、ベラルーシのルカシェンコ大統領も、この宇宙基地を訪問しているんです。当時、ルカシェンコは『このような基地を外国の首脳が訪問することはあり得ないことだ』と、感銘を受けていました。その後の2023年5月に両国は、ロシアがベラルーシに戦術核を置くという協定に調印しています」
6月に、ロシアからの核兵器搬入が始まったとき、ルカシェンコ大統領は「広島と長崎に投下された爆弾の3倍以上の威力がある」と豪語している。
「注視すべきなのは、戦術核は譲渡されたのではなく、管理・運用するのはロシアで、ベラルーシは手を出せない状態になっていることです。そこに、プーチンの“罠”があるんじゃないかと、私は考えています。そしてこの一連の流れが、今回の露朝首脳会談にも当てはまるのです」
プーチンの“罠”。それに金正恩総書記も引っかかった可能性があるというのだ。
「これだけのもてなしをしたのだから、しっかり恩返しをしろ、ということです。ルカシェンコも金正恩も、国際的に孤立しているなかで、プーチンの招待に応えてしまった。1、2カ月以内にロシアは、北朝鮮にも戦術核を置き、管理・運営していくことが考えられます」
ロシアは、2024年3月に大統領選を控えている。ウクライナでの戦果を出せていない“窮鼠”のプーチン大統領が暴発しようとしているのだ。
「ベラルーシからは、ウクライナの首都キーウを撃つ。北朝鮮からは、ソウルを撃つ。プーチンは、アジアとヨーロッパの“二正面”で、至近距離から同時に戦術核を撃つことを考えているはずです」
国際社会もロシア国内も大混乱するが、それこそがプーチンの狙いだ。
「総動員体制を宣言して、大統領選挙を延期する腹づもりでしょう。過去の大統領選では、プーチンは12月20日ごろに出馬表明をしていますから、12月上旬には、二正面作戦が実行される危険性が高くなっていると思います」
北朝鮮にとっても、核は日米韓に対する抑止力になるメリットがあるわけだが、ここでもプーチンが一枚、上手だ。
「ロシアは自国から核を撃つわけではないので、アメリカは直ちにロシア本土に撃ち返すわけにはいきません。北朝鮮とベラルーシをアメリカの核報復の矢面に立たせようと、プーチンは考えているんじゃないでしょうか」
その大混乱に乗じて、ロシア軍がザポリージャ原発を攻撃する――。いよいよ追い込まれたプーチンの、最後の一手である。
●「ロシア帝国の崩壊」加速化を象徴するアゼルバイジャンの対アルメニア作戦 9/27
9月19日、アゼルバイジャン軍は、隣国アルメニアとの間で係争となっているナゴルノカラバフで「対テロ作戦」と称する軍事作戦を行った。200人もの死者が出たが、アルメニア側は、武装解除などを受け入れ、翌20日には停戦が成立した。この問題の背景と、今後の展開について解説するーー。
旧ソビエト連邦の民族問題
1917年のロシア革命で成立したボリシェヴィキ政権は、レーニン、そしてスターリンによる支配を通じて、広大なソビエト連邦を作り上げた。
広大な領土に多数の民族を抱えるこの大帝国は、スターリンの強力な独裁政治下で、民族の集団移転など弾圧を繰り返してきた。しかし、スターリンの強権支配が終わると、帝国の各地で民族紛争や民族独立の動きが顕在化してきた。
1985年に政権に就いたゴルバチョフのペレストロイカをきっかけに、1991年にソ連邦は解体したが、実はそれを準備したのも民族問題だったのである。フランスのロシア専門家、エレーヌ・カレール=ダンコースは、1978年に公刊した『崩壊した帝国』(邦訳は、1981年、新評論)で、そのことを予見していた。
多くの民族をかかえる帝政ロシア、そして後のソ連邦、さらには今日のロシア連邦にとっても、民族問題は政権の命運を決するくらいに重要な問題であったし、あり続けている。今プーチンが試みているのは、「崩壊した帝国」の再建である。
プーチンは、2000年にはチェチェンで、2008年にはグルジア(現ジョージア)で、2014年にはクリミアで、崩壊した帝国を修復する戦いに成功している。2022年のウクライナ侵攻も、その一環であり、ウクライナも、ロシアの為政者にとっては永遠の試練、民族問題なのである。
さて、ソ連では1980年代後半にペレストロイカの波に乗って、民族問題が一気に噴出した。アゼルバイジャンとアルメニアの紛争もそうである。
アゼルバイジャン共和国の中にありながら、自治州ナゴルノ・カラバフではアルメニア人が人口の多数を占めている。そのため、アルメニア人はアルメニアへの編入を求めて、1988年12月にアゼルバイジャンとの間で紛争が起こった。第一次ナゴルノカラバフ紛争である。
1990年1月にはアルメニア人の村がアゼルバイジャン人に襲撃され、多くの犠牲者を出し、3万人のアルメニア人が避難した。このときは、ソ連軍がバクーに派遣されて、暴動を鎮圧した。
1991年9月には、アルメニア系住民がアゼルバイジャンからの独立を宣言し、紛争が激化した。12月にはソ連邦が解体し、アゼルバイジャンとアルメニアは独立国となったが、その後も、紛争は継続し、1992年1月にはナゴルノカラバフ自治州は「アルツァフ共和国」といして公式に独立宣言した。この紛争は、1994年9月にはアルメニア側の勝利で停戦した。
2020年9月、アゼルバイジャンは、バクーの油田によって富を蓄積して軍事力も強化し、大攻勢をかけ、11月には支配権を奪還した(第二次ナゴルノカラバフ紛争)。同じイスラム教徒で、民族的にも近いトルコがアゼルバイジャンを支援している。
一方、アルメニアはキリスト教(ロシア正教系)であり、ロシアに支援されている。第一次世界大戦中に、アルメニア人はトルコに大量虐殺されており、トルコとは犬猿の仲である。
ロシアはウクライナ戦争で忙殺
2020年の紛争のときも、ロシアは介入せず、今回もそうであり、それがアゼルバイジャンの勝利につながった。
ロシアは平和委維持部隊を駐留させているが、ウクライナ戦争で忙殺されており、実際には傍観状態であった。これは旧ソ連地域に対するロシアの影響力の低下を物語っており、チェチェン、グルジア、クリミアと続いてきた「プーチンの成功物語」も、ウクライナ侵攻で終わりを告げつつあるようである。
それを象徴する出来事が、今回のナゴルノカラバフにおける同盟国アルメニアの敗退である。
アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は20日、国民に向けたテレビ演説で「主権を回復した」と勝利宣言を行った。
一方、敗北したアルメニアのニコル・パシニャン首相は、「ナゴルノカラバフに住むアルメニア人は民族浄化の危機に直面している」として、アゼルバイジャンのみならずロシアの平和維持部隊の無策も非難した。
ロシアは、アゼルバイジャンを支援するトルコとの関係が悪化することを危惧して介入を躊躇ったようである。これも、トルコが大きな影響を及ぼすウクライナ戦争が背景にある。
実際、アゼルバイジャンが軍事行動を起こしたのは、以上のようなロシアの窮状を念頭に置いた上でのことであった。
コーカサス地方は多くの民族が混在する地域で、同じ土地を民族どうしで奪い合うという民族紛争が頻発してきた。それだけに民族浄化という悲劇も生まれる。
一つの民族が他の民族を虐殺する、追い出すといった民族浄化は、ユーゴスラビア解体過程で、ボスニア・ヘルツェゴビナなどでその悲惨さを我々は見てきた。アルメニアは、それが再現される危機にナゴルノカラバフも直面していると、アルメニアは危惧しているのである。
アルメニアの首都エレバンでは、敗北の責任を問い、パシャニン首相の辞任を求める抗議デモが起こっている。
ナゴルノカラバフから約5千人のアルメニア人が、すでにアルメニアに逃亡してきている。迫害を恐れてのことである。12万人のアルメニア系住民がアルメニアに移住することになれば、人口280万人のアルメニアにとっては、住居の確保をはじめ受け入れが重荷である。
ロシア「帝国の崩壊」へ
今回の事態で、アルメニアはもはやロシアは頼りにできないことを認識しており、9月11日から20日までエレバン近郊でアメリカとの合同軍事演習を行っている。
アルメニアは、ロシア主導で旧ソ連構成国からなる「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟しているが(他にベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)、この機構から脱退する可能性もある。アルメニアにはロシアの基地があるが、この基地の存続すらできるか否か不明である。
今後、アゼルバイジャンとアルメニアの間で、ナゴルノカラバフの帰属などについて協議されるだろうが、どのような展開になるかは予測がつかない。
ロシアの忠実な同盟国として残っているのは、今やベラルーシのみである。戦争がどのように終結するにしろ、ウクライナが親ロシアになることはない。中央アジアの旧ソ連諸国もモスクワから距離を置き始めている。
「帝国の崩壊」を阻止するために始めたウクライナ侵攻は、ナゴルノカラバフに見るように、皮肉にもその「崩壊」を加速化させている。
●ウクライナ、クリミア攻撃に重点…露の補給地破壊し反転攻勢での勝機狙う 9/27 
ウクライナ軍は連日、ロシアが一方的に併合したクリミア半島への重点的な攻撃を続けている。22日にはミサイルで露軍黒海艦隊司令部を攻撃し、大きな損害を与えた。ウクライナは戦略的に重要なクリミアでダメージを与え、大規模反転攻勢の勝機につなげたい考えだ。
ウクライナ側の発表によると、ウクライナ軍は13日、クリミア南西部セバストポリの造船所をミサイルで攻撃し、露大型揚陸艦や潜水艦を損傷させた。翌14日には、西部エフパトリア近郊で防空システムを破壊した。22日の司令部攻撃では幹部会議中に命中させ、死者は34人、負傷者は105人に上った。無人機のほか英仏共同開発の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われたとされ、米欧の武器支援が最近の攻撃を可能にしている。
被害については両国の主張が食い違う。特に司令部への攻撃では、ウクライナ側が死傷した司令官らの氏名など詳細な情報を発信した一方、露側は「行方不明1人」とだけ発表している。26日には、ウクライナが死亡したと主張する司令官が、セルゲイ・ショイグ露国防相らとの会合にオンラインで参加した映像が国営テレビで放送された。
露地元当局は被害についてSNSに投稿しないよう住民に呼びかけており、両国が繰り広げる「情報戦」がクリミアの重要性を物語っている。
ロシアにとってクリミアは、南部戦線などへの主要な物資補給地となっている。断絶されれば露軍の戦闘能力は大幅に低下するとみられる。反攻の遅れが指摘されるウクライナは、補給地を破壊して前線での戦いを乗り切ろうとしている。
クリミアは露軍の長距離ミサイルの発射拠点でもある。ロシアは7月にウクライナ産穀物の輸出合意を離脱して以降、南部オデーサの港などへ攻撃を繰り返してきた。ウクライナは経済を支える穀物輸出の全面的な再開を目指している。露軍の攻撃機能を弱体化させ、黒海航行の安全確保を狙っているとみられる。
一方、ウクライナ侵略は2014年のクリミア併合に端を発するだけに、ロシアの領土拡張でクリミアは象徴的存在となっている。クリミアの防衛のもろさが露呈すれば、プーチン大統領の求心力低下につながるのは必至だ。
ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ局長は、米軍事系メディアに「(ロシア側の)住民は自分たちを守る防空システムがどこにあるのか疑問を抱き始めている」と話した。
●ロシア、国連人権理事会への復帰を模索 支持求める文書をBBCが入手 9/27
ウクライナ侵攻を理由に、昨年4月に国連人権理事会から事実上追放されたロシアが、同理事会への復帰を模索していることが、BBCが入手した文書で明らかになった。
ロシアは昨年2月にウクライナへの全面侵攻を開始。国連は同4月の総会で、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止する決議案を可決した。
そのロシアの外交官たちがいま、人権理事会理事国に自国を再選させることを狙っている。
人権理事会の理事国になるには、国連総会の投票で過半数の獲得が必要。理事国の任期は3年。
BBCはこのほど、ロシアが支持を求めて国連加盟国に配布している、ポジション・ペーパー(自国の見解を示した文書)のコピーを入手した。
投票は10月に行われる。
この投票は、国連の国際的立場が問われる試金石となると、BBCのジェームズ・ランデール外交担当編集委員はみている。
ロシアの人権問題
BBCが確認した文書の中で、ロシアは「人権問題の適切な解決策」を見つけることを約束し、国連人権理事会が「ある国々の政治的意思に奉仕する道具」になることを阻止するとしている。これは西側諸国を指していると思われる。
複数の外交官は、ウクライナや自国における人権侵害で非難されているロシアが、国際的な信用をいくらか取り戻すことを望んでいるとの見方を示した。
ウクライナに関する国連の調査委員会は25日、ロシアによる虐待行為に関する最新の証拠を人権理事会に報告した。
同調査委のエリック・モーセ委員長は、拷問やレイプ、民間人への攻撃を含む戦争犯罪の証拠が継続的に確認されていると述べた。
ロシアの人権問題担当の国連特別報告者マリアナ・カツァロワ氏は、2週間前に発表した別の報告書で、ロシア国内の人権状況も「著しく悪化」しており、ウクライナへの侵略行為を批判した人が恣意(しい)的な逮捕や拷問、虐待の対象になっているとしていた。
ロシアの理事会復帰は
スイス・ジュネーヴが拠点の国連人権理事会は、投票で選出された47の理事国で構成されている。
10月10日に予定されている次回の投票で、ロシアは中東欧諸国に割り当てられた理事会の2枠を、アルバニアおよびブルガリアと争うことになる。
投票には米ニューヨークの国連総会メンバーである全193カ国が参加する。国連加盟国の外交官たちによると、ロシアは積極的なキャンペーンを展開し、ロシアに投票する見返りとして小国に穀物や武器の提供を提案しているという。
そのため、ロシアが人権理事会に復帰する可能性は十分あると、外交官らは指摘する。
国連加盟国に配布されたロシアのポジション・ペーパーには、ロシアは「人権問題の適切な解決策を見出すために、理事会における協力の原則と、建設的な相互尊重の対話の強化を促進したい」とある。
ロシアの核心的な主張は、「人権理事会をある国々の政治的意思に奉仕する道具に変える傾向が強まるのを防ぐ」ために、理事会メンバーとしての立場を利用するというものだ。その国々が「独立した対外政策を理由に、自分たちに忠実ではない政府を罰する」ことは望まないとしている。
ロシアは昨年4月の国連総会で、賛成93、反対24、棄権58で国連人権理事会における理事国資格を停止された。同国はポジション・ペーパーで、資格停止になったのは「アメリカとその同盟国」のせいだと非難している。
国連ウォッチ、ヒューマン・ライツ・ファウンデーション(人権財団)、ラウル・ウォレンバーグ人権センターの3団体が今月発表した報告書は、ロシアは国連人権理事会のメンバーとして「不適格」であると結論づけた。
「ウクライナに対する戦争がいまだ続いている中、ロシアを理事国に再選することは人権問題への取り組みにとって逆効果であり、ウクライナにおけるロシアの犯罪に対する責任をロシアに負わせることに、国連が真剣に取り組んでいないというメッセージを送ることになる」と、同報告書は指摘している。
イギリスは、ロシアの人権理事会復帰に「強く反対する」としている。
英外務省報道官は、「先週、ロシア担当の国連特別報告者が強調したものを含め、ウクライナやロシア国民に対するロシアの人権侵害と違反行為を示す広範な証拠がある。これらは、ロシアが同理事会の取り組みを完全に軽視していることを示している」と述べた。
英最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は、ロシアはウクライナで残虐行為を行い、国際刑事裁判所(ICC)からロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対してウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で逮捕状が出ていると指摘。国連憲章を全く軽視していることを示していると述べた。
「ロシアが人権理事会に復帰するという考えは、人権の概念そのものに対する侮辱であり、その信頼性を傷つける危険な後退だ」と、ラミー氏は述べた。「英政府は、過去に(投票を)棄権した国々に集中的に働きかけ、国連の本質的な価値が守られなければならないと訴えるべきだ」。
BBCは国連のロシア代表部にコメントを求めている。
●ウクライナ中銀、政策金利を20%に引き下げ 9/27
ウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)は9月15日、主要政策金利を22%から20%に引き下げた。利下げの理由として、インフレ率が低下していること、外貨準備高が増加し、外国為替相場を安定させる余地が拡大していること、国内経済の回復を下支えすることを挙げた。
国内ではインフレ率の低下が続いており、7月は前年同月比11.3%、8月は食品の供給増が寄与し、同8.6%となった。今後の見通しについてNBUは、数カ月間は農産物収穫量の増加が物価上昇圧力を抑制するが、急速に鈍化する可能性はないと説明した。また、インフレ率の低下が通貨フリブニャ為替レートの安定や期待インフレ率の抑制に寄与していると指摘した。他方で、物価上昇のリスクとして、戦争によるインフラや経済活動への被害、欧州諸国のウクライナに対する貿易制限、エネルギー価格の高騰を挙げた。
8月末の外貨準備高は、前年同月比150億ドル増の404億ドルとなった。NBUは、引き続きインフレを抑制するため外国為替市場の安定に取り組むとし、公的資金の注入により十分な外貨準備を維持する方針だ。他方で、戦争の長期化により防衛費の支出が財政を逼迫させるため、NBUは財源を確保するためにも引き続き国際社会からの支援が必要で、IMFから受けている支援の条件を順守する必要があると説明した。
今後の金融政策についてNBUは、外国為替市場やインフレの状況を注視しながら引き下げる方針と説明している。次の理事会は2023年10月26日に予定されている。
●ノルウェー、ウクライナに138億円の人道支援 9/27
ノルウェー政府は26日、ウクライナに対する人道支援として10億クローネ(約138億円)を拠出すると明らかにした。
ノルウェー政府は声明で、今回の拠出資金について、最も弱い立場にある子どもたちや難民、国内の避難民が、シェルターをはじめ、食料や水、衛生設備、教育、医療、心理的な支援、性的な暴力やジェンダーに基づく暴力からの保護などの重要な支援を受けられるようにすることを目的としていると説明した。
ノルウェーのウィットフェルト外相は「ロシアの残忍な戦争がウクライナの市民に多大な苦しみをもたらしている」とし、ウクライナの人々が再び戦争の冬を乗り越えるためにはノルウェーの支援が必要だと述べた。
今回の支援は、国連と赤十字が設定した既存のプログラムを通じて分配される。
ノルウェーは北大西洋条約機構(NATO)の創設時の加盟国。ノルウェーはこれまでに、ウクライナに対してF16戦闘機を供与すると発表していた。ノルウェーはまた、対空ミサイルや地雷除去装置、ウクライナでのガスと電気の供給を確保するための追加資金も提供している。
●廃虚と化したバフムート近郊 ウクライナ軍が高地を奪還 9/27
数カ月にわたって繰り広げられたウクライナ軍とロシア軍の激戦の末、完全に廃虚と化した東部ドネツク州バフムート近郊のクリシュチウカ村。
9月24日に撮影されたドローン映像には、破壊されたロシア軍の戦車や戦闘車両が道路に乗り捨てられており、戦争前は約400人の住民が住んでいた村の建物は、すべて破壊されている。
四方の壁が残った建物には屋根がなく、一枚だけ残った壁は、かつて人が住んでいた場所を示す墓標のようだ。
ウクライナ軍は9月17日、数カ月にわたる激戦の末、すぐ南のアンドリーウカ村奪還の2日後に、クリシュチウカをロシア軍から奪い返した。
両方とも小さな村だが、約10キロ北でロシア軍が占領するバフムートを包囲したいウクライナ軍にとっては、戦術上重要な位置だ。
村の高台からは、ロシア軍が占領するバフムートと兵站ラインが見渡せ、町を包囲したいウクライナ軍に新たな機会が生まれる可能性がある。
●ロシア軍、港湾施設を攻撃 ウクライナ軍反転攻勢に進展 9/27
ウクライナ当局者は26日、港湾施設や穀物貯蔵施設がロシア軍により攻撃されたと明らかにした。一方、3カ月に及ぶ反転攻勢は前線で若干の進展があったとも明らかにした。
ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、前線から「良い詳細」について報告があったとし、ウクライナ軍はロシアに圧力をかけるべき場所を明確に把握していると説明した。
「制裁だけでは十分ではない。テロ国家に対するわれわれの行動が増える」と述べ「侵略を続ける限り、ロシアは損失を感じなければならない」と強調した。
東部軍の報道官は国営テレビに対し、ウクライナ軍が5月にロシア軍に占領されたバフムト近郊の村で「成功を収めた」と語った。
南部の部隊報道官は国営テレビに対してアゾフ海への進軍の一環として、ベルボベへの進軍態勢を整えていると語った。ロシア軍は予備兵力を投入している。同報道官は「間もなく良い知らせがあると信じている」と語った。
●ロシア軍黒海艦隊への攻撃は「最も損傷を与えた」「巡視力低下」… 9/27
英国防省は26日、ウクライナ軍の攻撃を受けたロシア軍の黒海艦隊について、「広範な地域の巡視やウクライナの港を封鎖する能力は低下する可能性が高い」とする分析を明らかにした。「物理的被害は深刻だが局所的だ」とも指摘し、「巡航ミサイル攻撃など主要任務を遂行する能力を維持している」との見方も示した。
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合したクリミア半島への攻撃を強化しており、20日と22日に黒海艦隊司令部を標的に攻撃した。英国防省はこの攻撃について「これまでで最も損傷を与え、連携の取れたものだった」と評価した。
ウクライナ軍は、22日の攻撃で、露軍司令官を含む34人が死亡し、105人が負傷したと発表したが、ロシアは大規模な被害を認めておらず、この司令官がオンラインで参加する会合の映像を公開している。
●黒海艦隊司令官の安否 ウクライナ側とロシア側 異なる情報発信 9/27
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアにある黒海艦隊の司令部へのウクライナ軍による攻撃で、艦隊を率いる司令官の安否を巡りウクライナ側とロシア側がそれぞれ異なる情報を発信していて、真相は依然としてわかっていません。
ウクライナ軍は、南部クリミアの軍港都市セバストポリにあるロシア海軍の黒海艦隊の司令部に対する今月22日の攻撃で、艦隊を率いる司令官を含む34人が死亡したと主張しています。
これに対してロシア国防省は26日、ショイグ国防相が軍の司令官などと開いた会議の映像を公開し、黒海艦隊のソコロフ司令官とみられる人物がオンラインで参加している様子が映し出されています。
映像は、いつ撮影されたのかはわかっていませんがロシアのメディアは「司令官は健在だ」と伝えています。
この映像についてウクライナ軍の特殊作戦部隊は26日、SNSで「ロシア側は司令官が生存していると緊急に表明せざるを得なくなったものでわれわれは、この情報を解明している」と明らかにしました。
また「遺体の損傷が激しく、多くの身元は特定されていない」ともしています。
ウクライナのウメロフ国防相は26日、CNNの取材に対して、司令官の安否について「死亡したとすれば、誰にとっても朗報だ」としましたが、肯定も否定もしませんでした。
ウクライナ側がこのところ黒海艦隊への攻撃を強める中、そのトップの安否をめぐりウクライナ側とロシア側がそれぞれ異なる情報を発信していて、真相は依然としてわかっていません。
●ナワリヌイ氏懲役19年確定 ロシア控訴審、異議退ける 9/27
ロシアの控訴裁判所は26日、過激派団体を創設したとして反政府活動家ナワリヌイ氏に懲役19年を言い渡した8月のモスクワ市裁判所の判決を不服とする弁護側の異議を退ける決定をした。これにより判決が確定した。タス通信などが報じた。
ナワリヌイ氏は既に複数の判決で計10年を超す判決を受けており、今後の政治活動は極めて困難になった。欧米などの強い批判は必至だ。
政府高官の汚職疑惑などを告発し、プーチン政権と対立したナワリヌイ氏は2020年にロシア国内で毒殺未遂に遭い、療養先のドイツから21年に帰国して逮捕された。過去の経済事件に絡んで懲役2年6月の判決を受け、収監された。22年には自身の「反汚職闘争基金」の寄付金詐取などを理由に懲役9年を言い渡された。
新たな判決確定で、ナワリヌイ氏に対する面会や差し入れなどの制限は一層厳しくなる。現在収監されているモスクワ東方ウラジーミル州の刑務所から別の施設に移される可能性もある。 
●米、APECにプーチン氏招待せず 制裁を理由に 9/27
ロシア外務省でアジア太平洋経済協力会議(APEC)を担当するベルディエフ特使は26日、米政府が今年11月に米サンフランシスコで開かれるAPEC首脳会議にロシアのプーチン大統領を招待しない意向を外交ルートで伝えたと明らかにした。
米側はロシアが制裁対象になっていることを理由に挙げたという。ベルディエフ氏は「米国は議長国としての義務を果たすべきだ」と遺憾の意を示し、招待状を出すよう要請していると述べた。
プーチン氏は今年8月の南アフリカでの新興5カ国(BRICS)首脳会議や9月にインドで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で、対面での出席を見送っている。仮にAPEC首脳会議への招待があっても、ウクライナ侵攻で対立を深める米国を訪問する可能性は低いとみられている。
●中国、8月発表の公式地図でロシア領の一部を中国領に 9/27
中国政府が8月に公表した公式地図で、2004年にロシア領として両国が合意したハバロフスク近郊の大ウスリー島(中国名・黒瞎子島)東側を中国領と表記した。中国との関係維持を重視するロシア政府は平静を装うが、極東のロシア住民は中国への警戒を強めている。
2004年画定の国境線を無視、ロシア側は静観
プーチン大統領は04年、それまで実効支配していた大ウスリー島西側などを中国に引き渡すことを決め、係争が続いていた土地を2等分して国境を画定することで胡錦濤こきんとう国家主席(当時)と合意した。08年の議定書で中ロの国境はすべて画定している。
しかし今年8月末、中国自然資源省が公表した公式地図で、大ウスリー島の全域が中国の国境線の内側に記されている。中国のアプリ「百度地図」でも同島全域が中国領となっている。
公式地図を巡っては、インドやフィリピン、ベトナムも係争地が中国領と記されたとして反発している。一方、地図でロシア領が欠けていることを記者団に問われたロシア外務省報道官は「国境問題は解決済み」と静観する構えだ。ウクライナに侵攻して米欧との対立が強まる中、中国との関係を優先したとみられる。
歴史的な国境紛争地、住民は中国に不信感
しかし周辺地域の住民は中国への不信感を隠さない。沿海地方に住む女性は「中国は奪われた土地をいつか取り返すつもりではないか。プーチン(大統領)は中国にすり寄るが、われわれ市民は中国と仲良くできない」と話す。
アムール川周辺は両国の争いが絶えなかった地域だ。アムール州都ブラゴベシチェンスクにある歴史博物館には中ロ国境問題を引き起こした愛琿あいぐん条約(1858年)を描いた絵がある。帝政ロシアの総督が肩をそびやかし、弁髪の清国役人が平伏する。
19世紀の清は、アヘン戦争やアロー戦争で英仏に敗れて衰退するさなか。ロシアは愛琿条約と2年後の北京条約で、アムール川左岸と太平洋に面した沿海地方を得た。さらにロシア領西域の農民を移住させ「脱清国化」を進めた。
博物館職員が「中ロには不幸な過去があった」と語るように、その後も両国の小競り合いが続いた。1900年にはブラゴベシチェンスクでロシア当局が中国系住民を虐殺した。ソ連時代の69年には国境紛争「ダマンスキー(珍宝)島事件」で双方の計100人以上が死んだとされる。
ロシアの政治学者「中国は次の手に出る」
ウクライナ侵攻以降、中ロ関係は中国優位に大きく傾き、ロシアの専門家らは今回の地図から中国の野望を読み取る。政治学者ドミトリー・ジュラウレフ氏はロシア紙「論拠と事実」に、侵攻の長期化で「ロシア軍の存在感が落ち、足元をみられた」と指摘。「中国はロシアの出方をうかがい地図で先例を作った。地図問題で沈黙すれば、中国は次の手に出る」と訴えた。
●ヒラリー氏、「残念だったわね」と皮肉 NATO拡大でプーチン氏に 9/27
「残念だったわね。ウラジーミル」。ヒラリー・クリントン元米国務長官は26日、国務省での式典に出席し、ウクライナ侵攻を契機に北大西洋条約機構(NATO)が拡大したことに言及し、ロシアのプーチン大統領をファーストネームで呼び、皮肉った。
侵攻以降、フィンランドがNATO入りし、スウェーデンも加盟手続きを進めている。プーチン氏はNATO拡大に強く反発し、加盟を目指していたウクライナに侵攻したが、クリントン氏はNATO拡大は「自身が招いたことだ」と指摘。その上で侵攻を決断したプーチン氏を批判した。
また、国際協調を軽視したトランプ前政権については「同盟国や友人たちとの多くの橋を焼き払った」と述べ、同盟関係を損なったと非難。米外交を立て直したとして、現職のブリンケン国務長官の手腕をたたえた。
式典はクリントン氏の肖像画お披露目のために開かれた。クリントン氏はオバマ政権下で国務長官を務めた後、2016年大統領選でトランプ前大統領に敗北。選挙にはロシアが介入したとされている。
●NATO加盟を断念すれば領土はウクライナに返す──ロシアは言ったのか? 9/27
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は23日、重要な条件が満たされれば、ロシアがウクライナとの戦争終結に同意する可能性を示唆した。
ラブロフはニューヨークの国連本部で行われた記者会見で、ウクライナがNATOに参加しないと約束すれば、ロシアは侵攻前のウクライナの国境を承認してもいいと言ったかに見えた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2022年2月24日にウクライナ進攻を開始して以来、戦争を正当化するためにさまざまな理由を挙げてきた。しかし、最も頻繁に語られる理由のひとつは、ウクライナがNATOの一員になり、国境を接する隣国にまでNATOが拡大することに対しての反発だ。
ラブロフは記者団に対し、ロシアは1991年に「ウクライナがソ連邦を離脱する際に採択した独立宣言に基づいて、その主権を承認した」と述べた。
「ウクライナは非同盟の国であり、いかなる軍事同盟にも参加しないということが、われわれにとっての主要なポイントのひとつだった」とラブロフは語った。「そのような条件の下で、われわれはウクライナの領土の保全を支持する」。
国境線を独立当時に
ジョージ・メイソン大学シャール政策政治大学院のマーク・N・カッツ教授は本誌に対し、「ウクライナ最高会議が1990年に採択した国家主権宣言は、確かにウクライナを『軍事ブロックに参加しない永世中立国』と宣言している」と指摘した。
「ラブロフの発言は、ウクライナがNATOへの加盟を断念すれば、独立直前の1990年に設定されていたウクライナの国境をロシアが認める可能性を暗示している」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこの戦争が始まって以来、ウクライナのNATO加盟を推進し、その努力はNATO幹部の支持を得てきた。だが、仮にゼレンスキーが戦争終結のためにNATO加盟を断念することに同意したとしても、クリミア問題で行き詰まる可能性が高い。
プーチンは2014年にクリミア半島に侵攻し、併合したが、ゼレンスキーは半島を自国の一部として取り戻すと宣言している。ソ連崩壊後、クリミア半島はウクライナの領土とされたため、ラブロフはロシアがこの地域を放棄する可能性を示唆したのではないかとの憶測もある。
NATO加盟阻止という勝利
カッツは、クリミアは1990年の時点ではウクライナ・ソビエト社会主義共和国の属州だったが、「ラブロフの声明は決定的なものではないかもしれない。クリミアに関しては後にウクライナにそれほど寛大ではない『説明』が行われるかもしれない」と感じているという。
「それでも、ロシアが単に戦争を終わらせたいだけなら、それが占領中のウクライナの領土に対するロシアの支配を放棄することを意味するとしても、ウクライナのNATO加盟を阻止することを、勝利と表現することができるかもしれない」
「だがウクライナとNATOがこの条件に同意するとしても、プーチンが停戦を実行できるかどうか、私にはわからない。この紛争でロシア軍が経験した莫大な犠牲が、そのような合意に見合うのかという問題が提起されるだろう」
コーネル大学のデビッド・シルビー准教授(歴史学)は、ラブロフの発言とそれがクリミアとどう関係していくかという点が「曖昧で、それ自体が興味深い」と本誌に語った。
「ラブロフにとって、話を明確にするのは簡単だっただろうが、彼はそうしなかった。彼がプーチンの許可を得ずにこのようなことをするはずがない。両者ともに、こうした発言はクリミアについての疑問を提起することを知っているはずだ」
ドネツク州などを返還?
ロシアがクリミアをウクライナに返還する気がないとしても、ラブロフの発言は、プーチンがドネツク、ヘルソン、ルハンスク、ザポリージャ州の支配権を放棄する可能性を意味するとも解釈できる。1年前、プーチンはこの4つの地域をロシアに併合したと発表し、国際社会からは違法な動きと批判された。
「この4つの領土に関しては、返還する意思がロシアにあることを示唆していると思う」と、シルビーは語った。

 

●ロシアのプーチン大統領、政府に小売り燃料価格の安定化を命令 9/28
ロシアのプーチン大統領は27日、政府に対して小売り燃料価格を確実に安定させるよう命じ、国内燃料市場を落ち着かせる追加措置を導入するよう求めた。
政府は21日、国内の燃料価格上昇を抑えるため、旧ソ連を構成していた4カ国以外へのガソリンおよび軽油の輸出を一時禁止。国内の燃料価格は当初は下落したが、先週末に禁輸措置の緩和が発表されると、再びじりじりと上昇し始めた。
プーチン氏は、政府は迅速に行動する必要があり、石油産業税の見直しも選択肢の1つだと指摘。「対策は講じられたが、燃料価格は上昇している。消費者は結果を必要としている」と追加的な措置を求めた。
ノバク副首相はプーチン氏に政府が追加措置を検討していると説明。国内向けとして購入した後で輸出する「グレーな」燃料輸出に対する規制、転売業者に対する燃料輸出関税の引き上げ、輸出の完全な禁止といった提案が俎上(そじょう)に上っていることを明らかにした。
●ロシア地方選は番狂わせなし、来年のロシア大統領選はプーチン圧勝 9/28
ロシア統一地方選は与党系候補が全勝、昨年までの番狂わせや混乱は皆無だった。電子投票を選挙結果の偽造に使い、選挙監視システムを解体し、戦争を選挙の争点から徹底して排除するなどで「官製選挙」化は一層進んだと、ロシアのリベラル系メディアや政治学者は指摘する。来年の大統領選挙も政権による対立候補の吟味が進み、「プーチン圧勝」の環境は整いつつあるようだ。
2024年3月17日のロシア大統領選まで半年を切り、ロシア政局の焦点は大統領選の動向に移る。ウラジーミル・プーチン大統領は5選を目指す構えで、年内に出馬表明し、クレムリンは過去最高の得票率で圧勝を狙うと伝えられる。
8月23日の航空機事故でエフゲニー・プリゴジン氏ら民間軍事会社「ワグネル」幹部らが殺害され、不測の事態につながる「ワイルド・カード」が一掃された。9月8〜10日の統一地方選も、与党が勝利する「無風選挙」だった。
プーチン氏は大統領選勝利を経て、ロシア・ウクライナ戦争を長期戦に持ち込み、ウクライナや欧米諸国の疲弊を待つ構えだ。内政や戦況でサプライズがない限り、プーチン続投は揺らぎそうにない。
「官製選挙」徹底に電子投票システムを利用
大統領選の前哨戦とされた統一地方選は、21の知事・首長選で与党「統一ロシア」候補19人など現職が全勝した。地方議会選では、2地域を除いて、与党候補が7割の議席を占めた。政権側が強引に実施したウクライナ東部・南部4州の議会選は、政党名を選ぶ投票となり、統一ロシアの得票率は、ドネツク州(76%)、ルハンシク州(72%)、ザポリージャ州(66%)、ヘルソン州(63%)だった。
昨年までの統一地方選では、大都市部や極東で与党候補が敗北することもあり、昨年は地方議員が反戦を訴える共同アピールを発表したが、今回は番狂わせや混乱はなかった。
リベラル系の「モスクワ・タイムズ」紙(9月13日)は、「クレムリンは選挙結果を操作し、投票率を上げるため、電子投票システムを使用した。投票用紙の水増しや企業・組織の投票強要など、より粗暴な手段を混在させた。例年、与党候補は無所属で出馬するケースがあったが、今回はモスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長らも与党から出馬した」と指摘した。
政権側はロシア・ウクライナ戦争を統一地方選の争点にしなかった。独立系メディア「メドゥーザ」(9月13日)は、「候補者らは選挙戦を通じ、ウクライナ侵攻にほとんど触れなかった。与党の知事や議員の大半は演説やSNSで戦争に言及せず、経済の安定や開発問題を取り上げた。モスクワは反戦意識が最も強い都市だが、ソビャーニン市長は戦争の話題を極力避けた」と伝えた。
選挙はすっかり儀式に
ロシアの選挙専門家、フョードル・クラシェニンニコフ氏は、独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」で、「今回の統一地方選が、従来に比べてインパクトが薄かったのは驚くべきことではない。開戦後、多くの野党活動家や記者は国外に脱出し、数少ない野党は解散した。批判的なメディアは潰され、選挙監視システムも解体された。選挙はあらかじめ設計されたシナリオ通りに進み、何事も起きなかった」「来年の大統領選がどうなるかを知るには、今回のモスクワ市長選を見るのがいい。主要な候補者はいるが、対立候補は真剣に挑戦するそぶりも見せない。選挙を監視する者もいなければ、関心を持つ者もいない。ネット投票でボタンををクリックしても、誰が誰に投票したかは分からない」とコメントした。
選挙監視団体「ゴロス」のスタニスラフ・アンドレイチュク共同議長は「ロシアではどのレベルでも、選挙を望む人の数が激減している。最近では、署名を集める必要のない人や、政権と合意した人だけが候補者になり、無所属で立候補するのは不可能だ。候補者や活動家、有権者への圧力も強まった。すべての野党議員らは逮捕、拘留、裁判の危険にさらされている。検閲が蔓延し、政党が禁じられた話題を避け、有権者との対話も難しい。投票所の管理者は選挙結果を改竄したが、システム全体が透明性を欠いているため、何が問題なのか分からない。選挙管理委員会の独立性が根本的に損なわれている」と批判した。
不正の多い「官製選挙」で、政権の厳しい統制下、選挙がすっかり儀式になったとの見立てだ。
先進7カ国(G7)外相は、ウクライナ4州での「選挙」強行を「違法な占領を正当化しようとする喧伝工作」と非難したが、ロシア側は無視し、4州の「ロシア化」を進める構えだ。大統領選の前哨戦としては、クレムリンの望み通りの展開だった。
「プーチン高齢問題」隠しで79歳に出馬要請
現状では、来年3月の大統領選もプーチン氏の当選を確認する「無風選挙」となりそうだ。「メドゥーザ」(7月19日)によれば、クレムリンはプーチン氏が少なくとも80%の得票率で勝利することを目指しているという。過去4回の大統領選で、プーチン氏の得票率は50〜70%台だった。大統領府のセルゲイ・キリエンコ第一副長官が選挙戦略を指揮し、支持者の組織化や行政・企業を動員、電子投票を有効に活用する方針という。
与党の推薦候補となるプーチン氏の出馬宣言は、11月にモスクワの見本市で開催予定の愛国イベントの場になる可能性がある。プーチン氏は9月12日の「東方経済フォーラム」で、大統領選への出馬を問われ、「年末の選挙公示後に話すことになるだろう」と述べていた。独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン氏の支持率は80%台前半で安定している。「メドゥーザ」は、プーチン氏が昨年中止した国民とのテレビ対話を今年後半に実施したい意向で、そこで発表する可能性もあるとしている。
政権側は着々と5選の準備を整えている。
この夏、プリゴジン氏だけでなく、左右両派の反プーチン勢力が弾圧された。服役中の活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏に対して新たな裁判で19年の刑が言い渡されたほか、多くのリベラル派が拘束された。続投に反対した極右活動家、イーゴリ・ギルキン氏も過激行動の容疑で逮捕された。
下院は8月、選挙監視団体の活動を大幅に規制する法律を制定した。従来の選挙では、民間選挙監視団体が不正や混乱の実態を動画で撮影して公表したが、今後は投票所や開票所の監視活動が制限される。最大の監視団体「ゴロス」の幹部らも逮捕された。
政権側は対立候補の人選も進めており、野党第一党の共産党に対しては、79歳のゲンナジ・ジュガーノフ委員長に出馬を要請したという。これは、10月で71歳になるプーチン氏の高齢問題が争点になるのを防ぐためで、対立候補は高齢者やアピール度の低い候補で固める意向という。
「スパーリング・パートナー」と呼ばれる対立候補は、下院に議席を持つ政党が無条件に擁立できるが、野党第2党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首はプーチン氏を支持し、候補者を出さない方針だ。ミロノフ氏は個人的に親しかったプリゴジン氏を大統領候補に擁立する動きを見せていたが、反乱後、政権寄りに寝返った。野党第3党の自由民主党の候補は、レオニード・スルツキー党首になる見通し。野党第4党の「新しい人々」が誰を擁立するかが注目点だ。
無所属での立候補には30万人の署名が必要で、ハードルが高い。ただし、「民主選挙」を装うため、クレムリンが承認した中立系、リベラル系候補が参加する可能性もある。
投票日翌日の3月18日は、クリミア併合記念日であり、政権は社会にユーフォリア(多幸感)が広がった2014年のクリミア併合の記憶をプレーアップして選挙に臨みそうだ。
政権は戦争長期化への国民の反発を防ぐため、「安全運転」を進めるとみられる。プーチン氏は最近の演説や発言で、戦争にあまり触れず、もっぱら経済の安定や地方の開発に言及している。総動員令や戒厳令は避け、年金や公務員給与増などバラマキ政策も進めそうだ。
当選すれば、6年のフリーハンドを手にし、民意を気にせず、戦争継続が可能になる。
「プーチン氏の信任投票」に広がる悲観
筆者らは最近、ロシアの政治学者とオンラインで会見したが、政治情勢にはシニカルで悲観的な意見が多かった。
カーネギー国際平和財団モスクワセンターのアンドレイ・コレスニコフ研究員は大統領選について、1政権から最も遠い立場の候補への投票を訴えるナワリヌイ氏のスマート投票戦術は、候補者が政権のコントロール下に置かれるため、機能しない、2独立監視機関の選挙監視活動ができなくなった、3電子投票が拡大し、結果の偽造が可能になった――とし、「選挙はプーチン氏の支持を問う信任投票になる」と予測した。
また、「戦争長期化の中で、プーチンは社会が正常であることを国民に錯覚させようとしている。国民は戦場に動員されない限り、体制に我慢するだろう。経済が悪化し、我慢の限界になるレッドラインがどこかは見えない。戦争が長期化すれば、体制は侵食されるが、社会には耐久力がある」と語った。
後継者候補には、ドミトリー・パトルシェフ農相、ミハイル・ミシュスティン首相、ソビャーニン市長、アンドレイ・トルチャク上院第一副議長らがいるが、プーチン氏が恒久政権を目指す以上、後継者論議は意味がないという。
レバダ・センターのレフ・グドコフ副所長は、「6月の調査でプーチン続投を望む人は68%だった。ロシア人は二重思考で、公の発言と内心は異なることがあるが、ロシアの安全を保証する守護者としてプーチンを支持する人も多い。戦争に反対しても、国家の危機に直面して体制に抵抗したくない意識も働く。しかし、軍事的に敗北すれば、プーチンの権威が揺らぎ、安定の保証者ではなくなる」とし、プーチン政権の存続は戦争の行方次第と述べていた。
グドコフ氏によれば、中堅官僚や地方幹部の中には早期終戦を望み、汚職・腐敗まみれの現体制一掃を望む人々が多く、将来的な体制転換の中核になり得るという。一方で、新生ロシア32年の歴史において、3分の2はチェチェン、ジョージア、ウクライナ、シリアで戦争をしており、戦争が常態となったことが国民の危機感を失わせていると指摘していた。
サプライズがあるなら健康不安
無風選挙にサプライズがあるとすれば、プーチン氏の健康問題かもしれない。反プーチンの政治学者、ワレリー・ソロベイ氏は自らのユーチューブ・チャンネル(9月14日)で、「プーチンは重い病気で回復の見通しはない。極東で金正恩が会ったのは、プーチンの影武者だった。金正恩は中国の情報機関からそのことを通報され、知っていた」と話していた。
しかし、コレスニコフ氏は「プーチンは元気で健康問題はない。影武者は安全対策以外に使う意味がない」と否定していた。
「プーチンの戦争」を終結させる最も効果的な手段は、プーチン氏が不在になることだが、政権存続と戦争継続は一体化しているだけに、「退陣」の二文字はプーチン氏にはなさそうだ。
●金正恩委員長、「乙」から「甲」の存在へ…知らないのは尹錫悦政権のみ 9/28
北朝鮮は今や、米中ロの三角関係を揺るがす「独立変数」として登場している。しかし、韓国と尹錫悦政権はいまだに北朝鮮を、4年前のいじめられた「乙」としかみていない。
2019年4月24日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長はロシアを訪れた。ベトナム・ハノイの朝米首脳会談をノーディールで終えて会談場所のメトロポールホテルを離れてから2カ月後のことだった。
早朝に列車に乗って出発した金委員長は、午後6時にウラジオストク駅に到着し、ロシアのメディアの奇襲インタビューを受けた。慌てたのか「あ、あの…」とうめき声を上げた。ロシアは北朝鮮の「尊厳」に、尊厳をもって対応しなかった。
北朝鮮は慣例どおり前日になってようやく金委員長のロシア訪問を発表したが、ロシアはすでに6日前に発表していた。ロシアはロシア語で「ロシア-北朝鮮会談」と表記した。米国との対話が決裂した後にロシアを訪れた金委員長に対して、ウラジーミル・プーチン大統領は「ロシアは朝米対話を支持し、6カ国協議を開いて核問題を解決しなければならない」と述べ、両国の軍事協力には言及しなかった。孤立無援の北朝鮮がロシアを訪ねて手を差し伸べたが、「朝ロ関係で新しい全盛期が繰り広げられた」といううわべだけの言葉を述べるばかりだった。同年末、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、北朝鮮の対外関係は全面凍結された。
4年5カ月後の今月12日、金委員長は再びロシアを訪問した。ロシアは今回は北朝鮮と同じく前日に金委員長の訪問を公式発表した。首脳会談では遅れて登場することで悪名高いプーチン大統領は、13日のボストーチヌイ宇宙基地での金委員長との首脳会談に30分早く到着し、相手を待った。今回は「ロシア-朝鮮会談」と表記した。2019年にはロシアは朝鮮半島での北朝鮮の代表性を認めなかったが、今回はこれを認め、韓国を無視した。
「尊厳」を傷つけられた「乙」(立場が下)だった金委員長は、4年5カ月が経った後「甲」(立場が上)へと華麗に変貌を遂げた。米中対決の激化、ウクライナ戦争、東アジアにおける韓米日準同盟体制の進展に対応し、中ロと北朝鮮が作った情勢変化だ。
金委員長の「乙」から「甲」への格上げは、米国の反応に如実に表れている。米国は4日、金委員長のロシア訪問をニューヨーク・タイムズを通じてあらかじめ報じ、北朝鮮がロシアにウクライナ戦争に必要な砲弾などを提供する兵器取引をするとして両国叩きに乗り出した。
しかし、マーク・ミリー米合同参謀議長が16日「北朝鮮の兵器提供がウクライナで大きな動きを生むだろうか」、「私は懐疑的だ」と述べたように、北朝鮮の通常兵器の支援は相対的に些細な問題だ。朝ロは今回の首脳会談を通じて、両国の戦略関係の再開を示唆した。両国の戦略関係の再開は、両国を越えて東アジア、米国の世界戦略に大きな影響を及ぼしうる。
プーチン大統領は13日、金委員長との会談前、「ロシアは北朝鮮の宇宙衛星建設を支援するのか」という記者団の質問に「それこそが我々がここに来た理由だ」と答えた。ロシアは2015年4月、金委員長の特使としてロシアを訪問したヒョン・ヨンチョル人民武力部長(当時)が、防空ミサイルシステムS300の購入と原子力潜水艦の設計の支援を要請したが、はっきりと断っている。ハノイ・ノーディール以降「核武力の高度化」で疾走してきた北朝鮮に、ロシアが偵察衛星など戦略兵器の技術を支援して跳躍の機会を与えようとしている。
ロシアと北朝鮮の経済協力は、北朝鮮に対する米国の制裁を無力化する。2022年の北朝鮮の対外貿易に占める割合は、中国が96.7%、ロシアは0.1%未満だった。だが、ウクライナ戦争による西側の制裁で西側経済と絶縁されたロシアは、もはや北朝鮮との経済協力をためらう理由がなくなった。制裁にもかかわらず、原油価格の上昇と中国との人民元・ルーブル取引で新しい経済システムを構築しようとしているロシアは、戦争によって不足している労働力を北朝鮮から調達することもありうる。石油と食糧もふんだんにある。
もちろん、軍事および経済における朝ロの戦略関係の深まりは、まだ実現性の高い可能性にすぎない。北朝鮮とロシアはその可能性を切り札としてちらつかせている。金委員長のロシア訪問時、プーチン大統領の訪中と中ロ首脳会談が発表された。このため、モスクワに向かっていた中国の王毅外交部長を米国がマルタで引き留め、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安保担当)との会談を急きょ設定した。そしてバイデン・習近平首脳会談を調整した。金委員長のロシア訪問が、米中ロの三角関係に与えた衝撃を如実に表している。
朝ロの戦略関係に驚いた米国が中国に近づき、中国は北朝鮮と結束しようとしているロシアとの連帯をちらつかせて米国を揺さぶっている。ロシアは北朝鮮という切り札で米国を刺激する一方、中国を引き込もうとしている。北朝鮮は今や、米中ロの三角関係を揺るがす「独立変数」として登場している。
しかし、韓国と尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権はいまだに北朝鮮を、4年前のいじめられた「乙」としかみていない。
●第2四半期GDP、戦争勃発後初のプラス成長に ウクライナ 9/28
ウクライナ国家統計局の発表(9月22日)によると、同国の2023年第2四半期(4〜6月)の実質GDP成長率は前年同期比19.5%だった。2021年第4四半期(10〜12月)以来となる6期ぶりのプラス成長で、前期の伸び率と比べて30.0ポイント改善した。前期比(季節調整済み)ではプラス0.8%だった。
ユリア・スビリデンコ第1副首相兼経済相は、成長率が同省の見通しを若干上回ったとし、「(ウクライナ)経済が戦争状態でも機能すべく適合したことを示している」と評価した。前向きな傾向がほぼ全ての経済活動分野に示されたとし、その要因として、国内企業の柔軟性と適応性、政府のビジネス支援措置や経済対策、パートナー国からの国際支援を挙げている。
経済省は、国内需要の回復には、政府が行う企業支援プログラムのほか、生産調整の継続、政府やパートナー各国から提供された資金による生産施設やインフラ施設の復旧作業が特に寄与したと分析している。
また、第2四半期では、ウクライナ産穀物輸出に関する合意「黒海穀物イニシアチブ」が機能していたことと、新たに確立された物流ルートなどを通じた貿易が行われたことも、経済成長にプラスの影響を与えたとしている。
ウクライナが、ロシアの侵攻による戦争勃発以来の経済低迷から本格的に回復しつつあることは、ウクライナ国家統計局による景況感指数からも裏付けられる。第2四半期の同指数は109.4ポイントを記録し、2022年第1四半期以来5期ぶりに基準値となる100ポイントを超え、景気良好を示している。
なお、ウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)は2023年通年のGDP成長率予測について、5月時点の2.0%から0.9ポイント上方修正し、2.9%のプラス成長としている。
●「ウクライナに武器供与しない」ポーランドの爆弾発言でドイツが大慌て 9/28
・「ウクライナに対して今後武器供与しない」というポーランドのモラヴィエツキ首相による発言が世界に波紋を起こしている。
・大慌てなのが、ポーランドによるドイツ製最新鋭戦車レオパルト2の供与を認めてきたドイツだ。
・ドイツにとってポーランドによる武器供与は、ロシア、そしてロシアとつながる中国による影響力拡大からドイツを守る「生命線」だからだ。
ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は9月20日、ウクライナに対して「今後武器供与しない」と断言した。ウクライナ戦争でロシアへの反転攻勢が進むなかでのこの発言は、欧米や日本、そして私の住む韓国でも一斉に報じられた。
世界が驚いたのも無理はない。ポーランドはこれまでウクライナからの避難民を最も多く受け入れてきたうえに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のなかでいち早く戦闘機を支援するなど、武器供与も積極的に行ってきたからだ。特に注目を集めたのが、ドイツ製の最新鋭戦車レオパルト2の供与である。今年2月、ドイツが直接の供与を渋るなか、ポーランドはドイツから承認を得た上で、自国が所有するこの主力戦車をウクライナに引き渡した。
この発言の背景には、ポーランドによるウクライナからの農産物輸入禁止をめぐる対立がある。ウクライナのゼレンスキー大統領は9月18日、規制撤廃を求めて世界貿易機関(WTO)に提訴した。今回の発言はその3日後である。
発言の翌日にはポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は火消しに走った。くだんの発言について「ポーランド軍の近代化のために買っている最新鋭の兵器は送らないと言っただけだ」と述べて軌道修正を図っている。
だが、欧米の各メディアは両国の関係が冷え込んでいると指摘する。イギリスのBBCはポーランド政界内に漂う「ウクライナ疲れ」を22日付で報じた。これまでウクライナへの支援に熱弁を振るってきたポーランド政府が「突如として、ウクライナ政府に政治のナイフを突きつけているように感じる」と、その論調の変化について驚愕をもって報告している。
アメリカのCNNは輸入規制をめぐる対立で両国政府は「仲たがい状態にある(at loggerheads)」と述べているほか、フランスのルモンドは「残念な緊張状態(des tensions regrettables)」と評している。
それでも、モラヴィエツキ首相の発言にもっとも驚いたのはドイツであろう。いや、驚いたというよりは、慌てたという方が正確かもしれない。しかも慌てたというのは、恐らくドイツだけなのだ。
ならば、ドイツはなぜ慌てざるを得なかったのか。
メルケル前首相から180度転換
ポーランドによる積極的なウクライナ支援は、ドイツのショルツ政権にとって国益を共有している。ショルツ首相の対ロ政策は、プーチン大統領との対話を重視したメルケル前首相とは全く正反対とも言ってよい。
そもそもメルケル前首相はロシア語も堪能で、プーチン大統領はドイツ語が堪能だ。そのため、2人は通訳を介さずに雑談から外交上の軽い立ち話まで、自由にこなせた。日本の安倍首相やアメリカのトランプ大統領など、プーチン大統領と胸襟を開いて対話する姿勢の宰相が同時期に登場したことで、ロシアによるウクライナ侵攻を最小限に食い止めていた。
その是非については今後議論されてゆくであろうが、現在のドイツでは、メルケル政権による対ロ政策を否定的に評価する風潮が強い。それはメルケル政権が推し進めてきた中東難民受け入れ政策とグローバリズム経済が行き詰まったからだ。
中東難民受け入れ政策についてはこの記事の最後に触れるとして、まずグローバリズムの行き詰まりについては、これまでの話と結び付けて言うならば、ヨーロッパへの中国の影響拡大による弊害と、それによる中ロ関係の強化である。
ショルツ首相はこうした状況を食い止めることを期待する世論の中で誕生したといえる。そしてこの問題は、ショルツ政権の成立(メルケル政権の終焉)からわずか3カ月でウクライナ戦争によってあまりにも明確に顕在化したのである。つまり、ドイツ社会にしてみれば、ウクライナを侵食しようと試みるロシアの策略は、中国によるヨーロッパの進出と連動しているのだ。
もしもウクライナ戦争をロシアに有利な状態で終えてしまえば、中国はさらにヨーロッパへ食指を動かすに違いない。その意味で、ポーランドによるウクライナへの協力は、ドイツにしてみれば自国の生命線である。
火消しができないポーランドの本音
ドイツのショルツ首相は20日に開かれた国連安全保障理事会でウクライナと連帯している姿勢を示す演説を行ったほか、ゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナへのさらなる支援を約束した。ポーランドのモラヴィエツキ首相の発言はその直後であった。
ドイツのツァイト紙は「ポーランドは武器供与しないと言い、ドイツはウクライナとの連帯を呼びかける」と報じ、モラヴィエツキ首相の発言への危機感がにじみ出ているまた、ドイツの放送局ドイチェヴェレはポーランドで穀物輸入規制による対立により反ウクライナ感情が急激に広まっているが、その根本には第2次大戦が終わる時期に双方の衝突で犠牲者が出たという歴史に深く根を張ったものだとしている。
ショルツ首相の心中は、決して穏やかではない。まず、大統領が首相の発言の火消しに走ったといっても、ポーランドでは大統領に対して政治的な権限はほとんど与えられていない。それにモラヴィエツキ首相は発言を撤回する様子はないのだ。ということは、ウクライナに武器供与したくないというのが、ポーランド政府の本音である。
しかも特に最近はドイツ国内で、ポーランドにおける反独感情の根強さが話題になっている。メルケル政権時代の中東難民受け入れ政策が行き詰まったドイツに対して、ポーランドの政府と与党「法と正義」は、難民の受け入れこそ自国の未来を築くと考えている。そのため、中東難民に対してビザが無制限に発給されている。
これに対してショルツ首相が事情説明を求めたが、これがポーランド政府には気に食わない。というのも、ポーランドでは10月15日に総選挙を控えており、与党「法と正義」にしてみれば、党の政策変更をこのタイミングでショルツ首相が要求したことになるからだ。ポーランドのラウ外相はSNSでショルツ首相の発言について「内政干渉」だと強く批判している。
与党「法と正義」は反独感情が強いと報じられている。今度の総選挙でもしも与党が再び勝利となれば、ショルツ首相は難しいかじ取りを迫られるだろう。ブルームバーグの報道では、「法と正義」の過半数獲得は困難とされているが、そこで報じられている数字を見ると、連立政権を組む可能性は十分にある。
ともあれ、ポーランド総選挙の結果がドイツの安全保障政策に少なからぬ影響を与えるのは確かである。そしてそれは、東アジアの安全保障にも何らかの形でかかわってくる問題である。
●戦時下の選挙の是非、ウクライナの民主主義が突きつけられる難問 9/28
ロシアとウクライナはともに、来年3月に大統領選挙を実施することになっている。独裁的なロシアは予定通りに進める。
だが、民主主義国のウクライナにとっては、ロシアの攻撃の脅威に絶えずさらされ、戒厳令の制約があるなか、事ははるかに複雑だ。
来月予定されていた議会選挙はすでに事実上中止された。
戦争が長引く展望はウクライナに難問を突きつける。国の指導者への負託を新たにするまで、どれくらい待つことができるのか。
安全保障やロジスティクス、法律上の障害にもかかわらず選挙を実施することによって、国の民主的な資質を証明するべきなのか――。
西側の一部の政治家はそうすべきだと考えている。
自由で公正な選挙は民主主義のシンボル
欧州評議会の議員会議を率いるオランダ人のティーニー・コックス氏は今年、オンラインメディアのウクライナ・プラウダに対し、「(選挙を)やらなければテーブルから質問が出てくる。ロシアが我々に対して布告したこの侵略戦争で、我々は一体何を守ったのかという問いだ」と語った。
米国のリンゼー・グラム上院議員は8月に首都キーウ(キエフ)を訪問した後、「戦争の最中に自由で公正な選挙を実施すること以上に良いウクライナのシンボル」は思いつかないと語った。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は選挙の障害をすべて挙げてみせた。
戒厳令の下では選挙が認められていないこと、500万人ものウクライナ人が国内で住まいを追われ、選挙区の外に暮らしていること、さらに数百万人が海外にいて大使館でしか投票を認められないことなどだ。
さらに、戦場の前線に立つ兵士のために、どうやって投票を企画するのか。またロシアのミサイルが投票所を標的にするのをどうやって阻止するのか。
ウクライナ大統領府の顧問を務めるセルヒー・レシュチェンコ氏は「目先、選挙を行う余地はないと思う」と話している。
市民社会団体からは反対の合唱
それでも、ゼレンスキー氏は扉を完全には閉じなかった。
グラム氏への返答は、ウクライナは軍のためにすべてのお金を必要としているため、選挙のお金は米国と欧州が払わなければならない、というものだった。
大統領は今月キーウで、含みを持たせて「我々は用意ができている。それについては疑問の余地がない」と語った。
ゼレンスキー氏の曖昧さは市民社会団体を警戒させた。
民主主義を強化するために長年努力してきた活動家は今、ウクライナが全面的な戦争を戦っている限りは選挙を実施すべきではないと主張する異例の立場に立たされている。
100以上の非政府組織(NGO)が25日に共同声明を出し、「この考えは極めて危険であり、プロセスと選挙で選ばれた組織双方の正統性の喪失、そしてかなり高い確率で国家全体の著しい不安定化につながる」と訴えた。
選挙を組織するうえでの困難に加え、戒厳令のせいで正統な民主選挙のために必要な言論の自由と議論が封じられていると彼らは主張する。
政府と議会は戦争終結後の選挙に向けた準備に着手すべきであり、それも一筋縄ではいかない作業だという。
レシュチェンコ氏は(挙国一致政府が存在しないウクライナにおいて)政治的な酸素を求めて選挙を切望しているのはゼンスキー氏の政敵だと話している。
選挙決行はゼレンスキー人気に乗るチャンス
だが、民主主義を支持する一部の活動家は、大統領府や大統領の政党のメンバーはゼレンスキー氏の高い支持率――および大統領選の対抗馬の欠如――を来春利用するチャンスを見て取っていると考えている。
12月にウクライナとの加盟交渉を開始することにした欧州連合(EU)の決定と冬の間に予定される「F16」戦闘機の引き渡し、戦場でのさらなる領土奪還がゼレンスキー氏にさらに追い風を与えるだろう。
戒厳令の一時的停止が政府に友好的な憲法裁判所によって承認されたら、大統領選と議会選の同時選挙が可能になる。
その場合、ゼレンスキー氏にとって恩恵が最大化されるが、国家元首に対するチェック・アンド・バランスは損なわれる。
活動団体オポラのオルハ・アジヴァゾフスカ代表は「選挙はあるかもしれないが、競争がなかったら、選挙制の民主主義国としてのウクライナの成長は途絶える」と話す。
だが、米国と英国の支援を受けたNGO「ナショナル・デモクラティック・インスティチュート」のマルチン・ワレッキ氏は、ゼレンスキー氏は長く待てば待つほど政治的に不利になることが分かっていると指摘する。
チャーチルとの相似はどこまで?
世論調査によると、多くのウクライナ人は既存の政党の一掃と、政界において元兵士が果たす役割の拡大を望んでいる。
軍隊はウクライナで最も信頼されている機関で、ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官はゼレンスキー氏以上に高い人気を誇る。
大統領が戦時下で発揮したリーダーシップは彼をウィンストン・チャーチル的な人物にした。
だが、英雄的な行為よりも自分たちの生活と国の再建に関心を持つ有権者によってトップの座を追われることは、ゼレンスキー氏が避けたいチャーチルとの相似だ。
●元ナチス隊員がカナダ議会で喝采浴びる トルドー首相が謝罪、議長は辞任 9/28
カナダ議会で先週、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が演説した際に、第2次世界大戦でナチス・ドイツの部隊で戦ったウクライナ人男性が図らずも称賛される場面があった。カナダ内外で批判の声が高まっており、ジャスティン・トルドー首相が27日、正式に謝罪した。
男性はヤロスラフ・フンカ氏(98)。22日にゼレンスキー氏のカナダ議会での演説に合わせ、アンソニー・ロタ下院議長から議場に招待された。
フンカ氏は議会でウクライナとカナダの「英雄」として紹介され、スタンディングオベーションを受けた。
同氏はナチスの第14SS武装擲弾(てきだん)兵師団に所属していた。メンバーの大半はウクライナ系志願兵で構成されていた。
同師団の兵士はポーランドとユダヤ系の民間人を殺害したとされているが、戦争犯罪で有罪判決は受けてはいない。
今回の事態は世界的な非難を呼んでおり、ロタ議長は責任を取って26日に辞任した。
「背景を知らずに」拍手喝采
トルドー首相は27日、フンカ氏がナチス部隊で戦っていたことを知らないまま、議会で拍手喝采を送ったとして謝罪した。
「これは議会とカナダにひどい恥辱を与える過ちだ」
トルドー氏はゼレンスキー氏にも謝罪。「カナダを代表して深くおわび申し上げる」とした。
当日の議会の画像には、ゼレンスキー氏がほかの人々と共にフンカ氏に拍手を送る姿が写っている。この画像は、ロシアのプロパガンダに利用されている。
「その背景を知らなかったとはいえ、金曜日(22日)に議場にいた全員が、起立して拍手をしてしまったことを深く後悔している」と、トルドー氏は述べた。「ホロコースト(ナチス・ドイツによる大虐殺)で亡くなった何百万人もの人々の記憶を踏みにじる、恐ろしい行為だった」。
トルドー氏はまた、ユダヤ人や、ナチスによる大虐殺の標的となった何百万もの人々にとって、今回の出来事は「深く深く痛ましい」ものだったとした。
下院議長のロタ氏は、フンカ氏のナチスとのつながりを認識せずに議会に招いたのは間違いだったと述べた。
トルドー氏は、「議長にはこの人物を招待し、(功績を)たたえたことへの全責任があり、その責任を全面的に受け入れて辞任した」と述べた。
カナダ史上「最大の外交的恥辱」
カナダ野党・保守党のピエール・ポワリエーヴル党首は、「ジャスティン・トルドーが絡むと、いつも別の誰かが非難される。しかし、現実はこうだ。責任と権力は同時に発生する」。
「権力が欲しいのなら、責任を取り、きょう下院に出向いて、謝罪しなければならない」
ポワリエーヴル氏は、今回の出来事はカナダ史上「最大の外交的恥辱」だと述べた。
カナダの複数のユダヤ系団体はロタ氏の議長辞任を歓迎した。一方で、同じくカナダの人権団体フレンズ・オブ・サイモン・ウィーゼンタール・センター(FSWC)は、「なぜこの失敗が起きたのか、疑問が残る」とした。
●ロシア黒海艦隊司令官 映像公開 健在強調し影響抑えるねらいか 9/28
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアにあるロシア黒海艦隊の司令部への攻撃でウクライナ側が死亡したと主張する司令官について、ロシア側は司令官がインタビューに答えたとする新たな映像を公開しました。クリミアでロシア軍が相次いで攻撃を受ける中、司令官の健在を強調し、影響を最小限にとどめたい思惑もあるとみられます。
ウクライナ軍は南部クリミアの軍港都市セバストポリにあるロシア海軍の黒海艦隊の司令部に対する今月22日の攻撃で黒海艦隊を率いるソコロフ司令官を含む、34人が死亡したと主張しています。
これに対してロシア国営テレビなどは27日、ソコロフ氏のインタビューだとする新たな映像を公開しました。
インタビューでソコロフ氏だとされる人物は「黒海艦隊は自信をもって任務を遂行している」と述べていて司令官の健在をアピールするものとなっています。
一方、ウクライナのメディアはインタビューがいつ撮影されたのかなどが不明で疑問が残るなどと伝えています。
またウクライナ軍は26日、SNSで「死者の中には司令官も含まれていた」と主張していましたが、27日に公開されたソコロフ氏の映像についてはコメントをしていません。
ロシア側は連日ソコロフ氏が健在だと強調する動画を公開していてウクライナ軍の攻撃でクリミアの司令部や艦艇が打撃を受けているとみられる中、影響を最小限にとどめたい思惑もあるとみられます。
●ロシア産原油の輸送、無保険の「闇タンカー」船団が大半を担う… 9/28
ロシアがウクライナ侵略に伴う米欧の対露制裁を回避して原油を高値で輸出するため、船舶保険をかけずに原油を輸送する「闇タンカー」と呼ばれる船団を多用しているとの指摘が相次いでいる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は24日、8月に輸送されたロシア産原油の約4分の3は無保険の船舶が使われたとの分析結果を報じた。
先進7か国(G7)は昨年12月、上限価格(1バレル=60ドル)を超える原油の取引に、船舶保険を引き受けないよう保険会社に義務づけた。原油流出などの事故をカバーする船舶保険は米欧日の企業に集中している。制裁が完全に機能すれば、ロシアは60ドル超での原油輸出が困難となり、戦費調達に打撃となるはずだった。
ただ、ロシアは国際市場価格に近い値での取引を可能にするため、制裁の発動前から闇タンカーの船団を用意していた。英紙ガーディアンによると、船舶数は老朽化した船舶を中心に約500隻に上るという。
露産原油の代表的な指標となるウラル原油は、7月にG7が上限に設定した60ドルを突破し、最近は80ドル付近で取引されている。FTはロシアの今年の原油輸出収入は前年より150億ドル(約2兆2300億円)増加するとの推計を報じた。
一方、ロシアに協力的な国もあるようだ。アフリカ中部ガボンは船籍登録の規則を緩和した。ガボン籍の船は倍増し、積載量1万トン超の船の98%が闇タンカーとしてロシアの原油輸送に関わっているとの情報がある。ガボンは国連安全保障理事会の非常任理事国を務めている。
●ウクライナ産農産物の流入で東欧が反発 EUの支援に暗雲 9/28
9月19日の国連総会で、ウクライナのゼレンスキー大統領が、演説の中で「(欧州の一部の国が)自分の役割を演じているように見えるが、モスクワのための舞台を用意する手助けをしている」と発言したことを契機に、ウクライナとポーランドの間に亀裂が走っている。ポーランドのモラウィエツキ首相は同月20日、ゼレンスキー大統領の演説を受け、ウクライナへの武器供与の停止を警告した。
ロシアの軍事侵攻で、ウクライナは黒海の港から農産物を輸出できなくなり、昨年7月にロシア、ウクライナ、トルコ、国連が、輸出再開に向けて「黒海穀物イニシアチブ」に合意したが、ウクライナはロシアの検査妨害により、十分な輸出ができていない。今年7月にはロシアが合意からの離脱を表明している。
農家の不満高まる
黒海経由の農産物輸送船はロシアの攻撃対象になるため、欧州連合(EU)は、鉄道やトラックで陸路から欧州の港経由でウクライナ産農産物をアフリカなどに輸出する支援を行ってきた。だが、流通網や貯蔵能力の十分な整備が行われない状態で大量のウクライナ産農産物が欧州に流入した結果、東欧では農産物の市場価格が値下がりし、農家の不満が高まっていた。特に今年4月には、農業関係者のデモが頻発し、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国は、ウクライナ産農産物の禁輸措置に踏み切った。
当初、EUの欧州委員会は、EU加盟国に個別の通商政策を決定する権限はないとしていたが、ウクライナ支援の結束を維持するため6月5日まで、その後は9月15日まで期間を延長して、ウクライナ産農産物の禁輸措置を認める方針を打ち出した。欧州委員会は予定通り、9月15日に禁輸措置の終了を宣言したが、ポーランド、スロバキア、ハンガリーは独自に禁輸措置を継続することを決定した。ウクライナはこの3カ国を、世界貿易機関(WTO)に提訴したが、それに対してポーランドは、ウクライナへの武器供給の停止を宣言。EUのウクライナ支援の足並みが乱れかねない状況になっている。
ポーランドは10月15日に議会選挙を控えているが、与党の過半数獲得は難しい状況とみられている。与党は農村部やウクライナ支援に反発する人たちの支持を集める選挙対策を考慮せざるを得ない状況にある。そのため、ポーランドによるウクライナ支援の基本姿勢自体には変化はないとの見方もある。いずれにしても、ポーランドを含む中東欧諸国の農家の反発が高まっていることに変わりはなく、問題の構図が解決されているわけではない。EUのウクライナ支援の結束を保つためには、ウクライナ産農産物が東欧諸国に滞留することなく、スムーズにアフリカなどに向けて輸出できる、インフラを早急に整備することが求められよう。 
●「プーチンを支持するな」…露メディア関係者に「豚の頭」テロ 9/28
ウクライナ戦争に賛成するロシア政府寄りの露メディア関係者が最近、身元不明の人物から「切られた豚の頭」を受けていると、英日刊ガーディアンが28日(現地時間)現地のモスクワタイムズを引用して報じた。
報道によると、この1週間に少なくとも3人に切られた豚の頭が届いたという。ロシアのコラムニスト兼哲学者ティモフェイ・セルゲイツェフ氏、引退将校の軍事専門家コンスタンティン・シブコフ氏、タス通信の写真記者ミハイル・テレシチェンコ氏だ。
セルゲイツェフ氏は26日、自宅の前で黒い袋に入った豚の頭を見て直ちに警察に通報し、「電話などですでに多くの脅迫を受けていた」と話したという。セルゲイツェフ氏は昨年、ロシア国営メディアで「ロシアにはウクライナ脱ナチ化の義務があり、反露性向のウクライナ前・現政権に投票したすべてのウクライナ国民を除去すべき」と主張した人物だ。
シブコフ氏も休暇から帰宅した際、アパートの玄関で豚の頭を発見した。シブコフ氏は「その後、殺害の脅迫電話があり、プーチン大統領への支持を撤回しろと要求された」と現地メディアに伝えた。
モスクワタイムズは、警察の捜査が進行中だが事件に関連した容疑者はまだ特定されていない、と伝えた。
●正恩氏、ロシアの後ろ盾に自信 米と交渉意思なし、中国は静観 9/28
北朝鮮は核戦力の高度化を憲法に明記し、国家の基本方針に据えた。金正恩朝鮮労働党総書記が今月のロシア訪問でプーチン政権から軍事協力に向けた合意を引き出し、国連もロシアの反対で核兵器開発を制止できないとの自信が背景にあるようだ。正恩氏は核兵器の増産や多様化も指示しており、日本への脅威も一層高まることを意味する。
「米国と西側の覇権戦略に反旗を翻した国家との連帯をさらに強化していく」。正恩氏は26〜27日の最高人民会議の演説でこう強調した。ウクライナを侵略し、米欧と激しく対立するロシアが念頭にあるのは明らかだ。
10月にはラブロフ露外相が訪朝を予定。今月26日にはモスクワから露空軍所属の旅客機が北朝鮮に飛来した。実質的な協力に向けた露朝の接触が活発化しているようだ。
北朝鮮の金星(キムソン)国連大使は26日、米ニューヨークでの国連総会の一般討論演説で「侵略的性格の合同軍事演習を続けた」と米韓を非難。「敵対勢力の軍事的挑戦が加わるほど(北朝鮮の)国家防衛力も強まる」と、安全保障協力を深める日米韓に責任転嫁して核・ミサイル開発を正当化した。
正恩氏の訪露中、ラブロフ氏は国連安全保障理事会で対北制裁に同意しない考えを表明。国連大使の強気の発言の裏には、常任理事国の中露が反対するので国連制裁が強まることはないとの読みがある。
北朝鮮は27日、7月に韓国から自国へ越境した米兵の追放も発表した。北朝鮮は米国との直接交渉を拒んだといい、米兵を交渉に使う「人質」として温存しなかった。「米国と対話する意思はない」との従来の立場を行動で示した形だ。
正恩氏は、日米韓の安保協力を「アジア版NATO」と非難し、日米韓の脅威とそれに対抗する国との「新冷戦構図」を強調することで、核開発を正当化する緊張をつくり出そうともしている。
中国は日米韓への牽制(けんせい)では露朝と協調するものの、露朝の軍事協力については静観の構えだ。北朝鮮の核開発進展の鍵は経済面で依存する中国が握っているが、中国は北朝鮮の非核化で積極的役割を果たさず、日米韓と露朝の対立激化で自国の存在感が増すことを狙っているともみえる。
●ロシアが「国産」半導体を作るには、東南アジア中古品を利用しても2030年から 9/28
ロシアが当分の間、西側の重要テクノロジーを手放すことはできない、とロシア政府が最近発行した文書は指摘する。
同国の日刊紙「コメルサント」は9月27日の記事の中で、9月9日付の政府文書を引用し、国内の複数の当局者は2035年までに欧米製の半導体の使用を段階的に廃止するよう要請していると報じた。
ロシアはラップトップやスマートフォンをはじめ、戦車や攻撃用ヘリ、ターゲットシステムなどの幅広い軍事装備に欠かせない半導体を欧米に依存してきた。だがウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻で諸外国から科された制裁のために、外国製の半導体の調達が困難となり、現在は国内での増産を試みている。
しかし、国産の半導体の信頼性が十分に向上するまでにはしばらく時間がかかりそうだ。コメルサントによれば、現在の不足分を補えるだけの増産を行うためには、少なくとも40〜50億ドルのコストがかかる見通し。推定では、2022年11月の時点で、ロシアの半導体需要は国内生産量の3倍超にのぼっていたという。
外国製の輸入が止まらない
OSINT(オープンソース・インテリジェンス)を活用しているウクライナの非営利団体「ウクライナのためのOSINT」によれば、ロシア国内で半導体チップを製造している大手企業は「ミクロン」と「オングストローム」のみで、「いずれも軍事目的の半導体の製造に重点が置いているため、民生用の増産は困難に直面している」。
本誌はこの件についてロシア外務省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
ロシア政府の文書は、ロシアのテクノロジー企業は兵器の開発や運用、基幹インフラ向け製品を作るときに、外国製の半導体の使用をやめるべきだと述べている。
ロシア産業貿易省はコメルサントに対して、ロシア政府として現在、「無線機器に関しては国内の信頼性のある半導体を「主として使用」すべく努力していると語った。
同国の反体制メディア「Verstka」は7月31日、ロシア税関庁の機密扱いの通関データを引用し、西側諸国からの制裁にもかかわらず、ロシアは今年の上半期に5億200万ドル超の外国製半導体を輸入していると報じた。
製造は中国に任せざるを得ない?
またコメルサントは、モスクワに本社を構えるコンサルティング会社「ヤコフ&パートナーズ」の分析を引用し、ロシアが東南アジア諸国のメーカーから中古機器を購入することに成功した場合でも、重要製品の需要を満たすことができるのは2030年になるだろうと報じた。
ある情報筋は同紙に対して、近い将来に流通が期待できる唯一の「ロシア製チップ」は、デザインはロシア製でも「中国の工場で製造・梱包されたもの」になるだろうと言った。「それでは正真正銘のロシア製と呼べないが」
●独CPI、9月は前年比4.3%に鈍化 ウクライナ戦争開始後最低 9/28
ドイツ連邦統計庁が28日発表した9月の消費者物価指数(CPI)速報値は、欧州連合(EU)基準(HICP)で前年比4.3%上昇した。伸びは前月の6.4%から鈍化し、ロシアによるウクライナ全面侵攻開始以降で最低水準。ロイターがまとめた予想の4.5%も下回り、独経済を大きく圧迫してきた高インフレの収束が示唆された。
変動が激しい食品とエネルギーなどを除いたコアインフレ率は4.6%と、前月の5.5%から鈍化。食品価格の伸びは7.5%と引き続き平均を上回ったものの、エネルギー価格の伸びは1.0%にとどまった。
ドイツ経済について5つの経済研究機関は、金利上昇で投資が抑制され、高インフレで消費が押し下げられるとして、今年は0.6%のマイナス成長に陥ると予想。インフレ率については、2023年は6.1%、24年は2.6%、25年は1.9%になるとの見通しを示した。
INGのカーステン・ブルゼスキ氏は、ユーロ圏では信頼感が引き続き弱まると同時に、インフレも低下しているとし「現時点のユーロ圏のマクロデータを額面通りに受け取れば、欧州中央銀行(ECB)は10月の理事会で(利上げを)一時停止すると考える論拠が一段と強まっている」と述べた。
ただ、ECBが10月に利上げを一時停止したとしても、現在の利上げサイクル終了を必ずしも意味するものではないと指摘。ECBが自身のインフレ対策の信頼性に懸念を持っていることなどを踏まえると、追加利上げが実施される可能性はなお高いと述べた。
●ウクライナ、DMG森精機の子会社を戦争支援企業に指定 同社は否定 9/28
ウクライナ政府は28日までに、工作機械メーカーのDMG森精機のドイツにある子会社を「戦争支援企業」のリストに加えたと発表した。DMG森精機は昨年、ロシアからの撤退を公表していたが、ウクライナ政府はロシアの軍需関連企業への製品供給がその後も続いたと指摘。同社は事実関係を否定している。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、同社はロシア事業から撤退したと昨年6月に公表。ロシア西部ウリヤノフスクの組み立て工場を閉鎖し、モスクワにある販売・サービス拠点の約70人も解雇したとしていた。
ただ、ウクライナ政府は「その後も、実際はロシア市場の積極的な参加者であり続けた」と主張。昨夏にロシアの現地法人を通じて、軍用航空機向けガスタービンエンジンをつくる企業に部品を供給していたと指摘した。
DMG森精機は28日、ロシアで事業を続けていたという指摘について「そのような事実はない。各国が定める輸出関連法を厳守しており、違反は一切ない」と否定した。同社幹部も朝日新聞の取材に「過去も現在もロシアの軍需産業に製品を販売したことはない。工場も稼働しておらず、一方的な発表に困惑している」と語った。
●死亡したはずのロシア軍黒海艦隊司令官、会議や取材に答える動画続々… 9/28
ウクライナ軍が22日に行った、クリミア半島南西部セバストポリの露軍黒海艦隊司令部への攻撃で、ウクライナ側が死亡したと主張する同艦隊司令官の生死を巡り、双方が情報戦を繰り広げている。ロシアでは司令官の生存を示す動画が相次いで公開された。撮影日時など不明な点も多く、謎が深まっている。
ウクライナ特殊作戦軍が25日、司令官を含む34人が死亡、105人が負傷したと発表すると、ロシアは26日、この司令官が、セルゲイ・ショイグ国防相らとの会議にオンラインで参加した様子を国営テレビで放送した。27日には、司令官が複数の記者からの取材に「何も起こらなかった。黒海艦隊は司令部の任務を遂行している」と答えたり、サッカーチームを表彰したりする動画を地元テレビなどがSNSに投稿した。
ウクライナメディアは、動画の撮影日が不明な上、表彰の行事は「ずっと前のことだ」と主張している。ただ、ウクライナ特殊作戦軍は26日、SNSで司令官死亡について「精査中だ」とし、主張を後退させた。遺体の損傷が激しく、多くが身元の確認が困難なためだと説明している。
●ナゴルノカラバフ アルメニア系勢力の“共和国” 組織解体へ 9/28
アゼルバイジャンが隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで起こした軍事行動を受けて、アルメニア系勢力がつくった「共和国」と称する組織が来年1月までの解体に向けて手続きを始めました。アルメニア側は、今後、支配してきた地域を明け渡すことになるとみられます。
アゼルバイジャンが隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフで起こした軍事行動を受けて、アルメニア系勢力がつくった「共和国」と称する組織が来年1月1日までに解体されることになったと地元メディアが伝えました。
この組織の代表が28日、解体に向けた手続きに関する書類に署名したということです。
ナゴルノカラバフは、旧ソビエト諸国のアルメニアとアゼルバイジャンが互いに帰属を主張し、これまでもたびたび武力衝突が起きていましたが、今月19日の軍事行動のあと、アルメニア側は、武装解除などを受け入れて敗北していました。
また、アルメニア政府は28日、ナゴルノカラバフにおよそ12万人いるとされるアルメニア系住民のうち半分にあたる6万8000人以上がアルメニアに避難したと発表しました。
一方、アゼルバイジャン政府は28日、アリエフ大統領がナゴルノカラバフの街を視察したと発表し、軍事行動の後、現地を訪れたのは初めてとみられます。
今回の手続きを受け、ナゴルノカラバフのアルメニア系勢力は支配していた地域を明け渡し、アゼルバイジャン側が現地の統合に向けて本格的に動き出すものとみられます。
ロシア ペスコフ報道官「非常に敵対的な動き」
ナゴルノカラバフの情勢についてロシア大統領府のペスコフ報道官は28日記者団に対し「情勢を注視している。最も重要なことは人道的な問題だ」と述べました。
そのうえで「ロシアの平和維持部隊は人々を支援し続けている」と述べ、ロシアの役割を強調しました。
一方、アルメニアのパシニャン政権がICC=国際刑事裁判所の加盟国になろうとする動きを見せていることについてペスコフ報道官は「両国の関係に悪影響を及ぼさないことを期待している」と述べました。
ICCは、ことし3月、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対して逮捕状を出していてペスコフ報道官は「非常に敵対的な動きだ」と述べアルメニアをけん制しました。
ナゴルノカラバフをめぐって、アルメニア政府は仲介役を果たさなかったとしてロシアへの不満を強める一方、ロシア側もアルメニアのパシニャン政権が欧米側に接近しているなどと批判を繰り返しています。

 

●プーチン大統領の目指す「正教大国ロシア」 9/29
プーチンはソ連時代のKGB(ソ連国家保安委員会)出身であるが、政治の指導者になったあと、不思議なことに社会主義ソ連邦に対する郷愁は一切示したことはない。まるで、1917年のロシア革命からソ連邦崩壊の1991年までの歴史が、この世に存在しなかったかのように黙殺するのである。例えば、かつてソ連の社会主義者たちが主張していた「資本主義の問題点を見据え、階級矛盾を克服した」労働者支配の歴史的実験こそがロシア革命だったといった主張などには見向きもしない。社会主義体制や計画経済が硬直した官僚制によって機能せず、革命が目指した成果を上げられずに崩壊した、といった議論にも興味を示さない。マルクスやレーニンを持ち出すことは一切ないのである。むしろ、マルクスはユダヤ人の思想家であり、レーニンは父方がユダヤ系で、欧州各地を20年もさまよい、二月革命にあたって敵国ドイツによって送り込まれた「外国の回し者」であるかのような捉え方をしていることがしばしば議論に垣間見える。
その代わり、プーチン大統領の統治理念の中核にあるのは、ロシア正教である。プーチン大統領の演説や発表する論文に見られるのは、「正教大国ロシア」をつくるという強い思いである。
第1章で詳しく述べるが、私がエルサレムを訪れ、キリストが十字架に磔にされたゴルゴタの丘に建つ聖墳墓教会に足を踏み入れ驚いたのは、内部がキリスト教の複数の教派によって管理するテリトリーが分かれていて、カトリックのそれは10分の1以下のスペースで、ギリシャ正教会、アルメニア正教会、エチオピア正教会、コプト正教会、シリア正教会などの正教系がキリスト教の本道だと言わんばかりに大きな面積を占めていたことである。
   聖墳墓教会内部の統治図。キリスト教六教派が分割して管理している。
ロシア正教の始まりは、もともとキエフ大公国(キエフルーシ)のウラジーミル公がビザンツ帝国の皇帝バシレイオス二世の妹を妃に迎え、正教会の洗礼を受けたことから始まる(988年)。ギリシャ正教を起点とする正教系キリスト教は主にスラブ系民族の国々に広がり、それぞれの国で分かれ、いわば民族宗教としての性格を強め、国家を支える役割を果たしてきたのが特徴である。ビザンツ帝国の国教である正教はビザンツ皇帝を権威づけ、皇帝という世俗の権力が上に立ち、教会はその下に従属していた。カトリックがより普遍的なキリスト教を目指し、世俗の王や大統領などの権力を相対化させ、宗教的権威としてのローマ教皇が精神世界の上に立つ形になっているのとは大きな違いである。
ロシア正教も、ロシア帝国時代はツァーリ(皇帝)の権力を正当化し、権威づけるための宗教として機能した。ロシア革命後は「宗教はアヘン」とする社会主義体制下で弾圧を受けたものの、ヒトラーがソ連に侵攻した大祖国戦争を機に生存戦略としてスターリンへの接近を図って生き残り、ソ連邦崩壊後には復活を遂げた。
プーチン大統領が、ソ連をつくった人物であるレーニンを無視し顧みない理由は、レーニンが社会主義者であり、無神論者だからでもある。レーニンは皇帝権力を支えてきたロシア正教を弾圧し、教会を取り壊して、財産を接収し、リーダーたちを国外追放した。そのあとのスターリンは、最初は宗教指導者に対する粛清を行ったが、ナチスドイツとの戦いである大祖国戦争が熾烈になるにつれて、現実路線へ転換し、ロシア正教の総主教に「教会も懸命にロシアを守るために戦う」という誓いを立てさせて、宥和政策へと舵を切った。こうして社会主義体制下のソ連でも、ロシア正教は生き残ったのである。
プーチンは子どものころ、レニングラードで母親に教会に連れていかれて、洗礼を受けている。こうした社会主義下のソ連邦のスパイだった男は、実はロシア正教の熱烈な信奉者だったのである。大統領に就任した2000年には、全スラブ正教の尊敬の対象であったブスコフ洞窟修道院の長老ヨアン神父を訪ね、「ユーラシアの中心にロシアの家を」と励まされている。ロシアは欧州でもなければ、アジアでもない。プーチン大統領は、ユーラシア主義の先頭に立って、ロシアの栄光を取り戻すことを自分の使命として再確認したと言われる。
現在のロシア正教のキリル総主教は、まさにプーチン大統領の後ろ盾とも呼べる人物であり、今回のウクライナ侵攻を支持する発言を繰り返している。キリル総主教の父はレニングラードの司祭であり、まさに子ども時代のプーチンが洗礼を受けた人物である。
こうした正教会と国家権力との関係は、日本に住む私たちからはなかなか理解できない。なぜなら、日本人にとってのキリスト教はザビエルが伝えたカトリックか、明治になって広まったプロテスタントであり、その歴史認識といえば、西欧を中心にした宗教改革と市民社会の発展から民主主義や人道主義が高揚し、並行してマックス・ウェーバーが言う資本主義の精神が生まれてきたと理解しているからである。もう一つのキリスト教、東方正教会については、ほとんど関心を払うことなく、ビザンツ帝国や中欧、東欧の歴史も、体系的に学んだことがないのが通常の日本人である。
ましてウクライナの地に誕生したキエフ大公国に、10世紀末にウラジーミル一世という、プーチンがその名を引き継ぐ人物が現れ、キリスト教に改宗し、国民に広くキリスト教を普及させたことの意味を理解するのも難しい。だが、プーチンは本気で正教大国ロシアを目指すと考えているのである。
ロシア正教をもとに民族を束ねていこうとする価値観から見ると、ロシア革命さえもユダヤ人が考えた社会主義なる西欧思想にかぶれたインテリたちが本来のロシアのあり方を否定しようとした企てに見えるのであろう。プーチン大統領にすれば、ソ連邦の崩壊さえもユダヤ人の画策によって起きたかのように見えるようである。エリツィン大統領の時代に進んだ資本主義化の中で台頭してきたのが、オリガルヒ(新興財閥)である。プーチンは2000年にエリツィンのあとを受けて大統領となったが、当時存在したロシアの九つのオリガルヒのリーダーのうち、8人がユダヤ人だったという。大統領としてのプーチンは、ユダヤ人の手によって支配されかけていたロシア経済をロシア人の手に取り戻したと意識しているようである。
ロシアの歴史は長年にわたってユダヤ人、および、その背後にいるアメリカによって壟断されてきたというのが、プーチン大統領の世界認識とも言える。我々の感覚からは、被害妄想のようにも見えるのだが、ロシア正教を基軸にした偉大なロシア民族に対して、アメリカがいつも絡みつき、かき回し、衰退の淵まで追い詰めてくる。だからこそ、かつてナチスドイツと戦い、大変な犠牲を出しつつも打ち破った大祖国戦争を受け継ぐ、第二幕を戦おうというわけである。だからこそ、プーチンの言う「ネオナチ」という言葉には、「ユダヤ人の敵はユダヤ人だ」というロジックが二重構造になっているのである。
ロシア人の知識層の多くが、無謀とも言えるウクライナ侵攻を強行したプーチンを支持し続ける心理に踏み込んでみると、ロシア正教に共感する大ロシア主義的心情と「反西欧、反ユダヤ的な本音」が微妙に同調していることに気づかされるのである。
●今度はアゼルバイジャンvs.アルメニア、紛争のデパート・ユーラシア 9/29
ユーラシアという「渾沌」に目鼻をつけてみる
ウクライナ戦争が膠着する中、今度はコーカサスでアゼルバイジャンとアルメニアの衝突が再燃した。キルギスとタジキスタンの間では、国境での武力衝突が続いている。ユーラシアとは紛争のデパートなのか? 
今回、「ユーラシア情勢」を一つの有機的なつながりを持ったものとして描いてくれ、と頼まれた。何となくイメージは浮かぶのだが、ユーラシアを一つの有機体と想定し、その動きに意味を与えることができるかどうか。中国の「荘子」ではのっぺらぼうの渾沌の神にあえて目鼻を彫ったら、渾沌が死んでしまったという逸話がある。
とは言え、この広そうに見えるユーラシアも、中央部から西のヨーロッパ、あるいは東の中国までは飛行機で最大5時間、ということは4000キロだから馬で1日30キロ行軍すると133日、つまり半年もかからずに行ける。だからユーラシア大陸の東と西、そして真ん中のオリエントは古来から、スキタイなどの遊牧民族、そしてシルクロードの隊商で結ばれていたのだ。
結ばれていただけではない。アレクサンドロス大王、ジンギスカン、オスマン、ヒットラーなどは広い地域を征服して地元の既得利権を整理、価値観まで押し付けようとした。こういう時、ユーラシアには一つの横串が通る。ユーラシアがイスラムとか近代化とか一つの意味を持って動き出したように見える。
だから今、ユーラシアはどう動いていて、それはどんな意味、意義を持っているか。一つかみにして見るのも、意味はあるだろう。切口は二つある。
一つは政治、もう一つは経済である。政治では、ユーラシアで大中小の国々が織りなす欲と見栄の張り合いが、今どういう褶曲構造を形作り、どのように変化していきそうかということ。経済では、西欧、日本、韓国、台湾、シンガポール以外の国・地域は果たして、経済と社会の近代化に成功できるのか、成功してもできなくても、AI、ロボットの多用はこれら諸国の経済・社会をどのように変えていくのか、ということが問題意識となる。 
では、「ユーラシア」という渾沌に目と鼻をつけてみよう。
「グローバル・サウス」は昔からあった
コロナ禍の3年間、国際政治は麻痺していた。コロナ禍が収まった(とされた)この半年、上海協力機構首脳会議(SCO)とか、G20とかBRICSとか、やたら首脳会議が増えて、そこでは「グローバル・サウス」なる怪物が独り歩きするようになった。
中国を筆頭に、インド、ブラジル、南ア、ロシアだけでなく、サウジ・アラビア、トルコなど、要するにOECD以外の大所が「グローバル・サウス」と称しては、いろいろな集まりを立ち上げ、「世界は多極化した。米国は威張るな」と繰り返す。それぞれは倶楽部のようなもの、いや倶楽部以下の存在で、事務局も持っていないし、共通の旗で軍事行動をしたり、経済援助をするわけでもない。そしてインドやブラジル、トルコ、サウジ・アラビアは、実は米国との経済関係、軍事協力を大事にしている。
こうした諸国は前向きのメッセージを持っていない。彼らがいつも言うのは、「米国よ。自由とか民主主義とか(自分でも実行できていないことを)振りかざして、自分たちの独裁政権を倒そうとするな。偉そうなことを言わずに貿易、投資をしろ」ということに尽きる。一国だけでは力が足りないから、いろいろの集まりを作って力を誇示するだけの話しだ。
こういう漠然とした集まりは、冷戦の時代からある。一番知られているのは(もう知らない人は多いだろうが)「非同盟運動」。これは1961年、ユーゴ・スラヴィアの旗振りで結成され、米国にもソ連にもなびかない国々の集まりとして、かなりのネーム・ヴァリューを持った。当初は中国とインドが先導する構えを見せたが、両国は途中から国境問題等で対立を深めたし、中国は東南アジア諸国で共産主義運動を支援して信頼を失った。
経済ではいろいろな集まりができている。例えばG77という途上国の集まりは、国連などである程度まとまった動きをする。商品作物、天然資源の取り引き問題などでも、別のグループができている。しかし彼らは世界での主導権はとれない。
BRICS、SCO、G20、名前だけ立派な国際組織
国際首脳会議と言うと、首脳たちの集合写真、発表される何とか声明など、いかにも華々しく、何か秘密で合意しているかもしれないから、マスコミは飛びついて、意義や意味をほじくり始める。しかしこういう「集まりました」というだけの外交は、多国間、2国間でのじっくりした交渉とは違って、実のある成果を生むことはまれ。秘密の合意はこんな公開の場ではできない。結局、国際首脳会議は瞬時の効果を残すだけで、3日後くらいには記憶の彼方に去っていく。
国連ならば、いくら空洞化したと言っても、安保理決議第何号というような形が残る。国連の下にある国連開発計画UNDP、WHO、WFP、ユネスコなどは、規模は小さいとは言え、世界的なネットワーク、オフィス、人員を有して、経済、保健、文化など様々な分野で具体的なプロジェクトを継続的に実行している。
これに比べると、例えばBRICSには何もない。外相や首脳が忘れた頃に集まって、発するメッセージは、「自分たちは偉いのだ。干渉するな」ということだけ。共通通貨を作る、ドルは追放するとか言っているが、彼ら自身、ドルの方が使い勝手がいいと思っている。
上海協力機構SCOは一番老舗で、時々、共同軍事演習もやる。しかしこれも、中ロがSCOの名を借りて反米示威行動をしているだけの話し。タシケントに「反テロ地域機構執行委員会」という下部組織があるが閑古鳥が鳴いているし、SCOの旗の下で共同で経済開発に取り組む、というような話もついぞ聞いたことがない。聞こえるのは、中国の一帯一路だけで、ロシアまでが中国への物乞いの行列に並んでいる。
G20はもともと、2008年リーマン金融危機を受けて、米オバマ政権が中国、ブラジルといったG7以外の大国の協力も引き出すために設けられたもの。今では金融危機克服のような具体的課題もなくなったし、ウクライナ戦争のようなメンバー間の対立が著しい問題については何もできない。今や米中や米ロの首脳会談を序に行うための貸座敷に化した感がある。それも、今回習近平がやったように、G20に出席しないのでは、意味は益々低下する。
こうして、ユーラシア情勢を大きく動かせる国際組織は存在しない。また中小国は離合集散を繰り返し、武力紛争も頻発させるが、それはユーラシア情勢を大きく揺り動かすものではない。
その中でユーラシアの動きに何らかの意味を与えると言ったら、それは大国の動きだろう。彼らは、昔なら騎馬遊牧民族、今ならロシア、米国のように、各国の既得権益層を抑えて、後ろ向きであれ前向きであれ、何らかの変革を起こすことができるからだ。そこで、これら、ユーラシアに横串を通すことのできる大国の動きを見てみよう。
ロシアは伸びるも縮むもウクライナ次第
ユーラシアの状況は、1991年のソ連分裂で随分変わった。この状況を変えようとして騒ぎを起こす勢力の筆頭は、ロシアである。
1991年ソ連は、衛星諸国を維持しきれなくなったのだが、それでも当時からウクライナには強い未練を見せていた。ソ連第2の塊であるウクライナは、安全保障上からも、生産力の上からもロシアにとって手放したくない存在だったのである。2000年以降の原油価格高騰で力を取り戻したロシアは、ウクライナ奪還を狙うに至り、現在、世評とは違って、東ウクライナ支配を確立しつつある。
しかし、たとえそのような形で「紛争を凍結」(つまり停戦のことで、朝鮮半島ではこれが実に70年続いている)したとしても、ロシアはあたかも北朝鮮のように長期にわたって西側から制裁を受け続けるだろう。また、軍需経済過多に急速に傾くロシアは、真の経済力を欠いた存在であり続けるだろう。NATOの欧州諸国がこれから軍備を増強してくると、ロシアは対抗するのに苦慮する。
またコーカサス、中央アジア地域では、ロシアはその地歩を失いつつあり、それはウクライナ戦争で加速された。この地域では現在、かつてのオスマン・トルコの流れを引いた、トルコの影響力の伸長が著しい。
ロシアはウクライナ以外にも手を出すか
かつて「ユーラシア北半分はソ連」の趣があったが、ウクライナ、カザフスタンという大領土を失ったことで、ロシアは随分小さくなった。GDPでいくと、世界全体の2%しか持っていない。しかもソ連から残されたロシアの領地の半分以上は不毛のシベリアのツンドラ地帯だ。そしてソ連崩壊後も、ロシアは製造業の近代化に失敗し、ミサイルを製造するための半導体も西側からの密輸に依存している。
だからロシアは、経済力を使って他国との関係を前向きに進めていく力を持たない。ロシアの力は、その長大な国境のいずれの地点からでも隣国に進入し、その国の政府を助ける、あるいは倒せることにある。
ソ連時代の惰性で維持されてきたロシアの影響力は、旧ソ連諸国、中近東諸国で恒常的に失われてきた。ロシアの経済力は原油価格に依存しており、その原油に代わる再生エネルギーの使用が広がりつつある現代は、ロシアにとっては基本的にネガティブなものである。
もっとも、ロシアは今やっているように、サウディ・アラビアなどと共謀して原油生産量を抑制し、世界の原油価格の上昇を引き起こす等、工業諸国に対して有害な挙に出ることはできる。それは、再生可能エネルギーの開発などを促進して、自分で自分の首を絞めることになるのだが。
こうしてロシアの地歩は低下しているのだが、この国の保守エリートの攻撃的闘争心は並大抵のものではない。彼らのマインドは、17世紀欧州の植民地主義のままで、富は自分で創るより、海外で奪ってくるものなのだ。彼らは米国も同じことをしていると思い込み、米国と同等の地位を主張し、我意が通る世界を作ることを求めている。唾棄するべきマインドだ。
既に述べたように、東ウクライナの占領地域を確保しての停戦に成功すれば、ロシアはユーラシアの他の地域で策動を始める余裕を持つ。もちろん経済力、軍事力の限界はあるのだが。
そしてもし、ロシアがウクライナ以外で攻勢に出てくるとするならば、それは北欧、バルト諸国、ポーランドあたりに関わるものになるだろう。ポーランド内のロシアの飛び地カリーニングラードの安全確保は、ロシアにとって重要だし、フィンランド、ノルウェー、エストニアあたりとは境界が脆弱である。
またロシアと長大な国境を接するカザフスタンも、大きなロシア人人口を抱える他、最近ではロシアに対して反抗的な言動を強めており、「ウクライナの次の標的」だと言われる。実際、中央アジア諸国ならば、ロシア空挺部隊に権力中心を制圧されれば、抵抗しないかもしれない。
しかし空挺団だけでことはすまないだろう。支配を確立するには、地上軍を大量に派遣しないといけない。だが、ユーラシア中央部に軍を集中するのは、ロシアの安全保障にとって上策とは思えない。もともとカザフスタンはウクライナと比べると、安全保障、経済面での重要性は劣るのである。
●NATO事務総長がウクライナ電撃訪問、「反転攻勢に進展」 9/29
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は28日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問した。ウクライナの反転攻勢は徐々に進展していると述べたほか、NATO同盟国に防空システムの納入を早めるよう働きかけていると明らかにした。
ストルテンベルグ氏はウクライナのゼレンスキー大統領との共同記者会見で「ウクライナ軍が1メートル前進するたびに、ロシア軍は1メートル後退する」とし、「ウクライナは家族のため、未来のため、自由のために戦っている。対照的にロシアは帝国的な妄想のために戦っている」と述べた。
その上で、NATO同盟国に対しウクライナへの支援を強化し、防空システムの納入を早めるよう「常に働きかけている」とし、NATOは兵器製造業者と24億ユーロ(25億3000万ドル)相当の弾薬に関する包括的な枠組み契約を結んでいると表明した。
ゼレンスキー氏は、ウクライナの防空を強化する必要性を強調。世界の食料安全保障に重要なウクライナの都市や港湾施設に対する攻撃が行われている状況を指摘し、ロシアに対する圧力を高めると同時に、ウクライナの防空を強化する必要があると語った。
●ロシア産ガス急減乗り越えた欧州、備蓄増や代替供給確保で安心感 9/29
欧州は、ロシア産天然ガスの供給が急減してから2度目の冬を迎える。今年はガス備蓄が高水準で、エネルギー価格も低下、新たな供給源も確保したため、昨年よりも安心できる状態だ。
欧州は数十年にわたりロシアからの安価な天然ガス供給に頼ってきた。しかし1年前に海底パイプライン「ノルドストリーム」が原因不明の爆発に見舞われたことで、ロシア産ガスへの依存を再開する可能性はいよいよ低くなっている。
オックスフォード・インスティテュート・フォー・エナジー・スタディーズによると、ロシアがウクライナに侵攻する前の2021年、ノルドストリーム1は欧州の天然ガス輸入の15%を占めていた。
パイプラインが攻撃された当時、欧州の天然ガス価格はウクライナに侵攻前の3倍になっており、産業界はコスト抑制のために生産を減らしていた。
ロシアに代わる供給減
しかし現在、天然ガス価格は大幅に下がっている。欧州の天然ガス指標である「オランダTTF」期近物は1年前に180ユーロだったのが、今は40ユーロ前後で取引されている。
経済が脆弱でインフレ率が高いため、政策立案者や産業界は依然として天然ガス価格の変動リスクに敏感だが、ロシアがこの問題に拍車をかける可能性には対処済みだという。
欧州連合(EU)欧州委員会のシムソン委員(エネルギー担当)はロイターに対し、「われわれにとって最大のリスクは、ロシアがエネルギー市場を操作することだった。もうロシアにそんな力はない」と言い切った。ロシアに代わる天然ガスの輸送能力を急速に向上させたからだという。
EUのデータによると、ウクライナ侵攻以前、ロシアは毎年約1550億立方メートル(cm)の天然ガスを欧州に送っており、その大半がパイプライン経由だった。2022年には、EUのパイプラインによるガス輸入は600億cmにまで減少。今年は200億cmに減るとEUは予想している。
この不足に対処するため、EUは需要と供給の両面で対策を講じてきた。
供給面では、ロシアに代わってノルウェーがEU最大のパイプライン経由の天然ガス供給国となったのに加え、米国産を筆頭に液化天然ガス(LNG)の輸入も急増した。
ギリシャとポーランドでは、ロシア産以外の天然ガスを運ぶ新しいパイプラインが昨年開通した。フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダはLNG輸入ターミナルを開設し、フランスとギリシャでも開設が計画されている。
ドイツは、新しいインフラに特に力を入れている。浮体式天然ガス貯蔵・再ガス化設備(FSRU)を搭載した船舶を3隻開設し、アナリストによると、ノルドストリーム 1経由で運んでいた分の50―60%相当を輸入できるようになった。
EUはまた、供給を補強するためにロシア産以外の天然ガスの共同購入を開始した。
加えて、危機発生時に近隣諸国と天然ガスを共有することを義務付ける規則の導入や、ガス貯蔵所を満杯にするよう義務付ける法律にも合意した。
ガス・インフラストラクチャー・ヨーロッパのデータによると、EU全域のガス貯蔵庫は現在95%満たされている。完全に満杯になれば、EUの冬のガス需要の約3分の1をカバーできるはずだ。
産業界に打撃も
エネルギー不足を回避できた大きな要因には、価格高騰による需要の落ち込みもある。
暖冬のおかげで暖房に使うエネルギーが比較的少なくて済んだ面もある。
一部のアナリストは、エネルギー使用量減少の代償として、欧州の産業活動が恒常的に縮小する可能性があると指摘している。
ICISの天然ガス分析部門責任者であるトム・マーゼックマンサー氏は「欧州はロシア産ガスをなんとか代替できた。だが実際には広範な経済活動を犠牲にしてのみ可能だったのだ」と語った。
ただ、天然ガス需要の減少の一部は、再生可能エネルギーへの積極的な移行によってもたらされている。
ウッド・マッケンジーによれば、欧州では今年、56ギガワット(GW)相当の再生可能エネルギー設備が新たに導入される見込みであり、これは天然ガス、約180億cmを代替できる量だ。
逼迫する天然ガス供給
国際エネルギー機関(IEA)の天然ガスアナリスト、ゲルゲリー・モルナール氏は、冬の到来を控え、欧州は「かなり安心できる状態」にあると述べた。
しかし、世界的に見ると天然ガス市場は異常に逼迫しており、例外的な天候や、さらなる供給ショックが起これば、欧州も価格高騰に直面するリスクがある。
EU、英国、ポーランド、オランダは来年選挙を控え、生活費危機が主要な争点になると予想されるだけに、価格が高騰すれば政治家はプレッシャーを感じるだろう。
●米政府閉鎖、一部のウクライナ支援に影響も=国防総省 9/29
米国防総省は28日、政府機関が来月1日にも閉鎖された場合、公務員への給与支払い停止や行政サービスの停滞を招き、ウクライナ支援にも一部影響が出るとの見方を示した。
米政府閉鎖の回避に向けた連邦議会の交渉は28日も難航した。
国防総省のシン報道官は「数日以内に閉鎖となれば、軍人は無給で仕事を続けなければならず、数十万人の公務員が一時帰休となる」と懸念を示した。
シャーウッド報道官は、ウクライナ軍に対する戦闘機F16の訓練は予定通り継続されるが、一部の防衛装備品やサービスなどに影響が出る可能性があると説明した。 
●プーチン氏とチェチェン首長、モスクワで会談 ロシア大統領府が映像公開 9/29
クレムリン(ロシア大統領府)は28日、プーチン大統領とロシア南部チェチェン共和国のカドイロフ首長が首都モスクワで会談する様子を収めた動画を公開した。カドイロフ氏を巡っては、健康状態が悪化しているとの臆測が流れている。
クレムリンがSNSテレグラムで公開した5秒間の動画には、プーチン氏がカドイロフ氏とされる男性と握手を交わす様子が映っている。動画の説明文には「ウラジーミル・プーチン氏がチェチェン首長のラムザン・カドイロフ氏と実務会談を行う様子」とある。
クレムリンの声明によると、両者の会談は経済やチェチェンの社会制度を含む様々な問題について協議するために行われた。
国営テレビ「ロシア24」は、プーチン氏とカドイロフ氏が戦争に言及する場面も放映。プーチン氏はこの中でウクライナで戦うチェチェン人戦闘員を高く評価している。
「戦闘員やその家族によろしく伝えてほしい。前線で戦う要員の家族の支援を含め、あなたが個人的に常にこの問題に関わっていることは承知している。彼らが勇敢かつ英雄的に奮闘していることを確信している」(プーチン氏)
今回の会談は、テレグラム上で2週間にわたりカドイロフ氏の健康状態の悪化に関するうわさが流れる中で行われた。これについてクレムリンはコメントを控えている。
消滅したラジオ局「モスクワのこだま」のトップを務めていた著名なジャーナリスト、アレクセイ・ベネディクトフ氏は先週テレグラムで、カドイロフ氏が腎不全のためモスクワ市内の病院で血液透析を受けていると明らかにした。この情報は公式には確認されていない。
●プーチン氏、イタリア銀行最大手のロシア資産売却を許可 9/29
ロシアのプーチン大統領は、イタリア銀行最大手インテーザ・サンパオロに対してロシア内にある資産の売却・処分を許可する大統領令に署名した。ロシア政府のウェブサイトに掲載された文書で29日に明らかになった。
ロイターは8月、同行がロシア事業を現地経営に移管する許可を当局から得る方向に近づいていると報じていた。
インテーザからはコメントを得られていない。
同行はロシアで法人顧客にサービスを提供しており、ウクライナ戦争開始時には28支店で約980人の従業員を抱えていた。戦争が始まると、ロシア顧客への新規融資とロシア資産への新規投資を停止した。
今回インテーザに許可が出たことで、ロシアにとどめられている他の金融機関にも同様の許可が下りる可能性がある。
●プーチン大統領 ワグネル元幹部と会談 志願兵部隊の組織化指示 9/29
ロシアのプーチン大統領は、民間軍事会社ワグネルの元幹部と会談し、ウクライナ侵攻に参加する志願兵の部隊の組織化を指示しました。プーチン大統領としては、反乱を起こしたワグネルについて、代表の死亡後、政権の管理下にあることを示すねらいもあるとみられます。
ロシア大統領府は29日、プーチン大統領がワグネルの幹部だったトロシェフ元司令官と28日に大統領府で会談したと発表しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官によりますと、トロシェフ元司令官は現在は、ロシア国防省に所属しているということです。
会談でプーチン大統領は、トロシェフ元司令官に対し「あなた自身も、部隊で1年以上戦ってきた。戦闘を最も成功する方法で進めるために事前に解決すべき課題についても知っている」と述べたうえで、ウクライナへの軍事侵攻に参加する志願兵の部隊の組織化を指示しました。
プーチン大統領としては、ことし6月、ワグネルの代表だったプリゴジン氏が反乱を起こし、8月には航空機の墜落で死亡したあとも、ワグネルの戦闘員らが政権の管理下にあることを示すねらいもあるとみられます。
一方、これに先立ってウクライナ軍の報道官は27日、ワグネルの元戦闘員、数百人が東部ドネツク州の激戦地バフムトで戦闘に参加していると明かしていました。
ウクライナ軍の参謀本部は29日、バフムトなどで反転攻勢を続けていると発表し、ロシア側に占領された地域を少しずつ解放していると強調しています。
戦況を分析しているイギリス国防省は、ワグネルの戦闘員について「再配置された人員の正確な状況は不明だが、ロシア国防省の部隊かほかの民間軍事会社に移籍した可能性が高い」と指摘したうえで「多くは昨年の冬、同じ地形で戦ったため、現在の前線とウクライナの戦術に精通しているだろう」という見方を示しています。
ロシア軍 秋の徴兵に関する計画 “追加の動員活動ないこと強調”
ロシア軍の参謀本部は29日、毎年2回、春と秋に行われる徴兵のうち、秋の徴兵に関する計画について発表しました。
秋の徴兵は、10月1日から行われるということで、発表したロシア軍参謀本部の高官は、徴集される兵士は1年間の兵役期間中、ウクライナヘの軍事侵攻に参加することはなく、一方的に併合したウクライナの東部や南部に派遣されることはないと強調しました。
さらに「追加の動員活動を行う計画はないことを強調したい。特別軍事作戦の任務を遂行するのに、十分な契約兵や志願兵がいる」などと発表し、長期化するウクライナ侵攻で兵員不足解消のため追加の動員があるのではという国民の間でくすぶる不安の払拭に努めています。
一方、ロシア国営のタス通信は、今回の徴兵は、去年、一方的に併合したウクライナの東部や南部の4つの州の占領地域の住民も初めて徴集の対象に含まれると伝えています。

 

●ロシア、秋の定期徴兵で13万人徴集 プーチン氏が法令に署名 9/30
ロシアのプーチン大統領は、秋の定期的な徴兵期間に13万人を徴集する法令に署名した。政府が29日にウェブサイトに掲載した文書で明らかになった。
ロシアでは全ての男性は18歳から27歳までの間に1年間の兵役に就くか、高等教育を受けている間に同等の訓練を受けることが義務付けられている。
プーチン氏は3月、春の徴兵期間に14万7000人を徴集する法令に署名。ロシア下院は7月、兵役義務の対象となる年齢の上限を30歳に引き上げることを決定。2024年1月1日に施行される。
ロシアが2022年2月にウクライナに対する全面侵攻を開始してから1年8カ月が経過。プーチン大統領は今月、ウクライナでの長期戦に備えていると述べている。
●プーチン氏、「4州併合」正当化 1年迎えビデオ演説 9/30
ロシアがウクライナ東・南部4州の併合を一方的に宣言して1年を迎えた30日、プーチン露大統領は国民向けビデオ演説を発表した。プーチン氏はロシアが併合の根拠として4州で強行した「住民投票」について「完全に国際基準に則したもの」だったと主張し、4州併合を改めて正当化した。
プーチン氏は4州併合が「真に歴史的かつ運命的な出来事」だったと指摘。4州の住民はウクライナの迫害から逃れるためにロシアへの併合を選んだと一方的に論じた。また、ロシアは4州で学校や病院、文化施設、交通インフラなどの再建を進めており、今後も「地域の発展目標を必ず達成する」と述べた。
4州併合は、ロシアが友好国とみなす旧ソ連諸国を含む国際社会の大多数が支持していない。
●露プーチン大統領「併合4州はロシア領」と強調 一方的な併合から1年 9/30
ウクライナの4つの州を一方的な併合から1年がたったことを受け、ロシアのプーチン大統領が、併合した地域はロシアであることをあらためて強調した。
ロシアは2022年の9月30日、ウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州、南部のヘルソン州とザポリージャ州を一方的に併合した。
併合から1年がたったことを受け、プーチン大統領は30日、国民向けのビデオメッセージを公開。
4つの州の住民に「あなた方の確固たる決意のおかげで、ロシアはさらに強くなった」と感謝したうえで、「われわれは1つの国家であり、ともにすべてを乗り越え、どんな困難にも立ち向かう」とあらためて4つの州がロシアだと強調した。
また、プーチン大統領は、「住民投票で、真に民主的な決定を下した」とあくまで住民の求めに応じての併合だったことをアピール。
4つの州のトップを決めて実効支配を裏付けた9月の統一地方選を、「われわれの法的効力を強化するための重要な一歩となった」と高く評価した。
これに先立ち、プーチン大統領は28日、9月30日を4つの州とロシアの統一記念日とする大統領令に署名した。
●ロシアと中南米の連携強化訴え プーチン氏 9/30
ロシアのプーチン大統領は29日、モスクワで開かれたロシアと中南米諸国の議会関係者らの会議で「ロシアと中南米は伝統的に共通の国際的視点を持ってきた」と述べ、欧米の覇権に反対し多極化した世界をつくるための連携を訴えた。
プーチン氏は「中南米の人々は常に独立と平等を追求してきた」と述べ、キューバ革命を指導したチェ・ゲバラやカストロ元国家評議会議長らの名を「植民地主義との闘士」として列挙。会場から大きな拍手を浴びた。
プーチン氏は、現在の国際的金融システムは欧米など先進国だけが利益を得るようにできていると批判。新興5カ国(BRICS)などの枠組みで協力し、平等な仕組みに改めるべきだと強調した。
ウクライナ侵攻で欧米の制裁を受けるロシアは中東やアフリカなど非欧米諸国との関係強化を図っている。
●プーチン大統領が怯えるイスラムの地雷%ッ盟国アルメニアと亀裂 9/30
ロシアのプーチン政権が抱える地雷≠ェ国内外で爆発寸前だ。旧ソ連のアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフを巡る紛争が再燃し、仲裁役のロシアと同盟国アルメニアの亀裂も顕著になった。また、プーチン大統領の「腹心」とされるチェチェン共和国の首長、カディロフ氏の健康不安説も飛び交っている。
アルメニアは、アゼルバイジャンの攻撃により200人以上の死者が出たと発表した。アルメニア人系勢力の実効支配地域から、アルメニアに避難した住民は5万3000人に達したという。
ロシアと長く蜜月だったアルメニアだが、昨今は紛争へのロシアの支援が不十分だとして強い不満を示してきた。今月には米国との合同軍事演習を実施するなど、西側と急接近していた。
筑波大の中村逸郎名誉教授は「アルメニアのロシア離れ≠ェ決定的になった。クレムリン(大統領府)にとっては、旧ソ連内部に米国の影響力が及ぶリスクを伴うことになった」とみる。
旧ソ連構成国では、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの中央アジア5カ国首脳が19日、バイデン米大統領と定期協議枠組み「C5プラス1」の首脳会議をニューヨークで開いた。
ロシア国内にも気になる動きがある。チェチェン共和国首長のカディロフ氏をめぐり、今月中旬からSNSで「体調不安説」が流布しているのだ。ウクライナ内務省のゲラシチェンコ顧問は17日にX(旧ツイッター)で、「彼はすでに死亡したとも、重篤な腎不全で昏睡(こんすい)状態に陥ったとも、毒を盛られたともいわれている」と投稿。カディロフ氏の健在を示す動画も拡散されたが、憶測は消えない。
米戦争研究所(ISW)は17日のリポートで、健康不安説が注視される理由について「カディロフ氏、ひいてはプーチン氏のチェチェン支配の長期安定に影響を与えると懸念されているのではないか」と分析した。
カディロフ氏は、民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏と並ぶ強硬派として台頭した。プリゴジン氏は反乱を起こし、8月に死亡が確認されたが、カディロフ氏はプーチン氏への忠誠を誓っていた。
カディロフ氏ら親露派に対し、チェチェンで多数を占めるイスラム教徒(ムスリム)の中には分離独立派もいる。プーチン氏はウクライナの激戦地にイスラム地域や、少数民族の兵士を投入しているとされるだけに不満も募っているという。
中村氏は「カディロフ氏の身に何かが起これば、独立運動が加速するリスクも考える。ロシア国内のイスラム教徒の間で『自分たちの戦争ではないのに犠牲をこうむっている』との不満が募っていることもあり、カディロフ氏が自ら姿を消した可能性もゼロではない」との見方も示す。
ロシアでは来年3月に大統領選を控える。前出の中村氏は「プーチン政権は、国内に2割と推計されるイスラム教徒の存在を恐れているのではないか。中央アジアはじめ旧ソ連諸国にもイスラムの国が多い。今回の軍事行動でムスリムが多いアゼルバイジャン側に立った仲介を行ったことも無関係ではないかもしれない」と分析した。
●ロシア ウクライナの4州に対する一方的な併合宣言から1年 9/30
ロシアのプーチン政権が軍事侵攻を続けるウクライナの東部と南部の4つの州に対し一方的な併合を宣言してから30日で1年となります。領土奪還を掲げるウクライナ軍が反転攻勢を強める中、プーチン政権は、選挙だとする活動を強行するなど占領地域で支配の既成事実化をさらに進めようとしています。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン政権は去年9月、ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州のあわせて4つの州で「住民投票」だとする活動を強行し、去年9月30日、一方的な併合を宣言しました。
併合を宣言した9月30日について、プーチン政権は新たに法律で併合を祝福する日に定めていて、これに先立つ29日には首都モスクワの中心部の赤の広場でコンサートなどが開かれました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は29日、併合を宣言した日にあわせてプーチン大統領による国民向けのビデオメッセージを予定していると明らかにしました。
ウクライナの4つの州で、この1年、プーチン政権はインフラの整備やロシア式の学校教育を推し進めたほか、今月上旬には、ロシアの統一地方選挙にあわせる形で4つの州でも選挙だとする活動を強行するなど占領地域で支配の既成事実化をさらに進めようとしています。
プーチン大統領は28日、地方の首長を集めた会議に、併合を宣言したウクライナの州のロシア側の代表も加えてオンライン会議を開催し「われわれの歴史的な土地で初めての選挙がロシアの法律に基づき行われた。新たな地域の完全な併合に向けた重要な一歩だ」と強調しました。
ウクライナは、4つの州の占領地域のほか、南部クリミアの奪還も目指して反転攻勢を強めていて、プーチン政権としては一方的に併合を宣言した地域は「すでにロシアの領土で祖国の防衛戦争だ」と正当化し軍事侵攻を続ける構えです。
ロシア通貨に切り替え パスポートの発給も
ロシアは、ウクライナへの軍事侵攻後、東部や南部で占領地域を拡大し、去年9月、東部のドネツク州とルハンシク州、それに南部のザポリージャ州とヘルソン州の4つの州の占領地域で「住民投票」だとする活動を強行しました。
これについて、欧米などは「偽の住民投票だ」として批判したほか、ロシアと良好な関係にあるカザフスタンなどからも、結果を認めないという考えが示されました。
しかし、プーチン大統領は去年9月30日、「住民はみずからの選択を行った」などと主張し、一方的に4つの州の併合を宣言しました。
その後、4つの州の占領地域では、通貨がロシアの「ルーブル」に切り替えられたほか、住民にロシアのパスポートの発給が行われてきました。
さらに、9月に行われたロシアの統一地方選挙にあわせる形で4つの州で「選挙」だとする活動が行われるなど、プーチン政権は支配の既成事実化をさらに進めようとしています。
これに対して、ウクライナ側は併合は国際法違反で、こうした「ロシア化」の動きについて容認できないという姿勢を一貫して示しています。
また、ウクライナ軍は、支配地域の奪還を目指して反転攻勢を進め、去年11月、南部ヘルソン州の州都ヘルソンを解放したほか、ザポリージャ州や東部ドネツク州の激戦地バフムト周辺などでも反撃を続けています。
占領下にある地域の実情を伝える記者
ロシアの占領下にある地域の実情を伝えようと活動しているジャーナリストがいます。
ウクライナのテレビ局の記者、オレーナ・バニナさん(45)もその1人です。
バニナさんは、当時ロシア軍の占領下にあったヘルソンから去年6月、夫や3人の子どもとともにキーウ近郊に避難しました。
ヘルソンは、去年11月にウクライナ軍が奪還しましたが、街ではいまも砲撃が続いているほか、ヘルソン州の多くの地域はいまも占領下にあるため子どもの安全のためにも元の家には戻れないでいます。
ただ、バニナさんは、現地の実情を広く伝えたいと、避難したあとも取材活動を続けています。
ことし6月には、水力発電所のダムの決壊で大規模な洪水に見舞われたヘルソンに入り、ボートに乗って被害の様子を取材し、ネットなどで発信しました。
また、ヘルソン州の占領地域にいる知人ともインターネットを使って連絡を取るなどして取材を続けています。
それによりますと、9月、州内の占領地域でロシアが選挙だと主張する活動が行われた際、ロシア側の担当者が家を1軒ずつ回って投票を強く促してきたということです。
このため選挙に反対する大半の住民は、居留守を使うなどして抵抗をしていたということです。
バニナさんは「占領地域の人々は、世界から切り離されてしまっている。せめて『いまどうしていますか』と尋ね、関心を示すことが重要だ」と訴えていました。
そして困難な取材を続ける理由について「私を突き動かしているのは、ヘルソンが私たちの土地だという事実だ。住民の多くが殺され、拘束されたりしていることを知るのはつらいが、占領下での生活がどのようなものか世界に知ってもらいたい」と話していました。
●ウクライナがクリミア攻撃加速、ロシアの戦争能力じわじわ低下 9/30
ウクライナはロシアが占領するクリミアへの攻撃を強めている。開始から4カ月経った反転攻勢では東部や南部の戦線でなかなか前進できずにいるが、ミサイルやドローンを活用したクリミアへの攻撃では敵軍の兵器や拠点、補給線を破壊している。
クリミアを守っていた高度防空システムを破壊したことを契機に、ウクライナは巡航ミサイルやドローンでロシアの艦船や黒海艦隊司令部を攻撃。レーダー拠点として使用されていた黒海の海洋プラットフォームも奪還した。
この結果、ロシア艦隊の動きはさらに制限され、同国の戦争能力はそがれていると、非公表の内容を話しているとして匿名を要請した欧州当局者は述べた。
この当局者によると、これらの作戦はロシアの補給線や兵たん、攻撃作戦遂行能力を標的とする全般的な戦略の一環だ。激しさを増す攻撃はロシアの軍事能力をじわじわ低下させるウクライナの作戦が前進していることを示すほか、2014年にロシアによって違法に併合されたクリミアを取り返すという戦略的な目標も改めて意識させている。
ただ、これがウクライナに年内の決定的な戦況打開をもたらす可能性は大きくないと、この当局者はくぎを刺した。
ウクライナ国立戦略研究所の研究員、ミコラ・ビエリエスコフ氏は「現時点では、これらのプロセスは並行して進んでいる。兵たん拠点としてのクリミアが弱体化すれば、ウクライナは本土のロシア軍にもっと対処できるようになる」と述べた。
ウクライナはロシア国内のインフラや補給線、空軍力も標的にしている。29日にはロシア西部の5つの町をドローンで攻撃し、電力を喪失させた。ウクライナのエネルギー施設を狙い打ちにしたロシアの戦術をやり返した格好だ。
ビエリエスコフ氏はウクライナがロシアの防空能力を組織的に弱めてきたことと、ドローンとミサイルを組み合わせて残る防空能力を圧倒する新たな戦術がクリミアへの攻撃を成功に導いたと指摘した。
戦争の大半を通じて、ロシアはクリミアへの攻撃をレッドラインだとし、攻撃があれば報復によるエスカレートを招くと示唆してきた。だが、ウクライナの攻撃が激化しその成功が増えている中でも、ロシアの脅しは実現していない。
●ロシアの秋季徴兵、占領下のウクライナ4州が初めて対象に 9/30
ロシア国防省は29日、今秋の新たな徴兵で占領下のウクライナ4州が初めて対象地域に含まれると明らかにした。
国防省によると、秋の徴兵は10月1日からロシア連邦全域で始まる。違法に併合されたウクライナの地域も対象になるという。
ロシアのプーチン大統領は昨年9月、ルハンスク、ドネツク、ヘルソン、ザポリージャ4州の併合を宣言。4州ではこれに先立ち、いわゆる「住民投票」が実施されたものの、ウクライナや西側諸国からは一様に「偽の」住民投票だと非難する声が上がった。
ロシア軍参謀本部組織動員総局の幹部であるツィムリャンスキー少将によると、ロシアの極北地域では気候の違いを考慮し、11月1日から徴兵が開始される。
徴集兵が集合場所から出発するのは10月16日以降になる予定。「徴兵期間は従来通り12カ月」だという。
ツィムリャンスキー少将は「徴兵で軍務に就く要員がドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国、ヘルソン州、ザポリージャ州といったロシア連邦の新地域の部隊展開拠点に派遣されたり、特別軍事作戦の任務に参加したりすることはない」としている。「特別軍事作戦」はウクライナでの戦争を表すロシアの婉曲(えんきょく)表現。
定期徴兵以外の追加動員の計画はない。ツィムリャンスキー少将は「(ロシア軍)参謀本部に追加動員の計画はない」と強調した。
ロシアでは徴兵は年2回行われる。国営タス通信によると、昨秋は部分動員の影響で徴兵事務所が手一杯となり、通常より1カ月遅れで徴兵が始まった。
●ウクライナ支援への反対派優勢、スロバキア総選挙の行方に世界的関心… 9/30
中欧スロバキアで30日、国民議会(一院制、定数150)選挙が行われる。世論調査ではロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援に反対する左派の最大野党「スメル」(道標・社会民主主義)が優勢だ。結果次第で欧米の対露結束に影響する可能性があり、総選挙の行方に世界的な関心が集まる。
国内政治混乱
「未熟な政権にはがっかりした。長年政権を担ったスメルの手腕に期待したい」
社会主義時代に整備が始まった首都ブラチスラバの団地の庭で元公務員の年金生活者ヨゼフ・オレヤルさん(77)は、2020年の前回選挙まで十数年間、政権を握ったスメルへの期待を口にした。
総選挙は来年2〜3月の予定だったが、国内の政治の混乱を受け、繰り上げ実施される。中道右派政党中心の連立政権は、新型コロナ対策の迷走などで不信任案が可決され、暫定政権が国政を担う。
直近の世論調査では連立与党勢は大きく支持率を下げ、スメルと第3極の中道リベラル政党「プログレッシブ・スロバキア」(PS)がそれぞれ支持率19%程度で接戦を演じている。社会主義時代を知る世代を支持基盤とする左派勢力と都市中間層に多い親欧リベラル勢力が競う構図となる。
露に親近感
争点の一つがウクライナ支援の是非だ。人口約540万人のスロバキアは欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、ウクライナに戦闘機や地対空ミサイルなどを供与してきた。スメル党首のロベルト・フィツォ元首相(59)はウクライナへの武器供与は「紛争を長引かせるだけ」として見直しを主張する。ウクライナのNATO加盟を支持せず、対露制裁にも反対している。
10年間首相を務めたフィツォ氏の言動は「ロシアに親近感を覚える有権者をにらんだ選挙戦術」との見方も根強い。スロバキアは社会主義時代に工業化が進み、ロシア語を解する人も少なくない。国内での調査ではウクライナ侵略でロシアに責任があると答えたのは4割にとどまり、3割が自国がロシア勢力圏に戻ってもよいと考えているとの結果もある。
プロパガンダ
新聞が衰退し、玉石混交のインターネット情報の影響力が高まったこともロシア寄りの情報が浸透する素地になっている。スロバキア元外相は米紙に「スロバキアはロシアのプロパガンダの成功例だ。欧州を分断するくさびとして我が国を悪用している」と述べた。
全国比例代表制の選挙では、どの政党も単独過半数に届かない公算が大きい。連立交渉を進める第1党の座をどの政党が得るかが焦点となる。国益最優先のスメルが政権に返り咲けば、EUとの摩擦も辞さない隣国ハンガリーのような自国優先路線に転換するとの見方もある。

スロバキア= 東欧革命でチェコスロバキアの共産党政権崩壊後、1993年にチェコとの連邦を解消して独立。社会主義経済から自由経済への転換に苦しんだ。経済的な豊かさを示す指標はEU27か国中ブルガリアに次ぐワースト2位。国外に職を求める「頭脳流出」も深刻になっている。
●スロバキア議会選挙 軍事支援停止訴える野党が第1党となる勢い 9/30
ウクライナの隣国、スロバキアでは9月30日、議会選挙が行われます。ウクライナへの軍事支援の停止などを訴える野党が第1党となる勢いで、ヨーロッパの結束にも影響を与えかねないとして注目されています。
ヨーロッパ中部のスロバキアでは9月30日、議会選挙が行われます。
スロバキアの政権は、EU=ヨーロッパ連合との協調を重視し、NATO=北大西洋条約機構の加盟国としては初めて旧ソビエト製のミグ29戦闘機をウクライナに送るなど軍事支援を進めてきました。
しかし、選挙では軍事支援の停止を訴えるフィツォ元首相率いる左派の野党「方向・社会民主主義」が世論調査で支持率トップとなっています。
EUとの協調やウクライナ支援の継続を訴える中道左派の野党も選挙戦の終盤で支持を伸ばしていますが、フィツォ氏率いる野党が第1党となる勢いです。
フィツォ氏はロシアへの制裁も物価の高騰を引き起こし国民を苦しめるだけだと主張し、EUの方針に反して制裁に反対すると訴えています。
フィツォ氏率いる野党が支持を集める背景には、物価の高騰で国民の負担が高まっていることや旧ソビエト時代の関係からロシアに親近感を抱く層が一定数いることなどがあるとみられています。
フィツォ氏が政権を握れば、ウクライナ支援でのヨーロッパの結束にも影響を与えかねないとして注目されています。
選挙結果は10月1日に大勢が判明する見通しです。 
●プーチン氏、徴兵令に署名=ウクライナでは攻防続く 9/30
ロシア国防省は29日、プーチン大統領が今年秋に最大13万人を徴兵する法令に署名したと発表した。ウクライナ侵攻開始から1年7カ月以上が経過する中、さらなる長期化に備えるのが狙いとみられる。一方、ウクライナ東・南部では両軍の攻防が続いている。
ロイター通信によると、この法令は定期的なもので、プーチン氏は今年3月に最大14万7000人を徴兵する法令に署名していた。ロシアはウクライナ侵攻の難航や北大西洋条約機構(NATO)の拡大をにらみ、兵力を従来比3割増の150万人規模に増強する目標を掲げている。
ロシアでは全ての男性が18〜27歳の間に1年間の兵役に就くか、高等教育の期間に同等の訓練を受けることが義務付けられている。来年1月1日からは徴兵上限が現行の27歳から30歳に引き上げられる。
一方、ウクライナ東・南部では両軍による激しい攻防が続いた。ウクライナ軍参謀本部によると、東部ドネツク州の要衝バフムト近郊で、ウクライナ軍が奪還した複数の集落を奪い返すためにロシア軍が攻撃に出ている。一方、ウクライナ軍も反転攻勢を継続している。
30日はロシアがウクライナ東・南部4州を一方的に「併合」してから1年の節目。プーチン氏は声明で併合を称賛した。これに対し、英政府は29日、これらの地域でロシアが今年9月に実施した「地方選」に関与したとして、ロシアの選挙管理機関などに対する追加制裁を発表した。 
●プーチン大統領、対決姿勢鮮明/併合1年「4州防衛」強調 9/30
ロシアのプーチン大統領は30日、侵攻したウクライナ東部・南部計4州の併合を一方的に宣言してから丸1年に合わせてビデオ声明を発表、「われわれは一つの国民だ。試練を共に乗り越えていく」と述べ、ロシアの一部として防衛していく決意を強調した。ロシアへの統合を支持した4州住民の強い意思により「ロシアはさらに強くなった」と表明。ウクライナを軍事支援する欧米との対決姿勢を鮮明にした。
ウクライナは今年6月に大規模反転攻勢を開始したが、ロシアが4州の前線に設けた防衛線に阻まれるなどして期待通りの戦果は上げられておらず、戦況は膠着している。
プーチン氏は、併合を支持する国民は4州だけでなく「ロシアの主権や精神的価値観を擁護している」とし、侵攻でロシアに制圧された地域や2014年にロシアが併合したクリミア半島の奪還を目指すウクライナのゼレンスキー政権に対抗していく構えも強調した。
独立を求めた4州のロシア系住民について、ウクライナの政権により「脅され、自分の文化や権利、未来まで奪われようとした」と述べた。
●ロシア国防費、来年1.7倍に ウクライナ侵攻長期化で 9/30
ロシア連邦政府は30日までに、国防費を今年の約1.7倍に増額する2024年予算案を連邦議会に提出した。ウクライナ侵攻が長期化する中、武器弾薬の増産に取り組むほか、兵員不足を埋めるための志願兵募集などの人件費がかさんでいるとみられる。
ロシア通信などによると、29日に下院に提出された予算案では24年の歳出36兆6千億ルーブル(約55兆2千億円)のうち国防費は約29%の10兆7360億ルーブル。23年予算案での国防費6兆4千億ルーブルの約1.7倍で、国内総生産(GDP)の6%に相当する。
シルアノフ財務相は28日「国防費確保は現在の最優先課題だ」と記者団に述べた。ペスコフ大統領報道官も同日「ロシアにはハイブリッド戦争が仕掛けられている。軍事作戦継続には高い国防支出が必要だ」と強調した。
一方、英BBC放送とロシア独立系メディア「メディアゾーナ」は29日、独自の共同調査の結果、昨年2月のウクライナ侵攻開始以降に死亡したロシア側の兵士ら3万3236人の名前を確認したと報じた。
●ロシア軍の死者、侵略開始以降「27万人超」…直近1日でも340人死亡 9/30
ウクライナ軍参謀本部は29日、ロシアの侵略開始以降、露軍の死者が27万7660人に上ったと発表した。ウクライナ軍は東・南部やロシアに併合されたクリミアで反転攻勢を強めており、直近の1日でも露軍の340人が死亡したとしている。
発表によると、露軍は4687台の戦車を失い、536基の防空システムが損害を受けた。装備品の損失も拡大している模様だ。
両国の攻撃の応酬は激しさを増している。ウクライナメディアによると、同国保安庁関係者は、露西部クルスクで29日、ウクライナ側が無人機攻撃を行い、レーダー基地を破壊したと明らかにした。
これに対し、露軍は29日、ウクライナ南部ヘルソン州やミコライウ州など各地を攻撃した。ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、28日〜29日朝の砲撃などで6人が死亡、13人が負傷した。  
 
  
 

 



2023/7-