戦争終結の道

プーチン大統領


落ち着くところ ウクライナ分断か
 


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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」 ・・・  ウクライナ分断  孤立するロシア
 
 

 

●理想主義は戦争を引き起こし現実主義が戦争を終わらせる 6/1
ウクライナ戦争の影響で世界は軍拡の時代を迎えている。欧州各国は揃って軍備増強に走っているが、中でもドイツの変身ぶりには驚かされた。これまでNATOは「国防費GDP比2%」を目標にしていたが、ドイツのメルケル前首相はそれに慎重姿勢だった。
ところが左派が主導するショルツ政権に代わり、そこにロシアのウクライナ侵攻が起こると、ショルツ首相はドイツが伝統としてきた「平和主義」を大胆に転換した。ショルツは連邦議会で「民主主義防衛のためには国防への投資が必要」と宣言し、「紛争地に殺傷兵器を送らない」という原則を撤廃した。
ショルツ政権の新国防政策は、GDP比1.5%だった国防費を2%に増額するだけでなく、軍備増強のため13兆円規模の基金を創設し、また米国との核共有のため米国製のステルス戦闘機F35購入を発表した。F35購入はメルケル前政権が排除した計画である。
そしてドイツは自走式対空砲50両をウクライナに供与する他、ウクライナ兵に軍事訓練を施すことも表明した。さらにショルツは4月19日に行われた西側諸国の会合で「ロシアが勝利することはあってはならない」と発言した。
これは「ロシアが敗北するまで戦争を続ける」と言ったことになる。プーチンとの交渉や妥協を許さない発言だ。これまでEUとロシアとの共存を画策してきたメルケル前首相なら決して言わなかったであろう。保守政権がリベラル政権に代わると、これほど大胆に政策を転換できるものかと驚いた。
佐藤優元外務省主任分析官は、その背後にショルツ社民党政権と連立を組む「緑の党」の存在があると分析する。佐藤氏によれば「緑の党」は環境重視政党だから「平和志向」のイメージがあるが、「緑の党」を率いてきたベアボック外相が慎重だった社民党に対し、ウクライナに戦車や重火器を送るべきだと強く迫ったというのである。
民主主義という人類の理想を追求するためなら、何が何でも戦争に勝利しなければならないと考えたのだろう。しかしこれで戦争を終わらせることは難しくなった。戦争を終わらせるには様々な妥協と駆け引きが必要になるが、理想を追求するとそれが許されなくなる。
ショルツの「ロシアが勝利することはあってはならない」という発言は、この戦争が「正義と悪との戦い」であることを物語る。つまり2月24日のロシア軍の軍事侵攻以来、西側メディアが伝える「狂気の侵略者プーチンvs領土を死守する英雄ゼレンスキー」の構図そのものだ。
この構図で言えば、ロシアのプーチン大統領と欧州の平和的共存を画策したメルケルはとんでもない政治家だったことになる。事実、ウクライナのゼレンスキー大統領は国連の安保理でオンライン演説を行った際、フランスのサルコジ大統領とドイツのメルケルを名指しで非難した。
2人が2008年のNATO首脳会議で、米国のブッシュ(子)大統領がウクライナとジョージアの加盟を強く推したのに反対したからだ。ゼレンスキーはその判断を誤りだと非難したが、もし2人が加盟を認めていたらどうなっていたか。
歴史に「もし」はないことを承知で言えば、やはり戦争が起きていただろうと思う。2人はそう考えて欧州が戦火に包まれない選択をしたと私は思う。なぜならその頃からプーチンは欧米に対する怒りを募らせていたからだ。
2000年5月に大統領に就任したプーチンは親米派だった。2001年に米国に「9・11同時多発テロ」が起こると「テロとの戦い」に協力してアフガン戦争を支援した。そしてNATOにも接近し、ロシアはNATOの意思決定機関に参加して「準加盟国」の扱いを受けるようになった。
2002年にNATOの第二次東方拡大で、バルト3国、ルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニアの新規加入が決定されても反対しなかった。国内では軍部や議会が懸念を表明していたが、プーチンはNATOの軍事的色彩を弱め、ロシアに対する敵視政策を変更させようとしていた。
ところがルーマニア、ブルガリア、ポーランド、チェコに米軍基地が作られ、ミサイル防衛網が設置されてロシアを狙っていることを知り、プーチンは自分の考えが甘かったことを悟る。2008年のNATO首脳会議はその後だったから、プーチンの心は平和的共存を諦め、すでに欧米と戦う覚悟をしていたのだろうと思う。
だからメルケルは戦争の危険性を排除するため、プーチンと何十回も話し合い、平和的共存を模索してきたのだ。それが今となってはプーチンを増長させ、プーチンに軍事侵攻のインセンティブを与えたと批判されている。しかしそれは逆で、私はメルケルこそ政治家の最重要課題である戦争を起こさせない使命を全うしたと考えている。
では今回の戦争を起こさせたのは何か。それは民主主義という人類普遍の理想を追求する政治家たちがいたからだ。第二次大戦後の世界は自由主義と共産主義のイデオロギー対立の時代だった。米国を中心とする自由主義陣営から見れば、共産主義は人民の自由を奪い国家が人民を統制する「悪の帝国」だ。
一方のソ連を中心とする共産主義陣営からすれば、自由主義は人類を堕落させ、富の格差で少数の富裕層が多数の人民を苦しめる体制だ。多数の人民を解放するには自由主義体制を打倒しなければならない。従って両者間の戦争は必至だった。
しかし米ソは大国同士で簡単には相手を倒せない。しかも究極の大量破壊兵器である核を保有しているから直接の戦争は地球全体の破滅を招く。そのため戦火を交えない「冷たい戦争」が続くことになった。
もう一つ言えば、ソ連では「一国社会主義」のスターリンが権力を握り、「世界同時革命」を訴えたトロツキーが失脚した。トロツキーが権力を握っていれば自由主義陣営との衝突が世界規模で起きていたかもしれない。
また米国でも、理想を追求せずソ連を力で抑えることに反対したジョージ・ケナンの「封じ込め戦略」が採用され、米ソが直接衝突する危機は避けられた。封じ込め戦略はソ連の影響力が膨張するのを防ぎ、じっとソ連の内部崩壊を待つ戦略だ。だから朝鮮半島やインドシナ半島で「代理戦争」はあったが、世界大戦は避けられた。
そしてジョージ・ケナンの予言通り、ソ連はブレジネフ時代に共産党の腐敗が明らかとなり、それを改革するために登場したゴルバチョフ書記長が複数政党制や大統領制を取り入れたがすでに遅かった。政治的求心力を失ったゴルバチョフの大統領辞任と共にソ連は崩壊した。
すると米国の政治に、ソ連崩壊を共産主義に対する民主主義の勝利と考える思想集団が影響力を持った。ネオコンと呼ばれ、民主・共和両党にまたがる一大勢力となる。ネオコンの源流は「世界同時革命」を主張したトロツキーの信奉者で、彼らは人類普遍の理想として米国の民主主義を世界に輸出しようと考えた。いわば「世界同時民主革命」である。
ソ連なきあと唯一の超大国となった米国は、世界最強の軍隊を「世界の警察官」として世界各地の紛争に武力介入させ、米国の民主主義を世界に広めようとした。そして世界最大の大陸ユーラシアを民主主義一色にしようと考えた。
ロシアを民主化するためNATOの力を使い、中国を民主化するためには日本に役割を負わせる。そして中東は米国自身が民主化に乗り出した。ところが中東で米国は躓く。史上最長となったアフガン戦争で米国はタリバン政権の復活を許し、イラク戦争ではより過激なテロ組織を生み出して収拾がつかなくなる。民主化どころの話ではなくなった。
その間に中国とロシアが存在感を増し、特に中国は経済力でまもなく米国を追い抜こうとしている。それも共産党一党独裁体制を維持したままだ。米国が人類普遍の理想と考える民主主義が揺らぎかねない。
本来なら米国は中国への対応に全力を挙げなければならないが、それより前にネオコンが影響力を浸透させていたウクライナでロシアに対する戦闘の準備が整った。2014年に武力併合されたクリミア半島奪還の戦いである。ゼレンスキーは昨年3月に奪還の指令を発した。
ウクライナとNATOの挑発にプーチンが乗れば、NATOの結束は強まり、プーチンを侵略者として非難攻撃ができる。そのための情報戦の用意も整った。そして2月24日、プーチンは補給の準備もないまま軍事演習のロシア軍にウクライナとの国境を越えさせた。
ウクライナ軍を見くびっていたとの見方もあるが真相はまだ分からない。ただ領土的野心のためというのは違う。それなら周到な準備をしたはずだがそれが見えない。ともかくネオコンは計算通りにプーチン攻撃をはじめ、プーチンは世界中から「狂気の侵略者」の烙印を押された。
そのプロパガンダを一手に引き受けているのが民主党系のシンクタンク「戦争研究所」である。これがネオコンの巣窟だ。ネオコンは共和党にもいるが民主党にもいる。民主党のネオコンは「リベラル・ホーク(リベラルなタカ)」と呼ばれ、理想のためなら戦争をやる。
「戦争研究所」の所長ももちろんだが、その義理の姉がバイデン政権のヴィクトリア・ヌーランド国務次官で、「リベラル・ホーク」の代表格はヒラリー・クリントンだ。ヒラリーはずいぶん前からプーチンを「ロシア帝国再興の野望を持つ男」と批判して政治的抹殺の必要性を主張していた。
米国政治を見ると戦争を引き起こすのは民主党政権が多い。太平洋戦争はフランクリン・ルーズベルト、ベトナム戦争はジョン・F・ケネディ、「テロとの戦い」は共和党のブッシュ(子)だが、これはネオコンに取り巻かれた政権だった。そして今回のウクライナ戦争はバイデンである。
理想を追求するタイプの政権が戦争を引き起こし、ベトナム戦争を終わらせたのが共和党のニクソン政権であったように、戦争を終わらせるのはリアリズムの保守政権だ。ニクソン政権はキッシンジャーが外交を主導したこともあって、ソ連や中国と対立せず協調を選んだ。キッシンジャーは今回もロシアに領土を譲れと言ってゼレンスキーを怒らせた。
政治に対する根本的な姿勢の違いがあるのだろう。現実にある力関係を見て、その中でどうすれば国民を安全で豊かにするかを考える政治と、現実を脇に置いて、自分が理想に思うことをとことん追求する政治の違いである。とことん追求すれば必ず戦争が起こる。
それが現在の世界を覆っていると思う。だから軍拡が止まらない。メルケルの政治が批判されてしまうのだ。日本の岸田総理も軍事費の増額と反撃能力の保有を日米首脳会談でバイデン大統領に約束したという。なぜ記者会見を開いて国民に説明する前に米国大統領に言うのか理解できないが、それが日本という国なのだろう。
岸田総理が所属する「宏池会」という派閥は、「軽武装・経済重視」の路線で日本の高度経済成長の基盤を作った。軍事に力を入れないことで経済に力を集中させ、しかも巧妙に米国を騙す政治だった。岸田政権はそれとは真逆のことをやろうとしているように見える。それもこれも西欧的な理想を追求する政治に絡めとられているからだ。
先日のクワッドの会合で見せたインドのモディ首相の泰然とした様子がその対極に見える。かつての日本はアジアの王道政治を意識していたが、冷戦後には西欧覇道の政治に近づきすぎている。それが国民を幸せにするとは思えない。
●デンマークへのガス供給停止 英シェルのドイツ向けも ロシア 6/1
ロシア国営天然ガス独占企業ガスプロムは31日、デンマークへのガス供給を1日から停止すると発表した。
ロシア通貨ルーブル建てでの代金支払い要求に応じなかったためといい、英石油大手シェルの関連企業との契約に基づくドイツ向けの供給も1日から停止する。
ガスプロムは4月下旬、ルーブルでの支払いを拒否したポーランドとブルガリアへのガス供給を停止。5月にはフィンランドとオランダ向けも止め、ロシアのウクライナ軍事侵攻を非難する欧州各国への圧力を強めている。
●東部の都市、戦闘で二分 ロシアの戦争犯罪の疑い1.5万件 6/1
ロシアが侵攻を続けるウクライナの東部の都市セヴェロドネツクで、戦闘が激しさを増している。5月31日には、街が二分された状況になったとみられている。こうしたなか、ウクライナの検察トップは、ロシアによる戦争犯罪の疑いが、これまでに1万5000件近く報告されていると明らかにした。セヴェロドネツク市があるルハンスク州のセルヒイ・ハイダイ知事は、同市の現状について、「7〜8割がロシア軍に制圧されている」と述べた。残りはウクライナ部隊が防衛に努めており、街が2つに分かれているという。市内にある硝酸タンクでは空爆によるとみられる爆発があり、有毒ガスが放出されたが、狭い範囲で済んだという。同市ではまだ最大1万5000人が身動きが取れなくなっている可能性があると、ハイダイ氏は話した。
双方に多大な被害
ウクライナ東部の戦闘では、同国とロシアの双方が、多大な犠牲者を出している。ウクライナ司令部は、戦術的な撤退をした方が中期的には有利だと判断している可能性もある。ウクライナのアンドリー・ザゴロドニュク元国防相は、「さらなる兵器を手に入れ次第、特に西側からいま輸送されている大砲を手に入れ次第、反攻に転じることができる」とBBCに話した。ロシアは現在、ルハンスク州のほぼ全域を占拠している。隣のドネツク州の制圧も目指し、集中的な攻撃を続けている。BBCニュースのロシア語編集部がまとめたリストによると、2月24日の侵攻開始以来、ロシア兵の死者は少なくとも3052人に上っている。
戦争犯罪の疑い1.5万件
ウクライナのイリナ・ウェネディクトワ検事総長は31日、戦争犯罪が疑われる事案の報告がこれまでに約1万5000件に上っていると発表した。毎日200〜300件の報告があるという。オランダ・ハーグで記者会見したウェネディクトワ氏は、戦争犯罪の疑いとして、ウクライナ人に対するロシア各地への強制移動、拷問、殺害、生活インフラの破壊などを挙げた。また、約600人の容疑者を特定し、80人の起訴を開始したとした。容疑者リストには、「ロシアのトップクラスの軍人、政治家、プロパガンダ工作員」たちが含まれている。約1万5000件のうち数千件は、激しい戦闘が続いている東部ドンバス地方で確認されたという。ロシアは戦争犯罪への関与を否定しており、民間人を標的にしたことはないとしている。ウェネディクトワ氏は、「戦闘が続いている中での捜査は非常に困難だ」と、ドイツDPA通信に話した。同氏によると、すでに協力している。ポーランドとリトアニアに加え、エストニアとラトヴィア、スロヴァキアも捜査に加わったという。国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナを「犯罪現場」と呼んでいる。捜査を支援するため、過去最大規模の捜査チームを同国に派遣しており、首都キーウに現地事務所を開設したいとしている。
ロシア産石油の輸入、9割削減へ
欧州連合(EU)は30日、海上輸送によるロシア産石油の輸入をすべて禁止し、年末までに輸入量を90%減らすことで合意した。EUは何週間かにわたって議論を続けてきたが、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相が完全禁輸に反対したため、100%の禁輸とはならなかった。ハンガリーは、ロシアからのパイプラインを通した輸入に石油を依存している、これを受けて原油価格は31日、急上昇した。ブレント原油は1バレル123ドルを超え、ここ2カ月での最高値を記録した。EUは、ロシア産の石油は使わなくなるが、天然ガスは使い続ける。ドイツなどがロシア産のガスに依存しているためだ。こうしたなか、エネルギー大手のシェルは、ガスを供給し続けると表明し、利用者を安心させた。この発表の前には、ロシアのエネルギー企業ガスプロムが、シェルなどへの供給の停止を発表していた。シェルは他の供給源からガスを確保するとしている。 
●ウクライナ戦争で世界の小麦価格が高騰…アフリカで飢餓直面の恐れ 6/1
ウクライナ戦争の影響で世界の小麦流通量が激減し、アフリカでは小麦の価格が高騰している。AP通信が先月30日(現地時間)に報じた。影響で現地の住民は最悪の飢餓に直面する恐れも出てきた。
AP通信はこの日、アフリカ開発銀行(AFDB)の資料を引用し「ロシアによるウクライナへの侵攻後、アフリカでは小麦価格が45%も急騰した」と伝えた。アフリカ諸国は2018−20年には輸入小麦全体の44%をロシアとウクライナに依存していた。
国際社会ではアフリカでの飢餓状況について暗い見通しが相次いでいる。国連世界食糧計画(WFP)は先日「東アフリカのソマリアの場合、全人口のおよそ40%に当たる600万人が緊急の食糧支援を必要としている」と明らかにした。ソマリアではロシアとウクライナへの小麦の依存度が90%に達している。ナイジェリアやニジェールなどサハラ砂漠よりも南の地域では1800万人の住民が深刻な飢饉(ききん)に直面したとの見方も出ている。
世界的な小麦不足は当分続くとの予想もある。AFDBは15億ドル(約1930億円)を投入しアフリカで農民の穀物生産を支援する方針だが、これについてAP通信は「今の食糧難を解決できるほど生産を増やすには数年はかかる」と予測している。
ロシアのプーチン大統領は「欧米がロシアに対する制裁を解除すれば、食料輸出を正常化する」との考えを示した。これに対して米国や欧州などは「ロシア軍がウクライナから全面撤退するまでロシアに対する制裁を続ける」とすでに発表している。今年のアフリカ連合(AU)議長国セネガルのマッキー・サル大統領は近くロシアとウクライナを訪問し、食料価格高騰の問題を巡って意見交換する予定だという。
●ウクライナで相次ぐ「拷問」の証言、ロシア支配下・南部ヘルソンの住民が語る 6/1
オレクサンドル・グズさんは、自家製のボルシチをコンロで温めながら、携帯電話に保存している、あざができた自身の写真を見せてくれた。ロシア当局にやられた傷だと、彼は言う。「頭に袋をかぶせられた」、「腎臓は残らないだろうとロシア人たちに脅された」。BBCはウクライナ南部ヘルソンで、拷問を受けたという住民の生々しい証言をいくつか得た。
オレクサンドルさんは、ヘルソン州地方の小村ビロゼルカで暮らしていた。村を代表する立場の1人だった。若いころは軍の徴集兵だったが、現在は会社を経営している。妻とともに、反ロシアを公言していた。妻は親ウクライナの集会に参加。オレクサンドルさんは、ロシア軍が村に入るのを食い止めようとした。ロシアが村を制圧すると、まもなくして兵士たちが彼を探しに来た。
「首と手首にロープをかけられた」と彼は振り返る。尋問を受ける間、両足を大きく開いて立つよう、ロシア兵たちに言われたという。「答えないでいると、股間を強打された。倒れ込み、息苦しさを感じた。立ち上がろうとすると、殴られる。そして、また質問される」
ロシア軍は戦争の初期に、ヘルソンを制圧した。ウクライナのテレビ局は、すぐにロシアの国営放送局に替えられた。西側の製品は、ロシアの代替品に取って代わった。BBCが複数の人から直接得た証言によると、人々も姿を消すようになったという。ヘルソンで何が起きているのかを突き止めるのは難しい。この州ではロシアが支配を強め、人々は声を上げるのをいっそう恐れている。どうにか州外に出た人は、携帯電話からすべての写真や動画を削除していることが多い。ロシアの検問所で止められ、拘束されるのを恐れてだ。オレクサンドルさんは、自らのけがの画像を海外にいる息子に送り、安全に保管させてから、携帯電話の中身を消した。そのため、こうした証言が事実だと判断するには、拷問の被害に遭ったという複数の人から話を聞く必要がある。
オレフ・バトゥリンさんは、私たちが話を聞いた1人だ。ヘルソン州の独立系新聞の記者だった。ロシアの侵攻が始まってから数日のうちに、拉致されたという。「『ひざまずけ』と怒鳴られた」と彼は言う。「私の顔を覆い(中略)私の両手を背中に回した。背中、あばら骨、脚を殴られ(中略)機関銃の台尻で強打された」。あとで医者に診てもらったとき、あばら骨を4本折られたことがわかった。監禁は8日間にわたったという。その間、他の人が拷問を受けているのを聞き、若者の模擬処刑を目にしたという。
オレクサンドルさんとオレフさんは現在、ウクライナの管理地域にいる。彼らはBBCに、虐待についての警察の報告書を撮ったものだとする写真を提供してくれた。拷問の訴えには、極めて生々しいものもある。私はヘルソンの病院で勤務していた医師を取材した。彼は匿名を希望したが、病院のIDの写真を私に見せた。「体の切断が行われた形跡があった」と彼は言った。そして、血腫(ひどいあざのように見える血管外の局所的な出血)、擦り傷、切り傷、感電させた跡、手を縛った跡、首を絞めた跡なども見たと話した。また、足や手のやけどを目にし、ある患者からは、砂を詰めたホースで殴られたと聞いたという。
「中でもひどかったのは、性器に残ったやけど跡、レイプされた少女の頭にあった銃創、ある患者の背中と腹にあったアイロンによるやけどだ。その患者は、車のバッテリーと彼の股間が2本のワイヤでつながれ、湿った布切れの上に立つように指示されと言っていた」
この医師は、治療を受けなかった重傷者が他にもたくさんいたと考えている。
外に出るのが怖くて、家に閉じこもっている人もいる。また、ロシア人から「心理的プレッシャー」を受けている人もいると、彼は言う。「家族を殺すと脅し、あらゆる方法で恐怖を感じさせる」。
彼は患者たちに、なぜロシア当局に選ばれたのか聞いたという。
「その人たちは、ロシア側に行くのを望まなかったために拷問を受けていた。集会に参加した、領土防衛隊に参加した、家族の1人が分離主義者と戦った、というのが理由にされた人もいた。無差別に選ばれた人もいた」
愛する人が次の被害者になるかもしれないと恐れている人もいる。
ヴィクトリアさん(仮名)は、まだヘルソンにいる両親の身を案じている。父親はかつてウクライナの領土防衛隊に参加しており、すでに一度、拉致され殴られたことがあるという。「父は農場の真ん中に置き去りにされた。感情に左右される人ではないのに、家に戻ると、まもなく泣き出した。私は助けたいが、少女のような気分だ」と、ヴィクトリアさんは述べた。そして、同じことがまた起こるかもしれないと心配している。
ヘルソンで起きていることを調査しているのはBBCだけではない。国連ウクライナ人権監視団と人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)も、拷問と強制失踪の訴えに対して懸念を示している。
HRWのベルキス・ウィル氏は、BBCが集めた証言は、HRWが聞いているものと一致していると言う。同氏はまた、ロシア軍が占領地域で、「地元住民を恐怖に陥れ、恣意(しい)的な拘束や強制失踪、拷問などの虐待を使う」ことを一定程度続けていることが懸念されると述べている。「私たちが目にしているのは、戦争犯罪の可能性があるものだ」
ロシア国防省は、BBCのコメント要請に応じなかった。ロシア政府の報道官はこれまで、首都キーウ郊外のブチャにおける戦争犯罪の疑惑について、「明らかな虚偽であり、中でも最もひどいものは『やらせ』だ。そのことは、ロシアの専門家によって説得力をもって証明されている」としている。
ヘルソンで何が起こっているのかを、外部から正確に把握することは不可能に近い。しかし、多くの証言が集まっており、多くの人が恐怖、脅迫、暴力、抑圧について語っている。ヴィクトリアさんは、両親の脱出を図っている。「ヘルソンでは今、人々が絶えず行方不明になっている。戦争が続いているが、この地域だけ爆撃がない」
●「ウクライナでの戦争が第三次世界大戦になり、文明は滅ぶかも」 6/1
5月末にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、投資家のジョージ・ソロスはスピーチで高まる危機感を露わにした。各国における民主主義の確立を支援してきたソロスは、ウクライナの戦争によって人類の直面する真の課題への取り組みが遅れ、取り返しのつかないことになると語った。
ウクライナでの戦争で対応が遅れる世界の課題
ロシアがウクライナに侵攻し、昨年のダボス会議から歴史の流れは大きく変わった。ヨーロッパは根底から揺るがされているが、欧州連合(EU)が設立されたのはこのような事態を防ぐためだった。
戦闘がいずれか停止したとしても、状況は決して以前に戻ることはない。ロシアの侵攻は第三次世界大戦の始まりとなり、我々の文明は生き残れないかもしれない。
ウクライナへの侵攻は突然起きたのではない。世界は以前から、「開かれた社会」と「閉じた社会」という正反対の二つの統治システムの間で闘争を繰り広げてきた。その違いをできるだけ簡単に定義してみよう。
「開かれた社会」では、国家の役割は個人の自由を守ること、「閉じた社会」では、個人の役割は国家の支配者に仕えることだと考える。
このシステムの闘争ゆえ、全人類に関わる他の問題は、後回しにせざるを得なくなった。パンデミックや気候変動への対処、核戦争の回避、国際的な組織の維持などだ。だからこそ私たちの文明は生き残れないかもしれないと言うのだ。
私は、世界の広い地域が共産主義の支配下にあった1980年代に「ポリティカル・フィランソロピー」と呼ばれる活動を始めた。抑圧に対抗する人々を支援したいと考え、当時のソビエト帝国内で次々と財団を設立したのだ。それが思いのほかうまくいった。
刺激的な日々だった。その時期に私は投資にも成功したので、1984年に300万ドルだった寄付額も、3年後には3億ドル以上にまで増やせた。
しかし、2001年の9.11テロ以降、「開かれた社会」に対する流れが変わり始めた。抑圧的な政権が台頭し、開かれた社会は包囲され、危機下にある。その最大の脅威となっているのは、中国とロシアだ。
なぜこのような変化が起きたのか、私は長い間考え続けてきた。その答えの一つにデジタル技術、特に人工知能(AI)の急速な発達がある。
強権的な政権を助けたテクノロジー
理論的にはAIは政治的に中立であるべきで、良い目的にも悪い目的にも使える。しかし実際にはその効果は非対称的だ。AIは特に抑圧的な政権を助け、「開かれた社会」を危険にさらすような支配の道具を生み出した。新型コロナウイルスもまた、そうした管理手段を正当化した。そうした管理はパンデミックへの対応に本当に有益だからだ。
このAIの急速な発展は、ビッグテックやソーシャルメディア・プラットフォームによる世界経済の支配と密接に関係している。これらの勢力は短期間のうちに世界中に広がり、広範囲に影響を及ぼしている。
この動きは、広範囲に影響を及ぼした。まず、米中間の対立を激化させた。中国は自国のハイテク・プラットフォームを国家の勝者に仕立て上げた。アメリカは、これらの技術が個人の自由に及ぼす影響を懸念し、躊躇している。
こうした態度の違いは、2つの異なる統治システムの対立に新たな光を当てている。習近平国家主席の中国は歴史上最も積極的に個人情報を収集し、国民を監視・管理する国だ。これらの発展から利益を得るはずだったが、これから説明するように、そうはならない。
非合理的な習近平の決断
まずは最近の中露関係、特に2月4日の北京冬季オリンピックの開会式での習近平とプーチンとの会談について考えてみよう。
両者は長い中ロ共同声明を発表し、両国の友情に「限界はない」と表明した。その際、プーチンはウクライナでの「特別軍事作戦」について習近平に伝えたが、本格的な侵攻の予定までを伝えていたかは不明だ(英米の軍事専門家は間違いなく伝えていたと言う)。そして習近平はこれを承認したものの、冬季五輪が終わるまで待つよう求めた。
そして習近平は、中国で流行し始めた伝染力の強いオミクロンの変種が出現してもオリンピックを開催した。主催者側は選手たちのために気密性の高いバブルを作り上げ、オリンピックは無事終了した。
しかしオミクロンは、その後まず中国最大の都市である上海で感染が拡大し、中国各地に広がった。しかし、習近平は現在もゼロコロナ政策に固執し、上海の住民に大きな苦難を強いている。上海市民は反乱寸前まで追い込まれた。
多くの人は、この非合理的な対応に困惑しているが、なぜこんなことが行われているのか、私にはわかる。習近平には後ろめたい秘密があるのだ。中国国民が接種しているワクチンは、武漢で流行したタイプの初期のウイルスの感染は防いでも、変異株にはほとんど効かない。
しかし、習近平の2期目の任期は今秋に切れ、現在非常にセンシティブな時期にあることから、そうとは公表できない。彼は異例の3期目を固め、最終的に終身支配者になりたいと考えている。そのためにすべてを尽くさなくてはならない。
激化するウクライナとロシアとの戦い
一方、プーチンの「特別軍事作戦」は計画通りには展開していない。彼は、ウクライナのロシア語圏の住民から、自分の軍隊が解放者として迎えられると期待していた。
しかし、ウクライナの抵抗は予想外に強かった。ロシア軍は装備も統率も悪く、すぐに士気を失い、深刻な打撃を受けた。アメリカとEUがウクライナを支援し、軍備を提供したことで、ウクライナ軍は、キーウではるかに大規模なロシア軍を打ち負かした。
敗北を認めるわけにはいかないプーチンは、作戦を変更した。残虐なチェチェン共和国のグロズヌイ包囲網、シリアでの残忍な作戦を率いたことで知られるウラジーミル・シャマノフ将軍を責任者に据えた。そして戦勝記念日を迎える5月9日までに何らかの成果を上げるよう命じた。
しかし、プーチンにはほとんど祝えることがなかった。シャマノフは、かつて40万人が住んでいた港湾都市マリウポリに集中した。同市はグロズヌイと同様に瓦礫の山と化したが、ウクライナの防衛隊は長く持ちこたえた。
また、キーウからの慌ただしい撤退によって、プーチンの軍隊がキーウ北部の郊外の市民に対して残虐行為を行ったことが明らかになった。これらの戦争犯罪はよく記録され、ブチャのような町でロシア軍に殺害された民間人の映像は国際的な広い憤りを呼んだ。しかし、ロシア国民はプーチンの戦争について知らされていない。
ウクライナ侵攻は、ウクライナ軍にとってより困難な新たな局面を迎えた。開けた土地で戦わなければならず、ロシア軍の数的優位を克服するのがより困難になっている。
ウクライナ軍は最善を尽くし、反撃し、大胆にロシア領内に侵入することもある。このような戦術は、ロシア国民に実態を知らしめるという効果もある。
アメリカもロシアとウクライナの経済格差是正に力を捧げ、最近ではウクライナ政府に対して400億ドルという前例のない規模の軍事・財政援助を行った。結果がどうなるかは見えないが、間違いなくウクライナには勝機がある。
●ウクライナ戦争は米ロの代理戦争?バイデン大統領は停戦に乗り出すべき  6/1
リチャード・ニクソン米大統領(在任1969年〜1974年)が冷戦時代の共産主義国の盟主ソビエト連邦の首都モスクワを米国大統領として初めて訪問(1972年5月)してから今月で50年目を迎えた。ドイツランド放送は「ニクソンのソ連訪問50年目」に関する記事を報じていた。
ニクソン大統領は当時、ソ連にベトナム共産党政権を説得してほしいという願いもあって、レオニード・ブレジネフ書記長と会談をした。実際はソ連から譲歩を得られなかったが、ブレジネフ書記長とニクソン大統領は初の軍縮協定に成功した。
米ソで戦略核兵器の配備数を制限する第1次戦略兵器制限条約に合意し、米ソ間で弾道ミサイルに対する迎撃ミサイルの配備数を制限する弾道弾迎撃ミサイル制限条約にも合意し、それぞれ調印した。キューバ危機(1962年10月)もあって、ソ連も米国も当時、核保有国の衝突を回避しなければならないという共通の認識があったからだ。デタント時代の幕開けとなった。
ところで、軍事大国米国はベトナム戦争では敗北を喫した。その背後には、ベトナム軍の戦略(ゲリラ戦など)もあったが、それ以上にソ連のベトナムへの武器援助が大きかったといわれた。その結果、軍事的守勢のベトナム軍が世界最強の軍事力を誇る米軍を破った。米国は1973年1月にベトナム和平協定に調印し、同年3月には米軍は全軍撤退した。
ロシアにとってはベトナム戦争とは逆の結果となったウクライナ戦争
ここまで考えると、欧州で現在進行中のウクライナ戦争と重なる。米軍を含む北大西洋条約機構(NATO)はウクライナでは軍事活動を控え、ウクライナ側の度重なる願いであったウクライナ上空の飛行禁止区域の設置も拒否し続けた。曰く、NATOとロシア軍の軍事衝突、エスカレートを避けるためだ。
その一方、米国や英国などNATO加盟国はウクライナ側の要請を受けて武器を供給してきた。軍事的守勢のウクライナ軍がロシア軍と対等の戦闘を出来たのは欧米諸国からの武器供給があるからだ。ウクライナ軍が欧米から武器を手に入れることができなければ、ロシア軍に簡単にやられていた、という点で欧米の軍事専門家の意見は一致している。
米軍がベトナム戦争で敗れた背後にはベトナム軍がソ連から大量の武器援助(例えば、地対空ミサイル)があったからだとすれば、今、ウクライナ軍がロシア軍と戦えるのは欧米からの武器支援があるからだ。ロシア軍はウクライナ軍に敗北を喫するとすれば、米欧の武器支援が最大の理由となるわけだ。ロシアにとってはベトナム戦争とは逆の結果となる。
初めて欧米の武器支援に警告を発したプーチン氏
ロシアのプーチン大統領は5月28日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相との3者による電話会談を行ったが、その中でプーチン大統領は欧米によるウクライナへの武器供給について、「事態のさらなる不安定化と人道危機の悪化を招く恐れがある」と警告している。プーチン氏が欧米の武器支援に警告を発したのは初めてのことだ。
欧米からの武器支援がロシア軍の苦戦の大きな理由となってきたからだ。ウクライナという戦場でロシア軍と欧米諸国からの武器をもって戦うウクライナ軍の戦闘が展開されているが、実際はロシアと欧米、もっと厳密に言えば、米国との戦い、すなわち代理戦争の様相を益々深めてきている。
ちなみに、オーストリア国営放送特派員としてウクライナの戦場から報道するヴェーァシュッツ氏は、「ウクライナ戦争は次第にロシアと米国の代理戦争の様相を深めてきている。欧米側はロシアと遅かれ早かれ協議しなければならない」と指摘する。
世界の紛争を振り返ると、代理戦争と呼ばれる紛争は少なくない。サウジアラビアとイエメンで戦いが進行しているが、実際は、中東の盟主サウジとイエメンの戦いというより、イエメン内の反体制武装勢力フーシ派を支援するイランとの戦いといわれている。スンニ派の盟主サウジとシーア派代表のイランのイスラム2代宗派の代理戦争の性格が強い。
代理戦争では、大国の軍部関係者は開発中の武器を実戦で使用できるチャンスと受け取っている。シリア内戦ではロシア軍は開発中の新しい武器を実戦の場で使用してきたことは良く知られている。
ウクライナ戦争でもロシア軍は既成の通常兵器だけではなく、開発した新しいミサイルなどを使用して、その効果や破壊力を調べている。ロシア国防省は28日、北極圏のバレンツ海で極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の発射実験を行い、成功したという。ウクライナ戦争の実戦で同ミサイルが使用される可能性が出てくる。
ロシアと米国両国間で停戦への合意が不可欠
代理戦争の場合、例えば、ロシアと米国の全面衝突(核戦争)を回避し、サウジとイランの戦争を防ぐという意味があるが、紛争当事国の代表が交渉のテーブルにつかない限り、問題の解決はない。ウクライナ戦争でもロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談が求められるが、その前にロシアと米国両国間で停戦への合意が不可欠となる。
バイデン米大統領は30日、ウクライナへの武器支援で、ロシア領内を攻撃できる長射程の兵器を供与しないと強調している。ウクライナは米軍の多連装ロケットシステム(MLRS)を含む長距離砲の提供を求めていた。米国は戦闘がロシア領土まで拡大することを恐れているわけだ。
問題は、代理戦争を何時までも続けることはできないことだ。時が来たら、米国はロシアとウクライナ戦争の停戦に向けて協議のテーブルに着かなければならない。大国の道徳的責任だ。米国は武器だけをウクライナに提供して、いつまでも黒幕でいつづけることはできない。
海外亡命中のオリガルヒ(新興財閥)の1人、ミハイル・ホドルコフスキー氏は、「ウクライナへ武器供給する欧米諸国はロシア側にとって既に戦争当事国だ」と説明している。バイデン米政権はウクライナ戦争の当事国の一国として、停戦の道筋を早急に見つけなければならないのだ。
●フィンランドの専門家が語る、ウクライナ侵攻後の「市民によるサイバー戦争」 6/1
フィンランド・ヘルシンキを本社とするサイバーセキュリティ企業「WithSecure(ウィズセキュア)」は、同社のカンファレンス「THE SPHERE」の開催に先立ち、現地ヘルシンキの同本社でプレス向けの会見を行った。CTO(最高技術責任者)クリスティン・ベヘラスコ氏と主席研究員 ミッコ・ヒッポネン氏が、サイバーセキュリティへの対応と、ロシアによるウクライナ侵攻以降、民間からの攻撃が増えている動向について語った。
サイバーセキュリティを「アウトカム」から考える
──サイバーセキュリティの脅威が複雑化しており、企業はどこから手をつけるか難しくなっています。
クリスティン氏:WithSecureとして「アウトカム・ベースド・セキュリティ」という考え方を提唱しています。これはサイバーセキュリティをレベルごとに捉えて「ビジネスの成果に結びつける」考え方です。
ピラミッド型の階層で言えば、1番下の階層に「脅威ベース」、2番目が「リスクベース」、3番目が「アセット(資産)ベース」、そして最上位が「アウトカムベース」というように、それぞれのレベルでの評価指標を捉えるのです。ビジネスの結果を出すということが重要です。「リスクベース」のリスクとは、Webサイトやアプリケーション、ユーザーのリスク、「アセットベース」のアセットとはデータやユーザー、ネットワークなどの要素を洗い出し、どのレベルの対応が、どのぐらい必要かを評価し対応していくことです。
もうひとつ重要なのは、アウトカムは「顧客のため」のものであるということです。時にはセキュリティとビジネスで利害が対立するときも、共通の目標を顧客のためのビジネス成果として、レジリエンスを追求していくことが重要です。
ウクライナ侵攻以降の4つの変化
──ロシアによるウクライナ侵攻以降、セキュリティをめぐる状況について教えて下さい。
ミッコ氏:われわれ自身は、ウクライナを強力に支持しており、すべてが平和に解決するためにサポートをしています。その上で、ウクライナ自身が引き起こしたものも含め、4つの変化があります。
1番目はこの3ヶ月の間、ウクライナ国内の人々からのランサムウェア攻撃の報告件数が減少していることです。ウクライナが戦争の渦中にあるので、トロイの木馬に怯えている暇がないほど切迫しているのかもしれません。
2番目の変化は、ウクライナに対するサイバー攻撃の量が増えていることです。われわれはウクライナ政府と緊密に連絡をとっていますが、ロシアの侵攻前と比較すると、3倍に増えているという報告があります。
3番目の変化は、ロシアに対するサイバー攻撃も増えていることです。これらは民間の組織からの攻撃で、ウクライナを支持する国からの攻撃だといえます。ロシアの通信規制当局や中央銀行、ロシア正教、多くの企業への攻撃がありました。
4番目の変化は、ロシアでもウクライナでもない、他の国に対する攻撃も増えていることです。西側諸国でウクライナを支援してきた国々、企業に対しての攻撃などです。一方でロシアの民間人からのウクライナを支持する企業や団体への攻撃が増加しています。
これらのほとんどは、ロシア政府によるものではなく、ロシアを支持する民間のハッカーによるものだと考えられます。われわれの国、フィンランドをターゲットとした攻撃も含まれています。
フィンランドのサイバー脅威
──フィンランドでの状況はどうでしょうか?
ミッコ氏:デンマーク、スウェーデン、フィンランド、 その中でも1番大きな金融機関であるノルデア銀行に対しての攻撃が、ゼレンスキー大統領のフィンランドでの議会演説の直後に行われました。
フィンランドによるNATOの加盟要請の後には、攻撃が増加しています。NATO申請が通るには数ヶ月かかると思います。その間に、ロシアはフィンランドへの攻撃をおこなう可能性がありますが、それは物理的な力による攻撃とは限りません。フィンランドの企業や組織、政府機関のデータがサイバー攻撃で破壊されるという状況も考えられます。
ロシアとフィンランドは距離的に非常に近い。鉄道でも3時間でいける国なのです。私の祖父は第二次世界大戦でロシアと戦いました。両国の間にあるのは、非常に長い歴史と長い国境です。プーチンがウクライナに戦争を仕掛けた理由の1つは、NATOを遠ざけるためでした。しかし、今のところ彼は失敗していると思います。NATOとの国境を拡大してしまったのです。戦争前ロシアとNATOの国境は1,200kmでしたが、フィンランドがNATOに参加すればロシアとNATOとの国境の長さは倍以上になるからです。もともとそれほど一枚岩ではなかったNATO諸国の結束を固めてしまった。フィンランドへの攻撃で予想されるのはデータの破壊です。
──現時点で、ロシア政府が絡むフィンランドへの攻撃はあるのでしょうか?
ミッコ氏:ロシアからは言葉による威嚇はありますが、現段階ではロシア政府がフィンランドにサイバー攻撃を行っているという確証は見られません。これまでのロシア側からとみなされた攻撃は民間人によるもので、政府によるものではないと考えています。
市民によるサイバー戦争
──今回のサイバー戦争は国家間であるよりは、ロシアと西側の民間人による戦争であるということですね。西側諸国のロシアの関連企業や組織を攻撃するのが事実であるなら、それは肯定されうるものとお考えでしょうか? ハクティビストなどによる攻撃をどのように見ていますか?
ミッコ氏:私たちはサイバー犯罪に関して、それが正当な理由であろうとなかろうと、区別することはありません。私もウクライナの支持の立場からロシアに対するサイバー攻撃を行う人や集団を知っていますし友人もいるので、彼らの立場を理解することはできる。しかし推奨はできないと考えています。いずれの立場にせよ法を犯していることには変わりはないからです。
クリスティン氏:しかしもし両国が戦争になった場合、それは犯罪ではなく戦闘行為になり、難しい問題となります。ロシアを攻撃している国の犯罪者の情報について、その国の警察や法の執行機関に問い合わせた場合、どのような対応を取るべきかといった問題が生じます。
──たとえばロシア側の企業や組織からの依頼があった場合、どのように対応するのでしょうか。
ミッコ氏:われわれ自身はロシアに対する経済制裁を行ってる国の企業であり、インドと中国は別にして、ロシアの中での経済活動のためのビジネスは行わないということになるでしょう。
──この間の情勢の中で、攻撃の手法や技術の進化はみられますか?
ミッコ氏:今のところ、ランサムウェアやDDoS攻撃などの攻撃の手法については、複雑化しているものの、使われているテクノロジー自体はこれまでと同じ水準で、特に目新しく進化したものはありませんが、今後さらに進化していくことが考えられます。ランサムウェアの手法の自動化や、AIによる高度化があるでしょう。さほど熟練技術を必要とせず、ノーコード、ローコードによって、新たなマルウェア、ランサムウェアが登場することも想定されます。私はその時期は1年後ぐらいではないかと予測しています。
──金銭的な目的の集団が、サイバー傭兵として活動している。
ミッコ氏:金銭目的でありながら、ロシア支持を語ることでロシアの保護を受けることも考えられます。いずれにせよ、今回の地政学的な危機の高まりの中で、サイバー攻撃の脅威は前例の無いものになってくるだろうということです。国家間の対立だけでなく、市民、民間人も加わったサイバー戦争になる可能性があります。世界の75億の世界の人口の中で、アフリカ、インド、パキスタンなどの新たなインターネットの利用者が生まれてくる。今後さらに多くの人たちが、ターゲットになってくる可能性があります。
●ロシア軍内で“銃口を向け合う”一部反乱? プーチン“盟友”も戦争非難の動き 6/1
ロシア軍の一部で反乱が起きているという情報を、イギリス国防省が明かしました。さらに、ロシア軍の兵士とされる音声からは、末期的ともとれるような状況が浮き彫りになっています。専門家は“内部崩壊”のシナリオもあり得ると指摘しています。
「行かないと撃つぞ!」銃口向けあい軍内部で対立か
これはウクライナ保安庁が公開した、ロシア兵の会話とされる音声です。
ウクライナ保安庁公式Twitterより: 指揮官のやつがここに来たんだよ。やつは僕に聞いたんだ。「任務終了まであとどれくらいだ?」って。僕は「20日と少し」と言った。そうしたらやつは「じゃあ、この20日間の内に死んでくれ」って指揮官への不満を募らせるロシア兵。
ウクライナ保安庁公式Twitterより: うちの大隊は600人いたんだけど、今は215人しかいない。他は死んだか怪我をしている。ほとんど全員が前線に行くのを拒んだ。すると、ある兵士が、「ほら、殺せよ!」って。そいつは、手榴弾を出してピンを引っ張って言ったんだ、「ほら、撃ってみろよ!一緒に吹き飛ぼう」って。特殊任務部隊は、僕たちに銃を向けていて、僕たちも彼らに銃を向けたんだ。あと少しで互いを撃ち合うところだったロシア軍内部で起きたとみられる、一触即発の事態。
ロシアのウクライナ侵攻から3カ月あまり。イギリス国防省の分析によると、ロシア軍の中級から下級の将校に壊滅的な人的損害があり、さらに、高度な訓練を受けた幹部や権限を持った指揮官が不足して、士気が低下しているといいます。さらに、火炎瓶が次々と投げ込まれ、炎上しているロシア軍の登録・入隊事務所の映像も。
今、ロシア国内ではこうした軍の登録、入隊事務所への襲撃が相次いでいると、ウクラナメディアなどが報じています。一方、アメリカの戦争研究所は、ロシア軍内部で「大統領府が戦争に勝つために十分なことをしていない」という不満が増えているとしています。ロシア国内だけでなく、軍内部からも戦争継続への反発の声が漏れているような現状。どのように分析すればよいのでしょうか。
フジテレビ・風間晋 解説委員:どれだけ広がっているか、というのは、はっきりしないところがありますが、想定していた以上に戦争が長期化しているということが、様々な不安や疑問などを呼び起こす事態に繋がっていると思います。ですから最大のポイントは、長期化していて、様々な矛盾が表面化してきているということだと思います。そして、批判の声は意外なところからも上がっているといいます。「プーチンの盟友」といわれる宗教指導者も異論を唱えたと報じられているのです。
プーチン氏の盟友…ロシア正教会の総主教も“戦争非難の動き”
その発言をしているのは、5月に行われた戦勝記念日にも参加していた、ロシア正教会のキリル総主教です。英・ガーディアン紙によるとキリル総主教は、5月29日、モスクワ中心部にあるハリストス大聖堂で「ウクライナ教会が苦しんでいることを私たちは完全に理解している」と述べました。苦境にあるウクライナへ同情するようなコメントと受け取られています。ロイター通信によると、キリル総主教は元々、特別軍事作戦を支持してきたことで、ウクライナ正教会が決別を表明していたといいます。そんな中で、今回の発言があったというのです。なぜ、こうした動きが出てきているのでしょうか。
筑波大学名誉教授の中村逸郎さんに話を聞くと、「ロシア正教会は、国民の7割が信仰する国教。その総主教が発言したことで、これまでプーチン大統領を支持してきた高齢者層にも影響が大きいのではないか」といいます。また、多くの犠牲者が出ているにも関わらず、戦勝記念日である5月9日までに戦果が上がらなかったことや、ベラルーシなどの旧ソ連諸国からも支援が受けられなかったこと、具体的には、軍事作戦に対する兵士や兵器の供給が受けられなかったことなどがあげられています。
そして、新たな経済制裁の動きも出てきました。
新たな経済制裁を追加 EUは一枚岩か
EUは首脳会議を開き、EU圏内へ船で輸送されている、ロシア産石油の輸入を即時禁輸で合意。この合意の対象は、EUが輸入しているロシア産石油の3分の2にあたる量です。依存が高いハンガリーのパイプライン輸入は対象外となりました。そして、ロシアの大手銀行「ズベルバンク」を国際送金システムから排除。
今回の経済制裁に対し、EUのミシェル大統領は「ロシアにとって大きな軍事資金源を断った」と話しています。
フジテレビ・風間晋 解説委員: EU全体で合意できることを優先して、ハンガリーの事情に配慮したということだと思うのですが、ハンガリーはロシアに対してかなりの依存度がある。ただ量的にみると、EU全体がロシアから輸入している原油の量の中に占める、ハンガリーの割合というのは本当に少ないです。ですから、そこに特例を設けることによって、EUが統一してロシアに対するという形を作ったということだと思います
●米 バイデン政権 “ウクライナに7億ドルの追加の軍事支援”  6/1
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州でウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。こうした中、アメリカのバイデン政権はウクライナに対して、より精密な攻撃が可能だとされる「高機動ロケット砲システム」を含む7億ドル、日本円でおよそ900億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
ウクライナ東部2州の掌握をねらうロシア軍は、ルハンシク州でウクライナ側の最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めています。
ルハンシク州のガイダイ知事は5月31日、「ロシア軍がセベロドネツクの化学工場にある硝酸の貯蔵タンクを攻撃した」とSNSに投稿し、住民に対して有毒なガスが出ているとして避難場所から出てこないよう呼びかけています。
この攻撃によるけが人などの情報は明らかになっていませんが、ウクライナのゼレンスキー大統領は31日、新たに動画を公開し「セベロドネツクには大規模な化学工場があり、ロシア軍の攻撃は狂気の沙汰だ」と述べ、ロシア軍の攻撃を非難しました。
セベロドネツクのストリュク市長は31日、NHKのオンラインインタビューに応じ「敵の砲撃は住宅や公共施設など避難に使えるすべての場所を標的にしている。市街地の真ん中で戦闘が行われているため、住民を移動させることも不可能だ」と述べ、街の防衛のためにはロシア側の砲撃の拠点を攻撃する長距離砲などが必要だと訴えました。
こうした中、アメリカのバイデン政権の高官は31日、ウクライナに対して7億ドル、日本円でおよそ900億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
この中には、対戦車ミサイル「ジャベリン」やヘリコプターなどに加えて、これまで供与してこなかった「高機動ロケット砲システム」と呼ばれる兵器が含まれ、より精密な攻撃が可能になるとされています。
ただ、今回、供与する弾薬の射程はおよそ80キロで、政権高官は「ロシア国内の標的に向けた攻撃には使わないとの約束をウクライナ側から取り付けている」としています。
これについてバイデン大統領は31日、有力紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、「さらなる侵攻を抑止し、みずからを防衛できる民主的かつ独立したウクライナにしたい」としたうえで、「われわれはウクライナが国境を越えて攻撃することを後押しするわけではないし、可能にすることもない」としてロシアを過度に刺激する意図はないとしています。
ただ、ロシアのプーチン大統領は、欧米からウクライナへの相次ぐ兵器の供与について「事態のさらなる不安定化と人道危機の悪化を招く」と警告していて、強い反発も予想されます。
●米国、ウクライナに最新ロケットシステム供与へ 6/1
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して直接的な軍事介入を改めて否定し、最新のロケットシステムを新たにウクライナに供与する方針を示した。一方、ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は31日、侵攻を続けるロシア軍が同州の主要都市セベロドネツクを「ほぼコントロール下に置いた」と通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
米国、直接的な軍事介入は否定
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して「米国や同盟国が攻撃されない限り、米軍部隊をウクライナで戦うために派遣したり、ロシア軍を攻撃したりすることはない」と直接的な軍事介入を改めて否定した。また、「戦争はいずれは外交によって終わるが、あらゆる交渉は地上での(戦闘の)状況を反映するものだ。ウクライナが強い立場で交渉の席につけるように支援する」と述べ、ウクライナに対し、最新の「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」を新たに供与する方針を示した。
セベロドネツク「露軍がほぼコントロール下に」
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は31日、侵攻を続けるロシア軍がルガンスク州の主要都市セベロドネツクを「ほぼコントロール下に置いた」と通信アプリ「テレグラム」に投稿した。AFP通信などが伝えた。
マリウポリの製鉄所で「152人の遺体」
ロシア国防省は5月31日、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスターリ製鉄所の地下施設でウクライナ軍の兵士152人の遺体が見つかったと発表した。遺体に地雷が仕掛けられていたとして、「ロシアが意図的に遺体を損壊したと批判するための挑発だ」と主張した。
●独も多連装ロケット供与へ ウクライナに、米と協調 6/1
複数のドイツ・メディアが1日に報じたところによると、独政府はロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、独連邦軍が保有する多連装ロケット砲4門を月末までに供与する方針を決めた。同種の兵器を提供する米国と、緊密に協調するという。
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、「より高度なロケットシステム」の提供を表明した。報道によると、米国が供与するのは多連装ロケット砲「HIMARS」で、今回搭載するロケット弾の射程は80キロと、これまで供与してきた兵器と比べると長距離。ロシア領内を攻撃可能なため「挑発」と受け取られる懸念もあったが、ウクライナは自国内でのみ使用する方針という。
●米政府、900億円のウクライナ軍事支援発表へ… 6/1
米政府は、ロシアの侵攻が続くウクライナに対し、約7億ドル(約900億円)の追加軍事支援を1日にも発表する。ウクライナが求めていた米国製の高性能ロケット砲システムも含めるが、露領を攻撃可能な長距離用の弾薬は提供しない方針だ。米政府高官が5月31日、記者団に明らかにした。
バイデン大統領は米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、「ロシアが代償を払わなければ、ルールに基づく国際秩序が終わりを告げ、他国への侵略の扉を開くことになる」として、国際社会が結束してウクライナを支援する重要性を訴えた。
一方、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の間の戦争は求めない」とし、米露間で直接の緊張が高まることへの警戒感も示した。「米国は(露大統領の)プーチン氏を露政府から追放しようとはしない」とも強調した。
今回、米国が供与する見通しとなったのは10発超のロケット弾が連射可能な多連装ロケットシステム(MLRS)の小型版である高機動ロケット砲システム(HIMARS)。最大300キロ・メートルの射程を持つが、高官は「長距離用の弾薬は提供しない。ウクライナがロシア領を標的にすることはない」と述べ、射程が80キロ・メートル程度となる弾薬の供与にとどめる考えを示した。
高官によると、今回は対戦車ミサイルや対空レーダー、ヘリコプター、戦術車両なども提供される。今回の武器供与は、ウクライナ支援に向けた約400億ドル(約5・1兆円)の追加予算成立を受けて検討が進められてきた。
●リトアニア、市民の募金3日で約700万円 軍事ドローンをウクライナ軍へ寄付 6/1
ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻。ウクライナ軍はトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を利用して侵攻してきたロシア軍に攻撃している。トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」を爆破したりとウクライナ軍の防衛に大きく貢献している。
ウクライナ軍が上空からの攻撃に多く利用しているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍侵攻阻止の代名詞のようになっており、歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。
ウクライナ軍がトルコの軍事ドローン「バイラクタルTB2」を活用してロシア軍を多く攻撃している。そして爆破に成功するたびに上空からの動画をSNSで公開して世界中にアピールしている。このようなSNSや動画だけを見ていると、ウクライナ軍が優勢のように見えてしまう。だがこのように軍事ドローンで攻撃に成功する前にロシア軍に上空で撃墜されてしまうことも多い。
そこで2022年5月にはリトアニアのインターネット放送局がウクライナ軍のために募金を行い、3日で予定の500万ユーロ(約700万円)に達した。クラウドファンディングの募金で1人10ユーロから500ユーロまで募金できた。
このクラウドファンディングで集まった500万ユーロ(約700万円)で、トルコ製の軍事ドローン「バイラクタルTB2」を購入してウクライナ軍に提供する。
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやカタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。タジキスタンも購入を検討している。
トルコの軍事ドローンだけでなく、米国バイデン政権は米国エアロバイロンメント社が開発している攻撃ドローン「スイッチブレード」を提供。さらに「フェニックス・ゴースト」も提供する。英国も攻撃用の軍事ドローンをウクライナ軍に提供している。ロシア軍はロシア製の軍事ドローン「KUB-BLA」で攻撃を行っている。両国ともに軍事ドローンによる上空からの攻撃を続けている。軍事ドローンが上空から地上に突っ込んできて攻撃をして破壊力も甚大であることから両国にとって大きな脅威になっている。
両軍ともに攻撃や監視・偵察にドローンを活用しているが、ドローンは上空で撃破されたり、機能不全にされている。そのためウクライナ政府は各国に武器の提供も呼びかけている。
●首相、ウクライナ危機の収束「最後は正義や徳」 6/1
岸田文雄首相(自民党総裁)は1日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関し「戦後の歴史そのものが大きく変わろうとしている」との認識を示し、「清濁併せのむのが政治、外交だという言い方をするが、こうした混乱を前にして未来を考えたとき、最後はやはり正義とか徳とか、私たちが大切にしている価値観があってこそ国際社会は収まっていくんだと感じている」と述べた。
自民の谷垣禎一元総裁が特別顧問を務める谷垣グループ(有隣会)が都内で開いた政治資金パーティーで語った。
●「国がこんなに秘密を守ろうとしたことはなかった」ロシアで高まる不満… 6/1
ロシア国内で長引く戦争への不満が少しずつ表面に出て来ている。このまま次の選挙までプーチン氏は突き進むのか、どこかで方向転換するのか…そうなれば失脚する前に影響力を残せる後継者を選ぶかもしれない。今回は“ポスト・プーチン”をテーマに議論した。
「国がこんなに秘密を守ろうとしたことはなかった」
今、ロシア国内では戦争への批判はもとより、対外的発言は厳しく統制されている。それでも完全に蓋はできない。それほどに国民の不満は高まっているようだ。番組では、ロシア兵士の母の会の会長を20年以上勤めている女性の切実な声を直接聞いた。
ロシア兵士“母の会” メリニコワ会長「お話しできる内容は法律により制限されています。(中略)私たちの子どもが捕虜になったのか、死んだのか、行方不明なのか確認できません。(ロシアからは何の情報もないですが)ウクライナは、最初からネット上のサイトで捕虜の写真と書類を公開しています。インタビューもあります。これらのおかげで私たちが何かを知りたいとき(ウクライナ側に)連絡することもできます。これは正式な情報です」
情報を得られれば捕虜交換のリストに自分の子どもを入れてくれるようウクライナに頼むこともできるし、同じく息子を戦争に出したウクライナの親と連絡を取り合ったりもできるという。兵士の母の会は過去にチェチェン紛争など11回の戦争にかかわってきた。が、今回の戦争はこれまでとは全く違うという。
メリニコワ会長「国がこんなに秘密を守ろうとしたことは今までありませんでした。情報統制もなかったんです。インタビューでも考えたことを自由に話していました。今は余計なことを言わないようにしています」
――総動員令の可能性は?
メリニコワ会長「考えても仕方ないこと。ウクライナで軍事行動があるとも思ってもいませんでしたから…。ロシア連邦の指導者が一人で決めることです」
言いたいことが言えない中で彼女は「黙っていてはいけないと思った」と語ってくれた。この“母の会”は決して反体制側の団体ではなく、むしろこれまでいくつもの戦争で重要な役割を果たしてきた愛国的な団体だ。そこでも今回は不満が高まっている。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「不満は広がってます。現役の外交官が辞職して自らの声明をネットに掲示をしました。政府の中にも同じような考えを持った人はいるでしょうし、退役将校による『全ロシア将校の会』というのがあって、会長のイワショフさんは会のホームページで、2月24日の軍事侵攻の前から仮に侵攻した場合、ロシアは孤立し、勝てないし犠牲も大きいからプーチン大統領も再考すべきだ、と書いている。そのように軍関係でも現在の戦争への否定的な考えが徐々に拡大している」
こうした国内での否定的な意見の拡大は、プーチン政権の終焉を匂わせる。となれば必然的に話題は“後継”に集まる。
「政治的野心を持たないとても有能な人材」
プーチン氏による人材の抜擢は、これまでも専門家の間で度々注目されてきた。先日の戦勝記念日には、36歳のドミトリー・コワリョフという人物がプーチン氏に寄り添う姿が映し出され後継者では?と憶測を生んだ。これまでも、突然の抜擢により周囲をザワつかせたことがある。こんな人たちだ。
ドミトリー・ペスコフ氏・・・エリツィン政権の時、外交官だったが、プーチン大統領就任の年に大統領府に入り、44歳で大統領報道官に抜擢され、現在に至る。
マキシム・オレシキン氏・・・ロシア中央銀行・財務省職員を経て34歳で経済発展相に。37歳で大統領補佐官に抜擢された。
アントン・ワイノ氏・・・駐日ロシア大使館員として沖縄サミットでプーチン氏をアテンド。その後30歳で大統領府に上がり、44歳で長官に抜擢された。
果たしてプーチン氏はどんな理由でこれらの人物を重用してきたのか? 実は36歳のコワリョフ氏も含め4人に共通点があるという。
朝日新聞 駒木明義 論説委員「プーチン大統領の人材起用といえば、旧KGB 出身とか、(出身の)サンクトペテルブルク時代の同僚というのは典型的なんですが、ここにあがった人はそうではない。いずれも個人的に好かれた人…(中略)共通点といえば、プーチン大統領を脅かす存在ではない。若くて非常にバランスが取れていて…(中略)後継者になるタイプというよりは、心を許せる相手。仮に後継者とするなら完全に操れる弱いタイプです」
いつの時代もどこの社会も、トップに立つ者は自分の地位を脅かす存在は起用しないようだ。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「政治的野心を持たない、とても有能な人材。こういう人を起用するというのは、後継者を作るというより(中略)次のロシアを支える人材を育成しようという気持ちはあるんだと思う」
つまり、ロシアの未来のために優秀な人材は大事にするが、トップに立つ人材はいらない。自分がまだまだ頑張る。そのために憲法を改正したのだから…ということか。しかしプーチン氏はかつて一度大統領を退いている。その時、後継候補は二人いた。プーチン氏はその時どんな行動をとったのか…。
後継候補の一人は、国民の人気が高かった国防相、セルゲイ・イワノフ氏。プーチン氏の大学の同窓生で、旧KGB出身。
もう一人は、第一副首相、ドミトリー・メドベージェフ氏。13歳年下だが、すでにプーチン氏に16年間仕えていた。
後継話が盛り上がったのは下院選挙の年。国民人気のあるイワノフ氏をメドベージェフ氏と同じ副首相にして注目を集めたのだ。専門家の間でも下馬評でもイワノフ氏有力とされていた。しかし、大統領選挙の前にある下院で野党に大勝利したプーチン氏が、その直後に後継に指名したのは、メドベージェフ氏だった。
兵頭慎治 「私もイワノフさんだと思っていた。でも蓋を開けたらメドベージェフさんを指名して自分は首相に引き下がる。これは、後継者というよりも自分が首相に就いた時、誰が大統領だといいのかっていう観点なんです」
首相に引き下がっても実権は手放したくなかったプーチン氏。では何故イワノフ氏ではいけなかったのだろうか?
駒木明義 「結局のところプーチンはイワノフを恐れたんだと思う。彼が大統領になったら実権を握られる。有能だし、KGB出身で軍やFSB(連邦保安局)など“力の省庁”も掌握していくだろう、自分より巧く。これを大変恐れたんだと思う」
この時から“自分の地位を脅かす芽は摘んでおく”というトップの定石どおりに歩んできたプーチン氏。国内でウクライナ侵攻に批判的な空気が生まれてきた今、その傾向は今後ますます強くなるに違いない。
●バイデン氏が寄稿「プーチン氏追放を模索しない」…和平実現向け配慮  6/1
米国のバイデン大統領は5月31日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に寄稿し、ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「米国は彼の追放を模索したりはしない」と強調した。「この戦争は最終的に外交的解決しか道はない」とも述べた。ウクライナとロシアの和平実現に向け、プーチン氏にも一定の配慮を示した形だ。
バイデン氏は寄稿で、「ウクライナが更なる侵略から自国を防衛できる手段を持ち、民主的で、独立し、繁栄した国となってほしい。それが米国の目標だ」と指摘した。その上で、外交的解決に向けて「ウクライナに最大限の交渉力を持たせる」として、高性能ロケット砲システムの新たな供与など、ウクライナへの軍事・財政支援強化の狙いを説明した。
一方で、「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の間の戦争は求めない」と述べ、米欧とロシアの間で緊張が高まることへの警戒感も示した。バイデン政権内では露軍の「弱体化」を目指す考えが公言されているが、バイデン氏は「ロシアに痛みを与えるためだけに、この戦争を長引かせようとは考えていない」とも述べ、外交的解決を急ぐ考えを改めて強調した。
バイデン氏は3月下旬のワルシャワでの演説で、プーチン氏について「この男が権力の座にとどまってはならない」と非難した。「体制転換」を求めたとも受け取れる発言に、和平に向けてプーチン氏との交渉ルートを閉ざしかねないと危惧する声も上がっていた。
●ロシアのインフラ崩壊 航空機、高速鉄道、最新兵器…部品調達できず焦る 6/1
西側諸国の経済制裁強化で、ロシアのダメージが致命傷になりつつある。プーチン大統領は強気の姿勢を崩さないが、航空機や高速鉄道などの交通インフラが部品の枯渇で麻痺(まひ)する可能性が高まっている。ウクライナ戦線でもロシア軍は最新兵器が調達できず、半世紀前の旧式戦車を登場させるなど、産業、軍事とも「没落」が加速している。
欧州連合(EU)は5月30日、ロシア産石油の輸入を禁止することで合意した。年内に90%の輸入が停止される見込みで、プーチン政権に新たな打撃となる。
米ブルームバーグは22日、露航空大手アエロフロートグループが保有する350機以上の航空機について部品不足が迫っていると報じた。大半は欧エアバス社製か米ボーイング社製だという。
米商務省は先月、アエロフロートなど航空最大手3社に部品やサービスの提供を禁止する命令を発した。露経済紙「コメルサント」(電子版)は「2025年までにロシアの航空機の半分以上が解体される」とした。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「国土が東西に約1万キロ延びるロシアで国内便は重要だが、制裁で定期的に交換が必要な部品が調達できず、事故の危険性も懸念される」と指摘する。
ロシア版新幹線といわれる高速鉄道「サプサン」など鉄道インフラへの影響も大きい。独産業システム大手のシーメンスは12日、ロシア事業からの撤退を発表。「特に鉄道サービスおよび保守事業に影響を及ぼす」としている。
「プーチン氏の肝いりでモスクワ―サンクトペテルブルク間を開通させたサプサンだが、シーメンス製の部品を使用したものだ。航空機と合わせ、重要な移動手段がなくなれば、人流や物流も制限される」と中村氏。
ウクライナ戦線でも、最新鋭兵器の調達が難しくなっている。英国防省は27日の分析で、ウクライナ南部への侵攻を担うロシア軍部隊がここ数日、約50年前に製造されたT62戦車を前線に配備した可能性があるとした。「ほぼ間違いなく対戦車兵器に脆弱(ぜいじゃく)だ」と指摘する。
同省は「露軍は精密誘導弾の備蓄が枯渇しているようだ。精度や信頼性の低い旧式兵器の使用を余儀なくされている」とも分析していた。
プーチン氏は西側の制裁が失敗するとし、「国内企業はすでに成熟しており、たやすくその後釜に座ることができる」と強気な姿勢を崩さない。
だが、前出の中村氏は「プーチン氏が自信満々に話すときは焦りの裏返しで、世論の動揺を抑える演出の面が大きい」とみる。
「欧米はロシアの重工業や軍事産業の枯渇を見据え、ウクライナに最新兵器を供与して反転攻勢の流れに持っていくだろう。ハイテク産業など技術革新に失敗したプーチン政権は資源頼みから脱却できず、さらに退化していくのではないか」
●トルコがゼレンスキー氏とプーチン氏に“首脳会談”呼びかけも…停戦交渉は 6/1
トルコのエルドアン大統領が5月30日、ロシアとウクライナ両首脳との電話会談を行いました。いったいどんなことが話されたのか…停戦につながる可能性はあるのか。専門家とともにみていきます。
「会談は今後の戦いへの時間稼ぎでしかない」
ホラン千秋キャスター: まずはウクライナとの電話会談です。その内容について、ゼレンスキー大統領が明らかにしています。「侵略者がもたらす食糧安全保障への脅威とウクライナの港の封鎖を解除する方法をトルコと協議した」ということなんです。どういうことかと言いますと、ロシアのウクライナに対する侵攻が始まって以降、ウクライナの港湾は封鎖されています。ウクライナ産の小麦はあるけれども、それを安全に輸出するということができなくなっている状況なんです。そのため、安全に港などを通して輸送するための海上ルート確立に向け協議を行ったということでした。では、その点について、ロシアとはどのような話が行われたのか。電話会談の中でプーチン大統領は、「小麦などの輸送について、ウクライナの港からの輸出も含め、海上輸送を妨げないようにする準備がある」というふうに話したんです。一見すると協力的なように見えるんですが、「対ロ制裁を解除すれば、ロシアは大量の農作物を輸出できる」とも主張したということですので、なかなか難しそうな状況だなということが伺えます。さらに最近なかなか耳にすることがない停戦に向けた動きなんですけれども、これに対しては、トルコのエルドアン大統領が「ロシアとウクライナ双方が合意すれば、国連を交えた会談を開催する」というふうに呼びかけたんですが、国連を交えた会談は意味があるのかどうか、停戦に繋がるのかという点について明海大学教授の小谷哲男さんに伺いますと、「ロシアとウクライナにとってトルコとの会談は、今後の戦いへの時間稼ぎでしかない。国連を交えた会談を行っても、停戦する可能性は低い」というふうに指摘しています。
停戦交渉は「事実上途絶えている」
井上キャスター: トルコはフィンランド・スウェーデンのNATO加盟に反対するという立場をとったり、ロシアとウクライナの交渉の仲介を名乗り出たり、何か主導権を握ろうというところがあるんですか。
笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰輔さん: やはりトルコとしては、欧州とロシアの間で、うまく自国のプレゼンスを高めようという形で、積極的に動いているということだと思います。
井上キャスター: ロシアとウクライナ、停戦交渉というのは最近なかなか報じられないですが、水面下では行われているんですか、それとも今、途絶えているんですか。
畔蒜さん: 私は事実上途絶えていると思っています。今回のトルコのエルドアン大統領のロシアとウクライナへの停戦の呼びかけも、国連を交えてということであったとしても、明海大学小谷教授が指摘されるように、大きな停戦に向けた動きになる可能性は極めて低いんじゃないかと思います。
井上キャスター: ロシア・ウクライナ双方ともに有利な立場に立っていないと停戦交渉はしない、そこはまた変わってないですか。
畔蒜さん: そういうことだと思います。そうだとすると、今の戦況を考えたときには、双方、今、停戦に向けて積極的な意欲があるとはちょっと考えられないということだと思いますね。
EU ロシア産石油90%輸入停止へ 日本への影響も
ホランキャスター: そうするとこの状況というのは、まだまだ長引きそうなんですが、ロシアとしては、ロシアに対する制裁解除を訴えている中、新たな制裁ということになるんだと思います。EUの動きです。ロシア産の石油を輸入禁止へという動きなんです。こちらは、EUが、ロシア産の石油3分の2以上を輸入禁止することで合意しました。これまでの量からすると、だいぶ輸入の量というのは少なくなるということがわかります。これ本当は全面輸入禁止で合意したかったんですが、全会一致でなくては決まりません。反対したのはハンガリーです。ロシアへの石油依存度が高いということで、全面禁輸には至りませんでした。したがって、3分の2以上を輸入禁止ということになったようなんです。EUのミシェル大統領はツイッターで「ロシアの兵器確保に向けた膨大な資金源が、この決定によって断たれる。戦争を終わらせる最大の圧力になる」というふうに話したんです。今は、3分の2以上を輸入禁止ということなんですが、ゆくゆくは年内におよそ90%輸入停止したいというような方針のようです。この制裁に関して、経済アナリストの森永卓郎さんは「この決定はある程度ロシアの打撃になる」といっています。しかし、「原油価格が高騰し、日本も含め、返り血を浴びて経済状況は悪くなるだろう」ということなんです。世界的にもやはりこの決定というのは影響が大きそうです。日本への影響を具体的に見ていきますと、ガソリン価格はこれまでも高騰してきました、これがさらに高騰する。ガソリン価格が高騰しますと、輸送費が上がります。そうすると、あらゆる価格に影響してきます。つまり、貨物船であったり、航空機であったり、輸送費が上がることで、届けるものの価格が、上がってくるということですので、私たちの家計を直撃するようなことになりかねないということです。
井上キャスター: 戦争を止めるためにもプーチン大統領が最も嫌がることをやらなければならない、ですがその一方で、日本のように国内でエネルギー資源を賄うことができない国は、もちろんダメージも相応に受ける。
星浩コメンテーター: ロシアの方にもダメージを与えようとするんですが、エネルギー資源を受け取る側、使う側もダメージ受けますから、一気にゼロにするというのはなかなか難しい。今回の動きを見ていると、国際政治の力関係というのが見えてくるというところがありまして、おそらく船の輸送を止めると、この船の輸送分をインドとか中国がかなり買い叩くんだと思うんですね。ロシアが困っているんだったら、買ってやろう。その代わり安くしろと。実はアメリカはインドが石油を買うことは、そんなに嫌じゃないんですよね。なぜかというと、だんだんロシアが弱体化して、いずれ中国の子分になるっていう可能性があるので、その場合、ロシアとインドの関係がむしろ続いていてくれた方が、中国を牽制するっていう点でも、アメリカにとっては好ましいので、この石油の輸入制限っていうのは、いろんなところにハレーションをもたらす効果があるという点では、ちょっと興味深い動きですよね。
井上キャスター: アメリカを中心に考えると、対中国がやはり最大の懸案事項?ロシアが中国の子分になってしまう?
星浩コメンテーター: 中国を牽制するためにもインドとロシアのパイプが続いてた方が、アメリカにとっては都合がいいっていうそういう計算があるんですよね。
井上キャスター: 畔蒜さんは、そのあたりどうご覧になっていますか。
畔蒜さん: バイデン政権がロシアとの関係の中で、インドをどう位置付けるのか。おそらくバイデン政権の中でもいろんな議論があるんだと思うんですけども。今のところ、例えばロシアがインドに売っているS400という地対空ミサイルに対してインドに制裁をかけるという議論も、バイデン政権いまだに行っていないというのは事実だと思う。
井上キャスター: 本当のところの息の根を止めるようなことはバイデン政権もやっていないというわけですか。
畔蒜さん: やっていないということです。 

 

●バイデン「プーチン追放、ロシア弱体化は望まない」…「現実論」に重き? 6/2
米国のジョー・バイデン大統領はウクライナ戦争に関連して、現地への兵器支援を強化するとしながらも「北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接衝突」や「ロシアの政権交代」などは望まないとの考えを明らかにした。今回の戦争とについて一時掲げていた「原則論」をおろし、「現実論」への方向転換を試みていると解釈できる。
バイデン大統領は先月31日付の「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿「ウクライナにおいて米国がすべきこととすべきでないこと」で、今回の戦争で「米国の目的を明確にすることを望んでいる」としつつ、上のように表明した。米国はこれまで、「(ウラジーミル・プーチン大統領は)権力の座にとどまってはならない」(バイデン大統領、3月26日)、今回のような侵攻が「できないほど(ロシアが)弱体化することを望む」(ロイド・オースティン国防長官、4月25日)と述べるなど、ロシアに対する「強硬発言」を続けてきた。
同紙は先月19日の社説などで、ロシアとの全面戦争に突入することが「米国の国益」ではないとし、政府は今回の戦争の明確な目的を明らかにすべきだと主張してきた。バイデン大統領の今回の寄稿は、同社説の要求などを受け入れ、これまで表明してきた強硬な原則論に一線を引いたものと考えられる。
バイデン大統領はその一方で「ウクライナの戦場で最重要の諸目標物をより精密に打撃できるよう、先端のロケットシステムを援助する決定を下した」と明らかにした。バイデン大統領はその理由について、「戦争は外交(交渉)を通じて明確に終わるだろう」とのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言を引用しつつ、ウクライナに「かなりの兵器と弾薬を迅速に送るのは、彼らを戦場で戦えるようにするとともに、交渉のテーブルで最も強力な立場に立たせるため」と説明した。また、「ウクライナが国境を越えて攻撃することは煽っておらず、そのような能力も提供していない」とし、「我々はこの戦争を長期化させてロシアを苦しめることは望んでいない」と述べた。
ロシアに対しては「NATOとロシアとの戦争は追求しない」とし「プーチンに同意してはおらず、彼の行動に怒ってはいるが、米国はモスクワから彼を追い出そうとはしないだろう」と述べた。そして「米国や同盟諸国が攻撃を受けない限り、ウクライナに米軍を派兵、あるいはロシア軍を攻撃などの形でこの戦争に直接介入することはないだろう」との立場を明確にした。ウクライナ戦争についてのこれまでの強硬発言を事実上撤回したうえで、ウクライナを支援する目的は「拡大」や「ロシアの弱体化」ではなく、外交を支援するためのものであることを明確にしたのだ。これを示すようにバイデン大統領は寄稿の冒頭で、「(ウクライナ戦争についての)我々の目的は明確だ。抑圧から自らを守る手段を持ったウクライナが、民主的で独立を保ち、主権を守りつつ繁栄することを望んでいる」と述べるにとどまった。
バイデン大統領はそれとともに、米国はウクライナ国民の意思を重視するとの原則も再確認した。バイデン大統領は「この危機の間じゅう、常に我々の原則は『ウクライナが排除された状態では、ウクライナについてのいかなる決定も下されない』ということ」だったとしつつ、「個人的にも公開の場においても、ウクライナ政府にどこかの領土を割譲せよと迫ったりはしていない。それは誤りであり、きちんと確立された原則に逆行する」と述べた。
戦争の拡大は望まないというバイデン政権の方針は、最近の新たな兵器システムの供給についての決定にもよく表れている。バイデン大統領は先月30日、記者団に対し、「我々は、ロシア領内を打撃しうるロケットシステムはウクライナに送らない」と述べている。射程距離が最長300キロの長距離多連装ロケット(MLRS)は提供しないとの考えを明確にしたのだ。
英「フィナンシャル・タイムズ」は、米国政府がこの日、その代わりとして射程距離が最長80キロの高機動ロケット砲システム(HIMARS)の発射台や精密砲弾などを含む7億ドルの追加支援策を1日に発表すると伝えた。同ロケット砲発射台に使われるロケットは誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)で、射程距離は米国がすでにウクライナに提供しているM777りゅう弾砲の2倍以上だが、MLRSに比べればはるかに短い。米国の高位当局者は、今回のロケットシステム支援によって「ウクライナは領内の戦場において、より遠くにある目標を正確に打撃できるようになるため、ロシアの進撃を撃退するだろう」と評価した。 
●「終結のあり方」でEU亀裂鮮明 ウクライナ戦争 6/2
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、欧州連合(EU)内の対立が鮮明になってきた。フランス、ドイツ、イタリアの西欧3カ国が「一刻も早い停戦」を目指してプーチン露大統領と対話を再開し、対露強硬派のポーランドやバルト諸国は一斉に反発した。根底には、欧州の安全保障をめぐる考え方の違いがある。
EUは2月以降、ウクライナ支援や対露制裁で歩調を合わせてきた。だが、ウクライナ東部で露軍が攻勢を強めると、「戦争終結のあり方」をめぐって対立が深まった。
マクロン仏大統領は5月初め、約1カ月ぶりにプーチン氏と電話会談した。ショルツ独首相も電話でプーチン氏と話し、28日には3者会談を行った。マクロン氏は「まず停戦。それが、和平に向けた交渉への道」と訴える。
仏独と呼応するように、イタリアは5月、国連のグテレス事務総長に和平案を提出した。伊紙レプブリカによると、▽戦闘停止と非武装地帯の設置▽ロシア、ウクライナが東部の地位などを交渉▽欧州安保をめぐる多国間合意の締結−という内容。ドラギ伊首相は19日、伊上院で「ヘルシンキ宣言」をモデルにあげた。東西冷戦中の1975年、米ソと欧州が安全保障の協力を定めた合意のことだ。
ポーランドのモラウィエツキ首相は危機感を強め、31日の英民放テレビで「この戦争で負けたら、平和は来ない。われわれはプーチン氏の脅しにさらされ続けることになる」と主張。ウクライナの勝利まで支えるべきだと訴えた。
エストニアのカラス首相も仏紙で「軍事解決しか道はない。ウクライナは勝たねばならない」と主張。ラトビアのカリンシュ首相は「間違った信条を持つ仲間がいるのは、問題だ。『とにかく平和を』と考えている。それはプーチン氏の勝利につながる」と仏独伊を痛烈に批判した。
EUを主導する仏独を、東欧が正面から批判するのは極めて珍しい。
背景にあるのは、仏独による過去の停戦仲介への不信だ。2008年のジョージア(グルジア)紛争、14年に始まったウクライナ東部紛争で停戦を優先し、ロシアの隣国への干渉に目をつぶった。その結果が今回の侵攻を招いたと映る。
ロシアに対する認識も全く違う。仏独伊は「欧州安保には、ロシアとの戦略的パートナー関係が不可欠」(マクロン氏)とみなす。旧ソ連の勢力圏にあったポーランドやバルト三国にとってロシアは脅威でしかない。
今回の戦争では、米国が強力な武器でウクライナを支援し、北大西洋条約機構(NATO)が欧州安保の主役として復権。仏独主導のEU独自安保は影が薄くなった。NATOを重視する東欧諸国には大きな追い風となり、仏独伊に対する強気の姿勢を支えている。
●ウクライナ戦争でワイヤーハーネス不足深刻、EV移行加速か 6/2
電源供給や信号通信に使われる電線の束と端子などで構成されるワイヤーハーネスは、自動車部品の中でも単価が安い。だが、その品不足が業界にとって思いもよらぬ頭痛の種になっている。一部からは、内燃自動車の凋落(ちょうらく)が早まる可能性があるとの声も聞かれる。
ワイヤーハーネスの供給不足は、世界生産のかなりの部分を占めていたウクライナにロシアが侵攻したことが原因。ウクライナ産のワイヤーハーネスは毎年、何十万台もの新車に搭載されてきた。多くの低賃金労働者の「人力」によって製造され、半導体やモーターのような主力部品とは言えないものの、供給がなければ自動車を生産することはできない。
ロイターが取材した十数人の業界関係者や専門家の話では、この不足問題によって一部の既存自動車メーカーは、電気自動車(EV)向けに設計された軽量で、コンピューターによる製造可能な新世代のハーネスへの切り替え計画を加速させるのではないかという。
世界の新車販売で、なお圧倒的比率を占めるのはガソリン車だ。JATOダイナミクスのデータに基づくと、昨年のEV比率は6%に過ぎない。
しかし、オートフォーキャスト・ソリューションズを率いるサム・フィオラニ氏は、ワイヤーハーネス不足に触れて「業界にとっては、まさにEV移行をより迅速化する理由が、また1つ増えた」と指摘した。
日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)はロイターに、ウクライナ危機などによるサプライチェーン(供給網)混乱を受け、同社はサプライヤーとの間で低賃金労働を前提としたワイヤーハーネス生産モデルからの脱却について話を進めていると明かした。
根本から異なるテスラの設計
内燃自動車向けワイヤーハーネスは、座席用暖房からパワーウインドーまであらゆる機能接続のために束ねられたケーブルの総延長が平均で5キロメートルに達する。生産は労働集約型で、ほぼ全ての生産モデルごとに独自性を備えていることから、生産先をすぐに切り替えるのは難しい。
そして、ウクライナでの供給を巡る混乱が、自動車業界に不都合な真実を突然突きつけた形になった。メーカーとサプライヤーによると、戦争が始まったばかりの時点でまだ、工場が稼働を続けられたのは、現地労働者が電力不足や空襲警報、夜間外出禁止といった困難を乗り越えて頑張って働いてくれたおかげでしかなかったのだ。
独フォルクスワーゲン(VW)傘下の英高級車メーカー、ベントレーのホールマークCEOは、ハーネス不足に伴う今年の生産台数減少を当初3─4割と想定していた。
だが、工場の完全休止期間はコロナ禍の際よりも長い数カ月になる恐れが出てきたと説明。従来のハーネスはウクライナのサプライヤー10社からの10種類の部品で構成されるため、代わりの調達先を見つけ出すのも難しいと述べた。
ホールマーク氏は、ワイヤーハーネスについての設計思想が根本的に異なるテスラを引き合いに出した上で、ベントレーがそうした方式に一朝一夕で転換することはできないが、今回の供給不足をきっかけに中央コンピューターで制御するEV向けの簡素なハーネスの開発、投資を重視するようになったと付け加えた。
テスラなどのEV向け新世代ハーネスは、自動生産ラインで製造できるだけでなく、より軽量だ。EVにとって走行距離を延ばすという面で、総重量を減らす取り組みは大きな意味を持つ。
一方、欧州や中国では、内燃自動車の新車販売が禁止される時期が視野に入りつつある。取材した多くの業界幹部や専門家は、新世代のハーネスを使えるようにするために内燃自動車の設計を修正する時間的な余裕などないとの見方を示した。
米ミシガン州に拠点を置く自動車コンサルタントのサンディ・ムンロ氏は、2028年までには世界の新車販売の半数がEVに置き換わると予想し「そうした未来が、猛スピードで訪れようとしている」と強調した。
スピード感
独自動車部品メーカー、レオニのハーネス部門責任者、バルター・グリュック氏は、同社が複数の自動車メーカーと協力し、EV向けワイヤーハーネスの自動化生産方法を開発中だと述べた。
レオニが注力しているのは、ハーネスのモジュール化。全体を6つから8つのパーツに分割し、自動組み立て工程で対応可能にするとともに、工程の複雑さを和らげる。グリュック氏は「パラダイムの転換だ。自動車工場での生産時間を減らしたいなら、モジュール化したワイヤーハーネスは、その役に立つ」と説明した。
カリフォルニア州に拠点を置く新興企業・セルリンクは、既に完全自動生産方式で車への搭載が簡単な「フレックスハーネス」を開発し、今年になって独高級自動車メーカーのBMWや米自動車部品メーカー、リア・コーポレーション、独自動車部品メーカーのボッシュなどから2億5000万ドルを調達している。
セルリンクのコークリーCEOは具体的な取引先を明らかにしていないが、同社のハーネスがこれまでに100万台近くのEVに搭載されたと述べた。それほどの規模のEVとなればテスラ以外該当しないが、テスラはコメント要請に応じていない。
コークリー氏によると、セルリンクは1億2500万ドルを投じてテキサス州に新工場を建設中で、25本の自動生産ラインを持つこの工場ならば、デジタルファイルに基づく生産のため、10分程度で異なる設計への切り替えが可能になるという。
同氏は、従来のワイヤーハーネスはリードタイム(受注から納入までの生産・輸送にかかる期間)が最長26週間だったのに、同社は設計変更した製品を2週間で届けられると胸を張った。
デトロイトに拠点を置くベンチャーキャピタル企業、フォンティネイルズ・パートナーズのダン・ラトリフ社長は、こうしたスピード感こそ、旧来の自動車メーカーが電動化に伴って追求しようとしている目標だと指摘した。
●「プーチンはすでに負けた」歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが断言する理由  6/2
世界的な賢人12人のインタビュー・論考をまとめた『ウクライナの未来 プーチンの運命』が話題だ。「人は想像を超える事態を目にすると、しばしば思考停止に陥るが、目を背けてはならない。考え続けなければならない。賢人たちの言葉は、私たちにより深い視座を与えてくれるはずだ」と編集を担当したクーリエ・ジャポン編集部は言う。同書より、『サピエンス全史』で知られる歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリのインタビューを特別公開する──。
古い戦争と新しい戦争は両立する
──21世紀の戦争は、サイバー攻撃戦略やAI搭載兵器に決定づけられ、より冷淡で暴力性が低いものになるだろうと、私たちは考えていました。ところが、ウクライナ侵攻においては、ロシアが航空支援を受けた地上戦という昔ながらの図式に倣ならっている様を私たちは目撃しています。
【ハラリ】テクノロジーは野蛮に対立するものではなく、たいていはそれと両立するものです。最も発達したテクノロジーは、野蛮な暴君に貢献します。さらに歴史においては、古いものと新しいものは両立するのが常です。人々はこの戦争がサイバー戦争になるだろうと予想していましたが、私たちは、火炎瓶で攻撃される戦車を目にしています。もちろん、サイバー戦争も並行して展開されています。
プーチンの空想が生んだ悲劇
──プーチンは、ロシアの軍事作戦の目的は「ウクライナの非軍事化と非ナチ化」であると宣言し、ウクライナ軍がネオナチに指揮されているというクレムリンの主張に言及しました。
【ハラリ】プーチンは正気を失い、現実を否定しているのだと思います。この戦争すべての基本的原因は、プーチンが頭のなかで空想を作り上げたことにあります。「ウクライナは現実には存在しない、ウクライナ人はロシアに吸収されたがっている、それを阻んでいるのはナチ一派だけだ」というものです。この妄想のせいでプーチンは、ウクライナを侵略した瞬間にゼレンスキー大統領は逃亡し、ウクライナ軍は降伏し、国民は花を持ってロシアの戦車を出迎え、ウクライナはロシアの一部に戻るはずだと考えたのです。けれど、彼は完全に間違っていました。ウクライナは現実に存在する、非常に勇敢な国家です。ゼレンスキーは逃亡しませんでした。ウクライナ軍は猛烈に戦っています。そしてウクライナ国民は、ロシア戦車に向かって花ではなく火炎瓶を投げつけています。プーチンはこの国の大部分を征服するかもしれません。でも、手元に留め、吸収することはできないでしょう。それこそが彼の目標ですが、達成することはできないでしょう。彼はすでに戦争に負けたのです。
人々の団結は一人の残酷な野心に勝利する
──ロシアによるウクライナ侵攻に誘発されたウクライナ国民の大脱出は、考えられない規模に及んでいます。ヨーロッパに混乱をもたらすというプーチンの目的の成功のほかに、この大量移住は何を意味しているでしょう?
【ハラリ】たった一人の残酷な野心が、いかに数百万人に悲惨をもたらすことが可能であるかを示しています。でも私は、プーチンがヨーロッパを混乱させられるとは思いません。事実、彼はヨーロッパを1つにしています。ヨーロッパの人々は、誰も想像しなかったほど迅速で、強力な、全会一致の反応を見せています。もしヨーロッパがこのまま団結し続けるなら、恐れることは何もありません。ロシア経済は、イタリアや韓国の経済よりも小規模です。ロシアの国内総生産(GDP、2020年)はおよそ1兆5000億ドル(約177兆9000億円)、ヨーロッパ全体のそれは約20兆ドル(約2370兆円)です(1ドル=118円で計算)。
リベラリズムとナショナリズムのあいだ
【ハラリ】ここ数年、ヨーロッパと西側諸国は、左派と右派、リベラル派と保守主義者のあいだの文化戦争に引き裂かれてきました。ウクライナがこの対立に終止符を打つ一助となってくれるかもしれません。いまは誰もが危険を察知しており、「自由」という中心的価値をめぐって団結できるかもしれないのです。文化戦争は、間違った考えに基づいていました。ナショナリズムとリベラリズムのあいだには矛盾があるというものです。右派はナショナリズムを支持し、リベラリズムを拒絶しました。左派はリベラリズムを支持し、ナショナリズムを拒絶しました。けれど、リベラリズムとナショナリズムが本当は連動していることを、ウクライナは証明しています。どちらも自由に関わるものです。ウクライナ人は、自由な社会のために戦うのと同じぐらい、国家の自由のために猛獣のごとく戦っています。さらに彼らは、ナショナリズムとは、外国人を憎むことでもマイノリティを憎むことでもないのだと、私たちに思い出させています。それは自国民を愛し、人が自分の未来を自由に選択するのを認めることなのです。ナショナリズムとリベラリズムのあいだの深い繋がりをヨーロッパが思い出せるなら、地域内の文化戦争を終結させることができ、プーチンを怖れる理由は何もなくなるでしょう。
火薬より砂糖が死をもたらす…プーチン戦争までは
──以前、あなたはこう述べました。「歴史上、平和とは『一時的に戦争がない状態』を意味していたことが多かった。(中略)ここ数十年においては『平和』は、『戦争が起こり得ないこと』を意味する。(中略)戦争の減少は、神が奇跡を起こした結果でも、自然の法則に変化が生じた結果でもない。人間がより良い選択をした結果だ。これが現代文明における最大の政治的・道徳的偉業であることは間違いない」と(『エコノミスト』オンライン、2022年2月9日号)。私たちが後退して、こうした成果を失うことは何を意味しているでしょう?
【ハラリ】プーチンの攻撃が成功すれば、世界中に戦争と苦しみの暗黒時代が訪れることでしょう。過去数十年、私たちは歴史上で最も平和な時代を謳歌おうかしてきました。1945年以降、国際的に承認されている国家で、外国からの侵略により地図から消えた国は1つもありません。内戦のような別種の争いは減っていませんが、21世紀最初の20年間で、人間の暴力により殺害された人の数は、自殺や自動車事故、肥満に起因する病の犠牲者数を下回りました。火薬は、砂糖よりも死をもたらす存在ではなくなったのです。
劇的に減っていた防衛費
【ハラリ】この平和の時代は、政府予算にさらに明確に反映されていました。過去数十年間、世界中の政府が自国は充分に安全であると感じたため、軍隊にかけられる予算は平均してたったの6.5%でした。一方で、教育、保健、ソーシャルワークには、はるかに多くの金額が投資されてきました。EU加盟国のあいだでは、防衛費は平均して3%程度でした。これは驚くべき成果です。数千年のあいだ、王、皇帝、スルタンたちは、予算の大半を軍隊に費やし、臣民の教育や保健にはほとんど投資しませんでした。古い王たちと同じように、プーチンは予算の10%以上をロシア軍に費やし、社会サービスを疎おろそかにすることで軍事力を築いてきました。もしもウクライナ侵攻が成功すれば、世界中の国々がプーチンを真似るでしょう。このような征服を夢見る独裁者は大勢おり、彼らはプーチンと同じことをして幸福を感じるはずなのです。民主主義国家も、自衛のために軍事予算を2倍、3倍にするように求められるでしょう。
未来は二分する
たとえば、すでにドイツは一夜にして国防予算を倍増させました。教師、看護師、ソーシャルワーカーに充てられるべきお金が、戦車、ミサイル、そして「サイバー兵器」にかけられるのです。戦争の新時代はまた、人類共通の緊急の課題をめぐる国際協力を衰退させるでしょう。相手を壊滅させる覚悟の国と仕事をするのは容易ではありません。おそらく、プーチンが成功すれば、人工知能による軍備拡大競争が起こり、気候変動予防に向けた国際的努力は崩壊するでしょう。プーチンが敗北すれば、平和な時代の継続が保証されることでしょう。世界中の国が、暴力に勝ち目はなく、プーチンを真似れば罰せられるという教訓を学ぶのです。国防予算は低く抑えられ、保健予算は高くなります。プーチンが敗北すれば、おそらく地球の住民一人ひとりが、より良い医療と教育を受けられるでしょう。
観察者に留まってはいけない
──過去の悲劇が引き起こした痛みを知り尽くし、同時に変化の可能性に信頼を置く歴史家として、いま、あなたはご自身に何と語りかけますか?
【ハラリ】決定的瞬間が訪れた、そして攻撃と圧政を打ち破るために誰もができる限りのことをするべきだと言います。寄付をするのであれ、オンラインの「戦い」に貢献するのであれ、制裁を支持するのであれ、ただ窓にウクライナの国旗を吊るすのであれ。ウクライナの人々は、全世界の未来の輪郭を描いているのです。我々が圧政と攻撃の勝利を許したら、すべての人がその結果を被ることになります。ただの観察者に留まっている意味はありません。いまは立ち上がり、態度を示すときなのです。
ロシア国民の勇敢な抵抗が人類を救う
──ウクライナで命運が懸かっているのは人類の歴史の行方であると、あなたは主張しています。ロシア社会にどのようなメッセージを送りますか?
【ハラリ】これはロシアの戦争ではありません。プーチンの戦争です。ロシア人とウクライナ人は家族です。プーチンは毎日両者のあいだに憎しみの種を植え付けようとしていますが、いま戦争が止まらなければ、何世代も憎しみが続くでしょう。かつてロシア国民はヒトラーに勇敢に抵抗し、人類を救いました。ロシア国民は、プーチンに勇敢に抵抗することにより、再び人類を救うことができます。もしかすると、彼らは通りに出て意思表示をするのは危険すぎると感じているかもしれません。しかし、ロシア人は暴君への抵抗にかけては非常に聡明な人々です。彼らは経験豊富です。ですから、プーチンとその戦争に抵抗する方法を見つけてください。それも遅すぎないうちに、そうしてください。
●ロシア国債「支払い不履行」と認定 6/2
デリバティブ(金融派生商品)を扱う世界の大手金融機関で作るクレジット・デリバティブ決定委員会はロシア国債が「支払い不履行」に当たると認定した。市場から事実上、デフォルト(債務不履行)と見なされる可能性が高い。一方、米サイバー軍のポール・ナカソネ司令官は、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するため「攻撃的な作戦」を実施したと明らかにした。
デフォルト判断の可能性
デリバティブを扱う世界の大手金融機関で作るクレジット・デリバティブ決定委員会は1日、ロシア国債が「支払い不履行」に当たると認定した。これにより、市場から事実上、デフォルトと見なされる可能性が高い。ロシア国債がデフォルトとなれば、ロシア危機の1998年以来。外貨建ての債務では、ロシア革命後の18年にデフォルトを宣告して以来、約1世紀ぶりとなる。
ドイツ、ウクライナに重火器供与へ
ドイツのショルツ首相は1日、ウクライナへの追加軍事支援として、最新の対空防衛システムなどを供与する方針を連邦議会で表明した。ロイター通信が伝えた。米政府が5月31日にロケット砲システムを供与する方針を示したことに続く動きで、ロシア側は反発を強めている。ドイツが供与するのは対空防衛システム「IRIS―T」とレーダーシステム。独メディアによると、ショルツ氏は「(これらの兵器で)ロシアによる空からの主要都市への攻撃を防げるようになる」と述べた。
米軍、ウクライナ支援でサイバー攻撃
米サイバー軍のポール・ナカソネ司令官が、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するため「攻撃的な作戦」を実施したと明らかにした。英スカイニュースが1日、報じた。ロシアの侵攻に対し、米軍がサイバー攻撃を実施していたことを認めたのは初めてという。米国はウクライナに対して武器供与などの支援を強めてきたが、ロシアとの直接的な戦闘や攻撃には関与しないとしてきた。
●ロシア軍・ドボルニコフ総司令官の更迭説浮上…2週間姿が確認されず  6/2
ロシア軍のウクライナ侵攻作戦を統括するアレクサンドル・ドボルニコフ総司令官が更迭されたとの説が浮上している。
米紙ニューヨーク・タイムズは5月31日、ドボルニコフ氏の姿が過去2週間確認されておらず、任務を続けているかどうか、米当局者の間で臆測を呼んでいると報じた。4月上旬に任命されたばかりだが、陸軍と空軍の連携強化に失敗し続けているという。
露軍の動向を調査する露独立系団体「CIT」は、総司令官がゲンナジー・ジドコ軍政治総局長に交代したとの分析を明らかにした。ジドコ氏はドボルニコフ氏と同様、シリアでの軍事作戦の指揮経験があるという。
●ウクライナ正教会の宗派、侵攻支持のロシア正教会総主教と絶縁 6/2
ロシア正教会系のウクライナの一部宗派は2日までに、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けロシア正教会の最高責任者であるキリル総主教と絶縁すると発表した。
ロシア正教会と傘下組織との亀裂が深まっていることを物語る宣言となっている。
この一部宗派は侵攻を受けた会議を開き、「なんじ殺すなかれ」との神の命令に背く行為と指弾する声明を発表。その上でウクライナ、ロシア両国に対し交渉での事態解決を促した。
ただ、侵攻作戦を擁護すると共にプーチン大統領の支持を唱え、ロシア正教会を背後から同大統領を支える組織にしたとするキリル総主教を非難。ウクライナ正教会の「全面的な独立と自治」を選ぶ理由になったと主張した。
侵攻は自らの正教会の信奉者に悲惨な体験を強いたとも指摘。侵攻後の3カ月間で南部、東部や中部に住んでいた600万人以上のウクライナ国民が国外への脱出を迫られたとして、これら国民の大多数は教会の信仰心が深い人々だったとした。
ウクライナ正教会の教会の大半は既にロシア正教会から自立する路線を選んでいる。ロシア正教会からの離反は、2018年にキリスト教東方正教会の首席総主教とされるバルトロメオス1世コンスタンチノープル全地総主教が独立的なウクライナ正教会の存在を認めたことでさらに弾みがついていた。ギリシャ人の同総主教は世界各地にいる正教会信徒の精神的指導者ともみなされている。
これに対しロシア正教会とキリル総主教はバルトロメオス1世との関係を打ち切る対抗措置に出ていた。
バルトロメオス1世を信奉するウクライナ正教会の宗派は、キリル総主教との関係断絶を今回宣言した宗派とは別のグループとなっている。
プーチン大統領は自らの外交政策の軸にいわゆる「ロシアの世界」の復興を据えており、ウクライナの国家的な固有性も根拠がないとして打ち消す立場を示している。それだけにロシアの意向が通じない教会勢力の出現に激高したともされる。
●露軍が一時占拠したキーウ近郊、不発弾・地雷の処理続く… 6/2
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナの首都キーウ近郊で1日、ウクライナ国家警察が不発弾や地雷の爆破処理を行った。
ロシア軍は2月24日の侵攻開始後、首都制圧を狙い、周辺の街を一時占拠。撤退後に多くの不発弾や地雷が残された。国家警察の処理班によると、市街地や幹線道路での除去は終わっているが、森などでは手つかずのままだ。特に河川や湖沼の不発弾は水中に潜って探す必要があり、処理には時間がかかるという。
1日は、キーウ州内から集められた約150発の不発弾や地雷を二つの穴の中で爆破。処理班を率いたマイコラ・クリメンコさん(40)は「完全に除去するには時間がかかる。住民には危険物を見つけたら近寄らないよう注意を促している」と話した。
●ロシアのエリートに広がる「ポスト・プーチン」論議 有力後継は 6/2
プーチン・ロシア大統領(69)に関し、がんとの説やパーキンソン病説など、健康不安情報がネット空間を飛び交っている。そうした中、ロシアのネットメディアでは、プーチン氏の健康状態と平行して、後継者論議が始まった。ウクライナ侵攻は独裁者・プーチン氏の独断と偏見に基づく戦争であり、指導者が交代すれば終結するという「期待感」もありそうだ。現時点では、メドベージェフ前大統領(56)の復帰を予想する見方が多い。
リストには3人の名が
ラトビアに拠点を移したロシアの反政府系メディア、「メドゥーサ」(5月25日)は、ロシアのエリートの間で「ポスト・プーチン」をめぐる議論がますます広がり、後継者の名が静かに話し合われているとし、候補リストにメドベージェフ安全保障会議副議長、ソビャニン・モスクワ市長(63)、キリエンコ大統領府第1副長官(59)の3人が上がっていると報じた。モスクワのエリートの間では、ウクライナ侵攻の長期化で悲観論が台頭し、プーチン大統領に直接不満を表明する者もいるという。ロシアの新興メディア「レポルチョール」(5月27日)も、4年間大統領を務め、プーチン氏を裏切らなかったメドベージェフ氏が後継ナンバーワンとし、「もともと政権内リベラルだったが、最近はソーシャルメディアで西側に核のどう喝をするなど、後継を意識してタカ派的発言をしている」と分析。政治学者のジュラブレフ地域問題研究所長も「エリートへの利権分配という点で、メドベージェフへの安心感が強い」と述べ、後継1番手に挙げた。
米政府が画策?
メドベージェフ氏は2012年大統領選で続投を希望したが、現政権を築いた「オーナー社長」のプーチン氏に「代われ」と言われ、やむなく退陣した。プーチン氏の健康不安説で、復権のチャンスと見なしている可能性もある。反政府系評論家のワレリー・ソロベイ氏は「バイデン米政権が、親米派・メドベージェフの大統領復帰を画策している」と奇妙な発言をした。メドベージェフ氏はオバマ前米大統領と気質が合い、新戦略兵器削減条約(新START)に調印しただけに、当時副大統領だったバイデン氏が裏で画策するかもしれない。キリエンコ氏はクレムリンの政治戦略を担当し、プーチン氏と頻繁に接触。ウクライナ対策の責任者に起用された。1990年代に首相を務め、大統領への野心を持つといわれる。ただし、ウクライナ風の名前がマイナスになる。ソビャニン市長はウクライナ侵攻に関与していないことがプラスに働くが、少数民族出身だ。「メドゥーサ」は、「エリートらは後継問題を語っても、大統領に退陣を促せるのは重病だけと認識し、うんざりしながら戦争加担の仕事をしている」と伝えた。どうやら、エリートには宮廷クーデターを起こす気概はなさそうだ。
「後継者として最悪」
一方、ロシアの通信アプリ「テレグラム」に投稿する謎の「SVR(対外情報庁)将軍」は4月末、「大統領の健康状態が急変した場合、国の運営をパトルシェフ安保会議書記(70)に移管することで2人は一致している。医師は早期外科手術が必要としているが、プーチンは同意していない」とし、「来年はポスト・プーチンの時代になる」と指摘した。情報機関出身のパトルシェフ書記は、プーチン氏の最大の腹心。投稿は、強硬派の同書記を「後継者として最悪」としている。しかし、ドンバス地方の独立承認をめぐる2月21日の安保会議公開討議で、パトルシェフ氏とSVRのナルイシキン長官は外交交渉に言及しており、戦争に賛成ではなかった。ウクライナ侵攻は、プーチン氏の強烈な歴史観と使命感に基づく個人的プロジェクトで、大半の幹部は内心、反対だったとみられる。ただし、憲政上、大統領が職務執行不能に陥った場合、首相が大統領代行になり、3カ月後に大統領選が実施される。首相以外の人物に「権力の移管」はできない。現在の首相は、2年前に連邦税務局長官から抜擢されたミシュスチン氏(56)。イデオロギーを持たない経済テクノクラートで、オリガルヒ(新興財閥)の支持がある。同氏が大統領代行になれば、停戦に動きそうだ。
謎の36歳も話題に
後継問題では、5月9日の対独戦勝記念式典で、プーチン氏と親しげに話す謎の若者が話題になった。大統領府報道部のドミトリー・コワリョフ氏(36)で、父がガスプロム幹部。大統領とはクレムリンのアイスホッケーチームの同僚という。コロナ禍で有力閣僚もプーチン氏に近づけない中、親しげに話し、体を支える素振りも見せた。ロシアのSNSや大衆紙のサイトで、「後継候補か」と騒然となった。しかし続報はなく、後継説は消えそうだ。ロシアの政治学者は「主要テレビや有力紙は一切報じておらず、イエローペーパーだけだ。政治経験のない若者に大統領が務まるはずがない」と否定した。とはいえ、後継者報道がロシアで飛び交うことは、戦争長期化で重苦しい閉塞感が漂う中、変化を望む社会の願望を示唆している。
「院政」のもくろみ
ロシアでは2年後の2024年3月17日に大統領選が実施される。プーチン氏は当然、5選を狙っていたとみられるが、残酷な侵略戦争で「戦争犯罪人」(バイデン大統領)と指弾され、外交活動が困難になる。2年後は71歳で、健康不安も深まる。その場合、プーチン氏は腹心を後継大統領に起用し、自らは国家評議会議長として「院政」を敷くかもしれない。20年の憲法改正で国家評議会は内政・外交の基本方針を策定することが規定され、議長の権限が強化された。こうした後継論議が出始めたこと自体、プーチン氏の影響力と威信の低下につながる可能性がある。
●プーチン大統領、トルコ訪問に向け準備 4月ロシア国債「利払いが不履行」 6/2
ロシアのプーチン大統領がトルコ訪問に向け準備を進めていることが明らかになりました。実現すればプーチン氏の外国訪問はウクライナ侵攻後初めてです。
これはロシアのペスコフ大統領報道官が明らかにしたもので、おおよその日程はすでに決まっているとしています。
トルコはロシアとウクライナの停戦交渉の仲介に積極的で、先月30日エルドアン大統領はプーチン氏との電話会談で、両国が合意すれば国連を交えた会談を行うことを提案しています。
実現すればプーチン氏の外国訪問は2月のウクライナ侵攻開始以降、初めてです。
一方、戦況が重要局面を迎えているウクライナ東部ルハンシク州について、州知事は。
ウクライナ ルハンシク州知事「状況は変わっていない。セベロドネツクの7割はロシア軍によって支配されている」
ルハンシク州のウクライナ側の「最後の拠点」とされるセベロドネツクについて「7割がロシア軍によって支配」され、セベロドネツク中心部においては「8割」がロシア軍の手中にある、と明らかにしました。
また、ロシアメディアによると親ロシア派部隊の報道官はセベロドネツク市内の7割以上をロシア軍が支配したとしたうえで「近く公式に市の完全制圧宣言が出されると思う」と主張しました。
こうしたなか、シティ銀行やドイツ銀行など14の世界大手金融機関で作るクレジットデリバティブ委員会は1日、4月に償還期限を迎えたドル建てのロシア国債の利払いが「履行されていない」と認定しました。
ロシアは4月4日に償還期限を迎えたドル建て国債の償還時点での元本と利息を5月2日に支払ったものの、国外の投資家は支払いが遅れた事に伴う利息およそ190万ドルが支払われていないとして委員会に判断を求めていました。
今回の利払い不履行は経済制裁の影響によるものでロシアには支払い能力があるため、いわゆるデフォルト=債務不履行とは性格が違いますが、市場からは、事実上のデフォルトと見なされる可能性が一段と高まりました。
●「ロシア軍崩壊」英機密報告書が予測 エリツィンの義息離反、兵器も旧式 6/2
ウクライナ東部ドンバス地域の完全制圧へ攻勢をかけるロシア軍だが、「大規模な損失による軍崩壊」を英機密報告書が予測していることが分かった。モスクワでもウラジーミル・プーチン大統領と関係の深い超大物政治家の親族らが側近から離反するなど政情の不安定化は進む。「余命2〜3年」など重病説も消えず、戦局に暗雲をもたらすことになりそうだ。
東部ルガンスク州でウクライナ軍の最後の抵抗拠点となる要衝セベロドネツク市について、ガイダイ州知事は5月30日、「大半の地域がロシアに支配された」と地元テレビに語った。
ロシア軍はウクライナ部隊の包囲を図り、セベロドネツクとドネツク州バフムトを迫撃砲などで猛攻撃している。市民の退避や人道支援物資の搬入もできない状況で、基幹インフラは100%破壊されたという。
南部のへルソンではモバイル通信やインターネットサービスなど、すべての通信が遮断されたという。当初は失敗続きだったロシア軍が盛り返しているようにみえるが、「作戦レベルでロシア軍が成功を収めるのは難しい」と指摘するのは、元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏。
「ウクライナ軍は今月中旬以降に西側諸国が供与した兵器を入手し、教育訓練をして攻勢に出ようとする。露軍占領地域のうち攻勢をかけやすいヘルソンで奪回作戦を行うだろう」と指摘する。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)もロシア軍の動向について「セベロドネツクとドンバスの占領に専念していることが、へルソンでのロシアの脆弱(ぜいじゃく)性を生み続けている」と分析した。
英大衆紙デーリー・ミラー(電子版)は5月30日、英国の機密報告書を紹介し、「ロシア軍が大規模な損失によって崩壊する可能性がある」と伝えた。
ロシア兵約3万350人の犠牲が出ているといい、「プーチン氏は小さな勝利のために支払うに値する代償だと考えているが、軍隊にとっては行き過ぎだ」と断じる。「(クレムリン内部では)作戦が破滅的なほど運んでいないというメッセージをプーチン氏と側近に伝えようとする試みがみられる」と伝えた。
英国防省は「ロシア軍の中下級将校が壊滅的な損失を受けた可能性が高い」との見方だ。経験豊富な指揮官の不足により士気の低下や規律悪化が続いており、軍内では「局地的な反乱が起きているとの報告が複数ある」としている。
前出の渡部氏は「セベロドネツクに投入した兵力は損害を受け、兵器も旧式を投入するほど枯渇している。現在ドンバスに集中する露軍は次の段階で南部に兵力を割かざるをえないが、大隊戦術群(BTG)も打撃を受けており、『数合わせ』の部隊では力を発揮しない。今月中旬以降は占領地域を守るだけの戦いに移行せざるをえない」とみる。
最高司令官であるプーチン氏の健康不安説をロシア側は否定するが、次から次へと情報が流れてくる。
前出のデーリー・ミラーはロシア連邦保安局(FSB)要員の話として、プーチン氏は進行型のがんで「生き永らえるのに2〜3年しかないだろう」と報じた。視力も弱っており、テレビ出演などの際には巨大な文字のカンニングペーパー≠ェ必要だという。
ロイター通信(日本語版)は30日、ボリス・エリツィン元大統領の義理の息子でプーチン氏の顧問を務めるワレンチン・ユマシェフ氏が辞任したことを関係筋の話として伝えた。ロシア連邦初代大統領のエリツィン氏はプーチン氏をFSB長官などを経て首相に抜擢(ばってき)、後継大統領への道を敷いた。
各界からの不満も噴出しており、新興財閥オリガルヒでは、銀行創業者のオレフ・チンコフ氏が「反戦」を表明。「アルミ王」のオレク・デリパスカ氏も23日に「核戦争の恐れが現実のものになっている」と通信アプリに投稿した。芸能界でも多くのスターが侵攻後に出国したという。
前出の渡部氏は「国内でもプーチン氏への反発は強まるばかりだろう。健康状態についても英国のオリガルヒが出典との情報もあり、必ずしも噓とはいいがたい。軍内部にも噂が伝わっている可能性は高く、士気にも影響が出てくるのではないか」と語った。
●プーチン氏、ウクライナと西側の結束崩壊を期待か−立場正しいと自信 6/2
ロシアのウクライナ侵攻が過酷な消耗戦に移行する中、一つの問題が他の何よりも結果を左右する可能性が高い。それは時間がどちらに見方するのか、という問題だ。
特に米国などからウクライナの防衛支援に向けた重火器が届く前にロシア軍がウクライナ東部の制圧を試みる中、今後の展開の多くは予測不可能な戦場の動向に左右されるだろう。
しかし、時間の経過に伴い、ウクライナへの国際支援の減少やロシアでの兵器用部品の不足の可能性など、経済・政治的な脆弱(ぜいじゃく)さがさらに広がることが少なくとも同じように重要となるだろう。この戦争が世界経済に及ぼす影響の深刻さを踏まえると、どちらが最初に屈服するかが、戦争で最も重要かつ困難な予測となる可能性がある。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナと国際社会の結束が最初に崩壊すると期待しているようだ。世界各国・地域の経済は、戦争によるインフレ加速と食糧不足の悪化や、各国間の政治・安全保障上の利益の相違に伴う圧力にさらされているためだ。
プーチン氏は先月のユーラシア経済連合の会合での演説で「現在の世界経済の状況は、われわれの立場が正しく、正当化されることを示している」と指摘。「これら先進国・地域は過去40年間にこうしたインフレを経験していない。失業が増え、流通網が崩れ、食品など影響が大きな分野で世界的危機が拡大している」と述べた。
政治コンサルタント会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノワヤ氏は「プーチン氏の戦略は、こうした状況が過ぎ去るのを待つことだ。西側が近く大きな経済的問題に直面し、国民の不満が高まると予想しているため、十分に時間があると確信している」と指摘した。
●プーチン「6月危機説」浮上 国内の経済的疲弊、死傷者に国民の厭戦 6/2
ウクライナ侵略で敗色濃厚なロシアの苦境を受け、ウラジーミル・プーチン大統領の「6月危機説」が浮上している。
国際社会の制裁によるロシア国内の経済的な疲弊と、多数の将軍を含む死傷者の増大による国民の厭戦(えんせん)気分、「反プーチン」派の動きの顕在化が、その理由だ。プーチン氏自身の「健康不安説」も取り沙汰されている。
何しろ、ロシアへの経済制裁は苛酷だ。金融制裁に始まり、ロシア関連の輸出・輸入規制、プーチン氏と関係が深い新興財閥「オリガルヒ」の資産凍結などがある。
ロシアは国土が広大で地下資源も豊富だが、需要がなければ宝の持ち腐れだ。何しろ、ロシアのGDP(国内総生産)は1兆4785億7000万ドル(約245兆4426億円)だ(2021年、IMF=世界通貨基金調べ)。韓国に次ぐ世界11位に過ぎない。
韓国が国際社会から袋だたきに遭いながら、毎日のように「巨額の戦費」と「将兵」「装備」を失っていると考えればピンと来るかもしれない。戦費という先立つものが尽きれば、いかにロシアが軍事大国といえども国家としての命脈を保つのは難しい。
こうしたなか、ロシア軍の退役軍人でつくる「全ロシア将校会議」の議長、レオニード・イワショフ退役上級大将が2度に渡って「プーチン批判」を展開したから驚きだ。
大物退役軍人であるイワショフ氏は侵攻開始前、「ウクライナに侵攻すればロシアの国家としての存在そのものが危うくなる」といい、プーチン氏の辞任を要求した。3カ月前の指摘が現実となっていることに驚く。
イワショフ氏は5月にも、ロシア書店協会のインタビューに答え、「上層部が立案した戦略が間違えれば、現場がどんなに頑張っても作戦は失敗する」と批判した。命がけの告発である。
プーチン氏の足元は揺らぐ。
スイス・ジュネーブのロシア国連代表部のボリス・ボンダレフ氏は23日、交流サイトSNSに「もううんざりだ。侵略は繁栄を願うロシア国民に対しても犯罪だ」と投稿し、辞職した。
折しも、117年前の5月といえば、日露戦争で日本の勝利を決定付けた日本海海戦が行われた。バルチック艦隊惨敗の報を聞いた帝政ロシアのニコライ2世は「艦隊司令官も捕虜となった。今日は驚くほど良い天気だが、それがかえって私の心を悲しくさせた」と日記に書き留めた。日本人を「猿(マカーキー)」と呼び、日本軍の実力を過小評価し、ロシア軍の能力を過大評価する過ちを犯していた。
プーチン氏は、ロマノフ朝時代の版図の復権を目指しているとされる。対ウクライナ、対国際社会に対して、同じ轍を踏んでいる。
さて、問題は日本である。日本に足りないのは「ロシア敗北を最大限に利用して、北方領土を取り戻す」という戦略だ。
G7(先進7カ国)と対露制裁で足並みをそろえたのは当然で、それで満足していてはいけない。国際社会はロシアや中国などの専制国家をはじめ、みな腹黒い。日本はウクライナと同じように、北方領土をロシアに不法占拠されている。国際信義を重んじる先人の美徳を残しつつ、もうお人好しはやめるときだ。
正当な権利として、ロシア敗北後の講和会議を日本有利に導き、北方領土はじめ、千島列島、樺太の日本復帰を、ロシアと国際社会に認めさせるのだ。そのためには、できる限りのウクライナ支援など、オール・ジャパンで戦後戦略を考えておく必要がある。
●プーチンの重病説 ロシア国内「言論統制が効かなくなっている状態」では 6/2
ロシア政治を専門とする筑波学院大・中村逸郎教授が2日、TBS系「ゴゴスマ〜GOGO!smile〜」に出演。ロシアのプーチン大統領の重病説について言及した。番組ではプーチン大統領の健康状態をめぐり、ラブロフ外相が重病説を否定したと紹介した。
中村教授は「プーチン大統領は今年、70歳を迎えますので、身体的にも精神的にもかなり患っているのではないかと思えるんですね」と老いもあるのではと指摘。
ロシアの平均寿命が約68歳といわれていることもあり「私たち日本人の感覚だと87、88歳というところなんです」とした。
その上で「いずれにしてもロシア国内のメディアが一斉にプーチン大統領の健康を報じるようになってきている。言論統制がここにきて効かなくなってきている状態と思います」と推察した。
●ロシアの利払い「不履行」=ドル建て国債で認定―金融団体 6/2
主要な金融機関などで構成する国際団体「クレジット・デリバティブ決定委員会」は1日、ロシアが発行したドル建て国債について、利払いの「不履行」が発生したと認定した。市場からは事実上の債務不履行(デフォルト)と見なされる可能性が高い。
ロシア政府は4月4日が支払期日だったドル建て国債の元利金を、30日の猶予期間が終わる直前の5月上旬に払った。ただ、期日を過ぎた分の利息約190万ドル(約2億5000万円)を受け取っていないとして、国債を保有する投資家の一部がデフォルトに当たると主張していた。
●「デフォルト」相次ぐおそれ ロシア国債の利払い不履行 影響は 6/2
世界の主要な金融機関で構成する「クレジットデリバティブ決定委員会」は1日、ロシアが発行したドル建て国債の一部利払いに「支払い不履行」が発生したと認定した。市場関係者は「正式な債務不履行(デフォルト)と見なすのが市場の一致した見方だ」と指摘。経済制裁が、財政破綻(はたん)によらない異例のデフォルトへとロシアを追い詰めている。
委員会が公表した資料によると、協議に参加した13金融機関のうち12機関が「ロシア政府による支払い不履行があったか」の採決に「あった」と投票。米シティバンクのみ「なかった」に投票した。シティはロシア政府が国債の元利払いをする際の窓口銀行となっている。委員会は6日にも次回会合を開く。
問題になったのは、4月4日が償還期限のドル建てロシア国債の利子。ロシア政府が償還したのは30日間の猶予期限直前で、この期間中に発生した利子190万ドル(約2億4千万円)が支払われなかったと一部投資家が委員会に訴えた。今回の認定により、デフォルトによる金融商品の「保険金」の支払い義務が発生するとみられる。 ・・・
●ロシア国債 一部の利子未支払いと認定 金融市場から締め出しも  6/2
世界の主要な金融機関の代表などでつくる委員会は1日、4月に期限を迎えたドル建てのロシア国債をめぐって一部の利子の支払いが行われていないと認定しました。市場でデフォルト=債務不履行が起きたとみなされ、国際金融市場からロシアを締め出す動きを決定づける可能性があります。
世界の主要な金融機関の代表などでつくる「クレジットデリバティブ決定委員会」は1日、4月4日に期限を迎えたドル建てのロシア国債をめぐって「一部の利子が支払われていない」とする投資家の主張を認める判断をしました。
この国債の利払いや償還をめぐってはロシア政府がいったんルーブルでの支払いを宣言するなど曲折があって支払いが遅れ、投資家は支払いが遅れたことに伴う利子を受け取れると主張していました。
今回の判断によって市場でロシア国債にデフォルト=債務不履行が起きたとみなされ、国際金融市場からロシアを締め出す動きを決定づける可能性があります。
欧米各国による厳しい制裁措置によってデフォルトは避けられないとの見方が広がっていたことなどから、専門家の間では金融市場への直接的な影響は限られるとの見方が大勢です。
一方でロシアの政府や企業にとっては資金調達の手段が狭まることになり、ロシア政府は財政危機に陥った1998年とは状況が異なり、支払う資金も意思もあるなどと主張してきました。
ロシア これまでの反応は
ロシア国債をめぐってデフォルト=債務不履行が起きるかについてロシア大統領府のペスコフ報道官は5月30日、記者団に対し「われわれの立場はデフォルトに認定される客観的な理由など存在しないというものだ。ルーブル建てであろうとわれわれには資金があり、支払う意思がある」と述べ、反発していました。
またロシアのシルアノフ財務相も5月26日、記者団に対しロシアが財政危機に陥ってデフォルトとなった1998年とは状況が違うとしたうえで「資金もあり支払う意思もある。今の状況は敵対する国が人為的に作り出したものだ。何の影響もなく何も変わらない」と述べ、ロシアや人々の生活への影響はないと強調していました。
ロシア国債 一部で利子未払い
ロシアの中央銀行によりますと海外の投資家が保有するロシア国債の残高は、去年12月末時点でおよそ620億ドルです。
このうち外貨建ての国債はおよそ200億ドル、日本円にしておよそ2兆6000億円で、今回、この一部で利子の支払いが行われていないと認定されました。
日本では、公的年金の積立金を運用しているGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人が、去年3月末時点でロシア国債をおよそ280億円保有しています。
ただ、市場でデフォルト=債務不履行が起きたと見なされても、日本の金融機関全体でも保有額はそれほど多くはないため、市場関係者の間では金融システムへの影響は限定的だという見方が多くなっています。
一方、国債以外のロシア向け融資全体に影響が広がることへの懸念もあります。
国内の大手金融グループの三菱UFJと三井住友、それにみずほの3社によりますと、ロシア向けの貸し出しなどの与信残高は、ことし3月末の時点で合わせて1兆円余りにのぼります。
各社は、昨年度の決算でロシアに関連する融資をめぐって貸し倒れに備えた費用を計上するなどしたため、業績への影響が3社で合わせて3500億円を超えたとしています。
今回の認定は、ロシアの対外的な信用力の低下や世界経済からの孤立を改めて示した形で、ウクライナ情勢が長期化する中、経済への影響も不透明感が強まっています。
官房長官「日本の投資家に及ぼす直接的損失は限定的」
松野官房長官は、2日午前の記者会見で「日本からのロシア向けの債権投資が対外債権投資全体に占める割合は限定的で、ロシア国債の動向が金融機関を含む日本の投資家に及ぼす直接的な損失は限定的だ。引き続き緊張感を持って市場動向や経済状況を注視していきたい」と述べました。
専門家 “ロシア経済は縮小せざるをえず大打撃に”
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「世界各国の政府債のうち、ロシア国債が占める割合は、0.4%にとどまり、規模は非常に小さい。また経済制裁の影響でロシア国債の価格は大幅に下落し、投資家の間ではすでに損失処理の動きが進んでいるため、世界の金融システムに与える影響は限定的だ」と述べています。
その一方で「デフォルトは、市場からの信頼の失墜を意味し、政府にとって不名誉だ。特にプーチン大統領は、ロシア国債がデフォルトに陥った1998年の2年後に大統領に就任し、その後の経済の立て直しの成果を、国民に対して誇ってきた。再度のデフォルト認定は、その成果や評価を否定し、政権に逆風になる」と指摘しています。
また今後については「ロシアは、債務返済の意思と能力があるにもかかわらず欧米の経済制裁で支払いを邪魔されたと主張するとみられ、問題は長期化するだろう。しかし軍事侵攻で財政が悪化する中、海外からの資金調達の道が閉ざされればロシア経済は縮小せざるをえず、将来にわたって経済成長の芽も奪われて、大きな打撃になる」と話しています。
●官房長官「日本の損失限定的」 露国債利払い不履行 6/2
松野博一官房長官は2日の記者会見で、世界の大手金融機関でつくるクレジットデリバティブ決定委員会がロシア国債の利払いを「支払い不履行」に当たると認定したことに関し、日本の投資家への影響は限定的だとの認識を示した。
松野氏は「日本からのロシア向け債権投資が対外債権投資全体に占める割合は限定的であり、ロシア国債の動向が金融機関を含む日本の投資家に及ぼす直接的な損失は限定的だ」と説明した。その上で「引き続き緊張感を持って市場動向や経済状況を注視していく」と述べた。
●デフォルトとみなされる可能性 4月期限の国債の利払い一部が行われず 6/2
ロシア軍が制圧を目指すウクライナ東部ルハンシク州の要衝セベロドネツクについて、地元の知事は1日、8割がロシア側に制圧されていると明らかにしました。
ルハンシク州のハイダイ知事は1日、「セベロドネツクの8割近くがロシア側に制圧されている」とSNSに投稿しました。
市街戦が続いているほか、ルハンシク州全体も砲撃にさらされているとしています。
イギリス国防省は2日、ロシア軍はセベロドネツクの大部分を支配したと分析しました。
今後、もうひとつの目標とするドネツク州へのルートはウクライナ軍が守りを固めていて、ロシア軍はその準備のためこれまでの勢いを失うリスクがあるとしています。
抵抗を続けるウクライナに対し、アメリカが高機動ロケット砲システムの供与を発表したことにロシア側は自国の領土への攻撃に繋がりかねないとして、強く反発しています。
ロシア・ラブロフ外相「西側諸国を軍事行動に引き込むことを目的とした直接的な挑発だ」
こうした中、世界の主要な金融機関で作る「クレジットデリバティブ決定委員会」は1日、4月に償還期限を迎えたロシア国債の利払いについて一部が行われていないと認定しました。
財政破綻ではなく、経済制裁の影響によるものとみられますが、ロイター通信はロシアがおよそ100年ぶりに債務不履行(=デフォルト)とみなされる可能性が高まったとしています。 

 

●ゼレンスキー氏、ロシア軍「ウクライナの国土の20%占領」… 6/3
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2日、ロシア軍がウクライナの国土の約20%を占領していると明かした。2014年にロシアが併合したクリミア半島や、親露派武装組織が支配を強める東部ドンバス地方、露軍が全域制圧を宣言していた南部のヘルソン州などを指すとみられる。
ゼレンスキー氏は、ルクセンブルク議会でのオンライン演説で、露軍がベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)の合計面積よりも広い「約12万5000平方キロ・メートルを占拠している」と述べた。
露軍が陥落を目指す東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクについて、地元州知事は1日、市内の約8割が露軍の支配下にあると認めた。州知事は2日、米CNNに、5月末に空爆された硝酸貯蔵タンクの地下シェルターに住民約800人が避難していると明かした。ロシア通信によると、親露派武装集団のトップは2日、セベロドネツクと隣接都市のリシチャンスクを除く「州全域を解放した」と述べた。
西部リビウ州の知事によると、露軍は1日夜、州西部の鉄道関連施設にミサイル4発を撃ち込んだ。米国や欧州諸国によるウクライナへの兵器供与をけん制した可能性がある。
一方、南部ではウクライナ軍が反攻を強めている。ヘルソン州の知事は1日、ウクライナ軍が20か所以上の集落を奪還したと明らかにした。 
●ウクライナ侵攻100日、「平時」装うプーチン露大統領 6/3
ロシアのウクライナ侵攻開始から3日で100日となるが、プーチン大統領は「戦争」を口にせず、平時であるかのような印象を振りまくことに専念している。
今週、ウクライナ東部セベロドネツク市で自国軍が戦いを続けていた頃、プーチン氏は子だくさんの親たちをたたえる式を開き、ぎこちない雑談を繰り広げていた。この様子はテレビで放送された。
5月以来、プーチン氏が主にオンラインで会談した相手は、教育関係者、石油・運輸企業の幹部、森林火災対策責任者、10以上の国内地域の首長らだった。
安全保障会議を何度か開いたり、外国首脳と一連の電話会談を行うかたわら、全ロシア・アイスホッケーの「ナイトリーグ」のプレーヤー、指導者、観客らとビデオ会談する時間も持った。
こうして退屈なほど普段通りの行動を取って見せることは、政府の「物語」と整合性がとれている。ロシアは厄介な隣国を屈服させるための「特別軍事作戦」を行っているだけであって、戦争状態ではないというのが、政府の説明だ。
自国軍がウクライナでひどく苦戦し、2大都市で敗退し、何千人もの犠牲者を出している今、プーチン氏はストレスを一切表情に出さない。
2月24日の侵攻開始前、怒りをあらわにしてウクライナと西側諸国を非難していたのとは対照的に、現在は言葉遣いも抑制的だ。69歳のプーチン氏は穏やかな様子で、データと詳細な情報を完全に掌握しているように見える。
西側の制裁による影響は認めながらも、ロシア経済はより強くなり、自給力を備えることになると説明。一方の西側は、食費と燃料費の高騰というブーメランに苦しむだろう、と訴えかけている。
西側の亀裂に期待
しかし終わりが見えないまま戦争が長期化していくと、プーチン氏が平時を装うのは徐々に難しくなるだろう。
経済面では、ロシアは制裁の影響が深刻化して景気後退に向かっている。
軍事面では、ロシア軍はウクライナ東部では徐々に前進しているものの、米国とその同盟国はウクライナへの武器供与を強化している。
西側の専門家の見方では、ロシア軍の攻撃がぐらつくようなら、プーチン氏は枯渇した軍をてこ入れするために温存していた力のフル動員を宣言せざるを得なくなるかもしれない。
「そうなると100万人以上のロシア国民が動員されるだろう。当然ながら、ロシアが全面戦争に入っていることに気付いていなかった人々の目にも入る」と言うのは、長年にわたってプーチン氏を観察し、会ったこともあるオーストリアの学者、ゲアハルト・マンゴット氏だ。
そうした状況はロシア国民には受け入れ難いだろう。国民は政府に忠実な国営メディアの情報に頼り、ロシアの苦戦ぶりと被害の規模を知らないでいる。
ただマンゴット氏は、ロシアはまだその地点には達していないと指摘。プーチン氏は、西側に戦争疲れの兆しが生じているのを見て、ある程度意を強くしている可能性もあるという。
ウクライナを最も強力に支援する米国、英国、ポーランド、バルト諸国などの国々と、停戦を訴えるイタリア、フランス、ドイツなどのグループとの間には、亀裂が見え始めている。
「戦争が長引けば長引くほど、西側陣営内で対立と摩擦が増えるとプーチン氏は踏んでいる」とマンゴット氏は語った。
一方、ウクライナとの和平協議は数週間前に頓挫し、プーチン氏は外交的な出口を探る様子を一切見せていない。クライシス・グループの欧州・中央アジア・プログラムディレクター、オルガ・オリカー氏は「彼はいまだに、この問題に良い軍事的解決策があると考えている」と話す。
オリカー氏によると、プーチン氏はある時点で目標が達成できたとして勝利宣言をする選択肢を残している。同氏の言う目標は「ウクライナの非軍事化および非ナチ化」であり、「明確に定義されたことはなく、前々から少し馬鹿げた目標だったので、いつでも達成したと宣言することができる」という。
プーチン氏は1日、15人の子どもを持つ大家族の親らと40分間にわたってビデオで対面したが、「戦争」と「ウクライナ」という言葉は一度も口にしなかった。
一張羅を着込み、花と食事の飾られたテーブルに固くなって座る家族たち。プーチン氏はその一人一人に順番に声をかけ、自己紹介を求めた。同じ日、ウクライナ西部の都市リビウ中心部の広場には、ロシアの侵攻以降に亡くなったウクライナの子どもら243人を追悼するため、空っぽのスクールバス8台が到着した。
大家族と対談したプーチン氏の発言の中で、戦時中であることを感じさせる言葉に最も近かったのは、ウクライナ東部ドンバス地域の子ども達が「異常な状況」にあることへの言及だった。
ロシアは多くの問題を抱えているが、これまでも常にそうだったとプーチン氏。「ここでは普段と違うことは何一つ起こっていない」とビデオ対談を締めくくった。
●軍事侵攻から100日 ロシア軍 ウクライナ側拠点へ攻勢強める  6/3
ロシアは、ウクライナへの軍事侵攻を始めてから100日となった3日も、ウクライナ東部を中心に攻撃を続けています。
長期化するウクライナ情勢が世界の食料安全保障にも深刻な影響を及ぼす中、AU=アフリカ連合の議長はプーチン大統領と会談し、懸念を伝えるとみられます。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって3日で100日となりました。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向け、ウクライナ側の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めていて、地元のガイダイ州知事は、セベロドネツクのおよそ8割がロシア軍に掌握されたという見方を示しています。
また、イギリス国防省は3日に公表した戦況分析で「ロシアは東部のドンバス地域で戦術的に成功しつつある。勢いがあり、主導権を握っているようだ」と指摘したうえで、ルハンシク州については今後2週間で完全に掌握する可能性が高いとしています。
ウクライナ側も南部などで反撃し、一部でロシア軍を押し返す動きが見られますが、ゼレンスキー大統領は2日の演説で「ロシア軍はウクライナの領土のおよそ20%に当たる12万5000平方キロメートルを支配している」と認めています。
戦闘がさらに長期化するという見方が強まる中、小麦やトウモロコシといった穀物の世界有数の輸出国であるウクライナをめぐる情勢は、世界の食料安全保障にも深刻な影響を及ぼしています。
ウクライナなどはロシア軍がウクライナ南部に面した黒海の港を封鎖し、穀物などを輸出できなくしていると批判していますが、これに対し、ロシア側は穀物価格の上昇は欧米によるロシアへの制裁が原因だとして、制裁解除が必要だと主張しています。
こうした中、AUの議長国、セネガルのサル大統領が3日、ロシア南部のソチを訪れ、プーチン大統領と会談する予定です。
議長としての訪問の目的について「アフリカ諸国に影響を与えている穀物や肥料の在庫を解放することだ」としていて、懸念を伝えるとともに、港の封鎖を解くようロシア側に求めるとみられます。
●ロシア軍 セベロドネツクへ攻勢 ウクライナ軍 南部などで反撃  6/3
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向け、ウクライナ側の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めている一方、欧米の軍事支援を受けるウクライナ軍も南部などで反撃を続けています。ウクライナへの侵攻から100日となりましたが、戦闘はさらに長期化する見通しで、ロシアと欧米側の軍事的な対立は深まる一方です。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州で、ウクライナ側の州内最後の拠点とされるセベロドネツクへの攻勢を強めていて、地元のガイダイ州知事は、セベロドネツクのおよそ8割がロシア軍に掌握されたという見方を示しています。
また、州知事は2日、アメリカのCNNテレビのインタビューで、セベロドネツクではロシア軍の攻撃を受けた化学工場の地下に、子どもを含むおよそ800人が今も避難していることを明らかにしました。
ロシア軍は、ルハンシク州を完全掌握したのち、隣接するドネツク州の掌握を目指すとみられ、ロシア国防省は2日、ドネツク州で地上部隊や無人機の攻撃によって、弾薬庫や燃料庫を破壊したなどと発表したほか、ウクライナ側の外国人戦闘員が当初いた6600人から3500人まで減ったと主張し、戦果を強調しました。
ウクライナ側も南部などで反撃し、一部でロシア軍を押し返す動きがみられていますが、ゼレンスキー大統領は2日の演説で「ロシア軍はウクライナの領土のおよそ20%にあたる、12万5000平方キロメートルを支配している」と指摘しました。
こうした中、欧米側はウクライナへの軍事支援を強化していて、アメリカが、精密な攻撃が可能だとされる兵器「高機動ロケット砲システム」を供与する方針を発表したほか、ドイツも対空ミサイルシステムなどの供与を表明しています。
これに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官が2日「ウクライナに最新鋭の兵器が送り込まれ続けている。こうした兵器がロシア国内に向けて使われることなど、考えたくもないほど不愉快なシナリオだ。状況は極めて悪い方向になるだろう」と警告するなど、ロシアは強く反発しています。
ロシア軍がウクライナへの侵攻を始めて3日で100日となりましたが、戦闘はさらに長期化する見通しで、ロシアと欧米側の軍事的な対立は深まる一方です。
松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「ロシアに一刻も早く侵略をとめさせ、対話への道筋をつくるため、今必要なことは国際社会が結束して強力な制裁措置を講じ、ロシアに侵略されているウクライナを支援していくことだ」と述べました。
そのうえで「わが国の追加の制裁措置は、現時点で予断を持って話すことは差し控えたいが、引き続きG7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携して適切に対応していく」と述べました。
●ウクライナ情勢は「長期戦に備える必要がある」 バイデンとNATO事務総長 6/3
バイデン米大統領は2日、ホワイトハウスで北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と会談した。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化をにらみ、NATOの抑止力と防衛力を強化していくことを確認した。ホワイトハウスが発表した。
ストルテンベルグ氏は会談後、記者団に「戦争は予測不可能なもので、長期戦に備える必要がある」と述べた。米欧の軍事支援が大きな効果を上げているとして、ウクライナへの継続支援の必要性も強調した。
北欧フィンランドとスウェーデンのNATO加盟にトルコが反対している問題については、「トルコに懸念があるならば、NATOが一致団結して進める道を探らなければならない」と語った。ストルテンベルグ氏は、近く3カ国の高官とブリュッセルで協議すると表明しており、バイデン氏は協議実施への強い支持を伝えた。
ストルテンベルグ氏はオースティン国防長官やサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とも会談し、6月末にスペインの首都マドリードで開かれるNATO首脳会議の準備について話し合った。
●ウクライナ情勢を受け…北方領土・貝殻島のコンブ漁 ようやく妥結 6/3
ウクライナ情勢の影響を受け遅れていた北方領土の貝殻島周辺でのコンブ漁について、ロシア側との交渉が3日妥結しました。
貝殻島周辺でのコンブ漁はロシア側と採取量などの交渉を経たうえで例年6月1日に解禁されていました。
ことしはウクライナ情勢の影響で交渉の開始が例年より1カ月以上遅れていました。交渉は、ロシア側に8800万円あまりを支払うことなどで妥結し、今後出漁に向けた準備をしたうえで今月中旬から下旬に漁に出られる見込みです。
地元・根室市の石垣雅敏市長は「コンブ漁の灯が途絶えることなく継続でき安堵している」と交渉妥結を歓迎しました。
●プーチン大統領、4月にがんの治療か…米情報機関「間違いなく病気だ」 6/3
米誌ニューズウィーク(電子版)は2日、米情報当局の分析として、ロシアのプーチン大統領が4月、進行したがんの治療を受けたとみられると報じた。情報当局が5月末にまとめた機密の報告書の内容について、複数の情報機関高官が明らかにしたという。
●ウクライナ侵攻に「勝者なし」 開始100日で国連調整官 6/3
国連でウクライナ危機管理の調整官を務めるアミン・アワッド氏は、ロシア軍のウクライナ侵攻から100日目に当たる3日、声明で「この戦争に勝者はいなかったし、これからもいない」と訴え、即時停止を求めた。
アワッド氏は「われわれが100日間で目の当たりにしたのは、失われた命や家、仕事、将来だ」と指摘。女性や子供を中心に約1400万人のウクライナ人が住む場所を追われたとし、侵攻が「人々に受け入れ難い犠牲をもたらし、市民生活があらゆる面で巻き添えとなった」と強調した。
●ロシアとウクライナ、消耗戦の様相 侵攻開始から100日 6/3
ロシアが2月24日にウクライナに侵攻してから、3日で100日となった。開戦初期の段階で首都キーウの掌握や政権打倒を狙ったロシア軍は作戦の縮小を迫られ、東部ドンバス(Donbas)地方の制圧を目指している。
ロシア軍は、東部ルガンスク(Lugansk)州の主要都市セベロドネツク(Severodonetsk)の一部を制圧。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は「ドンバス地方の状況は依然として極めて厳しい」と認めている。
英ロンドンのシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス、Chatham House)のマシュー・ブレグ(Mathieu Boulegue)氏は、ロシア軍は困難に直面しながらも前進しているとしつつ、ロシアが望んだと思われるような「軍事的な征服にはなっていない」との見解を示した。
ブレグ氏は、「ロシア軍は装備を更新せず、部隊も消耗している」と指摘し、「今後数週間でロシアは機動戦から、構築した陣地を足掛かりとした陣地戦へと軌道修正せざるを得ないだろう」と予想する。
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が始めた戦争は、当初の目標からは後退したかもしれない。だが、南東部の主要港湾都市マリウポリ(Mariupol)を制圧し、2014年に併合したクリミア(Crimea)半島を結び陸路の戦略回廊を確保した。戦争ではなく「特別軍事作戦」と呼ぶロシアにとって、ドンバス地方での支配地域拡大は歓迎すべき状況になるだろう。
戦線拡大
ウクライナ侵攻は、第2次世界大戦(World War II)以降で最大の侵略行為になったが、当初ロシア軍部隊は16万人で、ウクライナ軍をわずかに上回った程度だった。軍事専門家は、攻撃側は防御側の3倍の兵力を確保する必要があるという「攻者3倍の法則」に言及している。
さらに、ロシアはウクライナで航空優勢(制空権)の確保に失敗した。また、ロシアの兵力は、キーウや東部、南部の3正面に裂かれた。
一方のウクライナ軍側は兵力の分散を余儀なくされたものの、北大西洋条約機構(NATO)による軍事訓練や親ウクライナの西側諸国から対戦車、対空兵器の供与を受け、ロシア軍側に大きな打撃を与えることが可能となった。
プーチン大統領は開戦1か月で、ドンバス地方の掌握に注力することを決めた。戦力を集中させることでウクライナ側を圧倒し、露呈したロシア軍の重大な欠点に対応する思惑だ。
米国防総省のジョン・カービー(John Kirby)報道官は先週、ウクライナ東部について、「ロシアに近接しており、補給路や軍事力にも近い」と述べ、開戦当初の段階で戦線が伸び切ってしまい、補給が追いつかなくなったことを教訓として生かしているとの考えを示した。
さらにカービー氏は、ロシア軍の戦術に関して、「小規模の部隊をより狭い範囲に投入して大きな移動を避けることで、航空支援を地上作戦に組み込むのが容易になっている」と指摘した。
塹壕(ざんごう)戦
ロシア軍の砲兵は、ドンバス地方でウクライナの陣地を攻撃しているが、前出のブレグ氏は、「ウクライナ側は塹壕を掘って地中に隠れている」とし、簡単には掃討できないだろうと分析する。
仏軍事史家のミシェル・ゴヤ(Michel Goya)氏はブログで、「ドンバスの戦いはまだまだ続くことになる」とした上で、東部の戦いは重大な決戦になると指摘する。
元仏軍特殊作戦司令官のクリストフ・ゴマール(Christophe Gomart)氏は、民放ラジオ局のラジオ・テレビ・ルクセンブルク(RTL)に対し、ロシアの目標は「ドンバス地方の行政的な境界に到達する」ことだとの見方を示した。
ただ、両軍は3か月も戦闘を続けて疲弊しており、作戦が一時的に小休止される可能性があると述べた上で、「消耗戦の様相を呈している」と指摘する。西側の情報筋は、これまでにロシア兵1万5000人が死亡した一方、ウクライナ側の犠牲者数はこれよりも少ないとみている。
軍事情報サイト「Oryx」によると、ロシア軍は推定で戦車739両、装甲車両428台、歩兵戦闘車813両、戦闘機約30機、ヘリコプター43機、無人機75機、ロシア黒海(Black Sea)艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ(Moskva)」を含む海軍艦船9隻を失った。これに対し、ウクライナ側は戦車185両、装甲車両93台、航空機22機、ヘリ11機、船舶18隻の被害が出たと推定されている。
米シンクタンク、海軍分析センター(CNA)のマイケル・コフマン(Michael Kofman)氏は、「ウクライナ側は短期的には領土を失う可能性があるが、ロシア軍は長期的に見て、新たな支配地域の維持など作戦を持続させることに関して大きな問題に直面するだろう」との見通しを示した。
ウクライナ軍側はすでに南部のミコライウ(Mikolayiv)やヘルソン(Kherson)などで反撃に転じている。これらの都市についてブレグ氏は、ロシア軍が支配を固めているというよりも「争奪戦になっている」との認識を示した。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン氏(Mark Cancian)もゴマール氏同様、「長期の消耗戦」を予想する。「双方とも妥協や取引に前向きではなく、非公式の戦闘停止、いわば活発な武力衝突が止まった『凍結された紛争』になるかもしれない」としている。
●ウクライナ侵攻「支持」、微増の77% ロシア独立系世論調査機関 6/3
ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」が2日、最新の調査結果を発表した。ウクライナ侵攻を「支持する」との回答が77%となり、前回発表から3ポイント増加した。一方、4割を超す回答者が軍事活動の収束に半年以上かかるとの見通しを示すなど、先行きについては厳しい見方も少なくない。
今回の調査は5月26〜31日に実施され、約1600人を対象とした。
軍事活動への支持は▽3月下旬に81%▽4月下旬に74%▽今回発表した5月下旬に77%――と移行。年代別の支持率は▽18〜24歳と25〜39歳でともに70%▽40〜54歳で79%▽55歳以上で83%――となり、年齢が高まるほど支持率も上がる実態を浮き彫りにしている。
軍事作戦の現状を問う質問では、「成功している」が5ポイント増の73%。「失敗している」は2ポイント減の15%だった。
今後の見通しに関しても、「ロシアが勝つ」との回答は75%となり、前回から2ポイント増加。他の回答は▽「どちらも勝てない」が15%▽「回答は難しい」が9%▽「ウクライナが勝つ」が1%。軍事作戦の成果については楽観的な回答が目につく。
一方で、軍事作戦を収束させる期間では▽26%が「2カ月〜半年」▽23%が「半年〜1年」▽21%が「1年以上」▽9%が「1〜2カ月」――と回答。合計すると、半年以上続くとの回答は44%となり、半年以内に収束するとの回答(35%)を上回っている。
ウクライナ国内ではロシア軍が多くの残虐行為を働いたとの疑惑が強まっている。破壊行為や一般人の殺害の責任を問うた質問では、ロシア側に「責任がある」との答えは36%で8ポイント増加。58%が「責任がない」と答えたが、7ポイント減となった。ロシア国内でもウクライナでの被害に責任を感じる人が増えている模様だ。
レバダセンターはロシア政府から「外国のエージェント(代理人)」と指定されているが、独立した活動を続けている調査機関。
●ロシア侵攻100日目 士気低下も プーチン氏の金庫番 制裁対象に  6/3
日本時間の3日午前6時、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、100日目となった。
ロシア側の兵士たちの士気の低下も指摘されている。軍事侵攻100日目を前に、アメリカの戦争研究所は、「ロシアは兵士たちの士気の維持にともなう問題が続いている」との分析を発表した。SNSに、親ロシア派の部隊がプーチン大統領に対して、戦線からの離脱を求める動画が投稿されたことなどを例に挙げている。
一方、アメリカ政府は2日、ロシアに対する経済制裁の対象に、プーチン大統領の「金庫番」役とされたチェロ奏者を加えたことを発表した。このほか、プーチン大統領が利用したこともある豪華ヨットなども、差し押さえの対象にした。
●プーチン氏に食料危機訴え アフリカ連合議長が訪ロ 6/3
ロシアのプーチン大統領とアフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領が3日、ロシア南部ソチで会談した。AFP通信によると、サル氏はロシアによるウクライナ侵攻で深刻化した食料危機により、アフリカが苦境に陥っていると訴えた。
サル氏は、アフリカ諸国は戦闘の現場からは遠く離れているが「経済的なレベルで犠牲者になっている」と強調した。一方で、欧米の対ロ制裁によってロシア産の穀物がアフリカに届かなくなっており、制裁が「状況を悪化させた」とも指摘。穀物や肥料を制裁対象から外す必要があるとの立場を示した。
公開された会談冒頭で、プーチン氏は食料危機には言及しなかったが、「わが国は常にアフリカの側にあり、植民地主義との戦いでアフリカを支援してきた」と語った。
●政府に批判的な記者は次々と殺される…プーチン政権 6/3
ロシアでは政府に批判的なジャーナリストが暗殺されるケースが後を絶たない。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは「プーチン政権を裏から支える民間軍事会社『ワグナー・グループ』の関与が疑われている。2018年にはこの会社を追っていた4人の記者が死亡した」という――。
記者の転落死現場にいた「迷彩服姿の男たち」
ロシア国内で偏狭な民族意識・愛国意識を扇動するポピュリズムで権力を強化したプーチンだが、その裏ではダーティな手法を多用している。自分に都合の悪い人間を消す、すなわち「暗殺」だ。
ロシアではプーチンに睨まれたら最後、誰しもが、いつどのような形で命を失うことになるかわからない。政権による暗殺の証拠が挙がらなくても、暗殺が強く疑われる不審死も多い。
たとえば2018年4月12日、ウラル地方スベルドロフスク州エカテリンブルクでのマクシム・ボロジンの変死事件がある。ボロジンはニュースサイト「ノービ・デン」の記者だったが、その日、アパート5階にある自室から転落し、3日後に病院で死亡した。転落した経緯は明らかではないが、遺書などは残されておらず、勤務先も「自殺の理由はない」と明言している。
また友人の一人は、転落死前日の午前5時にボロジンから電話を受けており、「バルコニーに銃を持った男がいて、階段にはマスクを被った迷彩服姿の男たちがいる」との話を聞いている。
ボロジンが政権によって暗殺されたのではないかとの疑惑は、この「迷彩服の男たち」の話に加えて、ボロジンの当時の仕事内容にもある。彼は、ロシアの民間軍事会社「ワグナー・グループ」について記事を書いていたからだ。
ロシア軍情報機関の作戦を行う「民間軍事会社」
ワグナー・グループはウクライナやシリア、リビア、マリ、中央アフリカなどに投入されている表向きは民間軍事会社で、その要員も民間のロシア人雇い兵だが、作戦に関しては、軍の情報機関である参謀本部情報総局(GRU)の事実上の指揮下にある。ロシア正規軍が公式には活動していないことになっている地域で、GRUの作戦を行ういわばダミー組織である。
ただし、すべてがGRUの擬装作戦というわけではなく、アフリカなどでは現地の独裁政権や鉱物利権を持つ軍閥などと結託し、それなりに報酬を稼いでいることもある。
組織規模は最大で数千人とみられるが、継続的な隊員ばかりでなく、その時々で契約があり、要員数は時期によって大きく変動する。中核は元GRU隊員を中心に、元ロシア軍特殊部隊などの要員で、戦闘機の操縦士などもいるが、その他の短期契約の一般隊員は元プロ軍人ばかりでなく、むしろロシア各地で募集された応募者たちが多い。彼らは兵士としては練度が低く、ある意味で“消耗品”として危険で劣悪な状況の現場に投入される。
ワグナー・グループのオーナーはプーチン側近の政商
ワグナー・グループの起源を遡ると、もともとはロシアの総合警備会社「モラン・セキュリティ・グループ」を母体に、2013年に戦時下のシリアで活動するために設立された民間軍事会社「スラブ軍団」(本社は香港)だった。当時、ロシアはシリアのアサド独裁政権を支援してはいたが、まだ直接の軍事介入をしていなかった。
翌2014年、シリアで活動するさらに本格的な傭兵会社として、スラブ軍団を拡大するかたちで、ワグナー・グループが設立された。指揮官は元GRU特殊部隊中佐のドミトリー・ウトキンだったが、彼はプーチン側近の政商エフゲニー・プリゴジンに近い立場の人間だった。その設立・運営資金はプリゴジンが出している。つまりワグナー・グループのオーナーは、プーチン側近の政商というわけである。
ワグナー・グループは2014年、ウクライナ紛争にも進出している。ウクライナでも表向きは、ロシア軍が活動していないことになっていたため、こうした部隊がウラで使うには便利だったのだ。
シリアではアサド政権軍とともに地上戦を担当
その後、ロシアは2015年9月からシリアに直接、軍事介入するが、ワグナー・グループはそのままシリア各地に投入された。ロシア正規軍は航空機による無差別空爆などを主に行っていたが、ワグナー・グループはアサド政権軍とともに地上戦を担当した。もちろんシリア駐留ロシア軍司令部の指揮下にある。
2018年2月7日、このワグナー・グループが主導するロシア=アサド政権合同軍が、米軍が支援するクルド人部隊を襲撃し、米軍の報復空爆によりワグナー・グループのロシア人兵士、数十人以上が戦死(300人という情報も)するという事件があった。先に手を出したのはワグナー・グループのほうだが、この作戦の前後に、ワグナー・グループとプリゴジン、それにクレムリンの間で頻繁に連絡があったとみられる。
なお、プリゴジンはロシア軍(およびワグナー・グループ)の支援でアサド政権がIS(イスラム国)から奪ったシリア東部の油田地帯の利権を手中にしたとも報じられている。このプリゴジンは、ロシアのSNS不正操作組織「インターネット・リサーチ・エージェンシー」(IRA)のオーナーでもある。つまり、クレムリンに直結するロシア情報機関の代理人のような立場の人物と言っていいだろう。
毎年複数人のペースでジャーナリストの命が狙われる
転落死したボロジン記者は、このワグナー・グループについて取材し、シリアで死亡したロシア人傭兵のうちの3人が、ウラル地方のスベルドロフスク州出身だったと報じていた。また、その他にも反プーチン派の有力な民主派活動家であるアレクセイ・ナワリヌイとともに関連する記事もいくつか書いていた。こうした彼の仕事はプーチン政権からすれば邪魔なものだ。
ボロジンが当局に暗殺されたとの証拠はない。しかし、ロシアでは政府に批判的なジャーナリストが襲撃されたり暗殺されたりする例が数多い。犯人はほとんど検挙されていないが、エリツィン時代含めて1993年以降、ロシアで殺害されたジャーナリストは2018年までに少なくとも58人に上っていた。
最も有名なのは、プーチン批判記事で知られた『ノーバヤ・ガゼータ』のアンナ・ポリトコフスカヤ記者が2006年に自宅エレベーター内で射殺された事件だが、それ以外にもプーチン政権を批判しているジャーナリストが毎年複数人のペースで暗殺されるか暗殺未遂に遭っている。
中央アフリカ共和国で取材中の記者3人が銃撃
いくつか例を挙げると、2008年には、モスクワ近郊の道路建設の反対運動を報じたジャーナリストのミハイル・ベケトフが襲撃され、重傷を負った(2013年に死亡)。同じ事案を報じたオレグ・カシンも2010年に襲撃され、重傷を負っている。
2017年10月には、政権に批判的な論調で人気の民間ラジオ局「モスクワのこだま」キャスターのタチアナ・フェルゲンガウエルが勤務先で襲撃されて、重傷を負った。
2018年7月30日、中央アフリカ共和国で取材中だったロシア人ジャーナリスト3人が、車両で移動中に待ち伏せ攻撃を受け、殺害された。
3人はベテランのフリー記者であるオルハン・ジェマリを中心とする取材チームで、反プーチン派の億万長者(元オリガルヒ)であるミハイル・ホドルコフスキーが創設した調査機関「調査管理センター」(ICC)の依頼で取材活動をしていた。
記者たちが追っていたのはワグナー・グループ
ジェマリらがそのとき追っていたのはワグナー・グループである。ロシア軍は2018年2月、中央アフリカ共和国の国軍の軍事顧問や大統領警備要員などとして180人を派遣していたが、それに関連してワグナー・グループも投入された疑惑が浮上していた。3人はその実態を探るために中央アフリカ共和国に入っていた。
襲撃犯は約10人の武装グループだったが、その正体は不明だ。プーチン政権の宣伝機関に等しいロシアのメディア各社は、強盗説や地元ゲリラ犯行説を盛んに流している。だが、殺害の動機が最も高いのは、当然、取材対象のワグナー・グループもしくは、その動きを察知されたくないロシア軍当局だろう。
ワグナー・グループは、こうしたいわくつきの謀略集団でもある。その活動の実態が暴かれることは、ロシア情報機関の非公然活動が暴かれるということになる。
プーチンの汚職の暴露に繋がるアンタッチャブルな存在
汚い手法が暴かれれば、もちろんそれを命じた側であるプーチン政権の失点になる。また、オーナーであるプリゴジンの活動の実態が暴かれることは、下手をすればプーチン個人の汚職の暴露にも繋がりかねない。ワグナー・グループとプリゴジンは、ロシアではいわばアンタッチャブルな存在なのだ。
だからこそ、プーチン政権と敵対する富豪のホドルコフスキーが、その実態の調査にベテランのジャーナリストを雇い、わざわざ中央アフリカ共和国まで派遣したわけだが、それがどれだけ危険なミッションかは言うまでもない。
ロシアの場合、プーチン政権に批判的なジャーナリストや活動家の暗殺は日常茶飯事だが、この時は相手が武装集団で、しかも法の秩序がほとんどない中部アフリカの紛争国である。“消された”可能性はきわめて高い。
では、ロシア情報機関のどこが、こうした暗殺を行っているのか。
ロシアには3つの主要な情報機関がある。ロシア国内を担当する秘密警察で、治安部隊も持つ強大な連邦保安庁(FSB)、海外での諜報活動を担当する対外情報庁(SVR)、そして軍の情報機関である軍参謀本部情報総局(GRU)だ。
反プーチン派の暗殺を担う連邦保安庁(FSB)
このうち、反プーチン派に対する暗殺は主にFSBが行っているとみられる。国内にとどまらず海外での暗殺も、おそらくFSBが実行している。庁内に破壊工作専門セクションがあるのだ。
ただ、攻撃の実行役としては、FSB破壊工作部門の手配でチェチェン系の下請け人脈が代行するケースもあるようだ。とくに疑われているのは、プーチン政権と癒着しているチェチェン共和国首長のラムザン・カディロフの配下グループだ。
他方、SVRは現在、外国での情報収集活動を主に行っており、近年はこうした荒っぽい暗殺はあまり聞かない。ただ、SVRにも破壊工作を行うセクションは小規模ながらある。
SVRは世界中にスパイ網を構築していて、もちろん日本にもロシア大使館員、通商代表部員などの身分(冷戦時代は国営メディア特派員でも)で工作員を送り込み、情報収集活動をしている。ときおり日本の外事警察に摘発されるが、暗殺などはこれまで報告されていない。ただ、北朝鮮の工作機関のように、実在の日本人に成りすます「背乗り」を行っていた事例が判明しているので、その人物に何らかの危害が加えられた可能性はある。
GRUも世界中でスパイ活動をしている。日本でもいまだに活動しており、こちらもときおり外事警察が摘発している。日本では暗殺などの破壊工作の形跡はないが、ロシアの周辺国、あるいはロシア軍が介入しているような地域では、特殊作戦・破壊工作も行っている。とくにロシア軍が介入しているウクライナとシリアでは、GRUも秘密作戦を活発に行ってきたことがわかっている。 

 

●ロシア国営メディア 「侵攻100日」の報道禁止…  6/4
ロシア語の独立系ニュースサイト「メドゥーザ」は2日、ロシアのプーチン政権が国営メディアなどに対し、ウクライナ侵攻開始から100日が経過することに焦点を当てたニュースの発信をしないよう指導したと報じた。侵攻作戦が長期化し、思うような戦果が出ていないことも背景にあるとみられる。
政権関係者はメドゥーザに「節目に注目すると、国民に(侵攻の)目的や成果について考えさせてしまう」と話したという。
国内の報道機関を厳しく統制しているプーチン政権は、日常的に報道機関の幹部を集め、ニュースの取り上げ方を具体的に指示しているとされる。実際、国営のタス通信や、政権寄りの報道を強化している有力紙イズベスチヤの電子版などは3日、侵攻開始100日に触れていない。
一方、露独立系世論調査機関レバダ・センターが2日、発表したウクライナでの「特殊軍事作戦」に関する調査では、77%が作戦への支持を表明し、4月実施の前回調査から3ポイント上昇した。一方、関心度については、「注視している」が56%で、前回から3ポイント減少した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日、侵攻100日にあたり、「国を守るために我々はここにいる」と呼びかける動画をSNSに投稿した。開戦翌日の2月25日夜、キーウ(キエフ)市内から投稿したのと同じ場所で、同じメッセージを語った。
国連人権理事会は3日、ロシアのウクライナ侵攻による人権侵害を調査する独立した国際調査委員会が、7〜16日、初めての現地調査を実施すると発表した。首都キーウや東部ハルキウ(ハリコフ)などを訪れ、虐待などの被害者らと面会し、情報を直接入手する。
●エルドアン大統領はウクライナ戦争を利用 シリアでの自らの目的を推し進める 6/4
ベイルート:シリア北部、住民は新たな戦いに備えている。世界の関心がウクライナ戦争に向かう中、トルコ大統領は、シリアのクルド人兵士たちを押し戻し、国境地域に長く求められている緩衝地帯を設けるため、大規模な軍事作戦を計画していると発言した。
緊張感は高まっている。米国が支援するシリアのクルド人兵士たちと、トルコ軍とトルコが支援するシリアに対抗する武装勢力との間で、射撃・砲撃が交わされないまま1日が過ぎることはほぼない。
複数のアナリストによるとトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領はウクライナ戦争を利用して隣国のシリアでの自らの目的を推し進めている。トルコがNATO加盟国として、フィンランドとスウェーデンの同盟加入に対し、拒否権を持つことを潜在的な影響力として使うことさえある。
だがトルコによる大規模侵攻にはリスクと複雑な問題が伴い、トルコと米国・ロシア両国との関係を駄目にする恐れがある。
ダーイシュのグループがいまだに闇に潜む、戦争によって破壊された地域において、新しい移住の波を生み出すリスクも伴う。
現地の状況と鍵となるいくつかの問題を説明する。米国の支援を受けるシリアのクルド人兵士たちに対抗するための国境を越えた侵攻地を貫く形で、トルコの南部国境に沿ってシリア国内に30キロメートルの緩衝地帯を作るというトルコの活動を再開する計画の概略について、エルドアン大統領は先月述べた。
「我々はある夜突然、決定を下す。そしてそうしなければならないのだ」とエルドアン大統領は具体的な予定を示すことなく言った。
2016年以降、テロリスト組織で非合法的なクルド労働者党(PKK)の延長だとトルコが捉えているシリアのクルド人民兵組織クルド人民防衛隊(YPG)を標的として、トルコはシリア国内で3つの大きな軍事作戦を展開した。PKKは数十年にわたって、トルコ政府に対するトルコ国内の暴動に資金を供給してきた。
しかしYPGは、ダーイシュ戦闘員との戦いにおける米国主導部隊の根幹を成していて、シリア国内における米国協力者の実質的トップだ。
トルコは、シリアでこれまでに行った3つの軍事作戦を通じて、シリア領土の大部分(アフリン、タル・アブヤド、ジャラーブルスを含む)をすでに支配下に置いている。現在トルコにいる370万人のうち100万人のシリア難民を、確実に、トルコ政府が言う「自主的帰還」させるため、トルコ政府はそれらの地域に数千戸の住宅を建設しようと計画している。
テル・リファートと、M4として知られるシリアを東西に走る主要道路上の主な交差点にあるマンビジュを含む新たな地域をトルコ軍はいま奪おうとしていると、エルドアン大統領は1日述べた。
トルコ軍は戦略的な国境の町アイン・アル=アラブ(2015年に米軍とクルド人戦闘員がダーイシュを打倒するため初めて協力した町)に侵入するかもしれないという報告もある。その町はシリアのクルド人と、シリアのこの地で自治を行うことに対する熱望にとって、強烈な象徴的意味を持っている。
複数のアナリストが言うには、エルドアン大統領はシリアでの作戦をタイムリーなものにする国内外の状況が重なったと考えているのだろう。ロシアはウクライナでの戦争にかかりきりで、米国は、フィンランドとスウェーデンを加盟させるNATO拡大に対する反対意見をエルドアン大統領に取り下げてもらう必要がある。
「(トルコは)東側諸国から譲歩を引き出しうる好機だと感じている」とフィラデルフィアの外交政策研究所のアーロン・ステイン研究責任者は言う。
トルコ経済が落ち込み73.5%のインフレが進行している時に、トルコの民族主義者の有権者を集結させるためにもシリアへの攻撃は利用されうる。トルコは来年、大統領選と議員選挙を行うことになっているが、YPGを追い払うための前回のシリア侵攻は過去の投票でエルドアン大統領への支持を広げた。
ここまで即時侵攻を示す動員の兆候は見られていないが、トルコ軍はかなり迅速に召集されうる。しかしシリアのクルド人戦闘員は、トルコの最近の脅威を深刻に受け止めていて、潜在的な攻撃に対し準備をしている。
ダーイシュとの継続中の戦闘およびダーイシュが領地を失った3年前から数千人の過激派(その多くは外国人)が収容されているシリア北部の刑務所の守備能力に、侵攻は影響を及ぼしうるとクルド人戦闘員は警告している。
大規模な軍事行動は大きなリスクをはらんでいて、北部シリアで軍事的な存在感を示す米国とロシア両国を怒らせる可能性が高い。
シリアでの11年の紛争において、トルコとロシアはそれぞれ敵対する勢力を支持しているが、シリア北部では両国は緊密に協調している。公式には見解を述べていないが、シリアの反政府活動家によると、ロシアは戦闘機と攻撃ヘリコプターをここ数日のうちにトルコとの国境近くの基地に供与した。
2011年にアラブの春の騒乱の中で始まったシリア紛争の潮目を、バッシャール・アル・アサド大統領に有利になるよう変える上で、シリアと最も近しい同盟国ロシアのシリアでの役割は最も重要だった。シリア人の反体制派戦闘員はトルコの影響下にある北西の飛び地に追いやられた。
しかしロシアはウクライナに注力しており、トルコの南の国境に沿った単なる細長い土地について、ウラジーミル・プーチン大統領がエルドアン大統領の代理を務めることはあまり考えられない。
●ウクライナ東部2州で攻防戦 ロシアは支配の既成事実化強める  6/4
ロシア軍はウクライナ東部2州で軍用機による爆撃を続けるなど攻勢を強めていて、抵抗するウクライナ軍との間で各地で激しい攻防戦となっています。
ロシア軍はウクライナ東部2州の完全掌握を目指して攻勢を強めていて、このうちルハンシク州では、ウクライナ側の主要な拠点とされるセベロドネツクの大半の地域を掌握したとみられます。
ルハンシク州のガイダイ知事はセベロドネツクについて3日、SNSで「われわれはこれまでにおよそ20%を取り返した」と述べましたが、4日には「ロシア軍は街への攻撃を続けており、市街戦が続いている」として、激しい戦闘のため住民に食料や医薬品を届けることができないと訴えました。
またイギリス国防省は4日、最新の戦況について「ドンバス地域ではロシア軍の軍用機が誘導弾と精密な誘導ができない爆弾の両方を使用した爆撃を行っていて、活動が依然として活発だ」としたうえで「精密な誘導ができない爆弾の使用が増えたことで市街地が広範囲にわたって破壊され、かなりの巻き添えの被害や民間人の犠牲が出ているのはほぼ間違いない」と指摘しています。
一方、抵抗を続けるウクライナ軍もルハンシク州や南部ヘルソン州の一部で押し戻しているもようで、各地で激しい攻防戦が続いています。
こうした中、ロシアは掌握したとする地域で支配の既成事実化を強めています。
ヘルソン州の親ロシア派勢力の幹部ストレモウソフ氏は3日、ロシアメディアに対し、住民がロシア国籍を取得する手続きを行う施設がヘルソンに設置され、これまでにおよそ1500件の申請があったと主張しました。
今後、こうした施設を増やすとしていて「ヘルソンはロシアの不可欠な一部となり、誰もこれを防ぐことはできない」と述べました。
またプーチン大統領の側近の1人で首都モスクワのソビャーニン市長が3日、親ロシア派勢力が事実上支配するルハンシク市を訪れ、現地の学校などを視察しました。
ソビャーニン市長はSNSで「大統領の指示だ」と強調したうえで、今後ルハンシクやドネツクで人道支援やインフラの復旧の支援を行うと主張し、ロシアによる支配を誇示するねらいがあるものとみられます 。
●アフリカ 食料不足の懸念高まる ウクライナ侵攻で食料価格上昇  6/4
ロシアのウクライナ侵攻により、アフリカを中心に食料不足への懸念が高まっています。
FAO=国連食糧農業機関が、穀物などの国際的な取り引き価格をもとにまとめている「食料価格指数」は、ロシアがウクライナに侵攻した翌月のことし3月には159.3ポイントとなりました。
これは前の月と比べて12.6%高く、1990年に統計を取り始めて以来、最も高い数字となりました。
先月も157.4ポイントと高止まりしていて、ウクライナ侵攻が世界的な食料価格の上昇の一因となっているのが分かります。
特にアフリカでは、近年の洪水や干ばつ、イナゴの大発生、それに新型コロナウイルスの影響も相まって、食料の価格は上がり続けていて、国連のWFP=世界食糧計画がことし5月に発表した報告書によりますと、主食の価格が過去5年の平均と比べて40%も上がった地域もあります。
IMF=国際通貨基金によりますと家計に占める「食料」の割合は先進国では17%なのに対して、アフリカでは40%を占めているところもあるということです。
このため、食料価格の高騰はアフリカの人たちの生活に大きな影響があると指摘しています。
WFPは西アフリカや中央アフリカで食料不足に苦しむ人の数はことし、3年前の4倍近くの4100万人にのぼるおそれもあるとしています。
●プーチン氏、穀物輸出に「ウクライナが機雷除去」の条件提案… 6/4
穀物大国ウクライナに侵攻しているロシア軍が、輸出拠点の黒海沿岸を封鎖していることに伴う世界的な食料危機の解消に向け国連を交えた関係国の駆け引きが活発化している。ロシア、ウクライナ両国と関係が良好なトルコが仲介に乗り出している中、セルゲイ・ラブロフ露外相が8日にトルコを訪問することになり、協議の行方が注目される。
穀物輸出問題を巡っては、トルコが5月末、自国とウクライナ、ロシア、国連が参加して監視センターをイスタンブールに設置することを提案している。ウクライナのドミトロ・クレバ外相も5月末、有志国の海軍が参加する国連主導の船団結成で海上交易の安全を確保する案を示していた。
こうした関係国の動きの中、プーチン露大統領は3日放映の露国営テレビとのインタビューで、穀物輸出を認める条件付きの提案を示した。ウクライナが黒海の機雷を除去することを条件に、南部オデーサ港などを利用しても「安全な航行を保証する」と述べ、南東部マリウポリなどロシアの管理下にある港から輸出する方法にも言及した。
同盟国ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案が「一番簡単で安価だ」とし、条件として、欧州連合(EU)の対ベラルーシ制裁解除を挙げた。こうした案は2、3日にモスクワを訪問していたマーティン・グリフィス国連事務次長にも説明したとみられる。
プーチン氏は3日、露南部ソチで会談したアフリカ連合(AU)議長国セネガルのマッキ・サル大統領から、深刻な食料危機に向けた対応を求められていた。国際社会でのさらなる孤立につながらないよう調整に乗り出す姿勢を示した模様だ。
プーチン氏にとっては、露軍が占拠する港湾でウクライナの穀物を扱うこととなれば、支配の既成事実化につながる。ウクライナやEUが条件付きの露側の提案を受け入れる可能性は低いとみられる。しかし、ウクライナも穀物輸出の停滞によって深刻な打撃を受けている。今後もトルコなどを巻き込んだ打開策の議論が続くものとみられる。
●ロイター記者2人が銃撃受け負傷 6/4
ウクライナ東部セベロドネツク近郊で、ロイター通信の記者らが乗った車が銃撃を受け、記者2人が負傷し、運転手が死亡した。一方、欧州連合(EU)は4日、ロシアへの追加制裁として露産原油の輸入禁止措置を発動。ロシアの反発は必至だ。
ロイター通信は3日、同社の記者らが乗った車が移動中に攻撃を受け、写真記者のアレクサンドル・エルモチェンコさんと映像カメラマンのパベル・クリモフさんが負傷し、運転手が死亡したと報じた。車と運転手は親露派勢力が手配しており、同社は運転手の身元の確認を進めている。3人はウクライナ東部の都市ルビージュネから、約10キロ南のセベロドネツクに移動中だった。
EUが追加制裁発動
欧州連合(EU)は4日、ウクライナに侵攻を続けるロシアへの追加制裁として、露産原油の輸入禁止措置を発動した。年末までに露産原油の9割が禁輸となり、ロシア経済への大きな打撃が予想される。ロシアは「EUの行動により、食料・エネルギー問題が悪化する恐れがある」(外務省)と反発している。
食料危機は露のせいでないとプーチン氏
ロシアのプーチン大統領は3日、国営放送のインタビューで、ウクライナ侵攻を受けて食料価格が上昇している問題について「ロシアのせいではない」との持論を展開し、米欧による経済制裁を「近視眼的で愚かな政策」と断じた。
●「ロシア軍を押し返している」ウクライナ東部“最後の拠点”で攻防つづく 6/4
ロシア軍によるウクライナ侵攻から3日で100日となるなか、東部ルハンシク州の州知事はウクライナ軍が「最後の拠点」とされるセベロドネツクでロシア軍を押し返していると述べています。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々は100日間、国を守っている。我々は勝利する。ウクライナに栄光あれ」
ゼレンスキー大統領はこう話したうえで、今後も徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
ウクライナでは現在、東部にロシア軍が兵力を集中させ攻勢を強めていて、ウクライナ軍の苦戦が続いています。
こうしたなか、ルハンシク州の知事は3日、州内の「最後の拠点」とされるセベロドネツクについて、ロシア軍を押し返していると明らかにしました。
ルハンシク州 ガイダイ知事「約70%が(ロシア側に)占領されていたが、そこから20%を取り返した」
州知事は、ロシア側の一部は戦意が落ちていると指摘。そのうえで、長距離砲が不足していると支援を訴えています。また、3日にもロシア軍の攻撃で母親と子供が犠牲になったということです。
一方、ロシアは、ペスコフ大統領報道官が特別軍事作戦の「一定の成果が得られた」としたうえで、「あらゆる目的が達成されるまで作戦は継続される」と強調しています。
ロシア プーチン大統領「食糧危機をめぐり、ロシアに責任を押し付けようとする試みがみられる」
また、プーチン大統領は3日、侵攻による世界的な食糧危機への懸念について、「ロシアに責任転嫁しようとしている」と主張。
ウクライナの穀物輸出を妨げているとの指摘は「はったりに過ぎない」とし、ロシアが制圧したとする「マリウポリの港などを使わせる用意がある」と語りました。
●「作戦は失敗した」元ロシア民兵が語る戦地の"実情" 6/4
軍事侵攻には賛同する元ロシア民兵が報道特集の取材に「作戦は失敗した」などと軍を公然と批判。内部でいま、何が起きているのか。
「戦線の問題を幹部に気づいて欲しい」
軍事作戦への批判をカメラの前で証言する元ロシア民兵がいる。アレクサンドル・ジュチコフスキー氏だ。
元ロシア民兵 ジュチコフスキー氏「政府も軍の幹部も、過ちや失敗は公にしたくないものです。私が発言するのは、戦線の一部に問題があることを幹部に気づいて欲しいからです」
現在、ウクライナ東部の親ロシア派勢力が支配する地域に住み、兵士らに装備品や医薬品などを供給したり、最前線の戦地でサポートをしたりしているという。まさにロシア軍と共に戦っている人物だ。
ジュチコフスキー氏「ウクライナで起きていることは、ロシアによるウクライナへの侵略ではなく、ロシア固有の領土を取り戻すための戦いなのです」
ロシア政府に賛同しているジュチコフスキー氏だが、この作戦には重大なミスがあったと証言する。
ジュチコフスキー氏「(特別軍事作戦の)第一段階では、ウクライナ全土を標的に侵攻しましたが、結局引き返すことになり、失敗に終わりました。その後、司令官や多くの将軍が交代しました」「ウクライナの首都キーウまで素早く突破し、多くの地域を制圧しようとしましたが、総司令官であるプーチンに誤った情報が伝わったことと、ウクライナの予想以上に激しい抵抗によって困難な状況に陥ったんです」
「一方的に攻撃されっぱなし」
ジュチコフスキー氏は、自身のSNSでも軍のミスを指摘している。
ロシア側は、南東部のザポリージャについて、「大半を制圧した」と3月下旬に発表していたが、実態は全く異なっていたという。
ジュチコフスキー氏のSNSの投稿「兵士らは ほぼ1か月間、嵐のような砲火にさらされ、頭を上げることすらできないでいる」「どんな手段でも移動は夜間に限られる。日中は生き残れる可能性はほとんどない。砲撃に対抗できず、敵の迫撃砲や多連装ロケット砲に完全にやりたい放題にされている」
ウクライナ軍の映像には、ザポリージャやドネツクで ロシア軍の戦車が次々に砲撃される様子が・・・。こうした砲撃に対抗できない状況が続いていたという。さらにロシア軍の武器の状況について、こう明かした。
ジュチコフスキー氏「新しい武器は少ないですが、古い武器は山ほどあります。(ザポリージャにいる)多くの部隊は司令部から放置され、強力な大砲や戦車が追加で配備されませんでした」
ロシアは、死者の数を3月下旬に1351人と発表して以降、明らかにしていないがイギリス国防省は、この3か月で1万5000人程度にのぼると推計している。
ジュチコフスキー氏「(ロシア軍は)全く準備ができていませんでした。ロシアは抵抗できる強力な武器も態勢もないため、一方的に攻撃されっぱなしで、残念ながら多くの死者や負傷者が出ました」
●「プーチンは4月に進行がん治療」「3月に暗殺未遂」米機密情報のリーク内容 6/4
ウラジーミル・プーチンは病んでいるようだ──そんな最新の分析結果が5月末に情報機関から上がってきて、ジョー・バイデン米大統領とその政権内部では、ロシア大統領の健康状態が大いに話題になっているらしい。
もちろん機密扱いの情報だが、プーチンは既に進行癌で、4月に治療を受け、どうにか持ち直したようだという。米情報機関の幹部3人が、本誌だけに明らかにした。去る3月にプーチン暗殺の試みがあったことも、この報告で確認されたという。
本誌への情報源は、国家情報長官室(ODNI)と国防総省情報局(DIA)の幹部、そして空軍の元幹部。いずれも匿名を条件に、本誌の取材に応えた。
3人とも、プーチンが権力への妄執を強め、ウクライナ戦争の先行きが読みにくくなったことを懸念しつつも、ロシアが核兵器の使用に踏み切るリスクは減ったとみている。「プーチンの支配力は強いが、もはや絶対的ではない」と、情報源の1人は述べた。「プーチンが実権を握って以来、これほど主導権争いが激しくなったことはない。みんな、終わりが近いと感じている」
ただし3人とも、今はプーチンがほとんど姿を見せないため、彼の立場や健康状態を正確に把握するのは難しいと指摘した。「氷山があるのは確かだが、あいにく霧に包まれている」と、ODNIの幹部は電子メールで伝えてきた。
プーチンが他国の誰かと接触すれば、それが「ベストな情報源の1つ」になるが、「ウクライナ戦争のせいで、そういう機会がほとんど干上がってしまった」と言ったのはDIAの幹部。対面でしか得られない貴重な情報が、現状では不足していると指摘した。
そもそも「こちらの願望に基づく臆測は危ない」と言ったのは空軍の元幹部だ。「ウサマ・ビンラディンやサダム・フセインのときも、私たちは恣意的な臆測で痛い目に遭った。その教訓を、果たして私たちが学んだかどうか」
マッチョな男が今では
上半身裸で馬に乗ったりして、プーチンは男らしさを誇示してきた。それはロシア政府が綿密に作り上げたペルソナであり、西側の大統領とは違うぞというメッセージを世界にばらまくのに役立った。しかし、今はどうだ。外国の首脳と会ったときの、あの異様に長いテーブルは何だったのか。どう見てもウイルス感染と身体的接触への異様な恐怖心の反映ではないか。
ウクライナ侵攻に先立つ2月7日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と会談したときも、この長テーブルが使われた。その様子から、諜報のプロはプーチンの衰えを読み取った。「握手もしない。抱擁も交わさない。なぜだ、と私たちは思った」。ODNIの幹部はそう言う。
そして4月21日、プーチンは国防相のセルゲイ・ショイグと会ったが、このときのテーブルは狭かった。外国メディアは、長らく表舞台から遠ざかっていたショイグに注目したが、実はプーチンも4月にはほとんど姿を見せていなかった。この日のプーチンは体調が悪そうで、だらしなく足を投げ出し、右手でテーブルの端をしっかりつかんでいた。
プーチンはパーキンソン病か、という説が流れた。いや、あれはKGB(旧ソ連の諜報機関)時代の訓練で染み付いた姿勢だとする見方もあった。妙にしっかりした姿勢や歩き方、そして右腕の位置は、上着の内側に隠した銃をいつでも取り出せるようにするためのものだと。
アメリカの情報機関はこの映像を精査した。遠隔診断のプロも、精神医学の専門家も加わった。そして大統領府に上がってきた結論は、どうやらプーチンは深刻な病気で、おそらく死にかけているというものだった。
プーチンはずっと、巧みにマッチョな自分を装ってきた。しかし実は、新型コロナウイルスの感染予防を口実に長期にわたって姿を見せなかった間に、深刻な病が進行していたことが疑われるのだ。
次にプーチンが姿を現したのは5月9日の「戦勝記念日」。顔はむくみ、前かがみに座っていた。プーチンの健康状態とウクライナでの戦況は同時進行で悪化していた。米情報機関は、プーチンの健康状態が従来の推測よりも深刻であり、ロシアという国も同じくらい疲弊していると判断した。
その3日後、ウクライナの情報機関を率いるキーロ・ブダノフ少将がイギリスのテレビで、プーチンは「心理的にも肉体的にも非常に悪い状態で、病状は重い」と述べ、政権内にはプーチンを引きずり降ろす計画もあると語った。
「ホットな情報」に踊らされた過去
プーチン暗殺計画を彼の親衛隊が摘発したという噂も、このとき確認された。CIAも、ロシア政府の上層部に対立があるとか、一部の外交官が亡命を望んでいるとかの話をキャッチしていた。「かつては無敵に見えた男が、今は未来、とりわけ自分の未来と格闘しているようだ」。ODNIの幹部はそう評した。
プーチンの健康状態に関する深刻な情報は、かなり前からあった。しかしアメリカ政府は慎重だった。過去に、ビンラディンやフセインに関する「ホットな情報」に踊らされた苦い経験があるからだ。
フセインの場合は、彼の精神状態がどうなっていて、保有する大量破壊兵器で何をするかが問題だった。ビンラディンの場合は、腎臓病の悪化で死にかけているのかどうか、それが彼の意思決定にどう影響するのかが問われた。
9.11以前、米政府はビンラディンについてほとんど知らなかった(一定の情報は集まっていたが検討を怠っていた)が、実際には1990年代後半以降、彼の健康状態について頻繁に報告が上がっていた。最も根強い噂は、ビンラディンは衰弱し、定期的な透析を必要としているが、洞窟生活でそれが可能とは思えない、というものだった。
パキスタンのパルベズ・ムシャラフ大統領(当時)は、ビンラディンは死にかけていると断言した。同国の情報機関も、同じ判断を伝えていた。
一方でサウジアラビア政府は、ビンラディンの過去に関するゴシップをせっせと提供していた。その中身は、彼の能力や信仰心を疑わせるようなものばかりだった。
若い頃のビンラディンはベイルートやリビエラで淫行し、パーティー三昧だったという噂。大学は中退し、卒業していないという説。ソ連との紛争当時にアフガニスタンにはおらず、いたとしても戦っていないという話......。
アメリカのメディアは、こうした情報を忠実に報じた。アメリカ政府も同様だった。アメリカがビンラディンの動向を気に掛けないように、パキスタン側が意図的に重病説を流しているとは気付かなかった。サウジ側にも、ビンラディンの経歴や信仰心に泥を塗れば、このテロリストに心酔する若者が減るだろうという思惑があった。
しかし、どれも希望的観測だった。だからアメリカは、ビンラディンが忠実な部下たちの精神を支配し、西洋文明に対する自分の憎悪をアルカイダ戦士に植え付けていることに気付けなかった。
「(当時)ムシャラフの発言にはCIAの情報よりも重みがあった」と、元空軍幹部は本誌に語った。「サウジアラビアがアメリカ側に伝える情報も非常に重視された。それで多くの人は、ビンラディンが病気だと信じ、実際にあのようなカリスマ的指導者だったことに気付かなかった」
「プーチンは病気か? もちろんだ」とも元空軍幹部は言った。「しかし、だからと言って早まった行動を起こしてはいけない。プーチン後の権力の空白は、この世界にとって非常に危険だ」
当時、フセインは世界で最も危険な男の1人に数えられていた。狂人で、絶対に大量破壊兵器を手放さない男、毎晩違うベッドで寝なければならないほど用心深い男とされていた。だから、イラクに大量破壊兵器はないという証拠があっても、当時の米ブッシュ政権は平気で無視した。
病状の深刻度を覆す新たな報告
そして5月末、バイデン大統領の下に情報機関からの最新の報告が届いた。その内容は、プーチンの病状は深刻だとする2週間前の報告を覆すものだった。実際、5月25日にはプーチンがモスクワの軍病院を視察する映像が流れた。翌26日にはイタリアのマリオ・ドラギ首相と電話会談し、国内の実業界の会議にもビデオで姿を見せた。
30日にはトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と電話で会談し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と対面で協議する可能性にも言及した。つまり、当座の健康には自信ありということだ。
ロシアの外相セルゲイ・ラブロフも、5月末にフランスのテレビでプーチンの重病説を一蹴した。最近の精力的な活動を引き合いに出し、「分別のある人なら、彼に何らかの病気の兆候を見いだすことは不可能だろう」と述べた。
だがDIAの幹部に言わせると、「何も問題はないというラブロフの主張は客観的な診断ではなく、単にプーチンへの忠誠を誓う発言にすぎない」。ならば今も、プーチンは肉体的にも政治的にも難しい状態にあるのだろうか。
プーチンはクレムリン内部の政敵を排除し、自分の配下にある情報機関さえ信用していないのか。彼は本当に死にかけているのか。そうだとして、プーチン後には何が起き、誰が台頭するのか。バイデン政権は、表向きはプーチン重病説を「単なる噂」と一蹴しつつ、実際にはこれらの問題を精査している。
「仮に、その情報は信頼できると判断したとしても彼の賞味期限がいつ切れるかは分からない」と、ODNI幹部は言う。「プーチンなきロシアに(早まって)支持のサインを送るわけにもいかない」
口を滑らせたバイデン
ちなみにバイデン大統領とロイド・オースティン国防長官は口を滑らせ、ロシアつぶしの意図をほのめかしてしまったが、2人ともその後に慌てて撤回している。「プーチンが元気だろうと病気だろうと、失脚しようとしまいと、ロシアが核武装している事実に変わりはない。こちらがロシアをつぶす気でいるなどと、向こうに思わせるような挑発はしないこと。戦略的安定の維持にはそれが不可欠だ」と、このODNI幹部は付け加えた。
DIAの幹部も、プーチンが病気で死にかけているとすれば、それは「世界にとって好ましい」ことだと言いつつ、「ロシアの未来やウクライナ戦争の終結につながるだけでなく、あの狂人が核兵器に手を出す脅威が減るからだ」と説明した。「弱くなったプーチン、つまり盛りを過ぎて下り坂の指導者は、自分の補佐官や部下を思いどおりに動かせない。例えば、核兵器の使用を命じた場合とかに」
確かに、全盛期のプーチンなら閣僚や軍部の反対を押し切って思いどおりの決断を下せただろう。しかし傷ついたプーチンは「もはや組織を完全に牛耳ってはいない」ようだから、そう好きなようにはできないという。
「プーチンが病気なのは間違いない......が、死期が近いかどうかは臆測の域を出ない」。このDIA幹部はそうも言った。「まだ確証はない。こちらの希望的観測を追認するような情報ばかり信じて、自分の疑問に自分で答えを出すのは禁物だ。今もプーチンは危険な男であり、もしも彼が死ねば混乱は必至だ。私たちはそこにフォーカスしている。君も、備えは怠るな」
●民間人死亡者だけで3万人に迫る…終わりの見えないウクライナ戦争 6/4
今月3日で100日目を迎えたウクライナ戦争が「3回目のターニングポイント」に向かって進んでいる。ウクライナと分離独立を主張する親ロ武装勢力が8年間争奪戦を繰り広げてきた東部ドンバスのルハンシク州が、ロシア軍によって陥落する状況に置かれた一方、米国の長距離兵器提供で米ロは再び激しい神経戦を繰り広げた。4月初めのロシア軍のキーウ占領放棄、5月中旬のドネツク州の主要都市マリウポリ占領に続く、戦争の3回目の分水嶺だ。
ロイター通信など海外メディアは1日(現地時間)、ロシア軍がルハンシク州の主要都市セベロドネツクの中心部まで進軍し、市全体の60%を掌握したと報じた。ロシア軍がこの都市を手に入れた場合、近隣都市のリシチャンスクを除いたルハンシク州全体がロシアの統制下に入る。余勢を駆ってリシチャンスクまで占領すれば、長い紛争地域であるルハンシク州全体を掌握したという非常に象徴性の高い勝利を収めることになる。このため、ロシア軍はこの1週間、これら2都市の攻撃にほとんどすべてをつぎ込んだ。
ルハンシクの状況が緊迫している中、ジョー・バイデン米大統領は同日、これまでウクライナへの提供を躊躇していたM142高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS、射程約80キロメートル)を含む兵器支援計画を発表した。バイデン大統領は5月31日、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、兵器提供の目的はプーチン大統領の追放ではなく、ウクライナがロシアとの交渉で有利な位置を占めるよう助けることになると説明した。アントニー・ブリンケン国務長官も「ウクライナが長距離ロケットでロシア領土を攻撃しないことを約束した」と説明したが、ロシアは強く反発した。セルゲイ・ラブロフ外相はロケット支援で「第3国が介入する危険が明らかに存在する」として、米国と直接衝突する可能性について警告した。ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官も「米国が意図的に火に油を注いでいる」と強く非難した。ロシア国防省は、時を同じくして自国軍が首都モスクワ付近で大規模な核戦力機動訓練を行っていると発表した。米国などがこれ以上直接的な軍事介入をしないよう、再び核カードをちらつかせて警告したわけだ。
ロシアの侵攻が始まって早くも100日に達し、これまで戦況が何度も揺れ動いてきたが、この戦争が今後どこに向かうかを予測するのは容易ではない。プーチン大統領がことごとく西側の予測とは異なる選択をしてきたためだ。
ロシア軍は2月24日未明、首都キーウ(北部)、ドンバス(東部)、ヘルソン(南部)の3方向から同時多発的な攻撃を開始した。キーウに向け空輸と機甲戦力を結集させるなど、異例にも素早い作戦を展開し、半日で首都北側境界30キロメートル地点まで進軍した。2日後、キーウ進入の橋頭堡ともいうべきホストメル飛行場まで掌握し、ウクライナがあっという間に崩壊するかもしれないと懸念された。
しかし、状況が急変した。ロシア軍がウクライナの強力な反撃にあい、キーウの早期占領計画に支障をきたし始めたのだ。ウクライナ第2の都市ハルキウの状況も同様だった。ウクライナ軍の強い抵抗と補給問題まで重なり、ロシア軍は侵攻1カ月後の3月23日には、キーウから東に25〜35キロ地点から55キロ地点まで後退せざるを得なかった。トルコの仲裁を受け、ロシアは3月29日、イスタンブールで行われた第5回平和交渉で、「キーウ周辺で軍事作戦を減らす」と約束し、2日後にこれを施行した。 ・・・
●EU、通商協定締結へ取り組み加速検討 ウクライナ戦争など踏まえ 6/4
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)は3日、ウクライナ戦争などの課題に対応するため、第三国との通商協定締結に向けた取り組みの加速を望んでいると表明した。これまでの半年間は中断していた。
ドムブロフスキス氏はルクセンブルクで開かれた閣僚会合で、通商協定の締結、署名、批准のための努力を強化すべきという「非常に幅広いコンセンサス」があったとし、「供給網の安全を確保し、域内の輸出業者に新たな機会を創出するため、現在の地政学的な状況を再検討する必要がある」と言及した。
ドムブロフスキス氏は、EUが通商協定をより重視するようになった主因はウクライナ戦争だが、それだけでなくロシアのウクライナ侵攻に対する中国の「あいまいな立場」も問題とした。
EUの外交官らによると、現議長国であるフランスは4月の大統領選と6月の総選挙を妨げないようにとチリやメキシコなどとの通商協定締結に向けた動きを止めた。
フランスは合意を妨げていることを否定している。7月1日からはチェコがEU議長国となる。
フィンランドのスキンナリ貿易相は会合前に、EUが2019年に南米南部共同市場(メルコスール)と暫定合意した自由貿易協定(FTA)をフィンランドは強く支持したものの、アマゾンの森林破壊に関するEUの懸念によって保留になったと指摘した。
●侵攻から100日、プーチン氏が頼みにする世界の無関心 6/4
時計の針を今年の2月23日まで戻そう。ロシアがウクライナへの全面侵攻に踏み切る前日だ。そうすると次のように推測したくなる人もいるかもしれない。ウクライナのゼレンスキー大統領がその地位にある日も、そう長くはないと。
結局のところ、ロシアの軍事費はウクライナのざっと10倍。陸上部隊では2倍の優位性を誇っていた。核保有国であり、ウクライナの10倍の航空機、5倍の装甲戦闘車両を保持していた。
侵攻のわずか数日前には、見るからに怒った表情のプーチン・ロシア大統領がテレビに登場し、歴史にまつわるとりとめのない独白を行った。その内容から、同氏が望んでいるのはウクライナ政府の体制変更以外の何物でもないことが明らかになった。
プーチン氏はゼレンスキー氏が首都から脱出すると見込んでいたのだろう。ちょうど米国の後ろ盾を受けたアフガニスタンの大統領が、わずか数カ月前に首都カブールを去ったように。さらに西側諸国の怒りもいずれ収まるとみていたと思われる。たとえ一時の痛手を、新たな制裁措置から被るとしても。
あれから100日が経過し、プーチン氏がキーウ(キエフ)での勝利のパレードのために用意していたかもしれない計画は、ことごとく無期限保留となった。ウクライナ人の士気は崩れず、ウクライナ軍は米国と同盟国から供与された近代的な対戦車兵器で武装。ロシア軍の機甲部隊を徹底的に破壊した。ウクライナの放ったミサイルで、ロシア黒海艦隊の誇りだった誘導ミサイル巡洋艦「モスクワ」は沈没した。さらにウクライナ軍の航空機は、予想に反して空での戦いを続けている。
3月下旬、ロシア軍は損耗した部隊をキーウ周辺から退却させ始め、戦略の焦点を東部ドンバス地方の攻略に変更すると主張した。侵攻から3カ月、ロシアはもはや短期間での勝利をウクライナで収めることを目指してはいないようだ。それを達成できそうにもない。
とはいえロシアは現在、ウクライナ領内で三日月型を形成する地域を支配下に置く。第2の都市ハルキウの周辺から始まり、分離主義勢力が押さえるドネツク、ルハンスクを抜けて西へ進み、ヘルソンへと達する地域だ。それはちょうどクリミア半島(2014年にロシアが併合)とドンバス地方とをつなぐ回廊を形成する格好になる。
ロシアによる現在の作戦の主目標はドンバス地方であり、現地では過酷な消耗戦が繰り広げられている。最近の戦闘の中心地は産業都市セベロドネツクの周辺で、ウクライナ軍はここにルハンスク州内最後の拠点を保持している。
ウクライナ軍は既にセベロドネツクの大半をロシア軍に奪われた。同市が陥落すれば象徴的な敗北になるものの、軍事専門家らは現地のウクライナ軍を敗北が濃厚な長期の包囲から救うものになるとの見方を示す。
米シンクタンクの戦争研究所は最近の分析で、ウクライナ政府がセベロドネツクにもっと多くの予備役や資源を投入できたものの、それをしなかったことが批判を招いていると言及しつつ、「セベロドネツクを救う目的でさらなる資源の投入をしない決断、そこから撤退するという決断は、痛みを伴うとしても戦略的には健全だ。ウクライナは限られた資源を節約して、重要地域の奪還に集中する必要がある。戦争の結果や戦争再開の条件を左右しない土地の防衛に集中すべきではない」との見解を示した。
ウクライナ国防省の報道官によると、ロシア軍はセベロドネツクに攻勢をかけつつ、ドネツク、ルハンスク両州でウクライナ軍の包囲を試みている。同時に部隊を再編し、スラビャンスク方面への攻撃にも着手しているという。スラビャンスクは戦略都市で、次の重要な戦闘の中心を形成する可能性がある。
こうしたウクライナ東部の戦闘はキーウ周辺での密集した都市環境と異なり、もっと開けた地形での戦いとなっている。従って、ウクライナ側はより強力な兵器、特に遠距離から標的を狙える砲撃システムを欧米に求める状況となっている。
バイデン米大統領は1日、ウクライナに対しHIMARS(ハイマース=高機動ロケット砲システム)を含むより近代的なロケット砲システムを供与する考えを明らかにした。装備されるロケットの射程は約80キロと、これまで供与されたどの兵器の水準をも大幅に上回る。
これはウクライナ政府にとって歓迎すべきニュースだが、ロシアが東部での攻撃を展開する中、国際メディアによるウクライナ報道は多少トップの扱いから後退しているのが実情だ。そしてプーチン氏はその傾向に期待している可能性がある。おそらく念頭にあるのはエネルギーの価格高騰と消費者物価の上昇だろう。どちらの動きもウクライナでの戦争で拍車がかかっており、米国と他の国々の世論はこの問題に集中する公算が非常に大きい(ひいては選挙の結果をも左右するだろう)。
プーチン氏はまた、外交問題に対する関心がすぐに薄れることも計算に入れているかもしれない。2015年、立て続けに敗北を喫していたシリアのアサド政権への支援を強化したのは他ならぬプーチン氏その人だった。シリアでの戦争は12年目に突入し、今なお続いているが、すでに世界の注目はウクライナへと移っている。
その点で、ゼレンスキー氏はウクライナが情報戦を戦う上での最大の武器の一つになっている。同氏はオンラインで世界中の議会に立て続けに姿を現し、各国の指導者にメッセージを送る。プーチン氏をなだめようとウクライナに向かって領土を割譲するよう求めかねない指導者に対しても、結果的にどうなるかを決めるのは自分ではなくウクライナ国民でなくてはならないと釘をさす。
しかし国内のあらゆる政敵を破滅に追い込み、メディアを効率よく支配するプーチン氏は、ゼレンスキー氏と同じような国内における圧力には直面していない。ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は最近の発言で、ロシア軍はウクライナで「期限を求めていない」と言及。プーチン氏がはるかに制約の少ないスケジュールでウクライナにおける自身の戦争を遂行していることを示唆した。反対にウクライナ軍は、国際社会が戦争に疲れた状態に陥ることを危惧する。それに伴って各国から自国の政府に対し、プーチン氏への譲歩を迫る圧力がかかるのではないかとの懸念を抱いている。
「そっちには時計があるが、こっちには時間がある」。捕らえられたタリバンの戦闘員が発したともされるこの言葉は、アフガン戦争を戦う米国のジレンマを端的に言い表すものだった。そこで嫌々ながら認めているのは、反乱が異なる政治的地平とスケジュールで遂行されていたという点だ。反乱する側の戦闘員らは、技術的に優位な米軍を打ち負かす必要はなく、ただ持ちこたえていればよかった。
このフレーズを流用する場合、ウクライナで決定的な要因となりそうなのは、時間があるのは果たしてどちらかということだろう。死ぬまで権力を握ったままでいそうなロシアの独裁者なのか、それとも国家の生存をかけて戦うウクライナの国民なのか。
●ロシア 東部2州攻勢強める 南部はウクライナ軍押し戻しも  6/4
ロシア軍はウクライナ東部2州で引き続き攻勢を強めていて、ロシア大統領府の報道官は「一定の成果は達成されている」などと強調しました。一方、南部ヘルソン州ではウクライナ軍が押し戻しているという見方も出ていて、一進一退の攻防が続いている模様です。
ロシア軍は引き続きウクライナ東部2州の掌握を目指して攻勢を強めていてこのうちルハンシク州では、ウクライナ側の主要な拠点とされるセベロドネツクのおよそ8割を掌握したとみられます。
また、ドネツク州については、ロシア国防省は3日、交通の要衝スラビャンスクを地上部隊や無人機などによって攻撃し、兵士360人以上を殺害したなどと発表しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は3日「ドネツク州とルハンシク州で一定の成果は達成されている。すべての目標を達成するまで軍事作戦は継続される」と述べ戦果を強調しました。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は2日、「ルハンシク州を掌握すれば、ロシア軍はドネツク州の攻略に乗り出すとみられるが、すでにセベロドネツク周辺で損害が増えていて、ドネツク州を掌握するのに必要な戦力があるとは思えない」と指摘しました。
そして南部ヘルソン州ではウクライナ軍がロシア軍を押し戻していると分析していて、双方の間で一進一退の攻防が続いている模様です。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、新たな動画を公開し「私たちはすでに100日間、ウクライナを守っている。勝利は私たちにある。ウクライナに栄光あれ」と呼びかけ、国民を鼓舞しました。
●「すべての目標を達成するまで軍事作戦は継続される」露ペスコフ報道官 6/4
ロシア軍がウクライナ東部2州での攻勢を強めるなか、ロシア大統領府の報道官は「一定の成果が得られている」との見方を示した。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は3日、掌握を目指して攻勢を強めている東部のドネツク州とルハンシク州について「一定の成果が得られている」と強調した。また「すべての目標を達成するまで軍事作戦は継続される」と述べ、強い姿勢を示した。
一方、ルハンシク州のハイダイ知事は3日ウクライナメディアのインタビューに対し、要衝セベロドネツクの戦闘で、これまでにロシア軍に制圧された地域の20%を奪還したと明らかにした。
ウクライナ軍は南部へルソン州でもロシア軍を押し戻しているとみられ、一進一退の攻防が続いている。
●ロシアで「反戦の動き」高まりプーチン離れ加速 戦地では軍の内紛勃発! 6/4
ロシア軍が攻勢を強めている。近く、ウクライナ東部ルガンスク州全域を制圧する可能性がある。一方、ここへきてロシア国内で一気に厭戦ムードが広がっている。反戦の声が次々と上がっているのだ。
4月以降にあった、公然と戦争に反対する声や、反戦の兆候とみられる動きをまとめたのが<別表>だ。
大手企業、起業家、人気司会者、退役軍人、ジャーナリスト、知事、地方議員、宗教界──と、あらゆる分野に及んでいる。
5月9日の対独戦勝記念日でプーチン大統領は「祖国への献身は最高の価値であり、ロシアの独立を支える強固な支柱だ」と団結を訴えた。国威発揚を狙ったのだろうが、むしろ、戦勝記念日以降、反戦の動きが急増している。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)が言う。
「日に日に各方面のプーチン離れが加速しています。プーチン大統領を取り巻く環境はカオス状態と言っていいでしょう。また、少なくないロシア兵は、何のために戦っているのか分からなくなっています。軍の部隊もバラバラになりつつあります」
どうやら、戦地では内紛も起きているようだ。ウクライナ保安庁が公開したロシア兵の会話とみられる音声では、部隊の内紛の様子がなまなましく証言されている。隊長が銃を振り回し、乱射を始めると、別の兵士が反撃しようと構える。「全員で銃撃戦になりそうだった」という。また、多くが前線に行くことを拒み、600人の部隊が215人になったとも証言している。
ロシア国内のカバルジノ・バルカル共和国の軍事裁判所は26日、ウクライナへの出征を拒否した国家親衛隊員115人への除隊処分を「支持」した。ロシア当局が従軍拒否した兵士の存在を認めたのは初めてとみられる。
「これ以上の戦争遂行は難しいとプーチン大統領自身も感じているはずです。8日にラブロフ外相がトルコを訪問し、プーチン大統領のトルコ訪問を調整するようです。『ロシアの日』である12日にトルコでゼレンスキー大統領との首脳会談を実現し、『一時的停戦』に持っていく可能性があります。もし、近い将来に首脳会談ができなければ、プーチン降ろしが強まる可能性があります」(中村逸郎氏)
和平か、政権崩壊か──ロシアの日に注目だ。 
●蜜月のハズが…ロシア正教トップがプーチンから「離反」の深刻事情 6/4
ロシア正教のトップ、キリル1世総主教の発言が波紋を呼んでいる。
「(ロシア正教の傘下にあった)ウクライナの教会が、苦しんでいることを理解している。悪魔がロシアとウクライナの正教徒を分断させようとしているが、決して成功しないだろう。正教徒たちの生活のために、正しい行動をすべきだ」
5月29日、モスクワのハリストス大聖堂での発言だ。解釈によっては、プーチン大統領によるウクライナ侵攻を批判しているようにとれる。「蜜月」と言われるプーチン大統領の行動を一貫して支持してきたこれまでを考えると、異例のコメントだ。ロシア情勢に詳しい筑波学院大学の中村逸郎教授が語る。
「ロシア正教は、共産主義こそ絶対的なシステムと考える旧ソ連によって迫害を受けてきました。ソ連が崩壊し、資金援助をしてロシア正教を復活させたのはプーチン大統領です。ロシア正教のビジネスを認めるなど厚遇。プーチン大統領にとって、自身を支援する最大の『オルガルヒ』(新興財閥)でもあるんです。
プーチン大統領の狙いは権威づけです。国民の60%以上はロシア正教の教徒。教会内に自身の写真を掲げるなどさせ、独裁的指導者の色合いを強めました。ロシア正教とは、持ちつ持たれつの関係なんです」
プーチン大統領と相互依存関係にあるロシア正教のトップが、なぜ突然「離反」したのだろう。中村氏が続ける。
「理由は2つ考えられます。1つは、のっぴきならないウクライナ情勢です。発言からはウクライナ国民を気遣っているような印象を受けますが、苦戦が続き苦境にあるプーチン大統領と距離を置きたいというのが本音でしょう。
2つ目が、深刻なプーチン大統領の病状です。私は、ガンが身体中に広がりスグに治療が必要な状態だと思っています。ソ連から独立した記念日である6月12日に、ウクライナ東部でのある程度の戦果を報告し、大統領を辞任し療養に専念する可能性もある。ロシア正教はプーチン大統領の権威失墜を考慮し、次の態度を決めようと考えているのかもしれません」
最大の支援団体の一つであるロシア正教が離反となれば、当然プーチン大統領にとって大きな痛手だろう。
「痛手は確かですが、プーチン大統領に権力を手放す気などありません。後継には、自身が影響力を維持できる大統領府局長で36歳のドミトリー・コバリョフ氏を指名すると言われます。若い世代へのバトンタッチは、60代70代の重鎮への『オマエたちの時代は終わった』という通告です。ゆくゆくは息子に後を継がせようと考えている。元新体操金メダリストで『愛人』と言われるカバエワ氏との間に、09年12月に生まれた男児です。『プーチン王朝』の樹立ですよ。
一方、プーチン大統領の独裁やウクライナ侵攻を面白く思わない人々も多くいます。今、モスクワでは水面下で凄まじい権力闘争が行われている。国内最大組織の一つであるロシア正教は、今後の勝者を冷静に見極めようとしるのでしょう」(中村氏)
ロシア正教のトップの発言から垣間見える、権力者たちの血なまぐさい駆け引き。記念日を迎える6月に大きな動きがありそうだ。
●プーチン大統領「ロシアは積み出しを妨害していない」 欧米などの批判に反論 6/4
ロシアのプーチン大統領は3日、侵攻したウクライナ南部の港から穀物輸出が滞り世界的な食料危機を招いているとの指摘について「ロシアは積み出しを妨害していない」と述べ、ロシアの責任とする欧米などの批判に反論した。国営テレビのインタビューに応じた。
世界的な小麦輸出国であるロシアとウクライナの交戦で、両国への依存度が高い中東やアフリカでは供給不安が生じている。ロシアの友好国が多い両地域での批判をかわす狙いとみられる。
プーチン氏は、新型コロナウイルス感染拡大により食料危機は既に始まっていたとし、ウクライナでの軍事作戦に「何の関係もない」と強調。危機への対応を誤った欧米がロシアに罪をなすり付けていると主張した。
ウクライナからの穀物輸出については、黒海のオデッサなどの港から船で輸出することをロシア軍は妨げないと断言。「公海までの安全を保証する」とする一方、港に機雷を設置し封鎖しているのはロシアではなくウクライナだと述べ、除去の責任はウクライナ側にあるとした。
さらに、ウクライナはルーマニアやポーランド、ベラルーシ経由で穀物輸出が可能だと指摘。豊作が見込まれるロシアも世界市場に穀物を輸出し危機緩和に貢献できるとする半面、欧米が対ロ制裁で輸出を妨げ「事態を深刻化させている」と批判した。 

 

●ドイツが80年育てた「ナチス土下座戦略」が終わる? 6/5
ロシアのウクライナ侵攻で、国際的な評価を最も下げた国がロシア自身なことは間違いない。では2位はどの国か……と考えるとドイツの名前が浮上してくる。
侵攻が始まった2日後にウクライナに5000個のヘルメットを送ると発表して「失望した」「ひどい裏切り」と非難されたかと思えば、ゼレンスキー大統領はドイツ下院で「あなた方はまたしても『壁』の向こう側にいる」とお叱りの演説。さらにはドイツのシュタインマイヤー大統領のキーウ訪問が、ウクライナ側から“断られる”事態まで発生した。
「職業はドイツ人」と名乗りドイツの公共放送の日本地域プロデューサーであり、ミステリーや日本アニメを愛するオタクでもあるマライ・メントラインさん。4月に2年半ぶりにドイツで2週間過ごす中で、日本とドイツではウクライナ侵攻への態度に大きな温度差があることに気がついたという。
ドイツはなぜ叱られ続けているのか、国内からの反発はないのか、そして「ナチス」という言葉が飛び交うことについて当のドイツ人たちはどう思っているのだろうか――。

――日本ではウクライナ報道が徐々に減りつつありますが、ドイツはいかがですか?
マライ ドイツにとってはウクライナもロシアも“ご近所さん”なので、今でも毎日のように報道が続いています。ただ侵攻直後の「ロシアを徹底的に叩くんだ!」という雰囲気は一段落して、ドイツにとってベストな戦争の終わらせ方を考える人が増えているように感じました。
「徹底的にロシアをやっつけようという雰囲気はない」
――どういうことでしょう?
マライ たとえば「ロシアをどのくらい弱体化させるのがいいか」という点が議論されています。日本は割と「ロシアには徹底的に弱体化してもらいたい」という空気が強いですよね。
――そう思います。
マライ その日本の感覚はアメリカの希望に沿ったものだと思うんですけど、ドイツ人の中で、ロシアが無くなればいいとか、何もできないくらい弱体化してほしいと思っている人はほとんどいません。侵攻前の境界線くらいまでロシアを押し返す必要はあるけれど、そこからさらに徹底的にロシアをやっつけようという雰囲気はないんです。
――ロシアに強烈な制裁を、という声は大きくないのですか?
マライ この戦争の悪役はどう見てもロシアで、その感覚はドイツでも同じです。ただ、ウクライナやロシアはやっぱり近すぎるんですよ。国内に多くのウクライナ人やロシア人が住んでるし、知り合いもいる。歴史的な関係性も深い。だからウクライナはウクライナのまま、ロシアもロシアのままで存続するのが落ち着くというか、そのバランスを大きく変えることに抵抗がある人が多いんだと思います。
――ロシアから天然ガスを輸入しているなど、経済的な結びつきが強いことも影響しているんでしょうか?
マライ 影響はあると思います。1991年にソ連が崩壊して以来、ドイツの基本的なロシア対策は「経済的にも人的にも交流してお互いズブズブに依存しちゃえば戦争も起きないよね」というものでした。実際に交流を強めて、天然ガスをロシアから運ぶパイプラインも作って、相互依存をどんどん深めてきました。2000年代までは、その方法で結構うまくいっているように見えていたんです。結果的にその見通しは甘かったわけですが……。
ドイツ人は「アメリカへの依存度をこれ以上高めたくない」と思っている
――現在も天然ガスの輸入が続いていることについて、ドイツ人はどんな反応なのでしょう?
マライ ガソリンの値段がものすごく上がっているので、天然ガスが無くなるのも困るというのが正直なところだと思います。ロシアにお金が流れるのは困るけどドイツ国民の生活を犠牲にすることもできない、というか。中東から石油を輸入する準備をしたり4月にショルツ首相が来日して川崎で水素ステーションを視察したり、ロシアの天然ガスに依存しない方法を模索してはいますが、すぐに輸入を打ち切るのは難しいのが本音でしょうね。
――日本は中東の石油の割合が多くてロシアの資源の割合は低いのですが、ドイツはロシアへの依存度が高いですよね。
マライ ドイツ人は「アメリカへの依存度をこれ以上高めず、ヨーロッパはヨーロッパでやっていきたい」という気持ちが強くて、そこが日本とは大きく違います。ロシアからのガス輸入を増やしていたのも、アメリカの影響力が強い中東の石油に頼りたくなかったから、という部分が大きいんです。今回はそれが裏目に出た形ですね。
――確かに日本はアメリカ第一の度合いが強いです。
マライ そうですよね。ドイツも軍事的にはNATO、つまりアメリカに頼って軍事費をずっとケチってきた部分はあるんですが、“EUの盟主”としてアメリカとは一定の距離をおきたい、みたいな願望も強い。あと、今回の戦争についての報道で日本と大きく違うのは「お金」の話です。
「これを自分たちの税金で復興するんだよなぁ」
――戦費や軍事費のような話ですか?
マライ それももちろんですけど、ウクライナの被害状況を見て「これを自分たちの税金で復興するんだよなぁ」と思っているのはたぶん世界中でドイツ人くらいだと思うんです。ドイツは経済的にEUで1人勝ち状態なので、ヨーロッパで何かあったら自分たちが支援するんだという意識をはっきり持っています。今回も武器の提供などですでに相当なお金がかかっていますが、戦闘が終わったとしても、復興支援でドイツにさらなる支出が待っているのは間違いありません。
――確かに、「日本の税金が使われる」という感覚を持っている日本人は多くなさそうです。自分たちの税金が使われることへの反発はないんですか?
マライ ドイツ人は、自分たちが経済的に好調なのはEU諸国から流れ込んでくる優秀な人材のおかげだとわかっているので、ヨーロッパの国を支援すること自体は納得している人が多いです。ギリシャの財政破綻の時も、結構なお金をはらっていますし。ただ、タイミングが厳しいなぁという感覚は正直あるでしょうね。
――タイミングとはどういうことでしょう。
マライ 今年はドイツにとって、古くなった国内インフラをいよいよ一気に整えるぞという年だったんです。16年続いたメルケル体制が終わって、後を継いだショルツ首相が内閣を「内政向き」のメンバーで揃えたのもそのためでした。というのもドイツは長年のケチ政策で、国内のインフラが実はボロボロ。特にインターネット周りは本当にひどくて、電子マネーやクレジットカードを使える店が他国とくらべても少なく、ネットの回線速度もかなり遅いんです。
――ドイツといえば成功している先進国の代表のようなイメージで、それは意外です。
マライ ドイツのネット周りの整備が遅れているのは国内ではネタになるくらい長年の課題で、ようやくそれを解決するための布陣が整った直後に、この戦争が起きてしまった。政府は内政特化チームなのに、戦争という究極の外交問題に対応しなければいけないというハードな状況だったんです。
――それはたしかに厳しいタイミングですね。
マライ どうにもズレた発言が続いて疑問視されているアナレーナ・ベアボック外務大臣はそのあおりを食らっている筆頭ですね。彼女は緑の党の元代表で、気候変動問題などにはとても強いけれど戦争のようなハードな外交は専門ではありません。ウクライナにヘルメットを送って世界中からバッシングされた時も、「首相がメルケルだったらもうちょっとマシな対応ができたのでは」みたいな雰囲気は正直ありました。
――ドイツの初動はかなり迷走している雰囲気がありました。
マライ 1つ同情するとすれば、ドイツにとって、「ロシアと戦う」というのはタブー中のタブーなんです。第二次世界大戦でナチスドイツはソ連で2000万人とも言われる人を殺害していて、それを80年間謝りつづけてきました。なので「ロシア軍と戦うための武器を提供すること」への抵抗感は世界で一番強い。ウクライナ侵攻はどう見てもロシアが悪い、しかし自分たちがロシアと戦っていいのか……という葛藤が政治家にも一般市民にもあったのだと思います。
「ナチスの悪行を謝りつづける」というスタイルが崩れる?
――日本と韓国や中国の関係にも似ている気がしますが、ドイツでは「ロシアに謝りつづける」ことについて国内の意見は一致していたのでしょうか。
マライ 少なくとも今回の戦争が始まる前は、ほとんどのドイツ人が「ロシアには特にひどいことをしてしまった」という意識を持っていたと思います。独ソ戦が終わった5月9日にロシアで「対独戦勝記念日」を祝う式典があるんですが、その式典には毎年ドイツから政治家が出席してナチス時代の戦争を謝罪していました。今年はさすがにドイツ側としても出席するわけにもいかなかったようですが……。ただこれでドイツが80年かけて築いてきたロシアとの関係性が崩れるとすれば、その影響は計り知れません。
――どういうことでしょう?
マライ ドイツは第二次世界大戦の後、ナチスの悪行をとにかく謝りつづけることで国際社会の信頼を得るという土下座スタイルを貫いてきました。ロシアに対しても同じです。ただ今回の戦争で「過去の過ちをロシアに謝る」ことに抵抗感を持つ人が増える可能性は高いですよね。しかもロシア側がウクライナのことをナチの後継者だと難癖をつけていて、ナチスを批判すること自体が若干“うさんくさい”感じになってしまった。そうすると「ナチスの行動を反省しつづける」というドイツ人のアイデンティティが崩れる危険があるんです。
「ドイツや日本が80年かけて育てたアイデンティティが…」
――たしかに、「ナチスって言うやつがナチス」的などっちもどっち論に引きずり込まれそうな気配はあります。
マライ そうなんです。ドイツが今回の戦争で失った最大のものは、実はそれかもしれないと思っています。インフラ整備の機会を失ったことや、ウクライナ支援のための支出、実は軍事的にボロボロだったことが世界にバレた以上に、「悪役ナチスを全否定して反省しつづける」という戦後ドイツを支えた原則の説得力が失われるのは本当に怖い。下手をすると「ナチスはそんなに悪くなかった」というような勢力さえ大きくなりかねないですから。
――第二次世界大戦で負けた国として、日本にとっても他人事ではない悩みな気がします。
マライ 今回の戦争の最大の被害者はもちろんウクライナですが、ドイツや日本が80年かけて育ててきたアイデンティティへの影響もかなり大きいと思います。ロシアはある意味で国ごとカルト化してしまいましたが、それにドイツのネオナチや日本の陰謀論者のような人たちが呼応していく可能性がある。本当に気が重くなりますね。
●対戦車ミサイルはゲームチェンジャーではない 6/5
ウクライナに供与されたアメリカ製の対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」は、2022年2月24日から始まったロシア-ウクライナ戦争で大きな戦果を上げました。首都キーウ防衛に大きく貢献して、侵攻してきたロシアに対するウクライナの抵抗の象徴となったのです。
しかしこれをもってジャベリンさえあれば戦車を倒せる、戦車はもう不要であるという極端な主張さえ一部で出始めました。ただし当のウクライナのゼレンスキー大統領が「反攻作戦の為に各国は戦車を供与して欲しい」と訴えたことで戦車不要論は直ぐに否定された形です。そして実際にポーランドなどからT-72戦車200両以上がウクライナに大量供与され始めています。
戦車と対戦車ミサイルの簡単な歴史の紹介
実は対戦車ミサイルを根拠として戦車不要論が唱えられるのはこれが初めてではありません。例えば過去の有名な事例では今から49年前の1973年の第四次中東戦争で、エジプト軍がソ連製の対戦車ミサイル「9M14マリュートカ(NATO名称:AT-3サガ―)」を使用してイスラエル戦車部隊に大打撃を与えた時も同じような説は唱えられました。しかしその後も戦車は進化し、対抗戦術も編み出され、今もなお戦車は陸上の主力兵器の地位を保ったままでいます。
1916年・・・戦車の初投入(菱型戦車、ソンムの戦い)
1944年・・・対戦車ミサイルの初開発(X-7ロートケップヒェン)
1956年・・・対戦車ミサイルの初投入(SS.10、第二次中東戦争)
1973年・・・対戦車ミサイル「AT-3サガ―」活躍(第四次中東戦争)
1996年・・・対戦車ミサイル「ジャベリン」配備開始
2022年・・・対戦車ミサイル」ジャベリン」活躍(ウクライナ戦争)
戦車は登場から100年近く経ちますが、対戦車ミサイルも70年近く前から存在している兵器です。そして戦車と対戦車ミサイルが本格的に戦い始めてから既に50年近く経ちます。
多くの兵器技術開発競争は一時的にライバルに対し優位になったり再逆転したりを繰り返していくものです。もちろん革新的な新兵器が登場して時代遅れとなった旧兵器を絶滅させてしまうケースもありますが、戦車と対戦車ミサイルについてはそういった関係にはならなかった長い共存と競争の歴史があります。
しかもジャベリンの開発は1980年代後半から1990年代前半で、約30年前の設計の兵器であり、実は新しい兵器ではありません。やや古い部類の兵器です。
   牽引式対戦車砲は絶滅寸前
むしろ対戦車ミサイルが絶滅に追い込みつつある兵器はライバルの戦車ではなく、同業の牽引式対戦車砲だと言えるでしょう。第二次世界大戦では戦車と熾烈な戦いを演じた牽引式対戦車砲は、運びやすい対戦車ミサイルに役割を奪われて現在ではほぼ絶滅しかかっています。
・・・ほぼ? そう、実はウクライナ軍には牽引式100mm対戦車砲「MT-12」が現役でまだ数百門は存在しており、今まさに戦場に投入されています。
なおロシア軍にもMT-12が有る上に、更に強力な牽引式125mm対戦車砲「2A45スプルート-A」「2A45Mスプルート-B」が有ります。
ウクライナ軍が使用中の代表的な対戦車ミサイル
   FGM-148ジャベリン(アメリカ製)
赤外線画像誘導による追尾誘導能力を持つ対戦車ミサイル。発射後に射手が誘導し続ける必要が無い「撃ちっ放し方式」で、射手は即座に離脱を開始できる。戦車の装甲が薄い上面を狙うトップアタックと通常のダイレクトアタックの二通りの飛び方を持つ。ただしトップアタックは一度上昇してから急降下するので、目標とはある程度の距離が必要になる。
   NLAW(イギリス/スウェーデン製)
移動する目標の未来位置を発射前の取得データで計算し、発射後に補正して飛んで行く対戦車ミサイル。追尾誘導は行えない。無誘導対戦車ロケットと誘導対戦車ミサイルの中間の性質を持つ。弾頭の成形炸薬はミサイルの進行方向の90度真下にメタルジェットを打ち出す取り付け方で、ダイレクトアタックに近い浅い角度の軌道でトップアタックが行えるオーバーフライ・トップアタックが可能。この飛び方は接近戦でもトップアタックを行える利点を持つ。
   パンツァーファウスト3(ドイツ製)
無誘導対戦車ロケット。無反動砲として射出後の砲弾は更にロケット噴射し飛んで行く。追尾誘導能力は無く発射後の軌道修正も行わないので命中弾を与えるには接近して発射する必要がある。
   スタグナP/ストゥフナP(ウクライナ製)
レーザー誘導対戦車ミサイル。日本では英語読みの「スタグナ・ピー(Stugna-P)」で知られているが、ウクライナ語読みでは「ストゥフナ・ペー(Стугна-П)」と発音する。目標照準は液晶パネルディスプレイで確認して行い命中までレーザー照射し続ける必要があるが、液晶パネルディスプレイの照準システムは有線ケーブルで発射機と繋いで離して置けるので射手の生存性が高い。ジャベリンのような歩兵1人で携行できる型式ではなく、複数人で携行し固定設置式で機動性に劣るが、その分だけミサイルが大きく有効射程が長い。
なおこの対戦車ミサイルは原型は牽引式100mm対戦車砲「MT-12」用の砲口発射対戦車ミサイル「ストゥフナ(Стугна)」で、歩兵用に口径を大型化し発射機と照準システムを新たに用意したものが歩兵用対戦車ミサイル「ストゥフナ・ペー(Стугна-П)」。末尾の「П」はウクライナ語「Портативний (ポルタテーウネィ)」の頭文字で、つまり意味は英語でならば 「Portable(ポータブル)」。携行式、可搬式。
この他にコルサール(Корсар)、ミラン(Milan)、コーンクルス(Конкурс)、C90-CR、RGW-90マタドール(Matador)、AT4、カール・グスタフ(Carl Gustaf)など、国産装備と供与装備を合わせて現時点で20種類以上の対戦車ミサイルがウクライナ軍で使用中。
●ゼレンスキー大統領 “ロシア軍が修道院破壊 ユネスコ除名を”  6/5
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクをめぐる攻防で「ウクライナ側に致命的な損失を与えた」として戦闘で優位に立っていると強調しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ドネツク州にある歴史的に価値の高い修道院を、ロシア軍が破壊したと非難し、ロシアをユネスコから除名するよう呼びかけました。
ウクライナ東部のルハンシク州とドネツク州では、2州の完全掌握を目指すロシア軍と、抵抗するウクライナ軍との間で一進一退の攻防が続いています。
ルハンシク州のガイダイ知事は4日、ウクライナ側の主要な拠点とされるセベロドネツクについて「激しい戦闘が行われている。ロシア軍は全兵力を投入し、街の大部分が掌握された」と述べました。
そのうえで「ロシア軍は橋を爆破し、ウクライナの部隊の増強を食い止めようとしている」と述べ、ロシア軍がウクライナ軍の補給路を断とうとしているとの見方を示しました。
これに対し、ロシア軍は4日声明を発表し、セベロドネツクをめぐる攻防で「最大で部隊の90%が壊滅する致命的な損失を与えた」として戦闘で優位に立っていると強調しました。
また、ウクライナが穀物を輸出できなくなり、世界的な食糧危機の懸念が高まっている問題に関連して、ロシア軍は、黒海沿岸のヘルソンやミコライウ、それにオデーサなど6つの港で合わせて70隻の外国の船舶が動けなくなっていると指摘しました。
ただ、その理由については「ウクライナ側から砲撃されるおそれがあるためだ」としていて「ロシアが港を封鎖している」とするウクライナ側の主張に反論した形です。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、SNSで、東部のドネツク州にある歴史的に価値の高い修道院を、ロシア軍が破壊したと非難しました。
一緒に投稿された短い動画では、木造の修道院が激しい炎に包まれているのが確認できます。
ゼレンスキー大統領は「第2次世界大戦が終わってからヨーロッパでこれほど多くの文化的・社会的な遺産を破壊した国はロシアだけだ。もはやユネスコにロシアの居場所はない」として、ロシアをユネスコから除名するよう、国際社会に呼びかけました。
●ウクライナ首都にミサイル攻撃 2カ所で爆発・火災―東部拠点、瀬戸際の攻防 6/5
ウクライナのメディアによると、首都キーウ(キエフ)の市内2カ所で5日早朝(日本時間同日午後)、相次いでミサイル攻撃があり、大きな爆発と火災が起きた。一方、ロシア軍が完全制圧を目指す東部ルガンスク州では、瀬戸際の攻防が激しさを増している。
クリチコ市長が通信アプリで明らかにしたところでは、爆発があったのは、中心部と川を挟んで対岸にある東部ドニプロ地区と南東部ダルニツァ地区。現地の報道によれば、火災が発生して黒煙が立ち上った。
キーウは、2月下旬にロシア軍による本格侵攻が始まってしばらく、何度もミサイル攻撃にさらされた。ロシア軍が周辺の北部キーウ州などから撤退して以降は比較的平穏が保たれ、外国政府要人らの訪問が続いていた。ただ、グテレス国連事務総長が訪れた4月下旬にミサイルが着弾し、死傷者が出ている。
一方、ロシア軍が東部2州の「解放」を目標に掲げる中、ルガンスク州の残る拠点都市セベロドネツクをめぐり、一進一退の戦闘が続いている。ロシア部隊の大規模投入を前に、ウクライナ側の抵抗は根強い。
●ウクライナ情勢 セベロドネツクの戦闘一進一退の攻防 6/5
ウクライナ情勢です。東部ルハンシク州の要衝セベロドネツクでの戦闘は、ウクライナが「押し戻している」とする一方で、ロシアは「ウクライナ側が退却している」と主張。一進一退の攻防が続いているとみられます。
ロイター通信によりますと、ルハンシク州知事は4日、州内「最後の拠点」とされるセベロドネツクで「ウクライナ軍の増援を阻止するためロシア軍が橋を爆破している」としつつ、「ウクライナ側が押し戻しロシア軍に大きな被害が出ている」と述べました。
一方、ロシア国防省は声明で、セベロドネツクでウクライナ側が「致命的な損失を受け隣接するリシチャンシクに退却している」とした上で、「化学工場の硝酸などのタンクを爆発させ、汚染地域を作りロシア軍の攻勢を遅らせようと計画している」などと一方的に主張しました。
イギリス国防省はルハンシク州を含むドンバス地方の戦況について、「ロシア軍が空爆と砲撃を併用し最近は成功を収めている」と分析。また、「精密誘導できない爆弾の使用が増え、ほぼ確実に多くの民間人の犠牲が出ている」と指摘しています。
●仏大統領の「ロシアに屈辱を与えてはならない」発言にウクライナ反発 6/5
ロシアによるウクライナの軍事侵攻について、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4日掲載の新聞インビューで「ロシアに屈辱を与えない」ことが大事だと呼びかけ、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、そのようなことを言う国にこそ「屈辱」がもたらされると、批判的なツイートをした。
複数のフランス地方紙が4日に伝えたインタビューで、マクロン大統領は「戦いが止まった日には外交を通じて出口が築けるよう、私たちはロシアに屈辱を与えてはならない」、「仲介者になるのがフランスの役割だと確信している」と話した。さらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自らの「根本的な間違い」から抜け出す道筋を残すのが、何より大事だと述べた。
「自ら孤立するのはともかく、そこから抜けだすのは難しい」とも述べた。
マクロン大統領は開戦以降、西側首脳としては最も頻繁にプーチン大統領と対面や電話で直接対話を繰り返している。
3日には仏メディアに対し、自分はプーチン氏に、ウクライナ侵攻という「歴史的で根本的な間違いを犯した」せいで、今ではロシアが「孤立」してしまっていると伝えたと明らかにした。
「国民と自分自身と歴史にとって、歴史的で根本的な間違いをしたと、本人に伝えた」と、マクロン氏は述べていた。
さらに5月初めにも、ロシアとウクライナの停戦を呼びかけ、西側諸国は「(ロシアに)屈辱を与えたいという誘惑や、報復したいという気持ちに屈してはならない」と強調していた。
イタリのマリオ・ドラギ首相も5月の訪米時に、欧州の人たちは「停戦の確保と、信頼できる交渉の再開について考えたいと思っている」と米ホワイトハウスで述べていた。
これに対して、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、「ロシアに屈辱を与えるなと言うのは、そう呼びかけるフランスをはじめ全ての国に屈辱を与えるだけだ」と反発。
「なぜなら、ロシアに屈辱を与えるのはロシアだからだ。私たちは全員、どうすればロシアに自分の立場をわきまえさせられるかに集中すべきだ。それが平和をもたらし、人命を助ける」と書いた。
ウクライナ政府は、和平実現のための領土割譲はあり得ないという立場を強調している。
セヴェロドネツクで激戦
東部の主要都市セヴェロドネツクでは、ロシア軍が激しい砲撃に加えて戦車や歩兵部隊を投入して攻撃を重ね、これにウクライナ軍が徹底抗戦している。
ロシア国防省は、セヴェロドネツク防衛でウクライナ軍は、一部の部隊で9割の兵士が死亡するなど、甚大な被害を受けていると発表。通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ軍は今では別の都市リシチャンスクの方向に後退していると述べた。ただし、部隊の数などは明らかにしなかった。
他方で、ウクライナ東部ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ州知事は、ロシア軍はセヴェロドネツクの約7割をいったん制圧したものの、ウクライナ側がこれを部分的に押し戻したと発言。ウクライナ軍はセヴェロドネツクの約2割を奪還したとしている。
「西側の長距離兵器が必要なだけそろえば、(ロシアの)大砲をこちらの位置から追い出す。そうすればロシアの歩兵部隊はたちまち逃げ出すに決まっている」と、知事は話した。
双方による主張を、BBCは独自には検証できてない。
ロシアがセヴェロドネツクを制圧すれば、ルハンスク州全域がロシア軍と、ロシアが後押しする分離派勢力の支配下に入る。ロシアと新ロ勢力はすでに、隣のドネツク州の大半を掌握している。
セヴェロドネツクには窒素肥料を作る巨大なアゾト化学工場があり、シヴェルスキー・ドネツ川を挟んだリシチャンスクには、ウクライナ2番目の規模の製油所がある。そのためこの2都市の掌握はロシアにとってきわめて重要な戦略目標となっている。
激戦のためセヴェロドネツクの市街地のほとんどは破壊されているものの、建物の地下には今も数千人の民間人が避難している。
ハイダイ知事は、ウクライナ軍の応援部隊や民間人への救援物資が市内に届くのを防ぐため、ロシア軍が複数の橋を爆破していると話している。
修道院が燃える
東部ドンバスではドネツク州で、木造で有名なスヴィアトヒルスク修道院から出火した。ウクライナ正教会は、戦闘による炎が僧院の聖堂に引火したと述べた。
ウクライナ軍の将校、ユーリ・コチェヴェンコ氏はフェイスブックで「何も神聖視しないロシアの野蛮人が、また犯罪を犯した」と投稿した。
ウクライナ政府はツイッターで、「ロシアの爆撃で、木造のスヴィアトヒルスク修道院が燃え上がった。ここはモスクワ総主教庁系。5月30日にはロシア軍がここで4人の修行僧を殺した。キリル総主教は今度こそ、プーチン大統領に戦争を終わらせるよう呼びかけるのか、それとも引き続きロシア軍を祝福し続けるのか」と書いた。
これに対してロシア国防省は、僧院の火災はウクライナの「ナショナリスト」部隊のせいだと主張している。
国防省は「テレグラム」で、ウクライナ第79空挺旅団の部隊がスヴィアトヒルスクから撤退する途中、「ウクライナのナショナリストたちが木造の僧院に放火した」、「地元住民によると、ウクライナのコザク装甲車に搭載された大口径機関銃で、ドーム屋根の建物の木の壁に向けて一斉射撃したという」と書いている。
国防省はさらに、スヴィアトヒルスクの北に位置するロシア軍は「この地域で戦闘作戦を実施しておらず、スヴィアトヒルスク歴史・建造物保存地区の砲撃もしていない」と説明した。
ロシアはこれまで繰り返し、ウクライナの民間施設や市民居住区への砲撃を否定しており、逆にウクライナ軍が地元住民を「人間の盾」にしていると批判している。しかし、現地ウクライナ人や多数の外国人の目撃情報から、ロシア軍の砲撃で多数の民間施設が破壊されている様子が示されている。
●ダボスで見た「ウクライナめぐる情報戦」の熾烈  6/5
「毎朝起きる時、ウクライナのために自分が何をやれたか考えてほしい」
5月23日、スイスの保養地ダボスで開かれた世界経済フォーラム(通称ダボス会議)の開幕にあたって、ウクライナのゼレンスキー大統領が首都キーウからビデオ中継で特別講演を行った。ダボス会議は世界の政治家や経営者が集い、世界情勢を語り合う場として知られる。
予定より数分遅れて会場正面の大型スクリーンに現れたゼレンスキー氏は、トレードマークとなったカーキ色のシャツを着ていた。その形相がすごかった。やつれたような、何らかの覚悟をもったような、とにかく恐ろしい表情だ。軍事侵攻を受けた国のリーダーはこのような表情をするのか、との考えが頭をよぎった。
歴史は転換点にある
会場となったダボスのホールには各国から駆けつけた数百人のエリートが聴衆として集まっていた。その前段で、ダボス会議創始者のクラウス・シュワブ氏がウクライナ首相、外相、キーウ市長などからなるウクライナ代表団へ起立を求め、会場に拍手を促す一幕があった。
約20分ほどのスピーチでゼレンスキー氏は「歴史は転換点にある。まさしく残虐な勢力が世界を支配するかどうかを決定付ける瞬間だ」などと語り、石油禁輸や銀行封鎖、貿易の断絶などロシアへの「最大限」の制裁を訴えた。
終了後、自然とスタンディングオベーションが起きた。日本ではなかなか実感できない、欧州の団結を感じさせる瞬間だった。
それとは対照的に、ロシアの政治家やビジネスパーソンは誰一人として今回のダボス会議に招かれていない。
今回のダボス会議は異例ずくめだった。新型コロナの世界的な流行を受け、リアル開催は2年半ぶり。会場で入場バッジを取得する際にはPCR検査が求められた。
総参加者数は前回の約3000人から約2500人まで減少。例年なら1月に積雪のなかで開催されるが、今回は延期に次ぐ延期で結局5月開催に。会場周辺には青々とした草原が広がり、小鳥のさえずりが聞こえた。
永世中立国スイスも方向転換
何しろ、地図上で「すぐそこ」のウクライナで戦争が繰り広げられている中での開催だ。ウクライナとロシアを迂回するため日本からスイス方面への飛行時間は通常より1時間以上長くなっていた。戦争が実際に現在進行形で起きていることを意識させられた。
スイスの首都、チューリッヒでは街のあちこちにウクライナの二色旗が掲げられていた。今回の戦争は、欧州の中央に位置するスイスに長きにわたって維持してきた中立を見直させるほどの衝撃なのだ。
スイス政府は、ロシアによるウクライナへの侵攻当初こそEUの制裁に加わらない姿勢を示していた。だが2月28日には早くも方針を変更し、EUと歩調を合わせる形で制裁の発動を発表した。4月上旬の時点で、スイスはプーチン大統領やミハイル・ミシュスチン首相の保有資産を含む約80億ドル相当のロシア資産を凍結している。
最近では、軍事的中立を守ってきた北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構)加盟を申請した。すぐに加盟するわけではないが、スイスでもNATOとの関係強化を望む声が高まっている。
ダボスに設けられた「ロシア戦争犯罪ハウス」は、ゼレンスキー大統領が演説でも言及して世界的に注目された。例年ダボス会議開催中にロシアの代表らが会談を行う「ロシアハウス」を今回はウクライナ側が借り切って、ロシアによる戦争犯罪の証拠を展示する場にしたものだ。
実際に訪ねてみると、生々しい戦争被害を訴える写真が並び、戦火でメチャクチャになった建物を映す動画も放映されていた。「ロシア戦争犯罪ハウス」という命名も含めて強烈で、このバズらせ方はさすがだと思った。現場にいた担当者に聞いてみると、案の定「ウクライナ大統領府が企画に関与している」とのこと。
今回の展示がすべて見られるサイトまでネット上に開設する徹底ぶりだ。ゼレンスキー氏がエンタメ業界にいたこともあってか、ロシアとは対照的にメディア戦略が洗練されていると改めて感じた。
ちなみに、その近くにある「ウクライナハウス」には、こちらもゼレンスキー氏が演説中に触れたユナイテッド24(United24)というウクライナ直接支援のためのプラットフォーム専用の端末が備え付けてあった。そこから暗号資産を含めた様々な方法で寄付が可能になっていた。
ダボス会議では、ウクライナ戦争が話題の中心となり、ウクライナの国会議員も与野党の垣根を越えてワンボイスでまとまって声をあげていた。また、今回の戦争が引き起こし、日本ではまだあまり切迫感を持って語られていない「フードクライシス(食糧危機)」と言う言葉を頻繁に耳にした。アフリカにはウクライナからの食料輸入に大きく依存している国が少なくないためだ。
ダボスでアメリカと中国がつばぜり合い
今回のダボス会議期間中にアメリカと中国の間でちょっとした「事件」が起きた。アメリカのマイケル・マッコール下院議員が、CNNの生中継インタビューで、上記のゼレンスキー大統領のスピーチの際、他の聴衆が拍手を送る中、解振華特使率いる中国代表団が会場から出ていったと「現場写真」とともに批判したのだ。
しかし中国メディアの「財新」はその写真に映るアジア系の男たちが実はベトナムのレー・ミン・カイ副首相率いる同国代表団のメンバーであると報じた。中国の解特使らは演説の時刻には、別の人物と会談中だったとのことだ。
今年の秋に中国では共産党大会が開催される予定で、米国では中間選挙が控えている。そうした両国の国内事情もあり、米中対立は当面より深刻になることはあれど、融和に向かうことはないと予想される。今回の騒動は、米中がウクライナ情勢を巡ってもいがみ合っていることを印象づけた。
ある中国側の参加者は「アメリカはウクライナを利用して自分の手を汚すことなく欧州をまとめ上げ、ロシアを追い詰めている」と陰謀論めいた見方を披露していた。
しかしダボス会議の参加者すべてが、ロシア排除で一枚岩になっているわけではない。
今後注目される国際会議の一つが、11月にインドネシアが議長国として開催することになっているG20首脳会議だ。ダボスで筆者がインタビューしたあるインドネシアの要人は「多様性の中の統一」という同国の国是を引きつつ、ロシアを含めたすべてのメンバーが参加することの意義を強調していた。
次回はロシアからの参加が認められる?
関係者によると、次回のダボス会議は2023年1月に開催されるとのことだ。その時点までにウクライナで停戦が実現していれば、次回にはロシアからの参加が認められる可能性がある。
延期に次ぐ延期で急ごしらえ感が強かった今回のダボス会議に、日米中の首脳の姿はなかった。ウクライナ情勢が深めた世界の分断がさらに進むのか、次回のダボス会議はそれを占う試金石になりそうだ。
●プーチン大統領のトルコ訪問は「終わりの始まり」になるのか 6/5
ロシアのプーチン大統領がトルコ訪問を検討
ロシア大統領府は、プーチン大統領がトルコへの訪問を検討していると明らかにした。実現すればウクライナへの侵略後、初の外国への訪問となる。ウクライナのゼレンスキー大統領と会談する可能性については否定した。
飯田)5月30日にプーチンさんとトルコのエルドアンさんは電話会談をしています。トルコは仲介に熱心ですね。
戦況が動いている証拠
宮家)仲介などできませんよ。相手は核を持ったプーチン大統領ですから。残念ですが、戦争は彼がやめたいときにやめるのです。しかし、おそらくプーチンさんがトルコに行くという発表をしたこと自体が、戦況が少しずつ動いている証拠だと思います。
飯田)トルコに行くということが。
宮家)私は停戦の問題に関して、常に戦場での状況を見なければいけないと思っています。いまの状況は、我々が感じているほどウクライナが善戦しているわけではないと思います。
飯田)現状は。
宮家)戦争とは非情なものですから、人をより多く投入し、より高度な武器を投入した方が勝つ部分があるのですけれど、ウクライナが常に勝っているわけではありません。現状、おそらくロシアは東部へ集中的に兵を動かしています。北はもう捨てましたし、南部も手薄になっています。
東部を獲って勝利宣言をしたいロシア
宮家)ロシアが獲りたいのはやはり東なのです。それで勝利を宣言して、長期戦になることを避けようとしている部分が出てきているのではないでしょうか。
飯田)東部を獲って。
宮家)そのようなものを反映して、プーチンさんはトルコに行くのかどうか……行くのでしょうね。ゼレンスキーさんと会うかは別として、何らかの取引を始めたいのかなという気がしないでもない。
「終わりの始まり」の可能性も
宮家)ただ、ゼレンスキーさんからすればとんでもない話ですし、エルドアンさんはスウェーデンとフィンランドのNATO加盟にも反対しています。トルコだって必死なのです。EUに入れないトルコがNATOには残っているけれど、ロシアとは黒海を挟んで対峙している。もともとトルコとロシアは、長年戦争をやっていた国同士ですから。そういう意味では、エルドアンさんは政権とトルコの利益を最大化するために、いろいろと画策している。これもその一環なわけです。
飯田)プーチン大統領と会うことも。
宮家)国連を巻き込んでいるわけですけれども、国連がいくら騒いでも、残念ながら国連にはプーチンさんを説得するだけの力もないし、納得するはずもありません。終わりの始まりかなと思いたいけれども、まだそこまで言い切る自信がない、そんな感じです。
ロシアがデフォルトになったからといって物事は動かない 〜この戦いはまだ続く
飯田)西側は結束してロシアに制裁を掛け続けています。いよいよ債務不履行になるという報道も出ています。侵略が始まってから100日になりますが、経済制裁は効いているのですか?
宮家)経済制裁は特効薬ではありません。漢方薬のように効いてくるはずです。ただ、デフォルトになったからといって、すぐに物事が変わるかというと、必ずしもそうではないでしょうね。
飯田)デフォルトになったからといって。
宮家)ある程度、石油もガスも売れるわけですから。今だにヨーロッパも一部では石油を買っているし、ガスについては禁輸すらしていません。冬に向かってそんな決断をできるわけがありません。
飯田)そうですね。
宮家)現金収入があるということです。今後ルーブルが買われるかどうかは別として、経済制裁は徐々にしか効いてこない。となると、プーチンさんは中長期的には、厳しいことはわかっているけれど、短期的にはまだ勝負できると思っているでしょう。そういう状況で双方が素直に停戦に応じるかと言ったら、正直分からない。どちらもまだ負けているとは思っていないですからね。
飯田)どちらも。
宮家)ウクライナの方は、これから高性能の武器がくるので、6〜7月がチャンスだと考えているはずです。そうなると、仮にプーチンさんが近日トルコに行ったところで、すぐに物事は動かないのではでしょうね。残念ですが。
ウクライナが激しく抗戦すれば、ロシアが化学兵器を使用する可能性も
飯田)そうすると、6〜7月にウクライナが反転攻勢をかけるのかどうか。そして反転攻勢をかけられたロシアは、化学兵器や核など、別の兵器に手を出すのか。
宮家)核はともかくとして、化学兵器は十分あり得るでしょうね。それからいまロシアは、「他の国に波及する」などと言っていますが、あれは威嚇だと思います。しかし、そのオプションを使う可能性はゼロではありません。そこは我々も頭に置いておくべきでしょう。
●ウクライナ入りした日本人が見た現地 戦争理解できぬまま痩せ細る子ども… 6/5
ロシアの侵攻が始まってから、約3カ月が経ったウクライナ。日々その現状は伝えられているが、今回、現地を訪れた鹿児島出身の関雄貴さんに話を聞いた。関さんは、ボランティアでルーマニアとの国境付近のウジホロド市に滞在し、首都キーウ周辺にも支援物資を運びに行った。約2週間の滞在で見えてきたものとは。
侵攻から3カ月…ウクライナ入りした日本人男性が見た現状
銃弾で穴だらけになった車、爆撃を受けた住居…。ロシアによる軍事侵攻で攻撃を受けたウクライナの現状が、生々しく伝わってくる映像だ。撮影したのは関雄貴さん(31)。鹿児島市で生まれ、22歳までを過ごした。現在は日本とアメリカを拠点に広告代理店を営んでいる。
美川愛実アナウンサー: 関さんがウクライナを訪れた理由は何だったんですか?
ウクライナ入りした関雄貴さん: 元々支援活動はしていたが、実際にそこの声を聞いて、困っている人たち、末端の人たちに何か協力できることはないかという思いで来ました
関さんは自ら手配した支援物資を配りながら、約1週間、首都キーウ周辺を巡った。
関雄貴さん: 車とか家は生々しくそのまま残っている状態。においとかも残っていて、なのでよりリアルを感じた
栄養失調や痩せ細った子ども…戦争を理解できないまま命をつなぐ
関さんには、特に衝撃を受けた場所があったという。
関雄貴さん: 子供たちが生活するスペースが全然足りてなくて。馬小屋を改築して即席でつくった部屋みたいなものがあって、栄養失調だったり痩せ細って…その時ムービーとかは撮る勇気がなかった、深刻すぎて。現地の子供たちは何がどうなっているのか分かっていない
「すぐ入れるような」孤児院設立を決意 市も土地の提供決定
戦争を理解できないまま、親を亡くし狭いスペースで命をつなぐ子どもたち。その様子を目にした関さんは、ウクライナに孤児院を作ることを決めた。
関雄貴さん:200人ぐらい入れる施設を希望されていて、早急に受け入れができるように、既存の家を使って、すぐ入れるような施設を造ろうとしている
滞在していたウジホロド市は、関さんに土地を提供することを決めたという。今回の滞在をきっかけにウクライナでの活動をスタートすることになった関さんに、鹿児島にいる人たちに今、伝えたいことを聞いた。
関雄貴さん:そこに困っている人がいるんだったら僕はその人を助けたい。日本は平和すぎて、人ごとにしか思えていないと思う。みんなの関心が変わってくれればうれしい
侵攻が始まって3カ月。日々その惨状を目にしながらも、どこか人ごとになっていないか。ウクライナには今この瞬間にも助けを求めている人たちがいる。
●ロシア軍がキーウをミサイル攻撃 ウクライナ軍は東部で反撃  6/5
ウクライナでは、ロシア軍が首都キーウの2つの地区をミサイル攻撃するなど、攻勢を強めているのに対して、ウクライナ軍も東部などで欧米から供与された兵器を使って反撃し、各地で激しい戦闘が続いています。
ロシア軍は5日朝、ウクライナの首都キーウの2つの地区をミサイルで攻撃し、ウクライナの当局によりますと、これまでに1人がけがをしたということです。
キーウのクリチコ市長によりますと、この地区は市内を流れるドニプロ川東部のダルニツキーとドニプロフスキーだということです。
さらにロシア軍は、東部のルハンシク州で、ウクライナ側の主要拠点とされるセベロドネツクの完全掌握を目指し、攻勢を強めています。
これに対してウクライナ軍は、セベロドネツクで抵抗を続けるとともに、ルハンシク州に隣接するドネツク州ではロシア側の支配地域を集中的に砲撃し、反撃に転じています。
ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力によりますと、ウクライナ軍は、アメリカが供与した大型のりゅう弾砲のほか、火力の強い多連装ロケット砲を使用し、ドネツクでは4日から5日にかけて、640発以上が着弾したとしています。
こうした中、ロシアのラブロフ外相は4日、テレビのインタビューで「現在の国際的なエネルギー価格の水準を考慮すると、われわれが予算上の損失を被ることはない。逆にことしは、エネルギー資源の輸出による利益が大幅に増えそうだ」と述べました。
ラブロフ外相としては、経済制裁がロシアに与える財政上の損失は、限定的なものにとどまるという見通しを示すことで、対抗姿勢を強調するねらいがあるとみられます。
●ウクライナ情勢受け、日用食料品の価格が上昇 英国、ロシア、ウクライナ 6/5
英国国家統計局(ONS)は5月30日、2021年4月から2022年4月までの食料品価格の分析を公表した。ONSは、英国の大手スーパーマーケット7社のオンラインサイトで販売されている30品目の日用食料品・飲料を対象に、各商品の最安値の相場を収集し分析。英国では消費者物価指数(CPI)が記録的な上昇をみせているが、今回の分析では30品目中13品目の平均最低価格の上昇率が、4月の食品・非アルコール飲料のインフレ率(前年同月比6.7%)を上回ったとしている。一方で、食品ごとにばらつきもみられ、1年間で15%以上の値上がりした食料品もあれば、値下がりした食料品もあったとしている。
商品別にみると、パスタは2022年4月に前年同月比50%増(500グラム当たり17ペンス増)(約27円、1ポンド=100ペンス、1ポンド=約160円)、ポテトチップスは17%増(150グラム当たり12ペンス増)、パンは16%増(800グラム当たり7ペンス増)、牛ミンチは16%増(500グラム当たり32ペンス増)、コメは15%増(1キロ当たり12ペンス増)となった。一方、ジャガイモは14%減(2.5キロ当たり12ペンス減)、チーズは7%減(255グラム当たり7ペンス減)となった。また、2022年3月から4月にかけて大きく値上がりした製品としては、シリアル(6%)、冷凍ミックスベジタブル、植物油(ともに5%)が挙げられる。国連食糧農業機関(FAO)の4月8日の発表によると、ヒマワリ種子油の世界最大の輸出国であるウクライナがロシアによる侵攻を受けた影響で、植物油価格指数が23.2%上昇した。同国はトウモロコシや小麦などの穀物の主要産地でもあり、これらも価格が高騰している。4月23日付「スカイニュース」によれば、英国で消費される植物油も多くがウクライナ産で、侵攻以降、植物油の価格高騰が指摘されている。
英国スーパーマーケットチェーンのアズダは5月30日に、低価格帯商品の新ブランド「Just Essentials by Asda」の発売を開始することを発表。アズダのサム・ディクソン副社長は新ブランドについて、顧客の10人中9人が生活費の危機を懸念している状況を踏まえ、従来の商品と同じ価値で多様な商品を提供するために開発した、と述べている。英国スーパーマーケットチェーンのセインズベリーズは5月30日、生活必需品などの主要商品に焦点を当て、価格を抑えるために2021年度から2023年3月までに総額5億ポンドを投じると発表している。
●ウクライナ勝利に「希望」託す ベラルーシの人権改善で―記者協会会長 6/5
ベラルーシ記者協会(BAJ)のアンドレイ・バストゥネツ会長が、4日までにパリで時事通信のインタビューに応じた。ベラルーシではルカシェンコ大統領による反政権派弾圧が続いているとして、人権の改善が困難な状況だと指摘。「人権状況の改善には国の政治体制を抜本的に変える必要がある」と述べつつも、「後ろ盾であるロシア(との戦争)にウクライナが勝てば、改善するかもしれない」と希望を託した。
バストゥネツ氏は「ベラルーシで記者として働くのは大きな危険を伴い、非常に難しい」と強調。自身も弾圧を恐れ、リトアニアに拠点を移したという。「最近はベラルーシの内政に関する報道が少なくなってきた」と語り、「国際社会には、国内のほとんどの人々が現政権に反対していることを忘れず、(ベラルーシのことを)語り続けてほしい」と訴えた。
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」によれば、ベラルーシでは現在、報道関係者28人が身柄を拘束されている。RSFが5月に公表した「報道の自由度」では、同国は世界180カ国・地域中で158位だった。
BAJは独立系メディアに携わる1300人以上の会員で構成。昨年8月にベラルーシ当局が解散を命じたが、今も活動を続けている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は今年4月、報道の自由の擁護と促進に貢献した個人や団体に与えられる「ギレルモ・カノ賞」をBAJに授与した。同賞は昨年、ノーベル平和賞を受賞したフィリピンの記者マリア・レッサ氏に贈られた。
●空襲警報が鳴り響くウクライナ首都キーウ 朝、夜だけでなく日中も 6/5
「ウーウー」。ロシアによる軍事侵攻が100日以上を経過した今でも、ウクライナの首都キーウでは空襲警報が鳴り響く。早朝や夜間だけでなく、日中でもサイレンのような音が市内に突然流れ始める。一度流れると数分間続く。ロシアのミサイル攻撃があったとされる5日早朝も、警報が鳴った。
市民は一見、落ちついた様子で、慌てることもなく、生活を続けている。地下鉄は営業し、市内中心部の世界遺産の教会では週末の人出でにぎわっている。
しかし、キーウ近郊で年配の両親と生活する女性は「ロシアからのミサイルが自宅に直撃するのではないかと思い、非常に怖い。しかし、両親を置いて国外に避難することはできない」とおびえながらの市民生活を続けている。
●プーチン氏、攻撃拡大警告 武器供与で米欧けん制  6/5
ロシアのプーチン大統領は5日放映された国営テレビのインタビューで、ウクライナに長距離砲撃が可能な武器を供与すれば「これまで標的としていなかった対象を攻撃する」と述べ、米欧をけん制した。ロシア主要メディアが伝えた。
プーチン氏は、ウクライナへの武器供与を「一連の騒ぎ」と表現。「私の見解では(供与の)目的は一つ、できるだけ長く軍事衝突を長引かせることだ」と述べ、米欧が意図的に戦闘を長引かせていると主張した。
米国が追加軍事支援として5月末に供与を表明した高機動ロケット砲システム「ハイマース」について「(技術的に)新しいものは何もない」と指摘した。
●プーチン氏、米欧の長距離砲供与に警告 6/5
ロシアのプーチン大統領は5日放映された国営テレビのインタビューで、ウクライナに長距離砲撃が可能な武器を供与すれば「これまで標的としていなかった対象を攻撃する」と述べ、米欧をけん制した。

 

●ロシア軍 キーウをミサイル攻撃 プーチン大統領 欧米をけん制  6/6
ロシア軍は5日、ウクライナの首都キーウをミサイルで攻撃しました。一方、東部ではウクライナ側の激しい抵抗が続き、ロシアのプーチン大統領は「もしウクライナに射程の長いミサイルが供与されれば、われわれは攻撃する」と述べ、軍事支援を強める欧米をけん制しました。
ウクライナの首都キーウで5日、ミサイルによる攻撃があり、ウクライナ軍は、カスピ海上空を飛行していたロシア軍の爆撃機が5発の巡航ミサイルを発射したことを明らかにしました。
このうち1発はウクライナ軍によって迎撃されましたが、地元メディアによりますと、残りの4発が鉄道車両の修理工場に着弾し、作業員1人がけがをしたということです。
一方、東部では、攻勢を強めるロシア軍に対し、ウクライナ側の抵抗が続き、内務省が管轄する準軍事組織「国家親衛隊」は5日、ロシア側の戦車や装甲車を次々と破壊する動画をSNSで公開しました。
ウクライナ軍の参謀本部は、2月に侵攻が始まってから6月5日までに戦死したロシア側の兵士が3万1150人に上ると主張しています。
またイギリス国防省は最新の戦況分析で、ロシア軍は東部ルハンシク州での戦闘に、装備や訓練が貧弱な親ロシア派の予備役の兵士を動員しているとした上で「ロシア軍の勢いは鈍い」と指摘しました。
抵抗の原動力となっているのが、欧米各国が供与する最新鋭の兵器で、プーチン政権は、アメリカが新たに供与を決めた高機動ロケット砲システム=ハイマースなどに警戒を強めているとみられます。
こうした兵器をめぐってプーチン大統領は、5日に放送された国営テレビのインタビューで、射程距離が短く脅威にはなっていないという認識を示しました。
しかし「もしウクライナに射程の長いミサイルが供与されればわれわれは、新たな標的を攻撃するだろう。破壊するための手段は十分にある」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米をけん制しました。 
●ウクライナ戦争「どちらが勝利に近いか」を言えない理由 6/6
ウクライナ戦争が始まって既に100日余り。戦争がどこへ向かっているかは、混迷を深めるばかりだ。
2月24日にロシア軍が侵攻を開始した当初は、数日もしくは数週間以内にウクライナの首都キーウ(キエフ)が陥落するという見方が一般的だった。この時点で6月になってもまだ戦闘が続き、ウクライナのゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はいなかった。
軍事アナリストたちの分析により、現時点でどちらの部隊がどの地域を押さえているかという詳細な戦況は明らかになっている。
しかし、アナリストたちも認めているように、戦争の全体像は不透明だ。どちらが勝利に近づいているともはっきり言えない。
その1つの要因は、双方にとっての「勝利」と「敗北」の定義が明確でないことだ。
ゼレンスキーは2月24日より前の境界線が回復されれば、ロシアのプーチン大統領との交渉に応じる用意があると述べている。
ここで言う2月24日より前の境界線の回復とは、ウクライナ領からロシア軍が全て撤退することを意味するのか。その中には、東部のドンバス地方全域も含まれるのか。開戦前に親ロシア派武装勢力が支配していた地域にロシア軍部隊がとどまることは受け入れるのか。また、クリミア半島の扱いはどうなるのか。
一方、プーチンとその周辺は、ゼレンスキー政権を欧米の帝国主義者に操られたネオナチ勢力と非難し、ウクライナが主権国家として存続することに異を唱えている。
この姿勢を崩さなければ、プーチンにとってゼレンスキーとの交渉などあり得ない。
プーチンが考える「勝利」とは、ドンバス地方を占領するだけでなく、実質的にウクライナという国を消滅させることを意味するのだ。
いずれにせよ、双方とも差し当たりは戦闘をやめたいと考える理由がない。ロシアもウクライナも、遠くない将来に決定的勝利を収められるかもしれないと期待している可能性があるからだ。
最近、ロシア軍はウクライナ軍の陣地に対してロケット砲による攻撃を強化している。ウクライナ軍のロケット砲はこれより射程が短く、有効な反撃ができていない。
バイデン米大統領は、ロシア軍のものに匹敵する射程を持つロケット砲をウクライナ軍に提供することを表明した。これにより、戦況が大きく変わる可能性がある。
ただし、アメリカからの兵器が到着し、ウクライナ軍がそれを用いるために必要な訓練を終えるまでには、まだしばらく時間がかかる。その間に、ロシア軍の砲撃がウクライナ軍にどの程度の打撃を与えるかが焦点になる。
ロシア側にも不安材料はある。戦争を継続するために不可欠な資源が底を突き始めているのだ。
兵士の数も足りなくなりつつあるし、武器も十分でない(この戦いに投入した戦車の4分の1が既に使用不能になったという)。そして何より士気の低下が深刻だ。
こうした問題点は、プーチン自身よく理解している。最近、軍幹部を少なくとも5人以上解任したことはその表れだ。
しかし、欧米諸国が戦争による経済的打撃に対して我慢の限界に達しつつあることも、プーチンは承知している。
以上の事情を考えると戦争は当分続きそうだ。この戦争がどこに向かっていて、どちらが勝つのかもまだ見えてきそうにない。
●ロシアVSウクライナ戦争拡大を未然に防いだEUの英断 6/6
EU理事会が3日、ロシアに対する第6次制裁パッケージを決定したが、そこでちょっとした異変が起きた。
当初、制裁リストに加わっていたロシア正教会の最高指導者キリル総主教が最終段階になって、制裁リストから外されたのである。
フランスの通信社がこう報じている。最近のフランス発のウクライナ戦争やロシア情勢に関する報道は、米英発、日本発のものと異なる切り口や内容のものがあるので要注目だ。
<欧州連合は2日、ウクライナに侵攻したロシアに科す追加制裁について、ハンガリーの反対を受け、ロシア正教会の最高指導者キリル総主教を対象から外すことで合意した。外交筋が明らかにした。/EUの追加制裁をめぐっては先月30日、パイプライン経由で輸送されるロシア産原油を禁輸対象から除外するよう求めたハンガリーのオルバン・ビクトル首相の要求を各国首脳が受け入れたことで、合意にこぎつけたとみられていた。だがオルバン氏がさらに、キリル総主教も制裁対象から外すよう主張したことで、各国は再びハンガリーの要求をのまざるを得なくなった。>(3日、AFP=時事)
欧米や日本では、キリル総主教がプーチン大統領と親しく、ウクライナを侵攻するロシア軍部隊を祝福したことに対する反発が強まっている。しかし、これは正教会の政治的体質についての無理解からくるものだ。
そもそもこれは歴史的に西ローマ帝国の伝統を継承するカトリック教会(プロテスタント教会は歴史的に見ればカトリック教会の分派)と正教会の違いからくる。カトリック教会の理解では、宗教的権力と権威は教会が持ち、その最高責任者がローマ教皇である。すなわち教会の権力と世俗の権力は分離されている。対して、東ローマ帝国(ビザンティン帝国)の伝統を継承する正教会(ギリシア正教会、ロシア正教会、ウクライナ正教会、ルーマニア正教会など)では、カエサル・パピズム(教皇皇帝主義)といって、宗教と国家は緊密な協力関係にある。
各国正教会の最高指導者が戦争に際して自国を支持するのは正教会では普通の現象だ。ウクライナの正教会は分裂しているが、いずれの教会もゼレンスキー大統領を支持している。
オルバン氏は、EUの制裁対象をキリル総主教まで広げるとロシアの国民感情を刺激し、この戦争が宗教政策の性格を帯びることを懸念したのだ。筆者はオルバン氏の奮闘に敬意を表する。
●ロシアのウクライナ侵攻はプーチンによる「歴史戦」の末路 6/6
5月9日は、ロシアにとってもっとも大切な記念日です。1945年のこの日、ソ連軍と連合軍がベルリンを陥落させてドイツが無条件降伏し、ヨーロッパでの戦争は終わったのです。
プーチン大統領はこの戦勝記念日で、「われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ」と述べたうえで、2月から始まったウクライナへの侵攻を「侵略に備えた先制的な対応」だと正当化しました。
いうまでもなく、ウクライナにはロシアを侵略する意図もその能力もなく、これを「自衛」だとするのは詭弁以外のなにものでもありません。しかし、ロシア国民の多く(独立系調査機関の世論調査によれば7割以上)がプーチンを支持している以上、これをたんなるフェイクニュースと切り捨てることもできません。
プーチンの演説に一貫しているのは、異様なまでの被害者意識です。そしてこれは、多かれ少なかれロシアのひとびとにも共有されています。
1991年にソ連が崩壊してバルト三国やウクライナなどが独立、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーなどの衛星国は民主化を達成してソ連の影響から離脱しました。これを受けてEUとNATOは東へと拡大し、いまではベラルーシを除くすべての国が「ヨーロッパ」の一員になることを希望しています。これはすなわち、ロシアが「ヨーロッパ」から排除されるということでもあります。
それと同時に、バルト三国や中・東欧の国々で「歴史の見直し」が始まり、ソ連によってナチズムからの解放されたのはなく、ナチズムとスターリニズムの「2つのファシズム」に支配されたのだと主張するようになりました。“リベラルの守護神”であるEUも新加盟国と歩調を合わせ、ヒトラーとともにスターリンによる虐殺や粛清などの暴虐行為を非難するようになります。
しかしこれは、ロシアにとってとうてい受け入れることのできない「歴史観」でした。独ソ戦はヒトラーが不可侵条約を破って一方的に侵略を開始したもので、この「絶滅戦争」によってソ連は1億9000万の人口のうち戦闘員・民間人含め2700万人が犠牲になりました。そして、この「大祖国戦争」を勝利に導いたのはスターリンなのです。
このようにして2000年前後から、ヨーロッパとロシアのあいだで「記憶をめぐる戦争」が始まり、ウクライナもこれに加わります。そこでは中・東欧諸国とロシアの双方が、自分たちこそが「犠牲者」だと主張しあうことになります。
このような経緯を紹介したのは、ロシアにもなんらかの理があるというDD(どっちもどっち)論をするためではありません。軍事的にはまったく安全を脅かされていないロシアがなぜ無謀な侵略行為を始めたのかを理解するには、これが「アイデンティティの戦争」だと考えるほかないのです。
日本でも保守派のメディアなどが、東アジアでの過去をめぐって「歴史戦」を煽ってきました。わたしたちはその「末路」がどうなったのか、いちど冷静に考えてみるべきかもしれません。
●ウクライナ東部セベロドネツク 地元の知事「5割まで奪還」 6/6
ウクライナでは5日、ロシア軍が首都キーウをミサイルで攻撃し、鉄道車両の修理工場が被害を受けました。一方、東部ルハンシク州のセベロドネツクでは、ウクライナ軍が市の5割まで奪還したことを地元の知事が明らかにするなどウクライナ側の激しい抵抗が続いています。
ウクライナ軍などによりますと5日、ロシア軍の爆撃機が首都キーウに5発の巡航ミサイルを発射し、このうち4発が鉄道車両の修理工場に着弾し作業員1人がけがをしたということです。
ウクライナ当局は、ミサイルが着弾した場所だとする現場を5日報道陣に公開し、映像には、建物の外壁や屋根が大きく壊れ、一部がまだ燃え続けていたり、がれきが散乱していたりする様子が写されています。
一方、東部ルハンシク州でウクライナ側の主要拠点とされるセベロドネツクでは、完全掌握を目指すロシア軍と反撃するウクライナ軍との間で激しい攻防が続いています。
こうした中、ルハンシク州のガイダイ知事は5日に「ロシア軍はセベロドネツクを70%支配していたが、この2日間で彼らは撃退され、ウクライナ軍は市の半分まで取り戻した」とSNSに投稿し、ウクライナ軍がロシア軍を押し返し、市の5割まで奪還したことを明らかにしました。
イギリス国防省は最新の戦況分析で、ロシア軍は東部ルハンシク州での戦闘に、装備や訓練が貧弱な親ロシア派の予備役の兵士を動員しているとしたうえで「ロシア軍の勢いは鈍い」と指摘しました。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領はセベロドネツクに隣接する都市などを訪問したことを6日、明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は、軍の司令官と話したり、兵士と一緒に写真を撮ったりする動画をSNSに投稿したうえで、ビデオ演説で「出会ったすべての人を誇りに思う」と述べ兵士らを激励しました。
ウクライナ軍の抵抗の原動力となっているのが、欧米各国が供与する最新鋭の兵器です。
これに対して、プーチン大統領は、5日に放送された国営テレビのインタビューで、射程が短く脅威にはなっていないという認識を示しました。
一方で「もしウクライナに射程の長いミサイルが供与されればわれわれは、新たな標的を攻撃するだろう。破壊するための手段は十分にある」と述べ、ウクライナへの軍事支援を強める欧米をけん制しました。
●ウクライナの修道院が炎上 ロシア軍の砲撃で 6/6
ウクライナのゼレンスキー大統領が4日、東部ドネツク州にあるスビャトヒルスク修道院の敷地内の木造建築物がロシア軍の砲撃で炎上したと明らかにした。ロシアを「野蛮なテロ国家」と断じ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの追放を求めた。また、ロシア軍との戦闘が続く東部ルガンスク州とドネツク州を訪れ、前線のウクライナ軍部隊を視察した。
「ロシアは野蛮なテロ国家」
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、通信アプリ「テレグラム」で、ウクライナ東部ドネツク州にあるスビャトヒルスク修道院の敷地内の木造建築物がロシア軍の砲撃で炎上したと明らかにした。ゼレンスキー氏はロシアを「野蛮なテロ国家」と断じ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの追放を求めた。修道院の敷地内には子供60人を含む市民300人が避難していたとしているが、死傷者などの詳細は不明。
東部の前線部隊を視察
ウクライナ政府は6日、ゼレンスキー大統領がロシア軍との戦闘が続く東部ルガンスク州とドネツク州を訪れ、前線のウクライナ軍部隊を視察したと明らかにした。2州の訪問に先立ち、南東部ザポロジエ州も訪れた。5月下旬の北東部ハリコフ州訪問に続く前線視察で、兵士らを鼓舞する狙いがあるとみられる。
●非武装中立のバルト海諸島、ウクライナ情勢に戦々恐々 6/6
戦闘が続くウクライナは、海と陸を隔てた2000キロ以上の彼方に存在する。だが、フィンランド南岸のオーランド諸島に住む人々は、ロシアによるウクライナ侵攻が自分たちの暮らしを永久に変えてしまいかねないと危惧している。
ロシアのウクライナ侵攻は数十年続いた欧州の安全保障政策を覆したが、ロシアと長い陸の国境を接するフィンランドほど状況が一変した国はほかにない。同国は今年5月、ロシアに報復措置を警告されながらも北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。
フィンランドのNATO加盟が、同国の自治領であるオーランドにとって何を意味するかは、まだはっきりしない。しかし、スウェーデン語を話すこの地の住民らは、大切にしてきた自治権が脅かされかねないと心配している。国際協定によって自治権を与えられ、非武装の中立地帯となってから、オーランドは昨年で100周年を迎えた。
ところが、バルト海一帯とロシアとの緊張が急激に高まる中、フィンランドとスウェーデンに挟まれた戦略上の要衝に位置するオーランド諸島を非武装のままにしておくことに、フィンランド国民の一部は疑問を呈し、特別な地位は過去の遺物だと訴え始めている。
フィンランド国際問題研究所の防衛政策研究員、チャーリー・サロニウスパステルナク氏はスウェーデンのテレビで「1国に対して特定の地域を守る責任を求めながら、その地域の防衛に向けて本格的に準備することを許さないというのは、つじつまが合わない」と語った。
オーランド自治政府のベロニカ・ソーンルース首長は、中立の地位を破棄すべきだとの意見には同意できないと言う。NATO加盟による影響を受けないとの言質をフィンランド政府から得ていると指摘し「これがフィンランドの大統領および政府の示した認識であり、われわれオーランド住民はそれ以外の見解を有していない」と語った。
自治権か安全保障か
オーランド諸島は戦略的に重要な場所にあるため、長年にわたって周辺諸国が所有権争いを繰り広げてきた。最初にオーランドに中立的地位を与える協定が締結されたのは、クリミア戦争後の1856年だ。
オーランドの住民約3万人は、伝統的な中立的地位に今でも誇りを抱いている。大半の住民は、森の中に赤い木造住宅が並ぶ最大の島に住み、主に海運業に携わっている。
島民は、フィンランドもしくはNATOの軍が来て自治権が弱まる可能性を懸念する一方で、ロシアに侵攻された場合に自衛できるかどうかという心配も抱いている。
漁師にして猟師、ビジネスマンでもあるヨハン・モーンさんは、少年のころから周辺の海で船に乗り、オーランド諸島のことなら知り尽くしている。
「水先人だった祖父は、第2次世界大戦中に機雷が仕掛けられた際、この海で航行を助けていた。フィンランドがソ連に攻撃された時には、スウェーデンから物資を届けた。今のわれわれの技術も使えるかもしれない」。モーンさんは、全長10メートルある自身のモーターボートに乗りながらこう語った。
モーンさんはロシアの船や怪しい行動を見張るため、地元の有志によるネットワークを作りたい考えだ。一方で、オーランドの非武装維持を全面的に支持しており、フィンランド軍がオーランドを守ってくれるとも信じている。
「われわれも世間知らずではない。今のロシアのやり方を見ていると、ウクライナを奪い、さらに他の国も狙っているのは明らかだ。仮に最悪の事態になっても、われわれはこの地域を知り尽くしており、武器の扱いにも慣れている」と語った。
●ウクライナ情勢 松野官房長官「長期化の原因はプーチン大統領の意思」 6/6
ロシアのウクライナ侵攻から100日を越える中、松野官房長官は事態の長期化のおそれについて、原因はロシアのプーチン大統領にあるとの認識を示しました。
松野博一官房長官「侵略の長期化のおそれがあるとすれば、その原因はプーチン大統領の意思にあると認識をしています」
松野官房長官はプーチン大統領について、「『最初に設定された目的が完遂されるまで、軍事作戦を継続する』と述べている」とした上で、このように指摘しました。また、ロシアの侵攻を停止させ、対話への道筋を作るためには、「国際社会が結束し、強力な制裁措置を講じつつ、ウクライナを支援していくこと」が必要だと強調しました。
●プーチン氏、西側の長距離兵器供与について警告 6/6
アメリカをはじめ西側諸国がウクライナに高性能の長距離兵器を供与する方針を示していることについて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、西側がそのようなことをすれば、ロシア軍がウクライナ国内で攻撃する対象を増やすと警告した。こうした中で英政府は6日、長距離兵器の提供を発表した。他方、5日朝にはウクライナの首都キーウの施設がロシア軍の砲撃を受けた一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は東部の前線を視察した。
プーチン大統領はロシア国営テレビの取材に対して、「全般的に、武器の追加供与をめぐってやたらと騒いでいるのは、私が思うに、目標はただ一つで、武力紛争をできるだけ長引かせるためだ」と述べた。
アメリカがウクライナに提供している内容に「目新しいものはない」としつつ、射程距離がこれまでより長いミサイル砲については「もし供与するなら、我々はしかるべき結論を下し、潤沢に保有する自分たちの武器を使い、これまで攻撃していなかった標的を攻撃する」と、プーチン氏は述べた。
一方、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は西側諸国に、武器の供与を続けるよう呼びかけた。国防次官は地元メディアに対し、「すでに長期戦に突入しており、支援が絶えず必要だ。西側は、一時的な支援では済まない、私たちが勝つまで続くものだと、理解する必要がある」と述べた。
イギリスも長距離ミサイル供与へ
イギリスのベン・ウォレス国防相は6日、長距離多連装ミサイルシステム「M270」をウクライナに提供すると発表した。アメリカと連携しての供与だという。
英政府は提供するM270の数を明らかにしていないが、BBCの取材では当初は3基を提供するもよう。
ウォレス国防相は、ウクライナが「一方的な侵略から国を守るために不可欠な武器」の提供にあたって、イギリスは先頭に立つと表明。「ロシアの戦術が変化するのに合わせて、我々がウクライナを支援する形も変わらなくてはならない」と述べた。
「きわめて高性能な多連装ロケットシステムによって、ウクライナの友人たちは、長距離砲の残酷な攻撃から自分たちをより効果的に守れるようになる。プーチンの軍勢はこれまで、長距離砲を無差別に使い、市街地を廃墟にしてきた」と、国防相は述べた。
アメリカは今月1日、ウクライナに新たに7億ドル(約900億円)の軍事支援を行うと発表し、M142高機動ロケット砲システム(HIMARS)4基が含まれると説明している。HIMARSは70キロ先にある目標に複数の精密誘導ミサイルを発射することができる。この射程距離は、ウクライナ軍が現在保持している大砲よりもはるかに長い。また、ロシア側の同等の兵器よりも精度が高いと考えられている。
アメリカの支援パッケージには、ほかにヘリコプターや対戦車兵器、戦術車両や部品などが含まれる。
ドイツも最新式の短距離空対空ミサイル「アイリスT」を供与すると約束している。これがあるとウクライナは、ひとつの都市全体をロシアの空爆から守ることができるようになる。.
首都キーウをまた攻撃
しばらくロシアの攻撃が途絶えていた首都キーウでは5日早朝、複数の爆発音が響き、南西部ダルニツキー地区から黒煙が立ち上った。少なくとも1人が負傷した。
ロシアは、欧州が提供した戦車の格納庫を攻撃したのだと主張している。これに対してウクライナ側は、被弾したのは電車の車両修理工場で、そこに戦車はなかったと反論している。
ロシア軍は4月以降、兵力をウクライナ東部と南部に集中させ、5月下旬に南東部の要衝マリウポリを完全制圧して以降は、東部ドンバスを集中的に攻撃している。
こうした中でキーウではこのところ、街に人が戻り、バーやカフェが再開するなど、開戦前にあるていど近い状態が戻っていた。
久々のキーウ攻撃について、ウクライナの政治家の1人は、東部ドンバスでの攻勢停滞にいらだつロシアの八つ当たりだろうと話した。
東部でロシア軍の将軍死亡
ロシア国営テレビによると、東部の自称「ドネツク人民共和国」の武装勢力を指揮していた、ロシア軍空挺団のロマン・クツゾフ少将が戦闘で死亡した。
親ロシア勢力によると、クツゾフ少将は5日、東部主要都市セヴェロドネツクに近いポパスナ地区のミコライウカ村で死亡した。
ウクライナ軍は、この地域で当日、激しい防戦を展開し、ロシア軍に相当の損害を与えたとしている。
ロシア国営テレビによると、ロシア軍の将軍がウクライナで死亡するのはクツゾフ少将で4人目。これに対してウクライナ側は、ロシアによる軍事侵攻開始以来、ロシア軍の将軍12人を戦死させたと発表している。
セヴェロドネツクで市街戦
ウクライナで現在、最も激しい戦闘が続く東部セヴェロドネツクについて、現地ルハンスク州のセルヒィ・ハイダイ州知事はBBCに対して、市内で市街戦が続いているものの、ウクライナ軍による奪還はまだ可能だと話した。
ハイダイ氏によると、ウクライナ軍はロシア軍を押し戻しつつあり、現在は市内の約5割をウクライナ軍が抑えているという。
「ウクライナへ弾薬の安定供給が続けば、自分たちは(セヴェロドネツクを)掌握し続けられないと、ロシア側は承知している」と、知事は話した。
民間人については、約1万5000人が市内に残っているものの、市外への避難は「今のところ不可能だ」と、ハイダイ氏は述べた。
ロシアがセヴェロドネツクを制圧すれば、ルハンスク州全域がロシア軍と、ロシアが後押しする分離派勢力の支配下に入る。ロシアと新ロ勢力はすでに、隣のドネツク州の大半を掌握している。
セヴェロドネツクには窒素肥料を作る巨大なアゾト化学工場があり、シヴェルスキー・ドネツ川を挟んだリシチャンスクには、ウクライナ2番目の規模の製油所がある。そのためこの2都市の掌握はロシアにとってきわめて重要な戦略目標となっている。
この両都市についてハイダイ知事は、「丘の上にあるリシチャンスクの方が重要だ。軍にとって守りやすいし攻撃しやすい」との見方を示した。
ゼレンスキー氏は東部の前線へ
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、東部や南部の前線を視察し、その一環でリシチャンスクやザポリッジャを訪れたと発表した。大統領は動画を通じて、「私は現地で会った全員、握手した全員、話をして支援すると伝えた全員のことを誇りに思う」と述べた。
●プーチンの3つの誤算…最大の誤算はゼレンスキー「ウクライナのチャーチル」 6/6
プーチン大統領が犯した3つの誤算
ゼレンスキーはやはりチャーチルだった。
ウクライナ侵攻をめぐってロシアのプーチン大統領は次の3つの誤算を犯したとよく言われる。
(1)ウクライナ軍がこんなに強いとは知らなかったこと。
(2)ロシア軍がこんなに弱いとは知らなかったこと。
(3)ウクライナにウインストン・チャーチルが居るとは知らなかったこと。
中でも第二次世界大戦でドイツ空軍の猛爆撃の中、国民を鼓舞し勝利に導いたウインストン・チャーチル元英首相のように、ゼレンスキー大統領が首都キーウに留まり褐色のTシャツ姿で連日SNSで国民を鼓舞してウクライナの抵抗を導いたことは、プーチン大統領の最大の誤算だったかもしれない。
ロシアだけでなくアメリカも同じ誤算
ところが、その誤算はロシアだけでなく米国も犯していたことが最近になって分かってきた。
ロシアの軍事侵攻が開始される数週間前、米国議会の非公式会議で情報当局に対し次のような質問があったという。
「ウォロディミル・ゼレンスキーは英国のウインストン・チャーチル型なのか、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ型なのか?」
つまりゼレンスキー大統領は歴史的抵抗を指揮できるのか、或いは(ガニ前大統領のように)逃避して政権を崩壊させるのかと議員たちは訊ねたのだ。
これに対して当局者は、ゼレンスキー大統領を過小評価する一方で、ロシア軍とプーチン大統領を過大評価する説明をしたとされる。
ロシアの軍事侵攻が始まると、米国は首都キーウの陥落も間近と見てゼレンスキー大統領に国外に逃避して亡命政権を樹立するよう勧めたが大統領は一言で拒絶した。
「今必要なのは逃亡用の車じゃない。武器をくれ」
大統領は軍事侵攻2日目の2月25日の夜、キーウの大統領官邸前に出て政権幹部と共に携帯の自撮りで国民に対するメッセージを撮ってSNSで公開した。
「みんなここに居ます。私たちの兵士たちもここに居ます。この国の市民もここに居ます。私たちはここに居て、私たちの独立と祖国を守っています。これからも続けます。祖国を防衛するものたちに栄光あれ。ウクライナに栄光あれ」
その100日後ゼレンスキー大統領は同じ場所で、しかし日中に再び同じ幹部と一緒に自撮りでメッセージを撮った。
「私たちはすでに100日間ウクライナを護ってきました。私たちは勝利します。ウクライナに栄光あれ。英雄たちに栄光あれ」
第二次世界大戦の最中チャーチルは、ドイツ軍の爆撃の様子を首相官邸の屋上から眺めたりロンドン市内の防空壕を訪れて市民を激励したことを想起させるものだ。
「戦前に状況をもっと把握していれば、ウクライナに十分な支援ができたのではないか」
先月開かれた米上院軍事委員会でアンガス・キング議員(メイン州選出)はこう述べ、初期の想定の誤りを質した。
米国の情報当局はこうした批判を受けて、外国政府の戦闘意欲と能力を判断する方法の見直しをはじめたと5日のAP電は伝えた。
ウクライナ紛争の今後と、米国の支援のあり方もこの見直しの結果に左右されることになるとされるが、「ウクライナのチャーチル」のためなら米国も支援を惜しむことはないだろう。
●対ロシア最前線 スウェーデン世界遺産の島で何が? 6/6
バルト海に浮かぶスウェーデン最大の島、ゴットランド島。
中世の町並みが残り世界遺産にも登録されているこの島は、ロシアの飛び地カリーニングラードからわずか300キロに位置し、19世紀には帝政ロシアによって一時、占領された歴史もあります。
そして今、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、スウェーデンがNATOへの加盟申請を行う中、対ロシアの最前線となった島で何が起きているのか。現地を取材しました。
ゴットランド島って?
ゴットランド島は、スウェーデンの首都ストックホルムの南、バルト海に浮かぶスウェーデン最大の島です。人口およそ6万の島には交易で栄えた中世の美しい町並みが残り、1995年には中心都市のビスビーがユネスコの世界遺産に登録されました。宮崎駿監督のアニメ映画「魔女の宅急便」はこの島の景観を参考にしていて、日本からも多くの観光客が訪れます。取材で訪れた5月中旬は気候もよく、新型コロナの規制もないとあって、大勢の観光客が散策していました。
なぜゴットランド島が注目?
戦略的に重要な「要衝」だからです。ゴットランド島の南東およそ300キロにあるのが、ロシアの飛び地、カリーニングラード。第2次世界大戦後、ドイツから旧ソビエトに編入されたカリーニングラードは、ソビエト崩壊後、バルト3国が独立し、ロシア本土から切り離された「飛び地」となりました。ロシア軍はここをバルト艦隊の拠点とし、NATOに対抗する重要な戦略拠点としています。
1808年には当時の帝政ロシアに一時、占領された歴史もあるゴットランド島について専門家は次のように指摘します。
スウェーデン国際問題研究所グニラ・へロルフ氏「ゴットランド島はバルト海の真ん中にあり、ここを制する者が制空権をとるとも言われてきた。そのため、ゴットランド島を守ることがスウェーデンにとって必要不可欠なのだ」
島ではいま何が起こっている?
ゴットランド島では軍事的な警戒が強まっています。スウェーデン軍の傘下には地域を守るためのボランティアの市民兵がいますが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、急きょ追加で数週間の訓練を受けることが必要となりました。市民兵となっているのは、ふだんは会社勤めをしている人や子育て中の人など、普通の市民です。取材で演習場を訪れた時には、そうした普通の市民が銃を持って林の中を駆け抜け、腹ばいになって射撃を行うなど、実践的な訓練を繰り返し行っていました。大工として働いている38歳の男性は「ふだんの仕事にはもちろん影響は出るが、そんなことは問題ではない。ふるさとや家族、国のためならやりがいがある」と語りました。また、有事の際には衛生兵として活動するという34歳の女性は「何かあれば、上司の指示に従い落ち着いて行動するだけです」と話していました。
市民はどう思っている?
軍事面で緊張が高まる中、「ロシアは長年脅威だったので新たな事態ではない」などと比較的冷静な受け止めが聞かれる一方、有事に備えた動きも広がっています。ゴットランド島中部に住むウルリカ・ブローションさんは、災害などに備えて地下に備蓄していた缶詰や水を倍に増やしました。また、ボランティア組織にも登録し、有事の際に必要な情報を市民に提供したり食事を作ったりする役割を担うことにしました。銃を持って戦うことには抵抗がある一方、自分が島のためにできることはないかと考えた結果だといいます。
ウルリカ・ブローションさん「ゴットランド島は本土から離れていて、災害のときも支援が届くのに時間がかかることが多かったので、私たちはお互いに助け合うことに慣れています。みんなそれぞれのやり方で島を守ろうとしているのです」
ロシアの脅威に備えるスウェーデン
大国の戦争に巻き込まれないために、200年にわたって軍事的な中立を保ってきたスウェーデン。冷戦後は国防費を大幅に削減し、徴兵制も廃止していました。しかし、2014年、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合したことなど、スウェーデンを取り巻く環境が大きく変わったことを受けて国防費を増額、徴兵制も復活させたのです。男女関係なく、18歳になるとスウェーデンの若者たちは1年程度、軍事訓練を受けるようになりました。ゴットランド島の演習場にも、徴兵された若者たちの姿がありました。装甲車に乗って談笑しながら、手鏡をのぞき込み顔を緑色にペイントする様子はおしゃれを気にする若者らしく、あどけなさも残ります。ただ、話を聞いた20歳の若者は「ぼくはゴットランドで育った。大切な場所で、心のよりどころだ。何かが起こったら行動する準備はできている」と力強く話していました。
NATO加盟で島の役割はどうなる?
NATOにとって戦略的に重要な拠点になる可能性があります。ゴットランド島の部隊を率いるマグナス・フリクバル大佐は「ゴットランド島を制する国がバルト海全体の制空権や制海権を握ることから、ここはかつても、今も、戦略的に非常に重要であり続けてきた」と強調しました。その上で「プーチン大統領が政治的な目標の達成に向けて軍事力を使ったため、ゴットランド島の軍事力を予定よりも急ピッチで増強している」と話しました。有事の際に迅速に対処できるよう、スウェーデン軍が、陸軍だけでなく、海軍の展開を検討しているとし、そのためのインフラ整備も島の北部で計画していることを明らかにしました。
ロシアはスウェーデンの動きにどう反応?
軍事的な中立から大きく方針を転換したことに強く反発しています。スウェーデンがNATOに加盟して、ゴットランド島がNATOの軍事拠点になれば、バルト海周辺におけるロシア軍の行動が制限されることにもつながりかねないからです。プーチン政権は、最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」を配備するなど、NATOに対抗するための重要な戦略拠点であるカリーニングラードでの軍備増強を進めてきました。5月上旬、バルト艦隊の部隊が短距離弾道ミサイルの模擬発射訓練を行ったと明らかにしたほか、「スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、当然ロシアは国境を強化しなければならない。地域の非核化はありえない」などと、核戦力をちらつかせて警告するなど、北欧2か国のNATO加盟への動きに反発を強めています。
ロシアと向き合ってきたゴットランド島
スウェーデンという国自体はロシアとは国境を接しておらず、隣国のフィンランドをいわば「緩衝地帯」としながら、およそ200年にわたって軍事的な中立、非同盟を貫いてきました。ただ、ゴットランド島の人々と話していると、ロシア、そしてソビエトといった大国と常に向き合ってきたという点で、1300キロにわたってロシアと国境を接し、常にその存在に脅かされてきたフィンランドの人々が持つ意識と似ていると感じました。島に住む退役軍人の男性は「わたしたちが恐れているというのは間違っている。ロシアの脅威に対処する準備ができている、それが正しい表現だ」と話していました。バルト海の最前線でロシアと向き合うゴットランド島。島の人々は1人1人、自分なりの覚悟を持って現状を受け止めていました。
●ウクライナは「攻撃ヘリの墓場」になるのか 6/6
ロシアによるウクライナ侵攻では、攻撃ヘリコプターが数多く撃墜されたことから、その終わりが示唆されているとの見方が浮上している。軍事専門家の間では、ヘリの能力そのものの問題なのか、ロシア軍による運用の不手際なのかをめぐり、論争が繰り広げられている。
ウクライナ軍には、兵士による持ち運びが可能な長・短距離の防衛用の対空ミサイルが西側諸国から多数供与され、同国領空は敵のヘリにとって危険極まりない状況になっている。
ロシア軍のヘリが撃墜される映像がソーシャルメディア上に多数投稿されており、被害の大きさを物語っている。軍事情報サイト「Oryx」によると、ロシア軍による2月24日の侵攻開始以降、ロシア軍は少なくとも42機のヘリを、ウクライナ側も7機をそれぞれ失った。
攻撃ヘリは、防御のために装甲が施されているほか、ミサイルや機関砲などで武装しており、戦場に展開する部隊や戦車を支援するよう設計されている。ところが、ウクライナ紛争では、脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。
攻撃機としてのヘリの将来に疑問を呈するのは、航空宇宙・防衛アナリストのサシュ・トゥサ(Sash Tusa)氏だ。
トゥサ氏は米航空専門誌「アビエーション・ウィーク(Aviation Week)」の論考で、「戦争の早い段階から双方の防空システムがヘリの作戦展開に対して明確な抑止効果を発揮した」とし、「戦力が似通った主体間の高強度紛争(本格的な武力攻撃を伴う交戦)の厳しい現実を突き付けられた形となり、西側諸国の攻撃型航空戦力に対する今後の投資にマイナスの影響を与えるだろう」との見方を示した。
ロシアの大失態
首都キーウ近郊ホストーメリ(Gostomel)の空港に対する開戦直後のヘリによる攻撃など、ロシア軍の作戦不備が多数の撃墜の要因だと指摘する専門家もいる。仏比較戦略研究所(ISC)のジョゼフ・アンロタン(Joseph Henrotin)研究員はこの作戦について、「ロシアの大失態」であり、ヘリの能力とは無関係で運用方法に問題があったと分析する。
アンロタン氏は「空挺(くうてい)作戦の前に対空防衛システムを排除して制空権を確保しておく必要がある」と強調する。
ウクライナ侵攻で驚きをもって受け止められたことの一つが、ロシアが初期段階で航空優勢を確保しなかった点である。これを実現するためには通常、ヘリではなく、固定翼機やミサイルが投入される。
米ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のマイケル・オハンロン(Michael O'Hanlon)上級研究員も、「ヘリが時代遅れになったわけではなく、敵が警戒態勢にある予測可能な場所を攻撃するのは一般的に成功しない」と述べ、ロシア軍によるヘリの運用に問題があったとの見方に同意する。 
代償伴う教訓
フランス軍特殊部隊のヘリ分遣隊を率いたパトリック・ブレトゥス(Patrick Brethous)氏は、攻撃ヘリの終えんと考える前に、ロシア、ウクライナ両軍の運用方法を検証する必要があるとの主張に賛同する。
現在エアバス(Airbus)社のヘリコプター部門の軍事アドバイザーを務めるブレトゥス氏は「日中にロシア軍ヘリが高度約90メートルを飛行し、多くが撃墜されるのを目にしてきた」と述べ、「このようなヘリの運用は極めて危険だ」との認識を示した。ヘリは、夜間の作戦の方が効果的に運用でき、敵のミサイルを避けるために地上により近い高度で飛行すべきだという。
アンロタン氏はまた、今回の紛争は「ヘリは単独で運用するものではないという根本的な原則をロシアに再認識させる、代償を伴う教訓」になったとし、ヘリは他の種類の軍事力と組み合わせて運用されるべきだと強調した。軍事専門家はこれを「諸兵科連合」と呼ぶ。航空機や装甲車両、砲兵、歩兵部隊が連携し、相互補完的な役割を果たす戦闘教義だ。
さらに、無人攻撃機の活躍も論争に影響を与えている。前出のトゥサ氏は、多くの任務がより安価な無人機によって遂行可能になっており、攻撃兵器としてのヘリの将来はますます疑わしくなっているとの見方を示す。
一方、アンロタン氏は偵察など無人機はある程度の任務を遂行できるものの、攻撃ヘリの火力には及ばず、あくまでも補完的な役割しか担えないと主張する。
具体的には、ウクライナ軍が運用するトルコの無人攻撃機「バイラクタル(Bayraktar)」は4発のミサイルを搭載できる。これに対して、ロシアのヘリ「カモフ52型(Ka52)」は、12発のミサイルのほか、多数のロケット弾を搭載可能であり、「空飛ぶ砲艦」としての戦闘力は揺らいでいないと、アンロタン氏はみている。
●プーチン大統領が焦燥? ロシア軍内部で異変 総司令官更迭か 6/6
ウクライナ全土の20%を占拠したとされるロシア軍だが、内部で異変が生じているのか。4月上旬に就任したウクライナ侵攻を統括する総司令官の姿が確認できないとして、更迭説が浮上した。プーチン大統領はほかにも軍や国内治安担当部門の幹部らを相次いで解任している。ウクライナ軍の反撃が本格化するのを前に、「焦りの表れ」とみる向きもある。
更迭説が持ち上がったのはロシア軍のアレクサンドル・ドボルニコフ総司令官。5月31日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、ドボルニコフ氏が2週間、姿をみせておらず、責任者の地位にあるのか憶測を呼んでいると報じた。
ドボルニコフ氏は2015年にロシアが介入したシリア内戦で指揮を執り、「シリアの虐殺者」と恐れられた。シリアでは多くの民間人が犠牲となり、化学兵器も使用された。
「ロシア連邦英雄」の称号を持つドボルニコフ氏は4月上旬にウクライナ侵攻の総司令官に就任。空軍と陸軍の連携を模索するなど、失敗続きだったロシア軍の戦局打開の役割を担っていた。報道が事実だとすると、わずか1カ月余りでの更迭となる。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「ドボルニコフ氏はミサイル攻撃で破壊活動を指揮した一方、連携すべき地上戦力側では略奪が起きるなど、統制の乱れも目立つ。後任に愛国主義教育を兼ねる軍政治総局長を務める人物の名前も浮上していることから、規律の立て直しを図る狙いがあるのだろう。ロシア側の焦りを感じる」と分析する。
ロシア軍幹部の去就をめぐっては、ウクライナ第2の都市ハリコフ攻略の失敗を理由に第1親衛戦車軍の中将が更迭されたほか、巡洋艦「モスクワ」が撃沈されたことで、黒海艦隊の副提督を停職処分にしたと英国防省が分析している。
一方、軍トップのゲラシモフ参謀総長のように一時、動向が不明となっていたが、その後、姿を見せた例もある。
ロシア国内でも幹部の解任が相次いでいる。露紙プラウダ(英語電子版)は、プーチン氏が先月30日、内務省の5人の将官と、1人の警察幹部を解任したと報じた。
中村氏はこれに関して、国内の統制に関連した動きとみる。「内務省は、マフィア集団や反社会勢力に近く、市民から賄賂を受け取るなど、腐敗や汚職が進んでいる組織として知られている。ロシア国内で反戦機運が高まる中で、引き締めを強めたものと思われる」
ウクライナでのロシア軍をめぐっては、強制動員された兵士らが「低い士気と劣悪な訓練をさらに悪化させている」と米シンクタンクの戦争研究所が分析している。
ウクライナ側は欧米が供与した兵器が前線に到着する今月中旬以降に反転攻勢に出る構えだ。
前出の中村氏は「ロシア軍は制圧地域で踏ん張る形になるが、士気が低下していることもあり、相当数の損害が出るのではないか」との見通しを示した。
●プーチンが国連脱退を決意?ロシアが辿るかつての日本と同じ道 6/6
国連常任理事国に日本を入れることを支持するとバイデン首相が発言して話題となりましたが、国連は「もはや機能不全に陥っている」との声も多く聞かれます。そこで今回は、メルマガ『石川ともひろの永田町早読み!』の著者で、小沢一郎氏の秘書を長く務めた元衆議院議員の石川知裕さんが国連について詳しく紹介。その上で、ロシアはかつての日本を同じ道を辿っているとし、今後の行動について予測しています。
機能不全の国連で、日本が果たす役割とは
国際連合(国連)の存在意義が問われている。
国連の前身である大戦前の国際連盟は、アメリカが議会の反対で加入しないまま、日本など主要国が相次いで脱退し、平和のための国際機関として機能せずに役割を終えた。
この反省を踏まえて結成されたのが国際連合だったことは、歴史の勉強で“いの一番”に習うことである。 しかし、その国連がウクライナ危機では全く機能していない。ロシアへの制裁でもNATO側とロシア側で真っ二つに割れたままで、国連の存在は見えない。
国連の最大の課題は、国連安全保障理事会(安保理)が機能不全に陥っていることだ。これまでの国際紛争解決の際は、米ロ中が調整しながら行ってきた。しかし、ウクライナ危機では、拒否権を持つ常任理事国にロシアがいることで国連として行動することが不可能となっている。
満州事変と今回のウクライナ侵攻が極めて似ていると、私は以前に指摘した。
実効支配する領土を増やし日本人を入植させ最終的には傀儡国家を作る。この過程は歴史をなぞっているようである。ここまで一緒だと、今後のロシアの動きは、当時の日本の動きをなぞると考えられる。
それは、国際連合からの脱退である。
国際連合の枠組みは、第2次世界大戦の戦勝国であるアメリカ、ロシア(ソ連)、フランス、英国、中国を安保理の常任理事国にし、拒否権を与えている。この枠組みが現在揺らいでいることは言うまでもない。
ロシアが新たに、自国のための国際秩序として中国と連携を強めていくことは十分に考えられる。中国は、米国との戦略的互恵関係を望んでいるものの、中国の人権問題や海洋派遣拡大に関して国連が足かせになるようならロシアとの連携をさらに強める可能性もある。
国連が分裂しないようにするためには、中国と米国との対話に際し、日本が積極的に橋渡しの役目を果たすことが重要だ。参院選が近づいている。各党の主張には違いがある。 これも大きな争点の一つだと思う。
●官房長官、キーウ攻撃を非難 「長期化の原因はプーチン氏に」 6/6
松野博一官房長官は6日の記者会見で、ロシアによるウクライナの首都キーウ(キエフ)への攻撃再開について「民間人や民生施設への攻撃は国際法に違反し断じて正当化できないものだ」と非難した。
松野氏は「プーチン大統領は以前から『最初に設定された目的が完遂されるまで、軍事作戦を継続する』旨を述べている。侵略の長期化の恐れがあるとすれば、その原因はプーチン氏の意思にある」と指摘。「ロシアに一刻も早く侵略をやめさせ、対話への道筋を作るために今必要なことは、国際社会が結束をして、強力な対露制裁措置を講じつつ、ロシアに侵略されているウクライナを支援していくことだ」と強調した。
●ウクライナ侵略、長期化の恐れの原因はプーチン大統領の意思=官房長官 6/6
松野博一官房長官は6日午後の記者会見で、ロシアによるウクライナ侵略の今後について言及し、仮に長期化の恐れがあるとすれば、その原因はプーチン大統領の意思にあるとの見解を示した。
会見では、ロシアによるキーウへのミサイル攻撃が再開されたことや、プーチン大統領が欧米諸国によるウクライナへの長距離ミサイル供与が実行された場合に攻撃していない対象を標的にすると発言したことに対する日本政府の見解について質問が出た。
松野官房長官は、キーウへのミサイル攻撃とプーチン大統領の発言について「承知している」と述べるとともに「民間人や民生施設への攻撃は国際法に違反し、断じて正当化できない」と指摘。続けて「以前からプーチン大統領は最初に設定された目的が完遂されるまで軍事作戦を継続する旨を述べている」としつつ、ロシアによるウクライナ侵略が長期化する可能性について予断を持って回答することは差し控えると述べた。
その上で「侵略の長期化の可能性があるとすれば、その原因はプーチン大統領の意思にある」と語った。
また、ロシアに侵略をやめさせて対話への道筋を作るため「国際社会が結束して強力な対ロ経済制裁を講じつつ、ロシアに侵略されているウクライナを支援していくことである」と説明した。 

 

●ロシア艦隊、沖へ後退 ウクライナ軍 6/7
ウクライナ軍は6日、黒海のロシア艦隊を「ウクライナ沿岸から100キロ以上沖へ後退させた」と発表した。通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
ロシア軍による海上封鎖は、世界的な食料危機を引き起こしている。ただ、ウクライナ政府関係者は「ロシア軍による海上からのミサイル攻撃の脅威は残っている」と述べた。
●ウクライナでの戦争を歴史家が楽観視しない理由  6/7
正真正銘のファシスト
3月16日にロシア国民に向けてプーチンが行った演説を観た人は誰もが気づいて身震いした。私たちが今渡り合っているのは、不器用ではあっても計算高いソ連時代のゲーム理論家でもチェスプレイヤーでもなく、正真正銘のロシアのファシストなのだ。
ロシアは「社会の自己浄化」を実施し、「ろくでなしや裏切り者」を駆除するべきだと断言することで、プーチンはロシア国内で粛清が行われることをはっきりさせた。
なにしろ、悪いのは内部にいる背信の第5列に決まっており、けっして独裁者その人ではないのだ。
その時点まで、私は核兵器や化学兵器を使うというプーチンの脅しははったりだと考えがちだった。この脅しが効いて、バイデン政権はポーランドのミグ戦闘機をウクライナに提供するのを思いとどまった。
だが、今や私は、プーチンが掩蔽壕からどんな命令を下しかねないか、本気で心配しはじめている。
通常兵器を使う軍事行動をなんとか継続させ、切羽詰まったプーチンの焦りを和らげることを可能にするものが仮にあるとすれば、それは中国による支援だけだろう。
ロシアが中国に武器と糧食を求めたために、アメリカの国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは中国の外交担当トップ楊潔篪(ヤン・ジエチー)に、ロシアが西側諸国の制裁をかいくぐるのを助けようとする中国企業があれば、その企業自体も制裁の対象となる、と脅しをかけた。
この脅迫が中国を躊躇させたのか、それとも、プーチンの肩を持つことを促したのかは、まだ知りようがない。もし中国がロシアの戦争遂行努力の梃入れをすれば、攻囲戦がずるずると続くだろう。
最後に、西側の各国民の慢性的な注意欠如障害も懸念される。私たちは今、燃え尽きたロシア軍の戦車や、ウクライナのTB2無人攻撃機の動画といった、ぞっとするものの思わず見入ってしまう映像や、ゼレンスキー大統領の感動的な演説などに釘づけになっているが、これほど強い関心をどれだけ長く抱き続けられるだろう?
ドイツの有権者の89パーセントは、ウクライナの人々のことが心配だ、あるいは、非常に心配だ、と言っている。だが、エネルギー供給の中断についても66パーセントが、ドイツの経済状態の悪化についても64パーセントが同じように心配している。
世界は今、1カ月前よりもなおいっそう深刻なインフレ問題を抱えており、国内の日常生活に直結する問題はたいてい、はるか彼方の国々の危機に優先するものだ。
私たちはあとどれだけ長く注意を向けていられるだろうか? もしキーウの攻囲戦が何週間もだらだらと続いたら? あるいは、停戦が実施され、それから破綻し、再び実施されたとしたら? はたまた、ドネツク州とルハンスク州の境界をめぐる交渉があまりに退屈なものになったとしたら?
「歴史が転換し損なった歴史の転換」
イギリスの歴史家A・J・P・テイラーは1848年の革命を「歴史が転換しそこなった歴史の転機」として切り捨てたことで有名だが、要するに私は現状がそれと同じことになりはしないかと恐れているのだ。
つまるところ、キーウが陥落しても、民族の政治的独立がロシアの戦車によって蹂躙された最初の首都とはならない。1956年のブダペストや1968年のプラハを思い出してほしい。
そして、私たちの当初の憤りが薄れ、無力感に変わり、やがて記憶から抜け落ちたとしても、それはけっして初めての出来事ではない。
フランシス・フクヤマは1989年の盛大な「諸民族の春」を思い出しているが、私は1979年以来感じていなかったほどの大きな恐怖を感じている。
1979年というのは、イランが騒乱に包まれ、ソ連がアフガニスタンに侵攻し、アメリカのジミー・カーター大統領が悪性インフレに途方に暮れているように見えた年だ。
では、あの年からはどんな教訓が得られたのか? 西側諸国には強力なリーダーシップが必要である、というのがその答えだ。
現在クレムリンにいる独裁者が核戦力をちらつかせたときにも揺らぐことのないリーダーシップ、自由のためのウクライナの闘争が、じつは私たちの闘争であることを思い出させてくれるリーダーシップ、独裁主義の帝国は、周辺の小国を呑み込みながら欲望を募らせていくという、歴史の重大な教訓を指摘するようなリーダーシップが必要なのだ。
1979年は、マーガレット・サッチャーがイギリスの首相に選ばれた年であり、ロナルド・レーガンがアメリカの大統領に選ばれる前年でもあったのは、偶然ではない。
戦争を長引かせてもいいのか
ウクライナの戦争はまだ終わっていない。ロシアはまだ打ち負かされてはいない。プーチンはまだ権力の座から引きずり降ろされてはいない。
ロシアの殺人マシンを止め、この争いに終止符を打つためにしなければならないことは、まだ山ほどあるし、私たちの行動が図らずも戦いを長引かせてしまいかねない筋書きも多数ある。
アメリカの政策立案者のなかには、戦争が引き延ばされるのを望んでいる者もいるのではないかという印象さえ、私は受けている。戦いが続けば、「ロシアは力が尽き果て」、プーチンの失脚につながるだろうと勘違いしているのだ。
イギリスの劇作家アラン・ベネットの戯曲『ヒストリーボーイズ』では、オックスフォード大学への進学を目指す田舎の生徒の1人が、教師に歴史を定義するように言われる。「しょうもないことのたんなる連続」と生徒は答える。より厳密に言えば、歴史は惨事のたんなる連続のように見えることもありうる。
次の大惨事がどんな形を取るのかも、どこを襲うのかも、私たちには確かなことは言えない。
その惨事が疫病であろうが、戦争であろうが、何かその他の災難であろうが、始まってからわずか3週間では、どれほど大きくなり、どれほど長引くかは知りようがない。
また、どの社会が惨事に最も効果的な対応を見せるかも、予見することはできない。惨事が独創的な対応を引き出すこともある一方で、成功は自己満足を招きがちだ。
惨事に翻弄されるかどうかは私たち次第
1970年に、アメリカの作家ジョーゼフ・ヘラーの小説『キャッチ=22』の映画版が公開された。シナリオライターの1人のおかげで、映画には原作になかった次の台詞が加えられ、それが有名になった。
「被害妄想を持っているからといって、誰かにつけ狙われていないとはかぎらない〔訳注 原文は「Just because you’re paranoid doesn’t mean they aren’t after you.」で、「心配性の人の心配がすべて杞憂とはかぎらない」とでも意訳できる〕」。
私はこれが、本書『大惨事(カタストロフィ)の人類史』の核心を成すメッセージでもあると考えるようになった。
ありとあらゆる形と規模の惨事が私たちを本当につけ狙っている。惨事に対する最善の備えは、過去2年間に西側世界全体で新型コロナによってこれほど多くの命を犠牲にした種類の、官僚機構による見せかけの準備ではない。
また、惨事に襲われるたびに、特定の主義や党派に偏った見解を人々に押しつけても、何の役にも立たない。むしろ私たちは、ヘラーの作品に登場する第2次世界大戦中の爆撃機の搭乗員たちが感じていた類の共通の被害妄想をたくましくするよう、努めなければならない。
ただし、惨事への私たちの対応は、『キャッチ=22』の主人公ジョン・ヨッサリアンの諦観ではなく、その正反対のものであるべき点が異なる。
惨事は必ず起こる。だが、その避け難い運命にどれほど翻弄されるかは、私たち次第だ。それこそ、ウォロディミル・ゼレンスキーが私たちに思い知らせてくれたことなのだ。
●ウクライナの戦争、終わらせ方で意見が割れる西側諸国 6/7
早期停戦か、ロシアに報いを受けさせるか──。ウクライナでの戦争の終わらせ方をめぐり西側が割れている。ドイツ、フランス、イタリアは和平派、ポーランド、バルト3国、英国などが強硬派だが、米国は曖昧な姿勢を示す。根底には戦況の見通しが不透明で、ウクライナとロシア、双方ともに勝利の可能性を捨てていない現状がある。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「戦争で勝利するには戦争で勝つしかないが、戦争を終えるには交渉を通じて実現するしかない」と語った。
戦闘をいつやめるべきか、どんな条件でやめるべきか。それはウクライナが決めることだと西側陣営は言う。しかし、戦争の開始から3カ月が経過し、西側諸国は戦争の終わらせ方について、それぞれの立場を明確にし始めている。
ブルガリアの首都ソフィアにあるシンクタンク、リベラル戦略センターのイワン・クラステフ氏は、西側は大きく2派に分かれると説明する。一つは、極力早く戦闘を停止し、交渉を始めることを望む「和平派」。もう一つは、軍事侵攻を行ったロシアには多大な代償を支払わせるべきと考える「強硬派」だ。
まず問題になるのは領土だ。これまでに占領された地域をロシアのものとするのか。2月24日の侵攻開始時点の境界線に戻すのか。それともさらに、国際的に認められた国境まで押し戻して、2014年に占領された地域の回復を図るのか。
ほかにも論点はいくつもある。中でも大きなものが、戦争が長期化した場合の損害とリスク、メリットの有無についてだ。今後の欧州でのロシアの位置づけも議論されている。
和平派は行動に出始めている。ドイツは停戦を呼びかけた。イタリアは政治的調停に向け、4項目からなる計画を提案している。フランスは、ロシアに「屈辱」を与えない形で和平合意をまとめる必要性を語る。
これに反対する立場を表明しているのが、主にポーランドとバルト3国。そして筆頭に立つのが英国だ。
慎重に立ち位置を探る米国
では米国はどうか。ウクライナにとり最も重要な後ろ盾である米国は、いまだ立場を明確にしていない。ただ、ウクライナが強い交渉力を持てるよう支援するだけだ。米国はこれまでに140億ドル(約1兆8000億円)近くをこの戦争に注ぎ込んできた。米国議会は400億ドルの追加支出を決めたところだ。また、米国の呼びかけで40カ国以上が軍事的支援に応じている。しかし、支援にも限りがある。米国はこれまでりゅう弾砲などを供与してきたが、ウクライナが求める長距離ロケットシステムは提供していない。
米国の立場が曖昧な点は、ロイド・オースティン米国防長官の発言を見るとより一層際立つ。オースティン長官は4月のキーウ(キエフ)訪問後、西側はウクライナの「勝利」とロシアの「弱体化」に向けて支援すべきだと述べ、強硬派の立場を支持した。ところが3週間後、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相との電話会談後は「即時停戦」を呼びかけ、和平派に近寄る姿勢を見せた。米国防総省は方針に変更はないと強調する。
さらに、米ニューヨークタイムズ紙の社説が強硬派にダメージを与えた。ロシアの敗北は現実的ではないし、危険だと論じたのだ。さらに、元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏も、「混乱と緊張が容易に克服できなくなる事態」を避けるには、2カ月以内に交渉を開始する必要があると述べた。同氏はスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会で、ロシアとウクライナの境界線を2月24日時点に戻すのが理想だとし「それ以上を求めて戦争を続けると、ウクライナの自由のための戦争ではなく、ロシア本国に対する新たな戦争となる」と断言した。ロシアには欧州のパワーバランスの中で果たすべき重要な役割があり、この国を中国との「恒久的な同盟」へと押しやってはならないと同氏は語った。
今のところ、西側陣営のこうした意見の相違は「ウクライナの将来はウクライナが決めることだ」というお題目のもと、覆い隠されている。だが、ウクライナの選択肢は、西側の態度や支援次第で変わる。
ゼレンスキー大統領はWEFの演説で、「欧州、そして世界全体は団結しなければならない。我が国の強さはあなたがたの団結の強さなのだ」と語り、「ウクライナは領土をすべて取り戻すまで戦う」と決意を示した。その一方で、ロシアが2月24日の線まで撤退すれば対話を始められるだろうとも発言。譲歩の余地も残している。
米国、欧州、ウクライナは、これなら相手が受け入れるだろうと考える条件に応じて、主張を調整していく必要がある。シンクタンク、国際危機グループのオルガ・オリカー氏は「ウクライナはロシアと交渉するのと同じか、恐らくそれ以上に西側の支援国と交渉している」と指摘する。
ロシアへの相反する懸念
西側のウクライナへの姿勢がはっきりしないのは、戦況がはっきりしない点も関係している。ウクライナはキーウを防衛し、ハリキウを奪い返した。それゆえウクライナは優勢と捉えられるのか。それともロシアにマリウポリを掌握され、セベロドネツクも包囲されかけているから、劣勢に立たされているのか。
和平派は、戦闘が長引けばそれだけウクライナと世界にとって人的、経済的犠牲が増えると懸念する。強硬派は、制裁の効果は表れ始めたばかりだし、時間がたてばたつほど、多くの優れた武器がウクライナに行き渡り、勝利に近づくと反論する。
こうした議論の背景には、2つの相反する懸念がある。一つは、ロシア軍が今もなお強大な力を保ち、消耗戦で勝ちを収めるのではないかという懸念。もう一つは、ロシア軍が弱かった場合の懸念だ。敗北が濃厚になれば、ロシアはNATOを攻撃しかねない。敗北を避けるために、化学兵器や核兵器を使う可能性がある。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、長期的には欧州はロシアと共存する道を見つける必要があると訴える。一方、エストニアのカヤ・カラス首相は、「プーチン大統領に屈することは、彼を刺激すること以上に危険だ」と反論する。
米国と欧州の政府関係者は、ウクライナのロシアに対する交渉計画の策定を水面下で支援してきた。その中でポイントとなるのが、ウクライナが西側に求める安全保障に関するものだ。ウクライナを直接防衛する約束を取り付けるのは難しいとしても、ロシアに対する制裁を復活可能にしておくことや、ウクライナが再び攻撃された時にすぐに新たな武器を供給する、といった取り決めが考えられる。
今のところウクライナは状況を楽観視している。ロシアはウクライナを容易に制圧できていないし、西側から提供された武器は前線に届きつつある。しかし、ウクライナの交渉団を率いるミハイロ・ポドリャク氏は、欧州諸国の「支援疲れ」が心配になりつつあると、土のうを積んだ大統領府で語った。「口には出さないものの、我々に降伏を促そうとする気配が感じられる。停戦といっても、紛争が“凍結”されるだけのことだ」。ポドリャク氏は、米国政府の動きの鈍さに対しても不満だ。ウクライナが必要としている数の武器が届かないというのだ。
戦争がいつ終わるかは、総じてロシア次第だ。ロシアは停戦を急いでいない。東部ドンバス地方全域を掌握する決意を固めているように見える。さらには西部でも占領地域を拡大する意思を示す。
キーウの政治評論家、ウォロディミル・フェセンコ氏は、次のように語った。「この状況が奇妙なのは、双方ともに、自分たちが勝てると今も信じていることだ。本当に手詰まりになり、両国政府もそれを認めた時にのみ、停戦についての話し合いが実現する。だがその場合でさえ、一時的な和平にしかならないだろう」
●プーチン氏が揺るがす核秩序 (The Economist) 6/7
ロシアのプーチン大統領は100日前、核攻撃をちらつかせてウクライナへの侵攻を開始した。自国の核兵器を高く評価し、ウクライナの征服を約束した同氏は、干渉しようとする国々を「歴史上直面したことのないような」事態に陥らせると威嚇した。それ以来、ロシアのテレビはアルマゲドン(世界最終戦争)を話題にして視聴者を引き寄せている。
プーチン氏はウクライナで核爆弾を使用しなくとも、すでに核の秩序を乱している。同氏の脅しを受け、北大西洋条約機構(NATO)は提供する支援を制限した。これは2つの危険を示唆している。それらは、ロシアが軍事作戦を展開するなかでかき消されがちだが、懸念は高まる一方だ。
1つ目の危険は、ウクライナの目を通して世界を見ている無防備な国々が、核武装した侵略国に対する最善の防衛策は自らも核を保有することだと考えるようになることだ。もう一つは、他の核保有国が、プーチン氏の戦法をまねるのは得策だと確信するようになることだ。そうなれば、どこかで誰かが必ずや脅威を現実のものとするだろう。それがこの戦争の負の遺産として残ってはならない。
侵攻前から高まる核の危険
核の危険は侵攻前から高まっていた。北朝鮮は核弾頭を数十発保有している。国際原子力機関(IAEA)は5月30日、イランが核爆弾の製造に十分な量の濃縮ウランを保有していると報告した。
米国とロシアは新戦略兵器削減条約(新START)の下、2026年まで大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備数などを制限するが、核魚雷などの兵器は対象に含まれない。パキスタンは急速に核兵器を増やしている。中国は核戦力の近代化を図っており、米国防総省によればその増強も進めている。
こうした拡散の実態はすべて、核兵器の使用に対する道徳的な嫌悪感が弱まりつつある表れだ。広島と長崎の記憶が薄れるにつれ、人々はプーチン氏が実戦投入しかねないような戦術核の爆発が、いかに都市全体を消滅させる報復へとエスカレートし得るのか理解できなくなっている。
米国と旧ソ連は2国間の核の対立に対処したにすぎない。いくつもの核保有国が存在する今、より危険な事態になっていることへの警戒心が足りない。
ウクライナへの侵攻が、こうした不安に拍車をかけている。プーチン氏の脅しが虚勢だとしても、非核国への安全の保証を損なう。
1994年、ウクライナはロシア、米国、英国が自国の安全を保証するという見返りに、旧ソ連時代から保有していた核兵器を放棄した。だが2014年、ロシアはクリミアを併合し、ウクライナ東部ドンバス地方で親ロシアの分離独立派を支援することで、この約束をいとも簡単に破った。米英も、ほとんど傍観し、約束をほごにした。
これで無防備な国々が核武装する理由は増えた。イランは核兵器を断念しても長期的な信用は得られないが、今開発しても昔ほど問題にはならずに済むと判断するかもしれない。イランが核実験を実施した場合、サウジアラビアとトルコはどう反応するだろうか。韓国と日本はいずれも自衛のノウハウを備えており、有事の際は守ってくれるという欧米の約束にかつてほど信頼を置かなくなるだろう。
核の脅威を勝利のために利用するプーチン氏
核の脅威を振りかざすプーチン氏の戦略は、それ以上にたちが悪い。第2次世界大戦後の数十年間、核保有国は核兵器の実戦配備を検討した。だが、この半世紀、そうした警告はイラクや北朝鮮など大量破壊兵器の使用をちらつかせた国に対してのみ発せられてきた。
だがプーチン氏は違う。侵略した側のロシア軍が勝つために核の脅威を利用しているからだ。
その効き目はあったようだ。確かに、NATOの対ウクライナ支援は予想以上に強力だが、航空機など「攻撃用」兵器の供与を躊躇(ちゅうちょ)している。
ウクライナに大量の武器を提供してきた米国のバイデン大統領は5月30日、ロシアに到達可能な長距離兵器は供与しないと表明した。他のNATO加盟国は、プーチン氏を敗北させれば窮地に追い込むことになり、悲惨な結末を招く恐れがあるため、ウクライナはロシアと和解すべきだと考えているようだ。
そうした論理は危険な前例をつくる。中国が台湾を攻撃した場合、台湾はすでに中国の領土だと主張して、同様の条件(編集注、介入する国は核使用による報復を受けること)を付ける可能性がある。そうなれば戦術核の備蓄を増やす国は増えるかもしれない。そうなれば、各国が軍縮に向けて努力すると誓った核拡散防止条約(NPT)に背くことになる。
プーチン氏が招いたダメージの修復は難しいだろう。21年に発効し、現在86カ国・地域が署名する核兵器禁止条約は、核兵器廃絶を求めている。ただ、各国間の協調的な軍縮が理にかなっているとしても、核保有国は自国が無防備になることを恐れている。
一方、綿密に検証を重ねた軍備管理は追求する価値がある。ロシアは警戒を怠らないかもしれないが、困窮している。核兵器には費用がかかるうえ、同国は通常戦力を再建する必要がある。
米国はロシアの軍縮と引き換えに、自国の安全保障を危険にさらすことなく地上発射型ミサイルを退役させることもできる。また、通常の紛争時は核の指揮統制機能や通信インフラを攻撃しないなど、双方が技術的措置で合意することも可能だ。最終的には中国を取り込むことを目指すべきだろう。
プーチン氏の核戦術が失敗すれば、そうした協議は容易になる。まずは同氏からウクライナを攻撃しないとの確約を得ることだろう。バイデン氏は5月31日、米紙への寄稿で、ロシアが核兵器を使おうとする兆候はみられないと記した。
ただ、中国やインド、イスラエル、トルコなどクレムリン(ロシア大統領府)に接触しやすい国々は、プーチン氏が核兵器を万一、実際に使用したらそれは断じて許されないが激しい怒りをもって本人に警告しなければならない。
ロシアはかつてないほど危険な存在に
ウクライナを核攻撃から守ることは不可欠だが、それだけでは不十分だ。世界はプーチン氏が14年のクリミア併合と同様、今回も侵略で力を増すことがないようにすることも必要だ。同氏が今回も戦術は奏功したと確信すれば、今後さらに核の脅威を振りかざすだろう。
NATOを威圧できると同氏が判断すれば、引き下がるよう説得するのはますます困難になる。他国はここから教訓を引き出すだろう。このためウクライナは、ロシア軍を撤退に追い込むために高度な兵器、経済支援、対ロ制裁を必要としている。
今回の侵攻を欧州における一過性の戦いにすぎないとみる国は、自国の安全保障をないがしろにしている。また、ウクライナはすでに戦力が劣化した敵との勝ち目のない戦いで身動きが取れなくならないよう、平和の名の下、即ロシアとの停戦に合意すべきだと主張する国は、これ以上ない間違いを犯している。
NATOには覚悟が足りないとプーチン氏が考えているなら、ロシアは危険な存在であり続けるだろう。そして核攻撃を示唆したことが、戦いに敗北することと、膠着状態に陥りながらも面目を保つこととの差を分けたのだと同氏が確信しているなら、ロシアはかつてないほど危険な存在となるであろう。
●ウクライナ侵攻「外交解決困難」 リトアニア外相 6/7
来日したリトアニアのランズベルギス外相は7日、東京都内の日本外国特派員協会で会見し、ロシアのウクライナ侵攻について「外交では解決できない」との考えを示した。欧州内で終結方法について意見が割れていることには「これはウクライナの戦争で、ウクライナが勝利すべきだ」と訴えた。
ランズベルギス氏は、攻撃を続けるロシアを批判し、「十分な武器が供給されずにウクライナが敗れることがあれば、それは危険だ。どの国が次になってもおかしくない」と指摘した。
●リトアニア外相「黒海に安全な回廊を」日本や各国に協力求める  6/7
日本を訪れているバルト3国の1つ、リトアニアの外相がNHKのインタビューに応じ、ロシアの軍事侵攻によってウクライナの港で穀物の輸出が滞っている問題について「黒海に安全な『回廊』を作ることが解決策の1つになる」として有志国による護送船団を組んで穀物の輸送船を守ることを提案し、日本を含む各国に協力を求めていく考えを示しました。
リトアニアのランズベルギス外相は5日から日本を訪れていて、7日都内でNHKのインタビューに応じました。
この中で外相は、ロシアによるウクライナ侵攻について「ロシアが隣国に対して軍事力を行使することをいとわない攻撃的な国であることを示した。わが国と700キロの国境を接するベラルーシはウクライナ攻撃の準備に使われた。西にはロシアの飛び地で軍事基地があるカリーニングラードがある。われわれは双方に挟まれた状態だ」と述べ、ロシアへの強い警戒感を示しました。
そのうえで、リトアニアも加盟するNATO=北大西洋条約機構に対して兵力の増強を求めていく考えを示しました。
また、ロシアによってウクライナ南部の港が封鎖され、穀物の輸出が滞っている問題について「黒海に安全な『回廊』を作ることが解決策の1つになる。実現のためにはウクライナの船がロシア軍から攻撃されないように武器を供与することと、安全に航行できる保証をすることが必要だ」と述べました。
そのうえで、南部オデーサの港からボスポラス海峡までの海上ルートで有志国による護送船団を組み、穀物の輸送船を守ることを提案し、日本を含む各国に協力を求めていく考えを示しました。
また、リトアニアでは去年、「台湾」の名を冠した出先機関が開設されたことをめぐって中国との関係が悪化しています。
ランズベルギス外相は「今では、中国への輸出ができなくなり、ほぼゼロになっている」として中国がリトアニアからの輸入を厳しく制限していることを明らかにしました。
そのうえで「中国が他国の外交政策を変えるために何をするかが明らかになった。私たちは同じ価値観を持つ社会とのつながりで得られた信頼関係が自国の利益につながると考えている」と述べて、今後も台湾とのつながりを重視していく考えを示しました。
●非武装中立のバルト海諸島、ウクライナ情勢に戦々恐々 6/7
戦闘が続くウクライナは、海と陸を隔てた2000キロ以上の彼方に存在する。だが、フィンランド南岸のオーランド諸島に住む人々は、ロシアによるウクライナ侵攻が自分たちの暮らしを永久に変えてしまいかねないと危惧している。
ロシアのウクライナ侵攻は数十年続いた欧州の安全保障政策を覆したが、ロシアと長い陸の国境を接するフィンランドほど状況が一変した国はほかにない。同国は今年5月、ロシアに報復措置を警告されながらも北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。
フィンランドのNATO加盟が、同国の自治領であるオーランドにとって何を意味するかは、まだはっきりしない。しかし、スウェーデン語を話すこの地の住民らは、大切にしてきた自治権が脅かされかねないと心配している。国際協定によって自治権を与えられ、非武装の中立地帯となってから、オーランドは昨年で100周年を迎えた。
ところが、バルト海一帯とロシアとの緊張が急激に高まる中、フィンランドとスウェーデンに挟まれた戦略上の要衝に位置するオーランド諸島を非武装のままにしておくことに、フィンランド国民の一部は疑問を呈し、特別な地位は過去の遺物だと訴え始めている。
フィンランド国際問題研究所の防衛政策研究員、チャーリー・サロニウスパステルナク氏はスウェーデンのテレビで「1国に対して特定の地域を守る責任を求めながら、その地域の防衛に向けて本格的に準備することを許さないというのは、つじつまが合わない」と語った。
オーランド自治政府のベロニカ・ソーンルース首長は、中立の地位を破棄すべきだとの意見には同意できないと言う。NATO加盟による影響を受けないとの言質をフィンランド政府から得ていると指摘し「これがフィンランドの大統領および政府の示した認識であり、われわれオーランド住民はそれ以外の見解を有していない」と語った。
自治権か安全保障か
オーランド諸島は戦略的に重要な場所にあるため、長年にわたって周辺諸国が所有権争いを繰り広げてきた。最初にオーランドに中立的地位を与える協定が締結されたのは、クリミア戦争後の1856年だ。
オーランドの住民約3万人は、伝統的な中立的地位に今でも誇りを抱いている。大半の住民は、森の中に赤い木造住宅が並ぶ最大の島に住み、主に海運業に携わっている。
島民は、フィンランドもしくはNATOの軍が来て自治権が弱まる可能性を懸念する一方で、ロシアに侵攻された場合に自衛できるかどうかという心配も抱いている。
漁師にして猟師、ビジネスマンでもあるヨハン・モーンさんは、少年のころから周辺の海で船に乗り、オーランド諸島のことなら知り尽くしている。
「水先人だった祖父は、第2次世界大戦中に機雷が仕掛けられた際、この海で航行を助けていた。フィンランドがソ連に攻撃された時には、スウェーデンから物資を届けた。今のわれわれの技術も使えるかもしれない」。モーンさんは、全長10メートルある自身のモーターボートに乗りながらこう語った。
モーンさんはロシアの船や怪しい行動を見張るため、地元の有志によるネットワークを作りたい考えだ。一方で、オーランドの非武装維持を全面的に支持しており、フィンランド軍がオーランドを守ってくれるとも信じている。
「われわれも世間知らずではない。今のロシアのやり方を見ていると、ウクライナを奪い、さらに他の国も狙っているのは明らかだ。仮に最悪の事態になっても、われわれはこの地域を知り尽くしており、武器の扱いにも慣れている」と語った。
●要衝で激しい市街戦 ロシア、東部州「97%」制圧 6/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日夜、ビデオを通じて演説し、東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクでロシア軍との激しい市街戦が続いていると明らかにした。一進一退が繰り返されているもようだが、大統領は同日の記者会見で「ロシア軍は数で勝り、より強力だ」と述べ、苦戦していることを認めた。
東部ドンバス地方の支配拡大を狙うロシア軍は当面の重点目標として、同地方を構成するルガンスク州全域の掌握を目指しているとされる。タス通信によると、ロシアのショイグ国防相は7日、州の97%が「解放された」と述べ、大部分を制圧したと主張した。
ゼレンスキー大統領は、セベロドネツクや、川を挟んでその西方にあるリシチャンスクが砲撃などの猛攻にさらされており、両市とも「死の街」と化したと表現した。
米シンクタンクの戦争研究所の6日の報告書によると、ロシア軍が同日時点でセベロドネツクの大半を押さえているもよう。ただ、「陣地の支配権が頻繁に入れ替わる」状況が続いているようだと報告書は指摘した。ショイグ国防相は7日、セベロドネツクの住宅地域を完全に支配下に置いたと主張。残る工業地域やその周辺の制圧を目指し、作戦を継続していると述べた。
ゼレンスキー氏によると、ロシア軍はルガンスク州に隣接するドンバス地方ドネツク州でも主要都市スラビャンスクなどに激しい攻撃を加えている。
一方、ウクライナの国営通信によると、同国海軍司令部は6日、黒海北西部に展開していたロシア艦隊をウクライナ南部沿岸から100キロ以上沖に後退させたと明らかにした。
黒海北西部にはウクライナ最大の貿易港であるオデッサが面し、ロシア艦隊による海上封鎖の下に置かれている。海軍司令部はこの海域が依然として厳しい状況にあるとしつつ、ロシアによる「完全支配」の一部を奪還したと主張した。
●ロシア軍、性暴力の疑い124件 6/7
ウクライナでロシア軍による性暴力の疑いが124件あったことが、国連安全保障理事会の会合で報告された。一方、ウクライナ東部ルガンスク州のセベロドネツク市では激しい市街戦が続いている。
49件は子供
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米ニューヨークの国連本部で6日に開かれた安全保障理事会の会合で、紛争地における性暴力問題を担当するパッテン事務総長特別代表が報告した。3日時点で、性暴力の疑い事例があったと明らかにした。56件は成人女性、49件は子供(少女41件、少年7件、性別不明1件)、19件は成人男性に対するものだったという。
東部セベロドネツクで激しい市街戦
ロシア軍が攻め込むウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は5日、要衝セベロドネツク市でウクライナ軍が「半分を支配下に置いた」と通信アプリ「テレグラム」で明らかにした。一方で、6日の地元テレビのインタビューでは「状況は再び少し悪化している」と述べた。1日時点では市中心部の8割を露軍が占拠したとされるが、両軍の一進一退の攻防が繰り広げられている模様だ。
ロシア外相、セルビア訪問を断念
ロシアのラブロフ外相は6日、予定していたセルビアへの訪問を断念した。ロシアのウクライナ侵攻を批判する近隣国がラブロフ氏の乗る航空機の上空飛行を拒否した。ラブロフ氏は6日、モスクワで記者会見を開き、周辺国の対応を「前代未聞」と批判したが、ロシアの国際的な孤立が改めて浮き彫りになった。
トルコ、穀物輸出再開を仲介
ロシアのウクライナ侵攻により小麦などの穀物輸出が滞っている問題で、輸出再開に向けてトルコが仲介に乗り出している。ロイター通信などによると、トルコは8日、ロシアとの外相会談を行い解決法を協議するほか、ウクライナとも黒海の安全確保について検討を進めているとみられる。ウクライナは世界有数の穀物生産地で、「世界の穀倉」とも言われる。
●ロシア軍、招集兵を通常はありえない第一線に派兵 ロシア報道 6/7
ロシアのインタファクス通信は7日、ロシア国内で徴兵された招集兵600人がウクライナの第一線に派兵されていたと報じた。
ロシアでは第一線など危険地域の戦闘には軍当局と契約を結んだ「契約軍人」が担い、徴兵される招集兵は通常、任務に就かない。同通信によると、約600人の招集兵は西部軍管区から派兵されたという。
軍検察当局は派兵にかかわった将校12人の責任を捜査している。招集兵は既に全員帰国しているという。
●ベラルーシ参戦は「五分五分」 ウクライナ元参謀本部将校が分析 6/7
ロシア軍のウクライナ侵攻から6月3日で100日が過ぎた。ナチス・ドイツの総統アドルフ・ヒトラーが1941年6月、独ソ不可侵条約を破りソ連に対してバルバロッサ電撃作戦を開始した時には、100日でモスクワ近郊に迫る進撃を続けた。ウクライナ東部のドンバス戦線は、膠着状態が続いている。欧米からのウクライナ軍への最新兵器の供給は大幅に遅れ、戦況にも影響を与えているようだ。これまで2度取り上げた元参謀本部将校オレグ・ジダーノフ氏が、ウクライナのテレビやネット番組で最前線の戦況と、欧米からの武器供与の遅れなど、今後の焦点について語っている中から、今回はUkraina24とUKLifeTVでの発言(6月4日)をまとめた。ジダーノフ氏は非公式ながら、ウクライナ参謀本部のスポークスマン的役割を担っていて、その的確な分析と分かりやすい解説で人気を博している。最近では自分のウェブサイトを開設し、毎日の戦況と、ユーザーからの質問に答えている。
これからは精神的にきつい「陣地戦」になる
ロシア軍侵攻から100日が経ったが、いちばん重要なことは、軍事侵攻によって政治的にウクライナを転覆させるというロシアの主要な目論見を打ち砕いたことだ。こうしてキーウからニュースを伝え、ウクライナ国旗を掲げていられることが、その成果の証明だ。「世界で二番目の軍隊」と戦いながら、ウクライナ国家は存在を続けている。
5月末からはロシア軍が全力で多方面からルハンシクを攻撃し、戦況はたいへん厳しかった。ウクライナ軍がセベロドネツクをすぐに奪還することはできないだろう。橋が爆破されて落とされており、渡河を難しくしている。激しい市街戦が続いているが、前線は膠着状態だ。ウクライナ軍はロシア軍の攻撃を食い止めて街の一部は奪還している。
リシチャンシクについて言えば、防御を固めて要塞化し、両翼を固めてロシア軍が包囲できないようにしている。ルハンシクが取られてもドネツクは防御できる。
しかしこのあとすぐに反転攻勢にでられるわけではない。今後1カ月かそれ以上、「陣地戦」が続くだろう。陣地戦は防御戦より精神的にきつい。ロシアは全戦力を投じて圧力をかけ、ウクライナ側をなんとか停戦協議のテーブルにつかせようとするだろう。だがロシア軍が兵力を補充することは難しい。撃破されたBTG(大隊戦術群)の残余の兵を集めて再編し、前線に投入する程度だ。
ロシア軍の状況は悪化するだろう。6月半ばで短期契約切れを迎える契約兵がでてくるはずだ。法的には「契約期限が終了したので帰任する」と言えるのだが、「そうはいかない。小銃を持って塹壕に入れ」と言われた例がいくつもあるのを知っている。またこの時期には療養していた負傷兵が松葉杖をつき、車椅子に乗って故郷に戻ることになる。多くの若者が戦場に出て傷病兵となって戻る光景は、ロシア社会にとって衝撃になる可能性がある。
ロシア側も作戦上の再編が必要だ。セベロドネツク方面に他の地域からBTGを集中させている。他に投入できる部隊がないのだ。これからは、どちらの軍が早く、質の高い再編成ができるかという競争だ。この競争に勝った方が次の段階で有利になる。
「ベラルーシが侵攻してくる前提で準備している」
ウクライナと国境を接する、北西のベラルーシでは、ベラルーシ軍の演習が活発になっている。ルカシェンコ大統領は、「今日明日にもウクライナ軍がベラルーシに攻め込んでくる可能性があるため、国民義勇軍を組織して国境の守りを固める必要があり参戦できない」とプーチンに説明しているのだが、プーチン側からの圧力は相当なものだ。
プーチンは最後通帳をつきつけて「参戦するか、さもなくば国家元首の座から引きずり下ろす」と脅している。しかし、ルカシェンコは、国内でコンセンサスを作り出さなければならない。この2年間、抑圧と弾圧を重ねてきたため、国内向けには「ウクライナとの戦争はわれわれの戦争ではない。わたしはベラルーシ国民が戦争に引き込まれないようベラルーシを守るから、ベラルーシ社会はわたしを守ってくれ」というコンセンサスをとりつけようとしている。しかしプーチンはいざとなったらルカシェンコを排除し、ロシアの「協力者」を政権につけるかもしれない。その「協力者」がプーチンの意向を受けて参戦を命じるというシナリオだ。
ベラルーシ参戦の可能性は五分五分だと思う。われわれとしては、ベラルーシ軍が侵攻してくる前提で戦術を組み立てている。
先日、ゼレンスキー大統領は、一日でウクライナ軍兵士60人が戦闘で死亡し、500人が負傷した、と発表したが、これはセベロドネツクの戦闘での数字だ。ロシア軍が兵力も重火器も集中した過酷な戦いだった。この数字はその時の損耗だ。しかし、戦闘が100日続いているからといって、この数字を100倍して、ウクライナ側の損失がとんでもなく大きいとみなしてはならない。侵攻の最初の週のウクライナ側の損耗は最低限だった。ゼレンスキー大統領は軍人ではないから、渡された情報をそのまま口にしたのだろうが、詳しい説明が必要だったと思う。残念だが、この数字は今回の戦争のひとつのエピソードにすぎない。
ロシア軍で“懲罰人事”が始まった!?
プーチンがドボルニコフに代えて新しい司令官を任命したという情報もあるが、現場の司令官を頻繁に変えるのは、軍の統制に混乱をもたらし、現場の士気に響く。参謀本部の作業そのものも不安定化させる。しかし、米国の情報機関はウクライナ作戦の司令官が誰なのかは明言していない。司令官は単なる交代ではなく、更迭されたとも言われている。
ロシアはいま階級の垂直構造は変えずに、人事異動をおこなっている。実際の役職実務からは引きはがすのに、職位はそのままにしておくのだ。外から見ると何事もなかったかのように見える。垂直構造はそのまま保たれているように見える。ドボルニコフがいまどこにいるのかは不明だ。
師団レベルでも旅団レベルでも懲罰人事が始まったと言われている。軍事的課題を解決できず甚大な損害を招いたことに対する懲罰人事だ。これは軍の上層部を不安にさせている。次の司令官も同じ目に遭うのではという疑心暗鬼が生じるからだ。軍内部では地殻変動が起きている。われわれからもロシア社会からも見えないが、エリートたちは戦々恐々としているだろう。
第二次大戦末期の1945年のナチス・ドイツでもまったく同じように、ヒトラーは毎週司令官を替えた。ことに対ソ連の東部戦線では頻繁だった。頻繁な人事異動がロシア社会にどんな結果をもたらすのか、予測するのは難しい。
我々は米国からの「最新兵器」を待っている
米国のレンドリース法(=武器貸与法 5月9日成立)による武器の供与は当初の想定より2カ月遅れている。いま受け取っている武器支援はレンドリース法のものではない。レンドリースの支援はまだひとつも来ていない。われわれは最新兵器を待っている状態だ。現在、ウクライナへ向かって運搬中だ。その兵器に習熟し、反転攻勢の部隊を再編しなければならない。反転攻勢の部隊編成が終了するのは早くとも夏の後半になるだろう。高機動ロケット砲「ハイマース」はもうヨーロッパには到着した。ウクライナ軍にとっては今日明日にでも欲しい。
いまのウクライナの深刻な問題は、砲弾の不足だ。武器庫が炎上したからだ。ただ、ウクライナ側にも西側からの武器供与の遅れの原因がある。政府内で誰が武器供与の交渉を仕切り調整し、まとめるかが曖昧なままなのだ。
確認しておきたいのだが、NATOは軍事同盟組織としてはまったくウクライナを支援していない。バイデン米大統領が戦争の最初期に言ったように、「NATOはこの戦争と距離を置く」ということだ。侵攻当初、50トンの燃料を供与してくれたが、NATOそのものからは、その後は一切何の支援もない。支援してくれている諸国はNATO加盟国だが、各国がパートナーとして個別に支援してくれているわけだ。英国はつねに米国より先に最先端の精密兵器を提供してくれている。それによって、遅れがちな米国の決定を促しているのだ。スロバキアなどの小国も数量は少ないが、できるだけの供与をしてくれている。
高機動ロケット砲「ハイマース」はクリミア半島にも・・・
ハイマースは80キロから300キロの射程があり、たしかに米国内では、ウクライナが300キロの射程のハイマースをロシア領に打ち込むと侵略行為になり、世界戦争につながるから、射程は短くしろ、という議論がある。しかし駐ウクライナ米国大使は、どこでどの射程で使用するかはウクライナが決めることだ、と言っている。ロシア軍の主力は50キロ圏内に配置されているし、予備弾薬、医療、食糧、指令部も補給の鉄道駅も50キロ圏内なので、現状では80キロで十分だ。ロシア側は米国がハイマースを提供することにいら立っている。
混乱があるように見えるが、大事な点がある。ゼレンスキー大統領も「ロシア領内には発射しない」と約束したが、欧米各国はいまでもロシアのクリミア併合を認めておらず、法的にクリミア半島はウクライナの国土としていることだ。つまり、1991年時点でのウクライナ領土内で、われわれは自由にハイマースを使うことができる。
この西側仕様の第四世代高機動ロケット砲システムはウクライナには使いこなせない、などと言われているが、ウクライナはクリミア併合が起きた2014年以降のこの8年で、軍ではなくて、技術ボランティアが手作りで第四世代の変換モジュールを開発した世界で最初の国であり、ハイマースを始め、西側のあらゆる兵器に応用が可能だ。
ウクライナでは兵士がいるからといって闇雲に銃を持たせて前線に送りだすことはしない。この戦争は第一次世界大戦ではないのだ。西側の最新兵器が入ってくるのに合わせて訓練し、兵器を扱えるよう訓練して前線に送りだしている。
●“7500万トンの穀物が滞留の可能性” ゼレンスキー大統領 6/7
ウクライナ情勢です。東部地方ではロシアとの激しい攻防が続いています。一方、ロシアによる海上封鎖で滞る穀物の輸出について、ゼレンスキー大統領は秋までに7500万トンが滞留する可能性があるとしています。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「我々の英雄(兵士)はセベロドネツクを譲らない」
ウクライナ東部ルハンシク州の最後の拠点とされるセベロドネツクでの戦い。ゼレンスキー大統領は6日、ロシア軍が数も力も上回っているとしながらも「我々にはチャンスがある」として抵抗を続ける姿勢を強調しました。セベロドネツクでは病院や住宅も攻撃され、市街戦も続いているということです。こうしたなかアメリカから気になる情報が。
アメリカ ブリンケン国務長官「ロシアがウクライナから盗んだ輸出穀物を売って利益を得ているという信頼できる報告がある」
ロシアによるウクライナの穀物の横流し疑惑。またブリンケン国務長官は、ロシア軍がウクライナの畑に爆発物を仕掛けることで「重要な農業インフラを破壊した」と厳しく批判、軍事侵攻が「世界の食糧安全保障に壊滅的な影響を及ぼしている」と強調しました。ロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナの黒海沿いの港が占領されたり封鎖されたりしているため、輸出ができず世界的な食糧危機への懸念が高まっています。ゼレンスキー大統領は・・・
ウクライナ ゼレンスキー大統領「2000万〜2500万トンが滞留している。秋には7500万トンになる可能性がある」
そして穀物輸出を可能にするには、第三国の船が穀物の輸出を保証すること、そして船のルートが安全であることが不可欠だと指摘。そこでカギとなる国は・・・
ウクライナ ゼレンスキー大統領「トルコは私たちに保証を提供するための方法を探している。それがトルコがロシアと会う理由だろう」
両国の仲介役をアピールするトルコ。ロシアメディアによりますとラブロフ外相は8日からトルコを訪れ、穀物輸出の問題について話しあう見通しです。情報筋の話では国連の代表者も参加し、ロシアとトルコが協力してウクライナの船を公海に出す計画が承認されるとされ、計画はトルコとウクライナとの間でも合意しているとしています。ただゼレンスキー大統領はウクライナはこの協議に呼ばれていないとしていて、先行きはまだ見通せません。
●「プーチンを信じているが日常に戻りたい」 ロシア市民がいま考えていること 6/7
ロシアの都市部に暮らす中間所得層は、ウクライナでの戦争によって思い描いていた生活が送れなくなった。バケーションの計画は台無しに、外国ブランドを買ったり日本車を乗り回す楽しみも奪われ、ビッグマックをほおばることさえ叶わなくなった。
戦争が長引くにつれ、かつての日常を取り戻したいという思いは募るばかりだが、一方で彼らは確信している。ウラジーミル・プーチン大統領は勝つまでやめないことを。なぜなら、それがプーチンのいつものやり方だからだ。
ウクライナ侵攻にあたり、大事な隣国を「ナチスから解放するために」この戦争は必要なのだと、ロシア国民の大半を説得したプロパガンダはいま、長期戦に備えるようにと執拗に呼びかけている。
つまり、ウクライナにとっては、さらなる民間人の犠牲、市街地への爆撃、兵力の喪失だ。
それに比べてロシアの苦難は微々たるものかもしれいが、長い戦争がもたらす暗雲にクレムリンも穏やかではないと、アナリストらは指摘する。続く経済制裁、外国企業の撤退、物価の高騰により、人々がもう日常は取り戻せないと思い始めるなか、政権のプロパガンダがどこまで通用するのかわからない。
ネトフリで映画を見て、ユニクロで買い物したい
今のところ統計上は、クレムリンの古い手口の効き目はあるようだ。独立系の世論調査機関「レバダセンター」が4月に実施した最新の調査では、ロシア人のほぼ半数が戦争を無条件に支持し、約30%が条件付きで支持、19%が反対との結果が出た。
しかし、この戦争がロシア人ひとり一人の生活に大きな犠牲を強いているのは明らかだ。
語学教師のマリーナ(57)と友人たちは戦争に疲れ果て、その話題を避けるようになったという。
「みんな戦争、あるいは特別作戦とでも呼ばれているようなものに、うんざりしているようです。それよりも物価上昇など個々の生活に問題を抱えていて、生きることに必死なのです」
ただ、そうやって「何とかして」生きるすべを見つけるのにも飽きてきたと言い添える。
「ほとんどの人が辟易としています。私は旅行がしたいし、私たちはただ普通の生活に戻りたい」
マリーナは、ほんの数ヵ月前の自分の生活を切なく振り返らずにはいられない。
「ネットフリックスで西側の映画を見たり、ユニクロで買い物をしたりしたい。手頃で信頼できる航空会社でヨーロッパに行きたい。世界から追放されるのではなく、世界の一員になりたいのです」
戦況に疑念を抱くエリート層
モスクワ社会経済科学大学院のグリゴリー・ユージン(政治哲学)は、多くの人はまだ現実から目を背けようとし、ただ目の前の現状に適応しようともがいている段階だと語る。
「ロシア人にとって、この戦争を支持するかしないかは問題ではありません。それよりも、どうしたらこれに適応できるのかが問題なのです」
ユージンによれば、自分はヨーロッパ人だと感じているモスクワのエリート層(中堅官僚も含む)の一部は、戦争を全面的に支持してはいないが、プーチンが勝つまで戦うだろうことは確信しているという。
「ロシア人の大半は、いまでも軍事的成功を収め続けていると素直に信じているし、少なくともそれが彼らの希望的観測でもあります。一方、高学歴で、多様なソースから情報を得る傾向にある人々は、(政府のプロパガンダに)大きな疑問を抱いています」
マックが恋しいのではなくて…
「同僚たちもようやく、状況は芳しくないことに気づき始めたようです」
そう語るのは、西側の制裁で大打撃を受けた輸入商品を扱う会社で経理を務めるクセニア(50)だ。彼女の同僚の多くは、当初は戦争を強く支持していたが、最近は政府に対する不満を漏らす以外、この話題を避けているという。
「その話になると、けんかになるから議論しないようにしています。でも『この戦争を始めたのは私たちではないのに、代償を払わされるなんて』という愚痴は聞こえてきますよね」
クセニアはこの夏、アメリカもしくはイタリアで休暇を過ごす計画だったが、ビザが取れないために台無しになった。
「将来がないような気がして、とても憂鬱です」と漏らす彼女は、マクドナルドのゴールデンアーチが撤去されたときも落ち込んだという。ハンバーガーやポテトが恋しいのではなく、それらが象徴するものが失われたことに胸を痛めたのだ。
「私にとってマクドナルドは自由の象徴でした。モスクワに1号店がオープンしたときのことを今でも覚えています」と、彼女はソ連が崩壊する直前の1990年の行列を思い起こす。「それはトンネルの先に見える光のようでした」
世界でロシア人が「のけ者」にされる
戦争に反対するクセニアやその友人らにとって、最も心が痛むのは、子供を含むウクライナ市民が殺され、女性がロシア兵にレイプされていることを考えるときだ。
「私は別に外国ものの服がなくても生きていけます。西側の映画が見れなくても生きていけます。それより私が本当につらいのは、いまや世界の誰もロシア人と握手したがらなくなったこと。ロシア人がのけ者にされてしまったことです」
大工のヴィクトール(35)も同じ気持ちだ。当初、戦争は2ヵ月で終わると思っていたが、いまは何年もかかると実感している。
「人命が失われるだけではありません。これから先、私たちは貧困にあえぎ、第二次世界大戦中のドイツのファシストのように、嫌われることになるでしょう。私たちが新しいファシストであるかのように」
プーチンを信奉するヨガ好きベジタリアン
他方、モスクワに住むコンピュータプログラマーのアンドレイ(43)は、この戦争を「神の計画」と捉え、ロシア人は勝つための犠牲をいとわないはずだと信じている。
ヨガ好きでベジタリアンでテック系の彼は、保守的な高齢者という典型的なプーチン支持層には当てはまらない。それでも彼は日々、親プーチンのブロガーからニュースを入手し、ロシアの戦争犯罪に関する西側のニュースは「フェイク」であると確信している。
「この戦争の目的は、ウクライナからファシズムを取り除き、90年代以前のように、ソ連に住みたい民間人を戻すことです」
IT業界の友人の多くがアルメニアなどに逃げ、愛用のMacBookコンピュータも買えなくなったが、「今のところ制裁による大きな影響は感じていませんね」。
アンドレイは、1年かそこらでロシアが戦争に勝ち、物価も下がり、アップル製品が闇市場を通じてロシアに入るようになると信じて疑わない。それまでは犠牲を払ってでも戦うと言う(ただし、自身が志願して戦場へ行くことはしない)。
政治アナリストでジャーナリストのフョードル・クラシェニニコフによれば、多くのロシア人がウクライナの早い降伏を望んでいる。彼いわく、今のロシアの雰囲気は、「こんな生活はもう無理だから、一刻も早く終わってほしい。元の生活に戻してくれ」だ。
「プーチンのやることを本当に支持しているというわけではありません。でも自分たちでは何も変えることができないので、フラストレーションと鬱屈を感じているのです」とクラシェニニコフは続ける。
「たとえるなら悪天候のようなものです。毎日雨が降るのはわかっている。でも彼らに何ができるというのでしょうか」
●崖っぷちロシア軍、将官11人が続々戦死 6/7
ついに反転攻勢か。ロシア軍による完全制圧が近いとされた東部の要衝セベロドネツク市で、ウクライナ軍が猛烈に押し戻した。その後、露軍は砲撃で再反撃するなど激戦が続く。露軍は将官に「11人目の犠牲」が出るなど混乱が続くうえ、西側諸国の武器供与も本格化している。ウラジーミル・プーチン大統領は強気の態度を続けるが、残された道は少ない。
東部ルガンスク州のガイダイ知事は5日、セベロドネツク市をめぐり、ウクライナ軍が「市の半分を制御下に置いた」と通信アプリに投稿した。
一時は露軍が市の8割を支配下に置き、ガイダイ氏は軍撤退の可能性に言及していたが、戦局に変化があったことがうかがえる。ガイダイ氏は現地メディアのインタビューでも露軍撃退は「可能だ」と自信をみせた。
米シンクタンク、戦争研究所(ISW)も同日、「都市の大部分を奪還し、露軍を都市の南部郊外から追い出した」と分析している。
ただ6日には、露軍の砲撃により戦況は再びやや悪化したとみられる。ロシアは米欧からの兵器供給ルートの遮断を狙って空爆しており、激しい攻防が続く。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、セベロドネツクに隣接するリシチャンスクと東部ドネツク州バフムトなど前線を電撃訪問し、兵士を激励した。フェイスブックでは、「われわれは自信を持っている。自信と誇り。出会った皆さんを誇りに思う」と決意を新たにした。
露軍の将官の戦死も相次いでいる。第29諸兵科連合軍参謀長のロマン・クトゥゾフ少将が死亡したと露国営テレビの記者が通信アプリ「テレグラム」で公表し、ロイター通信などが伝えた。
東部戦線で飛行中にミサイル「スティンガー」で撃墜されたという。英大衆紙デーリー・メール(電子版)はウクライナ侵攻で戦死した11人目の露軍将官と報じた。
ロイターによると、ロシアは軍人の死亡を国家機密としており、3月25日以来、公式の死傷者数を発表していない。
東部制圧目前とみられた露軍に何が起きたのか。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏はこう解説する。
「東部に兵員や火力を集中し有利にみえたが、もはや限界に達している。ウクライナ軍の頑強な抵抗が成功の一因だろう。ロシア軍の兵士も希望者がおらず、総兵力も増えていない。英国防省は先月、軍の3割を喪失したと分析したが、軍事の常識では3割負傷兵が出れば部隊は動けない。士気も最低で、兵站活動も改善されていないとみられ、軍隊として体裁をなしていない状態だ」
西側によるウクライナ支援では、米国は先月末に高機動ロケット砲システム「ハイマース」の供与を表明した。米政権高官によると、ハイマースは最大約80キロ離れた標的を正確・精密に攻撃できるという。
ドイツも多連装ロケットシステム「MARSU」や防空システム「IRIS―T」、2日には英国も多連装ロケットシステム「M270」などの供与による軍事支援を表明した。
渡部氏は「これまで東部でウクライナ軍が不利だった背景には、ロシア軍の砲兵がウクライナ軍の射程外から砲撃するため榴弾(りゅうだん)砲が届かなかったこともある。だが、ハイマースは長射程での反撃を可能にするもので、非常に有益だ」とみる。
プーチン氏は5日放映の国営テレビのインタビューで、長距離砲撃が可能な武器を供与すれば、「これまで標的としていなかった対象を攻撃する」と牽制(けんせい)した。さらに、ハイマースなど欧米の武器供与について「私の見解では目的は1つ。できるだけ長く軍事衝突を長引かせることだ」として、欧米が意図的に戦闘を長引かせていると主張した。
前出の渡部氏は「ロシアは第1段階の首都キーウ占領も、第2段階の東部ドンバスの完全掌握も失敗した。次は現在の占拠地を保持し続ける第3段階に移らざるをえないが、これも失敗すると思う。プーチン氏は米欧に責任を押し付ける一方的な主張しかできず、敗者の遠吠え≠ノ聞こえる」と語った。

 

●ロシア前大統領「彼らを消滅させるため何でもする」とSNS投稿… 6/8
ロシアの安全保障会議副議長を務めるメドベージェフ前大統領は7日、自身のSNSに「私が生きている限り、彼らを消滅させるために何でもする」と書き込んだ。具体的な対象は明示しなかったが、露有力紙コメルサントは露軍が侵攻を続けるウクライナや、米欧の可能性があるとの見方を示した。プーチン政権の要人の過激な言動にロシアへの非難が強まりそうだ。
メドベージェフ氏は、通信アプリ「テレグラム」に、度々過激な内容を投稿しており、理由について、「答えは彼らが憎いからだ」と率直に認めた。「彼らはロシアに死をもたらしたいのだ」ともつづった。
プーチン大統領の最側近の一人と位置付けられるメドベージェフ氏は、2008年から12年までプーチン氏の後任として大統領を務めた。プーチン氏が大統領に復帰した12年以降、20年1月まで首相を務めた。
●ウクライナ東部 ロシア軍攻勢強めるも将軍戦死 一部で苦戦か  6/8
ウクライナ東部で攻勢を強めるロシア軍は、東部ルハンシク州の97%を掌握したと主張しました。一方、ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力は、ロシア軍の将軍の1人が戦死したことを認め、一部では苦戦を強いられているものとみられます。
ロシアのショイグ国防相は7日、東部ルハンシク州でウクライナ側が拠点とするセベロドネツクについて、「住宅地域は完全に掌握した。現在、工業地帯や近隣の集落で攻撃を続けている」と述べ、現時点で州全体の97%を掌握したと主張しました。
これについて、セベロドネツクのストリュク市長は7日、地元メディアの取材に対して、「敵は次から次へと兵士を送り込んでいる」と苦戦を認めながらも「われわれは敵の突撃を食い止めている」と述べ、抵抗を続ける姿勢を崩しませんでした。
ゼレンスキー大統領は7日「過去24時間で、戦況に大きな変化はない」と攻防が続いているとしたうえで、ロシア側が東部ドンバス地域や南部ヘルソン州に、増援部隊を送り込もうとしていると指摘しました。
そして「われわれが部隊を前進させるには、少なくとも現在の10倍以上の軍事物資と人員が必要だ」と述べ、各国にさらなる支援を求めました。
一方、ロシアを後ろ盾とする親ロシア派の武装勢力の指導者プシリン氏は7日、自身のSNSに、ロシア軍の将軍の遺影とともに、「残念ながらわれわれは、彼とお別れすることになった」と投稿し、将軍の1人が戦死したことを明らかにしました。
ウクライナでは、軍事侵攻の当初からロシア軍の将軍や指揮官が、前線で戦死するケースが相次ぎ、今も一部では苦戦を強いられているものとみられます。
こうした中、外交面では、停戦交渉の仲介役を担ってきたトルコが、ロシアのラブロフ外相を首都アンカラに招き、8日にはチャウシュオール外相が会談に臨む予定です。
両外相は、ロシアの軍事侵攻で、ウクライナの港からの穀物輸出が滞っている問題についても話し合い、トルコ側は黒海で、国連とともに海上輸送ルートを設置することや、安全のための監視態勢の構築を提案する見通しです。
また、これに先立ち、ロシアのショイグ国防相とトルコのアカル国防相は7日、電話会談し、トルコ国防省によりますと、穀物やひまわり油といった農作物を、安全に輸送するための対策など食糧危機をめぐる問題についても意見が交わされたということです。
ロシアとトルコの外相会談によって、ウクライナからの穀物輸出の正常化に向けた糸口を見いだせるのか、国際社会の注目が集まっています。
●プーチン絶体絶命。紛争さなかに飛び込んできたロシア関連の衝撃ニュース 6/8
時として目を背けたくなるような映像とともに、刻一刻と伝えられるウクライナ紛争の戦況。そんな中、今後の展開を大きく変えうるニュースが世界を駆け巡りました。今回その出来事を取り上げているのは、ジャーナリストの内田誠さん。内田さんは自身メルマガ『uttiiジャーナル』で、ロシア国債がデフォルト認定されたという衝撃的な事実を紹介するとともに、それが意味することを解説した上で、この先ロシアを襲うと思われる、彼らにとって好ましからざる未来を予測しています。
大変な勢いで変化しているウクライナの状況
雷どころではなく、ウクライナの状況が大変な勢いで変化をしているようですね。今日あたりから少し伝えられ方が変わってきているように思うのですが、きょうの午前中くらいまで伝えられていたことは何だったかというと、ほとんど、東部、ウクライナ東部の激戦地の様子で、特にロシア軍が激しい攻勢に出ていて、ウクライナ軍はかなり追い詰められている状況。で、どうもお互いの精鋭がぶつかっているようでして、ウクライナ軍はうまく撤退しないと部隊が壊滅させられてしまうという、大変厳しい状況に立ち至っているという報道でした。
これは、キーウ方面の、首都を陥れることに失敗したロシア軍が再編成をして、東部2州の掌握を目指してフル稼働してきている状況なわけですね。当然ですけど、そこにはウクライナ軍のかなり鞏固(きょうこ)な陣地が築かれていて、そう簡単に落ちるわけはないという状況だったのですが、ロシア軍はなんとしても落とさなければいけないということだったのでしょう、相当ヤバい兵器を使っていますね。核は使っていないですけれど、おそらくこの件に関心のある方はテレビなどでも繰り返し報道されていましたので、ちょっと遠目のドローンから撮った映像で、5、6発の爆弾が衝撃波を放ちながら爆発している様子、ご覧になったのではないかと思います。
ちょっと前に、レバノンのベイルートで、硝酸系の薬品か何かが大量に積まれているところが一気に爆発したときの…そのおかげでレバノンは今大変なことになっているわけですが…映像をご記憶かと思うのですが、衝撃波が出ますよね。ぶわーっと、空気が歪むというか。その状況を見て、これは普通の爆弾ではないと。どーんと音がして火が出る、煙がもわもわっと上がるというふうな爆弾ではなくて、もっと激しい爆発。おそらく気化爆弾という奴だと思うんですね。これ。
いわゆる核保有国からすると、なんとか使える核を作れないか、小さな核、限定的な核、戦術核、そういうものの開発を進める方法と同時に、核ではないけれども、さながら核兵器のような大きな効果を生む巨大な爆弾。こういう方向の開発もあるわけですね。
で、これ、何度か申し上げたことかもしれませんが、湾岸戦争で、イラクのフセイン大統領が「この戦争はすべての戦争の母である」と。つまりここからアラブ対西側世界の激しい戦いが始まるのだという予告のようなこと、そういう発言をした。それをからかうように(アメリカが)「すべての戦争の母」ではなくて、「すべての爆弾の母」と名付けた兵器があったんですね。当時は使われることはありませんでした。馬鹿でかい爆弾で、これが1発爆発すると、半径500メートルくらいの範囲内で、いや、もっと1キロくらいじゃないかと思いますが、非常に広い範囲で酸欠が起きて、中にいる生きとし生けるものが命を奪われるというような大変な爆弾な訳ですね。後に、アフガニスタンで米軍が何度か使ったようです。地下壕を掘って迷路のようになったタリバンの陣地を攻撃するのに使ったようですが、その効果がどうだったかという話はとんと聞かないので分かりませんが、今回、それに近いものをロシアが使ったのではないかと思います。それが大変な衝撃波を生じていく。これで陣地を守っているウクライナ兵を殺害するということが目的だったのではないか。
そのあと、もう一つあるんですね。テルミット焼夷弾という、私は全然知りませんでしたが、色々な方の発言の中でそんなものがあるということに改めて驚いたのですが、大変高温で燃える燃焼材を上からばらまく。一時期白燐弾と言われていたものですね、あれは白燐弾ではなくて焼夷弾。太平洋戦争中に東京大空襲とか、どこの空襲でもそうでしたが、あのときに使われた焼夷弾はケロシンでしたかね、あれも燃焼物質を使ったわけですが、あんなものではない。(今回のものは)2,000度から3,000度の温度で燃えるということなので、コンクリートも突き破る、人間の身体に触れると、エグい言い方ですけれど、骨まで溶かしてしまうという滅茶苦茶えげつない兵器です。まさに人を含めて何もかも燃やし尽くすための兵器。これを同時に使って、この二つの兵器を使うことによって陣地を突破し、比較的有利な立場をロシア軍が築いたという、そういう報道ですね。これ、ほとんど核兵器を使ったのに等しい状況だと思いますが、とにかくそんなことになっている。
非人道兵器を使ってウクライナ軍の陣地を一部突破した…。で、その状況にウクライナ軍は耐えつつ、撤退戦も始まっているということ。で、ルガンスクとドネツクに関しては、かなりの面積をロシア軍が支配するに至っているということは、ゼレンスキー大統領も認めていて、ウクライナ国土の20%をロシアが支配しているということを言っている。だから米国はもっと有効な兵器を寄越せということも言っているわけですが。
で、その後の状況に関しては、ロシア軍はどんどん兵員が足りなくなってくる、おそらく誘導兵器などもあまり作れなくなっていくのではないか、というような想像がある。制裁なども影響して、兵器を作れなくなっている、最新鋭の戦車などはもう作れないのではないかと言われている。それに対してウクライナ側は最新兵器、とくに長射程の、長い距離を飛ばす連装ロケットですかね、これはもともと相手の後ろ側をやっつけるというか、榴弾砲とか兵站のようなところを直接、長距離のロケットで壊滅させるというようなことが目的で使うようですが。これ、射程がかなり長くとれるようなもので、それが欲しいと言ったところ、アメリカは最初、ロシア領内を直接攻撃できるような兵器は与えないのだとバイデンさんが言った。でもそれに対して批判が巻き起こったら、すぐ撤回して多連装ミサイルというか、それを供与することになりました(* ただし長射程のロケット弾は供与しない)。
この辺もちょっと面白いところですけれど、アメリカも確たる方針があって、それに則って粛々とやっているというよりは、批判を受けつつ動揺しながらやっているという姿に見えます。ただこれによってロシア軍とウクライナ軍との力の差というのは、東部での戦いがどんな結末を迎えるかにもよるのでしょうが、いずれはウクライナ軍が優勢になり、ロシア軍は撃つ弾もなくなっていくだろうという感じですね、極端な言い方をすれば。ただそれまでにどれだけ犠牲が広がるのだろうということも当然ありますが。
で、南部の方では一部でウクライナ軍が反転攻勢に出ているとか、色々な情報がありますが、ウクライナ軍は先ほどいった兵器の中で、榴弾砲のような重火器がだんだん仕事をし始めていて、色々なところで反転攻勢が始まってくるだろうということですね。ただ、これは戦況の話ですから時間が掛かるのだろうと思うのですが、そんな中、大ニュースが飛び込んできました。
そういう機関があるということを知らなかったのですが、クレジットデリバティブ決定委員会という、つまり世界の金融市場をコントロールする協議体のようなものがあり、そこが、ロシアの国債を当初はデフォルトが回避されたと言っていたのですが、4月4日償還分で、結局、回避できていなかったという結論になり、つまりデフォルトになってしまったのです。これ、ドル建てだそうですので、もうロシアは国外で債券を募集することが出来なくなる。まあ、資金集めが超やりにくくなるということですかね。それでもいいよと言ってくれるところがあるかも分かりませんが。こうなると戦費調達もままならない状況になると思われますし、これはアナウンス効果も絶大ですよね。ロシア国債(ドル建て)デフォルトということになれば、世界中からロシアはもうダメねというふうに見られるはずです。特に中国がこれによって方向を変えざるを得ないのではないかと思うのですが、それは推測に過ぎませんからもちろん分かりません。
どちらにしても、この状況になったらロシア兵、大変な数のロシア兵が今もウクライナ国内で攻撃を続けているわけですけれども、この人たちはやがて取り残されて、それこそ大きな意味での撤退戦を始めなければ、どれだけ犠牲者が出るか分からない状況だと思うのですね。ロシア兵、ウクライナ国内にいるロシア兵が皆殺しになることを望みたいなどとは思いませんので、早く引き上げて、もうこんな戦争を起こさない政府を早くロシアに作ってほしいと思うのですが。そういう状態にこれからなっていくのではないかなと思います。最近の言い方でいうと、戦争の終え方をどうしたら良いのかという話が色々なされていますけれども、相変わらずプーチンさんの人気、ロシア国内での人気は高いわけですし、とはいえ、地方議会の議員さんだとか、あるいは外交官とか(が反旗を翻し始めている)。
プーチンさんの親衛隊の中からも除隊願いが大量に出て、つまり自分たちはもう戦争に行きませんよという意思表示ですね。そういうことをする人たちも増えている。ロシア国内ではまだまだプーチンさんの絶対的な人気が高いのだけれど、少しずつ(戦争の)状況が分かってきて、おそらく最も悲惨な話は自分の家族や親戚やら友人やらがウクライナに行かされて戦死しているという、そのことさえよく分からずに行方不明になっているとかね。そういう人たち(の遺族や家族)が声を上げ始めていて、何かが変わる可能性もあるかもしれない。
ただ、どうでしょう、太平洋戦争の時の日本国内で、東条内閣に対する反政府運動が高まったということはなかったわけですしね。原爆が落とされたのは別に戦争終結を早めるためではなかったのでしょうが、日本中が空襲に遭ってグウの音も出ない状況になって初めて、天皇が戦争の終結を宣言するような形で日本政府はポツダム宣言を受諾するということになったわけでしょう。決して日本国内で政府に反対する動きがうんと強くなったということはなかったわけですよね。みんな現人神を信じていたかどうかは分からないけれど、戦争に必ずしも反対などしていなかった。そのことを考えると、ロシアも当時の日本とは違うかもしれないですが、非常に悲惨な状態に陥る、例えば物価がどんどん上がって市民社会がパニックを起こすような…。そんな状態に落ち込んで初めて戦争が終わるのかもしれない。何かプーチンさんが考えを改めるとか、それ以外の人が政権について戦争に対して全く違った態度をとるようになるとか。ということを期待していいのか…、いや、期待できないのではないかなという気がしておりますね。
だからいわゆる西側諸国でも、ロシアにどう対応するかについては、ややあまり追い詰めてはいけないといっているマクロンさんのような立場から、いや、甘い顔を見せてはいけないのだというところまで、様々なようですね。テレビなんかではそれをナチスに対する態度の問題。第一次大戦でドイツに過剰な賠償を負わせてしまったためにナチスが台頭したのだという見方から、あるはいナチスがチェコの一部を占領したときにそれに対して断固たる措置を執らなかった、甘やかしたのであんなことになったのだという見方まで、温度差があるようです。なかなか一致して対応することが難しくなっているのかもしれません。
どちらにしても、そうしたことを含めて、これからの状況を決めていく最大の要素は、悲しいかな戦況ということですよね。実力同士のぶつかり合いの世界のなかで、もちろん色々なものを反映して武器が変わってきたり、兵力の損耗のあり方が変わってきたり、様々変化の要素がある中で、結果として軍事的にウクライナ側がロシアを抑えることが出来るのか、その逆になるのか、この辺が一番大きな要素になっているということだと思います。なかなか、今後100年くらいの世界のあり方を決める滅茶苦茶大きな話だと思いますので、それについての勉強の仕方、議論の仕方を含めて、細かく見ていくべきことではないのかと思っています。
●エネルギー高・ルーブル高で荒稼ぎするプーチンロシアが抱える時限爆弾 6/8
ロシアのウクライナ侵攻からほぼ100日が経過した6月1日、金融派生商品(デリバティブ)を扱う世界の大手金融機関で構成されるクレジット・デリバティブ決定委員会は、ロシア政府が支払い不履行(デフォルト)に陥ったと認定した。ロシアが期限に遅れて元利を償還した米ドル建て国債について、約1カ月分の延滞利息のおよそ190万ドル(約2億4000万円)が上乗せして払われなかったことが判断理由だ。
このデフォルトは、国連憲章に違反して主権国家ウクライナを侵略したロシアに対する制裁として、世界中の大半の国際決済や資産保有がドルで行われるという基軸通貨の特権を持つ米国が、ロシア財務省のドル建て債償還業務を代行する米金融機関による支払いを意図的に阻んだ結果である。
そのため、ロシアのアントン・シルアノフ財務相は、「われわれには資金と支払う意思がある」にもかかわらず、「非友好的な国が人為的に作り出した状況」に直面していると述べ、裁判などで徹底的に争う構えだ。
欧州など世界各国がロシア産の天然ガスや原油に深く依存し、制裁下でも購入を続けざるを得ないことに加え、最近の資源相場急騰で国庫が潤うロシアに「支払い意思と能力はある」との主張は、事実に照らして正しい。
だが、米国や欧州、さらに日本による金融制裁という「人為的な状況」を作り出したのがロシアによる違法な戦争であったことに鑑みると、侵略を止めないことで生み出された自業自得の苦境に文句を言うのは筋違いであろう。
いずれにせよ、今回のロシアによるデフォルトは、世界の重要な国際決済や資産保有の大半が米ドルで行われており、大国のロシアや中国でさえ有効な対抗手段を持たないという現実を改めて突き付けた。
こうした中、「ロシア経済は欧米の金融・経済制裁によく耐えており、制裁は失敗に終わった」「ロシアへの制裁で苦しんでいるのは西側諸国だ」「欧米による対ロシア金融制裁は、ロシアと同じ運命を恐れる各国の米ドル資産保有や米ドル決済を漸減させ、米ドルの基軸通貨としての地位が低下する」との主張が中国やロシアのメディアで目につく。米国や日本の論壇においても、類似の論調を見かけることが増えている。
そのような意見は、より大きな流れである「中国台頭による米国衰退論」や「大国中国と仲良くすべき論」、さらには「ウクライナ戦争は欧米に責任がある論」と通底するものがある。
東西間の新冷戦がエスカレートする中、それらの言説を成立させている成分や要素、さらには政治的背景を明らかにすることは重要ではないだろうか。そこで、本稿では(1)対露制裁失敗論、および(2)この先数カ月のロシア経済の展開の二つのテーマを検証したい。
逆に増えているロシアの天然ガス・石油収入
ロシアのプーチン大統領は、開戦から2カ月足らずの4月18日に、早くも対ロシア制裁が失敗に終わったと結論付け、次のように主張した。
「ロシアの市場にパニックを引き起こし、銀行システムを破壊し、物資を急減させることを狙った経済制裁は明らかに失敗した」「ロシアは前例がない圧力に耐えつつ、安定を維持している」
確かに、ロシアの通貨ルーブルの対米ドルレートは2022年の年初からむしろ上げており、制裁による一時の急落にもかかわらず、世界の通貨の中で今年最も価値が上昇している「エース」だ。
また、市民のパニック的な買い占めにより砂糖や塩、主食のソバの実やサラダ油、さらには生理用品などで一時的な物不足が生じた。だが、現在のところロシア国内における食料や必需品の供給は潤沢であり、懸念された店頭における長い行列や品不足の長期化は起こっていない。
さらに、一部の「非友好国」に対する天然ガスや原油の輸出がロシア側・欧州側の双方で停止され、禁輸がさらに強化されているが、世界的なインフレや堅調な需要を反映したエネルギー価格の高騰は続いており、1日平均8億ドル(約1040億円)とされる資源売却収入で、ロシアの経常黒字は逆に増加する一方だ。2022年のロシアの天然ガス・石油収入は、前年比20%増の2850億ドル(約37兆円)に達する見通しという。
こうした中、ロシア政府はオーストリアのエネルギー企業OMVなど、多くの欧州のエネルギーの買い手に対して、ルーブルによる支払いを認めさせるという勝利を収めた。
結果として、決済手段としてのルーブルに対する需要の高まりがさらなるルーブル高を招く「好循環」が生まれている。過度のルーブル高が資源輸出価格を高騰させ、経常収支に悪影響を与えることを心配するロシア中央銀行が、ルーブル安への為替操作を狙って、一時は20%まで引き上げた政策金利を5月下旬に11%まで下げ、さらに米ドルの海外持ち出し額の緩和など戦時資本規制を一部緩めたほどである。
欧米市場で締め出されつつあるロシアの天然ガスと原油は、中国やインドなどが割引価格で買い取っている。中印に値切られても、資源価格自体が高止まりしているため、ロシアにとってあまり痛くない。
また、ロシアには資源輸出関連の制裁逃れの抜け穴がいくつもある。たとえば、インドのコングロマリットであるリライアンス・インダストリーズは、市価より安く大量に仕入れたロシア産原油を精製の上、他国産の石油製品とミックスさせて産地をわからなくした「混合石油」を合法的に国際市場で売りさばいて利潤を得ているとされる。
ロシア国債のデフォルトに関しても、既に元本が支払われたこと、未払い利息が非常に小さな規模であることを踏まえると、今回のクレジット・デリバティブ決定委員会の判断がロシア債の広範なデフォルトにつながる恐れはない。
政治コンサルタント会社、Rポリティクの創業者であるタチアナ・スタノワヤ氏は米ブルームバーグに対して、「プーチン大統領の戦略は、こうした(ロシアの経済的苦境の)状況が過ぎ去るのを待つことだ。(そうすれば逆に)西側が近く大きな経済的問題に直面し、(制裁を加えることで浴びる「返り血」に対する)国民の不満が高まると予想しているため、十分に時間があると確信している」と指摘している。
徐々に実体経済を蝕み始めた西側制裁の「毒」
想像以上の耐性を見せるロシア経済だが、その「回復」は、ロシアの国内市場を外国から切り離し、人為的な経済統制を敷くことで維持される、市場の需給を無視した官製相場によって成り立っている。強制的に生み出された需要で支えられる国内ルーブル相場と、自由な取引で値が決まる国外相場の乖離は大きくなるばかりだ。
奇しくも、プーチン大統領が「対露経済制裁失敗論」をぶち上げた4月18日、自由主義改革派と目されるロシア中銀のエリヴィラ・ナビウリナ総裁は、「ロシア経済が金融準備で存続できる期間には限りがある」と指摘した。プーチン発言を否定するような彼女の指摘は注目を集めた。
西側の制裁についてナビウリナ総裁は、「今後、経済への影響が拡大し始める。輸入制限と外国貿易の物流が主要課題」「4〜6月期および7〜9月期には、構造転換と新たなビジネスモデルの模索という局面に入る」と語り、制裁効果が長期的にロシアを苦しめることになると示唆した。
これには、相当の理由がある。
まず、ロシア中銀は5月26日に、国内金融機関の貸し出しが弱いと明らかにした。これは、制裁の影響で国内の経済活動が大きく鈍っていることを示唆するものだ。
また、ロシア財務省が発表した、消費などにかかる4月の付加価値税の歳入は、前年同期比で54%も落ち込んでいる。同月の小売業売上も前年比9.7%減少した。ロシアの国内総生産(GDP)のおよそ半分が消費で生み出されることを考えれば、制裁の影響が小さくないことがわかる。
流出した財務省の内部予測では、2022年のGDPが開戦前の予測である前年比3%の成長ではなく、最大12%のマイナス成長となる可能性が示されている。同省の読み通りであれば、約10年分の経済成長が帳消しになる計算だ。そのため、シルアノフ財務相は5月27日、景気刺激に向けた8兆ルーブル(約17兆4112億円)の予算を計上すると発表した。
西側の制裁の影響で、4月に前年比で17.8%まで跳ね上がったロシア国内の物価上昇率は5月に17.5%と高止まりしており、消費者心理をさらに冷やす懸念がある。カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授は、「インフレ率は今年中に20%を超えると予測されており、ロシア国民の生活水準は顕著に悪化する」と見る。
一方、ロシアはほぼすべての耐久消費財、また一部の生産財を輸入に依存しているが、世界三大海運会社であるデンマークのマースク、スイスのMSC、米CMA CGMがこぞってロシア発着貨物の引き受けを停止。航空貨物も運休状態であり、部品不足解消のため航空機の「共食い」解体による他の航空機へのパーツ供給も進む。一部の国内鉄道においても輸入部品やサービスの供給が途絶したことで、物資・乗客輸送が徐々に困難になろう。
ビタリー・サベリエフ運輸相も、「西側諸国の制裁でロシアの貿易・物流が事実上、破壊された」「われわれは新たな物流ルートを探さなければならない」と認めている。
エネルギーで稼いだ資金の使い道がないプーチン大統領
実際に、4月の輸入は前年同月比で50%減少したとの国際金融協会による推計がある。ドイツのロベルト・ハーベック副首相の言葉を借りれば、「プーチンは未だに(資源売却で)荒稼ぎしているが、その売却益をほとんど使えない状態に置かれている」のである。
米サプライチェーン調査企業のフォーカイツによれば、開戦前と比較して、ロシアの消費財の輸入は76%落ち込んでいる。そのため、日用品において外国産への依存を減らすべく導入された輸入代替政策にもかかわらず、スマートフォンから生理用品に至るまで品不足が顕在化してゆくことが予想される。既に、便器や流し台は不足が報じられている。
米ニューヨーク・タイムズ紙が伝えるところによれば、アパレル製造企業が材料のボタン不足を訴えるなど、各製造業分野で輸入在庫が底をつき始めた。特にエアバッグやアンチロック・ブレーキシステム(ABS)センサー、環境対策部品などの輸入が途絶した自動車生産は、4月に前年同期比で85.4%も急減(政府発表では61%減少)している。
一方、在庫が払底したロシアの自動車販売店のショールームは閑散としている(トヨタロシア元社長、西谷公明氏による「ニュースソクラ」への寄稿)。欧州ビジネス協会(AEB)は、4月のロシア国内販売台数が前年同月比で79%減少したと報告している。その上、修理サービス部品や保証サービス部品の入手も困難で、販売ネットワークの維持が困難になっているという。
医療機関でも4月から、使い捨て手袋、縫合手術用品、カテーテルをはじめ、透析機器や人工呼吸器のスペア部品調達が困難になり始めている。
ロシアは開戦以降の輸出入や失業率の一部統計発表を取りやめているが、これらの分野は公表をはばかられるほど手痛い打撃を受けていることが推測される。「従業員に対して、事業停止の可能性を通告する企業も増えている」と、米コンサルタント企業マクロアドバイザリーのアナリストであるクリス・ウィーファー氏は米公共ラジオPBSで語っている。
ロシア国内で企業により自宅待機を言い渡された従業員の数は、3月上旬の4万4000人から5月中旬に13万8000人に急増した。大企業が「特別軍事作戦」期間中の従業員の安易な解雇を禁じられる一方、賃金カットやそれに伴う労働争議の多発が予想される。
そうした中、4月に4%であった失業率は中小企業を中心に夏季から上昇を始め、2022年末には7〜9%に増加すると予想される。ロシアのシンクタンクの戦略研究センターによれば、失業者は今年中に200万人の増加が見込まれる。
かねてより指摘される失業保険制度の貧弱さを考えれば、特に非エネルギー分野の雇用減少による国民生活への悪影響が懸念されるところだ。
ロシア国営の開発対外経済銀行(VEB)は、所得が貧困線を下回っている人の割合である貧困率が、今年中に1.5ポイント以上増加して、12.6%に悪化すると予想する。生鮮スーパーなどでは食品価格高騰を受けて、万引き被害が急増しているという報道があるのも、苦境に陥る市民が増えているからだろう。
プーチン大統領はインフレ高進を受け、5月に最低賃金や生活賃金、および年金を約10%引き上げると発表したが、そのような小手先の対策で、収入減や失業をはじめとする国民が中長期的に直面する深刻な問題を解決できるのか、疑問が残る。
ロシア経済のアキレス腱とは
こうした中、ロシアの資源輸出はさらなる制裁で先細りしていくだろう。また、デフォルトによる国際金融市場からの締め出しも、真綿で首を絞めるように効いてくる。
それでも、「特別軍事作戦」を実施中のロシアでは、この先、ますます戦費が膨張する。事実、シルアノフ財務相は5月27日に、「特別作戦には資金と膨大な資源が必要だ」と述べた。ロシア財政は、巨額の戦費をいつまで支えられるだろうか。
加えて、ロシアで生産できない半導体や精密部品の輸入の滞りは、兵器製造の遅れなど供給面で「特別軍事作戦」に悪影響を及ぼしていると、国営SPARC テクノロジー・モスクワセンター(MCST)が報告している。
ロシア経済の「回復」は、世界経済の景気後退や他の産油国の増産などで資源価格が急落するようなことがあれば、支え切れずに崩壊してしまう脆い性格のものであることにも留意の必要がある。
ロシアの資源輸出への依存度は、開戦前より深まっている。だから、消耗戦に突入した現局面において、ロシアの最大の強みである「経常黒字の増加」が逆転を始めるようなことがあれば、ロシアは名実ともにウクライナ侵略戦争に敗北する。
●V字回復したルーブル相場、ロシア経済は本当に制裁で弱体化しているのか 6/8
ロシアの通貨ルーブルの相場が予想外に回復している。
ルーブルの対ドルレートは、欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁を受けて大暴落し、1ドル70ルーブル台半ばから3月中旬には一時120ルーブル台に値を下げた。しかしその後、ルーブルの対ドルレートは急回復し、5月後半には50ルーブル台まで値を戻した。
ではなぜ、ルーブルは「V字回復」を果たすことができたのか。
欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁のため、ロシア当局は日米欧の中銀に預けている外貨準備にアクセスできない。ロシアによる為替介入など困難な状況であるはずだが、そのロシアにおいて、安定的に外貨を稼いでいるのが、半国営のガスプロムである。
世界最大のガス企業であるのガスプロムは、ドイツやイタリアなどヨーロッパの需要家に対して、傘下の金融子会社であるガスプロムバンクに口座を開設させ、そこに代金を振り込ませている。そして得られたユーロや米ドルを、ロシア政府の意向を受けたガスプロムバンクが為替市場でルーブルに交換している可能性が考えられる。
そもそもロシアは、主要行の多くが国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されため、貿易決済が困難となっている。それに、ロシアの銀行では3月9日から半年間、外貨からルーブルへの両替だけが可能であり、その逆の両替が停止されている。したがって、為替市場ではルーブルの商いが薄く、為替レートは変動しやすい状況にある。
こうしたことから、ガスプロムバンクによる限定的な取引にもかかわらず、ルーブル相場は急回復したのではないだろうか。ただ、このスキームは、ヨーロッパ側がロシア産の天然ガスを購入する限りでしか持続しない。ルーブルの急回復はロシアの経済構造を反映したものだろうが、だからといってロシア経済が盤石だとは評価できない。
生産関連指標の急速な悪化を示唆すること
ロシアはウクライナに侵攻して以降、統計の公表を遅らせている。特に貿易統計は公表が遅れており、最新分は3月に公表された1月分のデータにとどまっている。ロシア通関は投機を回避する目的から貿易統計の公表を一時的に延期すると説明したが、制裁の影響が色濃く反映されているので公表を止めたというのが実情だろう。
他方で、発表の時期は遅れながらも、公表そのものは続いている月次統計も少なくない。そうした統計の多くが、ロシアの景気が急速に悪化している様相を示唆している。
例えば、ロシア経済開発貿易省が公表した4月の月次GDPは前年比3.0%と前月(同+1.3%)から悪化した。主な原因は、製造業の業況の悪化にあるようだ。
事実、4月のロシアの鉱工業生産は前年比1.6%と3月(同+3.1%)から悪化した。特に悪化したのは製造業であり、4月は前年比2.1%と3月(同0.4%)からマイナス幅を拡大させた。その中でも深刻な打撃を受けているのが自動車関連であり、4月は同61.5%と3月(同45.5%)から一段と減産幅が拡大した。状況は極めて厳しい。
なお、2021年4月の自動車関連は前年比+153.8%と、新型コロナの感染拡大に伴って大幅な前年割れとなった20年4月(59.6%)の反動から、極めて堅調だった。今年の4月の数字はその反動も含んでいるが、新型コロナの感染拡大前の19年4月を100とすると今年4月の水準は39.5であり、制裁の影響が大きい。
その他にも、電気機器などで前年割れが続いている。
国際社会による経済・金融制裁に伴い、素材や中間財の輸入が難しくなったこと、欧米を中心に外資が相次いで撤退を表明して人手を引き上げたことなどが、製造業の生産の悪化につながったと判断される。5月以降も製造業は、石油化学など一部の業種を除けば厳しい状況が続くはずだ。
新車販売台数の強烈なマイナス幅
生産だけでなく、個人消費の関連指標を確認してみよう。
4月の小売売上高は前年比9.7%と、2021年3月以来の前年割れに転じた。また、消費者物価で割り引いた実質ベースでは、同27.5%と3月(同14.5%)からさらにマイナス幅が拡大した。2021年4月の前年比の伸び率が高かったことを踏まえても、小売売上高は急速に悪化している。
さらに、厳しいのが新車市場だ。
在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)によると、4月の新車販売台数(乗用車と小型商用車の新車販売台数)は78.5%(3万2706台)と、統計開始以来のマイナス幅を記録した。国内の生産が停止したことで、新車の価格が1カ月で30〜60%も急騰したことが販売不振の背景にあるとAEBは説明している。
物価に関しては、最新4月の消費者物価が前年比+20.4%と3月(同+18.7%)から上昇が加速した。とはいえ加速のピッチそのものは鈍化しており、ロシア中銀は一時20%まで引き上げていた政策金利を5月の臨時会合で11%まで引き下げた。プーチン政権も年金支給額や最低賃金の引き上げなど、インフレ対応策を強化している。
ただ、所得環境を多少改善させたところで、物価高の主因は通貨安からモノ不足を反映したものに代わっていくだろう。そのため、ロシアでディスインフレ(インフレ率が徐々に低下すること)はそれほど進まないはずだ。需要を抑圧するモノ不足を解消することができない限り、消費の低迷を解決させることなど不可能だろう。
経済の実勢と乖離するルーブル相場
統計の信ぴょう性はともかく、公表されている統計を概観する限り、ロシアの景気は着実に悪化している。その一方で、ルーブルの為替レートはロシアの経済の実勢と乖離している。言い換えれば、この為替レートが保てているからこそ、ロシアの所得流出はまだ抑制されていると言えるのかもしれない。
ロシアと欧米との貿易は減少しているはずだが、その分、インドや中国など有力な新興国との貿易は増えているという見方もある。原材料や中間財のみならず、ロシアで生産できない消費財を購入する観点から言えば、ルーブル相場は安定していた方が望ましい。そうしたことから、ロシア当局は通貨の安定に注力しているのではないか。
いずれにせよ、予想外に回復したルーブル相場をもってして、ロシアの景気が底堅いという評価するには無理がある。欧米を中心とする国際社会による経済・金融制裁は、着実にロシアの経済に打撃を与えていると考える方が自然だろう。公表が延期されている通関統計が確認できるようになれば、実像が浮かび上がってくるはずである。
ただ、制裁の影響が色濃く反映されていると考えられる以上、ロシアが通関統計の公表を早期に再開するとは考えにくい。加えて、現在公表されている経済統計も、そのうちに公表が取り止められる可能性もある。仮にそうなれば、そうした行為自体が経済・金融制裁によってロシア経済が強い影響を被っていることの証左かもしれない。
●OECD、戦争で高い代償と指摘−輸出協議に進展なし 6/8
世界経済は成長鈍化、インフレ高進、長期にもわたる恐れのあるサプライチェーンへのダメージという「高いコスト」を支払うことになるだろうと、経済協力開発機構(OECD)が8日発表した経済見通しで指摘した。
ロシアはラブロフ外相がトルコを訪問し、ウクライナ産穀物の海上輸送封鎖解除を協議したが、合意に向けた進展の兆しは見られていない。この協議に招かれなかったとするウクライナ政府はロシアの意図について懐疑的で、穀物輸出を可能にする安全保障上の強力な保証を求めている。 
メルケル前独首相はロシアのプーチン大統領について、ウクライナ侵攻により「大きな過ち」を犯したと指摘。ただ、ロシアを孤立化させることは長期にわたり不可能だと警告した。
トルコ大統領、スウェーデンとフィンランドに対し強硬姿勢維持
トルコのエルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対する姿勢を軟化させてはいないことを示唆した。自身が脅威と見なすクルド人集団を支持しテロの温床になっているとして、両国を再び非難した。エルドアン氏はアンカラで、「テロリストの指導者がスウェーデンの国営放送でインタビューを受けている。そうである限り、NATO加盟は認められない。フィンランドも同様だ」と語った。
ロシアのインフレ率、予想以上に減速
ロシアのインフレ率は予想以上に減速した。10日にロシア中央銀行が発表する金融政策判断では利下げが確実視される。ロシア連邦統計局が8日発表した5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比17.1%。ブルームバーグが調査したエコノミスト20人の予想中央値は17.4%だった。4月は17.8%だった。
マイクロソフト、ロシア事業を大幅縮小
米マイクロソフトはロシア事業を大幅に縮小する。ウクライナ侵攻でロシア事業の縮小や撤退を決める大手テクノロジー企業は相次いでいる。発表文によると、400人余りの従業員に影響が及ぶ。既存の契約上の義務は引き続き履行するが、新規販売は停止する。
ウクライナ、現状での停戦による和平を拒否
ウクライナの利益が考慮されず現状での長期停戦を求める和平合意は同国には不要だと、クレバ外相が語った。いかなる交渉であれウクライナの関与が不可欠だと主張した。「ウクライナ抜きの合意は認められない」と同外相は述べ、2014年と15年のミンスク停戦合意でロシアが支持するドンバス地方の分離主義勢力との対立が終わらなかったことを指摘した。
ウクライナの戦争、世界経済に長期的な影響−OECD
世界経済はウクライナでの戦争によって成長鈍化、インフレ高進、長期にもわたる恐れのあるサプライチェーンへのダメージという「高いコスト」を支払うことになるだろうと、経済協力開発機構(OECD)が指摘した。
トルコとロシア、ウクライナ産穀物輸出巡り進展なし
ウクライナ産穀物の海上輸送を巡るトルコとロシアの交渉は、進展の兆しが見られていない。一方、この交渉に招かれなかったとするウクライナのゼレンスキー大統領はドイツのショルツ首相と電話会談し、海上輸送を中心に穀物輸出を後押しするためあらゆる手を尽くすことが必要だとの認識で一致した。トルコのチャブシオール外相は、ウクライナが機雷のある水域を誘導して安全に航行させる意思を示したと述べたが、今のところウクライナ政府は確認していない。ロシアはこれをウクライナの港湾攻撃に利用することはないとしているが、侵攻前に攻撃する計画はないと再三表明していた例を引き合いに出し、ウクライナはロシアの約束に懐疑的な見解を示している。
メルケル氏、ロシアを孤立させるのは不可能
メルケル前独首相はベルリン中心部の劇場のステージでインタビューに応じ、ロシアのプーチン大統領について、ウクライナ侵攻により「大きな過ち」を犯したと指摘。ただ、ロシアを孤立化させることは長期にわたり不可能だと警告した。メルケル氏が首相退任後に公の場で聴衆を前に発言したのは初めて。
世銀、ウクライナへの14.9億ドル融資を承認
世界銀行理事会はウェブサイトに掲載した声明で、総額40億ドル(約5330億円)強のウクライナ向け支援パッケージの一環で、14億9000万ドルの追加融資を承認したと明らかにした。
ウクライナ、黒海での確実な安全の保証必要
ウクライナ外務省は電子メールで送付した声明で、同国南部の穀物ターミナルの倉庫がロシア軍によって破壊されたことから、黒海経由の輸送には確実な保証が必要だと主張。そのために武器の提供と、第三国の海軍による黒海のパトロールを求めた。
●世界的な景気後退、世界銀行が警告 ウクライナ侵攻の影響 6/8
世界銀行は7日、世界各国が景気後退に直面していると警告した。新型コロナウイルスの大流行ですでに大きく揺らいでいた経済に、ウクライナでの戦争が追い打ちをかけているとしている。
世銀はこの日、6月の世界経済見通しを発表した。デイヴィッド・マルパス総裁はその中で、高インフレと低成長が同時に起こる「スタグフレーション」の危険性が「かなり大きい」と警告。以下の見方を示した。
「世界のほとんどの国で投資が低迷しているため、低成長が10年は続く可能性が高い。多くの国ではインフレ率が過去数十年で最高水準にあり、供給増も緩やかと予想されるため、インフレ率がさらに長く高止まりする恐れがある」
世界各地でこのところ、エネルギーと食料の価格が上昇している。
マルパス氏は、「ウクライナでの戦争、中国でのロックダウン、サプライチェーンの混乱、スタグフレーションのリスクが、成長に打撃を与えている。多くの国にとって、景気後退は避けられないだろう」とした。
マルパス氏によると、世界の成長率は2021〜2024年に2.7%ポイント低下すると予測されている。これは、1976〜1979年の直近の世界的スタグフレーションでみられた低下の2倍以上だという。
東アジアなどで「大規模な不況」
今回の経済見通しは、ヨーロッパと東アジアの開発途上国で「大規模な景気後退」が生じるとした。
また、ヨーロッパで今年最も経済生産高が急落する可能性が高いのは、ウクライナとロシアだと予測した。
ただ、戦争と新型ウイルスの影響は、さらに広い範囲に及ぶと警告した。
マルパス氏は、「世界的な景気後退が回避されたとしても、スタグフレーションの痛みは数年間続く可能性がある」と指摘した。
経済見通しはさらに、1970年代末のインフレ抑制のための金利上昇が急激だったことが、1982年の世界同時不況と、新興市場や発展途上国での一連の金融危機を引き起こしたと警告した。
しかし1970年代は、ドルが現在より安く、石油は相対的に高価だった。
ダーシニ・デイヴィッド国際通商担当編集委員
ロシアによるウクライナ侵攻から100日以上が経過した。震源地から何千キロも離れた国や家庭を襲っている衝撃の大きさが、今まさに明らかになってきている。
開発途上国は以前から、経済の立て直しに苦労していた。各世帯の一般的な収入は、パンデミック前の20ドルにつき現在は19ドルまで減っている。
食料とエネルギー価格の高騰は、生活を一段と悪化させ、最も弱い立場の人々を悲惨で苦しい状況へと追いやる。
貧しい国だけの話ではない。ある調査によると、イギリスの全世帯の6分の1が、食料を支援するフードバンクを利用している。
このような世界的な苦境は、インフレ緩和のための金利上昇によってさらに悪化する恐れがある。パンデミックの影響緩和のための政府支援が消滅に向かっている時期に、ちょうど重なるかもしれない。
世界銀行は、債務救済や、食料輸出における制限の非設定など、各国に早急な対応を求めている。政策立案者らに対し、食料とエネルギーの供給を保護し、不安定な市場を安定させ、価格高騰を緩和するために、一致して行動するよう求めている。
各国の政策立案者は、すでに極めて厳しい闘いに取り組んできた。
しかし世銀は、いま何もしなければ、さらに長く痛みも大きい危機が訪れるかもしれないと示唆している。
現在の苦難は、単に不幸や社会不安を意味するだけではない。何年にもわたって人々の生活を苦しめる恐れがある。
●ウクライナ、ロシア軍の戦争犯罪記録集を発行へ=大統領 6/8
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日のビデオ演説で、同国に侵攻したロシア軍の戦争犯罪の記録を集めた出版物を発行すると表明した。
ウクライナ検察当局は、ロシア軍の戦争犯罪の容疑者として600人以上を特定し、うち約80人の訴追手続きを始めたと明らかにしていいる。
ゼレンスキー氏は特別出版物の題名は「The Book of Executioners(死刑執行人の記録)」にするとし、「ウクライナ人に対して紛れもない極悪犯罪を犯した具体的な個人に関する具体的事実」があると語った。
●死を覚悟した男と、「暗い絵」を描く子供たち...ウクライナで見た「平和」の現実 6/8
ポーランドの首都ワルシャワから長距離バスで9時間弱、ウクライナ西部リビウに到着した。バス停周辺には避難者の休憩所や簡易レストランがあるものの、太陽がさんさんと照りつけるリビウの街は若者やカップルでにぎわっている。ウクライナ東部でロシア軍との激しい攻防が続いていることがまるでウソのようだ。
人力車をモデルにした着脱式の車イス補助具「JINRIKI QUICK(ジンリキ・クイック)」をウクライナに寄贈するキャラバンのため5月28日〜6月6日にかけポーランドのワルシャワやクラクフ、ルブリンを回った筆者はウクライナに転進した。国境で出国の理由を聞かれたものの「プレスだ」と答えるとすんなりウクライナに入ることができた。
バスの乗客はほとんど女性で、子連れの母親も目立った。中には、ロシア軍と戦うためウクライナに残った夫に会いに行く『通い妻』もいるそうだ。
リビウ中心部のホテルで一泊して翌朝、メディアセンターで登録を済ませた。ウクライナ戦争は東部戦線に縮小したため、メディアセンターは閑古鳥が鳴いていた。街で散髪し、眼鏡をつくった。眼鏡店の女性眼鏡技師リラさんは「大学で学びながら眼鏡店で働いています」と笑顔を見せた。理容店の女性もにこやかだ。表通りでは戦争の影は全く感じられなかった。
バスに乗って南へ約20分のストリスキー公園にある国立リビウ工科大学体育館では避難者約320人が暮らしている。500人収容可能で、ピーク時に最大450人が避難していた。「首都キーウや北東部ハルキフ、南東部マリウポリ、東部ドンバスなど全国から逃げてきた人たちが暮らしています」とボランティアのニコラ・ブリッジ准教授(電気通信)は語る。
「戦争が続いているので多くの人が帰宅できない」
「9つのホールのうち7つが避難所として使われています。まだ戦争が続いているので多くの人がわが家に戻ることができません。ここで働くボランティアは全員学生です」とブリッジ准教授は説明する。英語が堪能な学生アンドリー・ボビラさん(17)に案内してもらうと、昼間というのにホールは薄暗かった。避難者が休息のため電気を消してしまうからだ。
体育館には簡易ベッドが並べられ、ボクシングリングのロープに洗濯物が干されていた。ポーランドには今も約200万人のウクライナ人が避難しているが、その多くが今では一般家庭や長期滞在施設に受け入れられている。リビウの避難所はポーランドで見た短期滞在施設より環境が良いとはお世辞にも言えなかった。
ボビラさんに「国境を越えれば、もっと環境の良い施設で暮らせるのに、どうして避難者はポーランドに行かないのか」と質問すると、「祖国を離れたくないという人もいれば、お金のない人もいます。ロシア語しか話せない人も多いのです」と語る。意欲のある人は職を見つけられるが、ロシア語だけでは難しい。政府の援助金を当てにする人も少なくない。
避難者のルスラン・アリーユさん(21)は戦争が始まる前はハルキフのパン屋で働いていた。開戦初日の2月24日にロシア軍のロケット攻撃や死者を目の当たりにした。自宅も破壊され、翌25日に家族5人で列車に乗って逃げてきた。残りの家族はフランスに逃れたが、アリーユさんは残った。18〜60歳の男性はウクライナ国外に出られないからだ。
年老いた両親を残していけないと実家に残った母
「今は駅で食べ物をふるまうボランティア活動をしているよ。特に感じることはない。とにかく1日も早く戦争が終わって帰宅したい。それだけだ。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれまでのウクライナの大統領の中で最高だ」とアリーユさんは語る。
ポーランドでは若くて健康なウクライナ人男性には出会わなかったが、リビウには筆者が想像していた以上に若い男性がいた。ウクライナに残った男が銃を取ってロシア軍と戦うか否かは実際のところ、それぞれの意志に委ねられているという。
ハルキフの警察学校で学んでいたヨハン・ハフハンコさんは東部ルハンスクの出身だ。ホールで簡易ベッドを組み立てていた。「ロシア軍が攻めてくると、すぐにハルキフからルハンスクの実家に戻りました。母は年老いた両親を残していけないと実家に残りました」。父とハフハンコさんはリビウに逃れてきた。母とは毎日、携帯電話で連絡を取っている。
この避難所でハフハンコさんは7歳の娘がいる女性と恋に落ち、同棲を始めた。「東部戦線のセカンドフロントで戦っている兄からは『ロシア軍の砲撃は激しく、重傷者が出ているので絶対に志願するな』と釘を刺されています。両親も行くなと言います。それでも祖国を守るために戦いたい」とハフハンコさんは語る。
すでに死を覚悟しているような静かな表情だったが、ガールフレンドと7歳の娘を残して前線には行けない。案内役のボビラさんは「大学では経営学を学んでいます。僕はまだ17歳で戦争に行かなくていい年齢です。18歳になる頃には戦争は終わっていると思います。授業はすべてオンラインに切り替えられ、週3日ここでボランティアをしています」と言う。
「暗い絵を描く子供たちもいる」
近くのユニセフ(国連児童基金)の仮設テント内には避難所の子供たちが作った雲と雨の飾り付けや、祖国の繁栄と健康を願う人形、大きな絵が飾られていた。幼児用品の提供や子供たちへの教育支援を行っている。女性ボランティアのオレーシャ・ダニシェンコさん(39)自身、キーウから逃れてきた避難者だ。その気になれば仕事はすぐに見つかるという。
「地域の子供たちを含めて100人以上がこのテントにやって来ます。みんなで大きなライオンやウクライナの絵を描いたり、ボードゲームやバレーボールを楽しんだりしています。しかし幼心に戦争体験が刻み込まれ、暗い絵を描く子供たちもいます。そうした場合、すぐに心理療法士に診てもらって心の支援をしています」とダニシェンコさんは語る。
避難所からの帰り、ベンチに座って休んでいた3人連れの兵士に出会った。うち1人は戦争が始まる前はロンドンで暮らしていた。「20年前に祖国で2年間、徴兵された経験がある。演習を終え、リビウに来たところだ。命じられれば東部戦線に戻るだろう。ロシア軍の砲撃が正確でないから、まだ助かっている。正確になれば大ごとだ。写真はダメだよ」と話す。
午後8時すぎ、リビウ中心部に空襲警報が鳴り響いた。しかし、みんな何事もなかったように平然と歩いている。「平和」になったというより「戦争」が日常化したと表現した方が正しいのかもしれない。
●ウクライナ情勢は「今日が勝負」 中村逸郎教授が読む今後の見通し 6/8
ロシア政治が専門の筑波学院大学・中村逸郎教授が6月8日(水)、ニッポン放送『辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!』に出演。今後のウクライナ情勢の見通しについて「今日が勝負」と述べた。
中村氏はその理由について、きょうロシアのラブロフ外相がウクライナ情勢の仲介役の国のひとつとされるトルコを訪問している点を挙げた。そのうえで、今週12日日曜が「ロシア建国の日」であることから、この日に何らかの大きな動きがあると推測。中村氏は「その日に合わせて(ロシアの)プーチン大統領、(ウクライナの)ゼレンスキー大統領、国連の代表者が、(トルコの)エルドアン大統領のもとに集まって、とにかく停戦交渉を行う」との見立てを述べた。
これに関して辛坊は、きのうロシアのショイグ国防相が激しい戦闘が続くウクライナ東部のルハンスク州について「97%を解放した」と述べたことに言及。この発言が「このへんで勘弁してやるという準備段階の発言かな」と思ったとし、中村氏も「ロシアはもう今、精一杯。(東部ルハンスク州を)取っておいて、これを維持するのにひとまず停戦交渉」と述べ、今の最前線を新たな国境線とする思惑がロシアにあると指摘した。中村氏は、そのロシアの思惑をウクライナ側が受け入れるかが停戦合意に至るかの肝になると語り、その鍵を握るのがアメリカがウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」だとした。ウクライナ兵がハイマースを使用できるようになるまで、2〜3週間の訓練期間が必要だとし、ウクライナとしてもその時間稼ぎのための停戦が必要だと推察。いったん停戦合意したうえで、戦闘準備が整ったところで再び領土を取り戻す反転攻勢に出るだろうとの見立てを語った。
●「ウクライナの利益、考慮しない合意は拒否」…ロシア・トルコ外相会談に反発  6/8
ウクライナ外務省は7日、ロシア軍の黒海封鎖で穀物輸出が停滞している問題を巡り、ロシアとトルコの外相会談を前に声明を出し、「ウクライナの利益を考慮しない合意は拒否する」と強調した。ウクライナは、自国抜きに行われる協議がロシアのペースで進むことを警戒しており、ウクライナを交渉に加えることも求めた。
タス通信によると、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は7日夕、トルコの首都アンカラに到着した。8日に、トルコのメブリュト・チャブシオール外相と協議する見通しだ。ウクライナは参加しない。
ウクライナ外務省は声明で、トルコに対し、「封鎖解除に向けた努力に感謝する」とする一方、「ウクライナも含めた合意は、現状では存在しない」と述べた。ロシアは黒海封鎖を否定し、「ウクライナが機雷を設置している」などと主張している。
一方、ウクライナ海軍は6日、SNSを通じ、露海軍黒海艦隊が海岸から100キロ・メートル以上後退したと指摘した。ただ、クリミア半島や、露軍が制圧を宣言した南部ヘルソン州から露軍によるミサイル攻撃が強まっているという。
ウクライナ軍参謀本部によると、露軍は7日、東部ルハンスク州の要衝都市セベロドネツクに隣接するリシチャンスクなどにも砲撃を続けた。セルゲイ・ショイグ露国防相は7日、露軍幹部らと開いた会合でルハンスク州の「97%」を制圧したと主張したが、ウクライナ側も抗戦を続けている模様だ。
ウクライナ国営通信によると、東部ハルキウの市長は7日、同市内の住宅地が露軍の砲撃を受け、少なくとも1人が死亡したと明らかにした。同市では6日深夜にも砲撃があり、攻撃が再び強まっている。
●軍事作戦に参加しないはずのロシア徴集兵、600人投入で将校12人処分… 6/8
インターファクス通信によると、ロシア軍の検察当局は7日、徴集兵約600人をウクライナでの軍事作戦に投入したとして、将校12人を処分したと明らかにした。プーチン政権は侵攻で強制的な動員を行うことにより国内の反発が強まる事態を警戒しているようだ。
検察当局は、処分の詳細を明らかにしていないが、懲戒免職も含まれると説明した。また、徴集兵約600人全員を早急に帰還させたとも強調した。
露国防省は侵攻開始から間もない3月初旬、徴集兵を軍事作戦に参加させないと公言し、プーチン大統領も違反には厳正に対処する立場を示した。その直後、徴集兵が投入された数件の事例が明らかになり、政権は火消しに追われた。
ウクライナ国防省の情報機関は7日、4月中旬にウクライナ軍の攻撃で沈没した露海軍黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を巡り、露軍が乗組員の家族や親族らに連絡を取り合わないようにしているとの分析を示した。徴集兵の死亡や行方不明に関する情報の漏えいを防ぐのが主な目的だとし、補償金の支払い取り消しや刑事訴追をちらつかせ、従うよう脅迫していると指摘した。
●ウクライナ 東部セベロドネツク ロシア軍戦力投入で戦闘激化か  6/8
ウクライナ軍とロシア軍による攻防が続く東部のセベロドネツクについて地元の州知事は、ロシア側は今月10日までに掌握することを目指し大きな戦力を投入しているとして、この都市をめぐる戦闘がここ数日で一層激しくなる可能性に言及しました。
ウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクについて、ロシアのショイグ国防相は7日「住宅地域を完全に掌握した」と発表しました。
これに対して、ウクライナ軍の参謀本部は8日「セベロドネツクへの猛攻撃をうまく食い止めた。戦闘は今も継続している」と抵抗する姿勢を示しました。
一方、ルハンシク州のガイダイ知事はSNSに投稿し「ロシア側は、今月10日までにセベロドネツクを掌握することを目指し、大きな戦力を投入している」として、この都市をめぐる戦闘がここ数日で一層激しくなる可能性に言及しました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、海外メディアのインタビューで東部などの戦況について「このところ、ウクライナ軍の前進が滞りがちで、一部では、ロシア軍の脅威にさらされている」としたうえで「勝利するためには、敵軍を上回る強力な武器が必要だ」と述べ、欧米各国に対して軍事支援を継続するよう訴えました。
さらに「制裁は、強力な武器であり、血を流すことのない経済的な現代兵器だと確信している」として経済制裁についても一層、強化するよう国際社会に改めて呼びかけました。
●ゼレンスキー氏、侵攻前の状態まで撤退で「暫定的な勝利」… 6/8
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日、英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、ロシア軍を2月24日の侵攻開始前の状態まで撤退させられれば「重要な暫定的な勝利となる」との認識を示した。これに対し、セルゲイ・ショイグ露国防相は7日、2014年に併合した南部クリミアと露本土を結ぶ鉄道の開通を宣言するなど戦果を誇示し、一歩も引かぬ構えを見せた。
ゼレンスキー氏はオンライン形式のインタビューで、クリミアを含む領土の完全回復が最終目標だとも語り、ウクライナが領土を巡って妥協の余地がないことを改めて訴えた。
ただ、ウクライナ軍が露軍に「装備面で劣る」と率直に認め、米欧に武器供与の拡充と加速を改めて呼びかけた。「戦闘の手詰まり状態は選択肢ではない」と述べ、プーチン露大統領との直接交渉にも意欲を示した。対露制裁による圧力強化の必要性も強調し、侵攻の長期化で、米欧による支援が減速するシナリオへの危機感をにじませた。
一方、ロシア側は侵攻開始後に制圧した地域の実効支配の強化を急いでいる。
ショイグ氏が、7日の露軍幹部との会合で発表したクリミアと露本土の約1200キロ・メートルにわたる鉄道の開通は、クリミアと露本土が陸続きになる「回廊」確保を意味する。
露軍の補給は鉄道輸送が中心だ。全域制圧を宣言した南部ヘルソン州やザポリージャ州では、ウクライナ軍の反撃に遭い住民の抵抗運動も活発化しており、補給強化の意義は小さくない。ヘルソン州では、ロシア国籍を取得し、ロシアへの併合に賛成する住民に1万ルーブル(約2万2000円)を支給し始めたとの情報もある。
ショイグ氏は、露軍が制圧を急ぐ東部ルハンスク州の「97%」を制圧したと主張した。ゼレンスキー氏は最近、同州の要衝セベロドネツクについて「一度放棄すれば奪還は非常に困難になる」と述べており、激しい攻防が続いている模様だ。
●減速する中国経済、ロシアの侵攻は「一帯一路」にとって「吉」か「凶」か 6/8
やっと上海市のロックダウン(都市封鎖)を解除したとはいえ、中国経済の急減速はなかなか収まらない。
厳格な「ゼロコロナ政策」の影響とともに、ロシアのウクライナ侵攻によって中国が進めている経済政策「一帯一路」が大きな打撃を受けている、と指摘する専門家もいる。一方で「漁夫の利」を得るのではないか、という見方もある。
いったい、ウクライナ戦争は中国にとって、「凶」なのか「吉」なのか。
ウクライナ戦争で中国の「一帯一路」が危機に
「一帯一路」とは、かつて中国と欧州を結んだシルクロードを模した、広域経済圏構想だ。中央アジア経由の陸路「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、インド洋経由の海路「21世紀海上シルクロード」(一路)の2ルートで、鉄道や港湾などインフラの整備を進める雄大なプロジェクトだ。
一帯一路につながる途上国は、中国の資本援助で自国の経済発展が促されると期待するし、先進国は自国企業のプロジェクト参入を狙う。中国の覇権主義だと懸念する声も強く、各国間に温度差がある。
ウクライナは、陸路の中間地帯にある。現在、ウクライナを経由する便が運行停止になっているが、中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中国名:中欧班列/英語名:トランス=ユーラシア・ロジスティクス」がロシアとウクライナを通過している。
ウクライナ情勢悪化によって「一帯一路」が危機に瀕している、と指摘するのは日本経済団体連合会(経団連)のシンクタンク「21世紀政策研究所」研究委員の梶谷懐・神戸大学大学院教授だ。
梶谷氏は経団連の機関紙「週刊経団連タイムス」(5月26日付)にリポート「ウクライナ危機は一帯一路の終焉をもたらすか 」を発表した。これまではウクライナからの穀物輸入や、ロシアへの経済支援に関する影響が懸念されてきたが、梶谷氏は「長期的には、一帯一路政策に代表される中国の対外投資政策のあり方を大きく変える可能性がある」と指摘する。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシへの融資が不良債権に
梶谷氏によると、もともと「一帯一路」は、通貨の元高を背景に拡大してきた国内の過剰な資本を海外に「逃がし」、供給能力の過剰を緩和する意味を持っていた。対外援助を通じて海外の新興国が経済成長すれば、中国国内の過剰な生産能力に対する市場が拡大することにもつながる。しかし、トランプ政権の成立以降、元安傾向が続き、前提が揺らいだ。そこに、ウクライナ戦争の打撃が加わった。
梶谷氏は国際金融専門家の論考をもとに、こう述べている。
「一帯一路に代表される中国の海外投資ブームが、ロシアとウクライナの戦争により深刻な障害にぶつかるだろう。(中略)その根拠となるのは、中国の政府系金融機関がロシアとウクライナ、およびベラルーシに対して行っている融資額の大きさだ」
ロシアには累積1250億ドル以上、ウクライナにも70億ドル程度、ベラルーシに80億ドル程度融資してきた。3カ国を合わせると、過去20年間の中国の海外向け融資の20%近くを占める。ほかにも、中国の対外貸付のうち、債務危機にある借入国に対する比率は、2010年の約5%から現在では60%にまで増加したと指摘。
「中国の政府系金融機関は、今後ロシアなどに対する融資が不良債権化するリスクを、よりリスクの高い債務国への新規融資の停止あるいは債権回収によって埋め合わせるかもしれない。(中略)中国が新興国に対する気前のよい資金供給者の役割から撤退するならば、そのあとにどのようにしてそれらの国々の持続的な経済成長を支えていけばよいのか。(中略)ウクライナ危機は、国際社会に対してこのような問いを突き付けていることを忘れてはならない」
ロシア経済の疲弊で、中国がユーラシア大陸で台頭
仮に、中国の「一帯一路」が破綻すれば、新興国を中心に深刻な世界経済の危機に直面するかもしれないというのだ。
一方、逆にウクライナ危機が中国の経済的影響力を拡大させるかもしれない、と指摘するのは、同じ「21世紀政策研究所」研究委員の熊倉潤・法政大学准教授だ。
「週刊経団連タイムス」(6月2日付)の熊倉氏のリポート「ウクライナ危機が中国の『一帯一路』構想に与える影響」によると、長期の経済制裁でロシアの地位が低下すれば、中国の一帯一路構想が旧ソ連・ユーラシア世界で一層発展する可能性が考えられる、という。
その根拠を熊倉氏はこう説明する。
「まずロシアは、今後ますます中国との経済的結び付きを強めようとするだろう。ロシアの中国重視の姿勢は、ウクライナ侵攻以降、ますます顕著になりつつある」
として、今年4月、ロシア極東で行われた、中露間で初となる鉄道橋の完成式にトルトネフ副首相が出席した例をあげた。
「ウクライナも中国と経済関係を強める可能性がある。中国とウクライナとの関係は、従来概して良好であった。ロシアのウクライナ軍事侵攻に対し、中国はロシア寄りの姿勢をとっているとはいえ、ウクライナに対し敵対的ではない。それどころか、中国は早くも3月からウクライナに対し人道支援を表明するなど、友好的な態度を示してもいる。(中略)将来、ウクライナの戦後復興の過程で、中国の経済的影響力が、一帯一路構想を通じて同地に拡大する可能性は否定できない」
さらにロシアが経済的に疲弊すれば、中国と国境を接する中央アジア諸国に対しても一帯一路構想が今後一層、求心力を得るだろうという。
「とりわけ中国と国境を接するキルギス、タジキスタンへの進出は、純粋に経済的なものに限られないかもしれない。ロシアが難色を示していたとされるマナス空軍基地(キルギス)の使用など、安全保障面での進出につながることも考えられる。中国のポテンシャルと今後見込まれるロシアの国力の後退を踏まえれば、旧ソ連・ユーラシア世界において、よりドラスティックな変化が起こることも想定しなければならないだろう」
ウクライナより手強い台湾、中国は侵攻するのか?
一方、台湾侵攻をもくろむ習近平国家主席にとって、ウクライナの抵抗の激しさは衝撃だったはずだとの見方を示すのは、公益財団法人・東京財団政策研究所主席研究員の柯隆(か・りゅう)氏だ。
柯隆氏のリポート「中国からみたロシア・ウクライナ紛争とそれにかかわる地政学リスク」(6月3日付)では、ウクライナと台湾の経済力と軍事力を比較した表を示している=図表参照。
これを見ると、台湾のほうがウクライナより経済力(GDP=国内総生産)ではおよそ4倍、軍事力(予備役も含めた兵力)では約9倍あることがわかる。プーチン大統領が手を焼いているウクライナより台湾のほうがはるかに手強い。そこで、柯隆氏はこう説明する。
「実はロシアのウクライナ侵攻は習主席に大きなショックを与えている可能性が高い。習政権は自らの正当性を証明するために、一日も早く台湾を併合したい。中国はアメリカやヨーロッパから軍事技術を輸入できない。中国の軍事技術のほとんどはロシアに頼っている。そのロシアは陸続きのウクライナに侵攻しても、なかなか攻略できていない」
しかも、中国はロシアより圧倒的に不利な条件がある。台湾海峡の存在と、台湾の経済力だ。
「中国人民解放軍は台湾に侵攻する場合、台湾海峡を渡らなければならない。台湾はアメリカから最先端の戦闘機を輸入し保有している。現状のままでは、人民解放軍が台湾に侵攻しても、攻略できない可能性が高い」
「確かに中国の経済規模は名目GDPについては世界2番目だが、ハイテク製品と商品の輸出は主に中国に進出している多国籍企業によるものである。外国資本がもっとも嫌うのはリスクである。人民解放軍が台湾に侵攻した場合、まず台湾企業は中国を離れる。それと同時に、日米欧の多国籍企業とその部品メーカーなども中国を離れるだろう。中国は技術を失うだけでなく、雇用機会も喪失してしまう」
「中国の富裕層は大挙して金融資産をアメリカやタックスヘイブンに逃避させる。つまり世界2番目の経済といえども、あっという間に空洞化してしまう可能性が高い。何よりも習政権にとって不利なのは中国経済が今、急減速していることである」
では、習主席はどうするのだろうか。柯隆氏は、こう結んでいる。
「合理的に考えれば、習主席は台湾侵攻を決断しないはずである。しかし、プーチン大統領と同じように強権政治の致命傷により間違った決断を行う可能性を完全に排除できない。重要なのはそれに伴う地政学リスクを管理することである。リスクというのは絶対に起きないと考えるのではなく、その可能性を念頭に危機に備えておくことが重要である」
●難民を受け入れる欧州最貧国のモルドバ 年収や物価はどのくらい? 6/8
ロシアからの軍事侵攻を受けて、ウクライナを離れたウクライナ国民は420万人を超えるといわれています。
避難民を受け入れている国の一つ、モルドバでは人口の約16%にあたる41万人もの避難民を受け入れています。欧州最貧国ともいわれるモルドバですが、物価やモルドバ国民の平均的な年収はどのようなものなのでしょうか。
この項目では、モルドバ共和国について詳しく解説します。
モルドバ共和国とは
モルドバ共和国はウクライナの南西に位置する国で、面積は3万3834平方キロメートルと、日本の九州よりもやや小さいです。
2020年時点での人口は264万人となっています。2014年の調査によると、この人口の75%をルーマニア系のモルドバ人が占めています。このほか、ウクライナ人、ロシア人、トルコ系のガガウス人が住んでいます。公用語はモルドバ語で首都はキシナウ(キシニョフ)です。
旧ソビエト連邦から1991年に独立した国の1つですが、ウクライナ南部のオデーサに近く、国境を接するトランスニストリア地域(沿ドニエストル共和国)は1990年にロシア軍の部隊が独立を宣言し、1992年にはトランスニストリア紛争が起こりました。
モルドバ政権の力が及んでおらず、ロシア軍の部隊が日常的に演習をしていることから緊張状態が高まっており、外務省はトランスニストリア地域については渡航警戒レベルを4段階のうち3(渡航中止勧告)に引き上げています。
モルドバ国民の平均年収
2020年のモルドバ共和国の国内総生産(GDP)は119億ドルで、全世界で139位となりました。また、1人当たりの名目GDPは4523ドルでした。またモルドバ人の平均年収は32万2000モルドバ・レイほどです。
なお、1モルドバ・レイは日本円にして7.0531円で、日本円に換算すると、モルドバ人の平均年収は227万1098円です。モルドバの主要産業は卸・小売業、製造業、農林水産業となっていて、機械設備や食品、家畜などをルーマニアやドイツなどに輸出しています。一方、石油や石炭、天然ガスは輸入に頼っています。
モルドバの暮らし
モルドバ共和国の2020年の経済成長率はマイナス7.0%、物価上昇率が4.4%、失業率が8%です。もともと農業・食品加工業以外に目立った産業がなく、国民の貧困対策や保健衛生状況の改善が課題でした。
さらに、エネルギー資源の多くをロシアからの輸入に頼っていることや、ウクライナからの避難民を多く受け入れていることで、生活必需品の中には物価が2.5倍ほど上昇したものもあります。
ロシアとウクライナの戦争が長引くと、モルドバ国民の半分ほどが貧困のリスクにさらされ、貧困ラインを下回る生活を強いられる人も出ることが予測されています。ウクライナから避難してきた人はもちろん、避難民を受け入れるモルドバ側の経済支援も喫緊の課題です。
基幹産業にとぼしく物価上昇率が高い
モルドバ人の平均年収は日本円にして227万円ほどです。エネルギー資源の多くをロシアからの輸入に頼っているため、また、農業や食品加工業以外の基幹産業に乏しいため物価上昇率が高く、潜在的に貧困の問題を抱えています。
ロシアのウクライナ侵攻が長引けば、ウクライナ難民を受け入れるモルドバの物価上昇率や失業率にも影響を与えることが予想され、経済的な支援が必要です。
●伝えきれなかった“人の匂い” ウクライナ難民取材 記者ら報告会 6/8
2月24日にロシアが軍事侵攻してから、国外に逃れたウクライナ難民は人口約4400万人の8人に1人以上になる600万人を超え、欧州で「今世紀最大」の規模と言われる。ウクライナの人たちに私たちができる支援は何なのか。ロシアの対独戦勝記念日に当たる5月9日、難民の半数以上が逃れた隣国ポーランドで3月末まで取材した毎日新聞の記者とカメラマンらが、最新情勢と現地の写真を交えながら取材を報告するイベント「ウクライナ国境で見た現実〜難民取材報告〜」がオンラインで開催された。
テレビのコメンテーターとしても活躍し、国内外で難民問題を取材するフォトジャーナリストの安田菜津紀さんがモデレーターを務めたイベントは、冒頭に杉尾直哉・元モスクワ支局長がロシアの戦勝記念日でのプーチン大統領による演説などを解説。続いて、隣国ポーランドでウクライナ難民を取材した平野光芳・ヨハネスブルク支局長と写真映像報道センターの小出洋平・写真記者が現地取材を報告した。イベントの最後には、首都キーウ(キエフ)から日本の関西地方に2人の娘と避難したオレシア・サブリバさんが平和への思いを生の声で語った。
5月9日のプーチン大統領の演説について、杉尾記者は「(一部で予想されていた)本格的な戦争宣言はなかったが、注目する点は今回の軍事作戦で亡くなった兵士やその家族をしっかり守る大統領令を出したこと」と分析した。また、「1991年のソ連崩壊で大きな喪失感を味わったプーチン大統領は、NATO(北大西洋条約機構)が東側に拡大してロシア民族のルーツの土地、ウクライナまで来そうになったことが我慢できなかったのだと思う」と侵攻の理由を解説。「平和が確実に戻るのは数年先かもしれない。世界は長い対立の時代に入る」と戦闘の長期化を予測した。
共に志願してポーランドに赴いた平野記者と小出記者は、現地取材の苦労について語った。平野記者は「国境にラッシュのように次々とやってくる難民を前に、誰にどんな話を聞いたらよいか頭が真っ白になった。何の責任もなく無邪気で力強い子供を通して、(戦争の)悲惨さを表現しようと考えた」と話した。小出記者は「難民という『塊』ではなく、一人一人の心情が伝わる写真を撮るよう心がけた。避難所に入ったときに、写真と映像では人と食べ物の匂いまで伝えられないもどかしさも感じた」と吐露した。
印象に残った取材について、平野記者は「通訳兼ドライバーとして雇った、クリミア半島出身で両親がロシアを支持する避難民のオリガさんが、国境付近まで行ったときに『戦争をしている国でも空は青い』と話し、突然泣き出したこと」を挙げた。一方、小出記者は避難民の子供たちのポートレートをまとめたグラフを挙げ、「夢見る職業を尋ねると、日本の子供と同じように『スポーツ選手』や『おかし屋』といった答えが返ってきて、戦争前は平穏な日常だったと想像する手がかりになった。屈託のない表情を見て、大人たちの責任や非力さを表したかった」と、その狙いを説明した。安田さんも「情報の受け手が『なぜこういうことが起きたのだろう』と、主体的に考えていくことも大切だと思う」と応じた。
記者2人がポーランドで取材した後、関西地方に避難したキーウ出身のサブリバさんは、大阪写真部の山田尚弘記者と共にイベント終盤に避難先から登壇した。初めに「日本のみんなにありがとう」と支援への感謝を述べたサブリバさんは、プーチン大統領について「私は彼の気持ちが分からない。彼も娘が2人いる。私も2人いる。なぜ、ここまでできるのか。彼は子供のことを考えていないと思う。世界に平和がほしい」と、避難する当事者としての率直な思いを訴えた。
●「プーチン氏になぜ電話しない?」との質問に… メルケル前首相初インタビュー 6/8
ドイツのメルケル前首相が、去年の政界引退以降、初めてインタビューに応じました。かつて、ロシアのプーチン大統領と正面きって議論し合っていたメルケル氏、ウクライナ侵攻について何を語ったのでしょうか。
ドイツで4期16年首相を務め、去年12月に政界を引退したメルケル氏。7日、引退後初めて、雑誌「シュピーゲル」の記者との公開インタビューに応じ、ウクライナへの侵攻を続けるロシアを非難しました。
ドイツ メルケル前首相「ロシアの戦争は非常に残酷で国際法を無視した攻撃で、正当化の余地は全くない」
そして、対抗措置として軍備増強に舵を切ったドイツ政府の方針に賛同しました。
ドイツ メルケル前首相「軍備増強はプーチンが理解できる唯一の言語です」
メルケル氏は8年前のロシアによる一方的なクリミア併合のあともプーチン大統領と対話を続け、ウクライナ東部での紛争が起きた際は停戦合意を仲介。エネルギー分野などではロシアと経済的なつながりを強める路線を維持し、そのロシア政策に否定的な声もあがっていました。
ドイツ メルケル前首相「戦争を防ぐ安全保障の枠組みを作ることに失敗しました。今の状況(ロシアのウクライナ侵攻)は大きな悲劇です。このような悲劇を防ぐために、もっと何かできなかったのか。もちろん、私もそのことを問い続けています」
メルケル氏はこう話す一方で…
ドイツ メルケル前首相「振り返ってみて、試み(外交努力)が足りなかったと自分を非難する必要はないと思います。でも、その試みがうまくいかなかったのは大変悲しいことです」
自らの対応は間違っていなかったとの認識を示しました。また、「なぜプーチン氏に侵攻をやめるよう電話しなかったのか?」との質問に対しては…
ドイツ メルケル前首相「正直、私としては何も行動をおこすつもりはないです。いま(プーチン氏との話し合いが)役に立つとは思えない」
このように答え、今後、プーチン氏との対話や停戦交渉を仲介する可能性を否定しました。
●ロシア女子代表選手が沈黙を破る「プーチンは私たちからすべてを奪った・・・」 6/8
ロシア女子代表のナディア・カルポワは、ロシア軍のウクライナ侵攻に対して口を開いた。
2月24日から始まったロシア軍によるウクライナ侵攻。これを受け、フットボール界ではロシアの代表チームとクラブに対して欧州サッカー連盟と国際サッカー連盟が共同で主催大会への出場禁止の制裁を科した。
これにより、男子代表チームはカタール・ワールドカップ出場権を懸けた欧州予選プレーオフに出場できず、また先日開幕したUEFAネーションズリーグへも参加禁止。また、女子代表チームは7月に予定されている女子EURO2022への出場資格が剥奪された。
ロシアフットボール界にも大きな支障が出るものの、ここまでウラジミール・プーチン大統領が指揮するウクライナ侵攻へ反対の声を上げたのは数えるほど。侵攻開始当日にSNSにメッセージを投稿するも数時間後に削除したディナモ・モスクワのフョードル・スモロフとスパルタク・モスクワのアレクサンドル・ソボレフのみだったが、女子選手の中で初めてエスパニョールに所属するカルポワが隣国への軍事行為に対して反対の声を上げた。その様子をイギリス『BBC』が伝えている。
「この非人道的な行為を見ることはできないし、沈黙を続けることもできない。スペインではなく、ロシアにいれば何が起きるか想像もできない。でも、私には言葉を発する特別な責任があると感じている」
「ロシアのプロバガンダは私たちは特別な国で、全世界が私たちと私たちの独自のミッションに敵対するとロシアの人たちを説得しようとしている。独自のミッションとは何?ロシア人が特別だとは思わない。それと同時に私はロシア人であることを恥ずかしいとは思わない。ロシアは政府とウラジミール・プーチンだけを意味しているわけではない」
「プーチンは私たちからすべてを奪った。彼は私たちの未来を奪った。でも、彼は私たちからの黙認を得てそのようにやってきた。政府も強い抵抗を見せることもなかった。ほとんどの人たちが不正に目を背け、自分たちには関係のないことと考えている。戦争を正当化する人たちはプロバガンダの人質になっている。彼らのことをかわいそうだと思うし、彼らを解放するために私たちはできる限りのことをやる必要があると私は強く感じている」
2020年からエスパニョールでプレーするカルポワは、ウクライナ女子代表FWタミラ・ヒミッチと3月からチームメイトになった。
「彼女に最初に会ったとき、彼女は警戒心を持って私に接してきた。私が戦争推進派やウクライナ人を敵視する人間か定かではないようにね。彼女の家族や友人について考えたとき、私は泣きたかった。彼女の愛する誰かが亡くなった可能性があるかと思うとひどい気分になった。この戦争が真実なのか、いまだに信じられない時がある。でも、今実際に起きている」
最後にカルポワはもっと大勢のロシア人アスリートが声を上げるべきだと語っている。
「もっとたくさんのロシア人、ロシア人アスリートに声を上げてほしい。そうなれば、戦争に反対する他の人たちが少数派ではないと認識できる。何も起きていないかのように装うことはできない。沈黙の時間はもう終わりにすべき。いつの日か、政府は退陣する。彼らは全員がすでに年老いている。そうなったとき、私たちはまだ生きているし、すべてを正しくする準備をしなければいけない。すぐにそうなることを願っている」 

 

●バイエルン州、ウクライナ情勢を受けたエネルギー政策を発表 6/9
ドイツ・バイエルン州議会で5月31日、フーベルト・アイバンガー同州経済・開発・エネルギー相が、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰などを受けた州内のエネルギー政策方針について、所信表明演説を行った外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。
ドイツ連邦政府は、ロシアのウクライナ侵攻を受けたエネルギー情勢の変化に対して、液化天然ガス(LNG)の輸入(2022年3月11日記事、5月17日記事参照)や、再生可能エネルギー拡大に向けた関連法改正(2022年4月18日記事参照)、エネルギー確保法改正(2022年5月2日記事参照)など、矢継ぎ早に対応を進めている。
バイエルン州でも、州内の経済団体バイエルン経済連盟(vbw)が2022年4月、天然ガス供給が短期的に停止した場合、2割以上の企業が「生産またはビジネスが完全に停止」と回答したアンケート結果を発表するなど(2022年4月26日記事参照)、州レベルの対応が求められていた。今回のエネルギー政策方針は、バイエルン州政府が5月17日に閣議決定したもので、(1)エネルギー供給の確保、(2)妥当な価格、(3)再生可能エネルギーの拡大の3つの柱から成る。
所信表明演説で、アイバンガー氏は「エネルギー供給の確保」について、天然ガス貯蔵がカギとし、連邦政府に対して11月初めまでに貯蔵率最低9割を確保することを求めた。また、LNG輸入ターミナルの建設や天然ガスによる発電を、一部石炭で代替する必要性も指摘した。併せて、現在稼働中の国内の原子力発電所(注)を当面2023年春まで稼働延長することを検討すべきとした。「価格」については、同氏は連邦政府に対して、2022年中に電力税をEU加盟国最低レベルに引き下げること、電気などに対する付加価値税の軽減税率適用などの減税措置などを求めた。
「再生可能エネルギーの拡大」については、バイエルン州は2025年までに発電電力量に占める再生可能エネルギー比率を7割まで引き上げることを目標に掲げる。2020年の割合は52.3%で、連邦全体(44.1%)よりも高い。ただし、風力発電の割合が6.4%と連邦全体(23.3%)よりも大幅に低い。北ドイツなどに比べて風が吹きにくい、海がなく洋上風力発電ができないなどの地理的要因もあるが、州独自のルールである、近隣建物などと風車の距離を風車の高さの10倍以上確保する、いわゆる「10Hルール」が理由とする見方もある。
同州政府が閣議決定したエネルギー政策方針では、アウトバーンや線路沿い、森林地域などの風車や、工場地域の風車などに対し「10Hルール」を緩和し、最低1,000メートルの距離を確保すればよいとする予定だ。これにより、全土地面積の2%を風力発電に利用できるようにする。2%目標は、連邦政府の2021年11月の連立協定書にも明記されている。同州政府は、今後数年で最低800基の風車を設置、現在の2.5倍の最低4ギガワットを風力で発電するとしている。 (注)ドイツでは2022年末までに原子力発電所を全廃する。
●ウクライナ戦争の影で暗躍する中国。南太平洋を取りに来た習近平の魂胆 6/9
世界の目がウクライナ戦争に集中する中にあって、習近平政権の覇権争奪に向けた取り組みには一手の抜かりもないようです。今回、5月末のタイミングで南太平洋の国々に外相を公式訪問させた中国の思惑を推測するのは、国際政治を熟知するアッズーリ氏。外務省や国連機関とも繋がりを持つアッズーリ氏は記事中、同地域の国々に過去10年間で14億ドル以上もの経済支援を行ってきた中国の野望を、ソロモン諸島との間で結んだ安全保障協定の内容を紹介しつつ考察するとともに、中国が南太平洋を重視する2つの理由を解説しています。
ウクライナ戦争の陰で進む米中覇権争い。主戦場となるのは「南太平洋」
日米豪印4ヶ国によるクアッド首脳会合が日本で開催された直後、中国の王毅国務委員兼外相は5月26日から南太平洋の8ヶ国を公式に訪問した。訪問した国はソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの8カ国だが、いずれも台湾ではなく中国と国交を有する国々だが、中国は南太平洋諸国に多額な経済支援を行うなどして影響力を強めてきた。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」によると、中国は2006年からの10年間で、フィジーに3億6,000万ドル、バヌアツに2億4,400万ドル、サモアに2億3,000万ドル、トンガに1億7,200万ドル、パプアニューギニアに6億3,200万ドルをそれぞれ支援したというが、中国の野望はそれだけに留まらないようだ。
それを強く示すのが、ソロモン諸島との間で結んだ安全保障協定だ。中国は4月、ソロモン諸島と安全保障協定を結ぶことで合意した。一部ネット上に流れた文書によると、そこにはソロモン諸島政府の要請で中国の警察や軍を派遣できる、ソロモン諸島に駐在する中国人を守るため中国軍を派遣できるなどが記述されていたとみられ、欧米や日本などは、中国が経済の次は安全保障で影響力を強め、いくつ軍事拠点化するのではと警戒感を滲ませている。
米政府高官は4月、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談した際、中国との間で合意した安全保障協定に対する懸念を伝え、中国軍が駐留するなら対抗措置も辞さない構えを示した。また、最近、オーストラリアのウォン外相も、太平洋地域の各国がどの国と協定を結ぶか自ら決定することを尊重するが、ソロモン諸島と中国が締結した安全保障協定がもたらす影響を懸念していると表明した。
米中だけでなく、近年、オーストラリアと中国との関係も悪化している。両国は、新型コロナウイルスの真相解明や新疆ウイグルの人権問題、香港国家安全維持法の施行などを巡って対立が激しくなり、中国はオーストラリア産の牛肉やワインなどの輸入制限に踏み切るなどしている。オーストラリアでは5月に政権交代があったものの、新たに発足したアルバニージー新政権で副首相を務めるマールズ副首相は、オーストラリアと中国の関係は引き続き難しいものになるとの認識を示した。米国と同様に、中国への警戒感はオーストラリアでも党派を超えたコンセンサスのようになっており。今後も両国間では経済を中心に冷え込んだ関係が続く可能性が高い。
中国が南太平洋を重視する2つの理由
では、なぜ中国は南太平洋を重視するのだろうか。そこには日米豪印クアッドが進める自由で開かれたインド太平洋構想に対抗する狙いがある。世界地図をみれば明らかだが、南太平洋島嶼国が点在する範囲は西太平洋でも大きな割合を占め、西太平洋での影響力拡大を掲げる中国にとっては極めて重要な場所にある。また、オーストラリアは南太平洋を自らの戦略的要衝と位置づけているが、オーストラリアと米国の間に楔を打ち込むことで、クアッドの連携を壊したい思惑もあることだろう。
また、中国が南太平洋を重視するにはもう1つ大きな理由がある。それは台湾の存在で、今日でも南太平洋にはパラオやナウル、ツバル、マーシャル諸島の4カ国が台湾と国交を有している。中国としては、近年キリバスとソロモン諸島が国交を台湾から中国に切り替えたように、同4カ国へ経済支援などで圧力を強めることで国交を切り替えさせ、台湾の存在を南太平洋から消したい狙いがある。
今日、日本でも台湾有事の恐れについてかなりメディア報道が増えてきたように思うが、南太平洋は正に中国と台湾、米国やオーストラリアという形で大国間対立の新たな主戦場になりつつある。
●「停戦の鍵はアメリカが握っている」ウクライナ侵攻の“現実” 6/9
辛坊治郎が6月9日(木)、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送『辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!』に出演。ロシア、ウクライナ停戦の鍵は「アメリカが握っている」と言及した。
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、ウクライナ側は現在、おもにアメリカやフランス、ドイツなど西側欧米各国からの武器援助を受けて戦線を維持している。この状況に対して辛坊は、「何となくウクライナに西側各国がみんな協力して、ロシアに対する戦線を固めているんだなあという印象だが、ウクライナにとっては自国が物事を判断する範囲をどんどん狭められている状況」と指摘。「こうなってくると、ウクライナではない西側の国々の兵器の援助でいま戦線が維持されているという現実が日々明らかになってきている」と続け、それら西側諸国はロシアとの全面戦争を望まないことから「どこかで手打ち式をしたいと思っている」と分析。
さらに辛坊は、「アメリカが本音のところで戦争をやめさせたいと仮に思ったとしたら、できる」と断言。「そのタイミングで、ウクライナにこれ以上の武器供与はしませんと西側が足並みをそろえた瞬間に、ウクライナはそれ以上戦えないことがはっきりしてきた」と述べ、どのラインで停戦するかなどの鍵を握るのはウクライナではなくアメリカだとした。
そのうえで「小さい国は気の毒だなと、それが世界の現実なんだということを我々はちゃんとみておかないと」、「だから自分のことは自分でね」と語り、暗に日本の防衛のあり方についても問題提起した。
●ウクライナ情勢の影響議論 OECDが閣僚理事会 6/9
経済協力開発機構(OECD)は9日、パリの本部で閣僚理事会を開いた。ロシアのウクライナ侵攻を踏まえた多角的貿易体制の維持や、アフリカなど途上国との関係見直し、気候変動問題を中心に議論。10日に声明を採択し閉幕する。
開幕に際し、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説し、「世界は食料、エネルギー、価値観の危機に直面している。共通の利益のために世界が団結するとロシアに示さなければならない」と訴えた。コールマンOECD事務総長は「可能な限りの方法で支援する」と応じた。
●ウクライナ情勢にうまく対処するには=韓国 6/9
ウクライナで戦闘が始まって100日を超えた。ウクライナの抵抗は相変わらずだ。ロシアが掌握した東部と南部ベルトで一進一退が続いている。長期戦になる可能性がある。すでにウクライナ戦闘は国際秩序に大きな影響を及ぼした。韓国も影響圏に入っており、重要な政策選択がわれわれの前にある。政策選択の基盤となる望ましい社会的議論のために事態の含意と対処時の留意事項を探ってみようと思う。
ロシアはなぜ軍事行動をしたのかから見てみよう。一部ではロシアが旧ソ連の領域を回復しようとする攻勢的意図のためだと解釈するが、事実は防衛的脅威認識が累積して噴出した行為だとみるべきなければならない。ロシアは脱冷戦以来西側がソ連勢力圏である東欧を蚕食し安保脅威が大きくなったと認識する。いわゆるNATOの東進だ。しかもこの過程は東欧の自由化、民主化の流れとともに進んだ。ロシアはこの流れを体制への脅威と認識する。ロシアは西側がロシアの弱体化と体制交代を追求するとみる。
安保脅威と体制への脅威という認識を拡大したロシアはソ連の一部だったウクライナまでNATOへの加盟を推進し、これを牽制するためにクリミア併合とドンバス地域の分離独立を推進した。それでも親西側の歩みが続き、ロシアはいま軍事行動を通じ短期間でウクライナを敗北させ、交渉を通じてウクライナを中立化させることがじっとしているより良いという判断に達したとみられる。
しかしロシアが侵攻を断行し、ロシアの安保利害は後回しにされ、21世紀の欧州で自由と民主を追求する主権国を武力で強制しようとすることに対する国際的非難世論が沸騰した。西側はロシアの侵攻を民主(democracy)に対する専制(autocracy)の攻撃と見なした。結果的にウクライナ侵攻はいくつかの分岐で国際的力学に甚大な影響を及ぼした。これは韓国が政策選択時に考慮すべき主要条件になった。
第一に西側とロシアは脱冷戦を超え尖鋭な対決の時代に入った。西側は過去に例がないほどにまとまりロシアに過去最高の制裁を加えている。過去のトランプ政権時代には米国と欧州の間の溝が深まり、英国がEUを脱退する状況があった。ロシアには喜ばしいことだった。しかしもうロシアは団結した西側の高強度制裁を受ける難局にさらされた。
2番目に、ウクライナ情勢はアジア地域でも米ロ・米中対決構図を深めさせている。もちろん中国は他国に対する武力侵攻に反対してきたためロシアを支援したりはしない。しかし西側は中国を専制(autocracy)の側と見て、中国は戦略的パートナーであるロシアに対する西側の制裁を自身に対する潜在的措置と解釈する。
3番目にウクライナ情勢の世界的・地域的影響がこうなのに、韓半島(朝鮮半島)に対する影響も少ないわけはない。ウクライナ関連の米ロ対立は韓国のような米国の同盟国に個別に対応する余地が少ないという現実を物語る。ウクライナ情勢は韓国に戦争状況で同盟がどれだけ重要なのかを刻印させた。これに対し北朝鮮は米帝の侵略を防ぐのに核兵器が緊要だという点を確信しただろう。北朝鮮はロシアを積極的に支持している。韓日米対中朝ロの構図が深刻化する素地は大きい。
ウクライナ情勢の影響がこのような中、韓国で新政権が発足した。新政権は同盟強化に注力している。ウクライナ情勢に対しても前政権より対米共助を強化する側だ。米国の中国牽制要請にもより積極的だ。
このため米国からの注文は増えるだろう。ウクライナに対する兵器支援もそのうちのひとつだろう。新政権はこれを断りにくいだろう。すると修交以来で最低となっている韓ロ関係に追加的な反作用があるだろう。中国もまた、韓国の対中・対ロの動きに神経を尖らせているだろう。中国は修交以来30年間にわたり韓国を米国から中国側に引き込む成果を上げたと思っていただろうからいまは当惑しているだろう。この流れを牽制する対応措置を出すだろう。
だとしても世界10大貿易国であり米国の同盟国である韓国は国際社会の主流とともにするほかない。残る問題はどの程度までともにするかと、ロシアと中国に対してどのような補完策を並行するかだ。米国とロシア・中国の間で韓国が立つ座標と進む方向に対する基準を立てるならばこの問題に答えるのに役立つだろう。韓国のアイデンティティに合う米ロ・米中間のリバランス地点とヘッジ対策を求め安いだろう。
一方、事態の推移を綿密に見て、これを韓国の対処に反映することも重要だ。それだけ現在の国際秩序でウクライナと韓半島は連動している。戦闘と交渉だけでなくロシア内部事情まですべて注目を要する。19世紀中盤のクリミア戦争の結果としてロシアで農奴解放などの改革措置が出てきた事例も思い出す必要がある。
新政権が米国とロシア・中国の間で最適な対処をすることを望む。いまは米国、ロシア、中国すべてがとても敏感になっている時だ。
●ロシア、占領地から穀物輸送…ウクライナ「略奪して輸出」と非難  6/9
タス通信によると、ロシア軍が占領するウクライナ南部メリトポリから穀物の第1便を積んだ11両の貨物列車が8日、南部クリミアの拠点都市セバストポリに到着した。ロシア側は港湾都市マリウポリなどから穀物の海上輸送も可能になったと発表した。黒海を封鎖して穀物輸出を妨害する一方、自らは輸送に動くロシアの行為をウクライナ側は略奪だと非難している。
露軍が一部を占領している南部の穀物生産拠点ヘルソン州の親露派幹部は9日、ロシア通信に、同州からクリミアに「鉄道で輸送する用意が整った」と述べた。ロシア側は、2014年に併合したクリミアに鉄道で穀物を集積し、南部の各港湾からの海上輸送を想定している可能性がある。
ウクライナ国内でトラックに積み込まれる穀物(5月24日)=ロイターウクライナ国内でトラックに積み込まれる穀物(5月24日)=ロイター
セルゲイ・ショイグ露国防相は7日、黒海海域のアゾフ海に面したマリウポリとベルジャンシク両港周辺の機雷撤去作業が完了し、船舶での穀物輸送が可能になったと強調していた。
しかし、ウクライナ側は、ロシアに無断で穀物を取引されていると主張している。ロイター通信によると、ウクライナの在レバノン大使館は6月上旬、ロシアが侵攻開始以降に「約10万トンの穀物をウクライナから略奪してシリアに輸出した」と非難した。実態として、親露派を名義人とした穀物取引が横行している模様だ。
ロシアとトルコは8日の外相会談で南部オデーサからの輸出再開などについて協議したが、具体的な進展はなかった。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は8日の記者会見で「当事国の安全が考慮されなければならない」と述べ、ウクライナの輸送船の安全を保証するとしているロシアに、改めて不信感をにじませた。
●ロシア軍、侵攻長期化で士気低下に拍車 従軍拒否相次ぐ 6/9
ウクライナ侵攻の長期化に伴い、ロシア軍の士気低下が一段と浮き彫りになっている。従軍を拒否した兵士の存在が相次いで表面化したほか、4月に任命された司令官が解任されたとの観測も浮上した。遺族への補償金支払いが決まった死亡者の全容も不透明なままだ。戦線の膠着が続けば国内の不満がさらに膨らみかねず、プーチン政権は難しいかじ取りを迫られている。
プーチン大統領は6日、ウクライナで死亡した国家親衛隊員などの遺族に500万ルーブル(約1000万円)の補償金支給を命じる法令に署名した。国家親衛隊は2016年にテロ対策を名目に創設され、国内の抗議デモ鎮圧を担ってきた。今回の法令で、大統領直属の同隊にも侵攻で犠牲者が出ていることが公式に認められた。
兵や隊員の反目は、次々と明るみに出ている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは1日、数百人規模の兵士らがウクライナでの戦闘を拒否したと報じた。命令に従わなかった陸軍兵に対し、3月初めに司令官が解雇を命じた文書もあるという。人権団体の窓口には、3月の開設後10日間だけで700人以上から法的支援を求める相談が寄せられた。
英BBCも3日、前線に戻ることを拒否して弁護士に支援を求めた兵士の証言を伝えた。ロシアのインタファクス通信によると、5月下旬にはロシア南部の軍事裁判所がウクライナでの任務を拒否した国家親衛隊員115人の除隊処分を合法とする判断を示した。当局が従軍を拒んだ兵士らの存在を隠しきれなくなっている現状がうかがえる。
軍内部の異変はほかにもある。ウクライナメディアは3日、ロシアの独立系調査団体「CIT」の分析として、ロシアの侵攻作戦を統括するドボルニコフ総司令官が交代したと伝えた。ドボルニコフ氏は戦局立て直しに向けて、4月上旬に任命が報じられた。その後は長期間にわたって姿が確認されず、任務を続けているかが疑問視されていた。
戦線の膠着が続くなか、言論統制下にある国内から反戦表明も噴出している。
「軍事作戦をとめなければ、さらに孤児が増える。国に貢献できたはずの若者たちが(負傷し)、体が不自由になった」。5月下旬には極東沿海地方の議会で、野党議員がプーチン氏に侵攻の中止とロシア軍の即時撤退を訴える声明を読み上げた。侵攻開始以降、各地で軍の徴兵事務所への放火が起きているとの報道もある。
ロシアはウクライナの首都キーウ(キエフ)の早期制圧に失敗し、その後に戦力を集中させた東部2州全域の掌握にも苦戦している。ロシア兵の犠牲についても、1351人が死亡したと発表した3月下旬以降は明らかにしていない。ウクライナ側はロシア兵の犠牲者が3万1000人を超えたと主張し、英国防省もアフガニスタン侵攻に並ぶ規模(約1万5000人)とみる。
今後、遺体交換などで犠牲となった兵士の遺族への返還が進めば、被害の全容が明らかになり、国内で侵攻への否定的な見方が広がるのは避けられない。プーチン政権は水面下で兵士の動員を進めているとみられる。国内の不満を抑え込んで「戦果」を示そうとすれば、国内外でさらなる強硬手段に訴える可能性もある。
●ロシアのサイバー攻撃「効果低い」 実際の戦闘と連動できず 欧州の専門家 6/9
ロシアが軍事侵攻したウクライナに仕掛けたサイバー攻撃について、予想よりはるかに効果が低いという見解が相次いで示された。
フランス北部リールで8日に開かれたサイバーセキュリティーに関する国際会議で、欧州諸国のサイバー防衛担当幹部らが発言した。
ポーランドの担当幹部は、米軍に打撃を与えた旧日本軍の急襲攻撃を引き合いに「ロシアの過去の行動や能力から、専門家は『サイバー真珠湾』を確信していた」と指摘。だが、ウクライナは持ちこたえ、ロシアとのサイバー戦は準備が可能であることが示されたと述べた。
リトアニアの担当幹部は、ロシアが「実際の戦争とサイバー戦を連動させる準備ができていなかった」と分析。ロシアの攻撃が「周到に計画されたものとは思えない」と語った。フランスの担当幹部も、ロシアのサイバー戦能力について「われわれが思うほど強くない」と断言した。
●プーチン大統領が逃げた!? ロシア国民が生直撃する恒例イベント延期 6/9
プーチン氏と国民の直接対話は毎年6月に実施されている。クレムリンは当初、今月15日から18日の間に行うとしていたが、大統領府のペスコフ報道官は「直接対話は今月は開催できない」と発表した。後日開催するとしたが時期は明らかにしなかった。
このイベントは、約4時間にわたりプーチン氏が国民からの質問や意見に答えることで知られる。
「ロシアの経済社会状況が悪いのは、あくまで中間の官僚の責任であり、自身が民衆の不満に寄り添っているという姿勢をみせるプーチン流民主主義の政治ショー≠セ」と指摘するのは、ロシア政治に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏。
「イベントの数週間前からクレムリンにコールセンターのようなものが立ち上がり、インターネットなどを介して市民が動画などで要望を届ける。選ばれた意見の中から、プーチン氏だけがテキパキと問題を処理できる姿をテレビでアピールする狙いだ。水害被災地を中継して世帯への給付金支援を決めたり、工場で給与未払いの訴えがあると工場支配人の刑事訴追を即断するなど例があった」と解説する。
延期理由として考えられるのがやはりウクライナ侵攻だ。2月24日に「特別軍事作戦」と称して侵攻を開始し、5月9日の「戦勝記念日」までに勝利を収めるシナリオは崩れた。
兵士の犠牲も日に日に増え、将官の戦死も相次いでいる。欧米からの厳しい経済制裁で国内経済も困難に直面している。表向きはプーチン氏の支持率は高いが、国民の不満がくすぶっている可能性がある。
もう一つは体調面の問題だ。クレムリンは重ねて否定するが、西側の情報当局などからは進行型のがんや血液のがん、パーキンソン病などの重病説が飛び交っている。
前出の中村氏は「ウクライナ侵攻に反対する不満の声に対応しきれないことや、4時間近く続くイベントなので、体調上、体力がもたないなどの理由が考えられる。プーチン氏を支える基盤であっただけに政権の正統性が揺らぎかねない」との見方を示した。
プーチン氏が毎年4月に実施するロシア連邦議会での演説も今年は行われていない。やはり異変が生じているのか。
ロシアのプーチン大統領が、国民と直接対話する恒例のイベントを延期するとクレムリン(大統領府)が発表した。20年近く行われ、テレビ放送もされる重要行事が延期されるのは初めてという異例の事態だ。ウクライナ侵攻をめぐり国民からの追及を恐れて逃げたのか。体調面の不安があるのか。さまざまな憶測を呼んでいる。
●暗くなるプーチン大統領の前途 実情知る軍と政権内部で不満募る 6/9
ウクライナ侵攻の正当性をプロパガンダするロシアのプーチン大統領だが、厳しい戦況を知る軍と政権の内部では、無謀で危険な作戦への不満がくすぶる。健康不安とあわせ、水面下では解任への動きが起き始めていると報じられている。
厳しい戦況 プーチンに募る不満
ロシア軍は東部で支配域をじわじわと広げているものの、短期決戦でのキーウ占領を描いた当時の構想は外れ、軍からの不満が表面化するようになった。英テレグラフ紙(6月4日)は、「プーチンの評判は深刻なダメージを受けた」と述べる。大衆向けには「特別軍事作戦」が成功しているかのようなプロパガンダを行っているが、陸軍内部には実態を把握している者も多い。兵が満足に補充されない現実に不満が上がっており、「将官たちはプーチンが予備兵の動員をためらっていることに憤慨している」と記事は伝えている。
こうした侵攻作戦の停滞は、プーチンに致命傷をもたらす可能性がある。米外交政策評議会(AFPC)のハーマン・ピルヒナー・ジュニア議長は、米ヒル紙(5月13日)に寄稿し、プーチン失脚のシナリオはあり得るとの考えを示した。ウクライナ侵攻の長期的な危険性を軍部が容認しきれなくなることで、ロシア軍の一部がロシア連邦保安庁(FSB)に同調し、解任へ足並みを揃える可能性があるとの分析だ。
健康不安での退陣もあり得る
ウクライナ情勢に加え健康不安も深刻だ。テレグラフ紙は、「さらに、この大統領に深刻な健康上の問題があるとの噂(がんからパーキンソン病までさまざまな推測がある)も、プーチンの時代が終わろうとしているのだという認識を強化している」と指摘する。
具体的な時期として、遅くとも来年までには何らかの動きが出てもおかしくない。英メトロ紙は、元MI6長官のリチャード・ディアラヴ氏の見解として、プーチンは来年までに大統領を退任させられ、病気の療養のために入院させられるとの予測を取り上げている。この方法により、クーデターを起こすことなくプーチンをクレムリンから追放できるとディアラヴ氏は考えている。
後継に適任者なく
プーチン本人に退陣の意思はないようだが、クレムリン内部ではすでに後継者選びの火花が散ろうとしている。テレグラフ紙は後継者候補として、元ボディガードで現在トゥーラ州知事のアレクセイ・デューミン氏の名前を挙げている。しかし、独裁的な気質があることから、高官らの賛同を得られるかは不透明だ。セルゲイ・ショイグ国防相も強力な候補であり、特別作戦の不振で威信は失われたものの、依然として可能性はあると同紙はみる。プーチンがこれらいずれかの人物を指名しない場合、ほかの権力層から次期大統領が選出されることになるが、決定的な影響力を持つ人物はいないのが実情だ。
米外交政策評議会のピルヒナー議長は、プーチン追放の機運が生まれれば、オリガルヒたちも資金面と影響力で力を貸すだろうと予測している。戦争の実情を知る軍と政権内部に加え、経済界においても、プーチン退任への筋書きが書かれようとしているのかもしれない。
●仏大統領、「ロシアに屈辱与えてはならない」発言で批判再燃 6/9
ロシアによるウクライナ侵攻の外交的な解決に向け、「ロシアに屈辱を与えてはならない」と述べたフランスのエマニュエル・マクロン大統領への批判が再燃するとともに、西側諸国の結束のほころびがあらわになっている。
マクロン大統領は3日、仏メディアのインタビューで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、ウクライナ侵攻という「歴史的かつ根本的な過ち」を犯したと指摘した上で、外交解決への出口を残しておかなければならないとの主張を繰り返した。
5月9日に初めてこのような主張を展開したマクロン氏は、「戦闘が終結した際に外交的な手段を通じて出口を築けるよう、ロシアに屈辱を与えてはならない」と改めて訴えた。また「仲介者となるのがフランスの役割だと確信している」と述べた。
だが、プーチン氏との対話を通じた戦争終結にこだわるマクロン氏の主張に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は懐疑的だ。
ドミトロ・クレバ外相は4日、ソーシャルメディアを通じ、「ロシアに屈辱を与えないよう呼び掛けることは、フランスやそれを求める全ての国に屈辱を与えるだけだ」と批判した。その上で「平和をもたらし、人命を救う」ためにはロシアに「自らの立場をわきまえさせる」必要があるとの考えを示した。
戦争犯罪
マクロン氏の発言により、ウクライナ、東欧諸国および米英側とフランス側との間で、紛争の捉え方に相違があることが浮き彫りになっている。ウクライナやその支援国は、国家や民主主義の存亡を懸けた戦いと判断し、ロシアの敗北によってのみ解決できると見なしている。
一方、フランスとドイツは戦闘終結に向け、ウクライナが領土に関して譲歩すべきだと考えているのではないかとの懸念が一部で指摘されている。ただ、両国はこのような主張を裏付ける発言を行っていない。
エストニアのマルコ・ミフケルソン国会外交委員長はフェイスブックに、「仏大統領は戦争犯罪者のプーチンに屈辱を与えない手だてをいまだに探っている」と投稿。片脚を失った少女の写真を添え、「マクロン氏はウクライナのこの少女にどう説明するつもりなのか」と畳み掛けた。
プーチン氏を弱体化させ、ウクライナからロシアを撤退させるとの目標を政府が掲げる米英両国では、マクロン氏の発言に対し理解不能だとの反応が相次いだ。
マイケル・マクフォール元駐ロシア米大使は5日、「プーチン氏は屈辱を受けるかどうかにかかわらず、彼の軍隊が進軍できなくなった時に初めて交渉に臨むだろう」と指摘した。
英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のジョン・チップマン所長はツイッターに、プーチン氏の体面を保たせようとするのは「弱腰外交における目標だ。プーチン氏の体面は本人が責任を持てばいい」と投稿。さらに「屈辱というのは、戦争犯罪に対しては穏やかな懲罰だ」と書いた。
歴史の教訓を重視するマクロン氏
マクロン氏は、歴史的にロシアと緊密な外交関係を維持してきたフランスの立場を保つのに腐心しており、西側諸国も巻き込んで紛争が拡大するリスクについてたびたび警告している。
歴史の教訓を重視するマクロン氏は、1919年に連合国とドイツの間で締結された第1次世界大戦(World War I)の講和条約を引き合いに出し、ウクライナ侵攻でロシアに懲罰を加えようとする一部の西側諸国の思惑に懸念を示している。講和条約でドイツに課された懲罰的な条件は、1930年代のナチス(Nazi)が台頭する引き金となり、1939年の第2次世界大戦(World War II)勃発につながったと主張する歴史家も存在する。
マクロン氏にウクライナを訪問するよう求める圧力は強まっている。他の西側諸国の指導者がゼレンスキー政権への支持を示すために象徴的にウクライナを訪れる中、マクロン氏は「意味のある」場合にのみ訪問するとの立場を崩していない。
●「トランプ氏が大統領だったら、ウクライナ侵攻はより悲惨なものになっていた」 6/9
ウクライナ侵攻とアメリカを巡って、「バイデン大統領が“弱い”から起きたのでは?」「アメリカはなぜ派兵しないんだ」「トランプ氏が大統領だったらこんなことには…」という意見が聞かれることは多い。バイデン大統領は“弱い”大統領なのだろうか。そしてトランプ大統領なら、侵攻を食い止められたと言えるのだろうか。バイデン大統領の考え方や、世論調査から読み取れるアメリカ国民の思いとともに、明治大学政治経済学部・海野素央教授が解説する。
アメリカ社会に依然として存在する「分断」
通常、戦時にリーダーの支持率は急上昇する。であるにも関わらず、バイデン大統領の支持率は膠着状態にある。
その理由は「陰謀論」を信じている人の増加にあると言えよう。
エコノミストとユーガヴが5月21日〜24日に実施した共同世論調査では、ウクライナ難民を「受け入れるべきではない」と回答した人は22%にものぼった。回答者をトランプ支持者に絞れば37%である。
トランプ氏は大統領時代、メキシコとの国境に壁の建設を開始し、“反難民”の政策を進めてきた。そこで一部の人の内に強くなった排外的意識は、今もなお消えていないことがうかがえる。
さらに、3月26日〜29日に行った同調査ではトランプ氏支持者の27%が「新型コロナウイルスのワクチンは自閉症を引き起こす」という陰謀論を信じている。トランプ政権下で多くの陰謀論が蔓延ったことで、それを当然のものとして信じてしまう層が醸成されたのだ。
彼らは、“アメリカ第一主義”でない現在のアメリカ政治に強い不信感を持っている。トランプ氏の統治時代に生まれた分断は根深い。「戦時下の大統領であろうが絶対にバイデン氏を支持しない」という姿勢を崩さない人が一定数存在するために、支持率が上がらないのである。
国のリーダーが持つにふさわしい「力」とはなにか
エコノミストとユーガヴが5月21日〜24日に実施した共同世論調査では、「バイデン氏は強いリーダーか」という質問に対し、「強い」と回答した人が38%、「弱い」と回答した人が61%であった。
しかしながら、2020年の選挙でバイデン氏に投票した有権者を見ると73%が「強い」と回答している。支持者のなかでは「強いリーダー」とみられているのだ。一方、4月16日〜19日に行った同調査でロシアのプーチン大統領について「強い」と回答した人は61%、「弱い」と回答した人は38%であった。バイデン氏とちょうど逆の数字である。
そして、2020年の選挙でバイデン氏に投票した有権者に絞ってみても、「強い」が51%、「弱い」が48%と、「強い」が3ポイント上回る結果となっている。
では、「強さ」とは一体何であろうか。バイデン氏がポーランド・ワルシャワで「力(power)」について語った言葉とともに考えてみたい。
まずプーチン氏は「力」が正義だと思っている。その力とは「軍事力」「強制力」「権力」であり、相手をねじ伏せることを目的としたものだ。
しかし、バイデン氏が考える「力」はそれらとはかけ離れたものだ。「正義感」すなわち「道徳観」と「倫理観」こそが力であると語っている。
バイデン氏は最初の妻と娘を1972年12月25日、クリスマスプレゼントを買いにいった道中でトラックに衝突されたことにより亡くしている。2015年には、長男を脳腫瘍で亡くした。こうした過去を持つバイデン氏が、人の死を深く理解していることは想像に難くないだろう。
そもそも、バイデン氏が選挙でトランプ氏に勝てた理由のひとつはここにある。
バイデン氏は、コロナ禍の選挙で「食卓の空席」についてよく発言していた。コロナウイルスに感染したことで亡くなった方の家には、食卓に空席ができる。この言葉は、多くの遺族の胸に響いたことだろう。人の死を理解した“感情移入力”こそが、バイデン氏の「力」なのだ。そしてその考え方を理解している支持者には、7割から強いリーダーと認められているわけである。
しかし、一般的なアメリカ人にとっての力はそうではない。そこがアメリカ国民とバイデン大統領の間にあるズレであり、世論調査にも鮮明に表れてしまっている。
こうしたことは、日本で普通に情報に接していると気づけないことではないだろうか。テレビでウクライナ問題が取り上げられると、軍事専門家やロシアの専門家が出演することが多く、バイデン氏のモノの見方、考え方、価値観が語られることはない。
そのため「バイデンは弱い、ロシアがとんでもないことをしているのになにをやっているんだ」と考える人も多いに違いないが、ここでまた新たに世論調査の結果からアメリカ国民の意見を見てみたい。
米国民が「ウクライナへの派兵は悪い考え」とするワケ
エコノミストの世論調査では、「ロシア兵と戦うためにウクライナへ派兵するのはよい考えか?」という問いがウクライナ侵攻の開始からずっと設けられている。最新の調査では「良い」が18%、「悪い」が54%であったが、実はこの傾向は当初からずっと変わっていない。
日本のコメンテーターのなかには米軍の積極的関与を指摘する人もいるが、当のアメリカ国民は過半数が「送ってはダメだ」と考えているのである。
アメリカ第一主義を掲げるトランプ氏支持者であればともかく、バイデン氏支持者でさえ48%が派兵について「悪い」考えとしている。
日本ではウクライナの惨状が放送される際、遺体にぼかしを入れられているが、アメリカではぼかしのない映像が放送されることもある。そうした悲惨な光景を見ても、「派兵するのは良くない」という考えは変わらず、むしろそれを見れば見るほど派兵が「悪い」という考えは強くなっていることが予想される。
「なぜ派兵しないのか」と他国で議論されようと、当のアメリカ国民は「アメリカは戦うべき」などという考えを持っていないのだ。
バイデン大統領「ウクライナへ派兵しない」宣言のワケ
バイデン氏はなぜ、ウクライナ侵攻が始まってすぐの段階で「軍を出さない」と明言したのか、という疑問や批判も聞かれる。これについても、バイデンのものの見方、考え方を理解するとわかるはずだ。
筆者はずっと、バイデン氏のスピーチを聞き、その原稿を読んできている。そうして感じた「バイデン氏がトランプ氏と決定的に違うところ」は、スピーチのなかで「父親・母親」について非常によく語るところである。トランプ氏が親について語ることは滅多にない。
そしてスピーチのなかで、「父から学んだこと」として「意図しない戦争ほど最悪のものはない」という言葉を紹介したことがある。
バイデン氏の「ロシアと第三次世界大戦をやるべきではない」という言葉は、「意図しない戦争を起こしてはいけない」考えからきているのだろう。ロシアとの間に意図せぬ戦争が起きれば、それは第三次世界大戦となる。
だから、最初から「ウクライナには兵士を送らない」と言うことで「ロシア兵と戦うために派兵することはない」と宣誓したのではないだろうか。あえて明言することで、ロシアにはっきりとしたメッセージを送ったのだと解釈できる。
イラク・アフガンからの退役軍人と「脳腫瘍の発症」
アメリカ軍はイラク・アフガニスタンにて多量の廃棄物を燃やしてきた(イラクでは1日140万トンもの量)。
そこで有害ガスを吸ってしまった多くの兵士たちは、アメリカに戻ってからバイデン氏の息子と同じように脳腫瘍を発症してしまっている。ぜんそくや偏頭痛を発症した元兵士も数多い。
しかし、有害ガスの吸引とそれらの症状との間に因果関係が証明されていないため、これまで保険金・給付金がおりることはなかった。愛国心を示してイラク・アフガンに行った兵士たちにもかかわらず、である。
そうした状況下でバイデン氏は、2022年3月1日の一般教書演説で「因果関係がわからなくても保険・給付を拡大すべきだ」と語り、共和党からも拍手喝采を浴びた。
退役軍人を非常に大切にしていることも、「派兵しない」と宣言した理由のひとつだろう。退役軍人を大切にしているにも関わらず新たに兵士を送り出してしまっては筋が通らない。
バイデン大統領は、2020年の選挙での公約「アフガンからの撤退」を実現させている。日本では米軍撤退後の混乱ばかりに注目が集まっているが、オバマ大統領もトランプ大統領も目標としながらも成しえなかった「撤退」を、1年目で果たしたことは評価されるべきことでもある。そしてこの件からも米軍を大切にしていることがうかがえる。
「トランプ氏が大統領だったら」ウクライナ侵攻は…
「トランプ氏が大統領だったら、ウクライナ侵攻はどうなっていたか」という議論もよく聞かれる。トランプ氏は、「大統領がジョージ・W・ブッシュのときロシアはジョージアに侵攻した。オバマのときはクリミアに侵攻した。今、バイデンになってウクライナに侵攻した。しかし、自分のときはなにもやっていない」と宣伝している。
しかし、「トランプ氏が大統領を続投していたらロシアは行動を起こさなかった」と果たして言えるだろうか。
トランプ政権下で国家安全保障補佐官を務めていたボルトン氏は、今年3月1日、ワシントンポストのオンラインイベントにて「トランプが2期目の大統領であったなら、NATOから離脱していただろう。そしてそれはプーチンが望んでいたことだ」と述べた。
ボルトン氏が発言するほどであるから、NATO離脱の信憑性は高い。プーチンが望むようにアメリカがNATOから離脱すれば、ウクライナ侵攻を後押しするかたちになったはずだ。そして侵攻後も、NATOやEUとの関係のギクシャクしていたトランプ氏には、現在のような西側諸国の結束を実現することは当然難しかっただろう。バイデン氏が大統領になってすぐにNATOやEUとの関係を修復したから、今の結束があるのだ。
「選挙利用」…トランプ氏とウクライナとの関係
加えて思い出してもらいたいのは、2020年の選挙の際、トランプ氏はゼレンスキー氏に圧力をかけディール(取り引き)を持ち出していることだ。
バイデン氏の次男・ハンター氏がウクライナのガス会社の元役員であることを利用し、「バイデン氏にまつわる情報を渡したらワシントンで首脳会談をやる」と言ったと言われる。ウクライナとの関係を選挙利用した過去を持つのだ。
2016年の選挙時には「ロシア疑惑」もあった。この件に関してトランプ氏は有罪になってはいないが、ロシアにハッキングをして民主党全国委員会のメールを公開したことは、アメリカの情報機関が事実として認めていることだ。
トランプ氏はヒラリー氏の選挙で“勝った”にも関わらず、「ロシアが手伝ったから自分が大統領になれた」と思われているのが気に食わなかったようである。
そこでなんと、「ウクライナがアメリカの民主党の全国委員会と協力して、ロシアにハッキングしたのだ」という陰謀論に食いつき、「ウクライナがアメリカ大統領選挙に介入した」と主張した。そしてゼレンスキー氏に対し、「ウクライナに民主党の全国委員会のサーバーがあるから」と探すよう命じている。
トランプ氏がもし今でも大統領であったなら、トランプ氏とゼレンスキー氏の関係は明らかに「強い立場と弱い立場」であり、バイデンとゼレンスキーのような対等な関係ではなかっただろうと推測できる。
もちろん今、アメリカはウクライナに向けて武器を送っているので「強い立場」だと見ることもできなくはないが、それでもゼレンスキー氏とトランプ氏との関係は、バイデン氏との関係とはまったく違う。そういった意味でも、やはり上手くいかなかったのではないだろうか。
大統領がトランプ氏なら、ウクライナ侵攻は起きたか?
「でも、トランプ氏が大統領だったらそもそもプーチン氏はウクライナに侵攻していなかったのでは?」という意見を持つ方もいるだろう。
確かにアメリカ軍のアフガニスタン撤退を見て、プーチン氏が「バイデン大統領には戦う意思がない」と解釈した可能性はある。実際、撤退は去年の8月であるが、その後の秋からロシア軍はウクライナの国境に兵力を集結している。
アフガニスタンからの撤退はオバマ政権の頃から目指されてきたことであり、公約でもあるのだが、バイデン氏は米軍撤退により誤ったシグナルを送ってしまったのだと解釈することもできる。
とはいえ、やはりトランプ氏が大統領であったとしても、プーチン氏は侵攻に踏み切っただろうと言える。そしてその場合、ロシアやウクライナとの距離を空けただろう。トランプ氏の掲げる「アメリカ第一主義」は海外の出来事に関与しないことを意味する。
バイデン氏ほど侵攻を非難することはまずなかっただろう。むしろ、トランプ氏はウクライナに侵攻し東部を奪ったプーチン氏のことを「天才」と評した。プーチン氏は「トランプ大統領は自分のことを非難しないだろう」と考え、侵攻しやすくなったのではないだろうか。
プーチン氏について、トランプ氏は非常に興味を抱いている。習近平や金正恩に対しても同様で、その理由は自身も独裁者になりたいと考えるためだ。
つまり、プーチン氏は大統領がトランプ氏であっても「侵攻できた」だろう。「トランプ氏が大統領だったらそもそもプーチン氏は侵攻していない」とは、とてもではないが言えないことである。
●予想から倍増インフレ率8.5%に OECD38カ国でロシアのウクライナ侵攻が影響 6/9
OECD(経済協力開発機構)は2022年のインフレ率が、従来の予想から倍増して8.5%になるとの予想を発表した。
OECDは8日、日本を含む加盟38カ国の2022年のインフレ率が、2021年12月時点で4.2%としていた予想を上回る8.5%になると発表した。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が影響していて、2023年のインフレ率も、従来の予想を3.0ポイント上回る6.0%になると予想している。
また、2022年の世界の経済成長率についても4.5%から3.0%に、日本の経済成長率も3.4%から1.7%に下方修正した。
●ウクライナ軍、要衝セベロドネツクから撤退 ロシア軍が大部分掌握 6/9
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は8日、要衝セベロドネツクの大部分をロシア軍が押さえ、抵抗を続けてきたウクライナ軍が市周辺に撤退したと明らかにした。ウクライナ側は先週の反撃で市の一部を奪還していたが、再びロシア軍の手に落ちた。
ガイダイ氏はニュースサイト「RBCウクライナ」に対し「ウクライナ軍は再び市周辺のみを制圧するに至った。ただ、戦闘はまだ続いている」と述べた。
知事はまた、ウクライナ軍はドネツ川をはさんだ対岸の都市リシチャンスクを引き続き完全掌握しているが、ロシア軍は市内の住宅用建物を破壊しているとネット上に投稿した。
ウクライナ国防省によると、セベロドネツクの一部でロシア軍はウクライナ側の10倍の装備を持っている。ウクライナは東部の防衛線がロシア軍により突破される可能性があるとして、西側諸国に武器の輸送を加速するよう求めている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「われわれは拠点を防衛し、敵に重大な損害を与えている。非常に激しい戦闘で、恐らくこの戦争で最も厳しい戦いの1つだ」と述べた。
その上で、ドネツク、ルガンスク両州から成るドンバス地方の命運はセベロドネツクにかかっていると語った。
ロイターは地上戦の状況を独自に確認できていない。
ロシア軍は、ドンバスにあるウクライナ軍拠点の包囲を狙って激しい地上戦を展開している。
一方、ウクライナ第2の都市である東部ハリコフでは、住民が前日の砲撃による破片を清掃する姿が見られた。ウクライナ軍は先月、同市からロシア軍を撤退させたが、散発的な砲撃が続いている。
中国中央テレビ(CCTV)は、7日遅くに同市内のショッピングモールがミサイル攻撃を受ける映像を報じた。ドローンで撮影された映像では、モールが入る大型ビルの屋根に大きな穴が開いているのが映された。
●捕虜となったウクライナ兵ら1000人以上、ロシアに移送… 6/9
タス通信は8日、治安当局関係者の話として、ウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所でロシア軍に抵抗を続け、捕虜になったウクライナ兵士ら1000人以上が、捜査のためモスクワなどロシア本国に移送されたと伝えた。ウクライナに協力した外国人志願兵も含まれるという。
兵士らは製鉄所を出て投降した後、東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)の親露派支配地域に送られていた。さらにロシア国内に移送されたことで、ウクライナ側が求めてきた捕虜交換の可能性は一段と低くなり、軍事裁判にかけられる恐れが強まった。
一方、米CNNなどによると、露国内政治を担当するセルゲイ・キリエンコ大統領府第1副長官は7日、露軍が6割を掌握したウクライナ南部のザポリージャ州を訪問した。ロシアの支配強化を誇示する狙いとみられる。
ザポリージャ州の親露派「政権」の幹部は8日、ロシア通信に対し、ロシアへの編入の是非を問う住民投票を年内に実施する意向を明らかにし、「ロシアに入るのが早ければ、それだけ我々の生活向上も早まる」と主張した。
ルハンスク州の要衝セベロドネツクでは、激しい攻防が続いている。ロイター通信によると、市街地の大半は露軍が制圧しており、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は8日の声明で、「ドンバス地方の運命はここで決まる」と抗戦を訴えた。
●「ロシア再興」という夢を自ら閉ざしつつあるプーチン大統領の歴史的役割 6/9
ロシアのウクライナ侵攻から100日以上が経過した。その侵略戦争をミクロレベルまで細かく口をはさんで戦争指導しているプーチン大統領は、その思考において、明瞭に現れたパターンがある。
それは、「長期的なロシアの国益や繁栄」「ロシアの国力充実」という戦略上の勝利を重視するのではなく、「ロシア帝国復興の物語において象徴的な拠点の征服」「プーチン大統領自身の権威の維持」など、戦略上あまり意味のない勝利を重んじる傾向である。
そのため、終戦後に成就させたい国際秩序の構想や、戦争で実現すべき大義そのものが存在せず、国際政治の現実と乖離した願望のみで無計画に突っ走り、貴重な人的・軍事的資源を無意味に浪費するばかりだ。
特に開戦当初、ロシア軍は消耗戦に戦力を逐次投入する悪しきパターンに陥った。結果として兵力と装備を著しく損耗させ、戦闘能力だけでなく国力までも低下したのである。
強大な軍事力を持ちながら、ロシアが目的達成に失敗する主因は、戦略的な勝利よりも戦術的な勝利を優先する「権威主義的なプーチン政治のあり方」であろう。それは、経済分野においても繰り返されよう。
前回「エネルギー高・ルーブル高で荒稼ぎするプーチンロシアが抱える時限爆弾」で論じたように、ロシア経済は今夏から今冬にかけて顕著な悪化が見込まれる。その中で、ロシア経済がいかに市場のメカニズムを無視した統制で自縄自縛に陥っていくか、それを、旧ソ連の政治経済システムの持続性欠如や、大東亜戦争中の統制経済で失敗した日本の例を参考にしながら予測してみたい。
ロシア経済「見せかけの安定」の嘘
ロシアのウクライナ侵略戦争で繰り返される「体面や戦術的勝利の重視」による弱さは、ロシア国内の経済運営においても反復され、ロシアの敗北を早めることになると筆者は予想している。
電光石火の侵攻によるウクライナ全土の早期制圧という空想の実現に失敗したプーチン大統領は、「特別軍事作戦」において「一定の成果が得られた」と誇る。
経済面においても、「ロシアの市場にパニックを引き起こし、銀行システムを破壊し、物資を急減させることを狙った(西側の)経済制裁は明らかに失敗した」「ロシアは前例がない圧力に耐えつつ、安定を維持している」と強がっている。
だが、前回記事「エネルギー高・ルーブル高で荒稼ぎするプーチンロシアが抱える時限爆弾」で見たように、これらの主張は根拠が弱い。
ウクライナ侵攻後のロシア経済の「安定」は主に、(1)国際的な通貨需給を無視し、ロシア市場を世界から切り離すことで維持されるルーブル統制相場と、(2)世界的なエネルギー需要の高まりを受けたロシア産天然ガス・原油の売却収入の急伸によって支えられる「見せかけ」に過ぎないからだ。
プーチン大統領は、旧ソ連が冷戦時においても軍拡予算確保のため大事にしていた西側への天然ガス・原油輸出による収入を、経済制裁を引き起こすことで先細りさせるという誤りさえ犯している。
そうしたジリ貧の状況下、本気を出した米国や北大西洋条約機構(NATO)諸国との際限のない軍事競争が始まり、経済的に劣位にあるロシアの財政的な負担が耐え難いレベルに達するのは時間の問題である。
さらに重要なのは、ロシアは既にグローバル市場に深く組み込まれており、旧ソ連時代のような体面重視の「自力更生」や「ソ連圏ブロック経済内の分業体制」で自活していくことは困難になっていることだ。
フッ化水素やフォトレジストなど、日本からの戦略物資の輸出規制を受け、素材・部品・装置の国産化を図った韓国が、日本製品への依存を減らすことにある程度成功したものの、今度は中国製品に対する依存度を高める結果となったことは記憶に新しい。同様に、ロシアの中国製品への依存も高まろう。
ソ連の悪いところを復活させるプーチンの皮肉
ロシアが無理矢理の国産化による輸入品代替や、中国製の部品の輸入などで経済制裁をしのごうと図っても、多くの分野で品質問題や需給のミスマッチ、過度の中国依存が引き起こされやすくなる。ロシアのアンドレイ・クリシャス上院議員も、米ウォールストリート・ジャーナルに対して「輸入代替政策は失敗している」と認めている。
そのため、ロシア大統領府付属のロシア国民経済公共行政アカデミーの金融市場専門家であるアレクサンドル・アブラモフ氏が米ブルームバーグで指摘するように、「ロシアはモノ不足によって生じるソ連型インフレに向かっている可能性がある」のだ。
早晩ロシアは、不足物資に価格統制や配給制を敷く政策に乗り出さざるを得なくなろう。すると、もうけのインセンティブが働かず硬直化するロシア経済から、ますます効率や活力が奪われる。活性化するのは、闇市場における実勢価格を反映した取引くらいであろう。
ソビエト連邦という帝国の復興を夢見てウクライナ侵略戦争を引き起こしたプーチン大統領その人が、皮肉なことに、その旧ソ連の崩壊を誘発した「西側との果てしなき軍事・経済競争」「慢性的な物資欠乏や闇取引」「非効率的な資源の配分」「国民生活の不安定化」などソ連経済の最悪の特徴を再現させつつある。
結局、プーチン大統領の戦争指導や経済運営は、意図的であるにせよ、そうでないにせよ、彼が幼少期や青年期を過ごした旧ソ連時代への「郷愁」「先祖返り」になっている。それは、旧ソ連が一度敗北したにもかかわらず再度、自由で活発な欧米型の競争経済に対して、「統制経済(計画経済)で勝つ」という、不毛な挑戦を行う姿に映る。
ロシアの経済運営に重なる戦中の日本の姿
プーチン大統領の経済運営は、戦中の日本の姿と重なる部分がある。
大阪市立大学の石原武政名誉教授の研究によれば、当時の日本は兵器や兵糧など、軍需を満たすことを国家の最優先課題としていた。そのため、民生品の生産や配給が後回しにされ、市場メカニズムや消費者の抵抗を受けたのである。
例えば、魚介類の公定価格が定められると、漁業者たちは採算面で有利なタイの生産に集中するようになり、安いイワシが入手できなくなった大衆は高価なタイを購入せざるを得ないようになった。これは、人々に手ごろな価格のたんぱく源を多く供給しようと考えた価格統制の立案者の意図とは正反対の結果であった。
また、市場需給を無視した統制により、需要のある地域に配給が行き届かなくなる混乱が発生。戦況の悪化で、民需品は慢性的な物資不足に陥り、買占めと売り惜しみを呼んだ。そうした中、国民の政府に対する信頼感の低下が起こり、単なる商品の偏在による不足ではなく、「絶対的な品不足」の傾向が定着した。
加えて、一定の規格または品質をもたない製品でも、上等品と同じ価格で販売されたため、上等品の闇取引を生むことになった。さらに、勝手に値上げができないことで生じる不採算が生産の手控えにつながり、生産力の減退をもたらしただけでなく、品質の劣化を生み出した。
消費者の生活を守るために公定価格が低く抑え込まれれば、もうけにならない生産が縮小して、皮肉にもそれが価格の上昇につながる悪循環である。最後には生産を増やすための価格報奨制度が設けられ、公定価格も弾力化されるなど、「市場のあるべき姿」に戻りつつ、日本経済は敗戦を迎えたのであった。
経済活動を活性化させる意図の統制において、規制や取締りが中心課題となってしまい、戦勝に不可欠の経済活動の発揚には至らなかったわけだ。
言うまでもなく、現在のロシアと大戦中の日本は非常に異なる政治・経済構造を持ち、取り巻く世界情勢も全く違うため、単純な比較はできない。それでもなお、「自由か統制か」という経済の課題は似ており、統制経済が生む非効率さや硬直性、「解決より問題を生む」構造の例証としては、大いに参考になろう。
プーチンの歴史的な役割
この先ロシアで、深刻なモノ不足が起こることは間違いない。不足しない品物でも、大幅な価格上昇が見られるようになるだろう。それは、多くの品目で既に起こっている。
そうしたインフレを抑えるべく、ロシア政府が価格統制を行えば、生産者に補助金を出さない限り、戦中の日本のような生産手控えや品質低下、闇取引、買占めと売り惜しみなどが起こり得る。また、インフレ退治のために利上げを行えば、ただでさえマイナス成長のロシア経済をさらに冷やしかねない。
そうなれば、旧ソ連時代の失敗の教訓が学ばれていないことになるだろう。効率や活力、国力の充実よりも、プーチン体制の体面づくりが優先されていることが理由だ。ロシア経済の硬直は、ますます進行していくものと思われる。
1991年の旧ソ連崩壊では、その構成国の多くが独立したが、広大な領土を持つロシア連邦本体は残った。ところが、プーチン大統領が旧ソ連(ロシア)の敗北を決して受け入れられず、見果てぬ夢を追求して国力を浪費したことで、まだかすかに残存していた旧ソ連(ロシア)帝国復興の可能性を、自ら完全に葬り去る役割を演じている。
加えて、今すぐに起こることではなかろうが、ロシア連邦が崩壊し、別々の国となることで、地政学的な大変動が引き起こされる引き金になるかも知れない。それが、プーチン大統領に天が与えた、皮肉な歴史の役割ではなかろうか。
中国や米国、モンゴルやトルコ、中央アジアの国々がロシアなき後の軍事的・政治的空白を埋めようと競うことが予想される。日本は、その「まさか」の事態への備えをしておくべきだろう。
●メルケル前首相が語った「プーチン像」:ロシアへの融和政策を弁明  6/9
ドイツのメルケル前首相の件についてはこのコラム欄で書いたばかりだが、メルケル氏は7日、ベルリンで開催されたアウフバウ出版とベルリーナーアンサンブルが主催したイベントで独週刊誌シュピーゲル誌の記者のインタビューに応じ、16年間の政権時代のロシアへの融和政策について、昨年12月の退任後、初めて語った。
ロシアへの融和政策を弁明
メルケル氏はロシアへの融和政策を弁明し、ミンスク合意を例に挙げて、「その合意がなければ状況はさらに悪化していたかもしれない。外交が成果をもたらさなかったとして、その外交が間違いだったとは言えない」と述べ、「ロシアとの取引でナイーブではなかった。貿易、経済関係を深めることでプーチン氏が変わるとは決して信じていなかった」と弁明。
プーチン氏がその後、戦争に走ったことに対し、「言い訳のできない、国際法に違反する残忍な攻撃で、如何なる弁解も許されない。ロシアに対して軍事的抑止力の強化が重要だ。軍事力がプーチン氏が理解できる唯一の言語だからだ」と説明している。
プーチン氏は冷静な戦略家ではない
メルケル氏の発言自体、新しい内容はないが、メルケル氏のコメントの中で一つ驚いたことがあった。プーチン氏が冷静な戦略家ではなく、憎悪に動かされた独裁者だという指摘だ。
メルケル氏は2007年、ソチでプーチン大統領と会談した時、プーチン氏はソビエト連邦の崩壊は「20世紀で最悪の事態だ」と述べたという。メルケル氏は、「プーチン氏は西側の民主主義的モデルを憎悪していた。そして欧州連合(EU)を北大西洋条約機構(NATO)のように受け取り、敵意を感じ、その破壊を願っていた」というのだ。
すなわち、プーチン氏は戦略的、地政学的に西側民主主義社会、文化を単に嫌っていたというのではなく、「敵意」と「憎悪」を感じてきたというのだ。憎悪は嫌悪以上に数段破壊力を内包した強い感情だ。
ロシア軍がウクライナ東部国境沿いに10万人を超える兵力を結集しているという情報が流れると、西側では、「プーチン氏はウクライナ側に政治的圧力を行使しているだけで、武力戦争を開始する考えはないだろう」という意見が結構強かった。だから、ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻した時、欧米の軍事専門家や政治家は驚いた。
欧米の軍事専門家、政治家は戦略的な観点からプーチン氏の次の一手を予測していた。その結果、「武力行使はロシア側にも大きなマイナスをもたらす」と分析した。しかし、肝心のプーチン大統領はウクライナへの武力行使を戦略的観点から決行したのではなく、メルケル氏が指摘したように、憎悪という強い感情に動かされて実行したわけだ。
虐殺すること、破壊すること自体が目的のロシア軍
ロシア軍の戦争犯罪行為を通じてもその点は理解できる。ロシア軍のマリウポリ空爆、ブチャの虐殺は戦略上不可欠な攻撃対象ではなかった。虐殺すること、破壊することがその目的だった。軍事的戦略とは関係がなく、ウクライナに代表される西側民主主義社会への明らかな憎悪に動かされた戦争犯罪行為だったわけだ。
国家最高指導者が一定の歴史的出来事や特定の国、民族に対して憎悪感情を有することは非常に危険なことだ。憎悪感情は冷静な判断を難しくするうえ、蛮行に走らせる危険性が排除できなくなるからだ。
ロシア正教会の最高指導者、モスクワ総主教キリル1世はウクライナとの戦争を「形而上学的な戦い」と定義し、西側の腐敗した文化に対するロシアの戦いと見て、「善」と「悪」との戦いと受け取っている。戦いが善悪の価値観に基づいている限り、妥協と譲歩は期待できなくなるのだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「現時点ではいかなる停戦交渉も考えられない」と述べている。これはロシア軍が奪ったウクライナ東部を取り返すまで、といった軍事的、戦略的な立場からいった内容かもしれないが、プーチン大統領、キリル1世にとってウクライナ戦争は敗北はなく、勝利しかない。ゼレンスキー大統領とプーチン氏との間には「戦いの終結」で大きな隔たりがある。
いずれにしても、「プーチン氏が西側民主主義社会を憎悪している」というメルケル氏の今回の指摘は、非常に考えさせる。はっきりとしている点は、ウクライナ戦争を如何なる形で終結させるか、見通しが益々難しくなってきたことだ。
●ロシアの敵を「消すためなら何でもする」 露メドベージェフ元大統領 6/9
•ロシアの元大統領ドミトリー・メドベージェフ氏は6月7日、ロシアの敵を「消す」ためなら何でもすると通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
•「彼らはろくでなしのクズだ。我々ロシアの死を望んでいる」とメドベージェフ氏は主張した。
•プーチン大統領の盟友でもあるメドベージェフ氏は現在、ロシアの安全保障会議の副議長を務めている。
ロシアの元大統領ドミトリー・メドベージェフ氏は6月7日、ロシアの敵を"消したい"との願望をテレグラムの投稿で示した。
「わたしのテレグラムの投稿はなぜそんなに辛辣なのかとしばしば聞かれるが、それはわたしが彼らを憎んでいるからだ。彼らはろくでなしのクズだ。我々ロシアの死を望んでいる。生きている限り、わたしは彼らを消すためなら何でもする」とメドベージェフ氏は書いたとモスクワ・タイムズが伝えた。
この投稿が具体的に誰に対して、何を狙ったものなのかは不明だが、ウクライナでの戦争をめぐって、プーチン大統領の盟友でもあるメドベージェフ氏のウクライナ政府や西側諸国に対する姿勢はますます好戦的になっている。
ロシアの専門家の中には、メドベージェフ氏の投稿をウクライナと西側諸国の両方に向けられたものだと解釈する声がある一方で、ウクライナ人に向けた大量虐殺のメッセージだと指摘する声もある。アメリカのバイデン大統領は4月、ロシアがウクライナでジェノサイド(大量虐殺)を行ったと非難したが、プーチン大統領はウクライナについて、その国家としての存在を否定するような発言をしている。
現在、ロシアの安全保障会議の副議長を務めているメドベージェフ氏はプーチン大統領 —— 当時は憲法の規定によって、3期連続で大統領を務めることが禁じられていた(その後、2020年の国民投票を経て、憲法は改正された) —— に後継指名され、2008年から2012年までロシアの大統領を務めた。
プーチン大統領の当初の期待に反して、メドベージェフ氏は西側諸国との関係を改善し、ロシアの民主主義を強化する"リベラル"な大統領と見られていたこともあった。ところが、2012年から2020年まで首相を務めたメドベージェフ氏は最終的に、プーチン大統領の"生涯大統領"への道を開く手伝いをした。ロシアが2月にウクライナ侵攻を開始して以来、メドベージェフ氏は一貫してクレムリン(ロシア大統領府)の大げさな、陰謀めいた主張をそのまま繰り返してきた。
例えばウクライナのブチャでロシア兵が行ったと思われる残虐行為の証拠についても、メドベージェフ氏は捏造されたものであり、「ウクライナのプロパガンダ」だと根拠なく主張した。プーチン大統領と同じく、ウクライナは正統な国家ではないとも述べている。
「反ロシアの教え、そのアイデンティティーに関する嘘に支えられた極端なウクライナ主義は、完全なイカサマだ」とメドベージェフ氏は4月、テレグラムに投稿していた。
「こんなことは歴史上起きたことがない。今やそんなものは存在しない」とも主張していた。
キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のロシアの専門家ルース・ダイアモンド氏は、こうしたレトリックは「大量殺人を正当化しているようにしか聞こえない」とワシントン・ポストに語った。
「極めて不穏な表現で、明らかにジェノサイドのニュアンスを感じさせる」
●プーチン大統領が国防省高官18人に階級授与 軍人“昇進乱発” 6/9
ロシア軍の指揮官がまた戦死した。ロシア国営テレビによると、ウクライナ東部で親ロシア派勢力を指揮していた軍空挺団のロマン・クトゥーゾフ少将が5日、激戦地セベロドネツクの村で死亡したという。
ロシア側は亡くなった指揮官はクトゥーゾフ少将を含め4人と主張しているが、ウクライナ側の発表では少なくとも12人が戦死。実際の人数は定かではないが、プーチン大統領は「人員補充」とも取れる動きを見せている。
モスクワ・タイムズ(ロシア語版=6日付)によると、プーチン大統領は国防省の高官18人に新たな階級を授与。階級授与は、ウクライナ侵攻後初めて。近く正式に発表される見通しだという。
戦死したクトゥーゾフ少将も昇進の対象で、国防省のコナシェンコフ報道官など存命中の高官も格上げ。「特別軍事作戦」に参加した18人のうち9人が中将、残る9人が少将に昇進した。
軍人と家族を昇進によるカネで説得
気になるのは、なぜこのタイミングで昇進を乱発しているのか、だ。戦場で失った指揮官を補充しているのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「その意味合いもあるでしょうが、新たに最前線へ送るためだとも考えられます。ロシアでは、戦死した軍人に上の階級や勲章を与えることがよくあります。遺族への補償は手厚くなり、亡くなった本人は英雄扱いされる。それに準じ、生きているうちに上の階級を与えることで、士気を高める。残された家族への補償も大きくなるから『安心して作戦を遂行せよ』と納得させやすくなります。ウクライナに侵攻したロシア軍の地上戦力の3分の1が喪失したといわれる中、ホンネでは誰も戦地に行きたくないはず。つまり、プーチン大統領は、戦地に行きたくない指揮官と行かせたくない家族を、昇進によるカネで説得しているのです」
ロシア国内で広がる厭戦ムードに、プーチン大統領も焦っているようだ。
「クレムリン(大統領府)は、戦争の『長期化』を報じないよう、国営メディアにお達しを出しています。厭戦ムードが広がる中、プーチン大統領は検討中のトルコ訪問で、一時休戦に持ち込むのではないか。昇進は、一時休戦に伴い、制圧地域の治安維持に新たな指揮官を派遣するためでしょう」(中村逸郎氏)
一体、いつまで「プーチンの戦争」に付き合わされるのか。 

 

●イギリス人らウクライナ軍義勇兵3人に死刑判決…「雇い兵活動罪」などで  6/10
タス通信などによると、ウクライナ東部の親露派武装集団が一方的に独立を宣言している「ドネツク人民共和国」の裁判所は9日、ウクライナ軍の義勇兵として参戦し、4月に南東部マリウポリで拘束されていた英国人2人とモロッコ人1人に「雇い兵活動罪」などで死刑判決を言い渡した。
3人は上訴する方針という。ウクライナ軍参謀本部は3人は雇い兵に該当しないとして、捕虜への人道的処遇を定めたジュネーブ条約が適用されるべきだと主張している。英BBCなどによると、3人はいずれも男性で、英国人は20歳代と40歳代、モロッコ人は20歳代という。
●捕虜となったイギリス人ら3人に死刑判決 親ロシア地域の裁判所 6/10
ロシアの侵攻を受けているウクライナのために現地で戦い、捕虜になったイギリス人2人とモロッコ人1人が9日、ウクライナ東部で開かれたロシアの「代理法廷」で死刑を宣告された。
死刑判決を受けたのは、イギリス・ノッティンガムシャー出身のエイデン・アスリン氏(28)、同ベッドフォードシャー出身のショーン・ピナー氏(48)、モロッコ国籍のブラヒム・サウドゥン氏。イギリス人2人は、4月にロシア軍に捕らえられていた。
ロシアの通信社RIAノーヴォスチは3人について、雇い兵であること、暴力的に権力を奪ったこと、テロ活動実行の訓練を受けていたこと――の各罪で起訴されたと伝えた。
裁判は、ウクライナ東部の親ロシア派地域の「ドネツク人民共和国」にある裁判所で開かれた。同共和国も裁判所も、国際的に正当だと認められていない。
イギリスとウクライナは、戦争捕虜を保護する国際法に違反するとして、この判決を非難している。
イギリス人捕虜2人の家族らは、2人は共にウクライナ軍に長年所属しており、雇い兵ではないと主張している。
2人とも2018年からウクライナ在住で、アスリン氏にはウクライナ人の婚約者がいるという。
ロシアのタス通信によると、死刑を言い渡された3人は全員が上訴する意向だと、3人の弁護士が明らかにした。
英政府は非難
イギリス政府は、アスリン氏とピナー氏に対する死刑判決に「深い懸念」を抱いており、両氏の解放に向けてウクライナと協力し続けているとした。
首相官邸報道官は、戦争捕虜が「政治的な目的のために利用されてはならない」とし、ジュネーブ条約が定める「戦闘員免除」の対象になると規定されていると指摘した。
リズ・トラス外相は、今回の判決について、「正当性のまったくないでたらめな判決」だと非難。「私の思いは(捕虜の)家族とともにある。政府は全力で支援していく」と述べた。
BBCのジェームズ・ランデール外交担当編集委員は、外交圧力が有意義な結果を生むとは考えにくいと説明。捕虜交換でイギリス人2人が解放される可能性はあるが、これまでの協議では前進がみられていないとした。
また、英政府が今回の判決への対応をウクライナ政府に任せるのではなく、自国の問題として大きく取り上げ、ロシアとの二国間の対立案件にした場合、イギリス人2人は雇い兵だとするロシア側の誤った主張を勢いづかせる恐れがあると、懸念の声が英政府内にはあるという。
法廷では
ウクライナの首都キーウから裁判を取材しているBBCのジョー・インウッド・ウクライナ特派員によると、捕虜3人はこの日、全員が黒い服を着て、法廷のおりの中で立っていた。判決が読み上げられると、集中して聞いていたという。
アスリン氏とピナー氏は、頭を下げ、身動きせずに立っていた。2人の間に立ったブラヒムさんは、不安そうに体を揺らしていたという。
ロシア国営インタファクス通信によると、アレクサンドル・ニクリン裁判長は、「判決を出すにあたって裁判所は、既存の規範や規則だけでなく、正義という不可侵の大原則によって導かれた」と述べた。
「法よりプロパガンダ」
ウクライナ外務省はBBCに対し、ウクライナ軍のために戦って捕らえられたすべての外国人は、国際人道法の下で戦争捕虜としての権利をもつと説明。ロシアが「捕虜に対して虐待、脅迫、非人道的な行動をすることは禁じられている」とした。
同省報道官は、3人の「いわゆる裁判とされるもの」は「ひどかった」と非難。ウクライナ政府として、「ウクライナ防衛者全員の解放のために全力を尽くしていく」と付け加えた。
そして、「こうした公開裁判は、法律や道徳よりもプロパガンダの利益を優先させ、戦争捕虜の交換制度を弱体化させる」と述べた。
親ロシア地域の状況
「ドネツク人民共和国」(DNR)は、2014年に親ロシア派の分離主義者たちによって設立された。
オーラ・ゲリン国際担当編集委員によると、DNRでこれまで処刑が行われたかどうか、今後実際に捕虜3人を処刑するのかどうかは不明だという。また、DNR当局がロシアのウラジーミル・プーチン大統領から直接命令されていることはほぼ間違いないという。
ゲリン編集委員は今回の判決について、ウクライナへの軍事支援をめぐって、イギリス政府に圧力をかけて困らせる、ロシア政府の戦術とみられると説明した。
プーチン氏は2月24日のウクライナ侵攻開始に先立ち、ウクライナ東部のドネツクとルハンスク両州の分離独立を認めると発表。北大西洋条約機構(NATO)や西側諸国は、これを非難した。
侵攻から1カ月の時点で、ロシアはキーウ制圧の野望を縮小し、東部ドンバス地方に焦点を移した。
ここ数週間、東部ルハンスク州セヴェロドネツクが戦争の焦点となっている。ウクライナ軍とロシア軍は支配権をめぐり、激しい市街戦を繰り広げている。
●ロシアのエネルギー輸出収入、ウクライナ侵攻前よりも高水準=米高官 6/10
米政府の国際エネルギー問題担当特使を務めるアモス・ホッホシュタイン氏は9日、ロシアはウクライナ軍事侵攻前よりもエネルギー輸出で多くの収入を得ている可能性があるとの見方を示した。
同氏は上院小委員会公聴会で、ロシアがウクライナ戦争が始まる数カ月前よりも原油や天然ガスの輸出で利益を得ているかという質問に対して「それは否定できない」と答えた。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の世界的な石油需要の伸びは「誰もが予測したよりもはるかに大きく、堅調だった」と述べた。
他の産油国よりも割安で提供することで、ロシアは主要エネルギー消費者の中国やインドなどにより多くの製品を輸出することができたと説明した。
国際エネルギー機関(IEA)は5月にロシアの石油収入は年初から50%増加しており、輸出の大半は欧州連合(EU)向けだと指摘した。
●ウクライナに機雷除去要請 「アフリカで飢饉起きる」―AU議長 6/10
アフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領は9日、ウクライナに対し、南部オデッサ沖の機雷を除去するよう要請した。フランス・メディアの取材に答えた。ウクライナからの穀物輸出が再開されなければ「アフリカ大陸を破壊する深刻な飢饉(ききん)となる」と訴えた。
サル氏は3日、訪ロし、プーチン大統領と会談したばかり。「プーチン大統領に、機雷を除去したらロシア軍が突入するだろうと聞いたが、しないと約束した。国連と一緒に機雷を除去し、穀物輸出を始めよう」と呼び掛けた。
サル氏は10日、パリでマクロン大統領と会談する。ロシアからの輸入代金支払いについて「大半は欧州の銀行を経由している」と指摘し、対ロ制裁解除への支援を要請すると語った。
●NATOを覚醒させたウクライナ侵攻 6/10
ロシアによるウクライナへの侵攻は、世界に衝撃を与えている。軍事施設への攻撃から一気に無差別攻撃へと拡大し、一般市民に甚大な被害をもたらし、4月上旬時点で400万人以上[編集部注:6月現在、600万人/UNHCR発表]の難民を出していることで、ロシアは国際社会から非難を浴びている。
このプーチンによる「特別な軍事作戦」の戦争目的とは、いったいどのようなものなのか。プーチンが2月24日の宣戦布告♂艶烽ナ最初にとりあげたのは、NATOの東方拡大が「根源的な脅威」になっているとの認識である。
冷戦が終結しソ連が崩壊したとき、米国はNATOを東に拡大させないと約束したのに、ロシアは騙された。それのみならずNATOはウクライナに拡大しようとして、ロシア系住民を抑圧しているウクライナの現政権の「極右民族主義者」や「ネオナチ」を支援している。そこでそうしたロシア系住民を保護し、「非軍事化」と「非ナチ化」を目指して「特別な軍事作戦」を開始する、というものだ。これは言い換えると、ウクライナを武装解除したうえで、中立を宣言させるということになる。
このようにプーチンの認識には、NATOに対する底知れない憎悪がある。しかしこれは、NATOが冷戦後にいかに機能の変容を遂げ、ロシアとのパートナー関係構築に腐心してきたかを考えると、あまりに被害妄想的でかつ後知恵的な印象を覚える。
そもそも米国はロシアを騙したのか。最新の研究によると、1990年のドイツ統一とNATOへの残留交渉のなかで、米ベーカー国務長官や西独のゲンシャー外相、コール首相らが、ゴルバチョフとの会談の際、NATOの「管轄範囲」は東独に拡大しないとか、東への拡大は課題とはなっていないということを発言した事実はあるが、それを取りかわした文書、議事録は存在しないことがわかっている。
実際にロシアはNATOのはじめての1999年東方拡大の際に、不拡大の約束を根拠に反対したということもなかった。この背景にはNATO側の対ロ配慮もある。
1997年にNATOはロシアと基本議定書を締結したのだが、そこでは双方を敵とはみなさないことを再確認し、1999年以降の新規加盟国にはNATO加盟国の部隊を常駐させず、核兵器も配備しないことを約束したうえで、NATOロシア評議会を設置して外交チャンネルを開いている。
また、2002年にNATOが中・東欧7カ国の加盟を決めた当時は、前年の「9.11」同時多発テロを契機とした国際的な対テロ協調の気運があったうえ、プーチン政権の基盤がまだ固まっていなかったこともあって、米ロ関係は比較的良好であった。そのためウクライナ同様に旧ソ連に属していたバルト三国のNATO加盟にさえ、今回のような激しい反発はみられなかった。
冷戦後のNATOとロシアの関係はこのように、決してロシアを無視したNATOによる一方的な膨張主義ではなかった。それどころかNATOは2010年の戦略概念において、ヨーロッパに深刻な脅威は存在しないとの認識のもと、ロシアが戦略的パートナーであることを強調していたのである。
さらに、拡大したNATOは、決して一枚岩ではなかった。バルカン半島の民族紛争への介入と、アフガニスタンへの関与により国際的な危機管理を主任務の1つとするようになったNATOは、2010年の戦略概念で、従来の集団防衛に加え、この危機管理と協調的安全保障の3つを主任務とする同盟と自らを再定義した。
しかしこれは妥協の産物でもあった。たとえばバルト三国やポーランドはロシア脅威の観点から集団防衛重視を訴えていたのに対して、米英は危機管理へのNATOの関与拡大を求めていたし、ドイツは非軍事的な協調的安全保障を強調する一方で、フランスはEUの安全保障機能の強化を標榜していた。
2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ東部ドンバスへの侵入は、ウクライナの主権を無視して力により現状変更を図るという点で、現在のウクライナ侵攻のいわば前哨戦であった。しかしその際にも、NATOは必ずしも一体となって対応することができなかった。
たしかに2014年以降、NATOは集団防衛を目的とする演習を増やし、即応部隊の整備強化やバルト三国、ポーランドへの部隊配備なども打ち出した。
しかし各加盟国レベルの現状認識はバラバラで、それぞれの安全保障戦略文書における記述も、ロシアを名指しで脅威とみなす国はバルト三国やポーランドなどわずかであり、加盟国のなかでは少数派であった。
2017年からの米国トランプ政権は、NATOの亀裂を拡大させた。トランプは、ヨーロッパが軍事的負担を十分引き受けていない問題に焦点をあて、NATOを米国に依存する「時代遅れ」な同盟とまで糾弾した。
バイデン政権になるとNATOへの復帰を打ち出したものの、中国に対する認識の差や、アフガニスタンでの一方的な部隊撤収決定などをめぐり、米欧関係は必ずしも修復しなかった。
そうしたなかで勃発したロシアによるウクライナへの侵攻は、自由と民主主義に対する挑戦であり明確な国際法違反であった。さらに、原子力発電所への攻撃、住宅や病院などへの無差別な攻撃、違法な爆弾の使用といったロシア軍の無法ぶりが次々と明らかになるにつれ、米欧の一致した反応を引き起こした。
NATOはロシア非難の政治的プラットフォームとして機能したばかりでなく、中・東欧加盟国への部隊派遣による抑止態勢強化、情報収集、輸送支援で結束した。加盟国のレベルでもヨーロッパの安全保障認識は大きく様変わりしている。
たとえばドイツは、ロシアとの新しいガスパイプライン計画(ノルドストリーム2)の凍結に踏み切った。また紛争地への武器禁輸の原則をあらため、攻撃的兵器(対戦車砲や携行式地対空ミサイル)のウクライナへの供与を決めた。
そのうえで、トランプ政権で負担が少ないとさんざん批判された防衛費について、NATOの目標であるGDP比2%以上に引き上げることを決定した。第二次世界大戦の教訓から、国際安全保障の問題には非軍事的アプローチを重視するというドイツの戦略文化が、変わろうとしている。
中・東欧は、それまで対ロ認識をめぐって2つのグループに分かれるとされていた。バルト三国やポーランド、ルーマニアは、ロシアと隣接しているのみならず、過去にロシアに支配・占領されてきた歴史から対ロ脅威認識が強い。
それに対してスロバキア、ハンガリーは、ロシアの天然ガスや石油への依存が大きく、ブルガリアはかつてロシア帝国によりオスマントルコ帝国のくびきから解放されたことから、親ロ的であることが知られている。
ウクライナ侵攻後は、そうしたロシアへの微温的空気は一変した。中・東欧すべての国がロシアへの制裁に参加し、バルト三国やポーランドに加え、ルーマニア、スロバキアも米軍やNATOの部隊を受け入れた。
それどころかNATOに入っていない非同盟国スウェーデン、フィンランドや永世中立国スイスまでもが制裁に参加し、攻撃的兵器の供与をも実施している。
このうちスウェーデン、フィンランドは近年、特別のパートナーとして、集団防衛シナリオに基づくNATOの軍事演習への参加や、平時・緊急時の「受け入れ国支援」をNATOと取り決めるなど協力を強化していたが、ここにきてこれら非同盟国のNATO加盟問題さえ浮上してきている[編集部注:スウェーデンとフィンランドは、5月18日に正式にNATO加盟申請した]。
今年6月にはマドリッドでNATO首脳会議が開催され、2010年以来の改定となる新しい戦略概念が発表される。そこでの大きな焦点は、実はウクライナ侵攻前までは中国であった。2019年12月のNATO共同宣言に、「課題と挑戦」という表現で中国がはじめて登場した。その後、バイデン政権の成立とともに中国脅威論が前面に出てきた。ヨーロッパにとって軍事的脅威ではない中国に対して、NATOとしてどのように向き合うのかが問われるはずであった。
これが完全にひっくり返ってしまった。ロシアを戦略的パートナーとして位置づけていた2010年戦略概念の気運は一転して、新しい戦略概念では、集団防衛の態勢強化や近代化が強く打ち出されることになるだろう。
プーチンは「根源的な脅威」をみずから呼び起こし、覚醒させてしまったのである。
●ロシアの暗部を熟知する“プーチンが最も恐れる男”が激白 6/10
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が、最も危険視する人物がいる。新興財閥「オリガルヒ」の筆頭として知られる実業家、ミハイル・ホドルコフスキー氏(58)だ。
ホドルコフスキーはソ連崩壊後、ボリス・エリツィン時代の民営化で国有資産を買収し、1990年代に30代の若さでユーコスを設立。同社はロシアの石油生産の2割を占め、彼は瞬く間にロシアNo.1の富豪にのし上がる。そして豊富な資金をもとに、政財界で影響力を強めた。
だが、ホドルコフスキー氏はプーチンと対立するようになる。2003年、プーチン政権はホドルコフスキー氏を突如逮捕。彼はシベリアで10年間の獄中生活を送り、ユーコスは解体された。
その後、ホドルコフスキー氏は2013年に恩赦を受けてイギリスに事実上亡命した。
だが、現在もプーチン体制打倒への執念は衰えておらず、ロンドンを拠点に反プーチン運動を展開。プーチンからいつ狙われてもおかしくない状況にある。
そうした中、ホドルコフスキー氏が「文藝春秋」のインタビューに応じた。今回のウクライナ侵攻後、日本メディアへの登場は初となる。
「レガシー」に取りつかれた男
なぜプーチンは無謀な戦争を仕掛けたのか? ホドルコフスキー氏は、「武力行使はプーチン体制の核心」とし、こう分析する。
〈まず、プーチンの統治の特徴は、「大国復興」という帝国主義の幻想によってロシア市民をつなぎとめてきたことにある。対外武力行使に訴えるのは、プーチン体制の核心といっていい。1999年の首相就任後すぐにチェチェン戦争を仕掛けて国民の支持を獲得し、エリツィンの後継者として翌年の大統領選での勝利につなげた。2008年のジョージア侵攻や2014年のクリミア半島併合でも求心力を高めている。そして今回、コロナ危機の打撃を受けたあとにウクライナへの侵攻に踏み切った。〉
そして、「何よりも大きいのは、プーチンがレガシーづくりにとらわれていることだ」と指摘する。
〈プーチンは今年70歳になる。20年以上も権力に君臨し、先が短いことを悟ったいま、彼は偉大な指導者として歴史に名を刻もうとしているのだ。ウクライナに誕生した東スラブ民族の最初の国家、キーウ公国で東方正教を国教化した伝説的な大公ウラジーミル(ウクライナ名はボロディムィル)と肩を並べる存在になりたがっているのだろう。プーチンが2016年にクレムリンのそばに大公の像を建造していることからもそれがうかがえる。〉
西側諸国の中には、プーチンの病気や精神状態の変化を疑う見方もある。だが、ホドルコフスキー氏は「独裁者としてのプーチンの本質はずっと変わっていない。KGBのエージェントだったプーチンは、異なる顔を使い分けることを叩き込まれてきた。その場その場、相手や時代に応じて、いくつものマスクをかぶってきたにすぎない」とし、こんなエピソードを明かした。
〈プーチンは大統領に就任して間もなく起きた原子力潜水艦「クルスク」の沈没事故(2000年8月、乗組員118人全員が死亡)への対応で、その正体を垣間見せた。亡くなった乗組員の夫人らと面会した後に、プーチンは「奴らは売春婦だ」などと口汚く罵ったのだ。〉
「大統領はひどく怒っている」
さらにプーチンは経済界に対しても圧力を強めてくる。
〈2003年にプーチンは私を個別に呼び出し、「特定の政党を支持するな」と要求した。私はユーコスの資金を使って政党を支援しないと約束した。しかし、ユーコスの従業員や株主が自己資金で政党を支持するのを止めることはできないとも伝えた。私は企業経営について決めることはできても、従業員や株主の政治的な指向まで統制することはできないと考えていたからだ。
プーチンはその時、黙っていた。だが後に彼の側近から、「大統領はひどく怒っている」と聞かされた。プーチンは、私が彼に挑戦しようとしているのだと決めつけたのだ。その時初めて、私とプーチンは市民の権利について根本的に考え方が異なっているのだと気づいた。〉
それでもホドルコフスキー氏は粘り、プーチンの側近たちによる犯罪を指摘し「汚職と賄賂はもうたくさんだ」と訴えた。
〈ところがプーチンは一切耳を貸そうとしなかった。私はこの時、プーチンが汚職を政治の道具として使い、国を支配しようとしているのだと悟った。プーチンの本性を認識したその時からもう20年近く、私は戦っていることになる。〉
「西側のほうが折れてくる」とみるプーチン
長期化するウクライナ侵攻だが、プーチンは勝算があるのだろうか? ホドルコフスキー氏は「西側がこの戦争の最後までプーチンと対峙し続けられるのかどうか、私は確信が持てないでいる」としたうえで、プーチンの目論見をこう推測する。
〈ウクライナの抵抗の生命線は、欧米の支援にほかならない。同国を勝利に導くためには、武器の供給から食糧、財政の支援まで、欧米は毎年、何千億ドルもの負担に備えなければならない。選挙のサイクルで回る民主主義陣営の指導者にとって、長期の関与は難しく、数か月〜1年単位でしか先は見通せないことを我々は知っている。
だからプーチンは長期戦に臨み、西側が折れてくるのを待っているはずだ。欧米がロシアに対してここまで厳しい経済制裁を発動し、ウクライナ支援で団結したことは誤算だったはずだが、戦争が長期化すれば、西側はウクライナを支えきれなくなるとプーチンは踏んでいる。西側の指導者だけでなく、社会情勢も持たなくなると見透かしているに違いない。インフレなど、戦争の副作用の痛みが広がってくれば、ウクライナを支持する西側の世論も変わってくるかもしれない、と。
そこで私が訴えたいのは、ウクライナを断固として支援し続け、プーチンを止めなければ、西側はおそらく1〜2年のうちにもっと大きな代償を払うことになるということだ。少しでも譲歩すれば、プーチンは必ず次の攻撃を仕掛けてくる――そう指摘するゼレンスキー政権の見立ては正しい。〉
「核兵器使用」の可能性は?
さて、気になるのは「核」である。プーチンが核兵器を使用する可能性はないのか? ホドルコフスキー氏は「その可能性は低い」とみている。
〈プーチンが戦争に負けつつあると分かっている状況で、将軍たちは人類を滅亡させかねない核ミサイル発射という犯罪行為に出るだろうか。
先に述べたように、ウクライナで負ければ、プーチンは権力失墜を免れない。私の考えでは、そのような状況になったときにはプーチンは権力を失い、おそらく死を迎えることになる。それがどのような形かは分からない。しかし、確実に彼を待っているのは死だ。〉・・・
●ロシアを覆う「鉄のカーテン」存在せず=プーチン大統領 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、西側による経済制裁を受けてもロシアを覆う「鉄のカーテン」は存在せず、旧ソ連のように世界から自らを閉ざすことはないと述べた。
欧米の制裁により、ロシア経済は1991年のソ連崩壊以降、最大の経済危機に直面している。
ロシア経済が「封鎖」される中、起業家向けのテレビ会議で中国やインドなどのパートナーとの取引の可能性について問われたプーチン大統領は、ロシア経済は開放性を保つと言明。「ソ連時代には自分たちの手でいわゆる鉄のカーテンを作り、自ら閉鎖した。同じ過ちを繰り返さない。われわれの経済は開放的なものであり続ける」と述べた。
●ロシア、西側の禁輸措置でも原油生産継続=プーチン大統領 6/10
ロシアのプーチン大統領は9日、西側諸国がロシアへのエネルギー依存を引き下げようとする中でも、ロシアは原油生産を継続するとの考えを示した。
プーチン大統領はテレビ放映された若手起業家との会合で、西側諸国が数年以内にロシアに対するエネルギー依存を完全に解消することはできないとし、「ロシアは油井にセメントを流し込むようなことはしない」と述べ、原油生産を継続する意向を示した。
ロシアの原油生産は4月に約9%減少。その後は輸出を中国やインドを含むアジア地域に振り向けたため、生産は安定的に増加している。
プーチン氏は、西側諸国の制裁措置で原油市場への供給が減少し、価格が上昇していると指摘。「ロシア企業の収益は増加している」と述べた。
●プーチン氏、西側は今後何年もロシアのエネルギーを拒絶しないと 6/10
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9日、西側諸国は今後数年にわたりロシア産の石油や天然ガスの輸入を止められないはずだと述べた。
プーチン氏は若い起業家の集まりで、「世界市場の石油供給量は減少し、価格は上昇している。企業の利益は増えている」と話した。
大統領はさらに、数年後にどうなっているか誰も分からないので、ロシア企業は「油井をコンクリートで埋めたり」しないとも述べた。
これとは別に米上院の欧州関連小委員会で同日、米国務省のエネルギー安全保障特使、エイモス・ホクスタイン氏が、ロシアのエネルギー収入増加について証言した。ウクライナ侵攻開始前よりロシアの化石燃料収入が増えている可能性について質問され、ホクスタイン氏は「それは否定できない」と答えた。
アメリカ政府はロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア産エネルギー製品を全面的に禁輸している。しかし、数カ月にわたる世界的な石油・ガス価格上昇によって、ロシアの利益が拡大している可能性がある。
欧州連合(EU)は現在、天然ガス需要の約4割をロシアから輸入している。EUは今年末までにロシア産石油への依存度を9割減らすと約束しているが、これまでのところロシア産ガスについては利用削減を表明していない。
ピョートル大帝との比較
9日はロシアのピョートル1世(ピョートル大帝)の生誕350年記念日にあたり、プーチン氏はモスクワの記念展示を訪れた後、若い起業家の集まりに出席した。
ピョートル1世は17世紀末〜18世紀のロシア皇帝で、ロシア近代化のほかに大国化を推進。スウェーデンとは長年にわたり領土戦争を戦った。
プーチン氏は若者を前に、スウェーデンとの北方戦争に言及し、「(ピョートル大帝は)スウェーデンと戦うことで、何かをつかんでいたという印象を受ける。何かを奪うのではなく、奪い返していたという印象だ」と述べた。さらに続けて、「今の私たちにも、奪い返して強化する責任がある」と発言。現在のウクライナ情勢への言及と受け止められている。
●ウクライナ戦線、狭い範囲での長期戦へ...「解放戦争」から「絶滅戦争」に移行 6/10
ロシアが仕掛けたウクライナにおける戦争は、より大型の兵器を用いたものになる一方、より狭い範囲の地域を巡る戦いとなっている。焦点は開戦直後に争われたウクライナ北東部の首都キーウやハルキウといった主要都市から、戦闘の激しさが増す一方の東部戦線に点在する小さな町の攻防戦へと変化している。ウクライナとロシアの双方は、東部ドンバス地方での消耗戦に備えるようになった。
東部ドネツィク州のヴォルノヴァーハやリマン、セベロドネツィクといった、これまであまり知られていなかった場所では、永遠に続くかと思われる集中砲撃によって、市民生活の維持がほぼ不可能となっている。両軍はともに、戦場で決定的な勝利を収められずにいる模様だ。ウクライナ東部では、双方の支配地域を示した地図がほとんど変化しなくなっている。砲撃と膠着状態は、今後もしばらく続きそうな状況だ。
ロシアが本格的な攻撃を始めた当初は、侵攻した空挺部隊と機甲部隊がウクライナ北部を蹂躙し、首都を攻め落とそうとした。しかし、北部のキーウやハルキウの制圧を目指したものの、ウクライナ軍による待ち伏せ奇襲攻撃により、おおかたが撃退された。
その一方、南部で展開するロシア軍の作戦はおおむね成功し、マリウポリを起点に、そこから西へ約250マイル(約400キロメートル)離れ、ドニエプル川を越えたヘルソンに至るまでの一帯を確保した。南部前線におけるこの戦いは依然として激しいが、真に破壊的な戦闘が起こっているのは東の地域だ。
「東部一帯ではロシアがかなり優勢」
独立系のオープンソース・インテリジェンス(OSINT)アナリスト、ヘンリー・シュロットマンは本誌に、現在の軍事的均衡について語ってくれた。「ロシア軍は大まかに言って、イジュームからリマン、セベロドネツク、ポパスナまでの一帯に集中している」。シュロットマンはロシア側についてこう述べた。
また、東部前線で展開するウクライナ軍にも触れ、こう説明した。「東部一帯では、砲兵力でも兵士動員数でも、ロシアがかなり優勢だ」
おそらくマリウポリでの戦闘を別とすれば、東部前線における戦いが、これまでで最も激しいものとなっている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5月22日の記者会見で、東部ではウクライナ兵が1日あたり50人から100人も死亡していることを明らかにした。その後もしばらく砲撃が続いたことから、犠牲者の数が減少しているとはとうてい考えられない。
民間人にもかなりの犠牲者が出ている。死亡者や避難民の確かな数はいまだ得られていないが、ルガンスク州のセルヒィ・ガイダイ知事は6月5日、同州の都市セベロドネツィクには、侵攻前におよそ10万人が住んでいたが、残っているのは推定でわずか1万5000人だと発表した。
一方でロシア側は、歩兵部隊の頭数が不足している。ロシア政府はこれまでのところ、国民総動員を発令しないことを選択している。そのため、最近のロシア軍による進軍は、兵士よりも砲撃に、かなり大きく依存したかたちになっている。
ロシアの「名目」とはかけ離れた行動
そしてロシア側に言わせれば、この戦略は功を奏しているようだ。
ロシアの軍事専門家ウラジスラフ・シュリーギンは本誌に、「われわれは4月末以降、先端技術を利用した偵察行動と圧倒的な火力を組み合わせている」と述べた。「ロシア軍は機動大隊を複数有しているが、われわれにとって最も効果的なのは、砲撃で敵をとにかく苦しめる戦い方だ」
ロシア軍は、まずはウクライナの諸都市に激しい砲撃を加えてから、ゆっくりと着実に進軍している。その徹底された攻撃手法により、都市は完全に破壊され、守るべきものはいっさい残されていない状態だ。
このやり方は、ロシア政府が言う「特別軍事作戦」の目的とはまったく食い違っている。ロシア政府によれば、特別軍事作戦は、ウクライナ東部と南部に暮らすロシア系住民を「解放する」ことが目的のはずだからだ。
ロシアによる侵攻はむしろ、ウクライナのロシア語圏を壊滅させる戦争へと変わってきている傾向が強い。ウクライナが領土を死守するために必要な重火器が西側諸国から届き始めているなか、前線では砲撃が届くすべての場所で、徹底的な破壊が続きそうだ。
●ロシア正教会内の「人事」 ウクライナ戦争を100%支持するキリル1世  6/10
突然の人事には明確な思惑や狙いがあるものだ。ロシア軍のウクライナ侵攻以来、戦争を主導するプーチン大統領を一貫として支持してきたロシア正教会最高指導者、モスクワ総主教キリル1世(75)に対しては世界の正教会から批判の声が高まってきていることはこのコラム欄でも報告してきた。
モスクワ総主教府で実質的ナンバー2の異動
ところで、そのモスクワ総主教府で実質的ナンバー2の立場にあった対外教会関係局長(渉外局長)のボロコラムスクのイラリオン府主教(55)が7日、渉外局長の地位を解任され、ハンガリーのブタペスト府主教に異動になったことが明らかになった。イラリオン府主教の後任にはコルスンのアンソニー府主教(37)が選ばれた。
イラリオン府主教は、キリル1世とローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇とのオンライン会談(3月16日)でもキリル1世の傍に立ち会って聖職者だ。キリル1世はこれまでロシア正教会を世界に紹介するPR的な役割を担うイラリオン府主教を信頼してきた。
キリル1世へのモスクワ正教会内の批判が高まってきたという観測
それだけに、今回の突然の人事はモスクワ総主教府内で外からは分からないキリル1世とイラリオン府主教との間で葛藤があったのではないか、といった憶測を生み出している。ずばり、プーチン大統領が主導するウクライナ戦争を100%支持するキリル1世に対して、モスクワ正教会内でも批判の声が高まってきたことと関連する、という読みだ。
イラリオン府主教は2009年から渉外局長のポストだった。これまでキリル1世の戦争支持に対して表立って批判的な発言をしたというニュースは報じられていない。ただし、正教会系のメディアによると、同府主教は2月24日以降、戦争を擁護するキリル1世に距離を置く発言をしてきたという(キリル1世への「批判発言説」)
ドイツの神学者レギーナ・エルスナー氏は、「イラリオン府主教は表立ってキリル1世を批判していない、キリル1世のように戦争を積極的に擁護する聖職者ではなかった。それがキリル1世の目には府主教の弱さ、忠誠心の欠如と受け取られたのかもしれない」という。
ちなみに、同府主教はオーストリア国営放送とのインタビュー(5月24日放送)の中で、「ウクライナ戦争ではロシアと西側では全く異なった見解、情報が流されている。重要なことは双方が相手の見解を傾聴することだ。さもなければ双方の溝はより深まるだけではなく、戦争はグローバルに拡大していく危険がある」と述べている。その見解はキリル1世のような攻撃的なトーンはなく、極めて冷静だ。
考えられるシナリオとしては、ウクライナのロシア正教会(UOK)がキリル1世を批判し、モスクワ総主教府から離脱を宣言したことへのイラリオン府主教への責任追及だ。ウクライナ正教会は先月27日、ロシア正教会のモスクワ総主教キリル1世の戦争擁護の言動に抗議して、ロシア正教会の傘下からの離脱を決定した。
それに先立ち、イタリアのロシア正教会などが次々とモスクワ総主教府の管轄下から離れていったが、ウクライナのモスクワ総主教府下のウクライナ正教会(UOK)の離脱宣言はモスクワには大きなダメージを与えた事は間違いない。ゆえに、今回の人事は、対外関係を担当するイラリオン府主教の解任人事というわけだ。イラリオン府主教が主教会議(聖シノド)の常任委員の地位をも失ったというから、「解任説」は当たっているかもしれない(「分裂と離脱が続く『ロシア正教会』」2022年5月29日参考)。
「戦略的人事説」の浮上
注目される説として、モスクワ総主教府の「戦略的人事説」が浮上してきている。イラリオン府主教がハンガリーのブタペスト府主教に任命されたという事実だ。キリル1世にとってハンガリーは重要な拠点だ。
欧州連合(EU)欧州委員会が対ロシア制裁第6弾でキリル1世への制裁を提案したが、ハンガリーのオルバン首相が、「宗教指導者を制裁リストに載せることは良くない」として拒否権を行使したため、キリル1世の制裁リスト入りが回避された経緯がある。キリル1世にとってハンガリーは貴重な友邦国だ。ハンガリー正教会はモスクワ総主教府にとっても重要なパートナーと受け取られている。
以上の内容から、ハンガリー・ブタペスト府にイラリオン府主教を人事した今回の決定は、「渉外局長=外相」から「外国の主教」への降格人事というより、モスクワ総主教府の戦略的な人事と解釈できる。イラリオン府主教は2003年から09年までブタペスト府主教を務めてきた。ハンガリー正教会の動向にも精通している。その意味で適材適所の人事という意味合いが出てくるわけだ。
なお、イラリオン府主教の後任に選ばれたアンソニー府主教は過去、キリル1世の個人的秘書を務めてきた聖職者だ。キリル1世は気心の知れた若い聖職者を側近に選んだといえる。
●なぜウクライナは多連装ロケットシステム(MLRS)を欲しがるのか? 6/10
いまだ終わりの見えないウクライナでの戦闘において、ウクライナ軍はアメリカから供与された155mmM777榴弾砲100門により、ロシア軍を国境付近まで押し戻し始めている。しかしウクライナ軍の苦戦は続き、東部戦線は依然ロシア軍有利の状況が続いている。
そんな中、ウクライナはアメリカへ多連装ロケットシステム(MLRS)の供与を求めていたが、アメリカに続きイギリスもMLRSを供与すると発表した。
このMLRSとはどんな兵器なのか? また、ウクライナにおいてどのような役割を果たすのか? 元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補に解説してもらった。

「今ロシア軍は東部戦線において、旧ソ連時代からの得意な戦い方に持ち込んでいます。それは『大砲と戦車の量が多い方が勝てる』という重戦力同士の戦いです。
第2次世界大戦以降の重戦力同士の戦いは、徹底的に空爆と砲兵射撃をしてから戦車部隊を突進させるという方式で行われていました。しかし今回のウクライナ戦争では、両軍共に航空優勢を獲れない状態で、上空にはドローンが飛び交っています。戦場は砲兵が主役の状況になっています。
ロシア軍はまず『ZSU23』対空戦車でウクライナ軍のドローンを撃墜し、それと同時に大量の火砲を使って攻撃準備射撃、攻撃支援射撃を開始します。その後、戦車部隊を進撃させ敵陣を蹂躙するという、第1次世界大戦的な戦闘の様相を呈しています。
ロシア砲兵部隊は、長射程ロケット砲をウクライナ軍砲兵の射程外から使い、瞬間制圧力でウクライナ軍砲兵部隊陣地を徹底的に叩きます。さらに、その後方にいる兵站部隊も叩き、大きなダメージを与えています。ナチスドイツ軍が、その発射音から『スターリンのオルガン』と恐れた、世界最初の自走式多連装ロケット砲『カチューシャ』の一斉射撃と同じ戦法です。
砲撃が終わると、ロシア戦車部隊は前に出ますが、そこをウクライナ軍が対戦車ミサイルで攻撃します。そうなるとロシア戦車部隊は一旦下がり、再び砲兵で砲撃して、また前に出る。その繰り返しなのです」
ロシア軍が使うのはBM30スメルチなどの自走式のMLRS。BM30は300mmロケット弾を射程90キロで、40秒間に12発撃つことができる。
「ロシアのMLRSの90キロという長射程が、ウクライナ軍を窮地に追いやっています。ボクシングでリーチが長いボクサーが有利に立つことと理論は同じです」
前述したように、ウクライナ軍にはアメリカ軍供与の最新155mmM777榴弾砲(最大射程57キロ、命中誤差約2m)が100門ある。
「今回は、M777の精密誘導弾と情報ネットワークシステムは供与されませんでした。さらに、これを最大射程で撃とうとすれば砲身がすぐに焼けてしまいますから、多くの砲弾を短時間で撃つことができません」
M777の最速発射速度は毎分5発だが、それで最大射程で30発ほど連射すると、整備をしなければ不具合を起こしてしまうようだ。今、最前線でM777が撃てなくなるのは、ウクライナの危機となる。
「現在は、射程25キロ程度で、持続射撃で30秒に1発ずつ撃っています。砲兵隊は18門で1個大隊ですから、全5個大隊で戦っています。そして、撃ったら直ちに陣地移動をしないと、ロシア軍のロケット弾が大量に撃ち込まれてしまいます」
一方、ロシア軍の砲撃射程は90キロだ。
「ロシア軍は3個大隊の砲兵の火力を並べ、陣地を固定して撃ち続けられます。その火力差はウクライナ軍の6、7倍になります」
現状のM777だけでは、ウクライナ軍はロシア軍に撃ち負ける。ウクライナ軍が供与を求めたアメリカ陸軍M270MLRSは射程70キロ、12発の誘導ロケット弾を54秒で全弾発射可能だ。
「即ち、MLRS1基で155mm砲兵隊1個大隊の2/3の射撃を瞬時に行うことができ、さらにけん引式ではなく自走式なので、すぐに移動できます」
アメリカはウクライナへMLRSを48両供与する予定だが、それは155mmM777榴弾砲576門に匹敵する火力だ。
「MLRSを撃つには、ウクライナ軍砲兵部隊ならば2週間も訓練すれば可能です。ただし、ターゲティング、通信、再装填、車両整備など全体の運用は、民間人と称する私服の技術指導員が行うはずです」
それは、元アメリカ陸軍砲兵のベテランだ。
「私だったら、MLRS部隊を訓練のために散発的な戦闘が行われている地域へ投入します。今ならば、ロシア軍部隊が損耗しており補充の無い南部ヘルソン辺りに投入し、長射程で撃つ練習をさせます。腕を上げれば、徐々に激戦区の東部戦線に投入していきます」
東部戦線のロシア軍ロケット砲部隊は固定陣地だ。そこにウクライナ軍のMLRSが導入されれば、戦況は一気に動くかもしれない。
●「ウクライナ軍、一日100〜200人戦死」…第2次世界大戦レベルの消耗戦 6/10
ウクライナ政府高官が、毎日100〜200人の兵力が戦線で死亡していると明らかにした。ウクライナ全体の兵力に照らした死傷者の割合で考えると、第2次世界大戦レベルの消耗戦が繰り広げられているという話だ。
BBCの報道によると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の補佐官であるミハイロ・ポドリャク顧問は9日(現地時間)、100〜200人のウクライナ兵力が毎日戦死していると述べたという。彼はこのような犠牲者の数を取り上げ、西側からの大砲の支援が必要だと述べた。
一日に最大200人まで戦死するという話は、前日のウクライナ当局者の言及よりはるかに多い数だ。前日、オレクシー・レズニコフ国防長官はウクライナが一日に100人の兵士を失っており、500人が負傷していると明らかにした。
ウクライナ側のこのような死傷者の評価は、兵力比でみれば第2次世界大戦に匹敵するレベルだと、英雑誌「エコノミスト」は指摘した。同誌はまた、ロシア軍も同様の被害を受けているとし、ウクライナ戦争は消耗戦に突入したと評した。
ポドリャク顧問は「ロシア軍は戦線で核兵器を除いたすべてのものを注ぎ込んでおり、多連発ロケットシステム、戦闘機などが動員されている」とし、ロシアとウクライナ間の戦力の不均衡がウクライナの高い死傷者の原因だと述べた。そして、ロシアと対戦するには150〜300台のロケット発射システムが必要だと求めた。
ポドリャク顧問は平和会談の可能性については一蹴した。同顧問は、ロシアが侵攻後に獲得した領土を放棄しなければ平和会談は再開できないと述べた。
●米中の国防相が対面会談…台湾巡り応酬、ウクライナ情勢も協議  6/10
米国のオースティン国防長官と中国の 魏鳳和ウェイフォンフォー 国務委員兼国防相は10日、訪問先のシンガポールで会談した。バイデン米政権の発足後、米中国防相が対面で会談するのは初めて。
米国防総省によると、オースティン氏は「台湾海峡の平和と安定の重要性や、一方的な現状変更に反対する立場」を確認し、中国に対して「情勢を不安定化させる行動」をやめるよう求めた。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮問題や、ロシアによるウクライナ侵攻についても協議した。
中国国防省によると、魏氏は台湾や南シナ海問題などを念頭に、米国に対して「中国の内政に干渉せず、中国の利益を損ねない」ことを求めた。米国による台湾への武器売却についても「断固反対し、強く非難する」との立場を表明した。
一方、両氏は、米中間の不測の衝突を避けるため、ハイレベルの意思疎通を維持することを確認した。
●親ロシア派勢力、英国人雇い兵らに死刑判決 6/10
ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する親ロシア派勢力「ドネツク人民共和国」の裁判所は9日、ウクライナ側の雇い兵としてロシア軍と戦った英国人とモロッコ人の計3人に死刑を言い渡した。「ドネツク人民共和国」は国際的に承認されておらず、英国のトラス外相は判決を非難した。
英外相は非難、弁護人は上訴の意向
ウクライナ側の外国人雇い兵だった英国人2人とモロッコ人1人に死刑を言い渡した理由について、「ドネツク人民共和国」の裁判所は判決で、3人がこの「共和国」の政権奪取を狙い、「法的秩序を崩壊させようと試みた」ことを挙げた。弁護人は判決を不服とし、上訴する方針という。タス通信などが伝えた。
ウクライナ東部で市街戦
ウクライナ東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクでは8日、侵攻を続けるロシア軍と市中心部から郊外に退却したウクライナ軍との間で市街戦となっている。ウクライナのゼレンスキー大統領は8日に公開した動画で、同市で「陣地を防衛し露軍に甚大な損害を与えている」と強調しながら、「この戦争で最も困難な戦いのひとつだ。あらゆる意味でドンバス(ルガンスク、ドネツク両州)の運命はそこで決まる」と訴えた。
●ウクライナ対応で連携 OECD閣僚理閉幕 6/10
経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会は10日、ロシアによる侵攻が続くウクライナ情勢への対応やアフリカとの協力強化に関する閣僚声明を採択し、閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた若者への支援や、サプライチェーン(供給網)の強化も盛り込まれた。
コールマンOECD事務総長は理事会終了後の記者会見で、「ウクライナの復興支援で各国が協力することを改めて確認した」と強調した。理事会には米欧などのOECD加盟38カ国が参加。イタリアが議長国を務めた。
日本からは山際大志郎経済再生担当相が出席し、岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」を説明。山際氏は記者団に対し、「(日本だけでなく)世界にとっても重要だと認識されたと思う」と手応えを語った。
●ウクライナ南部、西側重火器で戦況変化 知事、ロシア支配地奪還に自信 6/10
ウクライナ南部ミコライウ州のキム知事は、西側諸国から提供された重火器によって、ロシアが侵攻を続ける南部の戦況が変化しつつあると述べた。ロイター通信が9日報じた。兵器の提供国や具体的な種類には言及していないが「わが州で既に使用されている」と明らかにした。
キム氏はその上で、南部各州のロシア支配地域を奪還するのは「時間の問題だ」と自信を表明。特にロシア軍が全域の制圧を宣言している南部ヘルソン州で、ウクライナ軍が過去数週間に「一定の成果」を収めているという認識を示した。ミコライウ州から砲撃が行われているもようだ。
ウクライナのレズニコフ国防相は9日のフェイスブックで、ポーランドから5月に供与された自走式榴弾(りゅうだん)砲「AHSクラブ」が戦線で使用できる状態になったと発表。既に投入された米国やフランスなどの榴弾砲に続く5番目だと歓迎した。
ロシアのプーチン大統領は最近、南東部の占領地域の併合も視野に、側近のキリエンコ大統領府第1副長官を現地に派遣した。重火器を増強したウクライナ軍の反攻が続けば、方針変更を余儀なくされかねないため、攻撃を一段と強化する可能性もある。
独立系メディア「メドゥーザ」は9日、ロシア大統領府筋の話として「戦況が許せば7月中旬、より現実的には統一地方選と同じ9月11日」に、併合の是非を問う住民投票を行う方向で検討が進んでいると伝えた。南東部ザポロジエ州の親ロシア派政治家は、国際選挙監視団を招くと説明しており、併合計画の具体化が進行しているとみられる。
●新局面 非正規部隊のパルチザン、南部でロシア軍や親ロシア派を攻撃 6/10
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってから100日がすぎた。ウクライナ南部のロシア軍占領地域では、ロシア軍や親ロシア派ウクライナ人を狙った爆破事件が相次ぐ。「パルチザン(ゲリラ戦をする非正規部隊)」による攻撃だ。彼らは、何を狙っているのか。
「ウクライナ南部で、パルチザン活動がロシア軍の動きを鈍らせている可能性が高い」
4月中旬、アメリカのシンクタンク戦争研究所が公式サイトでこう述べ、戦況図に「パルチザンの報告されている地域」を書き加えた。南部ザポリージャ州・メリトポリ市とヘルソン市がそれだ。
「ロシア占領下のメリトポリでパルチザンがゲリラ戦」。イギリスのタイムズ紙(5月22日)も、こんな見出しの記事を掲載。その活動を次のように書いた。
「5月18日の夜明け前。ロシア軍の将校2人が遺体となって路上に横たわった。数時間後、ロシア軍司令部近くで手りゅう弾が爆発し、銃撃戦が続いた。パルチザンは霧のように姿を消した。こうした激しいパルチザン戦が、クレムリンによる地域の完全なコントロールを防いできた。パルチザンらによると、倒した人間は100人にのぼるという。市外に避難中のフェドロフ市長は『攻撃は、特殊戦部隊やキーウの軍指導者の支援を受けて行われている』と述べた」
戦争研究所は、パルチザン戦がメリトポリで始まったのは「遅くとも3月中旬」と述べた。
ロシアと戦ってきた元パルチザン指導者で、5年前に「ウクライナ英雄」の称号を大統領から得たジェムチュゴフ氏(51)が、ウクライナ・モロダ紙(6月2日)に次のように語った。
「開戦後の2月〜3月、住民たちが自発的に抵抗組織をいくつか立ち上げた。兵員やロシア軍の輸送トラックなどを破壊した。しかし、組織はすべて、現地に入っていたロシア連邦保安庁(FSB)の要員につぶされた」
南部ではウクライナ軍の抵抗は比較的少なく、ロシア軍は開戦数日でメリトポリを含む主要都市を陥落させた。ロシア軍の主要目標は当初、キーウ、その後、東部ドンバス地方に移った。ウクライナ軍もその防衛を優先し、南部の解放は後回しとなった。
フェドロフ・メリトポリ市長によると、この間、市民500人がロシア軍に拉致・監禁された。市長も一時、拉致されていた。「ロシア化」も進む。占領軍は、テレビ放送や学校教育をロシアのものに切り替え、通貨もロシアのルーブルを導入しようとしている。市長によると、15万人いた市民の半数が市外へ逃れた。
つぶされたパルチザン運動の立て直しを、ウクライナ当局は図った。ジェムチュゴフ氏らによると、パルチザンを、国防省や地域防衛隊など、キーウにある様々な司令部が直接リクルート、身体検査をして現地に送り込むようになった。「活動の目標」の調整は大統領直属機関が担う。南部のパルチザンは当初の数百人規模から数千人に拡大した。
ウクライナ国防省は、パルチザンが活動しやすい土壌を、市民参加で作ろうとしている。4月、公式サイト上に「市民のレジスタンス・センター」を開設。「占領軍への不服従運動」を市民に提起し、そのハンドブックも作った。占領者の「仕事」を妨害し、その意思をくじく心理戦だ。
職業別に「あなたが警察官なら捜査をサボタージュしよう」「公務員なら占領軍にでたらめな書類をあげよう」「ボイラーマンなら燃料に水を混ぜよう」と呼びかける。
中でも市民による「現地ロシア軍の位置情報」が有効なようだ。
現地メディア「ノーボエ・ブレーミャ」によると、メリトポリで5月22日、パルチザンとウクライナ軍が協力し、ロシア軍が通信傍受に使っていた武器と大砲を複数、破壊したという。軍幹部は「砲撃を正確に行うには、住民によるロシア軍の位置情報の提供は貴重だ」と述べた。
ただ、本格的な軍事活動には困難も伴う。3月中旬、大統領府高官が南部地域のパルチザンに向け「鉄道の破壊作戦」を提起、次のように呼びかけた。
「全面的な線路破壊の戦いを始めよう。優先目標は、クリミア半島とメリトポリやヘルソンを結ぶ路線。敵の補給ラインを断とう」
だが、鉄道輸送の妨害にパルチザンが初めて成功したのは2カ月後の5月18日。ウクライナ大統領府のアレストビッチ顧問は、ロシア軍の補給路の防御が固かった、と述べた。
軍事的な手法を教えるのは、主にSNSだ。パルチザン戦経験者たちが様々なサイトを開設している。
ジェムチュゴフ氏もその一人。YouTubeで次のように述べた。
「深夜、線路に爆弾を置く。導火線を100メートル引き、着火してください。爆破後はFSBに注意。犬を使ってパルチザン狩りを盛んに行っている。犬の嗅覚をだますため、逃亡前、周囲にタバコの葉をまいてください」
気がかりな動きもある。5月、民間人もパルチザン戦の対象になり始めた。ロシア軍に協力する親ロシア派ウクライナ人がターゲットだ。
市内の原発をロシア軍が占拠した、南部ザポリージャ州エネルゴダル市。ロシア軍が現市長を銃で脅して市外へ追いやった。軍がすげかえた新「市長」が狙われた。5月23日、母親のアパートの玄関先を出ようとしたところ、仕掛け爆弾が爆発。上半身をやけどし、鎖骨を折る重傷を負った。
ウクライナ軍現地司令部はこの日、次のように発表した。
「爆破の際、対ロシア協力者のみを正確に狙い、巻き添えはなかった。パルチザンの待ち伏せ攻撃と結論できる。(ロシアの)占領者は、若者2人の行方を追っている」
メリトポリでも5月30日、中心部で乗用車が爆破され、男女2人が胸や足に大けが。爆風による黒煙が市上空を覆った。
ウクライナのメディア「エルベーカー・ウクライナ」は、爆発が起きた地区は、ロシア側の「軍民行政府」司令部があり、軍がすえた親ロシア派の「州知事」が住んでいる、と伝えた。また、爆破はメリトポリの「市長」、ガリーナ・ダニリチェンコ氏の車を狙っていたという。
ロシアの自作自演の「偽旗作戦」の可能性はないのか。クレムリン(ロシア大統領府)のペスコフ報道官は5月23日、リア・ノーボスチ通信に次のように語った。
「ウクライナのナショナリズム勢力のやり口で、ロシア軍は予防措置をとらざるをえない」
ロシアの占領軍は対抗措置として、6月1日、南部一帯でウクライナの通信回線を遮断。ロシア側のSIMカードがないと通信できないようにした。
米国の戦争研究所は、攻撃はパルチザンによるものとの見方を示唆し、6月4日、次のように伝えた。
「通信遮断などの措置にもかかわらず、ロシアの占領当局は、ウクライナのパルチザンを完全に抑制することはできていない。南部ヘルソンの占領当局者は、安全のため防弾チョッキを身に着けたり、移動に装甲車を使ったりし始めた」
一方、ウクライナ政府は、親ロシア派ウクライナ人への攻撃について、奨励はせずとも黙認はしているようだ。
ウクライナ国防省の「市民のレジスタンス・センター」は6月1日、次のように述べた。
「メリトポリ市内で、ガリーナ・ダニリチェンコ『市長代行』を標的とする写真つきのビラが現れた。敵にモラルや心理面での圧力を強めるため、ビラや国旗などのウクライナのシンボルの数を増やすべきだ」
ウクライナ南部では、親ロシア派の顔つきのビラが、街路樹や建物のガラスドアに貼られている。「知事」「市長」ら15人。その居場所の情報を提供したウクライナ市民には「懸賞金」が支払われるという。
筆者はこう見る
ウクライナ人同士が傷つけあうのは、どんな理由であれ、悲劇だ。
身の危険のあるダニリチェンコ・メリトポリ「市長」は5月、親ロシア派メディアのインタビューで、「大きな責任を負い、恐ろしくはないか」と尋ねられ、次のように答えた。
「(スマホの)番号がネットに出て、1日数千の通知や着信があった。もちろん脅迫です。でも、私にとってウクライナの権力はもう存在しないのです」
だが、問題は、南部では、ロシア軍の暴力以外、どの国の権力も存在しないことだ。地元メディア「リア・メリトポリ」によると、300人いる市警のうち親ロシアの警察官は35人余り。拉致や拷問がやまないのは、通常の治安機関が機能していないことを裏付ける。ダニリチェンコ氏は、市内の企業のほとんどが操業を止め、ウクライナの銀行も機能していない、とも述べている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は6月2日、「ロシア軍がウクライナの国土の20%を占領している」と述べた。その半分が南部地域だ。
その解放の見通しは不透明だ。ウクライナ軍は、クリミアに隣接するヘルソン州で一部地域を奪還した。しかし、ロシア軍は防御を固め、南部占領の長期化を図る。
ウクライナ国防省諜報部門トップのスキビツキー氏は5月末、地元メディアに次のように語った。
「ウクライナ南部でロシアは5月初めから、陸海空軍からなる部隊を強化し、3重の防衛線を引いた。鉄道、港、空港を使った補給システムも構築した。戦争は、年末まで続くかもしれない」
パルチザンの攻撃は、親ロシア派による「統治」を妨げ、彼らが狙うロシア編入の住民投票実施を難しくしているのは確かだ。しかし、戦線の膠着を打破するだけの力はない。
6月7日もヘルソン市の喫茶店で爆発があり、10人がけがした。ロシア、ウクライナ双方のメディアが伝えた。
南部で「権力の空白」がさらに続けば、暴力の連鎖が強まる恐れがある。
●ウクライナ侵攻で食糧危機懸念 政府 G7サミットで支援表明へ  6/10
世界有数の穀物の輸出国ウクライナへの軍事侵攻が続き、食糧危機への懸念が高まる中、日本政府は今月ドイツで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議で、ウクライナのほか中東やアフリカ諸国への支援を表明する方向で調整を進めています。
ロシア軍のウクライナ侵攻によって世界有数の穀物輸出国であるウクライナが、黒海に面した港をロシア軍に封鎖されて輸出ができなくなっているとして、食糧危機への懸念が高まっており、今月ドイツで開かれるG7サミットでは「食料安全保障」が主要な議題となる見通しです。
こうした中、日本政府はG7サミットで、ウクライナのほか食糧不足の影響が大きい中東やアフリカ諸国への支援を表明する方向で調整を進めていて、具体策としては、WFP=世界食糧計画など国際機関に対する資金の拠出などが検討されています。
これに関連して松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「ロシアによるウクライナへの侵略で、穀物価格が高騰するとともに世界的な食料不安のおそれが増している。特にウクライナ産穀物への依存度が高い中東とアフリカにおける影響は深刻だ」と指摘しました。
そのうえで「日本としてはG7をはじめとする国際社会や国際機関と連携し、引き続き今次情勢の影響を受けている国に寄り添った支援を検討していく考えだ」と述べました。
●ロシア中央銀行が追加利下げ 政策金利は軍事侵攻前の水準に  6/10
ロシアの中央銀行は10日、政策金利を、今の11%から9.5%へ引き下げると発表しました。通貨ルーブルが値を戻していることなどが背景で、政策金利は、ウクライナへの軍事侵攻前の水準に戻った形です。
ロシア中央銀行は10日に金融政策を決める会合を開き、政策金利を今の11%から9.5%へ引き下げることを決めました。
金利の引き下げは、ことし4月以降4回目です。
ウクライナへの侵攻後のことし2月末、ロシア中央銀行は通貨ルーブルの急落に対応するため、政策金利を9.5%からほぼ2倍にあたる20%へと大幅に引き上げました。
その後は、ルーブルが値を戻していることなどを踏まえて利下げを続けていて、これで政策金利は軍事侵攻前の水準まで戻った形です。
ロシア中央銀行は、声明で「ロシア経済の外部環境は依然として厳しいが、ルーブルの相場動向などを受けてインフレは減速し、経済活動の落ち込みは4月に予想したよりも小さい規模だ」などとしています。
そのうえで、来月の会合でさらなる金利引き下げの必要性について議論するとしています。
●ナワリヌイ氏、グーグルとメタのロシア広告停止「プーチン氏への贈り物」 6/10
詐欺などの罪で投獄されているロシアの反政府活動家ナワリヌイ氏は9日、米グーグルとメタ・プラットフォームズがロシアのユーザー向け広告を停止していることについて、「反体制派が反戦活動をする機会を奪っている」とし、プーチン大統領への「大きな贈り物」になっていると強く批判した。デンマークでの「コペンハーゲン民主サミット」に寄せた演説文のコピーが同氏の公式ブログに投稿された。
ロシアが2月下旬にウクライナに侵攻したことで、2社は3月に入ってすぐに停止措置を取った。
ナワリヌイ氏は、テクノロジーが国家によって反体制派の拘束にも使われる一方、真実にたどり着く機会も与えると指摘。「インターネットはわれわれが当局の検閲を回避する能力を与えてくれる」とした上で、グーグルとメタが広告を停止していることで反プーチンの力がそがれていると問題視した。
●進化政治学で読み解くウクライナ侵攻―プーチンが陥った「自己欺瞞」の罠 6/10
ウラジーミル・プーチンはこれまで典型的なリアリストとみなされてきたにもかかわらず、多くの政治学者の予想に反してウクライナへの大規模侵攻に踏み切った。ロシアの国益を大きく毀損しかねない決定の背景を、1980年代から欧米政治学界で盛んになっている「進化政治学」の枠組みで読み解く。
既存のリアリスト理論の限界
なぜロシアはウクライナに侵攻したのだろうか。国際政治学における代表的なリアリスト理論家であるジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)やスティーブン・ウォルト(Stephen Walt)は、ロシアのウクライナ侵略の主な原因は、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大による勢力均衡の変化にあると見ている。ラジャ・メノン(Rajan Menon)は、ロシアによるウクライナに対する予防戦争(preventive war)であると主張している。また、リベラル的視点からも、マイケル・マクフォール(Michael Anthony McFaul)らは、西側によるウクライナの民主化支援がプーチンのウクライナ侵攻の主な原因だと主張している。
ここから分かることは、国際政治学、とりわけリアリスト的視点や国際システムの構造レベル分析では、ロシアのウクライナ侵略には戦略的に一定の合理性があるということである。そもそもプーチン自身、これまで典型的なリアリスト政治家とみなされてきた。
ところが、この戦争にはリアリストを悩ませる大きな問題が存在している。それは、仮にロシアの開戦それ自体は戦略的に合理的だとしても、プーチンの意思決定にはミクロな戦術的レベルで多くの非合理性がみられるということである。2022年2月24日にウクライナへの全面侵攻を強行して3カ月が過ぎ、当初の予想に反しウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ国民・兵士の徹底抗戦でロシア軍は大苦戦し、進撃は停滞した。ゼレンスキー政権が全面降伏に応じず、都市攻撃も空挺部隊の展開が不十分で効果を上げず、ロシアの地上部隊はウクライナ軍の熾烈な抵抗に直面した。プーチンはウクライナの首都キーウの征服が困難と考え、3月下旬に「目標の第1段階を達成」と宣言、ウクライナ南東部に戦力を集中し、ルハンシク・ドネツク両州の完全制圧を目指す作戦へと大幅変更した。プーチンの政策には大きな狂いが生じたのである。
しかも、ロシアによる侵攻は西側諸国の結束を促し、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟を申請した。リアリストたちの主張するように、ロシアの侵攻目的がNATOの東方拡大を防ぐことだったとしても、結果的にさらなるNATO拡大を招いたという点では、戦略的に誤算だったと言わざるを得ない。
進化政治学の導入――自己欺瞞論とは何か
では、こうした合理的理論(ネオリアリズム、合理的選択理論等)からの逸脱事象はなぜ起きたのだろうか。このパズルに答える上では、リアリズムに進化政治学を導入して、新たなリアリスト理論――「進化的リアリズム(evolutionary realism)」――を提示することが有益であろう。
進化政治学とは、1980年代に米国で生まれた概念であり、チャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin)の自然淘汰理論に由来する進化論的発想――進化心理学、進化生物学、進化ゲーム理論、社会生物学など――をもとに政治現象を分析するアプローチである。進化政治学には、1人間の遺伝子は突然変異を通じた進化の所産で、政策決定者の意思決定に影響を与えている、2生存と繁殖が人間の究極的目的であり、これらの目的にかかる問題を解決するため自然淘汰(natural selection)と性淘汰(sexual selection)を通じて脳が進化した、3現代の人間の遺伝子は最後の氷河期を経験した遺伝子から事実上変わらないため、今日の政治現象は狩猟採集時代の行動様式から説明される必要がある、という三つの前提がある。
その全体像は拙著『進化政治学と平和』、『進化政治学と戦争』、『進化政治学と国際政治理論』に記したので割愛するとして、ここでは進化政治学の視点からプーチンの非合理性を説明する一つの考え方を紹介しよう。それが自己欺瞞(self-deception)である。
自己欺瞞論は進化生物学者ロバート・トリヴァース(Robert Trivers)が最初に提起したものである。トリヴァースによれば、人間が得意としているのは、自らの利己性や欲望を自覚することなく、それを成功裏に実現することである。謙虚なようにふるまい、公共善のためであれば自らのコストを厭わないふりをしつつ、裏では着々と自己利益を追求し続ける。さらにはこうした欺瞞的な行為それ自体に自らが自覚的ではない、こうした心理・行動が自己欺瞞の核心にある。
自己欺瞞の本質は、仮に自分が真実を語っていると信じるように自分を欺くことができれば、他人を説得するのに非常に効果的だということである。すなわち、他者を上手く騙したいなら、自分自身が自らの発言を本当に信じており、自己の力を過信している方が良いのである。ドナルド・トランプ(Donald John Trump)前米大統領は人気リアリティ番組「アプレンティス(The Apprentice)」の中で、この論理を明確に示唆している。トランプは、高価な芸術品を売るよう部下に促す際、「あなたがそれ(芸術品の価値)を信じなければ、本当に自分で信じなければ、それは決して上手くいかないだろう」と述べている。電撃戦によるウクライナ征服と「ロシア民族」の統一が可能であると信じ、それを自国民にプロパガンダ的に宣伝する。こうしたプーチンの行動は自己欺瞞の典型である。
自己欺瞞は程度の差こそあれあらゆる人間が備えるものだが、自然界にはそれが特に強く表出されるタイプの個体が存在する。それがナポレオンやトランプをはじめとする人口の約1%に見られる、自己欺瞞を示すナルシスト的パーソナリティ障害をもつアクター(以下、省略してナルシストと呼ぶ)である。臨床心理学的に「障害」とラベリングされているにもかかわらず、進化論的には、プーチンらナルシストの自己欺瞞は、自然淘汰によって形成された適応的なものである。すなわち、それは狩猟採集時代に祖先の包括適応度(inclusive fitness)に寄与してきたもので、自己欺瞞のアドバンテージは現代でも一定程度健在なのである。つまるところ、残り99%の我々は、ヒトラーやプーチンのような、自己欺瞞を強力に備えた逸脱的な個体と滅多に遭遇しないため、自然淘汰は自己欺瞞をするナルシストへ強く抵抗するような心理メカニズムに有利に働かなかったのである。
自己欺瞞は脳科学的には、楽観性バイアス(optimism bias)と呼ばれるものとかかわる。多くの精神的に健康な人間の脳には、肯定的事象を過大評価、否定的事象を過小評価する傾向が備わっている。この楽観性バイアスによって、人間はガンや交通事故の確率を低く見積もる一方、長寿やキャリア成功の確率を高く見積もる(これを肯定的幻想=positive illusion 効果という)。こうした意味において、プーチンやトランプがみせる過信や自己欺瞞とは、脳が生みだす楽観性バイアスの産物なのである。
プーチンの過信と「誤った楽観主義」
以上、自己欺瞞にかかる諸概念を紹介してきたが、ここからは事例に戻ろう。それではプーチンは自己欺瞞に駆られて、何が実現できると過信していたのだろうか。それは「ロシア民族」の統一である。プーチンが2021年7月にロシア大統領府(クレムリン)のウェブサイトに発表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文では、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」とは何かが説明されている。その要点は、1かつて大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人と呼ばれた三つの支族からなる「ロシア民族」が存在しており、2ソ連時代の民族政策によって、この三つの支族がそれぞれロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という別の民族であるという考え方が生み出された、というものである。つまり、元々はロシア人とウクライナ人は一体であり、「ウクライナ人」という民族はソ連時代に創造された人工物にすぎないということである。
ロシアの政府寄りメディアの「ヴズグリャド(Vzglyad)」の政治アナリスト、ピョートル・アコポフ(Pyotr Akopov)の「ロシアの攻撃と新世界の到来」(論説記事)によれば、「ロシアの勝利」によって到来しつつある「新世界」では、反ロシア的なウクライナはもはや存在せず、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる「ロシア民族」がその歴史的一体性を回復する。ウクライナ問題を解決することの意義は、「分裂した民族のコンプレックス」についてのものであり、安全保障上の問題はあくまで二義的なものとされている。
プーチンは「ロシア民族」の統一が可能だと信じているため、目標を達成する上で不都合な情報は軽視され、ロシアの軍事力の強さが過大評価された。侵攻開始から2日後の2月26日、国営のロシア通信が上記の「ロシアの攻撃と新世界の到来」を(おそらく誤って)配信したが、まるで戦勝を祝うような内容の同記事はすぐに削除された。このことは、プーチンには侵攻開始から約48時間でウクライナの親米欧政権を崩壊させる計画があったことを示唆している。プーチンは侵攻前の演説でも、ウクライナを「失敗国家」と過少評価しており、軍事大国ロシアが予防戦争を開始すれば、首都キーウの「無血開城」も可能だと予想していたのであろう。
キーウ攻略のため極東地域から投入した東部軍管区の装備は近代化率が低く、ソ連時代の戦車も使用している状況であった。米国防総省高官は、ロシア軍の大多数が志願兵でなく徴兵された若い兵士で、戦闘に参加することを知らされていなかった兵士もおり、その士気の低さを指摘している。米国はプーチンの側近が彼を恐れて誤情報を伝えていることを発表し、プーチンがそうした誤った情報に基づいて、「誤った楽観主義(false optimism)」を抱いている可能性を示唆している。
戦争を理解するために人間の本性を直視する
さて、こうした自己欺瞞に駆られたプーチンの過信はミクロ経済学的合理性からの逸脱事例だが、これはプーチンに固有のものなのだろうか。答えは否である。実際、国際政治の舞台は、このような逸脱的な自信を持つ指導者であふれている。国家の安危にかかる和戦の決定をめぐり指導者が抱く過信は、戦争の重大な原因となり、しばしば対外政策の失敗――誤認識、インテリジェンスの失敗、勝ち目のない開戦、リスクの高い軍事計画等――をもたらすとされている。このことはゲオフリー・ブレイニー(Geoffrey Blainey)、スティーブン・エヴェラ(Stephen Van Evera)、ドミニク・ジョンソン(D. D. P. Johnson)をはじめとした、多くの有力な安全保障研究者により主張されてきた。つまるところ、進化政治学が明らかにするところは、古典的リアリズムが説いてきたように、人間には戦争に向けた本性が備わっているということであり、自己欺瞞はその際、戦争に至る因果メカニズムの一つなのである。
●「プーチンが生きている限り、解決策はない」 ジャーナリストが説く 6/10
マーシャ・ゲッセンに取材を申し込むと、ゲッセンは「女性(ミセス)とも男性(ミスター)とも呼ばないでほしい。自分のジェンダーはノンバイナリーだから」と応えた。ゲッセンは、ロシア出身のアメリカの作家である。そして、誰よりも早くウラジーミル・プーチンの非道な権力について書いた知識人だ。
ユダヤ系の家族のもとにモスクワで生まれ 、長いあいだロシア全土でゲイであることをオープンにしていた唯一の人物だった。そのためゲッセンは、ユダヤ人として、またゲイとして二重の差別に遭ってきた。
1981年、14歳のときにゲッセンは「米国難民第三国定住プログラム」で、家族と共にアメリカに移住した。だが2つのパスポートは常にとっておいた。10年後、ジャーナリストとしてロシアに戻ろうと決めたとき、ゲッセンはそのパスポートを使った。だがこの選択によって、投獄と絶え間ない迫害の危険に身を曝すことになる。
そして2013年に、ロシア当局が同性愛者の両親を持つ子供たちの養育権剥奪を提案しはじめると、ゲッセンと妻は、2000年に養子に迎えた長男の養育権を失うことを怖れ、助言を求めて弁護士のもとに駆けつけた。弁護士は「見知らぬ人が近づいてきたら逃げるようお子さんに教えなさい」と勧めた。そして2人にはこう告げた。
「あなた方の質問への答えは、『空港』です」
マーシャ・ゲッセンはニューヨークからビデオ通話で語ってくれた。興奮気味の私がスクリーン越しに出会ったのは、見た目は繊細そうでありながら、とてつもない重荷を背負う決意を固めた人物だった。
ゲッセンが描く最悪のシナリオ
──この戦争に、どのような解決策を見いだしていますか?
プーチンが生きている限り解決策はありません。ですが、発展の仕方はたくさんあります。最良のシナリオは(最もありそうだとは思えませんが)、和平交渉がなされることです。これは、ロシアがウクライナの大部分を占領するだろうということ、そしてウクライナが中立を保証し、NATOにもEUにも加盟しないことを意味しています。
けれど、ウクライナが非軍事化を完全に受け入れるとは、私は思いません。このシナリオでは、ウクライナ軍は維持されても、ずっと限定されたものになります。ウクライナは中立を保証し、ハルキウ、マリウポリ、ヘルソンを含む国土の3分の1をロシアに譲ることになるでしょう。それは、2つの理由から「時限爆弾」になると推定されます。
一つ目の理由は、ロシアに占領された領土内部で反乱が勃発し 、ロシア国内と同じようにそれらの地域で恐怖が継続するからです。もう一つの理由は、プーチンの野心はウクライナを「占領」することではなく、「消滅」させることにあるからです。つまり、和平交渉がおこなわれるように見えるかもしれませんが、それはプーチンが再攻撃するまでの「休戦」にすぎないだろうというわけです。
私がここに描いたのは、最良のシナリオです。最悪のシナリオは、核戦争です。
──「この戦争が起きた原因はNATOにある」と言う人たちにはどのように答えますか?
「それは戯言であり、クレムリンによるプロパガンダであって、あなたは参加するたびにそれを拡散していくことになる」と言います。
ロシアの内政、そしてプーチンの思考には、「コソボ空爆」という重要な出来事があるのだと思います。それは、NATO拡大という発想とは非常に異なるものです。というのも、コソボはNATO加盟国ではないからです。しかし、たしかにあの空爆は、アメリカに先導されたNATOによる軍事行動でした。あそこで起きたことが、物語を創り上げるのに重要な役割を果たしてきたのだと思います。
その物語のおかげで、プーチンは恨みの政治を進めることができてしまったのです。この戦争がNATOの拡大に挑発されたものだというのは、戯言です。
──私たちはどのようにして、この戦争にたどり着いたのでしょう?
私たちがこの戦争にたどり着いたのではありません。これは、ただ一人の男による行動です。私は、プーチンをこの戦争に踏み切らせた理由づけや政治学からは離れたいと思います。彼は明らかにノスタルジックな政治論を持っており、彼がウクライナに集中したのには、2、3の事情があります。けれど私が最も重要だと思っているのは、とくに「オレンジ革命」以降の18年間、ウクライナが採用してきた反「プーチン主義」とみなされる方針です。
──なぜバルカン諸国ではなく、ウクライナなのでしょう?
それは信じがたいことにウクライナが、ソ連崩壊後にできたほかの多くの共和国と違って再び全体主義に転落することがなかったからです。反対に、ウクライナは過去30年にわたって、自らを創造する過渡期の国家であり続けてきました。そして、文化的にはどんどんロシアから離れた存在となっていったのです。
私は、プーチンが「文化」とみなす文化的・言語的知識の蓄積について述べているのではありません。私が話しているのは私たちの生き方、文化の発展の仕方、人々が何について話し、どのように考え、どのように教育を受けるかということです。ウクライナはロシアとは非常に異なる国なのです。ウクライナには、文化的結束を経験した途方もない時期がありました。祖国の歴史となった2004年の「オレンジ革命」と2014年の「尊厳の革命」です。つまり、彼らは自由のために自らを犠牲にする覚悟ができているのです。
プーチンは、昔から何も変わっていない
──右派ポピュリストとヨーロッパの過激主義者に資金を供与してきたプーチンが、なぜ「ウクライナの非ナチ化」というレトリックを利用することができるのでしょう? ウクライナにはユダヤ系の大統領がいるにもかかわらず、どうしてこのような話を続けることができるのでしょう?
なぜなら、ロシア人がこの戦争について抱いている概念は、第2次大戦からの借りものだからです。ロシアの全アイデンティティは、ロシア人が「大祖国戦争」と呼ぶ、あの戦闘に基づいて構築されています。それは現代ロシアがすべてを正当化する役に立ちました。ロシアが戦争突入を決断する際は、対ナチ戦争であった第2次大戦を戦うべきなのです。
信じがたいことですが、現在はウクライナ人が自分たちにとっての「大祖国戦争」を展開しており、ナチスのように行動しているのはロシア人のほうです。「ウクライナという国家は存在しない」というプーチンの主張は、ジェノサイド宣言です。彼らは「Z」という文字を使っています。それは新たな鉤十字であり、あらゆる場所に描かれています。ロシア内部で戦争に反対する人たちの家の扉にまで描かれているのです。
──ウクライナの極右はどのような役割を演じていますか?
ウクライナには2、3の極右政党があります。一つは議会に議席すら持っておらず、もう一党も一議席しかなかったと思います。ほかのヨーロッパ諸国と異なり、ウクライナの極右の存在はごくささやかなものです。
右翼団体「アゾフ連隊」は 400〜800人の隊員を擁するとされています。この数字は、過去80年間に戦争状態にあったヨーロッパの国としては、少しも異例ではありません。私は右翼の支持者ではありませんし、とりわけウクライナの右翼支持者ではありません。というのも2015年に、私は彼らにほとんど命を奪われかけたからです。キーウの通りで、私を殺そうとするメンバーに追いかけられたのです。
──プーチンの精神的な問題がよく取り沙汰されています。それは説明としては還元主義的だと、私は常々感じてきました。
プーチンが正気を失っているという話を聞くのはうんざりです。誰がそれを口にするかにもよりますが。でも、何も変わっていません。彼の言葉は以前と変わっていませんし、プーチン自身も変わっていません。
私はチェチェン紛争で仕事をしましたが、そこでも学校や病院が爆撃されていました。ウクライナで起きていることの報告を読むのは、私にとって面白くもありません。次の段落に何が書かれているかもう知っているからです。私はこの戦争を知っています。なぜなら、すでに見たからです。そして、私がそれをすでに見たとすれば、誰もが見ているのです。
誰かが正気を失ったと判断するとき、私たちは、その人が社会的ないし憲法上の規範に合っていないとみなされる方法で行動しているために、そう判断します。けれどもソ連で「正気を失った人」は、世界のほかの場所から見れば完璧に正気でした。西側がプーチンを「正気を失った」と呼ぶときは「彼が、西側では非常識とみなされるやり方で行動している」と言っているわけです。そして彼の振る舞いは、ロシア社会の基準で見れば受け入れられないものでもないと、私は思うのです。
●捕虜となり解放されたウクライナ軍兵士 “兵士たちを助けて”  6/10
ウクライナ東部の要衝マリウポリで、激しい戦闘のあとロシア軍の捕虜となったウクライナ軍兵士の男性がNHKのインタビューに応じ、ロシア側から受けた扱いなどについて語りました。インタビューに応じたのは、4月に捕虜となって解放されたウクライナ海軍の25歳の男性兵士です。この男性はマリウポリの製鉄所で戦っていましたが、激しい攻防が続いた4月上旬、ロシア側の捕虜となり、ドネツク州に移送されたということです。
戦闘の際に骨盤やあごを骨折したうえ、左目が見えなくなるなどの大けがを負ったということですが、捕虜になったあと、ロシア側からほとんど治療を受けることができなかったということです。また、常に監視のもとにおかれ、ロシア語のニュースを毎日聞かされていたということです。
男性は2週間以上にわたって拘束されたのち、4月下旬にロシア兵との交換で解放され、現在はウクライナ国内の病院で治療を受けているということです。
男性は「ウクライナを守るために戦い、多くの兵士が捕虜になっている。彼らを忘れないでほしい。兵士たちを取り返すために助けてほしい」と話し、国際社会へ支援を訴えました。
ロシア国営のタス通信は、マリウポリで先月投降しロシア軍の捕虜となったウクライナ側の兵士1000人以上がロシアに移送されたと伝えています。
ウクライナ側は捕虜の交換を求めていますが、交渉は難航しているとみられます。
●セベロドネツク、激烈な市街戦 ロシア軍、昼夜分かたず砲撃 6/10
ウクライナ軍部隊の司令官は、ロシアが制圧を目指す東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクでは街区の奪い合いなど激烈な市街戦になっていると述べた。ロシア側は市街地の掌握を終えたとしていたが、「一部ではロシア部隊の撃退に成功している」と強調した。ロイター通信が10日報じた。
ロシア軍はセベロドネツクに昼夜を分かたず砲撃を加えるなど火力では圧倒。司令官は火力の劣勢を補う目的で市街戦に引き込み、街路を奪い返すなどしているが、多大な損害を受けているとした。州当局は10日「過去24時間に敵の攻撃を7回退けた」と通信アプリに投稿した。 
●プーチンに無期限制裁 ウクライナが対決姿勢 軍の死者は1日200人も  6/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ロシアのプーチン大統領や主要閣僚ら政府指導部を対象に無期限の制裁を科す大統領令に署名した。ウクライナへの入国を禁じるほか、資産を凍結。東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクをはじめ各地でロシア軍との激戦が続く中、対決姿勢を改めて示した。
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は英BBC放送に対し、ウクライナ軍兵士が「前線で毎日100〜200人が死亡している」と指摘。同時に、ロシアが2月24日の侵攻開始以降に占領した領土を返さない限り、停戦交渉再開には応じないとの考えを示した。
一方、米国務省高官は9日、上院公聴会で証言し、ロシアの原油や天然ガス輸出に伴う歳入がウクライナ侵攻前より増加している可能性があるとの見方を示した。ロシア産原油の禁輸措置を取る欧米に代わって中国やインドと取引を続け、制裁の「抜け穴」になっているとみられる。
ゼレンスキー氏は9日の国民向け動画で、欧州各国などと協力し「ロシアに対して明確な圧力を加えることが必要だ」と訴えた。前線で大きな戦況の変化はなく、セベロドネツクを含め東部ルガンスク、ドネツク2州(ドンバス地域)でも持ちこたえていると指摘。南部ザポロジエ州ではロシア軍の進軍を阻み、東部ハリコフ州では押し戻していると強調した。 

 

●ロシア軍、黒海に新たな潜水艦 6/11
ウクライナ軍は10日、ロシア軍が黒海艦隊に潜水艦1隻を新たに配備し、巡航ミサイル40発が発射できる状態にあるとSNSで明らかにした。黒海北西部を封鎖しているほか、大型揚陸艦1隻も配置しているとしている。黒海がロシアによって封鎖され、ウクライナからの穀物輸出の滞留が続く中、緊張がさらに高まる恐れがある。ロシアは黒海封鎖を否定している。
米CNNテレビによると、ウクライナ国防省傘下の情報機関は「ロシア軍は現在のペースであと1年は戦闘を続けられる」と分析。ロシアが一時的に戦闘を停止する可能性はあるが、その後継続に転じるとの見方も示した。
●ロシア黒海艦隊に巡航ミサイル搭載の潜水艦 ウクライナは警戒  6/11
ウクライナ東部で一進一退の攻防が続くなか、黒海ではロシアの艦隊に巡航ミサイルを積んだ潜水艦が新たに加わり、ウクライナ軍が警戒を強めています。10日には、イギリスのウォレス国防相がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領は軍事支援のさらなる拡大に期待を示しました。
ウクライナ東部で攻撃を続けるロシア軍は10日も、激戦地となっているルハンシク州のセベロドネツクに地上部隊を送り込みましたが、ウクライナ側の激しい抵抗にあい、一進一退の攻防が続いています。
ルハンシク州のハイダイ知事は「セベロドネツクは持ちこたえている。ロシア軍は、行く手を阻むすべてを破壊しようとしている」とSNSに投稿し、住宅などに対する無差別攻撃を非難しました。
また、ウクライナ軍の報道官は10日に「ロシアの黒海艦隊に、巡航ミサイルを積んだ潜水艦1隻が新たに加わった。ウクライナは、40発もの巡航ミサイルが撃ち込まれる脅威にさらされている」と述べ、ロシア海軍の動きに警戒を強めています。
報道官によりますと、ロシア海軍は、黒海の北西部でウクライナの船舶の航行を妨害しているほか、上陸作戦に使われる揚陸艇を配置しているということで、引き続き、海上での優勢を確保するとともに、ウクライナ軍の一部を南部にとどめるねらいがあるとみられます。
こうした中、ウクライナを訪れていたイギリスのウォレス国防相は10日、首都キーウでゼレンスキー大統領と会談しました。
イギリス国防省によりますと、会談では、ロシアによる違法な占領からの解放という共通の目標に向けて、両国が一層緊密に連携していくことで合意したということです。
イギリスは、ウクライナへの追加の軍事支援として、射程80キロの多連装ロケットシステム「M270」を供与すると今月発表しています。
ゼレンスキー大統領は「イギリスは兵器、資金、制裁の3つの分野で、ウクライナ支援のリーダーシップを発揮している。約束したことを、必ず行動に移す国だ」とSNSに投稿し、謝意を示すとともに、軍事支援のさらなる拡大に期待を示しました。
●初代ロシア皇帝引き合いに「領土奪還は我々の任務」と侵攻正当化  6/11
ロシアのプーチン大統領は9日、若手企業家らとの会合で、帝政ロシアのピョートル1世(大帝)が1721年にスウェーデンとの北方戦争に勝利したことを引き合いに「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」と述べ、ウクライナ侵攻を正当化した。この日はピョートル1世の生誕350年の節目だった。
ピョートル大帝の生誕350年を記念する展覧会を訪れたプーチン大統領(中)(9日、モスクワで)=ロイターピョートル大帝の生誕350年を記念する展覧会を訪れたプーチン大統領(中)(9日、モスクワで)=ロイター
初代ロシア皇帝のピョートル1世は領土拡大やロシアの近代化に取り組み、北方戦争では、バルト海沿岸を支配していたスウェーデンに21年かけて勝利した。プーチン氏は、北方戦争を引き合いに出すことで、長期戦も辞さない考えを示唆した可能性がある。
露大統領府によると、プーチン氏はピョートル1世について「彼は何かを奪ったのではない。奪還して強固にしたのだ」との見方を示した。サンクトペテルブルクを首都にしたことに関しても「大昔からスラブ民族が住んでいた」と述べ、「歴史的な一体性」を一方的に主張してウクライナに侵攻した自身の行動に重ね合わせるように語った。
プーチン氏は国際関係に関し「主権を持たない国は植民地だ」などとも述べた。米欧寄りの姿勢を強めるウクライナなどの国々を念頭に、独自の国家観を改めて披露したとみられる。
●ウクライナで「コレラ流行の危機」…インフラ破壊で衛生悪化 6/11
英国とウクライナ両政府は10日、英国のベン・ウォレス国防相がウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談したと発表した。英国防省によると、会談ではウクライナをロシアによる違法な占領から解放するため、緊密に連携することで一致した。東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)で、激しい攻撃を続ける露軍をけん制したものだ。
英国防省はウォレス氏が2日間にわたってキーウを訪れたと発表したが具体的な日程は不明だ。ゼレンスキー氏は会談でウォレス氏に対し「現在の我々にとって主要な優先課題は、重火器を早期に手にすることだ」と述べ、武器供与の加速を改めて要請した。
英国防省は10日、ウクライナ南東部マリウポリで、コレラが流行するリスクが高まっていると指摘した。5月から感染による隔離事例が確認されているという。マリウポリでは、飲料水の不足やインフラ破壊による下水の混入、大量の遺体埋葬によって衛生が極度に悪化しており、ウクライナ保健省も6日、流行の懸念を指摘していた。
●ウクライナ・マリウポリでコレラ集団感染の恐れ=英国防省 6/11
英国防省は10日、ロシアの徹底攻撃を受けて制圧されたウクライナ南東部マリウポリで感染症コレラが大発生する恐れがあると、懸念を示した。
英国防省は10日のウクライナ現況分析で、「ロシアは、ロシアが占領した地域の住民に基本的な公共サービスをなかなか提供できずにいる。安全な飲料水は安定して手に入らず、電話やインターネット・サービスの大々的な寸断も続いている」と指摘。その上で、ヘルソンでは医薬品の不足がおそらく深刻で、マリウポリでは大規模なコレラ発生の危険がある。個別のコレラ感染症例はすでに5月から報告されている」と述べた。
「ウクライナは1995年にコレラの大規模感染が起きており、その後も小規模な集団感染を経験している。特にアゾフ海沿岸の周辺での発生が多く、マリウポリもここに含まれる。マリウポリの医療サービスはおそらくすでにほとんど破綻しており、マリウポリで大規模なコレラ感染が起きれば、事態はさらに悪化する」と、同省は懸念を示している。
国連によると、マリウポリでは市内のインフラの大半が破壊もしくは損傷し、飲料水や生活用水に下水が混ざりこんでいる。赤十字国際委員会(ICRC)も、衛生インフラの破壊によって、水系感染症の拡大リスクが高まったと警告している。
マリウポリ市議会もこれまでに、コレラの集団感染が起きれば、数万人が犠牲になる恐れがあると警告。医薬品や医療施設の不足などが「爆発的」な大規模感染の要因になり得るとしている。
コレラは通常、コレラ菌に汚染された食べ物や水を口にしたことから感染する。下水道の破壊やごみの未回収などによる衛生状態の悪化が、発生につながることが多い。回収されない遺体が放置されていれば、それも感染源になる。
重症者は激しい下痢によって重度の脱水状態になるため、輸液と抗生物質による手当てが急ぎ必要になる。軽症や無症状で済む場合もあるが、感染者の便にはコレラ菌が含まれるため、感染源になる。
マリウポリのウクライナ側の市長、ヴァディム・ボイチェンコ氏はBBCウクライナ語に、「コレラや赤痢といった感染症がすでに市内で発生している」と話し、感染拡大を防ぐためにすでに市街地を封鎖したと述べた。
「(ロシア軍は)この街の感染症病院を破壊し、医療器具を破壊し、医師たちを殺した」とBBCに話した。
ボイチェンコ氏の話す内容をBBCは独自に検証できていない。ロシア政府が任命した市長は、市内で定期的な検査を繰り返しているが、コレラの発生は報告されていないとしている。
ウクライナ保健省は、マリウポリの状況について十分な情報が得られていないものの、ウクライナ統治地域で行った検査では、症例が見つかっていないと説明している。
別のウクライナ人マリウポリ当局者も今月8日に通信アプリ「テレグラム」で、市内では「壊滅的」に医療従事者が不足しており、ロシア任命の市当局は、引退した医師たちに現場復帰を促していると書いた。80歳以上の元医師たちも、その対象になっているという。
劣悪な衛生状況
南東部の要衝マリウポリは3カ月近いロシアの徹底攻撃の末に、ロシアに制圧された。破壊されつくした市内では今や、衛生状況が劣悪な状態になっているとされる。破壊された建物のがれきなどがそのまま残り、その下には遺体も残されているという。
首都キーウに住むアナスタシア・ゾロタロヴァさんはBBCに、「地面や建物の中にたくさんの遺体が残されて、そのまま腐っている。ゴキブリやハエが大量にいる。誰も回収しないごみも放置されている」とマリウポリの様子を話した。ゾロタロヴァさんの母親は今月初めにマリウポリを脱出したという。
ボイチェンコ市長は4月の時点で、すでに1万人以上の市民が死亡したと話していた。その後も激戦は続いたため、死者数はさらに増えているおそれがある。
ボイチェンコ氏によると、市街地の周辺ににわか仕立ての墓地が作られたほか、多くの犠牲者が民家の裏庭や公園や広場に埋められている。
対照的に、ロシアが制圧後に任命した今のマリウポリ当局は、学校に戻る子供たちやごみ回収車の写真などをソーシャルメディアに投稿し、正常な日常生活が戻りつつあると強調している。
●ロシア、残骸下の遺体無視し多数の高層アパート解体 マリウポリ 6/11
ロシア軍が占領するウクライナ南東部マリウポリのボイチェンコ市長は10日、ロシア軍ががれきの下に埋もれている数百人規模の住民らの遺体に留意することなどなく、市内で1300棟もの高層アパートを取り壊したと報告した。
市外へ退避している市長はSNS「テレグラム」上で、マリウポリに残る市民らの証言として、ロシア側は当初、残骸を処理する際、住民を関与させていたと説明。だが、がれきの下で見つかる遺体の数を知ると、市民を現場から即座に排除するようになったという。
取り壊されたほぼ全ての住宅棟の下には50〜100人の住民の遺体があるとも主張。ビルの解体などは無差別に進められたため、戦闘に巻き込まれて死亡した住民の遺体はコンクリート片のがれきと共に処理場へ運ばれたともした。
ボイチェンコ市長の顧問は先月25日、CNNの取材に、市政当局者の見方として侵攻が起きた3カ月間で殺された市民は少なくとも2万2000人と明かしていた。
同市長は10日、実際の人数は市側が報告したよりかなり多い可能性があると述べた。ウクライナ大統領府は数万人規模とみている。  
●「プーチンはヒトラーより恐ろしい人間になる」 スパイに毒殺された夫は警告  6/11
犯罪直訴しても何の関心も示さず
「夫の警告が何を意味していたか。今、誰の目にも明らかになった」
ロシアのウクライナ侵攻から約3カ月がたった先月、ロンドンのカフェでマリーナ・リトビネンコ(59)は悔しさを隠さなかった。「夫は毒殺される直前まで、プーチンがいかに危険かを警告していた。『ヒトラーより恐ろしい人間になる。戦争を始めて100万単位の人が死ぬだろう』と」
夫のアレクサンドル・リトビネンコは、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむ連邦保安局(FSB)の職員だった。43歳だった2006年、亡命先の英国で放射性物質ポロニウムによって毒殺された。英当局は実行犯2人を特定し、調査報告書で「殺害はFSBの指令の下、おそらくプーチンによって承認された」と結論付けた。
リトビネンコの人生は、何度もプーチンと交錯している。中佐だった1998年、FSB長官になったばかりのプーチンに、犯罪行為を上司に指示されたと直訴した。しかしプーチンは何の関心も示さず、追い込まれたリトビネンコは記者会見を開いて「上司に複数の人物の暗殺を命じられた」と告発した。
その後に逮捕、収監され、亡命を余儀なくされた。マリーナは「逮捕はプーチンの指示だった」と確信する。リトビネンコに「青白くて無口」という印象を残した当時40代のプーチンは、わずか2年後に大統領に登りつめた。
プーチン氏を選んだロシア特有の「システム」
「プーチンがシステムをつくったというより、システムがプーチンを選んだ」
マリーナによると、リトビネンコは、プーチンを生み出したロシア特有の権力構造を「システム」と呼んで恐れていた。「夫はこのシステムが危険だと訴えたが、誰も信じなかった」
システムとは、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身者が中心となり、治安当局と犯罪組織、政治家、闇の資金が絡んだ複合体を指す。1991年のソ連崩壊とともにKGBは解体されたはずだが、マリーナは「(KGB出身者は)企業や政治家と協力しながら力を取り戻し、再び全てを掌握した」と指摘する。
KGB出身の政治家プーチンはシステムにとって好都合な存在だ。システムは、ロシア第2の都市、サンクトペテルブルクの副市長で同市の犯罪組織も掌握していたプーチンを中央政界に押し上げる。98年にはFSB長官に就任。そしてリトビネンコと対面する。
マリーナによると、リトビネンコは当初、無名だったプーチンをそれほど警戒していなかった。しかしプーチンに不正を直訴した後、自宅で盗聴器がみつかった。「夫はシステムを甘く見ていたことに気づいた」
テロを自作自演したチェチェン侵攻を告発
リトビネンコは英国に逃れたが、再びプーチンの虎の尾を踏む。FSB=システムがテロを自作自演してチェチェン侵攻を正当化し、無名のプーチンを大統領に押し上げたと告発したのだ。一連のテロでは300人以上が犠牲となり、人々は強い指導者として登場したプーチンを熱狂的に支持した。毒殺はこの告発が引き金になったとみられる。
リトビネンコの警告は、ロシア資金への依存を深める世界にも向けられていた。特に英政界にはプーチンとつながりの深い新興財閥オリガルヒの資金が流入してきた。マリーナは「プーチンは民主主義者や改革者のふりをして、多くの投資を呼び込んで原油ビジネスを成長させた。でもプーチンが民主主義者だったことはない」と断言する。
マリーナによると、プロパガンダの浸透したロシア国内ではウクライナ侵攻の正しい戦況は伝えられていない。8割近い国民が侵攻を支持しているが、西側の制裁で経済状況が悪化し、戦死者も増えつつある。マリーナは「人々は政府の言葉がうそだと気づくだろう。いずれプーチン政権は崩壊する」と予言する。
親族を平気でプロパガンダに使うロシア政府「私は操られない」
リトビネンコは生前、「僕たちは必ずロシアに帰るよ」とマリーナに話していたという。しかし帰国は実現していない。マリーナが、ロシア政府のプロパガンダに利用されることを恐れているためだ。
実はリトビネンコの父は18年、息子の暗殺事件後に国会議員となった人物と並び、テレビ出演したことがある。英当局はこの人物を暗殺容疑者と特定しているが、父はこれを「デマ」と主張する西側批判に利用された。「親族をプロパガンダに使うのはKGBの常とう手段だ。私は彼らに操られたくない」と話す。
「夫はずっと、人々を助けることが自分の義務だと思っていた。だからこそ、暗殺を指示された時に拒否し、告発を決意した」。マリーナは正義感の強かった夫について語る。「西側はロシアとのつながりを断ち切り、もっと圧力をかけてロシアを孤立させるべきだ。私たちの財布が少し痛んでも、ウクライナの人々が命を失っている痛みの方がもっと強い」と訴える。
「今、夫が生きていたら、もっと多くのことができたと思う」と最愛の夫の不在をさみしく思いながら、「私は彼の小さな代わりでしかないが、私にできることをしていきたい」と前を見つめた。
●迫るプーチン大統領辞任のカウントダウン…攻勢強めるロシアが停戦交渉再開 6/11
やはり、一刻も早く停戦したいのではないか。ロシアのラブロフ外相は8日、訪問先のトルコでチャブシオール外相と会談。共同通信によると、会談後の会見で、ラブロフは「停戦交渉」の再開に応じるようウクライナ側に求めたという。ロシア側はウクライナ東部で攻勢を強める一方、早めに戦争を終結したい事情があるようだ。
ロシア外務省は外相会談の前日、「ラブロフ外相はトルコ訪問中に停戦交渉の再開について話し合う」と発表。事前に交渉再開に前向きな姿勢を見せていた。
トルコ側もチャブシオール外相が会談後、ウクライナとロシアの指導者レベルの会談を主催したいと、仲介への意欲を重ねて強調。トルコが間に入り、ロシアが盛んに停戦を呼びかけている格好だ。
ロシアが停戦に動いているのは、プーチン大統領に異変が起きているからではないか──という見方が出ている。
その傍証のひとつが、プーチン大統領が毎年6月に開催している国民との「直接対話」を延期したことだ。一体、なぜ延期したのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう解説する。
「直接対話を行えば、軍事作戦に対するロシア国民の不満が噴出し、長丁場になるでしょう。重病ともいわれるプーチン大統領は、体力の限界を迎えつつあるのかもしれません。そんな折、メドベージェフ前大統領がSNSを通じ『ロシアの敵を殲滅する』と訴え、指導者のような振る舞いを見せた。ポスト・プーチンは私だと言わんばかりの言動は、今までのプーチン政権下では考えられなかったことです。それだけ政権が弱体化しているということでしょう。プーチン大統領は国民との直接対話を行わずに、辞任するのではないか。辞める前に『特別軍事作戦の終了』を宣言するにあたって戦果を国民に示す必要があるため、戦況が優勢なうちに停戦交渉の再開へ前のめりになっているのだと考えられます」
政権交代で国民の不満爆発
実際、ロシア国内では、内務省が政権交代を控えているかのような動きを見せている。
ロシア国営のタス通信(7日付)によると、内務省は「戒厳令」の実施を強化するため、新たな部局を設置。新部局は国家緊急事態や対テロ作戦が宣言された場合に治安部隊を指揮し、内務省の建物をテロ攻撃から防ぐなどの役割を担うという。
新部局の新設について、ロシアのペスコフ報道官は「現在の需要を反映したもの」と説明し、内務省の報道官は「部隊強化に資する」と主張。このタイミングで戒厳令をチラつかせるのも気になる。
「プーチン大統領が辞任するとなると、辞めると同時に大統領代行を指名しなければなりません。誰が代行になるにせよ、政権の移行時は混乱が起こりやすい。しかも、経済制裁で部品が入ってこないため、自動車工場が閉鎖されたり、昨年比11%減といわれる歳入の穴埋めとして増税の可能性が取り沙汰されたり、国民の不満はかなりたまっているはずです。だから政権交代の大混乱を抑えるために、内務省は権限を強化しているのでしょう」(中村逸郎氏)
プーチン大統領は「血液のがん」に侵されているともいわれている。政権を放り出す前に、形だけの「勝利」を得ようと必死なのか。
●ウクライナ東部で攻防続く 穀物輸出できず食糧危機懸念高まる  6/11
ウクライナでは東部で一進一退の攻防が続く一方、南部の黒海に面する港では、穀物が輸出できず世界的な食糧危機への懸念が高まっていて、国連のWFP=世界食糧計画は「今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と危機感を強めています。
ウクライナ東部で攻撃を続けるロシア軍は、10日も激戦地となっているルハンシク州のセベロドネツクに地上部隊を送り込みましたが、ウクライナ側の激しい抵抗にあい、一進一退の攻防が続いています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、東部の戦況について「ドンバスで非常に激しい戦闘が続いている。ウクライナ軍は占領者の攻勢を阻むためあらゆる手段を講じている」と述べ、欧米各国に軍事支援の継続を訴えました。
一方、ウクライナ軍の報道官は10日、ロシア海軍の動きについて、黒海の北西部でウクライナの船舶の航行を妨害しているなどと説明しました。
ウクライナ南部の港湾都市、オデーサのトゥルハノフ市長は10日、NHKのインタビューで、港がロシア軍に封鎖され、穀物が輸出できない状況だとしたうえで「ロシアの艦船が黒海に展開していることは、オデーサが危険地帯であり、攻撃が行われる可能性があるということだ」と述べ、ロシア軍の攻撃に備えることが最優先だと強調しました。
そのうえで、状況を打開するには、NATO=北大西洋条約機構が艦船を派遣して防衛にあたるか、ロシア側からオデーサの安全について確約を得なければならないとしたうえで「それが早ければ早いほど、ウクライナの穀物輸出の再開も早くなるだろう」と述べ、国際社会に支援を訴えました。
ウクライナからの穀物の輸出をめぐって、国連のWFP=世界食糧計画のビーズリー事務局長は8日、SNSに投稿した動画の中で「ウクライナは世界の重要な穀倉地帯だが、市場から消えたことで国境を越えて影響が広がり、食料不足や価格の高騰などがアフリカや中東などで起きている」と述べ、具体的に小麦や小麦粉の値段は、レバノンで47%、リビアで15%、上昇していると指摘しました。
そのうえで「今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と述べ、黒海の港からの輸出の再開や国際社会による資金支援などが必要だと訴えました。
●ロシア当局が墓を大量購入 ウクライナ戦争で兵士4.2万人が行方不明… 6/11
ロシア国内で戦死者の埋葬が急ピッチで進んでいる。ロシア語メディア「メディアゾナ」の独自集計によると、ウクライナ戦争で亡くなったロシア兵は少なくとも2099人(5月6日時点)。相次ぐ戦死に、ロシアの地元当局は慌てているようだ。
クレムリン(大統領府)は3月にロシア兵の戦死者が1351人に上ると発表したきり、更新していない。正確な数字は不明だが、モスクワ・タイムズ(6日付)によると、〈(ロシアの)地元当局は“異常な”ペースで新たな墓を購入している〉という。
記事によれば、極東ハバロフスク当局は業者に約700基の墓を用意するよう指示。同様の契約を結んだ5年前は、当局からの発注は120基だった。「プーチンの戦争」が要因で、大量の墓が必要になっている可能性が高い。
「ロシアでは、墓は基本的に個人単位で入るものです。ソ連時代は共産党が墓の面倒を見ていました。市民は生前、地区委員会に『両親の横に埋めて欲しい』などと伝えていたそうです。その名残で、現在も地元当局が墓専用のエリアを決め、管理しています。ウクライナ戦争で行方不明になっているといわれるロシア兵は、約4万2000人。うち戦死者は、かなりの数に上ると予想されます。当局が墓を大量に用意しているのは、想像以上に戦死者が出ているからでしょう」(筑波大名誉教授の中村逸郎氏=ロシア政治)
メディアゾナによれば、年齢が分かっている戦死者のうち、21〜23歳の割合が最も多い。20歳未満も74人含まれている。
プーチン大統領は若者を死地に追いやる一方、9日に開かれた若手実業家との対話集会で「(領土を)取り戻し強化することは、我々の責務だ」と軍事侵攻を正当化。「今後10年で生活の質は向上する」などと熱弁を振るっていた。
「プーチン大統領の発言は、裏を返せば『今後10年は我慢しろ』ということ。未来ある若者に身もフタもない失言をしてしまうほど、ロシア国内の経済状況は、ボロボロなのでしょう。ロシアのニュース番組では、『今後10年──』の発言がカットされていました。つい本音が出てしまったのだと思います」(中村逸郎氏)
若者は前線に送られて無言の帰宅か、生きて帰ってきても「今後10年」の我慢を強いられる。「プーチンの戦争」は、とことん罪深い。
●ウクライナ国防省「ロシアはあと1年戦争継続できる」 6/11
ウクライナ国防省は10日、ロシアは経済的にあと1年は戦争を継続できるとの見方を明らかにした。欧米諸国は制裁でロシアの侵攻継続を難しくする狙いだが、プーチン大統領の判断に影響を及ぼすまでには時間がかかると推測した。
SNS(交流サイト)で表明した。ロシア軍は精度の低い巡航ミサイルを使うなど消耗の大きさを示す兆候もあるが、東部の制圧に向けて勢いを緩めていない。ロシア国内では制裁の影響で住宅ローンの利用件数や自動車販売台数が減少する一方、インフレには一服感がある。
ウクライナ国防省幹部は「ロシア軍はウクライナ軍に比べて10〜15倍の数の大砲を持っている。(今後の戦況は)欧米諸国がどれだけ武器を供与するかにかかっている」と述べた。東部ではロシア軍が規模で圧倒しており、ウクライナ軍は劣勢に立たされているとみられる。
フランス大統領府は10日、ウクライナの穀物輸出をロシアが妨げていることに対し、黒海を経由した輸出に協力する用意があると表明した。ウクライナは、現状のままでは世界に食料危機を引き起こすとして、国連にも調整を依頼している。英国なども海軍の派遣を検討している。
ただロシアは穀物輸出を認める代わりに対ロ制裁を解除させようとしており、輸出の見通しは立っていない。陸路での輸出は年単位の時間がかかるため、現実的ではないとされる。
ロシアは10日、国連世界観光機関(UNWTO)からの脱退を正式に決めた。欧州メディアが伝えた。UNWTOは4月、ロシアが「経済発展、国際理解、平和に貢献しながら観光を促進、発展させる」と定めた規則に違反したとして、加盟資格を停止していた。国際会議やスポーツの世界大会からも排除されるなど、ロシアの孤立が進んでいる。
●ウクライナ戦争はキューバ危機の交渉力を生かせるか 6/11
2022年もそろそろ折り返しだが、今年前半の最も大きなニュースは、ロシアによるウクライナ侵攻であろう(以下、ウクライナ危機)。2月24日に侵攻が開始され、本稿執筆時点で(6月10日)もなお戦闘が続いている。激しい戦闘の様子や荒廃した町の様子がSNS上で拡散され、日本や欧米諸国では、ウクライナを支援する動きが広がりを見せている。
プーチン大統領が進めていた交渉の「禁じ手」
2022年に入ってから、ロシアがウクライナとの国境付近において兵士を増強させており、ウクライナに侵攻するのではないか、というニュースが入ってきた。筆者はこのニュースを聞いた時、ロシアは「エスカレーション・アンド・ネゴシエーション(Escalation & Negotiation)」を行っているのではないか、と考えた。
これは、米国の政治学者、ウィリアム・ザートマン教授らが唱えた考え方で、「エスカレーション」とは、軍事行動などで対立の程度が増大することを指す。一方「ネゴシエーション」とは、交渉によって対立の程度が縮小することを指している。すなわち、「エスカレーション・アンド・ネゴシエーション」とは、対立の大きくなるベクトルと小さくなるベクトルが並存している状態を意味している。
ウクライナ危機で言えば、プーチン大統領は、ウクライナ国境付近で軍備増強を行い、ウクライナとの緊張関係を高めることで「エスカレーション」を図った。しかし、それによって同時に「ネゴシエーション」を行おうとしたのではないか、ということである。プーチン大統領は、ウクライナを交渉のテーブルにつかせ、ロシアにとって最も有利な譲歩を迫ろうとしていたのではないか。
もちろん、このような一方的な手法は「脅し」であり、全く評価できるものではなく、交渉学一般にも「禁じ手」である。その後、ウクライナに対して軍事侵攻している事実を見れば、交渉だけではプーチン大統領が思い描いていた結果は得られないと判断したのだろう 。
プーチン大統領の対応を分析する上で、交渉学は非常に重要な意味をもつ。それは、「NEGOTIATING with Putin」のような番組でも紹介されており、主催するハーバード大学のジェームズ・K・セベニウス氏とロバート・H・ムヌーキン氏は、いずれも世界で名だたる交渉学の大家である。番組では、プーチン大統領との交渉経験を有する歴代の米国務長官が出演し、実際にどのような交渉が行われたのかが語られ、その交渉手法からプーチン大統領の人間性を探るという非常に有益な内容になっている。
キューバ危機から学ぶ危機回避の交渉
過去には、今回のウクライナ危機と同様の緊迫した状況の中で見事に戦争を回避した事例がある。今から60年前のキューバ危機である。
当時はいわゆる東西冷戦の最中であり、米国とソ連の対立が続いていた。そうした中でソ連が、地理的に米国に近いキューバにおいて、核ミサイルの施設を建設していることが発覚し、両国間の緊張は一気に高まった。さらに、米軍のキューバ偵察機がソ連の地対空ミサイルに撃墜され、事態は一層悪化し、第三次世界大戦の勃発を予想する人々が少なからず現れた。この戦争前夜の危機的状況から、ジョン・F・ケネディ米国大統領は、弟で司法長官のロバート・ケネディらと共に、見事に平和的な解決を見出すことができたのである。
この解決法は、交渉学の観点から極めて重要な要素が盛り込まれたものだった。また、それらの要素は国家間対立だけでなく、普段の私たちの生活やビジネス活動においても不可欠の要素であるため、今回それをご紹介したい。
結論から書くと、交渉学的には、ケネディ兄弟は「アプリシエーション」を貫いた、と評価できる。アプリシエーションとは、日本語で言えば「価値理解」である。
ハーバード大学交渉学研究所の創設者であり、筆者がハーバード・ロー・スクールで師事した故ロジャー・フィッシャー教授は、相手に対するこの「価値理解」が交渉において最も重要な要素の一つであると説いた。自分の論理(考え方)だけが正しいと主張するのではなく、「私もあなたの立場であれば、同じように考えると思います」と相手の考え方に敬意を表することである。
ただし、相手の考え方を受け入れる「譲歩」とは異なる点に注意を要する。あくまでも、相手の考えを尊重し、理解しようと努めている姿勢を示すことを意味している。これは、交渉学のもう一つの重要な要素である「傾聴力」の理念とも一致し、相手の考えを知ることこそが交渉におけるファーストステップとなる。
この価値理解について、より身近な例で考えてみたい。
営業ノルマに追われる上司と部下なら
新人であるあなたは、営業部長である上司の下で働いている。上司は営業ノルマに日々追われていて、イライラしていることが多い。ある日、あなたは上司に呼び出され、「今月の売り上げ目標、君は達成できていないじゃないか」と怒鳴られた。自分としては、売り上げ目標自体が理不尽であり、目標の半分を達成するだけで精一杯だと思っている。
このような状況にあるとき、あなたならどうするだろうか。
「こんな無茶な売り上げ目標を立てられても無理です!」と興奮しながら上司に言うだろうか。多くの人は、「上司はいつもこんなものだ。自分が言ったところで変えられない」という具合に考え、あえて声を上げることなく不満を抱いたまま、黙って無理な目標に向けて活動を行うのではないか。しかしそれでは、組織にとってもあなたにとっても悪循環で、決していい結果を生み出すことはない。
ここで重要なのが、あなたと上司との「価値理解」である。とはいえ、こんなにも双方の思いや立場がかけ離れている中で、どうすれば価値理解ができるのだろうか。最初の言葉を間違えてしまうと、上司との対立関係に陥ってしまい、望んでいた方向とは逆の道へ進んでしまうことになる。
まずは相手の行いに対して敬意を示すことを忘れてはならない。例えば、「いつも私たちの部署のために考えてくださりありがとうございます。今月の売り上げ目標について、営業成績を上げるために何が必要なのかをもう少しお話ししていただけませんか?」と話し始めたらどうだろうか。ただ売り上げ目標を立てるのではなく、目標を実現するためのさまざまな具体的選択肢を考えて営業努力するように上司と話し合うことができれば、互いの価値理解が進み、自分たちの本当のミッションが見えてくる。
「対立」から「協働」への移行
上司を尊重しつつ、さらに、自分の意見を展開することも容易になる。対立せずに話し合うことで、上司との関係が、「対立」から「協働」に移行し、「立てた目標を達成する」という利害を一致させることが可能になる。
この一連のアプリシエーション(価値理解)については、否定的な言葉ではなく肯定的な言葉でコミュニケーションをとる「ポジティブ・フレーミング」が重要な鍵を握る。先ほど紹介したように、感謝の言葉で始めれば、上司は自分の話に耳を傾けてくれるだろう。
「〇〇のところが私の理解が悪く腑に落ちないので、もう少し詳しく教えて頂けないでしょうか」というように話せば、上司からこれまでの経験に基づくコツなどを聞くことができるかもしれない。相手を否定したり刺激したりすることなく、より詳しく聞いてみたいという前向きな姿勢で臨むことが、あるべきコミュニケーションの一つの形だと筆者は考えている。
互いの脅威を知った上での解決策
話をキューバ危機に戻すと、ケネディ兄弟はこれらのことを見事に実践した。瀬戸際戦略を行っていたかのように思われることも多いが、これは交渉学的には「禁じ手」で、破滅的な結果を生み出しかねない。しかし、ケネディ兄弟はその危険性を理解していたのか、実際には瀬戸際戦略ではなく、価値理解を意識した交渉を行っていた。米軍機がソ連に撃ち落とされた段階ですぐに反撃に出るのではなく、まずはソ連がなぜそのようなことをするのかを分析することに注力したのだ。
具体的には、ロバート司法長官はソ連のドブルイニン大使と非公式に会談した。この会談によって、双方が相手の「真意を確認」することができたと言われている。すなわち、米国にとってソ連によるキューバの核ミサイル配備が脅威であるのと同じように、トルコに米国(NATO側)が配備しているジュピター・ミサイルはソ連にとって脅威だったのである。まさにこれは、アプリシエーション(価値理解)の実践によって見えてきた事実だと言える。
さらに、「これ以上の事態悪化に至れば戦争に突入する」と主張して強硬姿勢を見せた一方で、キューバのミサイルを撤去してくれれば、米国もトルコに配備しているジュピター・ミサイルを撤去する、という柔軟な姿勢も見せた。うまくバランスを取った交渉の結果、両国間で互いに満足のいく道筋を見出せたことが大きな要因となり、第三次世界大戦の勃発を回避することができたのである。
このキューバ危機で行われたようなアプリシエーションを重視したコミュニケーションが国際社会とプーチン大統領の間で行われ、一刻も早く軍事行動が収束し、交渉による問題解決がなされることを願ってやまない。
●ウクライナ東部で激しい市街戦 “支援”打ち切りに母娘は ポーランドに避難 6/11
ロシア軍の侵攻開始から、およそ3カ月半。ウクライナ東部では依然、激しい市街戦が続いている。そうした中、ウクライナから隣国に避難していた人たちも、今、大きな岐路に立たされている。ポーランドで支援する人たちへの援助打ち切りを前に、自立を目指すウクライナ人の母と娘を取材した。
街のあちらこちらから黒い煙が上がるウクライナ東部の要衝・セベロドネツク。ロシア側は、東部最後の拠点とされるこの都市の6月10日までの制圧を目指し、戦力を投入してきたが、ウクライナ側の激しい抵抗が続いている。地元の知事は、SNSに「ロシア軍は、制圧の目標を10日から22日に延期した」との見方を投稿した。
ゼレンスキー大統領も、SNSで「ロシアはドンバス地方のすべての都市を破壊しようとしている。“すべての”というのは誇張ではない」と投稿した。
そうした中、国外に避難したウクライナ市民も今、大きな岐路に立たされている。ウクライナ南部のヘルソンから母親と一緒にポーランドに避難している、マーシャ・アロネッツさん(10)。マーシャさんは、ウクライナの大会で優勝経験もあるフィギュアスケートの選手。3月下旬から、ポーランド北部の都市・トルンで、日本人の藤田泉さんの住宅に身を寄せている。
藤田泉さん「娘とも話し合って、家に受け入れようということになった」
藤田さんは、スケート靴を持ってこられなかったマーシャさんのために義援金を募り、新しい靴をプレゼントした。
ポーランドでは、ウクライナからの避難者に住居を提供する市民に、避難民1人あたり1日およそ1,200円を支給する支援策を行っている。ところが、軍事侵攻からすでに100日が過ぎ、ポーランド政府は、120日以上は給付金を支給しないことを決めた。
この日、藤田さんの車に、スーツケースや段ボールを載せるマーシャさん親子の姿が。自立するため、アパートに引っ越すことを決めた。新しい部屋に大喜びのマーシャさん。一方、母・カティアさんは、「ここには長く住みたくない。早くウクライナに帰りたいです」と語った。ヘルソンに残っている夫に電話し、引っ越しの報告をしたカティアさん。
カティアさんの夫「そういえば、ウクライナの通貨とロシア通貨の2つの値札が出されると聞いた」
カティアさん「ルーブルとフリブナでね」
ヘルソンは、ロシア軍に制圧され、急速にロシア化が進められているという。
カティアさん「家の窓がなくても、ウクライナに帰っている人もいます。しかし、わたしの故郷は占領されていて、住民は出ることも入ることもできません。いまの予定は生き残ること、そして、生き延びるための仕事を見つけることです」
帰国するか、それとも避難先で自立するか。二者択一が迫られているウクライナの避難民。故郷で安全に暮らせる日は、いつになるのだろうか。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 6/11
イギリスが戦況分析「ロシアは高精度のミサイル不足」
イギリス国防省は11日に公表した戦況分析で「セベロドネツク周辺のロシア軍は10日現在、市の南部には前進していない。激しい市街戦で、双方に多数の死傷者が出ているもようだ」と指摘しました。またロシア軍が使うミサイルについて「4月以降、ロシアの爆撃機は1960年代の対艦ミサイルを数十発、地上の標的に向けて発射したようだ。通常弾頭を使って地上を攻撃すると、精度が非常に低くなり、重大な巻き添えの被害や民間人の死傷者が出るおそれがある」としています。そのうえで「ロシアがこのような効果的ではない兵器を当てにするのは、より精度の高い攻撃ができる現代的なミサイルが不足しているためだろう」と分析しています。
穀物輸出できず 食糧危機懸念高まる
ウクライナ南部の港湾都市、オデーサのトゥルハノフ市長は10日、NHKのインタビューで、港がロシア軍に封鎖され、穀物が輸出できない状況だとしたうえで「ロシアの艦船が黒海に展開していることは、オデーサが危険地帯であり、攻撃が行われる可能性があるということだ」と述べ、ロシア軍の攻撃に備えることが最優先だと強調しました。国連のWFP=世界食糧計画のビーズリー事務局長は8日、SNSに投稿した動画の中で「ウクライナは世界の重要な穀倉地帯だが、市場から消えたことで国境を越えて影響が広がり、食料不足や価格の高騰などがアフリカや中東などで起きている」と述べ、具体的に小麦や小麦粉の値段は、レバノンで47%、リビアで15%、上昇していると指摘しました。そのうえで「今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と述べ、黒海の港からの輸出の再開や国際社会による資金支援などが必要だと訴えました。
WFP事務局長「新たに4700万人が深刻な飢餓に陥る可能性」
国連のWFP=世界食糧計画のビーズリー事務局長は、8日にSNSに投稿した動画の中で「ウクライナは世界の重要な穀倉地帯であり、4億人以上に十分な食料を供給している。しかし市場から消えたことで国境を越えて影響が広がり、食料不足や価格の高騰などがアフリカや中東、地中海周辺の国で起きている」と述べ、具体的に小麦や小麦粉の値段は、レバノンで47%、リビアで15%、パレスチナで14%上昇していると指摘しました。そのうえで「私たちの分析では、ウクライナでの戦争によって世界で新たに4700万人が深刻な飢餓に陥るだろう。ここ数週間の間でも、ペルーやパキスタン、インドネシア、スリランカで食料の価格上昇を引き金に社会不安が起きている。今すぐ行動をしないと大きな代償を払うことになる」と述べ、黒海の港からの輸出の再開や国際社会による資金支援などが必要だと訴えました。
ロシア黒海艦隊に巡航ミサイル搭載の潜水艦
ウクライナ軍の報道官は10日、SNSに投稿した動画で「ロシアの黒海艦隊に、巡航ミサイルを積んだ潜水艦1隻が新たに加わった。ウクライナは、40発もの巡航ミサイルが撃ち込まれる脅威にさらされている」と述べ、ロシア海軍の動きに警戒感を示しました。ウクライナ軍によりますと、ロシア海軍は、黒海の北西部でウクライナの船舶の航行を妨害しているほか揚陸艇1隻を配置しているということで、引き続き、海上での優勢を確保するねらいがあるとみられます。また、ウクライナ南部に侵攻したロシア軍の地上部隊の動きについて「一時的に占領した土地や道路、橋などに次々と地雷を仕掛けている」と非難しました。
米 “南部ヘルソン州で約600人が特別な地下室内で拘束の情報”
OSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構を担当するアメリカのカーペンター大使は10日、オンラインによる記者会見で、ウクライナ南部のヘルソン州について「われわれが把握している情報では、およそ600人が特別な地下室に拘束されている。州政府の建物や学校だという詳細な場所の情報もある」と述べロシア軍が、掌握したとされる地域で多くの住民たちを拘束していると指摘しました。そして「拘束されているのは、民主的に選ばれた議員やジャーナリスト、社会活動家、それにロシアの占領に反対する集会に何らかの形で参加したと見なされた人たちだ」と述べ、反対派の抑え込みがねらいだと強調しました。さらに「ロシアの治安機関は威圧や脅迫、拘束、さらには、親族を拉致すると脅したり、賄賂を使ったりして、地方の政治家などを取り込もうとしている」と述べロシアが将来的にこの地域を併合することも視野に、かいらいの行政府をつくろうとしているとして警鐘を鳴らしました。
オデーサの海岸では「注意・地雷」の警告も
南部オデーサでは中心部のいたるところに設置されていたバリケードの多くが、ロシア軍が東部に戦力を集中して以降撤去され、公園で家族連れがくつろぐ姿も目立ちます。ただ「黒海の真珠」と呼ばれる国内有数のリゾート地を訪れる観光客は激減し、多くのホテルや飲食店が営業を停止しています。また市庁舎や劇場の周辺などには土のうが積まれているほか、港や、観光名所として知られる「ポチョムキンの階段」など海に面した地域の多くは住宅がある人以外は立ち入りが禁止され、検問所が設けられています。ウクライナ軍の兵士が警戒にあたり、撮影も厳しく禁じられています。例年、この時期は海水浴客でにぎわうビーチも立ち入りが禁止され、ウクライナ語とロシア語で「注意・地雷」と警告するなど、特に海岸線でウクライナ軍がロシア軍の侵攻に備えて警戒を強めていることがうかがえます。
オデーサの市長 穀物を輸出できない状況に支援訴え
ウクライナ南部の港湾都市オデーサのトゥルハノフ市長が10日、NHKのインタビューに応じ、港がロシア軍によって封鎖され、穀物が輸出できない状況について「穀物を輸入する国々にとって、ウクライナにとって、世界にとって悲劇的な状況だ」と訴えました。そのうえで「ロシアの艦船が黒海に展開していることは、オデーサが危険地帯にあることを示しており、オデーサへの攻撃が行われる可能性がある。船の航行よりもまず、国の安全を確保することに関心を寄せている」と述べ、ロシア軍の攻撃に備えることが最優先だと強調しました。さらに、こうした状況を打開するためには、NATO=北大西洋条約機構が艦船を派遣して防衛にあたるか、ロシア側からオデーサの安全について確約を得なければならないとしたうえで「それが早ければ早いほど、ウクライナの穀物輸出の再開も早くなるだろう」と述べ、国際社会に支援を訴えました。
●「ロシアの火砲15基に対し1基しか…」ウクライナ、重火器不足し東部で劣勢  6/11
ウクライナに侵攻しているロシア軍が全域制圧に向けて戦力を集中的に投入している東部ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)で、ウクライナ軍は重火器の不足から劣勢に立たされている模様だ。ロイター通信によると、ウクライナの大統領府顧問は、開戦以降のウクライナ軍の戦死者が1万人を超えたと認めた。
ウクライナ国防省情報総局の幹部は、英紙ガーディアンが10日に報じたインタビューで、ドンバス地方の戦闘が「砲撃戦になっている」と分析し、「ロシアの火砲10〜15基に対し、ウクライナは1基しかない」と劣勢を認めた。「すべては米欧が提供してくれるものにかかっている」とも語った。
最大の激戦地ルハンスク州の要衝セベロドネツクの状況に関し、州知事は11日、SNSで抗戦継続を強調した。ただ、タス通信によると、露軍の後押しを受ける地元の親露派武装集団トップは11日、ウクライナ軍を化学工業地帯に追い込んだと主張した。一角にある化学工場の地下シェルターには住民約1000人が避難しているとされ、親露派側は退避に向けた協議が始まったとしている。
英国防省は10日、ウクライナ南東部マリウポリでコレラの流行リスクが高まっていると明らかにした。マリウポリの市長は、年末までに1万人が感染死する恐れがあるとして、住民を退避させる人道回廊の設置を国連などに求めている。
●バイデン氏、ゼレンスキーに侵攻可能性警告も…「聞き入れようとせず」 6/11
アメリカのバイデン大統領は10日、ロシアの軍事侵攻前、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、侵攻する可能性を警告したものの「聞き入れようとしなかった」と明らかにしました。
バイデン大統領はロサンゼルスで開いた資金集めの会合の場で、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻前の状況について、「侵攻計画を裏付けるデータを持っていたが、ゼレンスキー大統領や他の多くの人は聞き入れようとしなかった」などと明らかにしたということです。
また、バイデン大統領は、「プーチン氏が国境を越えてくることは疑いの余地がなかった」「多くの人は私が大げさだと思っていたことはわかっている」とも述べたということです。
●ウクライナ大統領は侵攻警告に「聞く耳持たず」 バイデン氏 6/11
ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領は10日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領はロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が侵攻計画を進めているという米国側の警告に「聞く耳を持たなかった」と述べた。
バイデン氏は米ロサンゼルスで開かれた政治資金パーティーで記者団に対し、ロシアがウクライナを攻撃する可能性があると事前に警告していたことに言及し、「多くの人に大げさだと思われていたことは知っている」として、「だが、われわれには(その判断を)裏付けるデータがあった」と述べた。
「(プーチン氏が)ウクライナに侵攻するつもりだったのは明らかだった」とし、「だが、ゼレンスキー氏は聞く耳を持たなかった。多くの人もそうだった」と続けた。
米国は、プーチン氏が2月24日にウクライナへの「特別軍事作戦」の実施を発表するかなり以前から、ロシアが侵攻の準備を進めていると警鐘を鳴らしていた。
しかし、欧州の一部の同盟国からは人騒がせな警告と受け止められ、不信や批判を招いていた。
●ゼレンスキー大統領「力の強い国 なすがままはいけない」  6/11
アジアや欧米の防衛担当の閣僚らが集まる「アジア安全保障会議」で11日、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン形式で演説し、ロシアによる軍事侵攻をめぐり「力の強い国のなすがままにしてはいけない」と述べ、力による現状の変更を許さず、国際秩序を守る重要性を強調しました。
シンガポールで行われていることしの「アジア安全保障会議」では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、主要なテーマの1つになっています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、11日の日本時間の午後5時ごろ、オンライン形式で演説しました。
この中で、ゼレンスキー大統領は「ロシアは隣国が自由に独立して存在することを許さず、ウクライナで多くの人を殺害している」と非難したうえで、「黒海の封鎖により、アフリカやアジアなどで深刻な食糧危機に陥るおそれがある」として、ロシアの侵攻が世界の食料安全保障を脅かしていると指摘しました。
そのうえで、会場に集まったアジア太平洋地域の防衛関係者に対し「財政や装備において力の強い国のなすがままにしてはいけない。もしも外交で解決できる方法があるのであれば、真っ先に行わなければならない」として、力による現状の変更を許さず、国際秩序を守る重要性を強調しました。
そして「ウクライナへの支援は、皆さんの未来の平和のためでもある」と述べ、国際社会に支援を求めたのに対し、参加者からは拍手が送られていました。
●「祖国防衛は義務」 ゼレンスキー氏、出国求める請願に否定的な見解 6/11
ロシアの軍事侵攻を受けたウクライナで18〜60歳の男性の出国が原則禁じられていることを巡り、ゼレンスキー大統領は10日、出国禁止の解除を求める請願に対し、否定的な回答を示した。「祖国の防衛は市民の義務だ」などとしている。
●コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で増える「悪夢障害」 6/11
コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によって「悪夢障害」と称される現象が起きていると海外メディアで報じられた。ジャーナリストの深月ユリア氏がその現象についてまとめ、日本の専門家にも話を聞いた。
新型コロナウイルスやウクライナ戦争などネガティブなニュースが多い世の中で、気持ちの浮き沈みを感じる方もいらっしゃるだろう。そして、ネガティブなニュースは我々が見る夢にも影響を与える。
2年前のニューヨークタイムズ紙(2020年4月13日付)によると、 「コロナウィルス・パンデミック・ドリーム」とも呼ばれる「悪夢障害」に悩む人々が増加した。 同紙によると、Google検索での「why am i having weird dreams lately(なぜ最近変な夢を見るのか)」という検索数が4倍になり、ツイッターでも悪夢に関する投稿が数多く報告されていたそうだ。
ボストン大学医学部神経学の准教授、パトリック・マクナマラ氏のナショナルジオグラフィックなど海外メディアで回答したインタビューによると、コロナ禍の不安や人と会いにくくなった孤独感が影響しているという。
「通常、人は朝目覚めると、夢を覚えていないことが多い」「コロナ禍での孤独感やストレス、運動不足による睡眠の質の低下が悪夢を誘発し、夢を覚えているケースが増えた要因だろう」
実際に仏のリヨン神経科学研究センターの研究によると、コロナ禍で悪夢を見る人が通常より15%増え、夢を覚えている人が35%増えているそうだ。
また、イタリア睡眠医学会の研究によると、イタリアのロックダウン中に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と類似したような悪夢を見る人が増えたという。
コロナ禍のみならず、ウクライナ戦争の惨事報道も視聴者のメンタルヘルスに影響を与える。
「日本トラウマティック・ストレス学会」によると、過去にアメリカ同時多発テロやノルマンディ連続テロ事件、ボストンマラソン爆破事件の映像も一部の人々にとってPTSDの要因となっていたという。
では、「悪夢障害」になった場合、どうすればよいのか?
麻布メンタルクリニックの臨床心理士・公認心理師で、漫画「サイコドクター」のモデルにもなった黒岩貴氏によると、「悪夢の意味を深追いしないこと」が重要だという。
「夢はそのままの形では見ないで象徴的に現れるものにすぎません。 追いかけられる夢は精神的な圧迫がある時の現れですし、 人を殺してしまった夢などは、今から脱皮し次の新しい方向へ行きたいという現れと取れます。また、夢は共通無意識の現れもあります。悪夢は実社会で嫌なことがあった時に流すための練習と捉えてみることもできます」(黒岩氏)
それでも、悪夢が気になる場合はどうすればよいのか。
ハーバード大学の心理学の助教授で「パンデミック・ドリーム」 「トラウマと夢」の著者であるディアドラ・バレット氏によると、「寝る前に夢のシナリオを作る」「イメージリハーサル療法」という方法で見たい夢が見れる確率が50%上がるそうだ。
方法は、頻繁に見ている悪夢の内容を文章に書き出して、さらに自分で望む結末を書き足す。
例えば、殺人鬼に追いかけられている悪夢を連日見ている人は、殺人鬼をウサギや猫など自分が好きな無害な動物に書き換えていく。地下室に閉じ込められている夢なら、窓を空けて羽を生やして自由に飛び立ち、自分自身の意識で「夢のシナリオを作る」。
「夢のシナリオ」が想像できない場合は、寝る時に見たい夢に関連したもの(好きな人の写真、趣味やお気に入りの小物など)を置いて、寝る直前にそれらを眺めながら消灯する。夢は無意識の現れであり、己が創る精神世界でもあるので、ぜひシナリオをつくって「夢の創造主」になってみよう。 

 

●ウクライナ戦争は国際秩序の将来に影響、ゼレンスキー氏が支援訴え 6/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)にオンラインで演説し、ウクライナの戦争の結果は同国のみならず国際秩序の未来に影響を及ぼすと述べた。
ゼレンスキー氏は、欧米やアジアの同盟国からの支援に謝意を示した上で支援の継続が極めて重要と説明。「支援はウクライナだけでなく、あなた方のためでもある。世界の将来のルールは、可能性の境界線とともにウクライナの戦場で決定する」と訴えた。
ロシアが黒海とアゾフ海の港を封鎖し、ウクライナから食料の輸出ができなくなっていると指摘し「ロシアの封鎖で食料を輸出できなければ、世界は深刻な食料危機に直面し、アジアやアフリカの多くの国々で飢饉が発生する」と述べた。
ロシアの行動を商品価格の高騰と直接関連付け、まずエネルギー供給封鎖で価格を高騰させ、食料でも同様な措置を取っていると指摘した。
ウクライナ軍はロシア領に進出する野心を持っていないと説明。「戦争はわれわれの土地で行われていることを忘れないで欲しい。ウクライナの人々が死んでいる。われわれはロシアの領土に行こうとは思っていない」と述べた。
●“最後の拠点”市民数百人避難の化学工場がロシア軍よる砲撃で火災 6/12
ロシア軍との攻防が続くウクライナ東部で「最後の拠点」とされるセベロドネツクの化学工場が攻撃を受け、火災が発生しました。
ウクライナ東部ルハンシク州の知事によりますと、「最後の拠点」とされるセベロドネツクのアゾト化学工場に11日、ロシア軍による砲撃があったということです。
化学工場には市民数百人が避難しているとされています。
冷却器に着弾し、油が漏れたことが原因で大規模な火災が発生したということですが、州知事は化学工場がロシア軍に包囲されているというロシア側の情報は否定しています。
パスポートを交付された市民「とても嬉しい。私の人生における歴史的な瞬間だ」
こうした中、ロシア軍による支配の既成事実化が進む南部では、一部の地元住民にロシアのパスポートが交付されました。
ヘルソン州では、ロシア軍に任命された親ロ派の州知事を含む23人がロシアのパスポートを受け取ったということで、ロシアの国営メディアによると、南部メリトポリでも交付が行われました。
メリトポリの地元当局は、パスポートを交付する施設に毎日数千人が申請のため訪れているとしていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領は「市民は逃亡のためのチケットを手に入れようとしている」として否定しています。
●“最後の拠点”化学工場がロシアの砲撃受け大規模火災 6/12
ロシア軍との攻防が続くウクライナ東部で「最後の拠点」とされるセベロドネツクの化学工場が攻撃を受け、火災が発生しました。
ウクライナ東部ルハンシク州の知事によりますと、「最後の拠点」とされるセベロドネツクのアゾト化学工場に11日、ロシア軍による砲撃があったということです。
化学工場には民間人数百人が避難しているとされていますが、攻撃により漏れ出た油に引火し、大規模な火災が発生したということです。
州知事は、ロシア軍がセベロドネツク攻略のため、一両日中にあらゆる攻勢をかけてくると見込んでいます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、東部ドンバス地方で「持ちこたえている」としたうえで、ロシア軍の死者はこれまでにおよそ3万2000人にのぼっていると主張しました。
ウクライナ政府の高官は、ウクライナ兵士の死者は1万人以上だと明らかにしています。
ところで、ロシアでは12日は主権を宣言したことを祝う祝日で、これにあわせ、北朝鮮の金正恩総書記がプーチン大統領に祝電を送りました。
朝鮮中央通信によると、金総書記は祝電の中で、ロシアの人々がプーチン氏の指導のもと「あらゆる挑戦と難関に果敢に打ち勝って大きな成果を収めている」と賞賛。直接言及していないものの、ウクライナ侵攻をめぐる状況を念頭にしたものとみられます。
●ロシア ウクライナの都市でパスポート発行 支配の既成事実化か  6/12
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナで、新たに南部などの2つの州で住民にロシアのパスポートが発行されました。支配の既成事実化を加速させるねらいがあると見られ、ウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発しています。
ロシアのパスポートが発行されたのは、ロシア軍が事実上支配しているウクライナ南部へルソン州の中心都市へルソンと、南東部ザポリージャ州の都市メリトポリです。
ロシア通信によりますと、へルソンでは申請していた市民23人がパスポートを受け取ったということです。
ロシアのプーチン大統領が2つの州の住民を対象にロシア国籍の取得を簡素化する大統領令に先月署名したことを受けた措置で、パスポートが実際に交付されるのは初めてです。
ただウクライナのメディアによりますと、軍事侵攻後ロシアに連行されたり避難を余儀なくされたりした市民の中には、パスポートの申請書を強制的に書かされたケースも相次いでいるということです。
これに対してウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発を強めていて、11日にはへルソン州議会の副議長が「へルソンの住民はパスポートの交付もロシア国籍の付与も拒否する。ロシア帝国の再興は不可能だということを証明してみせる」とSNSに投稿し、抵抗する構えを強調しました。
プーチン政権はこれまでも東部ドネツク州やルハンシク州で支配地域の住民にパスポートを発行しロシア国籍を与える政策を進めてきましたが、今回新たに2つの州で同様の措置が始まったことで、ウクライナ側はロシアによる支配の既成事実化が加速するのではないかと警戒を強めています。
●ロシアのパスポート発行 ウクライナ政府「重大な主権侵害だ」  6/12
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナで、新たに南部などの2つの州で、住民にロシアのパスポートが発行されました。支配の既成事実化を加速させるねらいがあるとみられ、ウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発しています。
ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部の戦況について、ウクライナの公共放送は11日、ルハンシク州のハイダイ知事の話として、ロシア軍は激戦地となっているセベロドネツクとそのほか9つの地域へ攻撃を加えたとしたうえで「セベロドネツクを攻撃するための拠点の足固めを進めている」と伝えています。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、新たに公開した動画でセベロドネツクについて「激しい市街戦が続いている。敵の進軍をすでに何週間も阻止し、強固な守りを維持しているすべての防衛者を誇りに思う」と述べ、必死に抵抗を続けていることを明らかにしました。
一方、ロシア軍が事実上支配しているウクライナ南部へルソン州の中心都市へルソンと、南東部ザポリージャ州の都市メリトポリでは住民にロシアのパスポートが発行され、ウクライナ政府は「重大な主権侵害だ」と反発しています。
ロシア通信によりますと、このうちへルソンでは市民23人がパスポートを受け取ったということです。
プーチン政権はこれまでも、東部のドネツク州やルハンシク州で支配地域の住民にパスポートを発行し、ロシア国籍を与える政策を進めてきましたが、今回、新たに2つの州で同様の措置が始まったことで、ウクライナ側はロシアによる支配の既成事実化が加速するのではないかと警戒を強めています。
●ウクライナ侵攻 東部で戦闘激化 外交を諦めてはならない 6/12
ウクライナ東部の要衝をめぐる攻防が激化している。東部の完全制圧を目指して攻勢を強めるロシア軍に対し、ウクライナ軍は工業地帯を拠点に抗戦している。被害は拡大の一途だ。侵攻から3カ月半が過ぎた。両軍の死者数は日増しに膨れ上がり、民間人の犠牲が絶えない。地下シェルターに逃げた女性や子どもは命の危険にさらされている。
だが、停戦の道筋は見えてこない。どうすれば出口を探ることができるか。外交努力を続ける以外に方法はない。
イタリアは国連の監視下で前線を非軍事化し、ウクライナの安全について協議を促す停戦案をまとめた。フランスも「仲介役」を担う考えを繰り返し示している。前向きな動きといえる。
一方、和平を急ぐあまり、ウクライナに領土問題で譲歩を迫るのは本末転倒だという指摘がある。侵略したロシアに報酬を与えてはならないという考えだ。
こうした立場をとる米国は、長射程のロケットシステムをウクライナに供与すると発表した。前線の指揮系統を破壊し、補給を断つことができる兵器で、「ウクライナの勝利」を後押しするという。
いずれ停戦に持ち込むとしても、ロシア軍を弱体化させ、ウクライナが優位な状況で交渉できるようにするのが狙いとされる。
懸念されるのは、ウクライナの軍備増強にロシアが警戒感を高め、攻撃の矛先を米欧に向けることだ。欧州全域を巻き込んだ戦争に発展する恐れは否定できない。
緊張が高まる状況だからこそ、冷静さが求められる。
ウクライナ政府によると、ロシア軍の死者数は約3万人に達する。ウクライナでは民間人の犠牲者が4000人を超え、兵士の死者数を上回る。
影響は世界に広がる。食糧不足が深刻化し、エネルギー価格の高騰が続く。アジアやアフリカなどの多くの途上国は窮地に立たされている。
戦闘が長期化すればするほど、人道被害は拡大し、国際経済へのダメージも大きくなる。まず停戦を実現し、その後に和平案を協議する。容易ではないが、合意を探る外交努力を国際社会は諦めてはならない。
●「ロシアの日」金正恩総書記がプーチン大統領に“祝電” 6/12
北朝鮮の金正恩総書記がロシアの独立記念日にあたる「ロシアの日」に向け、プーチン大統領に祝電を送ったと朝鮮労働党の機関紙が伝えました。
12日付の「労働新聞」に掲載された祝電では「プーチン大統領の指導の下、ロシア国民は国の尊厳と安全、発展権を守る正義の偉業実現のために、直面するあらゆる挑戦と難関に果敢に打ち勝ち、大きな成果を収めている」とウクライナ侵攻を示唆し、支持する姿勢を改めて示しています。
そのうえで「朝ロ関係を重んじ、拡大、発展させるのは政府の確固不動の立場」としています。
相次ぐ弾道ミサイル発射などを受け各国では北朝鮮への制裁強化を求める声が多くあるなか、国連安保理で拒否権を持つロシアとの連帯を強める狙いがあるとみられます。
●キム総書記 プーチン大統領に祝電 ロシアに後ろ盾の役割期待か  6/12
北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、ソビエト崩壊によるロシアの誕生を祝う記念日に合わせてプーチン大統領に祝電を送り、ウクライナ侵攻を念頭にロシアへの支持を改めて表明しました。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して国際社会から制裁強化を求める声が上がる中、ロシアに今後も後ろ盾としての役割を期待する思惑もあるとみられます。
12日付けの北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、キム・ジョンウン総書記がソビエト崩壊によるロシアの誕生を祝う「ロシアの日」と呼ばれる記念日に合わせてプーチン大統領に祝電を送ったと伝えました。
キム総書記はロシアによるウクライナへの軍事侵攻を念頭に「プーチン大統領の指導のもと、国の尊厳や安全を守るため、正義の偉業の実現に向けすべての難関に打ち勝っている。わが人民はこれに全面的な支持と声援を送っている」とロシアへの支持を改めて表明しました。
そのうえで「国際的な正義を守り世界の安全を保障するため、両国の戦略的協力がさらに緊密になっていくと確信している」として関係強化に意欲を示しました。
ロシアは先月、国連の安全保障理事会で弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮への制裁決議案に拒否権を行使し反対していて、キム総書記としては今後もロシアに後ろ盾としての役割を期待する思惑もあるとみられます。
●不正を追及した盟友は拷問死 「プーチンは被害者に責任をなすりつける」  6/12
米国出身の投資家ビル・ブラウダー(58)は、ロシア政府の腐敗を暴こうとした盟友を獄死させられ、人権侵害に加わった個人に制裁を科す「マグニツキー法」を世界に広げる社会活動家となった。プーチン政権から命を狙われながらも世界に警鐘を鳴らし続けてきたが、「だれも耳を傾けなかった」と悔やむ。ロシア大統領プーチンの急所は「敗者になることだ」と語り、強硬な対応を呼び掛けた。
「セルゲイは、新しいロシアの希望とも言える存在で、若く理想に燃え、勤勉で正直だった」。ブラウダーは、盟友だったロシアの弁護士セルゲイ・マグニツキーを手放しで称える。ロシア国税当局の2億3000万ドル(約300億円)にのぼる横領疑惑を告発したため2008年にロシア当局に逮捕され、1年にわたる拘束と拷問の末、適切な医療も受けられず非業の死を遂げた。当時37歳。妻と2人の子供を残して。
ブラウダーは1990年代から2000年代初頭にかけ、ロシアで投資ファンドを運営。マグニツキーも携わっていた。投資過程で国有企業の不正を目の当たりにし、告発を始めると、ブラウダーは05年にロシア政府から「安全保障上の脅威」とされ国外退去処分に。マグニツキーは、その後も国ぐるみの不正を追及し続けていた。
「関係者を、必ず正義の前に引きずり出す」。ブラウダーは悲報を受けて妻と話し合い、マグニツキーを死に追い込んだ関係者の責任を追及し続けることを決めた。自身の身に危険が及ぶだろうが、「それが彼に対する私の責務だから」
死んだ盟友の名を冠した制裁法
ロシアのエリート層が不正に手を染める主な動機は金銭で、海外に資産を移していたことに注目。不正蓄財を封じるため、米国の政治家に働き掛けて12年に「マグニツキー法」の成立にこぎつけた。人権侵害に関わった個人を特定し、米国に保有する資産を凍結したり、ドル取引を禁じるといった制裁を科せるようにした。
成立当初の対象国はロシアだけだったが、16年から適用対象は全世界に広がり、米政府は中国による少数民族ウイグル族への弾圧疑惑やミャンマーの軍事政権による市民弾圧などにも適用してきた。同様の法制定は、人権意識の高い欧州など世界34カ国に広がっている。
今回のウクライナへの侵攻に関連して、根拠法はマグニツキー法だけではないが、すでに米国はプーチンを含むロシアの政府関係者や政権を支える新興財閥「オリガルヒ」など数百人に個人制裁を科した。ブラウダーは「プーチン本人への制裁には象徴的な意味合いしかないが、彼の資産を実質的に管理しているオリガルヒにも同時に制裁を加えているので、効果的だ」と語る。
法規制の及ばない中東への資産移転や中国を通じた制裁逃れなど懸念材料もあるが、相次ぐオリガルヒの不審死を巡り「制裁によりロシア国内の資金に余裕がなくなり、小さくなったパイを巡る争いが起きている」と、制裁が一定の効果を上げていると見る。
日本は、先進7カ国(G7)で唯一マグニツキー法がなく、まだ検討段階。外国為替法に基づいてロシア政府高官らに個人制裁を科しているが、人権侵害を理由に制裁を科せるわけではなく、中国やミャンマーへの対応は後手に回る。ブラウダーは「このままでは、日本は人権侵害の加害者の逃げ場になってしまう」として「マグニツキー法を持つ35番目の国になってほしい」と語った。
プーチンの危険性を見誤った世界各国
ただ、日本だけでなく、世界もプーチンの危険性に対する認識は甘かったと感じる。
マグニツキー法成立後の13年、ロシアは欠席裁判でブラウダーと、すでに亡くなっていたマグニツキーの脱税罪を確定させ「プーチンは私を捕らえて殺すと脅し、国際刑事警察機構(ICPO)を悪用して8回も逮捕を要請した」。ICPOは当初から「極めて政治的」として要請を退けてきたが、18年にはスペインで警察当局に一時拘束されたこともあり、常にロシアの脅威にさらされている。
「プーチンは、ひどい罪を犯し、被害者に責任をなすりつける。私の経験は、今回のウクライナ侵攻の縮図だった」と述懐。「この10年間、私はプーチン政権の危険性を叫び続けてきたが、だれも真剣に耳を傾けてこなかった」と、14年のウクライナ南部クリミア半島への侵攻などでのロシアに対する国際社会の甘い対応が今回のウクライナ侵攻を招いたと見る。
どうすればプーチンは止まるのか。ブラウダーは「プーチンの権力の源泉は、国民から強者と認識されることで生まれている」と分析し、敗者に落ちることが最大の急所だと指摘。「もしウクライナで負け、領土からロシア軍が追い出されれば、国民はすぐに彼を追い出すだろう」と語った。
●ウクライナで判明 未来戦争の命運を分けるのは「無人航空機」「衛星通信網」 6/12
無人航空機の歴史をたどる
ウクライナ戦争で、ウクライナ軍を支えているのはトルコ製の攻撃型無人航空機と、スペースXが提供する衛星インターネット通信のスター・リンクと言われている。しかし、実際にはその組み合わせで威力が増している。
無人航空機の開発は昔からあり、第2次世界大戦中にはアメリカが大型爆撃機のB-17を無人化して、ドイツ軍の防御の硬い目標に自爆攻撃をする計画だった。また日本軍もロケット戦闘機「秋水」でこれを無人化して、B-29に体当たり攻撃をする計画だった。ともに当時の誘導技術では十分な性能が期待できないとして、開発は頓挫した。
戦後、無人航空機は戦闘機や地上の対空砲の標的機として開発が進んだ。それまでは、有人機が標的をえい航する形での実験や訓練が主だったが、無人航空機が開発されることで実践的な訓練ができるようになり、多くの国で開発が進んだ。これによって無人航空機の無線誘導の技術が格段に向上した。ちなみに自衛隊も数種類の無人標的機を開発し、使用している。
無人航空機に次の転機が訪れたのは、米軍が開発した「MQ-9 リーパー」の出現だ。リーパーは2007年から運用が開始されたが、衛星通信を使い、アメリカ本土からコントロールして、ヘルファイア対戦車ミサイルや小型誘導弾を利用して、テロ組織やイランの要人の暗殺を決行している。
この機体には偵察などを主な任務とする非武装型も開発され、各国での採用が進んでいる。しかし、この機体も偵察や要人の暗殺などに使われるぐらいで、戦術自体を変えるまでではなかった。
ナゴルノ・カラバフ紛争という「契機」
しかし、それまでの無人航空機の概念を変える活躍が、2020年に起こった。アゼルバイジャンとアルメニアの間のナゴルノ・カラバフ紛争である。両国は1994年までの紛争でアルメニアがアゼルバイジャンから領土を奪い取っていたが、2020年にアゼルバイジャンが失地回復に乗り出す。
両国の紛争は長引くと予想されたが、アゼルバイジャンが導入したイスラエル製の徘徊(はいかい)型自爆無人航空機(IAI製ハロップ)と偵察ロケット、誘導爆弾を使って遠隔操作で攻撃するトルコ製の「TB2」を組み合わせてアルメニア軍を圧倒、短期に勝利することになる。
ステルス性能の高いハロップにより、アルメニア軍のレーダーや対空ミサイル、対空火器を破壊してアルメニア軍の対空能力をまず無力化した後、敵上空をTB2が飛行して見つけた戦車や装甲戦闘車、重砲等を片っ端から破壊した。アゼルバイジャン側の発表によると、その数は戦車250両、戦闘装甲車50台、自走砲17台を含み、アルメニア軍はこの無人航空機の攻撃だけで崩壊したと言っても過言ではなかった。
ナゴルノ・カラバフ紛争での無人航空機の大活躍は「これからの戦場を塗り替える革命的な戦いだった」との評価を生む一方で、「小国同士の紛争なので活躍できたので、超音速戦闘機が無数に飛び交う大規模な戦場では役に立たない」との評価もあった。しかし今回のウクライナ紛争でまたトルコ製のTB2が大活躍して、相手が世界第2位の軍事大国であっても、無人航空機が大活躍できるということが証明された。
ウクライナに力を貸したスター・リンク
電気自動車大手の米テスラの最高経営責任者(CEO)はイーロン・マスクは、宇宙ロケットサービスのスペースXのCEOでもある。そのスペースXが、衛星によるインターネットサービスを提供しているのは、日本ではあまり知らされていない。その衛星インターネットサービスがウクライナ戦争で大活躍をしている。
ロシア軍はウクライナ侵攻前に、インターネットを含む通信網の破壊に乗り出した。具体的には各種の中継基地へのミサイル攻撃や空爆により、地上でのインターネットの利用を不可能にした。ロシアはさらに衛星利用測位システム(GPS)にも妨害をかけた。このためGPSを利用する周辺を飛ぶ民間航空機にも影響は出た。
さらに、ヨーロッパの衛星インターネットサービス「ヴィアサット」にハッキングをかけた。このためウクライナだけでなく、ヴィアサットを利用していたフランスの一部でもインターネットが一切使えない事態となった。ここまでは、電子戦にたけたロシアの一方的勝利とも言える。
この状況にウクライナの情報大臣は、スペースXのCEOのイーロン・マスクに対してスペースXの衛星インターネットサービス、スター・リンクのサービスの開始とハードウエアの提供を申し込んだ。
イーロン・マスクはすぐさまウクライナにおけるスター・リンクの提供を始めるとともに、受信機を大量にウクライナへ送った。このおかげでウクライナ政府の各機関に加えて、ウクライナ軍もインターネットの利用が可能となった。
ロシア軍はこの事態に手をこまねいているだけでなく、スター・リンクへの「電磁波を使った攻撃を実施して」、いったんスター・リンクをダウンさせることに成功したようだ。この情報はアメリカ国防省の情報戦トップからリークされており、ウクライナ側から連絡を受けたスペースXは、通信コードに一行付け加えることでロシアの攻撃を無効化した。米軍高官は「民間企業の対応の早さに感銘を受けた」と話している。
蛇足だが、侵攻前日にウクライナの公的機関は、ロシアのハッカー部隊からと思われる大規模な攻撃を受けて混乱した。マイクロソフトはすぐさまこの攻撃を探知し、攻撃直後にホワイトハウスからの全面協力要請を受け、CEO自ら即応チームを立ち上げた。
現在でもロシアの情報戦部隊やハッカー部隊と、アメリカの民間企業の助けを受けたアメリカ軍との間で、水面下の熾烈(しれつ)な激戦が行われているに違いない。
無人航空機とスター・リンクを結合させた作戦
ウクライナ側で無人航空機として活躍しているトルコ製のTB2だが、
   ・無線による操縦
   ・人工知能(AI)による自立飛行
のモードがあると言われている。
ウクライナではこれに加えて、スター・リンクを使った衛星通信とリンクした運用が行われているとの観測が出ている。TB2で集めた情報をインターネットを通じて司令所へ瞬時に提供し、さらに司令所からの砲撃指示もスター・リンク経由のインターネットで行われる。これにより、多くの無人航空機の情報を統一的に運用でき、さらに攻撃の指示もAIを使った処理プログラムで効果的に行えるようになっている。
TB2を開発したトルコのバイカルは、TB2と衛星通信を使った運用ができればさらに効果を増すとして、後継モデルにはその能力を持たせる計画を発表しているが、もしかするとウクライナは一歩先を行き、それを実現しているのかもしれない。
最後に次を日本への示唆として、本稿を閉じることにする。
   衛星インターネットサービスの開始
日本でも独自のGPSとして「みちびき」の運用を開始している。そのため、米国製のGPSだけでなく日本独自の位置情報サービスを確立することは、悪意ある妨害や故障の際の多重防御のために必要だ。さらに日本独自や他国との共同による衛星インターネットを確立することも求められる。ウクライナのような戦時だけでなく、大規模災害時の情報伝達機能確保のためにも、重要なので早期に着手が望ましい。スペースXのスター・リンクは電波法の関係で日本では利用できないが、このあたりもなんとかしてほしい。
   無人航空機の開発の加速
ウクライナ戦争前は、無人航空機の能力について疑問を呈する向きもあったが、ロシア軍という世界2位の軍事大国相手にTB2は大きな成果をあげている。もはや無人航空機無しでは、わが国も防衛を語れないほどになっている。多種多様な開発を早期に立ち上げることが急がれる。もちろん衛星通信との組み合わせも追求することが望ましい。
●「これが戦争当事国の首都かいな…」キーウで蘇る“日常”と“深刻な問題” 6/12
あまりの変わりように目が点に
不肖・宮嶋、いまだ銃声止まぬロシア国境に近いウクライナ東部ハルキウより3週間ぶりに首都キーウへの帰還である。
ロシア軍が 100日攻撃を続けても破壊できなかった鉄路を走る列車に揺られること8時間、新幹線並みとまではさすがにいかんが、空席が目立つも、快適な特急列車にてなんの不安もなく、ほぼ定刻通りにキーウ中央駅にすべりこんだ。
しかしターミナルを一歩出てその町のあまりの変わりように目が点になった。駅前サークルが渋滞しとるのである。迎えや送りの車で。この街に帰ってきた家族連れで。
戦争当事国の首都が普通のヨーロッパの都市に戻りつつある
思いおこせば3カ月前ここキーウ中央駅はこの街から脱出する市民がリビウやポーランドなどに向かう列車に殺到、そりゃあ皆命かかっとるのである。ロシア軍が北から、東から、西から包囲をせばめ、20キロ以内まで迫ってきていたのである。しかも相手は国際条約も人道も無視のロシア軍である。駅舎は悲鳴と怒号が飛び交い列車内はラッシュ時の山手線状態やったのである。
それが今や駅から宿まで1回もチェックポイント(検問)にあわんのである。いや、たしかにバリケードが築かれ、土嚢が積みあがった跡はあるが、人が詰めてる気配がない。それどころか、通りをクルマがバンバン走ってるのである。人がぞろぞろ歩いてるのである。オープンカフェがパラソルを開き、市民が集い、ウクライナ人の好物のコーヒーをすすり、談笑しとるのである。もうこれが戦争当事国の首都かいなと疑いたくなるほどである。
せやけどよう考えたらこれが普通のヨーロッパの都市にもどりつつある姿。喜ばしいことやないか。
当時は恐怖に震え、空襲警報と爆発音に怯えていた
3カ月前、不肖・宮嶋がロシア軍侵攻後初めてキーウ市に潜入した時は道中も市内も検問だらけ、クルマも走ってないわ、走ってても軍用車ばっかやし、人も歩いてないし、歩いてても完全武装の軍人ばっかやったやないか。
450万の人口の半数近くが首都を脱出、商店もレストランもぜーんぶ閉店、雪舞う通りがいまやTシャツ姿の家族連れがかっ歩しとるのである。あのゼレンスキー大統領が巣ごもりしているという噂の大統領府のすぐ近く、不肖・宮嶋が草鞋を脱いでいた宿の隣のビアガーデンも1ヵ月以上1度も灯りが点くことがなかったのに、今は日も高いのに、市民がジョッキを重ねているのである。
当時、残った人々は町中に轟く空襲警報と爆発音に怯え、凍てつく防空壕のなかで、恐怖に震えそれが終わるのを待つしかなかったのである。35時間もの外出禁止令期間は一切外出できず、不便な暮らしに耐えるしかなかったのである。
戦車や火砲の砲身が遊具代わりに
そりゃあ確かに今も夜間外出禁止令は継続中や。6月現在は23時から6時までは特別な許可のあるものしか外出できないし、ロシア軍はウクライナ軍の兵力を激戦地である東部戦線に集中させないよう時折嫌がらせのように巡航ミサイルぶちこんできよるが、そんな苦難も恐怖も3月前と比べたら、戦争が日常になってしまったキーウ市民にとっては平時とおんなじである。
そんなキーウ市内のところどころ、ここミハイリフスカ広場や、あの8人が新型爆弾で犠牲になったレトロ・ショッピングモールなどにウクライナ軍が鹵獲したり破壊したロシア軍の戦車、自走砲、装甲車にミサイルや武器がまるでトロフィー(戦利品)のように展示されてるのである。
大は戦車に巡航ミサイルから小はロシア軍が残していった食料や衣服まで、まだガソリンと焦げ臭いにおいを漂わせながらである。そんな物騒なもんが日々増え続け、それにつられ、老若男女のキーウ市民が集いつづけているのである。そして戦車や火砲の砲身を鉄棒や平均台などの遊具がわりにして、歓声があがるのである。
ファインダー越しに見たエリツィン元大統領の不自然な指
とくに体の小さい子供らにとっては格好の探検場。せまい戦車や車両内に潜り込み、でっかい戦車砲弾の空薬きょうやロシア兵のレーション(戦闘用糧食)や食べ残しのビスケットや空き箱を発見しては大はしゃぎ、お祭騒ぎであった。
しかし、さすがにブービー・トラップ(しかけ爆弾)はもはやチェック済やろうが、所詮破壊された車両である。車体には大小さまざまな弾痕があり、それがめくりあがり、けっこう鋭利な刃物状態の弾痕もありそんなとこに体ぶつけたり、素手でつかんだらしゃれにならん。
現に今のプーチン・ロシア大統領の後見人だった故ボリス・エリツィン元大統領は子供時代ドイツ軍の残した手りゅう弾を分解して遊んでいるうちに暴発、左手の指2本を吹き飛ばされた。ワシがエリツィン大統領を撮ったのは1995年5月の1回きりやが、そのときにファインダー越しに覗いた彼の指が不自然だったことが今も印象に残っている。
燃料不足で車での脱出ができなくなる恐れも
しかしそんな市民の歓声の陰で深刻な問題が進行中であった。ウクライナ南東部での一進一退の攻防戦、そしてそんな東部戦線にウクライナ軍の兵力を集中させぬよう、嫌がらせのようにしつこく続くここ首都への巡航ミサイル攻撃、さらに市民にはガソリン不足が心配の種だったのである。
もちろん燃料は重要な戦略物資である。軍に最優先で回されているのはいうまでもない。3カ月前ですら1回20リッターという数量制限までしていたくらいだから、潤沢にあったわけでもないのに、このまま市内に戻ってくるクルマが増え続ければ、さらにガソリン不足は深刻化し、クルマはあっても走れない事態になる。ガソリンだけでない。ヨーロッパに多いディーゼル車用の軽油、ガソリンと併用のLNG(天然ガス)も不足し始めているのである。
可能性は限りなくゼロに近いが、このままロシア軍が再び首都へ向けて進撃を開始したら、今度は燃料不足のためクルマでの脱出ができなくなる恐れもあるのである。
しかし最大の問題はいまだ侵略者が祖国を蹂躙し続け、居直っていることであるが……。
●マリウポリ コレラや赤痢で死者「数千人以上」の懸念 6/12
ロシア占領下にあるウクライナ南東部マリウポリのボイチェンコ市長は10日、同市でコレラや赤痢の感染が発生し、将来的に死者が「数千人以上」に達する可能性に懸念を示した。一方、英国防省は11日、ロシア軍が4月以降、最新兵器の不足からかウクライナへの地上攻撃に正確性に欠ける1960年代の空対艦ミサイルを数十発使用したとみられるとの分析を発表した。
マリウポリ 多数の遺体放置、飲料水を汚染か
ウクライナメディアなどによると、マリウポリのボイチェンコ市長は、路上に多くの市民の遺体が放置され、細菌が飲料水を汚染していると指摘。今後、コレラなどの感染による死者が「数千人以上に上る可能性がある」と懸念している。マリウポリは5月20日、アゾフスターリ製鉄所に立てこもっていたウクライナ兵が投降し、露軍に制圧された。多くの市民は他都市に避難したが、今も約15万人の市民が暮らしているとされる。
露が旧型ミサイル使用か 最新型が不足との分析
英国防省の分析によると、ロシア軍が使用している旧型ミサイルは、核弾頭を装着して空母を攻撃する仕様になっている。通常の弾頭を使用すると攻撃の正確性が損なわれ、他の施設が巻き添えを受けるほか、市民の死傷者が増大する可能性が高いという。
「生きるため」 露の占領軍に従う住民
ロシア軍の占領下にあるウクライナ南部や東部の地域では、住民らが抵抗しようとしながらも統治を受け入れ始めている。避難者が現地の親族から聞いたところでは、2月下旬から露軍に占領されている南部ヘルソン州ノーバカホウカでは、保存食料や生活資金が尽き始めている。「反露感情は変わらない」(退避住民)が、ロシアが無料で提供する食料を受け取り始めた住民もおり、「生きるためにロシアに従っている」(同)という。
世界的な食料危機を懸念 ゼレンスキー氏
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、シンガポールで開かれているアジア安全保障会議にオンラインで参加し、特別演説を行った。ロシアの侵攻が世界的な食料危機につながっているとし、「ウクライナへの援助はみなさんの将来の安全にもつながる」と支援を呼びかけた。同会議は12日までの日程で、インド太平洋地域の防衛相らが地域の安全保障情勢などを議論。今回はロシアによるウクライナ侵攻もテーマの一つだ。
北朝鮮の金正恩氏、プーチン氏に祝電
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は12日、ロシアの建国記念日にあたる「ロシアの日」に合わせて、プーチン露大統領に祝電を送った。ロシアのウクライナ侵攻への直接的な言及はなかったが、ロシアを擁護し「わが人民は全面的な支持と声援を送っている」と強調した。国営の朝鮮中央通信が同日、伝えた。
●ロシア記念日、南部で国籍付与 西部ではミサイル攻撃―ウクライナ 6/12
ロシアのメディアは11日、ウクライナ侵攻で占領された南部ヘルソン州とザポロジエ州の一部で、ロシア国籍の付与が始まったと伝えた。プーチン大統領は5月下旬、南部2州の住民を対象に国籍取得を簡素化するよう命令していた。
プーチン政権は2月下旬、東部の親ロシア派の独立を承認。その支配地域を東部2州全域に拡大する方針を示したが、ウクライナ軍の抵抗と欧米の軍事支援で作戦のペースは落ちた。12日は独立記念日に当たる「ロシアの日」。国籍付与の開始で南部2州についても「ロシア化」を進め、一定の戦果として強調する意図がありそうだ。
両州ではロシア国籍を示すパスポートの配布を開始。ウクライナのゼレンスキー大統領は11日のビデオ演説で、パスポートを取得しようとしているのは「(親ロシア派の)協力者たちだ」とし、「逃亡のための切符の入手を図ろうとしているようだ」と皮肉った。
一方、AFP通信などによると、ウクライナ西部テルノポリ州の知事は12日、ロシア軍が11日夜に同州チョルトコフをミサイル攻撃し、少なくとも22人が負傷したとフェイスブックへの投稿で明らかにした。黒海からミサイル4発が発射され、軍事施設やアパートが被害を受けたという。
●ロシア軍 各地で激しい砲撃 ウクライナ側住民の避難続く  6/12
ウクライナ東部のルハンシク州の完全掌握を目指しているロシア軍は、各地で激しい砲撃を加えていて、ウクライナ側の住民の避難が続いています。一方、6月12日は32年前にロシアが国家として主権を宣言した記念日に当たり、軍事侵攻が長期化する中、プーチン大統領は演説を行い、国民に団結を呼びかけました。
ウクライナ東部のルハンシク州の大部分を掌握したロシア軍は、州の完全掌握を目指してウクライナ側が拠点とするセベロドネツクと、対岸のリシチャンシクに向け砲撃を続けています。
ルハンシク州のハイダイ知事は12日、セベロドネツクの戦況について「ロシア軍は口径の大きな火砲を使って何時間にもわたり住宅街を砲撃している。われわれは持ちこたえてみせる」とSNSに投稿しました。
11日にリシチャンシクで撮影された映像では、砲撃音が響くなかウクライナ側の兵士に誘導されながら市民が避難する様子が確認できます。
一方、6月12日は1990年にロシアが国家として主権を宣言した「ロシアの日」と呼ばれる記念日で、首都モスクワで式典が開かれました。
この中で、プーチン大統領は演説を行い「われわれは祖国や社会が1つになることがいかに重要かを痛感している。団結とはすなわち、祖国への献身、そして祖国に対する責任だ」と述べ、国民に団結を呼びかけました。
そのうえで、「われわれの祖先の業績と軍事的な勝利を誇りに思う。戦いで祖国を守り、世界でしかるべき役割を確立した」と述べ、軍事侵攻への支持も呼びかけるねらいがあるとみられます。
ロシアによる軍事侵攻が始まってから3か月半が過ぎましたが、欧米によるロシアへの制裁やウクライナへの武器供与が続く一方、停戦に向けた交渉は中断したままで、事態はこう着しています。
●長期化が懸念されるウクライナ侵攻の展望――停戦協議はなぜ進まないか 6/12
・ウクライナ侵攻が長期化するなか、停戦をめぐるウクライナとロシアの主張には変化がみられる。
・ただし、とりわけウクライナ側には現状での交渉が不利という判断が働きやすく、現状での停戦協議に難色を示している。
・ウクライナの警戒心は、停戦協議を働きかける西側先進国にも向かっている。
世界の政治・経済に大きなインパクトを与えたウクライナ侵攻が始まって3カ月以上が経過し、長期化も懸念されている。ロシアとウクライナはこれまでに停戦協議を断続的に行ったものの、大きな進展を見せていない。果たしてウクライナ侵攻は今後どうなるのか。停戦の可能性について考える。
停戦協議の動き
まず、これまでの停戦協議について確認しておこう。停戦に向けたロシアとウクライナの間の協議は、侵攻が始まった翌3月に早くも始まった。この停戦協議には二つのルートがある。
一方には、2月28日からベラルーシで断続的に行われた会談があり、これはそれぞれの大統領直属のチームによるものだった。
もう一方には、それぞれの外務大臣による協議があり、3月末にイスタンブールで行われた。こちらのルートは開催地トルコの他、イスラエルなどいくつかの国によって仲介されている。
これらの協議の具体的テーマについては不明だが、英フィナンシャル・タイムズはベラルーシでの協議開始に先立って、複数の関係者の証言として15項目が話し合われていると報じた。
そのなかには、ロシアが2014年に併合したクリミア半島やロシアが攻勢を強める東部ドンバス地方の扱い、ウクライナの将来的な安全の確保といった、両国間の長期的な関係にかかわるテーマだけでなく、捕虜の交換や人道支援物資の供給ルート確保といった、より実務的な問題も協議されているとみられる。
ただし、これらの協議はこれまでのところ、具体的な合意にほとんどたどりついていない。両国の言い分に隔たりが大きいためで、とりわけ停戦の前提条件となる、ロシア占領地の扱いやウクライナと西側の関係については、着地点を見つけることが難しい。
ウクライナの優先順位のシフト
とはいえ、注意するべきは、戦争が長期化するなかでウクライナ、ロシア双方の主張がシフトしていることだ。つまり、それぞれの言い分の全てを実現することが難しいなか、両国とも優先事項を徐々に絞り始めているのである。
ウクライナに関していうと、ゼレンスキー大統領は当初、主に以下のポイントを強調していた。
・ウクライナの領土・主権の保全
・ロシアによる侵攻が始まった2月24日以前の状態に戻すこと
・将来にわたる安全の保証
これらのうち、ロシアが2014年に編入したクリミア半島に関して、ウクライナ政府は3月のイスタンブールでの協議でロシア側と「15年間かけて協議することに合意した」と発表した。この問題はじっくり時間をかけて話し合うことにして、当面の優先課題から外した、というのだ。
また、ゼレンスキーはベラルーシでの協議が不調に終わった後の3月初旬、「もはやNATO加盟を強く求めることはない」と発言をトーンダウンさせている。そこには、ロシアに対するNATO加盟国間の温度差(後述)を受け、すぐさま加盟することは困難という現状認識があったとみられる。
その結果、ウクライナの要求は、ロシア軍の撤退と、親ロシア派が実効的に支配する東部ドンバス地方の扱いに集中してくる。つまり、これらからロシアの影響力を排除することが優先課題になっているといえる。
実際、侵攻開始から3カ月の節目に、ゼレンスキーは「領土を(侵攻が始まった)2月24日以前に戻したうえでロシアと交渉のテーブルにつく」と発言している。
ロシアの優先順位は?
これに対して、ロシアもまた優先順位を絞り始めている。
当初、ロシアは主に以下の要求をしているとみられていた。
・ウクライナの「中立化」(NATOやEUなどに加盟しないこと)
・ウクライナの「非軍事化」(外国軍隊を駐留させないこと)
・ウクライナの「非ナチ化」(アゾフ連隊などの極右勢力をゼレンスキー政権から排除すること)
これらのうち、とりわけNATO加盟を阻止するため、ロシアはウクライナ憲法に「中立」を盛り込むことを求めるなど、過剰なまでの要求を突きつけていたが、そのトーンは最近、弱まっている。ウクライナ政府の加盟要求に対するNATO加盟国間の温度差を見てとったロシアは、「中立化」が事実上達成されたと判断したのかもしれない。
これに加えて、イスタンブールでの協議直前頃からロシア政府は「非ナチ化」についてもほとんど触れなくなった。これはウクライナが「NATO加盟」のトーンを弱めることとの取引だったという見方もある。
いずれにせよ、その一方でロシア政府は、ウクライナ国内のロシア系人の多い土地について、他の条件以上に譲らない姿勢を鮮明にしている。
例えば、ロシアのラブロフ外相は4月、3月末のイスタンブールでの協議でウクライナ政府がクリミア半島の帰属に関して将来もロシアのものと認めたのに、その後になって「今後の協議案件」と発表したことは受け入れられないと表明した。
秘密協議であるため、どちらの言い分が正しいかは藪の中だが、確かなことはロシアがクリミア半島をウクライナに戻すつもりがないことだ。
これに加えて、4月にウクライナの首都キーウ(キエフ)の制圧に失敗した後、ロシアはそれまで以上に「主要目標はドンバスの解放」と強調するようになっている。
ロシアはこの地域の歴史的領有権を主張しており、第二次世界大戦の戦勝記念日に当たる5月9日の演説でプーチンは「‘特別軍事作戦’が唯一の選択肢だった」と正当化しただけでなく、「ロシアはドンバスの‘母なる大地’のために戦っている」と強調した。
さらに、「ドンバスでロシア系人が虐殺されている」と主張しており、これを防ぐためとしてその兵力を東部に集中させ、親ロシア派武装組織を支援している。
停戦協議は進むか
このようにドンバスの取り扱いが最大の焦点となっているわけだが、それではウクライナとロシアの停戦協議は進むかというと、その公算は高くない。
一般的に外交交渉は当事者が「何を得て何を放棄するか」を明らかにするプロセスといえる。この場合、ウクライナ、ロシアの双方がドンバス領有を最優先にするのであれば、それ以外で妥協して合意にたどり着くことはできない。
ロシア政府は5月末から、しばしば交渉の再開を口にしているが、基本的にドンバスの取り扱いなどで譲歩するつもりはないとみられる。だからこそ、ウクライナ側は停戦協議の再開を拒否し続けている。
ドンバスで親ロシア派が実質的な支配を強化しているなか、「即時停戦」を優先させれば、ウクライナはドンバスを諦めざるを得なくなりかねないからだ。ロシアの提案は、ウクライナが拒否することを織り込み済みの、「交渉する意志がある」というポーズに過ぎないとみられる。
これに加えて、激戦が続くセベロドネツクなどウクライナ軍の善戦もあって戦局が一進一退を繰り返し、どちらも明白な優位を確立できていないことは、どちらにとっても交渉に向かう決定的な状況を生み出しにくくしている。
そのため、ウクライナにとっては有利な立場で停戦協議に臨むためにも、軍事的な成果をあげ、「勝っている」という状況を作り出す必要がある。
その意味では、ゼレンスキーが「戦争の終結は外交によってのみ可能」と強調しながらも、ウクライナ政府高官からしばしば「ウクライナの領土と主権の保全こそ我々の勝利」という声明が出され、東部などでの軍事的勝利を重視する姿勢が打ち出されることには一貫性がある。つまり、「停戦協議のためにも勝利が必要」という論理で、という意味でだ。
ウクライナのもう一つの懸念
そのウクライナにとっては、ロシアだけでなく欧米の動向も懸念材料といえる。欧米はウクライナ支援では一致していても、その内実には温度差がある。
イギリスの他、旧ソ連時代から因縁のあるポーランドやバルト三国などは、反ロシアの急先鋒として武器支援などを積極的に行なっている。これに対して、EUの中心を占めるフランスやドイツなどは、むしろ戦闘がもたらすダメージを軽減するため、即時停戦を重視している。
さらに、NATO加盟国であるトルコは、ウクライナ侵攻を公式には批判しているが、その一方でロシアとウクライナの仲介にも動いている。
こうしたなか、アメリカは武器供与を拡大しながらも、しばしばウクライナに停戦協議への復帰を呼びかけてきた。バイデン政権は、アメリカ自身が戦争に全面的に巻き込まれることを避けつつ、ロシアを撤退させる一つの手段として、停戦協議を捉えているとみられる。
こうした「地政学的な取引」に対して、ウクライナ政府は不信感を隠さない。
5月21日、ウクライナのポドリアック大統領補佐官は停戦協議を求める意見を批判した上で、「停戦協議はロシアがウクライナから出て行った後からでだけ可能」「ロシアとの妥協は平和への道ではない」と強調した。そのうえで、ウクライナ政府は西側先進国に対して、これまで以上の武器支援やロシアとの取引制限などを求めている。
こうした欧米とウクライナの関係は、ロシアとの戦局とともに、停戦協議が始まるかを左右するとみられる。ウクライナにとって注意すべき対象は、ロシアだけではないのである。
●ロシア記念日、南部で国籍付与 西部ではミサイル攻撃―ウクライナ 6/12
ロシアのメディアは11日、ウクライナ侵攻で占領された南部ヘルソン州とザポロジエ州の一部で、ロシア国籍の付与が始まったと伝えた。プーチン大統領は5月下旬、南部2州の住民を対象に国籍取得を簡素化するよう命令していた。
プーチン政権は2月下旬、東部の親ロシア派の独立を承認。その支配地域を東部2州全域に拡大する方針を示したが、ウクライナ軍の抵抗と欧米の軍事支援で作戦のペースは落ちた。12日は独立記念日に当たる「ロシアの日」。国籍付与の開始で南部2州についても「ロシア化」を進め、一定の戦果として強調する意図がありそうだ。
両州ではロシア国籍を示すパスポートの配布を開始。ウクライナのゼレンスキー大統領は11日のビデオ演説で、パスポートを取得しようとしているのは「(親ロシア派の)協力者たちだ」とし、「逃亡のための切符の入手を図ろうとしているようだ」と皮肉った。
一方、AFP通信などによると、ウクライナ西部テルノポリ州の知事は12日、ロシア軍が11日夜に同州チョルトコフをミサイル攻撃し、少なくとも22人が負傷したとフェイスブックへの投稿で明らかにした。黒海からミサイル4発が発射され、軍事施設やアパートが被害を受けたという。
●「ロシアの日」抑え込まれる“反戦の声”と強まる若者への「愛国教育」 6/12
撤退したマクドナルドの後継となる新たなハンバーガー店もオープン。その名は「おいしい それだけだ」です。オープンの会見が終わるとこんなハプニングも… 「ビッグマックを返してください ロシアにビッグマックを返してください」ロシア軍の巨大テーマパークは賑わいを見せていました。「家族連れの姿が目立ちます。小さな子どもが遊びながら親しんでいます」こちらでは、軍用バイクに乗り込み、取り付けられた機関銃を撃つ真似をする子ども。そして、親に銃の持ち方を教わり、得意げな子どもの姿も。あらゆる種類の銃器や戦車が展示されています。
一方、反戦の声は抑え込まれています。「兵士よ 兵士どうするの?母が死ぬまで戦争が続いたら」戦地に向かう兵士の葛藤を歌った反戦ソング「ソルジャー」を作詞作曲したロシア人のマニジャさん。「私たちの 私たちの戦争をやめよう」「ロシアの日」の連休にコンサートへの出演が決まっていましたが、数日前、突然取りやめになったといいます。タジキスタンの内戦で難民を経験したマニジャさん。3月にこの曲をリリースして以降、インターネット上で脅迫や嫌がらせが相次いだといいます。(ロシア人シンガーソングライター マニジャさん)「誰かが(主催者に)電話をしてきて、私をフェスティバルの出演者から外すよう求めたそうです。もちろん悲しかったですが、引き下がるつもりはありません。なぜなら(難民だった)私にとってコンサートは、人々を助けるチャンスだからです」
“プーチン氏の歴史観”記した教育マニュアル
ロシア国旗を手に、「Z」の文字をつくる子どもたち。ロシアの独立系メディア「メデューザ」によればウクライナ侵攻以降、ロシア国内の学校で“愛国教育”が広がっているといいます。(幼稚園の先生)「私たちの幼稚園は地球上の人類に対して大統領の決定に賛成していることを表明します」(子どもたち)「プーチン大統領、ショイグ国防相、国民はあなたたちの味方」
ロシアの教育現場で何が起きているのか?ロシア教師組合のダニイル・ケン会長に話を聞きました。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「これは明らかにファシズムのプロパガンダです。いま起きていることは、国による犯罪です」ダニイル会長が批判するのは「歴史の真実」と題された教師のための教育マニュアル。ウクライナ侵攻後、全国の学校に配布されたといいます。作成したのはロシア教育省。31ページにわたり、“プーチン大統領の歴史観”が記されているといいます。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「そこには明らかな嘘が含まれています。歴史的にロシアとウクライナは一体だったとか、NATO諸国とウクライナのナチが、私たちからウクライナを奪おうとしているとか。」
ロシアの国営テレビは4月、プーチン大統領とウクライナのドンバス地方出身の少女のこんなやりとりを放送しています。(ドンバス出身の少女)「わたしはドンバスの娘、ルガンスクの大地の娘、神聖で英雄的な大地。わたしはロシア人、わたしはロシアを誇りに思います」(プーチン大統領)「ルガンスク人民共和国を含むドンバスで起こった悲劇が、ロシアに軍事作戦を開始させました。この作戦の目的は、あなたのようなドンバスに住む人々を助けることです」さらに影響は「歴史の教科書」にも…「ウクライナに関する記述が削除」されているのだといいます。Q.なぜウクライナに関する歴史的事実を削除するのか?(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「なぜなら、いま別の歴史が作られているからです。ウクライナに独自の歴史、独自の言語や文化があったことを示す歴史的事実は否定され、教科書から削除されているのです」ダニイル会長によれば様々な部分が政権の都合の良いように書き換えられ、プーチン大統領をたたえる記述も増えているといいます。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「このプロパガンダ(政治宣伝)をすすんでやる教師はほとんどいません。しかし国は、教師がとても貧しく(経済的に国に)依存しているという弱みを利用しています。特に小さい町では、簡単に国が教師の職を奪うことができるのです」
実際に、極東サハリン州コルサコフ市の学校では今年4月… 授業中に平和の大切さを訴えた英語教師マリーナ・ドゥブロワさんが解雇されたと現地メディアなどが伝えています。(解雇された英語教師 マリーナ・ドゥブロワさん)「わざとこのような罰が与えられたのです。私から仕事を奪うためです」ドゥブロワさんが授業中、生徒たちに見せたのは「戦争のない世界」というタイトルのミュージックビデオ。さまざまな国籍の子どもたちがロシア語とウクライナ語で平和への願いを歌うものでした。(解雇された英語教師 マリーナ・ドゥブロワさん)「私は『ただ心で見てください』と言いました。『先生はウクライナの味方ですか?』と聞かれ、なんて質問をするのかと思いました。『いいえ、ただ戦争に反対なだけよ』と答えました」すると数日後、思わぬ事態に… 「教育現場における道徳と倫理に反する行為」があったとして当局から起訴されたのです。実は、生徒との会話が録音されていました。(解雇された英語教師 マリーナ・ドゥブロワさん)「自主的に辞めるよう提案されました。今後、教育現場に携わりたいと思ってもできないでしょう」
若者はプーチン政権の「潜在的な脅威」か
「防御線をはれ」若者たちへの愛国教育を強めているというプーチン政権。これは2016年に創設されたロシア国防省傘下の青少年団体「ユナルミヤ」。今では8歳から18歳の子ども100万人以上が所属し、基礎的な軍事訓練も行っているといいます。(女性団員)「ユナルミヤでは愛国心が育まれます。自分の国をよく知ることで、自分の国がより好きになります」愛国教育が強まっている理由をロシア教師組合のダニイル会長はこう指摘します。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「(プーチン大統領は)政権にとっての潜在的な脅威は、インターネットを使い、プロパガンダ以外の別の情報に触れることができる若者だと理解しています」ロシアの独立系世論調査機関によれば「ロシアは正しい方向に向かっているか」という質問に対し、高齢世代は「いいえ」が16%しかいませんが、若者世代は「いいえ」が40%に及んでいます。(ロシア教師組合 ダニイル・ケン会長)「プーチン大統領は学校を訪問したり、インターネットを批判したりして、若い世代が子どもの頃から保守的になるよう試みているのです」
●ロシアは3カ月以内にクーデターで政権交代か MI6の元諜報員が明かす 6/12
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が、3カ月以内にクーデターによって政権交代させられる可能性があると英情報機関MI6の元諜報(ちょうほう)員クリストファー・スティール氏が、英BBCラジオの番組で明かしたと英ミラー紙が報じた。「今後3〜6カ月以上、政権にとどまっているとは思わない。健康が悪化している兆候が第一にあり、それが要因になる」と述べ、CIAを始めとする自身の情報源が話していることが正しければ、数カ月で権力を失う可能性があるとしている。
プーチン大統領の健康状態を巡っては、パーキンソン病のほか進行性の血液のがんなども取りざたされ、4月に極秘手術を受けていた可能性も浮上している。
また、こうしたうわさに拍車をかけているのが、毎年6月に開催している国民からの質問に直接答える恒例の生放送によるテレビ出演を突如キャンセルしたこと。3〜4時間の番組で70もの質問に答えられるだけの体力がない可能性が指摘されているほか、軍事作戦に対する批判的な質問を避ける狙いもあるのではとも言われている。 

 

●ウクライナ戦争「2年続く恐れ」 反政権派のロシア元首相 6/13
ロシアのカシヤノフ元首相(64)はAFP通信のビデオインタビューに応じ、ロシアのウクライナ侵攻について、戦争は最高で2年続く恐れがあるとの見解を示した。
カシヤノフ氏は、2000〜04年にプーチン政権の初代首相を務め、首相解任後に反政権派に転じた。2月のウクライナ侵攻開始3日前にプーチン氏が招集した安全保障会議の様子を見て初めて、「戦争があると実感した」と説明。「プーチン氏は既に正気でないように見えた。医学的にではなく政治的な観点からだ」と指摘した。
カシヤノフ氏は「もしウクライナが陥落すれば、次はバルト諸国だろう」と述べ、ウクライナの勝利が不可欠だと強調。戦争を終結させるためウクライナに領土の割譲を求める意見については、「間違いであり、西側諸国がその道に進まないことを願う」と述べた。
●ロシア・ウクライナ戦争論 投資家も直視すべき現実 6/13
侵攻から約4か月
ロシアがウクライナ侵攻を開始し、戦争が始まってから、4か月近くが経過しています。その泥沼化は、金融市場にも暗い影を落とし続けています。よって日本など遠い国の投資家も、終戦を切に願っています。日々の戦局に対し、金融市場はあまり反応しなくなっています。しかしこの戦争で、世界秩序というものは極めて弱い基盤の上にあるのだということを、皆が思い知りました。世の中は本来、不確かで不条理なことばかりです。そのような厳しい現実を突きつけられたことが、市場の先行き不安を増幅しています。
未来の予測は困難
いま投資家が意識する「不確かなこと」とは、世界のインフレ動向、米欧の利上げによる世界経済への影響、コロナウイルスの動向などです。それらの正確な予想は、人間にもコンピューターにも無理です。そうした状況であるだけに、ロシア・ウクライナ戦争は、「未来は予測困難」との印象を、投資家らの心理に刻印しています。これによる漠たる不安が、先行き不透明感を強め、米国株などの変動性を高めています(図表1)。したがって、人道上見地はもちろん投資家の観点でも、一刻も早い戦争終結が望まれます。
まずは停戦協議を
「不確かなこと」は、関連し合っています。つまり、戦争や感染症で資源や食料、製品の価格が高騰すれば、インフレが高進します。それは各国の利上げを促し、利上げが行き過ぎれば、景気が落ち込みます。逆に言うと、戦争などが落ち着けば、金融市場のムードも急速に改善しそうです。和平交渉が進めば、原油や天然ガス、小麦など、ロシアやウクライナが大きな産出力を持つ資源・食料の供給制約が和らぐ、と期待できるからです。停戦協議が始まるだけでも、市場参加者のインフレ懸念は若干緩和するはずです。
欧州内でも不協和
ただ、停戦協議が始まったとしても、交渉は難航必至です。ロシアの最低限の要求は、ウクライナ東部の正式な独立(→事実上ロシア陣営に)でしょう。ウクライナとしては、受け入れるのが難しい要求です。ウクライナを支援する欧米も、戦争の落としどころに関し、意思統一が図れていません。ドイツやフランスなどは、停戦を働きかけています。それに対し、英国の主要メディアなどは、「打倒ロシア!」というトーンの好戦的な論陣を張っています。そうした欧州内の不協和で、戦争がさらに長引く恐れがあります。
戦争の美化は不可
どれだけ美化しようとも、戦争とは、人と人との殺し合いです(図表2)。また、対ロシアの制裁は、ロシア国民を苦しめます。日頃「人権」を説く英メディアなどは、そうした現実を見る視点を失っています。たしかにロシアへの安易な譲歩は、プーチン大統領が始めた侵略を、実質的に追認しかねません。それでも戦争という状況下で、野蛮な面を露呈しているのが、英国(および米国など)の一部メディアだと言わざるを得ません。それらを見ると、人類の倫理的基盤は実に弱いのだという現実を、思い知らされます。
●ロシア軍が避難ルート遮断か ウクライナ東部の激戦地 6/13
ウクライナ東部ルガンスク州の知事は12日、激戦地セベロドネツクの橋がロシア軍に破壊されたと明かした。民間人の避難ルートが遮断される恐れがあるという。また、岸信夫防衛相は12日、シンガポールで行われた日中防衛相会談でウクライナ侵攻に言及。中国に責任ある役割を果たすよう求めた。
街と結ぶ橋を破壊
ウクライナ東部ルガンスク州のガイダイ知事は12日、激戦地となっている同州の要衝セベロドネツクと、川を隔てて西側に隣接する街とを結ぶ橋がロシア軍に破壊されたと明かした。三つあった橋のうち一つはすでに破壊されており、残る一つも砲撃を受けている。民間人らの避難ルートが遮断される恐れがある。ウクラインスカ・プラウダ紙(電子版)が報じた。
岸防衛相「中国は責任ある役割を」
岸防衛相は12日、訪問先のシンガポールで中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相と約1時間会談した。岸氏は中国、ロシアが先月、日本周辺で実施した戦略爆撃機の共同飛行などについて「日本に対する示威行動だ」と指摘し「重大な懸念」を伝達。また、ロシアのウクライナ侵攻に言及した岸氏は「力による一方的な現状変更はアジアを含む国際秩序の根幹を揺るがすものであり、断じて認められない」と指摘。「国連安全保障理事会常任理事国の中国が、国際社会の平和と安定の維持のため、責任ある役割を果たすべきだ」と求めた。
マクドナルド後継店 モスクワにオープン
ロシアから撤退した米ファストフード大手マクドナルドの後継店が12日、モスクワでオープンした。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、マクドナルドはロシア市場からの撤退を表明。ロシアの実業家アレクサンドル・ゴボル氏がロシアにある全店舗を引き継ぐことで合意していた。新ブランドの名称は「フクースナ・イ・トーチカ」(おおいしい、それだけ)。1号店がオープンしたモスクワのプーシキン広場では12日、式典が開かれ、店舗前では大勢の客が行列に並んだ。
ウクライナからモルドバへ 避難者の思い
ウクライナからの避難者を、モルドバの人々は「家族」のように温かく迎え入れた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシアによる侵攻後、7日時点で約727万人がウクライナを逃れ、現在、約9万人がモルドバ国内に滞在している。大半が親族や知人を頼って避難してきた人々だが、見ず知らずの家庭にホームステイするケースも少なくない。
●ゼレンスキー大統領 “ロシア軍 自国の兵士の命さえ軽視”  6/13
ロシアでは12日、国家として主権を宣言した「ロシアの日」を迎え、プーチン大統領が首都モスクワで演説を行ったほか、ロシア側がすでに掌握したと主張するウクライナの東部や南部でも祝いの行事が行われました。
こうした中、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍は訓練不足の徴集兵などを戦場に投入しようとしている」と述べ、自国の兵士の命さえ軽視しているとロシア側の姿勢を批判しました。
ロシアでは12日、32年前の1990年に国家として主権を宣言した記念日「ロシアの日」を祝う行事が行われました。
プーチン大統領は首都モスクワで演説し「われわれは、祖国や社会が一つになることがいかに重要かを痛感している」などと述べ、国民に団結するよう呼びかけました。
首都モスクワではこのほか、科学技術や文化などの分野で活躍した著名人を表彰する式典も開かれ、国をあげて祝賀ムードを盛り上げました。
こうした中、12日にはロシアから撤退したアメリカのハンバーガーチェーン大手、マクドナルドの店舗を利用した、ロシア資本の新たなハンバーガーチェーンが15の店舗で営業を始めました。
これまでマクドナルドはロシア国内でおよそ850店舗を営業していましたが、会社の代表は「850店舗だけでなく、新しい店舗を開いていく」と話し、欧米の企業の間で“ロシア離れ”の動きが広がるなか、強気な姿勢を強調しました。
「ロシアの日」を祝う行事は、ロシア側がすでに掌握したと主張するウクライナの東部や南部の都市でも行われました。
記念日を利用して、支配の既成事実化を進めようとしているとみられ、南東部ザポリージャ州のメリトポリでは、大勢の市民がロシアの国旗を手に広場に集まりました。
一方、ウクライナの東部では、ルハンシク州の激戦地セベロドネツクで砲撃で橋が破壊されるなど、ロシア軍の攻勢が一層激しさを増しています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、新たに公開した動画で「ロシア軍はドンバスに予備役の部隊を配置しようとしているが、訓練不足の徴集兵などを戦場に投入しようとしているようにみえる。ロシア軍の将軍たちは国民を数の上で優位に立つための捨て駒としか見ていない」と述べ、自国の兵士の命さえ軽視しているとロシア側の姿勢を批判しました。
また東部の戦況について「セベロドネツクでは激しい戦闘が至る所で続いている。リシチャンシクやスラビャンスクなどの方面にもロシア軍は圧力を強めている」と述べ、ロシア軍がセベロドネツク以外の東部の都市にも攻勢をかけているとの見方を示しました。
●冷戦後初、核兵器増加の見通し ウクライナ侵攻も影響―国際平和研 6/13
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は13日、2022年初頭時点で、世界の核弾頭総数が推計1万2705発となり、21年よりも375発少なくなったとの報告書を発表した。しかし、SIPRIの研究者らは、ロシアのウクライナ侵攻などで国際情勢の緊張が続く中、今後10年間で弾頭数は増加に転じる見通しだと分析。核兵器が使用されるリスクは冷戦後、最も高まっているとした。
弾頭数は米ロ英仏中にインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を加えた9カ国の合計。冷戦時代の1986年には7万発以上あった弾頭は米ロの取り組みにより削減されてきたが、SIPRIは核軍縮の時代は終わりに近づいていると指摘。報告書の共同執筆者マット・コルダ氏は「間もなく、われわれは冷戦後初めて、世界の核弾頭の数が増加し始めるという段階に入りつつある」と警鐘を鳴らした。
●「印刷・情報用紙」値上げが止まらない…ロシア・ウクライナ情勢が追い打ち 6/13
印刷・情報用紙の値上げが2022年に入って2巡目を迎える。日本製紙は9日、8月1日出荷分から現状比15%以上引き上げると発表した。7カ月ぶりの改定で、今回はロシア・ウクライナ情勢や円安進行が原燃料など生産コストの上昇に追い打ちをかけているのが要因だ。需要が先細りする中で競合も追随するとみられるが、メーカー間での体力差も鮮明になっている。
日本製紙は1月1日分から3年ぶりの値上げを表明。大半の顧客に受け入れられたのもつかの間、今回再値上げを「世界情勢の激変に伴いコストは急騰の一途。急激な円安が拍車をかける状況」と説明している。過去数年にさかのぼっても同一企業で1年間に複数回、値上げしたことはないという。
印刷・情報用紙で販売シェア首位の日本製紙が表明したことで、競合も近く再値上げを打ち出しそうだ。あるメーカーは「コスト状況や価格政策は各社で違うが、再生産が可能な収益の確保を目指す点は同じ」と強調する。大王製紙、中越パルプ工業などは再値上げする際のリスクに「需要の減少」を挙げる。
同用紙は人口減やIT化に伴うペーパーレスから減少傾向にある。コロナ禍が始まった20年春以降の需要急減からは持ち直したものの、19年実績に対して約8割。日本製紙連合会がまとめた4月の国内出荷数量(速報)は4カ月ぶり減。1―3月は値上げ前の駆け込み需要もあった。
こうした中、王子製紙は7月1日分からの値上げを公表したばかり。かねて進める余剰能力の抑制、生産性向上の成果もあり価格転嫁に慎重だった。約半年のズレに、他社との違いをみせつけた格好だ。
●侵攻に焦り? 自身を“英雄”に重ね…プーチンが“ウクライナ”言及しない 6/13
半ば強制的に実効支配を進めるなか、ロシア国内ではプーチン大統領が演説し、国民へ強い結束を呼び掛けました。専門家はウクライナ侵攻の焦りが見え隠れしていると分析しています。
ロシア、プーチン大統領:「祖国の防衛や世界における相応な役割の確立を目指し、それを実現させたすべての人たちを誇りに思います。これらにおいて特別で卓越した功績を残したのはピョートル大帝です」
17世紀から18世紀にかけてロシア近代化のほか、領土拡大を推し進めたピョートル大帝。
偉大な皇帝に自らを重ね合わせたプーチン大統領はウクライナ侵攻を正当化する姿勢をみせました。
外交・安全保障が専門、笹川平和財団・小原凡司上席研究員:「プーチン大統領が恐れていることは、ロシア側の死傷者が増えていくことでロシア国内での反戦の機運が高まることだと思う」
自身を歴史上の英雄になぞらえるプーチン大統領。その思惑とは。
6月12日は「ロシアの日」という祝日です。
モスクワの公園などには多くの人が集まり、なかには、兵士の格好をした子供やロシア軍を示す「Zマーク」のTシャツを着た市民らの姿も…。
ウクライナへの侵攻が進む今年は愛国心を鼓舞しようと各地でイベントが行われ、プーチン大統領も関連行事に参加。
そして、国民へ向けた演説ではロシアの君主・ピョートル大帝に自らを重ね合わせてみせました。
ロシア、プーチン大統領:「ピョートル大帝はまさに偉大なる改革者と呼ばれている。彼は生活のすべての分野における根本的な改革を成し遂げました。国家の運営、経済発展、強力無比な陸軍と海軍の創設です。教育、啓蒙(けいもう)、保健、文化において驚異的な突破口を開いたのです。私たちは彼の力強い個性や純粋な本性、ユニークな知識、目的達成への大胆不敵さと粘り強さ、そして祖国への限りなく素晴らしい献身の心に敬意を表します」
ピョートル大帝は1721年、スウェーデンとの北方戦争に勝利し領土を拡大、大国の礎を築きました。プーチン大統領は、この北方戦争が征服を試みたわけではなくロシアに正当に帰属する領土を巡り戦っていたとし、そのうえで現在のウクライナ侵攻との類似点を指摘。ウクライナが正統な主権国家ではなく実際にはロシア領のため、軍事行動は正当化されるとの考えを示したのです。
番組では、帝政ロシア初代皇帝に自らをなぞらえ「領土を奪い返す」などと主張するプーチン氏の演説を2人の専門家に分析してもらいました。
外交・安全保障が専門、笹川平和財団・小原凡司上席研究員:「自分が偉大であって間違ったことはしていないと誇示するため、過去の英雄と並べてみせた。今回の演説は、プーチン大統領が決断して実行をしたウクライナへの侵略が正当なものであるということを国民に知らせるだけのものになったと思う」
ウクライナ情勢に詳しい、神戸学院大学・岡部芳彦教授:「(Q.ピョートル大帝と重ねたプーチン大統領の思惑は)ピョートル1世はロシアで2人しかいない大帝。ロシアを近代化させた人。そして領土を拡張した人物。失われた領土を取り戻している自分と重ね、ロシア国民に印象付けたのでは。『偉大な皇帝』『偉大な大統領』というイメージを重ねたのかもしれない」
そして、現在も激しい攻防が続く戦況について演説では直接触れられなかったことに、ロシア側の焦りが浮かび上がったとの見方も…。
ウクライナ情勢に詳しい、神戸学院大学・岡部芳彦教授:「軍事作戦がうまくいかないなかで、ロシア国民が戦況の悪さも含めて意識しないことを最近プーチン大統領は考えているようで、あまり戦争自体を話題にしなくなってきた。今回も取り上げなかったのはそういう意図があると思われる」
●ウクライナ情勢による供給不安で高騰する「パラジウム」の行方 6/13
東京大学生産技術研究所所長の岡部徹氏が6月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアのウクライナ侵略で存在が注目されるパラジウムについて解説した。
「自動車排ガス浄化触媒」に使用されるパラジウム
プラチナ系の金属でレアメタルの一種とされるパラジウム。主に自動車を製造する際、有害な排ガスを浄化する「自動車排ガス浄化触媒」に使用されている。
飯田)自動車排ガス浄化触媒に使われているパラジウムですが、世界に供給されているパラジウムのうち、全体の約4割がロシア産なのです。残り6割の内訳を見ると、ロシアと同じく4割ほど出しているのが南アフリカです。南アフリカとロシアで約8割を占める、非常に生産国が偏っている物質でもあるわけです。ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、最近の相場は1グラム当たり1万円前後と、金やプラチナよりも高くなってしまっているということです。
パラジウムの供給不安による日本の自動車業界への影響 〜長期契約をしているため、値段は上がっても調達はできている日本企業
岡部)実際、供給元が南アフリカの一部地域とロシアしかないので、日本の自動車会社は南アフリカの白金を採掘して製錬する会社と、長期契約を結んでいます。供給が止まったら、立ち行かなくなりますので。値段は上がっていても、調達という意味では、長期契約で賄えているというのが私の見立てです。
飯田)その辺りは企業もリスクヘッジしているということですね?
岡部)私は実際に南アフリカの製錬所や鉱山など、いろいろなところに行きました。日本だけではありませんが、日本の自動車産業は最大の顧客であり、長期契約を結んでいるのです。すべての会社がそう言っていますから、間違いはないと思います。
飯田)当面、供給不安はあるかも知れないけれど、リスクヘッジはしているという点。そして、しばらくすると国際的な新しい流通網が形成されるので、供給に与える影響は限定的ではないかという見解もありました。さまざまな国を経由するので、その分、値段は上乗せされてくる可能性はある。
今回のパラジウムの高騰は投機筋によるもの 〜今後、どう動くかはわからない
飯田)南アに今回、非常に注目が集まっているということですが、南アフリカだけでも需要の100年分を賄えるだけの埋蔵量があるということです。その間に、新しい排ガスを浄化する技術が出てくる。または、ガソリン車のシェアが少なくなる可能性もあります。「需要と供給のバランス」もありますが、こういう激変期には、いろいろなハレーションが起きるものですよね?
ジャーナリスト・須田慎一郎)そうですね。今回も2月24日にロシアによるウクライナ侵略が始まった際、パラジウムは商品先物市場、主にシカゴの先物市場で売買されているのですが、急激に上がったのです。つまり、今後の実需を反映した価格ではなく、思惑外と言ったらいいでしょうか。先物市場が上がってきた経緯があるので、投機筋による高騰なのだと考えてもらっていいと思います。本当の値段かどうかはわからないところがあります。
日本はパラジウムを含めたレアメタルのリサイクル大国
飯田)パラジウムは現在ある車のエンジンにも使われているのですよね?
岡部)そうですね。
飯田)そうすると、取り出して再利用することはできないものなのでしょうか?
岡部)それは既に行われています。自動車には、組み合わせはいろいろありますが、2グラム〜数グラムの白金、パラジウム、ロジウムが使われているので、それをリサイクルして回収するだけで、何万円かの価値が生み出されるのです。
飯田)リサイクルして回収するだけで。
世界中から自動車の排ガス浄化触媒のスクラップを集めて、パラジウムや白金に戻す技術のある日本
岡部)日本は、白金をスクラップから精錬してリサイクルする技術が長けているので、世界中から自動車の排ガス浄化触媒のスクラップを集め、日本に持ってきて、パラジウムや白金やロジウムに戻しています。
飯田)世界中から集めているのですか?
岡部)取り合いをしているというのが正しいです。
飯田)日本は非鉄産業が強い。別子銅山は江戸時代からある銅山で、これが住友グループの礎を築くなど、鉄以外の金属の扱いには歴史もあります。白金、あるいはパラジウムの抽出技術も優れています。世界中からスクラップを持ってきて、そこからさまざまにリサイクルしている。こういうことはオイルショックの時代からやってきたことです。
須田)資源がない国ですし、それを請け負う中小企業にも高い技術があります。日本は大企業だけではなく、中小零細企業の技術によって支えられている強みがあります。
これからのパラジウム、レアメタルの展望について 〜貴金属やレアメタルは生活を支えるために必要なもの
岡部)自動車に白金、パラジウム、ロジウムを使わない技術や、使う場合でも、使う量を減らす技術は必要です。ただ、これは何十年と研究者が取り組んでいることですが、未だに成功していない。成功する前に、下手をするとガソリン自動車がなくなるかも知れません。
飯田)どちらが先かというような話になってくる。
岡部)ただ、白金属がいらなくなるのかというとそうでもなく、例えば燃料電池ユニットには触媒として白金やパラジウムが必要なのです。
飯田)そうすると、今後の新しい産業なども含めて、この金属たちが非常に有用なことには変わりないのですね。
岡部)変化はしていきますが、貴金属やレアメタルは、豊かな生活を支えるには必ず必要になります。
飯田)お話を伺えば伺うほど、日本の可能性のようなものが見えてきますね。
岡部)地味ではありますが、非鉄産業、レアメタルに関しては、日本はいいポジションを取っているのです。
高い技術を持つ日本
飯田)地味だけれどいいポジションを取っているということです。
須田)素材という点に関して言うと、レアメタルやパラジウムに限らず、日本はいいポジションを取っていて、高い技術を持っているのです。例えば半導体の素材はシリコン一色ですが、シリコンに代わる新たな素材を考えないと、さらなる成長には進んでいかない。その素材の技術というものを日本は持っているのです。
飯田)商品化するまでには時間がかかるかも知れませんが、地道にお金を注ぎ込んで研究しなければならないのですね。
須田)岡部先生も言うように、地味だけれども、というところが日本の生きる道なのではないでしょうか。
●故郷が壊されている…苦しみと悲しみを知って 6/13
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の収束が見通せない中、きのう大田市出身のロシア政治の専門家が松江市で講演会を開き現状を語りました。
筑波大学 中村逸郎名誉教授:「単に街が壊されているのではなく、自分の故郷が壊されている苦しみ悲しみというところで、私たちはとらえていかなくてはいけないんじゃないか」
こう話すのは大田市出身で筑波大学名誉教授の中村逸郎さんです。中村さんはロシア政治の専門家でロシアの入国禁止リストにも名前が載っています。1年間、島根県立大学で教鞭をとっていたことが縁できのう、松江市で講演会を開きました。講演会ではウクライナへの軍事侵攻でこれまでにロシア兵の行方不明者が4万人を超え、ウクライナ兵は毎日約200人が亡くなっていると現状を語りました。またウクライナ侵攻の終結についても話しました。
中村逸郎名誉教授:「暴走しているプーチン大統領を誰が止めることができるかという問題。特に若い人たちから不満が出てきている。軍事侵攻を止めるのはロシア人しかいないと思っています」
約220人の参加者を前に中村さんは、ロシアのウクライナ侵攻は遠い世界の話ではない。世界はローカル、地域の積み重ねで成り立っているので山陰の人たちにとっても身近な問題として関心を持って欲しいと話しました。
●JICA、初の「平和構築債」 ウクライナ支援へ200億円 6/13
国際協力機構(JICA)が、ロシアから軍事侵攻を受けたウクライナなど戦争・紛争地域や難民の支援に役立てるため、国内初となる「ピースビルディングボンド(平和構築債)」を200億円発行することが13日、分かった。平和貢献への意識が高い機関投資家や自治体からの資金を活用する狙い。
7月に10年債と20年債を100億円ずつ起債する予定。比較的低利で資金を確保し、平和や復興につながる有償資金協力事業に充てる。主幹事を務める大和証券が今後、詳しい発行条件を詰める。ウクライナ危機を機に平和問題への意識が高まっており、JICAは十分に資金が集まると判断した。
●ウクライナ「排除」に反発 穀物問題で思惑交錯 6/13
ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナの穀物輸出が停滞している問題で、国際社会が探っている輸出再開の方策に当のウクライナが神経をとがらせている。穀物輸出再開の枠組みがウクライナの頭越しに決められたり、ロシアへの制裁圧力が弱められたりすることを警戒しているためだ。世界的な食糧危機の懸念が深まる中、この問題では関係諸国の利害が複雑に交錯している。
「(穀物輸出枠組みの構築に向けた)各国の協議や努力を歓迎するが、前提が一つある。わが国の安全が完全に保証されることだ」
ウクライナのクレバ外相は8日の記者会見でこう力説した。念頭にあったのは同日、穀物問題をめぐってトルコのチャブシオール外相とラブロフ露外相が会談したことだ。トルコはロシアとウクライナを仲介する用意があるとしつつ、米欧などによる対露制裁の解除に賛意を示した。
米欧は世界有数の穀物輸出国であるウクライナをめぐり、輸出拠点だった黒海沿岸の港を海上封鎖しているとしてロシアを批判してきた。これに対してプーチン露政権は、対露経済制裁が世界の食料価格高騰を招いているとして制裁解除を要求している。
露主要銀行を対象とした金融制裁により、米欧が穀物を含む各分野でロシアとの取引を控えている。プーチン政権は、制裁がなくなればロシア自身が穀物輸出を増やし、食料価格を抑制できると主張している。制裁によるロシアの経済的疲弊を待つウクライナにとっては決して容認できない。
プーチン政権は、ウクライナが露占領下にあるウクライナ南東部のマリウポリやベルジャンスクから穀物を輸出するよう水を向けるが、被占領地からの輸出はロシアによる実効支配の既成事実化につながる。
ロシアとウクライナが黒海沿岸に敷設したとされる機雷の除去も難題だ。ロシアはウクライナの機雷を問題視して批判を強めているが、ウクライナとしては、機雷が除去されれば露軍の南部への上陸が容易になってしまう。クレバ外相が「安全の保証」を強調するのはこのためでもある。
トルコは国連とも協力し、ウクライナの穀物輸出に向けた安全な航路の設置を急ぐとしている。だが、具体的な方策はまだ見えてこないのが実情だ。穀物輸出の問題は、今月下旬に予定される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも主要議題となる。
アフリカ連合(AU)の議長国セネガルのサル大統領は、3日に訪露してプーチン氏と会談し、対露制裁解除の必要性に言及した。アフリカや東南アジアには飢餓や食糧危機への懸念を強めている国が多く、「背に腹は代えられない」との事情でロシア寄りの立場をとる可能性がある。
ウクライナと良好な関係にあったトルコもここにきて、経済や安全保障の観点からロシアに重心を移している感が強い。
トルコ高官が語ったところでは、天然ガスで国内需要の45%、ガソリンで40%をロシア産でまかなうなど、エネルギー面でトルコの対露依存度は高い。シリアやリビアの内戦ではトルコとロシアがそれぞれ敵対する勢力を支援しており、対露関係が悪化すると地域情勢に影響する事情がある。
ロシアが反発しているスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請でも、トルコはロシアに理解を示して両国の加盟に反対している。
●プーチンの「飢餓計画」:途上国を兵糧攻めにしてEUに難民危機を引き起こす 6/13
ウクライナ侵攻中のロシアが黒海を封鎖している問題について、エール大学の歴史学者ティモシー・スナイダー教授はその意図は「難民を生み出すこと」、さらにはEU域内を不安定化させることにあると分析した。
「プーチンの飢餓計画には、ウクライナ産の食糧に依存している北アフリカや中東からの難民を生み出し、EUを不安定化を生み出す意図もある」とスナイダーは11日、ツイッターに投稿した。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国だ。ロシアによる黒海の海上封鎖は、ウクライナからの輸入穀物に大きく依存している少なからぬ国々の食糧供給を脅かしている。
スナイダーはまた、もし海上封鎖が続けば「数千万トンに及ぶ食糧が貯蔵庫の中で腐ることになり」、その結果、アフリカやアジアで数多くの人々が「飢えることになるだろう」と警告した。
黒海に面したウクライナ南部オデーサ州のアラ・ストヤノワ副知事も、海上封鎖によってウクライナの穀物が滞留し、世界各地の食糧不足に拍車をかけることになると警告している。
世界に対するプーチンの「恐喝」
「プーチンの狙いは貧しい国々を飢餓に追い込むことだと私は思う。ウクライナの港を封鎖することで、彼は世界を恐喝しているのだ」と、副知事は先月、英紙テレグラフに掲載されたインタビューで述べている。
テレグラフによれば、オデーサを初めとするウクライナの港には通常、1日あたりコンテナ3000個の分の穀物が鉄道で到着し、大型の貯蔵庫に一時保管されるという。
世界では今年に入り、2億7600万人近い人々が深刻な飢餓を経験している。もしウクライナ侵攻が続けば、深刻な飢餓を経験する人の数はさらに4700万人上乗せされるかも知れない。特に危惧されるのはサハラ砂漠以南の地域だ。
先月、国連安全保障理事会では、ウクライナからの穀物輸出が大きく減少したことで、イエメンやナイジェリア、南スーダン、エチオピアなどの国々が食糧危機のリスクにさらされていると指摘された。
国連世界食糧計画(WFP)も先ごろ、ウクライナの港への封鎖が解かれなければ世界中で数多くの人々が「飢えに向かって突き進む」ことになるだろうと警告を発した。
前出のスナイダーはツイッターで、世界各地で飢餓が起きる懸念も表明した。プーチンは「飢餓計画」に基づき、「欧州における戦争の次の段階として、発展途上国の大半を飢えさせる」準備をするかも知れないと言うのだ。
「プーチンの飢餓計画はあまりに恐しく、理解しがたいものがある。われわれは、食糧が政治における中心課題であることを忘れがちだ」とスナイダーはツイートした。
「何より恐ろしいのは、世界規模の飢餓がロシアの反ウクライナのプロパガンダ活動にとり必要な背景だということだ。実際に大量の死者が出ることが、プロパガンダ合戦の背景として必要なのだ」
飢えた国々で暴動や抗議が激しくなれば、ロシアはそれをウクライナの責任にして占領を正当化するつもりだとスナイダーは書いている。本誌はロシア外務省にコメントを求めたが回答は得られていない。 

 

●ウクライナ戦争による欧州の結束と分裂への懸念 6/14
5月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストのジャナン・ガネシュが、ウクライナ戦争を巡る仏独両国とその他諸国との間の分裂の状況を論じている。
ガネシュの論説は、ウクライナの戦争に立ち向かうフランスとドイツの姿勢を疑問視し、そこに欧州の分裂があると指摘し、仮にマクロンが唱える欧州の「戦略的自立」が実現していたならば、ロシアの侵略に対する欧州の姿勢は多くの欧州諸国と米国にとって不愉快なものであった筈だと観測している。その上で、まとまりのない欧州であっても、「戦略的自立」に縛られた一律に思わしくない政策よりもましだと皮肉っている。
そもそも、ウクライナ侵攻の前においても欧州各国の立ち位置には分裂の傾向が見られたが、ウクライナ侵攻が始まるや、ノルドストリーム2の停止と国防予算の大幅増額を含む、ドイツのショルツ政権の劇的な政策転換にも助けられ、欧州は対ロシア経済制裁と対ウクライナ武器支援の面で稀に見る結束を実現した。この結束が、首都キーウ防衛の成功を含むウクライナ軍の奮戦によって支えられたことは確かだと思われる。
しかし、この論説にも指摘があるが、欧州の結束は戦況の変化と同じ弧を描いて変化しかねない。ロシアは東南部に軍事力を集中して圧倒的な火力で制圧を目指し、戦争は消耗戦の様相を呈するに至っており(ロシアを「弱体化する」あるいは「ロシアをウクライナ全域から追い払う」との西側の発言は先走りに過ぎた印象がある)、欧州には先行きを不安視し、経済への悪影響を懸念し(悪影響はロシアにエネルギーを依存する度合いにより異なる)、和平への展望を探る兆候もあるようである。
5月9日、フランスのマクロン大統領は、いずれロシアとウクライナの両国は和平を求める時が来る、その時点では、1918年にドイツに起こったことだが、いずれの側も屈辱を味わい排除されることがあってはならないと述べた。マクロンは、「われわれはロシアと戦争している訳ではない。われわれは欧州人としてウクライナの主権と領土的一体性の保全に、そしてわれわれの大陸に平和を回復するために務める」ともツイートした。
経済制裁に関する限り、欧州の結束は保たれている(石油の禁輸ではハンガリーに譲歩を余儀なくされたが)と言い得ようが、武器支援についてのドイツの姿勢は心許ない。戦線が東南部に移るに伴い、4月に西側は榴弾砲や戦車などの重火器を提供することを申し合わせ、ドイツも重火器の提供を約束したが、ショルツ首相がこれを実行することを躊躇し言い逃れをし、自走式榴弾砲パンツァーハウビッツェ2000や自走式対空砲ゲパルト対空戦車の供与が始まったのは最近のことらしい。いずれにせよ、武器支援については米国の存在が圧倒的であり、米国なくしてはウクライナの抵抗は成り立たない状況であるが、それにしても、フランスやイタリアの役割は小さい。
バイデンが示した目標の意味
現在、ウクライナは守勢に立たされているが、ウクライナを軍事的に支援する西側は耐えて結束を維持し支援を続けられるのだろうか。バイデン米大統領は、5月31日付ニューヨーク・タイムズ紙にウクライナの戦争における米国の目的に関して一文を寄稿しているが、ワシントン・ポスト紙はバイデンが明確な目標を設定したとして評価し、これによって西側の結束を維持し得ようとの社説を書いている。
バイデンは米国が「彼(プーチン)の追放を試みることはしない」と書き、「ロシアに苦痛を与えるためだけのために」戦闘を長引かせることはしないとも書いている。成程、神経質な欧州の同盟国を安心させる効果はあろう。しかし、武器支援については「(ウクライナ)が戦場で戦えて交渉のテーブルで可能な限り強い立場に立てるようにするため」だと書いているが、この目標には幅があり過ぎて、とても明確な目標とは言えないと思われ、欧州が明確な目標と受け取るとも思えない。
バイデンの寄稿文は、バイデン政権がウクライナへの射程の長い(70キロメートル)多連装ロケット砲システムの供与(但し、国境を越えてロシアに対して使用することを禁じている)を新たに決定したことに対して、ロシアが過剰な反応をしないよう書かれたものかも知れない。バイデン政権としては、北大西洋条約機構(NATO)の場で少なくとも2月24日の線までロシアを押し返すという当然の目標を欧州と共有することに務めるべきものと思われる。
●戦争はこう着、兵器供給加速ないなら−ゼレンスキー氏 6/14
ウクライナのゼレンスキー大統領は、同盟諸国が先進兵器の供給を加速させなければ戦争は膠着(こうちゃく)状態に陥る恐れがあると危機感を示し、東部の戦闘は「極めて熾烈(しれつ)」だと述べた。
ロシア軍はウクライナ東部セベロドネツクで攻撃を続け、市内や近隣の村にも砲撃を加えた。同市はウクライナ政府がルハンシク(ルガンスク)州で維持する最後の主要拠点の一つ。同州知事は同市の8割がロシア軍に掌握されたと語った。
ロシア軍がウクライナ南部および東部地域を制圧し、サイロを破壊したため、ウクライナは今後迎える穀物の収穫期に際して欧州に穀物の一時保管を依頼した。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ロシア、極東の旧型戦車まで活用−欧州高官
ロシアは人員と兵器を国内全土からかき集めていると、事情に詳しい欧州の高官が明らかにした。ウクライナへの侵攻開始から100日が過ぎ、軍事的な能力の大半を使い尽くしてしまったため、極東を拠点とする旧型戦車まで引っ張り出してきているという。この結果、ロシアは作戦の減速を余儀なくされる状態まで数カ月しかないかもしれないと、この高官らは述べた。
ロシア、英報道関係者や防衛企業幹部の入国禁止へ
ロシアは英国の報道関係者や防衛企業幹部49人の入国を禁止する。ロシア人ジャーナリストへの英当局の対応を巡る報復措置だとロシア外務省は説明した。BBCやITV、スカイニューズなど有力報道機関の記者らが入国禁止になった。
プーチン大統領、今月30日にインドネシア大統領と会談へ−タス
ロシアのプーチン大統領は今月30日にモスクワでインドネシアのジョコ大統領と会談する。国営タス通信がロシア政府関係者を匿名で引用し報じた。ウクライナ侵攻後、外国の首脳がモスクワを訪問するのは異例。インドネシアは現在20カ国・地域(G20)の議長国で、今年11月にはバリでG20首脳会議を主催する。
セベロドネツクに親ロ派地域に向かう人道回廊設置−ロシア
ロシア国防省は、セベロドネツクからルハンシク州内の親ロシア派支配地域に向かう人道回廊を現地時間15日午前8時から午後8時まで開設すると発表した。
戦争はこう着も、兵器供給鈍いなら−ゼレンスキー大統領
西側からの先進兵器の供給が加速しないならウクライナの戦争は膠着(こうちゃく)状態に陥り、さらに多くの人が命を落とすことになる恐れがあると、ゼレンスキー大統領がデンマークの記者団とのオンライン会見で述べた。
JPモルガンとゴールドマンがロシア債取引仲介から撤退
ウォール街を代表する2大金融機関、JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックス・グループは、米財務省が流通市場でロシア債購入を禁止したことを受け、同債のマーケットメーキング(値付け)や仲介業務から撤退する。プロの市場関係者によれば、JPモルガンとゴールドマンはロシア債を手放したい売り手と、関心ある買い手との仲介を今月に入っても続けていた。しかし、事情に詳しい関係者の1人によると、米投資家によるロシア債の購入禁止を財務省外国資産管理局(OFAC)が発表したことから、JPモルガンは関連業務から手を引く。ゴールドマンの広報担当も、該当する取引を停止することを明らかにした。
ロシア軍がセベロドネツク市の8割掌握−州知事
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク(ルガンスク)州の要衝セベロドネツク市の最大80%を掌握した。同州のハイダイ知事が明らかにした。同市と対岸の都市を結ぶ3つの橋全てが破壊され、市民の退避や人道支援物資の受け取りが不可能になったとし、「難しい状況だ」と語った。
米政府、水面下でロシア産肥料の追加購入・輸送促す−関係者
米政府は水面下で農業・運輸セクターの企業に対し、ロシア産肥料の追加購入・輸送を促している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。制裁を巡る懸念でロシア産肥料の供給が急減し、世界的な食糧コスト急増につながっている。
ウクライナ、燃料油や石炭の輸出停止
ウクライナ政府はロシアの侵攻を理由に、燃料油と石炭、国内で採取された天然ガスの輸出を停止した。13日に公表された10日付の政府決議で明らかになった。
●OPEC月報、ウクライナ戦争が下半期の需要回復予測のリスク 6/14
石油輸出国機構(OPEC)は14日に公表した月報で、下半期に石油需要が力強く回復すると予想しながらも、ウクライナでの戦争や長引く新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がその脅威になるとの見解を示した。
OPECは下半期の世界石油消費量が平均で日量310万バレル増の同1億180万バレルと、パンデミック前の水準を上回ると予測した。ただ、インフレ圧力やウイルスの新たな感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻による経済的影響によって、その回復予想が外れる可能性もあると注意を促した。
OPECは「現在の地政学的動向やパンデミックを巡る不確実性が下半期の終わりまで、パンデミック前の水準に戻るとの予想にかなりのリスクをもたらし続ける」と指摘した。
●ロシア映画でウクライナ戦争を読む 「戦勝国の神話」に酔う人々 6/14
ロシアが国際法を犯してウクライナに侵攻したことを受け、ハリウッド映画を中心とする欧米のほとんどの映画会社は作品をロシアから引き上げた。レパートリー不足に苦しむロシア国内の映画館は、上映スケジュールの穴を埋めるためソ連時代からの旧作を並べるなどの経営努力を続けている。
3月上旬、ロシア映画の興行収入の週間ランキングに、一人の監督の旧作2作品がベスト10内に並んだ。アレクセイ・バラバーノフ監督(1959〜2013年)の殺し屋のロシア人兄弟が活躍する「ブラザー」(1997年、邦題は「ロシアン・ブラザー」)とその続編「ブラザー2」(2000年、日本未公開)である。ともに旧作であり、ソ連解体からナショナル・アイデンティティ(国民の自己意識)を立て直す途上の90年代ロシアを舞台にしている。前者はサンクトペテルブルクの闇市場を牛耳るチェチェン人マフィア、後者は米国を拠点にするウクライナ人マフィアがロシア人の若者に成敗される痛快なストーリーの映画で、封切り当時、強大なロシアの物語を求める観客に熱狂的に歓迎された。
“積年の恨み“を晴らすセリフに喝采
「ブラザー2」には、命乞いをするウクライナ人マフィアに向かって、殺し屋の兄が「お前たち悪党にはまだセバストーポリ(ロシアに併合されたクリミア半島にある特別市)のツケがある」といって容赦なくとどめを刺す場面がある。クリミアはソ連時代の54年に最高指導者ニキータ・フルシチョフによってロシア共和国からウクライナ共和国に管轄が移され、当時は同一国内での移管として済んだ帰属問題だったが、91年のソ連解体にともない民族間の領土問題が再燃した。
「ブラザー2」でのロシア人の積年の恨みを晴らすセリフに、公開当時の観客は文字通り上映ホールで拍手喝采したのだった。今回のリバイバル上映でも、この場面は保守的な観客層に爽快な気分をもたらしたことだろう。周知のように、ロシアは14年にウクライナ国内の混乱に乗じてクリミアを強引に併合した。
独裁政治批判のSF映画を上映
こうした愛国主義的な熱狂から冷静に距離を置いて映画文化の継承に努める映画館もある。ウクライナ侵攻後もプロパガンダとは無縁の独自のプログラムを組んでおり、上映作品の名前からだけでも、企画者のファシズムに反対する気持ちが伝わってくる。
上映されているのは、権力と真っ向から対峙していたアレクセイ・ゲルマン監督(1938〜2013年)の「神々のたそがれ」(2013年)といった作品である。ロシアの人気SF作家であるストルガツキー兄弟の小説『神様はつらい』(1963年)を原作に、地球から遠く離れた惑星に栄える独裁政治がエスカレートする王国を舞台にしたディストピア(暗黒郷)を描いている。
「プーチン大統領に一番見て欲しい」
脚本を共同執筆するなどゲルマン監督を常に支えてきた妻のスベトラーナ・カルマリータ氏は、撮影が進むにつれてスクリーンで起こっていることはロシアに限らない、世界の大部分を包摂することだと気づいたと回顧している。米国でトランプ政権が誕生するまだ数年前のことで、今にして思えば芸術家の慧眼(けいがん)である。生前のゲルマン監督もプーチン大統領からある賞を授与された際のパーティーで、「神々のたそがれ」を一番見てほしい観客はあなただと言ったため、周囲がお通夜のように静まり返ったというエピソードを披露していた。
昨年12月、ロシア人映画監督がプーチン大統領と口論したというニュースがロシアで報じられた。91年にソ連から独立したタジキスタン共和国での内戦に派兵されて命を落とした若い兵士たちを追ったドキュメンタリー「精神(こころ)の声」(1995年)や権力者を描いた「権力4部作」などで知られるアレクサンドル・ソクーロフ監督(1951年〜)が、ある会議の席上でプーチンと口論したという見出しだった。中央集権化を進めるプーチン大統領の政策に苦言を呈したというのが実際だったが、権力を強固にし続ける大統領に対して正面から文句を言うだけでニュースになったのだった。
英雄を描くのではなく苦悩を
ソクーロフ監督は11年、ロシア連邦に属する北カフカスに位置するカバルダ・バルカル共和国の大学に招かれ、映画のワークショップを開催したことがあった。今、そこでソクーロフ監督から映画とヒューマニズムを学んだ若者たちが次々と長編映画を撮り出し、7月15日から日本でも注目の1作品が公開される。カンテミール・バラーゴフ監督(1991年〜)による、戦後間もないレニングラード(現サンクトペテルブルグ)でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えて生きる女性たちの心と体の傷を描いた「戦争と女の顔」(2019年)である。
ロシアでは独ソ戦勝利を祝う5月9日の「戦勝記念日」に合わせて、ナチス・ドイツという国民的な災禍に立ち向かった英雄たちを描いた映画が毎年公開される。しかし、「戦争と女の顔」は、こうした映画で提示される勇敢な男らしさのイメージとは無縁である。それゆえ、プロデューサーと監督が出席した19年のプレミア上映後のトークでは、映画で女性同士がお互いの体をからませる場面を指して、年配の観客がロシアの神聖な時期を汚していると不満を表明する一幕があった。これに対してプロデューサーは、「あなたは彼らを哀れだと思わないのか。人々と苦悩を共有、共感するために映画を作っているのだ」と強く反論した。
ナチズムの思考法
大規模な予算で製作された戦争映画は、大量消費向けのスペクタクルとしてよく出来ている一方、観客を内省のない戦勝国神話の内側にいることに慣れさせ、ナショナリズムを支える観客を生み出してしまう。戦勝国の神話に酔いしれることに慣れた観客は、現実の負の側面を直視しようとはしない。しかし、英雄が創出された物語の背景では、名もなき多くの英雄でない者たちがいる。英雄の創出がただ分断を生み出し、国に貢献しない傷ついた者たちが害悪とされるだけならば、そうした思考法こそがナチズムだったはずではないのか。ソクーロフの教えを受けた若き映画監督バラゴーフの「戦争と女の顔」は、そうした「神話」に抵抗する映画である。
●ロシアに洗脳された市民に食料を届ける、歓迎されない牧師に会った─ 6/14
空がうっすらと色づき、夜が明ける頃、オレグ・タカチェンコは今日も自家用車のバンに大量の支援物資を詰め込み戦場と化した町へと出発する。向かう先は、ウクライナ東部ドンバス地方に位置するドネツク州の町ブレダールだ。
自分も死ぬかもしれない。そう分かっていながら、プロテスタントの牧師であるタカチェンコは週に何度か、ブレダールへと車を走らせる。数週間前には、彼のバンからわずか50メートルの所に破裂弾が飛んできた。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、今はここ、ドンバスが戦争の最前線となっている。そこで暮らす市民の生活は既に限界を超え、多くがロシアの砲撃にさらされながら、水も電気もない生活を送る。
火を使えるのは、砲撃と砲撃の合間だけ。その間に、屋外に出てわずかな食料を直火で調理する。特に年老いた人や貧しい人、病を患う人にとっては綱渡りの毎日が続く。
タカチェンコは、ウクライナ当局や国際支援団体が入れないような所にも率先して食料や物資を運ぶ。ここで生活する彼らにとって、タカチェンコのようなボランティアたちは文字どおり生命線となっている。
「(ドンバスで親ロシア派とウクライナ政府が武力衝突した)2014年も危なかったが、今はさらに危険だ。だが私の使命は人々を助けることだから」と、タカチェンコは言う。
7人の子を持つ52歳の彼は、2014年から支援活動を続けてきた。パンやジャガイモ、(可燃性の液体)ベンジンと一緒に、インスリンなど生死に関わる薬を運ぶこともある。
「水がなくても3日、食料がなくても2週間は生きられる。だが薬がないと、数時間で死に至るかもしれない」と、タカチェンコは言う。
戦火が激しくなるドネツク州でロシア軍に破壊された建物 ANNA KUDRIAVTSEVA-REUTERS
戦争開始から100日余りがたつなか、ロシアはウクライナ領土の約5分の1を掌握してきた。
現在、最も厳しい戦闘が続くウクライナ東部ルハンスク(ルガンスク)州の要衝セベロドネツクでは、6月初めの週末にウクライナが反撃して市の半分を奪還した。しかしルハンスク州の95%はロシア軍に占拠されている。
ロシア軍はゆっくりだが着実に進撃しており、ルハンスクに残る最後の土地を掌握した暁には、南進を開始してドネツク州やブレダールのような都市に向かうとみられている。
人口1万4000人ほどのブレダールは、2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始したその日から戦火にさらされてきた。侵攻初日、町の病院のすぐそばにクラスター弾を搭載したロシアの弾道ミサイルが着弾し、4人の市民が犠牲となったのだ。
ブレダールの住民たちによれば、砲撃は4月初めから絶え間なく続いており、彼らは一日中、地下に身を隠しながら生活している。
アパートが立ち並ぶ集合住宅で、64歳のタチャーナは穴が開いた2階を指さし、あそこで暮らしていたのだと教えてくれた。アパートの正面は真っ黒に炭化し、そばには旧ソ連製ロケットの一部が転がっていた。
「彼らは毎晩、砲撃してくる。昨夜も、今朝も、毎日だ。日曜は朝から晩まで砲撃が続く。外に出て火を使うこともできない。もうこんな生活、耐えられない」とタチャーナは言う(本人の希望により名字は匿名)。
1斤のパンでいさかいも
彼女は即席で作った墓地を見せてくれた。青々とした木々の下にあり、かつては休息場所だった所だ。土が盛られた3つの墓が整然と並び、プラスチックと木製の合わせくぎで作られた十字架が立てられている。
「彼らは高齢のために亡くなった。砲撃の最中に埋葬しなくてはならなかったので......」と、タチャーナは言う。「後でしっかりと埋葬する」
空を切り裂くような砲弾が危険なほど近づいてくると、タカチェンコは車に飛び乗り急いで立ち去った。
次に向かった集合住宅に到着すると、四方八方から人々が出てきて列を成す。彼らは「唯一の食料源」というタカチェンコの配給を手に入れるために必死だ。住民が1斤のパンを手にする際には、いさかいも起こる。
ドンバスの前線の状況が深刻さを増すにつれ、ロシア軍がマリウポリで見せた戦術を繰り返すのではないかという懸念が生まれている。マリウポリでロシア軍は何カ月もウクライナ人を包囲し、最大で5万人を殺した。
双方に停戦の意思はなく、ウクライナが勝利に向かって邁進すれば、ロシアも目的を達するまで進み続ける。その目的が何かは、ほとんど定義されていない。
「電気は3月15日から、ガスは4月10日から途絶えている」と、62歳の住人ビャチェスラフは言う。
彼は階段へと私を案内すると、5人の家族が寝床にする冷たくじめじめした地下室を見せてくれた。中には木の板で作られたベッドがある。夜の明かりはろうそくか、オイルランプだけだと言う。
11歳の孫娘カチャは、爆発のたびに壁が揺れると言いながら、愛猫を抱き締めていた。
「3月19日には店が破壊された。どのようにしてかは分からないが、気付いたらなくなっていた。水道は戦争前から始まっていた爆撃で既に断水していた」と、ビャチェスラフは言う。
「誰もゴミを処理してくれない。気温が高くなっており、臭いは日に日にひどくなる。大量のハエがたかって病気が心配だ」
住民たちによれば、手に入る水は工業用水だけで、飲料には適していない。
タカチェンコはそのリスクの大きさにもかかわらず、いつも歓迎されるわけではない。大多数が東方正教徒であるこの国において、プロテスタントの彼はしばしば疑念の目を向けられる。
ウクライナにおけるプロテスタントは全人口のわずか2%でしかなく、タカチェンコが避難地域のポクロブスクへ移る前でも、彼が所属するブレダール教会に来る礼拝者は33人しかいなかった。
状況をより複雑にさせているのは、長年にわたるロシア政府のプロパガンダが、ロシア語を話す住民の多い東部で大きな影響を及ぼしていることだ。
私が話をしたほかのブレダールの住民たちは例外なく、攻撃はロシアではなくウクライナから受けていると信じている。クレムリンが支配するメディアの主張そのままだ。
ロシアに同情する人々を相手に、どうして自分の命を危険にさらすことができるのかと尋ねると、タカチェンコはこう答えた。「どうして『病人』を放っておけるのか」
その意味するところは「洗脳されている」人々だ。
「私はウクライナが勝つと100%信じている。その後に彼らに巣くう根深い思考を治してみせる」と、タカチェンコは言う。
「目下の心配は、ロシア軍がブレダールに至る道路を支配下に置いていることだ。もはや食料やインスリンを届けることはできない。そうなれば、人々はどうしたらいい?」
●豪農家の信頼感が低下、ウクライナ戦争やコスト高で 6/14
14日公表されたラボバンクの調査によると、豪農家の信頼感は直近の四半期に低下した。コモディティー(商品)価格高や豊作見込みといったプラスの要素が生産コストの上昇により打ち消された格好だ。
ラボバンクは、ウクライナ戦争が農家の販売価格、特に穀物価格を押し上げているが、投入コスト上昇で相殺されていると指摘している。
調査によると、豪農家の約半数がウクライナでの戦争が農家経営に打撃を与えると回答した。今後12カ月の間に経営状態が改善すると予想したのは28%にとどまり、前四半期の31%から減少した。
今後12カ月間の収入については、安定的に推移すると予想した。
ラボバンク・オーストラリアのピーター・ノブランチ最高経営責任者(CEO)は、農家は2年以上にわたり農産物価格高を享受してきたが、現在多くがマージン圧力に直面していると指摘。「コスト圧力は緩和されておらず、生産者は上昇する投入コストに対応するため高い商品価格を必要としている」と述べた。ラボバンクは豪最大の農業金融機関の一つ。
●「独仏伊はプーチン側に立っている」 ”欧州分断”で猛批判 6/14
6月9日、プーチン大統領はピョートル大帝生誕350年記念展覧会を訪れ、「ピョートル大帝はスウェーデンとの戦争で何かを奪い取ったという印象を持たれているが、何ひとつ奪い取ってはいない。ただ取り戻しただけだ」と語った。これは1700年から1721年まで続いた「大北方戦争」に触れた発言で、この戦争でスウェーデンを破ったピョートル大帝はバルト海の通商権を手に入れ、ロシアを欧州の大国とした。
プーチン大統領は「われわれも『取り戻す』ことに力をいれるべきだ」とウクライナへの軍事侵攻を正当化した。
この発言について、「プーチンは戦争をウクライナに限定せず、バルト三国に広げることまで視野に入れている」と分析、警戒するのは、現在米国ワシントンで活動する反プーチンのロシア人数学者アンドレイ・ピオントコフスキー氏だ。
ウクライナのウェブTV 「24 Kanal」(6月9日)のインタビューに答えたピオントコフスキー氏は、ウクライナ支援をめぐる欧米各国の足並みの乱れがプーチン大統領に自信をもたらしていると指摘、「独仏伊はプーチンの側に立っている」と厳しく批判した。
ヨーロッパの一部主要国がロシア側に付いていると言い切る、その真意はどこにあるのか。ピオントコフスキー氏の主張を紹介する。
ピオントコフスキー氏は1940年モスクワ生まれの81歳。ロシア科学アカデミー・システム分析研究所の数学者として活躍したが、1998年から政治活動を始め、反プーチンの急先鋒として批判を続けるなか、2014年のクリミア併合を予言した。2016年には逮捕を恐れてロシアを出国。現在は米国で評論活動を続けている。
「プーチンは『力』しか信じない人間だ」
ピオントコフスキー氏によれば、ピョートル大帝記念日のプーチン発言は、ウクライナへの侵攻を正当化するだけではなく、今後の征服のプログラムを示すものだという。
「プーチンがピョートル大帝に絡めて21年間続いたスウェーデンとの『北方戦争』に触れたのは、ウクライナとの戦争が3日で終わらず、長期化することをロシア国民に正当化するためだ。しかしその発言から、プーチンは戦争をウクライナに限定せず、バルト三国も視野に入れていると考えられる。『奪い取るのではなく取り戻す』という言葉には注意が必要だ。プーチンは『力』しか信じない人間だからだ」
ピョートル大帝(1672-1725)は、ソ連時代を通してロシア人の間で人気が高い。海軍を創設し、ロシア正教会を国家に従わせ、帝国のあらゆる権限を皇帝の元に一元化して「帝国ロシア」の礎を築いた。その一方、黒海の覇権を求めてオスマントルコのイスラム教徒を弾圧し、国家収入の大半を軍備に当て、重税に苦しむ農民からは、「イエスの教えに反するアンチ・キリスト」として憎まれた。
戦勝記念日、プーチンは「孤立」のどん底にいた
「驚いたのは、戦勝記念日(5月9日)のプーチンと、ピョートル大帝記念展覧会のプーチンの変わり様だ。戦勝記念日では、意気阻喪していて、軍事パレードの最中も膝にブランケットを置き、軍最高司令官としての演説では『これしか道がなかった』、『正しい決断だった』などと泣き言のような弁明を繰り返していたが、ピョートル大帝展のプーチンはまったく別人のようだった。5月9日の戦勝記念日、プーチンは『孤立』のどん底にいたのだ。
オースティン米国防相がキエフで『ウクライナ領土の一体性を支持し、ロシアが同じことを繰り返せない程度に弱体化させる』と発言し、その直後にアメリカがレンドリース法(武器貸与法)を成立させたとき、プーチンの『孤立感』は深まったはずだ」。
独仏伊は「ウクライナの勝利を恐れている」
それが一転、自信を取り戻した理由として、ピオントコフスキー氏が指摘するのはイタリアやフランス、ドイツが示す「融和」の動きだ。例えばイタリアは5月20日、停戦と国連監視団による非軍事化、EU加盟は認めるがNATO加盟は想定しないという条件でのウクライナの「中立化」、などを柱とする4項目の調停案を単独で国連に提出した。また、フランスのマクロン大統領は仏メディアのインタビューに対し、「戦闘が終結した際に外交的な手段を通じて出口を築けるよう、ロシアに屈辱を与えてはならない」と訴えた。
ピオントコフスキー氏はこうした動きを激しく批判する。「マクロンは『プーチンの顔を立てる解決策を見出すべきだ』と言い出し、ウクライナに領土面での譲歩を迫った。それにイタリア、ドイツも同調した。欧州の中では独仏伊はプーチン側に立ったと言える。この弱腰な言動が、この1カ月でプーチンをこれほど強気にさせてしまった」
ピオントコフスキー氏はこれら「古い欧州の国々」は、ウクライナがこの戦争に勝利することを、実は恐れているのだ、とも語る。「戦勝記念日の後、マクロンやショルツ(独首相)たちはウクライナが本当に勝利するかもしれないと怖れ、『プーチンの顔を立てる』というキャンペーンを始めた。ウクライナが勝つと、戦争後の国際秩序の中で、独仏伊はこれまでの居心地の良いポジションを失いかねない。この数十年間、フランスとドイツはクレムリンと西側の『取り次ぎ役』を務めてきたからだ」
ピオントコフスキー氏は、第二次大戦中、ナチスに占領されてヒトラー寄りの政権を作り、終戦時には大国の地位を失っていたにもかかわらず、スターリンによって第二次大戦の「戦勝国」に引き立てられたフランスの鬱屈した立場について述べ、「『偉大なるフランス』はこの70年間、アメリカとクレムリンの間の仲介役にとどまっていただけではないか」と手厳しい。
「融和」姿勢にはウクライナも猛反発
ドイツについてはこう述べる。「ドイツはもっと現実主義に徹し、経済を最優先した。クレムリンとの特別な関係を自国の経済発展に利用した。『ノルドストリーム2』などのガスパイプラインを見ればわかるだろう。もちろんプーチンのロシアが崩壊することで、ロシアの巨大な政治空間が小さな地域に分裂し、核兵器の管理が困難になることや、大量の難民がヨーロッパに流入し、混乱と飢餓をもたらすことも恐れているが、独仏伊の第一の動機は自分たちの立場を死守することだ。イギリスとアメリカはこれに対抗しているが、米国内にもキッシンジャー(元国務長官)のように調停派がいる」
5月19日、米国の有力紙『ニューヨークタイムズ』が、米国やNATOができる財政、武器支援にも限界がある、2014年に奪われた領土を回復するような決定的な勝利を収めると考えるのは非現実的だ、ウクライナは領土の一部をあきらめる決断も視野に入れるべきだ、とする社説を掲載した。これに対してウクライナ側は「暖かい部屋でコーヒーを飲みながら世界の問題を考えるのは快適だろう」と皮肉ったうえで、「もしいま領土面で譲歩したら、ロシアは数年後にはまたウクライナへ侵攻し、さらに領土を占領し人を殺すだろう」と反論、あくまでも戦場で勝敗を決する決意を示した。そして独仏伊が「融和」姿勢を示すのは、それぞれがロシアにエネルギー資源を大きく依存しているためで、自国の利益を最優先している、と批判したのである。
ピオントコフスキー氏は、「ニューヨークタイムズ」の社説は米国内の調停派による論説だと見ている。
古いヨーロッパと新しいヨーロッパの対立
ピオントコフスキー氏は「欧州の分断」についてこう述べる。「独仏伊はNATO各国のウクライナ支援を麻痺させている。英、ポーランド、バルト三国、ルーマニア、スロバキアなどは、はるかに真剣にウクライナを支援しようとしている。古いヨーロッパと新しいヨーロッパの違いだ。プーチンのような人間は、戦場で決着をつけるしかない。ウクライナ軍に早急に最新鋭兵器が供給されることを願っている。しかし、この供給の遅れを解消するには、ジョンソン英首相が音頭を取って欧州の新しいイニシアチブを確立するしかない。ポーランドやイギリスは直接、戦争に関与する用意があることを表明している。イギリスはなぜこれほど強くウクライナを支援しているのか。それは、プーチンに立ち向かって孤軍奮闘するウクライナが、ヒトラーと戦う1945年のイギリスと二重写しになっているからだ」
折しもピオントコフスキー氏が批判の矛先を向ける独仏伊の首脳が「16日にウクライナの首都キーウを訪問すると」ドイツ紙が報道した。NATO加盟国による支援だけでなく、ウクライナの早期EU加盟へのネックとも言われる3カ国が、どんな回答を持って行くのか。
最後に、ピオンコオフスキー氏はアメリカにも苦言を呈した。「アメリカは正しい決定をするのだが、いつも遅い。もし、2カ月前にレンドリース法(5月9日成立)による兵器類が届いていれば、ウクライナはすでに勝利していただろう。もし半年前ならプーチンがウクライナに侵攻することはなかっただろう。戦局を左右するほどの数の兵器がウクライナ軍の前線に届くには、7月中旬まで待たなければならない」。
●「秘密主義」ゼレンスキーのせいで、米政府はウクライナの戦略を知らない  6/14
ウクライナへの武器供与を惜しまないアメリカだが、バイデン政権はウクライナ軍の作戦や損失について情報を共有されていないと、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じている。むしろロシア軍の戦略や戦死者数に関する情報のほうが確度の高いものを得ているという。
アメリカの「盲点」
ウクライナのゼレンスキー大統領はほぼ毎日、ロシアとの戦争についてSNSで情報を発信し、その拡散される動画には、西側諸国から供与された武器がどれほど有効に使われているか映し出されている。そうした武器を供与する側の米国防総省も定例会見で日々の戦況を伝えている。
だがこのようにウクライナとアメリカで情報が共有されているように見える裏で、実は米政府はウクライナの戦術や戦果、損失についてあまり情報を得ていないと、情報機関の高官らは指摘する。しかも、支援しているウクライナよりも敵対するロシアの軍事情報のほうが確度の高いものを得ているという。
米政府関係者によると、ウクライナ政府は機密情報や作戦計画の詳細をほとんどアメリカ側に伝えていない。ウクライナ政府関係者もアメリカにすべての情報を渡しているわけではないと認める。
もちろん米情報機関は、ウクライナを含むほぼすべての国の情報を収集している。だがアメリカのスパイ機関は一般的に、ウクライナのような友好国ではなく、ロシアのような敵対的な国に焦点を合わせてきた。
つまりロシアは過去75年間、米情報機関にとって最優先事項であったが、ウクライナに関しては、同国をスパイするのではなく、その情報機関を強化してやることに力を注いできた。その結果、ある種の「盲点」が生まれてしまったと、元米政府関係者たちは指摘する。
「ウクライナがどうなっているのか、私たちは本当にどれくらい把握しているのでしょうか」と元情報機関高官のベス・サナーは言う。「ウクライナは何人の兵士を失い、どれほどの装備を失ったか、自信を持って言える人がいるでしょうか」
ウクライナの軍事戦略や状況を完全に把握していないものの、バイデン政権は高機動ロケット砲システムのような最新兵器の供与を推し進めている。
その一方で国家情報長官のアブリル・ヘインズは5月、上院の公聴会で、ウクライナがあとどれだけ援助を吸収できるか「見極めるのは非常に困難だ」と証言。さらに「我々はおそらくウクライナよりもロシアに関する知見を多く持っている」と言い添えた。
米国防長官にも教えない
アメリカはウクライナに対し、ロシア軍の位置情報をほぼリアルタイムで提供しており、ウクライナ側は作戦や攻撃の計画、防衛の強化にその情報を利用している。
しかし、マーク・ミリー統合参謀本部議長やロイド・オースティン国防長官とのハイレベルな会話でも、ウクライナ側は戦略目標だけを話し、詳細な作戦計画を共有しない。ウクライナの秘密主義により、米軍や情報当局はウクライナで活動する他の国々から、そしてゼレンスキーの公式コメントから、できる限りの情報を得ようとしていると、米政府関係者らは明かす。
ゼレンスキー政権は、国民に対しても友好国に対しても、強いというイメージを植え付けたいと考えていると、米当局者たちは言う。ウクライナ政府は、弱気になっていることを示唆するような、あるいは勝てないかもしれないという印象を与えるような情報を共有したくないのだ。
要するに、ウクライナはアメリカをはじめ西側諸国のパートナーに武器供与の流れを遅らせるような情報を提示したくないのである。
もちろんウクライナの秘密主義の背景には、軍事戦略や作戦計画を他国と共有すれば、どこかで漏れて、その情報をロシアが知り得ることになるかもしれないという懸念があるだろう。
ただ、その慎重なウクライナ政府が、アメリカから共有された情報の取り扱いについて必ずしも慎重を期しているとは言い切れない。4月、アメリカのオースティン国防長官とアントニー・ブリンケン国務長官がキエフを訪問した際、迎えるゼレンスキー大統領は事前に公表したが、米当局は実は極秘訪問にしておきたかったのだ。
●ウクライナ、侵攻で耕作地4分の1喪失 食糧安保には影響なし 6/14
ウクライナのタラス・ビソツキー(Taras Vysotskiy)農業食料第1次官は13日、ロシアの侵攻で南・東部を中心に耕作地の4分の1が失われたとの見方を示した。ただ、国内の食糧安全保障は脅かされていないと語った。
ビソツキー氏は記者会見で「耕作地の25%が失われたが、今年の作付け規模は(国内食料需要を満たすのに)十分すぎるほどだ」と述べた。
ビソツキー氏によると、数百万人の国民が戦闘を逃れて国外に避難したため、国内の食料需要は減少している。
国際移住機関(IOM)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、国内避難民は推定700万人超、国外に逃れた難民は730万人超に上る。
ビソツキー氏は、ロシアに広大な土地を奪われたにもかかわらず「作付け状況を見れば、国内の食糧安全保障を脅かすものとはなっていない」と語った。
同氏は、ウクライナでは「戦争が始まる前に農業従事者が作付けの準備をほぼ済ませていた」と指摘。さらに、2月時点で「肥料の必要量の約70%、病害虫防除用品の約60%、(作付け用の)燃料の約3分の1を輸入していた」と説明した。
国際NGOの世界資料センター・ウクライナ(World Data Center-Ukraine)によると、ロシアの侵攻を受ける前、ウクライナの耕作地は3000万ヘクタール超だった。
一方、国連(UN)は、ロシアの侵攻の影響で世界で数千万人が食料不足に直面し、栄養失調や飢饉(ききん)が起きる恐れがあると警告している。
●ウクライナ 支援国がベルギーで会合 兵器不足の窮状訴えへ  6/14
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向けて激しい攻撃を続け、激戦地となっているセベロドネツクでは、街の中心部につながる橋が破壊され、包囲されるおそれがでています。こうした中、15日にはウクライナを支援する国々がベルギーで会合を開く予定で、ウクライナからは国防相が出席し、兵器が不足している窮状を訴えるものとみられます。
「ロシア軍の作戦の中心 セベロドネツクへの攻撃」
ウクライナ東部ルハンシク州で、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクをめぐってハイダイ知事は14日「砲撃が続き、工場などが破壊され、死傷者がでている」とSNSに投稿しました。
また、イギリス国防省は14日「ロシア軍の作戦の中心は、セベロドネツクへの攻撃だ」とする分析を公表しました。
セベロドネツクをめぐっては、街の中心部につながる3つの橋がすべて破壊され、市民が避難できないままロシア軍に包囲されることが懸念されています。
こうした中、15日にはベルギーの首都ブリュッセルでウクライナを支援する関係国が会合を開く予定で、アメリカのオースティン国防長官は、ウクライナのレズニコフ国防相と現地で直接、会談する考えを示しています。
これを前に、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は13日「りゅう弾砲1000門、戦車500両、ドローン1000機などが必要だ」とSNSに投稿し、この会合をきっかけとして、ウクライナへの軍事支援が加速することに期待を示しました。
ウクライナ側としては、支援会合で兵器や弾薬が不足している窮状を訴え、軍事支援の強化を求めるものとみられます。
●ウクライナの影響、ブラジル企業の半数以上が「原材料調達コストが上昇」 6/14
ブラジル全国工業連盟(CNI)は6月1日、特別調査第84号「原材料不足とウクライナでの戦争(ESCASSEZ DE INSUMOS E A GUERRA NA UCRÂNIA)」を公開した。調査時期は4月1日から12日。回答企業数は2,216社。
「事前に予測した原材料の調達コストと比較した現状」との問いに対し、「国内での原材料の調達コストが予想より上昇した」と回答した企業の割合は、鉱業と製造業に分類される企業(1,814社)のうち71%、建設業に分類される企業(402社)のうち73%だった。製造業の企業の中で、国内での原材料価格が上昇した品目は「ゴム製品」との回答が86%、「バイオ燃料」が83%、「冶金(やきん)」が80%、「輸送機器(自動車など)」が80%だった。
「輸入による原材料の調達コストが予想より上昇した」と回答した企業の割合は、鉱業と製造業に分類される企業(1,814社のうち輸入に関わる企業のみ)のうち58%、建設業に分類される企業(402社のうち輸入に関わる企業のみ)のうち68%だった。製造業の企業の中で、具体的に輸入による原材料の価格が上昇した品目は「バイオ燃料」との回答が100%、「ゴム製品」が94%と上位だった(注1)。
原材料の調達コストが国内調達と輸入の双方で上昇した「バイオ燃料」について、サンパウロ大学農学部(ESALQ)の応用経済研究所(CEPEA)は3月7日、同日付の公式発表で「ロシア・ウクライナ間の紛争で、ウクライナからのヒマワリ油の輸出量が減少したことなどを受け、代替となる大豆油の価格が上昇した」と説明した。また「石油価格が上昇することは、大豆油を原料とするバイオディーゼルへの需要を喚起することになり、国内のバイオディーゼル価格が上昇する」と分析している(注2)。
「ゴム製品」については、ブラジルゴム技術協会(ABTB)が3月11日付公式サイトで、タイヤの強度を高めるカーボンブラックの原料供給地であるロシアで物流やサプライチェーンに関わる企業がオペレーションを停止したことで「原料供給が難しくなりかねない」との懸念を示していた。
CNIのマリオ・セルジオ・テレス経済部長は「ウクライナ・ロシア間の紛争や、ロシアへの経済制裁措置などで、サプライチェーンの問題が顕著となった。国際的な物流網に障害が生じたほか、原材料やエネルギー供給そのものもネックとなり、原材料入手の遅れや価格の上昇につながっている」と説明している(6月1日付CNI公式サイト)。
(注1)国内での原材料価格については全ての企業(2,216社)が回答し、輸入による原材料価格については「原材料の輸入に関わる」企業(詳細な企業数は公開されていない)のみが回答。
(注2)サンパウロ大学農学部(ESALQ)の応用経済研究所(CEPEA)は大豆油の価格上昇について、ウクライナからのヒマワリ油の輸出量減少に加えて、インドネシアでのパーム油の不足も1つの要因と述べている。
●「投降するか、死ぬか」 親ロ派 “最後の拠点” 橋を全て破壊され… 6/14
ウクライナ情勢です。東部ルハンシク州の「最後の拠点」セベロドネツクでは、化学工場に子どもを含む500人の市民が避難しているとされますが、ロシア側の激しい攻撃が続く中、退避は困難な状況とみられます。
そこかしこから煙が上がるセベロドネツク。衛星写真では、隣接するリシチャンシクと結ぶ橋が損傷しているのがわかります。ルハンシク州のガイダイ知事は13日、こうした橋のすべてが破壊されたと明らかにしました。
また、セベロドネツクの化学工場には子ども40人を含む500人の市民が残っているということですが、退避ルート設置の合意には至っていないとしていて、逃れるのは困難な情勢とみられます。
ウクライナ 軍参謀本部 報道官「敵はセベロドネツクで攻撃を行い、一部成功を収め、我々の軍を町の中心部から退けた」
戦闘は続いているということですが、ルハンシク州の隣ドネツク州を一部支配する親ロシア派の幹部は。
親ロシア派「ドネツク人民共和国」幹部「セベロドネツクに残っているウクライナ軍は永遠にそのままだ。選択肢は2つ。仲間のように投降するか、死ぬかだ」
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領はセベロドネツクを含む東部ドンバス地方での戦いが、厳しい情勢だと強調。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ドンバスでの戦いはヨーロッパにおける、そして欧州にとって最も残忍なものとして軍事史に残るだろう」「この戦いの代償は非常に大きい」としながらも、「十分な数の近代的な兵器だけがドンバスへの拷問を終わらせることができる」と訴え、さらなる支援を求めています。
●スペイン、発電用ガス価格に介入、インフレの抑制実効策と期待 6/14
スペイン政府は6月14日から、発電用の天然ガス価格に1メガワット時(MWh)当たり40ユーロの上限価格を導入する。介入期間は2023年5月末までの1年間で、7カ月目以降は段階的に上限価格を引き上げ、最終的に予想市場価格(70ユーロ)に収める。ポルトガルも同様の価格介入を実施する。
この介入措置は、3月下旬の欧州理事会(EU首脳会議)で、EU電力市場におけるイベリア半島の特殊性が認められたことに伴って策定し、欧州委員会が6月8日に実施を承認した。
スペインとポルトガルは再エネ発電の割合が高い一方、電力相互接続率が著しく低い。そのため、天候不良の際も隣国からの安価な電力輸入が困難で、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電などのバックアップ電源の稼働が必要となる。EU共通の電力の卸売価格決定システムでは、バックアップ電源が稼働すると、その価格が卸売価格となるため、両国はウクライナ情勢による国際ガス価格高騰による影響を特に大きく受けていた。
政府の試算によると、同措置により現在1MWh当たり200ユーロを超える卸売価格が同130ユーロ以下と、2021年夏の水準にまで抑えられる。また、規制電気料金ベースで15〜20%程度引き下げられると報じられている。ここ数カ月にわたり8〜9%台で推移するインフレの引き下げ効果も見込まれる。
財源は電力輸出収入と利用者への賦課金など
欧州委によると、今回の介入コストは63億ユーロ(ポルトガルと合わせて84億ユーロ)に上り、スペイン送電網管理会社がフランスとの電力融通で得る利益の一部や、恩恵を受ける利用者への賦課金などで賄われる。
スペイン政府は3月末以降、ウクライナ情勢に伴う影響に対する緊急対策の枠組みで、エネルギー価格高騰への対抗策を実施。ガソリンなど燃料価格の1リットル当たり0.2ユーロの割引措置に加え、電気料金引き下げのための減税継続や、電力高騰の恩恵を受けているとされる発電事業者(大型水力や原子力、再エネ発電など)の超過利益削減などの措置を取ってきたが、エネルギー相場の乱高下により効果は薄い。今回の措置は、電力料金を構造的にコントロールする措置として、実効性が大きく期待されている。
●独仏伊首脳、16日にキーウ初訪問か ウクライナのEU加盟議論も 6/14
独紙ターゲスシュピーゲルは14日、ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相が、16日にロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて同国の首都キーウ(キエフ)を訪れ、ゼレンスキー大統領と会談すると報じた。
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11日、ウクライナのEU加盟申請についての意見書を今週中にまとめる方針を示しており、今回の訪問でEU加盟について議論が行われる可能性がある。ルーマニアのヨハニス大統領も訪問に参加する見通しという。
●東部要衝が危機的状況 ロシア軍が投降要求―ウクライナ 6/14
ロシア軍の攻撃が続くウクライナ東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクで、ドネツ川の対岸からの連絡路となっていた3本の橋が全て破壊され、ウクライナ側は危機的な状況に陥っている。同州のガイダイ知事は14日、「セベロドネツクの状況は著しく悪化している」と指摘し、ロシア軍が抵抗拠点の化学工場などに攻撃を続けていると表明した。
ロシア国防省は14日、化学工場から民間人を退避させるための「人道回廊」を15日に開設する用意があると発表。抵抗するウクライナ兵に武器を置くよう促し、事実上の投降を要求した。化学工場には子供を含む民間人約500人が避難しているとされるが、ロシア軍の砲撃が繰り返される中で身動きが取れず、危険な状態に置かれている。
一方、ロシア軍は川の対岸にあるリシチャンスクにも連日砲撃を行っており、住民の避難が続いているという。
ウクライナ軍参謀本部は14日、ロシア軍がセベロドネツク方面への部隊を増強させて「中心部での足場の強化を図っている」と分析した。ウクライナ軍の劣勢は兵器の不足が主な要因とみられており、ゼレンスキー大統領は13日夜のビデオ演説で「十分な数の最新の大砲」さえあれば、ウクライナはルガンスク州を含むドンバス地方で優勢を確保できると訴えた。
ポドリャク大統領府顧問は13日、榴弾(りゅうだん)砲や戦車などの追加支援が必要だと強調。15日にブリュッセルで予定されるウクライナ軍事支援会合で、各国が前向きな決定を下すことへの期待を示した。
●次々と市民が殺されても国連に止める力はない…ロシアの冷厳な現実  6/14
機能しなかった安保理の紛争解決システム
今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、誰もが心の底では理解しながら口に出して言うには躊躇を感じる、いくつかの冷厳な事実を改めて認識させることとなった。
それは第一に、結局のところ「力には力で対処するしかない」ということ。第二は「軍事大国に対抗するためには自ら軍事大国になるか、あるいは軍事大国を含む集団防衛体制の中に組み込まれるしかない」ということ。そして第三は「国連安保理常任理事国が何らかの形で関与する紛争に対して、安保理の紛争解決システムは機能しない」ということである。
米国もNATOも「部隊派遣は行なわない」と明言
今回の軍事侵攻が開始される以前から、米国のバイデン大統領もNATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長も、ウクライナへの部隊派遣は行なわないと明言していた。これにはウクライナがNATO加盟国でない(よって防衛義務がない)という形式論だけではなく、米国や欧州の世論がそれを受け入れないであろうとの判断、及びロシアとの直接対決のエスカレーション・リスクの予測が困難であることが背景にあったと思われる。
3月中旬の時点でポーランドが行なった、MIG-29S戦闘機等をドイツの米軍基地経由で(要するに米国が提供する形で)ウクライナに供与するとの提案も米国は拒否した。このときバイデン大統領はその理由として、「攻撃的兵器や米国軍人のパイロットを含む航空機や戦車を投入すること」は「第三次世界大戦」になりかねない、との懸念に言及していた。
世界の非軍事大国が突きつけられた現実
攻撃型兵器の供与を含め、米国のウクライナへの関与の仕方はのちに少しずつ変化していくのであるが、戦闘開始の頃のこの発言はウクライナのみならず、おそらく世界の非核保有国にとって、なかんずくロシアの脅威を感じている非NATO加盟国、さらには中国の脅威を感じている国々にとっても、衝撃であったに違いない。
要するに、ロシアあるいは中国のような軍事大国から脅威を受けたとき、米国は部隊派遣によって助けることはしない、換言すれば自分たちで何とかせよ、ということを言っているのだから。このことはこれらの国々に対し、NATOのような集団防衛機構への加盟を急ぐか、あるいは自身の軍事力を強化するしかないと改めて確信させることになったであろう。
しかしながら他国から攻撃を受けたならば、まずは自分で戦えというのは特別のことを言っているのではなく、至極当然のことなのである。
問題の本質は、要するに力に対しては力で対処するしかないという単純な事実に、多くの国がはたと気づいたということである。
しかも力による現状変更は、時として全く合理的な計算なく行なわれることがある。今回のロシア軍による軍事侵攻について、多くの識者が合理的計算の上に立てばウクライナ全土の制圧は目指さないだろうと考えていたが、プーチン大統領の判断は異なっていた。この点、当のウクライナも間違っていたかもしれない。
実際、この事実は人類の歴史を見れば明らかなのであるが、多くの人はこの問題を直視することなく現在の相対的な安定を享受することに慣れてしまっていた。
「衛星国」の犠牲の上に成り立っていた平和
ウクライナが直面している問題を地政学的観点から見れば、大国と大国あるいは国家ブロックの狭間に位置する国の安全は、いかに確保されるのかという問題である。
冷戦時代、東ヨーロッパ諸国はソ連の「衛星国」となって、客観的にはソ連の「緩衝地帯」としての役割を果たしていた。これにより第二次大戦後の欧州は確かに安定し、大規模な戦争は起こらなかった。しかしながら、その実態はこれら「衛星国」の犠牲の上に成り立った安定であったのである。
東ヨーロッパ諸国は自ら好んで「衛星国」になったわけではない。彼らがこれを本来望んでいなかったことは、ハンガリー動乱、プラハの春、さらには1989年のベルリンの壁崩壊の経緯を見れば明らかである。
ロシアが達成を狙う戦略目標とは何か
今回、ロシアがウクライナに対して突きつけている要求は、まさにロシアの「緩衝地帯」になれということである。今後、もしロシアが黒海沿岸地帯等を確保し、その上で仮に一旦戦闘が収まったとしても、ロシアが考える自国の安全保障はそれによっては完成しない。ウクライナを「緩衝地帯」にする、換言すれば「ウクライナを支配下におく」という戦略目標を達成するまで、いずれまた攻撃を仕掛けてくるであろう。
このような侵略が段階的に行なわれ、その都度、既成事実を積み重ねていけば、ロシアはいずれその戦略目標を達成することになる。それで戦争が終結すれば、欧州には再び相対的な安定が訪れるだろう。ただそれは、冷戦時代に東ヨーロッパ諸国の犠牲の上に成り立っていた安定が、今度はウクライナ、あるいは場合によってはさらに他の旧ソ連諸国等の犠牲の上に成り立つ安定に代わるということに他ならない。
日本にも突きつけられている深刻な課題
我々はこのようなプロセスを許し続けるのだろうか。冷戦時代の安定を学術的に論じるとき、「緩衝地帯」と呼ばれた地域にも主権をもつ国々があり、そこには大国と同じ人間が住んでいて、自由を享受すること、家族をもって毎日を幸せに過ごすことを願うごく普通の人たちが暮らしていたことを忘れてはならない。
今回の軍事侵攻に端を発する戦争の結果、ロシアが支配地域を拡張した上で一旦戦闘が収まるような場合はもちろん、ウクライナがロシア軍を撃退して暫定的にせよ停戦が実現する場合であっても、いずれにせよ数えきれないほどの何の罪もないウクライナの人々の犠牲の上に立った停戦にしかならない。
このようなことを許さないとすれば、我々は何をすべきなのか。これは日本にも、どの国にも突きつけられているもっとも深刻な課題であり、決して欧州に限定されるものではない。
非核保有国の選択肢は2つしかない
我々の目の前にある単純な事実は、ロシアは核大国であるのに対し、ウクライナは非核保有国で、かついかなる軍事同盟にも属していないということである。ウクライナが核兵器をもつか、あるいはNATOに加盟していたならば、状況は全く異なるものであったろうことは誰でも分かる。
要するに核保有国から恫喝を受ける可能性のある、非核保有国が自国の安全を確保するためには、自ら核保有を含む軍事大国になるか、あるいは同盟・集団安全保障機構の中に位置づけられることを求めるか、のいずれかしかない。魔法のような選択肢は存在しない。
これはウクライナに固有の問題ではなく、同様の地政学的環境の中に生きる国すべてに妥当するものである。
●ウクライナの穀物輸出問題 トルコが積極的に仲介 その思惑とは 6/14
ロシア軍の侵攻でウクライナの穀物輸出が滞っている問題を巡り、トルコが両国の仲介を積極的に続けている。両国と同様、黒海沿岸国であるトルコの思惑とは何か。
「次のステップについて、来週にも(両国と)協議することになるだろう」。トルコのエルドアン大統領は12日、トルコ東部の集会で問題解決に意欲をみせた。トルコはこれまでロシア、ウクライナ両国や国連と連携し、第三国の船が黒海でウクライナの穀物輸出船を護衛することを提案。輸送を監視する拠点を最大都市イスタンブールに設置するほか、ウクライナの港周辺に設置されている機雷の除去にも協力する方針を示している。
トルコは当初から、ロシア軍による侵攻に強く反対してきた。仮にロシアがウクライナを支配した場合、黒海でも圧倒的な影響力を持つことになる。歴史上、ロシアの軍事力に苦しめられてきたトルコにとって、安全保障面で大きな脅威となる。
トルコは1936年に定められたモントルー条約に基づき、黒海と地中海を結ぶボスポラス、ダーダネルス海峡の管理権を所有。ロシア軍が侵攻した2月下旬にはウクライナの要請に基づき、両海峡でロシアの軍艦の通行を禁止した。ただ条約上、外海にいたロシア艦船が黒海沿岸などに帰港することは阻止できず、効果は限定的だったとみられる。
その後、トルコは双方との良好な関係を生かして「仲介外交」を始めるとともに、穀物輸出問題に力を注ぎ始めた。輸出の停滞は、通貨リラの暴落で混乱が続くトルコ経済に悪影響を及ぼすと懸念されているからだ。
トルコは小麦の一大生産国だが、ロシアやウクライナからも多くの小麦を輸入し、パスタなどに加工して世界各国に輸出している。トルコの昨年のパスタ輸出量は130万トンで、世界有数の規模だ。トルコ農業・森林省は「今年の収穫時期までに必要な穀物は確保している」としているが、この問題の解決が長引けば影響は避けられない。
また、トルコは近年、アフリカ諸国と外交、経済関係を深めているが、穀物の輸出停滞は、両国産の小麦などに依存するアフリカ諸国の貧困を深刻化させる恐れがある。今回の仲介は、トルコにとってアフリカへの発言力を維持する意味合いもある。
一方、トルコにはロシアとの協力が必要な事情もある。エルドアン氏は今月1日、シリア北部のクルド勢力を排除するため、新たな軍事作戦の開始を示唆した。トルコは非合法組織に指定するクルド労働者党(PKK)とシリア北部のクルド勢力を同一視しており、クルド勢力からの攻撃を防ぐため、トルコ南部国境からシリア側30キロに安全地帯を確保しようとしている。作戦を実行するためには、シリアのアサド政権の後ろ盾となっているロシアの承認が不可欠だ。
イスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所」のガリア・リンデンシュトラウス上席研究員(トルコ外交)は「エルドアン氏は仲介外交を続けることでロシアの意向を把握し、国益に沿う解決策を導き出そうとしている」と指摘する。
●プーチン政権は終焉。ロシアの要人会議で上がる次期指導者の名前 6/14
6月12日の「ロシアの日」に行われた式典で、国民の結束の重要性を説くとともに、ウクライナ侵攻の正当性を改めて主張したプーチン大統領。両軍、そしてウクライナ市民に多数の犠牲者を出しながらも未だ出口の見えないこの紛争は、この先どのような展開を辿るのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、今後の戦況の推移を予測。さらにプーチン大統領の早期退任を証拠付ける2つの出来事を紹介しています。
プーチン戦争の目的は
ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍の全勢力をセベロドネツクに投入して、把握を目指すが、ウ軍もここでの決戦が勝敗を左右するとして、撤退と見せかけて、ロ軍を誘い込み、叩く手法で互角に戦っている。
ドネツ川北側の高台のリシチャンスクからの砲撃も効果的であるが、M777榴弾砲も多数破壊されている。ロシア軍の203m自走榴弾砲の威力もすごく、その数が多いので、火力の面で負けている。
しかし、ウ軍撤退となり、ロ軍戦車部隊20BTG(大隊戦術群)はリマンなどに転戦して行き、その後、ウ軍は戻り市街戦に持ち込み、この戦いには砲撃ができないので、近接戦にウ軍はロ軍を誘い込み叩く戦術に転換している。これがある程度の効果を発揮している。だが、まだ激戦であり、勝敗の行方を見通せない状態である。
どちらにしても、ロ軍は、持てる力のすべてをつぎ込んでセベロドネツクと周辺を攻撃しているので、ルハンスク州を完全に取れないと、ロ軍は攻撃する体力がなくなる。相当な消耗になっているはずで、20BTGも実質は10BTG程度になっている。ウ軍も大きな犠牲を出しているようだ。
ロ軍は、とうとう戦車が不足して、T-64戦車主体のBTGをもセベロドネツク周辺に投入したようであり、T-72戦車もなくなってきたようだ。
反対に、ウ軍もTB2ドローンが撃墜されて、数が少なくなっているようであり、ロ軍203m自走榴弾砲の攻撃に使われていない。203m自走榴弾砲は、M777榴弾砲の射程外にあり、叩けないので、ドローンでの攻撃しかできない。ということで、スイッチブレードが使われているようだ。これらの操作のために外人部隊が投入されている。
そして、ウ軍の司令官は、砲門の不足が「悲惨なまでの状態にある」と訴えたが、火力という面では圧倒的な差がある。ウ軍1門に対してロ軍10門の比率だそうだ。
相当な榴弾砲の供与が必要であり、欧米各国は、旧式で廃棄予定の自走榴弾砲を大量にウクライナに供与するようであり、どんどん増強されるが、時間が問題になってきた。
ということで、ウクライナは、欧米諸国の兵器のゴミ捨て場であるが、ロ軍の兵器も同時代の古い兵器であり、十分対応できる。ということは、退役間近の米A-10攻撃機の供与もあるかもしれない。ドンドン、古い兵器でウ軍は増強されることになる。
ロ軍はセベロドネツクの住宅街を制圧したというが、TOS-1を住宅地に入れ、サーモバリック弾や焼夷弾で住宅地を完全破壊している。精密誘導ができないために、焦土作戦でしか市街地を制圧できないことによる。このため、ここでは近接戦ができないので、ウ軍は撤退して、市街地と工場地帯で戦っているようだ。
どちらにしてもロ軍のTOS-1や203m自走榴弾砲の無力化が急がれる状況であり、逆にロ軍はM777榴弾砲の破壊を急いでいる。この戦況で、ウ軍は、M142高機動ロケット砲(HIMARS)」が必要であり、ロ軍の203m自走榴弾砲を叩くためにリシチャンスクに置くことで、戦況は大きく劣勢なウ軍に傾くことになる。ウ軍は提供の早いHIMARSの到着を待って、総攻撃に出るようである。
それまでは、両軍ともに、持てる力をセベロドネツクに持っていくので、他地域の進展は進んでいないようだ。
ただ、ロ軍は、防空兵器もセベロドネツクに集めたことで、TB2ドローンは、ドネツ川湿地帯での戦闘では、有効に機能しているようであり、ドネツ川を挟んだ地域での戦闘に使用しているようだ。
南部での戦いは、ウ軍が大きく前進している。しかし、ウ軍も主戦力をここからポパスナ地域のロ軍への対応のために転戦しているので大きくは動けない状態のようである。
一方、ロ軍は、要衝のイジュームや交通の要所クビャンスクで要塞を建設して、攻撃から防御に転換している。この方面では徐々に南下していたロ軍は、要塞まで撤退を開始することになる。
プーチンは、6月12日の「ロシアの日」に勝利宣言する予定であり、10日までにセベロドネツクの完全な制圧をロ軍に命令したが、現状ではできていない。しかし、ルハンスク州の98%を支配下にしたので、勝利宣言をする可能性もある。しかし、再度、6月22日までにセベロドネスク制圧の命令が出たという。
しかし、ロシア国内では、ウ軍発表の3万1,000名のロシア軍戦死者より多い戦場行方不明者数が4万1,000名にも達しているようであり、家族からの問合せがロ軍やプーチン政権にあり、その対応を間違えると、国内の反戦につながるので、そろそろ停戦が必要になっている。
もし、これが本当なら、負傷者数は約3倍であるから、16万人が戦闘不能になっている。開戦当初の侵攻兵力15万人より多いことになる。これは、ロシア軍崩壊の手前であろう。
このため、国家親衛隊の犠牲者には500万ルーブルの慰問金が出るようであり、戦場には送らないとした徴集兵を戦場へ送ったことで、複数の将軍が取り調べを受け解任されているなど徐々に問題化してきている。
ということで、ラブロフ外相は、停戦開始を求めて、トルコに行き、エルドアン大統領に仲介を要請している。この見返りとして、ウクライナの港湾封鎖を解除して、穀物輸出ができるようにするというが、ゼレンスキー大統領は、戦争継続の方向である。2月24日の線まで押し戻すという。また、ロシア海軍の攻撃を防いでいる機雷除去もしないという。
その代わり、ウクライナの穀物は、ルーマニアまで鉄道輸送し、ルーマニアの港から輸出する方向で、検討されているようだ。
どうも、プーチン政権末期となり、ロシア国内では、ポスト・プーチンを誰にするのかの会議が開かれて、キリエンコ氏、メドベージェフ氏、ソビャニン氏とパトルシェフ氏などの名前が出ているようであるが、コバリョフ氏の名前はないようで、プーチンの思い通りにはならないようである。
そして、事実がプーチン退任の方向を示している。例年6月に行われる国民対話もなく、4月に出される年次教書も議会に発表していない。プーチンの病気か軍とFSBの不満からか、先は長くないようだ。
一方、ロシアは、戦争ではないので、国民皆兵の徴集はできないで、兵員不足が深刻で、これ以上の攻撃ができない。装甲車も不足して、倉庫から古い兵器を出してきている。全体的には、攻撃から防御に転換するしかない状態である。
そして、プーチンは、この特別軍事作戦は、ピュートル大帝の偉業と同じことであると本音を明らかにした。どうも、ウクライナは自国の領土であり、そこの政府は主権がない存在であり、ロシアの自由にできるということのようだ。国と認めていないので、戦争ではないということだ。
このように、専制国の指導者は、取巻きの汚職などで国内経済活性化ができないので、領土拡大しか希望がないことで、どうしてもこうなるのである。これはロシアだけではなく、中国も同様である。
今後、ウ軍の装備は、レオパルト2A4などの戦車、各国からの155m自走砲、MQ-7の攻撃ドローン、F-16Vの戦闘機などNATO仕様の兵器が欧米から供与されて、徐々にロシア軍の装備を仰臥することになる。攻守の逆転が起きる。
ウ軍がロ軍陣地を攻めることになる。しかし、敵の陣地に攻撃する場合は、戦死者数が大幅に増加してくることが想像できる。
このため、戦死者を少なくする兵器の供与を米国に依頼するし、米軍は研究開発中の最新AI兵器を戦場での実験という位置づけで、供与することになる。ウクライナが、米AI兵器実験場になる。犠牲者はロ軍の兵士で、ロシアは完全に負ける。AI兵器が今後の戦場での主役になる。
しかし、ウ軍としても、短期決戦が必要になる。その後、停戦しないと、資金の枯渇と、民間人と軍人の死亡者数が大きくなるからだ。
もう1つ、心配なのが、米国民主党内中道派と左派でウ軍援助に対して論争が起き、否定的な意見が出てきたことである。このため、ウクライナ担当のヌーランド国務次官が長期に休職していると言う。
このため、米国も早期に停戦が必要という考え方になる可能性がある。左派は、ウクライナ支援のお金を貧困対策に使うべきだということのようである。もう1つに、米国の本当の敵は中国であり、ウクライナへの関与で、中国への経済的な制裁や軍備を弱める動きに反対する人もいることである。
共和党のトランプ派とペンス氏の主流派と同じような議論が民主党内でも起きてきている。
さあ、どうなりますか?
●ロシア、広範なウクライナ領掌握が目標 達成は困難=米国防次官 6/14
米国のコリン・カール国防次官は14日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ全土ではないとしても、広範な地域の掌握を引き続き目指している公算が大きいとの見方を示した。ただ、こうした目標の達成は困難で、プーチン氏は戦術目標を狭めざるを得なくなっていると指摘した。
カール次官はシンクタンクの新アメリカ安全保障センター (CNAC)が主催したイベントで「プーチン大統領は全土ではないにせよ、かなり広範な領土の掌握を目指していると見ている」と指摘。ただ、ウクライナは持ちこたえているとし、「ロシアにこうした壮大な目標を達成する能力があるとは思えない」と述べた。
●経済崩壊寸前のロシア、止まらぬ若年層の頭脳流出=@6/14
ウクライナ東部を徹底攻撃するなど長期戦の構えを見せるロシアだが、自国の経済は崩壊寸前だ。国内消費の大幅な落ち込みや富裕層マネーの資金逃避が進み、若者の「頭脳流出」も止まらない。ウラジーミル・プーチン大統領の20年余りの長期政権の基盤ともなった経済の繁栄は、プーチン氏自身の手で終焉(しゅうえん)しつつある。
国際金融協会(IIF)は8日に公表したリポートで、ロシアの経済成長率が今年が15%減、来年も3%減になると予測した。ロイター通信が報じた。
2月のウクライナ侵攻開始以降、西側諸国が経済制裁を実施したほか、仏自動車大手ルノーや、米マクドナルド、スターバックスなど西側企業が相次いで撤退。輸出も減少し、ITや医療、金融などの分野で高度な技術・知識を有する若年層が数十万人規模で「頭脳流出」しているという。
内需の落ち込みは深刻だ。象徴的なのは、4月の新車販売台数が前年同月比78・5%減となったことだ。露経済紙「コメルサント」(電子版)は、財務省のデータをもとに消費を反映する付加価値税の4月の税収が前年同月比54%減となったと報じた。
新興国経済に詳しい第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「ロシアは貿易統計の公表をとりやめるなど、実態をつかみにくくなっている。外資の撤退による雇用の悪化や、物価上昇による購買力の低下で家計部門は厳しく、景気の下押しにつながる材料は山積している。消費が落ち込むと企業も雇用や投資が難しいという悪循環になっている」とみる。
プーチン氏は「欧米の経済制裁は失敗した」と主張してきた。原油や天然ガスなどのエネルギー輸出で過去最大の経常黒字を記録し、一時は暴落したルーブルは反発した。だが、国内経済の疲弊は隠しきれない。
侵攻直後に政策金利を20%まで引き上げたロシア中央銀行はその後、引き下げを繰り返した。今月10日には9・5%とウクライナ侵攻以前の水準に戻すことを決めるなど景気テコ入れに必死だ。
レシェトニコフ経済発展相も国営ラジオ・スプートニクの番組で、「需要危機」にあり、人々や企業が十分な資金を費やしていないとの認識を示した。
「経常黒字でマクロ的には『カネ余り』の状態にあるが、ロシアは金融機関を介して市中に資金を回す金融仲介能力が乏しく、実体経済に還流しにくい」と西濱氏。
欧米は経済制裁を強めている。欧州連合(EU)はロシア産原油を年末までに約9割禁輸することで合意したが、新たにロシア産原油を運搬する船舶の新規保険契約の即時禁止も打ち出した。ロシアの稼ぎ頭である原油が海上封鎖≠ウれる恐れがある。
西濱氏は気になる動きとして、「トルコの1〜3月の国内総生産(GDP)はロシア人富裕層の不動産投資によって押し上げられている。ロシア人富裕層が国内に資金を留めず、海外に逃避する動きを活発化させている可能性がある」と指摘する。
ウクライナ侵攻をめぐっては、国内でも「長期化」するとの意見が多い。露独立系調査機関「レバダセンター」が5月に実施したロシア国内の18歳以上約1634人を対象とした世論調査で、「特別軍事作戦」がいつまで続くかとの問いに「6カ月以上から1年」または「1年以上」とした回答は計44%だった。
ロシア事情に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「国内でも政府の歳入不足が長く続き、戦費を増税で切り抜けるのではないかとの見方もあるが、しわ寄せを受ける国民の我慢も限界に近くなるだろう」と分析する。
前出のIIFのリポートでは、今回の侵攻を機に15年にわたるロシア経済の拡大が、消し飛ぶとの見方を示している。
中村氏は「プーチン政権の初期には、天然資源の高騰によりロシアが初めて消費文明を享受した時期もあった。IT分野の革新創出などを目指した経緯もあるが、ウクライナ侵攻で『新しい経済』の創出は不可能になった。軍事大国という柱も崩れたプーチン氏はレガシー(遺産)を築けず、自ら首を絞めた形だ」と語った。 

 

●ウクライナ戦争でのロシアの軍備…たどってみれば欧州と米国が「金づる」 6/15
ウクライナ戦争開始以降、米国や欧州などがロシアの石油や石炭などの輸出に対して制裁を科しているが、国際原油価格の高騰により意図した効果が上がっていないことが調査で分かった。
フィンランドのシンクタンク「エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)」は13日(現地時間)、『プーチンの戦争資金調達:侵略の最初の100日間のロシアの化石燃料の輸入』と題する報告書を発表した。この中でCREAは、ロシアが2月24日から6月3日までの開戦からの100日間で石油、天然ガス、石炭などの化石燃料の輸出によって930億ユーロ(125兆ウォン)を稼いだと明らかにした。比率は原油と石油製品が63%、天然ガスが32%、石炭が5%。
ロシア産の化石燃料の主な輸出先は依然として欧州連合(EU)加盟国で、全体の61%を占めた。EUは先日、年末までにロシア産の石油の輸入を90%削減することを決めるなど、強力な制裁を約束しているが、まだ効果は現れていない。ウクライナの経済担当大統領顧問を務めるオレグ・ウステンコ氏は「ニューヨーク・タイムズ」に対し「我々はプーチン大統領とその戦争機械の資金源を断ってほしいと全世界に訴えているが、効果が現れるまでに長くかかりすぎている」と述べた。
化石燃料の輸出で得た「莫大な収益」は、ウクライナを侵略したロシアが戦争を遂行するための重要な資金源となっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアが石油と天然ガスの輸出で稼いだ収益は、2021年のロシア政府の財政の45%を占めた。開戦後にロシアが化石燃料の輸出で得る収益は、ウクライナ戦争で使った資金を十分に賄って余りあると評価される。
ロシアの化石燃料輸出は、戦争初期の相次ぐ国際社会による制裁により、多少減少する気配を示していた。しかし、それに続くエネルギー価格の暴騰により、輸出量減少効果は直ちに相殺された。ロシアは制裁を回避するために、石油をインドなどに国際相場より30%ほど安く輸出している。それでもロシアの石油輸出の平均単価は昨年より60%高い。
米国と欧州はロシアのエネルギー輸出を防ぐために東奔西走しているが、ロシアにこれといった打撃を与えられずにいる。EUは開戦後、ロシア産天然ガスの輸入を23%減らしている。にもかかわらず、ロシアのガス供給企業「ガスプロム」の売り上げは、ガス価格の暴騰で1年前の2倍になっている。欧州はロシア産の石油輸入も5月だけで18%減らしている。しかし、代わってインドなどがほぼ同量を購入しているため、石油輸出総量は大きくは変わっていない。
米国は開戦初期にロシア産化石燃料の輸入を禁止した。だが、オランダやインドなどで精油処理されたものが、いわゆる「原産地洗浄」の効果を得て、何の制裁も受けずに米国に輸出されている。
●戦争を起こした張本人の支持率がなぜ上がる? 疎外されたロシア世論 6/15
前回、ロシア国民が「受け身」という実態を紹介した。消極的ではあるものの結果的にプーチン大統領を支持している。ウクライナ侵攻をやめさせるための日米欧の制裁がいくら厳しくても、その構造は簡単に揺るがない。それにしても説明が難しいのは、戦争を起こした張本人であるプーチンの支持率が、なぜ上向くのかということだ。
プロフィル写真にロシア国旗マークで対抗
通信の自由が制限されつつある中、筆者の元にはモスクワで何年間も付き合ったロシア人の友だちから「戦争反対」の叫びが届いた。第2次大戦のむごさを学校で教えてくれたおじいさんに「(過ちを)繰り返してごめんなさい」とSNSに記す人も。徴兵された10代の若者は「演習」と聞かされて「実戦」で命を散らし、兵士の母の会が調査に動いた。
もっとも、プーチンが直ちに玉座から追い落とされることにはならなかった。メディア弾圧や世論誘導は有効だが、それだけでは説明にならないだろう。サイレントマジョリティーが自発的、無意識的に支持している点は見逃されがちだ。
面白い現象がある。2月24日にロシアの侵攻が始まって以降、ウクライナ人だけでなく、世界中の多くの人がフェイスブックのプロフィル写真に青黄2色の「国旗マーク」を付けた。「戦争反対」と「ウクライナ支持」の印。これを見た普通のロシア人がどう反応したかというと、プロフィル写真にロシア国旗のマークを付け始めたのだ。
国際社会による批判の対象はプーチンとその政権。ノンポリの国民は積極的な政権支持者ではないのに、あたかも自分たちの価値観が攻撃されたように勘違いしたらしい。あるいは、ウクライナ人には世界中が同情するのに、ロシア人は「誰にも同情してもらえない」という疎外感が働いたのかもしれない。
外敵が現れれば、強いリーダーの周りに人々が寄り集まるのは世の常。欧米でも「戦時指導者」という言葉があるくらいだし、人気が急上昇したウクライナのゼレンスキー大統領も同じことだろう。
「自転車操業」のように脅威あおる
実際、プーチンの支持率は3月、前月比12ポイント増の83%に達した。4月も82%、5月も83%。政府系でなく、欧米が信用する独立系の世論調査機関の数字でこれだ。
クリミア半島併合時から「プーチン政権はあすにもなくなる」と言う識者が日本にいたが、ロシア国民は8年間の制裁に慣れている。経済が駄目になって人気に陰りが出そうになれば、プーチンはまた外敵の脅威を強調すればいい。悪循環だが「自転車操業」のように緊張をあおり、政権は持ちこたえた。国民向けの戦時プロパガンダについては次に触れたい。 ・・・
●ウクライナ戦争は「子どもの権利の危機」 ユニセフの地域責任者 6/15
国連児童基金(ユニセフ)欧州・中央アジア地域事務所のアフシャン・カーン代表は14日、米ニューヨークでの記者会見で、ウクライナの戦争は「子どもの権利の危機」だと訴えた。
カーン氏はこれに先立ち、ウクライナを訪問していた。会見では、同国の子どもたちの3分の2近くが国内外への避難を強いられていると指摘し、「子どもたちは家や友人、おもちゃ、大事な持ち物、家族を後に残すしかなく、将来の不安に直面している」と訴えた。
同氏は国連の数字として、戦争が始まってから277人の子どもが死亡、456人が負傷したと述べた。ウクライナ東部では、ユニセフが支援する学校の6分の1が損壊または全壊したという。
ウクライナ検事総長は子どもの死者が313人、負傷者が579人に上ると発表している。
カーン氏は、こうした数字が子どもの権利の危機を示していると強調。ユニセフは全国にいる子どもたちや家族の支援に努めていると語った。
人口の集まる地区や民間施設への攻撃を止める必要があるのは明らかだとして、即時停戦を改めて呼び掛けた。戦争が1日長引くごとに、子どもたちが受ける長期的、破壊的な影響は増大すると懸念を示した。
●バレ始めたウクライナ戦争のウソ。西側の国民に伝えられない侵攻の真実 6/15
西側諸国の軍事支援が奏功し、ロシア軍に対して一進一退、もしくはそれ以上の戦果を上げていると伝えられてきたウクライナ。しかし、実態はまったく逆との見方もあるようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、軍事・経済両面において現在はロシアの優勢で一段落しているとして、数々の「証拠」を列挙。その上で、西側諸国に偽情報が流される裏事情を暴露しています。
ロシア優勢。疲弊し限界に達しているウクライナ軍
2月25日の開戦から100日目の6月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアに領土の2割を奪われた状態にあると表明した。ロシア系住民が多いウクライナ東部のドンバス2州(ロシアから見ると、すでにウクライナから分離独立したドネツクとルガンスクというドンバス2カ国)で、ロシア軍がウクライナ軍を大体追い出した。ウクライナ戦争はロシアの勝ちで一段落している。ロシア側は余裕があり、対照的にウクライナ側は軍が疲弊して限界に達している。軍を酷使するゼレンスキー政権と軍部の間に対立があると、ベラルーシのルカシェンコ大統領が指摘している。軍や極右民兵団は、ポーランドがウクライナ西部を事実上併合する件をゼレンスキーが了承していることにも不満だ。
    As Invasion Enters 100th Day, Russia Now Holds 20% Of Ukraine: Zelensky
    Ukrainian military at odds with Zelensky – Belarus
    同盟諸国とロシアを戦争させたい米国
ロシア側から見ると、露軍は正義の戦いに勝っている。米国が2014年にウクライナの政権を転覆して極右とすげ替え、極右民兵団などがロシア系住民を殺そうとする内戦に入って以来、ロシア政府は、ウクライナ在住の同胞(ロシア系ウクライナ人)を守ること(邦人保護)を重視してきた(ソ連時代の名残で、旧ソ連諸国の各地にロシア系住民がいる)。米国は昨年末から、ゼレンスキー政権を動かしてウクライナ東部のロシア系住民への攻撃を強めさせ、ロシア軍がウクライナに侵攻せざるを得ない状況を作り、2月24日の開戦を誘発した。露軍は100日かけてドンバスからウクライナ軍をほぼ排除し、首都キエフ(キーウ)周辺のウクライナ側の軍事施設も緒戦で破壊し、ドンバスのロシア系住民が安心して暮らせる状態をおおむね実現した。
    ウクライナ戦争で最も悪いのは米英
    ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも
露軍はだいたい予定通り戦争(特殊作戦)を完遂している。露軍は大失敗しているという、いまだに続いている日本など米国側のマスコミ報道は大幅に間違っている。2週間ほど前、露軍がハルキウ市街から郊外へ撤退し、それはウクライナ軍が米国から届いた対戦車砲を使って露軍に反撃し始めたからだと言われた。これから露軍の敗退が加速し、ウクライナ軍が建て直して勝っていくとの憶測も流れたが、結局ウクライナ軍が奪還したのはハルキウ市街だけに終わり、他の場所は露軍が優勢のままだ。
    複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ
    ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧
露軍は自国の国境から遠くない地域に展開しており、補給が簡単で敗北や困窮のリスクが少ない。露軍が飢えているという報道はウソだ。露軍港があるので2014年に併合したクリミアと、ロシア本土との間を陸地でつなぐことも達成した。あとは、南部の黒海岸のオデッサから、モルドバから分離独立して露軍が駐留している沿ドニエストルまでの地域を取るのかどうか、ハルキウやその先の対露国境に沿った北東部の地域を取るのかどうか、といったところが露軍の今後の展開の可能性だ。どう展開するにせよ、ロシアは急いでやらない。ロシアなど非米側と米国側の対立が長引くほど、米国側が自滅して覇権が多極化してロシアに有利になる。ロシアは今後もゆっくりやる。それを米国側マスコミが、ロシアは失敗していると勝手に勘違いし続ける。
    ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?
    ウクライナで妄想し負けていく米欧
米政府は巨額の予算をつけ、ウクライナに大量の兵器を送り込んでいることになっている。送り込んだ兵器がどこでどう使われているか、本来は米国防総省が追跡して把握すべきなのだが、追跡はほとんど行われていない。国防総省自身がそれを認めている。ハルキウでウクライナ軍が米国から送られた対戦車砲を使って露軍を後退させたのであれば、少なくともハルキウでは米国からの兵器が使われたことになる。だが、他の場所で露軍が優勢なままなので、ウクライナ全体として米国からの対戦車砲はあまり使われていない感じだ。米国が膨大な兵器を送っても、一部しかウクライナで使われず、残りは兵器のブラックマーケットに流され、世界の他の場所でテロリストや犯罪組織に使われてしまうとインターポールが警告している。
    Weapons sent to Ukraine could get into wrong hands – Interpol
    Pressure Mounts On Pentagon Over Lack Of Oversight For Ukraine Weapons
米国側が兵器を実際にウクライナに送っているのなら、そこからウクライナ政府の腐敗した高官によってブラックマーケットに横流しされる懸念になるが、実際に兵器が送られておらず、国防総省の下請け会社や軍事産業で資金洗浄されて米国の政界や諜報界の裏金や横領金に化けている可能性もある。最近の記事でその可能性について書いた。
    米政治家らに横領されるウクライナ支援金
ウクライナ戦争の米国側は、プロパガンダの分野でもインチキが横行している。ウクライナ政府のデニソバ人権監督官(Lyudmyla Denisova)は、露軍兵士がウクライナで市民を強姦したり性的に残虐な殺し方をしているといった話を、4月の2週間に400件、米国側のマスコミに流し、米タイム誌などがさかんに喧伝した。だがその後、ウクライナのNGOが、露軍兵士に強姦された被害者たちの救援事業をやって米欧政府などから補助金や支援金を集めるため、デニソバ人権監督官の強姦話を一つずつ検証して被害者や家族など関係者に会っていこうとしたところ、具体的に検証していける話がなく、デニソバが話をでっち上げていたことがわかった。
    Ukraine Fires Own Human Rights Chief For Perpetuating Russian Troop ‘Systematic Rape’ Stories
加えてデニソバは、ウクライナ政府からロシアに行って捕虜交換の話をまとめてこいと言われたのに西欧に行って休養していたことも発覚し、NGOからの抗議を受けてウクライナ議会が調査し、5月31日にデニソバを罷免した。デニソバは辞めさせられたが、無根拠なのに無検証のまま報道したタイム誌など米国側マスコミは訂正記事も出さず、米欧日の多くの人がインチキな露軍強姦話を軽信したまま生きている。今回の戦争で米国側のプロパガンダづくりを担当している英諜報界がデニソバに入れ知恵した可能性があるが、デニソバがなぜ突然に大量の作り話をでっち上げて流布したのかも不明だ。
    Rape Allegations Against Russian Troops In Ukraine Were Fake
    Why Ukraine’s human rights chief Lyudmila Denisova was dismissed
開戦以来、ウクライナの優勢と露軍の惨敗という、事実と逆のことばかり報じてきた米国側のマスコミは、最近になってようやくウクライナ側が苦戦している事実を報じ始めた。NYタイムスは5月10日にウクライナ軍の苦戦ぶりを初めて報じた。5月26日にはワシントン・ポストが、外国から来た義勇兵と傭兵たちを酷使しすぎているウクライナ軍を初めて批判的に報道した。5月23日には米外交・諜報界の重鎮であるキッシンジャー元国務長官が、ウクライナでのロシアの勝利はすでに確定的だから外交交渉で停戦するしかないと指摘した。
    Ukraine War’s Geographic Reality: Russia Has Seized Much of the East
    Ukrainian volunteer fighters in the east feel abandoned
開戦以来、事態を傍観してきた米諜報界の古株たちが、もうこれではうまくいかない、もうやめろ、とタオルをリングに投げ込んでいる。しかしおそらく、今の諜報界やバイデン政権を握っている「民主党左派に移ったネオコン筋」は、古株からの警告を無視して無茶な戦争やロシア敵視を続ける。ネオコン筋は、外交や戦争を過激に稚拙にやって米国覇権を自滅させる隠れ多極主義者だから、ここで自滅策をやめるはずがなく、むしろこれからが本番だ。
    左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国
    米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化
対露経済制裁など複合戦争の面でも、ロシアの優勢と米欧の不利が増し、逆転不能な確定状態になってきている。EUはロシアからの石油ガスの輸入を止める対露制裁をやると言いつつ、実際はほとんど何もできないことが露呈している。欧州諸国はロシアの天然ガスを買い続けているし、石油もパイプラインでの輸送分は制裁しないことを決めた。船積み輸送分は、インドなど非米国がロシアから買った石油を転売してもらうことで欧州諸国が買い続けられる。製油所の多くは特定の油質の原油しか精製できず、欧州にはロシアのウラル原油しか精製できない製油所が多いので、ロシアからの輸入を止められない。インド勢はロシアに値引きさせて原油を大量に買い込み、欧州などに転売して大儲けしている。半面、欧州は合計で1兆ドルのコスト高になると概算されている。
    複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ
    Germany Expects Oil Embargo Decision This Week
米国側の諸国が石油ガスの対露制裁をやるほど、石油もガスも国際価格が高騰し、ロシアが非米諸国に売ったり、制裁を迂回して米国側に売る石油ガスの値段も上がり、ロシアの儲けが増え、米国側の損失が増える。米政府内では、財務省などが、対露制裁をやるほど米国民が使うガソリン代など燃料費が値上がりし、米経済を痛めつけるのでもう対露制裁しない方が良いと言い出している。米政府内のネオコンたちはそれに反対で、もっと強く制裁すればロシアが潰れて事態が好転すると言い続けている。実際のところ、ロシアは潰れず優勢になるばかりで、米国の事態は好転しない。6月に入って米連銀のQTが始まったので、そのうち金融崩壊する。
    India is Buying Up Cheap Sanctioned Russian Oil and Selling it to the U.S. and E.U. at Huge Profits
    Russia Uses Chinese Ships And Indian Refiners To Stay Ahead of Oil Sanctions
物価高騰で人気が低下するバイデン政権は、OPEC+に頼んで増産してもらうことにした。OPEC+はロシアとサウジの合議体で、本来は米国の要望など聞かないはずだが、なぜか快諾して増産を決議した。増産を決めたら原油相場が下がるはずだが、実際にはOPEC+が増産を決めた途端に原油が1バレル110ドルから120ドルへと高騰した。実はOPEC+が決めた増産は、以前にやると決めたがまだやっていない分を再決議しただけで新味がなく、高騰要因になってしまった。バイデンは、今月中にサウジを訪問したいが、サウジの権力者であるMbS皇太子を殺人鬼(カショギ殺害犯)と呼んで怒らせてきたので、訪問しても良い話をもらえそうもない。
    Oil Soars As Traders Realize What OPEC+ Did
    Biden Planning Saudi Trip As Gas Prices Soar, But MbS Still Unpunished Over Khashoggi Murder
米国がロシアをへこませようとしている話としては、ロシアにドルを使わせず、露政府のドル建て国債の利払いや償還を不可能にして債務不履行(デフォルト)に追い込もうとする策略もある。だがこれについてもロシア政府は、債権者にロシアの銀行でルーブル建てとドル建ての口座を作らせ、露政府が利払い金などをルーブル建ての口座に送金し、銀行がそれをドルに両替してドル建て口座に移すやり方で制裁回避しつつ不履行を防ぐやり方を計画している。これは天然ガスを欧州に売る時と同じやり方だ。開戦後、時間が経つほどロシア側が優勢に、米国側が不利になり、ガスも利払いも、露政府提案の方式に米国側が応じるようになっている。
    Russia Plans Bond Payment System Like ‘Rubles-For-Gas’ Scheme To Get Around Sanctions
    ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチン
このように軍事でも経済でも、ロシアの優勢で事態が一段落している。しかし日本など米国側のマスコミや大手インターネットではこうした状況が全く報じられず、正反対の、ロシアが今にも潰れそうな妄想話ばかりが流布している。だから、米国側の自滅を加速する対露制裁が今後も続き、ロシアはますます優勢になる。こういう状態がたぶん来年まで続く。その間に米国の金融システムがQT由来の大崩壊を引き起こし、米国の覇権が崩れ、ロシアなど非米側が台頭して覇権が多極型に転換していく。マスコミはその流れを報じず、多くの人が気づかないうちに覇権転換が進む。
    ウソだらけのウクライナ戦争
    現物側が金融側を下克上する
    来年までにドル崩壊
●ウクライナ戦争、「おそらく誘発されたか、あるいは阻止されず」 ローマ教皇 6/15
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、ウクライナでの戦争について「おそらく何らかの方法で誘発されたか、あるいは阻止されなかった」との認識を示した。14日刊行の伊紙に掲載された所見の中で述べた。
報道によると教皇は先月19日、キリスト教関連の文化的出版物に携わる団体の責任者と言葉を交わした中で、「我々が今目の当たりにしているのは残虐かつ凶暴な行為に他ならない。こうした戦争を遂行している部隊は大半が傭兵(ようへい)であり、ロシア軍がこれを活用している」と指摘。同軍がチェチェン人やシリア人を含む傭兵を進んで送り込んでいると付け加えた。
「しかし危険なことに我々は、この点にしか目を向けていない。確かに恐ろしい話ではあるが、それだけでは全体像が見えず、戦争の裏で何が起きているのかが分からない。おそらくこの戦争は何らかの形で誘発されたか、あるいは阻止されなかったのだろう。兵器のテストや売却に関心が向いている印象も受ける。とても悲しいが、基本的に今重要視されているのはこうしたことだ」(フランシスコ教皇)
さらに教皇は、ロシアのプーチン大統領を「支持」するわけではないとしつつ、「複雑な問題を善悪の区別に単純化しようとするのは断じて反対だ。根源的な要因や利害関係について考えることが不可欠で、それらは非常に入り組んでいる」と分析。「我々はロシア軍の凶暴さや残虐さを目の当たりにしてはいるが、解決を目指すべき問題があることを忘れてはならない」と続けた。
このほか、ロシアのウクライナ侵攻前に「ある国家元首」と会談したと明かした。その元首は「NATO(北大西洋条約機構)の動きについて大変な懸念を抱いていた」という。
「彼に理由を尋ねるとこう答えた。『彼らはロシアの門戸に向かって吠えている。ロシア人が強大で、いかなる外国勢力も寄せ付けない存在であることが分かっていない』」(フランシスコ教皇)
さらに名前を伏せたこの「国家元首」は教皇に対し、「状況が戦争に発展する可能性もある」と告げたという。
フランシスコ教皇はまた、ロシア正教会トップのキリル総主教と話し合いの機会を持ちたいと発言。両者は本来14日にエルサレムで面会する予定だったが、ウクライナでの戦争のため延期を余儀なくされていた。9月にカザフスタンで行われる総会で会えるのを望んでいると、フランシスコ教皇は述べた。
14日にローマ教皇庁(バチカン)が発表した別の所見では、長年続いてきた当該地域での戦争にウクライナ侵攻が加わったと分析。これらの戦争で非常に多くの死者と破壊がもたらされたとの認識を示した。
そのうえで「ただここで状況を一段と複雑にしているのは、ある『超大国』による直接的な介入だ。自国の意思を押し付けようとするその行動は、民族自決の原則に反する」と語った。
●ロシア軍、化学工場のウクライナ部隊に投降を要求 東部で戦闘続く 6/15
ウクライナでは14日、東部ドンバス地方で激しい戦闘が続いた。ロシア軍は要衝セヴェロドネツクの完全制圧を目指しており、化学工場にとどまっているウクライナ部隊に投降するよう要求した。ルハンスク州の都市セヴェロドネツクは、ロシア軍が包囲し、大部分を制圧している。市内へと続く橋はすべて破壊されており、物資の運搬や市民の避難ができなくなっている。そうしたなか、ロシア軍は同市のアゾト化学工場にこもっているウクライナ部隊に対し、武器を手放せば、モスクワ時間の15日午前8時(日本時間同午後2時)から投降の機会を与えると述べた。同工場には多数の民間人も避難しているとされる。
ゼレンスキー氏が武器提供を呼びかけ
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日夜に公開した動画で、ドンバス地方の防衛が非常に重要だとし、その成否が戦争全体の行方を占うと述べた。また、ウクライナ軍はセヴェロドネツクとハルキウ州で「痛ましい損失」を被っていると説明。セヴェロドネツクでは軍が民間人を避難させようとしていると述べた。さらに、ウクライナ軍は最新の対ミサイル兵器を必要としており、先延ばしは受け入れられないと主張。国民に対しては、「強くあり続けよう」、「戦い続けよう、懸命に戦おう」と呼びかけた。
欧州指導者を批判
ゼレンスキー氏はデンマークのメディアへのインタビューで、ヨーロッパの指導者の一部の「抑制された行動」が「兵器提供を非常に遅らせている」と批判。ロシア軍に占拠された場所の奪還にかかる時間は、「支援と兵器にかかっている」とした。そして、「兵器が早く運び込まれなければ(中略)人々はどんどん死んでいく。兵器があれば、私たちは前進できる」と述べた。西側諸国からウクライナへの武器供与については、同国のハンナ・マリャル国防次官が同日、約束されたうちの1割程度しか届けられていないとし、こう訴えた。「ウクライナがいくら努力し、私たちの軍がいくら優れていても、西側パートナーの支援なしにはこの戦争に勝てない」
高齢者ら爆撃の中を避難
ウクライナ国家警察は13日、セヴェロドネツクの北西約25キロのプリヴィリアで、民間人が避難している様子だとする動画をフェイスブックに投稿した。動画では、高齢者を含む民間人が地下の避難所から出るのを警官らが助け出している。避難者らが車に駆け寄ると、近くで砲弾が爆発。その後、避難者たちは車で移動した。フェイスブックの説明によると、警官らはこの日、3回の避難活動で32人の市民を避難させたという。BBCは動画がいつ撮影されたのか確認できていない。
「誰であろうと」訴追するとICC検察官
国際刑事裁判所(ICC)のカリム・カーン検察官は14日、ウクライナ東部のハルキウを訪れ、激しい砲撃を受けた住宅地や政府庁舎などを視察した。ロシアの著名な軍人や政治家を訴追するのかと問われると、ICCは証拠を集めており、「誰であろうと」訴追の対象にするとカーン氏は説明。「銃を持っている人、権力を持っている人は、紛争において一定の責任がある。罪に問われずやりたい放題やれる人はいない」と述べた。ウクライナでは現在、戦争犯罪の疑いのある事案が約1万6000件に上っている。ウクライナ検察当局は、イギリス、フランス、スロヴァキア、リトアニアなどの専門家チームの支援を受けている。
●ほくそ笑むプーチン。米中の内政事情で泥沼化するウクライナ戦争 6/15
NYダウが一時1,000ドル以上も急落するなど、インフレの悪影響が広がるアメリカ。しかしバイデン政権は有効な対策を実施することなく、物価高騰が解消される気配は見られません。そのアメリカと覇権を争う中国も、政争にかまけて経済再建が二の次となっているのが現状のようです。かような状況はこの先いつまで続くことになるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、米中それぞれが抱える政治事情を記すとともに、この流れが秋口まで継続する理由を解説。さらにその影響で、岸田政権が7月後半以降、経済的に厳しい状況に追い込まれる可能性を指摘しています。
肝心の経済問題から逃げている米中の政局
まずアメリカですが、経済がかなり厳しいことになっています。問題はインフレで、春先からかなりおかしな数字になっていたのが、ここへ来て加速している感じです。6月10日に公表されたCPI(消費者物価指数)では、5月のアップ率が前年比で8.6%という恐ろしい数字になりました。
日本のようなデフレ体質はないものの、アメリカでは、ここ20年ぐらいの間、物価がこれだけ問題になったことはありません。各メーカーも、小売も、あるいは卸なども含めてコンピュータによる生産管理と在庫管理が進んだことがまず一因です。
これに加えて、いい意味での企業間の競争があり、またもしかしたら悪い意味でのグローバル経済による空洞化と、価格の低下がありました。日本の百円ショップは、デフレの影響だと思いますが、デフレとは無縁のアメリカでも同じように「ワンダラー(何でも1ドル)」という業態があります。これはグローバルな分業によるコストダウンが効いているビジネスです。
また、消費者は消費者で、ネットの発達により自分が購入する価格が「本当に安値なのか」をサーチして、より価格に対して厳しい目を持つということも盛んです。そうした経済に関与するプレーヤー全体が「合理的に」振る舞うことで、物価の異常な高騰は避けつつ経済成長ができていたのでした。
その物価が大変です。ザクッと言うと、
「ランチでは、ファーストフードでもドリンク込みで16ドル」「ディナーは、高級レストランでなくてもすぐに30ドル超え」「国内航空券は、大陸横断だと往復800ドル」「新車時価格が3万ドルの5年落ち中古が、ほとんど新車価格と変わらない」「ガソリンは、2年前の倍」「長年1ダース2ドルだった卵が4ドル」
ということで、生活コストという点では5割ぐらい上がっている感じがします。こうした状況を受けて、株式市場はここへ来てかなりキツく下げています。バイデン政権になって、コロナ対策に金を投入した結果、2021年の12月には3万7,000ドルまで来ていたNYダウは、現時点では3万500ドルということで、3万ドル割れが見えてきました。
そんな中で、市場が警戒しているのは、「連銀(アメリカの中央銀行)がインフレ抑制のために1%という大幅な利上げをするかもしれない」「このままインフレが続くと、買い控えが広まって不況になるかもしれない」という2点です。この2点に関して市場は非常にナーバスになっており、不安定になっているわけです。
しかしながら、バイデン政権の動きは鈍いままです。物価高への対策としては、「ロシアのウクライ侵攻を止めさせて、原油価格を安定させる」「中国のゼロコロナ政策を止めさせて、生産体制を復活させる」「中国と協議して、サプライチェーンと物流の問題を改善する」という具体的な3つの政策を実施しなくてはなりません。また、この3つを実施すれば物価は沈静化します。ですが、バイデンは動きません。その代わり、バイデンと民主党が必死になっているのは、現時点では次の2つです。
「2021年1月6日の議会暴動事件について議会による公聴会を実施して、トランプの関与を暴き出す」「5月以来頻発している乱射事件を受けて、銃規制を少しでも実現する」という2つの政策です。どちらも大切ですし、民主党内の求心力にはなるでしょう。議会民主党は必死になってやっています。ですが、今現在のアメリカの課題は「1に物価、2に物価、3、4がなくて、5も物価」とでも言うような状況です。にもかかわらず、バイデンの姿勢は受け身そのものです。「中国とロシアが悪い」と言うことで、まるで自分に責任はないかのようなのです。
そこにはある種の計算があると思います。それは、この状況については共和党も同じように何もできないだろうという思いです。多分そうなのでしょう。ですが、バイデンが計算できていないのは、国民の不満は「現職批判」として、自分に向けられるということです。
勿論、バイデンにも計算があって、共和党がどんどんトランプ派になれば、中間層は離反して自分には有利になるということは考えているのだと思います。また、トランプ訴追の問題、銃規制の問題に続いて、この夏は妊娠中絶禁止法の合憲判断が予想されます。つまり民主党とその支持者にとっては、そうした「文化戦争」に燃えてしまうということであり、バイデンとしてはこれに乗って民主党支持者を固めるしかないということかもしれません。
ですが、バイデンにも死角はあります。それは、仮に何らかのキッカケがあって、共和党の大勢が「正気に戻る」という可能性です。つまりトランプの呪縛から自由になって、昔のような「小さな政府」+「自由経済」+「原則より実利の外交」に転じた場合には、バイデンに代わる勢力となりうるということです。
もう1つの可能性は、このままバイデンが求心力を失うというシナリオです。民主党内では、ここへ来て「2024年問題」が公然と語られるようになってきました。次回2024年の大統領選に、バイデンは出るのか、バイデン以外の可能性を考えておかなくていいのかといった議論です。
こうした議論が公然と出てくるということは、政権が揺らいでるということであり、今年、2022年11月の中間選挙の結果次第では、バイデン政権は死に体になってしまうかもしれません。問題は、今が6月ですから11月の中間選挙まで、まだ5ヶ月もあるということです。その間に、ドラスティックな政策が打てないようですと、アメリカは本当にスタグフレーション(インフレ下の不況)に陥ってしまうかもしれないのです。
一方で中国ですが、ここへ来て習近平派と李克強派の政争が、悪い意味で拮抗してきているようです。
「上海のロックダウンは終了」(李)「いやいやゼロコロナは継続、全員検査は再開」(習)「中国企業の海外での上場を再度認める」(李)「いやいや滴滴の上場廃止は予定通り」(習)「コロナによる失業や、ゾンビ企業対策に公的資金注入」(李)「いやいや富裕層への攻撃も続行」(習)というような感じで、両派の政策が全く矛盾するような形で繰り出されているという印象です。そこから透けて見えるのは、「両派の政争は夏を超えて秋まで続く」というイヤなシナリオです。次期指導部が決まれば、その指導部は現実に直面しますから、可能な政策は狭いゾーンの中での意思決定になります。ですが、ここへ来て、非現実的なもの、中国経済を停滞させるような性格のものも含めて、奇妙な政策がコロコロと繰り出されているのは、その全てが政争に絡んでいるからだと思います。
そして、悪いことに、現在の中国では党大会は秋ということになっていて、それまで両派の抗争は続きそうな気配です。当然、ロシア問題もここに関与してきますから、余程のことが無い限り中国がロシアを切ることもないし、一方で停戦の仲介をすることもないと思います。
このままでは、中国もアメリカも秋まで権力の行方が定まらない中で、ドラスティックな動きはできない、結果的にウクライナ戦争は泥沼化してプーチンだけがほくそ笑むし、例えばアメリカ経済と中国経済に大きく依存している日本は、より経済的に厳しい状況に追い込まれるかもしれません。
岸田総理としては、これで7月の参院選に勝てば万々歳と思っているのかもしれませんが、選挙に勝てば権力は増す分、責任も拡大します。7月後半以降の本当に厳しい状況に対して、直面し対処する用意があるのかというと、岸田政権もかなり怪しい感じがしています。
●ウクライナ情勢を協議 中ロ首脳が電話 6/15
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領は15日、ウクライナ情勢などを巡り電話協議した。ロシア大統領府によると、両首脳はエネルギー、金融、産業、交通分野などでの協力拡大で一致した。軍事、軍事技術面でのさらなる協力拡大も話し合った。
中国国営新華社によると、習氏はウクライナ情勢解決のため「しかるべき役割を発揮していきたい」と伝えた。「国際秩序とグローバルガバナンスをより正しく合理的な方向に発展させよう」とも述べた。台湾問題などを念頭に「核心的利益と重大な関心事に関わる問題での相互支持」を呼びかけた。
中ロ首脳がやりとりするのはロシアのウクライナ侵攻開始直後の2月25日以来となる。中ロが共闘して米国に対抗していく姿勢を改めて示した。
一方、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は15日、月末のNATO首脳会議でウクライナへの新たな包括的軍事支援策に合意するとの見通しを示した。
ブリュッセルでの国防相理事会に合わせた記者会見で「ウクライナがソ連時代の古い装備から、近代的なNATO装備に移行できるようにすることが重要だ」と語った。
火力でロシアに劣るウクライナの苦戦が鮮明化しており、米欧などの約50カ国による対ウクライナ軍事支援会合も開かれた。
●習近平氏、プーチン氏に「相互支持」呼びかけ…ウクライナ侵攻「正当性」確認  6/15
中国とロシア両政府は15日、 習近平シージンピン 国家主席とプーチン大統領が電話会談し、ウクライナ情勢を巡って意見交換したと発表した。
露大統領府によると、両首脳は、米欧による「不当な制裁」が原因で国際経済を取り巻く環境が複雑化したとの認識で一致し、エネルギーや金融など様々な分野での協力を拡大することで合意した。軍事面での関係発展も協議した。
プーチン氏は、習氏にウクライナでの軍事作戦の現状について説明した。露大統領府によると、習氏はロシアの行動の「正当性」を確認したとしている。
中国外務省によると、習氏は、プーチン氏に主権や安全保障に関わる核心的利益や重大な問題における「相互支持」を呼びかけ、ウクライナ侵攻を巡って国際的に非難を浴びるロシアを支えていく姿勢を示した。習氏は「各国は責任ある方法でウクライナ危機を適切に解決すべきだ」と訴えた。
●ウクライナ 戦況厳しく“火力足りず” 重要局面か  6/15
ロシア軍はウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指していて、激戦地となっているセベロドネツクでは攻防が続いていますが、ウクライナ政府からは厳しい発言が相次いでいます。
ゼレンスキー大統領はウクライナ兵の死者数について今月1日、「東部で1日60〜100人の兵士が死亡している」と発言していましたが、9日、ポドリャク大統領府顧問はBBCのインタビューで「一日100〜200人の兵士が死亡している」と発言しました。
その理由としてあげられているのが、圧倒的な火力の差です。
ウクライナ国防省の幹部は、イギリス紙の取材に対して「今は砲撃戦だ、われわれは大砲で負けている。ロシアはウクライナの10〜15倍の大砲を保有している」と発言しました。
さらに12日にはウクライナ軍のザルジニー総司令官がアメリカ軍のミリー統合参謀本部議長と電話で会談した際に「火力が10倍違う」と訴え、できるだけ迅速に追加のりゅう弾砲の供与を求めました。
アメリカとイギリスはりゅう弾砲よりも射程が長い「高機動ロケット弾システム」や「多連装ロケットシステム」の供与を決めているものの、アメリカの供与は4基にとどまっていることから、ウクライナ政府からは火力が足りないという懸念の声が出ています。
一方のロシア軍の死者数について、ゼレンスキー大統領は6月中に4万人を超える可能性があるとしており、ロシア側もかなりの打撃を受けていることは間違いないと言われています。
ただウクライナの国防省の幹部は「ロシアは現在のペースであと1年戦闘を続けられる」と指摘、「東部のドンバス地域で成功すれば東部を足がかりにして南部ザポリージャやオデーサを攻撃する」とも話しています。
今後、ウクライナへの支援をめぐっては国際的な会議が相次いで開かれますが、関係国がウクライナにどのような支援で一致するのか、戦闘の行方を左右しかねない、重要な局面になりそうです。
●ゼレンスキー氏「ロシア軍止められるのはプーチン大統領だけ」…会談求める 6/15
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、「ロシアが戦争を終わらせたいのなら、交渉のテーブルに着かなければならない」と求めた。「露軍を止めるかどうか決められるのはプーチン露大統領だけだ」とも述べ、停戦にはプーチン氏との直接会談が必要だとの考えを改めて示した。
ウクライナ大統領府が、ゼレンスキー氏とデンマークメディアとのオンライン記者会見の内容を発表した。ゼレンスキー氏は、「ウクライナ抜きでウクライナに関する交渉を行うことは不可能だ」とも語った。ロシアとトルコの外相が8日、ウクライナの穀物輸出問題について、ウクライナの頭越しに協議したことを批判した発言とみられる。
一方、ウクライナ東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクなどでは14日も露軍の攻勢が続いた。露国防省が、工業地帯などで抗戦を続けるウクライナ兵に投降を要求し、残留する住民の退避に向けた回廊設置を一方的に発表するなど、ロシア側は完全制圧を視野に入れ始めている。
ウクライナのウニアン通信によると、ウクライナの国防次官は14日、「必要としている兵器で米欧から受け取ったのは10%のみだ。努力しても米欧の支援なしでは戦争に勝てない」と述べ、兵器供与を加速するよう米欧諸国に訴えた。
●ゼレンスキー大統領 迅速な軍事支援の必要性 支援国に対し強調  6/15
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指していて、激戦地となっているセベロドネツクでは攻防が続いています。ウクライナのゼレンスキー大統領は、厳しい戦いが続いているという認識を示したうえで、支援国に対し迅速な軍事支援の必要性を強調しました。
ロシア国防省は、14日もロシア軍がウクライナの各地をミサイルで攻撃し、このうち、完全掌握を目指している東部のルハンシク州やドネツク州で、多連装ロケットシステムを破壊したなどと発表しました。
また、ロシア軍はルハンシク州のセベロドネツクを包囲しようと攻勢を強めていて、ハイダイ知事は、ウクライナ側が拠点とする「アゾト化学工場」について「およそ500人の市民が残っていて、そのうち40人は子どもだ」として、危機感を示しています。
こうした中、ロシア国防省は14日の声明で「アゾト化学工場」から市民を避難させるための「人道回廊」を、現地時間の15日午前8時、日本時間の15日午後2時から設置すると発表しました。
セベロドネツクから北に50キロ余り離れた、ロシア側が掌握しているスバトボに向けて、市民を安全に避難させる計画だとしています。
一方で「ウクライナ側の兵士は、武器を置いて無意味な抵抗をやめなければならない」として、ウクライナ側の兵士の投降が必要だと主張し、圧力を強めています。
これに対し、ウクライナ側は、兵器の供与を加速するよう欧米各国に求めています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、新たに公開した動画で、セベロドネツクとその近郊で厳しい戦いが続いているという認識を示したうえで「ウクライナにはミサイルに対抗する最新の兵器が必要だと支援国に言い続けている。わが国にはまだ十分なレベルのものがないが、今まさにそのような兵器を必要としていて、その供与の遅れは正当化できない」として、迅速な軍事支援の必要性を強調しました。
15日にはベルギーの首都ブリュッセルでウクライナを支援する関係国が会合を開く予定で、ウクライナへの軍事支援の強化に向けた協議の行方が注目されます。
●ゼレンスキーをどこまで支援すべきか 強硬路線一辺倒に出始めた異論 6/15
ロシアがウクライナに侵攻してから100日が過ぎた。当初は「数日又は数週間以内にウクライナの首都キーウが陥落する」との見方が一般的だった。6月になっても戦闘が続き、ゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はほとんどいなかった。
米英両国から供与されていた携行ミサイル(ジャベリン、スティンガーなど)がウクライナ側の抵抗に役立ったとされているが、ロシア側にとってそれ以上に大きな誤算だったのはゼレンスキー大統領の変貌ぶりだ。
侵攻直前のゼレンスキー大統領は支持率が低迷するなどレイムダック化しつつあり、米国も過小評価していた。侵攻開始前に開かれた米国議会の非公式会議での「ゼレンスキー大統領は歴史的抵抗を発揮できるのか。あるいは、逃避して政権を崩壊させるのか」という質問に対し、情報当局は「後者の可能性が高い」と述べたと言われている。
ロシアの軍事侵攻が始まると首都キーウの陥落は間近だと判断した米国政府は海外に逃避して亡命政権を樹立するよう勧めたが、ゼレンスキー大統領は「今必要なのは逃亡用の車ではない。武器をくれ」と一蹴したとされている。ゼレンスキー大統領は侵攻の翌日、大統領官邸前で携帯での自撮り動画を使って国民に対し徹底抗戦を呼びかけた。その後も褐色のTシャツ姿で国民を鼓舞し続けている。
ゼレンスキー大統領の獅子奮迅の活躍のおかげで、ウクライナは西側諸国の世論を味方につける情報戦で圧倒的に有利な状況にある。西側メディアは情報発信が稚拙なロシア側の主張を「プロパガンダ」だと切り捨てる一方、ウクライナ側の主張を重んじる姿勢を鮮明にしている。
情報戦では優勢になっているおかげで、西側諸国では「ウクライナを断固支援すべき」との世論が盛り上がり、一時は「ウクライナが勝利する」との期待も生まれた。だが、情報戦と現実の戦争は違う。ここに来てウクライナにとって厳しい現実が明らかになっている。
フランスは「ロシア配慮」
ウクライナ東部ドンバス地方でロシア軍が圧倒的優位となっており、「東部ドンバス地方を制圧し、クリミア半島へ陸路の橋をかける」という目標を実現しつつあるロシアは8日、停戦交渉の再開をウクライナ側に求めた。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「すべての占領地域の解放を達成しなければならない」と強調し、「少なくとも10倍の武器と兵力が必要だ」と西側諸国に訴えている。
だが、西側諸国の間では侵攻が長期化するにつれて温度差が生じている。米英は軍事支援を強化する姿勢を堅持しているが、フランスなどは慎重姿勢を示し始めている。
マクロン大統領が4日の地元紙のインタビューで「停戦時に外交を通じて出口を構築できるよう、我々はロシアに屈辱を与えてはならない」とプーチン政権への一定の配慮をにじませる発言を行った。ウクライナ側は即座にフランスの融和姿勢に釘を刺し、自らの強硬路線への西側諸国の支持に綻びが出てこないよう躍起になっているが、この戦略がいつまでも有効だと限らない。
6月3日付フィナンシャル・タイムズは「西側諸国に漂い始めたウクライナ疲れ」と題する論説記事を掲載した。ウクライナ危機で生じた経済的打撃についての西側諸国の我慢は限界に達しつつあるからだ。
情報戦での優勢が功を奏して西側諸国では「ゼレンスキー大統領は善で、プーチン大統領は悪だ」という勧善懲悪的な構図が定着し、ゼレンスキー大統領を批判すること自体がタブーになっている感が強いが、このような状況ではたして大丈夫だろうか。
同情を一身に集めているが…
今年10月の大統領選挙で返り咲きが確実視されているブラジルのルーラ氏は5月上旬「連日のように世界各地のテレビで演説し、拍手喝采を受けているゼレンスキー大統領も戦争を望んだと言える。そうでなければ同国の北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた動きに反対するロシアに譲歩したはずだ。交渉を重ねて紛争を回避すべきだったゼレンスキー大統領にもプーチン大統領と同等の責任がある」と述べている。西側諸国で生活しているとわかりづらいが、国際社会ではこのような見解が案外有力なのかもしれない。
国際社会の同情を一身に集めているウクライナだが、世界に冠たる汚職大国である点も見逃せない。政治の素人だったゼレンスキー大統領は「汚職撲滅」をスローガンに掲げて2019年に大統領となったが、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は昨年「ゼレンスキー大統領は英国領バージン諸島にペーパーカンパニーを設立し、就任後2年間で8億5000万ドルの蓄財をなした」ことを公表した。オランダの民間団体が作成した「組織犯罪汚職報告書」によれば、「ゼレンスキー大統領の資産はロシアの侵攻後も毎月1億ドルのペースで増加している」という。これらの指摘が正しいとすれば、ゼレンスキー大統領も「同じ穴の狢」だと言われても仕方がないだろう。
ウクライナの政界筋からも驚くべき情報が届いている。ゼレンスキー大統領は侵攻直後、ロシア軍による暗殺を警戒していたが、今ではウクライナ軍による暗殺の方を恐れているというのだ。ゼレンスキー大統領はこのところ連日のように東部地域に赴き、前線の兵士を鼓舞しているが、軍司令部内で「大統領自身が指示する作戦ではいたずらに犠牲者が増えるだけだ」との不満がこれまでになく高まっているようだ。ゼレンスキー大統領は自らの強硬路線を嫌う西側諸国の特殊部隊に暗殺されることにも警戒しているという。
真偽のほどは定かではないが、極度の緊張状態が続く中でゼレンスキー大統領の精神が深刻な状態になっている可能性は排除できない。西側諸国はウクライナに対して是々非々で臨む時期に来ているのではないだろうか。
●ロシア降伏要求、民間人500人超の化学工場に 6/15
ロシアは、ウクライナ東部セベロドネツクのアゾト化学工場で抵抗を続けるウクライナ軍に人道回廊を設置するとして、降伏を呼び掛けた。工場内には民間人500人超が取り残されているという。
ウクライナ軍2500人程度残留か
ロシア国防省は14日、ウクライナ東部セベロドネツクのアゾト化学工場に取り残された民間人を巡り、ウクライナ軍などに対し、戦闘を停止して降伏するよう促した。工場には子供40人を含む民間人500人以上が取り残されている。ロシア側は、民間人を退避させるための「人道回廊」を15日に設置するとしたが、人道回廊が親露派武装勢力が支配する地域に通じることから、ウクライナ兵などが応じるかは不明だという。
露、ドイツ向けガス40%削減
ロシア国営ガス大手ガスプロムは14日、海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム(NS)」経由でドイツに供給するロシア産天然ガスを1日当たり1億6700万立方メートルから1億立方メートルへと約40%減らすと発表した。ガスプロムは、独シーメンス製のパイプライン関連設備の修理が遅れていることなどが理由だと主張している。
●ウクライナの外国人部隊に日本人…親露派地域でイギリス人ら死刑判決  6/15
ウクライナ軍の外国人部隊に日本人が参加していることが、ウクライナ国防省への取材で明らかになった。
外国人戦闘員を巡っては、親露派武装集団が一方的にウクライナからの独立を宣言した「ドネツク人民共和国」の裁判所で英国人ら3人が9日、死刑判決を受けた。ロイター通信によると、ロシア外務省報道官は15日、英国人らへの死刑判決に関し、「ほかの戦闘員の先例になる」と警告し、対露制裁を科す諸国に揺さぶりをかけた。日本政府は、日本人に参加しないよう求めている。
ウクライナ国防省によると、外国人部隊には米国、英国、ポーランド、カナダ、オーストラリア、フィンランド、ブラジル、韓国など55か国から参加。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3月上旬、計約1万6000人と述べたことがある。
タス通信によると、ドネツク州の親露派武装集団は、外国人部隊の戦闘員に関し、捕虜への人道的処遇を定めたジュネーブ条約が適用されない「雇い兵」だと繰り返し主張し、最近も韓国人戦闘員を一時拘束したことをほのめかしていた。
●NATO首脳会議、今月下旬に開催 ウクライナ情勢が最重要課題 6/15
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の今月下旬の開催に向けて準備が進んでいる。ウクライナ情勢が最重要課題になるとみられている。
NATO首脳会議は28日から30日にかけて、スペイン首都マドリードで開催される。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ東部のドンバス地方でロシア軍の攻撃を食い止めるために、より多くの支援を繰り返し求めている。ゼレンスキー氏は、NATO加盟国からウクライナに対する、さらなる武器供与の約束が守られることを希望している。
スペインは今年でNATO加盟から40年を迎えた。
スペインのサンチェス首相は5月30日、NATO加盟を祝う式典で、NATOのウクライナに対する支援が揺るぐことはないと語った。
NATOのストルテンベルグ事務総長は同じ式典で、6月の首脳会議について、前回スペインが首脳会議の開催地となった1997年とは「全く異なった文脈」となっているとの見方を示した。
ストルテンベルグ氏は、今後10年の方針を定め、より危険な世界に対する抑止力や防衛力を設定しなおすと指摘。欧州連合(EU)やインド太平洋の各国など、志を同じくする国や組織との協力を一層深めるとした。
首脳会議では、ウクライナに対する武器の追加供与も話し合われる可能性が高い。
ストルテンベルグ氏は、ウクライナが引き続き支援を受ける必要性について強調し、もしロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻で勝利を収めれば、「我々が支払わなければならない代償は、ウクライナ支援のために今行っている投資よりも大きなものとなるだろう」と述べた。
●バイデン氏、ウクライナから陸路で穀物輸送検討…欧州国境に臨時倉庫  6/15
米国のバイデン大統領は14日、ロシア軍の黒海封鎖によってウクライナの穀物輸出が停滞している問題に対応するため、米欧が陸路での輸送を検討していると明らかにした。ウクライナと接するポーランドなど欧州諸国の国境沿いに臨時の穀物倉庫を作り、ウクライナ国内から集めた穀物を欧州の列車に積み替えて海まで運ぶという。
バイデン氏は、ペンシルベニア州での演説で新たな構想について語った。ウクライナと欧州諸国の列車のレール幅が違うことから、ウクライナの列車で国境沿いまで運んだ穀物を、いったん臨時倉庫に移す必要があると説明し、「時間がかかる」とも認めた。
ウクライナの穀物輸出を巡っては、トルコが仲介し、ウクライナ南部オデーサから輸出を再開する案をロシア側と協議しているが、これまでの議論で進展は得られていない。
●独仏伊3首脳が16日キーウ訪問、ロシアはガス輸出削減 6/15
ロシアは欧州向けのガス輸出を削減し、欧州のエネルギー市場に対する締め付けを一層強めた。フランスのマクロン大統領はロシアとの対話の扉を開けておかなければならないと主張。同大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相は16日にキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談する計画だ。
ロシアが欧州にガスを供給する主要パイプライン「ノルドストリーム」では、ガス輸送量が約6割減少した。ドイツのハーベック副首相兼経済相は政治的な動機が理由だとロシアを非難し、欧州市場を「動揺させ、価格を押し上げる狙いだ」と指摘した。
一方、中国の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と電話会談し、ロシアの安全保障上の懸念に対する中国の支持をあらためて表明した。
ブリンケン米国務長官はウクライナの領土割譲について決定するのはゼレンスキー政権だとし、米国は同盟国およびパートナー国と共に、ロシア軍と戦うウクライナに必要な支援を届ける決意だと語った。バイデン大統領はゼレンスキー大統領と電話会談し、ウクライナの安全保障支援に米国は10億ドル(約1350億円)を追加提供すると約束した。
独仏伊首脳、16日に合同でキーウ訪問を計画−関係者
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相は16日にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談する計画だ。事情に詳しい関係者が明らかにした。ルーマニアのヨハニス大統領も同行する見通しだという。
米国、ウクライナに10億ドル超の安全保障支援を提供へ−バイデン氏
米国はウクライナの安全保障支援のため10億ドルを追加提供すると、バイデン大統領がゼレンスキー大統領に語った。発表文で明らかになった。この支援にはミサイル発射装置や海岸防衛用の兵器、弾薬、高度ロケットシステムなどが含まれるという。
トルコ、NATO巡る立場は変わらない−エルドアン大統領
スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟について、トルコの安全保障上の懸念が対処されない限り両国の加盟にトルコは反対を維持すると、エルドアン大統領が語った。今月にマドリードで開かれるNATO首脳会議までに加盟問題が進展する希望はほぼなくなった。エルドアン氏は議会で与党・公正発展党(AKP)の議員らに対し、「スウェーデンとフィンランドがテロとの戦いで明確で具体的、決定的な措置を講じるまで、トルコがNATO問題で姿勢を変えることは確実にない」と述べた。
ロシアの直近のガス供給削減、政治的な動機−独経済相
ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムがパイプライン「ノルドストリーム」経由で欧州に輸出するガスの量を削減すると決定したことについて、ドイツのハーベック副首相兼経済相は「政治的な動機」が理由だと非難した。ガスプロムは技術的な問題で輸送能力が40%落ち込んだとし、メンテナンスのため外国に送った主要ガスタービンの一つが制裁でカナダから動かせなくなっていると説明した。二つ目のタービンも制裁により修理に送れなくなっているという。ハーベック氏は供給に「直結する」影響を及ぼしているとされるメンテナンス作業は秋まで実施される予定ではなく、いずれにしても40%に影響が出ることはあり得ないとの見方を示した。
中国の習主席、プーチン大統領と電話会談
中国の習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と2月下旬のウクライナ侵攻以降で2回目となる電話会談を行い、ロシアの安全保障上の懸念に対する支持をあらためて表明した。中国国営中央テレビ(CCTV)が報じた。
岸田首相、NATO首脳会議に出席へ−日本の首相では初めて
岸田文雄首相は今月下旬に開かれるNATO首脳会議に出席すると表明した。日本の首相の出席は初めて。ウクライナでの戦争におけるNATOの取り組みに支持を示す。
NATO加盟国、長期的なウクライナ支援パッケージで合意へ
NATO加盟国は15、16両日にブリュッセルで開く国防担当相会議で、ウクライナに対する長期的な支援パッケージやNATO軍の新たなモデルについて合意する見通しだ。ストルテンベルグ事務総長が記者団に語った。このパッケージではウクライナ軍が旧ソ連製の装備から現代的な装備へと移行するのを長期的に後押しし、NATOの標準装備との相互運用性を高めるようにすると、同事務総長は説明した。
マクロン仏大統領:プーチン大統領との協議はある時点で必要に
マクロン仏大統領は、重要な局面で「支持のシグナル」を送るため欧州連合(EU)とウクライナの新たな協議が必要だったと述べつつ、ロシアとの対話も引き続き開かれていなければならないと主張した。同大統領は西側諸国がロシアを「辱め」、平和的な解決を危うくすべきではないと発言し、物議を醸していた。マクロン氏はルーマニアの黒海沿岸の軍事基地を訪問した際に記者団に対し、「ある時点で、ゼレンスキー大統領はロシアと交渉しなければならず、われわれもその場に出席して安全保障の確約をする必要があるだろう。これが現実であり、実現させなければならない」と語った。同氏はウクライナを近く訪問すると報じられているが、訪問についてはコメントを控えた。
ロシアの石油収入、5月に急増−IEA
ロシアの石油輸出は5月に減少したものの、石油輸出収入は約200億ドル(約2兆7000億円)に急増したと、国際エネルギー機関(IEA)が15日公表した月報で指摘した。世界的なエネルギー価格の上昇が寄与し、前月比では11%増。原油と石油製品の輸出によるロシアの収入はこれでウクライナ侵攻前の水準をほぼ回復したという。
領土割譲を決定するのはゼレンスキー政権−米国務長官
ブリンケン米国務長官はPBSニュースアワーとのインタビューでウクライナの領土割譲について問われ、そうした決定は民主的に選ばれたゼレンスキー大統領を含むウクライナ政府が下すことになろうとし、「ウクライナの未来を決めるのはウクライナ国民だ」と述べた。同長官はその上で、米国は同盟国およびパートナー国と共に、ロシア軍と戦うウクライナに必要な支援を届ける決意だと語った。
中国、楽玉成筆頭外務次官をメディア部門に異動
中国は最も知名度の高い外交当局者の一人で、ロシア専門家でもある楽玉成筆頭外務次官(59)を国家ラジオテレビ総局副局長に異動する人事を発表した。これにより楽氏は王毅外相(68)の後継争いから脱落した可能性が高い。
ロシア、米女子プロバスケのグライナー選手の勾留延長
ロシアで拘束されていた米国女子プロバスケットボールのスターで五輪米国代表のブリトニー・グライナー選手の勾留が7月2日まで延長された。タス通信が報じた。同選手は大麻オイルの入った電子たばこカートリッジを所持していた容疑で逮捕された。
●「戦場から普通の生活に戻るのは難しい」ウクライナ・アゾフ大隊の兵士 6/15
ロシアによる軍事侵攻で兵士の「心の傷」が問題となっています。ウクライナのアゾフ大隊の兵士が取材に応じ「戦場から普通の生活に戻るのは難しい」と語りました。
アゾフ大隊の兵士(20代)「今回の侵攻では、大量のミサイル攻撃や断続的な空爆が兵士を襲いました」
アゾフ大隊のこの兵士は先月、南部へルソンでの戦闘中に頭を負傷し、療養しています。医師からはPTSD=心的外傷後ストレス障害や適応障害と診断されました。
アゾフ大隊の兵士(20代)「戦場から戻ってきても、気持ちが落ち込んだり、理由もなく攻撃的になってしまう時もある。治るとは思うけど」
療養先でも空襲警報を聞くと戦場を思い出すそうです。
アゾフ大隊の兵士(20代)「多くの兵士は心理カウンセリングが必要です。戦場で強いストレスがかかると不安でうつになったり、物事に無関心になり、普通の生活に戻れなくなるからです」
今後、西部のリビウでは負傷した兵士や市民の心のケアをするリハビリ施設の建設が計画されています。
●有能な人々はロシアから既に脱出。崩れた「プーチン失脚」のシナリオ 6/15
ウクライナ東部でロシア軍の攻勢が伝えられるものの、ウクライナの激しい抵抗により、戦争の終わりは見えてきません。戦争の長期化で経済制裁が功を奏し、プーチンが失脚するという欧米のシナリオは既に崩れたと見ているのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、その理由として、有能な人々が政権中枢から退けられたか国を脱出していることをあげます。そしていまのロシアはミッドウェー海戦後の日本のようだと評し、無能な指導者のせいで悲惨な末路を迎えるロシアを憂い、「日本も気を付けた方がいいよ」と意味深な言葉を綴っています。
ウクライナ紛争と穀物価格の高騰
ウクライナ紛争は杳として終結の兆しが見えない。ロシアはウクライナの首都キーウの奪取に失敗し、東部に戦力を集中しているが、ウクライナの抵抗も激しく、一進一退の攻防が続いていると報じられている。ロシアが攻勢を強めるといった報道があるたびに、西側からウクライナに強力な武器が供給され、この紛争はロシア対西側の戦闘といった様相を呈しており、西側は面子にかけてもロシアの一方的な勝利を許さないだろう。
戦闘を続けるには戦費が必要だが、ロシアは、欧米諸国の経済制裁によって、経済的に追い込まれており、長期的には戦争を継続できなくなると思われるが、それが1年先か2年先か5年先かは分からない。
紛争前にロシアにいた優秀な人材、例えばIT技術者などの科学者、起業家、資産家はすでにロシアを離れている。独立系ロシアメディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」が5月9日に報じたところによると、2022年1〜3月に388万人がロシアから出国したという。現在、この数はもっと大きくなっているだろう。
プーチンに批判的な官僚や軍人は左遷されたか、国外に脱出したか、しているだろうから、政権中枢に残っているのはプーチンに忠誠を誓う以外に生き延びる術がないと思っている無能な人々だけだと思う。
西側が経済制裁を始めた直後は、ロシアの人々は日々の生活に困って、プーチンの始めた戦争を怨んで、プーチンは遠からず失脚して、新しい政権とウクライナの間で停戦が成立して紛争は終結するだろう、との希望的観測が一部で流れていた。
プーチンが失脚した後の新生ロシアとしては、紛争の原因を一人プーチンに負わせて、和解交渉が成立すれば、紛争によるロシアのダメージを最小限に抑えられるし、惨めに敗北するよりも、はるかにロシア全体としての面子も保てる。西側としてもプーチンが失脚して、とりあえず紛争が収まれば、ロシアを経済制裁する必要もなくなる。天然ガスや原油などの化石エネルギーをロシアから自由に輸入することもできるようになり、双方にとってウィンウィンになるというシナリオだ。
しかし、このシナリオが成立するのは、プーチンのやり方を快く思わない有能な人々が、政権の中枢に残っている限りにおいてなのだ。恐らく今は状況が異なっていて、例えプーチンが死んでも、残った政権中枢の人々は、プーチンに洗脳されている(というよりもプーチンに賛成して戦争路線を擁護していた自分の意見を変えることが難しい)ので、プーチンの引いた戦争路線をクラッシュするまで走るしか選択肢がないという状況だと思う。太平洋戦争の半ばに、ミッドウェー海戦で大敗北を喫した後の日本みたいなものだ。
考えられる最悪の状況は、プーチンがこのままトップに留まり続け、戦局はロシアにとってじり貧になり、やけくそになって核兵器を使用するという事態になることだろう。実際には、このまま和平に応じないと核兵器を使うぞ、という脅しをかけるだけで、使うことはないと思うけど、ウクライナや西側が挑発すれば、プーチンが怒り狂って核のボタンを押すことがないとは言えない。そうなっても世界は終わらないだろうが、ロシアは終わってしまう。
幸か不幸か、ロシアはエネルギーと食料を国民に供給することだけはできるし、紛争前に比べれば減ったとはいえ、まだ原油や天然ガスをヨーロッパに売っており、インドなども原油を買い付けているので、暫くは戦費が底をつくことはない。国民の生活は苦しくなったとはいえ、もともと貧乏な人達は、暫くは耐え忍ぶことができると思う。
しかし、このまま戦争を続ければ続けるほど、国際的な経済制裁は厳しくなり、戦死者は増え続け、輸入に頼っていた生活用品や贅沢品は枯渇して、国民の間には厭戦気分が広がり、いずれ戦争の継続はあきらめざるを得なくなり、和平交渉をするにしても、ロシアにとって極めて不利な条件にならざるを得ないだろう。
紛争が長引けば長引くほど、紛争が終結した後のロシアは、より悲惨になっていることは間違いない。指導者は権威主義的で国民は洗脳されている人ばかりといった、大きな北朝鮮のような国になっているかもしれない。敗北を認めて、西側のコントロール下に入れば、建前上は民主主義的な国になるということもあり得るが、経済の発展に必要な人材は払拭しているので、立て直すのは容易ではなく、最貧国から脱出するには時間がかかるだろう。
一人の愚かな指導者のために、国がここまで悲惨になるということが、まさか21世紀の世界で起こるとはね。日本も気を付けた方がいいよ。もう手遅れかもしれないけれどもね。
ところで、紛争が始まって以来、ロシアからのエネルギーの供給ばかりでなく、ロシアやウクライナからの穀物の供給も滞っているので、世界全体におけるエネルギーの価格と穀物の価格は高騰している。アフリカでは、ウクライナ侵攻を受け、小麦の価格が45%も上昇しているという。日本でも、輸入小麦の政府売り渡し価格を、2022年4月から17.3%引き上げた。
ウクライナは肥沃で、穀物の栽培に適し、小麦の生産高は、紛争前は世界7位(ロシアは4位)、大麦は世界5位(ロシアは2位)、トウモロコシは世界6位(ロシアは11位)で単位面積当たりの収量は、ロシアよりはるかに多い。ウクライナの穀物は、輸出拠点の黒海沿岸をロシアが封鎖しているために、容易に輸出できない。ウクライナは外貨の獲得を穀物輸出に頼っているため、紛争で穀物生産量が落ち、さらに輸出できないのは大きな痛手である。
●プーチン氏、元クリミア検事長・ポクロンスカヤ氏を政府要職から解職 6/15
ロシアのプーチン大統領は13日、2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島の元検事長で、ロシア政府機関の副長官を務めていたナタリヤ・ポクロンスカヤ氏(42)を解任した。ロシアのウクライナ侵攻に疑問を呈する発言を繰り返していたため、事実上の更迭とみられる。
ポクロンスカヤ氏はこれまで、プーチン政権が「ウクライナはバンデラ主義者(反ロの過激な民族主義者)だらけ」と主張する中、メディアを通じて「基本的にウクライナにいるのは普通の人々だけ」と反論していた。
ロシアの軍事作戦を意味する「Z」マークについては「悲劇と悲しみの象徴」と表現。反戦活動が禁じられる中でも「ロシアとウクライナは戦闘を止めて」と公言してきた。昨年夏には本紙の取材に「ウクライナは歴史的に固有性のある主権国家。何人もその独立性を妨げてはならない」と語っていた。
ポクロンスカヤ氏は14日、ロシア検事総長顧問に就くことが決まり、今後は交流サイト(SNS)を通じた発信を控えると表明した。
●「ピョートル大帝」を夢見て戦い続けるプーチン大統領の「憎悪の対象」 6/15
ロシアのプーチン大統領の自らをピョートル大帝に模した発言が話題だ。6月12日の「ロシアの日」の演説で、ロシアの大国化を進めたピョートル大帝にふれ、「軍事的勝利が重要」と訴えた。それ以前にも、ピョートル大帝のように「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」と述べていた。
ピョートル大帝といえば、17世紀末から18世紀初頭に、長期にわたる戦争を主導して、ロシアの領地を大幅に拡大した人物である。バルト海へのアクセスを求めて、スウェーデンとの間で大北方戦争を行った。現在のウクライナ領に面した黒海の内海であるアゾフ海に最初にロシア軍を進めたのも、ピョートル大帝だ。
プーチン大統領の拡張主義の野心は、特に最近になって生まれたものではない。ロシア・ウクライナ戦争の最中なので、ニュースになっただけだろう。もっとも、「悪いのはNATOを拡大させてロシアを追い詰めたアメリカだ」、とプーチン大統領を擁護し続けている反米主義者の方々が、プーチン大統領のこうした野心を、どのように擁護するのかは気になる。
反米主義者のプーチン擁護論の滑稽さ
反米主義者の方々は、プーチン大統領はアメリカに冷たくされて仕方なく冒険的な行動に出てしまった、と頑なに主張する。
しかし実際には、まずピョートル大帝に憧れるプーチン大統領がいて、チェチェン紛争、ジョージアの南オセチア紛争、さらにはシリア、リビア、サヘル地域のアフリカ諸国への介入がある。プーチン大統領がNATOの拡大に反発するのは、NATOがロシアを攻めようとしているからではなく、NATOがロシアの拡張政策の邪魔だからだ。プーチン大統領の心の中にロシアの拡張政策を当然視する思想があるからこそ、立ちはだかるNATOに怒っているのである。
NATO拡大は、ロシアの歴史的な拡張主義をふまえて、力の真空地帯となった東欧諸国に安全保障の傘をかける措置であった。それでもNATO側は、ロシアを気遣って、ウクライナやジョージアなどの旧ソ連構成地域の諸国については、加盟承認を見合わせていた。そこをついて、ウクライナを、自国の「勢力圏」として確定させるために、プーチン大統領は侵略行動に及んだ。ロシアへの気遣いで拡大が不十分になった結果、侵略対象となってしまったウクライナは、不憫である。
NATO拡大は、プーチン大統領を侵略に走らせた原因ではない。プーチン大統領が夢見ているロシアの拡張政策から東欧諸国を守るための対応策である。反米主義者の方々の主張は、原因と結果が逆さまである。
理解しておきたい国際秩序の変化
冷戦時代から反米主義を固持し続けてきた世代の方々は、政治的イデオロギーを表明する機会として、プーチン大統領を擁護しているだけだろう。何を言っても、全く聞く耳を持たないと思われる。
しかし、若い世代の方々には、是非、理解をしてもらいたい。現代は、ピョートル大帝が生きた時代とは違っている、ということを。
これは単に21世紀の世界のほうが17世紀のヨーロッパよりも平和であるかどうか、ということにとどまる話ではない。国際社会の仕組みが変わっている。ルールが変わっているのである。
ピョートル大帝の時代には、現在の国際社会の秩序を成り立たせているルールが存在していなかった。端的に言えば、侵略を行っても、それを違法だと糾弾するための法規範すら存在していなかった。
現代の国際社会は違う。193の加盟国をもつ国連憲章で、武力行使が禁止されている。国際人道法も発達しているので、たとえ戦争中であって市民に残虐行為を働けば戦争犯罪を問われる。
このことが持つ意味は、ウクライナをはじめとする東欧諸国の人々には、特に重大である。20世紀になるまで、東欧では独立国が存在していなかった。より正確には、19世紀までに東欧諸国は消滅してしまっていた。20世紀以降に、国際社会の法規範に守られるようになって、東欧諸国は独立国として生きていけるようになった。現代の国際社会の秩序が無視されたら自分の国がなくなってしまう、という危機感は、東欧諸国の人々にとっては切実だ。
不遇の東欧の歴史
世界史の教科書くらいには、1648年「ウェストファリアの講和」が出てくるだろう。ヨーロッパ全域を惨状に陥れた30年戦争を終結させたミュンスター条約及びオスナブリュック条約を総称した講和条約のことだ。この講和に参加した条約主体は、360以上だった。17世紀のヨーロッパは、まだ様々な政治共同体が乱立している状態にあった。
学校教科書では、ウェストフェリアの講和において絶対主権の原則が固まったと説明されることもあるが、正しくない。数百もの神聖ローマ帝国域内の封建領主などの条約主体は、いずれも自らの領地を自らの力だけでは守れない弱い存在でしかなかった。絶対主権を振り回す大国の国際政治が到来するのは、むしろその後の時代であり、まさにピョートル大帝の拡張政策などによってであった。
ウェストファリアの講和の際に存在していた弱小国家群は、ロシアやプロイセンなどの大国が拡張政策を進めていくにつれて、次々と併合されていってしまう。
1648年に、今のウクライナの土地にコサック国家の独立国が生まれた。しかしこのウクライナのコサック国家は、ピョートル大帝のロシアとの戦争をへて、ポーランド・リトアニア支配地域と、ロシアの保護下の地域に分割された。18世紀には、ロシアの保護国だったウクライナ地域は、完全にロシアに併合された。ウクライナでは第一次世界大戦中に独立戦争が起こったが、ソ連の赤軍によって鎮圧された。独立蜂起は、第二次世界大戦中もあったが、やはり鎮圧された。ウクライナがようやく独立国の地位を得ることができたのは、ソ連が崩壊した1991年のことである。
一時期は今のウクライナの一部を統治したポーランドも、18世紀を通じてロシア、プロイセン、オーストリアによって繰り返し分割され、遂に消滅した。ナポレオン戦争中にワルシャワ公国が作られた時期もあったが、それもナポレオンの敗北と共に消滅した。19世紀を通じて何度か独立運動が起こったが、そのたびにロシア帝国によって鎮圧された。ポーランドが国家として復活するのは、ロシア帝国が崩壊した第一次世界大戦後のことである。
1914年の第一次世界大戦勃発時のヨーロッパの地図を見てみよう。
現在「東欧」として知られている地域は、ロシア帝国、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国によってすっぽりと覆い尽くされてしまっている。それ以外の独立国は存在していない。
オスマン帝国がヨーロッパの大国に浸食され始めていたため、かろうじて南欧には小国が存在していた。しかしそれらはいずれも大国の庇護を受ける保護国のような存在でしかなかった。
ピョートル大帝の17世紀から数百年にわたって、ヨーロッパにおける国家の数は減少し続けた。大国の拡張政策による併合が相次いだからである。その結果、「東欧諸国」と呼べる存在は、19世紀が終わるまでには消滅してしまっていた。世界全体を見ても、20世紀初頭までのヨーロッパ諸帝国の植民地主義の拡張によって、国家の数は減り続けていた時代である。
20世紀の国際秩序の成立
東欧に独立国が復活し始めるのは、第一次世界大戦の後のことである。世界的な国家数の減少の傾向が逆転して、国家の数の増加が始まるのは、第一次世界大戦が終わってからのことであった。理由は、絶対主権を持つとされた帝国の崩壊である。
第一次世界大戦の終結時に、敗戦国となったドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、そして革命が起こったロシア帝国が崩壊した。世界最強国として第一次世界大戦後の国際秩序の樹立に影響を行使したのは、ウッドロー・ウィルソン大統領が率いるアメリカ合衆国であった。
ウィルソン大統領は、すでに戦争中に、ヨーロッパの大国政治の原理であった勢力均衡と秘密外交を否定し、代わりに「民族自決」の原則を導入する「十四か条の平和原則」を明らかにして、国際秩序の刷新を誓っていた。大国の帝国主義的拡張を否定し、「民族自決」に基づく新国家の独立を承認する国際社会の秩序を導入した。この恩恵を受けた地域が、東欧であった。
実際には、東欧諸国は、自らの力だけで自らの独立を維持することができなかった。そのため集団安全保障を掲げる国際連盟に頼るしかなかった。しかしアメリカが加入しなかった連盟の力は限られており、東欧諸国は1930年代末までにナチス・ドイツとソ連によって再び分割併合されていってしまう。
この歴史を反省したアメリカは、第二次世界大戦後には、ヨーロッパの国際秩序の維持に深く関わるようになる。国際連合を通じた普遍的な集団安全保障に加わっただけではない。NATOを設立して、西欧諸国の安全を保障する主体として現れることになった。
ただしナチス・ドイツの崩壊で再び独立国になることができた東欧諸国の安全保障は、東欧から軍事力でドイツ軍を駆逐したソ連に委ねられることになった。ウクライナは、ソ連の一部とされたままであった。第二次世界大戦後に、大英帝国とフランス帝国の崩壊に伴う世界的な脱植民地化の広がりの中でも、東欧の秩序は変化しなかった。ワルシャワ条約機構加盟国が、ソ連の「勢力圏」から脱し、ウクライナのようなソ連構成国がソ連から離脱して独立国となるのは、ようやく冷戦終焉時の東欧革命とソ連崩壊のときであった。
いずれにせよ、一握りの数の帝国主義的な大国による勢力均衡で成り立つ19世紀のヨーロッパ中心の国際秩序は、20世紀を通じて「民族自決」を原則としたアメリカ主導の新しい国際秩序に変化していった。国連憲章が規定する「主権平等」は、力の支配を意味する絶対主権ではなく、中小国を含めた全ての諸国の独立が尊重される時代への移行を象徴した。新興独立諸国が次々と生まれて国家の数が激増していく20世紀の歴史の中で、遂にウクライナも独立国となることができたのであった。
ピョートル大帝の秩序と現代国際社会の秩序の対決
ピョートル大帝を憧憬するプーチン大統領が率いるロシアは、つまりアメリカ主導で成立した20世紀以降の国際社会の秩序そのものを憎んでいる。NATO拡大によって追い詰められたという描写は、つまりは帝国主義時代のヨーロッパの秩序への復帰を目指す野心の裏返しでしかない。
NATOという集団的自衛権を根拠にした同盟機構は、多数の小国が存在している国際秩序を前提にしている。小国は、独立国だが、自国だけでは自らの安全を確保できない。そこで集団的な安全保障の機構を必要とするのである。
NATOのような20世紀の国際秩序を前提にして成立している安全保障機構は、19世紀大国政治の時代の同盟とは、本質的に性格を異にしている。NATOは、「民族自決」や「主権平等」が原則となり、小国が多数生まれた国際社会になったからこそ、必要になっている安全保障機構である。
これに対して、19世紀大国政治の時代には、同盟があったとしても、帝国主義的な大国が、勢力均衡を計算して組み直し続けていただけのものであった。そこでは、小国は、大国の犠牲となり、消滅していくしかなかった。
ピョートル大帝を夢見て「勢力圏」の拡大を図るプーチン大統領は、後者の19世紀大国政治の帝国主義的な国際秩序の復権を狙っている。そこではウクライナは小国として、大国ロシアの犠牲になることが当然とされる。もしアメリカが主導するNATOをプーチン大統領が憎んでいるとすれば、このピョートル大帝の大国政治の実現を邪魔するからだ。
「全てを完全に善悪で分けられるか」、「アメリカだけが正しいのか」、「ゼレンスキーは英雄か」、といった禅問答のような問いを乱発させて、何とか現実から目をそらそうとする方々は、問題の本質を見誤っている。
反米主義のイデオロギーの衝動にかられて、プーチン大統領を擁護する方々は、それによって自分が現代国際社会の秩序そのものを否定する運動に加担してしまっているということを、よく知っておいてほしい。
●ロシア軍司令官が「虐殺を命じられた」と批判…プーチンの情報統制が破綻 6/15
アプリから漏れ出るロシア軍兵士の本音
ロシアが得意としてきた情報統制が、日を追うごとに機能しなくなっている。ロシア軍内部の兵士や司令官がアプリを通じ、厳しい戦闘の実情をロシア国民に直接発信するようになったためだ。世界トップクラスのシンクタンクのひとつ、欧州政策分析センター(CEPA)が分析リポートを通じ、ロシア情報封鎖のほころびを指摘した。
情報漏洩ろうえいの主な舞台となっているのは、暗号化メッセージアプリの「Telegram(テレグラム)」だ。軍上層部を信頼しない兵士や司令官、そして退役軍人や独立系メディアなどが、それぞれ独自の視点で生の情報を発信し続けている。ある司令官はTelegramに投稿した動画を通じ、ひどい食糧不足により部隊全体が飢えていると訴えた。プーチンはロシア兵を虐殺している、との猛批判だ。
ロシア軍の実情が現場から直接流出することは異例だ。CEPAは、「まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった」と述べ、ウクライナ侵攻における情報漏洩の特殊性を指摘している。
ロシア軍司令官は「プーチンによって虐殺に送り出された」と非難
ある部隊は、飢えと病に悩まされている現実をTelegramで明かした。英ミラー紙が報じたところによると、ドネツク共和国第113連隊のロシア軍司令官は戦地からTelegramに動画を投稿し、プーチンは適切な装備もなく自軍の兵士たちを「虐殺」に送り出したと訴えている。この司令官は、食糧と医薬品の不足により部隊が「慢性的な疾患」に見舞われているとも訴えた。
動画では、やつれた表情を浮かべた数十名の兵士たちを背景に、司令官が戦地の過酷な状況を視聴者に明かしている。司令官は、自身の部隊が医薬品も十分な武器もなくウクライナ南東部のヘルソン地方に動員され、2月下旬以来、「飢えと寒さ」との戦いであったと暴露した。
さらに、部隊は適切な武器なくプーチンによって「虐殺に送り出された」と批判し、部隊をドネツクまで戻してそこで動員を解くよう求めている。司令官は続ける。「健康状態の検査を受けた者などいない。精神疾患をもつ子供たちが動員されている。多くの子をもつ父親たちや、後見人たちもだ」
動画についてミラー紙は、「彼の暴露は、ウクライナ東部で戦うウラジーミル・プーチンの一部部隊に関して、厳しい状況を浮かび上がらせた」と分析している。ウクライナ東部のドンバス地方はロシアが「解放」したと主張する地域だが、このような現実に苦しむ部隊による暴露動画が不定期にTelegram上に投稿されている。
プーチン政権の情報統制に無理が生じている
ミラー紙は、今回の動画を投稿した113連隊のほかにも、少なくとも2つの部隊が同様の苦境を訴え戦闘を拒否したと報じている。戦地に駆り出されたものの有効な攻撃手段をもたず、ただただ「大砲の餌食」になっているとの不満も兵士から噴出している模様だ。
生々しい戦場をその目でみたロシア兵の多くは、もはや政府発表の情報を信頼していない。CEPAが明かしたところによると、現役兵および退役兵が多く参加するとあるTelegramチャンネルでのアンケートでは、国営メディアを情報源として信頼すると回答した人は2%にとどまったという。
もともと政府を信頼しない人々がTelegramを愛用している傾向はあり、母集団のバイアスは多少存在するとみられる。しかし、それを加味しても、プーチン政権の傀儡くぐつメディアに対する圧倒的な信頼のなさを物語る数字となった。
プーチン政権は国営メディアなどを通じたプロパガンダで侵攻を正当化し、有利な戦果だけを伝えてきた。だが、肝いりの情報統制とプロパガンダにも、さすがに無理が生じてきているようだ。
一方のTelegramは、耳当たりのよい報告ではなく、真相で人々を惹きつけている。ロシア軍がドネツ川の渡河作戦で大きな失態を演じると、その死者数についてしばらく伏せるようあるチャンネルが呼びかけたが、ロシア側ユーザーからの怒りの声で炎上した。自由な情報の流通を好むユーザーの気質がうかがえる一件だ。
形勢不利を伝えるチャンネルがロシア人の支持を得る
興味深いことに、Telegram上で飛び交う現場の声はロシア軍の作戦立案にも反映されているという。CEPAが報じたところによると、ウクライナ軍の防空網が健在だという情報がチャンネル上で流れた際には、ロシア空軍内部で大規模な検証が行われた。
軍は、ユーザーがどの部隊に所属しているかなどをある程度特定し、情報の信頼性を精査しているとみられる。そのうえで、前線からの有益な情報源として発言を事実上黙認している形だ。事実、ユーザーのなかには現役兵に加え、退役した元将校など知識豊富な人物も多い。
こうしてTelegram上の情報に便乗するロシア軍だが、思わぬ落とし穴が待っていた。軍が対応の参考としたとの評判が広まると、ロシア軍形勢不利を伝えるいくつかのチャンネルはいっそう一般国民の信頼を得る結果となった。
このようなアプリを通じた情報公開は、以前の戦争であれば考えられなかった。状況を特異だとみるCEPAは、「戦争から3カ月で、まったくもって前代未聞の事態が巻き起こった。ロシア軍内部に、検閲がなく、防衛省の管理も届かない議論の場が出現したのだ」と驚きをあらわにしている。
戦勝記念日のパレードで軍事力を誇示するはずが…
Telegramは侵攻直後から情報収集手段として活用されてきたが、5月の軍事パレードが普及に拍車をかけるきっかけを作った。
ロシアが毎年5月に行っている戦勝記念日のパレードは、国民に軍事力を誇示し、兵士の士気を高揚させる機会として長年機能してきた。だが、ウクライナ侵攻の今年、この一大行事は裏目に出る結果となる。CEPAは、軍事機密の暴露がTelegram上で飛び交うことになったきっかけのひとつが、この軍事パレードだと指摘している。
今年も赤の広場で5月9日に行われたパレードは、例年と異なる体制が目を引いた。士官学生らに続いていざ正規軍の登場となると、地位ある将官らの姿がどこにもみられなかったのだ。行進を率いていたのは、中佐クラスがせいぜいであった。
例年パレードが盛り上がりをみせる戦車の車列の登場となると、昨年までとの差異はいっそう歴然となる。率いていたのは中尉らであり、例年よりかなり見劣りする編成だ。原因は火をみるよりも明らかだった。ウクライナへの動員で、軍人がまったくもって足りていないのだ。
CEPAは述べる。「軍隊の変わりようは極めて明白であり、よってその目でみたことを人々が話したがるのも無理はない話だ。だが、そのような話題を、いったいどこで議論できるというのだろうか?」
そこで白羽の矢が立ったのがTelegramというわけだ。メッセージは携帯端末から送出する段階で暗号化されるため、通信経路の途中で政府の検閲を受ける心配がない。
信頼失墜のマスメディアに代わり、Telegramチャンネルが台頭
ジャーナリストが「特別軍事作戦」について論じることが違法となったロシアでは、Telegramが貴重な議論の場となった。報道規制の厳格化とともにもともとロシアで注目を集めてきたTelegramだが、戦勝記念日の異常事態を受けさらに参加者を惹きつけることとなったようだ。
人々はグループチャットで戦争に関する自由な意見を交換しているほか、個人のジャーナリストやブロガーなどが匿名でチャンネルを開設し、独自の情報と見解を示している。CEPAによると、あるTelegramのアンケートでは、主な情報入手先としてまずブロガーを頼ると答えた人々は4割弱にも達する。
先進国であれば、ブロガーは独自の興味深い視点を披露する反面、報道の正確性ではマスメディアに一歩劣るというのが一般的な理解といえるだろう。ロシアではこれが逆転し、プロパガンダを流すマスメディアよりもブロガーたちが厚い信頼を獲得している。
CEPAはロシアにおいてTelegramが、単一のアプリとしては「不相応なほどにまで重要な役割」を担っており、「同国において最も人気のあるマスメディア」になっていると指摘する。オープンな議論が限られた現地で、政府の不当な監視の及ばない貴重な場となっている。
強気の国営メディア「ストーンヘンジまで攻める」
一方、プーチンのプロパガンダ戦略を担う国営TVは、相変わらず強気のロシア軍擁護を続けている。「プーチンの代弁者」ともいわれるロシア番組司会者のウラジーミル・ソロヴィヨフ氏は、自身の討論番組において、ロシアは「(イギリスの)ストーンヘンジまで攻める」との持論をぶち上げた。英メトロ紙が報じた。
番組には、ウクライナの政治家であるヴァシル・ヴァカロフ氏がゲストとして招かれた。ヴァカロフ氏は、ロシア軍がまもなくドンバス地方のルハンシクおよびドネツクを掌握する見込みだと指摘したうえで、一体どこまで西に軍を進めるのかと質した。
これに対し司会のソロヴィヨフ氏は激しい口調で、次のように応じている。「どこまで攻めたらやめるのかって? まあ今日の段階でいえることは、おそらくストーンヘンジだろう。(英外相の)リズ・トラスも、自身は戦争に参加している身だと言っている」
デイリー・メール紙はこの発言を、「外務大臣に対する馬鹿げた主張とからかい」だと批判した。プーチンへの痛烈な批判とウクライナへの武器支援を続けるトラス外相は、ロシアのエリート層にとって相当に憎き存在となっているようだ。イギリスに関して同司会者は以前、ロシアが核ミサイルの「ジルコン」を打ち込み、イギリスを「石器時代に戻す」とも発言している。
アプリ一つで崩壊危機…旧時代を生きる「世界第2位の軍隊」の限界
ウクライナ侵攻までは「世界第2位の軍隊」ともてはやされたロシア軍だったが、いざ開戦となると前時代的な装備と予想外の弱さが露呈し、世界から冷笑を買った。情報管理においても同様に、近代化の遅れが目立つ。
ソ連時代から情報統制をお家芸としてきたこの大国は、現代の情報化に対応できておらず、旧態然とした隠蔽いんぺい国策を続けている。ところが、たった1つのアプリを経由して前線でのあらゆる出来事が筒抜けとなる始末だ。
ITを積極活用するウクライナとは、好対照といえるだろう。ウクライナはかねて進めてきた電子政府化により、戦時下でも政府機能を維持している。ほか、スターリンク衛星通信を軍と市民生活の双方で積極活用するなど、近代技術を柔軟に取り入れている。
情報公開もむしろ積極的に進めており、英ミラー紙などが報じている死亡情報開示もその一例だ。ロシア兵の安否を気遣う家族向けに、確認されたロシア兵の死亡情報をTelegram上で確認できる枠組みを立ち上げた。同紙によると登録者数は100万人を超えたとのことで、ロシア兵の家族たちがロシア政府とウクライナのどちらを信用しているかは明らかだ。
戦時の情報隠蔽は、ゆっくりと過去の戦略になりつつあるのだろう。CEPAは、ロシアが行っている報道規制について、「この完全隠蔽システムは平時であればうまく機能するかもしれないが、全面戦争という現実が立ちはだかったなら、存続は不可能だ」と指摘する。
プーチンとしては戦時中にこそ、戦意高揚のため不都合な事実を隠蔽したいところだろう。だが、まさにその戦時中、前線に動員された司令官や兵たち自身がありのままの真実を発信している。肝心のときに限ってプロパガンダが機能しないという皮肉に、プーチンはいつの日か気づくのだろうか。
●ロシア版ダボス会議、今年は欧米勢顔見せず プーチン氏17日演説へ 6/15
「ロシア版ダボス会議」と称されるロシアの国際経済イベント「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)」が15─18日に開催される。ウクライナに侵攻したロシアに対して西側が厳しい経済制裁を科している中で、かつて顔を見せていた欧米政財界の指導者のほとんどが出席しないというのが今年の大きな特徴だ。
インタファクス通信がロシアのウシャコフ大統領補佐官の発言として伝えたところによると、プーチン大統領は17日に「国際経済状況とロシアの近未来における課題」と題して演説する。モスクワ時間午後8時(1600GMT)ごろにはプーチン氏とメディアの会見も予定しているという。
ロシアがSPIEFを始めたのは1997年。外国からの投資呼び込みを図るほか、経済政策の議論を通じて、旧ソ連時代と違い企業に門戸を開くロシアというイメージを広めることが目的だった。同国が常に意識してきたのは、スイスのリゾート地に世界中から政治や経済の指導者が集まるダボス会議(国際経済フォーラム年次総会)だ。
実際SPIEFにはこれまでドイツの当時のアンゲラ・メルケル首相や、国際通貨基金(IMF)専務理事だったラガルド現欧州中央銀行(ECB)総裁、米国のゴールドマン・サックスやシティ、エクソンモービルのトップなどが参加してきた。
しかし今回、出席者のリストに欧米の政治指導者や有力企業トップの名前は見当たらない。ロシアから撤退していない企業も参加を控えている。例外はロシアの米商工会議所の代表などごく少数だ。政治指導者がロシアと距離を置きたがり、企業の間にはロシアとかかわって制裁対象になることを恐れる雰囲気が広がっていることが分かる。
ロシア側はその穴を埋めるべく、中国のほか、対ロシア制裁に加わっていない、より小さな国の関係者を積極的に招待している。ペスコフ大統領報道官は14日、中東やアジアを念頭に「外国投資家は何も米国や欧州連合(EU)だけではない」と強調した。
ウシャコフ氏によると、40カ国以上が政府高官を派遣し、ロシア企業1244社と外国企業265社の出席も確定している。ロシア通信は同氏の話として、エジプトのシシ大統領が動画メッセージを送る予定と伝えた。中国やベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、中央アフリカ共和国、インド、イラン、ニカラグア、セルビア、アラブ首長国連邦(UAE)などの政府関係者が対面で参加するか、動画で演説するという。 
●戦争を起こした張本人の支持率がなぜ上がる? 疎外されたロシア世論 6/15
前回、ロシア国民が「受け身」という実態を紹介した。消極的ではあるものの結果的にプーチン大統領を支持している。ウクライナ侵攻をやめさせるための日米欧の制裁がいくら厳しくても、その構造は簡単に揺るがない。それにしても説明が難しいのは、戦争を起こした張本人であるプーチンの支持率が、なぜ上向くのかということだ。
プロフィル写真にロシア国旗マークで対抗
通信の自由が制限されつつある中、筆者の元にはモスクワで何年間も付き合ったロシア人の友だちから「戦争反対」の叫びが届いた。第2次大戦のむごさを学校で教えてくれたおじいさんに「(過ちを)繰り返してごめんなさい」とSNSに記す人も。徴兵された10代の若者は「演習」と聞かされて「実戦」で命を散らし、兵士の母の会が調査に動いた。
もっとも、プーチンが直ちに玉座から追い落とされることにはならなかった。メディア弾圧や世論誘導は有効だが、それだけでは説明にならないだろう。サイレントマジョリティーが自発的、無意識的に支持している点は見逃されがちだ。
面白い現象がある。2月24日にロシアの侵攻が始まって以降、ウクライナ人だけでなく、世界中の多くの人がフェイスブックのプロフィル写真に青黄2色の「国旗マーク」を付けた。「戦争反対」と「ウクライナ支持」の印。これを見た普通のロシア人がどう反応したかというと、プロフィル写真にロシア国旗のマークを付け始めたのだ。
国際社会による批判の対象はプーチンとその政権。ノンポリの国民は積極的な政権支持者ではないのに、あたかも自分たちの価値観が攻撃されたように勘違いしたらしい。あるいは、ウクライナ人には世界中が同情するのに、ロシア人は「誰にも同情してもらえない」という疎外感が働いたのかもしれない。
外敵が現れれば、強いリーダーの周りに人々が寄り集まるのは世の常。欧米でも「戦時指導者」という言葉があるくらいだし、人気が急上昇したウクライナのゼレンスキー大統領も同じことだろう。
脅威あおり「自転車操業」
実際、プーチンの支持率は3月、前月比12ポイント増の83%に達した。4月も82%、5月も83%。政府系でなく、欧米が信用する独立系の世論調査機関の数字でこれだ。
クリミア半島併合時から「プーチン政権はあすにもなくなる」と言う識者が日本にいたが、ロシア国民は8年間の制裁に慣れている。経済が駄目になって人気に陰りが出そうになれば、プーチンはまた外敵の脅威を強調すればいい。悪循環だが「自転車操業」のように緊張をあおり、政権は持ちこたえた。国民向けの戦時プロパガンダについては次に触れたい。 ・・・

 

●ロシア国民は「オルタナティブ・ファクト」の中で生きている 6/16
前回まで、ロシアのウクライナ侵攻や欧米の制裁後もプーチン大統領の支持率が下がらず、むしろ上がっている奇妙な現象の背景を説明した。国民の多数派が「受け身」であること、攻撃されると強いリーダーの下に集まってしまうことを理由に挙げた。そしてもちろん、政権がこれら2つを利用しつつ、国民を「プロパガンダ漬け」にしているのは言うまでもない。
ブチャの民間人殺害は「フェイク(偽情報)」──。侵攻後初めてとなる4月12日の記者会見でのこと。プーチンはロシア軍が占領していた首都キーウ近郊での「戦争犯罪」疑惑について否定した。証拠や証言と共に「史上初めて」大規模に特定されると言われているにもかかわらず。
ここで思い出されるのは、かつてトランプ米政権高官が言い放った「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」という概念だ。「戦争」ではなく「特別軍事作戦」とうそぶくプーチンも、それを信じてしまっている国民(全員とは言わない)も、都合の良い「真実」の中で生きているように見える。ウクライナ侵攻の序章、2014年のクリミア半島併合の際、ある程度は「うそ」と分かってプロパガンダを流していたのかもしれない。しかし「東部ドンバス地方の住民が虐殺されている」といったプーチンの異様な演説を長々と聞かされると、虚実が混濁しているのではないかと思えてくる。
「1984」と同じ
自分でいろいろ書いて言うのも何だが、ロシアの戦争が世界を揺るがせた22年、読書好きに薦めたいのは、はやりの地政学や国際情勢の本ではない。全体主義を風刺した英作家ジョージ・オーウェルの小説「1984」はどうだろう。
「戦争は平和なり。自由は隷従なり。無知は力なり」。こんなスローガンを掲げる「党」支配の下、虚偽を真実として書き換えていく。プーチン政権がせっせと戦時プロパガンダをこさえている様子は「ビッグ・ブラザー」の世界そのものだ。
ロシア国営テレビは結構見られている
情報統制下、さすがに若者はVPN接続で自由な報道に触れているが、中高年を中心に国営テレビの影響は絶大だ。筆者が「誰もプロパガンダなんか見ないだろう」と思っていた13年2月。隕石が落ちた田舎を取材し、国営テレビに映った。モスクワに帰ると、ビアホールで全く知らない人から「見たよ」。こう声を掛けられるほど、結構見ているものだ。
プーチンとメディアは、大統領就任時から切っても切れない関係にある。ロシアのテレビ局で勤務経験がある現代の英作家は、ロシア社会を「巨大なリアリティー・ショー」と断言している。 ・・・
●「決定的局面」迎えたウクライナ戦争…西側の兵器支援が大きな影響 6/16
ウクライナ戦争の最大激戦地である東部ドンバスで、ロシア軍の「優勢」が明らかになったことで、この戦争が勝敗が決まる「決定的局面」に向けて突き進んでいるとものとみられる。
現在、両国が最も激しく対立しているところは、5月末からロシアの執拗な包囲攻撃が続いているルハンシク州の都市セベロドネツクだ。ロシア軍は、この都市の80%程度を掌握し、市内の南側などで対立しているウクライナ軍を追い込んでいる。同都市の軍政責任者のアレクサンドル・ストリューク氏は14日(現地時間)、「都市から西に逃れる橋がすべて破壊された」とし、「交戦が少し収まったり、交通手段が確保されるたびに、住民たちが脱出を図っている」と述べた。現在、市内には1万2千人程度の住民が残っているが、大規模な脱出が不可能で、大きな人命被害が懸念される。
ロイター通信は、同日午前に発表されたウクライナ軍の戦況報告では、不利な戦況を懸念する警告が多かったと報じた。これによると、ロシア軍が「スラビャンスクに対する攻勢を展開するための条件を作っており」、リマンやヤンピル、シベルスクに攻勢をかけているという。いずれもセベロドネツクの西側都市で、この地域を失えばルハンシク州全体をロシアに渡すことになる。現在、ロシアはルハンシクの95%、ドネツクの50%などドンバス全域の80〜90%を占領している。
CNNはこのような点を挙げて、開戦から110日余りを越えたウクライナ戦争が長期的な勝敗を予想できる「決定的局面」に到達したと伝えた。 ロシアは戦争の第1次局面である「キーウ防衛戦」の時とは異なり、4月末に始まった「ドンバス攻防戦」では、じりじりと着実に進攻してきた。キーウの時とは違って接近戦を避け、中長距離で無差別的な砲撃を加えて敵を焦土化させた後、一歩一歩前進している。
AP通信は軍事専門家の話として、ロシアがドンバス地域を掌握した後は南部の主要港町オデーサと第2の都市ハルキウに対する攻勢を強化するだろうと見通した。ロシアはこれに先立ち、オデーサを占領した後、これをモルドバ内の親ロシア分離主義勢力の地域であるトランスニストリアとつなぐ意志を示した。ロシア軍中部軍管区のルスタム・ミンネカエフ副司令官は4月22日、「2日前に始まった『特別軍事作戦』第2段階(ドンバス攻防戦)で、ロシア軍の課題はウクライナのドンバス地域と南部地域を完全に統制することだ」とし、「ウクライナ南部統制はロシア語使用住民が抑圧されているトランスニストリアに進むもう一つの道」だと述べた。ロシアがトランスニストリアに進むためには、マリウポリからオデーサまで黒海と接するウクライナ南部地域をすべて制圧しなければならない。こうなれば、ウクライナは主要輸出品である小麦などを輸出できる港をすべて失い、内陸国家に縮小することになる。
ウクライナ軍がこれに対抗するためには、同様に強力な砲撃で対抗しなければならないが、このための長距離兵器が非常に足りない状況だ。そのため、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、デンマークの記者団との会見で、東部戦線のセベロドネツクやハルキウ地域で苦戦を強いられていると認め、兵器の迅速な追加支援を求めた。さらに「ウクライナが十分に強くなければ、彼らはさらに進むと確信している」と述べた。現在包囲されて孤立したセベロドネツクの他にもウクライナ第2の都市ハルキウが再び危険にされされていることを認めたのだ。
ゼレンスキー大統領は13日にも「十分な現代式大砲だけが優位を保障するという事実に注意を払ってほしい」と重ねて支援を要請した。ミハイロ・ポドリャク大統領室首席補佐官は、具体的に1千台の曲射砲、300門の多連発ロケットシステム、500台の戦車、1千台の無人機などの重兵器が必要だと述べた。しかし、西欧側でも兵器の在庫が底をついており、自国の安保空白を甘受してまで無制限の兵器を供給するのは難しくなった状況だ。米国は「高速機動砲兵ロケットシステム」4基を提供すると発表したが、まだ戦線に投入されていない。兵器が到着しても訓練に少なくとも3週間が必要だ。 ウクライナ軍は現在、ソ連式兵器の弾丸が底をついており、西欧の兵器システムに変えなければならない。この過程で莫大なお金がかかり、訓練にも時間がかかる。
エネルギーと食糧危機によって物価が急激に上昇し、この3カ月間維持されてきた西欧の連帯にも疲労感が確認されている。イタリアとハンガリーは休戦を促しており、フランスとドイツは支援を誓いながらもロシアとの対話チャンネルの維持を強調している。中間選挙を控えて物価上昇で苦境に立たされたジョー・バイデン米大統領は10日、自分はロシアの侵攻の可能性を警告したがゼレンスキー大統領は耳を貸さなかったと述べた。ローマ教皇フランシスコも14日、イタリアのイエズス会の定期刊行物「ラ・チビルタ・カットリカ」(カトリック文化)で、北大西洋条約機構(NATO)がロシアを挑発した可能性があるとし、「善と悪という白黒論理は危険だ」と指摘した。
●ロシア・ウクライナ戦争における中国外交 6/16
中国はウクライナ情勢に関して総じてロシア寄りの中立という姿勢を維持している。中国はロシアの侵攻を侵略とは呼ばず、対露制裁に加わることもない。さらにロシアとウクライナの間を仲介するような動きもみせていない。ただし戦争を積極的に支持するわけでもない。なぜ中国はこのような立場をとっているのだろうか。
第1に、中露関係の深化である。特に対米政策において中露の提携関係が深まってきていた。2022年2月4日の首脳会談後の共同声明は、「中露友好に限界はなく、協力に聖域はない」と宣言していた。この宣言は、一言でいえば中露の米国への対抗心をむき出しにしたものであった。この宣言のなかで中露は、(1)西側の進めるカラー革命(民主や人権といった普遍的価値を広めることで、体制転換を行うこと)の「陰謀」への反対(2)NATOやインド太平洋戦略など軍事同盟の圧力に対する反対(3)欧州の新たな安全保障枠組み構築というプーチン大統領の主張への中国の支持――という点で合意したのである。
中国が侵攻について事前にどの程度の情報を得ていたかはわからないが、共同宣言の内容からして、ロシアが何らかの行動に出ること自体は、それほど驚きだったと思われない。驚きだったのは、ロシア軍の大苦戦であろう。
第2に、今回のロシア―ウクライナ戦争に対する中国の態度のなかで、最も特徴的なのは、激しい米国批判を展開し続けていることである。中国は戦争の根本原因は米国にあり、米国がさまざまな手段を用いてロシアと中国に圧力をかけているとみて、これに反発している。例えば、人民日報は「ウクライナ危機から見る米覇権主義」と題する論評シリーズを発表した。これらは、戦争の最大の責任を米国の覇権主義に帰し、米国が意図的に危機をあおり、さらに戦争に手を貸すことで事態を悪化させたという陰謀論的な議論を展開していた。また中国は、米国がウクライナ国内に生物兵器実験施設をつくっていたとのディスインフォメーション活動(意図的な虚偽情報の流布)を展開している。
第3に、中国はロシアを非難しない自国の立場を、必ずしも国際的に孤立していると考えていない。実際にロシアの侵攻について国際社会が一致団結して「ノー」を突き付けている状況といえない部分もあり、中国はこれを利用して中立国を増やそうとしている。中国は新興国に対して平和的解決、制裁への反対などの立場をアピールしている。これは西側にもロシア側にもくみしたくない国々に向けて、できるだけ共通点を探り、中立国を増やそうとする努力であろう。こうした観点から、中国は、中東、南アジア、東南アジアに向けた外交を活発に展開してきた。
ただし中露提携には限界もある。中国はロシアをあからさまに支援することで、自国が前面に立つことは避けており、そのようなロシアの軍事・経済的支援要請には応えていない。少なくとも短期的には、中国はロシアに対する直接的・全面的な支援を目立つかたちで行う見込みは低い。
このように中国は、難しいバランスをうまく維持することで、自国の利益を追求している。そしてこのような立場は簡単に変わることはないだろう。中国は秋の党大会を控え、政治の季節に入っている。上海などでの新型コロナウイルスの感染拡大と厳しいロックダウンによって国内社会には不満も広がっている。こうした状況で対外政策を転換することは、習近平国家主席の誤りを認めることにもなりかねない。よって中国は現状の立場を変えないと思われる。
最後に、しばしばロシアのウクライナ戦争によって中国の台湾侵攻が誘発されるという観測が広がっていたが、戦争の展開はむしろ中国を慎重にさせるだろう。ロシアが情報戦において不利な立場に陥り、さらにウクライナの激しい抵抗の前に苦戦を強いられたことは、台湾侵攻の難しさを再認識させることになる。ただし中国が台湾の統一をあきらめることはあり得ず、むしろ今回の戦争の展開をみて中国はさらなる軍事力の近代化が必要と感じて、その強化に注力することになるかもしれない。
●プーチン支持者扱いに不服のローマ教皇、ウクライナ戦争は「誘発された」 6/16
ロシアのウクライナ侵攻は「おそらく何らかの形で引き起こされた」と、ローマ教皇が発言したと、英ガーディアン紙が報じた。
6月14日付けのイエズス会が発行する『La Civiltà Cattolica』に掲載されたインタビューの中で、ウクライナ侵攻について言及している。
それによるとローマ教皇はウクライナを攻撃するロシア軍の「獰猛さと残酷さ」を非難しながら、「善VS悪」というおとぎ話のような単純な認識が広まっていることに警鐘を鳴らす。「戦争を遂行している部隊は大半が傭兵であり、ロシア軍はこれを利用している」と指摘した。
「赤ずきんちゃんが善で、狼が悪というお決まりのパターンから脱却する必要がある」「国境を終えて出現した何かによって、要素はとても絡み合っている」
背後で展開される全体像を見よ
またローマ教皇は、侵攻が始まる数カ月前に、ある国のトップに会ったことを明かしている。どこの国か明言は避けたが、その人物を「寡黙で、真の賢者だ」と表現した。
続けて、「NATOはロシアの門前で吠えている。ロシアは帝国であり、外国の力を近づけることはできないということを理解していない」とした。
さらに、「我々は、おそらく、何らかの形で挑発されたか、あるいは防げなかったこの戦争の背後に展開されるドラマの全体像を見ていない」と述べた。
ローマ法王は「プーチン支持者」であることを否定。世間が教皇をプーチンの味方だと受け止めるのは「単純で間違っている」
戦争が長期化している現状については、ロシアが見誤ったとみている。「ロシアは戦いが1週間で終わると思っていたことも事実だ。彼らは勇敢な人々、生き残るために苦労している人々、そして闘争の歴史を持つ人々に遭遇した」と、ウクライナの徹底抗戦する姿勢を認めた。
6月14日の朝、教皇はウクライナへの侵攻は一国の自決権の侵害であるとのメッセージを発表している。
「ウクライナでの戦争はいまや、長年にわたって死と破壊の大きな犠牲を出してきた地域戦争のひとつになった」と、11月に控える「世界貧者の日」にあてたメッセージの中で述べた。
「民族自決の原則に反して、他国による意思の押し付けが目的とされる『超大国』の直接介入によって、状況はさらに複雑になっている」
●ウクライナ戦争は重要な局面に、支援継続を=米国防長官 6/16
オースティン米国防長官は15日、ロシアのウクライナ侵攻は重要な局面に差し掛かっていると指摘し、米国と同盟国は引き続きウクライナ支援に取り組むべきとの考えを示した。
北大西洋条約機構(NATO)閣僚会議に合わせてブリュッセルで開いた約50カ国の国防相らとの会合で述べた。
「われわれは手を緩めたり、勢いを失うわけにはいかない。リスクはあまりにも高い」と述べ、「ウクライナはこの戦争で極めて重要な局面に直面している。ロシアは長距離砲撃でウクライナを制圧しようとしている」と語った。
バイデン米大統領はこの日、対艦ミサイルシステムやロケット弾など、ウクライナに対する総額10億ドルの新たな武器支援を発表した。
ドイツ政府も多連装ロケットシステムを供与し、数週間以内にウクライナ軍の訓練が始まると明らかにした。
NATOのストルテンベルグ事務総長は会議の冒頭、同盟国はウクライナに重火器と長距離システムを供給し続けるとし、今月末のNATO首脳会議でウクライナへの追加支援で合意することを望んでいると述べた。
「こうした取り組みには時間がかかる。だからこそ、こうした会議を開くことが重要だ」と強調した。
●高まる「タカ派」の声、プーチンが追い込まれている 6/16
ロシアで、ウクライナでの戦争への不満が高まっている。ただし、不満を発しているのは反体制派ではなく、タカ派の退役軍人グループや軍事ブロガーだ。
彼らは遅々とした戦況に対して膨らむいら立ちを表明し、ウラジーミル・プーチン大統領に国民総動員を要求する向きもある。
筋金入りのナショナリストたちから上がる不満の声は、プーチンが自ら招いた窮地の一端を示している。
プーチンが相手にしているのは、確実だと約束されていたはずの勝利を渇望するロシア国民と、消耗しすぎて勝利できないロシア軍だ。
英国防省情報機関が5月下旬に発表した報告書によれば、ウクライナ侵攻開始から3カ月間のロシア軍兵士らの推定死者数は、ソ連時代に9年以上にわたって続いたアフガニスタン侵攻の際の総死者数(約1万5000人)と同水準に達している。
ロシアでは独立系メディアや反政権派が表立った戦争批判を封じられ、多くの反戦デモ参加者が逮捕された。
それでも軍事ブロガーらは、不満表明の数少ない場として機能するメッセージアプリ「テレグラム」を使い、自由に情報発信している。
軍事ブロガーが示す不満はある事実を浮き彫りにする。すなわち、今回の戦争をめぐってプーチンが真の難題に直面するとしたら、それは現状を手ぬるいと考える国内タカ派が突き付けるものである、ということだ。
退役軍人団体の全ロシア将校協会は5月中旬、プーチンと政府高官らに宛てた公開書簡で、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を制圧できない状況を「失敗」と形容。ドローン(無人機)や弾薬、赤外線カメラが不足していると非難した。
書簡は民族主義的用語や陰謀論に満ち、今回の戦争を「白人・キリスト教徒の欧州」を守る戦いと表現している。
批判派の急先鋒は、元ロシア連邦保安局(FSB)将校で、ウクライナ東部ドンバス地方で親ロシア派武装勢力を率いたイーゴリ・ギルキンだ。
侵攻当初にドネツク出身の戦闘員が強制的に動員され、訓練も装備も不十分なまま戦線に送られ多数の死者が出て、大打撃につながったとの報告を、彼は喧伝している。
批判噴出の引き金になったとみられるのが、5月前半にロシア軍が壊滅的敗北を喫したドネツ川の戦いだ。一連の交戦でのロシア側の死者数は推定500人近くに上り、80以上の装備が破壊された。
この戦い以降、テレグラムでは戦争の進行速度への疑問や両軍の軍事作戦の比較、ロシア側のプロパガンダを疑問視する声が上がるようになった。
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は先日、ウクライナでの軍事作戦の遅れを初めて認めた。国民の期待値コントロールを目的とする発言だと、アナリストらは解釈している。
ロシア政権関係者や国営メディアが約束した即時の勝利がさらに遠のいている、という国民の幻滅に真のリスクが潜むと、米カーネギー国際平和財団のタチアナ・スタノワヤ非常勤研究員は指摘する。
「ある種の政治的危機が起きていると言える。プーチンは政治的圧力を受けている。ウクライナでの戦争を勝利で終わらせなければならない、と」
●欧州諸国はプーチン氏挑発を恐れるな ラトビア外相 6/16
訪米中のラトビアのリンケービッチ外相は15日、ワシントンでCNNの単独インタビューに応じ、欧州各国の首脳がロシアのプーチン大統領を挑発するとの懸念から行動を控えてはならず、国際社会はウクライナに戦争終結のために譲歩をさせるような圧力を掛けてはならないとの考えを示した。
リンケービッチ氏は、プーチン氏への挑発を恐れる首脳を名指しこそしなかったが、「プーチン氏が屈辱を受ける様子を見たくない、何らかの出口を提供するべきだと時折公言することでよく知られた人物」と言及した。フランスのマクロン大統領を指した発言とみられる。
マクロン氏は今月初め、「戦闘が停止したときに外交的手段を通じて出口を作れるように、我々はロシアに屈辱を与えてはならない」と発言していた。
リンケービッチ氏は、こうした方法は「理にかなうものではない」と述べ、「多くの首都で考え方を変える必要がある」との認識を示した。戦争終結に向けてプーチン氏に働き掛ける外交努力は結果が出ておらず、「(ロシア人は)戦うウクライナ人によってのみ止められる」と語った。
またウクライナでの戦争はロシアの指導者個人よりも大きな存在であり、国民の支持や、プロパガンダのチャンネルを通じた国民の洗脳なしには実行できないとも指摘した。
ウクライナを軍事支援する米国を称賛する一方で、欧州の同盟国は戦時の工業生産を拡大すべきだと主張。20年以上の軍縮小の後に、自分たちの防衛やウクライナへの武器提供が突然求められる事態になっているとも言及した。
リンケービッチ氏はさらに、「何人もウクライナに対して、ロシアに譲歩するように圧力を掛けてはいけない」とも発言した。停戦のための領土割譲などの譲歩は一定期間機能するかもしれないが、将来のロシアによる侵略を永続的に抑止できるかには疑問が残るとした。
「過ちを繰り返さないようにしよう。ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の拡大や、ウクライナをNATOや欧州連合(EU)に加入させないためにこの戦争をしているのではない。これはウクライナを破壊し、領土を獲得し、帝国を再興するためのものだ」(同氏)
将来の軍事侵攻を避けるためには、「ロシアの軍事や経済の機構を、軍事的攻撃作戦を実行できないような状態にする。そのような状態までロシアを持って行く必要がある」と述べ、制裁は現在の戦争の終結を実現できていないものの、将来の戦争抑止には有効だとの考えを示した。
今月末にはスペインのマドリードでNATO首脳会議が開かれる。リンケービッチ氏は、ラトビアはバルト諸国の安全保障強化のために実行されるべき具体的な措置に注目していると語る。
ロシアに対しては、そうした地域がNATOの領域であり、「1インチでも」譲らないという「明確なメッセージ」を送ることが極めて重要だと指摘。マドリードでの会議はその議論や決定プロセスの始まりに過ぎないと述べた。
同氏は「我々が避けたいのは、バルト諸国の一部が突然占領され、その後NATO軍によって解放され、新たなブチャやマリウポリが出現するという事態だ」「我々が内々で話をしているのは、罰を通じた抑止や防衛から、バルト諸国への進攻の否定を通じた防衛や抑止への変化だ」と語った。
●ロシア妨害の穀物輸出の代替経路を確保、ウクライナ外務次官 6/16
ウクライナのドミトロ・セニック外務次官は16日までに、ロシアによる港湾封鎖で妨害されている自国の穀物輸出について代替の経路を確保したことを明らかにした。
シンガポールで最近開かれた安全保障関連の国際会合で述べた。ロイター通信によると、同次官はルーマニア、ポーランドやバルト諸国など友好国の協力に触れながら、農産品の輸出に使える二つの経路を築いたと説明。
ただ、輸出作業を遅らせる障害にも直面しており、当面は円滑な運営を期すための最善の措置を講じているとした。
この2経路を通じて運び出された穀物の量は把握していないともした。
CNNは先に、ロシアの港湾封鎖でウクライナ内の貯蔵庫やオデーサ港などに滞留している穀物は数百万トン規模と報道。この輸出停滞が原因で、ウクライナ戦争が長引くと共に世界的な食糧価格の激増が懸念される事態ともなっている。
米国務省のデータによると、ウクライナはトウモロコシや小麦の輸出大国。国連食糧農業機関(FAO)は世界各国の食糧不足を補うため毎年調達する小麦の約半分をウクライナに頼ってもいた。
●プーチン大統領の愛国主義と戦勝記念日と矛盾 6/16
ロシア軍がウクライナに侵攻して3か月あまり。この1か月間のプーチン大統領の演説や発言について、旧ソビエト時代から長年にわたってロシアを取材してきたNHKの石川一洋解説委員に分析してもらいました。注目したのは5月9日の「戦勝記念日」の演説でした。
今回の分析からは
   1 矛盾?
   2 宣戦布告の論理構成
   3 ロシア愛国主義
というキーワードが浮かび上がってきました。
今回、注目した演説は?
やはり、5月9日の「戦勝記念日」での演説ですね。まずは、この日が、ロシアにとっていかに大切な日かを少しお話したいと思います。77年前のこの日、第2次世界大戦でナチス・ドイツが降伏しました。ヨーロッパでは5月8日で、ロシアでは時差の関係で5月9日になります。ロシアでは、この日を「対独戦勝記念日」としていて、とても大切な祝日です。この日を理解するためには、ナチス・ドイツとの戦いにおける、旧ソビエト、その中には今のロシアやウクライナ、ベラルーシが入っていましたが、その甚大な犠牲について知る必要があります。
甚大な被害とは?
第2次世界大戦で、旧ソビエトは、世界で最も多い少なくとも2600万人の兵士と市民が死亡したとされています。当時の旧ソビエトの人口は約2億人だったので、10人に1人以上犠牲となりました。戦勝国とは思えない甚大な犠牲です。この数字には、一般市民の犠牲者も含まれています。例えば、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク、当時のレニングラードでは、900日近くにわたってナチス・ドイツ軍に包囲されて、数十万人が戦死、または餓死したとされています。今のベラルーシ、ウクライナ、そしてロシアの西部はナチス・ドイツとの地上戦が行われました。私の友人や取材対象の方にも本人が戦争孤児、あるいは親が戦争孤児だった人は何人もいます。
5月9日 国民感情は?
私が初めて戦勝記念日を取材したのは1990年のことです。まだ退役軍人の方が元気で、同じ部隊の人たちが年に1度、「ここで会おうね」と待ち合わせていた場所のひとつがモスクワのボリショイ劇場の前でした。女性の元兵士の姿が多いのも印象的でしたが、花束を持ったお年寄りが「元気か」「また会えてよかった」と、抱き合う姿には心を動かされるものがありました。多くの人たちにとっては戦死者を悼む日です。「戦勝記念日」と呼ばれ、プーチン政権になって軍事パレードなどが注目されたりしますが、実は、もともとは平和を願う日という意味合いが強い。2600万人もの人が犠牲になり、家族や親族に犠牲者がいない人はいません。だから家族みんなで集まって戦争体験者のおじいさんやおばあさんなどとともに、犠牲者を悼み、平和に感謝をする日なのです。あの悪夢を2度と繰り返さないよう、平和を祈る日なのです。それはロシアだけでなく、ウクライナやベラルーシでも同じです。国民が、2度と戦争をしたくないと、平和を最も願う日を、特別作戦という名の戦争でむかえてしまう。その矛盾が、この日のプーチン大統領の演説にもあらわれています。
プーチン大統領の演説とは?
プーチン大統領は9日、首都モスクワの赤の広場で開かれた式典で演説しました。結論から言いますと、これまでの演説と比べて、非常に内向きでした。世界に発信するのではなく、ロシア国民に向けた演説でした。それは先ほど述べた通り、「戦勝記念日」の持つ本来の意味、国民感情とウクライナ侵攻の矛盾を、国民に説明しなければならなかったからです。
矛盾点とは?
平和を最も願う日に、ウクライナ侵攻を継続しているという点ですね。当然、ロシア国民もやはり「なぜ侵攻したの?」と思っているわけですからね。その矛盾について、プーチン大統領は国民に対して、演説でこう話しています。
ロシア プーチン大統領 「ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。しかしすべてはむだだった」「ロシアが行ったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは必要で、タイミングを得た唯一の正しい判断だった」
これは、“我々は平和交渉をしてきたが、相手が全く飲まなかったから、やむをえず戦いにでた”と言っているわけです。つまり悪いのは、アメリカなど西側諸国だと。これは過去に使われた、典型的な宣戦布告の論理構成とよく似ています。
ほかにも矛盾が?
プーチン大統領は今回の侵攻を「大祖国戦争」と呼ばれるナチス・ドイツとの戦いと重ね、祖国防衛が目的の特別軍事作戦だと訴えています。このため演説では、「戦争」ということばは、一切、使っていません。でも、すでにやってること、プーチン大統領の演説は、限りなく戦争の状態なのに、いまだに「特別軍事作戦」ということになっています。ここも矛盾している点です。そもそも、平和を願う日に事実上の戦争状態が続き、しかもその相手が旧ソビエトの中でともにナチス・ドイツと戦ったウクライナで、さらにウクライナから勝利をと、矛盾に満ちた演説ともいえます。
ほかに注目した点は?
プーチン大統領のロシア愛国主義のルーツは第2次大戦・大祖国戦争にあるという点です。それを理解するには、まずは旧ソビエトと帝政ロシアの歴史について知る必要があります。実は、旧ソビエトの共産主義が主たる敵としたのは、ロシア主義といいますか、ロシアナショナリズムだったのです。ロシアナショナリズムは帝政ロシアの復活につながりかねないとして警戒され、数百万人の帝政ロシアにつながる人々は抹殺、国外に追放されました。多くの文学者、知識人も粛清、弾圧の犠牲となりました。軍も粛清の対象となりました。
誰が静粛、弾圧を?
ソビエト共産党の創設者で指導者のスターリンです。スターリンは、ロシアナショナリズムの復活を恐れていました。ソルジェニツィンのいう共産主義の赤い車輪が歴史的なロシアをじゅうりんしたのです。旧ソビエトの最初の国歌は「インターナショナル」、「起て、飢えたるもの、圧政の世のすべてを破壊し、新世界を築く」という既存の国家を否定する歌が国歌となっていました。その旧ソビエトの中で「ロシアナショナリズム」が復活したのが第2次大戦だったのです。1941年6月、旧ソビエトは、ヨーロッパ全土をほぼ支配したナチス・ドイツの軍隊の急襲を受けます。ソビエト赤軍は大敗北を決し、ウクライナ、ベラルーシは占領され、その冬にはモスクワの近郊40キロまでドイツ軍が迫ったのです。スターリンに弾圧されたウクライナ、特に西部ではナチス・ドイツを解放軍と歓迎し、協力する動きもあったのです。ちなみにプーチン大統領は今のウクライナはこうした動きを正統化し、その流れを受け継いでいるとして、ネオナチと呼び、侵攻の理由としています。
スターリンは何を?
インターナショナル、国際主義ではナチス・ドイツに太刀打ちできないと考えたスターリンが頼ったのが、弾圧してきたロシア愛国主義でした。ロシア正教会に協力をもとめ、正教会もそれに応えました。多くの聖職者が収容所から解放されました。ロシアを守る戦い・大祖国戦争としてロシアの愛国心を奮い立たせました。戦争の中で国歌はインターナショナルから新たなソビエト国歌に代わりました。「自由な共和国の揺ぎ無き連邦を偉大なるルーシが永遠に固める」。「偉大なるロシア」というロシア愛国主義が復活したのです。第二次大戦以来、旧ソビエトの枠内で脈々とロシア愛国主義が底流として流れるようになりました。その愛国主義を、国のイデオロギーとして復活させ、安定の土台としたのがプーチン大統領なのです。
プーチン大統領の愛国主義とは?
プーチン大統領自身は戦後の生まれですが、戦争の傷跡の深い家庭に生まれました。両親ともにナチス・ドイツ軍に包囲された当時のレニングラードにいて、父親は戦闘で重傷を負いました。母親は飢えで死にかけたといわれています。だからプーチン氏は、大戦での勝利、勝利への思いがとても強い。それだけの犠牲を払って勝ち取った勝利という思いがあるのだと思います(詳しくはロシアのプーチン大統領はどんな人?)。大統領になるとすぐ新しいロシア国歌を制定しました。ソビエト国歌のメロディを復活させ、それにロシアをたたえる歌詞をつけました。第2次大戦の勝利と愛国主義を基盤とするプーチン大統領の国歌といえます。でも、指導部に戦争体験者がいれば、なぜ第2次大戦の悲劇の舞台となった土地で再び同じような戦争を起こすことができるのでしょうか。ウクライナにも、ナチス・ドイツ軍との戦いで、苦しんだ、大変な人たちが今もいるわけですから。米ソ対立の冷戦時代、朝鮮戦争、ベトナム戦争という悲惨な地域紛争、そして東欧諸国の民主化への弾圧もありました。ただソビエトの指導者、フルシチョフやブレジネフは、あの戦争を繰り返してはならないという1点ではアメリカの指導者と一致し、ヨーロッパでの大きな戦争は繰り返されませんでした。
今後の懸念は?
私が懸念しているのは、ロシアの戦術核兵器の使用です。ロシアは戦術核兵器というものを非常にたくさん持っています。私は昔、核開発も取材したんですけれども、冷戦時代から、超小型の核兵器などもすでに開発していました。そうしたものが今、どうなっているのか私はわかりません。ただ、核兵器の使用というのは、誤解、認識のずれが大きくなると、そのリスクも大きくなります。ロシアが、ウクライナを全面支援しているアメリカと戦っているんだという認識を強めていく中で、何か偶発的なことがおきないとは限りません。また、ロシアがギリギリまで追い込まれた場合、この戦術核兵器の使用に踏み切るのではないかということを懸念しています。そして私が最も気がかりなのは、これ以上、どれほどの犠牲者がでるかです。これはウクライナの人たちだけでなく、ロシア側についても同じです。9日の演説で、プーチン大統領は、戦死者や負傷者の子どもたちを特別に支援する大統領令に署名したことを明らかにするなど、戦争が長期化して戦死者が増えていることを事実上、認めています。おそらく、プーチン大統領が想像した以上の犠牲者になっているのだと思います。
停戦の見通しは?
現段階においては停戦への道筋、見通しは全く見えません。可能性としては、戦況がこう着し、自然と停戦ラインというのができて、そこで一時停戦、または休戦ラインというものがつくられるかもしれません。しかしお互いの対立はかなり長く続くと思います。つまり、戦争状態はそのまま残るということで、今のところ、恒久的な停戦あるいは終戦という見通しは、残念ながらありません。つまりこの戦争が始まった段階で既に、ロシアの失敗であり、このロシアを戦争に走らせてしまったという点では国際社会の失敗だと思います。
●米、「劣勢」ウクライナ軍へ追加軍事支援10億ドル…ハープーンも初供与  6/16
米政府は15日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、地上配備型の対艦ミサイルシステム「ハープーン」2基など10億ドル(約1345億円)の追加軍事支援を発表した。米国による対艦ミサイル供与は初めて。露軍が黒海を封鎖し、ウクライナからの穀物輸送が停滞しているため、南部オデーサの港からの輸出再開に向け、ウクライナ軍の対艦能力向上を図る。
バイデン米大統領は15日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談し、支援内容を説明した。東部地域の地上戦で劣勢が伝えられるウクライナ軍に、 榴弾りゅうだん 砲18門、砲弾3万6000発も追加提供する。4基の供与を決めている高機動ロケット砲システム(HIMARS)用の砲弾も含む。
ゼレンスキー大統領は15日のビデオ演説で、「(東部)ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)における我々の防衛にとって特に重要だ」と謝意を示した。
米国による軍事支援は、2月の侵攻開始後、総額56億ドル(約7530億円)に上った。バイデン氏は15日、2億2500万ドル(約300億円)の追加人道支援も表明した。
一方、15日にオースティン米国防長官が主導してブリュッセルで開かれたウクライナへの軍事支援を協議する国際会合では、ドイツが多連装ロケットシステム3基の提供を表明するなど、各国が支援拡大の意向を示した。
会合後、北大西洋条約機構(NATO)の防衛相会合も始まり、ウクライナ軍やNATO加盟各国の装備近代化を進める重要性を確認した。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は15日の記者会見で「重火器や長距離(攻撃)システムなど、ウクライナの勝利に必要な軍備提供を続けることを約束する」と述べた。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 6/16
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続いています。ウクライナの各地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を続けていて、大勢の市民が国外へ避難しています。戦闘の状況や関係各国の外交など、ウクライナ情勢をめぐる16日(日本時間)の動きをお伝えします。
仏独伊3か国首脳がキーウに 結束して支援する姿勢示すねらいか
ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強める中、フランスとドイツ、イタリアの3か国の首脳はそろってウクライナの首都キーウに入り、ゼレンスキー大統領と会談しました。今月下旬から立て続けに開かれる国際会議を前にEU=ヨーロッパ連合として結束してウクライナを支援する姿勢を示すねらいがあるとみられます。マクロン大統領はキーウ到着後、報道陣に対し「ウクライナの国民に対して連帯と支援のメッセージを伝えるために来た」と述べました。
仏独伊3か国首脳らがイルピンで破壊された建物など視察
フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相は16日、ルーマニアのヨハニス大統領とともにロシア軍の激しい攻撃を受けた首都キーウ近郊のイルピンを視察しました。首脳たちは、多くの報道関係者や警護の兵士に囲まれながら、ロシア軍によって破壊された建物や町の様子を見て回りました。そして、攻撃される前の写真や動画も見ながら、ウクライナのチェルニショフ地域発展相から被害状況や復興の計画などについて説明を受けていました。
仏独伊の首脳がキーウに到着
フランスのAFP通信などは、マクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が16日、ウクライナの首都キーウに到着したと伝えました。映像では、3人の首脳が、キーウの駅のホームをウクライナ軍とみられる護衛に守られて歩く様子が確認できます。3人の首脳はウクライナと国境を接するポーランドから列車でそろって出発していて、車内でテーブルを囲んで談笑する様子も伝えられています。3人の首脳はキーウ到着後、ゼレンスキー大統領と会談する予定だということです。
世界の難民・国内避難民 1億人超 過去最多 ウクライナ侵攻で
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、紛争などで住む家を追われた世界の難民や国内避難民の数は、去年過去最多にのぼったうえ、ことし2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって世界全体で1億人を超えました。UNHCRのグランディ難民高等弁務官は強い危機感を示したうえで、ウクライナだけでなく世界の難民と避難民の支援を強化していく必要があるとして、国際社会にいっそうの協力を呼びかけています。
米「セベロドネツク 4分の3をロシア軍に奪われているか」
アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、訪問先のベルギーの首都ブリュッセルで記者会見し、ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部ルハンシク州のセベロドネツクについて「現在、おそらく4分の3をロシア軍に奪われている」と述べました。一方で、ウクライナ軍も街の至るところで応戦していて、決着はついていないと指摘しました。さらに、東部の戦況について「大砲などの数の上では明らかにロシア軍が有利と言えるが、彼らは指揮統制や兵たん、それに兵士の士気の問題など、多くの課題に直面している。ウクライナ側は英雄的な戦いをしている一方、ロシア軍の前進は非常に遅く、多くの死傷者を出している」と述べました。
WTO閣僚会議 食料不足対応で閣僚宣言へ向け詰めの協議
スイスのジュネーブで開かれているWTOの閣僚会議は15日が最終日でしたが、「閣僚宣言の合意に向けてさらに時間が必要だ」として会期を1日延長し、16日まで協議を続けると発表しました。閣僚会議では、ロシアの軍事侵攻によって起きている食料不足など、食料安全保障の分野では不必要な食料輸出の制限をしないというWTO協定上のルールを各国が順守する方向で議論が進んできましたが、関係者によりますと、インドやパキスタン、それにスリランカなどが異なる主張をしているということです。新型コロナの世界的な感染拡大とロシアの軍事侵攻で世界経済が揺さぶられるなか、自由貿易を理念として掲げるWTOが一致した方針を打ち出すことができるか、交渉は山場を迎えています。
ロシアで国際経済会議 欧米の参加ほとんどなく断絶鮮明に
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで15日に始まった「国際経済フォーラム」は、主催団体の発表によりますと、115の国と地域から企業の代表や政府関係者などが参加する見通しです。プーチン大統領も重視するこの会議には、かつては、安倍元総理大臣やフランスのマクロン大統領など、G7=主要7か国の首脳も出席してきましたが、今回は、例年と違って欧米からの参加はほとんどありません。参加するのは、中東、アフリカや南米、旧ソビエト諸国など、ロシアと結び付きが強い国ばかりで、ロシアとの経済協力などを話し合う個別のセッションも、中国やトルコ、イランなどにかぎられ、制裁を強める欧米との断絶が一層鮮明になっています。ロシア大統領府によりますと、今回は海外から参加する企業がおよそ260社にとどまったのに対して国内からは1200社を超えるなど、ロシア企業の参加が目立つということです。ロシア大統領府の報道官は、プーチン大統領が17日に行う演説で、世界の資源価格の高騰や食料安全保障について言及するとしたうえで「非友好国がロシアに仕掛けた経済戦争で、事態が深刻化した」と述べるなど、強気の構えを崩していません。ロシアとしては、一連の会議を通じてウクライナ侵攻を改めて正当化しながら、欧米との対抗軸を築きたいねらいもありそうです。
ロシアのネベンジャ国連大使「欧米の兵器が罪ない人々を殺害」
ロシアのネベンジャ国連大使は15日、国連本部で記者団に対し、NATO=北大西洋条約機構が供与した砲弾による砲撃で、ウクライナ東部ドネツク州で市民が死亡したと主張したうえで「いま、欧米の兵器が罪のない人々を殺害している。欧米諸国はウクライナ政府と同様に責任を負うことになる」と述べました。
ウクライナ軍事支援 米主導の会合 新たな支援表明相次ぐ
ロシア軍による軍事侵攻が続く中、ウクライナ側は、ロシア軍に対抗するための兵器や弾薬が不足しているとして供与を加速させるよう欧米各国に求めています。こうした中、ベルギーの首都ブリュッセルで、ウクライナを支援する国が参加する会合が15日、アメリカの主導で開かれ、NATO=北大西洋条約機構の加盟国などおよそ50か国の関係者が参加しました。会合にはウクライナのレズニコフ国防相も出席し、どのような兵器が優先して必要かなどを説明したということです。これに対して各国からは、新たな軍事支援が相次いで表明され、このうち▽ドイツは多連装ロケットシステムを、▽スロバキアはヘリコプターやロケット弾を供与する方針をそれぞれ示したということです。こうした支援についてアメリカのオースティン国防長官は、会合のあとの記者会見で「ウクライナの長距離砲撃の能力への投資であり、ロシアの攻撃をはね返すうえで極めて重要だ」と述べました。そのうえで「われわれは支援を通じて大きな勢いを作ってきたが、さらに加速させるつもりだ。将来にわたってロシアによる侵略からの撃退を支援する」と述べ、軍事支援を加速させる考えを強調しました。
ロシアのガス会社 イタリアへの天然ガス供給も15%削減か
イタリアの石油ガス会社ENIは15日、地元メディアに対し、ロシアからの天然ガスの供給量が15%削減されることになったと明らかにしました。会社によりますと、天然ガスを供給するロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは、削減の理由など詳細を明らかにしていないということです。イタリア政府は「天然ガスの供給状況を注意深く監視している。今のところ、供給に深刻な問題はない」としています。イタリアは、輸入する天然ガスのおよそ40%をロシアに頼っていますが、ウクライナ情勢を受けて北アフリカや中東など、調達先の多角化を進めています。
ロシアのガス会社がドイツ向け天然ガス供給を6割削減と発表
ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムは15日、ドイツ向けのガスパイプライン「ノルドストリーム」について、設備の修理期限が過ぎたとして、16日からガスの供給量が当初の計画よりおよそ60%減ることになると明らかにしました。ガスプロムは、前日の14日にも、パイプラインのほかの設備の修理が遅れていることを理由に、供給量をおよそ40%減らすと発表したばかりで、これについて、ドイツでエネルギー政策を担当するハーベック経済・気候保護相は、15日の記者会見で、修理はことし秋の予定でいま行う必要はないものだと指摘しました。さらに、ガスプロムの15日の発表を受けた声明では「ロシア側の対応は状況を不安定化させ、エネルギー価格を高騰させるための明らかな戦略だ」と非難しました。そのうえで、国内のガスの供給には問題は起きていないとして、今後も状況を注視しながら必要に応じて対策を講じる考えを強調しました。
米 ウクライナへ10億ドルの追加軍事支援へ
アメリカのホワイトハウスは15日、バイデン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、10億ドル、日本円にしておよそ1300億円相当の追加の軍事支援を行うことを伝えたと発表しました。具体的には砲撃のための兵器や砲弾のほか、沿岸防衛のための兵器、それにロケットシステムなどを供与するとしています。さらに2億2500万ドル、日本円でおよそ300億円相当の追加の人道支援を行うことも明らかにしました。ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、新たに動画を公開し「この支援に感謝している。ドンバス地域の防衛にとって特に重要だ」と述べました。ウクライナ大統領府の発表によりますと、ゼレンスキー大統領は、動画の公開に先立ってバイデン大統領と電話で会談し、最新の戦況やさらなる支援などについて議論を交わしたということです。ゼレンスキー大統領は声明で「われわれはこの戦争に勝利し、奪われた領土を取り返さなければならない」と徹底抗戦する構えを改めて強調しました。
EU 東地中海の天然ガス調達でイスラエル エジプトと連携強化へ
EUとイスラエル、それにエジプトは15日、エジプトの首都カイロで会合を開き、東地中海で産出される天然ガスのヨーロッパへの安定的な供給に向けて連携を強化していくことで合意しました。合意では、イスラエルの沖合で産出される天然ガスをパイプラインでエジプトに輸送したあと、液化してヨーロッパへ輸出するほか、輸送技術の向上のための技術開発を進めることなどが確認されました。合意のあと、EUのフォンデアライエン委員長は会見で「エネルギーの調達先の多角化に向けて、ロシアの化石燃料から信頼できる相手への移行を進めるなか、この2か国はまさに信頼できる調達先だ」と述べ、合意の意義を強調しました。豊富な埋蔵量があるとされる東地中海の天然ガスをめぐっては、ヨーロッパへの海底パイプラインの敷設計画が進められるなど、周辺国が協力を模索していましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて連携が加速した形です。
●アメリカなどウクライナへ追加の軍事支援発表 ロシア側は反発  6/16
ロシア軍がウクライナ東部で攻勢を強める中、アメリカなどはウクライナへの追加の軍事支援を発表しました。ウクライナのゼレンスキー大統領が謝意を示した一方、ロシア側はプーチン大統領の最側近の1人が「さらなる人的被害と破壊につながるだけだ」と反発しています。
ロシア軍は、完全掌握を目指す東部ルハンシク州のセベロドネツクを包囲するため攻勢を強めています。
アメリカ軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長は15日、訪問先のベルギーの首都ブリュッセルで記者会見し、セベロドネツクについて「現在、おそらく4分の3をロシア軍に奪われている」と述べました。
一方で、ウクライナ軍も街の至るところで応戦していて、決着はついていないと指摘しています。
また、ルハンシク州のハイダイ知事は、セベロドネツクにあるウクライナ側の拠点のアゾト化学工場に、今もおよそ500人の市民が避難していて、そのうち40人は子どもだと明らかにしています。
ロシア国防省は、こうした市民を工場から避難させるための「人道回廊」を15日に設置すると発表しましたが、その後「ウクライナ側が人道的活動を妨害した」と一方的に主張し、依然として市民の避難は困難な状況とみられます。
こうした中、15日ベルギーの首都ブリュッセルではアメリカの主導でウクライナへの軍事支援について話し合う会合が開かれました。
NATO=北大西洋条約機構の加盟国などおよそ50か国の関係者が参加し、各国からは多連装ロケットシステムなどさらなる兵器や弾薬の供与が相次いで表明されました。
また、アメリカのバイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と15日電話で会談し、対艦ミサイルなど10億ドル、日本円にしておよそ1300億円相当の追加の軍事支援を行うことを伝えました。
ゼレンスキー大統領は15日、新たに公開した動画で「この支援に感謝している。ドンバス地域の防衛にとって特に重要だ」と述べ謝意を示しました。
一方ロシア側は、こうした欧米の軍事支援の動きを強く警戒していて、プーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は15日「こうした行動は逆効果であり、人為的に紛争を起こし、さらなる人的被害と破壊につながるだけだ」と反発しています。
●ウクライナ、死傷者1日1000人 ロ軍も「第1次大戦のような消耗戦」 6/16
ウクライナ軍は東部ルガンスク州の残る拠点都市セベロドネツクの防衛に向け、必死の抗戦を続けている。米メディアによると、ウクライナ側は15日、同国軍の死傷者数が1日当たり最多1000人に上っていると明らかにした。一方、米軍幹部は、ロシア軍が物量でウクライナ軍を圧倒しているものの、「第1次大戦のような深刻な消耗戦」が続いているとの見方を示した。
米シンクタンク戦争研究所によると、ロシア軍はセベロドネツクとその周辺で激しい攻撃を続けているが、15日時点でウクライナ軍が立てこもる化学工場を制圧できていない。ただ、ウクライナ軍は外部との通信がほぼ遮断されて孤立し、多方向から攻撃を受けているという。
ルガンスク州のガイダイ知事は16日、セベロドネツクでウクライナ軍が抵抗を続けているとした上で、「市内には民間人約1万人が取り残されている」と懸念を表明した。
●ウクライナの穀物輸出停滞、英首相は「数日中の進展」に期待… 6/16
英国のジョンソン首相は15日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で会談した。英首相官邸によると、ロシア軍による黒海封鎖でウクライナの穀物輸出が停滞している問題を協議し、ジョンソン氏は「数日中の進展」に期待を示した。詳細は不明だが、事態打開に向けた検討が加速している可能性がある。
ゼレンスキー氏はこれまで、ロシア以外の有志国の海軍が「護送船団」を組んで海上輸送する案を軸に、英国やトルコ、国連などと輸出方法を協議していると明らかにしていた。
●侵攻で急増、世界の難民は1億人 「難民受け入れにはメリットも」 広島 6/16
「世界難民の日」。青年海外協力隊、日本ユニセフ協会、JICA国際協力推進員などの経験を持ち、現在、JICA中国勤務の新川美佐絵さんと一緒に、難民問題について考えていきます。
国連機関の調査によりますと現在、世界には紛争や迫害などで故郷を追われた人たちが、およそ1億人いるとされているんです。これまではシリアやベネズエラ、アフガニスタンなどが多くを占めていましたが、ロシアによる「軍事侵攻」が起きてからはウクライナで600万人以上が国外に避難。難民や避難民の数が急激に増えた背景の1つになっています。
Q:この現状をどう受け止めていらっしゃいますか?
新川美佐絵さん「難民は隣国に避難することが多いので、島国の日本ではピンをこない方が多い。2017年には約6000万人だった難民が、今年は8000万人に増えている。そしてウクライナの難民を入れると1億人。私自身もショックを受けた」
世界で難民が増え続ける中、日本でも多くの人が難民申請をしていますが、ただ、他の国と比べてみても日本の認定率というのは圧倒的に低いといえます。
Q:日本の受け入れ体制は?
新川美佐絵さん「数年間待たされるっていうようなケースもあり、日本は保護するより管理・取締とういうカラーが強い。さらに、他の国に比べても難民を決める基準が曖昧だったり、受け入れ体制不十分。これらを整えていくことが、大切になっていくと思う」
Q:私たちができることは?
新川美佐絵さん「例えば、モロゾフのチョコレートは、ロシア革命の時に日本に逃れてきたモロゾフというロシア人の方が作りだした。天才科学者・アインシュタインも難民としてアメリカに逃れている。人道的な意味合いだけではなく、避難先で、その国に貢献するなど、難民の人たちの力というのも、我々が積極的に考えたい。特に日本は今、人口が減っている中、彼らを受け入れることで日本にもメリットがあるという視点を持ち、我々一人一人が難民問題を知ることが、まずは第一歩と思う」
●「支援サイト」 ウクライナ避難の子どもたちへ役立つ情報提供 長野・佐久市 6/16
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では多くの子どもたちも避難生活を余儀なくされています。1人でも多くの子どもたちを救うために。長野県佐久市の医師がウクライナ語の支援サイトを立ち上げ、避難生活での注意点や役立つを情報を公開しています。
イラスト付きで避難生活を送る子どもの注意事項などを紹介するサイト。ウクライナ語でまとめられていますが、作成したのは県内の医師たちです。
佐久医療センターの小児科医、坂本昌彦医師。佐久市の医師と地元の医師会で作る「教えて!ドクター」プロジェクトのメンバーで、3月にサイトを立ち上げました。
2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。戦地となった地域では多くの人が避難を余儀なくされ、過酷な状況下で子どもたちの健康も脅かされています。
「基本的には大人の都合で動いている、子どもにとっての大事な情報は常に後回し、子どもへの支援も大人の次なんですね、子どもにとって何が必要でどういった支援が必要か声をあげるのは小児科医の役割」
大学時代に、ウクライナの隣国・ポーランドに留学した経験がある坂本さん。ポーランドに避難しているウクライナの子どもたちの姿を見て、支援したいという思いを抱きました。
「なんとなく遠い国の出来事に思えていたのが、自分の縁のある町も出てきて何かできることはないかと思ったことがきっかけ」
坂本さんたちプロジェクトのメンバーは、災害の多い日本で培った「子どもたちが避難生活を送る上での注意点や役立つ情報」をまとめたものをベースに、現地で使えるように修正。2月末にSNSで協力を呼びかけたところ、日本語に精通する2人のウクライナ人から翻訳のサポートを受け、3月のはじめにはサイトを公開することができました。
サイトには、寒さをしのぐ方法や…、感染症を防ぐための注意点を掲載。また、妊娠中の母親への留意点やメンタルケアなど7つの項目にまとめました。さらに、より多くの人に共有してもらえるよう、ウクライナ語だけでなく、ポーランド語、英語、日本語の4つの言語を用意。
サイトはSNSを通じて拡散され、現在、3万5000回以上閲覧されています。
「本当に必要なニーズは現地に行かないとわからない、役に立つのかはわからないが、こういうサイトを地球の裏側日本から作っている人がいることを一つのメッセージとして、多くの人が思いを持っていることが少しでも伝わればいいなと思います」
県内でも受け入れ態勢が進むなど、依然として多くの人が避難生活を強いられているウクライナ侵攻。
坂本さんは今後、自治体などと連携して避難してきた子どもたちに直接的な支援をしたいと考えています。
●迫り来る“食料危機” 日本や世界の食はどうなる?  6/16
いま、「食料ショック」が世界に襲いかかっています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴って小麦やトウモロコシなどの国際価格が急騰。日本では主な食品や飲料メーカーがことしに入ってすでに値上げしたか、今後値上げする予定の商品が1万品目以上に上ることが分かり、家計の負担は重くなるばかりです。さらに干ばつや内戦の影響で食料不足に悩まされてきたアフリカや中東では、食料危機がよりいっそう深刻になっています。紛争や貧困で苦しむ子どもたちの命をつなぐ支援の現場にまで及ぶ、食料価格高騰の暗い影。日本や世界で広がる“食料危機”の現実です。
“食品値上げの夏”負担ずしり
小麦粉にパン、カップラーメンやハムに清涼飲料など。私たちが日々口にする食品や食料の値上げラッシュが続いています。信用調査会社、帝国データバンクは、国内の主な食品や飲料のメーカーを調査しました。6月1日時点でことしに入って値上げしたか、今後値上げする予定の商品の数はあわせて1万700品目余り。値上げ予定の商品は6月から8月だけでおよそ5000品目に上って「値上げの夏」になりそうだというのです。
ロシア侵攻で価格高騰に拍車
食品や飲料の値上げの原因はさまざまです。去年から原料となる農産物が、天候要因や需給ひっ迫などで価格が上昇傾向にあったものも数多くあります。しかし、ロシアのウクライナ侵攻はこの上昇に拍車をかけました。こちらをご覧ください。ロシアの軍事侵攻前、2月1日から6月15日までの期間の小麦とトウモロコシの先物価格の推移です。小麦は最大73%、トウモロコシの先物価格は最大32%上昇しています。
ウクライナ国旗のシンボル、小麦は…
ウクライナの青と黄色の国旗は、青空と小麦畑を象徴していると言われています。それもそのはず、ウクライナは小麦の輸出量が2020年で世界第5位の小麦大国なのです(FAO=国連食糧農業機関)。しかし、ロシア海軍の艦隊が黒海の海上を封鎖し、ウクライナは小麦を輸出できない状況に追い込まれています。南部の都市オデーサ。地中海を経て中東へつながる黒海に面したウクライナ最大の港があり、世界の穀倉地帯とも呼ばれるウクライナからの穀物輸出の拠点となってきました。しかし今、オデーサの港の倉庫には輸出できない小麦が積み上げられています。ウクライナの農家や輸出業者などでつくる団体は、憤りを隠せません。
ウクライナ穀物協会 ミコラ・ゴルバチョフ会長「ウクライナへの侵攻が始まる前は98%を黒海に面する複数の港から輸出していました。今は黒海の港が封鎖され、以前の5分の1程度しか輸出できません。船の代わりに列車やトラックなど陸路で運びだそうとしていますが、穀物を運ぶ容器の不足や設備面の問題もあって、輸出できる量に限りがあります」
7月中旬に収穫を迎える中部ジトーミル州の穀倉地帯には鮮やかな緑色の小麦畑が広がっていましたが、海上封鎖で輸出ができないことし、収穫後にどうするかは決まっていないといいます。国内の在庫があふれ、値もつかない状況だと、農家は肩を落としています。
ウクライナの農家 ミコラ・シャンさん「いまの(国内の)穀物価格は安すぎてどう取り引きすればいいかわかりません。去年収穫したものが売れ残っているため、今後の生産に向けた資金もないのです」
一方、軍事侵攻しているロシアも大農業国です。小麦の輸出量は世界1位、トウモロコシは世界11位です。世界からの経済制裁の影響でロシアからの輸出が減っていることや、ロシアがみずから食料や肥料の欧米諸国への輸出を制限していることも、世界の穀物の価格の高騰に拍車をかけたとみられています。
侵略が食料危機を引き起こす
ロシアによる侵略行為は、もともと干ばつなどの影響で食料不足に悩まされてきたアフリカや中東で、深刻な食料危機を引き起こそうとしています。
食料支援が半分に
「小麦粉がなければ、眠ることもできません。どうやって食べ物を家に持って帰ればいいのか、途方に暮れています。安全というのは、戦争から離れて安心できるということだけではなく、家に、家族と子どもたちを飢えから守るための食べ物があるということでもあるんです」
こう話すのは、内戦が続く中東のイエメンのキャンプで暮らす男性です。3年前、戦禍を逃れてこのキャンプにやってきました。家では、2人の子どもたちが待っていますが、日々の食べ物は、WFP=世界食糧計画の支援に頼るしかありません。WFPは、その食料支援のための小麦の輸入をロシアやウクライナに頼ってきました。ウクライナ侵攻の影響で、別の国から小麦を確保する必要に迫られているうえ、穀物価格が高騰。もともとの資金不足もあり、食料支援を減らさざるを得ない状況に追い込まれています。イエメンでWFPの食料支援を受けているのは、約1300万人。このうち500万人は、食料不足で死者が出る事態である「飢きん」に陥る寸前の状態にあるとして、これまで優先的に食料を配ってきました。しかし、今月から、配る食べ物の量を半分以下に減らさざるを得ませんでした。残る800万人も、本来配るべき食料の25%しか支援できていないといいます。
WFPイエメン事務所 リチャード・レーガン代表「私たちには食べ物を必要とする人たちを支援する義務がありますが、この環境ではとても難しいです。一部の人の支援を減らした分で、とても飢えている人へ食べ物を回していますが、支援を大きく減らされる人とそうではない人の差はとてもわずかです。簡単に決められるものではありません」「私がイエメン国内のクリニックを訪れた時、今にも死にそうな子どもたちがいて、再訪した時には食べ物がなくて亡くなったと聞かされました。人道上の大惨事が、ここでは起きているのです」
栄養失調の子どもたちさえ…
たび重なる干ばつで深刻な食料危機に見舞われている東アフリカのソマリア。やせ細り、命の危険がある深刻な栄養失調の子どもたちに与えられるのが、すぐに食べられる「栄養治療食」です。ピーナッツや油、砂糖、粉ミルクなどからつくるペースト状の高栄養食で、常温で保存ができパッケージを開けるだけで食べられることから、多くの支援現場で活用されてきました。こうした栄養治療食を必要とする子どもたちのうち、十分な栄養を取れず、身長に対して体重が少なすぎるため免疫機能が低下している状態を指す「重度の消耗症」の5歳未満の子どもは、世界で1360万人。この年齢層の死亡例の5件に1件は重度の消耗症に起因していて、適切に治療できるかどうかは生死に直結します。しかし、原材料に含まれる油の価格が高騰。治療食の価格はすでに16%上昇しました。ユニセフは、今のままでは、50万人を超える子どもたちが命の危険にさらされると危機感を募らせています。
ユニセフ ジェームズ・エルダー広報官「最大の懸念は、飢きんが起きるのではないかということです。たくさんの子どもたちが亡くなるでしょう。途上国にとっての「パンかご」だったウクライナとロシアで紛争が起きたことで、何の責任もなく最もぜい弱な子どもたちに、深刻な影響がのしかかっているのです」
食料危機が国際政治の分裂に…
長期化が懸念される食料危機。食料安全保障に詳しい専門家は、しわ寄せが特に発展途上国に来ていると分析しています。
イギリスの王立国際問題研究所 ティム・ベントン調査部長「新型コロナの影響で世界中で需要と供給の不均衡からくるインフレが発生し、各国が国民を養う余裕はあるのだろうかと考えていたところに、ウクライナ戦争が起きました。食料の価格が上がっても、裕福な国は穀物を買い続けることができますが、貧しい国は普段から食料を買うのに苦労をしていたため負担がさらに大きいうえ、人道的援助も高額になり、より苦しむことになるのです」
ベントン氏は2010年に起きた食料価格高騰を例にあげ、国際政治をより複雑にし、大きな分裂を生んでしまうおそれがあるのではないかと警告しています。ベントン氏が指摘する2010年の価格高騰。この夏、ロシアやウクライナなどでは、記録的な猛暑によって干ばつの被害が拡大。小麦や大麦、トウモロコシなどの穀物の生産に大きな影響が出たことで、輸出の禁止や制限をかける動きが相次ぎ、国際的な取り引き価格が高騰しました。中東や北アフリカでは、食料の値上がりに抗議するデモやパンを求める暴動などが相次いで発生し、それまでの政権への不満とも相まって、アラブ諸国で反政府運動が広がるきっかけの一つになったという指摘も出ています。
イギリスの王立国際問題研究所 ティム・ベントン調査部長「2010年の価格高騰は、いまと同じような地域で収量が途絶えたことで発生し、その後、多くの国で暴動につながりました。この暴動が『アラブの春』を引き起こし、中東の地政学的な再構築と、地中海を渡ってヨーロッパに流れ込む移民の増加を招きました。さらに、多くの移民が押し寄せたことで、ヨーロッパ内の政治が変化し、ポピュリズムの台頭につながりました。イギリスのEU離脱など、ヨーロッパでの現在の緊張関係は、今日われわれが目にするのと同じような問題への反応として、この10年の間に生じたものです」
ベントン氏は、食料価格の高騰は当面続くだろうと予想しています。さらに、今後もロシアが欧米諸国との対立を深めることで、経済ブロックがかつての冷戦期のように、東西に真っ二つに分かれてしまう危険性もあるといいます。
「この戦争がエスカレートすれば、少なくとも多国間の協力的な世界が、東側と西側の2つのブロックに分断されると見るのが妥当でしょう。これは単に目の前の危機にどう対処するかというだけの話ではありません。何年も先まで影響する、重大な変化が起きているのです」
当たり前の「食」 そうではなかった
日頃、気にすることなく、おいしく食べていた食品が次々と値上がりしたり、商品棚から消えてしまったりする。当たり前だと思っていた幸せが実は今回の食料ショックで当たり前ではなかったことに気づかされます。アフリカや中東では生命の危険すら迫っています。世界はこの危機にどう対応すべきなのか。すぐに解決してくれる魔法のつえはありませんが、国の観点からは各国が「自給率の向上」や、「輸入先の多角化」といった食料安全保障を強化することがより重要になってくるでしょう。私たち消費者の視点からはまず、複雑になった食料供給や流通の仕組みを理解し、少しでもムダをなくす意識の変革が求められているのかもしれません。
●核兵器禁止条約になぜ日本不参加? 危機感強める被爆者たち 6/16
止まる気配のないロシアによるウクライナへの軍事侵攻。プーチン大統領が核兵器の使用も辞さない構えを見せ、世界はまさに現実的な“核の脅威”に直面している。去年発効した核兵器禁止条約を受けた初めての締約国会議が、6月21日からオーストリア・ウィーンで開かれ、核廃絶に向けた取り組みを話し合う。広島や長崎の被爆者たちもオブザーバーとして参加するが、日本は核兵器禁止条約自体には不参加だ。被爆者たちの思いは。そして、日本政府は、どう対応しようとしているのか。
危機感強める被爆者たち
初めての核兵器禁止条約の締約国会議を控えた6月9日。東京都内におよそ50人の被爆者らが集まった。日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会が開いた定例総会。ロシアの軍事侵攻をめぐり、核兵器が使われることへの危機感が相次いで示された。「激しい戦争が行われているが、核兵器が使われたら人類は滅亡する」「私たちの『核兵器をなくせ』という『血の出るような叫び』とは、逆の方向に進んでいる」
被爆者の思い結実した核兵器禁止条約
「『核兵器をなくせ』という『血の出るような叫び』」まさに、その叫びを体現したものが核兵器禁止条約だ。国際法上、核兵器を初めて違法と位置づけ、その開発も保有も使用なども一切、禁止する。被爆者らが中心となって長年、国際社会に実現を呼びかけてきた。その努力が実り、去年、国際条約として発効し、現在62の国と地域が批准している。被爆者たちは、ロシアのウクライナ侵攻という現実が、この条約とは逆行していると危機感を強めている。だからこそ、条約の発効で生まれた核廃絶への機運を絶対に絶やしてはならないと、初めて開かれる締約国会議になみなみならぬ決意で臨もうとしている。
被爆者「核兵器は人類絶滅の兵器」
広島市で被爆した家島昌志さん「みんな核の怖さのなんたるかをよく知らない。われわれの経験からすれば、いくら超小型でも、使用はとんでもない話だ」こう話す広島市で被爆した家島昌志さん(80)も、今回、締約国会議に被爆者を代表して参加する1人だ。家島さんは3歳のときに爆心地から約2.5キロ付近の自宅で被爆した。まだ幼かったため、断片的な記憶しかないが、近所の山が真っ赤に燃える様子は、いまでも鮮明に覚えているという。母親はあまり話したがらなかったものの、戦後、両親から被爆体験を聞かされてきた。「わたしは朝食後に玄関の土間で遊んでいたところを吹き飛ばされたようです。山が真っ赤に燃えていた。幼心にとても怖かったのを覚えています」被爆の記憶のある世代が高齢になる中、自らも被爆者として核兵器廃絶の訴えをつないでいかなければならないと平和運動に携わってきた。厳しい国際情勢のいま開かれる会議だからこそ、核兵器の非人道性を強く訴え、条約に沿った国際社会の取り組みを促していきたいと語る。広島市で被爆した家島昌志さん「世界情勢が緊迫する中、『核兵器は人類絶滅の兵器で許されない』と強く訴えたい。残りわずかかもしれない時間、日本でじっとしたまま黙っているわけにはいかず、現地で声を大にして伝える」
被爆地が選挙区の総理として
核の脅威に対し、募る被爆者たちの危機感。日本政府は、どう対応していこうとしているのか。被爆地・広島が選挙区の岸田総理大臣は、核軍縮の重要性を重ねて訴えてきている。先の日米首脳会談の際、来年、日本が議長国を務めるG7サミット=主要7か国首脳会議を広島市で開催する意向を表明し、決意を語った。岸田総理大臣「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、核兵器の惨禍を人類が2度と起こさないという誓いを世界に示し、G7の首脳とともに平和のモニュメントの前で、平和と世界秩序と価値観を守るために結束していくことを確認したい」6月10日、シンガポールで行われた「アジア安全保障会議」の基調講演でも、全ての核兵器保有国に核戦力の情報開示を求め、米中2国間で核軍縮に関する対話を行うよう各国と後押ししていくことを強調した。
でも核兵器禁止条約はのれない…
しかし、核兵器禁止条約となると岸田総理の姿勢は異なる。唯一の戦争被爆国でありながら、この条約に否定的だ。連立を組む公明党内には、せめてオブザーバーとして参加してもいいのではないかという声もあるが、慎重な姿勢は変わらない。なぜか… 岸田総理は、核兵器禁止条約について、これまで次のように説明している。「核兵器のない世界という大きな目標に向け重要な条約だが、核兵器国は1国たりとも参加していない」条約には、アメリカやロシア、中国など、核兵器を保有する国々が参加していない。そこに日本だけ加わって議論をしても、実際に核廃絶にはつながらないというのだ。日本としては、核兵器保有国と非保有国の双方が加わるNPT=核拡散防止条約の再検討会議の枠組みなどを通じて、唯一の戦争被爆国として双方の橋渡しとなり、現実的に核軍縮を前に進めることを優先する立場だ。
被爆者 政府のスタンスを批判
さらに、日本政府は、核軍縮を呼びかける一方で、アメリカの核戦力を含めた拡大抑止の強化を求めてきている。相矛盾する姿勢を同時にとっているようにも映る日本政府の対応。被爆者たちは、こうした政府のスタンスを強く批判している。「本来なら、唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約に参加すべきだが、それもしない。さらには、アメリカの『核の傘』に頼り、『核共有』の議論まで起きている。日本政府は、言っていることとやっていることが違う」
外務省関係者「一気に核廃絶 現実的でない」
こうした批判の声に、外務省関係者は、こう説明する。「核兵器は減った方がいいし、なくなったほうがいいのは同じ考えだ。でも覇権主義的な動きを強める中国や、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮など、日本をとりまく安全保障環境は厳しい。核兵器保有国が、いま一気に持っている核兵器を手放すなんてことはありえない。そんなときに、一気に核廃絶をと言えば、アメリカの核戦力も含めた拡大抑止を否定することにもなり、現実的な選択ではない」
少しずつでも、一歩ずつでも前に
被爆者の声と、政府の対応のすれ違い。こうした状況を複雑な思いで見つめる人もいる。被爆地・長崎の大学で教授を務める西田充さんだ。元外交官で、核軍縮交渉に最前線で携わってきた。長崎の大学で教授を務める西田充さん各国の利害が激しくぶつかり合う交渉を身をもって知る立場から、国際秩序が不安定化する中、当面、拡大抑止に重きを置こうとする日本政府の立場にこう理解を示す。「日本だけが今『核の傘』から出るのは、安全保障の観点からは難しい」一方で、国際会議の場で、被爆者に体験を語ってもらう機会を多くつくり、各国を動かす場面も目の当たりにしてきた西田さん。今の政府の対応には、具体的な行動が見えないと指摘しつつ、今後に注文をつけた。「政府と被爆者が対立するのではなく、被爆者の思いをくみ取ることが大事だ。唯一の戦争被爆国として日本ができることは被爆者の声を届けることだと思う。『拡大抑止』だけに比重を置いていくと、国際情勢がさらに不安定になり、むしろ核兵器使用のリスクが高まる。中国の核兵器についてどうするかなど、軍備管理の議論も必要で、日本が世界に対し、より具体的な提案をしていく必要がある」西田さんは今、教授として若い世代に「軍縮教育」を説いている。少しずつでも、一歩ずつでも、国際舞台で核軍縮交渉をけん引する人材を育てたいと思うからだ。「核軍縮、ましてや核兵器廃絶となると時間は必要だ。もちろんのんびり構えていられないが、長期的なスパンでも考えていく必要もあるのではないか。教育を通じて次世代に思いを引き継いでいきたい」
それでも核廃絶をあきらめない
ロシアのウクライナへの軍事侵攻もあり、遠のいているかのように見える核廃絶への動き。それでも被爆者たちは声を上げ続ける。日本原水爆被害者団体協議会が開いた定例総会核兵器禁止条約の締約国会議を前にした6月9日の総会でも、声を振り絞るように繰り返し訴えた。「ロシアによる侵略は、被爆者にとっては、もう一度真剣に本気になって核兵器廃絶を訴えなければいけないということを覚悟させた」「核兵器がなくならないかぎり、安心して過ごせない」こうした被爆者たちの声に、岸田総理は、どう具体的に応えていくのか。核軍縮を着実に進め、核廃絶への道を切りひらいていけるのか。真価が問われることになる。
●対ロシアでNATO加盟申請フィンランド首相 単独取材 6/16
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATOへの加盟申請している北欧フィンランド。そのフィンランドを率いるのが36歳のリーダー、マリン首相です。5月11日、来日中だったマリン首相に、単独インタビューをすることができました。何を語ったのか。全文でお伝えします。
マリン首相とは?
フィンランドのサンナ・マリン首相は、ヘルシンキ出身の36歳で、中道左派、社会民主党の党首を務めています。南部の工業都市タンペレの市議会議員などを経て、2015年に国会議員に初当選したあと、社会民主党が率いる連立政権で、運輸・通信相などを歴任。そして、2019年にフィンランドで最年少の首相に就任しました。環境問題に関心が高く、温室効果ガスの排出量を、EU全体の目標よりも15年早い2035年までにゼロにする政策を推し進めてきました。幼いころに両親が離婚した後、母親と女性のパートナーの家庭で育ち、苦しい経済状況の中で15歳からアルバイトをして家計を支えたということです。マリン首相は、5月15日にNATO=北大西洋条約機構への加盟申請を正式に表明する直前、5月10日に初めて日本を訪れて、岸田総理大臣と首脳会談を行いました。インタビューは、このタイミングにあわせて5月11日に行いました。
NATOに加盟申請を出しますか?
まさに私たちは今、NATOに参加するかどうか議論しています。議会でも、政府でも、もちろん大統領も議会と“加盟するか、加盟することが必要か”どうかについて考え、議論しているのです。私たちは早急に結論を出します、この1週間の間に。とても短い期間で、結論を出そうとしていて、さまざまな角度からこの問題について検討しているところです。これを議論している理由はもちろん、ロシアがウクライナに対してとった行動です。ロシアのウクライナでの戦争は、ヨーロッパの安全保障の状況を全て変えたため、フィンランドとスウェーデンはNATO加盟の可能性について議論を始めたのです。
5月15日の週にも決めますか?
私たちはこの1週間以内に結論を出すということです。私たちは、隣国のスウェーデンと一緒に全ての詳細、全ての工程とその時期について、緊密に連携しながら議論しています。同じ方向に向かって同じ早さで進むことがとても重要です。
国民はNATO加盟を支持していますか?
フィンランド人の大多数が、そして国会議員の大多数が、NATO加盟に賛成しています。以前にこのようなことはありませんでした。しかし、ウクライナに対するロシアの行動が全ての安全保障環境を変え、フィンランド人の考え方も変えました。私たちの隣国ロシアは、その隣国であるウクライナを攻撃しています。もちろん私たちはとても心配していますし、ウクライナで起きたようなことがフィンランドで起きないようにしないといけません。フィンランドは、ロシアと戦争をした歴史があります。そんな未来は、子どもたちにはいらない。ですから、私たちはNATO加盟を議論していますし、国民の中でもそういった議論になっているのです。
軍事的な中立という立場からの転換になりますが?
私たちは、長い期間をかけて作り上げてきた自分たちの軍隊、防衛能力を持っています。私たちは最悪の事態にさえ備えができているのです。私たちはNATOの緊密なパートナー国で、長い間協力をしてきました。次の段階は、加盟申請をするかどうかです。今の状況を鑑みて、すぐにも決断をしないといけない。1週間以内には結論を出します。
何が伝統的な軍事的中立の立場を変えさせたのですか?
ロシアの行動です。ロシアの行動こそが、私たち、フィンランドとスウェーデンの根幹を変えた、最も大きな要因です。ロシアの行動、ウクライナにおけるロシアの戦争が、フィンランドとスウェーデンが議論を始めた理由です。ロシアは、国際法を守らず、守るべきルールを無視し、それぞれの国に課せられた全ての義務を果たさない国だということを示したのです。これが、私たちがNATO加盟の可能性について検討している理由です。ヨーロッパの全ての安全保障環境は変わってしまいました。ロシアに油断してはならないのです。ロシアがどのようにふるまうかを目の当たりにしました。それが、私たちが議論をしている理由です。
加盟までに長い時間がかかると言われています
お話したように、私たちには防衛能力の高い部隊があります。小さな国にもかかわらず、大きな軍隊を持っているのです。多くの投資もしてきました。最近の大きな投資は、戦闘機です。去年の12月に決めたものですが、100億ユーロでした。私たちはすでに最悪の事態に備えてきたのです。そして、私たちにはパートナーがいます。それらの国々の多くはウクライナで起きたようなことがフィンランドに起きた場合には、支援を約束してくれています。そして、フィンランドはEU=ヨーロッパ連合にも入っています。EU加盟国はそれぞれを支援する義務があります。例えばどこかの国が攻撃された場合にも。ですから、私たちは守られていないのではなくて、しっかり守られているのです。しかし、大きな防衛力となるのは、加盟の批准をできるだけ早く行うことです。そのために私たちはNATO加盟国と話していますし、先取りした形になりますが、批准の期間についても話し合っています。申請から批准までの期間をできるだけ短くすることがとても重要だと思います。
隣国ロシアはどんな存在ですか?
地理的な位置を変えることはできません。国の場所を変えることはできませんが、外交政策、防衛政策は自分たちで決めることができます。ですから、私たちはNATO加盟について検討しているのです。スウェーデンとともに、加盟申請をすべきか、それともこのままの状況でいるべきかを議論しているのです。日本も日本のパートナーとともに未来について考えていると思います。安全保障政策や外交政策について考えていると思いますが、その決断は自ら下さないといけないものです。私たちは未来のためのその選択を支持します。
NATOの加盟の意義をどう考えていますか?
もちろん、フィンランドとスウェーデンが入れば、NATOは以前よりも増強されます。2か国が入ることで、北欧の国が全て入ることになり、より強くなり、もちろん私たちの防衛能力にも大きな影響があるでしょう。最も大きな意義は、最悪の事態が起きることを避けられるということです。NATOの第5条には、加盟国が攻撃されたら、守ると書かれています。これは私たちが最も深く考えていることです。「ウクライナで起きたようなことがフィンランドで起きるのを避けるため」という要素が大きいのです。
リーダーシップの秘訣(ひけつ)は何ですか?
秘訣は協力することです。フィンランドは連立政権で、いつも違う党と政府内で仕事をします。今は5つの党からなり、全て女性がリーダー、多くは若い女性リーダーたちです。私たちにとって、結論を出すときにみんなで協力することが大事で、すべての人が関わっていることが大事です。私のリーダーシップということではなくて、それはみんなの努力、みんなのリーダーシップで、それに私はとても感謝しています。
どのように実現しているのですか?
私たちは政府内でたくさんの議論をします。例えば新型コロナウイルスの感染拡大のさなかも、政府全体としてどのように対処するかの大きな決断をします。今議論しているNATOの加盟申請についてもそうです。なるべく多くのコンセンサスが取れるように政府内で議論し、反対する党とも議論をしています。全ての人の意見を聞くことが大事です。リーダーシップというより、全ての人が参加しているか、全ての人の意見が聞かれているかを確認することです。そして、これまでの決断を改めることも大事です。異なった情報があったときには、それを検討し直すことが大事です。科学者など、得られる全ての意見を聞く。それが、感染拡大であっても、安全保障の問題であっても。これは、現代的なリーダーシップだと思います。耳を傾け、できるだけ多くの党を、社会の中のできるだけ多くの人を巻き込むのです。
日本では女性の衆議院議員は1割以下です
状況はよくなると思います。若い世代が入ってくれば変わるでしょう。鍵となるのは、全ての人が参加できる社会をつくることです。例えば、女性がキャリアも家庭も持てることです。どちらかを選ぶのではなく、どちらも持てること。それは彼女たちの権利です。すべての人がそれぞれの人生の夢を叶えられるために最も大切なのは教育です。性別やバックグラウンドも関係なく、全ての人が人生に同じ可能性を持っていると認識することが大事です。そして、幼少期から大学までの教育が大事です。私たちはこの間、教育制度、育児休業制度、保育制度にもたくさんの改革を行いました。今よりももっと多くの女性が社会に参加できるように。
日本へのメッセージはありますか?
日本の若者を勇気づけたいです。皆さん夢を持っていて、資質があり、したいことを何でもできる力もある。みなさんとても教育水準が高く、とても賢い人たちです。でも、社会が彼らを支えることが必要です。それぞれがキャリアを追求するというのは、個人の選択というだけではなく、社会が一人ひとりみんな違う人生の可能性を持っていることを認識することです。社会が変わらなければなりません。例えば、フィンランドでは家族に優しい社会を作ろうとしています。母親も父親も子どもに関わり、そしてキャリアも積む。そのためには家族に優しい社会にしないといけないのです。日本もフィンランドと似たような課題を抱えています。高齢化です。ですから、より多くの子どもが生まれるようにしたい。だからこそ、家族に優しい社会が大事です。
高齢者も安心して暮らせるようにするには、何が必要ですか?
高齢の世代にも、物事を決める過程に参加してもらうことが必要です。若い世代も高齢の世代も、働いている世代も、さまざまなジェンダー、さまざまなバックグラウンドを持つ人が社会には必要です。最も大切な決定をする際は、いろんなバックグラウンドの人が集まり話し合うことで、未来にとって十分な情報を得た上での決断になるのです。高齢の世代を無視してもよいとは思いませんし、私自身、高齢の世代にとても感謝しています。たくさんの友だちがいますし、彼・彼女らをとても尊敬しています。
●独仏伊首脳、侵攻後初めてウクライナ訪問 「出遅れ」で3人一緒に 6/16
マクロン仏大統領、ショルツ独首相、ドラギ伊首相の3首脳が16日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問した。2月のロシアによる侵攻後、それぞれ初めての訪問となった。
欧州からは4月以降、各国首脳が相次いでウクライナを訪問。フランスは欧州連合(EU)、ドイツは先進7カ国(G7)でそれぞれ議長国を務めるが、出遅れていた。3首脳は「ロシアとの対話」を掲げてウクライナ側の警戒を招いており、ゼレンスキー大統領との直接会談で関係再構築を目指す狙いがある。
マクロン氏は16日、列車でキーウ駅に入り、「ウクライナ支援で、EUの結束を伝えたい」と述べた。
ゼレンスキー氏との会談では、23、24日のEU首脳会議を前に、ウクライナのEU加盟問題が話し合われる。26日には、ドイツでG7首脳会議の開幕が控えており、G7によるウクライナ支援も課題となる。
独仏伊首脳はプーチン露大統領との電話会談を続け、早期停戦を目指してきたが、これまでに仲介外交の成果は皆無。ウクライナが、米国の圧倒的な軍事支援を受けて露軍を後退させる中、マクロン氏は「有用な時に行く」としてウクライナ訪問を見送ってきた。重要会議の日程に押される形で、15日のモルドバ訪問にあわせて実施を決めた。
ドイツからは4月、シュタインマイヤー大統領が東欧首脳とともにキーウ訪問を計画したが、ロシアとの関係からウクライナ側が難色を示したため断念。ドイツでは、首脳のウクライナ訪問の是非が、政治問題に発展していた。
●習主席、プーチン大統領と電話会談で強気の軍事協力拡大 6/16
中国の習近平国家主席と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は15日、電話首脳会談を行い、軍事分野での協力拡大について協議した。ロシアのウクライナ侵攻後、中国は静観姿勢をとってきたが、ここに来て、欧米諸国に対抗姿勢を示した。独裁・専制主義国家と自由主義国家の亀裂拡大が加速しそうだ。
「世界各国は責任のあるやり方でウクライナ危機の適切な解決を促進すべきだ」「主権や安全など核心的利益や重大な関心事に関わる問題で相互に支持することを望む」
習氏は電話会談で、ウクライナ侵攻や中露関係についてこう述べた。分かりにくいが、「ロシアと手を組む」という意図のようだ。
ロシア大統領府によると、会談では、エネルギーや金融、産業などの分野だけでなく、軍事や軍事技術分野における協力拡大についても協議した。プーチン氏も中国への協力姿勢を明確にし、米国などの台湾問題への干渉に反対を表明した。
電話会談は、ウクライナ侵攻が始まった直後の2月25日以来で、両国が踏み込んだ協力姿勢を見せることで、欧米諸国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。
中露が強気に転じたのは、ウクライナでの戦況も影響していそうだ。
ウクライナ東部では、ロシアの砲撃などでウクライナ側の劣勢が伝えられている。東部ルガンスク州の中心都市セベロドネツクでは、ドネツ川を挟んだ対岸の都市リシチャンスクにつながる3つの橋が破壊され、避難や物資補給が不可能な状況にある。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日に公開された動画で、改めて軍事支援を呼び掛けた。ドイツなど武器供与を約束した国から兵器が現地に届いていない現状があるようだ。
このままでは、侵略国家の暴挙がまかり通る。「台湾有事・尖閣有事」にも悪影響必至だ。
福井県立大学の島田洋一教授は「ウクライナ東部での戦況が、ロシア側に傾いているため、中国は欧米を牽制している。ロシアが制圧に成功すれば、欧米諸国の失敗を強調できる。また、中国はロシアに協力しても、欧米の制裁が及ばないかを見極めている。習氏はロシア側に貸しをつくり、来る『台湾有事』に準備している側面もあるだろう。欧米の武器供与のスピードが鍵になる」と指摘した。
●NATO、ウクライナ軍の近代化支援へ 国防相会合 6/16
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は15日、ブリュッセルで記者会見し、今月末のNATO首脳会議でロシアによる侵攻が長期化するウクライナへの新たな包括的軍事支援策で合意する見通しを示した。露軍に重火器の質量で劣るウクライナ軍の近代化を進める狙いだ。ストルテンベルグ氏は、首脳会議で採択を目指すNATOの行動指針「戦略概念」で、中国について明記する方針も表明した。
NATOは15日からブリュッセルの本部で国防相会合を開催。2日間の日程でウクライナへの軍事支援や、北欧スウェーデンとフィンランドが申請したNATO加盟について協議する。初日の15日はワーキングディナーが開催され、フィンランドやスウェーデン、ジョージア(グルジア)、ウクライナ、欧州連合(EU)が招待された。
ストルテンベルグ氏は15日の記者会見で「ロシアはウクライナの人々に対して残忍な消耗戦を行っており、大規模な死と破壊を引き起こしている」と非難。「NATO加盟国はウクライナの勝利に必要な軍事装備を提供し続けることに全力を注いでいる」と強調した。
その上で、NATO首脳会議では「加盟国がソ連時代の装備から最新の装備への移行を支援するため、ウクライナに対する包括的支援で合意すると予測している」と述べた。ロシア近隣の東欧諸国の防衛態勢を強化する方針も示した。
また、ストルテンベルグ氏は「(首脳会議で合意する)新たな戦略概念では、中国の安全保障上の影響についても言及すると確信している」と述べた。NATOは2010年の首脳会議で現行の戦略概念を採択したが、これ以降、中国の軍事的台頭に対する懸念が強まった。
首脳会議には、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳も参加すると指摘し、「アジア太平洋地域の志を同じくする国々との緊密なパートナーシップを強く示す」と述べた。
一方、NATO加盟国のトルコがフィンランドとスウェーデンの加盟に反対している問題については「両国の加盟は間違いない」とした上で「トルコが示す懸念について、われわれが一緒に解決しなければならない」と訴えた。

 

●第1次大戦のような消耗戦に…ロシア軍、装甲戦力を「最大3割失った」  6/17
ロシアとの停戦協議でウクライナ代表団トップを務めるダビド・アルハミア氏は15日、東部戦線での戦闘が激化し、ウクライナ軍の死傷者が1日あたり最大約1000人に上っていると明らかにした。戦死者は1日に200〜500人も出ているという。
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は15日、ブリュッセルでの記者会見で、露軍が装甲戦力を最大30%失ったと指摘し、「第1次世界大戦のような消耗戦になっている」と述べた。
露軍が戦力を集中させている東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクに関しては、重火器の量で勝る露軍側が「4分の3を掌握した」と述べた。ただ、露軍には補給や指揮命令系統などの課題もあり、ドンバス地方(ルハンスク、ドネツク両州)全域制圧は「不可避とは言えない」との認識も示した。
米軍のマーク・ミリ−統合参謀本部議長(15日、ブリュッセルで)=ロイター米軍のマーク・ミリ−統合参謀本部議長(15日、ブリュッセルで)=ロイター
ウクライナ軍の制服組トップは15日、露軍がルハンスク州を制圧するため「9方向から同時に攻撃しようとしている」との分析を明らかにした。露軍は、ウクライナ軍が米欧から供与された重火器を本格投入する前に制圧地域を拡大する狙いとみられる。
●プーチン氏は「正気でない」 ロシア元首相インタビュー 6/17
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の政権で初代首相を務めたミハイル・カシヤノフ(Mikhail Kasyanov)氏(64)にとって、かつて仕えた人物がウクライナに全面侵攻したのは、最悪を超える悪夢だった。
カシヤノフ氏は、ロシアのウクライナ侵攻についてAFPのビデオインタビューに応じ、戦いは最長で2年続く恐れがあるが、ロシアは民主主義の道に戻れると確信していると語った。
2000〜04年の首相在任中、カシヤノフ氏は西側諸国との緊密な関係を支持していた。侵攻が始まる前の数週間は、他の多くのロシア人と同様、実際に侵攻するとは思っていなかったという。
プーチン氏のはったりではないと理解したのは、2月24日に侵攻が始まる3日前、指導部が招集され、劇場型の安全保障会議が開かれたのを見た時だった。「戦争が起こると悟った」
プーチン氏はもはや正しく物事を考えられていないと感じたという。「私は(安全保障会議に出席した)この人たちを知っている。彼らを見て、プーチン氏が既に正気でないと思った。医学的な意味ではなく、政治的な意味でだ」とカシヤノフ氏は述べた。
「私が知るプーチン氏とは別人のようだった」
プーチン氏に解任された後、カシヤノフ氏は野党に移り、クレムリン(Kremlin、ロシア大統領府)を最も声高に批判する一人となった。現在は野党「国民自由党(People's Freedom Party)」の党首を務めている。
「完全な無法状態」
旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元職員で、10月に70歳を迎えるプーチン氏は、この20年間で免責と恐怖に基づくシステムの構築に成功したとカシヤノフ氏は指摘する。
「これらは、プーチン氏が国家元首になったことで、ソ連末期よりも冷笑的かつ残酷な手法で運用されるようになったシステムの成果だ」
「本質的には、これは完全な無法状態に基づいたKGBのシステムだ。彼らが罰を受けることを全く予期していないのは明らかだ」
ウクライナ侵攻を受けてカシヤノフ氏はロシアを離れ、現在は欧州に住んでいると話した。だが、身の安全のため具体的な居場所を明かすことは差し控えた。
同氏の盟友でやはり野党指導者だったボリス・ネムツォフ(Boris Nemtsov)元第1副首相は2015年、クレムリン近くで暗殺された。プーチン氏批判の急先鋒(せんぽう)として知られるアレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏は、2020年に毒殺未遂に遭い、現在は収監されている。
カシヤノフ氏は、ウクライナが戦いに勝つことが不可欠だとし、「ウクライナが陥落すれば、次はバルト3国だ」と述べた。
また、戦いの結果はロシアの将来をも左右するとの見方を示した。
プーチン氏に屈辱を与えてはならないとするエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏大統領の提案には「全面的に」同意できないと主張。終戦に向けてウクライナに領土割譲を求める声もはねつけた。
「プーチン氏がそれ(領土割譲)に値するどんなことをしたというのか。それは実利主義に傾き過ぎた立場だ。間違っていると思うし、西側がそのような道を歩まないことを願う」
「甚大な課題」
カシヤノフ氏は、プーチン氏は最終的に治安機関が操る「後継者」に取って代わられるとみている。
しかし、「後継者」は長期にわたってシステムを管理することはできず、ロシアでは最終的に自由で公正な選挙が行われるようになると予想。「ロシアは民主主義国家を建設する道に戻ると確信している」と語った。
ただし、「脱共産化」と「脱プーチン化」には約10年かかると推定。「特に、この犯罪的な戦争の後では難しいだろう」とした。
ロシア人は、国家再建という膨大な課題に直面することになるとカシヤノフ氏は指摘。「何もかも新しく造り直さなければならない。基本的には、経済改革と社会改革をもう一度やり直す必要がある。これらは甚大かつ困難な課題だが、達成されなければならない」と述べた。
●戦争は「誇張」されている?「夏を満喫」するウクライナ市民の意味するもの 6/18
ウクライナでは今も激しい消耗戦が続いている。特に東部での戦闘が激化し、ウクライナ軍はセベロドネツクの南北などでロシアの進軍に抵抗している。
一方、戦場がおおむね東部に移ったことで、広大な国土を持つウクライナのほかの地域では、戦いの激しさを以前ほど身近には感じなくなってきているのかもしれない。そうした地域の人々が、夏の到来を「楽しんでいる」様子を収めた写真がネットにはいくつも投稿されている。
しかし、これらの写真を見て、ウクライナは「報道されているほどひどい爆撃を受けていないのではないか?」と、主張する人が現れている。ウクライナの「惨状」は誇張されており、ここまで資金をつぎ込んで支援しなくても大丈夫ではないのか、というのだ。果たして彼らの主張は正しいのか?
6月16日に投稿されたあるツイートには、ウクライナの首都キーウの小さなビーチと思われる場所を数十人が利用する写真が掲載されている。
このツイートは、ユーチューバーのアレックス・ベルフィールドが投稿したもので、1万人以上が反応している。ベルフィールドはツイートの中で、メディアが戦闘の激しさを誇張し、誤解を招くような報道を行っていることを示唆している。
キーウの写真を掲載し、戦闘の激しさを疑問視するようなツイートはほかにもある。これらのツイートで紹介されている写真は、キーウを東西に横切るドニエプル川で撮影されたものだ。
ドニエプル川沿いは以前から、キーウ市民が水泳や日光浴を楽しむ人気のレジャースポットだが、それは2022年も例外ではないようだ。
広大な国土すべてが戦場ではない
ウクライナはロシアに次いで、ヨーロッパで2番目に大きい国であり、直接的な軍事行動が比較的少ない地域もあるのは当たり前のことだ。
首都キーウはここ数週間にも砲撃を受けるなど無傷なわけではないが、それでも現在の主な戦場は北東部やドンバス地域であり、キーウからはかなり離れている。例えば、ロシアがまだ奪取を宣言していないハルキウまでは、キーウから車で約6時間かかる距離がある。
戦争が始まって2カ月間、ロシアの砲撃が続いたものの、その後ウクライナ軍は、首都と隣接地域から侵略軍を追い出すことに成功した。ただし、ロシア軍が再び攻撃を仕掛け、キーウの奪取を試みる懸念も残っている。
絶望的な状況でも「日常」を求める心理
キーウは現在の戦闘休止状態によって、やや落ち着きを取り戻したとも言われている。しかし、政府当局は市民に対し、水辺で爆発物の調査が続いているため、ビーチに近づかないよう警告している。
また、ドニエプル川などで撮影された写真は絵のように美しいかもしれないが、キーウでは今も時おり空爆があり、ボランティアによる瓦礫の撤去が続いている。空襲警報はほぼ毎日、全国各地で発令されている。しかし、戦争の脅威がより明白な地域でも、ビーチや公共空間を利用する人々の姿が写真に収められている。
本誌がソーシャルメディアアプリのテレグラムで見つけた未検証の投稿では、(キーウよりはるかに戦場に近い)オデッサで、ミサイル防衛システムが背後で発射されるなか、市民が公共空間で詩を朗読したり、海からの侵入を防ぐバリアが設置されたビーチで、日光浴を楽しんだりしている。
オデーサの海岸を利用していた複数の市民が、地雷で命を落としたという投稿もある。
言うまでもないことだが、国の一部の人々の行動を捉えた写真が、必ずしもほかのすべての人々の行動や考え方を反映しているとは限らない。2020年には、新型コロナウイルス感染症によってソーシャルディスタンスの確保が求められ、効果的なワクチンもなく、感染者数が増加していたにもかかわらず、欧米のビーチや公園には大勢の人が訪れていた。
ユーチューバーのベルフィールドは、ほかの投稿でも誤解を招くような主張を行っている。彼らのツイートには、戦争に関する十分な裏付けがある証拠が欠けているように見える。なにより、人は絶望的な状況であっても、必死に「日常」を求めようとすることに対する繊細な理解も欠けているように見える。
ツイッターで共有されたこれらの写真は、ウクライナにおける戦争の存在や、その激しさの反証にはならない。キーウのビーチを満喫する人々の写真が存在するのは確かだが、これは決してメディアが戦争を誇張している証拠ではない。さらに、戦争の脅威がより明白である地域の映像は、リスクが高まっていても同じ生活を続け、残酷な戦争のなかで平常心を保とうとしている人々の姿を示しているように見える。
●「1万7千件以上のロシア軍の戦争犯罪に対応」ウクライナ内相 6/17
ウクライナの東部ルハンシク州では、空爆で死者が出るなどロシア軍の攻撃が続いています。こうした中ウクライナの内相はJNNの取材に対しロシア軍の1万7000件を超える戦争犯罪に対応していることを明らかにしました。東部ルハンシク州のリシチャンシクでは16日、ロシア軍の空爆で4人が死亡しました。そしてこちらはロシア側が公開した隣接するセベロドネツクの映像。ウクライナ側の「最後の拠点」とされますがロシア側の兵士とみられる姿が。
セベロドネツクの住民「マッチが尽きました。ライト、水、ガスもありません」
イギリス国防省は先ほど「ロシア軍はセベロドネツクを南から包囲しようとしている」とする分析を公表しています。一方、JNNの単独インタビューでウクライナの内相は1万7千件を超えるロシア軍の戦時中の犯罪に対応していることを明かしました。
ウクライナ モナスティルスキー内相「略奪、殺人のケースは全て、戦時中の戦争犯罪に分類されます」
全容の把握が難しいのが「性的暴力」だといいいます。
ウクライナ モナスティルスキー内相「ウクライナ警察は性的暴力の刑事事件を17件捜査しています。数字はもっと大きいと確信しています。この悲劇、酷い戦争が終わった後、多くの被害者がさらに証言すると確信しています」
また、戦時の情報の重要性については。
ウクライナ モナスティルスキー内相「国内における情報戦の最初の課題はパニックを防ぐことです。戦時中はパニックが最大の敵だからです」
24時間態勢で政府から国民に客観的で信頼できる情報を伝えていると強調しました。
●仏独伊 ウクライナをEU“候補国”に NATOも軍装備で支援へ 6/17
フランス、ドイツ、イタリアの3カ国がそろってウクライナをEU(ヨーロッパ連合)加盟“候補国”として支持する意向を表明しました。一方、ロシア軍はウクライナへの砲撃を強めていて、住民が避難できない状況が続いています。
ルハンシク州のハイダイ知事は16日、ロシアがリシチャンシクを空爆したとSNSに投稿しました。空爆で住民が避難していた建物が破壊され、がれきの下から4人の遺体が見つかったといいます。
またCNNによると、ハイダイ知事は隣町セベロドネツクでアゾト化学工場に避難している住民がロシアの砲撃のため脱出できないと訴えています。知事によると、避難しているのは子ども38人を含む568人。食料の蓄えはあるものの、2週間、補給を受けていないとしています。
戦争の終わりが見えないなか、NATO=北大西洋条約機構は、ウクライナ軍の近代化を支援するとしています。
北大西洋条約機構・ストルテンベルグ事務総長:「我々はウクライナに対する包括的なNATOの支援パッケージをまとめ、ウクライナとNATOとの相互運用性を向上させるため、ウクライナの軍装備をソビエト時代の物からNATOの最新装備に置き換える」
支援パッケージは、今月末のNATO首脳会議で合意する見通しだといいます。
ウクライナの首都近郊にはフランス、ドイツ、イタリア、ルーマニアの首脳の姿がありました。
ウクライナ、チェルニショフ地域発展相:「戦争は2月24日ではなく2014年に始まったのです。以前からドンバス地方からの避難民がいました。そしてこの町には大勢避難しています」
激しい戦闘があったイルピンを視察したのです。
ドイツ、ショルツ首相:「罪のない市民が被害を受け、家は壊され、軍事施設など全くない町が丸ごと破壊された。破壊と征服に固執するロシアの侵略戦争の残虐性をよく表している」
視察後、ゼレンスキー大統領と会見に臨んだ各首脳たちが次々と口にしたのが、「ウクライナのEU加盟支持」です。
フランス、マクロン大統領:「我々はウクライナの即時EU加盟候補国としての立場を支持する」
イタリア、ドラギ首相:「イタリアはウクライナにEUに入ってほしい」
ドイツ、ショルツ首相:「ドイツはウクライナに対して前向きな決定に賛成する」
ゼレンスキー大統領は4カ国の訪問とEU加盟支持を歓迎しながらも、プーチン大統領と対話と重ねるマクロン大統領の姿勢に疑問を呈しました。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「単独でロシアの戦争をやめさせられる指導者が世界にいるのか疑問だ。団結こそが唯一ロシアを止める強い力になる」
今回の侵攻につながる2014年から続くロシアの軍事介入は、そもそもウクライナがEU入りを目指したことに端を発します。
ロシア安全保障会議副議長のメドベージェフ前大統領はツイッターで。
メドベージェフ前大統領:「ヨーロッパのカエル好き、レバーソーセージ好き、スパゲティ好きは意味なくキエフに行くことを好む。EU加盟と古いりゅう弾砲をウクライナに約束し、ウクライナ産ウォッカに酔いしれて、100年前のように列車で帰国した。だが、ウクライナを平和に近付けることはできない」
果たしてロシアは現実をどう評価しているのでしょうか。
プーチン大統領の出身地、サンクトペテルブルクでは15日からプーチン大統領肝煎り(きもいり)の国際経済フォーラムが開かれています。
国内外からロシアへの投資を促すものですが、常連だった欧米企業は姿を消しました。
一方、姿を見せたのはウクライナ東部の親ロシア派武装勢力、自称・ドネツク人民共和国のトップ、アフガニスタンのイスラム主義組織「タリバン」などです。
国際社会の断絶が鮮明になるなか、ロシアが理解者だとするのが中国です。
プーチン大統領と習近平国家主席は15日、電話で会談をしました。
この会談についてロシア政府は、「習近平主席はロシアが国益を守るために取った行動を正当だと認めた」と発表しました。
ただ、中国の発表では触れられていません。
中国外務省の会見:「(Q.習主席はそのような発言をしたのですか?)」
こう問われた中国外務省。肯定はしませんでしたが、否定もしませんでした。
●米国「ウクライナ戦争は第1次大戦のような消耗戦」…援助10億ドル追加 6/17
ウクライナ軍が東部ドンバスでロシア軍の優勢な攻撃に苦戦している状況に対応するため、米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国がさらなる軍事援助に乗り出した。米国はウクライナ戦争が消耗戦の様相を呈しているとし、同盟国とともに火力支援を続ける意向を示した。
ジョー・バイデン米大統領は15日(現地時間)、ウクライナに10億ドル規模の追加軍事援助を提供すると明らかにした。追加軍事援助は火力における劣勢を訴えるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談が行われた後に発表された。これで米国の軍事援助の規模は56億ドルに増えた。
米国は曲射砲18門や砲弾3万6千発、対艦ミサイル、多連装ロケットなどをさらに提供することにした。ウクライナ政府は、射程距離の長い砲兵戦力が弱く、ドンバス地方でロシア軍に押されているとし、多連装ロケットや戦車、無人機などの大量支援を求めている。ウクライナは具体的に多連装ロケットシステム300台や戦車500台、曲射砲1000台などを要求している。
NATO加盟国を中心とする46カ国も同日、ベルギー・ブリュッセルのNATO本部で「ウクライナ防衛コンタクトグループ」会議を開き、ウクライナに対する支援策について協議した。韓国のシン・ボムチョル国防次官もオンラインで会議に参加した。続いて開かれたNATO国防相会議でも、軍事援助を強化するための具体案が話し合われた。ロイド・オースティン米国防長官は会議後、ドイツは長距離多連装ロケットシステム3基、スロバキアはヘリコプターと砲弾、ポーランドとオランダは大砲をさらに支援する方針を示したと明らかにした。
オースティン長官は会議後の記者会見で、ロシア軍がドンバス地方で攻勢を強めているとし、「ウクライナは戦場で決定的な局面を迎えている」と述べた。さらに「我々は気を緩めてはならず、熱意を失ってはならない」として、ウクライナに対する軍事支援の重要性を強調した。
マーク・ミリ米統合参謀議長も記者会見で、ウクライナ東部戦闘が第1次世界大戦に比肩する「深刻な消耗戦」となっているとして、懸念を示した。長期化する戦闘で双方の兵力と装備の損失が大きく増えており、このような消耗戦では兵力と装備が豊富な世界2位の軍事大国であるロシアが有利になる。これは、ロシアが厳しい市街戦を繰り広げなければならないキーウ攻略をあきらめ、開活地の多いドンバス地方に戦線を移した時から予想されていた。ロシア軍はドンバス地方の約80%を占領し、攻勢を強めている。
しかし米軍指揮部は、ウクライナ軍の抗戦の意志が強いため、効果的な軍事援助が行われればロシア軍に十分対応できるとみている。オースティン長官は「ウクライナ軍は、我々が提供した物資と兵器を効果的に使いこなしてきた」として、「できる限り彼らを支援し続ける」と述べた。ミリ議長も「毎日100〜200人ずつ(ウクライナ兵士が)戦死する状況で、消耗戦の持続が可能か」という質問に「指導力と戦う手段を持っている限り、ウクライナ軍は戦い続けるだろう」と答えた。消耗戦に耐えるためには、兵力と火力が絶えず支援されなければならないが、火力はNATOが補充し続けるという意向を明らかにしたのだ。これは、ロシア軍が東部戦線で優勢を占めたとしても、ウクライナに交渉を促すよりは戦争を続けるよう支援するという意思を示したものとみられる。バイデン大統領は先月31日、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米国が「ウクライナが排除された状態で、ウクライナに対するいかなる決定も下さない」という原則を守ってきたと明らかにした。
こうした中、欧州の主要国であるドイツ、フランス、イタリアの首脳が16日、開戦以来初めてウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に会う予定であり、この会談が戦争の流れにどのような影響を及ぼすかも注目される。訪問の名目はウクライナに対する応援と支援強化だ。しかし、彼らは「最後まで戦うべき」というポーランドやバルト3国など東欧側の大方の立場とは異なり、戦争を終わらせるための交渉を追求するという立場だ。戦争が経済に及ぼす悪影響と、NATOが直接紛争に巻き込まれる可能性などを懸念しているためだ。
●世界の兵器市場、ウクライナ戦争の新たな前線に  6/17
政府当局者や武器ブローカーによると、ウクライナはロシア軍との戦闘のため、世界の防衛市場で兵器を探しているが、その市場でロシアとの競争が激化している。ロシアはしばしば、ウクライナが求めるのと同じ兵器を購入しようとしたり、ウクライナへの供給を断とうとしたりしているという。
ウクライナ東部での激しい砲撃戦でロシアが優勢となる中、ウクライナ政府は防空システム、装甲車、砲弾、その他の弾薬を第3国から手に入れようとしている。西側諸国からより速いペースでより多くの兵器が供給されない限り、東部ドンバス地方での戦闘で敗北するだろうとウクライナは警告している。同地方での戦闘は、ウクライナでの戦争における重要な局面だ。
米国とその同盟国はウクライナに西側のシステムを供給してきたが、ウクライナが入手する兵器の多くは、ウクライナ軍で最も広く使用されている旧ソ連製やロシア製の装備だ。しかし西側の武器ブローカーやウクライナ当局者によると、ロシアはこうした兵器をめぐり、しばしばウクライナより高い値を提示して競り勝ち、減少する自国の兵器在庫の増強を急いでいるという。
何十年にもわたりロシア製兵器を扱ってきた元米軍当局者は「(ロシアが)市場を囲い込めば、ウクライナは購入できない」と語った。この元当局者は現在、民間に勤務している。
ベン・ウォレス英国防相はワシントンで先月行われた説明会で、米英両国がロシア製の兵器やその他の装備の在庫を保有する23カ国を調査し、ウクライナ軍向けに購入し移転できないか探っていると述べた。
ウォレス氏は「われわれの支援の半分は『どこでこれを見つけられるか』という課題への対応だ。ロシアの在庫が急速に払底しつつあるため、一部の国で在庫を補充するために兵器を探すロシア人に会うことがあった」と述べた。
英国防省の報道官はウォレス氏のコメントについて詳細を明らかにしなかった。
ウクライナ国防省当局者らは困難な状況を認めているが、この問題について公にコメントしていない。
在米ロシア大使館の報道官は、コメントの求めに応じていない。
先月、ウクライナのために働いているチェコとポーランドのブローカーが、ロシア製装甲車と砲弾の入手に関する契約をブルガリアの供給業者と結んだところに、アルメニアの買い手グループが現れた。彼らは50%の上乗せ料金を払うことを申し出て、契約を勝ち取ることに成功したという。この交渉を知るウクライナの議員が明らかにした。
議員は「それがアルメニアに行かず、恐らくロシアに行くであろうことは確実に分かっている。彼らはわれわれが欲しがっているもの、そして、それがどこにあるかを分かっている」と話した。
ブローカーらによると、ロシア政府は、将来ロシア製システム向けの部品やサービスを提供しない可能性を示してさまざまな国を脅している。国防のためにロシア製システムに依存している国は多い。
兵器の取引に関与したことがある別のウクライナの議員は、「時々、何が起こっているのかが分からないことがある。自分が目にすることが妨害工作にしか見えないときもある」と述べた。
ウクライナ――そして、ウクライナ政府の支援に乗り出している米国と英国の政府――は時折、出遅れたために取引を逃したり、取引が目前で消えていくのを目撃したりしている。
前出2人目の議員は、「それはロシアの手際の良さ、そして、ウクライナとその支援国の情報機関の手際の悪さを表している」と話す。
ロシアは今年4月、ロシア製軍用輸送ヘリコプター「ミル17」11機をウクライナに供与するという米国防総省の提案に反対した。このヘリコプターは、米国がアフガニスタン軍のために2011年にロシアから購入したものだ。
ロシア国防省は、ウクライナに供与すれば、エンドユーザーに関する合意に法的に違反すると主張する声明を出し、供与が「国際法の原理とロシア・米国間の契約の条項に対するあからさまな違反となる」と述べた。
ロシア外務省の報道官は今月、同ヘリコプターに関して米国が購入契約上の義務に違反したとして、ロシア政府が正式に抗議したと語った。
同報道官は、「在米ロシア大使館は米国務省に対し、輸出国であるロシアの認識と同意なく、確立された外交慣行に違反してミル17をウクライナに供給する理由の詳細な説明を公式に求めた」と語った。
米国務省はこの問題に関する質問を国防総省に回したが、国防総省はロシア側の抗議に対応しなかった。
ロシアは米国に次いで世界第2位の武器輸出国である。ロシアの軍事装備および旧式のソ連兵器は、ロシアによる直接の売却に加え、米国やその他の西側諸国で登記しているブローカーによって売買されることも多い。
ロシアは現在、戦闘を続けるウクライナ政府向けの武器供給を停止するよう、これらブローカーに求めているとみられる。
現在は民間企業に在籍する元軍当局者は、「『(ウクライナ向けに)装備品を購入するのをやめなければ、今後一切、取引をしない。制裁措置を講じる』と言われたことがあった」と明かした。
西側の武器ブローカーらによれば、ロシア製兵器を売却したことで、ロシア政府から抗議を受けることはこれまで通常なかったという。
2001年の米同時多発テロ以降10年以上の間、国防総省や中央情報局(CIA)と契約のある武器ブローカーは、イラクやアフガニスタンへの支援を目的とするソ連製やロシア製の軍事装備品を購入してきた。ロシアの法律はこれらの販売に直接関与することをしばしば禁じたが、ロシア政府は自国製兵器の供給を拡大させる方法としてこうした取引を日常的に後押ししてきた。
ウクライナも何年にもわたり、ロシア製、ソ連製の装備を武器ブローカーや他国に売ってきた。
2014年にウクライナのクリミア半島をロシアが併合したことで、両国が軍事的に対立することになり、自国製兵器の売却に関するロシア政府の姿勢が突然変わった。少なくとも、ウクライナへの売却に関してはそうだった。
米国の防衛コンサルタントで、ロシアとウクライナで何年も活動してきたルーベン・ジョンソン氏は「かつてはどんな状況でもロシアが(自国製兵器売却に)異議を唱えることはなかった。今では『ちょっと待ってくれ。それはもう好ましくない』などと取引に口出しするようになっている」と語った。
ウクライナへの武器供与をロシアが妨害したとされる事例は、2月のウクライナへの全面侵攻開始以前から見られた。
チェコ当局は昨年、死者を出した2014年の武器弾薬庫での爆発について、ロシア軍の情報機関が関与していたと非難した。この施設からはウクライナに兵器が供給されていた。
2016年には、兵器関連のウクライナ当局者がキーウで男たちに誘拐された。ウクライナの元防衛産業関係者によれば、この当局者は、インドとの間で利益の大きい航空機部品取引の交渉を行っていた。インドはロシア製兵器の主要な買い手だ。ウクライナ当局者らは、ロシア情報機関のある人物がこの事件に関与していたと主張している。
2020年には、ブルガリアの検察がロシア人3人を、2015年にブルガリア人の武器ブローカー、エミリアン・ゲブレフ氏を強力な神経剤ノビチョクを使って殺害しようとした容疑で起訴した。ゲブレフ氏は、ウクライナ向けの武器売却の仲介にかかわっていた。
ロシアは、こうしたさまざまな事件への関与を否定している。
ゲブレフ氏は一命を取り留めた。しかしこの事件はその後、多くの国際的な武器取引関係者の間で、ウクライナ政府と取引しようと考えるかもしれない人たちへの警鐘と受け止められている。
●“和平”か“正義”か ウクライナめぐり揺らぐ欧州  6/17
「ウクライナの戦争をどう終わらせるかをめぐって、ヨーロッパが分断するおそれがある」。そう警鐘を鳴らしたのが、15日発表されたヨーロッパのシンクタンク「欧州外交評議会」の報告書です。報告書の詳しい内容とヨーロッパ各国の状況について、油井秀樹キャスターの解説です。
「欧州外交評議会」の報告書は、先月中旬に行った10か国8000人の世論調査をもとに、ウクライナの戦争でヨーロッパの世論が
   「和平派」35%
   「正義派」22%
   「どちらともいえない」20%
   「その他」23%
と分かれていると指摘しています。
和平派とは
「和平派」というのは「できるだけ早期に戦闘を停止して交渉を始めるべき」と考えている人たちで、戦争終了のためにはウクライナ側が多少の譲歩をするのもやむをえないとする人たちです。
正義派とは
これに対して「正義派」というのは、ロシアに侵略の代償を払わせ、ウクライナは国土を取り戻すべきと考えている人たちで、戦闘の長期化や死傷者の増加もやむをえないとする人たちです。
国別にみると
国別にみると、イタリアやドイツ、ルーマニア、それにフランスでは「和平派」が圧倒的に多いことがわかります。これに対してポーランドでは「和平派」が少なく「正義派」が多いことがわかります。今回の世論調査の対象には入っていませんが、バルト3国もポーランドと同様「正義派」が多いとみられ、報告書はヨーロッパの分断が顕著になりつつあると警告しているのです。
フランス ドイツ イタリア 3首脳がキーウに
16日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が、首都キーウにそろって列車で入りました。ヨーロッパの中でも「和平派」と称される国々です。3首脳は外交交渉を優先する姿勢で知られていますが、それは自国の世論を反映した姿勢ともいえます。特に「和平派」の多いイタリアでは、具体的に4つの段階を踏んだ和平案を提案しています。そのため、今回の訪問をめぐってはウクライナが求めるEUの加盟に向けた交渉開始を3首脳が認める引き換えにウクライナに和平案を迫るのではないかという臆測も出て、注目が集まったのです。
戦争をどう終わらせるのか 結束は揺らぎかねない
「欧州外交評議会」の世論調査では、戦争の結果ヨーロッパの状況がよくなると答えた人たちは「和平派」「正義派」ともに少なく、悪くなると答えた人たちが半数を超えています。こうしたことから、ヨーロッパでは戦闘の長期化に反対する人が増えていくとみられています。戦争をどう終わらせるのか。その問いに答えるのは一義的にはウクライナの人たちです。ただ、ウクライナを支える民主主義の国々は時間とともに結束が揺らぎかねない状況で、どう結論を導くのか問われています。
●ロシア情報機関の要員 ウクライナ戦争犯罪捜査の「国際刑事裁判所」に勤務 6/17
オランダの情報機関はロシア軍の情報機関員がブラジル人と偽って入国を試みウクライナでの戦争犯罪を捜査するICC=国際刑事裁判所でインターン勤務をしようとしていたと明らかにしました。
オランダの情報機関によりますとこの情報機関員はGRU=ロシア軍参謀本部情報総局に所属する36歳の男性要員です。
今年4月、33歳のブラジル人としてロシアとの関係を隠しオランダに入ろうとしましたが入国を拒否されブラジルに送還されたということです。
男性要員はロシアのウクライナ侵攻での戦争犯罪を捜査しているICC=国際刑事裁判所でインターンとして働こうとしていたということで、ICCの機密情報を盗むことや内部のシステムにアクセスすることが目的だったとみられています。
オランダの情報機関は声明で「男がICCで働いていれば捜査に影響を及ぼした可能性があり、潜在的な脅威は非常に大きかった」と指摘しています。
●独仏伊首脳、キーウ訪問 結束アピール 6/17
ドイツ、フランス、イタリアの首脳が16日、ウクライナを訪問し、同国のゼレンスキー大統領と会談、欧州主要国の結束をアピールした。一方、ロシア軍が大半を支配するウクライナ南部ヘルソン州の親露派暫定政府の幹部は同日、ロシア軍の侵攻が始まった2月24日以降に生まれた子供は「自動的にロシア国籍を受け取る」という考えを示した。ロシア軍の支配地域で進む事実上の「ロシア化」の動きがまた浮かび上がった形だ。
ウクライナの疑念払拭の思惑も 独仏伊首脳のキーウ訪問
ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相は16日、ウクライナを訪問し、首都キーウ(キエフ)で同国のゼレンスキー大統領と会談した。ロイター通信が報じた。6月下旬に欧州連合(EU)首脳会議、主要7カ国首脳会議(G7サミット)などが開催されるのを前に、欧州主要国の結束をアピールした。
侵攻後に誕生の子は「ロシア国民」 露軍支配地域
タス通信によると、ヘルソン州の親露派幹部のストレモウソフ氏は「孤児はすでに(ロシア)国籍を受け取っている」と述べた。保護者のいない子供を自動的に「ロシア国民」にしている可能性がある。
ロシア、欧州向けガス輸送量を削減
ロシア国営ガス大手ガスプロム16日、海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」経由でドイツなど欧州各国に送っている天然ガスの輸送量を減らした。ドイツなどは、欧州のウクライナ支援に不満を持つロシアが、ガスを「政治的に」利用していると非難している。
●“ウクライナをEU「加盟候補国」の立場に” 欧州委が勧告  6/17
EU=ヨーロッパ連合への加盟を申請したウクライナについて、EUの執行機関、ヨーロッパ委員会は交渉開始の前提となる「加盟候補国」の立場を認めるよう、加盟国に勧告しました。
EUのフォンデアライエン委員長は17日、記者会見を開き、EUへの加盟を申請したウクライナについて、交渉開始の前提となる「加盟候補国」の立場を認めるよう、ヨーロッパ委員会として加盟国に勧告したことを明らかにしました。
フォンデアライエン委員長は「ウクライナはヨーロッパの価値観と基準に沿っていきたいという強い願いと決意を明確に示した」と述べた一方、ウクライナには法の支配などの分野で多くの課題があるとも指摘しました。
EUは来週開かれる首脳会議で協議する見通しですが、ウクライナが「加盟候補国」として認められるにはすべての加盟国の同意が必要で、各国がどのような姿勢を示すかが焦点です。
ヨーロッパ委員会はまた、ウクライナと同様に、EU加盟を申請したモルドバとジョージアについても意見書を取りまとめ、モルドバを「加盟候補国」として認めるよう勧告した一方、ジョージアについては、まず政治や経済などの改革を進めるべきだとして、勧告はしませんでした。
ゼレンスキー大統領は17日、ツイッターにコメントを投稿し「ヨーロッパ委員会の判断を称賛する。これはEU加盟に向けた道のりの第一歩であり、われわれの勝利を確実に近づけるものだ。歴史的な決定をしたフォンデアライエン委員長や委員会のメンバーに感謝する。来週の首脳会議で前向きな結果が出ることを期待している」と歓迎しました。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、記者団に「EUでは、軍事や安全保障など防衛強化についての議論が活発に行われている。今回は軍事とは別の側面だが、われわれはこうした動きをもちろん非常に注意深く見ていく」と述べ、強い警戒感を示しました。
●ウクライナ“EU加盟”に前進も…ロシアは楽観視か 6/17
ウクライナはEU(ヨーロッパ連合)加盟“候補国”になることで戦況は変わるのでしょうか。逆にプーチン大統領を刺激することにはならないのか、専門家に話を聞きました。
フランス、ドイツ、イタリアの首相がキーウを訪問し、ウクライナのEU加盟が現実味を帯びてきました。この動きがウクライナ情勢にどのような動きをもたらすのでしょうか。EUの対外政策を研究している筑波大学の東野篤子教授に聞きました。
筑波大学・東野篤子教授:「(Q.ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)加盟はできず、EU加盟は前進。違いは何?)もともとヨーロッパの国には同盟選択の自由という原則があって、ウクライナはNATOに入るも入らないもEUに入るも入らないも自分の意思で選べるはず。ウクライナとしてはEUもNATOも入りたかったかもしれないけど、戦争まで起きている状態ではNATO加盟は無理。ということはEU加盟に全力を傾けるしかないという状況」
NATOは外部からの攻撃に対し、お互いに守り合おうという軍事同盟です。一方で、EUにも有事があった際に軍事支援をする規則はあるものの、主な目的は経済活動の結び付きとなっています。
加盟国内の移動にパスポートが必要なく、貿易でも関税が撤廃されるなど人、モノ、お金が自由に行き来できることが特長です。
しかし、ウクライナがEUへの加盟に前進する目的は“経済の結び付き”と別のところにあると東野教授は話します。
筑波大学・東野篤子教授:「(Q.ウクライナ側はなぜEU加盟を目指し、何を得ようとしている?)EUに加盟することによって、第一に“ヨーロッパの秩序の一員”であることを内外にアピールすることが重要になってきます。ウクライナというのは残念ながら、ロシアの意向を意識しないといけない。ロシアという隣国がいる以上、自分の国の運命を自由に得られる状況ではなくなった。その大きな証拠がNATOの加盟を断念せざるを得なかったこと。物質的な利益を得ること以上に、象徴的な意味でロシアの属国的な立場ではなく“ヨーロッパ秩序の一員”になることはウクライナにとって象徴的な意味がある。自分たちの将来への方向性はロシア側にはなくてヨーロッパ側にある」
ただ、今回各国が賛同したのはウクライナがEUへの「加盟候補国」となること。これはあくまで加盟するための入口に立ったという段階です。
プーチン大統領はそれを理解したうえで、今回は冷静な対応を取ると東野教授は予測しています。
筑波大学・東野篤子教授:「ロシアにとって驚異ではないし、今回はあくまでも加盟候補国としての地位を与えられたにすぎません。そこからものすごく長いプロセスが必要なことはロシアもよく分かっている。今回、加盟候補国の地位を与えられてもロシアとしては全く何も変わらないと理解していると思う。将来的にウクライナがEUの加盟国になるにしても、それはものすごく長い時間がかかるし、NATOのような軍事同盟に入るわけではないということは、ロシアとしてはNATOに比べるとEUの方が『加盟するんだったらまだまし』と考えている」
●「2年後にウクライナ存在せず」 ロシア前首相が挑発、反発広がる 6/17
ロシアのメドベージェフ前首相は15日、侵攻を受けるウクライナが「2年後の世界地図に存在すると、誰が言ったのだろう」と述べた。ウクライナが次の冬の燃料不足を見越し、液化天然ガス(LNG)購入資金を米国から調達して後から返済する案があるとの報道を受け、通信アプリに投稿した。
ウクライナ側は強く反発。現地メディアは「国の破壊がロシアの目的で、ドンバス地方の住民(保護)や北大西洋条約機構(NATO)の脅威が戦争の理由でないことをメドベージェフ氏が認めた」と指摘した。
ポドリャク大統領府顧問もツイッターへの投稿で「ウクライナは過去から現在、未来にかけて存在し続ける。メドベージェフ氏が2年後にどうなっているかの方が問題だ」と皮肉った。
メドベージェフ氏は2008〜12年にロシア大統領を務めた後、20年まで首相。現在は安全保障会議副議長の立場にある。最近、通信アプリで過激な投稿を繰り返し、今月7日には反ロシア勢力を「消滅させる」と記して物議を醸していた。
独立系メディアは5月下旬、ロシア大統領府関係者の話として、プーチン大統領の後継者になり得る人物として、メドベージェフ氏の名前も挙がっていると報道。ただ、支持率は低く、侵攻に乗じた人気取りという見方がもっぱらだ。
●東部拠点、南方から包囲網 ウクライナでロシア軍砲撃続く―英国防省 6/17
英国防省の17日の戦況報告によると、ウクライナ東部ルガンスク州で攻勢を掛けるロシア軍は16日から17日にかけ、同州の拠点都市セベロドネツク南方のポパズナ付近で攻撃を継続したもようだ。セベロドネツクの完全制圧を目指し、包囲網を狭める狙いとみられる。
ウクライナ軍参謀本部の16日夜の発表によれば、ロシア軍はセベロドネツクや、同市の西方を流れるドネツ川を挟んで隣接するリシチャンスクで、多連装ロケットシステム(MLRS)による砲撃を行った。
ロシア軍はセベロドネツクで、ドネツ川に架かる複数の橋をすべて破壊。ウクライナ軍支配地域と結ぶ補給路や脱出ルートを遮断し、包囲を強めている。一方、ドネツク州の要衝スラビャンスク付近でも攻撃を仕掛けたが、ウクライナ側が撃退したとされる。
●ロシア軍 東部で攻勢強める ウクライナは徹底抗戦の構え  6/17
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向け攻勢を強めていて、これに対し、ウクライナ側はヨーロッパ各国の首脳たちと結束を確認し、徹底抗戦の構えを強調しています。一方、軍事侵攻が長期化する中、イギリス国防省は、ロシアでは侵攻に懐疑的な富裕層などが国外に移ろうとする動きが続いていて、経済を悪化させる可能性があると指摘しています。
ロシア軍は、完全掌握を目指す東部ルハンシク州で、ウクライナ側の拠点セベロドネツクを包囲しようと攻撃を続けていて、アメリカ軍は15日、市の4分の3がロシア軍に掌握されたという見方を示しています。
ロシア側は、ウクライナ軍の部隊や市民が残っている「アゾト化学工場」に対し、市民を避難させるための「人道回廊」を設けると主張する一方、武器を置いて投降するよう呼びかけるなど圧力を強めています。
また、ロシア国防省は17日、東部ドネツク州でウクライナ軍の拠点を空爆し、兵士200人以上を殺害し兵器などを破壊したほか、南部ミコライウ州でも砲兵部隊などの攻撃によってウクライナ側の兵士350人以上を殺害したとしました。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、首都キーウを訪れたフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相、それにルーマニアのヨハニス大統領とも会談し「われわれはウクライナの完全な安全と領土の保全が保証されるまで戦い続けるだろう」と述べ、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
イギリス国防省は17日に発表した分析で、セベロドネツクについて「ロシア軍はセベロドネツク一帯を南側から囲もうとしていて、この24時間で勢いを取り戻そうと試みている」としています。
また、今回の軍事侵攻については「権威主義に向かうロシア国家の長期的な道筋を推し進めた」としたうえで、ロシア国内で侵攻に批判的な意見を抑え込む法的な動きが強まっているとしています。
その一方で「戦争への懐疑論は、ロシアのビジネスエリートや『オリガルヒ』と呼ばれる富豪の間で特に強いと見られる。1万5000人の富裕層がロシアを離れようと試みていて、侵略に反対しているか、経済制裁の影響から逃れようとしている可能性が高い。こうした集団脱出が続くと、ロシア経済への長期的な打撃を増幅させる可能性がある」と指摘しています。
●ウクライナ支援へ 日本政府 650億円の借款 追加実施へ  6/17
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナを支援するため、日本は650億円の借款を追加で行うことになり17日、JICA=国際協力機構とウクライナ政府が契約書に署名しました。
日本政府は先月、復興や経済対策の財源などとしてウクライナ政府に130億円の借款を行っていて、今回、650億円の借款を追加で実施します。
その窓口となるJICAは17日、山田順一副理事長とウクライナのマルチェンコ財務相がそれぞれ契約書に署名したと発表しました。
これを受けて、今月中にも650億円がウクライナ側に送金される予定だということです。
マルチェンコ財務相は「日本からの借款は、国民の生活に必要不可欠な公共サービスを提供するため活用している。財政支援が増額されたことに深く感謝している」とコメントしています。
JICAの山田順一副理事長は「ウクライナでは毎月50億ドルが不足するという国際機関の発表もあり、日本政府としても応分の負担をするという考えが背景にある。一般財政支援ということで、教育や医療の分野での使いみちもあれば、年金などに使うこともできると思う」と話しています。
また、「ウクライナでは避難先から戻る人も西部などで徐々に増えているので国外や国内の避難民だけでなく、帰国した人たちの支援事業にも活用してもらいたい」と話していました。
さらに、今後の支援については「地域によっては、意外に早く復興事業が始まるのではないかとJICAでは捉えている。がれきの撤去や住宅の再建など復興の分野でも遅れることなく日本の知見を生かせるよう努めたい」と述べ、JICAとしてもさまざまな形で支援を進める考えを示しました。
●軍事支援「全く無意味」 欧州3首脳のウクライナ訪問で―ロシア報道官 6/17
ロシアのペスコフ大統領報道官は16日、西側によるウクライナ軍事支援強化について「全く無意味だ。国にさらなるダメージをもたらす」と主張した。フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が同日、ロシアのウクライナ侵攻後では初めて首都キーウ(キエフ)を訪問したことを受け、支援強化に警戒感を示した。
ペスコフ氏は「これら3カ国の指導者と(ゼレンスキー大統領との会談に同席した)ルーマニア大統領が、ウクライナへのさらなる武器供給だけに集中しないよう望む」と強調した。
ロシアのメドベージェフ前首相もツイッターで、欧州3カ国首脳のウクライナ訪問を「無駄だ」と非難。欧州連合(EU)加盟を約束したり武器を供与したりしても「ウクライナが平和に近づくことはない」とけん制した。
●アフリカで食料危機深刻化 ウクライナ侵攻の「犠牲」に 6/17
ロシアによるウクライナ軍事侵攻で、アフリカが深刻な食料危機に陥っている。農業国ウクライナからの供給減で食料価格が高騰し、貧困層の生活は一段と悪化。大規模な飢餓が発生する恐れも指摘され、「戦争のもう一方の犠牲者」(英紙タイムズ)であるアフリカへの支援が急務となっている。
ロシアとウクライナは共に世界有数の穀物輸出国で、特に小麦や大麦の生産が盛んなウクライナは「欧州のパンかご」と呼ばれてきた。ところが侵攻後、インフラの破壊や物流の寸断で輸出が激減。ロシアも穀物や肥料の輸出を制限し、世界的な食料不足と価格高騰が起きている。
アフリカは両国への食料依存度が高く、危機の影響は甚大だ。もともと経済が脆弱(ぜいじゃく)で、新型コロナウイルス禍からの回復が遅れている上、近年は干ばつや洪水といった自然災害も多発。そうした中で起きた今回の食料危機は、人々の生活苦にさらなる追い打ちをかけ、飢える人や栄養失調の子供が増加している。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、打撃が特に深刻なエチオピアとケニア、ソマリアの3カ国では1500万〜1600万人が「深刻な食料不安」に直面しているという。
アフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領は今月初め、ロシアのプーチン大統領と会談し、アフリカの苦境を訴えた。プーチン氏はウクライナ産穀物の輸出支援を行う考えを示したというが、戦闘が激化の一途をたどる中、実行の見通しは不明だ。国際協力機構(JICA)上級審議役の加藤隆一氏はロンドンでの講演で、「食料価格の高騰が(アフリカの)治安に影響を与え、社会不安が増す恐れがある」と懸念を示した。
●侵攻後に誕生の子は「ロシア国民」 ウクライナ南部露軍支配地域 6/17
ロシア軍が大半を支配するウクライナ南部ヘルソン州の親露派暫定政府の幹部は16日、ロシア軍の侵攻が始まった2月24日以降に生まれた子供は「自動的にロシア国籍を受け取る」という考えを示した。タス通信が伝えた。ロシア軍の支配地域で進む事実上の「ロシア化」の動きがまた浮かび上がった形だ。
タス通信によると、ヘルソン州の親露派幹部のストレモウソフ氏は「孤児はすでに(ロシア)国籍を受け取っている」とも述べた。保護者のいない子供を自動的に「ロシア国民」にしている可能性がある。ロシア軍が約7割を支配しているとされる隣のザポロジエ州の親露派幹部も16日、「2月24日以降に生まれた子供はロシア国籍の受領を要求できる」と明かした。
ロシアのプーチン大統領は5月25日、ヘルソン、ザポロジエ両州の住民がロシア国籍を取得する手続きを簡素化する大統領令に署名した。両州では希望者へのロシアの身分証の配布が始まっている。両州はまだロシアに編入されていないが、ロシアの通貨ルーブルの流通などロシア化が一方的に進められている。
一方、ロシア通信によると、ウクライナ東部ドネツク州の一部を実効支配する親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」トップのプシーリン氏は16日、ロシア軍による「特別軍事作戦」が年末までに終わることを「強く望む」と述べ、作戦終了後にロシア編入を問う住民投票を行う考えを示した。一方で、「敵は(欧米諸国から)射程の長い深刻な武器を受け取っている」としてドネツク州の州境を越えて作戦が続く可能性も示唆した。
●プーチン氏は「正気でない」 ロシア元首相インタビュー 6/17
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権で初代首相を務めたミハイル・カシヤノフ氏(64)にとって、かつて仕えた人物がウクライナに全面侵攻したのは、最悪を超える悪夢だった。
カシヤノフ氏は、ロシアのウクライナ侵攻についてAFPのビデオインタビューに応じ、戦いは最長で2年続く恐れがあるが、ロシアは民主主義の道に戻れると確信していると語った。
2000〜04年の首相在任中、カシヤノフ氏は西側諸国との緊密な関係を支持していた。侵攻が始まる前の数週間は、他の多くのロシア人と同様、実際に侵攻するとは思っていなかったという。
プーチン氏のはったりではないと理解したのは、2月24日に侵攻が始まる3日前、指導部が招集され、劇場型の安全保障会議が開かれたのを見た時だった。「戦争が起こると悟った」
プーチン氏はもはや正しく物事を考えられていないと感じたという。「私は(安全保障会議に出席した)この人たちを知っている。彼らを見て、プーチン氏が既に正気でないと思った。医学的な意味ではなく、政治的な意味でだ」とカシヤノフ氏は述べた。
「私が知るプーチン氏とは別人のようだった」
プーチン氏に解任された後、カシヤノフ氏は野党に移り、クレムリン(ロシア大統領府)を最も声高に批判する一人となった。現在は野党「国民自由党」の党首を務めている。
「完全な無法状態」
旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元職員で、10月に70歳を迎えるプーチン氏は、この20年間で免責と恐怖に基づくシステムの構築に成功したとカシヤノフ氏は指摘する。
「これらは、プーチン氏が国家元首になったことで、ソ連末期よりも冷笑的かつ残酷な手法で運用されるようになったシステムの成果だ」
「本質的には、これは完全な無法状態に基づいたKGBのシステムだ。彼らが罰を受けることを全く予期していないのは明らかだ」
ウクライナ侵攻を受けてカシヤノフ氏はロシアを離れ、現在は欧州に住んでいると話した。だが、身の安全のため具体的な居場所を明かすことは差し控えた。
同氏の盟友でやはり野党指導者だったボリス・ネムツォフ元第1副首相は2015年、クレムリン近くで暗殺された。プーチン氏批判の急先鋒(せんぽう)として知られるアレクセイ・ナワリヌイ氏は、2020年に毒殺未遂に遭い、現在は収監されている。
カシヤノフ氏は、ウクライナが戦いに勝つことが不可欠だとし、「ウクライナが陥落すれば、次はバルト3国だ」と述べた。
また、戦いの結果はロシアの将来をも左右するとの見方を示した。
プーチン氏に屈辱を与えてはならないとするエマニュエル・マクロン仏大統領の提案には「全面的に」同意できないと主張。終戦に向けてウクライナに領土割譲を求める声もはねつけた。
「プーチン氏がそれ(領土割譲)に値するどんなことをしたというのか。それは実利主義に傾き過ぎた立場だ。間違っていると思うし、西側がそのような道を歩まないことを願う」
「甚大な課題」
カシヤノフ氏は、プーチン氏は最終的に治安機関が操る「後継者」に取って代わられるとみている。
しかし、「後継者」は長期にわたってシステムを管理することはできず、ロシアでは最終的に自由で公正な選挙が行われるようになると予想。「ロシアは民主主義国家を建設する道に戻ると確信している」と語った。
ただし、「脱共産化」と「脱プーチン化」には約10年かかると推定。「特に、この犯罪的な戦争の後では難しいだろう」とした。
ロシア人は、国家再建という膨大な課題に直面することになるとカシヤノフ氏は指摘。「何もかも新しく造り直さなければならない。基本的には、経済改革と社会改革をもう一度やり直す必要がある。これらは甚大かつ困難な課題だが、達成されなければならない」と述べた。
●プーチン「重病説」を再燃させる最新動画、脚は震え、姿勢を保つのに苦労 6/17
これまでたびたび健康不安説が唱えられてきたプーチンについては、本誌も「4月に進行がんの治療を受けた」とする米機密情報について報じた。そのロシア大統領を6月12日にクレムリンで撮影した動画が公開され、その姿にまたもや「病気」を疑う声が上がっている。
これはロシアの祝日「ロシアの日」にクレムリンで開催された式典での様子。映画製作者ニキータ・ミハイロフの表彰式に出席した69歳のプーチンだったが、その脚は震えているように見え、演説をしている間も姿勢を保つのに苦労している様子がうかがえた。
クレムリンの軍事関係者が運営しているとされるテレグラムのチャンネル「General SVR」によれば、プーチンは医師から「不安定な体調」を理由に、人前に長時間出ないよう勧められているという。
プーチンが国民の要望を直接聞き届ける毎年恒例のテレビ番組「国民対話」の実施が今年は延期されたが、これも医師の助言が理由だとチャンネルでは論じられている。「大統領の体調不良は、最近になってますます隠すのが難しくなってきている」
これまでプーチンについては、血液のがん、パーキンソン病、認知症などの「病気説」が浮上してきた。5月には元KGBエージェントで亡命者のボリス・カルピチコフが、ロシアの情報機関FSB(ロシア連邦保安庁)のスパイから伝えられた内容として、プーチンはがんの進行により医師から余命3年を告げられたと報じられた。
体の震えについては、4月にセルゲイ・ショイグ国防相との会談の映像が話題となった。この場でプーチンは右手でテーブルを12分ほども強く握り続けていた。
そうした中で、彼は鹿の角から抽出した血液を浴びるという「自然療法」を行っているとの真偽不明の噂も出ている。これはロシアのアルタイ地方でみられる「若さを保つ」ための療法だという。
ただセルゲイ・ラブロフ外相は、こうしたプーチンの「健康不安説」について「まともな人間なら大統領が病気になど見えないだろう」と一蹴している。
●習国家主席、プーチン大統領にロシアとの協力継続を希望 6/17
中国の習近平国家主席は6月15日(中国時間)、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行った。
習国家主席は「今年に入ってからのグローバルな動乱や変革に直面しながらも、中ロ関係は良好な発展の勢いを維持している」として、ウクライナ情勢などの問題が継続する中でも、引き続き中国とロシアとの友好関係は発展しているとした。
また「中国はロシアとの安定した長期にわたる実務的協力を希望する」として、今後も協力を継続するとともに、「中国はロシアと引き続き主権や安全保障などの核心的利益と、重大な関心事項に係わる問題で相互に支援し、両国の戦略的協力を密接なものとして、国連、BRICS、上海協力機構(SCO)などの重要な国際・地域組織の意思疎通を強化し、新興国と発展途上国の団結・協力を促進し、国際秩序とグローバルガバナンスのさらに公正・合理的な発展を推進したい」とした。
ウクライナ情勢について、習国家主席は「中国はウクライナの歴史的経緯と物事自体の是非により、独立して自主的に判断し、世界平和を積極的に促進し、グローバル経済秩序の安定を促進してきた。各方面が責任を持った方法によりウクライナ情勢を適切に解決すべきだ」として、従来からの主張を繰り返した。
習国家主席とプーチン大統領は北京冬季オリンピック開催に合わせ、2022年2月4日(中国時間)に北京市で会談を行い、両国は「終わりのない友好、禁止エリアのない協力」をうたう共同声明を発表している。
●欧州のガス配給制に現実味、ロシアが供給削減 6/17
ガーランド米司法長官は来週欧州を訪問し、ロシアのプーチン大統領とその側近への圧力を強める方法について協議する。
プーチン大統領は、米国とその同盟国が科した前例のない制裁をロシアは乗り切れると言明。制裁の結果、欧州は今年4000億ドル(約54兆円)を失う見通しだとも主張した。ただ、ロシアも近年まれに見る厳しい経済縮小に見舞われると見込まれている。
ジョンソン英首相は17日、キーウを電撃訪問し、新たな軍事訓練プログラムをウクライナに提供するとゼレンスキー大統領に伝えた。首相のキーウ訪問は戦争開始以降で2回目。前日にはドイツとフランス、イタリアの首脳がキーウを訪れていた。ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
欧州のガス配給制に現実味
ロシアが欧州向けの天然ガス供給を削減した。同国が主要な供給網を完全に遮断した場合、欧州では来年1月までに供給が底を突く恐れがあると、コンサルティング会社ウッド・マッケンジーは指摘した。
ガーランド米司法長官、欧州訪問へ
ガーランド米司法長官は米EU司法相・内相会議に出席するため22−23両日に欧州を訪問する。米司法省が明らかにした。ロシアに圧力をかけるため、同省は同国のオリガルヒ(新興財閥)の調査と資産差し押さえに取り組んでいる。ガーランド氏は、「ウクライナに侵攻したロシアに対抗し、より大きな代償を支払わせるための協調した取り組み」について欧州の当局者と個別に会談する予定。ウクライナでの戦争犯罪を可能にしている犯罪的行為を行う個人の責任を追及することが含まれるとした。アデエモ米財務副長官は、ロシアの海外資産凍結で支持を求めるため、トルコとアラブ首長国連邦(UAE)を来週訪問する計画。
プーチン氏に盟友カザフの大統領が異例の反対
プーチン大統領は17日、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで、ウクライナでの軍事作戦は国際法の下で合法的なものだと語り、戦争を正当化しようとしたが、近くに座っていた盟友カザフスタンのトカエフ大統領がこれに異を唱える予想外の出来事があった。プーチン氏は、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力が一方的に独立を宣言した「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」のロシア系住民を守ることが目的だと主張。これと同じ意見かとの司会者の質問に対し、トカエフ大統領はカザフとしてはこれらを国家としては認めないと答えた。
G7、ロシア産エネルギーに上限価格設定を議論−関係者
主要7カ国(G7)はロシアからのエネルギー輸入に上限価格規制を設定する案について準備を進めている。事情に詳しい関係者が明らかにした。ロシアのエネルギー輸出収入と価格を抑える狙いで、首脳間で議論される可能性もあるという。非公開の協議だとして匿名を条件に語った関係者によると、6月26−28日にドイツのバイエルン州で開かれるG7サミットの準備の一環として、メンバー国の首席交渉官がこのメカニズムを探っているという。ロシア産エネルギーに上限価格設定する案はイタリアのドラギ首相がこれまでに唱えているが、市場をゆがめる恐れや報復のリスクがあるとして複数の国は問題視している。
英首相、キーウを電撃訪問
ジョンソン英首相は戦争開始以降で2回目のキーウ訪問を果たし、ウクライナに新たな軍事訓練プログラムを提供するとゼレンスキー大統領に伝えた。英首相府が発表した。このプログラムでは120日ごとに最大1万人の兵士に訓練を施すという。ジョンソン首相が国内問題で圧力にさらされている際、首相府はウクライナに関連する首相の活動を大々的に発表する傾向がある。今回は15日に倫理担当の首相顧問が劇的な形で辞任していた。首相府は全く関連はないと否定している。
ロシアは制裁を生き残ることができる、プーチン氏主張
ロシア当局は「経済を徐々に安定化させつつある」と、プーチン大統領がサンクトペテルブルク国際経済フォーラムで語った。一部の欧州諸国は「特別軍事作戦」を行っていないが、高いインフレ率を記録していると指摘。「プーチンのインフレ」と呼ばれることもあるが、ロシアにその責任はないとし、世界的な物価上昇は米国や欧州の政策が原因だと非難した。
ウクライナの春まき、作付面積は予想下回る
ウクライナ農業省によると、国内農家の春まきが終了し、トウモロコシやひまわりなど穀物の作付面積は1340万ヘクタールと、予想の1420万ヘクタールを下回った。前年比では21%減で、戦争で同国農業セクターが被っている打撃が浮き彫りとなった。
ドイツからフランスへのガス供給が停止
ロシアが天然ガスの供給をさらに削減したため、ドイツからフランスへのガス輸送が停止された。欧州諸国が国境を越えたエネルギーの融通を維持できるのか試されている。フランスはドイツから15日以降全くガスを受け取っていないと、ドイツ政府が確認した。欧州中部に流入するガスが減ったことを理由に挙げた。ロシアは欧州にガスを輸出する主要パイプライン「ノルドストリーム」での供給を削減し、独仏両国は流入するガスの量が減少したと認めた。ハーベック独経済相は市場を動揺させ、価格を押し上げようとしているとしてロシアを非難している。
イタリア、ガス利用で緊急計画発動も−ロシアの供給回復しないなら
ロシアのガスプロムがガス供給を来週半ばまでに回復させない場合、イタリア政府は国内市場に対し緊急計画を発動する可能性がある。事情に詳しい関係者が明らかにした。これにより、気候変動対策のため2025年で閉鎖される予定だった石炭工場6カ所で生産が引き上げられる可能性もあるという。緊急計画には企業にエネルギー生産を自発的に抑えるよう要請することも含まれ得るが、工業生産には影響しないだろうと、関係者は語った。
ウクライナ、ロシア人入国に査証要求へ
ウクライナはロシア人に対する無制限の入国許可を打ち切り、7月1日から査証を求めると、ゼレンスキー大統領がメッセージサービス「テレグラム」の自身のチャンネルで明らかにした。
欧州委員会、ウクライナにEU加盟候補国の地位付与を勧告
欧州委員会は、ウクライナに欧州連合(EU)加盟候補国の地位を付与することを勧告した。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。実際の加盟までには長い年月を要するが、加盟に向けて象徴的な動きになる。
欧州ガス価格、週初から60%上昇
欧州の天然ガス価格は週初から約60%上昇し、ロシアのウクライナ侵攻開始以降で最大の週間上昇率となる勢い。ロシアの大幅な供給削減が欧州全体を揺るがしている。指標の先物価格は17日に一時8.4%高。イタリアのエネルギー大手ENIは17日、ロシアのガスプロムに要請した半分のガスしか供給されないとの通知を受けたことを明らかにした。前日も供給は要請の約3分の2にとどまっていた。
●プーチン大統領 演説へ 欧米との対決姿勢どこまで強めるか焦点  6/17
ロシアのプーチン大統領は、みずからが主導して開いている国際経済会議の場で日本時間の17日夜演説を行う予定で、ウクライナに対する欧米の軍事支援が一段と強化されようとする中、欧米との対決姿勢をどこまで強めるのかが焦点です。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれている「国際経済フォーラム」では、欧米や日本の企業が参加を見送る中、中国や中東、アフリカなどの国々の企業や政府関係者の姿が目立っています。
また、プーチン政権が一方的に国家承認した、ウクライナ東部2州の一部を支配する親ロシア派の武装勢力の幹部も参加するなど、ロシアへの制裁を強める欧米との断絶した関係が色濃く反映されています。
こうした中でプーチン大統領は17日の午後2時、日本時間の17日午後8時から開かれる全体会合で演説する予定です。
ロシア大統領府によりますと、全体会合では、中央アジア・カザフスタンのトカエフ大統領などが出席するほか、中国の習近平国家主席もビデオメッセージを寄せるということで、プーチン大統領としては、国際社会で孤立しているわけではないとアピールするものとみられます。
ウクライナ情勢をめぐってはフランス、ドイツ、イタリアの首脳が16日、そろって首都キーウを訪れ、結束して軍事支援を強化する姿勢を強調するなど、ロシアへの徹底抗戦を続けるウクライナに対する欧米の軍事支援が一段と強化されようとしています。
プーチン大統領の最側近の1人、パトルシェフ安全保障会議書記は15日、欧米による軍事支援やロシアへの制裁強化について「人為的に紛争を起こし、さらなる人的被害と破壊につながるだけだ」と反発していて、演説でプーチン大統領が欧米との対決姿勢をどこまで強めるのかが焦点です。
●制裁で打撃のロシア自動車産業への支援を指示 プーチン大統領 6/17
ロシアのプーチン大統領は16日、西側諸国の制裁を受けて大打撃を受けている国内自動車産業を支援するための方策を打ち出すよう政府に求めた。
ロシアの自動車産業と販売不振について話し合う会議の中で、プーチン大統領は「ロシアの自動車工場のパートナーは、長期的な約束にもかかわらず納車を停止したり、我々の市場からの撤退を表明したりした」ため、状況は「容易ではない」と述べた。
そして「自動車産業を支援し、国内市場を安定させるために、どのような迅速な措置を用意しているのか、より詳細に説明するよう政府に求めている」と表明。プーチン大統領によると、昨年に比べて生産量が激減し、すでに影響を受けているという。
プーチン大統領は「今、最も重要な課題は2つあると考えている。ひとつは、ロシア国内の自動車工場の仕事、必要な部品の供給、雇用の維持、有能な専門家のチームを確保することだ。もうひとつはロシアの自動車産業が、今年価格が高騰した乗用車を中心とする自動車の十分な供給を確保しなければならないことだ」と述べた。
ロシアの自動車販売はウクライナ侵攻以来、崩壊状態にある。 

 

●ソ連・フィンランド戦争とロシア・ウクライナ戦争 6/18
ロシアウクライナ戦争によって、改めて1930年代もしくは第二次世界大戦期のソ連を中心とした戦争の歴史に焦点が当たってきた。かつてのソ連をめぐるヨーロッパの戦争の歴史を知ることが、現代ロシアが行っているヨーロッパでの戦争の行方を占う大きなヒントとなるからである。
その場合、特に参考になるのはソ連・フィンランド戦争であろう。大国ソ連が小国フィンランドにしかけ苦戦した戦争だからである。ロシアウクライナ戦争と共通点が多いのだ。その点、独ソ戦は今回の場合あまり参考にならない。
独ソ戦は独・ソの2大軍事大国が総力をかけた大戦争だからである。大国ソ連が小国フィンランドにしかけ、欧米諸国がフィンランドを支援したことで苦戦したソ連が講和に向かったソ連・フィンランド戦争の歴史こそ最も参考になるのであり、知られるべきなのである。ロシア・ソ連とはこういう場合どのような戦争をする国なのか。
ところが、それを知りたいと思っても、驚かされるのはこの時代のソ連をめぐる戦争・外交史についての本には、わかりやすく正確なものが少ないことである。30年代といえば、ヒトラー(ドイツ)とスターリン(ソ連)という2大独裁者が強大な権力を背景に権謀術数の限りを尽くした時代と思われるが、その真実が十分に描かれた本が少ないのである。現代国際政治の実態を学ぶのに、ある意味では最も興味深い時代なのだから随分奇妙なことになっているともいえよう。
そうした中、ソ連フィンランド戦争をめぐる国際関係史については邦語では百瀬宏『東・北欧外交史序説』が知る人ぞ知る定評ある名著である。しかし、現在は入手できない。そこで、ここでは百瀬著を参考にした石野裕子『物語 フィンランドの歴史』を採り上げることにした。
ソ連・フィンランド戦争に至る歴史
1939年8月の独ソ不可侵条約前後から話を始めなければいけないが、そのあたりについては斎藤治子『独ソ不可侵条約』(新樹社)、三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』(朝日選書)などが参考になるのでこれらを参照しつつ、独ソ不可侵条約からソ連・フィンランド戦争に至る歴史を以下見て行くことにしよう。
1930年代、ソ連の有力な敵手となったのはヒトラーナチスドイツであった。ワイマール共和国の政権をめぐってもナチスと共産党は激しく争ったが、政権奪取後にもヒトラーナチスの有力な敵は共産党・スターリンソ連であった。
スターリンソ連は、 35年のコミンテルン(世界の共産党の指導組織。各国共産党はその下部組織)7回大会で「ファシズムは、多くの反動の中でも、解き放たれた暴力的な独裁であり、最も熱狂的な愛国主義であり、資本主義の最も帝国主義的な要素である」としている。これがマルクス主義によるファシズムの定義であり、これに基づき人民戦線戦術(共産党以外の反ファシズム勢力との統一戦線を結成すること)が採用されたのであった。ヒトラードイツはそのファシズムの典型であり、世界中の共産党・共産主義者は最も危険な敵としてその打倒に心血を注いでいたのであった。
したがって、39年8月に独ソ不可侵条約が締結された時の世界中の共産主義者の衝撃は極めて大きいものがあった。最も主要な打倒対象とされていた「資本主義の最も帝国主義的な要素」ファシズム=ナチスドイツと「世界の労働者の祖国」と言われたソ連が不可侵条約を結んだのだから、(それまでの経緯からして)多くの共産主義者たちは立ち直れないほどの大きなショックを受けたのであった。
このために共産主義を信じられなくなり放棄した世界の知識人たちの様子はヴォルフガング・レオンハルト、菅谷泰雄訳『裏切り ヒトラー=スターリン協定の衝撃』(創元社)によく描かれている。米国の共産主義者の中にも、このショックのために共産主義を捨てて保守主義へ転向した人は少なくなかった。
ラインホルド・ニーバーの次の言は30年代の米国知識人の幻滅を代表するものと言われる。「ロシアが大国としてなしたことは理解できることである。しかし、ロシアが社会主義の祖国であり、世界各国の幾百万という人民戦線派の人々が身を捧げた国であることを思えば、ロシアのしたことは卑しむべきことである」。
このように、この条約のため米欧の共産主義運動は深刻な打撃を受けたのである。しかし、この時世界の共産主義者はもっと驚くべきことを知らなかったのだった。
共産主義者のさらに大きな驚き
この不可侵条約には秘密議定書があった。そこでは、フィンランド・バルト三国・ポーランドに属する領域の「領土的・政治的変更の場合」の、「ドイツとソ連の利益範囲の境界」が決められていた。また、ルーマニアのベッサラビア地方については「ソ連の利益」が強調されていた。
平たく言うと、ドイツはポーランドの西半分を自分の領土にする、東側からはソ連が入ってソ連領にするということであり、その周辺地域の配分も決められていたということである。これは第二次世界大戦後に知られたことであって、当時は全くの秘密であった。いずれにせよ、ポーランドら対象とされた国の独立性・自主性を全く無視した2大軍事大国による領土分割決定という典型的帝国主義的政策であった。
ドイツとポーランドはダンツイッヒとポーランド回廊といわれる地を巡って抗争を続けていたので、これを名目に1939年の9月1日にドイツ軍はポーランドに侵入した。ドイツ軍は185万人に対しポーランド軍は95万人と2倍、戦車は2800両対700両で4倍、航空機は2000機対400機で5倍であった。
ポーランド軍は総崩れとなり、ワルシャワが包囲された17日に今度はソ連が東側からポーランドに侵入した。32年に結ばれたソ連・ポーランド不可侵条約は無視された。ソ連のモロトフ外相は駐ソ連ポーランド大使に宣戦布告を告げ言った。「ポーランドの首都としてのワルシャワはすでに存在しない。ポーランド政府はすでに崩壊して、その息の根は絶えた。これはつまり、ポーランドという国家および政府は事実上消滅したということである。ソビエト連邦とポーランドの間で結ばれた協定についても、同じように無効になったということだ」。
ポーランドは抵抗したが、東西からの軍事大国の挟撃の前に敗れるしかなく10月5日までに戦闘は終了する(亡命政府はフランスを経てロンドンに至り、なお2万5000のポーランド人が英国で「祖国解放」を期した)。両国はポーランドを分割、ポーランドは史上3回目の「亡国」状態となり、東側1200万人・20万平方`メートルをソ連に奪われたのである。また、この軍事行動を起こす時ソ連のモロトフ外相は、ソ連系少数民族の保護を名目にしていることも忘れてはならない。
9月28日、リッベントロップ外相がモスクワを訪問、独ソ国境友好条約が結ばれた。エストニア・ラトヴィアに加えリトアニアをソ連の利益範囲とし、ポーランドのルブリン管区とワルシャワ管区の一部をドイツの利益範囲とするというものであった。ソ連の強い希望によるものと言われている。
さらに、ソ連は100万余人のポーランド人をシベリアに送り、それとは別に捕まえた約2万2000人のポーランド人将校・官吏・警官・聖職者などをソ連のスモレンスク付近のカチンの森に連れて行き虐殺した。41年に発見されたが、ソ連はドイツによる犯行と主張し続け冷戦後の1990年にやっと自分の犯行と認めた。
第二次世界大戦の幕開け
英仏は8月25日、ポーランドとの相互援助条約を結んでおり、それに基づき9月3日にドイツに対し宣戦を布告しヒトラーを落胆させた。
こうして第二次世界大戦が始まった。(2019年9月、欧州議会は「ナチスとソ連という2つの全体主義体制による密約が大戦に道を開いた」という決議を採択、これに対しプーチンは21年7月出版物などでナチスとソ連を同一視することを禁止する法案を成立させた。)
ただし、英仏両国はドイツに宣戦布告をしただけで、戦闘をほとんどせず、「奇妙な戦争」と呼ばれる状態が続いた。ポーランド戦役の間ドイツは西部国境に主要な軍隊をほとんど置かず、10月6日ヒトラーは国会で演説し英仏に和平を訴えた。
さて、独ソ不可侵条約の秘密議定書に続く独ソ国境友好条約によって、バルト三国がソ連の利益範囲となることが決められていたが、ほぼそれに従ってバルト三国に対しては9月19日から10月10日の間にソ連との相互援助条約の締結が強要された。三国はソ連の陸海空軍への基地提供を認めるしかなかった。エストニアの場合、モロトフから、沿岸をソ連海軍が防衛することが伝えられ、続いてソ連軍の駐留・軍事基地建設と相互援助条約の締結が要求され、拒否すれば軍事力を行使することも伝えられた。条約に調印すると2万5000のソ連軍が入り島や港湾に陸海空軍の基地が建設された。
この後、これから述べるようにソ連はフィンランドへの戦争を始めるので、本格的侵略が始まるのはソ連・フィンランド戦争後の翌年6月になるが、3月からバルト三国内で共産主義者の活動は活発化した。
そして、英仏に対しドイツが40年春から本格的戦争を行い、フランスの敗北がはっきりしてくると、5月25日ソ連からリトアニア政府にソ連軍兵士が誘拐拘束されたという非難文書が届けられた。リトアニア政府は調査を提案したが無視され、結局メルキス首相がモスクワに呼びつけられた。6月14日深夜、ソ連軍の無制限駐留・親ソ連政権樹立を骨子とした最後通牒がモロトフから発せられた。ソ連軍は国境近くで侵攻準備をし、バルト諸国の海と空の封鎖が始められた。15日朝にはソ連軍は複数のリトアニア国境検問所の攻撃を始め国境警備兵の死者・誘拐が出始めた。リトアニア政府は最後通牒受諾を決め、午後には赤軍第3軍・11軍がリトアニア侵入占領に動き始めた。メルキス首相は辞職させられ、特使がリトアニアに派遣され新内閣の組閣を指揮することになった。
6月16日、エストニア・ラトヴィア政府にも覚書が届けられ、ソ連との条約を遂行できる新内閣の組閣と無制限のソ連軍の駐留が要求された。
17日、両国とも最後通牒を受諾するしかなく、受け入れると同日すぐにソ連軍が進軍、同時に親ソ政権樹立のための特使がモスクワから来着した。19日までには三国は完全にソ連の占領下におかれ、ラトヴィア・エストニアの大統領はソ連に強制連行され、リトアニア大統領だけが脱出に成功した。
7月、共産党以外の政党は非合法化され、反共産主義者と見なされた人は逮捕され、共産主義者のみの候補者名簿の選挙が行われ、それによって選ばれた人民議会がソビエト共和国を宣言しソ連邦への加盟を申請した。
結局8月6日までにバルト三国はソ連に併合され消滅した。その後、秘密警察(内部人民委員部)を中心としたソ連の強権ですさまじい弾圧が行われ少なくとも約5万人以上の国の指導者と国民の逮捕処刑・シベリアなどへの国外追放・強制移住・行方不明が実行されていった。
続いてソ連はルーマニアのベッサラビア地方と北ブコヴィナの併合も実施する。1940年6月26日ルーマニアに対し、ベッサラビア地方と北ブコヴィナの割譲さらに軍隊の4日以内の撤退を要求する最後通牒が出された。聞かなければ軍事力を行使するとしていた。そこは5万1千平方`メートル、人口375万人の地域であった。2日後にルーマニア軍は撤退を開始、この地域もソ連に併合される。
北ブコヴィナをソ連領にすることは秘密議定書にはないことであった。多数のドイツ人が居住し旧オーストリア王室領であるブコヴィナへのソ連の要求を聞いた時、ヒトラーはバルト三国に対するのとは違い衝撃を受けたことが周囲に察せられた。このためリッベントロップはベッサラビアにはドイツ政府は条約に従って異議を唱えないがブコヴィナは全く聞いてないことをソ連に伝えた。モロトフはブコヴィナへの要求は北ブコヴィナに限定すると回答しただけだった。これが、ヒトラーの大きな不信を招いたことは間違いないと見られている。独ソ関係を大きく悪化させたのは、この秘密議定書に違反したソ連のルーマニア領併合であったとも言えよう。
後に述べるように39年秋から冬にかけてのソ連フィンランド戦争においては、ドイツは親ソ連的であったが、バルト三国に大軍を集結侵入させたり、秘密議定書にはない北ブコヴィナ地域を併合したりしたのだからドイツの側にソ連に対する不信が生じたことは当然であったともいえよう。ドイツはこうしたソ連のやり方に大きな不信を抱き、この不信は結局ドイツのソ連侵攻の一因となる(三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』)。もっともヒトラー(ドイツ)がスターリン(ソ連)を警戒していたようにスターリン(ソ連)もヒトラー(ドイツ)を警戒していたわけで大差なく、資質の欠けた大国リーダーの存在が世界に大きな不幸を招くことがわかる。
なお、このバルト三国併合のころリトアニアで領事をしていた杉原千畝が「命のビザ」を発行し、多くのユダヤ人を救ったことは事実だが、以上で分かるようにリトアニアを併合しこの地域のユダヤ人を圧迫したのはソ連であってナチスドイツではない。
ソ連によるフィンランド侵攻とは
それではソ連によるフィンランド侵略はどのように行われたか。1939年10月、レーニングラードの安全保障と称してソ連はフィンランドに対して領土交換を提唱した。ソ連が要求したのは安全保障上の要地であり、見返りは重要性の乏しい地域であった。
フィンランドは交渉したが、結局交渉は11月13日に決裂した。フィンランド軍は10月中に動員をかけていたが、戦争を予期せず21日には一部動員を解除していた。「ソ連が戦争を仕掛けるとはほとんどだれも考えなかった。軍事専門家たちは、冬季の対フィンランド作戦はおそらくソ連の利益にならないと主張した。もちろんその通りなので、スターリンが利益にならないようなへまをやるとは予想できなかった」。
26日、ソ連のモロトフ外相は駐ソ・フィンランド公使を呼び、フィンランド政府に宛てた覚書を手交した。それはカレリア国境マイニラでフィンランド軍が発砲しソ連兵が死亡、フィンランド兵がソ連領に侵入したと主張していた。今日、ソ連軍が先に発砲したことは明らかになっている。
フィンランドは、当時当該地域に発砲できる部隊はいなかったと反論、協議する用意があることなどを伝えたが、4日後の11月30日朝、ソ連陸軍がカレリア地峡の国境線を越えてフィンランド領内に侵攻、同時にソ連空軍機がヘルシンキを突然空爆した。こうしてソ連フィンランド戦争が始まる。32年にソ連とフィンランドの間には不可侵条約が締結されていたのだがこれは平然と破棄された。
開戦初期の12月2日に占領した国境沿いの町テリヨキに、亡命していた共産党政治局員クーシネンを大統領(首相)とするフィンランド民主共和国が樹立されたとモスクワ放送は発表した。クーシネンはフィンランド国民に解放のアジテーションをし、ソ連政府にフィンランド解放のための正式な援助要請を行った。ソ連政府はクーシネン政府のみをフィンランドの正統政府と認めそのほかの政府とは交渉を持たないと宣言した。
続けてソ連の要求をすべて認めた相互援助条約が結ばれている。ソ連の狙いがフィンランドの併合にあったと見られる所以である。「すべては茶番であった。クーシネンはモスクワにいて、おそらくテリヨキに行ったことすらなかった」。
この後、ソ連はさらに、このフィンランド民主共和国を通じてソ連の攻撃はフィンランドの労働者階級を守るためだと訴えた。ソ連はフィンランドとの戦争を、フィンランドの「反動的な金権政府」に対して成立した「民主共和国」を援助する「解放戦争」という規定を与えようとしていたと見られるのである。10月頃にフィンランド国内の共産党地下組織から「ソ連軍に呼応した自発的革命の可能性を保証した報告を受けたうえで、軍事行動への踏切りが決定されたらしい」のである。
しかし、この試みは失敗する。フィンランド国民はその抵抗によってソ連軍に解放軍のイメージを与えることを許さなかったし、クーシネンの「民主共和国」の綱領中の「白色フィンランド」という表現は20年前のものであり現実のフィンランド共和国の実態とはかけ離れており、綱領に掲げた土地改革・8時間労働制の実施などはすでに実現していたからである。
さらに、フィンランド共産党指導者による、ソ連政府・コミンテルン指導部に対する公然たる反逆事件も起きる。すなわち、フィンランド共産党幹部の一人トウオミネンは『フィンランドの労働者同志とゲオルグ・ディミトロフ(コミンテルン書記長)に宛てた私の手紙』というタイトルの小冊子を刊行し「ソ連の対フィンランド攻撃は、民族自決の原則・平和政策にもとり、ソ連国民と全世界の労働者にたいする犯罪であるとして糾弾する」という態度を表明したのだった。
こうして、フィンランド共産党地下組織の報告に基づき、ソ連軍の行動により呼応した革命が起こり、クーシネン政権が支持されるというモスクワの指導部の構想は破綻したのであった。「現実には、フィンランド国内には目立った反抗らしい動きはみられず、国民は対ソ抵抗に結集したのであった」。
しかし、彼らは簡単には諦めなかった。この戦争の結果、共産党政治局員クーシネンのフィンランド民主共和国は結果を出せなかったが、戦争後の40年5月に「ソ連・フィンランド友好協会」が結成され、フィンランド共産党はこの大衆団体を通して「大衆示威の練度を高めようとする一方、武装蜂起に備えた党独自の軍事組織の強化を図って」フィンランドの公安警察との軋轢を招くことになるのである。武力による「解放」・親ソ政権樹立という構想を一貫して保持していることが理解されよう。
世界的な「フィンランド」支援の動き
さて、次にソ連・フィンランド戦争をめぐる世界の動きを見て行くことにしよう。ソ連フィンランド戦争が起きると、英・米・仏・「イタリア」などの世界では熱狂的なフィンランド支援の動きが起きた。
「ルーズベルト大統領は『フィンランドの強奪』と述べ、英・チャーチルはソ連の侵略を『高潔な人びとへの卑劣な犯罪』と呼んだ。フランス政府はソ連の通商代表部の閉鎖を命じた。イタリアは駐ソ大使をモスクワから召還した。ウルグアイからの激励の書簡はフィンランド議会で厳粛に朗読された」のだった。
義勇兵はスウェーデン8000人、デンマーク1000人、ノルウェー700人、ハンガリー450人、米国350人、英国230人、イタリア150人などで、そのほかカナダ・オーストラリア・アルゼンチンなど多くの国から申し込みがあった。また、英国から戦闘機42機・爆撃機24機、フランスから戦闘機30機をはじめ各国から大量の砲・銃・弾薬・装備品の支援が行われたのである。
そしてそうした世界の世論を典型的に表したのが、12月14日ソ連が国際連盟から追放処分を受けたことであった。
12月3日、国際連盟においてフィンランド代表ホルスティはソ連の侵略行為を提訴した。これに対し、ソ連はこれを拒否し、フィンランドと戦争状態はなくソ連と友好条約を締結したフィンランド民主共和国と平和な関係を維持していると回答したのだった。国際連盟総会はソ連欠席で開かれ、13カ国からなる調査委員会が設置された。 
調査委員会は、ソ連のフィンランドに対する行動を非難し、全連盟加盟国はフィンランドへの物質的人道的援助を実施しフィンランドの抵抗を減退させるいかなる行動も差し控えること、代表派遣を拒否したことによりソ連は自ら国際連盟規約の外に自身を置いたことになる≠ニした決議を総会に付託した。こうして、12月14日、国際連盟総会はこの委員会決議を採用、連盟理事会は国際連盟規約第16条によってソ連の追放を決定したのである。
こうした事態を背景に12月19日、英仏間の最高戦争会議において、「フィンランドに対してあらゆる可能な援助を与え、またスウェーデンとノルウェーに対して外交活動を行なうことの重要性」が確認された。その背後には,フランスのダラディエ首相によるフィンランド救援のためドイツの戦争遂行上死活の意味を持つスウェーデンの鉄鉱生産地占拠を目指す英仏側による先制攻撃の提案があった。
以後、この件は曲折を経て、40年2月5日英仏首脳の参加した最高戦争会議において、スウェーデンの鉄鉱生産地奪取を目的とするノルウェー西岸への上陸作戦のため英国軍を主力とする遠征軍を派遣することが決められた。この遠征軍は10万人規模とされたが、それにはスウェーデン・ノルウェー政府の同意が必要であった。しかし、国民にはフィンランド支持も少なくなく多くの義勇兵も出していたが、ソ連・ドイツから警告を受けた両政府は中立的地位破棄の危険を冒すことを恐れ英仏へ好意的立場をとることはできなかった。
一方、フランスのダラディエ首相が参謀本部に黒海沿岸のソ連油田地帯の破壊工作の検討を命じたところ、40年2月22日参謀本部はこの地域の爆撃で独ソを屈服させうると答申した。独ソを同程度の敵と見なし、ドイツを打倒するため資源提供者もしくは弱い方のパートナーソ連を叩こうとしたのである。
米国では熱狂的フィンランド支持の声が起こり、反ソ熱が猛烈に盛り上がった。それは「異常」とまで言われるほどであった。ただ、孤立主義の強い同国において、そこには微妙なところがあり、結局実質的にはブラウン法案というフィンランドへの借款を導いた法案を成立させた程度であった。しかし、英仏のフィンランド援助計画は米国世論の盛り上がりをもとに米国を孤立主義から脱却させることを期したものであり、やはり両国の背後に米国があったことも否定できないと見られている。
ファシズム・イタリアもフィンランド支援に熱心であった。ソ連・フィンランド戦争が起きるとローマでは警察の規制が全くない学生の過激なデモがソ連大使館に対して行われ、続いて政府に認められたイタリア義勇軍兵士参加や多くの支援軍需物資輸送がフィンランドに行われた。12月、到着した新任のソ連大使は国王に謁見されぬまま帰国し、翌1月ソ連駐在イタリア大使は本国に召還された。
西欧諸国世論の圧倒的ソ連批判とフィンランド軍の善戦はソ連赤軍の威信を大きく低下させており、ムッソリーニ・イタリアはヒトラードイツの支持などできなかったのである。40年1月ムッソリーニはヒトラーに書簡を送り、イタリアは「勇敢な小国フィンランドに好意を寄せている」ことを告げ、ヒトラードイツの国際的地位を警告、英仏との大戦争は望まず、ドイツの対ソ友好を激しく批判したのだった。
しかし、ヒトラーはこれに冷淡で3月になってようやく返事を送り、ムッソリーニの書簡を全面否定し、ソ連のフィンランドへの要求は合理的であり、ボリシェヴィズム(ソ連共産主義)は「ロシア民族国家のイデオロギーと経済に発展しつつある」がゆえにソ連との友好的・経済的相互依存は可能であると断言したのだった。
スターリンの「弁明」
では、ドイツ自身はどうかというと、フィンランド国民の期待を裏切り、イタリア・ハンガリーからドイツ経由でフィンランドに送られるべき支援軍需品を差し止めただけでなく返送したのだった。
そして、さらにフィンランド政府の再三にわたる紛争調停の要請も拒絶し通している。このようにこの時世界でソ連の味方はほとんどドイツだけであった。第二次大戦はどういう組み合わせになるかまだ決まっていなかったのである。
さて、戦争自体はどのように展開したか。両軍の戦力についてははっきりしないことが多い。ソ連軍45万人・フィンランド軍30万人余、この方面のソ連軍24万人(戦車1000両)・フィンランド軍14万人(戦車60両)、ソ連軍約40万人(主力の第7軍約20万)などである。いずれにしても、数字的にソ連が圧倒的に優位であることは間違いなかった。
しかし、フィンランド軍は激しく抵抗し善戦、作戦期間を10〜12日間と考えるなど見通しの甘かったソ連は戦争体制の根本的立て直しをせざるを得なかった。
すなわち、1940年2月にソ連軍はレーニングラード軍管区のみの担当であった戦争を参謀本部が直接指揮をとるソ連軍全体の戦争としたのである(「ソ連軍の半分60万」を増員した戦争体制としたと言われる)。
500機を動員した空軍の援助のもと赤軍は前進、カレリア地峡では30個師団に達したという。フィンランド側の動員力は底をつき、第一次防衛線は突破された。しかしなお激戦が展開されたが、スウェーデン駐在ソ連公使コロンタイによる和平交渉が開始されることになる。この時、モロトフは交渉相手として、それまではクーシネン政権しか認めていなかったものがフィンランド政府を認めたのでソ連の対フィンランド政策の根本的変化は察せられた。
なお、交渉のためストックホルムを訪れたフィンランド外相の密使左翼知識人ヴォリヨキはソ連側使者の態度に「彼らはかつての仲間であったロシア革命当時のボリシェビキとはまったく別者になっていた」と外相宛てに報告している。ロシア革命当初の共産党とはかなり変質したものとなっていることがうかがえるのである。
こうして、ソ連軍の攻勢にフィンランドが劣勢となる中、戦況による講和条件の悪化と英仏連合軍の援助とのどちらを重視するかがフィンランド政府の運命を決めることになって来た。
2月23日、フィンランド政府はスウェーデン政府を通してソ連の詳細な和平条件を知らされたが、カレリア地峡などの割譲や長期貸与など極めて厳しいものであった。そこで、フィンランド政府はスウェーデンに正規軍の派遣と英仏連合軍の通過の了解を求めた。スウェーデンは再度拒絶したが、それでも英仏は、5万人のフィンランド救援のための兵力を準備しており3月15日にはナルヴィクに出発させる旨、3月初めフィンランドに約し戦争の継続を求めた。
しかし、スウェーデン・ノルウェー政府がなお同意しないため、ついにダラディエは同意がないままの強硬介入を主張、英国も同調し、ノルウェーへの強行上陸を実施しようとした。
3月8日、フィンランド政府代表団がモスクワに到着、休戦交渉が開始された。やはり厳しい条件だったので、これがヘルシンキに伝えられると英仏からの援助を受けるべきだという意見が巻き起こった。しかし、戦える力のあるうちに講和を結んだ方が得策だという議論がこれを制し12日、平和条約が調印された。
3月13日平和条約が実現したことが報じられたので、すでに準備の始まっていた英仏のフィンランド支援作戦は停止された。ただ、ノルウェーの中立を犯すノルウェー領海内への機雷敷設はその後実施されるので、これに対しヒトラーもデンマーク・ノルウェー作戦を実施、結局フィンランド支援をめぐる北欧作戦は「奇妙な戦争」を終わらせる一因になった。また、フランスではこの作戦失敗のためダラディエ政権は崩壊する。
戦争全体についての被害についてもやはりはっきりしないことが多いが、ソ連軍の死者12〜13万人・負傷者26万4000人以上、フィンランド軍死者2万3000人、負傷者4万3000人という数字は比較的信頼できるものと言えよう<ほかにソ連軍死者20万人〜25万人・負傷人者60万、フィンランド軍死者2万4923人、負傷4万3557人,という数字もある。>いずれにせよ、ソ連側の被害が非常に大きいことがわかる。
スターリンは40年4月の会議で、フィンランドとの戦争はレーニングラード防衛のため不可避だったと弁明したが、犠牲者があまりに多いので弁明せざるを得なかったのであり「軍部の誰一人として、彼の発言をそのまま受けとらなかったであろう。やがて、「冬戦争」として知られるようになる、この戦争はスターリンが生きている間は、「忘れられた戦争」になった」。
耕地面積の約10%を削減され、約40万人が移動させられるなど領土的には平和条約はフィンランドに不利なものであったが、善戦によりフィンランドは、議会政治などの自由主義的政治体制、そして何よりも独立を守り通したのであった。これを「冬戦争の驚異」という。
ソ連(ロシア)の行動パターン
以上からわかるようにソ連の行動パターンはかなりの程度決まっていると言えるであろう。ソ連の安全保障にとって必要と決めると、相手が小国であっても、国境に大軍を集めて威圧するなどし、領土交換・割譲などを要求、またその地域のロシア系住民の保護を掲げて、戦争を仕掛け、自ら指導する民主共和国などを作って支配・併合していくのである。
米国の社会科学者フレデリック・シューマンは、ポーランド・バルト三国までのソ連の行動はマキャヴェリズムとして礼賛していたが、フィンランドに攻め込んだ時にはさすがに侵略として批判の声を上げたのだった。「一九三九年までにはスターリニズムの本体に目覚めるべきであり、フィンランド以後もソヴィエットが進歩のシンボルであるという自己欺瞞にしがみついた者は、アメリカのリベラリズムの伝統に反する。三〇年代を生き抜いて来たアメリカ知識人の多くは、以上のように考えるに至った」。
ソ連が和平に応じた原因として、軍事的背景が第一に挙げられる。すなわち、短期決戦による軍事的勝利とフィンランド政府の崩壊という見通しがはずれ、本格的軍事作戦を余儀なくされ、その結果自ら作った傀儡政権によるフィンランドの革命・解放の援助などという看板は空疎なものになったのであり、通常の政府を相手にした通常の戦争たらざるを得なくなったのである。
しかし、そればかりではなく、英仏によるフィンランド援助の動きが大きな要因となっていることはソ連戦史も認めるところである。繰り返すが、3月はじめに英仏の5万人のフィンランド援助軍派遣は確約され準備は進んでおり、そのままではソ連は第二次大戦に英仏を敵として参加することになりかねなかったのである。
以上をまとめよう。ソ連フィンランド戦争に見られるように、ソ連・ロシアといえども、被侵略国の抵抗と各国の支援による孤立・包囲は避けたいのである。 
今回の戦争においては、核兵器の使用を恫喝に使ったので、広島・長崎は今年の平和式典などにロシアの出席を拒絶したが、被爆国民・市民として当然のことであり、世界はこうした形で国連憲章に違反するとして国連総会で非難決議が採択され、国連人権理事会理事国の資格も停止されたロシアの戦争を批判し、ねばり強く被侵略国ウクライナの支援を続けていかなければいけないだろう。それは長期的には国際化したロシアを生むことにつながるのであり、世界のためのみならずロシア自身のためにもなることなのである。1930年代の歴史に学ぶということはそういうことであろう。
●度重なる侵略、戦争の意外すぎる原因…ウクライナを翻弄する「奇跡の土」? 6/18
ウクライナに集中するすごい土
現在戦禍に見舞われているウクライナには、世界で最も肥沃な土「チェルノーゼム(チェルノは黒い、ゼムは土の意)」が分布しています。世界の土は大雑把に12種類に分類することができますが、チェルノーゼムは陸地面積の7%を占めます。
世界のチェルノーゼムの3割がウクライナに集中しており、日本には存在しません。チェルノーゼムと、日本にある「黒ぼく土」(火山灰土)はどちらも黒い土で見た目は似ていますが、黒ぼく土は酸性、チェルノーゼムは中性です。酸性の土よりも、中性の土で作物はよく育ちます。
肥沃な土は地球上に局在し、私たちは生まれた地域の土を選ぶことはできません。また、土は簡単には変えられませんし、重いので植物のタネのように移動もできません。このため、より広い農地、より肥沃な土を求めて列強が進めたのが植民地政策であり、戦争であり、水面下では肥沃な土地の買い占め(ランドラッシュ)も進行しています。
チェルノーゼムは、ロシア南部からウクライナ、ハンガリーなどの東欧、カナダ、アメリカのプレーリー、アルゼンチンのパンパ、中国東北部に広く分布しています。乾燥した草原下にできる黒い土であり、そこを畑にすると小麦の大穀倉地帯となりました。
ウクライナは、とくに「ヨーロッパのパンかご」と呼ばれるほど、小麦の大産地です。近現代史を通して、ウクライナがドイツ、ロシアのターゲットとなった理由の一つは、土にあるのです。
世界の食糧庫のゆくえ
土の違いは、食糧生産力に厳然たる格差をもたらします。ウクライナをはじめとするチェルノーゼム地帯を中心に、世界の肥沃な畑が分布する面積は、陸地の11パーセントにあたります。たった11パーセントの陸地で、世界人口の8割、60億人分の食糧が生産されているのです。
第二次世界大戦中、ナチスドイツ軍はウクライナの土を貨車に積んで持ち帰ろうとしたといいます。ドイツは慢性的な食糧難に苦しんでいました。
ちなみに、ロシアの国土の大部分は永久凍土と酸性土壌(泥炭やポドゾルなど)が占めており、ロシア民話『おおきなかぶ』には、一粒のかぶを大切に育てる貧しい農民の暮らしと、厳しい自然環境が見てとれます。ロシア国内で最も豊かな農場があるのは、やはりウクライナと近い黒海周辺のチェルノーゼム地帯です。
より温暖で肥沃な畑を求める大国の思惑が、ウクライナを翻弄してきました。
チェルノーゼムと平和の願い
チェルノーゼムは、戦争以前から、さまざまな問題に直面しています。水不足による塩類集積や土壌侵食、腐植(動植物遺体の腐ったもの)の減少といった土壌劣化の問題です。
草原を畑に変え、土を耕すようになると、団粒(腐植と粘土が団結して団子状になった土)が砕けてしまい、内部の腐植が分解されやすくなります。北米では、肥沃な黒い土の層が半分になったといわれます。収穫量が低下するだけでなく、腐植の分解は、大気中の二酸化炭素濃度増加の一因ともなっています。
そこで、ウクライナでは土壌保全に配慮し、有機農業、環境保全型農業志向の強いEU圏の消費者をターゲットにした作物生産を始めていました。土壌保全には、生産性の改善、水質の改善、生物多様性の増加に加え、大気中の二酸化炭素を腐植として土壌に貯留することで温暖化を緩和する効果もあります。
しかし、塹壕戦や遺体埋葬の映像に映りこむチェルノーゼムは、土壌保全は平和を前提としていることを物語っています。
世界人口が増え続ける中、世界の農地面積は頭打ちです。肥沃な土を劣化させている場合ではありません。戦争とは、人道に悖(もと)るとともに、環境負荷の極めて大きい破壊行為です。
弾薬には大量の重金属(鉛、ニッケル、亜鉛、銅)が使われており、いったん汚染されると、除染は容易ではありません。同じウクライナのチェルノブイリ原子力発電事故の汚染地域のように、安全な作物を生産できない土になってしまいます。
肥沃な土を求める侵略行為、植民地化、土地の買い占めに共通する土のリスクは、その土地の土との付き合い方を知らない人々が新たに入植して土を耕し、土壌劣化後には無責任に放棄されることです。どんなに土が肥沃でも、その強みと弱みを知らなければ、うまく使いこなすことはできません。
ウクライナの人々が土壌保全を配慮しながら農業のできる日常が戻ることを、チェルノーゼムは静かに待っています。
●食料危機でも腐敗は横行 政情不安のエジプトとレバノン 6/18
ウクライナ戦争による小麦の輸入難で中東、アフリカ諸国は食料危機に直面しているが、中でも小麦の輸入世界一のエジプトと破綻国家レバノンは窮地に陥っている。だが、その背景には「両国の支配勢力が国民そっちのけで私腹を肥やす腐敗の構造≠ェある」(中東アナリスト)ようだ。
パンの値上げが暴動に直結
ピラミッドと母なるナイルの国<Gジプトは人口約1億200万人の中東の大国だ。しかし、国際通貨基金(IMF)などによると、国民の3分の1は1日2ドル以下で生活する貧困層だ。
こうした庶民を直撃したのがパンの価格急騰だ。パンによっては2倍に跳ね上がった種類もある。ウクライナ戦争でウクライナやロシアからの小麦が入らなくなったことが大きな原因だ。
エジプトは世界最大の小麦輸入国で、その8割以上をウクライナとロシアに依存してきたため、戦争による影響は深刻だ。シシ軍事政権は4カ月分の小麦の備蓄があるとしているが、戦争が終わる見通しがないためインドなど他の輸入先探しに必死だ。その一方でIMFやサウジアラビアに緊急支援も要請している。
価格が上がっているのは主食のアエーシ(パン)だけではなく、食用油など他の生活必需品にも及んでいる。政府がパンの価格へ特別に注意を払っているのは、これが政情不安に直結する問題だからだ。エジプトでは70年代からパンの値上げがあるたびに反政府暴動が繰り返されてきた。
30年の長期にわたって支配してきたムバラク元政権が「アラブの春」で打倒された要因の一端はパンの価格に対する国民の不満があった。このためクーデターで政権を奪取したシシ大統領は30億ドル(約4000億円)もの補助金でパンの価格を維持、生活苦に対する国民の怒りを抑えてきた。
だが、ウクライナ戦争後のパンの価格の高騰に政府批判も高まり、ネット上では、飢えの革命∞シシよ、去れ≠ネど政権にとっては危険なハッシュタグまで現れた。政府はこうしたネット上の投稿を即刻削除し、批判の取り締まりを強化。同時に富裕層ら50万人からパンの配給を受ける権利などをはく奪、対策に躍起になっている。
シシ政権誕生直後は同氏がエジプトの英雄ナセル元大統領に雰囲気が似ていることもあって支持が高かったが、軍指導部や大統領の取り巻きなど一部だけが利権を享受している現実に失望感が広まった。今回の食料危機の対応を誤れば、人口2200万のカイロなどでいつ暴動が起きてもおかしくないだけに、政権の懸念は強い。
甘い汁を吸う軍部
食料危機が深まったのはシシ政権が国民の生活改善や政治・経済改革を怠ってきたことが大きな要因だ。2016年にはIMFから改革を約束して120億ドルの支援を受けたが、国民の生活向上にはつながらなかった。それどころか、国家の借金は10年以降膨らみ、それまでの4倍である3700億ドルにまで増えた。
「エジプトは近年、支配層の2%が甘い汁を吸い、残りの98%が苦しい生活を余儀なくされてきた。この構図はシシ政権でも全く変わっていない」(中東アナリスト)。特にシシ大統領の出身元である軍部は支配勢力の中核的な存在で、さまざまな企業を経営するコングロマリットでもある。
その軍部とシシ政権がエジプト復興の起爆剤として一体となって取り組んでいるのが新首都の建設だ。カイロの人口は50年までには2倍の4000万人に急増するとの予測があり、建設事業で経済を活性化し、人口密集問題も解決しようという試みだ。
新首都の建設地はカイロ東方45キロメートルにある砂漠地帯のど真ん中だ。政府の30に上る省庁や各国の大使館などが移転し、完成すれば650万人が住む都市となるというのが青写真だ。建設費用は約400億ドル(5兆円)。だが、「問題はこの新首都建設で得をするのは誰か、ということだ」(同)。
メディアなどによると、建設を推進する都市開発公社の株式の51%は軍が保有、新首都圏の土地や不動産の売却などを取り仕切っている。しかも省庁が移転したカイロの跡地はみな一等地にあるが、この跡地の売却も事実上、同公社が独占しており、大きな利益が軍部に転がり込む勘定だ。軍に対する監査は一切ない。
レバノンでも食料高騰と腐敗が同時発生
19年に債務不履行で国家破綻したレバノンは小麦のほとんどを輸入に頼り、その半分はウクライナ産。20年夏に起きたベイルート港大爆発で穀物の貯蔵庫が壊滅、小麦の備蓄は1カ月しかないと伝えられている。このためパンの価格が2倍にも急騰、通貨レバノンポンドの価値が半減するなどウクライナ戦争の影響は計り知れない。
世界銀行によると、人口約700万人の3分の1が貧困ライン以下の生活を強いられている上、パレスチナ難民50万人、シリア難民85万人を抱えていることもあって国家経営は文字通り「火の車」だ。国内総生産(GDP)比の国の借金はギリシャ、日本に次ぐ。
庶民の生活は困窮の一途。停電が断続的に続き、発電機なしではまっとうな生活さえできないが、ガソリンなどの燃料が不足し、ガソリンスタンドは連日長蛇の列だ。個人の預金引き出しが制限されていることも生活の大きな不安材料だ。レバノンに見切りをつけた医師の脱出が相次いでいる。
だが、「腐敗のデパートのような国」(前出の中東アナリスト)と言われるように、レバノンを牛耳っている各宗派の支配層は国家の再建どころか、利権の確保に血道を挙げているのが実態だ。その一角に逃亡中の元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告もぶら下がっている。
長年同国の経済を動かし、国家破綻を招いた責任を問われるべき中央銀行総裁は解任されるどころか、各派の談合で任期の延長が決まった。腐敗を調査する民間団体が5月に発表したところによると、個人が自由に預金を引き出せない中、同総裁の息子が650万ドル以上を国外に送金していたことが発覚したことも国民の怒りに火をつけた。
イランとサウジの代理戦争も過激化の懸念
こうした中で先月、国民議会選挙(定数128)が行われ、同国最大の軍事組織であるイスラム教シーア派の「ヒズボラ」政治連合が議席を減らし、過半数を割った。対照的に「ヒズボラ」と敵対するキリスト教マロン派の「レバノン軍団党」が15から20に議席を伸ばした。
「ヒズボラ」はベイルート港爆発事件の原因になった爆発物を倉庫に保管していたことからその責任が追及されてきたが、刑事捜査を途中で打ち切らせた疑惑が浮上し、人気を落とした。だが、選挙は「ヒズボラ」を支援するイランと、「レバノン軍団党」を援助するサウジアラビアによる代理戦争の様相も濃かった。小国レバノンをめぐるイランとサウジの覇権争いということだ。
選挙の結果を受け、議席はキリスト教、イスラム教にそれぞれ64ずつ配分されるが、ミカティ現政権に代わる新政権の発足には利権の奪い合いなど各勢力による駆け引きが行われ、政治的な混乱は半年以上も続くことになるだろう。希望は改革志向の独立系の新人が13人も当選したことだが、腐敗の元凶である宗派の利権構造を崩すのは難しい。
しかし、ウクライナ戦争による食料危機が深刻化すれば、国民の不満が一気に噴出し、宗派の対立も激化するのは必至だ。昨年10月にはベイルートで、「ヒズボラ」支持者らが激しい銃撃を受け6人が死亡する事件が発生。「ヒズボラ」は「レバノン軍団党」の犯行と非難、両派の緊張は沈静化していない。
●プーチン大統領「経済制裁は失敗」欧米側との対決姿勢を鮮明に  6/18
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は、国内で開いている国際経済会議で演説し「欧米側はロシア経済を破壊しようとしたが、失敗した」と述べ、制裁にもかかわらずロシアの経済対策が機能していると強調したうえで、欧米側との対決姿勢を鮮明にしました。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでプーチン大統領みずからが主導して開いている「国際経済フォーラム」は17日、全体会合が行われました。
この中でプーチン大統領が演説し「ロシアのビジネスの評判や通貨の信頼が、欧米によって意図的に損なわれている」と述べ、ロシアへの経済制裁を強化する欧米側を批判しました。
一方で「欧米側はロシア経済を破壊しようとしたが、明らかに失敗した。ことしの春先にはロシア経済の先行きに対して悲観的な見通しが予想されたが現実のものとなっていない」と述べ、制裁にもかかわらずロシアの経済対策が機能していると強調したうえで、欧米側との対決姿勢を鮮明にしました。
さらにプーチン大統領は、ロシアへの制裁によって欧米側でむしろ物価が上昇しているとしたうえで、欧米側は、世界的な食料などの価格高騰の責任をロシアに転嫁していると一方的に批判しました。
そして「食料価格が上昇し、貧しい国々を脅かしている。ロシアは食料と肥料の輸出を大幅に増やすことができるだろう」と述べ、食料安全保障をめぐり、ロシアの制裁解除が必要だと訴えました。
また「ロシアはウクライナからの穀物の輸出を妨げることは全くしていない」として、ウクライナ南部に面する黒海の海上輸送を妨害していないと主張しました。
一方、ウクライナへの軍事侵攻については「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ、継続する考えを改めて示しました。
全体会合は、3時間半にわたって行われ、この中でプーチン大統領は、演説以外にも、司会者の質問に応じる形で欧米批判やウクライナに対する強硬な発言を繰り返し、国際社会がプーチン大統領の動向を注視する中、存在感を誇示したい思惑もうかがえます。
中国外務省によりますと、習近平国家主席は、サンクトペテルブルクで開かれた「国際経済フォーラム」にビデオメッセージを寄せ、欧米などが、ウクライナに軍事侵攻したロシアに制裁を科す中「一方的な制裁はやめるべきだ」と批判しました。
そのうえで「世界のサプライチェーンの安定を維持し、日に日に深刻化する食料やエネルギーの危機にともに対応し、世界経済の回復を実現すべきだ」と述べ、制裁を行うのではなく、各国が経済的な連携を深めていくべきだという考えを示しました。
●ロシア軍 東部で攻勢 プーチン大統領“攻撃やめる考えはない”  6/18
ロシア軍がウクライナの東部ルハンシク州などで攻勢を強める中、プーチン大統領は17日「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ、一定の戦果を得るまでは攻撃をやめる考えはないと強調しました。
ロシア軍は、ウクライナ東部のルハンシク州で、ウクライナ側の拠点セベロドネツクを包囲しようと攻撃を続けていて、戦況を分析するイギリス国防省は17日「ロシア軍はセベロドネツク一帯を南側から囲もうとしている」と指摘しています。
さらにロシア軍は、セベロドネツクにあるアゾト化学工場に残っている兵士などに武器を置いて投降するよう呼びかけるなど圧力を強めています。
ルハンシク州のハイダイ知事は17日、子ども38人を含む568人が工場内のシェルターに残っていると明らかにしました。
そのうえでハイダイ知事は「絶え間ない砲撃と戦闘により、工場から出ることは今は不可能かつ物理的に危険だ。工場からの脱出は完全な停戦があって初めて可能だ」と訴えています。
ロシア軍がウクライナの東部ルハンシク州などで攻勢を強める中、プーチン大統領は17日、サンクトペテルブルクで開いている国際経済会議で演説しました。
この中で「特別軍事作戦のすべての目標は確実に達成されるだろう」と述べ、一定の戦果を得るまでは攻撃をやめる考えはないと強調しました。
●ドイツがロシアの戦争犯罪を捜査 ウクライナ侵攻で 6/18
ドイツ連邦刑事庁のミュンヒ長官は、ドイツの捜査当局がロシアのウクライナ侵攻を巡る戦争犯罪の疑いを捜査していると明らかにした。ドイツ紙ウェルト(電子版)が18日報じたインタビューで述べた。
ミュンヒ氏は「捜査は始まったばかりだが、既に3桁の手掛かりを得た」とし「加害者や指揮官を特定し、ドイツで裁判にかける」と述べた。ドイツに避難したウクライナ人の情報を基に、目撃者や被害者から聞き取り調査し証拠を集める。政治家も対象になるという。
ドイツの法律では国外での戦争犯罪や人道に対する罪などを訴追できる。今年1月には、シリアのアサド政権下での市民への拷問を巡り、人道に対する罪に問われたシリア情報機関の元大佐に、西部コブレンツの裁判所が終身刑を言い渡した。
●ウクライナ軍、戦車やミサイルなど「50%を失った」…損害情報を開示  6/18
ウクライナ軍のウォロディミル・カルペンコ地上部隊後方支援司令官は、ロシア軍とのこれまでの戦闘で、歩兵戦闘車約1300台、戦車約400両、ミサイル発射システム約700基など、それぞれ最大で50%を失ったと明らかにした。
15日付の米軍事専門誌「ナショナル・ディフェンス」とのインタビューで語った。ゼレンスキー政権は最近、戦死者数を含めた損害に関する情報を積極的に開示している。米欧に武器供与の加速を促す狙いとみられる。
17日、ウクライナ東部リシチャンスクで、破壊された建物の前を歩く住民(ロイター)17日、ウクライナ東部リシチャンスクで、破壊された建物の前を歩く住民(ロイター)
ウクライナ海軍は17日、黒海を航行中の露軍のタグボートをミサイル攻撃し、装備や兵士の増強を阻止したと発表した。このミサイルについてロイター通信は、米国などが6月に追加の軍事支援で初めて供与を決めた地上配備型の対艦ミサイルシステム「ハープーン」(射程100キロ超)だったと伝えた。
東部戦線は17日も露軍の激しい攻撃が続き、セベロドネツク近郊リシチャンスクでは17日、空爆で多数の死傷者が出た模様だ。ルハンスク州知事によると、人道支援に使われる高速道路が不通となった。
●ウクライナのEU加盟 プーチン氏「反対しない」 6/18
欧州連合(EU)の欧州委員会は、ウクライナをEUの加盟候補国に推挙する案を発表した。一方、ロシアのプーチン大統領は、EU加盟を「反対しない」と容認する考えを示したが、加盟によりウクライナが西側諸国の「半植民地になる」とも述べ、親欧米路線を強めるウクライナにくぎを刺した。
ウクライナをEU加盟候補国に推挙
欧州連合(EU)の欧州委員会は17日、ウクライナをEUの加盟候補国に推挙する案を発表した。フォンデアライエン欧州委員長は記者会見で「ウクライナは欧州の価値観と基準を守る決意を明確に示している」と語った。
プーチン氏「西側の半植民地になる」
ロシアのプーチン大統領は17日、北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに出席し、ウクライナの欧州連合(EU)加盟について「反対しない」と容認する考えを示した。一方で、加盟によりウクライナが西側諸国の「半植民地になる」とも述べ、親欧米路線を強めるウクライナにくぎを刺した。
英、ウクライナに軍事訓練の支援表明
英国のジョンソン首相は17日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を事前の予告なく訪れ、ゼレンスキー大統領と会談した。ジョンソン氏はロシアに侵攻されているウクライナを支援する立場を改めて表明し、軍事訓練プログラムの提供を申し出た。
●ロシア外相、「ウクライナを侵攻していない」と主張 6/18
ロシアのラブロフ外相は18日までに、同国は完璧(かんぺき)な国家ではなく、国としての存在感を示すことを恥じないとの見解を示した。
英BBC放送との会見で、ウクライナ侵攻で犠牲者が出たことを問う質問に応じて、述べた。
また、ウクライナを「侵攻してはいない」と主張し、「ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に引きずり込むことは犯罪行為であることを西側諸国へ説明するためにほかの選択肢が絶対的になく、特別軍事作戦に訴えた」とも述べた。
また、親ロシア派武装勢力が東部ドネツク州で名乗る「ドネツク人民共和国」が英国人に死刑を宣告した問題に言及。この宣告に関連するロシアの責任に触れ、「西側諸国の目には全く関心がない」と主張。
関心があるのは国際法のみとし、「国際法に従えば、傭兵(ようへい)は戦闘員として認められていない」と正当化した。
●世界的なインフレの原因はウクライナ侵攻ではない プーチン氏 6/18
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は17日、同国によるウクライナ侵攻は世界的なインフレの原因ではないと主張し、西側諸国が現状を利用して自分たちの失敗の責任をロシアに転嫁していると非難した。
プーチン氏はサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでビデオ演説。「今起きていることは、ここ数か月の結果ではなく、ましてやロシアが(ウクライナ東部)ドンバス(Donbas)地方で行っている特別軍事作戦によるものでもない」と主張した。
「インフレ、食糧問題、燃料価格(の高騰)は、米国の現政権と欧州の官僚機構の経済政策が構造的に誤っていた結果だ」
さらに、ロシアの軍事行動は西側諸国にとって「渡りに船」になったとし、「それを利用して自分たちの失敗の責任をロシアに転嫁している」と続けた。
さらに、燃料価格の高騰は「ドンバスで軍事作戦が始まるはるか前、(昨年の)第3四半期から続いている」として、欧州の「エネルギー政策の失敗」が原因だと主張した。
また、ロシアはウクライナから穀物を輸出する船舶の出航を妨害していないと主張する一方、ウクライナ当局が港に機雷を設置していると非難。
食糧と肥料が不足して「特に最貧国で飢餓が起きかねない」と述べ、「この問題はすべて欧米諸国の政権の良心にかかっている」と付け加えた。
●資産百万ドル超のロシア人、今年は1万5千人消失か 制裁影響 6/18
ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受けた西側諸国の経済制裁の発動の影響で、保有資産が100万米ドル(約1億3500万円)を超えるロシア人は約1万5000人減る見通しとの報告書がこのほど発表された。
富裕層の海外居住支援などを手がける企業「ヘンリー&パートナーズ」がまとめた。年内にロシアを去る富裕層は2019年に比べ最大で約3倍に達する可能性があるとした。
約1万5000人との数字は今年のデータでは、同額の資産額を持つ人口の約15%を占めているとした。
今回の報告書にデータを提供した統計などの分析企業幹部は、ロシアは資産家を流出させる事態に陥っていると指摘。
CNN Businessの取材に、富裕層の海外移住に関する数字は当該国の経済の「健康状態」を知る非常に重要な指標と位置づけ、歴史的に見て「全ての有力国の崩壊」を常に予兆させるデータにもなってきたと述べた。
●「図々しく、よく考えず」プーチン大統領が痛烈批判もロシア経済は… 6/18
「ウクライナに栄光あれ!英雄に栄光あれ!」
ウクライナの首都、キーウで大きな歓声をうけるのは、イギリスのジョンソン首相。ゼレンスキー大統領と会談を行うため、侵攻後のウクライナを再訪問しました。
イギリス・ジョンソン首相「私はボリス・ジョンソンです、ロンドンから来ました。私たちは皆さんを支援します。ウクライナに栄光あれ。英雄に栄光あれ」
会談後の会見では。
イギリス・ジョンソン首相「必要な軍装備品を提供し続けます。そして、新たな武器に必要な訓練もです。ウクライナから侵入者を追い出すために」
ジョンソン首相は、軍の装備品のみならず、大規模な訓練を定期的に提供する意向も示しました。
一方、経済面では、EUの執行機関ヨーロッパ委員会は、ウクライナの「加盟候補国」の立場を認めるよう、加盟国に勧告しました。プーチン大統領は、「EUは軍事同盟でない」とし、ウクライナの加盟には「反対していない」と表明しています。
「ウラジーミル・プーチン!」
生まれ故郷、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムに登壇したプーチン大統領。開口一番から口にしたのは、西側諸国への強烈な批判でした。
プーチン大統領「経済、市場、そして世界経済システムの原理そのものが攻撃を受けていいます。ロシアに対する異常な制裁と西側諸国のロシア恐怖という、過剰反応が最近見られます。ずうずうしく、よく考えもせずに、ビジネスを破壊し、ロシア経済にダメージを与えようとしました。しかし、これは明らかに失敗しました」
経済制裁が強まる中、大きな打撃を受けているロシア。しかし、“孤立”はしないと強調します。
プーチン大統領「世界経済からの孤立や自給自足経済の道を歩むことは決してありません。協力関係に関心があり、我々と仕事がしたいと考えている者なら誰とでも協力してきたし、これからもそうするつもりです」
およそ4時間にも及び、強気な発言を繰り返したプーチン大統領。
プーチン大統領「一歩一歩(国内の)経済状況を正常化させてきました。初めに金融市場・銀行システム・貿易網を安定させました。そして、企業の安定を確保・雇用拡大をするために、流動性を高め運転資金を増やすようにしました」
とは言うものの、制裁の影響で国民の苦しみは続いています。
モスクワの印刷会社・セルゲイ・ベソフ社長「これが工房。これでポストカードを印刷しています」
ここはモスクワにある印刷会社です。主にポスターや名刺を作っていますが…
モスクワの印刷会社・セルゲイ・ベソフ社長「名刺用の紙がすでに残り少ない。多くの企業がロシアへの販売を停止。ロシア市場から撤退しています。これが入手不可能な理由です」
経済制裁の影響で紙やインクは輸入が滞った上に、製造会社が国内から相次いで撤退するなど、確保できない状況が続き、在庫がなくなってきたといいます。
モスクワの印刷会社・セルゲイ・ベソフ社長「ロシアは貿易で孤立状態にあります。将来の展望はひどい。まともな出口は今のところ私には見えません」
市民生活への影響も続いています。モスクワ市内の化粧品売り場では輸入化粧品の在庫がなくなり空のケースがそのままに。電化製品売り場からはパソコンの在庫がなくなり、半分が値札だけの状態になっています。モスクワに住む人は…
モスクワ市民「私はよく外食をします。「あれ、これくらい高くなっちゃった!」と。20%…アルコールなら30%上がった。タクシーは40%くらい高くなった。歯医者に診てもらったが、20〜30%くらい上がりました」
経済制裁で身近なものの値段の上昇が続いているといいます。
モスクワ市民「仕事を失う人が多くなってきている。プーチン大統領の言葉は信じられません。世界から離れているのは…怖いです。離されるのはちょっと嫌です」
●プーチン氏、核兵器を念頭に「主権を守る必要があれば使用」と発言 6/18
ロシアのプーチン大統領は17日、核兵器を念頭に「国家の主権を守る必要がある場合には使用する」と発言しました。
ロシア プーチン大統領 「私たちが何を持っているのかを知るべきだ。そして我が国の主権を守る必要がある場合には、それを使用する」
プーチン大統領は17日、ロシア北西部サンクトペテルブルクで開かれている国際経済フォーラムで、核兵器を念頭に「国家主権を守る必要がある場合には使用する」と述べました。
プーチン氏は、2月のウクライナへの侵攻に際して「ロシアは最も強力な核保有国の一つ」と発言していて、4月にも、戦略的脅威に対する反撃について「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」などと核兵器を使用する可能性を示唆し、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制しています。
●「国家主権保持に必要なら核兵器使う」 国際経済フォーラムで欧米けん制 6/18
ロシアのプーチン大統領は17日、「われわれの安全を保障するのは陸軍と海軍しかない」と述べ、ウクライナ侵攻を受け前例のない対ロ制裁を科した欧米側の圧力に軍備増強で対抗していく姿勢を示した。「国家主権の保持に必要な場合には核兵器を使うことになる」と改めて表明、ウクライナに軍事支援を続ける欧米を強くけん制した。
ロシア北西部サンクトペテルブルクで開かれている国際経済フォーラムのパネルディスカッションで語った。17日の全体会合には旧ソ連カザフスタンのトカエフ大統領が出席したほか、中国の習近平国家主席とエジプトのシシ大統領がビデオ声明を寄せた。欧米の政府代表の姿はなく、ロシアとの関係冷却化を象徴する形となった。
プーチン氏の発言は、対外強硬派として知られた19世紀のロシア皇帝アレクサンドル3世の「ロシアには2人の同盟者しかいない。陸軍と海軍だ」との言葉を言い換えたもの。「軍事作戦はいつでも悲劇だ」と述べる一方、ウクライナ東部のロシア系住民保護のため他の選択肢はなかったとし、侵攻を正当化した。
ウクライナが欧州連合(EU)加盟を目指していることについては、北大西洋条約機構(NATO)と違ってEUは軍事同盟ではないため反対しないとも述べた。
ディスカッションに先立つ演説では、制裁で「ロシア経済を崩壊させる欧米の試みは成功しなかった」とし、制裁の影響払拭に自信を示した。世界的なエネルギーや食料の価格高騰の原因は米国とEUの失政にあり、ロシアの軍事作戦とは関係ないと語った。
米国を中心とした「一極支配の世界秩序は終わった」と指摘し、欧米以外の各国の経済的発展により地政学的状況は根本的に変わり「元に戻ることはない」と主張した。
「われわれの前には大きな可能性が広がっている。国民の意思と決意を示す時だ」と述べ、欧米製の航空機やプラント設備などの代替品や技術の国内開発を目指す考えを表明。制裁は欧米への依存を低減する好機だと強調した。
●ロシア側部隊 “化学工場に進軍” 6/18
ウクライナ東部ルハンシク州の「最後の拠点」とされるセベロドネツクについて、ロシア側はウクライナ側が拠点とする化学工場に進軍したと明らかにしました。
ロシアのタス通信によりますと、ルハンシク州の一部を実効支配する親ロシア派勢力トップは、セベロドネツクのアゾト化学工場にロシア側の部隊が進軍したと明らかにしました。完全制圧には至っていないということです。ルハンシク州知事によりますと、工場には民間人がおよそ500人残っています。
一方、プーチン大統領は17日、ロシアでの国際会議で、核兵器を念頭に「国家の主権を守る必要がある場合には使用する」と発言しました。
ロシア プーチン大統領「私たちが何を持っているのかを知るべきだ。そして、我が国の主権を守る必要がある場合にはそれを使用する」
プーチン氏は、2月には「ロシアは最も強力な核保有国の一つ」と発言、4月にも戦略的脅威に対する反撃について「手段はすべてそろっている。誰もが持っていないものもある」と述べていて、ウクライナへの軍事支援を強化する欧米を強くけん制しています。 

 

●ウクライナ軍、装備の半分失う消耗戦…ゼレンスキー氏南部訪れ兵士激励  6/19
ウクライナ大統領府は18日、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、露軍と戦闘が続く南部ミコライウ州を訪れ、兵士らを激励したと発表した。現地司令部関係者から、露軍が封鎖する黒海での戦況について報告も受けた。
ウクライナ海軍は17日、黒海を航行中の露軍のタグボートをミサイル攻撃し、装備や兵士の増強を阻止したと発表していた。ロイター通信はミサイルが、米国などが供与を決めた対艦ミサイルシステム「ハープーン」だったと報じた。
ウクライナ軍のウォロディミル・カルペンコ地上部隊後方支援司令官は、15日付の米軍事専門誌「ナショナル・ディフェンス」とのインタビューで、ロシア軍との戦闘で、歩兵戦闘車約1300台、戦車約400両、ミサイル発射システム約700基など、それぞれ最大で50%を失ったと明らかにした。
露タス通信によると、ロシア国防省は17日、ウクライナ軍に参加する外国人兵6956人のうち、1956人が死亡したと発表した。事実かは不明で、士気低下を狙ったロシアの情報戦の一環の可能性がある。
東部では17日も露軍の激しい攻撃が続き、ルハンスク州の要衝セベロドネツク近郊リシチャンスクでは空爆などで多数の死傷者が出た模様だ。
一方、英国のジョンソン首相は17日、ウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ジョンソン氏は支援継続を約束し、最大1万人のウクライナ兵に対する軍事訓練の提供を申し出た。
●物価上昇率40年ぶりの水準 賃上げ求める大規模デモ イギリス  6/19
ウクライナ情勢を背景に拍車がかかっているインフレによって、世界各地で暮らしへの影響が広がっています。
物価の上昇率が40年ぶりの水準に達したイギリスでは大規模なデモが行われ、参加者は生活が一段と苦しくなっているとして賃金の引き上げを訴えました。
ロンドンで18日に行われたこのデモには、労働組合の呼びかけで全国各地から集まった数千人が参加しました。
イギリスでは、4月の消費者物価指数が去年の同じ月と比べて9%上昇しておよそ40年ぶりという記録的な水準に達し、ガソリン価格をはじめ光熱費や食品などが大きく値上がりしています。
デモに参加した人たちは物価の高騰にもかかわらず賃金が十分に上がらず生活が一段と苦しくなっているとして「正当な賃金を支払え」などと声をあげながらおよそ1時間にわたって行進しました。
また、インフレ対策が不十分だとしてジョンソン首相の退陣を求める人もいました。
デモに参加した60代の女性は「一生懸命働いているのだから、普通の暮らしを送ることができる、高いインフレ率に釣り合った正当な給与を求めている」と訴えていました。
インフレはウクライナ情勢を背景に拍車がかかって収束する兆しが見えておらず、世界各国で大きな課題になっています。
●ロシアで“ポスト・プーチン”の跡目争いが始まった 穀物利権めぐり内紛 6/19
プーチン大統領は17日、ロシア版ダボス会議と呼ばれるサンクトぺテルブルク経済フォーラムで演説。重病説がくすぶる中、表舞台で「欧米の制裁は成功していない」と気炎を上げたが、側近たちは「跡目争い」に血眼だ。
現在、プーチン大統領の後釜として有力視されているのはモスクワのソビャニン市長、メドベージェフ前首相、キリエンコ第1副長官の3人。中でも、ウクライナ侵攻開始後に東部ドンバス地方の統括責任者に就任したキリエンコ氏が頭角を現している。
英紙タイムズ(16日付)によると、プーチン大統領の側近はウクライナから収奪した穀物の輸出利権をめぐって対立。その1人であるキリエンコ氏は今月6〜8日、ドンバス地方のベルジャンスク港などを訪れ、ドネツク、ルガンスク両共和国の要職を自らの側近にすげ替えたという。
最有力候補が基礎固め
「ロシアにとって穀物輸出が最優先事項であることから、側近たちは港湾物流に関心を高めています。自分のために動くオリガルヒを通じた権益確保がロシア政治の常套手段。キリエンコ氏に関しては、ロシアの有力紙イズベスチヤが『ロシアの日』(今月12日)に、彼の所感をウェブ上に掲載しました。すぐに消されましたが、その内容は『たとえ一時的に国民の生活水準が下がったとしても、ドンバスを再建する』というもの。“プーチンの戦争後”が見えない中、戦後復興の枠組みを示したような格好です。大統領であるかのような所感は、自分こそがプーチン氏の後継者とアピールしているに等しい。普通ならあり得ませんが、ペスコフ報道官は『見ていない』として事実上、黙認しています。キリエンコ氏が『ポスト・プーチン』の最有力候補になりつつあるのでしょう」(筑波大名誉教授の中村逸郎氏=ロシア政治)
タイムズによると、キリエンコ氏は跡目を争うメドベージェフ前首相などを差し置いて、政権内での地位を固めようとしているという。
「裏を返せば、それだけプーチン大統領の求心力が弱まっているのでしょう。オリガルヒにとっては物理的、経済的な破壊に徹するプーチン氏よりも、戦後復興や経済政策を語るキリエンコ氏の方が魅力的なのです」(中村逸郎氏)
政権の終わりが近づいているのか。
●ウクライナ戦争「何年も続く可能性」 支援維持訴え―NATO事務総長 6/19
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は19日付の独紙ビルト日曜版(電子版)のインタビューで、ロシア軍侵攻によるウクライナでの戦争について「何年も続き得るという現実に備える必要がある」と語り、長期化する可能性を改めて指摘した。
その上で「ウクライナ支援を緩めてはならない」と強調。軍事支援のコスト増や、エネルギー、食料価格高騰の影響が米欧諸国に広がったとしても、「ウクライナ人が毎日多くの命で払う代償とは比較できない」と訴えた。
特にウクライナ軍が守勢を強いられている東部ドンバス地方の戦況に関し「近代的な兵器がもっと多くあれば、プーチン(ロシア大統領)の部隊を追い払える可能性が高まる」と主張。さらなる兵器提供が必要だとの認識を示した。
●東部ルガンスク州に約300人埋葬の集団墓地 6/19
ウクライナ東部ルガンスク州リシチャンスク市で、民間人ら約300人の遺体が埋葬された集団墓地があると報じられるなど、ロシア軍の侵攻が続く同州の被害状況は悪化の一途をたどっている。
露軍、東部で攻勢強める
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は16日、ウクライナ東部ルガンスク州リシチャンスク市で民間人らが埋葬された集団墓地があると報じた。約300人の遺体が埋葬されているとみられるという。
ウクライナ大統領、南部前線を視察
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシア軍の占領地域に近いウクライナ南部ミコライウ州の前線などを視察に訪れ、兵士らを激励した。ウクライナ軍と露軍の戦闘は東部と南部が中心になっており、戦況を現場で把握する狙いもあった模様だ。
バイデン氏、習近平氏と電話協議の意向
バイデン米大統領は18日、中国の習近平国家主席と近く電話協議する意向を示した。実現すれば、米中首脳の対話は3月にオンライン形式で会談して以来。中国が軍事的威圧を強める台湾情勢や核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題、ロシアが侵攻するウクライナ危機などへの対応が協議されるとみられる。
●英、ロシア正教会トップに制裁 ウクライナ侵攻支持で 6/19
英政府は19日までに、ロシア正教会トップのキリル総主教を新たな制裁対象に加えたとの声明を発表した。
ロシアのウクライナ軍事侵攻を積極的に擁護しているのを理由とした。今回打ち出された新たな制裁の対象にはプーチン大統領の盟友や軍司令官の複数も含まれた。
これら軍人の中には、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで民間人の殺害や拷問に関与した疑いがあるロシア軍の第64独立自動車化狙撃旅団に属する大佐4人も入った。
キリル総主教をめぐってはウクライナ正教会の一部の宗派が先月、侵攻の支持に反発して絶縁を宣告。ロシア正教会とほかの正教会の宗徒との間の亀裂も深まっている。
英政府の今回の制裁発表について、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ロシア恐怖症」の新たな事例と反論。CNNの取材に「狂気の沙汰であり、一部諸国のロシア恐怖症がいかに不適当であるかを見せつけた」とこき下ろした。
英政府はまた、ロシアの子どもの権利保護に携わる女性コミッショナーも制裁対象とした。ウクライナの子どもたちの強制的な移送や養子縁組に加担した疑いがあると説明した。
●ロシア軍、命令拒否や対立続出 英国防省の戦況分析 6/19
英国防省は19日の戦況分析で、ロシア軍部隊内で命令拒否や対立が続いていると指摘した。ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」とする公式な立場に阻まれ、ロシア当局が反対する兵士らに法的圧力をかけるのに苦労しているとの見方を示した。
あらゆる階級のロシア軍兵士の多くが戦争の目的について混乱したままとみられ、士気の問題は作戦目標の達成能力を制限するほどに重大だと分析。士気低下の原因としては指導力の低さや死傷者の多さ、劣悪な兵たん、給与問題などが挙げられるという。
ウクライナ軍も激しい戦闘に投入され、ここ数週間、脱走を繰り返しているようだと指摘した。

●プーチン氏、ウクライナのEU加盟に「反対せず」 6/19
ロシアのプーチン大統領は19日までに、ウクライナの欧州連合(EU)への加盟問題に触れ、EUは北大西洋条約機構(NATO)と異なって軍事的かつ政治的な機構ではないとして加入に「反対しない」との考えを示した。
ロシア・サンクトペテルブルクで17日に開かれた国際経済フォーラムでの質疑に答えた。経済的な機構への合流の是非は主権を有する全ての国が自ら決める問題であり、受け入れるかどうかはその機構の考え次第であると指摘。
機構の一員になるのがウクライナの利益あるいは損失につながるのかどうかはウクライナやその機構の問題とした。
その上でウクライナ経済の現状を踏まえれば、非常に多額の補助金が必要になるだろうとも説明。「国内経済を守れなかったらウクライナは半植民地と化すだろう」との私見も示した。さらに、現在の国家的な支出への相当な規模の支援を受け取るだろうとしながらも、失った航空機産業、造船や電子産業の復興につながる可能性は少ないとも断じた。
ウクライナのEU加盟問題ではEUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が17日、ロシアによる侵攻も受け、ウクライナを加盟候補国として正式に認定すべきとの見解を表明していた。
これを受けロシア大統領府のペスコフ報道官は、加盟候補国として容認される可能性はロシアの注視を高めると指摘。EU内で防衛協力を強化する議論があることに触れ、「我々が見守るべきものに異なった要素が出てくる」と記者団に語った。 

 

●ゼレンスキー氏、南部オデーサ州訪問…英国防省「ウクライナ軍も兵士脱走」 6/20
ウクライナ大統領府の発表によると、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は18日、露軍の黒海封鎖で海上輸送が停滞している南部オデーサ州を訪問し、食糧輸出の対応について州知事らと協議した。
農産品輸送のための海上の「回廊」設置のほか、州への農業機材供給に関する方策について話し合った。州知事によると、州内の港で14国籍・計39隻の船舶が出港できずにいるという。
ゼレンスキー氏は隣接するミコライウ州も訪問し、前線の兵士らを激励した。19日未明にはSNSで「南部地域を誰にも渡さないし、取り戻す。海は安全になる」と海上通航を再開する決意を示した。
露軍が制圧を宣言した南東部の港湾都市マリウポリにも、外国船舶が残留している。タス通信は19日、港に外国船6隻が取り残されており、18日にはトルコ船が出港予定だったが、20日に延期されたと報じた。港湾関係者は、親露派武装集団に港の使用料が支払われていないことが理由だと主張したという。
東部ルハンスク州の要衝セベロドネツクでは、制圧を目指す露軍が、ウクライナ軍が抵抗を続けるアゾト化学工場などに激しい攻撃を続けている。米政策研究機関「戦争研究所」は18日、露軍の作戦のスピードが遅く、「兵士や装備の損失拡大に直面している可能性がある」との分析を発表した。
英国防省は19日、激しい戦闘が続く中、「ウクライナ軍がここ数週間、兵士の脱走に苦しんでいる可能性がある」と指摘した。ウクライナ、ロシアの双方で士気が低下している模様だ。 一方、ロシアとの停戦協議でウクライナ代表団トップを務めるダビド・アルハミア氏は、米欧からの兵器供与を念頭に、「ウクライナ軍が立場を強めた後、8月末に協議が再開できる」とのシナリオを示した。米政府の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が17日に配信したインタビューで述べた。
●ロシア軍 ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指し攻勢  6/20
ロシア軍がウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握を目指す中、ロシア国防省は、ウクライナ側の州内の拠点となっているセベロドネツクについて、郊外の集落を掌握したと発表するなど、攻勢をさらに強めています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から今週24日で4か月となる中、戦闘は長期化しています。
ロシア軍は、ウクライナ東部ルハンシク州の完全掌握に向けて、ウクライナ側の州内の拠点となっているセベロドネツクを包囲しようと攻撃を続けています。
ロシア国防省は19日、ルハンシク州の親ロシア派勢力とともに、セベロドネツク郊外の集落を掌握したと発表しました。
また、ロシア軍は、東部ハルキウ州にあるウクライナ軍の戦車の整備施設を短距離弾道ミサイルの「イスカンデル」で攻撃したほか、東部ドニプロペトロウシク州ではウクライナ軍の施設を巡航ミサイル「カリブル」で攻撃し、ウクライナ軍の将校など50人以上を殺害したなどと発表しました。
ロシア軍はウクライナ東部を中心に各地で攻撃を続けていて、ドニプロペトロウシク州のレズニチェンコ知事は19日、SNSに投稿し、ロシア軍による石油備蓄施設へのミサイル攻撃で大規模な火災が発生し、これまでに2人が死亡したことを明らかにしました。
激戦地となっているルハンシク州のセベロドネツクについて地元のハイダイ知事は19日、ウクライナメディアとのインタビューの内容をSNSに投稿し「セベロドネツクの大部分はロシア軍に掌握されている。セベロドネツクや周辺の地域に、ロシア軍が戦力を集中させている」としています。
ハイダイ知事は、ウクライナ側が拠点とするセベロドネツクの「アゾト化学工場」にウクライナ側の兵士とともに子ども38人を含む市民568人が取り残されていると明らかにしていて、ウクライナ側が徹底抗戦する姿勢を示す中、こうした人たちの安全な避難が課題となっています。
●ロシア空挺軍司令官解任か ウクライナ作戦失敗で引責―米研究所 6/20
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は19日までに、ロシア軍の精鋭部隊である空挺(くうてい)軍のアンドレイ・セルジュコフ司令官(大将)が、ウクライナ侵攻で大損害を出したことを理由に解任されたとみられると明らかにした。ウクライナ関係筋の情報といい、ISWとして確認できたわけではないとしている。
ISWは、解任が事実なら「首都キーウ(キエフ)周辺での作戦失敗や人的損害の責任を取らされた」可能性があると指摘した。後任はミハイル・テプリンスキー大将で、ソ連時代のウクライナ東部ドネツク州出身。
空挺軍は侵攻初日の2月24日、約300人でキーウ郊外のアントノフ空港を一時占拠したが、ウクライナ軍の反撃でほぼ全滅。その後、ロシア軍の地上部隊が空港を制圧したが、3月末にキーウを含む北部からの撤退を余儀なくされた。
セルジュコフ氏は、2014年のウクライナ南部クリミア半島制圧作戦を指揮。16年に空挺軍司令官に任命された。19年のシリア軍事介入や、今年1月に反政府デモが起きたカザフスタンの治安維持も主導した。
●プーチン大統領「戦争」長期化を覚悟 「西側諸国」との関係断絶でロシア衰退 6/20
ロシア外務省で5月16日、ラブロフ外相を議長とする少数の幹部による重要会議が開かれた。非公開の議論の内容を知る立場にある関係者の話によると、出された結論は、以下のようなものだったという。
「西側諸国は、ロシアに対して侵略的な方針を掲げている。事実上、全面的なハイブリッド戦争を布告したといえる。このため我々は、非友好国との関係の根本的な見直しに着手する。一方で、それ以外の国々との協力関係を強化せねばならない」
「ハイブリッド戦争」とは、正規軍による戦闘だけでなく、サイバー戦、情報戦、謀略など、さまざまな手段を組み合わせて敵国を攻撃する「戦争」のことだ。
これは近年のロシアが得意としてきた戦法だ。しかし、ロシア外務省は今回、自分のほうこそ西側からハイブリッド戦争をしかけられている被害者だと結論づけた。
関係見直しの対象となる「非友好国」は、ロシア政府が3月7日に発表したリストに掲載されている。ウクライナ侵攻を非難し、対ロシア制裁に踏み切った、日本を含む48の国と地域だ。
これまでもロシアは日本の対ロ制裁に対して、対抗措置を次々に発表してきた。日ロ平和条約交渉の打ち切り(3月21日)、日本外交官8人の国外追放(4月27日)、政治家、学者、メディア関係者ら63人のロシア入国の無期限禁止(5月4日)などだ。
しかし、今後検討される「関係の根本的見直し」は、こうした場当たり的な対応ではなく、政治、経済、人的交流など、より幅広い分野を対象とした包括的な内容になると見られる。
前出の関係者は「安倍政権と協力して作り上げてきた日ロ関係の前向きな実績を壊したのはロシアではなく、現在の日本政府だ」と指摘した上で「我々は物乞いではない。日本に制裁の解除をお願いするようなことはしない」と強調する。
ロシア外務省が包括的な外交方針の見直しを決めた背景には、プーチン大統領が軍事作戦の長期化に備える覚悟を固めたことがあるだろう。
プーチン氏は2月24日にウクライナでの「特別軍事作戦」に着手した際には、短期決戦を思い描いていたはずだ。数日のうちに首都キーウを制圧し、ゼレンスキー大統領を排除。自らに都合のよい暫定政権を樹立するといったシナリオだ。
プーチン氏が思い描いたのは、1968年の「チェコ事件」だったかもしれない。当時、社会主義陣営の一員だったチェコスロバキアで始まった「人間の顔をした社会主義」を求める運動(プラハの春)を、旧ソ連など東側の軍が武力でつぶし、改革路線を転換させた事件だ。
8月20日、ソ連、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリアの5カ国軍が一気にチェコスロバキアに侵入。翌朝までに改革派指導者ドプチェク氏らを拘束し、ソ連に連行した。
この時動員された兵士は約20万人。くしくも今回ウクライナ侵攻作戦に参加しているロシア軍とほぼ同じ規模だ。
チェコ事件当時、国際社会からソ連を批判する声は上がったが、長続きはしなかった。チェコスロバキアをソ連の勢力圏として容認する考えが欧米でも共有されていたという事情もあった。
プーチン氏も今回、キーウ制圧という既成事実さえ作ってしまえば、国際社会の反発は長続きしないと踏んでいたのではないだろうか。
しかし作戦開始後100日を経ても、ウクライナ側の抵抗はいっこうに衰えず、欧米からの軍事支援が続々と届いている。ロシアへの制裁も強化される一方だ。
これはプーチン氏にとっては大きな計算違いだったろう。
このところ、プーチン氏と周辺からは、作戦の長期化やむなし、という声が相次いでいる。
軍事作戦は計画通りに進んでいると強弁してきたプーチン氏自身、最近のインタビューで、欧米からの武器支援が戦闘を長引かせていることを認めた。
最側近のショイグ国防相やパトルシェフ国家安全保障会議書記も「任務完了まで作戦は続く」「我々は期限にこだわっていない」など、戦闘の長期化を辞さない姿勢を示すようになった。
こうした政権の姿勢は、ロシアの世論にも影響している。
著名な世論調査機関「レバダ・センター」が5月下旬に行った世論調査では、軍事作戦が2カ月以内に終わると答えた人は、わずか11%。2カ月〜半年以内と見る人も、26%にとどまった。全体の半数近くは、半年以内には終わらないと考えている。
冒頭で紹介した外務省の幹部会に話を戻す。
ロシアは今、戦闘の長期化だけでなく、日本を含む「西側諸国」との関係を長期にわたって事実上断ち切ることを前提に、国家としての生き残り策を模索しているようだ。
関係者は「ロシアに制裁を科している国は少数派だ。多くの国でロシアが持つ貿易、投資、知識、教育などの潜在力は必要とされている」と胸を張る。
パトルシェフ氏は最近のインタビューで、国産品による輸入品の代替が進めば、経済上の問題は回避できると強調した。さらに、国の経済力は米ドルで評価されるべきではないとも主張し、グローバルな世界経済から距離を置いて生きていく考えを示した。
しかし、実際にそんなことが可能なのだろうか。例えば、ロシアが精密電子機器を自前で開発することには懐疑的な見方が根強い。だとすれば、最新鋭の兵器開発もままならなくなる。
米ドルの影響圏から独立すると口で言うのは簡単だが、結局はドルとルーブルの公定レートと闇レートの間に著しい乖離(かいり)があったソ連時代のような経済に逆戻りするだけではないのか。
最もうまくいったとしても、中国の事実上の衛星国のような存在になることは避けられない。
ロシアのGDPは1.5兆ドルで、今でも中国の約10分の1に過ぎない。国力の差は、ますます広がるだろう。  
●ウクライナでの戦争、「何年も続く可能性」 NATO事務総長が警告 6/20
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、19日付のドイツ紙のインタビューで、ウクライナでの戦争は今後何年も続くかもしれないため、西側諸国は同国への支援を続けなくてはならないと警告した。イギリスのボリス・ジョンソン首相も英紙への寄稿で、戦争は長期化するとの見方を示し、ウクライナへの手厚い武器供与が同国勝利の可能性を高めるとした。
ストルテンベルグ氏はドイツ紙ビルトのインタビューで、戦争のコストは高いが、ロシアに軍事的目標を達成させることの代償はさらに大きいと述べた。
そして、「(戦争は)何年もかかるかもしれず、私たちはそれに備えなくてはならない。ウクライナへの支援の手を緩めてはならない」と主張。
「軍事支援のコストだけでなく、エネルギーや食料の価格上昇によってコストが上がったとしてもだ」と語った。
ストルテンベルグ氏はまた、ウクライナに近代的な兵器を供給することが、同国東部ドンバス地方の解放の可能性を高めると述べた。同地方の大部分は現在、ロシアが掌握している。
ロシア軍とウクライナ軍は数カ月にわたり、ウクライナ東部をめぐって戦闘を続けている。ロシア軍はここ数週間、じわじわと前進している。
イギリスのジョンソン首相も、紛争は長期化するとして覚悟を呼びかけた。
18日夕に電子版が公開された英紙サンデー・タイムズへの寄稿で、ジョンソン氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、「消耗戦」によって「ひたすら残虐にウクライナを粉砕しようとしている」と非難。
ジョンソン氏は、「長い戦争を覚悟しなくてはならない」、「時間が重要な要素だ。ロシアが攻撃力を回復するより先に、ウクライナが国土の防衛能力を強化できるかに、すべてがかかっている」と主張した。
ジョンソン氏は17日にウクライナの首都キーウを訪れ、同国軍に対する兵器、装備、弾薬、訓練は、モスクワの再武装の動きを上回る必要があると述べていた。
●世界的に難民への共感広がる ウクライナ戦争が呼び水に=UNHCR 6/20
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ウクライナ侵攻で数百万人が避難する中、欧州で支援の機運が広がり、難民に対する姿勢が変化している可能性があるとの見解を示した。紛争や迫害を逃れて避難している人の数は、世界で1億人を突破。ロシアによるウクライナ侵攻以来、650万人以上が国外に避難し、政府支援の施設に加え、多くが個人宅やホテルに身を寄せている。
UNHCRの担当者は「ロイター・ニュースメーカー」でインタビューに応じ、「(この動きに)大変励まされている」と述べた。一方、疲労が一定レベルに達している可能性があるとし、個人宿泊の受け入れが枯渇した際にウクライナ避難民に新たな住居を提供するよう各政府に忠告した。
また、「ウクライナでの状況があまりに悲惨なため、世界的に共感が広がっている。負担が地方・国家の政府に移行し始めている」と指摘した。
17日に公表された調査機関イプソスの調査でも、難民に対する思いやりの機運が世界的に高まっていることが示された。
調査では、紛争や迫害から逃れてくる人が他国への避難を認められるべきとの回答は調査対象の28カ国で78%に達し、2021年調査時の70%から割合が上昇した。
難民に対して国境を完全封鎖すべきとの回答割合は36%と、前回の50%から低下。新型コロナウイルスのパンデミック(感染の世界的大流行)に伴う懸念の弱まりも背景の一つとみられている。
イプソスは、ウクライナでの戦争で、紛争や抑圧から逃れてくる避難民に対して世論が開かれたことが示唆されたと分析した。
●ロシアの侵攻で経済の半分が機能不全−ゼレンスキー氏 6/20
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアの侵攻によって国内経済のほぼ半分が活動を停止したと指摘、今後も世界食糧危機の深刻なリスクを呈することになると警告した。
欧州委員会のボレル副委員長(外交安全保障上級代表)は、ロシアの侵攻がもたらしたウクライナ産穀物の輸入障害は「争う余地のない戦争犯罪」に相当すると非難した。国連の世界食糧計画(WFP)は、世界的な飢餓の拡大に対応して難民への食料配給を削減しているという。
欧州連合(EU)27カ国は今週、ウクライナの加盟国候補国の地位認定について決定を下す。当初は認定に懐疑的だった幾つかの国も20日には支持に回り、必要とされる全加盟国の承認に一歩近づいた。
スウェーデン、フィンランドがNATO加盟申請巡りトルコと協議
スウェーデンとフィンランドの高官は、北大西洋条約機構(NATO)加盟申請を巡りトルコと5時間にわたって協議し、一定の進展にこぎ着けた。フィンランドの首席交渉担当者が明らかにした。両国のNATO加盟についてトルコは安全保障上の懸念があるとして反対している。
ウクライナ、港の封鎖解除に向けた協議で進展なし
ゼレンスキー大統領はアフリカ連合(AU)総会で演説し、穀物輸出再開や世界的な食糧安全保障へのウクライナの取り組みを説明。黒海の港の封鎖を解除し、穀物輸出を可能にするため「困難な複数レベルの協議」を進めているものの、進展は見られないと述べた。
EU、ウクライナへの90億ユーロの金融支援策定で大詰め
欧州連合(EU)は数日内に90億ユーロ(約1兆2800億円)規模のウクライナ向け金融支援策の詳細を確定する見通しだ。EUは23、24日に首脳会議を行い、ウクライナの復興計画やEU加盟国候補国の地位認定について話し合う。
ウクライナ経済の半分が機能せず−ゼレンスキー大統領
ゼレンスキー大統領はウクライナの「経済や経済システムの約半分が稼働していない」と述べ、同国経済に壊滅的な打撃を及ぼしたロシアの侵攻を非難した。大統領はイタリアのミラノで行われたイベントにバーチャル形式で参加し、ウクライナでは「正常な経済生活」を送ることが不可能だと語った。大統領は「イタリア経済の半分が封鎖された状況を想像してもらいたい」と訴え、経済力のある国に兵器供与を求めるとともに、この戦争が世界的な食糧危機を招く恐れがあると警告した。
ウクライナ、破壊したロシア軍戦車を欧州各都市で展示へ
ウクライナは破壊したロシア軍の車両を欧州各都市で展示する計画だ。戦争への欧州市民の注意をつなぎ止める狙い。展示はまずワルシャワで行い、ベルリン、パリ、マドリード、リスボンと続ける。レズニコフ国防相が明らかにした。ウクライナは2月の戦争開始以降、ロシア軍の戦車を1477両前後、装甲車両を3588台破壊したと主張している。
ロシア・ルーブルが対ドルで上昇、7年ぶり高値
20日の外国為替市場で、ロシア・ルーブルがドルに対して上昇し、2015年7月以来の高値を付けた。ルーブル高は同国の輸出競争力や政府の財政を損ねるとしてロシア中央銀行は懸念しつつある。
ロシアのガスプロム、サムライ債の利払いを予定通り実施−関係者
ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムが20日、2018年に発行したサムライ債の利払いを実施した。複数の関係者が明らかにした。
ロシア産原油、5月も中国の輸入拡大
中国は5月も引き続きロシア産エネルギー製品の輸入を拡大した。原油購入額は74億7000万ドル(約1兆円)と過去最高を記録。前月比で約10億ドル増加し、1年前の2倍の水準となった。
EUの決断を控えた「歴史的な1週間」−ゼレンスキー大統領
欧州連合(EU)は、ウクライナに加盟候補国としての立場を認めるかどうかについて今週決断を下す。フランスとイタリア、ドイツの首脳は候補国として認定することを支持すると表明しているが、27加盟国の全てが同意する必要がある。ゼレンスキー大統領は19日夜のテレビ演説で、「明日は真に歴史的な1週間の始まりだ」と発言した。
原油相場反発、トレーダーは需要見通しを材料視
ニューヨーク原油先物相場はアジア時間20日の取引で上昇。積極的な米金融引き締めをきっかけに景気が鈍化する可能性より、短期的な需要増加の見通しが市場で重視された。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)7月限は1バレル=110ドルを上回った。
ドイツ化学業界、ガス供給の確保求める
ドイツ化学工業協会(VCI)は、ロシアからの供給減を受けて、天然ガスを他の燃料に置き換えるため「あらゆる機会を活用」するよう呼び掛け、ガス火力発電を石炭発電に切り替えることを求めた。化学・医薬品業界はドイツ国内で最も多い15%の天然ガスを消費しているが、現時点では深刻な供給問題に直面していないとVCIは発表資料で説明した。
ウクライナの今年の穀物収穫量、43%減少も
ウクライナの今年の穀物・油糧種子の収穫量は、ロシアによる軍事侵攻や一部地域占拠の影響で6000万トンにとどまり、前年の1億600万トンを43%下回ると見通しだ。農業次官がテレビインタビューで明らかにした。2月下旬にロシアが軍事侵攻しウクライナの港からの出荷を阻止し始めて以来、穀物・油糧種子の輸出は400万トンにとどまっているという。平時の船積み量は月間500万−600万トン。
ロシア、巡航ミサイルでウクライナの標的攻撃
ロシア国防省の報道官は、ウクライナ軍司令官の会合が行われていた東部ドニプロペトロウシクの村の近くの標的などに海洋発射巡航ミサイル(SLCM)「カリブル」を命中させたと発表した。これについてはウクライナ側はコメントしておらず、ブルームバーグも独自に確認できていない。
英陸軍トップ、ロシアについて警告
英陸軍トップに13日に就任したパトリック・サンダース大将は、「同盟国と共に戦い、ロシアを戦闘で打ち負かす」能力を構築することが重要だとするメッセージを軍に伝えた。英紙サンが報じたもので、「われわれは再び欧州で戦うために陸軍を備えさせなければならない世代だ」と述べたという。
ガスの状況は深刻−ドイツ経済相
ドイツのハーベック経済・気候保護相は、政府がガス貯蔵水準を引き上げるための措置を講じていると電子メールでコメントした。同相は「供給の安全は現時点で保証されているが、状況は深刻だ」と説明。ガス消費をさらに減らし、より多くを貯蔵に回さなければ、「冬季に状況は一層厳しくなる」と指摘した。
●ウクライナ支援額、アメリカが5割超…日本は0・7%で7位  6/20
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナに対し、西側諸国が表明した支援額の5割超を米国だけで占めることが、ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」の集計でわかった。各国が約束した支援が滞っている実態も判明しており、迅速な実行が課題となっている。
キール研究所は、先進7か国(G7)や欧州など37か国と欧州連合(EU)を対象に、侵攻開始1か月前の1月24日から6月7日までに表明された軍事・財政・人道分野の支援額を集計、比較した。
各国の支援総額は783億ユーロ(約11兆円)に上り、国別では米国が427億ユーロ(55%)、英国48億ユーロ(6%)、ドイツ33億ユーロ(4%)などと続いた。日本は6億ユーロ(0・7%)で7位だった。
米国は射程の長い 榴弾りゅうだん 砲や、高機動ロケット砲システム(HIMARS)など最新兵器の支援を次々と表明している。軍事物資購入に充てる資金援助を含めた軍事分野の支援額(240億ユーロ=約3・4兆円)は、日本の今年度防衛予算(5・4兆円)の半分を超える。
だが、兵器・弾薬支援の遅れも目立つ。キール研究所が公開情報を分析したところ、ウクライナに実際に届いた米国の兵器・弾薬は、約束した分の48%(金額ベース)にすぎず、ドイツはさらに低い35%だった。37か国全体でも69%にとどまるという。
●ラトビア共和国 苦難の歴史を経て独立回復 6/20
ラトビア共和国は「バルト三国」の真ん中に位置する。日本の6分の1ほどの国土(約6万5000平方キロメートル)に、約190万人が暮らしている。
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻に対し、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」をウクライナに提供した。さらに議会は開戦4日後(2月28日)、ラトビア人が志願兵としてウクライナに渡航することを認めた。
ラトビアは、ロシア帝国から1918年に独立するが、他のバルト三国(エストニアとリトアニア)と同様、40年にソ連に編入された。第二次世界大戦でナチス・ドイツによる過酷な占領・支配を受けるが、大戦末期には再びソ連軍に占領され、ソ連邦の構成国家となった。90年5月に独立回復を宣言するまで、共産主義の抑圧に苦しんだのである。
ラトビアにとってウクライナの惨状は人ごとではなかった。
人口構成もウクライナに似ている。ウクライナは人口の約17%がロシア系だが、ラトビアも約24%がロシア系である。ロシア語を放す人が人口比約38%もいるというから、ロシア語を第一言語としているラトビア人がいることになる。
懸念すべきは、在ラトビアの20万人以上ものロシア系住民が無国籍ということだ。ラトビア国籍を取得するにはラトビア語の試験もあってハードルが高く、ロシア系住民の不満が高まっている。ラトビアは今後、「ロシア離れ」が加速するが、ロシアが十八番の「自国民保護」を掲げて武力侵攻に踏み切る口実に利用しかねないのだ。
事実、ロシアのテレビ番組で、解説者が「次の目標はここだ」とばかりに、ロシア第2の都市、サンクトペテルブルクの西側にあるエストニアとラトビアに矢印を引くシーンがあった。番組を見た両国の人々は、背筋が凍る思いだったに違いない。
ソ連邦時代、3万人以上のラトビア人が「反ソ的」として処刑された。富裕層や知識人はシベリア抑留や強制収容所送りになった。ソ連はラトビアを徹底的に破壊し、首都リガの人口は3分の1に激減したという。
そんな苦難の歴史から、ラトビアは独立を回復すると、急速に西側諸国に接近した。そして、エストニア、リトアニアと足並みをそろえて2004年3月にNATO(北大西洋条約機構)に、同年5月にEU(欧州連合)に加盟した。
ラトビアは、1992年から敷いてきた徴兵制を廃止し、2007年からは志願制に切り替えた。陸海空軍の総兵力約6600人が国防の任に就いている。数の上では少ないが、NATO加盟の効果といえよう。
バルト海に面した首都リガは、中世にはハンザ同盟の港湾として栄え、現在もバルト三国最大の都市として発展している。
日露戦争時、ロシア帝国のバルチク艦隊が日本海に向けて出撃したのが、ラトビアのバルト海に面したリエパーヤ軍港だった。日本海海戦(1905年)での日本海軍の大勝利はロシア帝国の支配下にあった国の人々を喜ばせ、独立の機運を生んだ。
ロシアを挟んで、日本の反対側にラトビアがある。ラトビアは「遠くて近い国」だった。
●侵攻長期化 ロシア国内に“異変”…ゼレンスキー氏「今週攻撃強まる」 6/20
6月20日は国連が定めた「世界難民の日」です。ロシアのジャーナリストは自身のノーベル賞のメダルを競売にかけ、ウクライナからの避難民に寄付するとしています。そのウクライナでは、ゼレンスキー大統領が今週、ロシア軍の攻撃がさらに激化するという見通しを示しました。
2月24日以降、ウクライナ国内で避難する人は700万人以上。
列車で避難する人:「電気も水もガスもなく、どうやって暮らせますか?」「自分と子どもたちの命を守るためです」
そして、ウクライナ国外へと逃れた人は750万人以上に上ります。
6月20日は世界難民の日。ウクライナの避難民を支援するために1枚のメダルが競売にかけられます。
ノーベル平和賞のメダルです。
ノーバヤ・ガゼータ、ムラトフ編集長「自分自身にとって貴重なもの、重要なものを差し出すべきだと考えました」
出品するのは去年、平和賞を受賞したロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長。
収益はユニセフの活動を通じて避難する子どもとその家族に使われるといいます。
ムラトフ編集長によりますと、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持に変化が出てきているといいます。
ウクライナの人々を支援するためにノーベル平和賞のメダルを競売にかける「ノーバヤ・ガゼータ」のムラトフ編集長は、ウクライナ侵攻に対するロシア国民の支持は減っているとの見方を示しました。
ムラトフ編集長「モスクワの街を歩いてみれば、軍事作戦への支持を示すZマークが1つも見られないことが分かります」
かつて掲げられていた“Zマーク”は見られなくなり、またロシア政府内部でも国民の25%から30%は侵攻を支持していないと見ていると言います。
ただ、ロシアの攻勢はより激しくなると、ゼレンスキー大統領は見ています。
ウクライナ、ゼレンスキー大統領「あすは本当に歴史的な日になる。今週、(EU加盟への)ウクライナの立候補状況についてEU(ヨーロッパ連合)の回答が出る。当然、あえてロシアが敵対的行動を強めることが予想される。特に今週は」
ロシア国防省が公開した映像。ロシア国防省は巡航ミサイル「カリブル」で、ウクライナ東部にあるウクライナ軍司令部を攻撃したと発表しました。
ロシア国防省報道官「直撃の結果、参謀本部、司令部、空襲部隊、ミコライウ及びザポリージャ方面で活動している部隊を含め、ウクライナ軍の将軍と将校50人以上を殺害した」
また、南部のミコライウでもカリブルで欧米諸国が提供した155ミリ榴弾(りゅうだん)砲10門と装甲車約20台を破壊したと主張しています。
さらに、激戦が続く東部セベロドネツクについては…。
ロシア国防省・報道官「セベロドネツクへの攻撃は成功裏に進んでいる」
隣町のリシチャンシクも、もはや前線です。
CNN、ベン・ウェデマン特派員「午後3時、ロシア軍の航空機が住民のシェルターになっていたこの建物を攻撃し、3人が死亡しました。リシチャンシクに安全な場所はありません」
その建物にいた女性です。夫が負傷しました。
建物にいた女性「(夫は)がれきの下敷きになりました」
人々が身を隠す地下シェルターに明かりはありません。人々がくむ水は濾過されず濁っています。それでも洗濯やトイレを流すことには使えるといいます。
住民「市長はどこに?知事はどこにいるんだ?」
町を出る女性です。
町を出る住民「すべてが落ち着いて早く終わると思っていましたが、日に日にひどくなります。もう耐えられません」
しかし、避難することのできない人もいます。その多くは高齢者です。
住民「一人暮らしなんです。足の病気もひどくてどこにもいけません」
●プーチンのハッタリ「経済制裁は効いていない」は大嘘 6/20
今回のウクライナへの軍事侵攻が批判され、各国ではロシアへの経済制裁が続いています。しかし、当のプーチン大統領は「制裁は効いていない」とバッサリ。それが真実であるのかを語るのは、国際関係ジャーナリストで28年のロシア滞在歴を持つ北野幸伯さん。北野さんは自身のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の中で、 ロシア経済の今後について分析しています。
プーチン「経済制裁は成功しなかった!」は本当か??
プーチンは6月17日、サンクトペテルブルグで開かれた「国際経済フォーラム」で演説しました。その中で、「西側による経済制裁は成功しなかった」といいました。
これ、皆さんもよく聞くのではないでしょうか?「制裁は、効いていないようだ」と。実際は、どうなのでしょうか?
制裁の影響は長期で見るべき
ロシアの知人、友人に、「制裁どう?」と聞いています。皆さん、「インフレだけだ」といいます。
ロシア連邦統計局の発表によると22年5月のインフレ率は、前年同月比で、17.1%だそうです。確かに「ひどいインフレ」ですが、「破滅的」とまではいえないでしょう。
しかし、経済制裁の影響は、長期で見る必要があります。
皆さん、もう忘れているでしょう。プーチンの1期目2期目、つまり2000年から08年まで、ロシアのGDPは、年平均7%成長していたのです。ロシア政府高官は強気で、07年08年には、「ルーブルを世界通貨にする!」と豪語していたものです。
ロシアは2014年3月、クリミアを併合しました。そして、その後、さっぱり成長しなくなりました。2014年から2020年のGDP成長率は、年平均0.38%。何が起こったのでしょうか?そう、欧米と日本が経済制裁を科したのです。
2014年3月当時、ロシア国民は、笑っていました。曰く、「ロシアは、世界有数の資源大国で、食糧を自給することもできる!核超大国で、侵略される恐れもない。制裁は効かない!!!!!!!!!!!」と。ところが、バリバリ効いていたのです。
プーチンは今回も、「制裁は効いてない!」といっています。確かに、短期的に見れば、「効いているが、破滅的ではない」といえるでしょう。しかし、クリミア併合後の推移を見れば、「必ず長期で効いてくる」と断言できます。
しかも、今回の制裁は、クリミア併合時とは比較にならないほど厳しいものです。まさに「地獄の制裁」と呼ぶにふさわしい。どんな影響が予想されるのでしょうか?
ロシア経済の長期的打撃は壊滅的
たとえば自動車。ウクライナ侵攻後、欧米日の自動車メーカーは、ロシアへの輸出、現地生産を止めました。ロシア人は、日本車、ドイツ車が大好きです。しかし、在庫が切れれば、買えなくなる。
ロシアにも、自動車メーカーはあります。AvtoVAZ、GAZ.、KAMAZ.、UAZなどうです。ところが、これらのメーカーは、欧米日からの輸入部品を使っている。それで、「ハイテク車」は作れなくなります。
具体的に。たとえば、欧州の排ガス基準は2014年から「ユーロ6」になっています。しかし、ロシアの自動車メーカーは、単独でユーロ6の車を作ることができない。ロシアメーカーが生産する車は、「ユーロ2レベルだ」といいます。
「ユーロ2」というのは、1996年の基準。つまりロシア車は、「26年前のレベル」まで落ちてしまう。「ロシアに行くと、排ガスくさいな!」となるでしょう。しかも、ロシア車には、「エアバック」がつかないそうです。
以前にもお話しました。私の友人は、スズキの車に乗っています。故障したので、修理しようとしたら、「部品が入ってこないから無理です」と断られたそうです。友人は、悩んでいます。
次に航空機のことを考えてみましょう。ロシアでつかわれているのは、主にボーイングとエアバスです。そのうち半分ぐらいががリース。ウクライナ侵攻が始まると、リース会社はロシアに、「航空機の返還」を求めました。
ところがロシア政府は、「航空機を返却せず、そのまま使ってもいいよ」としたのです。「乗りものニュース」3月12日を見てみましょう。
「2022年3月、日本や欧州各国のリース会社が所有し、アエロフロート並びにS7航空などロシアの航空会社が借り受けていた旅客機515機が、ロシア政府によって接収される見込みとなっています。推定価値1兆円以上にも及ぶ前代未聞の「旅客機の盗難」という事態に直面し、航空業界は大きな岐路に立たされています。」
ロシア政府は、「航空機を盗んでもいいよ」と。マフィアですね。しかし、盗むことはできても、その後どうするのでしょう?整備は?部品の交換は?しばらくすれば、盗んだ515機の航空機に乗るのは危険になってくるでしょう。私の友人の「スズキ車」同様、使えなくなるのです。
次に、鉄道を見てみましょう。モスクワとサンクトペテルブルグを結ぶ高速鉄道サプサンがあります。時速250キロで走る(新幹線は320キロ)。「ロシアの技術もそこまで向上したか…」ではないんです。
これ、ドイツのシーメンス製なのです。そして、シーメンスは、ロシアから撤退した。じゃあ、サプサンの整備、部品交換どうするのでしょう?自動車、航空機と同じで、できなくなるのです。
おわかりでしょうか?現状、ロシア制裁の目に見える影響は、「インフレだけ」です。しかし、長期的に見ると、基幹インフラまで影響がでてきます。だから、欧米日の制裁を「地獄の制裁」と呼ぶのです。
私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「ロシアは、ウクライナとの戦争に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。ウクライナとの戦争に勝ったとしても、地獄の制裁はつづくので、[戦略的敗北は不可避]だ」といいつづけてきました。その考えに変更はありません。
●「共和党が勝てばウクライナ支援は縮小」 米共和党の中間選挙での勝利 6/20
ロシアが米共和党の勝利に期待する理由
ロシアは、来たる米国の中間選挙で共和党が勝利すればウクライナへの支援を中止すると期待しているようだ。
「議会乱入事件の公聴会は、ウクライナを掃討しようというプーチンの企みを危うくするとロシアの評論家が論じる」
英紙「デイリー・エクスプレス」電子版6月14日の記事 は、こういう見出しで逆説的にロシアの願望を伝えた。
米議会では昨年1月6日に議会がデモ隊に襲撃された事件の公開公聴会が6日から始まり、ロシアでもその経緯が詳しく報道されているが、「デイリー・エクスプレス」紙の記事は公聴会では民主党側が優位なので、ウクライナ支援も変わらず続くのではないかというロシア側の懸念を伝えていた。
「ウラジミル・プーチンの子飼いたちは、国営テレビの討論番組で米国の今年の中間選挙の影響を論じ、現在先行している共和党の優位を損ねることになるかもしれないと分析した。出演者の一人で下院議員のアンドレイ・グルリヨフ氏は、中間選挙の結果はロシアの侵攻に対するウクライナの抵抗を支える資金援助に直接的な衝撃を与えるだろうと指摘。もし共和党が勝てば米議会はウクライナに対する援助を停止するのにとまで述べた」
ロシアでは、共和党の方がウクライナ問題では対応が柔軟だと考えられているようで、このテレビ番組に先立ってロシアの著名なテレビ・キャスターのウラジミル・ソロビヨフ氏が「中間選挙で共和党が勝利すれば、ウクライナへの米国の支援は縮小するだろう」と語るビデオがロシアのSNSの間で拡散していた。
ロシアの著名キャスター・ソロビヨフ氏のビデオ
ウクライナ出身で米国のニュースサイト「デイリー・ビースト」の記者ジュリア・デイビスさんがツイッターで公開したそのビデオで、ソロビヨフ氏はこう語っている。
「今ロシアは(停戦)交渉に参加する必要はない。時が我々に利しているからだ。(戦いの)進捗具合も我々に有利にはたらいている」
「(もし11月の中間選挙で)共和党が勝てば多くのことが変わる。もちろん多くのことが変わる」
「共和党員は静かにこう言うだろう。『我々はなぜ(この紛争に)巻き込まれ、多額の我々の金を(ウクライナへ)送らなければならないのか?』と」
「共和党員は言うだろう。『なぜウクライナのような腐敗したナチスを助けなければならないのか?』と」
「彼らは自問するだろう。『我々は誰を支援しているのだ?もちろんロシアは悪だ。制裁は続けなければならない。しかし、我々も国内に学校のための資金が不足しているような時に、巨額の資金を(ウクライナに)投げ与え続けなければならないのか』と」
「『メキシコとの国境の壁を強化する代わりに、中小企業を援助する代わりに我々はその資金を腐敗したウクライナに与え続け、それが何にどう使われたのかさえ分からないのだ』と」
ソロビヨフ氏はビデオでこう語り、共和党が中間選挙に勝てば党内から必ずこういう声が上がりウクライナに対する支援にブレーキがかかるだろうと予測する。
米共和党の伝統的「孤立主義」とは?
事実、先にバイデン政権と与党民主党が提案した400億ドル(採決当時の為替レートで約4兆6000億円)のウクライナ支援予算案の採決の際、上院で11人の共和党議員が反対票を投じている。
その指導的役割を果たしたランド・ポール議員(ケンタッキー州選出)は、反対の理由を議会でこう証言していた。
「私が忠誠を誓ったのは合衆国憲法に対してであり、外国に対してではない。米国の経済を破滅させながらウクライナを救うことはできない」
共和党には伝統的に「孤立主義」の考えがある。中間選挙で勝利すれば、ロシアが期待するように「他国への救済」は二の次になるかもしれない。
●強すぎる主張には呪いがかけられている。プーチン政権の「ジェノサイド」発言 6/20
強すぎる主張には呪いがかけられています。
ロシアの国営メディアはウクライナのゼレンスキー政権を「ナチ」と呼び、東部のドンバス地方ではロシア系住民の「ジェノサイド」が行なわれていると非難してきました。しかしこれをあまりに長く言い続けていると、「ロシア人が殺されているのに、なぜ放置しているのか?」と国民が疑問に思いはじめるでしょう。
もちろんプーチン政権は、こうした強い言葉をたんなるレトリックとして使っていたのでしょう。言葉によって大衆の感情を煽るのは、もっとも安上がりに支持を獲得する方法です。「まもなく世界の終わりがやってくる。破滅から逃れる唯一の道は私を信じることだ」というのは、古来、教祖(カルト)の常套句でした。
しかし、どのような予言もいずれ事実によって反証されることになります。ほとんどの新興宗教は、この壁を超えることができずに消えていきます。そして新たな予言者や陰謀論者が現われ、強い言葉によって信者を集め、予言が外れて混乱に陥り……というサイクルを繰り返すのです。
「言霊」が大きな力をもつのは、それを口にした者を拘束し、社会(共同体)に対して責任を負わせるからです。国家の指導者が「国民が虐殺されている」といえば、言霊によって、虐殺を止めるためになんらかの行動を起こさざるを得なくなります。軍事・国際政治の専門家ですら(あるいは専門家だからこそ)ロシアのウクライナ侵攻を予測できなかったのは、戦略的にはいくら不合理でも、プーチンにはそれ以外の選択肢がなくなっていたことを見逃したからでしょう。
さらに事態をこじらせるのは、自分(たち)が「善」で相手を「悪」とし、善が悪を強い言葉で糾弾することで、悪は自らの過ちを認めて悔い改めるはずだと信じていることです。そんなことがあり得ないのは、自分が「悪」として批判されたとき、どう感じるかを想像してみればいいでしょう。
国際芸術祭をめぐる愛知県知事へのリコール運動では、右派・保守派は典型的な「善(愛国)vs悪(反日)」の構図をつくりましたが、思ったほど署名が集まらなかったことで窮地に陥りました。善が悪に負けることは許されないからです。こうして現場責任者が追い詰められ、不正に手を染めることになったのでしょう。
もちろんこれは、左派・リベラルも同じです。キャンセルカルチャーとは、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の基準を絶対的な正義とし、それに反した(と感じられた)個人を「差別主義者」と糾弾し、社会的に葬り去る(キャンセルする)ことです。この過程はいっさいの公的手続きを無視しているので、誤解によってキャンセルされた者は自らの「冤罪」を晴らす方法がありません。
それにもかかわらず、なぜ日本でも世界でも「善vs悪」の構図ばかりつくられるのか。その理由は、善の立場で正義を振りかざし、悪を叩きつぶすことで脳の報酬系が活性化し、大きな快感が得られるとともに自尊心が高まるからです。
アイデンティティをめぐる争いは(ほぼ)すべてこれで説明できますが、言霊の呪いが怖ろしいのか、口にするひとはほとんどいません。
●プーチン氏への忠誠強要 ウクライナ南部の実態 6/20
ロシアがウクライナ南部の都市ベルジャンスクを占拠した数日後、ウクライナ国旗を持った住民が中心部の広場に集まり、愛国的な歌を歌いながら、ロシア兵に帰れと言い放っていた。デモは日に日に大きくなった。
程なく、ロシア軍がデモ弾圧に乗り出した。強要や脅し、プロパガンダ、暴力でベルジャンスクの抵抗を抑え込み、支配を固める取り組みの一環だ。
ベルジャンスクをはじめロシア軍の制圧下にある都市の運命は、ロシア軍がウクライナ南部の支配をどれだけ維持できるかにかかっている。ウクライナ軍はすでに南部で反撃を開始した。ウクライナ当局によると、ロシアが自国のパスポートの発給や通貨ルーブルの導入、次年度向けの新たな教科書の配布を着々と進めているのは、ウクライナの国家を消し去り、ロシアへの忠誠心を植え付けるためだという。
ロシア軍の重火器や軍用車がベルジャンスクに侵入して間もなく、タチアナ・ティパコワさんはフェイスブックで、市庁舎前に集合してロシア軍に帰れと意志表示するよう、住民に呼びかけた。
ところが、ロシア軍はある朝、街角で店を営むティパコワさんの身柄を拘束。ティパコワさんは流刑地に連行され、36時間にわたって手や頭を殴られ、ガスマスクで窒息させられそうになるなど拷問を受けた。
ロシア軍はさらに、ティパコワさんの耳に金属クリップを取り付けで電流を流した。その上で、ウクライナ寄りの姿勢を撤回する動画を制作しない限り、強制労働をさせるためロシアのロストフかボルクタに送ると脅した。彼女は不本意ながらも要求を受け入れた。
動画の投稿後に解放され、ザポリージャに逃げたティパコワさんはこう語った。「電気ショックが始まるまでは持ちこたえられたが、ここに閉じ込められていては戦えない、生きてここからでなければならないと考えるようになった」。他のデモ主催者も拘束されて暴力を受け、ロシアへの抵抗は徐々に下火になっていった。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)や周辺や東部とは異なり、ロシア軍はほとんど攻撃を加えることなく南東部ザポリージャ州を侵略できた。ウクライナ軍部隊が他の前線へ送られ、手薄になっていたためだ。ロシア軍は占領地域での支配を固める上で、暴力の脅しという常とう手段に加え、活動家を脅し地元住民を懐柔し、ロシア軍占拠の正統性を演出するための巧妙な手口も使っている。
ロシア当局は占拠地でまず、現地の協力者確保に注力している。ベルジャンスクでは、ロシアを支持し、ロシアによるウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の一部支配について長らく理解を示していた隣村の住民を市長に据えた。
ロシア国旗が建物の外に掲げられるようになったベルジャンスク市の結婚登記所では、元清掃員が責任者に就いた。占領下で初めて行われた結婚式では、6組のカップルがロシア国歌が流れる中で参加した。そのうち、少なくとも2組はすでに結婚していたという。以前からその夫婦を知る関係筋3人が明らかにした。
またロシア軍は、ロシアへの協力を拒むベルジャンスク市立学校の幹部の息子(10歳)の身柄を拘束した。その上で、同幹部に対してロシアへの態度を改めるよう迫った、と知人らは話している。息子の行方は分かっていない。
市庁舎を含め、ベルジャンスクのあらゆる場所でウクライナ国家のシンボルが撤去された。市や自治体の事務所ではウラジーミル・プーチン露大統領の肖像画が掲げられている。
他のロシア占領地では、孤児や侵攻開始日である2月24日以降生まれの子どもには、自動的にロシアの市民権が付与されれている。ウクライナ・ケルソン州の占領地の親ロ派指導者の発言を、ロシア国営テレビが伝えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今月に入り、「われわれの歴史やアイデンティティーを消し去り、われわれの存在自体を否定することが(ロシアの)目的だ」と述べている。
ベルジャンスク市の警察部隊は、ロシアが占領して当初1カ月間は、私服でひそかに市民を助けていたが、最終的には武器を置いて協力することを余儀なくされた。現在もとどまっている人は、ロシアの支配を受け入れているという。
警察官のユリ・ミキテンコさん(30)は、ロシア軍への協力を拒んだことで、3週間拘束されたと話す。そこで拷問を受けた後、クリミア半島のセバストポリに送られ、軍での経験やウクライナ政府への忠誠心についてさらに尋問を受けた。血液や指紋、DNAサンプルをとられた後で、ロシア兵の捕虜らと交換されたという。
ロシア当局を支援する警官は現在、立ち去ったウクライナ人の記録を管理し、住民が残していった財産を親ロ派当局が没収する手助けをしている。ベルジャンスクの住民や同市を去った人々の話から分かった。
ミキテンコさんは「ベルジャンスクに残ってロシア側についた警官はみな、退去した人の財産を単純に引き継いでいる」と話す。
元市議会議員のビクトル・ツカノフさんは、ベルジャンスクを去った後、自身のビジネスが没収され、ロシアに協力することに同意した警察官に与えられたことを知ったと話す。
「われわれのこの小さな町では、多くの人が金がもうかる場所を知っており、喜んで引き継ぐ」
前出のティパコワさんの店にもロシア軍が押し入った。近所の人から彼女が聞いた話によると、南米や欧州への旅行で買った酒を兵士や協力者、ロシア寄りの地元当局者がすべて持ち去ったという。
ロシア軍の占領地では、生活必需品の価格が2〜3倍に跳ね上がっている。クリミア半島から南部の支配地域に新たな物流網を確立できていないためだ。ロシア兵は当初、食肉工場から略奪したものを住民に配布するなどしていたが、ロシアからさらに肉類や牛乳を持ち込む必要に迫られている。
4月にベルジャンスクを離れたビクトリア・ガリツナさんは「店は半分空っぽで、棚に何かあっても全く欲しくないものばかりだった」と明かす。 <