第三次世界大戦

第三次世界大戦

北京2022オリンピック競技大会さなか
ロシア プーチン
ウクライナを目指す

プーチンの夢
ソ連の再生 復活
社会主義 独裁国家

民主主義 国家間の団結の脆弱さ 露呈
しかし 自由も右から左 幅の広さ 民主主義の良いところか

 


1/2 ・・・ 1/221/231/24 ・・・ 2/9 ・・・ 2/122/132/142/152/162/172/182/192/20・・・2/212/222/23・・・2/24 ロシア侵攻・・・2/252/262/272/28 ・・・
3/13/23/33/43/53/63/73/83/93/10・・・3/113/123/133/143/153/163/173/183/193/20・・・3/213/223/233/243/253/263/273/283/293/303/31ロシア帝国の自壊・・・

 ・・・  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア
 
 

 

●「第3次世界大戦の発火点はウクライナか、台湾か」 1/2
中国共産党政権が香港などでの苛烈な人権弾圧を正当化し、北京冬季五輪の開幕が迫るなかでも、台湾などへの軍事的威圧行動を止めようともしない。一方、ロシアによるウクライナ侵攻も懸念されている。こうした現状で、岸田文雄政権はどう対処すべきなのか。人気作家でジャーナリストの門田隆将氏が、「歴史に学ぶ」ことの必要性を鋭く説いた。
歴史とは、なんと示唆深く、教訓に満ちたものなのか。そんなことを思う日々が続いている。
新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(民族大量虐殺)で国際社会の非難を浴びる中国。香港で自由と人権が踏み潰されるさまを目撃した西側諸国は連帯に必死だ。
私は一連の動きを見ながら、2008年8月8日、北京五輪開会式当日の出来事を思い出している。ロシアによるジョージア侵攻だ。五輪開会式に出席していたウラジーミル・プーチン首相(当時)は、一方でジョージア北部の南オセチアへの侵攻を命じていたのだ。
突如、攻め込まれたジョージアでは南オセチアとアブハジアが「分離独立」し、今もその状態は変わらない。
14年の時を経た22年2月4日、同じ北京で今度は冬季五輪が開催される。プーチン氏率いるロシアはウクライナ国境に軍を終結させ、虎視眈々と侵攻を狙っている。
一方、中国は台湾への軍事侵攻の意図も隠さず、「ひとつの中国」を掲げ、これまた戦端を開く口実を模索している。
04年3月、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)は悲願のNATO(北大西洋条約機構)入りを果たした。ソ連の侵攻を阻止し、平和を守ることを目的に1949年に成立したNATOは、欧州の平和の要(かなめ)だ。
米国の核をシェアし、どんな攻撃も「全体への攻撃」とみなして全体で反撃するというこの集団安保体制で、欧州は平和を守ってきた。ここに入ることができさえすれば、国民の命は守られるのだ。
だが、バルト三国と明暗を分けたのは、ウクライナとジョージアだった。
両国もNATO入りを望み、2008年、加盟審査のための行動計画への参加が認められるか否かの瀬戸際にあった。
だが、同年4月にルーマニアの首都ブカレストで開かれた「NATOサミット」にゲストとして招かれたプーチン氏は、両国のNATO入りに「平和を乱す行動」と反発し、アンゲラ・メルケル独首相とニコラ・サルコジ仏大統領が同調し、両国の参加は拒否された。
その4カ月後、ロシアは北京五輪開会式当日、ジョージアに侵攻した。約6年後の14年3月にはウクライナのクリミア半島を併合した。
時はめぐり、北京冬季五輪を控え、ウクライナは再び一触即発となり、中国は台湾への軍事侵攻の口実を探し、「第3次世界大戦の発火点はウクライナか、台湾か」という危機を迎えている。
岸田文雄政権はそんななか、対米、対中の「二股外交」を展開している。
五輪への政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」にもなかなか踏み切れず、先の臨時国会の所信表明演説では、岸信夫防衛相から「台湾海峡の平和と安定」を中国に対して求める文言を加えるよう要請されたが、拒否したことも明らかになった。
「親中派」の宏池会(岸田派)ならば当然だろう。中国は天安門事件(1989年)での国際社会からの制裁打破に、宏池会の宮沢喜一政権を利用して天皇訪中(92年)を実現し、国際社会の包囲網を突破した。
当時の銭其琛(せんきしん)外相が、回顧録『外交十記』で天皇訪中を「西側の対中制裁を打破する上で積極的な役割を発揮し、その意義は両国関係の範囲を超えたものだった」と回想したのは、あまりに有名だ。
中国に舐(な)められ、利用され、思い通りに動かされる日本。私が歴史の示唆と教訓を思うのは、国際社会には、これを「生かす国」と「生かさない国」の2種類があるからだ。日本が後者であることが情けなく、恐ろしい。 
 
 

 

●米ロ外相が会談、緊迫するウクライナ情勢めぐり ロ提案に米が来週回答へ 1/22
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相とアメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は21日、緊迫するウクライナ情勢をめぐりスイス・ジュネーヴで会談した。両外相は、ウクライナでの紛争拡大防止を目的とした会談について、「率直」なものだったと語った。
ロシアはウクライナ東部の国境付近に推定10万人規模の部隊を集結させているが、ラヴロフ外相はウクライナ侵攻を意図したものではないと繰り返し否定した。
ブリンケン国務長官は、アメリカはいかなる侵攻にも厳しい対応をとる方針だと述べた。
ウクライナ東部では、約8年前に激しい戦闘が勃発して以降、親ロシア派の反政府勢力が同地域の大部分を占領している。ウクライナ軍と親ロシア派の戦闘ではこれまでに約1万4000人の命が失われ、約200万人が住む家を追われた。2020年に停戦合意が成立したものの、それ以降は相手が合意に違反したと互いに非難し合っている。
アメリカとその同盟各国は、ロシアがウクライナへ侵攻すれば新たな制裁を科すと警告している。
米政府は来週にも自らの立場を文書にまとめ、さらに協議する予定。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、西側諸国に様々な要求を重ねてきた。ウクライナは決して北大西洋条約機構(NATO)に加盟すべきではなく、NATOは軍事演習を放棄し、東欧諸国への武器の提供を停止すべきだと訴えている。
プーチン氏は、NATOの拡大や国境付近でのNATOの軍事的プレゼンスが、ロシアの安全保障に対する直接的脅威になっていると主張している。
米ロ外相は何と
ブリンケン国務長官は外相会談について、「率直で実質的な」ものだったとし、ラヴロフ外相も「率直」な会談で「合理的な対話をしていく」ことで合意したと述べた。「感情的な反応が収まるよう望んでいる」と、ラヴロフ氏は付け加えた。ブリンケン氏はラヴロフ氏に対し、ロシアがウクライナへ侵攻すればアメリカと同盟国が「一致団結し、迅速かつ厳しい」対応を取ることになると警告した。会談後には、アメリカには互恵の精神に基づき、ロシアをめぐる懸念に対処するため、あらゆる手段を追求する用意があると述べた。ブリンケン氏はまた、ロシアが部隊を増強し、南、東、北の3方向からウクライナを攻撃する能力を獲得したと指摘。ロシアにウクライナへの侵略行為を止めるよう求めた。アナリストたちは会談前、両政府がウクライナ国境付近での軍事演習の透明性拡大や、欧州でのミサイル配備規制復活などで、合意するかもしれないと予測していた。こうしたルールは、冷戦下の1987年にアメリカとソ連が結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約で定められていたもの。アメリカはロシアが条約に違反しているとして2019年にこの条約を失効させた。
アメリカの主張
ブリンケン国務長官は、ロシアがサイバー攻撃などの非軍事的方法で自国利益を増進するための「広範なプレイブック(戦略と戦術)」を用意していると、アメリカは経験上承知していると述べた。そして、アメリカが今後数週間、ウクライナに「安全保障支援」を提供し続けると確認した。アメリカは昨年、ウクライナに対戦車誘導ミサイルシステムのほか、小型の武器や弾薬を提供している。ブリンケン氏は、ラヴロフ氏との会談でイランの核能力をめぐる交渉も話題に上ったとして、イラン核問題への対応は、安全保障問題で米ロが協力できることを示す事例だと述べた。
ロシアの主張
一方、ラヴロフ氏はオープンで有益な会談だったとしつつ、NATOはロシアに対立する動きを重ねていると非難。さらに、ロシアは「ウクライナの人々を脅かしたことはなく」、ウクライナへの攻撃は計画していないという、従来の主張を繰り返した。また、ウクライナ政府が同国東部を占領する反政府勢力に対して「国家テロ」を行い、同地域の紛争停止を目的とした2015年のミンスク和平合意を「妨害」していると非難した。ラヴロフ氏は、アメリカが来週にも、ロシアの全提案に対して「書面で回答」すると述べた。しかしブリンケン氏は、アメリカは「来週、懸念とアイデアを書面でより詳細に」共有したいと述べるにとどめた。ロシアは会談の前日、今月から来月にかけて、ロシア近海のほか地中海や北海、オホーツク海、太平洋などで140隻以上の艦艇や60機以上の航空機を動員した軍事演習を実施すると発表した。軍事力を誇示するためとみられる。アメリカはこの日、ウクライナ侵攻に備えてロシアの諜報員がウクライナ政府の現・旧職員を雇い、侵攻から直ちにロシアに協力する臨時政府を現地に設けられるよう工作していたと発表。米財務省はこの陰謀に加担したとされるウクライナの現職国会議員2人と元政府関係者2人に制裁を科した。
欧州諸国の反応
ブリンケン氏は会談に先立ち、ウクライナへの支援を示すため首都キーウ(キエフ)を訪問。ドイツ・ベルリンで独・英・仏外相との会談を経て、ジュネーヴ入りした。欧州の一部の国は、東欧におけるNATOの軍事配備の強化に向けて動いている。スペインは地中海と黒海に展開するNATO海軍部隊に加わるため軍艦を派遣。デンマークもバルト海にフリゲート艦を派遣する方針を発表した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ルーマニアへの部隊派遣を申し出ている。イギリスは17日、ウクライナに自己防衛のための短距離対戦車ミサイルを供給していると発表した。また、訓練を提供するためにイギリス軍の小チームをウクライナに派遣したとした。リズ・トラス英外相は21日、恐ろしい犠牲を出すことになる「大規模な戦略的ミスを犯す前に思いとどまり、ウクライナから手を引く」ようプーチン氏に求めた。
「小規模な侵攻」
ウクライナ情勢をめぐっては、アメリカのジョー・バイデン大統領が19日、ロシアの侵攻が「小規模」ならアメリカや同盟国の対応はより小さくなるかもしれないと示唆。一部の記者から、アメリカがロシアによるウクライナへの小規模な侵攻を認めるつもりなのかとの質問が出た。
これを受け、米政府関係者が慌てて政府の立場を明確にする事態となった。
バイデン氏自身も20日、ロシア軍によるいかなる侵入も「侵攻」とみなされると述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は20日、「小規模な侵攻などない。愛する人を失う際に、小規模な犠牲や小さな悲しみなどないのと同じだ」と反発した。 

 

●英外務省が異例声明、ロシアがウクライナ政府トップに親ロシア派の投入画策 1/23
英外務省は22日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ政府トップに親ロシア派の人物を据えようと画策していると非難した。
同省は声明で、ロシアがウクライナ政府のトップにウクライナのイーヴェン・ムラエフ元議員を据えようと検討していると表明した。英政府がこうした形で、特定の人物を名指しするのは異例。ムラエフ氏は、かつてウクライナの親ロ政権下で最高会議議員だった。
リズ・トラス英外相は声明の中で、「本日発表された情報は、ウクライナ政府を転覆しようとするロシアの活動の規模に光を当てるもので、ロシア政府の考えの中身をうかがわせるものだ」だとした。
外相はその上で、「ロシアは緊張状態を緩和させ、侵略行為や偽情報展開の活動を止め、外交の道を追求しなければならない」、「イギリスやそのパートナー国が繰り返し伝えているように、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は深刻な犠牲を伴う甚大な戦略的ミスになる」と述べた。
ロシアはウクライナ東部の国境付近に推定10万人規模の部隊を集結させているが、ウクライナ侵攻は意図していないと主張している。
イギリスの閣僚らはロシアがウクライナに侵攻すれば、深刻な結果を招くことになると警告している。
メディア・オーナーのムラエフ氏は、2019年の選挙で所属政党が得票率5%を確保できなかったため、ウクライナ議会での議席を失った。
英外務省は声明でムラエフ氏のほかに、ロシア情報機関との関係を維持しているとして、ウクライナの元政府要人4人の名前も挙げた。このうち数人は、侵攻作戦の策定に現在携わるロシア情報機関の関係者と過去に接触していたという。
英外務省が名指しした4人には、2014年に失脚した親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領(当時)の下で首相を務めたミコラ・アザロフ氏も含まれる。
政権崩壊後にロシアへ逃れたアザロフ氏は亡命政権を樹立したが、これはロシアの支配下にある傀儡(かいらい)政権だと広く認識されている。
同氏は国際制裁の対象となっているほか、ウクライナ政府の要請により、横領や資金の不正流用などの容疑で国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)のレッド・ノーティス(容疑者の引き渡しを要請する通知)が出ていいる。
英外務省は今回、ウクライナ国家安全保障・国防会議の副議長だったウォロディミル・シヴコヴィッチ氏の名前も挙げている。シヴコヴィッチ氏は今週、ロシアの情報機関と連携していたとして、アメリカの制裁対象となった。
残りの2人は、ヤヌコヴィッチ政権下で副首相を務めたセルフィ・アルブゾフ氏とアンドリー・クリュイエフ氏という。
2014年にウクライナで親ロシア政権が崩壊すると、ロシアはウクライナ南部クリミア半島を併合し、ウクライナの領土を占領した。
ロシア軍がウクライナ国境に集結していることを受け、西側諸国やウクライナの情報機関は、2022年初頭にも、ロシアによる新たな侵略や侵攻が起こる可能性があると示唆している。
ロシアはウクライナへの攻撃は計画していないとしているものの、プーチン大統領は西側諸国に様々な要求を重ねてきた。ウクライナは決して北大西洋条約機構(NATO)に加盟すべきではなく、NATOは軍事演習を放棄し、東欧諸国への武器の提供を停止すべきだと訴えている。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官とロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は21日、ウクライナ情勢をめぐりスイス・ジュネーヴで会談した。両外相は、ウクライナでの紛争拡大防止を目的とした会談について、「率直」なものだったとした。それから数時間後の22日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)にアメリカから「軍事的支援」が届いた。「最前線で国を防衛する人々」への弾薬などの支援物資は、ジョー・バイデン米大統領が昨年12月に承認した2億ドル(約227億円)規模の安全保障支援パッケージの第一便。
これに先立ち、英下院の国防特別委員会のトバイアス・エルウッド委員長は、ウクライナへの侵略行為が差し迫っている恐れがあると警告。ウクライナを支援するため、イギリスはこれまで以上に対応する必要があると述べた。最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首も、「ロシアの武力侵略に断固として反対」するとし、「我々の価値と安全を守る」よう政府に求めた。イギリスは17日、ウクライナに自己防衛のための短距離対戦車ミサイルを供給していると発表した。また、訓練を提供するためにイギリス軍の小チームをウクライナに派遣したとした。イギリスやアメリカ、ロシアと国境を接する旧ソ連構成国を含むNATOの加盟30カ国は、1カ国に対する武力攻撃は全加盟国に対する攻撃だとし、互いに支援することで合意している。

 

●米政府、在ウクライナ大使館員の家族に退避命令 1/24
アメリカ政府は23日、ウクライナの米大使館職員の家族に国外退避を命じた。ウクライナでは、ロシアによる軍事行動の可能性をめぐって緊張が高まっている。
米国務省は、在ウクライナ米大使館において職務上不可欠ではない職員の国外退避も許可した。また、ウクライナにいる米国民に、出国を検討するよう強く求めた。
同省は声明で、「ロシアがウクライナに対する重大な軍事行動を計画しているとの報告がある」と説明。現地の治安情勢は「予測不能で、短時間で悪化する可能性がある」とした。
ロシアは、ウクライナ侵攻を計画しているとの見方について、否定している。
ウクライナ東部の国境付近には、ロシアが推定10万人規模の部隊を集結させている。
北大西洋条約機構(NATO)のトップは、ヨーロッパで新たな紛争が発生する恐れがあると警告している。
ウクライナには22日、「前線守備隊」への武器など、約90トンの軍事支援物資がアメリカから届いた。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、「(ロシアの)プーチン大統領の計算に対応する一連の行動」を取っていると説明。ウクライナにおける軍事支援の増強も、その一環だとした。
ロシアは過去にもウクライナの領土を奪っている。2014年には、ウクライナが親ロシアの大統領を追放したことを受け、ロシアはウクライナ南部クリミア地方を併合した。
以来、ウクライナ軍はロシアと国境を接する東部ドンバス地方で、ロシアの支援を受けた反政府勢力と戦闘を続けている。ドンバス地方ではこれまでに約1万4000人が死亡したとみられている。
イギリス外務省は22日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ政府トップに親ロシア派の人物を据えようと画策していると非難した。
英政府はロシア政府に対し、ウクライナに侵攻すればロシアは深刻な結果に直面することになると警告している。
 
 
 

 

 
 
 

 

●仏大統領、プーチン氏が「ウクライナ情勢悪化させないと保証」 ロシア側否定 2/9
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は8日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領から、ロシア軍がウクライナ国境付近の危機を高めることはないとの保証を得たと明らかにした。一方でロシアは、マクロン氏が示唆した保証の内容は「正しくない」としている。
マクロン大統領はこの日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談。それに先立ち、前日に会談したプーチン氏から「悪化やエスカレートはないという確証を得た」と述べていた。
ロシアはウクライナ侵攻を計画していないとしているが、ウクライナとの国境付近に推定10万人規模の部隊を集結させている。
米当局は、ロシアが本格的な侵攻に必要な軍勢の70%を集結させたとみている。
ロシアによるウクライナ南部クリミア地域の併合から8年がたった今、ロシア、ウクライナ、西側諸国の緊張が高まっている。
ロシア政府は、ウクライナ政府が同国東部の平和を回復するための国際的取り決めであるミンスク合意を履行していないと非難している。ロシアの支援を受けた反政府勢力が支配するウクライナ東部での紛争では少なくとも1万4000人が死亡している。
プーチン氏に「具体的な手段」示すよう求める
7日にロシア・モスクワを訪問したマクロン氏は、プーチン氏と6時間近く会談。8日にはウクライナの首都キーウ(キエフ)に入った。
ウクライナのゼレンスキー大統領と会談後、両首脳は記者会見に臨んだ。マクロン氏は、ロシアとウクライナの間で「交渉を前進させる」チャンスが到来しており、緊張緩和にむけた「具体的な解決策」が見えてきたと述べた。
ゼレンスキー氏は、緊張緩和のための真剣な対策を講じるようプーチン氏に求めた。「私は全く言葉を信用していない。すべての政治家は具体的な手段を講じることで透明性を示せると信じている」と述べた。
ウクライナ大統領と気まずい場面も
BBCのポール・アダムス外交担当特派員は、ゼレンスキー氏がプーチン氏を全く信用していないと指摘した。
アダムス特派員はまた、ゼレンスキー氏がマクロン氏の支持を歓迎し、2人がウクライナ、欧州、そして世界が直面する課題について「共通のビジョン」を持っていると述べたと報告した。ただ、会談では気まずい瞬間もあったと伝えた。マクロン氏は、ウクライナとNATOの関係の模範になり得るものとして、NATOと近いものの加盟国ではないフィンランドとの関係を挙げたとする報道を、否定しなければならなかったという。
プーチン氏がミンスク合意の履行を求めていることも、ゼレンスキー氏にとって課題だとアダムス特派員はみている。戦時下でペトロ・ポロシェンコ前大統領が署名したミンスク合意を現状のかたちで履行すれば、東部ドンバスを支配している親ロシア派勢力の権威を高めることになるのではないかと恐れているという。
7日の仏ロ会談では、プーチン大統領はマクロン氏の提案の一部が「合同で取り組む今後の措置の基礎になり得る」としつつ、内容に触れるのは「おそらくまだ時期尚早」だと述べた。
仏政府関係者はその後、マクロン氏とプーチン氏が、ウクライナ北部の国境付近で行われている軍事演習終了後に、ロシアがベラルーシから軍を撤退させることで合意したと記者団に語った。
これに対し、ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官はいかなる取り決めもなされていないと否定。ただ、部隊はいずれロシアに戻る見込みだとした。
仏独ポーランド3首脳が会談
マクロン氏は8日、ドイツ・ベルリンへ移動し、ドイツのオラフ・ショルツ首相とポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領と3者会談を行った。
アメリカ・ワシントンでは7日、ジョー・バイデン大統領とショルツ独首相が会談。バイデン氏はロシアがウクライナに侵攻した場合はロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画は「終わらせる」と述べた。
ショルツ氏がワシントンを訪問するのは首相就任後初めて。ウクライナ危機への対応に批判を受けているものの、パイプラインについてはバイデン氏よりあいまいな態度を示した。
ボリス・ジョンソン英首相は8日付の英紙タイムズに寄稿し、イギリスは「南東欧を守るために」英空軍の戦闘機と英海軍の軍艦の配備を検討していると述べた。
ロシアはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を認めないことや、東欧でのNATOの軍事プレゼンスを縮小することなどを求めているが、西側諸国はこうした要求を拒否している。
キャロライン・デイヴィスBBCモスクワ特派員は、ロシアの主な関心は依然としてアメリカに向けられているようだと指摘。ロシアはNATO拡大に対する安全保障上の懸念に、西側諸国が応えていないと感じていると、再び強調しているとした。そして、双方とも譲歩する気配を見せない中、このことが外交議論の中心である限り交渉が難しくなるとした。

 

●ウクライナ情勢 米がポーランドに3000人規模の部隊 追加派遣へ  2/12
ウクライナをめぐる軍事的な緊張の高まりを受けて、アメリカのバイデン政権は、ヨーロッパ東部の防衛態勢を強化するためとして、すでに部隊を派遣しているポーランドにさらに3000人規模の部隊を追加することを決めました。
アメリカのバイデン政権は、ヨーロッパ東部の防衛態勢を強化するため、ウクライナに隣接するポーランドとルーマニア、それにドイツに、アメリカ軍の部隊の派遣を進め、このうちポーランドには、主に陸軍の第82空てい師団から、およそ1700人の派遣が決まっています。
こうした中、アメリカ国防総省の高官は11日、バイデン政権がポーランドに3000人規模の部隊を追加で派遣することを決めたと明らかにしました。
派遣されるのは、アメリカ南部ノースカロライナ州のフォートブラッグ基地に駐留する空てい部隊で、数日以内に基地を出発し、現地で第1陣の部隊と合流する予定だということです。
アメリカからヨーロッパに派遣される部隊は合わせて5000人規模となり、国防総省の高官は「NATOの加盟国を安心させ、さまざまな緊急事態に対応する」と強調しました。
ウクライナ情勢をめぐってアメリカは、ホワイトハウスの高官が11日「ロシアによる軍事侵攻は、北京オリンピックの期間中を含め、いつ始まってもおかしくない」と述べるなど、警戒感を強めています。

 

●米国務長官 ウクライナの事態沈静化 ロシア側に呼びかける  2/13
緊張が続くウクライナ情勢をめぐり、アメリカのブリンケン国務長官はロシアによる軍事行動のリスクは高いという認識を示す一方、「外交的な道は残されている」として、ロシア側に事態の沈静化を改めて呼びかけました。
アメリカのブリンケン国務長官は12日、訪問先のハワイで記者会見し、ウクライナ情勢について「ロシアによる軍事行動のリスクは高く、脅威は十分に差し迫っている。ロシアが軍事行動を正当化するため、挑発行為や事件を引き起こしたとしても誰も驚かない」と指摘しました。
そして、「ロシアがウクライナに侵攻する道を選んだ場合は迅速に対応する。それは厳しいものになるだろう」と述べて、欧米が結束して厳しい措置を取ると警告しました。
一方、ブリンケン長官は「この危機を解決するための外交的な道は残されている」とも述べ、ロシア側に事態の沈静化に向けて努力するよう改めて呼びかけました。
またブリンケン長官は、NATO=北大西洋条約機構をこれ以上拡大させないとするロシア側の要求に対し先月、アメリカが回答した書面について、ロシアのラブロフ外相が日本時間の12日夜の電話会談で「返答に取りかかっている」と述べたと明らかにし、ロシア側の出方を見極める考えを示しました。
緊張が続くウクライナ情勢をめぐり、各国はウクライナの首都キエフにある大使館の職員の退避を決めるなど、影響が広がっています。
このうち、オーストラリアのペイン外相は13日、キエフにある大使館の業務を停止し、職員に退避するよう指示したことを明らかにしました。
ロシアがウクライナとの国境付近に軍の部隊を増強し、情勢が悪化しているとの判断によるもので、退避した職員は当面、隣国ポーランドとの国境に近いウクライナ西部の都市リビウに設けた臨時の事務所へ移るということです。
これに先立って、アメリカが12日、ロシアによる軍事行動の脅威が高まっているとして、ほとんどの職員の国外退避を決めたほか、イギリスも先月24日に職員や家族の一部を国外に退避させる措置を取るなど、各国が対応を急いでいます。
一方、影響は空の便にも出始めていて、オランダの航空会社、KLMオランダ航空は12日、ウクライナとの間の航空便の運航を当面、取りやめると発表しました。
オランダ政府がウクライナへの渡航の中止を勧告したことなどを考慮した措置だとしています。
●十数カ国の政府、ウクライナ退避を自国民に勧告 ロシアも大使館縮小 2/13
ロシアがウクライナ国境沿いに部隊を集結させる中、12日までに十数カ国の政府が、ウクライナから直ちに退避するよう自国民に勧告した。ロシアも同日、駐ウクライナに駐在する大使館員の数を縮小すると発表した。ジョー・バイデン米大統領は同日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で会談し、ロシアがウクライナに侵攻すれば、ロシアは「素早く厳しい代償」を払うことになると警告した。
兵10万人以上の部隊をウクライナ国境沿いに配備したロシアが侵攻の意図はないと主張し続けているのに対し、米政府は侵攻がいつ始まってもおかしくない状態にあると警告している。ホワイトハウスが、ロシアの侵攻は空爆から始まるかもしれないと述べているのを、ロシアは「挑発的な憶測」だと反発している。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日、侵攻があると警告すればパニックを引き起こしかねないと、慎重な対応を求めた。ゼレンスキー氏は記者団を前に、パニックこそ「私たちの敵にとって、何よりの親友だ」と述べた。
こうした中、アメリカのほかにこれまで、イギリス、日本、カナダ、オランダ、ラトヴィア、韓国、ドイツ、オーストラリア、イタリア、イスラエル、オランダなど複数の政府が、自国民に対し、直ちにウクライナを離れるよう勧告している。大使館員や家族をすでに出国させた国もある。
ウクライナの首都キーウ(キエフ)では、アメリカ大使館の業務に不可欠ではないスタッフは退避を命じられた。領事業務も13日から停止されるが、ポーランド国境に近い西部の都市リヴィウへ「少人数の領事担当」を移動させ、「緊急事態に対応」するという。米政府はさらに、ウクライナ兵を訓練していた米兵150人も「念のため」に退避させた。

 

●ウクライナ情勢めぐり英外相が訪ロ、ジョンソン首相も相次ぎ首脳会談 2/14
英国のエリザベス・トラス外務・英連邦・開発相は2月9日から2日間、ロシアを訪問した外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。10日に、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談した。会談後の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、トラス氏がラブロフ氏に対し、ウクライナへのさらなる侵攻は重大な結果につながり、厳しい代償を払うことになると牽制、国境地帯からのロシア軍の撤退とNATO側が求める外交による解決を呼びかけたとしている。一方、ラブロフ氏は、トラス氏がロシア側の説明を聞き入れる姿勢になかったとして不満を示した(「タイムズ」2月11日)。
2月2日にはボリス・ジョンソン英国首相が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行い、ウクライナへの敵対的行為に対して深い懸念を表明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。その後も、ドイツ、フランス、リトアニア、オランダの首脳と立て続けに会談。10日にはポーランド・ワルシャワを訪問し、マテウシュ・モラビエツキ首相、アンジェイ・ドゥダ大統領と相次いで会談した。ジョンソン首相は11日には米国、カナダ、イタリア、ポーランド、ルーマニア、フランス、ドイツの首脳や、欧州理事会(EU首脳会議)、欧州委員会、NATOの代表者らと会談外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。NATO加盟国に対し、ロシアが侵攻を決定した際に厳しい経済制裁パッケージを発動できるよう、準備を確実にしておく必要があるとした。
ベン・ウォーラス英国国防相も2月11日、ロシアでセルゲイ・ショイグ国防相らと会談外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。ウォーラス氏は、ショイグ氏から侵攻は行わないとの保証について説明を受けたとした。
また、ジョンソン首相は2月10日、ワルシャワ訪問に先立ち、ブリュッセルでNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長と会談外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、東欧への戦艦派遣や南東欧への戦闘機増強などNATOに対するコミットメント強化に向けた計画を述べた。さらに、英国の野党・労働党のキーア・スターマー党首も同日、同党のウクライナへの支援を示すため、ストルテンベルグ氏を訪問。同氏は、NATOに対して批判的なジェレミー・コービン前労働党党首の姿勢を誤りとし(「タイムズ」2月10日)、政府の対応について支持を示していた。
政府は2月10日、対ロ制裁の強化と対象拡大に向けた新法が発効したことを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。これにより、英国政府がロシア政府に関連する団体、企業、その経営者などに対しても制裁を発動することが可能となった。
●ウクライナ情勢「急速に悪化の可能性」 日本政府が退避呼びかけ 2/14
松野博一官房長官は14日午前の記者会見で、ウクライナ情勢について、「事態が急速に悪化する可能性が高まっている」と述べた。国境周辺でのロシア軍の増強配備について「重大な懸念を持って注視しており、高い警戒感を有している」と語り、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まっているとの見方を示した。
政府は同日、首相官邸で国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を開き、岸田文雄首相が林芳正外相や岸信夫防衛相らと対応を協議。出席した松野氏によると、首相は邦人保護や外交上の取り組みについて「遺漏なく対応するように」と指示した。
外務省は11日付でウクライナ全土の危険情報を最も高い「レベル4(退避勧告)」に引き上げ、首相官邸の危機管理センター内には情報連絡室が設置された。13日には在ウクライナ日本大使館から現地の邦人に退避を強く勧告するメールを出し、「民間航空機の運航が停止される可能性も否定できない」とし、「直ちに退避して下さい」と呼びかけた。大使館も14日以降、一部を除いて職員を国外退避させ、機能を縮小すると公表した。
松野氏によると11日までに確認されている在留邦人は約150人。松野氏は「近日中にも、すべての航空便の運航が停止される可能性がある」とし、「政府として在留邦人の安全確保に最大限取り組んでいく」と述べた。
●G7、対ロ経済制裁の用意 ウクライナ情勢で共同声明 2/14
先進7カ国(G7)財務相は14日、共同声明を発表し、ロシアがウクライナに侵攻した場合には「ロシア経済に甚大かつ即時の結果をもたらす経済・金融制裁を共同で科す用意がある」と表明した。
ウクライナ情勢が緊迫化する中、G7が協調して対ロ圧力を強めた格好だ。
G7はこれまで外相の声明では制裁を示唆してきたが、経済・金融制裁を担う財務相が言及したのはこれが初となる。G7財務相は、2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した後にも声明を出した。
声明では「われわれの喫緊の優先課題は緊張緩和に向けた努力を支援することだ」としながらも、ロシアが侵攻すれば「迅速、協調的かつ強力な対応に直面する」と改めて強調した。同時にウクライナに対する支援の決意も示した。
鈴木俊一財務相は同日、財務省で記者団に「引き続きG7として状況を注意深く監視する」と語った。 
●ウクライナ情勢で「ロシアを黙認」か 中国は反発 2/14
ウクライナ情勢を巡って軍事的圧力を強めるロシアを中国が黙認しているとの批判に対し、中国外務省は「好戦的な発言はやめるべきだ」と反発しました。
中国外務省は14日の会見で、ウクライナからの退避について問われ、「中国大使館は正常に運営されている」と述べました。
さらに、「滞在する中国国民と緊密に連絡している」とし、退避勧告などの考えがないことを明らかにしました。
一方、ウクライナ周辺に大規模な兵力を配備するロシアに対し、中国が沈黙しているとの批判には「緊張をエスカレートさせる好戦的な発言はやめるべきだ」と反発しました。
中国メディアではアメリカが危機をあおっているとの論調が主流で、外務省も「情勢を刺激すべきでない」と述べて、名指しは避けつつアメリカを牽制(けんせい)しました。

 

●政府 ウクライナ情勢 日本人に退避呼びかけ 侵攻時の制裁検討  2/15
ウクライナ情勢をめぐり、政府は、事態が急速に悪化する可能性が高まっているとして、現地に滞在する日本人に直接、国外への退避を呼びかけるなど、安全確保に全力をあげることにしています。一方で、仮にロシアが侵攻した場合の制裁措置について、アメリカなどと連携して、具体的な検討を急ぐ方針です。
緊張が続くウクライナ情勢をめぐって、政府は、14日NSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開き、岸田総理大臣が、現地に滞在する日本人の保護などに万全を期すよう指示しました。
外務省によりますと、ウクライナには、14日時点でおよそ150人の日本人が滞在しているということです。
政府は、今後、商用便の運航がすべて停止されるおそれもあることから、大使館員らが、個別に電話して直接、国外への退避を呼びかけるなど安全確保に全力をあげることにしています。
また、現地では、各国の大使館機能を縮小する動きが広がっていることから、政府は、首都キエフにある日本大使館のほとんどの職員を退避させるとともに、西部のリビウに連絡事務所を設け機能を維持することにしています。
一方、岸田総理大臣は、14日の自民党の役員会で、仮にロシアが軍事侵攻した場合の制裁措置について、アメリカなどと調整していることを明らかにしました。
G7・主要7か国の財務相は、14日夜、共同で声明を発表し、「ロシア経済に甚大かつ即時の結果をもたらす経済・金融制裁を共同で科す用意がある」と表明し、ロシア側に警告しました。
政府は、関係国と連携して、制裁措置の具体的な検討を急ぐ一方で、緊張緩和に向けた外交努力も粘り強く続けていく方針です。
●ウクライナ情勢 米 “ロシアは対話望むなら緊張緩和へ行動を”  2/15
ウクライナ情勢をめぐり、ロシアのラブロフ外相はプーチン大統領に対し、欧米側と対話を継続すべきだとする考えを伝え、対話を重視する姿勢を強調しました。これについて、アメリカ国務省の報道官は「具体的な緊張緩和の兆しが見えない」として、ロシア側が対話を望むのであれば、緊張緩和に向け、行動で示すよう求めました。
ウクライナ情勢をめぐって緊張が続く中、ロシアのラブロフ外相は14日、プーチン大統領に、欧米側と安全保障の問題で合意できる可能性があるのかどうか問われ「可能性は残されていると思う。いつまでも続けるべきではないが、現時点では協議を継続し、活発化させることを提案したい」と述べ、対話を継続すべきだとする考えを伝えました。
これについて、アメリカ国務省のプライス報道官は記者会見で「もしラブロフ外相の発言に続いて、具体的かつ明確な緊張緩和の兆しがあれば歓迎するが、その兆しはまだ見えない」と述べ、ロシア側が対話を望むのであれば、緊張緩和に向け行動で示すよう求めました。
また、ホワイトハウスのジャンピエール副報道官は会見で「ウクライナの国境周辺には連日、ロシア軍が新たに到着しているのが確認されている。軍事侵攻はいつ始まってもおかしくない」と述べるとともに、ロシアが欧米側との対話による解決と軍事侵攻のどちらを選んでも、アメリカとしては対応する用意があると強調しました。
米国防長官 欧州訪問へ 各国と協議
アメリカ国防総省は、オースティン国防長官が15日からヨーロッパを訪問し、緊張が続くウクライナ情勢をめぐって各国の国防相らと協議すると発表しました。
オースティン長官が訪れるのはNATO=北大西洋条約機構の本部があるベルギーと、ウクライナに隣接するポーランド、それにバルト3国の1つ、リトアニアです。
ベルギーではNATO加盟国の国防相らと、ウクライナ周辺に展開するロシア軍の状況について協議するということです。
また、ウクライナ情勢を受けてアメリカ軍の部隊を追加で派遣しているポーランドでは、ドゥダ大統領らと会談するほか、現地に駐留する部隊を視察するとしています。
さらにリトアニアではナウセーダ大統領のほか、エストニアとラトビアを加えたバルト3国の国防相とも合同で会談するということで、一連の訪問を通じてNATO加盟国に対するアメリカの防衛義務を改めて明確に打ち出すねらいがあります。
岸田首相「高い警戒感持って状況を注視」
岸田総理大臣は総理大臣官邸で開かれた政府与党連絡会議で、ウクライナ情勢について「重大な懸念を持って情勢を注視しており、引き続き高い警戒感を持って状況を注視しつつ、G7各国と緊密に連携のうえ状況の変化に応じて適切に対応していく」と述べました。
松野官房長官「在留邦人の安全確保に最大限取り組む」
松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「ウクライナ国境周辺地域では、ロシア軍の増強などにより緊張が高まっており、予断を許さない状況が続いている。関係国による外交努力の動きがある一方で、事態が急速に悪化する可能性が高まっており、政府としてこうした動きを重大な懸念を持って注視し、高い警戒感を有している」と述べました。そのうえで「14日時点で確認されている在留邦人はおよそ130人だ。引き続き、政府として現地の情勢も踏まえながら、在留邦人の安全確保に最大限取り組んでいく」と述べました。
林外相「侵攻なら制裁含め検討」
林外務大臣は、記者会見で「日本政府は大前提として外交交渉による解決を強く求めている。仮にロシアによる侵攻が発生した場合、わが国として制裁を科すことも含めて、実際に起こった状況に応じ、G7をはじめとする国際社会と連携して適切に対応していく」と述べました。また、ウクライナに滞在する日本人の安全確保について「政府として、現地の情勢も踏まえながら在留邦人の安全確保に最大限取り組んでいきたい。ウクライナ西部のリビウ市に臨時の連絡事務所を開設し、一定の邦人保護の業務に対応している」と述べました。
岸防衛相“この時期の異例な軍事演習で能力誇示か”
岸防衛大臣は閣議のあとの記者会見で、今月1日以降、日本海とオホーツク海の南部で活動するロシア海軍艦艇24隻を確認したとしたうえで「世界的な軍事演習の一環として活動を行ったものと考えており、この時期の大規模な軍事演習は異例だ」と述べました。そのうえで「昨今のウクライナ周辺における動きと呼応する形で、ロシア軍が東西で活動しうる能力を誇示するため、オホーツク海や太平洋でも活動を活発化させていると考えられる。防衛省としては、ウクライナ情勢を含むロシア軍の活動について重大な懸念を持って注視しており、情報収集・警戒監視を継続していく」と述べました。また、岸大臣は「防衛省・自衛隊としても、外務省をはじめ関係省庁と緊密に連携をとりつつ、情勢の推移に応じて適切に対応していきたい。平素から自衛隊は在外邦人などの輸送の派遣命令が出た場合に、速やかに部隊を派遣できるよう待機の態勢をとっている」と述べました。

 

●ウクライナ情勢、米がロシア脅威論で緊張演出 中国外務省 2/16
中国外務省は16日、ウクライナ情勢について、米国が軍事的脅威を演出し緊張を作り出していると批判した。
ロシアは15日、軍をウクライナ国境付近に集結させていた軍を一部撤収させると表明したが、バイデン大統領はウクライナ周辺に配置されたロシア軍部隊は15万人規模に拡大しており、ロシアのウクライナ侵攻の可能性は依然あると指摘した。
中国外務省の汪文斌報道官は16日の定例会見で、「一部西側諸国の継続的なデマ発信は混乱と不確実性を生み、世界に試練や不安、分断をもたらす」と指摘。
「関係者はデマの拡散をやめ、平和や相互信頼、協力に寄与する行動をするよう希望する」と述べた。
その上で「中ロの首脳は、非同盟、非対立、第三国を標的にしないという原則の下、長期的な善隣関係、互恵協力関係の発展に常に取り組んでいる」と述べた。
●ウクライナ情勢 ロシア国防省 演習終えた部隊 撤収開始と発表  2/16
ロシア国防省は15日、ウクライナ東部との国境近くに展開していたロシア軍の部隊が演習を終えて撤収を始めると発表しました。ただ、撤収を始める部隊の規模などは明らかにしておらず、ウクライナ情勢が緊張緩和に向かうのかは依然、不透明です。
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は15日「演習任務を終えた部隊はきょう、それぞれの軍が所属する基地に向けて移動を開始する」と述べ、ウクライナ東部との国境近くに展開していた西部と南部の軍管区の部隊が演習を終えて撤収を始めると発表しました。
また国防省は、8年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアでの演習を終えた部隊も撤収を始めたとして戦車などを列車に積み込む様子を公開しました。
一方、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシで今月10日から行われている合同軍事演習について「今月19日には実弾演習が行われる」と述べ、その様子をメディアに公開するとしたほか、「ロシアの領土に隣接する、作戦上、重要な海域で海軍の演習も行われている」として黒海などでの演習が続いていることを強調しました。
ロシアのショイグ国防相は14日、プーチン大統領に対して、各地で行われている軍事演習について「完了するものもあれば、続いているものもある」と述べ、演習は事前の計画に基づいて進められていると報告していました。
今回の発表はこれを受けたものと見られますが、撤収を始める部隊の規模などは明らかにしておらず、ウクライナ情勢が緊張緩和に向かうのかは依然、不透明です。

 

●ロシア「外交交渉を行う意思と準備」ウクライナ情勢めぐり  2/17
緊張が続くウクライナ情勢をめぐり、ロシア大統領府は、共通点を交渉の過程で探っていくとして、アメリカと安全保障をめぐる交渉を本格的に始めたい意向を示しました。プーチン政権は、近く、安全保障について対応を示すとしていて、当面は、その内容が焦点です。
ウクライナ情勢を巡りロシアのラブロフ外相は、16日、ロシアが重視するNATO=北大西洋条約機構の不拡大をめぐる問題では妥協しないと強調しました。
その一方、ロシアが求めてきた、NATOによる中・短距離ミサイルの配備の制限などに関して「欧米側は、これらの問題について真剣な対話を行う用意があることを表明した。前向きな一歩と見なす」と一定の評価を行いました。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、16日「プーチン大統領は、外交交渉を行う意思と準備があることを強調している。共通点は、交渉の過程で探っていかなければならない」と述べ、アメリカと安全保障をめぐる交渉を本格的に始めたい意向を示しました。
一方、ロシア国防省は、15日、ウクライナとの国境近くに展開していた軍の一部の部隊が演習を終えて撤収を始めると発表しています。
アメリカなどは、ロシアとの交渉を具体的に進めるためにはロシアが軍の部隊をまず撤収させるべきだとしています。
プーチン政権は、安全保障をめぐり、近く、対応を示すとしていて、当面は、ロシア側が準備ができているとする10ページに及ぶ草案の内容と、これをもとにして交渉が始まるのかが焦点です。
ロシア外務省報道官「米英のメディアが偽情報」
アメリカがロシアによる侵攻の可能性はまだ十分ありえるなどとしていることについてロシア外務省のザハロワ報道官は、16日自身のSNSで「偽情報を流すアメリカやイギリスのメディアには、ロシアによる「侵攻」の次の計画がいつかぜひ教えてほしい。私はその日に休暇をとりたい」と痛烈に皮肉りました。
G7 緊急の外相会合へ
G7=主要7か国の議長国ドイツは、緊張が続くウクライナ情勢を受けて、今月19日に緊急の外相会合を開催すると発表しました。外相会合は、今月18日から20日にかけてドイツ南部で開かれる「ミュンヘン安全保障会議」にあわせて行われ、各国の緊密な連携を確認するとしています。
イギリス外相がウクライナなど訪問へ
イギリスのトラス外相は、ウクライナやポーランド、それにドイツを今週、訪問すると発表しました。一連の訪問で、ウクライナのクレバ外相やポーランドのラウ外相と会談し、ウクライナへの支援を改めて表明し、ロシアによる侵攻に反対する立場を一致して打ち出したいとしています。また、G7=主要7か国の緊急の外相会合や国際会議が開かれるドイツのミュンヘンを19日に訪れるということです。トラス外相は、「ロシアに対しては、外交の道を選ぶよう促したい。しかし、侵攻の道を続けるのであれば、ロシアにとって経済的なコストを伴う大きな結果をもたらし、国際社会からものけ者にされるだろう」などという考えをウクライナで予定している演説で表明することにしています。
ウクライナ「国民統合の日」で屈しない姿勢
ウクライナの国境周辺でロシア軍が大規模な部隊を展開させ緊張が続く中、ウクライナ政府は16日を「国民統合の日」に制定し、人々が団結してロシアからの圧力に屈しない姿勢を示しました。このうち首都キエフでは市内に多くの国旗が掲げられたほか、広場や沿道に市民が集まって国歌を歌うなどし、国の独立と主権を守ろうと訴えていました。集会に参加した男性は「団結こそ私たちの強さだ。ウクライナは必ず勝利する」と力を込めていました。また、別の男性は、ロシア軍の一部が撤収したと伝えられていることについて「実際に撤収していればいずれ明らかになるはずだが、状況ははっきりしない」と話し懐疑的な見方を示していました。
モスクワ市民「挑発しているのはアメリカ」
一方、プーチン政権の動向が注目される中、ロシアの首都モスクワでは市民の間からさまざまな声が聞かれました。このうち女性の1人は「挑発しているのはアメリカのほうだ。いつも、あらゆる挑発行為を組織的に行ってきた」と話し、アメリカこそが、軍事的な緊張を高めているとして批判していました。一方、高齢の男性は、プーチン大統領がアメリカなどと協議を続ける姿勢を示したことについて「平和的な交渉に向けた動きが始まったことは良いことだ」と話し、外交によって事態が打開することに期待を寄せていました。またウクライナ人の友人が多くいるという女性は「人々が冷静に考え、軍事行動を起こさないことを願う。戦争はあってはならないことだ」と話していました。
●習近平の「台湾侵攻」で、これから日本に起こる「尖閣侵略」のシナリオ 2/17
ロシアによるウクライナ侵攻のどさくさに紛れて、中国が台湾侵攻に動く可能性がいま高まっていることは、前編記事『習近平が大暴走…ロシア「ウクライナ侵攻」のスキに狙う「台湾侵略」の危ない可能性』でお伝えしたとおりだ。
そのXデーとなるのが、北京オリンピック閉幕後だと専門家は指摘する。実際に'14年のソチ五輪後に、ロシアはクリミア半島の併合に踏み切った過去を習近平は周辺に研究させているというのだ。
愛国に陶酔する中国人
'14年2月、ソチ五輪終了後にウクライナ領だったクリミア自治共和国で親ロシア政権が成立。ロシア系住民の保護を目的にプーチン大統領はロシア軍を投入し、一気にクリミアを併合した。
このロシアによる一連のクリミア併合を仔細に研究しているのが、中国の習近平国家主席である。
『台湾有事』などの著書があるジャーナリストの清水克彦氏が言う。
「習氏は共産党や人民解放軍の幹部を集め、どういう経緯をたどって、ソチ五輪後にロシアがクリミアを併合したのか、そのプロセスを詳細に研究しろという指令を出しているようです。そのプロセスを台湾統一に重ねているのだと思います」
習近平国家主席にとって、台湾統一は避けられない「歴史的任務」である。中国は共産党による一党独裁政権を維持するためにも、対外拡張主義を続けなければならないと指摘するのは、元外務省国際法局長で同志社大学特別客員教授の兼原信克氏だ。
「中国のような大国で、共産党が一党独裁政権を維持することは非常に困難です。そのため、子供たちに愛国主義を植えつける思想教育を行ってきました。
中国はついに世界第2位の経済大国となり、青年の多くは国威発揚に陶酔している。この愛国心が最終的に行き着く場所が、台湾なのです。
台湾は一貫して、米国の勢力下にあり、その傍らには日本が同盟国として立っている。国民を興奮させるドラマの最終章に現れる敵として、申し分がないのでしょう」
'97年に香港は英国から中国に返還された。この際、中国政府は50年間、香港に中国本土とは異なる行政制度を認め、「高度な自治」を認める「一国二制度」を約束した。
しかし、'19年に「逃亡犯条例」改正に反対するデモを警察当局が鎮圧し、'20年に「香港国家安全維持法」を施行。民主派の運動家たちを次々と逮捕し、「一国二制度」や「高度な自治」はわずか二十数年で消滅し、香港は中国に飲み込まれた。
米国は勝てない
次のターゲットが台湾だ。ロシアがウクライナを狙うこのタイミングを大きなチャンスと捉えていてもおかしくない。高確率で動いてくるだろう。
実際、習近平国家主席は近年、激烈な勢いで軍備を拡張している。すでに戦闘機を1000機以上、爆撃機を200機以上保持し、2隻の空母が就航している。今年中には3隻目の空母が進水する予定だ。
対する米国のインド太平洋軍は戦闘機200機足らず、爆撃機十数機、空母は1隻にすぎない。
米軍が他地域から戦力を回すとしても、中国とロシアの2方面で戦争になった場合、カバーできるとは言い難い。
「中国が台湾統一に踏み切ったら、当然、米軍は行動を起こします。台湾沖で米中が衝突し、全面戦争になれば、第三次世界大戦に近い形になるおそれもあります。
それを避けるために、まずは中国が自国領と主張する日本の尖閣諸島を狙う可能性がある。尖閣諸島は無人島なので、台湾侵攻ほど大きな問題にならないと思っているからです。
その場合、中国が北朝鮮を焚き付けて、日米に対してミサイルを発射させるかもしれない。そうすると、西太平洋・インド洋を管轄とする第7艦隊も北朝鮮と尖閣諸島の2方面に展開しなくてはなりません。
'16年に米国の軍事シンクタンク、ランド研究所が発表したシミュレーションでは、尖閣諸島はわずか5日間で中国に占領されるという分析もありました。米軍が戦闘に本腰を入れる前に尖閣諸島が占領されてしまうという流れが一番恐ろしい」(ジャーナリストの清水克彦氏)
中国は先に尖閣諸島を奪取した後、台湾侵攻に向かうというシナリオもあれば、台湾と尖閣諸島を同時に狙うという戦略も考えられる。清水氏が続ける。
「そうなれば、米軍が中国の台湾統一を抑え込めない可能性がある。米国も今のままでは台湾沖で人民解放軍に勝てないと考えているのか、最近は米国から台湾に対して戦力強化を促す声が上がっています。実際、台湾側も軍事力強化のために、日本円で1兆円の特別予算を計上しました」
日本の備えは何もない
台湾沖で日米中が軍事衝突を起こしたら、どちらが勝者になるのか。現実は極めて厳しい。そこまで中国の軍事力は巨大化しているのだ。だからこそ、中国が台湾に手が出せないようにするためには、圧力をかけ続けるしかない。
元空将で日本安全保障戦略研究所上席研究員の小野田治氏がこう話す。
「昨年9月頃から台湾の防空識別圏の西端に、多彩かつ多数の中国軍機が姿を見せています。
これまでは台湾に対する威嚇と見られていましたが、データを分析すると、戦闘機だけでなく、爆撃機やその護衛機、空中給油機も含まれていることがわかりました。つまり、威嚇だけでなく、年間を通した訓練計画が存在することが窺えます。
多数機同士の戦闘を想定した実践的な訓練も行われているようです。ベテランが新人を養成する目的も兼ねていると見られ、訓練自体が複雑化し、充実しているのです」
中国がXデーに備えて着々と準備を進める一方、齢79のバイデン米大統領は中国に対して曖昧な態度に終始している。台湾防衛を約束するものの、実際に中国が台湾統一に動いたときにどのような軍事介入を行うのかは明確にしていない。
世界の覇権を狙う中国は、バイデン大統領が曖昧な態度を取っているいまが好機と、領土を拡大させるきっかけを窺っているのである。ところが、日本政府も少なくとも秋の共産党大会まで中国は台湾に侵攻しないと高を括って、安閑としているように見える。
「中国は遅くとも5年以内に台湾や尖閣諸島に侵攻してくるでしょう。今すぐ行動しないと間に合いません。
中国の台湾侵攻とロシアのウクライナ侵攻がたとえ同時ではなく、数ヵ月のタイムラグがあったとしても、世界に深刻な問題をもたらします。米国には2方面で戦う準備がありませんし、日本や台湾にも中国と戦う備えがありません。
日本と米国と台湾で、中国の攻撃を無力化する作戦を練り、共同訓練をしなければなりません。統合司令本部のようなものを作り、協調的な軍事行動を取ることも重要です」(元米海軍副次官でヨークタウン研究所創設者のセス・クロプシー氏)
元外務省国際法局長で同志社大学特別客員教授の兼原信克氏もこう口を揃える。「日本は地震に対しての備えは世界最高ですが、台湾有事については何の備えもできていません。何が起こっているのかも把握できないうちに、尖閣諸島を占領されてしまうのではないか」
北京五輪での日本選手の活躍を応援するのもいい。しかし、中国とのメダル争いが、いつ「実戦」に発展するかもわからないということを肝に銘じておくべきだろう。
●習近平が大暴走…ロシア「ウクライナ侵攻」のスキに「台湾侵略」の可能性 2/17
ウクライナ危機に世界の注目が集まっているが、軍事のプロが警戒を強めているのが台湾情勢だ。中国がいずれ台湾統一に動くのは間違いないと専門家は口を揃える。最悪の場合「第三次世界大戦」とも呼びうる事態が起こるかもしれない、そのタイミングが近づいている。
ロシア軍がウクライナ侵攻に向けて最終段階に入った。たしかに恐ろしい事態だが、日本人にとっては遠い異国の話。そんなふうに捉えている人も多いかもしれない。
だが、ロシアによるウクライナ侵攻のどさくさに紛れて、中国がいよいよ「動く」可能性がいま高まっている。それは日本にとって、紛れもなく脅威となるだろう。
元米海軍副次官でヨークタウン研究所創設者のセス・クロプシー氏がこう警告する。
「ロシアはウクライナに対する大規模な侵攻に必要な準備のほぼすべてを終え、危機は目前に迫っています。その裏で実は、米国の政府当局者たちは中国による台湾侵攻にも焦点を当て始めました。
ウクライナと台湾、この二つの地域はユーラシア大陸における大規模な覇権争いとして互いに連結しており、それぞれを切り離して見るべきではありません。
ロシアにとってウクライナを獲得することは悲願であり、中国共産党にとって台湾を奪取することが国家目的です。そして、米国はユーラシア大陸の東端と西端、二つの地域で戦争に関わる備えができていません。
その隙に乗じる形で、ロシアのウクライナ侵攻と同時に、中国が台湾を攻撃する可能性を排除できないのです」
ロシアはウクライナとの国境に10万人もの兵力を集めるばかりか、ウクライナの南に位置する黒海に軍艦を増派し、北方のベラルーシでは2月10日から大規模な軍事演習を行っている。
『現代ロシアの軍事戦略』などの著書があり、ロシアの安全保障に詳しい小泉悠氏が解説する。
「プーチン大統領は表向き、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟するとロシアが軍事的に脅かされると主張していますが、ロシアがウクライナにこだわる理由はそれだけではありません。むしろ、旧ソ連圏で2番目に多い人口を誇るウクライナを自国の経済圏に組み込みたいというのが本音でしょう。
もう一つの理由として挙げられるのが、ウクライナ人は同じスラブ民族であり、ロシア人から見れば、同じ民族が分断されているという国民の思いです。
'24年に大統領選挙を控えたプーチン大統領にとって、ウクライナを西欧諸国から引き剥がして自陣営に引き入れることは、権勢を盤石にするために必要なのです」
しかし、よりによって「平和の祭典」である北京五輪の裏側で軍事侵攻があり得るのか。「閉会した直後が危ない」と、小泉氏は警鐘を鳴らす。
「ウクライナ周辺には極東や中央部から動員してきた部隊を含めて、十数万人の兵力が集結しています。同盟国のベラルーシにも、3万人くらい展開させていると見られます。しかも2月に入り、部隊が駐屯地を出て、国境のすぐそばまで展開し始めました。普通に考えれば、これは攻撃準備態勢です。
拳銃にたとえると、撃鉄を起こして引き金に手をかけている状態になっており、いつ指を引くかわからない。兵士も疲れるので、このレベルの緊張度はそれほど長く続けられません。
2月20日に北京五輪が終わります。そして、ベラルーシでの大規模演習が終わるのも2月20日です。そのときにプーチン大統領は振り上げたこぶしを収めるのか、そのまま侵攻に踏み切るのか。
プーチン大統領の腹一つにかかっています。普通に考えれば侵攻しないと思うのですが、みんながそう考えていた'14年のソチ五輪後に、ロシアはクリミア半島の併合に踏み切った過去があります」
世界の覇権を手中に収めるため、虎視眈々とその時期を狙ってきた習近平。「中国が台湾統一に踏み切ったら、米軍は行動を起こす。台湾沖で米中が衝突し、全面戦争になれば、第三次世界大戦に近い形になるおそれもある」と専門家は指摘する。その詳細を後編記事『習近平の「台湾侵攻」で、これから日本に起こる「尖閣侵略」のヤバすぎるシナリオ』で明かそう。 

 

●ウクライナ侵攻、プーチン氏は「決定済み」とバイデン大統領が確信  2/18
バイデン米大統領は18日、ロシアのプーチン大統領がすでにウクライナ侵攻を決定し、首都キエフを含め同国を近日中に攻撃する計画であることを確信していると述べた。バイデン氏はこの見方は米当局の「著しい」情報収集能力に裏付けされていると述べたが、詳細には触れなかった。ロシア大統領府はこれまで、ウクライナ侵攻計画を繰り返し否定している。ロシアはウクライナ国境付近に最大19万人を集結させたと、米当局は見積もっている。この数には軍の部隊やウクライナ国内の親ロシア分離主義勢力も含み、第二次大戦以降で最も大がかりな軍の動員だと米当局は指摘した。
ロシアは今週、ウクライナ侵攻の計画をあらためて否定した。ただ、インタファクス通信によると、ウクライナ東部ドンバス地方の分離主義勢力は衝突激化を理由に、女性や子供、高齢者らはロシアに避難させる方針を示した。
一方で、外交努力も活発化。バイデン米大統領は18日、ロシア軍の動きについて西側首脳と話し合うほか、オースティン米国防長官とロシアのショイグ国防相は同日に電話会談を行った。ブリンケン米国務長官はロシアのラブロフ外相と、来週後半に欧州で会談する。主要7カ国(G7)首脳は24日、ドイツのショルツ首相主催でバーチャル会合を開く。ウクライナ情勢を巡る主な動きは以下の通り。
バイデン米大統領:ロシアは近日中に攻撃する計画だと確信する
バイデン大統領はホワイトハウスで報道陣に対し、ロシアが「ウクライナの首都キエフを標的にすると考えている」と述べたが、この発言の裏付けとなっている情報については詳しく説明しなかった。また、ウクライナが東部で新たに挑発を行ったとするロシアと同地域の親ロシア派武装勢力の主張については、説得力がないとの見解を示した。バイデン氏は「こうした主張に証拠は全くない」と述べ、ロシアが侵攻の口実をつくるために「偽旗」作戦を実施しようとしているとの主張を繰り返した。
ウクライナへのサイバー攻撃、ロシアに責任と米国が主張
ウクライナの銀行や政府のウェブサイトに対する今週の大規模なサイバー攻撃は、ロシアに責任があると米国は考えていると、ニューバーガー国家安全保障担当副補佐官(サイバー・先端技術担当)がホワイトハウスで記者団に語った。ロシア側はこの「DDoS(分散型サービス妨害)攻撃」とは何の関係もないと述べている。
プーチン大統領:米国の安全保障提案、交渉に反対しない
ロシアのプーチン大統領は記者会見で、安全保障の問題について米国と交渉する用意があるが包括的なアプローチが必要だと述べた。米国はロシア側の主要な懸念事項を今も無視しているとし、ベラルーシでの軍事演習は防衛目的で、誰をも脅かすものではないと主張。ロシアへの経済制裁はいずれにせよ導入されるだろうとも語った。
ドンバス地方の分離派、女性や子供をロシアに避難へ−インタファクス
インタファクス通信によれば、ウクライナ東部のドンバス地方を実効支配する親ロシア派の「ドネツク人民共和国」指導者は、接触線で衝突が激化しているため、子供や女性、高齢者をロシア側に避難させると述べた。避難先としてはロシアのロストフ州政府が受け入れに同意しているという。
ロシア、第二次大戦後で最大の軍動員−米当局
ロシアはウクライナ国境付近に16万9000人から19万人を集結させたと、欧州安保協力機構(OSCE)の米国代表がウィーンで開かれた会合で明らかにした。この数にはドンバス地方の親ロシア分離主義勢力やロシアが2014年に併合したクリミアの部隊も含まれ、1月30日時点の10万人から増加したという。
G7首脳がバーチャル形式で24日協議へ
G7はウクライナの東部国境を巡る情勢などについて協議するとショルツ首相の報道官は説明した。6月にバイエルン州で予定されているサミット(首脳会議)の準備も兼ねるという。ドイツは現在G7の議長国。ショルツ首相は来週の会合後に会見を開く。
プーチン大統領、19日に軍事演習を視察へ
ロシア国防省によれば、プーチン大統領は19日、弾道および巡航ミサイルの試射を含む戦略核部隊の演習を視察する。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、軍事演習は定期的なもので、緊張を悪化させることはないと説明。現在モスクワを訪れているベラルーシのルカシェンコ大統領も同行する可能性があることを明らかにした。
アジア含む国際社会の秩序に影響
岸田文雄首相は18日午後の衆院予算委員会で、ウクライナ問題は「欧州にとどまらずアジアを含む国際社会の秩序に関わる」との認識を示した。ロシアがクリミアを併合した2014年当時と比べて国際情勢は「ずいぶんと変化をしている、異なっている」と指摘。仮にロシアがウクライナに侵攻した場合の経済制裁などの対応について問われると、「状況の変化に応じてG7をはじめとする国際社会との連携を大切にしながら、対応を考えていかなければならない」と述べた。
米大統領が欧州首脳と電話会談へ
ホワイトハウス当局者は、バイデン大統領が18日午後に欧州各国首脳と電話会談し、ウクライナ国境周辺でのロシア軍の兵力増強や抑止・外交の継続的取り組みを議論する予定であることを明らかにした。
米ロ外相会談、来週開催
米国務省のプライス報道官は17日、ブリンケン国務長官とラブロフ外相による米ロ外相会談を開く案に対し、ロシア側が来週後半の開催を提案し、米国がそれを受け入れたことを明らかにした。
日本は外交努力を継続
松野博一官房長官は18日午前の会見で、ウクライナ情勢については「さまざまな外交努力が続けられているものの、引き続き予断を許さない状況」と説明。日本としては緊張緩和に向けた粘り強い外交努力を続け、「G7をはじめとする国際社会と連携し、実際の状況に応じて適切に対応していく」と述べた。
●ウクライナ情勢 来週後半に米露外相が会談も予断許さない状況  2/18
緊張が続くウクライナ情勢をめぐり、アメリカとロシアの外相会談が来週後半にも行われる見通しとなりました。ただ、NATO=北大西洋条約機構の拡大について双方の立場は大きく隔たっている上、ウクライナ東部では政府軍と親ロシア派の戦闘が相次ぎ、外交による解決への糸口が見いだせるかは、予断を許さない状況です。
アメリカのブリンケン国務長官は17日、国連の安全保障理事会で開かれた会合に出席し、ロシア側から安全保障問題をめぐる文書を受け取り、内容を分析していると述べたうえで、ロシアのラブロフ外相に来週、ヨーロッパでの会談を提案したことを明らかにしました。
アメリカ国務省によりますと、ロシア側は来週後半の開催で同意したということで、先月21日以来、およそ1か月ぶりにブリンケン長官とラブロフ外相の対面での会談が行われる見通しとなりました。
ただ、NATO=北大西洋条約機構について、▽ロシアがさらなる拡大を放棄するよう求めているのに対して、▽アメリカは、NATOの拡大をめぐる問題には応じられない姿勢を示し、双方の立場は依然として、大きく隔たっています。
また、ウクライナ東部では、政府軍と親ロシア派の武装勢力による戦闘が相次ぎ、外交による解決への糸口が見いだせるかは、予断を許さない状況です。
ウクライナ東部 爆発や銃撃など停戦違反が600件近く発生
ウクライナ東部で、政府軍と親ロシア派の武装勢力の停戦の監視にあたっているOSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構は、今月15日夜から16日夜にかけて、爆発や銃撃といった停戦違反が600件近く、あったとしています。
このうち東部のドネツク周辺では128回の爆発を含む189件の停戦違反が確認され、前日(14〜15日)の24件から7倍以上に急増しました。
また、ルガンスク周辺でも188回の爆発を含む402件の停戦違反が確認され、こちらも前日の129件と比べて3倍以上に増えています。
プーチン大統領 親ロシア派への攻撃「ジェノサイド」と表現
ウクライナ東部では、2014年、ロシアを後ろ盾とする武装勢力が東部の一部地域を占拠し、これを認めないウクライナ軍との間で激しい衝突に発展し、散発的な戦闘が続いています。
東部の状況についてロシアのプーチン大統領は、今月15日、ウクライナ軍が、停戦合意に違反して親ロシア派の武装勢力に対する攻撃を激化させていると主張し、民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」という表現まで用いて現状に危機感を示しました。
ロシアの議会下院は、15日、この地域を独立国家として承認することを検討するよう、プーチン大統領に求める決議案を可決し、ボロジン議長は「東部に住むわれわれの同胞は支援を必要としている」と述べました。
一方、アメリカのブリンケン国務長官は17日、国連安全保障理事会で演説し「ロシアは、攻撃の口実を作ろうと計画している。それは、ロシアがウクライナの責任だとするための暴力事件であったり、ウクライナ政府へのとんでもない言いがかりだったりするかもしれない」と述べ、プーチン大統領の発言も念頭にロシア側は侵攻の口実にしようと、虚偽の情報を拡散しようとしていると警鐘を鳴らしました。
米 バイデン政権 ロシア側の虚偽情報に警戒
アメリカのバイデン政権は、ロシアが虚偽の情報を拡散し、ウクライナへの侵攻の口実にするのではないかと警戒を強めています。
特に、警戒しているのが、ウクライナ軍と親ロシア派の武装勢力との散発的な戦闘が続く東部に住むロシア系住民が、ウクライナ軍から攻撃を受けたという、情報のねつ造です。
8年前(2014年)、ロシアが一方的にウクライナ南部のクリミアを併合した時には、2月、ウクライナでロシア寄りのヤヌコービッチ政権が大規模なデモで崩壊したあと、ロシアが国営メディアなどを通じて「現地のロシア系住民が脅威にさらされている」という情報を拡散させました。
そしてロシアは、クリミアにひそかに軍を送り込み、3月、一方的に併合しました。
バイデン政権は、ロシアによる虚偽の情報の拡散は、2014年にも前例があるとして、情報機関などの情報も含めて積極的に公開し、ロシアの手の内を明かすことで、侵攻を食い止めようとしています。
ロシア「19日にミサイル発射演習実施」
ロシア国防省は今月19日、プーチン大統領の指揮のもとで計画に沿ってミサイルの発射演習を実施すると、18日、発表しました。
演習は、戦略的抑止力のためとされ、核戦力を運用する航空宇宙軍や戦略ミサイル部隊、それに海軍の黒海艦隊や、北極圏に司令部を置く北方艦隊などが参加します。
そして、プーチン大統領の指揮により弾道ミサイルや巡航ミサイルが発射されるということです。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日「演習は透明性があり、懸念を抱かせるものではない」と強調しましたが、ウクライナ情勢をめぐって緊張が続く中、軍事的な圧力をかけるねらいもあるものとみられます。
●NY株、今年最大の下げ 622ドル安、ウクライナ情勢警戒 2/18
17日のニューヨーク株式相場は、ウクライナ情勢への警戒感からリスク回避の動きが強まる中、大幅続落した。
優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比622.24ドル安の3万4312.03ドルで終了。下げ幅は今年最大となった。一方、安全資産とされる金や円、米国債には買いが膨らんだ。
バイデン米大統領はこの日、ロシアによるウクライナ侵攻が「数日以内」にも起こり得ると指摘。ブリンケン米国務長官は国連安保理で演説し、ロシアのウクライナ侵攻は「差し迫った脅威だ」と強調した。 

 

●バイデン大統領「プーチン大統領が侵攻を決断したと確信」 ウクライナ情勢 2/19
ウクライナ情勢の緊張がさらに高まっています。アメリカのバイデン大統領は会見を開き、「ロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻することを決断したと確信している」と述べました。
アメリカ バイデン大統領「現時点では、彼が決断したと確信している。そう信じる根拠がある」
記者「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断したと確信していると言いましたか」
アメリカ バイデン大統領「そうです」
ウクライナ情勢に関する臨時会見を開いたバイデン大統領はこのように述べたほか、「侵攻は近日中にありえる」「首都のキエフも標的としている」などと改めて危機が迫っていることを強調しました。
ただ、「侵攻が行われるまでは外交の可能性はある」として、引き続き、ロシア側に緊張の緩和に向けて働きかける姿勢を示しています。
バイデン大統領は会見の中で、来週24日にアメリカのブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相との会談が設定されたことを明らかにしたうえで、「それまでに軍事行動があれば、外交の道を完全に閉ざしたことを意味する」と述べ、ロシア側に自制を求めました。
アメリカ ブリンケン国務長官「この24〜48時間で説明したことを含め、全ての出来事は挑発行為をでっちあげ、それへの対応としてウクライナに攻撃を仕掛けるシナリオの一部だと深く懸念している」
ブリンケン国務長官は軍の一部を撤収しているとするロシアの主張に対し、「ウクライナの国境に向かう追加の部隊を確認している」と改めて強調しました。
ロイター通信によりますと、OSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構のアメリカ大使は、ウクライナ国境付近のロシア軍の部隊が現時点で最大19万人に達しているとの見方を示しているということです。
●ロシア軍がミサイル発射演習 ウクライナ情勢緊迫の中 2/19
ロシア軍は19日、プーチン大統領の指揮下で大陸間弾道ミサイル(ICBM)と極超音速巡航ミサイルの発射演習を行った。ロシア軍部隊の国境付近への集結でウクライナ情勢が緊迫する中でのミサイル演習で、緊張が一段と高まりそうだ。
ロシアは15日、ウクライナ国境付近の一部部隊の撤収開始を発表したが、米欧は撤収を疑問視している。一方、政府軍と親ロシア派武装勢力が対立するウクライナ東部では砲撃が続き、親ロ派は政府軍が侵攻を計画していると主張。親ロ派住民がロシアに避難している。
ロシア国防省は、19日のミサイル発射演習は「以前から計画されていた」と強調。核戦力部隊を含む「戦略的抑止力」の演習と説明した。
インタファクス通信によると、プーチン氏は大統領府の作戦司令室から指揮。ベラルーシのルカシェンコ大統領訪ロに合わせての実施で、ロシア軍はベラルーシで合同軍事演習中でもあり、軍事協力を誇示して米欧をけん制している。
ウクライナ東部では同国軍が19日、親ロ派の砲撃によって兵士1人が死亡したと明らかにした。政府と親ロ派は、相手側が停戦合意を破って攻撃を続けていると非難。親ロ派は同日、住民の「総動員」を発表し「武器を持つことができる全ての男性に、家族を守るため立ち上がることを呼び掛ける」と表明した。
●ウクライナ政府と東部の親ロシア派が非難の応酬  2/19
緊張が続くウクライナの東部で、政府軍と、一部を事実上支配する親ロシア派との戦闘が再燃する中、親ロシア派が政府軍による攻撃を理由に住民を隣国のロシアに避難させると発表したのに対し、ウクライナ政府が攻撃を真っ向から否定して非難の応酬となっています。
ウクライナ東部では、政府軍と、一部の地域を事実上支配する親ロシア派の武装勢力による戦闘が再燃し、停戦監視にあたっているOSCE=ヨーロッパ安全保障協力機構は、今月15日夜から16日夜にかけて、停戦合意に違反して爆発や銃撃が600件近くあったとしています。
こうした中、武装勢力の指導者プシリン氏は18日、「ウクライナ政府は戦闘態勢に入り、力ずくでこの地域を奪還する準備を整えている」と主張し、国境を接するロシア南部のロストフ州に住民を避難させると明らかにしました。
これに対して、ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、「真っ赤なうそだ」と否定したうえで、ロシアが意図的に流した情報だと主張し、非難の応酬になっています。
ウクライナ東部の状況についてロシアのプーチン大統領は18日、記者会見で「情勢は緊迫している」として、ウクライナ政府に停戦合意の履行を迫りました。
また、「ウクライナでは、人権が大規模かつ組織的に侵害され、ロシア語を話す人々への差別が法制化されている」と述べ、ウクライナ政府を批判しました。
この地域をめぐってアメリカのバイデン政権は、ロシア系住民がウクライナ軍から攻撃を受けたという虚偽の情報が拡散し、ロシアがウクライナへの軍事侵攻の口実にするのではないかと警戒を強めています。
ロシア国営メディア 「住民が避難」伝える
ロシア国営メディアは、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派が事実上支配している地域で住民たちがバスに乗るなどして次々に避難を始めているとする様子を伝えています。
バスには、厚手の上着を着た女性や子ども、高齢者などが大勢乗っていて、中には、不安そうな表情を浮かべている人もいます。
ロシアへの避難について明らかにした親ロシア派によりますと、ドネツク州だけでおよそ70万人を避難させる計画だとしています。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、プーチン大統領が避難してきた人々に対して、寝泊まりできる場所や食事の提供を行い、医療支援なども整えるよう当局に指示したほか、支援金として1人当たり1万ルーブル、日本円にしておよそ1万5000円を支給すると決めたことを明らかにしました。
●ウクライナ情勢は緊張続く 揺さぶりを強めるロシア  2/19
ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが揺さぶりを強めている。ロシア軍が19日、核攻撃を想定した弾道ミサイルの発射訓練を行う。演習には、戦略核を扱う部隊などが参加して、弾道ミサイルなど、戦略核兵器の発射訓練を行うとしている。プーチン大統領は、国防省の作戦司令室から指揮をとる。
ウクライナ東部では、親ロシア派武装組織がウクライナ軍から砲撃を受けたと発表。身の安全を確保するため、住民を一時ロシアの領内に避難させると発表した。
ウクライナは、これを口実にロシアが軍事侵攻するおそれがあると懸念している。
ウクライナ西部の街・リビウの高校では、ロシア軍による攻撃でけが人が出た場合に備え、高校生たちへ応急手当の訓練が連日行われている。多くの学生にとって、このような訓練に参加するのは初めてのこと。真剣な表情でけがの処置の仕方を学んでいる。参加した生徒「きょうの訓練はとても大切だと思う。人を助ける方法を学べるから」緊張の高まりは、高校生たちの生活にも大きな影響を及ぼしている。

 

●ウクライナ危機、プーチン大統領が得た「5つのお土産」とは? 2/20
ウクライナをめぐる情勢が風雲急を告げている。
ロシアが隣国ウクライナの国境周辺に大規模な軍隊を集結させており、「ウクライナへの軍事侵攻が近い」と欧米各国が警戒しているからだ。アメリカのバイデン大統領は2月18日、「ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を決断したと確信している」と主張。一方、ロシア外務省は17日に公表したアメリカなどへの文書で、ウクライナへの軍事侵攻を否定している。
しかし、ウクライナ東部ドネツク州で親ロシア派が実効支配する「ドネツク人民共和国」は18日、70万人の住民を対象にロシアに避難させる計画を立てた。徴兵のための総動員令を発令したと報じられるなど、戦争に向けた準備とみられる状況も進んでいる。
この情勢をどう読み解けばいいのか。『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』などの著書があり、ロシア政治に詳しい慶應義塾大学・廣瀬陽子教授に話を聞いた。
ロシアがウクライナ全土を併合することは「全くメリットがない」と指摘
廣瀬教授は、これまでロシアの軍事侵攻は「まず、ないだろう」という立場だったという。プーチン大統領の狙いは「いつでも軍事侵攻をできるぞ」というポーズを見せることこそが目的であり、実際に軍事侵攻するつもりはないだろうと考えていたという。
しかし、ウクライナ軍と分離独立派が、それぞれ攻撃を受けたという主張をしており、ウクライナ東部住民の避難も進められている中で、ロシアが「自国民保護」を掲げて侵攻をする可能性が否めなくなってきていると指摘した。
ただし、たとえ軍事侵攻があったとしても、ロシアがウクライナの全土もしくは一部を併合することは「全くメリットがない」と懐疑的だ。
「ウクライナ領からロシア領に移って良かった」と住民に思わせないと反乱が起きる危険があるため、社会保障や生活環境を現在よりも良くしないといけない。それには相当な資金が必要になるからだという。
クリミア併合の際も、ウクライナ本土に依存していたガスや水道などインフラを整備するのに莫大な予算を使ったロシアに、ウクライナ全土を併合するのは難しいと指摘する。
プーチン大統領がこれまでに得た「5つのお土産」とは?
廣瀬教授は、プーチン大統領がこのまま軍を撤退させたとしても「すでに5つのお土産を得ている」と分析した。
その分析を要約すると以下のようになる。
01.ロシアに世界的な注目が集まり、米中対立ばかりが目立っていた国際政治に割って入った
02.アメリカとヨーロッパ諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)にウクライナが将来的に入ることについてロシアは強硬に反対するも無視されてきたが、ついにNATO諸国を交渉のテーブルに着かせることができた
03.ウクライナがNATOに加入すれば、ロシアにとっては軍事侵攻をしかねないほど深刻な問題だとアピールできた
04.「旧ソ連地域にNATOが入ってくることは許さない」というロシアの勢力圏をアピールできた
05.武力侵攻の恐怖でウクライナ政治を混乱させ、親欧米派の失脚に向けて足がかりができた
このように現時点でプーチン大統領は充分なメリットを享受しているのだという。ただし、それでも「自国民保護」を掲げて侵攻をする可能性は否定できず、今後どう情勢が動くのか断言するのは難しいと指摘している。
より詳しい内容を知りたい方に向けて、以下に廣瀬教授との一問一答を掲載する。
廣瀬教授との一問一答
――ロシアが今回、ウクライナに軍事侵攻する可能性はどれくらいあると思いますか?
私は基本的には軍事侵攻は「まず、ないだろう」という立場です。アメリカのメディアが報じていた軍事侵攻の「Xデー」は2月16日でしたが、その日の侵攻は起こりませんでした。ただ、ここにきて、ちょっと不穏な動きが出ているのも事実です。ウクライナ東部の緊張が高まっています。ウクライナ軍と分離独立派が、それぞれ攻撃を受けたという主張をし、ウクライナ東部住民の避難も進められています。そうなると、ロシアが「自国民保護」を掲げて侵攻をする可能性が否めなくなってきてしまいます。
―― 軍事侵攻が「まず、ないだろう」と思っていた理由は?
ロシアに全くメリットがないからです。クリミア併合の記憶が強いために「ロシアはどこの領土でも併合したいはず」と思っている方もいるかもしれません。でも、クリミア併合も相当苦しい状況で実行したというのが実情です。他国の土地、この場合ウクライナの土地を併合する場合、当地に住む住民にとって「ウクライナ領からロシア領に移って良かった」という状況を作らないといけません。年金と教育などの社会保障をはじめとした生活環境など全部、ウクライナより良くしなきゃいけない。それには相当な資金が必要になります。クリミアの場合は併合後に、インフラの再構築も必要になりました。ウクライナ本土に依存していた水道やガスなどのインフラも、ロシアが用意しなくてはいけなくなった。経済制裁を受けながら独力でロシアが整備しました。プーチン政権は極東開発に力を入れてきましたが、クリミア併合後は極東向けだった予算などもクリミアに振り向けて何とかギリギリ持っている感じです。その状態で、ウクライナ一国を現在のロシアが抱えられるわけがない。だって、ウクライナ時代より良い生活状態を提供できないと、反乱なども起こるでしょうからね。
―― なるほど。併合するのであれば「ロシア領になってよかった」とウクライナの人々に思わせないといけないということですね。ただ、ウクライナ東部には親ロシア派が実効支配している地域があります。このドネツクとルガンスクだけでも、ロシアが侵攻して併合する可能性はどうでしょうか?
攻撃の可能性は否定できなくなってきましたが、併合の可能性は低いと思います。 併合による、ロシアのメリットはあまりないと思います。あそこをウクライナに残すからこそ意義があるんです。ロシアはずっとウクライナによる「ミンスク合意」の履行を主張していますが、ミンスク合意の中で特にロシアが重視しているのは、ウクライナ東部に相当高いレベルの自治を与えることです。「相当高いレベルの自治」に含まれるのが、外交権です。ドネツクとルガンスクは外交権を持つようになると、ウクライナ政府が「NATOに入りたい」って言い続けても、ドネツクとルガンスクが「NATOに入りたくない」と言えば不可能になる。それなのに、もしロシアが併合してしまえば、ウクライナは逆にNATOに入りやすくなるんです。
―― そうなると、「ロシアがウクライナを併合しようとしている」というのは、飽くまでもアメリカやNATO側から見たシナリオであるということになりますね。
そうです。特にアメリカが危機を喧伝していますね。確かに最初の頃、ウクライナのゼレンスキー大統領本人が「ロシアの脅威がある」と世界に訴えましたが、アメリカ、イギリスなどが脅威の度合いをかなり強調して発信しました。たとえば、アメリカ側は、「2月16日に侵攻がある」など具体的な主張もしていました。軍事侵攻が「日付が決まって予言されることは初の現象」とも報じられていますが、たしかに相当珍しいことが起きています。ロシア側から見ると「アメリカのフェイクニュース」となりますが、欧米側としては「あえて危機を煽ることでロシアを自制させる効果を狙っている」ということがあるようです。でもそこで割を食うのは、ウクライナです。ゼレンスキー大統領自身も「ロシアの脅威がある」とは言っていたものの、そんなに話が大きくなるとは思わなかった。「ウクライナ危機」を各国が警戒して、欧米の大使館がどんどん退避してしまった。当然外国資本も離れます。その結果、ウクライナ経済は大ダメージを被り、インフレも進行しています。
―― ウクライナは大国同士の思惑に狭間になって、困った状況に追いやられているということですか?
そうです。そんな情勢だからウクライナの駐英大使からも中立に関する発言が出て、後に火消しに回るといったことも起きています。そして、フランスのマクロン大統領も、ウクライナの中立について語り、後で撤回しているとも報じられました。
――NATOとロシアの間の中立ということでしょうか?
つまり冷戦期で言うところの「フィンランド化」ですよね。NATOには入れないけど、ロシアの脅威もかなり軽減できると。プーチン大統領にとっては、一番好ましい方向性です。
―― つまり、現状はプーチン大統領にとって良い具合に進んでいるということでしょうか?
私は、色々な意味でプーチン大統領の思惑通りになっていると思います。プーチン大統領は「何も得てないじゃないか」と指摘する人もいますが、私は現時点で少なくとも5つのお土産をプーチン大統領はゲットしていると思っています。いつ軍を撤退させても損したように感じないはずです。
―― プーチン大統領が得た5つのお土産とは何でしょう?
お土産の1つは、今回の「武力侵攻をする雰囲気を醸し出していること」との理由とも重なってきますが、これまで世界がロシアへの注目度を落としていたことが背景にあります。これは大国でありたいロシアにとっては、非常にマイナスでした。バイデン政権になって「アメリカの敵は中国」という方向になり、「米中による二極世界」になっていきます。ロシアはそこに介在しないわけですよ。それは、ロシアにとって不満ですよね。もちろんロシアだって、アメリカから攻撃されたいわけじゃない。でも、経済制裁が解けてないのに、世界の大国から相手にされてないという状況への苛立ちがあったと思うんです。でも、今回のような行動を起こせば世界が注目する。実際、北京オリンピックの最中なのに、オリンピックよりもロシアの方に注目が行くような状況になっています。米中二極になりそうだった世界にロシアが入り込んで、少なくとも三極になったのが、ここ数カ月の動きです。このように「ロシアが世界から注目を集める」というのが、1番目のお土産ですね。
―― つまり世界的にロシアが注目を浴びることが「お土産」ということですね。米中の世界観が「米中露」とロシアが割って入って形になったと?
「ロシアが第三次世界大戦を起こすかもしれない」といった形で注目をされたのは、プーチン大統領にとってはとても喜ばしいでしょうね。「ロシアは核保有国の一つ。戦争が起きれば勝者はいない」と発言したのもそうした効果を狙ったものでしょう。
―― 次に2番目の「お土産」とは何でしょうか?
2021年12月にロシアがアメリカとNATOに対して提案をしました。「ロシアのレッドラインを守れ」という提案で、NATO拡大をやめるようにという内容ですが、これまでのところ全く聞き入れられていません。ですが、ロシアがこれまで「話し合いましょう」と提案しても無視されてきた課題について、今回の軍隊集結によって、欧米各国が話し合いのテーブルに乗るようになった。これは「交渉可能な状況」が生まれたということで、ロシア国内ですごくポジティブに受け止められています。これまで無視してきた相手を、交渉のテーブルに着かせることができたことは、大きいですね。また、米国のトランプ大統領は交渉ができない相手であったけれど、バイデンは交渉ができる相手であると言う認識があったことも、この背景にはあると思います。
―― 3番目の「お土産」は何でしょうか?
「ウクライナがNATOに入るかどうか」というのが今回、争点になっているかのように見えますが、おそらくそれは「見せ球」です。ロシアにとってウクライナがNATOに入るかどうかは、喫緊の話ではありません。NATO加盟にはさまざまな条件があるので、ウクライナが「近い将来にNATO加盟することはないだろう」とバイデン大統領も言っています。だから今すぐロシアにとって解決しなきゃいけない問題ではないんです。
―― では、なぜロシアは「ウクライナのNATO入り断念」を要求しているのでしょう?
ウクライナがNATOに入ることはロシアにとってそれぐらい深刻なことだと世界にアピールするためです。NATO加盟にはさまざまなプロセスが必要ですが、NATO加盟国たちも「ウクライナを入れるとロシアを敵に回すことになる」という印象を間違いなく強くしました。それが3つ目のお土産になりますね。 
――なるほど。今回の緊張状態を生み出すことで、NATO加盟国の萎縮効果を生み出すことに成功したということですね。
そうですね。やっぱりNATOは、「ヨーロッパで加盟を望む国は全部入れる」ということが、設立時のモットーになっているので、本来は「どの国を入れない」とは言えないわけですよ。それができないのは、ロシアも分かっているけど、外堀を埋める状況を作れた。そこはロシアのもくろみ通りだったと思います。
―― 4番目のお土産は?
やはりロシアは勢力圏をアピールできたってことですよね。レッドラインを示すときに、「ウクライナを含む旧ソ連地域にNATOが入ってくることは許さん」と言うことで、「ここからここまでがロシアの勢力圏」という認識があると世界にアピールできました。旧ソ連圏はロシアの勢力下にあるべきで、他の国はそこに軍事的な同盟を結んだりできないという考えを世界に知らしめただけでも、大きな効果です。
―― 最後の5番目は何でしょうか?
ウクライナ政治を混乱させられたっていうのはすごく大きいですね。イギリスのトラス外相が「親露的な政権を作るためにロシアがウクライナに工作員を送り込んでいる」と1月に発表しました。ロシアは旧ソ連各国に以前から工作員を送り込んでいて、クリミア併合の際にも活動していますから「今さら」という感じがしました。イギリスも、ロシアに国際的な敵視が集中し、抑止効果が生まれるように、あえてこの時期に言ったのだと思います。とはいえ、ロシアがウクライナに親露的な政権を樹立させたいのは事実です。親欧米派であるゼレンスキー大統領が倒れると、ロシアにとっては都合がいいわけですが、ウクライナの政治はかなり混乱していると言って良い状況です。ゼレンスキー大統領は「ロシアが武力侵攻する」可能性を否定しようとしましたが、効果はなく、ウクライナ国民の間にも不安感が広がってしまいました。ウクライナはロシアと欧米の間で中立に立つべきだという中立論者も出てきていて、ウクライナの国内政治にも揺らぎが出ています。このままゼレンスキー大統領が自滅して、ウクライナ国民が自ら親露的な大統領が選んだら、プーチン大統領にとっては大成功ですよね。まだ状況は不透明ですが、彼にとっては好ましい方向に進んでいるように見えます。
●欧米メディア取材中“砲撃” ウクライナ情勢緊迫 2/20
緊迫するウクライナ情勢をめぐり、欧米各国はロシアに対し、軍事侵攻した場合の経済制裁について警告するとともに、外交による解決を強く呼びかけている。
19日、緊急外相会合を開いたG7(主要7カ国)は、共同声明を発表し、ウクライナ周辺でのロシアによる軍の増強は、「世界の安全保障と国際秩序への挑戦だ」と強く非難した。
そして、ロシアがウクライナへ軍事侵攻した場合、「幅広い経済・金融制裁を含む経済への前例のない代償を払わせる」と警告するとともに、外交的な解決を求めた。
こうした中、フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領が、日本時間の20日夜、電話で会談する。
両首脳が直接話し合うのは、モスクワで行った会談を含め、2月に入って4回目になる。
また、アメリカでは20日、バイデン大統領がNSC(国家安全保障会議)を開き、ウクライナ情勢について協議する。
一方、ウクライナ東部を実効支配する親ロシア派武装勢力は、「総動員令」を出して予備役を召集。
欧米メディアがウクライナ軍側を取材中にも、砲撃とみられる爆発音があった。
ウクライナ軍は、「19日朝までの24時間に、親ロシア派から136回の攻撃があった」としている。
●ウクライナ情勢の先に岸田内閣が見据える“大国の思惑” 2/20
「とにかくロシアだ!ロシアとやらないとダメだ」日ロ会談の舞台裏
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の警戒が強まっている。
2月16日にはロシアがウクライナ国境付近から軍隊を一部撤収させると発表したと思えば、アメリカは「ロシア軍が7000人の部隊を増強した」と発表するなど緊迫した“情報戦”が続いている。バイデン大統領は「(侵攻の恐れは)非常に高い。私の感覚では今後、数日中におこると思う」と話した。
ある官邸幹部はいう。「アメリカの危機感は大きい。これは尋常ではなく大きい危機感だ」
岸田総理は15日にウクライナのゼレンスキー大統領、EUのフォンデアライエン委員長、そして16日にはイギリスのジョンソン首相と相次いで電話会談を行い、外交努力によりこの緊張緩和につなげていくことなどを確認した。
しかし、岸田総理はかねてから「とにかくロシアだ、ロシアと会談しないと意味がない」と強く主張。ようやく17日、プーチン大統領との会談にこぎつけた。
日本時間午後9時32分、電話会談がスタートした。日本側出席者は、岸田総理、林外務大臣、松野官房長官、木原・磯崎両副長官、秋葉国家安全保障局長など“ほぼ総出”だった。会談は24分間。お互い淡々と自分たちの主張をぶつけあった。
「言いたいことが言えた・・」総理は安堵
「力による現状変更ではなく外交交渉により関係国が受け入れられる解決方法を追求すべきだ」
岸田総理がこう口火を切ると、プーチン大統領は「外交努力で解決したい」と応じた。そしてウクライナがNATOに加盟しないことへの保証などロシア側の立場を主張した。プーチン氏が想像以上に友好的に対応したことに、岸田総理は驚いた。
「言いたいことが言えたな」会談終了後、岸田総理は安堵の表情を浮かべた。総理側近は「本当にロシアがウクライナに侵攻してしまう前にこの電話会談を実現しておきたかった。本当に良かった」と明かした。
19日にはG7外相会談、そして24日にはG7のオンライン首脳会談も控えている。岸田総理としては欧州各国がすでにプーチン大統領とバイ(二国間)会談をやっている手前、同じ土俵にのっておく必要があった。
最大ミッションは邦人保護 “アフガニスタンを教訓に”
「邦人保護には遺漏なく対応するように」
岸田総理は14日、国家安全保障会議(NSC)を開催し、関係閣僚にこのように指示した。会議では情報収集や邦人保護、そしてロシアが侵攻した場合の制裁などについて話し合われた。会議では「20日までが一番の山だろう」などと意見が交わされたという。
政府にとって目下、最大の任務は現地にいる邦人の保護だ。
去年8月、アフガニスタンの首都カブールがタリバンによって占領された際には、自衛隊機の派遣が遅れ、批判が出た。このときは自衛隊機で救出できた邦人は1名だけ。この教訓から、今回政府内では邦人保護に一段と神経を尖らせる。
外務省によると17日時点でおよそ120人の邦人が現地に残っている。これまで外務省は危機情報をウクライナ全土にレベル4(退避勧告)に引き上げ、民間機が運行している間に国外退避を呼びかけている。日本企業はほぼ撤収が終わったと言うことだが、配偶者がウクライナ人で生活基盤が現地にあるなどの理由で、外務省は特例的に家族のビザを発給するなど対応しているが、国外に出る日本人は頭打ちになっている。しかもウクライナ政府は「国内がパニックになる」などという理由から、欧米や日本などに対し、“自国民を待避させるな”と呼びかけているという。
仮に今後ロシアによる侵攻があった場合、どう残った邦人を待避させるのか。
防衛省内では自衛隊機の派遣も検討しているが、ロシアが侵攻し空港を占拠した場合、ウクライナへの派遣はより困難になる。現実的には隣国ポーランドに派遣し、陸路で待避した邦人を輸送することを想定しているようだ。
岸田総理は17日の記者会見で「近隣国においてチャーター機の手配を行うなど邦人保護に全力で取り組む」と述べた。
クリミア併合で日本は“腰砕け”の制裁・・「あの時の最善の判断だった」
今後焦点となるのは、ロシアがウクライナに侵攻した場合の制裁だ。政府関係者によると、ロシアの侵攻の“度合い”によって複数案が検討されているという。“度合い”とはすなわち、東部戦線での衝突か、首都キエフを占領するか、ウクライナ全土にわたる戦争状態か・・などを想定している。
制裁案は、ロシア人要人の資産凍結や大手銀行との取引禁止、先端技術の輸出規制などがテーブルに上がる。
とくに注目されているのは、2014年のロシアによるクリミア併合の際の制裁より厳しいものになるのかどうか。今回は当時より厳しい制裁を求める声が与野党双方から上がる。
当時は、北方領土交渉が動いていた時期でもあり、日本はロシアに配慮する形で限定的な制裁になった。欧米がロシアの資産凍結などの経済制裁をとる一方で、日本はビザ発給手続きの緩和にむけた交渉の停止など、ロシアに実害のないものだった。その後、アメリカなどに押され追加制裁に踏み切ることになった。
立憲民主党の江田憲司氏は1月26日の予算委員会で当時の制裁を「やわで腰砕けの制裁だった」と皮肉った。クリミア併合時にこれらの制裁を決めた当時の外務大臣は岸田総理本人だ。
「あの時の背景は自分が一番よく分かっている。あのときも日本の国益にとって最善の判断をしたんだ」と総理は周囲に語っている。
岸田総理が外相時代、その前任の外相だった立憲民主党の玄葉光一郎氏は2月18日の予算委員会でこう迫った。
「2014年の制裁は形ばかりの制裁で終わっている。メッセージが明確じゃないとロシア側からしたときに、また同じようにしてくれるんじゃないか。こんなふうに伝わってしまったらロシアの軍事進攻に対する抑止効果も全くない」
岸田総理は制裁内容について明言しないものの、「我が国を取り巻く安全保障環境はあの当時と比べて一段と厳しさを増している。なによりも、米中の競争の激しさ、これは2014年当時とは比較にならないほど激しいものがある。G7をはじめとする同盟国・同志国との関係、国際社会との連携、これはより強く意識しながら、適切な対応を考える」と反論した。
岸田総理がG7と足並みを揃えることを「強く意識している」のには大きな理由がある。
「これはアジアへの前例になるぞ」政府内に漂うただならぬ危機感
17日、岸田総理は宏池会(岸田派)の例会で所属議員の前でこう語気を強めた。
「主戦場はヨーロッパと言いながらも、力による現状変更を許すということになると、アジアにも影響が及ぶことを十分考えておかなければならない」
念頭にあるのは中国だ。
外交・防衛に詳しい自民党議員は、仮にロシアの今回の行動を欧米、日本が許せば、中国による尖閣や台湾有事を誘発する恐れがあるとして、政府にこう警鐘を鳴らした。
「日本がロシアに配慮して曖昧な態度を取れば、尖閣や台湾有事があったときにG7になんて説明するんだ?そのとき助けてくれない。今回の日米の動きを中国はしっかり見ている」
防衛省関係者も同様に「今回ロシアを看過すれば、将来中国の台湾への侵攻のハードルを下げることになる」と話す。
政府内ではこの問題は将来の日本の安全保障に直結する話だと危機感を強めている。
岸田総理は「アジアの前例になるから深刻に受け止めないといけない」と釘を刺す。
ロシアによるウクライナ侵攻を世界が止められるのか、なお予断を許さない。
●ウクライナ大統領が演説「平和を望んでいる」  2/20
緊張が高まるウクライナ情勢をめぐって、ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、ドイツで行われたミュンヘン安全保障会議で演説し「ウクライナを本当に助けるためには、侵攻される可能性がある日を話す必要はありません。ウクライナは平和を望んでいる」と述べました。
またゼレンスキー大統領は「ロシアの大統領が何を望んでいるのかわからないので、会うことを提案する」と述べ、ロシアのプーチン大統領と直接、対話する用意がある意向を示しました。
そのうえで「ヨーロッパと世界の安全保障のシステムはもはや機能していない。修正を検討するには遅く、新しいシステムを構築すべきだ」と述べて、安全保障をめぐる問題の解決に向けて各国に働きかけを求めました。
ゼレンスキー大統領は、ドイツのショルツ首相やイギリスのジョンソン首相、それに、アメリカのハリス副大統領と相次いで会談し、ウクライナ情勢の緊張緩和に向けて外交を通じた解決を目指すことを確認したということです。
●ウクライナ侵攻「いつでも可能」 米大統領、NSC開催へ 2/20
米ホワイトハウスは19日、声明を発表し、「ロシアはいつでもウクライナ攻撃を開始することが可能だ」との見方を改めて示した。バイデン大統領は20日に国家安全保障会議(NSC)の会合を開催し、ウクライナ情勢について協議する。
声明によると、バイデン氏は19日午後、ウクライナ情勢をめぐってハリス副大統領がドイツ南部ミュンヘンでウクライナのゼレンスキー大統領や北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長、欧州諸国首脳と行った一連の会談について、最新の報告を受けた。
バイデン氏は18日の記者会見で、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を「決断したと確信している」と発言した。これについて米紙ワシントン・ポスト(電子版)が関係者の話として報じたところでは、米情報機関は、全面攻撃を始めるよう命令が発せられたとの情報をつかんでいたという。
●中国 王毅外相 ウクライナ情勢めぐり 対話を呼びかけ  2/20
中国の王毅外相は、ミュンヘン安全保障会議にオンラインで出席しました。
王毅外相はウクライナ情勢をめぐって「ウクライナを大国の対立の最前線にしてはならない」と述べ、関係国に対し対話による解決を呼びかけました。
また、王外相はNATO=北大西洋条約機構について「冷戦時代の産物だ」と指摘したうえで、「NATOの拡大は、ヨーロッパの平和と安定を維持し、長期的な安定を実現させることにつながるだろうか」と述べ、ロシア側の安全保障上の懸念が尊重されるべきだという考えも示しました。
●ロシアが弾道ミサイル発射演習 ウクライナ情勢緊迫  2/20
ウクライナ情勢が緊迫する中、ロシアは、核弾頭を搭載できる弾道ミサイルの発射演習を行った。発射演習は19日、ロシア各地で同時に行われ、ICBM(大陸間弾道ミサイル)や、極超音速弾道ミサイルなど、核弾頭が搭載できるものも含まれた。
プーチン大統領が、大統領府から演習を見守る様子も公開され、欧米との交渉を優位に進めようという意図もあるとみられる。
一方、ウクライナ東部を実効支配している、親ロシア派の武装勢力は、ウクライナ軍から攻撃を受けたと主張し、住民たちをロシアに避難させ始めている。
ドネツクの住民「いったい何が起こっているのか...。この状況のため、家を離れなくてはならなくなった」
ウクライナ軍は、親ロシア派への攻撃を否定している。
ゼレンスキー大統領は、19日にフランスのマクロン大統領と電話で会談し、「挑発に報復するつもりはない」と、外交による解決への意欲をあらためて伝え、支援を求めた。
●「情報操作」激化と警告 ウクライナ情勢でEU外相 2/20
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は19日、ウクライナ情勢をめぐって声明を出し、「情報操作の激化」が進行していると警告した。「偽装された事案」が「軍事行動をエスカレートさせる口実として使われる恐れがある」と強い懸念を示した。
ロシアの国営メディアは、ウクライナ東部のドネツク州やルガンスク州の親ロシア派支配地域に対する攻撃をウクライナ政府が計画しているなどと報じているが、ボレル氏は「根拠がない」と一蹴。一方で、親ロ派とウクライナ軍の間で停戦合意違反が急増しているとする欧州安保協力機構(OSCE)の指摘に懸念を表明した。
●ウクライナ首都から職員退避 情勢切迫で「安全優先」―NATO 2/20
北大西洋条約機構(NATO)当局者は20日、ウクライナで勤務するNATO職員を、首都キエフから西部リビウとNATO本部のあるベルギー・ブリュッセルに退避させたと明らかにした。情勢が切迫しロシア軍によるウクライナ侵攻の恐れが一段と高まっていることを踏まえた措置とみられる。
当局者は「職員の安全が最優先だ」と説明した。退避した職員の数など詳細には触れなかったが、「ウクライナ国内のNATO事務所は引き続き業務可能だ」としている。
一方、NATOのストルテンベルグ事務総長は19日、ドイツ公共放送ARDに「あらゆる兆候が、ロシアがウクライナへの本格的な攻撃を計画していることを指し示している」と指摘。「ロシアはまだ、後退して方向を転換し政治的対話を行うことができる」とも述べ、侵攻を思いとどまるよう訴えた。 

 

●ロシア・ウクライナ情勢、計算を誤ったプーチン大統領 2/21
それでもプーチン大統領は勝利を宣言しようとするだろう。
ほんの一瞬、明るいニュースが出たように思えた。
2月14日、ロシアの国営テレビに映し出されたウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻が目前に迫っているという西側の警告にもかかわらず外交努力を続けるべきだという外務大臣の進言に、一言「よし」と答えたのだ。
その翌日、ロシア国防省がウクライナとの国境付近に派遣していた約18万人の部隊を一部撤収させると発表した。当初から派遣の理由に挙げていた軍事演習が終了したというのがその理由だった。
各国の政府当局と市場は小さな安堵のため息をついた。
悲しいかな、オシント(公開されている情報源からデータを集めて分析する諜報活動)はすぐに、若干数の部隊が動いているものの、それよりずっと多くの部隊が戦闘に備えていることを明らかにした。
西側諸国の安全保障当局者の多くはプーチン氏の意表を突く率直さで、同氏が嘘をついていると非難し、侵攻が迫っているとの警告を繰り返した。
たとえ部隊が撤収しようと、この危機はまだ終わらない。
そして何が起ころうと、戦争になろうとなるまいと、プーチン氏はすでに、ウクライナ侵攻を画策したことによって自国ロシアに害を与えた。
戦術的な得点は稼いだかもしれないが・・・
この見立てには、西側の識者などから異論が多数出てくるだろう。
例えば、プーチン氏は一度も発砲せずに世界の注目を一身に浴びることができたとか、ロシアが重要な国であることを改めて証明したなどと指摘する。
さらに、プーチン氏はウクライナを不安定にし、同国の将来は自分の手中にあることを全員に印象づけた。
この先、戦争を回避することによって北大西洋条約機構(NATO)から譲歩を引き出せるかもしれない。
また国内においては自らの政治的手腕を強調し、経済面での困窮やアレクセイ・ナワリヌイ氏をはじめとする野党勢力の弾圧から国民の目をそらすことができた(ちなみに、ナワリヌイ氏は2月半ば、再び法廷に引っ張り出された)――といった具合だ。
しかし、こうした得点は戦術的なものにすぎない。たとえプーチン氏がこれらを手に入れたとしても、長期的かつ戦略的に見るなら、プーチン氏は勢力を失った。
一つには、世界中の人々の目がプーチン氏に注がれてはいるものの、敵を刺激することになった。
かつてプーチン氏を「人殺し」と形容し、自分が大統領になるのを阻止しようとした同氏を嫌っているに相違ないジョー・バイデン大統領が先頭に立つ西側陣営は、ロシアがクリミアを併合した2014年当時よりも厳しい制裁を科すことでまとまっている。
2019年にフランスの大統領から「脳死状態」だと切り捨てられたNATOは、ロシアと国境を接する側面を守ることに新たな意義を見い出した。
NATOと距離を置くことを常に好んでいたスウェーデンとフィンランドが加盟する可能性すら浮上している。
新しい天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」を浅はかにも支持してきたドイツは、ロシア産のガスはドイツが対処しなければならないお荷物であり、侵攻が起きればこのプロジェクトが頓挫するとの見方を受け入れた。
もしプーチン氏が、脅せば西側はひるむだろうと考えていたのであれば、自分の誤りを正されたことになる。
ロシアが失ったもの
確かにウクライナは苦しんでいる。だが今回の危機は、自分たちの運命は西側とともにあるというウクライナ国民の間に広まった感覚を裏付けることにもなっている。
確かにプーチン氏は、NATOに加盟するつもりはないとの言質をウクライナから取った。だが、加盟する可能性はずっとごくわずかだったのだから、大した価値はない。
それよりも重要なのは、ここ数年無視されてきたウクライナが西側から外交・軍事の面でかつてない支援を受けていることだ。
危機時に築かれたこうした絆は、ロシア軍が撤退したからといって、突然切れたりしない。これもまたプーチン氏の狙いとは正反対の展開だ。
また、プーチン氏がミサイルや軍事演習を含めた欧州の安全保障問題を議論の俎上に載せたという指摘も正しい。だが、そのような議論は全員の利益になる。
紛争の危険を減らしてくれるからだ。ウィン・ウィンの交渉がプーチン氏の勝利としてカウントされるのであれば、もっとやればよい。
プーチン氏が被った損失のうち最も興味深いのは、ロシア国内でのそれだ。
ロシアは要塞経済の構築を試みてきた。外貨準備を積み増し、米ドルで抱える外貨準備の割合を引き下げた。
国内企業の外資依存度を低下させる一方、半導体からアプリケーション、そしてネットワークそのものまで網羅する独自の「技術スタック」構築に力を入れてきた。
さらには、今でも外貨獲得の主要な手段である炭化水素の新たな買い手を見つけることを期待して中国に接近してきた。
こうした取り組みは、西側諸国から科される制裁の潜在的なダメージを減じてはいるものの、完全に取り除いてはいない。
ロシアからの輸出のうち、欧州連合(EU)向けは今でも27%を占めている。中国のシェアはその半分ほどだ。
ロシアから中国に向かう天然ガスパイプライン「シベリアの力」は、2025年に完成しても、欧州に現在送られている量の5分の1しか運べない。
深刻な紛争が生じれば、国際決済ネットワーク「SWIFT」を通じた制裁やロシアの大手銀行への制裁が発動され、金融システム全体が世界から切り離される。
中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)に対する輸入規制のようなものも、ロシアのハイテク企業には大きな困難をもたらすだろう。
中国にさらに接近するリスク
プーチン氏はこの相互依存と共存できるし、逆に中国にいっそう接近することもできる。
しかしそれをやってしまうと、ロシアを外交上の仲間でありコモディティーを安価に提供してくれる発展の遅れた国だと見なしている、冷徹な政治体制の子分になってしまう。
これは、プーチン氏が首にはめられて喘ぐくびきとなる。
この独裁国家同士の連携は、ロシア国内に心理的な負担ももたらすだろう。
プーチン氏がシロビキ――ウクライナで西側との結びつきや民主主義が強まると、自分たちがロシアを支配・略奪する力が脅かされると考えている安全保障当局の幹部たちのこと――に依存していることが露呈する。
ロシア国家を支えるもう一つの柱である自由主義の資本家やテクノクラートにとっては、自分たちが敗れたしるしがまた増えることになる。
トップクラスの優秀な人材がますます国を離れ、そのほかの人々はただあきらめる。経済の低迷と憤懣は反対運動につながり、そうなればさらに乱暴な対応がなされるだろう。
では、これらをすべて承知のうえでプーチン氏がウクライナ侵攻に踏み切ったらどうなるだろうか。
今回の危機で最も恐ろしい展開はこれかもしれない。ロシア側も西側も相手の裏をかこうとしているからだ。
2月15日にはロシア連邦議会下院が、ウクライナ東部のドンバス地方における2つの自称「共和国」を承認するようプーチン大統領に促した(この2つの勢力は、現状は支配していないウクライナ領内の広い地域を自分たちのものだと主張している)。
プーチン氏がいつでも好きな時に引ける引き金が1つ増えた格好だ。
自棄になって侵攻する可能性
戦争になればウクライナが荒廃するだけでなく、戦争の脅威をはるかに上回るダメージがロシアにもたらされる。
西側はさらに刺激を受け、ロシア産天然ガスに背を向ける決意を固める。ウクライナは長く尾を引く問題になり、ロシアはお金と人をどんどん失っていく。
そしてプーチン氏は社会からのけ者にされる。
ロシア自体も、短期的には制裁によって、そしてその後はさらに強化された経済自立政策と弾圧によって荒廃することになろう。
プーチン氏は自分で自分を窮地に追い込んだ。追い詰められて攻撃に出る恐れもある。今回は野心を封じて撤退したとしても、後で攻撃に出るだけかもしれない。
そのような破滅的な選択を抑止できる可能性が最も高い対策は、プーチン氏が繰り出す脅威に西側陣営が毅然とした態度を取ることだ。
●バイデン氏とプーチン氏、会談に原則合意 軍事侵攻なら取りやめ 2/21
緊迫するウクライナ情勢をめぐり、バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領が直接協議することで原則的に合意した。フランスのマクロン大統領が20日に仲介し、双方が受け入れたと仏大統領府が明らかにした。米政府も同日、ロシアが軍事侵攻しないことを条件に会談を受け入れると発表した。
マクロン氏は20日、プーチン氏と2回、バイデン氏と1回、それぞれ電話会談した。この際、双方に米ロ首脳会談の開催と、さらに関係国を交えた拡大会合の開催を提案。両首脳が原則として受け入れたという。
米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相が24日に会談し、首脳会談に向けて詰めの協議をする。ロシアがウクライナに軍事侵攻した場合は取りやめになるという。
米政府は合意について発表したうえで、会談は「ロシアが侵攻しないこと」が前提になると重ねて強調した。「(バイデン)大統領は、侵攻が始まる瞬間まで外交を追求する」としつつも、「ロシアが戦争を選べば、迅速かつ厳しい代償を負わせる用意がある。そして現在、ロシアは今すぐにもウクライナに全面攻撃をする準備を続けているようだ」と指摘。会談前にロシアが侵攻することへの強い警戒をにじませた。
バイデン氏とプーチン氏が協議するのは12日の電話会談以来。
プーチン氏は20日のマクロン氏との1度目の電話会談の際、情勢が悪化するウクライナ東部について、ウクライナ政府に責任があると批判する一方、外交解決を優先することでは一致していた。
●米ロ首脳会談に双方が原則合意“ウクライナ侵攻ないこと条件”  2/21
フランス大統領府によりますと、緊張が高まっているウクライナ情勢をめぐり、マクロン大統領はアメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談を提案し、双方がこれに原則として合意しました。アメリカのホワイトハウスは、ロシアによる侵攻がないことが会談の条件だとしていて、外交的な解決を目指し、ぎりぎりの駆け引きが続いています。
フランスのマクロン大統領は20日、ウクライナ情勢をめぐり、アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領とそれぞれ電話で会談しました。
フランス大統領府によりますと、マクロン大統領は、両首脳に米ロ首脳会談を提案し、双方がこれに原則として合意しました。
アメリカのホワイトハウスも20日、バイデン大統領が首脳会談の開催を原則として受け入れたと明らかにしたうえで、時期や形式については今週後半にヨーロッパで予定されているブリンケン国務長官とラブロフ外相の外相会談で話し合われるとしました。
ただ、ホワイトハウスは「現状、ロシアはウクライナへの大規模な侵攻を近く始めるための準備を続けているようだ」とし、首脳会談も外相会談も、ロシアによる軍事侵攻がないことが開催の条件だとしていて、外交による解決を目指し、ぎりぎりの駆け引きが続いています。
ウクライナ情勢をめぐり、バイデン大統領とプーチン大統領は去年12月からこれまでに、3回にわたってオンラインや電話で会談しましたが、双方の主張は平行線をたどっています。
アメリカのオースティン国防長官は、20日に放送されたABCテレビとのインタビューの中で、ウクライナの国境周辺に集結するロシア軍について「首都キエフを制圧するためにかなりの戦力が速やかに移動できる」と指摘しました。そのうえで「大量の戦車や装甲車、大砲などが確認されている。こうした兵器が使用されれば、市民を含む多くの人たちが被害を受け、住まいを失い、避難民となるなど悲劇を作り出す」と述べ、危機感を示しました。
ウクライナの隣国ベラルーシで軍事演習を行っていたロシア軍が、終了予定の20日以降も現地にとどまる見通しとなった中、アメリカのバイデン大統領は20日、NSC=国家安全保障会議を開きました。ホワイトハウスが提供した映像では、バイデン大統領がブリンケン国務長官やオースティン国防長官、それにCIA=中央情報局のバーンズ長官などと話し合っている様子が確認できます。この中でバイデン大統領はロシア軍の最新の状況について報告を受け、対応を協議したということです。一方、アメリカの複数のメディアは20日、ロシアが軍の部隊に対し、ウクライナへの侵攻を命令したという情報をアメリカの情報機関が得ていると伝えました。バイデン大統領は先週、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の可能性について「プーチン大統領は決断したと確信している」と述べましたが、アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは当局者の話として、こうした情報が大統領の発言につながったと伝えています。
●仏マクロン大統領とプーチン大統領が電話会談、ウクライナ情勢の外交解決 2/21
フランスのマクロン大統領は20日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ情勢の外交解決を図る必要性で一致、緊張が高まるウクライナ東部の停戦を確保するため、ロシアとウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)の3者連絡グループ会合を近く開くことで合意した。両国大統領府が発表した。
一方、ブリンケン米国務長官は20日、米CNNテレビの番組で、合同演習終了予定だった20日以降もロシア軍が隣国ベラルーシにとどまるとして危機感をあらわにした。「侵攻の瀬戸際にある」と述べ、戦争回避に向けバイデン大統領がプーチン氏と対話する用意があると強調。バイデン氏は20日、国家安全保障会議(NSC)を開き、ウクライナ情勢を協議した。
3者連絡グループ会合は、ウクライナ東部ドンバス地域の紛争解決を目指し設けられた外交枠組み。ドンバスの一部を実効支配する武装勢力の後ろ盾であるロシアと、ウクライナがOSCEの仲介で直接協議する。フランス大統領府高官は21日の開催に言及した。
仏ロ首脳は会談でドンバスの情勢悪化に異なる見方を提示。プーチン氏がウクライナ側の挑発が原因だと指摘したのに対し、マクロン氏は親ロ派側の責任だと主張した。プーチン氏は北大西洋条約機構(NATO)諸国のウクライナへの兵器供与も批判。欧米はNATO不拡大確約などのロシア側提案に真剣に向き合うべきだと訴えた。
両氏は緊張激化を避け、衝突リスクを減らす行動を取ることを確認。外交を活発化させるため、仏ロ外相は21日に電話で会談、近日中の対面会談も模索する。
マクロン氏は20日、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話会談。ゼレンスキー氏は会談後にツイッターで3者連絡グループ会合開催とドンバスでの停戦の即時回復を支持すると表明した。続いてマクロン氏は米英独各国首脳に電話で協議結果を伝えた。
●OSCE、臨時会合開催へ ウクライナ情勢協議 2/21
欧州や米ロ、ウクライナが加盟する欧州安保協力機構(OSCE)の議長国ポーランドは20日、緊迫するウクライナ情勢をめぐり、OSCE常設理事会(大使級)の臨時会合を21日に開催すると発表した。ポーランドのOSCE大使がツイッターで明らかにした。
大使によると、ウクライナが「急速に悪化している安全保障状況」を受けて会合開催を要請した。OSCEからは、ロシア、ウクライナとの協議枠組み「3者連絡グループ」に参加するキンヌネン特別代表と、ウクライナ東部で停戦監視に当たっている特別監視団のトップも会合に参加するという。
●ウクライナ情勢解決、ミンスク合意が「唯一の方法」=中国外相 2/21
中国の王毅外相は19日、ウクライナ東部の停戦と和平への道筋を示した「ミンスク合意」が同国の情勢を解決するための「唯一の方法」だとし、ウクライナを大国間の競争の前線にしてはならないと述べた。
ビデオリンクで安全保障会議に出席した王氏は、全当事者が腰を据えて深い議論を行い、ミンスク合意を履行するためのロードマップとタイムテーブルを作成すべきと表明。また、各国の主権、独立、領土保全は尊重・保護されるべきだと述べた。
また、ウクライナ情勢を取り上げた中で、たとえ超大国であっても国際規範を自らの意思で置き換えてはならないとも指摘。特定の大国が冷戦思考を復活させ、ブロック間の対立をあおっているとした上で、どの国も歴史の歯車を戻すことに執着し、対立する同盟を構築するという過去の過ちを繰り返すべきではない、と語った。
●ウクライナ情勢 意外な「落としどころ」と「日本経済への影響」 2/21
なぜ五輪閉幕のタイミングで
ロシアによるウクライナ侵攻が懸念されているが、それをよく理解するためには、ロシア、米国、欧州のこれまでの経緯がわかっているほうがいい。
ウクライナを巡る問題は、第2次世界大戦後のNATO(北大西洋条約機構)とそれに対抗するワルシャワ条約機構の時代に遡る。
1949年のNATO発足時の加盟国は、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、イギリス、アメリカの12ヵ国だった。その後、ギリシャ、トルコ、西ドイツ、スペインが加入し、1982年までに17ヵ国となった。1991年にワルシャワ条約機構が解体し、ソビエト連邦の崩壊すると、ワルシャワ条約機構に加盟していた東ドイツは西ドイツに編入され、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアはNATOに加盟した。旧ソ連のバルト三国、その他の国もNATOに加盟し、現在30ヵ国になっている。
NATOは勢力を着々と拡大してきた。旧ソ連のウクライナとジョージアもNATO加盟を希望してきたが、これが、プーチン大統領にとって厄介な目の上のたんこぶになった。ウクライナとジョージアのNATO加盟を阻止しようとし、両国に対しロシアは軍事的な圧力を高めてきた。ロシアとしては旧ソ連邦のウクライナ、グルジアのNATO加盟は避けることが絶対ラインだ。2008年の夏季北京五輪時にはロシアによるグルジア侵攻もあった。2014年の冬期ソチ五輪後には、ロシアによるクリミア併合もあった。五輪とロシアには深い因縁があるかのようだ。
ロシアの選択肢
ロシアはアメリカに対し、NATOが東側に拡大しないように求めたが、1月26日、米ブリンケン国務長官は文書回答でこの要求を拒否したという。ウクライナにNATO加盟の意思がある以上、米国はこれを拒めないからやむを得ないだろう。ウクライナは、ソ連崩壊後に核兵器や通常兵器を廃棄したものの、ロシア側から圧力を受け続けている。ロシアとしてはウクライナが独立し、ロシアに敵対するNATOに加盟することはあってはならないと考えている。一方、かつて、ウクライナに対し核兵器使用も考えていたロシアに対するウクライナの不信感もかなりのものだ。
さて、日本はどう対応すべきか。NATOには加盟国の他に、パートナーシップ国としてスウェーデン、アイルランドなど20ヵ国がある。その中には、ウクライナ、ジョージアも、そしてロシアも含まれる。そのほかに、グローバル・パートナー国として日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど9ヶ国がある。日本はその中でNATOとの協力関係にあるのだ。
ロシアのウクライナ侵攻は止められるのか、止められなかった場合、国際社会にどのような影響をもたらすのか。
ロシアは、上に見たようにウクライナのNATO加盟を阻止することを目標としている。一方、ウクライナはNATO加盟したい。そこで、ロシアが軍事的な圧力をかけているわけだ。
こうした長期的な観点から離れて、短期的な動きを見てみよう。ウクライナは表向きNATO加盟の意向を示している。ウクライナのゼレンスキー大統領は2月14日、キエフでドイツのショルツ首相と会談し、ゼレンスキー氏はウクライナのNATO加盟について、「私たちは選んだ道に沿って動くべきだと信じる」とした。
ウクライナの意思が強くNATOもそれを支援するのであれば、ロシアとしては、引き続き武力で威嚇し続けるか、ウクライナを分断し一部をロシアに引き込むしか手がなくなる。
エネルギー政策の急所を突かれる
後者の手法、つまりウクライナの一部をロシアに引き込む鍵として、2015年の「ミンスク合意」がある。これは、ロシア、ウクライナ、ウクライナ東部2州が交わしたもので、ウクライナ東部紛争に関する停戦合意だ。これは、戦闘の停止に加え、ウクライナ東部の親露派支配地域に「特別な地位」(自治権)を与えるなど、ロシア側に有利な内容だ。19年に就任したウクライナのゼレンスキー大統領は、自国に不利な戦局の中で結ばれた合意の修正を求めたが、ロシアは拒否し、今に至っている。
このミンスク合意については、その内容の理解について温度差があるものの、独仏露ウクライナの間で、協議が継続されている。仏独は、露ウクライナでミンスク合意を守るとしている。ということは、ミンスク合意を守るという方向で、どこかに外交的な解決の道がありえる。なかなか厳しく狭い道であるが、露ウクライナの間でミンスク合意がまとまれば、一時停戦、その後ウクライナ東部2州は自治権を認められ、いずれロシアへ併合となるかもしれない。ウクライナにはやや不満だがロシアはまずまずだ。
このあたりが落とし所になるのかどうか、現段階では不透明だ。ただし、現在ウクライナ東部での新ロシア勢力とウクライナの間で武力的な小競り合いが行われている。これがエスカレートするのか、一時的な停戦ムードにあるのかがカギを握る。後者であれば、「ミンスク合意」がスタート台になるだろう。
もしこうした落とし所がなく、前者の場合になり、ロシアによるウクライナ侵攻が止められなかったら、西側諸国はロシアに対し、ドル、ユーロ、円決済停止の強力な金融制裁を課すだろう。さすがに、これはロシアにとって大打撃だろう。エネルギー・農産物価格は急騰するのではないか。
そこで、各国のエネルギー政策が、その後の展開には重要になってくる。
バイデン米政権は日本政府に対し、ウクライナ情勢が緊迫化し、ロシアが欧州向け天然ガスの供給を絞ることに備えて、日本が輸入するLNG(液化天然ガス)の一部を欧州向けに融通できないか要請してきたと報じられている。
ドイツをはじめ、ロシアのガスに頼っている欧州。シェールガスやシェールオイルの開発に消極的な米国。そして原発再稼働が進まない日本・・・・・・各国のエネルギー政策の問題点を突かれることになっていないか。
エネルギー政策は、多種多様なエネルギー源をミックスし、安定的な供給をできるだけ安いコストで行うことを目標としている。その際、安全保障の観点から、一定の国内供給を確保するのがいい。ただし、国内供給は安定的な供給になるが、国内資源がないことやコストの面で不利になることもあるので、多くの国では海外供給にも頼らざるを得ない。エネルギー自給率を2018年のOECD35ヵ国でみると、アメリカ97.7%(5位)、イギリス70.4%(11位)、フランス55.1%(16位)、ドイツ37.4%(22位)、日本11.8%(34位)となっている。
米のシェール増産が鍵だ
このエネルギー政策は、この10年くらいで大きな外部環境の変化に晒されている。2011年の東日本大震災で、福島第一原発が大事故を起こしたので、ドイツでは脱原発の動きになり、日本でも原発再稼働が簡単にできなくなっている。その上、脱炭素化の流れも、各国のエネルギー政策の長期的な動向に影響を与えている。各国において、脱石炭火力の動きになるとともに、短期的には天然ガス火力へのシフト、さらに中期的には再生エネルギーへのシフトが起こっている。エネルギー自給率の低いドイツではロシアからの天然ガスへの依存が大きい。
そうした背景があって、上述した日本の輸入するLNGの欧州向け融通という話につながった。
こうした状況への解決策は、かねてから筆者の主張は、アメリカによるシェールの増産である。ロシアが欧州向けた天然ガス供給を止めるのは、供給そのものを止めるという脅しだが、それによりエネルギー価格が上昇する。それがロシア経済には好都合だからだ。アメリカによるシェールの増産は、世界的なエネルギー不足を補うとともに、エネルギー価格の低下につながる。これはロシア経済には大きな打撃になるともに、エネルギー自給率の低い国にとっては援軍だ。はたして環境派のバイデン政権が踏み切れるか。
なお、日本は、エネルギー自給率を高め、世界の動向が国内への影響を少なくするために、原発再稼働を進めていく必要がある。
欧州で、原発がクリーンエネルギーに位置づけられたのも、ロシアの欧州への圧力とは無縁ではない。フランスなどは原発新増設の動きもあるし、他の欧州国でも同様だ。
こうした国際情勢の動きを読めずに、歴代5人の日本の首相がEUに原発をクリーンエネリギーにしたことを抗議する書簡を出したことは、国際政治音痴、国内お花畑論を世界に向かってさらけ出したもので、日本人として本当に恥ずかしい。
●緊迫度合いは?なぜ争っている? ウクライナ情勢 2/20
ロシア軍の派兵による東欧ウクライナ情勢が緊迫している。ロシア軍の侵攻が始まるとの情報が流れた16日は過ぎたが、アメリカなど西側諸国は警戒を続ける。この状況に至ったきっかけは、そしてロシア側の思惑は何なのか。そもそも、ウクライナとはどんな国なのか。ウクライナ研究の第一人者である岡部芳彦神戸学院大教授に聞いた。
「ボルシチ」もワッツアップも
−日本人が持つウクライナのイメージは、極めて限定的なように思います。旧ソ連の崩壊によって独立し、原発事故があったチェルノブイリがある国。出身者で浮かぶのは、欧州で活躍した元サッカー選手のシェフチェンコ、若い世代ならユーチューバーのサワヤン兄弟ぐらいでしょうか。
「特徴を簡単に説明しますと、国土は日本の約1・6倍で、欧州ではロシアなどに次ぐ面積です。東側でロシアと接し、南側は黒海に面しています。人口は4000万人超。主産業は農業ですが、ITも伸びており、通信アプリ『WhatsApp(ワッツアップ)』の開発者はウクライナ出身です」「ウクライナの文化は、ほとんどが東側に広がるロシアを経由して日本に伝わってきました。ですから、日本人がロシア発祥だと思っているもの、例えば料理の『ボルシチ』なんかは、実はウクライナの料理なんです。コサックダンスもそう。ウクライナの伝統舞踊で、国歌にも『われらコサックの子孫』という歌詞があります」
−ウクライナは、かつては旧ソ連領でしたが、ソ連崩壊によって1991年に独立したんですよね。
「はい。政治基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中央アジアの各国のように、独立後も親ロシア路線を選ぶ国もありましたが、ウクライナは違いました。かといって、反ロシアというわけでもなく、経済的な結び付きも依然として強かったのです。この状況が、2014年に一変します」
ロシアの脅しが利かない
−2014年といえば、ウクライナで政変があった年ですね。親ロシア色を強める政権に対する大規模な反対デモがあり、親欧米の暫定政権が発足しています。
「この政変を受けて、ロシアはウクライナ領土のうち、ロシア系の住民が多く住む南部のクリミア半島に攻め入ると、一方的に自国の領土であると宣言しました。この『クリミア占領(併合)』と、同時期のウクライナ東部紛争によって両国の亀裂は決定的なものとなります」「経済圏の軸足はロシアから欧米など西側諸国に移すようになりますが、大きかったのがエネルギーです。2014年までは、ロシアから供給される天然ガスに頼っていましたが、完全にゼロとはいかないまでも、依存度をかなり下げました」「EU(欧州連合)に加盟する各国は、ロシアからの天然ガスに頼っています。そういった国には通用する『供給を止めるぞ』というロシア側の脅しが、ウクライナには利かなくなったのです」
大人気テレビマンだった大統領
−2014年の「クリミア占領」による決裂後、今回の事態に至るまで、国際問題に発展するような情勢の悪化はなかったんですか。
「この間も、ウクライナ東部で小規模な武力衝突は起きていましたが、アメリカなどを巻き込むまでには至っていません。その要因の一つに、大統領の交代があります」「2019年に就任した現任のゼレンスキー氏は、政治の刷新を掲げて支持を集めました。そんな経緯もあり、国会議員の不逮捕特権をなくすなど内政に重点を置いたため、ロシアとの関係もそこまで悪化しなかったのです」
−ゼレンスキー氏は、国民に向けて「パニックに陥る理由はない」と述べるなど、努めて冷静に振る舞っているように見えます。どんな人物なのですか。
「政治経験も軍人経験も一切ありません。芸能プロダクションの代表で、ウクライナで大人気のテレビ番組の制作に関わり、自分も出演していました。日本の番組に例えるならば、時代劇の『水戸黄門』を制作し、さらに主役を務めながら、バラエティーの『めちゃイケ』にも登場するような感じでしょうか。政治風刺やロシアとの関係を揶揄する番組も多く手掛けていました」「大統領選への立候補も、自分のテレビ番組で表明したぐらいです。実際に大統領になった時のウクライナ国内の衝撃は、トランプ氏が大統領に就いたアメリカ以上のものがあったと思います。ただ、就任後はフレンドリーな性格と、内政改革の手腕などによって一定の評価を得ています」
鮮明になった対ロ路線
−そんなゼレンスキー氏が大統領で、なぜロシアとの関係が急速に悪化したのでしょうか。
「就任から2年ほどがたち、安定期に入ったと考えたのか、2021年の初頭からロシアに対して強硬的な姿勢を打ち出すようになりました。具体的には、『占領されたクリミアを取り戻す』と国内外にアピールしたのです。EUやNATO(北大西洋条約機構)への加盟に向けて、より積極的に動くようにもなりました」「ロシアからすれば、西側諸国の勢力範囲が、自国と国境を接するウクライナまで広がるのを許すわけにはいきません。ただ、天然ガスの供給停止というカードは通用しない。そこで、国境地帯への軍隊の集結という武力で圧力をかけてきたのでしょう」
−ここまでの話を聞くと、あくまでウクライナとロシアの2国間の関係のように思えます。なぜ、アメリカなど西側諸国も加わる国際問題に発展したのですか。
「ロシアが、ウクライナによるNATOへの加盟意向を派兵の理由に挙げたからです。ウクライナは、どちらかと言えばEU加盟の方が優先度が高いのですが、ロシアからすれば、他国の経済的な連携に口を挟むわけにはいかない。一方で、自国の安全保障にも関わってくる軍事的な結び付きのNATOを持ち出せば、盟主であるアメリカを引っ張り出してこられると考えたのではないでしょうか」
−実際の動向を見ると、結果的にアメリカなど西側諸国もウクライナ問題に関わるようになりました。
「それこそが、ロシアの狙いだったのだと考えます。EUにしてもNATOにしても、紛争国の加盟を認めないという暗黙のルールがあります。国際的な関心が高まれば、ウクライナは『ロシアとの紛争国』として世界に発信し、加盟を阻むことができる。そもそものきっかけはロシアにあるわけで、完全なマッチポンプですが」
米ロの情報戦
−では、ロシアとしては、本気でウクライナに侵攻しようとは考えていないということですか。
「戦争は、人間が起こすものです。ロシア側の主張も、プロパガンダ(政治宣伝)が目立つばかりで、本心が読み取れません。各国の専門家の分析も割れていますが、ここ数日の動きを見ると、危機は高まっているように感じます」「東部ウクライナで、ロシア軍の支援を受ける親ロシア派の武装勢力が砲撃を繰り返しているのです。これは、ウクライナ軍への挑発だけでなく、情勢を悪化させて、ロシアの関与をさらに引き出す意味合いもあるのでしょう」「ウクライナは2014年以降、軍備を増強しており、陸軍兵力でいえば、欧州ではロシア、フランスに次ぐ規模があります。もし本格的な戦闘になれば、ロシア側も、展開しているとされる十数万人の部隊ではとても足りず、さらに相当な被害を受けることになることは分かっているはずですが」
−実際には動きがありませんでしたが、2月16日にロシアがウクライナに侵攻するとの情報が流れました。
「何らかの根拠はあったのでしょうか、あくまでアメリカの見立てに基づく情報です。侵攻するとされた16日、ロシアの広報官は、何の動きもないことを強調し、『(アメリカが)また日付を指定したら、私はその日に休みをとる』と話しました。真偽はともかく、部隊の一部撤収も発表しており、『アメリカが勝手に言っているだけ』という印象を国際的に植え付けようとしているのかもしれません。何もしないことでアメリカの信頼を落とせるのならば、ロシアにとっては好都合ですから」「今回、一連のウクライナ情勢で、アメリカ側は積極的に情報を出して、ロシアをけん制しているように感じます。その背景にも、2014年のクリミア占領などがあると見ていいでしょう。当時も、アメリカはかなりの情報を持っていたと思われますが、出さないという判断をして、結果的に国際的な問題に発展せず、ロシアの侵攻を許した。その教訓があってのことだと思います」
−ウクライナの一般市民も、緊張感は高まっているのでしょうか。
「それが、私が聞く限りでは、表向き、それほど高まっていないようなのです。というのも、先ほども触れた通り、これまでも東部の国境地帯で小規模な衝突が起きているため、その延長のように捉えているのでしょうか。情勢悪化が顕著になった1月下旬から2月初旬の国内の主要ニュースも、国家反逆などの疑いをかけられている前大統領の裁判でした」
日本にできることは
−情勢の安定に向けて、日本にできることはありますか。
「G7の主要7カ国のうち、日本だけがEUにもNATOにも加盟していない。立場だけを見れば、ウクライナとロシアを取り持つことができる唯一の存在と言えるでしょう。ロシアの近隣国であるからこそ、積極的に働き掛けてほしいと思います」「ウクライナの人たちはみな陽気で、街並みも非常に明るく美しい。そんな国が、破壊されるような危機にひんしているというのは非常に悲しいですね」
●「金」が最高値に 1グラム=7040円台 ウクライナ情勢緊迫化で  2/21
ウクライナ情勢の緊迫化を受けて、比較的安全な資産とされる「金」の価格が上昇しています。21日の「金」の先物価格は、一時、1グラム=7040円台をつけ、取り引き時間中の最高値を更新しました。
大阪取引所で行われている21日の「金」の先物取引は、取り引き開始直後から買い注文が膨らみ、取り引きの中心となる「ことし12月もの」の価格が、一時、1グラム当たり7040円台をつけました。
これは、おととし8月の取り引き時間中につけた7032円を超え、およそ1年半ぶりに最高値を更新しました。
「金」は比較的安全な資産とされ、欧米などの金融引き締めの動きに応じて株や国債の価格が値下がり傾向にある中、投資家の間で需要が高まり、ことしに入ってから価格が上昇傾向にあります。
さらに、ウクライナ情勢をめぐってロシアによる軍事侵攻への懸念が高まる中で、有事に買われやすいとされる「金」が一段と値上がりした形です。
市場関係者は「ウクライナ情勢の緊迫化で原油や穀物などの価格が上昇し、インフレへの懸念が強まる中、資産の価値が目減りしにくいとの見方もあり、『金』が買われている。引き続きウクライナ情勢に値動きが左右されるのではないか」と話しています。
●株価 値下がり ウクライナ情勢への懸念から売り注文広がる  2/21
週明けの21日の東京株式市場は、ウクライナ情勢への懸念から多くの銘柄に売り注文が出て、株価は値下がりしています。
日経平均株価、21日午前の終値は、先週末の終値より196円6銭、安い、2万6926円1銭、東証株価指数=トピックスは、12.73、下がって、1911.58、午前の出来高は5億2590万株でした。
市場関係者は「ウクライナ情勢の緊迫化から、取り引き開始直後はリスクを避けようと売り注文が広がり、日経平均株価は一時、500円以上、値下がりした。しかし、アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の双方が、首脳会談を開くことで原則、合意したと報じられると、緊張がいくぶん和らぐことへの期待感から、値下がりした銘柄を買い戻す動きも出て、下げ幅は縮小した」と話しています。
●ウクライナ情勢受け 24日G7オンライン首脳会議 岸田首相参加へ  2/21
緊張が続くウクライナ情勢を受けて、今週24日にG7=主要7か国の首脳会議がオンライン形式で開かれ、岸田総理大臣が参加することになりました。
松野官房長官は、21日午前の記者会見で、今月24日に、ドイツの主催で、G7=主要7か国の首脳会議がオンライン形式で開かれ、岸田総理大臣が参加すると発表しました。
そのうえで「ウクライナ情勢を含む外交政策などについて議論が行われる予定だ。日本として、自由、民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有するG7が結束し、国際社会を主導することが極めて重要と考えており、積極的に議論に貢献していく」と述べました。
また松野官房長官は、現在のウクライナ情勢について「さまざまな外交努力が続けられているものの、アメリカのバイデン大統領が『数日中の侵攻を信じる理由がある』と述べ、ウクライナ東部地域では緊張が増すなど、緊迫が高まっていると認識している」と述べました。
そして「わが国としては、さまざまなレベルで緊張緩和に向けた粘り強い外交努力を続けていく考えであり、G7をはじめとする国際社会と連携し、実際の状況に応じて、適切に対応していきたい」と述べました。
●首相、24日のG7首脳協議に出席 ウクライナ情勢を議論 2/21
松野博一官房長官は21日の記者会見で、24日にテレビ会議形式で開かれる主要7カ国(G7)の首脳協議に岸田文雄首相が出席すると発表した。緊迫するウクライナ情勢を含む外交課題について話し合う。
松野氏は「日本としても民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有するG7が結束し国際社会を主導するのが極めて重要だ」と述べた。邦人保護に向け、近隣国でチャーター機の手配を既に済ませたと明かした。
ウクライナにいる日本人およそ120人(19日時点)について「退避を希望する邦人が速やかに安全な場所に移動できるのが今、何よりも重要だ」と語った。
●ウクライナ情勢、アジアはじめ国際秩序に関わる=岸田首相 2/21
岸田文雄首相は21日午前の衆院予算委員会で、ウクライナ情勢が台湾海峡にも影響を及ぼす可能性を問われ、ウクライナ問題は「欧州に限らずアジアなど国際社会の秩序に関わる問題」と指摘した。青柳仁士委員(維新)への答弁。
青柳氏は、ジョンソン英首相がウクライナを支援しなければ台湾も脅威にさらされると発言しており、岸田首相に同様な認識かと質問した。
首相は「ウクライナ情勢は国際社会全体の秩序にかかわる問題で、重大な懸念をもって注視している」とし、「世界各国が緊張緩和に向けて努力を行い関係国に働きかけをつづけており、日本としても緊張緩和にむけた努力が必要、との認識に基づきプーチン大統領と電話会談した」などと発言した。
●外相「有意義な機会」 ウクライナ情勢めぐるG7外相会合 2/21
林芳正外相は21日の衆院予算委員会で、ウクライナ情勢の緊迫を受けドイツ・ミュンヘンで開催された先進7カ国(G7)外相会合について「基本的価値を共有するG7外相間で率直な意見交換を行い、改めて連携を確認する有意義な機会となった」と評価した。自民党の越智隆雄氏への答弁。
林氏は「G7としてウクライナ周辺におけるロシアの軍備の増強について重大な懸念を共有し、ロシアに対して自ら発表した軍の撤収を実際に行うことも含めて緊張緩和に取り組むよう求めることで一致した」と説明。「私から『力による一方的な現状変更を認めない。国際社会の根本的な原則に関わる問題であり、欧州の安全保障の問題にとどまるものではない』と指摘した」と述べた。 
●ウクライナ情勢と“恐怖の均衡” 外交交渉の裏に漂う“核兵器の影” 2/21
ウクライナを巡って、ロシアと米国を中心とするNATO諸国の間の緊張が続いている。外交交渉と並行して、ウクライナを囲むようにロシア軍が展開し、米軍もNATO諸国に増派された。こうした中、2月7日、フランスのマクロン大統領はモスクワに飛び、プーチン露大統領との会談に臨んだ。
プーチン大統領「ロシアの核保有」を強調
会談後の記者会見で、プーチン露大統領は「ウクライナがNATOに加盟し、軍事的手段でクリミアを取り戻すことを決定した場合、欧州諸国は自動的にロシアとの軍事紛争に巻き込まれることをご存知ですか?」と問いかけた。
つまり、ウクライナ情勢はロシアと欧州諸国の戦争に直結しうることを仄めかしたのである。
その上で「ロシアは世界をリードする核保有国の1つであり、数々の点でこれらの国の多く(他の核保有国)よりも優れていることも理解している」として、プーチン大統領は、ロシアが世界有数の強力な核兵器保有国であることをマクロン仏大統領の前で強調した。フランスもまた、核弾頭の数量ではロシアより少ないものの、戦略核・戦術核兵器の保有国であるのにである。
そして、プーチン大統領は「しかし、勝者はいないだろう」と核戦争の危険性に敢えて触れた。
大量の核兵器を抱えた米ソ、米露は、1955 年以来“恐怖の均衡”状態にある。こうした状態で、もし核戦争が起こり拡大すれば勝者はいない、とプーチン大統領は言いたかったのかもしれない。
だが、プーチン大統領はそれに続けて「あなたはあなた自身があなたの意志に反して、この対立に引き込まれることに気付くだろう」とも述べ、NATO諸国が核戦争に巻き込まれる可能性に事実上触れ、警告した形になった。
では、ロシア軍は具体的にはどう動いたのか。
ロシアの最近の戦略核兵器部隊の演習
ロシア国防省は2022年1月24日に、ウクライナの東、ヴォルガ河沿岸のエンゲルス空軍基地所属の複数のTu-95MSベアH大型爆撃機の訓練映像を公開した。
Tu-95MS爆撃機は250キロトン級核弾頭を内蔵し、最大射程4500km級のKh-102巡航ミサイルを運用できることで知られる。
また、2月2日には、Yars大陸間弾道ミサイル部隊の訓練映像も公開し、ウクライナというより、ウクライナを支援する米国やNATO諸国を牽制したようにも見えた。
ロシアの核砲弾発射可能な自走砲は展開したのか?
では、プーチン大統領が言う、NATO欧州諸国を「巻き込む可能性」のある核戦争に投入されうる兵器とは何だろうか。
この点について、陸軍や地上兵器の情報サイト、Army Recognition(2月10日付)は「2月8日、ロシア軍は、ウクライナとの境界からわずか17kmの町である(ロシア南部ベルゴロド市)ベセラロパンの近くに203mm 2S7マルカ自走砲を配備した」と報じた。
2S7Mマルカ自走砲は、1975年から旧ソ連地上軍への引き渡しが始まった2S7ピオン自走砲を改修したものだ。
口径203mm、砲身長約11.4m、重量7.8トンという巨大な2A44砲を剥き出しで搭載した自走砲で、2018年には、2S7ピオン自走砲の改修が始まり、ギアボックス、配電機構、電源ユニット、観測装置と誘導システム、インターホン機器と通信機材が交換された他、 CBRN(化学/生物/放射性物質/核からの)保護システムが更新され、2S7M(または、2S7SM)マルカ自走砲に改修された。
改修された2S7Mマルカ自走砲は、オルラン10無人機で確認した標的の位置を入力し、高性能爆薬を内蔵した重量110kgの砲弾を37.5km先に飛ばすことが出来る。
オルラン10無人機は、カタパルトを使いゴム紐で打ち出す軽量構造の無人機だ。
また、補助ロケットを取り付け、射程を延伸した重量103kgの砲弾なら、47.5km先にまで飛ばせるが、1分間に発射出来る弾数は3発に限定される。
だが、2S7Mマルカ自走砲が注目を集めるのは、3BV2核砲弾を発射出来ること。この核砲弾を18〜37km先に発射出来るとされている。
真偽は確認出来ないが、注目される映像がツイッター上に流れていた。
1月22日に投稿されたという映像は、投稿者の説明によると、シベリア西部の都市、チュメニで撮影された貨物列車であり、その平台貨車には8輛の2S7Mマルカ自走砲が載って西に向かっていたという。
ロシアは、2S7及び2S7M自走砲について、現役・予備役を含めて約150輛保有していると見られている。
これらのうち、何輛が核砲弾を発射可能なのかは不詳であり、そもそも3BV2 核砲弾が2S7Mマルカ自走砲とともに展開しているのかどうかも不詳だが、2S7Mマルカ自走砲のウクライナ周辺への展開は、前述のマクロン仏大統領に対するプーチン露大統領の言葉と合わせて考えるなら、ウクライナやNATO諸国にとって無視できない事だろう。
これに対して、米国は、何らかの対応をしたのだろうか。
米軍の核兵器運用可能部隊の動き
2月5日、バルト三国の一つ、リトアニアのアマリ空軍基地に米空軍のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機が展開していることが映像で確認された。
リトアニアからモスクワまでは約570km。これに対し、ストライクイーグル戦闘攻撃機の戦闘行動半径(出発基地から往復し、目的地で作戦を行える距離)は1270kmとされ、物理的には、リトアニアからモスクワまで往復可能ということになる。
ストライクイーグルは、爆弾やミサイルを11トンも搭載出来るが、B61核爆弾も運用できる。(赤いのはB61核爆弾の模擬弾。)
2月14日、英国のフェアフォード空軍基地を離陸した米空軍のB-52H爆撃機2機が、大西洋を南下し、地中海に入って、その内の1機はイスラエル空軍のF-15A戦闘機と共同訓練を行ったという。
イスラエル空軍が公開したこの訓練の画像からは、主翼の下に吊り下げたミサイルの姿はなく、機体の爆弾倉のドアが閉じられているので、どんなミサイルや爆弾が内蔵されているのかも分からない。
しかし、この画像を見た航空軍事評論家の石川潤一氏は「米空軍にB-52H爆撃機は76機ありますが、米露の新START(新戦略兵器削減条約)で核兵器運搬手段としてデプロイメントしている機体は36機に制限されています。この核兵器が運用できるB-52H爆撃機には、衛星や航空からの査察ではっきり識別できる外形上の特徴があります」と指摘した。
また、画像に写っていたB-52 H爆撃機については、「垂直尾翼にMTと書かれているのでマイノット基地所属機ですね。この基地には核攻撃用のB-52も配備されています。しかも、後部胴体側面の涙滴形アンテナフェアリングにブレードアンテナが付いているので、新START(新戦略兵器削減)条約での制限の外にある、つまり核運搬手段として使われているB-52Hと推定できます。このアンテナはARR-85 VLF/LF(超長波/長波)無線機用で、電波の通りにくい戦略司令部など地下シェルターとの通信に使います」としている。
つまり、いざという場合に核弾頭を搭載する巡航ミサイルの「発射指示」を受信するアンテナがついているB-52H大型爆撃機であるということだ。
B-52H爆撃機が近年運用している核弾頭搭載対地攻撃用巡航ミサイルは、最大射程2400kmのAGM-86Bミサイルであり、B-52Hの器内には12発搭載可能だ。
イスラエルの北の地中海上空からロシア軍が展開するベラルーシの首都ミンスクまでは、直線距離で2030km余り。
実際に搭載されていたかどうかは不明だが、このB-52H爆撃機の飛行経路と画像公開は、ロシア側にとっても意識せざるを得なかったかもしれない。
米・露、そして、英国の外交は?
2月15日、バイデン米大統領はホワイトハウスで演説し「私たちはロシアとの直接の対決を求めていませんが、ロシアがウクライナの米国人を標的にすれば、私たちは、必ず力強く対応する」と述べた。
バイデン大統領は、この演説で“力強い対応”の具体的内容について明らかにしていない。
息が詰まるような外交交渉が続く中、2月17日、ロシア外務省は、在モスクワ米国大使に文書でロシア側の考えを通知した。
その中で、ロシア側は「NATOのさらなる拡大の拒否」を中心に「NATOのさらなる東方拡大を放棄することを法的に明記する内容・形態について、同盟国からの具体的な提案を期待する」として、「ウクライナへの武器供給を停止すること、欧米のアドバイザーや教官をすべてウクライナから撤退させること、NATO諸国がウクライナ軍との合同演習を拒否すること、これまでキエフに供給した外国製武器をすべてウクライナ領外に撤退させること」を要求している。
さもなくば「ロシアは、軍事的・技術的な性質を持つ措置の実施を含め、対応せざるを得なくなる」と記述したのである。「軍事的・技術的措置」が具体的にどのような措置なのかは、この文書には記述されていない。
ロシアはこのように、米国、そして、NATOを交渉相手としてきた。
ウクライナの後ろ盾はNATOではなく英国?
この文書が米国側に渡された日、ウクライナのクレバ外相はポーランドに向かい、そこで、トラス英外相、ラウ・ポーランド外相と「我々3カ国は、ウクライナの安定を守り、東欧での民主主義を強化」「英国とポーランドは、進行中のロシアの侵略に直面しているウクライナに支援を提供し続け」、「3カ国協力覚え書きを作成する」ことなどを骨子とする共同声明を発出した。
この3カ国の組み合わせはウクライナも入っているので、ロシアが様々な要求をしてきたNATOではない、ということだろうか。そして、この組み合わせには、ロシアが交渉相手として重視してきた米国も入っていない。
この覚書では、協力分野としてサイバーセキュリティやエネルギーセキュリティーなどがあげられているのが眼を引くが、軍事分野まで協力が広がるかどうか気になるところだ。
この覚書に関連して、ウクライナ外務省が発表した地図をみると、この3カ国が結びつくと、中欧に大きな壁ができ、その後ろ盾に英国がいるという構図になりそうだ。
ちなみに、ウクライナやポーランドは非核兵器保有国だが、英国は戦略核兵器保有国で、最大射程1万1112km以上のトライデントUD5戦略核ミサイルを16発搭載出来るヴァンガード級戦略ミサイル原潜を4隻運用している。
この3カ国協定を意識したのかどうかは不明だが、2月19日、ロシアは、ヤルス大陸間弾道ミサイルやMiG-31K攻撃機に搭載するキンジャール極超音速ミサイル、イスカンデル複合ミサイル・システムから巡航ミサイル等を次々に発射する映像を公開した。
しかし、ミュンヘン安全保障会議でウクライナのゼレンスキー大統領は「欧州と全世界の安全保障はほとんど壊れている。代わりに、新しいシステムを構築する時が来た」と演説した。
ウクライナは、NATOとは別の3カ国の枠組みを志向し、自信を深めているのだろうか。 
●プーチン大統領は国民にいかに「ウクライナ侵攻」の理由を説明したのか 2/21
ウラジーミル・プーチン大統領 ビデオメッセージ 2022/2/21
ロシアの市民の皆様、友人の皆様。
私の話は、ウクライナでの出来事についてです。そしてこれがなぜ我々ロシアにとって重要なのかについて、お話しします。もちろん私のメッセージは、ウクライナにいる我々の同胞にもお話するものです。
この問題は非常に深刻であり、深く議論される必要があります。
ドンバスの状況は、危機的で、深刻な段階に達しています。本日、私があなたがたに直接お話しするのは、現状を説明するだけでなく、決定される事項や今後のステップの可能性をお伝えするためです。
ウクライナは我々にとって、ただの隣国ではないことを改めて強調したい。私たち自身の歴史、文化、精神的空間の、譲渡できない不可分の (inalienable) 一部なのです。これらは、我々の同士であり、我々のもっとも大切な人々なのです。同僚や友人、かつて一緒に兵役に就いた人たちだけでなく、親戚や血縁、家族の絆で結ばれた人たちなのです。
太古の昔から、歴史的にロシアの地であった場所の南西部に住む人々は、自らをロシア人と呼び、正教会のキリスト教徒と呼んできました。17世紀にこの地の一部がロシア国家に復帰する以前も、その後もそうでした。
一般的に言って、このような事実は、我々誰もが知っていると思われます。これらは常識です。それでも、今日何が起こっているかを理解し、ロシアの行動の背後にある動機と我々が達成しようとする目的を説明するためには、この問題の歴史について、少なくともいくつかの言葉は述べておく必要があります。
そこでまず、現代のウクライナはすべてロシア、より正確にはボルシェビキ、共産主義ロシアによってつくられたものであるという事実から説明します。このプロセスは実質的に、1917年の革命の直後に始まり、レーニンと仲間は、歴史的にロシアの土地であるものを分離し、切断するという、ロシアにとって極めて過酷な方法でそれを行いました。そこに住む何百万人もの人々に、彼らがどう思うか尋ねた人はいませんでした。
その後、大祖国戦争(第二次世界大戦)の前と後の両方で、スターリンは、ソ連に編入されたが、以前はポーランド、ルーマニア、ハンガリーに属していたいくつかの土地をウクライナに編入しました。 その過程で、スターリンはポーランドに補償として、伝統的にドイツの土地だった一部を与え、1954年にフルシチョフはクリミアを、何らかの理由でロシアから取り、ウクライナに与えました。 事実上、こうして現代ウクライナの領土が形成されたのです。
1917年の10月革命とそれに続く内戦の後、ボルシェビキは新しい国家の創設にとりかかったことを思い出していただきたい。この点については、彼らの間でかなり深刻な意見の不一致がありました。
1922年、スターリンはロシア共産党(ボルシェビキ)書記長と、民族問題人民委員会の会長を兼任していました。彼は、自治の原則に基づいて国を建設することを提案しました。つまり、統一国家に参加する際に、将来の行政・領土の実体となる各共和国に、広範な権限を与えるというということです。
レーニンはこの計画を批判し、当時彼が「無党派・独立派 (independents)」と呼んでいた民族主義者(ナショナリスト)に譲歩することを提案しました。
レーニンの考えは、本質的にはひとつの連邦国の取り決め、最大では分離に至る、自分の国のことは自分で決めるという国家の権利 (the right of nations to self-determination) についてのスローガンを結局意味しますが、それらはソビエト独立国の基盤に置かれました。
それは、1922年のソビエト連邦成立宣言で確認され、のちに、レーニンの死後、1924年の「ソビエト憲法」に刻まれました。
このことは、直ちに多くの質問を投げかけます。最初の質問は本当に主要なものです。なぜ民族主義者(ナショナリスト)をなだめる必要があったのか。旧帝国の周辺部で絶え間なく高まっていく民族主義者の野心を満たす必要があったのか。新しく、しばしば恣意的に形成された行政単位、ソ連の共和国諸国 (the union republics) に、彼らとは何の関係もない広大な領土を移譲する (transferring) ことに何の意味があったのでしょうか。
繰り返しになりますが、これらの領土は、歴史的にロシアであったところの人々とともに移譲されました。
しかも、これらの行政単位は、事実上、国民国家 (national state) の独立した存在の地位と形態を与えられていました。このことは別の質問を提起します。なぜ、これほどまでに、最も熱狂的な民族主義者の夢を超えた贈り物をする必要があったのでしょうか。そして何より、共和国たちに、無条件で統一国家から離脱する権利を与える必要があったのでしょうか。
一見すると、これはまったく理解できないように見えます。狂気の沙汰 (crazy) にさえ見えます。しかし一見しただけです。説明があるのです。 革命後、ボルシェビキの主な最終目標は、あらゆる犠牲を払って、絶対にあらゆる犠牲を払って、権力を維持することでした。彼らはこの目的のためにすべてを行いました。屈辱的なブレスト・リトフスク条約を受け入れました。帝国ドイツと同盟国の軍事および経済状況は劇的であり、第一次世界大戦の結果は必然的なものでしたが。そして国内の民族主義者のどんな要求や希望も満足させたのでした。
ロシアとその国民の歴史的運命に関して言えば、レーニンの国の開発の原則は単なる間違いではありませんでした。ことわざにあるように、間違いよりもひどいものだったのです。 これは1991年にソビエト連邦が崩壊した後に明らかになりました。
もちろん、過去の出来事を変えることはできませんが、少なくとも、我々は何の疑念も政治的な工作もなく、公然と正直にそれらを認めなければなりません。個人的に付け加えられるのは、どのような政治的要因も、その時々にいかに印象的に、または有益に見えるかもしれなくても、独立国の基本原理として使用できる、または使用できるかもしれないものは、一つもないのです。
私は誰にも責任を負わせようとはしていません。当時、内戦の前や後のこの国の状況は極めて複雑でした危機的な状況だったのです。私が言いたいのは、まさにこのような状況であったということだけです。それは歴史的な事実です。
実際、私がすでに言ったように、ソビエト・ウクライナはボルシェビキの政策の結果であり、正しくは「ウラジーミル・レーニンのウクライナ」と呼ぶことができます。 彼はその創作者および建築家 (creator and architect) でした。
これは、記録保管所の文書によって、完全かつ包括的に裏付けられています。実際にウクライナに押し込まれたドンバスに関するレーニンの厳しい指示を含んでいます。
そして今日「恩を感じる子孫 (grateful progeny) 」はウクライナのレーニンの記念碑を倒しました。彼らはそれを脱共産化と呼んでいます。
あなた方は非共産化を望むのですか。よろしいでしょう、これは我々にあっています。しかし、なぜ途中で停止するのですか。我々は、本当の非共産化がウクライナにとって何を意味するかを示す用意があります。
歴史に戻るなら、1922年に旧ロシア帝国のあとにかわってソビエト連邦が設立されたことを繰り返したいと思います。しかし、実践によってすぐに示されたのは、このような広大で複雑な領土を、連邦に相当する一定の形をもたない原則 ( amorphous principles) で維持することは不可能だったということです。それらは、現実からも歴史的な伝統からもかけ離れていました。
赤色テロとスターリンの独裁への急速な転落 (slide) 、共産主義イデオロギーの支配、そして共産党の権力独占、国有化、そして計画経済の独占、これらすべてが、正式に宣言されたものの、効果のない政府の原則を単なる宣言に変えてしまったことは、論理的なことです。
実際には、ソ連の共和国たちには主権の権利はなく、まったくありませんでした。 実質的な結果は、緊密に中央集権化された、絶対的な単一国をつくり上げることでした。
実際、スターリンが完全に実施したのは、レーニンではなく、彼自身の統治の原則でした。しかし、彼は基礎文書や憲法に関連する修正を加えず、ソビエト連邦の基礎となるレーニンの原則を正式に改訂していませんでした。見たところ、その必要はないようでした。なぜなら、全体主義体制の条件下では、すべてがうまく機能しているように見え、外見上は素晴らしく、魅力的で、超民主的でさえあるように見えたからです。
しかし、我々の国の基本的かつ正式に合法的な基盤が、醜悪な (odious) ユートピア的幻想からすぐに浄化されなかったのは、非常に残念なことです。それは革命に触発されたものであり、普通の国にとっては絶対的に破壊的なものです。以前に我々の国でよくあったことですが、誰も将来のことを考えませんでした。
共産党の指導者たちは、彼らがしっかりとした統治システムをつくり上げ、彼らの政策が民族問題を永久に解決したと確信していたようです。しかし、歪曲、誤解、世論の改ざんには高い代償を払います。民族主義者(ナショナリスト)の野心のウイルスは、まだ我々とともにあります。ナショナリズムの病気に対する国家の免疫を破壊するために、初期の段階に置かれた地雷は、カチカチ音をたてていました。 私がすでに言ったように、地雷はソビエト連邦からの離脱の権利でした。
1980年代半ば、社会経済的な問題の増大と、計画経済の明らかな危機が、民族問題を悪化させました。これは本質的にソビエト人民の期待や満たされていない夢に基づくものではなく、主に地元のエリートの高まる欲求に基づくものでした。
しかし、共産党指導部は、状況を分析し、適切な対策を講じ、まず経済において、また政治体制と政府を十分に考慮し、バランスのとれた方法で徐々に変革する代わりに、自分の国のことは自分で決める権利 (national self-determination) というレーニンの原則の復活について公然と二枚舌を振るうだけだったのです。
さらに、共産党内の権力闘争の過程で、反対側の各派それぞれが、支持基盤を拡大するために、民族主義的な感情をよく考えないで扇動し、操作し、彼らを操作し、潜在的な支持者に、彼らが望むものは何でも約束をしたのです。
民主主義や市場経済や計画経済に基づく明るい未来について、表面的で大衆的(ポピュリスト的)なレトリックを背景に、しかし人々の真の窮乏化と広範囲にわたる欠乏の中で、権力者の誰一人、この国にとって、避けられない悲劇的な結末について考えていなかったのです。
次に、彼らはソ連邦発足時に殴打された路線に全面的に乗り出し、党内のランクの中で育まれた民族主義的エリートの野心に迎合したのである。
しかしそうすることで、彼らはソ連共産党がもはや権力と国そのものを保持するための手段、国家テロやスターリン的独裁の手段をもはや持っていないことを、神様ありがとうございます、そして悪名高い党の指導的役割が、彼らの目の前で朝靄のように跡形もなく消えつつあることを忘れてしまったのである。
そして、1989年9月のソ連共産党中央委員会の本会議では、真に致命的な文書、いわゆる現代の状況における党の、いわゆる民族政策、ソ連共産党プラットフォームが承認されました。 それには次の複数の条項が含まれていました。「ソ連の各共和国は、社会主義の主権国としての地位にふさわしいすべての権利を有するものとする」。
次のポイントは「ソ連の各共和国の最高権力代表機関は、彼らの領土において、ソ連政府の決議と指令の運用に異議を唱え、停止することができる」である。
そして最後に「ソビエト連邦の各共和国は、すべての居住者に適用される自身の市民権を有するものとする」。
これらの公式や決定が何につながるかは、明らかだったのではないでしょうか。
今は、国の法律や憲法に関連する問題に取り掛かったり、市民権の概念を定義したりする時間や場所ではありません。しかし、不思議に思うかもしれません。ただでさえ複雑な状況で、なぜ国を動揺させる必要があったのでしょうか。事実は変わりません。
ソ連が崩壊する2年前には、その運命は実は決まっていました。今、急進派や民族主義者たちが、主にウクライナの人々を含むが、独立を果たしたと自分たちの手柄にしています。ご覧のとおり、これは絶対に間違っている。
我々の統一国家の崩壊は、ボルシェビキの指導者とソ連共産党の指導の側の、歴史的で戦略的過ち、国家建設と経済および民族政策において、異なる時期に犯された過ちによってもたらされたものである。ソ連として知られる歴史的なロシアの崩壊は、彼らの良心にのしかかっています。
これらすべての不正、嘘、そしてロシアからの完全な略奪にもかかわらず、ソ連の崩壊後に形作られた新しい地政学的現実を受け入れ、新しい独立国群を認めたのは我々の人民でした。
ロシアはこれらの国々を承認しただけでなく、自国が非常に悲惨な状況に直面していたにもかかわらず、CIS(独立国家共同体)のパートナーたちを支援しました。この中には、独立を宣言した瞬間から何度も財政支援を求めてきたウクライナの仲間も含まれていました。我々の国は、ウクライナの尊厳と主権を尊重しながら、この支援を提供しました。
専門家の評価によれば、経済・貿易上の希望にそってロシアがウクライナに提供した補助金付き融資、エネルギー価格を単純に計算すると、1991年から2013年までの期間に、ウクライナの予算が受けた利益は、全体で2500億ドル(約28兆7500億円)に上ることが確認されました。
しかし、それだけではありませんでした。 1991年の終わりまでに、ソ連は他の国と国際基金に約1000億ドル(約11兆5000億円)を借りていました。 当初、すべての旧ソビエト共和国は、連帯の精神で、各共和国の経済的可能性に比例して、これらのローンを一緒に返済するという考えがありました。 しかし、ロシアはすべてのソ連の債務を返済することを約束し、2017年にこのプロセスを完了することで、約束を果たしました。
それと引き換えに、新たに独立した国々は、ソビエトの対外資産の一部をロシアに渡さなければなりませんでした。ウクライナとは、1994年12月その旨の合意が成立しました。しかし、キエフはこれらの合意の批准に失敗し、後に、ダイヤモンド宝庫や金準備高、同様に旧ソ連の財産や海外資産の分配を要求しますが、合意の履行は拒否するばかりでした。
それにもかかわらず、これらすべての困難にもかかわらず、ロシアは常にオープンで誠実な方法で、既に述べたように、ウクライナの利益を尊重しながら、協力しました。
それにもかかわらず、これらすべての困難にもかかわらず、ロシアは常にオープンで誠実な方法で、既に述べたように、ウクライナの利益を尊重しながら、協力しました。
我々(ロシアとウクライナ)は様々な分野で結び付きを発展させました。こうして2011年には、二国間の貿易額は500億ドル(約5兆7500億円)を超えました。パンデミックが発生する前の2019年には、ウクライナのEU加盟国すべてを合わせた貿易額は、この指標を下回っていたことを伝えておきます。
同時に、ウクライナ当局は、自分たちはいかなる義務からも解放されながらも、あらゆる権利と特権を享受するやり方で、ロシアと取引することを常に好んでいたことは記しておくべきことです。
キエフの当局者たちは、パートナーシップを、時には極めて厚かましい (brash) やり方で行動する、寄生的な態度に置き換えました。エネルギー通過に関する継続的な恐喝と、文字通りガスを盗んだという事実を思い出すだけで十分です。
キエフは、ロシアとの対話を、西側諸国との関係における交渉の数取り札にしようとし、ロシアとの関係が緊密になると西側諸国を脅迫しました。それは、そうしなければロシアがウクライナでより大きな影響力を持つことになると主張して、優遇措置を確保しようするためだったことも、付け加えておきます。
同時に、私は強調したいことですが、ウクライナ当局者たちは、我々を結びつけているすべてのものを否定した上に彼らの国を建設し、ウクライナに住む何百万人もの人々、すべての世代の人々の精神と歴史的記憶を歪めようとすることから始めたのです。
ウクライナ社会が、極右ナショナリズムの台頭に直面し、それが攻撃的なロシア恐怖症(ロシア嫌い)とネオナチズムに急速に発展したのは、驚くことではありません。
その結果、北コーカサスのテロ集団に、ウクライナの民族主義者(ナショナリスト)やネオナチが参加し、ロシアに対する領土主張がますます声高になっています。
この一翼を担ったのが外部勢力であり、彼らはNGOや特殊部隊の縦横無尽のネットワークを使って、ウクライナで顧客を育て、彼らの代表を権威の座に就かせたのです。
ウクライナには、実際には、真の国家としての安定した伝統がなかったことには留意する必要があります。 そのため1991年には、歴史やウクライナの現実とは何の関係もない、外国のモデルを無思慮に (mindlessly) に模倣することを選択しました。
政治政府機関は、急速に成長している一派と、彼らの利己的な利益に合わせるように何度も調整されましたが、それはウクライナの人々の利益とは何の関係もありませんでした。
本質的に、オリガルヒのウクライナの当局者たちが行った、いわゆる親西側の文明的選択は、人々の幸福のためにより良い条件をつくり出すことを目的としたものでも、目的としているものでもなく、オリガルヒがウクライナ人から盗んだ数十億ドルを維持するためのものであり、ロシアの地政学的なライバルを敬虔に受け入れながら、西側の銀行の口座に保有しているのです。
一部の産業・金融グループと、その傘下にある政党や政治家は、当初から民族主義者や急進派を頼りにしていました。また、ロシアとの良好な関係や文化・言語の多様性を支持すると主張し、南東部の地域の何百万人もの人々を含め、自分たちの宣言した願望を心から支持する市民の力を借りて政権を獲得した人々もいる。
しかし、切望していた地位を得た後、この人たちはすぐに有権者を裏切り、選挙公約を反故にし、代わりに急進派(過激な派)によって促された政策に誘導し、時にはかつての同盟者であるバイリンガル主義やロシアとの協力を支持する公共団体を迫害さえするようになったのです。
これらの人々は、有権者のほとんどが、当局を信頼する、穏健な見解を持つ法を守る市民であり、急進派(過激な派)とは異なり、攻撃的に行動したり、違法な手段を用いることはないという事実を利用したのです。
一方、急進派(過激な派)は、行動をますます恥知らずにし、年々要求を強めていきました。彼らは、弱い当局に彼らの意志を押し付けるのは簡単だとわかりました。弱い当局は、ナショナリズムと腐敗(汚職)のウイルスにも感染し、人々の真の文化的、経済的、社会的利益、およびウクライナの真の主権を、さまざまな民族的思惑や形式的な民族的属性 (formal ethnic attributes) に、巧みにすり替えているのです。
ウクライナでは、安定した独立国家の状態が確立されたことはなく、選挙やその他の政治手続きは、さまざまな寡頭制の一派の間で、権力と財産を再分配するための隠れ蓑、スクリーンとして機能しているだけです。
腐敗は、ロシアを含む多くの国にとって、確かに課題であり問題であるが、ウクライナでは通常の範囲を超えています。それは文字通り、ウクライナの国家体制、システム全体、そして権力のすべての部門に浸透し、腐食しているのです。
過激な民族主義者(ナショナリスト)たちは、正当化された国民の不満を利用して、マイダン抗議デモに乗じましたが、2014年のクーデターへとエスカレートしていきました。
彼らは外国からの直接的な援助を受けました。報告によれば、アメリカ大使館はキエフの独立広場にある、いわゆる抗議キャンプを支援するために、1日100万ドルを提供したといいます。
さらに、野党指導者の銀行口座に直接、数千万ドルという巨額のお金が、ずうずうしくも振り込まれました。
しかし、実際に被害を受けた人々、キエフや他の都市の通りや広場で引き起こされた衝突で亡くなった人々の家族は、最終的にいくら手にしたのだろうか。聞かないほうがいいでしょう。
権力を掌握した民族主義者たちは、迫害を解き放ちました。これは、彼らの反憲法の行動を反対した人々に対する、真のテロ・キャンペーンです。
政治家、ジャーナリスト、公的な活動家は嫌がらせを受け、公的に屈辱を与えられました。
暴力の波がウクライナの都市を襲い、注目されながら罰せられなかった一連の殺人事件が発生しました。平和的な抗議者たちが残酷に殺害され、労働組合の家で生きたまま焼かれたオデッサでの恐ろしい悲劇の記憶に、身震いする人もいます。その残虐行為を犯した犯罪者は、決して罰せられたことがなく、誰も彼らを探してさえいません。しかし、我々は彼らの名前を知っており、彼らを罰し、見つけ、裁判にかけるためにあらゆることをするつもりです。
その残虐行為を行った犯罪者は決して処罰されることなく、誰も彼らを探してさえいない。しかし、私たちは彼らの名前を知っており、彼らを罰し、見つけ、裁判にかけるためにあらゆることをするつもりです。
マイダンはウクライナを、民主主義と進歩に近づけることはありませんでした。クーデターを成し遂げて、民族主義者と彼らを支持した政治勢力は、結局ウクライナを行き詰まりに追いやり、内戦の奈落の底に突き落としたのです。8年経って、国は分裂しています。ウクライナは深刻な社会経済危機と闘っています。
国際機関によると、2019年には、600万人近くのウクライナ人、強調しますが、15%が、労働力ではなく国の全人口の約15パーセントが、仕事を見つけるために外国に行かなければならなくなりました。彼らのほとんどは変則的な仕事をしています。
次のような事実も明らかになっています。2020年以降、パンデミックの最中に、6万人以上の医師やその他医療従事者が国を去りました。
2014年以降、水道料金は3分の1近く、エネルギー料金は数倍になり、家庭用のガス料金は数十倍に急騰しました。多くの人々は、単に公共料金を支払うお金がないだけなのです。文字通り、生き残るのに必死なのです。
何が起きたのでしょうか。なぜ、これらすべてのことが起こっているのでしょうか。答えは明らかです。
ソ連時代だけではなく、ロシア帝国時代から受け継いだ遺産を使い果たし、使い込んだのです。彼らは、何万、何十万という仕事を失いました。その仕事で、人々は確実な収入を得て、税収を生み出すことができていたのです。ロシアとの緊密な協力関係のおかげです。
機械製造、機器工学、電子機器、造船、航空機製造などの部門は弱体化してゆき、完全に破壊されました。しかし、かつてはウクライナだけでなく、ソ連全体がこれらの企業を誇りをもっていた時代がありました。
2021年、ニコラエフの黒海造船所が廃業しました。その最初のドックは、エカテリーナ大帝(2世)にさかのぼります。有名なメーカーであるアントノフは、2016年以降、民間航空機を1機も製造しておらず、ミサイルと宇宙機器を専門とする工場であるユジマッシュは、ほぼ倒産状態です。クレメンチュグ製鉄所も、似たような状況です。このように悲しいリストが延々と続きます。
ガス輸送システムは、ソビエト連邦によって全面的に建設されたものであり、現在では使用するのが大きなリスクとなり、環境へのコストが高くなるほど劣化しています。
この状況は疑問を投げかけます。貧困、機会の欠如、そして産業と技術の可能性の喪失、これは、天国のように今よりずっと素晴らしい場所だと約束して、何百万もの人々をだますために彼らが長年使用してきた、親西側の文明的な選択というものなのでしょうか。
そして、ウクライナ経済はボロボロになり、国民からは徹底的に略奪する結果となったのです。そしてウクライナ自身は、外部からのコントロール下に置かれました。このコントロールは、西側資本からだけではなく、ウクライナに存在する外国人アドバイザー、NGO、その他の機関のネットワーク全体を通じて、俗に言うように、現地でも指示されています。
彼らは、中央政府から自治体に至るまで、すべての重要な任命や解任、あらゆる部門の権力のあらゆるレベル、同様に、ナフトガス、ウクレネルゴ(送電)、ウクライナ鉄道、ウクロボロンプロム(防衛産業)、ウクルポシュタ(郵便)、ウクライナ海港局などの国有企業や法人にも直接関わりがあるのです。
ウクライナには独立した司法機関はありません。キエフ当局は、西側の要請に応じて、最高司法機関である司法評議会と、裁判官高等資格委員会のメンバーを選任する優先権を、国際機関に委ねたのです。
さらに、米国は、国家汚職防止庁、国家汚職防止局、汚職防止専門検察庁、汚職防止高等裁判所を直接支配しています。これらはすべて、汚職に対する取り組みを活性化させるという、崇高な口実のもとに行われています。よいでしょう、しかし、その結果はどこにありますか。汚職はかつてないほど盛んになっています。
ウクライナの人々は、自分たちの国がこのように運営されていることを認識しているのでしょうか。自分たちの国が、政治的・経済的な保護国どころか、傀儡政権による植民地に落ちていることに気づいているのでしょうか。
国は民営化されました。その結果、「愛国者の力」と称する政府は、もはや国家の立場で行動することはなく、一貫してウクライナの主権を失う方向に押し進めています。
ロシア語や文化を抹殺し、同化を進める政策が続いています。ウクライナ最高議会(Verkhovna Rada)は、差別的な法案を次から次へと生み出し、いわゆる先住民に関する法律もすでに施行されています。自らをロシア人と認識して、そのアイデンティティ、言語、文化を維持したいと願う人々は、ウクライナでは歓迎されないという合図を受け取るのです。
ウクライナ語を国語とする教育のもとで、学校や公共の場、たとえ普通のお店でもロシア語は居場所がないのです。公務員試験と、その序列の浄化に関する法律は、望ましくない公務員に対処する方法をうみだしました。
ますます多くの法律が、ウクライナの軍隊と法執行機関に対して、言論の自由と反対意見の表明を抑圧し、反対派を攻撃することを認めています。
世界は、他の国々、外国の自然人および法人に対して、非合法な一方的な制裁を加えるという嘆かわしい行為を知っています。
ウクライナは、自国の人々、企業、テレビ局、その他のメディア、さらには国会議員に対しても制裁措置を講じることで、西側の師匠たちをしのいでいます。
キエフはモスクワ総主教のウクライナ正教会の破壊を準備し続けています。これは感情的な判断ではありません。具体的な決定や資料によって証拠をみつけることができます。
ウクライナ当局は、皮肉なことに、分裂の悲劇を、国の政策の手段に変えました。現在の当局は、信者の権利を侵害する法律を廃止するよう求めるウクライナの人々の呼びかけに応えようとしません。
さらに、モスクワ総主教のウクライナ正教会の聖職者と数百万人の教区民に対する新たな法案が、最高議会に登録されました。
(訳注:キリスト教は、大きく分けて3つある。カトリックはローマ教皇を頂点とするピラミッド型、プロテスタントはそういうものを排除、その両方と異なり、東方正教会は、それぞれに独立した対等な総主教がいる。古い総主教はコンスタティノープル、アレクサンドリア、エルサレム、アンティオキア等、後代の総主教はブルガリア、グルジア、セルビア、ルーマニア、そしてモスクワ。ウクライナはモスクワ総主教に属していたが、古くからの歴史を主張して独立しようとしているのである)。
クリミアについて一言言いたい。クリミア半島の人々は、ロシアの一部になることを自由に選択しました。キエフの当局は、明確に表明された人々の選択に、異議を唱えることはできません。
だからこそキエフ当局は、攻撃的な行動を選択したのです。イスラム過激派の組織を含む、極端な派閥の細胞の活性化、重要なインフラに対するテロ攻撃を組織化するための破壊者の派遣、およびロシア市民の拉致。
我々は、これらの攻撃的な行動が、西側の安全保障機関の支援を受けて実行されているという事実の証拠を持っています。
2021年3月、ウクライナで新たな軍事戦略が採択されました。この文書は、ほぼ全面的にロシアとの対決に専念していて、我が国との紛争に外国を巻き込むことを目標に掲げています。
この戦略では、ドンバスとロシアのクリミアで、テロリストの地下運動と言えるような組織を規定しています。
これはまた、潜在的な戦争の輪郭を定義しています。それは、キエフの戦略家たちによれば「ウクライナに有利な条件で、国際社会の助けを得て」、さらに、よく聞いてください、「ロシア連邦との地政学的な対決において、外国の軍事支援を得て」終わらせるべきだというのです。実際これは、我が国ロシアに対する敵対行為の準備以外のなにものでもありません。
我々が知っているように、今日既にウクライナは自分たち独自の核兵器をつくるつもりであると宣言しています。これは単なる大言壮語ではありません。ウクライナには、ソビエト時代につくられた核技術と、航空機を含むこれらの兵器の軌道手段、および、ソビエトが設計した射程100kmを超える戦術精密ミサイル「トーチカU」を保有しています。
しかし、彼らはもっと多くのことができます。 それは時間の問題でしかありません。彼らはソビエト時代からこのための土台を整えてきました。
言い換えれば、戦術核兵器の取得は、ウクライナにとって簡単なのです。特にキエフが外国の技術支援を受けている場合、ここでは名前を言いませんが、そのような研究を行っている他の国々よりも、はるかに簡単です。我々はそれを排除することはできません。
もしウクライナが大量破壊兵器を手に入れたら、世界とヨーロッパの状況は激変するでしょう。特に我々ロシアにとっては。
我々は、この本当の危険に反応することしかできません。特に、繰り返しますが、ウクライナの西側の後援者たちは、ウクライナがこれらの武器を入手して、我が国に対する新たな脅威を生み出すのを助けることができるのです。
キエフ政権が、いかに執拗に武器を装備しているかがわかります。
2014年以降、この目的のために、武器や装備の供給、専門家の訓練など、米国だけで数十億ドルを費やしてきました。
ここ数カ月、全世界の視線のもと、派手なやり方で、西側の武器がウクライナに着実に流れてきています。外国人のアドバイザーがウクライナの軍隊や特殊部隊の活動を監督しており、我々はそのことをよく承知しています。
近年、NATO諸国の軍事派遣団は、演習の名目でウクライナの領土にほぼ常駐しています。ウクライナ軍の統制システムは、すでにNATOに統合されています。
これは、NATO本部がウクライナ軍に、個別の部隊や分隊にまで、直接命令を出すことができることを意味します。 ・・・ 4

 

●ウクライナ東部にロシア軍派遣へ プーチン氏指示、「平和維持」名目 2/22
ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナ東部の親ロシア派組織が名乗る「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、これらの地域の平和維持のために軍の部隊を派遣するようロシア国防省に指示した。ウクライナ南部クリミア半島に続いてロシア軍が駐留することで、ウクライナ政府や欧米への圧力を強めることになる。
両組織のトップは21日、プーチン氏に独立の承認を求めると同時に、軍事支援を念頭にした友好協力条約の検討も要請した。
プーチン氏は同日、国家安全保障会議を招集し、親ロ地域の独立承認を議論。その後、国民向けのテレビ演説で、ウクライナ政府が停戦合意を履行せず、親ロ地域の住民への攻撃が続いているとして、独立を承認する考えを示していた。
親ロシア派は18日、「ウクライナ軍からの総攻撃が迫っている」として、住民をバスでロシアに避難させ始めていた。
●ウクライナ東部に軍派遣指示 プーチン氏、親ロ派独立を承認  2/22
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部の親ロシア派の独立を承認する大統領令に署名した。親ロ派「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の幹部が同日承認を要請していた。大統領令ではロシア軍の派遣も指示。親ロ派と署名した条約によると、ロシアは親ロ派支配地域に軍事基地を建設する権利を持つ。ウクライナ情勢は重大な局面を迎えた。
プーチン政権は、2014年から続く紛争をウクライナ人同士の「内戦」と位置付け、その解決に向けた15年のミンスク合意の履行をウクライナ側に迫っていた。独立承認によって合意の前提が崩れ、情勢が流動化する恐れが強まった。米欧は一斉に非難した。
親ロ派はロシアに軍事介入を要請。プーチン氏はこれに応じ、平和維持部隊を展開することを決めた。これまで秘密裏に軍事介入する一方で、ロシアはさらなる「軍事技術的な措置」を示唆していた。
プーチン氏は21日の国民向け演説で「(親ロ派の)独立と主権を直ちに承認するという長く待ち望まれてきた決定を下す必要があると考える」と表明。「ウクライナの領土一体性を守るためにあらゆることを行ってきた」と述べ、ミンスク合意の履行のために「粘り強く格闘してきたが、すべては無駄となった」とし、合意を履行しなかったウクライナ政府に責任があるとの立場を強調した。
署名式はモスクワの大統領府で、親ロ派幹部も参加して行われた。ロシアと親ロ派は「友好協力・相互援助条約」にも署名した。
●ウクライナ親露派地域を国家承認へ…プーチン氏が独仏へ通告  2/22
ロシア通信などによると、ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部の親露派武装集団が実効支配しているドネツク、ルガンスク両州の一部地域を近く「国家承認」する方針を固めたと、独仏首脳にそれぞれ通告した。
ロシアが国家として承認すれば、ウクライナの分断が固定化し、露軍部隊は親露派支配地域に公然と展開する見通しで、ウクライナや米欧の反発は必至だ。ロシアが軍事侵攻するとの懸念が強まっているウクライナ情勢を巡る緊張が一段と高まることになる。
独仏は2014年にウクライナ東部で勃発した政府軍と親露派武装集団との紛争の和平協議の枠組みに参加している。独立承認の意向を事前に伝えることで、ウクライナに対し、紛争解決に向けた「ミンスク合意」の完全履行に向けて、直ちに行動を起こすよう迫る狙いもあるとみられる。
ロシアは14年3月にウクライナ南部クリミアをロシアに併合したが、その後、ウクライナからの独立を一方的に宣言した親露派支配地域については、併合や国家承認を避けてきた。
ロシアによる親露派武装集団への軍事支援は公然の事実とされてきたが、ロシアは紛争の「当事者」ではないとの立場を貫いている。
●ロシア、ウクライナ東部の親ロ派「共和国」の独立承認  2/22
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部のドンバス地域にあるドネツク、ルガンスク2州で親ロシア派武装勢力が実効支配する一部地域を「独立国家」として一方的に承認する大統領令に署名した。プーチン氏は同大統領令で、両地域の平和維持を名目としてロシア軍の派遣を命じた。軍部隊はただちに進攻する見通しで、米国や欧州は強く反発している。ウクライナ情勢は重大な局面を迎えた。
バイデン米政権は同日、ロシアによる親ロ派地域の独立承認を「ウクライナの主権と領土保全への明白な攻撃だ」と強く非難。対抗措置として、親ロ派地域での米国人の新たな投資、貿易、融資を禁じるとともに、同地域で活動しようとするいかなる人物にも制裁を科す権限を持つ大統領令に署名した。
プーチン氏は21日、親ロ派の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の両トップをモスクワのクレムリンに招き、「友好相互援助条約」に調印した。
ドネツク、ルガンスク2州ではウクライナに親欧米政権が誕生した2014年、ロシアが主導する親ロ派武装勢力が蜂起し一部地域で「人民共和国」を自称。プーチン政権は両地域に自治権などの「特別な地位」を与えることを盛り込んだ停戦合意「ミンスク合意」の履行を迫っていた。
プーチン氏は同日のテレビ演説で、ウクライナのゼレンスキー政権がミンスク合意を履行せず、2地域に対して攻撃を激化させているとして、ウクライナ側に責任があると主張した。北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を確約するロシアの要求を、米欧が無視したとも批判した。
バイデン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と電話で協議し、ウクライナの主権と領土一体性を確認。フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相とも電話で協議した。
●ウクライナ親ロシア派地域 “国家として承認” プーチン大統領  2/22
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナの東部2州のうち、親ロシア派が事実上支配している地域について、独立国家として一方的に承認する大統領令に署名しました。ロシアがこの地域への影響力を一段と高めることに、欧米の批判がさらに強まるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は21日、クレムリンで緊急の安全保障会議を開きました。
この中でプーチン大統領は、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の親ロシア派が事実上支配している地域について、ウクライナ政府側が停戦合意を守らずに攻撃を続け、治安情勢が悪化していると主張し、強く非難しました。
また「ウクライナが、NATO=北大西洋条約機構に加盟すれば、ロシアに対する脅威が何倍にもなるだろう」と強調しました。
そして、ウクライナ東部2州の親ロシア派が事実上支配している地域について、それぞれ独立国家として承認することを検討するよう要請を受けたとしました。
プーチン大統領は閣僚など政権の主要幹部に意見を求めたうえで、その後、国民に向けてテレビ演説しました。
この中で「ウクライナ政府は、東部の問題を軍事的に解決しようとしている。長い間待ち望まれていた、独立と主権をすみやかに承認することを決断する必要がある」と述べ、独立国家として一方的に承認する大統領令に署名しました。
この後、プーチン大統領は、国防省に対して、この地域でロシア軍が平和維持にあたるよう指示しました。
欧米のメディアは、これによってロシアが今後、ウクライナから2州を守るためだとして、軍の部隊を駐留させることを正当化する可能性があると伝えています。
また、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は21日、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相と電話で会談し、親ロシア派が事実上支配している地域について、独立国家として一方的に承認する大統領令に署名する意向を伝えたということです。
これに対して、両首脳からは失望が示されたとしています。
一方で、両首脳からは対話を続ける用意があるという意向が示されたとしています。
これについて、ドイツ政府の報道官は21日、声明を発表し、ショルツ首相はロシアの対応を非難したうえで「ウクライナ東部の紛争を平和的に解決するために結ばれた停戦合意と著しく矛盾する一歩となるだろう」とプーチン大統領に直接伝えたとしています。
プーチン政権が、ウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配している地域を一方的に国家承認し、ロシアがこの地域への影響力を一段と高めることに、欧米の批判がさらに強まるとみられます。
親ロシア派の武装勢力「独立国家として承認を」
ウクライナ東部の一部の地域を事実上支配し、2014年に一方的に独立を宣言した親ロシア派の武装勢力の指導者が21日、声明を出し、ウクライナ政府軍がアメリカなどからの軍事支援を得ながら、停戦合意に反して、東部の紛争を武力で解決しようとしていると主張しました。
そして、ウクライナ軍の攻撃から地域の住民を守るためだとして、プーチン大統領に、この地域を独立国家として承認したうえで、軍事面での協力協定を締結するよう求めました。
ロシア軍「ウクライナ軍の工作員5人を殺害」
ロシア軍は21日「ウクライナ東部との国境地帯で、ウクライナ軍の工作員5人を殺害した」と一方的に発表しました。
この中で「21日の朝、連邦保安庁の国境警備局が破壊工作員のグループを見つけた。応援要請を受けて現場で戦闘になり、その際、軍用車両2台が国境を越えてロシア領に侵入したことから、車両を砲撃し、破壊した」と主張しています。
一方、これについてウクライナのクレバ外相は「ロシアの偽情報に断固、反論する。東部を攻撃もしていなければ国境を越えて工作員や車両を送り込んだこともない。そのような計画もない」とツイッターに投稿し、ロシア側を非難しました。
エールフランス パリとキエフ間 22日の便の運航取りやめ
フランスの航空会社エールフランスは21日、パリとウクライナの首都キエフを往復する22日の便の運航を取りやめると発表しました。
ウクライナの現地の状況から予防的措置として判断したとしていて、週2往復のうち今月27日日曜日の便と、それ以降については、今後の状況をみて判断するとしています。
キエフとの間を結ぶ国際便の運航については、ドイツのルフトハンザ航空も21日から1週間、取りやめることを発表しています。
戦闘が続くウクライナ東部とは
ウクライナ東部は、2014年からロシアの後ろ盾を受けた親ロシア派の武装勢力が一部を占拠し、ウクライナ政府軍との間で散発的に戦闘が続き、ロシアとウクライナの対立の要因の1つとなっています。
親ロシア派の武装勢力が占拠しているのは、東部のドネツク州とルガンスク州の一部で、いずれもロシアと国境を接しています。
歴史的にも経済的にもロシアとつながりが深く、ロシア語を母国語とする住民が多い地域です。
ソビエト時代に開発された炭鉱や鉄鉱石の鉱山があり、豊富な資源を背景にした鉄鋼業が盛んで、ウクライナ有数の工業地帯となっていました。
しかし2014年、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合すると、直後の4月、親ロシア派の武装勢力が、州政府庁舎や治安機関の建物に押し寄せ、次々に占拠。
その後、ウクライナからの独立を一方的に表明しました。
ウクライナ政府は、これに対して軍を派遣して、強制排除に乗り出しましたが、各地で武装勢力と激しく衝突し、死者が多数出る事態に発展しました。
混乱が続いていた2014年7月には、オランダ発のマレーシア航空の旅客機がドネツク州の上空で撃墜され、乗客乗員298人が死亡する事件が起き、オランダなどの合同捜査チームは親ロシア派の支配地域から発射されたと発表しましたが、親ロシア派は否定しています。
一方、政府軍と親ロシア派の武装勢力との間の紛争を解決しようと、2014年9月、それに2015年2月にはフランスとドイツの仲介で「ミンスク合意」という停戦合意が結ばれましたが、その後も散発的な戦闘が続きました。
OHCHR=国連人権高等弁務官事務所によりますと、これまでに双方で1万4000人以上が死亡したということです。
8年にわたる紛争の影響で、生活に不可欠な水道や暖房施設などインフラが破壊される甚大な被害が出ていて、これまでに150万人の人々がこの地域からの避難を余儀なくされています。
親ロシア派の武装勢力について、ウクライナや欧米は、ロシアが軍事的な支援を行い後ろ盾となっていると指摘しています。
ロシアのプーチン政権は、紛争への関与を否定する一方、2019年からこの地域の住民に対するロシアのパスポートの発給手続きを簡素化し、これまでに70万人以上がロシア国籍を取得したとされ、ロシアへの依存度を高めています。
また、ロシアの議会下院は今月15日、親ロシア派の支配地域を、独立国家として承認することを検討するよう、プーチン大統領に求める決議を可決しました。
プーチン大統領は15日、民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」という表現まで用いて、ウクライナ軍が停戦合意に違反して、親ロシア派の武装勢力への攻撃を激化させていると主張しています。
こうした動きに呼応するかのように、親ロシア派は政府軍による攻撃を理由に住民を隣国のロシアに避難させると発表し、ロシア政府もロシアに避難してきた住民に1万ルーブル、日本円にしておよそ1万5000円を支給するなど支援しています。
これに対して、ウクライナ政府は攻撃を否定するなど非難の応酬となっています。
また、アメリカのバイデン政権は「ロシアが侵攻を正当化するため偽りの口実を作る可能性がある」として虚偽の情報を拡散しようとしていると、警鐘を鳴らしています。
ウクライナと国境を接する地域では
ウクライナ西部と国境を接するポーランド南東部のメディカの検問所では、人や車の往来は、ふだんと比べて大きな変化はありません。
ただ、中には、ウクライナから避難してきたという人もいて、不安やロシアへの反発を訴える声が聞かれました。
このうち、首都キエフから20日に避難してきたという、34歳の男性は「怖くて国を離れることにした。キエフではみな怖がっている。私たちは平和を求めている。持ちたいのは銃ではなく幸せな家庭だ」と話していました。
一方、仕事でポーランドに来たという43歳の男性は「もし戦争が起きたら、幼い子どもがいるのですぐに家に戻る。そして祖国のために戦う。ウクライナは私たちの土地で、ほかの誰のものにもならない」と話していました。
また、同じく仕事で来たという47歳の男性は「すべての人が平和を求めている」と話していました。
ウクライナ情勢を受けて、ポーランドにはアメリカがおよそ4700人の部隊の派遣を決めています。
ウクライナとの国境から西に150キロほど離れたミエレツにある民間の飛行場には、到着したアメリカ軍の部隊が展開していました。
現地では、軍用車両やテントが立ち並び、パトロールする兵士の姿も確認され、アメリカがヨーロッパ東部の防衛態勢の強化を図っている様子がうかがえます。
米 “承認”地域での貿易や金融取引など禁止へ
アメリカのサキ報道官は21日声明を発表し「ロシア側からのこうした動きは予想していたことで、即座に対抗措置をとる用意がある」としました。
具体的には、プーチン大統領が独立国家として一方的に承認したウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部において、アメリカ人などによる新たな投資や貿易、それに金融取引を禁じる大統領令を近く出すとしています。
また、この大統領令はウクライナのこうした地域で活動しようとする、いかなる人物に対しても制裁を科す権限があるということです。
一方で、声明ではこうした対抗措置は、ロシアがウクライナに侵攻した場合に欧米が科すとしている厳しい制裁とは、別のものだとしています。
バイデン大統領は21日、ウクライナのゼレンスキー大統領と30分余りにわたって電話で会談したほか、安全保障を担当する高官らからホワイトハウスでウクライナ情勢についての報告を受けていました。
ロシア外相 “米国務長官との会談は今週24日に”
ロシアのラブロフ外相は21日、クレムリンで行われた緊急の安全保障会議の場で、アメリカのブリンケン国務長官との会談は今週24日にスイスのジュネーブで行われると明らかにしました。
外相会談では、アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談の時期や形式について話し合われる見通しです。
ただ、アメリカのホワイトハウスは、首脳会談も外相会談も、ロシアによる軍事侵攻がないことが、開催の条件だとしています。
●ウクライナ東部 ロシアが一方的に国家の独立承認 なぜ…?  2/22
ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認したうえで「平和維持」を名目にロシア軍の現地への派遣を指示しました。
なぜロシアは一方的な独立承認に踏み切ったのか?
ウクライナ東部とはどのような地域なのか?
今後の展開はどうなるのか?
ウクライナ東部とは…
ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部はいずれもロシアと国境を接し、親ロシア派の武装勢力が占拠しています。歴史的にも経済的にもロシアとつながりが深く、ロシア語を母国語とする住民が多い地域です。ソビエト時代に開発された炭鉱や鉄鉱石の鉱山があり豊富な資源を背景にした鉄鋼業が盛んで、ウクライナ有数の工業地帯となっていました。2014年からロシアの後ろ盾を受けた親ロシア派の武装勢力と、ウクライナ政府軍との間で散発的に戦闘が続き、ロシアとウクライナの対立の要因の1つとなっています。
州政府庁舎の建物など次々に占拠
2014年、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合すると直後の4月、親ロシア派の武装勢力が州政府庁舎や治安機関の建物に押し寄せ次々に占拠。その後、ウクライナからの独立を一方的に表明しました。
これまでに1万4000人以上が死亡
ウクライナ政府はこれに対して軍を派遣して強制排除に乗り出しましたが、各地で武装勢力と激しく衝突し死者が多数出る事態に発展しました。政府軍と親ロシア派の武装勢力との間の紛争を解決しようと2014年9月、それに2015年2月にはフランスとドイツの仲介で「ミンスク合意」という停戦合意が結ばれましたが、その後も散発的な戦闘が続きました。OHCHR=国連人権高等弁務官事務所によりますと、これまでに双方で1万4000人以上が死亡したということです。8年にわたる紛争の影響で生活に不可欠な水道や暖房施設などインフラが破壊される甚大な被害が出ていて、これまでに150万人の人々がこの地域からの避難を余儀なくされています。
一方的な国家承認 ロシアのねらいとは…
ロシアによる一方的な独立国家の承認で事態は一層緊迫化していますが、ロシアはなぜ承認に踏み切ったのか、また軍事侵攻の可能性や今後の展開はどうなるのでしょうか。
1. なぜ国家の承認に踏み切った?
国家として一方的に承認したというのは、ロシアがウクライナ東部の一部地域を管理下に置くことを意味します。プーチン大統領はかねてよりウクライナをみずからの勢力圏ととらえてきました。そして今回、一方的に承認する必要性に迫られたとも見えます。ロシアはウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟だけは「越えてはならない一線だ」としてNATOを拡大しないよう求めてきましたが、欧米はこれに応じず逆にウクライナに兵器の供与など軍事的な支援を強めてきました。親ロシア派は「ウクライナ政府軍が力ずくで奪還してくる」とあおり、国家の承認と軍事支援の要請を受けたプーチン大統領がこれに応える形をとりました。しかし一方的な国家の承認は、これまでウクライナ政府側に迫ってきた停戦合意をロシアがみずからほごにすることにつながります。欧米からの制裁強化も覚悟のうえでプーチン大統領は2014年のクリミアに続いて今度はウクライナ東部を確実に影響下に置く道を選んだことになります。
2. 「平和維持」部隊派遣へ 侵攻の可能性は?
「軍事侵攻」はない、というのがロシアの立場ですが、プーチン大統領は国防省に対して「平和維持」を名目にロシア軍を現地に派遣することを指示しました。ロシアによる軍の駐留につながる可能性があります。ロシアはウクライナの国境周辺に依然として大規模な軍を展開しています。ウクライナの北部と国境を接するベラルーシでは合同軍事演習の終了予定だった20日をすぎても軍を駐留させ、圧力を維持しています。まずはロシア軍がいつ、どれほどの規模で展開するのかが焦点です。もし展開すれば、それがさらに恒久的な駐留につながるのか見極めていく必要があります。そして日本をはじめ欧米各国がどこまで結束してウクライナの主権と領土の一体性を守れるのかが問われることになります。
3. プーチン大統領 強硬姿勢に変化は?
プーチン大統領が強硬でなかったことは、これまでもありません。欧米側の制裁も含めた反応もみながら、引き続きNATOにウクライナを加盟させないことなど要求を突きつけ続けるとみられます。ウクライナ東部の一部地域に部隊の前進を決めたことで、軍事侵攻がありうると脅しをかけ続けて安全保障をめぐる交渉を有利に進めたい意向があると思われます。
4. 衝突回避に必要なことは?
ロシアが交渉をしたいのはアメリカで、双方があらゆるレベルで対話を維持させることが何よりも大事です。アメリカとしても米ロの外相会談など対話、チャンネルは継続させてロシア側の真意を見極めて大規模な侵攻を抑止したい考えとみられます。ただロシア側が最も重視するNATOの不拡大の問題では、アメリカは一歩も引かない構えです。またロシア軍が東部の一部地域に派遣されることでウクライナ軍との衝突が起きないかも懸念されます。ウクライナ情勢はロシアが一方的に国家承認したこと、部隊の派遣を決めたことでさらに情勢が複雑に動いています。
5. アメリカはどう出る?
バイデン政権高官は今後の対応について慎重な説明に終始しています。この高官は「ロシア軍は過去にもウクライナに駐留しており、派兵は新しい動きとは言えない」とも述べて、強力な制裁は科さない可能性を示唆しました。現時点で「軍事侵攻」と明確に位置づけないのは、ここで「強力な制裁」を科してしまえばロシア軍による大規模な侵攻を抑止するためのカードを早々に失いかねないことがあります。さらにこの段階での強力な制裁はロシアにエネルギー依存しているヨーロッパ各国の支持を得にくいという考えもあるとみられます。
6. アメリカにロシアの行動を抑える秘策はあるか?
何とか外交によって事態の打開をはかりたいというのが本音で、24日に予定されているロシアとの外相会談を開く可能性は残しています。一方で「弱腰」と映る対応をとることもできません。このため政権高官は「このあと数時間、ないし数日のロシアの行動を注意深く観察し相応の対応をとる」と述べて、ロシア軍の動き次第では強力な制裁を科す可能性があることをにおわせ、けん制しました。欧米各国、そして日本などと緊密に連携し結束した対応をとれるかが今後の成否の鍵を握ることになりそうです。 
●ウクライナ大統領「国境変わらず」 ロシアを非難 2/22
ロシアがウクライナ東部の一部地域の独立を一方的に承認したことを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は22日に「国際的に認められた国境は変わらない」と述べ、ロシアに譲歩しない構えを示した。外交的な解決に向けて、国際社会の支援を訴えた。ロイター通信などが伝えた。
ゼレンスキー氏は国民向けの演説で、ロシアがウクライナ東部紛争の解決に向けた努力を「台無しにした」と非難した。親ロシア派占領地域の独立承認は和平を目指して2015年にまとめた「ミンスク合意」に反すると訴えた。和平を協議するウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスによる首脳会議の開催も呼びかけた。
ゼレンスキー氏は21日に国家安全保障・国防会議を緊急招集し、東部の住民保護などについて議論した。
●憤るウクライナ市民 親ロ派地域では歓喜の花火 2/22
ロシアのプーチン大統領が親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の独立を承認したことに、ウクライナの市民は21日、憤りの声を上げた。一方、親ロ派地域「ドネツク人民共和国」の中心都市ドネツクでは花火が上がり、住民がロシア国旗を振って喜ぶ様子をロシア国営メディアなどが伝えた。
ウクライナ首都キエフの無職ナタリヤさん(48)は「ロシアがわが国の一部の独立を認めることはできない。ウクライナがロシアのシベリアを独立国家として認めるようなものだ」と訴えた。
キエフ近郊のウェブデザイナー、セルギーさん(43)は「ウクライナ政府の統治が及ばない状況」は変わらないが「ロシアの挑発で軍事衝突が頻発・激化する可能性も高く、非常に嫌な気分だ」と語った。
親ロ派はウクライナ政府軍の攻撃が近いと主張、住民をロシアへ大規模避難させてきた。タス通信によると、避難場所でテレビの前に集まり、プーチン氏の演説に聞き入った住民らは「やっと平和が来る。何よりも大切なのは安全」と喜んだ。
ロシアが強制編入したウクライナ南部クリミア選出の与党下院議員は「歴史的な出来事。ロシアは平和な市民を『ジェノサイド(民族大量虐殺)』から守れる」と歓迎した。
●東部独立承認で制裁発動 プーチン氏を強く非難―米大統領 2/22
バイデン米大統領は21日、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ東部の親ロシア派の独立承認を受け、親ロ派支配地域への制裁を発動した。ホワイトハウスが発表した。また、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、プーチン氏の決定を強く非難。ウクライナの主権と領土の一体性を擁護する方針を確認した。
バイデン氏はまた、フランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相と電話会談し、プーチン氏の行動を非難。今後の対応についても協議し、連携を確認した。
ホワイトハウスによると、バイデン氏は東部のドネツク州やルガンスク州の親ロ派支配地域での米国人の新規投資や貿易、金融取引などを禁じる大統領令に署名した。また、米政府高官は21日に記者団に対し、追加制裁措置を22日に公表すると明らかにした。
●ウクライナ情勢で緊急会合 米英仏などが要請―国連安保理 2/22
ロシアによるウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立承認を受け、国連安保理は21日夜(日本時間22日午前)、ウクライナ情勢をめぐる緊急の公開会合を開いた。安保理外交筋によると、ウクライナが開催を要請し、米英仏など8カ国が支持した。
トーマスグリーンフィールド米国連大使は21日、声明を出し、「ロシアによる『独立国家』承認は、ウクライナの主権と領土保全へのいわれのない侵害だ」と非難。「ロシアの行為は、一国が他国の国境を一方的に変更することはできないという原則を第2次大戦以来掲げてきた国際秩序を脅かすものだ」として、「安保理は国連加盟国であるウクライナの主権と領土の一体性を尊重するよう、ロシアに要求しなければならない」と訴えた。  
●「ロシアの挑発に屈せず」 安保理でウクライナ大使  2/22
ウクライナのキスリツァ国連大使は21日、ロシアによるウクライナ東部の親ロ派支配地域の独立承認を受けて開かれた国連安全保障理事会の緊急会合で「外交的解決を目指し、挑発には屈しない」と強調した。
キスリツァ氏は独立承認について「ウクライナの主権と領土の一体性に対する侵害」であり、全ての責任はロシア側にあると指摘。「国連の全加盟国が攻撃を受けている」として、安保理理事国に対しロシアへの圧力を強めるよう求めた。
一方、中国の張軍国連大使は「全ての当事者は自制し、緊張を高める行動を避けなければいけない」と述べ、外交努力を強化するよう呼び掛けた。
●ウクライナ危機で国連安保理が緊急会合  2/22
ロシアによるウクライナ東部一部地域の独立承認を受け、国連安全保障理事会は21日夜(日本時間22日午前)、緊急の公開会合を開いた。ウクライナが要請し、米国などが開催を支持した。
米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は「プーチン(ロシア)大統領は国連以前の時代、帝国が世界を支配した時代へ時間をさかのぼるのを欲している」と厳しく非難。会合に先立って発表した声明では、「安保理はロシアがウクライナの主権と領土を尊重するよう要求しなければならない」と強調した。ウクライナ東部の和平プロセス「ミンスク合意」への全面的な違反とも指摘した。
会合では、英国やフランス、アイルランドなどからもロシアによる独立承認に懸念と批判が相次いだ。グテレス事務総長は報道官を通じ「ロシアの決定はウクライナの領土保全と主権の侵害になり、国連憲章の原則に矛盾する」との談話を出した。
●国連安保理緊急会合 ロシアへの非難相次ぐ  2/22
ロシアが一方的にウクライナ東部の親ロシア派武装勢力を独立国と認めたことを受け、21日、国連安保理が緊急会合を開いた。
多くの理事国からロシアの決定を国連憲章違反だと非難し、ウクライナの領土保全を求める声が相次いだ。
アメリカは「プーチン大統領は国際システムを試し、われわれの決意を試し、われわれをどこまで追い込めるか試している。力によって国連を茶番劇にできることを証明しようとしている」と非難。
ロシアは「現地ではこれまでも独立を望む声が多くあった。難民はウクライナ側でなくロシアに逃げてきている」と述べ、あくまで苦しんでいる人たちを助けたものだとの主張に終始した。
中国の演説は短く、外交的解決を求めるにとどまった。
緊急会合後、アメリカとウクライナの国連大使があらためてロシアを非難したが、安保理としては一致した行動はとれていない。 
●「プーチンは、ロシア帝国が支配した時代に戻ることを望んでいる」 2/22
アメリカの国連大使は2022年2月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は世界をロシア帝国が君臨していた時代に戻したいと考えていると述べた。
アメリカのリンダ・トーマス・グリーンフィールド(Linda Thomas-Greenfield)国連大使は、ウクライナにおけるロシアの行動を議論するために招集された国連安全保障理事会で上記のような発言をした。プーチン大統領は、ロシアがウクライナの2つの親ロシア地域を独立国家として承認し、軍隊をその地域に派遣すると発表しており、西側諸国からの非難が殺到している。
会議では、トーマス・グリーンフィールド大使が、ロシアの行動はウクライナの主権に対する攻撃であり、国際法の違反であると述べた。
「彼はこれらの地域にロシア軍を配置することを発表した。彼はそれを平和維持軍と呼んでいる。これはナンセンスだ。我々は彼らが本当は何なのか知っている」と述べ、この動きは「明らかにロシアがウクライナへのさらなる侵略の口実を作ろうとしている根拠」であると付け加えた。
トーマス・グリーンフィールド大使は、プーチンがロシアはソビエト連邦以前のロシア帝国時代の領土に対して正当な権利を持っていると述べたことを指摘した。
●米、まず親ロシア地域に制裁 独立承認に対抗 2/22
ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が実効支配する一部地域についてロシアが独立を承認すると決めたことを受け、バイデン米政権は21日、経済制裁を発動すると発表した。独立承認した地域との新規投資や貿易に米国人が関与することを禁じる。米国とロシアの対立が一段と強まる。
バイデン大統領は21日、ウクライナのゼレンスキー大統領と35分間にわたり電話し、ロシアによる独立承認を強く非難した。バイデン氏はフランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相とも3者で電話してロシアへの対応策を擦り合わせた。
米政府高官は記者団に対し、バイデン氏が米国人を対象として、独立承認した地域との新規投資や貿易、金融取引への関与を禁じる大統領令に署名したと明らかにした。22日に追加の対抗措置も発表すると説明した。独立承認は武力を背景に国境を変更する試みで米国にとって受け入れがたい。
ホワイトハウスは声明で「今回の措置はロシアがウクライナに再侵攻した場合に同盟国やパートナー国とともに準備している迅速かつ厳しい経済措置とは別のものであると明確にしたい」と強調した。再侵攻すればロシアの大手銀行への制裁や輸出規制といった強力な制裁を科す構えとみられる。
ロシアは独立を承認した地域に平和維持を目的としてロシア軍を派遣すると発表した。米政府高官は同地域への軍派遣は強力な制裁を科すべき「新たな侵攻」に相当しないのかと問われ「ロシアは(同地域に)過去8年間にわたり軍を置いてきた」と主張。新しい侵攻とはみなさない考えを示唆した。
政府高官はロシアがウクライナへ再侵攻しないことを条件に「理にかない、危機の解決に有益な影響があれば我々は首脳間の対話にオープンだ」と語った。「ロシア軍はウクライナ国境へ引き続き近づいている」と指摘し、再侵攻に重ねて強い懸念を示した。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)はロシアによる承認発表に先立ち、米NBCテレビのインタビューでロシアがウクライナ侵攻の準備を進めていると重ねて懸念を表明した。「どんな規模や範囲の軍事作戦であってもそれは激しいものになり、ウクライナ人やロシア人、市民、軍人が犠牲になる」と語った。
●ウクライナ情勢 “親ロシア派地域 独立承認されれば制裁” EU  2/22
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナの東部2州のうち、親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認する大統領令に署名したのに先立って、EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表は、実際に承認されればロシアに対する制裁の発動に向けた手続きに入る考えを示しました。
EUは21日、ベルギーのブリュッセルで外相会議を開き、ウクライナ情勢について協議しました。
会議のあとの記者会見でボレル上級代表は、ウクライナの東部2州のうち、親ロシア派が事実上支配している地域について、プーチン大統領が独立を承認しないよう望むと述べました。
そのうえで「もし承認した場合は結束して対応する用意がある。承認がなされれば、私は制裁案を加盟国に示し、外相たちが制裁を決めるだろう」と述べ、プーチン大統領が独立を承認すれば、ロシアに対する制裁の発動に向けた手続きに入る考えを明らかにしました。
EUはこれまで、ロシアがウクライナに対して軍事侵攻すれば制裁を科すとしてきましたが、ボレル上級代表は、親ロシア派が事実上支配している地域の独立の承認が制裁の対象になると明言することで、プーチン大統領をけん制した形です。
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領とフォンデアライエン委員長は声明を発表し「ロシアの大統領の決定を最も強いことばで非難する」と述べました。そして、ロシアのとった行動は国際法に違反するとしたうえで「EUは、この違法な行為に加担した者たちに制裁で対応する。ウクライナの独立と主権、領土の一体性に、改めて確固たる支持を表明する」と強調しました。
●ウクライナ東部独立承認「紛争解決の努力をむしばむ」NATOが非難 2/22
ロシアのプーチン大統領によるウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立承認を受けて、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は21日、「ウクライナの主権と領土保全を侵害し、紛争解決への努力をむしばむものだ」と非難する声明を発表。「ロシアは再びウクライナ侵攻の口実をつくり出そうとしている」とし、「NATO同盟国はロシアに対して最も強い表現で、外交の道を選択し、ウクライナからの軍撤退を要求する」と強調した。
欧州連合(EU)のミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長は共同声明で「制裁で対抗する」と宣言。制裁内容や対象者への言及は避けたが、EUは金融やエネルギー分野の制裁を検討している。
ポーランドのモラウィエツキ首相はツイッターに「即座の制裁が必要。それがプーチンが理解する唯一の言葉だ」と投稿し、制裁案を協議する緊急のEU首脳会議開催を求めた。
東部での紛争の和平プロセスを定めたミンスク合意を仲介したフランスとドイツには失望が広がった。仏大統領府はプーチン氏の演説を「パラノイア(妄想)に満ちている」と非難。ベーアボック独外相は声明で「ドイツはウクライナと国際社会が認めるその国境線を強く支持する」と述べた。
ジョンソン英首相も21日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、ロシアの主権侵害行為を「ミンスク合意を骨抜きにした」と強く非難。「国連安全保障理事会に問題提起する」とした上で、ロシア側に対して「英国として既に制裁を準備しており、22日に発動する」と述べた。ウクライナ政府の要請に応じた防衛面での支援も約束した。
●米中外相が電話会談 王氏、インド太平洋戦略批判  2/22
中国の王毅国務委員兼外相は22日、ブリンケン米国務長官と電話会談し、米国は新たなインド太平洋戦略によって中国を封じ込めようとしているなどと批判した。中国外務省が発表した。米中外相の電話会談は1月下旬以来。
王氏は、米国が公然と中国を「アジア太平洋地域の主要な挑戦相手」とみなし、台湾問題を米国の地域戦略に取り込もうとしているとした上で、米国は「中国封じ込め」という誤ったメッセージを送っていると指摘した。
ブリンケン氏は、米国として中国の体制変革を求めておらず、中国と衝突する考えはないとの立場を説明したという。
●もしもロシアとウクライナが戦争に突入したら?世界経済の混乱 2/22
液化天然ガス(LNG)や原油など資源の供給も絡む複雑さ
ウクライナ問題が緊迫している。ウクライナは、米英独仏など北大西洋条約機構(NATO)に加盟する国と、ロシアを中心とする独立国家共同体(CIS)に挟まれている。また、中央アジアでの影響力強化を目指す中国も、ウクライナに対して重要な関心を寄せている。そこに、液化天然ガス(LNG)や原油など資源の供給も絡み、ウクライナ情勢は非常に複雑だ。これからも神経質な展開が続くだろう。
世界の地政学の要衝であるウクライナは、現在、NATO加盟を目指している。ロシアはそれを脅威と考え、国境地帯に軍を集結させ、いつでもウクライナ国内に侵攻できる体制を敷いている。万が一の展開として、戦闘状態に発展する恐れはゼロではない。その一方で、「戦争は起きないだろう」と先行きを楽観、あるいは高をくくっている投資家は多いようだ。
過去、戦争の勃発によって世界の金融市場は暴落した。株式、通貨、債券の価値は吹き飛んだ。仮にウクライナで戦争が勃発すれば、世界の経済と金融市場には大きなマイナスの影響が及ぶことは避けられない。ウクライナ問題の緊迫化が、世界経済と金融市場に与える負の影響は過小評価できない。
天然ガスのパイプライン「ノルド・ストリーム」を巡る駆け引き
世界地図を見ると、ウクライナが世界の地政学の要衝であることがよくわかる。ウクライナは東側をロシアに、西側を欧州連合(EU)加盟国に挟まれている。
ドイツなどのEU主要加盟国は、NATOを通して米国と安全保障面で同盟関係にある。ウクライナのNATO加盟が実現すれば、ロシアは米国など自由主義圏の勢力と直接、対峙(たいじ)しなければならない。ロシアは国境地帯での警備などを強化せざるを得なくなるだろう。偶発的な衝突のリスクも高まる。そうした展開を避けるために、プーチン大統領はウクライナへの圧力を強めた。ウクライナは大国にとって、「緩衝地帯」の役割を担ってきた。
ロシアにとって、ウクライナへの影響力を維持することは対EU政策上、重要な意味を持つ。EUは天然ガスの約4割をロシアに依存する。
欧州各国からすると、脱炭素を加速するために、ロシアからの天然ガス輸入の重要性が高まっている。昨年、欧州各国は風力など再エネ由来の電力供給が不安定になった。目下、EUは中東や米国からの天然ガス輸入を増やしているが、長期的に考えるとロシアからの安定した天然ガス供給が重要だ。
脱原発に取り組むドイツは、二つのパイプラインによってロシアから天然ガスを輸入する。その一つはウクライナを経由する。もう一つはウクライナを迂回(うかい)する「ノルド・ストリーム」(バルト海底を経由してロシアとドイツをつなぐパイプライン)だ。パイプラインを用いるということは、ロシアにはガスを液化する十分な技術力がないと考えられる。ロシアにとってウクライナへの影響力維持は、資源を掘り起こして輸出し経済成長を実現するために欠かせない。
米国のバイデン大統領は、ロシアがウクライナに侵攻すれば、「ノルド・ストリーム2は終焉する」と警告した。仮にノルド・ストリーム2が停止すれば、天然ガスや原油価格は上昇するだろう。欧米各国はロシアへの経済・金融制裁も準備し始めている。ウクライナ問題によって、世界経済はかなり困った状況に陥る恐れが高まっている。
株価や通貨、債権は暴落する一方 エネルギーや鉱山資源、穀物の価格は上昇
ウクライナ問題が「戦争」へ発展した場合、世界経済はどうなるのか。結論から言えば、金融市場に壊滅的なダメージを与えることになる。歴史的に、大規模な戦争が起きると株価は暴落した。
1939年〜41年までの各年、ニューヨークダウ工業株30種平均株価は2.92%、12.72%、15.38%下落した。また、53年に旧ソ連のスターリンが死去した際、ソ連の体制転換が進み、東欧など社会主義国の情勢が不安定化するとの懸念が急増して世界の株価が暴落した(スターリン・ショック)。
今後のシナリオの一つとして、ロシアがウクライナに侵攻すれば、世界の株価は「暴力的に」売られる恐れがある。投資家は価格変動リスクの高い株式を売らなければならなくなり、状況によっては、新興国株式の中で主要な投資対象となってきた企業の価値が大きく下落するだろう。
リスク回避の動きが急増することによって、世界の通貨市場も混乱する。ロシア・ルーヴルやウクライナのフリヴニャの価値は暴落するだろう。地理的に近いハンガリーなど東欧の通貨や、ユーロにも売り圧力が飛び火する可能性がある。
債券市場では、債務残高が増加してきた新興国の政府や企業の債券の価格が下落する。状況によっては、急速な資金流出に直面して経済全体での資金繰りがつかなくなり、国際金融支援を要請する国が出るかもしれない。
また、エネルギーや鉱山資源に加え、小麦など穀物の価格も上昇するだろう。それによって世界的な物価上昇圧力は一段と高まり、各国で企業の業績が悪化する。
EUが難民問題に直面する可能性もある。戦争によって平和や法による秩序は崩れる。経済と社会の運営を支えてきた価値観は崩壊し、混乱が世界に波及する。そのインパクトは計り知れない。
ロシアが「ネオン」の輸出を制限すれば 半導体不足に拍車がかかる!
しかし、一部の主要投資家は、戦争が起きることはないと高をくくっているようだ。その裏返しに、リスク回避の動きによって株価が下落したロシアのエネルギー大手ガスプロムや、大手銀行のズベルバンクなどの株を、「バーゲン・ハント」する(価格が大きく下げたときに買う)投資家がいる。
ドル建てのウクライナ国債に、投資妙味があると考える投資家もいる。2月に実施した国債入札でウクライナ政府は目標額を調達できなかった。地政学リスクの高まりを背景に、ウクライナ財政がひっ迫する恐れは高い。しかし、関連資産の価格推移を見る限り、ウクライナ問題のリスクは世界の金融資産価格に十分に織り込まれていないと考えられる。
戦争が起きないと断言することはできない。プーチン大統領は仏マクロン大統領に対して、「ロシアが核保有国である」と警告を発した。それが警告のまま終わればよいが…、戦争が回避されたとしても米欧がロシアに制裁を発動し、ロシアが報復措置を繰り出す展開は十分に考えられる。それは、世界の供給制約を深刻化させるだろう。
その一つとして、半導体製造に用いられる「希ガス」の一つである、「ネオン」の供給減少が懸念される。ネオンは、半導体製造工程内の、リソグラフィー(基板に光などで回路パターンを転写する工程)で使用される。半導体回路の微細化によって、ネオン消費量が増えている。旧ソ連時代の設備を用いて、ロシアとウクライナでその多くが生産されている。ロシアが報復措置として希ガスの輸出を制限すれば、半導体不足に拍車がかかるだろう。
また、エネルギー分野では、スイスの資源大手グレンコアが、ロシアの石油企業ルスネフチ株を売却する方針と報じられた。このように、ウクライナ問題は世界経済の不安定性を一段と高める要因である。万が一戦争に突入すれば、世界の金融市場と経済に大きなマイナス影響が及ぶことを、冷静に考えなければならない。
●ウクライナ情勢 外務省が新たに安全情報 滞在の日本人は退避を  2/22
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部2州のうち、親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認する大統領令に署名したことを受けて、外務省は22日朝、新たに海外安全情報を出しました。
これらの地域では、先週末から親ロシア派の武装勢力側からの攻撃回数が急増していて、今回のロシア側の一方的な決定によりさらに戦闘が激しくなり、戦闘地域が拡大する可能性を排除できないとしています。
そして、滞在する日本人に、直ちに安全な方法で退避するよう重ねて呼びかけています。外務省によりますと、ウクライナに滞在する日本人は、先週末の段階でおよそ120人いるということです。
●外相「主権侵害で国際法違反」 ロシアを批判 2/22
林芳正外相は22日午前の閣議後記者会見で、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を承認する大統領令に署名したことを非難した。「ウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、国際法に違反するものだ。決して認められるものではない」と述べた。
ロシアへの対応に関し「事態の展開を深刻な懸念を持って注視する。制裁を含む厳しい対応の調整をしている」と説明した。主要7カ国(G7)と連携する方針を示した。
松野博一官房長官は記者会見で「現時点までに邦人の生命、身体に被害が及んでいるとの情報には接していない」と語った。ウクライナにいる在留邦人の保護に向けてあらゆる準備を進めていると強調した。
●ロシア、なぜここまで強硬? ウクライナ情勢 2/22
ロシアのプーチン大統領は21日、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の一部地域について独立を承認したうえで、「平和維持」を目的にロシア軍を派遣するように国防省に指示した。米欧各国はロシアがウクライナに侵攻すれば経済制裁を科す方針を示すなかで、プーチン氏は行動に出た。なぜロシアは強硬姿勢でウクライナにこだわるのか。3つのポイントをまとめた。
(1)ロシアとウクライナの歴史的な経緯とは
「ロシア人とウクライナ人の歴史的な同一性について」。プーチン大統領は2021年7月にこう題した論文を発表し、「1つの民族」だと主張した。ウクライナをロシアの勢力圏に取り戻すことが自らの使命だと考えているようだ。
ロシアとウクライナ、ベラルーシは同じ東スラブ民族で、統一国家の始まりは9世紀から12世紀ごろまで栄えたキエフ・ルーシにある。中心地は現在のウクライナの首都キエフだった。その後も現ウクライナ領には独自の国が長く形成されず、ロシア帝国やポーランドなどの支配下に置かれた。
ウクライナはほぼ20世紀を通して旧ソ連の一部であり、本格的な国家として歩み始めたのは1991年のソ連崩壊後だ。欧州連合(EU)とロシアに挟まれた影響力争いの舞台となり、政権も親欧米と親ロシアとが交互に発足した。2014年に民主化を求める親欧米派による政変で親ロ派政権が倒れると、ロシアはクリミア半島を一方的に併合し、ロシア系住民の多い東部にも侵攻した。
(2)「大国復活」を目指すプーチン氏の野望とは
ウクライナは4000万を超す人口と広大な国土を持つ旧ソ連第2の大国だ。ウクライナなしでロシアは帝国にはなれない――。ブレジンスキー元米大統領補佐官はこう述べたことがある。「大国の復活」の野望を抱くプーチン氏にとって、ウクライナを自らの勢力圏にとどめることは絶対条件だ。
ロシアは13世紀から15世紀にモンゴルに支配され、19世紀初めにナポレオン率いるフランスにモスクワを占領された。第2次世界大戦でもナチスドイツに国土深く攻め込まれた。こうした経緯もありロシアは伝統的に安保意識が強いとされ、プーチン政権は安保を重視する治安機関や軍関係者ら保守強硬派の影響力が強い。ロシアと欧州の真ん中に位置するウクライナが欧米陣営に加わるのを容認することは国民感情の面からも極めて難しい。
(3)なぜNATOの東方拡大をここまで警戒するのか
ウクライナを巡る米欧とロシアの対立は、ソ連崩壊後、新たな欧州安保体制構築の試みが挫折したことも意味する。プーチン氏は昨年12月、東欧諸国を加盟させないというNATOの約束が過去に破られてきたとして「ひどくだまされた」と恨みを口にした。2000年代初めまでは米ロは融和に向かうかに見えたが、プーチン政権は米欧への反発を強めていった。
一方、ウクライナはNATO加盟を国家目標に掲げ、ロシアとの対立を深めた。ロシアは米欧の部隊や攻撃兵器がロシアの西部国境近くに展開され、自国の安全保障が決定的に損なわれると懸念する。東部紛争を巡って軍事圧力を強めてウクライナの後ろ盾である米国を交渉に引き出し、ウクライナのNATO非加盟を確約させようとした。

 

●米国務長官 露外相との会談「意味がない」露側に中止を伝える  2/23
緊張が高まるウクライナ情勢をめぐり、アメリカのブリンケン国務長官は、今月24日にスイスで開催が予定されていたロシアのラブロフ外相との会談を行うことはできないと表明しました。
ウクライナ情勢をめぐり、アメリカのブリンケン国務長官は22日、ワシントンでウクライナのクレバ外相と会談したあと、そろって記者会見を行いました。
この中でブリンケン長官は、ロシアがウクライナ東部2州のうち親ロシア派が事実上支配していた地域の独立を一方的に承認し、軍を送る準備を整えていることについて「すでに侵攻が始まっている」と強く非難しました。
そのうえで、今月24日にスイスで開催が予定されていたロシアのラブロフ外相との会談について「現時点では行っても意味がない」と述べ、会談を行うことはできないとロシア側に伝えたことを明らかにしました。
米ロ両国の間では、外相会談に続いてバイデン大統領とプーチン大統領の首脳会談の開催に向けて調整が行われる予定でした。
一方でブリンケン長官は「もしロシアが緊張緩和と外交による解決に真剣に取り組んでいると国際社会が確信できる明白な措置をとる用意があるならば、引き続き外交に取り組んでいく」と述べ、外交による解決の余地は残されているとしたうえで「ウクライナへの全面攻撃という最悪のシナリオを避けるため、できることはすべて行う」と強調しました。
●ウクライナ情勢、小麦や希少金属に波及も ロシア依存で 2/23
緊迫するウクライナ情勢をめぐり、小麦やパラジウムといったロシアに生産を依存する物資の調達に影響が出る懸念が高まっている。ロシアがウクライナ東部の一部の独立を承認したことを受け、米国や欧州は相次ぎ制裁を発動した。ロシアが報復として輸出を制限すれば価格高騰やサプライチェーンの混乱につながりかねない。
ロシアは世界最大の小麦の輸出国で、特にエジプトやトルコなどへの輸出量が多い。ウクライナも小麦やトウモロコシの主要な輸出国だ。各国の貿易データを分析する経済複雑性観測所によると、ロシアとウクライナの小麦の輸出量は合計で2019年に世界全体の4分の1以上を占めていた。
米調査会社S&Pグローバル・プラッツで穀物市場を分析するピーター・マイヤー氏は米CNNに対し、ウクライナ情勢が市場に及ぼす影響について「ボラティリティーがあるのは間違いない」と指摘した。
パラジウムなど希少金属の調達が難しくなる懸念もある。パラジウムは自動車の排ガス浄化や携帯電話などに使われており、産出量の4割をロシアが占めている。ウクライナ情勢への懸念から1月には価格が2週間で2割超も上がった。ロシアがパラジウムの輸出を制限すれば自動車のサプライチェーンなどに影響が出かねない。
エネルギー価格には、すでに影響が出ている。ロシアへの経済制裁で需給がひっ迫する懸念が高まり、22日には原油価格が一時1バレル99ドル台まで上昇した。今後影響が食料や希少金属などほかの分野にも広がれば品不足や世界的なインフレがさらに加速する可能性がある。
●ロシアの全面攻撃警戒 ウクライナ情勢「深刻化」―NATO総長 2/23
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は22日、ウクライナ国境周辺のロシア軍の動向をめぐり、「あらゆる兆候が、ロシアがウクライナへの全面攻撃を引き続き計画していることを示している」と述べ、本格的侵攻への警戒感をあらわにした。
NATOとウクライナとの緊急会合後の記者会見で発言した。ストルテンベルグ氏は「ますます多くの軍隊が戦闘隊形を取っている」と指摘。ウクライナ東部の親ロ派支配地域については「さらなるロシア軍が入っているのを現在、確認している。全体的な状況をより深刻化させている」と説明した。
●ウクライナ情勢の影響 / 識者はこうみる 2/23
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部の親ロシア派2地域の独立を承認する大統領令に署名した。これを受け、ロシア連邦議会上院は22日、プーチン氏が要請した国外へのロシア軍派遣を全会一致で承認。プーチン氏はウクライナ東部の停戦と和平への道筋を示した「ミンスク合意」はもはや存在せず、履行すべきことは何も残っていないと述べた。こうした情勢に対する市場関係者の見方は以下の通り。
FRBの引き締め路線見直しも=JPモルガン
ロシア・ウクライナ危機は依然として不透明であり、短期的には市場のボラティリティーが高まる可能性があるが、各国の中銀がインフレ期待を再び低水準に抑制しようと積極的に試みる中で、金融政策の引き締めが依然として株式市場の主要なリスクだろう。特に景気循環が悪化し続けた場合、過度な政策引き締めは明らかな政策ミスにつながる可能性がある。同時に、ロシア・ウクライナ危機によって米連邦準備理事会(FRB)は引き締め路線の見直しを迫られ、タカ派姿勢を弱めるかもしれない。
戦争はなおテールリスク=UBSグローバル
昨日の出来事が今後の展開にどのように影響するのか最終的な判断を下すのは時期尚早だと考えているが、戦争やロシア産エネルギーの長期輸出停止など深刻なリスクケースは現時点ではまだテールリスクという見解に変わりはない。エネルギー価格はウクライナ情勢が激化した場合に上昇する可能性が高く、コモディティーやエネルギー関連株への資金配分はポートフォリオのリスクヘッジに役立つだろう。
全面紛争の回避可能、パニック不要=SYZバンク
緊張が高まった状態は継続するものの、全面的な紛争は回避できるというのがわれわれの中核的なシナリオだ。現在もこうした見方を変えていない。現時点でパニックを起こす理由はない。西側諸国の報道は警戒感を呼び起こさせるものだが、今回の危機の「恐怖」は近いうちにピークを付け、その後は緊張緩和に向かう公算が大きいと考えている。とは言え、全面紛争という最悪のシナリオが現実化する恐れは否定できない。このため現時点でロシア資産の買い入れは控えている。ただ、現在の情勢は、われわれのポートフォリオのポジションを変えるものではない。
●ロシア、現状維持か全面侵攻か ウクライナ情勢の今後 2/23
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は21日、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認し、同地域への派兵を命じた。これを受け、識者の間では、ロシアが同地域を越えた侵攻を準備しているかどうかをめぐり、見解が割れている。
プーチン氏は熱のこもった演説で、ウクライナの独立国家としての権限に疑念を呈し、同国政府の正統性をあざけり、さらには同国は核兵器の保有を目指していると非難。今後起こり得る流血の事態の「全責任」はウクライナ政府が負うことになると強く警告した。以下に、ロシアがウクライナで検討している可能性のある筋書きをまとめた。
全面侵攻
ボリス・ジョンソン英首相は、プーチン氏の演説について「全面的な攻撃の口実を作っている」と指摘。北大西洋条約機構(NATO)のイエンス・ストルテンベルグ事務総長も、ロシアがウクライナに対する全面的な攻撃を今も計画していることが「あらゆる面から示されている」と述べた。ロシアはここ数週間で、ウクライナ国境付近に約15万人の部隊を集結させている。プーチン氏がここまで大規模な動きに出たのは、単に親ロ派支配地域を承認することが目的だったわけではないと分析する識者もいる。米シンクタンク、海軍分析センター(CNA)のロシア研究部門トップで、これまでにもロシアの大規模な侵攻を予想してきたマイケル・コフマン氏は、今回の動きについて「政権交代を強いることを目的としたロシアの大規模な軍事作戦の第一歩だ」との見方を示した。
現状維持
ロシアは、ウクライナの首都キエフへの侵攻は政治的にも軍事的にもリスクが高すぎると考えるかもしれない。ただ、より限定的ながらも流血を伴う侵攻を選ぶ可能性もある。ウクライナ東部で独立を宣言した親ロ派武装勢力「ドネツク人民共和国(DNR)」と「ルガンスク人民共和国(LNR)」は、ドネツク、ルガンスク両州の全体は支配していないが、領有を主張している。ロシアは武力によって両地域からウクライナ政府を排除しようとする可能性があり、プーチン氏がDNRとLNRの領土をどの範囲まで認めているかがカギとなる。また、南方の港湾都市マリウポリに進軍し、2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島への陸路の確保を試みる可能性もある。同半島とロシア本土は現在、橋でしかつながっていない。英ロンドン大学キングスカレッジでロシア政治を研究するサム・グリーン教授は「プーチン氏は情勢の深刻化を回避するため、現行の支配線にとどまり、現状を固定するつもりだ」と予測。「ただし、圧力をかけ続けるため、さらなる進軍の余地も残しておくだろう」と分析した。
●ウクライナ情勢を受けたエネルギー市場安定化への我が国の対応 2/23
2月21日、ロシアが「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」の「独立」を承認する大統領令に署名するとともに、ロシア軍に軍事基地等の建設・使用の権利を与える「友好協力相互支援協定」に署名しました。また、22日、ロシアは、両「共和国」との条約の批准、自国領域外での軍隊の使用に関する連邦院決定など、一連の措置を進めました。
これらは、明らかにウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、国際法に違反する行為であり、決して認められるものではなく、改めて強く非難します。日本政府として、ロシアに対し、外交プロセスによる事態の打開に向けた努力に立ち戻るよう強く求めます。
緊迫化するウクライナ情勢を受けた欧州の厳しいガス供給の事情を踏まえ、我が国は、これまでも基本的価値観を共有する同盟国・同志国との連帯を示す観点から、日本企業が取り扱うLNGのうち余剰分を欧州に振り向けてきました。
今次事態を受けて、原油価格が一層の上昇局面にあります。原油市場の安定化は、世界及び我が国経済の安定化にとって極めて重要です。政府としては、原油市場の安定化のために産油国に対して働きかけるとともに、国際エネルギー機関(IEA)をはじめとする関係国際機関や主要な消費国とも協調して対応します。なお、現時点では、世界の原油供給はウクライナ情勢の緊迫化によっても断絶しておらず、対ロシア経済制裁はエネルギー需給を阻害するものではありません。
我が国は、現在国家備蓄、民間備蓄を合わせ、約240日分の石油備蓄を保有しており、LNGについても、電力企業、ガス企業が2〜3週間の在庫を保有するなど、充分な備蓄を有しており、今回の事態により、国内のエネルギーの安定供給に直ちに大きな支障を来す懸念はないと判断しております。我が国としては、国際的なエネルギー市場安定に向けて、関係国や国際機関とも連携しながら引き続き最大限取り組んでいきます。
●ウクライナ情勢を踏まえた制裁措置等について 2/23
昨22日、ロシアはウクライナの一部であるいわゆる2つの共和国との条約の批准、自国領域外での軍隊の使用に関する連邦院決定など、一連の措置を進めました。これらは明らかにウクライナの主権、そして領土の一体性を侵害し、国際法に違反する行為であり、改めて強く非難いたします。ロシアに対し外交プロセスによる事態の打開に向けた努力に立ち戻るよう強く求めます。先ほど、政府関係部局の幹部から事態の推移や各国の対応に関し報告を受けました。事態は緊迫度を増しており、引き続き重大な懸念を持って注視してまいります
また、この問題に国際社会と連携して対処する観点から、我が国として次の制裁措置を採ることといたしました。1つ目は、いわゆる2つの共和国の関係者の査証発給停止及び資産凍結、2つ目はいわゆる2つの共和国との輸出入の禁止措置の導入、3つ目として、ロシア政府による新たなソブリン債の我が国における発行・流通の禁止などであります。今後、これらの措置の詳細を決定し、必要な手続を速やかに進めるよう指示を出したところです。また、今後、事態が悪化する場合には、G7を始めとする国際社会と連携して、更なる措置を速やかに進めるよう取り組んでまいります。そして、ウクライナ在留邦人の安全の確保のためにも全力を尽くしてまいります。避難措置など邦人保護業務を行うため、西部のリヴィウに臨時の連絡事務所を設け、また、隣国において退避のためのチャーター機を手配済みであります。引き続き出来得る限りの手段を講じ、邦人保護に取り組んでまいります。そして、エネルギーの安定供給についても申し上げます。まず、原油市場の安定に向けて、国際的に連携して取り組んでまいります。現在、原油については、国、民間合わせて約240日分の備蓄があり、LNG(液化天然ガス)についても、電力会社、ガス会社において、2、3週間分の在庫を有しています。このため、今回の事態が、エネルギーの安定供給に直ちに大きな支障を来すことはないと認識しております。また、原油価格高騰に対する備えにもしっかり取り組んでまいります。今後、更に原油価格が上昇し続けたとしても、国民生活や企業活動への影響を最小限に抑えることができるように、何が実効的で有効な措置かという観点から、あらゆる選択肢を排除することなく、政府全体でしっかりと検討し、対応してまいります。ウクライナをめぐる事態は緊迫度を増しています。政府としましても、事態の改善に向けて、国際社会と連携して取り組んでいく覚悟であります。
経済制裁の時期について
まず、我が国の基本的な考え方、制裁の骨格については、今、明らかにしたとおりであります。これをより詳細に詰めていくということであります。手続等が必要になる部分もあるかと思いますので、これは手続が終わり次第発効するということになるんだと思います。ちょっと、詳細は事務的に確認していただければと思います。
仮にロシアの軍事的侵攻が認められた場合などの措置について
今後の推移については、予断は許されない、いろいろな可能性があるんだと承知しています。ですから、今後、事態が悪化する場合には、G7を始めとする国際社会と連携して、更なる措置についても速やかに考えていかなければならないと認識しています。いずれにせよ、これ具体的に事態がどう推移するか、これをしっかり確認し、そして米欧ともしっかり意思疎通、情報交換を図りながら、我が国の対応を進めていくというのが基本的なスタンスであります。
今後の対応としての輸出規制などの可能性について
具体的に今、我が国として、確認をして、明らかにしているのは先ほど申し上げた部分であります。今後については、事態の推移がどう推移するのか分からないわけですから、更なる措置については、今後の事態の推移、そして各国の動き等もしっかりと確認し、情報交換をした上で、確定していくということになると思います。御指摘の点を踏まえて具体的な点については、今、申し上げることは難しいと思います。
原油価格の高騰に対する措置について
これも再三申し上げておりますが、あらゆる選択肢を排除せずということでありますので、事態の推移をしっかり見、それに対して何が有効的なのか、これを考えていかなければならないと思います。ですから、今後の事態の推移やそれから価格の動向、こういったものを見た上で、具体的に確定していかなければならないと思います。その際にあらゆる選択肢は排除せずということを申し上げております。
ロシアのウクライナに対する侵攻が始まっているという認識かについて
これも再三申し上げておりますが、今、ロシアに対する一連の措置、これはウクライナの主権及び領土の一体性を侵害し、国際法に違反するものであるということを申し上げ、決して認められるものではない、そして強く非難する、このように申し上げております。我が国として、この事態に対して、そうした評価の下に態度を示しているということであります。今後の推移については、しっかり注視し、欧米との意思疎通を図りながら適切に対応していきたいと思っております。
●ウクライナ情勢 各国がロシアへの制裁措置発表 反発強める  2/23
ロシアがウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配する地域の独立を一方的に承認し軍を送る準備を整えていることに対して、アメリカをはじめとする各国は相次いで制裁措置を発表し反発を強めています。
ロシアはウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配する地域の独立を一方的に承認し、「平和維持」の名目で軍の部隊を送る準備を整えています。
これに対してアメリカは22日、バイデン大統領が「ウクライナへの侵攻の始まりだ」と強く非難してロシアの金融機関などに制裁を科すと発表するとともに、ホワイトハウスのサキ報道官が米ロ双方で原則合意していた首脳会談は実施できないという考えを示しました。
またEU=ヨーロッパ連合やイギリス、オーストラリア、それにカナダなども相次いで制裁措置を発表したほか、ドイツはロシア産の天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働に向けた手続きを停止する考えを示すなど反発を強めています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は23日、国民向けの動画メッセージのなかで「NATO=北大西洋条約機構などによる軍事活動が危険をもたらしている」と述べ、ロシアによるNATOの不拡大の要求を拒否するアメリカなどへの不満を改めて示しました。
アメリカは外交による解決の余地が残されていることも強調していますが、米ロの首脳会談の実施にはロシアが軍の部隊をウクライナ周辺から撤退させるなど緊張緩和を進めることが必要だと主張していて、事態の打開は依然として見通せない状況が続いています。
中国報道官 ロシアへの制裁措置に反対の意向示す
ウクライナ情勢をめぐって、アメリカをはじめ各国がロシアへの制裁措置を相次いで発表したことについて、中国外務省の華春瑩報道官は23日の記者会見で「制裁は、問題解決のための根本的で有効な方法ではない。中国は、いかなる不法な一方的制裁にも一貫して反対している」と述べ、中国として制裁措置に反対する意向を示しました。そのうえで「対話と協議によって問題解決を図るために努力すべきだ」と述べ、関係各国に対し、対話による解決を図るよう重ねて主張しました。
台湾経済部次長 制裁の可能性「見極めているところ」
台湾の新聞「自由時報」の電子版は「ウクライナ情勢がさらに悪化した場合、台湾がロシアへの半導体の禁輸などを行う可能性がある」と伝えました。これについて台湾経済部の曽文生 次長は台湾の別のメディアから、半導体の輸出規制などでロシアへの制裁に加わる可能性を問われ「見極めているところだ」と答えました。台湾財政部によりますと、去年1年間の台湾からロシアへの半導体の輸出額はアメリカドルで2000万ドルを超えています。
プーチン大統領 国民向けに動画メッセージ
ロシアのプーチン大統領は23日、軍人をたたえるロシアの祝日にあわせて国民向けに動画のメッセージを出しました。この中でプーチン大統領は、「NATO=北大西洋条約機構などによる軍事活動が危険をもたらしている一方で、すべての国を守る平等な安全保障体制の構築を求めるロシアの声にはこたえていない」と述べ、ロシアによるNATOの不拡大の要求を拒否するアメリカなどへの不満を改めて示しました。そして、国益や国民の安全が最優先だと強調したうえで「世界に類のない兵器を作り出していく」と述べ、極超音速兵器や人工知能を取り込んだ兵器などの開発を進めていくとしました。プーチン大統領は、ウクライナ東部の状況など緊張が高まるウクライナ情勢については直接言及はしなかったものの今回のメッセージの中でロシアの軍事力を誇示し、欧米を強くけん制したものとみられます。
専門家 “足並みをそろえた対応が重要に”
ロシアの軍事や安全保障に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠 専任講師は、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認したことについて「ロシアの意図に関する評価をわれわれは大きく変えなければいけない」と指摘しました。
ウクライナ政府軍と親ロシア派の武装勢力との間の紛争を解決しようと、2014年9月と翌2015年2月に結ばれた停戦合意「ミンスク合意」について、「ロシアにとっては親ロシア派武装勢力を維持したまま再統合し、影響力を行使できる見込みがある有利な内容だった。しかし、今はそれ以上のことをねらっていると考えざるをえない」と述べ、今回の承認はロシアのウクライナへの要求がより強くなったことを示唆しているとしています。
具体的には、ロシアはウクライナに対し、NATOに加盟しないだけでなく、非軍事化も求めていくとみられ、さらに政治・経済的に統合することまで視野に入れるようになっている局面だと分析しています。
そして「実際にどのような行動に出るのか予測しがたいが、ロシア系の住民が危ないから介入しないといけないというロジックになる可能性もまだ十分にある」と述べ、ロシアが目的の達成のため軍事力を行使する懸念があると指摘しました。
一方、外交での解決の可能性については「アメリカが反発することを分かったうえで、あえて外相会談の前のタイミングで承認している。ロシア側が対話する意思があるかは疑問だ。ロシア側に話し合う意思が薄いのであれば、できることは非常に限られてくる」と述べ、選択肢が狭まっているという見方を示しました。
そのうえで「制裁には限界があるが、政治的なメッセージとしては意味があり、ロシアにダメージがないわけではない。軍事的な衝突はロシアのためにはならないと、どこまで西側が一致してみせられるか。日本も、国際秩序や安全保障を守っているという認識でどこまで主体的にやれるのかが注目される」と述べ、足並みをそろえた対応がいっそう重要になると強調しました。
日本在住のウクライナ人 都内のロシア大使館近くでデモ
日本で暮らすウクライナ人が23日、都内のロシア大使館の近くでデモを行い、抗議の声を上げました。デモを行ったのは日本で暮らすウクライナ人やその支援者などおよそ30人です。参加した人たちは、都内のロシア大使館の周辺でウクライナの国旗を掲げたり、「プーチンは帰れ」や「戦争反対」などと書かれたプラカードを手にしたりしてウクライナに軍を送らず主権を守るよう求めました。さらにロシア大使館の前まで5人ずつ交代で行進し「ウクライナに平和を」などとシュプレヒコールをあげていました。参加者の1人で、ウクライナ東部ドネツク州出身の女性は「ウクライナ東部では何人も連絡がつかない知り合いがいます。ウクライナを舞台にしてロシアや、アメリカ、NATOなどさまざまな勢力の駆け引きが行われているように思いますが、私たちが犠牲になるのはごめんです」と訴えていました。
●「切り取ってロシアに渡せば…」 日本で過熱する“親ロシア発言” 2/23
ロシアによるウクライナ侵攻は起こるのか。本稿を書いている今もなお、日を追うごとにキナ臭さを増していくが、それに比例して日本の言論空間でも不穏な空気が立ち込めている。一言で言えば、ロシアに批判的な言説に対する親ロシア的言説のカウンターだ。
司会者が「他国の領土を切り渡す」という解決法を提案
先日、BSフジでの討論番組に出演した現役議員がウクライナに非がある主張を展開し、司会者に至っては問題の解決方法として、「例えばそこ(ドネツク・ルガンスク地方)を切り取ってロシアに渡す」を提案するという、ロシアに一方的に有利な現状変更を積極的に認めるとしかとれない発言があった。21世紀に「他国の領土を切り渡す」という解決法を公言したことに、SNS上では衝撃を持って受け止められた。
また、朝日新聞デジタルでは記事に社内外の識者がコメントするコメントプラスという機能が存在するが、ウクライナ問題について識者によって見解が割れている。さらには、日本のマスコミが偽情報によりウクライナ危機を煽っているという言説まで登場するメディアもあり、ウクライナから遠く離れたこの日本でも、意図したものかそうでないかは不明だが、情報戦が過熱している。
世論を誘導しようとする両極端の報道
ネットを覗いても両極端の世界が広がっている。ある一方は米欧の、ある一方はロシアの報道を取り上げ、双方が互いの主張の根拠は偽情報だと非難しあっている光景を目にする。偽情報によって世論を誘導しようとしているのだと。
筆者としては、ウクライナ周辺にロシアが前例にない大兵力を展開しているのは衛星情報やオープンソースインテリジェンス(OSINT)等から疑いようのない事実であり、それが侵攻か軍事的恫喝による政治的成果を狙っているのは自明であると判断するが、ロシアを擁護する主張は少なくない。
近年はフェイクニュースなど、偽情報についての報道を目にすることが多い。しかし、偽情報による工作活動はずっと以前から行われており、ここ最近で登場したものではない。本稿ではかつて明らかになった日本を舞台にした国際的な偽情報工作を振り返り、現在溢れる偽情報について考える一助としたい。
発端となった毎日新聞のスクープ
事が公になったのは、1982年12月2日の毎日新聞朝刊のスクープだった。アメリカに亡命したスタニスラフ・アレクサンドロビッチ・レフチェンコKGB少佐が、ソ連の情報機関KGBによる日本での工作活動を米議会の秘密聴聞会で証言し、その内容が米議会筋からの情報として報じられたのだ。
この報道を皮切りにKGBによる様々な工作が明らかになったが、この「レフチェンコ事件」ではスパイ事件でイメージされがちな重要情報の窃取(それも行われていたが)よりも、偽情報により政治指導者や国民をソ連に都合の良い様に誘導する、アクティブメジャーズ(積極工作)の実態が明らかになったことが注目された。
その代表的なものとしては、1976年1月23日にサンケイ新聞(現・産経新聞)に掲載された『周恩来の遺言』とされるKGBが作成した偽文書がある。ジャーナリストのジョン・バロンによれば、これは当時ソ連と敵対していた中国指導部の正統性を毀損するための工作で、このサンケイ新聞の報道を起点にソ連国営タス通信によって世界中に配信され、中国指導部を動揺させたという。
第三国のメディアに偽情報を報道させ、それをソ連メディアが引用
ソ連のメディアが最初に報じてもすぐに偽情報と疑われるが、ソ連が第三国のメディアに偽情報を報道させ、それをソ連メディアが引用という形で世界中に配信する事である程度の信頼性を担保する手法は様々な例がある。
有名なものでは、1980年代に世界的問題となっていたエイズはアメリカが開発した生物兵器が原因とする陰謀論で、これも発端はKGBがインドで設立した新聞社の記事から世界中に拡散したものだった。それから40年近くたった近年でも、この工作に関わった東ドイツ人研究者の著書が、陰謀論を多数出版する日本の出版社から再販されるなど影響を残している。
日本で行われた工作は他にもある。『週刊現代』1979年8月23日号には、「ワシントンのうわさ」として米中央情報局(CIA)が中東でタンカーの襲撃を計画しているという記事が掲載されたが、これはKGBが捏造した偽情報を日本のジャーナリストが伝えたもので、米カーター政権に対する中傷工作だったという。
こうした偽情報はKGB第1総局A局が作成し、工作対象国の新聞記事などに紛れ込ませる形で流布される。ここで役割を担うのがマスコミ内や識者の中にいるエージェントで、KGBは彼らを介して偽情報を広めていくのだ。
「エージェント」は「スパイ」とはことなるもの
なお、レフチェンコ事件でエージェントとされた人物のWikipedia項目を見ると、「ソ連のスパイ」と書かれていることがある。だが、当のレフチェンコはスパイとエージェントは全くことなるものとして、これらを混同する言説を批判している。レフチェンコはこう述べている。
「スパイというのは通俗語であって、諜報活動にたずさわっている人々をさす、ごく一般的な言葉なわけです。(中略)エージェントというのは、外国政府によってリクルートされて、自国の情報や機密などを相手に漏らしていく人物をさすわけです。同時に、外国政府の望み通りに、自国の政策などに影響を及ぼしていく人物も、エージェントの範疇に入ります。『レフチェンコは証言する』」
「外国政府の望み通りに、自国の政策に影響を及ぼす人物」という定義だと、一昔前の日本に大勢いたアメリカ流の新自由主義的な改革を主張する論者もエージェントに該当するかもしれない。そして、外国政府との直接的な接点が無くても、外国のエージェントたりうるのだ。実際にレフチェンコは「無意識のエージェント」というエージェントの自覚は無いが、エージェントとして使える人物を挙げている。
このエージェント観は、現在のロシアでも見ることができる。2012年のNGO法改正では、外国から資金提供を受けるロシア国内の非政府団体(NGO)を「外国エージェント」とみなして登録し、政府に報告義務を設けるなどの締め付けを強めている。2019年のマスメディア法改正では、エージェントの役割を果たすとされた外国メディアの情報を発信する個人にまで対象範囲を拡げ、報道の自由を脅かすものと国際的批判を受けている。
同様にアメリカにも外国エージェント登録法が存在し、2017年にロシア政府が資金を出している報道機関RTのアメリカ法人、2018年には中国国営CGTNがエージェントとして登録されているが、あくまで法人のみである。
レフチェンコの証言に懐疑的だった日本
こうした日本におけるKGBの影響力工作の実態を暴いたレフチェンコであったが、当時この証言について懐疑的な向きが日本では多かった。特に朝日新聞はレフチェンコ証言を否定する特集を組み、その執拗さに「朝日はソ連に対し愛を感じすぎている。愛は人を盲目にする」とレフチェンコを呆れさせている。朝日の名誉のために言えば、レフチェンコ証言で多くの新聞社にエージェントがいることが明らかにされたが、朝日については明らかになってない(テレビ朝日にはいた)。エージェントでなくても、思い入れで外国を利することはあるのだ。
後にKGB文書の管理者であったミトロヒンが持ち出した内部文書や、その他のKGB亡命者の証言はレフチェンコの証言を肯定するもので、さらにエージェントの議員がいるとされた日本社会党の元調査部長も冷戦崩壊後にレフチェンコと対談し、当時の社会党内でレフチェンコ証言が真剣に受け止められていたことを告白しているなど、現在は信憑性のあるものとみなしていいだろう
レフチェンコが明らかにしたKGBによる偽情報の拡散は、前述のように各国メディアに影響力のあるエージェントを通じて、新聞などの伝統的メディアに掲載させることで行われていた。しかし、インターネットが普及するとエージェントを介さずとも、工作対象国の市民に対して偽情報を直接届けることが可能になった。
実際、ロシア政府と関係が深いとされるロシア企業、インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)は「偽情報の工場」と呼ばれ、2016年の米大統領選挙でFacebookを舞台に偽情報による選挙介入を仕掛けるなど、エージェントを介さずに大々的な工作活動を実施している。
大メディアや識者の発言にも紛れ込む偽情報
しかし、日本ではまだ事情が異なるかもしれない。総務省による「令和2年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、日本人が「世の中のできごとや動きについて信頼できる情報を得る」ためのメディアとして、テレビや新聞といった伝統メディアをあげる人は全年代で半数以上を占めており、まだまだ伝統メディアの影響力は強い。当然、そこで解説を行う識者の発言が、世論に影響を与えることは想像に難くない。
前述した朝日新聞デジタルにおけるコメントについて、軍事アナリストである小泉悠東京大学先端科学技術研究センター講師は、Twitter上でロシアの情報戦理論家パナーリンの「コメントが戦略的重要性を持つ」という指摘を引き合いに、「(コメントプラスが)無自覚に権威主義体制を利するセルフ情報戦をやってしまっている感がある」と苦言を呈している。このことは、今もなお識者を介した偽情報の拡散の有効性を示しているのかもしれない。
伝統メディアからインターネットまで、我々が日々接する情報は膨大だ。自分がよく知らないことは、識者の発言が判断材料になることは多い。昨今はネットに蔓延る出所不明の偽情報が問題視されているが、過去の事例を見れば分かるように、大メディアに掲載された情報や、識者とされる人々の発言にも偽情報が紛れ込んでいる可能性があるのは、頭の片隅に留めておくべきだろう。
●首都キエフ攻撃の可能性「極めて高い」 ウクライナ情勢で英外相 2/23
トラス英外相は23日、ロシアがウクライナ全土への侵攻に乗り出し、首都キエフを攻撃する可能性が「極めて高い」との見方を示した。スカイニューズとのインタビューで語った。
トラス氏はロシアがキエフへ進軍するか問われ、「それが彼(プーチン・ロシア大統領)の計画である可能性は極めて高い」と指摘。ロシア軍がウクライナ領内に入ったかどうかについては「状況は不明瞭で、完全な証拠はない」と述べるにとどめた。 
●対ロ経済制裁 岸田首相の発言 2/23
ウクライナ東部の一部地域の独立を一方的に承認したロシアへの経済制裁を巡る岸田文雄首相の23日の発言全文は以下の通り。
冒頭
2月22日、ロシアはウクライナの一部であるいわゆる2つの共和国との条約の批准、自国領域外での軍隊の使用に関する連邦院決定など一連の措置を進めた。明らかにウクライナの主権、領土の一体性を侵害し国際法に違反する行為で改めて強く非難する。ロシアに外交プロセスによる事態の打開に向けた努力に立ち戻るよう強く求める。
先ほど政府関係部局の幹部から事態の推移や各国の対応に関し報告を受けた。事態は緊迫度を増しており引き続き重大な懸念を持って注視していく。
この問題に国際社会と連携して対処する観点から日本として次の制裁措置をとることとした。1つ目は、いわゆる2つの共和国の関係者の査証(ビザ)発給停止および資産凍結。2つ目は、いわゆる2つの共和国との輸出入の禁止措置の導入。3つ目として、ロシア政府による新たなソブリン債の日本における発行、流通の禁止などだ。
今後これらの措置の詳細を決定し、必要な手続きを速やかに進めるよう指示した。今後事態が悪化する場合には主要7カ国(G7)をはじめとする国際社会と連携してさらなる措置を速やかに進めるよう取り組む。
ウクライナ在留邦人の安全確保のためにも全力を尽くす。避難措置など邦人保護業務を行うため西部のリビウに臨時の連絡事務所を設け、隣国において退避のためのチャーター機を手配済みだ。引き続きできる限りの手段を講じ邦人保護に取り組む。
エネルギーの安定供給についても申し上げる。原油市場の安定に向けて国際的に連携して取り組む。現在、原油は国、民間合わせて約240日分の備蓄があり液化天然ガス(LNG)も電力会社、ガス会社で2、3週間分の在庫を有している。今回の事態がエネルギーの安定供給に直ちに大きな支障を来すことはないと認識している。
原油価格高騰に対する備えにもしっかり取り組む。今後さらに原油価格が上昇し続けたとしても国民生活や企業活動への影響を最小限に抑えることができるように何が実効的で有効な措置かという観点からあらゆる選択肢を排除することなく、政府全体でしっかり検討し対応していく。
ウクライナをめぐる事態は緊迫度を増している。政府としても事態の改善に向けて国際社会と連携して取り組む覚悟だ。
質疑
――経済制裁は具体的にいつごろをメドに発動する予定ですか。
日本の基本的な考え方、制裁の骨格は今明らかにした通りだ。これをより詳細に詰めていく。手続きなどが必要になる部分もあり、手続きが終わり次第、発効することになる。詳細は事務的に確認していただきたい。
――今後仮にロシアの軍事的侵攻が認められた場合のさらなる措置はどうしますか。
今後の推移については予断は許されない。いろんな可能性があると承知している。今後事態が悪化する場合にはG7をはじめとする国際社会と連携し、さらなる措置も速やかに考えていかなければならないと認識している。具体的に事態がどう推移するか確認し、米欧ともしっかり意思疎通、情報交換を図りながら日本の対応を進めていくというのが基本的なスタンスだ。
――今後、半導体分野の輸出規制などに踏み込みますか。
具体的に今、日本として確認し明らかにしているのは先ほど申し上げた部分だ。今後については事態がどう推移するかわからない。さらなる措置は今後の事態の推移、各国の動きなども確認し、情報交換した上で確定していく。具体的な点について今申し上げるのは難しい。
――原油価格の高騰対策についてあらゆる選択肢を排除しないと発言がありましたが、トリガー条項(の凍結解除)やそれに準じた措置を指しますか。
再三申し上げているがあらゆる選択肢を排除しない。事態の推移を見て、それに対して何が有効的なのか考えていかなければならない。今後の事態の推移や価格動向を見た上で具体的に確定していかなければならない。その際に、あらゆる選択肢は排除しない。
――日本政府はロシアによるウクライナ侵攻が始まったという認識ですか。
これも再三申し上げているが、ロシアに対する一連の措置、これはウクライナの主権および領土の一体性を侵害し、国際法に違反するもので決して認められるものではない。強く非難する。日本としてこの事態に対しそうした評価のもとに態度を示している。今後の推移を注視し、欧米との意思疎通も図りながら適切に対応したい。 

 

●NY株式市場 一時500ドル超の値下がり ウクライナ情勢への懸念  2/24
23日のニューヨーク株式市場はウクライナ情勢への懸念から売り注文が増え、ダウ平均株価は一時500ドルを超える大幅な値下がりとなりました。23日のニューヨーク株式市場は、取り引き開始直後は買い注文が出たもののアメリカ国防総省の高官がロシアによるウクライナへの軍事侵攻がいつ始まってもおかしくないという見方を示すなど緊張が高まっていることを受けて先行きへの懸念が強まり、売り注文が増えました。このためダウ平均株価は一時500ドルを超える大幅な値下がりとなり、終値は前日に比べて464ドル85セント安い、3万3131ドル76セントとことしの最安値となりました。
ダウ平均株価の値下がりは5営業日連続で、値下がりの幅は5日間で1800ドルを超えました。IT関連銘柄の多いナスダックの株価指数も2.5%の大幅な下落となり、ことしの最安値となりました。
市場関係者は「欧米各国などによるロシアへの制裁の効果に懐疑的な見方も出る中でウクライナの政府機関などの公式サイトがサイバー攻撃を受けたと伝えられたこともあって、ひとまずリスクを避けようと売り注文を出す投資家が多かった。株価の下落が続くかどうかはウクライナ情勢の行方に左右されそうだ」と話しています。
●米国株式市場=大幅続落、ウクライナ情勢巡る懸念強まる 2/24
米国株式市場はウクライナ情勢が一段と緊迫化する中、主要株価指数が大幅続落して取引を終えた。ウクライナ議会は23日、全土に非常事態宣言を発令することを承認した。
米国務省は、ロシアによるウクライナ侵攻が差し迫っている可能性があり、米政府はロシア軍が後退している兆候を確認してないと明らかにした。
西側諸国はロシアによるウクライナ東部への軍部隊派遣を巡り、さらなる制裁を発表。ロシアは、ウクライナ国内の外交施設に勤務する職員を全員退避させ始めた。
主要3指数ではテクノロジー株が中心のナスダック総合が2%超安と下げを主導。情報技術セクターも2.6%安と大きく値を下げ、S&P総合500種を押し下げた。
ウェドブッシュ証券の株式トレーディング部門マネジングディレクター、マイケル・ジェームズ氏は「(ロシアの)プーチン大統領は制裁強化にもかかわらず、態度を変えていない」と指摘。「さらなる攻撃的な行動や、それがコモディティーやインフレにどう影響するかを巡る懸念が高まっている」と述べた。
SoFiの投資戦略責任者、リズ・ヤング氏は「地政学的リスクや当局者発言が投資家に一段の不安を与えている」と述べた。
投資家は、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制に向け積極的な金融引き締めを実施する可能性にも神経をとがらせてきた。
ダウ工業株30種は調整局面入り寸前の水準まで下落した。ナスダックは年初来で16%超下落。S&Pは前日、1月3日に付けた終値での最高値から10%超下落し、調整局面入りが確認された。
ただ、ロイター調査ではS&Pは2022年末までに依然として上昇すると予想されている。
個別銘柄ではホームセンター大手ロウズが小幅高。通期の売上高と利益見通しを引き上げた。
ニューヨーク証券取引所では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を2.92対1の比率で上回った。ナスダックでも3.14対1で値下がり銘柄数が多かった。
米取引所の合算出来高は119億8000万株。直近20営業日の平均は約123億株だった。
●ウクライナ情勢緊迫で高騰の原油相場、高止まりはいつまで続くか 2/24
オミクロン株への警戒感が後退し 2021年12月2日以降反騰
原油相場は一段高となっている。昨年12月2日に米国産のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で1バレルあたり62.43ドル、欧州北海産のブレントで65.72ドルの安値を付けた後、上昇傾向が続いた。
すでにオミクロン株の検出が報告される前の昨年11月の高値を上回り、今年2月14日にはWTIが一時95.82ドル、ブレントが96.78ドルの高値を付けた。
相場の変動材料を振り返ると、12月2日には、OPEC(石油輸出国機構)と非OPEC産油国とで構成する「OPECプラス」の閣僚級会合で1月の産油量について従来の増産ペース通りに日量40万バレル増産する決定をした。
米国主導の備蓄放出やオミクロン株の出現を受けて増産を止めるとの見方もあったため、増産維持を受けて一時下落幅が大きくなった。しかし、声明で「感染の動向を注視し、必要ならば生産量を調整する」との柔軟姿勢を示したことなどから、結局、相場は反発した。
その後、オミクロン株の症例は軽症が多いとの報告が相次ぎ、エネルギー需要への打撃は小さいとの見方につながって、6日と7日にWTIは4.9%と3.7%、ブレントは4.6%と3.2%の大幅上昇を記録した。8日には米製薬大手ファイザーがワクチンを3回接種することでオミクロン株への高い予防効果が期待できると発表した。
しかし、英国などで新型コロナ関連の規制が強化され、オミクロン株による景気への悪影響が懸念された。9日には、格付け機関のフィッチ・レーティングスが中国の不動産開発大手の恒大集団を「一部債務不履行」と認定し、中国景気の減速不安につながった。
20日には、前日からオランダがロックダウン(都市封鎖)に踏み切るなど石油需要への悪影響拡大が想定された。また、中国人民銀行が利下げを発表すると、かえって中国景気の弱さが意識され、この日、WTIは3.7%安、ブレントは2.7%安だった。
もっとも、翌21日には、前日に米バイオ医薬品企業モデルナがワクチンの有効性を示す発表を行っていたことや前日の下落の反動から、WTIが4.2%高、ブレントが3.4%高と上昇幅が大きくなった。その後も、米当局が新型コロナ経口治療薬の緊急使用を許可したことや、引き続き軽症化傾向が確認されたことから、オミクロン株への警戒感が後退した。
年明け以降需給引き締まり予想と ウクライナ情勢緊迫化で上昇続く
1月4日のOPECプラスの閣僚級会合では、2月も日量40万バレルの増産を行う決定がなされた。市場参加者は産油国が需要の先行きを楽観していると好感し、相場は上昇した。
11日は、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が米上院での公聴会でさほどタカ派姿勢を示さなかったことや、リビアの原油輸出ターミナルでの障害などが支援材料だった。WTIは3.8%高、ブレント3.5%高だった。
14日は、ウクライナ情勢の緊迫化から相場が上昇した。米政府は、ロシアがウクライナ侵攻の口実を作る「偽装工作」を準備しているとの情報があると表明した。17日にはUAE(アラブ首長国連邦)でイエメンの武装組織フーシ派によるドローン攻撃があり、中東情勢の悪化も不安視された。19〜20日にかけて、WTIとブレントは昨年11月の高値を上回った。
24日には、前日に米国務省が在ウクライナ大使館の職員の家族に退避命令を出したことや、この日に米国防総省が欧州派遣に備えて兵士約8500人を派遣待機としたことなどウクライナ情勢の緊迫化が投資家心理を冷やした。25〜26日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控えて今後の金融引き締めへの警戒感もあって米株価が急落し、原油も売られた。
しかし、25日は反発した。ロシア産エネルギーの欧州向け供給が停止する可能性などが意識された。また、中東では前日にフーシ派がUAEの米軍基地にミサイル攻撃を行った。月末にかけて相場は上昇傾向となった。
2月2日には、OPECプラスの閣僚級会合が開催され、3月も日量40万バレル増産するという原油生産方針が維持された。小幅増産にとどまったことで、需給引き締まり観測から相場は上昇した。
一方、4日に米政権がイランの民間原子力事業に関連した経済制裁の一部免除を復活させると表明し、8日から再開される核合意再建交渉が進展するとの期待につながった。イラン産原油の供給増加の可能性が意識され、7〜8日の相場は下落した。
しかし、11日には、サリバン米大統領補佐官が記者会見を開き、ロシアによる侵攻は「いつ始まってもおかしくない」として、ウクライナ在住米国人に48時間以内の退避を勧告した。ロシア産エネルギーの供給懸念から、WTIは3.6%高、ブレントは3.3%高となった。
14日は、ウクライナのゼレンスキー大統領が「ロシアが16日にも侵攻するとの情報を得ている。我々はこの日を連帯の日にする」と呼びかける状況を受けて、原油相場はさらに上昇した。一時、WTI、ブレントともに90ドル台後半と2014年9月以来の高値を付けた。
一方、ロシアのラブロフ外相が欧州の安全保障対話の継続をプーチン大統領に進言したと伝わり、原油が売られる場面もあった。
15日は、ロシア国防省が軍部隊の一部がウクライナ国境近くでの軍事演習を終えて基地まで撤収していると説明したことを受けて、外交的解決への期待が高まった。WTIは3.6%安、ブレントは3.3%安と下落幅が大きくなった。
16日は反発した。前日はウクライナ情勢の緊張緩和期待が先行したが、NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長が「ロシアは軍の増強を続けている」と述べ、バイデン米大統領も「ロシア軍によるウクライナ侵攻は依然あり得る」との見方を示した。
しかし、その後、米国とイランの当局者が核合意再建に向けて大きく前進したと発表したことを受けて、イラン産原油の供給が増加する可能性が意識され、17日の相場は下落した。
需要と供給の緩やかな増加の中 原油価格は高止まり
ドル建ての商品価格を抑制するはずのドル高の中でも原油相場が上昇した背景には、世界景気の回復を受けた石油需要の増加やOPECプラスの増産加速に慎重な姿勢で需給が引き締まったことに加えて、インフレに強い資産と目されたことやウクライナ情勢など地政学リスクへの警戒感もあった。
先行きについて、需要面を見ると、北半球の冬場の石油需要が一服して、需給が緩みやすい局面を迎えつつある。夏場にかけては、ガソリンを中心に需要増加観測が強まりやすくなるとみられるが、コロナ禍で落ち込んだ石油需要の回復は一巡しつつあり、需要増加ペースは鈍化すると考えられる。
供給面では、OPECプラスによる緩やかな増産が継続すると見込まれる。もっとも、供給力不足に陥っている産油国も多く、実際には毎月日量40万バレルの増産はできないとの見方もある。脱炭素化の逆風の中、米シェールオイルの増産ペースも緩やかとみられる。
原油の需要と供給がともに緩やかに増加する中、原油価格は基本的には高止まりが予想される。ウクライナ情勢の緊迫化が一服し、イラン核合意の再建がなされれば、FRBのタカ派化もあって相場上昇はいったん落ち着くだろうが、低水準の原油在庫など需給のタイトな状況は大きく変わらないと思われる。
●ロンドン外為23日 ユーロ、対ドルで下落 ウクライナ情勢を警戒 2/24
23日のロンドン外国為替市場でユーロは対ドルで下落し、英国時間16時時点は1ユーロ=1.1320〜30ドルと、前日の同時点に比べ0.0010ドルのユーロ安・ドル高で推移している。ウクライナが非常事態宣言を発令する方針を決めるなど、ウクライナ情勢を巡る緊張感が続いている。ロシアがウクライナに全面侵攻するとの警戒感は強く、地政学リスクの高まりがユーロ売り・ドル買いを促した。
円は対ユーロで上昇し、英国時間16時時点は1ユーロ=130円20〜30銭と、前日の同時点に比べ20銭の円高・ユーロ安で推移している。米欧が相次いでロシアに対する経済制裁の発動を打ち出すなど、ロシアと欧米諸国との対立関係が深まるなか、ロシアと地理的にも経済的にも近いユーロを売る動きが対円でも優勢だった。
英ポンドは対ドルで下落し、英国時間16時時点は1ポンド=1.3550〜60ドルと、前日の同時点に比べ0.0040ドルのポンド安・ドル高で推移している。23日にイングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁が英議会の財務委員会に出席し、量的金融緩和で購入した資産の売却について「政策金利が1%に達した段階で検討を始めるが、再投資停止と同じようなある意味自動的なプロセスではない」、「金融政策への影響が最も少ない時期に実施したい」などと述べ、市場環境によっては政策金利が1%になっても資産売却を見送る可能性があることを示唆した。英中銀が、市場が想定するほど積極的に金融引き締めを進めるつもりはないとの見方が広がり、ポンドに売りが出た。  
●シカゴ市場の小麦先物、2012年以来の高値−ウクライナ情勢で供給不安 2/24
23日のシカゴ市場で小麦先物相場が上昇、約9年ぶりの高値を付けた。黒海地域で供給が混乱する可能性への懸念が背景。主食の価格を世界的にいっそう押し上げそうだ。
ウクライナとロシアはともに穀物の輸出大国で、両国の緊張激化は小麦輸出に影響が及ぶとの不安を高めている。悪天候と旺盛な需要ですでに穀物在庫が減っている中で、何らかの制限があれば重要な供給源が脅かされかねない。
小麦先物は2.8%高の1ブッシェル=8.7675ドルとなり、2012年以来の高値に上昇した。
キエフを拠点とするコンサルティング会社ウクルアグロコンサルトによると、ウクライナとロシアの主要な穀物輸出拠点である黒海とアゾフ海からの船舶運航に今のところ乱れは生じていない。
●今日の株式見通し=続落、休日中のウクライナ情勢の緊迫化を受け 2/24
きょうの東京株式市場で日経平均株価は、続落が想定されている。日本の休日中にウクライナ情勢が一段と緊迫化したことを受け、幅広い業種でリスク回避の売りが先行するとみられている。休日明けの東京株式市場は、引き続きウクライナ関連の報道に左右される展開となる可能性が高く、情勢次第では日経平均は昨年来安値(2万6044円52銭=2022年1月27日)に接近すると予想されている。
日経平均の予想レンジは2万6000円─2万6500円。
23日の米国株式市場はウクライナ情勢が一段と緊迫化する中、主要3株価指数が大幅に続落した。ウクライナ議会は23日、全土に非常事態宣言を発令することを承認した。
米国務省は、ロシアによるウクライナ侵攻が差し迫っている可能性があり、米政府はロシア軍が後退している兆候を確認していないと明らかにした。
現在のドル/円は114.92円付近と、22日午後3時時点の114.68円から円安/ドル高。シカゴの日経平均先物3月限(円建て)清算値は2万6330円と22日の終値を120円ほど下回っている。
バイデン大統領は22日、ロシアがウクライナ東部の親ロシア地域の独立を承認し軍派遣を命じたことについて「ウクライナ侵攻の始まり」とし、ロシアに対する経済制裁の「第1弾」を発動すると発表した。ウクライナ情勢は日本の休日中に一段と緊迫化し、米株は連日安となっている。
市場では、ウクライナ情勢の関連報道に左右される相場に変わりはないものの、「割安感も意識され始め、中長期資金の流入が一部でみられる」(国内証券)との声が聞かれる。個人投資家との売りで綱引き状態となり、もみあう可能性が高いという。
主なスケジュールでは、国内で1月の百貨店売上高が公表されるほか、BeeXがマザーズ市場に新規上場する。米国では新規失業保険申請件数(労働省)のほか、ダイムラー(メルセデス・ベンツ)、バーレ、モデルナの企業決算を控えている。
●ウクライナに住む日本人「悩みながら生活」 事態の長期化に不安も 2/24
ウクライナ情勢が緊迫の一途をたどるなか、首都キエフの街は、普段通りの生活が続いているように見える。現地に滞在する日本人は、今の状況をどう感じているのか。どのような事情があって、日本から約8千キロ離れたウクライナにとどまっているのか。キエフに暮らす2人の日本人に聞いた。
大阪府枚方市出身の寺島朝海(あさみ)さん(21)は、昨春から地元の英字メディアで記者として働いている。10歳のとき、日系企業に勤める父親の赴任に付き添ってウクライナに来た。米国に留学したこともあるが、ほとんどの時間をキエフで過ごした。
寺島さんが市民生活の変化を感じたのは、米国が在ウクライナ大使館職員の家族に国外退避を命じ、米国人に退避を促した1月下旬だった。2月中旬、米国民に対して48時間以内の国外退去が呼びかけられると、さらに緊張が高まったという。
このとき、市民には「では ・・・
●米国人の過半、ウクライナ情勢関与に消極的 世論調査 2/24
ウクライナ情勢を巡る米国の関与に、米国人が消極的であることが分かった。AP通信などが実施した世論調査によると、ロシアとウクライナを巡る情勢について、米国人の過半数は自国が「比較的小さな役割」を果たすべきだとの見方を示した。
世論調査は2月18〜21日に、AP通信と米シカゴ大の世論調査センターが実施した。米国人の成人を対象に「ロシアとウクライナを巡る情勢について、米国はどの程度の役割を果たすべきか」を聞いた。これに対して「比較的小さな役割」と答えたのが52%、「役割を果たすべきでない」が20%だった。一方、「比較的大きな役割」と答えたのは26%だった。
バイデン米大統領は22日、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認し、ロシア軍の派兵を決めたことについて「侵攻の始まりだ」と断定。米欧日はロシアの銀行の取引制限や政権幹部らの個人資産の凍結などを決めた。
●アメリカ “ロシア軍大規模侵攻 いつ始まってもおかしくない”  2/24
緊張が高まるウクライナ情勢をめぐり、アメリカ国防総省の高官はウクライナの国境周辺に集結するロシア軍の部隊について「大規模な侵攻を行うための準備が完全にできている」と述べ、大規模な軍事侵攻がいつ始まってもおかしくないという見方を示し強い警戒感を示しました。アメリカ国防総省の高官は23日、記者団に対し、ウクライナを取り囲むように集結しているロシア軍の部隊について「最大限の準備ができており部隊のおよそ80%がいつでも出動できる準備を整えた」と指摘しました。そのうえで「われわれの評価ではプーチン大統領は大規模な侵攻を行うための準備が完全にできており、それは可能性の高い選択肢だ」と述べて、大規模な軍事侵攻がいつ始まってもおかしくないという見方を示し強い警戒感を示しました。バイデン政権はこれまでも、ロシア軍がウクライナの首都キエフを標的にする可能性があるという認識を示しています。
EU 緊急の首脳会議開催へ
ロシアがウクライナ東部で親ロシア派が事実上支配する地域の独立を一方的に承認し軍の部隊を送る構えを見せていることを受けて、EU=ヨーロッパ連合は24日にベルギーのブリュッセルで緊急の首脳会議を開くことになりました。会議の開催を呼びかける書面でミシェル大統領は「ロシアの行為は国際法に違反しウクライナの領土の一体性と主権を侵害している。さらにヨーロッパの安全保障の秩序をも脅かしている」と強調し、会議ではロシアへの対応やウクライナへの支援について協議するとしています。
ウクライナ政府 全土に非常事態宣言
ウクライナ政府は24日、ロシアによる軍事的な脅威が高まっているとして全土を対象に非常事態宣言を発令しました。ウクライナ政府は23日、ゼレンスキー大統領などが出席して国家安全保障・国防会議を開いて、すでに非常事態宣言を出している東部の2つの州だけでなく全土を対象に非常事態宣言を出すことを決めたもので、その日のうちに議会で承認されました。
非常事態宣言の期間は24日から30日間で、当局が外出禁止や移動の制限、集会の制限などの措置をとることが可能となり、国内の平穏を保ち、経済を機能させるためだとしています。
またウクライナ軍は23日に声明を出して、18歳から60歳の市民を対象に予備役の招集を始めたと発表しました。任務に当たるのは最長で1年だとしていて、ウクライナ政府は軍事侵攻への備えを一段と強化しています。
ウクライナ政府機関サイトにサイバー攻撃
ウクライナの情報セキュリティー当局は23日、複数の政府機関の公式サイトがサイバー攻撃を受けたとSNSに投稿しました。それによりますと、サイバー攻撃を受けたのはウクライナの議会や外務省などの公式サイトで、攻撃は大量のデータを送りつけることでシステムをダウンさせる「DDoS攻撃」と呼ばれるものだということです。ウクライナでは今月16日にも国防省などの公式サイトがサイバー攻撃を受けていて、これについてアメリカのホワイトハウスのサイバーセキュリティーの担当者は「ロシアが関与しているとみている」と述べ、警戒感を示していました。
国連 各国がロシアを非難
国連総会では23日、各国の代表が演説を行いました。はじめにウクライナのクレバ外相が演説し、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配する地域に「平和維持」の名目で軍の部隊を送る構えを見せていることについて「ウクライナは誰かを脅したり攻撃したりしたことはない。ロシアによるウクライナ批判はばかげている」と述べ、強く非難しました。そのうえでクレバ外相は「私たちはいま世界史の中で重要な局面にある。国連と国際社会による迅速で断固とした行動、新しいタイプの行動が必要だ」と述べ、外交を通じた平和的な解決に向けて国際社会の一致した行動を呼びかけました。クレバ外相が演説を終えると、総会議場の各国代表団から大きな拍手が沸き起こりました。このあと日本の石兼国連大使を含め各国の代表が演説を行い、ロシアの行動は国連加盟国の主権を侵害しているなどとして非難する声明が相次ぎました。これに対してロシアのネベンジャ国連大使は、ウクライナ東部ではウクライナ政府軍の砲撃などで多くの市民が犠牲になっていると改めて主張し「ウクライナによる軍事的な冒険を防ぐことに各国は集中すべきだ」などと述べ、強く反論しました。
ロシア・トルコ大統領が電話会談
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領が23日、電話会談し、両国の大統領府によりますと、エルドアン大統領は「ウクライナの主権と領土保全に反する措置は受け入れられない」として、ウクライナ東部をめぐるロシアによる一方的な独立承認に反対する立場を強調したということです。これに対してプーチン大統領は「客観的に必要な決定だった」と正当化したうえで、ロシアの安全保障上の懸念や要求がないがしろにされているとして、アメリカとトルコも加盟するNATO=北大西洋条約機構への失望を改めて示したということです。トルコはロシアとウクライナの仲介に意欲を示していて、今回の電話会談で両首脳は引き続き対話を続けていくことでは一致したということです。
●プーチン氏、トルコ大統領とウクライナ情勢巡り電話協議 2/24
ロシアのプーチン大統領は23日、ウクライナ情勢を巡ってトルコのエルドアン大統領と電話協議した。エルドアン氏はロシアによるウクライナ東部の親ロ派地域の独立承認を支持しないと伝えたうえ、緊張緩和のための仲介役になる意思を伝えた。両首脳は今後も意見交換を続けることで一致した。
トルコ大統領府によると、エルドアン氏はプーチン氏に早期のトルコ訪問を促した。北大西洋条約機構(NATO)の一員として、機構の中で「建設的な姿勢」を維持する考えも述べた。
一方、ロシア側によると、プーチン氏は、ウクライナが停戦と和平を定めたミンスク合意を履行していないなどとして、親ロ派地域の独立承認が必要だったと強調した。ロシアの欧州安全保障に関する提案を無視したとして、米国とNATOの反応に失望感を示した。
トルコは友好国であるウクライナの領土の一体性を支持する立場だが、エネルギーや経済、安全保障でロシアへの依存度は高く、対ロ関係も重視している。トルコメディアによると、エルドアン氏はプーチン氏との会談に先立ち、記者団に対して「どちら(の国)も捨てることはできない」と述べた。
●「歴史は繰り返す」ウクライナ情勢 2/24
ウクライナへの武力侵攻をチラつかせるロシアに対して、西側諸国は一致団結して経済制裁をカマさんとイカンときにや、何が「経済協力」や! ワシと年齢かわらんのに、もうボケたか? 首相に外相! 相手は、世界一広大な領土を誇りながら、北方領土を不法に侵略し、70年以上も不法に占領を続けているばかりか、それをネタにしてわが国からゼニをむしりとろうとしよるのである。
こないだの北京冬季五輪でも、国威発揚のためなら15歳の少女にまでドーピングやらせた可能性が高い国や。それを率いるのは政敵やジャーナリストまで暗殺・投獄しかねん諜報機関上がりの大統領なんやで。
「歴史は繰り返す」とは、よう言うたもんや。現在の世界情勢は約80年前の先の大戦前夜とそっくりやないか。
1938年のミュンヘン会談で、ナチスドイツは、チェコスロバキア(当時)のズデーテン地方にはドイツ系住民が多く、迫害を受けていることを理由に同地方を「ドイツに帰属させよ」と要求。英仏などはそれ以上の領土拡張を求めんことを条件にこのムチャな要求をのんだのである。
ズデーテンをクリミアなどと入れ替えたら、今のウクライナ情勢そのままやんけ。
ミュンヘン会談が、どんな事態を生んだか…賢明なる読者の皆様(さま)には説明不要やろうけど、ヒトラーをつけあがらせ、結局、世界大戦を誘発させた当時のチェンバレン英首相は、「愚相」として、歴史にその名をとどめたやんけ。世界は「21世紀のチェンバレン」を出すつもりなんか?
さらに「歴史は繰り返す」可能性があるで。1939年、不可侵条約を結んだナチスドイツとソ連(当時)は、両方からポーランドへ侵攻して分割占領。ソ連をロシア、ドイツを中国に置き換えたら、ポーランドになるんは日本やろ。13世紀の元寇の歴史が繰り返されるならば、その先鋒(せんぽう)を務めるのは朝鮮民族か? 今度は石火矢(いしびや)やのうて、核ミサイルが降ってくるで。
人類は歴史に学び、過去の誤りを正し、明るい未来を築くてか? そんなん信じとるんは日本人だけや!
●ウクライナ情勢 国連安全保障理事会が緊急会合開催  2/24
ウクライナ情勢をめぐって国連の安全保障理事会で緊急会合が開かれ、グテーレス事務総長のほか、多くの理事国が外交を通じた平和的な解決を改めて求めましたが、ロシアの国連大使は「この会合のさなかにプーチン大統領が特別な軍事作戦を決定した」と明らかにし、鋭く対立したまま終了しました。
国連安保理は23日夜、日本時間の24日昼前からウクライナ情勢をめぐって対応を協議する緊急会合を開きました。
会合の冒頭、グテーレス事務総長が発言し、ロシアがウクライナ東部に「平和維持」の名目で軍の部隊を送る構えを見せていたことについて「本当に作戦が準備されているなら、プーチン大統領に軍隊を止めるよう心の底から言いたい」と述べ、外交を通じた平和的な解決を改めて訴えました。
そして、アメリカなど多くの理事国がロシアに自制するよう強く求めました。
これに対して、ロシアのネベンジャ国連大使は「この会合のさなかに、プーチン大統領はウクライナ東部での特別な軍事作戦を決定した」と明らかにし、ウクライナ東部の住民を保護するためだと主張しました。
この発言を受けて、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は「重大な緊急事態で安保理の行動が必要だ。あす、われわれは決議を議論するだろう」と述べて、ロシアを非難する決議案を安保理で協議する考えを表明し、会合は鋭く対立したまま終了しました。
国連安全保障理事会の緊急会合の後、国連のグテーレス事務総長は記者団に対し、会合のさなかにロシアのプーチン大統領が特別な軍事作戦を実施すると明らかにしたことについて「事務総長としての在任中で最も悲しい瞬間だ」と述べました。
そのうえで、グテーレス事務総長は「プーチン大統領は、軍の部隊をロシアに戻すべきだ。この紛争を今すぐ止めなければならない」と強く呼びかけました。
●日本駐在の10か国余の大使 ウクライナ支持訴え ロシアを非難  2/24
ウクライナ情勢をめぐって、日本に駐在する10か国余りの大使などが24日、都内に集まり、ロシアがウクライナの主権を侵害する行動を続けているなどとして、ウクライナへの支持を訴えました。
これは、2008年にロシアによる軍事侵攻を受けたジョージアの在日大使館が、日本に駐在する各国の大使に呼びかけたものです。
24日は呼びかけに応じた13か国の大使や大使館関係者が都内に集まり、ロシアがウクライナの主権を侵害する行動を続けているなどとしてロシアを非難しました。
そのうえで、参加者はウクライナの国旗が印刷された紙を持って、ウクライナへの支持を訴えました。
参加したウクライナのセルギー・コルスンスキー大使は「ウクライナの人たちにも、多くの国が私たちを支持していることを知ってほしい」と話していました。
呼びかけを行ったジョージアのティムラズ・レジャバ大使は「私たちも同じようなことを2008年に経験している。領土や主権を脅かしてはいけない。ウクライナを支持するとともに、平和が戻ることを願う」と話していました。
●ウクライナ情勢の緊迫化、間接的にマレーシアにも影響しうると識者指摘 2/24
ウクライナ情勢の緊迫化を受け、マレーシアでも間接的影響を懸念する見方が広がる。マレーシア外務省によれば、在ウクライナ大使館員とその帯同家族9人を含む20人のマレーシア人が在住者として登録されている(「スター」2月14日)。同省は、そのほかの者についても安全を確保し政府からの支援を提供すべく、在ウクライナ大使館へのコンタクトと居所の登録を強く促している(注)。
2021年の貿易統計によれば、マレーシアの貿易総額に占めるロシアの比率は0.4%、ウクライナは0.1%と、いずれも主要な貿易相手国ではない。しかし、地理的に離れていても、状況が悪化すれば東南アジア全体への影響は免れないとの見解がある。その理由として、マラヤ大学で国際関係を専門とするロイ・アンソニー・ロジャース博士は「ロシア・ウクライナ間の緊張の高まりは原油生産や価格に直結する」ためだと指摘する。資源価格の高騰は、東南アジアの経済回復を妨げることが懸念されるほか、西側諸国による制裁が、(アジアも含め)ロシアの貿易相手国のマインドにも影響する可能性がある。一方で、マレーシアの立場については「ロシア、米国、中国など大国に対しては常に非同盟策を維持してきた。今回も同様だ」と分析する(「スター」2月20日)。
ASEANにおける公共問題コンサルティングを担うKRAグループのキース・レオン調査部長も、グローバル化が進展した時代において、今回の紛争はASEAN含め他地域に広範に影響し、特に新型コロナウイルス感染からの回復に大きく水を差すものだと指摘する。対ロシア制裁による石油・ガス価格の上昇も「(同様に資源国である)マレーシアに短期的には裨益(ひえき)するかもしれないが、長期的にはネガティブなインパクトの方が大きい」と強調した。
(注)参考情報として、2014年にロシア・ウクライナ間の危機が顕在化した際、同年7月にマレーシア航空MH17便がウクライナ上空でロシア製ミサイルに撃墜される事件があった。
●台湾、ウクライナ情勢でロシア主張の拒否を歓迎 中国意識し 2/24
台湾総統府は24日までに、ウクライナ情勢に関連し多くの駐国連大使がロシアによるウクライナ領土への要求を拒む立場を示したことに「勇気づけられる」とし、「世界が同様に台湾に対する中国の要求を拒む日を期待する」との見解を表明した。
総統府の報道官がツイッター上の自らの公式アカウントで述べた。
台湾外交部(外務省)はこれより前に、ロシアが親ロシア派武装勢力が拠点を築くウクライナ東部地域に平和維持軍の名目で派兵を発表したことを非難し、強い遺憾の意を示していた。
一方、中国外務省は22日、ウクライナ情勢と台湾を対比することに反論。「一つの中国」原則に言及しながら、「世界に中国は一つしかなく、台湾は奪うことの出来ない中国領土の一部であることは明白な歴史的かつ合法的な事実である」と主張した。
●トルコ経済界もウクライナ情勢を懸念 2/24
トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は2月22日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」(いずれも自称)の独立を承認したことに対して、「ロシアの決定は容認しがたい」との見解を表明した。「ウクライナでの戦争は、黒海地域全体の不安定化につながるもので、黒海地域に属する国としてわれわれは必要な対策を講じる」と述べ、両国に国際的なルールに従うよう呼びかけた。
ウクライナ情勢が緊迫する中、トルコの経済界では、国内経済への悪影響を懸念する声が出始めている。貿易において、穀類はロシアとウクライナからの輸入がトルコ全体の63.9%(2020年)を占めており、鉄鋼も24.8%と、その依存度は極めて高い。また、天然ガスは輸入全体の約3割をロシアに依存しており、一連の資源価格の大幅上昇は、すでに50%近い高水準にあるトルコのインフレ率(2022年2月16日記事参照)に追い打ちをかけると懸念されている。
また、両国では、トルコの建設コントラクターが多岐にわたるインフラプロジェクトに参入している。近年のウクライナにおける案件だけをみても、ドウシュ建設が橋、オヌル建設が空港改修、リマク建設が地下鉄建設の案件を落札している。
生産投資においては、トルコのビール醸造最大手のアナドル・エフェスが、ベルギーに拠点を置くアンハイザー・ブッシュ・インベブとの合弁企業(ABインベブ・エフェス)で、両国へ進出・生産(ロシアに11、ウクライナに3の醸造所)している。また、ガラス関連生産のシシェジャムも、両国(ロシアに5、ウクライナに1の工場)で生産を行っている。このように、トルコ企業の両国への投資には共通するセクターも多い。
加えて、地域の不安定化は、トルコからの物流にも悪影響をもたらすとみられている。国際輸送ロジスティック・サービス協会(UTİKAD)の推計によると、40〜50%のコスト増につながる可能性があるという。
同様に、トルコにとって重要な外貨収入源である観光部門でも、両国からの観光客数は合計で23%(2021年)を占めるとされる。2015年に起きたシリアでのトルコ軍によるロシア戦闘機撃墜事件で、両国関係が悪化した際、ロシアからの観光客が途絶え、トルコの経常収支悪化につながったことは記憶に新しい。既に両国の状況悪化は、トルコの観光部門に対して100億ドル相当の損失につながるとの試算もある。
トルコ政府はこういった事態を避けるため、NATOの枠内にとどまらず、独自のスタンスで両国の仲介を試みている。他方でトルコとしては、ロシア、ウクライナ双方との友好関係を維持しているものの、ウクライナの主権および領土一体性への支持、ウクライナへのドローン輸出や生産進出計画などではロシアと相いれない面もあり、微妙な状況だ。
●「侵攻の始まりだ」ウクライナではロシアに備え“徴兵”も…事態打開は 2/24
ウクライナではロシアによる侵攻に備え、近く「非常事態宣言」が発令される見通しで、軍は予備役の徴兵を始めました。アメリカはロシア軍の派兵指示を受け、「これはウクライナ侵攻の始まりだ」として米露外相会談の中止を表明。事態の打開は…。
23日、東京・港区にあるロシア大使館周辺では、ウクライナに家族がいる人らがロシアに抗議の声をあげました。
家族がウクライナにいるデモ参加者「友達と家族が向こうにいるので、ここでこれだけ(抗議活動)ができることなので」
願いは、ロシアがウクライナに侵攻しないこと。別のデモ参加者は「日本の政府と日本のみなさん、協力お願いします」と訴えていました。
そのウクライナでは22日、東部・ルガンスク州にある火力発電所から黒煙が上がる様子が捉えられました。ウクライナメディアは「親ロシア派による攻撃だ」と伝えています。
その近くには、親ロシア派が実効支配する地域があります。その地域をロシアが“独立国家として承認”しました。その結果、ウクライナのルガンスク州とドネツク州の中に、それぞれロシアが承認した“共和国”が一方的に生まれる事態になっています。
もうひとつのドネツク州の一部をめぐっても、動きがありました。ウクライナとの国境に近いロシアの港町、タガンログには「ドネツク人民共和国」から避難してきたという人たちがいました。
「ドネツク人民共和国」から避難「『ドネツク人民共和国』はロシアに助けられて、生活はよくなると思います」
ロシアが独立を認めたことを歓迎しながらも、軍事衝突を恐れてドネツクを脱出する動きが起きています。
ウクライナでは近く、「非常事態宣言」が発令される見通しです。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシアは軍に国外の地域に出ることを許可しました。我々には犯罪にしか思えません。いろいろな国からの制裁を(ロシアに対して)もっと強くしてもらいたい」
ウクライナ軍は大統領令にのっとり、18歳から60歳までの予備役の徴兵を始めました。また、市民の銃携帯の許可に向け、議会での手続きが進められています。ロシアによる侵攻に備える動きが進んでいます。
アメリカのバイデン大統領はロシア軍の派兵指示を受け、「これはウクライナ侵攻の始まりだ」と発言しました。ロシアが侵攻しないことを条件に外相会談を開き、事態の打開を図りたい考えでしたが、ブリンケン国務長官は「侵攻は始まっているとみている。このタイミングでの会談には意味がない」とし、会談の中止を表明しました。すでにロシア側に書簡を送って伝えたとしています。
一方、ロシアでは、23日は「祖国防衛の日」と呼ばれる祝日でした。その祝日に、プーチン大統領は次のように国民に語りかけました。
ロシア プーチン大統領「私たちの国は、常に直接的かつ正直な対話を受け入れています。いくら難しい問題でも、外交的解決策を探す努力をしたい。しかし繰り返しますが、ロシアの利益と私たちの市民の安全がなによりです」
ウクライナに明確に言及しなかったものの、親ロシア派地域への派兵を正当化しているともとれる発言でした。 

 

●ロシア軍がウクライナで軍事作戦  2/24
ロシア軍は24日、ウクライナの軍事施設に対する攻撃を始めたと発表し、ロシアによる軍事侵攻が始まりました。ウクライナ側によりますと、攻撃は東部だけでなく、首都キエフの郊外や南部などの軍事施設にも及んでいて死傷者もでているということです。
中国外務省報道官「平和の扉閉ざすことなく対話と協議努力を」
中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で「中国は、最新の動向を注視している。関係国は自制を保ち、状況を制御できなくなる事態を避けるよう呼びかける」と述べました。そのうえで「関係国は、平和の扉を閉ざすことなく、対話と協議の努力を続け、事態をさらにエスカレートさせないよう願う」と述べました。一方、華報道官は、ロシア側の行動がウクライナへの侵略行為にあたるかどうか認識を問われたのに対し「ウクライナ問題は、非常に複雑な歴史的背景や経緯があり、現在の状況に発展した」と繰り返し明確な回答を避けました。
東部2州の一部を事実上支配の親ロ派 “2州全域支配目指す”
ウクライナの東部2州のうち親ロシア派が事実上支配し、ロシアが一方的に独立国家として承認した地域の幹部は、地元メディアのインタビューに対し「われわれの最大の課題は、行政上の境に到達し、ウクライナ政府の支配下にある人々を解放することだ」と述べました。
武装勢力側は、ウクライナ政府が統治する地域まで侵攻し、両州の全域を支配したいとする考えを示したとみられます。
日本時間19:20すぎ NY原油先物価格 1バレル=100ドル超に
ニューヨーク原油市場では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって産油国ロシアからの供給が滞る懸念が強まり、原油価格の国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=100ドルを超えました。WTIが1バレル=100ドル台をつけるのは、2014年7月30日以来、7年7か月ぶりです。
日本時間19:00すぎ 「ウクライナ軍兵士40人以上死亡」報道
ロイター通信は、ウクライナ大統領府の関係者の話として、これまでにウクライナ軍の兵士40人以上が死亡し、数十人がけがをしていると伝えました。このほか一般市民にも被害が出ているということで、現地の当局の話として、ハリコフ州の建物への攻撃で男の子1人が死亡したと伝えています。
ウクライナ大統領「ロシアとの断交」発表 抵抗呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍がウクライナに軍事侵攻を開始したことをうけ「われわれはロシアとの外交関係を断絶した」と述べました。また、ゼレンスキー大統領は、市民に対して、武器を手にしてロシア軍に抵抗するよう呼びかけました。
17:30羽田空港発の日本航空のモスクワ便欠航
日本航空は、羽田空港からモスクワ空港に向けて出発する便の欠航を決めました。今後の運航については状況を見て判断するとしていて、ホームページなどで最新の情報を確認するよう呼びかけています。
ウクライナ「クリミアからロシア軍とみられる軍用車両が進入」
ウクライナの国境警備当局は24日、ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアから、ロシア軍とみられる軍用車両が進入してくる映像を公開しました。映像には、ロシア軍のものとみられる戦車や軍のトラックなどがウクライナとクリミアとの境を次々に越える様子や、道路を走る様子が映っています。
ウクライナ軍「ロシア軍兵士を約50人殺害」
ウクライナ軍参謀本部は公式フェイスブックで24日、ウクライナ軍が東部のルガンスク州でロシア軍の兵士、およそ50人を殺害したと主張しました。また東部のドネツク州でロシア軍の軍用機を6機、撃墜したほか、北東部のハリコフ州でロシア軍の戦車4台を破壊したとしています。
ウクライナ内務省「ロシアの攻撃でこれまでに8人死亡」
ウクライナ内務省の幹部は警察当局の情報として、ロシアによる攻撃でこれまでに8人が死亡したと発表しました。それによりますと、ウクライナ南部のオデッサ州で現地時間の午前8時半ごろ爆撃があり、6人が死亡、7人がけがをしたほか、19人の行方が分からなくなっているということです。また、東部ドネツク州のマリウポリでも砲撃で1人が死亡し、2人がけがをしたなどとしています。
日本時間17:00ごろ ウクライナ 首都キエフでは大渋滞
ロシア軍がウクライナに対して軍事侵攻を開始したことを受けて、ウクライナの首都キエフではロシアから遠い西側へ逃れようとする市民の車で大きな渋滞が発生している様子が確認できます。西側に向かう大通りでは、複数の車線が車で埋め尽くされ、ほとんど動かない状態となっています。
ロシア通貨ルーブルは最安値を更新
ロシアによるウクライナへの攻撃を受けて、外国為替市場ではロシアの通貨ルーブルを売る動きが急速に強まり、ドルに対して一時、1ドル=89ルーブル台まで値下がりしてこれまでの最安値を更新しました。これを受けてロシアの中央銀行は通貨の安定に向けて市場介入に踏み切ることを決めたと発表しました。また、モスクワの取引所は24日、株式などの取り引きを一時、停止する措置を取りました。その後、株式市場で取り引きが再開されると売り注文が殺到して株価指数は前日に比べて30%を超える値下がりとなり、金融市場は大きく混乱しています。
日本時間16:00ごろ 仏大統領「同盟国とともに行動」
フランスのマクロン大統領は声明を発表し「ロシアが軍事侵攻を決断したことを強く非難する」として直ちに軍事行動をやめるよう求めました。そのうえで「フランスはウクライナと連帯し、戦争を終わらせるために同盟国とともに行動する」としています。フランス大統領府によりますと、マクロン大統領は日本時間の24日午後4時ごろ、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ウクライナへの支援を約束したということです。
16:00 松野官房長官「国際社会と連携して迅速に対処」
松野官房長官は午後の記者会見で「ロシア軍がウクライナ領域内に侵攻したものと承知している。力による一方的な現状変更を認めないとの国際秩序の根幹を揺るがすものであり、ロシアを強く非難するとともに、制裁の検討を含めアメリカをはじめとする国際社会と連携して迅速に対処していく」と強調しました。また、現地に滞在する日本人およそ120人に被害の情報はないとしたうえで「あらゆる事態に適切に対応できるよう、近隣国でチャーター機の手配を済ませるなどさまざまな準備を行っている」と述べました。そして「ウクライナ滞在中の邦人は自身の安全を図る行動をとるとともに、最新の治安関連情報を入手するよう努めてほしい。政府としては、極めて危険かつ流動的な現地情勢の中で在留邦人の安全確保に最大限取り組んでいく」と述べました。一方、経済への影響をめぐり「一次産品の価格への影響を含め、日本経済に与える影響を引き続き注視していく。国内のエネルギー安定供給に直ちに大きな支障を来す懸念はない。国民生活や日本経済を守るために、実効ある激変緩和措置が必要であり、できるだけ早く対応策を取りまとめ、追加的な措置を講じていきたい」と説明しました。
15:30すぎ 岸田首相「G7首脳会議踏まえ追加制裁措置検討」
岸田総理大臣は国会でウクライナ情勢について質問され「今後、事態の変化に応じてG7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携し、さらなる措置をとるべく速やかに取り組んでいきたい。今夜11時からG7の首脳テレビ会議が予定されており、会議の状況も踏まえて、わが国として適切に対応を考えていきたい」と述べ、G7の緊急首脳会議を踏まえて追加の制裁措置を検討する考えを示しました。
15:30 東京 銀座で新聞号外 不安の声が聞かれる
東京 銀座では新聞の号外が配られ、受け取った人たちからは先行きへの不安の声が聞かれました。このうち食品関係の仕事をしている56歳の男性は「どの業界でもサプライチェーン・供給網などに影響は出てくるかなと思います。とてもショックで、第三次世界大戦だけにはなって欲しくないと思います。アジアの緊張も高まるでしょうし、日本もひと事ではないと思います」と話していました。また、53歳の会社員の女性は「ニュースを見てやっぱりそうなってしまったかというのが印象で、さらに石油の価格が上がるかもしれませんし、日本にどういう影響があるか心配です。怖いですし、もっと話し合いでうまくいけばよかったのにと思います」と話していました。
EU「大規模な制裁を科す」
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領とフォンデアライエン委員長は連名で声明を出し「ロシアによるウクライナへの前例のない軍事侵攻を最も強いことばで非難する。今回の不当な軍事行動は国際法に違反し、ヨーロッパと世界の安全と安定を脅かしている」として、ウクライナに対する敵対的な行動を直ちにやめるようロシアに要求しました。そのうえでロシアに対して大規模な制裁を科すと警告しました。EUは24日、ベルギーのブリュッセルで緊急の首脳会議を開き、今後の対応やロシアへの制裁について協議することにしています。
ロシア国防省「ウクライナ軍の制空権を制圧した」
ロシアの複数の国営通信社がロシア国防省の話として伝えたところによりますと、「ロシア軍はウクライナの空軍基地のインフラと対空防衛システムを無力化し、ウクライナ軍の制空権を制圧した」と明らかにしました。また「ウクライナの国境警備隊はロシア軍に対して全く抵抗していない」としています。
15:00 日経平均株価の終値 2万6000円割り込む
24日の東京株式市場日経平均株価の終値は22日より400円以上値下がりして、ことしの最安値を更新しました。ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが軍事作戦に踏み切った影響でおよそ1年3か月ぶりに2万6000円を割り込みました。
NATO事務総長 ロシアに軍事的行動をやめるよう求める
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は24日、声明を出し「ロシアのウクライナに対する無謀で正当な理由のない攻撃は大勢の市民の命を危険にさらすものだ。われわれが繰り返し警告し、外交努力を続けてきたにもかかわらず、ロシアはウクライナの主権と独立を侵害する道を選んだ」と述べ、ロシアを強く非難しました。そのうえで、ロシアに対し軍事的な行動を直ちにやめるよう求めるとともに、加盟国で今後の対応を協議する考えを示しました。
14:40 松野官房長官「これから報告受ける」
松野官房長官は総理大臣官邸に戻る際、記者団が「これまでに収集された情報について報告を受けるのか」と質問したのに対し「これからだ」と述べました。
日本時間14:30すぎ 独首相「ヨーロッパにとって暗黒の日」
ドイツのショルツ首相はツイッターに「ロシアの攻撃はあからさまな国際法違反で正当化できない。プーチン大統領による無謀な行為を最も強いことばで非難する」と投稿し、ロシアに対し直ちに軍事行動をやめるよう求めました。また「ウクライナにとってひどい日であり、ヨーロッパにとっても暗黒の日だ」としています。ドイツ政府の報道官によりますとショルツ首相は24日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、全面的にウクライナと連帯する考えを伝えたということです。
14:30ごろ 米エマニュエル駐日大使「ロシアは戦争を選択した」
自民党の茂木幹事長は、先月着任したアメリカのエマニュエル駐日大使と党本部で会談しました。冒頭、エマニュエル大使は「ロシアは戦争を選択した。ロシアにとっても簡単な選択ではない。国際社会は、これがどんな結果を招くか、はっきりと言ってきた。岸田総理大臣と日本政府が示してくれた連帯に感謝している」と述べました。これに対し茂木氏は「ウクライナの状況を大変、深刻に捉えている。何よりも重要なことは、力による一方的な現状変更の試みはウクライナだけでなく、アジアにおける東シナ海や南シナ海でも決して許容できない。価値観を共有するアメリカや日本をはじめ、国際社会が一致団結してロシアへの対応を図っていきたい」と述べました。
バイデン大統領「同盟国とともに厳しい制裁を科す」
アメリカのバイデン大統領は声明を出し、ウクライナのゼレンスキー大統領と緊急の電話会談を行い、このなかで「ロシア軍によるいわれのない不当な攻撃を非難した」としています。そのうえでバイデン大統領は「ゼレンスキー大統領は私に対して、ウクライナ国民への支持とプーチン大統領による攻撃を明確に批判するよう世界各国の指導者に呼びかけてほしいと依頼してきた。アメリカは同盟国などとともにロシアに厳しい制裁を科していく。今後もウクライナとウクライナ国民に支援を提供し続ける」としてロシアに厳しい制裁を科し、ウクライナを支援していく考えを改めて強調しました。
「金」再び最高値を更新 1g=7100円台
大阪取引所で行われている24日の「金」の先物取引は、買い注文が膨らみ、取り引きの中心となる「ことし12月もの」の価格が一時、1グラム当たり7122円をつけました。比較的安全で有事に買われやすいとされる金は、ウクライナ情勢の緊迫化を受け値上がり傾向が続いていて、今月21日に記録した7041円を上回り、取り引き時間中の最高値を再び更新しました。
原油市場 先物価格上昇
国際的な原油価格の指標の1つであるニューヨーク市場のWTIの先物価格は、一時、1バレル=97ドル台まで上昇しました。これは2014年8月以来、7年半ぶりの高値です。また、ロンドンの市場で取り引きされている北海産のブレント原油の先物価格は、2014年9月以来、7年5か月ぶりに、1バレル=100ドルを超えました。
14:30 日本政府は官邸連絡室を“対策室”に格上げ
ロシアがウクライナへの軍事行動を始めたという情報を受け、政府は、総理大臣官邸の危機管理センターに設けている官邸連絡室を、官邸対策室に格上げして情報の収集などにあたっています。
ウクライナ大統領 国民に冷静を呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNS上にウクライナ国民向けのビデオメッセージを投稿し「ロシアはウクライナ国内の軍事施設と国境警備隊への攻撃を行った。また、国内の多くの都市で爆発音が確認されている」と明らかにしました。また、アメリカのバイデン大統領と電話で会談したことを明らかにし「アメリカは国際的な支援を集めようとしている」と述べました。そして国民に対し「いまは皆さんが冷静でいることが求められる」と呼びかけたうえで「軍をはじめ防衛のためのすべての組織が対応している。私たちは強く、何事にも準備ができている。ウクライナは誰にも負けることはない」と述べました。
14:20すぎ 日本政府は国家安全保障会議を開催へ
参議院予算委員会では、岸田総理大臣とすべての閣僚が出席して新年度予算案の実質的な審議が行われていますが、休憩に入りました。休憩に入る前の質疑で、岸田総理大臣はウクライナ情勢の緊迫化を受けて「適切なタイミングでNSC=国家安全保障会議を開催したい」と述べました。
日本時間13:50すぎ 英首相「プーチン大統領 破壊の道選んだ」
イギリスのジョンソン首相はツイッターに投稿し「プーチン大統領は、ウクライナに対する攻撃によって、流血と破壊の道を選んだ」と強く非難しました。そして、イギリスや同盟国はロシアに対して断固とした対応をとると強調し、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談でもこうした考えを伝えたということです。
日本時間 正午 ウクライナ「ロシアが集中砲撃を開始した」
ウクライナ軍参謀本部は公式フェイスブックで「ロシアの武装勢力は24日午前5時、東部にある我々の部隊への集中砲撃を開始した」とロシア軍がウクライナ東部で攻撃を始めたと発表しました。また、攻撃は南部や西部でも行われているとしています。具体的な場所として、首都キエフの郊外に位置するボリスピルのほか、西部ジトーミル州にあるオジョルノエ、ハリコフ州にあるチュグエフ、ウクライナ軍の東部の拠点となっているクラマトルスク、それにウクライナ南部にあるクリバキノやチェルノバエフカを挙げています。ウクライナ軍によりますと、ロシア軍はこれらの地域にある飛行場と軍事施設に対して攻撃を開始したということです。一方、「ロシア軍が南部のオデッサに上陸したという情報は真実ではない」として一部のメディアの情報を否定しました。
バイデン大統領が政府高官から現状の報告受ける
アメリカ、ホワイトハウスのサキ報道官は23日、ツイッターに「バイデン大統領はロシア軍によるウクライナへの進行中の攻撃についてブリンケン国務長官やオースティン国防長官、ミリー統合参謀本部議長、そしてサリバン大統領補佐官から電話で説明を受けた」と投稿し、バイデン大統領が安全保障担当の政府高官らから現在の状況について報告を受けたと説明しています。
ウクライナ外相「ロシア 全面的な侵攻開始」
ウクライナのクレバ外相はツイッターに「ロシアのプーチン大統領はウクライナへの全面的な侵攻を開始した。平和なウクライナの都市が攻撃を受けている。ウクライナは防衛し、勝利するだろう。世界はプーチン大統領を止めなければならない。今こそ行動を起こす時だ」と投稿しました。ロシア側はこれまでのところ、軍事作戦を開始したかなどは明らかにしていません。
ウクライナ首都キエフで複数の爆発音
ロイター通信はウクライナの首都キエフからの情報として、現地で複数の爆発音が聞こえたと伝えました。また、東部の都市ドネツクで銃声が聞こえたと伝えたほか、地元メディアを引用する形でキエフの空港周辺でも銃声が聞こえたと伝えています。
バイデン大統領「プーチン大統領は破滅的な戦争を選んだ」
アメリカのバイデン大統領は23日、声明を発表し「プーチン大統領は破滅的な人命の損失と苦痛をもたらす戦争を選んだ。この攻撃がもたらす死と破壊の責任はロシアだけにある」として、プーチン大統領の決定を強く非難しました。そのうえで「アメリカは同盟国、友好国と結束して断固とした措置で対応する。世界はロシアに責任を取らせるだろう」として、攻撃によってもたらされる被害の責任はロシアが負うことになると強調しています。
ウクライナ国境警備局「ロシア軍がベラルーシ国境を攻撃」
ウクライナの国境警備局によりますと24日午前5時ごろ、日本時間の24日正午ごろ、ベラルーシと国境を接するウクライナ北部でロシア軍からの攻撃を受けたと明らかにしました。ロシア軍は今月20日まで、ベラルーシ軍とともにベラルーシ国内で演習を続け、終了したあとも部隊を残したままにしていました。また、ウクライナ南部で、ロシアが一方的に併合したクリミア半島からも攻撃を受けているとしています。
日本時間 正午前 プーチン大統領「軍事作戦を実施する」
ロシアの国営テレビは現地時間の24日朝、プーチン大統領の国民向けのテレビ演説を放送しました。このなかでプーチン大統領は、ウクライナ東部2州の親ロシア派が事実上、支配している地域を念頭に「ロシアに助けを求めている。これに関連して特別な軍事作戦を実施することにした。ウクライナ政府によって8年間、虐げられてきた人々を保護するためだ」と述べ、ロシアが軍事作戦に乗り出すことを明らかにしました。またプーチン大統領は「われわれの目的はウクライナ政府によって虐殺された人を保護することであり、そのためにウクライナの非武装化をはかることだ」としましたが「ウクライナ領土の占領については計画にない」と述べました。

 

●ウクライナで空爆始まったか 軍事施設にミサイル、首都で爆発音続く 2/24
ウクライナメディアによると同国内の複数の都市で24日未明、激しい爆発音が聞かれた。ロシア軍の空爆が始まった可能性がある。また、内務省当局者は国境警備隊の情報として、ロシア軍が北東部ハリコフ州の国境を越え、黒海の港湾都市である南部オデッサにも上陸を開始したと明かした。
爆発音が響いたのは東部クラマトルスクや南部オデッサなど。
首都キエフでも午前5時過ぎから朝日新聞記者が断続的に爆発音が響くのを聞いた。爆発音は30分以上にわたって続いている。
内務省当局者は、北東部の中心都市ハリコフの軍事施設とキエフの軍指令施設が巡航ミサイルの攻撃を受けたことを確認した。
ウクライナのウニアン通信によると、ロシアの航空当局は同国南部のウクライナ国境周辺の空域の飛行禁止を命じた。ウクライナ当局もロシアのプーチン大統領が軍事作戦開始を表明する前の24日未明に北東部ハリコフからロシア国境沿いの空域で飛行禁止を命じた。
●ロシアがウクライナ侵攻、防空システム「制圧」 東部で越境 2/24
ロシアのプーチン大統領は24日、軍によるウクライナでの特別軍事活動を承認した。これを受け、ロシア軍は首都キエフや東部などの都市をミサイルで攻撃、国防省はウクライナの防空システムを「制圧」したと表明した。
キエフでは明け方にサイレンが鳴り響いた。ウクライナのレズニコフ国防相は、東部の部隊や軍司令部、飛行場がロシアからの激しい砲撃を受けた明らかにした。
ゼレンスキー大統領は、ロシアが国内インフラや国境警備拠点にミサイルで攻撃を行い、多くの都市で爆発音が響いたとし、国内全土に戒厳令を発令した。
大統領はまたロシアとの断交や市民への抗戦を呼びかけた。
ウクライナ国境警備隊によると、ロシア軍はロシア、ベラルーシ、クリミアから攻撃を仕掛けた。ロシア部隊はその後、国境を越え北部チェルニヒウ、北東部ハリコフ、東部ルガンスクの各地域に入った。南部黒海沿いの都市オデッサやマリウポリにも侵攻したという。
被害状況は十分明らかになっていないが、ロシア軍の砲撃で少なくとも8人が死亡、南部では国境警備にあたっていた3人が死亡した。
一方でウクライナ軍によると、同軍はハリコフ近郊でロシアの戦車を破壊、ルガンスク近郊では兵士50人を殺害したほか、ロシア機6機を撃墜した。しかしロシア側は装甲車の破壊や航空機撃墜を否定、親ロ派はウクライナ機2機を撃墜したとしている。
ロシア国防省はウクライナの軍事施設や防空、空軍を高精度兵器で標的にしたと表明。ウクライナの都市は攻撃対象にしていないとしている。
インタファクス通信によると、ウクライナ東部の親ロ派は、ロシアが独立を承認したルガンスクとドネツク地域の制圧を目標としている。
プーチン氏は国民向けテレビ演説で、ウクライナからの脅威から自らを守る以外に選択肢がなかったと強調。「ロシア連邦の市民を含め、市民に対する多数の流血の犯罪を犯した人間を裁判にかける」と述べた。
また、外部勢力が行動を妨げようとするならすぐに対応し、ウクライナの非軍事化を目指すと表明。「わが国を直接攻撃すれば、敗北と悲惨な結果につながるということを誰も疑うべきではない」とけん制した。
バイデン米大統領は、ゼレンスキー大統領と電話で協議し、ロシアのウクライナ侵攻に対して国際的に結束して非難するため米国が取っている措置を説明したと表明。米国と同盟国がロシアに厳しい制裁を科すとともに、ウクライナへの支援と援助を継続すると述べた。
各国はロシアへの追加制裁を検討している。
中国外務省報道官は24日の定例会見で、ウクライナ情勢に関わる各国に自制を求めた。ただロシア軍の行動について、海外メディアが表現するようなウクライナへの「侵攻」ではないとの認識を示した。
●ロシア軍、ウクライナに侵攻…プーチン大統領「東部で特殊作戦を開始」  2/24
ロシアのプーチン大統領は24日午前6時(日本時間・24日正午)頃、露国営テレビを通じて緊急演説し、ウクライナ東部で「軍の特殊作戦を開始する」と表明した。演説後、首都キエフなどで爆発が相次いだ。ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まった模様だ。
米CNNは、首都キエフのほか東部ハリコフで、「絶え間なく大きな爆発音が聞こえる」と報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ政府の話として、黒海に面したウクライナ南部のオデッサにロシア軍が上陸したと報じた。
米CBSニュースによると、ウクライナ政府は「キエフを狙った巡航ミサイルと弾道ミサイルの攻撃が続いている」と認めた。
プーチン氏は演説で、親露派武装集団が一部を実効支配しているウクライナ東部で、ウクライナ政府軍による「ジェノサイド(集団殺害)」が起きていると主張し、軍事作戦の目的は市民を保護するためだと説明。「ウクライナの絶え間ない脅威に、ロシアは安全と感じることができない」と作戦の正当性を強調した。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、2014年3月に南部クリミアを併合して以来となる。ウクライナの親米欧政権の崩壊を狙っている公算が大きく、国際法に明確に違反する。
プーチン氏は、ロシアが米国や北大西洋条約機構(NATO)側に求めてきた、ウクライナをNATOに加盟させない確約を巡っても、1991年の旧ソ連崩壊以降、「30年にわたり、不拡大を巡って合意しようとしてきたが、我々を欺こうとする試みだった」などと説明した。
演説に先立ち、露大統領報道官は23日深夜、ウクライナ東部の一部を実効支配する親露派武装集団の幹部が「ウクライナ政府による軍事攻撃の撃退」を名目に、プーチン氏に軍事支援を要請したことを明らかにしていた。
プーチン氏は21日、親露派支配地域の一方的な独立を承認し、「平和維持」名目で部隊を派遣するよう国防省に命じていた。22日には露上院が、同地域での露軍の活動を承認した。
ロシアはウクライナ北方のベラルーシや、南部クリミアにも部隊を集め、東部の親露派武装集団を含め約19万人規模に膨らんでおり、ウクライナに東と北、南の3正面から同時侵攻する可能性が取り沙汰されていた。
旧ソ連構成国ウクライナを巡っては、プーチン露大統領が「歴史的な一体性」を主張し、NATOへの接近阻止を図ってきた。ウクライナを自国の「勢力圏」にとどめるため、強硬手段に踏み切ったとみられる。
ロシアは昨年12月以降、ウクライナをNATOに加盟させない確約などを「根本的な要求」として、米国とNATOに受け入れを迫ってきた。今月17日の米国宛ての文書では要求を受諾しない場合、「軍事技術的な措置」を警告していた。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は24日、ロシアがウクライナに対し「無謀で挑発的な攻撃を行った」として、非難する声明を発表した。ストルテンベルグ氏は「我々の警告と外交努力にもかかわらず、ロシアは主権のある独立国家に対し、侵略の道を選んだ」と述べた。
●ウクライナ全土に戒厳令 ベラルーシ、クリミアからも侵攻― 2/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、ロシアの本格侵攻を受けて全土に戒厳令を敷いた。既に親ロシア派武装勢力が実効支配していたウクライナ東部のみならず、隣国ベラルーシや、ロシアが2014年に一方的にウクライナからの併合を宣言したクリミア半島からもロシア地上部隊が侵入。現地からの報道によれば、少なくとも9人の死亡が確認された。
戒厳令の下では市民の私権が制限され、企業には国防上の協力が要請される。ゼレンスキー氏は動画メッセージで「多くの都市で爆発音が聞かれる。プーチン(ロシア大統領)はウクライナを破壊しようとしている」と危機感を表明。一方で国民に平静を保ち、自宅で待機するよう呼び掛けた。
首都キエフでは爆発音がとどろいた。比較的安全と見なされていた西部リビウの一帯にも、爆撃が加えられたという情報もある。国防省は声明で「敵が東部のわれわれの部隊や、他の地域の軍事拠点、飛行場への集中的な爆撃を開始した」と明らかにした。ウクライナ軍が東部でロシアの航空機やヘリコプターを撃墜したと発表したが、ロシアはこの情報を否定している。
クレバ外相はツイッターで「世界はプーチンを止めることができ、止めなければならない。今こそ行動の時だ」と訴え、「ウクライナは自らを守り、勝利する」と述べた。ウクライナの駐トルコ大使は24日、ロシア軍艦にボスポラス、ダーダネルス両海峡を航行させないようトルコに要請した。
また、ロイター通信によると、ウクライナの隣国モルドバで、大統領が非常事態宣言を発令する意向を示した。
一方、23日にはウクライナ政府の省庁や国家関係機関などのウェブサイトにアクセスできない事態が相次いで発生した。15日にも同様の事例が起きており、再びサイバー攻撃を受けたとみられる。
●ウクライナの首都キエフで爆発音 軍事作戦決定直後 2/24
米CNNは24日、現地時間早朝にウクライナの首都キエフで複数の爆発音が聞こえたと報じた。現地からの中継で記者の男性が急いだ様子で防弾チョッキやヘルメットを着用する様子を伝えた。
ロシアのプーチン大統領は24日、ウクライナ東部への特別軍事作戦を決定したと表明し、爆発はその直後に起きたものとみられる。ウクライナ情勢での緊張は極限にまで達している。
ロイター通信もキエフで砲撃のような音が複数回にわたって聞こえたと伝えた。プーチン氏の演説から数分後の出来事だとしている。ロシア国営通信は、キエフの空港付近で銃撃音が響いたと伝えた。
●ロシアがついにウクライナへ軍事侵攻…緊急サイレンが鳴り響く 2/24
ロシアがついにウクライナへの軍事侵攻に乗り出した。2月24日、プーチン大統領はウクライナ東部での特殊な軍事作戦を行うことを決断したと発表。親ロシア派勢力が支配するウクライナ東部の住民を保護することが目的としている。
ウクライナの首都・キエフでは、爆発音が鳴り響いた。
ウクライナとその周辺の地図を確認すると、ロシアが一方的に独立を承認し、住民を保護するとした親ロシア派が支配する「ドネツク」と「ルガンスク」は、ウクライナ東部の地域にある。
しかし、ウクライナが攻撃を受けたと発表したのは、首都キエフ、ハリコフ、ドニプロなど主要都市。また南東部のマリウポリにロシア軍が上陸したという報道も出ている。
さらに、ロシア軍の軍用車両がロシアの同盟国のベラルーシからウクライナに侵入したという情報も入ってきた。攻撃の対象は親ロシア派が支配するウクライナ東部に限らず、ウクライナ全土に及ぶ恐れもある。
ウクライナでは警報「子どもの命を守りたい」と話す市民も
榎並大二郎キャスター: 現在のウクライナの首都キエフの様子をご覧いただきます。こちら道路が大渋滞となっています。画面の奥が東側・ロシア方向から画面手前の西側・ポーランド方向に向かって4車線道路が、画面左から合流する車とでびっしりと埋め尽くされています。
榎並大二郎キャスター: ウクライナの市民の皆さんがあるいは車で避難を試みて移動して大渋滞を引き起こしている模様です。混乱が起きています。この映像の他にもウクライナ国内ではガソリンスタンドに行列ができていると言います
榎並大二郎キャスター: ではそのキエフから約460キロ、ベラルーシとの国境から約200キロ離れたウクライナ西部の町・リビウにいる立石修記者に聞きます。現地の様子はどうなっているでしょうか?
FNN特派員・立石修記者: (ウクライナ西部)リビウの中心地にいます。町にはパニックは起きていないのですが、音が聞こえないかもしれませんが、先ほどからサイレンの音が鳴り響いていて、警報でしょうか、非常に不気味な感じがします。これまでに爆発音などは聞こえていませんが、町の中心部から100キロほど離れた軍事施設に攻撃があったとの情報が先ほど入ってきました。しかし、確認は取れていません
FNN特派員・立石修記者: 町の様子を取材したところ、ATMの前には行列ができていたほか、出国のためのコロナ検査場にも普段より多くの人々が来ていました。空港では空の便がストップしています。アメリカから来た観光客は、荷物をまとめてすぐにポーランドに脱出すると話していました。ウクライナ市民の女性は、パニックは起こしていないが子どもの命は守りたいと話していました
加藤綾子キャスター: 数日前の立石さんの取材では、ウクライナ国内は案外落ち着いているということでしたけれども住民の方々、避難などされているんでしょうか?それから、現地でも軍事侵攻に対して何か具体的に避難など警戒を呼びかけられているんでしょうか?
FNN特派員・立石修記者: ウクライナ政府は避難の呼びかけではありませんが、家にとどまるようにとの指示を出しています。一方、リビウには親ロシア派が支配する東部地方から脱出してきた人の姿が多く見られています。リビウ市ではこれまで学生への応急手当ての訓練、シェルターの準備、輸血用の血液を増やすなどの対策をとってきました。今後の状況を市民たちも今注視しているという状況です
モスクワ市民も驚き 報道は軍事行動の正当性をアピール
榎並大二郎キャスター: 続いてロシアの首都・モスクワの関根支局長に聞きます。ロシアでは今回の侵攻をどう受け止められているのでしょうか?
FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長: プーチン大統領の決断は、モスクワの市民も驚きをもって受け止めています。ロシア国営テレビが報じているのは、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が支配している地域の状況のみです
FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長: ロシア軍がウクライナの軍事インフラを攻撃し、反撃する機能を奪っていることについては一切報じていません。「虐げられている人を助けることが目的だ」とするプーチン大統領の発言を裏付ける報道ぶりで、国民に軍事行動の正当性をアピールしています
FNNモスクワ支局・関根弘貴支局長: 今回プーチン大統領は「ウクライナ全土の占領は計画していない」と述べています。しかしプーチン大統領は、親ロシア派武装勢力を独立国家として承認したことを発表した時の演説で「ウクライナという国はロシアの歴史的領土を引き離して作られた」と主張していました。帝政時代や旧ソ連時代にウクライナになった領土を取り戻そうとする可能性も指摘されています
ロシアがどこまで軍を進めるのかがポイントに
加藤綾子キャスター: 柳澤さん。プーチン大統領も戦争はしたくないと言っていましたけれども、今回の空爆などの軍事侵攻はどういった意味があるんでしょうか?
ジャーナリスト 柳澤秀夫氏: プーチン大統領が戦争をしたくないという言葉を間に受けることは、当初からできなかったと思います。今始まっている軍事侵攻は、私がかつて戦争を取材したものから考えると、戦争の定石通りに事が進んでいるように見えます。ロシア側はウクライナの制空権を確保した上で、地上部隊が東側から入るときに空からの脅威をとにかく取り除きたい。そのためにウクライナの防空施設を最初に攻撃して、制空権を確保。そして地上部隊という教科書通りの進め方をしているのかなと思うのですが、ただ、どこまでロシア軍を進めるのか。一部情報にありましたベラルーシからウクライナに北から入ってきてるという情報が仮に本当だとすると、プーチン大統領が言ってるウクライナ全土を支配下占領するつもりはないという言葉もまったく根拠のないものになりかねないということなので。ここ数時間、あるいは1日24時間、どういうふうにロシア側が支配下に置こうとしているウクライナの東部に、地上部隊をどの程度どういう形で進めてくるのか。それを見極めることがポイントかなというふうに思います
加藤綾子キャスター: この短期間でその状況が見えてくると?
ジャーナリスト 柳澤秀夫氏: そう思います。はい
●ロシア軍、ウクライナ南部上陸 全面侵攻に 2/24
ロシア軍は24日、ウクライナ南部の黒海に面した港湾都市オデッサや東部ドネツク州マリウポリに上陸し、同国への軍事侵攻を開始した。ロシアメディアの報道として、ロイター通信が伝えた。
米CNNテレビによると、黒海に面した同国の港湾都市オデッサでも複数の爆発音が聞かれたという。ウクライナのクレバ外相はロシアが「全面的な侵攻」に踏み切ったと述べた。
●NATO「あらゆる手段で同盟国を守る」 ロシアのウクライナ侵攻 2/24
ロシアのウクライナ攻撃に対し、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は24日未明(日本時間24日昼)、「無謀かつ正当化できないウクライナへの攻撃を強く非難する。無数の市民の命を危険にさらすものだ」とする声明を出した。国際法の重大な違反であり、欧州・大西洋地域の安全保障に深刻な脅威をもたらしている、とも指摘した。
ストルテンベルグ氏は「我々は外交協議の努力を続けてきたが、主権を持つ独立国家への攻撃を選んだ」と、ロシアを非難して軍事行動の即時停止を要求したうえで、「NATOは同盟国を守るためあらゆる手を尽くす」と表明した。また、「我々は、恐ろしい時間を過ごすウクライナの人々とともにある」とも述べた。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、ブリンケン米国務長官は24日未明(米国時間)、自身のツイッターに投稿し、オースティン米国防長官とともに北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と協議したことを明らかにした。ブリンケン氏によれば、3者はNATOの連携した対応について協議。ブリンケン氏は「我々は一致してロシアに対応し、NATO(域内)の東側を強化する」と強調した。
●ウクライナ侵攻、「暗黒の日」 ロシアを厳しく非難―欧州首脳 2/24
ロシアによるウクライナへの侵攻を受け、欧州各国の首脳は24日、「ウクライナにとって恐怖の日で、欧州にとって暗黒の日だ」(ショルツ・ドイツ首相)などとロシアを最大限に非難した。
ショルツ氏は声明で、侵攻は「何をもっても正当化できない」と即時攻撃停止を促した。ジョンソン英首相もツイッターで、「プーチン大統領は、流血と破壊の道を選んだ」と指摘し、断固とした対応を取ると強調した。マクロン仏大統領はツイッターで「フランスはウクライナと連帯する」と投稿した。
ロシアと国境を接するエストニアのカリス大統領は「すべての民主主義国と、現在の秩序への宣戦布告だ」と批判。ポーランドのモラウィエツキ首相もツイッターで「欧州と自由主義の世界は、プーチンを止めなければならない」と訴えた。
●文大統領、ロシアによるウクライナ侵攻受け韓国政府の立場発表 2/24
韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領は24日、「韓国は国際社会の責任ある一因として、ロシアの武力侵攻を抑制し、ウクライナ事態を平和に解決するため経済制裁を含めた国際社会の努力を支持し、これに賛同する」と明らかにした。以下、パク首席が明らかにした文大統領の指示全文。

国際社会の継続した警告と外交を通じた解決努力にもかかわらず、遺憾にもウクライナで懸念していた武力侵攻が発生した。大切な生命の被害を脅かす武力使用は、いかなる場合においても正当化することはできない。ウクライナの主権領土保存および独立は、必ず保障されなければならない。国家間のいかなる争いも、戦争ではなく、対話と交渉で解決しなければならない。大韓民国は国際社会の責任ある一員として、武力侵攻を抑制し、事態を平和的に解決するため経済制裁を含めた国際社会の努力を支持し、これに賛同する。政府の関連部署は緊張を維持し、在留韓国人の安全確保と経済および企業に対する影響を最小化するため万全に備え、必要な措置をとるよう要請する。
●ウクライナ侵攻、プーチンが繰り出す次の一手、黒海かバルト3国か 2/24
ロシアのプーチン大統領が2月21日に、ウクライナ東部で親ロ派が支配する地域の独立を承認。同24日朝には軍事作戦を実行する方針を表明した。同地域が「ロシアに助けを求めている。ウクライナ政府によって虐げられてきた人々を保護する」との理由だ。「ウクライナ領土の占領は計画にない」というものの、親ロ派支配地域のみならず首都キエフでも爆発音が聞こえたとの情報がある。
次の一手としてどのようなシナリオが考えられるか。ベルギー防衛駐在官、またNATO連絡官としての勤務経験を持つ長島純氏は「黒海の聖域(軍事要塞)化や、バルト3国と他のNATO諸国との分断が考えられる」という。
———ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月21日、ウクライナ東部ドンバス地域の一部を実効支配する親ロ派勢力「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認。「この地域の住民をウクライナ軍による攻撃から守るため」との名目でロシア軍の派遣を指示しました。ウクライナをめぐる緊張がますます高まっています。
長島さんはロシアの軍事侵攻について最近2つのシナリオを提示されました。
長島: 私は、歴史と地理の観点から、プーチン大統領は大規模な軍事侵攻という選択肢を取らないとみています。プーチン大統領の最終的な望みは、欧州から米国の影響力を排除して、旧ソ連時代の版図を取り返すことだからです。単にウクライナを勢力圏に取り戻すだけでは十分ではありません。プーチン大統領にとって、ウクライナへの軍事作戦は目的ではなく一手段でしかなく、欧州は終わりの見えない戦いが始まったと考えるべきです。
プーチン大統領の目にロシア周辺の地図は次の3つに色分けされて映っていると考えます。第1は旧ソ連圏。ロシアのほか、ウクライナ東部やジョージアが含まれます。第2は併合圏。ロシア革命や第2次世界大戦前後の混乱の中で併合したバルト3国やウクライナ西部などです。そして第3が影響圏。中・東欧諸国がこれに当たります。旧ソ連圏の国々を、戦略的要衝としてロシアの側にとどめておく。そして、併合圏や影響圏の国々から、米国、NATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)などの影響力を排除することがプーチン大統領の目標なのです。
今が「好機」である3つの理由
———では、プーチン大統領はなぜ今、ウクライナで緊張を高めているのでしょうか。
長島: いくつか背景があります。
1つは、ウクライナのNATO加盟をめぐる動きです。NATOは6月にスペイン・マドリードで首脳会議を開き、戦略指針を改定する予定です。同指針はおおむね10年に一度見直すNATOの基本戦略で、日本の国家安全保障戦略のようなものです。この一環として、例えば、ウクライナを「加盟のための行動計画(MAP=Membership Action Plan)」に参加させるような動きが始まっているとロシアが感じ取ったのかしれません。
———MAPは、ある国がNATO加盟国となるための準備を支援するプログラムですね。MAPへの参加が決まれば、ウクライナのNATO加盟が一歩前進することになります。2008年にもウクライナのMAP参加が議論されましたが、ドイツとフランスが反対して見送られた経緯がありました。理由の1つが、NATOとロシアとの関係悪化につながりかねない、でした。
長島: 第2は米国の動きです。中国を念頭にインド太平洋地域を重視する姿勢を打ち出す中、欧州における米国のプレゼンスが縮小しています。オバマ政権が2013年に「世界の警察官」ではないと宣言。トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げて、米国の欧州防衛に対する信頼性を損ないました。
バイデン政権になってもこの傾向は期待されたほど改善していません。今回も同政権が発信するメッセージには好ましくないものがいくつもあります。例えば、1月21日にバイデン大統領自ら、ロシアによるウクライナ侵攻が小規模なら代償も小規模にとどまる可能性を示唆しました。これはNATO内でも物議を醸しました。
また、ウクライナ国境付近で緊張が高まる中、ロシアに対する経済制裁の可能性を繰り返す一方で、米国による軍事行使の可能性は早くから明確に否定するなど、米国の積極的なコミットメントを期待していた欧州諸国の失望を強める結果になっています。2014年のクリミア併合時と同様に、ロシアへの経済制裁は、西側諸国にとってもろ刃の刃です。ロシアへの効き目は期待できず、制裁効果を強くしようとすれば、それは西側諸国の経済への悪影響になってしまいかねません。米欧同盟は、軍事的な危機に直面する中、大きな転換点を迎えていると言っても過言ではないでしょう。
米国が軍事技術においてロシアに後れを取っているのも、プーチン大統領の判断に影響しているでしょう。米国は冷戦後も、イノベーションを通じて軍事能力面での優位性を確保してきましたが、例えば、最新の極超音速滑空体(HGV)の開発において大きな後れを取っています。ロシアはミサイル防衛網を突破し得る長射程戦略兵器「アバンガルド」を2019年に既に実戦配備。今回のベラルーシとの合同演習「同盟の決意2022」でもその他の各種HGVの実戦能力を見せつけました。これに対して米国は、HGVの試験で失敗を繰り返していて、まだ開発の途上にあります。
中距離ミサイルについても同様です。米国は中距離核戦力(INF)廃棄条約の違反を繰り返すロシアに対して、同条約が課す義務の履行を停止すると2019年2月に表明。同条約は失効しました。しかし、米国の中距離ミサイル開発は終了しておらず、欧州への配備についても予定が立たない状況です。
第3はロシアの事情で“クリミア効果”が薄れていること。2014年にクリミア半島を併合したことで、プーチン大統領の支持率は上昇に転じました。
———60%強に下がっていた支持率が68%に上昇したと報じられました。
長島: この効果が薄れてきているので、歴史的な長期政権を目指すプーチン大統領としては、対外的に強硬姿勢を示すことで国民の愛国心を改めて鼓舞し、自身の求心力をより強化する必要があります。
ただし、「今が好機」という面はあるものの、プーチン大統領は様々なコストを計算して、軍事作戦を短期集中型のものにとどめると考えます。米欧が本格的な経済制裁に進めばロシア経済が大打撃を受けます。これはプーチン大統領としても避けたいところです。また、軍事作戦が長期化すれば、兵士や装備への被害も大きくなり、国内世論の変化にも敏感にならざるを得ません。これもロシアが避けねばならないことだと思います。
そのためにも、NATOが展開するバトルグループ(戦闘群)と直接戦闘する可能性はできる限り排除し続けるでしょう。バトルグループは現在、バルト3国とポーランドで活動しています。2月16日のNATO国防相会議では、ルーマニアに新たな部隊を配備することが決まりました。
黒海をオホーツク海のような聖域に
———以上の前提を踏まえて、2つのシナリオについてお伺いします。
長島: プーチン大統領は、本格的な軍事侵攻から限定的な小規模作戦まで、あらゆる軍事オプションを準備しています。私が注目する第1のシナリオは、オチャコフ(Ochakov)もしくはベルジャンスク(Berdyansk)という黒海・アゾフ海に臨む港湾地帯を占領することです。
オチャコフはクリミア半島の西の付け根に位置する港湾都市。ベルジャンスクはクリミア半島の東側、アゾフ海の北岸に位置する港湾都市です。どちらもウクライナ領内にあり、米英の支援を得てウクライナが軍港化を進めています。これらの港を含む沿岸、海域からNATO海軍力の影響を排除することは、作戦上の緊急性と重要性があります。
背景には、ロシアが地政学でいうところのランドパワーとしての性格を強く有していることがあります。
———ユーラシア大陸の内陸部に位置するロシアは、大陸国家であり、さらなるパワーを求めて海洋進出を図る特性を持つとされます。過去の大きな争いは、このランドパワーとその拡大を抑えようとするシーパワーとの衝突という性格を帯びてきました。
長島: ランドパワーであるロシアは難攻不落の要塞と呼ばれる戦略要衝にあるのは事実ですが、これまでも不凍港を求めて南下政策を取ってきました。現在はバルト海に面したカリーニングラード、日本海に臨むウラジオストクなどがロシア領内の不凍港として挙げられます。加えて、シリアのタルトゥース港を使用できるよう同国政府と合意しています。
———ロシアはロシア黒海艦隊の基地をクリミア半島の先端セバストポリに配置しています。これがあるがゆえに、ロシアは同半島を併合したわけですね。ウクライナがNATOに加盟して、この基地が使用できなくなれば、ロシアは黒海から地中海を経て大西洋に抜ける海洋ルートを利用できなくなってしまいます。
長島: 確かにそのとおりです。
せっかくセバストポリを手中に収めたのに、そのすぐ西隣のオチャコフや東隣のベルジャンスクに西側の軍港ができればロシアにとって面白い話ではありません。黒海艦隊の行動が制約を受ける恐れがありますし、セバストポリの安全も脅かされかねません。
ロシアとしては、黒海から西側勢力を追い出し、オホーツク海のように聖域(軍事要塞)化したいのだと思います。
———ロシアはオホーツク海に戦略核兵器を搭載する原子力潜水艦を配備して、核抑止の要にしています。核による先制攻撃を受けても、隠密性に優れる潜水艦が残れば、反撃に転じることができる。新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」を搭載するボレイ級原子力潜水艦を、ウラジオストクを拠点とする太平洋艦隊に配備する予定です。
長島: ベルジャンスクについては、ウクライナ東部の独立を承認した地域に派遣するロシア正規軍とクリミア半島に駐留するロシア正規軍で挟み撃ちにすることができるでしょう。プーチン大統領がドネツクとルガンスクへの派兵命令を出したのは、こうした狙いがあるのかもしれません。
黒海をめぐる行動はロシアにとって、費用対効果においてコストの大きいものではありません。クリミア半島併合という既成事実の延長線上にある軍事オプションであり、しかも、西側がいかに反応するかを確かめながら進めることのできる選択肢と言えるでしょう。
NATOが警戒するポーランド・バルト3国間の国境封鎖
———第2のシナリオはどのようなものですか。
長島: ロシアが、戦略的要衝と位置付けられるスバルキ・ギャップ(Suwalki Gap)*をコントロール下に置くシナリオです。NATO諸国にとっては、こちらの方がより重大な問題となります。NATOの結束がかかるからです。NATOが現在展開している部隊の配置を見ると、北方つまりスバルキ・ギャップを意識した布陣になっていることが分かります。 *:「ギャップ」は回廊、補給路の意味
特に、バルト3国などに展開されるNATOバトルグループや各加盟国からの増援部隊は、NATOが緊急展開部隊(NRF)を派遣するための「引き金(トリップワイヤ)」としての役割を果たすほか、非常時において国内の治安維持や避難民対応の責任を担うものです。
———スバルキ・ギャップは、北に位置するリトアニアと南に位置するポーランドを隔てる国境線で、その距離は東西方向に100kmほど。その西端はロシアの飛び地であるカリーニングラード。東端は、ロシアの友好国ベラルーシの西端に当たります。世界の安全保障のフロントラインは、冷戦時代のドイツ・ベルリンからスバルキ・ギャップに移動したとの見方があります。
長島: ロシアがこのスバルキ・ギャップを支配下に収めれば、ポーランドとバルト3国*との間の狭隘(きょうあい)な連絡路が遮断され、バルト3国が孤立することになりかねません。兵器も人員もバルト3国に送ることができなくなる。NATOとしては後方支援面でも手の出しようがなくなってしまうのです。 *:リトアニアの北にはラトビア、さらに北にはエストニアがある。
———冷戦期にNATOが重視したフルダ・ギャップ(東ドイツ=当時=と西ドイツ=同=結ぶ回廊)の21世紀版というわけですね。NATOはワルシャワ条約機構軍の戦車がこの回廊を通って西ドイツに侵入し、わずかの期間でフランクフルトを占領するシナリオを恐れていました。
スバルキ・ギャップをロシア軍もしくはベラルーシ軍が抑えるためにはポーランドおよびリトアニアの領土に侵入することになります。そうすると、NATOと本格的な戦争をすることになりませんか。
長島: そこは、ハイブリッド脅威による戦い方として、様々な非軍事的なやり方があるかと思います。例えば、リトアニアに暮らすロシア系住民がロシアに力を貸すかもしれません。ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州では実際、親ロ派武装勢力がかなりの範囲を実効支配してきて今日に至ります。
2014年のクリミア半島併合の始まりのように、国籍不明の戦闘員が活動することもあり得るでしょう。クリミアでは、ロシア兵なのかどうか分からないグリーンの迷彩服を着た集団が地方政府庁舎や警察署などを襲撃しました。
さらには、夜陰に乗じてこれらのいずれかが地雷を敷設して、交通を遮断することも考えられます。
ロシア側が、事態拡大を恐れてNATOバトルグループと直接戦闘を交えることを避けようとするならば、増援部隊がこの回廊に接近してこないように長射程のミサイルを配備して、NATOの動きを事前にけん制しようとするでしょう。特に、カリーニングラードに配備しているミサイル発射装置「イスカンデル」は西側にとって大きな脅威です。
———イスカンデルから発射する弾道ミサイル「9M723」は迎撃が困難なことで知られます。最高高度50kmと低い軌道で飛翔(ひしょう)するためレーダーで探知するのが困難。着弾前のターミナルフェーズで軌道を変える能力を備えるので着弾地点を計算するのも難しい。核弾頭も搭載できるデュアルユースであることも脅威の度を高めています。
長島: 今後、ロシアがカリーニングラードに極超音速兵器を配備することも考えられます。さらに、ベラルーシ側にもイスカンデルや極超音速兵器を配置する可能性がある。そうなれば、イージス・アショアによるミサイル防衛態勢を備えるNATOにとっても、悪夢を意味します。
———スバルキ・ギャップを遮断するロシアの意図はどこにありますか。
長島: NATOを分断するための心理戦の一環と位置付けることができます。NATOからの支援を得られなければ、バルト3国は、ロシアの侵攻に対して非常に脆弱であり、NATOに対して不信感を抱くでしょう。
この不信感は隣国ポーランドに伝染しかねません。「次はポーランドが捨てられるかもしれない」と。そして、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアへと伝わっていく。それは、政治同盟でもあるNATOにとって、加盟30カ国を擁する同盟の根幹を揺るがしかねない事態です。
今回のウクライナ危機を契機に、NATO同盟国の中で「ファーストクラス」「セカンドクラス」という言葉を聞くようになりました。おそらく、ファーストクラスは冷戦が終結する前からNATOに加盟していた西欧の国々。セカンドクラスは冷戦後に加盟した東欧やバルト3国などとみられます。
この区別は、ロシアがプロパガンダの一環として使い始め流布させたようです。北大西洋条約の集団防衛条項(第5条)*の考えに背くものであり、セカンドクラスの国々は、ファーストクラスの国々から見捨てられる不安を抱くことになりかねません。このような心理的な分断が、スバルキ・ギャップでの物理的分断によって増幅される恐れがあるわけです。 *:加盟国の一国に対する攻撃を全締約国への攻撃とみなす
ロシアの“属国”と化したベラルーシ
ロシアがスバルキ・ギャップを舞台にこうした心理戦を展開できるのは、ベラルーシとの関係改善があるからです。その背景に、ベラルーシに対する西側諸国の厳しい態度や制裁が大きく作用したとの見方があります。
———確かにベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は就任した当初はロシアを警戒していた印象があります。
長島: 当初はどちらかと言えば欧州寄りでした。しかし、その後、ルカシェンコ政権が(1)難民を意図的に集め西側に不法に越境させた、(2)2020年の大統領選をめぐる不正疑惑をきっかけに起きた抗議デモを弾圧した、などを理由に西側が制裁を発動しました。ルカシェンコ大統領はこれに反発し、ロシアとの関係強化に傾いたのです。同政権は、今ではロシアと非常に良好な関係を維持しています。
———ロシアの専門家の間では、ベラルーシは事実上「ロシアの属国」になったとの見方があります。この流れが大きくなったのは、ご指摘の大統領選挙でした。ルカシェンコ陣営による不正疑惑が浮上し、抗議デモなど、同大統領の退陣を求める動きが拡大しました。この状況を押さえ込むのに、ルカシェンコ大統領はロシアに依存したとされています。プーチン大統領はロシア内務省傘下に予備警察隊を設置し、介入する体制を整えました。
反ルカシェンコ派は「同大統領は倒したい。しかし、倒せばロシアの介入を招く」というジレンマに陥りました。この過程で、反体制派のシンボル的存在となったスベトラーナ・チハノフスカヤ氏らが国外に避難せざる得なくなったのは印象的でした。
西側諸国はベラルーシに経済制裁を発動。このためベラルーシは経済でもロシアを頼ったとされます。
長島: 現在行われている合同軍事演習「同盟の決意2022」もベラルーシ側から要請したといわれています。ロシア側は前回の2021年9月の合同演習「ザーパド」から時間がたっておらず、「まだやらなくてよい」という考えでした。
ベラルーシ軍とロシア軍の一体化も進みつつあります。シリアでの作戦では、ロシア軍の指揮下にベラルーシ軍が入ることが検討されています。これが今後、軍全体に及ぶ可能性も否定できません。
———ベラルーシとロシアは2021年11月には28項目からなる経済統合計画に署名。さらに新たな軍事ドクトリンにも署名しました。いずれも内容は不明ですが、新軍事ドクトリンにおいて、長島さんが指摘された軍の指揮権の問題が定められているとの見方があります。ベラルーシ軍が事実上、ロシア軍の“ベラルーシ軍管区”になってしまう。
長島: さらに、ルカシェンコ大統領が起草中の改憲案には、ロシア軍の常駐を認める条文があるとして、米国防総省が警戒しています。その常駐するロシア軍が核兵器を備える可能性もある。そうなればNATOにとって最悪のシナリオでしょう。「同盟の決意2022」で様々な核兵器を取り上げているのは、この最悪のシナリオをNATOに意識させるためのメッセージと考えられます。
プーチン大統領は2014年にクリミア半島を併合する際にも「核兵器を臨戦態勢に置く用意があった」と明らかにしています。
———ロシアは同演習において、ICBM(大陸間弾道ミサイル)「ヤルス」や、航空機から発射する極超音速弾道ミサイル「キンジャール」を発射しました。いずれも核弾頭を搭載することが可能です。
さらに、ルカシェンコ大統領は2021年12月、クリミア半島について「住民投票後、クリミアは事実上、法的にもロシアになった」と発言し、併合を承認しました。
ベラルーシの動きからも目が離せません。 
●日経平均が続落、午前終値288円安 昨年来安値下回る 2/24
24日午前の東京株式市場で日経平均株価は続落し、前引けは前営業日比288円15銭(1・09%)安の2万6161円46銭と、1月に付けた昨年来安値(2万6170円)を下回った。ウクライナ情勢をめぐる地政学リスクの一段の高まりを嫌気した売りが優勢だった。下げ幅は一時300円を超えた。
ロシアがウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認して派兵を決定。外交的解決の糸口になるとみられていた米ロの外相会談や首脳会談が22日に相次いで撤回された。事態の深刻化を受けて米ダウ工業株30種平均は22〜23日の2日間で900ドル超下げ、祝日明けの東京市場も運用リスクを回避する売りがかさんだ。
ブリンケン米国務長官は23日、米NBCテレビのインタビューで「ロシアはウクライナに対して侵攻するための準備が整っているようだ」との見解を示した。近く大規模に侵攻する可能性に言及し、投資家の不安をさらに高めた。
日経平均が昨年来安値を下回った後は主力銘柄に買いも入って下値を支えた。三井住友DSアセットマネジメントの石山仁チーフストラテジストは「2万6000円が心理的な節目として意識されるなか、(米ロ間で)一段と緊張が高まるのか、何らかの妥協策が見いだせるのかを見極めようと、様子見の雰囲気が強まった」とみていた。
JPX日経インデックス400と東証株価指数(TOPIX)は続落した。
前引け時点の東証1部の売買代金は概算で1兆5605億円、売買高は6億4850万株だった。東証1部の値下がり銘柄数は1349と、全体の約6割を占めた。値上がりは723銘柄、変わらずは108銘柄だった。
ファナックやスクリン、フジクラが下落した。京王や小田急も安い。半面、住友鉱やDOWAが買われた。川崎汽、商船三井も高い。
●原油急騰、100ドル突破 ウクライナ侵攻で7年ぶり 2/24
ロシアのウクライナ侵攻を受け、原油価格の代表的な指標の一つの英国産北海ブレント先物相場が24日、1バレル=100ドルを突破した。2014年9月以来、約7年5カ月ぶり。市場ではさらに上昇するとの見方もあり、ガソリン高などを通じ日本の消費者にも影響が出そうだ。
北海ブレントは前日比5%超値上がりし、102ドル台を付けた。年初からの上昇率は約30%に達した。もう一つの指標である米国産WTI先物相場も一時、前日比5%超高の97ドル台と急騰した。
欧米諸国によるロシア経済制裁と、それに対する報復措置が原油市場に混乱をもたらすとの懸念が広がった。石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどで構成する「OPECプラス」は現時点で追加増産に慎重な姿勢を崩していない。米国などでシェールオイルの開発が進む可能性もあるが、石油の需給は当面逼迫(ひっぱく)する恐れがある。

 

●ロシア ウクライナ軍事侵攻 “80以上の施設攻撃”ロシア国防省  2/25
ロシアは24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、ロシア国防省はこれまでに11の空港を含むウクライナ軍の80以上の施設を攻撃したと発表しました。プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しました。ロシアによる軍事侵攻は24日、ウクライナの各地で始まり、ロシア国防省はこれまでに11の空港を含むウクライナ軍の83の地上施設を攻撃したと発表しました。ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、あくまでも軍事施設を対象にした攻撃であり、民間人に対する脅威はないと主張しました。
一方、ウクライナ軍参謀本部によりますと、首都キエフの郊外にある軍事施設が巡航ミサイルの攻撃を受けたほか、ウクライナ軍の東部の拠点となっているクラマトルスクや、南部にある軍事施設など各地で攻撃が続いたということです。ゼレンスキー大統領は国民に向けて演説し、一連の攻撃でこれまでにウクライナ人137人が死亡し、316人がけがをしていると明らかにしました。また、ウクライナ大統領府の幹部は地元メディアに対して、国内にあるチェルノブイリ原子力発電所が激しい戦闘の末、ロシア軍の部隊に占拠されたとしています。敷地内にある放射性廃棄物の貯蔵施設の状態は不明だということです。
さらに、ウクライナ東部の親ロシア派の幹部は、ウクライナ政府が統治する地域まで侵攻し、2つの州の全域を掌握したいとする考えを示しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻を強く非難したうえで、ロシアとの国交の断絶を表明しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は24日、国内の経済界との会合で「いま起きていることはすべて必死の手段だ。ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しました。ロシア軍は、欧米側の警告を無視してウクライナ各地で軍事侵攻に踏み切り、国際社会からの非難が強まっています。
被害現場の様子は
ロイター通信は、ロシア軍が攻撃を行ったとされる、ウクライナ東部、ハリコフ州での複数の被害現場の様子を伝えています。このうち、州都のハリコフにある建物の室内を映した映像では、部屋の屋根や壁が大きく崩れ、破片が床に散乱して足の踏み場もない状態になっています。また、州内の別の都市のチュグエフにあるマンションは、壁一面の窓ガラスのほとんどが割れてなくなり、ベランダの部分がめちゃくちゃに壊れ、がれきが地面に散乱しています。近くには、毛布にくるまって不安そうに電話をかける女性や、壊れたマンションの前で立ちすくむ人たちの姿もありました。一方、親ロシア派が事実上支配している東部のドネツク州でも被害が出ていて、避難を余儀なくされる住民からは不安やとまどいの声が聞かれました。住民の女性たちは「自分の家を離れなければならない。いったい何が起きているのか」とか「1人なのにどこに逃げればいいの」などと半ば叫ぶように話していました。
防空ごうとして使用か 地下鉄の駅に多数の市民集まる
ウクライナ第2の都市、ハリコフでロイター通信が24日に撮影した映像では、多くの市民が薄暗い地下鉄の駅の構内で硬い床の上で隙間なく座ったり、身を寄せ合ったりしている様子が確認できます。小さな子どもを連れて避難して来た人や床の上で横になって休む人の姿もみられます。駅に避難してきた男性は「軍は私たちに地下鉄の駅に集まるよう呼びかけている。ロシア軍が怖い」と話していました。海外メディアによりますと、首都のキエフでも地下鉄の駅が防空ごうとして使われ、大勢の人が集まった場所もあるということです。
ウクライナと国境接するポーランドに避難の人々
ウクライナと国境を接するポーランドには車や列車などでウクライナの人々が逃れ始めています。このうちポーランド南東部の町メディカにある国境では、24日、仕事などでの通常の往来に加え、ウクライナ側から歩いて国境を渡る人たちが目立ち、ベビーカーを押す母親や、スーツケースを引く家族の姿が見られました。また、国境に近い都市、プシェミシルの駅では、予定より4時間ほど遅れてウクライナの首都キエフからの列車が到着しました。ホームにはポーランドの国境警備隊や警察が出動し、ものものしい雰囲気の中、乗客は足早に駅をあとにしていました。ポーランド政府は、ウクライナから多くの避難民を受け入れる用意があるとしていて、国境近くのスポーツ施設には、避難所が設けられ、地元の消防隊員たちが、マットレスを運び込んで準備を進めていました。
ウクライナ側発表の被害状況
ウクライナ大統領府の補佐官は24日の会見で、ロシア軍の侵攻開始以来、ウクライナ軍の兵士40人以上が死亡し、数十人が負傷したと発表しました。現地メディアによりますと、補佐官は、被害は主に空爆やミサイル攻撃によるものだとしたうえで「一定の消耗はある」としながらも、人員、弾薬、戦闘能力のいずれにも深刻な影響は出ていないという見方を示しました。また、ロイター通信は、地元当局の話として、黒海沿岸の港湾都市オデッサ周辺では、ミサイル攻撃によって市民など少なくとも18人が死亡したと伝えています。さらに、ウクライナ警察の発表として24日にロシア側から203回にわたって攻撃を受け、領土のほぼ全域で戦闘が繰り広げられていると伝えています。ウクライナのクレバ外相は「ロシアの侵攻は東部にとどまらず、多方面から全面的な攻撃を受けている。ウクライナは防衛を続ける」とSNSに投稿し、国内全土に戦闘が広がっているとしました。また、ウクライナ軍参謀本部はSNSで24日、ウクライナ軍が東部のルガンスク州でロシア軍の兵士およそ50人を殺害したとしました。
米 国防総省「大規模な軍事侵攻の初期段階にある」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻についてアメリカ国防総省の高官は24日「大規模な軍事侵攻の初期段階にある」と指摘し、首都キエフに侵攻し、ウクライナ政府を崩壊させることを意図しているという見方を示しました。具体的には、ロシア軍は人口が集中する地域を奪取するため、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシから首都キエフに向かうルートなど、主に3つのルートで前進しているとしています。また、ロシア軍の最初の攻撃では短距離弾道ミサイルをはじめ、中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルなど推定で100発以上が発射されたほか、爆撃機などおよそ75機が使われたとしました。これらの攻撃は弾薬庫や飛行場など軍事施設を主な標的としていて、民間人を含む死傷者の数は分からないとしています。国防総省の高官は「ロシアは首都キエフに向かっていて、われわれの分析では彼らはウクライナ政府を崩壊させ、自分たちの統治方法を確立するつもりだと考えられる」と指摘しました。この高官は、ウクライナに軍事支援などを続ける方法を探るとしましたが、ウクライナ国内にアメリカ軍の部隊を派遣することはないと重ねて強調しました。
ゼレンスキー大統領「新たな鉄のカーテンが下りた」
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、国民に向けて演説を行いました。この中でゼレンスキー大統領は「私たちがいま耳にしているのは、ロケットの爆発音や戦闘の音、軍用機のごう音だけではない。新たな鉄のカーテンが下りてロシアを文明世界から切り離す音だ。このカーテンを私たちの国に下ろすのではなくロシア側にとどめなければならない」と述べ、東西冷戦時の「鉄のカーテン」という表現を用いてロシアを非難しました。一方、多くのロシア市民も今回の侵攻に衝撃を受け、中にはSNSで反対を表明している人もいるとして、こうした人々にプーチン大統領に直接、訴えかけてほしいと呼びかけました。そしてウクライナ国民に対しては「祖国防衛に協力し、軍や国境を守る部隊に参加してほしい。敵にさらなる侵攻を許すかどうかは私たちの対応にかかっている。献血などを行ってボランティアや医療関係者も助けてほしい」と述べ、国民に結束と協力を呼びかけました。さらに世界の政治指導者に向け「自由世界を率いるあなたたちがいま私たちに手を差し伸べなければ、あすはあなたたちが戦禍に見舞われるだろう」と述べ、ウクライナへの支援を呼びかけました。
プーチン大統領 各国首脳と相次ぎ会談
ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を開始したあとの24日、モスクワを訪問中のパキスタンのカーン首相と会談しました。パキスタン首相府によりますと、この会談は、アフガニスタンの人道支援などを話し合うためもともと予定されていたものだということです。このなかで、カーン首相はウクライナの情勢について、遺憾の意を表し、外交によって軍事衝突を回避するよう望むとプーチン大統領に直接伝えたということですが、会談でのプーチン大統領の発言はこれまでのところ、伝えられていません。また、インド政府によりますと、24日夜、モディ首相とロシアのプーチン大統領が電話で会談しました。この中でモディ首相は、ロシアとNATO=北大西洋条約機構の間の相違は真摯(しんし)な対話によってのみ解決できると指摘したうえで、暴力の即時停止と、外交の場に戻るためにすべての当事者が一致して取り組むことを求めたということです。一方、インド外務省のシュリングラ次官は24日夜の会見で、ロシアに対する制裁について「アメリカやEU、オーストラリア、日本、イギリスなどが追加的な制裁を科すとしているが、事態は刻々と変化しており、これらの措置が自国の利益にどのような影響を与えるのか慎重に見極める必要がある」と述べ、直ちに制裁などの措置をとる考えはないことを明らかにしました。インドはロシアと長年友好関係にあり、特に軍事面の結び付きが強いことで知られています。イラン大統領府は、24日、ライシ大統領が、ロシアのプーチン大統領と電話で会談したと発表しました。この中でライシ大統領は「NATO=北大西洋条約機構の東方への拡大は、さまざまな地域の安全や安定に対する深刻な脅威だ」と述べて、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったロシアの立場に理解を示しました。そのうえで「この事態があらゆる国民や地域にとって恩恵がある形で終わることを望む」と述べたということです。これに対し、プーチン大統領は「現状起きていることは、ロシアの安全保障を脅かす西側の行為に対する正当な対応だ」と応じたとしています。イランは敵対するアメリカに対し、制裁の解除などを求めて間接的な協議を続けていますが、このところ、同じようにアメリカとの対立を深めるロシアとの関係を強化する姿勢を鮮明にしています。
仏 マクロン大統領 プーチン大統領と電話会談“軍事作戦停止を”
フランスのマクロン大統領は24日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談しました。フランス大統領府によりますと、マクロン大統領は、今回の軍事作戦によってロシアは大規模な制裁にさらされているとして、プーチン大統領に対しウクライナでの作戦を直ちにやめるよう求めたということです。ただ、これに対しプーチン氏がどう答えたかなど、詳しいやり取りの内容は明らかにされていません。
米各地でロシア軍事侵攻に抗議のデモ
アメリカでロシアの軍事侵攻に抗議するデモが各地で行われました。このうちニューヨークでは、ウクライナ出身の人など数百人が集まり、「戦争反対」や「ウクライナはロシアの一部ではない」と書かれたプラカードを掲げながら、ウクライナの国歌を歌ったり「今すぐロシアを止めろ」などと声を上げたりしていました。13歳の息子と一緒に参加したウクライナ出身の女性は、「自分と夫が生まれた場所が攻撃されているのでここに来ました。ウクライナで何が起こっているのか、アメリカや世界の人々に知ってもらいたいです。世界は再び団結する必要があります」と話していました。また、家族や親戚がウクライナに住んでいるという女性は「この2、3週間、希望を持っていましたが、実際にこんなことが起こり、ショックで信じられません。ウクライナ西部にいる父方の親戚からは連絡がないので私たちはただここで祈るしかありません」と話していました。
仏 英でロシアへの抗議デモ
ロシアの軍事侵攻に対して、フランスのパリにあるロシア大使館の前では24日、ウクライナ出身の人たちなど数百人が集まり、ウクライナの国旗を掲げながら「プーチンを止めろ、戦争をやめろ」などと、抗議の声を上げました。幼い子ども2人を連れて参加した女性は、ウクライナに住む家族とのチャットで砲撃が始まったことを知ったと話しました。女性は「首都キエフに住む妹は朝4時から砲撃の音が聞こえて眠れないと書き込んでいて、地方に暮らす父が迎えに行くそうです。この恐怖と惨事を止めるために、世界の支援が必要です。ウクライナだけでは無理です」と訴えていました。また、キエフ出身の留学生の男性は現地の家族と1時間おきに電話で連絡をとって無事を確認しているということで「砲撃に備えて両親や兄の子どもたちが避難できるように地下室を準備しているそうです。食料の心配はまだありませんが、少し混乱があるようで、多くの人が肉などを買おうとしているそうです」と話していました。また、イギリスのロンドンでも、首相官邸前に、ウクライナ出身の人など数百人が集まり、プーチン大統領への抗議の声をあげるとともに、イギリス政府に対し、ロシアへの厳しい制裁を求めました。参加した女性は「ロシアを国際的な決済システムから遮断するなど、厳しい制裁を科してほしい」と話し、別の男性は「ロシアは国際法を完全に無視し、民間人を殺害している。ウクライナの友人たちは、兵士として戦い、何の理由もないのに死んでいる」と怒りをあらわにしていました。
ロシア国内でも軍事侵攻に反対するデモ 約1400人が拘束
ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に反対するデモはロシア国内でも行われ、首都モスクワでは24日、多くの市民が集まって「戦争はいらない」などと声を上げながら、デモ行進しました。フランスのAFP通信によりますと、このデモにはおよそ2000人が参加したということで、参加した女性は「対立はどちらの側からも暴力的な行為なしに平和的に解決されなければなりません」と話していました。参加した人たちは静かに行進を続けていましたが、一部の人は警察に拘束され、次々に車両に乗せられていました。ロシアではこの日、モスクワのほか、第2の都市サンクトペテルブルクなど各地で抗議デモが行われましたが、人権監視団体によりますと、警察に拘束された人は国内の51の都市で合わせておよそ1400人に上るということです。
国連 グテーレス事務総長「軍事行動を中止し直ちに撤退を」
国連のグテーレス事務総長は24日、記者会見し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「間違っている。国連憲章に反している。受け入れられない」と述べ、ロシアのプーチン大統領に対して軍事行動を中止し軍を直ちに撤退させるよう求めました。そのうえで「罪のない人たちが常に最も大きな代償を払うことになる。民間人の保護を最優先にしなければならない」と述べ、国連の基金から2000万ドル、日本円にして23億円余りを拠出して、ウクライナに緊急人道支援を行うことを明らかにしました。
ノーベル平和賞受賞のロシアの新聞編集長 軍事侵攻に反対の声
ウクライナへの軍事侵攻についてロシアの主要メディアが政権の意向に沿ってロシアの行動を正当化する報道をしている中、反対の声を上げる記者たちもいます。このうち、プーチン政権の強権的な姿勢を批判する報道を貫き、去年、ノーベル平和賞を受賞したロシアの新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は、24日、新聞社の公式サイトに動画のメッセージを掲載しました。この中でムラートフ氏は「私たちは悲しみの中にある。わが国はプーチン大統領の命令で、ウクライナとの戦争を始めてしまった。止める者は誰もいない。私は悲しいとともに、恥ずかしいと感じる」と、心境を語りました。そして「私たちはウクライナを敵国と認めず、ウクライナ語を敵国語としない」と述べたうえで今後、ムラートフ氏の新聞社ではウクライナ語とロシア語の2か国語で記事を執筆し、ウクライナの人たちに向けてもメッセージを発信していくことを明らかにしました。さらに「最後にもう1つ。この地球上の命を救えるのはロシア人の反戦運動だけだ」とし、ロシア側から戦争反対の声を上げ続けることの重要性を訴えました。
専門家「ゼレンスキー大統領 非常に厳しい局面」
ウクライナ政治が専門で神戸学院大学の岡部芳彦教授は「汚職撲滅やクリミア半島の返還を訴え国民的な人気を得てきたゼレンスキー大統領がロシアに歩み寄る選択肢は考えられず、非常に厳しい局面に立たされている」と指摘しています。ゼレンスキー大統領は、コメディアンや俳優として活躍した元人気タレントで、高校教師が大統領に転身し、次々と政治改革を進めていくテレビドラマ「国民のしもべ」で主役を演じ、41歳だった2019年に、実際に大統領選挙で当選しました。クリーンなイメージで汚職撲滅やクリミア半島の返還を訴え、国民的な人気を集め、安定した政権運営を進めてきたということです。岡部教授はゼレンスキー大統領が置かれている状況について「政府は今のところ機能していると思うが情報が錯そうし、指揮系統が維持されているかはわかりにくい。部分的な侵攻であれば何とか持ちこたえられたかもしれないがここまで大規模になるとロシアに太刀打ちする手段はない。欧州路線を明確にしてきただけにロシアに歩み寄る選択肢は考えられず、引き続き国際社会に支援を訴えていく形になるが非常に厳しい局面に立たされている」と指摘しています。
●ロシアがウクライナに軍事侵攻 2/25
日本時間11:00すぎ 「首都キエフで複数の爆発音」 現地メディア
ウクライナのメディアによりますと、日本時間のきょう午前11時すぎ、ウクライナの首都キエフで複数の爆発音が聞こえたということです。ウクライナ内務省の関係者がフェイスブックに投稿した内容によりますと、ウクライナ軍がキエフ上空を飛行するロシア軍の軍用機を撃墜させ爆発が起きたということです。これによってキエフの中心部にある9階建てのビルが炎上したということです。
日本時間10:00 ウクライナの駐日大使「最悪のシナリオも想定」
ロシアがウクライナに対する軍事侵攻に踏み切ったことを受けて、ウクライナのコルスンスキー駐日大使が都内で会見を開き「最悪のシナリオも想定しなければならない」と強い危機感を示すとともに、日本も国際社会と足並みをそろえ、ロシアへの制裁を強化するよう求めました。
ウクライナ大統領 “137人が死亡”
ウクライナのゼレンスキー大統領は日本時間の25日、国民向けのビデオメッセージをフェイスブックに投稿しました。この中で「悲しいことに137人の英雄たち、市民たちを失い、316人がけがをした。ウクライナのために命をささげた人たちは永遠に記憶される」とした上で、兵士だけでなく民間人にも犠牲者が出ていることを明らかにし、沈痛な表情で黙とうをささげました。
ウクライナ首相 “ロシア軍 チェルノブイリ原発を占拠”
ウクライナのシュミハリ首相は24日、北部にあるチェルノブイリ原子力発電所が戦闘の末、ロシア軍に占拠されたと明らかにしました。AP通信の映像では、所属不明の軍用車両とみられる複数の車両が原子力発電所の敷地内に入り込んでいる様子が確認できます。チェルノブイリ原子力発電所では旧ソビエト時代の1986年、運転中の原子炉で爆発が起こり、史上最悪の事故と言われています。シュミハリ首相は、戦闘による犠牲者はいなかったとしていますが、敷地内にある放射性廃棄物の貯蔵施設の状態は分かっていません。
国連事務総長 “ウクライナに緊急人道支援“
国連のグテーレス事務総長は24日、記者会見し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「間違っている。国連憲章に反している。受け入れられない」と述べ、ロシアのプーチン大統領に対して軍事行動を中止し軍を直ちに撤退させるよう求めました。その上で「罪のない人たちが常に最も大きな代償を払うことになる。民間人の保護を最優先にしなければならない」と述べ、国連の基金から2000万ドル、日本円にして23億円あまりを拠出して、ウクライナに緊急人道支援を行うことを明らかにしました。
日本時間8:40ごろ 鈴木財務大臣 ロシア3銀行の資産凍結を発表
ロシア軍によるウクライナへの侵攻を受けて、鈴木財務大臣は、25日の閣議のあとの記者会見で、追加の経済・金融制裁としてロシアの3つの銀行を対象に資産凍結を行う方針を明らかにしました。対象となる3行は、開発対外経済銀行とプロムスビヤズ・バンク、バンク・ロシヤです。
日本時間8:20ごろ 岸田首相会見「厳しく非難」
岸田総理大臣は25日朝、記者会見を行い、「国際社会の懸命の努力にもかかわらず行われた今回のロシア軍によるウクライナへの侵攻は、力による一方的な現状変更の試みであり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として断じて許容できず、厳しく非難する」と述べました。その上で「わが国の安全保障の観点からも決して看過できない。G7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対して、軍の即時撤収、国際法の順守を強く求める」と述べました。そして、追加の制裁措置として、資産凍結とビザの発給停止によるロシアの個人・団体などへの制裁、ロシアの金融機関を対象とする資産凍結、ロシアの軍事関連団体に対する輸出や半導体などの輸出に対する規制を行う考えを示しました。また、岸田総理大臣は、ウクライナに在留する日本人およそ120人の安全確保に向け、最大限努力すると強調し、西部のリビウに設けた臨時の連絡事務所で、隣国のポーランドに陸路で退避する場合の支援などを行うほか、ポーランドから他国に移動するためのチャーター機をすでに手配していると説明しました。
日本時間8:00ごろ 日本政府 NSC閣僚会合開く
政府は、午前8時ごろから総理大臣官邸で、岸田総理大臣をはじめ、林外務大臣や岸防衛大臣らが出席してNSC=国家安全保障会議の閣僚会合を開きました。
アメリカ バイデン大統領「プーチン大統領は侵略者だ」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、アメリカのバイデン大統領は演説で「プーチン大統領は侵略者だ」と述べて強く非難するとともに、ロシア最大の金融機関の資産凍結や輸出規制の強化など、日本を含む同盟国などと足並みをそろえて大規模な制裁で応じると明らかにしました。
ロシア プーチン大統領「ほかに選択肢はなかった」
ロシアは、24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、ロシア国防省は、これまでに11の空港を含むウクライナ軍の80以上の施設を攻撃したと発表しました。プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しました。
ドイツ ショルツ首相「これはプーチンの戦争」
ドイツのショルツ首相は24日、国民に向けてテレビ演説を行いました。この中で、ウクライナの人々との連帯を強調したうえで「プーチン大統領はあらゆる警告や外交的解決に向けた努力に取り合わなかった。彼ひとりがこの戦争を決断し、全面的に責任を負う。これはプーチンの戦争だ」と述べ、プーチン大統領を厳しく非難しました。
ウクライナ 被害状況発表
ウクライナ大統領府の補佐官は24日の会見で、ロシア軍の侵攻開始以来、ウクライナ軍の兵士40人以上が死亡し、数十人が負傷したと発表しました。また、ロイター通信は、地元当局の話として、黒海沿岸の港湾都市オデッサ周辺では、ミサイル攻撃によって市民など少なくとも18人が死亡したと伝えています。さらに、ウクライナ警察の発表として24日にロシア側から203回にわたって攻撃を受け、領土のほぼ全域で戦闘が繰り広げられていると伝えています。
日本時間3:15 ウクライナと国境接するポーランドに避難の人々
ウクライナと国境を接するポーランドには車や列車などでウクライナの人々が逃れ始めています。このうちポーランド南東部の町メディカにある国境では、24日、仕事などでの通常の往来に加え、ウクライナ側から歩いて国境を渡る人たちが目立ち、ベビーカーを押す母親や、スーツケースを引く家族の姿が見られました。
ゼレンスキー大統領「新たな鉄のカーテンが下りた」
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、国民に向けて演説を行いました。この中で「私たちがいま耳にしているのは、ロケットの爆発音や戦闘の音、軍用機のごう音だけではない。新たな鉄のカーテンが下りてロシアを文明世界から切り離す音だ。このカーテンを私たちの国に下ろすのではなくロシア側にとどめなければならない」と述べ、東西冷戦時の「鉄のカーテン」という表現を用いてロシアを非難しました。
日本時間2:30すぎ プーチン大統領 パキスタン カーン首相と会談
ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を開始したあとの24日、モスクワを訪問中のパキスタンのカーン首相と会談しました。パキスタン首相府によりますと、この会談は、アフガニスタンの人道支援などを話し合うためもともと予定されていたものだということです。このなかで、カーン首相はウクライナの情勢について、遺憾の意を表し、外交によって軍事衝突を回避するよう望むとプーチン大統領に直接伝えたということですが、会談でのプーチン大統領の発言はこれまでのところ、伝えられていません。
ロシア ウクライナ軍事侵攻 “80以上の施設攻撃”ロシア国防省
ロシアによる軍事侵攻は24日、ウクライナの各地で始まり、ロシア国防省はこれまでに11の空港を含むウクライナ軍の83の地上施設を攻撃したと発表しました。ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、あくまでも軍事施設を対象にした攻撃であり、民間人に対する脅威はないと主張しました。
岸田首相「さらに強い措置 きょう中にも明らかに」
G7の緊急首脳会議のあと、岸田総理大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し「今回のロシア軍の侵攻を受けてきのう発表した一連の措置に加え、さらに金融、輸出管理などの分野で、欧米と足並みをそろえて、速やかにさらに厳しい措置をとるべく取り組んでいく。引き続きG7をはじめとする国際社会と連携しながら、取り組んでいきたい」と述べました。そのうえで「速やかにさらに強い措置を取るべく取り組んでいきたい。内容については、きょう中にも明らかにしたい」と述べました。
G7首脳会議 岸田首相「ロシアを強く非難 連帯して対処する」
ウクライナ情勢をめぐり、G7の緊急首脳会議が日本時間の24日夜11時すぎから1時間余りオンライン形式で開かれ、岸田総理大臣も参加しました。この中で岸田総理大臣は「今回のロシア軍による侵攻は、ウクライナの主権および領土の一体性の侵害、武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国連憲章の重大な違反だ。力による一方的な現状変更を認めないとの国際秩序の根幹を揺るがすものであり、ロシアを強く非難する」と述べました。その上で「G7の一員として完全に連帯して対処する。今回の侵攻を受け、さらに金融、輸出管理などの分野で、アメリカ・ヨーロッパ諸国と足並みをそろえて速やかにさらに厳しい措置をとるべく取り組んでいるところだ」と述べました。さらに「このような困難な状況の中で、国際社会として引き続き、ウクライナの主権、領土の一体性への支持を強く表明していく必要がある」と指摘しました。また「世界経済、特にエネルギー価格への影響にも対処する必要がある。G7がエネルギー市場の安定化に向けた強い姿勢を示すことが重要だ」と述べました。そして「本件は、法の支配に基づく国際秩序に対する挑戦だ。われわれがロシアの行動に適切に対処することは、ほかの国々に誤った教訓を残さないためにも必要だ。引き続き、G7が共通の価値に基づく秩序を守るため、よく意思疎通し、強固な連携と断固たる決意を示していくべきだと考える。引き続きG7のあらゆるレベルで緊密に連携していきたい」と述べました。
仏 マクロン大統領「制裁 ロシアの攻撃に見合ったものに」
フランスのマクロン大統領は24日、国民向けにテレビ演説を行い「プーチン大統領は約束を破り、外交ルートを拒絶し、戦争を選ぶことによってウクライナを攻撃しただけでなく、主権を踏みにじり最も深刻な方法で、何十年も続いてきたヨーロッパの平和と安定を侵害することを選んだ。昨夜から起きたことはヨーロッパとフランスの歴史の転換点だ」と述べ、厳しく非難しました。そして「われわれの制裁は、ロシアの攻撃に見合ったものになる。手加減はしない」と述べ、EU=ヨーロッパ連合としてロシアに厳しい制裁を科す考えを示したうえで「われわれは自由と主権、それに民主主義の原則への連帯を諦めない」と述べ、国民に連帯を呼びかけました。
IOC声明「休戦求める決議違反 強く非難」
国連総会は、オリンピックとパラリンピックの期間中に休戦を求める決議を各大会の前年に採択していて、北京大会に向けた決議は去年12月にロシアを含む173か国が共同提案国となって採択され、先月28日からパラリンピック閉幕の7日後にあたる来月20日までの間、世界のあらゆる紛争の休戦を呼びかけています。IOCは「ロシア政府によるオリンピックとパラリンピックの期間中の休戦を求める決議違反を強く非難する」という声明を公式ホームページで発表しました。声明では、北京オリンピックの開会式や閉会式でバッハ会長が休戦を求める決議を順守するよう求めたことに触れ、世界の政治指導者に改めて連帯と平和を呼びかけています。そのうえでIOCとして「ウクライナのオリンピック関係者の安全を深く懸念する」として人道的支援に乗り出す考えを示しました。
G7首脳会議始まる
G7=主要7か国の首脳による緊急の会議が、日本時間の24日夜、オンライン形式で始まりました。会議では、ロシアへの厳しい制裁を含めた対抗措置について意見を交わすほか、ウクライナに対する支援についても協議し、G7として結束して対応する方針を確認するものとみられます。首脳会議に先立って、議長国ドイツのショルツ首相は24日記者団に対し、ロシアによる軍事侵攻について「プーチン大統領の戦争であり、正当化することはできない」と非難したうえで「G7の首脳会議では、強い経済力をもつ世界の民主主義国家として、一致した明確な対応をとれるよう力を尽くす」と述べました。
英 ジョンソン首相「世界の民主主義と自由に対する攻撃」
イギリスのジョンソン首相は24日、テレビ演説を行い「最も恐れていたことが今、現実のものとなった。ロシアのプーチン大統領は、われわれのヨーロッパ大陸で戦争を始めた。ウクライナにとどまらず、東ヨーロッパ、そして世界の民主主義と自由に対する攻撃だ」などと厳しく非難しました。そして、自由が奪われるのを見過ごすことはできないとして、同盟国と協調して、ロシア経済にとって打撃となる厳しい経済制裁を行う考えを強調しました。また、ジョンソン首相は、ウクライナに対して支援を続ける考えを示したうえで「われわれの使命は明らかだ。外交面、政治面、経済面、そして最終的には軍事面で、プーチン大統領によるおぞましく野蛮な企てを失敗に終わらせることだ」と主張しました。
NATO「即応部隊」速やかに派遣する態勢
ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATO=北大西洋条約機構は、加盟国を守るため、必要に応じてNATOの即応部隊などを速やかに派遣するための態勢をとることを決めました。
●ロシアがウクライナに軍事侵攻 2/24
日本時間24日20時過ぎ 林外相がEU上級代表と会談 「緊密に連携」
林外務大臣は、24日夜8時からおよそ15分間、EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表と電話で会談しました。会談はEU側が呼びかけたもので、ボレル上級代表は、ロシアによるウクライナへの侵攻を強く非難し、EUとして、これまでにない厳しい制裁を科す予定だと伝えました。これに対し、林大臣は、今回のロシアの行動は、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、国際法の重大な違反でもあり、決して認められないなどとした日本の立場を伝えました。また、ロシアのガルージン駐日大使を呼んで、直接抗議したことを説明しました。そして、両氏は、G7=主要7か国をはじめとした関係各国で、引き続き、緊密に連携しながら対応していくことを確認しました。
中国 王毅外相 対話に戻るよう呼びかけ
中国の王毅外相はロシアのラブロフ外相と電話で会談しました。中国外務省によりますと、この中で、ラブロフ外相はNATO=北大西洋条約機構がアメリカとともに約束をほごにして東方への拡大を続けたと指摘した上で「ロシアは、自国の権利と利益を守るために必要な措置をとらざるを得なくなった」と述べ、今回の軍事行動に至ったロシア側の立場を説明したということです。これに対し、王外相は「安全保障問題に関するロシアの合理的な懸念を理解している」としてロシア側の行動に一定の理解を示す一方「中国は一貫して、各国の主権と領土の一体性を尊重している」とも述べました。その上で「対話と協議を通じて、均衡がとれた有効で持続的なヨーロッパの安全保障メカニズムが形成されるべきだ」として、ロシアを含む当事者に対し改めて対話に戻るよう呼びかけました。
外務省 新たな「海外安全情報」ウクライナの主要空港閉鎖か
ウクライナ情勢をめぐって、外務省は、24日夜、新たな「海外安全情報」を出しました。この中では、ウクライナ上空全域が「飛行禁止空域」に指定され、現時点で、キエフ市内の国際空港を含め、国内の主要空港はすでに閉鎖されたという情報があるとしています。そして、情勢は極めて不安定で、さらなる攻撃もあり得るとしたうえで、滞在する日本人に、最新の情報の入手に努め安全を最優先に行動するよう呼びかけています。また、今いる場所が安全でない場合は、周囲に細心の注意を払いながら、近くのシェルターなどに避難するよう促しています。外務省によりますと、ウクライナに滞在する日本人は、現在、およそ120人いるということです。
ロシア国防省「都市や町への攻撃 行っていない」
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、24日、ウクライナでの軍事作戦について説明し、ウクライナ東部2州の親ロシア派が事実上、支配している地域の人々を保護する目的だと主張しました。そして、親ロシア派の武装勢力がロシア軍の支援を受けて攻撃を開始し、ウクライナ政府軍との間で戦闘が続いているとしています。そのうえで「ウクライナの国境警備隊は、ロシア軍の部隊に抵抗していない。ウクライナ軍の兵士も武器を捨てて、退避している」と述べました。また、コナシェンコフ報道官は、ロシア軍の高性能の兵器を使った攻撃によってウクライナの軍の施設や飛行場などが無力化されたとする一方で、「ロシア軍は、ウクライナの都市や町への攻撃は行っていないと強調したい。民間人に対する脅威はない」と主張しました。
中国外務省報道官「平和の扉閉ざすことなく対話と協議努力を」
中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で「中国は最新の動向を注視している。関係国は自制を保ち、状況を制御できなくなる事態を避けるよう呼びかける」と述べました。そのうえで「関係国は、平和の扉を閉ざすことなく対話と協議の努力を続け、事態をさらにエスカレートさせないよう願う」と述べました。一方、華報道官は、ロシア側の行動がウクライナへの侵略行為にあたるかどうか認識を問われたのに対し「ウクライナ問題は、非常に複雑な歴史的背景や経緯があり現在の状況に発展した」と繰り返し明確な回答を避けました。
東部2州の一部を事実上支配の親ロ派 “2州全域支配目指す”
ウクライナの東部2州のうち親ロシア派が事実上支配し、ロシアが一方的に独立国家として承認した地域の幹部は、地元メディアのインタビューに対し「われわれの最大の課題は、行政上の境に到達し、ウクライナ政府の支配下にある人々を解放することだ」と述べました。武装勢力側は、ウクライナ政府が統治する地域まで侵攻し、両州の全域を支配したいとする考えを示したとみられます。
日本時間24日19:20すぎ NY原油先物価格 1バレル=100ドル超に
ニューヨーク原油市場では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって産油国ロシアからの供給が滞る懸念が強まり、原油価格の国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=100ドルを超えました。WTIが1バレル=100ドル台をつけるのは、2014年7月30日以来、7年7か月ぶりです。
林外相 駐日ロシア大使に抗議も“侵攻起こっていない”
林外務大臣は、ロシアのガルージン駐日大使を外務省に呼び、この中で「緊張緩和を求めてきたにも関わらず、今回行われた侵攻は、ウクライナの主権と領土の一体性の侵害であり、明らかに国際法違反で断じて認められず強く非難する。ただちに侵攻をやめてロシアに撤収すべきだ」と強く抗議しました。そして日本人を含めた民間人の安全を無条件で守るよう求めました。これに対しガルージン大使は「大臣の発言はモスクワに報告する。同時にこちらから反論したい。ロシアによるウクライナの侵攻というようなことは起こっていない。今起きていることは、大統領の決定による特殊軍事作戦で、その目的は、ウクライナ政府によって『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』で虐げられた人を保護することだ」と述べました。
ロシアの駐日大使「目的は住民の保護だ」
ロシアのガルージン駐日大使は、外務省で記者団に対し「今回は、侵略や侵攻ではなく特殊軍事作戦で、その目的はジェノサイドを受けていた『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』の住民の保護だ。また、NATOの東方拡大によるロシアの安全への脅威に対する 自衛の行動でもあると強調したい」と述べました。また、日本を含めた関係各国がさらなる制裁措置を検討していることについて「そのような制裁措置の発動は、いい雰囲気を作るために役に立つだろうかと聞きたい。私は役に立たないと思う」と述べました。
日本時間24日19:00すぎ 「ウクライナ軍兵士40人以上死亡」報道
ロイター通信は、ウクライナ大統領府の関係者の話として、これまでにウクライナ軍の兵士40人以上が死亡し、数十人がけがをしていると伝えました。このほか一般市民にも被害が出ているということで、現地の当局の話として、ハリコフ州の建物への攻撃で男の子1人が死亡したと伝えています。
ウクライナ大統領「ロシアとの断交」発表 抵抗呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍がウクライナに軍事侵攻を開始したことをうけ「われわれはロシアとの外交関係を断絶した」と述べました。また、ゼレンスキー大統領は、市民に対して、武器を手にしてロシア軍に抵抗するよう呼びかけました。
24日17:30羽田空港発の日本航空のモスクワ便欠航
日本航空は、羽田空港からモスクワ空港に向けて出発する便の欠航を決めました。今後の運航については状況を見て判断するとしていて、ホームページなどで最新の情報を確認するよう呼びかけています。
ウクライナ「クリミアからロシア軍とみられる軍用車両が進入」
ウクライナの国境警備当局は24日、ロシアが8年前に一方的に併合したウクライナ南部のクリミアから、ロシア軍とみられる軍用車両が進入してくる映像を公開しました。映像には、ロシア軍のものとみられる戦車や軍のトラックなどがウクライナとクリミアとの境を次々に越える様子や、道路を走る様子が映っています。
ウクライナ軍「ロシア軍兵士を約50人殺害」
ウクライナ軍参謀本部は公式フェイスブックで24日、ウクライナ軍が東部のルガンスク州でロシア軍の兵士、およそ50人を殺害したと主張しました。また東部のドネツク州でロシア軍の軍用機を6機、撃墜したほか、北東部のハリコフ州でロシア軍の戦車4台を破壊したとしています。
ウクライナ内務省「ロシアの攻撃でこれまでに8人死亡」
ウクライナ内務省の幹部は警察当局の情報として、ロシアによる攻撃でこれまでに8人が死亡したと発表しました。それによりますと、ウクライナ南部のオデッサ州で現地時間の午前8時半ごろ爆撃があり、6人が死亡、7人がけがをしたほか、19人の行方が分からなくなっているということです。また、東部ドネツク州のマリウポリでも砲撃で1人が死亡し、2人がけがをしたなどとしています。
日本時間24日17:00ごろ ウクライナ 首都キエフでは大渋滞
ロシア軍がウクライナに対して軍事侵攻を開始したことを受けて、ウクライナの首都キエフではロシアから遠い西側へ逃れようとする市民の車で大きな渋滞が発生している様子が確認できます。西側に向かう大通りでは、複数の車線が車で埋め尽くされ、ほとんど動かない状態となっています。
ロシア通貨ルーブルは最安値を更新
ロシアによるウクライナへの攻撃を受けて、外国為替市場ではロシアの通貨ルーブルを売る動きが急速に強まり、ドルに対して一時、1ドル=89ルーブル台まで値下がりしてこれまでの最安値を更新しました。これを受けてロシアの中央銀行は通貨の安定に向けて市場介入に踏み切ることを決めたと発表しました。また、モスクワの取引所は24日、株式などの取り引きを一時、停止する措置を取りました。その後、株式市場で取り引きが再開されると売り注文が殺到して株価指数は前日に比べて30%を超える値下がりとなり、金融市場は大きく混乱しています。
日本時間24日16:00ごろ 仏大統領「同盟国とともに行動」
フランスのマクロン大統領は声明を発表し「ロシアが軍事侵攻を決断したことを強く非難する」として直ちに軍事行動をやめるよう求めました。そのうえで「フランスはウクライナと連帯し、戦争を終わらせるために同盟国とともに行動する」としています。フランス大統領府によりますと、マクロン大統領は日本時間の24日午後4時ごろ、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ウクライナへの支援を約束したということです。
24日16:00 松野官房長官「国際社会と連携して迅速に対処」
松野官房長官は午後の記者会見で「ロシア軍がウクライナ領域内に侵攻したものと承知している。力による一方的な現状変更を認めないとの国際秩序の根幹を揺るがすものであり、ロシアを強く非難するとともに、制裁の検討を含めアメリカをはじめとする国際社会と連携して迅速に対処していく」と強調しました。また、現地に滞在する日本人およそ120人に被害の情報はないとしたうえで「あらゆる事態に適切に対応できるよう、近隣国でチャーター機の手配を済ませるなどさまざまな準備を行っている」と述べました。そして「ウクライナ滞在中の邦人は自身の安全を図る行動をとるとともに、最新の治安関連情報を入手するよう努めてほしい。政府としては、極めて危険かつ流動的な現地情勢の中で在留邦人の安全確保に最大限取り組んでいく」と述べました。一方、経済への影響をめぐり「一次産品の価格への影響を含め、日本経済に与える影響を引き続き注視していく。国内のエネルギー安定供給に直ちに大きな支障を来す懸念はない。国民生活や日本経済を守るために、実効ある激変緩和措置が必要であり、できるだけ早く対応策を取りまとめ、追加的な措置を講じていきたい」と説明しました。
24日15:30すぎ 岸田首相「G7首脳会議踏まえ追加制裁措置検討」
岸田総理大臣は国会でウクライナ情勢について質問され「今後、事態の変化に応じてG7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携し、さらなる措置をとるべく速やかに取り組んでいきたい。今夜11時からG7の首脳テレビ会議が予定されており、会議の状況も踏まえて、わが国として適切に対応を考えていきたい」と述べ、G7の緊急首脳会議を踏まえて追加の制裁措置を検討する考えを示しました。
24日15:30 東京 銀座で新聞号外 不安の声が聞かれる
東京 銀座では新聞の号外が配られ、受け取った人たちからは先行きへの不安の声が聞かれました。このうち食品関係の仕事をしている56歳の男性は「どの業界でもサプライチェーン・供給網などに影響は出てくるかなと思います。とてもショックで、第三次世界大戦だけにはなって欲しくないと思います。アジアの緊張も高まるでしょうし、日本もひと事ではないと思います」と話していました。また、53歳の会社員の女性は「ニュースを見てやっぱりそうなってしまったかというのが印象で、さらに石油の価格が上がるかもしれませんし、日本にどういう影響があるか心配です。怖いですし、もっと話し合いでうまくいけばよかったのにと思います」と話していました。
EU「大規模な制裁を科す」
EU=ヨーロッパ連合のミシェル大統領とフォンデアライエン委員長は連名で声明を出し「ロシアによるウクライナへの前例のない軍事侵攻を最も強いことばで非難する。今回の不当な軍事行動は国際法に違反し、ヨーロッパと世界の安全と安定を脅かしている」として、ウクライナに対する敵対的な行動を直ちにやめるようロシアに要求しました。そのうえでロシアに対して大規模な制裁を科すと警告しました。EUは24日、ベルギーのブリュッセルで緊急の首脳会議を開き、今後の対応やロシアへの制裁について協議することにしています。
ロシア国防省「ウクライナ軍の制空権を制圧した」
ロシアの複数の国営通信社がロシア国防省の話として伝えたところによりますと、「ロシア軍はウクライナの空軍基地のインフラと対空防衛システムを無力化し、ウクライナ軍の制空権を制圧した」と明らかにしました。
また「ウクライナの国境警備隊はロシア軍に対して全く抵抗していない」としています。
24日15:00 日経平均株価の終値 2万6000円割り込む
24日の東京株式市場日経平均株価の終値は22日より400円以上値下がりして、ことしの最安値を更新しました。ウクライナ情勢をめぐり、ロシアが軍事作戦に踏み切った影響でおよそ1年3か月ぶりに2万6000円を割り込みました。
NATO事務総長 ロシアに軍事的行動をやめるよう求める
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は24日、声明を出し「ロシアのウクライナに対する無謀で正当な理由のない攻撃は大勢の市民の命を危険にさらすものだ。われわれが繰り返し警告し、外交努力を続けてきたにもかかわらず、ロシアはウクライナの主権と独立を侵害する道を選んだ」と述べ、ロシアを強く非難しました。そのうえで、ロシアに対し軍事的な行動を直ちにやめるよう求めるとともに、加盟国で今後の対応を協議する考えを示しました。
24日14:40 松野官房長官「これから報告受ける」
松野官房長官は総理大臣官邸に戻る際、記者団が「これまでに収集された情報について報告を受けるのか」と質問したのに対し「これからだ」と述べました。
日本時間24日14:30すぎ 独首相「ヨーロッパにとって暗黒の日」
ドイツのショルツ首相はツイッターに「ロシアの攻撃はあからさまな国際法違反で正当化できない。プーチン大統領による無謀な行為を最も強いことばで非難する」と投稿し、ロシアに対し直ちに軍事行動をやめるよう求めました。また「ウクライナにとってひどい日であり、ヨーロッパにとっても暗黒の日だ」としています。ドイツ政府の報道官によりますとショルツ首相は24日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、全面的にウクライナと連帯する考えを伝えたということです。
24日14:30 米エマニュエル駐日大使「ロシアは戦争を選択した」
自民党の茂木幹事長は、先月着任したアメリカのエマニュエル駐日大使と党本部で会談しました。冒頭、エマニュエル大使は「ロシアは戦争を選択した。ロシアにとっても簡単な選択ではない。国際社会は、これがどんな結果を招くか、はっきりと言ってきた。岸田総理大臣と日本政府が示してくれた連帯に感謝している」と述べました。これに対し茂木氏は「ウクライナの状況を大変、深刻に捉えている。何よりも重要なことは、力による一方的な現状変更の試みはウクライナだけでなく、アジアにおける東シナ海や南シナ海でも決して許容できない。価値観を共有するアメリカや日本をはじめ、国際社会が一致団結してロシアへの対応を図っていきたい」と述べました。
バイデン大統領「同盟国とともに厳しい制裁を科す」
アメリカのバイデン大統領は声明を出し、ウクライナのゼレンスキー大統領と緊急の電話会談を行い、このなかで「ロシア軍によるいわれのない不当な攻撃を非難した」としています。そのうえでバイデン大統領は「ゼレンスキー大統領は私に対して、ウクライナ国民への支持とプーチン大統領による攻撃を明確に批判するよう世界各国の指導者に呼びかけてほしいと依頼してきた。アメリカは同盟国などとともにロシアに厳しい制裁を科していく。今後もウクライナとウクライナ国民に支援を提供し続ける」としてロシアに厳しい制裁を科し、ウクライナを支援していく考えを改めて強調しました。
「金」再び最高値を更新 1g=7100円台
大阪取引所で行われている24日の「金」の先物取引は、買い注文が膨らみ、取り引きの中心となる「ことし12月もの」の価格が一時、1グラム当たり7122円をつけました。比較的安全で有事に買われやすいとされる金は、ウクライナ情勢の緊迫化を受け値上がり傾向が続いていて、今月21日に記録した7041円を上回り、取り引き時間中の最高値を再び更新しました。
原油市場 先物価格上昇
国際的な原油価格の指標の1つであるニューヨーク市場のWTIの先物価格は、一時、1バレル=97ドル台まで上昇しました。これは2014年8月以来、7年半ぶりの高値です。また、ロンドンの市場で取り引きされている北海産のブレント原油の先物価格は、2014年9月以来、7年5か月ぶりに、1バレル=100ドルを超えました。
24日14:30 日本政府は官邸連絡室を“対策室”に格上げ
ロシアがウクライナへの軍事行動を始めたという情報を受け、政府は、総理大臣官邸の危機管理センターに設けている官邸連絡室を、官邸対策室に格上げして情報の収集などにあたっています。
ウクライナ大統領 国民に冷静を呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNS上にウクライナ国民向けのビデオメッセージを投稿し「ロシアはウクライナ国内の軍事施設と国境警備隊への攻撃を行った。また、国内の多くの都市で爆発音が確認されている」と明らかにしました。また、アメリカのバイデン大統領と電話で会談したことを明らかにし「アメリカは国際的な支援を集めようとしている」と述べました。そして国民に対し「いまは皆さんが冷静でいることが求められる」と呼びかけたうえで「軍をはじめ防衛のためのすべての組織が対応している。私たちは強く、何事にも準備ができている。ウクライナは誰にも負けることはない」と述べました。
24日14:20すぎ 日本政府は国家安全保障会議を開催へ
参議院予算委員会では、岸田総理大臣とすべての閣僚が出席して新年度予算案の実質的な審議が行われていますが、休憩に入りました。休憩に入る前の質疑で、岸田総理大臣はウクライナ情勢の緊迫化を受けて「適切なタイミングでNSC=国家安全保障会議を開催したい」と述べました。
日本時間24日13:50 英首相「プーチン大統領 破壊の道選んだ」
イギリスのジョンソン首相はツイッターに投稿し「プーチン大統領は、ウクライナに対する攻撃によって、流血と破壊の道を選んだ」と強く非難しました。そして、イギリスや同盟国はロシアに対して断固とした対応をとると強調し、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談でもこうした考えを伝えたということです。
日本時間24日13時半 キエフ在住女性「テレビで銃撃音報道も」
ウクライナの首都キエフから南に150キロほど離れた場所に住むステパニュック・オリガさん(67)は日本時間の午後1時半ごろオンラインのテレビ電話で都内に住む娘のオクサーナさんに現地の状況を語りました。オリガさんは現地の様子について「テレビでは大統領の緊急のスピーチが流れていて、侵攻が始まったことを伝えている。テレビでは銃撃音がしているという報道もされている」と話していました。そのうえで「自宅にとどまり、パニックにならないように努めている」と話しています。
日本時間 正午 ウクライナ「ロシアが集中砲撃を開始した」
ウクライナ軍参謀本部は公式フェイスブックで「ロシアの武装勢力は24日午前5時、東部にある我々の部隊への集中砲撃を開始した」とロシア軍がウクライナ東部で攻撃を始めたと発表しました。また、攻撃は南部や西部でも行われているとしています。具体的な場所として、首都キエフの郊外に位置するボリスピルのほか、西部ジトーミル州にあるオジョルノエ、ハリコフ州にあるチュグエフ、ウクライナ軍の東部の拠点となっているクラマトルスク、それにウクライナ南部にあるクリバキノやチェルノバエフカを挙げています。ウクライナ軍によりますと、ロシア軍はこれらの地域にある飛行場と軍事施設に対して攻撃を開始したということです。一方、「ロシア軍が南部のオデッサに上陸したという情報は真実ではない」として一部のメディアの情報を否定しました。
バイデン大統領が政府高官から現状の報告受ける
アメリカ、ホワイトハウスのサキ報道官は23日、ツイッターに「バイデン大統領はロシア軍によるウクライナへの進行中の攻撃についてブリンケン国務長官やオースティン国防長官、ミリー統合参謀本部議長、そしてサリバン大統領補佐官から電話で説明を受けた」と投稿し、バイデン大統領が安全保障担当の政府高官らから現在の状況について報告を受けたと説明しています。
ウクライナ外相「ロシア 全面的な侵攻開始」
ウクライナのクレバ外相はツイッターに「ロシアのプーチン大統領はウクライナへの全面的な侵攻を開始した。平和なウクライナの都市が攻撃を受けている。ウクライナは防衛し、勝利するだろう。世界はプーチン大統領を止めなければならない。今こそ行動を起こす時だ」と投稿しました。ロシア側はこれまでのところ、軍事作戦を開始したかなどは明らかにしていません。
ウクライナ首都キエフで複数の爆発音
ロイター通信はウクライナの首都キエフからの情報として、現地で複数の爆発音が聞こえたと伝えました。また、東部の都市ドネツクで銃声が聞こえたと伝えたほか、地元メディアを引用する形でキエフの空港周辺でも銃声が聞こえたと伝えています。
バイデン大統領「プーチン大統領は破滅的な戦争を選んだ」
アメリカのバイデン大統領は23日、声明を発表し「プーチン大統領は破滅的な人命の損失と苦痛をもたらす戦争を選んだ。この攻撃がもたらす死と破壊の責任はロシアだけにある」として、プーチン大統領の決定を強く非難しました。そのうえで「アメリカは同盟国、友好国と結束して断固とした措置で対応する。世界はロシアに責任を取らせるだろう」として、攻撃によってもたらされる被害の責任はロシアが負うことになると強調しています。
ウクライナ国境警備局「ロシア軍がベラルーシ国境を攻撃」
ウクライナの国境警備局によりますと24日午前5時ごろ、日本時間の24日正午ごろ、ベラルーシと国境を接するウクライナ北部でロシア軍からの攻撃を受けたと明らかにしました。ロシア軍は今月20日まで、ベラルーシ軍とともにベラルーシ国内で演習を続け、終了したあとも部隊を残したままにしていました。また、ウクライナ南部で、ロシアが一方的に併合したクリミア半島からも攻撃を受けているとしています。
日本時間24日正午前 プーチン大統領「軍事作戦を実施する」
ロシアの国営テレビは現地時間の24日朝、プーチン大統領の国民向けのテレビ演説を放送しました。このなかでプーチン大統領は、ウクライナ東部2州の親ロシア派が事実上、支配している地域を念頭に「ロシアに助けを求めている。これに関連して特別な軍事作戦を実施することにした。ウクライナ政府によって8年間、虐げられてきた人々を保護するためだ」と述べ、ロシアが軍事作戦に乗り出すことを明らかにしました。またプーチン大統領は「われわれの目的はウクライナ政府によって虐殺された人を保護することであり、そのためにウクライナの非武装化をはかることだ」としましたが「ウクライナ領土の占領については計画にない」と述べました。
●地政学リスクとウクライナ情勢をどう捉えて立ち回るべきか 2/25
世界の目がロシアに…
例年以上の厳しい寒さと、またしても外出自粛を余儀なくされた今年の冬。すっかり冷え切った心身を北京冬季オリンピックの日本人選手たちの活躍で温めた人も多いことだろう。
「同じ都市で夏と冬のオリンピックが開かれるのは、北京が初めてなんだよ」
「夏のオリンピックは最近だったような気が……。あれはいつだったっけ?」
「14年前、2008年の夏だよ。割と前だよ」
こんな会話を交わしながら、世界を代表する選手たちの競技を楽しんだ2人もいたかもしれない。
競技以外で気になることも多かった今回の北京冬季オリンピック。開幕式などで随所に垣間見える、今や世界をリードする中国の先端技術の強大なパワーと、3000年とも4000年ともいわれる悠久の中国の歴史観が織りなす冬のスポーツの祭典に不思議な感覚を覚えた。やはり、オリンピックが持つ発信力は強烈で興味深い。
それこそ中国らしいといえば中国らしい幕開けだった。
過去のドーピング問題の影響もあって、国ではなくオリンピック委員会の代表として自国の選手を送り出したロシア。そのロシアのプーチン大統領はオリンピックの開幕式に先立って北京を訪問、中国の習近平国家主席とのトップ会談を実現した。
その後、オリンピックの盛り上がりと同時並行で、日々、緊迫を増したウクライナ情勢。くすぶり続けていたこの「地政学リスク」の表面化に、何も今このタイミングで、と感じた人も少なくないはずだ。私もその1人。おかげで競技観戦に集中できない日々が続いてしまった。
ウクライナ情勢がもたらす投資課題
「地政学」とは、国と国との地理的な条件から、国際的な関係やその影響をひもとく学問のこと。地理的な条件によって引き起こされるリスクが「地政学リスク」だ。日本に住む人の多くは、すぐ隣の朝鮮半島が頭に浮かぶだろう。
ロシアがウクライナを敵対視して、態度を硬化させる理由は、ざっくり言えばウクライナが欧米諸国と仲が良過ぎるからだ。好きで気になる相手が他の人と仲良くしていると面白くないのは、国も人も同じだ。
ウクライナが欧米の軍事同盟、NATO(北大西洋条約機構)へさらなるアプローチをしたことが、ロシアの感情をますます逆なでしてしまった。
ロシアとウクライナの微妙な関係は、実は今に始まったことではない。
08年に、いわばウクライナ紛争の前哨戦ともいえる南オセチア紛争が勃発。14年に衝突した際には、ウクライナの領土だったクリミア半島がロシアに併合された。当時のウクライナ政権が欧米寄りであったことが要因だ。以来、両国の小競り合いが続いた末に、ついに開戦してしまった。
ロシアの厳しい寒さは、波立つ海も凍らせてしまうほどで、冬場は使用できない港も珍しくない。広大な国土を有するが、人が住むエリアは限定される。一方、隣の欧州の国々は概して気候は穏やかで、年間を通じて安定的な経済活動が可能だ。人が住むのに適したエリアも広い。
このちょうど境目に位置するのがウクライナだ。昔から、異なる環境や思想が接する地域では紛争が起きやすい。地政学リスクはさまざまな分野に影響を及ぼすが、その代表的なものの1つが株式市場など「マーケット」の動きだ。
今年1月下旬以降の日米株式市場は、全体として下がりつつ、上にも下にも大きく動く日々が続いた。マーケットはさまざまな要因が複合的に絡み合うことで、その水準を形成するため、要因を1つに絞り込むのは難しい。
12月末を会計基準とする米上場企業の決算発表の集中や、モノやサービス価格の歴史的な上昇(インフレ)率、米国の利上げ姿勢に伴う「円安・ドル高」の動きも重なった。そこにウクライナ情勢の緊迫化が伝われば伝わるほど、マーケットの動きは激しくなった。開戦で、地政学リスクの影響を受けたことは明らかだ。
「狼狽売り」から始まる地政学リスクとマーケットの関係
歴史を振り返ると、地政学リスクが表面化した直後のマーケット、特に株式市場ではいつも同じ現象が起きる。株価が急落し、その動きに慌てて売る、業界用語でいう「狼狽(ろうばい)売り」が発生し、マーケットが下落するのだ。
リスクが顕在化したばかりの初期段階で、事実を正確に捉えて、国と国との今後の関係は? 世界的な影響は? 経済活動の変化は? 資金の流れは? など先行きを見通すことは難しい。
状況が不透明な中で、多くの投資家は、手持ちの株式を売って現金化する。下がったときに買って、上がったときに売るのが投資の大原則であることは重々承知だが、いったん売って様子を見たい気持ちもよく分かる。
「有事の金(ゴールド)買い」といわれた時代が長く続いた。ただ、世界的な金融緩和で世の中に投資資金があふれた近年、株価が下がれば「金の価格」も下がり、株価が上がれば「金の価格」も上がることが増えた。
コロナ禍は、金融市場の過去のセオリーも覆したと思っていた直後、今起きている「地政学リスク」は、株価が下がる過程で、「金の価格」を上げる従来の動きを再現した。
思えば実用性がなく、非日常的な「金」は、身の回り品の買い物には使えない。現金化の対象が「米国ドル」や「日本円」など、流通性や信用力において有利な国の通貨に変わるのが当然とも思えるが、「地政学リスク」となると話は別なのか、一筋縄ではいかないマーケットとなった。
地政学リスクは表面化してすぐの時点では正体不明であるが、時間の経過とともに分析され理解され、先行きの予測まで可能になっていく。当初抱いていた不安感や危機感は薄れて、すっかり日常化してしまう。
リスクとの正しい付き合い方
日本の隣の朝鮮半島リスクもその一例だろう。北朝鮮は今年に入り、立て続けに短距離ミサイルを発射。核実験や大陸間弾道ミサイル発射の再開も示唆したが、マーケットの動きは無反応といっていい。
さらに時間が経過すると、いまだリスクは終息していないにもかかわらず、リスクをリスクと感じない最終段階に入っていく。マーケットがリスクを相手にしない、極論すれば無視するに近い状況といえる。
注目すべきは、この段階で再び動き始める、株式の売却によって形を変えた現金だ。マーケットに存在してこそリターンを生み出すことができる現金は、自らの場所を求めて動き始める。しかも、いち早くマーケットに戻らないと、得られるはずのリターンを獲得し損なってしまう。
地政学リスクの表面化は、初期段階の短期間において、投資家に不安感や危機感を抱かせるが、長期間にわたって影響を与え続けることが少ない理由はここにある。地政学リスクによって動かされる投資資金は抜けるのも速いが、戻るのも速い。開戦後、どのタイミングで収束するかによって、投資家の戦略も大きく変化していくことだろう。
ウクライナ情勢に気を取られていたせいもあって、あっという間に北京オリンピックも閉幕した。北京一都市での「夏」と「冬」の五輪開催は、東京一都市では実施不可能であることを思えば、確かに注目に値する。
「前回の北京は08年、私たちが出会う前だね。ねぇねぇ、誰と見ていたの?」
「あの頃から付き合っていたら、今、2人でこうして一緒にいられたか分からないぞ」
「じゃあ、これで良かったということで」(微笑)
付き合って別れて、また付き合い始める、いわゆる「元サヤ」の関係。その後、うまくいくか、いかないかは恋愛討議のテーマになりがちだが、ロシアとウクライナのようにここまでこじれると、さすがに1度や2度の「元サヤ」では済まないだろう。今後、連鎖的な戦争が発生しないか注視が必要だ。
08年の北京夏季オリンピックから14年。月日は国家の関係を大きく変えた。人の感情が動き動かされて「恋愛」へと変化するように、マーケットに戻った現金は「投資資金」に形を変えて、また動き始める。願わくは世界中のマーケットを巡りながら、世の「愛と経済」に潤いを与えてほしいものだ。
●首都キエフ中心部で爆発音 朝日記者もシェルターに避難 2/25
ロシアが隣国のウクライナに全面的な侵攻を開始しました。プーチン大統領が宣言した「特別な軍事作戦」に基づいて、東部国境からロシア軍が侵攻しています。北隣のベラルーシからの南下に加えて、上空からも降下部隊を送り込むなどして、ウクライナの首都キエフに迫っている模様です。欧米や日本などが制裁を発動して圧力を強め、混迷の度合いが増すウクライナ情勢の最新状況をタイムラインでお知らせします。(タイムスタンプは日本時間。括弧内は現地時間)
13:00 JT、ウクライナ工場を停止
日本たばこ産業(JT)は25日、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ウクライナ中部のクレメンチュクにあるたばこ工場の稼働を24日から停止したことを明らかにした。現地には約900人の従業員がいたが、全員の安全も確認したという。
11:35(台北25日10:35) 台湾、ロシア制裁に参加を発表 中国の動向にも警戒
台湾外交部(外務省)は25日、ロシアのウクライナ侵攻が各国の主権や領土保全を定めた国際法に違反しているとして、米国などの対ロ制裁に加わると発表した。台湾の政財界では今回の侵攻を中台関係にだぶらせて、中国の動向に対する警戒が強まっている。外交部は現時点で、制裁の具体的な内容について言及していない。台湾企業は自動車や家電などに広く使われる半導体の生産で世界の大きなシェアを占めている。今後、米国などの要請で半導体関連の制裁に踏み切る可能性もある。一方、蔡英文(ツァイインウェン)総統は23日、政権内に設けたウクライナ問題検討チームから報告を受け、台湾への軍事圧力を強める中国を念頭に、台湾海峡の軍事動向への警戒を強化するよう指示した。また、台湾世論の動揺を狙ったフェイクニュースへの対応を強めるよう求めた。蔡氏は「台湾とウクライナの問題は地政学などの点で本質的に異なる」としながらも、中国への直接の言及は避けつつ、「域外勢力がウクライナ情勢に乗じ、台湾の民意に影響を与える『情報戦』を防ぐ必要がある」と警戒感を示した。(台北=石田耕一郎)
11:30 日経平均、上げ幅一時400円超 午前の取引終了
ウクライナに侵攻したロシアへの追加の経済制裁の影響が限定的との見方が広がり、25日の東京株式市場では日経平均株価が大きく値上がりしている。午前の終値は382円76銭高い2万6353円58銭だった。前日まで5営業日続落で計1400円超値下がりしていたが、下落相場から一転。上げ幅は一時400円超まで拡大した。24日の米ニューヨーク株式市場で、ハイテク株を中心に買い戻す動きが拡大。主要企業でつくるダウ工業株平均は、6営業日ぶりに上昇して取引を終えた。この流れを受け、日経平均も25日は買い戻された格好だ。米国が24日に発表した経済制裁に、ロシアの銀行を国際的な資金決済網から外すことが含まれなかったことを市場は好感している。半導体関連などハイテク株が買われたほか、円安ドル高が進んだことから電気機器や機械など輸出関連銘柄の上昇も目立つ。
10:15ごろ(ブリュッセル25日02:15ごろ) 「ロシアに航空機販売しない」 EU首脳会議終了
欧州連合(EU)は25日未明、ロシアへの経済制裁などを議論した緊急の首脳会議を終えた。ミシェル常任議長らが記者会見し、加盟27カ国の首脳で合意した制裁の概要について説明した。ロシアの航空会社にエアバスなどの航空機やその関連製品を販売することを禁じるほか、金融分野では、EUの金融市場へのアクセス制限を科す。ロシアの銀行だけでなく、防衛分野などの国営企業も対象にする。貿易では、半導体や最先端ソフトの輸出を規制し、天然ガスと並ぶロシアの収入源である原油部門を狙ってインフラ設備関連の輸出を禁じる。EUに依存しているという石油精製施設の性能向上を阻むという。EUの天然ガス輸入の4割はロシアからだが、日本からの融通も含めて液化天然ガスの確保を進めており、フォンデアライエン欧州委員長は「ロシアが(報復措置で)供給を止めても、この冬を乗り切るだけの量がある」と説明した。一連の制裁は、米国や英国にとどまらず、韓国や日本とも緊密に協議していると説明。フォンデアライエン氏は「我々の結束は、我々の力だ」と語った。(ブリュッセル=青田秀樹)
11:20ごろ(キエフ25日04:20ごろ) キエフで2度、爆発音の情報 
AFP通信が、キエフ中心部で爆発音があったと報じた。キエフ市内のホテルに滞在して取材中の朝日新聞記者は、空爆があったと見られるとの情報を受けたホテルの指示で、地下シェルターに避難した。2度大きな爆発音がしたという情報がある。音を聞いた他の宿泊客によると、爆発音は近くはなかったという。
11:00(ブリュッセル03:00) フランス大統領、対話の通路「開いておく」
フランスのマクロン大統領は25日未明、軍事侵攻したロシアのプーチン大統領について、「(対話の)通路を開いておくことは私の責務だと思う。条件が整った日が来たときに、ウクライナ国民への戦闘行為をやめさせるようにするためだ」と述べた。ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)の臨時首脳会議後の記者会見で語った。マクロン氏は会見で、前日夜にプーチン氏と短く電話協議した際、侵攻の中止を求めると同時に、ウクライナのゼレンスキー大統領と協議するよう求めたことも明らかにした。ゼレンスキー氏はプーチン氏と直接連絡が取れず、メッセージを伝えるようにゼレンスキー氏がマクロン氏に依頼していたという。
08:40 岸防衛相、ロシアの手法は「ハイブリッド戦」
ロシア軍によるウクライナ侵攻について、岸信夫防衛相は25日の閣議後の記者会見で、「ロシアが軍事手段と非軍事手段を組み合わせた、いわゆるハイブリッド戦の手法をとっているとみられる」と指摘し、防衛省として情報収集、分析に努める考えを示した。岸氏は、ロシアの侵攻に先立ち、親ロシア派組織が名乗る二つの共和国側が、ウクライナ軍による砲撃があったと発表する一方、ウクライナ側が偽情報と主張している状況を説明し、ロシアによる「ハイブリッド戦の手法」と指摘した。
●ロシア軍がキエフから32キロの距離に、米当局者が議員に伝える 2/25
ベラルーシからウクライナに侵入したロシア軍の機械化部隊が、ウクライナ首都キエフから20マイル(約32キロ)の距離にいると、米政権当局者が下院議員へのブリーフィングで伝えたことがわかった。2人の情報筋が明らかにした。
当局者は、ロシアからウクライナに入った別のロシアの部隊はもう少し離れた距離にいるとも説明。どちらもキエフに向かって進軍していて、キエフの包囲を目的とし、ウクライナ政府の転覆を図る狙いもありうるとしている。
●ロシア軍がチェルノブイリ原発の立ち入り禁止区域に侵入、激しい戦闘  2/25
ウクライナ内務省顧問は24日、自身のSNSで、ロシア軍がウクライナ北部のチェルノブイリ原発周辺の立ち入り禁止区域内に侵入し、原発の警備隊との間で激しい戦闘が起きていることを明らかにした。
チェルノブイリ原発はソ連時代の1986年に原子炉が爆発し、史上最悪の放射能汚染事故に発展した。この顧問は砲撃などで原発が大きな被害を受ければ、影響は隣国のベラルーシや欧州連合(EU)加盟国にも及ぶ恐れがあると警告している。
ロシア軍はウクライナ北方のベラルーシから侵攻したとみられているが、ベラルーシ軍の部隊が混じっているかどうかは明らかにしていない。
●“チェルノブイリ原子力発電所 ロシアが占拠” ウクライナ首相  2/25
ウクライナのシュミハリ首相は24日、北部にあるチェルノブイリ原子力発電所が戦闘の末、ロシア軍に占拠されたと明らかにしました。
AP通信の映像では、所属不明の軍用車両とみられる複数の車両が原子力発電所の敷地内に入り込んでいる様子が確認できます。
チェルノブイリ原子力発電所では旧ソビエト時代の1986年、運転中の原子炉で爆発が起こり、史上最悪の事故と言われています。
シュミハリ首相は、戦闘による犠牲者はいなかったとしていますが、敷地内にある放射性廃棄物の貯蔵施設の状態は分かっていません。
ロシアのプーチン大統領は今月21日の国民向けの演説で、ウクライナがソビエト崩壊後に放棄した核兵器を改めて保有するという趣旨の発言をしているとしたうえで「ウクライナが大量破壊兵器を手に入れれば、ヨーロッパやロシアの状況は一変する」と主張していました。
ロシアとしては貯蔵されている放射性廃棄物をウクライナ側に渡さないようにするねらいがあるとみられますが、ウクライナの大統領府顧問はロイター通信に対して「ヨーロッパにとって深刻な脅威の1つになった」と述べ、ロシアを非難しています。
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は24日、ホームページ上で「ウクライナ情勢に深刻な懸念をもって注視している」とする声明を発表し、チェルノブイリ原発を含むウクライナの原子力関連施設を危険にさらすような行動を自制するよう呼びかけました。そのうえで、ウクライナの原子力規制機関から稼働中の原発に関しては安全性が確認されているという連絡を受けている一方、正体不明の武装勢力がチェルノブイリ原発の全施設を掌握したとする通知をウクライナから受けたことを明らかにしました。IAEAはこれまでのところ、チェルノブイリ原発に関係する死傷者や破壊などの報告は受けていないということです。グロッシ事務局長は「原子力施設に対するいかなる武力攻撃や脅威も国連憲章や国際法、IAEA憲章に違反する」として、自制を強く呼びかけました。
●ウクライナ侵攻に米「厳しい代償払わせる」としたものの…打つ手乏しく  2/25
ロシアがウクライナへの攻撃に踏み切ったことで、侵攻阻止に向けた外交努力を続けてきた米国のバイデン政権にとっては大きな打撃となった。北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国と連携して対応にあたる構えだが、ロシアに対抗する手段は限られており、バイデン政権は試練に直面している。
団結を強調
攻撃開始後、米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長と電話会談し、対応を協議した。ブリンケン氏は会談後、ツイッターで「我々はロシアに対応し、NATO東側(の防衛)を強化するため団結する」と強調した。バイデン大統領はNATO加盟国でないウクライナへの軍事介入は行わない方針で、追加制裁以外は打つ手が乏しいのが実情だ。東欧に増派されている米軍は、ウクライナから陸路で隣国に脱出する避難者の急増を想定し、ポーランドでの収容キャンプ運営など、後方支援に回る見通しだ。
対話実らず
バイデン氏には副大統領を務めたオバマ政権下での2014年、ロシアのクリミア侵攻を防げなかった苦い経験がある。このため今回は、軍事侵攻の口実をでっち上げるロシアの「偽装工作」に関する情報や、軍内部の指示などの機密を積極的に同盟国などと共有し、「厳しい代償を払わせる」と制裁発動をちらつかせて侵攻抑止を図ってきた。一方で、トップ間の直接対話も重視し、昨年12月7日にはオンライン形式でプーチン大統領と会談して自制を促した。12月30日と今年2月12日にも相次いで電話会談し、緊張緩和に向けた糸口を探ってきた。そうした努力が実らなかったことで、米政府内には無力感が漂う。
理想と現実
バイデン政権は発足直後から、米欧日などの民主主義国との関係を再構築して一致した対応を取り、「唯一の競争相手」と位置付ける中国をはじめとする「専制主義国」に対抗することで、外交の主導権を握る戦略を描いてきた。だが、実際はロシアに振り回され、対中国との「二正面作戦」を余儀なくされている。対中抑止の具体的な政策は打ち出せず、北朝鮮はミサイル発射で挑発を繰り返している。ウクライナ情勢を巡るロシアの姿勢を中国は批判せず、中露の接近も鮮明になった。トランプ前大統領はロシアによる攻撃開始直後、米FOXニュースに出演し、「中露を一緒にしてしまったのは最悪だ。プーチン氏は、この政権の弱さと無能さを目の当たりにしている」とこき下ろした。昨年8月にアフガニスタンからの駐留米軍撤収を巡って混乱を招いた後、各種世論調査でバイデン氏の支持率は急落した。今年11月の中間選挙に向け、バイデン氏はさらに厳しい状況に追い込まれている。
●米大統領 ロシアへの経済制裁など決定 2/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、アメリカのバイデン大統領はロシア最大の金融機関の取り引き制限など、大規模な経済制裁を実施すると発表しました。アメリカ軍の部隊をヨーロッパに追加で派遣することも決め、ロシアに対し断固たる姿勢で臨むと強調しました。
バイデン大統領は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて24日、ホワイトハウスで演説し「プーチン大統領は侵略者だ」などと、強く非難したうえで大規模な制裁を科すと発表しました。
具体的には、ロシアの政府系銀行で国内最大の「ズベルバンク」など5つの大手金融機関について、ドル建ての取り引き制限や、アメリカ国内の資産の凍結を行うと明らかにし、その結果、資産ベースで、ロシア国内の銀行の80%が制裁の対象になるとしています。
これらの大手金融機関は、ロシアの石油や天然ガスなどを扱う多くの企業に融資を行っているため、ロシア経済に幅広く打撃を与えるねらいです。
さらに、ロシアによる最先端技術へのアクセスを断つとして、アメリカからのハイテク製品の輸出規制を実施するとしています。
一方、軍事面の圧力としてバイデン政権は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国の防衛態勢を強化するため、7000人規模のアメリカ軍の部隊をドイツに追加で派遣することを決めました。部隊は数日中に出発し、必要に応じて、そのほかの地域に展開するということです。
バイデン大統領は演説で、アメリカ軍の部隊をNATOの加盟国ではないウクライナに派遣することはないと改めて明言しましたが、大規模な制裁や周辺地域への部隊の配置によって、ロシアに対し断固たる姿勢で臨むと強調した形です。
米 バイデン政権 対ロシア大規模制裁の内容は
アメリカのバイデン政権が24日発表した大規模な経済制裁の内容です。
まず、ロシアの政府系銀行で国内最大の「ズベルバンク」と、2位の「VTBバンク」を含む5つの大手金融機関について、ドル建ての取り引きを制限したりアメリカ国内の資産を凍結したりします。
制裁の対象はロシアの銀行の資産の80%になるとしています。
これらの大手金融機関は、ロシアの石油や天然ガス、それに鉱物資源を生産する多くの企業に融資などを行っているため、ロシア経済に幅広く打撃を与えるねらいです。
そして、ロシアによる最先端技術へのアクセスを断つとして、ハイテク製品の輸出規制を実施します。
防衛や航空産業に使われる処理能力の高い半導体やレーザー、センサーなどを、アメリカ企業などがロシアに輸出できないようにする措置で、ロシアのハイテク分野の輸入が50%以上減少すると見込んでいます。
このほか、ロシア最大のガス会社「ガスプロム」を含む国有企業など13社がアメリカの市場で新たな株式や社債の発行をできなくする規制の導入や、プーチン大統領の側近の家族らの資産の凍結を実施するとしています。
バイデン大統領は記者会見で「ロシア経済への資金と技術を制限し、ロシアの産業力を低下させる」と述べ、ヨーロッパや日本などと協力してロシアに対抗していく姿勢を強調しました。
ただ、大規模な制裁は、原油や天然ガス、穀物などの供給への懸念を高め、価格の上昇に拍車をかけたり、輸出規制によって世界のサプライチェーンに混乱を招いたりするおそれもあります。
このため、世界経済の大きな課題になっているインフレ圧力を高めることにつながらないか、注視する必要があります。
一方、ロシアに対する最も厳しい措置の一つとされる銀行間の国際的な決済ネットワークであるSWIFT=「国際銀行間通信協会」からロシアの銀行を排除する措置は、今回の制裁に含まれていません。
これについてバイデン大統領は「常に選択肢の一つだが、いまヨーロッパ各国はそれを望んでいない」と述べました。
また、記者から、制裁が抑止力になっていないのではないかと問われたバイデン大統領は「制裁が彼を止められるとは言っていない。制裁が効果を発揮するには時間がかかるが、ロシアを弱体化させることにつながる」と述べ、ロシアの侵攻を直ちに食い止めることを目指したものではないとしました。
また、バイデン大統領は現時点でプーチン大統領と会談する予定はないとしたうえで、25日にはNATO=北大西洋条約機構の首脳会議を開いて連帯を確認するとともに、今後の対応について協議するとしています。
EU首脳会議 ロシアに追加制裁で合意
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻を受けて、EU=ヨーロッパ連合は緊急の首脳会議を開き、ロシアに対し、金融やエネルギーなどの分野で追加制裁を科すことで合意しました。
EUは24日、ロシアへの対応などを協議するためベルギーのブリュッセルで緊急の首脳会議を開きました。
首脳会議では、軍事侵攻を強く非難し、ロシアに対して直ちに軍事行動をやめるよう求めることで一致しました。
そして、金融やエネルギー、それに半導体をはじめ先端技術を使った製品の輸出などに関して、追加の制裁をロシアに科すことで合意し、今後速やかに手続きを進めるとしています。
会議のあとの記者会見でEUのフォンデアライエン委員長は「プーチン大統領は力でヨーロッパの地図を書きかえようとしているが、かならず失敗するだろう」と述べ、EUとしても強力な制裁を科すことでこれ以上の軍事侵攻を阻止したい考えを強調しました。
EUは、先月の時点で天然ガスの輸入の4割をロシアに依存しており、ロシアが制裁の対抗措置としてEUへのガスの輸出を制限する可能性もあるとみています。
このため今回の首脳会議では、エネルギーの分野も含め不測の事態への備えを進めるよう、EUの執行機関であるヨーロッパ委員会や各加盟国などに求めました。
英 ジョンソン首相 新たな対ロシア制裁措置発表
イギリスのジョンソン首相は、24日、ロシアに対する新たな制裁措置を発表しました。
それによりますと、すべてのロシアの銀行の資産の凍結を行う計画で、このうち、ロシアの政府系銀行で国内2位の「VTBバンク」の資産は即時凍結するとしています。
アメリカと協調した制裁で、ジョンソン首相はロシアの貿易のおよそ半分はアメリカドルやイギリスポンド建てで行われているため、これらの通貨による決済が難しくなると説明しています。
また、貿易の規制も強化し、通信機器や航空関連の部品など安全保障上、重要とされる製品について、軍事目的に転用できないようロシアへの輸出を禁止します。
このほか、プーチン政権と近い100を超える企業や実業家に対し、資産の凍結やイギリスへの渡航禁止の制裁を科すことや、ロシアのアエロフロート航空のイギリスへの発着を禁じることなども含まれています。
今回の発表には、銀行間の国際的な決済ネットワークであるSWIFT=「国際銀行間通信協会」からロシアの銀行を排除する経済制裁は含まれておらず、ジョンソン首相は、除外してはいないと説明したうえで「こうした手段を成功させるにはG7各国の結束が重要だ」と述べました。
独 ショルツ首相「これはプーチンの戦争」
ドイツのショルツ首相は、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、24日、国民に向けてテレビ演説を行いました。
この中でショルツ首相は、ウクライナの人々との連帯を強調したうえで「プーチン大統領はあらゆる警告や外交的解決に向けた努力に取り合わなかった。彼ひとりがこの戦争を決断し、全面的に責任を負う。これはプーチンの戦争だ」と述べ、プーチン大統領を厳しく非難しました。
そして「ウクライナへの攻撃を受け、われわれはさらに徹底した制裁を科す。ロシア経済にとって痛烈な打撃となるだろう」と警告しました。
さらに「われわれは決然と、結束して行動する。そこに自由な民主主義国家としての強さがある。プーチン大統領は勝利しないだろう」と述べ、各国と緊密に連携しながらロシアに対じしていく姿勢を強調しました。
台湾 行政院長「侵略行為を厳しく非難」
台湾の首相にあたる蘇貞昌 行政院長は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について報道陣の取材に答え「われわれはこのような侵略行為を厳しく非難するとともに、民主国家と歩調を合わせて制裁を加える」と述べました。
また、台湾外交部も「国際社会のロシアに対する経済制裁に参加する」と表明しました。
制裁の具体的な内容について王美花 経済部長は「各国と調整する」としていますが、台湾のメディアは、さきに半導体の輸出規制などを行う可能性があると伝えています。
南米 “非難” “配慮” “支持” 対応分かれる
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、南米ではコロンビアやアルゼンチンなど多くの国が懸念を示す一方で、ブラジルのボルソナロ大統領がロシアとの関係に配慮する姿勢を示すなど対応が分かれています。
このうちコロンビアやアルゼンチン、チリなど多くの南米の国では、ロシアの軍事侵攻を厳しく非難しています。
一方ブラジルでは、ボルソナロ大統領がロシアの軍事侵攻を非難した副大統領に対し「この問題で発言する権利があるのは私だけだ」と注文をつけるなど、ロシアとの関係に配慮する姿勢も示しています。
さらにロシアの支援を受けて独裁を続けるベネズエラの外務省は24日、声明を発表し「アメリカが主導するNATOが停戦合意に違反したことは遺憾だ。ロシア国民に対する違法な制裁は認められない」などと述べ、ロシアを支持する姿勢を強調しました。
●ロシア各地でウクライナ侵攻への抗議デモ…サンクトペテルブルクでも 2/25
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の故郷であるサンクトペテルブルクで2022年2月24日、大規模な抗議デモが発生し、人々はウクライナへの侵攻に反対の声を上げた。
ツイッターに投稿された動画には、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクの一角に集まった多くの人々が映し出され、ロシアのウクライナ侵攻に異議を唱える様子が映し出されている。
ソーシャルネットワーク「Telegram」上のベラルーシのメディアチャンネルであるNEXTAは、ロシア政府のものと見られる建物の外に多くの人々が集まり、抗議行動に隣接する通りにはバスが並んでいる映像を投稿しました。
ロシアの報道機関Meduzaのニュース編集者であるエイリシュ・ハート(Eilish Hart)がツイッター(Twitter)に投稿した写真には、市内の宮殿広場に並ぶ警察官が写っていた。
ロシア当局は、街頭に出た反戦デモ参加者は逮捕すると警告している。ロシア連邦捜査委員会は声明で、「緊迫した外国の政治状況に関連した」無許可の抗議行動に参加しないよう市民に警告した。
●プーチン氏自滅、真の勝者は「グレタさん」―ウクライナ危機 2/25
あまりに傲慢であまりに愚かと言うべきだろう。ロシアのプーチン大統領は、24日、対ウクライナ軍事作戦を決定してしまった。ウクライナ政府軍と親ロシア派が衝突を繰り返しているウクライナ東部のみならず、同国首都キエフ近郊もロシア軍によって攻撃されるなど、事態は全面戦争に発展しつつある。ロシアの圧倒的な戦力ならば、軍事的に勝利することも容易、プーチン大統領はそう考えているのだろう。だが、露骨な「力による現状変更」は、国際社会のプーチン大統領への不信感を決定的にした。それでなくても地球温暖化防止のため、脱炭素社会を目指す欧州は、天然ガスや石油へのロシア依存を見直し、それはプーチン政権の終わりの始まりとなるのだろう。
ロシアのガスへの依存、欧州が見直しへ
ウクライナ情勢が緊迫する中、ここ最近、欧州で活発に論議されていたのが、エネルギー受給における「脱ロシア依存」だ。ロシアは豊富な地下資源を誇り、とりわけ天然ガスの埋蔵量・生産量ともに世界最大で、石油も原油生産量で米国やサウジアラビアに次ぐ第3位(2019年)。そして、欧州各国は、EU(欧州連合)全体として、発電や暖房等のための天然ガス需要の約4割をロシアに依存してきたのである。その気になれば、ロシアは欧州各国をエネルギー危機に陥らせることもできる―それが、プーチン大統領の強気さの要因の一つであることは間違いない。実際、ドイツがウクライナ情勢を鑑み、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の計画を停止したことについて、プーチン大統領の側近でロシア前首相のメドベージェフ氏は、「よろしい。EUは法外な価格で天然ガスを買うことになるだろう」と自身のツイッターに投稿しているのだ。
こうした、天然ガスを外交・安全保障上の「武器」として使ってくるロシアにエネルギーを依存してきたことへの反省の弁がEU内であがってきている。例えば、EU委員会で温暖化対策を担当するフランス・ティメルマンス副委員長は、今年1月、欧州各国の環境大臣らの会合で「プーチンの懐を肥やしたくないのなら、(太陽光や風力などの)再生可能エネルギーへの投資を迅速に行うべきだ」「人々に安定してエネルギーを供給したいのであれば、再生可能エネルギーがその答え」と語ったという(通信社「ブルームバーグ」等が報道)。
今月16日には、ウルズラ・フォン・デア・ライエンEU委員長も「EUへの液化天然ガスLNG輸出を多くの国々と協議し、今年1月の時点で120隻の船舶が膨大なLNGを欧州に運んできてくれた」「欧州全域のガスパイプラインと電力相互接続ネットワークを強化した」と、対策を行なっていることを報告した上で、「この危機からすでに得られる教訓の一つは、ロシアのガスへの依存を取り除き、再生可能エネルギー源に多額の投資を行い、エネルギー源を多様化する必要があるということだ。それは地球に優しく、私達のエネルギー安全保障のためにも良い」と強調している。さらに今月23日もノルウェーのストーレ首相との会談後「ロシアや化石燃料にエネルギーを依存するのをやめ、再生可能エネルギーへの移行をすすめなくてはいけない」と語っている。
脱石炭だけでなく脱ガス、欧州の再エネ移行が加速
石炭火力発電に比べれば、天然ガス火力発電から排出されるCO2は半分程度であるため、EU各国は脱石炭をすすめる一方、天然ガス火力への依存を深めてきた。しかし、それは破局的な温暖化の進行を防ぐものではないとして、グレタ・トゥーンべりさんはじめ多くの環境活動家や気候学者らが見直しを求めてきたことなのだ。今回のウクライナへの侵攻で、欧州各国のプーチン政権下のロシアに対する不信感は決定的となり、また天然ガスや原油の供給不足や価格上昇と相まって、再生可能エネルギーの推進や省エネ化がより進むことになるだろう―そう観るのは、筆者だけではなく、米国のテレビネットワークのCNNや、著名誌『タイム』、英紙『ガーディアン』なども同様の論調で報じている。本稿のタイトルを、"真の勝者は「グレタさん」"としたのは、上述ような流れが加速するだろうからである。
ロシア経済に打撃
こうした、ロシアの天然ガスから再生可能エネルギーへのシフトが欧州で進むことで、プーチン政権の「武器」となっていた天然ガスは諸刃の剣として、ロシア経済を揺るがすことになる。ロシアの輸出全体の中で、以前よりは若干減少しているとは言え、EUは最も割合が大きく4割強を占める。もし、これが失われるのなら、ロシア経済にとっては大きな打撃だ。なぜならば、ロシアの政府歳入の約5割を石油・ガス関連収入が占め、文字通り国家の財政基盤であるからだ。仮に、欧州各国だけでなく、米国の呼びかけで日本や韓国、インド、トルコ等がロシアの天然ガス輸入を止めた場合は、さらにプーチン政権は苦しくなる。中国がロシアからの天然ガス輸入量を増やすかもしれないが、中国もまた脱炭素社会の実現に向け、猛烈な勢いで再生可能エネルギーを増やしている。ごく短期的ならともかく、中長期的に欧州その他の国々の穴を中国が埋められるかは、何の保証もない。また、中国に大きく依存することで、同国に経済的に支配されるリスクもある。つまり、プーチン大統領は、軍事力でウクライナを圧倒することはできるだろうが、国家戦略としては、ウクライナへ軍事侵攻した時点で、既に負け始めているとも言えるのだ。
日本も再エネ移行を急げ
ウクライナ危機は、日本にとっても他人事ではない。ロシア軍の侵攻開始によって、石油や天然ガスの価格は高騰し、日本経済にも悪影響が及ぶだろう。だからこそ、EUと同じく、エネルギー安全保障と脱炭素を兼ねて、再生可能エネルギー中心の社会の実現へギアを上げていくべきである。それは「力による現状変更」に対して、ただ「遺憾」の意の表明するではなく、毅然とした対応をしっかりと取るという意味においても重要なことなのだ。
最後に、これまで中東の紛争地を取材してきた者としては、流される血が一滴でも少ないうちに、一刻も早く戦争が終結することを心から祈りたい。
●仏マクロン大統領、プーチン大統領に侵攻即時停止要求 2/25
フランスのマクロン大統領は24日、ロシアのプーチン大統領に電話し、ウクライナに対する軍事作戦の即時停止を要求した。フランス大統領府が発表した。侵攻後、プーチン氏と欧米諸国首脳の電話会談が明らかになったのは初めて。
一方、パリの共和国広場では24日、ウクライナ侵攻に抗議するデモが行われ、報道によると、約2800人が集まった。ウクライナの国旗を掲げたり、身にまとったりした参加者らは「プーチンはテロリスト、プーチンは殺人者」と叫んだ。
●「ロシアは世界経済の一部」 制裁覚悟とプーチン氏 2/25
ロシアのプーチン大統領は24日、クレムリンでロシアの財界人らと会談、同日開始したウクライナでの軍事作戦を念頭に「ロシアは世界経済の一部であり続ける。世界の経済システムを損なう考えはない」と述べた。予想される欧米側からの大規模制裁には「準備ができている」と強調した。
プーチン氏は、北大西洋条約機構(NATO)東方不拡大の確約など欧州安全保障に関するロシアの提案に「ほんのわずかな歩み寄りも見せなかった」と欧米側を批判。ウクライナへの攻撃は「ほかに方法がなかった」と正当化した。
●プーチン大統領 軍事行動に踏み切った3つの要因 2/25
ロシア政治を専門とする筑波大の中村逸郎教授は、ロシアのプーチン大統領が軍事作戦に踏み切ったタイミングに3つの要因を挙げた。
1つはウクライナ政権の支持率低下。「ゼレンスキー大統領は昨年から側近の離反が相次ぎ支持率が過去最低の20%台に。その足元のぐらつきを狙った」と指摘した。加えてバイデン米大統領の弱腰にも言及。「バイデン大統領は軍事衝突という最悪の事態を回避するために、まごまごしている。経済制裁だけで終わる可能性もある」とした。
最後に挙げたのは2月の欧州の気候を狙ったというもので「ヨーロッパに天然ガスを送るパイプラインはウクライナを通るものが大動脈。冬の電力が必要な時期にNATOも強く歯向かえない」と強調。今後、米国が猛反撃するなど、プーチン大統領の綿密なシナリオが狂った時には「ロシアが捨て身の攻撃をするかもしれない」と懸念した。
●早朝に電撃的発表 ウクライナ侵攻でロシア大統領 2/25
ロシアのプーチン大統領が24日、ウクライナでの軍事作戦に踏み切った。ウクライナの親ロシア派からの軍事支援要請の発表から約6時間後の24日早朝。プーチン氏は国営テレビを通じた国民向け演説で電撃的に軍事作戦の開始を宣言し、世界中に大きな衝撃を与えた。
プーチン氏は21日に署名した大統領令で、ウクライナ東部の親ロ派支配地域に「平和維持」名目でロシア軍を派遣するよう指示。22日の記者会見では「今すぐ部隊が行くとは言っていない」と語っていたが、国際社会はプーチン氏にまたも裏をかかれる形となった。
ロシアとウクライナは歴史的にも文化的にも結び付きが強く、両国には互いに親族がいる人も多い。ウクライナ侵攻に関し、専門家の間には「政治的には準備ができていない。国民はおびえており、戦争を望んでいない」(軍事評論家パベル・フェリゲンガウエル氏)と、国民の支持は得られないとの見方もあった。フェリゲンガウエル氏ら多くの専門家は、ロシアが長年、親ロ派を軍事支援してきたことから、正規軍が平和維持部隊として介入しても状況は大きく変わらないと予想していた。しかし、プーチン氏はロシア軍による大規模な軍事侵攻を選択した。
プーチン政権は先週以降、ウクライナに対する国民の反感をあおる大規模なプロパガンダを続け、軍事作戦に向けて国内的な環境づくりを図ってきた。ただ、戦争を積極的に支持する国民は多くないもようだ。ロシア軍にも犠牲が出るなど事態が泥沼化すれば、プーチン氏が国内でも厳しい批判にさらされる可能性がある。 
●ウクライナ情勢に専門家は「第二次世界大戦以来最大の危機」 2/25
ロシアとウクライナの関係や侵攻に至った経緯などについて兵庫県にある神戸学院大学の岡部芳彦教授に話を聞きました。日本におけるウクライナ研究の第一人者です。
「ウクライナは非常に簡単に言うと日本の隣の隣の国。共通点としては原子力災害を経験したこと、ロシアが隣国であること、領土問題をロシアと抱えているといった特徴があります。」
攻撃が始まって1日が経ち、避難する人たちの姿もみられます。ウクライナの現在の状況はどうなのでしょうか。
「2月23日まではウクライナの各地は非常に平穏というか日常の生活が送られていたんですけど、2月24日からは事実上の戦争状態になっていて、避難も始まっている。ただネット網の寸断とかインフラの停止はありません。ウクライナの人は2014年のクリミア占領、東部の戦闘から8年間戦闘が続いていましたので、比較的冷静な対応を24日の朝までしていましたけれど、24日からは状況が一変して市内からも避難が始まっています。」  
ロシアの攻撃により世界情勢はどう変わるのでしょうか。
「実際今がどういう状況かというとあまり認識がない方も多いですけど、正直言うと第二次世界大戦以来最大の危機を迎えつつありまして,世界中は危機で大騒ぎだけど日本は国会を中心にコロナの話題が中心で、ウクライナ情勢は二の次という感じ。ただ第二次世界大戦直前、あるいはそれ以来最大の危機に直面しているのが現状です。」
●ウクライナ情勢 影響が日本の酪農にも広がる懸念 酪農家は  2/25
ウクライナ情勢の影響が日本の酪農にも広がる懸念が出ています。世界有数の穀物輸出国であるウクライナの混乱で、餌となるトウモロコシの国際価格は上昇傾向にあり、酪農家の間からはさらにコストが増えることに不安の声が上がっています。
海外からの輸入に頼る家畜の餌、飼料用トウモロコシの国際価格は、中国国内の需要の増加や南米での不作を受けおととしごろから高止まりが続いています。
こうした中、世界でも有数の輸出国、ウクライナから供給が滞るのではないか、という警戒感が、国際価格をさらに上昇させる新たな要因となっています。
北海道鹿追町で130頭の牛を飼育する内海洋平さんは「穀物を海外に頼っている以上は外国の非常事態に左右されるのは仕方ないが、飼料価格がずっと値上がりしていた中、追い打ちのような状況だ」と不安を強めています。
内海さんの牧場では、去年1年間で餌の価格が前の年より最大で30%上昇した結果、コストが想定より400万円近く増え、経営にとって大きな負担となっています。
内海さんは、コストを抑えようとみずから栽培したトウモロコシを一部混ぜるなどしているものの、餌の内容を大きく変えるのは牛の健康にも影響を与えるため、これ以上の対応は厳しいといいます。
新型コロナウイルスによる影響で生乳の需要が減少していることから、道内の酪農家は新年度から16年ぶりに生産抑制を余儀なくされ、売り上げを伸ばすことが困難な状況にあります。
内海さんは「『あまり絞らないでね、生乳の値段も安くしますよ、でも材料は高いですよ』では、先の未来が見えなくなっている。牛乳はいつまでも安い、安くあるべきみたいなところは少し考え直してもらえれば」と話しています。
JA全農「ウクライナ侵攻で価格上昇も」
JA全農=全国農業協同組合連合会でトウモロコシの買い付けを担当する穀物外為課の鮫嶋一郎さんは「ウクライナの情勢不安によって供給制限への懸念が生じてトウモロコシの市場価格が上昇する一因になっている」と指摘しています。
鮫嶋さんによりますと、おととし以降、穀物取引の国際指標であるアメリカ・シカゴ商品取引所のトウモロコシの先物価格は高騰が続いているということです。
主な原因として、中国の輸入量の急増と、南米での天候不良によるトウモロコシの不作などがあげられるということです。
こうした中でトウモロコシの相場に影響を持つ世界有数の生産国であるウクライナの情勢不安が、新たな価格の上昇要因として加わったと分析しています。
鮫嶋さんは「2014年のクリミア半島の併合時に、ウクライナからの供給制限への懸念が出たことでトウモロコシ相場の上げ要因となった」と述べ、8年前の2014年にロシアが一方的にウクライナ南部のクリミアを併合した際も国際価格の上昇が見られたと指摘しています。
日本はトウモロコシを主にアメリカから輸入しています。
ロシアがウクライナに侵攻した場合の影響について鮫嶋さんは「ウクライナからの輸出が制限される、あるいは完全に止まることになれば、その分の需要がアメリカなどほかの輸出国に加わることになり、穀物相場の上昇要因となる」と述べ、アメリカ産の需要が世界的に高まることで日本にとって輸入価格が上昇する可能性に懸念を示しました。
ウクライナは「ヨーロッパの穀倉」
ウクライナは肥沃(ひよく)な黒土地帯を抱え、国土のおよそ70%を農地が占める「ヨーロッパの穀倉」とも呼ばれる世界有数の穀物輸出国です。
アメリカ農務省によりますと、ウクライナの2020年度から2021年度にかけての穀物輸出量は、トウモロコシが世界4位となる2300万トン余り、小麦が世界6位となる1600万トン余りに上り、穀物の国際相場にも大きな影響を与えています。
日本は飼料用トウモロコシの90%近くを海外からの輸入に頼っており、日本の酪農家にとってトウモロコシの国際価格の変動は飼料コストに直結する問題となっています。
●ウクライナ情勢が中央アジア周辺の物流に影響 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、中央アジア周辺での物流に影響が出始めている。
外洋に接していないカザフスタンやウズベキスタンなどの中央アジア諸国は、欧州との貿易にロシア経由のトレーラー輸送を利用することが多い。現在、ロシアとウクライナ国境、ベラルーシとポーランド国境、ロシアの黒海沿いのノボロシースク港経由での物流が機能しておらず、ジョージアのポティ港・黒海経由での輸送も難しくなりつつあることから、物資輸送に支障が発生している。
カザフスタンの物流企業クルーズ・ロジスティクスはジェトロのインタビューに対し、「現時点では、中央アジアと欧州間の貨物輸送はイランのバンダルアバス港などを経由するルートを使うしかない」と話す。また、中国と欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」についても「影響の顕在化は時間の問題ではないか」との認識を示している。
中央アジアと日本とを結ぶ物流について、クルーズ・ロジスティクスは「米国の対ロシア追加制裁の内容次第では、ナホトカやウラジオストクなどロシア極東経由の輸送ルートにも影響が出る可能性がある。その場合は、国境通関での渋滞が慢性化している中国経由ルートを使わざるを得ない」と述べている。
ウズベキスタンのサルドル・ウムルザコフ副首相、カザフスタンのバヒト・スルタノフ副首相は最近相次いでイランの首都テヘランを訪問した。2月21日にはイラン・ウズベキスタン、22日にはイラン・カザフスタンの政府間委員会が開催され、両委員会とも物流を含む多分野で協力関係を深化させることで意見が一致している。
●ウクライナ問題で中国の出方が歴史を変えるか 2/25
中国とロシアは70年ぶりの接近
現在、悪化の一途を辿っているウクライナ情勢は、冷戦後の国境を新たに引き直す動き、ともされる。ただし、これが「新冷戦構造」へと発展していくのかどうかについては、今後の中国の出方が大きな鍵を握るだろう。中国がいわばウクライナ情勢の「影の主役」、とも言えるのではないか。
2月4日の北京冬季五輪開会式の日に首脳会談を行った中国の習近平国家主席とプーチン大統領は、お互いの立場を支持する考えを表明した。即ち、中国は、ウクライナ問題で、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対するロシアの立場を支持し、ロシアは台湾問題に関して「一つの中国」という中国の立場を支持したのである。
冷戦初期に、中国は同じ社会主義国のソ連とは袂を分かち、独自の社会主義、独自の経済体制を追求してきた。米国への対抗という点で利害の一致を見出した中国とロシアは、70年ぶりに再び緊密な関係を取り戻しつつあるように見える。
ウクライナ問題を巡り、中国はロシアの立場を支持する一方で、対話による解決を呼び掛けてきた。中国の外交政策は、建国後間もなく当時の周恩来首相が表明した「平和五原則」を踏襲しているとされ、いかなる国でも他国への侵略や内政干渉を支持しないとの立場をとる。中国がロシアによる2014年のクリミア併合を支持しなかったのはこのためだ。しかし現状では、よりロシアの立場に理解を示すなど、変化も見られている。
ロシアがウクライナ東部の2つの共和国の独立を承認し、さらに侵攻を行ったことを受けて、欧米、日本など先進各国は、ロシアへの制裁措置を段階的に打ち出している。中国はこうした先進国の対ロシア制裁措置を非難しているのである。他方で、ロシアの軍事進攻の評価についてはコメントを避けており、明らにロシア寄りの姿勢を示している。
中国が制裁で打撃を受けるロシアを支援する可能性
第2弾の制裁措置で、米国はロシアの主要銀行のドル調達を制限し、貿易決済に打撃を与えた。しかし、対ロシア制裁措置が欧州への天然ガスの供給停止やエネルギー価格の上昇を通じて先進国経済への打撃に跳ね返ってくる影響に配慮して、エネルギー関連の取引を対象から外す措置とした。依然として抑制された措置にとどまっている面があるのだ。
ただし今後のウクライナでのロシアの行動次第では、米国など先進国は制裁をさらに強化していくことになる可能性は高い。現状ではなお措置を温存している状況なのである。
その追加措置には、今度はエネルギー関連も含めて、米国金融機関のロシア大手5行の取引を制限する、SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの大手銀行を除外する、SWIFTからロシア銀行すべてを除外する、など何段階か考えられる(コラム、「実効性をやや高めた第2弾の対ロシア追加制裁」、2022年2月25日)。
その際、中国が、ルーブル建てあるいは人民元建てで原油、天然ガスをロシアから追加購入すること等で、ロシアを支援する可能性がある。また、中国が人民元建ての独自の決済システムCIPSを用いて、ロシアの貿易決済を助ける可能性も考えられる。
仮に中国が先進国による経済制裁で打撃を受けるロシアを支援する場合、先進国の対ロシア制裁措置は、その分効果が低下してしまうのである。
注目される中国の覚悟
ただし、中国も制裁対象になってしまう可能性や、米国など先進国との関係悪化が決定的になってしまうリスクを考えれば、中国も簡単にはロシアの支援に本格的に乗り出せないだろう。
それでも、米国への対抗で利害が一致する最近の中国とロシアの緊密化の流れを踏まえれば、そうした問題点を甘受しつつ、中国が何らかの形でロシアの支援に回る可能性は、現時点で50%をやや上回るのではないか。
中国がロシア支援に明確に乗り出す場合には、中国と米国との関係は一段と悪化し、中国とロシアが経済、金融、そして安全保障面でも結束を強め、世界が中ロを中心とする権威主義的なグループと市場原理を基盤とする民主主義諸国とに二分されていく、まさに「新冷戦」の起点となってしまう可能性がでてくるのではないか(コラム、「FRBが救世主にはなれないウクライナ情勢による金融市場の混乱:中国の対応も市場の注目に」、2022年2月22日)。
米国がロシアの銀行をSWIFTから排除する決定をする場合には、そこには中国へのメッセージも暗に込められる可能性があるだろう。つまり、中国がアジア地域での軍事的な行動をエスカレートする、あるいは国内での人権問題を悪化させる場合には、中国の銀行もSWIFTから排除される可能性もあるという一種の脅しなのである。
このように、米国あるいは他の先進国は、ウクライナ問題でロシアへの対応を進める中でも、常に中国の出方を窺い、またアジア地域での中国の動きへの影響を強く意識するだろう。この点から、ウクライナ問題での影の主役は中国なのである。
●ロシアのウクライナ侵攻と日本経済にとっての真のリスク 2/25
ロシアによるウクライナへの侵攻が現実味を帯びたと報じられた2月11日から、ウクライナ情勢を伝える報道に世界の株式市場は一喜一憂した。事前に軍事侵攻の可能性は低いとの専門家などの見解が目立った中で、事態が深刻化するにつれて金融市場の認識が変わったことが世界的な株安を招いたようにも見える。
ただ、2014年のクリミア半島へのロシアの侵攻から、ウクライナとロシアの領土紛争が続いてきた。ロシアの強硬な政治行動の手段の一つとして、再び軍事侵攻する可能性はありえるだろうと、筆者は予断を持たずに考えていた。もちろん、ウクライナ国民にとっては悲劇でしかないが、米欧の金融市場関係者の多くは同様に認識していた様に思われる。
実際には、ウクライナ情勢を巡る報道が11日以降日増しに増えたので、これらを消化する時間的な余裕がなかった。このため、とりあえずリスク資産である株式をキャッシュ化する動きが強まり、2月11日以降の米国市場を含めた株安を引き起こすきっかけになったのだろう。
FRBによる利上げが米国株下落をもたらす主因になっていた
その後、ブーチン大統領がドネツク人民共和国などの独立承認、ロシア軍の進駐を命じた22日から、金融市場のウクライナ情勢に対する反応はより複雑になった。ロシアによる軍事行動が始まり、それが各国の経済活動に及ぼす影響を考えるフェーズにシフトしたとみられる。
22日に大幅安で始まった欧州株市場は買い戻され小幅高となり、翌23日にほぼ同水準を保った。一方、米国株市場は22日、23日両日ともに大きく下落、ウクライナ情勢への懸念から株価下落が続いたとメディアで解説されている。ただ、米国株の値動きを見ると、バイデン大統領のロシアへの経済制裁、ウクライナ政府がサイバー攻撃を受けた、などの報道が悪材料になったように見えるが、いずれも予想された動きに過ぎないだろう。
また、米国の債券市場では、ウクライナ情勢が緊迫化する中で、24日時点で10年金利はほぼ2%と先週時点と同水準で推移している。ウクライナ情勢への懸念よりも、FRBによる利上げによってハイテク株を中心にバリュエーション調整が起きていることが、米国株下落をもたらす主因になっていると筆者はみている。
23日時点でのS&P500指数終値は、1月3日の高値から約-12%下げた水準まで下落した。筆者は、インフレ沈静化に注力するFRBの利上げで金融環境がタイト化する余地が大きいと従来から考えていたので、ウクライナ情勢の緊迫化がなくても、今起きている程度の米国市場での株安は早晩起きていたとみている。そして、ウクライナへの軍事侵攻が始まった中で、供給制約の緩和を試みるFRBの大幅な利上げを試みる姿勢は変わらないだろう。24日に米国株市場は反発したが、引き続き慎重にみた方が良いだろう。
「日本の購買力」が下がる側面が強調されているが......
ところで、ウクライナ情勢の緊迫化が、日本を含めた世界経済全体に及ぼす波及効果として影響が大きいのは、原油などの資源価格上昇である。国会においても、政府のガソリン価格上昇への対応を巡り質疑が行われている。
ガソリン高に加えて食料品などにも価格が上昇する散見されるなかで、経済メディアなどでは「円の価値」が大きく低下してとの報道が目立っている。BIS(国際決済銀行)が発表している、貿易量と価格変動を調整した実質実効ベースの円の水準が、1972年以来約50年ぶりの水準まで低下しているのだが、最近は、この試算値が発表される度に経済メディアで取り上げられる様になっている。
一般的な「ドル円」と異なる尺度で円の価値を測ることが、ニュース価値があるとメディアが認識しているのかもしれないが、通貨円が「歴史的な水準」まで低下しており、「円の実力」が下がっているなどとメディアでは評されている。ウクライナ情勢の緊迫化で原油価格上昇に対する懸念が高まっているので、「日本の購買力」が下がる側面が強調され、通貨安が日本の貧しさを示唆しているかのように報じられている。
ただ、先進国の場合、通貨価値が、国力や経済的な豊かさが比例的に関係するわけではない。実質実効円レートの過去の推移を見れば、1995年の円高進行時に実質実効ベースの円は過去50年で最も上昇したが、1990年代後半から日本経済は、長期デフレと低成長局面にシフトしている。
当時既に日本ではデフレは静かに始まっていた中で、為替市場では大幅な円高が起きた。一方、1980年代の米英での高インフレの記憶が残る中で、バブル崩壊後の日本銀行の金融政策は引き締め的に作用していた。そして、1990年代後半から2000年代初頭まで、「通貨高は強い国の象徴」という不可思議な信条を抱く経済官僚によって、金融財政政策が運営されていた。
日本経済の実力に不相応な「行き過ぎた円高」が起きて、それがデフレと低成長の問題を深刻にした。この政策運営の失敗が、先進国の中で日本だけが長期デフレをもたらした、と筆者は総括している。その後も2000年代にかけて経済の低成長が長引いたので、最も豊かな先進国の一つであった日本は「普通の先進国」となり、近年では台湾、韓国に経済的な豊かさではほぼ追いつかれている。
つまり、経済成長率などの本当の実力相応に、通貨円の価値が程よく調整されるマクロ安定化政策が適切に行われるか否かが、経済的な豊かさである「日本経済の実力」を決定的に左右する。円の価値そのものは国力の一つの側面でしかなく、むしろ円の価値が高過ぎたデフレ期に、日本の豊かさが年々失われたことが、日本が経験した痛恨の失敗だと言える。
1970年代と比べれば米国の実質実効ドルも安くなったが......
なお、米国の実質実効ドルを見ると、1970年代初頭と比べるとドルは安くなっている。この意味では円とドルは同じだが、ドル安によって経済貧しくなったという議論は米国ではほとんど聞かれない。また1990年代頃と比べると現在はドル高になっているが、そもそも過去の一時点と、現時点の通貨価値を比較することにほとんど意味はない。
ただ、過去50年のドルと円の違いは、大きく変動した円と比べてドルの変動率が小さかったことである。1990年代から2021年前半までのFRB(連邦準備理事会)の金融政策によって、2%前後のインフレと持続的な経済成長が実現した。経済政策が失敗する局面が目立った日本の様には、ドルが大きく変動しなかったことを意味する。米国では適切な金融政策を反映して通貨価値が程よく動いたので、2012年まで金融政策が失敗した日本と異なり、経済的な豊かさが保たれたと言えるだろう。
日本で、経済的な観点でもっとも懸念すべき点は......
現在の実質実効ベースの円は、2015年半ばとほぼ同様の水準である。2013年以降の日銀の金融緩和政策が続いているので、円が経済情勢に応じて安定しており、2012年以前よりはむしろ望ましいと言える。この点を見過ごして、「円の実力の低下」を強調する見解はかなり偏っているのだが、こうした記事が掲載される経済メディアにおいてこそ「実力の低下」が起きているように筆者には見える。
また、こうした報道が増えていることには、岸田政権となって、マクロ安定化政策の主導権が、緊縮志向を抱く経済官僚に移りつつあることが影響しているのかもしれない。安全保障の専門家などが指摘するように、ウクライナ情勢の緊迫化が東アジアの地政学リスクを高める点を我々は警戒すべきだろうが、経済的な観点で懸念すべき点は、円の実力の低下ではなく、岸田政権においてマクロ安定化政策が再び機能不全に陥ることだろう。
●“チェルノブイリ原子力発電所 ロシアが占拠” ウクライナ首相  2/25
ウクライナのシュミハリ首相は24日、北部にあるチェルノブイリ原子力発電所が戦闘の末、ロシア軍に占拠されたと明らかにしました。
AP通信の映像では、所属不明の軍用車両とみられる複数の車両が原子力発電所の敷地内に入り込んでいる様子が確認できます。
チェルノブイリ原子力発電所では旧ソビエト時代の1986年、運転中の原子炉で爆発が起こり、史上最悪の事故と言われています。
シュミハリ首相は、戦闘による犠牲者はいなかったとしていますが、敷地内にある放射性廃棄物の貯蔵施設の状態は分かっていません。
ロシアのプーチン大統領は今月21日の国民向けの演説で、ウクライナがソビエト崩壊後に放棄した核兵器を改めて保有するという趣旨の発言をしているとしたうえで「ウクライナが大量破壊兵器を手に入れれば、ヨーロッパやロシアの状況は一変する」と主張していました。
ロシアとしては貯蔵されている放射性廃棄物をウクライナ側に渡さないようにするねらいがあるとみられますが、ウクライナの大統領府顧問はロイター通信に対して「ヨーロッパにとって深刻な脅威の1つになった」と述べ、ロシアを非難しています。
IAEA事務局長「危険にさらすような行動自制を」
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は24日、ホームページ上で「ウクライナ情勢に深刻な懸念をもって注視している」とする声明を発表し、チェルノブイリ原発を含むウクライナの原子力関連施設を危険にさらすような行動を自制するよう呼びかけました。
そのうえで、ウクライナの原子力規制機関から稼働中の原発に関しては安全性が確認されているという連絡を受けている一方、正体不明の武装勢力がチェルノブイリ原発の全施設を掌握したとする通知をウクライナから受けたことを明らかにしました。
IAEAはこれまでのところ、チェルノブイリ原発に関係する死傷者や破壊などの報告は受けていないということです。
グロッシ事務局長は「原子力施設に対するいかなる武力攻撃や脅威も国連憲章や国際法、IAEA憲章に違反する」として、自制を強く呼びかけました。
専門家「原子力施設を“人質”に取る可能性も」
ロシアの軍事侵攻に伴う、チェルノブイリ原発を含めた原子力施設への影響について、核セキュリティーに詳しい公共政策調査会の板橋功研究センター長は「今回の戦闘で施設が破壊・損傷され、放射性物質が飛散しないか懸念している。戦闘行為が続くかぎり、この危険性はあり、風向きによってはヨーロッパの広範囲に放射性物質が広がる可能性もある」と述べました。
そのうえで「ウクライナ政府の管理下にあったものが、本当にロシアの軍隊によって占拠されているのであれば、いったい誰が責任を持って施設や使用済み核燃料などの放射性物質を管理するのか。管理者がわからない“宙ぶらりん”の状態で原子力施設が存在することは非常に憂慮される」と述べ、IAEA=国際原子力機関などがロシアに抗議するなど、対応すべきだと指摘しました。
また、占拠のねらいについては「プーチン大統領の考えはわからないが、核物質がある原子力施設そのものを“人質”に取る可能性はある。少なくとも欧米諸国にとっては非常に大きな圧力になり、交渉材料の1つにするなど、何らかの意図を持って占拠している可能性は十分に考えられる」と述べました。
ロシア側 “線量異常なし ウクライナ側と共同警備で合意”と主張
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は25日、軍の空てい部隊がウクライナのチェルノブイリ原子力発電所とその周囲を完全に掌握したと明らかにしました。これに関連してウクライナの原子力規制当局は25日午前8時、日本時間の25日午後3時に「立ち入り禁止区域のモニタリングシステムによるとかなりの数の観測地点で放射線量のレベルに異常がみられる」と発表しました。
理由については「ロシア軍によって占拠されているため、特定することはできない」としています。一方、ロシア側は周辺の放射線量のレベルに異常は確認されていないとしています。そのうえでウクライナ側と共同で警備にあたることで合意したなどと主張しています。
また、ロイター通信などは専門家の話として「周辺で軍の大規模な移動があったことで放射性物質を含むちりが空中に広がったため」とする見方を伝えています。
●IAEA事務局長「最大限の自制を」 ウクライナ情勢で声明 2/25
ウクライナ情勢について、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は25日(現地時間24日)、「深刻な懸念をもって注視している。同国内の原子力施設を危険にさらすことのないよう、最大限の自制を呼びかける」との声明を発表した。
声明によると、チェルノブイリ原発については、「正体不明の武装勢力」に掌握されたとの連絡がウクライナ当局からあったとしている。死傷者や施設の被害については報告されていないという。
また、ウクライナ国内で稼働中の原発については、安全性が確保されているとの連絡もウクライナ当局から受けたという。
●プーチンは今なぜウクライナ侵攻に踏み切ったのか 2/25
ロシア軍は、2月24日午前、ウクライナに軍事侵攻し、首都キエフや各地の軍事施設をミサイルで空爆した。米国防総省やウクライナ政府によるとロシア軍は3方向から攻撃し、短距離弾道ミサイルなど1000発以上を使用。ベラルーシとの北部国境や南部クリミア半島との境界から地上部隊が侵入した。ロシア国防省はロシア軍がウクライナにある陸上の標的83カ所を破壊し、24日の攻撃目標を達成したと発表した。
軍事侵攻に先立ってプーチン大統領は、2月24日午前6時(日本時間24日正午)頃、国営テレビで放送したビデオ声明で表明した。「(ウクライナ東部の住民が)ロシアに支援を求めている。ウクライナ政権によるジェノサイド(集団殺害)にさらされている人々を保護するために(地域の)非軍事化を目指す」と説明した。あくまで人道目的での軍事作戦だと強弁した。
「ロシアの計画にはウクライナの占領は含まれていない」と説明し、ウクライナに抵抗を諦めるよう迫った。
一方、国連安全保障理事会は日本時間24日午前11時半すぎから緊急会合を開催した。
グテレス国連事務総長は会合後、記者団に対し「人道の名の下に、軍隊をロシアに戻すよう(プーチン)大統領に求める」と述べた。
同事務総長がウクライナに関して声明を出すのは筆者の知る限りこれが最初である。同事務総長は、これまでのところ、平和的な解決のための仲介に当たっていない。
さて、筆者は拙稿「徹底解説:ウクライナ危機とNATO東方拡大の歴史(2022.1.24)」で、「ロシアは、第3次世界大戦に発展する恐れのあるウクライナへの大規模侵攻は行わず、今回もクリミア併合と同じ手法を取ると見ている」と述べた。
すなわち、クライナ東部の親ロシア派武装勢力が実効支配するドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国地域を「独立国家」として認め、ロシア人保護を名目に軍を派遣し、次に両共和国をロシア連邦に編入する。
そして、親ロ派地域を足掛かりに勢力範囲を広げ、現ウクライナ政権に圧力をかけるというものである。
ところが、ロシアは、筆者の推測と異なりウクライナ全域に対する軍事侵攻に踏み切った。
なぜロシアは軍事侵攻に踏み切ったのか。その他にもいろいろな「なぜ」がある。以下、それらの理由等を考察してみたい。
1.なぜロシアは軍事侵攻に踏み切ったのか
米国が軍事力の行使を放棄した
米国は2021年12月の時点で、「ロシアによるウクライナ侵攻に対抗するため、米国が単独で軍事力を行使するような選択肢は今のところない」と述べた。
また、NATO(北大西洋条約機構)も、東欧の同盟国の防衛力強化のための部隊派遣を行ったが、ロシアによるウクライナ侵攻に対抗するために軍事力を行使するとは明言していなかった。
2月25日になって、NATOのストルテンベルグ事務総長は、ロシアのウクライナへの侵攻を厳しく非難しつつもウクライナに部隊は送らないと述べた。
米国が早期に軍事力行使を放棄したことにより、プーチン大統領は、米国をはじめとするNATO軍との軍事衝突のリスクを恐れずにウクライナ全域に対する軍事侵攻することができた。
いくらプーチンといえども欧米諸国との大規模軍事衝突は避けたかったであろう。
ロシア側は、米国をはじめNATOの部隊の活動状況を偵察衛星などで監視し、部隊が作戦準備態勢にないことも把握していたと思われる。
さらに、今回、ロシアは核弾頭を搭載できる弾道ミサイルの発射演習を行うなど、欧米への揺さぶりを強めた。
もともと米国が軍事力行使を放棄したのは軍事衝突が核戦争に発展する可能性を恐れたからであると見られている。
つまり、ジョー・バイデン大統領は初めからプーチン大統領とのいわゆる“チキンレース”に敗北していたのである。
“チキンレース”では、当事者の胆力だけでなく自国の国民やマスコミの支持がなければ勝利できない。
プーチンの頭の中を理解できなかった
テレビのさるコメンテイターが、大国ロシアの大統領がこのような国際法違反を行うのは信じられないと述べていた。
脳科学者の中野信子氏は、歴史的な英雄や指導者もサイコパスであった可能性があると指摘する。
彼らは良心や共感性が欠如しているので、他者の痛みや苦しみを理解することがない。
しかしその一方、リスクへの不安も感じないので、プレッシャーにさらされても極めて冷静な判断を下し行動することができるとも指摘している。
欧米諸国はプーチンに重い代償を払わせると主張するが、他者の痛みや苦しみを理解することのできないサイコパスであるプーチンには経済制裁は効果がないであろう。
中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩総書記なども中野氏がいうサイコパスに該当しているのではないかと筆者は思う。
国連・安全保障理事会が機能不全
国際社会において唯一の包括的・普遍的な組織である国連の中で、国際の平和と安全の維持につき主要な責任を有している安全保障理事会が機能不全に陥っている。
ロシアはこの状況を好機と見た。
国連は、第2次世界大戦を防ぐことができなかった国際連盟の反省を踏まえ、米国、英国、ソ連、中華民国などの連合国が中心となって設立(1944年)された。
国連設立の最も重要な狙いは、国際連盟の失敗を反省し、国連軍による集団安全保障制度を導入し、戦勝五大国(米・英・ソ・仏・中)の安全保障理事会における意思決定を重視した。
そのため、(1)安全保障理事会に大きな責任と権限を付与し(2)常任理事国に拒否権を付与した。
しかし、常任理事国に拒否権を付与したことがあだとなり、常任理事国間の対立を背景に常任理事国が拒否権を行使するため、何ら重要な決議が採択されない状態となっている。
国家間の紛争を解決する権威ある組織が世界に存在しない
岸田文雄首相は2月25日、ロシアによるウクライナへの大規模な侵攻を受けて記者会見で「力による一方的な現状変更の試みで、明白な国際法違反だ。国際秩序の根幹を揺るがす行為として、断じて許容できず、厳しく非難する。」と厳しく批判した。
しかし、ロシアは、自国民保護のために軍が行動していることを理由に国際法違反ではないと主張するであろう。
では、ロシアと欧米の言い分のどちらが正しいかを判断するは誰なのか。
オランダのハーグには国家間の紛争を平和的に解決することを任務とする国際司法裁判所が存在する。
国際司法裁判所は、被告国が裁判の開始に同意して初めて裁判が開始される。その判決には法的拘束力があり、一方の国が判決に従わない場合には国連の安全保障理事会は判決に従うように「勧告」することができる。
だが、ロシアが常任理事国である限り、ロシアを非難する「勧告」は決して発出されないであろう。
とするならば、大国であれば国際法を守らなくてもよいことになる。まことに不条理な話である。
2. なぜ今なのか
2-1 戦術的側面
ロシア軍は、早期に行動を起こさない場合、夏まで侵攻を待たなければならなくなる。
3月にはこの地域は悪名高い「ラスプティツア」と呼ばれる時期となり、道や田野は雪解けによる泥でぬかるんだ状態となり軍事行動の障害となるからである。
ロシアは、2021年11月頃から、ウクライナとの国境周辺に約10万の大規模な部隊を集結させた。
極寒のこの時期に3か月以上野営することはお金もかかるが兵士の士気にも影響する。2月末が限界であったのであろう。
2-2 戦略的側面
今、米中間で熾烈な覇権争いが続いている。そして、米国の関心がアジアにあることは否めない。
現に、今回のウクライナ情勢についても米国はイニシアチブを取ろうとしていない。結果、欧米の足並みが揃わない。プーチンは今がチャンスと見て、ウクライナに軍事侵攻をしたのであろう。
今、中ロ関係は、歴史上最も良好である。
ロシアは、欧米諸国から経済制裁を科されても中国からの支援が期待できると見ているのであろう。中国の習近平国家主席とプーチンは2021年5月19日、中国でのロシア製原発の新規建設に関する記念式典にオンライン形式で出席した。新華社によると、習近平氏は2021年が善隣友好協力条約の締結から20周年となることに触れ、「両国関係を幅広い領域で、より深く、より高い水準へと発展させていく」と強調。プーチンも「露中関係は歴史上、最も良好で、習近平主席との共通認識は着実に実行されており、協力の範囲は日増しに広がっている」と述べた。また、プーチンは北京オリンピック開会式に合わせて中国を訪問し、習近平主席と会談した。プーチンとしては、ロシアの安全保障上の懸念について中国から理解を取り付けたと見られている。
3 おわりに
中国は、今回のロシアのウクライナへの軍事侵攻対する国際社会の対応は、将来の台湾侵攻や尖閣諸島占領に向けた参考事例にするであろう。わが国とっても他山の石である。中国は、2014年のロシアによるクリミア侵攻で当時のバラク・オバマ米政権を含む国際社会がロシアの行動阻止に向けて積極的に動かなかったと見ている。
今回のウクライナへの軍事侵攻については現在進行中であるが、これまでのところ、バイデン米政権を含む国際社会が毅然とした対応をしたようには見られない。対抗手段が経済制裁に限定されている。
仮に、尖閣諸島有事の際、ウクライナと同盟国日本に対する米国の対応は異なるであろう。しかし、米国を頼ってばかりではいられない。軍事力による脅しには、毅然として軍事力で対応する覚悟と準備をしていなければならない。そのためには国民とマスコミの支持が不可欠である。
●ロシア「突然の軍事侵攻」その先にある4つの狙い  2/25
ロシアのウクライナへの攻撃が開始され、世界がこれまでにない緊張に包まれている。筆者は、ロシアのシナリオとして、ロシアがウクライナ東部(ドンバス)地域の「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、同「国家」との国際条約に基づくウクライナ東部地域への軍の駐留を行う可能性を以前から指摘していたが(世界が大騒ぎ「ロシアのウクライナ侵攻」その理由)、正直、ここまでスピーディな展開は予想していなかった。
ロシアは、なぜドンバスへの軍の駐留にとどまらず、キエフやハリコフを含むウクライナ各地の軍事施設へのミサイル攻撃に踏み切ったのだろうか。世界は、アメリカ、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、国連といったさまざまな国や組織のロシア非難で渦巻いているが、ロシアの行動を理解し、その狙いを考察するには、何よりもロシア自体の言葉に耳を傾ける必要がある。
また、当事者であるウクライナや、新たな「国家」であるドンバス地域、そしてロシアとアメリカの望んでいたシナリオを改めて考察する必要があるだろう。今回の強引な軍事侵攻についてはウクライナで兵士だけではなく、民間人の犠牲者が出たり、一般の人々の生活を脅かしていることを踏まえると、その行動を正当化することはできない。だが、ここではあえてロシア側の思惑を探ることで解決の糸口を考えてみたい。
ドンバス住民はロシアにとって「国外の同胞」
まず、ロシアにとってのドンバスが持っている意味だが、これはプーチン大統領が2月21日に行った国民向けの演説でも繰り返し言及しているように、ロシア語、ロシアの伝統や文化を守っているロシア系住民の居住地である。2020年のロシア憲法改正において、「国外の同胞の権利、利益の保護、ロシア文化のアイデンティティの維持」を新たに追記している。ドンバス住民はロシアにとって「国外の同胞」にほかならない。
つまり、ロシアは憲法に従って、ドンバス住民の権利と利益を保護する義務を負っていることになる。2014年のウクライナの政変で民族主義色の強いポロシェンコ政権が誕生したことで(現在のゼレンスキー大統領はその後任)、ドンバスの分離派勢力は彼らの権利が侵害されることを危惧して独立を宣言し、武装闘争を開始した。当然ウクライナ政府はこれを認めず、激しい戦闘が起こった。これが2014年から2015年の初めにかけてのウクライナ情勢である。
ロシアは憲法に定められた国是に従ってこの問題に介入し、分離派勢力を軍事的に支援したが、ドイツやフランスの仲介で、停戦合意に至った。これがミンスク合意である。
ミンスク合意はドンバス地域の自治を拡大するという内容を含むものだった。ロシアとしては、ドンバスの自治が確立されればドンバスのロシア系住民の権利が守られると考えたのである。一方、ウクライナはドンバスに強い自治を与えることは、ウクライナの統合にとって望ましくないと考えるようになり、ミンスク合意の内容は7年以上にわたって履行されなかったわけだ。
軍事力を増したウクライナに脅威
このような中、アメリカがウクライナへの数十億ドルに上る軍事支援を行ってきたことで、同国は欧州地域でロシアの次に軍事力が大きい国に成長してしまった。プーチン大統領は、この事実を強く非難する。なぜだろうか。
ウクライナは、ドンバス地域の紛争が「凍結された紛争」となり、分断が固定化されることを望まなかった。自治を与えれば分断が固定化されてしまう。何としてもドンバスとクリミアを取り返さなければならない。そのためには軍事的に制圧する選択肢も捨てていなかった。ウクライナがミンスク停戦合意の履行を渋っていた理由である。
ウクライナがアメリカの軍事援助で強化されればされるほど、ドンバスにおけるウクライナ政府軍と分離派勢力の軍事バランスは崩れてしまう。というよりも、すでに崩れていたのである。
それゆえに、昨年末、ロシアはウクライナ東部国境に10万規模の軍部隊を集結させて圧力を加えた。ウクライナ政府軍を牽制し、東部の軍事バランスを回復するためだ。これが、ロシアがアメリカによるウクライナの軍事力強化を非難する本当の理由である。
そのうえでロシアはNATO東方拡大阻止と、ロシア周辺のミサイル基地などの攻撃兵器の撤廃といった要求をアメリカ及びNATOに突きつけた。NATO側は、「オープンドア・ポリシー」(NATOに加盟したい国は受け入れる)という旗を降ろすことはできないとはっきりと拒否した。それはNATO側からすれば当然の話で、集団防衛のための組織であるというNATOの根本的な理念にも合致している。
しかし、ロシアが求めていたのは「オープンド・ポリシー」を捨てろということではなく、「ウクライナとジョージア(グルジア)を加盟させるな」ということだったのである。プーチン大統領は、ウクライナがNATOに加盟すれば、ロシア対NATOの戦争になる、と何度も警鐘を鳴らしてきた。どういうことだろうか。
NATOの東方拡大の放棄を迫ったが…
ウクライナはクリミアとドンバスの失地回復を公約に掲げている。仮に、ウクライナがNATOに加盟すれば、NATOはウクライナを防衛する義務を負うことになる。その状態でウクライナが失地回復を求めて攻撃的な行動、例えばドンバスへの攻勢に出れば、ロシアが反撃してきた場合、NATOがウクライナ側に立ってロシアを撃退してくれるはずだ。これがウクライナの思惑だ、とロシアは考えたのである。
ゆえに、ウクライナがNATOに加盟すれば、ウクライナは必ず軍事的な攻勢に出て、クリミアとドンバスを取り返そうとしてくるだろう。それだけは何としても阻止しなければならない。NATOとの戦争になるからである。
しかも、NATOとアメリカはウクライナを軍事的に強化している。時間はロシアに味方してくれない。待てば待つほど、ドンバスやロシアの状況は悪くなっていくのである。ちなみに、ウクライナのゼレンスキー大統領は核武装の可能性にまで言及しており、これがまたプーチン大統領の不安をたきつけてしまった面もある。
ロシアが何度もNATO東方拡大の放棄をアメリカやNATOに迫ったが、ゼロ回答だった。ロシアは、アメリカやNATOが時間稼ぎをしていると考えたであろうことは想像に難くない。ミンスク合意を一向に履行しようとしないウクライナも時間稼ぎという点では同じである。一刻も猶予はならない。物欲しげな顔をして口を開けて待っていても、煮え湯を飲まされるだけだ。
そこでプーチン大統領は電光石火、ドンバス住民のロシア領内への避難、ドンバスの独立承認、ドンバス国家との友好協力相互支援条約の締結、軍の派遣、ウクライナへの攻撃、と次々と指示を出した。これがロシア側から見たこれまでの経緯だ。
ロシアの「このままではウクライナを利用したアメリカやNATOに追いつめられる」という恐怖感を踏まえれば、ロシアはどこまで進むつもりなのだろうか。
ロシアの4つの狙い
ロシア軍はすでにウクライナの空港を始めとする軍事施設を攻撃している。一部地域については制圧したとしている。プーチン大統領は、「ウクライナの占領は計画していない」とし、ウクライナの非武装化が目的だと発言している。ここでこの「非武装化(demilitarization)」とはどこまでを意味するのかが焦点になってくる。上で解説したロシアの立場を踏まえれば、ロシアの狙いはウクライナの"中立化”であり、具体的には次の4点に絞られる。
1 ウクライナの軍事力をロシア(というよりもドンバス)に脅威にならないところまで破壊する。
2 アメリカによるウクライナへの軍事支援をあきらめさせる。
3 ウクライナのNATO加盟を絶対に認めないことを思い知らせる。
4 欧州の安全保障体制についてのテーブルにアメリカをつかせる。
この観点から見れば、現時点ではウクライナが反撃できないようになることが、最も重要な目標となるだろう。どこまでやればウクライナが反撃できないまで非武装化されたと言えるのか、それは正直わからないが、プーチン大統領が言うように、ウクライナを占領下に置くことまではしないだろう。そこまでしては、2、3、4といった次の目標を達成する可能性がなくなるからである。
この「非武装化」というのは奇妙な戦争である。プーチン大統領はこれを戦争とは呼んでいない。「特殊軍事作戦」だという。これもまた、いわゆるハイブリッド攻撃、マルチドメインオペレーションと言える。つまり、占領を目的とせず、ある程度の攻撃で無力化したら、交渉によって目的とする成果を勝ち取る、というある意味で柔軟な戦術である。
注意すべきは、「非武装化」というのは、単に現存する軍事施設を破壊することを意味するだけではなく、将来にわたってウクライナが軍事力を一定以上に強化しないことを意味しているだろうということだ。これが、2以降のウクライナの中立化という戦略目標にかかわってくるのである。
ロシアの作戦がいつまで続くのかだが、ウクライナやアメリカがロシア側との交渉のテーブルにつくまでということになるだろう。
日露戦争との奇妙な類似点
以上、ロシアの立場をロシア側の発言に即して分析してきたが、ロシアが抱いている懸念を妥当と見るかどうかはそれぞれだろう。ただ、1つ興味深い参照例をあげてみたい。今回のウクライナをめぐる事案は、日露戦争における極東の状況と類似しているところがあるということだ。
日露戦争前夜、ロシア軍は満州に駐留し、ロシアが朝鮮にも手を伸ばそうという形勢の中、満州はロシア、朝鮮は日本の勢力圏として認め合おうという日本側の提案をロシア側は拒否。このままでは時間とともに日本が不利になると考えた日本はついに日露開戦を決定している。
ここでロシア帝国をアメリカ・NATOに、NATO加盟の東欧を満州に、朝鮮をウクライナに、日本をロシアに置き換えればどうだろう。何となく、現在のロシアの置かれた立場が見えてくるのではないだろうか。
もちろん、日露戦争は100年前のことであり、国際社会は全く変わっているので、単純に比較することは適切でない。しかし、国際社会一部の国にとって、国際政治の現実は100年前と比べて、思ったよりも変わっていないのかもしれないということを頭の片隅に置いておくべきだ。
●「ロシア軍のウクライナ侵攻」で、首都キエフが制圧されるシナリオとは 2/25
プーチンがこのタイミングでウクライナ侵攻を決めた理由
まず、これまでの流れを振り返ってみよう。10万人といわれるロシア軍が、ウクライナ国境近くに集結したのは、昨年11月だ。そして、プーチンは、「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証」などを、米国と北大西洋条約機構(NATO)に求めた。なぜこのような事態となったのか?
世界は戦後、米国を中心とする資本主義陣営とソ連を中心とする共産主義陣営に分かれた。欧州も、米国側の西欧と、ソ連側の東欧に二分された。そして、両者の境界となるドイツは、米国側の西ドイツ、ソ連側の東ドイツに分断された。しかし1989年にベルリンの壁が崩壊し、1990年には、「東西ドイツを再統一しよう」という動きが活発になってくる。
こうした中、米国は、「東西ドイツの統一を認めるか」とソ連に尋ねた。すると、ソ連のゴルバチョフ大統領は、「統一ドイツより東にNATOを拡大しない」という条件を提示。そこで米国は、NATOの不拡大を約束した。だが、1991年12月にソ連が崩壊すると、ゴルバチョフとの約束はあっさり破られ、米国は「反ロシア軍事同盟」NATOを拡大していく。
ソ連崩壊時に16カ国だったNATO加盟国は、現在30カ国まで増えた。新しい加盟国には、かつてソ連領(ロシア人に言わせるとロシア領)だったバルト三国も入っている。
そして米国は、ロシアの西の隣国で旧ソ連の国ウクライナや西南の隣国で同じく旧ソ連のジョージアも、NATOに加盟させようとしている。そのため、プーチンは、反ロシア軍事同盟の膨張を止めようとしているのだ。
だが、NATOの拡大は今に始まったことではない。にもかかわらず、なぜプーチンは、今になって大軍をウクライナ国境に送ったのだろうか? プーチンの狙いは、本人と側近以外は誰にもわからないだろうが、筆者は「米中覇権戦争が激化していることと関係がある」と見ている。
米国は、中国との戦いで忙しい。中国とロシア、両国を同時に敵に回すことはできないから、「今なら譲歩を勝ち取れる」と予想したのだろう。そして、ロシアは米国のみならず、欧州、NATOとも交渉を始めた。昨年12月8日にバイデンとプーチンのオンライン会談が行われた後、幾度となく交渉が繰り返されてきた。しかし、プーチンは望む結果、すなわち「ウクライナをNATOに入れない法的保証」を得ることができていない。
ウクライナ軍による攻撃激化がロシア軍侵攻の口実になる恐れ
そして2月18日、プーチンは動き始めた。「ウクライナ軍の攻撃が激化して危険だから」との名目で、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクから、住民の避難を始めさせたのだ。女性、子ども、高齢者を中心に、これまで6万人以上がロシア領に避難したと報じられている。
「攻撃が激化して危険」というのは事実だ。欧州安全保障協力機構(OSCE)によると、1日1000〜2000件の銃撃が行われている。だが、ウクライナ側は、「ドネツク、ルガンスク側が攻撃をしかけている」と主張している。真相は分からないが、ウクライナ側には攻勢を強める動機はない。
なぜか? ウクライナは、ドネツク、ルガンスクの後ろに、(国境を隔ててはいるが)10万人のロシア軍が控えていることを知っているからだ。ウクライナ軍が攻撃を激化させれば、ロシア軍に侵攻の口実を与えてしまう。したがって、ドネツク、ルガンスク側が意図的に戦闘を激化させ、「ウクライナ軍が攻撃している」と主張することで、ロシア軍が侵攻しやすい環境を整えたのではないかと、筆者は考えている。
実際、プーチンは、「ドネツク、ルガンスクでジェノサイドが起きている」と主張し、2月21日に、親ロシア派勢力が支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認した。さらに、平和維持部隊を送ることを決めた。
ロシアに独立承認された親ロシア派地域の2つの「国」
ところで、「ドネツク」「ルガンスク」とは、どういう地域なのか? ロシアと国境を接するウクライナ東部に位置しており、ウクライナでは、「ドネツク州」「ルガンスク州」と呼ばれている。ドネツク州の人口は約460万人、ルガンスク州は、約240万人である。2014年3月、ロシアが、ウクライナからクリミアを奪い、併合した。当時、ロシア系住民が多いドネツク州、ルガンスク州では「クリミアに続け!」という機運が高まった。そして、ドネツク州の親ロシア派は2014年4月、ドネツク人民共和国の建国を宣言。ドネツク州460万人のうち、半数にあたる約230万人がドネツク人民共和国内に住んでいる。
ルガンスク州の親ロシア派も同時期に、ルガンスク人民共和国の建国宣言を行った。ルガンスク州240万人のうち、約150万人がルガンスク人民共和国内に住んでいる。
一方のウクライナは、当然ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の独立を認めず、内戦が勃発。だが、2015年2月、「ミンスク2停戦合意」が成立し、以後大規模な戦闘は抑えられてきた。こうした中で今回、ロシアが世界で初めてドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を国家として承認したのだ。
ウクライナの首都キエフをロシア軍が制圧する可能性
さて、ロシア軍が、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国に入った。プーチンは22日の段階では、「軍を派遣するかは現地の状況次第」と語り、派兵を公式には認めていない。しかし、欧米は「すでに入った」とみている。たとえばEUのボレル外相は22日、「ロシア軍がドンバス地域(=ドネツク、ルガンスク)に入った」と断言した。ロシア軍の動きは人工衛星から把握できるので、ボレル外相の言葉は事実だろう。両地域については、ウクライナのみならず国際社会も「ウクライナの一部」と認識しているので、「ロシアがウクライナへの侵攻を開始した」といえる。
問題はこの後のロシア軍の動きである。ロシア軍はドネツク、ルガンスクで止まるのか、それとも、ウクライナの首都キエフまで進むのか?『ウクライナ侵攻をもくろむプーチンの「本当の狙い」はどこにあるか』にも書いたが、「ドネツク、ルガンスクをウクライナから完全独立させて、ロシアの属国にする」のは、「予想通りの展開」だった。
ただし、「キエフ侵攻」は、現時点での可能性は低い。もしもロシア軍がキエフを侵攻すれば、プーチンは、「現代のヒトラー」として、その悪名を歴史に残すことになるだろう。だが、状況次第では、キエフ侵攻が起こる可能性もある。
問題は、自国領にロシア軍が侵攻してきたと認識しているウクライナ政府とウクライナ国民の動きだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は2月22日、国民に向けた演説で、「ロシアは、2014年からドンバス地方(=ドネツク、ルガンスク)にいたロシア軍を合法化した」と語った。ロシア軍は2014年からドネツク、ルガンスクにいたが、ロシアはその存在を認めていなかった。だが、プーチンは「これから平和維持軍を送る」と宣言し、「元からいたロシア軍」が「公に活動できるようにした」ということだ。ゼレンスキーが冷静さを保ち、ウクライナ国民の怒りを鎮めることに成功し、ドネツク、ルガンスクへの攻撃を自制できれば、ロシア軍のキエフ侵攻は起こらないだろう。だが、ウクライナ国民の怒りをコントロールできず、「ドネツク、ルガンスクからロシア軍を追い出す!」ということになれば、全面戦争に突入する。そうなれば、プーチンはキエフ侵攻の命令を下すだろう。
そう考えると、ウクライナはロシア軍と戦うことを自制したほうがいいと、筆者は思う。だが、それは他国の話だからでもあろう。たとえば中国が尖閣に侵攻したとき、「日本は中国軍と戦うな」とは言えないだろう。ウクライナ国民から見れば、ロシア軍が自国内に侵攻してきたのだから、「戦って追い出そう」となるのは当然だ。それでも筆者は、ウクライナとロシアの戦いがここで鎮静化することを願う。
戦術家プーチンはロシアを地獄に連れていく
国のトップに「戦術家」がいるとロクなことがない。ナポレオンもヒトラーも、優秀な戦術家だったが、結局敗北した。プーチンは、間違いなくすぐれた「戦術家」だ。だが、「戦略家」ではない。
彼は2014年、ほぼ無血でクリミアを奪ったし、今回も、ほぼ無血でドネツク、ルガンスクを奪った(プーチンは、両人民共和国を「併合しない」としているが、実質支配していることに変わりはない)。ロシアにとってはいずれも「戦術的大勝利」である。しかし、「戦略的勝利」とはいえない。2000年から2008年、すなわちプーチンの1期目と2期目、ロシアのGDPは年平均7%成長していた。当時は非常に勢いのある国だったのだ。しかし、2014年にクリミアを併合した後、経済は全く成長しなくなった。2014年から2020年までのGDP成長率は、0.38%にとどまっている。成長が止まった最大の理由は、欧米日の経済制裁だ。
プーチンとロシア国民は、「クリミアを奪った罰」を受けている。それは、「貧困」という罰だ。
ロシアの1人当たりGDPは2008年の1万2464ドル(約143万4000円)から、2020年には1万115ドル(約116万4000円)にまで減少している。また、CEIC DATAによると、ロシア人の平均月収は2021年11月時点で、767ドル(8万8205円)にすぎなかった。そして今回、プーチンは、同じ過ちを繰り返している。
日米欧からさらに強い制裁が科され、ロシア経済はボロボロになるだろう。
「戦術家」プーチンは、ウクライナ国民を不幸にするだけでなく、ロシアを孤立させ、貧困に突き落とし、LOSE-LOSEの道をばく進する。1月末、「全ロシア将校協会」のイワショフ会長(退役上級大将)は、ウクライナ侵攻の結果について、公開書簡の中で「ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、おそらく独立国家の地位を奪われるだろう」と書き、「プーチン大統領の辞任」を要求した。
ロシアが「独立国家の地位を奪われる」とは思わない。しかし、国際社会で孤立し、最も厳しい制裁の対象になるのは、間違いない。プーチンは、ウクライナだけでなく、ロシアも破壊することになるだろう。
●プーチン氏はなぜウクライナに侵攻したのか、何を求めているのか 2/25
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこの数カ月もの間、ウクライナを攻撃して侵攻するつもりはないと繰り返していた。しかし21日にはついに、停戦協定を破棄し、ウクライナ東部で親ロシア派の武装分離勢力が実効支配してきた2つの地域について、独立を自称してきた「共和国」を承認した。そして24日、ロシアは陸海空からウクライナ侵攻を一斉に開始した。死者の数は増え続けている。プーチン氏は今や、欧州の平和を打ち砕いたと非難されている。この次に何が起きるのか。それは欧州全体の安全保障体制を脅かすものになりかねない。
ロシア軍はどこへ、それはなぜ
ロシア軍が最初に攻撃したのは、ウクライナ各地の都市に近い空港や軍本部だった。首都キーウ(キエフ)のボルィースピリ国際空港も標的になった。
続いて戦車や部隊は、人口140万人の北東部の都市ハルキウの近くから国境を越えて侵攻した。東はルハンスクの近くから、北はベラルーシから、南はクリミアから、次々と進んだ。
キーウ近郊の空軍基地を空挺部隊が制圧し、オデーサ(オデッサ)やマリウポリの大港湾都市にもロシア軍は上陸した。
侵攻開始の直前、プーチン大統領の演説がテレビで放送された。プーチン氏はその中で、今のウクライナから脅かされているため、ロシアは「安全を感じられないし、発展もできなければ、存在もできない」と述べた。
プーチン氏の主張のほとんどは、事実と異なるか、非合理的だった。自分の目的は、威圧され民族虐殺に遭っている人たちを守るためだとしたほか、ウクライナの「非軍事化と非ナチス化」を実現するのだと述べた。ウクライナで民族虐殺は起きていない。ウクライナは活発な民主国家で、大統領はユダヤ系だ。「いったいどうやったら私がナチスだというのか」と、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は反発した。逆にゼレンスキー氏の方が、ロシアによる侵攻は第2次世界大戦のナチス・ドイツによる侵略に匹敵すると批判した。
ウクライナでは2014年に親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領が、数カ月続く国内の反対運動の末、失脚した。これ以降、プーチン氏はこれまでも頻繁に、ウクライナは過激派にのっとられたと非難していた。ヤヌコヴィッチ氏失脚を機に、ロシアはクリミア半島を併合した。さらに、ウクライナ東部の反政府分離運動を引き起こし、分離派を後押しした。この分離派とウクライナ国軍の戦いでは、すでに1万4000人が死亡している。
プーチン氏は2021年後半には、ウクライナ国境周辺にロシア軍部隊を大々的に集結させた。そして21日にはウクライナ東部をめぐる2015年の和平協定を破棄し、分離派が一方的に「共和国」を名乗った地域の独立を承認した。
ロシアは以前から、ウクライナが欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に入ろうとする動きに反発してきた。24日に侵攻開始を宣言したプーチン氏は、NATOが「我々の民族としての歴史的未来」を脅かしていると非難した。
ロシアはどこまでやるのか
ロシアは、ウクライナで民主的に選ばれた政府を倒すつもりなのは今や明らかだ。ウクライナは抑圧から解放され、「ナチスから浄化されるべき」だとしている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、自分が「標的その1、私の家族が標的その2」になっていると警告されたことを明らかにした。
「ウクライナは2014年にファシストに制圧された」という、事実と異なる理屈は、ロシアの政府系テレビが繰り返し展開しているものだ。プーチン氏は「民間人に対する流血の犯罪を繰り返した」者たちを法廷で裁くつもりだと言及している。
ロシアがウクライナをどうするつもりかは不明だが、ウクライナ国民は強くロシアを敵視しており、激しい抵抗が予想される。
今年1月にイギリス政府は、ロシアが傀儡政権をウクライナに樹立するつもりだと非難。ロシアは当時これを、あり得ない話だと一蹴した。未確認の英情報部報告は、ロシアがウクライナを2分しようとしているとしていた。
侵攻開始の数日前、ウクライナ国境の近くに最大20万人規模の兵を集めていた時、プーチン氏は東部に意識を集中させていた。
ロシアが操るルハンスクとドネツクの「人民共和国」の独立を認めることで、プーチン氏はすでに両地域はウクライナの一部ではないと決定していた。続いて、両「共和国」がさらにウクライナ領土を獲得する権利があるという主張も、支持してみせた。
自称「共和国」の面積は、ルハンスクとドネツク地方全土の約3割強を占めるが、分離派勢力は両地域のすべてを獲得しようとしている。
欧州にとってどれほど危険な事態なのか
欧州の主要国が隣国に侵攻するのは、第2次世界大戦以来、初めてのことだ。その渦中にいるウクライナの人たちと、それを目撃している欧州の人たちにとって、これは恐ろしい事態だ。
ドイツが「プーチンの戦争」と呼んだ戦いで、すでに軍人か民間人かを問わず、数十人が死亡している。1940年代以降、欧州諸国の首脳たちがこれほど暗く厳しい思いをしたことは、めったになかった。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、欧州の歴史にとって転換点だと述べた。冷戦時代を念頭に、ゼレンスキー大統領は、ロシアが新たな「鉄のカーテン」を閉じて文明世界を排除しようとしているとして、ウクライナがそのカーテンの後ろに引き込まれることがあってはならないと述べた。
ロシアとウクライナ両国では軍関係者の家族が、これから不安な日々を送ることになる。ウクライナはすでに8年間、ロシアの傀儡(かいらい)相手にkビしい戦闘を続けてきた。ウクライナ軍は18〜60歳の予備役を全員招集した。アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、ロシア軍の規模から類推して、人口が密集する都市部でも戦闘が起きる「恐ろしい」シナリオが予想されるとしている。
ロシアとウクライナに国境を接する他の国々にも、この侵攻の波及効果が及ぶ。国連は最大500万人の難民が発生する可能性があるとしている。ポーランド、モルドヴァ、ルーマニア、スロヴァキア、ハンガリーは避難民の大量流入に備えているという。
ロシア国民も決して、この戦争に対する備えをしていなかった。侵攻作戦を異論なしで承認したのは、国民をほとんど代表しない上院だった。
西側には何ができるのか
NATOは戦闘機を警戒態勢においているが、NATOはウクライナそのものに戦闘部隊を派遣する予定はないと、態度を明示している。代わりに、軍事顧問や武器や野戦病院を提供してきた。この間、バルト三国とポーランドに兵5000人規模の部隊を配備した。ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、スロヴァキアにはさらに計4000人の部隊が派遣される可能性もある。
代わりに西側は主に、ロシアの経済と産業、特定の個人を標的にしている。
EUは、金融市場へのロシアのアクセスを制限し、ロシアの産業界が最先端技術を使えないようにすると約束した。ロシア議会の議員351人に制裁を科すほか、幅広い制裁措置に合意した。
ドイツ政府は22日、ロシアからの天然ガス輸送パイプライン、ノルドストリーム2のプロジェクト承認停止を明らかにした。パイプラインはロシアと欧州諸国による大規模な投資事業だ。
アメリカ政府は、ロシアの主要銀行2行や政府発行の国債を対象にした金融制裁のほか、プーチン氏に近いロシアの「エリート」を対象に資産凍結などの制裁を発表した。
イギリス政府は、全ての主要ロシア金融機関の資産を凍結するほか、100の個人や組織を制裁対象にすると発表した。ロシアの航空会社アエロフロートのイギリス乗り入れも禁止した。
カナダ政府も、カナダでのロシア国債の売買禁止や、ロシアの銀行との取引停止など、金融制裁措置を発表した。
日本政府は、特定のロシア関係者に対するビザ発給停止と資産凍結、両「共和国」との輸出入の禁止、ロシアによる日本での国債などの発行・流通禁止――の制裁措置を発表した。
ウクライナ政府は西側諸国に、ロシアの石油や天然ガスを購入するのをやめるよう働きかけている。バルト三国はすでに、国際銀行間通信協会(SWIFT、本部・ベルギー)からロシアを切り離すよう、国際社会に呼びかけている。SWIFTとは、国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人。ただしこの制裁措置を実施すると、欧米諸国の経済も厳しい打撃を受ける可能性がある。
スポーツの分野では、ロシアのサンクトペテルブルクで予定されていた欧州チャンピオンズリーグ決勝の開催地は、安全上の懸念から、フランス・パリに変更された。欧州サッカー連盟(UEFA)は、さらに現状を踏まえた対応を検討しているという。
プーチン氏の目的は
ロシアはNATOとの関係再構築を求め、今が「真実の時」だとして、特に3つの要求を強調してきた。
第一に、NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約を、ロシアは求めている。
プーチン氏は、侵攻開始は、NATOの東方拡大のせいでもあると述べた。ロシアは「もうこれ以上どこにも後退できない。我々がただ手をこまねいているだけで済むとでも、(西側は)考えているのか」と話していた。
ウクライナはNATO加盟の明確な行程表を求めていた。一方で、セルゲイ・リャブコフ外務次官は昨年、「我々にとって、ウクライナが決して絶対にNATO加盟国にならないという保証は、絶対的に必要だ」と述べている。
プーチン大統領は昨年、長い論文を発表し、ロシア人とウクライナ人は「ひとつの国民」だという持論を展開した。プーチン氏は以前から、1991年12月のソヴィエト連邦崩壊を「歴史的なロシアの崩壊」だと位置づけている。さらに21日の演説では、今のウクライナは共産主義時代のロシアが作り上げたもので、今や西側に操られている傀儡国家だと非難した。
プーチン大統領はさらに、もしウクライナがNATOに加盟すれば、NATOはクリミア半島を奪還しようとするかもしれないと主張する。
ほかの主な要求は、NATOが「ロシア国境の近くに攻撃兵器」を配備しない、1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する――など。
1997年以降のNATO加盟国というと、中欧、東欧、バルト三国を指す。ロシアは実際には、NATOの範囲が1997年以前の状態に戻ることを求めていることになる。
プーチン大統領からすると、西側は1990年の時点で、NATOが「一寸たりとも東へ」拡大しないと約束したのに、それでも東方に拡大したということになる。
西側の約束はソ連が崩壊する前のことだ。なので当時のミハイル・ゴルバチョフ・ソ連大統領への約束は、ドイツ再統一の文脈における東独についてのものだった。
ゴルバチョフ氏は後に、「NATO拡大の話題は(当時)一度も出なかった」と述べている。
NATOの反応
NATOは加盟希望国へ「門戸開放政策」をとっており、現在の加盟30カ国は、この方針に変化はないと力説している。
ウクライナの大統領はNATO加盟へ向けた、「明瞭で実現可能な期限設定」を呼び掛けている。しかし、ドイツのオラフ・ショルツ首相が言明したように、これが実現する見通しは当面ない。
すでにNATO加盟国になっている国が、その立場を手放すなど、あり得ないことだ。
外交的な出口はあるのか
米ロ大統領同士の首脳会談という話も出ていたが、今のところそれは実現しなさそうだ。
外交による合意があり得るとしても、そこにはウクライナ東部での戦闘への対応と、軍縮交渉の両輪が含まれなくてはならない。
アメリカは、短距離や中距離ミサイルの制限について、さらには大陸間弾道ミサイルに関する新条約へ向けて、交渉開始をロシアに提案している。ロシアは、アメリカが自国領土以外に核兵器を配備することの、全廃を求めている。
ロシアは、ミサイル基地(ロシア国内2カ所、ルーマニアおよびポーランド国内の2カ所)で相互チェック体制を確保するため提案されている「透明性メカニズム」には、前向きな姿勢を示していた。
●首脳会談も無力「ロシア軍侵攻」欧州が見誤った事  2/25
刻一刻と事態の動くウクライナ情勢だが、ロシア軍がウクライナの軍事施設を「高精度兵器」で標的にし、軍事インフラ、防空施設、軍用飛行場、ウクライナ空軍を無力化する攻撃を開始して以来、ロシアのプーチン大統領と欧米首脳の外交交渉目的は、戦争回避から戦争の停止へ移った。
プーチン氏の強気な攻勢は間髪を入れず、行動に移されている。ウクライナ東部の親ロシア派が実効支配する一部地域を一方的に独立国として承認。同地域に平和維持の名目でロシア軍を派遣するように命じ、さらに首都キエフなどへの軍事攻撃を行っている。アメリカのバイデン政権は侵攻という言葉を当初避けたが、前言を翻し、ロシア軍の平和維持活動について侵攻との認識を示した。
すでにウクライナとの国境沿いのロシア領土および、ベラルーシ南部でロシア軍が演習を行った事実も加え、ウクライナに対してロシアが軍事侵攻する意志があったことが明確になった。しかし、振り返ってみれば、欧米首脳は危機を警告するだけで「平和的解決は可能」という考えに固守し、プーチンの本気度を見誤った可能性は高い。
フランス、ドイツのアプローチも実を結ばず
アメリカと足並みをそろえて、ロシアへの経済制裁を開始した欧州連合(EU)にとって、ウクライナは陸続きなだけに、アメリカ以上に危機感を持っている。アメリカのトランプ前政権以来、北大西洋条約機構(NATO)に対して欧州加盟国の役割強化の流れにある欧州の主要国、フランス、ドイツ、イギリスは、第2次世界大戦後の過去のいかなる時期よりもロシアの脅威に対する責任が増している。
ところが、フランス、ドイツをはじめとしたロシアへのアプローチは効果を生んでいない。
フランスのマクロン大統領は2月7日に、ドイツのショルツ首相は15日にモスクワを訪問し、プーチン氏と首脳会談を行った。
またマクロン氏は20日にバイデン氏とプーチン氏に対して米露首脳会談を提案し、原則合意したとフランス大統領府は発表した。ところが翌日、プーチン氏がウクライナの一部地域の独立を承認。米露首脳会談の前提条件である軍事侵攻しないという状況を壊したことから、欧米各国首脳は「国際法への完全な違反」と不快感を示し、米露首脳会談は流れた。
注目すべきは、すべてプーチン氏のペースで物事が動いていることであり、米欧首脳はメディア向けに危機感を表明する一方、対応の迅速さは見られないままだ。
その間、プーチン氏は最大の交渉相手であるアメリカおよび欧州諸国の反応を見ながら、状況を正確に見極め、各国の微妙な対ロシア外交の違いの隙をついてゲームを進めているように見える。
アメリカのトランプ前大統領は「プーチンは天才的だ」と外交手腕を称賛し、「自分が相手なら彼は今回のような行動には出なかったはず」といつもの自画自賛のメッセージを流した。
自身も2月11日にモスクワを訪問したイギリスのベン・ウォレス国防相は、ロシアの軍事侵攻阻止のため宥和策を土壇場で示す西側の外交努力について「ミュンヘンの気配がする」と述べ、物議を醸した。
ロシアの軍事侵攻を警告したウォレス氏は、「彼(プーチン)が戦車のエンジンを切るだけで、私たちは皆、家に帰れるが、西側のどこかからミュンヘンの気配が漂っている」と付け加えた。
失敗の宥和策だったミュンヘン協定の二の舞?
「ミュンヘンの気配」とは第2次世界大戦前夜の1938年9月、ドイツ系住民が多数を占めるチェコのズデーテンの領有権を主張するドイツのアドルフ・ヒトラー総統に対し、イギリスとフランスの首脳が、これ以上の領土要求を行わないことを条件に、ヒトラーの要求を全面的に認めたミュンヘン協定を指す。
ところが、ヒトラーは停戦協定を破ってチェコに侵攻し、欧州を第2次大戦に引きずり込んでいった。イギリス、フランスを手玉に取られた外交として知られ、ナチスドイツの覇権を一挙に拡大させた「失敗の宥和政策」として語り継がれている。戦争回避を取り付けたイギリスのチェンバレン首相やフランスのダラディエ首相が英雄気取りで帰国する中、ヒトラーは2人がいかに愚か者かと周辺に漏らしていたことが知られている。
プーチン氏がすでにウクライナへの侵略に熱心である中で、ウォレス氏の発言は弱腰の欧州首脳の外交努力は効果がないとの不満の声でもあった。この発言に対し、イギリス国内では戦争の可能性が最高度に高まる中でプーチン大統領を刺激するとして、適切でないとの批判の声も上がったが、指摘は的中した。
一度は米露首脳会談実現の功労者になろうとしていたマクロン大統領は、プーチン氏の想定外の行動で冷や水を浴びた状態に陥った。同時にプーチン氏が外交交渉で一枚も二枚も上手なことを見せつけ、マクロン氏は自らの甘さとプーチン氏にとってのフランスの存在の低さを思い知らされた。
それでも4月にフランス大統領選の出馬期限が迫る中、続投を狙うマクロン氏は、外交得点なしに出馬表明する事態に陥っている。
野党候補らは最有力候補とされるマクロン氏への攻撃材料と見なし、マクロン外交の失敗として攻勢を強めている。フランス通信社AFPは「フランスの敗北」と指摘した。
無論、ショルツ首相もイギリスのジョンソン首相もプーチン氏から軽く見られていることに変わりはなく、あとはロシアへの経済制裁を実行するくらいしか、選択肢は残されていない。
第2次世界大戦以来、最大の危機に直面しているといわれる欧州の中で、EU議長国を務めるフランスには重苦しい空気が漂っている。EU内にはロシアの脅威を訴え続けてきたポーランドやバルト三国に耳を傾けなかったことを批判する声もある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は非常事態宣言を出し、国際社会に「ただちに行動する」よう呼びかけた。さらに「プーチンによるウクライナの侵略を阻止できるのは、団結した強力な行動だけだ」とし、「慌てる必要はない」「私たちは勝つ」とウクライナ国民の団結を呼びかけている。
プーチンの我慢が限界に達した?
そもそもロシアの要求は、ウクライナがEUとNATOに加盟しないことの国際法上の確約を得ることだった。
裏を返せば、EUもNATOも2014年のロシアによるクリミア併合のときに取り交わしたミンスク合意(ウクライナ、ロシア、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印したウクライナ東部ドンバス地域における休戦合意)が、紛争の再燃で事実上破綻していたのを放置する中、プーチンの我慢が限界に達したことにあるともいわれている。
フランス国際関係戦略研究所(IRIS)のディレクターで欧州安全保障の専門家、エドゥアール・シモン氏はフランス日刊紙ル・モンドのインタビューで、「(東欧に)派遣された部隊は、アメリカ兵であろうとほかのNATO加盟国の軍の兵であろうと、ロシアによるウクライナへの攻撃の際に使用されることを意図していない。NATOの枠組みの中での同盟国の防衛目的にほかならない」と指摘する。
さらに「そのNATOに対するマクロン大統領の姿勢は、欧州で広く理解されているわけではない」とシモン氏は言う。マクロン氏は2019年「NATOは脳死状態にある」と挑発的な発言を行い、欧州独自の防衛体制の構築を提唱するとともに、一方的にロシアとの対話を開始した。この行動は「特に中・東欧諸国の加盟国を不安にさせている」とシモン氏は述べている。
今回はEU議長国という立場から、欧州自治の強化とNATO加盟の関係について、より現実的な立場の構築を目指すフランスが、対ロシア交渉で道を開こうとしたが失敗に終わった。理由の1つはロシアの交渉相手はアメリカであり、フランスやドイツではないからだ。マクロン氏はそれをわきまえて米露首脳会談を提案したが、プーチン氏は気に入らなかったようだ。
「長期的にはアメリカがヨーロッパの領土での存在感を持続的かつ大幅に強化することに対して関心も手段も持っていないと思われる」「(バイデン政権にとって)インド太平洋および中国との戦略的競争にアメリカの利益の軸足があるようだ」「アメリカはNATOへのヨーロッパ人のコミットメントが彼らの利益になると考えている」との認識をシモン氏は示した。
実際、NATO加盟国でもないウクライナの危機に対して、ロシアの軍事侵攻を受け、バイデン大統領は「わが国の軍は紛争に関与しておらず、今後も関与しないだろう」と述べ、「わが軍はウクライナで戦うためにヨーロッパに行くのではなく、NATO同盟国を守り、東部の同盟国を安心させるために動員する」として、同盟国を守る大義名分を明確にした。
何人かのフランス人に取材すると、「冷戦は終わったというのは幻想だった。ロシアの本質は今も変わっていない」(45歳、IT系企業社員)、「もっと早くプーチンのロシアを何とかすべきだった」(51歳、地方公務員)と言う。国際情勢に詳しいアナリストは「そもそもドイツのメルケル政権がロシアに甘かったことで、ウクライナは苦境に立たされた。今回の危機はドイツが生んだものだ」とドイツを手厳しく批判した。
「われわれはプーチンのゲームを誤解している」
IRIS創設者のパスカル・ボニファス所長は、ロシアのウクライナ侵攻について「ロシア、欧州双方に甚大なダメージをもたらすリスクを生んだ」と警告している。
ソ連邦崩壊後のロシアの安全保障戦略を専門とするフランス政治社会科学研究所(ISP)のアンナ・コリン・レベデフ氏は「われわれはプーチンのゲームを誤解している」と述べ、プーチンは歴史を操作することによって「彼自身の栄光の物語を書こうとしている」と指摘した。
さらに「2014年のロシアによるクリミア併合以来、ロシアはわれわれが合理的だと思う以上の行動をとることができる」ことを学んだはずなのに、今回もその合理性で交渉しようとしたことに疑問を投げかけた。
中国の台頭でかつてのアメリカに対峙した大国ロシアは冷戦後、存在感が薄れ、その受け入れられない現実への不満が頂点に達し、プーチン氏は自分の栄光のためにも世界の目をウクライナに向けさせ、力の誇示をはかったともいえる。その不満と怒りの感情に関心を払わなかった西側諸国の無関心が戦争を引き起こす一因だったと筆者は見ている。
●プーチン大統領が「事実上の宣戦布告」、ウクライナ人が慌てない理由 2/25
首都キエフは静かだが ロシア大使館の閉鎖が決定
ウクライナ東部のドンバス地方で、ウクライナ軍とロシアからの支援を受けた武装勢力が戦闘を開始したのが2014年4月。それから約8年の間に1万4000人以上が死亡し(ウクライナ政府発表)、そのうち約3500人は一般市民であった。
2014年4月以降、ドンバス地方では双方の戦闘によって住む場所を失った市民が続出。住み慣れた地域を離れて周辺国に移り住む市民も少なくなかった。何年もの間、日本や欧米諸国で報じられるウクライナ関連のニュースの多くが、ドンバスにおける戦闘に関するものであった。
ドンバスから離れた首都のキエフで、市民はロシアによる武力侵攻の可能性をどのように考え、どのような準備をしているのだろうか?
8年前のマイダン革命(親ロ的な政治姿勢のヤヌコビッチ政権を打倒した市民の抗議活動)時、連日の取材に協力してくれたタチャーナ・オリニークさんは、マイダン革命からしばらくしてキエフを離れ、西部のリビウでスタートアップの会社を立ち上げ、その間にイギリスに1年間留学している。数年前にキエフに戻ったオリニークさんは政府組織に勤務している。19日、キエフのアパートでくつろぐオリニークさんとビデオチャットで話をした際、筆者は聞いてみたいことがいくつもあった。
「キエフだって、安全が保障されているわけではない。普段はどのような生活をしているのか」という筆者の問いに、オルニークさんは「ほとんど、いつも通りの生活ですよ」と答えた。
「平日の仕事はコロナの影響もあってテレワークで行うこともあり、それ以外はスーパーマーケットに買い出しに行ったり、ストリーミングで映画を見たりする生活スタイルになっていますね。昨日は村上春樹原作の映画『ドライブ・マイ・カー』をストリーミングで楽しみました。友人や知人にも会います。非常時にどう行動するかは、近くの地下鉄駅をシェルターとして使おうと考えているくらいです」
キエフから離れることは考えていないと話すのは、オリニークさんだけではない。キエフの英語メディア「キエフ・インデペンデント」で記者として働く寺島朝海さんは、「記者としてできることは、最後までやりたい。実際にロシア軍がキエフまで侵攻したとしても、私は車も自転車すらも持っていないので、まだどのようにキエフから出ていくのか、真剣にシミュレートしたことがないんです」と語る。
大阪で生まれ、10歳の時に両親の仕事の関係でキエフに移り住んだ寺島さんは、まだ21歳。駆け出しの記者だが、8年前のマイダン革命ではまだ13歳だった。可能な限り今のキエフの様子を記録し続けたいのだという。
「戦争」や「軍事侵攻」という言葉とマッチングしない雰囲気すらある現在のキエフだが、各国の大使館は職員をキエフから退避させ、多くが西部の都市リビウに臨時の事務所を開設している。
アメリカのブリンケン国務長官は14日、キエフのアメリカ大使館を暫定的に閉鎖し、残っていた少数の職員をリビウに避難させると発表した。また、23日にはキエフのロシア大使館で国旗が降ろされた。複数のメディアは職員の退避が本格的に始まったと伝えている。
17日朝にはロシア大使館の煙突から煙が上がる様子が近くを通った市民らによって目撃されていたが、ロシアの国営タス通信は23日に関係者の話として、大使館閉鎖前に書類の焼却が行われていたと報じている。
ロシア軍の侵攻に対してウクライナの人たちが慌てない理由
キエフにはもう一人、日本出身で現地メディアに勤務する日本人がいる。ウクライナの国営通信社ウクルインフォルムで日本語版編集者として働く平野高志さんだ。
ウルクインフォルムは100年以上の歴史を持つ、ウクライナ最古の通信社だが、平野さんはキエフの日本大使館に約5年勤務したのち、ウルクインフォルムに転職というキャリアを持つ。
平野さんはキエフ市民の多くがパニックに陥っていない理由として、ウクライナ国内外では「ロシア軍による軍事侵攻」に対する認識の差が存在するとして、現状について次のように語る。
「キエフでは普段通りに買い物をしたり、レストランやカフェで食事をしたりする人も多いです。一方で、万が一に備えて大切なものをリュックなどに詰めて、非常時にはすぐに逃げられる準備をしている家庭も少なくありません。いずれにせよ、慌ててパニックに陥っている人は少数です」
平野さんは続ける。「ウクライナの人からすると、2014年のロシア軍のクリミア・ドンバスへの侵攻は終わっておらず、ドンバスでの戦闘でウクライナ軍や市民にどれくらいの被害が出たのかを伝えるニュースは毎晩流れている状態なので、新たな軍事侵攻があるという受け止め方ではないんです。大きな侵攻はあるかもしれませんが、戦争そのものは8年間ずっと続いています。ロシアが何かを仕掛けてくるという感覚を8年近く持ち続けているため、(大規模な侵攻に対して)心の準備をしている人は多いと思います」
平野さんは欧米や日本のメディアが使う「親ロシア派勢力」という言葉にも疑問を呈する。
「親ロシア派という言葉を聞くと、ロシア寄りの人たちが団体を作ったかのように聞こえます。実際、ロシアが武器やお金などあらゆるものを支援して作られたため、組織のトップはロシア政府との結びつきも強いですが、地元の人たちを代表するような役割は何もないんです。そういった事情があるにもかかわらず、ウクライナ東部に住む住民を代表するというスタンスや呼び名が、私には非常に気になるのです」
地元メディアの報道などでも、キエフで市民がパニックになって買い占めなどを行ったという話は聞こえてこない。ショットガンやライフルを準備し、携帯電話が使えなくなった場合に備えて家族で使える無線を購入した家庭もあったが、筆者自身も大多数のキエフ市民がそういったことを行っているとは考えにくいと考える。
ウクライナ周囲を囲むロシア軍と連日続く情報戦
NATO加盟国はウクライナに兵器の提供などで支援を行い、地理的にウクライナと近いNATO加盟国には米陸軍空挺(くうてい)師団などが駐留を開始した。
しかし、ロシア軍がウクライナに対して本格的な軍事侵攻を開始した場合、NATO加盟国ではないウクライナで、NATO軍部隊が活動できるとは現時点では考えにくい。
ウクライナの軍事予算は年間6000億円程度だが(2020年度)、国内でロシア軍と戦うためにはより多くの予算が必要との見方は強く、ウクライナ各地では中小企業の経営者や市民らが寄付金を集めて、軍事費の足しにしてもらっている。
軍事費よりも大きな懸念材料は、戦火が拡大することでウクライナ経済の停滞がより深刻になる可能性が大きいことだ。米ビジネス経済研究センターの試算によると、8年近く続いたウクライナ東部の戦闘だけで、ウクライナのGDPが約30兆円減となった。
ウクライナ東部の前線にいる兵士の士気は高いと伝えられているものの、新たな問題も発生している。
前線の兵士はメッセージアプリ「テレグラム」を使って、グループ内で情報交換などをするケースが多いが、ここにウクライナ兵を装ったロシアの諜報(ちょうほう)機関関係者らしき人物が紛れ込み、ニセの情報が拡散され、それらの情報をウクライナ軍側が見つけて削除するイタチごっこが続いているのだという。
さまざまな情報が飛び交う中で、ウクライナでは軍の兵士も市民も長期戦に備えている。緊張状態が続く中、ロシアメディアは24日午前、プーチン大統領が支配地域におけるロシア軍の軍事行動を承認したと速報で伝えた。
事実上の宣戦布告だ。連日、数時間おきに情勢が変化しているが、これから何度かにわたってウクライナ危機についてリポートしていく。
●「頭の中が100年単位で古い」プーチンの“あまりに特殊な国家観” 2/25
「戦争犯罪者に煉獄はない。地獄に一直線に落ちるだけだ」
ウクライナ情勢を巡り国連の安全保障理事会が緊急会合を開催していたその最中にはじまったロシアのウクライナ侵攻。ウクライナのキスリツァ国連大使は、ロシアがウクライナに宣戦布告したと表明し、ロシアのネベンジャ国連大使に対して冒頭のように強く言い放った。
再三にわたる国際社会からの「ストップ」にもかかわらず、ついに起こってしまったこの事態。あまりに強引な侵攻に、世界各国からロシアへの批判が巻き起こっている。
ロシアは一体なぜ、このような振る舞いを起こしたのか。軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏のインタビューの中から、その理由を読み解くヒントとなる、プーチン大統領のあまりに特殊な世界観についてここに再公開する(初出:2019年11月24日 以下、年齢・肩書き等は公開時のまま)。
ロシアのあまりに特殊な国家観
〈ロシアの行動原理を理解するためには「彼らの独自のルールブック」を知る必要がある――そう著書に記した小泉氏。まずは、その「あまりに特殊な」国家観について聞いた。〉
――まずプーチン、そしてロシアという国は、いまの世界、そして国際政治の現場をどのように捉えているのでしょうか。
ソ連が崩壊して、スーパーパワーでなくなってしまったということが、ロシアにとってはわれわれが想像する以上に面白くないことでもあったし、もっと言うと脅威でもあったと思います。ロシアの世界観は、パワーに大きく依存しています。世の中や国際政治を動かすパワーと一口に言っても様々ですが、ロシアは剥き出しの「軍事力」を極端に強調するんです。「強制的に相手の行動を変えるようなパワー」こそが、国際政治の主要因だと考えているのです。ロシアがこの価値観で自国をみると、実体以上に自分たちのパワーがものすごく弱くなってしまったようにみえる。「外国にいいようにされてしまう」と理解していると思います。
――そのような「特殊な世界観」でみると、他国はどう見えているのでしょうか。
力が弱い国、特に自前で安全保障が全うできないような国は、一人前の国家ではないと見なします。「半主権国家に過ぎない」みたいな言い方をするわけです。「主権」はどの国も確かに持っているんだけど、その主権をフルスペックで発揮できるかどうかは軍事力による、という世界観です。たとえば、プーチンに言わせれば、アメリカに守られているドイツは主権国家ではないとなる。だからロシアにとって、国連常任理事国プラス数カ国ぐらいしか主権国家と呼べる国はないという世界観なんですよね。ロシア自身、90年代はソ連崩壊でもう主権国家ではなくなってしまうかもしれないという恐れを抱いたと思うんです。そこから盛り返し、2000年代の最初の8年間で、年平均7パーセントの経済成長をしてほぼGDPが倍になった。その頃、「ロシアはソ連崩壊後の混乱は抜け出した」と言い始めます。軍事力を支える経済力が増して、外国に支配されるかもしれないという危機も脱し、確固たる主権国家としての地位を取り戻したという宣言だったわけです。
「もし、そのまま…」ロシアの“if”
――自信を取り戻したんですね。
自信が戻ったのは、もう一つ要因があります。アメリカとの相対的なパワーバランスです。つい10年前まで冷戦をやっていたわけですから、ロシアは冷戦後もずっとアメリカを気にしていて、なかなか頭から離れない。ちょっとロシアが弱ったら、またこいつらがつけ込んでくるのではないかという気持ちがすごく強かった。しかも、90年代はメチャクチャになったロシアに対して、アメリカは経済も順調。IT革命みたいなイノベーションも起こして全然衰える様子がなかった。それが2000年代になってくると、アメリカはリーマンショックを食らってだいぶ弱った。しかも、そこにインド、中国、ブラジルなど他の新興大国が伸びてきた。そこでロシアは、パワーバランスがだいぶ相対化されたのではないかという、ちょっと楽観的な認識を持ったわけです。アメリカはもちろん、まだ強いんだけれども、だいぶ相対化されてきて、ロシアにとって悪くない世界に近づいたというように、2000年代にロシア側は見たのです。
――2000年代は、経済発展が著しかったブラジル、ロシア連邦、インド、中国、南アフリカ共和国の5カ国の頭文字を取って、BRICS(ブリックス)と呼ばれていた時代ですね。
もし、そのままロシアの経済が順調に伸び続けていれば、ロシアは平和的台頭を果たすことができたと思います。2009年のロシア政府の政策文書『2020年までの国家安全保障戦略』では、2020年までにGDPで世界トップ5に入り、イノベーションも起こして原油依存経済もやめるとあります。実際に、2013年には購買力平価で世界第6位までGDPが上がる。しかし、急ブレーキがかかりました。1つは、2014年からの原油価格の急激な低下。もう1つは、2014年2月にロシアがクリミア危機を起こしてしまったことです。クリミア侵略はなぜ起こったのか
――どうしてそんなタイミングでクリミアを侵略したのでしょうか。経済制裁の可能性は検討されなかったのでしょうか。
ロシアからしてみれば侵略じゃないんですよね。あくまで「防衛的行動」を取っただけだと思っている。さきほどから説明しているロシアの世界観で言うと、ウクライナをはじめとした旧ソ連の国々は「半人前」の国家です。「その保護者は誰?」というと、ロシアであるという気持ちでいる。要するに、「君たちは一応独り立ちしてお家をもらったけど、まだ僕の保護下だよね」と思っていて、半人前なのだから、「親の知らないところで勝手なことしちゃ駄目だよ」と。クリミア侵攻の時は、ウクライナちゃんがフラフラとNATOのほうに付いていこうとしたので、ロシアは「駄目だぞ」といって、ゲンコツでポカッとやった。その程度のつもりでいるんですよ。
――旧ソ連諸国には、いまだ「保護者」として振る舞うわけですね。
ロシアの世界観では、まだ危なっかしい独り立ちできない旧ソ連の子たちをアメリカがたぶらかそうとしていると思っている。ウクライナのオレンジ革命、グルジアのバラ革命、キルギスのチューリップ革命……。2000年代に一連の民主化革命が旧ソ連の国々で起こりました。普通なら、「それらの国の政府が汚職にまみれていてパフォーマンスが低かったから、国民に見放されたんだ」と理解するわけですが、ロシアの見方は違います。「これはアメリカの陰謀なんだ」と理解するわけです。全部アメリカが裏から糸を引いていると。さらに2010年代にアラブの春が起きると、また同じように理解する。「あれもこれも全部アメリカが内乱を人為的に引き起こして、気に入らない政府をつぶして回っているんだ」というわけです。そんななか、2014年にキエフで政変が起き、クリミア侵攻につながっていく。ロシアからすれば、「保護下にあるまだ無力で未熟な国々を、アメリカは裏から操って、そこでこういう政権崩壊を引き起こした。われわれが素早く入っていって守らなければ」という認識で介入したわけです。でも、当然これはわれわれ西側の人間から見たら、「なんていうことをしてくれるんだ!」という話になりますよね。挙句の果てに、クリミア半島を併合までしてしまう。クリミアって大きいんですよ。九州の7割ぐらいの面積があるので。そこに200万人以上が住んでいるというものすごく大きなところを、軍隊で占領して、併合してしまうって、19世紀みたいですよね。実際、ドイツのメルケル首相は「19世紀とか20世紀前半みたいな振る舞いだ」という言い方をして批難しました。われわれからすると受け入れがたいし、やはり危険だと見えるわけです。
プーチンは「頭の中が100年単位で古い。数世紀遅れている」
――歴史の教科書で見るような事件に思えました。
まさに時代錯誤なんですよ。要するに、「古臭い」んですよね。ロシアの「パワーこそすべて」みたいな世界観とか、「君らは僕らの勢力圏内にいるんだから、お前らには完全な主権はない」という考え方は、18世紀、19世紀なら普通の考え方だった。プーチンが18世紀のロシア帝国の皇帝だったら名君です。でも、それを21世紀にやってしまったことが大問題なんです。ですから、僕のプーチンのイメージは、「天才戦略家」だとか、「悪のリーダー」だとかいうよりも、「古い男」。頭の中が100年単位で古い。数世紀遅れているというイメージなんです。
――プーチンには、なぜそのような時代遅れの価値観が染みついてしまったのでしょうか?
プーチンを支えるロシアの外交や安全保障、諜報機関、エリートたちの世界観がもともと古いんですよね。なんでロシアだけが?と思うかもしれませんが、例えば中国も近いんじゃないかと思います。彼らの場合は、経済も成長しているし、イノベーションも起きているから、ロシアよりもう少し頭が柔らかいかもしれませんが。でも、僕は中国の行動にはロシアとかなり近いものを感じます。
――たしかにロシアは、中国と繋がりを深めていますね。
中露が気が合っているのは、互いに「権威主義体制(編集部注:一部のエリートによる非民主的な体制)」が必要だと思っている国だからかなと思っています。権威主義はいずれ倒されて民主化されていく――という認識が西側の国にはあるじゃないですか。だから、中国やロシアについても「まだ民主化していない」という言い方をする。ところが中国やロシアからしてみると、「いつか民主化する」なんて思ってもらったら困るんですよ。巨大な国家を統治するためにはこういう政体しかないのであって、いずれ民主化するというビジョンを持たれたら困る――と思っているんです。ロシアなんて、「民主化をしろ」とか、「ジャーナリストを殺害してけしからん」とか言われると、「またそうやって西側は情報戦を仕掛けてきている。民主化の名の下にわれわれの国体を覆す気だな」って認識する。たぶん、これは中国共産党も同じでしょう。
――彼らから見ると存在そのものを否定されているように見えてしまうわけですね。
そう考えると、2010年代ってすごいんですよ。ヨーロッパは「私らポストモダンで安全で豊かな社会に生きています」みたいな顔をしていますけれども、一方では、まだナポレオン戦争の頃のような価値観を持ったロシアみたいな国がいる。さらには、ロシアがクリミアを取って「18世紀かよ」とか言われていた2014年に、イスラム国が登場して16世紀みたいな「カリフ制」の再開を宣言する。針をギュッと巻き戻った時計がいっぱい出現したんですね。
――さまざまな世界観が共存することなど出来るのでしょうか?
共存できていないんだけれども、併存はしている。その世界観同士がガチガチとぶつかっている時代にみえます。冷戦が終わった後に、サミュエル・ハンティントンが『文明の衝突』を書いて、「これからは文明の地金みたいなものが決定的な役割を果たす。だから文明単位のぶつかり合いになるんだ」というようなことを言っていましたが、私もそう思います。ロシアも中国も、形の上では一応は「民主主義ですよ」と言うんですが、彼らの言う民主主義のやり方は全然違う。たとえば、プーチンのアドバイザーを務めたスルコフという人が「主権民主主義」という概念を持ち出しました。どういうことかというと、「みんな意見は自由に述べてよろしい。政府を批判するのも自由だ」。しかし、「一回リーダーが決めたことに逆らうのは許さん」と(笑)。
当初は「ずっと自由だった」ロシアの方針が変わった理由
――ロシアの印象そのままですね。
いまやロシアはそうした抑圧的なイメージを持たれますが、当初はプーチンもここまでやろうとはしていませんでした。もちろん彼はKGB出身で強面なので、最初からやることはやったけど、ロシアメディアも10年前はずっと自由でした。特にインターネットなんて完全に野放しでしたよ。
――それがどうして変わったんでしょう?
時間とともに、国民に体制に対する不満が溜まってきたからでしょうね。反体制運動なども起こってくるし、経済だって駄目になって。普通に考えると、国民の不満の根本的な原因を直さなければいけないわけですが……。プーチンは、やはり対策がKGB的なんです。「国民の不満が高まったら、監視や取り締まりを強化する」という方向に、どうしても行ってしまう。これは彼のキャリアによってビルトインされた思考の癖ですし、彼を支えている政策エリートたちもKGB出身者が多いので、どうしてもそういう解決策ばかり出てきてしまう。
――その結果、他の国とは世界観が分断された国になってしまったのですね。
その分断線にしたがって、例えば、ネット環境も違ってきた。たとえば、中国のインターネットは、他の国とは別の世界になりつつありますよね。Googleも使えないし、TwitterにもFacebookにもつなげない。代わりに、中国の政府の監視下にある同じようなアプリなら使えます。インターネットというテクノロジーは同じものを使っているにもかかわらずです。最近、ロシアも徐々にそうなりつつあって、インターネットの監視が非常に厳しくなってきている。ロシア政府は、「ルー・ネット」という有事にグローバルなインターネットから切り離してロシアだけのインターネット空間を作れないかと検討しています。そういう分断の時代を迎えているイメージを僕は持っているんです。
ロシアが得意とする“柔術外交”とは?
〈2014年にはクリミア半島を強引に併合し、中国とも合同軍事演習を続けるロシア。アメリカ大統領選をめぐって、「ロシアゲート」という言葉が聞かれる現状で、ロシアという国は至るところで暗躍する「陰謀国家」のような印象を受ける。ところが、それは一面的な見方でしかないと小泉氏は語る。キーワードは「柔術」だ。〉
――ロシアは、自国のイメージが悪化することを恐れないのでしょうか?
そもそもロシアは、自国のイメージを良くする必要を感じているのかどうか、ということです。経済力で劣るロシアは、平時の体力が弱い。世の中が平和だと、ロシアという国はあまり目立たない。世の中が乱れだすと、途端にロシアという国は輝きを放つんです。ロシアにしてみると、普通に「いい国ですね」と言われて好かれても埋没してしまう。他方、怖がらせる能力は突出して高いわけですから、怖がられることで、その存在感は上げられるわけです。ある意味で“炎上マーケティング”、炎上型ユーチューバーみたいなものです。忘れられているよりはずっとマシ。人目に触れて存在感さえ高まっていれば、その注目度は何かしら価値に変換できる――という考え方があると思います。アメリカなど西側の国は、「秩序」から恩恵を受ける側なので、秩序を維持しようと介入をする。ところがロシアは、秩序を維持しても別に儲からない。だから、軍事介入にしても、秩序に関心がないので、混乱の中から何かロシアにとって役に立つものを掠め取るための介入なんです。アメリカの外交が戦略ゲームである「チェス」に喩えられるとしたら、プーチンがやっているのは「柔道」。ロシアは主導権を握る力はないので、相手の力を利用して、タイミングを合わせて大技を狙っている。どんな技が決まるかは誰にも予測できない。相手の出方や状況によって、仕掛ける技は一本背負いかもしれないし、腕ひしぎかもしれないのです。
――プーチンは緻密な戦略家という評価もありますが、イメージが変わります。
プーチンは戦略家というよりも戦術家であると思う。ある瞬間に物事に対応する力はすごい。ただ、何か中長期のプランがあるのかというと、あまりないのではないか。「大国であるロシア」「旧ソ連諸国を統合するロシア」という自己意識はあるけど、それを実現する具体的なプランや戦略は乏しい。クリミアの侵攻作戦をみても、あれは教科書に載るような「戦術」のお手本です。けれど、結果的にそれでロシアは何を背負い込んだかというと、経済制裁やウクライナ人の反発でした。我々から見ると、結局はマイナスに働いているんじゃないかという気がします。
●「プーチンは城に閉じ込められている・・・」 ロシアの未来と東アジア戦略 2/25
ロシア軍は24日、ウクライナの軍事施設に対する攻撃を始めたと発表し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった。ウクライナ側によれば、攻撃は東部だけでなく郊外や南部などの軍事施設にも及び、25日には首都キエフにも侵攻して死傷者もでているという。
再三にわたる国際社会からの「ストップ」にもかかわらず、ついに起こってしまったこの事態。世界各国からロシアへの批判が巻き起こっているが、北方領土をはじめロシアと近接する日本には、いま何が求められているのか。
軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏のインタビューを、ここに再公開する(初出:2019年11月24日 以下、年齢・肩書き等は公開時のまま)。
ロシアの東アジア戦略とは?
〈あまりに特殊な18世紀並みの国家観をもつ大国、ロシア。2020年以降、ロシアはどこへ行くのか。小泉氏は展望を次のように語る。〉
――日本からすると、中国やロシアと囲んだトライアングルの関係がどうなるかを考えなければいけませんね。
中国とロシアは有事に協力し合う関係、例えば尖閣諸島をめぐる有事にロシアの太平洋艦隊が駆けつけてくるような関係ではない。けど、尖閣諸島をめぐる議論の中でロシアが中国側に付く、というような展開はあり得る。実際に、南沙諸島でロシアはそれに近いことをやった。中国が主張した南沙諸島の領有権を国際仲裁裁判所が退けた際、プーチンは「今回の中国の主張を棄却した判決は中国側の意見を聞いていない。手続きに問題があるから支持しない」という言い方をして、中国に肩入れすることをやった。中国もクリミアに関しては、支持しないんだけれども、クリミアの手前まで艦隊を送ってくるぐらいはする。お互い「半ナマ」ぐらいのところで領土問題をサポートし合っています。
――軍事演習も続きますか?
お互い領有権問題を抱えている場所の近くまで行って演習をやるようにはなるでしょう。それが何を意味しているかはあえて言わないけど、黙って中露で演習する。目的は、外野が勝手に判断してください、と。この夏(2019年)、中露の爆撃機が尖閣諸島周辺にきた件が典型例です。ちなみに、ロシアの爆撃機が日本一周する時は、最後は北方領土を通って帰るんです。今後、中露の爆撃機が一緒に日本を一周して、帰りに北方領土の上空を通っていった、なんて状況になると面倒です。そうやって領土問題に中国を引っ張り込む、あるいは中国が領土問題にロシアを引っ張り込む、という展開はあると思います。
――日本が中国や韓国と揉めている状況は、ロシアにとってはメリットがある?
もちろん、メリットが大きい。先述の通り、ロシアは秩序ではなく乱世の国なんです。2019年7月にロシアの爆撃機が竹島の近くを通ったときも、日本と韓国が徴用工やGSOMIAでもめている真っ最中。黙って飛んでいただけで、勝手に日韓がエキサイトしてくれる。実際韓国機が警告射撃をしたら、日本側は「何事だ」と抗議した。「ただちょっとコースを変えただけなのに勝手にエキサイトしてくれた」とロシアは思っているでしょう。
ロシアの未来はプーチンの辞め方次第
〈ロシアの未来を占うポイントについて、小泉氏は20年続いてきたプーチン体制の終わらせ方に注目しているという。小泉氏はいう――「プーチンは、城に閉じ込められているようなものなんですよ」〉
――プーチン体制はいつまで続くのでしょうか。プーチン後のロシアはどうなるんでしょう。
現状、ミニプーチンならいっぱい居るんですよ。例えば、トゥーラ州の知事をやっているデューミンという人物は元KGB系の切れ者で、にらみが利く。プーチンが辞めた後、プーチン的な統治を続けることはできると思うんです。問題は、そのプーチン的統治を続けても、国としてジリ貧だということです。プーチンは、自身について「私は混乱して崩壊の瀬戸際に立たされたロシアという国を任された、非常時の指揮官である」という認識を持っていると思う。言うなれば、戒厳令下の戒厳司令官です。90年代のロシアは本当にメチャクチャだった。それを何とか立て直す、そのためには多少の強権も非常手段もやむを得ないという認識でプーチンが登場して、一定の秩序をロシアに取り戻したわけです。
「城」から出られないプーチンの未来
――その危機を脱したのでは?
だけど、まだ非常事態体制をうまく解除できてないわけです。非常事態体制そのものから、利益を得ている人がいるから。例えば産業が国家の統制下に置かれて、その利益というのはプーチンのお友達に配分されているわけです。今さらこれをやめて、じゃあもっと自由で公正な市場にしますと言っても、これはプーチンサークルがまず承知しない。いわば、カフカ的な状況ですね。カフカの『城』はいつまでも城の中に入ることができない男の話ですが、プーチンの場合は自分の築いた「城」から出られない。誰もが、どうすればいいかは分かっているんです。対外的な緊張を緩和させて、国内の既得権益層を退場させればいい。でも、それはプーチン的なシステムの延長ではできない。ミニプーチンで数年はしのげるかもしれないけれど、数年後にちゃんと新しいリーダーにスイッチできないと国が保たない。ベストのシナリオは、2024年にちゃんと任期通りにプーチンが辞めることですが、ここで辞めるとプーチンは逮捕されたり、身に危険が及ぶ可能性が高い。
――城から生きてでることはできないと?
城から出た瞬間に、権力がなくなった瞬間に破滅する。ロシアの中にも、プーチンが権力を失った瞬間にのし上がってやろうと思っている連中はいっぱい居る。そうすると、プーチンとしては怖くて辞められない。だから、身の安全を維持できるぐらいの権力を保ちながら半引退するみたいなことができればいいけど、それが難しい場合、本当に「終身独裁」を続けることになるかもしれない。
――ソフトランディングできるのでしょうか?
頭の柔らかい若い世代の指導者が現れれば、ベストだろうと思います。最近では国家安全保障会議議長に国防大臣などの任命権を持たせて、プーチンがそのポジションに横滑りで就任するという説が囁かれています。中国共産党も、国家主席を辞めても、その後中央軍事委員会の主席をやって、引退することが多い。ロシアもそれを参考にしているのかもしれない。もっとも、肝心の習近平が国家主席の任期を撤廃してしまいましたが(笑)。たぶんプーチン政権は、日本でいえば「55年体制」みたいなものなんです。あの構造を破るのは本当に大変だったと思う。危機からの復興というかたちで、緊急的に生まれて、利権が固まり、成長が止まった後もずっと構造だけが残ってしまっていたのです。
日本に何ができるのか
〈ロシアという「西側の尺度」では捉えきれない大国を隣国にもつ日本。膨張を続ける中国という大国、関係が悪化する一途の韓国、ミサイルを撃ち続ける北朝鮮と、混沌とする東アジアの中で日本はどのように方針を立てればいいのだろうか。〉
――今後、日本がロシアを利用できる場面はないのでしょうか。
日本がロシアを利用できればいいのですが、やはり“柔道家”としてはプーチンのほうが上なんですよね。下手に日本から技をかけると、完全に逆手に取られる可能性がある。だからできることは、日本とロシアの国益で一致する部分を積極的に探すことだと思います。例えば、中露がいくら接近しても、ロシアも手放しで中国に接近するのは怖い。それで最近ロシアはインドを仲間に入れようとしている。(2019年)9月のロシアの軍事演習でも、今年は中国に加えてインドとパキスタンも参加した。中国と直で組むとロシアはどうしても国力の差で引きずられるけど、少なくとも中印露の3カ国でやれば多少緩和できる。同時期にウラジオストックで開かれた「東方経済フォーラム」のメインゲストは、インドのモディ首相だった。前年のゲストは習近平だったのですが、「中国だけではなく、インドとの関係もあるんだよ」と内外に見せた。そうやって、ロシアは中国を相対化しようとしていると思うんです。日本も、日中露みたいな関係までは国力の差もあって難しいかもしれませんが、日印露の枠組みくらいなら、できるかもしれない。非軍事的な協力を、海軍などを使ってやったりすると、印象的かもしれないですよね。
――ロシアに「中国一辺倒じゃなくても大丈夫」という枠組みを用意するということでしょうか。
そうですね。あるいは、中国に会いに行く時に、怖いから一緒に付いて行ってあげる、というようなやり取りは出来るかもしれない。要するに、ワンオンワンで目を見つめ合うと、中国のほうが「目力」が強い。でも、3、4人で会えば、ずっと見つめ合ってなくてもいい。日本が上手くそういう関係を作って、「僕も一緒に行くよ」とロシアに言ってあげるタイミングを作る、もしくはセッティングしてあげる外交ができるといい。日本は中国に次ぐ世界第3位の経済大国で、G7のなかで唯一の非NATO加盟国。ロシアにとっても、アジア太平洋地域を考えたときに、その存在は大きな意義を持ちます。中国の台頭や、ロシアのしたたかさは認めざるを得ない。その上で、日本としてできることを探していくということだと思います。
●”8年越しのオペレーション”ロシアの侵攻にウクライナが「孤立無援」の理由 2/25
首都陥落が間近と伝えられるウクライナ。今後の展開はどうなるのか、ロシアの外交・安全保障が専門の笹川平和財団・畔蒜泰助主任研究員に聞きました。
死者137人「孤立無援」ウクライナ
井上貴博キャスター: ウクライナの首都キエフが陥落の危機と言われています。ウクライナのゼレンスキー大統領によると、死者は137人、負傷者は316人ということです。狙いについて話を進めていきます。やはりどの国でも首都が政府機能の集まっているということで、ロシアは執拗な攻撃を行っています。ゼレンスキー大統領によると「ロシアの破壊活動に従事する部隊がキエフに入った」。平和維持軍なんてとんでもない、破壊活動に従事する部隊がもう入ったんだと発言しました。「敵は私を第1の標的に定めた」何よりの自分の政権を転覆させるということが敵国ロシアの目的なんだということを発信しています。アメリカのブルームバーグ通信は「近くキエフが陥落し、ロシアの手の中に落ちるかも知れない」と日本時間の25日午前5時頃に伝えましたが、近くというのがどういうタイムスパンで話しているのかこの辺りも見ていく必要がありそうです。
笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は「首都を制圧し、ゼレンスキー大統領に『NATOに加盟しない』と宣言させたい。しかしそれができないとなれば、ロシアは現政権を追い出し、NATOに加盟しない親ロシア政権を樹立させる、つまりゼレンスキー大統領、そしてその政権を転覆させて、新しいロシア寄りの政権を樹立させたい」と話しています。
ホラン千秋キャスター: ウクライナに「NATOに加盟しませんよ」と言わせるためだけにといいますか、それが理由でここまで軍事行動を起こすまでにロシアにとってはNATO非加盟は重要なポイントということなんでしょうか。
畔蒜泰助: ロシアからすると、実は8年前に親ロ派の政権が転覆させられたので、要するに8年越しのオペレーションってことなんですね。その間、外交をやったけども上手くいかなかったということなんですね。
ホラン千秋: これは実際に可能なんでしょうか?
畔蒜泰助: ゼレンスキー大統領は既に中立をした場合に、我々を誰が守ってくれるんだという発言をしていますので、中立を宣言することは念頭に置いてはいると思います。
ホラン千秋: 収束の可能性としてはもうそれ以外ないということなのか他にも可能性が方法としてあるのか、いかがですか。
畔蒜泰助: 収束するという意味においては、それしかないんだろうなと思います。
ホラン千秋: 今村さんは歴史時代小説家でいらっしゃいますので人の争いの歴史みたいな部分にも触れることがあると思います。現代でこういった争いが起きてることをどうご覧になっていますか。
作家 今村翔吾さん: やっぱりクリミア半島のことがあってから、あり得るってことは重々わかってはいるもののやはり「まさか」みたいな感じを正直受けてしまうのは、平和に慣れてしまっているのかなとは一つ思いますし、ロシア側の肩を持つとかではないんですけどロシアにはロシアの言い分があって、その言い分同士が交わらないからこういうことになるわけで、行くところまで行ったらこういうことになるんだなっていうのを改めてまざまざと現実を突きつけられた感じですね。
井上貴博: 先ほど畔蒜さんが少し触れていらっしゃいましたけれども、ゼレンスキー大統領が実際に声明で「私はもう孤立無援だ」という言葉を使いました。結局のところNATOもあまりそこまで本気で助けてくれないんじゃないか、アメリカは本気で何かやってくれるわけではなく助けてくれない。こうやって孤立無援になることをロシアのプーチン大統領は見透かしていたとも言えるんですか。
畔蒜泰助: ある意味、このオペレーションをやる上でNATO、アメリカがウクライナの支援をする、軍事的な武器を売るとか共有するといった実際の戦闘に参加するってことがないということは、バイデン大統領自身がはっきり明言していましたので、残念ながらそういうことなんだと思います。
井上貴博: 本当に首都が陥落するってありうるのかという観点で専門家に話を伺いました。間近とは言われるんですけれども、ウクライナ軍の兵士の数は約20万人です。多くは地上部隊だということを考えると、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは「ウクライナ軍はもう制空権を取られている、このことが大変大きいんだ」と指摘しています。地上戦で抵抗するしかなく空爆されたらほとんど無力状態でプーチン大統領がその気になれば首都はいつでも制圧できる状況なんだと話しています。
水面下で降伏の条件交渉の可能性も
ホラン千秋: いつでも制圧できる状況だけれども、踏み出すのかどうかという部分は何を見極めているんでしょうか。
畔蒜泰助: 実は24日、フランスのマクロン大統領がプーチン大統領に電話をしています。それはゼレンスキー大統領の意向を受けて電話をしているということを発言していますので、ということはすでにゼレンスキー大統領はマクロン大統領を通じて、要するに和平交渉というか降伏の条件闘争をやっている可能性が一つあるんじゃないかと思います。
ホラン千秋: 先ほどバイデン大統領は軍事的に支援するということは無いと仰っていましたが、NATOやアメリカがウクライナ国民を助けるということを決断することは難しいんでしょうか。
畔蒜泰助: 残念ながらウクライナはNATOの加盟国ではなく「加盟したい」と言っています。一方ロシアは「加盟させるな」と言っています。フランスやアメリカは「加盟をさせない」とは言わないと。けれど加盟したいというウクライナの要望には「まだ早い」っていうことしか言わないわけですよね。残念ながら「孤立無援」というゼレンスキー大統領のコメントはその通りなんだと思います。
井上貴博: フランスを通してすでに条件交渉をやっている可能性があるとすると、そこで踏みとどまり、最悪のケースを回避する可能性はどれぐらいあるとお感じになっていますか。
畔蒜泰助: ロシア国内でも反戦のデモが起っているということを考えると、プーチン大統領としても国内の世論への影響を考えてあまり悲惨な状況を生むというのはやはりやりたくないんだと思うんですね。そういうことも今後の展開に影響してくると思います。
●ロシアはなぜウクライナにこだわるのか…人類史上初めて原発を抱える戦地 2/25
今、ウクライナで何が起きているのでしょうか。挑発の裏に潜むロシアの思惑、その背景にある歴史の溝…緊迫のウクライナ情勢を取材しました。(報道特集 2月19日放送より抜粋・編集)
在日ウクライナ人は今の状況をどう感じているのか
日本にいるウクライナ人は、祖国をとりまく情勢をどう見ているのでしょうか?日本の商品をネットを通じて世界中に販売する大阪市のベンチャー企業「ゼンマーケット(株)」。海外では日本の化粧品や釣り具、衣類が良く売れると言います。
「ゼンマーケット(株)」を起業したのはウクライナ人のグループで社員100人のうち、半数以上はロシアを含む27か国出身の外国人です。普段、政治的なことを話さないようにしていますが、ウクライナ人同士で集まれば、今の祖国が置かれている状況は気になるようです。
ゼンマーケット(株) 代表取締役 ナウモヴ氏「今のウクライナの状況は本当に心配です。まさか21世紀に戦争になるかもしれないという状況に陥ると思っていなかったのですが…家族も自分の国も、とても心配です」
――家族との連絡は?
同代表取締役 スロヴェイ氏「ほぼ毎日のように(連絡を)とっています。本当に侵攻があれば今まで体験したことのない大変なことになるため、家族とは『どうする?』と、話し合っているところです」
同代表取締役 コーピル氏「首都(キエフ)に対して核兵器が使われないかすごく心配です。(核兵器が)使われたらどうなるのか。ウクライナ人もおそらくパニック状態に陥ってしまう」
ウクライナ人の女性社員にも話を聞いてみました。
女性社員「最初、この状況について聞いたとき『またかよ』と思いました。どうしてウクライナをほっておいてくれないのか」
別のウクライナ人女性社員は次のように話します。
女性社員「一番の感情は心配というよりも怒りですね。隣国の欲望のために、自分の親・兄弟・自分の一緒に育った人たちが明日どうなるのかわからないという現状に関して、非常に怒っています」
ウクライナ問題〜その背景にあるもの
ロシアと国境を接するウクライナ東部。緊張が高まるこの場所に、世界の注目が集まっています。先月、JNNの記者がウクライナ東部ルガンスク州に入り取材を行いました。
ロシアとの国境付近にはウクライナ軍が常駐しており、緊迫感が漂っています。前線のウクライナ兵が対峙するのはロシア軍だけでなく、同じ州内に住む親ロシア派武装勢力からの攻撃もあるようです。武装勢力との衝突は2014年から続いており、これまでに約1万4000人もの死者が出たと言います。
元々、ソ連の一部だったウクライナはソ連崩壊に伴う独立後も、ロシアと良好な関係を望む住民が多くいました。しかし、その状況が大きく変わった出来事があります。
2014年、親ロシアの大統領が失脚するきっかけとなった反政府デモです。
この反政府デモでは、デモ隊と治安部隊の激しい衝突の末、100名を超す市民が命を落としました。結果、親ロシア派の政権が倒れ、親欧米派の政権が誕生します。
これに危機感を抱いたロシアは、ロシア系住民が多いクリミア半島を一方的に併合。さらにウクライナ東部で親ロシア派の勢力が武装蜂起し、実効支配するようになりました。そこには、ロシア側の軍事的支援があったと見られています。
「ロシアはウクライナを分裂状態に置くことで欧米化の流れを阻止する狙いがあったのではないか」と話すのは、ウクライナとロシアでのビジネスに関わり現地の事情に詳しい西谷公明氏です。
西谷氏「公式には(親ロシア派の武装蜂起に)ロシア政府は関わっていないと言っているが、国境地帯は開います。今も、人・物・資金・弾薬・兵器など、出入り自由と言ってもいいんです。ウクライナのNATOの加盟を阻むための楔ということでロシアは(軍事支援を)やったんだろうと」
一方、ウクライナの人たちの反発はむしろ高まったとみられます。ロシア政府は2019年、親ロシア派が実行支配するウクライナ東部2つの州のロシア系住民に対し、ロシア国籍を与えるとしましたが、これに応じたのは3分の1にも満たないという結果となりました。
西谷氏「ロシア系住民ですら、ウクライナ国籍のままでいることを選んでいるという現実が、プーチン大統領の目の前にあるんですね」
――そうなるとプーチン大統領としては危機感を持ちますよね?
西谷氏「今回の件も含めて、その危機感はプーチン大統領の根底にあると思います。多くのロシア系住民も含めて、ウクライナが西(欧州)を向く国になったのが大きな変化だと思います。その現実はとても大きい」
ロシア側は事態をどう捉える〜ロシア住民の認識
ロシア側は事態をどう捉えているのでしょうか?ロシアの世論調査機関(独立調査機関レバダセンター)によると、緊迫化するウクライナ情勢の原因について50%の人が「アメリカ・NATOが悪い」と回答しています。「ウクライナが悪い」と回答した人が16%、「ロシアが悪い」と回答した人は4%となっています。
実際にロシア国民はどう思っているのか?話を聞いてみました。
――ウクライナ東部で緊張感が高まっている。責任はどこにある?
ロシア国民女性「緊張が高まっているというのは作り話で、危険なことなんて起こりませんよ。捏造された問題が無ければウクライナとは良い関係だったのに...」
ロシア国民男性「意図的に緊張を高めている人がいる。ウクライナ人も私たちも人質のような存在です。バイデン大統領は世界最高の権力者だとアピールしたいんですよ」
ロシア側は事態をどう捉える〜駐日ロシア大使の認識
金平茂紀キャスターが、ミハエル・ガルージン駐日ロシア大使にロシア政府としての認識を伺いました。
ガルージン駐日ロシア大使「ロシアはNATOの拡大という安全に対する大きな脅威に直面しているため、自国の防衛力の維持と向上を行わなければなりません。ですから、国のあちこちで軍事演習を行っています」
金平キャスター「ただ、あらゆる軍事演習全てが防衛的なものだとは限らないですよ」
ガルージン駐日大使「なぜ?金平さんは軍事専門家なのですか?」
金平キャスター「軍事演習の性格をどう見るかというのは、当事者によって違うんです」
ガルージン駐日大使「(軍事演習の目的については)ロシア国防省が正式に公表しています。マスコミの皆さんはロシアの正式な公表ではなく、でたらめなアメリカの発言を引用しています。アメリカはロシアの行動について判断する立場にないんですよ。自分の犯罪的な侵略歴が極めて長いから、黙った方がいいですよ。あの国は!(怒)」
ロシア側は“国を守るための演習”であることを強調し、アメリカなどの西側諸国を痛烈に批判する形です。なぜロシアはウクライナにこだわるのでしょうか?
第二次世界大戦時にウクライナはナチスドイツとソ連軍の主戦場となり、数多くの戦死者が出ました。そのため、ロシアは「ヨーロッパをナチスドイツから解放するための礎となった場所」としてウクライナを重要視しているのです。
ガルージン駐日大使「我々はウクライナとロシア、ベラルーシは1つの国民であると考えています。ロシアとウクライナ、2つの国は人間的・文化的・言語的・経済的・政治的・親族的にとても緊密に結び付けられている国だと考えています」
原発を抱える地域が戦地化することへの懸念
2月9日、セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ大使が会見を行い、金平キャスターが質問を行いました。
――2014年のドネツク・ルガンスクの内戦状態の取材に伺って、ウクライナの人達同士が殺し合っているのを見てとても悲しい思いをしました。
コルスンスキー駐日ウクライナ大使「まず、あなたが言った『内戦』という表現について全面的に否定したい。(親ロシア派武装勢力は)ロシアの正規軍と連携をとっているのですよ。それが内戦ですか?」
コルスンスキー駐日大使は、ウクライナが人類史上初めて原発を抱える戦地と化すことへの危機感も露わにしています。
コルスンスキー駐日大使「ウクライナ全土が攻撃されたらどうなるか。人類史上初めて15基の原発と石油ガスパイプライン網や化学工場が戦地と化してしまうのです。北部の首都キエフ周辺にはチェルノブイリがあります。原発事故の放射性物質によって汚染された地域です」
繰り返してはならない原発事故〜放射能汚染で苦しむ住人
現在、ウクライナ国内にはあわせて15基の原発があります。
1986年4月、史上最悪のチェルノブイリ原発事故は旧ソ連時代に起きた事故です。ソ連から独立し、事故から35年以上過ぎた今でも、周辺住民は事故の影響に苦しめられています。
ウクライナ北部のナロジチ村は、チェルノブイリからおよそ70キロ離れているものの、事故当時の風向きで高濃度の放射性物質に汚染された地域です。ナロジチ村で生まれ育ったタチアナ・ルーチコさんは事故当時16歳でした。
旧ソ連政府が事故を隠蔽したことも被害拡大につながり、ルーチコさんは事故からおよそ5年後に長男を妊娠した際、放射能による被害が明らかとなりました。
長男を出産したあと流産と死産を繰り返し、ようやく授かったのが娘・マリアさんです。マリアさんは今、この村で教師として働いています。
ルーチコさん「流産が4、5回ありました。チェルノブイリの事故が原因だと言われました。同じ事が起こらないよう子どもにも事故のことを伝えていきます。悲劇が起こらないために」
マリアさん「私を産んでくれた事に感謝しています。私も自分の子どもを産み、ずっとこの村で暮らしていきたいです」
マリアさんは、心臓と甲状腺に疾患を抱えており、医師からは放射能による被害が原因だと指摘されたと言います。
マリアさん「いつも調子が悪いし息切れします。医師から甲状腺の検査をして下さいと言われました。甲状腺の病気は原発事故と関係があると思います。医師にも『その地域に住んでいるので当然だ』と言われました」
ナロジチ村はロシア軍が活発に活動しているベラルーシとの国境から50キロの近距離にあることから、タチアナさん一家は今も続く放射能被害とともに、戦争でさらに村へ被害が及ぶことを懸念しています。
マリアさん「もちろん不安です。何かあったらこの村は首都(キエフ)への通り道になるので」
ルーチコさん「ロシア人というよりもロシアの大統領が悪いのです。ロシア人全体ではありません。良い方向へ向かうと希望は持っています」
マリアさん「私の夢は平和と皆が健康でいられることです。戦争が起こらないように」
●世界が瓦解する音が聞こえる──ウクライナ侵攻の恐怖 2/25
<昨日までの世界は砕け散った。世界は再び、武力によって、しかも適当な開戦理由をでっちあげて他国を侵略できる時代に逆戻りした>
2022年2月24日正午ごろ、プーチン大統領の対ウクライナ宣戦布告と侵略開始で、世界が変わってしまった。私が「勝手に」信じていた世界観は、砂上の楼閣である以前に蜃気楼だと徹底的に思い知らされた。もう元に戻らないだろう。
昨年末ごろから、日本でもロシア問題の専門家や軍事事情通が、ウクライナへのロシア軍国境展開とその危険性を大きく伝え始めた。当然彼らは殆どの場合、アメリカの偵察衛星や諜報機関から直接情報を仕入れているわけではなく、客観的な報道や現地情報へのアクセス等で「ロシア軍の侵攻は近い」と判断していた。私は雑誌『軍事研究』を定期購読する程度の趣味人のレベルだが、当然この手の話題には敏感であった。
しかし当時、私も、或いはロシア専門家も、軍事通も、その少なくない人々が「仮にロシアがウクライナに侵攻しても、最悪でも東部2州(ドンバス地方)への限定攻撃にとどまるだろうし、現在のロシア軍の集積は西側に揺さぶりをかけるブラフ行為ではないか」と思っていたに違いない。というか、そう思うしか無かった。
20万人前後の大量の地上部隊が、多方面から一斉に国境を侵犯する。しかもその相手が、人口4300万人を誇り国土面積が日本の1.6倍もある地域大国ウクライナならば尚更不可能であろう、という見立てである。ソ連は1979年にアフガニスタンに侵攻したが、当時のアフガンの人口は約1300万人に過ぎず、経済力でも圧倒的に劣後する小国である。1990年にはイラクのフセインがクウェートを侵略した。クウェートは当時から富裕国であったがその人口わずかに約200万人、日本の四国全県を合わせたよりもさらに狭小な小国である。
古典的な侵略戦争が戻ってきた
だからウクライナのような地域大国に、ロシア軍が多方向から、陸上の国境を侵犯して、電撃的に一気に攻め込むという古典的な大侵略戦争は、常識的に考えると起こるわけがなく、そういった戦争は第二次大戦で最後かつ最終的だと思っていた。具体的にいえばドイツによるポーランド侵攻、西方電撃戦(対仏)、バルバロッサ(独ソ戦)、ソ連の対日参戦等々である。
古典的な大侵略はもう終わった過去の世界のお話である、そしてそれは愚かではあったが、あくまで過去の過ちである──という安心感があるからこそ、私たちは空想やゲームの中でそれを追体験して楽しんでいた。
スウェーデンのゲーム会社「paradox」社が開発した戦争ゲーム、『ハーツオブアイアン(Hearts Of Iron)』シリーズは、国産の『提督の決断』(光栄)などをはるかに凌ぐ大量のユーザーが世界中に居る(もちろん、彼らはロシアにもウクライナにも居る)。そこでは古典的な大侵略が、毎日、愛好家の手によって行われてきた。彼らはスターリン、或いはヒトラー、変則的にはドゴールやチャーチル、大本営、ルーズベルト等になりきって、多方面からの陸空攻撃を伴った立体的電撃作戦の手腕を競っていた。私もその熱心なユーザーの一人(熟練者レベル)である。
ポリティカルコレクトネスを度外視してこのゲームが世界中で愛されているのは、ゲームの歴史的再現度の緻密さや完成度もさることながら、「この手の古典的侵略戦争はもう起こらない」というある種の安心感があったからだ。しかしこのゲームの実況動画は、昨日を境に殆ど投稿(YouTubeへの公開など)がなされなくなった。ゲームの世界の古典的侵略が現実のものとなり、もはやその再現が笑えなくなったからだ。
9.11以降、或いはそのもっと以前から、現代戦とは古典的な地上からの侵略ではなく、サイバー戦・電子戦、無人機(ドローン)攻撃、そこに場合によっては宇宙も絡んだ複雑高度な多種多様の情報戦をも含んだものであると教科書的には規定されてきた。いかにも陸上国境を侵犯して正規軍同士が衝突する事態がなくなったわけではないが、それはある種の権威主義的な小国同士の紛争であって、一般的には戦争の次元は変化したのである、という理解があったことは間違いないだろう。
起こるはずのない戦争だった
もちろん今次のウクライナ侵略にも情報戦や電子戦は行われているが、G8から除名されたとはいえ、仮にも国連常任理事国が20万もの大軍を越境させて多方面から一斉に侵略するという、そんなことをする訳がないし、実際にそうするのではないかという「そぶり」を見せたとしても、それは実際には実行しえないのだ──という、どこか弛緩した安心感というのがあった。
だから2022年に入り、「2月16日にもロシア軍がウクライナを攻撃する可能性濃厚」といったバイデン大統領の発言があっても、実際にはその期日を過ぎてもロシア軍が越境しなかったのだから、それは「あまりにも大げさだ」とか「寧ろ米英の対ロ煽動ではないか」という声が聞こえてきた。
2022年2月24日の午前(日本時間)まで、そういった声は底流では根強かったのではないか。2022年に入って、ロシア軍が仮にだが越境してもそれは東部2州程度までで、首都キエフや第二都市ハリコフへ軍を進めるとは考えにくい──ウクライナに駐在経験がある専門家も、一部の国際関係専門家もそういう人が少なくなかった。
クリミア併合以降、対ロ制裁の影響でロシア経済の成長率は鈍化しており、そんなこと──古典的大侵略戦争──が起これば、プーチンもただでは済むまい。如何に彼とて、ジョージア(グルジア)とは全然相手の規模が違うのである。よもやそんな損得計算ができない訳ではあるまい。彼ら専門家や事情通の認識が甘かったというよりも、そんな第二次大戦のような戦争の仕方を、私たちは殆ど等しく、「過去のもの」と忘却して、「もう起こらない」或いは「起こるはずがない」と決めつけてきた。あれだけの大戦争で何千万人が死んだのだから、人類は進歩し、反省し、学習したのである。だからプーチンにもそういった最低限の道徳めいたものがあるに違いない(仮にいかなるプーチン側の思想があるにせよ)、と勝手に思い込んでいた。
それが全部裏切られた。プーチンは、我々人類の中にある、そういった弛緩の裏をかいて、第二次大戦後、77年をして我々の世界観を完全にひっくり返した。私たちが忘却し、或いは忘却しなかったとしても「戦争の方法そのものが変わったのだ」という現代戦の教科書的解説にすがって、「そんなことはあり得ない」「起こらないのだ、仮に起こしたくても無理なのだ」という若干願望めいた世界観をことごとく破壊した。我々は完膚なきまでにプーチンにしてやられたのだ。
思えば侵略戦争の加害国は、すべて敵の弛緩の裏をかいてきた。ヒトラーが1938年のミュンヘン会談で英仏にチェコのズデーテン地方の併合を認めさせた時、英首相チェンバレンは「これ以上の領土的野心はない」というヒトラーの詭弁を信じ、ロンドンに凱旋した。チェンバレンは「これで平和は守られた」とスピーチして喝さいを浴びた。ところがヒトラーは翌年ポーランドに電撃侵攻してその全土を約2週間で占領した。第二次大戦の悪夢が始まったのである。
フランスは独国境にマジノ線要塞があるから対独防備はまず大丈夫である、と高を括っていた。ドイツ軍参謀マンシュタインはその裏をかき、ドイツ機械化部隊はマジノ線を無視してオランダ・ベルギーから一気呵成に越境してパリを占領した。マジノ線は当時のフランスが総力を挙げて築き上げた大要塞であり、これがあれば概ね不安はない、という弛緩した空気の虚を突かれた。
真珠湾攻撃もそうだった
1941年6月、ソ連首相スターリンは諜報機関からドイツ軍の国境集結の情報を受け取っていながら、「侵攻は無い」と結論して安堵したために、緒戦で赤軍は壊滅し、モスクワ占領一歩手前までの窮地に立たされた。或いは1941年12月、ルーズベルトは「仮に日本が太平洋方面を攻撃するとすれば、それはフィリピンだ」として、ハワイ防衛の必要性を軽視した。そしてあの真珠湾攻撃が起こった。
「侵略者は常に相手の裏をかく」という、いわば古典的侵略戦争における"原則"をこれだけ我々は歴史的に経験しながら、「ああいった大規模侵略は、最早起こりようがないのだ」と弛緩したために、またもその裏をかかれたのだ。少なくとも西側の私たちは常日頃「歴史からの教訓」と口にするが、実際には何も教訓としていなかったばかりか、皮膚感覚に、私たちの心の奥底に打刻することを怠ったのだ。そしてそれを事前に、ほとんど正確に予測していたアメリカの諜報機関等による情報精度が如何に高かったのかを、世界は直後に知ることになったのである。
ベラルーシ国境から、或いはロシアが不法に併合したクリミアから、ロシアの装甲部隊が正々堂々と越境する映像をCNNで観て、私は「これは夢か」とわが目を疑った。しかし現実なのである。世界中の人々が、或いは私という局所的な存在が信じていた世界は、昨日の正午粉みじんに飛び散って終わった。
「はい、これで平和が達成され、世界は元の秩序に戻りました」という大団円時代はやってこないだろう。世界は再び、力と力が奇妙に均衡するどころか、武力によって、しかも適当な開戦理由をでっちあげて他国を侵略できるという時代に逆戻りした。第二次大戦後のこの77年間はなんだったのだろうか。それは後世の歴史家から「(大国同士の戦争という意味においては)大いなる戦間期であった」と評されるのだろうか。この原稿を書いている2022年2月25日午後3時、ロシアの機甲部隊はキエフを占領せんとして攻撃を仕掛け始めている。残念ながらどう考えてもキエフは落ちるだろう。
ただひたすら、ただ率直に、虚無と徒労を感じる。破滅と絶望を感じる。「明けない夜は無い」とか、「明日があるさ」とか、もうそんな美辞麗句すら全く信じられなくなった。漆黒の永い夜は、いま始まったのだから。 
●ウクライナ侵攻で微妙な中国 肩入れ避ける理由は 2/25
ロシア軍がウクライナに侵攻したことに対し、中国は米露を含む各国に「自制」を呼び掛けることに終始した。中国は、台湾問題や新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの分離・独立運動に波及することや、ロシアに巻き添えを食う形で国際的に孤立感を深めることを警戒。対米共闘で連携を強めるロシアを非難することはないものの、侵攻に肩入れすることも慎重に避けている。
「各国が自制を保ち、情勢を制御できなくなることを避けるよう呼び掛ける」
中国外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道官(外務次官補)は24日の定例記者会見で、ウクライナ情勢についてこう繰り返した。記者からは「ロシアの行為は侵略か」「非難しないのか」といった、中国の認識や立ち位置を確認する質問が相次いだが、華氏は「ウクライナ問題は非常に複雑な歴史的な背景と経緯がある」などと正面からの回答を避け続けた。
ウクライナ問題をめぐる中国の立場は微妙だ。ロシアとは近年、ともに対立する米国を前に関係強化を進めてきた。米英などが北京冬季五輪で政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」に踏み切った中、数少ない主要国の指導者として開会式に参加したプーチン露大統領には借りがある。
一方、中国はウクライナとも巨大経済圏構想「一帯一路」など、経済を中心に強固な関係がある。北京のシンクタンク研究員は「ロシアもウクライナも中国の重要なパートナーだ。中国は自制し、慎重に発言する必要がある」と述べ、双方に配慮が必要な中国の難しい事情を指摘した。
ロシアがウクライナ東部の親露派支配地域の「独立」を承認したことを中国が認めれば、台湾問題などへの波及も懸念される。王毅(おう・き)国務委員兼外相は19日に「各国の主権、独立、領土保全は守られるべきだ。ウクライナも例外ではない」とロシアにクギを刺すような発言をしている。
今秋に習近平総書記(国家主席)の3期目入りを目指す共産党大会を控え、内政、外交ともに混乱を避けたいのが本音だ。ウクライナ問題をめぐり米欧との関係がさらに悪化することは得策ではないという計算が働いているとみられる。
●スペイン、ウクライナ情勢受けエネルギー価格高騰の長期化を強く懸念 2/25
スペイン政府は2月24日のロシアによるウクライナへの軍事行動を受け、国家安全保障会議を緊急開催した。ペドロ・サンチェス首相は同会議後の声明で「これは不当かつ前例のない重大な侵略であり、世界の安全保障と安定を危険にさらす明白な国際法違反」と強く非難。ウクライナの領土の一体性と主権をあらためて支持するとともに、「全力で平和維持に努める」と述べた。スペインはウクライナ情勢が緊迫化した1月下旬以降、NATOとの協調の下、ロシア国境地域付近に兵力や戦艦、戦闘機を派遣している。
また、サンチェス首相はロシアへの経済制裁により、スペインやEU諸国の経済、特にエネルギー市場が大きな影響を受けるとの懸念を示し、「家計や企業、産業、新型コロナウイルス禍から回復を始めたばかりの経済への打撃を軽減するための措置を講ずるよう、EUに求めていく」と強調した。
スペイン石油ガス備蓄協会によると、スペインは天然ガスの輸入の4割強がアルジェリア産で、ロシアへの依存は限定的だ。ロシアから欧州向けの供給が一時停止しても、影響は極めて軽微だ。国内には欧州の液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の約3分の1に相当する6カ所が立地するほか、アルジェリアと2本のガスパイプラインで接続されており、多様な供給源から調達できる。
テレサ・リベラ第3副首相兼環境移行・人口問題相は24日の下院で、「エネルギー供給は保障されている。スペインが大きな影響を受けるのは、国際価格の高騰によるエネルギー価格全般のさらなる高騰だ」と警告を繰り返した。
再生可能エネルギー発電の導入を急速に進めるスペインでは、卸売り電力価格の高騰が特に深刻だ(2022年1月19日記事参照)。卸売り電力市場では、バックアップ電源が稼動する場合、その価格が市場価格となる。再エネ電力もその価格で取引されるため、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電のコスト上昇が卸し発電価格に影響し、電力価格は過去最高水準で推移している。
スペイン政府は2021年後半から、電力料金の各種減税や、卸売り電力市場における再エネ・原子力発電事業者の売電額カット、困窮層への電気料金引き下げなど、あらゆる手を打ってきた。しかし、電気料金の上昇は食い止められていない。同年秋からEU共通の卸売り電力価格決定システムの抜本的な改革を提案してきたが、加盟国の多数派の支持は得られていない。
21日にスペインを公式訪問した欧州委員会のカドリ・シムソン委員(エネルギー担当)は「現在の卸売り電力価格決定システムには改革の余地もある」との認識を示した。ウクライナ情勢の緊迫化に伴い、エネルギー価格高騰の長期化懸念が高まったことで、欧州委がガス・電力価格の引き下げに本腰を入れるとの期待も強まっている。
●株式市場はウクライナ情勢に敏感に反応 原油価格は高騰 2/25
株式市場は、ウクライナをめぐる動向に敏感に反応しています。
「(侵攻が)始まったので、少し見た方がいいかなと思うんですよ」
証券会社には朝から、ウクライナ情勢をめぐる問い合わせの電話が相次ぎました。株価ですが、前日までの5営業日で1400円以上値下がりしていたことで割安感が出た銘柄などに買い注文が集まり、結局、きのうより382円高い、2万6353円58銭で午前の取り引きを終えています。
一般投資家「やっぱり気にはなりますよね。今後の先行きが、どのようになるのかというのは、かなり不安定な状態ですから」
また、原油の供給が停滞することへの不安から原油価格が値上がりしています。国際的な原油価格の指標もきのう、1バレルあたりの価格が一時、100ドルを超えるなど、およそ7年半ぶりの高値を記録しています。こうした原油価格の高騰は企業業績への悪影響や、生活用品などのさらなる値上げにつながりかねず、日本経済への打撃になる可能性があります。
市場関係者は「ウクライナ情勢を巡る不透明さは根強く、市場が情報に敏感に反応する状況は続く」と警戒感を示しています。
●ウクライナ情勢でリスク回避姿勢強く 2/25
25日の東京株式市場で日経平均株価は振れ幅の大きい展開か。バイデン米大統領がロシアの金融機関に対する追加制裁を表明し、前日の米株式市場で金融株が大きく売られた。一方、ハイテク株を買い戻す動きも目立った。東京市場でも主力の半導体関連などに買いが先行すれば、相場の押し上げにつながるだろう。もっとも、日中はウクライナ情勢を巡る報道で相場の下落圧力が強まることも考えられる。日経平均は前日終値(2万5970円)から上下500円程度は変動幅がありそうだ。
24日の米株式市場で米ダウ工業株30種平均は6営業日ぶりに反発し、前日比92ドル高の3万3223ドルで終えた。バイデン米大統領は同日、ホワイトハウスでの演説でロシアによるウクライナ侵攻を批判し、ロシアに対して「強力な追加制裁と新たな輸出制限を承認する」と述べた。米国で取引を禁じる銀行への措置をめぐり、ロシア最大手のズベルバンクと2位のVTBバンクを含む大手金融機関を幅広く制裁対象に加える。これを受けて金融株など景気敏感株が売られた。
金融株売りの一方、買いが入ったのは半導体関連などハイテク株だ。短期筋による売り持ちの巻き戻しでナスダック総合株価指数は前日比3.3%高と、6営業日ぶりに反発した。フィラデルフィア半導体株指数は3.7%高となった。
東京市場でも主力の半導体関連株などを買い戻す動きが広がれば、日経平均の寄与度が大きいだけに、相場の大幅反発につながる可能性がある。もっとも、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は首都キエフにも及ぶなど事態は深刻化している。日中は報道で相場が急変動することも考えられ、投資家のリスク回避姿勢は引き続き強いだろう。
日本時間25日早朝の大阪取引所の夜間取引で日経平均先物は上昇した。3月物は前日の清算値と比べ330円高い2万6260円で終えた。
●午前の日経平均は反発、米ハイテク株高を好感 2/25
25日午前の東京株式市場で、日経平均は前営業日比382円76銭高の2万6353円58銭と、6営業日ぶりに反発して午前の取引を終えた。前日の米国市場でのハイテク株高の流れを引き継いで堅調な推移となった。一方、ウクライナ情勢への警戒感も継続した。
日経平均は、朝方に反発して始まった後も上げ幅を拡大した。半導体関連や電子部品、グロース(成長)株を中心に買い戻す動きが目立った。ドル/円が堅調に推移する中、自動車など輸出関連もしっかりだった。日経平均は一時、前営業日比449円07銭高の2万6419円89銭まで上昇した。
ただ、その後は高値圏で売買が交錯し、伸び悩んだ。市場で警戒されたロシアの侵攻開始を受けて、いったん悪材料出尽くしとの見方がある半面、ウクライナ国内の戦闘状況や主要国の経済制裁などへの警戒感も市場にくすぶっている。
前日までの5営業日での下落が1600円超だったことを踏まえると「自律反発の域を出ない」(三木証券の北澤淳商品部投資情報グループ次長)と受け止め「ウクライナ情勢はまだ流動的な上、米国での利上げが見込まれる中では、積極的に買う流れになりにくい」(北澤氏)との見方が出ていた。
TOPIXは0.72%高の1870.96ポイントで午前の取引を終了。東証1部の売買代金は1兆6588億0100万円だった。東証33業種では、値上がりは海運業や電気機器、空運業など18業種で、値下がりは鉱業や保険業、銀行業など15業種だった。
個別では、東京エレクトロンやキーエンス、エムスリーが大幅高。ソフトバンクグループも買われた。一方、INPEXや三菱UFJフィナンシャル・グループ、SOMPOホールディングスはさえなかった。
東証1部の騰落数は、値上がりが1189銘柄(54%)、値下がりは906銘柄(41%)、変わらずは84銘柄(3%)だった。
●欧米の利上げ観測揺るがず、ウクライナ情勢は景気と物価の両面に影響 2/25
ロシアによるウクライナ侵攻で経済成長が鈍化するリスクがあるにもかかわらず、金利トレーダーは米国と欧州の金融当局が政策引き締めを強めるとの見方を変えていない。
金利スワップ市場は米連邦公開市場委員会(FOMC)が年内に0.25ポイントの利上げを6回実施すること、およびイングランド銀行(英中央銀行)が5回、欧州中央銀行(ECB)が1回それぞれ政策金利を引き上げることを織り込みつつある。
これはロシアがウクライナに軍事攻撃を仕掛けたことを受け、北海ブレント原油先物が2014年以降初めて1バレル=105ドルを上回った後と前とで、ほとんど変わっていない。
トレーダーのポジション構築が揺らいでいない背景には、軍事行動により主要なエネルギーや商品(コモディティー)の供給が混乱し、既に著しい価格押し上げ圧力が一段と強まるとの懸念がある。
●ロンドン外為9時半 ユーロ、上げ幅縮小 ウクライナ情勢悪化 2/25
25日午前のロンドン外国為替市場で、ユーロは対ドルで上げ幅を縮小し、英国時間9時30分時点は、1ユーロ=1.1170〜80ドルと、前日の同16時時点より0.0060ドルのユーロ高・ドル安で推移している。地政学リスクへの警戒から、前日に急速にユーロ安・ドル高が進んでいたため、持ち高を調整するユーロ買い・ドル売りが優勢となっている。もっとも、ロシアはウクライナへの攻撃を強めており、現地の情勢は悪化している。ロシアにエネルギー資源を依存するユーロ圏経済への影響を懸念したユーロ売りが上値を抑えた。
英ポンドも対ドルで上げ幅を縮小し、英国時間9時30分時点は1ポンド=1.3370〜80ドルと、前日の同16時時点より0.0100ドルのポンド高・ドル安で推移している。前日に大きく下げた英株価指数が反発するなど、投資家のリスク回避姿勢がやや和らぐなか、ポンド買い・ドル売りが優勢となっている。ただ、ウクライナ情勢が不透明ななか、ポンド買いを進める動きはみられず、上値は限られている。
●4月 電気・ガス料金値上げ ウクライナ情勢で燃料高値  2/25
4月も電気・ガス料金の高い状態が続く。ウクライナ情勢などで火力発電用の燃料の高値が続く中、大手電力会社10社のうち7社は、25日、4月の電気料金を値上げすると発表した。
電気料金をめぐっては、電力の安定供給維持のため、燃料の高騰分を電気料金に自動的に上乗せする仕組みになっていて、残りの3社は、上乗せ可能な上限をすでに超えているため、値上げできる上限となっている。
一方、東京ガスなど大手都市ガス4社も、8カ月連続で値上げとなる。
●ガソリン価格 13年5か月ぶり高値水準 ウクライナ情勢悪化で原油高騰 2/25
宮城県内の今週のレギュラーガソリンの平均小売価格は、1リットルあたり168円80銭で前の週から2円値上がりしました。13年5か月ぶりの高値水準です。
石油情報センターによりますと、21日時点の宮城県内のレギュラーガソリンの平均小売価格は、1リットル当たり168円80銭で、前の週より2円値上がりしました。全国平均は、1リットル当たり60銭高い172円ちょうどとなっています。石油情報センターによりますと、「ウクライナ情勢の悪化で原油価格が高騰していて、来週以降も値上がりが見込まれる」としています。

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 26日の動き 2/26
(日本とウクライナとは7時間、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
HRW「クラスター爆弾使用の可能性」ドネツク州
国際的人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、親ロシア派が事実上支配している東部のドネツク州で病院の近くにミサイルが着弾し、民間人4人が死亡、医療従事者を含む10人がけがをしたと発表しました。ヒューマン・ライツ・ウォッチが病院の医師などに確認したということで、現地で撮影された写真から、残虐な兵器として使用を禁止する国際条約があるクラスター爆弾が使用された可能性もあるということです。
西部リビウ 軍用機来襲知らせるサイレンが連日
ポーランド国境に近いウクライナ西部のリビウでは26日午前6時すぎ、軍用機の来襲などを知らせるサイレンが鳴り、ホテルの宿泊客などが近くにある別の建物の地下の部屋に避難しました。氷点下の気温のなか首都キエフなどから避難してきた子ども連れの家族など数十人が、警報が解除されるまでの1時間ほど静かに座って身を寄せていました。リビウでは前日にも3回サイレンが鳴り響きましたが、これまでのところ市内での被害は伝えられていません。
日本時間17:00 ウクライナ保健相 「攻撃で198人死亡」
ウクライナのリャシュコ保健相は26日、みずからのフェイスブックで、ロシア軍による攻撃によってこれまでに子ども3人を含む198人が死亡したと明らかにしました。およそ1100人がけがをして、30人余りの子どもも含まれているということです。
日本時間16:00 ロシア人も都内で抗議集会
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対しては、ロシアの人々からも反対の声が上がっています。日本で暮らすロシア人が都内で集会を開き、抗議の声を上げました。日本で暮らすロシア人のグループがSNSを使って集会への参加を呼びかけたところ、新宿駅前の広場には26日午後4時ごろ、ロシア人を中心に100人余りが集まりました。参加者たちは「私たちはロシア人だが、戦争に反対する」と書かれたプラカードを掲げ「ウクライナに平和を!」などと繰り返し声をあげ、連帯の姿勢を示していました。
首都キエフの近くでロシア軍の車列破壊か
AP通信はウクライナ軍からの情報として26日、首都キエフの近くでロシア軍の車列が破壊されたと伝えています。撮影された映像には、道路上で激しく壊れ全体が黒く焼け焦げた車両と、その周辺を調べるウクライナ軍の兵士の様子が映っています。
ウクライナ大統領が新たな動画「自分の国を守る」
ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、新たな動画を公開し「インターネット上では私が軍に武器を捨てるよう呼びかけ、避難しているというような多くの偽の情報も出回っている。私はここにいるし、武器は捨てない。私たちは自分の国を守る」と強調しました。そのうえで「私たちにとっての武器は私たちの真実だ。真実とは、私たちの土地であり、国であり、私たちの子どもたちであり、私たちはこれらすべてを守る」と述べ、ウクライナの領土と国民を守り抜こうと結束を呼びかけました。
キエフの高層アパートに砲撃
ウクライナ内務省によりますと26日、首都キエフの中心部にある高層アパートに砲撃があったということです。地元メディアによりますとけが人がいるという情報もあり、救助作業が進められているということです。地元メディアは、ロシア軍によるミサイル攻撃だと伝えています。この高層アパートはキエフ中心部の「独立広場」から5キロほどしか離れておらず、周囲には学校やホテルなどもあり人口が密集している地域です。
政府がロシアへの制裁措置を了承
政府は、持ち回りの閣議で、さきに発表したロシアに対する制裁措置を了解しました。具体的には、
・ 金融機関を対象とする資産凍結や
・ 軍事転用が可能な製品の輸出管理の強化、
・ ロシアの国債などの日本での発行・流通の禁止、それに、
・ ロシアが一方的に独立を承認したウクライナ東部の一部地域の関係者の資産凍結などが盛り込まれています。
政府は、ロシアの個人や団体の資産凍結や、半導体の輸出規制などを行うことも発表していて、必要な準備を進めています。
ウクライナ大統領「首都を失うわけにはいかない」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、25日、声明を発表し、首都キエフへの侵攻が迫っているとして国民に対して改めて抵抗を呼びかけました。ゼレンスキー大統領は25日、国民に向けてビデオで声明を発表し「多くの都市が攻撃を受けている。特にキエフに注目が集まっているが、首都を失うわけにはいかない」と述べ、首都キエフへの侵攻に強い危機感を示しました。
ウクライナ南部で貨物船に砲撃か 日本の海運会社の子会社所有
ウクライナ南部の黒海で日本の海運会社が関係する貨物船が砲撃を受けたという情報を受け、国土交通省が確認を進めています。関係者によりますと、砲撃を受けたのはパナマ船籍の貨物船「ナムラ・クイーン」で、愛媛県今治市にある海運会社のパナマの子会社が所有しているということです。船の運航や管理に日本の企業は関係しておらず、フィリピン人の乗組員およそ20人のうち1人が軽傷とみられるということで、国土交通省が被害の詳細について確認を進めています。
米バイデン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談
アメリカのバイデン大統領は25日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談しました。会談後のホワイトハウスの声明では「自分たちの国を守るために戦っている、ウクライナの人々の勇敢な行動を称賛した」としたうえで、ウクライナに対する経済や安全保障上の支援を続けるとともに、ほかの国々にも同様の支援を促していることを伝えたとしています。
米国防総省「ウクライナ側が激しく抵抗」
アメリカ国防総省の高官は25日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について、最新の分析結果を明らかにしました。それによりますと、ロシア軍はウクライナの国境周辺に展開する地上部隊のうち、およそ3分の1の戦力をウクライナ国内に投入し、引き続き主に3つの方向から前進しているということです。このうち、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシから首都キエフに向かうルートでは、キエフに向かうロシア軍に対し、ウクライナ側がロシアの想定よりも激しく抵抗していると分析しています。そのうえで「ロシア軍はキエフへの前進を引き続き試みているが、彼らが予想していたほど速くは移動できていない」と述べ、キエフへの侵攻がロシア側の想定よりも遅れているという認識を示しました。アメリカ国防総省の高官は、ロシア軍はこれまでのところ、人口が集中する地域を奪えておらず、ウクライナの制空権も確保できていないとしていますが「情勢は急速に変化する可能性がある」と述べ、警戒感を示しています。
日本時間9:00前 日米外相会談「侵略は一方的な現状変更の試み」
ウクライナ情勢をめぐって、林外務大臣は、アメリカのブリンケン国務長官と電話で会談し、ロシア軍による侵略は、力による一方的な現状変更の試みで、アジア地域も含めた国際社会全体の秩序にも影響があるという認識で一致し、日米同盟の抑止力と対処力を強化していくことを確認しました。
日本時間8:00 ニューヨークでロシアへの抗議デモ
アメリカのニューヨークでは25日、前の日に続いて、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に抗議するデモが行われました。マンハッタンのタイムズスクエアに集まったウクライナ出身の人など数百人は青と黄色の国旗を広げ、「ウクライナのために祈ろう」などと書かれたプラカードを掲げながら「プーチンを止めろ」と声を合わせて訴えました。
キエフの駅には大勢の人が殺到する様子も
首都キエフの駅で撮影された映像には、西部のリビウに向かう列車に乗ろうと荷物を抱えた大勢の人たちが殺到する様子が写っています。列車から離れるよう注意を促すためとみられる空砲が鳴り響くと、悲鳴が上がり、ホームは騒然としていました。
“プーチン大統領の長年の友人”指揮者 米NYでの公演前日に交代
ニューヨークのカーネギーホールで、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮をする予定だったロシア人指揮者のワレリー・ゲルギエフ氏が、公演開始前日に交代すると発表されました。ゲルギエフ氏はロシアのプーチン大統領の長年の友人とされ、NHKの取材に対し劇場側は、交代の理由について「最近の世界情勢を踏まえたものだ」と説明し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が影響したとみられています。
日本時間7:40ごろ 国連安保理 ロシア拒否権で決議案は否決
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、国連の安全保障理事会では、ロシア軍の即時撤退などを求めるアメリカなどが提案した決議案が採決にかけられ、理事国15か国のうち欧米など11か国が賛成しましたが、ロシアが拒否権を行使し決議案は否決されました。
ロシア 首都陥落に向け本格作戦か 一方で話し合いに応じる姿勢も
プーチン大統領は25日、クレムリンで安全保障会議を開催し「ウクライナ軍の兵士に訴える。あなた方の手で権力を奪取しなさい。あなたたちと話す方が、簡単なようだ」と述べ、ウクライナ軍に対して、ゼレンスキー政権を見限り、権力を奪取するよう促しました。また、ウクライナのゼレンスキー大統領がプーチン大統領に会談を求めたのに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「ウクライナの中立的な地位について話し合うなら会談する用意がある」と述べ、ウクライナの非軍事化・中立化を条件に隣国のベラルーシでウクライナ側と会談する用意があることを明らかにしました。ロシアは軍の部隊をキエフに向けて進めながら、対話の条件として非軍事化の要求を突きつけ、ウクライナのゼレンスキー政権への揺さぶりを強めています。
ウクライナ大統領が動画投稿「私たちは皆ここにいる」
ウクライナのゼレンスキー大統領は、大統領府のフェイスブックなどに動画を投稿し、自身がまだウクライナに残っていると強調しました。動画は30秒余りで、ロイター通信によりますと、首都キエフの街なかで撮影されたということで、ゼレンスキー大統領が政府の高官ら4人とともに映っています。いつ撮影されたかは不明ですが、1人がスマートフォンの画面に表示された時間を示す様子も映っています。動画でゼレンスキー大統領は「皆さんこんばんは」と呼びかけたうえで「私たちは皆ここにいる。兵士もここにいるし、市民もここにいる。私たちは独立を守る。ウクライナに栄光あれ」などと語りかけています。
国連難民高等弁務官事務所「400万人がウクライナ国外避難も」
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は25日、ウクライナでは安全を確保するために避難を始めた人の数が、推計で10万人を超えるとみられると明らかにしました。また、5万人以上がすでに国境を越えて周辺国に逃れたとみられるとしています。UNHCRのマントゥー報道官は25日、スイスのジュネーブで開いた定例の記者会見で「今後、状況がエスカレートすれば、400万人に上る市民がウクライナから国外へ逃れることになるかもしれない」と述べました。UNHCRは近隣の国々に対して、国境を閉ざすことなく避難してきた人たちを受け入れるよう呼びかけています。
米国防総省 “ロシア軍激しい抵抗受け首都侵攻に遅れ”
アメリカ国防総省の高官は25日、記者団に対し、キエフに向かっているロシア軍がウクライナ側から激しい抵抗にあっていると指摘しました。そのうえで「ロシア軍はキエフへの前進を引き続き試みているが、彼らが予想していたほど速くは移動できていない」と述べ、キエフへの侵攻がロシア側の想定よりも遅れているという認識を示しました。さらに人口が集中する地域はいずれもロシア側に奪われておらずウクライナの制空権もまだ制圧されていないとしています。一方、この高官は、ウクライナへの侵攻に展開されているロシア軍の部隊のうち、現在、ウクライナ国内に投入されているのは、全体の3分の1の戦力で、残りの部隊は国境周辺にとどまっているほか、アゾフ海に面した東部ドネツク州のマリウポリの西側では、ロシア軍の数千の部隊が上陸している可能性があると明らかにし「情勢は急速に変化する可能性がある」と述べて、警戒感を示しました。
米報道官「ロシアは見せかけで強圧的な外交」
ロシアのプーチン政権が、ウクライナの非軍事化と中立化を条件に話し合いに応じる姿勢を示していることについて、アメリカ国務省のプライス報道官は25日、記者会見で「ミサイルや迫撃砲などでウクライナの人たちを狙っている中での提案であり、本物の外交ではなく、見せかけで強圧的な外交だ」と強く批判しました。そのうえで「もしプーチン大統領が外交に真剣に取り組むつもりなら、市民を狙った爆撃をやめ、軍の部隊を撤退させるべきだ」と述べました。
EU プーチン大統領とラブロフ外相に制裁決定
EUは25日、ベルギーのブリュッセルで外相会議を開き、24日の緊急の首脳会議で合意したロシアへの追加制裁の詳しい内容について協議しました。会議のあと記者会見したEUの外相にあたるボレル上級代表は、加盟国がロシアのプーチン大統領とラブロフ外相に制裁を科すことで一致したと明らかにしました。EU域内の資産の凍結などの対象になるとみられます。ボレル上級代表は「これは重要な一歩だ。EUがこれまでに制裁を科した世界の国のトップは、シリアのアサド氏とベラルーシのルカシェンコ氏だけだ」と述べ異例の措置だと強調しました。追加制裁ではこのほか、金融の分野や輸出の規制の面でも制裁措置の対象を拡大するとしていて、今後も状況に応じてさらに制裁を強化する方針です。
日本時間3:30すぎ “隣国など避難者受け入れ整備” ロイター通信
ロイター通信によりますと、ポーランドには、侵攻が始まった24日に、ウクライナから2万9000人が入国し、その半数は攻撃から逃れてきた住民だということです。ポーランド政府は最大で100万人の受け入れに備えるとしています。また、ルーマニアでは24日以降、ウクライナからおよそ1万9000人が入国し、そのうち8000人ほどはブルガリアやハンガリーに向かったということです。このほか、スロバキアには24日、およそ3000人がウクライナから入国してきたということで、各国は滞在施設を準備するなど受け入れ体制の整備を進めています。ウクライナは、徴兵の可能性がある18歳から60歳の男性の出国を制限していて、避難民の多くは子どもや女性だということです。
日本時間3:00ごろ NATOが記者会見 東欧に部隊派遣へ
NATOは25日、オンラインで緊急の首脳会議を開き、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けた今後の対応を協議しました。ストルテンベルグ事務総長は会議のあとの記者会見で「NATOの一部の加盟国と接するパートナー国が全面的な侵攻を受けている。ヨーロッパにおいてこの何十年もの間で最も深刻な安全保障上の危機だ」と述べ強い懸念を示しました。NATOは声明でウクライナに近いヨーロッパ東部の防衛態勢を強化することで加盟国が合意したとしたうえで、不測の事態に迅速に対応するため高度な能力を備えた即応部隊を派遣するとしています。部隊の規模や派遣先は具体的には明らかにしていませんが、ロシアがウクライナ国内で軍事侵攻を続ける中、自国の安全保障に不安を強めているヨーロッパ東部の加盟国の求めに応じた形です。
英首相 “プーチン大統領とラブロフ外相制裁へ”NATO首脳会議で
イギリスのジョンソン首相は、現地時間の25日、NATOの首脳会議で、前日に発表したロシアへの経済制裁に加え、プーチン大統領とラブロフ外相に対し、近く制裁を科す意向を明らかにしました。さらに、プーチン政権に対し最大限の痛みを与えるためとして最も厳しい措置の1つとされる、銀行間の国際的な決済ネットワークであるSWIFT=「国際銀行間通信協会」からロシアの銀行を排除する措置を各国で協調して実施する必要があると呼びかけました。首脳会議で、ジョンソン首相は「プーチン大統領が東西冷戦後の秩序をひっくり返そうとしている。その野望はそこにとどまらないだろう」として、今回の侵攻はヨーロッパと大西洋にとっての危機でもあるという考えを示したということです。
日本時間未明 エッフェル塔 ウクライナの国旗の色でライトアップ
フランス パリでは、現地の25日夜にエッフェル塔がウクライナの国旗の色にライトアップされました。塔の上半分が青色、下半分が黄色に照らされていて、ロイター通信によりますと、パリ市のイダルゴ市長がウクライナの人たちへの連帯を示すために実施を要請したということです。
ロシア軍 道路脇の監視カメラ使えないように動かしたか
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が各地で続く中、ウクライナ南部のヘルソン州の道路脇に設置された監視カメラには、南部のクリミアからヘルソンに向かってロシア軍のものとみられる複数の戦車やトラックなどが列を作って進む様子が映されていました。また、監視カメラを使えないようにするためか、兵士たちが監視カメラの角度を下向きに動かしたあと、再び移動を始める様子も映っています。
●ウクライナ大統領、市民に侵攻への抵抗呼びかけ 2/26
ロシア軍の侵攻に抵抗を続けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日、ロシア軍を食い止めるよう市民に呼びかけるとともに、欧州諸国に対して支援の強化を求めた。侵攻2日目のこの日、ロシア軍の戦車が首都キーウ(キエフ)に初めて侵入した。ウクライナ当局は、有志の市民に約1万8000丁の銃を配布し、火炎瓶の作り方も教示したという。アナリストたちは、ウクライナ側の激しい抵抗により、ロシアの進軍速度が減速しているとしている。
戦闘経験がなく、ウクライナの防衛隊への参加を希望する人々が行列する様子が目撃されている。軍隊に参加可能な年齢制限は撤廃された。英国防情報当局トップのジム・ホッケンハル中将は、ロシア軍は首都に向かって前進を続けているが、ウクライナ軍が「主要都市の防衛に重点を置き、強い抵抗を続けている」と述べた。ロシア軍は南、東、北の3方向からウクライナへの軍事攻撃を続けている。
ウクライナ各地で被害
キーウは25日夕、新たなミサイル攻撃に見舞われた。発電所近くでの爆発が報告されたほか、市内では銃声が聞こえた。北東部にある第二の都市ハルキウ(ハリコフ)でも複数の大きな爆発があったと報告されている。ウクライナ側は、ロシアの進軍を食い止めたとしている。アゾフ海に面した、戦略的に重要な港湾都市マリウポリが攻撃をけているとの報道もある。黒海に面したズミイヌイ島では24日、任務にあたっていたウクライナの国境警備隊13人が、ロシア軍に降伏するのを拒み、ロシア軍を罵倒した後、砲撃されて死亡した。13人は英雄として称えられている。ウクライナによると、これまでに民間人と兵士が計137人死亡した。一方でロシアは、自国側に死者が出ているとは認めていない。
国連難民高等弁務官事務所は24日、侵攻によって10万人以上が家を追われているとし、最大500万人が避難を余儀なくされる可能性があると推計した。欧州各国は難民の流入に備えている。EU加盟国でウクライナの隣国ポーランドやハンガリーの国境には、主に家族連れの人々が車や徒歩で到着している。国連難民高等弁務官のフィリッポ・グランディ氏は、過去48時間で5万人以上が出国し、そのほとんどがポーランドとモルドヴァに向かったとした。
ロシアが協議提案も、「非軍事化」が条件
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は25日、同国にはウクライナと協議を行う用意があると明らかにした。ただ、その内容は「非軍事化」とウクライナの「中立的地位」についてのみだとの条件を付けた。ロシア側が協議を申し出るのは、ウクライナ情勢が緊迫してから初めて。ゼレンスキー氏は侵攻が始まる前からウラジーミル・プーチン大統領との会談を求めていた。ロシアはかねて、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を認めないよう要求している。セルゲイ・ラヴロフ外相は先に、ウクライナが武器を捨てない限り会談は行えないと述べている。こうした条件付きの会談に応じる気配を見せていないゼレンスキー氏は、軍に対して「強く立ち向かえ。あなた方は我々のすべてだ。我々の国を守っているのはあなた方だけだ」と述べた。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、NATOはウクライナへの武器の供給を継続し、加盟国の防衛を強化するために欧州に数千人規模の部隊を配備すると述べた。
プーチン氏、ゼレンスキー氏を中傷
プーチン氏は、ウクライナ軍はゼレンスキー政権に反旗を翻し、同政権を倒すべきだと演説した。プーチン氏は、ユダヤ系のゼレンスキー氏を「ネオナチ」と根拠なく中傷。ゼレンスキー政権はテロリストで麻薬密売人の集団だと、攻撃した。また、ウクライナが住民を人間の盾にし、民間の建物にミサイルや重火器を設置していると非難した。
●ロシア軍 首都キエフに攻撃開始 ウクライナに軍事侵攻  2/26
ウクライナに軍事侵攻しているロシア軍が、首都キエフへの攻撃を開始したとみられる。
ウクライナ・キエフ在住の中村仁さん「2月25日午後10時35分、空襲警報が初めて聞こえました」
ウクライナの首都キエフでは、日本時間の26日朝から断続的に爆発音が聞かれ、地元メディアは、ロシア軍が首都キエフ中心への攻撃を開始したと伝えている。また、首都キエフ市内の西で、ロシア軍とウクライナ軍との間で激しい戦闘があったと報じている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が26日にも、首都キエフを攻撃するとの見通しを示し、最も厳しい1日になると警戒を強めていた。ゼレンスキー大統領は、閣僚らとともに自撮りした動画を公開し、「わたしは今もキエフにいる」と語り、ロシア軍から逃げずに戦う姿勢を示している。
ロシア軍は、25日に制圧した首都キエフ近郊の空港に空挺(くうてい)部隊を送り込んだほか、クリミア半島から25日、多数の軍用車両がウクライナに進軍するなど、さらに戦力を増強している。
ウクライナは、徹底抗戦の構えを示す一方で、ロシアに対して和平交渉を呼びかけているが、ロシア側は、「ウクライナ軍が武器を捨てれば交渉の用意がある」と述べ、交戦が続いている間は、話し合う考えはないとの姿勢を示している。
●ウクライナ大統領 “首都に侵攻迫る” 国民に抵抗呼びかけ  2/26
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、25日、声明を発表し、首都キエフへの侵攻が迫っているとして、国民に対して改めて抵抗を呼びかけました。
ロシアによるウクライナの軍事侵攻が各地で続く中、ロシア軍は、首都キエフの陥落に向けて本格的な作戦を進めているという見方が強まっています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、国民に向けてビデオで声明を発表しました。
この中で「多くの都市が攻撃を受けている。特にキエフに注目が集まっているが、首都を失うわけにはいかない」と述べ、首都キエフへの侵攻に強い危機感を示しました。
そのうえで「今夜、敵はあらゆる力を使って、残虐な手段で、私たちの抵抗を破壊しようとするだろう。今夜、彼らが襲いかかってくることを皆が知っておくべきで、私たちは耐えなければいけない。ウクライナの運命は今、決定づけられようとしている」と述べ、国民に対して改めて抵抗を呼びかけました。
一方、ロシアのプーチン政権は、ウクライナの非軍事化と中立化を条件に話し合いに応じる姿勢を示し、ゼレンスキー政権への揺さぶりを強めていますが、これについてウクライナの大統領報道官は25日、SNSへの投稿で「ウクライナは停戦と和平について話し合う用意がある。われわれはロシアの大統領の提案に同意した」として、ロシア側と調整していることを明らかにしました。
●“ウクライナ軍の抵抗でロシア軍侵攻に遅れ” 米国防総省高官  2/26
アメリカ国防総省の高官は25日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について、最新の分析結果を明らかにしました。
それによりますと、ロシア軍はウクライナの国境周辺に展開する地上部隊のうち、およそ3分の1の戦力をウクライナ国内に投入し、引き続き主に3つの方向から前進しているということです。
このうち、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシから首都キエフに向かうルートでは、キエフに向かうロシア軍に対し、ウクライナ側がロシアの想定よりも激しく抵抗していると分析しています。
そのうえで「ロシア軍はキエフへの前進を引き続き試みているが、彼らが予想していたほど速くは移動できていない」と述べ、キエフへの侵攻がロシア側の想定よりも遅れているという認識を示しました。
また、ウクライナの北東方向から国境を越えて第2の都市、ハリコフに南下するルートでは、ハリコフで今も戦闘が続いているということです。
さらに、ウクライナ南部のクリミアから北上するルートでは、これまで確認されていた北西方向にある都市、ヘルソンに向かうルートに加えて、新たに北東方向に進む部隊が確認されたということです。
これらの部隊は、東部ドネツク州のマリウポリなどがある地域に向かっているとしています。
また、アゾフ海に面するマリウポリの西側では、ロシア軍による水陸両用作戦が行われ、数千人の部隊が上陸している可能性があるということです。
一方、ロシア軍は、軍事関連施設を主な標的として、これまでに200発以上の弾道ミサイルや巡航ミサイルなどを発射しましたが、そのうちの一部が住宅地に落ちたということです。
アメリカ国防総省の高官は、ロシア軍はこれまでのところ、人口が集中する地域を奪えておらず、ウクライナの制空権も確保できていないとしていますが、「情勢は急速に変化する可能性がある」と述べ、警戒感を示しています。
●「人口密集地奪われていない」米分析 ウクライナ軍、予想以上の抵抗 2/26
ウクライナで侵攻を続けるロシア軍の部隊が、首都キエフに迫っている。ウクライナのゼレンスキー大統領は26日未明、ビデオメッセージを公開し、「今夜は非常に難しい夜になる」と国民に最大限の警戒を呼びかけた。
ゼレンスキー氏はビデオで、国内の多くの都市が攻撃を受けていると明かした。「キエフは特別の注意が必要だ。首都を失うわけにはいかない」と述べ、前線で戦う兵士に向けて「今夜、敵はあらゆる力を使って我々の抵抗を破ろうとするだろう」と語った。
「彼らは今夜、攻撃をしてくる。我々は耐えなければならない。ウクライナの運命はいま、決まろうとしている」と述べ、市民には危険があればシェルターに入るよう呼びかけた。
AP通信によると、ゼレンスキー氏は25日にも、大統領府の外で側近らと撮影したとするビデオメッセージを公開。「私たちは皆、ここで国の独立を守っている」と語り、逃亡せずに首都にとどまっていると強調した。
CNNによると、キエフでは ・・・
●徹底抗戦のウクライナ、市街戦で民間人被害拡大の懸念… 2/26
ロシア軍はウクライナの首都キエフへの攻撃を続け、25日までに、市中心部から約10キロの地点まで迫った。英BBCが伝えた。ウクライナ軍は徹底抗戦の構えで、今後、市街戦に発展して民間人らへの被害が拡大する懸念も強まっている。攻防が続く中、双方は停戦協議の調整も進めている。
ロシア軍はウクライナ北方のベラルーシから進軍し、キエフ市の北方と東方の2方面から中心部に迫っているとみられる。露国防省は25日、 空挺くうてい 部隊が市の西側から包囲したと発表した。ロイター通信によると、アントノフ空港周辺で両軍が衝突した。
市内にはミサイル攻撃も加えられた。米国防総省高官によると、弾道、巡航ミサイルの発射は200発を超えた。標的の大半は軍事施設で、一部は住宅地にも撃ち込まれたとしている。ウクライナのウニアン通信は、キエフ周辺で、空爆によって民間人4人が死亡し、15人が負傷したと伝えた。
市によると、25日夜、市内の北東部にある発電所で計5回の爆発が起きた。停電は発生していない模様だ。市内では25日深夜も、地下鉄駅構内などへ避難を指示する警報が発令された。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日夜、市内で首相らと共に「国を守るために我々はここにいる」と語る動画をSNSに投稿した。地元メディアによると、ウクライナ国防省は25日、キエフ防衛のため、市民に機関銃1万丁の配布を開始した。
●ロシアが拒否権行使、安保理の非難決議案は否決…中国など3か国棄権  2/26
国連安全保障理事会は25日、ウクライナ情勢を巡る会合を開き、ウクライナに軍事侵攻したロシアを非難し、武力行使の即時停止と撤退などを求める安保理決議案を採決した。米欧など11か国が賛成したが、常任理事国のロシアが拒否権を行使し、否決された。
中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)の3か国が棄権した。決議案は米国とアルバニアが作成し、日本も共同提案国に加わった。
●「プーチンを止めろ」ロシア軍事侵攻に抗議デモ ニューヨーク  2/26
アメリカのニューヨークでは25日、前の日に続いてロシアによるウクライナへの軍事侵攻に抗議するデモが行われました。
マンハッタンのタイムズスクエアに集まったウクライナ出身の人など数百人は、青と黄色の国旗を広げ、「ウクライナのために祈ろう」などと書かれたプラカードを掲げながら「プーチンを止めろ」と声を合わせて訴えました。
8歳の息子と一緒に2日続けて参加した女性は「首都キエフから南に200キロ離れた町で暮らす母が無事かを確認すると、電話越しにはサイレンが聞こえます。あすは連絡が取れなくなるかもしれません。母は手術を受けたばかりで避難するのも難しいので、心配です」と話していました。
そして「これはウクライナだけの戦争ではなく、ヨーロッパの戦争です。西側諸国の助けが必要なんです」と国際社会の支援を求めました。
また、16歳の男子高校生は「ウクライナにいる親戚や友人たちと連絡が取れるまで時間がかかり、少し泣いてしまいました。皆、戦争を怖がっています。最も重要なのは、一刻も早く外交的な手段で戦争を止めることです」と話していました。参加した人たちによりますと、ニューヨークではこの週末も抗議デモが呼びかけられているということです。
●ウクライナ情勢から考えるサイバー戦の第一線に生きているという現実  2/26
サイバー戦といえば、何を連想する?
さて。読者の皆さんは、「サイバー戦」と聞いたときに、どんな状況を連想されるだろうか。おそらく、もっともポピュラーな展開は「コンピュータに不正侵入してデータを窃取・改竄する」とか「DDoS攻撃などで過負荷に追い込んで動作不可能にする」とかいった類の話ではないだろうか。
ウクライナ情勢に関連するところでも、侵攻開始より数日前から、ウクライナの政府機関Webサイトがつながらなくなったり、つながりにくくなったり、という話が出てきていた。かつてグルジア紛争に際しては、グルジアの大統領の顔に「チョビ髭」を書き足したコラ画像が、グルジア政府のWebサイトに送り込まれたこともあったと記憶している。
つまり、「誰もが真っ先に連想しそうなサイバー戦」はなくなったわけでもなんでもなくて、今でもポピュラーである。ただし、それ「だけ」がサイバー戦だと考えるのは大間違いですよ、というのが今回の話の趣旨。
もっとも、これは以前から自著などで何回も書いている話なので、御存じの方も少なくないと思う。それは、「われわれが日常的に利用しているインターネットは、情報戦・心理戦の戦場である」という話。これもレッキとした、サイバー空間で行われている戦争の一形態なのである。
変わる、情報戦のツール
情報戦や心理戦といった類の戦争の様態は、昔からある。古典的な手法としては、ビラを撒く手法がある。
太平洋戦争の末期に、米陸軍航空軍は日本の街の上空で、B-29爆撃機が爆弾を投下している模様を撮影した写真を紙に印刷して「今度はあなたの街が爆撃されますよ」と宣伝するビラをばらまいた。紙に印刷したものなら、誰でも手に取って見ることができるから、少なくとも「読ませる」効果は期待できる。
飛行機からビラをばらまくだけでなく、砲弾にビラを詰め込んで撃ち込み、敵地でビラを散布する、なんていうものが、かつてのソヴィエト連邦で用いられていたとの話もある。
もうちょっとハイテク化(?)すると、今度はテレビ・ラジオ放送が登場する。朝鮮半島の38度線ではラウドスピーカーを使った怒鳴り合いが行われているらしいが、それではリーチが限られる。電波に乗せる方が、広い範囲を対象にできる。
そしてとうとう米空軍のように、宣伝放送のために専用の飛行機を用意する事例まで現れた。それがEC-130Eコマンドソロと、その後継機であるEC-130JコマンドソロII。要するに空飛ぶ放送局である。ただし、アナログ時代のテレビ放送にはNTSC方式とPAL方式があったから、コマンドソロはどちらの方式でも放送できるようになっている。いくら放送を流しても、受信してもらえなければ意味がないから。
ところが近年では、もっとお手軽、かつ効果が高い手段が一般化した。いわずと知れたインターネットである。シンプルに考えれば、アジビラをばらまく代わりにWebサイトを立ち上げることになるのだが、それでは読み手が見に来てくれないことには役に立たない。
ところが、SNS(Social Networking Service)の普及で状況が変わってきた。いったん注目を集めれば、読み手が勝手に拡散してくれるのだから、こんな手のかからない方法はない。そして現在進行形で、ロシアがウクライナ侵攻を正当化するための宣伝戦を実施しているのは、知っている人は知っている話である。
おまけに、大昔のテキスト・ベースで動いていたインターネットならいざ知らず、今や誰でも動画を作ってばらまける御時世である。しかも、その動画の信頼性を誰かが担保してくれるわけではない。もっともらしく見えれば、必ず、それを信じ込む人は出る。
戦場に暮らしているわれわれという現実
つまり、われわれが日常的に利用している各種SNSのサービスは、事実上、サイバースペースにおける宣伝戦・心理戦の戦場、それも第一線なのである。「うわっ、すごい!」あるいは「これは大変だ!」といって拡散する、そのタップ操作(またはクリック操作)ひとつが、宣伝戦や心理戦に加担する行為であるかもしれないのだ。
今回のウクライナ侵攻についていえば、ロシア側の言い分を正当化する趣旨で、さまざまな動画がばらまかれている。その中にはつくりが雑で、「先に作って仕込んでおいたのがバレバレ」あるいは「いってることが嘘っぱちだとモロ分かり」なものが多いとの評判だが、誰もが嘘を嘘と見抜けるわけではない。
そうでなくても、もともと、「戦争や事故の第一報は錯綜する」という性質がある。多くの人が情報を求める中で、あやふやな情報でもとりあえず流してしまう事例は引きも切らない。そしていったん誤報が広まると、それを後から訂正したところで、最初の誤報が根絶やしになることは、まずない。
それと同じデンで、意図的に情報戦・心理戦を仕掛ける目的でばらまかれた贋情報や贋動画も、いったん拡散してしまえば、それは「真実」として一人歩きを始める危険性を内包している。実際、ウクライナの件でも「どこそこで攻撃がありました」とか「どこそこで爆発がありました」といった類の動画がそこここで流れてきているが、その中の何割がホンモノで、何割がニセモノだろうか。しつこく書くが、もっともらしく見えれば、それを信じ込んで拡散する人は必ず出る。
つまり、サイバースペースにおける情報戦・心理戦という話についていえば、「軍事とIT」は軍事分野に興味・関心がある人だけの話ではないのだ。誰もが知らず知らずのうちに関わり、巻き込まれている話なのである。そういう自覚を持って、日々、流れてくるさまざまな情報に接してほしい。
●ウクライナ問題で沈黙するインド、西側諸国はどう見るのか 2/26
ウクライナに侵攻したロシアの行動を、米国とその同盟国は強く非難している。一方、安全保障に関して西側諸国との結びつきを強めてきたインドは、ロシアの行動を非難することも、ウクライナの主権を支持することもせず、慎重な発言を続け、中立性を保とうとしている。
ウクライナ情勢について話し合うため、2月21日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合でも、インドのT・S・ティルムルティ国連大使は、問題解決のための「建設的な外交」を求めるにとどまり、ロシア政府を批判することは避けた。
このとき、ウラジーミル・プーチン大統領はすでに、ウクライナの分離独立派が支配してきた東部2地域の独立を承認。ロシア軍部隊の派遣を命令していた。
さらに、インドはこの会合でウクライナに関しては、これまで自国と中国の国境地域やインド太平洋地域の問題について頻繁に使ってきた「主権」「領土保全」といった言葉を使わなかった。これは、西側諸国をいら立たせる態度だったと考えられる。
また、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、19日にドイツで行われた(各国の代表が安全保障の課題について議論する)ミュンヘン安全保障会議で、インド太平洋地域における中国の問題と、欧州におけるロシアの問題は「類似したものではない」と主張。その後も仏紙ル・フィガロに対し、ウクライナの現在の状況は過去30年の「一連の出来事」の結果だと語るなど、綱渡り外交を続けている。
ウクライナ情勢を巡り、1月31日に開かれた国連の安全保障理事会では、この会合を非公開にするよう求めたロシアの提案に対して10カ国が反対票を投じるなか、インドと中国の2カ国だけが賛成していた。
米シンクタンク、ブルッキングス研究所の上級研究員であるタンヴィ・マダンはツイッターへの投稿で、インドは軍事面でのロシアへの依存度が高く、それがウクライナ問題に対する態度に影響を及ぼしていると指摘する。
マダンはこの問題に対するインドの態度について、次のようにツイートしている。
「インド軍が保有する軍用機器は、50〜80%がロシア製だと推定される」
「自分がなめられたと感じれば、プーチンがそれをよく受け止めないことは分かっている。相手が誰であれ、自分が腹を立てたことを懲罰的な形で知らしめる方法を見つけ出す」
数十年にわたってロシアとの戦略的な関係を築き、軍用品の多くをロシア製に頼るインドは、外交においては現在、板挟みの状態だ。プーチン大統領が昨年12月にインドを訪問したときには、インド政府はロシアとの関係について、「特別かつ特権を有する戦略的パートナーシップ」であることを再確認したと明らかにしている。
一方、中国がますます好戦的になるなか、インドは米国、日本、オーストラリアとの新たな枠組み「クアッド」に加わるなど、米国とも安全保障上のパートナーシップを強化してきた(中国はこのクアッドを「インド太平洋版のNATO(北大西洋条約機構)」と呼び、強く反発している)。
インドは中国がロシアとの関係を緊密化させていることについても、懸念を強めている。ロシア政府に対して批判的な態度を取れば、中露関係をさらに強化させることにつながるとの警戒感もある。
だが、インドがウクライナ問題でロシアに対して口をつぐむことは、西側諸国にはどのように映るだろうか。ロシアの行動に対する支持表明とみなされる可能性があるとの見方は、インド国内にもある。
●「ウクライナ侵攻は台湾海峡へ飛び火する」の矛盾――中国の気まずさとは 2/26
ロシアの侵攻が始まる前から「ウクライナ問題が台湾海峡に飛び火しかねない」という説はあちこちで聞いたが、中国とロシアをとにかくセットで扱う思考は状況認識をかえって誤らせかねない。
中国にとってのウクライナ危機
ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した2月24日、中国の王毅外相はロシアのラブロフ外相との電話会談で「やむを得ず必要な措置をとった」というロシアの言い分に「安全保障上の懸念を理解する」と応じた。これが「西側に対抗する中ロ同盟」のイメージを強めたことは不思議でない。
ウクライナ侵攻の前から中ロは頻繁に接触していた。習近平国家主席は2月初旬、プーチン大統領との会談で「欧米の軍事的圧力」に反対することで一致し、共同声明では「欧米との協議でロシアが提案する長期的な安全保障を中国は理解し、支持する」と盛り込まれた。
また、欧米や日本の対ロシア経済制裁に対して、中国は「制裁は解決にならない」と加わっていない。
その見返りのように、習近平とプーチンの共同声明では「一つの中国」の原則が再確認され、これが中国のナショナリストを喜ばせた。中国国営新華社通信の上級編集員によれば、「中国はロシアを支持しなければならない…将来、中国は台湾の問題でアメリカと渡り合うときにロシアの支持を必要とする」。
一方、その裏返しで海外では「ロシアのウクライナ侵攻を中国が認め、中国の台湾侵攻をロシアが認める」という危機感が増幅した。台湾の蔡英文総統は23日、ウクライナ危機をきっかけに中国が軍事行動を起こしかねないと強調しており、イギリスのジョンソン首相なども同様の警戒感を示している。
ウクライナと台湾は違う
しかし、ウクライナと台湾を同列に扱うことはできない。また、中国とロシアが「反西側」で一致していることは間違いないが、両者を一枚岩と捉えることもできない。
最大の理由は、ロシアによるクリミア半島の編入(2014)や今回のウクライナ侵攻を認めることが、中国にとって具合が悪いからだ。
念のために確認すれば、侵攻に関するロシアの言い分は「ウクライナの‘軍事政権’によって弾圧され、‘大量虐殺’の危機に直面する現地の人々の要請に基づいて部隊を派遣した」。ここでいう‘現地’とは、ロシア系人やロシアから送り込まれた民兵を中心とする勢力で、彼らは2014年以降ウクライナ東部を実効支配してきた。
いわば分離主義者を煽り、その独立要求を大義名分に介入するのがロシアのやり方だ。それがたとえ露骨な国際法違反でも、「現地の意志こそ全て」という論理である。
だとすると、これを認めることは中国にとってヤブ蛇になる。
「現地の意志こそ全て」だとすれば、独立志向を強める台湾の意志を最大限に尊重しなければならなくなるからだ。中国版Twitterとも呼ばれるWeiboなどで「今こそ台湾を取り戻すとき!」と叫ぶ中国人ナショナリストも、「ロシアの支持を受けた中国の台湾侵攻が近い」とひたすら強調する海外も、この論理矛盾を華麗にスルーする点では同じだ。
台湾だけではない。香港でも新疆ウイグル自治区でも反体制派は「中国を分断しようとする分離主義者、テロリスト」と位置付けられ、弾圧されてきた。その意味で、ロシアの手法は中国の論理とは相性が悪い。
だからこそ、中国政府は国内で反ロシア世論を取り締まりながらも、「台湾はウクライナではない」としきりに強調してきたのだ。
中国の「気まずい立場」
これに関して「中国はロシアの立場を認めたではないか」という反論もあるだろう。
しかし、外交で重要なのは言質をとられないことだ。国際政治は力と利益が支配する領域だが、第三者に申し開きする用意だけは必要である。
その観点からいうと、2月初旬の首脳会談で、習近平は確かに「欧米との協議でロシアの立場を支持する」とプーチンに約束したが、あくまで「話し合いをする時の立場」を支持したのであって、「軍事行動を支持する」とは言っていない。
また、冒頭に述べた24日の電話会談で、王毅はロシアの行動を「理解する」とは言ったものの、ラブロフや中国人ナショナリストが望んだであろう「支持する」の一言はなかった。「理解」が論理的に合点するという意味で、心情的に認める、道義的に受け入れる「支持」とは違うことは、いわば常識だ。
ちなみに、2014年のロシアによるクリミア編入に関しても、中国政府は公式には承認していない。つまり、中国は「ロシアが欧米と対決することを支持しても、ウクライナの領土や主権に関するロシアの言い分を認めているわけではない」というグレーな立場にあるのだ。
さらにいえば、中国はミャンマーの軍事政権などの人権侵害を黙認してきたが、そこには「内政不干渉」の論理がある。一方、クリミア編入やウクライナ侵攻は「内政干渉」以外の何物でもない。いわば中国の公式の方針を否定する内容だが、異論も挟みにくい。米国ジャーマン・マーシャル財団のボニー・グレイザーの言い方を借りれば、中国は「気まずい立場」にある。
中ロは一枚岩ではない
そのうえ、忘れられやすいが、中国はウクライナとも深い関係がある。
中国初の航空母艦「遼寧」は1998年にウクライナから購入したものだ。ソ連末期に建造がスタートした「ヴァリヤーグ」がソ連崩壊後、未完成のまま放置されていたのを中国が買い取ったのである。その後2012年に正式に就役した遼寧は、海洋進出を加速させる中国海軍の一つのシンボルともなった。
ソ連崩壊後のウクライナが中国の海洋戦力強化の起点になったことは、裏を返せばロシア(ソ連)がこの分野で中国にほとんど協力してこなかったことを意味する。そこには冷戦期、東側陣営のリーダーの座を中国と争って以来のロシアの警戒感がある。
東西冷戦で西側陣営が最終的な勝者となり得た一つの要因には、東側陣営の内部分裂があった。冷戦時代のソ連と中国は、ダマンスキー島(珍宝島)などで領土をめぐって軍事衝突(1969)しただけでなく、ソ連が支援するベトナムへの中国の侵攻(1979)や、やはりソ連が支援するエチオピア(1974-1991)などで中国が反体制派を支援するといった足の引っ張り合いが目立った。
西側も決して一枚岩ではなかったが、より分裂の大きい東側の方が消耗しやすかったといえる。
この微妙な関係は現在も基本的に同じで、中国がウクライナ侵攻を「支持」しないのと同じように、ロシアは「一つの中国」の原則を認めても「中国があらゆる手段を行使することを支持する」とは言っていない。
これに照らせば、ウクライナ侵攻や台湾危機といった現代の脅威に対応する場合、中ロの共通性にばかり目を向けるのではなく、両者の違いを無視せず、むしろその足並みを揃えにくくさせることの方が重要だろう。その意味で、とにかく「民主主義国家vs中ロ」を強調することは、スターウォーズやマーベルなどに擬えてわかりやすい構図を提供し、国内の反中感情や反ロシア感情を満足させるとしても、あまり建設的ではないのである。
●中国、ウクライナ侵攻の事実認定拒む姿勢維持 米に反論 2/26
中国外務省の報道官は25日、ロシアによるウクライナ侵攻やウクライナ情勢に関する30件以上の質問に直接答えることを避けながら、侵攻の事実を認定しない姿勢を維持した。
定例会見で、全ての国の主権と領土保全は尊重されるべきだとの従来の立場を主張。また、「ロシアの安全保障問題に関する合法的な懸念は理解する」と繰り返し、全ての当事者に自制を促し、事態のさらなる悪化を防ぐよう求めた。
半面、ロシアを支持する国は全て汚名を着ることになるだろうとしたバイデン米大統領の24日の演説に反発。「真に信用出来ない国は他国の国内問題に理不尽に干渉し、民主主義や人権の名の下で外国で戦争を起こす国だ」と反論した。
中国は、相互の尊重、平等や相互利益を敬う精神のなかでロシアとの通常の貿易関係は続けるとも強調。その上で、制裁は問題解決につながる根本的かつ有効な措置では決してないと断じた。
外務省報道官は23日の会見で、欧米諸国らが打ち出す対ロシア制裁に中国は追随しないことを明らかにしていた。中国は違法かつ一方的な制裁には常に反対してきたとも述べていた。
24日の会見では、ロシアからの小麦輸入を開始する計画も発表。この輸入に関する協定はロシアのプーチン大統領が今月、北京冬季五輪に出席するため訪中した際に発表されていた。小麦輸入は、欧米諸国がロシアに打ち出す制裁の効果をそぐ可能性もある。
一方、在ウクライナの中国大使館はロシア軍の侵攻を受け、ウクライナ内に居住する自国民に対し車両で移動する際、中国国旗を掲示するよう推奨した。
声明で、街頭で大きな暴動が発生する恐れもあるとし、在宅し、窓などから離れた場所にとどまることも指示。車を使う場合、中国国旗を車体の目立つ場所に掲げるよう求めた。
さらに24日には治安が混乱するリスクが高まったとして、中国国民を国外へ退避させるチャーター便を準備していることを明らかにした。 
●欧米の株式市場 株価大幅値上がり  2/26
欧米の株式市場では25日、各国によるロシアへの制裁が世界経済に及ぼす影響への警戒感が和らいでいることなどから、ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が800ドルを超える値上がりとなるなど株価が大幅に値上がりしました。
25日のニューヨーク市場は取り引き開始直後から買い注文が膨らみ、ダウ平均株価は800ドルを超える大幅な値上がりとなりました。
終値は、前日に比べて834ドル92セント高い、3万4058ドル75セントでした。ダウ平均株価の値上がりは2営業日連続です。
IT関連銘柄の多いナスダックの株価指数も1.6%の大幅な上昇となりました。
ヨーロッパの市場でも25日、前日に値下がりした銘柄を買い戻す動きが広がり、主要な株価指数の終値は、ロンドン市場で3.9%、ドイツのフランクフルト市場で3.6%、パリ市場で3.5%と、いずれも大幅に値上がりしました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて前日の欧米の市場では緊張が高まりましたが、欧米など各国によるロシアへの制裁が世界経済に及ぼす影響への警戒感が和らいでいることなどが株価の上昇につながりました。
このほか、25日のロシアの株式市場でも前日に大幅に下落していた代表的な株価指数の終値が26.1%の大幅な値上がりとなりました。
●ウクライナ情勢、世界に影 原油・小麦高騰が回復阻害 2/26
ロシアによるウクライナ軍事侵攻が、世界経済の先行きに大きな影を落としている。両国とも原油や小麦などのコモディティー(商品)の有力輸出国だけに、供給不安から関連相場が高騰。各国を悩ますインフレを加速させ、新型コロナウイルス危機からの回復を阻害する恐れが浮上している。
「世界に重大な経済リスクをもたらす」。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は24日、ウクライナ情勢が世界経済に及ぼす影響に懸念をあらわにした。
ロシアは世界屈指のエネルギー輸出国。また国連食糧農業機関(FAO)によると、2020年の小麦輸出でロシアは世界1位、ウクライナは5位。紛争による供給混乱への懸念から、米国産標準油種WTI先物は一時、14年以来となる1バレル=100ドル台に急騰。シカゴ市場で取引される小麦先物も、12年以来の高値となった。
コロナ感染拡大に関連した供給制約により、ただでさえ世界各地でインフレが進んでいる。燃料や食料が一段と値上がりすれば、特にワクチン接種の遅れなどでコロナ禍の打撃が深刻だった開発途上国にとって、さらに重しとなるのは必至だ。
IMFは「新興国や低所得国の住民にとって、食料は消費支出の3分の1から半分を占め、価格上昇の負担は最も重い」と分析する。
苦境は途上国に限らない。ユーロ圏のインフレ率は1月に過去最高の5.1%を記録したが、物価高の主たる要因はエネルギー価格の高騰だ。欧州は天然ガス輸入の相当部分をロシアに依存しており、対ロ経済制裁に関連して供給が混乱すれば、エネルギー価格をさらに押し上げかねない。
欧州中央銀行(ECB)はエネルギー価格などを除いた物価は安定しているとして利上げには慎重だが、インフレがさらに加速すれば、対応に苦慮しそうだ。シュナーベルECB専任理事は24日の会合で「戦争ショックは世界の中銀が直面する課題を増大させる」と警戒した。
●ウクライナ情勢、北京パラに影 参加不透明、開幕まで1週間切る 2/26
開幕まで1週間を切った北京冬季パラリンピックは26日、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が影を落とした。国際パラリンピック委員会によると、ド―ピング問題の制裁を受けて個人資格で参加するロシア・パラリンピック委員会の選手の一部は同日までに北京入り。一方でウクライナ選手の参加は不透明な情勢になっている。
ウクライナ・パラリンピック委員会によると、ノルディックスキ―距離とバイアスロンの2競技で男女約20の出場枠を得ている。18年平昌冬季大会では「金」7個を含む22個のメダルを獲得した強豪。14年ソチ大会でも、役員を含めて約30人の選手団で参加した。
●欧州へガス追加融通検討 ウクライナ情勢受け―政府 2/26
政府がロシアのウクライナ侵攻を受け、液化天然ガス(LNG)の欧州への追加融通を検討していることが26日、分かった。既に3月分までの融通は決定しているが、欧州連合(EU)との協議やウクライナ情勢に応じ、4月以降も国内消費の余剰分を融通する構えだ。
●ウクライナ 首都キエフのアパ―トに攻撃 40の民間施設が被害 2/26
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって3日目となる26日、ウクライナの保健相はロシア軍による攻撃で198人が死亡したと発表しました。首都キエフでは爆発音や銃声が伝えられているほか、中心部にある高層アパ―トが攻撃をうけるなど、ロシア軍はキエフの掌握に向けて本格的な軍事作戦を進めているとみられます。
ウクライナ内務省などによりますと、26日朝(日本時間26日午後)キエフ中心部にある高層アパ―トに攻撃があり、メディアによりますと、けが人が出ているということです。メディアが公開した映像ではアパ―トの上部が攻撃された直後、オレンジ色の閃光と黒い煙が上がっている様子がうかがえます。
ウクライナのクレバ外相はロシアの地上部隊からミサイル攻撃を受けたと強調し「私は世界に要求する。ロシアを完全に孤立させ、大使を追放し、石油を禁輸し、経済を破たんさせることだ。ロシアの戦争犯罪者を阻止してくれ」と国際社会に強く訴えました。
子ども3人含む198人死亡か
ウクライナのリャシュコ保健相は26日、ロシア軍によるこれまでの攻撃で、子ども3人を含む198人が死亡したと発表しました。一方でロシア国防省の報道官は高層アパ―トへの攻撃が起きたあと声明を発表し「住宅や社会インフラは標的にしていない」として、攻撃の対象はあくまでも軍事施設だと主張しています。ただキエフ中心部でも軍用機の来襲などを知らせるサイレンがたびたび鳴っているほか爆発音や銃声も伝えられるなど、ロシア軍はキエフの掌握に向けて本格的な軍事作戦を進めているとみられます。
攻撃 軍施設以外の場所でも
NHKが取材した日本で暮らすウクライナ人の女性のもとには、現地の知人から現状を伝える動画が次―に寄せられていて、ウクライナ軍の施設以外の場所にもロシア軍によるものとみられる攻撃が続いていることが確認できます。ウクライナ東部のスムイで撮影された動画では、銃声が鳴り響く中、教会やマンションのすぐそばで火災が起きている様子が確認できます。同じ東部のハリコフで25日、ドライブレコ―ダ―に記録された映像では、一般の道路をめがけて複数の攻撃が行われ、大きな音とともに路面から砂ぼこりがあがり、男性が攻撃を避けるように運転している様子がうつっています。南部のヘルソン州で25日に撮影された動画では、男性が車を運転中にすぐ近くで攻撃があり、砂ぼこりが舞い上がる様子が捉えられています。
40の民間施設が攻撃か
ウクライナの地元メディアは26日、ウクライナ内務省の高官の話として、キエフ市内にあるウクライナ軍参謀本部の施設の近くにある橋がロシア軍によって攻撃されたとしています。ウクライナ各地で1日で40の民間施設が攻撃されたということです。この高官は「ロシアは民間施設を攻撃していないとうそをついている。子どもたちが殺害されたことを忘れてはならない」と強く非難しました。
ロシアで軍事侵攻に反対するデモ続く
ロシアではプ―チン政権が進める軍事侵攻に反対するデモが警察の厳しい取り締まりにもかかわらず続いています。ウクライナへの軍事侵攻に反対するデモは25日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで行われ、参加者は「戦争反対」と声を上げながら大通りを歩きました。警察は厳しく取り締まり、平和のシンボルとされる「ピ―スマ―ク」が描かれた紙を掲げた参加者は突然警察官に拘束され、警察の車両に乗せられていました。ロシアの人権監視団体によりますと、ウクライナへの軍事侵攻に反対するデモに参加し拘束された人は25日時点で60都市1839人に上り、26日も各地でデモが行われ、拘束者が相次いでいるということです。
●ウクライナ情勢に関する外国為替及び外国貿易法に基づく措置 2/26
ウクライナをめぐる現下の国際情勢に鑑み、国際的な平和及び安全の維持を図るとともに、この問題の解決を目指す国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、今般、主要国が講ずることとした措置の内容等を踏まえ、閣議了解「「ドネツク人民共和国」(自称)及び「ルハンスク人民共和国」(自称)関係者並びにロシア連邦の特定銀行に対する資産凍結等の措置、両「共和国」(自称)との間の輸出入の禁止措置、ロシア連邦の政府その他政府機関等による新規の証券の発行・流通等の禁止措置、特定銀行による我が国における証券の発行等の禁止措置並びに国際輸出管理レジ―ムの対象品目のロシア連邦向け輸出の禁止等に関する措置について」(2月26日付)を行い、これに基づき、外国為替及び外国貿易法による次の措置を実施することとしました。
1 資産凍結等の措置
外務省告示(2月26日公布)により「ドネツク人民共和国」(自称)及び「ルハンスク人民共和国」(自称)(以下「両「共和国」」という。)関係者として指定された24個人及び資産凍結等の措置の対象となるロシア連邦の団体として指定された1団体に対し、(@)及び(A)の措置を実施します。
(1-1) 支払規制 / 外務省告示により指定された者に対する支払等を許可制とします。
(1-2) 資本取引規制 / 外務省告示により指定された者との間の資本取引(預金契約、信託契約及び金銭の貸付契約)等を許可制とします。
(注)ロシア連邦の団体として指定された1団体に対する資産凍結等の措置は令和4年3月28日から実施します。
2 両「共和国」との輸出入禁止措置
ウクライナ(「ドネツク人民共和国」(自称)又は「ルハンスク人民共和国」(自称)を原産地及び仕向地とする場合に限る。)との輸出入を禁止する措置を導入します。
3 ロシア連邦政府等による我が国における新規の証券の発行・流通禁止措置
(3-1) 証券の発行又は募集に係る規制 / 外務省告示(2月26日公布)により指定されたロシア連邦の政府その他政府機関等(以下「ロシア連邦政府等」という。)による本邦における新規の証券の発行又は募集を許可制とします。
(3-2) 証券の取得又は譲渡に係る規制 / ロシア連邦政府等が新規に発行した証券の居住者による非居住者からの取得又は非居住者に対する譲渡を許可制とします。
(3-3) 役務取引規制 / ロシア連邦政府等が本邦において新規に証券を発行し、又は募集するための居住者による労務又は便益の提供を許可制とします。
4 ロシア連邦の特定の銀行による我が国における証券の発行等の禁止措置
本邦における証券の発行等を禁止しているロシア連邦の特定の銀行について、より償還期間の短い証券(30日超)を当該禁止措置の対象とします。
5 国際輸出管理レジ―ムの対象品目のロシア連邦向け輸出の禁止等に関する措置
国際輸出管理レジ―ムの対象品目のロシア連邦向け輸出及び役務の提供について、審査手続を一層厳格化するとともに、輸出の禁止等に関する措置を導入します。
(注)先ずは審査手続を一層厳格化することとし、添付資料のとおり措置します。 
●ウクライナ侵攻はプーチンの「戦略的判断ミス」 2/26
ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」(2月25日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。24日午前にウクライナ東部での「特殊軍事作戦」の実施を宣言したロシアのプーチン大統領のテレビ演説内容のポイントを解説した。
得られる利益と比べ明らかに不利な「侵攻」をしたのは「戦略的な判断ミス」
宮家)まず一般論として、多くのロシア専門家は「軍事侵攻はないんじゃないか」と言っていたんですよ。もちろん、すべての人ではないですが……。けれども、戦争って実際に起きるんですよ。戦争っていうのは往々にして独裁者が「誤算」をしたときに起きるんです。人間が合理的に判断すれば、こんなバカなことするわけないでしょう。私は、プーチンさんの今回の判断はおそらく戦略的なミスだったと思います。おそらくこれからロシアが被るであろう不利益と、それから仮にウクライナの一部を占領、もしくはウクライナで政権交代をしたとしても、それで得られる利益と比べたら、明らかにロシアにとって不利な判断ですよ。なんでこんな判断するかといえば、どこかで判断を間違えた。もうお年なのか……そんなことはないと思いますけどね、まだ70前でしょ?もしくは何かウクライナに対して特別の感情を持っていたか、理由はわかりませんが、これは後で本人に聞いてみるしかないんですけども、今回僕はこのプーチンさんの戦略的判断ミスがすべてだったと思っています。
その上でこのプーチン大統領のテレビ演説の内容を読みました。要するに、簡単に言うとですね、8年前、得体の知れない人達が何か他国(ウクライナ東部)に入っていって占領して、8年かけて今度は傀儡政権を作って、それで『自国民保護だ』と言って本格的に入っていくわけでしょう。これは「満州事変」ですよね。要するにそれと同じ非常に稚拙なやり方だと私は思う。これで『我々の国境に脅威が迫ってる』……それは逆だろうと……。
アメリカの対応は正しかった
宮家)『イラクの時だって大量破壊兵器はなかっただろう』と、アメリカのインテリジェンスをあざ笑っているわけですが、「ないものを探す」っていうのは、なかなか難しいんですよ。でも今回は、「あるものを上(衛星などからの情報)から見ている」わけだから。多くの人が「プーチンが合理的な判断すれば戦争はない」っていうのはその通りなんだけれども、実際にアメリカの情報は今回正しかったんですよ。なぜ正しいかというと、それは相当程度のことが、上から見えるからです。もちろん、いろいろな情報を総合している。軍隊というのは簡単に「ほい、明日から行け!」っていう組織ではないので、しっかり準備していくものですから、プロが見ればこれが本当に戦闘態勢に入ってるのか入っていないのかって、わかるはずなんです。その意味ではアメリカは今回正しかった。でも、なぜ今回はバンバン情報を出したのでしょうか、普通は出さないですよね。出すとどこから情報を取ったかがわかってしまうわけで、下手したら大勢の人が殺されちゃうわけだから。そのくらい大事な情報をなぜ出したかといえば、おそらくプーチンさんに「俺たち、ここまで知ってるんだぞ」と、「だからやめたほうがいいぞ」というふうに言ったつもりなんだろうけど、やっぱりプーチンさんはそれも聞かなかった。なぜ聞かなかったのか。「判断ミスしたから」ですよ、と私は思う。
さらに『我々の計画にウクライナの領土の占領は含まれていない』とも言っている……うーん、そうかな。まあどっちみちウクライナ全土の占領はできないですが、部分的にはやるのではないかと。
戦争の目的がよくわからないままの軍事行動であれば、成功はしない
宮家)一番大事なことはですね。戦争をやるときに戦争目的っていうのがあるわけですよ。目的のない戦争なんてないですから。今回ロシアはウクライナに兵を進め『ウクライナ東部での特殊軍事作戦をやった』と、こう言ったわけですけれども、「特殊軍事作戦」とは何を言ってるのか。よくわからないけれども、東部でやるのだとしても、当然のことながらウクライナの「制空権」もしくは「航空優勢」と言いますが、空の支配ですよね、これをやるためには、当然指揮命令系統、飛行場、武器弾薬庫等々を一気にやらないといけない。もちろんサイバー戦などいろいろな手を使うわけですけれども、そうやって制圧をしていくわけですよね。でも、まだここでも戦争の目的がはっきり示されていない。何を求めているのかわからないけれども、もしこうやって戦略目的がよくわからないままに軍事行動だけをしているのであれば、これはやっぱり成功はしないでしょうね、というのが私のイメージでございます。
残念ですけれども、これが始まってしまった以上彼らは、ウクライナを少なくとも中立化させるために相当エネルギーを使って時間をかけて、そして目的を達成しようとするでしょうね。その時にどのくらい経済制裁をわれわれができて、そしてそれで思いとどまらせるかどうかでしょうが、おそらくロシアは言うこと聞かないでしょうね。そういったイメージですね。 

 

●ロシア“ウクライナが交渉拒否”と主張 ウクライナ“交渉の拒否していない” 2/27
ウクライナ情勢をめぐり、ロシア政府は、ウクライナが和平交渉を拒否したと主張したうえで、さらに攻撃を強める考えを示している。
ロシアの大統領府によると、ウクライナからの和平交渉の呼びかけを受けて、プ―チン大統領は25日、一時進軍停止を命令したが、ウクライナ側が交渉を拒否したため、進軍を再開したと主張した。ロシア国防省は、作戦計画に従ってあらゆる方向に攻撃を展開すると述べ、さらに攻勢を強める構えを見せている。
しかし、ウクライナ側は、交渉を拒否していないと真っ向から反論していて、両者の主張は食い違っている。
一方、アメリカ国防総省の高官は26日、ウクライナとの国境に展開していたロシア軍部隊のうち、半数以上がウクライナの戦闘に投入されたという分析を明らかにした。
しかし、ウクライナ軍の抵抗が強く首都キエフでは、30km離れた地点から近づけていないと示している。一方で、情勢は流動的だともしていて、首都キエフをめぐるウクライナとロシアの攻防が焦点となっている。
●米 ウクライナに最大3.5億ドルの軍事支援 対戦車ミサイルなど  2/27
アメリカのブリンケン国務長官は26日に声明を出し、ウクライナに対して最大3億5000万ドル、日本円にしておよそ400億円の追加の軍事支援を行うと発表しました。
声明では、ウクライナ軍がロシア側の装甲車両や軍用機などの脅威に対応するため殺傷力のある防衛兵器を供与するとしていて、アメリカ国防総省の高官は記者団に対し、供与される兵器には対戦車ミサイル「ジャベリン」も含まれることを明らかにしました。
「ジャベリン」は戦車などの装甲を貫通する強力なミサイルを標的に向けて自動で誘導する精密兵器で、アメリカ政府はウクライナの防衛力を強化するためだとして、これまでも供与してきました。
ウクライナ軍は「ジャベリン」で破壊したとするロシア軍の戦車の写真をSNS上に公開していて、アメリカに対して追加の供与を求めてきました。
声明の中でブリンケン長官は「アメリカはウクライナの人たちとともにあるという明確なシグナルだ」と強調しています。
ヨ―ロッパ各国もウクライナに対する軍事支援を相次いで発表しました。
ドイツは政府報道官が26日、声明を発表し、1000の対戦車兵器と携帯型の地対空ミサイル「スティンガ―」500基をできるだけ早期にウクライナに供与すると発表しました。
ショルツ首相はツイッタ―で「プ―チン大統領の侵略軍に対する防衛で、ウクライナを力の限り支援することがわれわれの義務だ」と述べました。
ドイツは紛争地域などへの武器の供与には慎重な立場をとり、ウクライナに対してもこれまで殺傷力のある兵器の供与は行わないとして軍用ヘルメットの供与などにとどめていましたが、ロシアによる軍事侵攻を受けて方針を転換した形です。
オランダ政府もウクライナからの要請を受けて26日、「スティンガ―」200基を供与すると発表しました。
●プ―チン大統領作成「斬首リスト」の中身…第1標的はウクライナ大統領 2/27
主権国家としてのウクライナは消えてしまうのか。北部、南部、東部から全面侵攻するロシア軍の勢いは止まらず、首都キエフは陥落寸前だ。ロシア政府が作成中の「処刑リスト」には目障りな存在がズラリと並んでいるという。ウクライナ政権の転覆に狙いを定めたプ―チン大統領は、ゼレンスキ―大統領の首を取りにいくのか。ウクライナ情勢は重大局面に差し掛かっている。
ロシアによる侵攻から2日目を迎えた25日、ゼレンスキ―大統領は2時間に1回のペ―スでビデオメッセ―ジを発信。戦況を逐一説明し、国民に結束を呼び掛けた。その一方、「敵は私を第1の標的に定めた」「私の家族は第2の標的だ。国家元首を失脚させることでウクライナを政治的に壊滅させるつもりだ」と強調。「斬首作戦」のタ―ゲットであると明言しつつも、「私は首都にとどまる。家族もウクライナにいる」と訴え、徹底抗戦の姿勢だった。
プ―チン大統領が親欧米のゼレンスキ―大統領を狙っているのは間違いないだろう。やたらとインテリジェンス(機密情報)を公開している米国のブリンケン国務長官も、「プ―チン大統領がウクライナの政権転覆を図っていると確信している」と認めている。問題はやり方だ。出し抜けに亡命したアフガニスタンのガニ大統領のように、ゼレンスキ―大統領を追い詰めるのか。あるいは、手をかけるのか。
米メディアによると、バイデン政権はロシア政府が作成中の「ウクライナ人処刑リスト」を入手。対象は反ロシア的人物が中心で、侵攻による混乱のドサクサに紛れ、処刑あるいは強制収容所送りにする計画だ。ロシアやベラル―シからの亡命者、ジャ―ナリスト、反腐敗活動家のほか、少数民族や宗教的マイノリティ―、LGBTQも含まれるという。
「米国の世論がウクライナ情勢への積極的な関与を求めていないことなどから、バイデン大統領は軍事介入に及び腰ですが、斬首作戦を許せば世界の秩序はメチャクチャになる。いよいよ、マズイ局面に入ったとなれば、状況は大きく動く可能性があります」(上智大教授の前嶋和弘氏=現代米国政治)
もっとも、ゼレンスキ―大統領もシタタカだ。ビデオメッセ―ジで「われわれはひとりで国を守っている状況だ。世界で最も強力な国は遠くから傍観している」とバイデン大統領をあてこすりながら、プ―チン大統領には停戦協議を呼びかけ。「ロシアは遅かれ早かれ、われわれと協議しなければならなくなる。どのようにして戦いを終わらせ、侵攻をやめるかについて話す必要がある」「協議開始が早ければ早いほど、ロシアが負う損失は小さくなるだろう」と主張していた。
終結の落としどころとして、ウクライナを非武装中立地帯とする条約を関係国で締結するというプランも浮上している。しかし、トンデモない被害を受けているウクライナが納得するのか。混沌とする情勢に出口は見えない。
●ロシア軍進撃足止めか 首都一帯で攻防戦―ウクライナ侵攻 2/27
24日にウクライナへの本格侵攻を開始したロシア軍は27日、首都キエフ制圧に向けた軍事作戦を続行した。キエフ一帯ではウクライナ軍との間で激しい攻防戦が続くが、ロシア側の動きをめぐっては、当初想定より進撃に遅れが生じている可能性がある。
ウクライナのゼレンスキ―大統領は26日夜に公表した動画メッセ―ジで「われわれは国を解放するまで戦い続ける」と訴えた。
米国防総省高官は26日、ロシア軍が激しい抗戦に遭い、キエフの北方約30キロの地点にとどまっているとの分析を明らかにした。「ロシア軍は進軍の遅れにいら立ちを募らせている兆候がある」と記者団に語った。
高官は、ロシア軍がウクライナ国境地帯に集結した部隊の5割以上を投入したと指摘。ただ、「いまだ都市部を制圧しておらず、制空権も確保していない」と述べた。
●政権転覆目指す姿勢あらわに ウクライナ侵攻でロシア大統領 2/27
ウクライナへの本格侵攻を続けるロシアのプ―チン大統領の狙いが、ウクライナのゼレンスキ―政権転覆にあることが鮮明になってきた。プ―チン氏は25日、ウクライナ軍に「権力を手に入れろ」とク―デタ―を公然と呼び掛け。自らの意のままになる親ロシア派のかいらい政権の樹立を一方的な目標に据えているようだ。
プ―チン氏は25日の安全保障会議で、ウクライナ軍への呼び掛けとして、ゼレンスキ―政権が「あなたの子供や妻、年長者を人間の盾にすることを許してはならない」と訴えてみせた。ゼレンスキ―大統領から権力を奪い取るよう促し「あなたたち(ウクライナ軍人)の方が合意に達するのが簡単だ」とけしかけた。
プ―チン氏は24日の演説で、侵攻の目的に関し、ウクライナの「非軍事化」に加え、「非ナチ化」を挙げた。第2次大戦後の東西ドイツで取られたナチズム一掃の措置を念頭に置いているとみられる。プ―チン氏はゼレンスキ―政権を「ネオナチ」と位置付けていることから、排除の対象になる。ゼレンスキ―大統領も「敵は私を一番の標的と位置付けている」と認めた。
英外務省は1月22日、ロシアがウクライナに親ロシア派政権樹立を目指していると警告していた。ロシアは当時、こうした見方を「偽情報」(外務省)と一蹴したが、結局は警告通りの展開となっている。
●カザフは侵攻参加拒否 ウクライナ、米報道 2/27
米NBCテレビは27日までに、ロシアと緊密な中央アジアのカザフスタンがウクライナ侵攻への軍派遣を求められ、断っていたと報じた。当局者の話としている。
報道によると、ロシアが侵攻に先立ち承認したウクライナ東部の親ロ派2地域の独立についても、カザフは認めていない。
カザフのトカエフ大統領は1月、燃料価格引き上げに抗議するデモが暴徒化した際、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に部隊派遣を要請して治安を回復。ロシアとの関係を強めたとみられていた。
●ロシアのSWIFT排除、ウクライナ侵攻の資金源遮断が目的=米高官 2/27
米バイデン政権の高官は26日、ロシアを国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除する欧米諸国による追加制裁について、プ―チン大統領がロシア中央銀行の外貨準備6300億ドルをウクライナ侵攻や通貨ル―ブル防衛の資金に使うことを阻止するのが目的だと明らかにした。
高官は「プ―チン政権は国際金融システムから排除されつつある」と語った。
●ウクライナは持ちこたえる 「共通の利益」へ支援強化要請 元高官 2/27
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキ―政権で経済発展・貿易・農業相代行を務めたパブロ・クフタ氏(36)が26日、首都キエフから時事通信のオンラインによる取材に応じた。
戦争の影響は欧州だけでなくアジアにも波及する恐れがあると訴え、自由民主主義国の「共通の利益」のため戦火を食い止めなくてはならないと主張した。
――現在の状況を。
キエフ郊外に家族を連れて一時避難しているが、戻るつもりだ。キエフは爆撃され、市街戦も起きた。ロシア兵がウクライナ人のふりをしてキエフに入ろうとしているという情報もある。しかし首都はまだウクライナ政府の統制下にある。
――市民も戦闘に参加しているのか。
武器を取って立ち上がっている。多数が(正規軍でない)「領土防衛隊」に登録し、昨夜までにキエフだけで5万丁の銃が配られた。地方でも人―は武装し、検問所を設けるなど軍を支えている。国民は完全に団結している。
――次に何が起きるか。
ロシアはベラル―シ南方に兵を集結させていると聞く。首都攻撃は激化するだろう。ロシアは首都を奪い、ウクライナを「斬首」しようとしている。しかし、まだどの大都市も奪われていない。ウクライナは持ちこたえており、戦い続ける。
――国際社会に望むことは。
西側は制裁を強化したが、十分ではない。もっとできることはある。(1)武器供給の加速(2)国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除(3)ロシア中銀への制裁(4)ウクライナ上空の飛行禁止区域設定―などだ。これらが実行されれば、状況は変わり、ロシアは後退せざるを得ない。
――プ―チン大統領の目的は。
ウクライナを占領し、欧州を不安定化させることだ。欧州の次には台湾問題を抱える極東でも何かするかもしれない。(野放しにすれば)影響は波及する。侵略をウクライナで食い止めることは自由主義世界の共通の利益だ。 
●ウクライナ侵攻 安保理の権威は失墜した 2/27
ロシア軍によるウクライナ侵攻で、多数の住民が命の危険にさらされている。この危機的な事態に対して、国連安全保障理事会が何ら手を打てないというのは、一体、どうしたことか。
国連憲章は、安保理が国際の平和と安全の維持に主要な責任を負うと定め、軍事的強制措置の決定を含む幅広い権限を与える。
本来ならば、ロシアに撤退を促すのは安保理の役割のはずだ。常任理事国であるロシアの拒否権行使で身動きが取れないというのであれば、何のための安保理か。その権威は、地に落ちたと言わざるを得ない。
ウクライナ危機を議論した23日の緊急会合開催中、ロシア軍の侵攻開始が伝えられた。「攻撃をやめてほしい」と語ったグテレス国連事務総長の訴えはロシア側に完全に無視された。
25日には、米国などが提出したウクライナ攻撃の非難決議案が採決にかけられたが、ロシアの拒否権行使で否決された。
通常、常任理事国が当事国となっている問題は安保理討議の俎上(そじょう)に載らない。拒否権行使によって必ず葬られるからだ。
だが、今回は、日本を含む約80カ国が決議案を支持する共同提案国となった。15理事国のうち、賛成は11、棄権が中国を含む3にとどまり、ロシアの孤立を印象付けることにはなっただろう。
拒否権行使は織り込み済みだというのなら、米欧や日本は別の手立てを講じる必要がある。総会の場で平和のための結集決議を行うなど、あらゆる機会を捉えてロシアの非を鳴らすべきだ。
これまでも安保理は、北朝鮮の核・ミサイルへの対応などで米欧と中露が対立し、意見がまとまらないことが多かった。この問題を打開する努力を怠ったことが、今回の機能不全につながったのではないか。
北朝鮮問題では、安保理とは別に米欧や日本が個別の声明を発表してきたが、ウクライナ侵攻のような重大事態は、それでは通用しないと知るべきだ。
そもそも、常任理事国である米英仏露中は第二次大戦の戦勝国であり、この5大国に平和を主導させようとしたのは、はるか昔の発想である。プ―チン露大統領は今回、大国主導の平和という国連の発想自体もぶち壊した。安保理は抜本的に変わらねばならない。
●ロシア フェイスブックやツイッタ―の利用を制限  2/27
ロシアによるウクライナへの侵攻をめぐり、誤った情報の対策を強化しているアメリカのIT大手メタは、ロシア当局から国営メディアなどの投稿に対するファクトチェックなどの対応の停止を求められたことを明らかにしました。会社側が拒否したところ、ロシア国内におけるフェイスブックへのアクセスを制限する措置がとられたということです。
メタはロシアによるウクライナへの侵攻をめぐり、誤った情報が拡散しないようフェイスブックへの投稿の監視を強化していて、ロシアの国営メディアなどの4つのアカウントの投稿に対してファクトチェックや警告を付けるなどの対応をとっています。
メタの幹部によりますと、会社は24日、ロシア当局から警告を付けるなどの対応を中止するよう命じられ、会社側はこの命令を拒否したということです。
これに対しロシア当局は、こうした規制は検閲にあたり違法だとして、国内におけるフェイスブックへのアクセスを制限する措置をとったということです。
アメリカメディアはアクセスの制限が具体的に何を指すのか明確になっていないとしていますが、通信速度を下げる措置とみられると報じています。
メタの国際渉外部門トップのニック・クレッグ氏は「ロシアの国民はみずからを表現したり、団結したりするために私たちのSNSを使っている。今後も彼らの声が届くよう望んでいる」などとコメントしています。
ツイッタ―社は26日、ロシア国内の一部の利用者がツイッタ―の利用を制限されていると発表しました。会社は「われわれのサ―ビスを安全に利用してもらえるよう努める」としています。アメリカメディアは「ロシアが情報の流れを止めるためにやっていることは明らかだ」などと報じています。
●ウクライナ副首相、AppleやGoogleにロシアでのサ―ビス停止を 2/27
ロシア侵攻が続くウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相は2月26日(現地時間)、米Appleのティム・クックCEOにロシアでの製品とサ―ビス提供停止を求めたと、書簡の画像付きでツイ―トした。
クック氏は同日、ウクライナ情勢を深く憂慮するとツイ―トしていた。
フェドロフ氏はその後、「最新テクノロジ―は、戦車やロケット、ミサイルへの最良の対抗策の1つだ。(中略)私は複数のハイテク大手企業にロシア連邦からのこのとんでもない攻撃を阻止するのを支援してくれるよう頼んだ」とツイ―トした。
同氏は、Google、Netflix、(Google傘下の)YouTubeに同様の依頼をしたとツイ―トした。
SpaceXのイ―ロン・マスクCEOに対しては、Starlinkによる衛星ブロ―ドバンドをウクライナに提供するようツイ―トで呼び掛けた。「あなたは火星を植民地化しようとしているが、ロシアはウクライナを占領しようとしています! SpaceXのロケットは宇宙飛行を成功させているが、ロシアのロケットはウクライナ国民を攻撃しています!」
マスク氏は約10時間後、「Starlinkをウクライナで稼働させたよ」とリプライした。
YouTubeは米Reutersに対し、ロシアの複数のチャンネルの広告収益化機能を一時停止したと語った。
Meta(旧Facebook)でセキュリティポリシ―責任者を務めるナサニエル・グライチャ―氏は26日、ロシア国営メディアによるプラットフォ―ム上での広告掲載を含む収益化を停止したとツイ―トした。
Twitterは26日、ロシアとウクライナでの広告表示を一時停止したとツイ―トした。こちらは収益化阻止というより誤情報表示のリスクを回避するのが目的だ。また、フェデロフ氏によると、Twitterはロシアでの新アカウント作成を停止したという。
本稿執筆現在、Apple、Google、Netflixについての動きは特に報じられていない。
同氏は27日午前2時(現地時間)には「楽天のCEOとPayPalにもロシアへのサ―ビス停止をお願いした」とツイ―トした。添付された書簡の楽天への宛先はRakuten Europeの大塚 年比古社長になっている。
楽天の三木谷浩史氏は25日、ウクライナ国内のスマ―トフォンの97%にインスト―ルされているとするメッセンジャ―サ―ビス「Viber」とアプリ外の音声通話を無料にすると発表している。
●ロシア国内でも ネット上でウクライナ侵攻に抗議の声広がる  2/27
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対しては、ロシア国内でも抗議の声が広がっています。ロシア国内のNGOが「大統領への戦争終結の訴え」と題してインタ―ネット上で電子署名の呼びかけを26日に始めたところ、日本時間27日午前3時時点で、440の団体が賛同しています。
訴えの内容は「われわれは人間の尊厳のため、また命を救うために闘っている。戦争はその基本原則と相いれず痛みと苦しみを倍増させる人災で、われわれの長年にわたる努力が水泡に帰すことになる。政治的な争いを解決するための武力行使は非人道的であり、大統領には砲撃をやめて話し合いを始めるよう求める」というものです。
ロシアが軍事侵攻を開始した今月24日には、ロシア科学アカデミ―に所属する科学者をはじめ、国内外のロシア人科学者たちが連名で強い抗議を表す公開書簡をウェブサイトに掲載しました。
それによりますと、2000人以上が名前を連ねているということで「この致命的な一歩は甚大な人命の損失を招き、確立された国際安全保障体制の根幹を揺るがすものだ。この戦争に合理的な正当性はなく、ウクライナ東部の情勢を軍事作戦の口実にしようとする試みは信用できない」とプ―チン大統領の決定を厳しく批判しています。
そして「戦争によってロシアは国際的な孤立を余儀なくされた。科学研究は外国の仲間との全面的な協力なしには成り立たない。世界からの孤立はロシアの文化的、技術的な劣化をさらに進めることを意味し、将来の展望はない」として軍事行動の即時停止とともに、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重するよう求めています。
このほかフェイスブック上では「ロシアにいる同胞への呼びかけ」という意味のハッシュタグをつけたロシア語の投稿が相次いでいて、プ―チン政権に対する非難とウクライナへの支持を呼びかけています。
●ロシア大統領府サイトがダウン、ウクライナは「IT部隊」創設 2/27
ロシア大統領府のウェブサイトが26日、ダウンした。これに先立ち、ロシアのさまざまな政府機関や国営メディアのサイトがDDoS(分散型サ―ビス拒否)攻撃を受けていると伝えられていた。
ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相はこの日、ロシアのサイバ―攻撃に立ち向かうため、IT部隊を創設すると発表した。また、国際ハッカ―集団「アノニマス」も、ロシアにサイバ―攻撃を仕掛ける計画を明らかにしていた。
ウクライナでは23日、複数の政府機関サイトがアクセス不能に陥り、政府は大規模なDDoS攻撃が開始されたと明らかにした。
●ウクライナ軍事侵攻で露呈した「NATO」の体たらく 2/27
ヨ―ロッパでは新たな紛争の最前線が形成されつつある中、北大西洋条約機構(NATO)が効果的に対応できるのかどうか、あるいは、そもそも対応できるのかどうかさえも疑問視されるほど、リスクが高まっている。
ウクライナに侵攻し、迎合的なベラル―シに軍隊を配備したロシアは、突然、バルト諸国を含むいくつかのNATO諸国の国境まで軍事力を拡大している。
NATOにとって東側の国境防御が困難に
多くの専門家が予想しているように、ロシアがウクライナの占領、およびベラル―シの基地を維持することに成功した場合、ロシア軍はバルト海とポ―ランドの国境からスロバキア、ハンガリ―、ル―マニア北部まで広がり、NATOにとって東側の国境防御が著しく困難になる。
そして、リトアニアとポ―ランド間の長さ約60マイルの細い回廊だけが、ベラル―シのロシア軍と、通常弾頭あるいは、核弾頭を装着するミサイルが充満し、ヨ―ロッパ中枢に容易に発射することができるバルト海に面したロシア領カリ―ニングラ―ドとを隔てるものとなる。
「NATOのリスクレベルは、突発的に非常に高まった」と、ジャ―マン・マ―シャル・ファンド(GMF)のブリュッセル事務所を率いる元アメリカ政府高官、イアン・レッサ―氏は話す。「黒海、サヘル、リビア、シリアなど、ヨ―ロッパやその他の地域でロシア軍と衝突する可能性は危険であり、今後数年間は問題になるだろう」。
元イギリス外交官で、欧州改革センタ―(CER)で外交政策を担当するイアン・ボンド氏は、「これはNATOにとってすべてを変えるものだ」と見る。「ロシアの狙いは、ヨ―ロッパの主権国家であるウクライナを消滅させることだ。今、私たちはすべてを懸念する必要があり、再び(すべてに)真剣に取り組む必要がある」。
NATOはすでにロシアの軍拡に小規模に対応し、ロシアに最も近い加盟国に部隊と航空機を追加で派遣している。2月24日、NATOはさらなる不特定多数の派兵を決定し、またNATOの東側加盟国への武力配備に制限を設けたものの、ロシアが8年前にウクライナに侵攻しクリミアを併合した際に違反している、1997年にNATOがロシアと結んだ基本文書を最終的に廃止することについて真剣な議論が行われている。
NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、「ロシアの行動は、ヨ―ロッパと大西洋の安全保障に深刻な脅威をもたらし、地政学戦略的な結果をもたらすだろう」と述べている。「同盟の東側諸国に防衛目的で陸軍と空軍を追加配備し、海上戦力も追加配備している」。
NATOが忘れていたこと
NATOの東側にはロシア軍が配備されており、ヨ―ロッパの安全保障体制を再構築するためのロシアとの話し合いは、これまでとは異なる様相を呈している。
ロシアがクリミア半島を占領後の対応では多少の増加だったが、今回のロシアの新たな侵略に対応して軍事費を大幅に増加させ、軍隊、装備、航空機、さらにはミサイルを新たに恒久的に配備するとなると、過去30年間の同盟の比較的平和で繁栄し、自己満足していた状況に大きな打撃を与えることになるだろう。
「NATOは、気候問題やサイバ―攻撃など、その中核的な責任とはあまり関係のない、重要だが、よりファッショナブルなものばかりに目を向けていた」とGMFのレッサ―氏は話す。「しかし、世の中には冷酷な人間がいることを忘れていた。彼らにとって、外交政策は流血を伴うスポ―ツなのだ」。
NATOはすでに12年前の戦略構想を練り直し、10月1日に退任するストルテンベルグ氏の後任について議論を開始していたが、この問題は今や喫緊の課題となった。レッサ―氏は、「NATOはすでに、その存在意義についてより広く考える段階に入った」と語る。
しかし、元在欧米軍司令官であり、現在は欧州政策分析センタ―勤務のベンジャミン・ホッジス氏は、「さらに攻撃性を増したロシアを抑止するための本格的な取り組みは、簡単なものではない」と指摘する。冷戦後のヨ―ロッパには、重装備に耐えられない橋や鉄道も存在し、軍隊や装備を移動させるだけでも一苦労だからだ。
かつて、ドイツのフルダ峡谷は冷戦の戦略家たちにとって悩みの種だった。ワルシャワ条約機構によって戦車が東ドイツからライン川へ送られるのを防ごうと、アメリカ軍がこの地を厳重に警備していたからだ。今回懸念されている場所は、ポ―ランドとリトアニアを結ぶ狭い隙間である「スヴァウキ回廊」だ。ここが占領されれば、バルト三国はNATOのほかの国―から切り離されることになる。
この回廊は、ベラル―シとカリ―ニングラ―ドを切り離している。カリ―ニングラ―ドはロシアのバルチック艦隊の司令本部であり、ソ連崩壊時にロシアの飛び地となった場所だ。ブルッキングス研究所のロバ―ト・ケ―ガン氏は、ワシントンポスト紙のコラムに寄稿し、「プ―チンがベラル―シからカリ―ニングラ―ドに直接アクセスすることを要求する可能性は十分にある」と指摘した。
バルト諸国をNATOから切り離そうとしている
「しかし、それもまたロシアの新戦略の一部にすぎない。ロシアは、NATOがバルト諸国を保護できる望みはもうないことを示し、バルト諸国をNATOから切り離そうとしている」と同氏は書いている。
ボンド氏は、「ポ―ランドへの脅威は今や深刻化している」と語り、「アメリカはポ―ランドに2大隊を早急に配備すべきであり、バルト三国への配備も強化すべきだ」としている。
2016年、NATOはポ―ランドとバルト3国に大隊を配備することに初めて合意した。「抑止防衛体制の強化」として知られるこの大隊は、それぞれ約1100人の兵士で構成されており、戦闘力は高いが規模は小さい。そのため、長期間にわたりロシアの進出を食い止めるというよりも、トリップワイヤ(仕掛け線)のような役目を果たしてきた。
NATOは2014年、現在はトルコの指揮下にある「高高度即応統合任務部隊」も立ち上げた。NATO主権への脅威に対する短期決戦を想定して立ち上げられた同部隊は、約5000人の陸上旅団で構成されている。航空・海上・特殊部隊の支援により、30日以内にさらなる増援を配備できる体制となっている。
だが、より小規模な部隊は、基本的に実戦は未経験である。さらに同部隊が尖兵を務めるより大規模な応戦部隊も、ウクライナに侵攻したロシアの部隊のわずか4分の1に過ぎない。大規模な部隊は2002年に結成され、迅速に展開されることを意図されていた。だが、4万人の構成員はそれぞれ自国を拠点にしており、召集には時間がかかる場合がある。
またウクライナに武器を提供し、ロシアへの反撃や抵抗運動を応援するとのNATO加盟国の約束についても疑問があがっている。たとえNATOの兵士ではなく請負業者が輸送したとしても、空路、鉄道、陸路でウクライナに武器を提供しようとする試みは、ロシア政府によって妨害されたり阻止されたりする可能性がある。
それに、ロシア軍が国境の向こうで配備されていることを知りながら、あえて危険を冒して抵抗運動を支援しようとする国がはたしてあるだろうか。
総じて、新たな脅威はEU、およびNATOは防衛に関する協力をさらに深めるべきであるというロジックを強化するだろうと、レッサ―氏は言う。「両者は政治的な立場や信仰上の違いを乗り越えて関係を結び直すことになるだろう」と同氏は指摘する。
トランプ氏「復活」に対する懸念
経済制裁、サイバ―レジリエンス、エネルギ―安全保障、情報戦などといったNATOの得意分野をめぐってEUと協力することは、両組織にとって必ず有益となるだろうと同氏は言う。EUの27の加盟国のうち21はすでにNATOに加盟しており、スウェ―デンやフィンランドなどそうでない国も緊密な同盟国であるからだ。
「われわれにはアメリカの助けが必要だ」とボンド氏は言う。「だが、ヨ―ロッパの独立性とさらなる自主性の理念を放棄するべきではない」。ヨ―ロッパでは、アメリカのバイデン大統領が2024年に再選を果たせないのではないか、あるいは出馬を見送るのではないかという懐疑的な見方もある。代わりに、ドナルド・トランプ前大統領や、同氏のより孤立主義的で自国第一主義的な理念に共鳴する共和党の候補が就任するという懸念があるのだ。
「その場合、ヨ―ロッパはきわめて脆弱な立場におかれる。そのため、軍事費や効率性を増強し、実際の機能上のニ―ズを満たす必要がある」とボンド氏は言う。「これらはただの理想論ではなく、今すぐ必要なことだ」。
●ロシア軍ウクライナ侵攻が日本の食卓を直撃…「イクラ軍艦」が消える? 2/27
ロシア軍がウクライナ侵攻を開始したことで、日本の食卓にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
まずはパンやピザ、カップ麵、うどんなどの小麦加工品だ。ウクライナは、小麦の輸出が世界5位。“欧州のパンかご”と呼ばれる世界有数の小麦の生産地で、一方、ロシアの小麦輸出量は世界1位だ。2017/18年度のロシアの小麦輸出量は4142万トン(農林水産政策研究所)。経済複雑性観測所によれば、2019年のロシアとウクライナの小麦の輸出量は「世界全体の4分の1以上」を占めていたという。
日本の小麦は約9割が輸入で、ほぼアメリカ、カナダ、オ―ストラリアの3国に頼っているが、ロシアとウクライナの小麦が世界に出回らなくなれば高騰することは間違いなさそうだ。
また、アメリカ農務省(USDA)によると、ウクライナのトウモロコシの輸出量(2021/22年度)も約3050万トンで世界4位。ロシアは世界5位だ。日本はトウモロコシを家畜用飼料として9割世界から輸入しているため、国際的な飼料価格の増加の影響を受けることになるし、さらに小麦の高騰に加えて、コ―ンパンやツナマヨコ―ンピザも庶民の手に届かなくなるかもしれない。
そして、日本人がもっとも困るのはファミリ―の外食に欠かせない「回転ずし」だろう。国内ではサケマスが不漁で、イクラはここ5年で輸入品が7割程度まで増えている。逆にロシアのサケマスは豊漁で、寿司や丼もので人気のイクラはロシア頼みだからだ。
連邦税関庁(速報値)によれば、2021年のロシアから日本への水産物の輸出はイクラを主とした「魚卵・肝臓・白子」が金額ベ―スで58%増加している。「スシロ―」や「くら寿司」など大手回転ずしの「イクラ」の多くは、原産地にロシアと表示されている。ロシアからの輸入がストップになれば、回転ずしでイクラが回らなくなるかも?
●ウクライナ侵攻のニュ―スは、マスメディアを越えて世界を断片的に駆け巡る 2/27
ロシアによるウクライナへの侵攻のニュ―スが、ソ―シャルメディアを駆け巡っている。人―が投稿した現地からの写真や動画を含む小さな断片情報は、いまやマスメディアを越えて世界中で可視化され、歴史に刻まれるようになった。だが、それゆえの問題点も浮き彫りになる。
ロシアによるウクライナへの侵攻に関するニュ―ス記事を、2月24日(米国時間)の朝に何本も読んだ。しかし、その最初の記事を開くずっと前の段階で、その知らせはスマ―トフォン経由ですでに届いていたのである。
例えばTwitterは、ニュ―スメディアや政府当局者からの数多くのツイ―トをとりまとめて配信している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキ―大統領の「まだ良心を失っていないロシアのすべての人―に、今こそ街頭に出てウクライナとの戦争に抗議するよう求めます」というツイ―トなどがそうだ。
グル―プチャットに参加している友人たちは、キエフを脱出するクルマの様子を伝えるケ―ブルテレビのニュ―スが映る自身のテレビ画面の写真を投稿した。その後すぐ、その他のプラットフォ―ムからの通知も届き始めた。こうしてスマ―トフォンのホ―ム画面は、ウクライナ関連の情報でいっぱいになった。
可視化された断片情報
ご存知の通り、いまやほとんどの人はこのようにしてニュ―スに触れるようになっている。さまざまな場所やプラットフォ―ムから、小さな断片情報が集まってくるのだ。
しかし、同時に別の現象も起きていた。まったく異なる情報源からの情報を投稿する人が現れ始めたのだ。ロシアの情報を伝えるメディア『Meduza』のエディタ―のケヴィン・ロスロックは、航空機の飛行状況を確認できるアプリ「Flightradar24」のスクリ―ンショットを投稿し、ウクライナとベラル―シ上空を航空機が避けている様子を「戦争で生じた空の空白」として紹介していた。
これを受けてFlightradar24の利用者数は急増した。「普段の訪問者数は1日あたり300万ユ―ザ―ですが、数時間のうちに1時間あたり100万ユ―ザ―のペ―スに跳ね上がりました」と、Flightradar24の広報担当者は説明する。
また、ミドルべリ―大学教授のジェフリ―・ルイスは、Google マップのスクリ―ンショットをTwitterに投稿した。ウラジ―ミル・プ―チン大統領が「特別軍事作戦」を発表するほぼ同時刻に、ロシアのベルゴロドからウクライナ国境に向かう道路がロシア軍の車列で「渋滞」している様子だ。『ニュ―ヨ―ク・タイムズ』までもがこうした動きに加わり、ロシア軍がクリミア半島からヘルソン州に入る様子が記録された防犯カメラの画像を投稿している。
ソ―シャルメディアの利点と問題点
このように映像や画像が拡散されていく現象は、いまに始まったものではない。だが、世界規模の出来事に関する情報にこうしたかたちで触れると、そのぶんなぜか説得力が増したように感じられる。あたかもソ―シャルメディアによって、自ら情報源を探さなければならないことがわたしたちの脳に教訓として刻まれているかのようだ。
インタ―ネット時代が到来して人―の集中力が続く時間が短くなったという人もいる。だが、事態を把握するには複数の情報源から情報を収集しなければならないという教訓が、人―の脳に刻み込まれたことにはいくつかメリットもあるのだ。
もちろん、デメリットもある。最大のデメリットは、インタ―ネットに投稿される内容には不正確なものもあるということだ。ウクライナからの中継だというTikTokには、実際にはそうではないものもある。
それにロシア政府は、“偽情報の生成装置”のようなものだ。当局者からのメッセ―ジは、事態の一部しか伝えないものもある。そのなかで、目撃者からのツイ―トでようやく事態の全容がわかる場合もある。偽情報はインタ―ネットの疫病と化しているが、場合によってはソ―シャルメディアが現地からの情報を最も素早く拡散できる手段になることもある。
歴史はいかにつくられるのか
インタ―ネットでは、ときに現在進行中の状況に関する断片的な情報をとりまとめるような動きが見られるが、常にうまくいくわけではない。ウクライナで事態が動いた当初、Wikipediaの編集者たちの間では、「何が正しいのか」という論争が起きていた。
ある意味、これが健全な姿だろう。いまウクライナで起きていることの真実は、今後長い時間をかけて明らかになっていく。誰もができるだけ多くの情報源に当たるべきなのだ。それに共有するなら性急にではなく、まず内容の真偽を確認することも必要になる。
ジャ―ナリズムとは、歴史の草稿の第1稿を書く作業だと言われている。そして、歴史は勝者によって書かれていくとも言われている。だが、そうではない側面もあるのかもしれない。ひょっとすると、歴史はインタ―ネットという実体なき空間の中で書かれていき、それに注意深く接する責任はわたしたちが負っているのかもしれない。
●ウクライナ侵攻、世界はどこで道を間違えたのか 2/27
2022年2月24日、ウラジ―ミル・プ―チン大統領はテレビ演説し、そのなかで、「国際連合憲章第7編第51条に従い、ロシア連邦評議会の認可を得て、本年2月22日に連邦議会が批准したドネツク人民共和国(DNR)およびルガンスク人民共和国(LNR)との友好および相互援助に関する条約に基づき、特別軍事作戦を実施する決定を下した」と語った。
さらに、「その目的は、8年間キエフ政権によって虐待や大量虐殺にさらされてきた人―を保護することだ。そしてこの目的のために、我―はウクライナの非軍事化と非ナチ化をめざし、ロシア連邦の市民を含む一般市民に対して数―の血生臭い犯罪者たちを裁きにかけるつもりだ」と語ったのである。
この発言のなかで、「非軍事化」と「非ナチ化」は意味深長なものである。「非軍事化」は単に武装解除するというものではない。北大西洋条約機構(NATO)を1ミリでも東方に拡大させないために、ロシア軍の力でウクライナのいまの軍事力を圧殺するということらしい。そのためには、ウクライナ軍とその軍備を撤廃し、ウクライナは明らかに、ロシアと西側の間の非武装緩衝地帯のようなものにしなければならないという決意が込められている。いまの政権を、NATO加盟を永久に放棄する政権に交代させなければならないということでもあろう。ただ、「領土を占領することは考えていない」とした。
もう一つの「非ナチ化」という概念はわかりにくい。Entnazifizierungというドイツ語をロシア語化したもので、戦後のドイツとオ―ストリアの社会、文化、報道、経済、教育、法学、政治からナチスの影響を排除することを目的とした一連の措置を指す。なぜプ―チンがそんなことを言い出したかは後述するが、彼自身の言葉で言えば、「NATOの主要国は、自分たちの目的を達成するために、ウクライナの極端なナショナリストやネオナチを支援している」という。そのナショナリストやネオナチをつかまえて裁こうというのである。
そして、いま現実にロシアに全面侵攻が行われ、ウクライナによる抵抗がつづいている。
筆者は、法律に知悉(ちしつ)しているプ―チンが全面的侵攻に出るとは考えてこなかった。24日の演説を聞いても、その思いは変わらなかった。だが、そうではなかった。「熊が来る」という米国政府の予測が現実になったことになる。筆者の不明を恥じなければならない。それだけでなく、読者にも謝罪しておきたい。
ただ、「ロシア悪し」という世界中に広まりつつある声に対して、むしろ冷静になることを求めたい。彼の暴力は非難に値するが、それだけでは問題は解決しない。どこで世界は「道を間違えたのか」を探ることでしか、この問題を本質的なところから理解することはできないと思う。
リヴィウについて
「非ナチ化」というプ―チンのとらわれている想いを理解するためには、「ユダヤ人問題」を知らなければならない。そこで、最近、名前を聞く機会が増えているリヴィウという都市の話からはじめたい。
ウクライナの首都キエフから大使館機能をここに移す動きが広がり、日本の報道機関もこの地からウクライナ情勢を伝える機会が増えている(2022年2月18日付の「ワシントン・ポスト」を参照)。だが、リヴィウそのものへの説明がないために、この地を理解すれば、ウクライナ問題の本質に近づけることを多くの日本国民は知らない。
筆者は2014年に上梓(じょうし)した『ウクライナ・ゲ―ト』の序章の冒頭部分でつぎのように書いておいた。
「ウクライナという国家は本書の前扉に示したように、東はロシア、西はポ―ランド、ル―マニアなど、北はベラル―シ、南は黒海に挟まれた地域である。ウクライナの歴史を理解するには、三つの言語ごとに若干異なる名前をもった場所に注目するとわかりやすいかもしれない。それは、ウクライナ語でリヴィウ(Львів)、ロシア語では、リヴォフ(Львов)、ポ―ランド語ではルヴォフ(Lwów)と発音される。つまり、それぞれの国家がこの場所を支配下に置いたことがあり、わが領土として自国語で呼び習わしてきたことになる。この場所はカルパチア山脈の西側にある。その意味で、リヴィウはその東側の地域と宗教も習俗も大きく異なっていた。」
にもかかわらず、1945年2月のヤルタ会談で、リヴィウのウクライナへの帰属が決められる。当時のリヴィウの人口構成比からみると、この地はポ―ランド領となっていたほうが自然であったように思われる。だが、国際連合創設を最優先に考えていたフランクリン・ル―ズベルト米大統領はソ連のスタ―リンに安易に妥協し(なお、このとき、ソ連のスパイによってル―ズベルトの考えはスタ―ンに知られていた)、それがリヴィウに住む多くの人―に西側から見捨てられたという心情をかきたてたのだ。何しろ、リヴィウから西に100kmもクルマを走らせれば、ポ―ランドのプシェムィシルに着くのであり、リヴィウの人―を焚きつけて親ロシア政権の打倒を画策することは簡単なことだったのである。
問題はそれだけではない。「閑話休題」に書いたように、この地にはユダヤ人が多く住んでおり、彼らのなかには、ソ連の社会主義から、ナチスの迫害から身を守るために、米国などへの移住を余儀なくされた人―が多くいたのである。そうした米国移住者の子孫から、ヴィクトリア・ヌ―ランド国務省次官など、いわゆる「ネオコン」としていまの国際政治を揺るがす政策を意図的にとっている者が生まれることになるのだ。
同時に、ユダヤ人を迫害・殺害したナチスから彼らを解放するため、ソ連軍の数百万人もの血が流されたことも指摘しておかなければならない。
「何か大切な処で道を間違えた」という反省
さだまさしの「風に立つライオン」に「やはり僕たちの国は残念だけれど 何か大切な処で道を間違えたようですね」という歌詞が出てくる。たぶん、このヤルタこそ、「何か大切な処で道を間違えたようですね」という場所にあたるようにみえる。それは奇(く)しくもクリミア半島に位置している。
ヤルタ会談でウクライナに加えられたリヴィウ以西はウクライナのなかでも貧しい地域として放置されてきた(詳しくは拙稿『ウクライナ2.0』)。そうしたなかで、親欧米反ロシアの感情が芽吹き、それを刺激したのが米国のネオコン(新保守主義者)であった。そうしたナショナリズムの扇動を主導したのがヴィクトリア・ヌ―ランド国務省次官補(当時)である。拙稿『ウクライナ・ゲ―ト』において、つぎのように記述しておいた。
「それでは、2014年2月以降、何が起きたのかをもう少し詳しく考察してみよう。それを示したのが巻末表である。時系列的にみると、1月から武力衝突が繰り返されていたことがわかる。おそらく「マイダン自衛」が徐―に武力を整えていった時期と重なる。英国のフィナンシャル・タイムズと提携関係にある、比較的信頼できるロシア語の新聞「ヴェ―ドモスチ」が2月20日付で伝えたところによると、ウクライナ西部のリヴォフ市長は、三つの地区警察署の武器保管庫が襲われ、約1500もの銃火器が持ち出されたことを明らかにした。リヴィウ(リヴォフ)の南東にあるイヴァノ・フランキ―ウスクでは、武器が自衛組織との共同管に移行したという。この時点で、行政庁舎が自衛組織によって占拠されていたのは、ル−ツィク、リウネといった北西部の都市、イヴァノ・フランキ―ウシクである。リヴィウの場合、行政庁舎のほか一部の警察署も占領されていた。」
当時に有力となったのが、政党「自由」であり、その党首オレグ・チャグニボクの写真をご覧いただきたい(下参照)。インタ―ネット上で入手できる画像をダウンロ―ドしたものだが、左手を高く掲げて党の敬礼をする姿を見ると、ヒトラ―を連想しないわけにゆかない。
こうしたナショナリストたちは、ナチスを思わせる暴力集団と化し、彼らが民主的な選挙で選ばれて大統領となったヴィクトル・ヤヌコヴィッチを武力で追い出したのである。当時の雰囲気を知ってもらうために以前、紹介したのが以下のBBCの番組であった。
実際に暫定政権ができると、「自由」のメンバ―が入閣した。当初、アレクサンドル・スィチ副首相、イ―ゴリ・シュヴァイカ農業政策・食糧相、アンドレイ・モフニク環境・天然資源相、イ―ゴリ・チェニュ―フ国防相の4人が閣僚に任命されたのだ。このとき、首相になったアルセニ―・ヤツェニュ―クは駐ウクライナ大使やヌ―ランドの指示を受けていたことは間違いない。
こうした事情から、プ―チンはウクライナでナショナリストやネオナチによるク―デタ―が引き起こされたとみなしている。もちろん、これはプ―チンの思い込みではない。たしかに、2013年から2014年当時、こうしたナショナリストが「大活躍」していたことは事実だ。にもかかわらず、欧米諸国は彼らの横暴を赦(ゆる)し、プ―チンのクリミア併合だけを批判した。その後、どうなったかというと、ナショナリストらが軍に吸収されただけでなく、民兵や義勇兵として残存し、ウクライナ国内で隠然たる勢力となってしまったのである。そのため、2015年のいわゆる「ミンスク合意」を履行しようとしても、彼らの強い反発が予想されることから、実際には何もできない状態が7年間もつづいてしまったのである。
しかも、こうしたウクライナの政情を米独仏も放置していた。米国に至っては、バイデン政権になっても駐ウクライナ大使さえ任命しないまま、ウクライナに関心を示そうとはしなかった。
もう一つの「大切な処で道を間違えた」という事実
つぎに、プ―チンが持ち出した国際連合憲章第7編第51条について知る必要がある。ここに、もう一つの「大切な処で道を間違えた」という事実が関係しているからである。
この条文には、つぎのように書かれている。
「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が行われた場合には、安全保障理事会が国際の平和および安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的または集団的自衛の固有の権利を損なわないものとする。この自衛権の行使において加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告されなければならないが、この憲章に基づく安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとる権限および責任に何ら影響を与えるものではない。」
1999年3月、北大西洋条約機構(NATO)はセルビア人によるコソボ・アルバニア人の「民族浄化」を食い止めるため、ユ―ゴスラビア共和国への空爆作戦を開始した。このとき、NATOが持ち出したのがこの第51条であった。といっても、これは、国連加盟国への武力攻撃に対する自衛権の行使を認めたものであり、コソボに適用することには疑義があった。
国連安保理は1998年3月に第7編を発動し、武器禁輸を課してコソボ情勢に対処していた。武力行使に至る過程で、NATOのソラナ事務総長は、「コソボにおける人道的災害の危険性」を理由に、想定される介入が正当化されることを明言する。
1998年10月に行われたソラナとNATO常設代表との会合に基づき、ソラナは「人道的惨事が続いていること」「コソボに関して明確な強制措置を含む別の国連事務局決議が当面の間期待できないこと」「コソボの状況の悪化とその規模は地域の平和と安全に対する深刻な脅威を構成すること」を指摘する。そして、NATO安全保障総局は、「同盟国は、コソボにおける現在の危機に関する特定の状況には、同盟国が威嚇し、必要であれば武力を行使するための正当な根拠があると考える」と結論づけたのである。
当時、ロシアはこうしたNATOの独断的結論に猛反対した。にもかかわらず、NATOは空爆を断行した。これを強く主張したのは、マデレ―ン・オルブライト国務長官である。彼女こそ、伝統的な地政学の考え方を米ソ冷戦時代に適合させて、「ユ―ラシアの征服」という野望をいだきつづけてきたズビグニュ―・ブレジンスキ―の文字通りの弟子だ。ユダヤ系の彼女もネオコンと言えよう。
このNATO空爆こそ、もう一つの「大切な処で道を間違えた」事件と言えまいか。だからこそプ―チンは、24日の演説でつぎのようにのべている。
「まず、国連安全保障理事会の承認なしに、ヨ―ロッパの中心で航空機とミサイルを使ってベオグラ―ドに対する流血の軍事作戦が実施された。数週間にわたり、都市や生命維持に必要なインフラを継続的に爆撃した。」
国連憲章で自衛権を規定した第51条については、その後、米英軍などによるイラク侵攻の際にもこの第51条との関連が問題になる。プ―チン演説では、「その後、イラク、リビア、シリアという順だ」とされている。もちろん、在外国民を保護するという概念を第51 条の枠内に収めるのは無理がある。にもかかわらず、そうした論理を駆使して、空爆や侵攻を繰り返してきたのは欧米諸国だとプ―チンは考えているのだ。
ゆえに、プ―チンに言わせれば、同じ論理に基づいて、今度はロシアが「第51条に従い」「本年2月22日に連邦議会が批准したドネツク人民共和国(DNR)およびルガンスク人民共和国(LNR)との友好および相互援助に関する条約に基づき、特別軍事作戦を実施する決定を下した」ということなる。
読者への謝罪と今後について
実は、2月19日、筆者の尊敬するジャ―ナリストでこのサイトにおける考察にも多大な影響をあたえている、ユ―リヤ・ラティニナは毎週放送しているラジオ番組の冒頭、「正直なところ、プ―チンが攻撃を決断するとはずっと思っていませんでした。昨日の夜から、私は完全にショックを受けている。尊敬する聴衆に謝らなければならない。これは非常に重大なことです」と語った。筆者も彼女と同じ言葉を繰り返したい。
彼女の発言にしたがっていれば、もう少し早く方向転換できたかもしれない。それでも、事態を見守ることでしか対応できなかった。まだどこかにプ―チンの抑制力に期待していたからだろう。
筆者自身にとって、「大切な処で道を間違えた」と言わざるをえないのはどこだったのか。2008年8月にグルジア(現ジョ―ジア)で起きた「五日間戦争」に惑わされたせいかもしれない。いまでは、ロシアがジョ―ジアに開戦したという誤報が真実のように日本のマスメディアに飛び交っているが、彼らは事実を何も知らない。
当時、米国務省でグルジア担当だったマシュ―・ブライザ(Matthew Bryza)は当時のミヘイル・サ―カシュヴィリ大統領に何度もロシアの挑発に応じないように求めていた。しかし、サ―カシヴィリはNATOからの支援を信じて、大砲を撃ちこみはじめたのだった。
今回の場合、「ロシアのウクライナ侵攻計画」なるものをリ―クしたことで、むしろ米国がロシアを挑発しているように感じられた。なぜなら何度も書いてきたように、ヴィクトリア・ヌ―ランド国務省次官がそのリ―クの背後にいると思われたからである。この見立てが間違っていたのかもしれない。最初からプ―チンは断固たる決意であったのだろう。
そんな筆者だが、何も知らずに一知半解な虚言を吐くのではなく、徹底した考察から世界の変化を精緻に分析しつづけていきたい。それは、ラティニナの反省と出直しに呼応するものでもある。
今回の考察がそうした姿勢を貫くための最初の一歩になりえていることを願っている。
●ウクライナ軍とロシア軍 首都キエフ周辺などで激しい戦闘続く 2/27
ウクライナに軍事侵攻したロシア軍は、首都キエフの周辺など各地で攻勢を強め、抵抗するウクライナ軍との間で激しい戦闘が続いていて、死傷者がさらに増えることが懸念されます。ロシア政府は26日、ウクライナ側に停戦交渉を拒否されたと主張して部隊の進撃を再開し、ロシア国防省は「すべての部隊が全方向で攻勢を展開するよう命令を受けた」としています。
アメリカ国防総省の高官は26日、国境に集結していたロシア軍の大規模な戦闘部隊のおよそ半分がウクライナ国内に投入されたという分析を明らかにしました。
そのうえで、首都キエフ周辺と北東部のハリコフ周辺で、ウクライナ軍が激しい抵抗を続けているとしています。
キエフでは、中心部にある高層アパートがロシア軍によるとみられる攻撃を受けたほか、近郊の石油関連施設などで2回の大きな爆発が起きたと伝えられています。
また、東部のドネツク州ではロシア軍の砲撃で市民19人が死亡したと伝えられているほか、ギリシャ国籍の市民10人がロシア軍の空爆で死亡し、ギリシャ政府がロシア大使に抗議しました。
ウクライナの保健相は26日、これまでに198人が死亡したと発表していますが、死傷者はさらに増え続けているもようです。
こうした中、アメリカ政府がウクライナに対し、対戦車ミサイルなど、最大で3億5000万ドル、日本円にしておよそ400億円の追加の軍事支援を行うと発表したほか、これまで武器の供与には慎重だったドイツ政府も携帯型の地対空ミサイル500基などをウクライナ政府に供与すると発表しました。
今後、首都キエフをめぐるロシア軍とウクライナ軍との攻防が激化するとみられる中、市民などの犠牲者がさらに増えることが懸念されます。
●プーチン指揮下ロシアの恐ろしすぎる“プロパガンダの実態”と内部の“希望” 2/27
ついにウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったロシア。2022年の日本において「戦争」は非現実的な事態だ。国境を接する国が起こしたこととはいえ、リアリティを感じられずにいる人も多いのではないだろうか。
しかしロシア軍は首都キエフの陥落を目論み、ウクライナに多方面から侵攻している。26日、ウクライナ保健省は子ども3人を含む民間人198人が死亡、1115人の負傷者が出たと公表した。軍の被害も甚大だ。ウクライナ大統領府は、ロシア軍の3500人が死亡し、200人が捕虜になったと伝えている。ウクライナ側の被害の全体像はいまだみえていない。
いま、ロシア国内はどういう状況なのか。モスクワの在留邦人に取材すると、「まるで太平洋戦争中の日本のような状況」になっているという――。
「神の祝福を!」ロシアが始めたプロパガンダ
2月17日、ウクライナ情勢が危機的な状況にあることを、世界中の人々がようやく現実問題として捉え始めた。ウクライナ国防省は同日、東部ルガンスク州で子供20人を含む38人がいた幼稚園が親ロシア派の攻撃を受け、職員3人が怪我をしたと発表したからだ。欧米諸国はこれを強く非難。ロシアのあまりに強硬な姿勢に、SNSにはいろいろな言語で批判が投稿されていた。
しかし同時期、ロシアメディアはすでに「ロシア側が被害を被った」との報道を始めていた。
「17日に親露派が攻撃されたと報じられ、18日には『ロシア側に避難するように』との政府声明が出されました。どこまで事実なのかはよく分からない部分もあるのですが、ロシアとしては、『追い込まれ始めざるを得なかった戦争』というストーリーを描いているように感じました」(大手紙国際部ロシア担当記者)
その後の2月24日、ビデオ声明でプーチン大統領は開戦をこう宣言する。
《ドンバス地域(ウクライナ東部)の人々(親ロシア派)は、ロシアに助けを求めました。そして、私は特別な軍事作戦を行うことを決定しました。キエフ政権から8年間、虐待・虐殺(ジェノサイド)された人々を保護する目的であり、ウクライナを非軍事化および非武装化し、ロシアを含む平和を願う人々に対して数々の血なまぐさい罪を犯した人々を裁判にかけることを目指します》
同日、プーチン大統領の宣言に前後して、ロシア軍はウクライナ侵攻を開始。ロシア政府のプロパガンダ紙ともいわれる「RT(旧・Russia Today)」は、色めき立った。
ロシア軍の戦車が侵攻する様子を「We have been waiting for this for 8 years!(この8年ずっと待っていた!)」「God bless you guys!(あなたに神の祝福を!)」などとテロップを付けた動画を配信。プーチンの決断を支持する動画は、多くのロシア国民の目に触れたことだろう。
開戦のこの日から今に至るまで、テレビでも戦争を支持する内容が流され続けているという。モスクワに住む30代の邦人男性はこう漏らした。
国民を“洗脳”「テレビや新聞は異常」
「モスクワの街は一見穏やかですが、至る所で老若男女が戦争について話しています。雰囲気は暗い。でも、テレビや新聞は異常です。ロシア国営放送は、延々とウクライナ関連のニュースを放送していますが、どれも侵攻を正当化するようなものばかり。戦争の目的を『ジェノサイドからの保護』と話したプーチンの『宣戦布告』は、もう何度流されたかわからず、テレビを見ていると頭がおかしくなりそうになります」
前出の大手紙国際部ロシア担当記者もこう語る。
「ロシア軍にも相当数の死者が出ているはずです。海外メディアでは3500人以上が死亡したとも報じられています。しかし、国内では死者数などは報じられていません。自ら情報を集めないと『洗脳』されてしまうのがロシアなんです」
国を掌握した情報統制とプロパガンダ
ロシアはこれまで、こうしたプロパガンダと情報統制によって国内をまとめ上げてきた。2014年のクリミア併合の際には、ウクライナ情勢をめぐる強硬姿勢によってプーチン大統領の人気が爆発的に上がり、支持率は90%を超えた。
「ロシア政府の統計は恣意的な操作がされている可能性が高くあてになりませんが、これは信頼のおける調査機関『レバダセンター』による統計なんです。同機関は政府と距離があり“スパイ認定”もされているほどです。そんな機関がプーチン大統領の支持率を90%と出してきた。これは極めて当時の実態に近い数字だったと考えられます」(前出・大手紙国際部ロシア担当記者)
しかし徐々に支持率は落ち、2020年夏頃にレバダセンターが発表したプーチン大統領の支持率が60%を切った。
「これまでの欧米各国の制裁による経済成長の鈍化や、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからなかったことから支持が低迷し始めたんです」(同前)
それでも支持率は十分高いように思えるが、情報統制が敷かれた近年のロシア国内では“異常事態”だった。この一因となったのがSNSの隆盛だ。
「ロシアでも日本同様に、若い世代を中心にTwitterやInstagramなどのSNSの利用が広がり、自ら国外の情報を取りに行ける人が増えているんです。今回も、戦争が始まり、すぐにTwitterのトレンドで1位となったのは『нетвойне(ニェットバイニェ)』。つまり『戦争反対』でした。
『ウクライナに謝りたい』という書き込みも目立ちます。世界的に著名な各界のロシア人らも、表立ってプーチンの批判はしていませんが、『戦争が早く終わるように』といった間接的に戦争を批判する投稿をしています」(同前)
しかしながら、いまなお国内では政府を批判する声をあげにくいというのも事実だ。開戦2日足らずで、ロシア当局は全国50都市以上で、反戦デモなどに加わっていた1700人を超える身柄を拘束しているとも報じられている。
戦禍のなかで“変わる可能性”が芽生えている
前出の国際部記者はこう解説する。
「テレビや新聞しか見ない高齢の世代を中心に、いまだプーチン大統領の支持層は厚い。実際、レバダセンターの昨年末の調査で、ウクライナ情勢の悪化の責任がアメリカやNATOにあると答えたのは50%と最多。ウクライナに責任があると答えた人は16%、ロシアに責任があると答えた人は僅か4%でした。
しかし、今回ばかりは若い世代を中心に反戦の機運が広がっているのを確かに感じます。レバダセンターの調査などの客観的なデータはありませんが、国民の半数以上は戦争反対なのではないでしょうか。ウクライナへの侵攻はあってはならない惨事です。ですが、戦禍のなかで、内側からロシアが変わるきっかけになる可能性が芽生えてきている気がします」
そして、最後にこうも語った。
「ウクライナとロシアは人種も一緒で、親族が両国にまたがっている家族は数え切れません。一刻も早く事態が落ち着くことを祈っています」
25日、ウクライナはロシアに協議を求め、ロシアもそれに応じる構えをみせていた。しかしBBCによると、26日にウクライナ大統領府が「ロシアが示した停戦条件が、降伏を強いるものだ」とロシアとの協議を拒否。一時停止していたロシア軍主力部隊の侵攻が再開した。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「世界は長期戦に備えなければならない」と発言している。この戦争の先行きは不透明さを増すばかりだ。
●ドイツ、ウクライナに武器供与を発表…消極姿勢から方針転換  2/27
ドイツ政府は26日、ウクライナに対し、対戦車砲1000門と携行式地対空ミサイル500発を提供すると発表した。武器の直接供与はウクライナ情勢の緊張をかえって高めるとして消極的だったが、ロシアの軍事侵攻を受けて方針を転換した。
ドイツが紛争地への武器供与に踏み切るのは2014年にイスラム過激派組織「イスラム国」対策としてイラク・クルド自治政府に提供して以来。ショルツ首相は「ロシアの侵攻は冷戦後の国際秩序を脅かすものだ。ドイツはウクライナの側に立っている」と説明した。独政府の広報担当者によると、エストニアとオランダから求められていたドイツ製武器のウクライナへの供与も承認した。
米政府もウクライナに対して、3億5000万ドル(約400億円)規模の軍事支援を行うことを発表している。
●ウクライナ情勢を受けトゥトベリーゼ氏が他国コーチに電撃移籍浮上 2/27
フィギュアスケート女子のカミラ・ワリエワ(15=ロシア)を巡るドーピング問題で渦中にあるエテリ・トゥトベリーゼ・コーチ(48)が、ウクライナ情勢を受けて他国コーチに電撃移籍する可能性が浮上し、日本も有力候補になりそうだ。
ロシアメディア「MKスポーツ」は、同国によるウクライナ侵攻を受けてスポーツ界でロシア勢の締め出し≠ェ始まっていると指摘。今後の展望について、RMAビジネススクールの責任者でスポーツ経営学部の学部長であるキリル・クラコフ氏の見解を報じた。
「短期的に見れば、ロシアのスポーツ界は大変なことになっている。最初の一歩はすでに踏み出され、やがて連鎖反応が起こる。すべての国際連盟や協会は、我々をスポーツから排除し、契約を破棄するだろう」と指摘。ロシア勢がスポーツ界の公式大会から次々と出場を禁じられるとの見通しを示した。
クラコフ氏はそれによってまず起きるのが、仕事上で国籍は関係ない指導者の流出と分析。「もちろん最高のコーチたちが外国の連盟で働きに行くようになる。たとえば、エテリ・トゥトベリーゼは競合国に移る可能性が非常に高い」との見通しを示した。トゥトベリーゼ氏は北京五輪で教え子のシェルバコワが金メダル、トルソワが銀メダルを獲得するなどフィギュア界で現在最も勢いのある指導者。働き口を求めて他国へ移籍する動きが出ているのだ。
トゥトベリーゼ氏は結果至上主義のため強豪国への移籍となりそうだが、米国ではワリエワを巡るドーピング問題で批判が根強い。そうなると、フィギュア大国の日本などが有力候補になりそうだ。
フィギュア界でまさかのトゥトベリーゼ・ジャパン≠ェ誕生するのか。その動向から目が離せなくなってきた。
●中国の学者有志が戦争反対の声明発表→まもなく削除され閲覧不能に 2/27
ロシア軍によるウクライナへの侵攻を巡り、中国の複数の歴史学者が26日午後、ロシア政府とプーチン大統領に対し戦争の停止を呼びかける声明を、中国のSNSで発表した。中国政府はロシアの軍事行動を侵攻とは認定しておらず、北大西洋条約機構(NATO)の拡張に反対するロシアの立場にも支持を表明している。政府の姿勢とは一致しない学者らの提言は、まもなく削除され、閲覧不能になった。
「ロシアのウクライナ侵攻と私たちの態度」と題した声明を発表したのは、南京大学の孫江教授ら歴史学者5人。「さまざまな意見がある中で、私たちも声を発する必要を感じた」としたうえで、「ロシアがウクライナに対して起こした戦争に強く反対する。ロシアにいくら理由があっても、武力による主権国家への侵攻は既存の国際安全保障システムを破壊するものだ」と批判した。
さらに、孫氏らは「ウクライナ国民の国を守る行動を断固支持する」とし、ロシア政府とプーチン大統領に対し「戦争を停止し、交渉で紛争を解決するよう強く呼びかける」と求めた。
王毅(ワンイー)国務委員兼外相は26日、中国外務省のウェブサイトでウクライナ問題に対する中国の基本的な立場を発表。「現在の情勢は見たくないものだ」として対話による解決を促す一方、「NATOが東へ拡大している状況下で、ロシアの安全保障面での正当な訴えは当然重視され、適切に解決されるべきだ」と、ロシア寄りの姿勢もにじませた。中国政府は、ロシアの行動が侵略にあたるかどうかについても、「我々は結論を急がない」(華春瑩外務省外務次官補)と言及を避けている。
声明は、中国政府の姿勢については論評していないが、「インターネットサービスの管理規定に違反している疑いがある」との理由で間もなく削除された。
孫氏は朝日新聞の取材に対し ・・・
●ウクライナ侵攻3日目、首都キーウの抵抗続く 西側の対ロ制裁と支援拡大 2/27
ロシアによるウクライナ侵攻開始から3日目の26日、首都キーウ(キエフ)への攻撃は続いたが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は政権を維持し、徹底抗戦を国民に呼びかけると共に、国際社会の支援を要請している。この間、西側諸国は国際決済ネットワーク「SWIFT」からロシアの一部銀行を排除し、ロシア中央銀行の外貨準備を規制するなど金融制裁の強化を決定。さらに、ウクライナへの金融支援と武器供与支援も拡大する方針を示した。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍は首都キーウのほか、南部オデーサ(オデッサ)と北東部ハルキウでロシア軍と戦闘を続けていると説明。「占領軍はこの国の中枢を封じ込めようとしたが、私たちはその計画をくじいた」と述べた。
一方でロシア軍はキーウ包囲作戦を進めており、市街地への爆撃も続いた。政府と市当局は住民に、夜間外出禁止と灯火管制を指示。さらに、28日朝まで屋内に留まるよう呼びかけている。
キエフ近郊のヴァシルキウでは、ロシアのロケット砲が石油貯蔵所を攻撃したという複数の情報が相次いでいる。
地元メディアによると、ヴァシルキウ市のナタリア・バラシノヴィッチ市長とウクライナ内務省のアントン・ジェラシェンコ顧問が被弾を確認した。
ソーシャルメディアに投稿された映像では、ターミナルから巨大な炎が上がる様子が見える。ただしBBCは映像の真偽を検証していない。
同日未明にはキーウ南西部で高層の集合住宅の一部が破壊された。近くにはジュリャーヌィ国際空港がある。キーウ南西部には同日未明、ミサイル2発が撃ち込まれたという。爆撃された高層集合住宅では、少なくとも5階分が被害を受けている。当局によると、死者は出ていないもよう。
ウクライナのヴィクトル・リヤシコ保健相によると、これまでに民間人と兵士が計198人死亡した。この中には3人の子供も含まれる。国連によると過去48時間で12万人以上が国外に避難した。
一方でロシアは、自国側に死者が出ているとは認めていない。
●ゼレンスキー大統領 “ロシアを国際司法裁判所に提訴” 2/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、「ウクライナはロシアに関する書面を国際司法裁判所に提出した。ロシアは大量虐殺の概念を操作して侵略を正当化した責任を問われなければならない」とツイッターに投稿し、ロシアを提訴する手続きを行ったことを明らかにしました。
その上で「われわれはロシアによる軍事行動を今すぐやめさせる緊急決定を行うよう、国際司法裁判所に要請している」として、関連する審理が来週にも始まることに期待を示しました。
●ウクライナ、停戦交渉に合意 ロシアは「核」ちらつかせ無条件降伏要求か  2/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、ベラルーシとの国境付近でロシアとの停戦交渉に応じる意向を示した。ロシアのプーチン大統領は27日、米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)側が攻撃的な発言をしているとして「核抑止力部隊」を厳戒態勢に移行させるようショイグ国防相らに命じた。核兵器の限定的な使用をちらつかせて、米欧諸国やウクライナを揺さぶる狙いとみられる。
第2都市ハリコフで激戦
ロシア軍は27日、東部にある第2の都市ハリコフに侵入し中心部で激しい戦闘が起きたが、ハリコフ州知事は「敵を撃退した」と明らかにした。現地メディアが伝えた。
26日夜には、ハリコフにあるガス輸送管や首都キエフの石油基地がロシア軍の攻撃を受けた。ロシア国防省はハリコフ郊外でウクライナのミサイル部隊471人が投降したと発表したが、ウクライナ政府は「偽情報」と否定している。
ハリコフは人口140万。軍需など製造業が盛んなため、ロシアの標的にされると懸念されていた。キエフではウクライナ軍の対戦車ミサイル攻撃や市民の抵抗でロシア軍が押しとどめられているもようだ。
避難民は36万8000人に
ウクライナ非常事態省は27日、ロシア軍の攻撃によりハリコフやキエフなどで新たに民間人10人余りが死亡したと明らかにした。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、ウクライナの避難民が36万8000人に上ったと発表した。
ロシアのペスコフ大統領報道官は27日、停戦交渉を行うロシア使節団がベラルーシ南東部ゴメリに到着したと発表。ゼレンスキー氏は交渉に前提条件は付けないとしている。ゼレンスキー氏は、これまでロシア軍の侵攻に協力しているベラルーシ以外での開催を求めていた。
ロシアはウクライナに対し、政権交代を含めた「無条件降伏」のほか、2014年のウクライナ南部クリミア半島の併合を承認するよう要求するとみられる。
●ウクライナ情勢に関する我が国の対応について 2/27
本日はウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行う予定でしたが、先方から、現在、緊急事態となったため電話を別の日程としたい旨連絡がありました。こうした緊急事態となったことを踏まえながら、改めて我が国は主権と領土、そして祖国と家族を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民と共に在ることを表明し、また、既に表明した1億ドル規模の借款に加え、困難に直面するウクライナの人々に対する人道支援として1億ドルの緊急人道支援を行ってまいります。今回のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす行為です。明白な国際法違反であり、断じて許すことはできず、厳しく非難いたします。今こそ国際秩序の根幹を守り抜くため、結束して毅然(きぜん)と行動しなければなりません。我が国として、このことを示すべく断固として行動してまいります。こうした暴挙には高い代償を伴うことを示してまいります。国際社会は、ロシアの侵略により、ロシアとの関係をこれまでどおりにしていくことは、もはやできないと考えています。日本は、G7各国、国際社会と共に、ロシアに対して更に強い制裁措置を採っていきます。その観点から、日本はプーチン大統領を含むロシア政府関係者等に対しても、資産凍結等の制裁措置を採ることを決定いたしました。そして今朝発出された欧米諸国による表明では、SWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの特定銀行の排除を始め、ロシアを国際金融システムや世界経済から隔離させるための措置を講ずることとされています。欧米諸国からこの声明への参加要請があり、日本もこの取組に加わります。他のG7諸国からは、これを強く歓迎する意向が示されています。こうした内容については、現地、松田大使を通じて、ゼレンスキー大統領にお伝えしていきたいと考えています。
SWIFTに関して日本が欧米より遅れて声明を出すこととなった理由について
遅れたとは認識しておりません。今回の事態に対して日本は、これまでもG7を始めとする国際社会と連携しながら対応してきており、そうした立場は変わりません。そして今回の声明については、欧州と米国の間で調整し、大西洋協力の枠組みで発出されたものであります。欧米諸国からこの声明への参加の要請が日本にもあり、日本もこの取組に加わっていくということを決定した次第であります。他のG7諸国からこれを強く歓迎する、こうした意向が表明されていると、今、申し上げたとおりであります。
北方四島での共同経済活動等の今後について
まず、北方領土問題については、次の世代に先送りせず、領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下、これまで粘り強く交渉を進めてきました。しかし、今回のロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みとして国際秩序の根幹を揺るがすものであり、これに対しG7を始めとする国際社会と結束して毅然と行動する必要があります。北方領土問題に関する我が国の立場や、御高齢になられた元島民の方々の思いに何とか応えたいという私自身の思いは、いささかも変わりありませんが、今この時のこの状況に鑑みて、この平和条約交渉等の展望について申し上げられる状況にはないと考えております。
ウクライナでの邦人の保護や退避の状況について
引き続き、現地においては、ウクライナ人の家族であるなど現地にとどまっている邦人の方がおられます。そういった方々の安全を確認して、そしてこの避難等を支援するために、現地においては松田大使等がキエフにおいて努力を続けているわけでありますし、政府としてもそれをしっかりと支えている、こういった状況にあります。努力を続けている最中ではありますが、状況は混沌(こんとん)としております。引き続きまして、現地としっかり意思疎通を図りながら、邦人の安全のために努力を続けていきたいと思います。政府としましても、チャーター機の準備など、現地の努力をしっかり支えるために万全の態勢で臨んでいるところであります。
SWIFTに関する我が国の対応について
あれは要するに、SWIFTというのは民間団体ですから、それに対して欧米においては、いろいろ調整して声明を表明したということですが、内容については日本政府にも是非参加の要請があり、その内容についての調整が行われているということであります。日本もそういった意思疎通を図りながら、そうした取組を支持する、加わっていく、こうしたことを決定したということであります。
ベラルーシへの制裁の検討状況について
様々な議論・検討は行っていますが、今日現在、具体的に決定したということはありません。引き続き情勢をしっかり把握して、適切に対応していきたいと考えています。
プーチン大統領以外の制裁対象となるロシアの閣僚について
プーチン大統領以外のロシア政府関係者に対して資産凍結の制裁措置を採ることを決定いたしました。当然プーチン大統領以外のロシア政府関係者も含まれるということであります。そして具体的にこのロシア関係者・団体を措置の対象にすること、いかなるロシア関係者・団体を措置の対象にするのか、対象をどうすることが適当であるか、こういったことについて、早急に、今、確認する作業を行っているというのが現状であります。早急に確認したいと思っています。 
●プーチン氏の対ウクライナ戦争を巡る7つの重大な疑問 2/27
ロシアのプーチン大統領によるウクライナへの襲撃は、第2次世界大戦後の欧州史における劇的な分岐点だ。そこからは軍事行動の端緒やタイミング、今後起こりそうな展開についての極めて重要な疑問が浮かび上がる。ジョージ・W・ブッシュ元米大統領による2003年のイラク攻撃、あるいはイラクの独裁者、サダム・フセイン元大統領による1990年のクウェート侵攻以来、今回プーチン氏が踏み切った攻撃ほど無謀な様相を呈したものは見られない。
侵攻から生じる疑問は以下の7点だ。
1 まず、なぜプーチン氏はウクライナ攻撃をバイデン米政権の期間中に選択したのか? ドナルド・トランプ氏が大統領だった時期ではなかったのか?
結局のところトランプ氏は、プーチン氏による「ロシアを再び偉大にする」計画の熱心な協力者だったようだ。わざわざプーチン氏にすり寄り、北大西洋条約機構(NATO)の同盟の意義も低下させた。NATOの弱体化は、かねてプーチン氏が目標としていたところだ。
おそらくはトランプ氏がプーチン氏と個人的に親しい間柄だったことから、当時の政権はロシアに対し幾分厳しい姿勢を取っていた。2018年、トランプ政権は約4000万ドル相当の殺傷兵器をウクライナ政府に売却することを承認。同政府はウクライナ東部でロシアの支援する反政府勢力と戦闘を繰り広げていた。さらに同年、トランプ政権はロシアの外交官60人を米国から追放した。ロシアに対し、英国に住むロシア人の元スパイを神経剤で暗殺しようとした疑惑が生じたことを受けての措置だった。
2 ここまでの内容から2点目の疑問が導き出される。バイデン政権による昨年8月のアフガニスタン撤収は、ウクライナをめぐるプーチン氏の意思決定にどの程度の示唆を与えたか?
間違いなく、アフガニスタンを見捨てるというバイデン大統領の決断には、米国側の撤退の意向が表れていた。それは選挙で選ばれたアフガニスタン政府内の協力者らをイスラム主義勢力タリバンからの過酷な扱いにさらす一方、米国のNATO同盟国もいら立たせた。これらの国々は米国による撤退の結果、同じくアフガニスタンからの撤収を余儀なくされた。なぜなら、米軍が供給する多大な空軍力や諜報(ちょうほう)のおかげで、各国の軍隊はアフガニスタンでの活動が可能になっていたからだ。
中国の国営メディアは、米軍によるアフガニスタンの放棄から台湾の命運に関する教訓が得られると指摘した。つまり米国は同盟国にとって、いざという時当てにならない友人であり、張子の虎だというわけだ。「カブール陥落で際立ったのは、米国の国際的なイメージと信頼の失墜である」。中国国営新華社通信は、そのような見解を示した。
昨年11月初め、米国によるアフガンからの完全撤退が大失敗に終わってからわずか2カ月余りのタイミングで、プーチン氏は大規模なロシア軍の移動を開始。ウクライナ国防省によると、9万人の兵士を同国との国境に向かわせた。
ロシアもNATOも実際のところウクライナのNATO加盟を望んでいないのは周知の事実だ。その理由はまさしく我々が今、ウクライナで目にしている状況に表れている。もしウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの侵攻によって北大西洋条約の第5条が発動する。そうなると今度は逆に、NATO主導の対ロシア戦争が引き起こされる。核を巡る対立に発展する可能性も出てくる。
NATO諸国にはウクライナでの戦争に兵士を送る意欲など毛頭なく、バイデン大統領も米軍の現地派遣は一切行わないと述べている。ただ同氏は一方で、仮に戦争が拡大し、ロシアが東欧のNATO加盟国を攻撃する事態になれば米軍が介入するとも明言した。ではなぜ今、戦争なのか? ひょっとするとプーチン氏は、今のうちなら侵攻しても罰を受けずに済むと感じているだけなのかもしれない。
しかし、プーチン氏が見かけの上で行った米国とNATOの弱体化に関する計算は、やや裏目に出た格好だ。バイデン政権はNATO提携国と緊密に連携しており、同盟自体も結束を維持。ロシアの侵攻に対する共同戦線を張っている。
一方、米国の情報機関は期待通りの活躍を見せた。同国の政策立案者に戦略的な警告を発し、プーチン氏がいつウクライナに侵攻してもおかしくないと正確に予測(侵攻を正当化する「偽旗作戦」を実施する公算が大きいとしていた)。また侵攻の目的が選挙で選ばれた現ウクライナ政権の転覆にあるとの見方も示した。バイデン政権によるこうした情報の公表も、効果を発揮している。
3 そこで別の疑問だ。プーチン氏が早い段階で軍事的勝利を収めた場合、それは03年の米国によるイラクでの「勝利」の再現になるのか? その後のイラクは手に負えない反乱が長期化、内戦状態に陥った。
その可能性は確かにある。マキャベリが500年前に指摘したように、「戦争は意図すれば始められるが、希望通りに終わるものではない」。
4 (プーチン氏が勝利した場合、)米中央情報局(CIA)はウクライナの反体制派への資金提供を開始するか? 13年にはシリアのアサド政権と戦う反体制派にそのような資金提供が行われた。
そのCIAによる取り組みは失敗し、アサド政権は事実上、ロシアが15年にシリア戦争に介入したことで救われた。果たしてCIAの努力はウクライナで実を結ぶだろうか?
5 米国によるプーチン氏の側近とロシア経済に対する厳しい制裁措置は、同氏にウクライナ政策を再考させるだけの効力を持つのか?
それは疑わしい。独裁主義の体制というものは概して、過酷な制裁であっても自らの国民を犠牲にすることでそれらを跳ねのけてしまう。現在の北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記や、1990年代のフセイン政権時代のイラクを見ればわかる。懲罰的な米国の制裁により北朝鮮とイラクの国民は貧困化が進んだが、それぞれの体制に十分な影響が及ぶことはなかった。
6 ウクライナ東部の分離派が支配する2地域についてプーチン氏が独立を承認した際、トランプ氏はこれを「天才的」な措置と評していたが、同氏はこの発言で多少なりとも政治的な代償を払うのだろうか?
トランプ氏による数多くの行動と同様、前代未聞の発言だ。前大統領が、現職の大統領の敵国に対する外交政策について、公然とその価値を貶めることなどかつてなかった。プーチン氏を「抜け目がない」「天才的」と評したトランプ氏のコメントは今月22日に発したもので、その後プーチン氏は軍をウクライナに侵攻させた。
トランプ氏に先導される形で、共和党の一派はプーチン氏の応援団と化した。プーチン氏を擁護する主要なリーダーの1人が、FOXニュースの司会者、タッカー・カールソン氏だ。同氏は先月、「なぜロシア側につくと道義に反し、ウクライナ側につくと道義的という話になるのか?」と疑問を呈していた。
カールソン氏は22日、自身の番組内で、プーチン氏擁護の姿勢をさらに強く打ち出し、大げさにこう問いかけた。当該のロシアの独裁者がこれまで「人種差別」を推奨したり、「キリスト教を弾圧」しようとしたことがあったか、合成麻薬フェンタニルを製造したり、犬を食べたりしたことがあったか、と。
カールソン氏は、プーチン氏とその取り巻きが過去に政敵を殺害したかどうか、風変わりな武器でそうした人々に毒を盛ったことがあるかどうか尋ねるのを忘れた。罪をでっち上げて彼らを投獄し、近隣諸国に侵攻し、ロシア国民への略奪を働いたことがあるかどうかは問わなかった。
7 最後に、長い目で見れば戦争の勝者は誰になるのか?
当然ながら、それは誰にも分からない。79年12月、当時のソ連は隣国アフガニスタンを楽々と侵攻したかに見えた。ところが、首都カブールをあっという間に制圧したにもかかわらず、10年後には同国から撤退。これにより、ソ連崩壊の時期は早まった。逆にプーチン氏は、ウクライナから2014年に併合したクリミア半島を現在に至るまで手放していない。戦争は常に、最も先が読めない事業だ。
プーチン氏は過去22年にわたりロシアを事実上支配してきた。20年には憲法改正をめぐる国民投票を経て、36年まで大統領の地位にとどまることが可能になった。
自然の原因による介入がなければ(ほぼ完全に外界から隔絶された本人の状況から判断して、プーチン氏は自身の健康を大いに気にかけている)、プーチン氏がロシアの支配者として居座り続ける期間はスターリンの30年、あるいはエカチェリーナ2世の34年を超えるかもしれない(もちろんプーチン氏が未知の力によって打倒される可能性は常にある。しかし権力を完全に掌握している現状を考慮すると、それはきわめてわずかなものに思える)。従ってプーチン氏には、この先も自らの構想の実現を図る時間が多く残されている公算が大きい。その構想とは、ソビエト帝国を復興し、「ロシアを再び偉大にする」ということに他ならない。
●株価指数先物週間展望 2/27
「日経225先物はウクライナ情勢と米金融政策の行方を探りながらの展開に」
今週の日経225先物は、ウクライナ情勢と米国の金融政策の行方を探りながらの相場展開になりそうだ。ウクライナ情勢については停戦に向けた動きが報じられたことを受けて、25日の米国市場ではNYダウが830ドルを超える上昇となるなど、主要な株価指数が大幅に続伸。シカゴ日経平均先物は大阪比480円高の2万6980円で取引を終えており、週明けはこれにサヤ寄せする格好でギャップスタートになりそうだ。ウクライナ情勢の緊迫化が警戒されるなか、これまでショート寄りのポジションに傾いていたと見られるため、目先的にはショートカバーに伴う動きが相場の下支えとなる可能性がありそうだ。
ただし、25日にウクライナ大統領が「交渉の座に着く」ことを呼びかける一方で、26日にロシア側が「ウクライナが交渉を拒否した」として攻撃を継続するなど、情報戦の中では先行きは不透明な状況である。引き続き報道内容に大きく振られやすく、ボラティリティのい需給状況となろう。また、27日には北朝鮮による飛翔体の発射が報じられている。ウクライナ情勢は中国・台湾間の緊張感を高める要因にもつながりかねないため、しばらくは東アジアを含む地政学リスクの高まりが市場ムードを神経質にさせよう。
ロシアとウクライナが停戦交渉につけば、ショートカバーに加えて、中長期的なポジションを抑えていたロングの動きも入りやすいだろう。チャート形状では切り下がる25日移動平均線が上値抵抗線として意識されているため、同線が位置する2万7000円辺りでは強弱感が対立しやすいが、これをクリアし75日線が位置する2万8150円辺りへのリバウンドも想定されてくる可能性がありそうだ。
一方、米国では、4日の雇用統計など重要な経済指標の発表が予定されている。また、バイデン米大統領が1日にインフレと経済を重点に置いた一般教書演説を行うほか、2日、3日にはパウエルFRB議長が半期に一度の金融政策報告について上下院で証言を行う予定である。市場は3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを開始する可能性自体は織り込んできているものの、利上げやバランスシート縮小の時期などを探るうえで様子見姿勢が強まりやすく、上値を抑える要因になりそうだ。
これらを受けた米国市場の動向に影響を受けやすいなか、日経225先物はナイトセッションで大きく反応を示し、日中はギャップスタートとなる可能性が高いだろう。まずは2万7000円水準を明確に上放れてくるかを見極めつつ、戻り売りスタンスに。抵抗線突破となれば2万8000円をターゲットにロング比率を高めていきたいところ。なお、VIX指数は27.59に低下し、安心感につながるものの、25日線水準までの低下であり、もう一段の調整をみせてこないと慎重姿勢は崩せない。
先週のNT倍率は、先物中心限月で14.09倍に上昇した。24日に13.94倍に低下した後に、週末はリバウンドを見せた格好だ。週明けは米国市場の上昇を受けてNT倍率は上昇が見込まれるものの、下向きのトレンドは継続している。抵抗線として意識される25日線が位置する14.16倍辺りまでのリバウンドは想定しつつも、その後のリバランスを想定したNTショート(日経225先物売り・TOPIX先物買い)の組成も入りやすいタイミングになりそうだ。
2月第3週(2月14日-18日)の投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物と先物の合算では2週ぶりに売り越しており、売り越し額は59億円(前週は2169億円の買い越し)だった。なお、現物は32億円の買い越し(同148億円の売り越し)と6週ぶりの買い越しであり、先物は91億円の売り越し(同2318億円の買い越し)と2週ぶりに売り越している。個人は現物と先物の合算で1142億円の買い越しで、3週ぶりの買い越しだった。
経済スケジュールでは、28日に1月鉱工業生産速報値、3月1日に中国2月製造業購買担当者景気指数(PMI)、米国2月製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値、米国2月ISM製造業景況指数、2日に10-12月期法人企業統計調査、米国2月ADP雇用統計、米国地区連銀経済報告(ベージュブック)、3日に中国2月財新サービス部門PMI、米国2月サービス部門PMI改定値、2月ISM非製造業景況指数、4日に1月失業率、米国2月雇用統計などが予定されている。
●ウクライナ情勢を注視するダービス・ベルターンス 2/27
人生にはバスケットボールより重要なこともある。実は、それは数多い。真っ先にあがるのは、生と死だ。だからこそ、新たにダラス・マーベリックスに加わったダービス・ベルターンスは今、バスケットボールよりも多くのことを考えている。
トレードデッドライン(トレード期限)にクリスタプス・ポルジンギスの取引でスペンサー・ディンウィディーとともにマーベリックスがワシントン・ウィザーズから獲得したベルターンスは、ラトビアの出身だ。ラトビアがロシアの支配から完全な独立を勝ち取ったのは、1990年代になってからのことである。
2月25日(日本時間26日)のユタ・ジャズ戦で109-114とマーベリックスが敗れた試合後、ベルターンスは「正直なところ、今はバスケットボールよりも話すべきことがある」と述べた。
「ウクライナで起きていることを見ていても、コートに立てばそれを忘れ、バスケットボールのことを考え、プレイに集中している」。
「でもコートを離れたら、あそこで起きていることばかり気になっている。以前、僕の国はあの立場にあった。だから、あまりに身近なことに感じるんだ。正直に言うと、今はバスケットボールの試合で負けたとしても、もしそれがこの数週間で僕らに起きる最悪のことだというなら、僕らは本当にラッキーだ」。
ベルターンスは「ウクライナの人たちには、本当に強くあってほしい。正直、彼らは僕らバルト諸国やその他の欧州諸国にとっての最前線だからだ」と話している。
「本当にうまくいくことを願っている」。
「その他の世界が彼らをできるだけ助け、彼らがこの事態を乗り越え、ウクライナが自由な国であり続けて、無意味な流血が本当にすぐに終わり、ロシアの占領者が国に帰ることを願っている」。
NBAには欧州出身の選手が大勢おり、その多くが戦時中とはどのようなものかを強く意識している。ユーゴスラビア内戦はそれほど昔のことではないのだ。
ベルターンスは、幸いにも今のところ家族は無事だと明かしている。だが、東欧では誰もがウクライナ情勢を注視している。
「僕は幸いにも近しい人が今のあそこにいない」とベルターンスは述べた。
「でも、あの国はそれほど遠いところではない。僕の知人がいるかもしれない。(もしもそうならば)無事であることを願う」。
「僕の両親は安全だ。ベルギーでプレイしている兄弟たちもね。(土曜に)帰国すると思う。家族のためにすべきこと、避難すべきかどうか、本当に注意深く見守っているところだ」。
母国の友人や家族の話を聞いており、ウクライナについても多くを学んだベルターンスは、「自分が見聞きしてきたすべてから、彼らは本当に誇り高き愛国心のある国だと思う」と言う。
「ウクライナとキエフにとどまった家族もいる。男性はみんな闘っており、一部の女性や子供たちは国を離れた」。
「ほかのヨーロッパ諸国や僕たち(アメリカにいる欧州人)が、この状況でできる限り助けられることを願う。メッセージは『強くあれ』だ。自分たちより大きくて強い国を相手に闘い、素晴らしい仕事をしていると聞いた」。
ベルターンスは「ロシア軍の兵士の大半が、何のために闘っているのか分からないんじゃないか」と、ロシアが何を成し遂げようとしているのか、明確なビジョンはあるのか分からないと言う。
「ウクライナの人たちの強さ、国のために耐えて闘っていく意志を持って乗り越えていくだろうと感じている。本当に、そうなることを願っている」。
●ウクライナの母親から「毎日爆発の音が聞こえる」  2/27
親ロシア派の武装勢力が一部を事実上支配するウクライナ東部の州の出身で東京に暮らす男性のもとには、ふるさとに暮らす母親から爆発音や断水などが相次いでいるという現地の緊迫した状況が伝えられています。
ウクライナ東部のドネツク州出身で東京で暮らすドミトロ・アブラメンコさんは、ロシア軍の侵攻が始まってから毎日数時間おきに実家の母親と連絡をとっているといいます。
故郷の町は親ロシア派の武装勢力が事実上支配している地域から数十キロの場所に位置し、ドネツク州のうちウクライナ政府の統治が及んでいる地域にあります。
ドミトロさんは25日も母親とパソコンでテレビ電話をつなぎ、安否を確認していました。
ドミトロさんの母親は「町の周辺にいろいろな場所からミサイルが来ていて、今のところ毎日爆発の音が聞こえる」と話し、戦闘は激しさを増していると明らかにしました。
給水施設が攻撃を受けたことに言及し「ポンプ場が動かなくなり給水所の水しか使えない。人はパニック状態のままでATMやス―パ―で行列ができている。パンが足りない」と話し、日常生活にも支障が出ているということです。
自宅近くの病院では兵士の受け入れに備えて患者が家に帰されたと話し、医療の提供にも影響が出始めているということです。
そして「生まれた場所で平和に生きていきたい。世界ができるだけさまざまな方法でプ―チンを止めてほしい。ウクライナが独立国家として平和なままであってほしい」と述べ、ロシア軍は一刻も早く攻撃をやめるべきだと疲れた様子で訴えていました。
母親との会話を終えたドミトロさんは「ウクライナ中に友達や親戚がいる。今では全土で戦闘が起こっていて全員が心配だ。私たちは敗者にはならない」と話していました。
●世界が抗議「戦争やめろ」 ウクライナ侵攻後初の週末  2/27
ロシアのウクライナ侵攻後、初の週末を迎えた欧米や日本などで抗議デモが相次ぎ、人々が怒りの声を上げた。「戦争やめろ」「ウクライナと連帯を」。各国で青と黄色のウクライナ国旗を手にした参加者が通りにあふれ、ロシアを非難するプラカードを高く掲げた。
26日、英ロンドンの官庁街はデモ参加者で埋め尽くされた。フランスではパリなど各地で計2万人以上がデモに参加。オーストリアの首都ウィーンでは市民らがウクライナ国旗を身にまとい、「侵略をやめろ」「爆撃をやめろ」と声を合わせた。
米ワシントンのホワイトハウス前には数百人が詰め掛けた。
●渋谷でウクライナ人が戦争反対デモ ロシア人女性も参加 2/27
ウクライナに武力侵攻をするロシアに対して、日本在住のウクライナ人が27日午後、東京・JR渋谷駅前のハチ公広場で抗議するデモを連日実施した。
デモ会場に訪れたウクライナ人のヤロスラブ・ザバツオさん(36)は首都キエフから西に約350キロのリウネの出身だが、その故郷にもミサイルが着弾していると話し「いてもたってもいられず多くの人が集まっていると聞いて渋谷にきた」とつぶやいた。2年前に結婚した妻阿部奈津子さん(35)は「彼のいとこが市民アーミーに所属していて、ときどきいとこからの連絡も途絶えたりして『オレも戦いにいく』といってきかない。なんとか止めているんですが」と震えた声で語った。
ロシアのウクライナへの武力紛争に関するビラを配布していたウクライナ人女性ナタリアさんは日本在住16年目で「私の故郷はキエフから西に200キロのチェルカシーですが、兄はキエフにいる。とても心配です。日本のみなさんは話を聞いてくれて優しい。なんとか戦いをやめてほしい」と道行く人にビラを配り続けていた。
デモに集まった群衆に向けてマイクを握った中にはウクライナ人と仕事場で同僚というロシア人女性も参加し「心を痛めています。ロシア人もこのような争いは求めていない」と声を詰まらせながら心情を吐露した。渋谷では約450人(主催者発表)が平和を訴えた。新宿でも100人以上が集まって声を上げた。
都内の在日ロシア大使館前は約10台の警察車両が道路前に並び、200人前後の警察官が周辺に配置され厳重に警備していた。都内各所で行われているデモ活動などはなく、大使館正門前の道路では警察官が「すべての方にお願いしております」とことわりを入れて身分照会を求めていた。大使館内にはときおりアルファベットのナンバーの車が出入りするだけで、門は閉ざされたままだった。
●在日ウクライナ人やロシア人が参加 軍事侵攻への抗議集会 渋谷  2/27
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で市民を含め多くの死傷者が出る中、東京 渋谷では日本に住むウクライナやロシアの人たちなどが参加する抗議集会が開かれ、「戦争反対」などと声をあげました。
27日東京のJR渋谷駅前で行われた抗議集会には、SNSでの呼びかけなどに応じた日本に住むウクライナやロシアの人たちなどが参加しました。
主催者によりますと、およそ1000人が参加したということで、集まった人たちは「プーチンを止めろ」と日本語や英語で書かれたプラカードや「ウクライナに平和を」と書かれた横断幕を掲げたりしながら「戦争反対」などと声をあげていました。
参加したウクライナ人の女性は「3日前までは想像もしていなかった状況で、ウクライナにいる家族や友人はみんな不安に感じています。日本の人たちも、戦争を止めるためにできることをしてほしいです」と訴えていました。
また、ロシアで生まれ育ち日本国籍を取得した男性は「自分の生まれた国が起こした痛みや苦しみを許すことはできません」と話していました。
集会には多くの日本人も参加し、夫や子どもと参加した42歳の女性は「小さな子どもがいる現地の人たちは、どれだけ不安な思いをしているのだろうと考えてしまいます。一刻も早く平和になることを世界中の人たちが願っていると発信し続けることが大事だと思います」と話していました。

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 28日の動き 2/28
ロシアは24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続いています。ロシア、ウクライナ、アメリカ、そして日本などの28日(日本時間)の動きを随時更新してお伝えします。(日本とウクライナとは7時間、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)
成田〜ヘルシンキ便 運航停止へ
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてフィンランドの航空会社「フィンエアー」は、成田空港や関西空港とフィンランドの首都ヘルシンキを結ぶ定期便の運航を28日から1週間停止することになりました。
EUがウクライナに初の兵器供与 支援強化決める
EU=ヨーロッパ連合は27日、オンラインで外相会議を開いてウクライナへの支援などについて協議しました。会議のあとの記者会見でEUの外相にあたるボレル上級代表は「ウクライナで全面的な戦争が起きている。ウクライナのためにあらゆる支援をしたい」と述べ、5億ユーロ(日本円でおよそ650億円)に上る軍事支援を行うことを明らかにしました。
ロシア便の運航を取りやめる動き広がる
EUの決定に先立ってドイツやフランスをはじめとする主な加盟国やイギリスなどは独自に飛行禁止に踏み切っていて、これでヨーロッパ各国の足並みがそろうことになります。一方、ロシアもヨーロッパの航空会社を対象に段階的に領空内の飛行を制限しています。このためヨーロッパの航空会社の間ではロシア便の運航を取りやめる動きが広がっています。さらにヨーロッパと日本を含むアジアを結ぶ便は多くがロシアの領空内を飛行することからルートの見直しを迫られる可能性が出ています。このうちエールフランスは27日、ロシアの領空を避ける飛行計画を検討する間、日本や中国、韓国とを結ぶ便の運航を一時、停止すると発表し、アジア便にも影響が出始めています。
FIFA ロシアでの国際試合の禁止を発表
FIFAはロシアによるウクライナへの侵攻を受けてロシア国内で予定されていた国際試合の開催をすべて禁止し、代替地となる中立国で観客を入れずに行うとしています。これはFIFAがホームページで明らかにしたものです。また、ロシアとしての試合への参加を認めず、選手は「ロシアサッカー連合」のメンバーとして出場することになるとしています。試合ではロシアの国旗や国歌の使用も禁じるということです。
日本時間5:00すぎ 国連総会の緊急特別会合開催を決定
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、アメリカなどがすべての国連加盟国が参加できる国連総会の緊急特別会合の開催を提案し、安全保障理事会での採決の結果、賛成多数で開催されることが決まりました。緊急特別会合は28日から始まり、アメリカとしては、すべての国連加盟国が参加できる国連総会の場でロシアを非難する決議案の採決を目指していて、ロシアの国際的な孤立を一層際立たせ、圧力を強めたい考えです。
ウクライナから国外への避難 36万8000人に
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は27日、ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数が、36万8000人に上ると明らかにしました。多くは陸路で隣国のポーランドのほか、ハンガリーやルーマニア、モルドバなどに逃れているということです。
IAEA “放射性廃棄物処理施設周辺でミサイル攻撃”
ウクライナ情勢をめぐってIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は声明を発表し、ウクライナ側から27日、首都キエフにある放射性廃棄物処理施設の周辺でミサイルの攻撃があったと報告を受けたことを明らかにしました。ただ、建物に被害はなく、放射性物質が漏れ出ている兆候もないということです。グロッシ事務局長は「戦闘中に放射性物質を保有する施設が被害を受け、人々の健康と環境に深刻な結果をもたらす可能性があるというリスクを浮き彫りにしている」と警鐘を鳴らしたうえで、原子力関連施設を危険にさらす行動をとらないよう強く促しています。グロッシ事務局長は「戦闘中に放射性物質を保有する施設が被害を受け、人々の健康と環境に深刻な結果をもたらす可能性があるというリスクを浮き彫りにしている」と警鐘を鳴らしたうえで、原子力関連施設を危険にさらす行動をとらないよう強く促しています。
ドイツで大規模な抗議デモ
ドイツの首都ベルリンでは27日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に抗議する大規模なデモが行われました。市内中心部にあるブランデンブルク門周辺には警察の発表で10万人以上が集まり、大通りを埋め尽くしました。集まった人たちはウクライナの人々との連帯を示すため国旗を持ったり、「プーチンを止めろ、戦争を止めろ」などと書かれたプラカードを掲げたりして、直ちに停戦するよう訴えていました。参加した女性は「今起きている戦争に非常に大きなショックを受けています。平和への思いと連帯を示すために来ました」と話していました。
ロシアとウクライナ 代表団会談へ
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、ウクライナの代表団がロシアの代表団と会談することで合意したと明らかにしました。会談は、ベラルーシ南東部のゴメリ州で開かれるとみられ、ゼレンスキー大統領は前提条件なしで行われるとしています。会談についてゼレンスキー大統領は「この会談で結果が出るとは思わないが交渉してみよう。わずかでも戦争を止めるチャンスがあったのに何もしなかったということがないように」などと述べました。ゼレンスキー大統領が25日、市民の犠牲を防ぐためとして話し合いを求めたのに対し、ロシア側はウクライナの非軍事化・中立化を条件に隣国のベラルーシで会談する用意があるとしていました。会談について、ロシア側の交渉団トップを務めるメジンスキー大統領補佐官は27日、「われわれはいつでも和平交渉に応じる用意がある」と述べました。ロシアによる軍事侵攻が始まってからロシアとウクライナの会談が行われるのは初めてで、ウクライナ各地で激しい戦闘が続く中、停戦につながる交渉が行われるかが焦点です。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって双方の代表団が会談するのに先立って、27日、ウクライナのクレバ外相は記者会見を行い「話し合いの結果が平和と戦争の終結につながるのであれば歓迎されるべきだ」と述べました。一方で、「ロシアの言い分を聞くために行く。私たちは降伏しないし、わずかな領土も譲ることはない」と譲歩しない姿勢を強調しました。
G7外相緊急会合 ロシア軍事侵攻「侵略」と強く非難
ウクライナ情勢をめぐり、G7=主要7か国の外相による緊急会合が、オンライン形式で開かれました。ロシアによる軍事侵攻を「侵略」という表現で改めて強く非難し、制裁を含めた今後の対応などで、引き続き緊密に連携していくことで一致しました。この中では、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻についてG7として「侵略」という表現を用いて、改めて強く非難しました。そのうえで、戦闘が続く現地の状況について、各国がそれぞれ把握している情報を共有したうえで議論を行い、ロシアへの制裁を含めた今後の対応や、ウクライナと周辺の関係国の支援を進めていくにあたり引き続き緊密に連携していくことで一致しました。
●「核の使用」もチラつかせるプーチンが、米欧に突き付けた「本気の脅迫」 2/28
「ロシアは最強の核保有国」
ウクライナ侵攻に踏み切り、国営テレビを通じてロシア国民向けに「ウクライナ政府によって虐げられた人々を保護するため、『特別な軍事作戦』を実施することを決定した」と演説し、正当性を訴えたプーチン大統領。同じ演説の中で「ロシアは、ソ連が崩壊したあとも最強の核保有国の一つだ。ロシアへの直接攻撃は、敗北と壊滅的な結果をもたらす」と述べ、核使用をちらつかせて米欧を強く牽制した。
侵攻直前の19日には戦略核兵器を使った「戦略抑止力演習」に踏み切り、相対的に威力の小さい戦術核兵器まで動員しての大規模な演習を実施した。戦略抑止力演習はロシアの訓練年度(12月1日〜翌年11月30日)の終盤に当たる毎年秋に実施しており、2月の実施は異例だ。
演説と核演習を通じて、ロシアと戦うならば核兵器を使うと脅したに等しく、この論法が通るならば、核保有国であれば、国際法違反の軍事侵攻に踏み切るハードルが下がることになる。足並みが乱れ、効果的な対抗策を打ち出せずに来た米欧の迷走ぶりは、力による現状変更の試みを続ける核保有国・中国の習近平国家主席に自信を与え、台湾を武力統一するシミュレーションを深める絶好の機会となった。
これまでも「予兆」はあった
プーチン大統領の「核大国発言」は今回が初めてではない。
2014年にウクライナのクリミア半島を実効支配した後に「ロシアは最も強力な核大国だ」と発言。翌15年、国営テレビ番組で「クリミアの状況がロシアに不利に展開した場合、核戦力を戦闘準備態勢に置く可能性はあったか」と問われ、「われわれにはそれをする用意があった」と明言した。
4期目に入る大統領選直前の2018年3月には、モスクワのクレムリンで行った年次教書演説で、核弾頭を搭載できる極超音速ミサイル「アバンガルド」の実戦配備を発表し、同ミサイルが米国のフロリダ半島そっくりの地域に落下するCGを上映。潜水艦から発射する長射程ミサイルも紹介して「(西側諸国は)新たな現実を考慮に入れなくてはならず、(新兵器が)コケ威しでないと理解しなくてはならない」と述べた。
ストックホルム国際平和研究所によると、2020年のロシアの国防費は世界第4位の617億ドル。世界トップの米国(7780億ドル)の12分の1でしかない。一方、核兵器の保有数は6255発で、米国の5550発を上回り、世界第1位だ。通常戦力で米国に劣るロシアは、核兵器に依存する戦略を取る。
そのロシアは2020年6月、突然、「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」という標題を付けた「ロシア核戦略」の全文を公表した。「ロシアにとって核兵器はもっぱら抑止の手段であり、その使用は極度の必要性に駆られた場合の手段であると見なす」とあり、核兵器の先制不使用をうかがわせた。
しかし、「極度の必要性に駆られた場合」には「国家が存立の危機に瀕した場合」が含まれるとあり、通常戦力で攻撃された場合であっても核兵器で反撃する可能性を残し、結局、先制使用を禁じていない。
これまでロシアが公表してこなかったマル秘中のマル秘である核戦略を全文公表したのは、米国が2018年2月に発表した「核体制の見直し」(NPR)でロシアの核戦略に懸念を示し、潜水艦搭載型の小型核の開発・配備を目指す方針を表明したこと、また実際に2020年2月に潜水艦に搭載する弾道ミサイル(SLBM)に爆発力を抑えた小型核弾頭を実戦配備したと米国が発表したことを受けたとみられる。
「使える核兵器」を配備した米国に対し、ロシアは通常兵器による攻撃であっても「国家が存立の危機に瀕した場合」に該当すると判断すれば、核兵器で報復すると宣言したといえる。
ロシア軍による段階的な「脅し」
そして今回、加盟国に模範を示すべき国連安全保障理事会常任理事国であるロシアが国連憲章破りの軍事侵攻という常識外れの行動に出た。
こうした文脈からすれば、ウクライナ侵攻をめぐるプーチン大統領の「核大国発言」や侵攻直前の核演習は、米欧からはプーチン氏の言葉通り、単なるコケ威しにはみえない。ロシアに対する軍事的制裁の放棄を促す結果になった可能性は高い。
侵攻直前に実施された核演習の「戦略抑止力演習」は、「核の三本柱」の戦略核兵器にあたる大陸間弾道ミサイル(=ICBM、戦略ロケット部隊)、戦略ミサイル原潜(=SSBN、海軍北洋艦隊および太平洋艦隊)、長距離戦略爆撃機(航空宇宙軍遠距離航空部隊)が登場した。
今回は戦略核兵器を持たず、戦術核兵器の保有にとどまる南部軍管区と黒海艦隊も参加した。模擬弾頭に付け替えて発射された戦術核兵器は、南部軍管区地上軍の地対地巡航ミサイル「イスカンデル」、黒海艦隊の艦対地巡航ミサイル「カリブル」、北洋艦隊の極超音速ミサイル「ツィルコン」、航空宇宙軍の戦闘機から空中発射された弾道ミサイル「キンジャル」の4種類だ。
ウクライナに接する南部軍管区と黒海艦隊が参加し、フリゲート艦から発射された「カリブル」がクリミア半島の演習場に落下したのをみても、昨年12月のうちにウクライナへ派兵しないことを言明した米国を含む北大西洋条約機構(NATO)に対し、今後ともウクライナに軍隊を送り込まないよう強く牽制したのは明らかだ。
ロシア海軍最強の北洋艦隊が音速の8倍、射程1万キロメートルという極超音速で長射程の最新ミサイル「ツィルコン」をバレンツ海で発射したのは、ロシアに向かう米海軍の艦艇を攻撃できる能力を示し、接近しないよう脅したといえる。
ロシアがNATOに対し、軍事的な圧力を強めてきたのは今年1月からだ。
1月24日にはバルト海でバルト艦隊所属の約20隻が演習を開始、同26日ノルウェー海で北洋艦隊約30隻が演習を開始した。2月2日には北洋艦隊の対潜哨戒機が大西洋上の艦艇と連携した対潜水艦戦訓練を実施し、同3日に航空宇宙軍の爆撃機がバレンツ海、ノルウェー海および大西洋上空を飛行した。
つまり、プーチン大統領がこれ以上、ロシア側へ東方拡大しないよう求めているNATOに対し、通常兵力で脅し、次には核兵器使用をちらつかせてダメ押しをしたのだ。
太平洋側でも動きが…
ロシアの求める接近阻止は、欧州側に止まらない。
太平洋側でも2月1日から太平洋艦隊の艦艇約20隻が日本海とオホーツク海で演習を実施した。「洋上へのミサイル射撃のため」として、ロシア政府は2月7日から25日まで北海道東方および宗谷海峡東の海域に航行警報を発令、漁船や自衛隊の艦艇に近づかないよう警告した。日本や米国への牽制であり、ウクライナ問題が「対岸の火事」ではないことを示した。
「戦略抑止力演習」では、「核の三本柱」が模擬弾頭に付け替えて発射された。ICBM、SLBM、そして長距離戦略爆撃機から投下された模擬核爆弾は、いずれも極東ロシアのカムチャッカ半島にある射爆撃場に落下している。そのさらに東方にあるのはアメリカ大陸だ。
ロシアは太平洋側でも通常兵力と核兵器で念入りに米国を脅したのだ。
ロシアによる軍事行動は、米国が諜報機関から得た情報を詳細に公表し、かなりの精度で的中した。米欧が早い段階でウクライナ侵攻に対する武力介入を断念したのは、ウクライナがNATO未加盟国であり、共同防衛の責務がないことだけではないだろう。
ロシアによる威嚇が核使用をうかがわせるほど狂気をはらんでいたことも見逃せない。その結果、対抗する手段が経済制裁に限定され、それも小出しにしたことから、プーチン大統領に足元をみられた。
第二次世界大戦後、「もはやない」と各国が信じてきた大国による軍事侵攻が現実となった以上、世界は「核兵器の復権」に目を向けざるを得なくなった。それは長い時間をかけて核軍縮の議論をしてきた各国の努力が水泡に帰すばかりでなく、核廃絶を願ってきた人々の希望を砕き、世界の終わりを呼び込む号砲となるのかも知れない。
逆に「核の脅しには屈しない」という国際世論を高めることができれば、「核の先制不使用」を国際会議のテーブルの上に載せられるのではないだろうか。どちらを選択するのか、わたしたちの運命はわたしたちの手に握られている。
●西側の強力な制裁に…プーチン大統領、核兵器部隊に特任命令 2/28
ロシアのウクライナ侵攻を狙った西側の団結された制裁が強化される状況でロシアのプーチン大統領が27日、自国の核兵器運用部隊に警戒態勢を強化するよう指示した。
ロシア国営タス通信とAP通信など外信によると、プーチン大統領はこの日のテレビ演説で「西側諸国が経済分野でロシアに対し非友好的な行動をするだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の高官までロシアに積極的発言をはばからなくなっている。戦略軍に特別戦闘任務態勢に入らせることを国防相と総参謀長に指示した」と話した。彼は続けて「西側の制裁はだれもがよく知っているように違法なもの」と強調した。
ロシア戦略軍は核戦争力を使ってロシアとその同盟国に対する攻撃を防衛する部隊で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を運用するロシア戦略ロケット軍など核兵器を掌握する部隊を称する。
プーチン大統領のこうした命令は前日に米国がフランス、ドイツ、英国、イタリア、カナダと共同声明を通じてロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)決済網から排除する強力な経済制裁を発表した後で出てきたものだ。27日に日本の岸田文雄首相も「ロシアのウクライナ侵略は力による一方的な現状変更の試みで国際秩序の根幹を揺るがす行為」としてSWIFT制裁参加を発表し、先進7カ国(G7)首脳の合意がなされた状況だ。
これに先立ちプーチン大統領はウクライナ侵攻直前の演説で「われわれを妨害したりさらにわが国や国民に脅威を加えようとする者はロシアが即刻対応し、その結果はあなたたちが歴史で一度も経験したことのないものになるだろうと知っておかなくてはならない」と警告している。
これと関連してワシントン・ポストは「ウクライナ紛争介入に報復すると話したプーチンが、ロシアが核保有国であるという亡霊を持ち出した」と伝えた。BBCは「この命令はより速く核兵器運用に着手できるようにするという意味だが、それでも使うという意味ではない」と伝えた。西側の強力な制裁に対抗しプーチンの「応戦」ともいえる威力誇示と解釈できるものだ。
この日米国のトーマスグリーンフィールド国連大使はCBSとのインタビューで「プーチン大統領が到底受け入れることはできない方法でこの戦争を拡大し続けることを意味する。われわれは最も強力な方法で彼の行動を防ぎ続けなければならない」と強調した。
一方、この日ウクライナ大統領府はロシア代表団と「条件のない」交渉に応じると明らかにした。大統領府はこの日午後3時ごろ「ベラルーシとの国境地域であるプリピャチ川近くで前提条件なくロシア代表団と会うことに同意した」と伝えた。正確な会談時期は明らかにされていない。ロシア外務省は「今回の会談がウクライナでの軍事作戦を放棄することを意味するものではない」と強調した。 
●核兵器準備も指示 失脚に焦るプーチン大統領 ロシア各地“反戦”デモ 2/28
ウクライナに侵攻したロシア軍は、首都キエフや第2の都市ハリコフなどをめぐり、祖国を守るウクライナ軍と激しい攻防戦を続けている。街は破壊され、多数の死傷者が出ている。欧米諸国は、対露制裁として国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部金融機関を排除すると発表し、日本も続いた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日、国際司法裁判所(ICJ)にロシアを提訴したことと、ロシアと停戦交渉を実施することで合意したと発表した。こうしたなか、「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が失脚危機にある」という分析もある。経済苦境と戦争反対の声、大物退役軍人らの反発とは。産経新聞論説副委員長の佐々木類氏が緊急寄稿した。
「ウクライナは、国際司法裁判所にロシアを提訴しました。ロシアはジェノサイド(大量虐殺)の概念を歪曲(わいきょく)し、侵略戦争を正当化した責任を負わなければならない。私たちは裁判所に、ロシアの軍事行動をやめさせ、来週審理を開くよう要請します」
ゼレンスキー氏は27日、ツイッターでこう発信した。怒りは伝わるが、裁判を開くには、紛争当事国間の合意が必要なため、簡単ではない。
国際法に違反するロシアの全面侵攻から4日目の同日、ロシア軍はハリコフに侵入し、ウクライナ軍と市街戦になった。ウクライナ軍が、ロシア軍をハリコフから撃退したとの情報がある。
ロシア軍はキエフの西側に部隊を集結して封鎖を維持したうえで、工作員を侵入させて破壊活動を行っているという。キエフ近郊の石油貯蔵施設はロシア軍のミサイル攻撃で炎上した。プーチン氏は27日、核抑止力部隊に「高い警戒態勢」を命じた。
停戦交渉はウクライナ側が呼び掛けた。ロシアにも民間人の巻き添えが避けられない本格的な市街戦を避けたいとの考えがあったとみられる。
ただ、ロシアはウクライナの「中立化」と「非軍事化」を条件に掲げ、NATO(北大西洋条約機構)に加盟しない確約を求めるのは確実。プーチン氏に都合のいい「親露派」政権樹立を狙っていると見られるため、交渉の成否は見通せない。
侵略戦争を実行したロシアに対し、国際社会の批判は高まっている。ロシア国内でも、プーチン氏への視線は厳しい。
米国とEU(欧州連合)は26日、これまでの経済制裁に加え、SWIFTからロシアの一部の銀行を排除する追加制裁で合意した。岸田文雄首相も27日、日本の参加を表明した。数日中に発動する。ロシア経済にダメージを与える最も厳しい手段とされる。
ロシアは2014年、ウクライナ南部クリミア半島を併合したが、欧米の制裁で、国内経済は疲弊した。プーチン氏の強権政治も重なり、ロシア国民の不満のマグマだまりとなっているという。
今回のウクライナ侵攻でも、ロシア各地で「反戦デモ」が広がっており、当局に拘束された参加者がこれまでに40以上の都市で計4500人を超えたと、ロシアの人権団体「OVDインフォ」が27日明らかにした。
ノーベル平和賞を受賞したロシア紙「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長も、プーチン氏の命令で戦争が始まったことに、「悲しみと恥ずかしさがある」と吐露。ウクライナ人は敵ではないとし「ロシア人の反戦運動だけが地球上の命を救える」と訴えた。
こうしたなか、ウクライナ侵攻前に発表された、ある文書が注目されている。ロシア軍関係の組織「全ロシア将校会議」議長のレオニード・イワショフ退役上級大将による「ロシア大統領と国民に向けたアピール『戦争前夜』」だ。
イワショフ氏は、これまでのロシアがかかわった戦争は、外敵に攻められて仕方なく応戦した戦争(=自衛戦争)だったが、いま目の前で起ころうとしている戦争は人為的で利己的なものであると指摘した。
つまり、ウクライナへの軍事侵攻は、プーチン氏が自らの財産を守り、政権を維持するための私利私欲の戦争でしかないというのだ。
イワショフ氏は「ウクライナに侵攻すれば、ロシアの国家としての存在そのものが危うくなる。ロシア人とウクライナ人を永遠に不倶戴天の敵にするだけでなく、多くの若者が殺され、NATOと直接対峙(たいじ)することになる」と反対している。
刮目するのは、ロシア将校の総意として、プーチン氏に対し、ウクライナ侵攻という犯罪的な政策を放棄し、「大統領の辞任を要求する」と明言したことだ。
ロシアの反体制派の政治家、アレクセイ・ナワリヌイ氏が20年、毒殺されそうになり、ロシア帰国後に収監されたことは記憶に新しい。プーチン政権がそんな恐怖政治を敷くなかでの声明だ。イワショフ氏の身辺が危ぶまれる。
またはその逆で、プーチン氏自身が崖っぷちに立たされている可能性がある。侵攻によってウクライナ側の軍事的反撃と、米国など西側諸国による厳しい経済制裁が待っている。ウクライナを制圧しても、国内の経済的疲弊が加速し、支持率は低下をたどるだろう。
何の成果もなく軍を撤退させればロシア国内での求心力が急激に低下し、プーチン氏自身がナワリヌイ氏の立場に置かれかねない。
ロシアの国力は、14年のクリミア併合を機にピークアウトしている。欧米諸国による経済制裁の結果である。こういうときが一番危ない。手負いのトラが最も危険とされるゆえんだ。
北方領土を不法占拠されている日本にも、いつ何時、危機が派生するか分からないという点で、人ごとではない。台湾をめぐっては中国が虎視眈々と併合する機を伺っている。緊張感を持って国防に当たるしかない。
●プーチン氏、核抑止部隊に「特別警戒」命令 ゼレンスキー氏、交渉に合意 2/28
ロシアによるウクライナ侵攻開始から4日目の27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。西側諸国がロシアに「非友好的な行動」をとったことを理由にしている。これと前後して、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日、ロシアの同盟国ベラルーシとの国境沿いで「前提条件なし」の交渉に応じると発表した。
プーチン大統領は日本時間27日深夜、セルゲイ・ショイグ国防相を含む軍幹部に対して、西側がロシアに「非友好的な行動」をとり、「不当な制裁」を科したとして、核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。ロシアの核部隊にとって、「特別警戒」は最高レベルの警戒態勢。
アメリカのリンダ・トマス=グリーンフィールド国連大使は、プーチン氏の発言を受けて直ちに、このような動きは「容認できない」と米CBSニュースに述べた。
「プーチン大統領は依然としてこの戦争のエスカレーションを、まったく容認できない形で続けている。私たちは引き続き彼の行動を、可能な限り強力に制止しなくてはならない」と、大使は述べた。
北大西洋条約機構(NATO)のイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、プーチン氏の命令は「危険」で「無責任」だと批判。「もちろん今回のこの発言と、(ロシアが)ウクライナの地上で何をしているかと合わせれば、状況はますます深刻になる。ロシアは独立主権国家に対して、全面侵攻を仕掛けているからだ」と、事務総長は米CNNに述べた。
米ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官は、「(プーチン氏は)同じことを何度も繰り返している。ロシアがNATOの脅威にさらされていたことは一度もないし、ロシアがウクライナの脅威にさらされていたこともない」と米ABCニュースに話した。「これはプーチン大統領による相変わらずの行動で、私たちはそれに対抗していく」。
「私たちには自衛能力があるが、プーチン大統領が何をしているのか、私たちが指摘する必要もある」とも、サキ氏は述べた。
BBCのゴードン・コレラ安全保障担当編集委員は、「特別警戒」をとることでロシアは核兵器を発射しやすくなるが、いま核を使うつもりがあるというわけではなく、こうして大統領が公言したのはNATOに対するロシア政府としての警告だろうと解説する。
また、プーチン氏が先週すでに「ロシアを妨げようとする者」は「歴史上見たこともないような結果」を見ることになると警告していたと、編集委員は指摘した。プーチン氏のこの発言は、西側諸国がロシアのウクライナ侵攻を妨害するなら、核兵器を使う用意があるという警告だったと、広く受け止められていた。
ロシアの核兵器保有数は世界最多。しかし、仮にロシアが先制核攻撃を仕掛けた場合、ロシアを滅ぼせるだけの核戦力をNATOが持つことは、ロシアも承知しているという。
それだけに、NATO諸国がこれ以上ウクライナを支援しないよう、自分がどこまでやるかつもりなのか、そしてどういうウクライナ支援がやりすぎなのか、不透明感と恐怖を西側諸国に与えることがプーチン氏の狙いだと、コレラ編集委員は解説した。
ウクライナ、交渉に合意
プーチン氏のこの発言とほぼ同時に、ウクライナのゼレンスキー大統領はベラルーシ国境沿いで「前提条件なし」の交渉に応じる用意があると発表した。
ゼレンスキー氏は、ロシアの盟友ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と電話会談。その後、「ウクライナ・ベラルーシ国境で、プリピヤチ川の近くで、前提条件なしに、ウクライナ代表団はロシア代表団と会うと合意した」と発表した。
「アレクサンドル・ルカシェンコは、ウクライナ代表団の移動中、協議中、帰国中、ベラルーシ領内に配備されているすべての飛行機とヘリコプターとミサイルは確実に地上に留まるよう、責任を負うと述べた」と、ゼレンスキー氏は続けた。
ロシア政府は同日、代表団がベラルーシに到着したと発表していた。ベラルーシはロシアの同盟国でウクライナの北に国境を接する。
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日朝、自国を攻撃しているベラルーシでの交渉を拒否したと当初明らかにしていた。
日本時間28日未明には、ウクライナの代表団もベラルーシ国境沿いに到着したという。
核の警告、まさにNATOが恐れていたこと――フランク・ガードナーBBC安全保障担当編集委員
核抑止部隊を「特別警戒」態勢においたというロシアの発表は、プーチン大統領が西側の対ロ制裁にいかに怒っているかの表れだ。同時に、自分の国はNATOに脅かされているという彼の、消えることのない妄執の表れでもある。
確かにこの動きに西側はハッとなった。こうしたエスカレーションはまさしく、NATOの軍参謀たちが恐れていたことで、だからこそNATOは、侵略者ロシア軍の撃退を手伝うためウクライナに部隊を派遣するようなことはしないと、繰り返し表明していたのだ。
しかし、ロシアの攻撃は必ずしも計画どおりに進んでいない。4日目に入って、まだウクライナのどの都市もロシアの手に落ちていないし、ロシア軍にはかなりの死傷者が出ているようだ。
モスクワの政府はこの事態にかなりいらだち、歯がゆく思っていることだろう。そして、ベラルーシ国境沿いで予定されるウクライナとロシアの話し合いが、両政府が受け入れられる合意をもたらすとは、あまり考えられない。
プーチン氏は、ウクライナが完全にロシアの勢力圏に戻ることを求めている。ゼレンスキー政権は、ウクライナの独立維持を求めている。ウクライナの国土を分割するのでない限り、妥協の余地はあまりない。
それだけに、核の使用をほのめかして西側に「これ以上手出しするな」と警告したのと合わせて、ウクライナでのロシアの攻勢は今後ますます激化するだろう。すでに多く出ている民間人の被害を、ロシアは今まで以上に軽視するに違いない。
第2の都市で戦闘
ハルキウ州のオレフ・シネグボウ知事は、ハルキウ市への爆撃が夜通し続いた後、軽量の軍用車両が市内に入ったと明らかにした。知事は、人口140万人の市民に、屋内にとどまるよう呼びかけた。知事は日本時間27日夜には、ソーシャルメディア「テレグラム」に、「ハルキウは完全に我々の管理下に戻った! 軍と警察と防衛隊の働きで、敵を完全に市内から追い出した」と書いた。
市内の救急当局によると、9階建ての高層集合住宅が被弾し、高齢の女性が1人亡くなったものの、地下室に避難していた約60人は無事だったという。
ウクライナの通信当局によると、ロシア軍はハルキウに近い天然ガスパイプラインも爆破したという。
26日には、首都キーウ(キエフ)近郊のヴァシルキウで石油貯蔵所がミサイルで破壊され、大気汚染警報が出された。
キーウでは28日午前8時まで、厳しい外出禁止令が敷かれている。
首都キエフのヴィタリ・クリチコ市長は、ロシア軍はまだ市内に侵入していないものの、ロシアの破壊工作員が市内で活動していると述べた。
北東部オフティルカの地元当局によると、25日にロシア軍の攻撃で、7歳の女の子を含めウクライナ人が少なくとも6人死亡したという。地元当局は、破壊された建物の中には幼稚園と孤児院が含まれていたと主張している。ロシア側はこれを否定している。
ウクライナ政府のオンブズマン、リュドミラ・デニソワ氏によると、ロシアの侵攻でこれまでにウクライナの民間人210人が死亡し、1100人が負傷した。
また、ドミトロ・クレバ外相は、ロシア軍による戦争犯罪が起きていると主張し、国際刑事裁判所(ICC)による捜査を要求した。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ政府としてロシアについてICCに捜査を申し立てたと明らかにした。さらに大統領は、ICC判事たちにがロシアに侵攻停止を命じるよう要求したという。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、ウクライナでの戦闘でこれまでに少なくとも民間人240人が被害に遭い、64人が死亡している。OHCHRは、死傷者に加えて、住宅や生活に必要なインフラ施設が破壊され、大勢が水や電気を使えない状態にいると明らかにした。
ロシアは南部で軍施設を攻撃と
ロシア国防省のイーゴル・コナシェンコフ報道官は、南部ヘルソンと南東部の港湾都市ベルディヤンスクを包囲し、ウクライナ軍のインフラ設備にミサイル攻撃を重ねたと述べた。
ヘルソンはその後、ウクライナ軍が奪還している。
コナシェンコフ氏はさらに、ヘニチェスク市と、ヘルソンに近いチョルノバイウカ空軍基地をロシア軍が占拠したとした。
報道官によるとロシア軍は26日、空と海から発射した巡航ミサイルでウクライナの軍事インフラを破壊したという。
約37万人が避難
周辺国へ避難する人も相次いでいる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、これまでに36万8000人がウクライナから避難した。
スロヴァキア当局は、26日午前6時までの24時間で、約1万人がウクライナから入国したと発表。これは通常の10倍近い人数という。
ロシアの侵攻開始から3日間で4万3000人以上がルーマニアへ、15万人以上がポーランドに入った。ほかにも国境を接するハンガリーとモルドヴァにも、数千人が避難した。
ハルキウで激戦、ウクライナ軍は各地で徹底抗戦=英国防省情報
英国防省は27日、ウクライナの戦況について最新情報を発表。それによると、ロシアの非正規軍とウクライナ軍がキーウで2晩連続で戦ったが、前日に比べると戦闘の勢いは鈍化している。
首都キーウの包囲と孤立を目指すロシア軍は北部チェルニヒウに進んだものの、激しい抵抗に遭ったため、同地域を迂回(うかい)して、キーウへ南下しようとしているという。
東部ハルキウでは激しい戦闘が続き、双方でロケット砲が使用された。
ロシア軍は引き続く複数の軸からウクライナ侵攻を続けているものの、ウクライナ軍はこれに徹底抗戦しているという。
キーウへのミサイルを撃墜=ウクライナ外務省
ウクライナ外務省のオレグ・ニコレンコ報道官は、ロシアの同盟国ベラルーシから飛来した戦闘機がキーウへミサイルを発射したものの、ウクライナ空軍がこれを撃墜したとツイートした。
ロシア兵4300人死亡=ウクライナ国防次官
ウクライナのハナ・マリヤル国防次官は27日、ロシア軍側の推定被害規模をフェイスブックで公表した。
攻撃開始から3日間の被害推計は今後変わる可能性があるが、現時点ではロシア兵4300人が死亡したという。さらに、ロシア軍用機27機、ヘリコプター26機、戦車146台、装甲車706台、大砲49門、ブーク対空防衛システム1基などを破壊したという。
ウクライナによるこの数字を、BBCは検証できていない。ロシアはこれまで、自軍の死傷者数を公表していない。
ゼレンスキー大統領はこの日、「外国人部隊」を作る意向を示した。複数のソーシャルメディア・アカウントから、「世界中の市民、ウクライナと平和と民主主義の友」に、「ウクライナと欧州と世界の防衛に参加したい人は誰でも、ロシアの戦争犯罪人に対してウクライナ人と共に戦える」と呼びかけた。
プーチン氏は特殊部隊に感謝、柔道連盟は地位停止
ロシアのプーチン大統領は27日朝に放送されたテレビ演説で、ロシア軍の特殊部隊が「ロシア人民とこの偉大な母国の名において」、「誓いを忠実に果たし、非の打ちどころない働き」で、「ドンバスの人民共和国」を支援してくれたと感謝した。
一方、プーチン氏が名誉会長を務めていた国際柔道連盟は27日、職務を停止すると発表した。
声明で「国際柔道連盟は、ウクライナで進行中の紛争を考慮し、プーチン氏の連盟における名誉会長および大使としての地位停止を発表する」と表明した。
プーチン氏は柔道で黒帯を保有している。
西側の制裁強化
欧州連合(EU)とアメリカ、および同盟諸国は26日(日本時間27日朝)、ロシアの複数銀行を国際決済システム「SWIFT」から切り離すことで合意した。共同声明には、欧州委員会、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカの首脳が署名した。制裁には、ロシア中央銀行の外貨準備に関する規制も含まれる。日本政府は27日、この制裁に参加すると発表した。
共同声明は、「第一に特定のロシア銀行をSWIFT通信システムから排除する。これによって対象の銀行は国際金融システムから切り離され、世界的に活動する能力が損なわれる」とした。
ロシアは石油と天然ガスの輸出などで、「SWIFT」による決済に大きく依存している。ただし、この措置はロシアと取引のある西側企業にも損害を与えかねない。
SWIFTとは、国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人「国際銀行間通信協会(SWIFT、本部・ベルギー)」。国境を越えた速やかな決済や送金、資金の支払いなどを可能にする。世界中の1万1000以上の銀行や金融機関の間で、簡便な取引を支援している。
世界中のほとんどの銀行が使う仕組みだけに、SWIFTから切り離されることはロシア経済に強い制裁効果を与えるとみられる。ただし、ロシアと取引する企業にとっても打撃となる。
ロシアの銀行は、経済の要となっている石油・ガスの輸出取引に、SWIFTを活発に利用している。ロシアによる取引は、SWIFTの世界全体の取引の1.5%を占める。
共同声明はさらに、「第二に、我々の制裁の影響力を損なう形で、ロシア中央銀行が外貨準備を活用できないように、制限的措置を実施する」とした。共同声明は続けて、「ウクライナでの戦争とロシア政府の加害行動に便宜を図る人々に対抗して行動する」として、「いわゆる『ゴールデンパスポート』と呼ばれる、市民権販売の規模を縮小するための措置をとる。このゴールデンパスポートは、ロシア政府とつながるロシアの富裕層が、我々の国の国民となり、我々の国の金融システムを活用する手段となっている」とした。
西側のこの発表に対して、ロシア中央銀行は国民による取り付け騒ぎを防ごうと、「ロシア中央銀行は金融の安定性を維持し、金融セクターの業務的連続性を確保するため、必要なリソースと道具を保持している」とコメントを発表した。
ロシア中央銀行の外貨準備は約6300億ドル(約73兆円)。
西欧諸国もロシア機飛行禁止に
フランス、ベルギー、フィンランド、アイルランドの政府は27日、自分たちもロシア機の領空通過を禁止する方針を明らかにした。いつから開始されるかは明らかになっていない。
フィンランドはロシアと1300キロにわたり国境を接する。フィンランド領空を飛行できないということは、ロシアからの主要な西向きルートは使えないということになる。
これに先立ち、エストニア、ラトヴィア、スロヴェニア、ルーマニア各国は26日、ロシア機の領空通過を禁止すると発表した。
エストニアのカヤ・カラス首相はツイッターで、「侵略国の飛行機が民主国家の空を飛ぶなど認められない」として、他のEU諸国に同様の対応を呼びかけた。
スロヴェニアのヤネス・ヤンシャ首相は、カラス首相のこのツイートを引用し、「スロヴェニアも同じようにする」と書いた。
ラトヴィアのタリス・リンカイツ運輸相もツイッターで、「ラトヴィアはロシア登録の民間機に対して領空を閉鎖する」と書いた。
ロシア登録機はイギリス、ブルガリア、ポーランド、チェコ共和国の領空に入ることもすでに禁止されている。
東欧の大部分を飛行できなくなったロシア機は、大幅な迂回(うかい)を余儀なくされている。
民間機の航路追跡サイト「フライトレーダー24」によると、26日にはモスクワ発ブダペスト行きのアエロフロート機がポーランド上空を避けるルートを飛び、所要時間は通常より75分長くかかった。
一方でロシアは、すでにイギリスの旅客機の領空通過を禁止しているほか、ラトヴィア、リトアニア、エストニア、スロヴェニア、ブルガリア、ポーランド、チェコ共和国に対して、領空通過を禁止した。
●ウクライナ隣国ベラルーシ、ロシアの核兵器の配備可能にする改憲承認 2/28
ウクライナの隣国ベラルーシで27日、憲法改正の是非を問う国民投票が実施され、中央選管によると65.2%の賛成多数で改憲が承認された。核兵器を持たず中立を保つとの現行憲法の条項を削除する内容。複数のロシアの通信社が伝えた。ベラルーシにロシアの核兵器を配備することが可能になる。
ベラルーシではルカシェンコ大統領への抗議デモはしばらく抑え込まれてきたが、今回の国民投票は幾つかの都市でデモを誘発し、人権団体によると少なくとも290人が拘束された。
同氏はロシアのウクライナ侵攻後、一時は仲介役を務めるそぶりも見せたが、その後は姿勢を転換。この日は世論調査の投票所の1カ所で演説し、西側の核保有国がベラルーシ国境に近いポーランドやリトアニアに核兵器を配備するなら、ロシアのプーチン大統領に核兵器を返してくれるよう求めるとの考えを改めて表明した。ベラルーシはソ連崩壊後、国内に配備されていた旧ソ連軍の戦略核をロシアに引き渡している。
西側諸国は既に、国民投票の結果は正統な民意と認めないとの姿勢を明確にしている。
ルカシェンコ氏は強権的手段で国内の反対派を徹底弾圧し、欧米から圧力を受けていることで、ロシア寄りの立場を強めてきた。
●ロシア軍事侵攻 ウクライナ軍各地で抵抗続ける 戦闘一層激化か  2/28
ウクライナでは、軍事侵攻したロシア軍に対し、ウクライナ軍が第2の都市ハリコフなど各地で抵抗を続け、戦闘は一層激しさを増しているものとみられます。
ウクライナ第2の都市ハリコフの状況
ロシア軍とウクライナ軍との激しい戦闘が伝えられているハリコフについて、地元の州知事は27日、自身のフェイスブックに「完全に私たちがコントロールしている」などと投稿し、ロシア軍を退けたと主張しています。現地で撮影されたとみられる映像にはロシア軍の軍用車両などが放置されている様子が映っています。
ハリコフの日本語学校経営者「街の中でも朝から戦いあった」
激しい戦闘が伝えられているウクライナ第2の都市、ハリコフに住むウクライナ人の男性が現地時間27日午後5時ごろ、NHKのインタビューに日本語で応じました。ボリス・モロズさん(36)はハリコフで日本語学校を経営し、中学生から社会人までの生徒およそ30人に日本語を教えています。ロシア軍とウクライナ軍との戦闘は激しさを増しているということで、モロズさんは「もう4日間続いていて、戦争が始まっていまがいちばんひどい爆撃が続いています。眠るのも難しく夜もミサイルが次々と発射されとても恐ろしい音です。街の中でも朝から戦いがあった」と現地の状況を説明しました。そして、「ロシアはウクライナ軍の関係の所だけ爆撃すると述べていますが、現実はそんなことはないです。街にはあちらこちらにミサイルの一部があります」と話していました。また、ハリコフでの生活については、街中でパンが無料で配られていて、長い行列ができるとしたうえで、「ガスと電気は時々止まりますが、修理してくれる人も街に残っています。食べ物はまだ残っていますが少なくなっています」と話していました。モロズさんはロシアがウクライナに軍事侵攻したあとも、日本語のオンライン授業を続けているということです。モロズさんは、「子どもたちはとても怖がっているので、日本語を教えるだけでなく生徒たちを安心させてみんなが大丈夫かどうか知るために続けています。私はここに生まれた。私の街なので、逃げるつもりはない」と話していました。
首都キエフの状況
一方、首都キエフの状況について、クリチコ市長はAP通信のインタビューで、市民を街の外に避難させる計画があるかという問いに対し、「すべての道がふさがれているためできない。今はロシア軍に包囲されている状態だ」と明らかにしました。ただ、このあとクリチコ市長はSNSへの投稿でこうした内容を否定しています。キエフ市内では27日、ワインの空き瓶などを使って火炎瓶を作る市民の姿が見られたほか、ウクライナ議会議員もNHKに対し、ロシアから侵攻を受けた直後にすべての議員に銃が配られたことを明らかにし、抵抗を続ける姿勢を強調しました。ロシア国防省は27日、ウクライナ軍のミサイルなど、これまでに1067の標的を破壊したと発表したほか、ロイター通信はウクライナの保健省の情報としてこれまでに14人の子どもを含む、352人が死亡したと伝え、各地で戦闘は一層激しさを増しているものとみられます。
キエフでは火炎瓶を作る市民の姿も
ウクライナに軍事侵攻したロシア軍が地方の主要都市で攻勢を強める中、首都キエフの街なかでは27日、ワインの空き瓶などを使って火炎瓶を作る市民の姿が見られました。ウクライナ国防省は、2014年に「領土防衛部隊」を結成し、市民に対して銃など武器の扱い方などの講習を行っていて、非常時には最大12万人が編成される見通しで、軍の指揮下に置かれることになります。また、1月には「国家レジスタンス基本法」が施行され、ロシア軍が侵攻してきた場合、市街戦になることも想定し、国民が一丸となって抵抗するとしています。
ウクライナ西部 リビウの状況
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナ西部の都市リビウでは連日、ふだんは別の仕事をしている予備役などの人が軍に参加する手続きのために、軍の施設に集まっています。27日も、さまざまな職業の男性たち、およそ30人が手続きを待っていました。このうち30歳のプログラマーの男性は「戦争は恐ろしいものだが、誰かに攻め込まれたら撃退しなければならない」と話していました。また、34歳の自動車エンジニアの男性は、「戦闘となればもちろん人間として怖い。ただ、国を守るためには命じられたことをやるのみだ」と話していました。一方、リビウの教会では前線にいる兵士の助けとなるよう支援物資を募っています。ミサの最中にも市民がひっきりなしに食料品や医薬品などを届けに来ていて、教会の一角にはチェーンソーや車のバッテリー、それにマットレスなどさまざまなものが積まれていました。物資を届けた52歳の女性は「私は今は働いておらず、こうした形でしか貢献できないが、戦う同胞たちを支えたい」と話していました。また、ウクライナ内外で募金を集め、医薬品などを購入して提供しているという33歳の男性は「海外から支援が集まるのは世界がこれ以上の事態の悪化を望んでいないからだと思う」と話し、海外からの支援に感謝していました。そして教会の神父は「お年寄りも若者もできるかぎりのことをしようと物資を持ってきてくれる。みんなが国を守るヒーローだ」と、市民一丸となっての協力に目を潤ませていました。
アメリカ国防総省 “ロシア軍は主要な都市は制圧できていない”
アメリカ国防総省の高官は27日、記者団に対し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について、これまでのところロシア軍は主要な都市は制圧できていないとの認識を示しました。この高官はその理由についてウクライナ側から激しい抵抗を受けていることに加え、燃料などの不足に直面していると指摘しました。また、ウクライナ側は現在も防空システムや航空機を使用できており、ウクライナの制空権をめぐる攻防は続いているとしました。また、首都キエフについてはロシア軍が市街地からおよそ30キロの位置に引き続きいるとしたうえで、偵察部隊の一部がキエフ市内に入り、小規模な戦闘が起きているということです。さらにロシア軍は、これまでに320発以上の短距離弾道ミサイルなどを発射したということです。この高官は、ロシア軍がウクライナ国内に投入する戦力を増やしているものの、今も国境周辺に展開する戦闘部隊の3分の1の戦力を投入せずに維持しているとして警戒感を示しました。
●ウクライナ大統領「今後24時間が正念場」 2/28
日本時間2月28日08:40(ロンドン27日23:40) ウクライナ大統領「今後24時間が正念場」
ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐり、英国のジョンソン首相は27日夜、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議した。英首相官邸の発表によると、ゼレンスキー氏は「今後24時間がウクライナの正念場となる」と述べたという。ジョンソン氏は、ウクライナの主権に対する英国の「揺るぎない支持」を改めて強調し、英国を含めた国際社会からの防衛支援がウクライナに届くよう「やれることを全てやる」と伝えたという。ウクライナでは、首都キエフ周辺や北東部にある第2の都市ハリコフなど各地で戦闘が続いている。ハリコフでは市街戦が起きていると伝えられている。
日本時間2月28日05:10(ニューヨーク27日15:10) 40年ぶりに国連総会緊急特別会合へ
ウクライナ危機をめぐり、193カ国が加盟する国連総会で、緊急特別会合が開催されることになった。安全保障理事会が27日、総会での会合を求める決議案を賛成多数で採択した。緊急特別会合が安保理の要請によって開かれるのは、40年ぶりとなる。この安保理決議は常任理事国にも拒否権は行使できない。賛成は11カ国。ロシアが反対し、中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)は前回のロシア非難決議案と同様に棄権した。総会緊急特別会合は、安保理が意見を一致させられず、その責務である国際の平和と安全の維持が困難になった際に開かれる。開催の条件は、安保理か、国連加盟国の半数が要請することとなっている。開催は要請から「24時間以内」と定められ、28日の予定だ。この仕組みは1950年、朝鮮戦争をめぐってソ連が拒否権を行使したことを受けてつくられた。仕組みを定めた国連総会決議は「平和のための結集決議」と呼ばれる。緊急特別会合は56年以降、10の議題について開かれ、安保理が要請したものとしては、82年に開かれたのが最後だった。
日本時間2月28日04:10(パリ27日20:10) フランスが安保理決議案を提出へ
ロシアの侵攻を受けているウクライナをめぐり、フランスは28日の国連安全保障理事会で、現地での人道支援活動が保障されるよう求める決議案を提出することを決めた。27日、フランス大統領府が明らかにした。ウクライナに残され、緊急支援を必要とする人々へのアクセスが確保されるよう要求するという。フランス大統領府は同日、マクロン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に同日夕に電話し、近況を確認したこともあきらかにした。
●ASEAN、ウクライナ情勢「深い懸念」 ロシア名指しせず 2/28
東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国であるカンボジア政府は27日、ロシアによるウクライナへの侵攻について「武力闘争に深い懸念」を表明し、すべての当事者に自制を呼びかけ、対話を通じた平和的解決を求める声明を発表した。
声明は26日付でASEAN各国の外相名義。ロシアを名指しで批判していない。ベトナムなどロシアと関係が深い加盟国があるため、表現に配慮したとみられる。ASEANの各国外務省はウクライナ情勢を巡り、平和的解決を促す声明をそれぞれ発表していたが、ASEAN全体としての声明の公表は遅れていた。
2021年2月のクーデターで全権を掌握したミャンマー国軍はロシアを支持する声明を出している。「ロシアは世界に対し強国であることを示した」(国軍報道官)と主張している。
●G7緊急外相会合 日本も「ロシアのSWIFT排除」など伝え各国が歓迎 2/28
ウクライナ情勢をめぐるG7=主要7か国の外相による緊急電話会合が開かれ、林外務大臣は日本もG7各国と足並みを揃えプーチン大統領の資産凍結など新たな制裁措置を決めたと伝えました。
昨夜11時過ぎからおよそ2時間にわたり行われたG7外相による緊急電話会合で、林外務大臣はロシアによるウクライナ侵略をあらためて強く非難した上で、日本も欧米各国に続いてロシアの特定の銀行を国際的な決済ネットワーク「SWIFT」から排除すること、さらにプーチン大統領らの資産凍結でも足並みを揃える事を伝え、各国から強く歓迎されたという事です。
会合の後半にはウクライナのクレバ外相も参加。ロシアとの戦況や和平交渉の模索など、最新の情報を共有したものと見られます。
●IAEA、ウクライナ情勢巡り2日に臨時会合開催へ 2/28
国際原子力機関(IAEA)は3月2日に理事会の臨時会合を開き、ウクライナ情勢について協議する。ロシアの侵攻で戦闘が続くウクライナには、稼働中の原子力発電所4基のほか、事故が起きたチェルノブイリ原発を含め複数の核廃棄物処理施設がある。
外交筋によると、理事会メンバーのカナダとポーランドがウクライナから要請を受け、会合開催を求めた。
ある外交筋は、ウクライナ情勢による安全面や安全保障への影響が議題になると述べた。
●ドイツ、連邦軍強化へ13兆円 ウクライナ情勢「世界は転換点に」 2/28
ドイツのショルツ首相は27日、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて急きょ開いた連邦議会で演説し、国防費を増額すると発表した。2022年予算から緊急で1千億ユーロ(約13兆円)を連邦軍の装備強化などに充てる。さらに、国内総生産(GDP)比1・5%ほどにとどまる国防費を、今後は毎年2%以上に引き上げる。
ショルツ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻で「世界は転換点にいる」とし、「自由と民主主義を守るには、国防に大きく投資する必要がある」と述べた。22年予算から特別につくる基金1千億ユーロは、戦闘機や軍艦、兵の装備に投資し、連邦軍を強化する意向だ。
●中国はロシアのウクライナ侵攻非難を=米ホワイトハウス 2/28
米ホワイトハウスのサキ報道官は27日、MSNBCのインタビューで、ロシアのウクライナ侵攻を非難するよう中国に求めた。
サキ氏は、中国は米国とその同盟国がロシアに科した制裁の一部を履行し、先週にはウクライナの主権を支持する発言をしたと語った。
しかし、中国政府にさらなる行動を求め、「傍観している時ではない。(ロシアの)プーチン大統領とロシアが主権国家を侵略していることを声高に非難すべき時だ」と述べた。
また、バイデン大統領が中国の習近平国家主席とこのところ電話会談を行っていないとし、今後行われる可能性を否定しなかった。
●G7、ベラルーシにも制裁 侵攻に協力「強く非難」―外相会合 2/28
先進7カ国(G7)は27日、オンラインで緊急の外相会合を開き、ロシアのウクライナ侵攻に協力しているとして、ベラルーシに制裁を発動することで一致した。議長国ドイツが会合終了後、声明を発表した。会合にはウクライナのクレバ外相も参加した。
声明は「G7外相は、ベラルーシの協力を受けて行われているロシアのウクライナに対する攻撃に強い非難を表明した」と強調。制裁の標的にはベラルーシも含まれるとした上で、「ロシアが戦争をやめなければ一段の措置を取る」と警告した。
●ブラジル大統領「中立維持」、ロシアのウクライナ侵攻巡り 2/28
ブラジルのボルソナロ大統領は27日、ロシアによるウクライナ侵攻を巡りブラジルは中立の立場を取ると述べた。
ボルソナロ氏は会見で「われわれはどちらの側にもつかず、中立を保ち、可能な限り協力する」と説明した。
プーチン氏の行動を非難するかとの問いに対して、最終報告を待ち、事態がどのように解決するかを確認してから意見を述べると語った。その上で、ブラジルに悪影響を及ぼすような制裁には反対だと述べた。
●ウクライナ「降伏も1インチの領土放棄もない」 ロシアと直接協議へ 2/28
ロシア軍の侵攻でウクライナ各地に広がった武力衝突をめぐり、両国が27日、直接協議する場を持つことで合意した。事実上の降伏を求めるロシアに対し、ウクライナ側は「降伏することも、1インチの領土も放棄することもない」との立場を示している。協議の明確なテーマも明らかでなく、事態打開の糸口が見つかるかどうかは見通せない。
協議は、ロシアを支援するベラルーシとウクライナとの国境地帯の検問施設で開く予定で、日時や出席者の顔ぶれなどは発表されていない。米CNNは、ウクライナ当局者の話として、協議は現地時間の28日朝に行われると伝えた。
●ウラジーミル・プーチンの戦争、一体どこでやめるのか? 2/28
ロシア大統領が正当な理由なしに隣国への攻撃を開始した。灰色の雲が重く垂れ込めた2月24日の早朝に始まった頃には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が命じたウクライナへの猛攻撃は、吐き気を覚えるような必然性を帯びていた。だが、この戦争をめぐっては、避けられないことなど何一つなかった。これは完全にプーチン氏が作り出した紛争だ。これからもたらされる戦いと苦難の過程で、ウクライナ人とロシア人の血が大量に流れることになる。そしてその血の一滴一滴がプーチン氏の手を染めていく。
明らかになるプーチン大統領の野望
この数カ月、プーチン氏が隠遁生活を送り、およそ19万人のロシア兵をウクライナ国境地帯に結集させている間は、この男は何を望んでいるのか、というのが疑問だった。
それが戦争だったことが判明した今、問題は、一体どこでやめるのかということだ。
侵攻前夜の話を聞く限り、プーチン氏は、手段を選ばず、どこまでもやる男だと世界に思わせたがっているようだ。
2月21日に録画し、同じスラブ人に向けて巡航ミサイルの第一波を発射した頃に公開した戦争演説で、西側という「嘘の帝国」を罵倒した。
保有している核兵器について誇らしげに語りながら、自分の邪魔をする国はどこであろうと「叩き潰す」と言い切った。
当初の報道は、未確認のものも含め、プーチン氏の野望の大きさを強調するばかりだった。
土壇場での外交活動の対象となったドネツクとルガンスクというウクライナ東部の2州――そこにはロシアが後ろ盾になっている小さな飛び地がある――を制すれば満足するとの観測もあった。
だが、そうした見方は、ロシアによる広い範囲への攻撃の前に瓦解した。
報道によれば、ロシアの地上部隊は東部の国境を越えてウクライナ第2の都市ハリコフに向かっている。
南部のクリミアから侵入した部隊はヘルソンを、ウクライナの北の隣国ベラルーシから侵入した部隊は首都キエフを目指している。
どれほどの戦力を動かしているかは不明だ。ただ、英米の諜報報告でずっと主張されていたように、プーチン氏はウクライナ全土を手中に収めたがっているようだ。
行動に出ることで、同氏は政治的なリスクと利益を推し量る普段の計算を退けた。
その代わり、自分には歴史との約束がある、これは運命なのだという危険な妄想に駆り立てられている。
NATOへの異常な執着
仮にプーチン氏がウクライナ領の大部分を奪取することになっても、国境線で止まって和睦することが見込めないのは、そのためだ。
旧ソビエト連邦の一部だった北大西洋条約機構(NATO)加盟国に攻め入ることは、少なくとも当初はないかもしれない。
だが、勝利で慢心したプーチン氏はこれらの国を、紛争までには至らないサイバー攻撃や情報戦の標的に据えるだろう。
プーチン氏は今後、そうやってNATOを脅かしていく。なぜなら、NATOがロシアやその国民を脅かしていると考えるに至ったからだ。
同氏は2月下旬の演説で、NATOの東方拡大に怒りを露わにした。
その後、西側がウクライナで「ジェノサイド(集団虐殺)」を支援しているとの話をでっち上げ、激しく非難した。
プーチン氏としては、ロシア国民に対して、自由を手に入れたウクライナの同胞をロシア軍が攻撃していると言うわけにはいかない。
そのため、ロシアは米国やNATO、そしてその代理勢力と戦争をしていると話している。
忌まわしい真実は、プーチン氏が隣の主権国家を正当な理由なく攻撃し始めた、ということだ。
大統領は、ロシアの西に存在する防衛同盟に取りつかれている。そして、21世紀の平和を下支えしている原則を踏みにじっている。
世界がプーチン氏に対し、今回の攻撃について大きな代償を払わせなければならないのはそのためだ。
厳しい制裁と防衛体制強化を
これはロシアの金融システムとハイテク産業、そして裕福なエリートに対する大規模な懲罰的制裁から始まる。
侵攻の直前、ロシアが2つの共和国を承認した際、西側は軽微な制裁しか科さなかった。今度はためらってはならない。
ロシアは要塞経済の構築に乗り出したものの、まだ世界とつながっている。そしてロシアの株式市場が当初45%下落したことが示唆するように、制裁は同国を苦しめる。
確かに、制裁は西側にも痛みをもたらす。
侵攻を受けて原油価格は急騰し、1バレル100ドルを突破した。欧州にとってロシアは天然ガスの主要供給国だ。ロシアはニッケルやパラジウムといった金属を輸出しており、ウクライナと同様に小麦も輸出している。
世界経済がインフレとサプライチェーン(供給網)の混乱に苦しんでいる時期だけに、これらはいずれも問題を引き起こすだろう。
だが、裏を返せば、西側が制裁発動の痛みを負う用意ができているという事実は、今回の侵略行為を西側が非常に懸念しているとのメッセージをプーチン氏に送ることになる。
2つ目の課題は、NATOの東側の側面を強化することだ。
NATOはこれまで、1997年にロシアと交わした協定の範囲内で活動しようとしてきた。旧ソ連圏におけるNATOの活動を制限する内容だ。
NATOはこの基本文書を破棄し、それによって得られる自由を行使して東方に部隊を駐留させるべきだ。
これには時間がかかる。その間は、NATOは4万人強の即応部隊を前線に立つ加盟国に直ちに派遣することにより、その結束と意図を示すべきだ。
これらの兵力は、いずれかの加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃だというNATOの原則の信頼性を高めることになる。
またプーチン氏に対しても、ウクライナに深く攻め込むほどその国境におけるNATOのプレゼンスが強まり、プーチン氏の狙いとは正反対の展開になる可能性が高まるだけだというシグナルを送る。
世界でウクライナを支援
そして世界はウクライナが自国と自国民を守ることに手を貸すべきだ。
ウクライナ国民はこれから重荷を背負うことになる。戦争が始まって数時間もたたないうちに、兵士と民間人の双方で死者が出たと報じられた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は国民に、抵抗するよう呼びかけた。
もしプーチン氏がウクライナに傀儡政権を樹立するようなことになったら、ウクライナ国民はプーチン氏とその軍隊、代理勢力をいかにして、かつどこで追い払うかを決めなければならない。
NATOは目先、ウクライナに部隊を派遣しない。核兵器を保有する大国同士の対決に発展しかねないことを考えれば、これは当然の方針だ。
だが、NATO加盟国はウクライナを支援するべきだ。兵器や資金を送ることに加え、難民や、必要なら亡命政権に受け入れ場所を提供すべきだろう。
プーチン氏は現実との接点を失っているし、事態をエスカレートさせたり、計算ミスを犯したり、中国に抱きついたりしかねないため、こうした形で同氏を刺激するのはリスクが大きすぎると言う人もいるだろう。
だが、それ自体が計算ミスだ。
22年間も国のトップに君臨すれば、たとえ自分の運命に対する感覚が発達しすぎた独裁者であっても、生き残るための能力や権力の盛衰を嗅ぎ取る力は持っている。
何もないところから発生した危機に釈然としない多くのロシア国民は、ウクライナの同胞に対して悲惨な戦争を仕掛けることに熱心でないかもしれない。
西側がつけ入る隙はここにある。
宥和は危険
感じよく振る舞うようになることを期待してプーチン氏に便宜を図ることは、もっと危険だ。
中国でさえ、国境を越えて暴れまくる人物は中国の求める安定を脅かす存在であることを理解するはずだ。
今日の進軍が自由であればあるほど、自分のビジョンを明日押しつけようとするプーチン氏の決意が強まる。
そして、ついに同氏の動きを阻止する時に流される血の量も多くなる。
●ウクライナ軍事侵攻で米ロ対立はどこまで行くか 2/28
「ロシア側から戦争をしかけることはない」
2月2日、ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使は筆者の目の前で、はっきりとこう述べた。その口調に淀みはなく、自信に満ちあふれていた。
その明快な語り口から、その頃特定の専門家が指摘していた通り、ロシアはウクライナに軍事侵攻しない可能性があるとの思いを抱いたほどである。
しかし3週間ほど経った2月24日、ロシアはウクライナに軍事侵攻する。大使の「戦争をしかけることはない」との言説はどこにいったのか。
ガルージン氏はロシアの外交使節団の最上級にいる特命全権大使であり、ロシアという国家を背負っている人物である。
ロシアがウクライナに侵攻したことで、国家が嘘をついたと解釈されてもおかしくない。
そして同大使は2月25日午後2時過ぎ、日本外国特派員協会の会見に現れて、軍事行動についての言い訳をする。
「(ウクライナの東部紛争地域に住む)親ロシア派の住民に対するジェノサイド(集団殺害)を防ぐため」
2月2日に「戦争をしかけることはない」と言明した時に比べると、同大使の目は虚ろだった。自己矛盾に陥ったと思えるほどで、こうも述べた。
「市民を守るためであり、ウクライナを占領する意図はない」と言った後、「ロシアはウクライナの市民に対しては一切、軍事行動を起こしていない。軍事施設を攻撃しているだけだ」と発言した。
大使として母国を擁護する立場にあることは理解できるが、一方的にウクライナに軍事侵攻した軍事行動は許されざる行為である。
ウクライナ保健省が2月26日に発表した今回のロシア侵攻による同国の死亡者数は198人にのぼる。
そして同日午後4時から、同じ日本外国特派員協会で今度は赴任して間もないラーム・エマニュエル駐日米国大使が登壇した。
辛辣なロシア批判は2時間前のガルージン大使へのカウンターパンチとでも言える内容だった。
「ロシアがとった過去36時間の軍事行動は許すことができない。ロシア政府が何を言おうとも、今回の侵攻を正当化することはできない」
「国際法を違反し、ウクライナの主権、そして基本的な人間の尊厳を侵害する犯罪行為だ」
さらに早口でこう捲したてた。
「プーチン大統領は世界を脅迫しました。同大統領の言葉を引用すると、『ロシアは最強の核保有国の一つであり、仮に我が国に直接攻撃をしかけてくるところがあれば、いかなる侵略者も敗北し、不幸な結果を招くことになる』」
米露両国の駐日大使が同じ場所で数時間の間隔をあけて真っ向から対立したのである。言説はロシア側に矛盾があることは明らかだろう。
ただここで考えなくてはいけないのは局面の打開策であり、ロシアに対する制裁がどこまで効力を持つかということである。
制裁について端的に述べると、残念ながら「機能しない」と考えた方がいいかと思う。
ホワイトハウスは過去5カ月以上、ロシアによるウクライナ侵攻を阻止するため、何百時間もの議論を重ね、経済制裁を練り上げてきた。
ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライに対する制裁をはじめ、ロシアの主要銀行5行への制裁などが公表されたが、米政府内ではすでにその効力についての懐疑論が出ているという。
ジョー・バイデン大統領が2021年、ウクライナに米軍を派遣しないと述べた時点から、米国にはロシアの侵攻を実質的に阻止することは難しいとの見方が広がっていた。
その背景にはもちろん、過去のイラクやアフガニスタンでの軍事的失敗がある。
軍事的な過ちを繰り返さないために経済制裁が比較的容易に米政府内で議論されるようになったが、実質的な効力は弱いのが現実だ。
ドナルド・トランプ政権の元国務副長官だったスティーブン・ビーガン氏は「制裁という外交ツールはもう飽きられた」とさえ述べる。
つまり、制裁を発動することで、ある種のインパクトを与えることはできても、相手国の行動を阻止し、変容させることはほとんどできなくなっているというのだ。
今回のウクライナ問題でも、制裁の第1弾でプーチン大統領の行動を制限させることはできなかった。
むしろ、制裁発動後からロシアによるミサイル攻撃があり、キエフへの攻撃も行われた。
取材をしていく中で気づかされたのは、ロシアを経済的に締め上げることはかなり困難な作業であるということだ。
核武装しているロシアは軍事的な大国であるというだけでなく、世界第1位の小麦輸出国であり、世界第3位の原油と石炭の輸出国としての経済力を保持している。
さらに国連安保理の常任理事国の一国であることから、拒否権を発動する権利をもつ。
日本時間2月26日に安保理は、ロシア軍のウクライナからの即時撤退などを求める決議案をだした。
だが当事国ロシアが拒否権を発動したことで、即時撤退を求める決議案は否決される。
近年、国際政治の中で発動される制裁は不確実性が高まっている。
2014年のクリミア侵攻後の米欧の制裁はロシア全体としては中程度の打撃にしかなっていない。ロシアは中国や中東諸国で新たな投資先や市場も見出してさえいる。
2021年、ロシア経済の成長率は4.3%と報告されている。ロシアの農業は過去10年間、活況を呈しているし、輸出のドル箱である原油と天然ガスは世界市場で高騰している。
こうした状況下で、米国を含めたNATO(北大西洋条約機構)はどうすべきなのか。
バイデン政権は直接的な軍事介入は紛争拡大のリスクが高いために踏み込まない。
米マサチューセッツ州にあるストーンヒル大学国際関係学部のアナ・オハンヤン教授は、今回の危機を脱するためには新しい考え方が必要になると述べる。
「経済制裁に依存するだけではクレムリンの行動を大きく変えることはできない」
「NATOとロシアの間で集団安全保障条約における制度的協力体制を整えたり、新たな外交戦略が必要になるかもしれない」
軍事行動の代わりに制裁を課しても機能しないことが分かれば、新たな領域を開拓しながら、様々ことを模索していく必要が生じる。
だが今回のウクライナ紛争の落とし所はまだ見えていない。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 戦況は 2/28
ロシア軍はどこまで侵攻しているのか?
アメリカのシンクタンクが公開した地図です。赤い部分はロシア軍が掌握したとされる地域です。ロシア国防省は27日、ウクライナ軍のミサイルなど、これまでに1067の標的を破壊したと発表しています。また、アメリカの衛星会社「マクサー・テクノロジーズ」が27日午前に撮影した写真には、首都キエフに向かうロシア軍の車列が写っています。撮影された場所は、キエフから北におよそ60キロの地点で、戦車など数百台が5キロ以上連なり、ロシア軍が圧力を強めていることがうかがえます。
どこで戦闘が行われているのか?
東部ドネツク州では広い地域で激しい攻撃が続いていて、26日にはロシア軍の砲撃で市民19人が死亡したと州の知事が明らかにしました。第2の都市で北東部にあるハリコフ州と隣接するスムイ州でも、複数の地域でロシア軍との戦闘が起きていると州政府が伝えています。州政府によると、州の南部では25日、幼稚園などがロシア軍の攻撃を受けて、子ども1人を含む、民間人6人が死亡したということです。
ロシア軍は侵攻した先でどんなことをしているのか?
ロシア軍は、ウクライナの南部、北部、東部にある地方都市で攻撃を行ったり、一部の施設の占拠を続けたりしています。このうち、クリミア半島に近い南部の都市ノバ・カホフカでは、ロシア軍が水力発電所を占拠しています。ノバ・カホフカの市長によると、ロシア軍はウクライナへの侵攻を開始した24日に発電所に侵入し、占拠を始めたということです。ロシア軍は、水力発電所のほか、クリミア半島につながる水路に関わる建物も押さえるなど、ロシアが一方的に併合しているクリミア半島への管理を強める一環とみられます。
ウクライナ軍の抵抗は?
ハリコフ州では、ロシア軍とウクライナ軍との激しい戦闘が伝えられていて、州知事は27日、自身のフェイスブックに「完全に私たちがコントロールしている」などと投稿し、ロシア軍を退けたと主張しています。現地で撮影されたとみられる映像には、ロシア軍の軍用車両などが放置されている様子が映っています。
首都キエフはどんな状況なのか?
首都キエフの状況についてクリチコ市長は、AP通信のインタビューで、市民を街の外に避難させる計画があるかという質問に対し「すべての道がふさがれているため、できない。今はロシア軍に包囲されている状態だ」と明らかにしました。ただ、このあとクリチコ市長はSNSへの投稿でこうした内容を否定しています。一方、キエフ市内で27日、ワインの空き瓶などを使って火炎瓶を作る市民の姿が見られたほか、ウクライナ議会の議員もNHKに対し、侵攻を受けた直後にすべての議員に銃が配られたことを明らかにした上で「これまで一度も銃を使ったことはないが、ロシア軍に私たちの街は渡さない」と話しました。
戦況についてアメリカはどう分析しているのか?
アメリカ国防総省の高官は27日、記者団に対し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について、これまでのところロシア軍は主要な都市を制圧できていないとの認識を示しました。高官はその理由について、ウクライナ側から激しい抵抗を受けていることに加え、燃料などの不足に直面していると指摘しました。また、ウクライナ側は現在も防空システムや航空機を使用できており、ウクライナの制空権をめぐる攻防は続いているとしました。また、首都キエフについては、ロシア軍が市街地からおよそ30キロの位置にいるとした上で、偵察部隊の一部が市内に入り、小規模な戦闘が起きているということです。
ウクライナ側にはどのくらいの被害が出ているのか?
ロイター通信はウクライナ保健省の情報として、これまでに14人の子どもを含む352人が死亡したと伝えています。また、国連の機関によりますと、数百の民間住宅が被害を受けたほか、砲撃によって複数の橋や道路が破壊され、一部の地域では停電や断水が起きているということです。
ロシア軍砲撃で6歳女児死亡 ウクライナ東部 AP通信
AP通信が配信した映像によりますと、ウクライナ東部ドネツク州のマリウポリでは27日、ロシア軍の砲撃で重傷を負った6歳の女の子が病院に緊急搬送されました。救急車の中では、医療従事者が懸命に女の子に心臓マッサージを行い、母親はその様子を泣きながら見守っています。その後、女の子は、ストレッチャーに乗せられて病院内に運び込まれ、蘇生措置が行われましたが、亡くなりました。蘇生措置を行っていた医師の1人は「この状況をプーチンに見せろ!」とカメラに向かって叫び、強い憤りを表していました。また、女の子が亡くなったのを受けて、医療従事者の中には、涙をこらえきれずに泣きだす人もいました。この病院では、女の子の父親も集中治療室に運ばれ、治療を受けているということです。
どれくらいの人たちが避難しているのか?
国連の機関は27日、ウクライナから国外に避難した人の数が、少なくとも36万8000人に上ると明らかにしました。実際、ポーランドとの国境に近い、ウクライナ西部の都市リビウを取材すると、国内のほかの地域から列車などで逃れてきた人たちが集まっていました。「25日に空爆があり、3時間シェルターで過ごしました。いつ攻撃されるか分からないストレスに耐えられず避難してきました。列車はすし詰め状態の混雑でした」(キエフからリビウに到着したカップル)「こんなことになるとは思いませんでした。プーチンは恐ろしい男で、私たちが帰る町が占領されてなくなってしまうのではと心配しています」(家族と一緒に隣国ポーランドを目指すという33歳の母親)
ロシアとウクライナの交渉は?
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、ウクライナの代表団がロシアの代表団と会談することで合意したと明らかにしました。双方による会談は、軍事侵攻後、初めてです。会談についてロシア国営のタス通信は、関係者の話として、現地時間の28日午前、ベラルーシ東南部にあり、ウクライナと国境を接するゴメリ州で行われる見通しだと伝えました。ウクライナ側は、前提条件なしで行われると主張しているのに対し、ロシア側はウクライナの非軍事化・中立化を条件としていて、双方の主張が対立する中、会談が停戦につながるかは不透明な情勢です。
ロシアの軍事侵攻に世界は?
軍事侵攻をめぐって、アメリカなどがすべての国連加盟国が参加できる国連総会の緊急特別会合の開催を提案し、27日午後に行われた採決では、常任理事国は拒否権を行使できず、理事国15か国のうち11か国が賛成し、緊急特別会合が開催されることになりました。ロシアは反対し、中国、インド、UAE=アラブ首長国連邦は棄権しました。国連総会の緊急特別会合は28日から始まり、アメリカとしては、すべての国連加盟国が参加できる国連総会の場でロシアを非難する決議案の採決を目指していて、ロシアの国際的な孤立をいっそう際立たせ、圧力を強めたい考えです。
●ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか?背景は?  2/28
ロシアはなぜウクライナの軍事侵攻に踏み切ったのか?その背景を、ロシアの外交・安全保障の専門家などに詳しく聞くと、2つのキーワードが浮かびあがってきました。
1「同じルーツを持つ国」
2「NATOの”東方拡大”」
そもそもから、わかりやすく解説します。
“同じルーツを持つ国”とはどういうことなの?
それを知るカギは、30年前のソビエト崩壊という歴史的な出来事にさかのぼる必要があります。もともと30年前まで、ロシアもウクライナもソビエトという国を構成する15の共和国の1つでした。ソビエト崩壊後、15の構成国は、それぞれ独立して新たな国家としての歩みを始めました。これらの国では新しい国旗や国歌が制定されました。ソビエト崩壊から30年たっても、ロシアは同じ国だったという意識があり、とりわけウクライナへの意識は、特別なものがあると言われています。
ロシアはウクライナをどうみているの?
ロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は、ロシアとウクライナの関係を考えるうえでは、さらに歴史をさかのぼる必要があると指摘しています。8世紀末から13世紀にかけて、今のウクライナやロシアなどにまたがる地域に「キエフ公国=キエフ・ルーシ」と呼ばれる国家がありました。その中心的な都市だったのが、今のウクライナの首都キエフでした。こうした歴史から、同じソビエトを構成した国のなかでも、ロシアはウクライナに対して特に“同じルーツを持つ国”という意識を強く持っていていると指摘しています。
プーチン大統領は?
旧ソビエト時代から長年にわたってロシアを取材してきたNHKの石川一洋解説委員は、プーチン大統領はウクライナを“兄弟国家”と呼び、「強い執着」があると指摘しています。実際、プーチン大統領は去年7月に発表した論文の中でロシアとウクライナ人は同じ民族ということを述べています。プーチン大統領はいまだに旧ソビエト時代の意識から脱却できていないようだと分析しています。
ウクライナはロシアをどうみているの?
一方、ウクライナはそうした“兄弟意識”はなくなったと、石川解説委員は指摘しています。ソビエトが崩壊してこの30年間で、当初はあいまいだったウクライナ国民という意識がつくりあげられたということです。ただ、ウクライナ側にも少し複雑な事情を抱えています。ロシアと隣接するウクライナ東部はロシア語を話す住民が多く暮らしていて、ロシアとは歴史的なつながりが深い地域です。一方で、ウクライナ西部は、かつてオーストリア・ハンガリー帝国に帰属し、宗教もカトリックの影響が残っていて、ロシアからの独立志向が強い地域です。つまり同じ国でも東西はまるで分断されている状況となっています。
ロシアはウクライナにどんな行動をとってきた?
“同じルーツを持つ国”と位置づけるウクライナに対して、プーチン政権はこれまでも、東部のロシア系住民を通じて、その影響力を及ぼそうとしてきました。それはウクライナの大統領選挙にも及び、2004年のウクライナ大統領選挙では、プーチン大統領が2度も現地に乗り込み、東部を支持基盤にロシア寄りの政策を掲げた候補をあからさまに応援しました。そして、2014年に欧米寄りの政権が誕生すると、プーチン大統領はロシア系の住民が多く、戦略的な要衝でもあったウクライナ南部のクリミアにひそかに軍の特殊部隊などを派遣。軍事力も利用して一方的に併合してしまいました。
NATOの“東方拡大”とはどういうこと?
もう1つのカギになるのが「NATO」=北大西洋条約機構の“東方拡大”です。「NATO」は、もともと東西冷戦時代にソビエトに対抗するために、アメリカなどがつくった軍事同盟です。畔蒜主任研究員によりますと、ソビエトが崩壊すると、NATOはもともと共産主義圏だった国々に民主主義を拡大する、いわば政治的な役割も担うようになりました。当時、東欧諸国などの多くが、経済的に豊かだった民主主義陣営に入ることを望んでいて、その入り口となったNATOへの加盟を望む国が相次いだといいます。実際、1999年にポーランドやチェコ、それにハンガリーが正式に加盟。また、2004年にバルト3国などが加盟しました。こうした動きを“東方拡大”と呼びます。また、ウクライナやモルドバ、ジョージアでも欧米寄りの政権が誕生し、NATOに接近する姿勢を示しています。
NATOの“東方拡大”をロシアはどうみている?
畔蒜主任研究員によりますと、ロシアはこれまで、西側から陸上を通って攻め込まれてきた歴史があるため、安全保障の観点から、東欧諸国を“緩衝地帯”だと考える意識が強いようです。そのため、NATOの“東方拡大”に強い抵抗感があり、東欧諸国がNATOに加盟することも、東欧諸国に軍事施設を設けることを嫌がるのだといいます。一方で、ソビエト崩壊後しばらくは、ロシアは感情的に好ましいとは思ってはいなかったものの、否定や反対は明確に表明していなかったそうです。転機となったのが、2006年に旧ソビエト時代の債務を完済し、翌年・2007年にドイツのミュンヘンでの演説でプーチン大統領がNATOの東方拡大について初めて公の場で批判したことだといいます。その後、ジョージアやウクライナのNATO加盟の動きについても、強くけん制しています。プーチン大統領は、最近でもNATOの東方拡大について「約束違反だ」と厳しく批判しています。
プーチン大統領が「約束違反だ」と主張する根拠は?
プーチン大統領が指摘する「約束」について、畔蒜主任研究員は1990年代に、当時のアメリカの国務長官とソビエトのゴルバチョフ書記長との間で交わされたとされる“口約束”を指しているといいます。プーチン大統領の主張では、1990年に東西ドイツが統一する際、東ドイツに駐留していたおよそ10万人のソビエト軍を撤退させるために、アメリカのベーカー国務長官がゴルバチョフ書記長にNATOを東に拡大しないという趣旨の約束をしたといいます。ただ、口頭での約束で文書は残っておらず、本当にそのようなやりとりがあったのかどうか諸説あるということです。畔蒜主任研究員は今回の軍事侵攻の背景には、プーチン大統領が、NATOへの加盟を希望するウクライナの政権を“同じルーツを持つ国”に誕生したアメリカ寄りの“かいらい政権”と捉えていることや、NATOのこれ以上の“東方拡大”を容認できないとする安全保障観が影響しているものと分析しています。
●ゼレンスキー・ウクライナ大統領との電話会談 2/28
ゼレンスキー大統領との電話会談について
ただ今、ウクライナ、ゼレンスキー大統領と電話会談を行いました。その中で、日本はウクライナと共に在ること、ロシアの侵略による犠牲者への心からのお悔やみ、そしてウクライナの主権と領土的一体性に対する確固たる支持、こうしたものを伝えました。我が国は主権と領土、そして祖国と家族を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民と共に在ります。また、ゼレンスキー大統領に対して、既に表明した1億ドル規模の借款に加え、困難に直面するウクライナの人々に対する人道支援として1億ドルの緊急人道支援を行うことを伝えました。昨日も申し上げたとおり、国際秩序の根幹を守り抜くため国際社会と結束して、我が国としても毅然(きぜん)と行動してまいります。そうした観点から、昨日申し上げた措置に加え、次の措置を採ります。日本も参加した欧米諸国の共同声明にある取組として、更に国際社会におけるロシアへの金融制裁の実効性を高めるため、今般、ロシア中央銀行との取引を制限する制裁措置を採ることを決定いたしました。ベラルーシに対する制裁については、今回の侵略に対するベラルーシの明白な関与に鑑み、ルカシェンコ大統領を始めとする個人、団体への制裁措置や輸出管理措置等を講じていきます。これらの我が国の取組に対し、ゼレンスキー大統領から高い評価と感謝の意が表明されました。また、今般、ウクライナにおける情勢の緊迫化を受け、本28日、ウクライナ国境に近いポーランド、ジェシュフ市に臨時の連絡事務所を開設することを決定いたしました。今般、キエフの在ウクライナ大使館及びウクライナ西部のリヴィウ市に設置した臨時の連絡事務所と連携し、在留邦人の安全確保及びウクライナからポーランドへ陸路で退避してくる邦人の受入れに万全を期してまいります。ウクライナの皆さんとの連帯の意思を更に強固にするため、帰国に不安を抱く在留ウクライナ人の方々の在留の延長を可能とする措置を採ることといたします。加えて、後ほど午前1時15分から、バイデン大統領が主催し、米国の同盟国及びパートナーが参加するウクライナ情勢に関する首脳電話会議に参加し、ロシアへの制裁を含む今後の対応やウクライナ及び周辺諸国への支援等について議論を行う予定です。今後も我が国として、G7を始めとする国際社会と連携しながら、引き続き適切に対応してまいります。
邦人の退避に協力するウクライナ周辺国などへの支援についての検討及び電話会談での言及の有無について
今後の情勢をしっかりと確認していきたいと思います。今、申し上げたとおり、我が国として、我が国の在留邦人を守り、そして安全に退避するために全力を注いでまいります。その際に既にポーランドには国境における受入れなど、協力をお願いしているわけですが、今後、状況に応じて周辺国の協力もお願いしなければならないと思っています。御質問はそういった国への支援を考えないかということでありますが、そういった点についても、それは適切に必要であれば、しっかりと対応していきたいと考えます。
電話会談における、ロシアとウクライナの停戦交渉についての言及及びウクライナの情勢についてのゼレンスキー大統領からの説明の有無について
先ほどの会議において、ゼレンスキー大統領の方からは現下のウクライナの情勢、また、ウクライナの政府の対応、こうしたことについて説明はありました。しかし、詳細については、外交のやり取りでありますので、控えさせていただきます。
トヨタ自動車の取引先がサイバー攻撃を受け、明日、国内の全工場の稼働を停止するとの報道があることについて、政府の把握状況、ロシアなどとの関係性についての考え及び経済安全保障法案の早期成立の重要性の認識について
まず、御指摘の点については、報道、承知しています。そして、政府としてもその点について実態を確認させているという状況であります。ですからロシアとの関係等についても、それはしっかり確認した上でなければお答えすることは難しいと思っています。それから経済安保法案の必要性ですが、要するに今回の件との関係については今回の件の実態を明らかにしないと、これはなんとも申し上げられないと思います。言うまでもなく、経済安全保障法案、これは重要な法律であると認識しています。
午前1時15分から行われる首脳電話会議において、どのような議論をしたいかについて
先ほど紹介した、午前1時15分から開催される首脳会談ですが、米国の主催によって、米国の呼び掛けを受けて参加する会議であります。出席者は米国の同盟国及びパートナーということでありますが、その会議の中で、ロシアへの制裁を含む今後の対応やウクライナ及び周辺諸国への支援等について議論を行うという予定であるということは承知しております。それ以上はとりあえず参加してどんなやり取りがあるのか、それを確認してからでないと、ちょっと申し上げることは難しい状況です。
電話会談における、ゼレンスキー大統領からの新たな支援や日本の対応への要望の有無について
具体的に今申し上げたこと以上のことについて要請があったということはなかったと思います。いずれにしろ、引き続き日本に対してウクライナに対する様々な協力や支援をお願いしたいという意向は表明されておられました。
ゼレンスキー大統領の言葉を聞いた感想及び個人的に交わした言葉の有無について
ゼレンスキー大統領、正に大変な困難の中にあり、我が身の危険にも直面している中での電話会談でありました。その真剣な姿勢については、感じたところです。それ以上詳細については申し訳ありませんが控えます。
●「プーチンならやる」ジャーナリストも危惧する「小型核爆弾で北海道恫喝」 2/28
「外部からの邪魔を試みようとする者は誰であれ、歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」
ロシアが核兵器を使用することも辞さないとも取れるプーチン大統領のこの発言が、世界中を震撼させている。
第二次世界大戦終了後、核が戦争に使用されたことはないが、今回のウクライナ侵攻で、ついにその “切り札” が使われてしまうのだろうか。
チェチェン紛争での従軍経験があるジャーナリストの常岡浩介氏は、「ロシアなら十分にありうる」と断言する。
「たしかに、ICBMなどの大型核兵器は、プーチン自身が『使ったら勝者はいないだろう』と語っているように、撃ち合いになった場合に被害が甚大すぎるため、現実的には使用不可能な兵器です。しかし、小型核兵器であれば、実戦でも使用される可能性は十分にあると思っています」
プーチンが使う可能性のあるという小型核兵器とは、どのようなものなのだろうか。
「1999年のチェチェン紛争の際に、ロシアがテロ組織の拠点に使用することを想定した小型核兵器の開発を進めていることが明らかになりました。その小型核兵器が使用されたことはまだありませんが、もうすでにロシアはそれを持っているはずです。先のプーチン大統領の発言もあり、使わないという保証はどこにもないと思いますね」(常岡氏)
常岡氏は、この脅威はけっして他人事ではない、と強調する。
「ロシアが北方領土の独立を敢行し、“北方領土人民共和国” を作り、治安維持のため、ロシア本国から軍隊を派遣する、というようなシナリオすらも、本気で考えておかなければいけないと思います」
北方領土でロシアとの戦闘が始まった場合、標的となるのは、もちろん北海道だ。
「2016年、メドベージェフ前首相は、北方領土の基地を拡大し、択捉島にS300Vという巨大地対空ミサイルの基地を造りました。そこには、最新型の戦車なども配備されています。しかも、日本にとっての脅威は北方領土だけではありません。カムチャツカ半島には、核兵器を積んだ原子力潜水艦の基地もあるんです。今すぐ侵攻を仕掛けることはないでしょうが、そのための拠点はすでに持っています。日本にも、今回のウクライナと同様に核の脅威が向けられ、それをもとにロシアが強硬な交渉に打って出る日は、いつか必ず来ると思ったほうがいいでしょう」(常岡氏)
●ウクライナ情勢を読み解く 「9条で日本を守れるのか?」 2/28
「経済制裁」でも蚊帳の外にいた日本
ウクライナ情勢は、この一週間で大きく変わった。
あるロシア専門家は筆者に「30年以上、ロシアを研究してきたが、これほどのショックと無力感はない」と肩を落としていた。
時系列を追えば、2月21日、「米ロ首脳会談に双方が原則合意」と報じられて一安心と思ったら、翌22日「ウクライナ親ロシア派地域 “国家として承認” プーチン大統領」となった。
これは、外交的解決の唯一の頼みであった「ミンスク合意」の前提条件が根本から破られたことを意味し、その後、24日のロシアの軍事侵攻「“ウクライナを攻撃開始” ロシアの複数の国営通信社が伝える」まで事態は一気に進んだ。
ロシアに対し、欧米諸国は「最大限の制裁を課す」としてきたが、NATOやアメリカは当初から軍隊の派遣を行わないと明言していた。ロシアは他国による軍事的なカウンターをおそれず、ウクライナからの反撃のみを警戒すればよかった。
日本は、欧米が軍事介入しない以上、経済制裁のみ欧米と協調すればいいとの立場だが、はっきりいって蚊帳の外にいた。
2月27日日曜日の朝8時少し前、ロシアの大手銀行などを国際的な資金決済網(SWIFT)から排除する追加の金融制裁で合意したというニュースが入ってきた。SWIFTからの排除は「金融核兵器」とも言われる最強力な制裁措置なので、筆者は思わず「キタ」とツイートした。この措置により、ロシアの今後5年間の破綻確率は2割程度まで高くなっている。
ホワイトハウスのサイトをみると、たしかに金融制裁に合意した共同声明がある。だがよくよくこの声明を読むと、合意したのは米英独仏伊加の6ヵ国と欧州委員会であって、日本が抜けていることがわかる。
まさかと思っていたら、その27日の朝8時からのNHK日曜討論において、林外務大臣が8時40分頃、「金融市場への影響などを注視しながら対応していく」と発言した。やはり日本は蚊帳の外だったのだ。
安倍元首相の「核シェアリング」発言
筆者は、これまで日米間においてバイデン発言の日本への事前連絡がないことや日米首脳会談が対面で行われないことに懸念を持っていたので、やはり日本は蚊帳の外だったのかと落胆した。
日曜の夜になって、ようやく日本も追随することを発表した。ホントにやることが遅い政権だ。
この日の朝には、7時30分からのフジテレビの『日曜報道』に安倍元首相が出演しており、こちらも目が離せなかった。安倍さんの発言で注目すべきは、安全保障のために「核共有」(=核シェアリング)の議論をすべきだという点だった。
一方、護憲派は、「9条で日本を守れるのか?」という根本的な疑問が噴出していることに危機感を持っている。
志位共産党委員長は、「憲法9条をウクライナ問題と関係させて論ずるならば、仮にプーチン氏のようなリーダーが選ばれても、他国への侵略ができないようにするための条項が、憲法9条なのです。」としたが、松井維新代表は「志位さん、共産党はこれまで9条で他国から侵略されないと仰ってたのでは?」と応じた。ネット上では、「9条で日本を守れる」といった護憲派のかつての発言がやり玉にあがっている。護憲派は都合が悪くなると、ゴールを変えてはいないか。
筆者の中では、安全保障のために何をすべきか、とっくに答えは出ている。
本コラムでも、2015年7月20日付本コラム「集団的自衛権巡る愚論に終止符を打つ! 戦争を防ぐための「平和の五要件」を教えよう」において、戦争確率を減らすために、(1) 同盟関係をもつこと (2) 相対的な軍事力 (3) 民主主義の程度 (4) 経済的依存関係 (5) 国際的組織加入が重要であり、それぞれについて戦争確率をどの程度減らすのかを定量的に論じている。(1)と(2)はリアリストの立場、(3)(4)(5)はリベラリストの立場であり、ともに一理あることを定量的に分析したものだ。
今回のウクライナの事例で考えると、相手国が国連常任理事国であると、国連が機能しないことなどから(4)と(5)は意味がなくなる。
憲法改正をする必要はない
そこで、(1) 同盟 (2) 相対的な軍事力 (3) 相手の民主主義の程度が重要になってくる。残念だが、自国で9条のような憲法規定があることはさしたる意味を持たない。9条の趣旨は、第一次大戦後の不戦条約に起源があるが、同条はその後の戦争回避に役立たなかったというのは、有名な史実だ。
ウクライナの場合、(1) 同盟なし (2) ロシアに比べて劣る軍事力 (3) ロシアの民主度は低い(英エコノミスト誌による2021年の民主主義指数は3.24。世界167ヵ国中124位)から、起こるべくして起こったともいえる。
他のヨーロッパ諸国の場合、NATO加盟国なら、(1) 同盟あり (2) 自国軍事力が弱い場合でもNATO軍の補完で、安全保障を確保している。
特に、(1)に付随して(2)を高めるために、「核シェアリング」がNATOで行われていると、2017年9月11日付け本コラム「北朝鮮危機回避の最後の外交手段?「核シェアリング」とは何か」で紹介したことがある。
核シェアリングは核保有ではないが、アメリカが核を提供し、核基地を受け入れ国で共同運用するもので、いわば核のレンタルである。
具体的には、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコで行われている。それぞれの国で、クライネ・ブローゲル空軍基地(ベルギー)、ビューヒェル空軍基地(ドイツ)、アヴィアーノ空軍基地(イタリア)、ゲーディ空軍基地(イタリア)、フォルケル空軍基地(オランダ)、インジルリク空軍基地(トルコ)で、戦術核兵器が持ちこれている。
今の日本を考えると、(1) 日米同盟あり (2) 中国・ロシアに比べると劣る軍事力 (3) 中国・ロシアの民主度は低い(前述したものでみると、中国の民主主義指数は2.21、世界67ヶ国中148位)なので、(1) を除くと、ウクライナと大きな違いはない。
台湾で見ると、(1) 明示的な同盟なし(戦略的曖昧) (2) 中国に比べると劣る軍事力 (3) 中国の民主度は低いなので、ウクライナと似たような状況だ。台湾が有事になれば、尖閣も巻き込まれるので日本の有事でもある。
なお、私見では、日本で核シェアリングを実施するためには、憲法改正ではなく、非核3原則の一つ(持ち込ませず)を見直せばいいと基本的に考えている。非核三原則の見直しで法改正は不要で政府見解の変更のみでいい。
護憲派のいう9条堅持のみと、リアリストの核シェアリングでは、安全保障論としては天と地の差がある。いずれにしても、内容とともに手順論についても夏の参院選に向けて大いに議論してもらいたいものだ。
安保法制の議論の時にも、抑止力を持つと戦争のリスクが高まると言う人がいたが、根本的に間違っている。過去の戦争データ実証から定量的に戦争リスクは低下する。このあたりを是非とも議論してほしい。
●岸田首相 ウクライナ大統領と電話会談  2/28
岸田総理大臣は今夜ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行いました。ウクライナ政府や国民と連帯し、できる限りの支援を行うとともにアメリカなどと連携しながらロシアに対し、厳しい姿勢で臨んでいく方針を伝えたものとみられます。
岸田総理大臣は28日午後7時すぎからウクライナのゼレンスキー大統領と、ロシアによる軍事侵攻のあと初めてとなる電話会談を行いました。
会談の詳しい内容は明らかになっていませんが、岸田総理大臣は、困難に直面するウクライナ政府や国民と連帯し、できる限りの支援を行うとして、先に表明した1億ドル規模の円借款に加え、1億ドルの人道支援を行う方針を伝えたものとみられます。
また、ロシアによる侵略はウクライナの主権と領土の一体性を侵害する重大な国際法違反であり断じて容認できないとする日本の立場を改めて表明したものとみられます。
そして、ロシアのプーチン大統領らの資産凍結を決定したほか、国際的な決済ネットワークからロシアの特定の銀行を締め出す措置に日本も加わることを説明しアメリカやヨーロッパなどと連携しながらロシアに対し厳しい姿勢で臨んでいく方針を伝えたものとみられます。
●SWIFT影響「見通し困難」…週明け金融市場はウクライナ情勢で左右 2/28
米利上げへ影響も
週明けの金融市場は、引き続きウクライナ情勢に左右される展開になりそうだ。ロシアの銀行の国際決済網「SWIFT」からの排除による影響も懸念される。市場の動揺は、利上げに向かう米連邦準備制度理事会(FRB)の政策運営にも影響しそうだ。
「どこまでロシアビジネスに影響が出るのか、金融市場がどう反応するか、見通すのは難しい」。証券関係者は27日、対露経済制裁の切り札とみられてきたSWIFTからのロシアの銀行排除が現実となったことに警戒感をにじませた。
ウクライナ情勢の緊迫化を受け、世界の金融市場では2月中旬以降、資金を投資リスクのある株式から安全資産とみなされている国債や円に退避させる動きが拡大した。日経平均株価(225種)は17日から5営業日連続で下落し、24日にはロシアのウクライナ侵攻開始を受けて一時、2万5700円台まで下がった。
海外市場でも、米ダウ平均株価が16日からの5営業日で計1800ドル超下がり、ロシアとの経済関係が強い英独仏の指標も軒並み下落した。25日は値下がりした銘柄を買い戻す動きなどから世界的に相場は上昇したが、ウクライナ情勢次第で不安定な値動きは続きそうだ。
FRBは、3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決める考えを示している。FOMCメンバーである米クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁は24日の講演で、利上げ方針を堅持しつつ、「ウクライナ情勢は、利上げペースを考える上での重要な材料だ」と述べた。市場では「(22年中に3回とする)年間の利上げ回数が、想定より減る可能性がある」(大手証券)との見方もある。
原油や穀物の価格高騰でインフレ(物価上昇)圧力が一段と強まり、FRBの利上げは避けられない情勢だ。ただ、金融引き締めを急げば、コロナ禍から回復する米経済に水を差し、金融市場の混乱を招く恐れもある。
市場の動き 識者に聞く
原油高止まり続く…東海東京調査センターシニアストラテジスト 中村貴司氏
ロシアは原油や天然ガスの世界有数の産出国で、「SWIFT」からの排除で決済が滞れば、供給が不安定になる可能性がある。原油は、コロナ禍からの景気回復に伴う世界的な需要急増に供給が追いついていない。産油国は脱炭素の流れで増産に慎重だ。原油価格は、今年半ばまでは1バレル=85〜110ドルで高止まりが続くだろう。
株2万7000円台遠く…ニッセイ基礎研究所上席研究員 井出真吾氏
ロシアのウクライナ侵攻で世界的に広がったリスク回避の動きはいったん落ち着いたが、「SWIFT」からの一部ロシア銀の排除による貿易決済などの停滞懸念から、週明けの株式市場は再び下落に転じる可能性もある。ロシア事業を手掛ける日本企業への悪影響は避けられず、日経平均株価は2万7000円台の回復が遠のいた。
円安・ドル高基調に…野村証券チーフ為替ストラテジスト 後藤祐二朗氏
対露経済制裁をはじめ、ウクライナを巡る市場の取引材料が出尽くせば、投資家の関心は再び米欧の金融政策の正常化に向き、為替相場は円安・ドル高基調に戻るだろう。FRBの3月利上げはほぼ決定的だ。大規模な金融緩和を続ける日本銀行との対比で、日米の金利差拡大がより一層意識され、6月末には1ドル=117円台も視野に入る。
●不安定、ウクライナ情勢と米引き締めへの警戒が継続=今週の東京株式市場 2/28
今週の東京株式市場は不安定な展開が予想される。ウクライナを巡る地政学リスクの高まりに加え、3月米連邦公開市場委員会(FOMC)が近づく中で、米金融引き締め加速への警戒感も、相場のかく乱要因として改めて意識されそうだ。
日経平均の予想レンジは2万5900─2万6900円。
ウクライナを巡っては、欧米などがロシアの一部銀行を国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することで合意し、市場では、世界経済への影響を見極めたいムードが高まっている。ウクライナ国内での戦闘状況のほか、各国による制裁の動きが流動的で、関連報道次第では相場が動意づきかねない。加えて、米金融引き締めへの警戒感もくすぶっている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、ロシア側交渉団との協議をベラルーシ国境で前提条件なしで行うと明らかにしており「進展があればある程度の買い戻しは早そう」(国内証券)とみられるが「対ロ制裁の経済影響の先行きが見通せないと、さらに買い上がるのは難しいのではないか」(別の国内証券)という。
金融市場にとって地政学リスクは、短期的なインパクトにとどまるのが通例とされるが、今回のウクライナを巡るリスクの高まりは、各国中銀が金融引き締めに向かう局面で生じており、そのことが事態を複雑にしている。
株式市場にとって、地政学リスクは米金融政策にポジティブとネガティブの両側面からの影響が警戒されている。ネガティブな側面は、原油など資源価格の上昇が促されてインフレ高進を招き、金融引き締めが加速しかねないとの見立てだ。
WTI原油先物は節目の1バレルあたり100ドルを一時上回った後、いったん伸び悩んだが、ロシアの一部銀行のSWIFTからの排除が伝わる中、再び上昇圧力が強まっている。「ロシアの侵攻が継続する間は、原油価格の上昇圧力はくすぶり続ける」(同)との見方は多い。
一方、地政学リスクが世界経済に与える影響を米連邦準備理事会(FRB)が考慮し、引き締めペースが緩やかになれば株価にポジティブとの思惑もある。
●株価 小幅な値上がり ウクライナ情勢をめぐって売り買い交錯  2/28
週明けの28日の東京株式市場は、ウクライナ情勢をめぐって売り買いが交錯し、株価は小幅な値上がりとなりました。
日経平均株価、28日の終値は先週末より50円32銭高い、2万6526円82銭。東証株価指数=トピックスは、10.69上がって1886.93。1日の出来高は14億4822万株でした。
市場関係者は「SWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークから、ロシアの特定の銀行を締め出す経済制裁が実施されれば、ロシアから天然ガスや原油の供給が滞るのではないかという懸念が広がり、売り注文が増える場面もあった。一方、ロシアとウクライナの代表団が会談する見通しとなり、情勢の悪化に歯止めがかかるのではないかという見方から、買い注文も入った」と話しています。
●ロシア「ウクライナ侵攻」のウラで…“神様”バフェットがひっそり仕込む 2/28
バフェットは石油へ
「ウクライナは単なる隣国ではない。我々自身の歴史、文化、精神的空間の切り離しがたい一部なのだ」
2月21日、ロシアのプーチン大統領は高らかにこう謳い上げて、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が一方的に独立を宣言した「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の独立を承認した。
両地域の「要請」を受けて、ロシアは「平和維持」を名目に軍隊を派遣することを決定。米欧はこれに強く反発し、対抗措置を取ることを決定した。(編集部追記:24日にロシアが侵攻を開始、27日23時ごろ、ウクライナ大統領府が同国とベラルーシとの国境でロシアとの対話を行うと発表したとの報道あり)
だが、今回のウクライナの問題は今年に入って突然、緊張が高まったわけではない。すでに昨年春頃からロシアがウクライナ国境付近に軍隊を集結し始めていた。
少なくとも'36年まで大統領の座に君臨し続けることのできる“皇帝”プーチン大統領にとってウクライナ併合は悲願の一つだ。
権力を保持し続けるためには、ロシア国民に目に見える成果をもたらすことが必要で、それがロシア側から見れば「同じスラブ民族」であり、旧ソ連第2位の人口を誇るウクライナの併合なのである。
'14年のクリミア併合も含め、プーチン大統領のロシアは昔も今もウクライナを狙っている。それがロシアと欧米の全面的な武力衝突に向かうかどうかは、なお予断を許さない。
こうした危機の高まりに対し、マネーの流れに敏感な世界の大金持ちたちは動き始めている。彼らは自分たちの資産がどれだけ莫大であろうと、1ドルたりとも損をしないよう対処する。ウクライナ危機に先んじて、すでに資産防衛の動きを活発にしているのだ。
たとえば米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏は、すでに昨年から資産の組み換えに動いている。同氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは昨年10月から12月にかけて、米石油大手、シェブロンの株を3割も買い増した。
同社は「スーパーメジャー」と呼ばれる国際石油メジャーの一角。ウクライナ事変で世界最大の原油・天然ガス輸出国の一つであるロシアからの輸出が少なくなれば、当然、原油価格は高騰していく。原油の値段が高くなれば、米国の石油企業の儲けはどんどん大きくなるという理屈だ。
シェブロンはコロナによる業績低迷から劇的に復活していて、'21年12月期の通期利益は156億ドル(約1・8兆円)となった。前期55億ドル(約6300億円)の赤字からのV字回復である。
アフターコロナの時代になり、石油の需要が回復する一方、ウクライナ危機で原油価格が上昇すれば、米国の石油会社が儲けられるのは間違いない。「オマハの賢人」と呼ばれたバフェット氏はもう91歳だが、その眼力はいまだ信用に値する。
エネルギー危機に加えて、ウクライナ事変がもたらすもう一つの危機は世界的なインフレだ。コロナからの脱却ですでに問題になっているが、軍事的衝突がそれに拍車をかけそうだ。インフレを防ぐために行われるのが、各国の利上げである。
●ロシア「ウクライナ侵攻」のウラで…大富豪たちが仕込む「やらない」投資 2/28
ダリオはITを売った
バフェット氏と並ぶ米国の著名投資家、レイ・ダリオ氏が率いる世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターは昨年10〜12月に、米ネットフリックスや米アマゾン・ドット・コムの株を売り払って、代わりに米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や米ペプシコの保有比率を高めた。
国際金融の最前線で世界情勢を分析してきた元HSBC証券社長の立澤賢一氏がその意図をこう読み解く。
「米国のハイテク株が市場を牽引してきたのは確かですが、ハイテク株はほとんど配当を出さないために利回りが悪く、金利上昇局面では売られる傾向にあります。ダリオ氏が米国のIT銘柄の保有比率を下げるのは、そうした流れを先読みしているからです。
ハイテク株とは逆に、これまで売られ続けた企業の中で割安感のある株に資金の割り当て先を替えているのでしょう。P&Gは65期にわたって増配(前期よりも配当を増やすこと)を続け、ジョンソン・エンド・ジョンソンも58期連続で増配しています。
ハイテク株は配当が少なく、株価が下がれば、その分、損をするだけですが、高配当銘柄はたとえ株価が下がったとしても、配当収入があります。だからこそ、株価が下がりにくいという側面もあるのです」
ほかにも、米国のコカ・コーラやスリーエム、ペプシコが似たような銘柄として挙げられると、立澤氏は指摘する。
国内ではバイデン大統領に対してウクライナ問題に関与すべきではないとの声が大多数だ。むしろ、米国内のインフレに対処してほしいというのが米国人の本音だ。
ダリオ氏は、2月に行われたインタビューで、
「米国でインフレ対策のための金融引き締めが行われると不況につながり、国内が混乱します。国際的な地政学的課題に対してもより脆弱になる可能性があり、たとえば、台湾と中国、ウクライナとロシアで摩擦が過熱する可能性があるでしょう。米国は成長率の見通しが低く、経済指標も弱くなっています。一方、中国は今後10年間で、毎年5%近辺の成長が見込めます。そうなれば、中国が米国より強力になっているかもしれません」
と語っている。この言葉を裏付けるように、昨年後半には、ダリオ氏のヘッジファンドは中国のネット通販企業のアリババやJDドットコム、ピンドゥオドゥオ、検索エンジン会社のバイドゥなどを買い増している。
ロジャーズは農業国に注目
一方、世界的投資家のジム・ロジャーズ氏は、「危機は投資の機会だ」と力説する。取材に答えたロジャーズ氏の言葉に耳を傾けよう。
「ウクライナ危機が戦争に発展したら、世界経済は大混乱に陥ります。戦争になると物価は高騰し、株価は世界中で暴落する。戦争の終わりが見え始めたら、暴落した株は『買い』ですが、戦争がいつ終わるかは今のところ、誰にもわかりません。米国が戦争をしたがっているように見えるからです。それを考えると、現時点では株式をすぐに買えるような段階ではないように思われます」
では、危機が去るのをじっと待つことしかできないのだろうか。そうではないと、ロジャーズ氏は言う。
「危機が起きると、大半の人は苦しむことになりますが、おカネを得られる人もいます。たとえば、小麦などを生産する農業国は需要が高まり、儲けられるでしょう。銅や鉛、リチウムなどを産出する国も潤うはずです。同じ流れで、原油や天然ガス、小麦、産業用金属などを扱う会社の株を買うチャンスです。金はすでに高くなっていますが、価格が下落したタイミングでは買ってもいいと考えています」
なお、原油や小麦、産業用金属は、その価格に連動する上場投資信託(ETF)が東京証券取引所に上場されている。ロジャーズ氏の見解を参考にするのならば、こうした投資信託で資産防衛を図るのも一つの方法なのかもしれない。
世界中で金融サービスを提供するUBSグローバル・ウェルス・マネジメントの株式ストラテジスト、デービッド・レフコウィッツ氏が投資家たちの動向を分析する。
「2月23日現在、ロシアがウクライナに再侵攻をするのか、非常に流動的な状況です。もし、実際に侵攻が起これば、主力株は暴落するでしょう。(編集部追記:24日にロシアが侵攻を開始、27日23時ごろ、ウクライナ大統領府が同国とベラルーシとの国境でロシアとの対話を行うと発表したとの報道あり)ただ、侵攻が短期で終われば、すぐに市場は回復するはずです。今は株を購入するのに適した環境ではありませんが、エネルギーや肥料、海運業といった業種は強気の値動きが続いています。欧州がロシアから天然ガスを得られなくなり、液化天然ガス(LNG)が高騰するケースを想定して、米国のLNG関連会社、シェニエール・エナジーの株価上昇を見込んで買っている投資家も多くいます」
元世界銀行CIO(最高投資責任者)で、現在は世界最大級の多様な経営者による投資会社である、米ロッククリークの創業者兼CEOのアフサネ・べシュロス氏は新興国への投資が活況を呈していると指摘する。
「ロシアのウクライナ侵攻がよりエスカレートするかはわかりませんが、その可能性が高まったことにより、先進国の市場の不確実性とボラティリティ(変動性)が増大しました。一方で、安全な投資先として新興国へ資金が流入しています。今の状況は非常に複雑です。ウクライナ情勢が沈静化するかどうか、自動車レースのようにチェッカーフラッグが振られて終了するわけではありませんから。軍事的衝突がひとたび起これば、状況はしばらく鎮火しない可能性のほうが高く、先進国のマーケットはこういう状況を好みません。しかし、新興国の市場は、堅調に推移しています。株式も現地通貨も好調です。FRBの利上げの影響は受けますが、それまでは高まる緊張の中で、最も影響を受けにくいのが、新興国市場と言っていいでしょう」
実際にウクライナから遠く離れた東南アジアの株式市場は活発に動いている。新興国に投資マネーが流入し、タイやシンガポール、インドネシアの株価指数は相次いで年初来高値を更新したのだ。エネルギー価格の高騰も、資源産出国の多い東南アジアには追い風になっている。
日本にマネーが集まる
新興国だけではない。富裕層のマネーが向かう先が、意外なことに日本の不動産市場だと指摘するのは、英国在住で、富裕層の資産運用に詳しいS&Sインベストメンツ代表の岡村聡氏だ。
「英国ではこの2年間続いてきたコロナのニュースがいまやゼロです。日本人がロンドンに来たら驚くと思いますが、誰もマスクをつけていませんよ。ほぼすべての規制はもうなくなりました。代わりに朝から晩まで詳しく報じられるのがウクライナ関連のニュースです。欧州は天然ガスなどのエネルギーをロシアに頼っており、今は真冬とあって、生命の危険につながりかねない重大な懸念なのです。こうした中、問題がさらに深刻になれば、天然ガスの調達をロシアに依存する欧州はどうしようもありません。ユーロも英ポンドも売り込まれる。そうなる前に、資産をスイスフランや米ドルに移すという動きが活発になっています」
かつては「有事の円買い」と言われ、世界的な危機や災害が起こったときは円高になってきた。しかし、長期停滞が続く日本の通貨は存在感が薄れ、ウクライナでの緊張が高まる今も、円安のまま放置されている。その日本に、世界のマネーが集まる余地がある。
「円安のため、欧州から見ても日本の物価は激安です。何を食べてもおいしくて、安い。感覚的には英国の3分の1の物価水準のように感じます。日本の入国規制が緩和されれば、インバウンド需要はとてつもないことになるはずです。こうした展開を見越しているのか、昨年は米投資ファンド大手のブラックストーン・グループが近鉄グループホールディングスからホテル8棟を購入。今年に入ってシンガポールの政府系ファンドが西武ホールディングスから『ザ・プリンスパークタワー東京』をはじめ、31物件を取得しました。海外の大金持ちから見たら、日本の不動産も破格。ぼやぼやしていると根こそぎ持っていかれるでしょう。逆に目端の利く人は不動産分野で稼ぐチャンスがあることもまた事実です」(岡村氏)
 
 

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 3/1
国連安保理 ウクライナの人道状況協議の緊急会合を開催
国連安保理は28日午後、ウクライナの人道状況について協議する緊急の会合を開きました。この中で会合の開催を提案したフランスのドリビエール国連大使は「ロシアの攻撃によってウクライナの人道状況に著しい影響が出ている。子どもを含む民間人の犠牲者が 増え続けている」と述べ、ロシアを非難しました。そして「ウクライナ国民のため、国際人道法の尊重や民間人の保護、人道支援を妨げないことなどを求める決議案を準備している」と明らかにしました。これに対して、ロシアのネベンジャ国連大使は、「軍事作戦の5日間にロシア軍の過失で民間人が死亡したという証拠はない」と反論し、「ウクライナ軍から絶え間なく攻撃を受けたウクライナ東部の住民に支援を続けたのが唯一、ロシアだ」と述べ、フランスなどが準備している決議案に慎重に対応する姿勢を示しました。
キエフ近郊 戦闘で荒廃 町には人影ほとんどなし
ウクライナの首都キエフから北西におよそ20キロ離れたブチャでロイター通信が28日、撮影した映像では▽焼け焦げた軍用車両や自動車が路上に放置されている様子や▽道路が大きく陥没している様子が確認できます。町には人影がほとんどなく、スーパーマーケットでは窓が激しく壊れ、瓶のようなものが床に散乱しているのも確認できます。ブチャには、27日にロシア軍の戦車が入り、ウクライナ軍と散発的に銃撃戦になったということでここに住む男性は、「ウクライナはこの戦いに勝ってプーチンを止めます。これは卑劣で残虐な行為で人間にこんなことはできません」と怒りをあらわにしていました。アメリカ国防総省が28日、発表した最新の分析によりますと、ロシア軍はキエフから北におよそ25キロの地点にいて今後さらに前進を続け、数日のうちにキエフを包囲しようとしているということです。
岸田首相 “国際社会が結束し きぜんと対応を”
ウクライナ情勢をめぐり、アメリカのバイデン大統領の呼びかけでG7=主要7か国などの首脳らによる電話会議が、日本時間の1日未明行われ、岸田総理大臣も参加しました。これについて岸田総理大臣は1日朝、総理大臣官邸で記者団に対し「私からは、ロシアのウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであるということ、また国際社会が結束して、きぜんと対応することが重要であることなどを訴えた」と述べました。また「唯一の戦争被爆国、とりわけ被爆地・広島出身の総理大臣として、核による威嚇も使用もあってはならないと強調した」と述べました。さらに会議では、各首脳らが「ロシアによるウクライナ侵略は武力の行使を禁止する国際法の深刻な違反だ」として厳しく非難した上で、国際社会が一致して強力な制裁措置をとっていく必要性を確認するとともに、引き続きウクライナ政府や避難民への支援で協力していく方針で一致したと説明しました。
ゴルバチョフ氏が代表務める財団 即時停戦と和平交渉訴え
ロシアのプーチン政権によるウクライナへの軍事侵攻について、旧ソビエトの大統領で、1990年にノーベル平和賞を受賞したミハイル・ゴルバチョフ氏が代表を務める財団は28日までに声明を出し、即時停戦と速やかな和平交渉の必要性を訴えました。声明では「人の命ほど尊いものはこの世に存在しないし、存在し得ない。相互の尊重と配慮に基づく交渉と対話のみが最も深刻な問題を解決し得る」として、プーチン政権に対して強硬姿勢を改め交渉による事態の打開を求めています。
北欧諸国 方針転換しウクライナに兵器供与へ
アメリカやイギリス、ドイツなど各国がウクライナへの軍事支援を進めるなか、これまで紛争中の国に兵器を供与しない立場をとってきた北欧諸国も方針を転換し、同様の措置を打ち出しています。このうちロシアの隣国で、1939年に当時のソビエトの侵攻を受けたフィンランドは28日、ウクライナにライフル2500丁や1500の対戦車兵器などを供与すると発表し、マリン首相は記者会見で「歴史的な決定だ」と述べました。また、スウェーデンも27日、ウクライナに5000にのぼる対戦車兵器とヘルメットや防護服などを送ると発表しました。スウェーデン政府によりますと、兵器の供与はかつてソビエトの侵攻を受けたフィンランドに供与して以来だということで、アンデション首相は「ウクライナへの支援はスウェーデンの安全保障上の利益となる」とコメントしています。
シェル 石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退
イギリスの大手石油会社シェルがロシア・サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると発表しました。サハリン2は、サハリン北部の天然ガスからLNG=液化天然ガスを生産するなどの国際的な開発事業で、ロシア最大の政府系ガス会社ガスプロムが主導する合弁会社にイギリスのシェル、そして日本の三井物産と三菱商事がそれぞれ出資しています。シェルは声明で、「世界各国の政府と協議しながら関連する制裁を遵守する」と述べており、シェルの撤退で日本側の対応が問われることになりそうです。サハリンで生産されるLNGの多くは日本向けに輸出されており、日本にとってはエネルギー安全保障の観点から重要なエネルギーの調達先となっています。
G7などの首脳ら電話会議 強力な制裁措置の必要性を確認
ウクライナ情勢をめぐり、G7=主要7か国などの首脳らによる電話会議が行われ、日本から岸田総理大臣も参加しました。各首脳らは、ロシアによる軍事侵攻を厳しく非難し、国際社会が一致して強力な制裁措置をとっていく必要性を確認しました。
米国防総省の高官 “ロシア軍 数日のうちにキエフの包囲ねらう”
アメリカ国防総省の高官は28日、記者団に対し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について最新の分析を明らかにしました。それによりますとロシア軍はウクライナの国境周辺に展開していた戦闘部隊のうち、これまでに75%近くの戦力をウクライナ国内に投入したほか、380発以上のミサイルを発射したということです。そしてロシア軍は首都キエフに向けてこの1日で5キロ前進し、キエフから北におよそ25キロの地点にいるということです。この高官はキエフへの侵攻は依然としてロシア軍の主要な作戦だとして、今後、さらに前進を続け、数日のうちにキエフを包囲しようとしていると指摘しました。また、ロシアのプーチン大統領が27日、国防相などに対して、核戦力を念頭に、抑止力を特別警戒態勢に引き上げるよう命じたことについて「われわれは監視を続けているが、プーチン大統領の命令を受けた具体的な動きはまだない」と指摘しました。
プーチン大統領 “停戦条件 ウクライナ非軍事化と中立化”と強調
ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領は28日、電話会談を行い、ロシアが軍事侵攻を続けているウクライナの情勢について意見を交わしました。ロシア大統領府によりますと会談でプーチン大統領は停戦の条件について「ウクライナ国家の非軍事化と、中立的地位の確保など、ロシアの安全保障上の利益が無条件に考慮された時にのみ可能だと強調した」として、あくまでもウクライナの非軍事化と、NATO=北大西洋条約機構の加盟阻止につながる中立化を求めていく姿勢を示しました。
ロシアとウクライナの会談 交渉継続合意も停戦実現楽観できず
ロシアとウクライナの代表団が28日、ロシア軍の侵攻が始まってから初めてウクライナと国境を接するベラルーシ南東部でおよそ5時間にわたって交渉にあたりました。ウクライナ側は即時停戦と軍の撤退を求めているのに対し、ロシア側はウクライナの非軍事化と中立化を要求していて、双方が歩み寄りを見せるかが焦点になっています。交渉のあとロシア代表団のトップのメジンスキー大統領補佐官は「あらゆる議題が詳細に話し合われ、いくつかの点では共通の土台を見いだせる」と述べ、双方がいったん帰国し、数日以内に再びベラルーシとポーランドの国境地帯で交渉する見通しを明らかにしました。一方、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問もツイッターで、「ロシアから突きつけられていた 最後通ちょうは無くなった」として一定の進展があったことを示唆しました。ただ、「交渉は難しい。ロシア側は自分たちが始めた破壊的なプロセスにこだわっている」として、ロシアが強硬な姿勢を崩さず双方の主張の隔たりが大きいことをうかがわせていて、今後の交渉が停戦につながるのかなお楽観できない情勢です。
ウクライナからの国外避難 50万人以上に UNHCR
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は28日、ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数が50万人以上に上ったと明らかにしました。AP通信がUNHCRのまとめとして伝えたところによりますと、避難した人が最も多いのはポーランドで28万人以上、ハンガリーがおよそ8万5000人などとなっています。ポーランドとの国境に近い、ウクライナ西部の都市リビウの駅は、ポーランドなどへ向かう列車に乗ろうとする人々であふれかえっていて、国外に逃れるため、目的地の変更を強いられる人も出てきています。ウクライナの首都キエフからルーマニアに到着した男性は、3日待ってもポーランドに入ることができなかったと話し、「危険なのでキエフを離れざるを得ませんでした。ポーランド国境を通ろうとしましたが、人が多くて通ることができず、ようやくここに来ました」と疲れた様子で話していました。
エアビーアンドビー 避難民に一時的な住居10万人分 無償提供へ
アメリカの民泊仲介サイト大手、「エアビーアンドビー」は、ウクライナから近隣諸国へ避難している人たちに対し、一時的な住居10万人分を無償で提供すると発表しました。会社は、28日、ポーランド、ドイツ、ハンガリー、それにルーマニアの指導者たちに書簡を送り、支援を表明したということで、各国のニーズに応じて、長期的な滞在も支援したいとしています。エアビーアンドビーのチェスキーCEOは、ツイッターで、「避難民に住居を提供できるという人はぜひ支援してほしい。住居を提供できなくても寄付で助ける方法もある」などと呼びかけています。
ベラルーシ 憲法改正へ 核兵器配備につながらないか欧米側は懸念
ウクライナと国境を接するベラルーシでは、28日、国民投票の結果、憲法が改正されることになりました。改正される憲法では「自国の領土を『非核兵器地帯』にして『中立国家』を目指す」というこれまでの憲法に明記されていた条文の一部が削除されています。ベラルーシは、ロシアと軍事面での連携を強化していてルカシェンコ大統領は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国などを念頭に「敵国が愚かなことをしてくるのであれば核兵器の配備もありうる」として、威嚇する発言を行っていました。ベラルーシで改正される憲法で「中立国家」と「非核兵器地帯」という文言が削除されたことで、ベラルーシ国内にロシアの核兵器が配備されることにつながらないか欧米側からは懸念の声が上がっています。
アメリカ国務省 ベラルーシにある大使館の業務停止
アメリカ国務省は28日、ウクライナの隣国のベラルーシにある大使館の業務を停止し、職員に対し国外退避を命じたと発表しました。ベラルーシは、ロシア軍によるウクライナ侵攻の拠点のひとつとされていて、現地のアメリカ人に対しても速やかに出国するよう求めています。また、国務省は、ロシアの首都モスクワにある大使館の一部の職員について、希望すれば国外への退避を認めることを決めました。そして、ロシア国内に住むアメリカ人に対しては、治安当局による嫌がらせなどのおそれがあるとして、ロシアを出発する航空機が運航しているうちに、速やかな出国を検討するよう呼びかけています。
国連の人権理事会 ロシア非難相次ぐ
スイスのジュネーブで開かれている国連の人権理事会では28日、各国の代表からロシアによる軍事侵攻を非難し、ウクライナの現状に懸念を示す発言が相次ぎました。このうちカナダのジョリー外相は「平和と法律に基づく国際的な秩序、それに、第2次世界大戦以降世界が築き上げてきた国連憲章に対する挑戦だ。ロシアはこうした体制をあざけり、『力は正義』という世界に逆戻りさせようとしているが、許してはならない」と強い口調で述べました。一方で軍事侵攻についてロシアの代表は、親ロシア派が事実上支配している地域について、ロシアが独立国家として承認したあともウクライナ側からの砲撃がやまず、むしろ状況が悪化したからだとした上で「惨事を防ぐため、特別な作戦を行うほか選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化しました。
日本時間0:00すぎ 国連総会の緊急特別会合始まる
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、すべての国連加盟国が参加できる国連総会の緊急特別会合がアメリカ・ニューヨークの国連本部で始まりました。緊急特別会合は数日間開かれ、アメリカは、ロシアを非難する決議案を採決し圧力を強めたい考えです。
ロシア政府 36の国と地域の航空会社対象に運航制限
ロシア政府の航空運輸局は28日、ヨーロッパ各国がロシアの航空会社の運航を禁止したことへの報復措置として36の国と地域の航空会社を対象に運航を制限すると発表しました。対象にしたのは、イギリスやドイツ、フランス、スペイン、イタリアなどヨーロッパの主要国のほかカナダなどの航空会社で、こうした国や地域からの運航には航空運輸局かロシア外務省の特別な許可が必要だとしていて、空の便でも影響が広がっています。
ウクライナ第2の都市ハリコフ 市街地砲撃 民間人5人含む7人死亡
ロシア軍との激しい戦闘が伝えられているウクライナ第2の都市ハリコフの当局によりますと28日、市街地が多数の砲撃を受け、44人が病院に運ばれ民間人5人を含む7人が死亡したということです。ウクライナ軍が公表した動画では、建物の壁面にいくつものせん光が見え、煙が立ち上る様子が確認できます。ハリコフの当局によりますと、けが人は今後増えるおそれもあるということです。
●プーチンは軍事力で「ロシアの栄光」を取り戻せるのか? 3/1
ロシアのプーチン大統領は2月21日、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力支配地域に設立された「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認する大統領令に署名した上で、これらの「共和国」とロシアの友好相互援助条約に調印した。
条約にのっとり、ロシアはこれらの「共和国」内に軍事基地を建設する権利を持った。プーチン大統領は早速、「平和維持」を目的として軍を派遣するよう国防省に指示を発した。この時点では親ロ派武装勢力支配地域へのロシア正規軍進駐にとどまるのではないかと筆者はみていたのだが、そうではないことが数日後に明らかになった。
ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランス4カ国によるウクライナ東部紛争解決の道筋を定めた2015年の「ミンスク合意」は崩壊した。合意はもはや存在しないと22日にプーチン大統領は明言した。ウクライナ政府が親ロ派支配地域に「特別な地位」を与えることが、この合意には盛り込まれていた。高度な自治権付与を意味すると解されていた。
だが、自国の分裂を助長するような動きをウクライナ政府はよしとせず、プーチン大統領はそのことを非難し続けていた。そこにロシアがつけ入るスキがあったとも言える。
2つの「共和国」への国家承認からさほど間を置かず、24日にロシアはウクライナに対する広範囲な軍事攻撃に踏み切った。ウクライナ全土を占領する目的ではなく、軍事的にウクライナを無力化する狙いからである。キエフ近郊を含むウクライナ空軍の防空施設などを先制攻撃して制空権を握ろうとしたほか、ウクライナの主要な港湾都市への上陸作戦も実行されたようだ。
欲しいものを手に入れるために冷徹に手を打ってくるプーチン大統領に対して、米欧の手持ちのカードはそう多くはなく、手詰まり感が漂う。
説得力を持たない米国
24日の軍事侵攻よりも前の段階で、バイデン米大統領が自ら発表したものを含めて米国による対ロシア経済制裁の内容がさほど強力なものでなかったことに関しては、「ロシアによる本格的な軍事侵攻に備えて切り札を温存した」「強いカードを発動しないでおくことによりロシアの行動を抑止する効果を期待した」といった説明が、マスコミ報道の中に散見されていた。だが、そうした説明に、説得力はほとんどなかった。
制裁カードが潤沢にあるのならば、事態の推移に応じて出していけばよいはずである。ロシアが「ミンスク合意」を破棄した場面は、1つの大きなヤマ場だった。
だが、ロシアのエネルギー産業を制裁対象にすることには、ロシアからの天然ガス輸入への依存度が高い欧州連合(EU)の側に、強い抵抗感がある。
銀行間の国際決済ネットワークからロシアを排除してしまうという選択肢もある。だが、これもまた、ロシアと経済・金融面でつながりが強い欧州諸国の経済・金融システムにもたらされ得るダメージを無視できない。
手持ちの使えるカードが少ないがゆえに、臨機応変に出すことができなかった。急いで出してしまうと事態が一層深刻化した際に対処するカードがなくなると危惧されたのが、実情だろう。そうした米欧の足元を見透かしたロシアは、ついに自信を持って軍事行動に出たというわけである。
シン米大統領副補佐官(国家安全保障担当)は2月22日の記者会見で、「ロシアが事態をエスカレートさせれば、われわれも制裁をエスカレートさせる」と述べたものの、「残された制裁でプーチン大統領のさらなる行動を抑止できるのか」と問われると、「制裁は徐々に効いてくる。発動して初日に効果が表れるものではない」といった、苦しい回答に終始したという(2月24日付 読売新聞朝刊)。
経済制裁をうけて海外マネーの買いが入らなくなったロシア国債の利回り大幅上昇についても、少なくとも短期的にはロシア政府にとってほとんど問題にならないだろうとされている。エネルギー価格大幅上昇による歳入増加、6300億ドルを超える多額の外貨準備、政府債務比率の低さが、その根拠である(2月24日付 フィナンシャル・タイムズ)。
ドイツのショルツ政権はロシアとの間に敷設された天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続きを停止する決定を下した。ロシアの動きをもはや看過できなくなる中での、米国からの強い要請をうけた措置だろう。けれども、この動きについてロシア側から、計画をこのまま中止するならドイツにとっては経済的に自殺行為ではないかと評するシニカルな声も出ている。
ハーベック独副首相兼経済・気候保護相からは22日、「ノルドストリーム2」経由で追加供給がなくても天然ガス供給は確保されるという強気の発言もあった。だが、ロシアに代わる有力な天然ガス調達先と目されているカタールのアルカービ・エネルギー相は同日、ロシア産天然ガスの肩代わりを一国で迅速に担うのは不可能に近いと述べた。
ロシアのしたたかさは、軍事行動のタイミングにも表れていた。北京冬季五輪の閉会式が行われた直後に、ロシアは軍を動かした。
過去のロシアの軍事行動と五輪開催のタイミングの近接は、以前からしばしば指摘されていることである(最近では1月31日付 東京新聞朝刊)。
ウクライナ南部のクリミア半島をロシアが併合したのは、14年にロシア国内で開催されたソチ冬季五輪・パラリンピックの直後だった。
政治的に支え合う? 中ロ
08年の北京夏季五輪では、開会の直後にジョージア(グルジア)の南オセチアに対し、ロシアが軍事介入をした。この時は、五輪開催国の中国が五輪精神を引き合いに出し、両国に開催期間中の停戦を呼び掛けた。
今回は、同じ北京で開かれた五輪の閉幕を待った上でロシアは動いたわけだが、米国と対抗する上でこのところ連携を深めている中国・習近平(シー・ジンピン)国家主席への政治的な配慮があったのではないかと推測される。
北京五輪開会式当日の中ロ首脳会談は、両国の対米共闘姿勢をアピールする場になっていた(当コラム2月8日配信「『世界の分断』が浮き彫りになった北京オリンピック開会式」ご参照)。
ロシアは、米国の対抗策の手詰まり感や欧州との足並みの乱れを見透かしつつ、今後も強気の姿勢を維持すると見込まれる。
筆者のみるところ、今回のウクライナ危機を外交的手法で解決しようとする際に大きな障害になるのは、米国のバイデン大統領の「理想主義」である。
基本的人権、民主主義、国際協調。いずれも普遍的な価値を有する概念だと筆者は思うのだが、どろどろした国際政治の世界では時に理想を棚上げして双方の利害を合致させる妥協点を見いだそうとする、マキャベリスティックな姿勢が必要になってくる。
理想主義的な姿勢を前面に出すばかりでは、仮にロシアとの間で交渉が今後再開される場合でも、両国の主張は常に平行線のままであり、妥協の糸口を見いだすのは極めて困難だと言わざるを得ない。
レガシーづくりにいそしむプーチン
一方のプーチン大統領はどうか。長期政権を築き上げる中で近年は、旧ソ連が崩壊した後のロシアの影響力低下を強く問題視しているようである。「ロシアの栄光」を取り戻すこと、旧ソ連圏への影響力を強めるなどして安全保障面の防壁を強化することが、プーチン大統領にとって「レガシー」づくりの中心にあるように見える。
ロシア軍が侵攻するよりも前の話だが、英経済紙フィナンシャル・タイムズが伝えていた話で筆者が印象的だったのは、フランスのマクロン大統領に同行してプーチン大統領の様子をじかに見ていたと推測される、フランス政府高官のコメントである。この人物によると、プーチン大統領はもはや西側を信頼しておらず、西側に「恐れられる存在」になりたがっているようだという。
歴史は政治家のパーソナリティーによりつくられるのか、それとも経済社会状況が歴史のありようを規定していくのか。クリアカットな結論が出にくいテーマであるわけだが、今回のウクライナ危機に関して言えば、米国とロシアの政治指導者の動き方次第で、今後現出する状況のかなり多くの部分が左右されるのではないか。
バイデン大統領は、11月に中間選挙を控えているものの、支持率は低迷している。ピューリサーチセンターが1月25日に公表した世論調査結果で、バイデン大統領の支持率は41%、不支持率は56%になった。これより前、1月20日にロイター/イプソスが発表した別の調査では、支持率は43%で就任以来最低。不支持率は53%である。
新型コロナウイルス感染拡大への対応も含めて民主党支持者と共和党支持者の分断が深まっている上に、物価上昇率が高くなって米国民の不満が強まった。看板政策の1つである育児支援・気候変動対策などを盛り込んだ大型歳出法案は、民主党内の穏健派であるマンチン上院議員の強い反対姿勢ゆえに成立のめどが立たない状態となっている。
そして、物価高である。バイデン政権による財政出動が高いインフレ率の原因だとみるエコノミストはほとんどいないものの、生活苦に対する国民の不満が政権トップへと向きやすくなっている。
内政で苦しい立場に追い込まれた場合に政治家が用いる常とう手段が、対外的な危機へと国民の関心を引き付けることである。けれども、バイデン大統領はウクライナへの米軍部隊の直接派兵を記者会見などの場で繰り返し否定している。
バイデン大統領の頭の中では、仮に米軍部隊が戦渦に巻き込まれて死傷者が出る事態となれば中間選挙で大きなハンディになりかねないという思惑も働いているだろう。アフガニスタンからの性急な米軍撤退がその後の大きな混乱につながり、非難を浴びたことも記憶に新しい。
ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではないことから、米国に防衛義務は全くない。仮に米軍とロシア軍が対峙(たいじ)して偶発的にせよ直接戦火を交えるようなら、第3次世界大戦勃発の危機が生じ得る。そうした点からは、米軍を直接投入しないことは合理的である。
米国はどこまで関与すべきか
しかしその一方で、ウクライナの民主主義に依拠する政権が専制主義国ロシアの強大な武力によって大きな危機に直面していることもまた事実である。民主主義の旗手を標榜し続けるのであれば、より一層強い関与が必要になるという見方もあるだろう。
中間選挙で上下両院の過半数を野党共和党が握る場合(そうなる可能性が現状では高い)、バイデン政権はレームダック化してしまい、残る2年ほどの大統領任期を空費してしまう可能性がある。
これに対し、ロシアのプーチン大統領が次に選挙の試練を与えられるのは2024年であり、まだかなり先のこと。21年4月5日に成立した改正大統領選挙法により、現在の大統領任期が24年に満了しても、プーチン氏はさらに2期12年、2036年まで続投することが可能になった。レガシーづくりをする時間は、24年までに限る場合でも、まだ十分にある。
軍事力を自在に用いて事態を動かしているロシアと、ウクライナへの直接派兵を全否定した上で乏しい経済制裁カードに頼る米国。クリミアに続き、安全保障面の防壁を厚くして既成事実化しようとするプーチン大統領優位の状況は、今後も変わらないだろう。
●バイデン政権の「情報戦」に敗北したプーチン 3/1
ロシアの大統領・ウラジーミル・プーチンは2月24日、ウクライナに対する大規模な攻撃を命じた。
主権国家ウクライナに対するプーチンの暴挙は、明らかな国際法違反であり、ウクライナのみならず欧州および世界の安全保障体制を根本から揺るがしている。
最近、私は情報戦(IW: Information Warfare)について書籍『日本はすでに戦時下にある』(ワニ・プラス)を書いたり、講演することが多くなってきた。
情報戦は現代戦において最も重要で基本的な戦い(warfare)であり、「攻撃と防御の両方の作戦を含む、競争上の優位性を追求するための情報の使用と管理に関する戦略」と定義される。
この情報戦は、ロシアがウクライナを併合した時に採用したとされるいわゆるハイブリッド戦(Hybrid Warfare)の重要な構成要素であり、特に中国やロシアは重視し採用している。
情報戦は幅広い概念で、情報を使って相手のものの見方・考え方や行動をコントロールして目的を達成しようとする政治戦、影響工作(Influence Operation)、心理戦、認知戦などを含んでいる。
中国などはさらに、サイバー戦、宇宙戦、電磁波戦など情報が関係するあらゆる戦い(Warfare)を情報戦の範疇に入れている。
情報戦は、平時および戦時を通じて行われるが、特に戦争開始前の情報戦は非常に重要である。
平時において情報戦が成功すると、孫子が言うところの「戦わずして勝つ」ことができる。
ロシアや中国は情報戦大国である。
しかし、プーチンのロシアは、今回のウクライナ侵攻前後の情報戦において、ジョー・バイデン大統領の米国に敗北した。これが私の結論である。
本稿においては、なぜプーチンはバイデン政権との情報戦に敗北したのかについて説明する。
バイデン政権が実施した「開示による抑止」
バイデン政権の政府高官らが、2月に入ってから積極的に会見やインタビューに応じ、ロシア軍の兵力数、部隊の配置状況、ウクライナに攻撃を開始するか否か、攻撃するとすればその時期、攻撃の要領(攻撃目標、攻撃方向、兵力)といった機密情報を次々と開示した。
例えば、米国務省のネッド・プライス報道官は2月16日に「ロシア当局者がウクライナ侵攻の口実となるような偽情報を報道機関に広めており、多くの誤った主張が拡散している」と警告した。
また、2月23日には「ロシア軍の80%が臨戦態勢に入っている。プーチン大統領はいつでもウクライナに侵攻できる状態にある」「ロシア軍はウクライナ国境において、北・南・東から攻撃する態勢を完了している」、24日には「大規模侵攻が48時間以内に迫っている」「事実上、いつでも攻撃可能である」などと情報を開示した。
バイデン大統領みずからも「侵攻は数日中にもある」「プーチン大統領は侵攻を決断したと確信している」などと発言した。
このように米国政府は機密情報をあえて積極的に開示する異例の戦略を取ってきたが、安全保障の専門家でもこのバイデン政権の情報開示に驚いた。
NHKのWEB特集 によると、この戦略は「開示による抑止(Deterrence by disclosure)」と呼ばれるもので、相手側の機先を制し、行動を抑止するのが狙いだ。
「開示による抑止」の具体的な目的は以下の3点だ。
1ロシア側の行動の機先を制し、ロシア側の状況を把握していることを明らかにし、攻撃の中止などの行動の変化を促す。
2ロシア側の偽情報を早めに開示することにより、世界にロシアの嘘を明らかにし、ロシアの偽情報を根拠とする侵攻の正当化を防ぐ。
3ロシア側の手の内を明らかにすることで、同盟国や友好国との相互理解・連携を密にし、ロシア側の行動に先んじて対応策を講じる。
当然ながら機密情報を開示することで、以下のような問題も発生する。
1情報源を危険にさらしたり、情報収集の方法を知られるおそれがある。
2侵攻が間近に迫っていると繰り返すことで、「オオカミ少年」の非難を受ける可能性がある。
3開示した情報どおりにならなければ、バイデン政権自身が信用を失うことになる。
バイデン政権が情報発信を強化した背景には2014年にロシアによるウクライナ領クリミア半島の併合を許した失敗の教訓がある。
当時のバラク・オバマ政権は情報開示に消極的で、欧州の同盟国などにも情報を十分に伝えなかったという。
オバマ政権の元高官は、「知っている情報を世界に発信すれば、我々の利益になると思ったことが何度もあった」と振り返っている。
私は、バイデン政権が「開示による抑止(Deterrence by disclosure)」を採用したことは適切だったと思っている。
バイデン政権が開示した多くの情報は正確であったことは大多数の識者が認めるところだ。
確かに、「開示による抑止」によってプーチンのウクライナ攻撃を抑止できなかった。しかし、「開示による抑止」により、プーチンの主張の欺瞞性を世界に明らかにできた。
また、米国と同盟国や友好国との相互理解は深まったし、機先を制する米国の情報開示にプーチンの対応が難しくなったことは確かであろう。
結論として、プーチンの嘘(ロシアはウクライナ侵攻計画を持っていない、米国が戦争を煽っている、ロシア軍は撤退をしている、ウクライナがロシア人に対するジェノサイドを行っているなど)に基づく情報戦は、バイデン政権の「開示による抑止」に敗北したのだ。
「開示による抑止」を可能にしたのは、バイデン政権がロシアのウクライナ侵攻に対処するために編成した「タイガー・チーム」の存在が大きい。
タイガー・チームとは何か
以下の記述は、2月14日付のワシントンポスト紙の記事(Inside the White House preparations for a Russian invasion)に基づく。
タイガー・チームは2021年11月に正式に誕生した。
国家安全保障担当のジェイク・サリバン大統領補佐官が国家安全保障会議(NSC)のアレックス・ビック戦略計画担当ディレクターに、複数の省庁にまたがる計画策定の指揮をとるよう依頼したことが始まりだ。
ビック氏は、国防省、国務省、エネルギー省、財務省、国土安全保障省に加え、人道的危機を所掌する米国際開発庁を加入させた。
また、情報機関も関与させ、ロシアが取り得る様々な行動方針、それに対するリスクと利点などを検討したという。
シナリオには、サイバー攻撃、ウクライナの一部だけを占領する限定的な攻撃、ヴォロディミル・ゼレンスキー政権を崩壊させ、国土の大半または全部を占領しようとする全面的な侵攻まで幅広いシナリオを想定し、侵攻から2週間後までの対応策をまとめた「プレイブック」を作成した。
この「プレイブック」を基に現在もロシアの侵攻に対処している。
ロシアを抑止するために検討してきたテーマは、欧州などと協調した外交努力や経済制裁、米軍の展開、ウクライナへの兵器支援、大使館の警備体制など幅広い。
以上のような取り組みは、起こりうる事態を予測するのに役立っただけでなく、ロシアの情報戦に先手を打ち、その意図を事前に暴露し、ロシアのプロパガンダ力を削ぐことであった。
プーチンを信じ彼を擁護し続けた日本人
最後に、ロシアの情報戦を信じて「プーチンは悪くない。米国の陰謀だ」「すべて米欧が悪い」と思い込んでいる日本人について書きたい。
タイガー・チームの編成と「開示による抑止」により、プーチンの主張の多くが嘘であることは世界に提示された。
しかし、その嘘をいまだに信じる日本人が相当数いることには驚きを禁じ得ない。
これは、ソーシャルメディアの誕生と密接な関係がある。
ソーシャルメディアがなかった一昔前には、プーチンやロシアを擁護する歪んだ意見を持つ人々が世界に発信するチャンネルがなかった。
しかし、今や一般人がソーシャルメディアを通じて自らの主張をしつこく繰り返すようになっている憂慮すべき現状がある。
実例を挙げよう。筑波大学の東野篤子准教授は、各種メディアにおいてウクライナ・ロシア情勢について立派な的を射た解説をされていた。
ところが、彼女はツイッターで偽情報を信じる陰謀論者に攻撃されていることを以下のように訴えている。
「コメント欄がここしばらく荒れてきまして、定番の『すべて米国の陰謀』や私への罵倒だけではなく、明らかに誤った分析を事実であるかのように開陳してしまわれる方も増えてきました」
「人の命がかかっている状況で、弊アカウントがディスインフォメーションの拡散に間接的に加担することは避けたいので、大変恐縮ですが当面、私がフォローしている方以外がコメント出来ないよう設定させていただきます」
「自分が『正しい見方』を教えてやるからありがたく思え!という方、全部米欧のせいだと仰りたい方、色々いらっしゃると思いますし、色々な見方があってよいのですが、そのご披露はどうか私へのコメントではなく、ご自身のアカウントで自己完結させていただくようお願いします」
国際政治や安全保障を学んだ者の大部分は、「ロシアのウクライナ攻撃の責任はプーチンにある。プーチンが命じたウクライナへの攻撃は国際法違反である」と言っている。
「ロシア軍によるウクライナ侵攻反対」というデモがロシア国内でさえ起きている。
プーチンこそが、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻の責任を負うべきであることを強調する。
そして、ソーシャルメディアを通じた情報戦にいかに対処するかという大きな課題があることを指摘したい。
おわりに
ロシア軍のウクライナでの攻撃は続いているが、米欧諸国はロシアの一部銀行に対するSWIFT(国際銀行間の送金・決済システム)からの排除、ロシア中央銀行への制裁などの強い制裁を発動した。
この制裁によりロシア国内の経済・金融は大混乱に陥るであろう。
プーチンのウクライナ侵攻は、戦略的には明らかに失敗であり、その後始末に苦労するであろう。
現代戦は、全領域戦(All-Domain Warfare)がその本質である。
全領域戦とは陸・海・空戦、サイバー戦、宇宙戦、電磁波戦、情報戦、外交戦、経済制裁などの経済戦、法律戦などを含むあらゆる手段を駆使した戦いである。
バイデン政権のタイガー・チームの編成は、全領域戦の実践であると私は思う。
●ロシア国民への「経済的不安」が与えるプーチン政権への影響 3/1
アメリカ財務省は2月28日、ウクライナに侵攻したロシアへの追加制裁として、ロシア中央銀行との取引を禁止し、アメリカ国内の資産を事実上凍結すると発表した。外貨を使ってロシアの通貨「ルーブル」を買い支えることを防ぐ狙いがある。
飯田)中銀への制裁と言うと、イランに対しても行われていますが、アメリカはそこまで踏み込んで来たということになるのですか?
小泉)そうですね。私は経済や経済制裁は専門ではないので詳しくはないのですが、ロシアはこれまで、国際秩序のなかでやや異質な振る舞いはするけれども、北朝鮮やイランとは違った存在だったと思います。しかし、今回のことで「国際秩序に対する公然たる挑戦者」という位置付けになって来たということです。
飯田)世界全体の雰囲気がそうなりつつあるということですね。経済についての制裁が私企業でも行われていますが、この切り離しが今後も進んで行くことになりますか?
小泉)そうですね。現状、軍事力を使ってロシアの行動を止めに行くことはできません。ロシアは核兵器を持っているので、そうなれば核戦争になってしまいますし、プーチン大統領も今回、その点をアピールしています。となると、経済的な方法を使うことしかできません。経済的な方法を使ってもロシアの動きを止めることはできないけれど、大きな代償がつくということを示さざるを得ません。
飯田)そうですね。
小泉)実際に2014年に起きた最初のウクライナ侵攻以降、アメリカは厳しい経済制裁をしていて、2017年にはトランプ政権下でも制裁を強化しています。今回はさらにレベルを上げて、単なる制裁ではなく、ロシア経済の基礎体力そのものや、軍事力を支える技術や金融機関に標的を絞るということですから、フェーズが変わったのではないでしょうか。
飯田)週末には、国際銀行間通信協会(SWIFT)という国際的な決済機構からも締め出す方針が出されました。ロシア国内からの報道だと、ATMに長い行列ができているということですが、早くも影響が出ているということですか?
小泉)実際にどのくらい影響が出ているかはよくわからないのですが、ロシア人は1991年のソ連崩壊当時をよく覚えているのです。あのときに経済の仕組みそのものが変わって、大混乱になりました。1992年には約2800%のハイパーインフレが起こっているのです。
飯田)2800%。
小泉)1年で物価が28倍。あるいは貯金が28分の1になってしまうということです。ソ連時代にコツコツ働いて貯めたお金が、すべてなくなってしまった人々がいるわけです。また、1998年にはデフォルトになっています。そういう記憶があるので、心配になると、すぐに取り付け騒ぎになってしまうのです。今回もそういう国民の不安心理が刺激されていることは想像がつきます。
飯田)あの当時は、「通貨よりマルボロの方が」というようなことが、まことしやかに言われました。
小泉)そこまでにはならないかも知れませんが、ロシアもこれだけ外国に依存している、あるいは外国にエネルギーを売ることによって成り立っている経済ですので、国際的に孤立すれば当然、マーケットも国民も不安ですよね。
飯田)国内で不安が広がることが、プーチン政権にどのように影響しますか?
小泉)大きく2つの影響があると思います。1つは、プーチン大統領がこれまで強いリーダーでいられたのは、「プーチンさんが強いから国民がついて来る」というよりも、「国民がついて来るからプーチンさんが強い」というメカニズムによるものだった部分が大きいと思います。
飯田)逆なのですね。
小泉)つまり神輿だと思います。みんなが担いでくれるから「わっしょいわっしょい」とできるわけで、1人でそれはできません。
小泉)「プーチンさんについて行くと生活がよくなる、安定する」、あるいは「ロシアの国際的な地位が上がって行く」という考えがあったのだと思うのですが、今回はプーチンさんがロシアの首を絞めるようなことばかりしているわけです。これがどう出るのか。
飯田)国民がどう受け取るか。
小泉)他方で、これまでも反プーチン運動が盛り上がったことがあるのですが、プーチン政権がこれに応えて「やり方がまずかったな」と方向性を改めたわけではありませんでした。「国民が反発すると、より取り締まりを強化する」という方向に進んで来た。今回もプーチン政権に対する反発はあるのでしょうが、それにプーチン大統領がどう対応するか。これまでの対応を見ていると、あまり楽観視できないと思っています。
●プーチンの“想像を超える”ウクライナの抵抗…「泥沼化」 3/1
ロシア側の進撃が遅れている
アメリカのシンクタンク「戦略研究所」によると、ロシア軍はウクライナへの侵攻を開始してから4日目にあたる2月27日の日曜日、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、前日からほとんど占領地域を拡大できていないという。
ウクライナ第2の都市ハリコフでは、軽装備の部隊の進軍が確認され市街戦に突入したものの、首都キエフ周辺では郊外で足止めされており、いまだに市の中心地には侵入できていないというのだ。
2月26日土曜日には、ウクライナのゼレンスキー大統領が動画メッセージを公表して「われわれは国を解放するまで戦い続ける」と訴えるなど戦意は旺盛だ。
一方、米欧諸国は同じく26日、ロシアに対する追加制裁を決定。実施困難とみられていた国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網からロシアの大手銀行を排除することに合意するなど制裁を強化し始めた。
さらに、軍事、物資、資金の支援の輪が広がっているほか、ロシア内外で市民から軍事侵攻に対する抗議の声が挙がっている。
ウクライナを巡る戦闘の泥沼化が懸念され始める状況に、一番焦りを感じているのは戦端を開いたロシアのプーチン大統領ではないだろうか。
兵力の大半をつぎ込んで早期にキエフを制圧、ゼレンスキー政権を倒して傀儡政権を樹立しようと目論んでいたものの、アテが外れかねないからである。
同大統領は27日、ついに核戦力を含む軍の核抑止部隊に高度な警戒態勢への移行を指示。核戦力を誇示して第3次世界大戦のリスクをちらつかせることで、欧米などの対ロ制裁網をけん制する構えも見せている。
26日までの情報をまとめると、ロシアのペスコフ大統領報道官が同日、停戦交渉について「ウクライナ側が交渉を拒否した」と述べ、軍事侵攻を推進すると表明。ロシア国防省は、ウクライナの軍事インフラ施設821ヵ所を破壊したと主張し、この中には14の飛行場や、戦闘機7機、ヘリコプター7機の撃墜情報も含まれている。
そのうえで、国防省報道官は、攻撃について軍事インフラに限定しており、住宅などは攻撃していないと強調している。
これに対し、ウクライナのリャシュコ保健相は、これまでのロシア軍の侵攻ですでに子供を含むウクライナ人198人が死亡、1115人が負傷したと反論した。
一方、米国防総省高官は、記者団に対し、ロシア軍がウクライナ周辺に展開した兵力の50%以上がウクライナ領に侵攻したとの分析を明らかにした。そのうえで、ロシア軍が激しい抗戦に遭い、キエフの北方約30キロの地点にとどまっているとし、「ロシア軍は進軍の遅れにいら立ちを募らせている兆候がある」ほか、「いまだ都市部を制圧しておらず、制空権も確保していない」と述べたという。
ウクライナのゼレンスキー大統領も、この日、キエフ中心部で撮影したとみられる動画を公開、「私はここにいる。国を守っていく」「私が武器を捨てて避難しろといったかのような偽情報がインターネットに流れている。いかなる武器も捨てない」と語り、ロシアの侵攻に抗い続ける方針を強調した。ゼレンスキー大統領の言葉の通り、27日にはロシア軍の進軍が止まったのだ。
ルーブルの通貨防衛手段を奪う
ウクライナ各地での戦闘の激化を受けて、強硬な対ロ制裁に慎重だった欧州連合(EU)とEU加盟国が積極姿勢に転じ、米、英、独、仏、伊、加の6ヵ国と欧州委員会は26日、制裁の強化に合意したとそれぞれが独自に発表した。
柱は、冒頭で触れたSWIFTの決済網からのロシア大手銀行の排除と、ロシア中央銀行に新たな制裁を科すことの2つだ。
2番目の措置については、米財務省が28日、ロシアの中央銀行が米国の金融機関などと米ドルを取引するのを禁じる追加制裁の実施を発表した。措置は即日発効した。この措置の主眼は、ロシア通貨ルーブルの通貨防衛手段を奪う事にある。
これにより、「ドル売り・ルーブル買い」介入を不可能にし、ルーブル安を加速させて通貨安とインフレを誘発、ロシア経済に打撃を与えることを目論んでいるのではないかというのだ。
一方、米財務省が追加制裁を発表したのと同じ28日、ロシア中央銀行は、政策金利を従来の9.5%から20%に引き上げると発表した。米欧の経済制裁によって通貨ルーブルが急落し、この日、過去最安値をさらに更新したのに伴う措置で、通貨安に伴うインフレの加速を抑えるための緊急対応に追われたのだ。
ロシアで政策金利が20%台になるのは2003年以来およそ19年ぶりの異常事態だ。報道によると政策金利の20%は、アルゼンチンの42.5%に次ぎ、トルコの14%を上回る水準だ。
振り返れば、ロシア軍が2月24日にウクライナへの侵攻を始めた時点で、世界の金融・資本・商品市場は激震に見舞われたが、中でも激しく影響を受けたのがロシア市場だった。通貨、株式、債券の各市場が同時に急落するトリプル安に陥ったのである。
ルーブルがドルに対しておよそ6年ぶりに史上最安値を更新。株価指数RTSは前営業日に比べて一時50%安と大暴落。債券もロシア政府が2017年に発行した30年物のアメリカ・ドル建て債の利回りが24日の時点で6%台半ばまで上昇、1ヵ月弱で2%ほど上昇した計算となっていた。
欧州は天然ガス供給の約4割をロシアに依存しており、厳格な経済制裁は難しいとの見方が当初は多かった。実際、できれば強力な制裁は避けたいというのが欧州諸国の本音だったのだろう。
しかし、そうした事情を見透かしたかのように戦端を開き、ウクライナ領内深くに侵攻しようとするプーチン大統領の蛮行に、さしもの欧州諸国も業を煮やした。
その軌道修正が、もっと煮え切らないバイデン米大統領も動かしたという。
27日夜には、岸田総理が首相公邸で記者団に対し、日本もロシアの大手銀行をSWIFTから排除する米欧などの追加制裁措置に参加すると表明した。
世界中で広がる抗議行動
もうひとつプーチン大統領にとって頭が痛いのは、軍事侵攻に対する世界的な批判の高まりだ。侵攻が始まった24日には、パリで3000人が集まる抗議集会が開かれたほか、ベルリンやロンドン、マドリード、ベルン、プラハなど欧州各地で抗議行動が行われた。
26日には、アメリカの首都ワシントンでも数百人がホワイトハウスの前でデモを繰り広げた。
日本国内でもこれまでに札幌、渋谷、新宿、名古屋、京都、大阪、広島、長崎、那覇などで抗議集会が催された。こうしたデモや抗議集会は各地で繰り返され、日を追って規模も拡大の一途を辿っている。
驚くべきことに、ロシア国内でも首都モスクワをはじめ各地で、ウクライナ侵攻が発表された24日に早くも「反戦デモ」が開かれ、プーチン政権が機動隊を投入して、全土で参加者を拘束したと伝えられている。独立系放送局「ドシチ」によると、ロシア国内の52都市で合計数千人がデモに参加し、人権団体OVDインフォの集計で1800人以上が拘束されたというのである。
参加者中には青と黄のウクライナ国旗を振った人も多かったそうだ。プーチン政権が力で抑え込もうとしても、ロシア国内の抗議活動は一向に鎮静化の兆しを見せていない。
客観情勢はさておき、プーチン大統領には2014年のクリミア半島併合の成功体験があり、今回のウクライナへの軍事侵攻にも相応の勝算をもって臨んだものと推察される。天然ガスや原油といった天然資源高を背景に外貨準備をため込んでいたうえ、その比重を米ドルからユーロや人民元、金などに移す周到な準備を進めていたからである。
プーチン大統領が、早期にウクライナを制圧、ゼレンスキー政権を打倒して傀儡政権を樹立することを想定していたであろうことも想像に難くない。
しかし、国際世論のプーチン氏への反発は強まる一方だ。こうなると、欧米を中心とした国際社会は、ウクライナに対する軍事物資を含む支援を活発化させるとともに、ロシアに対する経済制裁の手を緩めることもないだろう。
むしろ、国際世論に後押しされる形で、SWIFTから除外するロシアの金融機関をさらに増やしたり、禁輸対象品目を拡大して全面的な禁輸の方向に振れる可能性も否定できない。
ウクライナの抵抗が続くことで、事態は急速に泥沼化しかねない状況だ。予想外の早期に、侵攻したプーチン政権の方が窮地に追い込まれることにもなりかねない。
ロシアとウクライナの両代表団は28日、ベラルーシとウクライナの国境地帯で停戦を巡る対話を開始した。ウクライナの非武装化などを求めるとみられるロシアと、停戦やロシア軍の即時撤退を求めるであろうウクライナ側とは、主張の隔たりが大きい。
対話が停戦に繋がるか不透明なものの、糸口を見つけられなければ、プーチン大統領が一段と深刻なジレンマに陥ることも避けられない。
●ロシアとウクライナの会談 交渉継続合意も停戦実現楽観できず  3/1
ロシア軍がウクライナに侵攻してから初めてとなる、ロシアとウクライナの代表団による会談が行われ、双方は交渉を継続していくことで合意しました。しかし、双方の主張の隔たりは大きく停戦が実現するかは楽観できない情勢です。
ウクライナでは、ロシアによる軍事侵攻が各地で続き、民間人も含めて犠牲者が増えています。
こうしたなか、ロシアとウクライナの代表団が28日、ロシア軍の侵攻が始まってから初めてウクライナと国境を接するベラルーシ南東部でおよそ5時間にわたって交渉にあたりました。
ウクライナ側は即時停戦と軍の撤退を求めているのに対し、ロシア側はウクライナの非軍事化と中立化を要求していて、双方が歩み寄りを見せるかが焦点になっています。
交渉のあとロシア代表団のトップのメジンスキー大統領補佐官は「あらゆる議題が詳細に話し合われ、いくつかの点では共通の土台を見いだせる」と述べ、双方がいったん帰国し、数日以内に再びベラルーシとポーランドの国境地帯で交渉する見通しを明らかにしました。
一方、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問もツイッターで、「ロシアから突きつけられていた最後通ちょうは無くなった」として一定の進展があったことを示唆しました。
ただ、「交渉は難しい。ロシア側は自分たちが始めた破壊的なプロセスにこだわっている」として、ロシアが強硬な姿勢を崩さず双方の主張の隔たりが大きいことをうかがわせていて、今後の交渉が停戦につながるのかなお楽観できない情勢です。
プーチン大統領 停戦条件はウクライナの非軍事化と中立化と強調
ロシアのプーチン大統領はフランスのマクロン大統領と電話会談を行い、ウクライナでの停戦について、あくまでもウクライナの非軍事化と中立化が条件であることを強調しました。
これに対してマクロン大統領は、攻撃をやめて即時停戦を実現することの必要性を訴えたということです。
ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領は28日、電話会談を行い、ロシアが軍事侵攻を続けているウクライナの情勢について意見を交わしました。
ロシア大統領府によりますと会談でプーチン大統領は停戦の条件について「ウクライナ国家の非軍事化と、中立的地位の確保など、ロシアの安全保障上の利益が無条件に考慮された時にのみ可能だと強調した」として、あくまでもウクライナの非軍事化と、NATO=北大西洋条約機構の加盟阻止につながる中立化を求めていく姿勢を示しました。
またウクライナでロシア軍が民間人を脅かしたり民間の建物を攻撃したりしてはいないと主張しました。
一方、フランス大統領府によりますと、マクロン大統領は、ウクライナへの攻撃をやめて即時停戦を実現することの必要性を訴えたということです。
両首脳は今後も連絡を取り続けることで一致したということですが、プーチン大統領の強硬な姿勢が変わらない中で停戦が実現するかは依然、不透明です。
米国防総省の高官 “ロシア軍 数日のうちにキエフの包囲ねらう”
アメリカ国防総省の高官は28日、記者団に対し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について最新の分析を明らかにしました。
それによりますとロシア軍はウクライナの国境周辺に展開していた戦闘部隊のうち、これまでに75%近くの戦力をウクライナ国内に投入したほか、380発以上のミサイルを発射したということです。
そしてロシア軍は首都キエフに向けてこの1日で5キロ前進し、キエフから北におよそ25キロの地点にいるということです。
この高官はキエフへの侵攻は依然としてロシア軍の主要な作戦だとして、今後、さらに前進を続け、数日のうちにキエフを包囲しようとしていると指摘しました。
このほかの都市ではロシア軍がウクライナ第2の都市のハリコフを狙って激しい戦闘となっているほか、東部ドネツク州のマリウポリへの侵攻も試みていますが、いずれも制圧できていないということです。
さらにウクライナの空域でも攻防が続いていて、ロシア軍はウクライナ全土の制空権を奪えておらず、ウクライナ軍の航空機やミサイル防衛システムは維持されているとしました。
一方、一部のメディアがアメリカ政府関係者の話としてウクライナと国境を接するベラルーシがロシア軍を支援するためウクライナへの部隊の派遣を準備していると報じたことについて、「ベラルーシ軍が準備を整えたりウクライナに向かっていたりする兆候はない」と述べました。
またロシアのプーチン大統領が27日、国防相などに対して、核戦力を念頭に、抑止力を特別警戒態勢に引き上げるよう命じたことについて「われわれは監視を続けているが、プーチン大統領の命令を受けた具体的な動きはまだない」と指摘しました。
松野官房長官「高い関心持って注視」
松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「わが国としても、ロシアとウクライナ両国の交渉の行方を高い関心を持って注視している。今回のロシアによるウクライナへの侵略は力による一方的な現状変更の試みで、国際秩序の根幹を揺るがす行為であり、明白な国際法違反だ。断じて許容できず厳しく非難する」と述べました。
その上で「困難に直面するウクライナの人々に対する支援として、すでに供与する用意があると表明した、少なくとも1億ドル規模の借款に加え、1億ドルの緊急人道支援を行っていく考えだ。これらはきのうの日ウクライナ首脳電話会談で、岸田総理大臣からゼレンスキー大統領に伝達され、高い評価と深い感謝の意が表された」と述べました。
●ウクライナ侵攻で噴出したプーチンへの怒り 停戦に向かうか 3/1
ロシアのプーチン大統領は、クレムリンの密室政治や大統領の思考を読み解く「プーチノロジー」に長けた専門家の予想を裏切り、隣国ウクライナへの全面攻撃に踏み切った。キエフ政府は反ロシアのファシスト政権であると国民に煽り、「自衛のためだ」と開戦の大義を語っている。しかし、今回の武力行使の余波は、これまで曲がりなりにも成功を収めてきたプーチン流支配の様相と大きく異なっている。国父であるはずのプーチン大統領を「恥ずかしい」「妄想に取りつかれている」と嘆く多くのロシア国民がいる。
ウクライナへの全面的軍事作戦を決行したことを踏まえ、多くの人々がグローバル化が進んだ21世紀の現代にありえない蛮行であり、プーチン大統領の判断を全く理解できないと思ったはずだ。敵対する勢力との間に緩衝国(地帯)を置いてモスクワを守ろうとする過剰な国防意識と、冷戦時代に頭の中にこびりついて離れない対米感情がプーチン大統領を開戦に踏み切らせたということが考えられる。
これまでの軍派遣とは全く異なる
ソ連時代、国境線を乗り換えて軍部隊を派遣する武力介入事件は何度もあった。
象徴的なのは、1956年のハンガリー動乱、68年のプラハの春(チェコ事件)、91年のリトアニアの血の日曜日事件だろう。それぞれの国で起こった出来事の背景は異なるものの、クレムリンが民主運動のうねりを力でねじふせたことは一致している。
ハンガリーも、チェコスロバキアも、そして当時はソ連内にあったリトアニアはもちろん、こうした民主派のうねりはいずれ、ロシア本国に押し寄せるというクレムリンの国防意識があった。米国が背後に暗躍していると考えていた。
当時、それぞれの市民が聞いたソ連軍戦車のキャタピラの音や犠牲者を出したことへの恨み・憎しみはその後もずっと残り、東欧諸国の革命やソ連邦解体へと導く市民の原動力となった。
今回のウクライナへの軍事侵攻が持つ重みはそれらの事件をはるかに上回る。プーチン大統領はかつての同胞に本格的な戦争をしかけ、政権転覆をはかろうとしている。2月24日以前のロシア・ウクライナ関係に決して後戻りはできない一線を越えてしまった。ウクライナ人の怒りは振り切られた。民間人の犠牲者も多数出ており、ウクライナ国民の多くは、プーチン大統領への恨み、憎しみを末代まで抱えることになるだろう。
そして、たとえ今、プーチン大統領がキエフの政権を一時的に抑え込んだとしても、その恨みは後に逆流して、クレムリンの主に打撃を与えることになるのではないか。それは東欧諸国での民主運動のうねりと、ソ連崩壊に向かう歴史が雄弁に物語っている。
ロシア国内で起きていた三つの分断
ロシアでは今、ウクライナ侵攻をめぐって、これまであった社会の「分断」がますます浮き彫りになっている。分断は米国社会でも深刻化しているが、ウクライナ開戦を機に、一枚岩であったはずのロシア社会に綻びの萌芽が見える。
水と油のように相いれないロシアでの分断には三つのタイプがある。一つ目の境は「ソ連時代を知っているかどうか」だ。91年にソ連邦崩壊後に生まれた世代は、米国と覇を競った栄光の時代を全く知らない。プーチン大統領がいくら大国ロシアの復活を訴えたとしても、ソ連を知らない若者の心には響かない。
二つ目の分断は「スマホを使いこなし、自由な情報に触れているか否か」だ。ロシアは今、情報統制を強化しており、国営メディアが政権に都合の良い情報ばかりを流し続けている。当然、国営放送のテレビやラジオしか見聞きしていない層は、すっかり政権がコントロールする情報に洗脳されてしまっている。
三つ目は「今のウクライナを知っているか否か」だ。ウクライナは独立後、政治・社会の混乱が続いたが、自由な空気に触れ、ソ連時代とは全く違った国になった。ロシア語を話し、同じ文化圏であるはずの「きょうだい」たちが実はすっかり違う精神社会で生きているのに、その変化を読み取れていない人たちがロシア国内にいる。
プーチン大統領はすべてを織り込み済みで、今回のウクライナ侵攻に踏み切ったはずだ。しかし、この三つの分断で自分たちとは異なる層、つまり、「ソ連時代を知らず、政権がコントロールできないネット上の言論空間に触れている人たち」の行動を読み誤ってはいまいか。
日本で人気のフィギュアスケートのエフゲニア・メドベージェワさんに代表されるようにロシアのスポーツ界からも相次いで反対の声があがっている。ロシアのスポーツ界はプーチン大統領の支持基盤でもあったはずだ。さらに、相手がウクライナであるが故、ソ連人であり、国営メディアしか見ていない人でも、かつての絆や同情心から「戦争をやめて」と訴えている。
取材すると、今、ロシアでは家族内や友人同士でも今回のウクライナ侵攻に関する意見が食い違っている状況が起きている。ウクライナ侵攻がテーマになると、口論が起き、場合によっては絶交状態に陥ることもあるという。
世論の動向が今後の情勢を占う
今後、戦争が長期化し、犠牲者が増えれば、反戦、厭戦機運はさらに広がる可能性はあるだろう。
断言できるのは、2014年クリミア半島併合の時はプーチン支持率が一気に高まったのに、今回、ウクライナ侵攻で国民の支持が同等に得られることはないということだ。それだけロシア人にとってクリミア半島は特別な地域であったという証左だが、ロシア国内の情勢は明らかに8年前と異なっている。
今後、制裁が国民の痛みとなって現れ、プーチン大統領の周辺だけが金儲けできる特異な国内事情への不満と直結すれば、それは反プーチン運動に転化する可能性はあるだろう。ただ、現段階ではそれは一つのシナリオでしかない。国内で政敵を追い出したプーチン政権の支持基盤はまだまだ強固だからだ。
ウクライナの国民はウクライナ語もロシア語も話せる。むしろ、近年はロシア(ソ連)のくびきから外れようとして、ウクライナ語の普及を徹底させていたが、いま、ウクライナ国民はロシアの一般庶民に語り掛けるため、ネット空間を利用して、多くの人たちがロシア語で「戦争をやめてほしい」と訴えている。
制裁強化など国際社会のロシアへの圧力は、ウクライナでの戦闘継続に一定の効果をもたらすだろう。それと同時に、ロシア国内の世論動向やそれを抑え込もうとする治安部隊との押し引きが今後の情勢を占うキーポイントとなるはずだ。
ロシアの国内世論でかすかに起こる変化の兆しが見える。ウクライナ、ロシア両国の怒りのマグマがどこに向かい、プーチン大統領がどう対処するのかという「プーチノロジー」の分析がますます重要になるだろう。
●ウクライナ情勢で3日に緊急会合 中ロ反対、インド棄権―国連人権理 3/1
国連人権理事会は28日、ウクライナ情勢に関する緊急会合を3月3日に開くことを賛成多数で決めた。緊急会合では、ロシアのウクライナ侵攻などに関連する人権侵害の調査について、採決が行われる。
緊急会合の開催はウクライナが要請し、日米欧や韓国のほか、対ロ制裁に参加していないブラジルを含む29カ国が賛成した。ロシア、中国、キューバ、ベネズエラ、エリトリアの5カ国が反対し、インドなど13カ国は棄権した。
●米、ウクライナ情勢エスカレートなら対ロ追加制裁=国務省 3/1
米国務省のプライス報道官は28日の定例記者会見で、ロシアがウクライナとの紛争をエスカレートさせ続ければ、追加制裁を科すと述べた。
米国の制裁は同盟国やパートナーの制裁と「対称的で相互に補強し合うものになる」と説明。「ロシアがエスカレートさせ続ければ、われわれはさらに行動する」とした上で、ロシア側が譲歩する様子は現時点で見られないと述べた。
また、ベラルーシのルカシェンコ大統領についても、自国領土からロシア軍がウクライナを攻撃するのを容認したと非難した。
●タリバンがウクライナ情勢で「平和的解決」を呼びかける 2/28
アフガニスタンのタリバン政権が2月25日午後(日本時間)、ロシアのウクライナ侵攻について、双方に暴力の停止と対話による平和的な解決を求める声明を出した。アフガン外務省のアブドルカーヒル・バルヒ報道官が、自らのTwitterアカウントで英文の声明文をツイートした。SNS上では世界中で驚きの声もあがっているが、これには歴史的な背景がある。
タリバンの声明、その中身は
声明でタリバン政権は「ウクライナの状況を注視しており、民間人の犠牲者が増える可能性を懸念している」としたうえで、「イスラム首長国(タリバン政権の自称)は、両当事者に抑制を呼びかける。イスラム首長国は中立外交政策に沿い、対話と平和的手段を通じて危機を解決するよう紛争の両側に呼びかける」と対話を求めた。また、ウクライナに暮らすアフガン人の保護を求めた。
声明に世界で驚きの声
タリバンと言えば、2020年8月に米軍撤退と前アフガン政府の崩壊で復権するまで、アフガン各地で構成員の自爆テロなどを繰り返し、米軍や前政府の攻撃を続けてきた。そのタリバンが「平和的解決」を呼びかけていることに、Twitter上では世界中から「「オニオン(*アメリカのパロディニュースサイト)かと思ったら本物だった」「おまいう」「タリバンが抑制をよびかける....だ?」といった反応が相次いでいる。
タリバンは米だけでなくロシアとも距離
しかし、これには歴史的な背景がある。アフガニスタンでは1979年に旧ソビエト連邦軍が侵攻。抵抗するイスラム勢力などと10年にわたる凄惨な戦闘を続け、敗退した。ソ連と冷戦状態にあったアメリカは当時、イスラム勢力を直接、間接に支援した。その1人が、2001年9月11日に米同時多発テロを起こすことになる国際テロ組織アルカイダの首領オサマ・ビンラディンだ。ソ連軍撤退後の混乱と内戦が続いていた1994年に「イスラムに従った世直し」を掲げて発足したタリバンは、1996年にアフガンの大半を平定。首都カブールを掌握した。しかし、ビンラディンを「客人」として保護していたことから、同時多発テロの直後「テロとの闘い」を掲げる米軍による攻撃を受けて政権を失った。その後20年にわたって地方部に潜伏し、じわじわと勢力を再拡大。昨夏に再び政権を再奪取した。こうした経緯から、タリバンはアメリカと激しく対立してきた一方、アフガンの混乱の要因となった侵攻を行ったソ連の後継国家ロシアにも、強い警戒感を抱いている。そして、かつては「反政府勢力」として攻撃を続けたものの、いまや政権の座に就き、国連大使の派遣受け入れも求めている。政府として自国民を保護する義務もある。そうである以上、「暴力による現状の変更は認めない」という国際社会の基本的な考え方を尊重する必要があり、このような声明を出したとみられる。
●国際刑事裁判所がウクライナ情勢を捜査へ 戦争犯罪で 3/1
国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は28日、ロシアによる侵攻を含む近年のウクライナ情勢を巡り、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで近く捜査を開始する方針だと明らかにした。
2013〜14年のウクライナ首都キエフでの親ロシア政権によるデモ弾圧、ウクライナ東部や14年にロシアが強制編入した南部クリミア半島での犯罪も捜査対象となる。
カーン氏は声明で「戦争犯罪と人道に対する罪がウクライナで行われたと信じるに足る合理的な根拠がある」と述べた。
ウクライナとロシアはいずれもICCに加わっていないが、ウクライナは戦争犯罪と人道に対する罪についての捜査権限をICCに与えていた。
最近のウクライナ情勢を巡っては、バチェレ国連人権高等弁務官がロシアの行動を「明確に国際法違反だ」と厳しく批判。国連人権理事会は3月3日に緊急討議を開く。
●ロシア、グーグルに広告規制指示 「ウクライナ情勢で誤情報」 2/28
ロシア通信規制当局は28日、米アルファベット傘下グーグルに対し、ウクライナでの軍事行動に伴うロシア軍やウクライナ市民の被害状況について誤った情報を即遮断するよう命じた。そうした情報がグーグル広告を通じて流れるのを問題視している。当局は、問題ある情報を削除するよう要求、誤った情報の発信元を遮断すると警告した。
●経産省 電力・ガス会社に”燃料の確保を” ウクライナ情勢受け  2/28
ウクライナ情勢を受けて、経済産業省は電力会社やガス会社などと連絡会議を開き、エネルギー供給の不安定化が懸念される中、各社に対し、不測の事態に備えて燃料を十分に確保するよう呼びかけました。
ウクライナに軍事侵攻したロシアに対し、欧米や日本が経済制裁を強める中、ロシアが対抗措置としてエネルギーの供給を絞る可能性があるという見方が出ています。
こうした中、経済産業省は28日、大手の電力会社やガス会社などとともに連絡会議を非公式で開き、今後の対応を協議しました。
この中で、経済産業省は火力発電の燃料となるLNG=液化天然ガスの全国の在庫状況について、今月20日時点で182万トンと、2週間から3週間程度の在庫があり、電力の安定供給に直ちに大きな支障はないことを説明しました。
そのうえで、各社に対し、今後の不測の事態に備えて燃料を十分に確保するよう呼びかけるとともに、足りない場合には各社で燃料を融通しあうなど連携して対応していくことを確認しました。
●中国は「苦しい立場」に ロシアのウクライナ侵攻で 米高官 3/1
米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官は28日、ロシア軍によるウクライナ軍事侵攻を受け、ロシアとの関係を強化してきた中国が「苦しい立場に置かれているのは否定しようがない」と述べた。
米シンクタンクのオンライン会合で語った。
キャンベル氏は、ロシアの軍事侵攻に対し米国と同盟・友好国が結束を示していることを中国の指導者が「懸念している」と強調。米欧諸国を中心に各国がロシアへの非難を強めていることで「状況は(中国にとって)厳しいものだ。中ロの連携は今、非常に気まずいものとなっている」と指摘した。 
●米バイデン政権は本当に日本を守る?ウクライナ侵攻で浮上した大不安 3/1
孤立無援のウクライナ 米国もNATOも派兵は否定
「われわれは孤立無援で防戦している。共に戦ってくれる者はいないようだ」
ロシア軍の侵攻開始から一夜明けた2月25日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米国や北大西洋条約機構(NATO)からの支援が得られないことに悲壮感を漂わせた。主権国家があっという間に侵攻され、その模様がSNSなどで世界中に拡散。一方で、国連も米軍も介入せず「傍観者」となっている現状はあまりに衝撃的だ。
欧米主要国は、これまで首脳レベルでロシアのウラジミール・プーチン大統領の説得を試みるなど外交努力を続けてきた。しかし、実際に軍事侵攻が開始された後は無力だった。
「プーチン大統領はウクライナへの攻撃により、流血と破壊の道を選択した。英国と同盟国は断固対応する」(英国のボリス・ジョンソン首相)、「侵略者のプーチン大統領に代償を払わせる」(バイデン大統領)――。そう厳しく非難を浴びせるものの、軍事侵攻をストップさせるだけの行動力も影響力も持ち合わせていない。
各国は相次いで対ロ制裁を発動し、ウクライナへの支持と連帯を発信している。制裁に一定の効果はあるにせよ、ウクライナが渇望するのは「ただ戦況を見ているだけの傍観者が増えることではない」(外務省幹部)のは明らかだ。
ジョンソン首相は2月24日、ゼレンスキー大統領との電話会談で「西側諸国が傍観することはない」と伝えたというが、ウクライナの「孤立」は変わってはいない。
バイデン大統領は「NATO加盟国を守り、新たな動きに備える」として米軍の派遣を指示したものの、約7000人の派遣先はドイツ。東欧に紛争が波及する事態に備えたものだ。
NATOという軍事同盟に加盟していないウクライナに対しては、米大統領自ら「米軍はウクライナでの紛争に関与しない」と公言し、軍事介入の可能性を否定。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も、集団防衛義務を定めたNATO条約に基づき即応部隊を東欧に派遣すると表明したが、ウクライナへの派兵は否定している。
核放棄と引き換えに手にした 「安全保障の約束」が反故に
かつて世界3位の核保有国だったウクライナは1994年に締結した「ブダペスト覚書」で、米国、英国、ロシアが安全を保障する代わりに核兵器を放棄した。だが、米国からも英国からも援軍が得られず、当事国のロシアから軍事侵攻に遭っている状況だ。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は「米国が交わした安全保障の約束を守らなければならない」と憤る。
多くの国々は「力による一方的な現状変更は許さない」とロシアを非難するものの、ただ遠巻きから戦況を眺めているだけだ。これでは「侵略した者の勝ち」を認めると言われても仕方ないだろう。
米国にいたっては、世界最強の情報収集能力で早い段階からロシアの軍事侵攻計画をキャッチしていたものの、プーチン大統領の本気度を見誤って包囲網構築に失敗。侵攻後に目立つ動きといえば、ロシア軍の動きを伝える「実況中継」のような公式発表ばかりだ。「世界の警察」とまでいわれた米国のプレゼンス低下は隠せない。
ここで一つの問題が浮かび上がる。それは、日本がウクライナと同じような状況に陥った場合、米国は本当に守ってくれるのかという点だ。
ウクライナ危機の行方次第で「台湾危機・日本有事」のリスクも
ジョンソン首相は2月19日の演説で、「ウクライナが危機にさらされれば、影響は東アジア、台湾にも波及するだろう」と懸念を表明した。念頭にあるのは、軍拡・覇権主義を突き進む中国の動きだ。
昨年末、習近平国家主席は「祖国の完全統一は、中国と台湾の同胞にとって共通の願いである」と表明。台湾統一は「必ず実現する」と強調してきた。米国は中国が台湾侵攻能力を保有しつつあると見ており、近い将来の「台湾有事」を警戒する声は高まる。
今回のウクライナ侵攻について「ロシアの安全保障問題に関する合法的な懸念は理解する」と繰り返す中国が、米軍の出方をうかがっているのは間違いない。米国もNATOもその他の国々もウクライナに派兵せず、国連の安全保障理事会も拒否権を持つロシアの反対で「無力化」されると判明した今、ウクライナ危機が危険なシグナルとなりかねないといえる。
台湾は沖縄・与那国島から約110kmと近く、「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本有事」(安倍晋三元首相)とされる。万が一の際は尖閣諸島や南西諸島も極めて重要なエリアになる。
仮に在日米軍基地から出撃して米国が介入することになれば、日本も安全保障関連法に基づいた役割を求められる可能性は高い。
岸田文雄首相は昨年10月のバイデン大統領との電話会談で、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条(対日防衛義務)の適用対象になることを改めて確認している。しかし、「日本はもっと自分たちの国は自分たちで守るという意識を持つ必要がある。(『ブダペスト覚書』のような)『覚書』と『条約』は重みが違うから必ず米軍は日本を守ってくれるはず、と信じるだけで本当に良いのか」(閣僚経験者)との声が漏れる。
ロシアが占拠している北方領土にいたっては、さらに厳しい心構えが必要だ。日本が実効支配していない地域のため、「いざ」となっても日本の施政権が及ばないとの理由から安保条約上の防衛義務はないとされている。
加えて、安倍元首相と蜜月関係を築いたドナルド・トランプ氏は米大統領を退任し、現在のバイデン大統領はいまだに岸田首相との対面での首脳会談にも応じていない。
「核戦争の回避」は重要だが 日米安保条約の防衛義務の保証は?
ウクライナ危機でもう一つ重要な点がある。米国がウクライナ派兵を見送る理由の一つには、プーチン大統領が「外から邪魔を試みようとする者は誰であれ、歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」と核兵器の行使を示唆したことが挙げられている。
バイデン大統領は26日公開のインターネット番組で「選択肢は二つだ。ロシアと第3次世界大戦を起こすか、国際法違反の国に代償を払わせるかだ」と述べた上で、経済・金融制裁の選択を強調した。地球の破壊につながる第3次世界大戦に発展しかねない状況を避けるために、という米国の判断は現実解としてあり得るだろう。
ただ、このバイデン大統領の判断を「日本危機」に当てはめて考えた場合はどうか。「日米安保条約の防衛義務はあるものの、核戦争になりかねないので米軍は関与しない」という判断にならない保証はどこまであるのか。
国連が機能せず、サイバー攻撃が行われ、重要な合意や首脳による約束も意味を失いつつあるウクライナ危機を見ると、主権国家の安全保障を再点検・再構築すべき時期を迎えているのは間違いない。いくら合同軍事演習を繰り返したとしても、現実には「米国による武器の供与」で終わってしまう可能性は高い。
ロシア、中国という核保有国に加え、核開発や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威にもさらされている日本。岸田首相は「明日はわが身」との危機感を持ち、早期にウクライナ危機を踏まえた対処方針を再検討する必要がある。
●国連総会の緊急特別会合始まる ロシアを非難する発言相次ぐ  3/1
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、すべての国連加盟国が参加できる国連総会の緊急特別会合が国連本部で始まり、多くの加盟国からロシアの軍事侵攻を非難する発言が相次ぎました。緊急特別会合は数日にわたって開かれ、アメリカなどはロシアを非難する決議を採択し圧力を強めたい考えです。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐる国連総会の緊急特別会合は、28日午前、日本時間の1日午前0時すぎからニューヨークの国連本部の総会議場で始まりました。
冒頭、今回の軍事侵攻で命を落とした人々のために黙とうがささげられました。
そして国連のグテーレス事務総長が演説し、「ウクライナでの戦闘を今すぐ止めなければならない」と訴え、ロシアの核戦力を運用する部隊が人員を増強し特別警戒態勢に入ったことについて、「核兵器の使用を正当化できるものは何もない」と厳しく批判しました。
続いてウクライナのキスリツァ国連大使が演説し、ロシア軍によるミサイル攻撃などで子どもを含む多くの市民が犠牲になっているとして、ロシアを非難しました。
これに対しロシアのネベンジャ国連大使が演説し、今回の作戦がウクライナ軍からウクライナ東部のロシア系住民を守るためものだと反論しました。
このあと、各国の代表による演説が行われ、ロシアを非難する声明が相次いでいて、国連によりますと193の加盟国の半数以上が演説することから会合は数日間にわたる見通しだということです。
国連総会の緊急特別会合の開催を提案したアメリカなどは、安全保障理事会での決議案がロシアの拒否権によって否決されたことから、すべての加盟国が参加する国連総会でロシアを非難する決議を採択することでロシアの国際的な孤立を際立たせ圧力を強めたい考えです。
ロシアの国連大使 軍事侵攻を正当化
ウクライナのすぐあとに演説したロシアのネベンジャ国連大使は、今回の軍事侵攻について「ウクライナ東部をめぐる停戦合意の履行をウクライナ側が怠ってきたからだ」と述べて正当化しました。そのうえで、「われわれの計画にウクライナの占領は入っていない」と述べ、侵攻はウクライナの非軍事化などが目的だと主張しました。
日本「ヨーロッパと世界の国際秩序の基盤を揺るがす」
国連総会の緊急特別会合で演説した日本の石兼国連大使は「力によって現状を変えようとする一方的な試みは、ヨーロッパと世界の国際秩序の基盤を揺るがすものだ。ロシアの一連の決定と行動は、国際法と国連憲章に明確に違反している」と述べ、強く非難しました。そのうえでロシアに対し、「直ちに攻撃をやめて軍を撤退させ、外交の道に戻らなければならない」と求めました。
英仏もロシアを強く非難
国連総会の緊急特別会合でイギリスのウッドワード国連大使は「ロシアは正当な理由なくウクライナに侵攻した。人道状況の悪化は計り知れず、ウクライナの民間人に対する無差別攻撃が行われている」と強く非難しました。そのうえで「今われわれがウクライナ人たちのために立ち上がらなければすべての国の国境と独立が危険にさらされることになる」と述べ、国際社会が一致してロシアの軍事侵攻に反対すべきだと強調しました。また、フランスのドリビエール国連大使は「国連総会は今、歴史的な責任を負っている。この戦争の即時終結とウクライナからのロシア軍の撤退を求めるすべての大陸の市民の声を、はっきりと伝えなければならない」と述べました。そのうえで、会合の最終日に採決が行われるロシアを非難する決議案について「すべての加盟国に賛成するよう求める。これはウクライナ情勢にとどまらず国連憲章と国連の存在意義を守る問題だ」と呼びかけました。
中国 ロシアへの非難控えウクライナに対応求める
一方、中国の張軍国連大使は「現在の状況はわれわれが目の当たりにしたくない事態にまで発展した。当面の優先事項はすべての当事者が自制して外交努力を強化し、状況のさらなる悪化を防ぐことだ」と述べ、現状に懸念を示しながらも、ロシアへの非難は控えました。そのうえで「ウクライナは、大きな権力の対立の最前線に立つのではなく、東西の間の橋渡し役を務めるべきだ」と述べて、ウクライナに対して事態の打開に向けた対応を求めました。
●「新冷戦」勃発は杞憂?ロシアがウクライナ侵攻で窮地に追いやられる理由 3/1
地政学的にロシアvs欧米・NATOを考える
ロシアの軍事施設への空爆は、ウクライナ全土に広がり、首都キエフにもロシアの軍用車両が入り、銃撃戦が起きているという。
ウラジーミル・プーチン大統領は、「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つだ。わが国を攻撃すれば壊滅し、悲惨な結果になることに間違いない」と強調し、繰り返し核兵器使用の可能性に言及して国際社会を威嚇している。
これまで、プーチン大統領は「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事」と主張してきた。旧ソ連の影響圏を復活させる「大国ロシア」復権の野望があるという。ウクライナを制圧し、次は旧ソ連構成国だったエストニア、ラトビア、リトアニアの「バルト3国」、そして旧共産圏だった東欧諸国と、旧ソ連の影響圏だった国を取り戻そうとしているという。
この連載では、プーチン大統領の「大国ロシア」は幻想だと主張してきた(本連載第142回)。現在起きていることが何なのかを、地政学的に検証して正確に理解する必要がある。まず、次のページの地図を見てもらいたい。
東西冷戦期、ドイツが東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙した。旧ソ連の影響圏は、「東ドイツ」まで広がっていた。しかし、現在ではベラルーシ、ウクライナなど数カ国を除き、ほとんどの旧ソ連の影響圏だった国が北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)加盟国になった。
つまり、東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退したということだ。
ロシアが懸念する、自由民主主義の浸透
2014年に、ロシアがクリミア半島を占拠した。「大国ロシア」復活を強烈に印象付けたというかもしれないが、それは違う。ボクシングに例えるならば、まるでリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものではないだろうか(第77回)。
今回のウクライナ危機も、ロシアと米国、NATOの力関係の構図は同じだ。だが、ロシアの状況は、2014年より深刻だ。2014年のロシアによるクリミア半島併合後、ウクライナでは自由民主主義への支持が高まった。NATO・EUへの加盟のプロセスは、具体的に動いてはいないが、実現可能性は高まっていたからだ。
ロシアと国境を接し、ロシアとの二重国籍者もいるというウクライナ(法的にウクライナでは認められていない)が自由民主主義陣営に加わることは、ロシアには絶対に容認できない。NATO軍と直接対峙するリスクだけではなく、ロシア国内に自由民主主義が浸透していく懸念もあるからだ。その懸念の大きさは、プーチン大統領の米国とNATOに対する要求を読めば明らかだ。
プーチン大統領は、「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」の3つの要求をしている。
これは、1997年以降のNATO加盟国である中欧、東欧、バルト3国からNATOが撤退し、NATOの範囲が1997年以前の状態に戻ることを求めていることになる。到底、米国、NATOがのむことができない強気な要求にみえる。
だが、プーチン大統領の要求は、一見強気な姿勢とは裏腹に、実はロシアの苦境を示している。拡大を続けるNATOをなんとか止めなければ国家存亡に関わる。必死の「守り」なのである。
NATO軍との長期的総力戦に耐えられないロシア
ここで、ロシアの「実力」を考察する。確かに、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は電撃的であった。綿密な作戦を練り上げて、周到な準備をしてきたのがわかる。
しかし、ロシアには東欧やバルト3国に戦線拡大する実力はない。NATOは集団安全保障体制だ。加盟国が攻撃されれば、それは全加盟国に対する攻撃とみなされる。全加盟国は、個別的または集団的自衛権を行使して、攻撃を受けた国を援護することになっている。つまり、ロシアが東欧やバルト3国を攻撃すれば、NATO全加盟国と戦争になる。
ロシア軍が精強で、奇襲や局地戦には強いことは明らかだ。だが、NATO軍との全面的な総力戦に長期的に耐えられるものではない。プーチン大統領は、それを百も承知だ。核兵器使用の可能性を繰り返し強調するのは、裏返せば核兵器をちらつかすしかないからだ。
ロシアが長期的な総力戦に耐えるのに必要な条件である「経済力」を考えてみたい。まずは、ロシアと欧州をつなぐ天然ガスパイプラインについてである。
ロシアなど天然ガス供給国は、EUなど需要国に対して圧倒的交渉力を持つとされている。ロシアの資源量が圧倒的なのに対し、EUはエネルギー資源に乏しい。EUはロシアの強引な天然ガスを利用した外交攻勢や価格引き上げ攻勢に悩まされる。だから、EUは対ロ経済制裁に慎重にならざるを得ないというものだ。
だが、現実の天然ガスの長距離パイプラインのビジネスでは、供給国と需要国の間で、一方的な立場の有利、不利は存在しない。物理的に取引相手を変えられないからだ。
一方、天然ガスは石油・石炭・原子力・新エネルギーでいつでも代替可能なものだ。供給国が人為的に価格を引き上げたりすると、たちまちに需要不振になる。なによりも、供給カットなどを行うと、供給国は国際社会での信頼を一挙に失ってしまうのだ。
だから、ロシアなど供給国が、需要国に対して価格引き上げや供給カットで外交攻勢をかけることは事実上不可能だ。現実の天然ガスビジネスでは、供給国と需要国の交渉力は、ほぼ対等の関係にあるのだ(第52回・p3)。
実際、2014年のウクライナ危機の際、ロシアは欧州の経済制裁に対する報復となるパイプラインの供給カットは一切行わなかった(第84回・p3)。ロシアは、ソ連時代から欧州にとって、最も信頼できるガス供給者であり、天然ガスを国際政治の交渉手段として使ってきた事実はほとんどないのだ。
現在、ドイツとロシアをつなぐ2本目の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」が昨年9月に完成しながら、EUの承認が遅れていまだに稼働していない。EUは、天然ガスがロシアに武器として利用されないよう、あらゆる手段を尽くすと表明している。
EUはロシアの出方を警戒してはいるが、着実に手を打っていて、米国などから天然ガスを調達しようとしている。パイプラインでなく、LNG(液化天然ガス)として輸送するのでコスト高ではあるが、それを我慢すれば、他から調達可能なのだ。
技術力がなく資源が支え、脆弱なロシア経済
さらに、ロシア経済の脆弱な体質を指摘しておきたい。
ロシアは旧ソ連時代の軍需産業のような高度な技術力を失っている。モノを作る技術力がなく、石油・天然ガスを単純に輸出するだけだ。その価格の下落は経済力低下に直結してしまうのだ。
実際、2008年のリーマンショック後や、2014年のウクライナ危機の後の経済制裁、その後の長期的な原油・ガス価格の下落は、ロシア経済に深刻なダメージを与えてきた。輸出による利益が減少、通貨ルーブルが暴落し、石油・天然ガス関係企業の開発投資がストップ。アルミ、銅、石炭、鉄鋼、石油化学、自動車などの産業で生産縮小や工場閉鎖が起きたのだ(第142回・p2)。
現在、世界の原油・ガス価格は高騰している。長期的な価格低迷から脱して、ロシア経済は一息つき、安定している。それが、「欧米の経済制裁は効果がない」と、プーチン大統領を強気にさせている。
しかし、原油・ガス価格の決定権を究極的に持つのは、「シェール革命」で世界最大級の産油・産ガス国に返り咲いた米国だということを忘れてはならない(第173回)。米国がシェールオイル・ガスを増産し、石油・ガス価格が急落すれば、ロシア経済はひとたまりもない。
バイデン政権は、民主党を支持する環境関連団体との関係もあり、シェール増産には慎重だ。だが、ロシアの生殺与奪の権利を有しているのは間違いない。
そして、SWIFTからロシアを排除する制裁措置である。
大国ロシアの復活は幻想だが、中国は…
結論から言えば、これは絶大の効果がありそうだ。SWIFTは国際貿易における資金送金の標準的な手段となっているが、ロシアの銀行がSWIFTから排除されると、世界中の金融市場へのアクセスが制限される。ロシアの企業や個人は、輸出入の代金の支払いも受け取りも困難になる。
ロシア経済の大部分を占める石油・天然ガスのパイプラインでの輸出は、取引が停止する。ロシアは国家収入の大部分を失うのだ。しかし、取引相手の欧州は、コスト高に直面はするが、LNGを米国、中東、東南アジアからかき集めることができる。
米国が本気になれば、石油・天然ガスを増産して欧州を助けることができる。ロシア経済に甚大な打撃を与えることになるのは間違いない。プーチン大統領は、できるだけ早期の事態の収束に乗り出さざるを得なくなるだろう。
「3つの要求」を米国やNATOが受け入ることはない。ウクライナの大部分を実効支配できる可能性はあるが、得られるものはそれだけだ。プーチン大統領は、次第に厳しい状況に追い込まれていくことになる。
「大国ロシア」の復活は、幻想にすぎない。東西冷戦終結後、米国や欧州が築いてきた国際秩序は崩壊などしていない。むしろ、NATO・EUの東方拡大という戦略は、ほぼ完成している。だからこそ、追い込まれたロシアは「窮鼠猫を噛む」的に暴れたのだ。
地政学的に見れば、欧州よりも、太平洋のほうがより深刻だ。
ランドパワーを持つ中国が台湾を武力で統一すれば、日本列島からフィリピンの「第1列島線」を越えて、中国が本格的に太平洋に進出するシーパワーとなるからだ。それは、欧米や日本などが築いてきた国際秩序が太平洋で完全に崩壊することを意味する。
●専門家が指摘「プーチン」にコロナ禍で起きた変化  3/1
自らの大統領のことはわかっている——。ロシアの人々はそう考えていたが、これは間違いだった。
そして2月24日には、すでに取り返しのつかない状況になっていた。
大統領に就任してからの22年間、ウラジーミル・プーチンは国内に対してはほぼ一貫して、静かな決意を秘めた指導者のオーラをまとってきた。卓抜した危機管理能力によって、世界最大の国土を誇るロシアを巧みに導く人物。それがプーチンの国内的イメージだったのだ。
だが、こうしたイメージはウクライナ侵攻で崩れ去り、指導者プーチンのまったく別の姿がむき出しとなった。プーチンは核の超大国を出口の見えない戦争に引きずり込み、ソ連崩壊以降30年にわたり平和な世界秩序の中で居場所を見つけようとしてきたロシアの試みに終止符を打とうとしているようにしか見えないからだ。
プーチンの行動はもはや理屈では理解不能
2月24日、ロシアの人々は衝撃の中で目を覚ますことになった。午前6時前に放送された国民向けのテレビ演説で、プーチンはウクライナへの全面攻撃を命じたと明らかにした。ウクライナは、政治的な立場にかかわらずロシアの人々がしばしば「兄弟国」と呼ぶ、ロシアとつながりの深い国だ。
開戦に対し国民から歓喜の声が自然と沸き起こることはなかった。長年にわたりプーチンの権威主義と妥協し、適応を試みてきたリベラル派の著名人たちは、自分たちには止めるすべのない戦争に反対する意見をソーシャルメディアに投稿する以外、何もできない状態となっていた。
国民の中にはもっとはっきりと声を上げる人たちもいた。サンクトペテルブルクからシベリアまで、何千という人々が圧倒的な数の警察隊を前にしながらも街頭で「戦争反対」のデモを繰り広げ、人権団体のOVDインフォによると、24日だけで1700人を超える拘束者を出した。
そして、モスクワの外交政策ウォッチャーの多くは、彼らが何十年と研究し続けてきたプーチンの意図を、とんでもなく読み違えていたことを認めた。アナリストの圧倒的大多数はここ何カ月と、ウクライナを軍事的に包囲するプーチンの行動を、抜け目なく巧みな「はったり」と位置づけてきた。
「私たちが考えていたことは、すべて間違いだったことが明らかになった」と、アナリストの1人は話した。このアナリストは、何を言うべきか途方に暮れているため、記事では名前を伏せて欲しいと強く要望した。
別のアナリストは、「動機も、目標も、可能性としてどのような結果が考えられるのかもわからない」とし、「とても奇妙なことが起きている」と語った。
もう1人のアナリスト、政治分析会社Rポリティックのタチアナ・スタノヴァヤは、「ずっとプーチンを理解しようとしてきた」が、もはやロジックによる分析は限界に達したようだ、と話した。「現実路線は後退し、彼は感情任せで動くようになっている」。
楽観から一転、「出口なき戦争」に広がる絶望
その一方でロシアの株価は暴落、ATMもドル不足に陥り、国民はインターネット上でロシア自慢の軍隊が、自分たちの親戚や友人が何百万人と住むウクライナで殺戮を繰り広げる様子を目にした。
「世界がひっくり返ってしまった」。24日夜、機動隊が多数出動する中、モスクワ中心部で反戦デモに参加していたアナスタシア(44)はそう言って涙を流した。「どんなにひどいことになるか想像もつかない。破滅的な出来事だ」。アナスタシアは報復を恐れ、ファーストネームしか明かさなかった。
国民の多くはそれまで、クレムリンが喧伝する「ロシアは平和を愛する国家であり、プーチンは計算高く慎重な指導者だ」という物語を受け入れていた。国民の多くは今でも、ロシアが1990年代の貧困と混沌を脱し、それなりの生活水準と国際社会からの尊敬を得られる国になれたのはプーチンのおかげだったと考えている。
過去3カ月間、ウクライナ周辺にロシア軍が集結しているのは侵攻の前触れにほかならないとアメリカの当局者が警告する中、ロシア国民はこうした見方を一笑に付してきた。
プーチンはリスク管理を重視する指導者であり、軽率な行動に出て予測不能な事態を招くはずなどないが、西側にはそうしたことが理解できないのだ、という立場である。反体制派の大物は獄中か国外という状況の中、反戦運動を組織できるだけの影響力を備えた人物はほとんどいなくなっていた。
ロシア政府とつながりのある著名人には侵攻説を荒唐無稽と決めつける態度を改める者も出るようになっていたが、彼ら自身が認めるように、もはや手遅れだった。国営テレビの深夜番組で突出した知名度を誇るコメディアン、イヴァン・ウルガントは、2月に入ってからも、戦争が近づいているという見方を自身の番組内でからかっていた。そのウルガントは24日、インスタグラムに真っ黒な正方形の画像を投稿し、「恐怖と苦痛」という言葉を添えた。
「考えられる最悪シナリオしかない」
一方、有名テレビパーソナリティーのクセーニア・サプチャクは、1990年代にプーチンの師匠となった元サンクトペテルブルク市長を父に持つ人物だが、そのサプチャクはインスタグラムの投稿に、祖国の未来についてはもはや「考えられる最悪のシナリオしか信じられるものはない」と記した。彼女はその数日前、ウクライナやアメリカの大統領に比べると「成熟し、適切な資質を備えた政治家だ」としてプーチンを称賛したばかりだった。
「私たちの誰もが、この状況から逃れられない」とサプチャクは24日の投稿に書いた。「出口はない。私たちロシア人は、今日という日がもたらした結果から抜け出すのに何年ももがき苦しむことになるだろう」。
新型コロナ禍の中で、アナリストたちはプーチンのある変化に目を留めていた。西側諸国の指導者とは比較にならないほど厳しい隔離のバブルに引きこもったプーチンは、孤立の中で怒りを強め、より感情的になり、硬直した歴史的な文脈の中で自らの使命を語ることが増えた。
ロシアが西側から過去何世紀にもわたって押しつけられてきた誤った歴史を正す必要があるとプーチンは語り、公の発言で見せる歴史観はかつてなく歪んだものになっていた。
2011年に仲たがいするまで顧問としてプーチンを近くで支えた政治学者のグレブ・パブロフスキーは、1時間に及んだ21日の国民向けテレビ演説でプーチンがウクライナをロシアに対する差し迫った脅威だとする、わけのわからない言葉を口走るのを見て愕然としたと話した。
「何がきっかけでそのような考えを持つようになったのか検討もつかない。とてつもなく奇妙な文書に目を通しているのだろう」とパブロフスキーは言った。「彼は孤立している。かつてのスターリン以上に孤立している」。
それでも「プーチン降ろし」は起こらない
前出のアナリスト、スタノヴァヤは、今から考えると、ここ何年かでプーチンが歴史に取りつかれるようになったことが彼の動機を読み解くカギになっていたように思うと話した。
何しろ、ウクライナ侵攻は「戦略」で説明できるような動きではない。この戦争に明確な落としどころはなく、国外の反ロシア感情に拍車をかけ、北大西洋条約機構(NATO)との対立をエスカレートさせる結果しかもたらさないのは目に見えている。
スタノヴァヤによれば、プーチン周辺の高官らはどう見てもウクライナ侵攻が実際に始まるとは考えておらず、どう対処すべきかもわかっていなかった。国営テレビの出演者とクレムリンを支持する政治家を除いては、ロシアの著名人から戦争を支持する声はほとんど上がらなかった。
しかし、だからといってプーチンに「宮廷クーデター」の危険が迫っていることにはならないとスタノヴァヤは言った。プーチンはロシア全土に張り巡らされた治安機構をがっちりと掌握し、過去1年にわたり反対派を広範囲に取り締まってきた。
「プーチンがなお、長期にわたってロシアを動かし続ける可能性はある」と、スタノヴァヤは語った。「ロシア国内では、プーチンは政治的なリスクからほぼ完全に守られているといっても過言ではない」。
●「プーチン氏はナポレオンやヒトラーのようなミス」 米元高官 3/1
戦略家として著名なマクマスター元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は2月28日、ロシアのウクライナ侵攻に関して「ロシア軍にウクライナを従属させるだけの力はない。プーチン露大統領は戦略的な判断を誤った。(ロシア帝国やソ連の侵攻に失敗した)ナポレオンやヒトラーのように、地図だけ見て(作戦を考え)、実際の縮尺を考慮しないミスを犯したのかもしれない」と指摘した。
元米陸軍中将でもあるマクマスター氏は、日本部長を務める米シンクタンク「ハドソン研究所」で、記者団の質問に答えた。
ロシアの侵攻の狙いについて「首都キエフを制圧して現在の指導者を排除し、ロシアに従属的な指導者にすげ替えようとしたのだろう」との見方を示した。
その上で「ロシア軍の中でも(市街戦に適した)近接戦闘の部隊は3割程度だ。都市制圧には大量の歩兵が必要なのにロシアは(東部や南部など)五つの戦線に軍を分散させており、間違いを犯している」と分析した。
また、ロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に編入した後、ウクライナが軍士官養成や国防産業活性化に力を入れてきたと指摘。「プーチン氏は戦車やロケット発射装置の数などハードウエアだけで判断し、ウクライナ軍には有効な抵抗はできないと想定したに違いないが、戦意の高いウクライナ国民と戦う羽目になっている」との見方を示した。
米欧が侵攻の抑止に失敗したことについては、21年の米軍のアフガニスタン撤収時の混乱、14年にシリアの化学兵器使用疑惑が発覚した際の軍事介入回避、クリミア半島の一方的編入に対する制裁の甘さなどを挙げ「ロシアはそうした行動を弱さとみなし、抑止の意思がないと判断した」と指摘した。
また、中国の習近平国家主席もプーチン氏と同様、最近の米欧などの状況を見て「民主主義は弱く、権威主義は強い」と考えていると指摘。「中国はウクライナ情勢を注視している。台湾や南シナ海の安全保障を考えると、ロシアを失敗させることが非常に重要だ」と強調した。
●「3日間で戦闘部隊30%失った」…ウクライナを軽視したプーチン露大統領 3/1
ロシアのウクライナ全面侵攻5日目、ロシアがウクライナを容易にねじ伏せるという予想とは違う戦況に向かっている。ロシアは主要目標とするウクライナの首都キエフ、第2の都市ハリコフ、黒海沿岸の拠点マリウポリをまだ占領していない。
戦争の序盤、ロシアの損失はかなり大きい。21世紀軍事研究所のリュ・ソンヨプ研究委員は「ウクライナ国防省の26日の発表によると、ロシアの戦車146台と装甲車706台が破壊された」とし「普通、全体戦力の30−50%ほど被害を受けた部隊を戦闘不能とみる。25−30個大隊戦術団を失ったということ」と述べた。大隊戦術団とは戦車(10台)・装甲車(40台)を中心に砲兵・防空・工兵・通信・医務を集めた大隊規模のロシア軍臨時部隊編成だ。
ロシアは今回の戦争に160個大隊戦術団を動員し、100個を戦闘に投入した。3日間(26日基準)の戦闘で30%を失ったという数値だ。ウクライナが善戦しているということだ。
その理由について韓国国防研究院のバン・ジョングァン研究員(予備役陸軍少将)に話を聞いた。
ロシアの判断ミス
ロシアは速戦即決で戦争を終える考えだった。ロシア軍が3方面から大規模に侵攻すれば、ゼレンスキー大統領を含むウクライナ政府の指揮体系は瓦解すると仮定した可能性がある。その通りに戦争が進行すれば、5日目に無条件降伏に近い状況で終わった2008年のジョージア戦争と同じ様相になったはずだ。
ロシアが今回の戦争のために動員した15万人の兵力は、ウクライナの領土と人口を考慮すると十分でない。それでウクライナの首都キエフを含む大都市を核心目標に選定したとみられる。
ゼレンスキー大統領を中心にウクライナ国民は老若男女を問わず銃を握っている。ウクライナ国民の強い戦意はロシアが開戦を決定した時に考慮した「仮定」とは違っていたのだろう。プーチン露大統領の仮定は外れ、速戦即決の成功の可能性は遠ざかっている。
開戦の2、3日後、ロシアは包囲した大都市に進入するかどうかを悩んだ可能性がある。「都市は兵力をのみ込む」という言葉がある。市街戦は攻撃側に非常に不利だ。都心の建物は進撃を妨害し、敵軍には最適な待ち伏せ場所となる。このためロシアは1994−95年の第1次チェチェン戦争当時、チェチェンの首都グロズヌイで大きな被害を受けた。
キエフを含む市街戦でロシア軍に多くの死傷者が発生すれば、プーチン大統領は政治的に厳しい。ロシアは独裁国家だが、選挙を行う。次の大統領選挙でプーチン大統領は決して有利ではないはずだ。
西側の支援
昨年11月、ロシア軍が大規模な兵力を集結すると、米国はこれをメディアに積極的に公開し始めた。前例のないことだ。米国は2014年のクリミア半島、2021年のアフガニスタン撤収作戦の情報失敗を挽回するため切歯腐心したとみられる。米国が最初の侵攻予定日として公開した2月16日が実際にロシアが最初に計画した日程だったが、奇襲効果が消えて遅らせたという主張が説得力を持つ。
米国とNATO(北大西洋条約機構)はウクライナへの派兵を検討していない。しかし軍事支援は続けている。米国だけでも2014年のロシアのクリミア半島強制合併以降、ウクライナに54億ドル(約6兆5000億ウォン、約6240億円)の軍事援助をした。バイデン米大統領は3億5000万ドル規模を承認し、議会に64億ドルの予算を要請した。
米国はウクライナにジャベリン対戦車ミサイル、スティンガー地対空ミサイルなどを提供し、都心地域を中心に防御するよう助言したとみられる。携帯と操作が容易で、自発的に戦闘に参加する民兵も運用できるというのが、これら武器の長所だ。実際、ウクライナがロシアの戦車と装甲車、ヘリコプターを防ぐのに決定的に寄与している。
大隊戦術団の限界
ロシアは大隊戦術団という独特の部隊編成で戦闘に投入した。地域紛争介入に最適化された部隊編成だ。大隊戦術団の長所は小規模に戦車、装甲車、砲兵、防空など諸兵協同要素を最大限に含めた点だ。最も大きな短所は整備・補給などを担当する組織の編成が微弱という点だ。
このためロシアは2014年のドンバス紛争で大隊戦術団が敵地深くまで進撃しないよう指示したという米国の報告書がある。ロシア大隊戦術団はウクライナでの長期間作戦を制限せざるを得ない。一定の時間が経過すれば国境の外に待機中の大隊戦術団と交代で投入される可能性がある。
●日本政府、プーチン氏ら露要人6人の資産を凍結 外相、国防相も 3/1
政府は1日午前、ウクライナを侵攻したロシアに対する制裁措置として表明している資産凍結の対象として、プーチン露大統領ら6人とロシアの銀行3行を発表した。プーチン氏のほか、ラブロフ外相、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長、国家安全保障会議のパトルシェフ書記とメドベージェフ副議長の名前を挙げた。
岸田文雄首相は1日未明に行われた欧米諸国の首脳との電話会議で「日本は、欧米諸国と足並みをそろえて迅速に厳しい対ロシア制裁措置を打ち出してきている」と説明していた。
資産凍結の対象となった銀行は政府系の対外経済銀行(VEB)、軍との関係が深いプロムスビヤズ・バンク、ロシア中央銀行。また、外務省は対外諜報庁や連邦保安庁、造船会社など49団体を対象とした禁輸措置を告示し、8日から実施する。
●プーチン大統領らの資産凍結 ロシア中銀も制裁―閣議了解 3/1
政府は1日午前の閣議で、ロシアのウクライナ侵攻を受け、プーチン大統領ら6個人とロシア中央銀行など3銀行の資産を凍結する制裁措置を了解した。
ロシア中銀への制裁は即日実施。松野博一官房長官は記者会見で「欧米諸国と足並みをそろえて実行に移したことで、ロシア中銀が制裁の効果を損なう形で外貨準備を展開することを阻止することにつながる」と意義を強調した。
今回の制裁措置は、岸田文雄首相が2月25日に大枠を発表。対象の個人には、パトルシェフ安全保障会議書記、ラブロフ外相、ショイグ国防相らが含まれる。銀行は、開発対外経済銀行、プロムスビャジバンクも対象とした。
軍事関連企業など49団体への輸出禁止、半導体などを念頭にロシアの軍事力強化に資する汎用(はんよう)品の輸出禁止も正式に決めた。
●岸田首相 ウクライナ情勢 “国際社会結束し きぜんと対応を”  3/1
岸田総理大臣は、ウクライナ情勢をめぐるG7=主要7か国などの首脳らによる電話会議に参加し、ロシアによる軍事侵攻に対し、国際社会が結束し、きぜんと対応することが重要だと訴えました。首脳らは、ロシアを厳しく非難し、国際社会が一致して強力な制裁措置をとっていく必要性を確認しました。
ウクライナ情勢をめぐり、アメリカのバイデン大統領の呼びかけでG7=主要7か国などの首脳らによる電話会議が、日本時間の1日未明行われ、岸田総理大臣も参加しました。
これについて岸田総理大臣は1日朝、総理大臣官邸で記者団に対し「私からは、ロシアのウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであるということ、また国際社会が結束して、きぜんと対応することが重要であることなどを訴えた」と述べました。
また「唯一の戦争被爆国、とりわけ被爆地・広島出身の総理大臣として、核による威嚇も使用もあってはならないと強調した」と述べました。
さらに会議では、各首脳らが「ロシアによるウクライナ侵略は武力の行使を禁止する国際法の深刻な違反だ」として厳しく非難したうえで、国際社会が一致して強力な制裁措置をとっていく必要性を確認するとともに、引き続きウクライナ政府や避難民への支援で協力していく方針で一致したと説明しました。
そして岸田総理大臣は「今後もわが国としては、G7や国際社会と連携をとりながら、引き続き適切に対応していきたい」と述べました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、岸田総理大臣との電話会談のあと、みずからのツイッターに投稿し、日本の支援に謝意を表明しました。
この中では「侵略に対抗するウクライナへの強力な支援に感謝する」として、具体的には、先に日本が表明した1億ドル規模の円借款に加えて1億ドルの人道支援を行う方針や、ロシアに対して厳しい制裁措置をとるとした姿勢を評価しています。
その上でゼレンスキー大統領は「真に世界的な反戦連合が動きだしている」として、日本を含む国際社会の支持のもとロシアに断固として即時停戦と軍の撤退を求めていく姿勢を強調しています。
●米大統領 ウクライナ対応めぐり 岸田首相に謝意 訪日の意向も  3/1
アメリカのバイデン大統領が岸田総理大臣に対し、ウクライナ情勢をめぐる日本政府の制裁措置やLNG=液化天然ガスの一部をヨーロッパ向けに融通したことなどへの謝意とともに、数か月以内に日本を訪問する意向を示す書簡を送っていたことが分かりました。
政府関係者によりますと、アメリカのバイデン大統領から28日、岸田総理大臣に対し、ウクライナ情勢での一連の日本政府の対応に謝意を示す書簡が送られたということです。
この中では「ロシアにおけるウクライナ侵略への対応における岸田総理大臣のリーダーシップに特に感謝している。日本の強力な対応は、ロシアによる理不尽で不当な攻撃に対し、国際社会が連帯して立ち向かうメッセージとなった」としています。
そのうえで、「岸田総理大臣が安定した石油市場の確保に関する最近の声明やLNG=液化天然ガスの日本からヨーロッパへの振り分けに関する迅速な行動だけでなく、厳しい金融制裁と輸出管理措置の発表についても、緊密に連携してくれていることに感謝する」としています。
そして、「今後、数か月のうちに日本で岸田総理大臣とお会いし、極めて重要な日米同盟を前進させるため、引き続き、ともに取り組んでいくことを楽しみにしています」と結んでいます。 
●首相「核で威嚇、許されず」 米欧とウクライナ情勢協議 3/1
岸田文雄首相は1日、ウクライナ情勢を巡る米欧首脳との電話協議で「唯一の戦争被爆国、被爆地・広島出身の首相として核による威嚇も使用もあってはならない」と強調した。協議の後に首相官邸で記者団に明かした。
協議は1日に米国のバイデン大統領の呼びかけによって主要7カ国(G7)の首脳らが参加した。ウクライナに侵攻したロシアは核戦力を含む抑止部隊が警戒態勢に入ったと発表している。
首相は協議で「ロシアのウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがす」と発言した。「国際社会が結束して毅然と対応することが重要だ」と唱えた。
各国首脳はロシアを厳しく非難し、国際社会が一致して強力な制裁措置をとっていく必要があると確認した。ウクライナ政府や避難民への支援でも協力すると確かめた。
首相は記者団に「今後もG7、国際社会と連携をとりながら引き続き適切に対応していきたい」と述べた。
●ウクライナ軍事侵攻 敗戦国として改めて反戦を唱えるときだ 3/1
ウクライナの首都・キエフで、ロシア軍による大規模軍事作戦で損傷した住宅。2月24日、ウクライナのNATO加盟阻止を目指し、圧力を強めていたロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始。ウクライナ保健相によると24日時点で少なくとも57人が死亡、169人が負傷。今後ますます戦闘は激化する恐れがある。
今年の米オスカーで4部門にノミネートされたことでも話題の村上春樹原作・濱口竜介監督映画『ドライブ・マイ・カー』の中で、舞台の演出を務める主人公がチェーホフを「恐ろしい」と表現する場面がある。
「彼のテキストを口にすると、自分自身が引きずり出される。そのことにもう耐えられなくなってしまった」。
日本で言えば森鷗外らと同世代のチェーホフは、19世紀末のロシアで活躍した作家だが、生まれは現在のウクライナに隣接するロストフ州の国境近くの港町タガンロークである。
アゾフ海に面したその町は、古くは大北方戦争の時代にロシア艦隊の基地がつくられたものの、オスマン帝国との争いの中でピョートル大帝が破壊・放棄し、約50年後に再びロシア軍の手に渡るまで長らく廃墟であった。
巨大な国の端っこに位置するだけに歴史は荒々しい。チェーホフが生まれる5年前にはクリミア戦争で上陸した英仏軍に市街地まで攻撃され、第二次世界大戦では、2年間に及ぶナチスドイツ軍の占領によって再び町が破壊されている。
モスクワ大医学部を出たチェーホフは以後、モスクワを主な拠点として活動するが、持病の結核療養を機にヤルタに移住、ドイツの鉱泉地で他界するまでそこに居を構えた。このヤルタは、2014年以降ロシアが実効支配しているクリミア半島の都市である。
国際社会の多数派はロシアによるクリミア併合を認めておらず、帰属については係争状態にあると説明される。『かもめ』や『ワーニャ伯父さん』など、演劇史上極めて重要な作品を残した大作家の足取りを辿ると、緊迫するウクライナ情勢の最前線に隣り合う。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた。NATOの東方拡大への懸念と不満を背景に、再び力で国境を変更しようとするプーチン大統領の試みは、米欧の警告を無視した実力行使に発展。2月24日に空爆で各地の軍事インフラ施設を破壊したほか、首都キエフの空港ではウクライナ軍と戦闘した。
G7は共同声明で厳しく非難したほか、引き続き経済金融制裁で協調することも確認しているが、クリミア併合後のロシアは米欧の制裁を見越して周到な対策を強化している。資源豊富で広大な国土を有する同国が、制裁と孤立によってどれほどの打撃を受けるかは未知数だ。
米中二強が鮮明となる中で、米国が主導してきた冷戦後の国際秩序が立て直しを迫られている。ただし、武力で変更しようとするロシアの姿勢は非難し続けなければならない。人を殺すウイルス対策にかすかな出口が見えだしたとき、今度は人が人を殺す争いが現実に始められた。この事態をどう受け止めるのか。
私は軍事侵攻が始まった24日、ギャルAV女優と清純派AV女優を競わせて勝敗を決める番組の収録をしていて、休憩中に誰かが「戦争始まった」と言ったけれど、それだけだった。戦争を語る言葉が貧弱になっていく中で、敗戦を最も重要な立脚点とする国として改めて反戦の意志を唱えることは思いのほか重要に思える。戯曲のテキストが役者の内面を引きずり出すように、言葉によって向き合える歴史というものがある。
チェーホフはこう書いた。「いままでの人生が、いわば下書きにすぎず、もうひとつの人生がまっさらにはじめられたらとね。そうなれば、誰もがまず自分の犯した愚を繰り返すまいとするでしょう」(三人姉妹)。
人も国も、歴史をまっさらにはできないが、だからこそ犯した愚を語ることができる。
●ウクライナの「非武装化」主張 プーチン氏、仏大統領に 3/1
ロシアのプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領と電話会談し、ウクライナの「非武装化」や「中立的地位」、クリミア半島におけるロシアの主権承認が問題解決の条件だと主張した。ロシア大統領府が発表した。
プーチン氏はこれらの「ロシアの安全保障上の正当な利益」が無条件で考慮される場合にのみ、問題解決は可能だと一方的に表明した。ロシアはウクライナとの交渉にオープンだとも伝えた。
一方、仏大統領府によると、マクロン氏はウクライナでの「民間人および住居に対する全ての攻撃を中止する」よう要求し、プーチン氏は同意した。
マクロン氏は即時停戦の必要性を改めて強調し、今後数日間、連絡を取り合うことを提案。プーチン氏も同意したという。ロシアのウクライナ侵攻開始後、両首脳の電話会談は2回目。AFP通信によれば、会談は1時間半に及んだ。
●プーチン氏、ウクライナ終戦条件を提示 都市砲撃で11人死亡 3/1
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月28日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との電話会談で、ロシアによるウクライナ侵攻を終結させる条件を提示した。
ロシア大統領府によると、プーチン氏は長時間にわたる電話会談で、終戦の条件として、ウクライナの「非軍事化と非ナチ化」を求めたほか、クリミア半島でのロシアの主権承認を西側諸国に要求した。
ロシア軍はこの日、ウクライナ第2の都市ハリコフを砲撃。同国当局によると、少なくとも11人が死亡した。ハリコフ州知事は、重要なインフラもなく、軍部隊も配置されていない住宅地が標的になったと語った。
27日には現地入りしたAFPのカメラマンが、破壊された学校や、焼け焦げたロシア軍用車両数台を確認。街頭には軍服を着た複数のロシア人の遺体も見られた。
ウクライナ当局によれば、24日の侵攻開始以来、子ども14人を含む350人以上の民間人が死亡。国連(UN)によると、国外に避難した人の数は50万人以上に上る。
先週末にはハリコフのほか首都キエフが攻撃されたが、欧米の国防当局やウクライナ政府は、ロシア側に掌握された主要都市は今のところないとしている。ただウクライナ当局によると、南部の小都市ベルジャンスクは制圧された。
●ロシア国内の“3つの分断・格差”に焦るプーチン大統領… 3/1
2月27日、核を含む抑止力部隊を厳戒態勢に移すよう指示したロシアのプーチン大統領。28日にはショイグ国防大臣がプーチン大統領に対しロシア軍の戦略核兵器部隊が戦闘態勢に入ったことを報告したと発表している。
元産経新聞モスクワ支局長で大和大学社会学部教授の佐々木正明氏は「プーチン大統領がわざわざ国営メディアを使ってこの命令出す場面を見せたところに注目している。プーチン大統領としては大きく3つの誤算があり、そこも踏まえての“抑止力”だということだろう」と話す。
「1つ目が、国際社会による、SWIFTまでを含む制裁強化が予想以上の早さで行われたということ。2つ目がウクライナ軍の反撃。そして3つ目が、ロシア国内の世論の予想以上の高まりだ。産経新聞の私の後輩記者がモスクワ市内の公園で市民10人くらいに聞いてみると、外国のメディアに対して“戦争はいけない”ということを言う。これだけでも信じられないほどの雰囲気だし、フィギュアスケーターのメドベージェワさんがInstagramでメッセージを出した。こういう意見が外に漏れてくるというのは、ちょっと緩くなっている感じがする。
プーチン大統領には政敵がおらず、今も支持基盤は盤石なので、あくまでも“反戦”であって“反プーチン”ではないということには注意すべきだが、制裁は“兵糧攻め”のようにじわりじわりと影響を与える。プーチン大統領としても事前に様々な反動があることを計算して武力行使に移ったはずだが、今後の国内世論の動向、治安部隊の動きに注目だ」。
その上で佐々木氏は、デモの参加者に注目していると話す。
「プーチン政権が始まって以降、ロシア国内には“3つの分断・格差”がある。1つ目が、ソ連崩壊から30年が経っているので、あの時代を知っている人と、そうでない人とでは、全く違った考え方をすることだ。2つ目が、プーチン大統領の演説をずっと見させられるような、ある意味では“洗脳”みたいな報道をしている国営メディアの情報にばかり接している人と、独立系メディアや西側からの情報に触れている人との違いだ。そして3つ目だが、今のウクライナを知っている人と、知らない人の違いだ。こうした分断・格差が大きくなった結果が、予想以上のデモに結びついているのではないか」。
とりわけ注目されるのが、“若い世代”だという。
スマホを持って、西側の情報にも接している若者にとっては、ソ連の崩壊は日本で言う明治維新のような感覚だと思う。また、モスクワにいる、インテリで、西側にも旅行をしたことのあるような若い層は、反政府運動の指導者ナワリヌイ氏の支持層とも重なる。そこにウクライナのことを知っている人、ウクライナに親戚がある層も加わってきている。ウクライナのゼレンスキー大統領も、これらの層を狙って情報を発信していると思う。例えばロシアで流行っているTelegramというSNSは秘匿性が高く1日で履歴が消えてしまうものなので、反政権の気持ちを持つ人たちはそこで情報のやり取りをしている。ゼレンスキーさんは、このTelegramを使って、ロシア語の演説を行った。
一方、プーチン大統領には若者を使って“プーチン親衛隊”みたいなものを作っているし、第2次世界大戦中にバンデラという人物がナチス・ドイツとくっついてソ連人を殺害したことを踏まえ、今のキエフを“ナチスの亡霊”だと呼び、NATOと一緒になってロシアに攻めてくると煽っている。しかし今のウクライナにはそんな人はいないし、親戚がいる人、ビジネスをしている人など、ウクライナと関わりのある人であれば、この戦争には大義が無いと思うだろう。通常戦力でもウクライナを圧倒できるにも関わらずプーチン政権が早い段階で核攻撃を持ち出してきたこと、OMONという治安部隊を出して国内世論を抑えようとしていることも、やはり誤算への焦りなのではないか」。
●狂気の核暴走<vーチン大統領、危うい精神状態 3/1
ロシアとウクライナは2月28日、ウクライナ・ベラルーシ国境で、ロシアの侵攻後初めて停戦交渉し、対話継続で一致した。ただ、交渉中もロシア軍による攻撃は続き、祖国を守ろうとするウクライナ軍は激しく抵抗している。ジョー・バイデン米大統領や同盟・友好国の首脳は1日未明、電話会談を開き、ロシアによる国際法違反の軍事侵攻を厳しく非難し、強力な制裁措置をとっていく必要性を確認した。日米欧の経済制裁強化を受け、ロシアの通貨ルーブルは急落している。こうしたなか、核兵器による恫喝(どうかつ)を続けるロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、米国の有力議員から精神状態を疑問視する声が噴出している。
「狂っているプーチン大統領を信じられるわけがない」「ロシア市民はいい人たちだと思うけれど、プーチンは狂気じみている」
ロシアとの停戦交渉について、祖国を蹂躙(じゅうりん)されたウクライナ国民は、ロシア最高指導者への強い怒りと不信感を抱えていた。
注目の交渉は約5時間続いた。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は終了後、双方がいったん帰国すると説明した。ロシア側代表のウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官は、近日中にポーランド国境のベラルーシ領内で交渉を再開することで一致したと述べた。
プーチン氏は2月28日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との電話会談で、ウクライナ問題の解決には、2014年にロシアが併合した「クリミア半島におけるロシアの主権承認」や、ウクライナの「非武装化」「中立化」が条件だと述べた。中立化は、NATO(北大西洋条約機構)加盟断念を意味する。これらを「ロシアの絶対的国益だ」と強調したという。ロシア大統領府が発表した。
事実上、侵略国家・ロシアに対する、ウクライナの降伏を意味する。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はとても同意できず、今後の交渉は難航が必至とみられる。米欧はロシアのクリミア併合は「不当かつ違法」として認めていない。
ロシア軍は停戦交渉と並行して、首都キエフや東部ハリコフを含むウクライナ各都市への攻撃を続けた。ウクライナ軍は強固な抵抗を続けており、英国防省は「ロシア軍の主力は、キエフ北方30キロ地点からなお前進できていない」と指摘した。
自由主義諸国の対露制裁も強まっている。
日米欧各国は、ロシアの一部銀行を国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除する方針を打ち出した。また、ロシア中央銀行との取引を禁止・制限する追加制裁も進めている。
これらを受け、ロシアの通貨ルーブルは2月28日、最安値に急落した。ロシアの各都市では、ドルなど外貨を引き出すために現金自動預払機(ATM)に長蛇の列ができたという。
ロシア兵の命や経済を犠牲にしても、プーチン氏は狂気の暴走を続け、核兵器運用部隊に高い警戒態勢への移行を命じた。米国の有力議員らから、プーチン氏の精神状態を疑問視する声が出ている。
米上院情報特別委員会のマルコ・ルビオ上院議員はツイッターで、「本当はもっとお話ししたいが、今言えるのは誰もが分かる通り、プーチン氏は何かがおかしいということだ」と指摘した。米メディアによれば、ルビオ氏は、プーチン氏の精神状態について政府報告を受けている。
ジョージ・ブッシュ(子)政権で国務長官を務めたコンドリーザ・ライス氏はFOXニュースに、「プーチン氏とは何度も会ったが以前の彼とは違う。不安定に見え、違う人物になってしまっている」と語った。
USAトゥデー紙によれば、ドナルド・トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めた元陸軍幹部のハーバート・マクマスター氏は、テレビ映像で伝えられるプーチン氏がテーブルで落ち着きなく指を動かすしぐさなどいら立っている様子から、理性的な判断ができなくなっている可能性を推測した。
バラク・オバマ政権時代に駐ロシア大使だったマイケル・マクフォール氏も「彼は不安定さを増している」と指摘。約20年に及ぶ権力集中や新型コロナウイルス拡大による隔離状態が精神状態に影響を与えていると分析した。
プーチン氏は「核のボタン」を握っている。ロシア軍のウクライナ侵攻開始まで、多くの識者は「プーチン氏は合理主義者。全面侵攻などあり得ない」と否定していた。「正常性バイアス」を捨てて対処すべきだ。 
●ロシア軍の離反がプーチン大統領暴走のブレーキに “重鎮”が異例の辞任要求 3/1
プーチン大統領の暴走を止めるのはロシア軍か──。ロシアがウクライナへの軍事侵攻に踏み切ってから6日。ウクライナ軍をはるかにしのぐ軍事力を持ちながら、ロシア軍は大苦戦している。国の独立を守ろうとするウクライナ兵と異なり、ロシア兵は「戦争の大義」に首をかしげ、士気も下がっているという。プーチン統領への不満は募る一方だ。
もともとウクライナ侵攻は、軍関係者からも疑問の声が上がっていた。退役将校でつくる「全ロシア将校の会」の会長を務めるレオニード・イワショフ退役大将(78)の「公開書簡」(1月31日に会のHPに投稿)は衝撃だ。
イワショフ退役大将はNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大にも断固反対しているタカ派だ。プーチン政権も支持してきた。しかし、ウクライナ侵攻には強く反対している。
「公開書簡」によると、NATOの脅威は差し迫っておらず、ウクライナへの軍事侵攻は「権力と国民から盗んだ富を守る手段だ」とバッサリ。「プーチン辞任」まで求めている。軍OBの“重鎮”が辞任要求するのは異例のことだ。
軍事ジャーナリストの前田哲男氏はこう言う。「最前線のロシア兵も、イワショフ氏と同じ思いではないか。アフガン戦争中の1983年に捕虜となったソ連兵にインタビューした時、兵士が『何のために戦っているのか、分からなかった』と語ったのを思い出しました。ウクライナに送り込まれた兵士も侵攻の必要性に疑問を抱いているように見えます。しかも、銃を向ける相手は“兄弟国”です。兵士は、訓練と聞かされて派兵されたとも報じられている。ロシア軍の士気が上がらないのは当然です。キエフ陥落が難航しているのもロシア兵の低い士気が影響しているのでしょう」
さらに、ロシア兵のやる気の低下を加速させそうなのが、国際決済システムのSWIFTからのロシア排除だ。
SWIFTが利用できないと、ロシアは外貨取引が封じられ、ロシア通貨「ルーブル」が暴落する。28日の外国為替市場でルーブルは過去最安値の1ドル=119ルーブルをつけた。ルーブル急落と物価高騰が進めば、兵士の給料も目減りする。ますます士気は萎えるだろう。
「プーチン大統領がこのまま戦争を続け、ロシア兵の犠牲者が増えれば、兵士の不満は大義なき戦争を強いたプーチン氏に向かうでしょう。戦争反対の訴えは、退役大将の“公開書簡”もそうですが、ロシア国内でデモまで起きています。旧ソ連以来、見られなかった現象です。戦争が長期化する前に、ロシア国内の声によってプーチン氏の暴走が止まるのを期待したい」(前田哲男氏)
ソ連の秘密警察「KGB」出身のプーチン統領は、国内警察は牛耳っているが軍は門外漢。完全に掌握していない可能性がある。ロシア軍の離反が戦争にブレーキをかけるのか。 
●ウクライナ侵攻を正当化するロシアの現実主義 3/1
元外務省主任分析官の佐藤優氏は毎日新聞政治プレミアに寄稿した。ロシアのウクライナ侵攻について、「ロシアは、国際社会では到底受け入れられないような無理筋の主張をすることがある。ロシアは国際法の乱用者なのである」と語った。
佐藤氏は「プーチン氏の論理では、両『人民共和国』の安全を保障するためには、ウクライナのゼレンスキー政権を打倒し、ロシアに融和的な政権を樹立する必要がある」と指摘する。
そのうえで「(ウクライナの次期政権を)ロシアの軍事力を背景に2〜3年維持できれば、ウクライナはそれを受け入れざるを得なくなるとロシアの政治エリートは考えている」と語った。
●「自殺したいなら地下壕で」 ウクライナ国連大使、ヒトラーにたとえる 3/1
ウクライナのキスリツァ国連大使は2月28日、国連総会の緊急特別会合で、ロシアのプーチン大統領を「1945年5月に独ベルリンの地下壕で自殺した男」ヒトラーになぞらえ強く非難した。
ウクライナのキスリツァ国連大使「この戦争は、引き起こされたものではなく、今まさに、地下壕に座っている誰かが選択したものだ。1945年5月、ベルリンの地下壕に座っていた男の末路を、私達の誰もが知っている。地政学的な拡大を狙う軍国主義の大国が、小さな隣国の侵略を狙い、大規模な軍事攻勢をしかけている。破壊的な砲弾が、ウクライナ全土で市民の頭上に投下され、ロシア軍は自国、ベラルーシ、ウクライナのドンバスとクリミアの占領地域からウクライナの国境を越えた。何かに似ていないだろうか? そうだ。第2次大戦の始まりと、非常に良く類似しているのではないか。プーチン氏は核抑止部隊を高度警戒態勢に移行させた。なんという狂気だろう。もし自殺したいのなら、核兵器を使用する必要はない。1945年5月にあの男がベルリンの地下壕でしたのと同じことをすればいいだけだ」
●プーチンの資産凍結に効果はある? 黒海の宮殿、モナコの愛人豪邸… 3/1
西側諸国は2月25日、ロシアのウクライナ侵攻への制裁として、ウラジーミル・プーチン大統領の個人資産を凍結すると発表した。しかし、プーチンの莫大な資産を欧米政府がどこまで把握しているかは不明だ。
事実、プーチンが所有する財産やそれらがどこにあるかについては、ほとんど知られていない。長らく噂や憶測が飛び交ってきたものの、取り巻きたちの口座に数十億ドル単位で移したり、家族名義で高級不動産を所有するなど、その富の実態は不透明なままだ。
プーチンの資産公開記録によれば、年収は14万ドルで、小さなマンションを所有していることがわかっている。だがこれはあくまで公式記録による表向きの数字であり、以下のような「隠し財産」は含まれていない。
まずは黒海沿岸のリゾート地にある通称「プーチンの宮殿」。10億ドル相当と推定されるこの豪邸は、プーチンの所有にはなっていないものの、さまざまな形でプーチン政権とつながりがあることがわかっている。
「プーチンのヨット」と呼ばれる1億ドルの高級クルーズ船もある。この船はドイツで改修が行われていたが、ウクライナ侵攻が始まる数週間前にロシアへ移動された。
それからモナコには、プーチンの愛人と伝えられる女性がオフショア企業を介して購入した410万ドルの大邸宅があり、南仏にはプーチンの元妻が所有する高級ヴィラがある。
アメリカやその同盟国にとって厄介なのは、これらの資産がいずれもプーチンと直接にはつながっていないことだ。
●バッハ会長のロシア批判はポーズか…“プーチンのプードル” 3/1
ウクライナへの軍事侵攻で世界中から「NO!」を突き付けられているロシア。スポーツ界でもその動きは顕著だ。
世界中のスポーツ界でロシア拒否
今年11月に行われるサッカー・カタールW杯の欧州予選プレーオフで、ロシアと対戦するポーランド、対戦の可能性のあるチェコとスウェーデンがロシアとの試合を拒否。FIFAと欧州サッカー連盟(UEFA)は2月28日、ロシアの代表、全クラブチームの主催大会への出場を当面の間、停止すると発表した。
他にも国際スキー連盟や国際体操連盟は、ロシアやベラルーシで予定される今季のW杯などの中止・開催地変更を決定。国際柔道連盟はプーチン大統領が務める名誉会長職とアンバサダーの職務停止を発表した。
こうなると安穏としていられないのが、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長(68)だろう。IOCは2月24日、五輪開幕7日前からパラ終了7日後までの休戦決議を破ったロシアを批判。バッハ会長も「休戦を守り、平和にチャンスを与えてほしい」と訴えたが、それも「ポーズではないか」と勘ぐる向きがある。バッハ会長はロシアのプーチン大統領と親しく、母国ドイツでは「プーチンのプードル」、つまりポチと揶揄されている。
2014年冬季ソチ五輪で組織的ドーピングが発覚したロシアに対し、その後も「ロシア・オリンピック委員会(ROC)」などとして参加を承認。今大会ではフィギュア女子ROC代表のワリエワにドーピング疑惑が持ち上がったが、すぐに結論を下せず。そうこうしているうちにスポーツ仲裁裁判所(CAS)が「ワリエワは出場可」の判断を下した。
ある放送関係者は「IOC内外でバッハ会長降ろしの動きが活発化するのではないか」とこう続ける。
スポンサーが怒り心頭
「特に不満を抱いているのが米放送局NBCです。今やIOCの総収入の3割以上がNBCからの放映権料。22年から32年までの6大会で9000億円近いカネを払いながら、疑惑と不祥事がてんこ盛りだった北京五輪の視聴者数は五輪史上ワーストで、NBCも怒り心頭なのです。こうなると、NBCはIOCにさらなる改革案を突き付けるか、あるいはバッハ会長の退陣を要求してもおかしくない。米国はただでさえ、対中・ロの急先鋒。そこにきて、中国とロシアにべったりのバッハ会長が居座るようでは、米国民の五輪への関心はさらに薄れかねない。もし、今後の五輪で『我々はロシアとの対戦を拒否する』なんて国が出てくれば五輪は台無し。放送局としても大打撃ですから」
IOCは1984年ロス五輪から商業五輪に転換。カネと引き換えに、スポンサーの意向が強く反映されるようになった。
バッハ会長の任期は2025年まで。歴代IOC会長で途中退任した者はいないが、独裁者のポチがその1号となるかもしれない。
●FIA、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受け、WMSC臨時会議を開催決定 3/1
ロシアがウクライナに侵攻したことに関連する問題を議論するため、FIAは世界モータースポーツ評議会(WMSC)の臨時会議を、3月1日に開催することを決定した。
2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始。これを受けてF1は、9月に予定されていたF1ロシアGPを「現在の状況では開催できない」として、事実上の中止を決定した。
その流れはモータースポーツに留まらず、他のスポーツも、ロシアとの関係を断ち切る姿勢を見せている。
FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長は、ウクライナの自動車連盟に対して支援行なう用意があるとする書簡を送った。これに応じる形でウクライナ自動車連盟のレオニード・コスチュチェンコ会長は、ロシアとベラルーシのライセンスを持つ競技者の、FIAのイベントへの参加禁止を求めた。
国際オリンピック委員会(IOC)も、国際的なスポーツ連盟やスポーツイベントに対して、ロシアやベラルーシの選手や関係者が参加しないように勧告する声明を、2月28日に発表している。なおIOCは、ロシア軍のウクライナ侵攻は”五輪休戦協定違反(オリンピック、パラリンピック期間中は、戦争や紛争を停戦する協定)”だとして、厳しく非難している。
なおFIAも、IOCの承認を受けた連盟のひとつ。FIAの広報担当者は月曜日(2月28日)の夜に声明を発表し、WMSCの臨時会議を3月1日に急遽開催。今回の問題に対する話し合いが行なわれることになったと認めた。
「ウクライナで起きている危機に関する問題を議論するため、世界モータースポーツ評議会の臨時会議が、明日(3月1日)開催される」
「会議の後に、さらなる情報のアップデートが行なわれる」
IOCの勧告に応じることをFIAが決定すれば、ハースF1のニキータ・マゼピンの活動に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
マゼピンの父親が運営する会社であり、ハースF1のタイトルスポンサーを務めているウラルカリのロゴは、すでに同チームのマシンなどから排除されている。マゼピンのF1ドライブもこのウラルカリが持ち込む資金が重要な役割を占めていたため、彼のF1での将来はその点においても疑問符がつけられている。
なおサッカー界では、国際サッカー連盟(FIFA)と欧州サッカー連盟(UEFA)が、「代表チームまたはクラブチーム問わず、全てのロシアチームの、FIAとUEFAの大会への参加を停止することを決定した」とする共同声明を発表している。
●ウクライナ戦争のウラで中国が進める対ロシア「漁夫の利外交」 3/1
習近平政権の動き
先週2月22日以来、世界中の視線が、人口4400万人、日本の1.6倍の国土を持つウクライナに集中している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が仕掛けたウクライナ戦争によって、米欧とロシアとの対立は決定的となった。世界は一気呵成に「米ロ新冷戦」の時代を迎えた。
2月26日には、欧米側が「金融核兵器」(Financial Nuclear Option)と呼ばれるSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア追放を決めた。これによって、ロシアはドル決済による貿易を行うことが、事実上不可能となる。
そんな中、中国ウォッチャーの私は、連日、様々な立場、階層の中国人に、この戦争について聞いている。興味深いのは、中国人の「プーチン観」が、はっきり二分されていることだ。
ごく大雑把に言うと、「習近平贔屓(びいき)」≒「プーチンファン」≒「低中階層」、「反習近平」≒「プーチン嫌い」≒「高所得者、インテリ」という構図だ。習近平主席に対する評価と、プーチン大統領に対する評価が重なっているところがポイントだ。
そんな習近平政権は現在、決して目立ちはしないが、着々と「漁夫の利外交」を進めている。それには、「ロシアに対する顔」と「米欧に対する顔」があるが、今週は前者に絞って論じてみたい。
中立的な態度を保持しながら
習近平政権のウクライナ戦争に対するスタンスの原点は、2月4日の北京冬季オリンピック開会の日に行われた習主席とプーチン大統領の38回目の中ロ首脳会談にあった。
中国紙『海納新聞』(2月27日付)は、「プーチンの選択は冬季オリンピック後の開戦、アメリカのウクライナへの承諾は瞬時に瓦解、中国の態度が大きなカギ」と題した長文の記事を報じた。少し古い内容も含まれるが、そこには中国のホンネが覗く。
〈 2月4日に中ロ両国の元首が会談を行った後、共同声明を発表し、20項目近い貿易協定を結んだ。だが、その20日後にプーチン大統領がウクライナに対する直接の軍事攻撃発動を選択するとは、誰も想像していなかった。おそらく今回の冬季オリンピックの開催国である中国に、「面子(メンツ)」を与えたのだ。それでプーチンは、冬季オリンピックの開催中に行動を起こさず、閉会してから一連の直接行動に出たのである。(中略) 制裁の効果が不明確な状況下で、アメリカは中国が、もしかしたらウクライナ危機のカギとなる要素ではないかと意識するようになった。現段階において中国だけが、ロシアに一定の影響力を与えられ、ロシアを交渉の席上に戻るよう説得できるというわけだ。現状から言って、中国が直接、ロシアに軍事行動の停止を勧告することは、現実的ではない。ひっきょうロシアのいわゆるウクライナへの軍事打撃の発動の本質的な目的は、ロシアの態度と立場を示すことだ。すなわち、アメリカとNATO(北大西洋条約機構)にウクライナ危機で妥協と譲歩を出させることだ。NATOとアメリカが主導的に軟化するまでは、ロシアは必然的に強硬な態度を保持するだろう。中国は現在、まさに中立的な態度を保持している。国際法を遵守し、ロシアの合理的な要求を保証するという前提のもとで、ロシアとウクライナの双方が(2015年2月にロシア、ウクライナ、フランス、ドイツで結んだ)ミンスク合意の席上に戻ること、そして交渉と対話を通してのみ、双方の分岐と矛盾が解決できるというものだ。当然ながら、アメリカとNATOが、もしもウクライナ危機がますます激化していっても、中国が示した建議を考慮したくないというのであれば、それは注意して運んできた石を自分の足に落とすようなことになるだろう 〉
以上である。私の聞いているところでも、2月4日午後3時過ぎ(北京時間)から釣魚台国賓館の芳華苑3階にある「牡丹亭」で開かれた習近平・プーチン会談で、習主席はプーチン大統領に、釘を刺した。
「今日から始まる『平和の祭典』の開催期間中は、絶対に平和を乱すような行動は避けてほしい」
会談中、プーチン大統領は何度も、「わが国にとって中国は、最も重要な戦略的パートナーだ」と言い続けた。中国側はこうしたプーチン大統領の態度を、「中国側の要求を承諾した」と受けとめた。
もっともロシア側も、ウクライナに攻撃すれば、米欧からの激しい経済制裁に遭うのは自明の理なので、中国が最大の「命綱」となる。何と言っても昨年の中ロ貿易額は、前年比26.6%増で過去最高の9486億元(1517億ドル)に達したのだ。ロシアにとって中国は、12年連続で最大の貿易相手国である。
石油と天然ガスの中国シフト
2月4日の会談を経て中ロは同日、計15項目にわたる協定に署名した。具体的は、以下の通りだ。
 1) 独占禁止法と競争政策分野の提携協定
 2) 両国外交部(外務省)の2022年交渉計画
 3) 中国商務部とロシア経済発展部の「中ロ貨物貿易とサービス貿易の高質発展ロードマップ」を完成制定することに関する共同声明
 4) 中国商務部とロシア経済発展部の持続可能なグリーン分野の投資提携の覚書
 5) 中国税関総署とロシア税関署の「認定事業者」(AEO)の相互処理関連
 6) 中国税関総署とロシア消費者権益保護・公益監督局の国境衛生検疫提携協定
 7) 中国税関総署とロシア農業部のロシアから中国へ輸出する小麦植物検疫の要求議定書の補足条項
 8) 中国税関総署とロシア獣医植物衛生監督局のロシアから中国へ輸出する大麦植物検疫の要求議定書の補足条項
 9) 中国税関総署とロシア獣医植物衛生監督局のロシア産ウマゴヤシの中国への輸出に関する検査検疫要求議定書
10) 中国国家体育総局とロシアスポーツ部の2022年-2023年中ロスポーツ交流年共同声明
11) 中国衛星ナビゲーションシステム委員会とロシア国家宇宙グループの北斗・グロナス(GLONASS)全世界衛星ナビゲーションシステムと時間相互操作の提携協定
12) 中国石油天然ガス集団(CNPC)とガスプロム(ロシア天然ガス工業)の極東天然ガスの販売協定
13) 「中国西部の練炭工場に提供する原油販売の保障契約」の補足協定その3
14) 中国石油天然ガス集団(CNPC)とロスネフチ(ロシア石油)の低炭素発展分野の提携覚書
15) 情報化とデジタル化分野での提携協定
このうち、特に注目すべきことが3点ある。第一に、12)13)14)のロシア産の石油と天然ガスの中国シフトだ。
ロシアのウクライナ攻撃により、ロシアにエネルギーを依存していたEUが、ロシア産の天然ガスを排除していく方向を明確にした。2020年のEUのロシア依存度は、原油29%、石油製品39%、LNG(液化天然ガス)15%、天然ガス37%だ(野村アセットマネジメント調べ)。
特にその象徴と言えるのが、バルト海の海底でロシアからドイツに直送する天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の停止である。
このパイプラインは昨年9月に完成したばかりだが、発足したばかりの独オーラフ・ショルツ政権は2月22日、運用開始に向けた手続きの停止という英断を下した。2020年には天然ガスの55%をロシアからの輸入に頼っていたドイツだが、さすがにロシアは許せないという世論に傾いた。
ロシアとしては、こうしたことを織り込んで、「西方がダメなら東方へ」というわけで、中国側に大量に放出することにしたわけだ。これはエネルギー不足に悩む中国としても、熱烈歓迎である。
天然ガスに関しては、中ロは2019年12月から、毎年380億㎥を中国に送るという30年契約を結んでいる(締結は2014年5月)。今回その契約を100億㎥積み増し、毎年480億㎥とした。
石油に関しても、今後10年で1億tの原油を、新たにロシアから中国に拠出することで合意した。これらはロシアにとって、EUへの拠出分を完全に埋め合わせるわけではないが、当面の安堵は得られるものだ。何より中国が今後、これらをキャンセルしてしまうリスクが低いことが魅力だ。
これらの提供価格について、中ロは発表していないが、おそらく中国側がかなり買い叩いたのではないか。2014年5月の上海での提携時に、私は取材したが、中国側のある関係者はこう述べていた。
「5月20日から21日にかけて、徹夜の交渉になった。ロシア側は1000㎥あたり388ドルまで下げ、中国側が380ドルまで上げ、明け方に暫定的な価格合意に至った。総額4000億ドルに上る中ロ貿易史上最大の契約となった。今後、エネルギー価格が上がっていくことを見越せば、中国側にとって悪い買い物ではなかった。それに外交戦略上も、これからは中国がロシア経済を握ることになる。これは中国にとって『100年の夢』だったのだ」
最後の「100年の夢」というのは、説明がいるだろう。
昨年7月、北京で盛大に100周年を祝った中国共産党は、1921年7月、「ソ連共産党上海支部」のような形で産声を上げた。以来、人事も活動資金もモスクワに握られていたし、1949年の新中国建国後も、ソ連の技術者たちがインフラを整備してくれたのだ。「建国の父」毛沢東主席は、ヨシフ・スターリン書記長に、まったく頭が上がらなかった。
20世紀後半の冷戦期にも、アメリカの最大の脅威はあくまでもソ連であり、中国の脅威は軽視していた。そのため、いまからちょうど50年前にリチャード・ニクソン米大統領が電撃訪中し、「中国を取り込んでソ連を包囲する」策に出たほどだ。
その後、1989年の天安門事件で中国は辛うじて生き残り、ソ連は同年のベルリンの壁崩壊後、1991年に消滅した。そのことで20世紀の「ソ連>中国」の構図は、「ロシア≒中国」に変化してきた。
それが中国側は、習近平政権発足の翌年に結ばれた前述の「4000ドル契約」によって、ついに「中国>ロシア」の時代が到来したと考えたのだ。実際、おそらく2022年は、「中国のGDPがロシアの10倍を超えた年」として記憶されるだろう。
ロシアが「人民元経済圏」に入る日
さて、2月4日の「15項目協定」で注目すべき2点目は、今後のロシアが「人民元経済圏」に入っていくことを予感させるということだ。これは15)にも、そうした含意があるだろう。
EUのウルズラ・フォンデアライエン委員長は2月26日、冒頭述べたように、ロシアをSWIFTから排除すると発表した。これによってロシアは事実上、ドル決済による貿易はできなくなる。
ロシアがウクライナ攻撃を開始した2月21日以降、ルーブル安、ロシア株安、ロシア債券安の「トリプル安」が続いており、ルーブルで取引しようという貿易相手は、ほぼいない。そうなると、ロシアは一定程度、人民元取引を強いられることになるだろう。
おそらく中国がロシアの通貨介入に走り、人民元とルーブルのスワップその他の手段によって、ルーブルを支えることになる。そうなると、ロシア経済はますます中国依存を深めていく。
中国は2022年を、「デジタル人民元元年」と捉えている。アメリカが「デジタルドル」を躊躇(ちゅうちょ)しているうちに、機先を制してデジタル人民元の国際化を図ろうという狙いだ。そんな中、「困ったロシア」を経済的に取り込んでいくことは、格好の突破口となる。
今回の「15項目合意」(12の天然ガスと14の石油)は、その前段階として、「ドルに代わるユーロ決済」となった模様だ。中国の著名な国際法学者である劉瑛武漢大学教授は、2月12日に『騰訊ネット』に、「中ロの15項目戦略提携協定署名は、ドルに代わりユーロ決済となり、両国が共同でアメリカに反撃する」と題した文章を掲載した。その要諦は、以下の通りだ。
〈 注意に値するのは、今回の中ロの新たな長期にわたる天然ガス契約の決算が、ドルからユーロに代わったことだ。これは中ロ両国のアメリカに対する有力な打撃となる。米国務省のプライス報道官は2月3日、もしも中国企業がロシアと提携したなら、アメリカは中国企業にも制裁を科すと述べた。アメリカが世界で全能に振る舞う最大のバックボーンが、「世界通貨」の地位を持つドルによる決済システムだ。そこで中ロは、ユーロを貿易決算に用いることで、アメリカの対ロシア経済制裁のマイナス効果を減らすと同時に、中国のドル決済依存も減らし、もし近未来に中国のドル決済にも制限をかけてきた際の影響を小さくしたのだ。
今月合意に達した中ロ天然ガス供給協定は、双方が人民元で決済するとはなっていない。だが、中ロ双方は一歩一歩、エネルギー貿易の分野で人民元決済にしていく明るい前景が、十分に見えてきた。事実上、2016年以来、中ロの石油貿易では、人民元決済を始めている。この数年、人民元決済は、中ロの天然ガス貿易でも、少しずつ行われ始めている。ロシア以外にも、最近では中国とイラン、UAEなどとの石油貿易決済における人民元決済の比率は、増えつつあるのだ 〉
「宇宙軍事分野」における趨勢
今回注目すべき3点目は、11)の「北斗・グロナスの提携」だ。
北斗衛星ナビゲーションシステムは、中国がアメリカのGPSに対抗するため、21世紀に入って必死に構築した衛星システムだ。2020年7月に完成し、GPSを凌ぐ性能を持つ。実際、私も「百度地図」や「高徳地図」を検索で使用しているが、その精度には驚かされる。
一方のグロナスは、ソ連時代の1976年に開発を始めたが、1991年のソ連崩壊とともに資金不足に陥った。それでロシア時代になって、アメリカやインドとの提携を模索してきたが、最終的に中国との提携に落ち着きつつある。
ロシアとしては、「宇宙軍事分野」の先導役とも言える衛星システムで、中国に便乗するのは、決して本意ではないだろう。だが「いまそこにあるアメリカの危機」に対抗するには、他に選択肢はないのだ。客観的に見て、圧倒的な「北斗>グロナス」の形勢から、宇宙軍事分野においても、徐々に中国がロシアを取り込んでいく趨勢である。
2月25日午後(北京時間)、習近平主席とプーチン大統領が、緊急の電話会談を行った。新華社通信が伝えた習主席の発言は、以下の通りだ。
「先日は、北京冬季オリンピックの開会式に訪中してくれて、感謝申し上げる。ロシアの選手たちは、世界第2位のメダル獲得数という好成績を収めた。祝賀を示したい。このところ、ウクライナ東部地域の情勢は劇的に変化しており、国際社会の高度な注目を引き起こしている。中国は、ウクライナ問題の本質的な是非曲直に基づいて、中国の立場を決めていく。冷静思考を捨て去らねばならない。各国の合理的な安全への懸念を重視、尊重し、交渉を通じて、均衡と有効性、持続可能なヨーロッパの安全体制を形成していくべきだ。中国は各国の主権と領土の整備を尊重し、国連憲章の主旨と原則を順守するという基本的な立場は一貫している。中国は国際社会と一体となって、共同で総合的で協力的、持続可能な安全観を提唱する。そして国連を核心とした国際システムと国際法を基礎とした国際秩序を固く維持、保護していく」
以上である。このように、中国は決してロシアに、全面的に賛同しているわけではない。むしろ、意識して「距離」を取っているように見受けられる。
実際、25日午後(アメリカ東部時間)に開かれた国連安保理事会におけるウクライナ侵攻非難決議では、15ヵ国の理事国のうち、11ヵ国が賛成、ロシアが反対だったが、中国は棄権している。ちなみに、インドとUAEも棄権した(インドは中国と並び、老獪な外交を見せている)。
中国のこうした態度は、あえてロシアとの「距離感」を示すことで、「平和と協調の中国」を演出しているように思える。そしてあわよくば、アメリカとヨーロッパの中国に対するマイナスイメージを払拭しようというわけだ。
アメリカに追いつくための「時間」
中国の関係者に改めて、ロシアのウクライナ攻撃と中国の思惑について、個人的見解を聞いた。
「ロシアがウクライナに全面戦争を仕掛けるなど、つい数日前まで信じていなかったし、信じたくもなかった。その意味では、自身の見通しの甘さを恥じ入る限りだ。だが、もしかしたら、今回の戦争はロシアにとって、『プーチン時代の終わりの始まり』を意味するかもしれない。プーチン大統領の歴史観は理解できなくもないが、1979年のアフガニスタン侵攻の教訓を、まったく活かしていない。ソ連はあの無謀な戦争が遠因となって崩壊したのだ。今回も、早くもルーブル安、ロシア株安、ロシア債券安の『トリプル安』となっているではないか。
思うに、今回のロシアの行動は、『21世紀の九一八事変(満州事変)』だ。1931年9月、日本の関東軍は電光石火のごとく、わが満州に攻め入って占領。満州国なる傀儡(かいらい)国家を作ってしまった。当初は景気がよかったけれども、そのうち支えきれなくなって無理を重ねたため、米欧から強烈な制裁を喰らい、最後は崩壊した。今回のロシアも、西側諸国の経済制裁がボディブローのように利いてきて、経済は衰退していくだろう。『大きな北朝鮮』のようなイメージだ。わが国の『一帯一路』は、2035年までの整備を目標としている。ユーラシア大陸で中国に次ぐ大国であるロシアが『中国経済圏』に組み込まれていけば、『一帯一路』の完成は近づくというものだ。そして『一帯一路』の完成は、中国の悲願であるアメリカと対等の地位を得ることを意味するのだ。加えて、今後当面の間は、米欧はロシア対策に集中するから、激しい中国への攻勢は止まる。これは中国にとって、何よりもほしい『時間』を与えられることになる。その時間は、あらゆる意味でアメリカに追いつくための努力に費やされることになるだろう」
このように、ロシアのウクライナ侵攻で最終的に「漁夫の利」を得るのは、中国だというわけだ。今回は中ロ関係から述べたが、米欧も「ロシアへの説得」を求めて、中国に擦り寄る兆候が出始めている。
中国は3月5日から、年に一度の全国人民代表大会(国会)を開催。習近平主席はますます国内の権力基盤を強化しようとしている――。
●ロシアのウクライナ侵攻であり得ないコメントを出した李在明候補 3/1
2022年に入ってから世界情勢が目まぐるしく変化している。北朝鮮が頻繁にミサイルを発射し、トンガでは大規模な噴火と津波が発生して甚大な被害が生じた。
先日閉会した北京冬季オリンピックでも規定違反による失格者が相次ぎ、ロシア人選手に再びドーピング疑惑が浮上するなど物議を醸した。
そして、ようやくオリンピック騒動が落ち着いてきたかと思えば、今度はロシアがウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、激しい戦闘が始まっている。
忘れがちだが、ウクライナがロシアの隣国であるように日本もロシアの隣国だ。第二次世界大戦のどさくさに紛れて北方四島がロシアに奪われたように、また、竹島が韓国に実行支配されたように、世界が混乱する中、周辺国家が密かに日本領土略奪を企てているかもしれない。近年は中国による尖閣諸島沖での領海侵入も深刻だ。明日は我が身である。
筆者の研究対象である韓国は、文在寅大統領が2月24日に、「罪のない人命に被害を引き起こす武力の使用は、いかなる場合も正当化できない」と対ロシア制裁を支持するコメントを発表した。この翌日、在韓ウクライナ政府高官はロシアによるサイバー攻撃を防衛するため、韓国に支援を要求した。韓国政府はこれに応じるものと思われる(※現在、韓国側はコメントを控えている状態)。
北京冬季オリンピック中盤からロシアによるウクライナ侵攻が始まるまで、韓国人による在韓ロシア人攻撃が酷かったという。「お前がプーチンの代わりに謝れ」「ロシア人は今すぐ韓国から出て行け」など、特定のロシア人に対する悪質コメントが急増した。
ロシア人を攻撃する韓国人は、オリンピックのドーピング騒動やウクライナ侵攻によって世界の規律を乱すロシアに対し、正義を振りかざしたつもりなのだろう。
李在明候補の信じられないコメントに韓国人も呆れ顔
特定のロシア人に対して抗議する韓国人がいる一方で、左派色の強い韓国放送局のMBCは、「ウクライナのゼレンスキー大統領のアマチュアのような政治がロシア侵攻のひとつの原因(2月25日公式ユーチューブサイトに掲載)」と、ロシアを擁護するかのような番組を放映した。
加えて、与党「共に民主党」の大統領候補である李在明候補も、2度目の第20代大選候補者討論会の場で、「ウクライナがロシアを刺激したことで衝突となった」「ゼレンスキー大統領はキャリア6カ月で大統領に就任した初心者政治家であるから、外交に失敗して戦争を招いた」と発言した。現在、この発言には国内からだけでなく、海外からも批判の声が集まっている。
これに反応した韓国人は、“対ロシア批判”ではなく“対ウクライナ謝罪”に切り替えたようだ。ロシア政府を批判する声は変わらずあるが、NAVERやSNSを見ていると、特定のロシア人を批判する声は減少し、ウクライナに対する謝罪と応援のコメント、そして李候補を批判するコメントが増加した印象だ。
「ゼレンスキー大統領を尊敬します。李在明の発言に対し、私が大韓民国の一員として代わりにお詫びいたします」「全世界から“コリアンサイコ”と非難されている李在明は今すぐ地獄に消えろ」「李在明と共に民主党は反省しろ」「李在明はウクライナを侮辱したが、これは全ての韓国人の意思と異なる。ロシアに絶対に負けないで」といったコメントが目立つ。
韓国の次期大統領はゼレンスキー氏のように振る舞えるか?
あまりにも李候補を批判する声が多かったことから、当の本人は討論会の翌日(26日)に、「私の本意と異なる。一部でもウクライナ国民のみなさんに誤解を与えたのなら、私の表現力が足りなかった」「制限された時間内に十分説明できなかった」と釈明。それと同時に「(国民の力の)尹錫悦候補はウクライナ問題を自身の先制打撃論と核兵器共有論を正当化し、私と文在寅大統領を非難する機会にしている。このような態度が、私が討論会で指摘した“初心者政治家”の限界ということだ」と尹候補を批判した。
ゼレンスキー大統領は元コメディアンであり、彼を政治素人だと批判する気持ちはもちろん理解できる。しかし、ロシア軍に殺害される危険があるにも関わらず、国内に残って祖国や国民のために指揮するその姿は、コメディアンよりも大統領と呼ぶに相応しい。
そんな逞しいゼレンスキー大統領を批判した李候補こそ、韓国が周辺国家から攻められた際に、最前線に立って国民を扇動できる人物なのだろうか。スキャンダルが公になる度、表面上の謝罪だけをして説明責任から逃れる姿を見る限り、到底、彼には務まらないように思える。
国民感情を見誤った大統領候補の行く末
李候補はただ単に、政治経験のない尹候補とゼレンスキー大統領を関連付け、「ゼレンスキー大統領のように政治初歩者である尹候補が大統領になれば、韓国も戦争を起こす可能性がある」と、国民の印象を操作したかったのだろう。
彼は過熱するスキャンダル合戦によって、相手を批判し蹴落とすことで大統領の座が勝ち取れると勘違いしているようだ。そのことが影響し、韓国の大統領にとって最も重要な国民情緒をも読み誤った。
今回のウクライナ騒動で、今後発表される大統領候補者の支持率がどのように動くか動向を見届けたい。あと数日で次期大統領が決まる。
●トヨタ・日産・三菱自…ウクライナ情勢深刻化、日系自動車メーカーへの影響? 3/1
ロシアのウクライナ侵攻を受け、日系企業が対応を迫られている。トヨタ自動車はウクライナ情勢の深刻化を受け、住友商事を通じて展開する同国全土の販売店で24―25日は営業を停止し、営業再開は未定としている。トヨタは同国では年約2万台の車両を販売している。一方のロシアではサンクトペテルブルクに生産拠点を構えているが、現時点で生産や現地従業員への対応に影響は出ていない。
直接的な影響以上に懸念されるのが欧州経済の冷え込みだ。原油といったエネルギー価格の高騰など、経済への影響は避けられない見通し。トヨタは全社の約1割にあたる100万台規模の車両を欧州で販売しており、今後は販売などに影響が表れる可能性がある。
足元では想定しうる経済制裁により発生するリスクへの備えを進めている。ウクライナ危機がささやかれ始めた頃から取引先の金融機関や商流、調達物資洗い出しなどサプライチェーン(供給網)全体の調査を強化した。
ロシアにシートの生産拠点を置くトヨタ紡織では事業への影響は出ていない。欧州の地域統括会社とともに想定されるリスクの洗い出しを進めている。
日産自動車はサンクトペテルブルクでスポーツ多目的車(SUV)「エクストレイル」や「キャシュカイ」などを生産する。2021年のロシアでの販売実績は約5万台だった。同国での生産は継続している。ロシアとウクライナ両国での販売活動については状況を確認中としている。
ロシアのカルーガ州にある仏グループPSA(現欧州ステランティス)との合弁工場でSUV「アウトランダー」などを生産する三菱自動車。21年の同国での生産実績は約2万台だった。車両生産を継続しており、今後の影響や状況を注視していきたいとしている。
マツダはウラジオストク市にロシア自動車メーカーのソラーズとの合弁会社でSUV「CX―5」などを生産している。日本からも輸出している。21年の販売台数は約3万台。「状況を注視していく」とする。
三菱ふそうトラック・バスは現時点で影響はないという。ロシアでは親会社の独ダイムラートラックと露商用車大手カマズが合弁会社でトラックの組み立てや販売をしている。現地の操業は今のところ通常通りだ。
住友電気工業と子会社の住友電装などは25日からウクライナ西部テルノーピリにある自動車用ワイヤハーネス(組み電線)の工場を停止している。従業員約6000人の安全を優先した。日本人社員は駐在していない。今後の供給については顧客と協議し、顧客に近い他国での代替生産も含め対応を検討する。
フジクラはウクライナ西部リヴィウにある欧州自動車メーカー向けワイヤハーネス工場の操業を24日正午で停止。約1400人いる従業員は帰宅を開始した。同工場に日本人の社員はいない。28日まで操業を停止し、3月以降は状況を見て改めて判断する。代替生産についても顧客との検討を開始した。
●ウクライナ情勢への思い〜 3/1
ウクライナ情勢が緊迫している。ウクライナ国境でロシア軍による侵攻の準備が進められているとして、米国のバイデン大統領は、2022年2月に米軍を東欧に派遣した。本コラム執筆現在(2022年2月22日)、ウクライナを巡ってロシアと米国のにらみ合いが続いている。
「革命」と呼ばれるものから街頭デモまでを含めると、ここ20年、旧ソ連圏で反体制機運が高まっている。2003年のグルジア(現ジョージア)におけるバラ革命、2004年のウクライナにおけるオレンジ革命、2005年、10年、20年のキルギス共和国における反政府運動とそれに伴う政権崩壊、2020-21年のベラルーシ、そして2022年のカザフスタンにおける反政府デモがその実例である。旧ソ連地域は、ソ連崩壊をきっかけに心構えがないまま独立に至り、独立後も旧ソ連時代の権威主義体制を継承した国が多い。独立後十数年経った頃から、その歪みが次々と顕在化し始めたことが反政府運動につながった。さらに、この歪みを複雑化したのは、強国を目指すロシアと、民主化を後押ししたい米国という2大勢力の存在である。2022年2月に深刻化したウクライナ情勢を巡っては、その対立が最も鮮明化し、一触即発の事態にまで発展している。
今、世界で注目されているウクライナは、日本人にとって馴染みの薄い国かもしれない。2007年、筆者はロシア語学習のため、ウクライナの首都キエフで3週間のホームステイをした。ここでは少し、その時の体験と印象を紹介させていただきたい。
ウクライナはウクライナ語を第一言語とし親欧米派が多いとされる西部と、ロシア語を第一言語とし親露派が多い東部に分かれているといわれるが、両言語は似ており、人口の大半がロシア語とウクライナ語を話すことができる。その一方で、英語はほとんど通じない。人々はとても親しみやすく、「お客さん好き」な国民性であると感じた。街並みは、アパートなどソ連時代からの建物が多く残る一方で、世界遺産にも登録された大聖堂や修道院といったウクライナ文化を象徴する建造物も多い。ソ連時代の影響とウクライナ文化が共存した、欧米ともアジアとも異なる国といった印象を抱いた。
ソ連時代の影響といえば、ウクライナで出会った人から聞いた忘れられない話がある。それは、ソ連崩壊直後の生活の苦しさである。ソ連崩壊後の数年間、ハイパーインフレで人々の生活は困窮を極めた。1994年の消費者物価上昇率は、800%を超えるほどの高さであった。物資不足で何を買うにも長蛇の列に並ばなくてはならず、給与の遅延が横行した。学校の教師は、給与が砂糖ということもあったという。その日を暮らすのに精一杯な時代であった。
それから30年経った今も政治的・地政学的リスクはくすぶり続け、人々は生活の安定性を失っている。米国やロシアの目線で語られることが多いウクライナ情勢だが、その動向による影響を全面に受けるのはウクライナ一般市民であることを忘れてはならない、というのがウクライナの人と文化に接した筆者の思いである。
●米など石油備蓄協調放出で調整 ウクライナ侵攻で原油価格上昇  3/1
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で原油価格が上昇する中、アメリカなどの主な原油消費国が近く、石油の備蓄を協調して市場に放出することで調整を進めていることがわかりました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響でニューヨーク原油市場では原油取り引きの国際的な指標、WTIの先物価格が先週、一時、7年7か月ぶりに1バレル=100ドルを超えるなど、上昇傾向が続いています。
アメリカなどの複数のメディアは28日、この事態を受けて、IEA=国際エネルギー機関に加盟するアメリカなどの主な原油消費国が原油の安定確保に向けて、石油の備蓄を協調して市場に放出することで調整を進めていると伝えました。
これに関連してIEAのビロル事務局長はツイッターへの投稿で、「1日に臨時の会合を開催してエネルギー市場の安定に向けた加盟国の役割を協議する」と明らかにしました。
ウクライナ情勢を受けた石油備蓄の放出をめぐっては、ロシアに対する経済制裁による影響も懸念される中、アメリカが原油の価格上昇を抑えるための手段として検討を進めているほか日本もIEAからの要請があれば積極的に参加する意向を示しています。

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 3/2
国際人権問題担当の首相補佐官 国連の人権理事会で演説
国際人権問題を担当する中谷総理大臣補佐官は、日本時間の2日夜、スイスのジュネーブで開かれている国連の人権理事会で演説しました。中谷補佐官は、冒頭、ロシアの軍事侵攻に触れ「今回の侵略はウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁じる国際法の深刻な違反で、国連憲章の重大な違反になる。わが国は最も強い言葉で非難する」と述べました。その上で「ロシアに対しては、国際法上の義務の履行を強く求める」と述べました。
首相 “台湾海峡めぐる情勢への影響注視” 参院予算委集中審議
国会では2日、参議院予算委員会でウクライナ情勢などをテーマに集中審議が行われました。岸田総理大臣は、力による現状変更をとりわけ東アジアで許してはならないとした上で、台湾海峡をめぐる情勢に与える影響を注視していく考えを示しました。
ウクライナ治安当局 “ロシア軍捕虜を撮影とする動画” 公開
ウクライナの治安当局は1日、SNS上で、ロシア軍の捕虜を撮影したとする動画を相次いで公開しました。このうちひとつの動画ではロシア軍の戦車を操縦していたという男性が「どうしてウクライナにきたのか」と質問されると、「最初は軍事訓練のために近づいた。その後、ゼレンスキー大統領がすでに降伏したと言われた」と答え、ウクライナへの侵攻だとは知らされていなかったと話していました。そして、「プーチン大統領によるこのような政治を残念に思う。私は支持していない」と、政権を批判していました。また、別の動画ではロシア軍の捕虜とされる男性が母親と電話で話す様子が映っていて、男性は「自分は拷問を受けておらず、食事も与えられている。ロシア軍は負傷した味方の兵士を殺していて、自分のような捕虜の交換に応じるかはわからない」と話していました。母親が「早く家に帰っておいで」と呼びかけると、男性は顔を手で覆うようにして泣いていました。
林外相 ウクライナ駐日大使と会談
林外務大臣は、ウクライナのコルスンスキー駐日大使と会談しました。林大臣は、ウクライナの主権と領土の一体性に対する確固たる支持を重ねて示し、停戦に向けて、国際社会と緊密に連携して対応していく考えを伝えました。
中国 停戦に向けた仲介 具体的な言及避ける
ウクライナのクレバ外相が、1日、中国の王毅外相との電話会談で中国側に停戦に向けた仲介を求めたことについて、中国外務省の汪文斌報道官は2日の記者会見で、提案に応じる考えがあるかどうか問われたのに対し「中国は、ウクライナ危機の平和的解決につながるあらゆる外交的努力を支持している。中国は引き続き、ウクライナ情勢の緩和に建設的な役割を果たしていく」と述べるにとどめ、具体的に仲介を行う用意があるかどうか言及を避けました。
ホンダ ロシア向け輸出を停止
ウクライナに軍事侵攻したロシアへの経済制裁が強まる中、自動車メーカーのホンダは、ロシア向けの乗用車やオートバイの輸出を一時、停止する方針を決めました。ホンダはロシアには工場がなく、乗用車については、製造拠点のあるアメリカからロシアに向けてSUV=多目的スポーツ車を輸出し、年間およそ1500台程度を販売しています。現地の物流網が混乱していることに加え、経済制裁の影響で今後、決済や資金の回収ができなくなるリスクを考慮したとしています。
キエフの男性 緊迫した状況語る
ウクライナの首都キエフに住む35歳の男性が、現地時間2日の午前1時すぎにNHKのインタビューに応じました。男性は4歳から16歳まで日本で育ち、現在は日本の健康商品などを輸入販売する会社を経営しています。自宅から車で20分ほどの場所にあるテレビ塔が攻撃を受けたことについて、男性は「非常にショッキングです。犬の散歩で外に出たらドーンという大きな音がしたので家に戻り、ニュースを見たらテレビ塔が攻撃されたということでした。すごく近くまで被害が迫っていると感じます」と話していました。そして「爆撃や銃声が聞こえ緊迫した状態なので、極力明かりをつけないで窓には近づかず、すぐに防空ごうに避難できるように待機しています」と、緊張を強いられながらもキエフにとどまる決意を語りました。
キエフの姉妹都市 京都市が献花台を設置
ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナの首都・キエフと50年以上前から姉妹都市となっている京都市は、ウクライナへの連帯と平和への願いを示すため、2日、市役所前の広場に献花台を設置しました。献花台は京都市役所前の広場にある姉妹都市のキエフから贈られた大理石のモニュメントの前に設けられ、2日は門川市長も花束を手向けました。
ノーベル平和賞受賞団体などが共同声明
ロシアのプーチン大統領が核戦力を念頭に抑止力を特別警戒態勢に引き上げるよう命じたことについて2017年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンと、去年、ノーベル平和賞を受賞したロシアの新聞の編集長、ドミトリー・ムラートフ氏は連名で共同声明を出しました。声明では「ロシアが核兵器の脅威を段階的に拡大させていることによって、私たちはいま、キューバ危機以来となる危険なレベルの脅威にさらされている」として、特別警戒態勢の命令の取り消しやウクライナからの撤退を求めました。
ロシア人国連職員1人が国外追放
国連のデュジャリック報道官は、1日、国連に勤務するロシア人職員1人が諜報活動を行ったとして国外追放されるとアメリカ政府から連絡を受けたことを明らかにしました。報道官は「もともと契約は今月3月14日に終了する予定だった」と説明しましたが、職員の業務内容など詳しいことは明らかにしませんでした。
バイデン大統領 一般教書演説でロシアを非難
アメリカのバイデン大統領は1日、日本時間の2日午前11時すぎから、今後1年の施政方針を示す一般教書演説を行い、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「独裁者が侵略行為への代償を払わなければ彼らはさらなる混乱を引き起こす」と述べ、国際秩序を揺るがそうとするロシアの行為は許すべきではないと強調しました。そして「プーチン大統領が始めた戦争は事前に計画された理不尽なものだ。プーチン大統領は世界からかつてなく孤立している」と述べ強く非難しました。
東京原油先物が上昇 NY原油も一時109ドル台に
ウクライナ情勢の緊迫化を受けて産油国ロシアからの原油の供給が滞ることへの懸念が広がり、東京市場の原油の先物価格は午前中に一時、1キロリットル当たり6万5000円をつけ、1日と比べて2000円以上、率にして3.8%余り値上がりしています。ニューヨークの原油市場でも1日、国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=109ドル台をつけるなど大幅に上昇しました。
松野官房長官 大使館業務「リビウ連絡事務所などで業務継続」
松野官房長官は午前の記者会見で「ロシアよる侵略が拡大し、首都キエフの情勢が極度かつ急速に緊迫したことやG7=主要7か国すべての大使館が閉鎖したり、ウクライナの西部リビウに移動したりしたことを踏まえ、一時閉鎖し、大使館業務をリビウの臨時連絡事務所に移転した」と説明しました。その上で「引き続きリビウ連絡事務所やポーランドのジェシュフ連絡事務所などで業務を継続し、日本人と密接に連絡を取りつつ安全確保や出国支援に最大限の取り組みを続ける」と述べました。
ウクライナ北西部のジトーミルで爆撃 2人死亡
ウクライナの当局は1日夜、首都キエフから西におよそ130キロ離れた都市、ジトーミルで爆撃があり、住宅10棟が損壊し少なくとも2人が死亡し、3人がけがをしたと明らかにしました。10棟のうち3棟が焼けたほか、病院でも被害が確認されているということで、がれきの下に取り残されている人がいる可能性が高いとしています。
エクソンモービル 「サハリン1」撤退へ
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、アメリカの大手石油会社エクソンモービルは、ロシア極東のサハリン沖で日本の大手商社などと進めている石油・天然ガス開発事業「サハリン1」の稼働を中止し、撤退に向けた手続きを始めると発表しました。
アップル ロシアで全商品の販売取りやめ
アメリカのIT大手アップルは、ロシアの国内で、シェア1位のスマートフォンを含むすべての商品の販売を取りやめました。アイルランドの調査会社によりますとロシア国内におけるスマートフォンのメーカー別のシェアは先月、アップルが26%を超えて1位となっていますが、このスマートフォンを含めてすべての商品の販売を取りやめます。さらにスマートフォンを利用した電子決済などのサービスの利用を制限したほか、国外ではロシアの政府系メディアのアプリをダウンロードできなくする措置を取りました。
首都キエフにある日本大使館 一時閉鎖に
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、急速に事態が緊迫化していることから、外務省は2日、首都キエフにある日本大使館を一時閉鎖しました。残っていた大使館員も退避したということです。外務省ではウクライナの西部、リビウに設けている臨時の連絡事務所で在留する日本人およそ120人の安全確保や出国支援などを続けるとしています。
米国防総省 ロシア軍は国境周辺の戦闘部隊の80%以上を投入
アメリカ国防総省の高官が1日、記者団に明らかにしたところによりますと、ロシア軍はウクライナ国内で戦力を増強し続け、国境周辺に展開していた戦闘部隊のうち、これまでに80%以上を投入したということです。首都キエフに向けて南下しているロシア軍の部隊については、前日と同じ、北におよそ25キロの地点にとどまっているとの認識を示しました。ロシア軍はウクライナ第2の都市ハリコフでは包囲を目指してウクライナ軍と激しい戦闘を続け、東部ドネツク州の都市マリウポリでは市内を砲撃できる位置にまで接近していると分析しています。またウクライナの空域での攻防も続いていて、ロシア軍が一部の地域で支配を強めているものの、全土の制空権は奪えておらず、ウクライナ軍の防空やミサイル防衛システムは維持されているということです。さらにロシア軍のいくつかの部隊は戦わずに降伏しているとして、高官は「これらの兵士の多くは徴兵で戦闘の経験がなく、戦闘に参加することを知らされていなかった者もいる」と指摘し、ウクライナ側から激しい抵抗を受けて士気が低下している兆候もあるとしています。
ベラルーシ大統領 「ロシアの軍事作戦には参加していない」
ベラルーシのルカシェンコ大統領は1日、安全保障に関する会議で「ベラルーシはロシアの軍事作戦には参加していない。将来的にも、われわれはウクライナにおける今回の特別な軍事作戦に加わるつもりはない」と述べました。
ポーランドへの避難 およそ41万人
ポーランド内務省によりますと、ロシアの軍事侵攻以降、ウクライナからポーランドに避難してきた人は1日の午後3時現在でおよそ41万人にのぼるということです。このうち、ポーランド南東部の町、メディカにある国境では1日も大勢の人たちが、ウクライナ側の検問所から歩いたり、用意されたバスに乗ったりしてポーランド側に逃れてきました。ウクライナでは、防衛態勢の強化のため18歳から60歳の男性の出国が制限されていることから国境を越えてくるのは子どもを連れた女性や年配の人たちがほとんどで、待ち受けていた人たちと再会し、涙を流す人の姿も見られました。
バイデン大統領 ゼレンスキー大統領と電話会談
アメリカのバイデン大統領は1日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談しました。ホワイトハウスの声明によりますと会談はおよそ30分続き、バイデン大統領はウクライナに対して安全保障や経済、それに人道の面で引き続き支援する考えを強調したということです。一方、ゼレンスキー大統領は会談後、「ロシアに対する制裁やウクライナ防衛に向けた支援について話し合った。われわれは侵略者をいますぐ止めなければならない」とツイッターに投稿しました。
ゼレンスキー大統領「人々への砲撃はやめるべきだ」
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、首都キエフでロイター通信のインタビューに応じました。このなかでロシアとの交渉について「圧力をかけたい側とそれを受け入れられない側で立場は一致していない」と述べ、隔たりが大きいことを明らかにしました。そのうえで「われわれは対話を続けるつもりはあるが、せめて人々への砲撃はやめるべきだ。軍用機が頭上を飛び交い、砲撃が行われている状況で交渉のテーブルにつくことはできない」と述べ、ロシアに対して攻撃をやめるよう訴えました。そして「ウクライナが負ければ、ロシア軍はNATO加盟国の国境に押し寄せることになる。挑発的な行動をとり同じ問題を起こすだろう」と述べ、西側諸国に支援を求めました。
ウクライナ外相 中国に停戦仲介を求める
ウクライナ情勢を受けて、中国の王毅外相とウクライナのクレバ外相が1日、電話会談を行い、クレバ外相は中国側に停戦に向けた仲介を求めました。中国外務省によりますと、この中でクレバ外相は、先月28日に行われたロシアの代表団との会談について説明し「戦争を終結させることがウクライナの最優先事項であり、現在の交渉は順調ではないが、冷静さを保って交渉を続けたい」と述べたということです。その上で「中国はウクライナ問題で建設的な役割を果たしており、停戦を実現するために中国の仲介を期待したい」と述べ、中国側に停戦に向けた仲介を求めました。これに対し、王外相は「われわれは一貫して各国の主権と領土の一体性を尊重すると主張しており、当面の危機に対し、ウクライナとロシアが交渉によって問題解決の方法を見いだすよう呼びかけている」と述べ、話し合いによる解決を目指すべきだという立場を改めて示しました。その一方で、ロシアがNATO=北大西洋条約機構をさらに拡大させないよう求めていることを念頭に「一国の安全は他国の安全を損なうことで達成することはできず、地域の安全は軍事的なグループを拡大することで実現することはできない」とも述べ、ロシア側に配慮する姿勢も示しました。
NY原油 一時106ドル台に大幅上昇
ニューヨークの原油市場では1日、原油価格の国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=106ドル台まで大幅に上昇しました。1バレル=106ドル台をつけるのは2014年7月以来、7年8か月ぶりです。1日にはIEA=国際エネルギー機関の臨時の閣僚会合で日本や欧米諸国などの加盟国が協調して6000万バレルの石油備蓄を放出することで合意しましたが、原油価格の上昇には歯止めがかかっていません。
首都キエフのテレビ塔の周囲から大きな黒い煙
ウクライナ内務省は1日、首都キエフのテレビ塔がロシア軍に攻撃されたと明らかにしました。ウクライナの当局はこの攻撃でこれまでに5人が死亡し、5人がけがをしたとしています。現地で撮影された映像では市の中心部にあるテレビ塔の周囲で爆発が起きたあと、大きな黒い煙があがっている様子が確認できます。この攻撃の前にはロシア国防省がキエフにある情報作戦の拠点などを攻撃するとして周囲の住民に避難を呼びかけているとロシア国営のタス通信が伝えていました。
日米欧など石油備蓄の協調放出で合意 原油安定供給のため
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で原油の安定供給に懸念がでるなかIEA=国際エネルギー機関の臨時の閣僚会合が開かれ日本や欧米諸国などの加盟国は協調して6000万バレルの石油備蓄を放出することで合意しました。会議の後、萩生田経済産業大臣が明らかにしました。IEAの決定を受けた協調放出は、2011年、リビア情勢の悪化を受けて放出して以来、およそ11年ぶりです。
●「ロシア世界」を守るためには仕方ない…プーチンが軍事介入を正当化  3/2
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻についてのテレビ演説で「非軍事化と非ナチ化を目指す」と語っている。なぜウクライナを第二次世界大戦時のナチス・ドイツにたとえたのか。それは「過去の歴史を武器に侵攻を正当化する」というのが、プーチン大統領の得意なやり方だからだ。アメリカのブルッキングス研究所の研究員らの共著『プーチンの世界 「皇帝」になった工作員』から紹介する――。
クリミア危機が起きた2014年にプーチンが行ったこと
プーチンにとって、2014年は記念すべきイベントが集結する年だった。第一次世界大戦勃発から100周年、第二次世界大戦勃発から75周年。そして、レニングラード包囲戦の終結やノルマンディ上陸作戦など、第二次世界大戦の終戦につながった画期的な出来事から70周年……ピックアップするネタには事欠かなかった。
14年1月、プーチンは年明け早々行動に乗り出し、レニングラード包囲戦の終結を記念する式典で花輪を手向けた。
彼は包囲戦との個人的なつながり(「これは私自身の家族史に刻まれた出来事だ」)やレニングラード市民(彼の両親も含む)の払った犠牲について強調した。
ロシアの国営テレビは、ナチスのソ連侵攻をテーマとした映画やドキュメンタリーをひっきりなしに放映した。
「新たなファシスト」という“詭弁”
そうした映像のなかで語られる事実の数々は、プーチンやクレムリンがキエフに誕生した「新たなファシスト」の脅威となぜ戦わなければいけないのか、その理由を説明するものだった。
第二次世界大戦の記念日を利用してウクライナ作戦やクリミア併合を正当化する物語を紡ぎ出すために、プーチンは手持ちの道具をさらに磨き上げる必要があった。
それまで彼は、ウクライナ人とロシア人を単一の民族としてひとくくりにしていたが、今度は両者を引き離さなければならなかった。
「第二次世界大戦中のウクライナ人」を持ち出す
第二次世界大戦というレンズを通して見ると、民族としてのウクライナ人は第五列だった。つまり、彼らはロシア人やロシア国家の敵だった。
クリミア併合を発表するプーチンの3月18日の演説は、この点をきっちりと反映させたものだった――2011〜12年のデモで国家を脅かしたロシア国内の第五列と、ウクライナ人を巧みな言い回しで結びつけたのだ。
戦時中の第五列といえば、国家の裏切り者であり、ナチスに協力したソ連の人々や民族を指す。そこで、プーチンはソ連の歴史のなかでも混迷をきわめた20年間――ロシア革命から第二次世界大戦勃発までの時期――についてあえて言及した。
史実を「侵攻の武器」として利用する
当時、ウクライナ人はたびたびロシア人と対立し、ソ連支配に反対するウクライナの民族主義グループが次々と組織された。
その一つであるウクライナ民族主義者組織(OUN)は、国境を越えたポーランドに拠点を置くグループだった。
当初、OUNとその指導者のステパン・バンデラは、1939〜41年にポーランドとウクライナに侵攻したドイツ軍と協力関係にあった。彼らの心には、ドイツがウクライナ独立を支持してくれる、という(無益な)期待があった。
OUNがドイツと協力関係にあったという史実を利用して、プーチンは、ステパン・バンデラをヒトラーの右腕とイメージづけようとした(実際のところ、バンデラはヒトラーに会ったこともなく、最後にはナチスとソ連の両方から迫害されることになる)。
さらにプーチンは、ウクライナの新政府がステパン・バンデラの思想の流れを引くものだと印象づけようとした。
彼は数々のスピーチや発言のなかで、国家の生き残りとロシア世界(ルスキー・ミール)の防衛を賭けたロシアの長年の戦いについて繰り返し語り、古い物語を引っぱり出してきた。
「ウクライナはユダヤ人虐殺の実行犯」という物語
2014年、ロシアの長い奮闘の最新章の1ページに立ったプーチンは、「ステパン・バンデラのウクライナ」に潜む第二次世界大戦の恐怖の再来を必死に食い止めようとしていたのだ。
一方、第二次世界大戦中のナチス・ドイツとロシアの協力については、プーチンは巧みな話術を駆使して正当化した。
ドイツによるポーランド侵攻を容易にした1939年の独ソ不可侵条約と、スターリンとヒトラーによる秘密取引は、ロシアの生存のために必要だったとして弁護された。
ところが、ステパン・バンデラとウクライナの民族主義者たちは、過激思想や反ユダヤ主義に駆られ、ナチスに仕えてウクライナのユダヤ人を虐殺したとして非難された。
メディア戦略によって広められた「プーチンが語る物語」のなかでは、彼らはホロコーストの実行犯であり、ウクライナの民族主義思想を掲げてロシア人をも攻撃した危険分子だった。
プーチンは訴えた。
今、世界は新たなファシストの台頭に直面している。
しかしアメリカや西側諸国の政府は、1940年代の戦時中の同盟ではロシアと手を組んだにもかかわらず、今回はそうしようとせず、なぜかウクライナの過激派を支援・扇動しようとしている。ロシアを崩壊させたいという欲求から、アメリカとヨーロッパの米同盟国は第二次世界大戦の原則そのものを裏切っているのだ。
「あなたたちはどちらの味方だった?」
プーチンはそれまでの政治論争でも、こうした戦術や言葉遣いを試したことがあった。
例えば2000年代のチェチェン紛争中には、チェチェン人の歴史が利用された。07年4月のタリンのソ連兵戦没者慰霊碑の撤去をめぐる論争ではエストニア人、08年8月のグルジア戦争中にはグルジア人の戦時中の過去がほじくり返された。
これもケース・オフィサー流の脅迫の一種といっていい。
いずれの場合も、プーチンはこう言っているも同然だった。
「わ
れわれはあなたたちの汚れた過去を知っている。ソ連の一部だったあいだは黙っていたが、現在のあなた方の行動を見ていると、もう一度話をしなければいけないようだ。第二次世界大戦の記念の年は、この質問を問いかける絶好の機会になる――当時、あなたたちはどちらの味方だった? そして今、どちらの味方に付くつもりだ?」
こうした国家や個人の忠誠と裏切りの物語は、プーチンが談話のなかで好んで取り上げるテーマである。
「戦時中にソ連を裏切ったのは誰か」
『プーチンの世界』第5章で説明したとおり、第二次世界大戦中、プーチンの父は内務人民委員部(NKVD)の破壊工作部隊に所属し、レニングラードからナチスの占領地へと送られた。
あるとき、現在のエストニアに入った彼は、敵の協力者を殺し、占領軍にとって有利なものをすべて破壊することを命じられた。いわば特攻作戦だった。
プーチンの父はケガを負ったが、何とか生還して故郷に戻ることができた。父親の体験を語るとき、プーチンは「戦時中にソ連を裏切ったのは誰か」という強い思いを必ず口にした。
そのなかにはエストニア人とウクライナ人が含まれていた。
情状酌量の余地はあるとしても、彼らの行動はプーチンにとって許しがたいものだった。ウクライナについていえば、1930年代のソ連の集団農場化政策や大飢饉ききんの被害によって、モスクワ政府に対する敵意がはぐくまれていったことは確かだった。
ソ連指導者のニキータ・フルシチョフは、当時の苦痛への謝罪の意味も含めて、1954年にクリミアをウクライナに移管した(そのときにはもちろん、ソ連の解体など想定されていなかった)。しかしプーチンにとって、こうした歴史は2013〜14年の自身の物語とはいっさい関係がなかったのである。
エリツィン大統領から引き継がれた思想
歴史を武器として使うことによって、プーチンはウクライナの民族間の緊張や恐怖に薪をくべた。次に彼が訴えたのは、たとえどこに住んでいようとも、ロシア民族とロシア語話者を攻撃から守るのが国家の権利と義務であるということだった。
この権利は、1990年代初頭にボリス・エリツィン大統領が初めて主張したもので、のちにロシアの軍事政策へと正式に盛り込まれた。
プーチンはこうした義務と、意のままに操ることのできる法律の力を駆使し、2014年5月25日に予定されていたウクライナ大統領選挙に先駆けて、クリミア半島を実効支配した。
プーチンがこのときに道具として用いたのは、クリミア半島へのロシア黒海艦隊の長期駐留を認めるウクライナとの二国間条約、ロシアの支援を求めるヤヌコーヴィチ大統領や地方当局の要望、ロシア議会の決議だった。
これらの道具は、軍や民間の建物やインフラを守る治安部隊の活動を法的に援護するものだった。そして、3月16日に慌てて行われたクリミアのロシア併合に関する住民投票が、今回の行動を正当化する最後の要素となった。
●「プーチンが歴史的敗北に向かって突き進んでいるように見える」 3/2
開戦から1週間も経たないが、ウラジーミル・プーチンが歴史的敗北に向かって突き進んでいる可能性がますます高くなっているように見える。たとえプーチンがすべての戦闘で勝っても、この戦争は彼の負けになりうるのだ。
プーチンが夢見るのはロシア帝国の再興だが、その夢ははじめからウソの上に成り立つものだった。並べられたウソ八百は、ウクライナは本当の意味では国ではなく、ウクライナ人も本当の意味では国民ではなく、キエフやハリコフやリヴィウの住民はロシアの統治を待ち望んでいる、というものだった。
だが、実際にはウクライナは1000年を超える歴史がある国であり、モスクワがまだ村でもなかった頃からキエフはすでに大都市だった。ロシアの独裁者はウソを何度もついているうちに自分でもそれを信じるようになってしまったに違いない。
裏目に出た「プーチンの賭け」
ウクライナ侵攻を計画したとき、プーチンには、すでにわかっていることが幾つかあった。ロシアが軍事力でウクライナを圧倒していることはわかっていた。欧州諸国がロシアの石油や天然ガスに依存しており、ドイツなどが厳しい制裁を科すことに躊躇するだろうこともわかっていた。
プーチンはこうした事実を踏まえ、ウクライナには迅速かつ強烈な攻撃を仕掛けてウクライナ政府の指導部を取り除き、キエフに傀儡政権を樹立して西側諸国の制裁をしのぐつもりだったのだろう。
だが、この計画には大きな見落としがあった。それは米国がイラクで学び、ソ連がかつてアフガニスタンで学んだことでもあるのだが、一国を征服するのは、その国を保持していくことにくらべれば、はるかに簡単だということだ。
プーチンはウクライナの征服ならできるとわかっていた。だが、はたしてロシアの傀儡政権をウクライナ人はすんなりと受け入れるのかは不明だった。きっと受け入れるだろうとプーチンは賭けに打って出たわけだ。
なにしろ彼はこれまで自分の話を聞いてくれる人なら誰彼なしに、ウクライナは本当の意味では国ではなく、ウクライナ人は本当の意味での国民ではないのだと繰り返し語ってきたのだ。2014年のクリミアでも住民はロシアの侵攻に抵抗しなかった。2022年もきっと同じはずだという理屈だった。
だが、プーチンの賭けが裏目に出ていることは日を追うごとに明らかになっている。ウクライナの人々が一心に抵抗活動を繰り広げ、その姿が全世界から称賛されているのだ。ウクライナの人々が戦争に勝ちつつあると言ってもいいほどである。
「憎しみ」を生んではいけなかった
もちろんこれから先、暗い日々が何日も続くに違いない。ロシアがウクライナ全土を征服する可能性もある。だが、ロシアがこの戦争に勝つにはウクライナを保持していかなければならないのだ。それができるのはウクライナの人々がそれを許すときだけであり、これからそのような状況になるとは、ますます考えにくくなっている。
ロシアの戦車が一台破壊され、ロシアの兵士が一人殺されるたびに、ウクライナ人の抵抗する勇気が強まる。ウクライナ人が一人殺されるたびに、侵略者に対するウクライナ人の憎しみが深まる。
憎しみは感情のなかで最も醜いものだ。だが、虐げられた国民にとって憎しみは隠された宝でもある。この宝を心の奥深くに隠すからこそ、抵抗活動は何世代も続けられるのだ。
プーチンがロシア帝国を再興したいなら、流血があまり多くない勝利を収め、占領の際にも憎しみがあまり高まらないようにする必要があった。ウクライナ人の血が流れれば流れるほど、プーチンの夢の実現は遠のくのだ。
ロシア帝国の死亡証明書に記されたる名前はミハイル・ゴルバチョフのものではない。そこに記されるのはプーチンの名前なのだ。ゴルバチョフのもとではロシア人とウクライナ人は兄弟同士のようだった。そんなロシア人とウクライナ人を敵として反目させたのがプーチンであり、ロシアに立ち向かうことをウクライナの国是としてしまったのだ。
物語は戦車よりも重みを持つ
国というものは、突き詰めて言うと、物語の上に築かれるものだ。いまウクライナの人々の物語は日を追って増えており、そうした物語の数々はこれから先の暗い日々に語られるだけでなく、数十年後、数世代後にも語り継がれるだろう。
大統領が首都から逃げ出すのを拒み、米国に対して必要なのは弾薬であり(避難のための)乗り物ではないと言った物語がある。
ロシアの軍艦に「地獄に落ちやがれ」と言ってのけたズミイヌイ島の兵士たちの物語もある。
道に座ってロシアの戦車を止めた民間人たちの物語もある。
国を作り上げるのはこうした物語の数々だ。長期的にはこうした物語のほうが戦車よりも重みを持つのだ。
そのことをほかの誰よりも知っていたはずだったのがロシアの独裁者だ。彼は子供の頃、レニングラード包囲戦での残虐なドイツ軍と勇敢なロシア人の物語を聞いて育った。プーチンによっていま似たような物語がたくさん作られているが、彼自身はそうした物語でヒトラーの役柄を演じる始末である。
ウクライナ人の勇敢な行動の物語によってウクライナ人だけでなく、世界の人々の覚悟も決まった。その物語は欧州諸国の政府、米国の政権、それからロシアの抑圧された市民にも勇気を与えたのだ。
傍観者でいてはいけない
ウクライナ人が覚悟を決めて素手で戦車を止めるなら、ドイツ政府も覚悟を決めてウクライナ人に対戦車ミサイルを供給し、米国政府は覚悟を決めてロシアをSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除し、ロシアの市民も覚悟を決めて無意味な戦争に反対するデモを敢行するのだ。
私たち全員も覚悟を決めて何かをできるだろう。寄付や難民の受け入れのほかにも、インターネットで戦いを助けるといったことができるかもしれない。ウクライナでの戦争が世界のこれからを決めるのだ。圧政と侵略の側が勝つことになれば、それは私たち全員の苦しみとなる。
単なる傍観者でいることには何の意味もない。いまは旗幟を鮮明にすべきときだ。
不幸なことに、この戦争は長期化するおそれがある。形を変えながら何年も続くこともありうる。だが、最も重要な問題は、すでに決着がついているのだ。
この数日で全世界は確証を得た。ウクライナは本当の意味で国であり、ウクライナ人は本当の意味での国民であり、ウクライナ人は新ロシア帝国では暮らしたくないのだ。
まだ決着がついていない主要な問題は、このメッセージがクレムリンの分厚い壁を突き抜けるまで、あとどれくらい時間が必要なのかというところだ。
●「プーチンは別の世界に住んでいるようだ」政権批判者が次々に殺害される… 3/2
かつてのソ連、いまのロシア、批判は…
かつてのソ連時代には言論の自由がなく、政府を批判した人物は逮捕されました。あるいは、「こんなに理想の社会を悪く言うとは、精神に問題がある」として、精神科病院に収容されました。
一方、いまのロシアには言論の自由があり、政府の批判をしても逮捕されることはありません。その代わり、何者かによって殺害される危険があります。
さて、どちらがいいか……などというのはブラックジョークですが、いまのロシアは、まさに「おそロシア」と呼ばれるような状態になってしまいました。有力な野党指導者が、モスクワ市内の中心部で暗殺されたからです。
プーチン大統領の執務室があるクレムリン。クレムリンとは「城塞」の意味で、帝政ロシア時代に建設された宮殿のこと。ロシア革命でソ連共産党が政権を握ると、共産党の本部が置かれ、クレムリンは共産党の別称になっていました。ソ連崩壊後は、エリツィン、そしてプーチン大統領の居住区兼執務室です。
このクレムリンに近いモスクワ川にかかる橋で、2015年2月27日深夜、元第一副首相のボリス・ネムツォフ氏が何者かに銃撃されて死亡しました。
ネムツォフ氏が政治に関与するようになったきっかけは、1986年にウクライナで起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故でした。原発反対運動をする中で政治の世界に入り、同じボリスという名前のエリツィン大統領の知遇を得ました。
元第一副首相という肩書でわかるように、彼はエリツィン大統領時代には政権中枢にいて、経済改革で腕を振るい、一時はエリツィンの後継者にも擬せられたほどの人物でした。しかし、経済改革に不満を持つ勢力によって解任され、プーチン政権では、リベラル派の野党に転じました。
その後、2004年にウクライナで「オレンジ革命」と呼ばれる民主化運動が起きると、民主化指導者のヴィクトル・ユシチェンコを支持し、ユシチェンコ大統領が誕生後は投資問題担当の大統領顧問に任命されました。
今回の事件の直前に、ネムツォフ氏は、「ウクライナの内戦にロシア軍が介入している証拠がある」と語っていたと言われますが、ウクライナとの関わりは、このときから始まっていたのです。
今回の事件後、プーチン大統領直属の捜査機関である捜査委員会は、ネムツォフ氏の自宅の家宅捜索から始めました。「交友関係のもつれやビジネス上のトラブルが原因である可能性があるから」というわけですが、この家宅捜索により、ネムツォフ氏と連絡を取り合っている野党勢力の全貌をプーチン政権が把握することが可能になりました。何のための捜査なのか、目的は明白ですね。
プーチン政権批判者は消される
今回の事件を捜査している捜査委員会は、ロシア南部のチェチェン共和国の関係者5人を逮捕したと発表しました。
はてさて、不思議な話です。なぜネムツォフ氏が、まったく関係のないチェチェンの関係者に殺害されなければならないのか。
事件の第一報を聞いて多くの人が感じた「プーチン政権寄りの勢力による犯行」の可能性はどうなのか、不明です。真犯人は、別にいるのではないかとの疑惑は晴れません。
というのも、これまでロシアでは、プーチン政権に批判的な政治家やジャーナリストが、次々に殺害されているからです。
たとえば2006年にはプーチン政権に批判的な報道を続けてきた独立系新聞社「ノーバヤ・ガゼータ」(新しい新聞)の女性記者アンナ・ポリトコフスカヤ氏がアパートのエレベーター内で何者かに射殺されました。容疑者として、このときもチェチェン出身者が逮捕されましたが、背後関係は解明されませんでした。
同じ年、ロシアの元情報機関幹部でイギリスに亡命したアレクサンドル・リトビネンコ氏が、ロンドンで放射性物質「ポロニウム210」を摂取させられて、死亡しました。
ポロニウム210は、大規模な核施設がなければ生成させることはできないもの。国家的な組織にしかできない犯行でした。ロンドン警視庁は、事件の容疑者としてロシア人を特定し、ロシア政府に身柄の引き渡しを求めますが、ロシアは拒否。名指しされた人物は、その後、国会議員選挙で当選。ロシア国会の議員になっているのです。
さらに2009年には、チェチェンの人権問題に取り組んでいた弁護士のスタニスラフ・マルケロフ氏と、一緒にいた「ノーバヤ・ガゼータ」の嘱託記者アナスタシア・バブロワさんが銃撃されて死亡しています。
「プーチン大統領は別の世界に住んでいるようだ」
今回の事件に関連し、2月28日、ロイター通信は、1924年にイタリアの首都ローマで起きた殺人事件を引き合いに出した論評を配信しました。
殺害された政治家はジャコモ・マッテオッティ氏。同氏は殺害される少し前に議会で当時の指導者ベニート・ムッソリーニと彼が率いる国家ファシスト党を批判する演説を行ってきました。事件後、複数の容疑者が逮捕されましたが、裁判の判事は政権派に代えられ、有罪判決を受けた者たちは恩赦が与えられたそうです。
その後、イタリアがどのような道を進んだかは、ご存じの通りです。
2014年2月、ウクライナの停戦をめぐり、プーチン大統領と会談したドイツのメルケル首相は、アメリカのオバマ大統領に対して、「プーチン大統領は別の世界に住んでいるようだ」と感想を語ったそうです。
ロシアはもう、「別の世界」に行ってしまったのでしょうか。
●副編集長が不審死、女性記者がエレベーター内で射殺され… 3/2
副編集長が不審死、記者が射殺…
ロシアに、プーチン政権を批判し続けてきた新聞があります。「ノーバヤ・ガゼータ」(新しい新聞)という名前の新聞です。この新聞は、多くの記者の犠牲を出しながらも、政権批判という孤塁を守ってきました。
言論の自由がなかったソ連が崩壊後、自由な言論活動をするメディアが次々に生まれましたが、プーチン政権になると共に、ロシアの放送局は次々に政権寄りの報道をするようになります。政権寄りでない放送局はプーチン政権に近い富豪によって買収され、批判しなくなります。新聞社も御用新聞ばかりになりました。
それだけに「ノーバヤ・ガゼータ」は貴重な存在ですが、払った犠牲も大きなものです。これまでに5人もの記者が殺害されてきたからです。
2003年には副編集長が不審死を遂げています。高熱を出してモスクワの病院に入院しましたが、顔の皮膚が剝げ、脱毛も始まり、呼吸困難となって死亡しました。
当時は原因が不明でしたが、放射性タリウムを、何らかの方法で体内に入れられたためと見られています。放射性タリウムなど、普通の人が入手することは困難です。
2006年には、女性記者のアンナ・ポリトコフスカヤ氏がアパートのエレベーター内で何者かに射殺されるという悲劇に見舞われました。
「彼女の書いた政権批判の記事以上に、暗殺によってロシアは大打撃を被った」
この事件には、多くの人が衝撃を受けたのですが、プーチン大統領はポリトコフスカヤ記者の関係者にお悔やみを言うことは一切ありませんでした。普通ならば、とりあえずは「言論の自由に対する侵害だ」などと言うところでしょうが、「彼女の書いた政権批判の記事以上に、暗殺によってロシアは大打撃を被った」と言ってのけたのです。反政府のジャーナリストが殺害されるのは、プーチン政権を貶めようとする陰謀だというわけです。
このポリトコフスカヤ氏以外にも、2009年には、同紙の顧問弁護士でチェチェンの人権問題に取り組んでいたスタニスラフ・マルケロフ氏と、彼を取材中だったアナスタシア・バブロワ記者が白昼の路上で射殺されています。
「ノーバヤ・ガゼータ」は、ソ連崩壊後の1993年に創刊。ソ連最後の大統領となったミハイル・ゴルバチョフも出資して話題になりました。週3回の発行で、発行部数は公称27万部という小さな新聞です。
しかし、広告が激減し、苦しい経営が続いています。民間の新聞や放送局に広告を出している広告主に圧力をかけ、広告を出すのをやめさせる。気に食わないメディアを黙らせるには、これが一番有効な方法であることを、「ノーバヤ・ガゼータ」の悲劇は物語っています。ロシアから「言論の自由」の灯が消えかかっているのです。
「メディアを懲らしめる」はロシアだけではない
ここまで読んでこられた読者は、私が何を言いたいか、もうおわかりですね。2015年、日本にも「メディアを懲らしめるには広告収入をなくせばいい」と発言した議員がいた件です。この議員が所属している政党の名前には「自由」と「民主」の言葉が入っています。自由で民主的な世の中が素晴らしいと思っている人たちの集まりのはずなのに、そうでない人もいたのですね。
こういう人に想像してもらいたいことがあります。将来、再び政権交代が起きたときのことです。政権を取った政党の議員が、同じことを発言したら、どう思いますか? 
その政党の議員が「懲らしめる」対象として考えるメディアが、自分の愛読している新聞だったら、どうしますか? あってはならないことだとは思いませんか。
状況が悪化しているのはロシアばかりではありません。次はトルコの状況です。
2014年12月、トルコの警察当局は、トルコの大手新聞「ザマン」の編集長やテレビ局のプロデューサーらジャーナリストを中心に27人の身柄を拘束しました。
大手新聞「ザマン」とは「時」という意味ですから、英語名にすれば「タイム」ですね。トルコを代表する高級紙ですが、エルドアン大統領が独裁色を強めるにつれ、政権批判を強めていました。
エルドアン氏は、首相の任期中に大統領選挙に出て当選。トルコは首相が政治の実権を握り、大統領は象徴的な国家元首にすぎなかったのですが、エルドアン氏が大統領になるや、憲法を改正して、大統領に実権を集中させようとしています。これを批判的に報道する新聞記者たちは、次々に逮捕されます。
政権からの攻勢に「ザマン」が苦しんでいるのは、編集長逮捕だけではありません。広告料収入の減少に見舞われているのです。
エルドアン大統領による独裁色が濃くなると、これまで「ザマン」に広告を出していた企業が、次々に広告を取りやめるようになったのです。「ザマン」は高級紙ですから、読者にインテリや富裕層が多く、広告の媒体としては魅力です。
それなのに、広告が減少。広告を出すと、紙面で一目瞭然ですから、政権側からの猛烈な嫌がらせにあうというのです。
こうして、トルコの「表現の自由」は蝕まれているのです。2016年、ついに「ザマン」は政府の管理下におかれてしまいました。
「自由民主」の名の行方
「メディアを懲らしめるには、広告収入をなくせばいい」
トルコのエルドアン政権は、まさにそれを実践しているのですね。
そういえば安倍晋三首相は、ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領と大変ウマが合うことで有名です。安倍首相の応援団を自任する自民党の若手議員たちは、ロシアやトルコに見習うべきだと考えているのでしょうか。
●プーチン・ロシアへの「強力な経済制裁」、ロシア経済への「打撃」 3/2
ロシア経済、最大の弱点とは?
経済制裁の効果を最大限発揮するためには、相手国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を見極め、それに合致したプランを用意する必要がある。相手の弱い面を突かなければ意味がないという点で、通常の軍事オペレーションと大きく変わるものではない。
基本的にロシア経済は原油に依存しており、原油価格が上がると財政収支も国際収支も黒字になり、逆に原油価格が下落すると、両方が赤字に転落する。ロシアの2021年における名目GDPは173兆円と、米国の14分の1、中国の10分の1、日本の3分の1しかなく、経済的に見ればロシアは小国でしかない。しかも、ロシアの国内経済は極めて脆弱であり、通貨ルーブルは弱く、常に通貨売りの圧力がかかるのでインフレになりやすい。
ロシア経済は、市場メカニズムが支配する国際金融市場において立場が弱く、しかも原油価格依存型になっており、相手国にとってはそこが最大の攻め所となる。プーチン政権は、こうしたロシア経済の弱点を十分に理解しており、市場からの影響をできるだけ受けない国家体制を志向している。
具体的には、重税で国民に重い負担を課す一方、国債発行を最小限にとどめ、政府の財政については極めて緊縮的に運営している。国債を大量発行すると、政府の予算が債券市場に依存してしまうので、意図的にこうした事態を避けていると考えられる(大量の国債を消化できないと言い換えることもできる)。
1853年に発生したクリミア戦争では、当時のロシア帝国は財政難で、大量の国債発行を余儀なくされていた。ところが金融市場の中心地は英国のロンドンであり、ロシアは戦費を調達するため、敵国だった英国に資金調達を依存するという苦い経験をしている。プーチン氏は、良くも悪くも明確な歴史観を持っているとされるが、こうしたロシアの歴史も政権運営に影響を与えているはずだ。
リアリストであるプーチン氏の性格は軍事費の扱いにも表われている。現代の軍隊はハイテク化されており、装備にも相応のコストがかかる。基本的に投入できる軍事費はGDP(国内総生産)に比例するので、経済規模が小さい国は強力な軍隊を持つことはできない。ロシアは軍事大国というイメージがあるが、現実はそうでもない。ロシアの軍事費(2020年)はわずか6.5兆円であり、米国(81.7兆円)、中国(26.5兆円)と比較すると圧倒的に少なく、もはや日本の防衛費と大差ない水準である。
プーチン氏はロシア経済が脆弱であることを十分に理解しており、財政が経済状態や市場メカニズムに依存しないよう緊縮財政を維持し、その範囲で最大限の軍事費を捻出している。
通常、経済が混乱すれば、政府の体制はガタガタになってしまうものだが、ロシアの場合、西側各国とは状況が異なり、経済活動に少々、圧力を加えただけでは、大打撃を与えることはできない。
一方で、ロシアはギリギリの範囲で軍事支出を行っている。多額の支出を長期継続する余力はなく、ここがロシアにとって最大の弱点となるだろう。国内経済がインフレに極めて弱いという欠点もあるので、通貨を下落させインフレを加速させることは有益である。
SWIFTから排除しても…
では、こうしたロシアのファンダメンタルズに照らし合わせた場合、米欧が実施を表明している経済制裁はどの程度効果が見込めるのだろうか。
米国は当初、ロシアの大手銀行に対するドル決裁の停止、ハイテク製品の輸出規制の実施などを発表し、欧州も金融システムへのアクセス制限や輸出規制など、米国と同様の制裁を実施すると表明した。だが、一連の制裁は当初からロシア側も想定済みであり、当然のことながら対策を打っている。
米欧がロシアに本格的にダメージを与えるためには、SWIFTと呼ばれる国際送金ネットワークからロシアの銀行を完全排除する措置がどうしても必要となる。だが、この手法は諸刃の剣であり、全面的にSWIFT排除を実施すると、欧米企業の対ロシア取引も大きな影響を受ける。SWIFTからのロシア完全排除については、欧州内で意見が相違しており、当初の制裁プランにSWIFT排除は入っていなかった。米欧各国の調整を経て、最終的にはロシアのSWIFT排除が決定したものの、あくまで限定措置であり、すべての金融機関が排除されるわけではない。
ロシアに対する制裁の効果は、どの金融機関を制限対象に加えるかによって大きく変わってくる。ロシア側の出方を見ながら、必要に応じて排除する金融機関を増やしていくことになるだろう。排除された金融機関を迂回して決済する方法も残されているが、大半の金融機関が対象となった場合、送金業務がほぼ頓挫するのは間違いない。
ロシアにとって一連の制裁は、ジワジワと兵糧攻めになっていくことを意味するので、SWIFT排除には相応の効果が見込める。しかしながら、SWIFT排除というのは「伝家の宝刀」でもあり、実際に抜いてしまうとその効果が剥落するリスクも同時に抱えてしまう。
仮に米欧側がロシアの金融機関を全面的に排除すれば、確かにロシアは貿易の決済が出来なくなる。だが、ここまで来ればロシアにとっては最後通牒を突きつけられたも同然であり、最終手段としてSWIFTを介さず、直接、決済するという方法を選択するかもしれない。
SWIFTはあくまで送金情報をやり取りする仕組みであり、送金自体を止めることはできない。人海戦術になるが、SWIFTが登場する前の時代に戻り、人出をかけて多くの送金情報を取りまとめれば、(処理できる量は激減するだろうが)送金を継続すること自体は可能である。
中露は準備をしてきた
さらに言えば、(かなりの困難が伴うだろうが)中国が提供する人民元ベースの国際送金ネットワークに移行するという手段もある。中国は2015年、ドル覇権からの離脱を目指し、人民元ベースの国際決済システム「CIPS」を構築した。世界全体でのシェアはまだ低いが、日本のメガバンクや地銀も多数、参加している。
かつてロシアは欧州や米国、日本などからハイテク製品を輸入する必要があり、ここが最大の弱点となっていた。しかし2014年のクリミア併合以降、プーチン政権はハイテク製品の欧米依存からの脱却を目指し、輸入代替政策と中国との貿易拡大を進めている。
輸入代替策とは、自国で生産できるものは可能な限り、自国生産に切り換える政策である。輸入代替政策を行うと、国民の生活水準が低下したり、インフレが発生しやすくなるといった欠点があるが、この点においてロシアは独裁政権であり、民主国家と比べて、国民の不満はある程度までなら力で抑制できる。加えてロシアは、中国との貿易を急拡大しており、今や中国はロシアにとって最大の貿易相手国になった。
欧米各国が製造できるものは、たいていは中国も製造できるので、中国との関係が続く限り、ロシアには中国からの輸入で対処するという選択肢が残されている。
これはまさに最終手段であり、経済的には相当な混乱と打撃が予想されるものの、中国との取引を拡大し、人民元ベースで決済を行えば、ドルやユーロによる制限はほとんど受けない。ロシアの国民生活は窮乏するだろうが、もともとロシア経済は豊かではなく、欧米の感覚では到底耐えられない状況でも、思いのほか長期間、継続する可能性がある。あくまで最終手段ではあるが、オプションが残されていることは、ロシアにとって大きな交渉材料だろう。
「時間引き延ばし」が最大の攻撃材料
そうなると、米欧側としては一気に事を進めず、段階的にSWIFTから除外し、ジワジワとロシアを追い詰める戦略を採用せざるを得ない。
ロシアのルーブルは弱くなるので、国際金融市場でルーブルを売り、ロシアのインフレを加速させるというやり方もある。実際、2014年のクリミア併合では、米国の経済制裁に加え、シェールガスの大量採掘によって原油価格が下がったことからルーブルが暴落、ロシア経済は大打撃を受けた。米欧は中央銀行に開設しているロシア中央銀行の預金に制限を加え、外貨準備を使って為替介入ができないようにする措置も表明している。ルーブルは基本的に下落傾向が顕著となるので、ロシア経済にとっては大打撃となるだろう。
しかしながら、一連の制裁が効果を発揮するまでにはやはり時間がかかる。軍事的なオペレーションは短期的に結果が出るケースが多いので、両者のギャップは交渉において大きな障壁となる。
ロシアにとって最大の弱点は、経済基盤が脆弱であり、長期的かつ過大な軍事オペレーションに耐えられないことである。ロシアは今後、ウクライナの政権転覆や親ロシア政権の樹立などを画策するだろうが、欧米側が間接的な軍事圧力を加えることで、ロシアのウクライナ駐屯を長期化させ、財政難に追い込むことは不可能ではない。
交渉が長期化するにつれて経済制裁の効果が高まってくるので、ロシア側は時間が経過するほど不利になる。ロシアに対する制裁や交渉は、(経済面に議論を限定すれば)長期化に持っていけるかどうかがカギを握りそうだ。
●プーチン大統領の「早期決着」目算はずれる? 内外の反発で誤算続く 3/2
ロシアによるウクライナ侵攻の行方が不透明さを増してきた。ウクライナ軍の抵抗が予想を超えるほか、侵攻前はロシアに配慮をみせていた欧州が一気に強硬に転じ、ロシア国内でも反戦運動が起きた。2日で侵攻が7日目を迎えるなか、内外で強まる3つの反発がプーチン大統領の前に立ちはだかっている。
「卑劣さに吐き気がする」
「(先月24日の)侵攻初日は午前5時にミサイルを撃ち込んできた。ロシアの卑劣さに吐き気がする」。ウクライナ南部オデッサの海洋研究所で働く女性(40)が会員制交流サイト(SNS)を通じて取材に答えた。ロシア兵の上陸を阻むために海岸沿いには機雷が設置され、街に残る市民は徹底抗戦の構えという。
米情報機関は「ロシア軍が侵攻した場合、キエフは2日以内に陥落する」と分析していたが、抵抗は予想を超えていた。背景には2014年のロシアによるクリミア半島併合で、電撃的な侵攻を止められなかった教訓がある。
その後ウクライナ軍は、米欧から対戦車ミサイルの供与や軍事訓練を受け、戦闘力を高めてきた。今回の侵攻でも米欧から供与された対戦車ミサイルでロシア軍隊列を破壊し、市街地では市民が政府から渡された銃で応戦している。
さらにロシア軍はウクライナ国内の商店で食料品を奪うなど、規律の乱れや士気の低さがうかがわれる。プーチン氏は27日に核戦略の部隊出動を示唆したが、作戦の遅滞に焦ったためともとれる。
金融と物流を絶たれ、深まる孤立
米欧の制裁も厳しさを増している。大手銀行の国際決済システム「国際銀行間通信協会(SWIFT=スイフト)」排除に続き、ロシア機の欧州連合(EU)領空飛行も禁止に。金融と物流を遮断されたロシアの孤立は顕著になった。
当初後手に回った米欧の対応が盛り返した原動力は、外交的解決を模索した末にプーチン氏に裏切られた独仏政権の危機感だ。
大統領選を来月に控えるマクロン仏大統領は、プーチン氏との直接対話に期待を掛けすぎ、その外交姿勢が野党陣営から「失政」と攻撃された。昨年末に発足した独ショルツ政権も、経済関係を重視するあまり対ロ制裁で躊躇が見られ、国内外から猛批判を浴びた。
仏はEU、独は先進7カ国(G7)の議長国でもある。ウクライナ以外の旧ソ連圏にも領土的野心をうかがわせるプーチン氏を勢いづかせた責任論が高まったことで、スイフト排除に慎重だった両国が容認に傾き、制裁強化の流れが一気に加速した。
広がる国内反戦デモ、6400人超拘束
14年のクリミア併合は国民の愛国心をくすぐり、プーチン氏の支持率が30ポイントも跳ね上がった。しかし今回は同じスラブ民族の「兄弟国家」と呼ばれるウクライナと全面的に戦うことに反発する市民も多い。ロシア国内に広がるデモでは、これまでに6400人以上が拘束。米欧側の経済制裁で、預金の引き出しや決済ができなくなるとの不安も広がっている。
軍事評論家のフェルゲンガウエル氏は「今回の戦争は終局やウクライナとの交渉の『落としどころ』が見えず、人々の不安をかき立てている」と、今回の危機の長期化を予想している。
●「富と贅沢にとりつかれた」1400億円“プーチン宮殿”の全貌 3/2
ロシアのプーチン政権がウクライナに侵攻してから1週間が経つ。ロシア軍は首都キエフなどで激しい戦闘を続けている。それに対して、国際社会は厳しい制裁を次々と科すが、ロシアがひるむ様子はない。こうしたプーチン大統領の「暴走」とも言える決断について、元産経新聞モスクワ支局長の佐々木正明氏によれば、ロシア国内からも「ニェット」(NO)を掲げる批判のマグマが溜まりつつあるという。
だが、ロシア国内では、ウクライナ侵攻以前から一部でプーチン政権に対する批判の声が上がっていた。昨年1月にはロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏がプーチン氏が建てた「宮殿」に1400億ルーブルが投じられたと告発した。その動画の再生回数は1億回を超え、プーチン氏への批判は徐々に強まってきていた。
ロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏(44)が主宰する団体「汚職との戦い基金」がユーチューブ上に投稿した「プーチン宮殿」の動画が、国内外で大きな反響を呼び起こしている。
動画の再生回数はロシアの全人口(1億4500万人)に近づきつつある
ナワリヌイ氏自らが説明役となって、「プーチン宮殿」の開発に1000億ルーブル(1400億円)が投じられたと告発した約2時間の動画は、投稿10日も経たない間に再生回数1億回以上に達した。至れり尽くせりの豪華絢爛の宮殿内には柔道家のプーチン氏のために畳のあるトレーニングルームまで用意されているという。さらに敷地内には、ヘリポートやスケートリンク、教会、円形劇場まで設置されている。ナワリヌイ氏は「内部を見ると、ロシア大統領は精神的な病であることがわかる。彼は富と贅沢に取りつかれてしまった」と指摘している。
動画はロシア語版のみだが、動画の再生回数はロシアの全人口(1億4500万人)に近づきつつある。このスピードだと、いずれ凌駕することは間違いない。プーチン大統領自身は「宮殿は私のものではない」と否定。1月30日にはプーチン氏の柔道の仲間である大富豪アルカディ・ローテンベルク氏が「私のものだ」と答えるなど火消しに躍起だ。ナワリヌイ氏の訴えは、経済不況と新型コロナウイルス禍に苦しむロシア国民の怒りの導火線に火をつけた。1月31日、極寒の中で行われたデモはロシア全土に及び、参加者は「プーチンは泥棒」などとスローガンを叫び、クレムリンの主への抗議の意を露わにした。
実は「プーチン宮殿」の概要が明るみになったのは、今回が初めてではない。すでにロシア国内でも「南方プロジェクト」として何度か報じられており、その都度、プーチン氏への関与が政権により否定されてきた経緯がある。
約15年前に始まった「南方プロジェクト」
「南方プロジェクト」と名付けられた開発は約15年前の2005年、クラスノダール州の手付かずの自然が残る、黒海沿岸の森林地帯で始まった。当時はプーチン政権2期目にあたる。石油ガスの値が高騰し、ロシアが高度経済成長を続けていた時期だ。「子供用のキャンプが建設される」という触れ込みで突然フェンスがはられ、周囲は立ち入り禁止になった。しかし、それはすぐに嘘と分かった。この地域には水道が通っていなかったし、断崖絶壁の沿岸は危険すぎて、海水浴には不適切な場所だったからだ。
2010年には、南方プロジェクトの開発に携わった実業家、セルゲイ・コレスニコフ氏がこの開発がプーチン氏のために行われていることを暴露した。コレスニコフ氏は当時のメドベージェフ大統領宛てに、プーチン氏の仲間であるオリガルヒ(新興財閥)や利権を与えられた側近らが汚職にまみれた資金を投入しているとして、そのからくりを記した公開書簡を発表した。その中に「南方プロジェクト」についても語られていた。その後、エストニアに亡命し、欧米メディアのインタビューに答え、「ロシアには皇帝がおり、その皇帝に従わなければ、奴隷になるしかない」と訴えた。
2011年には敷地内部に、環境保護活動家が侵入し、宮殿の外観を撮影することに成功した。途中、活動家は警備員に捕まり、持ち物を全て没収されたが、靴の中に写真のデータを収めたフラッシュドライブを隠し、外部に持ち出すことができたのだった。
その活動家はロシアのメディアに対し、この警備員はロシア連邦保安庁(FSB)の要員だったと答えた。「なぜFSBがこんな場所を警備するのかと聞いたが、対応した要員たちは誰も答えられなかった」という。
一方、ナワリヌイ氏はこれまでも独自調査でプーチン政権と与党幹部らの不正蓄財を次々と暴露してきた。その都度、全国で大規模な抗議デモが起き、無許可の違法デモを呼び掛けたとして何度も逮捕されている。反体制政治家としての存在感は増してきており、目下のところ、プーチン体制に歯向かう急先鋒である。
化学兵器の神経剤によって毒殺されかけたナワリヌイ氏
ナワリヌイ氏は、昨年8月、統一地方選を前にシベリア各地を行脚した後、モスクワに戻る機中でこん睡状態に陥った。後に、化学兵器の神経剤によって毒殺されかかったことがわかり、長期療養のためドイツへ渡航。治療のかたわら、今回の動画の作成に携わり、1月18日にロシアに帰国した直後に再び拘束された。過去の有罪判決による執行猶予の条件を守らなかったなどの理由で、今後、数年間の服役の有罪判決を受ける恐れがある。
ナワリヌイ氏のチームは「プーチン宮殿」の建設に関わった業者らから見取り図や豪華家具など内装情報を独自に入手。最初の告発者、コレスニコフ氏のインタビューや行政機関への照会で登記簿上の記録を照らし合わせ、いったい誰が開発にかかわったのか、支払われた金額はどれほどになるのかを1つ1つ突き詰めていった。
ロシアで最も秘密めき、最も警備が手厚い施設
判明した「宮殿」の敷地面積はモナコ公国の国土の39倍の7800ヘクタールにも及ぶ。周囲をFSBが警備し、近くの街から入るときはいくつかの検問所を通過しなくてはならない。海からも沿岸に近づくことは禁止されている。この敷地内では今も「数千人の労働者」が働いており、内部にはカメラ付きのスマートフォンを持ち込むことを禁じられている。さらに、内部に進入する車は国境通過のような厳重な検査を受ける。
そうした厳しい条件にもかかわらず、ナワリヌイ氏のチームは果敢に内部の状況把握に努めた。数人が近くの港町からゴムボートで沿岸に近づき、ドローンを飛ばして、上空からの撮影に成功。動画ではこれまで集めた数々の情報を詳細につなぎ、一部をコンピューターグラフィックスで再現した。
ナビゲーター役のナワリヌイ氏は動画でこう語った。
「誇張なしで言うが、(この宮殿は)ロシアで最も秘密めき、最も警備が手厚い施設だ。これはダーチャ(別荘)でもなく、カントリーハウスでもない。いうなれば、都市そのものであり、王国なのです。難攻不落のフェンス、独自の港、独自の警備員、教会やアクセスする際の独自の態勢まで完備されている。そして上空は飛行禁止区域に設定されていて、独自の国境検問所まである。これはロシア国内にある1つの独立した国家なのです。そして、この国家には唯一のかけがえのないツァーリ(君主)がいます。そうプーチン氏です」
宮殿の床面積は1万7691u、ロシアで最も大きな邸宅
映像や写真は動かぬ証拠であり、動画を見れば、その詳細がわかる。さらに特別サイトには宮殿の見取り図や登記簿、衛星写真、イタリア製の豪華インテリアの値段まで紹介されている。
港から断崖絶壁の先の地上部分に行くためにはトンネルが掘られており、その中には直通エレベーターが設置されている。宮殿の床面積は1万7691uにもなり、ロシアで最も大きな邸宅だという。内部にある385uの25m用プールにはマッサージ室、サウナ、医務室が併設されている。さらにプールの外には豪華な噴水が設置されている休息用のスペースもある。
そのほかにも、196uの屋内劇場、134uの読書室、134uの音楽視聴室、109uの映画館、106uのカジノホール、72uのビリヤード用ホールなどの娯楽用の施設が完備されている。
イタリア製の最も高価な机は419万3438ルーブル(570万円)。ソファーは208万421ルーブル(290万円)。宮殿内には多くの客間、従業員用の部屋があり、床は大理石で施され、調度品の数々はまさに贅沢の限りを尽くした王朝の貴族の暮らしぶりを彷彿させる。
宮殿で働く従業員の居住棟まで
ナワリヌイ氏のチームのドローンは宮殿以外の建物も映し出した。屋根が緑の丘のような施設の内部には、ホッケーのリンクがあるはずと指摘する。ナワリヌイ氏らが入手した宮殿を撮った衛星写真を見ると、ホッケーリンクとちょうど同じ大きさの枠組みがあるのがわかる。プーチン氏は柔道以外にも、ロシアの冬の国技であるアイスホッケーをプレーすることでも知られる。
緑の中にある円形劇場はまだ建築中で骨組みのままだ。敷地内には80mに及ぶ巨大な橋まである。2500uの面積を持つ温室棟には約40人の従業員が絶えず、植物を育てている。さらに、宮殿まで続く道路の途中には、この宮殿を管理するオフィス棟とここで働く従業員の居住棟まであった。
この複合体施設の総面積は68ヘクタールにもなる。しかし、その100倍の領土の7000ヘクタールの区域をFSBが管理していることも登記簿で判明した。この区域は2020年9月から2068年まで宮殿を所有する会社にリースされている。
独裁者の絢爛豪華な宮殿は民衆の怒りを爆発させる
それにしても、歴代のロシアの最高指導者は黒海沿岸が好きらしい。ロシア革命まで約300年続いたロシア帝国の最後の皇帝ニコライ2世はクリミア半島に離宮を所持し、家族で最後の時を過ごした。2014年に冬季五輪が開かれた保養地ソチでは、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが別荘を構えた。そして、ソ連最後の大統領、ミハイル・ゴルバチョフはクリミア半島の黒海沿岸のフォロスに休養中の1991年夏、古参共産党幹部のクーデターにより、軟禁状態に置かれた。ロシアの最高指導者と黒海沿岸の邸宅の組み合わせには不幸も付きまとう。
過去の歴史を紐解いても、ルーマニアのチャウシェスク大統領しかり、リビアのカダフィ大佐しかり、フィリピンのマルコス大統領しかり……独裁者の絢爛豪華な宮殿は民衆の怒りを爆発させ、その後のクーデターや政権転覆につながったケースは少なくない。
ロシアでは2014年のクリミア併合以降、欧米の制裁措置が国内経済に打撃を与え、民衆の暮らしぶりが次第に汲々としてきている。貧富の差はさらに広まり、高齢者は少ない年金で糊口をしのいでいる。さらにプーチン体制が20年以上の長期に及ぶに至り、仲間内の側近政治がさらに加速、社会の閉塞感も強まっている。
「宴会の悪役たちに従うことに賛成しないでほしい」
ドイツの専門家はロシアの抗議デモはナワリヌイ氏の釈放を求める勢力だけでなく、こうした苦境を訴える人たちも集まってきていると指摘している。
ナワリヌイ氏は動画の最後にこんなメッセージを付け加え、民衆に呼びかけた。
「私たちのすべきことはただ一つ。耐えることをやめましょう。立ち止まって待つことをやめましょう。私たちの暮らしと税金をお金持ちの人々に使うのをやめましょう。私たちの未来は私たちの掌中にある。沈黙しないで。そして、この宴会の悪役たちに従うことに賛成しないでほしい」
ソ連崩壊から30年。ロシアはまた、激動の年を迎えるのか。プーチン大統領がナワリヌイ氏の処遇を間違えば、王国崩壊に向かう加速度はさらに強まるかもしれない。
●プーチン氏の精神状態に異変? ウクライナ攻撃は「密室決定」か 3/2
ロシアのプーチン大統領が2月24日、軍部隊にウクライナ侵攻を命じ、首都キエフやハリコフで激しい包囲戦に入った。ウクライナ軍の抵抗や国際社会の制裁があっても、ひるむ気配はなく、凄惨(せいさん)な市街戦となってきた。
プーチン大統領は核兵器運用部隊に高い警戒態勢への移行を命じており、緊張が高まっている。米国では、狂信的なプーチン氏の精神状態を疑問視する見方も出てきた。
侵攻を決めたのは、プーチン氏ら旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元同僚とする見方が有力。外部を遮断した「密室決定」が要注意だ。
マクロン仏大統領は2月7日、クレムリンで5時間以上プーチン氏と会談した後、「彼は3年前とは別人になってしまった。頑固で、孤立している」と側近に漏らした。マクロン氏は2019年に相互訪問するなど親交を深めたが、その後新型コロナ禍で会っていなかった。
プーチン氏の「異変」については、トランプ米政権で国家安全保障会議(NSC)欧州ロシア上級部長を務めたフィオナ・ヒル氏が、「プーチンはこの2年間、コロナ禍で隔離生活を行い、ほとんど誰とも会っていない。感情的になり、極度に緊張している。病気だという噂もある」と指摘。マクフォール元駐ロシア大使も、20年に及ぶ権力集中や隔離生活が「精神状態に不安定さを増している」と述べた。
一連の演説を見ると、早口になり、目が座っている印象だ。一般市民への容赦ない攻撃、頻繁な核のどう喝は、従来のプーチン氏からすれば異変を感じさせる。
「プーチン氏は何かがおかしい」(ルピオ米上院議員=共和党)とすれば、核のボタンを握る最高司令官だけに、不気味だ。
ルーツはレニングラードKGB
プーチン氏はコロナ禍で孤立し、一握りの側近としか話をしなくなったといわれる。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」(1月30日付)は、プーチン氏が安全保障問題で頻繁に会う人物として、パトルシェフ安保会議書記、ナルイシキン対外情報局(SVR)長官、ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官、ショイグ国防相の名を挙げた。
このうち、ショイグ国防相を除く3人はKGBでプーチン氏と同僚だった。1975年にKGBに入省したプーチン氏は、レニングラード(現サンクトペテルブルク)支部の防諜機関に勤務し、80年代初めに対外スパイ部門に移った。
ソ連時代、レニングラードKGBは反体制派の弾圧が激しかったことで知られる。
プーチン氏は2000年の大統領就任後、KGB時代の同僚を政権に呼び寄せ、最大派閥「サンクト派」のシロビキ(武闘派)が形成された。KGBは内外の敵を識別する組織。反米、愛国主義の強烈なインナーサークルがクレムリンに誕生した。
ロシアの反政府系メディアは、2014年のクリミア併合決定も、元KGBサンクト派の「密室決定」だったと書いていた。
黒幕は…
ロシアの政治評論家、アンドレイ・コレスニコフ氏は、「ウクライナ危機は、帝国主義に増幅されたロシアの愛国主義の暗黒の展開だ。ロシアの安保エリートの目標は、帝国復活にある」と指摘した。
4人のうち、プーチン氏が最も信頼するとされるパトルシェフ書記は昨年末、メディアに登場し、「ウクライナ指導部はヒトラー並みの悪人ぞろいだ。キエフの政権は人間以下の存在だ」と酷評していた。
この激しいレトリックは、「ウクライナの極端な民族主義者やネオナチ」を糾弾したプーチン氏の開戦演説と重複する。開戦決定や、戦争目的をウクライナの非軍事化、中立化、非ナチ化に設定したことも、側近らとの「密室決定」だったかもしれない。
2月に逮捕された反政府系学者ワレリー・ソロベイ氏は「ロシアはプーチンの国だが、政権はパトルシェフのものだ」と述べ、パトルシェフ氏が政権運営の第一人者と分析していた。同氏の長男は4年前、30代で農相に抜擢された。
独裁的権力を誇示
プーチン大統領は2月21日、最高意思決定機関、安全保障会議を公開で開き、ウクライナ東部の親ロ派が支配する2地区の独立承認を決めた。プーチン氏が司会し、メンバー全員が意見を述べたが、この中でナルイシキン長官とのやりとりが話題を呼んだ。
登壇した全員が独立承認を支持する中、ナルイシキン氏だけは「西側のパートナーに対し、ウクライナに平和とミンスク合意の履行を早期に認めさせるようチェンスを与えてみても……」としどろもどろだった。
プーチン氏は「あなたはどっちなんだ。はっきりしてくれ」と迫った。ナルイシキン氏が「私は人民共和国のロシア編入を支持します」と話すと、プーチン氏は「そんな話はしていない。独立承認か否かだ」とたしなめ、ナルイシキン氏は「独立承認を支持します」と引き下がった。
安保会議の公開は全会一致を強調する政治ショーで、プーチン氏が反対意見を排除する独裁権限を持つ印象だった。
その中で、対外情報機関トップとして欧米の事情を知るナルイシキン氏は当初、外交交渉に期待をかけようとしたかに見えた。同氏は下院議長時代、日ロ交流の窓口も務めた。
とすれば、ナルイシキン氏は開戦を決めた「密室会議」に入っていないかもしれない。
ナルイシキン氏の諫言に期待?
ウクライナ攻撃決定には、2月14日時点で大統領に「米欧と合意のチャンスはある」と交渉を提言していたラブロフ外相も加わっていないとみられる。ミシュスティン首相以下、経済閣僚が排除されたのは明白だ。
攻撃が泥沼化する中、ロシアの経済人や文化人、スポーツ選手らはSNSなどで戦争反対のメッセージを発信。数千人が参加する反戦運動も主要都市で行われた。
しかし、プーチン氏の性格から見て、世論や諸外国の非難は効果がなく、逆ギレする恐れもある。孤立するプーチン氏を唯一諫(いさ)められるのは、シロビキの同僚だろう。
プーチン氏とはレニングラードKGBの後輩で、一時は「外交交渉継続」を口走ったナルイシキン氏の役割に期待したいところだ。
●プーチン、じつはウクライナと「全面戦争」をしたくないワケ 3/2
プーチン、「ウクライナ全面戦争」は避けたい
ついに、その時がやってきてしまいました。
ロシア軍はウクライナへの攻撃を開始し、首都キエフをはじめ、ウクライナ各地で戦闘が発生したと報じられています。 (*注 原稿執筆時。2月28日20時現在の報道によると、ロシアとウクライナの停戦交渉が開始された)
私は、先日の記事『プーチンの『焦り』…じつは一番恐れている『ロシア年金問題』の深刻事情』や『プーチンの『本音』を知ればわかる、ウクライナ『楽観論』が危ない『3つの理由』』などを通じて、ロシアが軍事行動に出る可能性は高いと、訴えてきました。
その懸念が、不幸にも当たってしまった模様です。
ただ、これから戦闘が拡大するのか、それとも部分的な戦闘で収束するのかは、まだまだ不透明です。
ロシアが本当に制空権を確保できていれば、戦闘自体は短期決戦もあり得ると思います。ただ、その後の占領統治は困難なものになるでしょう。
ウクライナはユーラシア大陸で2番目の面積を持つ大国です。そのウクライナを占領するための地上戦となると、100万人以上の兵力が必要だと言われています。
一方、報道されているロシア軍の規模は17万5000人に過ぎません。ウクライナ全土を占領するには少な過ぎます。
ですから、ロシアといえども、ウクライナとの全面戦争に突入することは避けたいはずです。
キエフ攻撃の「狙い」
そのため、ロシア軍は、あくまでウクライナ東部の親ロシア派支配地域や、クリミア半島を中心に行動すると推測されていました。
ところが、ロシア軍は首都キエフを狙った巡航ミサイル、および弾道ミサイルの攻撃も開始しています。ただ、首都キエフを狙った攻撃は、ウクライナとの全面戦争リスクを高めます。
なぜロシアは、全面戦争のリスクを冒してまで、首都キエフを攻撃したのでしょうか。
ここに、今回のプーチン大統領の行動を読み解くカギがあると思います。
ロシアの「本気度」
プーチン大統領が、首都キエフを攻撃した理由は、一つしかありません。
それは、ウクライナ政府に対する「脅し」です。
親ロシア派が支配するドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国は、ウクライナの東部にあります。ロシアとの国境に近く、首都キエフからは離れています。
2014年にロシアが「併合」したクリミア半島も、同様に首都キエフからは遠い地域です。
首都から遠い地域で、限定的な攻撃があったとしても、ウクライナ政府はそれほど大きく動揺しないかもしれません。
日本の場合、尖閣諸島周辺で領海侵犯があったとしても、ニュースを騒がせて終わりです。もちろん、ウクライナ危機は程度が違いますが、ウクライナ政府に「ロシアの本気」を示すには、やはり政治の中枢キエフへの攻撃が必要だったのかもしれません。
これは、ある興味深い事実を示しています。
ウクライナとの「交渉」はどうなるのか…?
すなわち、こうした「脅し」作戦を通じて、プーチン大統領はあくまで「ウクライナ政府との交渉」をイメージしている、ということになるのです。
つまり、限定的な軍事作戦によって、ウクライナ政府の譲歩を引き出そうというのが、ロシアの「ほんとうの狙い」だと考えられるのです。後編記事『「焦る」プーチンが、ウクライナ「ゼレンスキー大統領」に迫る「難しい判断」』では、そうまでしてプーチン大統領が引き出そうとしている「譲歩」とは、具体的にどのようなものなのかについて見ていきましょう。
●「プーチンは現実から切り離された自分の世界に生きている」 独裁者のウソ 3/2
ドレスデンでのKGB活動
KGB(ソ連の秘密警察)のスパイとして、37歳までの4年間を東ドイツ(当時)のドレスデンで過ごしたプーチン。本人いわく「我々に課せられた主要な任務は、市民の情報を集めることだった」。プーチンは、妻と娘ふたりとともに、ドイツ語を素早く習得した。芸術と音楽の都だったドレスデンの中心地にある薄暗いバーで、プーチンは内通者候補と面会を行なった。
一方、シュタージ(東ドイツの秘密警察)が所有する川沿いのホテルの優雅なレストランや客室には、スパイ活動のための隠しカメラが仕込まれていた。KGBとシュタージは協力関係にあり、彼らの諜報活動には脅迫が用いられた。とはいえ首都ベルリンとは違い、そこまでドラマチックな展開があるわけでもなかった。プーチンはむしろ、ドレスデンでの生活を楽しんでいた。それゆえ不覚にも10キロ以上太ってしまった。腹まわりに贅肉がついたのは、美味しい地ビールをつい飲みすぎたせいだ。
しかし1989年、ベルリンの壁崩壊によって、事態は一変する。1カ月後には、KGBドレスデン支部の鉄フェンスの向こうに、敵意に燃える東ドイツのデモ隊が結集した。プーチンは彼らにこう言い放った。
「下がれ! ここはソ連の領土だ。ここには武装した兵士がいて、発砲する権限がある」
実際には、武装した兵士はいなかったが、ハッタリをかまして時間稼ぎをしたのだ。「お前は誰だ」とデモ隊に詰め寄られて、「通訳だ」と嘘をついて切り抜けたりもした。苦境に立たされるプーチン。だが、ソ連軍の司令部に電話をかけても、「モスクワから指令があるまで何もできない」と言われるばかり。
取り残され絶望的な気分となったプーチンは、山ほどあるKGBの書類やファイルをかき集めて、小さな薪ストーブに放り込んだ。昼も夜も燃やし続けたため薪ストーブは壊れ、真っ黒焦げの鉄の塊と化した。数カ月後、プーチンはふたりの幼い娘を連れて、中古の大衆車のハンドルを握り、ドレスデンから逃げ出した。
この屈辱的な出来事と、その後のソ連の崩壊から、プーチンは決して忘れられない教訓を得た。当局の監視下にないデモや自由をいきなり認めてしまっては、絶大な軍事力を持つ帝国すら崩壊するのだ、と。ドレスデンでのKGB活動について「第一の敵はNATOだった」と発言したことがあるプーチン。そして、その考えは、現在に至るまで変わっていないのだ。
ヒトラー、スターリン、そしてプーチン。ウクライナへの野望
現代の独裁者ともいうべきプーチンが抱く、ウクライナ征服への野望。その根本の動機には、ロシアを世界の大国にしたい、昔のような帝国として復活させたい、との思いがある。現代の皇帝(ツァーリ)を目指すプーチンらしい発想だ。そのためには、隣国ウクライナを、EUやアメリカではなく、ロシアの勢力圏にとどめる必要がある。
ヨーロッパで2番目に広いウクライナには、肥沃な農地が広がり、鉄鉱石・天然ガス・石油などゆたかな天然資源が埋まっている。東側と西側とにまたがる地政学上の要所でもある。それゆえ、プーチンのみならず、過去にはヒトラーやスターリンといった独裁者たちからターゲットにされ悲惨な目に遭ってきた。
2014年、ウクライナがEUと政治経済にかんする包括協定を結ぼうとしていたときのことだ。ウクライナをEUから引き離したいプーチンは、断固として協定を結ばせまいとし、ウクライナ政権のヤヌコーヴィチ大統領(当時)に圧力をかけた。すでに腐敗した政権だったということもあり、プーチンの思惑通りに進むかに見えた。だが、恐れを知らぬキエフの若者たちによるデモが起こる。数日間のうちに、たちまちデモに参加する群衆の数は膨れあがり、ヤヌコーヴィチ大統領の腐敗政権を終わらせよ、との声が高まった。
注意深く観察していたプーチンは、警戒心を強めた。なぜならドレスデン駐在のKGB時代に経験した、ベルリンの壁崩壊時の苦い思い出があったからだ。ロシアの“利益圏”とみなしていた地域で、“衆愚政治“が広がっているーー過去のトラウマが、プーチンを一気に目覚めさせた。
電光石火のウクライナ侵攻作戦
ヤヌコーヴィチがロシアへ逃げ出したその1週間後。プーチンによる電光石火のウクライナ侵攻作戦に、当時は弱体化していたウクライナ軍は不意打ちを食らった。アメリカも油断していた。プーチンと同じく警察国家育ちで、KGB出身のプーチンの残虐さを知り抜いたメルケルでさえ、ウクライナについてはEU任せにしていたふしがあった。
メルケルは、プーチンが自由を愛する民主主義者に変わるという幻想は一度も抱いたことはなかった。とはいえ、経済成長を続ける西側をまのあたりにして、富を愛するプーチンがEU寄りの政策を取るのではないかと期待していたのだ。
しかしウクライナ侵攻により、「欧州の安全保障」という幻想は粉々に打ち砕かれた。プーチンが選んだロシアの未来とは、「西側の一員となる未来」ではなく、「西側に対抗する未来」だった。
プーチンが仕掛けたのは、「欺瞞作戦(マスキロフカ)」だった。これは20世紀前半にロシア軍が生み出した手法で、「だまし、否定、偽情報」の3つを駆使するというものだ。
プーチンは、クリミアのロシア系住民がロシアの介入を求めたと言い張った。「ファシストによる非合法の暫定軍事政権が、キエフやクリミアに住むロシア人の脅威となっている」と主張し、現地の群衆をあおり立てた。クレムリンによる同じような作り話は、1956年にハンガリー革命の制圧を正当化するのにも使われたし、1968年の“プラハの春”でも鎮圧のための戦車派遣を合法化するのにも使われた。さらには1948年、東西冷戦のはじまりともいうべき西ベルリンの封鎖を正当化するときにも使われている。
メルケルvsプーチン
2014年のウクライナ危機に際して、西側代表としてプーチンとの外交交渉を担ったのがメルケルだった。KGB仕込みのプーチンの恫喝に動じない唯一の西側リーダーが彼女だからである。オバマはプーチンには関わりたくないと思い、それゆえ彼女に舵取りを任せた。
じつは学生時代にロシア語の弁論大会で優勝したこともあるメルケル。もちろんプーチンもドイツ語は得意だ。プーチンとの会話はいつもまずロシア語ではじまる。だが、このときはプーチンに道理を説こうとするあまり、「アンタは、国際法を公然と無視してる」と、ついタメ口のドイツ語になることもあったという。
対するプーチンは、「その軍隊は、我々ロシアの軍隊ではない」と嘘をつき、「誰でもロシア軍の軍服を買える」とあからさまな言い訳をした。「プーチンは現実から切り離された自分の世界に生きている」――メルケルはオバマに愚痴った。
メルケルは、21世紀の戦争における最も危険な武器は、戦車やミサイルではないと認識していた。サイバー攻撃、SNS、フェイクニュースなどがあらたな戦場となっている。プーチンは、いわばハイブリッド戦争を展開しているのだ、と。
ファクトをもとに責任を問う
一方でメルケルも、プーチンに対して独自の「欺瞞作戦」を使うこともあった。プーチンは、ソチオリンピックに引き続き、同地にて開催予定のG8サミットで、帝政ロシアの復活をアピールしようと目論んでいた。しかしメルケルは、ソチでのG8は開催しないと発表。プーチンの“パーティ”を台無しにしてみせた。のみならず、ロシアはもはやG8のメンバーではない、とまで述べ、プーチンに強烈なパンチを食らわせたのだ。
そして7月、一般市民を乗せたマレーシア航空の飛行機が、ウクライナ上空で撃ち落とされるという痛ましい事件が起きた。これをきっかけに、国際世論におけるロシアへの非難が高まり、ついにオバマも本気を出してメルケルを支援するようになる。
2014年9月、ベラルーシのミンスクにある独立宮殿の壮麗な式典の間には、紛争地域の地図に身をかぶせるようにして話し合うメルケルとプーチンの姿があった。ときには15時間ぶっ続けで話し合いを行った。供される食事が肉料理か、それともジャムを添えたパンかによって、夜なのか朝なのかがわかるという状態だった。
元科学者らしく事実をもとにプーチンを追及するメルケル。現地の航空写真や戦場地図、ロシア軍の最新の動きなど、分単位でアップデートされる情報を入手していた。一日ごとの民兵の動き、拠点として押さえた場所、犠牲者の数――ファクトがあればプーチンの責任を問うことができる。
9月4日、ミンスク宮殿にて停戦交渉が終わった。合意文書にはプーチンの署名もあった。
●ウクライナ侵攻の裏で「サイバー攻撃」応酬の行方 3/2
2月24日のウクライナに対するロシアの軍事侵攻開始に続き、数多くの民間人やハッカー集団も加わっての戦いがサイバー空間で繰り広げられている。いくつかのハッカー集団が、ウクライナ情勢に関連してサイバー攻撃への参加を表明。すでにロシアの国防省などの政府機関や銀行、ロシアの同盟国のベラルーシに対する複数の大規模なサイバー攻撃が報じられている。
また、ウクライナ政府は、民間のサイバーセキュリティ専門家に重要インフラ防御とロシア軍へのサイバー攻撃支援を要請しており、世界中から500人近くがすでに参加したという。
「アノニマス」ロシア政府へのサイバー戦争を宣言
国際ハッカー集団「アノニマス」は、軍事侵攻の直後に、ロシア政府へのサイバー戦争をツイッターで宣言。クレムリン(大統領府)や国防省、ロシア国営テレビ局「RT」のウェブサイトをダウンさせたと発表している。クレムリンは否定したが、RTの広報担当者はニュースサイト「マザーボード」の取材に対し、「アノニマスの宣言後、RTのウェブサイトは、1億もの機器から大規模なDDoS(※)攻撃を受けた」と明らかにした。 ※DDoS(分散型サービス拒否、ディードス)攻撃とは、対象のサーバーやウェブサイトに大量のデータを送りつけることで、過剰な負荷をかけ、ダウンさせてしまう手法を指す。
2月26日時点でも、ウクライナ政府によると、外務省、国防省、連邦保安庁、内務省、メディアの監督官庁など6つのロシア政府機関のウェブサイトがダウンしたままとなった。少なくとも2月27日の午後の時点でも、クレムリンと国防省のウェブサイトはまだダウンしている。
さらに2月26日、複数のロシアの国営テレビ局がサイバー攻撃を受けて乗っ取られ、ウクライナの愛国的な歌やロシアの軍事侵攻の映像が代わりに放送された。
同日、ロシアのペスコフ大統領報道官は、クレムリンのウェブサイトが頻繁にダウンしているのはコンスタントに攻撃を受けているためと認めた。ロシアの宇宙開発機関「ロスコスモス」、国営鉄道もサイバー攻撃を受けているという。
また、アノニマスは、なんと、ロシア国防省のデータベースから盗んだメールや、パスワード、電話番号などの情報をオンライン上にリークし始めた。2月26日、ベラルーシの軍需企業「Tetraedr」からの200ギガバイト相当の大量のメール情報を見つけたと発表、同企業がウクライナへの軍事侵攻においてプーチンに後方支援していたと断じた。データベースで見つけたロシア関係者に対して、スパムメールやコンピュータウイルスによるサイバー攻撃も始めたという。
2月28日には、タス通信、コメルサント紙、イズベスチア紙、RBCなどのロシア・メディアのウェブサイトが改ざんされ、「こんな常軌を逸したことはやめてほしい。息子さんやご主人たちを死に追いやらないでくれ」「5300人。これは、ウクライナが主張しているロシア兵の死者数だ」などのメッセージが掲載された。アノニマスのロゴも付いている。
ベラルーシの反体制派ハッカー集団も参戦
2月24日、ベラルーシの反体制派ハッカー集団「サイバー・パルチザン」の広報担当者であるユリアナ・シェメトヴェッツは、「ロシアの独裁者がウクライナへの戦争を開始したため、『ベラルーシ戦術グループ』を作った」とツイッターで宣言した。
このハッカー集団は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が大統領選挙で6戦を果たした後の2020年9月から、ルカシェンコ政権打倒と民主主義の獲得を目指して活動をしている。
「ウクライナ人とベラルーシ人の共通の敵は、プーチンとクレムリンと帝国主義的政権だ」と断じ、サイバー・パルチザンは、ウクライナ軍の支援をしているボランティアに協力すると表明した。この「ボランティア」については後述するが、2月24日以降、ウクライナ国防省によって組織されているサイバー・レジスタンスたちを指している。ウクライナ政府の指示に基づき、ロシアからのサイバー攻撃の防御と、ウクライナ軍によるロシアへのサイバー攻撃の支援を行う。
「サイバー・パルチザン」の2月27日の発表によると、ベラルーシの鉄道のシステムに侵入し、保存データの暗号化に成功、一部の鉄道がミンスク、オルシャ、オシポヴィチで運行停止している。データの暗号化ということは、金銭目的ではなく、政治目的達成のためのランサムウェア攻撃だった可能性がある。
今回のサイバー攻撃を行った理由として、同集団は、ベラルーシ国内の基地からウクライナ北東部へのロシア軍の移動を遅らせ、ウクライナ人がロシアからの攻撃に反撃するための時間を稼ぐためだったと主張している。しかし、ブルームバーグによると、サイバー攻撃が成功したとの主張が正しいかどうか確認は取れていない。
なお、「サイバー・パルチザン」がウクライナ情勢に関連してベラルーシの鉄道に攻撃したと主張するのは、2回目だ。ロシアとベラルーシが2月10日から行った合同軍事演習のため、ロシア軍が装備品と部隊をベラルーシ鉄道でウクライナ国境近くに輸送したことに「サイバー・パルチザン」は、反対を表明。1月24日、ベラルーシ鉄道にランサムウェア攻撃を仕掛けたとツイッターで宣言していた。
加えて、1月25日付のイギリス「ガーディアン」紙の取材に対し、「罪のない人々がケガをしないと確信できれば、今後は(鉄道の運行を麻痺させるような)攻撃をするかもしれない」と語っている。1月の攻撃も本当にランサムウェア攻撃だったのかは確認が取れていないが、少なくとも1月からの決意を今回実行に移そうとしたようだ。
2月25日、 ランサムウェア攻撃者集団「Conti」は、ロシア政府への全面支援を公に宣言した。Contiが、ロシア政府支持を表明した最初のサイバー犯罪集団となる。
Contiは、ロシアから主に欧米企業に対してランサムウェア攻撃を行ってきた集団であり、ロシア情報機関との繋がりも指摘されている。アメリカ政府の2021年9月の発表によれば、2020年春から2021年の春にかけて400回以上もの攻撃を実施してきた。
Contiは、医療機関に対しても容赦なく攻撃を行うことで知られている。例えば、2021年5月、アイルランドの公的医療サービス機関を攻撃し、全ITシステムがダウン。外来予約をキャンセルする医療機関が出るなど、医療体制に多大な影響が出た。感染したITシステムの入れ替えやサイバーセキュリティ企業の支援への報酬など、復旧作業に4800万ドル以上(約55億円以上)かかっている。
Contiのウクライナ人メンバーが反発
Contiは、2月25日にロシア政府支持を表明した際、当初は、ロシアに対してサイバー攻撃や戦争行為を行ういかなる組織の重要インフラにも反撃するため、あらゆるリソースを使うと宣言していた。ところが、Contiのウクライナ人メンバーたちが宣言文に反発し、怒りを募らせた。1時間後、Contiは文言を修正して語調をやわらげ、重要インフラへの攻撃に関する文言を削除した。
ただし、「いかなる政府とも連携しておらず、現在続いている戦争を非難する」としつつも、ロシア市民に対してサイバー戦を仕掛けようとする西側の挑発行為とアメリカの脅威に立ち向かうため、全能力を振り絞って反撃するとも述べている。そのため、Contiによるランサムウェア攻撃には引き続き警戒する必要があろう。
一方、Contiのウクライナ人メンバーのうちの1人が、2月28日、Contiが以前行ったランサムウェア攻撃に関する内部メッセージを6万件以上、欧米のサイバーセキュリティ専門家たちにリークした。この内部メッセージが本物であることは、複数のセキュリティ専門家によって証明されている。
リークした際、このウクライナ人は、「Contiランサムウェア集団は、ロシア政府に味方するとの声明を出している。本日、Contiメンバーがデータのリークを始めた」「ウクライナに栄光あれ!」とサイバーセキュリティ専門家たち宛のメッセージに記していたという。
Conti以外にも、ロシアのサイバー犯罪集団「Red Bandits」やランサムウェア攻撃者集団「CoomingProject」がロシア政府支援を表明している。
一方、ウクライナ情勢に関与しないと表明したランサムウェア攻撃集団もいる。「LockBit 2.0 」と呼ばれる攻撃集団は、2月28日にダークウェブ上に日本語を含む複数言語で声明を発表し、ロシアへのサイバー攻撃に関与しないと断言した。自分たちのコミュニティにはロシア人やウクライナ人もおり、同集団が関心を持っているのは、あくまでもランサムウェア・ビジネスから得られる金銭のみであるという。
「LockBit 2.0」は、2021年7月から活動を続けており、日本でも病院などで被害が発生している。
ロシアが軍事侵攻してきた2月24日、 ゼレンスキー大統領は国民総動員令に署名した。同日、ウクライナ国防省は、民間企業に依頼してオンライン上のハッカーフォーラムに広告を出し、地下のハッカーたちやサイバーセキュリティの専門家たちに、重要インフラ防御とロシアに仕掛けるサイバー攻撃のための支援を呼びかけた。
志願する人たちは、コンピュータウイルス作成やDDoS攻撃など12分野の中から得意分野を選んでGoogle Docの申請書類に記入しなければならない。身元証明書の提出と信頼されている既存メンバーからの推薦が求められる。
選ばれた人たちは、防御チームと攻撃チームに分けられる。防御チームは、電力や水道などの重要インフラをサイバー攻撃から守る。一方、数々のサイバーセキュリティ企業の創設者であるイェゴール・アウシェフ氏がリーダーを務める攻撃チームは、軍事侵攻してくるロシア軍に対してウクライナ軍が行うサイバースパイ作戦を支援する。何を守る必要があるか、何を狙うかは、国防省からの指示に従わなければならない。
アウシェフ氏によると、現時点で、ウクライナ人だけでなく、アメリカ人やイギリス人など500人ほどがウクライナ国内外から参加している。ウクライナ軍事侵攻に反対するロシア人も2、3人交じっているという。なんと、17歳の学生も参加したとのことだ。
アウシェフ氏は、『フォーブス』誌の取材に対し、キエフがたとえ陥落しても、ボランティア・チームは解散せず、ウクライナの防御とクレムリンへの攻撃を続行すると語っている。
ウクライナ副首相も参加を呼びかけ
ウクライナのムィハーイロ・フョードロフ副首相兼デジタル革新担当相は、2月26日、ロシアからのサイバー攻撃に対抗するためIT軍に参加するよう、サイバーセキュリティの専門家だけでなく、デザイナーやコピーライター、マーケティング担当者などのIT人材にもツイッターと無料暗号化メッセージアプリのテレグラムで呼びかけた。
フョードロフ副首相は、「全員に仕事がある。われわれは、サイバー前線で戦い続ける。最初の任務は、サイバー専門家向けの(テレグラム)チャンネルに記してある」とツイート。
テレグラムにできた専用チャンネルには、2月26日時点の標的リストとして、政府機関だけでなく、天然ガス供給大手「ガスプロム」、石油大手「ルクオイル」、銀行3行など31のロシアの官民のウェブサイトが列挙されていた。翌日には、ベラルーシのウェブサイトも追加されている。
ITやサイバーセキュリティ関連のニュースサイト「ブリーピング・コンピュータ」は、「ロシアのウクライナ侵攻の様子をテレビやソーシャルメディアで見れば、IT軍に参加し、ロシアの組織にサイバー攻撃したいと思うかもしれないが、DDoS攻撃、ネットワークやコンピュータへの侵入、ウェブサイトへの侵入などの行為は大抵の国では違法行為である」と指摘。IT軍への参加志願者たちに再考を促している。
このIT軍がどれだけの「成果」を収めるのかは判断が難しい。テレグラムの専用チャンネルには、2月27日時点で17万5000人以上が参加しており、自分が行ったと称するサイバー攻撃についての画像を投稿している。しかし、それらの「証拠」が本物であるかどうかはわからない。
2月28日には、IT軍のメンバーたちが、テレグラムの専用チャンネル上で、モスクワ証券取引所やロシア銀行最大手のズベルバンクのウェブサイトへのサイバー攻撃について話し合い始めた。2月28日朝にモスクワ証券取引所のウェブサイトがダウンし、アクセスできなくなった。
事実かどうかは不明であるが、IT軍のメンバーたちは「たった5分でダウンさせた」とテレグラム上で主張している。ズベルバンクのウェブサイトも、同日の午後にアクセスできなくなった。
懸念すべき点
非常に懸念すべきなのは、今回のサイバー攻撃の目標に政府や軍の関連組織だけでなく、金融機関やエネルギー、鉄道などの企業も入っていることだ。
サイバー攻撃は、ミサイルなどの兵器による攻撃と異なり、被害が目に見えづらいかもしれない。その分、被害の発見が遅れ、国境のないインターネットを通じて、コンピュータウイルスの感染が攻撃者の想定以上に広がることも十分あり得る。また、攻撃を受ける企業の業種によっては、ドミノ式に顧客企業の業務に多大な打撃が及ぶサプライチェーン・リスクもある。
例えば、昨年5月、アメリカのパイプライン大手「コロニアル・パイプライン」はロシアからランサムウェア攻撃を受け、数日間操業が停止した。その結果、東海岸のガソリンスタンドはガソリン不足となり、アメリカン航空は飛行ルートを一部変更、バイデン大統領はランサムウェア攻撃を国家安全保障問題として捉えるようになった。現時点で、アメリカの重要インフラが受けた最大のランサムウェア攻撃の1つと見られている。
ところが、アメリカのサイバーセキュリティ企業「クラウドストライク」の共同創業者であり元最高技術責任者(CTO)のドミトリ・アルペロヴィッチ氏は、「ロシアが本気を出して総力を挙げて攻撃してくれば、コロニアル・パイプラインの事件など子どものお遊びのように見えてしまうだろう」と警告している。
サイバー空間が第5の作戦領域と目されてから10年以上が経つ。今回のウクライナへの軍事侵攻を受けて、サイバー空間でも政府や軍だけでなく、ハッカー集団や民間のサイバーセキュリティ専門家も入り交じっての総力戦となっている。今後、どのような手法のサイバー攻撃がどの業種や企業に対して仕掛けられるか予断を許さない。
ウクライナ情勢に関連し、民間ハッカーや国際ハッカー集団によるサイバー攻撃の「誤爆」被害や、意図しないサプライチェーン攻撃もあり得よう。その被害を受けて、さらに相互のサイバー攻撃が激化しかねない。
世界情勢、国際政治、安全保障、エネルギー問題などさまざまな要素が加わって、サイバー攻撃が行われている。そのため、サイバー攻撃の対応にあたっては、ITシステムやコンピュータウイルスに詳しい技術者だけでなく、国際安全保障や地政学、経済、語学、インテリジェンス、法律など多様な分野の専門家の参加も不可欠だ。
経済産業省と金融庁も、ウクライナ情勢を踏まえ、2月23日にサイバーセキュリティ強化を求める注意喚起を出した。日本でも、脆弱性対策を早急に進めるとともに、データが失われたとしても迅速な復旧ができるよう、こまめにバックアップデータを取り、オフラインでも保存しておくことが必要だ。また、サイバー攻撃の兆候の監視や、攻撃を受けた際の連絡体制を含めた対応要領の確認も進めておきたい。
●ウクライナ ゼレンスキー大統領「砲撃をやめるべきだ」 3/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、首都キエフでロイター通信のインタビューに応じました。このなかでロシアとの交渉について「圧力をかけたい側とそれを受け入れられない側で立場は一致していない」と述べ、隔たりが大きいことを明らかにしました。
そのうえで「われわれは対話を続けるつもりはあるが、せめて人々への砲撃はやめるべきだ。軍用機が頭上を飛び交い、砲撃が行われている状況で交渉のテーブルにつくことはできない」と述べ、ロシアに対して攻撃をやめるよう訴えました。
そして「ウクライナが負ければ、ロシア軍はNATO加盟国の国境に押し寄せることになる。挑発的な行動をとり同じ問題を起こすだろう」と述べ、西側諸国に支援を求めました。
●ウクライナ侵攻 企業 ロシア事業見合わせの動き拡大  3/2
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、民間企業の間では自動車や海運、それにクレジットカードといったさまざまな分野でロシアでのビジネスを見合わせる動きが広がっています。
このうち自動車メーカーでは、アメリカのGM=ゼネラル・モーターズがロシアへの自動車の輸出をいったん停止すると決めました。
また、スウェーデンのボルボがトラックの現地生産を停止し乗用車の輸出もやめるほか、ドイツのダイムラートラックホールディングスも、ロシアでの事業を当分の間停止すると発表しました。
さらに、トヨタ自動車はロシアの工場について「部品の調達ができなくなっているため、生産の継続が難しくなっている」として、近く、生産を停止する可能性があるとしています。
一方、海運大手も食品や医療機器などを除くコンテナ輸送の停止を相次いで打ち出していて、スイスのMSCとデンマークのA.P.モラー・マースクは、ロシア発着の貨物予約を一時停止すると発表しました。
このほか、アメリカの大手クレジットカード会社マスターカードとビザはそれぞれ決済ネットワークからロシアの複数の金融機関を排除したと発表しています。
民間企業の間でロシアでのビジネスを見合わせる動きは今後さらに広がるとみられ、ロシア経済が一段と厳しい状況に追い込まれる可能性が出ています。
●首都の在ウクライナ日本大使館を一時閉鎖、西部リビウへ…  3/2 
外務省は2日、ロシア軍によるウクライナ侵攻の拡大を受け、首都キエフの在ウクライナ日本大使館を同日付で一時閉鎖すると発表した。大使館の機能は同国西部リビウに設けた臨時の連絡事務所に移し、在留邦人約120人の安全確保や出国支援などを継続する。
松田邦紀大使ら大使館員数人はロシア軍の侵攻以降もキエフに残り、業務を続けていた。岸田首相は2日の参院予算委員会で、「周辺諸国と連携しながら邦人保護に全力を尽くす」と述べた。
●ウクライナ 中国 外相電話会談 停戦に向け仲介求める  3/2
ウクライナ情勢を受けて、中国の王毅外相とウクライナのクレバ外相が1日電話会談を行い、クレバ外相は中国側に停戦に向けた仲介を求めました。
中国外務省によりますと、この中でクレバ外相は2月28日に行われたロシアの代表団との会談について説明し「戦争を終結させることがウクライナの最優先事項であり、現在の交渉は順調ではないが、冷静さを保って交渉を続けたい」と述べたということです。
そのうえで「中国はウクライナ問題で建設的な役割を果たしており、停戦を実現するために中国の仲介を期待したい」と述べ、中国側に停戦に向けた仲介を求めました。
これに対し、王外相は「われわれは一貫して各国の主権と領土の一体性を尊重すると主張しており、当面の危機に対し、ウクライナとロシアが交渉によって問題解決の方法を見いだすよう呼びかけている」と述べ、話し合いによる解決を目指すべきだという立場を改めて示しました。
その一方で、ロシアがNATO=北大西洋条約機構をさらに拡大させないよう求めていることを念頭に「一国の安全は他国の安全を損なうことで達成することはできず、地域の安全は軍事的なグループを拡大することで実現することはできない」とも述べ、ロシア側に配慮する姿勢も示しました。
また王外相は、ウクライナで避難しようとしていた中国人が銃撃に遭ったという情報もあることから、中国人の安全確保や避難に向けて便宜を図るよう求めました。
●国際司法裁判所 ロシアのウクライナ軍事侵攻を来週審理へ  3/2
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって、オランダ・ハーグにある国際司法裁判所は1日、審理を開くことを発表しました。
ウクライナはロシアによるウクライナでの軍事行動には正当な理由がないとして国際司法裁判所に提訴しています。
今回の審理は、ウクライナが裁判所に対し、ロシアに軍事行動を直ちにやめさせるため暫定的な命令を出すよう併せて求めたことを受けたもので、審理は今月7日と8日の2日間行われます。
●ウクライナ ロシア軍攻撃で犠牲増加 キエフ テレビ塔で5人死亡  3/2
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナで1日、首都キエフのテレビ塔がロシア軍に攻撃され、当局は、これまでに5人が死亡したことを明らかにしました。ロシアとウクライナによる2回目の会談を前にロシア軍は各地で攻撃を続け、犠牲者が増え続けています。
ロシア軍がウクライナ各地で侵攻を続ける中、ウクライナ内務省は1日、首都キエフにあるテレビ塔がロシア軍に攻撃されたと明らかにしました。
当局はこの攻撃でこれまでに5人が死亡し、5人がけがをしたとしています。
攻撃の前にはロシア国防省がキエフにある情報作戦の拠点などを攻撃するとして周囲の住民に避難を呼びかけているとロシア国営のタス通信が伝えていました。
また第2の都市ハリコフでは中心部や住宅街がロシア軍によるミサイル攻撃を受けたということで、ウクライナ内務省の高官は一連の攻撃で少なくとも10人が死亡したとしています。
ロシアとウクライナの両国は先月28日に行われた代表団による会談で、交渉を継続することで一致していて、ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、キエフでロイター通信のインタビューに応じ、「まずは砲撃をやめて、交渉のテーブルにつくことが必要だ」と述べて攻撃をやめるよう訴えています。
一方でロシアのショイグ国防相は1日、軍の指導部との会議で「目的を完了するまで作戦を継続する」と述べ、軍事的な攻勢を強める構えを強調しました。
ロシアとウクライナの高官による2回目の会談は数日以内に行われる見通しですが、これを前にロシア軍は各地で攻撃を続け、犠牲者が増え続けています。
アメリカ国防総省の高官が1日、記者団に明らかにしたところによりますと、ロシア軍はウクライナ国内で戦力を増強し続け、国境周辺に展開していた戦闘部隊のうち、これまでに80%以上を投入したということです。
また、これまでに400発以上のミサイルを発射したとしています。
首都キエフに向けて南下しているロシア軍の部隊については、前日と同じ、北におよそ25キロの地点にとどまっているとの認識を示しました。
理由について、ウクライナ軍の激しい抵抗を受けている上、燃料や食料も不足して遅れが出ているという見方を示した一方、部隊の再編成や作戦の再評価のためみずからの判断で作戦を中断している可能性もあると指摘しました。
ロシア軍はウクライナ第2の都市ハリコフでは包囲を目指してウクライナ軍と激しい戦闘を続け、東部ドネツク州の都市マリウポリでは市内を砲撃できる位置にまで接近していると分析しています。
またウクライナの空域での攻防も続いていて、ロシア軍が一部の地域で支配を強めているものの、全土の制空権は奪えておらず、ウクライナ軍の防空やミサイル防衛システムは維持されているということです。
さらにロシア軍のいくつかの部隊は戦わずに降伏しているとして、高官は「これらの兵士の多くは徴兵で戦闘の経験がなく、戦闘に参加することを知らされていなかった者もいる」と指摘し、ウクライナ側から激しい抵抗を受けて士気が低下している兆候もあるとしています。
●プーチン大統領の資産「少なくとも12兆円」報道… 3/2
ロシア軍によるウクライナ侵攻が続いている。2月28日には、両国の代表団による停戦協議がおこなわれたが、決着はせず、今後の展開は不透明なまま。
そんななか日本政府は、3月1日、ロシアへの制裁としてプーチン大統領ら政府関係者6人の資産を凍結すると発表した。これにより、プーチン氏は日本国内の金融機関に持つ資金を移動できなくなった。日本国内から対象者への送金も不可能となる。
2000年に大統領になって以来、長年にわたり、ロシアに君臨してきたプーチン氏。その資産については、さまざまな推測がおこなわれてきた。国際ジャーナリストが次のように語る。
「ロシア政府の発表によると、プーチン氏の年収はおよそ1400万円程度。保有資産は小さなアパートと駐車場、車数台となっており、他の閣僚より少ないほどです。
しかし、アメリカの新聞『ニューヨーク・タイムズ』は2月27日、プーチン氏は少なくとも12兆円の資産を、協力者や友人を通じて海外に隠し持っていると報じました。
記事では、ロシア南部の黒海沿岸に1400億円規模の宮殿を保有、さらに、愛人と噂される女性が4億円超のアパートを購入しており、ほかにも、前妻とともに購入した高級別荘、複数のヨットや航空機を持っているとしています。
2017年には、プーチン氏と親交があった投資家が、アメリカ上院の委員会で『資産総額は20兆円を超える』と証言したこともあります。もしこれが正しければ、プーチン氏はアマゾンのジェフ・ベゾス氏やマイクロソフトのビル・ゲイツ氏を超える世界トップレベルの大富豪ということになります」
そんな金持ちのプーチン大統領は、なぜウクライナ侵攻を始めたのか。
開戦理由を説明した演説では、「ウクライナはロシアの一部だったが、極右ナショナリズムが台頭して、ロシアを脅かすようになった。(アメリカを中心とする軍事同盟)NATOが力を持ちすぎた」などと語っている。
だが、前述の国際ジャーナリストは、プーチン大統領の隠された意図を、こう指摘する。
「憲法改正により、プーチン氏は、最長で2036年まで大統領職に就くことが可能ですが、もちろん、任期が満了したら選挙が待っています。プーチン氏は2024年に4期めが満了となるため、是が非でもこの選挙に勝たなければなりません。
そのため、今回のウクライナ侵攻が支持率を上げるためではないかと推測する海外メディアもあります。
ロシアの世論調査機関『レバダセンター』によると、昨年11月にウクライナ侵攻説が浮上すると、プーチン氏の支持率は6ポイント上昇して69%になりました。2014年のクリミア併合の際は、20%近く跳ね上がって過去最高の89%になったのです」
もしプーチン大統領の政治的野望が事実だとしたら、犠牲になったウクライナは災難だが、ロシア国民にとっても不幸なのは言うまでもない。
「いちばんひどい目にあっているのは、戦場に派遣されているロシア兵でしょう。EU圏のニュースサイト『EU Today』は、2月22日、ロシア軍の給与事情を取り上げています。
この記事では、正規兵の月給は約9万円、徴兵された兵士の月給は約3000円だと報道しています。単純に30で割れば、正規兵の日給は3000円、徴兵兵士が100円となるのです」(同)
1日10時間労働だとしたら、正規兵でも時給は300円、徴兵兵士ではわずか10円という惨状だ。この報道に対し、ネット上では、
《ロシアはとんでもないブラック国家やね》《そんなに酷いんですか? ソ連時代と変わってない……》《お辛い…命の値段としてはあまりにも…防衛戦ならともかく侵攻ですし》
などの声が寄せられている。乏しい対価で命をかけるロシア兵たち。その対象がプーチン大統領の支持率だとしたら、納得できるものではないだろう。
●プーチン氏判断に懸念 米高官、情報収集を指示か 3/2
ロシアのウクライナ侵攻が激化する中、プーチン大統領が正常な判断をできているかどうか懸念する声が高まっている。CNNテレビ(電子版)は1日、米政府高官が情報機関に対し、プーチン氏の精神状態に関する情報収集を指示したと報じた。
「プーチン氏を30年以上観察してきた。彼は変わった。現実から完全に切り離され、錯乱しているようだ」。マクフォール元駐ロシア米大使は2月26日、ツイッターにこう投稿した。プーチン氏は核戦力の警戒態勢強化を命じており、窮地に追い込まれた末に核使用に踏み切る可能性まで議論されるほどだ。
サキ米大統領報道官も同27日、ABCテレビに出演し、最近のプーチン氏の言行を「深く懸念している」と語った。
●「プーチン氏は暴力と混沌を解き放った」 米大統領が一般教書演説で非難  3/2
バイデン米大統領は1日夜(日本時間2日午後)、連邦議会の上下両院合同会議で、就任後初の一般教書演説を行った。ロシアのプーチン大統領が始めたウクライナ侵攻について「計画的で理由がない」と強く非難し、「自由は常に専制政治に勝利する」と立ち向かう姿勢を強調。第2次世界大戦後の国際秩序を根底から揺るがす重大な脅威への対処方針を表明し、世界に結束を呼び掛けた。
一般教書演説は、今後1年の内政、外交の施政方針を議会に表明する大統領の最も重要な演説。今年はウクライナ侵攻を受け、外交から演説を始める異例の対応となった。会場にはウクライナのマルカロワ駐米大使を招き「われわれはウクライナの人々とともにある」と呼び掛けた。
バイデン氏は「独裁者が侵略の代償を払わなければ、さらなる混乱を引き起こす」と指摘。「プーチン氏は暴力と混沌を解き放った」として「戦場で利益を得たとしても、彼は長期間にわたって高い代償を払い続ける」と強調した。
具体例として、日本や欧州諸国とともに取り組んでいる厳しい経済制裁によりロシア経済が混乱していることに言及。新たな制裁として、ロシアの航空機に対して米国の空域を閉鎖すると発表した。欧州連合(EU)の空域閉鎖措置と歩調を合わせた。
バイデン氏は「この時代の歴史は、プーチン氏のウクライナに対する戦争は、ロシアを弱体化させ、残る世界を強くしたと書かれるだろう」と国際協調の意義を述べた。
一方、ロシアとの対立で、高止まりしている物価が一段と高騰する懸念が強まっている。バイデン氏は演説で「物価高騰と闘うプランがある」として、技術革新などでコストを引き下げ、物価を抑える計画などを示した。
●米NBC「プーチン、ウクライ苦戦に挫折…側近に激怒」 3/2
ウクライナを侵攻中のロシアのウラジーミル・プーチン大統領が首都キエフの陥落が遅れていてロシア軍が苦戦を強いられている状況に対し、異例にも怒りを表出し、内閣に非難を浴びせている。米国NBC放送が米情報当局者の言葉を引用して28日(現地時間)、報じた。
報道によると、プーチン大統領は現在新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)に対する懸念で首都モスクワのクレムリン宮を離れているにもかかわらず、ウクライナでの戦闘状況を聞いて閣僚に対して激怒した。
NBCは「西側の情報当局がプーチン大統領の一挙手一投足に対する情報を収集している」とし「プーチン大統領が過去とは違う様相を見せているという」と伝えた。プーチン大統領は2008年執権以降、冷血漢独裁者としてのイメージを築いてきた。しかし数日あれば降参するだろうと思っていたウクライナ侵攻が市民の激しい抵抗線にぶつかり、プーチン大統領は感情をコントロールできない姿も見せているという。
マーク・ワーナー米上院情報委員長もMSNBCとの最近のインタビューで、戦争状況がプーチン大統領の思い通りに進んでいない点を指摘して「プーチンは現在、制限的な量の情報だけを聞いているが、そのほとんどがご機嫌取りの情報」と懸念した。
ある外交官もNBC放送に「プーチンは現在、新型コロナによってクレムリン宮にはおらず孤立している」とし「戦場の現場でどんなことが起きているのか、彼は知らずにいる」と指摘した。
●「私はプーチン大統領を信じています」 皇帝プルシェンコ氏 3/2
フィギュアスケートの元ロシア代表で2006年トリノ冬季五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ氏(39)が2022年3月1日にインスタグラムを更新し、スポーツ界に広がるロシア追放の流れに反発の声を上げた。
スポーツ界ではロシアのウクライナへの軍事侵攻を受け、ロシアのアスリートを国際大会から除外する流れが広まっている。国際オリンピック委員会(IOC)は2月28日にロシアの選手を国際大会から除外するよう国際競技連盟などに勧告した。
IOCの勧告を受け国際スケート連盟(ISU)は3月1日に世界選手権を含むISU主催の大会にロシア選手の出場を認めないことを発表。国際サッカー連盟(FIFA)、欧州サッカー連盟(UEFA)は、ロシアに対して全ての代表、クラブチームの主催大会への出場を禁じた。
世界的にロシア選手を除外する流れが加速するなかで、プルシェンコ氏はインスタグラムに長文を投稿し、現在ロシアのアスリートが置かれている状況に触れ、スポーツと政治を混同してはならぬとの見解を示した。
「IOCがすべてのスポーツで選手を停止するよう呼びかけた後、FIFAとUEFAはすべての大会からチームを除外しました。今日ISUはロシア人が(ISU)主催の競技会に参加することを禁止しました。これは大きな間違いです」
「誰もが平和を望んでいて、私はそれを望んでいます」
さらに「スポーツと政治を混同させたり、アスリートを罰したり、パフォーマンスや競争の権利を奪ったりすることはできません。これは差別であり、アスリートの権利を直接侵害するものです」と主張した。
そして「誰もが平和を望んでいて、私はそれを望んでいます。できるだけ早くすべてが終わり、交渉が実を結ぶことを心から願っています。私は私たちの大統領を信じています」などのコメントを投稿した。
スポーツと政治は別だとするプルシェンコ氏の主張に反する形で、世界のスポーツ界では、ロシアに制裁を科す動きがさらに続いている。
プロボクシングの主要4団体はロシア選手を世界ランキングから除外する方針を打ち出し、陸上では世界陸上と世界室内陸上選手権からロシア選手が除外された。また、バレーボールでは、ロシアが8月から予定していた世界選手権の開催権をはく奪した。
●中立国スイスもプーチンの資金遮断…ロシア人367人の110億ドル資産凍結 3/2
中立国のスイスが従来の立場を変え欧州連合(EU)の対ロシア金融制裁に参加する意向を先月28日に公式化した。
スイス連邦議会の会議を主宰した同国のカシス大統領が直接明らかにした内容だとしてニューヨーク・タイムズがこの日報道した。これによりロシアのプーチン大統領だけでなくミシュスティン首相らEUの制裁リストに上がった367人のスイス国内資産が凍結されるものとみられる。同紙はスイス国内にロシア企業と個人が保有する資産規模は2020年基準で約110億ドルに達すると伝えた。
ロシアのラブロフ外相はこれを防ぐため急きょジュネーブ行きのアエロフロート機に搭乗しようとしたが不可能だった。EUがラブロフ外相の欧州域内旅行禁止措置を下したためだ。
今回の措置はスイスにも危険な賭けだ。これまで中立国として積み重ねてきた国のアイデンティティをぼやけさせ経済的にも打撃になりかねないためだ。
こうした理由からスイスは制裁参加に微温的だった。先週だけでもカシス大統領は「(制裁後に)ロシアから新たに流入する資金は防ぐだろうが預金者の口座接近は止めない」と明らかにした。彼は「スイスの中立国としての地位を考慮せざるをえない」と説明した。しかしプーチン大統領が実際にウクライナへの侵攻を敢行し民間人の死亡者まで出てスイス国内世論が悪化するとカシス大統領も立場を変えた。同紙は「スイスに中立国の地位は伝統であり意味が大きい戦略。これをしばし下ろすことにしたというのは重要な意味を持つ」と伝えた。
●プーチンに異変…ロシア軍へのウクライナ「意外すぎる作戦」 3/2
安定しない視線、テーブルの上で落ち着きなく動く指ーー。
テレビに映るロシアのプーチン大統領(69)の姿からは、イラ立ちが伝わってくる。ウクライナ情勢が、思うように進展していないからだろう。
「諸外国は、経済制裁を強めています。国際的な決済ネットワーク『SWIFT』から、ロシアの主要銀行を除外することを決定。ロシアは、国内通貨ルーブルの大暴落とハイパーインフレの危機にあるんです。侵攻したロシア軍も、苦戦を強いられています。当初は2日で陥落するとみられていた首都キエフは、いまだに制圧できていません。ウクライナ軍の抵抗が、予想以上に激しいからでしょう。
プーチン大統領の不安の種は、国外だけではない。ロシア国内ではモスクワやサンクトペテルブルクなど、60以上の都市で反戦デモが発生。ネット上で反戦を呼びかける署名は、100万人近くになりました。当局は規制を強め、2月26日からSNSの通信を制限しています。また『侵攻』『攻撃』などの表現でウクライナ情勢を報じるメディアには、最大500万ルーブル(約545万円)の罰金を科すとしたんです」(全国紙記者)
内憂外患で、プーチン大統領の焦りが募るのも当然だろう。精神状態を不安視する声も多い。米国のマルコ・ルビオ上院議員は、ツイッターでこう記した。
「本当のことをもっと明かしたいが、今間違いなく言えることは一つ。プーチン大統領は、何かがおかしいということだ」
オバマ大統領時代、駐ロシア大使だったマイケル・マクフォール氏も、米国の各メディアに対し異変を指摘している。
「プーチン大統領は不安定さを増している。以前とは違う人物に見える。20年におよぶ独裁体制が、精神状態に影響を与えているのかもしれない」
恐ろしいのは、焦ったプーチン大統領が「核のボタン」を押しかねないことだ。2月27日には、核ミサイルを含む抑止力を「特別体制」に移すよう命令。ロシア情勢に詳しい筑波大学の中村逸郎教授は、以前『FRIDAYデジタル』の取材に、こう警鐘を鳴らしていた。
「ロシアは、核兵器の使用も示唆しています。第二次世界大戦を超える、人類史上最悪の戦争になる危険性があるんです」
プーチン大統領の思惑通りに事態が進まない要因の一つに、ロシア軍の士気の低さがある。功を奏しているのが、ウクライナ当局による「意外な作戦」だという。
「ウクライナ当局によると、多くのロシア兵の装備は劣悪で、まともな訓練も受けていない兵士もいるそうです。中には10代の若者もいたと発表している。ウクライナ軍は捕虜となったロシア兵に、食事や水を与え極力丁重に接しています。おびえる兵士に、優しい言葉をかけることもあるとか。
さらにウクライナが徹底しようとしているのが、『お父さん、お母さん作戦(両親作戦)』です。ロシア兵に対し、故郷の両親へ電話することも勧めているんですよ。戦地で父親や母親と話せば、自分たちがいかにツラい状況にあるかを伝え、早く帰りたい、会いたいと訴えるでしょう。兵士たちに厭戦気分が広がるのも当然です。ウクライナ当局は、捕虜となったロシア兵を家族が検索できる特別なサイトも作っています」(前出・記者)
強硬な手段に訴えるロシアに対し、敵兵士へも理解を示すウクライナ。事態は、ますますプーチン大統領の計算とは違った方向に進みそうだ。
●駐日ウクライナ大使、林外相と面会希望も1カ月実現せず 3/2
ウクライナ情勢の緊迫を受け、同国のコルスンスキー駐日大使が林芳正外相に面会を要請していたが、約1カ月にわたり実現していなかったことが2日の参院予算委員会で明らかになった。林氏は「私自身は大使からの面会要望は承知していなかった」と釈明。「こういうことがないようにしっかりやっていきたい。どういう事情だったか確認しておきたい」と述べた。
国民民主党の川合孝典氏が予算委の質疑で明かした。川合氏によると、コルスンスキー氏はロシアによるウクライナ侵攻の予兆について林氏に説明することを希望していたが、面会は実現しなかった。林、コルスンスキー両氏は2日夕に面会することが決まったが、川合氏は「危機管理対応として極めて緩慢な動きだ」と批判した。
岸田文雄首相は面会が実現しなかったことについて問われ「双方の日程などの事情があったと想像するが、緊迫した事態の中で関係国と意思疎通や情報交換を図る機会は努力して設けるようにしていく姿勢は大切だ」と述べた。
これに対し、川合氏は「双方の事情というが、コルスンスキー氏は『会いたい』と言っている。当方の事情だ」と批判した。
●台湾・蔡総統、米代表団と会談 ウクライナ情勢受け 3/2
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は2日、台北市内で、バイデン米大統領の意向を受けて訪台した代表団と会談した。ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国が台湾への圧力を強めるとの見方が一部で広がる中、米側は台湾に代表団を派遣する形で支援姿勢を改めてアピールし、中国をけん制した。
会談では冒頭、米軍の制服組トップを務めたマレン元統合参謀本部議長が「米台の重要なパートナーシップに対する支持を表明するために、ここに来た」と述べた。そのうえで「米国はいかなる一方的な現状変更にも反対する」とし、中国の動きを改めてけん制した。
これに対し、蔡氏は「台湾海峡の安全が脅かされており、米国と今後、より緊密な協力ができることを期待する」と語り、関係強化の必要性を訴えた。
米国は今回、ロシアによるウクライナへの侵攻で、不安が高まる台湾に対し、「台湾支持」という明確なメッセージを、改めて送る形を取った。
昨年来、米国から台湾への議員訪問が相次ぐ。だが、バイデン大統領の意向を受けた訪台は、2021年4月のアーミテージ元国務副長官などによる訪問以来、今回が2回目となる。
トランプ前政権が、厚生長官や国務次官など現役の高官を相次ぎ、台湾に派遣したレベルには及ばないものの、今回の代表団は、台湾有事などを意識し、マレン氏のほかフロノイ元国防次官など、かつて米政権を国防や安全保障の面から中枢で支えた人物で構成した。
ただ、米国はウクライナ情勢で世界が複雑さを増す中、「中国への過剰な刺激になることだけは避けたかった」(台湾の外交関係者)。今回の訪問団について、米側は事前の対外的な公表は避け、米側の意向をくんだとみられる台湾当局からの発表にとどめる形とした。
一方、中国もこの局面を複雑な思いで迎えている。国際情勢に詳しい台湾の王智盛・中華亜太菁英交流協会秘書長は、まずロシアに対しては「中国は今、非常に困惑している」と指摘する。ロシアの今回のやり方は、中国の普段の主張とは、正反対だからだ。「中国はチベットや新疆、香港、台湾などを内政問題とし、常日ごろから、外国が中国に干渉することを極端に嫌がってきた。だが、ロシアによる今回のウクライナ侵攻はまさに他国への干渉に当たる」(王氏)
しかし、中国は台湾に対しては、親中派の台湾メディアやSNS(交流サイト)などを通じ、ウクライナと台湾を結びつけ、市民の不安をあおっている。戦争などの不安をあおれば、対中強硬路線を敷く蔡政権には打撃となるためだ。
台湾当局は、こうした動きにいら立ちを隠していない。行政院(内閣)の羅秉成報道官は2月28日、中国を念頭に「『今日のウクライナは明日の台湾』などと、ウクライナ情勢を台湾と不適切に結びつけ、台湾を動揺させる工作をするべきではない」と訴えた。
一方で、中国の本音は、また別のところにもある。国際社会からは、ウクライナ問題と台湾問題を結びつけ、同列には扱われたくないとの、全く逆の思いだ。
王氏は「中国からすれば、台湾は自国の領土の一部だ。ロシアと、主権国家であるウクライナの関係とは全く立場が異なる。そのため、国際社会から同列に扱われることをかなり嫌がっている」と指摘する。
そのうえで「中国は今秋に共産党大会を控えており、習近平(シー・ジンピン)国家主席の3選がかかる。党大会が最も重要で、中国が今後、外的な要因に惑わされ、台湾になにか強引な手法を使うようなこともまずないだろう」と話した。
●ウクライナ情勢との関連?“サイバー攻撃”影響で停止…トヨタ国内全工場再開 3/2
トヨタ自動車は、取引先企業へのサイバー攻撃で、停止した国内すべての工場を再開しました。取引先のサーバーでは、ウイルスの感染などが明らかにされています。ウクライナ情勢との関連はあるのでしょうか?
サイバー攻撃を実際に再現したパソコン画面。見知らぬファイルをクリックすると、大切な会社のデータも真っ白になった。
暗号化されてしまい、開くことができない。そして、“謎の顔”が現れる。
「24時間以内にビットコインで150ドル払え」
身代金を要求するメッセージが表示された。
このような手口から「ランサムウェア攻撃」と呼ばれている。
実際に攻撃されたのは、トヨタの取引先で、車の内装や外装の部品を製造する、小島プレス工業だ。
発覚したのは、先月26日。午後9時ごろ、サーバーの障害を検知し、再起動すると、ウイルスの感染と脅迫メッセージが確認された。
翌27日、さらなる攻撃を防ぐために、取引先や外部とのネットワークを遮断して、全サーバーを停止した。
そのサイバー攻撃の影響は、トヨタの全工場に及んだ。
トヨタグループのトラックなどを製造している日野自動車の工場も、稼働を停止していました。
トヨタのお膝元、豊田市にある小島プレスがサイバー攻撃を受けたため、トヨタ車の製造に関わる国内すべての14工場の稼働を止めた。
この事件について、政府は調査中としながらも…。
松野博一官房長官:「ウクライナ情勢を含む、昨今の情勢から、サイバー攻撃のリスクは高まっており、DDoS攻撃やランサムウェア攻撃などによる、企業への被害が発生する懸念が強まっている」
サイバー攻撃を受けた小島プレスのシステムが完全復旧するには、2週間程度かかる見込みだが、トヨタは部品の供給が可能になったとして、2日からすべて工場の稼働を再開した。
●ロシア軍 ウクライナ南部都市掌握と発表 交渉も強硬姿勢貫くか  3/2
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、2日、黒海に面した南部の都市ヘルソンを掌握したと発表しました。ロシアは、軍事的な圧力をさらに強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながる進展が図られるかは不透明です。
ロシアは、2日もウクライナ各地で軍事侵攻を続けていて、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、黒海に面した南部の都市ヘルソンを掌握したと発表しました。
また、1日、首都キエフのテレビ塔に行われた攻撃についてコナシェンコフ報道官は、ロシア軍がテレビ塔の機能を無力化したとしたうえで、住宅街には被害はなかったと主張しました。
一方、ロシアは、ウクライナと代表団による交渉も行っていて2月28日に続く2回目の交渉に向けて調整が進められています。
交渉をめぐってロシア側は、ウクライナの「中立化」や「非軍事化」を求めているのに対してウクライナ側は攻撃が行われている中では交渉することはできないと訴えています。
ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は2日、ロイター通信に対して「実質的な議題が必要だ」と述べ、まずは、双方が交渉に値する議題を設定することが必要だという認識を示しました。
ロシアは、各地で攻撃を激化させるなど軍事的な圧力を強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながる進展が図られるかは不透明です。
ハリコフ ミサイル攻撃を受け 21人死亡 112人けが
ロイター通信は2日、地元当局者の話としてウクライナ第2の都市、ハリコフで1日から中心部にある住宅街や行政府の建物がロシア軍によるミサイル攻撃を受け、これまでに少なくとも21人が死亡し、112人がけがをしたと伝えました。
2日、撮影された映像では地元警察の建物が大きく崩れ、消防士が消火活動にあたっている様子が映されています。
専門家「首都キエフ包囲 政権に圧力をかけることねらい」
旧ソビエト海軍の元大佐でロシア軍の戦略に詳しいコンスタンチン・シブコフ氏は、NHKのインタビューに対し「ロシア軍はウクライナの奥深くまで、急速に進軍し、抵抗する都市を包囲している」と述べ、ロシア軍は、計画どおり各地で部隊を進めていると強調しました。
また、ロシア軍が首都キエフの周囲を包囲しようとしているとしたうえで、この作戦は、過去にロシア軍の支援を受けたシリアのアサド政権が反政府勢力の最大拠点としてきたシリアのアレッポを包囲した作戦が生かされていると分析しました。
そのうえで「ロシアがキエフを包囲しているのに奪取しないのは、意図的かつ計画的なことだ」と述べ、キエフ包囲は、ゼレンスキー政権に圧力をかけることがねらいだという見方を示しました。
一方、ロシア軍がキエフへの侵攻を本格的に始めていない理由として、アメリカ側が、ウクライナ軍の激しい抵抗を受けているからだと指摘していることについてシブコフ氏は、否定したうえであくまで勢いを失ったわけではないと強調しました。
また8年前、ロシアが一方的に併合した南部クリミアからロシア軍が、黒海やアゾフ海沿いの町へ進軍していると指摘したうえで、「黒海沿岸全域がロシア軍の支配下に置かれることになるだろう。そうなれば、ウクライナは完全に海から切り離されることになる」としてロシア軍がさらに戦況を優位に進めると分析しました。
●アメリカはウクライナ軍事支援を検討中 3/2
アメリカ政府がウクライナ市民による武装レジスタンスへの支援を検討している。(ロシア軍が北から侵攻してきた事実を踏まえ)ロシアの目的がウクライナの親米政権の打倒にあるのは間違いなく、その場合にウクライナ軍が首都キエフを防衛できるとは思えないからだ。
匿名を条件に取材に応じた複数の米政府当局者と議会スタッフによれば、議論は白熱している。
一方には、ウクライナのレジスタンスに武器などを供与した場合、法的にはアメリカもロシアとの戦争に加わったことになり、2つの核大国間で緊張が高まるとの慎重論がある。
実際、昨年中も一部の政権幹部は同様な理由で、アメリカ側の軍事的な動きを控えるよう進言していた。それを受けてジョー・バイデン米大統領が、ウクライナへの武器供与を保留したこともある。
ただし米政府機関の中には、武器供与の継続を主張するところも複数あった。
議論は大統領の持つ戦争権限の法的根拠にも及んでいる。ウクライナ政府があっという間に倒れ、議会の承認を待たずに何らかの行動を起こさねばならない事態が、深刻に想定されているからだ。
侵攻の第1報を受けて、米国防総省高官は2月24日に、ロシアは「キエフに乗り込んで」ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政権を倒し、「ロシア流の統治体制」を構築するつもりだと述べた。
そうなったとしても、アメリカ大統領は武器供与などの軍事援助に踏み切る前に議会の承認を得るべきだと、一部の議会関係者は言う。
交戦中の相手方に兵器を提供すれば、アメリカは紛争当事者になったとロシア側が主張する法的根拠ができ、核大国間の緊張激化を招きかねないと警告する国際法の専門家もいる。
「はっきり言って、これは本物の度胸試しだ。どこまでやるかの覚悟が問われる」と言うのは、元国務省法律顧問のスコット・アンダーソン(現ブルッキングス研究所客員研究員)だ。
「ウクライナ市民への武器供与は(ロシアとの)紛争に身を投じることを意味するという主張を、ロシアがどこまで押し出してくるか。そこが問題だ」
むろん、市民レジスタンスへの武器供与という議論はまだ始まったばかりで、どうやって武器供与のルートを確保するかも決まっていない。事情通の当局者によると、政権内部の意見も分かれている。
ロシアがウクライナ領内へのミサイル攻撃と爆撃を始める前から、国防総省は陸路での武器搬入ルートを探っていたらしい。
「空輸が不可能になった場合の手も考えている」と、前出の当局者は述べた。現にロイド・オースティン米国防長官も、ウクライナへの武器供与を続けると公の場で約束している。
当局筋によれば、米国家安全保障会議(NSC)は国防総省によるレジスタンス支援の選択肢を排除していない。
ただし、その実現可能性(いつどうやって実行するか、どのような法的権限を主張できるのか)を問い、これ以上の兵器が必要なのかも疑問視している(バイデン政権は昨年来、既にウクライナに6億ドル以上の防衛的兵器を提供している)。
そもそも、アメリカ政府内でこうした意見対立が起きるのは当然のことだという見方もある。
この1年間、NSCが武器供与に消極的だったのは、それがロシアとの緊張を増すだけと考えたからだ。それでバイデン政権は昨年の4月と12月に、ウクライナ政府への軍事支援の実行を保留した(ただし、その後にゴーサインを出している)。
NSCのある広報担当官は匿名を条件に、電子メールでこう言ってきた。大統領補佐官たちは安全保障環境の変化に応じて「包括的かつ厳密な政策の見直し」を進めることに力を入れている。もちろんアメリカはウクライナの現政権支持に注力しており、そのため承認済みの支援も実施する。
ロシア軍が攻めてきてもウクライナ国民を守るため、アメリカは「さまざまな不測の事態に備えた計画」を用意していると、この広報担当官は言った。経済的、人道的な援助も含めてのことだ。
ウクライナでは、ゼレンスキーが2月24日に国を守る気概のある市民全てに武器を渡すと語り、国防相も、ウクライナのパスポートを持つ市民には武器を与えると発言した。
ウクライナ外相のドミトロ・クレバも先に、戦争が始まれば「この国の領土を、全ての町や村を守るために、勝利の日まで戦い抜く」と述べていた。
アメリカでは多くの共和党議員が、事態の深刻化と紛争の長期化を見越して、ウクライナ市民がロシアの占領軍と戦えるよう支援すべきだと論じている。
そしてロシアによる占領が現実となった場合に備え、ウクライナ市民の武装レジスタンスを支援する政策の枠組みを定める法案を用意した。題してNYET(ニエット)、ロシア語では「NO」の意で、英語では「ヨーロッパの領土を渡すな」の頭文字を連ねたものだ。
ある高位の議会筋が匿名を条件に語ったところでは、そうしたレジスタンス運動への支援に必要なのは短距離ミサイルや地雷、ライフル、通信機器、そしてアメリカの情報網へのアクセスだという。
ロシアが2014年にウクライナ領クリミア半島を不当に併合し、ウクライナ東部で分離独立派の武装蜂起を仕組んで以来、アメリカの特殊部隊とCIAはウクライナ兵の訓練に協力してきたと、米ヤフーニュースは報じている。
米軍関係者も、ウクライナの軍事能力は2014年以降に大幅に向上したと自信を深めている。
「われわれは塹壕の中でウクライナ兵と共に訓練してきた」と、この件に詳しい元米国防総省高官は言う。「兵士たちの素性も能力も、彼らの意気込みも分かっている」
非正規戦に備えたウクライナ軍の訓練を現場で見たという某欧州機関の当局者も、北のベラルーシから侵入してきたロシア軍は森に潜む敵や対戦車兵器による奇襲攻撃に遭うだろうと述べていた。
なにしろロシア軍の進路の「両側には深い森が延々と続いている」と、この人物は言う。「敵の接近してくる方角は分かっているのだから、奇襲をかけるのは簡単だ」
米バイデン政権とNATO諸国は、一貫してウクライナ支持の姿勢を表明してきた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの分離独立派2州の「独立」を一方的に承認し、いわゆる平和維持軍の派遣を発表したときは、直ちに強い言葉で非難した。
アメリカはロシアに対する制裁の第1弾を発動し、今後さらに制裁を強化すると警告しているが、NATOに加盟していないウクライナに軍隊を派遣し、キエフの政府を防衛することまでは考えていないとも明言している。
近年、アメリカでは、大統領が議会の承認なしに国外で軍事行動を起こす権限(いわゆる戦争権限)をめぐり、その制限の是非が活発に議論されてきた。
制限を支持する側は、ここ数十年、歴代の大統領は戦争権限を米国憲法が許容する以上に拡大してきたと批判している。2月22日には民主党のピーター・デファジオ下院議員を筆頭に40人以上の議員が連名で大統領に書簡を送り、議会に諮ることなくウクライナへ軍隊を送らないよう求めた。
これまでの戦争権限に関する議論の多くは、イエメンの反政府勢力ホーシー派と戦うサウジアラビア主導の連合軍に対するアメリカの軍事支援の是非に重点が置かれていた。
だがイエメンでの戦争と異なり、ロシアの侵攻に直面したウクライナを支援することについては、議会で幅広い超党派の同意ができている。
ただし一枚岩ではない。
上院民主党有力者の側近によれば、ウクライナ市民のレジスタンス運動への軍事支援について、既に超党派の議論は行われているが、まだ法案提出の段階ではないようだ。共和党主導のNYET法案にも、かなりの数の共和党上院議員が署名を拒んでいる。
こうした分断がある限り、ウクライナ市民に対する武器供与を大統領権限の範囲内と認めるという合意が、すんなりまとまるとは思えない。
たとえロシア軍の全面侵攻でウクライナ政府が崩壊したとしても。
●欧米で過熱するプーチン大統領“錯乱”キャンペーン  3/2
ロシアのウクライナ侵攻を巡り、なんとか開催にこぎ着けた両国代表団による停戦協議も難航必至とみられる中、プーチン大統領の“錯乱”ぶりが盛んに報じられている。20年以上も君臨する独裁者の「精神状態」不安説が広がれば、ロシア国内の世論は急速に「反プーチン」に傾きかねない。現実味を帯びるのが、プーチン体制の内部崩壊だ。
ロシア軍によるウクライナ侵攻開始から7日。以前からプーチン大統領を知る米国の関係者からは、「プーチンは計算高い人間だったが今回は大きな過ちを犯した」(ロバート・ゲーツ元米国防長官)、「新しいプーチンは危険だ」「何かがおかしい」(ルビオ米上院議員)といった声が上がる。
先月、プーチン大統領と会談したマクロン仏大統領も「2019年12月の首脳会談で会っていた人物とはもはや同じではなかった」と周囲に打ち明けたと報じられている。
確かに、ウクライナと停戦協議開催の交渉中に核使用をチラつかせるなど、プーチン大統領の言動は常軌を逸している。しかし、「錯乱」を伝えているのは、揃って欧米関係者。どうも西側諸国のキャンペーンのようにも映る。
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「これは、欧米諸国による情報戦の一環だとみられます。『精神異常』説のみならず『体調不良』説も流れている。こうした情報に触れて、最も影響を受けるのはロシア国民です。『プーチン大統領に任せていて大丈夫か』と、国民の間で不安が広がる。それこそが欧米の狙いでしょう。ただでさえ、ロシア国内では厭戦ムードが漂っている。欧米は、ロシア世論を『反プーチン』に導こうとしているのではないか。プーチン大統領も支持を失えば侵攻を続けるのは難しくなるでしょう」
実際、ロシア国内からは「反戦」の声が上がってきている。27日の国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の非公開会合では、ロシア代表のオレグ・アニシモフ氏が「この戦争を防ぐことができなかった全てのロシア人を代表し、謝罪を表明させて欲しい」と発言。フィギュアスケート選手のエフゲニア・メドベージェワも24日、SNSに〈悪夢のように早く終わってほしい〉と投稿し、暗に「反戦」を訴えた。全国各地で反戦デモも続々と起きている。
この状況にイラ立ちを募らせたのか、プーチン大統領は意に沿わないメディアに報道規制をかけ始めた。「攻撃」「侵攻」といった表現について「偽情報の流布」に当たるとし、国内メディア10社に記事の削除を命令。さらに、国内でのフェイスブックやツイッターの使用にまで制限をかけた。
「2010〜12年に中東で独裁政権が大規模デモによって次々に倒された『アラブの春』では、フェイスブックやツイッターが市民の結束を生み、大きな役割を果たしました。政権の腐敗や堕落を、SNSを通じて多くの市民が共有、拡散したのです。結果、数十年にわたり続いた独裁政権が、わずか数カ月で崩壊した。ロシア政府がSNSに制限をかけたのは、『アラブの春』と同じことが国内で起きかねないと懸念したからでしょう。プーチン大統領の焦りは相当なものだと思います」(五野井郁夫氏)
プーチン体制は内部崩壊するのか。追い込まれれば、ますます“錯乱”し、予想外の行動に出るかもしれない。
ロシア軍はウクライナ都市部への攻撃を一段と激化させている。北東部の第2の都市ハリコフを包囲する部隊は市街地に向けて集中的に砲撃を加える無差別攻撃を行っており、首都キエフではテレビ塔が攻撃され、大きな爆発が起き、ウクライナ当局によると5人が死亡した。民間人を含む犠牲者が一気に拡大しかねない状況だ。
ロシアのショイグ国防相は1日、ロシア軍は目的を達成するまでウクライナでの軍事作戦を継続すると表明。停戦交渉も先行き不透明だ。
ハリコフではロケット弾を使った集中砲撃で住宅地などが被弾。被害は中心部にも及び、当局によると、少なくとも10人が死亡し、35人が負傷した。激しい攻撃に地元当局者は「ハリコフで起きているのは戦争犯罪。ジェノサイド(集団虐殺)だ」と訴えている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、ハリコフへの攻撃で「ロシアはテロ国家と化した。決して忘れず、決して許さない」と述べた。
交戦が続くキエフ一帯でも緊迫の度合いが増している。キエフ北方では約64キロに及ぶロシア軍の車列の存在が伝えられている。ロシア国防省報道官はキエフにある情報機関の施設に攻撃を加えるとして、施設近くの住民に避難を勧告した。テレビ塔への攻撃は、これを受けて行われた可能性がある。
●プーチン氏、誤算でいっそう強硬策に出る可能性 ウクライナの激しい抵抗 3/2
ウクライナは侵攻の1週目、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が思っていたより、またはロシア軍司令官たちが彼に言っていたより、ずっと強力な反撃をみせている。しかしこれはまだ、醜い戦争になりうる戦いの初期段階でしかない。
プーチン氏はロシア軍が侵攻して数日で、首都キーウ(キエフ)は陥落すると思っていたはずだ。そして、歴史的にロシアの一部だと彼が主張している領土を奪還したことについて、西側諸国はおびえ、分裂し、受け入れると考えていたはずだ。
そうはならなかった。ウクライナはしぶとく、西側諸国(特にドイツ)の反応は想定外に激しかった。ロシア経済にはすでに深刻な影響が出ている。プーチン氏の有力な友人である中国は、西側の怒りがいつか自国に向けられ、中国経済に大打撃を及ぼすのではないかと心配しているように見える。今回の侵攻からはすでに距離を置いている。
対照的に、北大西洋条約機構(NATO)は力を増す可能性がある。フィンランドとスウェーデンは共に、自衛のためにNATOに加盟するかもしれない。プーチン氏は今回の戦争を、ウクライナのNATO加盟を実現させないために始めた。しかし、ロシアと北西で国境を接する国などがNATOに加盟する結果になるかもしれない。
これらはどれもプーチン氏にとって痛手となる。彼自身の計算違いが原因で、新型コロナウイルスで自ら隔離していた時期に決定したものだった。彼は限られた側近にしか会わず、側近らは彼が聞きたいことだけ伝えたのではないか。いま彼は、別の選択肢を探ることになる。彼ははねつけられても、決して後ずさりはしてこなかった。さらに強くやり返す。そして、彼にはそのための兵器がある。
ウクライナの駐米大使は、ロシアがすでに気化爆弾(サーモバリック爆弾)を使ったと主張している。「真空爆弾」と呼ばれ、酸素を吸収して高温の爆発を発生させるものだ。現在のような状況に置かれた大使は一般に過激な主張をするものだが、ロシアの気化爆弾発射台がウクライナに向けて運ばれている映像を、私たちはすでに目にしている。アナリストらは、もっと多く使用されるのは時間の問題だろうとしている。
写真からは、クラスター爆弾がハルキウ(ハリコフ)で民間人に対して使用された疑いもうかがえる。これら「小型爆弾」が降り注げば、広い範囲で人々は破片を浴び、恐ろしいけがを負う。クラスター爆弾は2008年に国際条約で使用が禁止されている。しかしロシアは署名しておらず、国際人権法に則って使用していると主張している。ハルキウ市民はこの説明を受け入れないかもしれない。
プーチン氏は、非常に危険な兵器の使用をまったくためらわない。2006年にロンドンで起きた、元KBG将校アレクサンドル・リトヴィネンコ氏の毒殺事件では、放射性物質ポロニウムの使用を承認したとみられている。2018年に英南部ソールズベリーで、ロシアの元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏をロシア軍情報機関が有毒の神経剤ノビチョクで襲撃することにも、同意した可能性が高い。スクリパル氏は助かったが、神経剤にさらされた女性ドーン・スタージェス氏が死亡した。
まったく罪のない民間人が危機に置かれることを、プーチン氏は気にかけていないように思われる。前述の事案は計画的暗殺で、現在ウクライナで繰り広げられている広範囲な攻撃と異なる。それでも原則は同じだ。ロシアの国益が脅かされる場合、民間人の命は問題にならない。
ウクライナで思い通りにいかない場合、プーチン氏は核兵器を使う準備を進めるのだろうか。可能性はある。ただ、大半のアナリストたちは、その段階にはまだ至っていないとみている。プーチン氏は確かに、ウクライナに介入しようとする部外者は過去に見たことないような結果に見舞われると、暗い言葉を唱えた。ロシアがない世界に存在理由はあるのか、という考えも、繰り返し示している。とはいえ、核を使った衝突は、NATOがとんでもない計算違いをしなければ、近づくことはない。
歴史は繰り返すのかもしれない。1939年、スターリンはフィンランドを攻撃した。数日で陥落すると考えていた。しかしフィンランドは反撃し、ロシア軍は面目をつぶされた。冬戦争と呼ばれたこの戦いは1年近く続いた。フィンランドは領土を失ったが、独立は維持した。ウクライナの戦争が似たような形で終わる可能性はある。
この戦争はまだ初期段階だ。ウクライナがこれまで持ちこたえるからといって、ロシアの全面侵攻に長く耐えられるとは限らない。それでも、第1ラウンドは疑いなく、ウクライナにとってうまくいった。西側の対応は、大方の予想よりずっと断固としたものとなっている。プーチン氏の予想を含めて。
●プーチンは当初4日でウクライナを片付けるつもりだった 3/2
抵抗続けるウクライナ…ロシアの目論見外れる?
「6日前、ロシアのウラジミール・プーチンは自由社会の礎を揺さぶり、彼の意のままに屈しせしめようとした。しかし、彼は大きな計算違いをした」
「彼は予想だにしなかった強固な壁にぶち当たったのだ。それはウクライナの人々だ」
アメリカのバイデン大統領は、ワシントン時間の3月1日夜、日本時間の先程、時季外れの一般教書演説で、ウクライナ侵攻を決断したプーチン氏を非難するとともに、抵抗を続けるゼレンスキー大統領とウクライナ国民をこのように讃えた。
アメリカの国防総省高官がオフレコのブリーフィングで、ロシア軍の侵攻計画の遅れを指摘したのは何日か前のことだが、バイデン氏が言う“強固な壁にぶち当たった”ロシア側の当初の目論見はやはり大外れのようだ。
イギリスの安全保障専門家の分析
安全保障問題に詳しいイギリスのポール・ビーバー氏は言う。
「ロシア側の攻勢はあたかも全面攻撃をまだ始めていないように見えるかもしれない。しかし、侵攻初日から、フル・スケールの攻勢に出ているのだ。ただ、ウクライナ側の頑強な抵抗が、攻撃は序の口だと思わせているだけだ。」
ビーバー氏はインディペンデントの防衛問題アナリストで、イギリス軍の元兵士でもある。
「ロシア軍部隊はウクライナに侵攻しても解放者として歓迎されると思っていた。プーチンもウクライナを解放するのだと説明していた。しかし、現実は全く違った。ロシア軍は侵攻初日から目標を達成できなかったのだ」と。
しかし、第二の都市ハリコフに最初に侵入したロシア軍部隊がすぐに撃退されたのは、あれが威力偵察と言われる作戦で、全面攻撃ではなかったからではないか?という素人なりの疑問をぶつけると、ビーバー氏は「ハリコフへの当初の侵入は威力偵察を含めたロシアの戦術の一環であろう。が、ロシア軍はウクライナの抵抗の激しさに驚愕したのだ。ウクライナの人々がロシア軍を解放者とは見なさないという決意を示したからだ」という。
その上で、ビーバー氏は言う。
「インテリジェンス情報が示唆するのは、ロシアは当初、わずか4日間の作戦で、主要都市を陥落させてウクライナ政府首脳を殺害するか捕え、キエフに傀儡政権を設立するつもりだった。しかし、これにロシア軍は失敗し、双方に想定以上の死傷者を出しているのだ」と。
前稿「“英雄”に大化けしたゼレンスキー大統領とウクライナ国民に最大限の敬意を表す」でも記したように、やはり、プーチン大統領の想定を遥かに超えたゼレンスキー大統領とウクライナ国民の勇気と決意、そして抵抗が、プーチン氏の邪悪な目論見を撥ね返し、持ちこたえているのである。
プーチン大統領の誤算
プーチン氏は明らかに誤算を重ねている。独裁を長年続けたロシアの大統領はとうに裸の王様になっているとも思われるが、西側の前例のない制裁にも苛立つその裸の王様は、見せ掛けの交渉で時間を稼ぎつつ、計画を練り直して更なる攻勢に出ようとしている。
徴兵された戦闘経験無しの若者が多いと見られる侵攻ロシア軍の士気は高くないようだが、それでも、キエフとハリコフを包囲すべく、ひたひたと迫っていて、現地で取材を続ける西側の記者が危惧するように、戦いはより激しく恐ろしい事態を招くかもしれないと不安は募るばかりだ。
しかし、ビーバー氏は「ウクライナがプーチン氏に憐れみを乞う可能性は非常に低い」と断じる。そして「戦いは長引くだろう」とも。
バイデン大統領も一般教書演説で「次の数日、次の数週間・数か月はウクライナ国民に厳しいものになるだろう。」しかし、「ウクライナの人々の自由への愛をプーチンが消し去ることは出来ない。自由社会の決意を彼が弱体化することは無い」と断じている。
現地1日午後のEU議会向けリモート・スピーチでゼレンスキー大統領も「誰も我々を打ち砕くことはできない。我々は強固だ。我々はウクライナ人なのだ」等と意気軒高だ。
戦いがより血塗れの泥沼に陥る前に、正義の側が侵入者を撃退することを願って止まない。
●「プーチン氏の標的は国際秩序全体だ」「21世紀にありえない」…EU外相  3/2
ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)はロシアに大規模な制裁を科し、米英日などと連携して国際社会の対露圧力強化を主導している。加盟国の間で従来目立った対露姿勢の温度差を克服した。欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表(外相)が寄稿した。

ロシアによるいわれのない不当なウクライナの侵攻と大規模な偽情報作戦や情報操作を目の当たりにしているこの暗黒の時に、正当化できないことを正当化しようとでっち上げられたウソと事実を区別することが重要である。
事実とは、核大国であるロシアが、何らの脅威でもなく、挑発もしていない平和で民主的な隣国を攻撃し、侵攻したということだ。さらに、プーチン大統領は、ウクライナの人々に救いの手を差し伸べる他国にも報復すると脅している。このような力や威圧の行使は21世紀にはありえない。
プーチン大統領の行為は重大な国際法違反のみならず、人類共存という基本原則に反している。欧州で再び戦争を起こすという彼の選択により、力が正義となる「弱肉強食」への回帰が起ころうとしている。標的はウクライナだけでなく、国連体制と国際法に基づく欧州の安全保障とルールに基づく国際秩序全体である。
彼の侵略は、罪なき命を奪い、平和に暮らしたいという人々の願いを打ち砕いている。文民施設が標的となっているが、これは明らかな国際人道法違反で、人々は避難を強いられている。我々は、人道上の大惨事の発生を目撃しているのだ。
数か月間にわたり我々は外交的解決に向けて不断の努力を続けてきた。しかしプーチンは、会う人すべてに面と向かってウソをつき、平和的解決に関心があるかのように見せかけた。逆に、彼は全面的な侵略、本格的な戦争を選択した。
ロシアは軍事作戦を即時停止し、ウクライナの全領土から無条件に撤退すべきだ。ベラルーシも同様に、この侵略への関与を直ちに止め、国際的な義務を尊重するべきである。EUは一致団結して、ウクライナとその国民に強力な支援を提供する。これは死活問題だ。私は、ウクライナ軍を支援するための緊急支援策を用意した。
国際社会は、プーチン大統領に侵略の責任を取らせるため、ロシアを全面的に孤立させる。ロシアの銀行システムをマヒさせ、外貨準備を利用できなくし、戦費を調達する者に制裁を科す。
EUとそのパートナーは、すでにロシアに対して、指導者やエリート、国営経済の戦略的部門を対象に大規模な制裁を科している。その目的はロシア国民に害を与えることではなく、ロシア政府がこの不当な戦争に資金をつぎ込む力を弱めることだ。
その実施にあたり、我々は、米国、カナダ、英国、日本、韓国、オーストラリアなどパートナーや同盟国と緊密に連携している。また、世界中の多くの国々がウクライナの領土の一体性と主権を守るために結集している。我々は、自由な主権国家に対するロシアのおぞましい攻撃を前に、歴史の正しい側に共に立っている。
自らの犯罪を正当化するために、ロシアとその支持者は既に数週間前から大規模な偽情報作戦を展開している。ロシア国営メディアとその系列企業は、欺瞞と操作を目的として、ソーシャルメディアで虚偽を吹聴している。
ロシア政府の宣伝機関はこの侵略を「特殊作戦」と呼んでいるが、この皮肉で遠回しな表現では、ウクライナの自由、正統な政府および民主的体制の破壊を目的とした本格的な同国の侵略を目撃しているという事実を隠せない。
ウクライナ政府を「ネオナチ」、「ロシア嫌い」と呼ぶのは馬鹿げている。ウクライナでは、ナチズムに関するあらゆる表現が禁止されている。現代のウクライナでは、極右候補者は、ほとんど支持を得られない泡沫(ほうまつ)的な現象であり、議会で議席を得る最低条件を満たせていない。ウクライナ政府は、(東部の)ドンバス地域を切り捨てておらず、ロシア語やロシア文化の使用を禁じてもいない。ドネツクとルハンスクは共和国などではなく、ウクライナ領内の地域なのだが、(今は)ロシアの支援を受けた武装分離主義者によって支配されている。
我々はこのことを知っており、多くのロシア人もまた、それを理解している。侵攻の開始以降、ロシア全域で平和な隣国への侵略の停止を求める勇敢な抗議が行われている。我々はこうした声に耳を傾け、その勇気を評価する。また、ロシアの何人もの著名人がこの無意味な侵略に抗議している。
私はロシアの行動に対する国際共同行動を確実なものにするため、世界中のパートナーと引き続き協力する。2月25日、ウクライナ侵攻に関する国連安全保障理事会決議案を中国、インドおよびアラブ首長国連邦が棄権する中、ロシアだけが拒否権を行使した。世界中の国々がロシアの攻撃を非難している。国連緊急特別総会では、関連国連決議の採択により、国際社会全体が結束して、ロシアの軍事侵略の終結に貢献する必要がある。
日本もロシアの侵攻以降、責任者に重い代償を払わせるべく他の主要7カ国(G7)と緊密に連携してきた。岸田総理が、国際社会がロシアの侵略に対して一致して毅然とした対応をとる必要があると述べたことは正しい。この侵攻から正しい教訓を得ることが極めて重要であるとの彼の見解にも賛同する。
日本は、ロシアのウクライナ侵攻が欧州のみならず、アジアでも国際秩序を揺るがす行為であることを強く認識している。プーチン大統領が核兵器部隊に高度な警戒態勢を命じると、唯一の戦争被爆国である日本は直ちにこれを非難した。
ウクライナに対するこの戦争により、世界は二度と元には戻れないだろう。今こそ、信頼、正義および自由に基づく未来を築くために、これまで以上に各社会や同盟が結束すべき時である。
今こそ、立ち上って声を上げるべきだ。力は正義ではない。力が正義であったことはこれまでもなければ、この先もない。
●プーチン氏の民間人攻撃で「中国の流れに変化?」… 3/2
ウクライナに全面侵攻したロシアがウクライナの民間人に対する無差別攻撃を本格化した中、中国内部で微妙な流れの変化が起きている。
中国版ツイッター”微博(ウェイボー)”など中国のSNSに、ウクライナとの友好的関係や、ウラジーミル・プーチン ロシア大統領を非難する動画が次々とあがっているためだ。
時事評論家として活動している王志安(ワン・ジーアン)元CCTV(中国中央テレビ)記者は、きのう(1日)ウェイボーにあげた動画を通じて「この30年間における中国の飛躍的な軍事力増強には、ウクライナの助けがあった」と伝えた。
王氏は「軍需産業が発達したウクライナは、空母・ホバークラフト・大型輸送機・航空機エンジンなどを中国に売却し、数千人の技術者を派遣し中国を支援してきた」とし「ウクライナは技術をお金に換えたのだが、中国が大きな恵沢を受けたのは事実だ」と紹介した。
親戚の子どもがウクライナに留学している、あるネットユーザーはウェイボーに「ウクライナの住宅管理人が子どもたちのいる場所の周りを毎日巡回し、安全な場所に避難させたと聞いた」と伝えた。
つづけて「ウクライナのおばさんは食材が不足な状況で、自分は食べず子どもたちに食糧を与えている」とし「情勢は不安だが、善良なウクライナ人たちと出会った」と感謝を伝えた。
また別のネットユーザーはプーチン大統領に対して「彼は好戦的な人物だ。彼はややもすると全ての人を死地に追いやる恐れがある」と非難する内容をウェイボーにあげた。
つづけて「この “時限爆弾”を無条件支持することは正常なことなのか」として、ロシアのウクライナ侵攻に肩を持つ中国のネットユーザーたちも非難した。
他のネットユーザーは「侵略戦争が正当化され得るのか」とし「ロシアがもし負けなければ、人類は第2次世界大戦以前の弱肉強食の時代へと逆戻りすることになるが、そのようになってもいいのか」と訴えた。
一方、中国政府の論調にも変化が読み取れる。
中国外務省の報道官はきのうの定例会見で、ロシアのウクライナ侵攻により発生した民間人の人命被害について「遺憾」を表明した。
報道官は「中国は、死傷状況に対して遺憾に思う」とし「民間人の生命と財産・安全が効果的に保障されなければならず、大規模な人道主義の危機が発生しないようにしなければならない」と強調した。
先月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、中国が遺憾の立場を明らかにしたのは、今回が初めてである。
中国による今回の変化は、ロシアをかばう態度を示してきたことに対する国際社会の世論が悪化したことに加え、ウクライナ内の反中情緒の拡散により現地中国人たちが攻撃を受けるなど、苦しい立場に立たされたことによるものだとみられる。
中国は公式的に「ウクライナとロシアのどちら側にもつかない」という中立的な態度を示してきたが、国連安全保障理事会の対露糾弾決議の評決で「棄権」し、ロシアに対する非難を自制することで、「事実上ロシアをかばっている」という国際社会の非難の世論が拡散した。
さらに、ウクライナ人たちの反中感情が高まったことで、現地中国人たちが攻撃を受ける事例も次々と発生している。 
●プーチンの「核の脅し」の真意はどこに?  暴走する独裁者の焦りと苛立ち 3/2
二つの発言の微妙な違い
プーチン大統領が「核の脅し」を繰り返している。
2月24日、プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻の開始を宣言した演説でこう述べた。
「誰であろうと我々を阻み脅威となる者は歴史上見たことのないほどの重大な結果に直面することになるだろう。現代のロシアはソビエトが崩壊したあとも最強の核保有国のひとつだ」
続く27日にはテレビカメラの前で、ショイグ国防相とロシア軍の制服組トップであるゲラシモフ参謀総長に対し、核戦力を「特別態勢」に移すよう命じた。
この二つの発言は世界を震撼させている。今回、「ウクライナに対して全面的な侵攻はしないだろう」という多くの専門家の予想を裏切り、全面侵攻に踏み切ったプーチン大統領だ。「もはやどこまでやるかわからない」という不安が、彼の発言に真実味を与えている。
しかしだからこそ、その意味を詳細に分析する必要があるだろう。
この二つの発言からはさまざまな意図が浮かび上がってくる。まず、これらの発言は、実は目的が微妙に異なっている。
24日の発言は明らかに、アメリカを含めNATO諸国が軍事介入した場合には核攻撃を辞さないという脅しだった。アメリカの軍事介入を阻止するのが目的で、それは今のところ果たされている。
バイデン大統領は昨年12月8日の段階で、アメリカの軍事介入を否定した。最大のカードを早々に捨ててからロシアとの交渉を繰り返した経緯には大きな疑問が残る。判断の是非をめぐっては今でもワシントンで議論が続いているが、その背景はわかる。
一つはアメリカ国民が望んでいないこと。23日にAP通信が発表した世論調査によると、ウクライナ問題でアメリカが主要な役割を果たすべきだという回答は26%に過ぎない。
そしてもう一つは中国。ロシアとの軍事衝突となれば、かなりの戦力を投入する必要がある。その隙に中国が台湾に侵攻すれば対応するのは困難だ。アメリカにとっての重要度は圧倒的に台湾が上だ。
核抑止力が引き起こす軍事侵攻
この2つの理由に加えてもう一つ、実はこれが最大の理由ではないかと言われ始めているのが「核戦争の懸念」である。
バイデン大統領は2月9日、NBCのインタビューで「もしもアメリカとロシアが互いを撃ち始めたらそれは世界大戦だ」と発言。大規模な戦争に発展することを避けるために軍事介入を避けていると説明した。
そして26日には「選択肢は2つ。ロシアと第三次世界大戦を始めるか、国際法を犯す国にその代償を払わせるかだ」と述べて、厳しい経済制裁を呼びかけている。
どちらもロシアとの軍事衝突は核戦争につながる危険があると懸念していることをあえて明らかにする発言だ。弱腰の対応だという批判が続いているからだろう。
プーチン大統領はこれまでも核兵器の使用を辞さない姿勢を示してきた。2014年のクリミア併合の際には、情勢が不利になった場合に備えて核兵器使用に向けた準備を指示していたことを、その1年後に明らかにしている。
今回、バイデン大統領はアメリカ軍が介入すればプーチン大統領が核兵器を使用する危険性があると懸念し、それが軍事介入しない最大の理由だった──そういう見方がワシントンでは支配的になってきている。まさにプーチン大統領の狙い通りに進んだことになる。
核兵器の専門家でジョージタウン大学のケイトリン・タルマッジ教授はこう指摘する。
「通常、巨大な核戦力を持つ国同士は核の報復を恐れて衝突を避けると考えられている。しかし実際には、プーチンのような指導者が核兵器を外部の介入を阻止する盾にすることで軍事侵攻をしやすくしてしまう。今回はまさに『安定と不安定のパラドックス』と呼ばれる核抑止力の問題の典型例だ」
本来、米露の間では「相互確証破壊」が成立すると期待されている。どちらかが核攻撃を行えばもう一方が核による報復を行い、互いが壊滅的な被害を受けることになるため、その脅威が抑止力になって核戦争が回避されるという考えだ。
だとすれば、「プーチンの発言は威嚇に過ぎない」としてバイデン政権にはさらに厳しい姿勢で応える選択肢もあった。しかしバイデン大統領はプーチン大統領を刺激しない道を選択している。
核戦争の危険は絶対に避けなければならない、とリスクを冒さない道を選ぶのは理解できる。多くの核専門家も「状況をエスカレートさせないように慎重に行動すべきだ」と呼びかけている。
日本と台湾への影響
ただしその結果、プーチン大統領の思惑通りに進んでいることは日本にとっては不吉なものだ。
中国は今回のバイデン政権の対応を詳細に分析しているだろう。中国が核兵器をさらに増強し、アメリカに対して同様の脅しをしたうえで尖閣諸島や台湾に軍事侵攻した場合、はたしてアメリカはどう対応するだろうか。
バイデン政権では台湾侵攻があった場合に軍事介入して台湾防衛にあたるのはほぼ既定路線になっている。最後は大統領の判断だ。
しかしこれには反対論や慎重論も根強い。その最大の理由は中国との核戦争に発展する危険性がある、というものだ。今回の対応はアメリカの抱える懸念をまさに浮き彫りにしたと言える。
ウクライナのケースと同様にアメリカは軍事介入できないだろうと中国が考えれば軍事侵攻のハードルは格段に下がる。
2つ目の発言の狙い
核兵器使用の可能性を示唆するプーチン大統領の1つ目の発言は、アメリカの軍事介入を阻むためのものだった。一方で27日の発言は少し異なっている。
「西側諸国は不当な経済制裁という非友好的な行動をしているだけでなく、NATOの主要国の首脳が我が国に対して攻撃的な発言をしている。このためロシアの核兵器を特別態勢に置くよう命じる」
侵攻からわずか3日しかたっておらず、アメリカが軍事介入する姿勢を見せていないなかで再び発言をエスカレートさせている。さらに「特別態勢」という言葉が何を意味するのか、この時点でわかった者は西側にはいないという曖昧なものだ。にもかかわらず、敢えてテレビカメラの前でこの指示を出して見せているのが特徴だ。
まず、軍事作戦が思うように進まず、期待した成果が得られていないとプーチン大統領がいら立っていることが伺える。その上でアメリカやNATOが軍事介入するのを改めて阻止する意図もあるだろう。
しかし今回はさらに、ロシアが望む解決策を飲むようにウクライナや西側に圧力をかけるための発言でもある。プーチン大統領の焦りが表れたものではあるが、核攻撃への懸念が一段階高まったことは事実だ。
「特別態勢」とは何か
では「特別態勢」とは何を意味するのか。
イギリスのベン・ウォレス国防長官は「特別態勢」について「これは彼らの軍事行動の指針にある用語ではない」と述べている。そして「ウクライナ侵攻がうまくいっていないことから人々の目をそらすのが目的で、レトリックにすぎない」という解釈を明らかにした。
ロシアの核戦力研究の第一人者とされる国連軍縮研究所のパベル・ポドビグ氏も「特別態勢という言葉は聞いたことがない」としたうえでこう推測している。
「おそらく核の指揮統制システムが予備的な指令を受け取ったということだろう。核のシステムは、通常の状態では核兵器発射の命令を送信することはできないが、それを可能な状態にしたということではないか」
つまり核兵器の使用についての統制が緩和されて、より迅速に発射しやすくなったということだ。核兵器の専門家からは同様の指摘がなされているが、これは外からは見ることができず確認しようがない。翌28日にショイグ国防相が「特別態勢」に入ったことをプーチン大統領に報告したと露メディアが報じているだけだ。
その一方で、実際の核兵器使用までにはいくつものステップがある。
核使用の準備が行われていることを示すものとしては、弾頭を集中保管庫から移動、移動式ICBMをロシア領内で分散させる、核武装した潜水艦をさらに洋上に派遣、といった動きが見られるとされている。そして米露双方とも互いに監視し合っていて、こうした動きは確認できる状態にあると言われる。
しかしアメリカ国防総省の高官は28日、「具体的な動きは見られていない」と明らかにしている。だとすると、今のところは過度に核使用を恐れる必要はないということになる。バイデン大統領が核戦争を「心配する必要はない」と発言したのはこういう意味だ。
ただし、別の懸念も指摘されている。2回目の発言は、現状にいら立つプーチン大統領が、ウクライナでさらに多くの民間人の犠牲が出るような強力な軍事攻撃に踏み切る前触れではないかという指摘だ。
英王立防衛安全保障研究所のマシュー・ハリーズ上席研究員は「ロシアはウクライナでより残忍な攻撃を計画していて、西側に『立ち入り禁止』を警告している可能性がある」と警戒する。
プーチン大統領のいら立ちは危険な兆候となりうるのだ。
「不安要素はプーチン自身」
一方で、27日の発言には奇妙な点がもう一つある。
プーチン大統領は核兵器を特別態勢に置く理由について「西側諸国は不当な経済制裁という非友好的な行動をしているだけでなく、NATOの主要国の首脳が我が国に対して攻撃的な発言をしている」と述べている。
経済制裁や非友好的な行動、攻撃的な発言が核攻撃を準備する理由になりえるだろうか。ロシアやロシア軍への直接的な軍事的脅威でもなく、理由としてはあまりに弱すぎる。現状でも、もう少しもっともらしい理由が言えたはずだ。
こうしたロジックの粗さはプーチン大統領としては非常に珍しい。
ボストン大学上級講師のポール・ヘア氏はこれについて「プーチンの発言に忍び寄る感情や怒りの要素が印象的だ」と述べて、プーチン大統領自身が最大の不安要素だと指摘している。
またかつて国防次官補として対ロシア政策を担当したハーバード大学のグレアム・アリソン教授は、より直接的に今のプーチン大統領に妥当な判断ができているのかと疑念を呈す。「プーチンの現実に対する把握が緩んでいるのではないかと懸念されてきたが、その懸念に拍車がかかることになった」
「大国ロシアを復活させる」という思いの強さが現状認識をゆがめて、間違った判断に踏み切る。そして都合の良い情報しか報告されないことで判断の修正が難しくなる──こうした危険性はかねてより指摘されてきたが、そこに軍事作戦が思うように進まない現実が加わることで、さらに判断が狂う悪循環に陥りはしないかという懸念だ。
発言や表情に浮かぶ違和感は、プーチン大統領の焦りの表れなのかもしれない。とはいえ、「これでは本当に核を使用するかもしれない」と思わせる効果があるのも事実だ。
状況を有利にするために意図してやっている可能性も否定できないが、その真意は依然として本人にしかわからない。核が使用される可能性がある以上、各国は厳重に観察しながら慎重に行動する必要がある。
そしてロシアには、核を使用せずともウクライナの市民にさらなる被害をもたらすことも可能だ。それを思いとどまらせるためにも世界は、経済制裁や国際的な非難を強める必要がある。
ひとりひとりにできることは少ない。それでも日々ウクライナの動きを追い、人々の苦難を思いつづけていきたい。 
●ウクライナ情勢 現地の状況は?  3/2
ウクライナの被害 最新の状況は?
ウクライナ内務省は、首都キエフ中心部、大統領府から6キロほどの場所にあるテレビ塔が1日、ロシア軍の攻撃を受けたことを明らかにしました。この攻撃でこれまでに5人が死亡、5人がけがをしたとしています。ロシア国営のタス通信は、ロシア国防省が「キエフにある情報作戦の拠点などを攻撃する」として、周囲の住民に避難を呼びかけていると伝えていました。ウクライナ側の通信網を遮断するねらいがあるものとみられます。また、北東部にあるウクライナ第2の都市ハリコフでは州政府の庁舎がミサイル攻撃を受けるなど、中心部や住宅街が攻撃を受け少なくとも21人が死亡。けが人は112人にのぼっています。このほか、北西部の都市ジトーミルでも爆撃で少なくとも2人が死亡するなど、連日、犠牲者が増え続けています。
ロシア軍はどこまで侵攻?
アメリカ国防総省の高官は「ロシア軍はウクライナ国内で戦力を増強し続け、国境周辺に展開していた戦闘部隊のうちこれまでに80%以上を投入、400発以上のミサイルを発射した」と分析しています。キエフに向けて南下していた部隊が、どうして前日と同じ場所にとどまっているのか。アメリカ国防総省の高官はウクライナ軍の激しい抵抗を受けている、燃料・食料不足で遅れが出ているという見方を示した一方で、部隊の再編成や作戦の再評価のためみずからの判断で作戦を中断している可能性もある、と指摘しています。
あるロシア軍兵士のことば
こうした中、国連総会の緊急特別会合でのウクライナのキスリツァ大使の発言が大きな注目を集めています。「正式な発言を述べる前に、まず、ロシア語に切り替えたいと思います」と切り出したキスリツァ大使。紹介したのは、今回の軍事侵攻で死亡したロシア兵のスマートフォンに残されていたとする母親とのやり取りでした。
母親『アリョーシャ、元気なの?どうして長い間、返信しないの?』
兵士『ママ、僕はもうクリミアを離れたし、軍事演習もやっていない』
母親『そうなの。どこにいるの?お父さんが、あなたに小包を送れるか聞いているわ』
兵士『小包?こんな状況には必要ないよ』
母親『いったいどうしたの?』
兵士『ママ、僕はウクライナにいる。本当の戦争だ。怖いよ。すべての都市を爆撃している。市民も狙っている。ウクライナの人は、僕たちを大歓迎すると言われたけど、彼らは装甲車の前に立ちふさがったり戦車の前に身を投げ出したりして通らせないようにしている。僕たちを『ファシスト』と呼ぶ。ママ、本当につらいよ…』
強まるロシア包囲網
ロシアの軍事侵攻への批判が高まる中、これまでの方針を転換しウクライナへの支援を表明する国が相次いでいます。その1つがトルコ。エルドアン大統領は「危機の拡大を防ぐために私たちの国に与えられた権限を行使することにした」と述べ、国際条約に基づいてトルコが管理するダーダネルス海峡とボスポラス海峡で艦艇の通過を制限する措置をとると明らかにしました。また、これまで紛争中の国に兵器を供与しない立場をとってきた北欧諸国も軍事支援を行う方針に転換。1939年に当時のソビエトの侵攻を受けたロシアの隣国・フィンランドは、ウクライナにライフル2500丁や1500の対戦車兵器などを供与すると発表。スウェーデンも、5000にのぼる対戦車兵器などを送ると発表しました。そして永世中立国のスイス。プーチン大統領の資産を凍結するなど、EUが科した制裁を適用することを発表。「ロシアがヨーロッパの主権国家に対して前例のない軍事侵攻を行ったことが決め手になった」としています。
停戦に向けた2回目の交渉はいつ?
情報が錯そうしています。当初、ロシア国営のタス通信は関係者の話として「2回目の会談が2日にも行われる見通し」と伝えていました。会談の場所は、ベラルーシとポーランドの国境沿いの、ベラルーシ側にある施設、とされています。しかし、その後ロシアの別の通信社は「双方の代表団に近いトルコ政府の高官が『会談は、水曜日には行われそうにない』と発言した」と報道。会談が1日か2日延期される可能性を伝えています。2回目の会談に向けて、ウクライナのゼレンスキー大統領は「砲撃が行われている状況で交渉のテーブルにつくことはできない」と訴えている一方、「ロシアが現実的でない要求をしている」という見方も出ていて、2回目の交渉で停戦につながる進展が見られるかは依然、不透明な状況です。
どれぐらいの人が避難しているの?
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のグランディ難民高等弁務官は1日の記者会見で「ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから国外に避難した人の数は67万7000人にのぼった。このままでは今世紀最大の危機となるおそれがある」と危機感を強めています。中でもその半数が避難しているのがポーランドです。ウクライナと国境を接するポーランドでは、1日午後3時時点でウクライナから避難してきた人はおよそ41万人にのぼっています。ポーランドとの国境にある町メディカを取材すると、大勢の人たちがウクライナ側の検問所から歩いたり、用意されたバスに乗ったりしてポーランド側に逃れてきていました。ウクライナでは18歳から60歳の男性の出国が制限されていることから避難しているのは子どもを連れた女性や年配の人たちがほとんどで待ち受けていた人たちと再会し、涙を流す人の姿も見られました。
避難してきた人たちは?
ウクライナから避難してきた人たちからは、一刻も早く戦争が終わってほしいという声が聞かれました。
数日かけて娘とともに避難してきたという35歳の女性 / 「娘が7歳なのでどうしても逃げたくて、無事にたどり着くことができてよかったです」「多くの人が危険な状況です。こんなことが2022年に起きるべきではありません」
5歳と9歳の子どもとともに逃れた34歳の女性 / 「温かく迎え入れてくれたボランティアの方々に感謝しています。ここなら銃撃もなく、子どもが安心できます」「どうか戦争を止めて、家族と一緒に過ごせるようにしてください」
検問所で夫と別れたという女性 / 「夫は61歳になりますが、祖国を助けるために戻りました。私たちをポーランドに連れてきて、また戻ったのです。とにかく早く、この悲劇を終わらせてほしいです。私たちは何も悪いことはしていないはずです」
日本からはどんな支援ができる?
日本赤十字社は3月2日から5月末まで救援金を受け付けています。ICRC=赤十字国際委員会などは1日、「この先、何百万人もの人々が耐えがたい苦境に陥るだろうと懸念している。人々のニーズは刻一刻と増し命を救うために早急な対応が必要だ」とするコメントを発表しました。避難民などへの食料や水、シェルター、心理的サポートの提供のほか、医療施設への支援強化が必要だということで、あわせて2億5000万スイスフラン、日本円にして310億円余りの支援を国際社会に呼びかけています。
●ロシア軍 ウクライナ南部都市掌握と発表 交渉も強硬姿勢貫くか  3/2
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、2日、黒海に面した南部の都市ヘルソンを掌握したと発表しました。ロシアは、軍事的な圧力をさらに強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながる進展が図られるかは不透明です。
ロシアは、2日もウクライナ各地で軍事侵攻を続けていて、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、黒海に面した南部の都市ヘルソンを掌握したと発表しました。
また、1日、首都キエフのテレビ塔に行われた攻撃についてコナシェンコフ報道官は、ロシア軍がテレビ塔の機能を無力化したとしたうえで、住宅街には被害はなかったと主張しました。
一方、ロシアは、ウクライナと代表団による交渉も行っていて2月28日に続く2回目の交渉に向けて調整が進められています。
交渉をめぐってロシア側は、ウクライナの「中立化」や「非軍事化」を求めているのに対してウクライナ側は攻撃が行われている中では交渉することはできないと訴えています。
ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は2日、ロイター通信に対して「実質的な議題が必要だ」と述べ、まずは、双方が交渉に値する議題を設定することが必要だという認識を示しました。
ロシアは、各地で攻撃を激化させるなど軍事的な圧力を強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながる進展が図られるかは不透明です。
ハリコフ ミサイル攻撃を受け 21人死亡 112人けが
ロイター通信は2日、地元当局者の話として、ウクライナ第2の都市ハリコフで1日から中心部にある住宅街や行政府の建物がロシア軍によるミサイル攻撃を受け、これまでに少なくとも21人が死亡し112人がけがをしたと伝えました。
地元の当局者によりますと、2日もロシア軍による攻撃が続いていて、議会の建物にミサイルが撃ち込まれたほか、大学の建物にも大きな被害が出ているということです。
2日に撮影された映像では地元警察の建物が大きく崩れ、消防士が消火活動にあたっている様子が映されています。
専門家「首都キエフ包囲 政権に圧力をかけることねらい」
旧ソビエト海軍の元大佐でロシア軍の戦略に詳しいコンスタンチン・シブコフ氏は、NHKのインタビューに対し「ロシア軍はウクライナの奥深くまで、急速に進軍し、抵抗する都市を包囲している」と述べ、ロシア軍は、計画どおり各地で部隊を進めていると強調しました。
また、ロシア軍が首都キエフの周囲を包囲しようとしているとしたうえで、この作戦は、過去にロシア軍の支援を受けたシリアのアサド政権が反政府勢力の最大拠点としてきたシリアのアレッポを包囲した作戦が生かされていると分析しました。
そのうえで「ロシアがキエフを包囲しているのに奪取しないのは、意図的かつ計画的なことだ」と述べ、キエフ包囲は、ゼレンスキー政権に圧力をかけることがねらいだという見方を示しました。
一方、ロシア軍がキエフへの侵攻を本格的に始めていない理由として、アメリカ側が、ウクライナ軍の激しい抵抗を受けているからだと指摘していることについてシブコフ氏は、否定したうえであくまで勢いを失ったわけではないと強調しました。
また8年前、ロシアが一方的に併合した南部クリミアからロシア軍が、黒海やアゾフ海沿いの町へ進軍していると指摘したうえで、「黒海沿岸全域がロシア軍の支配下に置かれることになるだろう。そうなれば、ウクライナは完全に海から切り離されることになる」としてロシア軍がさらに戦況を優位に進めると分析しました。
ロイター通信は2日、地元当局者の話としてウクライナ第2の都市、ハリコフで1日から中心部にある住宅街や行政府の建物がロシア軍によるミサイル攻撃を受け、これまでに少なくとも21人が死亡し、112人がけがをしたと伝えました。
地元の当局者によりますと2日もロシア軍による攻撃が続いていて、議会の建物にミサイルが撃ち込まれたほか、大学の建物にも大きな被害が出ているということです。
2日に撮影された映像では地元警察の建物が大きく崩れ、消防士が消火活動にあたっている様子が映されています。
●「民間人2000人死亡」 ウクライナ当局 3/2
ウクライナ救急当局は2日、ロシア軍のウクライナ侵攻で「民間人2000人が死亡した」と発表した。
●ウクライナへの渡航 “外国人部隊参加など目的問わずやめて”  3/2
ロシアの軍事侵攻をめぐり、ウクライナのゼレンスキー大統領が外国人に部隊への参加を呼びかけているとする情報が先月末にSNS上に投稿されました。日本政府は退避勧告を出していることから、渡航しないよう強く呼びかけています。ロシアの軍事侵攻をめぐり、ウクライナのゼレンスキー大統領が外国人に部隊への参加を呼びかけているとする情報が先月27日にSNS上に投稿されました。在日ウクライナ大使館によりますと、投稿のあと、およそ70人の日本人から部隊に参加したいという意向が寄せられているということです。
官房長官「認知した場合は個別に注意喚起」
松野官房長官は午後の記者会見で「外務省でウクライナ全土に退避勧告を発しており、目的のいかんを問わず渡航をやめてもらいたい。退避勧告を発出している地域に渡航しようとしている人を認知した場合には個別に注意喚起を行う」と述べました。また記者団が「実際に渡航しようとした場合、何らかの法令による摘発などは想定しているか」と質問したのに対し「仮定の質問には答えを控えたいが、各種の法令により検挙するか否かは個別の事案に応じて捜査機関が法と証拠に基づき判断することになる」と述べました。
外務省「渡航やめていただきたい」
外務省の小野 外務報道官は記者会見で「外務省としてはウクライナ全土に退避勧告を出しているので、その目的のいかんを問わず渡航をやめていただきたい。ウクライナ側と具体的にどのようなやり取りをしているかは外交上のことなので差し控えるが、この件ではしかるべき申し入れを行っている」と述べました。
自民党の会合では
一方、自民党の会合では佐藤外交部会長が「退避勧告が出されており、部隊への参加は絶対やめてもらいたい」と述べたのに対し、出席者の一部からは「望む人がいるなら行ってもらえばよく、とめるべきではない」という意見も出されたということです。
●北京パラリンピック ウクライナへの軍事侵攻に海外選手は  3/2
北京パラリンピックの開幕を前にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いていることについて、アルペンスキーの公式練習に参加した海外のトップ選手たちは複雑な心境を明かしました。
男子の座って滑るクラスでピョンチャン大会のスーパー複合で金メダルを獲得しているオランダのイェロン・カンプシュアー選手は2日の滑降の公式練習のあとNHKのインタビューに対し「難しい問題だ。ロシアの選手たちは厳しい練習をしてきたから、もし今回のパラリンピックに参加できないとなったら、本当に残念なことだ。だが、今起きていることは本当にひどい。ロシアの国がやっていることと選手とはまったく次元が違う事柄だが、だからといってロシアがやっていることを容認するつもりはない」とことばを選びながら話しました。
同じ男子の座って滑るクラスで、ピョンチャン大会の大回転で金メダルを獲得したノルウェーのイェスペル・ペデルセン選手は「ロシアとウクライナの問題は厳しい状況下にあり、早急に解決することを祈るばかりだ。みんな戦争は嫌なのだから、協力して立ち上がらなければならない」と話しました。
また、女子の座って滑るクラスで、ピョンチャン大会で2つの金メダルを獲得したドイツのアンナレーナ・フォルスター選手は「目の前の目標に集中しようとしているが、心を痛めている。本当に難しい問題だ」と話していました。
●ウクライナ情勢緊迫化で国内にも影響  3/2
ウクライナ情勢の緊迫化を受けて、日本国内でもさまざまな影響が広がっています。
大阪のお好み焼き店 原材料の高騰を懸念
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、世界有数の小麦の輸出国であるウクライナやロシアからの供給が滞ることへの警戒感から先物市場では小麦の価格が急騰し、大阪のお好み焼き店では懸念する声が上がっています。日本は、アメリカやオーストラリアなどから小麦を輸入していますが、高温による北米での生産量の減少や輸送費の上昇で、これまでも値上がり傾向が続いていたため、さらなる価格の高騰を懸念する声が出てきています。このうち、大阪・天王寺区にあるお好み焼き店では、国産や外国産の小麦粉を多い日で1日およそ6キロを使っています。このお好み焼き店の運営会社では全国に80の店舗を展開していますが、このところ小麦粉や油など原材料の価格が値上がりしていたことを受けて、春以降、価格やメニューの見直しを検討することにしていました。ただ、今後、小麦粉の取引価格がさらに上昇すると、一度、値上げをしても、コストを吸収しきれず経営が圧迫されるおそれがあると考えています。大阪のお好み焼きチェーン「鶴橋風月」の運営会社の五影亮介さんは「足もとでは、小麦粉などの主要品目の価格が10%から20%も上がる状況で、今後も見通せず、リスクをどこまで考えたらいいのか、懸念している。お客様に納得、満足してもらえるような商品の内容、価格を考えていきたい」と話しています。
滋賀県の花の農家は
ウクライナ情勢の緊迫化で原油価格のさらなる高騰が懸念され、滋賀県の農家ではハウス栽培で使う燃料代の価格高騰を心配する声が上がっています。国の委託を受けてガソリン価格を調査している石油情報センターによりますと、近畿地方の農業用の重油はことし1月、すでに8年ぶりの高値になっていましたが、ウクライナ情勢の緊迫化で原油の先物価格が大幅に上昇していて、今後、価格のさらなる高騰が懸念されています。滋賀県東近江市でコチョウランを栽培している農家では、農業用ハウスの室温を18度以上に保つために暖房機を使っていますが、燃料の重油の価格は去年の同じ時期の1.5倍近くに値上がりしているということです。さらに、配送業者からもガソリン価格の高騰による値上げを通達されているほか、出荷で使う段ボールなどの資材も1割ほど値上がりしていて、経営に影響が出ているということです。農家の川口正さんは「ロシアのウクライナ侵攻で原油価格がもう1段階、上がる状況になってしまい、資材も含めてさらに価格が上がると経営が厳しくなります。コスト削減を工夫してなんとか耐えていきたい」と話していました。
北海道の酪農家は
世界有数の穀物輸出国であるウクライナが侵攻されたことを受け、北海道東部の標茶町の酪農家からは牛のエサとなるトウモロコシのさらなる値上がりを懸念する声が上がっています。酪農が盛んな標茶町ではおよそ5万頭の乳牛が飼育され、去年1年間の生乳の生産量はおよそ17万7000トンに上ります。農協によりますと、牛のエサとなるトウモロコシなどの飼料はほとんどを輸入に頼っていて、世界有数のトウモロコシの輸出国であるウクライナからの供給が滞ると国際価格がさらに高騰する懸念があるということです。農協の組合長を務める鈴木重充さんの牧場では1日におよそ2トンのエサを与えていて、月々のエサ代はおよそ400万円かかります。飼料用穀物の次の購入時期は来月で、国際価格がさらに上がると、牧場の経営に影響が出かねないと心配しています。地元の農家の間には輸入だけに頼らず、トウモロコシを一部自給する動きも出ていますが、費用がかかるため、進んでいないということです。鈴木さんは「これ以上、飼料の値上がりが続けばかなり厳しいです。生乳の生産抑制もある中で、二重にも三重にも厳しい。状況が収まってくれることを願っています」と話していました。
●ウクライナ情勢重荷、戻り売りも 3/2
2日の東京株式市場で日経平均株価は反落か。前日までの3営業日で800円超上げていたため、主力銘柄には戻り売りが先行しそうだ。ロシアによるウクライナへの攻撃が激しさを増している。情勢の悪化が重荷となり、1日の米国の株式相場が下げたのも響く。日経平均先物は夜間取引で2日未明に2万6300円台まで下げる場面があった。
1日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前日に比べ597ドル(1.8%)安の3万3294ドルで終えた。ウクライナ情勢の悪化を受け、世界経済への悪影響を懸念する売りが広がった。相対的に安全な資産とされる米国債に資金が流入し、米長期金利は一時1.68%まで低下。利ざや縮小の思惑から金融株の下げが目立った。ハイテク株を中心とするナスダック総合株価指数は反落し、1.6%安だった。
1日早朝の大阪取引所の夜間取引で日経平均先物は下落し、3月物は前日の清算値と比べ460円安い2万6420円で終えた。
米国市場と同様の展開になれば、東京市場でも金融株を中心に売りが広がるだろう。1日の日経平均は2万7000円に乗せた後は伸び悩んだ。25日移動平均は2万7026円(1日時点)で、2日の東京市場でも戻り売りによる上値の重さが意識されそうだ。
一方、INPEXなど原油関連には買いが入りやすい展開か。1日のニューヨーク先物市場でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油の期近物が1バレル106ドル台と、2014年6月以来の高値を付ける場面があった。ロシアによる原油や天然ガスの供給が滞るとの観測から、原油先物相場への上昇圧力が一段と強まっている。石油関連事業の収益改善の思惑は、関連銘柄の支えとなる。
東証1部に顧客対応業務を受託するビーウィズ(9216)が上場する。財務省は2021年10〜12月期の法人企業統計を発表する。米国では、2月のオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)全米雇用リポートが発表になる。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は米下院金融サービス委員会での証言に臨む。
●ドイツ株1日 続落 ウクライナ情勢の緊張で 3/2
1日のフランクフルト株式市場でドイツ株価指数(DAX)は続落し、前日比556.17ポイント(3.85%)安の1万3904.85と約1年ぶりの安値で終えた。ロシアがウクライナへの攻撃を強めており、情勢の一段の緊迫化が投資家心理を冷やした。欧米を中心としたロシアへの厳しい経済制裁で、ロシア経済の混乱がドイツなど欧州経済に悪影響をもたらすと懸念した売りも出た。
欧州主要600社の株価指数であるストックス600は前日比2.37%安だった。
●米国株、ダウ続落し597ドル安 ウクライナ情勢悪化でリスク回避 3/2
1日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前日比597ドル65セント(1.8%)安の3万3294ドル95セントで終えた。ウクライナ情勢の悪化が世界経済を冷やしかねないとの懸念が高まった。欧米の経済・金融制裁でロシアが信用危機に陥る可能性も意識され、投資家が運用リスクを回避する目的で株式から債券に資金を移す動きが広がった。
ロシアが侵攻するウクライナの首都キエフや第2の都市ハリコフで両軍の攻防が激化している。ロシア軍の攻撃が一般市民に対しても無差別に広がっているとも伝わった。ロシア軍の長蛇の車列がキエフに接近しているとの報道もあり、ウクライナ情勢の一段の悪化が警戒された。
資源国ロシアからのエネルギー供給が滞るとの見方から、米原油先物相場は一時1バレル106ドル台と7年8カ月ぶりの高値を付けた。インフレ圧力の高まりによる購買力の低下などで、「世界経済の成長率の鈍化につながる」(ミラー・タバックのマシュー・マリー氏)と懸念された。
相対的に安全資産とされる米国債は買われ、米長期金利は一時1.68%と前日比0.14%低下した。利ざや縮小の思惑からJPモルガン・チェースは4%安、ゴールドマン・サックスは3%安となった。バンク・オブ・アメリカなど他の金融株も総じて下落した。自社の決済網からロシアの複数の銀行を排除する方針を明らかにしたクレジットカードのビザが下落し、同業のアメリカン・エキスプレスも大幅安となった。航空機のボーイングや機械のハネウェル・インターナショナルなど景気敏感株の下げも目立った。
ハイテク比率が高いナスダック総合株価指数は4営業日ぶりに反落し、前日比218.940ポイント(1.6%)安の1万3532.459で終えた。交流サイトのメタプラットフォームズ(旧フェイスブック)など主力ハイテク株が下落した。供給網の混乱の観測から、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)やエヌビディアなど半導体株が全般に下げた。
●NY株ハイライト 想定外のウクライナ情勢、「まさか」の現実化続き下げ拡大 3/2
1日のダウ工業株30種平均は続落し、前日比597ドル安の3万3294ドルで終えた。下げ幅は一時784ドルに拡大した。ロシアのウクライナ侵攻がエスカレートし、リスク回避の株売り・債券買いが強まった。ロシアの軍事行動と欧米の対ロシア制裁は市場の想定を超えたため、再び相場下落の勢いが増した。
前週末は、ウクライナとロシアの停戦交渉への期待から米株式相場は持ち直していた。ところが、欧米は進軍を止めないロシアへの制裁を強化し、2月26日にロシアの銀行を国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出すと決めた。ロシア中央銀行と米金融機関などとのドル取引禁止という追加措置も科したが、ロシア軍はウクライナの首都キエフに迫るなど進撃が収まる兆しは見えない。
「ロシアのプーチン大統領の強権は全くの想定外で、紛争の長期化という最悪のシナリオを織り込む売りだ」。ミラー・タバックのマシュー・マリー氏は1日の相場下落をそう解説する。欧米との外交交渉によって「ロシアはまさか攻撃を続けないだろうとみていたが、そうではなかった」(キングスビュー・インベストメント・マネジメントのポール・ノールト氏)。「まさか、欧米が自らも返り血を浴びかねないSWIFT制裁はしないとみていたが、そうではなかった」(大和キャピタル・マーケッツアメリカのシュナイダー恵子氏)。市場関係者の「まさか」の予想が裏切られ、一段の売りが出たわけだ。
1日はクレジットカードのマスターカードとビザが自社の決済網から複数のロシア企業を排除すると決め、アップルはロシアでの製品販売を停止するなど、米企業活動への影響が出始めた。米国債買いによる長期金利の急低下で利ざや縮小の観測が強まったことで銀行株が売られ、主要銀行で構成するKBW銀行株指数は6%下げた。素材や部品など供給網の混乱も意識され、ゼネラル・モーターズ(GM)など自動車株が大幅安、ロシアやウクライナからの素材供給が大きい半導体株も軒並み大幅に下落した。
欧米の対ロシア制裁はさらに広がるのか。エネルギー禁輸については「バイデン米大統領は秋の中間選挙前で支持率の一段の低下を避けたいため、物価上昇につながるエネルギー禁輸はまさかしないだろう」(ミラー・タバックのマリー氏)との指摘がある。だが、「まさか」が再び裏切られる可能性は排除できない。
市場では「最近の相場下落に伴いPER(株価収益率)は低下し、半年後の景気見通しに基づいて値ごろ感のある銘柄を物色すべき時だ」(UBSのソリータ・マーセリ氏)と強気な声も聞かれる。ただ、1日は「あすは何が起きるかわからないため、今は相場が下げ止まるのを待っている状況だ」(大和のシュナイダー氏)との慎重な姿勢が目立っていた。当面、変動性が高まる相場は続きそうだ。
●今日の株式見通し=反落、ウクライナ情勢を警戒 売り一巡後は様子見 3/2
きょうの東京株式市場で日経平均株価は反落が予想される。ウクライナ情勢が一段と緊迫する中、前日の米国株式市場の軟調な値動きもあり、幅広い業種で売りが先行するとみられている。きょうは米国でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言を控えているため、売り一巡後は様子見ムードが強まりやすいという。
日経平均の予想レンジは2万6300円─2万6700円。
1日の米国株式市場は大幅に下落した。ロシア軍が都市部に砲撃を強めるなどウクライナ危機を巡る不安が高まった。米10年債利回りが低下する中、銀行株指数は大幅安。一方、原油価格の急伸を受け、エネルギー株は上昇した。
市場ではウクライナでの紛争の長期化が警戒されており、日本株は前日までの上昇分を帳消する展開となりそうだ。シカゴの日経平均先物3月限(円建て)清算値は2万6425円と前日の現物終値(2万6844円72銭=1日)を大幅に下回っている。
「ウクライナ情勢の長期化で景気への影響拡大が懸念されている。米金融引き締めへの議論に変化がある可能性があり、パウエルFRB議長の証言が注目されている」(運用会社)との声が聞かれた。議会証言を控え、午後は様子見ムードが強まりやすいという。
主なスケジュールは、米国で2月全米雇用報告(ADP) の公表のほか、下院金融委員会でのパウエル米FRB議長の証言が予定されている。国内ではビーウィズが東証1部に新規上場する。
●日経平均反落、下げ幅一時400円 ウクライナ情勢響く 3/2
2日前場寄り付きの東京株式市場で日経平均株価は反落し、前日に比べ370円ほど安い2万6400円台後半で推移している。一時は下げ幅が400円に達した。ロシアによるウクライナへの攻撃が激しさを増すなか、世界経済への悪影響を警戒した売りで前日の米株式相場が下落し、日本株にも売りが先行している。
投資家のリスク回避姿勢が強まるなかで株から債券へ資金を移す動きもみられ、前日の米市場では米長期金利が低下し、利ざや悪化の思惑から銀行など金融株に売りが広がった。東京市場でも保険や銀行の下げが目立っている。
JPX日経インデックス400と東証株価指数(TOPIX)は下落している。
T&Dや三菱UFJが下落している。ファナック、東エレク、ダイキン、ファストリも安い。一方、ソフトバンクグループ(SBG)、ネクソン、エムスリーが高い。
●円相場 対ユーロ1円以上値上がり ウクライナ情勢緊迫化受け 3/2
2日の東京外国為替市場は、一段と緊迫化するウクライナ情勢を受けてユーロを売って比較的安全な通貨とされる円やドルを買う動きが出ました。円相場はユーロに対して1円以上値上がりしました。
午後5時時点の円相場は、ドルに対しては1日と比べて、12銭円安ドル高の1ドル=115円15銭から16銭でした。
一方、ユーロに対しては、1日と比べて1円43銭円高ユーロ安の1ユーロ=127円74銭から78銭でした。ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.1093から94ドルでした。
市場関係者は「ロシアの軍事侵攻が激しさを増し、混迷を深める中、地理的に近く、ロシアからの天然ガスへの依存度も高いヨーロッパの主要通貨であるユーロが売られる展開となった。2日からアメリカのFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長が議会で証言を行う予定で、発言内容に関心が集まっている」と話しています。
●東証、午前終値2万6341円 ウクライナ情勢深刻化で大幅反落 3/2
2日午前の東京株式市場の日経平均株価(225種)は大幅反落し、下げ幅は500円を超えた。ウクライナ情勢の深刻化とロシアに対する各国の経済制裁強化などが悪材料となり、前日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均が大幅下落。東京市場でも売り注文が膨らんだ。
午前終値は前日終値比502円77銭安の2万6341円95銭。東証株価指数(TOPIX)は33.70ポイント安の1863.47。
ロシアによるウクライナへの攻撃は激化しており、停戦交渉は継続する方針だが難航するとの見方が強い。米アップルは侵攻を受けた措置としてロシアでの製品販売の停止を発表した。
●株価 大きく値下がり ウクライナ情勢や原油価格高騰など懸念  3/2
2日の東京株式市場は、ウクライナ情勢の緊迫化や原油価格の高騰などへの懸念が広がり、株価は大きく値下がりしました。
日経平均株価、2日の終値は1日より451円69銭安い2万6393円3銭。東証株価指数=トピックスは37.23下がって1859.94。1日の出来高は14億2553万株でした。
市場関係者は「ロシアのウクライナへの軍事侵攻が激しさを増している。原油などの資源エネルギー価格が高騰して、世界的なインフレへの懸念が強まったことで売り注文が膨らんだ」と話しています。
●東京市場 原油先物価格 3.8%余値上がり ウクライナ情勢緊迫化  3/2
ウクライナ情勢の緊迫化を受けて産油国ロシアからの原油の供給が滞ることへの懸念が広がり、東京市場の原油の先物価格は1日と比べて3.8%余り値上がりしています。
2日の東京原油市場ではウクライナ情勢の緊迫化で世界有数の産油国ロシアからの原油の供給が滞ることへの懸念が広がりました。
取り引きの中心となる原油の先物価格は午前中に一時、1キロリットル当たり6万5000円をつけ、1日と比べて2000円以上、率にして3.8%余り値上がりしています。
ニューヨークの原油市場でも1日、国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=109ドル台をつけるなど大幅に上昇しています。
市場関係者は「ロシアに対する経済制裁が強化されたことで、ロシアからの原油の供給が停滞する懸念が高まっている。IEA=国際エネルギー機関が臨時の閣僚会合で石油備蓄を放出することに合意したが、効果は限定的との見方が多い」と話しています。
●ウクライナ情勢受けガソリン価格8週連続値上げで172円80銭に 3/2
資源エネルギー庁の発表によると、2月28日時点のレギュラーガソリン全国平均小売り価格は、先週に比べ80銭高い、1リットルあたり172円80銭だった。値上げは8週連続。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて原油価格は高騰していて、経済産業省は今週のガソリン価格は178円20銭と予測していたが、補助金の投入により5円40銭分値上げが抑制されたとしている。
補助金は3週間前から上限の5円に達し価格上昇抑制効果は限界を迎えており、値上げ幅は補助金投入後、最も大きくなった。
来週はさらに2円50銭値上がりすると予測されている。
岸田首相は国民生活への影響を最小限に抑えるため、補助金の上限を上げるなど大幅に拡充した価格抑制策を今週中に発表するとしている。
●灯油1900円台に ロシアのウクライナ軍事侵攻で原油高騰 3/2
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けた原油価格の高騰で、県内の2月28日時点の灯油の店頭価格は18リットルあたり1904円と、およそ7年半ぶりに1900円台となりました。
国の委託を受けてガソリン価格を調査している石油情報センターによりますと、28日時点の県内のレギュラーガソリンの小売価格は、平均で1リットルあたり169.7円と、前の週から0.3円値上がりし、3週連続の値上がりとなりました。
ハイオクガソリンも平均で1リットルあたり180.6円と、3週連続で値上がりしました。
また、灯油の店頭価格は平均で18リットルあたり1904円と、前の週に比べ5円値上がりし、2014年8月以来およそ7年半ぶりに1900円台となりました。
政府は、すでに石油の元売り会社に補助金を出す対策を実施していますが、今週中にもガソリンや灯油の価格の上昇を抑える追加対策を発表する方針です。
石油情報センターは「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、原油価格は上昇しており、来週も値上がりが見込まれる」と話しています。
●ガソリン小売価格高値水準 ウクライナ情勢で来週も値上がりか 3/2
今週のレギュラーガソリンの小売価格は、大阪府内の平均で1リットルあたり173.3円となり、2008年9月以来の高値水準となっています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって、原油の先物価格は一段と上昇していて、来週以降、ガソリンの価格もさらに値上がりする見通しです。
国の委託を受けてガソリン価格を調査している石油情報センターによりますと、2月28日時点のレギュラーガソリンの小売価格は、大阪府内の平均で1リットルあたり173.3円と、先週から1.3円値上がりしました。
これは、2008年9月以来の高値水準です。
大阪以外の府県では、滋賀が172.2円(+0.2円)、和歌山が171.6円(+0.9円)、奈良が170.7円(+0.8円)とそれぞれ値上がりしました。
一方、京都は176円(−0.1円)、兵庫は169.2円(−0.1円)となり、それぞれわずかに値下がりしました。
こうした中、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で、産油国のロシアから原油の供給が滞るという見方から、原油の先物価格は一段と値上がりしています。
政府は、石油の元売り会社に補助金を出す異例の政策を行っていますが、こうした事態を受けて、補助金の上限を大幅に引き上げる追加対策を今週中にも発表する方針です。
石油情報センターは、「来週も値上がりとなる見通しで、それ以降はウクライナ情勢しだいだ」と話しています。

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 3/3
ロシアとウクライナ きょうにも交渉か
ロシアとウクライナは先月28日に続いて停戦に向けた2回目の交渉の実施を調整してきました。これについてロシアの代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官はウクライナ側との交渉が3日にベラルーシ西部のポーランドとの国境付近で行われると明らかにしました。一方、ウクライナ大統領府の高官も2回目の交渉がまもなく行われるという見通しを示しています。ただロシア側は停戦の条件としてウクライナの「中立化」や「非軍事化」を要求していて、ウクライナ側の立場とは隔たりがあります。ロシアは各地で攻撃を激化させるなど軍事的な圧力を強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながるかは依然、見通せない情勢です。
アメリカ ブリンケン国務長官 ロシア側の交渉姿勢に否定的な見方
3日にも行われる見通しのロシアとウクライナの停戦に向けた2回目の交渉について、アメリカのブリンケン国務長官は2日の記者会見で「問題は、ウクライナが自国の利益を保護し、戦争を終わらせるのに役立つと考えるかどうかであり、われわれは支援の用意がある」と述べました。そのうえで、ロシア側が停戦の条件としてウクライナの「中立化」や「非軍事化」を要求していることを踏まえ、「ロシアの要求は度を越しており、交渉の対象にもならない。われわれはロシアが見せかけの外交を行ってきたことを繰り返し見てきた」と述べ、ロシア側の交渉姿勢に否定的な見方を示しました。
アメリカ ロシアとベラルーシに対する経済制裁を発表
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐりアメリカのホワイトハウスは2日、ロシアとベラルーシに対する経済制裁を発表しました。ロシアで軍用機や軍用車両、ミサイルなどを製造している合わせて22の軍事企業を対象にしたほか、石油や天然ガスの生産に使う設備のロシアへの輸出を規制し、主要産業に打撃を与えるとしています。またロシア軍の侵攻拠点の1つベラルーシに対しては、ハイテク製品の輸出規制を実施し、こうした製品や技術がベラルーシを経由してロシアに流出するのを防ぐとしています。
松野官房長官 日本受け入れ 人道的観点で対応も
ウクライナから避難した人の日本への受け入れについて、松野官房長官は記者会見で、日本の在留資格を持つおよそ1900人のウクライナ人の親族や知人を想定していると明らかにしたうえで、そのほかの人も人道的観点から対応する考えを示しました。また、松野官房長官は、記者会見で「1日の時点で確認されている在留邦人はおよそ110人であり、現時点までに邦人の生命・身体に被害が及んだとの情報には接していない。松田大使ら大使館員は陸路を使い、一時的にウクライナを出国しモルドバに到着しているが、松田大使は近く、リビウの連絡事務所に戻る予定だ」と説明しました。
アメリカ国防総省 ICBMの発射実験延期を発表
ロシアのプーチン大統領が核戦力を念頭に抑止力を特別警戒態勢に引き上げるよう命じたのを受け、アメリカ国防総省は2日、今週予定していたICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験を延期すると発表しました。国防総省のカービー報道官は記者会見で「アメリカとロシアは核兵器の使用が壊滅的な結果をもたらすと長い間、合意してきた。アメリカとして誤解を招くような行動をする意図がないことを示す」と述べ、ロシアとの間で緊張を高めないよう冷静に対応する考えを示しました。一方で「われわれは自国や同盟国などを守る能力は損なわれず、準備ができていることに変わりはない」と述べて、発射実験の延期の影響はないと強調しました。
アメリカ国防総省 首都キエフ侵攻のロシア軍 依然停滞の認識
アメリカ国防総省のカービー報道官は2日、記者会見で、ウクライナの首都キエフに向けて南下しているロシア軍の部隊について、「依然として動きは停滞している」と述べ、この一日で大きな進展は見られなかったとの認識を示しました。理由についてカービー報道官は、ロシア軍がウクライナ側からの抵抗に加えて燃料などの物資の不足に直面していると指摘する一方、侵攻の遅れを取り戻すため部隊の再編成を行っている可能性があるとの認識を重ねて示しました。一方で、「ロシア軍は燃料だけでなく、食料の補給にも問題が出るなど複数の過ちを犯してきたが、今は克服しようと取り組んでいる」と述べて、ロシア軍は態勢が整いしだい、キエフへの攻勢を強めるという見方を示しました。またカービー報道官は、ロシア軍は人口の多い主要な都市はいずれも奪えていないとの認識を示しました。このうちロシア国防省が完全に掌握したと発表している南部の都市ヘルソンについては「激しい戦いがまだ続いていると見ている」としたうえで、南部の戦闘の状況について「北部と比べてウクライナ軍の抵抗が少ないようだ」と指摘しました。
アメリカ ブリンケン国務長官 ヨーロッパ訪問へ
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、アメリカ国務省は2日、ブリンケン国務長官が3日から8日までの日程で、ヨーロッパなどを訪問すると発表しました。ブリンケン長官は、ベルギーの首都ブリュッセルでNATO=北大西洋条約機構やG7=主要7か国の外相会合などに出席し、ロシアへの追加の経済制裁を含む今後の対応について意見を交わすとしています。5日には、ウクライナの隣国ポーランドでラウ外相と会談し、安全保障面での支援やウクライナから避難してきた人たちへの人道支援などをめぐって協議するということです。その後、同じくウクライナの隣国、旧ソビエトのモルドバでサンドゥ大統領などと会談し、避難民の受け入れなどについて意見を交わすとしています。さらにブリンケン長官はロシアの軍事侵攻に対し懸念を強めるバルト3国のリトアニアとラトビア、エストニアを訪問し、NATOの抑止力の強化やウクライナへの支援などをめぐって協議する予定です。
国際刑事裁判所 戦争犯罪や人道に対する罪について捜査始める
オランダのハーグにある国際刑事裁判所は2日、ウクライナで行われた疑いのある戦争犯罪や人道に対する罪について、捜査を始めると発表しました。国際刑事裁判所のカーン主任検察官の声明によりますと、フランスやドイツ、イギリスなど裁判所の39の加盟国からウクライナでの状況について捜査するよう要請があり、ウクライナも加盟国ではないもののすでに捜査に同意しているとしています。捜査の対象となるのは、2014年にロシアが一方的にウクライナのクリミア半島を併合した前後の時期から今回の軍事侵攻までの期間で、カーン主任検察官は先に発表した声明の中で「予備的な調査の結果、ウクライナで戦争犯罪や人道に対する罪が行われたと考える合理的な根拠がある」としていました。
仏マクロン大統領 停戦に向けた仲介続ける考え
フランスのマクロン大統領は2日夜、テレビ演説を行い、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、改めてプーチン大統領を非難したうえで「プーチン大統領に武器を捨てるよう説得するため連絡を取り続ける」と述べ、停戦に向けた仲介のためプーチン大統領との連絡を続ける考えを示しました。また「ヨーロッパは平和のために代償を支払うことを受け入れなければならない」と述べ、ヨーロッパ各国がロシアからの天然ガスへの依存度を下げエネルギー自給率を上げていくべきだという考えを示しました。そのうえでマクロン大統領は、今回の事態を受け浮き彫りになったヨーロッパのエネルギー面での課題や安全保障の在り方をめぐり、今月10日からパリ近郊で開かれるEU=ヨーロッパ連合の非公式の首脳会議で議論する考えを示しました。
バイデン大統領 国連総会決議棄権の中国とインドを批判
アメリカのバイデン大統領は2日、国連総会の緊急特別会合でロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されたことについて中西部ウィスコンシン州で行った演説の中で、「141か国がロシアを非難した。いくつかの国は棄権した。中国は棄権した。インドも棄権した。彼らは孤立している」と述べ棄権した35か国のうち中国とインドを名指しで批判しました。そのうえで「彼らはNATO=北大西洋条約機構やヨーロッパ、そしてアメリカを分断することができると考えているのだろう。そんなことは誰にもできないと世界全体に示そう」と訴えました。
プーチン大統領 インド モディ首相と電話会談
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は2日、関係強化を進めるインドのモディ首相と電話会談を行いました。ロシアとインドは伝統的な友好国で、軍事的な結び付きも強いことから先月25日に国連安全保障理事会でロシア軍の即時撤退などを求める決議案が採決にかけられた時にはインドは棄権し、ロシアに対する制裁にも慎重な姿勢を示しています。ロシア大統領府によりますと、会談ではウクライナ東部のハリコフで退避できずにいるインド人の留学生たちをロシアを経由して退避させる方策について話し合ったということです。ハリコフで1日、現地の大学に通っていたインド人の医学生が戦闘に巻き込まれて死亡し、インド国内でロシアの軍事侵攻への批判の声が強まることも予想されていたことから、プーチン大統領としては、インドへの配慮を示すことで良好な関係を維持するねらいがあるものとみられます。
ロシア報道官 “ロシア軍兵士498人死亡”と発表
ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は2日、これまでの軍事作戦でロシア軍の兵士498人が死亡し、1597人が負傷したと発表しました。今回の戦闘でロシア側が自国の兵士の具体的な被害状況を明らかにしたのは初めてです。一方、コナシェンコフ報道官はロシア軍による攻撃でこれまでに2870人以上のウクライナ軍の兵士を殺害したほか、ウクライナ国内の1533の軍事施設などを破壊したとしています。
ウクライナ東部ドネツク州 住宅などに大きな被害
ロイター通信は2日、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派が事実上支配している地域で、双方の戦闘で住宅などに大きな被害が出ていると伝えました。現地の映像では、砲撃で激しく壊れたアパートで地元の人たちが部屋の中に散乱するがれきを撤去する作業などに追われていました。地元に住む男性は「私のことばが責任ある人たちに届くのなら自分の親や子どもが戦火にさらされることがどれだけつらいものか分かってほしいです」と涙ぐみながら話していました。
キエフでは多くの市民が地下での避難生活続ける
首都キエフでは、多くの市民が安全を確保しようと地下での避難生活を続けています。2日の現地からの映像ではシェルターとなっている地下鉄の駅構内に多くの人が集まり、毛布にくるまったり、家族で肩を寄せ合ったりしながら不安な様子で過ごしていました。市内に住む女性は「地下には子どももたくさんいてひどい状況です。暴力と残酷な行為が早く終わることを願っています」と話していました。またウクライナ軍の兵士として戦う婚約者がいるという女性は「21世紀にこんなことが起きるなんて誰も想像できませんでした。彼としばらく連絡が取れない時はとても不安ですが、正しいことをしている彼を誇りに思います」と話していました。
国連総会の緊急特別会合 ロシア非難決議 賛成多数で採択
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって開かれていた国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されました。決議案には、欧米や日本など合わせて141か国が賛成し、ウクライナ情勢をめぐるロシアの国際的な孤立がいっそう際立つ形となりました。採決は日本時間の3日午前2時前に行われ、賛成が欧米や日本など合わせて141か国、反対がロシアのほかベラルーシや北朝鮮など合わせて5か国で、3分の2以上の賛成を得て採択されました。中国やインドなどあわせて35か国は棄権しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「ロシア軍兵士 約6000人死亡」
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、新たな声明を発表し「ロシアによる軍事侵攻が始まってから6日間で、およそ6000人のロシア軍の兵士が死亡した」と明らかにしました。そのうえで「ロシアはその代償に何を得たというのか。ロケットや爆弾、戦車、いかなる攻撃もウクライナを奪うことはできない」と述べました。また1日に首都キエフの中心部にあるテレビ塔がロシア軍の攻撃を受けたことについて、現場付近は第2次世界大戦中、ナチス・ドイツによって殺害されたユダヤ人を追悼する場所だとしたうえで「ロシア軍は私たちの歴史について何も知らない。ホロコーストの犠牲者を再び殺したのだ」と述べ、非難しました。
●プーチンの誤算とディスインフォメーションの限界 3/3
2022年2月24日、ついにロシアのウクライナ侵略が始まった。ロシア軍とウクライナ軍の戦闘は、当初、戦力が圧倒的に勝るロシア軍が短期間のうちに首都キエフを陥落させるのではないかと見られていたが、予想以上に強いウクライナ軍の抵抗に遭い、ロシアの電撃作戦は難航した。
28日には、ロシアとウクライナとの間での停戦交渉が持たれたが、両者の隔たりは大きく、交渉の継続は合意されたものの、その行方は険しいと言わざるをえない。その一方で、ロシアのキエフへの総攻撃が迫っているとの見方を米国の軍事筋は伝えており、極めて緊迫した事態が続いている。
ロシアは、今回のウクライナへの侵攻に際してもサイバー攻撃や情報戦などを組み合わせたハイブリッド戦で臨み、ディスインフォメーション(偽情報)を流すなど、ディスインフォメーション・キャンペーンを展開してきているが、ロシアが得意なはずのディスインフォメーション・キャンペーンが壁にぶつかり、プーチン大統領の大きな誤算と失敗が垣間見えてきている。その背景を詳しく見ていこう。
ディスインフォメーション・キャンペーンが直面した限界
ロシアは、ウクライナへの全面武力侵攻の前段階から、14年に展開した情報戦で活用したテーマを再び用いて、ディスインフォメーションを流布させ、ウクライナ国民の分断を狙っていた。
ロシア政府は、14年のウクライナへの侵攻の際、主に次の3つのテーマに関して積極的な情報発信を行なっていた。(1)クリミアの土地は歴史的にロシアの一部であること、(2)ウクライナ新政府に対する人々の信用を失墜させること、(3)ロシアはクリミアにおける出来事に関与しておらず、ウクライナ内部での内乱であり、クリミアの人々がロシアへの編入を求めている、といったメッセージだった。
そしてロシア政府は、メディアなどを駆使しつつ、自らの軍事的関与を否定しながら、14年政変の黒幕は西側諸国、特に米国であること、またウクライナにはネオナチが蔓延しており、ウクライナ人がナチズムやファシズムを支持しているというシナリオを広めていったのだった。ウクライナで親露政権を打ち倒した勢力を否定的に描写し、ウクライナに対する内外の信用を失わせ、ロシアの軍事介入の正当性をアピールする狙いがあったと考えられる。こうした14年のロシアのディスインフォメーション・キャンペーンは一定の「成果」を収めたとみられている。
今回のウクライナ侵略においても、ロシアは同様のディスインフォメーション・キャンペーンの展開を試みてきている。プーチン大統領は、21年7月に論文を発表し、ロシアとウクライナは「一つの民族だ」と強調し、その後も「一つの民族」のメッセージを繰り返してきた。ウクライナの現政権とナチズムを結びつけるシナリオも展開し、ウクライナ東部でロシアに希望を持つ100万人へのジェノサイドを止めなければならない、とプーチン大統領は強調している。
また、ウクライナへの侵攻の数カ月前から、国内の世論固めを目的とし、ロシアの政府系メディアを通じて、海外世論、特に西側諸国の世論をロシアに都合の良いように歪曲し、それを国民に伝えるという工作も行なってきていた。
このようなロシアのディスインフォメーションは、当初、現地住民のみならず、国際社会をも混乱させているように見えた。しかし、ロシアの軍事侵攻が開始されると、ロシア兵がロシアの主張する「兄弟国」に進軍し、ミサイルがウクライナの都市に向けて発射される状況が世界中に生中継され、ウクライナの人々が地下壕に隠れ、あるいは長い車の列を作って国外に逃げる様子が次々に映し出された。
日に日に悪化するウクライナの悲惨な現実の姿がテレビの映像やSNSで拡散されると、いかにロシアがさまざまなディスインフォメーションを発信しようとしても、その効果はなく、現実の行為に圧倒される形でロシアの目論見、ディスインフォメーション・キャンペーンは完全な失敗に終わったといえよう。
ウクライナを見誤ったプーチンの戦略
今回ロシアは、情報戦においていくつかの見誤った点があった。一つは、ゼレンスキー大統領自身についての評価である。ウクライナのゼレンスキー大統領は、今回の危機に瀕し、強力なリーダーへと大化けした。
プーチン大統領は、ゼレンスキー大統領について、コメディアン出身の政治の素人であり、リーダーとしては弱いと軽んじ、キエフの陥落も容易だと踏んでいたのだろう。そして、ゼレンスキー大統領はすぐに国外に逃げるだろうといった虚偽の情報も流されていた。
しかし、ゼレンスキー大統領は、「自分はロシアの殺人リスト・ナンバーワンとなっている」としつつ、「ウクライナにいて国を守る」と主張し、ウクライナ国民に共に戦うことを呼びかけるなど、国民を鼓舞するメッセージを発信し続けた。その際、自身のソーシャルメディアなどを駆使し、自撮りの映像で訴えかけるという現代版の情報発信を展開してきた。
このゼレンスキー大統領の呼びかけに応じ、ウクライナ国民は立ち上がり、ロシアに徹底抗戦する機運が高まることとなり、結果、ロシア軍が早期にキエフを陥落させるという作戦が頓挫したのだった。そして、今やウクライナでのゼレンスキー大統領支持率が91%と、昨年末より3倍も跳ね上がり、ウクライナ防衛への強い意志を示すゼレンスキー大統領はヒーローだといった声が聞かれるようになった。
二つ目は、自らのディスインフォメーションの「量」に対する過信である。今回ロシアは、ディスインフォメーション・キャンペーンにおいて虚偽の動画や写真を多く用いているが、いずれの画像や映像も完成度が低く、それがディスインフォメーションであると暴かれやすいという特徴がある。
例えば、ウクライナ軍の装甲兵員輸送車がロシアおよび親ロシア派支配地域に侵入する様子を写した写真や、ロシアに侵入するウクライナ軍の「侵略」ミッションを映した映像などである。こうした情報は専門家やファクトチェッカーなどによって虚偽であることが次々と暴かれ、そうした情報についてSNSユーザーらが二次的に拡散し、ロシア発の自作自演のディスインフォメーションに警戒せよと注意喚起をし合う事態へと発展していった。
ロシアはディスインフォメーションについて、「質」より「量」を重視していたとの指摘があり、映像や画像もずさんで効果的なキャンペーンを行うことができなかった。しかし、これがSNS時代の新しい戦争のあり方である。ディスインフォメーション・キャンペーンの手口が、瞬時に世界中に晒され、曖昧な情報はたちまち効力を失ってしまうのである。
三つ目は、SNS時代の情報の拡散力である。世界中の人々はいまやソーシャルメディアを通じてつながっているといっても過言ではなく、常に拡散されるウクライナの状況は、世界各地でウクライナ支持・支援のうねりを巻き起こした。
ロシアが打ち出したウクライナ政権とナチズムを結びつけるディスインフォメーション戦略は逆噴射し、世界中で起きた反ロシアデモにおいても、ヒトラーとプーチンを結び付けたものが少なくなく、世界中で「反ロシア」「反プーチン」機運が増大した。また、前述の通り、ロシア発のディスインフォメーションはSNSなどを通じ次々と訂正されている。
ゼレンスキー大統領は、国外逃亡説などに対し自撮りの動画などで応戦し、SNSユーザーもまた、「ロシア発のデマに注意せよ」などと、プーチン大統領の情報戦やディスインフォメーション・キャンペーンに対し注意喚起し合っている。
世論がプーチン批判へと変化
このような世界中の世論の動きが後押しし、国際社会からの対ロシア制裁が大幅に強化されていった。金融面では、欧州連合(EU)などが、プーチン大統領の資産凍結をしたほか、当初、ドイツなどが慎重だった国際銀行間の送金・決済システムであるSWIFT(国際銀行間通信協会)についても、ロシアを排除する制裁に踏み切った。また、EUはEU領空へのロシア航空機の乗り入れ禁止などの追加制裁を科し、さらには、これまで武器輸出を厳格に管理してきたドイツが、ウクライナへの武器供与を決めたのだった。
ロシア国内でも、こうした国際状況を受けて反戦デモが拡大し、これまでに6000人が拘束されるなど、プーチン大統領に対する批判感情が高まっていると伝えられた。ここでも、「ロシアとウクライナは一つ」というプーチン流ディスインフォメーション戦略がブーメラン効果として跳ね返り、「同じ民族なのに、軍事侵略を行うのはおかしい」といった声が湧き上がったのだった。SNSという新しい時代の情報拡散ツールが、世界各国で「ウクライナ支持、ロシア批判」の流れを作り出していったとの見方もできる。
プーチン大統領は、今や核兵器にまで言及し、国際社会を威嚇している。しかし、情報戦に関していえば、プーチン大統領に数々の誤算があり、ロシアはそのディスインフォメーション・キャンペーンにおいて成果を挙げられていないといえよう。
厳しい綱渡りを迫られる中国
今回のロシアによるウクライナ侵略をめぐり、難しい立場に立たされているのが、中国である。中国はかねてより「領土保全」や「内政不干渉」原則を掲げてきた。欧米諸国が中国のウイグル族や香港の民主派弾圧を厳しく非難する際も、内政干渉だとして強く反発してきた。
こうした中国の伝統的な立場に照らすと、中国は、ロシアのウクライナ侵攻には賛成できず、本来はウクライナ側に立ち、ロシア批判に回らなければいけないものだった。その一方で中国は、米国と対立している今日、ロシアとの共闘を重視せざるを得ないという極めて難しい舵取りを迫られている。
具体的には、中国は、「ウクライナ問題には複雑で特殊な歴史的経緯がある」としてロシアに配慮し、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大というロシアの安全保障上の懸念に理解する姿勢を示す一方、国連におけるロシア非難決議に当たっては反対票を投じるのではなく、棄権を選択した。そして3月1日、ウクライナとの協議も行い、「政治的解決の努力を支持する」と伝えている。
日本国内では、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関連し、台湾問題をはじめとする東アジアへの影響が懸念されている。米国が早々とウクライナへの軍派遣を否定し、ロシアが力により隣国を侵略するようなことが許されるならば、中国も台湾に武力侵攻する可能性が一層高まるのではないかという懸念である。
実態はそれほど単純ではなく、中国もロシアのウクライナへの軍事侵攻に賛成の立場を示さず、厳しい綱渡りを余儀なくされているが、同時に中国は、今回の事態を緻密に分析し、将来に備えようとするだろう。その関係で重要な一つの側面が、ディスインフォメーション・キャンペーンである。
中国の情報戦の脅威については、日本においてもよく知られている。中国は、米国をはじめ、ロシアの軍事作戦をよく研究している。また、中国が台湾に対して軍事力を行使しようとする際には、さまざまな情報戦を展開する可能性があり、警戒する必要がある。中国は、今回のロシアのディスインフォメーション・キャンペーンの失敗を材料として、さらに高度な情報戦のあり方を研究してくるとみなくてはならない。
近似する中露のディスインフォメーション
歴史的に見れば、中露は、外交目標達成のためにそれぞれ異なるアプローチをとってきた。ロシアが外国社会を混乱、分断することに重点を置いてきている一方、中国は、外国との経済的結びつきを強めつつ、世界で肯定的な対中認識を醸成する努力を払ってきた。
しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延以降、両者のディスインフォメーション・キャンペーンの手口はより近似するようになってきているとの指摘がある。中国は、自らのディスインフォメーション・キャンペーンにおいて、最近ではウイルス起源をめぐり米国に責任を負わせる内容の情報や米国内の人種差別問題に対する批判を広く発信するなどしているが、こうしたアプローチに見るように、現在、中露は、西側の民主主義の規範や制度を弱体化させ、民主的な価値を共有する国や地域の結束を弱め、国際社会における米国の影響力を低下させようとすることに共通の意義を見出そうとしている。
今後、中露両国は、ディスインフォメーション・キャンペーンにおいて、互いのプラットフォームやプロパガンダを活用することで、より大きなインパクトを見出そうとすることも考えられる。
中国は今後、ウクライナ侵略に際しロシアが展開してきたディスインフォメーション・キャンペーンの問題点を踏まえ、より巧妙な手口でディスインフォメーション・キャンペーンを展開してくるかもしれない。日本との関係では、中国は、日米離反を狙ったディスインフォメーション・キャンペーンを展開するとみられ、特に米軍基地が集中する沖縄は標的になりやすい。また、沖縄はもともと琉球という独立国であり、清朝との関係が深かったなどといったストーリーも、情報戦の一環として喧伝される恐れがあろう。
日本は、言語の壁が厚く、「ガラパゴス症候群」といわれるほど、外国勢力からのディスインフォメーションの影響を欧米諸国などより受けにくいとされてきた。しかし、今後、技術や手口が高性能化・巧妙化すれば、日本が海外からのディスインフォメーションの大きな影響を受けるようになる可能性は十分に考えられる。さらに、人々がデマや陰謀論を信じやすい心理状態に陥りやすい有事などの危機の際には、ディスインフォメーションがいっそう広まりやすくなるため、情勢や環境の変化には細心の注意を払う必要がある。
日本は情報の安全保障を強化せよ
日本では、安全保障面において情報戦が持つ重要性に対する理解が低いとかねてから指摘されている。国家として重大な情報戦の危機に直面した経験が乏しく、国内では法整備を含めディスインフォメーション対策はほとんど進んでおらず、世界と比較してその遅れは歴然としている。
特に近年、デジタル化が進み、S N Sを駆使した情報戦が大きな力を持つようになったため、欧米諸国を中心にディスインフォメーション対策が急速に進んできている。また、アジアにおいても、台湾は中国からのディスインフォメーション・キャンペーンに対し真剣な取り組みを行なっている。
日本も、ロシアのウクライナ侵略に当たっての情報戦も一つの材料とし、外国勢力からのディスインフォメーションの脅威を他人事として捉えてはならず、早急にその対策に乗り出すべきである。このディスインフォメーション対策は、政府が中心となって進めるべき事案であるが、メディアやプラットフォーム企業、ファクトチェック機関などの民間団体、そして国民一人ひとりの役割があってこそ成立する対策であり、日本全体として取り組まなくては成功しない課題である(その対策のあり方については筆者の連載「ディスインフォメーションの世紀」の過去の記事を参照されたい)。
政府はいま、新たな「国家安全保障戦略」の策定に向けた作業を行なっているが、ディスインフォメーション・キャンペーンへの対策はその戦略の中に盛り込まれなければならない。
日本としては、ロシアに対しては米国などに遠慮することなく、より明確に厳しい姿勢を示し続けていくとともに、言論空間が戦場と化すのがSNS時代の戦争であることを十分に理解し、情報の安全保障に本気で取り組んでいく覚悟を持たなくてはならない。
●圧政と自由民主主義の対立を再燃させたプーチン 3/3
これがどう終わるのかは誰にも分からない。だが、どう始まったかは分かっている。ウラジーミル・プーチンは罪のない国に対して理不尽な攻撃を仕掛けた。欧州の地において1945年以来最悪の侵略行為を犯し、この卑劣な行為をとんでもない嘘で正当化した。一方で、差し当たり、西側諸国を結束させた。プーチンは平和への願いを臆病さと混同した最初の暴君ではない。彼は逆に、西側の市民の怒りを呼び覚ました。その結果が、正当であるとともに目覚ましいロシア制裁の数々だ。
どれほどリスクが高くても抵抗は必至
プーチンは、この世に生きた最も危険な人物かもしれない。自国民の運命など顧みず、ロシアの失われた帝国を取り戻すことに血道を上げ、何より核戦力に精通している。だが、どれほどリスクが大きくても、抵抗は絶対不可欠だ。一部の人は、プーチンの行動は西側の責任であり、何より北大西洋条約機構(NATO)を拡大する決断がもたらした結果だと主張するだろう。実際は逆だ。プーチンは、ロシアの支配を一番よく知っている国々がなぜNATO拡大を切望したかを思い出させた。NATO拡大がなぜ必要だったかも実証してみせた。欧州には、ロシアと旧ソ連圏の間に防衛された境界線が必要だった。ウクライナの悲劇は、この境界線の間違った側に位置していたことだ。同国は自由になりたいと願う以外に、ロシアに何の脅威も及ぼしていなかった。ロシアがウクライナを脅かしていた。
過去とは異なる厳しい制裁
制裁は往々にして効果がない。今回科された制裁は違う。米国は2月22日、ロシア国債の流通市場に制裁を科した。ドイツは同日、物議を醸す天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続きを停止した。2月24日には米国と欧州連合(EU)、そして主要7カ国(G7)の残るメンバーが、外貨建てで取引するロシアの能力を制限した。その2日後、ロシアの多くの銀行が国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外され、ロシア中央銀行の資産が凍結され、同国中銀との取引が禁止された。国際金融協会(IIF)による徹底した分析が、これをすべて要約している。「我々は、この数日間に科された制裁がロシアの金融システムと国全体に劇的な影響を与えると見ている」ロシアが抱える6300億ドルの流動性外貨準備の大半は、一連の制裁で役に立たなくなる。ロシア中銀はすでに、金利を2倍に引き上げざるを得なかった。銀行では取り付け騒ぎが起きている。エネルギーを例外として、ロシア経済は概ね孤立するだろう。痛みがすべてロシアに降りかかるわけではない。石油・ガスのコストはさらに長期にわたって高止まりし、世界的なインフレ圧力を悪化させる。食料価格も上昇するだろう。ロシアがもし(自国に大きな犠牲を強いて)エネルギー輸出を停止すれば、混乱はさらに深刻になる。ロシアの天然ガスはユーロ圏とEU全体で利用可能なエネルギー総量の9%を生み出している。だが、最も需要が大きい季節である冬は、少なくとも過ぎ去ろうとしている。
劇的に高まる不確実性
こうした比較的明確な影響以外に目を向けると、戦争と核の脅威、経済制裁の組み合わせは不確実性を劇的に高める。各国の中銀では、金融政策をいかに引き締めるかを決める判断がさらに難しくなるだろう。エネルギーショックの衝撃を和らげようとしている政府についても同じことが言える。長期的には、経済的な影響が地政学の後に続く。もし西側諸国と、中国、ロシアを中心とするブロックの間で深く長引く分裂が生じる結果になれば、経済的分裂が後に続く。すべての国が好戦的で頼りにできないパートナー国への依存を下げようとするだろう。このような世界では、政治が経済学に勝る。グローバルなレベルでは、経済が再編されることになる。だが、戦時中には、政治が常に経済学に勝る。どのように勝るかは、まだ分からない。最も大きく変わるのは、間違いなく欧州だ。冷戦後の自国のスタンスが維持できなくなったと認めることで、ドイツは大きな一歩を踏み出した。ドイツはこれから、失地回復に走るロシアから身を守ることができる強力な欧州安全保障構造の中核にならなければならない。ここには、エネルギー依存を減らす多大な努力が含まれる。悲劇的なことに欧州は、プーチンのことを「天才的」と見なすドナルド・トランプが共和党を支配している限り、米国は頼りにできる同盟国にならないことを認識する必要がある。一方、英国は、自国が常に欧州国家であることを認識しなければならない。欧州大陸、何より東側の欧州同盟国の防衛に一段と深くコミットしなければならない。これらすべてに固い決意が求められ、お金もかかる。
中国はどんな立場をとるか?
この新しい世界では、中国の姿勢が大きな懸念材料となる。中国の指導部は、ロシアを支援することは今や、西側諸国との友好関係と両立できないことを理解する必要がある。それどころか逆に、西側は今、戦略的な安全保障を経済政策の最重要課題に据えなければならない。中国がもし、西側と対立する領土回復主義の独裁者の新たな枢軸に頼ることを決めたら、グローバルな経済的分裂が後に続く。企業はこれに留意しなければならない。平和な民主主義の子供たちに対する戦争は、西側に暮らす我々が決して忘れてはならない行動だ。また、この戦争を始めた人や支持した人を許すことがあってはならない。我々自身の過去の記憶から、忘れることは許されない。我々は今、新たなイデオロギーの争いに入っている。共産主義と資本主義の争いではなく、領土回復主義の圧政と自由民主主義との争いだ。多くの意味で、この争いは冷戦より危険になる。プーチンは、歯止めがなく、専制的な権力を握っている。彼がクレムリンの主である限り、世界は危険に満ちている。中国の習近平についても同じことが言えるかどうかは定かでない。だが、今後そうだったと知ることになるかもしれない。
新たな世界に突入
これはロシアの国民との紛争ではない。ロシアの人々にはまだ、我々の文明に対する貢献にふさわしい政治体制を持てることを願うべきだ。これはロシアの体制との紛争だ。ロシアは、ギャングによって支配されているのけ者国家になった。そのような隣人とともに平和と安全のうちに暮らすことはできない。この侵略は認められてはならない。侵略の成功は全員を脅かすからだ。我々は今、新たな世界にいる。この事実を理解し、それに従って行動しなければならない。
●プーチン氏に重なった「誤算」とは…「失敗国家」と見下す 3/3
ロシアのウクライナ侵攻では、プーチン大統領の誤算が重なったと指摘されている。ウクライナ軍の想定を超える抵抗などで、作戦シナリオに狂いが生じた可能性が高い。2000年からロシアの実権を握るプーチン氏には、露軍の戦力などに過信があったようだ。
2日間で決着?
プーチン氏がウクライナ侵攻の開始を宣言してから2日後の2月26日、国営のロシア通信は、「ロシアと新たな世界の到来」と題した論説記事を配信した。「ウクライナはロシアに戻ってきた」「反ロシアのウクライナは存在しない」などと、まるで戦勝を祝うような内容だった。記事はすぐに削除されてしまった。これは、プーチン政権には侵攻開始から48時間で、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いる親米欧政権を崩壊させる計画があったことを示唆している。プーチン氏は侵攻前の演説でも、ウクライナを「失敗国家」と見下していた。軍事大国ロシアの部隊が攻め込めば、首都キエフなどの「無血開城」も可能だと踏んでいたフシがある。
露軍の不振
実際は侵攻7日目の2日も、ゼレンスキー政権が全面降伏に応じる兆しはない。軍事専門家らは、侵攻初日に制空権を掌握できなかったことが尾を引いているとの見解でほぼ一致する。都市攻撃も 空挺くうてい 部隊の展開が不十分で効果を上げず、露軍の地上部隊がウクライナ軍の激しい抵抗に遭う悪循環に陥っている。キエフ攻略のため、約8000キロ・メートル離れた極東地域から投入した東部軍管区の装備は近代化率が低く、ソ連時代の戦車もある。米国防総省高官は1日、露軍の大多数が志願兵でなく徴兵された若い兵士で、「戦闘に参加することを知らされていなかった兵士もいる」と分析し、士気の低さを指摘した。
「ウソの帝国」
米欧が侵攻開始3日目で、国際的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除を決めたのも、プーチン氏には計算違いだったようだ。プーチン氏は侵攻開始前、独仏首脳と経済協力は維持する方針を確認していた。侵攻しても、独仏などが金融制裁の最終手段ともいえるSWIFT関連の措置には同意しないとみていた可能性も指摘されている。プーチン氏は2月末の経済閣僚らとの会合で、米欧を「ウソの帝国」と罵倒し、いらだちを隠さなかった。プーチン氏は、ソ連崩壊後の国内の大混乱を収束させたのが自慢だが、自身の判断が社会を不安に陥れる結果になった。今月中旬にはモスクワ市内で大規模な「反戦マーチ」が計画されている。政権側の徹底弾圧で息を潜めてきた反政権運動が再燃する可能性がある。
●ウクライナ侵攻1週間 増え続ける市民の犠牲  3/3
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻から1週間。首都キエフをめぐる攻防はこう着状態となっている一方、ロシア軍は各地で攻撃を激化させ、子どもを含めた市民の犠牲も増え続けています。キエフへの本格的な侵攻は始まるのか? 停戦に向けたロシアとウクライナの2回目の交渉はいつ行われるのか? 詳しく解説します。
軍事侵攻1週間 ロシア軍どこまで?
現地時間の24日明け方にウクライナへの攻撃を始めたロシア軍。アメリカのシンクタンクは、この1週間でロシア軍が東部や南部のクリミアに加え、第2の都市ハリコフがある北東部、そして首都キエフに向かう北部一帯を掌握したと分析しています。2日にはロシア国防省が「南部の都市ヘルソンを完全に掌握した」と発表しましたが、アメリカ国防総省は「激しい戦いがまだ続いていると見ている」と否定。ただ、ロシア軍はハリコフなど各地で攻撃を激化させています。
首都キエフの状況はどうなっている?
アメリカ国防総省の高官はキエフに向けて南下しているロシア軍の部隊について「依然として動きは停滞している」として、ここ数日、大きな進展は見られないという認識を示しています。当初、アメリカ側もキエフ陥落は時間の問題などと危機感を強めていたにもかかわらず、なぜ、キエフへの侵攻は停滞しているのか。
軍事戦略上の大きなミス?
トランプ政権時代に国家安全保障担当の大統領補佐官を務めた元アメリカ軍のマクマスター氏は「軍事戦略上、大きなミスを犯している」と指摘しています。マクマスター氏は「ロシア軍の部隊は十数万のうち実際の戦闘部隊は30%ほどにすぎず、その規模はウクライナという広大な国土を持つ国を攻めるにはあまりに小さい」と指摘。そのうえで「戦車と歩兵の統合運用ができておらず訓練が足りていないほか、燃料などの補給も十分でない」などとして、「軍事のプロから見れば信じられないような基本的なミスを犯している」と分析しています。そして、「こうした軍事的には説明のつかない判断ミスをしていることなどから、クレムリンでプーチン大統領に適切な助言が届かなくなっている可能性がある」と指摘しています。
計画どおり都市を包囲?
これに対して、旧ソビエト海軍の元大佐でロシア軍の戦略に詳しいシブコフ氏は「ロシア軍は計画どおり各地で部隊を進めている」と強調します。シブコフ氏は「ロシア軍はウクライナの奥深くまで急速に進軍し、抵抗する都市を包囲している」としたうえで、「ロシア軍の作戦は過去にロシア軍の支援を受けたシリアのアサド政権が反政府勢力の最大拠点としてきた北部のアレッポを包囲した作戦が生かされている」と分析しました。そして「ロシアがキエフを包囲しているのに奪取しないのは意図的かつ計画的なことだ」として、キエフ包囲はゼレンスキー政権に圧力をかけることがねらいだという見方を示しました。
増え続ける市民の犠牲
攻撃の対象はあくまでも軍事施設だと主張するロシア。しかし、国連人権高等弁務官事務所は2日、この1週間で市民227人の死亡が確認されたと発表しました。犠牲者の中には子どもたちも含まれ、その数はさらに増えるとしています。東部ドネツク州のマリウポリでは27日、ロシア軍の砲撃で重傷を負った6歳の女の子が病院に運ばれてきました。母親が見守る中、女の子は心臓マッサージを受けましたが亡くなりました。蘇生措置を行った医師は「この状況をプーチンに見せろ!」とカメラに向かってロシア語で叫び、強い憤りを表していました。子どもを含めた市民の犠牲が増え続ける現状。ウクライナのゼレンスキー大統領はフェイスブックにメッセージ動画を投稿し「ロシア軍による攻撃のたびに死傷者が出ている。あなたたちは何のためにウクライナに来たのか、何をしているのか。武器を捨てて帰りなさい」とロシア語も交えて非難しました。
国外に逃れる人たちは
ウクライナから避難する人は日を追うごとに増えています。UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は2日現在で、ウクライナから国外に避難した人の数が前日からさらに30万人余り増え、100万人以上に上ったと明らかにしました。このうち、半数を超える50万人以上が避難したポーランドでは、首都ワルシャワの駅のホームに国境から来た大勢の人たちが詰めかけ、別の国などに向かう列車に次々に乗り込んでいました。2人の孫を連れて避難してきた63歳の女性は次のように話しています。「町は破壊されて、息子は地域の防衛組織に参加しました。心配ということばでは足りないほど心配です」
国際社会でロシアの孤立 際立つ形に
こうした中、国連総会の緊急特別会合では2日、ロシアを非難し軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されました。反対したのは、ロシアとベラルーシに加え、シリア、北朝鮮、東アフリカにあるエリトリアの5か国。また、棄権したのは中国やインド、イランなど、35か国でした。国連総会では8年前、ロシアによるウクライナのクリミア併合をめぐって領土の一体性を壊す行為をやめるよう求める決議が採択されましたが、このときは100か国が賛成。今回の決議案はロシアを名指しして非難する中、賛成国がどこまで増えるかが焦点でしたが、8年前を大きく上回る141か国が賛成に回り、ロシアの国際的な孤立が一層際立つ形となりました。
2回目の交渉はいつ?
依然として不透明な状況です。場所はベラルーシ西部のポーランドとの国境付近で行われる見通しで、もともと「2日にも行われる」という情報がありましたが、1日か2日延期される可能性も伝えられていました。ただ、そもそも会談を通じて事態の打開を図れるかは難しい状況です。ロシア側が停戦の条件としてウクライナの「中立化」や「非軍事化」などを要求している一方、ウクライナ側もロシアの国際的な孤立が深まる中、圧力に屈せず交渉に臨むことが予想され、交渉を通じて停戦を実現できるかは依然、見通せない情勢です。
●ウクライナ侵攻で世界各国の諜報機関がSNSに齧り付いている… 3/3
在日ウクライナ大使館の公式Twitterは2月24日、ロシア軍のミサイルがウクライナ国内の国際空港施設に命中し爆発する映像をリツイートした。
Twitterに動画を投稿した人物のアカウントには、博士課程の学生という経歴や、ロシアの外交や軍事学が専門、などと書かれている。動画については以下のような説明が付記されていた。《伝えられるところによると、イヴァーノ=フランキーウシク国際空港を攻撃するクラブ巡航ミサイル》
担当記者が言う。 「この国際空港は西ウクライナの“玄関”とも言われています。動画は14秒で、小さな長細い物体が飛行する様子を捉えており、カメラから物体が消えてしばらくすると遠方で爆発が起き、真っ赤な炎が立ちあがります。動画は縦長の画面で収録されており、スマホを使って撮影したと見られます」
戦況を示す動画や写真をSNSに投稿してほしいと、他ならぬウクライナ政府が市民に呼びかけている。
アメリカのワシントンポスト(電子版)は2月25日、「ウクライナで国防省が国民に武装を呼びかけ、国民はGoogleで『火炎瓶の作り方』を検索」の記事を配信した(註1)。
記事のタイトル通り、ウクライナ政府が国民に徹底抗戦を求め、呼応した国民が火焔瓶の作り方をネットで検索しているという内容だ。
これだけでも「戦争とネット」という観点から興味深いが、朝日新聞デジタルは2月26日、ウクライナ政府が国民にTwitterなどのSNSを活用し、ロシア軍の動きについて情報提供を求めたとの記事を配信した。
ネット戦争
同紙の記事「『火炎瓶 作り方』ウクライナで検索回数急増 当局が市民に呼びかけ」は、基本的には先に触れたワシントンポストの報道を紹介する内容だ。
その上で《ウクライナは25日、ツイッターに「ロシア軍の動きを我々に教えてほしい。火炎瓶を作って敵を無力化してほしい」と投稿》したと伝えた。
この戦争は「ウクライナ侵攻」や「ウクライナ紛争」などと呼ばれているが、「インターネットの実力を見せつけた戦争」として専門家は注目しているという。自衛隊の関係者が匿名を条件に取材に応じた。
「各国の軍関係者だけでなく諜報機関も、ウクライナ市民がTwitterやTikTokに投稿する動画や画像をチェックし、ロシア軍の動向を把握しています。誤解を恐れずに言えば、専門家の誰もが興奮しています。かつての戦争ならスパイが必死になって集めた情報が、今や自宅でスマートフォンを使って入手できるのです。諜報の専門家は『インターネットの発達により戦争の実相が変わる』と考えています」
トヨタ戦争
「トヨタ戦争」という呼称をご存知だろうか。1978年から87年にかけてアフリカで起きた、「チャド・リビア紛争」の後期の戦闘を指す表現だ。
アフリカ大陸中央部に位置するチャドは1960年に独立。しかし、独立後も民族対立が続き、同国の北に位置するリビアと旧宗主国のフランスを巻き込んだ紛争に発展した。その際、両軍共にトヨタのピックアップトラックを改造した車輌を使用。そのためトヨタ戦争と名づけられたのだ。
「中東諸国はトヨタの乗用車は立派な兵器だと認識しました。2000年代に起きたシリア内戦やイスラム国(ISIL)樹立を宣言したテロ組織のISISも、同じようにトヨタのピックアップトラックを兵器として活用しました。戦車は運転も整備も専門知識が必要ですが、トヨタの車なら自動車の運転経験がある人なら誰でも操作できます。更に、整備も戦車より容易です。おまけにトヨタの車は滅多なことでは故障しません。これほど役に立つ兵器は、そうはないのです」(前出の記者)
ネットが変えた戦争
トヨタのピックアップトラックが戦争の歴史を変えたように、今回のウクライナ侵攻では、インターネットが戦史に新たな1ページを書き加えたと言えるだろう。
「例えば2月17日、ロシア軍の戦車が貨物列車で輸送される動画がYouTubeに投稿されました(註2)。古今東西、軍隊の移動には鉄道が大きな役割を果たしており、一般国民が目にする機会もありました。ただし、昔であれば目撃されたとしても、それを遠方へ伝える手段は電話や電報といったものに限られていました」(前出の自衛隊関係者)
まして戦乱下では貴重な情報が他国どころか自国の中枢にすら届かないことも普通だった。
「ところが、今やスマートフォンとインターネットがあれば、一般市民がウクライナ国内どころか、全世界にロシア軍の動きを伝えることができるのです」(同・自衛隊関係者)
インターネットは戦乱に強いメディアであり、「核戦争にも耐えられる通信ネットワークとして誕生した」と解説されることがある。
可視化された戦争
しかし実際には、「核戦争うんぬん」は俗説だとされているようだ。
「核戦争を想定して開発されたという言説は嘘でも、インターネットが戦争や災害に強いことは間違いありません。ネットは一部が寸断されても、残りの部分で通信が続けられます。アメリカ3大ネットワークのCBSはインターネットを使って、キエフの自宅シェルターに隠れている女性にインタビューを行いました。まさにウクライナの現状が、ネットの強さを証明しているのです」(前出の記者)
1991年に起きた湾岸戦争では、CNNがイラクの首都バグダットの空襲を生中継し、世界に衝撃を与えた。しかし今は、スマートフォンさえあれば、誰もがCNN並みの情報配信能力を持っている。
「今回はウクライナ市民の多くがスマホを活用し、戦闘の様子やロシア軍の動きを投稿しているのです。これほど戦争が可視化される時代が来たのかと専門家は衝撃を受けています。ただ、陸戦だからという点は注意が必要でしょう。戦闘機や潜水艦での戦闘は依然として可視化は難しいものがあります。今回の戦争は主に陸上で起きているからこそ、ネットによって丸裸にされているのです」(前出の自衛隊関係者)
軍事作戦の全てが一般国民に記録されてしまう時代になったのかと言えば、さすがに、それは違うようだ。
「こたつCIA」の実力
ロシア軍の状態についても、インターネット上の情報から推測することができる。
例えば、ウクライナ人がガス欠で止まったロシア軍の戦車の周囲にいる兵士に話しかけた動画が、今世界中に拡散。やはり3大ネットワークのABCがニュース番組で動画を放送した。
「道路で立ち往生している戦車を前に、ウクライナ人がロシア兵士に『自分たちの車で戦車をロシアまで牽引してあげようか』と冗談を言うと、兵士たちは笑っていました。専門家はロシア軍の士気がそれほど高くないことと、補給がうまくいっていない可能性を読み取るわけです」(同・自衛隊関係者)
インターネットで検索した情報を元に、極めて安易に書かれたネット記事を「こたつ記事」と呼ぶことがある。
現場での取材や調査もせず「コタツに入ったままでも書ける」記事という意味だが、今回のウクライナ侵攻では「こたつCIA」、「こたつ参謀本部」という様相を呈しているという。
ロシアのフェイクニュースをウクライナ市民がSNSで指摘し、その正しさが証明されたこともあった。
「ロシア国防省は2月15日、ウクライナ国境での演習を終えた部隊の一部が撤退する様子だとする映像を公開しました。これを好感し、同じ日のアメリカ株式市況は反発して始まりました。ところが、ウクライナ市民が『ロシア軍はむしろ近づいている』とSNSに投稿したことで、ロシアの嘘が明らかになったのです」(同・自衛隊関係者)
フェイクニュース問題
イギリスBBCの日本語版サイトは2月25日、「SNSで誤情報与える動画や画像が多数拡散、ロシアのウクライナ攻撃」との記事を配信した。
実際の戦争だけでなく情報戦も熾烈を極めている。当然ながら、SNSに投稿されている動画や画像には虚偽のものも少なくない。
「各国の諜報機関も、SNSの投稿を『これは事実なのか、フェイクなのか』という調査は徹底して行っているようです。まずは専門家がアカウントを追跡します。すると、ロシア側と思われる人物が偽装して作ったアカウントだと判明することがあるそうです」(同・自衛隊関係者)
更に今回、アメリカは衛星写真など、本来であれば国家機密級の情報を積極的に公開している。
「ロシアに『こちらは全てを知っているぞ』と牽制するためですが、衛星写真はその他の諜報機関にとって、Twitterの投稿が事実かフェイクかを判別するのに最高の判断材料だと言えます。投稿された動画に映り込んだランドマークや地形と衛星写真を整合することで、本当に撮影された場所にいる可能性が高いか低いか、判別することができるからです。軍関係者だけでなく、一般市民ですら、そうした整合作業を行いフェイクを拡散しないように気をつけています」(同・自衛隊関係者)
こたつ「OSINT」の威力
ネット上で検索をすると、結果を検索エンジンなどが記憶し、次の検索に活用しようとする。例えばAmazonで太宰治の小説を検索すると、それ以降、太宰の多作品が収録された文庫などが「お勧め」として表示された経験は誰にもあるだろう。
「同じことが諜報機関でも起きているのです。専門的な知識を持つプロがウクライナ国民によって投稿された動画や画像をSNSで検索すると、それを人工知能(AI)が覚えてくれるのです。後は勝手に『こんな動画もあります、こんな画像もあります』とAIが教えてくれます。諜報に詳しい関係者は『検索の手間すらありません』と苦笑していました」(同・自衛隊関係者)
もともと諜報の分野では、「オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)」という手法が知られている。
「スパイや諜報機関と聞くと、007のように敵の心臓部に接近し、極秘情報を入手するというイメージが浮かびます。それは決して嘘ではありませんが、敵国が公にしている経済統計などを精査するだけでも、重要な情報は得られるのです。それがOSINTという手法です。今回、ウクライナ侵攻によりSNSで起きていることは、OSINTに有益な情報がネット上にごろごろ転がっているという事実です。諜報の歴史が変わっている瞬間に、私たちは立ち会っていると言えます」(同・自衛隊関係者)
●「プーチンの目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない」 3/3
ロシアのウクライナ侵攻にはどんな目的があるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「プーチン大統領の目的は傀儡政権の樹立ではない。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいる」という――。
プーチンの目的は3つある
ロシアによるウクライナへの攻撃は、国連憲章に違反し、国際秩序を力づくで変更しようとする試みで、断じて認めることはできません。ロシアの責任は法的にも道義的にも大きく、厳しく指弾されなくてはいけません。
ただし、ロシアの進軍が止まらない以上、これから何が起きるのか、ひいては今回の軍事行動がどのような内在的論理に基づいているのか、正しく理解する必要があります。
大半のメディアや識者が、「プーチン大統領の目的は、ウクライナに傀儡政権を樹立することだ」と言っています。しかし私の見立ては異なります。
まず、ロシアがウクライナへ侵攻した目的は、3つあります。
1つ目は、ウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州にいるロシア系住民の保護。そのうち70万人は、ロシア国籍をもつ人たちです。
2つ目は、ウクライナを軍事的な脅威ではなくすこと。すなわち、ウクライナ軍の攻撃的な兵器をすべて叩き潰すことです。ロシアが一番恐れていることは、ロシアと隣接する国に敵対する軍事大国が存在することです。ソ連時代の第2次世界大戦時にドイツ軍の侵略を受けて、2600万人もの犠牲者が出た苦い経験から来ています。
ですから、第2次世界大戦後、東ドイツやポーランドをソ連に併合する案が出たときも、それをあえて拒否したのです。ソビエトが主権国家の連邦である以上、それも可能だったのに、独立した人民民主主義国としました。NATO諸国との間に東欧各国が存在すれば、バッファー(緩衝)となる中間地帯にできるからです。
もしもウクライナがNATOに加盟すれば、バッファーを失ってしまいます。これがロシアの安全保障観です。その意味からもウクライナ全体の占領や併合はせず、非軍事化された戦略的な中間地帯にしておきたいはずです。
「ハンガリー動乱」「プラハの春」と同じ方法を試みている
そして3つ目の目的が、親米で反ロシア路線のゼレンスキー政権を倒すこと。ただし、次の政権は傀儡ではなく、ロシアと融和的であることが条件となります。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいます。
1956年の「ハンガリー動乱」(社会主義体制下のハンガリーで、民主化やソ連軍の撤退などを求めた民主化運動)にソ連が軍事介入した際、ワルシャワ条約機構(東ヨーロッパ諸国がNATOに対抗して作った軍事同盟)からの脱退などを表明したナジ首相の追放後に擁立されたのは、カーダール・ヤーノシュという人です。彼はナジ政府の国務大臣であり、ソ連軍の戦車に抵抗した人物でした。
1968年に社会主義体制下のチェコスロバキア(当時)で起こった民主化運動「プラハの春」でも同じです。「人間の顔をした社会主義」を掲げて民主改革を試みたドゥプチェク共産党第1書記でしたが、ソ連などの軍事介入によって失脚したあと、政権を任されたのはグスターフ・フサークです。彼にも、スロバキア民族主義者として逮捕され、終身刑を言い渡された前歴がありました。
カーダールやフサークは、自国を裏切ってソ連に寝返ったのではありません。大国にいつまでも向かっていても勝ち目はない。ならば自分たちの祖国や民族を守るために現実的な方法でソ連と調整していかなくてはいけない。そういった高いモラルをもっていたのです。ハンガリーもチェコスロバキアも、その後は安定的に国家を運営できました。現政権や抵抗勢力の中から次の誰かを探し出すのが、ソ連以来のやり方です。
ロシアは、「ウクライナの次の政権も、ロシアの軍事力を背景に数年維持できれば、国民は受け入れざるを得なくなる」と考えているはずです。したがって、ウクライナ国民をある程度まとめられる人が、国内の現実主義的政治家の中から自発的に出てくるだろう。プーチン大統領は、そう見越しています。
2月25日、プーチン大統領がウクライナ軍の兵士に対して「その手で権力を奪い取れ」とゼレンスキー政権へのクーデターを呼びかけたのは、その証しだと考えられます。ゼレンスキー政権が崩壊し、ロシアに対抗しない政権が生まれれば、ロシア軍は撤退するはずです。
軍事侵攻を合法だと言い張るための周到な準備
それから、ロシアは国際法を完全に無視したのではなく、乱用しているのだという点も、踏まえておくべきです。ロシアは今回の軍事行動を、日本でもさんざん議論された「集団的自衛権」を根拠に置いています。すなわち、同盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた、国連憲章51条です。
侵攻に先立つ2月21日、ロシアはドネツク州、ルガンスク州の親ロシア派武装勢力がそれぞれ自称している両“人民共和国”を、独立国家として承認しました。国家承認の要求は、国民がいて、実効支配できている政府があって、国際法を守る意思があることを条件になされます。この“両国”には、外形的にそれらが整っています。そのため要求に応じる形で国家承認を行い、次いで「友好、協力、相互援助条約」を締結しました。これは日米安保と一緒で、安全保障のための条約です。それをロシアの国会で批准しました。
ロシアの軍事侵攻前の段階では、親ロシア派武装勢力はルガンスク州とドネツク州の一部を実効支配しているだけで、全域を支配してはいませんでした。しかし、ドネツク人民共和国の領土はドネツク州全域、ルガンスク人民共和国の領域はルガンスク州全域だと、両“人民共和国”の憲法は定めています。すると、支配が及んでいない地域は、ウクライナによって不法占拠されていることになります。ロシアはその“解放”のため、「友好、協力、相互援助条約」に基づいて、集団的自衛権を行使できるという理屈になるのです。
もちろん国際的に是認されるわけがありませんが、合法だという理屈を周到に組み立て、計画的に実行したことがわかります。
1968年の「ブレジネフ・ドクトリン」がよみがえった
「プラハの春」でソ連がチェコスロバキアを弾圧する際、ソ連は「制限主権論」を唱えました。「社会主義共同体の利益が毀損(きそん)される恐れのあるときは、個別国家の主権が制限されることがあり得る」という論理で、「ブレジネフ・ドクトリン」と呼ばれます。これによって、ワルシャワ条約に加盟していたソ連、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリアの5カ国軍のチェコスロバキアへの侵攻を正当化したのです。
今回のロシアの行動は、「プーチン版ブレジネフ・ドクトリン」に基づいていると思います。すでに社会主義共同体ではありませんが、「ロシア連邦の死活的に重要な地理学的利益に反する場合、個別国家の主権が制限されることがある」という考え方です。
これはもはや、帝国主義的な弱肉強食の論理です。ロシアの利益のためウクライナの主権が制限されるという身勝手な論理は、断じて容認すべきではありません。しかし、プーチン大統領の頭の中は、このような論理になっているのです。
プーチンのウクライナ侵攻の手順は「教科書」通り
プーチン大統領の行動を読み解くのにもうひとつ役立つのが、イタリアのジャーナリストであるクルツィオ・マラパルテ(1898〜1957年)です。『壊れたヨーロッパ』や『皮』の著者で、その思想はイタリアの独裁者・ムッソリーニに強い影響を与えました。特に、ロシア革命を分析した『クーデターの技術』は重要な本です。
マラパルテは、革命には大衆運動や政党など必要ない。1000人ぐらいの専門家が水道、鉄道、電気などの基礎インフラを押さえてしまえば、政権は転覆すると書いています。今回のロシアの軍事行動は、当初マラパルテの教科書通りに進んでいました。まず、ウクライナ各地の主要な軍事インフラや通信インフラを攻撃して麻痺させ、次にチェルノブイリなどの発電所を確保したのです。
点を押さえて政権を麻痺させてしまおうという戦術に、プーチン大統領のインテリジェンスオフィサーとしての本領が出ていました。
NATOもアメリカも完全に足元を見られていた
では国際社会の反応を、プーチン大統領はどう読んでいたのか。アメリカやEUや日本が最大限の制裁に踏み切ることは、織り込み済みだったでしょう。しかし、ごく短期間で軍事的な目的を達成して、先述した3つの目的を達成する基盤を作ってしまえば、国際社会は現状を追認せざるを得なくなると見ていたはずです。
少なくともプーチン大統領は、ウクライナをNATOに加盟させないという目標を達成し、NATO軍が自国の国境まで迫る事態を回避しました。ウクライナは当面ロシアに敵対できないでしょうから、政治的影響力と緩衝地帯の維持に成功したのです。
NATOもアメリカ軍も直接は介入してこないと、完全に足元を見られていました。EU諸国は、天然ガスなどのエネルギーをロシアに大きく依存しています。ヨーロッパ全体で4割。ドイツに至っては5割超です。失う打撃の大きさを考えれば、時が経つほど弱腰になるとプーチンは見ています。
アメリカは、国内世論が厭戦ムードですし、バイデン大統領はあまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまいました。
ロシア国民はクリミア併合の時ほど歓迎していない
ロシア国内はどうかと言えば、2014年のクリミア併合の時ほど、国民は歓迎していません。あのときは、欧米にやられっぱなしだったロシアの逆転の象徴だと受け止められていました。
しかし、国際的な経済制裁を受けて、国民の生活は厳しくなりました。プーチン大統領の1期目と2期目である2000〜2008年までは経済成長率は平均で年6.97%、リーマンショックにより2009年の経済成長は落ち込むも、2010〜2013年までは3.84%ほどあった経済成長率は、クリミア制裁後の2014年から2021年では平均で0.92%まで落ちました。
今回も、国際的な銀行間の決済システム(SWIFT)からロシアの複数の銀行を排除するなどの制裁を受け、ロシアの通貨ルーブルが暴落しています。ロシア経済は再び、かなりの血を流すことになります。
しかしロシア人は、ソ連が崩壊した80年代終わりから90年代にかけて、非常に厳しい耐乏生活を経験しています。92年のインフレ率は、実に2500%です。石けんや砂糖や塩やマッチが手に入らない時代が、わずか三十数年前でした。あの頃に比べたらマシだと、多くのロシア人は感じているはずです。
経済制裁の影響はこれから出てきますが、ロシアという国が潰れるほどにはなりません。したがって、プーチン大統領の支持率が大きく下がることは考えにくいでしょう。他方、政治的エリートや体制派の知識人以外の民衆はこの戦争を積極的には支持していません。
●プーチンを暴走させた「ウクライナ・ロシア・ベラルーシ」の8年間の変化とは 3/3
マイダン革命後の8年間で民主化が進んだウクライナ
2014年2月、ウクライナでは前年から続いていたマイダン革命によって、ロシア寄りのヤヌコビッチ政権が崩壊。ウクライナ最高議会が2月22日にヤヌコビッチ氏の大統領職からの解任を決議すると、ヤヌコビッチ氏は首都のキエフを脱出。そのままロシアに亡命した。
翌日の23日にはオレクサンドル・トゥルチノフ氏が大統領代行に選出され、同年6月まで大統領職を務めた。その間にウクライナでは大統領選挙が実施され、チョコレート会社の成功で財を成し、10億ドル以上の資産を持つオリガルヒ(新興財閥)として知られたペトロ・ポロシェンコ氏が当選を果たした。
だが、2期目を狙ったポロシェンコ氏は2019年に行われた大統領選挙で、政治経験はないもののコメディ俳優として全国的な知名度があったウォロディミル・ゼレンスキー候補に敗北。ヤヌコビッチ政権崩壊後のウクライナでは、3人の大統領が国のかじ取り役を担ってきた。
ロシアとの緊張関係が続いた8年。その間に誕生した3人の大統領によって、ウクライナはどのように変わったのだろうか。
ウクライナの文化外交を担う政府機関「ウクレイニアン・インスティテュート」で長官を務めるウォロディミル・シェイコ氏は、筆者の取材に対し、ウクライナ社会が透明化され民主化された社会に進んだ期間であったと語る。
「2014年以降、ウクライナはゆっくりだが着実に政治制度が強化されてきた。汚職防止や銀行セクター、公共調達、医療、警察などで制度改革が実施され、分散型ガバナンスにも力を入れてきた。これらの制度改革が海外でどれくらい知られているかは分からないが、8年間で大きく変わったと確信するウクライナ人は少なくない」
さらに政治そのものにも大きな変化があったとシェイコ氏は指摘する。
「欧州安全保障協力機構(OSCE)の監督下でウクライナ国内では自由で公正な選挙が行われてきた。政治の動きはいい意味で活発になっていると思う。ゼレンスキー大統領が所属する政党『国民の公僕』は最高議会で過半数を獲得しているが、彼の政党だけで意思決定できるケースはそれほど多くない。他の政党とのやり取りは時に政治的な争いに発展することもあるが、独裁体制に陥らないシステムは機能している」
ロシア軍の侵攻前、ゼレンスキー大統領の支持率は30%ほどであったが、これは特段に低いというわけではなく、ウクライナの政治ではよくある話なのだという。
ロシアのウクライナ侵攻はプーチン体制の終わりの始まりか
2014年にロシアがクリミアを併合。同じ時期にウクライナ東部ドンバス地方で発生したウクライナ軍とロシアからの支援を受けた武装組織との戦闘では、8年の間に1万4000人以上が死亡している。
プーチン大統領は2月21日、ドンバス地方で親ロシア派が作った「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認した。
ロシアは過去にもジョージアで、親ロシアの「アブハジア」や「南オセチア」の独立を承認し、その地域に住む親ロシア派住民の保護を名目に軍事作戦を展開した。今回も同じ手法で、ロシア軍はドンバス地方に侵攻を開始。ロシア国内で祝日となっている「祖国防衛の日」の翌日となる2月24日早朝にウクライナの複数の都市で同時に軍事作戦を開始した。
2014年はウクライナ軍が早い段階でクリミアから撤退し、ロシアは大きな損害を出さずに同年3月18日にクリミアを併合することに成功した。
だが、国際社会からの反発は強く、3月24日にはG8という名称で行われていた主要国首脳会議におけるロシアの参加資格停止が決定。その年にロシアのソチで行われる予定であったG8サミットは、G7サミットとしてベルギーのブリュッセルで行われた。
ロシアの参加資格停止は西側諸国との関係悪化を象徴する出来事であったが、クリミア併合直後にロシア国内で独立系調査機関が行ったプーチン大統領の支持率は8割に達した。
今回の2月24日に始まったロシアのウクライナに対する軍事侵攻は当初、「キエフが数日中に陥落する可能性がある」と、複数の米メディアが諜報機関関係者の談話を報じていた。だが、3月2日の時点でキエフだけではなく、ウクライナ国内の主要都市をロシア軍が制圧できない状態が続いている。
欧米各国から対戦車ミサイルや地対空ミサイルの提供を受け、ウクライナ軍だけではなく、市民も銃や火炎瓶を手にして徹底抗戦する中、軍事作戦が計画通りに進まないことにプーチン大統領がいら立ちを隠せないという報道も出始めた。
絶大な権力を持ち、政権の主要ポストに自身と似たバックグラウンドを持つシロヴィキ(公安関係出身者)を配置するプーチン大統領の政治基盤は揺るがないものと考えられていたが、果たしてそうなのだろうか。
フィナンシャル・タイムズの記者として1970年代からモスクワに住み、プーチン政権を批判する複数の著書を上梓したのち、2013年にロシア政府から国外退去を命じられたアメリカ人ジャーナリストのデービッド・サッタ―氏に「ロシアは過去8年で変わったのか」と聞いたところ、サッター氏は「ノー」と即答し、次のように続けた。
「政治システムは何も変わっていない。むしろ、プーチン大統領の強硬的な手腕がより目立つようになってしまった。ロシアでも大統領選挙は民主的な方法で行われるが、仮にプーチンが敗れた場合、正しい形で後継者に権力を委譲できるかは疑問だ。ウクライナ大統領選挙でゼレンスキーが新しいリーダーに選ばれ、現職のポロシェンコが敗れた際は、大統領職の引き継ぎは問題なく行われた。ここにウクライナとロシアの差があると思う」
さらに筆者が「ウクライナ侵攻はプーチン体制の終わりの始まりか」と聞くと、サッター氏は「短期的には(プーチン体制が終わることは)考えにくい」としながらも、「可能性はゼロではない」として、その理由についてこう語る。
「ウクライナに侵攻したロシア兵の中には多くの若者がいて、まだ10代の兵士が戦地に送られていることが少しずつ判明している。戦死者や戦地で戦う兵士の情報をロシアは国内でほとんど明らかにしておらず、戦死もしくは捕虜となったロシア兵の情報提供をウクライナ側が行っているのが現実だ。情報戦の意味合いもあるが、ウクライナは戦死したり捕虜となったロシア兵の情報を彼らの母親に向けてロシア語で発信するホットラインを開設しており、ロシア側からたくさんの相談が来ている。戦争の意義に納得しないロシア人が増え、兵士の親や退役軍人らのフラストレーションが頂点に達したとき、何かが起こっても不思議ではない」
ベラルーシのルカシェンコ政権が一気にロシア寄りになった理由
ウクライナ全土でロシア軍が攻撃を繰り返し、ウクライナ軍と市民が抗戦を続けるという流れが続いている(3月2日現在)。
ウクライナ・ロシアの両方と国境を接し、現在はロシアにとって唯一の同盟国と言っても過言ではないベラルーシ。ソ連崩壊後の1994年にベラルーシで初めて行われた大統領選挙に勝利したアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、大統領の任期を延長する法律を作り、ベラルーシの憲法で定められていた大統領の3選禁止条項を廃止、間もなく大統領に就任してから28年となる(現在6期目)。
不正選挙疑惑や反体制派への弾圧に注目が集まり、「欧州最後の独裁者」というニックネームが付けられた人物だが、過去にはウクライナとロシアの調停役として動き、プーチン政権に対する敵対心をあらわにしたこともある。
2月27日、ベラルーシでは憲法に記載された「自国を非核地帯とする」という条文の削除を巡る国民投票が行われ、賛成65.1%で改憲が成立した。これによりベラルーシ国内にロシア軍の核兵器が配備される可能性が高まった。
過去には調停役と考えられたルカシェンコ大統領が極端なロシア寄りの姿勢を見せるのにはどういった理由があるのか。リトアニアの首都ビリニュスにある東ヨーロッパスタディーセンターでリサーチを担当し、2020年にベラルーシで発生した反政府デモを長期間取材したのち、現在はアメリカのイェール大学で学ぶマクシマス・ミルタ氏は次のように語る。
「理由は明白で、ルカシェンコ政権はロシアの支援なしでは延命できないことをルカシェンコ自身が気付いたからです。西側諸国に近づこうとした時期もありましたし、中国に対して積極外交を仕掛けた時期もありました。ミンスク合意(2015年にベラルーシの首都ミンスクで著名されたウクライナ東部紛争を巡る和平合意)で調停役として動いた際には、全方位外交を目指していましたが、モスクワからの経済支援なしでは体制維持ができないことに気付いたルカシェンコは2020年の大統領選挙で一気にロシア寄りの姿勢を示しました」
では、ベラルーシがロシアの核兵器を国内に配備するかもしれないという話についてはどう考えているか。
「その話を知ったときは悲しくなりました。チェルノブイリの原発事故はウクライナとベラルーシの国境近くで発生しましたが、放射線の被害を受けた人はベラルーシの方が圧倒的に多かったのです」
本稿では有識者たちに、ウクライナ・ロシア・ベラルーシの「それぞれの8年」について語ってもらった。
その間に一つのターニングポイントがあったとすれば、7年前に一人のロシア人が死去したことではないかと筆者は考えている。
2015年2月27日、雪の降るモスクワのクレムリン前をカップルが歩いていた。周辺には人も多く、帰宅する人の車も近くを走っていた。クレムリン前にある橋を歩くカップルの後ろからモスクワ市のものと思われる除雪車が近づき、カップルの真横に止まった車から出てきた男が突然カップルに向けて銃を発砲した。
6回の発砲は全て男性に向けられたもので、頭部や背中に銃弾を受けた男性はほぼ即死だった。この男性はエリツィン政権で第一副首相を務めたボリス・ネムツォフ氏で、ロシアによるウクライナへの軍事介入に反対するデモの呼びかけ人であった。
数日後にネムツォフ氏の追悼集会がロシア国内外で行われ、モスクワだけで5万人近い市民が参加した。今となっては「たられば」の話だが、もし、彼が生きていたら、ウクライナとロシアの関係は、今とは違うものになっていたのかもしれない。
●ロシアに翻弄された国:ウクライナとフィンランド 3/3
今回のロシアの突然のウクライナ武力侵攻には驚きを禁じ得なかった。ロシア政府がどう説明しようとも、紛争解決手段としての武力行使には筆者は反対である。一日も早い停戦を望みたい。筆者がロシアビジネスと関わった期間はプーチンが大統領に就任して現在に至る期間にほぼ重なる。プーチンが表舞台に登場したのは1999年12月31日のことで、それ以来22年あまり、西側ビジネス筋のプーチンに対する評価は概ねポジティブなものであった。その雰囲気がやや変わり始めたのは2014年のクリミア併合のあたりからである。それでもクリミア、ドンバスは歴史的にロシアとつながりの深い地域であり、これらの地域への介入は目をつぶっておこうというスタンスであった。もちろん、欧米諸国はこの時のロシアの行動に対しても経済制裁を課したのであるが、ロシアは輸入代替と通貨切り下げによる輸出競争力増によってこの制裁を乗り切ってしまった。今回も、これだけ強気のプーチンのスタンスをみると、今回も西側の経済制裁を乗り切る秘策を持っているのかもしれない。
ウクライナのポテンシャル
筆者とウクライナのつながりはさほど深いものではない。米シリコンバレーでウクライナ出身のアントレプレナーやベンチャーキャピタルと接点があったことから、2014年ユーロマイダン(2004年のオレンジ革命に次ぐウクライナの市民運動)の数か月後にIT関連のイベントに招待されてキエフを訪問したことがある。ユーロマイダンから間もない時期であったが、ベンチャーの世界ではロシアとウクライナは敵対するものではなかったように記憶している。実際、ロシアのITベンチャーでキエフに開発拠点を持ち、アフリカ数か国向けにSNSを開発している会社を訪問して感心した記憶がある。ロシア、ウクライナのソフト開発能力、ロシアがソ連時代から有するアフリカとのコネクションをうまく活用したビジネスモデルであった。他方、同年にはドンバスにあった投資先の企業がウクライナ政府と自治共和国との紛争で倒産、ではなく消滅する出来事もあった。
こうした限られた経験から筆者がウクライナに対して持った疑問は、なぜこの国は豊かになることができなかったのだろうという点である。日本ではウクライナと言えば、ソ連時代の重工業コンビナート、さらに肥沃な黒土地帯と学校で教えこまれているので、さぞかし豊かな地域と誤解されがちである。ところが、実際のデータ(米CIA The World Factbook webページ)を見ると、ウクライナの購買力平価ベースの1人当たりGDP(国内総生産)は1万2400ドルと旧ソ連諸国の中でも下位に位置する。世界的に見ればイランやキューバと同程度である。また、人口の減少も続いている。筆者は専門家ではないので詳細な分析は行ったことはないが、ビジネス界で伝え聞くところでは出生率の低迷による自然減以上に、海外に流出する人口が大きいことが原因だという。とりわけ問題なのは、ウクライナの未来の新しい経済・産業基盤を築いてくれるであろう、優秀な人材が海外に流出していることである。象徴的な例を挙げると、米テスラのCEO(最高経営責任者)、時代の寵児イーロン・マスク氏が最初に財を成したPayPalの共同創業者が、ウクライナ人マキシム・レフチン氏である。彼は同社のテクノロジーを支えた。
また、世界最大の利用者数を誇るメッセンジャーサービス「WhatsApp」(2014年に当時フェイスブックが160億ドルで買収)のファウンダー、ヤン・クム氏もウクライナ人である。ウクライナのソフトウエア開発におけるIT人材のレベルはロシアやベラルーシと同様、世界的にもトップレベルにある。今回のロシア軍侵攻でウクライナにおける日系企業の活動がにわかに注目されたが、楽天は2014年に買収したメッセンジャーアプリ「Viber」の開発拠点がウクライナ南部のオデッサにある。また日立製作所は2021年に買収した米「GlobalLogic」は、ウクライナ国内5か所に約7200人のエンジニアを有することが報道された。日系企業(と言ってもその買収先であるが)でもウクライナのIT人材が活躍していたのである。こうした優秀な人材に対して、ウクライナ国内で活躍できる基盤を与えれば、ウクライナはロシア、カザフスタン(これらは資源エネルギー国である)とは言わないにしても、同じような経済構造にあるベラルーシ並みに発展しても良いように思える。しかし、歴代のウクライナ政権は、ロシアから、ヨーロッパから、IMF(国際通貨基金)から、その時々に得た外貨をどこに使ってしまったのか。国内産業の育成は後回しとされたのだろうか。
ウクライナ国内産業の「フィンランド化」
さて、ロシアに隣接しながら第2次世界大戦後、ロシアとの間合いをうまくコントロールしてきた国がある。フィンランドである。フィンランドはEU加盟国であるがNATO(北大西洋条約機構)には加盟していない。ロシアとは第2次大戦で2度にわたる戦火を交え、ロシアとの間でフィンランドに極めて不利な講和条件で休戦協定を結んだ。戦後もソ連に対する宥和姿勢を維持したことから西側諸国からは「フィンランド化」と揶揄されたが、ソ連崩壊後はロシアとのビジネスを積極化する背景となった。1990年代後半からは携帯電話会社ノキアの急成長もあって、国内でIT産業が盛んとなり、今やヨーロッパの中でも裕福な国の一つとなっている。安全保障上の観点からは、古くはヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が、2014年クリミア併合の際にはブレジンスキー元米大統領補佐官がウクライナのフィンランド化を主張している。つまりウクライナをNATOに加盟させない、中立国化である。バイデン政権になってからはこうした主張はめっきり聞かれなくなったが、これがバイデン氏(ファミリー含め)とウクライナ政権の特別な関係の存在を疑わせる背景にもなっている。筆者はビジネスの面からウクライナのフィンランド化、いやフィンランド・モデルの導入を主張したい。もちろん、人口約4500万人のウクライナ全国民をIT産業だけで養っていくことはできない。しかし、ウクライナの黒土と同様、恵まれたIT人材のリソースを活用しない手はない。
ウクライナ・ロシアのVBの今後
ウクライナのベンチャー、その多くはキエフに所在しているのだが、説明するまでもなく現在は日常業務を行える状況にはない。他方、ロシアのベンチャーは切迫した状態にあるわけではない。もちろん、ロシアのベンチャー関係者が現在のウクライナの状況に無関心なわけではない。彼らのSNSや私に送られてくるeメールあるいはベンチャー関連のウエブサイトをみると、彼らの多くが軍事侵攻に反対、ウクライナ国民へのサポートを訴えている。しかし、ロシアのベンチャーにも不安がないわけではない。今回の対ロシア経済制裁の一つにロシアの国営銀行VEBに対する米国内でのすべてのビジネス、金融システムへのアクセスを禁止、米国内の個人・法人による同行との取引禁止が盛り込まれた。これは同行がロシア軍需産業への資金供給を行っているためである。ところが、このVEB、ロシア国内ではVEB.RFとしてなじみが深いが、ロシア国内のベンチャー育成にも深くかかわっている。国内最大のインキュベーション拠点スコルコボや投資ファンド・ロスナノはいずれもVEB.RFの傘下にある。なお、ベンチャーと軍需産業の関係は米国DARPAはじめロシアに限ったことではない。スコルコボやロスナノから支援を受けたベンチャーの中には米国でのIPOを視野に入れた企業もある。今回の経済制裁によって、こうした企業の発展余地が失われることはロシア政府はさておき、西側の企業にとっても大きな損失である。ウクライナやロシアのベンチャー企業がグローバルに活躍できるよう、一日も早い平和の到来を願うものである。
●ロシア「軍戦死者498人」 ウクライナ侵攻後初の公表―3日に停戦交渉か 3/3
ロシア国防省報道官は2日、ウクライナでの軍事作戦におけるロシア軍の戦死者は498人、負傷者は1597人だと発表した。ウクライナ侵攻後、ロシアが自軍の戦死者数を公表するのは初めて。
ウクライナ軍の想定外の抵抗により、ロシア軍の損失が膨らんでいる可能性が指摘されているが、報道官は「多くの欧米メディアや一部のロシアメディアが広めた『計り知れない損失』という情報はデマだ」と反論。「徴兵された兵士や士官学校の学生は作戦に参加していない」と主張した。ウクライナ側の戦死者は2870人以上と述べている。
ウクライナ非常事態庁も2日、侵攻で「民間人2000人以上が死亡した」と発表した。ロイター通信によると、内務省高官は2日、キエフ中心部の駅一帯で大きな爆発があったと述べた。この影響で市内の一部は暖房が使えなくなる恐れがあるという。
●ロシア軍事侵攻 各地で被害拡大 3日にも2回目の停戦交渉見通し  3/3
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して3日で1週間となり、各地で続く戦闘で市民にも多くの犠牲者が出ています。ロシアとウクライナの停戦に向けた2回目の交渉は3日にも行われる見通しですがロシアは強硬な姿勢を貫くとみられ、事態の打開につながるかは依然見通せない情勢です。
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して3日で1週間となります。
ロシア軍は、首都キエフや第2の都市ハリコフなど各地で攻撃を続けていて市民にも多くの犠牲者が出ています。
ウクライナの非常事態庁はこれまでに市民2000人以上が死亡したと発表しましたが、国連人権高等弁務官事務所は2日、227人の死亡が確認され、犠牲者はさらに増えるとしています。
一方、ロシア国防省は2日、これまでにロシア軍の兵士の死者が498人に上ったとするなど初めて自国の具体的な被害状況を明らかにしました。
こうしたなかロシアとウクライナは先月28日に続いて停戦に向けた2回目の交渉の実施を調整してきました。
これについてロシアの代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官はウクライナ側との交渉が3日にベラルーシ西部のポーランドとの国境付近で行われると明らかにしました。
一方、ウクライナ大統領府の高官も2回目の交渉がまもなく行われるという見通しを示しています。
ただロシア側は停戦の条件としてウクライナの「中立化」や「非軍事化」を要求していて、ウクライナ側の立場とは隔たりがあります。
ロシアは各地で攻撃を激化させるなど軍事的な圧力を強めながらウクライナとの交渉でも強硬な姿勢を貫くとみられ、停戦につながるかは依然、見通せない情勢です。
●プーチン氏やオリガルヒに「重大な」措置=米財務長官 3/3
イエレン米財務長官は2日、ロシアによるウクライナへの攻撃がエスカレートすれば、米国と同盟国は引き続きプーチン大統領やオリガルヒ(新興財閥)に対し「重大な」措置を科すと言明した。
2日までにロシア中央銀行の資産の半分とロシアの銀行システムの資産の80%が制限下にあると明らかにした。
イエレン長官は、財務省が「プーチン大統領の腐敗した権力を支援するオリガルヒやロシアのエリート層を標的とすることを優先した」とし、「過去数週間、これら個人の多くに制裁を科し、世界にある富を特定し、凍結・没収するために、司法省や同盟国と対策本部を設立している」と語った。
さらに「ロシア経済はますます孤島化している」とし、「プーチン大統領が侵攻を続ければ、バイデン大統領と世界の同盟国およびパートナー国はロシアに重大な結果を科し、プーチン大統領の違法かつ非道な行動の責任を追求するというコミットメントを堅持し続ける」と言明した。
米経済情勢については、景気回復ペースが指標に基づく最も楽観的な予想を上回り、家計は健全で、米経済は一段と拡大する軌道に乗っているように見えるという認識を示した。
●いら立つプーチン氏、核威嚇も 深まる孤立、かつてない難局 3/3
ウクライナ侵攻作戦の停滞という現実に直面するロシアのプーチン大統領は、核戦力をちらつかせて米欧を威嚇するなど、いら立ちを強めているもようだ。米欧の経済制裁によりロシアの国際的孤立は深刻化しており、プーチン政権に近い富豪らからは批判も出始めた。独裁的権力を享受してきたプーチン氏は、かつてない難局に立たされている。
「米欧は違法な制裁という経済面で非友好的な行動を取っているだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)主要国の高官がわが国に対し攻撃的発言をしている」。プーチン氏は2月27日、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に不満をぶちまけ、核戦力を「特別態勢」に移すよう命じた。
米欧が世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行を排除する方針を決め、ロシア通貨ルーブルが暴落するなど、経済に甚大な影響が出ているが、プーチン氏は28日の経済閣僚らとの会合で米欧を「偽りの帝国」と呼び、対決姿勢をむき出しにした。
プーチン氏の一連の言動は、軍事作戦が停滞していることへの不満の表れとの見方がある。ロシア軍は祖国防衛を期すウクライナ軍の徹底抗戦に加え補給上の問題に直面しており、足止めを食っていると米国防総省は分析する。
リベラル系の政治家レオニード・ゴズマン氏はラジオ局「モスクワのこだま」のウェブサイト上で、「計画が失敗したのは明らかだ」と強調。「戦いたくない、あるいは何のために戦うか理解していない人間よりも、士気が高い軍隊の方が強い」として、「(プーチン政権幹部らは)ウクライナ人がこれほど英雄的に抵抗することも、世界が(反ロシアで)これほど団結することも予想していなかった」と指摘した。
ロシア経済崩壊への危機感は高まる一方だ。プーチン氏と親密な新興財閥(オリガルヒ)の実業家として、米政府の制裁対象にも指定されているオレグ・デリパスカ氏は2月27日、通信アプリに「平和が非常に重要だ。(停戦)交渉をできるだけ速やかに始める必要がある」と投稿。28日には政権が経済を牛耳っている現状を念頭に「この国家資本主義をすべて終わらせる必要がある」と踏み込んだ。
経済危機が深まれば、こうした声はさらに広がる可能性がある。ゴズマン氏は、ウクライナがロシアの侵攻をしのげば「プーチン政権にとって致命的打撃となる。エリート層は弱さと不十分さをさらけ出したプーチン氏を許さない」と予想した。
●ロシアの攻撃は「戦争犯罪」 議会、ウクライナ大使に拍手―ジョンソン英首相 3/3
ジョンソン英首相は2日、下院で開かれた首相質疑で、ロシアによるウクライナへの攻撃は「完全に戦争犯罪に当たる」と批判した。ウクライナ北東部ハリコフで罪のない民間人に砲撃したことを具体例に挙げた。
ウクライナ政府はハリコフへの攻撃を「戦争犯罪だ」と非難しているが、主要国首脳が同様の見解を示したのは初とみられる。国際刑事裁判所(ICC)はウクライナでの戦争犯罪の捜査開始を表明している。
英首相官邸報道官も2日、民間人への攻撃に加えて、首都キエフのテレビ塔に隣接するホロコースト(ユダヤ人大虐殺)追悼施設への攻撃も戦争犯罪に該当すると指摘した。
一方、英議会は2日、首相質疑にプリスタイコ駐英ウクライナ大使を招待した。ジョンソン氏や最大野党・労働党のスターマー党首ら、出席した与野党の全議員が総立ちとなり、拍手で連帯を示した。英議会では慣例で議場での拍手が禁止されているが、今回は認められた。
●核警戒強化、英外相発言が引き金? ロシア側「説明」が物議 3/3
ロシアによるウクライナ侵攻で、プーチン大統領が核戦力の警戒態勢強化を命じたのは、トラス英外相の発言がきっかけだったとするロシア側の「説明」が、英国内で物議を醸している。英政界は、危機的状況に至った責任を英側に転嫁しようとするものだとしてロシアに対する反発を強めている。
報道によれば、ロシア大統領報道官は「北大西洋条約機構(NATO)とロシアの衝突に関する(西側政治家の)受け入れ難い発言」が、核戦力に関する判断に影響を与えたと主張。「名前は言わないが、(発言者の一人は)英外相だった」とトラス氏のみを名指しした。
「発言」がどれを指すか明確でないものの、トラス氏は2月27日、「今プーチン氏を止めなければ周辺国も脅威にさらされ、NATO(とロシア)の戦争になりかねない。だから今(制裁などで)犠牲を払うのが重要だ」と述べた。英国では、ロシア批判が目立つトラス氏に危機激化の責任をプーチン政権が押し付けようとしているとの見方が根強い。
これに対し、ジョンソン英政権は「ウクライナで起きていることから目をそらさせようとするプーチン政権のやり方だ」(首相報道官)と取り合わない姿勢を強調。普段は鋭いジョンソン政権批判を浴びせるスタージョン・スコットランド自治政府首相も、ツイッターで「卑劣な核威嚇の責任を負っているのはプーチン一人だけだ」と外相を援護した。
●ウクライナに対するロシアの軍事侵攻で、ダウンロードされるアプリの変化 3/3
ウクライナに対するロシアの軍事侵攻が始まって以降、ニュースアプリなどのダウンロード数が激増していることが明らかになった。
これはアプリ調査会社Apptopiaの調査によるもので、ウクライナに対するロシアの軍事侵攻が始まって以降、米国ではニュースアプリのダウンロード数が激増。1日のダウンロード数が、CNNはそれまでの約8倍の約4万件、FoxNewsは約3倍の約2万件を記録したほか、Washington Postも世界中で約1万5000件の新規インストールが行われたという。一方、ニュースアグリゲーションアプリはダウンロード数を減らしており、人々が一次情報と速報性を求めていることがうかがえる。また、ウクライナではTwitterが過去最高となる7000件を記録したほか、秘匿性の高いメッセンジャーのSignalや、オフラインマップのMaps.meもランキングの上位に食い込んでいる。ロシア国内では国がブロックしているニュースやSNSにアクセスするためか、VPNアプリのアプリが飛躍的に伸びるなど、明らかな変化が見て取れる。ロシアの軍事侵攻は、アプリのニーズをも劇的に変えてしまったようだ。
●中国「ウクライナに同情」の意外。プーチン“報告なき軍事侵攻”に不満の隣国 3/3
アメリカとの対決では共闘姿勢を見せる中ロですが、ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の受け止め方は複雑なものがあるようです。今回、中国とウクライナの親密な関係性や、中国国営テレビ局CCTV4の報道内容を記しているのは、拓殖大学海外事情研究所教授で国際教養大学特任教授も務める名越健郎さん。名越さんは政府の統制下にあるCCTV4のウクライナ侵攻に関する報じ方が、日本や欧米のメディアと変わらぬ点に注目するとともに、旧ソ連圏諸国においては両国が覇権争いを繰り広げている現実を紹介しています。
ロシアのウクライナ「侵略戦争」、平和勢力・中国が不満か
ロシアがウクライナに侵攻し、凄惨な市街戦が進む中、ウクライナに居住する中国人も路頭に迷っている。欧米や日本政府はウクライナ在留国民に事前に退去を求めたが、中国政府は注意喚起を呼び掛けただけだった。プーチン政権は2月24日のウクライナ攻撃の最高機密情報を、準同盟国・中国に報せていなかったことになる。
ウクライナの中国人は6,000人
中国はウクライナとも緊密な関係を築いており、「一帯一路」の拠点国と位置付けていた。2020年の貿易総額は154億ドルで、ウクライナにとって、中国が最大の貿易パートナーだ。ウクライナ在住中国人は、コロナ禍で減少したものの推定6,000人。うち留学生が1,000人という。キエフ、ハリコフ、オデッサの3大都市を中心に居住し、商港のオデッサには富裕層の中国人が多いという。キエフとハリコフでは市街戦が起きており、中国人もウクライナ市民とともに逃げ回っているはずだ。中国メディアによれば、在ウクライナ中国大使館は26日、滞在する中国人に、みだりに身元を明かさないよう呼び掛けた。中国政府がロシアの欧州安保構想を支持するなど、ロシア寄りの立場を取ったことから、中国人留学生が脅迫を受けるケースがあるという。ロシア軍の攻撃で中国人に犠牲者が出れば、中国で反露感情が高まるだろう。
中国TVはロシアの侵略を報道
ロシアと中国のメディアでは、ウクライナ戦況報道が異なる。ロシアの国営テレビは、キエフなどウクライナ各地の戦況は一切報道せず、東部でロシア系住民がウクライナ政府の迫害を受けているといったプロパガンダ報道を長々と伝えている。これに対し、中国国営テレビ局CCTV4(国際放送)はウクライナ各地の惨状や庶民の嘆き、ゼレンスキー大統領の悲痛なアピールを大きく報じているという。プーチン大統領の姿が映されることはほとんどなく、ウクライナ側に立つような報道ぶりという。これは、日本や欧米のテレビ報道と変わらない。
中露間に隙間風――ロシアの軍事侵攻に賛同を表明しない習近
政府の統制下にある国営テレビの報道ぶりは、ウクライナへの中国の同情を示唆している。プーチン政権下でチェチェン戦争、ジョージア戦争、シリア戦争、一連のウクライナ戦争を推進し、好戦的なロシアに対し、中国は1979年の中越戦争以降、本格戦争をしていない。中国の方が「平和勢力」なのだ。中国の王毅外相は侵攻前、ミュンヘン安保会議で、「ウクライナの主権、領土保全の尊重」を訴えていた。
ウクライナ美人とのお見合いが人気
中国人男性の間で、ウクライナ人女性との結婚が密かな人気であることは、あまり知られていない。中国は女性の人口が男性より少なく、結婚できない独身男性が3,000万人に上るとされる。その点、ウクライナは世界有数の美女の産地だ。BBC放送(ロシア語版、2019年2月14日)によれば、新型コロナ禍の前まで、中国人男性数百人が常時ウクライナを訪れ、業者の案内でウクライナ人女性とお見合いをしていたという。ウクライナで花嫁を探す中国人男性は、富裕層が多く、相手の家族に多額の財政支援を行う。経済危機のウクライナは、平均月収は2、3万円程度で、外国人と結婚する女性が多い。ただし、言葉などの障害も多く、業者が2年間で誕生させたカップルは約40件だった。しかし、ウクライナ人美人妻の写真がSNSでアップされると、羨望の書き込みがあふれるという。業者はコロナ禍が終わると、ツアーを再開したい意向だ。しかし、ロシア人がミサイルと戦車で「美女の里」を台無しにしてしまった。中国人独身男性はプーチン政権の侵略戦争にあきれているはずだ。
農業開発からICBMへ
中国は2013年にウクライナと友好協力条約を締結後、積極的に進出した。中国の人民解放軍系企業は穀倉地帯のウクライナで、農業開発を計画しているほか、ウクライナ東部の防衛産業や宇宙航空技術を傘下に収めることを目論んでいる。東部ドニプロにあるユージュマシュはソ連時代最大の大陸間弾道ミサイル(ICBM)工場で、最盛期には120基のミサイルを製造し、米ソ軍拡競争を支えた。しかし、ロシアはミサイル輸入を中止し、工場の多くは閉鎖に追い込まれた。ICBMでは米露に大差をつけられている中国にとって、ユージュマシュは魅力だ。中国は東部の航空機エンジン工場、造船工場なども狙っている模様だが、ロシアの侵略戦争が中国の計画を台無しにしてしまった。
旧ソ連で中露が覇権争い
準同盟関係にある中露関係で、不協和音が広がる分野が旧ソ連地域の勢力圏争いだ。今年1月、カザフスタンで起きた反政府騒乱と政変では、ロシアが率いる集団安保条約機構(CSTO)の平和維持部隊が介入し、親露派・トカエフ大統領の指導体制の確立を支援した。習近平国家主席と親しいナザルバエフ前大統領、中国に留学したマシモフ元首相ら親中派は失脚した。中国はベラルーシの首都ミンスク郊外に巨大な工場団地を建設中で、ファーウェイなど大手先端企業が進出。欧州向けの輸出拠点にしようとしている。2020年夏、ルカシェンコ大統領に反対する市民の大型デモが吹き荒れた時、中国はロシアに対し、ベラルーシに武力介入しないよう申し入れたとの情報がある。中国はウクライナにも経済進出を進めていたが、ロシアは軍事力で進出した。中露は反米で共闘するものの、旧ソ連圏諸国への進出方法は正反対だ。旧ソ連諸国としても、人民元とインフラ開発で進出する中国人と、ミサイルと戦車でやって来るロシア人のどちらを選ぶかは一目瞭然だろう。
●ロシアのウクライナ侵攻の結果が「中国と台湾の今後」を左右する 3/3
ロシア軍のウクライナ侵攻により、世界的緊張状態が高まっている。先進国のロシアへの非難は絶えない。それでもなお、ロシアがウクライナを欲しがる理由とは?
本稿では2014年に勃発した「クリミア危機・ウクライナ東部紛争」の背景から、今後のロシア・ウクライナ情勢を読み解いていく。
ロシアがウクライナに侵攻する「歴史の必然」
2014年にウクライナで政変が発生すると、ロシアはウクライナ領クリミア半島の独立問題に介入し、クリミア半島を強引に併合してしまいました。欧米諸国は一斉にロシアを非難し、経済制裁を発動するとともに、G8(サミット)からプーチンを締め出す事態に発展しました。
ロシアがウクライナにこだわる理由は、黒海への出口に位置するからです。
18世紀後半、ロシアの女帝エカテリーナ2世がオスマン帝国を破って、クリミア半島を併合します。このときウクライナ南東部にロシア人が移住し、クリミア半島にはセヴァストーポリ軍港を築いて黒海艦隊を配置しました。
ロシアが地中海方面へ出て南下政策を進めるための重要拠点であり、19世紀には英仏連合軍とのクリミア戦争の戦場となりました。
ソ連崩壊後、クリミア半島はウクライナ領となりました。しかし、今もロシア系住民が多く、ロシア黒海艦隊がセヴァストーポリ軍港を借りています。
独立後、ウクライナは深刻な内部対立を抱えてきました。ウクライナ東部とクリミアにはロシア系住民が多いため「親ロシア派」、ウクライナ西部は「親欧米」と、国内が二分されています。
大統領選があると、東側は親ロシア派候補に、西側は親欧米派候補に投票し、どちらが勝っても揉めるのです。
2004年の大統領選は、南東部を基盤とする親ロシア派のヤヌコヴィッチが勝利宣言をしました。これに対し、北西部を基盤とする新欧米のユシチェンコが「不正選挙」を訴えると、オレンジ色をシンボルとする数万の新欧米派が首都キエフの広場を群衆が覆い尽くしました。再選挙の結果、ユシチェンコが大統領に選出されました。この2004年の政変が「オレンジ革命」です。
騒乱は黒海東岸のジョージア(グルジア)でも起こっており、その背後でアメリカCIAや国際金融資本(ジョージ・ソロス)のオープン・ソサイエティ財団が資金提供していたことがわかっています。
ロシアのクリミア併合からドンバス戦争(ウクライナ内戦)へ
2014年、親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領が行ったEU加盟交渉の凍結に反発した親欧米派が、再びキエフの広場(マイダン)で騒乱を起こしました(マイダン革命)。このときは流血の事態となり、ヤヌコヴィッチ大統領はロシアへ亡命。親欧米派政権が発足します。
このままでは、新欧米派政権がウクライナのNATO加盟交渉を行い、クリミアからロシア軍を撤退させ、代わりに米軍を招き入れようとするだろう――プーチンは、こうした危機感を抱きます。
このとき、クリミア半島の親ロシア派住民が、キエフの新欧米派政権からの分離独立に動きます。住民投票の結果、「ウクライナからのクリミア独立と、ロシアへの編入」に賛成する票が大多数を占めます。この「住民の意思」を盾に、プーチン大統領はクリミア半島を併合してしまったのです。
ロシアが開催国だったソチ冬季五輪が閉幕してすぐというタイミングでした。
オバマ政権はロシアに経済制裁を発動し、西側諸国もこれに同調してロシアに経済制裁を課し、G8(サミット)から締め出しました。
クリミアに続いて、ウクライナ東部ドンバス地方の2つの州(ルガンスク州とドネツク州)でも、親ロシア派が独立政権を樹立し、新欧米派+ウクライナ政府軍との内戦が勃発しました。このドンバス紛争が8年続いたのです。
この間に仏・独が仲介したミンスク合意も、ウクライナ政府、ドンバス側の双方が守らず、泥沼化していきました。
その間、ウクライナ大統領に選ばれたのは、新興財閥(オリガルヒ)の1人で「チョコレート王」のポロシェンコでした。彼はロシア語を公用語から外し、ロシアとの経済関係を遮断するなど露骨な反ロシア政策を推進しました。プーチンは苛立ちを強めます。
ウクライナを抑えたグローバリストに対抗するためにも、南の潜在的脅威・中国に対抗するためにも、「反グローバリズム」「反中国」のトランプ政権にプーチンは接近しました。トランプ政権の4年間プーチンはシリアの対IS(過激派組織イスラム国)作戦で米軍に協力するなど、米露関係も劇的に改善されたのです。
これは、「アメリカとロシアの対立」ではなく、ナショナリスト勢力のトランプ・プーチン連合vs.グローバリスト、という図式だったのです。
ところが2020年のアメリカ大統領選で民主党のバイデンが当選します。バイデンはかつてオバマ政権の副大統領としてウクライナの新欧米政権と太いパイプを持ち、息子ハンターバイデンがウクライナのガス会社から資金提供を受けている人物でした。
一方でプーチンを「人殺し」と罵るなど、ロシアとの関係は初めから険悪でした。これを受けてドンバスでは、新欧米派の武装勢力が攻勢をかけます。ウクライナのゼレンスキー大統領は、内戦終結への指導力に欠けていました。
ドンバス戦争に早くケリをつけたいが、トランプとの信頼関係を気にかけて動けなかったプーチン。バイデン政権になって、米国との関係悪化を気にしなくてよくなったとき、行動に出たのです。
2022年2月21日、プーチン大統領はドンバス地方2州の独立を承認し、「平和維持軍」と称してロシア軍の派兵を命じました。前年末ウクライナ国境に集結していたロシア軍約20万が国境を越え、ロシアのウクライナ侵攻が始まったのです。
過去の栄光をもう一度!「強いロシアの復活」
なぜプーチン大統領は、このような強硬手段に出たのでしょうか。それは、プーチンが強烈なロシア・ナショナリストであることで説明がつきます。彼がやろうとしていることは、「強いロシア」の復活です。
ロシア人が好む強い指導者は、3人います。帝政ロシアのピョートル大帝、ソ連のスターリン、それにプーチン大統領です。
スターリンは、自国民を大量に粛正した独裁者として悪名高い人物ですが、ロシア人にとっては「ヒトラーの侵略からロシアを守った英雄」でもあったのです。スターリン時代はソ連の領土も広く、バルト三国、ウクライナ、ジョージア、アルメニア、さらにはカザフスタンやウズベキスタンなどの国々も支配下に置いていました。
これらの領土を奪い返すことができれば、ロシアは過去の栄光を取り戻すことができる。プーチンはそのように考えて、対外的に強硬な姿勢を崩さないのだと考えられます。
そして多くのロシア人も、プーチンの強いリーダーシップを支持しています。滅ぼし、滅ぼされ、を繰り返してきた大陸民族のメンタリティーは中国人とも共通するところがあり、日本人のような海洋民族の理解を超えています。
プーチンと習近平とは、「同床異夢」の関係です。習近平がぶち上げた「一帯一路」計画は、チャイナマネーでユーラシア諸国を懐柔し、中国の影響下に置こうとする新たな帝国主義です。
その中には、カザフスタン、ウズベキスタンなど旧ソ連邦の「裏庭」とも言える中央アジア諸国やウクライナも含まれます。中国企業がこの地域の資源開発を進め、パイプラインを敷設すれば、もうロシアから石油やガスを買う必要はなくなります。
中国は兵器の国産化も急ぎ、ロシア離れを進めるでしょう。
その一方で、「力による国境変更は当然」と言うメンタリティーでは、両者は共通しています。プーチンはウクライナを「歴史的にロシアと不可分の土地」と呼びました。習近平が台湾について「統一に向けて一切妥協しない」と発言しています。
西側諸国がウクライナを見捨てれば、これは習近平にとっての青信号となるでしょう。
●ウクライナ侵攻で目の当たりにしたサイバー攻撃の兵器化 3/3
当然予想されたことではあるが、社会インフラへのサイバー攻撃や、人心を惑わす偽情報のネット上での拡散などが、戦争の道具、あるいは兵器となることを目の当たりにすることになった。2022年2月下旬にロシアがウクライナに軍事侵攻した際、それを前後してウクライナ国内ではサイバー攻撃などが相次いだ。ロシアによる攻撃と米国などが断定しており、タイミングなどからみても間違いないだろう。
報道によると、ロシア軍の侵攻が始まった2月24日前後に、ウクライナの国防省や教育省、議会などのWebサイトが閲覧できなくなったほか、複数の銀行のサイトで障害が発生したという。大量のデータを送りつけ障害を発生させるDDoS攻撃やマルウエアなどが活用されたもようだ。それに先立つ2月15日にも国防省や銀行などに、DDoS攻撃が仕掛けられている。
さらに15日のDDoS攻撃の前後には銀行の名をかたって「ATMが使えなくなった」との偽情報がSMS(ショート・メッセージ・サービス)を使ってウクライナ市民に送りつけられ、市民の間に混乱が広がったという。米国がいち早く察知して情報を公開したため「未遂」に終わったが、ロシアが侵攻の口実とするため動画を捏造(ねつぞう)しているとの報道もあった。
もちろん初めてではない。サイバー攻撃や偽情報の拡散は日常的に発生しており、ロシアをはじめいくつかの国の関与も指摘されてきた。さらに、ロシアが2008年にグルジア(現ジョージア)に侵攻した際にも、グルジア政府の関連サイトなどにサイバー攻撃を仕掛けたと言われている。今回見せつけられたのは、既にサイバー攻撃などが戦争の道具として組み込まれている現実に他ならない。
「NO WAR」を訴える手段もある
かつての産業革命に匹敵すると言われるデジタル革命が急ピッチで進むなか、企業などがDX(デジタル変革)を進めている。当然のことながら、軍事のDXも進んでいる。むしろ、企業活動に比べ倫理面の制約などをある程度無視できる軍事領域のほうが、DXの取り組みが一歩も二歩も先を行くと考えたほうがよい。
今回のロシアによる試みは、社会インフラへの破壊工作やデマの拡散といった、従来の戦争でも行われてきた謀略のデジタル版にすぎない。ただ、デジタル化による「恩恵」で、企てがはるかに容易になった。今回は使われなかったようだが、AI(人工知能)によって偽動画をつくるディープフェイク技術により、不安や不信の種をまき散らし、人々を扇動する謀略がより高度化する可能性もある。
サイバー攻撃などが戦争の手段として使われるようになったのは、その「戦線」を容易に拡大できるようになったということでもある。経済制裁などに反発して第三国に武力攻撃をかければ、武力による反撃を招くが、サイバー攻撃などを駆使した戦線拡大ならリスクは比較的小さい。逆に言えばその分、日本などの第三国が戦争に巻き込まれるリスクは高くなるわけだ。
ちょうど今、日本では社会インフラの安全確保や戦略物資のサプライチェーン強化などを盛り込んだ経済安全保障推進法案の国会審議が始まろうとしている。企業活動を萎縮させるような政府の行き過ぎた介入には警戒が必要だが、たとえ国内であっても、サイバー攻撃などの形で戦争に巻き込まれるリスクを強く意識した備えは必要になるだろう。
ただし、それだけでは足りない。インターネットは戦争を仕掛ける国にとって偽情報を拡散する手段かもしれないが、同時に「NO WAR」を世界に訴え連帯する強力なツールにもなる。そのことも決して忘れてはならない。
●止まった車列、首都包囲投入か ウクライナ情勢 米国防総省高官 3/3
米国防総省高官は2日、ウクライナ首都キエフ北方で確認された約60キロに及ぶロシア軍の車列について、止まった状態が続いているとし、ウクライナ軍が前進を遅らせるため車列を目標に攻撃を試みた可能性があると明らかにした。
高官は、この日の戦況説明でキエフ北方で動きを止めたロシア軍について、引き続きウクライナ側の反撃を受け、燃料と食料などの補給不足に苦しんでいるとの見方を示した。
高官はまた、長距離の車列は戦闘車両と補給・輸送用の車両で構成されており、キエフの包囲を狙って投入される可能性があるとした。ゼレンスキー政権の転覆を意図するプーチン大統領にとり、首都包囲はそのための手段との見方も示した。
露軍はキエフ市街への激しいミサイル攻撃を続け、民間インフラを含めた無差別の様相を示している。
一方、高官はウクライナ側の反撃の状況について、ゼレンスキー氏が指揮管理を保っているとし、米国やその他の国からの武器供与など軍事支援が着実に届き、組織化されていると指摘。露軍との制空権争いで、ミサイル防衛能力が機能を続けるのはその証左とし、「ウクライナの軍、市民双方が激しく戦っている」と語った。
●韓米日国防相会談 ウクライナ情勢受け延期 3/3
韓国の国防部関係者は3日、今月初めの開催で調整していた韓米日の3カ国国防相会談について、「最終的な日程が決まっていない」として、「さまざまな国際情勢などがあり、議論が少し遅れている」と記者団に明らかにした。
会談を巡る3カ国の意見の相違によるものではなく、ウクライナ情勢の影響かを尋ねる質問には「そのように見たほうが良い」と答えた。
3月中に対面で会談を開催するという方針に関しては「断定できない」とし、「3カ国が合意しなければならない側面があり、議論を続ける」と述べた。
3カ国は当初、1月に米ハワイで対面会談を行う方向で調整を進めたが、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の拡大を受け電話会談に変更。3月中の会談開催を協議してきた。
だが、ロシアのウクライナ侵攻で米国が対ロ経済制裁などの対応に追われ、会談開催にも影響を与えたとみられる。
●ウクライナ情勢を受け経済制裁 H&Mは販売停止、ユニクロは「状況見て判断」 3/3
ロシア軍のウクライナ侵攻を巡り、ロシアへの経済制裁が強まっている。紛争への抗議や商品供給停滞などさまざまな理由から、同国に進出するファッション関連企業においても販売停止を決めるブランドが出てきた。
H&Mグループは、スウェーデン時間3月2日にロシアでの販売を一時的に停止すると発表。すでにロシア国内の店舗は休業状態となっているという。同グループはロシアで約170店舗を運営。ロシアは、ドイツ、米国、イギリス、フランス、スウェーデンに次いで6番目に大きい市場となっているが、「悲劇的な事態を深く憂慮し、苦しんでいるすべての人々とともに歩む」として紛争への抗議の姿勢を示した。
複数のメディアの報道によると、ナイキ(NIKE)とユークス ネッタポルテ グループは物流上の問題を理由にロシアでの販売を停止。プーマも現地の店舗は現在も営業している状態だが、ロシアへの出荷を取り止めたという。また、アディダス(adidas)はロシアサッカー連合とのパートナーシップ契約を即時停止するなど波紋が広がっている。
日本のアパレル企業では、ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ(UNIQLO)」が2010年にロシアに進出。2021年8月期においては、Eコマース事業とロシアの業績好調により欧州エリアで大幅増収と黒字を達成した。2月末時点で50店舗を出店。同社は現時点ではロシア国内の事業を継続しているが、「今後については、状況を見て判断していく」と回答した。
●ロシアがウクライナへ軍事侵攻 関西でも広がる支援 3/3
ウクライナ情勢についてです。ロシアが軍事侵攻を開始してから1週間がたちました。情勢は悪化の一途をたどっています。こうしたなか、関西でもウクライナへの連帯を示し支援しようという動きが広がっています。
ウクライナ国歌をカリヨンで演奏
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、兵庫県伊丹市で平和の象徴として市民に親しまれている「カリヨン」という楽器でウクライナの国歌が演奏され市民が祈りをささげました。
JR伊丹駅前の広場にあるカリヨンは、ピアノのように鍵盤とペダルを使って大小43個の鐘を演奏する鍵盤楽器の一種で、伊丹市は終戦の日に鐘を鳴らすなど平和の象徴として市民から親しまれています。
3日夕方、藤原保幸市長や地元の人が集まり犠牲となった人に黙とうをささげたあと、カリヨン奏者の中村和代さんがウクライナの国歌を演奏しました。
ウクライナ国民への連帯の気持ちを示すため、カリヨンがウクライナの国旗をイメージして青と黄色にライトアップされ、きれいな鐘の音色があたりに響き渡ると、訪れた人たちは静かに耳を傾けていました。
70代の女性は、「とてもきれいな音でした。早く平和な日が訪れてほしいと思います」と話していました。
伊丹市の藤原市長は、「地理的にはウクライナと離れていますが、『ここでもウクライナの人々を思っているよ』というメッセージが少しでも届けばと思います」と話していました。
和歌山市 募金受け付け開始
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、和歌山市は、ウクライナの人たちを支援しようと募金の受け付けを始めました。
ウクライナでは戦闘の激化で死傷者が増え続け、周辺国には多くの人たちが次々と避難しています。
こうした状況を受けて和歌山市はウクライナの人たちの救援活動を支援しようと、3日から、募金の受け付けを始めました。
募金は市役所の本庁舎や東庁舎で受け付けていて、日本赤十字社を通じて避難している人たちの食料や医療品の確保などに活用されるということです。
和歌山市高齢者・地域福祉課の小南次郎 班長は、「ウクライナと直接的な交流はありませんが、協力できることはないか考え、募金箱を設置することにしました。遠く離れた地ですが、みなさんの温かい気持ちを支援につなげていきたいと思いますので、ご協力をお願いします」と話しています。
元留学生“キエフは危険な状況だ”
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は3日で1週間がたちました。
市民の犠牲者が増え続ける中、京都大学の元留学生の女性が、キエフから今も京都で暮らす恋人に「キエフは危険な状況だ」とオンラインで窮状を訴えました。
女性はこの会話のあと自宅を離れポーランドへの避難を始めました。
京都大学の元留学生で、キエフに住むウクライナ人のポリナ・フルマノワさん(21)は、現在も留学を続ける中国人の恋人、孫豊毅さん(22)に日本時間の2日夕方、現地時間の2日午前10時ごろ、オンラインで現地の状況を伝えました。
ポリナさんは2日現在のキエフの様子について、「スーパーには行けるけれど米やパンはない店もある。道には車が走っていない。キエフはロシア軍に囲まれていてとても怖い。テレビ塔が攻撃されてそばを通っていた人が亡くなってしまった」と身に迫る危険を訴えました。
また、ポリナさんは日本語でNHKの取材にも応じ、「マンション最上階の12階に住んでいて、上からミサイルが来たらどうしようもないのでとても怖いです。ポーランドに避難しようと思いますが、避難する場合、私と母親だけで、父は残らなければならず、キエフは離れたくない気持ちが強くあります」と心境を語りました。
そのうえで、「今ウクライナに起きていることは、どこにでも起こりうることです。ウクライナにおける戦争のことを皆さんに共有して、もう二度と起こらないようにお願いしてほしいです」と訴えました。
恋人の孫さんは「これまで心配で眠れなかったが、オンラインで顔を見て話ができ少し安心しました。彼女が再び日本に留学に来て、一緒に勉強できる日が来ることを心待ちにしています」と話していました。
一方、取材のあと、日本時間の3日午後2時半ごろ現地時間の3日午前7時半ごろ、記者のもとにポリナさんからメールが届き、自宅を離れ、ポーランドに向けて避難を始めたとつづられていました。
この中でポリナさんは、「ウクライナから避難した人の受け入れを進める方針を日本が表明したというニュースを見たので、日本に向かう可能性も考えている」と記していました。
●ロシア ウクライナ侵攻反対のデモで人々が連行される  3/3
2日、ロシア第二の都市サンクトペテルブルクでウクライナ侵攻に反対する抗議デモがありました。映像には警察に連行される人々の姿が映っています。
抗議デモはロシアで広がっているのか?経済制裁の影響はどうなのか、モスクワ支局の高塚記者はこう解説しています。
戦争反対や政権に対する不満の声はじわじわと広がっていると感じます。
先週末にはロシアの60か所で政権批判の抗議活動が行われました。
私が先日取材した人は、今回のロシアの軍事侵攻について「ウクライナ人に対して何世代にもわたって償っていかなければならない犯罪だ」と声を震わせて話していました。
また欧米の民間企業がロシアでのビジネスを見合わせる動きが広がる中、今後の生活への不安を口にする市民も増えてきています。
一方、プーチン政権は抗議活動を力で抑え込もうとしていて、人権監視団体によればロシア各地で治安当局に拘束されたのは延べ7500人以上に上ります。
国際社会だけでなく、足元の国内でも、批判の声がさらに広がれば、プーチン大統領自身が孤立を深めていく可能性もあると見られます。
●ウクライナへの軍事侵攻は「我々の歴史と重なる」 ケニア国連大使スピーチ 3/3
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから約1週間。世界からロシアに対し批判の声が向けられる中、“ある1本のスピーチ”が話題を集めている。
それは先月21日、アメリカで開催された国連の緊急会合でケニア共和国のキマニ国連大使が発したスピーチだ。この日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域の独立を承認し、この地域への軍の派遣を命令していた。
かつて、イギリスをはじめとした欧州列強による植民地支配を受け、国境を決められ分断された過去を持つアフリカ――。軍事力を振りかざし、一方的に独立を承認したロシアの行動に対してキマニ大使は、アフリカの歴史と照らし合わせて憤りをあらわにした。内容は以下の通り。
「この状況は私たちの歴史と重なる。ケニア、そしてほとんどのアフリカの国々は、帝国の終焉によって誕生した。私たちの国境は、私たち自身で引いたものではない。ロンドン、パリ、リズボンといった遠い植民地の本国で引かれたものだ。いにしえの国々のことなど何も考慮せず、彼らは引き裂いた」
「現在、アフリカの全ての国の国境線をまたいで、歴史的、文化的、言語的に深い絆を共有する同胞たちがいる。独立する際に、もし私たちが民族、人種、宗教の同質性に基づいて建国することを選択していたのであれば、この先何十年後も血生臭い戦争を繰り広げていたことだろう。しかし、私たちはその道を選ばなかった。私たちはすでに受け継いでしまった国境を受け入れたのだ。それでもなお、アフリカ大陸での政治的、経済的、法的な統合を目指すことにした。危険なノスタルジアで歴史に囚われてしまったような国を作るのではなく、未だ多くの国家や民族、誰もが知らないより偉大な未来に期待することにした。私たちは、アフリカ統一機構と国連憲章のルールに従うことを選んだ。それは国境に満足しているからでなく、平和のうちに築かれる偉大な何かを求めたからだ」
「帝国が崩壊あるいは撤退してできた国家には、隣国との統合を望む多くの人々がいることを知っている。それは普通のことで、理解できる。かつての兄弟たちと一緒になり、彼らと共通の目的を持ちたいと思わない人などいるものだろうか。しかし、ケニアはそうした憧れを力で追求することを拒否する。私たちは、新たな支配や抑圧に再び陥らない方法で、滅びた帝国の残り火から自分たちの国をよみがえらせないといけない」
「私たちは人種・民族・宗教・文化など、いかなる理由であれ、民族統一主義や拡張主義を拒む。我々は今日、再びそれを拒否したいと思う。ケニアは、ドネツクとルガンスクの独立国家としての承認に重大な懸念と反対を表明する。さらに我々は、この安保理のメンバーを含む強大な国家が、国際法を軽視するここ数十年の傾向を強く非難する」
「多国間主義は今夜、死の淵にある。過去に他の強国から受けたことと同様に、今日も襲われている。多国間主義を守る規範のもとに再び結集させるよう求めるにあたり、私たちはすべての加盟国が事務総長の後ろ盾となるべきだ。また、関係当事者が平和的手段で問題解決に取り組むように求めるべきだ。最後に、ウクライナの国際的に認められた国境と領土的一体性が尊重されることを求める」
国境線を勝手に決められても、それを受け入れ、平和に共存していくため歩みを進めるアフリカの思い。ロシアを強い言葉で非難したキマニ大使のスピーチは、世界中で大きな反響を呼んだ。
一方で、内戦が続くアフリカの現状はスピーチでのきれいごとだけは語れないという批判の声もある。複雑な歴史的背景を抱えるアフリカは、ロシアの軍事侵攻をどう見ているのだろうか。
このニュースを受けて、テロ・紛争解決に詳しい永井陽右氏は「まさに歴史に残る素晴らしいスピーチだった」とキマニ大使を絶賛しつつ、こう解説する。
「大使も指摘していたが、アフリカ大陸には植民地がものすごくあったので、どうしても『植民地支配前の領土に戻りたい』だとか、『不公平な中で領土を拡大したい』という思いがあったりする。今回のウクライナ情勢を受けて、『私たちが掲げていたのはきれいごとであって、(現実は)パワーゲームだ』と思うのではなく、改めて多国間主義を思い出す、植民地支配後や大戦後に人類が培った仕組みや合意した原則に立ち返ろうというスピーチだった」
ロシアによるウクライナ侵攻で被害が拡大する中、私たちに何ができるのだろうか。永井氏は「どのような理想を掲げて、掲げた理想にどう一致団結して進んでいくかが問われている。ロシアの使った論理を使えば何でもできてしまうが、それではいけない。キマ二大使が言ったように、『我々が人類としてどのような理想を掲げているのか』『きれいごとかもしれないが、みんなで掲げた理想に向かっていこう』と国際社会として再確認していく必要がある」と訴えている。
●キエフの駅攻撃“無差別”懸念も ウクライナに侵攻1週間  3/3
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、3日で1週間。ロシア軍が迫る首都キエフでは、多くの人が集まる駅が攻撃を受けたと伝えられ、市民への無差別攻撃が懸念されている。キエフやその周辺では2日、戦闘が続き、街にはロシア軍のものとみられる軍用車両が残されていた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、2月24日の軍事侵攻から、ロシア兵およそ9,000人が死亡したと明らかにした。
こうした中、地元メディアは、キエフ市内の駅が攻撃を受けたと伝えた。駅では、数千人の女性や子どもが避難していたとしているが、死者やけが人の情報は、今のところ報じられていない。
また、暖房に使われる温水パイプラインが爆撃を受け、キエフ市内の一部で暖房がストップする可能性があるという。
ウクライナ当局は、これまでに犠牲となった市民は2,000人以上にのぼるとしている。
首都の包囲を進めるロシア軍の攻撃が、無差別になることが懸念されている。
一方、ロシアとウクライナの2回目の直接交渉は、日本時間の3日にも行われる見通し。
●ロシアが軍事侵攻 ウクライナ100万人が国外避難 3/3
ロシアが軍事侵攻を開始して以来、ウクライナから国外に避難した人が100万人に達したことが明らかになりました。
UNHCR(=国連難民高等弁務官事務所)はロシア軍の侵攻開始から1週間でウクライナから近隣諸国に避難した人が100万人に達したことを明らかにしました。
ロシア軍の攻撃がいつ終わるのか見通せない中、避難した人たちは将来に大きな不安を抱えて過ごしています。
ドイツに向かう女性「行くところがないのでドイツに行く。こんな大変なことになるとは思わなかった。ドイツでの生活に慣れるのは 時間がかかるだろう」
今後、戦闘が長期化した場合、膨大な数の避難民の生活再建をどう支えていくのかが大きな課題となります。
●死者急増、泥沼化懸念 停戦交渉、歩み寄り困難―ウクライナ難民100万人超 3/3
ロシア軍のウクライナ本格侵攻開始から1週間がたち、死者数の増加が顕著になっている。ウクライナ非常事態庁は2日、「民間人2000人以上が死亡した」と明らかにする一方、ロシア国防省はロシア側の死者数について498人と発表した。ロシア政府の説明によると、3日には双方の代表団による停戦交渉が予定されているが、歩み寄りは困難で、戦況の泥沼化への懸念が一段と高まっている。
タス通信によると、ウクライナ代表団が3日、ロシア側との交渉のため、ベラルーシに到着した。
ロシアのプーチン大統領は3日、フランスのマクロン大統領と電話会談し、いかなる場合でもウクライナでの軍事作戦の目的は遂行されると表明した。また、停戦交渉を遅らせて時間を稼ごうとする試みは、ウクライナにさらなる要求を突き付けることになると警告した。
2月24日の侵攻開始以降、隣国ポーランドなど国外に逃れたウクライナ難民は100万人を超えた。グランディ国連難民高等弁務官はツイッターで、ウクライナ国内にはさらに多くの避難民がいると指摘し、「命を救う人道支援のため、武器を置く時だ」と訴えた。
ウクライナ南部ヘルソン州の知事は3日、ロシア軍がヘルソンの州庁舎を「完全に占拠した」と表明した。ロシア軍は至る所に展開しているといい、侵攻による初の主要都市陥落となる。市内では混乱が広がり、商店での略奪行為が横行しているとされる。
北東部ハリコフも連日の激しい攻撃で陥落の危機に直面し、ロイター通信によれば、2日から3日にかけて民間人34人が死亡した。ロシア国防省は3日、ハリコフ近郊の町バラクレヤを「解放した」と主張した。
首都キエフ一帯では、ロシア軍がテレビ塔や発電所などインフラ施設への砲爆撃を繰り返している。ロシア国防省は3日、キエフにある放送施設を攻撃し、破壊したと発表した。
ロシアとウクライナの停戦交渉は2月28日に最初の協議が行われ、2回目の交渉が3日にベラルーシ西部ブレスト州で開かれる見通し。ただ、ウクライナはロシア側の攻撃強化に反発しており、交渉の行方は不透明だ。 
●中国 北京五輪閉幕まで侵攻しないよう事前要請か 複数メディア  3/3
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、複数のメディアはアメリカ政府高官などの話として、中国が事前にロシアに対し北京オリンピックが閉幕するまでは侵攻しないよう要請していたとの情報があると報じました。
これは、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズなど複数のメディアが2日、バイデン政権の高官などの話として伝えました。
それによりますと、中国政府の高官が先月上旬、ロシア側に対して北京オリンピックが閉幕するまではウクライナに侵攻しないよう要請していたという情報があるということです。
西側の情報機関はこうした情報をもとに報告書を作成し、中国政府がロシアの軍事侵攻の計画や意図について事前に何らかの情報を把握していたことを示唆しているとしています。
北京オリンピックが閉幕したのは先月20日で、軍事侵攻が始まったのは閉幕から4日後でした。
中国政府はこれまでにロシアによる軍事侵攻が侵略行為に当たるかどうかの明言を避けるとともに、欧米による制裁を非難し、2日に行われた国連総会でのロシアを非難する決議案の採択でも棄権するなどロシア寄りの姿勢を示しています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって、中国国内では現地の中国人に避難を呼びかけるのが遅かったと政府の対応への批判が出ています。
中国メディアによりますと、ウクライナにはおよそ6000人の中国人がいるということですが、現地の中国大使館が避難に向けた通知を出したのは、ロシアが軍事侵攻に乗り出したあとの2月25日でした。
大使館はチャーター機による帰国に向けて希望者の募集を始めましたが運航は実現せず、先月28日から大使館が主導して陸路での避難が始まりました。
しかし、現地では1日、避難していた中国人1人が銃撃に遭ってけがをする事態も起きています。
王毅外相は1日、ウクライナのクレバ外相との電話会談で、現地にいる中国人の安全確保や避難に向けて便宜を図るよう求めましたが、中国のSNS上には「中国は自国民を避難させる決定が遅かった」や「アメリカ、イギリスなどは2月中旬に自国民の避難を始めていたのに、中国はなぜ戦闘が始まる前に避難させなかったのか」など批判する書き込みも見られました。
●FIFA前会長もプーチン大統領の異変≠察知「彼は以前とは別人」 3/3
国際サッカー連盟(FIFA)の前会長のジョセフ・ブラッター氏(85)が、ロシアのウラジミール・プーチン大統領(69)を痛烈にブッタ斬った。
ウクライナに侵攻したロシアがスポーツ界からも続々と追放される中、プーチン大統領への批判も日増しに強まっている。そんな中、ブラッター氏が一連の問題に口を開いた。
ロシアメディア「sports.ru」によると、ブラッター氏はプーチン大統領について「彼は以前のような人間ではなくなった。現状を見れば分かるが、テレビで話すプーチンも以前とは別人になっている」と断言した。
ブラッター氏はロシアが2018年のワールドカップ(W杯)の開催権を獲得した際、プーチン大統領と「友好的で親密な関係を築いた」と語った。しかし、一連の社会情勢を踏まえて「考えが改まった」という。
「ロシア勢の出場停止に関しては当初は少し疑問があったが、スポーツ界は正しく、一貫してロシアにレッドカードを提示した。スイスも明確な発信をしてくれて良かったと思う。ウクライナの人々とその勇敢な抵抗者たちに連帯と共感を示したい」
ロシア国内の世論調査ではプーチン大領領の支持率が1週間で60%から71%に上昇したことを複数のロシアメディアが伝えているが、それと反比例するように世界の目は厳しくなっている。
●ロシアの資産家がプーチン大統領に1億円の懸賞金「生死は不問」 3/3
ロシア出身の資産家であるAlex Konanykhin氏が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「憲法違反で大統領になった戦争犯罪者」と非難し、身柄を確保した人に100万ドル(約1億1500万円)の賞金を支払うとSNSに投稿していたことが分かりました。同氏はまた、2022年2月24日からロシアの侵攻を受けているウクライナへの支持も表明しています。
アメリカのテレビ局であるKATVが2022年3月2日に、ロシアからアメリカに亡命した資産家であるAlex Konanykhin氏がLinkedinなどのSNSに「プーチン大統領に100万ドルの懸賞金をかける」と投稿したと報じました。当該書き込みには、「お尋ね者:生死を問わず。大量虐殺者ウラジーミル・プーチン」と書かれた画像が添付されており、殺害をほのめかすものだったためか、記事作成時点では削除されています。
Konanykhin氏は、画像を添付せずに改めて投稿した書き込みの中で、「私は憲法の定めるところに従い、ロシアの法律と国際法の下でプーチンを戦争犯罪者として逮捕した者に100万ドルを支払うことを約束します。プーチンはロシア国内にある集合住宅を爆破する特殊作戦により政権を獲得し、その後自由選挙を排除し、反対する人を殺害するという憲法違反を犯したので、ロシアの大統領とは認められません。ロシア民族として、またロシア国民として、ロシアの非ナチ化を進めることは私の道徳的義務だと考えています。また、私はプーチンの軍勢の猛攻に耐えようとしているウクライナの英雄的な努力への支援を今後も続けていきます」とつづっています。
KATVによると、Konanykhin氏は故郷であるロシアとの間に確執があるとのこと。1966年生まれの同氏は、モスクワ物理工科大学に在学する大学生だった時に、企業を経営していたことを理由に退学処分となりました。その後、ゴルバチョフ政権下の経済改革の波に乗り、わずか数年で大手建設会社の社長になったほか、銀行の経営にも乗り出して1992年にはロシアで最も裕福な人の1人に数えられるようになったとのこと。
1996年には、アメリカで妻とともに在留資格に関する違反で逮捕されましたが、これはロシア当局からロシアの銀行の資金を横領したと告発されたことを受けてのものだとされています。
最終的にアメリカへの政治亡命を認められたKonanykhin氏は、リモートワーク管理サービスを手がける企業を設立したり、起業家が投資家にアイデアを売り込むソーシャルメディア番組「Unicorn Hunters」に出演したりしているそうです。
同氏はFacebookに、「賞金に関する私の申し出が注目を集めているようです。もし100万ドル出す人が1000人集まれば、10億ドル(約1150億円)になるでしょう」と投稿しました。
●ロシアの新興財閥がプーチンの首に懸賞金「生死は不問」 3/3
<旧ソ連の共産主義体制の崩壊とともに台頭したオリガルヒ(新興財閥)が、プーチンを捕らえるか殺した者に賞金を出すと投稿>
ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の一人が、ウラジーミル・プーチン大統領の首に懸賞金をかけると表明した。ウクライナを侵攻した戦争犯罪で、プーチンを「生死を問わず」捕まえた軍当局者には、100万ドルを支払うとしている。
ソーシャルメディア上でこの懸賞金を提示したのは、起業家で元銀行家のアレックス・コナニキンだ。ロシアが隣国ウクライナに対する軍事侵攻を開始してから、まる1週間。西側諸国の政府や企業は、プーチンやロシアを支配するエリート層に対する、経済的な締めつけを強化する方法を模索してきた。ウクライナ侵攻に対する反発が高まり続けるなか、現在はアメリカを拠点とするコナニキンが提示した懸賞金は、プーチン個人を直接的な標的とするものだ。
コナニキンは3月1日に、フェイスブックにメッセージを投稿。「ロシアおよび国際法にのっとり、プーチンを戦争犯罪者として」捕らえた軍当局者に、100万ドルを支払うと約束した。
「ロシア民族として、そしてロシアの一市民として、ロシアの非ナチ化を促すことが自分の道徳的義務だと考えている」と、コナニキンは投稿の中で述べた。プーチンがウクライナ侵攻の口実として「非ナチ化」を挙げたことを逆手に取った発言だ。
コナニキンは、ウクライナの国旗と同じ黄色と青のTシャツ姿の写真をフェイスブックのプロフィール写真にしており、投稿の中で「ウクライナと、プーチンの軍による猛攻撃に抵抗する彼らの英雄的な奮闘に、今後も支援を提供していく」と述べた。
「大量殺人の罪で指名手配」と投稿も
イスラエルの英字紙エルサレム・ポストによれば、コナニキンはこれより前、ビジネス向けソーシャルメディア「リンクトイン」に、「大量殺人の罪でウラジーミル・プーチンを指名手配。生死は問わない」という言葉と共に、プーチンの写真を投稿していた。この投稿はその後、削除されたようだ。
ソ連崩壊後に財を成して注目される存在になったコナニキンは、投稿の中でプーチンについて「ロシアで複数のアパートを爆破し、さらに憲法違反を犯して自由な選挙をなくし、複数の政敵を殺すことで」大統領の座に就いたと主張した。プーチンが絶大な権力を握るきっかけになった1999年の高層アパート連続爆破事件がプーチンの自作自演と疑われているのは有名な話だ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、2月25日に公表したビデオ演説の中で、ロシア軍が自分と家族を標的にしていると主張。「敵は私を第一の攻撃目標に、私の家族を第二の攻撃目標に据えている」と述べていた。
米ワシントン・ポスト紙の1996年の記事によれば、コナニキンは25歳までにロシアで100を超える企業を立ち上げた。また本人のウェブサイトによれば、コナニキンは現在ニューヨーク市を拠点としており、デジタル労働プラットフォーム「トランスペアレント・ビジネス」の最高経営責任者(CEO)を務めている。
●プーチン大統領に懸賞金をかけたロシアの資産家が真意説明 3/3
ロシアのプーチン大統領の身柄を確保した人に100万ドル(約1億1500万円)の懸賞金をかけたロシアの資産家Alex・Kоnanykhin氏が3日、自身のフェイスブックを更新し、真意を説明した。
Alex氏は自身のSNS上で、生死を問わず「プーチンを戦争犯罪者として逮捕した者に100万ドルを支払うことを約束します」などと投稿したとして、2日に亡命先の米国のテレビ局KATVに報じられていた。しかし、3日の投稿でKATVの報道を引用しながら「プーチン暗殺の代金を支払うことを約束したという報道があるが、それは正しくない」と否定。続けて「そのような結果は世界中の多くの人々から応援されるだろうが、私はプーチンが法の裁きを受けなければならないと思っている」とつづった。
●シャラポワさんSNSへ「祖国への制裁を一言」「プーチンを罵倒して」 3/3
女子テニスの元世界ランキング1位で端麗な容姿と実力から「妖精」と人気を集めたマリア・シャラポワさん(ロシア)が日本時間の3日までに、自身のインスタグラムを更新。フランス・パリのファッションウィークに参加した際の写真をアップした。
シャラポワさんはプリントがされたコートに、ミニスカートにロングブーツ姿で引き締まった美脚を披露した写真を掲載した。笑顔の写真は一枚もなかった。
2月18日の前回投稿には、ロシアのウクライナ侵攻が開始してから「戦争は許せない、祖国への制裁を一言書いてくれ」「そろそろプーチンを独裁者、戦犯として罵倒してくれ」「その影響力で戦争を止めてよ」など、ロシアのウクライナ侵攻に関するコメントが多数書き込まれていた。その影響か、この日はコメント欄を閉鎖した。
●ワリエワ引退危機「ロシアフィギュア黄金世代」がプーチンに潰される可能性 3/3
ロシアのウクライナ侵攻は、あらゆるスポーツ界にまで影響を及ぼしている。
国際柔道連盟は、ロシアのプーチン大統領の名誉会長職を停止。3月のサッカーW杯カタール大会の欧州予選プレーオフを控えるポーランド代表は、ロシア代表との対戦を拒否。FIFA(国際サッカー連盟)とUEFA(欧州サッカー連盟)もロシア代表チームとクラブチームの出場停止を決定した。スキー、ホッケー、バスケットボール、テニス、水泳……各競技が規制に踏み出している。
そんな中、2月の北京五輪で話題をさらったフィギュアスケートも窮地に追い込まれた。国際スケート連盟(ISU)は、3月23日からフランスで開催される世界選手権への、ロシアとベラルーシの選手の参加を認めない決定を下した。
「これは、再起を図るカミラ・ワリエワ(15才)にとっては大ダメージです。ひょっとしたらこのまま引退してしまうかもしれません」
あるスポーツ紙記者は、そう語る。北京五輪では、ロシアの団体戦金メダルに貢献も、直後には昨年12月のドーピング検査で陽性だったことが判明。世界中からバッシングを浴びる中、女子シングルに出場。初日のショートプログラムで1位も、フリーでは転倒連続の散々の演技で、金どころかメダルも逃す4位に終わっていた。
「演技直後には、コーチのエテリ・トゥトベリーゼ氏から強く問い詰められるパワハラシーンまで全世界に生中継されて、ドーピング疑惑に加えて師匠との確執騒動で、一時はメンタルがボロボロになったそうです。それでも実力は頭1つ抜け出ている。普通にやれば世界一だと、気持ちを奮い立たせて即練習を再開して世界選手権を目指していたので、お先真っ暗になってしまった」(スポーツ紙記者)
それでなくても、ロシアは1年ごとにトップ選手が入れ替わるほどに世代交代が激しい。
4年前の平昌五輪で金と銀を取ったアリーナ・ザギトワとエフゲニア・メドベージェワも、平昌後に早々に第一線から退いていた。3月2日には、金メダリストになったアンナ・シェルバコワ(17才)が、コーチに転身という事実上の引退を電撃表明。ワリエアと銀メダリストのアレクサンドラ・トルソワ(17才)にも、明るい未来は見えてはこない。
「そんな内情に加えて、ウクライナ侵攻が長期化して今後の国際大会から締め出され続けるとなると、モチベーションはもたなくなる。ワリエワ、シェルバコワ、トルソワという最強トリオは4年後も安泰とみられていたが、そんなロシアフィギュア界の黄金時代は、プーチン大統領によって強制終了させられてしまった」
羽生結弦(27才)の良き理解者で、日本でもいまだに人気の高い2006年トリノ五輪フィギュアスケート男子金メダリスト”ロシアの皇帝”エフゲニー・プルシェンコ(39才)は、シェルバコワがコーチ転身を発表した同日の公式インスタグラムで、「もう黙っていられない。スポーツは政治を超えるもの。アスリートが今のように罰せられて、競技をする権利を奪われることはあってはならない。スポーツ界のロシア代表への制裁措置は不適切」と声を上げた。だが、賛同が得られているようには見えない。
フィギュアスケートファンも、再びワリエワたち3人の異次元のパフォーマンスを見たいのは山々。ただ、事はそう簡単ではなくなっている。
●「狂っている」「パラノイアだ」「核使用リスクはたくさんある」プーチンを危険視 3/3
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから1週間。1回目の停戦交渉では妥協点が見出せなかったが、両国の要求が真っ向から対立し、ウクライナで市街戦が激化していている今、2回目の停戦交渉も物別れに終わるのではないかと予想される。
先行きが不透明な戦争の落としどころも全く見えてこない。プーチン大統領が何を考えているのかもよくわからない。戦争に踏み切り、さらには核使用の可能性までチラつかせたプーチン大統領の常軌を逸した言動に、彼の頭の中はどうなってるのかと危険視する声が、アメリカの元政府要人や現職の議員たちからあがっている。
「何度もプーチンには会いましたが、今の彼は別人だ。彼は常に打算的で冷静だったが、不安定に見える。これまで見たことがない状態に陥っている。歴史についてさらに深い妄想を描いている」(FOXニュースにて、元米国務長官のコンドリーザ・ライス氏)
「彼は怖がっている。理性的でない。彼は何より、ロシアを偉大にしたいのだ。また、彼は、2036年まで権力を握っていたいという欲に駆られている。しかし、今、すべてがリスクに晒されていることもわかっていると思う。ロシア軍はあまり好戦していない。彼はあまりパワフルに見えない。全体主義のリーダーは強く見えるが、実際は非常に脆いのだ」(CBSテレビにて、元国家安全保障問題担当大統領補佐官のH・R・マクマスター氏)
「彼は狂っていると個人的に思う。彼は鋭敏で落ち着いているのかと懸念している」(CNNにて、元国家情報ディレクターのジェームス・クラッパー氏)
「プーチンは妄想に囚われており、非常に孤立している。これは、ウクライナにとってだけではなく全世界にとって、とても恐ろしいことだ」(FOXニュースにて、テキサス州下院議員マイク・マッコール氏)
「プーチンのことは30年以上見てきたが、彼は変わった。彼は完全に現実から乖離し、錯乱している」(ツイッターにて、オバマ政権下で駐露米国大使を務めたマイケル・マクフォール氏)
「多くの人にとって非常に明らかなことは、プーチンは何かおかしいということだ。彼は常にキラーだったが、彼の今の問題はそれとは異なっており、また深刻だ。今のプーチンが5年前と同じような反応をすると考えるのは間違いだ」(ツイッターにて、プーチン大統領の精神状態に関するブリーフィングを受けたというマルコ・ルビオ上院議員)
「プーチンはどんどん孤立している。独裁主義の指導者はインプットされなくなり、“あなたは正しい”という人の話しか聞かなくなると誤算へと導かれる。それが、ウクライナ侵攻で起きたのだと思う」(NBCテレビにて、上院諜報委員会委員長マーク・ウォーナー氏)
「プーチンの演説を20年前からウオッチしてきたが、彼がこんなにもパラノイアになったのを見たことがない」(海軍士官学校国家安全保障問題元教授のトム・ニコラス氏)
バイデン大統領はホワイトハウスで「核戦争の可能性について心配すべきか?」と記者団に問われて“ノー”と明言したものの、「狂人に刃物」という言葉もある。今、アメリカの政治家はその状況を懸念しているように見える。この場合、刃物は“核のボタン”ということになるが、実際、状況はその方向にエスカレートするリスクをたくさん孕んでいると指摘する専門家もいる。
米ミドルベリー国際大学院モントレー校の上級研究員ジェフリー・ルイス氏は、NPR(米国の公共ラジオネットワーク)で「プーチンにとって悪いニュースが流れた1週間だった。ウクライナ軍が予期せぬ反撃をし、ロシア軍はひどい闘い方をしている。無差別に民間地域を砲撃した。状況はプーチンを弱くしているが、そのような見出しを出させないための方法は核で威嚇することだ。ロシアの警告システムが危機の最中に、誤って警報を出したらどうなるだろう? プーチンはそれが誤った警報だとわかるだろうか? それとも、慌てて間違った結論を出すだろうか?」と話し、プーチン大統領が誤った判断をして核のボタンを押す可能性はあるという見方を示した。
誤算の結果、ウクライナでの軍事作戦が難航し、国際社会からは完全に切り捨てられたプーチン大統領。どんどん追い詰められ孤立状態にあるプーチン大統領が再び誤算をして、核のボタンを押さないことを願うばかりだ。
●元米陸軍幹部「ロ軍の士気低下」プーチン氏強攻策を警戒 3/3
ロシア軍の侵攻が続く中、アメリカでは現在の戦況と今後の見通しをどのように分析しているのでしょうか?ワシントンから報告です。
国防総省の高官はロシア軍が「明確に市民を狙った砲撃を行っている」として攻撃的な姿勢を強めていると見ています。
一方で、キエフから25キロの地点まで迫っているロシア軍について「停滞したまま」だと説明。ロシアの想定通りには進んでいないと分析しています。
アメリカ陸軍の元幹部は、ウクライナの応戦に加えてロシア軍の「士気の低下」を指摘しました。
元米陸軍部隊幹部 ブラッドリー・ボウマン氏「ロシア兵はとても驚いた。彼らはウクライナに入れば歓迎されると言われていた。しかし、歓迎されるどころか、市民や子ども達が戦車を止めようとし、戦っていた」
ただ、想定外の苦戦でプーチン大統領がいっそう強攻策に出てキエフ陥落を目指すだろうと警戒感を露わにしました。
ボウマン氏「プーチン氏は攻勢を強め、戦いをエスカレートさせるだろう。アメリカや同盟国はこれまで以上にウクライナへの支援を急ぐべきだ。キエフが包囲されれば、武器を支援することができなくなる」
欧米による経済制裁などロシア包囲網は着実に狭まっていますが、戦力だけを見ればロシア軍が圧倒しているため、早期に停戦にこぎつけられるのか。時間との闘いが続いています。
●外務省 ベラルーシ・ウクライナ国境周辺地域に退避勧告  3/3
外務省は、ベラルーシのウクライナとの国境周辺の地域で部隊の軍事行動が続けられていることから大きな被害が発生する可能性があるとして、この地域の「危険情報」を最も高いレベル4に引き上げ、滞在する日本人に退避するよう呼びかけています。
また、このほかのすべての地域でも日本によるベラルーシへの制裁を受け、今後、日本人に危険が生じるおそれもあるとして「危険情報」をレベル3に引き上げ、帰国の是非を検討するよう求めるとともに、現地への渡航をやめるよう呼びかけています。
●岸田首相 プーチン政権に近い新興財閥の資産凍結を決定  3/3
ウクライナ情勢をめぐり岸田総理大臣は、3日夜、記者会見で、ロシアによる軍事侵攻は、決して許すことはできないと強く非難し、プーチン政権に近い新興財閥の資産凍結を決定したと明らかにしました。
この中で岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「ロシアによる侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、ヨーロッパのみならず、アジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす行為だ。明白な国際法違反の暴挙であり改めて厳しく非難する」と述べました。
その上で「今回のような力による一方的な現状変更を決して許すことはできない。国際秩序の根幹であるこの原則を守り抜くことは、東アジアの安全保障環境が急速に厳しさを増す中、わが国の今後の外交・安全保障の観点からも極めて重要だ。国際社会と結束してきぜんと行動していく」と強調しました。
さらに「ロシアの核抑止力部隊が警戒態勢を引き上げたことは言語道断だ。唯一の戦争被爆国で、被爆地・広島出身の総理大臣として、核兵器による威嚇も使用も万が一にも許されるものではないことを首脳外交や国際会議の場で強く訴えている」と述べました。
そして、日本はウクライナの国民とともにあるという姿勢を強調し、国際機関と協力し、1億ドルの緊急人道支援を行うほか、ウクライナからポーランドなど第三国に避難した人の日本への受け入れを進めていく考えを示しました。
また、国際社会とともにロシアに強い制裁措置をとっていくと明言し、プーチン大統領を含むロシア関係者らの資産凍結に加え、きょう、プーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥なども資産凍結の対象に決定したと明らかにしました。
さらに「欧米とともにロシアを国際金融システムや世界経済から隔離する」と述べSWIFTと呼ばれる国際的な決済ネットワークからロシアの7つの銀行を排除するために必要な国内措置をとったと説明しました。
これに加え、岸田総理大臣は、ロシアと同盟関係にあるベラルーシについても、ルカシェンコ大統領らの資産凍結など追加の制裁措置を決定したと述べました。
このほか、ウクライナに在留している日本人の保護について、ウクライナの西部リビウの連絡事務所や隣国ポーランドのジェシュフ市に設けた連絡事務所などを通じて、日本人の安全確保や出国支援に取り組む考えを重ねて示しました。
そして「首脳外交を積極的に展開していく。このあとも日米豪印の首脳テレビ会議に出席し、ウクライナ情勢への対応について意見交換を行う予定だ。情勢は日々変化しており、制裁などではG7各国との緊密な連携を図りつつ、アジア各国に働きかけるなど、わが国として事態打開に向けて貢献していく」と強調しました。
一方、岸田総理大臣は、原油価格の高騰を受けて、国民生活や企業活動への悪影響を最小化するための追加対策をあす公表すると明らかにし、今年度予算の予備費から3600億円あまりを活用する方針を示しました。
そして石油元売り会社への補助金の上限を現在の5円から25円に引き上げ、急激な石油製品の価格上昇を抑制するほか、漁業者や施設園芸農家、タクシー事業者に燃料価格の高騰分の補填を大胆に行い、地方自治体を通じて灯油の購入や暖房費の支援などを行い国民生活への影響を緩和すると説明しました。
また、野党の一部から、ガソリン税の上乗せ分の課税を停止する、いわゆる「トリガー条項」の凍結解除を求める意見が出る中「来年度も原油価格が上昇し続ける場合については、何が実効的で有効な措置かという観点から、あらゆる選択肢を排除することなく、政府全体でしっかりと検討し対応していく」と述べました。
岸田総理大臣は記者会見で、日本も参加してロシア極東・サハリンで行われている石油・天然ガス開発事業「サハリン1」への対応について「エネルギーの安定供給と安全保障を最大限守るべき国益の一つとして対応していかなければならない」と述べました。
そのうえで「エネルギーの安定供給や安全保障の観点から、わが国としてどう対応するかは、状況をしっかり判断したうえで決定すべきことだ。今はさまざまな動きが報じられているが、状況をしっかり把握したうえで、わが国としての方針を決定していきたい」と述べました。
岸田総理大臣は記者会見で記者団が「ロシアの航空会社の日本の領空での飛行を禁止する制裁措置を行う考えはあるか」と質問したのに対し「ロシア国籍の航空機の領空内での飛行を禁止する措置をはじめとする追加の措置は、引き続き今後の状況を踏まえたうえで、G7=主要7か国や国際社会との連携を念頭に置きながら適切に対応していかなければならない。機動的に判断していくという方針で動向を注視していきたい」と述べました。
●ウクライナ情勢 立民“衆院予算委で集中審議を” 自民は難色  3/3
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、自民党と立憲民主党の国会対策委員長が会談し、立憲民主党が、来週、衆議院予算委員会で集中審議を行うよう求めたのに対し、自民党は、参議院で新年度予算案を審議中のため、難しいという考えを伝えました。
会談で、立憲民主党の馬淵国会対策委員長は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いていることを受けて、来週、衆議院予算委員会で日本政府の対応などをめぐって集中審議を行うよう求めました。
これに対し自民党の高木国会対策委員長は、参議院で新年度=令和4年度予算案の審議が行われているため、難しいという考えを伝え、引き続き協議することになりました。
また、今月6日が期限となる31都道府県のまん延防止等重点措置をめぐり、政府の方針が固まれば、4日、衆参両院の議院運営委員会で政府から報告を受けたうえで、質疑を行うことを確認しました。
一方、衆議院の選挙制度の見直しをめぐって、高木氏は、野党側から各会派の代表者による協議会を速やかに設置するよう求められたことを踏まえ、調整を始める考えを伝えました。
●ウクライナ情勢 憲法改正論議の活発化にも影響 3/3
3日の衆院憲法審査会では、憲法9条や非核三原則などに関する意見表明も相次いだ。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)に加え、ロシアによるウクライナ侵攻が現行憲法の課題を改めて浮き彫りにした形だ。
日本維新の会の三木圭恵氏はウクライナ侵攻をめぐり「今の憲法で本当に国民の生命と領土と財産を守れるのか、国会は平和ボケしていないか、今一度考えることが重要ではないか」と訴えた。
抑止力に歯止めをかける9条の理念で国を守れるのかとの危機感があり、「『自国は自分で守る』という当たり前の議論を敗戦から今日まで避けてきた。9条を含む憲法改正の議論を憲法審で行うことが真に求められている」と強調した。
維新の足立康史氏は、ウクライナが核保有国のロシアから一方的に攻め込まれている現実を踏まえ、日本国内に米国の核兵器を配備し共同運用する「核共有」政策、それに伴う非核三原則に関する議論も排除しない構えを示した。「議論を入り口から封じることは極めて非民主的で有害だ。タブーなき議論をしていくことを誓う」と語った。
維新を含む多くの党が必要性に言及したのが、憲法45条と46条に明記されている衆参両院議員の任期を緊急時に限って延長させるための議論だ。
官房長官を務めた自民党の加藤勝信氏は、任期満了後に行われた昨年秋の衆院選を振り返り「感染の急拡大、ウイルスの重篤化した形での変異が起きたときにどうなっていたかという思いは拭えない」と指摘。公明党の北側一雄氏は「大震災が起きたときに国政選挙の実施は不可能だ」と述べた上で「任期は明確に憲法に規定されている」と語り、憲法改正が必要だとの認識を重ねて示した。
国民民主党の玉木雄一郎氏も議論を急ぐべきだと強調。「憲法は飾っておくのではなく、魂を入れて生かすことが必要だ。息吹を吹き込む役割を憲法審が果たすべきだ」と述べており、国民を守るための憲法論議が国会で活発化する可能性がある。
●ウクライナ情勢、日本経済への影響注視 中川日銀審議委員 3/3
日銀の中川順子審議委員は3日、日銀本店で記者会見し、ロシアのウクライナ侵攻による日本経済への影響について、「刻々と状況が変化しており、情勢を注視するしかない」と述べた。影響は貿易活動や商品市況など幅広い分野に及ぶとの見方を示した。
ウクライナ情勢に伴い、金融政策を変更する可能性については「過去に対比できるものがなく、今後の対ロシア制裁の広がりも考慮すると、シナリオを立てるのは非常に難しい」と説明。物価の変動なども踏まえ、「都度適切に判断したい」との考えを示した。
会見に先立ち行った講演では、物価の見通しについて「4月以降、携帯電話通信料の引き下げ要因が剥落すれば、瞬間風速的に2%近くに上昇する可能性もある」と指摘した。
●ウクライナ対応に追われる首相らに「無関係な質問」繰り返す…立民 3/3
ウクライナ情勢を中心テーマに2日行われた参院予算委員会の集中審議で、立憲民主党が、政府や自民党に関する疑惑追及を行った。連日、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた事態対応に追われる岸田首相らに、無関係な質問を繰り返す立民の姿勢には、与野党から「やり過ぎだ」と批判の声が出た。
「国家公安委員長が、選挙違反を摘発する警察を管理・監督できるのか」
立民の杉尾秀哉氏は、自民党京都府連が国政選挙前に立候補者側から資金を集め、地元議員に配分していた問題を巡り、府連所属の二之湯国家公安委員長や首相を問いただした。このほか、経済安全保障推進法案の準備室長を務めていた藤井敏彦内閣審議官が事実上更迭された問題では、「法案作成過程を巡る疑念が全く晴れていない」などと主張した。ただ、新たな追及材料には乏しく、二之湯氏らは慎重な答弁でかわした。
この日、立民は杉尾氏を含めた3人が質問に立った。約2時間半の質問時間が与えられ、杉尾氏の持ち時間は約1時間だった。杉尾氏の質問時間をテーマ別に集計したところ、自民京都府連と藤井氏の疑惑追及に5割弱を費やし、ウクライナ関連の質問は2割強だった。ほかの2人は、両疑惑に関連した質問はしなかった。自民の2人は、ウクライナ情勢に7割強をあてた。
立民関係者によると、集中審議の前に、同党国会対策委員会から杉尾氏に対し、疑惑を取り上げるよう指示が出ていたという。
この日の集中審議は立民が求めたものだ。テーマは、与野党の話し合いで事前に設定され、ほかの議題を取り上げることは禁止されていない。テレビ中継されたこともあり、「視聴者を意識して、政府・自民党のスキャンダル追及に走ったのだろう」との見方も出た。
もっとも、与野党には、「今、最優先で議論すべきはウクライナ情勢だ。東アジアの安全保障情勢への影響など、論ずべきことは山ほどある」との声も根強い。立民の参院議員は、「追及する場合も、タイミングを考えてやらなければダメだ」と話した。
●JAL/ANA、ロシア・ウクライナ情勢を受けモスクワ線・ヨーロッパ線を一部欠航 3/3
JAL(日本航空)とANA(全日本空輸)は、現在のロシア・ウクライナ情勢に鑑み、ヨーロッパ便の欠航などを決定した。
JAL
JALが運行する欧州線はウクライナの上空を飛行していないが、現在の情勢に鑑み、以下の便を欠航する。また当面の間、羽田〜モスクワ線(JL040、JL049便)は予約販売を停止する。購入済みの対象便の航空券は、変更・払い戻しを無料で受け付ける。
ANA
ANAが運行するヨーロッパ便については、ウクライナ上空付近を飛行していないが、現在の情勢に鑑み、ロシア空域を運航する以下の便を欠航とする。対象便を含む航空券は、変更・払い戻しを手数料なしで受け付ける。なお、3月4日以降に運行するヨーロッパ便は、通常の飛行ルートとは異なる迂回ルートで運航する。運航する便についても、通常より長時間の飛行時間となるほか、出発、到着時間の変更、遅延が発生する場合がある。
●株価はロシアの「一人負け」、ウクライナ軍事侵攻からの主要指標の変化 3/3
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから3月2日で一週間が経過した。当初は2日で首都キエフが陥落するといわれていたが、ウクライナの強烈な抵抗によって未だにロシア軍がキエフを制圧するに至っていない。ウクライナからは、民間人の死傷や市街地の被災などが増えていることが伝えられ、一日も早い停戦が望まれる。一方、株価の動きなど経済的な側面でみると、「ロシアの一人負け」が明らかだ。ただ、このままの状態が長く続くようであれば、隣接するユーロ圏が被るダメージも決して小さくないと考えられる。主要指標の動きを振り返り、現状を客観的に把握しておきたい。
国連は3月2日午前(日本時間で3日零時頃)緊急特別会合を開催し、ロシアのウクライナに対する軍事行動を非難し、ウクライナからのロシア軍の即時撤退を求める決議案を141カ国の賛成で採択した。この決議案に反対したのはロシアなど5カ国、中国やインドなど35カ国が棄権した。この国連の動きに先立って、米欧の主要国は国際的な銀行決済で重要な役割を担っているSWIFT(国際銀行間金融通信協会)からのロシア銀行の排除など、ロシアに対する経済制裁を強めていた。
ロシアに対する経済制裁は、2月14日に主要7カ国(G7)財務相声明で、ロシアがウクライナ侵攻などに踏み切った場合は「ロシア経済に甚大かつ即時の結果をもたらす経済・金融政策を共同して科す用意がある」としていたように、事前に入念に準備が進められたようで、ロシアの軍事侵攻が確認されると直ちに、ロシアが外貨準備として西側各国に保有している資産の凍結やプーチン大統領やラブロフ外相の個人資産も凍結し、そして、SWIFTからのロシア主要銀行の排除など矢継ぎ早に制裁措置を発表し、実施に移した。
これらの結果は、ロシア証券取引所や世界の取引所で売買されるロシア企業の預託証券などの暴落につながった。たとえば、SWIFTからの排除について欧米が一致したと伝わった週末が明けた2月28日のロンドン証券取引所で、ロシアの最大手銀行であるズベルバンクの預託証券の価格は、前週末(25日)比で一時77%下落し、ロシア軍がウクライナに侵攻する前(23日)と比較すると9割安になった。同じように、ガスプロム、ロスネフチなどロシアの代表的なエネルギー大手企業の預託証券の価格も暴落。ロシアのモスクワ証券取引所は2月28日に市場を閉鎖し、3月3日になっても取引が再開できない状況になっている。
昨年末を起点として3月2日までの世界の株価指標や原油、金などコモディティの先物市場の動きをみると、ロシアの大型株や中型株で構成される「MSCIロシア(配当込み、円ベース)」が既に60%安の水準に落ち込んでいる。2カ月間で半値以下になってしまったことになる。特に、軍事侵攻が始まって、各国の経済制裁が発表されてからの落ち込みが激しい。そして、この期間は、「WTI原油先物(中心限月、円ベース)」の値上がりが極めて大きくなっている。同先物は世界の原油価格の指標と目され、昨年末比でプラス45%の値上がりになった。金(ゴールド)価格の指標になる「NY金先物(中心限月、円ベース)」は7%程度の値上がりながら、一貫してジリジリと値を上げてきている。
一方、世界の株価も弱い。米国は年初が史上最高値を形成した上げ相場のピークとなっていて、今年になってからジワジワと株価を下げている。「MSCI米国(配当込み、円ベース)」は、1月下旬に前年末比10%強の下落となり、一旦は4%安の水準に持ち直したものの、ロシアのウクライナ侵攻とともに、再び10%強の下落になった。また、「MSCI中国(配当込み、円ベース)」は、今年は前年末比プラス6%まで上昇していたのだが、ウクライナ情勢の緊迫化とともに価格が下落し、ロシアのウクライナ侵攻とともに、前年末比でマイナスに落ち込んだ。
そして、ロシアの軍事侵攻後の値動きに各国各様の特徴のある動きが見て取れる。経済制裁を受けたロシアの株価が大きく下落し、原油の輸出国であるロシアからの供給不安によって原油先物価格が急上昇したことは一目でわかる。
その他の国々の動きをよく見ると、米国株価はジワリと上昇に転じているようにみえる。米国は自国の経済規模が大きく、ロシアが経済的に追い込まれて経済が停止状態になったとしても、米国企業の受けるダメージはそれほど大きくないという指摘がある。もちろん、GAFAM(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル・マイクロソフト)などの巨大企業は世界中で稼いでいるため、ロシアやロシアと関係の深い欧州各国のダメージをある程度は受けるため、決して無傷ではないが、それらは、ウクライナやウクライナに隣接する欧州各国の復興支援、また、その次にやってくるであろうロシア経済の復興支援では経済的にプラスの影響を受けることができるかもしれない。
その米国に対し、ロシアと隣接する「MSCIユーロ(配当込み、円ベース)」の動きは、「MSCIロシア(配当込み、円ベース)」の下落に引きずられて下落し始めているようにみえる。ユーロ圏は、ロシアからの天然ガスや原油の輸入などによってエネルギーの依存度が高く、ロシア経済が混乱すれば、エネルギーの供給不足などのデメリットを受ける。同様に、「MSCI中国(配当込み、円ベース)」もロシアに引きずられて下落しているようにみえる。米国との対抗ではロシアと友好関係を強調し、国連におけるロシアへの非難決議案の採決では棄権した中国は、国際社会からはロシアに近しい存在とみなされていることは間違いない。ロシアが経済的に追い込まれていけば、ロシアとの経済協力の関係で何らかの経済的な不利益を被る可能性があると、市場が見ているのだろうか。
ウクライナ情勢の決着については、未だに道筋が見えないため、軽々に投資判断をすべきではない。ただ、ロシアのウクライナ軍事侵攻をきっかけにして動き始めた「米国」「ユーロ」「中国」のそれぞれの動きは、今年の年後半や来年以降を考えるヒントになるのかもしれない。また、今回の危機で短期間に大きな価格上昇をみた「原油」については、カーボンニュートラルへ突き進む世界各国のエネルギー政策を「脱原油」に一層踏み込ませるのではないだろうか。もちろん、この原油高が定着するようであれば、輸送コストやプラスチック製品の製造コストなど、様々な分野で一段と深刻なインフレにつながる。ロシアのウクライナ軍事侵攻から始まった、様々な変化について見逃すことがないよう、しっかり、今後の展開をウオッチしていきたい。
●米株高支え、ウクライナ情勢なお重荷 3/3
3日の東京株式市場で日経平均株価は反発か。2日の米株高を受けて投資家心理が改善し、日本株にも買いが波及しそうだ。一方、ウクライナ情勢を巡る不透明感はなお心理的な重荷。市場では日経平均は2万6500円〜2万6800円で推移するとの声があった。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は2日、議会下院で証言し、15〜16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で「0.25%の利上げを支持する提案をしたい」と述べた。3月の会合では「バランスシートの縮小についての合意に向けた進展があるだろう」とも語った。
市場では「ひとまず3月の米利上げ幅が0.25%となるとの受け止めから全般的に安心感が広がった」(みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリスト)との声がある。
ウクライナ情勢の悪化が世界経済にマイナスの影響を及ぼすとの懸念もあり、足元の米株式相場は不安定な動きが続く。ダウ工業株30種平均は1日に大幅安となったが、2日は反発。前日比596ドル(1.8%)高の3万3891ドルとなり、前日の下げをほぼ埋めた。ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数も反発し、1.6%高だった。主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は3.4%高となっており、日本の半導体関連の一角に買いが入りそうだ。
大阪取引所の夜間取引で日経平均先物3月物は2万6670円と、2日の清算値(2万6360円)を310円上回った。朝方は幅広い銘柄に買いが先行しそうだ。もっとも、週末には2月の米雇用統計の発表を控えるうえ、ウクライナ情勢を巡る不透明感は拭えない。「午後には欧州勢の売りも出やすい」(みずほ証券の三浦氏)との見方もあり、上値を追う向きは限られそうだ。
3日はオンデマンドプリントのプラットフォームを提供しているイメージ・マジック(7793)がマザーズ市場に上場する。取引開始前に財務省が週間の対外・対内証券売買契約を発表する。内閣府が午後に2月の消費動向調査を発表する。
中国では2月の財新中国非製造業PMIが発表される。米国では2月のISM非製造業景況感指数の発表がある。パウエルFRB議長が米上院銀行委員会で証言に臨む。
●原油・小麦 価格上昇に拍車 ウクライナ情勢受け  3/3
原油や小麦の価格上昇に拍車がかかっている。東京市場では、中東産原油の先物価格が、一時、およそ8年2カ月ぶりに、1キロリットルあたり7万円を超えた。ニューヨーク市場でも、国際的な指標となる先物価格が一時、1バレル = 113ドル台をつけ、大幅に上昇している。
市場関係者は、「ロシアに対する経済制裁が強化されたことで、ロシアからの原油の供給が停滞する懸念が一段と強まっている」としていて、ガソリンなどの値上がりに拍車がかかりそう。
一方、小麦の相場も、世界第1位の輸出国ロシアからの供給が滞ることへの警戒感から、国際的な指標となる先物価格が、およそ14年ぶりの高値水準まで上昇し、パンや麺類の価格を押し上げる懸念が、いっそう強まっている。
●小麦先物価格 約14年ぶりの高値水準 ロシアの軍事侵攻背景に  3/3
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を背景に、国際的な小麦の先物価格がおよそ14年ぶりの高値水準まで上昇しました。
シカゴ商品取引所では、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に世界有数の小麦の輸出国であるウクライナとロシアからの小麦の供給が滞ることへの警戒感が出て小麦価格の上昇傾向が続いています。
こうした中、2日の取り引きでは国際的な指標となる小麦の先物価格の終値が1ブッシェル当たり10ドル台半ばと、およそ14年ぶりの高値水準まで上昇しました。
市場関係者は「軍事侵攻が長期化すれば小麦の供給への影響も大きくなるという見方が出ていて、上昇傾向がどこまで続くか見通せなくなっている」と話しています。
先物価格の上昇が続けば、小麦の多くを輸入に頼る日本にとって食品の価格に影響する可能性があります。
FAO=国連食糧農業機関によりますと、おととしの小麦の輸出量はロシアが世界1位、ウクライナが世界5位となっています。
●商品15時15分 原油が続伸 ウクライナ情勢への警戒で 金も続伸 3/3
3日の国内商品先物市場で、原油は続伸した。ウクライナ情勢の緊迫化で、ロシア産の原油や天然ガスの輸出が滞るとの警戒が強まった。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国からなる「OPECプラス」は2日の会合で追加増産を見送り、当面は供給不安が解消しないとの見方が広がったことも相場の上昇を後押しした。日本時間3日の取引で米原油先物相場が一時、1バレル114ドル台後半まで上げたことも買い材料となった。
金も続伸した。外国為替市場で円相場が対ドルで下落し、円建てで取引される国内金の割安感が意識された。
以下は主な商品(中心限月)の清算値。
・金       7148円   15円高
・白金      3949円   101円高
・ガソリン   8万1800円  1790円高
・原油     7万0480円  4120円高
・ゴム(RSS)     260.0円   0.1円高
・トウモロコシ 4万5320円   420円高

※単位は金と白金が1グラム、ガソリンと原油が1キロリットル、ゴムが1キログラム、トウモロコシが1トン。原油とガソリンは東京商品取引所、それ以外は大阪取引所での取引。

 

●ロシア軍、原発近くに進軍 2回目協議では避難路確保に合意 3/4
ロシアによるウクライナ侵攻8日目の3日、ロシア軍は南部の要衝ヘルソンを制圧した。主要都市の掌握は侵攻開始以降初めて。両国は2回目の停戦協議を開き、民間人の避難方法で合意したとした。ロシア軍は欧州最大の原発へと進軍。4日未明には同原発で火災が発生した。原発の現地行政当局は同日午前、原発の安全は「確保された」と発表した。
原発近くに進軍、火災発生
ウクライナ地方当局や報道によると、同国南東部にある欧州最大のザポリッジャ(ザポロジエ)原発で火災が発生した。近隣のエネルゴダール市のディミトロ・オルロフ市長は3日、同市近郊で激しい戦闘が起きているとした。ロシア軍が戦車で同市内に入って原発を掌握しようとしたが、住民や作業員らが原発周辺と周囲の道路に集まった。オルロフ市長は原発の火災について、「(原発の)建物や施設に対する継続的な敵の砲撃」によって起きたようだとした。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はツイッターに動画を投稿し、「欧州最大の原子力発電所がいま燃えている」として、ロシア軍が熱探知カメラを搭載した戦車を使って、原発施設の6つの原子炉をわざと砲撃していると非難した。
原発の「安全確保」と
ザポリッジャ州のアレクサンドル・スタルク地方管理局長は、原発の安全は「確保された」とフェイスブックで明らかにした。ザポリッジャ原発所長と話をして、安全だと知らされたという。「ザポリッジャ原発の所長は現在、施設の核の安全は確保された」と、スタルク氏は書いた。国際原子力機関(IAEA)も、「ザポリッジャ原子力発電所の火災は、重要施設に影響していないとウクライナ当局から説明があった。原発職員が対応行動をとっているという」とツイッターに書いた。現地当局やIAEAの発表に先立ち、AP通信によると、ザポリッジャ原発スポークスマンのアンドリイ・トゥズ氏はソーシャルメディア「テレグラム」で、ロシア軍に「激しい砲撃をやめる」よう呼びかけていた。トゥズ氏は「欧州最大の原発で、核が危険な状態になる本当の脅威が起きている」として、消火活動に向かう消防隊が、ロシア軍の攻撃のため原発に近づけずにいると説明。出火した原発の原子炉は改修中で稼働はしていないものの、内部には核燃料があると書いていた。ウクライナにはザポリッジャ原発を含め、稼働中の原発が4基ある。チョルノービリ(チェルノブイリ)原発の跡地には放射性廃棄物があるが、現在はロシアが同地を占拠している。ウクライナ政府幹部は、ロシアの原発攻撃によってメルトダウンが起きる可能性を警告していた。
停戦協議で「人道回廊」で合意
停戦に向けた外交努力は、戦闘と砲撃が続く中でどうにか継続された。ロシアとウクライナの代表団は、場所を明かさずに協議に臨んだ。避難に使う「人道回廊」を確保するため、地域を限定した一時停戦で合意したと報じられている。ウクライナ代表団のミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、「平和的な民間人を避難させるための人道回廊を共同で確保することと、戦闘が激しい場所に医薬品と食料を供給すること」で、双方の意見が一致したとした。また、「避難する間、特定の区域で一時的な停戦の可能性」があると説明。「強調するが、可能性だ」と付け加えた。この日の協議についてポドリャク氏は、「残念ながら(中略)私たちが望んでいた結果は得られなかった」と総括。ただ、「ごく近い将来に」協議を再開することで、双方は合意したと述べた。その上で、「私が言えるのは、双方が人道面で細かな協議をしたということだけだ。多くの都市が現在、包囲されているからだ」と話した。ロシア代表団のウラジーミル・メディンスキー大統領補佐官(元文化相)は、ロシアメディア「ロシア24」に、協議のいくつかの議題で共通理解を見いだすことができたと説明。「私たちが今日解決した主要問題は、軍事衝突がある地域にいる民間人の命を救う問題だ」と述べた。また、双方の国防省が人道回廊を維持する方法について合意したとし、「民間人の脱出と、その期間に人道回廊がある区域で一時的な停戦の可能性」のためだとした。そして、「これは意義ある進展だと思う」と述べた。
ゼレンスキー大統領は首脳協議を要求
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日、記者会見を開き、西側に戦闘機の提供を呼びかけた。「空域を閉鎖する(ウクライナ領空を飛行禁止区域にする)権限がないなら、航空機を提供してほしい」「ウクライナが無くなれば、ラトヴィア、リトアニア、エストニアも続けてそうなるだろう」それら3カ国は北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。ロシアが侵攻すれば、NATOの全加盟国と戦争状態になる。ゼレンスキー氏はまた、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との直接協議が「この戦争を終わらせる唯一の方法だ」と述べた。「私たちはロシアを攻撃していないし、そうする計画もない。私たちに何を望んでいるのか。私たちの土地から出ていけ」「私と一緒に腰を下ろしてほしい。(エマニュエル・マクロン仏大統領との会談のように)30メートルも距離を置かずに」マクロン氏は先月、長いテーブルを挟んで、プーチン氏と会談しており、ゼレンスキー氏はそのことに言及したものとみられる。
プーチン大統領は作戦継続を表明
ロシアのプーチン大統領は3日、テレビ演説をし、「特別軍事作戦」が「計画どおり進行している」と述べた。ただ、多くのアナリストは、侵攻が計画したとおりにはなっていないとみている。プーチン氏は演説で、ウクライナが「何千人もの外国人を人質にしている」と非難。民間人を「人間の盾」にしていると主張した。根拠は示さなかった。また、ロシア人とウクライナ人は「1つの人々」だと強調。「西側が作り出した『反ロシア』を打ち砕く」と述べた。一方、フランスのマクロン大統領は、プーチン氏と90分間にわたって電話協議した。侵攻は深刻な間違いで、プーチン氏の現状認識は現実に沿っていないとして、説得に努めた。だが、双方の同意点はほとんどなかった。プーチン氏は、目標達成までは軍事作戦を継続すると主張。ウクライナの「非武装化」もそれに含まれるとした。プーチン氏はその後、ロシア安全保障会議に臨み、ロシアとウクライナの人々は1つだという確信は決して捨てないと述べた。
ロシアが南部の要衝制圧
ロシア軍は3日までに、南部の要衝ヘルソンを制圧した。侵攻開始から初めて、主要都市を制圧したことになる。ヘルソン地方管理局長のヘナディ・ラフタ氏はフェイスブックで3日朝、ロシア軍が地方行政府を完全に掌握したと書いた。「しかし私たちは職務を諦めていない。私がトップを務める地方行政府のスタッフは引き続き、この地域の住民を支援するために働いている」とラフタ氏は書き、「私たちは人道支援を待っている」と述べた。ラフタ氏はさらに「偽ニュースを信じないように。パニックに陥らないで」と呼びかけた。
各地の街で破壊
街や建物の破壊がウクライナ各地で見られている。首都キーウ(キエフ)の北西のボロディアンカで撮影されたドローン映像では、住宅地に被害が広がっている状況が確認できる。破壊されたロシア軍の車両も映っている。現地住民らは、ボロディアンカに進入を試みたロシア軍を追い払ったとしている。
志願者らが首都防衛の準備
ウクライナのキーウ近郊では、ウクライナの志願者たちが都市防衛の準備を進めた。森林では溝を掘り、近日中にもあるとみられるロシア軍の市内侵攻を妨げようとしている。重機がないため、人々はスコップで地面を掘るなど、第2次世界大戦を思わせる様相だと、現地で取材するBBCのオーラ・ゲリン特派員は伝えた。弁護士のデニス(36)は、「友人と共に母国のために戦う準備をしている」、「私たちは今や戦士だ。侵略者、占領者から国を守る。血の最後の一滴まで戦う」と、同特派員に話した。ロシア軍はこれまでのところキーウ市内に入り込めていない。ただ、同市のすぐ北側には、大規模な軍車両の車列が停滞している。
黒海でエストニア船が沈没
黒海沿岸の都市オデーサ(オデッサ)では、沖合の爆発でエストニアが所有する貨物船が沈没した。ウクライナの報道によると、この貨物船はロシア海軍が、ウクライナの兵器に対する盾として使っていたものだという。乗組員6人は全員救助された。バルト海に面するエストニアはNATO加盟国。ロシアと国境を接している。
第3次世界大戦は「核戦争」=ロシア外相
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は3日、モスクワで記者会見した。外相は、制裁に代わる選択肢は第3次世界大戦しかないとジョー・バイデン米大統領が述べたと主張した上で、第3次世界大戦は「核戦争」しかあり得ないとした。外相は、そのようなことを考えているのは西側の政治家のみで、ロシア国民はそのようなことを考えていないと強調。「本当に我々に対して本物の戦争を仕掛けるなら、そのような計画をする者は(核戦争の展望を)考えるべきだ。そういう展開も計画されていると私は思う」と話した。外相はハリウッドにたびたび言及し、西側メディアが脚本を書いた「このハリウッド映画を見るだけでなく」、「究極の悪がどこにいるのか見るべきだ」と呼びかけた。さらに、北大西洋条約機構(NATO)はロシアを犠牲に西側の安全保障を強化しようとしていると非難した。ラヴロフ外相はさらに、ウクライナ政府がネオナチ政権で、ウクライナ各地で略奪を行っているのはギャングだというロシア政府の公式見解を繰り返した。こうした主張の裏付けを、BBCは確認できていない。外相は、ウクライナ政府が「民間人を人間の盾にしようとしている」というロシア政府の公式見解も繰り返した。アメリカをナポレオンやヒトラーになぞらえ、「ナポレオンやヒトラーは当時、欧州を征服しようとした。今ではアメリカが同じことをしている」とも述べた。
英外相「ロシア軍は計画に遅れ」
イギリスのベン・ウォレス国防相は、ロシアの軍事作戦は計画どおりには進んでいないとの見方を示した。BBCのジョナサン・ビール記者のインタビューでウォレス氏は、装甲車から入手した物資から判断して、ロシア軍はスケジュールから遅れているとみられるとした。また、ウクライナ人に対して「解放者」だとアピールするロシアの計画は失敗したと述べた。一方、英政府はロシアに対する制裁対象に、同国政府に近い新興財閥2人を含めると発表した。1人はアリシェル・ウスマノフ氏で、所有企業USMはサッカーのイングランド・プレミアリーグのアーセナルとエヴァートンのスポンサーとなっている。もう1人は、プーチン政権の副首相も務めたイーゴリ・シュワロフ氏。両者の資産は凍結され、イギリスへの入国が禁止される。これに先立ちドイツ当局は、ハンブルクにあるウスマノフ氏の6億ドル(約690億円)相当のヨットを押収した。フランス税関当局は、石油会社ロスネフチのイーゴリ・セチン最高経営責任者(CEO)のヨットを没収している。
●ウクライナ集合住宅に空爆 プーチン大統領「目的達成まで戦い続ける」  3/4
ロシア軍によるウクライナ市街地への攻撃で、一般市民の犠牲者が増えている。
キエフ北部にある町では3日、集合住宅が空爆され、少なくとも33人が死亡した。
ウクライナメディアによると、キエフ北部のチェルニヒウ中心部では3日、集合住宅が空爆され、がれきの中から33人以上の遺体が見つかったという。
ロイター通信は、チェルニヒウ州の2つの学校も、攻撃を受けたと報じている。
また、キエフから60km離れたボロジャンカでは、攻撃によって建物から煙が立ちのぼり、せい惨な光景が映し出されている。
一方、ロシア国防省は3日、ロシア軍の車両がキエフ州に入る映像を公開した。
アメリカ国防総省の高官によると、「ロシア軍は首都キエフ中心から、北に25kmの地点に迫っているが、3日前から動いていない」という。
ロシアのプーチン大統領は3日、「特別軍事作戦は、全て予定通りに進んでいて、計画通りだ」と述べ、「全ての目的が成功裏に達成されている」として、作戦に参加する兵士らをたたえた。
さらに、フランスのマクロン大統領との電話会談で、ウクライナへの軍事侵攻について、「目的達成するまで戦い続ける」と強調したうえで、「交渉を長引かせて時間を稼ごうとする試みは、ウクライナへの要求が増えるだけだ」と強硬姿勢を示した。
●「ウクライナ核武装阻止」主張 侵攻正当化のロシア 3/4
ロシアのプーチン政権がウクライナ侵攻を正当化する理由の一つとして「ウクライナの核武装阻止」という一方的な主張を展開している。プーチン大統領が核戦力をちらつかせて米欧を威嚇しておきながら、ウクライナの核武装の脅威を訴えるロシアに対し、国際社会は冷ややかな目を向けている。
プーチン氏はウクライナ侵攻を表明した2月24日の演説で、ウクライナのゼレンスキー政権が「核兵器保有を要求している」と決め付け、「われわれはこれを容認しない」と主張。北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けたウクライナの「民族主義者」たちと「ロシアの衝突は避けられない」と述べ、攻撃を正当化した。
ロシアのラブロフ外相も今月1日のジュネーブ軍縮会議の演説で「ウクライナのゼレンスキー政権は核兵器保有計画という危険なゲームを始め、周辺国や国際安全保障に脅威をもたらす恐れが大きく高まっている」と発言。ロシアは「国際社会の責任ある一員」であり「ウクライナに核兵器が現れるのを阻止するべく必要なあらゆる手段を講じている」と述べ、「ウクライナはソ連の核技術を今も持っている」とまくし立てた。
国際社会はこうした主張に耳を傾けなかったようだ。ラブロフ氏の演説の録画が会場に流れると、外交団の多くは立ち去り、議場はほぼ空席になった。ラブロフ氏は3日のオンライン記者会見でも「核戦争が常に頭の中にあるのは欧米の政治家であって、ロシアではない」と強弁した。
旧ソ連構成国のウクライナには1991年のソ連崩壊後に多くの核弾頭が残された。ウクライナは核放棄の代わりに、ウクライナの安全と領土の一体性を保障する「ブダペスト覚書」を94年に米英やロシアとの間で結んだ。ロシアは2014年のクリミア併合や今回の侵攻でこの合意をほごにした。
●プーチン大統領、ウクライナ作戦戦死者に「742万ルーブルの補償金」を支給 3/4
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ戦争で亡くなったロシア軍人の遺族たちに戦死者1人あたり742万ルーブル(約732万円)を補償することにした。また、負傷した軍人には300万ルーブル(約296万円)ずつ補償する。
ロシアのインテルファクス通信によると、プーチン大統領は3日(現地時間)国家安保会議を主宰した席で「ウクライナ特別軍事作戦の過程で亡くなった軍人家族たちに、法で定めた保険金と慰労金を合わせた補償金が支給されるだろう」と語った。
ロシア外務省の報道官はその前日「これまでにウクライナ軍事作戦に参加したロシア軍人のうち、498人が亡くなり1597人が負傷した」と公式発表した。
しかし同じ日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ウクライナ軍は、ロシア軍9000人を射殺した」と主張している。
またプーチン大統領は「ウクライナでは、中東出身の傭兵たちを含め、民族主義者と新ナチ主義者の部隊がロシア軍と戦っている」とし「彼らは民間人を “盾”に利用している」と非難した。
プーチン大統領は、「反露・親西側」路線を進むゼレンスキー大統領によるウクライナ政権を「新ナチ主義政権」や「民族主義政権」と呼び、ウクライナ軍に対しても同様の組織だと呼んでいる。
●ロシアが「燃料気化爆弾」配備 「プーチンは…使用をためらわない」 3/4
タレントのカズレーザーが4日、スペシャルキャスターを務めるフジテレビ系「めざまし8(エイト)」(月〜金曜・午前8時)に生出演した。番組では、エストニアを訪問中の英国のウォレス国防相がロシアのプーチン大統領がウクライナへ燃料気化爆弾を配備していると発言したことを報じた。
MCの谷原章介から「これ、どれぐらいひどい兵器なんですか?」と聞かれたカズレーザーは「燃料気化爆弾は、いわゆるサーモバリック爆薬と呼ばれているんですけど、固体であったりそういったものが圧変化で急激に気化してそこが爆発するという兵器なんですけど」と明かした。
さらに「基本的には屋外とか野外の戦闘員に対して効果的で、戦闘の車両の中に乗ってたりするとそこまで効果がなかったりという話もあるんですけど、やはり今、ウクライナは一般市民の方でも兵器を武装されたりしてるってことで、プーチン大統領としてはそういった人も戦闘員であり、文民ではないということで使用をためらわないっていう判断なんだと思います」とコメントしていた。
●プーチン大統領、欧米諸国の経済制裁への対応策に署名 3/4
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月28日、欧米をはじめとする対ロ制裁への対抗策として、2022年2月28日付大統領令第79号「米国の非友好的行動とそれに同調する諸国・国際機関に対する特別経済措置について」に署名した。同大統領令は即日発効した。
同大統領令では、a.外国とのビジネスを行うロシア居住者は、外貨で獲得した輸出収入の80%を入金から3営業日以内にルーブルに交換すること(2022年1月1日〜2月28日に得た分は同大統領令発効後3日以内)、b.3月1日以降の非居住者に対する外貨建て貸し付けの禁止、c.3月1日以降の居住者による国外への外貨送金の禁止(銀行口座を経由しない電子送金サービスを含む)(注1)が定められた。
強制売却の対象は、非居住者向けの商品・サービス、知的財産を提供して得た外貨。ロシアの主な輸出商材である石油や天然ガスの輸出業者が取得した外貨を強制的にルーブルに替えること、および在ロシア外資系企業の本国への送金を制限する仕組みを通じて、ルーブルの安定化を目指す。
このほか、公的株式会社(Public Joint Stok Company)の自社株式買い戻しに関する特例も含まれた。公的株式会社は2022年12月31日まで、発行済みの自社株式を購入できる(市場全体の自社株式の削減を意図するものは除く)。通常は株式総会や取締役会の決定に基づいて行われるが、a. 2022年2月1日以降の任意の3カ月間に取得する株式の加重平均価格が、2021年1月1日以降の株式の加重平均価格と比べて20%以上下落していること、かつb.2022年2月1日以降の任意の3カ月間における主要株価指数が、2021年1月1日以降の任意の3カ月の株価指数と比べて20%以上下落している条件を満たした場合のみ、会社による買い戻しが可能とした(注2)。
公的株式会社の代表的企業は、国有ガス会社ガスプロム、大手航空会社アエロフロートなど。ウクライナへの軍事行動を機に下落した、国内主要企業の株価を安定させることが目的とみられる。
さらに同大統領令では、銀行間の資金送金の簡素化も含められた。ある金融機関が別の金融機関に送金する際、送金先の金融機関に口座がなくても顧客から書面による同意を得れば、送金先金融機関が顧客の銀行預金口座を開設することを可能とした。
(注1)一部では、コルレス口座への送金は認められると報じられたが、詳細は不明。
(注2)そのほかにも、株式の取得はブローカー業務を営む会社が仲介する必要などの条件がある。
●ウクライナ侵攻、プーチンの攻撃性のウラにある切羽詰まった国内事情とは 3/4
ロシアを20年以上支配してきた69歳の独裁者、ウラジーミル・プーチン大統領が西隣の主権国家ウクライナへの本格的な侵略を2月24日に開始して、1週間以上が経過した。わずか44歳のウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ国軍、義勇兵や市民の士気と抵抗意欲は予想以上に高く、準備の足りないロシア侵略軍は苦戦を強いられている。プーチン氏の想定の甘さ、兵站(へいたん)・補給の軽視、不利な情報の無視などが指摘される。
しかし、戦場よりもはるかにロシアが不利な立場にあるのが、情報戦だ。まず、占領・統治を目論むウクライナにおいては、「ロシア軍は解放者だ」とのナラティブが国民に受け入れられず、民心掌握に失敗している。
また、ロシア国内におけるプーチン支持者の結束は固いものの、極めて厳しい国際社会の金融制裁が引き起こす生活苦により、大統領から民心が離れる危機に直面している。さらに、国際連合の討議などの場においても、ウクライナが大部分の国の同情と支援を勝ち得る一方で、ロシアの主張は嘲笑の的になる始末だ。
とは言え、善戦してきたウクライナ軍もやがて刀折れ矢尽き、遠からずロシアの傀儡(かいらい)政権が樹立されることが予想される。それでも、西側から武器供給を受けたゲリラ兵や国際義勇兵による市街戦や市民の不服従により、駐留するロシア侵略軍や後方のロシア本国経済のコストは跳ね上がり、真綿で首を締められるように圧迫されていくことになろう。
さらに、プーチン大統領やロシア軍指導部が戦争犯罪に問われる可能性さえあり、1931年9月に旧関東軍が引き起こした柳条湖事件に端を発する満洲国成立で、日本が国際的に孤立していった際の状況を彷彿とさせる。
ではなぜ、ロシアは情報戦で勝てないのか。さらには、なぜウクライナに対する侵略戦争を仕掛けなければならなかったのか。それは、指導者個人の資質や表面的な国際政治の構図を超えた、国内の根源的な矛盾が噴出したものではないだろうか。戦前の日本もそうであったし、台湾や尖閣諸島をはじめ、西太平洋全域の独占的支配を目論む中国共産党が運営する「中華人民共和国」もしかりだ。
そのため、現在のプーチン大統領の攻撃性および情報戦の失敗を分析することは、過去のわれわれの無謀な戦争を内省するだけでなく、近未来に必ず起こるであろう習近平国家主席の対外侵略に対する理解に役立つ。本稿では、過去の日本、現在のロシア、将来の中国における国内矛盾と戦争の関係に焦点を当て、論じてみたい。
ロシアがついた子供にバレるような嘘
今のロシアはさながら、国際戦争犯罪裁判の被告席に立たされたような立場だ。戦場と化したウクライナの各都市から毎日配信されるSNS動画には、残忍な破壊者、殺戮(さつりく)者としてのロシア軍の姿が克明に映し出されている。
こうした中、193カ国で構成される国連総会は3月2日にロシアを非難し、ウクライナからの即時撤退を求める決議案を141カ国の賛成で採択した。ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は、「ロシアの行動がねじ曲げられ、妨害されている。メディアやSNSは嘘を広めている」と主張してきたが、国際社会は認めなかった。ロシアは国際的に孤立したのである。
これで想起されるのが、日本が侵略した満洲の地において樹立した満洲国を巡る国際連盟とのやりとりだ。連盟が1932年3〜6月に派遣したリットン調査団の聞き取り調査に対応した外交官の石射猪太郎(いしいいたろう)は、当時の様子を次のように回想した。
「一行を案内して、(吉林)総領事館に着くと、日本側随員の吉田(伊三郎)大使が私に囁いた。『おい君、ピストルポイント独立のことは喋るな』。(中略)リットン卿を正座にして、並みいる一行に対した私は被告的立場を感じた。省みて(自分の)身に恥ずる覚えはないのだが、知っている真実の全部をいい得ないのにいい知れぬ後暗さを感じた」
日本は、満洲国の住民が自発的な意思で独立したと主張していたのだが、実態は銃口を突き付けて強制した「ピストルポイント独立」であったため、吉田大使に真実を語ることを止められた石射は後ろめたさを感じたわけだ。事実、同年9月にまとめられたリットン報告書は、日本側の主張の根幹的な部分を否定している。日本はこうして、国際的に孤立した。
ネベンジャ国連大使をはじめ、ロシア側の外交官や報道官の現在の心境も、石射のそれに近いものではないだろうか。ウクライナ人が「ネオナチのウクライナ政府」から解放されることを望み、ロシア軍を歓迎するとの物語は子供にもバレる虚構であり、「ロシア軍の蛮行で苦しむウクライナ人というのは、西側の嘘だ」と苦しい弁明をするしかない。
ちなみに、ロシアが言うように、ナチスに傾倒するテロリスト・ヘイトグループである数千人規模の「アゾフ連隊」がウクライナ内務省のお墨付きの下に蛮行を働いたのは事実である。だが、そのためにウクライナ全土を侵略し、2000人を超える非戦闘員を殺害し、あまつさえ核兵器使用をチラつかせるというのは、つじつまが合わないだけでなく、つり合いがとれていない。
ロシアには、隣国を侵略併合しなければならないほどの、別の切羽詰まった事情があると考えるのが妥当であろう。
民生用技術や非エネルギー産業が脆弱なロシア
思えば、わが国が満洲や中国北部、中部方面での戦争に深入りし、ついには破滅的な結果をもたらした大東亜戦争に突入していく原因や過程には、内地の政治不全や不景気、経済格差の拡大、資源の欠乏などの国内問題が背景として存在した。わが軍部や指導者たちは、抑え切れなくなった国内矛盾の解決を侵略に求めたのである。
対するロシアのプーチン大統領は、米国をリーダーとする北大西洋条約機構(NATO)との境界が緩衝地帯であるウクライナを超えて自国に迫ることを安全保障上容認できず、止むなく自存自衛に立ち上がったとされる。その行動は、力ずくによる旧ソビエト連邦帝国の版図の回復、ひいては現在の協調的な国際秩序の変更を意味する。
しかし、大国として国際秩序の改変を意図しているにもかかわらず、かえってロシアの小国的な脆弱性が露呈してしまった。例えば、西側の金融制裁でロシア国内の流動性が脅かされ、国民の多くは米ドルで自己防衛をしようと銀行のATMに押し寄せ、「取り付け騒ぎ」寸前の状態になっている。
これこそ、国内矛盾の典型だ。ロシア国民自身が、自国通貨であるルーブルをまるで信用していないため、日常的に「敵国」の通貨である米ドルをため込んでいる。ロシアの力を信頼していない証である。ロシア国民は自国経済のファンダメンタルズ、すなわち国力が弱いことを見抜いているからだ。
プーチン政権の基盤は、原油輸出などエネルギー収入で大規模な「バラマキ」を実施できるため国民の支持が高く、一見盤石である。にもかかわらず、政策において産業構造にバランスをとることに失敗している。
ロシアは本当に不思議な国だ。核兵器や極超音速ミサイル、ステルス戦闘機など極めて高い兵器開発能力や世界一流のハッカー養成力がありながら、民生用技術や非エネルギー産業がからっきし弱い。そうした中、コロナ禍で悪化した失業率や供給面での問題の改善は足踏み状態だ。
国際通貨基金(IMF)が発表した国内総生産(GDP)番付では2021年に、世界10位の韓国に次ぐ11位と、経済力・国力の勢いに欠ける。プーチン大統領はついに、従来の公約であった「GDPランキング世界第5位以内」の目標を取り下げてしまった。
大統領は固定資本の増強も掲げたが、国内外のマネーを呼び込むことができず、非原料・非エネルギー商品の輸出を2020年から10年で70%以上増やす目標の達成も危うい。続投が最長2036年まで可能となったプーチン氏であるが、支持率は最盛期と比較すると低落気味だ。軍備の面でも、通常兵力では米国に敵わないため、核兵器でバランスをようやく保つという歪(いびつ)な構造となっている。
今のロシアに本当に必要なこと
ロシアにとり本当に必要なのは、「国力の涵養(かんよう)」による民生向上なのだが、国家としての理念や構造が歪んでおり、その矛盾が国民の反政府デモや、叩いても叩いても台頭する反体制派の叫びなどの形で現れるのだ。
民主主義国家を含むどの国にも大きな矛盾はあるが、ロシアの場合はそれを反体制派人士の暗殺や言論統制など弾圧で抑えつけなければならないところに、政権の自信のなさと切迫感が感じられる。そして、今回の軍事行動は、国内矛盾の解決が弾圧のみでは不可能になったことが大きな原因と理解するのが、合理的ではないだろうか。
歴史的に、ウクライナの首都キーウ(キエフ)は「ロシアの母の町」と呼び慣わされてきたが、それが今や外国の都となってしまったことで、ロシアの国民感情として受け入れにくいことは理解できる。それが軍事的に対立するNATO加盟国になるかもしれないとなれば、なおさら許せないだろう。
しかし、真の問題はウクライナにあるのではなく、いつまでも経済三流国のままであるロシアと、それを変革できない指導部や国民にあると言えるだろう。「大国ロシア」の幻想を復活させようとしても、そもそも回復すべき実力も実態もないのだ。失地回復はロシア側の口実に過ぎず、戦争の原因は政治腐敗と寡頭資本家、新興財閥(オリガルヒ)の権力独占および非効率な経済構造にある。
ロシアは改革を通して国力を増強し、国民の生活を改善する必要がある。それに必要なのは、指導部の交代や国際協調の強化、外資導入による非原料・非エネルギー分野の発展であろう。しかし、プーチン大統領は、誤算とはいえ、消耗しながらさらに大きな戦争を起こす道を選んでしまった。
西側の金融制裁という経済上の行動に対する答えとして、たとえブラフであったとしても、「核抑止力を特別体制に」と最終軍事手段へのステップをプーチン氏が命令したことに、ロシアの最大の弱点である「経済の脆弱性」「国力の欠乏」を突かれたことに対する、抑え切れない怒りの爆発が見て取れる。
ロシアの核兵器使用の条件は、相手国の核兵器を含む大量破壊兵器の使用、弾道ミサイル発射、核報復能力を阻害する工作、ロシアの国家存在を脅かす通常兵器の攻撃、宇宙空間やロシア周辺へのミサイル防衛(MD)システムや弾道ミサイル、極超音速ミサイル、核兵器およびその運搬手段の配備に限定されており、金融制裁はリストに入っていないからだ(ましてや、隣国の数千人規模のネオナチ愚連隊の狼藉ではあり得ない)。
懸念されるプーチンと習近平の暴走
だが、ロシア指導部には米国や西欧の金融制裁が、核兵器使用と同じ意味に受け止められたのだ。戦前の日本が米国による原油の禁輸で一番痛いところを突かれたことをきっかけに、国力がはるかに上回る米国を相手とする戦争に突入した歴史と似ていなくもない。戦前の日本と違い、ロシアは全世界を破滅させられる核兵器を保有しているため、偶発事件などによるプーチン氏の暴走が懸念される。
さらに心配なのが、経済力をつける面ではロシアよりはるかにうまくやっている中国だ。戦前の日本の失敗に学び、国力が米国を完全に上回るまでは米国に牙を剥かないという、元最高指導者・ケ小平の「韜光養晦(とうこうようかい)」の教えが守り切れなくなるリスクが大きいからだ。
中国共産党は、都市戸籍と農村戸籍の区別により作り出した階級搾取で肥え太った独占支配階級であり、国営企業による非効率な経済構造が、習近平国家主席の経済指導の現実からの乖離(かいり)で悪化する兆しが見られる。
それは「偉大な中華民族の復興」という、ロシアの哲学者ニコライ・ベルジャーエフが唱えた「偉大な国の意識」「世界のためのロシアの特別な使命の自覚」「包囲された要塞意識」にも似た失地回復・現状変更的なイデオロギーに支えられ、「国際協調よりも共産党支配の護持」「国益より党益」「世界を敵に回す覚悟」などの傾向が強まっていることに現れている。
皇帝願望に衝き動かされる習近平国家主席はおそらく今、自身の台湾国侵略、尖閣諸島奪取の計画などを念頭に、プーチン大統領のウクライナ侵略に陰で衷心からの喝采(かっさい)を送りながら、同時にロシア軍の苦戦や情報戦の失敗に恐れおののいているのではないか。
しかし、中国共産党率いる漢人国家の西太平洋地域の独占軍事支配は既定路線であるため、ロシアのウクライナ侵略成功の可否にかかわらず、習主席は遠からず攻撃の決断を下すだろう。それは、「貧困撲滅(ぼくめつ)成功」を誇りながら貧富差が開いてゆく国内矛盾、国営企業による非効率が解決できない問題などの「解決」として実行されるだろう。
戦争がもたらす経済不平等と国内矛盾の是正
ウクライナから拡大する可能性のあるロシアの戦争、台湾から拡大する可能性のある中国の戦争により、世界が第三次世界大戦に巻き込まれてゆく確率は格段に上昇していると思われる。
皮肉なことに、戦争が経済不平等という国内矛盾の是正をもたらすことは、よく知られている。巻き込んだ国も、巻き込まれた国も、戦争でより平等な社会になる。第二次世界大戦が好例だ。そのため、国内矛盾の解決を侵略に求めるプーチンや習近平の悪の所業は後世の歴史家により、格差是正の契機として評価される可能性がなきにしもあらずだ。
●常軌を逸したプーチン、核使用に踏み切る危険性高まる 3/4
米歴史学者で戦略家のエドワード・ルトワック氏は、ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンがウクライナの抵抗や、欧米諸国の対ロ制裁やウクライナへの支援について甘い見積もりがあったと示唆し、これらについて言及している。
例えば、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米国の亡命提案を拒否した。これによってウクライナ軍は士気を高め、必死の抵抗を見せた。
こうしたウクライナの「英雄的な抵抗」に続き、西欧諸国の対応も変化した。
SWIFT(国際銀行間金融通信協会)からのロシア排除に消極的だったイタリアやドイツは一転して賛成に回り、武器供与に慎重だったスウェーデンなどの中立国もウクライナへの武器支援に踏み切った。
このため、「迅速でほとんど努力を要しない勝利が約束されていた」プーチンは「突然窮地に立たされた」とルトワック氏は指摘している。
今、ウクライナはロシア軍による侵攻に必死の抵抗を続けている。市民も自ら立ち上がり、祖国防衛に当たっている。
だが、ロシアの総兵力は90万人とウクライナの19万人を圧倒しており、戦闘機や戦車などの保有数でもロシアがウクライナを大きく上回っている。
軍事力で劣勢なウクライナが、いつまでロシア軍の動きをとどめられるのか、今後の展開は楽観できない。
一方、米国をはじめNATO(北大西洋条約機構)はウクライナに武器供与などの軍事支援を行っているが、部隊を派遣しない方針を維持している。
なぜ米国やNATOはウクライナを助けるために部隊を派遣しないのか。ロシアとの軍事衝突は核戦争へ発展する恐れがあることを考慮に入れてのことである。
早々に米国およびNATOは、ロシアのウクライナ侵攻に対応して軍事力を行使しないことを明言した。
しかし、筆者はバイデン氏を弱腰であると非難するつもりはない。筆者は核戦争を回避するというバイデン氏の選択を尊重したい。
今、プーチンは正常な判断ができない状態にあると筆者は見ている。おりしも米国のCNNテレビは、米政府高官が情報機関に対し、プーチンの精神状態に関する情報収集を指示したと報じた。
1.核の使用に関するプーチン発言
さて、核の使用に関するプーチンの発言などを振り返ってみたい。
2月24日のウクライナ侵攻直前の19日には戦略核兵器を使った「戦略抑止力演習」に踏み切り、相対的に威力の小さい戦術核兵器まで動員しての大規模な演習を実施した。
ロシア軍は2月19日、核弾頭も搭載可能な各種ミサイル、すなわち大陸間弾道ミサイル(ICBM)、極超音速(ハイパーソニック)ミサイルや巡航ミサイルなど多様なミサイルの発射演習を実施した。
ロシア大統領府の報道発表文によると、今回の演習で航空宇宙軍は極超音速ミサイル「キンジャール」の発射に成功。
北方艦隊と黒海艦隊の艦艇と潜水艦は巡航ミサイル「カリブル」と極超音速ミサイル「ツィルコン」を海上と地上の標的に撃ち込んだ。
また、軍はICBM「ヤルス」を北部のプレセツク宇宙基地から極東部のカムチャッカ半島の試験場へ向けて発射した。
演習には戦略爆撃機や戦略原子力潜水艦も動員され、空中発射巡航ミサイルや弾道ミサイルの試射を行った。
2月24日、プーチンは、国営テレビを通じてロシア国民向けに「ウクライナ政府によって虐げられた人々を保護するため、『特別な軍事作戦』を実施することを決定した」と演説した。
同じ演説の中で「ロシアは、ソ連が崩壊したあとも最強の核保有国の一つだ。ロシアへの直接攻撃は、敗北と壊滅的な結果をもたらす」と述べ、核使用をちらつかせて米欧を強く牽制した。
2月27日、プーチンは、ショイグ国防相、ゲラシモフ軍参謀総長に対し「NATO側から攻撃的な発言が行われている」と述べ、核抑止力部隊に高い警戒態勢に移行するよう命じた。
また、プーチンは過去にも核の使用について驚きの発言している。次にそれを紹介する。
2018年のドキュメンタリーでプーチンは、「ロシアを全滅させようとする者がいるなら、それに応じる法的な権利が我々にはある。確かにそれは、人類と世界にとって大惨事だ。しかし私はロシアの市民で、国家元首だ。ロシアのない世界など、なぜ必要なのか」と発言した(出典:BBCニュース「プーチン氏は核のボタンを押すのか BBCモスクワ特派員が考える」2022年2月28日)」 
筆者には、この頃から、プーチンは常軌を逸しているとしか思えない。
2.核抑止理論
今回、なぜ米国の核抑止は効かず、ロシアの核抑止は効いたのか。
抑止の理論は敵対者の行動が我々と同様の理性(共通の判断基準)に基づいていることを前提としている。
また、核抑止理論は恐怖の均衡の上に成り立つのであり、両者が相手の報復力を同じ程度に脅威と感じることが必要である。
また、相手の核戦力をどう理解するか、または信頼するかということも重要である。
次に核の抑止力について述べてみたい。
抑止力は制裁能力(核戦力)、制裁意思およびクレディビリティー(credibility)の3要素の相乗積であって、和ではない。
もし、この要素の一つでもゼロであれば抑止に失敗する。
クレディビリティー(credibility)とは、敵対国に制裁発動の能力と意思を信用させることまたは信用させる手段・方法をいう。
クレディビリティーは物理的クレディビリティー(報復力の技術的有効性)と心理的クレディビリティー(制裁意思の伝達)に分けられる。
物理的クレディビリティーには、核兵器の破壊力・精度・突破力や第1撃に対する生き残り能力などが含まれる。
心理的クレディビリティーは、国民的コンセンサスや指導者の態度などが含まれる。
今回のウクライナ侵攻を巡るロシアの演習やプーチンの発言は、ロシアのクレディビリティーを最高度に高めたが、一方、米国はクレディビリティーを高める努力(演習や発言)を一切していない。
そして、米国はロシアの核の抑止力に、軍事力の行使を完全に阻止された状態となってしまった。
3.米・ロ・NATOの核戦略
後述する米・ロ・NATOの核戦略・ドクトリンでは、敵の軍事侵攻に際し、まず通常戦力で敵の攻撃を阻止するが、阻止が困難な場合は、戦術核戦力を使用するとしている。
戦術核兵器とは、核兵器の砲弾、爆弾、爆雷を運搬するミサイルの射程がおよそ500キロ以下のもので戦場単位での使用を想定した兵器で、「短距離核戦力(short-range nuclear force: SNF)」とも言われる。
冷戦終結まで戦術核兵器は通常兵器の延長と見なされ、戦況を有利にするために使用することが当然と考えられていた。
ところが、1991年9月、米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が地上発射戦術核の全廃(航空機搭載のヨーロッパ配備分は除く)と、海洋配備戦術核の全面撤去を表明した。
これを受けてソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領も同年10月、地上発射戦術核の全廃、海洋配備分の3分の1、航空機搭載分の半数廃棄を表明した。
冷戦後の平和の到来とこれら核軍縮の気運を受けて、国際的に戦略核兵器のみならず、戦術核兵器を含めて「核兵器不使用の規範」が成立したと見られていた。
だが、まさに今、戦術核兵器のみならず戦略核兵器の使用が危ぶまれる状況となりつつある。
   (1)米国
2018年2月2日、米国防省は「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review:NPR)」を公表した。今回のNPRは、1994年、2002年および2010年に次ぐ4回目の報告書である。今回は、エグゼクティブ・サマリーのみが公表されている。本稿に関連する事項の要旨は次のとおりである。
ア.米国の核能力の価値
米国の核能力と抑止戦略が、米国・同盟国・パートナー国の安全保障に必要であるという根本的理由は明白である。米国の核能力は、核・非核攻撃の抑止に必須の貢献をしている。それが提供する抑止効果は敵対国の核攻撃を防止する上で独特かつ必須であり、米国の最優先課題である。非核戦力も必須な抑止の役割を果たすが、核戦力に比肩できるような抑止効果は提供しない。
イ.米国の核能力の国家的な目的
米国の核政策および戦略の最優先課題は、潜在的な敵対国によるあらゆる規模の核攻撃を抑止することである。しかし、核攻撃抑止が核兵器の唯一の目的ではない。米核戦力は以下に貢献する。
1核・非核攻撃の抑止
2同盟国およびパートナー国への安心提供
3抑止が失敗した場合の米国の目標達成
4不確定な将来に対して防衛手段を講じる能力
ウ.同盟国およびパートナー国への保証
米国は、欧州、アジア、太平洋地域の同盟国を保証するという拡大核抑止(核の傘)への正式な強い決意を有している。保証は、我々が直面する脅威を抑止あるいは撃退するための同盟国とパートナー国との協力に基づいた共通の到達目標である。
エ.抑止に失敗した場合でも米国の目的を達成
米国は、米国・同盟国・パートナー国の重要な利益を守るために極端な状況においてのみ核兵器の使用を考慮する。抑止ができなかった場合、米国は、米国・同盟国・パートナー国にとっての損害を可能な限り最低限の水準に抑え、達成可能な最良の条件で紛争を終結させる努力をする。
オ.非戦略的な核能力による抑止の強化
1「F-15E」と同盟国の両用戦術航空機(DCA:dual capable aircraft)のうち老朽化したDCAを核爆弾搭載可能な「F-35」に更新する。
2米国は近いうちに小型核戦力オプションを提供するために少数の既存のSLBM弾頭を修正し、長期的には近代的な核装備した海上発射巡航ミサイル(SLCM)を追求する。DCAと違って、小型SLBM弾頭およびSLCMは抑止効果を提供する上で、接受国支援を必要としたりそれに依存したりする必要がない。それらはプラットフォームの追加の多様性を提供し、将来の核“出現”シナリオに対する貴重な防衛手段を提供する。
3国防総省と国家核安全保障庁(NNSA)は、敵対国の防衛を突破することが可能な迅速 対応を保証するための小型SLBM弾頭を配備用に開発する。
   (2)ロシア
2020年6月2日、プーチンは「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」と題された大統領令に署名した。ロシア政府は過去に「核抑止の分野における2020年までのロシア連邦国家政策の基礎」という文書を採択しているが、その内容は一切非公開とされていた。これに対して、今回は「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」全文が公表されている。以下は、本稿に関連する事項の要旨である。以下は、防衛省 堀内智治氏著「ロシアの核 兵器政策−2020 年『核抑止の分野におけるロシア連邦の国家政策の基礎』公表の意義」を参考にしている。
ア.核兵器の位置付け(役割)
1核抑止の分野における国家政策は、核戦力ポテンシャルを核抑止力の確保に十分な水準に保つことを志向する防衛的な性質を有しており、国家の主権及び領土的一体性、ロシア連邦および(または)その同盟国に対する仮想敵の侵略の抑止、軍事紛争が発生した場合の軍事活動のエスカレーション阻止並びにロシア連邦および(または)その同盟国に受入れ可能な条件での停止を保障する。
2ロシア連邦は、核兵器は専ら抑止の手段であり、その使用は極度の必要性にかられた場合の手段であるとみなし、核脅威の削減および核戦争を含めた軍事紛争を誘発しかねない国際関係の悪化の防止に全力を尽くす。
イ.核兵器の使用条件
「ロシア連邦が核兵器の使用に踏み切る条件」と題し、核の使用条件として以下のとおり既述している。
1ロシア連邦は、自国および(または)その同盟国に対する核兵器およびその他の大量破壊兵器が使用された場合並びに通常兵器を用いたロシア連邦への侵略によって国家の存立が危機に瀕した場合において核兵器を使用する権利を留保する。
2核兵器の使用に関する決定はロシア連邦大統領が行う。
ウ.ロシア連邦による核兵器の使用の可能性を規定する条件
1ロシア連邦および(または)その同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼の置ける情報を得たとき。
2ロシア連邦および(または)その同盟国の領域に対して敵が核兵器またはその他の大量破壊兵器を使用したとき。
3核戦力の報復活動に死活的に重要なロシア連邦の政府施設または軍事施設に対して敵が攻撃を行ったとき。
4通常兵器を用いたロシア連邦への侵略によって国家の存立が危機に瀕したとき。
ロシアが今回、核使用指針を公開したのは、米中による軍拡競争の加速に懸念が強まるなか、米国を牽制する狙いがあるとみられている。
   (3)NATO
NATOの軍事戦略は柔軟反応戦略である。同戦略は「同盟は限定された規模の攻撃を非核型の直接防衛によって守り得る軍隊を保持する。この軍隊が非核型の防禦で攻撃を阻止できない場合は、あらかじめ計画された核戦争に正確にエスカレーションする」と規定している。  
おわりに
プ―チンがウクライナに対して核戦力使用の可能性を示唆したことは、日本としても、米国の提供する「核の傘」を信頼しているとしても、独自に核抑止力を備えることを検討する必要性を実感させた。
ロシアによるウクライナ侵攻をふまえ、安倍晋三元首相が2月27日、フジテレビの番組で、「日本はもちろん、NPT(核拡散防止条約)の加盟国で、非核三原則がありますが、世界はどのように安全が守られているかという現実について、議論していくことをタブー視してはならない」と述べた。
安倍元首相の発言を受けて、国会で核共有への認識を問われた岸田文雄首相は、日本の領土内に米国の核兵器を配備し、共同運用する「核共有」について、「非核三原則を堅持するという、わが国の立場から考えて認められない」と述べた。
筆者は、拙稿「提言:国家安全保障戦略の改定で非核三原則の見直しを提言した。
その要旨は次のようなものだ。
「1960年の日米安全保障条約改定時に核兵器を搭載した米軍の艦船や航空機が我が国に立ち寄ることを黙認するとしたいわゆる核持ち込み密約が存在するなどの疑惑が度々報道され、非核三原則の形骸化が指摘されている」
「新たな外交・防衛政策の基本方針である国家安全保障戦略(NSS)を改定する今、『国家のウソ』を断ち切るべきであると考える」
「具体的には、非核三原則の『持ち込ませず』を廃止し、新たに、核搭載艦船の領海の通過や寄港が事前協議の対象にならないとの見解を示すべきである。また、日本も、米国の核兵器の国内配備を検討すべきである」
是非とも、岸田首相には、「非核三原則の見直し」「米国の核兵器の国内配備」「核の共有」について活発な議論を起こしていただきたい。
●ロシアのウクライナ侵略に「プーチンは天才」と叫んだトランプ 3/4
米議会はウクライナ支援一色
ジョー・バイデン米大統領は3月1日夜(日本時間2日午前)、米上下両院合同会議で初の一般教書演説を行った。
対ロシアでの演説の趣旨はこうだ。
一、ウクライナ侵攻を断行したロシアのウラジーミル・プーチン大統領に「独裁者の侵略に対する代償を負わせる」と、同盟国と共同で経済的制裁を科すことを改めて宣誓した。
二、「プーチン氏は6日前、脅迫で自由な世界を屈服させられると考え、その基礎を揺るがそうとした」と非難、「だがその試みは失敗に終わっている」と言い切った。
議場に招待したオクサナ・マルカロワ駐米ウクライナ大使(前財務次官)を拍手で紹介し、「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と国民の勇気や決意が世界を奮い立たせた」と称賛した。
(同大使の隣に座っていたジル大統領夫人は同大使をハグした。全議員が立ち上がって拍手してウクライナへの支持を表明した。ウクライナの小旗を手にした議員や同国国旗の黄色と青をあしらった服を着た女性議員もいた)
バイデン氏は、新たな対ロシア制裁措置は発表しなかったが、全米国民、ロシア、ウクライナ、そして全世界に向けて、ロシアによる侵攻には米軍のウクライナへの投入以外の経済・軍事支援は最大限行うことをテレビやSNSで示した。
だが、ウクライナ国内にはロシアの戦車が我が物顔で走り回り、3月2日現在、戦闘に巻き込まれたウクライナ市民約2000人が殺され、87万人が国外に避難している(ロシア兵の死者は498人=ロシア政府発表)。
停戦交渉も遅々として進んでいない。
このバイデン氏の一般教書演説をプーチン氏がどう受け取ったか。しばらく様子を見ないと分からない。
新味はないが、バイデン氏がウクライナ紛争長期化を示唆している点を見逃していないだろう。
バイデン氏は今、就任以来最悪の政権運営危機に直面している。支持率は40.6%(不支持54.4%)、「国は正しい軌道に乗っていない」と答えた米国民は70%。その最大の要因は、インフレと物価高、好転しそうにないパンデミックだ。
バイデン氏への好感度は41.8%と、ドナルド・トランプ前大統領の43.8%よりも下回っている。
そうした状況下での演説だった。
外交面では、米一般大衆には13人の米兵を戦死させたアフガニスタン撤退の際の無様な映像が焼き付いて離れず、それだけで「外交能力欠如」のレッテルを貼られている。
そこに周到に準備されていた「プーチンの戦争」が勃発した。前もって出来上がっていた大統領就任後初の「一般教書演説」文は、これによって大きく書き換えられた。
この演説をどう評価するか。民主、共和両党の政争、保守、リベラルのメディアの対決から米国内での評価は大きく分かれている。
第三者の評価として、世界最古の週刊雑誌、伝統的保守の「ザ・スペクテイター」のコラムニスト、オリバー・ワイズマン氏の分析を取り上げれば、こうだ。
「内憂外患で二進も三進もいかないバイデン氏は、少なくともページを1枚めくった。政策のリセットを図ったが、そこまではいっていない。言ってみれば『バブル・シフト』したのだ。風向きを変えようと、ギアチェンジしたのだ」
「バイデン氏は今、西側が直面しているニュー・リアリティを明確にしたが、すでに表明している短期的な対ロ政策以上の新しい措置には触れていない」
「長引いた場合、米国や北大西洋条約機構(NATO)はどれほど国防費が必要か、エネルギー対策はどうするのかについては一切述べていない」
「まだ時期尚早かもしれないが、バイデン氏は今後、特定の段階で対ロ非難から対ロ戦略に移行せねばならない」
トランプの「プーチン礼賛」と米世論
プーチン氏が米国の反応を見誤った大きな要因の一つは、トランプ氏の「プーチン礼賛」だったのではないだろうか。
トランプ氏は、ウクライナ情勢について2月14日、「私が大統領だったらこんなことは絶対になかった」とツイートした。そのわけについては言及せず、含みを持たせていた。
ところが、トランプ氏は2月22日、保守系ポッドキャスト「クレイ・トラビス&バック・セックストン」とのインタビューでこう言い張った。
「(ウクライナで何が起こっているか、との質問に)テレビを見て、私はこう叫んだ。『こりゃ天才だ』。プーチンはウクライナの大部分に軍隊を侵攻させたと宣言した。この部分は独立国家だと宣言した。何と素晴らしいことじゃないか」
「私は『プーチンは頭が良い』と言った。この軍隊は(ウクライナ政府と独立を求めるウクライナの親ロシア住民との)調停者だ。強力な和平監視役を務める。私は、これまでこんなに多数の戦車は見たことがない」
「できれば、こんな軍隊を(メキシコとの)国境に派遣できればよかった(そうすれば、メキシコから米国に越境しようとする不法移民を阻止できる)」
われわれもいずれ(ウクライナ国内の和平工作に)加わって平和を維持する。プーチンという男は非常に抜け目のない男だ。私は彼をよく知っている」
「言っておくが、こんなことは私が大統領だったら起こらなかった。バイデン氏が今回どう対応したか、全く対応できずにいる。悲しいことだよ」
トランプ氏はその後、支持者との対話でこうも述べている。
「プーチンの侵入作戦は不動産買収のようなもの。たった2ドルの制裁金(欧米による経済制裁)を払って広大な土地とそこに住む住民を買い取った。たいしたもんだ」
こうしたトランプ氏のプーチン賛美に中間選挙で米議会多数派を目指す共和党指導部は当惑していた。
下院共和党執行部は、トランプ発言には触れず、バイデン氏の対応の拙さを批判するステートメントを発表したに過ぎない。
確かに、トランプ氏が「プーチン礼賛」する背景には世論調査の結果がある。
CBSテレビの最新世論調査によると、「ウクライナ情勢に関与すべきでない」と答えた共和党支持者は55%(民主党支持者は37%)、「ウクライナ政府を支持すべきだ」と答えた共和党支持者は41%(民主党支持者は58%)。
暴言ともいえるトランプ発言も共和党草の根層の生の声を反映したものであることが分かる。
早くもトランプ氏のお墨付きを得て再選を目指すジョシュ・ハーリー下院議員(42=ミズーリ州選出)などは、トランプ発言をこう解釈して支持した。
「NATOは、ウクライナをその一員にするのを諦めてロシアの怒りを鎮めるべきだった。今や安全保障上も経済でもわれわれにとっての脅威は中国だ」
「だから私はNATOが進める拡大政策には懐疑的だ。われわれにその余裕などない。われわれは欧州での軍事的コミットメントを拡大させることなどできっこない」
かつてトランプ大統領の首席戦略官だったスティーブ・バノン氏は、トランプ発言をこう弁護していた。
「プーチンはいわゆるウォーク(社会的不公平、人種差別などに対する意識の高い人間、つまり米東部的インテリ)ではない。むしろ反ウォーク(反インテリ)だ」
「彼は(われわれと同じように)同性愛やトランスジェンダーに反対している。そんなプーチンが率いるロシアをウクライナでの戦争に駆り立てたのはバイデンだ」
「NATO加盟の欧州諸国は、自分たちを自分で守る意欲など全くない。それにもかかわらず、バイデンは欧州に入り込み、ハチの巣を突いたのだ」
トランプ流、新孤立主義はまだ通用せず?
ところがロシアが本格的にウクライナ国内に侵攻した直後から米国内の保守層の間に変化が出てくる。
それを敏感にかぎ取った共和党指導層や政財界の保守派はトランプ氏から距離を置き始めた。
当初からトランプ氏の発言を厳しく批判していた反トランプの急先鋒、リズ・チェイニー下院議員だけでなく中道派のミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出=元共和党大統領候補)、ジョン・ボルトン元大統領国家安全保障担当補佐官らが口々に反論。
さすがのトランプ氏も2月26日、フロリダ州で開かれた米保守政治活動会議(CPAC)の総会では、「プーチン礼賛」を引っ込めた。
「ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は偉大な人物だ。われわれは誇り高きウクライナ国民のために祈ろう」と言い出した。まさに見事なまでの「変節ぶり」を見せた。
ウクライナ侵攻が現実のものとなってくると、トランプ氏周辺は別にして反ロシア気運が燎原の火のように広がった。
欧米と日本がロシアを国際的な資金決済網SWIFT(国際銀行間金融通信協会)を介した対ロ制裁に踏み切り、主要市場は「A Fog of War」(一寸先の見えぬ霧の中の戦場)化している。
そうした大所高所からの経済ではなく、一般大衆にも分かりやすいレベルで変化が相次いでいる。
新作映画の配給停止、ナイキは発売中止
ハリウッドではワーナーブラザーズ、ディズニーが相次いで「ザ・バットマン」や「私ときどきレッサーパンダ」など新作のロシアでの上映を中止。
スポーツ界では国際サッカー連盟(FIFA)などの「ロシア締め出し」に同調。
ビジネス界ではアップルやナイキがロシア国内での商品販売を中止。
こうした動きに保守陣営も身構え始めたようだ。風潮の変化の前にはトランプ流の新孤立主義論も通用しなかったわけだ。
その副産物として、親トランプのフォックス・ニュースでは国家安全保障担当の女性ジャーナリストがこれまで「プーチンは絶対にウクライナ侵攻などやらない」と豪語してきた保守派論客を激しく批判したり、かつて国務長官だった中道保守派のコンドリーザ・ライス氏を専属コメンテーターに起用しだした。
「親トランプ路線からの脱皮を図り始めたのではないのか」(メディア評論家)といった声も聞こえてくる。
ここまでくると、プーチン氏の「とらぬ狸の皮算用」は雲散霧消してしまう。
傀儡政権か新「鉄のカーテン」か
「プーチンの戦争」は今後、どうなるのか。
権威ある大西洋評議会(The Atlantic Council)のバリー・パーベル博士ら専門家は、以下のような4つのシナリオを予測している。
一、「ドニエプル川の奇跡」
ウクライナ軍と市民による抵抗にロシア軍は屈して撤退する。
ニ、泥沼状態
ウクライナ現政権が崩壊してウクライナにロシアの「傀儡政権」が樹立される。
三、新「鉄のカーテン」
ウクライナが崩壊、ロシア軍が駐留、東欧にかつてのような「鉄のカーテン」が引かれる。北はポーランド、南はスロバキア、ハンガリー、ルーマニアの旧ソビエト連邦圏が出現。
四、NATO・ロシア全面戦争
NATO加盟国がウクライナに侵攻、ロシアがNATO加盟国を攻撃して全面戦争に発展。これは核戦争、第3次世界大戦を招く。「地球最後の日」だ。
果たしてプーチン氏はどのようなシナリオを考えているのだろうか。
「プーチンはマッドマンだ(気が狂った)」と言い切る欧米風刺漫画家も出てきた。
ウクライナ侵攻に反対するロシア国民の良識と常識がプーチン氏の暴走を止めさせてくれることを祈りたい。
●ロシアとウクライナ 戦闘地域の住民避難ルート設置方針で合意  3/4
ロシアとウクライナの停戦をめぐる2回目の交渉が3日行われ、双方の代表団は、戦闘地域の住民のための避難ルートを設置する方針で合意したと明らかにしました。ただ、ロシア軍はウクライナ各地で攻勢を強めていて、市民の犠牲が増え続ける中、今後の交渉で停戦につながるかは、予断を許さない情勢です。
ロシアがウクライナに軍事侵攻して、1週間となった3日、ロシアとウクライナの停戦をめぐる2回目の交渉がベラルーシ西部のポーランドとの国境付近で行われました。
協議のあと、双方の代表団は、戦闘地域の住民のための避難ルートを設置する方針で合意したと明らかにしました。
またウクライナ側の代表団は「住民が避難する地域では一時的に停戦する可能性がある」としていますが、「期待した結果は得られなかった」とも述べていて、近く3回目の協議を近く行うということです。
一方、フランスのマクロン大統領と3日、電話で会談したロシアのプーチン大統領は、ウクライナの「非軍事化」と「中立化」の要求は妥協しないとの姿勢を強調したうえで「特別な軍事作戦の目的は、いかなる場合でも完遂される」と述べて、ゼレンスキー政権への軍事的な圧力を維持していく方針を示しました。
ロシア軍は、交渉が行われた3日もウクライナ各地で激しい攻撃を続けました。
ウクライナの非常事態庁は、北部の都市チェルニヒウで集合住宅とみられる建物などが空爆を受けて、少なくとも33人が死亡したと発表し、市民の犠牲が増え続けています。
ロシアがウクライナとの協議を継続する姿勢を示しながらも、各地で攻勢を強めるなか、今後の双方の交渉で停戦につながるかは、依然、予断を許さない情勢です。
プーチン大統領「作戦は計画通り すべての任務が成功裏に完了」
プーチン大統領は、3日行われた安全保障会議でウクライナへの軍事侵攻について「われわれの兵士がウクライナで戦うのは、この国を非軍事化させ、国境付近で核兵器なども含めてわれわれを脅かすことがないようにするためだ」と述べ、今回の侵攻を改めて正当化しました。
そのうえで、プーチン大統領は「特別な軍事作戦は予定通り、計画通りに進んでいる。すべての任務が成功裏に完了している」と述べ、軍事作戦は順調に進んでいると強調しました。
一方、今回の軍事侵攻でロシア軍の兵士の死者が2日までに498人に上っていることに関連して、プーチン大統領は「われわれは軍に誇りを持ち、戦死した戦友を常に覚えている。彼らの家族たちを支援するためできる限りのことをするつもりだ」と述べ、死亡した兵士の遺族に一時金を支払うなどの補償措置を行うと明らかにしました。
プーチン大統領としては、死者が増えることでロシア国内で軍事侵攻に反対する声の高まりを押さえ込みたいねらいもあるとみられます。
ゼレンスキー大統領 プーチン大統領に直接会談を呼びかけ
ウクライナのゼレンスキー大統領は3日の会見でロシアのプーチン大統領に向けて「私との交渉の席につきなさい。何を怖がっているんだ」と直接会談を呼びかけたうえで、「この戦争を止める唯一の方法だ」と述べました。
また「もしウクライナという国がなくなれば、次に狙われるのは、ラトビア、リトアニア、エストニア、そしてモルドバ、ジョージア、ポーランドだ。ロシアは、ベルリンの壁にたどりつくまで勢力を拡大し続ける」と述べ、ウクライナの危機はヨーロッパ全体の危機だと訴え、軍事的な支援を強化するよう国際社会に求めました。
米国防総省高官 キエフなどで激しい爆撃
アメリカ国防総省の高官は3日、ロシア軍の激しい爆撃を受けているウクライナの都市として、首都キエフと第2の都市ハリコフ、それに北部のチェルニヒウを挙げました。
この高官は、ロシア軍はこれまでに480発以上のミサイルを発射し、このうち、半分近い230発以上がウクライナの領土内に展開させた移動式の発射システムから発射されたと分析しています。
またロシアの領土から160発以上、ベラルーシからは70発以上、黒海からも数発のミサイルが発射されたとしています。
さらに、ロシア軍は国境周辺に展開していた戦闘部隊のうちこれまでに90%の戦力をウクライナ国内に投入し、各地で激しい戦闘が続いているとの認識を示しました。
ロシア軍に掌握されたと一部で伝えられる南部の都市ヘルソンについては「現地では戦闘が続いており、陥落したと言うのはまだ早い」と述べました。
東部ドネツク州の要衝、マリウポリについては、ウクライナ側が引き続き支配権を握っているとする一方、ロシア軍は、都市を孤立させるため攻勢を強めていると指摘しました。
そして、首都キエフに向けて南下しているロシア軍の部隊については「動きが停滞している」と指摘し、キエフから北におよそ25キロ離れた場所に引き続きとどまっているとの認識を示しました。
交渉が行われた場所は
ロシアとウクライナの停戦をめぐる2回目の交渉が行われたのは、ベラルーシの首都ミンスクから西におよそ300キロ、ポーランドとの国境地帯にある「ベロベーシの森」です。
ベロベーシの森は、31年前の12月、ソビエト崩壊を決定づける合意がなされた歴史的な場所です。
当時、ソビエト連邦を構成していたロシアとウクライナ、ベラルーシの各共和国の代表が協議の末、ソビエト連邦の消滅とともにCIS=独立国家共同体の創設を宣言した合意文書に調印しました。
その後、この年の12月25日にソビエト連邦は69年の歴史に幕を閉じ、ロシアとウクライナは独立した道を歩むことになりました。
避難してきた人は
ウクライナから国外に逃れた人は100万人を超え、その半数にあたる50万人以上が避難している隣国のポーランドでは、連日、国境を越えて人々が押し寄せています。
南東部にある国境の町、メディカでは3日も、徒歩や車、または列車を乗り継いでポーランド側に渡ってきた大勢のウクライナ人の姿が見られました。
このうち首都キエフから避難してきた高齢の夫婦は、ポーランドに住む息子との再会を喜んでいました。
夫婦は1日に自宅を出て列車でポーランドを目指しましたが、人であふれて乗ることが出来ず、翌日、再び駅に戻ると、運良く乗車できたということです。
車内では多くの人が立ったままで、互いに席を譲り合って長時間の移動を耐え、途中、ボランティアの人たちから食料を受け取ることができたということです。
夫のバシル・シムコさん(71)は「私たちを兄弟と呼んでいた国に裏切られたようなものです。もう兄弟でもなければ、兄弟になることもない」と話していました。
また、妻のオルハさんは「ミサイルが自宅のすぐ近くを直撃したこともあり、2日前には8回も空襲警報が鳴りました。自宅から逃げるなど思いもよらず、とても悲しいです」と話していました。
また、ウクライナ西部から赤ちゃんを連れて避難してきた30歳の女性は、「国を離れるという現実に直面し、将来がどうなるのか、いつ帰れるかもわかりません」と不安そうに話していました。
●「プーチンが勝てるとは思えない」…これからロシアを直撃する「壮絶な報復」 3/4
「プーチンが勝てるとは思えない」
ウクライナの首都、キエフ制圧を目指すロシアの軍事作戦が難航するなか、米国の有力な軍事専門家が「ロシアは勝てない」という見方を明らかにした。一方、ジョー・バイデン米大統領は3月2日、一般教書演説で注目すべき発言をした。それはいったい、何だったのか。
大統領発言を紹介する前に、ここまでの戦況を振り返ろう。ウクライナの隣国、ベラルーシから侵攻したロシア軍はキエフ制圧を目指して、南下した。ところが、各地でウクライナ軍と市民の抵抗に遭って、3月3日現在も制圧に成功していない。
ロシア軍とウクライナ軍の圧倒的な戦力差から、当初は「首都は数日で陥落する」とみられていた。ところが、ウクライナ軍は、米政府当局者が2月27日に「予想を上回るほど手強い(stiffer than expected)」と評価するほどの抵抗を示し、ロシア軍の進撃は難航した。
すると、米国の軍事専門家が3月2日、戦況見通しを率直にこう語った。
デビッド・ペトレイアス退役陸軍大将(南カリフォルニア大学教授)は、CNNで「これはロシアとウラジーミル・プーチン大統領が最終的に勝てる戦争、とは思えない」と語ったのだ。
CNNはなぜか、この発言を活字で配信していないが、YouTubeで確認できる。これとは別に、同氏は2月28日、CNNの著名アンカー、クリスティアン・アマンプール氏のインタビューに答え、そちらでも「(侵攻は)プーチンにひどい状態になるだろう(going terribly for Putin)」と語っている。
ペトレイアス氏は、ただの軍事専門家ではない。イラク戦争やアフガニスタン戦争で司令官を歴任し、その後は中央情報局(CIA)長官を務めた経歴をもつ。市街戦を含めた戦争を何年も実際に戦い、情報戦にも通じている、いわば「専門家中の専門家」である。
日本では、実戦経験がなくても軍事専門家を名乗る人がたくさんいるが、それとはレベルがまったく違う。米テレビで解説している多くの米軍関係者と比べても、ペトレイアス氏は別格である。アマンプール氏が番組冒頭で紹介したように、市街戦にかけては、世界に彼以上の専門家はいない。ちなみに、学歴でも陸軍士官学校を卒業し、プリンストン大学で修士号と博士号を得た「陸軍のスーパーエリート」だ。
そんなペトレイアス氏は、ロシア軍が勝てない理由について、番組でこう指摘した。
〈彼ら(ロシア軍)は、おそらく首都を攻略できる。だが、それを維持することはできない。…ロシア軍は(必要な)兵の数を持っていない。…ウクライナの人々は、みな彼らを憎んでいる。成人の大部分は「人間の盾」であれ「どんな武器」であれ、手にして喜んで戦うつもりなのだ。…彼らにはチャーチルのような大統領もいる。人々の士気は挫けていないし、ウクライナ軍には「自分たちの国」という地の利もある〉
この発言をCNNのライブ配信で聞いたとき、私は正直、驚くと同時に「やはり、そうか」と思った。実際に首都陥落作戦が始まっていない段階で「プーチンは勝てない」とテレビで語るのは、よほどの確信がなければ言えない。ペトレイアス氏のように名声を確立した人物であれば、なおさらだ。
その彼が語ったとなると、これは「ニュース」である。だからこそ、CNNが活字配信しなくても、先に引用したザ・ヒルのような活字メディアが直ちに取り上げたのだろう。
無自覚な「プーチンの代弁者」の罪
脱線するが、私はこういう情報とその展開を国際情勢を眺める基本に据えている。国家対立の予想が難しいのは当然だが、それでも、第1級の専門家とジャーナリストの分析を丹念に追っていれば、先行きはおのずと見えてくる。先週のコラムで書いたように、実際、私の開戦見通しは正しかった。
鍵を握るのは「どこにどんな情報が眠っているか、を嗅ぎ分けるカン」と「丹念さ」である。とりわけ重要なのは「カン」のほうだ。これは国際情勢の分析でも、日本の政局見通しでも、同じである。私の観察では「カンがない人」は、いつも間違えている。そういう人の話をいくら聞いても時間のムダ、と思う。
ウクライナ戦争では「米国が北大西洋条約機構(NATO)を東に拡大しないと約束していたのに、破ったから、プーチンが戦争を仕掛けた」という話も出回った。事実はどうか、と言えば、そんな約束はなかった。
「約束説」は、1990年2月に当時のジェームズ・ベーカー米国務長官がミハイル・ゴルバチョフソ連共産党書記長に「NATOが東に1インチも拡大することはない」と語った、という話が根拠になっている。だが、ゴルバチョフ氏自身が2014年10月、ロシアの日刊紙「コメルサント」のインタビューに答えて「NATO拡大の話は当時、まったく議論されていなかった」と認めている。
私に言わせれば、約束説を語る人たちは「プーチンの代弁者」にほかならない。事実をよく調べず、丹念でもない。いまや「価値ある情報」の99%は、英語で世界に流れている。残念ながら、日本語情報はほとんど役に立たないどころか、むしろ有害だ。したがって、自分で日常的に英語情報をチェックしていない人の話が論外なのは、言うまでもない。
対ロ経済制裁による大きな打撃
本題に戻る。プーチン氏は戦場で苦戦しているのに加えて、戦場以外でも厳しい状況に置かれつつある。とりわけ、私は、ロシアで事業を展開する多くのグローバル企業が相次いで、ロシアからの撤退を表明している点に注目する。
英石油大手のBPが先陣を切ると、同じくシェルや米石油大手のモービルも撤退を表明した。さらに、独商用車大手のダイムラートラックもロシア企業との提携を解消し、米IT大手アップルやスポーツ用品大手ナイキ、エンターテインメント大手ディズニーもロシアでの製品販売や映画公開を中止した。クレジットカードのマスターカードやVISAもロシアとの銀行取引を停止した。
日米欧政府は一部のロシア銀行を国際決済ネットワークの「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から締め出した。ロシア中央銀行との取引も制限した。これによって、ロシアはドルやユーロなどの外貨を入手しにくくなった。
外資企業にとっては、ロシアでの事業利益をドルやユーロに替えて、本国に送金するのが困難になる。西側の制裁はプーチン政権が続く間はもちろん、少なくとも数年は続くだろう。企業イメージの悪化に加えて、利益も送金できないとなると、今後も西側企業のロシア脱出が相次ぐはずだ。
ロシア中銀は政策金利を2倍近い20%に引き上げた。これらの結果、ロシア国民は買い物でクレジットカードを使えず、ドルは入手できず、住宅ローン金利は大幅上昇という苦境に立たされた。海外旅行など、夢のまた夢だ。ドルで買い支えられないルーブルの暴落は止められず、今後、猛烈なインフレと景気悪化に襲われるのも避けられない。
「彼を捕まえろ!」
戦争反対の声は今後、ロシア国内でも一段と高まっていくだろう。一言で言えば、いまや、戦場でも国内外でも「プーチンの戦争は大きく潮目が変わった」のである。さて、となると、プーチン氏はどうするのか。
もっとも懸念されるのは、暴発だ。プーチン氏は2月27日、戦略的核抑止部隊に対して「特別警戒」体制を敷くよう命令した。核攻撃で脅しているのだ。そんなタイミングで出てきたのが、バイデン大統領の一般教書演説だった。バイデン氏はこう述べた。
〈プーチンのウクライナに対する攻撃は事前に計画され、挑発されたものでもなかった。…プーチンはいま、世界でかつてなく孤立している。…今夜、私は同盟国とともに、すべてのロシア航空機に対して米国の空を閉じる。それはロシアを一段と孤立化させ、彼らの経済を苦しめる。ルーブルは30%下落した。ロシアの株価は40%下落した。貿易は止まったままだ。ロシアの経済は揺らいでいる。プーチンただ1人に責任があるのだ(Putin alone is to blame)〉
〈ロシアの独裁者は外国に侵攻し、世界にコストをかけた。…この時代の歴史が記されるとき、ウクライナに対する「プーチンの戦争」はロシアを弱体化したに違いなく、世界の他の部分は強くなった(と記されるだろう)…プーチンは戦車でキエフを包囲するかもしれない。だが、彼はウクライナ人の心と魂まで手にすることはできない。彼は、彼らの自由に対する愛を消すことはできず、自由世界の決意を弱めることもできない〉
大統領が「これはプーチンによって引き起こされた戦争であり、責任は彼自身にある」と認識していることは明らかだ。「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥の犯罪を摘発する姿勢も示したが、個人名を挙げたのはプーチンだけだった。
バイデン大統領がプーチン氏1人に戦争責任の追及を絞ったのは、なぜか。
私はオリガルヒは別にして、ロシアに対して「他の軍関係者の責任は免除してやる。その代わり、プーチンを打倒せよ」というメッセージを送ったのではないか、とみる。それは、演説の最後の一言にも示された。大統領はこう言った。
〈彼を捕まえろ! (Go get him! )〉
ホワイトハウスが発表した公式の演説全文に、この一言はない。つまり、これは即席の発言だった。「him」ではなく「them」の複数ではないか、との見方もあるが、米ブルームバーグや米ABCは「him」の単数で報じている。私は何度も録画を聞き直したが、やはり「him」に聞こえる。
演説本体がプーチン氏1人に焦点を絞っていた点から見ても、ここは「him」すなわち「プーチンを捕まえろ」と叫んだと見るのが自然だろう。つまり、ロシアにクーデターを促したのだ。
もしも、プーチン氏が核のボタンに手をかけようとしたら、止められるのは側近たちか、核攻撃プロセスに関わる国防省と軍のトップたちしかいない。はたして、彼らに止められるのか。ここは、見方が分かれている。
たとえば、英BBCは2月28日、複数の識者に意見を聞いて「側近たちは支配者の側に立っている」「だれもプーチンの前に立ちはだかる用意はない。我々は危険な状態だ」という悲観的な声を報じた。
一方、昨年の早い段階から開戦の可能性を的確に報じていた米ワシントン・エグザミナーのトム・ローガン記者は2月28日、プーチン氏の側近たちは「核を発射する前に、プーチンを撃つだろう」と、BBCとは逆の見通しを伝えている。
私は、追い詰められたプーチン氏が「手負いの虎」のように「一か八かの賭けに出る可能性はある」とみる。そこから先は「神のみぞ知る」だ。だからこそ、バイデン大統領は思わず、草案になかった「彼を捕まえろ!」という台詞を最後に絶叫したのではないか。緊張は一段と高まっている。
●ロシア人作家ウラジーミル・ソローキン 「プーチンはいかに怪物となったのか」 3/4
当初は魅力的だったプーチン
ウラジミール・ソローキンは、独紙「南ドイツ新聞」に寄稿し、プーチンがいかに「怪物」になったのか、そしてロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まった今、どう立ち向かうべきか述べた。
モスクワ郊外で育ったソローキンは、ベルリンに住まいを持ち、在日経験も持つ。そんな彼はプーチンのウクライナ侵攻によって「“賢明な独裁者”としてプーチンが身につけていた鎧が剥がれ落ちた」と形容する。
一方で、1999年、プーチンが首相の座についた当時は、彼は「魅力的な人物」に見えたそうだ。
「エリツィンから首相の座を譲り受けた当時のプーチンに対しては好感が持て、その言動は理にかなっているようだった」。当時の彼は、「ロシア連邦の改革、自由な選挙、言論の自由、人権の尊重、西側との協力についてインタビューに語り、権力に固執する気はないと断言していた」と彼は記す。
しかし、その後、「絶対的な権力、帝国的な攻撃性、恨みに溺れ、ソビエト連邦の終焉に対する憤りと西側民主主義諸国に対する憎悪ゆえに、徐々に怪物となっていった」そうだ。
というのは、「ピラミッドの頂点にいる者が、すべての権利と絶対的権力を持つ」16世紀頃からの仕組みによってプーチンは変容していったのだという。
絶対的権力に取り憑かれた男
ペレストロイカという近代化改革を経ても、独裁者を支えるピラミッド型の権力構造はロシアにおいて守られたままだった。
ペレストロイカの改革では「ソ連の暗い過去も葬られず」、行われたのは、「コンクリートで固められたソ連の古い建物から、西洋製品の看板が並ぶカラフルな建物への変化」だけだったという。
そして、「プーチンは20年以上もその頂点に君臨し、その椅子にしがみついた。そして、少しずつ帝国の怪物へと変質していった」のだ。
表現の自由を制限し、「テレビ局は彼の取り巻きの手に渡り、報道に対する厳しい検閲が確立され、プーチンはあらゆる批判をかわせるようになった」
また、新興財閥のオリガルヒも、プーチンに従わなければ迫害された。「もっとも成功したオリガルヒの一人のミハイル・ホドルコフスキーは、(プーチンに批判的だったことから)逮捕され、10年間刑務所送りにされた。彼の所有するユコス社も、プーチンの手下に奪われた」
この「 “特別作戦”は他のオリガルヒを脅すためのもので、その結果、オリガルヒは国を去るか、プーチンに従うか、彼の“財源”となった」とソローキンは指摘する。
また、「プーチンの内にある怪物は、不誠実なロシア人エリートたちによっても支えられてきた。プーチンは、 “腐敗から得た脂肪の塊”を彼らに時折投げて与えていた。また、無責任な欧米の政治家、シニカルなビジネスマン、腐敗したジャーナリストや政治学者によっても、彼は肥え太らされた」。それらの人々を魅了したのは、プーチンの「“強く、一貫した支配者”という姿」だったそうだ。
目指したのはソ連よりも過去の時代
そして、自らの地位をより強固にしたプーチンは、「権力のピラミッドを過去に向かわせ、ソ連時代を超えてさらに過去に進み、中世を目指した」という。
諜報員だったプーチンは、「ソ連は進歩的な人類の希望であり、西側は敵であり、我々ロシア人を貶めようとするものだと聞かされてきた。そして自分が幸せだったソビエト時代に戻ることを想像し、やがてすべての臣民を強制的にそこに戻そうとした」のだ。
そのために彼は国民に徹底したプロパガンダを発信した。「彼の主なコミュニケーション手段は嘘で、自己暗示の非常に多様なニュアンスで表現する。ロシア人は、大統領の嘘のレトリックに慣れきってしまっている」
そしてウクライナ侵攻についても、「“ウクライナの侵略者”に対する“特別作戦”と呼ぶ。平和を愛するロシアが、“ウクライナの非合法政権”からクリミアを奪還するために、ウクライナ東部で戦争を繰り広げたというのだ。そして今度は国全体を攻撃している。これは、1939年にスターリンがフィンランドを攻撃したときのようだ」とソローキンは懸念を示す。
プーチンの敵は自由と民主主義
「しかし、今回の戦争で、プーチンはレッドラインを越えてしまった。仮面は外れ、プーチンは侵略者として戦争を始めた。戦争の火をつけたのは絶対的な権力に堕ちた男で、彼が決意したのは世界地図の再編成だ」という。
ウクライナ侵略を始めた夜のプーチンの演説では、ウクライナよりもアメリカやNATOについて多く言及されていた。だからこそ、「彼が狙っているのはウクライナではなく、西洋文明だ」とソローキンは明言する。
プーチンは「自由と民主主義の敵だ。それが今、ようやく理解された。自由と民主主義の世界は、彼の陰鬱で不機嫌な小屋よりも大きいからこそ踏み切ったのだ。彼は新しい中世、腐敗、嘘、人間の自由の軽視に固執している。彼は、過去だからだ」と記す。
だからこそ「この怪物が過去のものとなるよう、今、私たちは全力を尽くさなければならない」とソローキンは主張する。
そして、彼は、怪物を生み出した責任は、「私たちロシア人にある」と言う。ロシア人は「プーチン政権が崩壊するまで、罪悪感を背負わなければならないが、その崩壊は必ずやってくる。自由なウクライナへの侵攻は、終わりの始まりだ」と、プーチンの思い通りにはならないことを強調した。
●ウクライナ軍事侵攻の裏側で…中国が密かに狙う?「ロシア追い落とし」の機会 3/4
対ウクライナ経済関係への影響は?
中国とウクライナの2国間貿易は、2013年、中国の対ウ輸出79.0億ドル(前年、201m年並み水準)、輸入27.3億ドル(対前年比53.4%増)、総額106.3億ドル(同9.8%増)で、中国の総貿易に占めるシェアは0.2%程度にすぎないことから(ウクライナにとって中国は、第3の輸出市場であるとともに、第2の輸入先)、中国内で対ウ貿易への影響についての議論はあまり見られない。
また、ウクライナが欧米とロシアのいずれを選択しても、その経済を立て直すため、中国からの投資を歓迎することには変わりないと見ているようだ。
ただし、ロシアや香港での報道・専門家の見方を紹介する形で、1中国はウクライナの港湾プロジェクトに関与し、これを欧州市場進出への足掛かりにしようとしているが、こうしたプロジェクトが中断してしまっていること、2ウクライナは中国にとって主要な武器供給源になっているが(ストックホルム国際平和研究所によれば、2012年、ウクライナは米国、ロシア、中国に次ぐ世界で4番目の武器輸出国)、ウクライナが欧米側に就くとなると、対中武器供給に禁輸制限がかかるおそれがある点がやや懸念されている。
ウクライナから中国への武器輸出について、統計上は明確には確認できないが、現状、ウクライナは、中国におけるジェット戦闘機・その他戦闘機の維持補修、エンジンの製造等の面で、重要な役割を果たしているとされる。
さらに、中国は穀物自給の原則は変えていないものの(なお自給率95%)、増大する穀物需要、特に豚等飼料用穀物を一部輸入に切り替え始めており、ウクライナとも2012年、中国輸出入銀行がウクライナに30億ドルの融資を行う見返りに、ウクライナから安定的な穀物供給を受けることで合意し、昨年末に穀物の積み出しが始まったばかりだ。現在、ウクライナからの穀物輸入は、穀物総輸入の約3.3%を占めている。
しかし、ロシアに併合されたクリミア半島がウクライナの穀物輸出の10%を扱っていることに加え、中国がパートナーにしているウクライナの関連企業はみな、前政権に近かった国有企業であることから、穀物供給の見通しが不透明になりつつある。
非対称的な中露経済関係
ロシア経済との関係はより重要だ。マクロ的には、欧米の制裁が強化されると、ロシア経済が一定の打撃を受けることは間違いないが、各国経済が相互依存を強めている現状、結局それは、欧米も含めた世界経済全体に負の影響が及び、中国経済にとっても、その外部環境が全体として悪化することを意味する。
たとえば、ロシアの外貨準備は2014年3月約5,000億ドルで比較的潤沢(15-20ヵ月の輸入額に相当)と言えるが、その大半は米ドルやユーロで保有されており、制裁で外貨資産凍結となると大きな影響を受ける。またロシアは2013年約2,000億ドルの貿易黒字を記録しているが、その70%以上を対EU貿易で稼いでおり、制裁によってEUとの貿易が縮小すると、赤字を記録している対中貿易の支払いにも影響してくる。
他方、経済の相互依存が強まっているだけに、欧米としても、以前のように、単に政治的な観点から一方的に経済制裁を科すことは、自らへの影響も考えると難しくなっており、制裁は一定範囲に止まる(止まらざるを得ない)とも考えられる。
中ロ経済関係を改めて整理すると、まず貿易について、2013年習主席訪ロの際の共同声明で、両国貿易量を15年1,000億ドル、20年2,000億ドルにまで増加させていくとの目標が示されたが、昨年実績は約892億ドルとほぼ前年並みで、目標にはなお道半ばだ。
共同声明では貿易構造の多様化もうたわれたが、中国がもっぱらロシアからエネルギーを輸入し、ロシアに消費材や工業製品を輸出する構造に変化はない。2012年対ロ輸入のうち、原油・石油製品の割合は60%以上にのぼる一方、対ロ輸出のうち65%が電気機器・ハイテク製品類、24%が衣類等消費財関連だ。
またロシアにとって中国は最大の貿易相手だが、中国にとってロシアの比重はそれほど大きくない。直接投資についても、中国の対外投資に占めるロシアの割合は0.9%、香港等を通じる迂回投資の調整をしても2013年末2.4%で(Heritage Foundation推計)、シェアは横ばいだ。同推計によると、13年末対ロ投資残高185億ドルのうち、半分以上の98億ドルがエネルギー分野への投資である。
経済的好機をうかがう中国
中国内の経済学者からは、ウクライナ問題を、中ロ貿易を拡大させ、また人民元の国際化をさらに進める好機と捉えるべきとの見方が展開されている。
それによれば、第一に、ロシアはこれまでエネルギー輸出先として欧州に大きく依存してきたが(“西向能源戦略”)、制裁によって、輸出市場の多様化を通じてリスクを軽減しようとする”東向能源戦略”に転換する可能性がある。その場合、特にエネルギー需要が高く、市場規模も大きい中国とのエネルギー協力を深化させようとすることになる。
第二に、制裁によってロシアと欧米との経済関係が冷え込めば、例えば中国企業のロシアでの投資機会が増え、またロシアも中国から工業製品・消費財等の輸入を増加させることになる。第三は通貨の問題だ。2010年11月、人民元とルーブルの直接取引が解禁、11年6月、両国中央銀行は、貿易決済に人民元とルーブルを広範に使用できるよう合意した。
しかし実際には、ルーブルによる決済が中心で(特に辺境貿易、例えば、黒龍江付近の辺境貿易では、決済の99.6%はルーブル)、また人民元とルーブルの為替相場の計算はなお米ドルを介して行われ、米ドルの影響を大きく受ける状況にある。制裁に伴い、為替相場がルーブル安に動く可能性が高く、中国企業は輸出代金としてルーブルを受け取ることに消極的になり、ロシアの企業や消費者も購買力の下がったルーブルでは中国からの輸入が難しくなる。
その意味で、貿易決済で、中期的になお先高観のある人民元の使用を拡大する好機となる。そのため政策的にも、人民元とルーブルの相互交換協定を構築強化し、また両通貨の直接取引市場を拡大していく必要があるというわけだ。
本問題を契機として、ロシアからのエネルギー供給が増加することは、一義的には、エネルギーの安定的供給先を確保したい中国、また少なくとも短期的には欧米に替わる輸出先を確保したいロシア双方にとって歓迎すべきことだ。
元来中国には、エネルギーを中国に供給するだけの貿易構造にロシア側が不満・警戒感を持っていることが、両国貿易の拡大を阻害しているとの認識があり、本問題を契機に、ロシア側からエネルギー輸出市場としての中国に接近してくることは、中国にとって願ってもないことだ。
石油についてはすでに2013年初、東シベリア石油パイプラインが開通しているが、天然ガスについても、昨年習訪ロの際、「2018年から、中国石油天然気集団公司CNPC)が年間380億m2の供給を受ける」という一応の合意をみている。この合意の実現・拡大に向けて、ガスパイプラインの敷設や2006年以来滞っている価格交渉が動き出す可能性がある。
人民元については、2010年頃から、ベトナム、ラオス、ミャンマーと国境を接する雲南省や広西壮(チワン)族自治区の国境付近で人民元圏化が進んでおり、特に12年以降、昆明やミャンマーとの国境に近い瑞麗を、人民元決済による辺境貿易拡大のための金融センターと位置付ける等、中国当局の“南飛”“向南”(南に向かう)人民元国際化戦略が注目されてきた。
本問題を契機にロシアとの貿易をより円滑にすることが両国の共通認識になれば、中国の“北飛”人民元戦略(こうした表現はまだ中国内では見当たらないが)を、ロシアも受け入れるということだろう。中国からすれば、その南側と北側の双方で、人民元の国際化に弾みがつくことになる。
以上を要するに、本問題を巡って中国は、政治的には明確な主張は避けてロー・プロファイルを保ちつつ、その背後で、経済面ではこの好機をどのように生かせるかをうかがっていると見るべきだろう。
●「日本も狙われている」ロシアの侵略 3/4
ウクライナ人や東欧出身者がNYに集結
ロシアのウクライナ侵攻に対し、日本も含め世界各地で抗議行動が巻き起こっている。ニューヨークでも連日タイムズスクエアなどを中心に抗議集会が開催され、シュプレヒコールをあげている。
筆者は26日土曜日、タイムズスクエアでの集会を取材した。
ニューヨークには全米最大の15万人のウクライナ人コミュニティがある。ウクライナが大国ロシアを相手に必死の抗戦を続ける中、彼らは何を思うのか、20〜30代の若者たちから話を聞いた。
青と黄色のウクライナ国旗が翻る中、数百人が集まった集会にはウクライナ人だけでなく、ベラルーシ人、ジョージア人、ポーランド人、トルコ人まで、東ヨーロッパを中心にさまざまな人々がサポートに駆けつけた。
時折シュプレヒコールが巻き起こり、ウクライナ国家を歌ったり演奏したりしているが、暴動などは見られず、平和的な雰囲気だ。しかし彼らの言葉からは厳しい状況がひしひしと伝わってくる。
「家族の居場所は危険だから言えない」
ウクライナから留学中の女性ダリアは言う。「家族がキエフにいる。一緒に戦いたいからとあえて街を離れない決断をしたのだが、とても心配。今は安全な場所に避難しているけれど、詳しい場所は危険なので教えられない」
ここに集まった多くは、こうした家族を国に残して移住したり留学したりしているウクライナ人だ。家族や友人を助けるために何かしなければという思いに駆り立てられている。
ウクライナからの移民男性パウロは「家族が心配だ。皆が現状を知って助けてほしい」と訴える。10代でアメリカに引っ越してきたというウクライナ人男性サーシャは「敵と直接戦うことはできないけれど、こうして集まることで戦争を食い止めなければ」と真剣な表情で語る。
彼らの目的ははっきりしている。声を上げることで国際社会に注目されること。そのターゲットは他でもないプーチン大統領だ。
「反戦」以上に目立つプーチンへの怒り
多くのプラカードに書かれたスローガン。「戦争反対」「キエフに自由を」「ウクライナに栄光を!」しかしそれ以上に目立つのはプーチンに対するメッセージだった。
「プーチンを止めろ」「ウクライナから出ていけ」「プーチンはファシストだ」プーチンにヒトラーのひげをつけた写真を持つ男性。ここには書けないような汚い言葉も叫ばれていた。
これを見れば、これがロシアに対してというより、プーチン大統領自身に対する強い抗議ということがすぐに分かる。
前出のパウロはこう憤る。
「プーチン大統領はウクライナが元々ロシアの一部だったと言っているが、それは嘘だ。ウクライナはずっと独自の言語と伝統を持った独立した国だったのに、プーチンはそれを制圧して政権を変えようとしている。このままでは国のアイデンティティーが失われるだけでなく、自由の国から独裁の国になってしまう」
彼らの抗議行動の最大の目的はこうしたメッセージを世界に伝えることだ。
母国ウクライナでは、ゼレンスキー大統領はじめウクライナ軍そして一般人までが、とても太刀打ちできそうにないロシアの大軍に勇敢に立ち向かうことでリスペクトを集め、彼らを支えようとする国際社会の結束が劇的に強まっている。
ニューヨークのウクライナ人も自分たちがその一端を担いたいと必死なのだ。
世論調査では「68%のロシア国民が支持」だが…
「ウクライナを攻撃してごめんなさい」というプラカードを持ったロシア人も見かけた。
ロシア人女性カティアは「ロシア人はウクライナ人と共に戦います」というプラカードを持っていた。「ロシア人として申し訳ない。多くのロシア人もウクライナ人をサポートしていることを知らせたい」と語った。
ロシアの政府系機関「全ロシア世論調査センター」は2月28日、「68%の国民がウクライナへの『特別軍事作戦』を支持している」とする世論調査結果を発表した。しかし、彼女はロシア人のほとんどがウクライナ侵攻に反対していると見ている。
彼女はこう説明する。
「プーチン大統領は、ウクライナをファシストから救うために戦うのだと言っている。多くの人はコントロールされたメディアの影響でそれを信じている」
しかし、背後にはそれ以上のサイレントマジョリティがいるというのだ。
「ロシアは言論の自由がなく、政府を批判することは犯罪行為。だからプーチン大統領やこの戦争に反対していてもそう発言することは危険すぎてできない。数年前には、政府が『フェイクニュース』とみなした報道を禁じる法律が成立した。ロシア政府に関するどんなコメントも許されなくなった」
パスポートを破り捨てたベラルーシ人
ロシアにいるどれくらいの人がこの戦争に反対しているのか、知るすべはないということになる。しかし自由の国で生活している私たちには想像もできない状況を裏付ける話をしてくれたのは、ウクライナの隣国ベラルーシから19歳でアメリカに移住したというアレクサンダーだ。
アメリカメディアは27日、ウクライナの首都キエフのすぐ北に位置するベラルーシ軍が侵攻を開始するだろうと報道した。
「家族は皆ベラルーシにいて危険にさらされている。男性は戦争に行かなければならないだろう」アレクサンダーの表情は硬い。
「ルカシェンコ大統領は最悪だ。プーチンと共に2人の独裁者が世界を脅かしている」
ルカシェンコ大統領は1994年から28年間トップの座に君臨している。2000年には、ベラルーシがロシアの連盟国となったのに伴いその初代最高国家会議議長に就任した。アレクサンダーは、この時点からもうベラルーシは独立国でさえなくなったと語る。
「ベラルーシではインターネットが規制されているから、国民が得る情報は政府がコントロールしているプロパガンダのチャンネルだけだ」
ルカシェンコ大統領がいるから渡米する決心をしたという彼は、破り捨てたベラルーシのパスポートの写真を見せてくれた。パスポートを破り捨てるというのは母国に二度と戻れなくなるということだから、その思いは想像を絶する。
「経済制裁で苦しむのは一般のロシア人だ」
「この2人の強力な独裁者が手を組むことで、独裁政治が21世紀のヨーロッパに広がることを強く危惧している。ウクライナだけでなく多くの国がベラルーシのようになってしまうかもしれない。それだけでなく核兵器までちらつかせて世界中を脅かしている」
一体何が起きているのか、自分たちが伝えなければならないと彼は言う。「そうすれば多くの人を目覚めさせることができるはずだ」
前出のロシア人カティアの夫ユーギニーはニューヨーク育ちのウクライナ人だ。2つの国が戦うことに心を痛めている。
「経済制裁も独裁者にはそれほど影響せず、苦しんでいるのは一般のロシア人だ。彼らが気の毒でたまらない」
ユーギニーは言う。
「でも希望はある。ロシアという国には無限大の可能性がある。多くの資源もあるのにその恩恵を受けているのは一握りの人だけだ。ロシア人に自由というものを見せたい。そして自由に至る道はあるということを知らせたい。それを妨げているのは政権だということに目覚めてほしい」
さらにこう続ける。
「ウクライナという小さな国がロシアという大国ととても勇敢に戦っていることを世界が知るべきだ」
泥沼化すればロシア国内の反感も高まる
実際、これほどの抵抗を見せるウクライナの背後に国際社会が結束したのは、プーチン大統領にとって大きな誤算だったというアメリカでの報道も増えている。
戦いが長引けば長引くほど経済制裁が効いてきて、ロシア国内の混乱もエスカレートする。そうすればロシア国民のプーチン大統領への反感が高まりその立場も危うくなるだろう。
しかしそのためには想像を超える大きな犠牲を払うことも彼らは分かっている。ユーギニーは言う。
「戦争が長引くほど市民が殺されていく。でもウクライナは絶対に屈服しない。このままでは泥沼になるだろう。経済制裁も含め国際社会の協力がもっと必要だ」
「こんなふうになるなんて思ってもいなかった」とため息をつくのは前出の留学生ダリアだ。
「私たちウクライナ人は誰も侵略したことがないのに、2014年のクリミア半島侵攻からずっと戦っている。今は心から平和が欲しい」
「ロシアと戦っている日本を支援している」
最後に興味深かったのは、ウクライナ人のサーシャが日本の北方領土の話を始めたことだ。
「プーチンが狙う北の島々をめぐってロシアと戦っている日本を支援(=応援? )している。第2次世界大戦で失った島々を取り戻せるよう願っているよ」
一般のアメリカ人は日本の北方領土問題に関心もなければ知識もほとんどないので一瞬意外に感じたが、同じようにロシアとの歴史的問題を抱えた国としての親近感を持たれているという面では当然かもしれない。
今回は日本人からのウクライナへの支援の輪も広がっていると聞いている。
21世紀のグローバル世界はネットでつながり、特に若い世代の情報共有は量もスピードも20年前とは桁違いで、その分支援の方法も選択肢もずっと増えている。一方で情報がシャットアウトされ当局によってコントロールされた地域とでは、意識の分断が深刻だ。しかし集会に参加している若者たちからは、抗議の声を上げることでその分断が縮まっていくことに希望を見いだしているように感じられた。
最後にウクライナ人パウロの言葉で締めくくりたい。「日本も多くのサポートをしてくれていて本当にありがたい。これからも真実を伝え続けてほしい」
●ウクライナ人が語る「ロシアと我々の決定的違い」  3/4
もう戦争は8年間続いてきた
――ロシア側の攻撃で連日犠牲者が出ています。オニスチェンコさんのご家族、現地の状況はいかがですか。
両親がウクライナ東部・ドニプロに住んでいます。いま問題となっているドンバスから近いところですが、電気やガス、水道、インターネットなどライフラインは大丈夫だと連絡が来ました。また兄が首都キエフに住んでいますが、無事です。
――ロシア軍に対する抵抗がねばり強く行われていると日本でも報道されています。
ウクライナの人たち、とくにロシア軍が迫っているキエフの人たちは「必ず勝たなければならない」という気持ちが強い。必死に抵抗しています。侵攻前には、ゼレンスキー大統領に対する国民の批判はありました。でも、軍事侵攻が始まってからは大統領と議会が一致団結して抵抗しています。もう少し時間が経てば、ウクライナは勝つでしょう。ロシア側も、軍事面だけでなく経済面でも、ロシア企業の株が暴落したり影響を被っています。
――かつて同じソビエト連邦の構成国であり、対立があっても友好的に解決できる間柄ではなかったのかという疑問があります。そのため、日本人にとってはロシアがなぜウクライナに侵攻したのかわからないところが少なくありません。ウクライナ人はロシア人に対してどのような感情を持っていますか。
自分が戦っている敵国の国民について、日本人はどう思いますか。もちろん、いい感情は持てないでしょう。日本の人に知ってほしいのは、実はウクライナとロシアはもう8年間、戦争状態にあるということです。2014年にウクライナで政変が起き、これに乗じてロシアはウクライナのクリミア地方を奪いました。東部ドンバス地方にも侵攻し、親ロシア派と言われる武装勢力が支配しています。ドンバスでは毎日、死者や負傷者が出ています。まさに戦争は続いてきたのです。もちろんウクライナとロシアは近い。例えば、ボルシチは日本ではロシア料理の代表格ですが、実はウクライナの料理です。いまロシア料理と思われているものも、実はウクライナ発祥のものが多いのです。でも、近いからとはいえ同じではない。言葉もウクライナ語とロシア語は、確かに似ていますが、完全にはわかり合えない。ロシア人がウクライナ語を聞いても、理解できるのは50%ぐらいだと思います。日本からすれば、漢字文化圏のことを考えると、その違いがおおよそ想像できるのではないでしょうか。日本と中国はほぼ同じ漢字を使いますが、意味が違うことがあります。ましてや、漢字文化圏だからといって日本人は中国人を同じ民族だとは思わないでしょう。
――侵攻に際し、プーチン大統領はウクライナを指して「ファシスト」「ネオナチ」という言葉も使って批判しました。
プーチン大統領のずるい言い方です。繰り返しになりますが、ウクライナとロシアは違う。独立したウクライナは、彼にとってはファシストというイメージを植え付けたい対象なのでしょう。ネオナチと言ったのは、第2次世界大戦から戦後までウクライナの民族解放運動の指導者だったステパーン・バンデラ(1909〜1959)のことを念頭に言っているのだと思います。
――バンデラは1941年にドイツ軍で占領されたリヴィウでウクライナ国の独立を宣言するとドイツに逮捕され、ザクセンハウゼンの強制収容所に送られました。解放されてもウクライナに戻れず、ドイツでウクライナ独立運動を行った人物ですね。
一国の英雄は、反対勢力からは犯罪者、反逆者とみなされがちです。「ナショナリスト」という言葉も、相手の受け止め方で意味が変わってきます。プーチンはどうしてもウクライナに敵としてのイメージを植え付けたいからこそ、そんなことを言うのです。
――ウクライナは国際社会において、どのような国の形であるべきだと思いますか。
2014年に親ロシアの大統領だったヤヌコヴィッチ氏がロシアに亡命した後、ウクライナの世論ははっきりとEU(欧州連合)に加盟するという方針で動いています。この動きをさらに推し進め、EU加盟国になってほしいです。2022年3月1日に欧州議会がウクライナの申請を承認したので、この夢は実現されるだろうと思います。
核兵器廃絶とロシアの軍備制限を望む
この戦争が終わった後、強力な軍事力を持つロシアはいつまでも周辺国の邪魔をするでしょう。そのため、ロシアに対してはウクライナのように核兵器を廃絶し、軍備に制限をかけるよう働きかけるべきだと思います。軍隊にも制限をかけるべきだと思います。1994年12月にハンガリーの首都ブダペストで署名された「ブダペスト覚書」署名時に戻りたい。ここではウクライナやベラルーシ、カザフスタンが核不拡散条約に加盟して、これら3カ国にOSCE(欧州安保協力機構)が安全保障を提供するとされています。これにアメリカとロシア、イギリスの核保有国も署名しています。今の戦争が終わったら、この覚書で保障国の一員であったロシアにも核兵器の廃絶を迫るべきです。
――ウクライナではすでに民間人で2000人の死亡者が出ています。
武力で侵攻して兵士だけでなく市民さえも殺してしまう。これが21世紀の政治のやり方でしょうか。力ではなく、外交で決めていくのが現代の政治ではないでしょうか。世界はロシアの行動を止めなければならない。やりたい放題させてはいけません。それには、教訓を残せるような終わり方を模索すべきです。日本からみれば、中国と台湾の問題もあります。なおさら、ロシアの暴挙を止めなければいけないのではないでしょうか。
●インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情  3/2
2022年2月24日、国連安全保障理事会に提出されたロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案は、ロシアの拒否権発動によって葬り去られた。棄権した国も3つあった——中国、アラブ首長国連邦(UAE)、そしてインドである。
軍事面で不可欠なパートナー
この3カ国は、国連総会の緊急特別会合開催を求める採決でも棄権に回った(ロシアも反対したが、手続き事項に関しては拒否権の対象とならないため、賛成多数で採択された)。民主主義国であり、近年は「自由で開かれたインド太平洋」構想に参加し、日本、アメリカ、オーストラリアとともに「QUAD(クアッド)」の一角を占めるインドがなぜロシアの軍事侵攻を非難しないのか。
その最大の理由は、インドがロシアに対して軍事面で不可欠なパートナーであることだ。金額ベースで見ると、2000年から2020年にかけてインドが外国から輸入した兵器のうち66.5%がロシア製だった。インド軍の超音速巡航ミサイル「ブラーモス」はロシアと共同開発したものだし、インド海軍唯一の空母「ヴィクラマディティヤ」はロシア海軍の空母だったものを購入して改装したものだ。
2018年にはアメリカの懸念をよそにロシア製地対空ミサイル「S400」の導入を決め、2021年11月には実際に供給が始まった。近年インドは兵器調達先の多様化を進めており、米欧やイスラエル製も増えているものの、既存の兵器のメンテナンスや弾薬・各種部品調達の必要性を踏まえれば、ロシア頼みの状況を変えることは容易ではない。
インドは隣国との間で国境問題や領土問題を抱えており、防衛力の整備をおろそかにするわけにはいかないという事情がある。北の中国とは2020年に国境で軍事衝突が発生し、双方に死者が出る事態にまで発展した。西のパキスタンとは、過去3度にわたり戦火を交えてきたほか、カシミール地方をめぐり対立が続いており、過激派によるテロにも悩まされている。中国のインド洋進出を受けて、海軍力の増強も進めている。インドも今回のウクライナ情勢を憂慮しているものの、自国の安全保障を考えればロシアとの良好な関係を損なうわけにはいかないのだ。
インドとロシアの密接な関係は冷戦期にまでさかのぼる。「非同盟」を掲げてきたインドだが、米中接近や中国・パキスタン関係の強化という事態を受けて、1971年には当時のソ連との間で軍事同盟的性格の強い「平和友好協力条約」を結んだ。1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻した際には、翌1980年1月に開かれた国連総会の緊急特別会合でソ連を事実上支持するという、今回の先例とも言える立場をとったこともあった。カシミール問題でインドに不利な決議案が安保理に提出された際、拒否権を発動して不採択に導いたのはソ連だった。
この関係はソ連が崩壊してロシアになってからも続き、両国は軍事以外にもエネルギー(原発)、科学技術、宇宙開発といった分野で協力を進めてきた。インドは日本と「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を構築しているが、ロシアとは「特別かつ特恵的(privileged)な戦略的パートナーシップ」とさらに踏み込んだ関係と位置づけている。BRICSやインド・中国・ロシア3カ国会議、上海協力機構(SCO)といった多国間の枠組みでの協力もある。
プーチン「インドの外交哲学はロシアと似ている」
ロシア側もインドを重視してきた。プーチン大統領は2021年11月の外交演説でインドを「多極世界のなかで独立し、強固な中心のひとつ」であり、「(ロシアと)よく似た外交における哲学とプライオリティを持っている」と評した。コロナ禍によって各国の首脳外交は激減するなか、2020年2月からの2年間でプーチン大統領が外国に出たのは3回。スイス(2021年6月のバイデン米大統領との会談)と中国(2022年2月の北京冬季五輪開会式出席)、そしてインド(2021年12月)だった。
このときの訪問では、印ロ間の防衛協力推進がうたわれ、ロシアのカラシニコフ社製自動小銃AK-203をインド国内の工場で60万挺生産する契約がまとまったと報じられた。ロシアとしては、日米豪印のうちもっとも友好的なインドと関係強化を図ることで、「クアッド」にくさびを打ちたいという狙いもあったのだろう。
では、インドは今後もロシア寄りの姿勢を続けるのか。前述したとおり、軍事面の依存を考えれば全面的に対ロ非難に転換することは考えにくい。だが、ロシア軍侵攻によってウクライナの状況がさらに悪化し、国際的非難が一層高まることになれば、対応の再考を迫られることになるかもしれない。
インド有力英字紙『ヒンドゥー』は2022年2月28日付の社説で、安保理での棄権は「既定路線」としながらも、「インド政府は世界の安全を脅かす紛争に対して毅然とした態度をとることなく、自国が『大国』になれるか考える必要がある」「曖昧な立場は強者が弱者を武力で侵略することに対する肯定と受け止められてしまうが、インドは自らの周辺地域でそうした行為に抗議してきたのではないか」と指摘した。
また、2014年まで長く政権与党の座にあった最大野党・インド国民会議派のなかでも、元国連事務次長で現在は下院議員を務めるシャシ・タルールが「安保理常任理事国入りを目指すインドが、国際的に認められている原則に対して沈黙することはいかがなものか」と疑義を呈している。
インドこそ解決への仲介役に適役
インドはロシアと密接な関係にあるが、そのインドだからこそ担いうる役割がある。ロシアと国際社会の仲介役だ。ロシア軍の侵攻が始まった2022年2月24日、モディ首相はプーチン大統領と電話会談を行い、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対立を解決する唯一の方途は対話だと主張するとともに、暴力の即時停止を求めた。
その訴えは実らなかったが、インドとロシア首脳のパイプが生きていることを印象づけた。ロシアとしても、戦況が思うように進まず、事態が長期化する事態になれば、いずれ「落としどころ」を模索することになるだろう。その際にインドが米欧との橋渡しをできれば、事態の解決に貢献することができる。ウクライナには約2万人のインド人(多くは医学生)がおり、自国民保護の観点からも早期解決はプラスになる。
日本もインドに対してこの点を提起すべきだ。ウクライナ情勢次第だが、岸田文雄首相は2022年3月中に訪印を予定していると報じられている。モディ首相に対しロシアへの働きかけを促すことこそ、最優先で取り組むことではないだろうか。そうすることで、インドの立場を損なうことなく、日米豪印によるクアッドとしての結束を維持していけるはずだ。
●米のロシア包囲網拒否、プーチン批判控える中東 3/4
バイデン米政権は中東のパートナーに対し、ロシアとの戦いでウクライナに対する支持を表明し、経済的な影響を和らげるよう協力を求めている。だが、その成果はほとんど上がっていない。
ペルシャ湾岸諸国からイスラエルまで、米国の同盟国やパートナーは目下、中立の立場を維持するか、ロシアへの批判を控えている。これは、中東でロシアの影響力が高まっていることを如実に物語る動きと言える。
石油輸出国機構(OPEC)の盟主であるサウジアラビアはこれまで、高騰する原油価格の抑制に向けた米国の増産要請を拒否。米軍が駐留するアラブ首長国連邦(UAE)は、米国の働きかけにもかかわらず、ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連安保理の決議案採決を棄権した。
中東における米国の最も緊密な同盟国であるイスラエルでさえ、兵器やヘルメット・防弾ベストといった軍装備品の提供を求めるウクライナの要請を拒否している。ウクライナの駐イスラエル大使が明らかにした。イスラエルは公然とロシアに反対する姿勢を示せば、シリア領土内のイラン系武装勢力を標的として長らく続けている空爆に対して、シリア駐留のロシア軍が介入してくる恐れがあると警戒している。イスラエル当局者が明らかにした。
ある米高官は、中東地域におけるウクライナ支援の機運は米国が望んでいるほど盛り上がっていないと明かす。ただ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が戦争を長引かせた場合に、エネルギー市場の沈静化と経済的ショックの回避を目指す措置を巡っては、表向き以上の合意が存在するという。
その高官は「ロシアとプーチンに最大限の圧力をかけながら、米国と世界経済へのリスクを低減することに注力している」とし、サウジなどとの高官級協議では「確実に連携し、互いの行動を理解すること」を目指していると述べた。
サウジは米国の増産要請を拒否したが、OPEC関係者らは2日の月例会議で、国際エネルギー機関(IEA)加盟国による戦略石油備蓄6000万バレルの放出に対抗する措置は話し合われなかったと述べている。半面、米国が先頃、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の同盟国に指定したカタールは、ロシアが欧州向けの天然ガス供給を打ち切った場合に、アジア向けガス供給の一部を欧州に振り向けることに前向きな姿勢を示している。米国とカタールの協議に詳しい関係筋が明らかにした。非NATOの同盟国という位置づけは、サウジやUAEには与えられていない。
しかしながら、今回のウクライナへの侵攻は、石油と引き換えに安全保障を提供するという取り決めを基盤としてきた米国とアラブ諸国の関係がいかに冷え込んでいるのかを浮き彫りにする。混迷を極めた昨夏のアフガニスタン駐留米軍の撤退に加え、米国は長期的な外交政策の目標を中国に移しており、中東諸国の間では米国が現地で今後も影響力を維持するのか疑念がくすぶっている。そのため、中東のパートナー国の多くが米国以外に新たな安全保障や経済的なつながりを求めるようになった。
近年こうした空白を埋めようと介入しているのがロシアだ。ロシアは原油供給でOPECとの協調にかじを切り、原油の値上がりを後押しした。サウジの主要政府系ファンド(SWF)や石油会社とも提携関係を構築。隣国からの脅威にさらされているペルシャ湾岸国に対しては、米国産兵器の代替品を提供した。シリアやリビアの内戦では強権指導者の味方についた。
米シンクタンク、中東研究所のカレン・ヤング上級研究員は「プーチンは何とか中東全体の指導者に対して影響力を駆使できる立場を築いており、米国は巨額の資金をつぎ込んでいるにもかかわらず、それに追いつけずにいる」と話す。「これは米国にとって大きな衝撃だ」
サウジ当局者は、ロシアなどOPEC以外の主要産油国が加わった「OPECプラス」の取り決めを損ないたくないと話す。
一方、バイデン米大統領とサウジのサルマン皇太子との関係がぎくしゃくしていることも、米国のサウジに対する働きかけを難しくしている。バイデン氏は2018年のサウジ反政府派記者、ジャマル・カショギ氏の殺害に関与したとして、サルマン皇太子と距離を置いている。
あるサウジの顧問は「バイデンが皇太子をサウジの実質的な指導者として認めることを拒否しているため、サウジにとっては悩むことなくプーチンの側につくことができる。プーチンはちょっとした問題もあったが、皇太子と近い関係にある」と述べる。
米政権とUAEの関係はさらに冷え込んでいるようだ。国連安保理のロシア非難決議案では、アントニー・ブリンケン国務長官が直接支持を訴えたにもかかわらず、UAEは棄権した。
国連ではこれとは別に、イエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」によるUAEとサウジに対するミサイル・ドローン(小型無人機)攻撃を非難する決議案も上がっており、UAEが棄権した背景には、こちらの決議案でロシアの支持を得る狙いもあったようだ。同決議案はロシアの支持を得て2月28日に承認された。
UAE外務省はコメントの要請に応じていない。
さらにUAEの実権を握るアブダビ首長国のムハンマド・ビン・ザイド皇太子は1日、プーチン氏と電話で会談しており、米国と距離を置く姿勢を鮮明にした。UAEの国営通信社の報道によると、両氏は「両国関係」やエネルギー市場、「ウクライナ情勢」について話し合った。
一方、UAEのウクライナ大使館は1日、UAEがウクライナ観光客に対するビザなし渡航を凍結したとフェイスブックへの投稿で明らかにした。ウクライナ市民はこれまで1カ月の滞在が認められていたが、今後はビザを申請する必要がある。
ウクライナの駐イスラエル大使によると、ウクライナはロシアのミサイル攻撃からの防衛を手助けする軍装備の提供を求めたが、それに対空防衛システム「アイアンドーム」は含まれていなかった。同大使は1日の会見で「自己防衛の兵器を切実に必要としている」とし、「イスラエルがわれわれの要請をすべて前向きに検討することを望む」と述べた。
イスラエルのナフタリ・ベネット首相は1日、「イスラエルは慎重かつ責任あるアプローチを採っており、それによって自国の国益を守るだけでなく役に立てている(中略)双方に直接働きかけることができる数少ない存在だ」と述べた。
ただ、戦争が長引くほど、中東の同盟国やパートナーに対しては米国と緊密に連携するよう圧力が高まる公算が大きい。前出のヤング氏は、ロシアは中東への結びつきを深めているが、サウジやUAEに対して、米国のような長期的な軍事支援は提供していないと指摘する。「ロシアにはその役割を担う能力はない、今も将来もだ」
●ウクライナ侵攻で氾濫する「フェイク動画・画像」の3つのパターンとは? 3/4
ロシアによるウクライナ軍事侵攻をめぐる「フェイク動画・画像」には、共通する3つのパターンがあった。そのパターンとは――。ロシアによる軍事侵攻が深刻さを増す中で、「ハイブリッド戦争」の一端を担う「フェイク動画・画像」の氾濫がおさまらない。しかもこれらの「フェイク動画・画像」は、英BBCなど大手メディアでも、十分な確認がないまま放送されてしまうケースも出ている。「フェイク動画・画像」には、パターンごとに共通して見られる特徴がある。
「遺体が動いている」「ロシア攻撃機の編隊襲来」「日本大使が甲冑姿で抗戦」――これらに共通するのは? そして、これらにだまされないために、知っておきたいこととは?
偽の「ファクトチェック動画」
「新型コロナ禍のポーランドで撮影されたもの。それが現在のウクライナであるかのように収録されている。」
レポーターがマイクを握る背後に、多数の遺体収納袋が並んでいる。だがよく見ると、その一つがもぞもぞと体を動かしている――動画共有サービス「ティックトック」に、そんな説明文のついた動画が投稿されたという。
動画は一見、「ウクライナの被害を誇張したフェイク動画」を暴くファクトチェック、のように映る。コロナ禍のポーランドの死亡者の映像を、ロシアによる軍事侵攻下のウクライナの現状だと偽装しながら、ボロが出ている――とのアピールだ。
だがスペインのファクトチェックメディア「マルディタ.es」やシリアのファクトチェックメディア「ベリファイ-Sy」の3月2日付の記事によると、この動画投稿そのものが「フェイク動画」なのだという。
これらの記事によれば、元になった動画は2月4日、オーストリアで行われた環境保護団体による抗議活動を地元テレビが撮影したものだった。
動画には49の遺体収容袋が並んでいるが、これは同国が温室効果ガス削減に取り組まなければ、毎日49人が死亡する、とのメッセージを示しているという。
そして「ベリファイ-Sy」によれば、アブダビの「スカイニュース・アラビア」は公式フェイスブックページで、この動画を「ウクライナ側のプロパガンダ」として掲載していた、という。
また「マルディタ.es」によれば、この元動画は公開直後から、「新型コロナの死亡者を誇張するフェイク動画」として、フェイスブックなどで拡散されていた。ペルーのファクトチェック機関「ベリフィカドール・デ・ラ・レプブリカ」によると、その拡散は同国でも確認されたという。
ウクライナ軍事侵攻をめぐる「フェイク動画」の氾濫に対して、各国のファクトチェック機関が精力的に検証作業を行っている。この事例は、そんなファクトチェックを「偽装」することで、ファクトチェックそのものに疑念を抱かせかねないものだ。
「マルディタ.es」「ベリファイ-Sy」「ベリフィカドール・デ・ラ・レプブリカ」は、いずれもファクトチェック機関の国際的な連携組織「インターナショナル・ファクトチェッキング・ネットワーク(IFCN)」が認証する世界114のファクトチェック団体に名を連ねている。
流用される「フェイク動画」
「フェイク動画・画像」で、目につきやすいのが「遺体収容袋」のケースのような「流用型」だ。
過去に、別の場所で撮影されたものが、あたかも現在のウクライナの動画であるかのように投稿される。「マルディタ.es」が明らかにしたように、同じ動画や画像が、様々な場面で繰り返し流用されるケースもある。
「流用型」が目につきやすいのは、フェイクニュースの発信者にとって、最も手間がかからないためだ。元の動画・画像をコピーし、貼り付けるだけで、新たに作成をする必要もない。
ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まった2月24日当日、ロシア軍の10機の編隊が早くもキエフ上空を飛行している、との動画がツイッター投稿され、20万回以上視聴されたという。
だが、英ファクトチェックメディア「フルファクト」やフランスのAFP通信、「マルディタ.es」の記事によると、元動画は2020年5月に、モスクワ近郊で実施された軍事パレードの、リハーサル時に撮影されたものだという。「フルファクト」、AFP通信もIFCNの認証団体だ。
さらに「フルファクト」によると、英BBCは軍事侵攻開始の翌日、2月25日の朝の番組で、この動画を誤って放送したという。
「フェイク動画」は、BBCや「スカイニュース・アラビア」のようなメディアが取り上げることで、さらに広い影響を与えることになる。
このほかにもやはり2月24日、「駐ウクライナ日本大使」が祖父の甲冑を身につけて、ウクライナを守るためにキエフに残る、との画像がツイッターやフェイスブックで拡散した。
だがAFP通信やインドのファクトチェック機関「ニュースチェッカー」(IFCNの認証団体)の記事によると、この画像は駐日ウクライナ大使のセルギー・コルスンスキー氏が、ロシアによる侵攻の前、2月15日にツイッターに投稿したものだった。
また「フルファクト」の3月1日の記事によれば、「ウクライナの状況に胸がつぶれる」とのコメントともにフェイスブックに投稿された街中での大爆発の動画が、1万回以上も共有された。だが、その元動画は2020年8月にシリアで起きた大爆発を撮影したものだった。
大統領のユニフォーム
ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキー氏が、ナチスのシンボルとして使われたカギ十字のマークと、自らの名前入りのサッカーのユニフォームを手に微笑む画像が2月27日、ツイッターなどで拡散したという。
イタリアのオンラインメディア「オープン・オンライン」(IFCN認証団体)や「マルディタ.es」によると、元画像は2021年6月、ゼレンスキー氏がインスタグラムに投稿した、サッカーのウクライナ代表チームの新しいユニフォームを披露したもの。
元画像ではウクライナ国旗の色をベースに、黄色の生地に青く「95」の背番号が入っていたが、この背番号を画像加工ソフトを使ってカギ十字に改ざんしたもの、と見られている。
「オープン・オンライン」によると、同じような改ざんは、すでにゼレンスキー氏のインスタグラム投稿の翌日には、ツイッターに投稿されていたという。
ロシア大統領のウラジーミル・プーチン氏はしばしば、ゼレンスキー政権を「ネオナチ」と称している。
このケースは、元画像や動画を加工することで、別の意味を持たせる「改ざん型」だ。今は加工ソフトを使うことで、パソコンなどで比較的簡単に、このような改さんができてしまう。
軍事侵攻前の2月17日、親ロシア派からの攻撃によって、東部ルガンスク州のウクライナ政府支配地域の幼稚園が被弾した事件で、この幼稚園の壁に大きな穴が開いた映像が広く報じられた。
砲撃のあった日の夜、砲撃のあった幼稚園の前に、ドリルの重機が写り込んだ画像が投稿され、「幼稚園の壁の穴は、ウクライナ政府側がドリルで意図的に開けたもの」との印象を拡散した。
この画像については、投稿ユーザーはすぐさま、「フォトショップで作成した」と種明かしをしている。
ロイター通信やUSAトゥデイ(いずれもIFCN認証団体)の3月1日の記事などによると、2月24日のロシアによるウクライナ軍事侵攻を受けて、2日後の26日、プーチン氏の顔にヒトラーの顔を重ね合わせ、「歴史の逆行 プーチンはいかにして欧州の夢を打ち砕いたか」とのタイトルの雑誌「タイム」の表紙の画像が、ツイッターで広がった。
だがこれは、英国のグラフィックデザイナー、パトリック・マルダー氏が「アート」として制作したものだという。
実際の「タイム」の表紙は、「歴史の逆行」のタイトルは同じだが、ウクライナに侵攻するロシア軍の戦車の画像を使っている。
「アート」や「パロディ」として制作されたものであっても、それが「本物」として独り歩きし、拡散してしまえば混乱を引き起こす可能性もある。
ファクトチェック機関の「フェイク」判定を受けて、ツイッターは「操作されたメディア」とのラベルを表示している。
「核戦争の危機を告げるBBC」
「ロシアとNATO(北大西洋条約機構)がラトビアの沿岸付近で深刻な事態」「核攻撃の警告」。BBCのスタジオから、キャスターがそんな緊急ニュースを伝える――。
武力侵攻の1カ月前、1月25日のロイター通信や「マルディタ.es」の記事によると、BBCを模した1時間弱の動画が1月20日、フェイスブックに投稿され、広まったという。
だがこの動画は、2016年にアイルランドの企業がクライアントの「災害時の心理測定テスト」のために制作した「架空のニュース」だった。
この動画については、当のBBCも2018年にファクトチェック記事を掲載している。だがその後も、たびたび取り沙汰されるようだ。
フェイスブックは、今回のロイターのファクトチェックに基づいて、「虚偽の情報」との警告表示をしている。
「BBC緊急ニュース」のような、全く架空の動画や画像が作成される「架空型」のケースもある。
ゼロからコンテンツ制作をするには、コストがかかり、スキルが必要になる。だが今回のように、過去に作られた「架空型」が繰り返し流用されることもある。
ウクライナ情勢をめぐっては、ロシアの軍事侵攻に先立って、「ウクライナ政府側の攻撃」を強調するような複数の「フェイク動画」が拡散していたことが、オランダの調査報道メディア「ベリングキャット」などのファクトチェックによって明らかになっている。
親ロシア派支配地域「ドネツク人民共和国」の「人民軍広報」のアカウントは、2月18日朝に起きたという、「ウクライナ政府側の工作員による破壊工作」と称する動画をメッセージサービス「テレグラム」に投稿した。だが、動画のメタデータによって、作成日は10日前の2月8日であることが明らかになった。
また、親ロシア派支配地域「ルガンスク人民共和国」の「人民軍公式チャンネル」が2月21日に「テレグラム」に投稿した動画では、ウクライナ政府側の攻撃によって、同地域の住民の「左脚が切断された」と主張していた。だが、攻撃現場とされる場面で、この住民がすでに左脚に義足を装着していたことが明らかになっている。
3つのパターンを見極める
「流用型」「改ざん型」「架空型」は、あくまで基本的なパターンだ。映画やゲームといった架空の動画と現実の動画を合成したものなど、多様な「フェイク動画・画像」がネットに投稿されている。
だが3つの基本パターンがあることを意識しておけば、「フェイク動画・画像」を目にしたときの見極めの手がかりになる。
「流用型」や、「改ざん型」「架空型」の流用であれば、動画や画像をグーグルなどの検索にかけることで、過去に同じものが使われているケースや、ファクトチェック機関による判定結果がヒットするかもしれない。
「フェイク動画・画像」の拡散防止は、一人ひとりのユーザーがいったん共有の手を止めることで、すぐにできる。
●軍事作戦「計画通り」 ウクライナ侵攻―ロ大統領 3/4
ロシアのプーチン大統領は3日、ウクライナでの軍事作戦に関し「予定通り、計画通り進んでいる」と語り、「全ての任務は成功裏に果たされている」と強気の姿勢を示した。ウクライナ軍の激しい抵抗で、ロシアの軍事作戦は計画通り進んでいないと指摘されている。
安全保障会議で発言した。プーチン氏は、ロシア軍がウクライナ東部の親ロシア派とロシアを守るために「勇敢に真の英雄として行動している」と強調。「われわれは『ネオナチ』と戦っている」と自らの世界観を語った。
●ウクライナ情勢で仲介用意 プーチン氏と電話会談―サウジ皇太子 3/4
サウジアラビアの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子は3日、ウクライナ情勢などについてロシアのプーチン大統領と電話で協議した。サウジ国営通信によると、皇太子はプーチン氏に政治的解決を支持する意向を伝え、「全ての当事者間の仲介に向けた努力をする用意がある」と述べた。プーチン氏の反応には触れていない。
●ウクライナ最大規模の原発がある町 ロシア軍侵入し戦闘 IAEA  3/4
IAEA=国際原子力機関は3日、ウクライナで最大規模の原子力発電所がある町に多数のロシア軍の戦車が侵入し、発電所に向かう道路で戦闘が起きていると、ウクライナから報告を受けたことを明らかにしました。
ウクライナ南東部、エネルホダルにある国内最大規模のザポリージャ原子力発電所は、国内にある15の原子炉のうち6基が集中しています。
発電所周辺ではロシア軍が侵攻するのを防ごうと2日、多くの市民や原発の職員が周辺に集まってバリケードを築いていました。
IAEA=国際原子力機関によりますと、3日、ウクライナから受けた報告としてロシア軍の戦車などが隊列を組んでバリケードを破り、侵入したということです。
報告によりますと、ロシア軍は発電所に向かう道路を進んでいて、付近では戦闘が起きているということです。
エネルホダルの市長が3日、SNSに投稿した写真には隊列を成す戦車や軍の車両が映っているほか、別の動画では遠くで黒煙があがる様子が確認できます。
市長は、侵入したロシア軍の車両の数はおよそ100台に上るとしています。
IAEAは、2日までにロシアから原子力発電所の周辺を掌握したという報告を受けたことを明らかにしていて、発電所付近での武力行使を直ちにやめるよう警告しています。
●“ザポリージャ原発 ロシア軍の攻撃受け火災” ウクライナ外相  3/4
ウクライナのクレバ外相は4日、ツイッターでウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所がロシア軍の攻撃を受け、火災が起きているとして「ロシア側は直ちに攻撃をやめるべきだ」と訴えました。
ウクライナ南東部、エネルホダルにある国内最大規模のザポリージャ原子力発電所は、国内にある15の原子炉のうち6基が集中しています。
IAEA=国際原子力機関によりますと、3日、ウクライナから受けた報告としてロシア軍の戦車などが隊列を組んでバリケードを破り、侵入したということです。
ウクライナのクレバ外相は4日、ツイッターでザポリージャ原発がロシア軍の攻撃を受け、火災が起きていることを明らかにしました。
そのうえで「もし爆発したら、チェルノブイリの10倍以上の影響が及ぶ。ロシア側は直ちに攻撃をやめるべきだ」と訴えました。
ザポリージャ原発で4日に撮影された映像では、白いせん光が走り画面の右手からも煙が上がっている様子が確認できます。
●ウクライナ外相「ロシアが南部原発を全方位から攻撃、火災発生」  3/4
2回目の停戦交渉終了の数時間後、原発が攻撃されました。ウクライナの外相は、南部のザポロジエ原発がロシアの砲撃を受け、火災が発生していると明らかにしました。
上空から落ちてくる光の玉。これはウクライナ南部のザポロジエ原発の映像です。
ウクライナのクレバ外相によると、全方位からロシア軍の砲撃を受け、原発で火災が発生しているということです。ザポロジエ原発はヨーロッパ最大級の原発とされ、クレバ外相は「もし爆発すればチェルノブイリの10倍の被害が出る」としてロシア側に直ちに攻撃を止めるよう訴えています。
IAEA=国際原子力機関は「原発の放射線レベルに変化は報告されていない」としています。
ロシア軍の攻撃による被害は拡大しています。北部チェルニヒウでは、学校や集合住宅が空爆にさらされ、33人が死亡したとされるほか、首都キエフの北東およそ60キロにある町でも戦闘があったことがうかがえます。またロシア国防省は、人口およそ30万人の南部の都市ヘルソンの制圧を発表しています。
ロシア プーチン大統領「軍事作戦は計画通りに進んでおり、任務は順調に遂行されている」
プーチン大統領は、3日に行われた安全保障会議で、ウクライナへの侵攻について「順調だ」と発言、「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であるという信念は決して捨てない」と強調しました。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、プーチン大統領に対話を呼びかけています。
ロシアとウクライナによる停戦交渉では、ロシアメディアによりますと、両国は市民が避難するための「人道回廊」を設置することで合意。避難が行われている間は一時的に停戦することもありえるとしています。ロシア側は「いくつかの点で理解が得られた」とした一方、ウクライナ側は「我々が求める結果は得られていない」としていて、3回目の交渉も近く開催されるとみられますが楽観視はできません。
こうしたなか、ロシアの侵攻以降、ウクライナから隣国ポーランドに渡った人は60万人を超えました。
記者「こちらは小学校の体育館ですが、中にベッドをいっぱいに敷き詰めて、避難者を受け入れています」
子どもと避難した女性「ウクライナで起きている戦争で…親戚や両親、夫はまだ危険の中にいます」
子ども「プーチンが国を壊してしまって、何もなくなってしまうのが怖い」
ポーランド政府は、主要都市での一部の交通機関の利用や民間医療施設での受診を無料にするなど、受け入れ態勢が強化されています。 
●ウクライナ情勢の影響「不透明」、米支出や投資に影響も=FRB議長 3/4
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は3日、上院銀行委員会で証言し、ロシアのウクライナ侵攻の影響について、物価上昇や支出・投資の抑制など、多岐にわたる経路で米経済に打撃を及ぼす可能性があるという見解を示した。ただ、最終的な影響は不透明とした。
パウエル議長は「これまでに商品価格、とりわけエネルギー価格が急騰していることは分かっており、これは米経済全体に影響を及ぼす」と指摘。少なくとも短期的にはインフレが上昇する見通しとし、「さらにリスク心理の悪化や投資の後退、消費者が支出を控える動きが確認される可能性がある。需要と供給双方にどのような影響が及ぶかを見極めることは難しい」と述べた。
FRBはウクライナを巡る情勢を注視しているとしつつも、インフレ抑制に向け月内の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを開始する計画に変更はないとし、「ウクライナ侵攻が起こる前に想定していた道筋に沿うことが適切」と強調した。
パウエル議長は2日に下院金融サービス委員会で行った証言でも、15─16日開催のFOMCで「25ベーシスポイント(bp)の利上げを提案し、支持する方向に傾いている」と表明した。さらに、インフレが想定通り和らがなければ、FRBはその後の会合で「より積極的に対応する用意がある」と言明していた。
ウクライナでの戦争がインフレを押し上げ、FRBがより困難な舵取りを迫られるという議員からの懸念に対しては、パウエル議長は「需要と供給双方でかなりの不確実性が存在する」としつつも、家計と企業の「堅調な財務状況」が支出持続への一助となる可能性があると応じた。
●ウクライナ情勢で人道支援枠組み発足へ クアッド首脳会合 3/4
日米豪印4カ国(クアッド)は3日夜から4日未明にかけて約70分間、ウクライナ情勢を巡る首脳協議をテレビ会議形式で開催した。4首脳はロシアによる軍事侵攻を踏まえ、力による一方的な現状変更をインド太平洋地域においても許してはならないとの認識で一致。協議後、「全ての国の主権と領土の一体性を尊重」し、人道支援などで連携することを掲げた共同文書を発表した。
協議はロシアと伝統的友好関係を築くインドにもウクライナ対応で歩調を合わせるよう促す目的で米国が呼びかけた。4首脳は協議を通じ、ウクライナで「人道的危機」が起きているとの認識を共有。ウクライナ情勢で4カ国が緊密に連携して対応し、新たに人道支援・災害救援分野での枠組みを発足させることで一致した。共同文書には「各国が軍事、経済、政治的に威圧されることのない」社会の重要性も明記した。
岸田文雄首相は協議で「ロシアによる侵略は力による一方的現状変更の試みであり、国際社会の秩序の根幹を揺るがす」との認識を強調。日本として「国際社会と緊密に連携し、迅速に厳しい措置を打ち出している」と説明した。協議後、首相官邸で「こうした状況だからこそ、『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた取り組みを一層推進していくことが重要だということについて一致ができた」と記者団に語った。
共同文書には次回首脳協議を数カ月以内に東京で開催する方針も明記された。協議には首相のほかバイデン米大統領、オーストラリアのモリソン首相、インドのモディ首相が出席した。
インドはロシア製兵器を多数導入するなどロシアとの関係が深く、2月25日の国連安全保障理事会や3月2日の国連総会でのロシアを非難する決議案採決では中国などと共に棄権に回っていた。
●「クアッド」首脳 軍事侵攻に緊密に連携し対応の方針確認  3/4
日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国の枠組み、「クアッド」の首脳によるテレビ会議が3日夜開かれ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対し、緊密に連携して対応していく方針を確認しました。また、力による一方的な現状変更をインド太平洋地域で許してはならないという認識で一致しました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、岸田総理大臣をはじめ「クアッド」4か国の首脳は、3日夜11時すぎから1時間あまりテレビ会議を開きました。
この中で岸田総理大臣は「今回のロシアによる侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際社会の秩序の根幹を揺るがすもので、厳しく非難する」と述べました。
そのうえで、日本政府としてG7=主要7か国をはじめとする国際社会と緊密に連携して迅速に厳しい措置を打ち出しているほか、ウクライナへの支援にも取り組んでいると説明しました。
会議では、今回の軍事侵攻に対し、ロシアとの伝統的な友好国であるインドも含めた4か国で緊密に連携して対応していく方針を確認しました。
そして、力による一方的な現状変更をインド太平洋地域で許してはならないという認識を共有し、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取り組みをいっそう推進していく方針で一致しました。
また、クアッドの首脳会合を数か月以内に東京で対面で行うことで一致し、成功に向けて連携していくことも確認しました。
会議では、成果文書となる「共同発表」もまとめられ、ウクライナ情勢に対処するとともに、インド太平洋地域で人道的危機などが起きた際に支援にあたるための情報共有システムを立ち上げることが明記されました。
一方、軍事侵攻の影響で、原油価格の上昇が懸念されることから、政府は、4日、追加の対策を発表することにしています。
今年度予算の予備費から3600億円あまりを活用し、石油元売り会社への補助金の上限を現在の5円から25円に引き上げることなどを盛り込む方針で、岸田総理大臣は、3日夜、「国民生活や企業活動への悪影響を最小化する」と述べるとともに、国民に省エネへの協力を呼びかけました。
●ドイツ首相、ウクライナ情勢の緊張緩和へ停戦呼び掛け 3/4
ドイツのショルツ首相は3日、ウクライナ情勢の緊張を緩和するためには停戦とロシア軍撤退に向けたさらなる交渉が急務だと述べた。ドイツのテレビ局ZDFに対し、「どれほど非現実的に見えても、そのための努力は怠ってはならない」と語った。「今起きていることは、ウクライナの人々に対する戦争だ」とも述べた。また、北大西洋条約機構(NATO)の軍事参加が決定されることのないよう、NATOとロシアの直接的な衝突を防ぐことが非常に重要と強調した。
●フォルクスワーゲンやイケアなど ロシアでの事業見合わせ  3/4
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、自動車メーカーのフォルクスワーゲンや家具を扱うイケアなども相次いでロシアでの事業見合わせを決め、企業のロシア離れが一段と広がっています。
ドイツの大手自動車メーカーフォルクスワーゲンは3日、ロシアにある工場での生産を停止すると発表しました。また、ロシアへの輸出もすみやかに取りやめるとしています。
スウェーデンが発祥の家具大手イケアは、ロシアの店舗で営業を取りやめ、製品の輸出入や現地の生産を停止することを決めました。ロシアと同盟関係にあるベラルーシとの間の輸出入も停止するとしています。
さらに、スウェーデンの衣料品大手、H&Mもロシアでの営業をすべて取りやめることを決めました。
こうした動きの背景には、ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する世界的な非難が強まる一方であることに加え、各国の制裁措置で現地でサプライチェーンの混乱が起きていることなどがあり、世界の大手企業のロシア離れが一段と広がっています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、世界の大手企業の間では、ロシア離れの動きが加速し、ロシアの市民生活に影響が出始めています。
このうち、スウェーデン発祥の家具大手イケアは、3日に声明を発表し、ロシアでの事業を一時的に停止すると明らかにしました。イケアの商品はロシアの幅広い世代に人気で、首都モスクワでは発表を受けて、3日、大勢の市民がイケアの店舗に殺到し、長い行列ができました。また南部のロストフ・ナ・ドヌーの店舗にも、買い物客が押し寄せ、レジは、大量の商品を乗せたカートで大混雑していました。
訪れた女性は「来月に予定していた買い物を、急きょ前倒しした。とても動揺しているし、悲しい」と話していました。また別の男性は「ほとんど売り切れで、欲しいものが買えなかった」と話していました。
イケアは声明の中で「ウクライナでの壊滅的な戦争は人類の悲劇だ」と軍事侵攻を非難する一方、1万5000人にのぼる現地の社員やスタッフについては「雇用と安定した収入を守る」と擁護する姿勢を示しています。
●「戦争協力」に批判高まる ノーベル賞作家「ウクライナ裏切り」―ベラルーシ 3/4
ロシアのプーチン大統領が命令したウクライナ軍事侵攻をめぐり、ベラルーシでは民意不在の「戦争協力」にルカシェンコ政権への批判が高まっている。ウクライナから見ると、3万人規模のロシア軍を集結させた合同軍事演習の場所だけでなく、首都キエフに至る最短の侵攻ルートを隣国ベラルーシが提供したことになるからだ。
日本政府も3日、ウクライナ侵攻に協力しているとして、ルカシェンコ大統領の資産凍結を柱とする制裁措置を発表した。ルカシェンコ氏は「欧州最後の独裁者」と呼ばれており、ベラルーシの国際社会からの孤立はいっそう深まりそうだ。
ベラルーシは、ウクライナと言語や文化が近い。ロシアの同盟国でありながら、2014年のプーチン政権によるウクライナ南部クリミア半島併合を認めず、むしろ仲介者として15年の「ミンスク合意」に向けた和平協議を推進してきた。
そのベラルーシからロシア軍が侵攻してきた今回の事態。ウクライナのゼレンスキー大統領は当初、ロシアが提案したベラルーシでの停戦交渉に難色を示したが、ウクライナとの国境近くを会場とする条件で2月28日に応じた経緯がある。
ただ、戦争協力はベラルーシ国民が決めたわけではない。20年の大統領選に出馬して弾圧され、国外に逃れた反政権派の象徴スベトラーナ・チハノフスカヤ氏は、政権を批判する格好の機会と捉え、反戦運動の開始をインターネット交流サイト(SNS)で宣言した。
「ベラルーシ人を侵略者と思われないようにする」「ベラルーシ軍に戦争参加を拒否させるか、ウクライナ人の味方に付ける」という二つが目標。背景には、ルカシェンコ政権がウクライナに派兵すると米メディアが報じたり、実際に国境にベラルーシ軍が派遣されたりし、戦争協力が加速するのではないかという危機感がある。
15年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシ人作家スベトラーナ・アレクシエービッチ氏は独放送局ドイチェ・ウェレのインタビューで「(ウクライナ人にとって)ベラルーシからの攻撃は裏切りに等しい」と断じ、政権を強く非難した。
当のルカシェンコ氏は意に介していない様子だ。2月27日には憲法改正をめぐるお手盛りの国民投票を強行し、ロシア軍の核兵器をベラルーシに配備できるようにした。仲介者と主張しながら、プーチン政権との軍事協力を推進している。
●ジョージアとモルドバ EU加盟を申請する文書に署名  3/4
ロシアから軍事侵攻を受けたウクライナがEU=ヨーロッパ連合への加盟を申請したのに続き、14年前にロシアから軍事侵攻された黒海沿岸のジョージアと、ウクライナと国境を接するモルドバが3日、相次いでEUへの加盟を申請する文書に署名しました。
ジョージアとモルドバは、ウクライナとともに以前からEUへの加盟を目指してきました。
ウクライナがロシアによる軍事侵攻後の先月28日、EUへの加盟を申請すると、これに続いてジョージアのガリバシビリ首相が3日、EUへの加盟を正式に申請したと発表しました。
ジョージアは14年前の2008年にロシアによる軍事侵攻を受け、その後、2024年にEUに加盟することを目指してきましたが、これを前倒しした形です。
申請を急いだ理由について、在日ジョージア大使館はNHKの取材に対し「安全保障や国際秩序の新しい現状のもと、加盟を前倒しする必要性があると判断した」とコメントしています。
また、モルドバのサンドゥ大統領も3日、EUへの加盟を申請する文書に署名したことを会見で明らかにしました。
サンドゥ大統領は2年前の就任以来、ヨーロッパ寄りの政策をとり、将来的なEU加盟を目指す姿勢を強く打ち出していました。
かつてソビエトを構成していた3つの国がロシアのウクライナへの軍事侵攻を受け、ヨーロッパ各国との関係強化を通じて支援を求める姿勢が鮮明になっています。
●米国、ロシアのプーチン政権に近い新興財閥に制裁 資産凍結や入国禁止 3/4
バイデン米政権は3日、ロシアのプーチン政権に近い新興財閥オリガルヒの関係者らに対し、ウクライナ侵攻を巡る追加制裁を科すと発表した。米国内の資産凍結や入国禁止措置を講じる。オリガルヒへの制裁を強める日欧など同盟国に足並みをそろえた。
バイデン大統領は3日の閣議で「われわれの関心は、史上最強で統一した経済的な打撃をプーチン(大統領)に与え続けることだ」と強調した。
プーチン氏を支える富裕層に対して経済的な打撃を与え、圧力を強める狙いがある。資産凍結の対象は、プーチン氏と関係が深いロシアの富豪ウスマノフ氏や、ロシアのペスコフ大統領報道官ら。ヨットや高級マンション、プライベートジェット機などを含んだ。
入国禁止措置はオリガルヒの実業家19人に加え、その家族ら47人が対象。米財務省はこの他、ウクライナ侵攻に関する偽情報を広めているとして7団体と26人にも制裁を科すとした。
米政権は2日、ロシア政府高官やオリガルヒ関係者らが暗号資産(仮想通貨)などを使った制裁回避をしないよう、米司法省に取り締まりのためのタスクフォースを立ち上げると発表していた。
●米 プーチン政権に近い富豪「オリガルヒ」などの資産を凍結  3/4
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、アメリカのバイデン政権はロシアのプーチン政権に近い「オリガルヒ」呼ばれる富豪などを対象に経済制裁を科し、資産凍結などを行うと発表しました。
アメリカのホワイトハウスは3日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて追加の経済制裁を発表しました。
それによりますと、資産凍結の対象となったのは
・モスクワにある「SMP」銀行の取締役を務めるボリス・ローテンベルク氏
・その兄で、大手建設会社「モストトレスト」の所有者、アルカジー・ローテンベルク氏
・ロシアの政府系金融機関「VEB」の会長で、4年前まで第1副首相を務めていたシュワロフ氏
・国営軍事企業「ロステク」のチェメゾフCEOやその家族らで、プーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪です。
このうち、ローテンベルク兄弟はプーチン大統領の柔道仲間としても知られています。
さらに、ロシア大統領府のペスコフ報道官も対象に加えられ、資産が凍結されると言うことです。
ホワイトハウスは「これらの人々は、ロシアの人たちを犠牲にして富を築き、中には家族を高い地位に引き上げたものもいればプーチン大統領のウクライナ侵攻に必要な資源を提供した責任を負っているものもいる」として、厳しく非難しています。
●ウクライナ侵攻をロシアのテレビで見る まったく別の話がそこに 3/4
ロシアの国営テレビが映し出す「現実」が、いかに現実と違うか。日本時間3月2日午前2時の画面が、その典型例だった。BBCワールドニュースは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でロシア軍がテレビ塔を砲撃したという速報で始まった。同じ時にロシアのテレビは、ウクライナの都市を攻撃しているのはウクライナだと伝えていた。
では、ロシアの人たちは、この戦争について何をテレビで見ているのだろう。電波を通してどのようなメッセージを聞いているのか。以下は、3月1日にロシアで主なチャンネルをザッピングしていた人が、目にしただろう内容の一部だ。主なチャンネルはロシアの場合、政府と、政府に協力する企業がコントロールしている。

国営テレビ局「チャンネル1」はロシアで特に人気のチャンネルだ。その番組「グッドモーニング」は、ニュース、カルチャー、軽いエンターテインメントを組み合わせた、多くの国にありがちな朝の情報番組。
モスクワ時間1日午前5時30分(日本時間同午前11時30分)、通常の放送が変更になった。司会者が「みなさんよくご存じの出来事のため」放送予定を変更し、ニュースや時事問題の話題をいつもより多く伝えると説明した。ニュース速報は、ウクライナ軍がロシア軍の機器を破壊しているという報道は誤報で、「経験の浅い視聴者を欺く」ためのものだという内容だった。
「インターネット上では、フェイクとしか言いようのない映像が流れ続けています」と司会者が説明し、「雑に加工されたもの」だと説明する写真が複数、画面に映し出された。
モスクワで午前8時になると、テレビ局NTVの朝の番組に切り替える。NTVは、ロシア政府の支配下にあるガスプロムの子会社が所有するテレビ局だ。この朝の番組は、ウクライナ東部ドンバス地方の話題ばかりだ。ロシア政府は2月24日、ウクライナの非武装化・非ナチス化のため、ドンバスで「特別軍事作戦」を開始すると表明した。
ウクライナの北にあるベラルーシからウクライナの首都キーウ(キエフ)まで、数十キロにわたり続く軍用車列については、まったく触れない。その30分後、イギリスのBBCラジオ4のニュース速報は、首都に迫る車列の話題で始まった。
「ドンバスからの最新ニュースから始めます。LNRの戦闘員は3キロ移動し、攻勢を続けています。DNRの部隊は16キロ移動しました」と、アナウンサーは説明した。
LNRとは自称「ルガンスク人民共和国」。DNRとは「ドネツク人民共和国」。ロシアによる8年前のウクライナ東部介入を機に、ロシアの後押しを受けて一方的に独立を宣言した親ロシア派地域のことだ。
共に国営放送でロシアで最も人気のチャンネル、「ロシヤ1」と「チャンネル1」は、ドンバス地方でウクライナ軍が戦争犯罪を犯したと非難した。ウクライナ市民を脅かすのはロシア軍ではなく、「ウクライナのナショナリスト」だと、ロシヤ1のアナウンサーは述べた。
「チャンネル1」のアナウンサーは、ウクライナ軍が「民間人とロシア軍に対する挑発行為」として、「民家砲撃を準備中」で、「倉庫をアンモニアで爆撃しようとしている」と説明した。
ロシアのテレビは、ウクライナで起きていることを「戦争」とは呼ばない。その代わり、攻撃は軍事インフラを標的とした非軍事化作戦、あるいは「両人民共和国を防衛するための特別(軍事)作戦」と表現される。
国営テレビでは、アナウンサーや特派員が感情的な言葉や画像を使い、ロシアによるウクライナでの「特別軍事作戦」とソ連のナチス・ドイツに対する戦いには、「歴史的類似性」があると強調する。
「子どもを盾にするナショナリストの戦術は、第2次世界大戦以来変わっていない」と、「ロシヤ1」の姉妹チャンネル「ロシヤ24」の朝の番組のアナウンサーは述べた。
「連中はまさにファシストそのもののように行動する。ネオナチは武器を民家の横に設置するだけでなく、子供が地下室に避難している家のそばにおいている」と、特派員はリポートした。ビデオには「ウクライナのファシズム」というテロップが出ている。
ウクライナの都市爆撃はウクライナのせいに
特派員の説明は、ウラジーミル・プーチン大統領が2月末に根拠なく主張した内容に呼応するものだ。ウクライナが女性や子供、高齢者を人間の盾にしているというのが、プーチン氏の言い分だ。
プーチン氏が命令した侵攻が期待通りの迅速な戦果を挙げていないのではないかと、西側諸国の報道は問いかけている。それに対してロシアのテレビは、ロシアの作戦は大成功だと繰り返す。ロシアのテレビニュースは、ウクライナ側の機材や武器をどれだけ破壊したか、随時報告している。朝のニュースでは、1100以上のウクライナの軍事インフラ施設が使用不能になり、数百の機器が破壊されたと伝えた。ロシア側の死傷者についての言及は、まったくない。
ロシアの朝のニュース速報は、ウクライナ東部以外でのロシア軍の攻撃作戦についてほとんど何も伝えない。国営テレビの特派員は、キーウやハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍が住宅地を砲撃した主要都市では取材していない。ロシアの特派員たちは代わりに、ドンバス地方の部隊に密着している。
しかし、この日の午後になると、BBCがもう何時間も大々的に報道してきたハルキウ砲撃について、ニュース番組はようやく触れた。ただしその報道内容は、住宅破壊はロシア軍のせいではないというもので、ロシアに責任を負わせようとする情報は「フェイク」だと主張した。
「ミサイルの軌道から判断して、攻撃はロシア軍のいない北西部からのものだ」と、午後4時のニュースで司会者は言う。さらに4時間後、「ロシヤ1」の報道はさらに踏み込んで、ハルキウを爆撃したのはウクライナ軍だと主張した。
「ハリコフを攻撃して、ロシアがやったと言っている。ウクライナは自分の街を砲撃して、西側にうそをついている。しかし自国民をだますことはできるだろうか」と、「ロシヤ1」は問いただす(訳注:同じ都市の名前を、ウクライナ語ではハルキウ、ロシア語ではハリコフと言う)。
午後5時のニュースでは「ロシヤ1」のアナウンサーが、ウクライナにおけるロシアの「主な目的」を、「西側の脅威からロシアを守ること」だと説明した。それによると西側諸国は「ロシアとの対決にウクライナ国民を利用している」のだという。
ウクライナに関する「フェイクニュースやうわさ」がネット上で流れていることに対抗するため、ロシア政府が「真実の情報のみが掲載される」新しいウェブサイトを立ち上げることになったと、アナウンサーは伝えた。
政府の公式見解以外は報道不可
ロシアのテレビ局は連邦政府の監督機関「通信・IT・マスメディア監督サービス」から、政府の公式見解に沿った報道をするよう、義務付けられている。
それでも、3月1日の報道論調が各局まったく同じだったというわけではない。ニュース速報がウクライナの戦争犯罪について語る一方、「チャンネル1」の時事トーク番組では、政府寄り司会者のヴャチェスラフ・ニコノフ氏が番組最後に、自分がいかにウクライナが好きか語った。
「私はウクライナをとても愛していますし、ウクライナ人を愛しています。何度もウクライナを旅したことがあります。本当に素晴らしい国です。そして、ウクライナの繁栄と友好は、ロシアにとって大切なことだと思います。(中略)私たちの目的は正義です。私たちは勝利します」と、ニコノフ氏は強調した。
若いロシア人の中には、独立系のウェブサイトやソーシャルメディアからニュースを入手する人が増えている。そして、戦争が長引けば長引くほど、死んだ兵士や捕虜の画像や映像がそうしたメディアに登場している。しかし、当局はこれを受けて、独立系メディアの規制をますます強めている。
連邦政府の通信・IT・マスメディア監督サービスはTikTokに対し、軍事的・政治的コンテンツを未成年者に「おすすめ」しないよう命令した。「ほとんどの場合、こうした素材は際立って反ロシア的内容」だからと、不満をあらわにしてた。
同サービスはグーグルに対しても、いわく「ロシア軍の損失に関する偽情報」とする検索結果の削除を要求した。ロイター通信によると、モスクワの「特別軍事作戦」に関する「偽報道」については、 ツイッターの読み込み速度を再び減速させたほか、フェイスブックへのアクセスも制限したという。
この監督機関はメディア各社に対し、侵攻を報道する際にはロシアの公式情報源のみを使用するよう指示し、「宣戦布告」や「侵攻」に言及した報道を取り下げるよう指示した。対応しない場合は罰金や放送禁止などで処分すると警告している。独立系民間テレビ局「ドシチ」と、リベラル系の人気ラジオ局「モスクワのこだま」のウエブサイトは共にアクセスがブロックされた。両社が「過激主義と暴力」を呼びかけ、「ロシア軍の活動に関する虚偽情報を組織的に拡散した」というのが、その理由だ。
●ウクライナ軍事侵攻 ロシアに“最強の制裁” 真のねらいは?  3/4
ロシアが踏み切ったウクライナへの大規模な軍事侵攻。これに対し、欧米や日本は前代未聞ともされる規模の経済制裁に踏み切りました。制裁によってロシアの通貨ルーブルは一時40%も急落し、ロシア経済に早くも打撃を与えています。しかし、軍事侵攻はやむどころか戦闘は激化し、市民の犠牲者も増え続けています。制裁は何のためにあるのか。その効果とねらい、限界に迫ります。
「これは金融戦争だ」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった2日後、アメリカとヨーロッパ各国は共同声明を発表しSWIFTからロシアの一部の銀行を排除すると発表しました。
SWIFTは200を超える国と地域の金融機関が参加する世界的な決済ネットワークです。1日当たりの決済額は5兆ドル、日本円で575兆円にものぼります。
SWIFTから締め出されると、その国の企業は別の決済の方法を見つけなくてはならず貿易に大きな支障が出ます。2012年にイランがSWIFT制裁を受けた際にはGDP成長率はマイナス7.4%となり深刻な景気低迷に陥りました。
さらに欧米や日本は制裁の抜け穴を防ぐため、ロシアの中央銀行が各国に持つ資産も凍結。ドル、ユーロ、円の「外貨準備」を使えなくする徹底したカネのブロックです。
経済の3要素は“ヒト・モノ・カネ”と言われますが、カネを止めればモノもヒトも止まる。一連の制裁の威力は経済制裁の中でも群を抜くと言われます。
ロシアに対する風当たりの強さは各国政府からだけではありません。
ロシアと関わりがある西側諸国の企業が一気かせいで迅速な行動をとったのです。
クレジットカードを運営するマスターカードやビザはロシアの複数の銀行を決済網から排除、アップルはiPhoneなどの販売を停止しました。日本企業もトヨタはロシアでの当面の生産停止、ホンダは輸出の一時停止に踏み切りました。
さらに物流で大きな役割を担うコンテナ海運最大手のA.P.モラー・マースクもロシア発着の貨物輸送を停止しました。
SWIFTがロシアの銀行を排除したことで積み荷の海上保険がつくれなくなったことが理由でした。
フランスのルメール経済相は、西側諸国の大規模制裁を「経済、金融上の戦争」と表現。
戦争という表現はふさわしくなかったとしてその後撤回しましたが、ロシアの“暴挙”に対して、経済的な“宣戦布告”とも受け止められる発言でした。
その効果はすぐに現れます。制裁発表直後からロシアの通貨ルーブルは急落。ドルに対して一時40%も下落し、過去最安値を記録しました。
ロシアでは不安に感じた人々が銀行のATMの前に行列を作る場面も見られるなどロシア経済への影響が出始めています。
アメリカ財務省で制裁を統括する外国資産管理局の上級顧問だったブライアン・オトゥール氏は私たちの取材に制裁の規模をこう表現しました。
ブライアン・オトゥール氏「そら恐ろしいほどの規模だ。ロシアは世界経済に深く組み込まれ、世界第11位の経済大国だ。厳しい制裁を科されている北朝鮮やシリアと比べると、ロシアは市民の経済レベルもはるかに高いので、制裁によって失うものも多い。高いところにいればいるほど落差は大きくなり、打撃も大きくなる」
制裁で軍事侵攻を止められるのか
前代未聞とされる制裁に踏み切った欧米諸国。
ロシア経済に深刻な打撃を与え始めてますが、肝心の軍事侵攻は止まっていません。それどころかロシア軍による攻撃は激しさを増し、ウクライナでは市民の犠牲者も増え続けています。
アメリカのバイデン大統領はかねてから、軍事侵攻が行われれば大規模な制裁を科すと警告していましたが、結果的に侵攻を止めることはできませんでした。
バイデン大統領は先週、記者会見でまさにこの点を記者から問われました。
記者「制裁が抑止になっていない。プーチン大統領を止めるにはどうするのか」
バイデン大統領「制裁で侵攻を止められるとは誰も考えていない。プーチン大統領が『なんてことだ。撤退しよう』と考えることはない。制裁は時間がかかるのだ」
大統領自身が制裁はロシアの軍事侵攻を止めるためのものではないと明言したのです。
侵攻を止められないなら制裁の目的は何か?
制裁で軍事侵攻は止められない。それならば制裁の目的は何なのでしょうか。
アメリカ財務省で2017年まで制裁を担当していたオトゥール氏はこう説明します。
ブライアン・オトゥール氏「制裁の目的はプーチン大統領や大統領に近い人物、それにロシア経済を国際社会から長期的に孤立させることだ」
そもそも制裁はすでに起きている軍事侵攻を止めるなど、短期的な目的を達成するものではなく、長期的に相手側の行動の変化を促すものだというのです。
制裁のねらいは国家の収入源を止めてプーチン政権を弱体化させ、市民が生活に不満を募らせることで、政権の求心力を低下させるといった展開です。
そのうえでオトゥール氏は外交上のよくある誤解の1つとして「敵は一枚岩だ」と考えてしまうことだと指摘します。
ブライアン・オトゥール氏「どの国にも維持しなくてはいけない権力構造がある。絶大な権力を持つプーチン大統領にも気を配らなければいけない少数の人々がいるはずだ。制裁によってそうした人々の支持を失えば権力構造に影響をおよぼすことができる」
プーチン大統領に近い人物に制裁を科すことで、間接的に影響をおよぼすことが可能だという見方です。
実際、アメリカ政府は3日、オリガルヒと呼ばれるプーチン大統領に近い富豪たちに相次いで制裁を科すと発表しています。
警戒される“ブーメラン”
ただ、大規模な制裁で打撃を受けるのはロシアだけではありません。私たちの生活にも波及するおそれがあります。これは「ブーメラン」にたとえられる世界各国への跳ね返りの影響です。
もっとも懸念されるのはエネルギーです。ロシアは世界第11位の経済規模で、石油や天然ガスなど豊富なエネルギー資源を各国に輸出しています。
とくにヨーロッパは、石油の29%、天然ガスの34%をロシアからの輸入に依存していて、今後、金融制裁の影響で、国民生活を支える資源が足りなくなるおそれがあります。
実際「ブーメラン」の跳ね返りを懸念して、ロシアのエネルギーへの依存度が高いドイツやイタリアは直前まで、SWIFT制裁に慎重な姿勢をとっていたほどです。
原油の価格はすでに上昇しています。世界の商品市況では供給減少への懸念から、投資家などによる買い占めの動きが広がっていて、3か月前に1バレル60ドル台だった原油価格(WTI)は、3日に116ドルをつけ、13年半ぶりの高値まで上がりました。
原油や天然ガスを輸入に頼る日本にも影響が出るのは避けられないかもしれません。
アメリカの産業界でもすでに警戒の声があがっています。ミシガン州で自動車関連工場を営むボブ・ロスCEOは「工場で製造する変圧器にロシア産の鋼材が使われている」として、供給不安・価格上昇への不安を口にしました。
原材料調達の業界団体のドーン・ティウラ代表も「ロシアの銀行を介した取り引きが止まったという報告もある。サプライチェーンは複雑に絡み合っていて混乱が起きそうだ」と懸念しています。
みずからへの打撃も覚悟の上で、「諸刃の剣」とも言える大規模な制裁に踏み切った日本を含む西側諸国。
国際社会からの制裁は覚悟の上で軍事侵攻に踏み切ったロシア。
両者のせめぎあいは当面続くことになります。
●ウクライナ情勢をめぐるIT業界の動き 3/4
1. ウクライナ情勢をめぐるIT業界の動き(国際)
ウクライナ情勢をめぐる国際的なIT業界の動きをまとめておく。
アップルは、ロシアのアップルストアの休業を発表している(ケータイWatch)。ウクライナ副首相はアップルストアへのアクセス停止などを要請したとも報じられていて、それとも呼応する。
Facebook、Instagramなどのメタのサービスは、ロシア国営メディアの投稿したコンテンツの表示順位を下げると発表した(CNET Japan)。さらに、FacebookやYouTubeは「ロシアの国営メディアであるRTとSputnikへのアクセスを欧州全域で制限しようとしている」とも報じられいてる(CNET Japan)。そして、グーグルは「ウクライナでGoogleマップのリアルタイム交通状況ツールを無効に」したと報じられている(TechCrunch日本版)。
イーロン・マスク氏はウクライナで衛星サービス「スターリンク」の開始を表明している(ZDnet Japan)。通信インフラが物理的に破壊され、地上の回線網が途絶えたとしても、上空を通じた通信は最低限確保される見込みということだろう。
一方、ランサムウェアで攻撃をする集団もコメントを出している。「Lockbit 2.0」はロシアのウクライナ侵攻には関与しないという声明を出し、そのうえで「無害な仕事から得る金銭にしか興味がない」とまで述べている(ITmedia)。つまり、この混乱に乗じた何らかの行動をする可能性があることを示唆し、それは誰でもターゲットになりうるという意味と捉えるべきか。
2. ウクライナ情勢をめぐるIT業界の動き(国内)
ウクライナ情勢に対する動きは日本国内でも出てきている。
内閣サイバーセキュリティセンターは、経済産業省や警察庁など6つの省庁と連名で、「昨今の情勢を踏まえるとサイバー攻撃事案のリスクは高まっていると考えられます」とし、「対策の強化に努めていただきますようお願いいたします」という注意喚起をしている(経済産業省)。これはトヨタ自動車の取引先がランサムウェアによる攻撃を受け、操業を停止せざるを得なくなった状況を踏まえ、出されているものである。目に見える攻撃だけでなく、こうしたインターネット空間での攻撃はあらゆる国がターゲットとなる可能性があり、「(地理的に)日本の遠くで起こっている紛争」ではないことをあらためて認識させられる。
企業では、楽天がウクライナなどでインターネットを使う音声通話アプリ「Viber」を無料で提供するとしている(ケータイWatch)。ソフトバンクもウクライナへ渡航中の同社ユーザーについて、3月の「海外パケットし放題」のデータ通信料を無償にすると発表した(ケータイWatch)。ZOZOは「ウクライナを支援するチャリティーTシャツの予約受付」を開始し、その売上は全額寄付するとしている(ITmedia)。
3. 電子コミック市場が対前年比20%の大幅成長
出版科学研究所、2021年のコミック市場の推定販売金額を発表した(ITmedia)。それによると、「紙と電子を合わせて6759億円(前年比10.3%増)、電子のみで4114億円(同20.3%増)になった」としている。いずれも過去最高値となり、とりわけ電子コミック市場が4000億円を突破したことは大きな成長を続けていることを示している。その理由として「コロナ禍の自粛生活で拡大した新規ユーザーがそのまま定着して電子コミックを購入、さらに『縦スクロールコミック』が漫画を読んでこなかった新たなユーザーを掘り起こしている」(同研究所)と分析をしている。さらに、海賊版に対して業界が厳しい対処をしてきたことが売上につながっているともみられる。
4. 3月9日はアップルの新製品発表会
アップルは、来たる日本時間の3月9日午前3時から新製品の発表をオンラインで行うとしている。この模様は、オンラインで中継される。なお、招待状には「最高峰を解禁。」とタイトルが付けられている。うわさでは「iPhone SE」新モデルではないかとされているが、新プロセッサを搭載する高性能モデルの発表もあるかもしれない。
5. 社会的にもインパクトが大きくなってきたサイバーセキュリティ問題
サイバー攻撃による社会的なインパクトが大きくなっている。
トヨタ自動車の取引先企業がランサムウェアの攻撃を受けたことにより、トヨタ自動車の工場の操業が1日間停止に追い込まれた事件は大きく報じられた(ITmedia)。トヨタ自動車自体ではなく、取引先への攻撃でもサプライチェーンが停止するとなるとここまでの被害が出るということだ。
また、「Emotet」の感染例も増えてきている。JPCERT/CCによれば、「Emotetに感染した.jpメールアドレス数が2020年の感染ピーク時の5倍にまで急増している」という(ITmedia)。この1週間だけでも、紀伊國屋(ITmedia)、日本気象協会(INTERNET Watch)などの事案が報じられている。
また、クレジット決済企業メタップスペイメントへの不正アクセスにより、最大46万件ともされる情報が流出したとみられる(CNET Japan)。この決済システムを採用している企業からはリスクに対する告知がなされているが、規模としては大きな事件ということができる。
もちろん、フィッシング詐欺も収まらない。フィッシング対策協議会は2022年1月のフィッシング報告状況を発表している。それによると「フィッシング報告件数は5万615件で、前月より1万2544件減少した」(INTERNET Watch)ということだが、いまだ高い水準を維持している。とりわけ、Amazon、メルカリ、JCB、三井住友カードを名乗るものが全体の7割近いという。引き続き留意する必要がある。
●岸田首相 ウクライナ情勢「中国に責任ある行動を呼びかける」  3/4
ウクライナ情勢をめぐり、岸田総理大臣は参議院本会議で、国際秩序の根幹を守り抜くため国際社会が結束してきぜんと対応することが重要だとして、ロシア寄りの姿勢を示している中国に対し、関係国と連携して責任ある行動を呼びかけていく考えを示しました。
ウクライナ情勢をめぐり、中国政府は欧米による制裁を非難し、今月2日に行われた国連総会でのロシアを非難する決議案の採択でも棄権するなどロシア寄りの姿勢を示しています。
これに関連して、岸田総理大臣は参議院本会議で「今こそ国際秩序の根幹を守り抜くため国際社会が結束してきぜんと対応することが重要だ。中国に対しても関係国と連携し、責任ある行動を呼びかけていく」と述べました。
また、岸田総理大臣は、ロシアによる軍事侵攻が「侵略」にあたるか問われたのに対し「侵略の定義は十分明確になっているわけではないが、G7=主要7か国の首脳声明でも『軍事的侵略』とするなど、多くの国も侵略としている。武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国連憲章の重大な違反で侵略にあたると考えている」と述べました。
一方、岸田総理大臣は来年4月に任期満了を迎える日銀の黒田総裁の後任人事について「日銀には引き続き経済や物価、金融情勢を踏まえつつ2%の物価安定目標の実現に向けて努力されることを期待しており、こうした考え方に理解のある方が望ましい。後任人事はその時点で最もふさわしい方を任命することが基本だ」と述べました。
●東電子会社、環境債100億円 ウクライナ情勢で金額半減 3/4
東京電力ホールディングス子会社で再生可能エネルギー事業者の東京電力リニューアブルパワー(RP)は4日、環境関連の事業に資金使途を絞った「グリーンボンド(環境債)」を10日に発行すると発表した。発行額は100億円。ウクライナ情勢を踏まえ、2月の発表時点の予定額からは半分にする。集めた資金は水力発電や風力発電などの再生可能エネルギーの開発に充てる。
発行総額は2月の有価証券届け出時点では「需要状況を勘案したうえで増減すること」を前提に200億円としていた。ただウクライナ情勢の悪化により、債券価格のボラティリティー(変動率)が高まったことを踏まえて100億円に減額した。
環境債の発行は2021年に続き2回目。発行年限は5年。みずほ証券、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などが主幹事を務める。調達する資金で国内外の水力発電や洋上風力発電の開発などの再エネ開発に充てる。
●サーモン・ダイヤに影響懸念 ウクライナ情勢受け...  3/4
ウクライナ情勢緊迫化で混乱が加速する中、物流網でも影響が拡大している。
千葉県の鮮魚店では、ロシア産のカニやタラコの価格が上がる可能性に加えて、ある懸念が強まっている。石毛魚類 千城台本店・谷中政夫店長「こちらがノルウェーサーモンで、本日2つ目。本当は3つ欲しかった。朝、市場行ったらなくて」。ロシア上空を飛行するルートでのノルウェー産サーモンの確保が難しくなり、別の調達先を見つけるのに苦労している。石毛魚類 千城台本店・谷中政夫店長「滞ると商売にならない。ますます先行き不透明」。買い物客「家計にダメージないようにするしかない」
さらに、影響を心配しているのが、ジュエリー店。業界団体によると、ロシアは、ダイヤの世界生産のおよそ3割を占めていて、専門店「銀座ダイヤモンドシライシ」でも使っているダイヤのおよそ1割がロシア産。ニューアートホールディングス・白石哲也代表取締役「今からロシアのものが入ってこなくなるとすると、2カ月後くらいから、たぶん値段が、そこから徐々にはねてくると思う」。来店した2人は、結婚指輪の購入を検討している。結婚指輪の購入検討している客「上がる前には買えたらいいねみたいな話をしている」。
影響の広がりが加速している。
●JAL 成田〜フランクフルト便 7日まで欠航 ウクライナ情勢受け  3/4
ウクライナ情勢を受けて、日本航空は成田とドイツのフランクフルトを結ぶ便を、今月7日まで欠航することを決めました。航空各社は、情勢を見極めて今後の運航を決める方針で、最新の情報をHPなどで確認してほしいとしています。
●橋下氏 ウクライナ情勢に「日本の政治家や専門家はまったく信用できない」 3/4
元大阪府知事の橋下徹氏が4日、BSフジ「プライムニュース」に生出演。緊迫のウクライナ情勢についてコメントした。
現在の日本政府の対応について感想を求められた橋下氏は「僕はこのウクライナとロシアの戦争を見て、日本の国会議員、政治家、いろんな専門家の意見を聞いた上で、日本の政治家や専門家はまったく信用できないし、いざ戦争になったらこりゃダメだなと思いました」とバッサリ。
続けて「戦争になってしまうと『祖国防衛』『国際秩序を守れ』…。誰も反対しない正義と思えることの一点張りで『ウクライナがんばれ、がんばれ』なんですよ。戦争というのは始まらないように、いかにまず防衛力を強化するかというのがまず一番重要」と指摘し「NATOにはロシアは攻め込まないわけですよ。だから、軍備力を強化して、集団的自衛権、集団安全保障、核兵器、これがそろってるのがNATOですよ。これを今まで否定してきたのが日本。このNATOの体制をいかに構築するかいうのが、一番重要」と持論を述べた。
また、ロシアに対する経済制裁については「ロシアを追い詰めていくっていうんでしょ? 僕はそれ期待しますよ。でも、それいつなんですか? それいつなんだというのをはっきり言わないと。どっかの番組で『あと10日間戦争が続けばロシアは転覆する』ってことを言ってる人もいたけど、無責任すぎますよ。10日間ウクライナの人が頑張って命落としてロシアが転覆しなかったら、その人たちどうなるんですか?」「西側諸国は軍事力の分析とこれからの見通しを、きちっとゼレンスキー大統領に伝えて、経済制裁でロシアが瓦解するのがもう1か月なんだったら『申し訳ないけど1か月がんばってくれ』と言うのか。でも、誰も見通しを言わない」とぶ然と言い放った。
●WFDFはウクライナ情勢に関する声明を発表しました 3/4
世界フライングディスク連盟(WFDF)は3月2日に緊急理事会を開催し、ロシアとベラルーシによるウクライナへの軍事侵攻について議論をし、以下の5項目を決議しました。
1. WFDF理事会は、ウクライナフライングディスク連盟(UFDF)、ウクライナオリンピックコミュニティ及びウクライナのすべての人々と一致団結し、特にウクライナのフライングディスクコミュニティのメンバーを可能な限り支援する。
2. ロシアフライングディスク連盟(RFDF)及びベラルーシフライングディスク連盟(BFDF)のWFDF加盟団体としての権利は現時点では期限を定めず、直ちに停止される。 
3. ロシアとベラルーシの選手・役員は、現時点では期限を定めずWFDF公認大会へ参加することはできない。
4. WFDFの理事会や委員会等に関わっている全てのロシア・ベラルーシ出身者には、直ちに辞任することを求める。
5. WFDF公認大会は、現時点では期限を定めずロシアとベラルーシでは開催しない。
WFDFのロバート・ラウ会長は「WFDFはロシアの挑発的な戦争行為を強く非難し、ロシアの指導者に対して軍に直ちにウクライナから撤退するよう命じることを求める。フライングディスクのグローバルコミュニティ及び全スポーツ界は、現在のロシアの行動が人類の進歩とスポーツの価値に反しており、2021年12月2日の国連総会で採択されたオリンピック停戦決議にも違反していると認識している」と述べている。
そして、「私達の思いは、ウクライナの人々、特にウクライナフライングディスク連盟(UFDF)のメンバーと共にある。WFDFは、彼等と一致団結し、彼等の安心安全を願いサポートするための最良の選択肢をみつけるよう努力する。また、WFDFは、ロシア・ベラルーシの指導者の判断により悪影響を受けているロシアフライングディスク競技者及びロシア国民についても懸念している。WFDFは、対立が戦争ではなく平和的な手段によって解決されることを強く望んでいる。」
WFDFは最善の支援策を見つけるためにウクライナフライングディスク連盟(UFDF)と情報共有している。
WFDF理事会はロシア及びベラルーシフライングディスクコミュニティのメンバーに対して厳しい状況を強いてしまうことを理解しており、このような決議をせざるを得ないことを遺憾に思っている。しかしながらスポーツ界は人間社会や世界中の人々がスポーツを通じてあらゆる脅威や差別から離れ基本的人権の尊重に触れる機会を脅かすような今回の軍事侵攻に対して一致団結し立ち上がらなくてはならない。
●「ウクライナ制圧してもプーチン大統領はもたない」ロシア侵攻その後は… 3/4
欧米諸国からの武器の支援は、戦力で圧倒的に劣るはずのウクライナがロシアの侵攻を食い止める状況につながっています。ロシア政治が専門の慶應大学教授の廣瀬陽子さん、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに聞きます。
Q.アメリカなどからの武器提供は、戦況にどう影響を与えますか
黒井文太郎さん「ウクライナ軍はロシア軍に比べれば装備も劣ります。アメリカ製の携帯式対戦車ミサイル『ジャベリン』や、イギリスやスウェーデンが作った別の兵器が有効ではないかと事前に研究され、開戦前から運び込んでいました。砂漠や岩山ではなかなか使えませんが、森があって歩兵が近付いていけるので、約1〜2キロの距離から戦車や装甲車を破壊することができます。これがかなり効いています」
Q.プーチン大統領は“核”にも言及していますが、今後、大規模な攻撃を行う可能性はありますか
黒井文太郎さん「核はけん制の意味で使っていると思います。ただ、気になるのは『NATO(北大西洋条約機構)は軍を派遣していないけど、武器を運んでいる』となったら、プーチン大統領の言い分としては『攻撃をしてもいい』となる可能性があります。街を潰すような戦略核はないと思いますが、ロシアは小型核を持っています。例えばポーランドから西側の武器が入ってきた時に『NATOからの攻撃に報復する』と言いだしかねない怖さがあります」
Q.ウクライナ政府によりますと、ウクライナでは2000人以上の民間人が亡くなっています。プーチン大統領はどこに向かおうとしているのでしょうか
廣瀬陽子さん「これまで長年、旧ソ連の政治を研究してきましたが、今回の一連のプーチン大統領の動きは、全く論理的に説明できない状況です。今後、ロシアが進む道を考えた場合、国際的な孤立しか考えられません。今は中国と蜜月関係ということになっていますが、今後ますます制裁が強くなれば、その余波を受けて、中国ですら離れていく可能性もあります。仮に軍事的に勝利したとしても、国際政治的にロシアの勝利はありません。もはやプーチン大統領の体制転換以外に、ロシアが生き残る道はないのではないかとすら思います」 
●苦境に陥るロシア経済 通貨暴落、打つ手乏しく―ウクライナ侵攻 3/4
ウクライナ侵攻で制裁を受けるロシアの経済が苦境に陥っている。外国為替市場で通貨ルーブルは暴落し、株式市場では取引停止が続く。ロシア政府・中央銀行は事態打開へ手が打てず、経済の混乱が長引く恐れがある。
外為市場では3日もルーブル売りに歯止めがかからず、一時1ドル=118ルーブル台に下落。2月28日に付けた史上最安値の近辺に沈んだ。侵攻後の下落幅は50%近くに達する。
ロシア中銀は政策金利を9.5%から一気に20%に引き上げ、輸出企業に外貨収入の80%売却を義務付けた。ロイター通信によると、外貨を購入する個人に30%の手数料も導入。だがルーブル安は止まらず、通貨防衛に手を焼いている。
通貨暴落は、為替介入の原資となる外貨準備が凍結されたことが主因だ。ロシアは2014年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合して制裁を受けて以来、外貨準備を積み上げ、21年6月時点で5853億ドル(約67兆円)を保有。基軸通貨ドルへの依存も減らし、ドル建て資産の割合を16.4%と3分の1程度まで圧縮する一方、中国人民元などを増やした。だが今回の制裁ではドルに加え、ユーロや円などの外貨準備も凍結され、ルーブルを買い支えられなくなった。
また、世界の銀行決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からのロシアの一部銀行の排除で、金融機関の信用不安が拡大。銀行や現金自動預払機(ATM)に市民が殺到して預金を引き出しているが、一定額が外貨預金とみられる。
一方、モスクワ株式市場は2月28日以降、取引停止が続く。ただ、ロンドン証券取引所に上場しているロシア企業の預託証券は既に暴落。最大手銀ズベルバンクの証券は紙くず同然となっている。
主要格付け会社はロシアを投資不適格の「投機的水準」に引き下げ、国債のデフォルト(債務不履行)懸念が強まる。英調査会社オックスフォード・エコノミクスは、ロシアの23年の国内総生産(GDP)が7%縮む可能性があると予想。「これでも最悪のシナリオではない」とさらなる波乱に警鐘を鳴らしている。
●金融市場の混乱警戒 ロシア国債デフォルト懸念 3/4
ロシア国債が債務不履行(デフォルト)に陥ることへの警戒感が市場で高まっている。ロシア外で保有される国債の規模を踏まえれば、世界的な金融システム全体に影響が波及する可能性は小さいとの見方がある一方、一定の混乱は避けられないとの懸念も強い。
ロシアは一時、中国やインドなどと並び経済成長が期待される新興5カ国(BRICS)の一角として注目され、国外から巨額の投資を集めた。しかし、2014年のクリミア併合以降は投資先としての魅力が薄れたとされ、先進国は経済関係を弱めてきた。
SMBC日興証券の秋本翔太エコノミストによると、外国人が保有するロシア国債はルーブル建てとその他の通貨建てを合わせても約600億ドル(約7兆円)で「大きいとは言えない」。このため、デフォルトが生じても、金融市場全般に悪影響が広がるリスクは限られるという。
ただ、秋本氏は「前回1998年のロシア危機をきっかけに米大手ヘッジファンドLTCMが実質破綻に追い込まれた記憶があり、市場が動揺する可能性はある」とも指摘している。 
●上海株大引け 3日続落、ウクライナ情勢を懸念 大型株安い 3/4
4日の中国・上海株式相場は3日続落した。上海総合指数の終値は前日比33.4635ポイント(0.96%)安の3447.6490だった。ウクライナ当局は4日、同国南部のザポロジエ原子力発電所がロシア軍によって制圧されたと発表した。4日朝方からロシア軍による同発電所への攻撃が伝わっており、投資家がリスク回避の姿勢を強めた。
朝方の売り一巡後は海外勢の買い戻しが入り、相場を下支えした。香港との証券相互取引を利用した海外投資家による中国株売買は小幅な買い越しだった。
酒造や保険、銀行、石油関連といった時価総額の大きい銘柄を中心に幅広いセクターで売りが優勢となった。港湾や軍需関連、非鉄金属、セメント株が下げた。
半面、石炭株が堅調。半導体関連株が堅調だった。
上海のハイテク新興企業向け市場「科創板」の50銘柄で構成する「上証科創板50成分指数」は0.55%安だった。深圳株式市場の総合指数は1.28%安、新興企業が主体の創業板指数は1.55%安となった。
上海と深圳市場の売買代金は合計で1兆62億元となり、節目の1兆元を2日連続で上回った。
●中国・香港株式市場・大引け=中国続落、ウクライナ情勢が圧迫  3/4
中国株式市場は続落して終了した。ウクライナ情勢の緊迫化と不動産市場を巡る不安が圧迫した。5日に開幕する全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に注目が集まっている。
上海総合指数終値は33.4635ポイント(0.96%)安の3447.6490。
上海と深センの株式市場に上場する有力企業300銘柄で構成するCSI300指数終値は55.198ポイント(1.21%)安の4496.430。
週間ベースでは、それぞれ0.1%高、1.7%安。
全人代では追加の景気刺激策が発表されるとみられている。
中国国営英字紙チャイナ・デーリーは、中国人民銀行(中央銀行)が今月、中期貸出制度(MLF)金利を引き下げる可能性があるという国内証券会社アナリストの見方を伝えた。
不動産株は1.4%安、銀行株は1.1%下落した。
中国で短期資金を調達するコマーシャルペーパー(CP)の支払いを常に延滞している国内企業の数は、不動産セクターの流動性危機を背景に2月に前月の2倍以上に増加した。
コンピューター関連株は2%安。新エネルギー車株は1.8%安となった。機械株は1.9%安。
モルガン・スタンレーはリポートで「世界的な地政学的緊張や不動産市場の不透明感、新型コロナウイルスの現在の状況は懸念を高めるものだ」と指摘した。投資家は慎重さを保ち、全人代と第4・四半期決算発表後の変化に注目すべきとした。
●債券15時 長期金利、低下 ウクライナ情勢への懸念根強く 3/4
4日の国内債券市場で長期金利は低下(債券価格は上昇)した。指標となる新発10年物国債の利回りは、前日比0.020%低い0.150%で推移した。朝方に同0.025%低い0.145%を付けた後、0.160%まで低下幅を縮める場面もあったが、午後は再び水準を切り下げた。ウクライナ情勢に関する報道などを材料に、不安定な動きだった。
日本時間4日午前、ロシアがウクライナ南部ザポロジエにある欧州最大規模の原子力発電所への砲撃を開始し火災が起きたと伝わった。これを受けて市場では、リスク回避の動きが強まった。だが、同日午後に火災が鎮火したことなどが伝わると投資家の過度な警戒感が和らぎ、債券には売りも出た。
現物債市場では幅広い年限で買いが優勢だった。新発2年物国債の利回りは前日比0.005%低いマイナス0.045%、新発20年債利回りは同0.020%低い0.620%、新発40年債利回りは同0.025%低い0.880%を付けた。
先物相場は反発し、中心限月の3月物は前日比8銭高の150円89銭で取引を終えた。ウクライナの原発が砲撃を受けたと伝わった直後に151円15銭まで買われる場面があったが、その後は伸び悩んだ。
東京金融取引所の円金利先物相場の中心限月の3月物は取引が成立していない。全銀協TIBOR運営機関が発表した海外円の東京銀行間取引金利(TIBOR)3カ月物は前日と同じマイナス0.04900%だった。
●原油先物が反発、ウクライナ情勢巡る供給懸念で 3/4
4日の原油先物は反発。イラン核合意再建協議がまとまることで原油供給が増えるとの見方が出ているものの、欧米の制裁措置によるロシアの石油輸出途絶への懸念が優勢となっている。
0121GMT(日本時間午前10時21分)時点で、北海ブレント先物の5月限は3.26ドル(3%)高の1バレル=113.72ドル。一時は114.23ドルを付けた。3日は2.2%安だった。
米WTI先物の4月限は4.15ドル(3.9%)高の111.82ドル。一時は112.84ドルを付けた。3日は2.6%安だった。
ウクライナの原子力発電所がロシア軍の攻撃を受けて燃えているとの報道を受け、原油価格は上昇した。
また、原油と石油製品を合わせて世界最大の輸出国であるロシアからの輸出が途絶えるとの懸念も原油相場を押し上げている。制裁のために買い手が購入をためらう中、ロシア産原油の取引活動は既に滞っているようだ。
豪コモンウェルス銀行のアナリスト、ビベック・ダール氏は「ロシアの石油輸出が実際に途絶すること、あるいは途絶すると考えられていることによる価格上昇は、イラン産原油の供給が増える可能性に伴う価格下落を補って余りあるようだ」と述べた。
●米国株式市場=反落、ウクライナ情勢巡る不透明感で 3/4
米国株式市場は反落して取引を終えた。ウクライナ情勢を巡る警戒感が続く中、テスラやアマゾン・ドット・コムなどグロース(成長)株が売られ、ナスダック総合を圧迫した。
テスラは4.6%、アマゾンは2.7%、それぞれ下落。
S&P500グロース指数は1.1%安となった。バリュー指数は0.1%高。
市場のディフェンシブムードを反映し、公益事業や不動産などのセクターは上昇した。
ベアードの投資ストラテジスト、ロス・メイフィールド氏は「市場の関心は地政学的混乱に完全に向けられている」とした上で、「ボラティリティーが短期的に、もしくは中期的にも続く可能性が高い。ウクライナや(ロシアの)プーチン大統領にとって今後数週間でどのような出口が受け入れ可能か全く見当がつかない」と述べた。
原油などコモディティー価格の高騰を受け、高インフレと成長停滞が同時進行し、米連邦準備理事会(FRB)など主要中銀の金融政策運営がより困難になるとの懸念も出ている。
インフラストラクチャー・キャピタル・マネジメントのジェイ・ハトフィールド最高投資責任者は「(目先の)決算発表は限られており、2週間後の米連邦公開市場委員会(FOMC)まで狭いレンジで推移するだろう」と指摘。「ロングポジションを取る理由は見当たらない。ウクライナで何らかの和平や安定があれば話は別だが、可能性が高いようには見えない」と述べた。
スーパーマーケットチェーン大手のクローガーは12%近く急伸。年間の既存店売上高と利益について強気の見通しを示した。
アパレルのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズは9.3%安。2022年上半期の減益を予想した。
米取引所の合算出来高は126億株。リフィニティブのデータによると、6営業日ぶりの低水準となった。
ニューヨーク証券取引所では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を1.48対1の比率で上回った。ナスダックでも2.12対1で値下がり銘柄数が多かった。
●NY株反落、96ドル安 ウクライナ情勢不透明感で 3/4
3日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反落し、前日比96・69ドル安の3万3794・66ドルで取引を終えた。ウクライナ情勢の先行き不透明感が増していることから投資家がリスク回避姿勢を強め、売りが優勢となった。
欧州や米国が制裁としてロシアの航空機に対する領空の閉鎖を決定し、世界の航空便に影響が広がっている。航空機のボーイングが売られ、相場全体を押し下げた。IT関連銘柄にも売りが出た。
ハイテク株主体のナスダック総合指数も反落し、214・08ポイント安の1万3537・94。他の個別銘柄では、ITのセールスフォース・ドットコムや半導体のインテルの下落が目立った。小売りのウォルマートは買われた。
●ロンドン株3日 大幅反落 ウクライナ情勢の長期化を懸念 3/4
3日のロンドン株式市場で、FTSE100種総合株価指数は大幅に反落した。前日に比べ190.71ポイント(2.57%)安の7238.85で引けた。ロシアがウクライナへの攻撃を強めており、紛争の長期化が意識されている。欧米の対ロ経済制裁による世界経済への悪影響を懸念した売りが出た。エネルギーや銀行など景気敏感セクターへの売りが目立った。
●日経平均、反落で始まる ウクライナ情勢巡る不透明感が重荷 3/4
4日の東京株式市場で日経平均株価は反落して始まった。始値は前日比155円42銭安の2万6421円85銭。前日の米株式市場でウクライナ情勢を巡る不透明感などから主要株価指数が下落し、東京市場でも運用リスクを回避する動きが先行している。
●小麦先物、14年ぶり最高値更新 ウクライナ情勢に警戒感 3/4
小麦の国際価格が約14年ぶりに史上最高値を更新した。国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)は日本時間4日午後に1ブッシェル13.4ドルと、2008年2月の高値(13.3ドル)を上回った。ウクライナ情勢の緊迫で小麦の供給が減るとの警戒感が一段と高まっている。
ロシアとウクライナの小麦輸出量は世界全体の約3割を占める。ロシアがウクライナに侵攻して以降、小麦は値幅制限いっぱいまで上げるストップ高の展開が目立っている。4日にはウクライナ南部ザポロジエにある原子力発電所が、ロシア軍の砲撃を受け火災が発生したと伝わり、小麦市場でも供給不安が強く意識された。
●金販売価格が最高値更新 ウクライナ情勢悪化で  3/4
地金大手の田中貴金属工業(東京)は4日、金小売価格の指標となる1グラム当たりの販売価格を税込みで前日より43円値上げし、過去最高額の7958円と決めた。ウクライナ情勢の悪化が要因。
2日にそれまでの最高値を更新し、3日は小幅に下落していた。8千円の大台に迫る勢いとなっている。安全資産とされる金は有事に値上がりする傾向がある。

 

●プーチン大統領の側近たち この戦争はどういう顔ぶれが遂行しているのか 3/5
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、孤独な印象を与える。ロシア軍をハイリスクな戦争へと導き、自国経済を破綻の危機にさらしている。プーチン氏は最近、用意周到に準備された2つの場面で、取り巻きたちと会った。対面したのは側近中の側近だったが、常にかなりの距離を取って座っていた。プーチン氏がこれほど孤立して見えたのは、かつてないことだった。軍の最高司令官として、ウクライナ侵攻の究極の責任は大統領にある。しかしプーチン氏は、きわめて忠実な側近たちを常に頼りにしてきた。その多くは彼と同様、ロシアの治安当局でキャリアをスタートさせた。そして大統領としての命運がかかる、のるかそるかの今、プーチン氏はいったい誰の話になら耳を傾けるのだろう。

プーチン氏が誰かを選ぶとすれば、長年の腹心、セルゲイ・ショイグ国防相だろう。ウクライナを非武装化し、ロシアを西側の「軍事的脅威」から守るというプーチン氏の主張を、そっくりなぞってきた人物だ。
大統領のシベリアへの狩猟や釣りの旅に同行してきた。かつて、後継候補の1人に考えられたこともある。
だが、下の驚異的な写真を見てほしい。ショイグ氏はテーブルの反対側で、軍トップと並んで座っている。プーチン氏がその発言をどれだけ聞き入れるのか、疑問に思わずにはいられない光景だ。
この写真は、攻撃開始から3日目に撮影された。ウクライナ側の予想外の抵抗に遭い、軍の士気が下がっている渦中だった。
「この時点で本来、ショイグはすでにキーウ(キエフ)に向けて進軍しているはずだった。国防相なのだから、勝利は彼の役目だった」。武力紛争に詳しいヴェラ・ミロノワ氏は言う。
ショイグ氏はロシアで、2014年のクリミア併合の立役者とされていた。軍参謀本部情報総局(GRU)のトップでもある。GRUは、2018年に英ソールズベリーで起きた毒殺事件と、2020年にシベリアで起きた反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件の、2件の神経剤を使った事件に関与したと非難されている。
写真をクローズアップで見ると、さらにひどい。「彼らはまるで誰かが死んだ直後のような表情をしている。葬式のようだ」とミロノワ氏は言う。
写真は実にぎこちない。それでも、ショイグ氏こそ今でも誰より、プーチン氏に影響を与えられる人物のはずだと、ロシア安全保障の専門家で作家のアンドレイ・ソルダトフ氏はみている。
「ショイグは軍を握っているだけでなく、イデオロギーも部分的に握っている。ロシアでイデオロギーとは、ほとんどが歴史に関するもので、その語られ方をコントロールするのがショイグだ」

ウクライナに侵攻して素早く任務を達成すること。それが、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長の役目だった。その点からすれば、ゲラシモフ氏は役割を果たしていない。
1999年のチェチェン戦争で軍を指揮して以来、プーチン氏の軍事行動で主要な役割を担ってきた。ウクライナ作戦の立案でも先頭に立ち、先月ベラルーシであった軍事演習を監督した。
ロシア専門家マーク・ガレオッティ氏が「ニコリともしない、いかつい大男」と呼ぶゲラリモス氏は、クリミア併合の軍事作戦でも重要な役割を果たした。
一部報道では、ウクライナ侵攻の立ち上がりが速やかに進まず、軍隊の士気も下がっていると伝えられていることを受け、彼はわきに追いやられたとされる。
しかし、前出のソルダトフ氏は、楽観的な見方だと指摘する。
「プーチンが全ての道路と全ての大隊を支配するわけにはいかない。それはゲラシモフの役目だ」。
ソルダトフ氏はまた、ショイグ国防相は軍服が大好きかもしれないが、軍人としての訓練を受けていないため、職業軍人を頼りにせざるを得ないのだと話す。

「パトルシェフはタカ派中のタカ派だ。西側は常にロシアをやっつけようとしているという考えの持ち主だ」と、英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンでロシア政治を研究するベン・ノーブル准教授は話す。
ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記は、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクがまだレニングラードと呼ばれていた1970年代から、プーチン氏に忠誠を尽くしてきた3人のうちの1人だ。
残り2人の強固な支持者は、アレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官と、セルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官だ。大統領の取り巻きは「シロヴィキ」、つまり執行人として知られるが、それらの中でもこの3人組は距離はひときわ近い。
大統領に対してパトルシェフ氏ほどの影響力をもつ人はわずかだ。共産国のソビエト連邦時代に国家保安委員会(KGB)でプーチン氏と一緒に働いただけでなく、後継組織のFSBの長官をプーチンから引き継ぎ、1999年から2008年まで務めた。
アメリカの「明確なゴール」はロシアの解体だとする自らの見解を、パトルシェフ氏が前面に押し出したのは、侵攻3日前に開かれたロシアの安全保障会議でのことだった。
その会議は、実に稀有な見世物だった。机の後ろに座った大統領が法廷を開き、安全保障チームの1人ひとりが演台まで歩いて行って、ロシアが支援するウクライナ反政府勢力の独立の承認について、各自の意見を表明した。
パトルシェフ氏はこの試験に合格した。「彼は軍の士気を鼓舞するような発言をよくする。過激なパトルシェフの立ち位置に、プーチンが近づいて行った感がある」と、ノーブル准教授は話す。

クレムリンの内情を追っている人たちによると、大統領が最も信頼する情報は、保安当局からのものだという。アレクサンドル・ボルトニコフFSB長官は、プーチン氏の最側近の1人とみられている。
彼もレニングラードKGB時代からのベテランで、FSB長官をパトルシェフ氏から引き継いだ。
どちらも大統領とは関係が近いことで知られる。だが、前出のノーブル准教授はこう指摘する。「誰が采配を振るい、誰が決定したのか、確実なことは言えない」。
FSBは警察に多大な影響力をもっている上、独自の特別隊も抱えている。
彼は重要人物だが、他の側近たちのようにプーチン氏に異論を唱えたり、助言をしたりする役目ではないと、前出のソルダトフ氏は考えている。

レニングラードの亡霊3人組の最後が、セルゲイ・ナルイシキン対外情報局(SVR)長官だ。キャリアの大部分を大統領の近くで過ごしてきた。
しかし、ナルイシキン氏は、侵攻3日前の例の安全保障会議で政府方針から外れた発言をした。そして、プーチン氏から厳しく叱責された。これは、どう理解すればいいのだろうか。
ナルイシキン氏は当時、現状認識を問われると、動揺して発言を間違えた。そして大統領に、「今はそんな話はしていない」とにべもなく告げられた。
長時間にわたった会議は、編集された上でテレビ放送された。つまり、あの映像が流れたということは、なじられて気まずそうにするナルイシキン氏の様子を視聴者に見せようというのが、クレムリンの判断だったのは明らかだ。
「衝撃的だった。(ナルイシキン氏は)ふだん信じられないほど冷静で落ち着いている。なので、これは何事かと見ていた人は思ったはずだ」と、ノーブル准教授はBBCに話した。ロシア専門家のガレオッティ氏は、会議全体の寒々しさ、とげとげしさに驚いたという。
だが、作家のソルダトフ氏は、大統領はただあの場を楽しんでいたに違いないと考えている。「プーチンは、側近をからかうのが大好きだ。あえて(ナルイシキン氏を)ばか者のように見せたはずだ」。
ナルイシキン氏は長年、プーチン氏に追随してきた。1990年代にはサンクトペテルブルクで、2004年にはプーチン政権で、そしてついには国家院(下院)の議長にもなった。ロシア歴史研究会の代表でもあり、プーチン氏の行動にイデオロギー面で根拠を与えるという非常に重要な役割も果たしていると、ソルダトフ氏はみている。
ナルイシキン氏は昨年、スティーヴ・ローゼンバーグBBCモスクワ特派員のインタビューに応じた。ロシアは毒物で人を襲ったり、サイバー攻撃をしかけたりしていないし、他国の選挙に干渉してもいないと主張した。

セルゲイ・ラヴロフ外相(71)は18年間、ロシアで最高位の外交官を務めている。意思決定には大きな役割を担っていないとされながらも、ロシアの主張を世界に発信してきた。
ラヴロフ氏もまた、プーチン氏が自分の古い知り合いを重用していることを示す存在の1人だ。
外相は、権謀術数にたけたやり手だ。2月半ばには、訪ロしたリズ・トラス英外相にロシア地理に関するひっかけ質問をして、その知識不足をあざ笑った。昨年は欧州連合(EU)のジョゼップ・ボレル外交政策上級代表に、恥をかかせようとした。
しかし、ラヴロフ氏はもう長いこと、ウクライナ関連の政策決定からは遠ざけられている。さらに、不機嫌で敵対的という評判にもかかわらず、今回はウクライナに関して外交協議の継承を提唱した。そのため大統領は彼を無視することにした
国連人権理事会の会合で、外相がビデオ演説でロシアの侵攻を擁護しようとした時、ほとんどのメンバー国は退席した。だが、彼はそれを気にかけてはいないだろう。

ワレンチナ・マトヴィエンコ連邦院(上院)議長は、プーチン側近の中では珍しく、女性だ。ロシア軍の海外派遣が上院で簡単に議決されるのを監督し、侵略への道を開いた。
彼女もまた、サンクトペテルブルク時代からのプーチン支持者だ。2014年のクリミア併合でも舵取りを支えた。
ただ、彼女は主な意思決定者の1人だとは考えられていない。とはいえ、クレムリンでいったい誰が采配を振るい、大きな決断を下しているのか、自信をもって言える人はほとんどいない。
ロシアの安全保障会議の他のメンバー同様、彼女の役割は、ロシア指導者がすでに決心している可能性が高い状況で、集団的な議論をしたとの印象を与えることだった。

ヴィクトル・ゾロトフ国家親衛隊隊長は、大統領の元ボディガードだ。プーチン大統領がわずか6年前、まるでローマ皇帝のように自分の親衛隊として結成した、国家親衛隊「ロスグヴァルディア」を率いている。
大統領は、自分の個人的なボディーガードをこの親衛隊のトップにすることで、自分に絶対的に忠実な組織を作り上げた。ゾロトフ隊長のもと、親衛隊の隊員は40万人に上ると言われる。
前出のミロノワ氏は、ウクライナに対するロシアの当初計画について、たった数日で侵攻を完了させる予定だったと考えている。ロシア軍の作戦遂行が失敗している様子を見せた時、代わりに国家親衛隊が指揮を執るようになったとようだという。
ただし、国家親衛隊の率いるゾロトフ氏は、軍人としての訓練を受けていない。加えて、親衛隊は戦車が持たず、攻撃に弱い。
プーチン氏はほかに誰の意見を聞くのか
ミハイル・ミシュスティン首相は、経済の立て直しという不運な任務を担っているが、今回の戦争に関する発言力はほとんどない。
政治アナリストのエフゲニー・ミンチェンコ氏によれば、モスクワ市のセルゲイ・ソビャーニン市長と、国営石油大手ロスネフチのトップ、イーゴリ・セチン氏も大統領に近いという。
大統領の幼なじみだった富豪のボリスとアルカディのローテンブルク兄弟も長年、側近中の側近となっている。米フォーブス誌は2020年、彼らをロシアで最も裕福な一族に選出した。
●ロシアはなぜ戦争に踏み切ったのか? ロシア軍ウクライナ侵攻の裏側 3/5
2月24日、ウクライナへのロシア軍侵攻が開始されました。ロシア・プーチン大統領が侵攻に踏み切った背景。そして、今回の戦争に対して世界はどう反応するのか?ロシア軍ウクライナ侵攻、その裏側に迫ります。
ロシア軍指揮官の人物像
ロシア側の軍事作戦をすべて指揮しているのが、プーチン大統領の懐刀と言われ信頼も厚い、ロシア軍トップのゲラシモフ参謀総長です。自衛隊トップとしてゲラシモフ氏と何度も会談した人物、3年前まで統合幕僚長を務めていた河野克俊氏にゲラシモフ氏の人物像を伺いました。
――ゲラシモフ氏はどんな人物?
河野克俊・前統合幕僚長 / 非常にエネルギッシュでパワフル、そしてプーチン大統領に対する忠誠心が非常に強い人です。ある意味、戦略家ですよね。もともと戦車が専門の人ですが、幅広い(知識がある)人です。接した感じは非常に素朴な雰囲気ですが、ある種の底知れぬところを持った人物でありました。
2013年、ゲラシモフ氏は従来の戦争の概念を覆す戦略を打ち出しました。「未来の戦争は、情報戦など非軍事的手段が軍事力の行使と同じくらい広く用いられ、境界はますます曖昧になる」という「ゲラシモフ・ドクトリン(原則)」です。
この新戦略は2014年のクリミア半島併合の際に実行され、今回の戦いにも適用されたと河野氏は見ています。
河野氏 / サイバー攻撃やフェイクニュースなど正規軍以外を駆使して戦うハイブリッド戦と言われる戦い方です。(ハイブリッド戦の特徴は)まずはサイバー攻撃であらゆるシステムをダウンさせます。そしてフェイクニュースを流したり、電波妨害をかけます。正規軍以外を駆使しながら、最終的には(クリミア半島を)抑えました。今もそういう戦術を常套手段として実行しているのではないでしょうか。
今回のロシア軍侵攻の直前、ウクライナ政府機関のホームページが閲覧できなくなりました。また、親ロシア派によって、東部ドネツク州でウクライナ兵に攻撃されたとする動画が投稿・拡散されていると言います。
河野氏は今回のハイブリッド戦について、かなり前から計画されたものだと読んでいます。
河野氏 / 2月は道路が凍結しているため戦車を動かすことができます。そのため(昨年)10月から2月、3月を狙って部隊を展開し、NATOやアメリカとの交渉も行いながら交渉決裂しても軍事的な行使が行える今の時期を選んだと思います。
さらに、軍事行動に出てもアメリカは直接介入できないと判断したのではと、河野氏は見ています。
河野氏 / ロシアは核大国です。もしアメリカが介入するとなると(第二次世界大)戦後、初めて核保有国同士の超大国が衝突することになります。展開によっては核戦争までエスカレートする可能性も秘めているのです。
プーチン大統領の狙いはどこにある?
2月24日、プーチン大統領は特別軍事作戦を発表したテレビ演説の中で「我々の抗議に対してNATOは拡大し続けた。NATOはアメリカの道具だ」と強調しました。
外務省で長年ロシア畑を歩んできた東郷和彦氏は、ロシアと対立するNATOを繰り返し批判したプーチン大統領の考えについて、次のような分析をしています。
静岡県立大学グローバル地域センター・東郷和彦客員教授 / (プーチン大統領は)間違いなく、ソ連が持っていた大国感を復活させたいんだと思います。ロシアは尊敬に値し、物事の決定の中心にいるべき国なんだと考えているのではないでしょうか。
第二次世界大戦後、アメリカとソ連はNATOとワルシャワ条約機構という2つの軍事同盟によって対立を極めていました。しかし、1991年にソ連崩壊とともにワルシャワ条約機構も廃止されました。
――ロシアはワルシャワ条約機構解体に伴い、当然NATOも解体するだろうと考えた?
東郷教授 / ロシアの立場からすれば当然そう考えます。平和を希求し、市場経済を形成する民主主義国に向かっていくのだから、もう西側と敵対する必要がないためワルシャワ条約機構をやめますと言いました。
しかし、NATOは存在し続けました。さらに、プーチン大統領の考えを推し量る上で重要なのが、1997年にロシアとNATOの間で合意された基本文書だと言います。
東郷教授 / これからロシアとNATOは敵ではないという、ロシアを含めた新しい組織を作りましょうという合意に至りました。それにもかかわらず、旧ソ連圏の国が次々とNATOに加盟し勢力を東方に拡大します。そして、かつての“兄弟国”であるウクライナまでがNATOへの加盟を求めました。
こうした動きにプーチン大統領は「NATOは1インチも東に拡大しないと約束したが、我々は騙された」と怒りをあらわにします。
東郷教授 / その後のさまざまな経緯のなかで、NATOは今、ロシアのみを排除するヨーロッパの安全保障を作ろうとしています。(ロシアが)一番弱い時期に10年、お互い歩み寄りました。しかし、その10年の間で耐え難いところまで押し込んできたのはヨーロッパだとプーチン大統領は主張しています。
プーチン大統領は現在もNATOの軍備を1997年の水準に戻すよう要求しています。
――客観的に見るとウクライナがNATOに加盟できるとして10年くらいかかるであろうと言われている状況で(ロシアは)なぜ前のめりになったのか?
東郷教授 / 今までウクライナがNATOに加入できていないのは、NATOの運営規程の中に「民族問題を抱えてる国は入れない」と書いてあるためです。
ウクライナには親ロシア派が支配する「ドネツク」「ルガンスク」という2つの地域があり、民族問題を抱える国としてすぐにNATOに加盟できる状況ではありませんでした。しかし、この2つの地域が独立した国となって切り離されると、ロシアにとって都合の悪い状況になると東郷氏は言います。
東郷教授 / ドネツクとルガンスクがウクライナから離れた場合、ゼレンスキー大統領としては自分の管轄の中から異分子がいなくなるわけです。そうなると、ウクライナの民族問題が解決し、NATOに加入しやすい状況になります。だから手遅れになる前の今、手を打つしかないと考えたのではないでしょうか。
世界はどう反応する?世界各国で反戦デモ
今回のウクライナ侵攻に対してはロシア国内でも反対の声が上がっています。モスクワなどロシア全国の40か所以上で反戦デモが行われました。しかしながら、治安当局はデモを厳しく取り締まり、1700人以上が拘束されました。(2月26日時点)
さらに、ロシアの著名人たちからも反対の声が上がっています。
平昌五輪フィギュアスケート女子・銀メダリストのメドベージェワ選手は「悪い夢のように、一刻も早く全てが終わることを願っています」とインスタグラムに投稿しました。
ノーベル平和賞を受賞した独立系メディアの編集長・ムラトフ氏は「悲しみとともに恥を感じる」と表明しています。
さらに、ロンドン、パリなど世界各地で反戦デモが行われ、ニューヨークや渋谷では、ロシア出身の人たちも集まり抗議の声をあげています。
ニューヨーク・デモ参加者 / 私の家族はロシアとウクライナの国境近くに住んでいます。家族、そしてウクライナの人たちを助ける方法がわかりません。
渋谷・デモ参加者 / ウクライナは私の一部なんです。私の母はウクライナ人です。日本でいうならこの戦争は、東京都民と京都府民が戦争をするのと同じことです、絶対反対です。
ウクライナ人が代表を務める大阪市のベンチャー企業「ゼンマーケット株式会社」でも、反戦デモを行う準備を進めているといいます。
ゼンマーケット(株)代表取締役 スロヴェイ・ヴィヤチェスラブ氏 / これから大阪で戦争反対のデモを行いたい。メディアの力も借りながら、ウクライナの立場を主張したい。
同代表取締役ナウモヴ・アンドリイ氏 / 非常に腹立たしい気持ちです。宣戦布告もせず、しかも一般国民が避難する時間を1分も与えてもらえず、攻撃したことは決して忘れることはないです。許すこともできないです。
ゼンマーケット(株)にはロシア人社員も在籍しています。ロシア国内のデモで多くの人が拘束されたこともあり、顔を隠すことを条件に取材に応じていただきました。
ロシア人の社員 / 日本にいるロシアの友達はみんな戦争反対と声を上げています。ウクライナとロシアは兄弟国なのでロシア人だからこそ、本当に毎回ニュースを見るたびに心が裁かれたような感じになります。
アメリカ・NATOはどう動くのか?
2月24日、アメリカ・バイデン大統領は「米軍はウクライナにおけるロシアとの紛争には関与しない」と表明しており、NATOもアメリカ同様、加盟国でないことを理由にウクライナには派兵しないと表明しています。
NATOで副事務局長、アメリカ国務省で国務次官を務めたローズ・ゴットモーラー氏は 「たくさん兆候はありましたが、軍事侵攻は回避できるのではという希望を持っていました」と語っています。
2月14日には、ロシア・ラブロフ外相はプーチン大統領に対して、NATOとアメリカとの交渉を続けるよう提案していたと言います。
ゴットモーラー氏:あのときはプーチン大統領も「分かった、OK」という感じで外交による解決を図る姿勢でしたが、その週末のどこかの時点で考え方が変わり、ウクライナへの恐ろしい行動に出る決断をしてしまったのです。
その変化を示すように週が明けるとプーチン大統領は「今日の安全保障会議の主な目的は、我々の同胞に話を聞いて方向性において次のステップを決めることです」と発言し、安全保障会議で閣僚ら1人1人に、ウクライナのドネツクとルガンスクを独立国家として承認するか確かめる場面が放送されました。
ゴットモーラー氏 / 今こそ侵攻する時期だという判断に至ったのだと思います。今回のことはロシアではなく、ウラジミル・プーチンが望んだことなのです。ロシアの指導部が正気を取り戻し、少なくとも以前の状態に戻す必要があるという判断に至ることを願っています。でも、私には孤立への道を突き進んでいるように見えます。
カギを握るとされる中国はどう動くのか?
国際社会が相次いでロシアを非難するなか、カギを握るとされるのが中国の存在です。
汪文斌・報道官は「ウクライナ問題には歴史的経緯があり、ロシアが安全保障に合理的な懸念を持っていることはわかります」と発言しています。2月4日には、北京オリンピックの開会式に合わせて行われた中ロ首脳会談において「NATOのさらなる拡大に反対する」と共同声明に明記するなど、結束を強めていました。
しかし、在中国日本大使館の参事官などを務めた経験もある日本国際問題研究所客員研究員・津上俊哉氏は中国の姿勢は定まっていないと指摘しています。
――ロシアの侵攻を中国政府、中国のトップたちはどのように受け止めているのか?
津上氏 / 中国のウクライナに関する対処方針、ものの見方がブレたのでは?という感じがします。
津上氏がこのように指摘するのは、2月19日に開かれた各国首脳らが外交上の懸案を話すミュンヘン安全保障会議で、中国・王毅外相が「各国の主権や独立、領土の保全は尊重されるべきで、ウクライナも例外ではない」と発言したためです。
津上氏 / 王毅外相は、明らかにロシアの行動に釘を刺すような発言をしました。これは、欧米の反発が想像を超えていたため「お前らやっぱりグルの悪党だ」という感じで見られると、ものすごく中国の立場が悪くなるため軌道修正した方がいいということになったようです。
もう1つ、ウクライナは中国が打ち出す経済圏構想「一帯一路」に参加しており、空母「遼寧」を中国に売却するなど、中国とウクライナには深い関係があることも王毅氏の発言の背景にあると見られています。
しかし、王毅氏の発言の5日後、ロシアは軍事侵攻を開始してしまいました。
津上氏 / 中国が仮に「ロシアは軍事侵攻するぞ」とロシアの動きを読めていたのであれば(NATOを牽制する)共同声明は出さなかったはずです。「ロシア、そこまでやるの?」という“裏切り”ではないものの、“読み違え”が生じたため、中国側としては少しアタフタする感覚があるのだと思います」
さらに、アメリカの出方次第では中国の台湾政策にも大きく影響すると津上氏は見ています。
津上氏 / 中国はアメリカ主導の国際秩序、アメリカの覇権を終わらせるんだということに強い情念があります。そのため、今回のロシア侵攻でアメリカの出方を確認したいようです。「ほら見ろ。やっぱり(アメリカは)ここまでしかできなかった」と確認出来たとすると、台湾問題でも(中国の)強硬派は「ガッツを見せろ」と、執行部に圧力をかけるということがおそらく間違いないことだと思います。
●プーチン大統領の思惑は?  3/5
ロシアがウクライナに侵攻して1週間余り。旧ソビエト時代から長年、ロシア取材をし、プーチン大統領にも詳しい石川一洋解説委員に、プーチン大統領の思惑と今後の見通しを分析してもらいました。
そもそも、今回の侵攻は予想できましたか?
あるかもしれないと思いつつ、いやそんなことはありえないとしてきたのが正直なところです。衝撃を受けています。私は1月27日の時論公論で「大ロシア主義に基づく考え方でプーチン大統領が動く場合、本格侵攻するおそれは残念ながら排除されない」と述べました。そして「ロシアとつながりの深い東部でもロシア軍は激しい抵抗を受け、欧米も厳しい経済制裁を取るでしょう。侵攻はロシアの国際的な孤立を深め、アフガニスタンのような長期的な泥沼の戦争になる可能性もあるのです」とも指摘しました。ただ私はそれだからこそプーチン大統領は大きなリスクを冒してまで本格侵攻はしないと思い、また願っていました。侵攻したあとの状況は当時私が指摘したようなものとなっているのですが、逆にプーチン大統領はどのような情勢分析に基づいて軍事侵攻を決定したのか、核大国の指導者が客観的な情勢判断をできなくなっているのではないか、今は恐ろしくなっています。
プーチン大統領の思惑はどう分析?
当初のプーチン大統領のねらいでは、早期決着を考えていたのだと思います。今頃は、すでに首都キエフをおさえて、ウクライナのゼレンスキー大統領など閣僚をモスクワのクレムリンに呼び寄せ、ロシアに有利な条件で交渉を合意させようと考えていた可能性があります。私は、1968年の「プラハの春」を、当時のソビエトが力でつぶしたことが頭に浮かびました。今回も同じようなことを考えていたのかも知れません。武力介入で他国の民主化を潰す手法です。ちなみに「プラハの春」とは1968年、ソビエトの同盟国で社会主義国だった、当時のチェコスロバキアの首都プラハで起きた民主化運動のことです。これをソビエトがほかの東ヨーロッパ諸国とともにチェコスロバキアに軍事介入し、抵抗した多くの市民を弾圧し、ドプチェク書記長ら改革派の指導部をモスクワに連れ去り、クレムリンで改革を断念する「モスクワ議定書」に調印させました。
侵攻して1週間が過ぎましたが?
そういう意味では、プーチン大統領の当初のねらい、思惑は外れた可能性が高いとみられます。その要因の一つに、ウクライナ国民の予想外の抵抗というのが考えられます。プーチン大統領は、ウクライナを“兄弟国家”と呼び、去年7月に発表した論文の中でもロシアとウクライナ人は同じ民族ということを述べています。ウクライナ側もそれに近い感覚だと思っていたのかもしれません。特に、東部の地域では、2014年の時にクリミアを併合した時のように、歓迎されるのではないかとさえ思っていたのかも知れません。
ウクライナはロシアをどうみてるの?
一方、ウクライナはそうした“兄弟意識”はなくなったとみられます。ソビエトが崩壊してこの30年間で、当初はあいまいだったウクライナ国民という意識がつくりあげられたということです。ソビエト連邦を構成した国々は独立したあと、曖昧だったみずからのアイデンティティをそれぞれの国で確かなものにしていくというプロセスをそれぞれの国が事情に合わせて進めていったのです。国民国家になるプロセスと言えます。ソビエト連邦という巨大な帝国から一つの普通の国民国家に向かう。それは簡単なものではないのです。皮肉なことに、ロシアがウクライナへその影響力を及ぼそうとすればするほど、ウクライナの人たちのそうした意識をより強固にしているのかもしれません。実際に、ロシア侵攻後のウクライナの人たちのロシアへの非難、激しい反発の声でもそうしたことがうかがえます。またプーチン大統領はゼレンスキー大統領をコメディアン出身の政治経験のない大統領と見くびったのかもしれません。しかしゼレンスキー大統領は勇気とまさにコメディアン出身のコミュニケート能力を生かして国際社会と国民の支持を集めることに成功しました。彼の支持率は今や90%を超えています。
プーチン大統領が恐れることは?
長期化ですね。ソビエト連邦が崩壊した一因となったアフガニスタンに侵攻した時のように。アフガンスタンの侵攻では、旧ソビエトは激しい抵抗にあって戦況は泥沼化しました。戦死者が増え続ける中、国民は戦争の大義名分に疑問を抱き始め、かさむ戦費は国家財政を圧迫し、ソビエト崩壊の一つの原因となったと言われています。今回も、ウクライナの激しい抵抗や国際社会の徹底した制裁が長期化すれば、プーチン政権体制そのものが危うくなる可能性があります。
ゼレンスキー大統領の苦悩は?
ゼレンスキー大統領は国民に徹底抗戦を呼びかけています。しかしこの若い指導者の肩にどれほどの責任と重圧が圧し掛かっているのでしょうか。徹底抗戦をすることは、国民や若者の死にもつながります。ロシア軍の軍事的な優位はアメリカも認めています。侵略者に対する正義の戦いを継続する。自由と民主主義を守るために戦う。その道もあります。ただ仮にこの状態が3年、4年、5年と長期化すれば、人も街も徹底的に破壊されるおそれがあります。それはあまりにも犠牲が大きすぎます。徹底抗戦か、それとも何らかの妥協か、深い苦悩があるでしょう。日本を含めG7はゼレンスキー大統領をいかなる場合も支えなければならないでしょう。さらに、懸念されるのは状況がエスカレートすることです。たとえば第一次世界大戦でも、きっかけは1914年6月のサラエボ事件で、そこからエスカレートして世界大戦になってしまいました。当初は誰もこんな大戦争になるとは思っていなかったはずです。ウクライナ侵攻後、プーチン大統領が「核のカード」をちらつかせていますが、これも非常に危険なことです。
エスカレートさせないためには?
プーチン大統領が何を考えているのか、その意図が読めないことが最大の不安です。戦争を止めるためにはプーチン大統領を説得しなければなりません。彼が誤った無謀な暴挙を続けるのであれば、ウクライナは戦うしかないでしょう。ただプーチン大統領を思いとどまらせるためには彼との対話の窓口を閉ざしてはなりません。ブレーキ役、まとめ役、仲裁役が必要です。2008年にロシアがジョージアに軍事侵攻した際には、当時のフランスのサルコジ大統領が、2014年のクリミア侵攻の際には、当時のドイツのメルケル首相がそうした役割を担いました。今回は今のところ、そうしたEUのリーダーが見えてこないことも心配です。アメリカとロシアの間で何かしらの交渉のチャンネルがあるといいのですが。もしかしたら対ロシア経験がもっとも豊富なバーンズCIA長官が裏チャンネルを担っていればとも考えるのですが、これは希望的な観測です。
プーチン体制はどうなるの?
プーチン大統領はもともと国民が何を求めているのか、思っているのか、感じる能力が非常に高いポピュリストです。2000年大統領に就任した時は「安定」を掲げました。変化に疲れたロシア国民はプーチンを支持しました。その後も一貫して高い支持を得ていた要因でもあります。ところが、ここ数年、そこにずれが生じてきているように感じます。2012年に大統領に戻って、その後、クリミア併合で一時的に支持率が上がりましたが、2018年の大統領選挙の時には、かつての熱狂的な支持は感じられませんでした。結果的には選ばれましたが消極的な支持という感じです。国民は安定とともに何らかの変化を求めているのに、プーチンは変化を示すことができない。安定が停滞になってしまっている。国民に、次の世の中をこうするという見通しが示せずに、国民とのずれに気付かずに、ウクライナ侵攻に踏み切ったおそれもあります。ロシア国民の間で、プーチンを支持していた人々の中にも今回の戦争には「なぜ兄弟であるウクライナと戦争するの」という素朴な疑問が広がっています。もしかしたらプーチン体制の終わりの始まりとなるかもしれません。
●アメリカが見せたインテリジェンスの威力 3/5
「まさか」、「ありえない」。 世界の虚を衝いたロシアによるウクライナ侵攻。世界中が見ている中でいともあっさりと一つの主権国家が蹂躙されていく惨劇を見ながら、得体の知れない胸騒ぎと焦燥感のようなものを感じるのは戦いの壮絶さからだけではない。明日は我が身だからだ。ウクライナ侵攻の裏側で繰り広げられていた情報戦についてシリーズでお伝えする。第1回は、侵攻前夜の動きについて詳報する。
「“王 プーチン”を知らしめる」会議 ―歴史的暴挙への連帯責任
「絶対にNOとは言えない会議」、とでも言えばいいのだろうか。2月21日のロシア国家安全保障会議の議題は、ウクライナ東部にあるロシア系武装組織が支配する地域「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認するかどうか。世界に向けて配信された会議にはなんとも異様な空気が漂っていた。
一人、ポツンとテーブルに座るプーチン大統領。そのほかの出席者たちはというと、20mは離れたところに並べられた椅子に神妙な表情で座ってプーチン氏の独白のような進行を見守っている。
「わざと側近たちを離れた場所に座らせて自分が王だということを国民に知らしめる設定」(米情報機関幹部)とも、新型コロナを警戒しての設定ともいわれる謎の配置だ。
プーチン大統領はスピーチが終わると、次々と出席した幹部を指名して、ドネツクとルガンスクの独立を承認すべきかどうか、意見を言わせていく。答えは承認しかない。忖度するまでもない。ウクライナ侵攻を正当化するために、“独立国となった”ドネツクとルガンスクからの依頼を受けて、ロシア軍は同地域の平和維持に駆けつけて併合する、という見え見えのシナリオが用意されている。独立の承認はそのシナリオの実現に向けて不可欠なセレモニーだ。
この会議、映像からは出席者たちが極度の緊張感に包まれていることがわかる。それもそのはず、この21世紀の世界においてこれまでに積み上げてきた秩序と規範、ルールを踏みにじるウクライナに対する一方的な侵攻という歴史的暴挙の連帯責任を問うものだからだ。世界が見ている前で一人一人に独立承認への賛意を宣言させることで、後から「実は私は侵攻に反対だった」などと言わせないことがこのセレモニーの目的だ。「絶対にNOとは言えない」空気の中でハプニングを起こしたのは、スパイ機関、SVRのトップだった。
SVRとは泣く子も黙るロシアを代表する対外情報機関で、アメリカや日本を含む世界各国にスパイを送り込んで諜報活動をおこなっている。かつてのKGBの流れを汲む後継組織でもある。そのトップがなんと「独立を支持する」と言うべきところを「併合することを支持する」と口走ってしまったのだ。よほど緊張していたのであろう、思わず裏で検討している本当のシナリオをカメラの前で口にしてしまったかのような発言に、プーチン氏はいら立ちと侮蔑の表情で「今はそんなことを議論していない」と一喝した。このSVRトップの今後の無事を祈りたくなる会議はウクライナ侵攻の号砲となった。
アメリカのインテリジェンスの威力
侵攻開始に向けて着々と、ある意味、見え見えとも言える環境整備をロシアが進める一方で侵攻を受ける側の当のウクライナには最後まで「まさか、そんなこと」という空気が残っていた。ロシア軍17万人が目の前の国境沿いに集結しているにもかかわらず、ウクライナは「パニックを起こす情報は我々の助けにならない」(2月12日ゼレンスキー大統領)、「侵攻が迫っている兆候はない」(2月20日レズニコフ国防相)という姿勢を崩していなかった。
そうした中、ある国だけはロシアの大規模侵攻を正確に、しかも前の年の11月から訴えていた。アメリカだ。
ここに1枚の図がある。去年12月3日付のワシントン・ポストが報じたアメリカの情報機関作成の文書とされるものだ。ウクライナ国境沿いにロシア軍17万5千人が集結していることを伝えている。この文書の分析が秀逸なのはロシア軍部隊の規模がほぼ実際の侵攻時の規模と一致しているのみならず、東部ドネツクだけでなく、首都キエフ方面を含むウクライナ北東および南部からの侵攻ルートも正確に指摘していることだ。当時は多くのひとが軍事侵攻を疑っていたし、軍事侵攻の可能性があると言う人も東部ドネツク地方に限定されるとの見方が主流だった。
衛星画像の画質を落とす「サニタイズ」された公開用の文書になっているものの、2022年早々に軍事侵攻が迫っていることを正確に警告している。軍事侵攻のタイミングについては衛星画像で見える軍の準備状況から逆算したのであろう。当時の大方の予測と真っ向から反しながら、複数の方面からの攻撃を正確に予測できているのは、衛星画像で見える準備状況の分析に加えてロシア軍内の通信を傍受しているからだろう。
恐るべきはアメリカのインテリジェンスだ。その高い能力を「情報のための情報」に留めず(情報を内部で抱えず)、世論とロシアに対して訴えることで侵攻を抑止することに活用していることは特筆すべきだ。
スパイを失っていたCIA
その一方でアメリカ政府は11月から、侵攻の4日前の2月20日までは「軍事侵攻の準備は進んでいるが、プーチン大統領はまだ最終決断していないとみられる」という立場で一貫してきた。これだけの情報が揃っているのになぜか。それはいくら高度なインテリジェンス能力を誇るアメリカの情報機関でも、さすがにプーチン氏の心の中をリアルタイムでうかがい知ることはできないからだ。
2月15日付のニューヨークタイムズがその背景を説明している。アメリカ情報機関に強固な取材源を持つことで知られるデビット・サンガー記者らの記事だ。それによるとCIAはプーチン氏の側近の一人を情報源として獲得することに成功し、正確にプーチン氏の政策決定を把握してきたという。しかし、身の危険を感じた、その人物を2017年にロシアから脱出させてからはプーチン氏の日々の動きを正確に知ることはできなくなった。
ウクライナ侵攻に向けて軍事的準備が進んでいることに危機感をおぼえたアメリカ政府は、11月上旬までにこのインテリジェンスをヨーロッパの主要国とも共有して包囲網を築いたほか、バーンズCIA長官をモスクワに派遣し、アメリカ側の重大な懸念を伝えている。アメリカはその高度なインテリジェンス能力による成果を最大限に活用、公開しながら、なんとか迫りくるロシアによる侵攻を抑止しようとしたのであった。
“ロシア軍一部撤退” 虚偽情報へのカウンター
インテリジェンスを通じて何が起きているのか、相手が何を仕掛けようとしているのか、正確な情報をつかめなければ、外交も交渉も軍事攻撃もできない。偽情報でこちらの行動を操ろうとする悪意ある相手に惑わされるだけである。その典型的ケースが2月15日の「ロシア軍一部撤退か」騒動だ。
ロシア政府報道官はベラルーシでの演習終了を受けてロシア軍の一部が撤退を開始したと発表した。同時にロシア国防省は「クリミアから引き揚げている」とする戦車の映像を公開した。緊張がずっと張り詰めた状況が続くと人間は本能的に「そうであって欲しい」という情報を信じたくなるものだ。日本でも「もしや緊張緩和か」と期待感が高まったが、アメリカ政府は即座にロシアの動きは虚偽であり、むしろ数日の間で最大7千人の増派をロシア軍はしていると反論した。
その後の実際の侵攻をみればロシア軍の発表は明らかな偽情報であり、攻撃に向けて最終準備を悟られないようにするフェイントだ。何も情報がなければ、悪意ある国の情報戦に翻弄され、判断を迷わされることになるといういい例だといえよう。ましてや、インテリジェンスもなく国家として「のるか反るか」の重大決断をするとなれば、ただのギャンブルとしかいいようがない。アメリカは正確にロシア軍の動きを把握できていたからこそ、ロシアによる情報戦にカウンターを打つことができたのだ。
インテリジェンスというパワー 流出したロシア軍の文書
もう一ついい例がある。ロシアとウクライナによる停戦交渉が開始された時も日本の一部では期待感が高まったが、ワシントンでは誰も停戦交渉が成立するとは思っておらず筆者は日本との大きな温度差を感じた。その理由はロシア軍の現地での動きを見ていれば、当面ロシアが停戦を考えていないことは明らかであり、インテリジェンスを通じてそれを認識しているアメリカ政府からも停戦に関する期待感が伝わってくることもなく、アメリカメディアも専門家も停戦交渉には冷淡であったからだ。インテリジェンスとはパワーだ。それがあれば有利に事を進められ、それがなければ、とんでもない悲劇に自らを突入させることになりかねない。
アメリカのインテリジェンス能力の威力をうかがわせる動きはほかにもある。3月2日にSNS上に出回ったロシア軍の作戦計画書の一部とみられる文書。ウクライナ軍が入手したとされる文書でウクライナ国防省も公式フェイスブックでアップしている。そこにはウクライナ侵攻作戦がロシア軍部によって2月18日に承認されたと考えられる押印がある。
また、部隊が使う暗号表とされる文書は、ウクライナ侵攻作戦の期間が2月20日から3月6日と想定されていたことを示すものとなっている。この文書が真正であればロシア軍は2月18日時点で20日から侵攻を開始し、15日間でウクライナ侵攻を完了させる計画だったことになる(真贋の検証は難しいが、ここではこの文書が真正であるという前提で話を進める)。何らかの事情で遅れたのか、結果として侵攻のXデーは20日ではなく24日となった。
ここで注目したいのはロシア軍部が侵攻を承認したとされるのが2月18日という点だ。ワシントン時間2月18日の午後5時にバイデン大統領は会見をホワイトハウスで開いている。そこで突然、「我々にはロシアが首都キエフを含む全土に対して攻撃を開始すると信じるに足るものを持っている」と警告した。「軍事態勢としてはいつでも侵攻があってもおかしくない状況だが、プーチン大統領はまだ最終決断していない」というのが、それまでのアメリカ政府の公式見解だったが、そこから明らかに踏み込んだ表現だったので筆者も驚いたのをおぼえている。
これは何らかの方法でロシア政権内の意思決定をリアルタイムに近い形で把握していることを伺わせる発言だといえる。2月20日付のニューヨークタイムズ電子版は「バイデン大統領の踏み込んだ警告の背景にはインテリジェンス」と報じ、ロシア軍の動きに関するインテリジェンスに基づくもので「高い確信」を持っている、とする米政府高官の言葉を伝えている。正確なインテリジェンスがあれば、最も適切なタイミングで的確なメッセージを打ち出せる、というインテリジェンスの効用を示している。逆に何も情報がなければ、ロシア側の偽情報やフェイントに惑わされながら、ひたすら平和を祈るだけだったかもしれない。
覆ったバイデンの融和路線
他方でインテリジェンスが戦争の到来を告げていたとしても、政治指導者はその表現にあえて「のりしろ」をつけるという政治判断もあり得る。知っていることをそのまま言わず、交渉の余地を残すというやり方だ。
2月20日、プーチン大統領がウクライナ東部のロシア人支配地域の独立を承認しようとする動きを見せていたが、バイデン政権は批判をヒートアップさせることはなかった。前述の通りバイデン大統領は20日の演説で「大規模攻撃に出ると信じるに足るものを持っている」とまで踏み込んだものの、「侵攻が始まろうとしている」と断定しようとはしなかった。逆に侵攻がなければプーチン大統領と首脳会談をおこなう用意があると明らかにする柔軟姿勢をみせていた。
翌21日、ロシアが独立を承認したドネツクとルガンスクに対する制裁が発表されたが、かねてよりいわれていた「強力な制裁」ではなく、ドネツク地域だけに限られた制裁であった。ロシア全体に影響が出るような制裁を明らかに避けた、小出し戦術であった。その日の夕方におこなわれた記者ブリーフィング。その場でNSC(国家安全保障会議)高官も「同地域には2014年からロシア軍が駐留しており、今回、追加派遣があったとしても侵略とは断定しがたい」と、ドネツク進駐は侵攻だとみなさないことを示唆するかのような柔軟発言をし、「融和モード」をさらに演出した。
20日から21日までは明らかにバイデン政権なりのギリギリいっぱいの「融和のバーゲンセール」の期間だといえた。ロシア軍の戦争準備が着々と進み、アメリカ政府もその動きを正確に把握しながらも、バイデン政権は「戦車がその姿を現す最後の瞬間まで外交努力を続ける」(ブリンケン国務長官)と決め、最後の瞬間にプーチン大統領が心変わりして緊張緩和への向かうことに一縷の望みをかけたのであった。緊張緩和のわずかな可能性に賭けて、あえて事態の切迫を伝えるインテリジェンスとはそぐわない融和的な政治ポジションをとったのである。
だが、それは翌22日の朝に一変した。CNNでの生出演で国家安全保障担当次席補佐官が「侵攻がおこなわれつつある」と、対決モードに舵を切ったのであった。午後にはバイデン大統領自身が演説をおこない、「侵攻の始まり」だと一気にトーンを上げた。この時点で24日に予定されていたロシアとの外相会談もキャンセルとなり、ワシントンの空気は一気に開戦モードになっていった。この180°転換ともいえる動きの背景に一体何があったのか。
●オリガルヒたちが、プーチンを「見放す」兆候…「独裁者」の足元が崩れ始めた 3/5
<すべてを失うことを恐れるオリガルヒ(新興財閥)が、一斉に戦争反対の声を上げ始めた。政権打倒は可能だと、暗殺されたリトビネンコの妻は訴える>
ウクライナに侵攻したウラジーミル・プーチン露大統領は南部のザポリージャ原発を攻撃し、支配下に置いた。1986年に起きた世界最悪のチェルノブイリ原発事故を思い起こさせた。抵抗する主要都市を降伏させるため、ロシア軍は民間人を殺害して恐怖を煽っている。ロシア国内では情報統制が敷かれ、戒厳令発動の観測も飛び交い、国外に脱出する人が出始めた。
プーチン氏はロシアが滅びるぐらいなら、世界を先に滅ぼした方がいいという妄想に取り憑かれている。いや自分が失脚するぐらいなら祖国と世界を道連れにしてやると考えているのかもしれない。
2006年11月、ロンドンのホテルでティーに致死性の放射性物質ポロニウム210を入れられ、毒殺された元ロシア連邦保安庁(FSB)幹部アレクサンダー・リトビネンコ氏の妻マリーナさん(60)は夫が死の2日前に残した言葉を思い出す。
「あなたは私を黙らせることに成功したかもしれないが、その沈黙には代償が必要だ。あなたを批判する人たちが主張するように、あなたは野蛮で冷酷な人間であることを自ら示した。生命や自由、文明的な価値観に何の尊敬の念も抱いていないことを示したのだ」
「あなたはロシアの大統領という職責に値しない人間であること、文明的な人々の信頼に値しない人間であることを示した。プーチンよ、1人の人間を黙らすことができても世界中の抗議の声を封じ込めることはできない」
ロシアの工作員によってポロニウム210を混ぜたティーを飲まされ、内部被ばくしたリトビネンコ氏は嘔吐と激痛を訴えて病院に緊急入院した。髪の毛がすべて抜け落ちた。白血球が極端に減少し、免疫システムが壊れてしまったような症状だった。
骨髄不全になり、肝臓、腎臓、心臓が次々と破壊されていった。病室には放射線防護服を着た人が動き回っていた。リトビネンコ氏は政治的な声明というより個人的な感情を、愛するマリーナさんに言い残した。
「核のボタンを押せるのは気の狂った人間だけ」
旧ソ連時代の1978年、ブルガリア出身の作家兼ジャーナリストのゲオルギー・マルコフが足に毒物リシン入りペレットを打ち込まれ、暗殺された。KGB(ソ連国家保安委員会)は暗殺兵器を用意したものの、実際に手を下したのはブルガリアの情報機関だった。アメリカに外交上の攻撃材料を与える暗殺にKGBは乗り気ではなかったとされる。
市民社会の中で放射能兵器を使って英国籍を取得していたリトビネンコ氏を暗殺する命令を下した疑いが持たれるプーチン氏はこの時すでに一線を越えていた。核戦力を「特別警戒態勢」に移行させたプーチン氏が「核のボタン」を押すかどうか。マリーナさんはこうみる。
一斉に戦争反対の声を挙げるオリガルヒ
「気の狂った人間だけが核兵器を使用することができる。もしプーチン氏が狂っているなら核のボタンを押せるだろう。しかしプーチン氏1人でそれができるわけではない。何人かがそのプロセスに関わるだろう」
「少なくとも2人、3人の人間が行動を起こす必要がある。プーチン氏の周りの人間が彼と同じほど狂っていないことを祈るのみだ。プーチン氏はそれをやりたがっているが、彼の周りにいる全員が喜んでやるとは思えない」とマリーナさんは筆者に語った。
ロシアマネーと原油・天然ガス欲しさに、西側はプーチン氏の暴走に目をつぶり続けてきた。プーチン氏批判の急先鋒だったロシア人ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤさん殺害、リトビネンコ氏暗殺、2008年のグルジア(現ジョージア)紛争、14年のクリミア併合とウクライナ東部紛争、18年の市民が巻き添え死した元二重スパイ父娘暗殺未遂事件でも西側はプーチン氏を追い詰めるような制裁は控えてきた。
マリーナさんは「プーチン氏は以前からレッドライン(越えてはならない一線)を越えていたと思う。しかし西側はプーチン氏の攻撃を恐れていたため協力しようとしてきた。彼がどんなひどいことをしてもロシアとのビジネスは通常通り行われてきた」と批判する。
「プーチン氏は西側が弱く、団結してロシアに対抗できないと思い込んできた。彼は自分のしたいようにできると判断した。しかし今回は違う。そんな時代は終わったのだ。彼は大きな間違いを犯した」
しかし「今、西側はやるべきことをすべてやっているが、以前に行うことができたはずだ。何度もチャンスを逃してきた。クリミア併合、ウクライナ東部紛争に対する制裁も十分ではなかった。もっと断固とした措置をとっていればウクライナで今起こっているような事態は回避できたかもしれない」とマリーナさんは言う。
プーチン氏に近く「アルミ王」と呼ばれるオレグ・デリパスカ氏は「いったい誰がこのパーティーの代金を支払うのか。戦争を終わらせるための話し合いをできるだけ早く開始すべきだ」とSNSに書き込んだ。これまでプーチン氏を批判したことがないオリガルヒ(新興財閥)が一斉に戦争反対の声を上げた。
マリーナさんは「この20年間、オリガルヒがプーチン政権からいかに利益を得てきたかを私たちは見てきた。彼らは一段と裕福になり、サッカーの名門クラブ、不動産やヨットなどありとあらゆるものを購入した」と言う。
「しかし今、彼らはすべてを失いそうになっている。プーチン氏がやっていることを支持するのか、それとも自分たちが持っているものを守るためプーチン氏に反対するのか。彼らにとって重大な決断の時を迎えている」
「デリパスカ氏らクレムリンに近いオリガルヒがプーチン氏に反対することはなかった。それが説教をするようになった。プーチン氏の家族、親戚、娘が彼を止めるかもしれない」
プーチン氏を支える特権層と貧困層
「この戦争はロシアにとって最悪のシナリオだ。間違いなくプーチン氏の終わりが始まった」というマリーナさんだが、ロシア国内は西洋化したリベラルな若者とプーチン氏支持層の二つに分かれているという。
「西洋化され、海外旅行したり、いろいろな映画を観たりすることが好きな若い世代はウクライナで起きたことを理解している。そしてモスクワや他の都市で反戦デモに参加して拘束されている」
「しかしロシアの大半は違う。お年寄りはプーチン氏に洗脳されている。情報統制下に置かれ、ウクライナで起きている真実は何も見ることができない。ロシア人の多くはウクライナがロシアと戦争をしたがっていると信じている。プーチン氏のプロパガンダを信じている」
マリーナさんによると、プーチン氏の支持層は2つのカテゴリーに分けられる。一つがプーチン政権から利益を得ている富裕層。オリガルヒだけでなく、メディア関係者や一部のセレブリティがプーチン氏とつながり、何らかの利益を得ている。そしてもう一つが非常に貧しい人々だという。
「50代以上の人たちはソ連が崩壊した大変な時期をみんな覚えている。数年間は食べ物さえも十分ではなかった。犯罪も多発していた。それに比べると今は安定しているように見える。しかしそれはプーチン氏のおかげではなく原油・天然ガスの価格が上昇したからだ」
「今のような状態では国の発展はなく、未来もない。ウクライナ侵攻でモスクワや他の都市では生活がずっと悪くなっている。ロシアはすべての世界から完全に孤立していることが分かった」
プーチン氏は、ウクライナ侵攻に関する虚偽の情報を流したと判断すれば厳罰を下せるよう処罰を強化した。リベラルなメディアをオンラインから遮断し、ロシアが管理していないSNSへの国内からのアクセスを制限した。
「ロシア人は非常にクリエイティブで、どうすれば接続を復元し、見たいものを見られるようになるか、みんな工夫している。あんなに強くてパワフルで危険に見えたソ連が崩壊するとは誰も思わなかったが、アッという間に崩壊した」
「今のロシアはもっと強力で危険に見える。それはプーチン氏がそう見せることに成功しているからだ。しかし私たちはウクライナ情勢がプーチン氏の思うように進んでいないことを目の当たりにしている。普通の人々がプーチン政権をひっくり返すことは可能だと思う」とマリーナさんは話した。
●国際社会で孤立し焦燥のプーチン…ロシア崩壊「衝撃のシナリオ」 3/5
2月24日に突然ウクライナへ侵攻してから、政府発表によると同国で民間人2000人が死亡。首都キエフのテレビ塔や第二の都市ハルコフの大学や市庁舎など、非軍事施設への攻撃激化で世界中から非難を浴びているのだ。
「3月1日に行われた国連人権理事会では、ロシアのラブロフ外相が演説しようとすると、各国の外交団100人以上が一斉に退席しました。ウクライナ侵攻への強い抗議です。残ったのは、中国やベネズエラの外交官数名のみ。米国のブリンケン国務長官は、ロシアが人権理事会にいること自体に異議を申し立てています。『他国を乗っ取ろうとする国が、人権侵害を行い大規模な人道的苦痛を与えながら、この会にとどまることが許されるのか』と。
各国が反発するのは、国連の場だけではありません。経済制裁として、国際的な決済ネットワーク『SWIFT』からロシアの主要銀行を除外することを決定。ロシアは、国内通貨ルーブルの大暴落とハイパーインフレの危機にあるんです。侵攻したロシア軍も、苦戦を強いられています。当初は2日で陥落するとみられていたキエフは、いまだに制圧できていません。ウクライナ軍の抵抗が、予想以上に激しいからでしょう」(全国紙国際部記者)
思惑通り事態が進まず、プーチン大統領は焦りを募らせているようだ。安定しない視線、テーブルの上で落ち着きなく動く指……。テレビに映る演説の様子からは、プーチン大統領のイラ立ちがうかがえる。
「精神状態を不安視する声もあります。米国のマルコ・ルビオ上院議員は、ツイッターで『間違いなく言えることは一つ。プーチン大統領は、何かがおかしいということだ』と投稿。冷静な判断が、できなくなっている可能性があるんです」(同前)
「アラブの春」との相違点
各国からの猛烈な批判を受けてまで強行したウクライナ侵攻が行き詰まれば、プーチン政権の命取りにもなりかねない。想起されるのが、10年代前半に北アフリカで起きた「アラブの春」だ。ネットを中心に反政府運動が広がり、チュニジアやリビアなどの体制を崩壊させた革命である。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が語る。
「ロシアでは、『アラブの春』のような形で政権が転覆する可能性は高くないと思います。確かに、ネット上では反戦運動が活発です。しかしロシア当局のネットへの規制は、それ以上に厳しい。反戦の温床になっているSNSには、あえて接続を遅くしている。場合によっては、閲覧できなくなっているんです。
メディアへの統制も強い。『戦争』や『侵攻』などの表現を使った記事を配信したとし、10社ほどの報道機関へ削除命令。違反した場合は、最大500万ルーブル(約520万円)の罰金を科すと警告しています。ネットやメディアから、プーチン大統領を倒すほどの大きな流れを作ることは難しいでしょう」
崩壊には、別のシナリオがある。経済破綻だ。各国の制裁によってルーブルは大暴落。以前は1ドル=70ルーブル台前半だった為替レートが、「SEIFT」からの除外決定以降は同120ルーブルまで下がった。銀行のATM(現金自動支払機)には、連日長蛇の列ができている。黒井氏が続ける。
「経済破綻は、国民の生活に直結します。インフレが激しくなれば、生活必需品の入手が困難に。貿易が停滞し物資が乏しくなると、生きていくことすら難しくなるんです。もはや戦争どころではないでしょう。このままでは、国民の不満は大きくなるばかり。プーチン政権を打倒しようという動きが、強くなると思います」
国際社会で孤立しても、強硬な姿勢を崩さないプーチン大統領。頑なな態度が、自らの政治生命を縮めることになるかもしれない。
●ボルソナロが二枚舌=英国首相と解決誓うも裏ではプーチン賞賛 3/5
ボルソナロ大統領がロシアのウクライナへの侵攻を止めることを求める発言をしながら、他方ではロシアのプーチン大統領を讃える発言を行うなど、矛盾した行動を続けていると、4日付現地サイトが報じている。
2日にニューヨークで開催された国連総会の緊急特別会合で、ブラジルは「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を非難し、即時撤退を求める」という決議に賛成した。
翌3日、ボルソナロ大統領はイギリスのボリス・ジョンソン首相と、ウクライナ危機に関する電話会談を行った。通話時間は15分ほどで、両者はロシアの暴挙を即刻止めるべきだとの結論に至ったという。
ジョンソン首相はその会話の中で、「罪のないウクライナの民間人の命が奪われ、街が破壊されている」と語り、ロシアに対する強い憤りを示した。同首相はさらに、「第2次世界大戦の頃、ブラジルは良き同盟国だった」と語り、「この危機的な状況で、ブラジルの声は再び重要な意味を持つ」とボルソナロ氏に呼びかけたという。
このように、ブラジルは表向きでは「ロシアの軍事侵攻反対」の形をとっているが、大統領本人の見解とはチグハグな状況となっている。大統領は「中立の立場をとる」と発言しているだけでなく、公式の場以外ではむしろ、ロシアやプーチン大統領に寄り添う発言が目立つためだ。
グローボ紙のジャーナリスト、ラウロ・ジャルジン氏の報道によると、ボルソナロ氏はワッツアップのグループに対し、「唯一の真実」なる投稿をフォローして拡散したという。それによると、現在の世界は欧米を中心とした「新世界秩序」に、ロシアと中国と中東諸国が反抗している状態で、ウクライナは新世界秩序に身を売った存在なのだという。ブラジルも、新世界秩序に対抗する包囲網に入っているが、最高裁の3人の判事とマスコミは新世界秩序側に戻そうとしている、と書かれているという。
このメッセージでは、常に中国を目の敵にしていたボルソナロ氏が中国をたたえたとして注目を集めている。
ボルソナロ大統領は3日に行われた木曜恒例のネット上のライブでも、プーチン大統領のことを「パルセイロ(仲間)」と呼んで、物議を醸している。
ボルソナロ氏によると、彼がアマゾンの森林破壊に関して、フランスのマクロン大統領を中心とする欧州諸国から強い批判を受けている中、彼の「アマゾンの主権」論に関して理解してくれた数少ない首脳がプーチン氏だったという。
このライブでボルソナロ氏は、ブラジルはロシアとウクライナの双方と交易関係を持っており、偏った立場を取ることはできないからウクライナ危機は「自分たちには解決できない問題」と発言。改めて中立を主張している。
ロシア軍がウクライナ東部のザポリージャ原子力発電所の攻撃を開始したとの報道が行われたのは、このライブのすぐ後のことだった。
●外国人志願兵がウクライナへ続々、1週間で1万6千人… 3/5
ウクライナに軍事侵攻したロシア軍との戦闘に参加するため、外国人志願兵が続々とウクライナ入りしている。兵力で劣勢のウクライナにとっては貴重な戦力だが、各国が退避勧告を出している中で、自国民が戦闘に参加することに慎重な姿勢を示す国もあり、対応は分かれている。
ロシアの軍事侵攻を受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月27日、外国から志願兵を募り、外国人部隊を編成すると表明した。各国にある大使館を通じて志願を呼び掛けた結果、1万6000人が集まったという。ゼレンスキー氏は3日、「ウクライナは既に外国人志願兵を迎え入れている。彼らは我々の自由と命を守るために戦う」と述べており、一部がすでに到着していることを明らかにした。
ロイター通信によると、米国やカナダからは、退役軍人から戦闘経験のない一般人まで幅広い人が志願。ウクライナの首都キエフに到着した米国人男性は、「欧州が再び戦争に突入することが耐えられなかった」と、動機を語った。2008年にロシアの侵攻を受けたジョージアからも志願兵が殺到している模様だ。
露軍の総兵力が約90万人なのに対し、ウクライナ軍の兵力は約26万人にすぎない。ウクライナはロシア兵9000人が死亡したと主張する一方で、自国兵の犠牲は公表していない。ゼレンスキー氏は兵力補強のため、外国人だけでなく、海外在住のウクライナ人にも祖国防衛に加わるように求めている。また、戦闘参加を条件に軍事経験のある服役囚を釈放すると宣言した。
志願兵についての各国政府の対応は割れる。ロシアと国境を接するラトビアでは、議会が2月28日、自国民の志願兵としての渡航を認めることを全会一致で決定した。ロシアのウクライナ侵攻を自国の安全保障に関わる問題として捉えていることが大きい。
一方、自国民が紛争地に入り、戦闘に巻き込まれることに懸念を示す国も少なくない。米国や英国は自国民に対し、ウクライナに渡航しないように改めて求めている。日本政府も参加しないように呼びかけており、在日ウクライナ大使館がツイッターに一時投稿した「義勇兵」の募集案内は削除された。
●ウクライナ情勢踏まえ 中国・全人代「リスク著しく増加」危機感示す 3/5
中国の国会にあたる全人代=全国人民代表大会が始まりました。この中で習近平政権は、ウクライナ情勢の中国経済への影響なども念頭に、「リスクは著しく増加している」と危機感を示しました。
政府の報告で李克強首相は「我々は北京冬季オリンピックを成功させた」と宣言、この1年の成果は「習主席らの力強い指導のたまものだ」と持ち上げ、続投に向けた実績を強調しました。
また、例年掲げる経済成長率の目標ですが、去年は「6%以上」に設定して実際は大きく上回ったにもかかわらず、ことしはより低い「5.5%前後」に設定。手堅く目標をクリアしたい姿勢がにじみました。
ただ、ウクライナ情勢は中国経済の先行きにも暗い影を落としそうです。
李克強首相「国内外の情勢を総合的に検討、判断すると今年、我が国の発展が直面するリスクや課題は著しく増加している」
このように去年より強い言葉で危機感をあらわにしました。
さらに、習主席と蜜月関係にあるロシア・プーチン大統領が世界中から猛烈な批判にさらされる中、このまま寄り添い続けるのか難しいかじ取りも迫られています。
一方、台湾への軍事圧力を強める中、国防費も去年にくらべ7.1%増となる日本円で26兆円以上を計上。アメリカなどの警戒もさらに強まりそうです。
●ウクライナを寄付などで支援する仕組み提供 米IT企業で広がる  3/5
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、アメリカのIT企業の間では、寄付などでウクライナへの支援ができる仕組みを提供する動きが相次いでいます。
このうち、ウクライナの出身者が経営するファッション関連のITスタートアップ企業は、ウクライナの国旗と同じ青と黄色を使ったデジタルのトレーナーやイヤリングなどを作り、販売を始めました。
売り上げがNGOなどを通じてウクライナの支援に充てられるということで、先月25日から1週間余りでおよそ1万6000ドル、日本円で180万円余り集まったということです。
専用のアプリを使うと、AR=拡張現実の技術でデジタルの商品を実際に身につけたように写真に撮れるようになっていて、歌手のマドンナさんも青と黄色のドレス姿の画像を自身のインスタグラムに投稿しています。
ITスタートアップ「ドレスX」の創業者、ダリア・シャポヴァロヴァさんは「ロシアの軍事侵攻は地域の紛争ではなく、国際的な問題です。一人ひとりの力は小さなものですが、みんなが力を合わせれば絶対に世界を変えることができる」と支援を訴えていました。
またアメリカでは、配車サービス大手のウーバーが、アプリからウクライナへの寄付ができる仕組みを導入しました。
5ドルから50ドルまで自分が寄付したい金額を選ぶと、乗車代金の支払いに使用しているクレジットカードで自動的に決済されるようになっています。
IT大手のアマゾンもネット通販のサイトに寄付ができるページを開設すると発表するなど、ウクライナへの支援の動きが相次いでいます。
ITスタートアップ企業、ドレスXの共同創業者でウクライナ出身のナタリア・モデノヴァさんは、義理の姉と2人のおいが首都キエフに住んでいましたが、軍事侵攻を受けてポーランドへと避難しました。
一方、ウクライナでは、防衛態勢を強化するため、18歳から60歳の男性の出国が制限されていることから、兄はウクライナにとどまらざるをえなかったということです。
送られてきた写真には、国境を目指す車の中で疲れた様子で眠る2人のおいの姿や、たどりついたポーランドの国境沿いの町で身を寄せているという避難所の様子などが写っていました。
モデノヴァさんは「戦争が起きているのに、ひと事だと思うべきではない。私たちはみな団結して手を差し伸べるべきです」と話していました。
●ウクライナへの支援呼びかける最大規模のデモ行進 東京  3/5
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で民間人にも多数の死傷者が出る中、日本に住むウクライナ人などが支援を呼びかける侵攻後最大規模のデモ行進が東京で行われました。
東京・渋谷区で行われたデモ行進にはSNSでの呼びかけに応じた日本に住むウクライナ人などさまざまな国籍や年代の人たちが参加し、軍事侵攻後最大規模のおよそ2000人が集まりました。
参加した人たちはウクライナの国旗をイメージした青と黄色の洋服などを身につけ「NO WAR」と書かれた紙を掲げたり、シュプレヒコールを上げたりして支援を呼びかけていました。
デモに参加したウクライナ出身の女性は「現地にいる家族から毎朝“大丈夫”とメッセージがきますが、それは、“夜が終わり、生きている”という意味です。その状況をどう思うかと聞かれても、ことばにできません。戦争を止めてほしいし、日本ができることをやってほしいです」と話していました。
また、母親がウクライナ人で父親が日本人だという16歳の男性は「現地に住んでいる家族もいるので、毎日、心配していますが、何もできないことが悔しくてデモに参加しました。戦争を終わらせてほしいという気持ちが届くといいなと思います」と話していました。
主催した団体のメンバーでキエフ出身のコヴァリョヴ・ユリさんは「孤立している地域もあり、食べ物や薬が足りない状況も起きています。ウクライナの現状を知ってもらい、人道的な支援につなげていきたい」と話していました。
ロシア軍の激しい攻撃を受けたウクライナ第2の都市ハリコフ出身のロマンさんは戦争の停止を訴えるためにデモ行進に参加しました。
両親が住むハリコフの実家は数日前に被害を受け、父親とは4日間、連絡が付かない状態でしたが5日、ようやくSNSで連絡を取ることができたということです。
現地の妹から送られてきたという実家の写真からは爆弾で壁が大きく壊れている様子がうかがえました。
ロマンさんは現在の状況について「実家が被害を受けた写真を見たときはことばになりませんでした。ハリコフは毎日空爆があって、数日前から停電になっています。気温はマイナス2度ほどで家が壊れると住むことはできません。停電しているので、携帯の充電も十分ではなく、思うように家族と連絡がとりづらい状態です」と話していました。
そのうえで「ハリコフにいた妹も空爆が続くので小学生の2人の子どもを連れて車で国外に避難しているところです。避難できたら日本に呼びたいと考えています」と話しています。
デモ行進にはロシア人の姿も見られました。
IT企業に勤めるセルゲイ・ストラシュコさんは、妻がウクライナ人で来日して20年になるということです。
ストラシュコさんは「ロシア人として恥ずかしい。外交で解決できないならプーチンを替えるべきだ。ウクライナ人とかロシア人とか日本人とか言う前にみんな同じ人間です。人間としてみんな戦争に反対しなければならないと思いデモに参加しました」と話していました。
●ロシア政治専門家 プーチン重病説に自身の推測語る「本当にヤバイ」 3/5
ロシア政治を専門とする筑波大の中村逸郎教授が5日放送の読売テレビ「今田耕司のネタバレMTG」(土曜前11・55)に出演。ロシアのウクライナ侵攻の陰に、プーチン大統領の病気の影響があると推測した。
中村教授はロシアのウクライナ侵攻について、「プーチン大統領は今、自分が何をしてるのか分かってないんじゃないかと思ってるんです」と大胆発言。さらに、「実はプーチン大統領、6年ぐらい前からパーキンソン病ではないかと言われてるんです。先月ですけど、ベラルーシのルカシェンコ大統領とモスクワで対面の会談をしたんですよ。その姿をロシアのテレビで見てたんですけど、プーチン大統領は本当にヤバイですよ」とキッパリ。その理由について、「ルカシェンコ大統領が座っている横で、足をバタバタしてるんです。これはおそらく足が痺れて、感覚がなくなってるんだと思います。6年前に比べて、どんどん進行しています」と断言した。
さらに中村教授はプーチン大統領の“黒い噂”も口に。「実はちょうど2年前、プーチン大統領の周辺で不穏な動きがあったんです。プーチン大統領にとって一番身近な人って警護隊の人なんですよ。このうちの1人、プーチン大統領に20年仕えていた人が、大統領府の中で銃殺されてるんですよ」と激白。「もちろん、家族に対して銃殺したとは言えないから、自殺したと言って遺体が引き渡された」と明かす。銃殺された理由については「推測です」と前置きした上で、「パーキンソン病の症状が出てきて、その瞬間を警護隊の人が見てしまった。そこからどんどん消されていってるんじゃないかということが言われてるんです」と唇をかみしめた。
●「東部の親露派保護には全面侵攻必要だった」 プーチン氏が主張 3/5
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナに全面侵攻した理由について、ロシアが「独立」を承認したウクライナ東部の親露派2地域を保護するためにはウクライナの軍事力を完全に破壊する必要があった、との認識を明らかにした。
国営航空会社の女性パイロットらとの面会での発言をタス通信が伝えた。
プーチン氏は、ロシア軍を親露派2地域に進駐させるにとどめることも可能だったとしつつ、「その場合は米欧から物資や弾薬、装備が無制限にウクライナに支援される」と主張。その上で「参謀本部と国防省は別の手段を選んだ。全ての軍事施設、特に武器保管庫や弾薬、航空機、対空システムを破壊することにした」と述べた。
プーチン氏は先月24日の緊急演説で、親露派住民の保護やウクライナの「非軍事化」、「非ナチス化」を実現するために軍事作戦を開始すると表明していた。
●プーチン大統領、自縄自縛か…5000以上のサイトにツイッターなどSNSを遮断 3/5
反戦機運の高まりを抑えるはずが、逆効果となるかもしれない。ロシアがウクライナ侵略を開始してから9日目の5日、ロシアの通信監督当局はSNSのフェイスブックとツイッターへのアクセスを遮断すると発表した。2月24日の侵略初日にウクライナのニュースサイトを皮切りに、既に5000以上のサイトを遮断しているという。5日の米ニュースサイトVOXなどが報じた。
米カリフォルニア大アーバイン校のケイ法律学教授が「検閲という言葉は生ぬるいほどだ」という厳しい情報統制で、セキュリティー調査会社トップ10VPNのミグリアノ調査責任者は「ネット接続の点ではイランや中国レベルの国が新たに出現した感じだ」と話した。
だが、今回の措置は逆にロシアの首を絞める可能性があるという。実際、ウクライナは大手SNSにロシアでのアクセス遮断を要請していたが、その理由は「情報をブロックされることで、ロシア国民の政府への圧力の掛け方が変わることが期待できる」からだという。同教授も「これは奇妙な“皮肉”だが、ウクライナはSNS陣にロシアでアクセス不能になるよう要求し、ロシアはその要求通りにしたことになった」と評した。
ロシアはニュースサイトだけでなく、自国通貨ルーブルが暴落した2月28日から、多くの経済関連のサイトも遮断。米政府のサキ報道官は4日、今回のロシアの措置について「深く憂慮している。これは民衆から情報を遮断しようとする試みの一部だ」と非難した。
ロシア国内でも今回の侵略に対する反感は強く、2日時点で、ロシアで反戦を訴えた50都市の計約7000人が逮捕、拘束された。同日は、反戦プラカードを手にウクライナ大使館へ花を手向けに行った小学校低学年の3人の児童も連行され、護送車に押し込められたと報じられ、物議を醸した。
●プーチン氏、 “反政府情報”拡散時「“懲役15年”法案」に署名 3/5
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ戦争に関してロシア政府の説明に反する情報を拡散する人たちに対し、最大で「15年の懲役刑」を宣告する法案に署名したと、米AP通信・米経済専門ニュース放送局“CNBC”などが5日(現地時間)報道した。
この報道によると、ロシアの上・下院はこの日この法案を通過させ、プーチン大統領は直ちに署名した。
ロシア当局は、“ウクライナでロシア軍が後退したり民間人が死亡した”という報道を「フェイクニュースだ」とこれまで主張してきた。
ロシア国営メディアは、ロシアのウクライナ侵攻を戦争・侵攻ではない「特別軍事作戦」と規定している。プーチン大統領が先月24日に侵攻を発表した時使った用語を、そのまま使用しているのである。
ブャチェスラフ・ブォロージン ロシア下院議員は「今回の法案は、わが軍隊に対して偽りの発言をした人々に、わが軍隊を不信する発言をした人々に、極めて厳重な処罰が加わることだろう」と語った。
●プーチン大統領 誤情報拡散に罰則科す法律改正案に署名  3/5
ロシアが続けているウクライナへの軍事侵攻をめぐってプーチン大統領は、誤った情報を拡散した者に罰則を科すとする法律の改正案に署名しました。情報統制をさらに強化するとともに、ロシア国内で広がる戦争反対の声を押さえ込むねらいがあるものとみられます。
ロシアのプーチン大統領は4日「ロシア軍の活動について意図的に誤った情報を拡散するなどした個人や団体に罰則を科す」とする法律の改正案に署名しました。
法律では反戦デモへの参加などを念頭に「軍の信用失墜につながる違法行為を呼びかけた」場合も罰金や懲役を科すとしています。
プーチン政権には情報統制をさらに強化するとともに、ロシア国内で広がる戦争反対の声を押さえ込むねらいがあるものとみられます。
ロシアでは、ウクライナでのロシア軍の攻撃による市民の犠牲などに関して虚偽の情報を伝えたという理由でこれまでに一部の独立系メディアが事実上の閉鎖に追い込まれたほか、イギリスの公共放送BBCやアメリカのブルームバーグは4日、ロシア国内での取材活動を停止すると明らかにしました。
ロシアのプーチン大統領が情報統制を強める中、欧米の各メディアは相次いでロシア国内での取材活動を停止するなどの対応を決めています。
このうち、イギリスの公共放送BBCは4日「独立したジャーナリズムのプロセスを犯罪としているようだ」と批判したうえで「スタッフの安全は最優先されるものであり、職務を遂行することで訴追されるリスクにさらすことはできない」としてロシア国内での取材活動を停止すると明らかにしました。
また、カナダの公共放送CBCは4日、声明を発表し「ロシアにいる私たちのジャーナリストとスタッフへのリスクを考慮し、現地からの報道を一時的に停止している」としています。
さらに、アメリカのブルームバーグは4日、声明を発表し「大変残念だが、ロシアでの取材活動を一時的に停止することを決めた」としています。
同じくアメリカのABCテレビも4日、この日予定されていたモスクワからの中継を見送ったことを明らかにしたうえで、今後の活動については「スタッフの安全を最優先に現地の状況を慎重に判断したい」としています。
●プーチン氏から贈られた猫、名はロシア語で「平和」 「大変皮肉だ」 3/5
「うちのミールはプーチン大統領と違って非常に優しいし、おとなしい。大変皮肉だ」――。ロシアのプーチン大統領から贈られた猫を飼う秋田県の佐竹敬久知事は4日、ロシア語で「平和」を意味する「ミール」と名づけた猫を引き合いに、現状を嘆き、ロシアによるウクライナ侵攻を批判した。
県は2012年、ロシアからの東日本大震災の被災地支援のお礼などを目的に、プーチン氏にメスの秋田犬「ゆめ」を贈呈。13年にその返礼として、佐竹知事にオスのシベリア猫が贈られた。ロシアとの友好関係をさらに発展させたいという意を込めて、佐竹知事が「ミール」と名づけた。
この日、県庁で報道陣からウクライナ侵攻への見解を問われた佐竹知事は「人道上の問題からもきわめて悪質。ロシアとウクライナの戦争というよりも、プーチン大統領の身分、地位を守る戦争のようだ」と非難。「国際世論が全面的に団結して、なんとか侵略を止めることが必要だ。怒りを覚える」と語った。
●「プーチン暗殺すべき」米議員が主張…ロシア「容認できない」 3/5
米国の共和党上院議員がウクライナ侵攻について「プーチン大統領を暗殺すれば終わる」と主張した。
3日(現地時間)、AFP通信によるとリンジー・グラハム米上院議員はこの日フォックスニュース「ショーン・ハニティ・ショー」に出演し「この戦争はどうすれば終わるのか」「ロシアの誰かがこの人(プーチン大統領)を排除すべきだ」と述べた。
グラハム議員はドナルド・トランプ前米大統領の最側近として、プーチン大統領及びロシア軍指揮部の戦争犯罪と反人道的犯罪を調査するよう求める決議案を提出した。
グラハム議員はツイッターでも「この問題を修正できるのはロシア人だけ」と指摘した。
彼は「言葉は簡単だが実践は難しい」とし「余生を暗黒の中で生き、悲惨な貧困の中で世界から孤立することを望まないなら、あなたたちが前に出なければならない」と促した。
グラハム議員は「ロシアにはブルータスがいるのか? ロシア軍にはシュタウフェンベルク大佐がいるのか」と問いかけた。
最後に「これであなたは祖国と国際社会のために立派な奉仕をすることになる」と付け加えた。
グラハム議員が語ったブルータスは、古代ローマ共和政末期の政治家で、カエサル皇帝の暗殺を主導した。
またシュタウフェンベルク伯爵は、ヒトラーが支配したナチスドイツの大佐だったが、ナチス親衛隊の残酷な蛮行に衝撃を受けて「反ナチ主義」に転じた。さらにヒトラーの暗殺を計画したが失敗した。
一方、グラハム議員の発言に対して駐米ロシア大使は「容認できない」とし、米国政府の公式立場を明らかにするよう要求した。 
●ロンドン株式市場=大幅続落、ウクライナ情勢懸念で売り 3/5
ロンドン株式市場は大幅続落して取引を終えた。ロシアによるウクライナ侵攻の影響に対する懸念が一段と強まり、売りが広がった。
週間ベースでFTSE100種は6.71%安、中型株で構成するFTSE250種指数は7.27%安と、それぞれの下落率は2020年3月以来、約2年ぶりの大きさとなった。特に下げが目立ったのはFTSE350種旅行・娯楽関連株指数、自動車株指数、貴金属株指数で、17.03─22.94%下げた。
ロシア軍は4日、ウクライナ南東部にある欧州最大級の原子力発電所を制圧した。ただ、訓練施設で起きた火災は鎮火し、当局者によると施設は現在のところ安全だという。
4日は金融大手HSBC、バークレイズがそれぞれ5.6%、7.2%下落。石油大手のBP、シェルはそれぞれ2.9%、5.0%下げた。
フォート・セキュリティーズのセールストレーダー、キース・テンパートン氏は「人々はウクライナを巡るニュースに神経質になっており、誰も株を保有したくない。今日は金曜日で週末に何が起こるか誰にも分からないため、リスク回避の動きに拍車が掛かった」と述べた。
小売り大手マークス・アンド・スペンサー(M&S)、人材紹介会社のヘイズ、スーパーマーケット大手セインズベリー、世界最大の広告代理店グループWPPはロシアでの事業を停止した。
業務アウトソーシングのマイティーは10.7%急落。英国の独占禁止法規制当局が、二つの入国者収容施設の運営契約に関する入札で競争法に違反した疑いがあるとして調査していると発表したことが嫌気された。
●米国株、ダウ続落し179ドル安 ウクライナ情勢への懸念で  3/5
4日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前日比179ドル86セント(0.5%)安の3万3614ドル80セントで終えた。ウクライナ情勢の緊迫化への懸念から投資家のリスク回避姿勢が強まり、景気敏感や消費関連株への売りが目立った。半面、ディフェンシブ株への買いが目立ち、ダウ平均を下支えした。
ロシア軍は4日、ウクライナ南部にあるザポロジエ原子力発電所を砲撃し、同原発を制圧した。ロシアによる軍事攻撃は激しさを増しており、欧米が対ロシアの経済制裁を強める可能性が意識された。紛争が長期化して世界経済を下押しするとの懸念が一段と強まった。
航空機のボーイングが4%下げ、1銘柄でダウ平均を52ドル程度押し下げた。欧米によるロシアへの経済制裁が航空機需要の減少につながるとの懸念から連日で大幅安となった。化学のダウや工業製品・事務用品のスリーエム(3M)など景気敏感株が安い。クレジットカードのアメリカン・エキスプレスや映画・娯楽のウォルト・ディズニーなど消費関連株も下げた。
投資家のリスク回避姿勢の高まりで相対的に安全な資産とされる米国債が買われ、米長期金利は一時1.69%と前日終値(1.84%)から大きく低下した。利ざや縮小への懸念を誘い、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスなど金融株も売られた。
ダウ平均の下げ幅は午前中に540ドルに達したが、ディフェンシブ株への買いが支えとなり午後に下げ幅を縮めた。小売りのウォルマートやドラッグストアのウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス、医療保険のユナイテッドヘルス・グループがそれぞれ2%超上げた。
4日朝発表の2月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数は前月比67万8000人増と市場予想(44万人程度の増加)を上回った。平均時給の伸び率は前月から鈍化し、市場予想を下回った。米金融政策の見通しを変えるほどの結果ではなかったとの見方から、株式相場への反応は限られた。
ナスダック総合株価指数は続落し、前日比224.503ポイント(1.7%)安の1万3313.438で終えた。ソフトウエアのマイクロソフトが2%下落。スマートフォンのアップルなど主力ハイテク株が軒並み下げた。

 

●第2のキューバ危機を狙ったはずが「ウクライナの泥沼」に嵌まるプーチン 3/6
ウクライナは元々のシナリオとは異なる方向
これまでのプーチン・ロシア大統領の大戦略の主軸は、ポーランド・ルーマニアへのミサイル防衛システムの配備、トランプ政権のINF(中距離核戦力)全廃条約からの離脱など、ロシアにとって不利な方向へ傾きつつあった核ミサイルの均衡を復旧させることにあった。
NATO東方拡大の阻止それ自体も課題だが、そのことも、ポーランド、ルーマニアに行われたのと同じような、ミサイルの均衡を崩す兵器の配備を阻止するのが最大の眼目であり、そのためには基底ある欧州安全保障環境の均衡と安定化が前提になる。
そのため、私は、この先、ロシアが欧米へ突きつける決め手は、ベラルーシへのミサイル配備だと予測していた。現実にベラルーシは憲法を改正し、核非武装の方針を転換し、ロシアのミサイル配備を受け入れる準備をしている。
つまり、プーチンのロシアは本命のシナリオでは「第2のキューバ危機」の演出を狙っていた。1963年のキューバ危機には、核戦争一歩手前までいったというネガティブな側面と、お互いがこれ以上やったら危ないというレッドラインを認識でき、その後、軍備管理、米ソ・デタントのプロセスに入っていくというプラスの側面があった。プーチンの元々のシナリオはこの再現だったはずだ。
また、アメリカもバイデン政権になってから、ロシアとは安定的で予測可能な関係の構築を目指す、とのメッセージを一貫して発信し、後述するようにプーチンからしてみれば、本来の戦略目標に沿って相当な譲歩を引き出していた。
その上で、ベラルーシへのミサイル配備というもう一段のカードをロシアは持っている。脇道でしかないウクライナ侵攻など、そんな馬鹿なことをやるはずはないと私が議論しているロシア問題専門家たちも、皆、そう思っていた。
だからこそ、なんで、ここで、ウクライナ侵攻などという本筋とは関係ない、むしろこれまでの流れを台無しにする余計なことを行ったのか、理解できないのである。冷徹な戦略ゲームを行うときに、感情的で地域的なホットな戦争というのは、混乱要因でしかないからだ。
泥沼化は必至
ロシアは、大ロシアに従うべき小ロシアという世界観でウクライナを見ているが、ウクライナには、かつてポーランド・リトアニア共和国と言う枠組みの構成国であったということをはじめ、ウクライナ独自の歴史観がある。同じ枠組みだったポーランドやバルト3国と同様の強い自立心がある。
またウクライナ人のアイデンティティはコサックである。彼らは戦うことには決してひるまない。だから全土がゲリラ化し、アフガニスタン化する可能性は高い。
そして戦争という現実を突きつけた以上、国際社会、特に欧米の制裁は厳しくなることはあっても軽減はない。ウクライナへの支援も本格的に行われるだろう。
多分、もう収拾がつかない。首都キエフを無理矢理陥落させ、傀儡政権を作ったとしても、その先どこまで維持できるのか。
プーチンが、おそらく当初思い描いていたであろうように、キエフが早く陥落していたら、次の一手としてベラルーシへの核ミサイル配備を巡って、アメリカをもう一段、交渉でロシアの思惑の方へ引きずり出してくるというシナリオは考えられた。だが、その前に早くも経済制裁の影響が出てきており、ウクライナでの泥沼に陥まったことで、ロシア自体が保たないのではという気がしてきた。
プーチンは第2のキューバ危機の演出を狙っていたはずなのに、脇道にそれた結果、第2のアフガニスタン戦争に踏み入れてしまったのである。
プーチンからみた「ロシアへの不当な扱い」
ここまで解説したように、核、ミサイル、NATOなどが、プーチンの大戦略の中心課題であるが、今回のウクライナ軍事侵攻は、その延長線上なのか、それとも、そこから大きく外れてしまった話なのか、で考えれば、私は後者の可能性が高いと思っている。
なにか感情的な要素が計算を大きく誤らせた可能性がある。ウクライナ侵攻に向かわないで、米ロの安全保障協定の交渉をやり続け、更にステージをあげ、ポジションを強くして続けるということのほうが、ロシアにとって、絶対、多くのものを勝ち得たはずだったからだ。そのくらいアメリカはロシアに歩み寄っていた。
ここでプーチン側からみた冷戦後世界について考えてみる。参考になるのがウイリアム・バーンズCIA長官の回想録「The Back Channel」だ。プーチンがNATO拡大問題に、あそこまでこだわる導火線となったのは、1990年の東西ドイツ合同に絡むNATO不拡大の約束とよく言われているが、それは、後付けの解釈で、同著によれば一番大きな転換点は、2008年のブカレストでのNATO首脳会議だったということがわかる。
ここで、ウクライナとジョージアに、NATO加盟のためのメンバーシップ・アクション・プラン(MAP)の付与に関する議論が、アメリカの提起で行われた。最終的にはメルケルが反対して付与は行われなかったが、将来的な加盟は支持するという文言が宣言文書に残った。
当時、ブッシュ政権の中でもこの問題に関しては相当な議論があり、コンドリーザ・ライス国務長官も、ロバート・ゲーツ国防長官も、皆反対だった。ライスもゲーツもソ連・ロシアの専門家である。そして彼らに論拠となる情報を与えていたのが、当時、駐ロシア大使だったウイリアム・バーンズだった。
バーンズは「MAPの付与は絶対にやめた方がいい。もしそれをやったら、ロシアは間違いなく、クリミアとウクライナ東部に手を出すだろう」と、はっきり予測している。それでもチェイニー副大統領はこれを支持した。結局、ブッシュはMAP付与の提起をした。このことが後のジョージア、クリミア、今度の東ウクライナの問題に繋がっている。だから今起こっている紛争の起点は2008年にある。
この2008年に行われたジョージア侵攻の後も、ロシアはメドベージェフ政権時代、ヨーロッパのセキュリティー・アーキテクチャー(安全保障枠組み)提案を行ったり、NATO関連の問題調整を試みてきた。しかし、アメリカ側は耳を貸さなかった。その結果、プーチン自身が「我々は強くなければならない。強くなることが我々の安全保障を担保する唯一の方法だ」という内容の論文を発表したのが、2012年2月のことであった。
その論文の中では、「核の抑止は維持しなければならない。軍事技術がどんどん発達している。軍事力行使のハードルが下がっている。だから他国との矛盾、対立を外交的、経済的な手法のみの頼ってはならない。つまり軍事力も場合によったら考慮すべきだ」と後のロシアの行動指針が示されている。「そういう新しい状況に、的確に対応できるように軍も情報機関もその他の省庁もちゃんと準備しなければならない」。2014年のクリミアや、ウクライナ東部への行動は、この延長線上にある。
だからアメリカは歩み寄った
過去20年間、アメリカは、イラク、アフガニスタンに見られるように、軍事力の行使によって力を低下させてきた。中国はこの20年間で飛躍的に軍事力を高めたが、まだその使い方がよくわかっていない。そのなかで、唯一、ロシアだけが軍事力を巧みに行使しつつ、国際的なプレステージを回復し続けてきた。
そのことをはっきり示すのが、バイデン政権での対ロシア外交だ。2021年3月にはじまるウクライナ国境への軍の集結に驚いたバイデン政権は、前述の通り、ロシアとは安定的で予測可能な関係を構築したいと言い出し、6月の米ロ首脳会談に繋がった。
バイデン政権自体は、INF全廃条約を離脱したトランプ政権と異なり、軍備管理に強い関心がある。政権発足直後に、これもトランプ政権下で難航した新START(戦略兵器削減条約)の延長も決めた。首脳会談でもメインの話題は戦略的安定だった。また政府間の協議の枠組みも作った。
ウクライナに関しては、2021年に入ってゼレンスキー政権が2014年に締結したドンバス地域での停戦合意「ミンスク協定」を履行しないと言い出したことが、国境への軍集結のきっかけと考えられる。これについても6月の米ロ首脳会談で、アメリカはミンスク合意の支持を明言した。
しかし、その後、イギリスの艦船が黒海のクリミアの東側のケルチ海峡に「航海の自由作戦」を仕掛けるわ、NATOの軍事演習は行われるわ、アメリカがウクライナに武器を供給するわで、むしろロシアからしてみれば、アメリカはロシアの懸念を全く理解していない、と見えた。そこで再度改めて10月に軍をウクライナ国境に集め始めた。
その直後の11月初頭に実はバーンズCIA長官がモスクワに飛んでいる。今から考えるとアメリカには下手したらプーチンはウクライナへの軍事侵攻をやりかねない、と、いう情報があったのだと思う。バーンズは、なんとか説得を試み、その延長線上で12月の米ロ首脳会談が行われ、ロシアの安全保障上の懸念を協議するための枠組みを作ることを合意した。
その時、ロシアや世界の安全保障関係者は皆、驚いた。アメリカがそもそも、ロシアの安全保障上の懸念を議論するなんて、枠組み立ち上げの合意をするなんて、今までなかったことだったからだ。このこと自体で、すでにロシア側は得るものを得ているのではないか、と言う議論もあったぐらいだ。
プーチンもわかっているはずのアメリカの事情
このアメリカの相次ぐ譲歩の背景にあったのは、アメリカが政治的・軍事的資源を国内と対中国に集中させなければならないという戦略的必要性だった。
私が見立てでは、バイデン政権の対ロ政策には間違いなく国家安全保障会議インド太平洋調整官兼大統領副補佐官のカート・キャンベルが絡んでいる。
今でこそ彼はアジア担当だが、もともとはソ連の専門家である。キャンベルはオバマ政権から離脱した後の2014年以降、ロシアとの関係を、特にアジアで立て直そうと動いていた。安倍政権の積極的な対ロシア関与外交も対中国の観点からこれを支持していた。
バイデン政権発足以来の対ロ政策は明らかに中国を念頭に置いており、そこにはキャンベルの影がある。
そして、「2008年には我々もやり過ぎた」というウイリアム・バーンズの認識によって、アメリカにはロシアの懸念をケアしなければ、この先、この問題は進まないという理解あったのだと思う。
この1年でここまでの譲歩を引き出したにも関わらず
首脳会談の後、ロシア側は、NATO不拡大、そしてロシア国境に攻撃的兵器を配備しないという確約を求めた。もともとNATOとロシアの基本条約では、新規加盟国には新たな施設を置かないという約束がある。NATOの拡大のプロセスが正式に始まったのは1997年だが、要するに事実上それ以前に戻れ、という要求をしたことになる。
バイデン政権の姿勢は、これら冷戦終結後の欧州安全保障秩序の原理原則に関わる問題については「NO」だったが、やはりロシア側が求めた黒海やバルト海での軍事演習についての衝突回避のメカニズムであるとか、透明性の確保であるとかには前向きだった。また、中短距離ミサイルの欧州配備問題や、ポーランドとルーマニアに配備されたミサイル防衛システムをめぐる問題についても、ロシア側との協議に応ずる用意があると回答した。
バイデンは政権発足1周年目の演説の後の記者会見で、プーチンがいっているのは、NATOの東方不拡大とロシア国境付近への攻撃型ミサイル不設置だが、2つ目に関してはやりようがある。もう1つに関しても、ウクライナは今、NATOに加盟する段階にないし、同盟国の間でもこれに対してはいろいろな意見があるので、やりようがあると思う、という趣旨の発言を行っている。
私はこれを読んで、アメリカはどこかでモラトリアム(先延ばし)の話を出すのだろうな、と思った。プーチン自身も、「この間、モラトリアムの話はあった」といっている。ただ「アメリカのモラトリアムであって、ロシアのモラトリアムではないので蹴った」という発言だった。
ロシア側はあくまで、安全保障の原理原則について、冷戦終了後のゲームのルール自体を変えるということにこだわった。「それが受け入れられなければ具体的な問題を議論するつもりはない。もし受け入れられなければ、われわれ(ロシア)は軍事技術的措置を取る」と態度であった。
「合理的」シナリオを遠く離れて
そこまではまだいい。私は今後の展開について3つのシナリオを想定していた。1はロシアがアメリカのラインに沿って交渉をする。2が何らかの具体的な提案(つまりモラトリアムなど)を受けて議論に入る。3があくまでも原理原則にこだわる。
3の場合でも、ウクライナへの軍事侵略ではなくて、ベラルーシへのミサイルの配備、あるいは中国との関係の強化だと予測していた。そうやって緊張感を高め、アメリカとのゲームを継続する。というのがどう考えても合理的なシナリオだった。
しかし、この3つの交渉シナリオと何の関係もない、そして何の合理性もない、一番やってしまってはいけない愚策であるウクライナ侵略を行ってしまった。
ぎりぎり、ドネツク、ルガンスクの独立承認まではあり得た。メインラインの交渉に対するダメージが少ないからだ。しかし、首都キエフ攻撃は余りに愚かだ。主題となっていたはずの安全保障の原理原則に関わるゲームからは外れている上に、国際社会を敵に回す結果にもなる。それが、どのような事態を引き起こすかは、後編「もはやプーチンには追い詰められた上での「核恫喝」しか手は残っていない」で詳しく検討してみる。
それで想定される苦境を考えると、ウクライナ侵攻という脇道の選択は合理的に説明がつかない。そこには「何か」あったとしか考えられない。「何か」はまだわからないが。
●米国民の間で急速に広がり始めた「プーチン暗殺」 3/6
禁じ手「原発攻撃」に出たプーチン
ウクライナに侵攻しているロシア軍が、欧州最大のザポリージャ原子力発電所を占拠した。
原発に対する攻撃は、国際法で禁じられた危険行為だ。原発を占拠したということは原発を「人質」にしたことになる。
前例のない暴挙に国際社会から非難の声が上がり、国連安全保障理事会は3月5日、緊急会合を開いた。
だがいくら決議案を採決しても常任理事国のロシアが拒否権を発動すれば、何の意味もない。
G7の先進主要国がいくら経済制裁を実行に移しても、欧米日へのエネルギー供給で影響力を持つロシアを完全に窒息させるところまでいけない。
ウクライナには稼働中の原発が4カ所あり、このうち最も東側にあるのがザポリージャ原発だ。欧州最大級の出力で国内の電力の2割をまかなっている。
ロシア軍は、ロシア本土や2014年に一方的に併合したクリミア半島から、ウクライナ西部などへ進軍している。
その途上にある最重要のインフラ施設として掌握したとみられる。
侵攻初日の2月24日には、ベラルーシから侵攻したロシア軍が、キエフの北100キロに位置し、1986年に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発を占拠している。
こうした状況を捉えて「われわれはすでに第3次世界大戦に突入した」という声が上がった。
元チェス世界チャンピオンで現在「ヒューマン・ライツ財団」理事長のゲイリー・カスパロフ氏だ。
同氏は3月3日にこうツイートした。
「プーチンは(フランス大統領のエマニュエル・)マクロンにまた会ったが、何ら譲歩はしなかった。特に驚くことではなかった」
「北大西洋条約機構(NATO)も欧州連合(EU)もウクライナには軍派遣しないとプーチンに通告しているのだからプーチンは欧米の言うことなど聞かないのは当たり前だ」
「ウクライナはNATOに加盟していないのだからロシアは何でもできる。ついに原発を人質にしてしまった」
「核武装したウクライナは第3次大戦勃発の条件を満たす十分なリスクを背負ってしまった。ロシア軍の兵士たちとロシア市民以外にプーチンの核兵器使用をやめさせる者はいなくなった」
「ウクライナのために戦う外国人の義勇軍や戦闘機・武器弾薬供与が実現してもプーチンにとっては痛くも痒くもない」
「ロシアはすでに何年も前からウクライナ侵攻計画を周到に準備してきた。第3次大戦はすでに始まっている。ウクライナは現時点での前線に過ぎない」
「プーチンは戦線をエスカレートさせる。(米大統領のジョー・)バイデンをはじめとする欧米指導者たちは、ロシアがバルカン半島のNATO加盟国に手を伸ばせば、軍事力を行使するといっているが、疑わしいものだ」
「今のウクライナ情勢を見れば、NATOが参戦するとは思えないし、プーチンもそう考えているはずだ」
「2014年のクルミア合併した時、彼らは何と言っていたか。『プーチンを止めるのは危険すぎる』と言っていたのだ」
「ブルータスはどこにいる」
カスパロフ氏が「プーチン氏の『核戦略』を止めさせられるのはロシア兵士たちとロシア市民だ」と言った延長線上にあるのは何か。
つまりロシア人によるプーチン暗殺やプーチン政権打倒だ。
これまで誰も触れなかった作戦をストレートに言ってのけたのは、米共和党の重鎮、リンゼイ・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)だ。
同氏は3月3日、ツイッターでこう発信した。
「ロシアにはブルータス*1はいないのか。ロシア軍にはシュタウフェンベルグ参謀大佐はいないのか」
「この戦争を終わらせる方法は、この男(プーチンのこと)を葬り去るのはロシア人しかいない。その人物はロシアにとって世界にとって最大の貢献者ということになる」
*1=ブルータスはユリウス・カエサルを暗殺した人物。クラウス・フォン・シュタウフェンベルグ参謀大佐はヒトラー暗殺を企てたドイツ軍将校で伯爵。
米国には1863年「外国首脳暗殺禁止法」
この発言は米国内外で反響を呼んだ。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はこうコメントした。
「それ(プーチン暗殺)はバイデン政権の立場ではないし、そうしたステートメントはバイデン政権で働くいかなる者からも出ることはない」
米国には1863年に制定された「リーバー法」があり、その第9条には「敵対する国家の当局者および市民を裁判なしに殺すこと」を禁じている。
英国のボリス・ジョンソン首相のスポークスマンは、グラハム発言には直接言及するのは避けながらも、「プーチン氏はその戦争犯罪に対する責任を追及されねばならず、国際司法裁判所によって調査されねばならない」と述べている。
敵対する国家の指導者を暗殺することは米国法では禁じられている。だが、実際には国家や国際テロ組織の指導者への殺害はバラク・オバマ、ドナルド・トランプ各政権ではかなり行われてきている。
オバマ政権では2011年5月、国際組織「アルカイダ」の指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者が米海軍特殊部隊によって殺害された。
またトランプ政権では国際テロ組織「IS」のバグダディ容疑者(2019年10月)、イラン革命防衛部隊精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官(2020年1月)、国際テロ組織「アラビア半島のアルカイダ」の最高指導者、カシム・リミ容疑者(2020年2月)がそれぞれ殺害されている。
こう見てくると、「リーバー法」が必ずしも厳格に守られていないことが分かる。
ロシア国民にプーチン打倒を呼びかける
一方、ロシア国民による一斉蜂起については保守系「ワシントン・タイムズ」が3月3日付サイトでプーチン政権の転覆をロシア国民に訴えるオピニオンを掲げた。
筆者は著名な調査ジャーナリスト兼弁護士でトランプ政権下では米グローバルメディア庁(USAGM)上級顧問を務めたこともあるジェフリー・S・シャピロ氏だ。
同氏はこう述べている。
「プーチン大統領のウクライナ侵攻に反対する声が高まっている。反政府勢力のアレクセイ・ナワリヌイ氏はロシア国民に侵攻に反対するデモに参加するよう呼びかけている」
「プーチン氏はデモを弾圧しているが、ロシア国民はナワリヌイ氏の主張に共鳴してデモに加わっている」
「ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の中には、プーチン氏から離れようとしている者もいる。ロシア軍の兵士の中には除隊する者も現れているという報道もある」
「プーチンのロシアが行きつく先はヒトラーのドイツと同じだ」
「元KGB中佐のプーチン氏は政権の座を守るために、注意深くそうならないよう準備しているだろうが、周辺に不穏分子がいる」
「デモに参加しているロシア人もプーチン氏が信頼しているアドバイザーたちも、今こそプーチン追放に立ち上がれ」
「ウクライナを救え、世界を救え、そして手遅れになる前に、自分たちの祖国・ロシアを救え」
プーチン氏のウクライナ侵攻を許してしまった根源は、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ両政権がロシアを甘やかしてしまったからだ、という説が出始めている。
トランプ政権で米情報局長官を務めたジョン・ラトクリフ氏だ。
「ロシアがジョージア侵攻した2008年はジョージ・W・ブッシュ大統領、2014年にクリミアを合併した時はオバマ大統領だった」
「そして今ウクライナ侵攻を許しているのはバイデン大統領だ。トランプ氏が大統領の時にはロシアは隣国の領土を奪おうとはしなかった」
「敵対国の行動を抑止するのは一筋縄ではいかない。それは軍事、経済、政治、外交各戦略と、それを束ねた米国の国益を脅かせば莫大な代償を払わざるをえないぞ、という真剣味を帯びた発信力がなければできないことだ」
「究極的なステートクラフト(国政術)とは時の大統領が敵対国を抑止するだけの力を誇示できるか否かにかかっている」
「バイデン氏の対ロシア・アプローチの拙さは、アフガニスタン撤収作戦の時に露呈した無様さに象徴的に表れている。その結果、米国市民の出国をサポートすることだけが任務だった13人の米兵を戦死させてしまったのだ」
「プーチン氏はこれを見てにんまりしたに違いない。バイデン政権の驚くべき無能力さは、米国の弱点と国際社会における脆弱性を露呈してしまった。それをプーチンに見透かされてしまった」
厳しい指摘だが、米国民の6割がウクライナへの米軍投入に反対している。バイデン氏にできることは対ウクライナ軍事援助と経済制裁しかない。
しかもそれを公言してしまった以上、プーチン氏としては「核戦略」まで振り回してやりたい放題だ。
むろん、国際世論を敵に回し、経済制裁での締め付けが効いてくれば、中長期的にはロシア国民も黙ってはいまい。だが、それではまさかの時に間に合わない。
だとすれば、この「第3次大戦」を阻止するには、ロシア人によるプーチン暗殺か、一斉蜂起しかない。
プーチン氏の暴挙にバイデン氏が「激しい憤り」を表明するだけでは阻止できないところまで来ている。もはや限界にきている。
建前では「暴言だ」「極言だ」とは言いつつも、本音ベースでは、グラハム氏の暗殺奨励発言に共鳴する声は米国内の草の根層に急速に広がっている。
●ロシア/ウクライナ情勢 日本の自動車メーカーに与える影響は? 3/6
対岸の火事ではない
ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して、世界全体が大きな不安を抱いている。戦争という悲劇のなかで、必死に生きようとしている人々の姿が連日、メディアを通じて報じられている。日本にとっても、対岸の火事として捉えるのではなく、人道的な対応に誠心誠意つとめるべきだと思う。一方で、経済の分野でも、日本という国として、また個別企業としてロシア、ウクライナ、そしてその周辺国への対応策を真剣に検討するべき時期である。そうした中、自動車産業界でも3月に入ってから新たな動きが出てきた。
ロシアでの販売台数が少ないホンダ
まず、ホンダについて、テレビや通信社などが「ロシア向け四輪や二輪車の輸出を一時停止することが明らかになった」と報じた。理由については、経済制裁という直接的な面ではなく、ロシアの金融市場の混乱によりロシア現地での決済や資金の回収が難しくなったからなど、としている。そもそも、ホンダのロシア市場での事業規模は限定的で、コロナ禍の2020年販売実績は約1500台とかなり少ない。一部報道では、ホンダは販売台数が限定的であることから、ロシア市場からの撤退を含めた対応策を、今回のウクライナ軍事侵攻の前から検討していたとも伝えられている。では、トヨタはどうか?
ロシアに工場をもつトヨタの決断
トヨタは2022年3月3日、「ロシア事業(現地生産・車両輸入)について」というプレスリリースを出した。それによると、現地法人ロシア・トヨタは、部品の供給不足などの問題によって、3月4日から当面の間、ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルグにある最終組立て工場での稼働を停止するという。同工場では、ロシア市場向けとしてカムリとRAV4を生産している。そのほか、日本などからのロシアへの完成車輸入についても当面の間、停止する。現在、ロシア・トヨタは同国内に、168の販売/サービス拠点を持つが、ロシアの消費者に直接的な影響が及ぶことになる。また、ウクライナではロシアの軍事侵攻の影響で、2月24日から同国内のサービスと販売拠点のすべてである37拠点で事業を停止している。他のメーカーでは、三菱やマツダについても、日本からのロシアへの部品輸出などを一時停止する動きがあるとの報道がある。こうした一連の動きは、あくまでも現地での部品調達が難しくなることや、金融市場の混乱などが根拠とされている。今後は、ロシアに対する経済制裁という観点から、日本の自動車メーカー各社でつくる業界団体の日本自動車工業会としては国と連携して、自動車メーカーが共同歩調をとるかどうかの方向性を示すことが必要になるだろう。
欧州メーカーにも影響が
欧州メーカーでも、ロシアのウクライナ軍事侵攻に関係する影響が生産面で出てきた。フォルクスワーゲンとBMWはそれぞれ、ウクライナからの部品供給に問題が生じたことで、最終組立て工場の稼働を一時停止すると発表した。各種報道によると、原因はドイツのケーブル(配線)メーカーにあるという。近年の自動車には多数のECU(制御装置)が組み込まれており、その数は高級車の場合100近くに及ぶ。これらECUやライト類など、クルマの中にはさまざまなケーブルが配線されている。先端開発分野では、ボディの一部やボディペイントの一部にケーブルの機能を埋め込むなどの技術があるが、現状ではケーブルが電気とデータを送るクルマにとっての血管として重要な役割を果たしている。ケーブルの製造工程ではコスト削減のため、一部の作業を人件費の安い国や地域でおこなう場合がある。筆者は以前、東南アジアでタイの部品メーカーがケーブル製造の一部を、近隣のカンボジアでおこなっている様子を取材したことがある。あくまでも予想だが、今回の事例ではポーランドなどでの主要部品工場から、一部の作業がウクライナでおこなわれていたのかもしれない。もし、そうだとすると、部品メーカーとして早急に対策を打つにしても、コスト上昇は避けられないだろう。
世界戦略の見直し時期か?
話をロシアに戻そう。トヨタが一時操業停止を決めた、サンクトペテルブルク工場はいま(2022年)から15年前の2007年に操業を開始した。その頃は、BRICs(ブリックス:ブラジル、ロシア、インド、中国など)と呼ばれる経済新興国での経済成長が目覚ましく、その象徴が自動車産業だった。BRICsでの市場規模が大きくなる中で、各メーカーが現地生産に乗り出していった。ロシアの場合、日産はロシア国営企業との連携での進出となったが、トヨタは独自工場の建設を決断した。工場が稼働開始からしばらくして、筆者はトヨタ本社関係者から「ロシアの工場従業員の手が大きくて、組立工程で時間がかかる場合がある」として、カムリの一部設計を見直したという話を聞いたことがある。こうした小さな「カイゼン」により、トヨタはロシアでの現地化を着実に進め、生産能力で年間10万台、また2021年実績で8万台を生産するまでの拠点に育て上げた。だが、ロシアのウクライナ軍事侵攻によって、一時的な工場停止という事態に陥った。カントリーリスクという言葉があるが、経済危機のみならず、今回のような大規模な軍事的な出来事も想定することが重要であることを、あらためて実感した。
●なぜウクライナに侵攻したのか、極端に臆病で貧しい軍事大国ロシア 3/6
ロシアの1人当たりGDPは日本の4分の1で、マレーシアと同じくらい。先進国には入らない。輸出の大半が原油なので、原油価格が下落すると、経済が痛手を受ける。それに加えて西側の経済制裁があったため、経済が大きく落ち込んだ。それにもかかわらず、なぜウクライナに侵攻したのか? 
ロシアは何と貧しい国!
ロシアは、多くの日本人が想像しているよりずっと貧しい国だ。
百聞は一見にしかず。グーグル・ストリートビューで歩いて見ると、よくわかる。どんな都市に行っても、都心部には立派な建物が並んでいるが、そこから離れると、驚くほどの貧しい町並みになる。
シベリア鉄道の終点ハバロフスク中央駅は、壮大な建物だ。しかし、一歩裏に回ると、道路は水溜まりだらけで、掘立て小屋のような家もある。その様子をこの「風景」(クリックすると開示)でご覧いただきたい。
中央の遠景に、中央駅の壮大な建物が見える。ここは、東京でいえば皇居前広場や大手町あたりになる。回りを歩いて見ると、道が舗装されていないところや、ゴミが収集されずに積み上げられているところもある。
もう一つは、マガダン。これは、オホーツク海に面する海港都市だ。樺太の北、カムチャツカ半島の付け根の近くにある。
スターリンの時代には、流刑者は船でマガダンに送られ、ここからシベリア各地の強制労働に送られた。第2次世界大戦での日本軍の捕虜も、マガダンに送られてから、300キロ北にあるコリマ鉱山などでの強制労働に送られていった。
こちらの「風景」(クリックすると開示)はスターリン時代のものではない。現代のものだ。あまりの状態に、多くの人は仰天するだろう。
キャサリン・メリデール『イワンの戦争』(白水社、2012年)は、第2次大戦の独ソ戦を描いたものだ。ドイツ軍を押し戻して西方に進撃するソ連軍が国境を越えると、美しい白い家並みが連なっている。それを見てイワン(ソ連軍兵士の代名詞)は泣く。「戦いに勝ったところで、これほどの豊かさは絶対に手にはいらない」と知っているからだ。
この場面はとても印象的だ。そして、これは、いまでも変わらないことなのだ。
ロシアの1人当たりGDPはマレーシアと同じくらい
ロシアの貧しさは、統計でも確認できる。1人当たりGDPは、2020年で約1万ドルだ。これは日本の約4分の1で、マレーシアと同じくらいである(図1参照)。エストニア、チェコ、ハンガリー、ポーランドなどは、ロシアより遥かに豊かだ。IMFは世界で40ヶ国・地域を先進国としているが、ロシアはその中に入らない。
なお、ウクライナはもっと貧しく、インドネシアと同じくらいだ。
それにもかかわらず、ロシアは軍事力増強に多大の資源を投入している。だから、国民の生活はこの数字で見るよりもっと貧しくなる。ロシアの町並みが上で見たような状態になってしまうのは、当然のことなのだ。
世界第2の軍事大国であることや、宇宙開発を積極的に行っていることなどから、ロシアの経済力は強いと錯覚してしまう人が多い。しかし、実態は、以上で述べたとおりだ。
   図1 1人当たりGDP(2020年、単位:ドル)
輸出できるのは原油くらい
ロシアには、他国と競争できる現代的な産業はない。
ロシアの最大輸出品目は原油などの鉱物性燃料で、輸出全体の半分近くを占める。それについで、鉄鋼(5%程度)、貴金属等(3%程度)などがある。輸入品目では、一般機械が20%程度。そして、電気機器(12%程度)、車両(10%程度)となっている。
つまり、原油などを輸出して工業製品を輸入するという形であり、この点でも先進国的とは言えない。
注目すべきは、2014年に輸出が急激に減少したことだ。
これは、原油価格の下落による。2014年に1バレル100ドル近くだった原油価格は、2015年には約53ドルと、およそ半減した。
ロシアの原油は生産コストが高く、原油価格が1バレル当たり50ドルに達しないと利益を上げることができない。
クリミア編入後に、GDPが大きく下落
ロシア経済の問題は、1人当たりGDPの水準が低いだけでなく、低下していることだ。 図2で見るように、2013年には16000ドルを超えていたが、現在はその3分の2程度でしかない。
こうなったのは、ロシアの通貨ルーブルが減価したことによる(2013年までは1ドル=30ルーブル程度であったものが、2015年には1ドル=70ルーブル程度になった)。ルーブルの減価は、それまで1バレル100ドル程度だった原油価格が、2015年ごろに50ドル程度にまで下落したことによる。
ただ、それだけでない。2014年3月のロシアによるクリミア編入を機に、欧米諸国によって経済制裁が実施されたことの影響も大きいだろう。事実、原油価格は、18年には1バーレル70ドル程度まで戻ったのに、ロシア経済は回復していない。
また、図2に示すように、2013年頃からの1人当たりGDPの減少率は、同じく産油国であるサウジアラビアが約2割であるのに対して、ロシアは35%にもなる。
今回のウクライナ侵攻で、2月24日のロシアの株価指数は、およそ50%もの急落を示した。3月1日現在、株価急落の恐れで、市場を開けない状態だ。
また、ルーブルは、1ドル=110ルーブル程度に値下がりして、これまでの最安値を更新した(2月初めには77ルーブル程度だった)。これは、今後の経済制裁の影響を警戒してのことと考えられる。
   図2 1人当たりGDPの推移
極端に臆病な国ロシア
以上で見たように貧しい国なのに、ロシアはなぜ軍事費に巨額の支出をするのか? そして、ウクライナ侵攻で経済制裁が強化されると分かっているのに、なぜ侵攻したのか? それはロシアが極端に臆病な国だからだ。ロシアは臆病な白熊のような国なのだ。
第2次大戦で戦勝国となったのち、西側諸国との間に社会主義国家を作って、守りを固めた。ソ連崩壊後も、ベラルーシやウクライナを西側諸国との間に置いた。国境の外に、幾重もの親ロシア的な緩衝国家群を張り巡らしておかないと、不安でたまらない。
それも無理はない。ロシアは、西欧社会による侵略を何度も受けている。12世紀から13世紀には、「北方十字軍」の侵略があった。
19世紀のナポレオン戦争ではモスクワが占領された。そして第2次世界大戦においてナチス・ドイツは、クレムリンから十数キロ地点まで迫った。
西欧だけではない。13世紀には、モンゴル軍が襲ってキプチャク汗国を作った。
ウクライナがNATO加入国になることへのロシアの恐怖
1999年にチェコ、ハンガリー、ポーランドが、そして2004年には旧バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)などの旧東側諸国が、相次いでNATOに加盟した。
ウクライナも加盟を求めた。2008年の首脳会議でNATOは、ジョージアとウクライナが将来加盟することを認めた。
ウクライナに親西欧政権が成立し、さらにNATOにも加入することは、ロシアにとっては極限の恐怖なのだ。
3月1日、ロシアのプーチン大統領はアメリカを厳しく非難した。これに対して、アメリカのサキ報道官は、「臆病なキツネほど、よく吠える」と応じた。
臆病な国が恐怖心に囚われると、何をやらかすか分からない。ロシアはいま、そのような事態に陥っている。
●「プーチンは最初から核兵器を使おうとする…」 プーチンの“滅茶苦茶な理論” 3/6
世界中からの批判をよそに、核兵器使用の可能性まで口にしはじめたロシアのプーチン大統領。その真意はどこにあると見るべきか。2014年、ロシアがウクライナに侵攻した時期に、ロシアと国境を接するラトビアで大使を務めていた元外務官僚・多賀敏行氏(中京大学客員教授)が、当時を振り返りながら、プーチンの本質について寄稿してくれた。

プーチン大統領がまさかと思われたウクライナ侵略を始めました。更に核兵器を使用するかも知れないという不安が広がっています。
私は、ラトビア大使時代(2012〜2015)、ラトビア外務省のA局長(女性、ラトビアは女性の社会進出が進んでいます)と、懇意にしておりました。色々貴重な情報を教えて貰いました。
2014年のプーチン大統領のウクライナのクリミア半島侵略、そして併合のあとロシアは戦略爆撃機に核兵器を搭載して、バルト海上空まで飛ばしてくるので、ラトビアとしては怖くて冷や冷やすると、なかば呆れながら、なかば怯えながら語っておりました。
ロシアは通常兵器の面では、量でも質でも欧米に劣るので、それを量的に優る核兵器で補おうとする戦略をとっています。
ラトビアのA局長は「我々西側の安全保障専門家の常識はまず通常兵器を使って戦い、劣勢に陥り、生き残るための最後の手段として、初めて核兵器の使用を考える。プーチンは最初から、核兵器を使ってこようとするので、危なっかしくて冷や冷やする、偶発事故だって起こりうるのに」と語っていました。
今回のウクライナ侵攻でもプーチン大統領は核兵器の使用をほのめかしています。A局長の言葉から考えても、本気の可能性が高いと思われます。
余談ですが、この局長は40代半ばで、長身でとても知的な人でした。日本について意外なことで褒められたことがあったのを憶えています。小学生の娘さんがいて、日本の文房具は素晴らしいと褒められたのです。消しゴムで消せるボールペンなどにいたく感心していました。日本に出張で行ったとき、娘さんへのお土産で文房具を買ったのがきっかけとのことでした。
私はこのラトビアの直前に駐チュニジア大使をしておりました。いわゆる「ジャスミン革命」が勃発し、大変危険な目に遭いました。私の居た大使公邸から至近距離のところで襲撃戦が発生し、流れ弾にあたる危険がありました。緊張した時間を過ごしました。
次はヨーロッパの静かな国、ということで、ラトビア大使の発令を受け、ほっとして首都のリガに赴任しました。ところがラトビアにもリスクがありました。
ラトビアは1991年までロシアに支配されていたので、人口約200万人のうち約半数がロシア系のロシア語を話す人達なのです。そのためロシアの影響が強く2014年のクリミア半島侵略の際、プーチンは変な理論を持ち出しました。
「世界中のどこでも良いが、ロシア語を話す人達が苛められたら、ロシアは軍隊を派遣して守る権利がある」と言い出したのです。
ロシア国籍を持つロシア人ではなく、ロシア語を話す人であれば国籍を問わない、と言うのです。滅茶苦茶な理論です。イギリスのフィナンシャル・タイムズなど世界的な新聞は「プーチンが次に手を出すのは、ラトビアだ」といった記事を何度も書いていたので、「チュニジアでは折角死なずに済んだのに、ラトビアではどうなるんだろう」と心配でした。他方、ラトビアは2004年に念願のNATOへの加盟を果たしていたので、ラトビアは大丈夫という見方も強かったです。
ラトビア外務省のA局長のところに足しげく通ったのは、この心配があったからでした。ラトビア、EU諸国を巡る安全保障状況についての情報は貴重でした。
プーチンと核兵器の話にもどると、プーチンの核兵器に対する考えかたをA局長より教えて貰ったのは、2014年のクリミア半島侵攻の頃なので、今から8年前のことになります。
今回のウクライナ侵略に際して、アメリカの議員など関係者から、「プーチンは何かがおかしい」「正気なのか」など精神状態の不安定さを指摘する報道が出て来ています。
果たしてどうなのでしょうか。私は、プーチン大統領は急におかしくなったわけではなく、危険な本質は昔も今も変わっていないと見るべきだと考えます。
核兵器の使用の可能性については前述の通り、2014年の時点で既に出ていました。
またプーチンの独特な世界観は、西側のリーダー達のいわば代表という立場で、プーチン大統領(ドイツ語に堪能)と交渉したメルケル独首相(ロシア語に堪能)が、オバマ米大統領に述べたと言われる言葉が思い出されます。
「プーチンは現実から切り離された自分の世界に生きている」
今指摘されているプーチン大統領の問題の全ては2014年の時点で出揃っていたとも言えます。
「他国の領土を武力で持って一方的に自分の領土にしてしまうことは許されない」とは国際法の中でも一番重要な原則です。この原則を公然と無視し続けるプーチンのロシアに対していかに西側は毅然とした対応ができるのでしょうか。私達は近現代史上、最大の危機に直面しています。 
●プーチン大統領、KGB時代は平凡な裏方職員 タクシー運転手だった時期も 3/6
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(69才)の暴挙に世界が怒りの声を上げている。ウクライナを侵攻し、核の利用さえちらつかせるプーチン氏は、ソ連の諜報機関「KGB」出身だ。
プーチン氏にとって「KGBのスパイ」は憧れの職業だった。しかし、当時のソ連は歴史上でも珍しい平穏な時代だったこともあり、彼が思い描いたような活躍の場はなかった。ウクライナ出身の国際政治学者グレンコ・アンドリーさんはこう言う。
「どこの国でも、独裁者というのは“普通の人”だった過去を隠したがるものです。プーチン氏は自身のKGB時代について“東ドイツに配属されて諜報活動に従事した”と話していますが、実際は映画『007』のような特殊任務を担当する工作員ではなく、裏方の事務作業を担当する平凡な職員だったようです」
東西冷戦下の東ドイツに赴任中、敵である西ドイツの情報を収集するためにやっていた仕事は、主に新聞の切り抜きだったという。
やがてベルリンの壁が崩れ落ち、母国ソ連も崩壊に向かう中、プーチン氏は失意の中で母国に戻った。すでに40才近い中年になっていた。レニングラードに戻った頃は、タクシー運転手をしていた時期もあったという。
こうした背景が「徹底的に力を誇示する男」を作り上げたとみるのは、東京外国語大学大学院・総合国際学研究院教授の篠田英朗さん(国際政治学)だ。
「プーチン氏はKGBとして高いプライドを持っていました。それなのに、ソ連が崩壊したことで自分自身も没落し屈辱を味わった。その苦い経験があるからこそ、プーチン氏にはいまでも“かつて強かったロシア(ソ連)が弱くなったことが悔しい”“ロシアを強くすることが自分の目標であり、宿命である”という思いが強いのです」
1990年、KGBを退職したプーチン氏は政治活動を開始した。それからわずか10年足らずで政界を上り詰め、2000年に大統領に就任する。
その後も不可解な出来事は続いている。2006年には彼の陰謀を追っていた女性ジャーナリストが自宅アパートで射殺され、同年、プーチン氏を批判した元KGB中佐が多量の放射性物質を摂取させられ暗殺された。2015年にはプーチン政権を批判していたネムツォフ元副首相がモスクワ市内で射殺された。プーチン政権の関与ははっきりしていないが、彼にとって邪魔な人物が次々と不審死を遂げているのは事実だ。前出の篠田さんが言う。
「長年、ロシアの最高権力者として君臨してきたことで、プーチン氏はもはや自分のことを『皇帝』と位置付けている。生まれながらに雲の上の存在だから、下々の人間の言うことに耳を貸す必要はないと思い込んでいるのでしょう」
暗くゆがんだ過去は権力で葬り去ることができても、現在進行形の戦争ににじむ私利私欲は隠せない。ウクライナの平穏な日常が早く取り戻されることを願うばかりだ。
●プーチン氏、軍事施設破壊「完了」 人道回廊は持ち越し 3/6
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナでの軍事作戦の主な目的である軍事インフラ破壊は「事実上完了した」と述べ、作戦は予定通りだと強調した。交戦は各地で続き、民間人の退避が5日に実現しなかった東部マリウポリでは同日夜にロシア軍が攻撃を再開。退避のための「人道回廊」設置は6日以降に持ち越された。
一方、イスラエルのベネット首相が5日に急きょモスクワを訪問してプーチン氏と会談するなど、停戦を巡る国際的仲介や水面下の協議も続いた。停戦交渉代表団に加わるロシアのスルツキー下院議員は、次回交渉が7日に開かれる可能性に言及した。
プーチン氏は5日、モスクワ郊外で航空会社の女性職員らとの会合に出席。侵攻に関する参加者の質問に答え、ウクライナ非武装化のため兵器庫や弾薬庫、航空機、地対空ミサイルなどの破壊が必要だったと強調した。
また、ウクライナ東部ドンバス地域の親ロ派部隊をロシア軍が支援する選択肢もあったが、ウクライナ軍への欧米の長期的支援が予想され「参謀本部は別の道を選んだ」と全面攻撃に踏み切った理由を説明した。
マリウポリではロシア軍に包囲された市内から民間人を退避させる人道回廊の設置がいったん発表されたが、戦闘が止まらず5日は実現しなかった。ウクライナのベレシチューク副首相は、6日に女性と子ども、高齢者の退避を改めて試みると述べた。東部ハリコフ、南部ヘルソンでも退避が計画されているという。
ロシア大統領府は5日夜、ベネット、プーチン両氏がウクライナ情勢を協議したと発表したが、詳細は明かさなかった。イスラエルのメディアは、プーチン氏が訪ロを招請したと伝えた。停戦仲介などが話し合われたとみられる。
●プーチン大統領“戒厳令導入は考えていない” 3/6
ロシアのプーチン大統領はウクライナでの軍事作戦をめぐり、ロシア国内で戒厳令を導入する考えはないと述べました。
ロシア プーチン大統領「戒厳令は大統領の命令と上院の承認によって宣言される。我々はそのような状況にないし、そうならないことを願っている」
プーチン大統領は5日、ロシア最大手の航空会社アエロフロートの客室乗務員らと会談し、戒厳令について外部からの脅威があった場合に導入されると説明。現在は導入を考えていないと述べました。非常事態宣言なども必要がないとの考えを示しています。
また、今回の軍事作戦について「難しい決断だった」と発言。欧米からの制裁については、「宣戦布告のようなものだ」と反発しました。
一方、この日、アエロフロートは、8日からロシアとベラルーシの首都ミンスクを結ぶ便を除く、すべての国際便の運航を一時停止すると発表しました。インタファクス通信によりますと、ロシアの航空当局は5日、ロシアの航空会社に対し、国際線の運航を停止するよう勧告していて、理由については、外国の企業からリースしている機体が「差し押さえられるリスクが高いため」としています。
●プーチン氏「飛行禁止区域設定は参戦とみなす」 3/6
ロシアのプーチン大統領はNATO=北大西洋条約機構がウクライナの領空に飛行禁止区域を設定すれば、「参戦とみなす」と警告しました。
ウクライナの領空を巡ってはロシア軍機の侵入を防ぐため、ウクライナがNATOに飛行禁止区域とするよう求めています。
プーチン大統領は5日、「こうした動きがあれば即座に参戦とみなす」と述べ、NATO側を強く牽制しました。
ロシア、プーチン大統領:「制裁は宣戦布告と同じようなものだ」
また、今回のウクライナ侵攻を理由に日本や欧米諸国が科している経済制裁についても、ロシアに対する攻撃と同一視するという考えを示しました。一方で、軍部に権力を集中させる戒厳令については「外部からの差し迫った脅威はない」として現時点での導入を否定しました。
●ウクライナ情勢めぐり 米中外相が電話会談  3/6
ウクライナ情勢をめぐって、アメリカのブリンケン国務長官と中国の王毅外相は日本時間の5日、電話で会談しました。
アメリカ国務省の声明によりますと、この中でブリンケン長官は「世界は、どの国が自由や国の主権といった基本的な原則を守るために立ち上がっているのか注視している」と指摘しました。
そのうえで「ブリンケン長官は、ロシアに高い代償を払わせるため、世界は一致して行動していると強調した」としていて、中国にもロシアに対して各国と足並みをそろえて厳しい対応をとるよう促したものとみられます。
中国外務省によりますと、これに対し王外相は「ウクライナの危機は最終的には対話によってのみ解決できる」と述べ、あくまで話し合いによる問題解決を促しました。
そのうえで「アメリカとNATO=北大西洋条約機構、それにEU=ヨーロッパ連合がロシアと対等な対話を行うことを奨励し、NATOの東方への拡大がロシアの安全保障環境にもたらしたマイナスの影響を重く見るべきだ」と述べ、ロシア側の立場に配慮する姿勢を示しました。
●イスラエル首相、プーチン大統領と会談 停戦仲介提案か 3/6
イスラエルのベネット首相は5日、モスクワでロシアのプーチン大統領と3時間ほど会談した。米メディアが同日、報じた。ベネット氏はロシアが侵攻したウクライナとの停戦交渉の仲介を提案したもようだ。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)などによると、イスラエル政府はバイデン米政権にロシア訪問を事前に通知した。
ベネット氏は2月25日にウクライナのゼレンスキー大統領、同27日にプーチン氏とそれぞれ電話で協議した。イスラエルのメディアは、ゼレンスキー氏がロシアと交渉できないか仲介をベネット氏に依頼したと伝えた。
ロシア大統領府はベネット氏がプーチン氏との電話でロシアとウクライナの停戦交渉仲介を提案したと明らかにしており、今回のロシア訪問も仲介の一環とみられる。
●「ウクライナ情勢状況はますます耐えがたい」メドベージェワが苦しい胸中を吐露 3/6
平昌五輪・女子フィギュアスケートの銀メダリストで、世界選手権を2度制したエフゲニア・メドベージェワ(ロシア)が自身のインスタグラムで悩める胸中を明かした。
ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、すぐさまストーリー機能を利用して「悪い夢のように、早く過ぎ去ることを願っています」と想いを綴ったが、今回は本投稿で長文を掲載。添えたのは飛行機の機内から撮影された一枚で、雲海の先に夜明けを告げる朝陽が登場するカットだ。
22歳のインフルエンサーは「この1週間を通して、私はまるで12年も年齢を重ねたかのように感じています」と書き出し、「でもそんな風に成長なんてしたくない。私は人生を通して芸術と慈愛の理想を信じてきたただの女の子であって、これからも素朴さと面白さを持っていたいのです」と続けた。
さらに「素朴で面白くありたい。ならば一日の始まりは震える手で政治的なニュースフィードを更新するのではなく、TikTokの面白い動画をスクロールしてポジティブにスタートさせましょう」と呼びかける。
そして最後に、「もちろん私は理解しています。多くの状況がより悪化し、酷くなり、ますます耐えがたいものになっていることを。だから私のなかで日々、ひとつの考えが芽生えています。平和に過ごし、互いを敬い、犠牲を払わずに交渉できるようになるために、私自身のすべての目標や夢を費やしていきたいと。幸運を祈ります!」と、熱いメッセージを書き込んだ。
ロシア国内では政府への批判的な言動や報道に対する締めつけが、日増しに厳しくなっており、その対象は一般市民にも及んでいる。メドベージェワもウクライナという文字をいっさい使っておらず、直接的な表現を避けている印象だ。最大限の注意を払いながらも、その行間からは切実な想いが滲み出ている。
●一時停戦ならずウクライナ南東部で混乱 イスラエル首相が訪ロ 侵攻10日目 3/6
ウクライナ侵攻開始から10日目の5日朝、ロシア国防省は人道避難用の回廊設置のため、南東部2都市で一時停戦を発表した。しかし戦闘が続いたため、一斉避難をしようとした現地住民は大混乱に巻き込まれた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は同日、西側諸国の制裁措置は「宣戦布告のようなもの」だと述べる一方、ロシアで戒厳令を発令するつもりはなく、軍事作戦はすべて「予定通り」に進んでいると述べた。
ロシア国防省は南東部マリウポリとヴォルノヴァハの2都市でモスクワ時間5日午前10時(ウクライナ時間午前9時、日本時間午後4時)から7時間、一時停戦を開始すると発表した。ウクライナ側は日本時間午後4時すぎ、一時停戦を確認したと明らかにした。ただし、同市当局は3時間後、人道回廊の目的地になっているザポリッジャ市の周辺で、戦闘が続いているとして、避難を中止した。
マリウポリのセルゲイ・オルロフ副市長はBBCラジオに対して、市民を避難させるための一時停戦は「30分も続かなかった」と述べた。赤十字国際委員会(ICRC)の対応のもと、停戦は5時間は続くはずだった。しかし副市長によると、停戦が始まるはずだった時間から市内への砲撃が「絶え間なく」続き、学校や幼稚園、市民避難用のバスなどが次々と攻撃されたという。
最大9000人の住民が同日、バスや自家用車などでマリウポリを脱出する予定だったという。ロシアの砲撃で市内のインフラが破壊されているため、電車は走っていないと、副市長は説明した。
地元当局によると、ロシア軍の包囲のため、市民は食べ物や水、医薬品が手に入らない切迫した状態だという。
オルロフ副市長は、ロシア軍が行っているのは「ジェノサイド(民族虐殺)」だと非難。市内にはもはや飲料水も暖房もなく、下水設備も使えていないため、住民がこれからどうなるのか考えると「恐ろしい」と述べ、西側には武器の追加供与や飛行禁止区域の設定などによる支援強化を呼びかけた。
ロシア軍は、一時停戦発表後の砲撃再開についてコメントしていない。ただし国防省は、住民がマリウポリからの脱出ルートを利用しなかったとして、ウクライナ当局が住民の脱出を阻止したのだと非難した。
人口約40万人の港湾都市マリウポリは、ロシアにとって重要な戦略拠点。マリウポリを掌握すれば、ロシアが後押しするウクライナ東部の分離派勢力が、ロシアが2014年に併合したクリミア半島のロシア部隊と合流できるようになる。
マリウポリと同時に一時停戦の対象になったヴォルノヴァハ市はマリウポリの北にあり、侵攻開始からずっと激しい砲撃を受けてきた。ロシアが後押しする勢力が一部を実効支配するドネツク地方と、マリウポリを結ぶルート上に位置するため、ここもロシアにとって重要な攻略対象になっている。
一時停戦ならず、大混乱の住民
マリウポリに住むエンジニアのアレクサンドルさん(44)は、「いまマリウポリの通りにいる。3分おきとか5分おきに、砲撃の音がする」とBBCに話した。
市民の脱出用に人道回廊が設置されると言われたものの、機能していないとアレクサンドルさんは述べた。
「逃げようとした人たちの車が、戻ってきている。混乱状態だ」
IT開発者のマキシムさん(27)は、マリウポリ市内の祖父母のマンションから、BBCに動画を送った。映像では、市中心部近くで爆発があり、煙が上がっている様子が見える。マキシムさんは、人道回廊の終着点だったはずのザポリッジャへ向かう高速道路からも、煙が上がっていると話した。
「ミサイルの音が聞こえるし、自分たちの周りの建物から煙が出ているのも見える。街の中心部への砲撃を避けてきた人たちで、このマンション棟はいっぱいだ。左岸地区から来た人たちによると、そこはひどい状態になっていて、路上のあちこちに遺体があったという」と、マキシムさんはBBCに話した。
マリウポリ出身のデザイナー、ケイト・ロマノワさん(27)は、両親がマリウポリから脱出できず、孤立しているとBBCに話した。
「朝の8時に両親と話をした時は、市民の一斉避難について何も知らなかった。中心部に住んでいて、途切れなく砲撃が続いていると話していた」
「避難についてスピーカーで広報していたという話も聞くが、住んでいる人たちは、ロシアの偽情報かもしれない、信用できるか分からないと言っているそうだ」
4日夜に夫と車でマリウポリを脱出したディアナ・ベルクさんは、夫の母親が避難したくないと言い張ったため、残してきたのだとBBCに話した。
「残酷な砲撃が3日連続で続いたので、市内で自殺するか路上で自殺するかのどちらかだと思って、脱出を選んだ。今では罪の意識でいっぱいだ。夫の母親を連れてくるべきだった。大勢が閉じ込められている。どうやって情報を得るのか。完全に孤立してしまっているのに」
制裁は宣戦布告=プーチン氏
プーチン大統領は同日、西側諸国による経済・金融制裁は「宣戦布告のようなもの」だと述べた。「しかしありがたいことに、そこまでには至っていない」とも述べた。
プーチン氏はモスクワ近郊にあるアエロフロート訓練施設を訪れ、女性客室乗務員たちと歓談した際に、発言した。
大統領はさらに、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するようなことがあれば、それは武力紛争への参戦とみなされる、当事者は敵性戦闘員とみなされると警告した。飛行禁止区域の設定は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をはじめ多くのウクライナ人が強く求めている。しかし、設定すればNATOがウクライナ領空に入ったロシア軍機を撃墜することが求められるため、NATOはこれを拒否している。
プーチン氏は、「(ウクライナの指導部は)自分たちが今やっていることを続ければ、ウクライナの国家としての未来を危うくしているのだと理解する必要がある」とも警告した。
一方で、ロシアで非常事態を宣言したり、戒厳令を発令したりするつもりはないと言明。そのような措置は「外部からの侵攻があった場合に限り、軍事行動が行われる場所に限定」されるものの、「そのような状況ではないし、そうならないよう願っている」と述べた。
その上でウクライナ侵攻の正当性をあらためて強調し、ウクライナの「非軍事化と非ナチス化」によって、ウクライナ国内のロシア語話者たちを守ろうとしているのだと強調した。
ロシア軍の作戦が思った通りに進んでいないのではないかという西側の指摘については、「我が軍は全ての任務を完遂する。その点はまったく疑っていない。何もかも予定通りだ」と述べた。
侵攻に参加しているロシア兵には徴兵が多いと指摘されているが、プーチン氏はこれを否定。侵攻に参加しているのは職業軍人のみだとも述べた。
イスラエル首相がモスクワ訪問
イスラエルのナフタリ・ベネット首相は同日、モスクワを訪れ、約2時間半にわたりプーチン大統領と会談した。ベネット首相の訪ロは、首相が実際にクレムリン(ロシア大統領府)に入るまで、伏せられていた。
イスラエル首相府は、プーチン氏とのこの会談については事前にアメリカに連絡していたと明らかにした。
ベネット首相は正統派ユダヤ教徒。5日は土曜日で、本来ならば安息日のため、このような行動はとれないはずだっただけに、ベネット首相の訪ロがいかに緊急性の高いものがうかがわれるという指摘が出ている。ユダヤ教の戒律では、人命がかかる緊急事態にのみ、安息日でも激しい活動が許される。
イスラエルはアメリカと強固な同盟関係を築いているが、プーチン大統領とベネット首相はこれまでに何度か会談しており、関係は良好だとされる。一方、ウクライナのゼレンスキー首相はユダヤ系で、かつてベネット首相にロシアとの紛争での仲介を依頼していた。
プーチン大統領との会談を終えたベネット首相は、続いてドイツを訪れ、オラフ・ショルツ独首相と会談した。
米国務長官とウクライナ外相が対面
5日には訪欧中のアントニー・ブリンケン米国務長官が、ウクライナのドミトロ・クレバ外相と対面し、ロシアに立ち向かうウクライナの勇気をたたえた。
両外相はウクライナとポーランドの国境で対面。記者団を前に、ブリンケン長官はクレバ外相に、ゼレンスキー政権の勇気と指導力に畏怖(いふ)する思いだと述べ、「世界はここにいます。世界はみなさんと共にいます」と支持を示した。
クレバ外相は、「ウクライナはどうせこの戦争に勝ちます。なぜならこれは自分の土地を守る国民の戦争だから」だとした上で、「問題はその代償、私たちの勝利の代償だ」と述べ、協力国が引き続き大胆かつ体系的に、ロシアに対する政治・経済圧力を強め、ウクライナに必要な武器を引き続き提供してくれれば、「その代償は安くなる」と話した。
外相はさらに、NATOによる支援強化を希望し期待していると述べた。戦闘機や防空ミサイルの追加供与を求めたほか、NATOがウクライナ領空を飛行禁止区域に設定し、対ロ防衛に協力してくれるよう望んでいると強調した。
NATOは、飛行禁止区域を設定すれば、NATO軍がロシア機を撃墜しなくてはならない状況に至る恐れがあり、深刻なエスカレーションにつながると懸念して、ウクライナの要請を拒否している。
ブリンケン長官は、アメリカと国務長官とウクライナの国防相同士を含め両政府が、あらゆる選択肢を協議し検討していると述べた。
●特殊作戦関係者が解剖する軍事インテリジェンス 3/6
ウクライナ侵攻の裏側で繰り広げられていた情報戦について、シリーズの第2回は、アメリカがいかにして正確に侵攻開始の時期を察知したか詳報する。
2月21日までは、ロシア・プーチン大統領の翻意に期待し、外交路線を模索していたアメリカのバイデン政権が、22日朝「侵攻の始まりだ」と一気にトーンを切り替えた。
この背景に何があったのか。
一夜にして変わったバイデン政権の劇的な転換を説明するヒントはプーチン氏の「開戦演説」にあると筆者は見る。
2月24日朝(モスクワ時間)にテレビ放送され、ロシア軍の侵攻の号砲となった「ロシアはウクライナの脅威を容認できない」「ウクライナの非軍事化、武装解除を目指す」とした演説だ。
プーチン演説は3日前に収録されていた?
配信された映像のメタデータを見ると実は、演説はモスクワ時間の21日夜(ワシントンの21日正午)までに収録されていた可能性が高いことを各メディアやSNSが指摘している。メタデータとはデータのデータとも言えるもので、文書ファイルや音声ファイルの作成日やファイルのサイズ、使用された規格、作成者などが記録されている属性情報を指す。
ここで時計の針を21日夜(ワシントン時間)に戻そう。ワシントン時間の21日正午までに収録されていたかもしれない「開戦演説」。仮にそれが事実であれば、すでにその時点でプーチン大統領は武力行使を決断していたことになるが、一方のバイデン大統領は21日の時点で「侵攻」という言葉を使うことを避け、非戦の余地を残す配慮を見せていた。その日の夕方に行われたウクライナ情勢についてのブリーフィングでのNSC(アメリカ国家安全保障会議)高官の融和的な発言も同様である。
この時点まではプーチン氏の決断を把握していなかったバイデン政権だったが、21日正午前後にプーチン氏が開戦演説の収録を終えると、ワシントン時間21日の夜半にかけて何らかの方法によりこれを把握し、そのインテリジェンスに基づいて夜が明けるまでに融和モードの放棄を決定し、22日朝から「侵攻」批判に転じた、と筆者は見ている。
収録から12時間以内にプーチン演説の内容を把握か
筆者の見立てが正しければ、アメリカは21日正午とされる演説収録から12時間で何らかの方法で演説の中身を察知したことになる。ワシントン時間で22日午前0時には把握し、迅速に情報機関内の分析評価を経て、ホワイトハウスに報告がされ、22日朝7時のCNN生出演までに「侵攻」批判の論点を固めたという計算だ。
その後、プーチン大統領が侵攻を決断したことによって、アメリカのインテリジェンスの活用はそれまでの侵攻を抑止するための活用から、侵攻を予告しウクライナのダメージを最小限に抑えるための活用へと変わっていった。
2月23日付のニューズウィーク電子版は「アメリカ政府がウクライナ政府に48時間以内に大規模侵攻が始まると警告」と報じている。この記事はアメリカ軍がロシア軍の偵察機がウクライナ領空を侵犯したことを把握していることや、軍事作戦の特性を総合的に評価判断したものだと伝えている。
いつから48時間なのか、その起算日は不明ではあるものの、アメリカ政府はロシア軍の動きを外から分析して、その準備状況から48時間以内という計算を導き出している。
不可解なウクライナの態度
一方、当事者であるウクライナの危機感の薄く、2月20日の時点にいたっても甘い情勢認識を崩していなかった。ウクライナのレズニコフ国防相は「今日の段階では国境地帯にロシア軍の攻撃部隊がいる兆候はどこにもない。明日、明後日に侵攻があるというのは適切ではない」と、今から見ればトンチンカンなことを地元テレビで述べている。
集結するロシア軍を目の前で見てきたはずのウクライナの国防の責任者すら、侵攻の4日前になっても甘い情勢認識を崩さなかったことは理解に苦しむものがある。それまでアメリカから再三、インテリジェンスで警告されていたにもかかわらずだ。ウクライナとしては自分の情報収集で同じ情報が引っ掛からなければ、アメリカの評価を信じることができなかったのかもしれない。
ロシア軍を制約する「バッテリー」
ではアメリカのインテリジェンスは具体的にロシア軍のどのような準備状況に着目して判断したのだろうか。ロシア軍のどこを見れば、そのような評価を導き出せるのだろうか。
そうした疑問を現役の軍関係者にぶつけてみた。特殊作戦コミュニティに属する、この関係者から返ってきた答えは意外にも「バッテリー」というものだった。つまりこういうことだ。現代の軍隊はハイテク化が進んでいて、通信機、情報端末、火砲の電子照準器、火器管制装置、夜間暗視装置、サーマルセンサーなど電気で稼働する装置の塊なのだという。当然、私たちが使っている民生品と同様、バッテリーの充電がなくなれば稼働しなくなってしまう。もちろんそれらの装置が使えなくても限定的な戦闘行動はとれるものの、大幅に戦闘能力は低下することは避けられない。フル充電を済ませ戦闘準備態勢に一度、部隊が就くと、バッテリーが持続する長さ、兵士が緊張状態を維持できる長さは「せいぜい2日間が限度だろう」とこの関係者は言う。指揮官はその2日の間に戦闘を開始するか、戦闘態勢を解除して一度、撤退するかのどちらかの決断を迫られることになる。まさに「48時間」という数字を導き出したアメリカのインテリジェンスとも符合する。
興味深いのはバッテリーの充電がいかに部隊の行動可能な日数を制約しているかだ。電池が消耗しても展開先の現場で充電できる装置もあれば、特殊な充電装置が必要なため、一度、基地や拠点に戻らないと充電できない装置もあるのだという。そのため出先で完全な戦闘態勢に入ったら2日以内に戦闘開始をする必要があり、戦闘開始後も補給を受けずに独立的に動ける日数はせいぜい5日間程度だという。
停滞のロシア軍「主力を温存」
侵攻開始後4日あたりから散見されるロシア軍の停滞はまさにこの視点から見ると腑に落ちるものがある。国防総省はこうした停滞でロシア軍がいら立ちを深めていると見ている。SNSではロシア軍兵士たちが食料を現地で略奪している映像が伝えられている。ただ、その一方でロシア軍はこれまでにまだ主力部隊を投入しておらず、「温存された戦力で次の動きを仕掛ける余力を残している」(国防総省カービー報道官)という。
ロシア軍に詳しい現役の軍事関係者も同じ見方を筆者に披露してくれた。この関係者によれば、SNSで公開されているロシア軍の損害を見ると、小規模の部隊を逐次投入するような戦い方をしていて、攻撃力も防御力も高くない小部隊がウクライナ軍の待ち伏せ攻撃に遭っていると指摘する。
そのうえで「なぜかロシア軍はBTG(大隊戦術グループ)としての機能を最大限活用する組織戦を展開せず、小部隊で散発的な戦闘をしているように見える」と訝る。
BTGとはロシア軍の戦闘単位で、偵察、戦車、歩兵、防空、施設、通信、補給などの複数の機能を併せ持つ諸兵科連合の大隊で、ある程度遠隔地でも自己完結的に作戦を遂行できることがコンセプトだとされる。つまり、中規模くらいの単位で遠隔地にもすぐに派遣できる機動力を持ちながら、ある程度、オールランドに戦うこともできるというものだが、その機能を最大限発揮させるような運用をせず、ウクライナ軍の攻撃の前に犠牲を積み上げている、というのだ。
なぜロシア軍は最初から一気呵成に大規模な組織戦で決着をつけようとしなかったのだろうか。その理由について米CNA海軍研究センターのマイケル・コフマン研究員は、まずウクライナ軍の抵抗は強くないだろうと過小評価していたこと、ウクライナ制圧後の統治を考慮してできるだけウクライナ国民の反感をかわないよう破壊を伴わない方法で決着をつけようとしたのだと指摘している。
また、ロシア軍の上層部はウクライナ侵攻に消極的で、下級兵士たちには任務がしっかりと説明されていなかった可能性もあげている。確かにSNS上では最後までウクライナに侵攻するとは知らされていなかったと話すロシア軍兵士や訓練だと思っていたという捕虜とみられる動画がある。
その一方で一つの疑問が浮かぶ。なぜウクライナ軍はロシア軍を待ち伏せ攻撃ができていたのか、だ。
●ロシアへの制裁措置 ウクライナ支援策 与野党議論 NHK日曜討論  3/6
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ情勢をめぐり、NHKの「日曜討論」で、ロシアに対する制裁措置やウクライナへの支援策のあり方について、与野党が意見を交わしました。
自民党の世耕参議院幹事長は「制裁はこれから効果が出てくると思うが、これをテコにロシアに行動を変えさせることが重要だ。エネルギーに関する部分は現実的に考えていくべきだ。一方で、これ以上の制裁に踏み込む可能性はあり、その時はエネルギー分野に強い影響が出てくる。与野党を超えてウクライナへの連帯として、国民に大きな負担をお願いしなければならない事態になるかもしれない」と述べました。
立憲民主党の森参議院幹事長は「日ロの経済協力プランに基づいた石油・天然ガス開発事業『サハリン1・2』から、欧米諸国が引きあげるなか、日本は完全に撤退していない。エネルギー供給に関わり、日本企業にとっても厳しいが、経済制裁は、国際社会が一致団結してやらないと効果が出てこないので、政治判断が求められる」と述べました。
公明党の西田参議院会長は「政府の対応は、刻々と変わる事態に素早く対応することがなされていると思う。SWIFTからの排除は大変大きい。プーチン大統領の周辺幹部の資産凍結は『もうやめましょう』と進言させるか、離反させる効果もねらっており、徹底して行うべきだ」と述べました。
日本維新の会の柳ヶ瀬総務会長は「国連がしっかりと機能しなければならない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、国連でのロシアの投票権の剥奪を訴えているが、こうした国連改革をしっかりやっていくということも必要で日本が主導していくべきだ」と述べました。
国民民主党の川合参議院国会対策委員長は「プーチン大統領は、ロシアの経済が停滞していることにいらだちを感じ、ウクライナに侵攻していると考えている。あらゆる経済分野で、ロシア包囲網を作ることが最も効果的なメッセージになる」と述べました。
共産党の井上参議院幹事長は「隣国や国際機関を通じた食料や医療などの非軍事の人道支援をやるべきだ。政府が決めた防弾チョッキなどの防衛装備品の供与は、武器輸出、紛争当事国への供与になるので賛成できない」と述べました。
れいわ新選組の高井幹事長は「単に強いことばでロシアを非難しても解決にはならない。停戦に向け、日本だからこそできる、あえて中立的な立場から仲介役を担う外交努力も必要だ」と述べました。
●ウクライナ情勢に懸念..国内「社債発行」の延期が相次ぐ 3/6
国内の社債発行の延期が相次いでいる。年明け以降、米国の金融引き締め策の影響を受けて国内の債券市場では金利が上昇。さらにウクライナ情勢の緊迫化など地政学リスクの高まりも加わり、投資家のリスク許容度が低下、投資マインドを押し下げている。2021年度の社債発行額は当初見通しに達しない可能性が高い。
2月に入り、日本航空(JAL)やオリックス銀行、東京電力と中部電力が折半出資するJERAなどが社債発行を延期した。JALは年限10年のトランジションボンド(移行債)の発行を延期した。「投資家の目線が定まっていない中で意図する起債が困難」(同社)と判断し、今後市場を見定めて検討していく。オリックス銀行は普通社債とサステナビリティーボンド(環境債と社会貢献債)を総額200億円で発行予定だった。「昨今の金融情勢を踏まえて延期を決定した」(同)としており、今後の発行時期は未定だ。
JERAは、足元の金利上昇や市場環境の悪化、投資家の投資意欲の減退を発行延期の理由に挙げる。当初年限10年のトランジションボンドを250億円で発行予定だったが、4月以降に延期を発表。「トランジションボンドに需要がないわけではない。現在の状況を踏まえて年限と金額は検討中」(同)と説明する。1月は計画通り合計400億円で発行した。
SMBC日興証券の吉川毅クレジットアナリストは、相次ぐ社債の発行延期について「発行中止ではなく、延期なので短期的な影響にとどまる」との見方を示す。年初から米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めで国債の利回りは上昇傾向にあり、企業の社債調達コストも上がっていたが、延期には至っていなかった。そこへウクライナ情勢による地政学リスクが高まり、投資家のリスク許容度が落ち込んだことが追い打ちをかけた。アイ・エヌ情報センターがまとめた「INDB発行市場レポート」によると、1月の普通社債発行額は、前年同月比2・0%減の1兆685億円だった。
今後の社債発行は減少傾向にあり、これまでの見通しよりも減額しそうだ。当初SMBC日興証券では、21年度は14兆円の発行を見込んでいたが「足元では約12兆6000億円と積み上がりは年明け以降減速気味で、未達になる可能性がある」と予測する。
●ウクライナ情勢めぐり米中外相が電話協議 中国「ロシアと対話を」 3/6
ブリンケン米国務長官と中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相が5日、ウクライナ情勢を巡り電話協議したと、両国が発表した。
中国側の発表によると、王毅氏は「今日のような事態に発展することは、中国は望んでいない」としたうえで、「ウクライナ危機は最終的には対話によってしか解決できない。情勢緩和と政治解決につながるすべての努力を、中国は支持する」と強調した。
また、王氏は「我々はロシアとウクライナの直接交渉を奨励しているが、交渉は順調に進むわけではない。だが、国際社会は平和を生むまで持続的に協力・支持しなければならない」とし、「米国、NATO(北大西洋条約機構)、EU(欧州連合)がロシアと対等に対話することも奨励する」と米側に対話を促した。
●ウクライナ軍事侵攻で「ロシアのオウンゴール」とは? 専門家が指摘  3/6
国際安全保障が専門の慶大・鶴岡路人准教授が6日、日本テレビ系「真相報道バンキシャ!」(日曜後6・00)にリモートで生出演し、ロシアによるウクライナ軍事侵攻で欧州全体の結束力が高まりつつある現状を解説した。
鶴岡氏は自身のツイッターなどで、現状を「ロシアのオウンゴール」と表現。その意図について、MCの桝太一アナウンサーから問われると、北大西洋条約機構(NATO)未加盟の北欧2カ国の動きを説明した。「この状況に懸念を感じたフィンランドやスウェーデンというNATOに入っていない国が、NATOへの接近を始めた。NATO加盟という議論が国内で始まった」。今後はNATOのウクライナ関連協議に2カ国がすべて参加することも決定しており、「ほとんどNATOという状況になってきています」とした。
また、第2次世界大戦の敗戦後、紛争地に武器を供与してこなかったドイツも、軍が保有する対戦車砲などをウクライナに提供すると発表した。鶴岡氏は「ドイツも国防予算の大幅増額、3割、4割の増額を決めているので、安全保障面では一番緩やかというか、イギリスやフランスに比べると安全保障面は弱い面はあったんですけど、一気に本気になってきた」と指摘。「今回の事態によってヨーロッパが一つにまとまり、しかもドイツなんかも安全保障に目覚めてしまった。まさにプーチン政権にとっては意図に反した結果になっているということです」と分析した。
●ウクライナ軍 露軍ヘリ撃墜映像を公開 米「ビザ」「マスター」露事業停止 3/6
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナ軍は、ロシアのヘリコプターを撃墜したとして、映像を公開した。
この映像は5日、ウクライナ軍が公開したもので、砲弾が当たったヘリコプターが燃えながら墜落し、炎上する一部始終がとらえられている。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領「ウクライナ人は撤退しない。諦めない。抵抗し続ける」
ゼレンスキー大統領は5日夜、SNSであらためて国民に団結を呼びかけた。
そして、ロシア語で、ロシアの報道はうそだと強調し、ロシア軍による攻撃で北部のチェルニヒウなどの学校も破壊されたと訴えた。
国連は、ロシアによる軍事侵攻で、4日までに、ウクライナ市民351人が死亡したと明らかにしている。
ロシアに対する反発が各国の企業にも広がる中、アメリカのクレジットカード大手・VISAとマスターが、5日、ロシアでの事業を停止すると発表した。
ロシアの銀行が発行したカードは、国外で決済ができなくなり、ロシア国外の銀行で発行されたカードはロシアで使えなくなる。
アメリカのバイデン大統領は、日本時間6日午前、ゼレンスキー大統領と電話で会談し、クレジットカード2社の決定を歓迎したうえで、ウクライナに対する追加の資金援助のため、議会と連携していることを伝えた。
●ロシアによる侵攻直前、ウクライナが破壊的サイバー攻撃を受けていた── 3/6
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の数時間前に、ウクライナのデジタルインフラに対する攻撃的かつ破壊的なサイバー攻撃が発生していたことが明らかとなった。マイクロソフトが2022年2月28日、公式ブログで発表した。
マイクロソフトがウクライナ政府に直ちに報告
マイクロソフトは「サイバー攻撃から政府や国家を防御するのを助けることは、企業としての主たるグローバルな責任のひとつ」とし、ウクライナ政府をはじめ、欧州連合(EU)、欧州諸国、米国政府、北大西洋条約機構(NATO)、国際連合(UN)と常に緊密に連携している。
マイクロソフト脅威インテリジェンスセンター(MSTIC)によると、2月23日、ウクライナに所在、もしくはウクライナと関連する複数の政府機関、情報機関、金融機関、エネルギー機関にわたり、数百ものシステムに影響を及ぼす破壊的なマルウェア攻撃が見つかった。
マイクロソフトはウクライナ政府に対し、「フォックスブレード(FoxBlade)」と名付けられたこの新たなマルウェアを含めて現状を直ちに報告し、マルウェアの目標達成を阻止するための技術的な助言を行った。また、検知から3時間以内に、このマルウェアを検知するシグネチャが作成され、マイクロソフトのセキュリティ対策サービス「ディフェンダー」に追加されている。
民間組織を標的としたサイバー攻撃については特に懸念が残る
ウクライナでは、2017年6月にも「ノットペトヤ(NotPetya)」と呼ばれるランサムウェアが初めて検出され、国内の送電網や空港、政府機関、金融機関など、1万2500台以上のマシンに影響を及ぼした。
「フォックスブレード」による攻撃はこれほど広範囲には及んでいないものの、マイクロソフトは「金融、農業、人道支援、エネルギーなど、民間組織を標的とした最近のサイバー攻撃については特に懸念が残る」との見解を示す。
マイクロソフトではウクライナ政府と情報を共有し、健康データや保険データ、交通に関連する個人情報(PII)、その他の政府データを含め、様々な情報を窃盗しようとするサイバー活動についても助言している。
ロシア国営メディア「RT」「スプートニク」の域内放送禁止
欧州連合は、3月2日、ロシア国営メディアの「RT」と「スプートニク」の域内での放送活動を禁止すると正式に発表した。
マイクロソフトでは、この方針を受けて、ニュース配信サービス「マイクロソフトスタート」で「RT」と「スプートニク」のコンテンツを非表示にしたほか、アプリストア「マイクロソフトストア」から「RT」のアプリを削除した。また、マイクロソフトのアドネットワークでは「RT」と「スプートニク」の広告を全面的に禁止している。
●ウクライナ “市民の避難ルート 早急に設置を” 国際的NGO  3/6
ロシア軍が侵攻したウクライナでは、市民の犠牲者が増え続けているほか、一部の都市で電気や水道が止まるなどして多くの人が劣悪な環境にあるとして、支援活動を行う国際機関が、一時的な停戦を実現させ、市民の避難ルートを早急に設置するよう訴えました。
ロシアは、5日もウクライナで軍事侵攻を続け、国連人権高等弁務官事務所によりますと、砲撃や空爆によってこれまでに市民351人が死亡、700人以上がけがをしたということです。
国際的なNGO「国境なき医師団」は5日、激しい攻撃を受けている都市の1つ、東部のマリウポリの状況について「電気や水、暖房もない」と現地スタッフからの報告を公表しました。
また、マリウポリの病院で4日撮影された映像には、停電のため暗い中でけが人が治療を受けている様子がうつされています。
マリウポリを巡っては、ロシアとウクライナの合意に基づいて一時的に停戦し、市民の避難ルートを設置すると発表されましたが、攻撃がおさまっていないとして避難が延期されました。
ICRC=赤十字国際委員会は5日、声明を発表し、「市民が安全な場所へ自主的に避難することができるいかなる取り組みも歓迎する」として、一時的な停戦を実現させ、避難ルートを早急に設置するよう訴えました。
ロシア軍は、ウクライナ東部や南部などで攻勢を強めていますが、首都キエフに向けても部隊を進めているとみられます。
キエフの街なかでは、市民などが手作りのバリケードや障害物を設置するなど、ロシア軍による侵攻に備えて準備を進めています。
ロシアは、近くウクライナと停戦に向けた3回目の交渉を行うとみられますが、プーチン大統領は、強硬な姿勢を変えておらず、停戦につながる糸口すら見いだせない状況が続いています。
●プーチン支えるロシア新興財閥「オリガルヒ」、西側の制裁圧力で足元に火 3/6
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻が、ロシアの支配体制に予期せぬ大きな「バタフライ効果」を呼び起こしている。プーチン大統領の「独裁」維持の一つの軸を担っているロシアの「オリガルヒ」(新興財閥)が、西側が打ち出した制裁の砲撃に正面からさらされ「戦争反対」のメッセージを出すなど、内紛の様相を示しているのだ。
米国のジョー・バイデン大統領は1日(現地時間)の国政演説で、プーチン大統領の独裁を支えるオリガルヒに公式に宣戦布告をした。「今日私は、ロシアのオリガルヒと、この暴力的な政権から数十億ドルを詐取した腐敗した指導者に言う。これ以上はない。米国の法務省は、ロシアのオリガルヒの犯罪を追跡できる特別『タスクフォース』を構成している。私たちは欧州の同盟国と、あなたたちのヨットや高級アパート、個人飛行機を探しだして差し押える」。この部分を述べる間、米国の上下両院の議員たちは、二度にわたり拍手でバイデン大統領に歓呼を送った。
オリガルヒとは、寡頭政治を意味するギリシャ語の「オリガルキア」をロシア式に表記した言葉だ。1991年のソ連崩壊後、国営だった石油・金融企業がグローバル化と民営化の風に乗り、巨大財閥に成長し、ロシアの政治と経済を独占・寡占し始めた。プーチン大統領の統治に積極的に協力し、自分たちの既得権を維持・拡大するオリガルヒは、ロシアを実際に思いのままに操る支配階層だ。
バイデン大統領の公言どおり、米国の法務省はこの日、プーチン大統領を助けるロシアの億万長者らを追跡する特別チームを作ることを明らかにした。メリック・ガーランド法務長官は「われわれは、ロシア政府が不正な戦争を続けるよう協力している犯罪行為を犯す者を捜査・逮捕・起訴する努力をつくす」と述べた。窃盗犯の逮捕という意味の「クレプトキャプチャー」と名付けられた特別チームは、今後、リサ・モナコ法務副長官が指揮することになる。
オリガルヒらの足元に火がついた。英国のプロサッカーチーム「チェルシー」を所有しているロマン・アブラモヴィッチ氏は2日、チェルシーを売却することにした。約135億ドルを保有するアブラモヴィッチ氏は、先月24日にウクライナ戦争が始まった後、英国政府の制裁を避けるために各種の措置を発表している。彼はウクライナ政府の協調要請を受け、ロシアとの交渉を支援しているとしながら、英国内の財産を処分している。
他のオリガルヒの財産逃避も目撃されている。米国CNNは、ロシアのオリガルヒの専用機とヘリ約40機が、米国と犯罪人引渡し協定を結んでいない国家に移動していると報道した。CNBCも今週初め、オリガルヒが所有している豪華ヨットのうち少なくとも4隻が、モンテネグロとモルディブに移動していると報じた。インド洋のモルディブは米国と犯罪人引渡し協定を結んでいない国だ。
追い込まれてくると、一部のオリガルヒは戦争反対メッセージを出し、プーチン大統領に交渉に積極的に乗りだすよう圧力をかけた。ロシアの億万長者オレグ・デリパスカ氏(世界第2位のアルミニウム製造企業ルサルの創業者)は、テレグレムに投稿した文章で「平和が極めて重要だ。交渉は可能な限り早く始められる必要がある」と述べた。欧州連合(EU)と米国の制裁対象になったミハイル・フリードマン氏(アルファグループ創業者)も「この危機は数百年間、兄弟として過ごしてきた両国の生命と財産を犠牲にするだろう。解決策は遠くあるようにみえるが、流血の事態を終わらせるために熱望する人々の隊列に参加する」と述べた。ウラジーミル・ポターニン氏(インターロスグループ会長)は、米国のグッゲンハイム美術館の理事を退く意向を表明し、ピョートル・アベン氏(民間最大の銀行アルファバンク経営者)もロンドン王立芸術アカデミーの理事を辞任した。
●いまのプーチンは正常な判断を下せているのか 3/6
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから一週間以上が経過した。
米政府関係者とやり取りすると、ウラジーミル・プーチン大統領の最終目的は、ウクライナに傀儡政権を樹立することだった。その目標に向け、4段階の計画を立てていたという。まず、12時間以内に制空権を確保し、36時間以内に通信を破壊、48時間以内に首都キエフを包囲。そして72時間でウクライナのトップを代える、というものだ。
ただお気づきの通り、すべてにおいてロシアは失敗した。実は今回のロシアの侵攻については、安全保障の専門家らの多くが「失敗」だと認識しており、同時にこれまで「冷静沈着」で「頭のキレる」指導者と一目置いたプーチンの迷走ぶりを驚きをもって見ている。
プーチンにいったい何が起きているのか。
プーチンは「幻想の中」に?
米CIA(中央情報局)のデヴィッド・ペトレイアス元長官は、米CNNの取材に、プーチンは孤立していて、彼の言いなりになる側近らとのやり取りで出来上がってしまった「バブル(幻想)」の中にいるのではないか、と分析している。
イギリスのMI6(秘密情報局)のジョン・サワーズ元長官もオックスフォード大学関連の弁論団体の講演で、「ここ数年で別人になってしまい、今回はまともな判断ができていない」との分析を示した。
プーチンとも直接会ったことがあるというこの世界的なスパイ機関のトップ2人が言うのだから、プーチンの様子はやはり尋常ではないのだろう。
実は、まさにプーチンの異常さを示す映像がロシアから世界に向けて公開されている。ウクライナ侵攻の3日前に行われた、プーチン政権の幹部が集結した安全保障会議の様子である。
特筆すべきは、プーチンと、ロシアの対外諜報機関であるSVR(対外情報局)長官であるセルゲイ・ナルイシキンとのやり取りだ。少し長いが紹介したい。
プーチンの前で縮み上がるSVR長官
ナルイシキン:ニコライ・プラトノヴィッチ(・パトルシェフ)の提案で、西側諸国のパートナーに最後のチャンスを与えることができるようになりました。ウクライナ政府に平和を選択させ、ミンスク合意を履行させるために、最短時間で彼らに選択肢を提示することです。
最悪の場合、今日議論している決定を下さなければなりません。
プーチン:「最悪の場合」とはどういう意味だ? 交渉を始めようと提案しているのか?
ナルイシキン:いいえ。私は・・・。
プーチン:それとも主権を認めることか?
ナルイシキン:あの・・・私は・・・私は・・・。
プーチン:言え、言うんだ。はっきり言え!
ナルイシキン:私は承認に関する提案を支持しようと・・・。
プーチン:支持しようとするのか、それとも、支持するのか? はっきり言え、セルゲイ!
ナルイシキン:私は提案を支持・・・。
プーチン:イエスかノーだ。
ナルイシキン:はい。ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国のロシア連邦への編入を支持します。
プーチン:そんな話はしていない。そんなことを話し合っているんじゃない。独立を認めるか認めないかの話をしているんだ。
ナルイシキン:はい。両国の独立承認の提案を支持します。
プーチン:よろしい。座っていい。
このような動画が世界に公開されるのを許してしまっていること自体、プーチンが正常な判断力を失っていると思うのは筆者だけではあるまい。「パワハラ上司」風のこの詰問ぶりは、自分とは違う意見を一切認めようとせず、ただただ賛同を強要するためだけのやり取りだ。プーチンと側近たちの普段からの関係性がよくわかる。これがロシアの安全保障会議の実態だ。
ナルイシキンはプーチンと同じく元KGB。最近ナルイシキンは、英BBCのインタニューに応じて、プーチンと同じような言い草で「西側諸国の政治家たちは、世界はアメリカという中心地で統治されていると間違った期待を抱いている」「ジェームズ・ボンドは私たちにとってはヒーローでもなんでもない」などと欧米諸国を批判した。不敵な笑みを浮かべる表情もプーチンに似ており、ロシアが誇る諜報機関トップとして強気な態度で食えない男というイメージだった。それだけにプーチンに厳しく責められる映像はショッキングでもある。
耳障りのいい情報しか受け入れられなくなっている可能性
これまでプーチンは、多い時には1日30人と会議を行なっていたと言われていた。それが、新型コロナの感染拡大以降は側近たちだけと会っていたようだ。側近らは総じてタカ派であり、安全保障会議からもわかる通り、みなプーチンに平伏している。
彼らはプーチンが喜ぶような情報を伝えてきたようで、その結果、プーチンはかなり偏った情報に埋もれてしまった可能性がある。そう見れば、今回のプーチンの動きやプーチン率いるロシア軍の不甲斐なさが説明できる。
欧米メディアからは、「プーチンはパーキンソン病の可能性がある」「がんで闘病している」などといった観測まで出ている。ただ国家の要人の健康状態などは最重要の機密情報であり、真実はとうていわからない。
冒頭で紹介したペトレイアスとサワーズは共に、申し合わせたかのように同様の不吉な指摘をしている。それは、プーチンがこれからウクライナ侵攻が思うように進まず、経済制裁などで追い詰められたら、すでに核戦力を含む抑止力を「特別態勢」に移すよう命じたように、実際に核兵器を使う可能性は排除できず、警戒すべきだということだ。
すでに数多く犠牲者を出しているウクライナ侵攻だが、さらにプーチンが追い詰められ思わぬ判断を下す前に、できる限り早く停戦に合意することを願う。
●プーチン氏、制裁は宣戦布告のようなものと 戒厳令は否定 3/6
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は5日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて西側諸国が発動した対ロ経済・金融制裁は「宣戦布告のようなもの」だと述べた。「しかしありがたいことに、そこまでには至っていない」とも述べた。ウクライナの大統領が西側に求めているウクライナ領空の飛行禁止区域設定については、そのような行為は武力紛争への参戦とみなされる、当事者は敵性戦闘員とみなされると警告した。
プーチン氏はモスクワ近郊にあるアエロフロート訓練施設を訪れ、女性客室乗務員たちと歓談した際に、発言した。
ロシアが2月24日にウクライナ侵攻を開始して以来、西側諸国はロシアの金融機関を国際決済通信網から排除したり、ロシア機の領空飛行を禁止するなど、様々な制裁を科してきた。プーチン大統領自身やセルゲイ・ラヴロフ外相をはじめ多くの政府関係者、政府に近い大富豪たちの外国資産も凍結した。西側政府の制裁に加え、クレジット会社マスターカードやビザをはじめ、多くの国際企業がロシアでの取引を中止している。
●ロシア同盟国セルビアで、プーチン氏支持のデモ行進 3/6
ロシア同盟国セルビアの首都ベオグラードで3月4日、ロシア支持を訴える人々数千人がプーチン大統領の写真を掲げながらロシア大使館に向かってデモ行進した。ロシアの同盟国、セルビアの首都ベオグラードでロシア支持を訴える人々数千人がデモ行進。
デモ参加者「ロシアは人類の文明を守っている。これは善と悪の間の戦争だ。母なるロシアが勝利すると、神も皆も知っている」
人々はベオグラード中央部のロシア皇帝ニコライ2世像の前に集結。ロシアとセルビアの国歌を歌い兄弟国として歓迎した。
●ロシア専門家はプーチン大統領に対する「クーデターか暗殺」の可能性指摘 3/6
ダウンタウンの松本人志がコメンテーター、タレントの東野幸治がMCを務めるフジテレビ系「ワイドナショー」が6日放送され、ロシアのプーチン大統領が仕掛けたウクライナ侵攻を特集した。
ロシア政治が専門で筑波大教授の中村逸郎氏は、ロシアについて、プーチン氏とその最側近のパトルシェフ安全保障会議書記の「2人だけで動かしている」と指摘。「彼らは経済制裁をどんなに受けようと、ロシアの国家安全保障だけ」に関心があると見ている。
「プーチン大統領の側近たちのなかにも、これ以上、(プーチン氏に)ついていけない人が出てきている」と解説した上で「クーデターか暗殺」が起きる可能性に触れた。
ロシアは歴史上、「どうしても今回のように暴走する皇帝がいる」とも語った。
●プーチン大統領 「想像絶する暴力」と英首相が非難−避難民150万人超 3/6
ロシアのプーチン大統領がウクライナに仕掛けた戦争は「戦争犯罪」と民間人に対する暴力行為の様相を深めているとジョンソン英首相が非難した。
同首相は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に寄稿し、プーチン氏の戦争は今、「下劣な戦争犯罪行為と民間人に対する想像を絶する暴力」の深みに一段とはまりつつあると批判。一方で、北大西洋条約機構(NATO)部隊のウクライナ派遣はないとの方針をあらためて示し、NATOの戦争になることはないと強調した。
米決済処理ネットワークのビザとマスターカードは、ロシアでの業務を停止した。ウクライナのゼレンスキー大統領が米議会側に両社のロシア業務停止を求めていた。 
バイデン米大統領は5日、ゼレンスキー大統領と電話で会談。ブリンケン米国務長官はウクライナとポーランドの国境沿いでウクライナのクレバ外相と会談し、ウクライナ支援を拡大すると表明した。
ゼレンスキー大統領によれば、テスラとスペースXの最高経営責任者(CEO)を務めるイーロン・マスク氏は衛星インターネット機材の追加提供を約束。欧州連合(EU)はウクライナからの避難民を支援する第1弾として5億ユーロ(約630億円)を提供する。同大統領は5日、避難民の「適切な生活環境」確保に寄与するものだとツイートした。
ウクライナはロシアとの次回交渉を7日に行うことを提案した。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの「非武装化」をあらためて要求。インタファクス通信によれば、ロシアの当局者は7日に会談が実施される可能性があると話した。
ウクライナ南東部のマリウポリとボルノバハ両地域では、安全に退避するための人道回廊の開設に伴い民間人がいったん避難を始めた。だがウクライナによれば、ロシアが安全退避に伴う一時停戦合意に違反し攻撃を再開し、退避は中断された。両地域からは約21万5000人が避難するとみられていた。
国連安全保障理事会は7日に会合を開き、ウクライナの人道状況を協議する。
●ロシア人男性、プーチン大統領は「権力を握ったヒトラーのよう」 3/6
東京マラソンに出場したランナーが都内を走り抜けた6日、東京・ロシア大使館(港区)の周辺の交差点は折りたたみ式バリケードが設置され、約200人の警察官が厳重警備していた。
レモン色のパーカにブルージーンズのウクライナ色で統一した服装のロシア人男性ドミトリー・グズデツォフさん(65)は「STOP PUTLER」の自作看板を掲げて大使館前に立っていた。来日して18年。都内の大学で物理学の教授をしていたが、現在は定年退職をして、母国ロシアのウクライナへの武力侵攻に胸を痛めている。
自作看板の「PUTLER」はプーチン大統領と戦時下ドイツ指導者ヒトラーを合わせた造語で「若いころのヒトラーは優秀な画家で才能もあった。でも権力を手にして変ぼうしてしまった」と前置きし「私はロシア国民だがプーチンにはいいところが見当たらない。権力を握ったヒトラーのようだ」と落胆した声で絞り出すように話した。
2014年、ロシアがウクライナ領土のクリミア半島に武力侵攻して併合した際も同じようにロシア大使館前で1人で抗議活動をしたという。「支持できないことは支持できない。ロシア国民でも武力侵攻はいいことではないことぐらい分かる」として「せめて、大使館で働いている職員にいけないことであると訴えたくて自作で看板をつくって駆け付けた」と話した。
●「東部の親露派保護には全面侵攻必要だった」 プーチン氏が主張 3/5
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナに全面侵攻した理由について、ロシアが「独立」を承認したウクライナ東部の親露派2地域を保護するためにはウクライナの軍事力を完全に破壊する必要があった、との認識を明らかにした。
国営航空会社の女性パイロットらとの面会での発言をタス通信が伝えた。
プーチン氏は、ロシア軍を親露派2地域に進駐させるにとどめることも可能だったとしつつ、「その場合は米欧から物資や弾薬、装備が無制限にウクライナに支援される」と主張。その上で「参謀本部と国防省は別の手段を選んだ。全ての軍事施設、特に武器保管庫や弾薬、航空機、対空システムを破壊することにした」と述べた。
プーチン氏は先月24日の緊急演説で、親露派住民の保護やウクライナの「非軍事化」、「非ナチス化」を実現するために軍事作戦を開始すると表明していた。
●プーチン政権 “反体制派”メディアが次々と閉鎖 3/6
ロシアのウクライナ侵攻が始まって約1週間、衝突が日に日に激しさを増す中、その矛先はロシア国内のメディアにも向かっている。
3日、ロシアの独立系テレビ局「ドシチ」が業務を停止。同局のシンデイェワCEOは「私は放送の再開を望んでいます。いつどのような形になるか分かりません」と述べた。批判的な世論調査を発表した同局は、ロシア当局から圧力を受けていた。
その他にもロシア国内では「侵攻」「戦争」と表現したメディアが次々と閉鎖に追い込まれ、SNSもフェイクニュースを流しているとして閲覧規制が始まった。現在ロシア国内で得られる情報は、当局からの正式発表だけになりつつある。
一体、ロシア国内で何が起こっているのか。ニュース番組『ABEMA Prime』では、日本で暮らすロシア人と共に議論を行った。
ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「今ロシアのテレビでは『ウクライナと戦争をしている』という報道にはなっていないのか?」とゲストに質問。番組に出演した、ロシア国営メディア『スプートニク』の記者は「ロシアの国営テレビでは、戦争ではなく“特殊軍事作戦”という言葉を使っている」と話す。
「もちろん今起こっていることは報道されているが、その大元は国防省などのオフィシャルな情報源を右から左に流している構図。ロシアとしては、ウクライナの一般の家が燃えているといった情報は『ウクライナ当局によるもの』と説明している。例えば、Twitterで流れているような映像や画像をロシアのテレビ局が拾って放送することもあるが、それにつけるクレジットは、ロシアとウクライナで現状は正反対になっている」
ロシア生まれで、現在は淡路島で日本人の夫と「ロシアンキッチンカー・イリーナ」を営む太田イリーナさんは「3人兄弟で私のほかに弟と妹がいる。弟や妹は私と同じ意見で、ネットを見ているから事実を分かっている」という。しかし、母親は「プーチン大統領を信じている」といい、「ネットのビデオとか写真はもちろん、何を見せても『フェイクだ』と言う。こちらからの情報は何も信じてもらえなくて、やはりテレビの番組を見ている」と状況を語る。
ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が先月行った調査では、プーチン大統領の支持率は約69%と、昨年12月の前回調査から4ポイント上昇した。イリーナさんの感覚では、周囲のプーチン大統領支持率は「半々」で、「ただ、どこまで本当のことを言っているのか、何とも言えない。今はスターリン時代とは違うけれど、やはりみんな怖いのか、本当の考えをあまり言えない人も多い」と述べる。
ひろゆき氏は「実際問題、2014年にロシアがクリミア半島を抑えたときは独立系の世論調査でも、8割くらいプーチン大統領を支持していた。なので、ロシアに住んでいるロシア人からすると『プーチン大統領は正しい』という認識が今でもあるのではないか。そこの乖離は埋まらないのか」と疑問を投げかける。
これに、ロシア生まれ兵庫育ちのタレント・コラムニストの小原ブラスは「若者層と高齢層ではっきり違う」と回答。
「ソ連の崩壊を経験した層は、ロシアがものすごいどん底を味わった時代を経験している。その人たちは、ロシアの秩序が乱れることが何よりも恐ろしい。その秩序を正したのがプーチン大統領という認識を持っている。プーチンの大統領就任によって経済が回復した歴史があるからだ。現実にはプーチン大統領が回復させたわけではなく、たまたまそのタイミングで中国が発展して、ガスや石油の値段が上がったという背景がある。ロシアのメディアでプロパガンダが流れているのは、今だけではない。ずっと昔から流れ続けている中で、今まではそれを支持する層が圧倒的に多かった」
「しかし、だんだんSNSで『秩序が乱れることよりも、自由の方が大事なのではないか』と思う若者が増えてきた。2014年にクリミア半島を抑えたときは、ソ連時代はロシアの管轄だったのをフルシチョフ氏がウクライナに変えたという歴史があったから、まだ納得していた人も多かった。今回はそのレベルではない。ただ、クリミア半島に関しても、元々はロシアのものではなく、クリミア・タタール人のものだった」
小原によると、ここ数日で、ロシア政府に反体制的な主張をするメディアが何媒体も閉鎖されているという。ロシアの世論は今後どこに向かっていくのだろうか。前述の『スプートニク』記者は「本当に今は人の数だけ意見があるような状態だ」と話す。
「自分もこれまで、若い人はプーチン政権を批判している人が多くて、年配の人は逆に安定を求めていると考えていた。しかし、今回のことが大事になるにつれて、それぞれの考え方の違いが、どんどん浮き彫りになってきている。若い人でも『この軍事作戦を支持する』という人がいたり、その逆もある。とにかく、年代や民族、それまで受けてきた教育に関わらず、ものすごくいろいろな意見が出ている」
「私がすごく怖いのは『この国がバラバラになってしまうのではないか』という、得体のしれない不安、恐怖感だ。SNSでも誰かが立場を表明すると、必ずそれに対して友達の中で“賛成”と“反対”が出てきてしまう。そうすると、議論が始まって、とても嫌な感じになる。自分の意見はあるけれど、あえて何か燃料を投下しないように、雰囲気を自ら悪くしないように、気をつけている人もいる。だから、ロシア人が黙っていても、それは臆病だとか、意見を持っていないだとか、無関心ではない。周りの人たちを大事にしたいから、あえてそういうふうにしていて、平常心を装っているけど、その心の中でいろいろな感情が渦巻いている。そういうロシア人がたくさんいることを、日本人に知っていてもらいたい」
●プーチン最側近のイワノフ大統領特別代表がスポーツ界に制裁解除を要求 3/6
ウクライナ侵攻を受けてスポーツ界でロシア排除の動きが強まる中、プーチン大統領の最側近として知られるセルゲイ・イワノフ大統領特別代表(69)が国際オリンピック委員会(IOC)などに向けて制裁解除を強く要求した。
スポーツ界ではIOCがロシア勢の国際大会からの締め出しを勧告したことで、各競技団体が追放へと動いている。
窮地に陥る中で、ロシア政府の重鎮がついに口を開いた。ロシアメディア「チャンピオナット」は、スポーツ界の制裁に対するイワノフ氏のコメントを掲載。「ロシアのスポーツに見通しを持たせるために、出場禁止を解除するべきだ」とIOCなどを念頭にロシア勢への制裁を撤回するよう強く求めた。
その一方で「短期的にそれができるとは思っていない。私たちは今、たくさんのお金を手にした。多くのスポーツで契約が破られているからだ。ロシアの有望株を訓練するために使用できるお金がたくさんあり、プロスポーツではなくアマチュアスポーツに予算を投資する必要がある」と当面はロシアスポーツ界を挙げて育成に注力する方針を示した。
ロシア政府からの要求にIOCを始めとした各団体はどう対処するのか。事態は風雲急を告げている。
●プーチン氏、軍事施設破壊「完了」 人道回廊は持ち越し 3/6
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナでの軍事作戦の主な目的である軍事インフラ破壊は「事実上完了した」と述べ、作戦は予定通りだと強調した。交戦は各地で続き、民間人の退避が5日に実現しなかった東部マリウポリでは同日夜にロシア軍が攻撃を再開。退避のための「人道回廊」設置は6日以降に持ち越された。
一方、イスラエルのベネット首相が5日に急きょモスクワを訪問してプーチン氏と会談するなど、停戦を巡る国際的仲介や水面下の協議も続いた。停戦交渉代表団に加わるロシアのスルツキー下院議員は、次回交渉が7日に開かれる可能性に言及した。
プーチン氏は5日、モスクワ郊外で航空会社の女性職員らとの会合に出席。侵攻に関する参加者の質問に答え、ウクライナ非武装化のため兵器庫や弾薬庫、航空機、地対空ミサイルなどの破壊が必要だったと強調した。
また、ウクライナ東部ドンバス地域の親ロ派部隊をロシア軍が支援する選択肢もあったが、ウクライナ軍への欧米の長期的支援が予想され「参謀本部は別の道を選んだ」と全面攻撃に踏み切った理由を説明した。
マリウポリではロシア軍に包囲された市内から民間人を退避させる人道回廊の設置がいったん発表されたが、戦闘が止まらず5日は実現しなかった。ウクライナのベレシチューク副首相は、6日に女性と子ども、高齢者の退避を改めて試みると述べた。東部ハリコフ、南部ヘルソンでも退避が計画されているという。
ロシア大統領府は5日夜、ベネット、プーチン両氏がウクライナ情勢を協議したと発表したが、詳細は明かさなかった。イスラエルのメディアは、プーチン氏が訪ロを招請したと伝えた。停戦仲介などが話し合われたとみられる。 

 

●ロシア ウクライナに軍事侵攻 3/7
中国外相「ロシアとのパートナーシップ 絶えず前進」
中国の王毅外相は記者会見でロシアとの関係について「世界で最も重要な2国間関係の1つとして、われわれの協力は両国の国民に利益をもたらすだけでなく、世界の平和と安定、発展にも寄与している」と述べました。そのうえで「両国の友情は盤石であり、双方の協力には非常に将来性がある。国際情勢がどんなに悪化しても中国とロシアは新時代の包括的な戦略的パートナーシップの関係を絶えず前進させていく」と強調しました。一方でロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「対話と話し合いを通じて、平和的な方法で争いを解決しなければならない」と述べ引き続き対話による解決を訴えるとともに「必要な時に、国際社会とともに必要な仲裁を行いたい」と述べました。
ロシア政府の偽情報使用 官房長官「非難する」
松野官房長官は午後の記者会見で「ロシアで報道の自由を制約する法律が成立し、外国メディアが活動を停止せざるを得ない状況となっていることを強く懸念している。ロシア政府や政府系メディアなどが、ウクライナに対する軍事侵略を支援するために偽情報を広範に使用していることを非難する」と述べました。
ロシア国防省 “避難ルート設置で一時停戦”発表
ロシア国防省はウクライナの首都キエフ、第2の都市ハリコフ、東部の要衝マリウポリ、北東部のスムイでそれぞれ市民のための避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。一時的な停戦は7日午前9時(日本時間7日午後4時)から行う予定だとしています。ただ、東部マリウポリではこれまで2回合意したにもかかわらず、いずれも一時的な停戦が実現できず、今回も実際に市民の避難につながるかは不透明です。
ウクライナ教育科学相「211の学校 全壊や損傷」
学校施設の被害状況をめぐってウクライナの地元メディアは、ウクライナの教育科学相が「ロシアの軍事侵攻以降、これまでに211の学校が全壊したり、損傷を受けたりした」と明らかにしたと7日、伝えました。そして、その数は今後も増え続けるという見通しを示したとしています。ウクライナの警察当局によりますと、北西部の都市ジトーミルでは4日に学校の校舎がロシア軍による砲撃を受けたということです。現地からの映像では、校舎の外壁がえぐれるように大きく崩れていて周りには多くのがれきとともに教科書なども散乱しているのが確認できます。この砲撃によるけが人など人的被害の情報は明らかになっていません。
米国防総省高官「この一日では限られた動き」
アメリカ国防総省の高官は6日、現地で続く戦闘について「この一日では限られた動きしか確認されていない」としたうえで、首都キエフ、第2の都市ハリコフ、北部のチェルニヒウを孤立化させようとして進軍するロシア軍はウクライナ側の強い抵抗にあっていると指摘しました。住民を避難させる試みが続いている東部の要衝マリウポリでは街を包囲しようとするロシア軍との戦闘が継続していて、大規模な停電や断水も続いているということです。ただ、停戦合意が破られたかどうかの確認はできていないとの認識を示しています。
米国務長官 ポーランド通じウクライナへの戦闘機供与を検討
アメリカのブリンケン国務長官は6日、訪問先のモルドバで、ポーランドを通じてウクライナへの戦闘機の供与を検討していると明らかにしました。ポーランドがウクライナ軍の兵士が操縦に慣れている旧ソビエト製の戦闘機を提供し、その代わりにアメリカがポーランドに新たな戦闘機を送る枠組みを検討しているとしていて「時期については言えないが、とても前向きに検討している」と強調しました。ただ、ポーランドの首相府は6日、ツイッターに「ウクライナには戦闘機を送らないし空港の使用も認めない」と投稿しているほか、ロシア側は空軍基地の使用などの協力は「軍事衝突の当事者とみなすこともありうる」と警告するなど、緊張がいっそう高まることにつながりかねないとの懸念も出ています。
ネットフリックス ロシアでサービス提供停止
アメリカの動画配信大手、ネットフリックスは6日、NHKの取材に対しロシア国内の状況を踏まえサービスの提供を停止したと明らかにしました。ネットフリックスは、一定規模以上の動画配信サービス企業に対し政府系テレビ局などの放送の配信を義務づけるロシアの新しい法律には従わないとしています。アメリカメディアによりますと、ロシアでの現在の会員数はおよそ100万人に上るということです。
ベラルーシのノーベル賞作家 ロシアによる軍事侵攻批判する声明
ベラルーシのノーベル文学賞作家、スベトラーナ・アレクシェービッチ氏が、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を批判する声明を発表しました。イギリスの新聞、ガーディアンが5日、伝えたところによりますと、声明にはアレクシェービッチ氏やロシアの作家や詩人など合わせて17人が名を連ね「ロシアの国営メディアは今回の侵攻を偽装し、うそを伝え続けてきた。独立したメディアはほぼ壊滅し、国営のプロパガンダ組織だけがフル稼働している」と指摘しています。そして、ロシア語を話す人々に対して「電話やメッセージ、電子メールといったあらゆる手段を使ってロシアの市民に真実を伝えてほしい」と呼びかけました。アレクシェービッチ氏は、チェルノブイリ原発事故の被害者を取り上げた作品などが高く評価され、2015年にノーベル文学賞を受賞しました。近年は、強権的なベラルーシのルカシェンコ政権に対抗する、反体制派の知識人として活動しています。
米国務長官 “ロシアからの原油輸入禁止を検討”
アメリカのブリンケン国務長官は6日、CNNテレビに出演し、ロシアからの原油の輸入を禁止する可能性について「ヨーロッパ各国や同盟国との間で、ロシア産原油の輸入の禁止と世界への適切な供給について協調して議論している」と述べ、具体的な検討を進めていることを明らかにしました。これを受けて、ニューヨーク原油市場では原油価格の国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=130ドルを超えて2008年7月以来、13年8か月ぶりの高値水準まで急激に上昇しました。市場で供給不足への警戒感が一段と強まっています。
ボリショイ劇場の指揮者辞任「紛争支持せず反対し続ける」
ロシアの音楽ニュースサイトは6日、クラシックバレエの殿堂、ボリショイ劇場で首席指揮者と音楽監督を務めるトゥガン・ソヒエフ氏の辞任のメッセージを伝えました。ソヒエフ氏は「どんな形であれ、私は紛争を支持したことはないし、これからも反対し続ける」と軍事侵攻に否定的な立場を示しました。そして「ロシアの音楽家とフランスの音楽家の片方だけを選べという、無理な選択を迫られている」として、所属しているフランスのトゥールーズにあるオーケストラの音楽監督も辞任する意向を明らかにしました。
「TikTok」ロシアでの動画投稿サービスを停止
動画共有アプリ「TikTok」は6日、ロシアでの動画投稿サービスを停止すると発表しました。ロシア軍の活動について意図的に誤った情報を拡散した個人や団体に罰則を科すとする法律の改正案にプーチン大統領が署名したことを受けた措置で、従業員とユーザーの安全を最優先し、法律の影響を検討する間、サービスの提供を停止せざるをえないとしています。
プーチン大統領「原発の掌握は挑発行為を排除するため」
プーチン大統領は6日、フランスのマクロン大統領と電話で会談し、マクロン大統領がザポリージャ原子力発電所がロシア軍に掌握されたことに懸念を示したのに対し、プーチン大統領は安全は確保されているとこたえたということです。また、原発を掌握する目的について、プーチン大統領は「ウクライナのテロリストが悲劇的な結果を伴う挑発行為を起こす可能性を排除するためだ」と主張したとしています。そのうえで、原子力の安全について協議するためのIAEA=国際原子力機関とロシア、それにウクライナの代表が出席する3者会合の開催について、プーチン大統領は「有益な可能性がある」と述べた一方、開催場所はウクライナではなくビデオ会議か第三国とするよう求めたということです。
米ワシントン ロシアへの抗議とウクライナ支援訴えるデモ
アメリカの首都ワシントンでは6日、ウクライナの国旗を掲げたり、民族衣装を身につけたりしたウクライナ系の人たちおよそ数百人が集まり、ロシアに対する抗議とウクライナへの支援の拡大を訴えるデモが行われました。東部ペンシルベニア州から参加した男性は「ロシアからの原油の購入はウクライナを攻撃する武器の資金源となるおそれがあるのでアメリカなど国際社会は停止してほしい」と話していました。
外務省 ロシアほぼ全域の危険情報レベル引き上げ 渡航中止を勧告
ウクライナとの国境周辺の地域を除くロシア全域について、外務省は、「危険情報」を渡航中止を勧告するレベル3に引き上げました。ウクライナとの国境周辺地域では先週、「危険情報」が最も高いレベル4に引き上げられ、退避が勧告されています。外務省は、各国によるロシアの航空機に対する飛行禁止の措置などを受けて、今後、移動手段がいっそう制限されるおそれがあるとしています。このため、滞在する日本人に商用便での出国の検討を求めるとともに、目的に関わらず渡航をやめるよう呼びかけています。
ロシア国内でも抗議活動の勢い衰えず
ロシアでは、ウクライナへの軍事侵攻に反対する抗議活動が6日も各地で続き、市民がプーチン政権に対して戦争反対の声をあげました。首都モスクワでは、数千人が中心部をゆっくりと歩きながら「戦争反対!」とシュプレヒコールをあげました。プーチン大統領は「軍事行動の停止の呼びかけや軍の信用失墜につながる活動」を禁止する法律の改正案に今月4日署名し、抗議活動への締めつけを一段と強化しています。しかし抗議活動の勢いは衰えず、ロシアの人権監視団体によりますと、6日の抗議活動はロシア全土の63都市で行われ、4500人余りが拘束されたということです。
“核物質を扱う施設に砲撃” ウクライナが強く非難
ウクライナの原子力規制当局は6日、第2の都市ハリコフの国立物理技術研究所の敷地内にある核物質を扱う施設がロシアによる砲撃を受けたと発表し、「また核に対するテロを行った」と強く非難しました。詳しい状況は明らかになっていないものの、少なくとも建物の表面や変電所などに被害が出たとしています。日本の旧ソ連非核化協力技術事務局によりますと、研究所には旧ソビエト時代に搬入された核物質が保管されているということです。ウクライナの内務省は「核物質のある施設への攻撃は大規模な被害につながるおそれがある」と警告しています。
住民避難の試み 2日連続で実現せず
ロシア軍が攻勢を強める東部の要衝マリウポリでは6日、前日にできなかった双方の合意に基づく住民の避難が始まる予定でした。しかし、マリウポリ市によりますと、一時停戦は守られず2日連続で避難の試みは実現しませんでした。ウクライナ側とロシア側はそれぞれが相手が攻撃を行ったと批判していて、避難を支援するICRC=赤十字国際委員会は「マリウポリの人々は恐怖の中で暮らし、安全を切望している」と強い懸念を示しています。
プーチン大統領「要求満たされた場合のみ 軍事作戦停止が可能」
ロシアのプーチン大統領は6日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、ロシア大統領府によりますと「ウクライナ側が敵対的な行動を止め、ロシア側の要求が満たされた場合にのみ、特別な軍事作戦を停止することが可能だ」と強調したということです。停戦の条件として、ウクライナの「非軍事化」や「中立化」などの要求を貫く姿勢を改めて示した形で、双方は、停戦に向けた3回目の交渉を7日にも行う見通しですが、事態打開のめどはたっていません。
IAEA “ザポリージャ原発はロシア軍の指揮下に”
IAEA=国際原子力機関が明らかにしたウクライナ当局の報告によりますと、ロシア軍に掌握されたザポリージャ原子力発電所は、職員によって稼働が続けられているものの、現在、ロシア軍の司令官の指揮のもとにあるということです。また、ロシア軍が携帯電話の通信網やインターネットを遮断したため、通常のルートで信頼できる情報を入手することができない状態だということです。
ルーマニアへの避難 “1日最大1万4000人”
ウクライナと国境を接するルーマニア北部のシレットには、ウクライナから避難してきた大勢の人が集まっています。地元自治体や援助団体は支援拠点を設置し、防寒具や食料などを配布しています。このうち民間の援助団体は、コートや手袋のほか、歯ブラシなどの生活用品を提供していました。ルーマニア内務省危機管理局のマリウス・ルス報道官は、1日最大で1万4000人が避難してきているとして「さらに多くの人が逃れてくる場合に備え、国境沿いに多くのテントを準備している」と話しています。
キエフ近郊のイルピン 避難始める住民たち
首都キエフの中心部から西に20キロほどのところにあるイルピンでも、ロシア軍による攻撃が相次ぎ、多くの住民が避難を始めています。5日にイルピンや周辺の地域を撮影した映像には、暗闇の中、あちこちで炎が上がる様子が確認できます。また、6日には砲撃を受けた住宅から炎が上がり、近くに住む人たちが急いで避難していました。イルピンでは破壊された橋のすぐ脇を通り、街を離れる人たちの姿が見られるほか、駅には列車に乗ろうと大勢の人たちが詰めかけています。
UNHCR“ウクライナで少なくとも市民364人が死亡”
UNHCR=国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まった先月24日から今月5日までにウクライナで少なくとも364人の市民が死亡したと発表しました。このうち25人は子どもだということです。また、地域別では亡くなった364人のうち88人が東部のドネツク州とルガンスク州で、ほかの276人は首都キエフや第2の都市ハリコフ、北部のチェルニヒウ、南部のヘルソンなど各地で確認されています。犠牲者の多くは砲撃やミサイル、空爆などの広い範囲にわたる攻撃によって命を落としたということです。さらにけがをした人は759人だということです。
米国務長官 ウクライナへ戦闘機の供与検討
アメリカのブリンケン国務長官は6日、ウクライナに対する戦闘機の供与をポーランドと協力して行うことを検討していると明らかにしました。ポーランドがウクライナ軍の兵士が操縦に慣れている旧ソビエト製の戦闘機を提供し、その代わりにアメリカがポーランドに新たな戦闘機を送る枠組みです。ブリンケン国務長官は記者会見で「時期については言えないが、とても前向きに検討している」と述べました。戦闘機の供与はウクライナのゼレンスキー大統領がより強力な軍事支援として要請していました。
ウクライナ大統領 “空港が壊滅的な被害”
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、自身のSNSで、ウクライナの中部にある都市、ビンニツィアにミサイルが撃ち込まれ、空港が壊滅的な被害を受けたと明らかにしました。そのうえで「ロシア軍は、ウクライナの人々が何世代にもわたって築きあげてきたインフラや生活を破壊し続けている」と訴えました。さらに「ロシアのミサイル、戦闘機、テロリストからウクライナの空域を守ってほしい。ミサイルや爆撃のない人道的な空域を作ってほしい」と述べて、自国国内の上空を飛行禁止区域に設定するよう改めてNATO=北大西洋条約機構に求めました。
UNHCR “ウクライナからの国外避難 戦後最速のペース”
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は6日、ロシアによる軍事侵攻が始まってから10日間に、ウクライナから国外に避難した人の数は150万人以上に上ったと発表しました。UNHCRは「第2次世界大戦以降のヨーロッパで、最も速いペースで増え続けている危機だ」と指摘しています。このうち、半数を超える88万人以上はポーランドに避難したということです。このほかハンガリーがおよそ17万人、スロバキアが11万人以上、モルドバが8万人以上などとなっています。
●ウクライナでの戦争の結末は 5つのシナリオ 3/7
戦争の霧の渦中にいると、どうやって前に進むべきか、道をみつけるのは大変だ。外交の舞台裏から聞こえてくる騒音。愛する人や家を失った人たちの感情。こうしたものに取り囲まれて、私たちは押しつぶされそうになる。なので今、一歩引いて、ウクライナの紛争が今後どうなり得るか、考えてみようと思う。各国の政府幹部や軍部の戦略担当はどのようなシナリオを検討しているのか。自信をもって未来を予言できる人はほとんどいないが、実現可能性のある展開をいくつか並べてみた。そのほとんどの見通しは暗い。
シナリオその1 「短期決戦」
このシナリオでは、ロシアは軍事行動をエスカレートさせる。ウクライナ全土で無差別の砲撃が増える。これまでの作戦では目立たずにいたロシア空軍が、壊滅的な空爆を開始する。国の主要インフラを狙った大規模なサイバー攻撃が、ウクライナ全土に及ぶ。エネルギー供給と通信網が遮断される。市民の犠牲は数千人に達する。首都キーウ(キエフ)は果敢に抵抗するが、数日で陥落。政府はロシアの傀儡(かいらい)政権に取って代わられる。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は暗殺されるか、ウクライナ西部へ脱出。あるいは国外に逃亡し、亡命政権を樹立する。ウラジーミル・プーチン大統領は勝利を宣言し、一部の軍を撤退させるが、一定の支配力維持のための部隊を残す。数千、数万人の難民が引き続き、西へと脱出を続ける。ウクライナはベラルーシ同様、モスクワの従属国家となる。
このような結果は決してあり得なくはないが、こうなるには現状がいくつか変化する必要がある。ロシア軍の機能が改善し、効率的に戦う部隊が増派され、ウクライナのすさまじい闘争心が薄れなくてはならない。プーチン氏はウクライナで政権交代を実現し、ウクライナが西側諸国の一部になるのを阻止するかもしれない。しかし、ロシアが打ち立てる親ロシア派政府は、たとえどのようなものだろうと正統政府ではあり得ず、反乱の対象になりやすい。このシナリオがもたらす結果は不安定で、紛争再発の可能性は高い。
シナリオその2 「長期戦」
それよりもこの戦争が長期化する方が、あり得る展開かもしれない。ロシア軍は、士気の低下、兵站(へいたん)の不備、無能な指導者のせいで、泥沼に陥る可能性がある。キーウの攻防は、道路単位で戦われる市街戦になるだろう。そのような都市をロシア軍が確保するには、上記のシナリオよりも時間がかかるかもしれない。そうなれば、長い包囲戦が続く。このシナリオは、1990年代にロシアがチェチェンの首都グロズヌイを制圧しようとして、長く残酷な苦戦を延々と続けた挙句、グロズヌイをほとんど壊滅させたことを連想させる。
たとえロシア軍がウクライナの複数都市をある程度掌握したとしても、支配し続けるのはおそらく大変だろう。ウクライナほど広大な国を制圧し続けるための部隊を、ロシアは派兵し続けられないかもしれない。対するウクライナ国防軍は、地元住民に支持され、戦意も十分な、効果的な反乱軍に姿を変える。西側諸国は武器と弾薬を提供し続ける。そして、もしかしたら何年もたった後、ロシア政府の首脳陣が交代した後、ロシア軍はやがてウクライナを去るのかもしれない。かつてソ連軍が1989年に、イスラム教徒の反乱軍と10年戦い続けた挙句にアフガニスタンを去った時のように。うなだれて、血まみれになって。
シナリオその3 「欧州戦争」
この戦争がウクライナ国外にまで波及してしまう可能性はどうだろう。プーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の旧ソヴィエト連邦構成国、たとえばモルドヴァやジョージアなどに部隊を送り込み、かつての「帝国」を取り戻そうとするかもしれない。あるいは、ただ単に誤算とエスカレーションが起こるかもしれない。プーチン氏は、西側諸国がウクライナ軍へ武器供与するのは、侵略行為であり、反撃が正当化されると宣言するかもしれない。あるいは、ロシア沿岸の飛び地カリーニングラードとの陸上回廊を確立するため、リトアニアなどNATO加盟国のバルト三国に派兵すると、脅すかもしれない。
これは非常に危険な動きで、NATOと戦争に至る恐れがある。NATO条約第5条は、1つの加盟国への攻撃は全加盟国への攻撃に等しいと定めている。しかし、自分の地位を保つにはそれしか方法がないとプーチン氏が考えたなら、この危険を冒すかもしれない。ウクライナで敗北に直面した場合、プーチン氏はエスカレーションを選ぶかもしれない。プーチン氏が長年の国際規範に違反することもやぶさかではないことも、すでに分かっている。核兵器の使用についても、同じかもしれない。プーチン氏は2月末、核部隊に「特別警戒」態勢をとすりょう命令した。ほとんどのアナリストは、だからといって実際に核兵器をおそらく使うというわけでも、間もなく使うというわけでもないと指摘する。しかし、戦場で戦術核を使用することが、ロシア政府には可能なのだと、あらためて確認された出来事だった。
シナリオその4 「外交的解決」
それでもなお、ほかのすべてを置いてでも、外交的な解決はまだ可能なのだろうか。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「今は銃が話をしているが、対話の道は常に開かれていなくてはならない」と述べた。確かに対話は続いている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はプーチン大統領と電話で話している。各国が外交ルートでたえずロシアに接触を試みていると、外交関係者は言う。加えて、ロシアとウクライナの両政府代表団はすでに2回、ベラルーシ国境沿いで交渉に臨んでいる。交渉による進展は今のところあまりないかもしれない。しかし、交渉に応じたというその一点だけからしても、プーチン氏は少なくとも交渉による停戦合意の可能性を受け入れているようだ。
重要なのは、外交官が言うところの「オフランプ」(アメリカで、高速道路の出口を意味する)を西側諸国が提供できるかどうかだ。西側の制裁解除には何が求められるか、プーチン氏が承知していることが大事だと、外交関係者たちは言う。プーチン氏の体面を保った形の、合意を達成するためにも。
例えば次のようなシナリオはどうだろう。ロシアにとってまずい戦況が続く。ロシアは制裁の打撃を実感し始める。戦死したロシア兵の遺体が次々と帰還するごとに、国内の反戦気運が高まる。自分はやりすぎたのだろうかと、プーチン氏が考えるようになる。戦争を終える屈辱よりも、戦争を続ける方が自分の立場が危ういと判断する。中国が介入し、ロシアが対立緩和へ動かなければロシアの石油と天然ガスはもう買わないと警告し、ロシアに譲歩を迫る。プーチン氏は出口を模索し始める。対するウクライナ当局は、自国の破壊が続く状況に、これほど多大な人命損失を続けるよりは、政治的妥協の方がましだと判断する。外交官たちの出番だ。停戦合意が結ばれる。たとえばウクライナは、クリミアとドンバスの一部に対するロシアの主権を受け入れる。その代わり、プーチン氏はウクライナの独立と、ウクライナが欧州との関係を強化する権利を認める。
これはありえない話かもしれない。しかし、血に塗られた紛争のがれきの中から、このようなシナリオが浮上する可能性も絶対にないとは言えない。
シナリオその5 「プーチン氏失脚」
では、ウラジーミル・プーチン氏本人はどうなのだろう。侵攻を開始したとき、プーチン氏は「我々はあらゆる結果に備えている」と宣言した。
自分自身の失脚という展開にも備えているのだろうか? まったく考えられないことに思えるかもしれない。しかし、世界はここ数日で変わったし、そういう展開を考える人も増えている。英キングス・コレッジ・ロンドンの名誉教授(戦争研究)、サー・ローレンス・フリードマンはこう書いた。「キーウで政権交代が起きる可能性と同じくらい、モスクワで政権が変わる可能性も出てきた」。
フリードマン教授はなぜ、こう言うのだろう。たとえばこうだ。プーチン大統領が壊滅的な戦争に突き進んだせいで、何千人ものロシア兵が死ぬ。経済制裁が響き、プーチン氏は国民の支持を失う。市民が革命を起こす恐れが出てくるかもしれない。大統領は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧する。しかし、それで事態はさらに悪化し、ロシアの軍部、政界、経済界から相当数の幹部やエリート層が、プーチン氏と対立するようになる。欧米は、プーチン氏が政権を去り、穏健な指導者に代われば、対ロ制裁の一部を解除し、正常な外交関係を回復する用意があると、態度を明示する。流血のクーデターが起こり、プーチン氏は失脚する。この展開もまた、現時点ではあり得ないことに思えるかもしれない。しかし、プーチン氏から利益を得てきた人たちが、もはやこのままでは自分たちの利益は守られないと思うようになれば、可能性ゼロの話ではないかもしれない。
結論
以上のシナリオはそれぞれ、独立したものではない。それぞれのシナリオの一部が組み合わさり、別の結末に至るかもしれない。しかし、今のこの紛争が今後どういう展開になるとしても、世界はすでに変わった。かつて当たり前だった状態には戻らない。ロシアと諸外国との関係は、以前とは違うものになる。安全保障に対する欧州の態度は一変する。そして、国際規範に立脚する自由主義の国際秩序は、そもそも何のためにその秩序が存在するのか、再発見したばかりかもしれない。
●和平の希望、プーチン氏がくじく−米国は石油禁輸検討 3/7
米バイデン政権はロシア産原油の米国への輸入を禁止することを検討している。事情に詳しい関係者2人が明らかにしたもので、少なくとも当初の段階では欧州の同盟国の参加なしでも進めることを想定している。米下院はロシア産原油・エネルギー製品の輸入を禁止する法案を検討していると、ペロシ下院議長が明らかにした。ウクライナ軍事侵攻を受け、企業によるロシアでの事業停止発表が相次いでおり、ネットフリックスなどもこうした動きに加わった。米バイデン政権がロシア産原油の禁輸を検討していると明らかにしたことで、原油価格は1バレル=140ドルに近づいた。中国の王毅外相は7日、ウクライナを巡る対立は「第三者」が招いたものだと発言し、中国のロシアとの関係を擁護した。プーチン大統領は週末に、ウクライナが要求を受け入れるまでは戦争を続けると表明し、和平の希望をくじいた。ウクライナ南部の都市マリウポリからの住民の避難は2日連続で停止となった。ウクライナの複数の当局者は、ロシア側が停戦合意を再び破ったと主張している。援助団体は現地の状況を「壊滅的」と表現。国連は6日、ロシアの侵攻が始まって以来、ウクライナからの国外避難者が150万人を超えたと発表した。ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
欧州のエネルギー価格が急騰、ロシアからの供給懸念−ガスは345ユーロ
欧州の天然ガス価格が7日の取引で過去最高値を更新した。米国がロシア産原油の禁輸を検討する方針を示し、エネルギー市場全体に新たな供給懸念が強まった。指標のオランダTTFは一時79%上昇し、1メガワット時(MWh)当たり345ユーロに達した。
中国、ロシアとの関係堅持−王毅外相
中国はロシアとの関係は「盤石だ」とし、米国が太平洋版の北大西洋条約機構(NATO)を構築しようとしているとの非難を繰り返した。王毅外相が北京での年次記者会見で語った。
欧州の主要株価指数は弱気相場入りへ−原油急騰で経済成長に打撃か
7日の欧州市場で、主要株価指数が20%強下落。原油価格の急騰で高インフレが経済成長に打撃を与えるとの懸念が広がった。ユーロ・ストックス50指数はロンドン時間午前8時17分(日本時間午後5時17分)までに3.9%下落し、2020年12月以来の安値。昨年11月の高値から22%下げ、このまま行けばテクニカル的に弱気相場に転じる。
EUはロシアへの追加制裁を準備−欧州委員長
欧州連合(EU)はロシアに対する追加制裁を準備していると、フォンデアライエン欧州委員長が7日、ドイチュラントフンク(DLF)とのインタビューで述べた。詳細には言及しなかった。
ロシア、人道回廊設置を提案
ロシア国防省は民間人がウクライナの都市から脱出するための人道回廊を再開すると発表した。プーチン大統領が週末にフランスのマクロン大統領と同意したと説明した。人道回廊はこれまで、ロシアとウクライナ双方の戦闘で開設に失敗していた。
米、同盟国参加なしでのロシア産原油禁輸実施を検討−関係者
バイデン米政権は、少なくとも当初は欧州の同盟国の参加がなくても、米国へのロシア産原油輸入禁止を実施するかどうかを検討している。事情に詳しい関係者2人が明らかにした。匿名を条件に語った関係者によれば、米政権は禁輸をまだ決定しておらず、時期や規模もなお流動的だ。
NZ、対ロ制裁を強化へ−アーダン首相
ニュージーランドのアーダン首相は、ロシアおよび同国政府と関係がある個人・企業に対する制裁を大幅に強化すると発表した。
米下院、ロシア産原油・エネルギー製品禁輸法案を検討中
ペロシ米下院議長は民主党議員らに宛てた6日付の書簡で、ウクライナに侵攻したロシアを世界経済からさらに孤立させる「強力な法案」を下院で検討中だとし、ロシア産原油・エネルギー製品の輸入禁止と、同国およびベラルーシとの通常の貿易関係を取り消す内容を盛り込む方針を示した。
ルーブルがオフショアで過去最安値の気配
ロシア産の原油禁輸リスクで同国経済への打撃が懸念され、通貨ルーブルはオフショア市場で10%安の最安値となる気配を示している。ルーブルは対ドルで過去最低の1ドル=136.50ルーブルを記録。ブリンケン米国務長官はロシアへの追加制裁として、米政府と同盟国がロシア産原油の禁輸について議論していると述べた。
ロシアリスクで銅やパラジウム、アルミが最高値
アジア時間7日午前の時間外取引で、ロシア産原油の禁輸観測などからロンドン金属取引所(LME)の銅相場が一時1.5%高の1トン=1万835ドルまで値上がりし、過去最高値を更新した。パラジウムのスポット価格も1オンス=3169.46ドルと最高値を記録。アルミニウム相場も最高値を付け、ニッケルは1トン=3万3000ドルを突破して一時16%高となった。シカゴ小麦先物相場も一時7%高の1ブッシェル=12.94ドルと6営業日連続でストップ高となった。
中ロの軍事協力緊密化、関心を持って注視するー岸田首相
岸田文雄首相は7日の参院予算委員会で、中国とロシアは「軍事協力も緊密化」しているとし、両国の対外政策を含む動向について「引き続き関心を持って注視し、米国をはじめとする関係国と連携しながら適切に対応する」と述べた。また、ロシアが6日にもウクライナの核施設を攻撃したとの報道を受け、「強く懸念する」と話した。
PwCとKPMG、ロシア事業撤退を発表
大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)はロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシア事業から撤退する。また、KPMGもロシアおよびベラルーシから撤退する。
ブレント原油先物139ドル台−ロシア産禁輸協議で供給不安
アジア時間7日午前に北海原油代表油種のブレント先物相場が一時1バレル=139ドル台を付けた。ロシア産原油の禁輸の可能性について協議していると米政府高官が明らかにしたのを受け、供給不安が強まった。
外務省、ロシアほぼ全土に渡航中止勧告
外務省は7日、ロシアへの渡航情報を巡り、一部地域の危険レベルを「レベル3(渡航中止勧告)」に引き上げた。すでにレベル3に指定されていたチェチェンなどの地域と合わせると、「レベル4(退避勧告)」が発出されているウクライナとの国境周辺を除くほぼ全土に渡航中止勧告が適用されたことになる。
TikTokとネットフリックスもロシア事業停止
動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)と動画配信サービスのネットフリックスがロシアでの事業停止を発表した。ロシアで情報統制のため「フェイクニュース(偽情報)」に罰則を科す法が施行されたことを受け、TikTokは同国でのライブストリーム提供を停止する。ネットフリックスはロシア事業を閉鎖する。新たな顧客の申し込みは受け付けず、既存ユーザーのアカウントがどうなるかは不明だとしている。同社のロシアの契約者数は100万人に満たない。
ロシア当局、反戦デモ参加者約4500人を拘束
ロシアで6日、反戦デモの参加者約4500人が拘束された。人権団体OVDインフォが明らかにした。OVDによると、モスクワやサンクトペテルベルク、エカテリンブルクを含む44都市でデモが行われた。これまでに拘束された人は約1万2000人に達した。
米国務長官、7日にイスラエル外相と会談
ブリンケン米国務長官はイスラエルのラピド外相と7日にラトビアのリガで会談する。イスラエル外務省によると、両氏はウクライナ情勢を協議するほか、イラン核合意再建についても話し合う。イスラエルのベネット首相は6日にプーチン大統領と電話会談。その前日にはモスクワで大統領と対面で会談するなど外交努力を続けている。イスラエルはウクライナとロシアの仲介役を申し出ている国の一つ。
アメックスがロシアとベラルーシで業務停止
アメリカン・エキスプレスはロシアとベラルーシでの業務を停止する。発表資料によると、国外発行のアメックスカードはロシア国内の店舗やATMで使えなくなり、国内でロシアの銀行が発行したカードは国外で利用できなくなる。
米と同盟国は石油禁輸を協議−米国務長官
ブリンケン米国務長官は6日、バイデン米政権と同盟国がロシア産石油の禁輸の可能性について協議していると明らかにした。長官はCNNの番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」で、「世界市場で石油の適切な供給量を確保しながら、ロシア産石油の輸入禁止の可能性を協調して検討することに向け、欧州のパートナーや同盟国と話し合っている」と発言。「非常に活発な協議が行われている」と述べた。これとは別にドイツのリンドナー財務相は、「追加制裁」に向けた作業が続いていると述べ、ロシアの「オリガルヒ(新興財閥)を標的にすることを特に優先している」と説明した。
IAEA、原発のスタッフとのやり取り困難に
国際原子力機関(IAEA)は、ウクライナのザポロジエ原発で作業しているスタッフとの連絡が困難になっていることを明らかにした。同原発は先週、ロシア軍に掌握され、携帯電話ネットワークやインターネットアクセスが遮断された。ウクライナの原子力規制当局はIAEAに対し、電話や電子メール、ファクスが機能しておらず、モバイル通信もつながりにくくなっていることを伝えた。IAEAのグロッシ事務局長は、欧州最大の同原発の管理がロシア軍司令官の指揮下にあると知らされ「非常に懸念」していると述べた。
ロシア、ウクライナ戦闘機の受け入れ巡り各国に警告
ロシア国防省はウクライナ近隣諸国に対し、ウクライナの戦闘機受け入れに警告を発した。同省報道官は声明で、ウクライナに飛行場利用を認めた国はロシアとの武力紛争に関与することになると指摘。ウクライナの戦闘機が近隣諸国に飛行することがあったとしている。
プーチン大統領、ルーブルでの対外債務返済容認
ロシアのプーチン大統領は5日、ルーブルでの対外債務返済を認める大統領令に署名した。ロシア政府は資本規制を続ける一方で、デフォルト(債務不履行)の回避を探っている。大統領令によれば、ルーブルをロシア中央銀行の公定レートで支払えば、債務履行と見なされる。
プーチン氏、トルコのエルドアン大統領と電話会談
プーチン大統領は6日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、戦闘を終わらせるにはウクライナ政府がロシアの要求に応じなければならないと述べた。ウクライナとロシアの3回目の協議は7日にも行われる可能性があるが、事態進展の望みを低くする発言だ。
ロシアを「Ca」に格下げ、見通し「ネガティブ」−ムーディーズ
ムーディーズ・インベスターズ・サービスはロシアの長期発行体およびシニア無担保債務格付け(現地通貨・外貨建て)を「B3」から「Ca」に引き下げた。格付け見通しは「ネガティブ(弱含み)」としている。 
ロシア中銀、商業銀行の情報開示義務を一時的に軽減
ロシア中央銀行は、商業銀行に対し開示を付けている情報の量を一時的に減らすと発表した。西側諸国による制裁措置に伴うリスクを抑制する取り組みの一環。
ジョンソン英首相、「想像を絶する暴力」とプーチン氏を非難
ジョンソン首相は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に寄稿し、プーチン氏を激しく非難するとともに、人道支援とウクライナの自衛を手助けするよう各国に呼び掛けた。
ウクライナ避難民、150万人上回る
過去10日間にウクライナから近隣諸国に避難した人々は150万人を上回った。グランディ国連難民高等弁務官が6日のツイートで明らかにした。その6割以上がポーランドに逃れ、国境管理当局によれば6日早朝時点で推計92万2400人。また、25万人余りがモルドバに入ったという。サンドゥ大統領が明かした。
ラジオ・フリー・ヨーロッパ、ロシア業務を停止
ラジオ・フリー・ヨーロッパ(ラジオ・リバティー)は6日、ロシア業務の停止を発表した。現地の税当局がロシア部門に対する破産手続きを4日に始め、警察がジャーナリストに圧力を加えていたとしている。
米・ウクライナ首脳会談
ホワイトハウスは、バイデン大統領が5日夜にゼレンスキー大統領と電話会談を行い、バイデン政権は「ウクライナ向けの安全保障・人道・経済支援を増やしており、追加資金の確保に向け米議会と緊密に協力している」と伝えたと発表した。会談は30分程度だった。
米国とポーランド、ウクライナへの軍用機提供を検討
米国はウクライナ向けに他のNATO加盟国が軍用機を提供できるかどうかを巡り、ポーランドと協力して取り組んでいる。ホワイトハウス報道官が明らかにした。
ビザとマスターカード、ロシア事業を停止
ビザとマスターカードは5日、ロシアでの事業を停止すると発表した。ウクライナに軍事侵攻したロシアの経済を孤立化させる国際社会の取り組みに歩調を合わせる。ビザは「ロシアの理不尽なウクライナ侵略」を指摘し、マスターカードは「現在の紛争と不確実な経済環境は異例」だと説明。バイデン大統領は両社がそれぞれ発表した決定を歓迎すると表明した。
マスク氏がネット機材の追加提供を約束
スペースXのマスク氏は衛星インターネットサービス「スターリンク」の機材をウクライナに再び届けると表明した。ゼレンスキー大統領が5日のツイートで、マスク氏と話したことを明らかにした。
ドイツ、イスラエル両首相が会談
ドイツのショルツ首相はイスラエルのベネット首相とベルリンで1時間半にわたり会談し、ベネット首相が5日に行ったプーチン大統領との話し合いについて意見を交わした。独政府の報道官は両首相が「密接に連絡を取り続ける」との声明を発表したが、会談の詳細には触れなかった。
米国務長官がウクライナ外相と会談
ブリンケン米国務長官はウクライナとポーランドの国境沿いでウクライナのクレバ外相と会談した。同長官は「NATOやEU、主要7カ国(G7)およびそれ以外の国々と数日にわたり協議した。われわれは安全保障・人道・経済支援を続けるのみならず、増やしていく」と述べた。米国務省が発表した。
プーチン大統領がイスラエル首相と会談
イスラエル首相府によれば、プーチン大統領とイスラエルのベネット首相の会談は約3時間に及んだ。クレムリンは電子メールの声明で、プーチン、ベネット両氏は「ドンバス地方を防衛するためのロシアの特別作戦という観点から、ウクライナ情勢のさまざまな面」について協議した。
●イラン核協議 ロシアがアメリカをけん制 ウクライナ情勢影響か  3/7
大詰めを迎えているイラン核合意の協議に参加しているロシアは、イランとの経済関係を妨害することがないよう、アメリカに確約を求めたことを明らかにしました。ウクライナへの軍事侵攻を受けて経済制裁が科される中、イランとの関係を持ち出してアメリカをけん制した形で、核協議への影響が注目されます。
アメリカとイランは核合意の立て直しに向けて、イランの核開発をどのように制限するかやイランの経済制裁をどこまで解除するかなどについて間接的な協議を行っていて、ロシアも関係国の1つとして参加しています。
去年4月から始まった協議は大詰めを迎えていますが、ロシアのラブロフ外相は5日になって「イランとの間の自由で開かれた貿易や経済、投資における協力や軍事技術の協力が妨げられることがないようアメリカに確約を求めた」と明らかにしました。
ウクライナへの軍事侵攻を受けて厳しい経済制裁が科される中、イランとの関係を持ち出してアメリカをけん制した形です。
これに対し、アメリカのブリンケン国務長官は6日、アメリカメディアの取材に「ロシアへの制裁は、イラン核合意やその協議の行方とは関係のないものだ」と述べ、核協議とウクライナ情勢は全く別の問題だという立場を強調しました。
これまでの協議でロシアは、アメリカとイランの橋渡し役として一定の役割を果たしてきたほか、イランの核開発を制限する上でも重要な役割を担っていて、ウクライナ情勢を受けた新たな要求が、協議にどのような影響を与えるのか注目されます。
●米国務長官 ポーランド通じウクライナへの戦闘機の供与検討  3/7
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、アメリカのブリンケン国務長官はポーランドを通じてウクライナへの戦闘機の供与を検討していると明らかにしました。
これはブリンケン国務長官が6日、訪問先のモルドバで明らかにしたもので、ポーランドがウクライナ軍の兵士が操縦に慣れている旧ソビエト製の戦闘機を提供し、その代わりにアメリカがポーランドに新たな戦闘機を送る枠組みを検討しているとしています。
戦闘機の供与はウクライナのゼレンスキー大統領が、より強力な軍事支援として要請していて、ブリンケン国務長官は「時期については言えないが、とても前向きに検討している」と強調しました。
ただ、ポーランドの首相府は6日、ツイッターに「ウクライナには戦闘機を送らないし空港の使用も認めない」と投稿しているほか、ロシア側は空軍基地の使用などの協力は「軍事衝突の当事者とみなすこともありうる」と警告するなど、緊張が一層高まることにつながりかねないとの懸念も出ています。
一方、ブリンケン国務長官はこの日、CNNテレビに出演し、ロシアが戦争犯罪を犯している証拠があるか問われ「戦争犯罪に値する意図的な市民への攻撃を行っている確度の高い情報がある。しかるべき機関が戦争犯罪が行われたのか調査できるよう、こうした情報を記録し、取りまとめているところだ」と述べ改めてロシアを非難しました。
●核施設への攻撃「強く懸念」 首相、ウクライナ情勢巡り 3/7
岸田文雄首相は7日の参院予算委員会で、核物質を扱うウクライナの研究施設をロシア軍が攻撃したとのウクライナ側の発表について「強く懸念する」と述べた。自民党の園田修光氏の質問への答弁。
自民党の阿達雅志氏が原子力発電所への攻撃に関して聞くと「東京電力福島第1原発事故を経験した日本として断じて認められず強く非難する」と話した。
ロシアへの制裁を巡っては「中国とロシアは緊密な関係を維持している。両国の動向は引き続き注視する」と語った。中国に「責任ある行動を呼びかけていく」とも発言した。
「制裁の実効性を確保するため関係国と連携し対応しなければならない」と強調した。中ロ関係については「共同航行、共同飛行といった日本周辺での軍事協力も緊密化している」との懸念も示した。
ウクライナへの支援継続も改めて訴えた。自衛隊が保有する防弾チョッキや防寒服の提供について「一日も早く届けたい」と説明した。
経済制裁を巡っては「国民や日本企業への影響は避けられない。大きな目的のため行動する重要性をご理解いただきたい」と重ねて訴えた。「国民への影響をできる限り抑えるよう全力で取り組む」と主張した。
●ウクライナ情勢口実にアマゾン開発? ブラジル大統領、肥料不足を懸念 3/7
ブラジルのボルソナロ大統領が、ロシアのウクライナ侵攻に伴いロシアから肥料を入手できなくなるとして、アマゾン熱帯雨林などに広がる先住民保護区で資源開発を進める必要を訴え、先住民団体などから反発を受けている。アマゾンには金や石油をはじめ、肥料に使える鉱物資源が豊富に眠っているとされ、ボルソナロ氏はかねて開発を主張してきた。
世界有数の農業大国ブラジルは肥料の8割を輸入に頼っており、その4分の1がロシア産だ。ボルソナロ氏は2日、ツイッターで「ロシアとウクライナの戦争に伴い、(主要肥料の)カリが不足したり、価格が高騰したりする恐れがある」と強調。「食料安全保障や農業ビジネスの観点から、われわれが大量に有している物を外国に頼らなくて済むよう、行政あるいは法的措置が必要だ」と述べ、現在は禁じられている先住民保護区の開発に道を開く法整備を訴えた。
ただ、テレザクリスチナ農牧・食料供給相は2日、「ブラジルは10月までの植え付けに十分な肥料を確保している」と指摘。昨年来、ロシアに代わる輸入元探しに取り組んでいるとしており、ボルソナロ氏とは主張が食い違っている。
一方、ボルソナロ氏の環境保護軽視姿勢を非難し続けてきたNGOや人権団体は強く反発している。先住民宣教師協議会は4日、「ボルソナロ氏は、ウクライナ紛争を先住民への圧力強化の新たな『燃料』として見いだした」と非難。「アマゾンでのカリの資源開発は、先住民コミュニティーを直接的に脅かす」と警鐘を鳴らした。
●義勇兵、2万人に到達 欧州各国からウクライナ入り 3/7
軍事侵攻したロシアと戦うためウクライナに集まった外国人義勇兵の数が約2万人に達した。ウクライナのクレバ外相が6日、米CNNテレビに語った。ほとんどが欧州から来たという。
クレバ外相は「大勢がロシアや、ロシアが近年やっていたことを嫌っていたが、誰も表立って反対したり、戦ったりしてこなかった」と指摘した。その上で、今では「ウクライナ人が戦い、あきらめない姿を見て多くの人々が参戦しようという気になった」と強調した。ただ、クレバ外相は義勇兵の意志は尊重するとしつつ、対空防衛に焦点を当てた「米国のリーダーシップが必要だ」と訴え、世界各国からの軍事支援が最重要だと話した。
●中国の王毅外相、ウクライナ情勢で「必要な時に必要な仲裁したい」  3/7
中国の 王毅ワンイー 国務委員兼外相は7日、北京で開催中の全国人民代表大会(全人代=国会)に合わせてオンラインで記者会見した。王氏は、ウクライナ情勢について、「必要な時に、国際社会とともに必要な仲裁を行いたい」と語った。
●ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、ドイツ自動車産業にも影響 3/7
ドイツ自動車産業連合会(VDA)は3月3日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻がドイツ自動車・部品メーカーにもたらす影響について発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。
VDAは冒頭で、ロシアに対するEUの制裁(2022年3月2日記事参照)を支持するとし、迅速な救援活動と戦争終了が最優先課題であり、経済的課題はそれに続くものとした。その上で、VDAは自動車業界の最新状況と実務的課題を連邦政府と共有、VDA会員企業(650社以上)とも情報交換・共有しているとした。
VDAはドイツ自動車・部品メーカーへの影響として、サプライチェーンの分断、物流の制限、部品製造の停止などを指摘。短期的に供給が滞る可能性がある部品としてワイヤーハーネスを挙げた。欧州自動車メーカーはワイヤーハーネスをチュニジアと並んでウクライナからも調達している。ワイヤーハーネスは複雑な部品のため、短期的には他工場で代替生産することが難しく、代替調達も困難だという。
長期的課題としては、原材料の不足や価格上昇を指摘した。具体的には、ネオンガス、パラジウム、ニッケルが不足する可能性があると見込まれる。ネオンガスは半導体の製造工程で必要となり、ウクライナが主要供給国の1つ。パラジウムは触媒に必要で、ドイツは輸入するパラジウムの約5分の1をロシアに頼る。ニッケルは、電気自動車の普及により需要が倍増すると予測されているリチウムイオン電池の生産に必要な原材料で、ロシアがニッケル鉱石(硫化鉱)の重要な資源国となっている。
サプライチェーンについても、幾つかの部品は新型コロナウイルス禍の影響で既に逼迫した状況にあり、ウクライナ情勢の悪化を受けて、供給不足がさらに逼迫することが見込まれるとした。海上輸送や航空輸送だけでなく、陸路での中国発着の物流も一部ルートの閉鎖などによりますます困難な状況となっている。部品の逼迫により、ドイツ自動車メーカーは多くの工場で生産停止に追い込まれるという。
VDAは、対ロシア金融制裁は自動車産業にも影響を及ぼすとしたものの、輸出入制限が自動車業界に具体的にどのような影響を及ぼすかは正確には見通せないとした。また、今後の見通しについて、状況が大きく変化するため信頼性のある見通しは難しいとしつつも、ドイツ国内での乗用車生産がさらに減少することは間違いないとしている。
VDAによると、ドイツからロシアへの2021年の乗用車輸出は3万5,600台、ウクライナへは4,100台。全世界への乗用車輸出台数(237万4,096台)に占めるロシア・ウクライナの割合は1.7%にとどまる。また、ドイツの自動車・部品メーカーはロシアに43カ所、ウクライナに6カ所の生産拠点を有し、ロシアでは2021年に約17万台の乗用車が生産され、そのほとんどがロシア国内市場向けだった。ロシア乗用車市場でのドイツ自動車メーカーのシェアは約2割だという。
●有事の判断、ESG観点で日・米欧企業に温度差 3/7
ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け、世界の主要企業がロシア事業の見直しに動く中、人道的な立場から事業の撤退・縮小を判断した日本企業は現段階でほぼ見当たらない。有事の経営判断にどれだけESG(環境・社会・企業統治)の観点を取り入れるのか、米欧企業との温度差が出ている。
「理不尽なウクライナへの侵略と悲劇的な人道危機を考慮し、ロシアでの映画公開を停止する」。米ウォルト・ディズニーは2月28日にこうした声明を出し、事業見直しを表明した。アップルも3月1日にロシアでの製品販売を停止すると発表。「われわれはロシアによるウクライナへの侵攻を深く憂慮している」との声明を出した。
米エクソンモービルと英石油大手シェルはそれぞれ原油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン1」と「サハリン2」からの撤退を決定。しかし、これら事業に参画する伊藤忠商事、丸紅、三井物産、三菱商事など日本の大手商社は状況を分析・精査した上で対応を検討するなどとしている。サハリン1には日本政府も参画する。
企業のロシア事業見直しについて、第一生命経済研究所の田中理・主席エコノミストは「2014年のロシアによるクリミア侵攻の時と比べ、今回は特に欧米企業のロシアビジネス見直しのタイミングが早い」と指摘する。「企業の社会的責任を含むESG重視の機運が高まっており、これが企業行動にも反映された結果だ」と言う。
ウクライナのクレバ外相は3日、日本経済新聞とのインタビューで、日本企業にロシア事業撤退を呼び掛けた。日本の外務省は7日、ロシアへの渡航情報の危険レベルを引き上げ、渡航中止勧告の対象を同国のほぼ全土に広げた。
サステナビリティーコンサルティングを手掛けるクレアンの村山邦雄・ESGコンサルタントは日本企業について、原油やレアアースなどロシア・ウクライナ地域での原材料調達リスクに加え、サプライチェーン(供給網)への影響を考慮し欧米企業に遅れを取った可能性があると分析。人権リスクの希薄さも背景にあるとみる。
日本企業に海外追随の側面
日本企業では、海外企業の事業見直し発表に追随するという例が多い。ロシア側との関係など、企業によって事情が異なるため一概には比較できないが、日本に根強く残る「集団主義」が企業としての意思決定を遅らせているとの見方もある。
組織文化論が専門の慶応義塾大学の佐藤和・教授は日本企業について、内部昇格型の経営者が多く、計画通りに物事を進めることが得意な半面、想定外の事態に直面した際の決断に時間がかかりやすい傾向があると分析する。
佐藤氏は、経営者の鶴の一声で物事を決めることは「悪い方向に一気に振れてしまう可能性もあるが、行動が遅れているうちに事態が悪化して結果的に悪い意思決定になってしまうこともある」と懸念する。
国内企業でも対応は分かれる
ロシア工場の当面停止を決めたトヨタは、声明にウクライナの人々の安全を憂慮するとの表現を盛り込んだ半面一方、「広く公正な視点で」意思決定したとも説明しており、バランスに腐心した跡が見える。
S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの中井勝之・主席アナリストは「ロシアの軍事侵攻を巡るESGのS(社会)の要因についても、日本企業は今後、従来以上に慎重な検証を実施した上で経営判断を行う可能性が高い」と予想している。
「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」と述べた。柳井氏が「戦争は絶対にいけない」などとロシアの動きを非難しながらも、今後の状況を注視しつつ事業は継続する方針とする7日の日本経済新聞の報道内容を同社の広報担当者が確認した。
みずほ証券の香月康伸・SDGsプライマリーアナリストは、今回の出来事はエネルギー安全保障の問題を浮き彫りにし、脱炭素の流れには逆行しそうだと指摘。ただ、将来的にはESGの機運を高める方向に働き、地政学的な問題だけでなく、「人権や政治体制などへの感度が高まる可能性がある」と話す。
クレアンの村山氏は、「ロシア国内で収益を得て同国政府に納税することは何を意味するのか」という視点から、欧米企業に続きロシア事業から撤退する日本企業が増えてくる可能性は高いとの見方を示した。
●中国でCNN放送遮断 ウクライナ侵攻のニュースが一部見られず 3/7
中国で、ロシアによるウクライナ侵攻を伝えるアメリカ・CNNの放送が遮断される事態が続いている。
中国国内で放送されるCNNがここ数日、何度も突然カラーバーになっている。「信号異常」との字幕が数分間続くが、詳しい説明はない。多くの部分は視聴可能だが、ウクライナ侵攻を伝えるニュースの一部が遮断されている。
中国政府はロシアへの直接的な批判は避け続けていて、中国メディアでも軍事侵攻を続けるロシアの責任を追及する論調は見られない。
●ウクライナ侵攻 77年前の東京大空襲体験者 怒り強める 3/7
77年前の東京大空襲を子どものころに体験した84歳の都内の男性は、ウクライナで多くの市民が犠牲になっていることに怒りを強めていました。
太平洋戦争末期、昭和20年3月10日未明のアメリカのB29爆撃機による東京大空襲では、下町を中心に壊滅的な被害を受け、およそ10万人が犠牲となりました。
東京・国分寺市に住む濱田嘉一さん(84)は、当時の深川区、今の江東区で7歳だったときに東京大空襲に遭いました。
次々と焼い弾が落とされる中、母親や祖母とともに近くの庭園に向かって走って逃げましたが、目の前でたくさんの人が焼かれて亡くなったと言います。
濱田さんは「人は燃えながら10メートルほど走ってパタッと倒れた。その時、おばあちゃんが『次、死ぬのはお前の番だよ』と言ったんです。それはもう怖くてまさに地獄絵図とはこういうことだと思った」と当時の様子について語りました。
戦後、長らく中小企業を支援する仕事を続けてきた濱田さんは4年前、80歳で現場を退きました。
残りの人生をどう過ごすか考えたとき、戦争の悲惨さを訴えることが使命だと考え、講演会などで自身の記憶を伝える語り部の活動を行ってきました。
しかし、東京大空襲から77年となることし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まり、多くの市民が犠牲となっています。
濱田さんは77年前の自分と同じように子どもたちの命が脅かされていることに怒りを強めています。
濱田さんは「『死にたくない』と泣く子どもの映像を見て涙がこぼれた。空爆の爆撃音が聞こえ、いつ自分のところに来るかわからない戦慄や諦めを子どもたちは感じている。絶対に一般市民を攻撃してはいけないし、何でもいいから一時停戦して話し合うべきだ」と話していました。
そして、「悲惨な経験をした者として何があっても戦争反対と叫び続け、戦争や平和を自分事として考えてもらうよう訴えていきたい」と戦争の悲惨さを訴えていく決意を新たにしていました。
●デンマーク、国防予算拡大へ ロシアのウクライナ侵攻受け 3/7
デンマークのフレデリクセン首相は6日、ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて、国防予算を大幅に拡大し、ロシア産天然ガスの依存から脱却することを目指すと発表した。
国防予算を段階的に増やし、2033年までに国内総生産(GDP)比で2%に引き上げるという。フレデリクセン氏は記者会見で「歴史的な時代には歴史的な決断が必要だ」と説明した。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国のデンマークは19年、国防予算をGDP比1.35%から23年までに1.5%に引き上げることで合意した。ただ、NATOの目標とする2%まで増やすよう米国からの圧力を受けていた。
また、フレデリクセン氏は、ロシア産ガスに依存する状態からできるだけ早期に脱却することで主要政党が合意したと述べた。ただ、具体的な時期は示されていない。
さらに、現在は加わっていない欧州連合(EU)の共通安全保障・防衛政策(CSDP)に参加するかどうかを問う国民投票を6月1日に実施すると発表した。
CSDPに参加すれば、EUの合同作戦参加や軍事開発協力が可能になる。
●イラン核協議 ロシアがアメリカをけん制 ウクライナ情勢影響か  3/7
大詰めを迎えているイラン核合意の協議に参加しているロシアは、イランとの経済関係を妨害することがないよう、アメリカに確約を求めたことを明らかにしました。ウクライナへの軍事侵攻を受けて経済制裁が科される中、イランとの関係を持ち出してアメリカをけん制した形で、核協議への影響が注目されます。
アメリカとイランは核合意の立て直しに向けて、イランの核開発をどのように制限するかやイランの経済制裁をどこまで解除するかなどについて間接的な協議を行っていて、ロシアも関係国の1つとして参加しています。
去年4月から始まった協議は大詰めを迎えていますが、ロシアのラブロフ外相は5日になって「イランとの間の自由で開かれた貿易や経済、投資における協力や軍事技術の協力が妨げられることがないようアメリカに確約を求めた」と明らかにしました。
ウクライナへの軍事侵攻を受けて厳しい経済制裁が科される中、イランとの関係を持ち出してアメリカをけん制した形です。
これに対し、アメリカのブリンケン国務長官は6日、アメリカメディアの取材に「ロシアへの制裁は、イラン核合意やその協議の行方とは関係のないものだ」と述べ、核協議とウクライナ情勢は全く別の問題だという立場を強調しました。
これまでの協議でロシアは、アメリカとイランの橋渡し役として一定の役割を果たしてきたほか、イランの核開発を制限する上でも重要な役割を担っていて、ウクライナ情勢を受けた新たな要求が、協議にどのような影響を与えるのか注目されます。
●「ロシア国民が蜂起してプーチン打倒を」 露捕虜兵士が衝撃の暴露 3/7
「将校たちも軍事訓練だと思っていた。ロシア国民が蜂起してウラジーミル・プーチン大統領を打倒しなければならない」
ウクライナ軍に捕まって捕虜になったロシア兵士ドミトリー・コヴァレンスキー中尉が5日(現地時間)、ウクライナ・キーウ(キエフ)の通信社インタファクス−ウクライナ事務室で開かれた外信記者会見でこのように主張した。参加したロシア軍捕虜は10人余りに達したとニューヨーク・タイムズ(NYT)やデイリー・メールなどが伝えた。NYTは「多くのロシア軍を捕らえたというウクライナ軍当局の主張を後押しするために捕虜による記者会見が開かれた」とした。
ロシア軍捕虜を通じて、今まで彼らが今回の戦争に対して正しく知ることができないまま参戦していた事実が伝えられた。この日の記者会見に出席した捕虜も同様だった。コヴァレンスキー中尉は「部隊が移動する前日夕方にウクライナ侵攻を知った。兵長以下の兵士は国境を越える時でさえどこに向かっているのか分からなかった」と伝えた。
モスクワで服務中だった別の捕虜兵士も「この戦争の目的を知らない。都市から遠く離れたところに訓練しに行こうという気もなかった。ただ政府の利益のために子猫のようにここに投げ捨てられた」とした。ある兵士は「行方不明者だと伝えられているがそれは嘘だ。若い徴集兵がここで死んでいっている。プーチン大統領は何が起きているのか知らせたくなく、我々の死体を持っていこうとしない」と厳しい忠告を与えた。
彼らはロシア国民に今回の戦争をやめさせなければならないと訴えた。コヴァレンスキー中尉は「ロシア首脳部は『軍事訓練』と言いながら陸軍将校もだまして侵攻を準備した。ロシア国民が蜂起してプーチン大統領を打倒しなければならない」と強調した。他の捕虜も「ロシアのテレビで流れているものとは本当に違う。ここはナチスではない。ロシアの人々がテレビを消してプーチン大統領の話に耳を貸さないようにしてほしい」とした。また別の兵士は「ロシア軍事装備が通過できないように人々が出て来てロシアの道路を遮断しなければならない。すべての人々が道路に出ていけばプーチン大統領が軍撤退を決めるだろう」という具体的な方法も出した。
捕虜兵士はウクライナの士気に驚いた様子だった。マキシム・グリシェンコフ中尉は「スミを経由してキエフ(キーウ)に入って軍事装備を壊すことが任務だった。しかし奇襲を受け、すべての武器を持って獣のように戦うウクライナ人に負けた。私たちを助けてくれる援軍はなかった」と話した。他の兵士も「ウクライナ人は誰も恐れていない。最後まで戦うだろう」と話した。
一方、ウクライナ政府は先月24日から今月6日までロシア軍死傷者数が1万1000人余りだと主張した。しかしロシア国防省は2日までに自国兵士の死者は498人、負傷者は1597人だと明らかにした。また、ウクライナ軍は2870人が死亡して3700人が負傷したとしている。ロシアはその後、被害状況を発表していない。
●軍クーデター勃発も!? 国際企業が見限るロシア経済破綻=@3/7
ロシア軍によるウクライナ侵攻に対し、国際社会の批判が高まっている。民間人への無差別攻撃や核攻撃示唆という狂気の暴走≠ノ、国連総会は緊急特別会合で、即時の無条件撤退を求める決議案を圧倒的多数で採択した。国際刑事裁判所(ICC)も「戦争犯罪」の疑いで捜査を開始した。日米欧は経済制裁として、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行を排除することで合意。ジャネット・イエレン米財務長官も「さらなる強力な措置」の必要性を強調する。危機的状況に追い込まれたロシア経済。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、ウラジーミル・プーチン大統領が「核攻撃」に傾く危険性や、軍によるクーデターが勃発する可能性を考察した。
ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領が「核攻撃」の可能性をちらつかせて、ウクライナと世界を脅迫している。だが、私は「プーチン氏の足元が揺らいでいる」とみる。
ここ数日の展開で、私が注目したのは、国際的な大手企業に事実上の「ロシア包囲網」が急速に広がった点だ。英石油大手BPがロシア事業からの撤退を表明すると、極東サハリンで石油開発を続けてきた英石油大手シェルも後に続いた。
ドイツ商用車大手のダイムラートラックは、ロシア企業との提携を解消し、米国のIT大手アップルや、スポーツ用品大手ナイキ、エンターテインメント大手ディズニーも、ロシアでの製品販売や映画公開を停止した。クレジットカード大手のマスターカードやVISAは、ロシアの銀行との取引を止めた。
「国際法無視の軍事攻撃を続けるロシアとは、とても付き合いきれない」と見極めたからだろう。こうした動きは、今後も続くに違いない。ロシアとのビジネスが企業イメージに大打撃になるからだ。
日米欧は、一部のロシア銀行を国際決済ネットワーク「SWIFT」から締め出し、ロシア中央銀行との取引も制限した。これによって、ロシアはドルやユーロなどの外貨を入手しにくくなった。ロシア中銀は政策金利を倍近い20%に引き上げた。
これらの結果、ロシア市民は買い物でクレジットカードを使えず、ドルは手に入らず、住宅ローンは大幅金利上昇という苦境に直面している。西側の映画はおろか、コンサートや国際的スポーツ大会からも締め出されてしまった。海外旅行など夢のまた夢だ。
ロシア市民はわずか1週間で、世界から隔絶された悲哀をいま、ヒシヒシと感じているに違いない。これが、独裁者が引き起こした「戦争の現実」である。
戦いの行方は見通せないが、結末がどうだろうと、プーチン政権が続く限り、国民の苦難は変わらない。おそらく今後、数年は続くだろう。ロシアは「図体の大きな北朝鮮」のような国になる。
ロシア国民が、そんな未来を受け入れるだろうか。
ロシア軍の一部退役将校からは、開戦前から「戦争反対」の声が上がっていた。今後は、西側の制裁で資産を凍結された「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥からも、政権批判が強まるだろう。プーチン氏は軍事攻勢とは裏腹に「国民の支持」という政権基盤が傷つき始めているのだ。
追い詰められたプーチン氏は「核のボタン」に手を伸ばすだろうか。
私は「可能性はある」とみる。プーチン氏が合理的なら、軍事侵攻自体があり得なかった。だが、彼は2014年のクリミア侵攻でも、1年後に「核攻撃の用意があった」と告白している。「全面侵攻」というレッドラインを超えた彼に「もはやタブーはない」と考えるべきだ。
ただ、プーチン氏1人が決断しても、軍トップなどが関与して止まるかもしれない。そうなれば、事実上のクーデターである。
米国のジョー・バイデン大統領が2日の一般教書演説で、サラリと「プーチンだけに責任がある」と語ったのは、意味深長だ。「他は見逃してやる」つまり「軍の反乱を促した」と、とれなくもない。いずれにせよ、私たちは「最悪のシナリオ」に備えた方がいい。
●プーチンは「親日家」という誤解 3/7
ウクライナ侵攻で世界を危機に追い込んでいるロシアのプーチン大統領。強面なプーチン氏だが、これまでの日本では「親日家」として知られ、親しみやすさを感じていた人も多かったのではないか。大の柔道愛好家であり、日本から贈られた秋田犬を可愛がっていることなどもそのイメージに一役買っていた。だが、全国紙の元モスクワ特派員は、その見方に疑問を呈す。
「プーチンが柔道愛好家、愛犬家であることは確かですが、それをもって親日家とする見方は誤解にすぎません。北方領土をめぐっても、何度も揺さぶりをかけながら、いまだに本格的な交渉のテーブルにつこうとしない。日本に好感情を抱いているかどうかは分かりませんが、少なくともそれが政治的行動に繋がっているようには見えません。
そもそもプーチンが柔道をするようになったきっかけは、KGB(ロシアの諜報機関)にスカウトされるために、格闘技のキャリアを積む必要があったからです。プーチンはロシア伝統の格闘技であるサンボも習っていましたが、小柄なプーチンには柔道のほうが合っていたため、のめり込んでいったようです。つまり、プーチンにとっての柔道はあくまで格闘技としてであって、必ずしも武士道精神に共感したということではないのです」
そもそもプーチンがKGBを志したきっかけからして、親日家とは言いがたい。プーチンは2020年、タス通信のインタビューに「高校生の時、私はゾルゲのようなスパイになりたかった」と打ち明けた。ソ連のスパイだったリヒャルト・ゾルゲは、太平洋戦争前に日本で暗躍した大物スパイ。ドイツ人記者になりすまして、朝日新聞の記者だった尾崎秀実はじめ日本に情報網を築き上げ、情報戦において日本に大打撃を与えた人物である。
そのゾルゲに憧れていたというプーチンは、近年、ロシア国内でゾルゲを再評価し、顕彰する動きを強めていたという。
「プーチンはKGB出身の自分と『20世紀最大のスパイ』と呼ばれるゾルゲを重ね合わせようとしています。ゾルゲファンのプーチンに呼応するように、ロシア国内には次々とゾルゲの銅像が建てられ、『ゾルゲ』というドラマが人気を博すなど、ゾルゲブームの様相を呈しています。
今年1月にはロシアの外相が議会で『北方領土にゾルゲの遺骨を埋葬する計画がある』と発言し、物議を醸しました。駐日ロシア大使は『具体的に検討しているわけではない』とただちに否定しましたが、プーチン周辺にその意思があることは確かでしょう。そうした動きを見ても、プーチンが親日家という見方は楽観的すぎると言わざるを得ません」(同前) 
●ロシアのウクライナ侵攻、TwitterやFacebookはどう使われている? SNS 3/7
戦争のカタチを変えたSNS
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、これまでの戦争と違う側面を見せています。それは一般市民によるSNSを利用した情報発信です。
戦争が勃発すると、当事国はまず自国にとって都合の悪い情報を遮断しようとしてテレビ局を占拠したり、海外メディアを締め出したりします。ところが今回の一連の軍事侵攻では、一般市民がSNSを利用して情報を発信することで、これまでになかった戦争の「可視化」が行われています。
今回の件で大手SNSはどのように対応し、SNSはどのように利用されているのでしょうか。
FacebookやTwitterはどのような対応を行ったのか
Meta(旧Facebook)やTwitterといった大手SNSは、今回の侵攻に際し、ユーザーの安全性を守るための方策をとっています。
SNSアカウントは個人情報とリンクしているため、敵国にとって都合の悪い情報を発信するユーザーは危険にさらされる可能性があります。
そこでFacebookを展開するMetaは、ウクライナのユーザーを守るためにプロフィール設定画面から「Lock Profile」を選択することで、友達以外のユーザーがプロフィール写真やタイムラインの投稿を閲覧できなくなるようにしました。※この機能は現在日本のユーザーは使用できません
Twitter社は、紛争地など危険地でTwitterを利用する際、位置情報の表示をオフにしたり、ハッキング防止のためにパスワードの強化や2要素認証を利用したりするように注意を喚起しました。
ウクライナ・ロシア政府によるSNSへの対処
ウクライナとロシアの両政府によるSNSへの対処は対照的です。ウクライナは戦況をSNSを通じて積極的に世界中に発信し、国際世論を味方につけようとしています。また、戦況を示す動画や写真をSNSに投稿してほしいと自国民に呼びかけてもいます。
一方、ロシア側はSNSに対する締め付けを強化しています。Metaはウクライナ侵攻に際して誤った情報が拡散しないように、ロシアの国営メディアなどの4つのアカウントの投稿に対してファクトチェック(情報の正確性・妥当性を検証する行為)を行っています。
ロシア当局がこのファクトチェックなどの対応の停止をMetaに求め、Metaがこれを拒否したところ、ロシア当局はこうした規制は検閲にあたり違法だとして、国内におけるFacebookへのアクセスを制限する措置をとりました。
アクセス制限の具体的な方法は明確になっていませんが、通信速度を下げる措置とみられています。
一般市民によるSNSの利用
ウクライナ市民はSNSを通じて戦闘の様子やロシア軍の動きを投稿しています。
ロシア政府は、ウクライナ国境での演習を終えた部隊の一部が撤退する様子を報じましたが、ウクライナ市民による投稿でこれが嘘であり、ロシア軍がウクライナに接近していることが明らかになりました。
また、ウクライナ市民がガス欠で止まったロシア軍の戦車の周囲にいる兵士に話しかけた動画が拡散されました。これにより補給が上手くいっていない可能性、ロシア軍兵士の士気が高くない可能性を読み取る意見も出てきました。
さらに、ウクライナ人によるロシア兵捕虜への「尋問」動画も拡散され、戦争の生々しい側面が拡散されています。
SNSで拡散されるフェイクニュース
このように無数の情報が拡散される中で避けて通れないのがフェイクニュースの問題です。
フェイクニュースには政府が戦略的に流すもの、一般ユーザーが面白半分に流すものとさまざまな性質があります。誰でも動画の加工を簡単に行えるツールが広まったことも、フェイクニュースの拡散に拍車をかけています。
フェイクニュースに惑わされないためにはどうすればよいのでしょうか。米国で行われた研究によると、4人中3人が、情報の真偽を判断する能力を過大に評価しており、そのような人ほど真偽を見極めることができないことが明らかになっています。
つまりフェイクニュースには誰でもだまされる可能性があるということを自覚することが大切です。ショッキングな情報に接触したら、まずは即座に反応せず、安易に拡散しないことを心掛けることが重要です。
Twitterトレンドを通したウクライナ、ロシア国民の反応
現在、ウクライナ情勢はTwitterトレンドでは両国にどのように受け止められているのでしょうか。過去24時間の上位トレンドを調査したところ(3月5日午前10時時点)、ウクライナでは、
1位#RussianUkrainianWar(ロシアウクライナの戦争)
2位#StandWithUkraine️(ウクライナを支持する)
3位#StopPutinNOW(プーチンを止めろ)
と、当然ながら戦争関連のトレンドが上位を占めています。また、攻撃を受けた「ザポリージャ原子力発電所」が急上昇し、現在のトレンドで4位に入っています。
それに対し、ロシアのトレンドでは、
1位#RussianUkrainianWar
2位#StopPutinNOW
となっており、ロシア側でも戦争反対の声が多いことが伺えます。
「ザポリージャ原子力発電所」は現在のトレンドで3位に入り、この事件がロシア側にも衝撃をもって受け止められていることが伺えます。
比較的に言論統制が激しいロシア国内にあって、反政府的発言が匿名とは言え多くなされていることに、SNSの強みを感じることができます。
SNSの有用性と危険性
ウクライナ侵攻に際し、SNSがどのように関与しているかを解説しました。情報を拡散したい側にとっては有利に働き、逆に情報を秘匿したい側にとっては不都合なのがSNSであるといえます。
しかし、フェイクニュースのように情報の正当性や妥当性を見極めるのは困難であり、SNSが世論を都合よく操作するためのツールとなる可能性も秘めていることに注意しなければなりません。
また、日本でもロシア料理店が中傷を受けるなど、感情的になった人による心無い行為が見受けられます。やり場のない怒りや不安を抱える人が多い中で、氾濫する情報に惑わされず、冷静に事実を受け止めることを心がけることが重要であるといえます。
●ウクライナ侵攻 グローバル企業、人道支援から事業停止へ流れ加速 3/7
ロシアによる分別なきウクライナへの軍事侵攻は世界を一変させた。2月24日の開戦から1週間が過ぎた先週末、グローバル企業も一斉に転換点を迎えている。VISAやマスターカードなどの金融大手がロシアでのサービスを停止、DHLなどの運輸・物流大手も事業の停止を発表。ロシアが核施設を攻撃するなど戦況が悪化するなか、当初はウクライナへの人道支援のみを表明していた企業がロシアやベラルーシでの事業停止を続々と発表している。今週もこの動きは加速するだろう。ここでは、コーポレートサイトやオフィシャルSNSでステークホルダーに対してブランド・事業の方向性を示しているグローバル企業の動きを中心に取り上げる。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)
   ●テクノロジー・エンターテインメント
グーグル(アルファベット) / ウクライナへの人道支援、ロシアでのオンライン広告(検索サービス、ユーチューブなど)の販売停止。同社は「ロシアのウクライナ侵攻は、悲劇であり人道的災害。製品を通じてウクライナの人々を支援し、サイバーセキュリティの脅威から守り、高品質で信頼できる情報を表に出し、現地で働く同僚とその家族の安全・安心を確保するために24時間体制で取り組んでいる」と発表。同社によると、ウクライナ政府のサイトやロシアの侵攻・攻撃情報が確認できるLiveuamapなどへのサイバー攻撃が続いているという。2500万ドル(約29億円)を人道支援し、さらに1000万ドル(約11億4800万円)をポーランドで人道支援・長期支援を行う団体に寄付する。また、人道支援組織・政府間組織が支援情報を届けられるよう500 万ドル(約5億7400万円)の広告クレジットを提供するなど支援を強化している。
マイクロソフト / ウクライナへの人道支援、ロシアでの全製品・サービスの新規販売の停止を発表。ブラッド・スミス社長は「世界の他の国々と同じく、ウクライナでの戦争の画像やニュースに恐怖と怒り、悲しみを覚え、ロシアによる不当で、いわれのない、不法な侵攻を非難する」と発表。同社ができる最も効果的な手段である、ウクライナのサイバーセキュリティーの保護に積極的に取り組んでいる。戦争が始まって以来、ロシアによる20以上のウクライナ政府や金融セクターへのサイバー攻撃、さらに民間サイトへの脅威に対処してきたという。同社は、こうした民間人に対するサイバー攻撃はジュネーブ条約に違反するとの懸念を示す。人道的支援もテクノロジーと資金の両面から行う。
アップル / ロシアでの店舗を閉鎖し、製品の販売を停止。Apple PayやApple Mapsなどのサービスも制限。ロシア国営メディア「RT」「スプートニク」のアプリのダウンロードを不可能に。同社は「私たちはロシアのウクライナ侵攻を深く憂慮し、暴力により苦しんでいるすべての人と共にある。人道的活動を支援し、進行中の難民危機に援助を提供し、その地域にいる私たちのチームを支援するためにできる限りのことを行っていく」と声明を発表した。
サムスン / ロシアへのスマートフォンやチップの出荷停止。ブルームバーグによると、サムスンは「地政学的情勢」をその理由に挙げている。同社のロシアでのスマホ市場の規模はアップルよりも大きく、100万ドル(約1億1500万円)相当の家電製品を含む600万ドル(約6億8900万円)を人道支援に寄付する方針。
ネットフリックス / ロシアで計画していた全プロジェクト、買収を停止する(ロイター)。また、3月1日からロシア国営放送20チャンネルの配信が義務付けられているが、同社は拒否している。
スポティファイ / ロシアでの音楽ストリーミングサービスは続けるが、2月に同国の新たな法律に従い開設したばかりの国内オフィスを無期限で閉鎖。「RT」「スプートニク」をコンテンツから削除した。
ソニー / ソニー・ピクチャーズがロシアでの映画上映を停止。ソニーグループとしては、ウクライナや周辺地域の被災者への人道的支援として200万ドル(約2億3000万円)を寄付。さらに、グループ各社で社員募金を実施し、集まった募金と同額を会社が寄付する。「一刻も早くこの緊急事態が解決し、ウクライナおよび世界における平和が取り戻されることを願う」としている。なお、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相はTwitterでソニーのPlayStationとマイクロソフトのXboxのアカウントに対して、ロシア市場からの撤退を呼びかけている。ソニーは先週、世界的に発売されたPlayStationの新作ゲームのロシアにおける販売を中止したことが一部で報じられている。
ディズニー / ピクサーの最新作『私ときどきレッサーパンダ』などの映画上映を停止。「ウクライナへのいわれのない侵攻、悲劇的な人道危機を考慮した」としている。同社はNGOと連携し、難民への緊急援助や人道支援に取り組む。
   ●金融
VISA / ロシアでの事業を停止。ロイターによると、VISAとマスターカード両社の2021年のロシアでの純収入は全体の約4%だったという。VISAのアル・ケリーCEOは「ロシアによるウクライナへのいわれのない侵攻とわれわれが目撃している受け入れがたい事態により、行動を起こさざるを得なくなった。これによりロシアの同僚、顧客、パートナー、加盟店、利用者が影響を受けることを遺憾に思う」としている。
マスターカード / ロシアでの事業を停止。マスターカードは「現在起きている紛争の前例のない特質と不透明な経済環境を考慮して事業を停止する。簡単な決断ではなかった。マスターカードは25年以上、ロシアで事業を行ってきた。現地には200人近い従業員がおり、従業員はこれまで多くのステークホルダーにとってマスターカードが重要な存在になるよう努めてきた。今回の措置を講じると共に、給与や福利厚生の提供を継続するなどし、従業員の安全とウェルビーイングに引き続き注力する。適切な時期が来て、法の下で許されるなら、彼ら彼女らの情熱・創造力を生かして事業再開に取り組んでいく。前向きで、生産的で、平和な未来を望み、その実現に向け一歩踏み出す 」としている。
ペイパル / 決済サービスを停止。ダン・シュルマンCEOは「ウクライナの人々を支援し、国際社会と共にロシアの暴力的な軍事侵攻を非難する」とし、同社システムを使った人道支援金の収集を行う地域を拡大する方針を示している。
   ●自動車・バイク
フォルクスワーゲン / ロシアでの生産、ロシアへの輸出を停止。同社はTwitterで、その影響を受けるロシアの従業員に対する責任を非常に重く受け止めているとし、すべての従業員に短時間勤務手当を支給すると発表。さらにドイツの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に100万ユーロ(約1億3000万円)を寄付。ウクライナで起きている戦争について「大きな落胆とショックとともにニュースを受け止めている。敵対行為の停止と外交への復帰を願い続けている。紛争に対する持続可能な解決策は、国際法に基づいてのみ見出せると確信している」と発表した。
フォード / ロシアでの合弁会社の事業を停止。フォード基金は、避難するウクライナ市民や家族を支援するために「Global Giving Ukraine Relief Fund」に10万ドル(約1150万円)を寄付する。「国際社会の一員として、ウクライナ侵攻とそれに伴う平和と安定への脅威を深く憂慮する」としている。
トヨタ / 供給問題により、サンクトペテルブルク工場の稼働と完成車の輸入を停止。トヨタはコーポレートサイトで今回の事態への見解を示した。「世界中の皆様と同じようにウクライナの人々の安全を憂いており、一刻も早く平和で安全な世界が戻ることを願いながら、ウクライナ情勢を注視している。ウクライナとロシアで事業を行う企業として、私たちが何よりも優先していることは、すべての従業員、販売スタッフ、仕入先の皆様の安心と安全だ」。
ホンダ / 自動車とオートバイのロシアへの輸出を一時的に停止。ブルームバーグによると、状況が通常に戻れば再開の予定という。
日産 / ロシアへの自動車の輸出を停止。ロイターによると、現地工場の稼働を停止する可能性もあるという。
マツダ / ロシアの自動車メーカー「ソラーズ」との合弁工場で使う部品の輸出を停止。
ボルボ / ロシアへの自動車の生産・販売を停止。
アストン・マーチン / ロシアへの自動車の販売・出荷を停止。
ハーレーダビッドソン / ロシアでの事業およびバイクの出荷を停止。
   ●輸送・物流
DHL / ロシア・ベラルーシへの配送サービスを停止。「ウクライナの状況に深い悲しみを抱いている。世界中の国々、人々が貿易を行うことを可能にする企業として、すべての人の平和と繁栄と共に、よりつながりのある世界を目指していく」と表明している。
フェデックス / ロシア・ベラルーシへの配送サービスを停止。150万ドル(約1億7200万円)以上を人道支援に拠出する方針。フレデリック・W・スミスCEOはウクライナを含む全従業員へのメッセージを掲載し、企業としてウクライナの従業員の安全を第一に考え、支援などを行なっていくことを表明。「フェデックスのコア・バリューの『互いを思いやる』『役立つことをする』の意味を今回ほど強く意識することはない」としている。
UPS / ロシア・ベラルーシへの配送サービスを停止。
マークス(海運) / ロシア・ベラルーシ発着の貨物予約を停止。食料や医療機器、人道支援物資などの配送はこの措置から除外される。
MSC( 海運) / ロシア発着の貨物予約を停止。ただし、食料や医療機器、人道支援物資などの配送はこの措置から除外される。
CMA CGM( 海運) / ロシア・ベラルーシ発着の貨物予約を停止。
   ●SNS
Twitter / ロシア国営メディアのリンクがあるツイートには警告を示すラベルを付けて可視化。同メディアの表示を制限するなどの対策を講じた。同社は「ロシアのウクライナ侵攻に関して、人々がTwitterで信頼できる情報を探しているなか、私たちは自らの役割を理解し、真剣に受け止めている。私たちの製品は、コンテンツの背後に誰がいるのか、その動機や意図は何かを簡単に理解できるようにする必要がある」としていた。これに対し、ロシアはTwitterへのアクセスを制限した。
メタ (フェイスブック・インスタグラム) / ロシア国営メディアのアカウント・投稿の表示を制限。これに対し、ロシアはフェイスブックへのアクセスを遮断した。メタの広報責任者ニック・クレッグ氏はTwitterで「数百万人の一般のロシア人が信頼できる情報から切り離され、家族や友人とつながる方法を奪われ、言論を封じられるだろう。サービスを回復するためにできる限りのことを続けていく」と表明。
   ●旅行プラットフォーム
エアビーアンドビー / ロシアとベラルーシでの業務を停止。先んじて、ウクライナから避難した最大10万人に無料で短期の住居を提供すると発表。宿泊は同社と、利用者によるAirbnb.org難民基金への寄付、宿泊先ホストの善意によって賄われるという。
ブッキングドットコム / ロシアとベラルーシでの業務を停止。グレン・フォーゲルCEOは「ウクライナで起きているショッキングな出来事は、ウクライナの人々の命を無視した無意味な暴力行為として歴史に暗い足跡を残すだろう。ウクライナの従業員、お客様、パートナーのことを深く案じている」と声明を発表。ブッキング・ホールディングスは、赤十字国際委員会の支援活動に100万ドル(約1億1500万円)を寄付し、さらに同ホールディングスと同ブランド全体で働く従業員の寄付総額と同額を寄付する方針。
   ●ファッション・化粧品・日用品
イケア / ロシアとベラルーシでの生産・販売を停止。同社は「ウクライナでの壊滅的な戦争は人類の悲劇であり、影響を受けている数百万の人々に深い同情と懸念を抱いている」としている。ただし、親会社インカグループが運営する14カ所のショッピングセンターMEGAは、ロシアの人々が食品や食料品、薬などの生活必需品を入手できるよう営業を続ける。イケアの財団は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に2000万ユーロ(約25億1400万円)を寄付。グループ企業としても製品を提供し、現地で活動するUNHCRやセーブ・ザ・チルドレンにまずは2000万ユーロ(約25億1400万円)を支援する。
H&M / ロシアでの事業を停止。168店舗を展開している。「H&Mグループは、ウクライナでの悲劇的な事態を深く憂慮し、苦しんでいるすべての人々と共にある」。またH&M財団はセーブ・ザ・チルドレンやUNHCRに寄付を行うという。
ザラ (インディテックス) / ロシアの502店舗を閉鎖し、オンライン販売も停止した。同社は「現在の状況では、ロシアにおける業務と商業状況の継続を保証することができない」と説明(ロイター)。
ファーストリテイリング / UNHCRからの要請を受けて、11億5000万円の寄付を行うと発表。またヒートテック毛布やヒートテックインナー、マスクなど10万点と、国内店舗で回収したリサイクル衣料のうち防寒着など10万点を提供する。同社はロシアで49店舗を展開し、昨年12月に欧州最大の店舗をモスクワにオープンしている。
LVMH / 人道支援を行うほか、ロシア国内の事業を停止。124店舗を一時的に閉鎖。ロシアでは従業員3500人が働いており、給与は払い続けるという(ロイター)。「LVMHグループはウクライナの悲劇的な状況に目を凝らし、この戦争で深刻な影響を受けたすべての人々と共にある」としている。LVMHは紛争の直接・間接的な被害者を支援するため、まずは赤十字国際委員会(ICRC)に500万ユーロ(約6億2800万)を緊急寄付する方針。従業員からも支援金を募る。
ケリング / 人道支援を行うほか、ロシアで運営する2店舗を一時閉鎖。ロシアでは180人の従業員が勤務しており、継続して支援していく(ロイター)。先んじて、ウクライナ難民を支援するために、UNHCRに多額の寄付を行うことも明かしていた。傘下のグッチは、長年行うグローバルキャンペーン「Chime for Change」を通じてUNHCRに50万ドル(約5800万円)を寄付する。
シャネル / 人道支援を行うほか、ロシア国内の事業を停止。17店舗を一時的に閉鎖。「シャネルは、平和とウクライナでの戦争により影響を受けた人々を断固として支持する」と表明し、200万ユーロ(約2億5100万)をCAREとUNHCRなどに支援すると発表。また財団としても、女性や子どもに中長期的支援を行う計画。
エルメス / ロシアでの事業を停止。モスクワに3店舗を運営するほか、今年後半にはサンクトペテルブルクに新店舗をオープンする予定だった(ロイター)。
ナイキ / 当初はオンライン販売のみを停止していたが、ロシア国内の全店舗の営業を停止。従業員には閉鎖中も給与を支給する(ブルームバーグ)。そのほか、ユニセフ(国連児童基金)とIRC(国際救済委員会)に100万ドル(約1億1500万円)を寄付する。
プーマ / 当初はロシアへの輸出停止を表明していたが、100店舗の営業を停止。
アディダス / ロシアサッカー連盟とのパートナーシップを停止。
ロレアル / 避難民やウクライナの現地の人々を支援するために、地域のNGOや国際NGO(HCR、赤十字、ユニセフなど)に 100万ユーロ(約1億3000万円)を寄付。さらにウクライナ、ポーランド、チェコ、ルーマニアのNGOに衛生用品を届けており、今後数週間で30万個を寄付する計画。「ウクライナへの侵攻と戦争を強く非難する」としている。
資生堂 / UNHCRに100万ユーロ(約1億3000万円)を寄付。さらに、同グループの全世界の社員に対して募金を呼びかけ、集まったものと同額の金額を会社がUNHCRに寄付するという。同社は「ウクライナで起こっている大変な出来事によって、日常を失い、行き場を失った方々が多くいることによる現状に深く心を痛めている。また現地のお客さまや取引先、そして社員はもちろん社員の家族や友人の無事を案じてやまない。ウクライナの人々に1日でも早く、平穏な日々が訪れることを願う」と発表している。これに先立ち、ファッション雑誌『Vogueウクライナ』はインスタグラムで、資生堂を含むLVMH、シャネル、エルメス、マックスマーラなど高級ファッション・美容ブランドのアカウントに対してロシアへの商品の輸出を直ちに停止するよう呼びかけていた。
ユニリーバ / 500万ユーロ(約6億2800万円)相当の食料やパーソナルケア用品、衛生用品を寄付。また、グローバルで従業員による寄付を集め、会社もそれに上乗せする形で寄付をするプログラムを設立した。アラン・ジョープCEOは、「罪のないウクライナの人々に対する無分別な暴力行為に深い衝撃を受けている。ロシアの侵攻は近隣の主権国家に対する残虐な戦争行為であると非難する」と明言した。
   ●コンサルティング
アクセンチュア / ロシアでの事業を停止。ロシアには2300人の従業員がいる(フィナンシャル・タイムズ)。「ウクライナの人々や世界中の政府、企業、個人とともに、ウクライナの人々とその自由に対する非合法で恐ろしい攻撃の即時停止を求める」としている。同社は、避難民を支援する団体に500万ドル(約5億7500万円)を寄付し、さらに従業員からの寄付金に同額を加える形で支援を行う。
ボストン・コンサルティング・グループ / ロシアでの事業を停止。約400人の従業員を抱える(フィナンシャル・タイムズ)。事業規模の縮小を始めており、新たな仕事は引き受けない方針。モスクワオフィスは引き続き営業し、従業員の一部はロシア国外の顧客のサポートを継続するという。食料やシェルターの提供など独自の難民支援を行っていることを発表。クリストフ・シュヴァイツァーCEOは「ウクライナで激化する戦争が数百万人に与える影響を目の当たりにし、恐ろしさを感じている。胸が張り裂けそうだ。今こそ、一致団結しなければならない」としている。
マッキンゼー / ロシアでの事業を停止。従業員は400人以上いる(フィナンシャル・タイムズ)。「ウクライナ人の全同僚とその家族の安全を確保することに注力してきた。ロシアでの残りの業務が終われば、すべての顧客サービスを停止する」としている。
PwC / ロイターやフィナンシャル・タイムズは7日、同社がロシアから撤退すると報じている。先んじて、「国際法の違反とロシアのウクライナに対する侵攻を遺憾に思う。私たちはウクライナ国民と共にある。最優先事項は従業員の安全とウェルビーイングだ」と侵攻を非難する声明を出していた。また同社は1993年からウクライナで事業を展開。750人以上の従業員がおり、法的・経済的支援などを実施しているという。
KPMG / ロシアとベラルーシから撤退。両国に4500人以上の従業員がいる。ウクライナおよびこの戦争により影響を受けている地域の人々を支援する方針。「私たちは、ロシア政府によるウクライナへの継続的な軍事攻撃に対応する責任がある。従業員の多くは数十年間、KPMGで働いており、関係を終わらせることは非常に困難なこと。影響を受ける従業員の今後のサポートのためにできる限りのことをする」と発表した。
デロイト / 侵攻への非難声明を発表し、ロシアでの事業とプレゼンスを検討中。また、ロシア政府のいかなる事業体にもサービスを提供しないとしている。「デロイトはウクライナの人々とともにある。ロシアによる主権国家ウクライナへの侵攻は、欧州の歴史における最も暗い日々を思い起こさせる弁解の余地のない行為」と明言。
EY / 侵攻への非難声明を発表。「ウクライナでの戦争を糾弾し、国際法違反を非難する。ウクライナへのロシアの軍事侵攻は、EYの中核をなす価値観に真っ向から対立する。すべての当事者が平和的解決に向けて努力することを強く求める」。ウクライナの従業員および軍事衝突に家族や友人が巻き込まれている世界中の従業員の支援を行っている。
●ウクライナ 国際司法裁判所に軍事行動停止求める ロシアは欠席  3/7
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり国連の主要な司法機関、国際司法裁判所で審理が行われました。ウクライナはロシアの軍事行動を直ちにやめさせるよう暫定的な命令を出すことを裁判所に求めていますが、ロシア側は審理に出席しませんでした。
ウクライナは先月26日、ロシアによるウクライナでの軍事行動には正当な理由がないとしてオランダ・ハーグにある国際司法裁判所に提訴し、合わせてロシアに軍事行動を直ちにやめさせるよう暫定的な命令を出すことも求めました。
この求めをうけて国際司法裁判所は7日、審理を行い、ウクライナ側の口頭弁論が行われました。
ウクライナの代表は「人々は激しい攻撃にさらされ、彼らの身に危険が差し迫っている。ロシアを止めなくてはならない。裁判所には果たすべき役割がある」と述べて、裁判所がロシアの軍事行動の停止に向けてすみやかに判断を下すよう訴えました。
7日の審理にロシア側は出席せず、8日に予定されていたロシア側の口頭弁論にも出席しない意向を示したということです。
裁判所はウクライナの訴えについてすみやかに判断するとしていますが、過去には紛争の当事国が裁判所の命令に従わなかった例もあり、今後の判断によってロシアの行動に歯止めをかけられるかは不透明です。
●ユーロ急落、一時124円台前半 ウクライナ情勢を懸念  3/7
週明け7日の東京外国為替市場でユーロが対円で急落し、一時1ユーロ=124円台前半の安値を付けた。2020年11月下旬以来、約1年3カ月ぶりの安値水準。ウクライナ情勢の緊張状態がしばらく続くとの懸念が強まり売られた。ドルは1ドル=115円近辺で取引された。
午後5時現在、ドルは前週末比44銭円高ドル安の1ドル=115円01〜03銭。ユーロは2円12銭円高ユーロ安の1ユーロ=125円02〜06銭。
ロシアとウクライナの停戦交渉が進まないことが不安視されて安全な通貨とされる円が買われる一方、欧州への悪影響が警戒されてユーロは売られた。ドルも対円で売られた。
●ウクライナ情勢の緊張高まりガソリン1リットル『200円』が現実味 3/7
ロシアによるウクライナ侵攻による緊張感が高まり、世界的な指標であるニューヨークのWTI原油先物価格が7日、一時130ドルを超えた。2008年以来の高値に、ガソリン1リットル200円が現実味を帯びてきた。SNSでも「ガソリン200円超えはあらゆる物価に影響」「200円にでもなったら、もうチャリ通しろっていいたいの??」などの悲鳴が相次いだ。
ガソリン価格比較サイトによると6日時点の全国平均価格は170円。政府は4日、石油元売り会社に支給する補助金を1リットルあたり5円から25円に引き上げる追加対策を決定したが、原油先物価格の上昇幅が1週間で20%以上という状況では、抜本的な価格抑制につながらないのが現状だ。
また、世界経済の先行き不安は株式市場も直撃。週明け7日の東京株式市場は、主要指標である日経平均株価の下落幅は一時979円まで広がった(終値は764円安の2万5221円)。国際優良株のトヨタも下落幅が一時7%を超えた。
●中国外相 「国際社会とともに仲裁の用意ある」 ウクライナ侵攻  3/7
中国の王毅外相は記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、対話による解決を改めて訴えたうえで「必要な時に、国際社会とともに仲裁を行う用意がある」と述べ、必要に応じて、国際社会と連携して仲裁にあたる考えを示しました。
中国の王毅外相は、北京で開かれている全人代=全国人民代表大会に合わせて7日、記者会見しました。
この中で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「対話と話し合いを通じて、平和的な方法で争いを解決しなければならない」と述べ、対話による解決を改めて訴えました。
そのうえで「中国は和解に向けた話し合いを促し、建設的な役割を果たしていきたい。必要な時に、国際社会とともに仲裁を行う用意がある」と述べ、必要に応じて、国際社会と連携して仲裁にあたる考えを示しました。
また「人道主義的な危機を克服するため、引き続き努力したい」と述べ、ウクライナに緊急的な人道支援を行う考えも示しました。
一方、王外相は日本がアメリカなどとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性にたびたび言及していることなどを念頭に「歴史や台湾などの重大で敏感な問題は、両国関係における相互信頼の根幹に関わる。日本がこうした問題について一連の厳粛な約束を守り、両国関係に再び深刻な影響をもたらさないことを望む」と述べ、日本側をけん制しました。
この発言の際、王外相は日本に対する「忠告」ということばを用いています。
さらに、王外相は「台湾問題は、完全に中国の内政問題だ。台湾問題とウクライナ問題は、根本的に異なり、比較できない」と述べ、ウクライナ問題が、台湾海峡をめぐる情勢に影響を与えるのではないかという見方を否定しました。
また、米中関係について「アメリカは、中国の核心的利益に関わる問題において絶えず攻撃と挑発を続け、両国関係の大局を損ねるだけでなく、国際平和の安定に影響を与えている。これは責任ある大国がとるべき態度ではない」と述べ、アメリカを批判しました。
「クアッド」の枠組みなどを強く非難
中国の王毅外相は記者会見で、アメリカが先月、中国への対抗を念頭に発表したインド太平洋戦略について「真の目的はインド太平洋版のNATO=北大西洋条約機構をつくる企みで、アメリカが主導する覇権を守るためのものだ」と述べるとともに、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国でつくる「クアッド」の枠組みなどを強く非難しました。
そのうえで「われわれは、地域の対立をあおる主張には断固として反対する」として対抗していく姿勢を示しました。
北朝鮮問題はアメリカの行動次第
中国の王毅外相は記者会見で、核開発を続ける北朝鮮について「北朝鮮側の合理的な安全保障上の懸念が根本的に解決されておらず、解決にはすべての当事者がともに向き合うことが必要だ」と指摘し、今後の進展は、アメリカが問題の解決に向けて具体的な行動を起こすかどうか次第だという認識を示しました。
そのうえで王外相は「政治的解決のプロセスを絶えず推進するよう改めて呼びかける。中国側は引き続き建設的な役割を発揮し、しかるべき努力をしたい」と述べました。
●林外相とスロベニア外相 ウクライナ情勢めぐり電話会談  3/7
ウクライナ情勢をめぐり、林外務大臣は、スロベニアのロガル外相と7日、電話で会談し、軍事侵攻を続けるロシアを厳しく非難するとともに、今後の対応でも日本とEUで連携していくことが重要だという認識で一致しました。
スロベニアは、EU=ヨーロッパ連合で去年、議長国を務めており、林外務大臣とロガル外相は、7日午後6時前から、およそ30分間、電話で会談しました。
この中で両氏は、ロシアによる軍事侵攻は、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する深刻な国際法違反だという認識を共有するとともに、今回の力による一方的な現状変更の試みは国際秩序の根幹を揺るがすものだとして、ロシアを厳しく非難する立場で一致しました。
また林外務大臣が、これまでに日本がロシアとベラルーシに科している制裁措置の内容を説明したのに対し、ロガル外相は日本の取り組みを高く評価するとともに、ウクライナ国内にあるスロベニア領事館も一連のロシアの攻撃で破壊されたことなどを説明しました。
そして、両氏は、追加の制裁措置を含めた今後の対応でも日本とEUで連携していくことが重要だという認識で一致しました。
●ロシア「ウクライナが核・生物兵器開発」と主張…侵攻を正当化か  3/7
ウクライナが核や生物兵器の開発を秘密裏に進めてきたと、ロシアのプーチン政権が一方的に主張している。大量破壊兵器(WMD)の開発に結びつけて、軍事侵攻を正当化する狙いとみられる。
露国防省は6日、ウクライナが米国の資金提供を受けてペストや 炭疽たんそ 菌などの病原体を使った生物兵器の開発をひそかに進めていた「事実」を確認したと主張した。
ロシアが侵攻を開始した2月24日に、ウクライナ保健省が東部ハリコフとポルタワの研究施設に病原体の緊急廃棄を指示したとする文書も「証拠」として公表した。真偽は不明だ。
ウクライナのチェルノブイリ原発=ロイターウクライナのチェルノブイリ原発=ロイター
ロシア通信など国内の主要通信社は6日、ウクライナがチェルノブイリ原子力発電所で、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」を作っていたと報じた。証拠は示していない。さらにタス通信は6日、ウクライナの核兵器開発が「数か月以内に実現可能」とする関係者の証言も伝えた。
チェルノブイリ原発はソ連時代の1986年に史上最悪の放射能汚染事故を起こし閉鎖されているが、露軍は侵攻開始の直後に占拠した。核開発を裏付ける「証拠」を探そうとしているのではないかとの見方も出ている。
米国のブッシュ政権は2003年、サダム・フセイン政権のWMD保有を根拠にイラク戦争に踏み切った。しかしフセイン政権の崩壊後、イラクでWMDは見つからなかった。 
●ユーロ急落一時124円台 ウクライナ情勢緊迫で 3/7
週明け7日の東京外国為替市場でユーロが対円で急落し、一時は1ユーロ=124円台後半と2020年12月以来、約1年3カ月ぶりの安値を付けた。ウクライナ情勢の緊迫を受けて売りが出た。ドルは1ドル=115円近辺で取引が始まった。
午前9時現在、ドルは前週末比52銭円高ドル安の1ドル=114円93〜98銭。ユーロは2円20銭円高ユーロ安の1ユーロ=124円94銭〜125円04銭。
ロシアとウクライナの停戦交渉に進展が見られず、投資家のリスク回避姿勢が強まり、比較的安全な通貨とされる円が買われやすい展開となった。一方、両国と関係が深い欧州への悪影響が懸念され、ユーロは売られた。
●東京株急落、1年4カ月ぶり安値 ウクライナ情勢懸念、一時979円安 3/7
週明け7日の東京株式市場で日経平均株価は続落し、一時、前週末比979円安と急落した。終値は764円06銭安の2万5221円41銭と、2020年11月10日以来、約1年4カ月ぶりの安値。ロシア軍がウクライナ北東部の核物質を扱う研究施設を攻撃したとの報道や原油相場の急伸で投資家心理が悪化し、売りが加速した。投資家のリスク回避でアジアの主要株式市場でも株安が進んだ。
●アジア株、軒並み下落 ウクライナ情勢でリスク回避 3/7
7日午前のアジア株式市場では、ウクライナ情勢をめぐる警戒感や原油価格の高騰からリスク回避が強まり、主要株価指数は軒並み下落した。
香港市場のハンセン指数は下落率が一時4%を突破。中国電子商取引大手アリババ集団などのハイテク株や金融株を中心に、幅広い銘柄が売られた。
台湾の株価指数は一時3%安、ソウルは2%安。中国・上海市場も軟調となっている。
●中国・香港株式市場・前場=下落、ウクライナ情勢や新型コロナ流行を嫌気 3/7
中国株式市場は下落して前場を終えた。商品価格の高騰やウクライナ情勢の緊迫化を受けて海外株式市場が値下がりしたことが背景。新型コロナウイルスの再流行も地合いを圧迫する要因となっている。
中国政府は5日、2022年の国内総生産(GDP)成長率目標を予想を上回る5.5%前後に設定。アナリストの間では、達成は難しく、追加の景気刺激策が必要になるとの見方が多い。
上海総合指数前場終値は50.9149ポイント(1.48%)安の3396.7341。上海と深センの株式市場に上場する有力企業300銘柄で構成するCSI300指数前場終値は107.037ポイント(2.38%)安の4389.393。
香港株式市場のハンセン指数前場終値は746.11ポイント(3.41%)安の2万1159.18。ハンセン中国企業株指数(H株指数)前場終値は238.13ポイント(3.10%)安の7448.74。
原油先物はアジア時間7日、6%強急伸し、2008年以来の高値を付けた。米欧がロシア産石油の禁輸措置を検討する一方、イラン産原油の輸出再開が遅れる見通しとなり、供給逼迫懸念が強まった。
生活必需品、ヘルスケア、情報技術、半導体<.CSIH30184>が2.8─3.3%安。
中国国家衛生健康委員会は7日、中国本土で6日に確認された症状のあるコロナ感染者は214人だったと発表した。過去2年で最も多かった。オミクロン変異株が広がっており、感染拡大を短期間に抑え込む戦略が試されている。
観光が5%安、輸送が3.6%安。 不動産開発は0.8%高。
リフィニティブのデータによると、株式相互取引(ストックコネクト)を通じた本土株からの資金流出は約72億元(11億4000万ドル)。
ハンセン指数は終値ベースで2016年7月以来の安値となる勢い。年初来下落率は9.6%。ハンセンテック指数は4%近く下落し、最安値。美団が約8%安。
金融は3.9%安。HSBCホールディングスとスタンダード・チャータードがともに6%以上下落。
エネルギーは0.7%高。石油株が上昇している。
●ガソリン価格、08年以来の高水準 ウクライナ情勢受け=全米自動車協会 3/7
全米自動車協会(AAA)は6日、全米のガソリン平均価格が同日時点で前週比11%上昇し、1ガロン=4.009ドルに達したと発表した。2008年7月以来の高水準。ウクライナを侵攻したロシアへの制裁で、同国産原油の輸出に支障が生じるとの観測が広がったためという。
2.760ドルだった前年同期と比べると45%の上昇。前週は3.604ドルだった。08年7月は米WTI先物が過去最高値のバレル当たり147.27ドルを付けた時期に当たる。
●金が2000ドル台に上昇、パラジウム最高値 ウクライナ情勢緊迫で 3/7
金のスポット価格が7日、1年半ぶりに1オンス=2000ドル台に上昇した。ウクライナ情勢の緊迫化で安全な逃避先を求める資金が流入している。
パラジウムも供給不安で最高値を付けた。
0330GMT(日本時間午後0時30分)現在、金のスポット価格は0.9%高の1986.83ドル。一時2020年8月19日以来の高値となる2000.69ドルまで上昇した。

 

●暴走するプーチンの源流、マルクス・レーニン主義の罪 3/8
ロシアのプーチン政権による非道きわまりないウクライナ侵略が止まる気配もない。なぜここまで残虐なことができるのか、プーチンという人間の異常さを感じるしかない。「ロシア通」と言われる人々からはプーチンを擁護するかのような声も聞かれるが、信じがたいことだ。
ロシア革命の指導者だったウラジーミル・レーニンは、ロシアには「大ロシア主義」があることを認め、ここからの脱却が必要だとしていた。「大ロシア主義」とは、ロシアの大国主義のことである。大国主義とは、国際関係において、経済力・軍事力に勝っている国がその力を背景として小国に対してとる高圧的な態度のことである。だからこそロシア革命が成功したとき真っ先にとった措置が、民族自決権を認めることであった。
バルト三国はそれまでロシア帝国に支配されていたが、1917年のロシア革命の翌年に民族自決権を掲げて独立を果たした。ただ、第二次世界大戦の最中にまたしてもソ連に占領されてしまう。
世界の共産党に押し付けられた暴力革命方針
1917年のロシア社会主義革命は、世界に大きな衝撃を与えた。この革命をアメリカ人ジャーナリストで社会主義者だったジョン・リードが描いたルポルタージュ作品『世界を揺るがした10日間』は世界で読まれた。ソ連を「労働者の祖国」などと呼んだ時代もあったのだ。
レーニンは、ロシア革命の成功によってヨーロッパ諸国で革命が巻き起こるのは時間の問題だと考えていた。実際に、ハンガリーでは革命によって共産主義政権が樹立し、続いてバイエルンでも社会主義政権が樹立され、ドイツでも社会主義者による革命的蜂起が続発していた。1919年3月には、レーニンの主導でモスクワにおいて「コミンテルン」(共産主義インターナショナル、第三インターナショナル)が立ち上げられた。当初は世界革命の実現を目指す組織とされ、ソ連政府は資本主義諸国の政府と外交関係を結び、コミンテルンは各国の革命運動を支援する、という区別がなされた。しかしレーニン死後、スターリンが「一国社会主義論」(世界革命を経ずとも一国の中で社会主義の建設が可能だとする考え)を打ち出したことでコミンテルンの役割が変貌し、“ソ連の外交政策を擁護する各国の共産党”という色彩が強くなっていった。
このコミンテルンの創設は、世界の共産主義運動に巨大な影響を与えた。中国共産党が昨年(2021年)創立100周年を迎えたが、日本共産党も今年の7月に創立100周年を迎える。いずれもコミンテルン中国支部、日本支部として創立された共産党だった。世界の共産党がすべてコミンテルンの支部として作られたのである。
コミンテルンに加入することは、簡単ではなかった。1920年8月に作成された「共産主義インターナショナルへの加入条件」には、厳しい規則が明記されている。2、3紹介する。
「共産主義インターナショナルに所属する党は、民主主義的『中央集権制』の原則にもとづいて建設されなければならない。現在のような激しい内乱の時期には、党がもっとも中央集権的に組織され、党内に軍隊的規律に近い鉄の規律がおこなわれ、党中央が、広範な全権をもち、全党員の信頼をえた、権能のある、権威ある機関である場合にだけ、共産党は自分の責務を果たすことができるであろう」
「共産主義インターナショナルに所属することを希望するすべての党は、反革命勢力にたいするたたかいで各ソビエト共和国を献身的に支持する義務がある」
「共産主義インターナショナルに所属することを希望するすべての党は・・・どこどこの国の共産党(第三インターナショナル支部)という名称をつけなければならない」
完全に最初からソ連の下請け組織のようなものだった。このコミンテルンによって、世界の共産党に暴力革命方針が押し付けられていった。
日本共産党の党史である『日本共産党六十年』において、「日本共産党が正式に採択した最初に綱領的文書であり、そこに定式化された戦略方針や戦術、党建設の方針は、わが国に前衛党を建設し、革命運動を前進させるうえで、重要な指針である」と高く評価しているのが、1927年にコミンテルンによって作られた「日本問題に関する決議」(27年テーゼ)である。
この27年テーゼには、日本国内の情勢分析や共産党としての戦い方が書かれているが、最後に次のような一節がある。「最後に、共産党は、今日国際的革命家の組織に課せられている緊切焦眉の義務を、全力をあげて果たさねばならぬ。すなわち党は、中国における日本の干渉と、ソビエト連邦にたいする日本の戦争準備とにたいして闘争する義務を果たさねばならぬ」。中国革命の成功やソ連擁護のために戦うことを日本共産党の任務にしているのだ。ソ連の下請けのようなものである。社会主義ソ連になっても大ロシア主義は克服されなかったのだ。
社会主義の破綻とプーチン
この5年後の1932年に、コミンテルンの指導で「日本における情勢と日本共産党の任務に関するテーゼ」(32年テーゼ)が作られる。27年テーゼでは、日本は革命を起こせる情勢にあると分析していたが、32年テーゼでは、日本は革命情勢にまだ遠いので中国の革命支援とソ連擁護の活動力を尽くせと強調されている。しかも、一方では天皇制の転覆、労働者農民の武装、プロレタリア赤衛軍の創設、議会の解散など暴力革命路線をより強く打ち出している。
いま日本共産党は、過去も、現在も暴力革命方針を持ったことはない、と厚顔にも述べているが、そもそも非合法下にあった共産党が革命を起こすためには、暴力革命以外あり得なかったのである。
暴力革命はレーニンがロシア革命で実行したことであり、教えでもあった。レーニンは、プロレタリア独裁について、「直接に暴力に立脚し、どんな法律にも拘束されない権力」のことであると明解に述べている。そして議会制民主主義とはブルジョア民主主義のことであり、ソビエトはプロレタリア民主主義である。レーニンは、プロレタリア民主主義は「最も民主主義的なブルジョア共和国の百万倍も民主主義的である」と語った。それがあの自由も民主主義もないソ連だったのである。
いまウクライナ侵略を行っているロシアのプーチン大統領は、レーニンが憧れの人物なのであろう。2012年12月には、レーニン廟を聖遺物になぞらえて保存するよう提唱したそうである。クレムリンの壁と霊廟に「強いロシア」のイメージを重ねる者は、いまも多いようだ。ソ連は消滅したが、暴力を厭わない社会主義・ソ連が生み出したのがプーチンである。
巨大な覇権国家中国も、マルクス・レーニン主義が生んだものである。北朝鮮もソ連がつくり上げたものだ。日本は、その害悪と脅威に最もさらされる国となっている。浅間山荘事件から今年はちょうど50年になる。彼らも社会主義国家を目指していた。マルクス・レーニン主義はとんでもない災厄を人類にもたらした。
社会主義体制が誕生した国は、マルクスやエンゲルスの想定と違い、発達した資本主義国ではなかった。ロシア、中国、ベトナム、キューバ等々、資本主義国とも言えないような国でしか実現しなかった。マルクスやエンゲルスの想定は外れるべくして外れたのだ。
そもそも「資本主義」という用語は、資本が生産活動の主体となっている経済体制を指すもので、主義・主張・思想ではない。資本主義論という理論があって資本制社会ができたわけではない。自然にこういう生産様式になっていったのだ。だが、「マルクス・レーニン主義」は強烈な思想・イデオロギーである。この「主義」によって社会変革・革命を起こそうというところに一番大きな問題がある。マルクスやエンゲルスが解明したとされる社会の発展段階、すなわち原始共産制から奴隷制、封建制、資本制への以降は、自然に成し遂げられたものだ。社会主義にだけは自然に移行しないというなら、自らの理論を否定しているようなものだ。
●「プーチンはこれでは終わらない。さらに先に進む」 “暴君”の実像 3/8
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから2週間以上が経過した。停戦協議はいまだ進まず、戦闘の長期化が懸念されているが、世界が注目するのはプーチン大統領が何を考え、これからどのような動きをするかということだろう。『プーチンの実像』(朝日新聞出版)の著者の一人である朝日新聞論説委員・駒木明義氏は、プーチン大統領を直接知る多くの人物を取材し、重要な証言を引き出してきた。ウクライナ侵攻前、駒木氏が取材した元側近は、今回の事態を予測するかのような証言をしていたという。駒木氏が緊急寄稿した。

「まさか本当に全面戦争を始めるとは」
ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った2月24日、私はとても信じられない気持ちで一杯でした。同時に、今から7年前にこの事態を正確に予言した人物のことを思い出したのです。
その名は、アンドレイ・イラリオノフ氏(60)。プーチン氏がロシアの大統領に就任した2000年から5年間、経済顧問を務めた人物です。
当時の彼の主な仕事は、主要国首脳会議(当時はロシアも含めて「G8」と呼ばれていました)で、プーチン氏の代理として、事前の交渉や合意文書のとりまとめにあたる「シェルパ」と呼ばれる役どころです。プーチン氏からの信頼も厚い側近でした。
私がイラリオノフ氏に会ったのは、2014年10月のこと。場所は、米国のワシントンにあるシンクタンクでした。このときまでに、イラリオノフ氏は完全にプーチン氏から離反し、最も厳しい批判者に転じていました。
話は当然、プーチン氏が同年の3月にウクライナのクリミア半島の併合を一方的に宣言したことに及びました。そのときに、彼は私に向かってこう断言したのです。
「侵略者は誰かに止められない限り、侵略を続けることを歴史が示している。ナチスドイツも、ソ連も、あなたには悪いがかつての日本もそうだった」
「プーチンはこれでは終わらない。さらに先に進む」
「いつ、どこに向かって、どんな方法で進むかは予見できない。しかし、彼がここで止まることを示すような歴史の前例は一つもない」
これこそが、今回プーチン氏がウクライナへの全面侵攻を始めたときに私が思い出した言葉でした。彼の予言は的中してしまったのです。
正直に言えば、8年前の私は、彼の言葉にはまだ半信半疑でした。
プーチン氏がウクライナのクリミア半島を占領した理由として当時取り沙汰されていたのは、第1にかつてのロシア領を取り戻すことで国内の求心力を高めること、第2にウクライナとの紛争状態を作り出すことで、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟できないようにすること――といったところでした。
しかしイラリオノフ氏は、こうした説を一蹴しました。
「経済的理由、政治的理由、安全保障上の配慮、地政学的な理由で説明することはできない。すべてNATOが原因? そんなのは、ばかげた話だ!」
イラリオノフ氏によると、プーチン氏を突き動かしているのは「そこに何か奪うものがあるから、奪う」という理屈であり、「それがどんなに高くつくかよりも、やったこと自体が重要」なのだという。
突然権力と富を手に入れたものは「理性に従って行動するのではなく、子供時代のコンプレックスに突き動かされて振る舞うようになる」。その結果として、プーチン氏の場合は「帝国をつくりだそうとしているように見える」というのがイラリオノフ氏の見立てでした。
今回のウクライナ攻撃をめぐって、私たちはさまざまな理由で説明しようとしています。8年前にも言われたNATO拡大阻止。2024年の大統領選を視野に、求心力を高めようとしている。ソ連の再建。しかし、イラリオノフ氏の言うように、その根底にあるものが理性ではなく、プーチン氏自身の心の奥底に秘められた情念のようなものだとすれば、今回の戦争が最後ではないのかもしれない。
そして、イラリオノフ氏が列挙した「侵略者」たるナチスドイツ、ソ連、戦前日本がたどった運命を思うとき、非常に暗い気持ちにならざるを得ません。
イラリオノフ氏は、プーチン氏がクリミアを占領した後に、私たちが取材した20人以上の1人にすぎません。取材相手の共通点はただ一つ。プーチン氏と身近に接したことがある、ということです。
旧国家保安委員会(KGB)の同僚、サンクトペテルブルクの改革派市長の右腕だったときのプーチン氏を知る人、モスクワで破竹の出世を遂げる様子を間近で見ていた人、日本の友人たち……彼らが語るプーチン氏の人間像は、驚くほど多様で「これが同じ人物のことだろうか」と思わせるほどです。
プーチン氏は本当に謎が多い人物です。「なぜNATOに敵意を向けるのか」「無名の官僚から驚異の出世を遂げた秘密はなにか」「蛮勇を振るう性格はいつからか」「病的とも言える被害者意識の起源は」――こうした疑問を一つ一つひもといていくことが、今回のウクライナ侵攻の動機を知る手がかりになると思います。私たちが取材した側近の証言からは、その一端が垣間見えるはずです。
●プーチンとヒトラーを「同一視する論調」を海外紙はどう報じているのか 3/8
2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、プーチンの戦略を1938年のズデーテン地方をドイツに編入したヒトラーの戦略になぞらえる論調が、各国のメディアに広がっている。この比較は適切なのだろうか? 各国のメディアに掲載された専門家の意見から考察する。
「比較せざるを得ない」
「私は何かをヒトラーと比較することは嫌いだ。しかし、プーチンの妄想的な発言を聞くに、そうした比較をせざるを得ない」
コロンビア大学のロシア研究者スティーブン・セスタノビッチは2月24日、米週刊誌「ニューヨーカー」にこう述べた。
ちょうど数時間前に、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻開始を宣言したばかりだった。プーチンは、ドンバス地方のロシア系住民が「大量虐殺」されているとして、あらためてウクライナ当局を非難し、侵攻の目的は、ウクライナの「非軍事化と非ナチ化」だと主張した。
イスラエルの日刊紙「ハアレツ」では、ジャーナリスト兼作家ヨシ・メルマンが「ウラジーミル・プーチンはアドルフ・ヒトラーではない。第二次世界大戦後のいかなる独裁者も、もっとも残忍な最悪の者さえも、ナチスの暴君にたとえることはできない」とすぐさま意見を表明した。
とはいえ、彼もまた次の点は強調している。
「ウクライナ侵攻というロシア大統領の決断は、いくつかの点で、1939年9月1日のポーランド侵攻以前のナチスの指導者たちが採用した戦術を彷彿とさせる」
具体的にはまず「嘘のレトリック」の使用がある。プーチンによる「大量虐殺」という言葉の使用は、1938年にヒトラーがズデーテン地方(住民の大部分がドイツ語話者だった)をチェコスロヴァキアから割譲した際に引き起こした「前例のない残虐行為」を思わせる。
歴史家でジャーナリストのナイジェル・ジョーンズも英保守系週刊誌「スペクテイター」で次のように分析する。
「歴史的背景は異なっているものの、プーチンとヒトラーはふたりとも(関係国における)それぞれ重要なドイツとロシアのマイノリティの存在を、彼らの標的の防御を突破するためのトロイの木馬とした」
前述の「ハアレツ」紙でヨシ・メルマンは「キーウはミュンヘンではない」と強調する。
1938年のミュンヘン会談では、フランスと英国は戦争を回避するために、ズデーテン地方の帰属問題に関するドイツの要求に従った。
「しかし、新たなチェンバレン(註:ドイツへのズデーテン地方の編入を認め、ミュンヘン協定に署名した当時の英首相)と同じ精神で、宥和的な外交姿勢を採用すれば、ジョー・バイデンら欧米の指導者は、プーチンの領土征服への渇望を焚き付けることになるだけだ」とメルマンは予測する。
ロナルド・レーガン政権で国防総省副次官補を務め、現在はシンクタンク戦略国際問題研究所のメンバーであるドブ・S・ザケイムは、「ワシントンポスト」の取材に答え、「戦略は(1938年と)同じだ」と断言した。
彼は躊躇なく述べる。
「ヒトラーはヨーロッパ征服を望んだ。プーチンは、帝政ロシア、つまりロシア帝国の復活を望んでいる。このことは、帝国に属していたフィンランド、バルト三国、ポーランドにとってとりわけ脅威となる」
「前例のない脅威であって、新しいナチスドイツではない」
こうした見方は、性急で安易に過ぎるヒトラーへの還元(reductio ad Hitlerum、ヒトラーに例える論証)だろうか? 英メディア「アンハード」で意見を表明したダニエル・マッカーシーによれば、そうだ。マッカーシーは米保守誌「モダン・エイジ」の編集長を務めている。
「あらゆる危機を第二次世界大戦にたとえるのは危険な習慣だ」と彼は考える。彼によれば、過去20年の米国の戦略上の誤りは、その顕著な例だという。
「2003年、イラクはいわゆる“イスラムファシスト”独裁政権と“大量破壊兵器”とともに、核爆弾を持ったナチスドイツに匹敵する脅威として提示された」と彼は非難する。「米国の政治エリートとメディアエリートのほとんどが、この馬鹿げた考えに賛同し、悲惨な結果をもたらした。なによりもまず、イラクの人々に」
断固として現実主義を主張するマッカーシーは、米国が自国の利益のために最善の方法で行動し続けるように導く必要があると考えている。
「プーチンのロシアはサダム・フセインのイラクよりもはるかに大きな脅威である。しかし、これは前例のない脅威であって、新しいナチスドイツではないのだ」と彼は断言する。
●「プーチンのウクライナ侵攻、ロシア凋落の始まりか」 3/8
プーチン氏の緒戦でのつまずき
ロシアがウクライナに対する軍事侵攻に踏み切って1週間が経ち、両代表団によってベラルーシで停戦協議が行われている(本稿執筆時点)。刻々変化する戦況を判断することは危険ではあるが、電光石火の攻撃により緒戦で勝利し、ウクライナ側に(1)非武装中立化、(2)クリミア半島の主権譲渡を飲ませるというロシアの目論見はうまくいっていないようである。傀儡政権の樹立も今では難しくなっている。
誤算はウクライナの士気とドイツの政策大旋回
誤算の2大要因は、ウクライナ側の士気が高く抵抗が強いことと、国際世論のロシア批判の高まりである。SNSで全世界に伝えられるゼレンスキー大統領の英雄的抵抗と国民の愛国心の高まりは、国際世論を味方につけ、ロシア批判の共同戦線とも言えるような雰囲気を作っている。
その中で特筆されるのは、欧州連合(EU)をリードするドイツ・ショルツ政権の政策大旋回である。ロシアによるウクライナ侵攻直後の2月28日、ドイツ議会の特別セッションにおいて、1000億ユーロの軍近代化予算と、軍事予算の増額(対GDP比1.5%〜2%)が表明された。また、北海ルートのパイプライン「ノルドストリーム2」の棚上げも打ち出された。
さらに国際決済システム「SWIFT(国際銀行間通信協会)」からのロシア排除、ミサイルや装甲車などのウクライナへの軍事支援、石炭と天然ガス備蓄の増強、カタールと米国からのLNG(液化天然ガス)受け入れターミナル2つの建設などが、緑の党の同意のもとに打ち出された。2022年に全廃が決まっていた原子力発電所の運転延長や廃止原発の再稼働なども俎上に上ってくるかもしれない。
4つの可能性、すべてはプーチン氏にかかる
平和主義、反軍拡、脱カーボンに彩られたドイツ中道連立政権の存在は、北大西洋条約機構(NATO)を押し返そうとするプーチン政権にとって、大きな安心材料であった。その180度の政策転換は、自ら蒔いた種とはいえ、プーチン政権にとって大いなる読み違えであっただろう。となると、これからどのようなシナリオが考えられるだろうか。ことは全てプーチン氏の判断にかかっている。4つのシナリオがあり得る。
第一の最も可能性が高いシナリオは、プーチン氏のdouble down(2倍賭け)であろう。緒戦でもたついた分をより強硬策で突破し、ウクライナ側の屈服を勝ち取ろうとするだろう。3月4日の原発攻撃はまさにdouble downそのものかもしれない。
第二に可能性が高いシナリオは、停戦を餌に非武装化などの譲歩を勝ち取る、いわば大坂冬の陣型の対応(藤崎元駐米大使の説)であろう。これはそのあと夏の陣が控えており、ウクライナにとっては最終的な解決策にはならず危険である。
第三の可能性は、国際批判の高まりと国内経済悪化によりプーチン氏が失脚・排除されるシナリオであるが、まだ機は熟しておらず当面は考えにくい。
第四のシナリオは、プーチン氏の改心による侵略の終結であるが、それはほとんど考えられない。
経済制裁でプーチン氏を引き下ろせるか?
このように整理すると、ウクライナが徹底抗戦の姿勢を変えないとすれば、プーチン氏の退陣のみが究極の解決策となる。ロシア内部での厭戦気分の高まり、プーチン批判が相当に高じなければ政権の交代はなかなか起きないかもしれない。EU、米国の対ロシア経済制裁、SWIFTからの排除、金融制裁、経済でのダメージが相当高まることが必要である。
では、SWIFTからの排除などの経済制裁の効果はどれほどであろうか。天然ガスの最大の顧客であるドイツの政策大転換はプーチン氏にとって痛手であるが、短期的に大きなダメージにはならないかもしれない。なぜなら、ロシア最大のズベルバンク、第3位のガスプロムバンクはSWIFT排除の対象外になっており、引き続き石油ガス供給を続けることができるのである。
ルーブル暴落、インフレの帰趨が鍵に
むしろ、同時に打ち出されたロシア中銀と日米欧中銀との取引停止、ロシア外貨の凍結の方が大きな影響を持つかもしれない。こうした事態に備え、ロシアは外貨準備を大幅に増やし、かつその中身を大きく分散化、制裁に堪え得る体制を整えてきたようである。
ロシアの保有する外貨準備高はウクライナ侵攻直前には6430億ドル(74兆円)と、ボトムの2015年に比べ7割も増加させていた。昨年6月時点での内訳はユーロ32.3%、金21.7%、米ドル16.4%、人民元13.1%、英ポンド6.5%、日本円5.7%、カナダドル3.0%などとなっている。この中で、すでに米、英、カナダ、欧州連合(EU)、日本がロシアの外貨準備を凍結しており、それはロシア全体の約6割にのぼる。周到に金や人民元の比重を高めてきたが、それでは到底間に合わない。
ルーブル大暴落に対応した外貨介入ができなくなり、大幅な金利引き上げを余儀なくされているが、それでもルーブルはウクライナ侵攻前の78ルーブル/ドルから117ルーブル/ドルへと5割の大暴落になっており、深刻なインフレが懸念される。IIF(国際金融協会)はロシアのデフォルト(対外債務不履行)の公算は大としている。ロシアは10%を超える経済成長の落ち込みを余儀なくされるだろう。
EU、米国、日本の順に返り血浴びるが、リセッションは回避できよう
他方、ロシアにエネルギーを依存している欧州も返り血を浴びることになるが、ガス・原油価格の上昇の悪影響は限られよう。第三次石油ショックのような惨事は考えにくい。米国でのシェールガス・オイルの増産、カタール、アルジェリアへの転換も可能である。米欧では最大で1%程度の消費者物価指数(CPI)の上昇があり得るとしても、リセッションに陥るほどのことにはならないだろう。経済はロシアの一人負けになるのではないか。
このままではロシアは発展途上貧国に凋落へ
となると、株式市場への悪影響は限定的になるだろう。むしろ、金融引き締め圧力が弱まること、ドイツの政策大旋回に見られるように、世界の民主主義国家の団結が強まり、投資家心理への好影響が期待できる。
その中で、産業基盤が弱体化し、資源依存の新興国型の経済構造に陥っているロシアでは一段と困難が進行する。ロシアの経済プレゼンスの凋落は必至で、いずれエネルギーにのみ依存する開発途上貧国に転落するかもしれない。
●裏切り続出、ロシア“内部崩壊”始まる プーチン氏の暴挙・暴走に国内で批判 3/8
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍は、ウクライナで残虐非道な侵攻を続けている。病院や学校、住宅、原子力発電所、核物質施設などへの攻撃は続き、子供や女性などの民間人を避難させる「人道回廊」の設置も延期されたままだ。3回目の停戦交渉は7日にも行われるが、プーチン氏は事実上、ウクライナの完全降伏を求めており、欧米主導の経済制裁にも「宣戦布告に等しい」と恫喝(どうかつ)している。国際秩序を踏みにじるプーチン氏の暴挙・暴走については、ロシア国内でも懸念・批判する声が高まっているという。ジャーナリストの加賀孝英氏が、日米情報当局などの最新情報を報告する。
「プーチン氏は、ロシア軍に対し、史上初といえる原子力発電所(=ヨーロッパ最大規模のザポロジエ原発)への砲撃に加え、民間人への無差別攻撃(=虐殺)を命令した。さらに、『戦術核兵器の使用』まで検討している。正気ではない。プーチン氏はいま、『失脚』と『暗殺危機』におびえて焦っている。ロシアの内部崩壊が始まっている」
日米情報当局関係者は、そう語った。
すべての元凶は、プーチン氏が強行した「ウクライナ侵攻」計画の大失敗だ。概略、次のようなものだった。
侵攻開始は2月20日(=実際は24日)。開始から12時間でウクライナの制空権を確保し、同36時間でウクライナ軍の通信網を破壊する。同48時間で首都キエフを包囲し、同72時間でウォロディミル・ゼレンスキー政権を転覆させる。
この時、「2つの極秘作戦」が用意されていたという。
1つは、ロシアの傭兵部隊(民間軍事会社)と、ロシア南部チェチェン共和国の特殊部隊による「粛清リスト」に従った暗殺・拉致作戦だ。ウクライナのゼレンスキー大統領以下二十数人の暗殺と、「反露」の政治家、ジャーナリストなど500人超を拉致、監禁、拷問する。「ゼレンスキー政権がロシアへの核攻撃を準備していた」「ウクライナ東部で『ジェノサイド(民族大虐殺)』が起きていた」などと、虚偽証言させるためだ。
もう1つは、ゼレンスキー氏らの暗殺作戦と同時に、ロシア軍の情報機関「ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)」が、侵攻前に工作し、用意していた新大統領役のウクライナ男性と仲間が決起し、カメラの前で、ロシアを救世主と称え、「親露」新政権樹立を宣言する―。
外務省関係者は「新政権樹立前に、米国と英国、欧州連合(EU)などが日本時間の2月27日朝、国際決済ネットワーク『国際銀行間通信協会(SWIFT)』からロシアの一部銀行を排除する厳しい制裁を打ち出した。『金融制裁の最終兵器』だ。岸田文雄首相も同日夜、要請を受け、制裁への日本の参加を表明した。G7(先進7カ国)の足並みがそろった。3月3日には、国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退を求める決議案を圧倒的多数で採択した。プーチン氏は孤立した」と語った。
対露制裁では、ロシア通貨・ルーブルの買い支えを防ぐため、ロシア中央銀行が先進国に持つ外貨準備の凍結も決めた。ただ、SWIFTからの排除には、ロシア最大手の銀行「ズベルバンク」は含まれなかった。「対露制裁カードの切り札」を残したかたちだ。
ある大手銀行幹部は「現時点でも『死刑宣告』に等しい。『ルーブル暴落の通貨危機』『銀行破綻の金融危機』『デフォルトの債権危機』という3大危機が起きる。ロシア経済は1秒ごとに破滅に突き進む。物不足、ハイパーインフレ、企業倒産、国民の困窮…。暴動はいつ起きてもおかしくない」と語った。
こうしたなか、プーチン氏の「側近たちの裏切り」が続出している。
英紙タイムズは4日、ゼレンスキー氏には、少なくとも3度の暗殺未遂が起きたと報じた。阻止したのは、侵攻に反対するロシア連邦保安局(FSB)の関係者の情報リークだという。FSBは、旧KGBの流れをくむ防諜機関だ。
以下、日米情報当局関係者から得た情報だ。
「公然とした裏切りで、『200人以上の暗殺部隊が射殺された』という情報もある。FSBのアレクサンドル・ボルトニコフ長官は、プーチン氏と同じKGB出身者で、最側近の一人だ。超ド級の衝撃だ」
「プーチン氏は、GRUに何度か、『新大統領役の男たちに決起させろ』と命令した。ところが動かない。GRUのウソだったとバレた。GRUのトップはセルゲイ・ショイグ国防相だ。プーチン氏の腹心だ。さらに、計画通りに軍を進めなかったワレリー・ゲラシモフ参謀総長にも裏切り疑惑が生じた。クレムリンはガタガタだ」
日米英、EUなど各国は、プーチン氏を支えてきた新興財閥の大富豪(オリガルヒ)にも、「息の根を止める」べく資産凍結など、厳しい制裁を科した。
続く日米情報当局の情報は、こうだ。
「オリガルヒの一部が、軍や情報部と『プーチン打倒工作』を考え始めたようだ。情報遮断や言論統制、反戦を訴える市民1万人以上を逮捕・拘束(=中には小学生まで)しても、『反プーチン』の勢いは止まらない。ロシアが潰れるからだ」
われわれは、ウクライナ侵略の歴史的証言者になっている。対中・対露で「弱腰」批判がある岸田首相と林芳正外相には、命をかけて国家と国民を守る覚悟があるのか。怒りを込めていう。プーチン氏を断じて許すな。ウクライナを救え。
●プーチンの大誤算、中国に引き込まれた「進むも地獄、引くも地獄」の戦争 3/8
ロシアの当初の見立ては大誤算
ロシアのメディア・RIAノーボスチが、「ウクライナはロシアの手に戻った」「ロシア、ベラルーシ、ウクライナの3つの州が地政学的に単一の存在として行動している」「我々の目の前に新たな世界が生まれた」と、ロシアの「勝利宣言」を誤送信する「事件」が起きた。
プーチン大統領の軍事侵攻の目的がわかる内容だった。しかし、たとえ、苦心惨憺の果てにウクライナを制圧しても、ロシアの目指す「新たな世界」など絶対に出現しない。
要するに、東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退した。だから、たとえ、ウクライナを制圧しても、それはリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、やぶれかぶれで出したパンチが当たったようなものなのだ。
ロシアは、「進むも地獄、引くも地獄」という状況に陥っているのではないか。まず、緒戦の電撃的な攻撃でウクライナが降伏しなかったことが誤算だった。
ウクライナが徹底抗戦できたのは、ウクライナで自由民主主義が着実に根付いてきていたからだ。
ウクライナでの自由民主主義の浸透の成果
2014年のロシアによるクリミア半島併合後、ウクライナでは汚職防止や銀行セクター、公共調達、医療、警察などの制度改革が実施されてきた。そして、民主的な選挙が実施され、政権交代で3人の大統領が誕生した。
政権交代が頻繁にあり、ゼレンスキー大統領の支持率は約30%という状況をプーチン大統領は、ウクライナの政情が不安定と捉えていた。ロシアのような権威主義の国ならば、指導者への支持率は80%を超えたりする。ゼレンスキー大統領の権力基盤は脆弱だと判断した。
だが、言論、報道、学問、思想信条の自由がある自由民主主義では、国民の考えは多様だ。野党が存在し、指導者への対立候補が多数存在するものだ。指導者の支持率が約30%というのは、低いわけではない。むしろ、ウクライナでの自由民主主義の浸透を示すものだ。自由民主主義を一度知った人々は、それを抑えようとするものに決して屈しない。
それが、自ら銃を取って民兵となったウクライナ国民だ。
ロシア軍は約90万人(旧ソ連時代の5分の1の規模)で、ウクライナに展開しているのは15万〜20万人だとされる。一方、キエフは人口約250万人の都市だ。徴兵制で、成人男性は皆、銃を扱える。彼らが民兵になれば、ロシア軍の数的不利は明らかだ。キエフの制圧は相当に困難だ。地上戦ではロシア軍は大苦戦し、士気が落ちているという。
プーチン大統領の最大の誤算がここにある。
「進むも地獄、引くも地獄」の苦境とは?
ロシアが置かれた「進むも地獄、引くも地獄」の苦境とはどのようなものか。まずは「進むも地獄」だ。
国連総会は、緊急特別会合を開催し「ロシア軍の即時・無条件の撤退」「核戦力の準備態勢強化への非難」などを盛り込んだ決議を、193カ国の構成国のうち141カ国の支持で採択した。2014年のクリミア併合時の決議への賛成は100カ国で、ロシアを批判する国の数は大幅に増加したということだ。
国際社会は、ロシアの主張をまったく信用しなくなった。例えば、ウクライナ南東部のザポロジエ原発で、火災が発生し、「ロシア軍が砲撃した」と批判された。それに対し、ロシアは「“ネオナチ”や“テロリスト”が挑発行為をしようとしてきた」などと主張している。何が真実はわからないが、国際社会はロシアが原発を攻撃したと決めつけた。さまざまな情報が飛び交う中、世界はウクライナを信じる。情報戦で、ロシアは完全に敗北しているのだ。
このまま、ロシア軍が地上戦の膠着した状況を打開するために、さらに地上軍を投入し、核兵器を使用したとする。ロシアの国際社会からの孤立は決定的になる「自殺行為」だろう。
さらに、国際貿易における資金送金の標準的な手段となっているSWIFTからロシアを排除する制裁措置が決定された。次第に絶大な効果を発揮することになるだろう。
石油・ガスパイプラインが「武器」にならないという誤算
SWIFTからのロシア排除の決定は、ロシアが石油・ガスパイプラインを国際政治の交渉手段として使えなかったことを示す。排除が実施されれば、ロシア経済の大部分を占める石油・天然ガスのパイプラインでの輸出の取引が停止し、ロシアは国家収入の大部分を失う。
取引相手である欧州は、コスト高に直面はするが、LNGを米国、中東、東南アジアからかき集められる。ジョー・バイデン米大統領とウルズラ・ファンデアライエン欧州委員長が、EUが約4割をロシアに依存する天然ガスについて、欧州への安定供給維持のために連携する方針を表明する内容の共同声明を出した。
また、バイデン大統領は、液化天然ガス(LNG)の有力産出国であるカタールを、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国である「非NATO同盟国」に指名する考えを表明した。カタールに対して、欧州へのガス供給量の引き上げを期待している。
さらに、欧米のオイル・メジャーが次々とロシアの石油・ガス事業から撤退している。英BPは、19.75%保有するロシア石油大手ロスネフチの株式を売却し、ロシア国内での合弁事業も全て解消して撤退することを決定した。米エクソンモービルも、ロシア・サハリンでの石油・天然開発事業「サハリン1」から撤退、英シェルが「サハリン2」から撤退を表明した。シェルは、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」、シベリア西部の油田開発などからも撤退する。
ロシアの石油・天然ガス開発は、歴史的に欧米のオイル・メジャーに依存してきた。メジャーが持つ掘削・採取・精製の各段階の技術、外国市場での販売ネットワークや資金力なしでは、ロシアの石油産業は成り立たなかったからだ。
メジャーの撤退は、ロシアの石油・天然ガス事業の存亡に関わる事態となり得る。そして、ロシア経済そのものの崩壊につながりかねない。
ウクライナ軍事侵攻により、周辺国でも一挙に「ロシア離れ」
ロシアは、「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約」を米国やNATOに要求してきた。だが、ロシアの軍事侵攻は、NATOの東方拡大を加速させている。
ウクライナがEUへの加盟申請書に署名した。また、ウクライナ東部の親ロ派支配地域と同じように、一方的に「独立」を宣言された地域を国内に抱えている旧ソ連構成国のモルドバとジョージアもEUへの加盟申請書に署名した。
この動きは、NATOの拡大につながる可能性がある。すでに、ウクライナとジョージアは、NATOが加盟希望国と認めている。モルドバはNATOの「平和のためのパートナーシッププログラム」に参加しているのだ。
また、NATO非加盟国のスウェーデンとフィンランドの世論調査で、NATOへの加盟の支持が初めて半数を超えた。ロシアのウクライナ軍事侵攻によって、欧州のNATO非加盟国のあいだで、一挙に「ロシア離れ」が加速したといえる。
さらに、ロシアの軍事行動がエスカレートすれば、ロシアを経済的に支援しているとされる中国、中立を保つインドなども、ロシアを見捨てざるを得なくなるかもしれない。
中国共産党が、プーチン大統領を戦争に引き込んだと言う見方も
「引くも地獄」だが、プーチン大統領がロシア軍のウクライナからの撤退を決めれば、プーチン政権は崩壊の危機に陥る。大統領がアピールしてきた「大国ロシア」が幻想であることを国民が知ってしまう。大統領への支持は地に落ち、政権は「死に体」となる。大統領の失脚や暗殺を企てるクーデターも起こり得る。
紛争終結後にプーチン大統領が失脚する「ポスト・プーチン」がどうなるかを、今から考えておく必要があるのかもしれない。
気になる動きがいくつかある。ウクライナ紛争のきっかけとなった「ウクライナ東部独立承認」をロシア議会に提案したのが野党「ロシア共産党」だったことだ。ロシア共産党は中国共産党の強い影響下にあると指摘されている。中国共産党が、プーチン大統領を「進むも地獄、引くも地獄」の戦争に引き込んだという見方はあり得る。
また、ウクライナがロシアとの仲裁を中国に依頼したことも興味深い。ロシアと中国は親密な関係だが、ウクライナも「一帯一路」を通じて中国と深い関係がある。
中国は、ウクライナ紛争に静観を装っている、だが、すでにプーチン大統領を見限っており、「ポスト・プーチン」をにらんで紛争の仲裁に入り始めたら、自由民主主義陣営にとって深刻な事態となるかもしれない。
一方、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、仲裁役に名乗りを上げた。トルコはNATO加盟国で欧米の代理人といえる。だが、大統領は、権威主義的な国家運営で知られ、ロシアとも良好な関係である。自由民主主義か権威主義か、どちらに顔を向けて仲裁するのかわからない。
ウクライナ紛争は、ウクライナ国民の自由民主主義を守ろうとする行動によって、ロシアを「引くも地獄、進むも地獄」に追い込んだ。しかし、歴史を振り返れば「アラブの春」など、権威主義の指導者を失脚させた後、自由民主主義がもたらされず、混乱の中、よりひどい指導者が出現したことがあった。
「ポスト・プーチン」のロシアに、中国共産党の支援を受けた、プーチン大統領以上に権威主義的な指導者が出現するリスクがあるのかもしれない。米国とNATO、日本など自由民主主義陣営は、これに対抗する想定ができているのだろうか。
●無理心中も同然。戦に負ければ殺されるプーチンが核ボタンを押す瞬間 3/8
ウクライナへの軍事侵攻を巡り、「停戦が可能となるのはロシアの全要求が満たされた場合のみ」とし、一切の妥協を否定したプーチン大統領。ロシアでも6日に行われた反戦デモで4,600人以上が拘束されるなど、国際社会のみならず自国民からも激しい批判が湧き上がる中、プーチン大統領が戦争遂行にこだわり続ける理由はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、「プーチンが死に物狂いで戦わざるを得ない事情」を解説。さらに今後の世界の行く末と日本が置かれる立場を考察しています。
泥沼化するウクライナ戦争 東西冷戦構造になる
ロシアがウクライナに侵攻して、1週間以上がたち、キエフ包囲もできず、攻撃が停滞している。一方、東南部の作戦は順調であり、ヨーロッパ最大級のザポロジエ原発を抑えた。東南部はロシア優勢で、しかし、キエフ近郊はウクライナ軍が善戦している。この戦争と世界構図を検討しよう。
バイデン大統領は、米軍をウクライナに送らないと、プーチンに直接言い、ロシアを侵攻させる糸口を開いたことは、確かである。
このため、ロシアはウクライナに侵攻したが、キエフでの戦闘に負けると思っていなかったことで、誤算を生じたが、戦争に負けるとプーチン自身の命に関わるので、戦争を停止できない。
ウクライナが負けるまで、戦争を継続することになる。プーチンには出口がない。このため、欧米日の経済制裁は徐々に増してくるので、中国への依存度を増していくことになる。
バイデン大統領は、インフレも戦争も、プーチンのせいにできるので、中間選挙対策にもなる。米国の分断も幾分か緩和されることになる。敵がいれば、まとまれる。
パウエルFRB議長も、インフレはFRBの責任ではないとして、暗にロシアのせいと言っているのであろう。戦争で国民の目を外に向けさせる政策を米国は、自国の犠牲者なしで、行えることになった。
表では、NATO軍はウクライナ戦争に介入しないとするが、裏で米軍兵が大量に義勇兵として、ウクライナ戦争に参加することになる。米軍事専門会社が、ソロスなど富裕層からの依頼で送り込むからである。
すでに米兵3,000人を含む1万5,000人の義勇兵がウクライナに入国したという。この連中は戦争のプロであり、ゲリラ戦への転換ができることになる。
これって、ロシアが得意としたハイブリッド戦争をウクライナで、米国が行うことである。反対に、ロシアのハイブリッド戦争を主導してきたロシア軍参謀総長ゲラシモフ氏は、正規戦に反対したようで解任された。
ロシアは、ウクライナ侵攻では正規軍が中心になり、キエフ侵攻軍には、急遽集めた新兵を送り込んでいる。キエフ攻略は簡単に済むとみていたことがわかる。
ウクライナ軍主力も東南部戦線であるので、この見方もわかるし、現状の状態を、ロシア軍は主力のウクライナ軍を打ち破って、東南部で占領地域を広げているので、負けているとはみなしていない。
このため、プーチンもロシアが最終的に勝つと、まだ、考えているはずだ。欧米メディアの報道は、ウクライナ寄りすぎる。この戦争は、そう簡単には、終わらない。10年戦争になる。ロシアのクーデターでプーチンが殺されるまで続くことになる。
しかし、ウクライナは国が徹底的に荒廃される。ゼレンスキー大統領は、「ミンスク合意」を履行して中立化した方が、国民の犠牲者が少なく、国が荒廃しなかった。国民もNATO加盟に熱を入れずに、ロシアに譲歩した方が、結果的には良かったような気がする。
しかし、荒廃を少なくする方法は、ウクライナ軍の補給が尽きると負けて戦争は終わったことだ。しかし、戦争終了で荒廃が止まるはずが、世界から補給物資がウクライナに送られ、義勇兵も来るので、戦争は長引くことになる。その補給ルートはポーランドであり、次の焦点はポーランドへのロシアの行動になる。
事実、ロシア外務省は、ウクライナに武器を提供する国に対し、ロシア軍に対して武器が使われた場合は相応の責任を負わせると警告した。この一番の目標は、ポーランドになる。
日中戦争で、補給ルート阻止のために、日本軍が東南アジア侵攻をした理由でもあり、補給ルートを止めることが重要とみると、次の焦点は、ポーランドになる。
ポーランドは、ウクライナ国境で鉄道線路も繋ぎ、鉄道で物資を大量にウクライナに運べるようにしている。この補給を止めないと、ロシアは勝てない。
この補給ルートを止めるために、戦術核ミサイルを使うことも想定する必要がある。ポーランドは、NATO加盟国であり、全面戦争になるが、ロシアが勝とうとすると、その可能性も出てくる。プーチンは自分が死ぬなら、道連れにする可能性もある。ロシアの負けが見えた時点が危ない。
このため、米国はプーチンの精神状況を調査する必要性を見ている。
もう1つが、ロシア軍事専門家は、ロシアの弾薬の消耗で、今後3週間で停戦するというが、プーチンが生きている限り長期戦になるとみる。プーチンは負けるとクーデターで殺されるからだ。死に物狂いで戦争遂行を行う。
すると、ロシアは1日150億ドルの戦費が必要であり、戦争物資を優先するので、国民への物資の不足が出て、かつ、ルーブルの価値が大幅に落ちて輸入もなくなり。国民生活は相当に苦労する。EU諸国はロシア向けの船便を止めたことで、日用品もなくなる。
これに、いつまでロシア国民は耐えられるかである。国民の不満爆発でクーデターになる可能性もあり、精神状況と、国民の不満の両方を見ないといけなくなる。
すでに、富裕層のロシア人たちはフィンランドに脱出している。この動きも加速する。ロシアの国力消耗と貧困化が進む。
そして、反対に世界は、ロシアに資金や物資を補給する国にも経済制裁を行うことになり、その対象国に中国も含まれることになる。これは東西冷戦構造になる。世界の分断で、グローバル経済は崩壊する。中国からの安い物資がなくなることになる。
このため、世界的にインフレが加速する。日本は貿易量の多くを中国依存であるが、それがなくなる。代わりに、円安になり、中国で生産していた物品の多くを日本で作ることになる。人手はロシアやウクライナ、中国などからくる難民、移民たちがいる。
ロシア包囲網に加わらないのは、インド、中国、中東やイスラエル、トルコなどであり、トルコはウクライナ軍にドローンを大量に供給し、かつ操縦士も送り込んでいる。一方、ロシアやイランからのパイプラインがトルコを通るので、経済的な関係もある。トルコは両方から利益を得ることができることになるが、米国の説得でロシア寄りから脱却した可能性もある。
イスラエルは、ロシアに電子兵器を補給していてお得意先である。それと、中東での戦争時、ロシアの参戦を恐れている。
米国は、2正面作戦を行う必要になり、その分、戦略が分散して、日本やインド、豪州などの負担が増えることになる。
日本は、中国と北朝鮮に加えて、ロシアにも対することになる。3正面作戦となり、苦しくなる。恐れていた事態になってきた。
さあ、どうなりますか?
●米国が懸念する「プーチン暴走」で次に起こること  3/8
対ロシア戦略を立案するホワイトハウス高官の間で、新たな懸念に関する議論がひそかに始まっている。対ロシア制裁の連打に大統領ウラジーミル・プーチンが追い詰められて暴走し、紛争をウクライナ以外にも広げてくる、という懸念だ。
3人の高官によると、ホワイトハウスのシチュエーションルーム(作戦司令室)の会議では、こうした問題が繰り返し俎上に載せられるようになっている。プーチンは自らの行き過ぎた行動で身動きが取れなくなったと感じると、さらに過激な行動に出る傾向があると、アメリカの情報機関はホワイトハウスと議会に報告している。
ホワイトハウス高官が想定するプーチンの反撃シナリオは、ウクライナに侵攻したロシア軍の初動の失敗を補う無差別砲撃から、アメリカの金融システムを狙ったサイバー攻撃、核を使ったさらなる脅し、ウクライナ国境外への戦争の拡大まで多岐にわたる。
プーチンの「次の一手」をめぐる議論と連動して、情報機関ではプーチンの精神状態に関する再検討が急ピッチで進められている。新型コロナ禍による2年間の引きこもりで、プーチンの野心とリスク選好度に変化が起きたのかどうかも焦点だ。
プーチンが2月27日、西側の「攻撃的な発言」に対抗するとしてロシアの戦略核兵器を「特別戦闘態勢」に置くよう命じたことで、上述の懸念は一段と強まった(もっとも、国家安全保障当局者の話では、その後の数日間にロシアの核部隊が実際に新たな準備態勢に移行したことを示す証拠はほとんど見られなかったという)。
3月2日に国防長官ロイド・オースティンが、ロシアの直接的な挑戦をエスカレートさせたり、プーチンに核兵器を使用する口実を与えたりするのを避けるため、核ミサイル「ミニットマン3」の発射実験を延期すると発表したことに、アメリカの懸念の深さが表れている。
第1弾の制裁に対するプーチンの反応はさまざまな懸念を巻き起こしており、あるアメリカ政府高官はこれを「追い詰められたプーチン問題」と呼んだ。石油大手のエクソンモービルやシェルはロシアの油田開発から撤退。ロシア中央銀行に対する制裁で通貨ルーブルは暴落し、ドイツもそれまでの方針を翻してウクライナ軍に対する殺傷兵器の供与を解禁、ドイツの軍事費を積み増すという驚きの発表を行った。プーチン包囲網は着々と狭まっている。
ただ、ミサイル発射実験の延期を除けば、アメリカが緊張緩和に向けた措置を検討しているという証拠はなく、ある高官は制裁を緩めることに関心はないと語った。
「その正反対だ」。この高官は取材に応じたほかの政府関係者と同じく匿名を条件とした上で、バイデン政権の顧問の間で交わされている内部的な議論について、こう述べた。
実際、大統領のジョー・バイデンは3日、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)を対象に追加制裁を発表。制裁は「すでに大きな打撃を与えている」と語っている。
「デフォルト」相当まであと2段階
バイデンが追加制裁を発表した数時間後、S&Pはロシアの信用格付けを「CCCマイナス」に引き下げた。ウクライナ侵攻数日前のジャンク債レベル(投機的水準)を大幅に下回る格付けで、デフォルト(債務不履行)を意味する等級まであと2ノッチ(段階)しか残されていない。
これは「制裁に耐えられる経済」を目指してきたプーチンの試みが大部分失敗に終わったことを示している。そして少なくとも現時点においては、停戦を宣言するか軍隊を引き上げる以外に、プーチンにとって目に見える出口は存在しないが、プーチンはこうした出口にまったく関心を示していない。
ホワイトハウスの報道官ジェン・サキは3日午後の記者会見で、「今は制裁緩和のオプションを提示するタイミングではない」とし、プーチンに出口を示す試みについては何も知らないと話した。
一方で、国務省のある高官に今後のリスクに関する政権内の議論について尋ねると、政権内のアプローチには微妙な違いが存在しており、プーチンに出口を示す選択肢もないわけではない、というコメントが返ってきた。
バイデン政権の政策はロシアの体制転換を狙ったものではないと、この高官は話した。同高官によると、プーチンの権力ではなく、行動に影響を与えるのが基本方針であり、制裁はプーチンを罰するものとしてではなく、戦争を終わらせる圧力手段と位置づけられている。
従って、プーチンが行動をエスカレートすれば制裁は一段と厳しくなるが、プーチンが事態の沈静化に動くなら、その度合いに応じて制裁を緩める展開もありえるという。
だが、そうした期待はプーチンの本性に関する分析結果とは矛盾する。
アメリカ中央情報局(CIA)長官のウィリアム・バーンズは当初から、プーチンは侵攻を計画しており、駆け引きで優位に立つためだけにウクライナ周辺に軍隊を集結させているわけではないという見方をとってきた。
駐モスクワの元アメリカ大使としてプーチンと20年以上にわたって渡り合ってきたバーンズは12月に次のように述べていた。「私なら、プーチン大統領がウクライナで危険を冒す可能性を決して甘く見ない」。
アメリカ政府に攻撃の矛先をシフト?
ウクライナ情勢が深刻化してからの非公開会合では、プーチンの今後数週間の戦略について、アメリカ当局者が以下の可能性に警鐘を鳴らすようになっている。ウクライナの民間人に対するロシア軍の攻撃から注意をそらし、長年の敵国の行動に対する愛国的な反感を国民にたき付けるべく、アメリカ政府に攻撃の矛先をシフトしてくる、というものだ。
バイデンがロシアに経済制裁を加えたのと同じく、プーチンがアメリカの金融システムに攻撃を加えようと考えた場合、有効な手段は1つしかない。訓練の行き届いたハッカー部隊とランサムウェア犯罪組織の動員だ。こうした犯罪組織の中には、プーチンの戦争を支援するとはっきりと約束しているところもある。
「事態がエスカレートしていけば、われわれの重要インフラに対するロシアのサイバー攻撃を目にすることになるだろう」。下院情報委員会のメンバーで、影響力のあるサイバースペース・ソラリウム委員会の共同議長を務めるマイク・ギャラハー下院議員(共和党、ウィスコンシン州選出)は、そう語った。
とはいえ、プーチンの次の動きとしてはウクライナで軍事作戦を強化してくる可能性が高く、そうなれば民間の犠牲者がさらに増え、破壊の被害が拡大するのは間違いない。
かつてCIA職員として大統領への情報ブリーフィングを担当していたベス・サナーは、「侵攻はプーチンが思ったほど簡単ではなく、彼としては攻撃の手を強める以外に選択肢がない」と話した。「それが独裁者というものだ。引けば弱みを見せることになるため、撤退はあり得ない」。
●プーチンの悩み…ロシアの一日の戦争費用、韓国の年間国防予算の半分 3/8
ロシアがウクライナ侵攻中にかかる戦争費用が一日200億ドル(約2兆3100億円)以上と推定された。これは韓国の年間国防予算(約54兆6000億ウォン)の半分ほどだ。
英国の経済回復センターと一部の戦略コンサルティング会社は3日(現地時間)、「開戦から4日間、ロシアの戦費は70億ドル程度だったが、その後、弾薬・補給品の拡大、戦死者の続出、ロケット(ミサイル)発射などで一日に200億−500億ドルの戦争費用となっている」と推定した。
ウクライナ国防省は今回の侵攻で5000人近いロシア軍が死亡し、タンク146台、航空機27機、ヘリコプター26機を破壊したと明らかにしたが、ロシア国防省は正確な数値を確認していない。ウクライナに発射したミサイルは600発以上と推定される。
英国の経済回復センターなどは「この費用はロシアの被害の一部にすぎない」とし「国際制裁でルーブルが過去最安値まで落ち、金融取引が禁止され、国家経済が崩れている」と評価した。実際、ルーブルは25%ほど暴落し、ロシア株式市場は先週ずっと閉鎖された。
こうした状況がロシアの立場の変化につながるかに関心が集まっている。ウクライナ休戦交渉代表は6日、カナダ日刊紙グローブアンドメールのインタビューで「この2週間、戦争と西側の経済制裁で莫大な被害を受け、ロシア側の立場にも微妙な変化が感知される」と述べた。戦争初期にはウクライナを完全に支配することを目標に交渉に臨んだが、「戦争の本当の代償を感じながら、今は『建設的な交渉』を始めた」という。
さらに米国はロシア経済の核心である原油の輸出に制裁を検討し始めた。ブリンケン米国務長官は6日、NBC放送のインタビューで「欧州同盟国とロシア原油輸入禁止について活発に議論中」と述べた。ブリンケン長官は「原油動向についてバイデン大統領と政府に報告した」とし「世界的な原油の円滑供給を維持しながらも、ロシア原油輸入を禁止することを欧州同盟国と活発に話し合っている」と伝えた。
昨年のロシアのエネルギー輸出額は2350億ドルと、GDP全体の14%にのぼる。ロシアのオイル・ガス生産はGDP全体の約40%。英国の経済回復センターなどは「貿易制裁はロシアのエネルギー依存経済に莫大な打撃を与えるはず」とし「数百万人のロシア人を貧困に追い込み、深刻な景気沈滞を招くだろう」と予想した。
●「プーチン氏の命令に従っただけ」…ロシア操縦士たちが次々と「降伏」 3/8
ロシアがウクライナに侵攻してから11日目となる6日(現地時間)、ウクライナ軍の捕虜となったロシアの操縦士たちが「助けてほしい」と懇願する動画がSNSを通じて拡散している。
英メディア“デイリー・ミラー”によると、ウクライナ軍は最近、ロシア戦闘機9機を撃墜し生存した操縦士たちを捕らえた。ウクライナ北部のチェルニーヒウで撮影されたSNSの動画には、戦闘機の墜落により負傷したロシア操縦士たちがひどくおびえ「プーチンの命令に従っただけだ」とし「どうか助けてほしい」と懇願する姿が映されていた。
怒りに満ちたウクライナ兵たちは「なぜ民間人に対して爆弾を投下するのか。国民たちが次々と亡くなっている」と叫んだ。
爆破地図を所持していた別のロシア操縦士は「飛行命令を受けただけだ」と主張した。
その後ウクライナ兵たちは、ロシア捕虜兵たちの負傷を考慮して病院に移送し、治療を受けさせたものとみられる。
デイリー・ミラーは「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は『48時間あれば、国(ウクライナ)を征服できる』と言っていたが、軍の士気はすでに地に落ちている」と伝えた。
燃料供給が滞ったことから戦車は途中で止まり、至る所で攻撃が中断される事態が発生し、一部のロシア軍は衝突を避けるため降伏したり、車両の燃料タンクに穴をあけたりもしている。
ウクライナ国防省は「これまで飛行機44機とヘリコプター48機を撃墜し、戦車285台・装甲車985台・燃料タンク60台を爆破した」と主張した。
一方、国連人権事務所は「開戦日である先月24日午前4時から今月7日の午前0時までに、民間人の死者は406人・負傷者は801人と集計された」と7日に伝えた。このうち子どもの死者は27人に達した。人権事務所は「交戦の熾烈な地域での死傷者の報告が遅れていることから、実際の数字はもっと多いだろう」と懸念した。
WHO(世界保健機関)は「開戦後、ウクライナ内の医療施設への攻撃が16回あった」と明らかにした。
●米ボーイング、ロシアからのチタン購入停止=ウクライナ侵攻後 3/8
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は7日、米航空機大手ボーイングがロシアのウクライナ軍事侵攻後、ロシアからの軽金属チタンの購入を一時停止していると報じた。チタンは航空機の製造に幅広く利用されている。
同紙によると、ボーイングの広報担当者は、同社はチタンの約3分の1をロシアから、残りを米国や日本、中国、カザフスタンから調達していると説明。その上で、「わが社のチタン調達源の多様性と在庫は、航空機の製造に十分な供給をもたらしており、長期的な継続性を確保するため引き続き適切な措置を講じる」と述べた。
業界関係者によれば、ボーイングは他の航空宇宙関連企業と同様、ロシアが欧米の制裁にチタンの供給停止で報復した場合に備え、別のサプライヤーを探しながらチタンを備蓄している。
ボーイングのカルフーン最高経営責任者(CEO)はロシアのウクライナ侵攻に先立つ1月、チタン供給について、「地政学的な状況が落ち着いている限り問題はないが、そうでなければ永遠に保護されるわけではない」と語り、中期的なリスクになる可能性を警告していた。
●ウクライナに防弾チョッキで改正案 与党了承なら今夜にも出発  3/8
政府は、ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナに防弾チョッキを送るため、ウクライナに殺傷能力のない装備品に限って提供できることを明記した「防衛装備移転三原則」の運用指針の改正案を自民党の会合に示しました。与党側の了承が得られれば、必要な手続きを経て、早ければ8日夜遅くにも物資を運ぶ自衛隊機が日本を出発する見通しです。
ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナ政府からの要請を踏まえ、政府は支援物資として防弾チョッキやヘルメット、それに防寒服や非常用の食料など、自衛隊が保有する物資を提供する方針です。
このうち防衛装備に当たる防弾チョッキを提供するため、政府は国際法違反の侵略を受けているウクライナに殺傷能力のない装備品に限って提供できることを明記した「防衛装備移転三原則」の運用指針の改正案を8日朝の自民党の会合に示しました。
また政府の担当者は、支援の第1便として防弾チョッキとヘルメットを自衛隊機で運ぶ方向で準備を進めていると説明し、出席した議員から大きな異論は出ませんでした。
政府は、与党側の了承が得られれば必要な手続きを行うことにしており、早ければ8日夜遅くにも物資を運ぶ自衛隊機が日本を出発する見通しです。
●ウクライナ支援で総額830億円 日本や欧州諸国も協力―世銀 3/8
世界銀行は7日、ロシアの軍事侵攻を受けているウクライナに対して、日本や欧州諸国と協力し、総額7億2300万ドル(約830億円)の緊急支援を実施すると発表した。日本からの融資1億ドル分が含まれる。
病院職員への給与や年金・社会保障関連事業など、ウクライナ政府が国民に重要な公共サービスの提供を続けるのに必要な支援を行う。
●国連安保理 米などロシアを非難 “安全な避難ルート設置を”  3/8
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、国連の安全保障理事会は現地の人道状況をめぐる緊急の会合を開き、アメリカなどがロシアを非難し、市民の安全な避難ルートを設置するよう求めたのに対し、ロシアはウクライナ側が市民の避難を認めていないと反論しました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり国連安保理は7日、緊急の会合を開き、現地の人道状況について協議しました。
冒頭、ユニセフ=国連児童基金のラッセル事務局長が報告を行い、ウクライナから国外に避難した170万人以上のうち半数が子どもだとしたうえで「数え切れない子どもたちが心に傷を負っている。親と離れ離れになった子どももいて、暴力や虐待のリスクも高まっている」と指摘し、人道支援を実現するために即時停戦の必要性を訴えました。
このあと各国が相次いで現地の状況に強い懸念を示し、市民の安全な避難ルートを設置するよう求めました。
このうちアメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、ロシア軍の攻撃で市民の被害が増えていると非難したうえで「ロシアは人道支援を制限しないことを明確かつ公的に約束すべきだ」と迫りました。
これに対してロシアのネベンジャ国連大使は、市民への攻撃を否定したうえで「避難ルートは設置されたにもかかわらず、ウクライナ側は市民が街を離れることを許さなかった」と反論し「安全な避難ルートを開くため西側諸国はウクライナの指導者を説得してほしい」と主張しました。
安保理ではフランスなどが人道支援を妨げないよう求める決議案の取りまとめを進めていて、拒否権を持つロシアの出方が焦点となります。
●五輪直前の首脳会談でプーチン大統領から軍事作戦を聞かされていた習主席 3/8
消えた最高幹部
米ニューヨーク・タイムズ紙ほか複数のメディアが、バイデン政権の高官などの話として、「2月上旬、中国政府の高官がロシア側に対して、北京五輪が閉幕するまではウクライナに侵攻しないよう要請していた」と報じた。
北京五輪の閉幕は2月20日で、ロシアによるウクライナ侵攻は24日。状況的にはロシアが中国の要請を受け入れたことになる。
加えてこの報道では、「プーチン大統領と習近平国家主席の首脳レベルで、こうしたやりとりがあったということではない」との指摘もあるようだが、日本政府関係者は次のように話す。
「中国共産党の最高意思決定機関である政治局の常務委員会は、習主席と李克強首相を含め7人で構成されています。彼らは五輪期間中、開閉会式を除き、ほぼ姿を見せることはありませんでした。これは五輪閉幕後にロシアによるウクライナ侵攻があり得ると想定して様々な分析を行っていたからだという情報があります。これを指示したのは、プーチン大統領から侵攻作戦を聞いた習主席だということでした。プーチン大統領から直接、作戦の中身を伝えられた指導者は、世界でも習主席だけでしょう」
ロシアからの一方的な愛
習主席がプーチン大統領から侵攻作戦を聞いたのは、2月4日に北京で行われた首脳会談においてだったという。
「プーチン大統領は、“ロシアとウクライナは、世界に冠たる国家となったキエフ大公国(9〜13世紀)を起源とする、兄弟のような国家だ。宗教も含めて今日や昨日に始まった結びつきではないのに、NATO(北大西洋条約機構)が主導する地政学的な悪意あるゲームに翻弄されている”などと強い懸念を示したといいます」(同・政府関係者)
愛するウクライナがNATOに吸い寄せられるようにロシアから離れるのは看過し難く、半ばストーカーのように思いが募っていたようにも見える。あるいは、同胞意識の極みとも言えるだろうか。ひるがえってウクライナは帝政からソ連崩壊までロシアの支配を許したが、1991年の独立から30年が経過した現在、ロシアからの一方的な愛に居心地の悪さを感じていたのかもしれない。
「会談の席でプーチン大統領は、東方へ拡大を続けるNATOやアメリカのいわば傀儡(かいらい)政権化したウクライナへの敵がい心をむき出しにしていたそうです。“ロシアがいくら抗議してもNATOはこれを受け入れない。軍事作戦を展開せざるを得ないタイミングに差しかかっている”と習主席に訴えたようです」(同・政府関係者)
五輪は平和の祭典だから
ウクライナがNATOに加入すると、NATO勢力が地続きとなってロシアに到達してしまう。それはロシアにとって脅威に他ならないというわけだ。
「プーチン大統領は習主席に、“NATOは約束を反故(ほご)にしている”とも言ったそうです」(同・政府関係者)
東西ドイツが統一される際に、東ドイツに駐留していた旧ソ連軍の撤退と引き換えに「NATOの不拡大が約束された」とプーチン大統領は主張したかったようだ。
「プーチン大統領はこういった主張を折に触れて展開してきましたが、これを裏付けるものが具体的に示されていないのも事実です」と、政治部デスク。
ともあれ、一連のプーチン大統領の発言を聞いた習主席は、その思いに理解を示し、受け止めたうえで、「五輪は平和の祭典だから、その期間中は軍事行動を控えてほしい」と答えたという。
「習主席にとって北京五輪は、自身の権勢を内外にアピールし、国家主席3期目突入の前祝的なイベントとして、重要な機会だったはずです。新疆ウイグル自治区での弾圧が報じられる国のトップから“平和の祭典だ”と言われても鼻白む部分がないわけではないですし、ならばパラリンピックはどうなのかと疑問も残りますが、習主席が“晴れの場で自分の顔に泥を塗らないでくれ”と考えても不思議ではないですね」(同・政治部デスク)
最大限尊重する
先の政府関係者によると、「習主席の返事に対しプーチン大統領は、五輪期間中の軍事行動を控えることは最大限尊重すると答えたそうです。会談の後すぐ、中国の最高幹部の間では、軍事作戦が展開されるとすると2月21日以降になるだろうということが共有されたといいます」
それでも習主席はプーチン大統領に「できる限り対話と交渉の道を探る努力をしてほしい」と伝えていたため、
「プーチン大統領の心のうちをさらに探るべく、常務委員らが五輪期間中、各方面にいわば“裏取り”に走っていたということのようです」(同・政府関係者)
軍事侵攻について聞かされていた唯一の指導者なら、プーチン大統領に何らかのアドバイスができるのも習主席ということになるはずだが……。
●「ウクライナを焚きつけたEUの責任は重い」国民性のそっくりな兄弟国 3/8
ロシアによるウクライナ侵攻がやむ気配はない。プーチン大統領は欧米や日本などによる経済制裁を受け、核使用をもちらつかせる。統計データ分析家の本川裕さんは「ソ連崩壊後、ロシアとウクライナは共通した歴史体験をし、似た価値観や国民意識を持っていた。2014年以降、ロシアはEUへの対抗意識を強める一方、ウクライナはEUへと傾斜。兄弟国の衝突の背景にはウクライナを焚き付けたEUの存在がある」という――。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻
ウクライナは2022年2月24日からプーチン・ロシア大統領の命令により、ロシア軍の軍事侵攻を受けている。各地で激しい戦闘が行われ、市民を含む多くの犠牲者が出ている。これに対し、世界各国や世界中の市民からの非難が相次ぎ、ロシアへの厳しい経済制裁もはじまっている。
プーチン大統領は侵攻前、ウクライナ東部のドンバス地域にあるドネツク、ルガンスク2州で親ロシア派武装勢力が実効支配する地域を「独立国家」として承認し、2つの「国家」のトップと「友好相互援助条約」を結んだ。
プーチン大統領は、侵攻を開始した24日、国民向けのテレビ演説で、独立を承認したウクライナ東部二州の代表者から軍事支援を要請されたと説明。ウクライナへの軍事作戦は「ウクライナを武装解除し、ロシア系住民などを抑圧した人物を裁く」ためだと語った。
プーチン大統領の「暴挙」の背景にあるのは、現在の国際秩序の基本となっている欧米を中心とするリベラルな価値観こそがロシアの精神的な基盤を破壊するというロシア内強硬派(チェキスト)の危機感であるとされる。プーチン大統領はウクライナを兄弟国と呼び、昨年7月に発表した論文では「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能だ」と結論づけているという(東京新聞2022年2月25日3面)。
一方、ウクライナのほうでは、欧米と一体化していきたいという期待があり、EU欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2月27日報道のインタビューで「ウクライナはわれわれの一員。加入してほしい」と述べたのを受けてウクライナのゼレンスキー大統領は28日、ウクライナのEU(欧州連合)加盟を申請する文書に署名。「新たな特別手続きによる即時承認」を求めた。なお、後日、フォン・デア・ライエン委員長の発言はEUへの加入ではなく欧州への参加を誘ったものにすぎないと訂正された。
こうしたロシアとウクライナのEUに対する姿勢は、図表1に示した両国民の対EU観の差にも表れている。
以前は、ロシア、ウクライナの国民は、EUの中心メンバーであるドイツやフランスの国民と同様にEUを肯定的にとらえていた。ところが、2014年以降は、ロシア国民はEUに幻滅し、一方、ウクライナ国民はドイツやフランス以上にEUを肯定的に評価するようになっているのである。
それでは、ロシアとウクライナは、それぞれ反対方向を向く、とても兄弟国とは言えない状況になっているのであろうか。
今回の記事では、以下2点について述べていきたい。
・EUとウクライナは相思相愛に見えてそうではなく、実際は、ロシアとウクライナのほうが、それぞれの国民が同じ国民性を有し、向かっている世界観の方向も同じであること。
・冷戦崩壊後の苦難の経験を共有する兄弟国であるにもかかわらず、今回のウクライナへの侵攻の背景にあるのは、EUやヨーロッパへの見方が正反対になってしまったことから生じた悲劇である。
子どもに身につけさせたい徳目のトップが「勤勉」の両国民
世界各国の研究機関が共通の調査票で行っている「世界価値観調査」は各国の国民性をデータで理解することに役立つ貴重なデータである。この調査では、毎回、子どもに身につけさせたい徳目の問を設けていて、私は、この設問の結果が世界の各文化圏の国民性の特徴を不思議なほど明瞭に表していると考えている。
図表2には、ヨーロッパを代表させてフランスとドイツ、旧ソ連のスラブ圏からロシア、ベラルーシ、ウクライナの結果を掲げ、両者の中間的位置の国としてエストニア、また、まったく異なる文化圏である日本の結果を参考として併載した。
親が子について心配するのは、友達と喧嘩したり、いじめに遭ったり、いじめたりして、学業に身が入らぬようになることである。この点は万国共通だろう。しかし、そうならぬように子に何を言い聞かせるかは文化圏によって大きく異なる。ただし、外形標準の徳目ともいうべき「礼儀正しさ」は各国共通であり、文化圏によって差がないので、ここでは除外して考えておこう。
表中には登場しないが、イスラム圏諸国においては、ほぼ決まって「信仰心」が一位に来る。信仰をともにする同士で子どもがお互い仲良くし、正しく学業に励めるようにしようとするからであろう。
西欧諸国を中心とするヨーロッパ圏では、表のフランス、ドイツと同様、「礼儀正しさ」を除くと「寛容性」が首位、「責任感」が次位の場合がほとんどである。
自主性を重んじる国民が多いのもこの地域の特徴である。「自分の言葉・行動に責任をもちなさい」という責任感の教えや「わが道を行きなさい」という自主性の教えの影響下では、自然と自己主張が激しくなり、意見の対立から子ども同士のトラブルが増えるので、「お互い、相手の主張を認め、尊重しあいなさい」という寛容の精神の教えでバランスを取って社会が分裂しないようにしているのであろう。
一方、脇目を振らず自分が頑張るという「勤勉さ」が1位で、2位が「責任感」というグループとしてロシアと旧ソ連諸国が目立っている。
2018年3月のロシア大統領戦で圧勝し、通算4選を果たした頃、プーチン氏は、選挙前に流されたドキュメンタリー番組で「彼らはゲームができないし、強くない」と欧米諸国を見下した。また、アメリカ・ファーストのトランプ米国大統領が国民の分断を助長し、難民問題で揺れる欧州で排外主義のポピュリズムが吹き荒れるのにふれて、「欧米が信じるリベラリズムや多文化主義の理想は『失敗に終わった』と断じた」そうである(東京新聞、2018年3月20日)。
また、プーチン氏は、かつてインタビューの中で自分の身を守るために各種の格闘技を習っていた少年時代に得た3つの教訓として「1.力の強い者だけが勝ち残る。2.何が何でも、勝とうという気持ちが大切。3.最後までとことん闘わねばならない」を披露したという(同日夕刊「筆洗」)。
こうした発言からうかがわれるプーチン氏の価値観には、今回のウクライナ侵攻における態度を予感させるものがあるが、旧ソ連スラブ文化圏で重視される徳目が反映しているとも考えられる。
もっともこの文化圏に住む普通の親としては、単純に、子どもが余計なことにうつつを抜かさずに、学業に専心してほしいという期待から「勤勉さ」の徳目をまず身につけさそうとするのであろう。
いずれにせよ、ウクライナの国民性はヨーロッパ風ではなく、明確にロシアと共通であることがうかがわれよう。
同性愛許容度でもロシア、ウクライナは同じ方向を向いている
次に、現在、国民性の点で共通するところがあるとしても、今後はどうか、すなわち、ロシアとウクライナでは違う方向への国民意識が向かっているのかどうかが問題となる。
同性愛に対する見方ほど世界を二分する倫理的な志向性はないといえる。すでに昨年5月の本連載では、この点をテーマにし、欧米流の高い同性愛許容度は、必ずしも世界的潮流とはいえず、むしろ世界は二分される傾向である点を明らかにした。
この点に着目し、ウクライナがロシアとたもとを分かち、欧米流に近づいているかを確認してみよう。図表3は、図表2と同じ世界価値観調査の結果から、ドイツ、フランスといった欧米主要国とロシア、ウクライナ、ベラルーシといった旧ソ連諸国の同性愛許容度の推移を追ったものである。日本やエストニアは参考データをして掲げている。
これを見ると明らかなように、この40年間に、欧米諸国は同性愛に対してますます寛容さを高めてきていることがわかる。一方、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは、もともと同性愛を受け付けない程度が高かったのであるが、一時期、欧米型に向かうかと見えたが、21世紀に入ってからは、むしろ欧米諸国とは反対に許容度が横ばいに転じている点で軌を一にしている。
日本などは欧米の考え方の影響もあって、ほぼドイツ、フランスと並行して同性愛許容度が上昇してきている。だから、日本人は、それが世界共通の傾向だと思い込んでいるフシがある。実際は、むしろそれは欧米先進国やその影響を受けている国民の傾向であるにすぎず、中国、インドといった途上国やロシアなど旧ソ連諸国などでは同じ方向を必ずしも向いていないのである。
旧ソ連圏の中でもエストニアなどは、日本と同様、国民意識が欧米先進国に近づきつつある。これとは対照的に、ロシアとウクライナは倫理的な価値観がまったく同じ方向へと向かっている点が印象的である。
共通の歴史体験を共有するロシアとウクライナの国民
ロシアとウクライナでは、こうした国民意識の共有だけでなく、歴史体験においても共通性が高い点を次に見てみよう。
2019年の時点で、結局のところソ連崩壊は良かったのか、悪かったのかを旧共産圏8カ国の国民に聞いたピューリサーチセンター調査の結果を図表4に掲げた。
スロバキア、ハンガリー、リトアニア、チェコ、ポーランドは「改善」が「悪化」を上回っている。ただし、この順で、「改善」超過幅がスロバキアの7%ポイントからポーランドの65%ポイントと大きな異なっている。
一方、ブルガリア、ウクライナ、ロシアの3カ国では、少なくとも経済状況については、「改善」されたが20%台と「悪化」の50%台の半分近くとなっており、プラスマイナスで「悪化」しているという結果であった。
主要国を3グループに分けると、
1 大きく改善(ポーランド、チェコ)
2 やや改善(スロバキア、ハンガリー)
3 悪化(ウクライナ、ロシア)
となろう。
また、「市場経済への移行には賛成か」という同じピューリサーチセンターの調査結果を、こちらは時系列データであるが、図表5に掲げた。こちらも3グループ、すなわち
1 一貫して賛成が多い(チェコ、ポーランド)
2 一時期反対が増えたが今は賛成超過(ハンガリー、リトアニア)
3 賛成と反対が拮抗(きっこう)(ウクライナ、ロシア)
が認められる。ロシアは、最近になって反対が賛成を上回った唯一の国である。
このように、旧共産圏諸国の中でも、ロシアとウクライナは過去のソ連崩壊やこれまでの市場経済体制への移行に関して、ほぼ同一の意見を抱く国民が多いことが分かる。
こうした差が生じている理由は、第一に、西欧に近い旧共産圏諸国のほうが、西欧からの工場進出などで市場経済にスムーズに組み込まれやすかったからであり、第二に、ソ連崩壊で旧ソ連諸国は社会主義時代に周辺共産圏諸国よりソ連経済の恩恵に浴していた反動で経済衰退や社会の混乱が著しかったからであろう。
このように、ロシアとウクライナはソ連崩壊後の経緯や苦難の経験の点でも共通性が高いのである。
ロシア、ウクライナ両国で高まる国民意識
ロシア、ウクライナ両国は、ソ連崩壊後の厳しい経済衰退や社会混乱の苦難を経て、徐々に経済が回復し、厚生状態が改善され平均寿命も回復し、ソ連時代を上回るようになってきていた。
ソ連の崩壊でそれぞれ別々の国となったロシアとウクライナは、もともと独立国だったポーランドなどとは異なり、当初、ロシア人としての誇り、あるいはウクライナ人としての誇りを抱きにくい状態だった(図表6参照)。
しかし、その後の経済の回復、社会の改善で、国民としての誇りも醸成されてきていたところで、今回のロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻がはじまった。プーチン・ロシア大統領は、ロシア人の国民意識、そしてナショナリズム感情の高まりを受けて、EUへの対抗意識を強め、片やEUへと傾斜する兄弟国ウクライナへの侵攻に踏み切ったのである。
ロシアはプーチン大統領という権威主義的な指導者の下で、大国としての過去の栄光を思い返す形で国民意識を高めてきた。このため、EUへの対抗意識が強まっている。
一方、ウクライナは、親欧米派と親露派の指導者が相次ぎ登場し、それにともなう政争が絶えない中で、国民としての意識が高まり、政治への失望感も深くなっていた。コメディアン出身の現大統領が選ばれたのもそのためであろう。このため、国民性や世界観の上では決して欧米化しておらず、むしろロシアとの共通性が大きいにもかかわらず、政治不信からの脱出先としてEUへの期待が高まる結果となっていた(冒頭に掲げた図表1を参照)。
そうした中で起こった今回の軍事侵攻は、骨肉相食むとでも表現すべき、まことに悲劇的な状況と言わざるをえない。こうなることが分かっていれば、ロシアの野心を発動させないためにもっとはやくウクライナのほうから自主的に、EU・NATOにもロシアにも属さないという中立国宣言を行わなかったのかと悔やまれる。
大義を欠いた軍事侵攻とその惨禍の責任はもちろんプーチン大統領がもっとも重いが、欧州の指導層のほうにも、まるで火遊びのようにウクライナをEUに招き寄せるポーズを示し、ウクライナを焚き付けた責任は免れないだろう。
AERA.dotの取材によると、父ウクライナ人、母ロシア人のロシア人女性(38)は、プーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切った理由を、彼女なりに解釈して、こう表現したという。「アメリカやヨーロッパが、お金をウクライナの玄関にわざといっぱい置いて、ウクライナとロシアの兄弟の国同士を喧嘩させようとあおっている」(2月27日の記事<パパはウクライナ人、ママはロシア人の女性が語る“戦争”のリアル 「ケンカを煽り立たのは西側」>)。
案外これが真実に近いという気がしている。
●ロシアとウクライナ 停戦に向け3回目の交渉も 隔たり埋まらず  3/8
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、首都キエフなど4つの都市から市民を避難させる試みは、戦闘が収まらず、7日も実現できませんでした。こうした中、ロシアとウクライナは停戦に向けた3回目の交渉を行いましたが、依然、双方の立場の隔たりは埋まっていません。
4都市からの避難は3日連続で暗礁に
ロシア軍は、7日もウクライナ各地で侵攻を続け、国連人権高等弁務官事務所は、これまでに子ども27人を含む、少なくとも406人の民間人の死亡が確認されたと発表し、犠牲が広がっています。
ロシア国防省は7日、首都キエフやハリコフ、東部の要衝マリウポリ、それに北東部のスムイで市民のための避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。
しかし、その後、ロシア側とウクライナ側はそれぞれ相手が攻撃を行ったと批判し、市民を避難させることができませんでした。
市民を避難させる試みは、これで3日連続で暗礁に乗り上げています。
新たな仲介の動きも
こうした中、停戦に向けたロシアとウクライナとの3回目の交渉は7日、ポーランドとの国境付近のベラルーシ西部で行われました。
協議の後、ロシア代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官は「期待は実現できなかった。次回の進展を期待したい」と述べ、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問も「避難ルートについては小さな進展があった」と述べるにとどまりました。
双方は引き続き交渉を継続するとしていますが、市民の避難も実現できない中、停戦に向けて大きな進展はありませんでした。
仲介に向けた新たな動きも出ています。
トルコ政府は、ロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相を招き、今月10日にトルコで3者会談を行うと発表しました。
ただ、プーチン大統領は、ウクライナの「非軍事化」と「中立化」といった要求が受け入れられないかぎり、軍事作戦は停止しないと主張していて、依然、双方の対立が続いています。
米英独仏の首脳が会談 ウクライナの支援継続で一致
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ情勢について、アメリカのバイデン大統領は7日、主要な同盟国であるイギリス、ドイツ、それにフランスの首脳とオンラインによる会談を行いました。
バイデン大統領、イギリスのジョンソン首相、ドイツのショルツ首相、それにフランスのマクロン大統領の4人の首脳による会談はおよそ1時間20分にわたり、ロシアへの圧力の強化やウクライナへの支援の継続などで一致しました。
これについて、アメリカのホワイトハウスは会談後に発表した声明で「首脳らは理不尽で正当化できないロシアの軍事侵攻に対し圧力を強化していく決意を確認した。そしてウクライナに安全保障や経済面、人道面などさまざまな分野で支援を続けていくことを強調した」としています。
また、ドイツ政府の報道官は「ウクライナの市民の保護が最優先事項であるとともに、ロシアに対して国際法に違反している軍事侵攻を即座にやめ、部隊を完全に撤退させるよう求めることで一致した」とする声明を発表しました。
一方、フランスの大統領府は、マクロン大統領が前日に行ったロシアのプーチン大統領などとの会談内容について共有するとともに首脳らが「ロシアとベラルーシに対する制裁を強化する決意で一致した」としています。
イギリスの首相官邸は、この4か国の枠組みでの協議を今後も続けていくことで合意したとしていて、ウクライナ情勢をめぐり主要な同盟国が足並みをそろえて対応していきたいねらいとみられます。
●ウクライナ侵攻で大転換の欧州 中立国も態度を一変 3/8
多くの死傷者を出しているロシアのウクライナ軍事侵攻で、第三次世界大戦の懸念が深まる中、欧州連合(EU)はウクライナへの武器支援など、特別措置に踏み切っている。
フランスのマクロン大統領は3月2日、「これは西側諸国とロシアの戦争ではない」と明言。「フランスも欧州もウクライナも北大西洋条約機構(NATO)も、この戦争を望まなかった。その反対で、我々はこれを阻止しようとした」とロシア政府を非難した。
停戦の可能性が見えない中、マクロン大統領は、国外のエネルギーに依存しないことや「EUもロシアの天然ガスに頼らず、原子力発電の開発を進めるべきだ」と主張した。
ロシア産天然ガスに依存してきたドイツは2月22日、ロシアからの海底輸送パイプライン「ノルドストリーム2」の承認を凍結。EUはこれまで、天然ガス40%と原油25%をロシアに依存してきた。
ドイツ「緑の党」の元党首で、平和主義者で知られるベーアボック外相は「プーチン大統領の侵略戦争以来、世界は変わった。……対戦車兵器とスティンガーミサイル(携行可能な地対空ミサイル)を使ってウクライナ人が戦えるよう、我々は支援する」とツイッター上に投稿した。
欧州がロシアに対し、エネルギー資源や経済制裁の面で強硬な姿勢を示すほか、軍事面でも例外的な措置を講じ始めた。注目すべき国は、スイス、スウェーデン、ドイツだ。
スイスは1815年以来、永世中立国を貫いてきたが、EUの対露経済制裁に参加。プーチン大統領らの口座凍結に積極的な姿勢を示している。
紛争国への武器提供を拒否してきたスウェーデンも、態度を一変させ、対戦車兵器をウクライナに提供。武器提供はソ連がフィンランドに侵攻した1939年以来だ。
またドイツでは、ショルツ首相が2月28日、国内の軍事費に今年度予算から1000億ユーロ(約13兆円)を投じ、国防費を国内総生産(GDP)の2%に引き上げる考えを明かした。
フォンデアライエンEU委員長は同日、ウクライナ軍支援にEUが4億5000万ユーロ(約580億円)の軍事費を投入すると発表。「今が大事な時である」と強調した。
戦後まれに見る東西対立の激化で、ロシア側は経済的困窮に見舞われるが、欧州側は急激なエネルギー不足や価格高騰に直面せざるを得ないかもしれない。
●住民避難は実現するのか?戦況は?ウクライナ情勢  3/8
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、首都キエフなど4つの都市から市民を避難させる試みは、戦闘が収まらず、7日も実現できませんでした。こうした中、ロシアとウクライナは停戦に向けた3回目の交渉を行いましたが、依然、双方の立場の隔たりは埋まっていません。停戦交渉がうまくいっていないのはなぜ?住民避難は実現するのか?そして今後の戦況の見通しは、国際部北村雄介デスクの解説です。
Q.双方の立場の隔たり全く埋まっていないように見えます。原因はどこにあるのでしょうか。
A.戦況で優位に立つロシア側が、そもそも停戦に消極的だからです。アメリカ国防総省によりますと、ロシアは国境地帯に集結させた戦力のほぼ100%をウクライナに投入したということです。これまでの戦闘はいわば序盤戦。これから本物の戦争が始まることが懸念されています。これに対してウクライナ軍は、当初から総動員令を発令し、首都キエフや東部のハリコフ、南部のオデッサなど主要都市で、ロシア軍を迎え撃つ構えです。ロシア軍の圧倒的な火力や航空戦力に対して、ウクライナはよくもちこたえている言われていますが、それでも戦況の優劣は明らかです。優位を自覚するロシアから交渉で妥協を引き出すのは容易ではないと思います。
Q.一方で、住民を避難させる試みが、3日続けて暗礁に乗り上げています。今後、速やかな避難につなげることができるのでしょうか。
A.そう簡単には実現できないと思います。こちらがロシア側が示した避難ルート。キエフ、スムイ、ハリコフ、それにマリウポリなどを対象に、少なくとも6つのルートが設定されています。しかしそのうち4つ、赤い線はロシアやその同盟国のベラルーシが避難先と設定されています。住民は、侵攻してきたロシアに対して強い恐怖心と敵意を抱いていますから、とても受け入れられるものではありません。また黄色の、ウクライナ国内への避難ルートでは戦闘が続いているため、住民は身動きが取れない状態です。設定されたルートからもロシア側の停戦に消極的で交渉に高圧的な姿勢が読み取れると思います。
Q.今後の戦況はどうなりそうですか。
A.南部と北部の戦況に注目しています。南部はオデッサ。ウクライナ最大の港湾都市で、南部の最重要拠点とされています。ここが陥落すると、ウクライナは海の物流と遮断されてしまいます。そして最大の焦点が、首都キエフの攻防です。ロシアは、キエフを取り囲むように軍を配置し、ゼレンスキー大統領に対して、降伏するよう、圧力を強めています。しかし今のところウクライナ側に降伏の兆しはなく、市民も徹底抗戦に備えています。トルコで10日に予定されている三者会談が、停戦実現のきっかけになるのか、それとも成果を得られず全面戦争に突入してしまうのか、世界は固唾をのんで見守っています。
●英米が大統領脱出準備 亡命政権樹立を支援―ウクライナ 3/8
英米の情報機関と軍特殊部隊の混成チームがウクライナに派遣され、ゼレンスキー大統領の首都キエフからの退避に向けた準備を完了させた。英情報筋が明らかにした。大統領以下、政権幹部と最高会議(議会)指導者らが北大西洋条約機構(NATO)域内の国などに脱出し、亡命政権を樹立することを想定。受け入れ国にはポーランドや英国のほか、NATO加盟国ではないスウェーデンも検討されているもようだ。
混成チームは昨年ウクライナ入りし、12月には基本計画の策定を終えたという。侵攻に対し、ウクライナ側が当初の予想を超える抵抗を続けていることに加え、ゼレンスキー氏自身、当面ウクライナにとどまる意志が固いこともあり、計画は保留されている。状況次第では、ロシア軍の支配が及ばないウクライナ西部に退避する選択肢も残されているとみられる。
情報筋は「計画はいつでも発動できる状態にある」と述べた。現在、大統領の身辺警護には英陸軍特殊空挺(くうてい)部隊(SAS)が協力しているもようだ。
英米混成チームは少なくとも三つのグループに分かれ、大統領の脱出・亡命工作のほか、心理戦と国外からの武器搬入を担当するチームが活動している。ウクライナ軍への助言や指導も行われている。
ウクライナ当局は最近、ロシア兵捕虜が「彼ら(上層部)はわれわれを死へと送り込んだ。みんな殺され、遺体は収容もされない」などと証言する動画を多数公開。ロシア世論の揺さぶりや兵士の士気低下を狙った情報戦を強化している。そうした情報戦が、派遣された心理戦チームの助言を受けて行われている可能性もある。
●米志願兵「戦場で打ち負かす」ウクライナ国外からも志願兵募る  3/8
ロシア軍に対抗しようと、ウクライナ政府は国外からも志願兵を募っています。これについて、アメリカにあるウクライナ大使館には、これまでにアメリカ国内からおよそ3000件の問い合わせがあったということです。中にはウクライナ大使館の支援を受けることなく、自分で航空券などを手配してウクライナ入りを目指す人も出てきています。
アメリカ軍の元兵士で、2003年に始まったイラク戦争に参加した経験を持つカール・ラーソンさん(47)も3人の仲間とともに航空券やホテルを手配し、すでにポーランド南部の都市クラクフに入っていて、現地時間の8日にはウクライナに入りたいとしています。
それを前に7日、NHKの取材に応じたラーソンさんは「原発への攻撃は、人道に対する罪だ」と怒りをあらわにするとともに、「この紛争を終わらせる唯一の方法は、ロシアを戦場で打ち負かすことだ。そのためにはわれわれのような志願兵が重要だ」と話していました。
●G7農相、11日に食料安保議論 ウクライナ情勢受け 3/8
ドイツは、主要7カ国(G7)農相会合を11日にオンラインで開催すると発表した。ロシアのウクライナ侵攻による世界の食料安保への影響や食品市況の安定化策について話し合う見通し。
G7議長国のドイツのオズデミル農業相は声明で、欧州連合(EU)域内の食品供給は安定しているが、既に干ばつなどの影響がある地域をはじめ、一部の域外国は食料品不足が悪化する可能性があると指摘。
先進国における農産品価格上昇の影響も排除できないとした。
●“ロシア軍 国境周辺戦闘部隊 ほぼ100%投入” 米国防総省高官  3/8
アメリカ国防総省の高官は、ウクライナに侵攻したロシア軍が、国境周辺に展開していた戦闘部隊のほぼ100%をウクライナ国内に投入したとの分析を明らかにしました。一方、停戦に向けたウクライナとロシアの交渉は、3回目も大きな進展がなく、戦闘の激化が懸念されています。
アメリカ国防総省の高官は7日、ロシア軍が国境周辺に展開していた戦闘部隊のうち、ほぼ100%の戦力をウクライナ国内に投入し、625発以上のミサイルを発射したとの分析を明らかにしました。
そして首都キエフに向けて南下しているロシア軍の部隊について、ウクライナ軍の抵抗もあって動きが停滞しているとしたほか、ウクライナ軍は今も多くの航空戦力を維持し、制空権をめぐる攻防が続いているとの認識を示しました。
その上で、ロシア軍が砲撃を増やしていると指摘し「民間のインフラ施設や住宅地などを攻撃している」と懸念を示しました。
国連人権高等弁務官事務所によりますと、2月24日から3月6日までにウクライナでは少なくとも市民406人が死亡し、このうち27人は子どもだということです。
ウクライナの首都キエフにある子ども病院の医師はNHKの取材に対し「多くの子どもたちが病院の地下に避難し治療を受けている。がんなど、子どもたちの病気の悪化が心配だ」と訴えました。
また、首都キエフの中心部から西に20キロ離れたイルピンでは、多くの住民が避難を始め、お年寄りの1人は「これはファシズムであり、集団虐殺だ」とロシアの軍事侵攻を非難しました。
ポーランドとの国境付近のベラルーシ西部では7日、停戦に向けてウクライナとロシアの代表団が3回目の交渉に臨みましたが、双方の立場の隔たりは埋まらず、大きな進展はありませんでした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、7日公表した動画で、首都キエフなどの都市から市民を避難させる試みが実現できていないことについて「市民の安全な避難ルートについて合意はあるが、避難はロシアの戦車、ロシアの地雷のせいでうまくいっていない」と述べ、ロシア側の対応を非難しました。
こうした中、仲介に乗り出したトルコのチャウシュオール外相は、3月10日、トルコ南部のアンタルヤにロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相を招き、3者会談を行うと発表しました。
ただ、プーチン大統領は、ウクライナの「非軍事化」や「中立化」というロシアの要求が受け入れられない限り、軍事作戦は停止しないと主張していて、停戦が見通せないなか、戦闘が激化することにならないか懸念されています。
●仏独首脳、中国国家主席と8日にウクライナ情勢協議へ 3/8
フランスのマクロン大統領は7日、ドイツのショルツ首相とともに中国の習近平国家主席と8日にウクライナ情勢を協議する方針を明らかにした。
選挙関連イベントでウクライナ情勢について聴衆から質問を受け、現時点で西側とロシアの協議に外交的な打開は見られないと指摘。「今後数日、数週間以内に交渉による真の解決策が出てくるとは思わない」と述べた。
●ウクライナ情勢も影 MWCで見たテクノロジーの地政学 3/8
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、米アップルはiPhoneを筆頭に自社製品のロシア国内での販売を中断しました。ウクライナ情勢によって世界のテクノロジーの動向はどう変わりつつあるのでしょうか。
ロシアのアップルストアは全店が休業状態となり、決済サービス「Apple Pay」の利用も制限されています。アップルだけではありません。米マイクロソフトや米グーグル、Facebookを運営するメタ・プラットフォームズなどのビッグテック企業もまた、ロシアに対してアクセス制限や記事閲覧のブロック、販売停止などの厳しい措置に乗り出しました。
一方で、金融取引が停止した影響もあり、ビットコインなどの暗号資産の取引が活発になっています。こうした動向から、いまやデジタルテクノロジーは欧米諸国による金融・経済制裁に加えて地政学への影響が増加しつつあります。
昨今のサイバー攻撃やフェイクニュースなども、物理的な攻撃と同時に国際情勢を反映しています。もはや従来のような国際政治や世界経済の枠組みではなく、デジタルテクノロジーを含めた視野を持たなければ、地政学や経済安全保障を考えることができなくなりつつあります。
ウクライナ情勢が深刻化するのと同時期に、スペインのバルセロナで2022年2月28日から世界最大級のモバイルテクノロジーの見本市「Mobile World Congress 2022(MWC)」が開催されました。年初にラスベガスで開催された米国での世界最大のテクノロジー見本市「CES」の様子についてはすでに以前のコラムで触れました。同様に、展示を実際に見て感じた、ウクライナ情勢とも決して無関係ではないテクノロジーの動向を紹介しましょう。
MWCは新型コロナウイルスの感染拡大により20年は中止に追い込まれ、21年は大幅な縮小を迫られましたが、22年は大手スマートフォンメーカーのほとんどが出展するなど、現地はかつての活気を取り戻しつつあります。
その中で日本企業は日本独特の新型コロナ感染予防への水際対策の影響もあり、三木谷浩史会長兼社長が参加した楽天グループや富士通などを除くと、出展やトップの参加は少なく、ほぼ存在感はありません。
米国企業のうち米アマゾン・ドット・コムはクラウド事業のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や、今やYouTubeよりも規模が大きいといわれる広告事業の「Amazon Ads」、サブスクリプションサービスを手掛ける「Amazon Fuse」をアピール。マイクロソフトはクラウド事業や2画面の新規端末である「Surface Duo2」などをアピールしていました。
このMWCではロシア関連企業の一部出展は中止されました。しかし、それはビジネス上の影響が軽微であるがゆえに、主催者が決断しやすかったのでしょう。
ファーウェイなど中国勢に注目
一方で特に注目すべきは、中国系企業の動向です。米国で開催されるCESとは異なり、欧州が主な開催地となるMWCには、米国と安全保障において緊張関係にある中国の企業が比較的多く出展しました。
22年は通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、スマホを主力製品とするOPPO(オッポ)、ファーウェイから独立したHonor(オナー)、21年に日本へ進出した新進スマホメーカーrealme(リアルミー)など、50社以上もの中国企業が新製品を発表。ソフトウエアからモバイルデバイス、高速充電システムまで、最先端を行く自社のテクノロジーと存在感を欧州市場にアピールしました。
韓国メーカーのサムスン電子はCESで自社のビジョンや新製品のプレゼンを積極的にアピールして、半導体の製造拠点など主に米国に重きを置いています。それと同様の熱量で、中国メーカーはMWCでの発表に力を入れて欧州向けにアピールしたのです。
中国メーカーの強みは他国のメーカーと遜色ない、もしくは同等以上の品質と価格の安さです。最近では特にクラウド事業の市場シェア争いが活発です。米国と近い関係ではない欧州の一部の国は、その魅力に引かれて導入を検討しています。
とりわけ中国最大のテック企業であるファーウェイは、米国政府による半導体の入手を制限するなどの制裁措置を受けて、「安全保障上の脅威」という判断からファーウェイを含む中国企業5社の製品が米国内で販売ができなくなりました。英国やスウェーデンも、米国の動きに追随しています。
今回のMWCでファーウェイが発表した「2-in-1」のタブレットPC「MateBook E」や、e-inkディスプレー搭載の手書きメモも可能な電子書籍リーダー「MatePad Paper」などは、各国メディアの注目を集めました。しかし、いずれも米国への上陸予定はありません。
近年スマホ事業の不振が続くファーウェイが、次にどの領域に活路を開くのかを見極める上でも、MWCのような場は重要な機会といえるでしょう。現代では単に新商品、新サービスの概要だけでなく、国家間の背景も見通さなければなりません。
ウクライナ情勢が示すように、もはやテクノロジーは経済・政治・金融の隅々にまで根を張っています。グローバルな見本市は、国家間の対立構造やその先の潮流の方向性をも浮き彫りにする、テクノロジーの地政学を学ぶ機会でもあります。今回のロシアに関連するものだけでなく、別の国に関連するものもこれから深刻化する可能性が増してきました。
グローバル企業のリーダーが経済安全保障の枠組みのなかで刻々と変化する情勢に合わせて対話するなかで、状況をリアルタイムで把握することは重要です。これは第三者に任せて受動的に把握できるものではありません。日本は3月から水際対策を緩和しました。日本企業の経営陣自らが能動的に体感し、学び続ける必要性がより増してくるでしょう。
●ロシア全域で危険情報レベルを引き上げ 日本人保護に全力 政府  3/8
ウクライナ情勢をめぐり、政府は各国の制裁の影響などで緊張が高まっているとして、ロシア全域で危険情報のレベルを引き上げるとともに、滞在する日本人に出国を促しています。さらなる状況の悪化も想定し、日本人の保護に全力をあげる方針です。
ロシア国内の危険情報について、政府は先週、最も高いレベル4をウクライナとの国境周辺の地域で発出し退避の勧告を始めたのに続いて、7日は、そのほかの地域で渡航中止を勧告するレベル3に引き上げました。
政府は、ロシア国内では、欧米各国が、それぞれの自国の領空内で、ロシアの航空機の飛行を禁止した措置などで、空路での出国手段が制限されつつあるとしています。
また、経済制裁やカード決済の事業停止などで生活状況も深刻となり緊張が高まっているとして、現地への渡航をやめるよう呼びかけるとともに、滞在するおよそ2400人の日本人に出国を促しています。
岸田総理大臣は7日「状況は流動的で、細心の注意を払い、機敏に対応して、安全確保に万全を期していきたい」と述べました。
政府は、さらなる状況の悪化も想定し、最新の情勢をメールで提供するなど、滞在する日本人の保護に全力をあげる方針です。
一方政府は、ロシアが情報統制を強め現地での取材活動を停止する海外メディアが相次いでいることについて、報道の自由の制約だと強い懸念を示していて、国際社会とともに非難していく考えです。
ウクライナ情勢の一層の緊迫化を受け、外務省は7日、ウクライナ西部のリビウに設けている連絡事務所に勤務するすべての大使館員を、一時的に国外に移動させたと発表しました。
外務省では、連絡事務所を閉鎖するわけではなく、今後、情勢が落ち着きしだい現地に戻り、業務を再開させたいとしています。
リビウの事務所が不在の間は、隣国のポーランドにある日本大使館などからリモートで、ウクライナ国内に在留しているおよそ90人の日本人の安全確保や出国支援に最大限取り組んでいくとしています。
●中国主席、ウクライナ情勢「憂慮」 仏独首脳に和平へ協力求める 3/8
中国の習近平国家主席は8日、独仏首脳とオンラインで会談し、ウクライナ情勢について「最大限の自制」を求めた。「欧州で戦争の炎が再び燃え上がるのを見るのは苦痛」と指摘した。国営メディアが報じた。
報道によると、主席はフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相に対し、3カ国が共同でロシアとウクライナの和平交渉を支援すべきと述べた。
ウクライナ情勢を「憂慮」しており、エスカレートしたり「制御不能に陥る」ことを防ぐことを優先すべきだと主張した。
またフランスとドイツは危機の悪影響を抑える努力をすべきとし、制裁が世界の金融、エネルギー供給、輸送、サプライチェーン(供給網)の安定に与える影響に懸念を示した。
●ウクライナ情勢をめぐる中東の悩ましい立ち位置 3/8
<ウクライナに国際社会の全面的な支援、同情が向けられていることに、中東のみならず非欧米社会は「ダブル・スタンダード」を見ている>
2月も終わりの頃、レバノンの友人からアラビア語の落書きの写メが送られてきた。「第一次大戦の開戦日1914年7月28日:19+14+7+28=68、第二次大戦の開戦日1939年9月1日:19+39+9+1=68、第三次大戦の開戦日2022年2月24日:20+22+2+24=68」。第三次大戦の開始日、とされたのは、ロシアのウクライナ侵攻の日である。
第三次大戦を想定するほど、ウクライナでの戦争は、中東に深刻な緊迫感をもたらしている。黒海を挟んで北と南にウクライナとトルコが位置していることを見ても、中東が現下の紛争地域に地理的な危機意識を実感していることは、明らかである。
歴史を振り返っても、ロシア/ソ連は常に、中東・イスラーム地域の北片を脅かす存在だった。2014年にロシアに編入されたクリミアは、15世紀にはオスマン帝国に帰属していた。ロシアとオスマン帝国の間では、16世紀から第一次大戦までの間、11回にもわたり戦争が繰り広げられ、オスマン帝国の縮小、弱体化を生んだ。ロシアからソ連に代わって以降は、第二次大戦末期にイラン北部を軍事占領、南部を支配していた英国と一触即発となった。1979年のソ連軍のアフガニスタン軍事侵攻は、冷戦後期において最も東西陣営を緊迫させる事件だった。
しかしながら、ソ連の中東におけるプレゼンスは、70年代後半以降大きく後退していた。社会主義体制を取り、ソ連の軍事援助に依存していたアラブ民族主義諸国のうち、エジプトは70年に入るとソ連の軍事顧問団を追放し、キャンプデービッド合意(1978年)により親米路線に転換した。産油国のイラクは、70年代の石油収入増を背景に西欧先進国との関係を回復し、ソ連からの経済支援に依存する必要がなくなった。
敵の敵は友
冷戦終結後、ロシアが中東で大きな役割を果たすことは、武器輸出や、安保理常任理事国としての発言力への期待を別にすれば、さほど大きくなかった。もっとも、ロシアが冷戦時代のソ連のように常任理事国としてこれらの国々を守ってくれることは、ほとんどなかった。
それが急速にプレゼンスを高めるようになったのは、シリア内戦以降である。ロシアがアサド政権を全面的に支援して、反政府派を支援するトルコとの間でしばしば軍事衝突を繰り返したことは、記憶に新しい。また両国は、リビア内戦でもそれぞれ対立する側を支援して介入してきた。さらにイランも、対米関係が悪化するのに平行して、ロシア、中国への依存度を高めた。
つまるところ、冷戦後の中東では、反米政権がアメリカからの圧力に対抗するためにロシアに接近したに過ぎない。そこにはイデオロギー的な親近感があるわけでも、歴史的な友好関係が築き上げられているわけでもない。「アメリカ」との関係の副産物として、「敵の敵は友」という一時的なものとして、ロシアに対する依存状況が生まれただけである。まあ、冷戦期でも似たような状況ではあったのだが。
とはいえ、こうした中東のロシア依存の国々は、今回のウクライナ危機でも国連総会でのロシア非難決議に反対ないし棄権した。シリアは反対したが、イランが「反対」ではなく「棄権」したのは、核開発交渉を抱えた対米関係を刺激したくなかったからだろう。一方で、イランの意向を強く受けて棄権にまわったイラクでは、親イラン派民兵勢力が「プーチン礼賛」の巨大な看板を掲げたところ、それに反発する若者たちに引きずり降ろされたと報じられている。
しかし、ウクライナ情勢が中東社会にとって悩ましいのは、単に政権が反ロシアか親ロシアかという単純な問題では整理できない、ということだ。なによりも、「ロシア批判」がイコール「ウクライナ支持」にはならない。
欧米諸国への不信感
そこにはいくつか、原因があろう。一つ目の原因には、ウクライナの政権が多くのアラブ諸国にとって全面的に支持できる政策をとってきたわけではない、ということがある。それは、ウクライナとイスラエルの密接な関係に代表される。周知のとおり、ウクライナは歴史的に多くのユダヤ人コミュニティを抱えてきたとともに、数々のユダヤ人虐殺事件が起きた地である。独立後はユダヤ人コミュニティの交流をもとに、両国は政治的にも経済的にも良好な関係を維持してきたが、特に昨年末にはウクライナ政府が同国大使館をエルサレムに移転する意向を明らかにしていた。そのことが、イスラエルによる聖地エルサレムの一方的な地位変更に反発するアラブ・イスラーム社会の不快を呼んだことは、言うまでもない。
もっとも、この反感がウクライナ政府の政策に向けられたものであって、ウクライナ国民に向けられたものではないことには留意すべきだろう。多くのアラブ社会では、ウクライナ国民への連帯と支持を謳うSNSが飛び交っている。
だが、大国の軍事攻撃に晒された被侵略国の国民への同情は、もうひとつのアラブ社会の不信感を引き起こす。それは、欧米諸国のウクライナに対する対応が、中東諸国に向けられた姿勢と比較してあまりにも違うことに対する不信感だ。欧州に避難するウクライナ人に対して、多くのヨーロッパ諸国がその門戸を開け、全面的な支援、同情を表明しているが、イラクやアフガニスタンがアメリカの軍事攻撃を受けたときは、そうではなかった。シリアから難民が数十万規模で流入したとき、どれだけ排斥され、命を軽んじられたことか。ヨーロッパは、ウクライナ人は優先して受け入れるが、非ウクライナ人は差別され、容易には欧州の国境を超えられない。
その事実に、中東のみならず非欧米社会は欧米の「ダブル・スタンダード」、「白人優先主義」を見てしまう。フランスの国会議員は「ウクライナ難民は高度の質を持った知識人だから、有利な立場にある」と述べ、ブルガリアの首相は「(ウクライナからの難民は)以前のように出自もわからない、過去もはっきりしない、テロリストかもしれないような難民連中とは違う」と発言したとして、SNS上で批判を浴びている。大手メディア同士でも相互批判が繰り広げられており、英ガーディアン紙のムスタファ・バイユーミ記者は、米CBSの記者がこう報じたことを「人種主義だ」指摘した。「ウクライナはイラクとかアフガニスタンみたいな数10年も紛争下にある場所ではない。相対的にみて文明化されていて、相対的にヨーロッパっぽい」。
同じ「ダブル・スタンダード」は、「外国の侵攻」という行為の不当性を問うときにも浮きあがってくる。イラクやアフガニスタンが米軍に侵攻されたとき、国際社会はロシアに対してのようにアメリカを糾弾したか、制裁をかけたか、侵攻された側を支援したか、といった疑問が、SNSを中心に頻繁に提起される。
「ホワットアバウト(what about)論」
アメリカだけではない。そこにも再び、イスラエルの問題が引き合いに出される。日常的にイスラエルがパレスチナに対して振るう暴力に対して、国際社会が今ウクライナに対して行っているように糾弾もしないし、取り上げすらしない。その問題を脇においてウクライナだけ同情するのは釈然としない、と反発するアラブ人知識人は、少なくない。米ライス大学の歴史学教授、ウマル・マクディスィは、自身のツイッターで繰り返し、主張している。「(ウクライナ情勢における)昨今のヨーロッパ中心的な倫理観と武装闘争を礼賛する圧倒的な風潮に対して、イエメン人やイラク人やアフガニスタン人はどう思うだろうか」。
イエメンはトランプ政権がイエメンの親イラン派をテロリスト視して内戦に関与してきたし、バハレーンでは「アラブの春」で反体制派に共感するようなことをいいながらその後周辺湾岸諸国による反乱平定を座視したし、直接米軍が占領、支配して結局統治がうまくいかずに投げだしたイラクやアフガニスタンは、説明するまでもない。世界中で「外国による侵攻」とそれによる厄災がまかり通っている事例は多々あるのに、ウクライナのようにはどこも同情や支援を得られない。
こうした「ウクライナも同情・支援すべきだけど、〇〇の問題はどうした」と指摘する声に対して、頻繁に投げかけられる批判が、いわゆる「ホワットアバウトwhat about論」だ。「〇〇はどうなんだ」ということは、議題をすり替えて自己正当化しようとする議論だからケシカラン、という批判である。実際、上述した中東の親ロ派政権側のメディアでは、「アメリカのイラク攻撃を棚に上げてロシアばかりを批判するのはお門違いだ」といった論調が目立つ。湾岸危機でクウェートに軍事侵攻したイラクのサッダーム・フセイン政権も、「イラクのクウェート占領をあれこれ言うなら、イスラエルのパレスチナ占領はどうなんだ」と主張した。
自己正当化の議論であることは明らかだが、それでも当時のアラブ社会の琴線を大きく揺さぶった。イスラエルの占領下にあえぐパレスチナ人への国際社会の理解が不足していたとして、湾岸戦争後ブッシュ父政権が中東和平問題に取り組まなければならないと感じる程度には、理があると認識されたのである。
ただの欧米至上主義?
ウクライナへの支援を増やせば相対的に他の被害者への支援が減る、というのは、世界の援助団体が抱える大きなジレンマである。ニュースになる被害には、支援金も集まりやすい。どれだけ被害が大きくても、常態化し改善が見られないような不幸には、これ以上支援しても仕方ないのではというムードに包まれがちだ。「ホワットアバウト」批判論者の多くは、「世界中の紛争事例すべてに目を配ることになんてできないのだから、ウクライナ支援に集中せざるを得ないじゃないか」と主張する。
気を配らなければならない紛争の総量に上限があるわけではないにもかかわらず、ニュース番組の時間が決まっているのと同じように、一定の分量を超えると紛争には目が向けられなくなる。勝ち抜きランキングのように、より大きな紛争、被害が出現すると、それまでもてはやされていた被援助者は、舞台から去らなければならない。
舞台から追い出されないようにするには、必死に「被害の大きさ」を訴える。誇張してまでも、自らが被った紛争の悲惨さを訴える。ヨーロッパのまなざしを獲得するために、援助者に気に入られるような被害者蔵を作り上げる。それは真の紛争理解をゆがめ、解決をさらに遠ざける。
「ホワットアバウト論」がむやみに乱用されないためには、こまめに「ダブル・スタンダード」を正していくしか手がない。そしてそれを放置することは、差別的だとか非人道的だとか、ただ規範の問題だけではない。本来単純な紛争構造が変質し複雑化し、一層解決困難なものになってしまうという問題があるのだ。
さらには、「国際社会は何もしてくれない」「アメリカは〇〇の要望には応えるが、我々の望みはかなえてくれない」という対国際社会・対米認識が定着することは、その失望感から逆に「頼れる別の大国」に寄ることになる。国連安保理事会でのロシア非難決議に、親米路線のど真ん中にいたはずのアラブ首長国連邦(UAE)が棄権した。UAEの駐米大使は、UAE・米間関係の現状を「ストレステストを受けているみたいなもの」と評している。
ストレステストに失敗して、今の国際規範、国際秩序はただのヨーロッパ優先主義でしかないから破ったってかまわないのだ、という認識が定着することこそ、最も深刻な「現状変更」である。
●ウクライナ情勢で緊密な連携確認 日本ーインドネシア首脳会談  3/8
ウクライナ情勢をめぐり、岸田総理大臣は、G20=主要20か国の議長国、インドネシアのジョコ大統領と電話で会談し、ロシアによる侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものだと強く非難し、緊密に連携して対応することを確認しました。
会談で、岸田総理大臣は「ロシアによるウクライナ侵略は力による一方的な現状変更で、国際秩序の根幹を揺るがすもので強く非難する。唯一の戦争被爆国である日本として、被爆地広島出身の総理大臣として、核による威嚇も使用もあってはならないと考えている」と述べました。
これに対し、ジョコ大統領は「インドネシアは国連憲章の原則、特に領土の一体性を重視している。侵略は直ちに停止されるべきだ」と述べました。そして、引き続き緊密に連携して対応していくことを確認しました。
また、会談では軍事クーデターから1年余りが経過したミャンマー情勢をめぐっても意見が交わされ、岸田総理大臣はASEAN=東南アジア諸国連合の取り組みを後押しする考えを伝えました。
●ロシア・ウクライナ情勢の食品への影響予測〜カニ、小麦の争奪戦 3/8
ロシアによるウクライナ軍事侵略が続く中、小麦やカニ、サケといったロシアからの輸入品を取り扱う食品産業からは不安の声が上がっている。特に水産物に関して、日本にとってロシアは第5番目の輸入先だ。中でもカニの輸入先は半数以上がロシアであることから、価格の高騰が懸念されている。本記事では、ロシア・ウクライナ情勢の影響を受けそうな食品について紹介する。
カニやサケの価格高騰
ロシア・ウクライナ情勢で日本国内の食卓に大幅に影響を受けるものがカニやサケといった水産物である。日本の主な水産物の輸入先は以下の通りで、ロシアからの輸入は全体の約7%を占めている。
日本がロシアから輸入している水産物は次の通りである。
水産物   金額(全体のロシアの割合)
サケ、マス類 189億6200万円(9.5%)
エビ 60億8000万円(3.8%)
カニ 292億3140万円(61.8%)
タラ類 32億8020万円(7.1%)
ロシアからの輸入水産物は、カニやサケなどが多くの割合を占めている。もしも日本が禁輸措置を行った場合、上記の品目が輸入できなくなり日本国内において水産物の高騰が予測される。このほかにも、ロシアからは「イクラ」「たらこ」「うに」「甘エビ」などを輸入していることから、それらの供給量が大幅に減少する可能性があると考えられる。
小麦や食品油の原料も値上げの可能性がある
日本は小麦の9割を外国から輸入している。農林水産省によると2016〜2020年の5年間を平均すると488万トンの小麦を輸入しており、そのうちアメリカが49.8%、カナダ33.4%、オーストラリア16.8%という割合だ。
ロシアやウクライナから直接小麦を輸入しているわけではないが、米シカゴ商品取引所では小麦の先物価格が2008年3月以来の約14年ぶりに高値を記録。国際価格が高騰することは、日本国内の小麦の再値上げにつながるのではないかと不安視されている。
ロシアの麦類の生産量は世界有数。小麦は中国、EU、インドに続き4番目に多く、近年の平均年間生産量は約7688万トンである。ウクライナも小麦は世界で7番目に多く年間2654万トン 生産されている。今回の混乱で生産や輸出が低迷し世界的に品薄になることが予測でき、各国がこれまでのコストで小麦を仕入れることが困難になり価格高騰が懸念されている。そもそもロシアによる軍事侵略が始まる前から世界的に小麦製品の価格が高騰しており、日本国内においても小麦製品の価格の見直しが余儀なくされている状況だ。
そのほかのロシアでの生産量の多い作物は以下の通りである。
ロシアの主要耕種作物 2020年収穫量
小麦 8,590万t / 大麦 2,094万t / トウモロコシ 1,388万t / ライ麦 238万t / エン麦 413万t / 豆類 345万t / ヒマワリ種子 1331万t / テンサイ 3392万t / 馬鈴薯 1961万t / 大豆 431万t / 菜種 257万t
特にヒマワリ種子、テンサイ、馬鈴薯は世界の中でも有数の生産量を誇る。食用油の原料となる大豆や菜種の生産量も多いことから、国内の油脂メーカーにも波紋を広げる可能性があると考えられている。
ロシアからの輸入が長期にわたって停止するリスク
カニを取り扱う商社は、主な仕入先がロシアになっていることが多い。そのため、ロシアからの輸入が停止してしまうと大幅な影響が出ると懸念されている。ロシア産のカニが長期的に輸入されなくなることで国内での価格がさらに高騰するだろう。
一方、輸入小麦の価格は政府売渡価格が変わらない限り、急に高騰することはない。そのため小麦を使用した麺類、菓子類などの製品の値上がりにすぐには結びつかない。しかし、世界的に小麦の価格が高騰することから、政府売渡価格にも影響が生じれば消費者への負担が増えると考えられる。ロシアやウクライナから直接輸入をしていない食料品に関しても価格の高騰や品薄が懸念されている今、今後の動向を注視していく必要がある。
●露政府「日本は非友好国」 3/8
ロシア政府がウクライナ侵攻を巡る制裁措置を行う「非友好的な国と地域のリストを公表した。その中に日本も含まれている。ウクライナ情勢を巡る日本時間8日の動きをまとめた。
ロシア、日本などを非友好国に指定
ウクライナへの侵攻を続けるロシア政府は7日、日本や欧米諸国など48の国・地域を「ロシアに対する非友好的な活動をする国・地域」に指定した。タス通信が伝えた。ウクライナ侵攻を受けた対露制裁への対抗措置で、非友好国への対外債務の返済をルーブルで行うことが可能となり、企業などの取引への規制も強化される。
中国外相「必要な仲裁をしたい」
中国の王毅(おう・き)国務委員兼外相は7日、全国人民代表大会(全人代=国会)に合わせて記者会見した。ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり「必要な時期に国際社会と協力し、必要な仲裁をしたい」と述べ、仲介に向けて努力する意向を示した。また「ウクライナ国内で人道被害を防ぎ、一般国民を守るべきだ」と強調した。中国はロシア、ウクライナの双方と友好関係にある。ただ、停戦に向けて直ちに主導的な役割を果たすのは困難だとみられる。
ロシア軍、集結の100%投入 米分析
米国防総省高官は7日、記者団に対し、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが、侵攻前に国境周辺に集結させていた軍部隊のほぼ100%を攻撃に参加させたとの分析結果を明らかにした。米政府は最大で19万人の軍部隊が集結していたとみている。ロシアがさらに軍部隊を追加投入するような兆候はないとしている。
ロシア産原油禁輸措置、欧州は「困難」
ブリンケン米国務長官がロシアに対する追加制裁として、米欧によるロシア産原油の輸入禁止を検討すると述べたことに対し、欧州各国は「困難」との姿勢を強めている。エネルギーのロシア依存度が大きい欧州にとって、原油供給を急に遮断するのは現実的ではないためだ。米国内では、米国単独で禁輸措置に踏み切ろうとする動きも強まってきた。
「人道回廊」求める声相次ぐ
国連安全保障理事会(15カ国)は7日、ウクライナにおける人道状況に関する会合を開いた。住民避難や人道支援物資の運搬を可能にする「人道回廊」を求める声が相次いだ。現地の状況を報告した国連人道問題調整事務所(OCHA)のグリフィス所長(事務次長)は「何百万人もの人々の生活が壊された」と述べ、緊急の行動が必要だと訴えた。
FIFA、ロシア内の外国人選手に特例
国際サッカー連盟(FIFA)は7日、ウクライナに侵攻したロシアでプレーする外国人選手や監督の移籍に関する特例措置を決めた。10日までに所属クラブと合意に至らなくても、選手、監督は6月末の今季終了まで一時的に他国のクラブへと移れる。
●2月の景気実感 2か月連続で悪化 ウクライナ情勢の影響など懸念  3/8
働く人たちに景気の実感を聞く内閣府の景気ウォッチャー調査で、先月の景気の現状を示す指数は前の月を下回り、2か月連続の悪化となりました。原材料価格の上昇が背景にあり、内閣府は先行きについても「ウクライナ情勢による影響を含め、コスト上昇に対する懸念がみられる」としています。
内閣府の景気ウォッチャー調査は、2000人余りの働く人を対象に3か月前と比べた景気の実感を聞いています。
2月25日から28日にかけて行われた今回の調査では、景気の現状を示す指数が37.7となり、まん延防止等重点措置の期限の延長や原材料価格の上昇を背景に、前の月を0.2ポイント下回って2か月連続の悪化となりました。
2か月後から3か月後の景気の先行きを聞いた指数は、新型コロナ対策の行動制限が緩和されることへの期待から44.4となり、前の月を1.9ポイント上回りました。
ただ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、スーパーでは「食品の値上がりが継続し、客の財布のひもが固い状況が続く」といった懸念の声があがったほか、輸送業では、「運送に関わるすべてのものが値上がりしている」といった不安の声もあったということです。
内閣府は景気の現状については「持ち直しに弱さがみられる」という基調判断を維持しましたが、先行きについては、「ウクライナ情勢による影響も含め、コスト上昇などに対する懸念がみられる」としています。
●ウクライナ情勢の影響 英独仏など18の国・地域への航空便を停止 日本郵便 3/8
日本郵便は、ウクライナ情勢の影響でイギリスやドイツ、フランスなど18の国と地域への航空便の引き受けを停止すると発表しました。十分な輸送手段が確保できなくなったことが理由で、2020年以降、新型コロナの感染が世界的に拡大する中でも停止しなかったイギリス、フランス、ドイツ向けの航空便が止まることになります。現時点で、3か国から日本向けの航空便に影響はないということです。
●ウクライナ情勢悪化で「明太子」にも「サケ」にも「食卓」への影響必至 3/8
ウクライナ情勢の悪化がどのような影響を及ぼすのか?サケやサーモン、明太子などの海産物のほか、小麦や銀歯、ジュエリーまで。私たちの生活のあらゆるところで影響を受けそうな今回のウクライナ情勢について経済の専門家に今後の見通しなどを聞きました。
ウクライナ情勢が明太子やサケにも影響
南波雅俊キャスター:ウクライナ侵攻は我々の生活にも大きく影響を及ぼしそうな状況です。
   ロシアから日本に輸入している農林水産物トップ5(2020年)
   製材    約20%
   カニ    約20%
   サケ・マス 約12%
   タラの卵  約8%
   ウニ    約5%
海外から輸入しているシェアの中でこれだけをロシアに頼っているという状況があるわけです。そして食卓にも影響するのではないか。
まずはサケです。ロシア産のベニザケは通常の輸送ルートが使えず遠回りをすることで輸送費が上がっているため、仕入れ値が既に約3割上がっているということです。(築地 浅田水産 取材)
そして、ノルウェー産のサーモンに関しては、今、ロシアの領空をEUなど様々な国が飛べない状況になっているので遠回りをしているため輸送費が上がっています。築地「斎藤水産」では今ある在庫限りで販売をストップするということです。いずれも取材をした限りでは、販売価格は企業努力もあって変えていないということですが、長引くと値上げをせざるを得ない状況もあるかもしれません。
そしてタラの卵。明太子などに使われますが、福岡の老舗明太子メーカーに取材しますと、原料の約50%がロシア産だということです。担当者は「十分な量のたらこを仕入れているので、当面の間は生産量・品質・価格に変更はない」とのことでした。ただこちらも「長期化すれば原料等調達への不安もある」というふうに話しています。
ロシアから輸入していない小麦も価格高騰
そして、大きな影響がありそうなのは生活に欠かせない小麦です。パンや麺類、そしてお菓子など様々なものにも使われていますが、小麦の輸出量が世界で最も多いのがロシアなんです。
先物価格(米シカゴ・7日の取引)で、1ブッシェル(約27キロ)あたり一時12ドル94セント。14年ぶりの高値水準となっています。日本に関しては、直接ロシアからの輸入というよりもアメリカやカナダ、あるいはオーストラリアに頼っているのですが、ロシアの輸出が制限されると、世界的な価格も上がっていきますから、その水準にも影響されて日本の輸入価格の高騰に繋がっていく可能性があるというわけです。
ホランキャスター:これらの中で最も打撃が大きくなりそうな品目というのは何でしょうか?
経済アナリスト 森永康平さん:やはり小麦は日本自体はロシアから直接輸入しているわけではないんですが、結局ロシアが輸出しているアフリカとか中東の部分がストップしてしまうと結果的に小麦の市況が上がる。そうなると麺類とかパンとかお菓子、いわゆる私たちが普通に食べているもの、これらが全て値上がりしてしまう可能性が非常に高くなってきたということですよね。
ホランキャスター:小麦や海産物は他の入手先を探すというのも難しい現状なんでしょうか?
森永さん:代替手段がある場合はいいんですが、例えばベニザケは日本の場合ロシア産がほとんどですから、今は値段が高くなるという状態で収まっていますが、そのうちに値段が高くなるどころか入ってこなくなってしまうということも十分考えられると思います。
井上貴博キャスター:これまでの値上げのニュースと決定的に違うのは原油高などではなくて、平和、民主主義、国の主権が脅かされている。そうなると、消費者である私自身は我慢しなくてはいけないのかな、というふうに思うんですけど、一方でこれを生業にしている方、卸の方や生産者への支援というのはどう考えてらっしゃいますか。
森永さん:新型コロナウイルスのときと一緒なんですけれども、企業努力で何とかしろと言ってもどうにもならない部分が大きいですから、やはりそこは国が給付金で補助するといった対応が必要になってくると思いますね。
井上キャスター:品目でということですかね。
森永さん:そうですね。
ジュエリー産業にも「大きな痛手」
南波キャスター:そして、今もう一つ注目されているのがレアメタルの「パラジウム」という金属です。日本の場合、多くは自動車の排気ガスの削減に使う触媒に使われることが多いんですが、身近なところで言うと「銀歯」などにも使われています。そして、ロシアがこのパラジウムの世界の4割を超える産出量を誇っているということなんです。
パラジウムの先物価格(ニューヨーク商業取引所 7日)は、1トロイオンス(約31グラム)あたり3425ドル(約39万6000円)まで上昇。取引時間中の最高値を10か月ぶりに更新しているという状況です。
パラジウムの高騰はジュエリー業界にも影響がありそうです。金やプラチナにパラジウムを混ぜて加工すると強度が上がるということなんです。例えばプラチナだけですと傷がつきやすくなるのですが、パラジウムを混ぜると傷もつきにくくなるということで非常に重宝されています。
   3月8日の小売価格(1グラムあたり)
   「金」8184円
   「プラチナ」4679円
   「パラジウム」1万2584円
パラジウムはここ1か月で3500円ほど高騰している状況なんです。これに関して、ジュエリー産業が盛んな山梨県の水晶宝飾協同組合の松本一雄理事長は「ジュエリーを作るのにパラジウムは欠かせない。金やプラチナよりも高くなっているので大きな痛手」と話しています。そしてこれだけでは収まりません。“ダブルパンチ”ということで、ダイヤモンドもロシアは有数の産出国です。世界全体の約3割を生産しています。これに関しても「ここ最近ダイヤモンドの価格がコロナの影響もあって2〜3割上がっている。今まさにジュエリー業界においてはダブルパンチ状態に陥っている」ということなんです。
ホランキャスター:ロシアは原油であったり鉱物・金属、天然資源の多い国ですので、そこに頼ってる国々というのはかなりの痛手があるということですね。
森永さん:今回の一件を我々日本はどう考えなくてはいけないかというと、資源であったり食料、エネルギーもそうですけれども、なるべく外に頼らない新しい安全保障、経済安全保障を考えていかないと、こういう事態のときに自国で何もできなくなってしまうことになりうるということが今回教訓として上がってきていると思いますので、ここは本当に真剣に考えないと、この後も似たような事態が起こる可能性は十分あるわけですから、ここはちゃんと政府は討論していってほしいなと思います。
井上キャスター:確かにこれは安全保障っていう考え方が必要かもしれませんね。
●ウクライナ 住民の避難は?「人道回廊」なぜ難航?  3/8
ウクライナから国外に避難した人の数は、6日の時点で173万人以上。ロシアによる侵攻で、幼い子どもたちも含めた避難が続いています。戦闘地域の住民のため、ロシアとウクライナは「人道回廊」と呼ばれる避難ルートを設置しようと協議していますが、住民が安全に避難できるルートは、いまだ確保できていません。避難の現状について、わかりやすく解説します。
「人道回廊」とは?
戦闘が続く中、一時停戦して住民を避難させようと、ロシアとウクライナが協議している「戦闘地域の避難ルート」のことです。過去にプーチン政権が軍事介入したシリアの内戦でも、敵の拠点を陥落させる前に繰り返していた方法で、このときは、本格的に攻勢を強める前、一時的に停戦したうえで、今回と同じように「人道回廊」と名付けた避難ルートを設けました。国際社会からの批判が高まらないよう、人道的な配慮として「避難のチャンスを与えた」と強調するねらいがあったとみられます。ロシアとウクライナは「人道回廊」を設置することで合意したものの、最初に試みられた5日以降、3日連続で失敗しています。ロシア国防省は8日も首都キエフなど5つの都市で、市民のための避難ルートを設置するとしていて、このうち1つのルートでは避難が始まったと伝えられています。しかし、ウクライナ側は複数の都市で避難ルートが合意できていないとしていて、どこまで市民の避難につながるかは不透明です。
「人道回廊」の設置はなぜ難航しているのか?
ロシア側とウクライナ側がそれぞれ、相手が攻撃を行ったと批判して避難のための一時的な停戦が実現していないことが理由の一つです。ウクライナとロシアの代表団は、3月3日に行われた交渉で「人道回廊」を設置する方針について合意。これをもとにロシア国防省はマリウポリと周辺の町で5日から一時的に停戦し、避難ルートを設置すると発表しました。しかし、マリウポリ市などはロシア軍が停戦措置を守らずに砲撃を続けていて、安全上の理由から住民の避難を延期せざるを得なくなったと明らかにしました。これに対して、ロシア国防省は、攻撃を仕掛けてきたのはウクライナ側だと主張しています。
「人道回廊」の具体的なルートは?
また、ロシアが設定しようとしたルートが、ウクライナ側にとってはそもそも“人道的ではない”ことも「人道回廊」が設置できない理由だともみられています。ロシア側が発表したルートは、キエフ、北東部のスムイ、第2の都市ハリコフ、それに東部の要衝マリウポリなどの都市から避難するルートです。しかし、その中には、ロシアやその同盟国ベラルーシが避難先に含まれているルートもあります。住民は、ロシアに対して強い恐怖心と敵意を抱いているため、とても受け入れられない内容でした。戦闘地域の住民たちは、停戦の実現が見通せない中「人道回廊」に頼らず、長い道のりを命がけで避難するか、その町にとどまることを余儀なくされています。
現状にウクライナは?ロシアの主張は?
住民の避難について、ウクライナのゼレンスキー大統領は次のように述べて、ロシア側の対応を非難しています。「避難はロシアの戦車、ロシアの地雷のせいでうまくいっていない。ロシア軍はマリウポリの人々に食料や薬を運ぶ道路に地雷を仕掛け、避難用のバスを破壊した」一方、ロシアのプーチン大統領は、次のように主張。「ロシア軍は市民を避難させるため何度も停戦を宣言した。しかし、ウクライナ側が住民に対する暴力や挑発行為で阻止した」
国際社会は?
激しい攻撃を受けている都市の1つマリウポリと、周辺の町から住民が避難するのを支援する予定だったICRC=赤十字国際委員会は、ロシアとウクライナの両政府の対応が不十分だったとして、次のように話しています。「当事者間の合意に基づき、十分計画され、実施されなければならない」また、国連の安全保障理事会の緊急会合でも、停戦につながる糸口すら見いだせない中、各国から市民の安全な避難ルートを求める訴えが高まっています。
今どれだけの人たちが避難しているのか?
こうした中でも、避難するウクライナの人たちは後を絶ちません。UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、6日の時点での避難者の数は173万人以上に上るということです。このうち隣国のポーランドには、全体の6割近くの102万人が避難し、ハンガリーが18万人、スロバキアが12万人、モルドバが8万人、ルーマニアが7万人などとなっています。一方、ロシア側に避難した人はおよそ5万人だということです。UNHCRは、戦争が直ちに終わらなければ、さらに数百万人が住まいを追われることになるとして、次のように指摘しています。「第2次世界大戦以降のヨーロッパで、もっとも速いペースで増え続けている危機だ」
住民はどんなルートで避難しているのか?
戦闘が激しい地域から、道路や鉄道が残っている都市を経由して、西側からヨーロッパ各国に避難する人が多くいるとみられます。ロシア軍の激しい攻撃にさらされてきた首都キエフ近郊のイルピンでは、まずキエフに向かって避難する人たちの姿が見られました。しかし、2月末の時点で、キエフでは西部のリビウに向かう列車に乗ろうと大勢の人たちが殺到。また、リビウなどから国外に脱出したあとも、すぐに落ち着ける場所を見つけられず、数日かけてルーマニアなど複数の国を経由しながらポーランドにたどりついた人もいました。
どんな人たちが避難しているのか?
ウクライナでは、18歳から60歳の男性の出国が制限されていて、避難しているのは、子どもを連れた女性や年配の人たちがほとんどです。このため、避難している家族の多くは、父親や夫がウクライナ国内に残ったままで、離れ離れでの避難生活を余儀なくされています。また、入院患者の避難も課題で、キエフにある子ども病院の医師は、治療を中断できないため避難できていない子どもの病状悪化が心配だと話していました。
避難先での支援は?
避難をしてきたウクライナの人たちに向けて、各国が支援の手を差し伸べています。このうちルーマニア政府は、ウクライナとの国境近くのスタジアムに、およそ400人が滞在できる臨時の避難所を設置しました。ICRC=赤十字国際委員会は避難民などへの食料や水、シェルター、心理的サポートの提供のほか、そもそも避難できない人もいる医療施設への支援強化が必要だと指摘し、寄付による支援を訴えています。
●ロシア ウクライナ軍事侵攻 日本でも影響避けられない事態に  3/8
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、遠く離れた日本でも避けられないものとなりつつあります。各地の幅広い分野に影響が出始めています。
ウニ価格2倍に さらなる高騰懸念 茨城 ひたちなか
ひたちなか市の「那珂湊おさかな市場」にある水産会社では、ロシア産のバフンウニを仕入れて販売しています。水産会社によりますと、ロシア産のバフンウニの現在の価格は、およそ200グラムで7800円と、例年のおよそ2倍になっているということです。ウクライナへの軍事侵攻でロシアへの経済制裁が強まる中、水産会社では入荷がとどこおり、品薄の状況が続いているということです。このため水産会社では、今後価格がさらに高騰するのではないかと懸念しています。水産会社の西野幸男専務は「ロシア産のウニは、いつ市場からなくなってもおかしくない状況で、それに伴って北海道産やカナダ産のウニも価格がさらに跳ね上がる可能性がある。今後はロシア産の紅サケやイクラなどにも影響が出るのではないか」と話していました。
ガス価格高騰 銭湯の経営圧迫 奈良
ウクライナへの軍事侵攻で、エネルギー輸出国であるロシアから原油や天然ガスの供給が滞ることへの懸念から、世界的に価格が高騰しています。こうした事態を受けて、奈良市京終にある銭湯では、湯を沸かすための燃料費のさらなる上昇を懸念しています。この銭湯では、ガスで湯を沸かしていますが、2月のガス代はおよそ50万円と、営業日数がほぼ変わらない前の年の同じ月と比べて、6割以上、増加しました。新型コロナの感染拡大で利用客数が減少傾向にあることに加えて、入浴料金は奈良県が決めているため、事業者の判断では値上げができないことから、経営の圧迫要因になっているということです。このため、県内14の事業者でつくる組合は今後、県に対して料金の値上げを求めていくことを検討しているということです。組合の理事長で店主の山崎美隆さんは、「今の国際情勢をみていると、燃料費の上昇は止まりそうになく、値上げするしか手はないのではないかと考えています。われわれの日常にも大きな影響が出ているので、早く収まってほしい」と話していました。
重油価格上昇で農業経営も圧迫 奈良 平群町
奈良県平群町の「平群温室バラ組合」では、4戸の農家が農業用ハウスで切り花用のバラを年間およそ250万本、大阪などに出荷していて、学校の卒業式や入学式などの行事が相次ぐ今月から来月にかけてが出荷の最盛期となっています。このうち、組合員の中筋里美さんは、出荷を控えた、白やピンクのバラの手入れに追われています。バラの栽培には最低で18度、苗の育成には24度以上を保つことが必要で、例年10月から翌年の5月までは暖房用の重油が欠かせません。ただ、原油価格上昇のため今月の時点で暖房で使う重油の価格が去年よりも3割ほど高くなっているということです。ウクライナ情勢の悪化に伴う原油の先物価格の高騰を受け、組合員の間では重油の価格がさらに上がれば今後、経営が圧迫されるという懸念が出てきているといいます。中筋さんは「重油の値段が上がったとしても、顧客のことを考えると、出荷量を減らしたり、品質を落としたりすることはできず、今後の経営が不安だ。ウクライナへの侵攻が早く解決して欲しい」と話していました。
エサ代高騰 動物園も苦境 愛媛 砥部町
愛媛県砥部町にある愛媛県立とべ動物園は、およそ150種類、650頭の動物を飼育していて、えさの中でもっとも消費が多い干し草は年間およそ120トンに上ります。この動物園では5種類の干し草すべてをアメリカからの輸入に頼っていますが、原油高に伴う輸送費の高騰などで干し草1キロあたりの価格はことし1月に10%から17%値上がりしました。このところの急激な原油価格の高騰が反映されれば、4月以降の価格改定でさらに値上がりすることを懸念しています。ほかにも野菜や果物などの調達コストも上昇していて、年間のえさ代はおよそ5000万円と、コロナ前と比べて500万円以上増える見通しだということです。飼育している動物の健康を保つためには量を減らすことは難しく、近隣の農家からみかんや野菜を寄付してもらうなどしてしのいでいます。コストはかさむ一方、来場者数は、コロナの感染拡大以降、3割減少して厳しい運営が続いています。愛媛県立とべ動物園飼料担当の池田敬明さんは「エサを減らすことはできないので、買える物やあるもので何とか頑張っています。新型コロナで客が減っていますが感染対策は十分にしているので安心して来て欲しいです」と話していました。
中古車部品の輸出会社 休業を検討 大阪 北区
大阪・北区にあるロシアに中古車の部品を輸出する会社は、現地との送金が出来なくなり始めていて、先行きの不透明さから休業を検討しています。大阪・北区で貿易会社を営む岩佐毅さんは、中古車の部品を月に100トンほど輸出するなどソ連時代から50年近くにわたりロシアとの貿易を専門にビジネスを続けています。しかし、経済制裁で国際的な決済ネットワーク「SWIFT」からロシアが締め出されるなどの影響で、岩佐さんの会社では、現地の銀行を通じての代金の回収が困難になり始めています。さらにロシアの通貨、ルーブルが急激に下落してルーブル安となっている影響でロシア国内での輸入品の価格が上がり、日本から輸出しても買い手がつかなくなるリスクも出てきているということです。このため岩佐さんは、今後の先行きが見通せないとして事態が落ち着くまでの間、休業することも検討しているということです。8日も、取引先のロシアの輸入販売会社に電話して送金の時期などについて尋ねましたが、先方からの回答は「レートが大きく動いているので落ち着いたら送金する」というものにとどまり、情勢の混乱がうかがえました。岩佐さんは「ソ連崩壊を経験しているので、ロシアとビジネスをするとこういうことがあるというのは覚悟していたが、ロシアとウクライナはなんとか穏便に話をして平和的な解決をしてほしい」と話していました。
●ウクライナ侵攻に潜むロシアの野望と欧米の事情〜揺るがぬプーチンの意志 3/8
ウクライナへの軍事侵攻はロシアの勝利で終わるのか。プーチン大統領はマクロン仏大統領との会談で、「(ウクライナの)非武装化達成の作戦完遂」を宣言。米欧は第4次世界大戦のリスクを恐れて、NATO(北大西洋条約機構)軍をウクライナに派兵するつもりは、今のところ、ない。冷戦終了で唯一の超大国になったはずのアメリカは、弱体化が進んでいる。
ウクライナ完全制覇は「達成されよう」
仲介役を任じるマクロンは3月6日にもプーチンと会談を行い、1時間45分の長時間、話し合った。この会談でプーチンは、「交渉によるにせよ、戦争によるにせよ、目標は達成されよう」とウクライナの完全制覇を目指していることを繰り返し、“鉄の意思”が揺るがないことを示した。
マクロンから今回、プーチンに電話会談を申し込んだのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、「ロシア軍のオデッサ(ウクライナの主要港湾都市)への爆撃」の中止をプーチンに要請するように訴えてきたからだ。
マクロンはプーチンに「オデッサ爆撃の中止」とともに、「国際的人権の十全な尊重」及び「市民の保護」を要請。特に市民の安全な脱出を保障するための「人道回廊」の設置を要請した。
これに対しプーチンは、ロシア軍が「市民を標的にしたことなし」と否定。包囲されているウクライナから脱出するのも留まるのも、「ウクライナ人の責任」と主張した。
一方、ウクライナは「人道回廊」の設置には、「拒否」を表明した。「人道的回廊」のすべての出口がロシアに繋がっているからだ。要するに、ウクライナ人をロシア内に誘導し、「人質」か「捕虜」にするという計画が見え透いているというわけだ。マクロンも民放テレビのニュース専門局の質問に、ロシア側の対応を「まじめでない」と一蹴した。
「非ナチ化」という表現の含意
また、プーチンはマクロンとの長時間会談で過去にも主張してきたように、米仏などに対し、「非ナチ化」や「クリミヤのロシア併合(2014年)」「ドンバス(ウクライナのドネツク州とルハーンシク州で2014年から戦争が続く)の独立」の承認を要請した。そのうえで、「原発への攻撃の意図なし」を約束したが、一方で、「交渉によるにせよ、戦争によるにせよ、目的は達成されよう」と宣言し、ウクライナの完全制覇が目的であることを強調した。
この「非ナチ化」という表現は、プーチンが最近しばしば使うレトリックだ。第2次世界大戦中、ロシア(当時のソ連)は、レニングラードでの激戦など対ナチと果敢に戦い、2700万人が犠牲になった。アウシュビッツ強制収容所を解放したとの自負もある。
ところが、こうしたソ連軍の働きは認められず、戦後、とりわけ冷戦によって、まるでナチに対するかのように「ロシアへの敵視」が芽生えたことを、皮肉交じりに表現したものだ。クリミヤ併合(2014年)時やドンバスの独立」(2014年以降戦争続行)問題でも盛んに、この言葉を使っている。
及び腰のNATOと弱体化した米国
プーチンが強気なのは、NATO軍が目下、ウクライナ戦に参戦しないことにもよる。アメリカとしては、NATO軍が参加したら、第4次世界大戦に発展する可能性があると考えているからだ。
ゼレンスキ―が、ロシア軍の空爆や爆撃防止のために懇願している「上空飛行禁止区域」の設置にも、今のところは応じていない。ただ、義勇兵などがウクライナに集結中との情報がある。ウクライナからは避難民がすでに170万人程度、脱出との報告があるが、女性と子供が大半だ。男性はウクライナに留まって祖国防衛のために戦う覚悟だからだ。
一方、プーチンはすでに秘密部隊「ワグナー」をウクライナ内に派遣していると言われる。「ワグナー」はロシアがシリアを手中に収めた2018年にも活躍したと指摘されている。また、米仏日がジプチに軍事基地を置いているのに対抗して、隣国のエストニアがロシアの要請に応じて、基地建設に同意した。
プーチンがウクライナ制覇の好機と思った重要要素に、バイデン大統領就任後のアメリカの弱体化がある。その象徴が、米国の政治史上の大スキャンダルとなった「共和党、というよりトランプ支持派による議会占拠」と、「大敗走」だった「アフガニスタンからの撤退」だ。
そのうえ、バイデンは79歳と高齢だ。プーチンもこの10月に70歳を迎えるが、柔道などを鍛えた肉体はバイデンに比べれば、まだまだ若い。精神的には「誇大妄想狂」などの指摘はあるものの、いや、だからこそ、困ったことなのだが、とにかく、精神的にも意気軒高だ。
経済政策は機能していないとの見方も
しかも、米欧が目下、最大の“武器”としている経済制裁も、実はうまく機能していないという見方もある。
ロシアが誇る石油と天然ガスや小麦を米欧が禁輸にしても、これらの最大の顧客は中国だ。中国が禁輸に参加しない限り、ロシアにとっては、打撃は少ない。それどころか、「ロシアはユーラシア大陸を含む大ロシアと、日本及び東南アジアとアメリカを含む大中国という中ロの2大国による世界制覇」(パリ大学国際関係史のミカエル=エリック・ラムベール教授)をもくろんでいるとの指摘もある。
経済制裁で効果が期待される米仏などによるロシアをSWIF(銀行間の国際金融取引に関する事務処理に関するネットワークシステム)から締め出す協定には、国際協定などではもたつくことが多い日本が、珍しく早々に参加を表明したが、ドイツやイタリアは沈黙したままだ。ドイツはロシアとの経済取引が大きいからだが、それだけにドイツの不参加によって、効果が期待できない状態だ。
また、多くの国の大企業などがモスクワから完全に引き上げていない。フランスでは精油大手トタルが「モスクワに残る」と断言している。ブランド大手のルイ・ヴィトンやシャネルなどモード店も、「技術的な理由で閉店」の張り紙を出しているが、撤退はしておらず、いつでも店を再開する用意がある。
フランス大統領選への影響
フランスとロシアとの関係は、過去に「強敵ドイツ」を間に挟んで、「敵の敵は味方」と、何回か手を結んだ「絆」もある。フランスの大統領選(直接選挙、2回投票制=4月10日、24日)に出馬中の極右政党のルペン党首が過去にプーチンと握手している写真を得意になって公開しているが、この写真の影響がほどんとないところに、フランス人の対ロシアに対する微妙な反応もうかがえる。
再選を目指すマクロンは3月7日に初の選挙キャンペーン集会をパリ郊外のポワシーで行ったが、支持率はプーチンとの過去の会談などが評価され、各種世論調査では1回目の得票率が25〜30%で12人の候補者中、断トツのトップ。2位の極右政党のマリーヌ・ルペンの16~17%を大きく引き離している。
マクロンの再選がよほどのことがない限り確実視されるのは、戦争中は、「司令官は変えない」が鉄則なだけに、三軍の長である大統領の交替は、ありえないからでもある。
フランスは欧州連合(EU)の議長国(1月〜6月)でもある。マクロンは議長だ。この10、11日には加盟27カ国の首脳をヴェルサイユ宮殿に集めて、非公式の首脳会議を開催する。議題はウクライナ、グルジア、モルドバのEU加盟の検討である。ロシアはウクライナのNATO加盟問題に神経を尖らせているわけだが、EU加盟にも当然ながら、「西欧化」として大反対だ。
「ロシアと新世界の到来」はあるのか
もし、プーチンが“鉄の意思”を貫いてウクライナを完全制覇したら、次はどうなるのか。グルジア、モルドバ、エストニアに蝕手を伸ばす、が外交筋の一致した見方だ。特にエストニアでは25%がロシア語を話す。クリミアも大半がロシア語を話すので、実は国民自身はロシアへの合併を、それほど、苦にしていないという事情がある。
フランスのシンクタンク「政治改革基金」がこのほど、スッパ抜いた記事によると、ロシアの大手通信社「RIA Novost」の大物記者、ピヨートル・アコホブ記者が、ロシアのウクライナ全制覇後に発表する予定稿が2月26日に間違って流出したが、そこには次のように書かれているという。
「ロシアは西欧に挑戦するだけではなく、西欧世界が支配する時代は完全かつ決定的に終わるだろうということを示した」。記事の見出しは、「ロシアと新世界の到来」だ。
第2次世界大戦後の世界秩序は、国連のような国際組織による国際法によって紛争を管理するという考えに基づいている。ロシアの考え方は、この第2次世界大戦以後の世界秩序に挑戦することにもなる。
こうしたロシアの野望を食い止めることができるのか。アメリカ(NATO)はこのまま、指をくわえてロシアの暴虐を座視しているのか。和平交渉が舞台裏で密かに、巧みに開始されていることを祈るばかりだ。
●ロシア政治専門家 打倒プーチンのキーマンはロシア国内に!? 3/8
ロシア政治を専門とする筑波大・中村逸郎教授が8日、日本テレビ系「情報ライブミヤネ屋」(月〜金曜1・55)に生出演。打倒プーチンのキーマンはロシア国内にいると語った。
中村教授が打倒プーチンのキーマンに挙げたのは、全ロシア将校の会のレオニード・イワショフ会長(78)。現役時代には陸軍大将などを務めた退役軍人。以前はプーチン支持を表明していたが、今年1月に「ロシアはウクライナ侵攻によって独立国家の地位を奪われるだろう」と声明を発表。ウクライナ侵攻に反対の意志を示すとともに、プーチン辞任を要求している。
中村教授は「イワショフ会長は現役の軍人に対しても多大な影響力があり、クーデターを主導する可能性がある」と指摘。「全ロシア将校の会がどういうふうに世論とつながるかが大きなポイントになる」と続けた。
さらに、軍の内部から反プーチンの声が挙がっていることについて、「今回の戦争はロシアを守るための戦争ではなくて、プーチン大統領が自分のための戦争で、軍を利用しているに過ぎないという声が、すでにイワショフ氏のようなところから出ているわけです」と解説。そして、「この人たちと世論、特に若者ですね。そこが一緒になって。プーチン政権打倒に立ち上がる可能性があります」と予想した。
●プーチン氏、31歳年下の愛人と子ども4人を「スイスに退避」疑惑 3/8
「ロシアがウクライナを侵攻した後、ウラジーミル・プーチン大統領は31歳年下の愛人とその子供たちをスイスに退避させた」という疑惑が持ち上がっている。
7日(現地時間)ユーロニュース・ニューヨークポストなどは「プーチン氏の愛人として知られているアリーナ・カバエワ氏(38歳)と4人の子どもは、スイスのとある別荘にいる」と報道した。
カバエワ氏は2004年アテネオリンピックの新体操の金メダリストで、カバエワ氏とプーチン大統領の仲が噂となったのは2008年である。当時、あるメディアは「プーチン大統領が離婚後、カバエワ氏と結婚する予定だ」と報道していた。だがクレムリン(ロシア大統領府)はこれを否認し、その後このことを報道したメディアは廃刊となった。
しかしその後カバエワ氏は与党の公選を受け、2014年まで国会議員を約8年間務めた後、ロシア最大メディア「ナショナルメディアグループ」の会長に任命された。当時のカバエワ氏の年俸は、1000万ドルに達していたといわれている。
カバエワ氏はプーチン大統領との間に、4人の子どもがいるものとみられる。
ある消息筋は「カバエワ氏とその子供たちは皆、スイスのパスポートを所持していると推定される」とし「表に現れていないカバエワ氏の財産があることを踏まえると、スイスの制裁がどのような影響を及ぼすかははっきりしていない」と伝えた。
中立国であるスイスは先月28日「EU(ヨーロッパ連合)によるロシア制裁に加わる」という立場を明らかにした。EUは、プーチン大統領を含めたロシアの大物たちの域内資産を凍結し、入国を禁止することを決定した。スイスのイグナツィオ・カシス大統領は、連邦評議会の会議後の記者会見で「EUの制裁を採択することにした」とし「スイスにおいては、大きな進展だ」と伝えている。 
●1年4カ月ぶり2万5000円割れ ウクライナ情勢受け続落  3/8
ウクライナ情勢を受け、日経平均株価が、一時およそ1年4カ月ぶりに、2万5,000円を割り込んだ。
前日のアメリカ市場は、停戦交渉に進展が見られず、ロシアへの経済制裁が世界景気を冷やすとの見方から、ダウ平均が2022年最大の下げ幅となった。
この流れを引き継ぎ、8日の東京株式市場も、売り注文が広がった。
平均株価の下げ幅は、一時300円を超え、およそ1年4カ月ぶりに、2万5,000円を下回った。
その後は、大きく下がった銘柄への買い戻しの動きも見られ、午前の終値は、7日に比べ、77円89銭安い、2万5,143円52銭、TOPIX(東証株価指数)は、1,784.66だった。
市場関係者は、8日もウクライナ情勢を意識した神経質な動きになると話している。
●ウクライナ情勢への警戒感からリスク回避の動きが続く 3/8
日経平均は大幅続落。430.46円安の24790.95円(出来高概算18億7000万株)と2020年11月以来約1年4カ月ぶりに25000円を割り込んで取引を終えた。原油価格の高騰でインフレ高進や景気後退への懸念が強まり、世界経済への懸念から前日の米国株が大幅に続落した流れを引き継ぎ、売り優勢で始まった。その後、急ピッチの下げに対する警戒感などからこのところ下げのきつかった銘柄を中心に買い戻しの動きもみられ、前場半ばには上昇に転じる場面が見られた。ただし、ウクライナ情勢の先行き懸念は拭えず、後場に入ると再び軟調推移となるなか、安値圏でのもみ合いが続いた。
東証1部の騰落銘柄は、値下がり銘柄が1700を超え、全体の8割超を占めた。セクター別では、33業種すべてが下落し、石油石炭、鉄鋼、海運、鉱業、非鉄金属、空運などの下落が際立っていた。指数インパクトの大きいところでは、ダイキン<6367>、ファナック<6954>、信越化<4063>、中外薬<4519>、テルモ<4543>がしっかりだった半面、ファーストリテ<9983>、ソフトバンクG<9984>、塩野義<4507>、TDK<6762>、資生堂<4911>が軟調だった。
ウクライナとロシアの3回目の停戦交渉も進展がなく、世界的にリスクオフムードが広がっており、東京市場もリスク回避の売りが膨らんだ。ただ、日経平均は心理的な節目を下回ったことから、いったんは押し目買いが入った。ただし、後場に入ると再び25000円を下回るなかで持ち高調整売りが次第に増え、大引けにかけて、24767.33円まで下げ幅を広げた。
ウクライナ情勢について、米国の分析によると、ロシア軍は国境付近に配備していた戦力のほぼ100%をウクライナ国内に投入し、当初の主要都市を短期間で制圧する方針から、長期戦を行う構えを見せている。停戦合意に向けた動きが早期にまとまらなければ、エネルギー価格の高騰は長引き、市場心理の悪化も続きそうで、目先は波乱含みの展開が続きそうだ。一部には、2020年3月コロナショック後の安値から昨年9月の高値までの上げ幅の半値押し水準となる23600円近辺までの調整もあるのではないかとの声も聞かれている。
●NY株続落、797ドル安 ウクライナ情勢で今年最大の下げ 3/8
週明け7日のニューヨーク株式相場は、ウクライナ情勢や原油高への警戒感を背景に大幅続落し、優良株で構成するダウ工業株30種平均は前週末終値比797.42ドル安の3万2817.38ドルで終了した。下げ幅は今年最大で、一時800ドルを超えた。ハイテク株中心のナスダック総合指数は482.48ポイント安の1万2830.96で引けた。
ロシアとウクライナはこの日、停戦交渉の3回目の協議を行った。しかし、大きな進展はなかったもようで、失望売りが広がった格好だ。 

 

●プーチン失脚は1年以内か。全てを失う前に新興財閥軍団が起こすクーデター 3/9
3度目の停戦交渉も合意に至ることなく、無辜の市民の命が危険にさらされ続けているウクライナ戦争。もはや完全に「全民主主義国家の敵」となったプーチン大統領ですが、国内でも支持も失いつつあるようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、これまでプーチンを支えてきた3つの支持基盤が雪崩を打つように離れつつある現実を紹介。さらに「プーチンの1年以内の失脚」の可能性を指摘する記事を取り上げるとともに、その信憑性を考察しています。
プーチンは1年以内に失脚?実は大分裂している支持基盤
2022年2月24日は、間違いなく歴史の教科書に載るでしょう。私たちが、「ナポレオンがどうした」「ヒトラーがどうした」と歴史の教科書で学んだように、未来の子供たちは、「2022年2月24日、プーチンがウクライナ侵攻命令を出した」と学習することになるのです。
プーチンは、ウクライナ戦争に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。ですが、プーチンの決断で、ロシアが【戦略的に敗北する】のは決定事項です。
すでにロシアの一部金融機関はSWIFTから排除され、世界の大手企業のほとんどが、「ロシアからの撤退」を表明している。
ロシアの知人たちは、「ソ連時代に逆戻りだ」と嘆いています。
さて、今回は、「プーチンの政権基盤が揺らいでいる」という話を。
プーチン、3つの支持基盤
プーチンの支持基盤1は、「軍、諜報機関、警察」など。日本でも「シロビキ」(ロシア語の発音はシラヴィキ)という用語が使われています。
プーチンの支持基盤2は、新興財閥です。プーチンは2000年に大統領になると、90年代ロシアの政治経済を牛耳っていた新興財閥を打倒しました。やられた代表的新興財閥は、ベレゾフスキー、グシンスキー、ホドルコフスキーです。いずれもユダヤ系。
そして、プーチンは、自分の手下や友人を、新たな新興財閥に育てていった。代表的人物は、国営石油会社ロスネフチのトップ、セーチン。国営ガス会社ガスプロムのトップ、ミレル。さらに、ロッテンベルグ、ティムチェンコなどが有名です。
ちなみに、ロシアの新興財閥は、「譜代新興財閥」と「外様新興財閥」にわけることができます。「譜代新興財閥」は、プーチンが大統領になる前からつながっている。東ドイツでスパイをしていた時、サンクトペテルブルグで副市長をしていたとき。
では、「外様新興財閥」とは誰でしょうか?これはプーチンが大統領になり、ベレゾフスキー、グシンスキーを倒した後に忠誠を誓った人たち。たとえば、イギリスのサッカークラブ「チェルシー」のオーナーだったアブラモビッチ。アルファグループのフリードマンなど。「外様新興財閥」には、「ユダヤ系」が多いのです。
プーチンの支持基盤3は、メディアと国民です。プーチンは2000年代、テレビを完全に支配下に置きました。テレビでプーチン批判は、絶対に流れません。プーチンは、ロシアの3大テレビ局「ロシア1」「ペルヴィーカナル」「NTV」を使い、自由自在にロシア国民を洗脳します。それで、今回のウクライナ侵攻も、テレビ世代、つまり年齢が高い世代から支持されているのです。
どういうロジックなのでしょうか?
まず、ウクライナは、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を8年間ジェノサイドしつづけてきたという話。「ロシア系住民を助けなければ!」ですね。
もう1つは、「今のウクライナ政権は、ネオナチだ。核兵器をもつという野望をもち、反ロシア軍事同盟NATOへの加盟を目指している。ゼレンスキー政権は、ロシアにとって本当の脅威なので、転覆しなければならない。これは自衛の特別軍事作戦だ!」と。
ちなみにロシアでは、「戦争」とか「反戦」という言葉を使うことを禁じられています。今ウクライナで起こっているのは、「特別軍事作戦だ」といわなければならない。「戦争反対!」といえば、冗談でなく捕まります。
以上、プーチンの支持基盤3つ。
1.シロビキ(軍、諜報機関、警察など)
2.新興財閥
3.メディアと洗脳された国民
でした。
シロビキ内の分裂
さて、シロビキ内で分裂が起こっています。1月31日、全ロシア将校協会が、「ウクライナ侵攻反対」「プーチン辞任」を求める公開書簡を発表しました。
なぜ将校たちがウクライナ侵攻に反対かというと、長期的にロシアが負けるからです。
この公開書簡には、ウクライナ侵攻の結末予測が記されています。
ロシアは間違いなく平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類され、最も厳しい制裁の対象となり、国際社会で孤立し、おそらく独立国家の地位を奪われるだろう
これ、侵攻の約1か月前に出されていることに注目です。
現状
•ロシアは平和と国際安全保障を脅かす国のカテゴリーに分類された
•最も厳しい制裁の対象となった
•国際社会で孤立した
この3つはすでに実現しています。最後に残っているのは、
•独立国家の地位を奪われる
これは、どうなるかわかりませんが。
※ この件詳しく知りたい方は、「全ロシア将校協会が『プーチン辞任』を要求…!キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない」をご一読ください。
いずれにしても、シロビキ内で分裂が起きていることは間違いありません。
外様新興財閥がプーチンに反逆
そして、新興財閥の不満も高まっています。
なぜでしょうか?
今回の経済制裁で、もっとも打撃を受けるのが彼らだから。SWIFTから外されて、ビジネスが厳しい。欧米のビジネスパートナーがどんどん去っていく。欧米で資産が凍結されている。豪邸、高級マンション、スーパーヨット、プライベートジェットなどが没収されている。
彼らは問います。
なぜ?
答えは、「プーチンがウクライナ侵攻を決断したからだ」となるでしょう。
毎日新聞3月4日。
ロシア第2の石油大手ルクオイルは3日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する声明を発表した。ロシアの主要企業でウクライナ侵攻を公に批判したのは初めてとみられる。
英紙フィナンシャル・タイムズなどによると、ルクオイルは3日に「ルクオイルの取締役会はウクライナで起きている悲惨な出来事に懸念を表明し、この悲劇の影響を受けた全ての人々に深く同情する」との声明をホームページに掲載。「私たちは武力紛争の迅速な停止を求め、外交手段を通じた交渉による解決を全面的に支持する」とした。
これは、プーチンから見れば、明らかな「反逆行為」です。
つづいてCNN3月2日。
ロシア実業界の大物として知られるミハイル・フリードマン、オレグ・デリパスカ両氏が2月27日、それぞれウクライナ侵攻の中止を求める声を上げた。
フリードマンは、ロシア金融4位アルファバンクの会長。デリパスカは、「アルミ王」と呼ばれ、「ルサル」のトップ。彼らにとってプーチンは、「自分たちの資産を守ってくれる存在」でした。ところが、ウクライナ侵攻後は、「自分たちの資産を激減させる迷惑な存在」になっています。
国民もプーチンから離れはじめる
ロシア国民も分裂しています。
ロシアを見ると、
•テレビ世代、つまり年配世代はプーチン支持
•ネット世代、若者は反プーチン
という構図があります。そして、40代、50代は、テレビとネット両方から影響を受けている。ロシアのテレビ世代は、
•ルガンスク、ドネツクのロシア系住民は、ジェノサイドされていて、救わなければならない
•だから、ルガンスク、ドネツクの独立を認める
•ルガンスク、ドネツクをウクライナ軍から守るために、ロシア軍が平和維持軍として駐留する
ここまでは、圧倒的に支持していました。庶民は、「国際法がどうの」とかあまり考えないものです。
しかし、流れが変わったのは、ロシア軍が、ウクライナの首都キエフ、第2の都市ハリコフをはじめ、全土を攻撃しはじめてから。テレビとネットの間を揺れる中年、あるいはテレビ世代も「いや〜、キエフに侵攻するのは、やりすぎでしょ。意味不明すぎる」という感じになってきた。「ルガンスク、ドネツクを守るために、キエフを攻撃する」というロジックが、なかなか理解されていないのです。
それで、ロシアでは毎日反戦デモが盛り上がっています。逮捕されたり、失職するリスクをとって、反戦デモに参加する人たち。勇気があります。
そして、地獄の制裁の影響がこれからでてきます。クリミア併合後の制裁で、すでに全く成長していないロシア。今回の制裁で、ルーブルは大暴落し、ひどいインフレが国を襲うでしょう。そして、外国の大手企業が続々と撤退していることから、失業者もすごい勢いで増加することでしょう。
というわけで、鉄壁に思われたプーチンの基盤。
•シロビキ内の将校が反逆している
•新興財閥の一部が反逆している
•国民で「ルガンスク、ドネツクの独立承認まではOKだが、キエフ侵攻は意味がわからない」と考える人が多い
というわけで、プーチン政権は、もはや盤石とはいえないのです。
プーチンは、1年以内に失脚?
ブルームバーグ3月7日には、「プーチンは、もって12か月」という話がでています。
マルコ・パピック氏は、政治指導者がしようとしていることを評価する場合、その人物の願望を重視しない。むしろ「物理的制約」、望むものを手に入れようとする指導者の能力がどんな要因で制限されるかに着目する。
ヘッジファンドに投資するオルタナティブ資産運用会社クロックタワー・グループのチーフストラテジスト、パピック氏はポッドキャストで、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で物理的制約を無視しており、最終的に失脚につながる恐れがあると主張した。
『地政学的アルファ:将来予測のための投資フレームワーク』(原題)の著者パピック氏は、これまでの制裁がプーチン大統領の行動に影響を及ぼしたり、打倒したりするために十分と考えられるかとの質問に対し、「プーチン氏に私が与える時間は12カ月未満だ。政策担当者が物理的制約を無視する並外れて悪い決定を下せば、罰を受ける」と指摘した。
「12か月以内にプーチンが失脚する」
私もその可能性は、大いにあると思います。プーチンのせいですべてを失いつつある新興財閥軍団が、クーデタを画策してもおかしくない状況になってきました。
●“黒い金庫番”“料理人”…プーチン大統領を支える大富豪「オリガルヒ」  3/9
プーチン「50%くれれば逮捕しない」と“ビジネスパートナー”に
ウクライナへの侵攻で様々な面からの“制裁”がされているロシア政府。そのような中で、プーチン大統領を公私に渡って支える存在「オリガルヒ」の大富豪たちをめぐって、離反を示唆するような動きも。彼らに今、何が起きているのでしょうか。
筑波大学 中村逸郎教授:プーチン政権の元で、富を築いてきた財閥の人たち。巨額の利益を得てきた集団の人たちです。
「オリガルヒ」とは、ソ連崩壊に乗じて石油や鉄鋼などの国営企業を安値で獲得し、財をなしてきた新興財閥のこと。中村教授によると、プーチン大統領の権力維持を支える見返りに、「オリガルヒ」が自分たちの既得権を維持・拡大してきたといいます。
そこで、めざまし8が話を聞いたのは、かつてロシアで外国人投資家として活動したビル・ブラウダー氏。2005年にオリガルヒらが絡む大規模不正事件を暴露した後、入国を拒否されてしまった人物です。プーチン大統領とオリガルヒの関係についてこう話します。
かつてロシアで投資家として活動 ビル・ブラウダー氏: 元々オリガルヒは、ロシアを支配していました。プーチンが大統領になったとき、彼の目標はオリガルヒを排除することでした。最も裕福なオリガルヒを逮捕し、残りのオリガルヒは「何をすれば逮捕されずに済むか」とプーチンのもとに来ました。プーチンは50%のお金をくれれば逮捕しないと言いました。彼らを抑え、ビジネスパートナーにしたのです。
プーチン大統領は、オリガルヒたちと密接な関係を築いて個人資産を増やす一方で、オリガルヒたちもプーチン大統領を通じて、政治的影響を強めてきたといいます。
プーチン大統領の側近として、我が世の春を謳歌してきたオリガルヒ。その生活ぶりを追いかけると、桁違いの富豪ぶりが見えてきました。
資産“約8500億円”も…ウクライナへ寄付金「侵攻を把握」か
まず、“プーチンの料理人”エウゲニー・プリゴジン氏です。プリゴジン氏は、ロシア国内で高級レストランなどを数多く経営。クレムリン宮殿御用達のケータリングサービスも運営していることから「プーチンの料理人」とも言われています。2006年に、ロシアでG8サミットが開かれた時には、各国首脳が居並ぶワーキングランチに顔を見せ、プーチン大統領からの信頼の厚さをうかがわせました。その資産は、146億ルーブル、日本円でおよそ206億円に及びます。
次に、ロシア有数の資産家のアレクセイ・モルダショフ氏。ロシア最大の鉄鋼会社「セベルスターリ」の会長で、世界鉄鋼生産者協会の副会長も務めています。2020年、ロシアメディアが発表した億万長者ランキングでは、1位を獲得。その資産は、1100億ルーブル、日本円でおよそ1550億円です。
そして、プーチン氏の“黒い金庫番”とも呼ばれるゲンナジー・ティムチェンコ氏。プーチン大統領の旧友です。民間投資ファンドを立ち上げると、ロシア国内や東ヨーロッパなどに投資し、莫大な利益を得ています。さらに、ROC・ロシアオリンピック委員会の副委員長も務めていて、スポーツ界にも大きな影響力を持つ人物です。その資産は、なんと6048億ルーブル、およそ8500億円にものぼります。
一方で、こんな富豪も。元石油王のロマン・アブラモビッチ氏です。2003年、イギリスの名門サッカーチーム「チェルシー」を買収した人物です。しかし、3月になって突然「現在の状況から、クラブを売却することを決定しました」とクラブチームの売却を発表。
それによって得たお金は、ウクライナのために寄付すると発表したのです。ウクライナ侵攻を把握していたのではないかと言われています。ウクライナ侵攻8日前にアブラモビッチ氏自らが海外企業に持っていた分の名義を自分名義に変更。これで売却しやすくなった可能性があるとされ、ウクライナ侵攻の8日前の動きということで、プーチン大統領側から情報が来ていたのでは、と取り沙汰されています。
プーチン大統領の資産に関係…“停戦”呼びかけるオリガルヒも
新興財閥のオリガルヒ。なぜ彼らは、これほどの巨万の富を築くことができたのでしょうか。ブラウダー氏によるとオリガルヒの資産の全てが彼らのものではないといいます。
かつてロシアで投資家として活動 ビル・ブラウダー氏:オリガルヒは、ビジネスパートナーであり、プーチンの資産管理にも関わっています。オリガルヒは、プーチンのためにお金を持っていて、例えばオリガルヒが200億ドル保有していても、100億ドルはプーチンのものなのです。
オリガルヒを隠れみのに、自身の富を増やし続けていると指摘されるプーチン大統領。そうした中、世界各国で、オリガルヒの資産凍結に向けた動きが本格化しています。イタリア政府は、経済制裁としてオリガルヒがイタリアに所有する船や別荘など、少なくとも1億5300万ドル、日本円でおよそ177億円の資産を押収しました。こうした各国の動きについて、ブラウダー氏は。
かつてロシアで投資家として活動 ビル・ブラウダー氏: 今後、数ヶ月の間に、オリガルヒはヨーロッパにある資産を全て凍結されると思います。プーチンがウクライナ侵攻を強めるにつれて、さらに多くの資産に西側の措置が取られるため、オリガルヒにとって非常に厳しい事態となるでしょう。
プーチン大統領のみならず、オリガルヒにも強まっている世界の包囲網。その結果、盤石を誇っていた両者の関係にも亀裂が入り始めています。
ロシアの富豪の1人であるオレグ・デリパスカ氏は、SNSで「平和が極めて重要!停戦交渉を引き延ばすのはおかしい」と発信。軍事作戦をやめないプーチン大統領に反対するかのように早期の事態終結を訴えたのです。そして、ミハエル・フリードマン氏は「両親はウクライナ国籍。ロシアとウクライナの人々に愛着がある。現在の紛争は両方にとっても悲劇だ」などと言っています。
さらに、海外メディアによるとオルガルヒたちが海外に脱出している動きもあるといいます。かつては「懐刀」だった大富豪たちから徐々に距離を置かれ始めたプーチン大統領。しかし、ここにきて、新たな強硬策に出ました。
筑波大学 中村逸郎教授: 反戦活動をした人を拘束します。ウクライナの戦場に送るという法案なんです。今審議中なのでそれが採択されてプーチン大統領が署名したらすぐ発効ですよ。反プーチン運動も広がっている中で見せしめというか、もう脅しです。
プーチン大統領を支えた国内の土台も決して盤石とは言えず、締め付けを強めている状況です。
●プーチンは今どこ? ロシア政治専門家が推測「地下都市にいるのでは」 3/9
ロシア政治を専門とする筑波大・中村逸郎教授が9日、TBS系情報番組「ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜」(月〜金曜後1・55)に出演。ロシアのプーチン大統領の居場所について「地下都市のような施設」にいるのではと推測した。
プーチン大統領は暗殺とクーデターを恐れており「身の危険を感じ、もうモスクワにはいないのでは?モスクワ郊外の大統領公邸にもいないはず。山の斜面に穴を掘って作った地下都市のような施設にいるのでは」と中村氏は分析した。
「プーチン大統領はみんなが知ってるような場所にいないんじゃないかとロシア国内で話題になってます。その一つとして浮上してるのは、ウラル山脈の南の方にある地下都市に逃げ込んでるんじゃないかと。これはソ連時代に作られた地下壕のようなとこで、プーチン政権が発足してからかなり改良されてて、おそらくここに逃げ込んで、どんなミサイル攻撃からも耐えられるような地下都市に変えている」と説明。
「いろんなところからここに逃げ込むトンネルが作られているという話も出てます。全長500キロにも及ぶ地下道が作られてて、この地下都市に色々な方向から逃げ込むことができるという話も出てきてます」と話した。
●ダメ大統領から覚醒…ゼレンスキーは“暴走”プーチンを止められるのか 3/9
多くの犠牲者を出しているロシアによるウクライナ侵攻。民間人をも標的にする暴挙に出たプーチン大統領は、いったい何を考えているのか。劣勢ながら粘るウクライナのゼレンスキー大統領に勝算はあるのか。緊迫の情勢を分析した。
「いかなる状況でも軍事作戦の目的を達成する」
ロシアのプーチン大統領は3月3日、フランスのマクロン大統領との電話会談でこう言い放った。
民間人を狙った攻撃を繰り返し、核攻撃をもちらつかせる。4日には、ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所を攻撃後、占拠。度を越えた暴挙に、米国のバイデン大統領はプーチン氏の精神分析を米情報機関の最優先課題にしたと報道されている。防衛研究所の山添博史主任研究官はこう話す。
「原発占拠には政治的な狙いもあったはず。たとえば『ウクライナによる核兵器開発の証拠が出てきた』と主張して軍事侵攻を正当化し、破壊手段を激しくするなどです。プーチン氏の一連の決断は非合理的に見える部分も多いが、交渉を優位に進めるためにあえて常軌を逸したふうを装い、冷徹に利益を計算している可能性もあります」
2000年に大統領に就任したプーチン氏は、20年以上にわたってロシアを支配してきた。日本の公安関係者が言う。
「事実上の独裁者であり、莫大な隠し財産を持つ『陰の世界一の富豪』。米上院司法委員会ではプーチンの隠し財産は約23兆円にのぼるとの証言もあった。刑事上や行政上の責任を生涯問われない特権も保障されており、歯止めが利かない」
20年には英国紙が、プーチン氏はパーキンソン病で、家族が辞任をすすめたという記事を掲載したこともあるが、権力が揺らぐことはなかった。
意思決定は少人数で行い、自らと同じ旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身の人間を信頼する。プーチン氏に近いと言われるのは、パトルシェフ安全保障会議書記、ショイグ国防相、ボルトニコフ連邦保安局長官、ナルイシキン対外情報庁長官の4人。そのうち、ショイグ氏を除く3人はKGB出身だ。ロシアでは治安・国防関係の職員やOBは「シロビキ(力の組織)」と呼ばれ、政治・経済に強い影響力を持つ。
だが、近年の側近はイエスマンばかりで、密室政治の弊害が出ているとも指摘される。
2月24日の軍事侵攻前には政権内にも慎重論があったという。欧米諸国が結束してロシアに経済制裁を科し、北大西洋条約機構(NATO)拡大の口実にされる懸念があったからだ。「実際にそうなったが、慎重派の意見をプーチン氏は受け入れなかった」(外交筋)
聞く耳を持たなくなったのは、右腕となる側近がいなくなったからだとの指摘もある。
「プーチン氏を長く支えてきた人物に、セルゲイ・イワノフ前大統領府長官がいました。プーチン氏とはレニングラード大学の同期で、KGBでも一緒。プーチン氏が気軽に相談できる数少ない政治家でした。ところが、16年に辞任を申し出て、自然保護活動などを担当する大統領特別代表に格下げとなった。更迭説もありましたが、最愛の息子を事故で失って気力が衰えたと言われています」(前出の外交筋)
そのプーチン氏と対峙するのが、ウクライナのゼレンスキー大統領だ。
ゼレンスキー氏は元コメディー俳優で、世相を鋭く笑いに変える芸風で人気者になった。「裸でギター」や「股間でピアノを弾く」といった宴会芸も得意で、15年にウクライナで放送されたドラマ「国民の僕(しもべ)」に出演。高校教師が大統領になって奮闘する役を演じた。
そのドラマの脚本に合わせたかのように19年の大統領選に出馬すると、73%という高得票率で当選。ウクライナ政治に新風を吹き込んだ。
「ところが、大統領に就任してからは、ウクライナ政治の腐敗一掃の公約実現は難しく、経済も低調なまま。昨年には、国外の租税回避地(タックスヘイブン)の秘密企業に資産を移動させていたことが報道で発覚し、支持率が19%まで落ちました」(外務省関係者)
日本国内でもゼレンスキー氏の評価は決していいものではなかった。ウクライナ侵攻前までは「政治は素人。何をやるかわからない」(官邸幹部)の声もあったほどだ。
ところが、戦争が始まると事態は一変した。国外脱出をすすめる声もあるなか首都キエフにとどまり、自撮りの動画で「私はここにいる。武器を捨てるつもりはない。領土を、国を、子どもたちを守る」と国民を鼓舞。支持率は91%に急上昇した。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は言う。
「指導力を前面に出すだけでなく、時に死の覚悟を語って共感を集める。非常時の情報発信力は見事だと思います」
質量ともにロシア軍より戦力が劣るなか、ウクライナは耐え続けている。黒井氏は言う。
「ジャベリンやNLAWといった歩兵携帯式の対戦車ミサイルが活躍していて、東部ではロシア軍装甲車を多数撃破している。森林に隠れながら、歩兵がロシア軍の隊列に近づき、1〜2キロ先からミサイルで撃破することが多い。ただ、今後はロシア軍が態勢を立て直し、ウクライナの都市を制圧する場面が増えるでしょう」
プーチン氏の暴走を止められるのか。ロシア情勢に詳しいJAROS21世紀フォーラムの服部年伸氏は言う。
「ロシア国内では、石油大手の企業や銀行などからも戦争反対の声が出始めました。プーチン氏の戦略にも陰りが見えます。元ソ連大統領のゴルバチョフ氏は『欧州共通の家』を理想に掲げていました。ロシアはそこに立ち返り、EUに加盟するぐらいの政策転換をしなければ、世界から孤立した国になってしまいます」
停戦協議は停滞し、戦争長期化の懸念も高まる。前出の山添氏は言う。
「プーチン氏の暴挙によって、力で現状を変更することが許される世界が身近に迫っています。それをウクライナの人々は命を懸けて阻止しようとしている。また、台湾統一を悲願とする中国は、プーチン氏が今後どうなるかを見ている。日本にとっても、遠い国の出来事ではありません」
今、世界は歴史の転換点を迎えている。
●プーチンは戦争に負けたことがない、この戦争は長くは続かない 3/9
ロシアと西側の意地と力のぶつかり合いにウクライナが翻弄されるなか、忘れてはならない大切なことがある。ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンは一度も戦争に負けていないという事実だ。
政権掌握以来20余年、プーチンはチェチェンやジョージア(グルジア)、シリア、クリミアで戦ってきたが、軍部には常に明確で無理のない目標を与え、結果として勝利を宣言し、ロシア国民を納得させ、しぶしぶながら国際社会にも結果を認めさせてきた。
ウクライナでも、たぶんそうなる。
対ウクライナ国境でのロシア軍増強は何カ月も前から続いていたし、いつ侵攻が始まってもおかしくないと米政府は警告していた。
それでも2月24日未明の空爆(と、それに続く欧州大陸では今世紀初となる大規模侵攻)は、ウクライナ国民の多くにとって想定外だったようだ。
自国の大統領ウォロディミル・ゼレンスキーが繰り返しロシアの侵攻はないと語っていたこともあって、国民はあえてリスクを忘れようとしていたのかもしれない。同じスラブ民族の国が攻めてきて、主要都市の軍事施設や空港を破壊するとは思っていなかった。
だがロシア軍は東部の主要都市ハリコフを襲い、1986年に悲惨な事故を起こしたチェルノブイリ原発を制圧し、あっという間に首都キエフに迫っていた。テレビで見る限り、それは2003年にアメリカがイラクに仕掛けた「衝撃と畏怖」作戦の再現だった。
あの日、プーチンは一瞬にして、冷戦終結後のヨーロッパにおけるNATO(北大西洋条約機構)主導の安全保障秩序を破壊した。
多くの軍事アナリストは、キエフが陥落すればロシアは政治的解決に動き、親ロシアの傀儡政権を樹立して軍事行動を停止するとみている。プーチンの考え方からすれば、それだけで十分に西側諸国の面目をつぶせるからだ。
そう、アメリカ主導のNATO陣営に屈辱を味わわせる。それがプーチンの狙いなのだろう。
もちろん、ウクライナはまだNATOの一員ではない。だが旧ソ連の構成国でNATOに加盟した国はたくさんある。これ以上に増えるのは困る。そう思うから、プーチンはここで勝負に出た。
外交専門誌「ロシア・イン・グローバル・アフェアーズ」の編集長フョードル・ルキヤノフによれば、プーチンはソ連崩壊後の東欧の現状を「決して受け入れていない」。
そして「ソ連崩壊後のロシアは(西側から)二流国扱いされてきたと思い込んでいる」。
西側の外交官や情報機関は今、プーチンが親欧米のゼレンスキー政権を倒し、自分に忠実な新政権を据えるつもりだとみている。
元エストニア大統領のトーマス・ヘンドリック・イルベスが言うとおり、プーチンは「現代の皇帝」気取りだ。
「皇帝」プーチンとNATO陣営の力関係は大きく変わる
実際、そうなる日は近いかもしれないと、米情報機関の当局者は本誌に語った。ウクライナ全土を軍事力で占領しなくても、プーチンは現代版ロシア皇帝になれる。
イルベスも、「プーチンが欲しいのはベラルーシのような傀儡政権だ」と言う。北のベラルーシに加えて南のウクライナも思いのままに操れるようになれば、「皇帝」プーチンとNATO陣営の力関係は大きく変わるだろう。
こうした見方はウクライナ国内にもあるようだ。
駐米ウクライナ大使館から提供された大統領顧問ミハイロ・ポドリャクの声明によると、「ウクライナ大統領府は現在、ロシアには2つの戦術的目標があると考えている。まずわが国の領土の一部の掌握と、わが国の合法的な政権を倒して国内の混乱を拡大する。そして操り人形をトップに据えてロシアとの平和協定を結ばせることだ」。
アメリカ政府は近年、アジアに軸足を移し、中国の封じ込めに注力してきたが、これでいや応なく東欧に引き戻された。
言うまでもなく、ここでは長年にわたり血みどろの戦いが繰り返されてきた。そして今、プーチンは旧ソ連の歴代指導者並みに世界の注目を集めている。
ウクライナ侵攻初日の2月24日、プーチンはテレビ演説で言ったものだ。「(ウクライナに)干渉しようとする者は心得ておけ。ロシアは直ちに反撃し、かつて諸君が経験したことのないほどの結果をもたらすだろう」と。
その後、プーチンは核戦力部隊に臨戦態勢に入るよう命じ、その本気度を見せつけもした。
こうしてロシアは再び世界の注目を浴びる存在となり、その軍事力の行使により、大国ロシアの健在をアピールしている。プーチンの思惑どおりだ。
プーチンは信じている。ロシアは常に世界中から尊敬される存在であるべきで、それがかなわぬなら、(前出のルキヤノフの言を借りれば)「恐怖で世界を支配する」しかないと。
実際、ここまでは筋書きどおり。NATO元事務次長のローズ・ゴッテモラーがCBSのポッドキャストで言ったように、「今のプーチンは得意満面」のはずだ。
軍事侵攻が始まると、アメリカとその同盟諸国は直ちに強い経済制裁を発表したが、その効果は不透明だ。
西側からロシアへのハイテク製品輸出の半分以上が止まり、確実に「ロシアの産業力は低下」すると、ジョー・バイデン米大統領は言った。プーチンの取り巻きとされる人物の経営するロシア第2位の銀行VTBの海外資産も凍結した。
経済制裁などは「言い方は悪いが、屁でもない」
その後も追加的な制裁を繰り出し、国際的な金融取引のシステムからロシアを実質的に排除する手も打った。
だがプーチンは動じない。ロシアには6300億ドル以上の外貨準備があるし、石油と天然ガスの輸出で毎月140億ドルも稼いでいるからだ。
ロシアの駐スウェーデン大使ビクトル・タタリンツェフが侵攻直前に語ったように、西側陣営の経済制裁などは「言い方は悪いが、屁でもない」のかもしれない。
一方のバイデンは侵攻初日の演説で、これでプーチンは自ら墓穴を掘ったことになると断じた。「歴史には先例が山ほどある。領土を奪うのは簡単でも、占領の継続は苦しい。大規模な市民的不服従が起き、戦略的に行き詰まる」
実際、今のウクライナでも多くの市民が即席の軍事訓練を受け、ロシア兵と戦う「領土防衛機関」に加わっている。
だがアメリカでも、情報機関の専門家はバイデンほど強気でも楽観的でもない。
ある当局者は本誌に、オフレコを条件に言ったものだ。「ひとたびキエフの政府が倒れたら、こちらが軍事支援をしたくても、その受け皿となる勢力がウクライナには存在しないだろう」と。
そうまで悲観的になるのは、プーチンには過去の「実績」があるからだ。例えば、もう20年以上も前のチェチェン紛争でやった焦土作戦を見ればいい。
この当局者は言う。「抵抗運動を組織するというのは非現実的だ。こちら側の人間と違って、(プーチンは)人命など尊重しない。だから(彼の軍隊は)いかなる抵抗勢力も全滅させる」
そのとおりだ。アメリカはベトナムやイラクで地獄を見たが、ロシアがウクライナでそうなると信ずる根拠はない。
ロシア軍最高司令官としてのプーチンはチェチェンで、抵抗するイスラム教徒を惨殺した。2008年には旧ソ連構成国のジョージアの2つの地方に軍を送り、力ずくで奪い取った。2014年にはウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、ロシア系住民の多い東部ドネツク州とルガンスク州で反乱を起こさせた。
アメリカとロシアの双方が首を突っ込んだ中東シリアの内戦はどうなったか。
アメリカのオバマ政権(当時)は反政府勢力を支援したものの、シリアのバシャル・アサド政権が反対派への攻撃に毒ガスを用い、いわゆる「越えてはならない一線」を越えたとき、実力行使には出なかった。
対するプーチンは、アサド政権の存続という明快かつ単純な目標を掲げ、迷わずロシア軍を送り込んだ。おかげでアサドは今も大統領だ。
プーチンの怒りは、私たちの想像以上に多くのロシア国民が共有している
さて、今度のプーチンの最終目標は何か。
アメリカの保守系シンクタンク「ハドソン研究所」のピーター・ラフに言わせると、プーチンは自分の祖国に対する西側陣営の「不当な」仕打ちへの怒りに燃え、報復しようと考えている。
プーチンはソ連時代に、諜報機関KGB(国家保安委員会)に所属していた。そのソ連は1991年に崩壊し、国内は混乱状態に陥った。そのときプーチンは、祖国が外国勢に裏切られたと感じた。
ソ連の悲惨な末路は「20世紀最大の破滅的な地政学的事件」だったと、かつてプーチンは語っている。つまり、2000万のソ連国民の命を奪った第2次大戦よりもひどい出来事だったという認識だ。
実際、ソ連崩壊後にあの国で起きた不幸な事態に対するプーチンの怒りは、私たちの想像以上に多くのロシア国民が共有している。
筆者は2000年代前半に本誌のモスクワ支局長だったから、あの国の経済が犯罪者に乗っ取られ、国家財政が破綻に向かう様子を目の当たりにした。政府は軍人にさえ給与を払えなかった。
極東のカムチャツカ半島で現地の陸軍大佐に取材したときのこと。彼は涙ながらにこう訴えた。もう何カ月も給料をもらっていない、だから妻の誕生日プレゼントも買えなかったと。
ロシア初の自由選挙で大統領に選ばれたボリス・エリツィンは、当初こそ英雄視されたが、その後は酒に溺れ、腐敗した取り巻き集団が私腹を肥やすに任せた。そして20世紀最後の日に辞任を余儀なくされた。
後を継いだのが、ほんの数カ月前にエリツィンに取り立てられて首相代行に就いていたプーチンだ。
あれから22年。プーチンは2月21日に国民に向けて長さ55分という異例の演説を行い、恨みつらみを吐き出した。それが侵攻の前触れだった。
プーチンは言った。「ウクライナはよその国ではない。......ウクライナ人とロシア人は兄弟であり、一心同体」だったのに、ソ連の崩壊に伴って、母なるロシアから無理やり引き裂かれた。
これがプーチン流の、そして国内受けする歴史解釈だ。
西側はNATOの東方不拡大という約束を守らなかったという不満も口にした。
2000年に、クリントン米大統領(当時)にロシアのNATO加盟は可能かと尋ねたところ、実に冷たくあしらわれたという。NATOが東方に拡大し、旧ワルシャワ条約の加盟諸国まで含むようになれば、「それら諸国と私たちの関係は改善され、ロシアは友好的な国々に取り巻かれることになるだろう」。クリントンはそう言ったと、プーチンは苦々しく回想してみせた。
そして「現実は真逆。口先だけだった」と吐き捨てた。
まずはウクライナ、次にベラルーシ、さらにバルト3国
だから復讐したい。徹底したナショナリストであるプーチンの描く夢は、新たなロシア帝国とその勢力圏の形成だ。
ソ連時代ほど広くなくていい。たいていの人がロシア語を話せて、東方正教会の信徒で、昔はキエフを、その後はモスクワを政治・文化・信仰の中心と見なしてきた国々を結集できれば、それでいい。
具体的には、まずはウクライナだ。そして今でも事実上の属国に等しいベラルーシ。さらにバルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)も帝国に加えたい。
プーチンは侵攻前の演説で、バルト3国のソ連からの離脱を許したのは「狂気の沙汰」だったと言い切っている。
それを聞いているから、アメリカは急いでNATOの部隊と武器を追加でバルト3国に送ることにした。この先も部隊の増強は続くだろう。
既にバイデン大統領は、同盟国の1つにでも攻撃があれば、迷わずNATO憲章第5条に基づく集団的自衛権を行使すると明言している。つまりバルト3国や、ウクライナと国境を接するポーランド、ルーマニア、ブルガリアなど、旧ワルシャワ条約機構の構成国で今はNATOに加盟している諸国にプーチンが攻め込んだ場合、NATO全体がロシアとの戦争状態に入る。
プーチンには、ウクライナ侵攻でNATOの団結を揺さぶる意図があったと思われる。かつて国防総省の情報局副長官だったダグラス・ワイズに言わせれば、「同盟国間の亀裂を深め、既存の摩擦や不一致を固定化する」狙いがあった。
また西側諸国の指導者や組織は、ロシアによる軍事侵略に対抗する効果的かつ現実的な選択肢を示せなければ恥をかくことになるが、それもプーチンの望むところだろう。
大胆不敵なウクライナ侵攻で、プーチンが国内で何を手にするつもりなのかは今のところ不明だ。しかしNATOの結束を揺るがすことが目的だったとすれば、それは失敗に終わったと言える。
ドイツを見ればいい。ドイツはロシアとの貿易関係が深く、ロシアに対しては弱腰だとみられていた。実際、今回も当初はそんな感じだった。
例えば、エストニアが自国の保有する古い榴弾(りゅうだん)砲をウクライナに譲ろうとしたときのこと。
NATOの規則では、非NATO加盟国に武器を譲渡・販売する場合は、その武器の原産国の承認を得なければならない。だがこの榴弾砲の原産国は旧東ドイツで、既に存在しない。しばらくは東西統一後のドイツが管理していたが、やがてフィンランドを経由してエストニアに譲渡されたものだ。
エストニア政府はこれを、ウクライナの防衛力強化の足しになればと思って譲ろうとしたが、ドイツ政府が反対した。
ドイツはもう、ロシアに対して「弱腰」ではない
ドイツ政府はまた、ドイツとロシアを結ぶ最新の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」事業の停止に難色を示していた。このときドイツの駐米大使が本国に公電を送り、同盟国としての評判が落ちると訴えたのは有名な話だ。
きっとプーチンは、ロシアのガス政策が効いたと、ほくそ笑んだに違いない。だが、その後、事態は急転した。
2月7日にワシントンを訪問したオーラフ・ショルツ独首相は、首脳会談後の共同記者会見でバイデンが「ロシアがウクライナに対して軍事行動を起こしたら、ノルドストリーム2は消滅する」と断言するのを黙って見守った。
そして2月24日に軍事侵攻が始まる直前、ドイツ政府は総工費110億ドルを投じたこのプロジェクトの承認手続きを停止した。その数日後には対戦車兵器と地対空ミサイルをウクライナに供与すると発表し、紛争地域への武器輸出はしないという長年の政策を捨てた。
ドイツはもう、ロシアに対して「弱腰」ではない。
2月末にかけて、EUとアメリカはさらに踏み込んだ手を打った。ロシアの複数の大手銀行を国際金融の決済システムSWIFTから追放することを決めた。資金面でロシアの首を絞める作戦だ。
ロシアの中央銀行にも新たな制裁を科し、6300億ドルに上るロシア政府の外貨準備を実質的に凍結した。
この措置の効果はすぐに表れ、通貨ルーブルは対米ドルで急落した。通貨を買い支えるため、ロシア政府は金利を9.5%から20%に引き上げざるを得なくなった。
ウクライナ侵攻はNATO内部の亀裂を深めるどころか、逆効果だった。元CIA長官のデービッド・ペトレイアスは、「同盟がこれほど強く結束したのは、私がNATO本部に勤務していた冷戦時代以来だ」と述べている。
しかしウクライナはNATOの加盟国ではない。だから集団的自衛権の対象にならない。ロシア軍の侵攻が進むなか、ウクライナのある議員はNATOに飛行禁止区域の設定を要請したが、もちろん断られた。
ウクライナが西側の一員になれる日は遠のいた。
ロシア軍はキエフに迫り、遠くから巡航ミサイルを撃ち込んでいる。軍事力でロシアが負けるわけがない。アメリカを含む西側諸国は全て、ウクライナに兵を送ることはないと明言している。
軍事アナリストの予想が当たるなら、この戦争は長くは続かない
多くの軍事アナリストの予想が当たるなら、この戦争は長くは続かない。
停戦交渉でウクライナが領土の一部をロシアに譲り、キエフに親ロシア派の政権ができれば、プーチンは軍隊の少なくとも一部を撤退させる。
そうすれば、かつてアメリカがアフガニスタンで経験したような泥沼にはまらずに済む。しかも彼は、宿敵NATOに痛烈な仕返しをしたと誇ることができる。
ウクライナを乗っ取ったプーチンが、それでロシア帝国復活の野望は果たせたと満足すればいい。
もしそうでなければ、遠からず世界の二大核保有国は互いのミサイルを撃ち合うことになる。その後の事態は考えたくもない。
だからこそバイデンは、その言葉と行動でプーチンに必死のメッセージを送っている。ここまでだ、これ以上は許せないぞと。
その思いがプーチンに通じることを、今は祈るしかない。
●プーチンが「暗殺」されたら即発射か…ロシア「核報復システム」の危ない実態 3/9
世界中の誰もが現実に目を向けなければならない。ウクライナ侵攻によって、「核戦争」の勃発は着実に近づいている。一度始まってしまえば日本人も逃れることはできない。そのとき、何が起きるのか。
これほど立て続けに世界各国の予想を裏切る男がいただろうか。ロシアのプーチン大統領だ。
まさかクリミアを併合するはずがない、まさかウクライナに全面侵攻をするはずがない、まさか市街地に爆弾を落とすはずがないー。ウクライナの戦況を見れば誰もがわかるように、甘い期待はすべて覆された。
今のプーチン大統領に「まさか」は通用しない。私たちが想像しうる中で、もっとも最悪の事態を彼なら起こすかもしれない。つまり、核兵器を使った「全面核戦争」だ。
そして、それは十分にありえる。なぜならプーチン大統領は、己を見失いかねないほど追い詰められているからだ。ウクライナ戦争がどうなろうが、プーチン大統領の命運は尽きたと言える。
このまま欧米諸国からの経済制裁が続けば通貨ルーブルは急落し、ロシア経済は確実に破綻する。国内での立場が危うくなれば、後がなくなったプーチン大統領が核使用という常軌を逸した判断を下す恐れが出てきた。
「良心や常識が欠如した独裁者は、自分が失脚するくらいなら全世界を巻き込んで道連れにしようと考えます。プーチン大統領なら、そんな非合理的な決断をしても不思議ではありません」(ジャーナリストの常岡浩介氏)
仮にプーチン大統領がそこで何とか自制したとしても、「核」の危機は去らない。
「今回の大失態により、ロシア国内ではプーチン大統領に対する不満が急速に高まっている。起こりうるのは『暗殺』です。
米国の情報機関はロシア政府内に異変が起きつつある兆候を察知している。プーチン大統領が『除去』される可能性もあるのです。しかし、これが核の封印が解かれるきっかけになりうる」(防衛省関係者)
なぜならロシアでは「死の手」と呼ばれる核報復システムが稼働しているからだ。
「『死の手』は、人為的な操作をせずとも自動的に核を敵に浴びせられる自動制御システムです。冷戦中の'85年、敵国からの核攻撃を想定した旧ソ連軍が、確実に報復攻撃を行えるようにするために運用が始まりました」(軍事評論家の菊池雅之氏)
今なおロシアを守り続ける「死の手」は、何度も改良を経ている。運用開始当初は人間が発射ボタンを押す必要があったが、現在は司令部の非常事態を認識したAIが核使用の判断を下す。
その判断材料の中には、最高意思決定者の不在、すなわちプーチン大統領の死も含まれている可能性が高い。
彼の死を国家の存続危機だと判断した「死の手」が、ロシア各地に配備されている約1600もの核ミサイルを一斉に発射するのだ。
アメリカと安全保障体制を築く日本は「敵国」として標的に組み込まれている。これは、すでにロシアが日本に対して不穏な動きを見せていることからも明らかだ。
3月2日には北海道・根室半島沖でロシア機と見られるヘリコプターが日本の領空を侵犯した。
「ここ最近、トヨタの関連会社など日本にある多くの企業がサイバー攻撃を受けたと発表しています。経済制裁に参加を表明した日本に『牽制』をかけるため、ロシア政府が裏で動いている可能性は高いのではないか」(経済評論家の加谷珪一氏)
'18年にプーチン大統領は、年次教書演説でロシアが保有する数々の兵器について紹介している。中でも、最新型の超巨大ICBM(大陸間弾道ミサイル)の比類なき性能は、各国に衝撃を与えた。
射程は1万1000km以上、最大16個の核弾頭が搭載可能で最大速度はマッハ20という極超音速のため、アメリカや日本のミサイル防衛網は無力化される。
「10発でアメリカの全国民を殺害する威力がある」という試算結果もあり、まさに最終兵器というにふさわしい。このICBMの名は「サルマト」といい、ロシアは2021年ごろから配備を開始していると見られている。
それだけではない。さらに恐ろしいのは、サルマトに搭載されマッハ20で飛行し、高度100kmほどの高度を、探知しにくい軌道で飛んでくる極超音速滑空兵器(HGV)「アヴァンガルド」だ。
日本に向け発射されるミサイルの中に、「サルマト」や「アヴァンガルド」のような極超音速で飛ぶ核兵器が搭載されている可能性は高いと専門家は言う。そんな最悪なシナリオが現実になったら、影響範囲はどのくらいにまで及ぶのだろうか…? 後編記事『プーチンが狙う「日本の大都市」の名前…核ミサイル爆撃で起こる「ヤバすぎる現実」』で詳しく解説する。
●崩れゆくウラジーミル・プーチンの「要塞ロシア」 3/9
ロシア市場の大混乱は経済的な「独立独行」が不可能なことを証明している。ロシアによるウクライナ侵攻に続き、経済戦争が勃発した。西側陣営は過去に例のない制裁を導入した。投資家はできる限り早く、ロシアの資産を処分している。通貨ルーブルの価値は年初来で3分の1も目減りした。ロシア政府は近くデフォルト(債務不履行)するかもしれない。コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスは、ロシアのインフレ率が遠からず15%に達し、今年の国内総生産(GDP)が5%縮小すると予想している。
混乱した現代史の産物
ロシア市場の混乱ぶりに不意を突かれた人は少なくない。
ウラジーミル・プーチン大統領は何年も前から、西側諸国の政府が何をしてきても容易に耐えられるようなロシア経済の防衛体制構築に取り組んでおり、成功したと思われていた。
資産運用会社ブルーベイ・アセット・マネジメントのティモシー・アッシュ氏が「要塞ロシア」戦略と名付けたものだ。
ふたを開けてみると、この戦略は失敗だった。「要塞ロシアから瓦礫(がれき)のロシアに1週間で早変わりだ」とアッシュ氏は言う。
要塞ロシアはこの国の混乱した現代史の産物だった。
1991年のソビエト連邦崩壊後、インフレ率は2000%を突破した。1998年にはロシアがデフォルトし、ルーブルの価値が3分の1以下に暴落した。
そして2014年には、原油価格の急落がクリミア半島とドンバス地方での活動に対する国際制裁と重なり、ロシア経済は深刻な不況に陥った。
フィオナ・ヒル氏とクリフォード・ギャディ氏が2015年刊行の共著『Mr Putin: Operative in the Kremlin(ミスター・プーチン:クレムリンの黒幕)』で示しているように、プーチン氏の悲願はロシアを独立独行させることだった。
ところが2014年以降、そのイデオロギーは過熱状態になり、二度と西側にロシア経済を支配させてなるものかとプーチン氏が躍起になった。
プーチンが目指した要塞
要塞ロシアの概念の骨子はこうだった。
まず経済面では、石油・ガスという価格変動の激しいコモディティー中心の経済を多角化させる。西側の技術や貿易への依存度も低下させる。
金融面では、対外債務を削減する。金融・財政政策の両方を引き締め、巨額の外貨準備高を蓄えられるようにする。
外貨準備が豊富にあれば、危機時にルーブルを防衛できるし、ひいきの企業に外貨を流せるからだ。
この戦略はそれなりに成功を収めている。まず経済面から見てみよう。
ロシアの炭化水素への依存度はいくぶん低下している。2019年に石油で得た利益は国内総生産(GDP)の約9%相当で、プーチン氏の大統領就任時の約15%より小さくなった。
オリガルヒ(新興財閥)は今でも並外れた力を持ち、ロシアの富のかなりの部分を支配しているが、その影響力の拡大は止まったように見える。
2000〜19年には、生産性の伸びがほとんどのセクターでお粗末なレベルにとどまる一方、ロシアのサービス産業はGDP比で7%拡大した。
一部の分野では、ロシアは西側の技術とは独立した形で動く技術を開発した。
ロシアの決済システム「ミール」は2020年に国内カード決済の25%を占め、5年前のゼロから急拡大を遂げた。
世界銀行のデータからは、「ハイテク」に分類されるロシアの輸入のシェアが急激に縮小していることがうかがえる。
過去10年間で、欧州からロシアへの最新機器の輸出は停滞している。ロシア以外の国や地域への輸出が伸びているのとは対照的だ。
壁に開いた大きな穴
だが、要塞の壁には大きな穴が開いている。
まず、ロシアは西側の思想や技術のサプライチェーンにしっかり絡め取られている。
長期投資(例えば企業の経営権や新工場の建設など)のストックに関する2国間のデータを本誌エコノミストが分析したところ、ロシア経済は10年前よりも西側への依存度を若干高めている。
ロシアの輸入品の約30%は主要7カ国(G7)からもたらされており、この割合は2014年とほとんど変わらない。
半導体製造やコンピューターなどのように米国製部品に完全に依存している産業もある。
制裁対象になったロシア系銀行のカードは、もうアップルペイやグーグルペイでは使えない。おかげで2月28日には、モスクワの地下鉄で回転式改札を通過できない人が出て混乱した。
それ以上に驚かされたのは、ロシアの金融市場の混乱ぶりだ。
何しろロシアは2022年までに過去最大の6300億ドル(GDPの約40%に相当)もの外貨準備を積み上げ、米ドルから多角化していた。
外国人からの外貨建ての借り入れも、2014年以降は大幅に減らしていた。
だが、ロシアは今も外国人投資家に依存している。
外国人が保有するロシアの短期資産(銀行ローンや株式を含む)の対GDP比は他の新興国のそれとほぼ同じで、2014年以降ずっと安定している。
従って経済制裁が発動されなくとも、投資家が脱出を図る際にはロシアの資産に強大な下落圧力が加わる。
外貨準備も、使えなければ無価値
おまけにロシアは常に、ルーブル防衛のために外為市場にアクセスできると考えていた。
確かに、完全に切り離されたわけではない。ロシアのエネルギー輸出は概ね西側の禁止措置を免れたため、いくらかのドルは流入し続ける。
だが、制裁のせいで、ロシアの外貨準備の65%は事実上無価値になった可能性がある。
残りの35%は金と中国人民元で、米ドルやユーロの市場でのルーブル防衛には使えない。
ロシアの困難は時が経つとともに増大の一途をたどるだろう。
国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除は貿易に打撃を与える。ロシアを後ろ盾にしたSPFSという決済ネットワークもあるが、SWIFTとの差はかなり大きい。
さらにロシアは輸入代金の3分の1の支払いで米ドルを必要としており、ドルの入手が突然難しくなったことで問題が生じている。
「脱ドル化」が進展している中国からの輸入でさえ、取引の約60%はまだドル建てだ。
神の試練
問題は、このような状況をプーチン氏が本当に気にかけているか否かだ。
万一、オリガルヒの一部が思い切って声を荒げたりすれば、彼らを怒らせるようなことはしたくないと思うかもしれない。
だが、ヒル、ギャディ両氏の著作によれば、プーチン主義の中核にあるのはサバイバリズムであり、経済戦争は自分の力が試される機会だと受け止められる。
重要なのは痛みだ。
「この物語では、ロシアは生き残るために敵対的な外の世界と常に戦っている」と両氏は言う。
「歴史から得られる最も重要な教訓は、国家としてのロシアが必ず、何らかの形でずっと生き延びてきたということだ」
ロシアは深刻な不況に直面している。
だがプーチン氏は折れるどころか、ロシアを外の世界から切り離す試みをさらに強化してくるかもしれない。
●CIA分析 プーチン大統領は「不満と野心交じり 長年いらだち」  3/9
アメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったロシアのプーチン大統領について「深い個人的な信念に基づいて、ウクライナを支配しようと決断している。不満と野心が交じる中、長年いらだちを感じていた」と分析しました。
そのうえで「プーチン大統領は助言する側近たちの輪をどんどん小さくしていった。新型コロナウイルスの影響でその輪はさらに小さくなった」と述べ、プーチン大統領は新型コロナの感染対策でモスクワ郊外の公邸に引きこもるなどして側近に幅広い意見を求めなくなった結果、偏った判断につながったという見方を示しました。
また「大統領の判断に疑問や異議を唱えると、昇進できないシステムを作り上げた」とも指摘しました。
さらにバーンズ長官は、ウクライナ側の激しい抵抗が続いているほか、欧米が結束してロシアに厳しい経済制裁を科していると指摘したうえで「プーチン大統領は怒っていると思う。市民の犠牲を顧みず、ウクライナ軍を押しつぶそうとするだろう」と述べ、ロシア軍が攻勢を強め、市民の犠牲が一層増えることに強い懸念を示しました。
●ウクライナ 市民避難進むか不透明 「避難ルートに砲撃」主張も  3/9
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、ロシアとウクライナの合意に基づき、北東部の都市から市民の避難が始まりました。しかしウクライナ側は他の避難ルートでは攻撃が続くなど安全が保たれていないと批判していて、市民の避難が進むのか先行きは不透明です。
ロシア軍はウクライナ各地で攻勢を続けていて、国連人権高等弁務官事務所は7日までに子ども29人を含む少なくとも474人の市民の死亡が確認されたと明らかにし、犠牲が広がっています。
ロシア国防省は首都キエフなど5つの都市で8日、避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。
北東部のスムイからウクライナ中部のポルタワに移すルートでは避難が始まり、ロシア国防省はその後723人が脱出したと明らかにしました。576人がインド人、115人が中国人だということで、友好関係にある中国やインドに配慮した可能性もあるとみられます。
スムイの行政の責任者はウクライナのメディアに対し、これまでにおよそ3500人の市民が避難し、このうちおよそ1700人が留学生だと明らかにしました。
一方、多くのほかの避難ルートについてロシア国防省は「ロシアに到着するほとんどのルートをウクライナ側が断固として拒否している」としてウクライナ側を批判しました。
ウクライナ側は、一部のルートではロシア軍が停戦措置を守らずに砲撃を行っていると主張するなど多くのルートは安全が保たれていないと批判していて、市民の避難が進むのか先行きは不透明です。
停戦に向けた交渉をめぐってロシアのラブロフ外相は8日、双方の代表団による4回目の協議を速やかに行いたい意向を示したほか、今月10日にはトルコの仲介でウクライナのクレバ外相と3者会談を行うことにしています。
ただプーチン政権はウクライナの「非軍事化」や「中立化」を要求する原則的な立場を変えておらず、厳しい交渉が予想されます。
「安全ではないと言われた」
ロシア側が設置した避難ルートの1つとなっている北部チェルニヒウに住む男性は、このルートについては避難が困難だという見方を示しています。
チェルニヒウに住むオレクシー・ムツキーさんはNHKの取材に対し「一時多くの人が避難しようとして車が大渋滞となっていたが、避難しようとした友人はウクライナ兵から『攻撃が続いていて安全ではない』といわれた」として、友人が避難できなかったことを明らかにしました。
避難先がロシアやベラルーシになっていることについては「私は安全だと思えないので、行きたいとは思わない」と話していました。
ムツキーさんは、照明をつけると攻撃対象になるとして、外に明かりが漏れないよう風呂場で取材に応じました。
先月には近くの集合住宅が攻撃を受けた影響で自身が暮らす建物の窓も割れたということで「ロシア軍は市民を含むすべての人を標的にしている。私たちを怖がらせ、冷静さを失わせるためだ」と非難しました。
夜間は外の気温が氷点下となる中、地下のシェルターでマットレスを敷いて寝ているということで「地下シェルターは暖房がないので、上着を着たうえでフードをかぶって寝ています。とてもほこりっぽく、よく眠ることができません」と厳しい生活を強いられていることを明らかにしました。
赤十字「状況は悪化している」
市民の避難を支援しているICRC=赤十字国際委員会の広報官は8日、本部のあるスイスのジュネーブで国連とともに開いた記者会見で「われわれは人道的な避難ルートを作るため当事者間の対話を促そうと必死に努力しているが、状況は悪化している。特にマリウポリでは数十万の人々が悲惨な状況にある」と述べ、ロシア軍の激しい空爆などが続いている東部の要衝マリウポリで、食料や水、それに医薬品が足りなくなっていると明らかにしました。
そのうえで、マリウポリなど避難ルートが設置される地域で一時的な停戦を確実に実施することなどを訴えました。
●ウクライナ危機に日本外交は戦争は想定できたのか 3/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。戦闘はやまず、犠牲者は増え続けている。今世紀最大の危機とも言われる事態。日本はどう向き合い、対応していこうとしているのか。外交の最前線から報告する。
危機のきざし
不穏な動きは、去年11月ごろからあった。ロシアが軍事演習として、ウクライナとの国境付近に部隊を展開し始めたのだ。いわゆる西側諸国による軍事同盟、NATO=北大西洋条約機構への加盟を目指すウクライナ。これに対し、旧ソ連時代は1つの国だったウクライナを“兄弟国家”と呼び、加盟を阻もうとするロシアとの間で対立が生じ、ヨーロッパを中心に国際社会で緊張が続いていた。
このころの外務省。当然、さまざまな外交チャンネルを通じて、現地の情勢は把握していたが、緊迫感は表面化していなかった。むしろことしの年明け以降に相次いだ、北朝鮮による弾道ミサイルなどの発射を受け、東アジア情勢に目が注がれていた。
一気に警戒ムードに
そんなムードが一変したのは、ことし1月末だ。年末年始にかけて、欧米各国とロシアの首脳らによる会談が重ねられるなど、外交交渉が続けられたが、いずれも難航。
1月21日に行われたアメリカのブリンケン国務長官と、ロシアのラブロフ外相との対面での会談も、最後は決裂に終わった。
この3日後の1月24日。アメリカが、ロシアはウクライナへの軍事行動を計画し、治安状況が悪化するおそれが高まっているとして、首都キエフのアメリカ大使館から職員の家族らを退避させることを明らかにしたのだ。
「軍事行動を計画」
外務省幹部は、取材に対し、こう語った。「本当に軍事侵攻という事態になれば、国際秩序の根本を揺るがすものになる。最悪の事態への備えが、外務省の喫緊の課題となってくる」
外務省内の警戒ムードが一気に高まったのを感じた瞬間だった。
まず動いたのが在留する日本人の保護だ。当時、ウクライナには、およそ250人の日本人がいた。アメリカが大使館の職員の家族らの退避を明らかにした1月24日。日本もウクライナ全土で「危険情報」を2番目に高いレベル3に引き上げ、すべての日本人に商用機などが運航している間に出国するよう強く促し始めた。
事態は日増しに緊迫化
なんとか武力衝突は避けてほしい。事態は、そうした国際社会の思いを裏切る展開をたどる。
アメリカは、今回、ロシアが侵攻を計画していることや兵力、標的などといった、いわゆるインテリジェンス情報を積極的に公開する異例の対応をとった。機密情報をあえて公にすることで、相手側の機先を制し、行動を抑制しようという狙いがあったとされる。
これに対し、ロシアは「戦争する計画も意図もない」などと、部隊の展開は演習のためと反論。また、アメリカが、軍事侵攻には制裁を科すことをちらつかせれば、ロシアも対抗措置をとる構えを見せ、事態は抑制どころか、日増しに緊迫していった。
このとき、日本外交は。
1月21日に、岸田総理大臣が、アメリカのバイデン大統領とオンライン形式で会談し、ウクライナ情勢をめぐって、いかなる攻撃に対しても強い行動をとることで一致した。ロシアが本当に軍事侵攻した場合に、どんな制裁オプションをとりうるか。水面下で、外務省を中心に、政府内のシミュレーションが本格化した。
ただ、この時期、日米首脳会談以外に、日本がヨーロッパ各国やロシアとのハイレベルで、表立って対話を試みる姿は見られなかった。なぜなのか。
外交関係に詳しい与党議員たちからは、こんな声が聞かれた。「外務省は『ヨーロッパの問題だ』という認識で当事者意識が薄かったんだよ」「北方領土を含めた平和条約交渉や共同経済活動への影響を考えて様子見だったね」
日本も働きかけ強める
2月に入ると、4日に北京でオリンピックが開幕したが、次第に平和のムードはかき消されていった。
2月10日。ロシアが部隊を展開しているベラルーシで合同の軍事演習を開始。
翌11日には、アメリカのサリバン大統領補佐官が「五輪期間中もロシアの侵攻が始まってもおかしくない」と言及。バイデン大統領が、ウクライナにいるアメリカ人に退避を呼びかけた。
このとき日本では。11日に、外務省は「危険情報」を最も高いレベル4に引き上げ、在留する日本人に直ちに国外に退避するよう呼びかけを始めた。
これに伴い省内に森事務次官をトップにした対策室を立ち上げ、邦人保護対策などをいっそう強化することになった。それまでの呼びかけもあり、このとき、在留する日本人はおよそ150人まで減っていた。
このころになると、自民党から「外交で日本の姿が見えない」という批判が公然とあがるようになっていた。
2月15日。岸田総理大臣は、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行い、ウクライナの立場を支持し、1億ドル規模の円借款を行うことを伝えた。
2日後の17日には、ロシアのプーチン大統領と電話会談。力による一方的な現状変更は認められないとして、外交交渉での解決を求めた。
このころから、岸田総理大臣も、ロシアが軍事侵攻すれば制裁も含めた対応をとっていくことを明確にし始めた。
本当にロシアは軍事侵攻に踏み切るのか。最後は何とか回避できるのではないか。取材する私たちは半信半疑な心境だった。
外務省内でも見方は一様ではなかった。
ある外務省幹部はこう口にした。「ロシアは『ミンスク合意』を守りたいと思っている」「ミンスク合意」は、かつてロシアとウクライナとの間で結ばれた停戦合意。これをほごにすることは考えにくいという見立てだ。
一方、別の幹部はこう話した。「最悪の事態を想定しておいたほうがいい。武力侵攻が起きる可能性は十分ある」
そして、Xデー
なんとか平和裏に解決してもらいたい。そうした期待はあっけなく裏切られた。
2月21日。プーチン大統領は、ウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認。「平和維持」を目的に部隊派遣を指示した。
そして24日。とうとうウクライナへの軍事侵攻が始まったのだ。外務省内は、アメリカから警告が繰り返されていたこともあり、比較的、冷静な雰囲気。軍事侵攻自体は「想定の範囲内」だと受け止められているようだった。
(外務省幹部)「起こるべくして起こった」
ただ、侵攻の規模とスピードには驚きを隠せないようだった。プーチン大統領は武力侵攻に際し「ウクライナの領土を占領する目的はない」と演説。攻撃は軍事関連施設を狙ったものだと公表していた。これもあり、東部の一部地域を実効支配することにとどまるという見方もあったからだ。
しかし、実際は、ロシア軍は、ウクライナ北部や南部からも侵攻を開始。「全面侵攻」とも言える大規模な侵攻を始めた。攻撃は、首都キエフにもおよび、民間施設への被害も確認される事態になった。
(外務省幹部)「こうした事態も想定の1つとしてあったのはあった。ただ、この時代に、まさか本当にこんなことが起きるとは思っていなかった…」
日本も厳しい制裁措置
世界に走った衝撃。
侵攻当日には、G7の首脳らが緊急のオンライン会合を開き、岸田総理大臣も出席。その3日後には、外相会合も同様にオンラインで開催され、ロシアの軍事侵攻は国際法違反だとして強く非難し、連携して厳しい制裁措置を講じることを確認した。
これを受けて、日本も足並みをそろえ、ロシアの関係者へのビザの発給停止や資産の凍結、それに半導体の輸出規制など、次々と制裁措置を公表していった。
プーチン大統領個人の資産の凍結にも踏み込んだ。国家元首に直接、制裁措置を講じるのは異例で、厳しい姿勢の象徴とも言えた。さらには、SWIFTと呼ばれる国際的な決裁ネットワークからロシアの特定の銀行を締め出す措置も支持し、日本も締め出された銀行の資産凍結を行うなど、これまでにない強い措置に踏み切った。
「政府の対応は厳しいものになっている。戦後、際だって強力な措置だ」「力による一方的な現状変更は許さない。これはヨーロッパだけの問題ではない」
外務省幹部は、取材にこう語り、強い危機感をにじませた。
「力による現状変更」
このことばは、日本政府が、東シナ海などで海洋進出の動きを強める中国に自制を求める際に使ってきた表現だ。今回、ロシアの行動を認めれば、中国の動きを助長し、ヨーロッパだけでなく、アジアを含めた国際秩序も揺らぎかねないというのだ。
林外務大臣も重ねて次のように強調している。「ロシアによるウクライナへの侵略は国際法の深刻な違反であり、力による一方的な現状変更は断じて認められない。これはヨーロッパにとどまらず、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがす極めて深刻な事態だ。今回のような行為を、インド太平洋、とりわけ東アジアで許してはならない」
日ロ関係の難しさも
一方、日本が置かれた独自の立場から来る葛藤もあった。
ロシアとの間で北方領土問題を抱える日本。領土返還の実現を目指し、平和条約交渉を続けてきた。強い制裁を科せば、両国の関係が停滞し、交渉に影響が及ぶおそれがある。ただ、ロシアの侵攻は明らかに“一線を越える”ものだ。
また、日本には苦い教訓もあった。
さかのぼること8年前。2014年のロシアによるウクライナ南部のクリミアの一方的な併合。この時も、国際社会はロシアを非難し、制裁措置をとった。しかし、当時の日本は、欧米との間で制裁の強弱をめぐって足並みが乱れたと指摘された。この時の二の舞は避けたい。今回は、最終的に、できるだけ欧米諸国と足並みをそろえる方向へとかじをきった。
一方で、政府内の交渉当事者の胸中は複雑だ。北方領土問題への悪影響は避けたい。しかし軍事侵攻を許すわけにもいかない。深い葛藤が続く。
(外務省幹部)「こうした事態でも北方領土問題を解決するという日本の立場は変わらず一貫している。ただこの瞬間、同じように交渉できるかといったらできない。じゃあどうするかと言われたらその方針もない・・・難しい」
さらに強い措置は?
ロシアに対じするため、足並みをそろえた制裁措置。ただ、今後の追加制裁に向けては課題もある。その1つがエネルギー分野だ。
「サハリン1」「サハリン2」ロシアの極東・サハリンで、日本企業も参加する形で進められてきている大型の石油と天然ガスの開発プロジェクトだ。北方領土交渉をめぐる日ロ両国の経済協力を象徴する事業でもある。このプロジェクトでも、参画しているイギリスの石油大手が撤退を発表する動きも出てきている。日本企業にも撤退に同調するよう求める声が出てくる可能性も捨てきれない。
しかし、政府内では、慎重論が根強い。このプロジェクトをめぐっては、日本も石油やLNGの供給を受けていて、とりわけLNGは、日本全体の輸入量の1割を占めている。制裁によって輸入が滞るようなことがあれば、日本のエネルギーの安定供給や経済に大きな影響を及ぼすと懸念されているのだ。
(外務省幹部)「ロシアはエネルギー大国であり、日本も供給を受けている。供給が止まるとなると、非常に痛い。できるだけ、エネルギー問題には手をつけないほうがいいというのが政府の立場だ」
今後、さらにどこまで強い措置をとるのか。各国の動向と、日本経済などへの影響の双方をにらみながらの検討が続けられそうだ。
今後は…
3月に入っても、ロシアによる軍事侵攻はとまるどころか激化している。4日には、ロシア軍がウクライナ南東部にある国内最大規模の原発を攻撃し、世界を震撼させた。
現地では、これに先立つ2日、首都キエフへの攻撃が激しさを増したことを受けて、日本大使館が一時閉鎖された。外務省は、西部の都市リビウに設けた連絡事務所を拠点に、懸命に在留する日本人の退避と安全確保の支援を続けてきたが、7日には、連絡事務所に勤務する大使館員を全員、一時的に国外に移動させた。6日現在、在留する日本人はおよそ80人。隣国ポーランドの日本大使館などからリモートで、日本人の安全確保や出国支援に、最大限、取り組むとしている。また、日本は、ウクライナを支援するため、防弾チョッキやヘルメット、それに非常用の食料などを支援物資として送ることを決めた。
一方、ウクライナから避難した多くの難民への支援も課題となっている。日本も国内で受け入れる方針で、自治体とも連携し、長期的な受け入れも視野に体制整備の検討を進めるなど、人道支援を強化していく考えだ。
厳しさを増すウクライナ情勢。この先の展開はどうなるのだろうか。
プーチン大統領は、核戦力もちらつかせ「特別な軍事作戦の目的は、いかなる場合でも完遂される」と強気な姿勢を見せている。
外務省幹部はこう語った。「いろいろな情報はあるが、実際のところプーチン大統領の頭の中をみないと、全く読めない。次に何が起きるか分からない。長期戦も覚悟しつつ、最悪の事態を想定し、いろいろな準備をしておくしかない」
1日も早い停戦が望まれる中、引き続き、日本外交の力も試されている。
●日経平均は4日ぶり反発、ウクライナ情勢に配慮した金融政策は? 3/9
日経平均は4日ぶり反発。182.78円高の24973.73円(出来高概算7億1692万株)で前場の取引を終えている。
8日の米株式市場ではNYダウが184.74ドル安と4日続落。バイデン大統領によるロシア産原油禁輸計画の発表を控えた警戒感から寄り付き後下落。その後、ウクライナのゼレンスキー大統領がNATO(北大西洋条約機構)への加盟を断念する可能性を示したとの報道を受けて、停戦期待から一時買戻しが加速し大幅上昇に転じた。しかし、不透明感を払しょくできず、また、燃料価格上昇に伴うインフレ高進への懸念も重しとなり、引けにかけて再び下落した。ナスダック総合指数も-0.27%と4日続落となった。前日までの3日間で1800円近くも下落していた日経平均は、自律反発狙いの買いも入り、85.54円高でスタート。時間外取引の米株価指数先物の上昇を追い風に前場中ごろには25000円を回復。しかし、戻り待ちの売りに押され、前引けにかけては上げ幅を縮め、再び25000円割れとなった。
セクターでは空運業、ゴム製品、鉱業などが上昇率上位に並んだ。一方、電気・ガス業、精密機器、医薬品などが下落率上位に並んだ。東証1部の値上がり銘柄は全体の68%、対して値下がり銘柄は26%となっている。
本日の日経平均は反発。米国がロシア産原油禁輸計画を発表した一方、ドイツなど欧州は慎重な姿勢を示していることで、ロシアへの経済制裁を巡る目先の悪材料は一先ず出尽くしたとの見方が強まったもよう。また、ウクライナがNATOへの加盟を断念する可能性を示唆したことで、停戦期待が高まったことも支援要因となった。
しかし、ウクライナでの戦闘は止んでいない。停戦のためには、ロシアのプーチン大統領はウクライナに「中立化」とは別に「非軍事化」も必要と求めているが、これが満たされる可能性は低い。ロシアと西側諸国の間の隔たりは依然大きく、予断は許さない。WTI原油先物価格も1バレル=125ドル台と高止まりしており、市場は先行き警戒感を解いていない様子。日経平均も25000円回復を維持できず、反発よりも上値の重さが印象付けられる。このまま戻りが鈍いと、逆に戻り待ちの売りを誘いやすくなろう。
期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は8日、2.90%と前の日から0.13ptと大幅に上昇し、連日で過去最高を記録した。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は3月15-16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25ptの利上げを支持している。しかし、市場はウクライナ情勢を巡るロシアへの経済制裁の長期化や、世界経済のブロック化によるグローバル化の逆戻り、これらに伴うインフレ高進の長期化などを警戒しているようだ。
また、3月FOMCでの0.25ptの利上げでは足元のインフレ沈静化には焼け石に水とみているもよう。ビハインド・ザ・カーブ(後手に回る)に陥ったFRBが将来、大幅な利上げを強いられる可能性などを懸念しているようだ。本日の東京市場でも、名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利が一段と低下しているが、マザーズ指数は続落しており、東証1部の主力グロース株も軟調なものが散見される。
明日10日には欧州中央銀行(ECB)の定例理事会が開催される。今年に入ってから、利上げに消極的だったECBが年内の利上げの可能性を排除しない姿勢へと大きく転換してきたが、ウクライナ情勢を受けた景気減速懸念が強まるなか、そうした姿勢に変化があるのかが注目される。足元でスタグフレーション(景気後退と物価高の併存)リスクが高まっているなか、仮に再び利上げなど金融引き締めに慎重な姿勢が示されれば、短期的には株式市場に安堵感をもたらす可能性がある。しかし、上述したFRBのようにビハインド・ザ・カ−ブに陥るリスクもあり、長期的な視点からみれば、手放しで喜べることでもないだろう。
後場の日経平均は25000円手前に上値の重い展開となりそうだ。ウクライナ情勢を巡る不透明感がくすぶるなか、明日10日には上述のECB定例理事会のほか、米2月消費者物価指数(CPI)が発表予定。3月FOMC前の最後の物価関連指標ということもあり、注目度も高い。積極的な買いに転じる材料がほとんど見当たらないなか、戻り待ちでじりじりと値を下げる展開が想定されよう。
9日午前のアジア市場でドル・円は小じっかりとなり、115円半ばから後半に上昇した。ウクライナ情勢の不透明感は続くものの、過度な懸念は一服し、日経平均株価は反発。米株式先物もプラスに浮上し、リスク選好の円売りが主要通貨を押し上げている。ここまでの取引レンジは、ドル・円は115円65銭から115円92銭、ユーロ・円は126円01銭から126円55銭、ユーロ・ドルは1.0890ドルから1.0920ドル。
●「ウクライナに勝利を!」中国ネットユーザーの間で広まる「反プーチン」のなぜ 3/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から2週間以上が経過した。いまだ平和的な解決には程遠い情勢だが、ここに来て中国の出方に注目が集まっている。ともに強権国家で、中ロ関係の結束が固いことはよく知られているが、一方で中国にとってウクライナも友好国のひとつ。3月1日には、ウクライナ外相が中国の王毅外相と電話会談を行い、仲介を求めたことが明らかとなっている。
侵攻に関し、今のところ中国は表立って支持はせず、「ロシア側の決断を尊重する」と言うにとどまっている。国連総会の緊急特別会合での対ロ非難決議も、中国はインドやベトナムとともに棄権し、「反対」には回らなかった。
こうした中、中国国内のネット上では興味深い現象も起こっている。中国でも今回のウクライナ情勢について、国営メディアなどは大きく報じており、中国版Twitter(微博)でもウクライナ情勢に関連する見出しが連日トレンド入りしている。また微博では当初、ロシアの軍事侵攻を支持する内容のコメントが多く寄せられていたのだが、徐々に反戦を訴える内容やロシアを批判する内容のコメントが増えてきているのだ。
まず多いのは、反戦を訴える投稿だ。
「もう攻撃するのを止めて。平和を願う」「早く停戦するべき。被害を受けるのは一般市民ばかりなのだから」
さらに、ロシア軍への批判も多く寄せられている。
「ロシア軍は早く自分の国に帰れ」「ロシアが他国を侵略した。支持者は金で買われたのか?」「ロシアは本当に恥知らずだ」
なかには、プーチン大統領を名指しで非難するユーザーも。
「まさにプーチン帝国主義だ」「プーチンは正真正銘の侵略者だ」
このように、中国ではロシアに厳しい言葉がSNS上で飛び交っているが、いまのところ当局からの大規模な削除にはいたっていない。いったいなぜなのか。中国ネット事情に詳しいライターの広瀬大介氏は言う。
「政府の方針と異なる政治的なコメントは通常、監視当局によって削除されることが多いのですが、今回は削除されずに残っているケースも多い。最近はウクライナ支持のコメントが目立っています。子供の救出シーンやゼレンスキー大統領の演説など、全て中国語に翻訳されリアルタイムで紹介されており、中国国内のネットユーザーをうまく味方に付けようというウクライナの戦略が奏功しているのだと思います。在中国ウクライナ大使館の公式微博アカウントには応援コメントが殺到し、ロシアを非難する声明に万単位の『いいね』がついています。寄付を募る投稿はさすがにコメント欄が閉鎖されていましたが、3400回以上リツイートされているので、実際に寄付した中国人もいると予想されます」
SNS以外でもウクライナ寄りの報道が少なくない。中国メディア「東方網」(2月24日)は、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まった直後、現地の中国人留学生がウクライナ人の大家によって地下室にかくまわれた話を感動的に伝えている。さらに、「中国網易新聞」(3月3日)は、106名の現地中国人が大使館によって手配された大型バスで国境を超えポーランドに脱出した出来事について、「現地ウクライナ警察が警察車両でバスを安全に誘導してくれた」と報じ、中国のネットユーザーからは感謝の言葉が多く寄せられているのだ。
そもそもウクライナと中国は密接な関係にあり、現在、6000人以上の中国人が留学やビジネスのため滞在しているという(在ウクライナ中国大使館発表)。経済的な結びつきも深く、両国の貿易額は193億ドルにも上り、トウモロコシは823万トン、大麦は321万トンが中国へ輸入されているが、これらは中国の全輸入量の3割を占めている(2021年度、中国税関発表)。また軍事的関係も深く、中国初の空母「遼寧」はウクライナから購入したことは有名な話だ。さらにウクライナは「一帯一路」の要所に位置していることから、中国資本による投資も活発化していた。
中国事情に詳しいジャーナリストの周来友氏はこう述べる。
「ウクライナ侵攻を巡っては、中国国民は二分化されている印象です。知識や教養のある大卒以上の人は、ウクライナの肩を持つ人が多く、政府の反米プロパガンダを信じる層はロシアを擁護する傾向にある。ソ連崩壊後、ウクライナから多くの技術者が中国に渡り、情報や技術を提供しました。それがいかに現在の中国の科学・軍事技術の発展に寄与したかを知識のある人は知っており、シンパシーを感じている層が多いのです。一方、中国政府がどっちつかずの態度を取っているのは、根底にロシアへの不信感があります。中ロは蜜月関係にあると思われがちですが、アメリカと戦うために“仕方なく”仲良くしているという側面もある。1対1ではアメリカに勝てないことは、中国政府も重々承知していますからね。しかし、本音ではソ連時代に国境紛争を繰り返し、旧ソ連に領土を譲歩したり奪われた記憶も強く残っています。習近平国家主席としては、全面的にロシアに追随せず逃げ道を作っているという状況でしょう」
中国民衆の間で高まるウクライナ支持の声に、果たして、習近平指導部はどう出るのか。
●ウクライナ情勢について国連の一部局が「戦争」「侵略」という表現を控える 3/9
国連グローバル・コミュニケーション局が、ロシアによるウクライナ侵攻について論じる際に「侵略」や「戦争」などの言葉を用いないよう職員に指示していたと、アイルランドの日刊紙・The Irish Timesが報じました。これに対し国連は、指示があったことを認めた上で公式の方針ではないと表明しています。
The Irish Timesは2022年3月8日に、「国連グローバル・コミュニケーション局が3月7日に『ウクライナ危機に関するコミュニケーションガイドライン』という件名の電子メールを職員に送り、この状況を戦争と表現しないことや、個人や公式のSNSアカウントやサイトにウクライナの国旗をつけないことを指示しました」と、国連が安保理の常任理事国の1つであるロシアに配慮した言葉遣いを職員に指示していたことが分かったと報じました。
伝えられるところによると、通知の中では「ウクライナ情勢について現時点で使わない言葉」として「戦争(war)」や「侵略(invasion)」が例示されており、これらの言葉を使うことが決議されるまでは「紛争(conflict)」や「軍事攻勢(military offensive)」と表現するよう通達されていたとのことです。
ロシア政府は、今回のウクライナ侵攻を同国内における平和維持を目的とした特殊作戦と位置づけており、ウクライナとの戦争やウクライナへの侵略だとする報道やSNSの投稿はフェイクニュースであるとして厳しく取り締まるとの方針を打ち出しています。
The Irish Timesの取材に対し、国連の広報担当者であるStéphane Dujarric氏は、「メールの正当性に異論はありませんが、国連職員に対する公式の方針とは考えられません」と述べて、メールが送られた事実を認めた上で国連全体としての方針であるとの見方を否定しました。
ファクトチェックサイトのSnopesは、Dujarric氏への問い合わせ結果や、国連政治・平和構築担当事務次長であるローズマリー・A・ディカルロ氏がロシアによるウクライナ侵攻を「この戦争(This war)」と表現していることなどを理由に、当初The Irish Timesの報道を誤報と位置づけていました。
こうした疑念を受けて、The Irish Timesの記者であるナオミ・オレアリー氏はSnopesに連絡し、問題のメールの全文を開示しました。
国連グローバル・コミュニケーション局地域情報センター所長であるSherri Aldis氏が職員に送信したとされるメールには、The Irish Timesが報じた前述の言い換えのほか以下のような言葉遣いが例として示されています。
・ウクライナを指す場合は「the Ukraine」ではなく「Ukraine」を使うこと。
・同国の首都を英語で記述する場合は「Kiev(キエフ)」ではなく「Kyiv(キーウ)」とつづること。
・同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領の姓は「Zelensky」ではなく「Zelenskyy」とすること。
2006年から2009年まで駐ウクライナ米国大使を務めたウィリアム・テイラー氏によると、「Ukraine」はウクライナが単一の国であることを前提とした用法なのに対し、「the Ukraine」はソ連時代にロシア人が使っていた呼称とのことです。
また、「Kiev(キエフ)はロシア語の発音に沿ったつづりであるのに対し、「Kyiv(キーウ)」はウクライナ語の発音に基づいた表記です。ゼレンスキー大統領の姓も同様に、「Zelensky」はロシア語に近く、「Zelenskyy」はウクライナ語に近い表現とのこと。なお、英語版Wikipediaはウクライナの首都および首長をいずれもウクライナ語表記の「Kyiv」「Zelenskyy」に統一しています。
こうした点を踏まえると、国連のAldis所長が職員に送ったメールは、ウクライナ侵攻の扱いについてはかなりロシア政府の公式見解に近いものの、それ以外の部分ではウクライナ側の表現に近い立場をとっていることから、全体としては両国との間の中立性を念頭に置いた指示であることがうかがえます。
国連の広報担当者のDujarric氏は、Aldis所長のメールについて「ソーシャルメディアで発信する内容について、国際機関の公務員としての責任を喚起するメールが、全職員に送られました。こうしたメールは、今回のみならず世界的な危機が発生するたびに職員に送られている定期的なメールです」と説明しています。
最終的に、Snopesは「国連が職員らに戦争や侵略という言葉を使わないよう指示している」とのThe Irish Timesの報道を「真実と虚偽の両方の重要な要素を持っている」と判定しました。
●ウクライナ情勢、世界のエネルギー危機を加速=サウジアラムコCEO 3/9
サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコのアミン・ナサール最高経営責任者(CEO)は「ウクライナで起きている悲劇的な状況」が世界のエネルギー危機を悪化させているとの見解を示した。
同CEOはエネルギー業界の会合「CERAWeek」で講演。準備原稿によると、ナサール氏は他のエネルギー企業幹部らと同様、今回の危機はエネルギー転換期にある石油・ガス業界に対して政策当局者がまちまちのシグナルを送っていることを露呈したと指摘した。
石油・ガスへの投資が抑制される一方で、業界には増産が求められていると述べた。
また、供給不足を緩和するための生産能力は限られているとし、「有効な余剰能力」は推定で世界需要の2%に当たる約200万バレルだと語った。
●ウクライナ情勢受けガソリン価格174円60銭に…9週連続値上げ 3/9
資源エネルギー庁の発表によると、3月7日時点のレギュラーガソリンの小売り価格の全国平均は、先週に比べ1円80銭高い、1リットルあたり174円60銭だった。値上げは9週連続で、2008年9月のリーマンショック時以来、13年半振りの高値水準だ。
ガソリン価格高騰を抑えるための補助金が上限の5円に達していたため、ロシアによるウクライナ侵攻を受けての原油価格の高騰を吸収しきれず、大幅な値上げとなった。
政府は明日10日から補助金の上限を5円から25円に大幅に引き上げる事で、ガソリン価格を172円程度に抑える事を目指す。
来週のガソリン価格は、補助金無しなら189円70銭まで高騰すると予測されていて、明日以降、石油元売り各社に対して、1リットルあたり17円70銭の補助金が投入される。
●ウクライナ情勢、分断と対立を生んだロシアとの根深い歴史 3/9
ロシアによるウクライナ侵攻の脅威が連日報道されているが、両国の対立は昨今に始まったわけではない。長く複雑にからみあったその歴史を振り返れば、今日の対立の舞台がどのようにできあがったかが見えてくる。
両国の歴史は、1000年以上前にバイキングが現在のウクライナの首都キエフを中心に築いたスラブ系の大国、キエフ公国の時代に遡る。ウクライナもロシアも起源は同じ国だった。
西暦988年、キエフ公国のノヴゴロド公ウラジーミル1世がギリシャ正教に改宗し、クリミアの都市ケルソネソス(古代ギリシャの植民都市だった)で洗礼を受けた。この洗礼以降、「ロシア人とウクライナ人はひとつの民であり、一体である」と、昨年、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は宣言している。
800年にわたり繰り返し支配されてきたウクライナ
しかし過去800年近く、ウクライナは互いに競い合ういくつもの勢力によって、繰り返し支配されてきた。東からやってきたモンゴル軍がキエフ公国を滅ぼしたのは13世紀のことだ。この侵攻が、モスクワを中心とする地方政権がロシア帝国にまで発展する発端となった。
16世紀にはポーランドとリトアニアの軍隊が西から侵入する。17世紀、ポーランド・リトアニア共和国と帝政ロシアとの戦争により、ドニエプル川より東側とキエフがロシア皇帝の支配下に置かれた。東側は「左岸ウクライナ」と呼ばれ、ドニエプル川より西の「右岸」はポーランドが支配した。
それから1世紀以上たってポーランドが弱体化すると、1793年から95年にかけて右岸ウクライナ(西部)がロシア帝国に併合された。その後、「ロシア化」と呼ばれる政策により、ウクライナ語の使用と学習が禁止され、人々はロシア正教への改宗を迫られた。
ソ連時代に何百万もの人々が飢え死にに
ウクライナは20世紀にも大きな苦難に見舞われている。1917年のロシア革命の後、多くの国と同じく、ウクライナも激しい内戦に突入したが、1922年にはソビエト連邦の構成国となった。
1930年代初頭、ソ連の指導者ヨシフ・スターリンは、農民を集団農場に参加させるためにあえて飢饉を引き起こし、何百万人ものウクライナ人を飢餓と死に追いやった。その後、ウクライナ東部の人口を埋め合わせるために、スターリンはロシア人をはじめ多くのソビエト市民を移住させた。その多くは、ウクライナ語を話さず、地域にほとんど縁のない者たちだった。
こうした歴史的な経緯が、長きにわたる断絶を生み出した。ウクライナ東部は西部よりもずっと早い時期からロシア支配下にあったため、東部の人々はロシアとの結び付きが強く、ロシア寄りの指導者を支持する傾向にある。
対してウクライナ西部は、ポーランドやオーストリアなど、欧州列強の支配下に何世紀にもわたって置かれていた事情などから、西部の人々は西欧寄りの政治家を支持する傾向にある。東部にはロシア語を話す正教会の信者が、西部各地にはウクライナ語を話すカトリック信者が多い。
東西の大きな分断の背景にあるもの
1991年のソビエト連邦の崩壊により、ウクライナは独立国となった。しかし、国を団結させるのは容易なことではなかった。その理由のひとつは、「ウクライナ東部では、西部ほど愛国意識が強くない」ことだと、元駐ウクライナ米大使のスティーブン・パイファー氏は言う。民主主義と資本主義への移行は、痛みと混乱を伴うものであり、東部を中心に多くのウクライナ人が、以前の比較的安定した時代のほうがよかったという気持ちを抱いていた。
「こうしたさまざまな要因を経てできた最大の分断は、ロシア帝国とソビエトによる支配を好意的にとらえている人たちと、これを悲劇として見る人たちとの間にあるものです」と、米シンクタンク大西洋評議会の元研究員で、ウクライナに詳しいエイドリアン・カラトニツキー氏は言う。この亀裂が顕在化したのが新欧米派の政権を誕生させた2004年のオレンジ革命であり、何千人ものウクライナ人がヨーロッパとの統合拡大を支持してデモ行進を行った。
環境の特性を示した地図を見れば、ステップと呼ばれる肥沃な農地を有するウクライナ南部・東部地域と、森林の多い北部・西部地域との間にも隔たりがあることがわかると語るのは、米ハーバード大学の歴史学教授で、同大学ウクライナ研究所所長のセリー・プロキー氏だ。氏によると、地図に示されたステップと森林の境界は、東部と西部の間を斜めに走るラインとなっており、これは2004年と2010年のウクライナ大統領選挙における政治状況を表す地図と「驚くほど似通って」いるという。
クリミアは2014年にロシアに占拠・併合され、その後まもなくウクライナ東部のドンバス地方で分離独立派が蜂起し、結果として、ロシアの支援を受けたルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国の建国が宣言された。現在、ロシア軍は再び、この土地の波乱に満ちた歴史を象徴する断層線であるウクライナの国境に集結している。
●ウクライナ北東部から市民避難 米側はロシアの首都包囲を警戒  3/9
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、8日、ロシアとウクライナの合意に基づき、北東部の都市から市民の避難が行われました。避難は9日も計画されていますが、アメリカ側は、ロシア軍は首都キエフを包囲するため部隊を前進させるなど、攻撃が激しさを増すおそれがあるとして、警戒を強めています。
ロシア軍がウクライナ各地で攻撃を続ける中、ロシア国防省は、首都キエフなど5つの都市で、8日、避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。
このうち、北東部のスムイからウクライナ中部のポルタワに退避するルートでは、ウクライナの副首相によりますと、これまでにおよそ5000人が避難したということです。
ロシア側は、9日も市民の避難を計画しているとしていますが、ウクライナ側は、ロシア軍が停戦措置を守らずに砲撃を行うなど、多くのルートで安全が保たれていないと批判していて、避難が進むのか先行きは不透明です。
こうした中、アメリカ国防総省の高官は8日、ロシア軍は、キエフに向けて、主に3方向から部隊を前進させ、キエフを包囲しようとしていると指摘しました。
このうち、最も近づいている部隊がキエフの中心部から20キロ余りの位置にいるほか、北東部の都市スムイから前進している別の部隊は、およそ60キロの地点にいるとしています。
この高官は、「ロシア軍はキエフを複数の方向から包囲することで降伏に追い込もうとしている」と指摘し、攻撃が激しさを増すおそれがあるとして警戒を強めています。
米CIA長官 “プーチン大統領 側近に意見求めず誤った判断”
一方、アメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、プーチン大統領について「深い個人的な信念に基づいてウクライナを支配しようと決断している。不満と野心が交じる中、長年、いらだちを感じていた。助言する側近たちの輪もどんどん小さくしていった」と述べ、NATO=北大西洋条約機構の拡大など、欧米への不満を募らせてきたプーチン大統領が、側近に幅広い意見を求めなくなったことなどが、誤った判断につながったという見方を明らかにしました。
またバーンズ長官は、ロシアに対する厳しい経済制裁について「プーチン大統領は怒っていると思う。市民の犠牲を顧みずウクライナ軍を押しつぶそうとするだろう」と述べ、ロシア軍が攻勢を強めることで市民の犠牲が一層増えることに強い懸念を示しました。
CIAのウィリアム・バーンズ長官は、ロシア語に堪能な元外交官で、バイデン政権の中でもロシアに詳しい高官として知られています。
2005年から2008年まで駐ロシア大使として務めたあと、オバマ政権で国務次官や、国務省のナンバーツーの副長官を歴任しました。
去年2月、指名承認のため出席した議会の公聴会では、ロシアについて、多くの点で、力は衰退しているものの、破壊的で強力な脅威であり続けているという認識を示していました。
米国防情報局長官 “ロシア軍の死者 2000〜4000人か”
アメリカのベリエ国防情報局長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍のこれまでの死者数について「信頼度は低いが、2000人から4000人に上るとみられる」と述べました。
情報機関のデータや公開情報を分析した結果だとしています。
ロシア国防省は、今月2日までにロシア軍の兵士498人が死亡したと発表しており、アメリカ政府の分析は、ロシア側の発表の4倍以上の死者が出ていると主張しています。
ロシアの中央銀行 市民の外貨での現金引き出しを制限
ロシアの中央銀行は9日、ロシア国内で外貨で現金を引き出す際、ことし9月までは1万ドル、日本円で115万円余りに制限すると発表しました。
上限を超えて引き出す場合はロシアの通貨ルーブルでの受け取りになるとしています。
また、この期間中、外貨の新たな販売も禁止するとしています。
ロシアでは、国際的な決済ネットワークからの締め出しといった各国の厳しい制裁によってルーブルが大きく値下がりしていて、経済の混乱は一段と広がっています。
医薬品の不足などが深刻に
ロシア軍による爆撃で、死者も出ている北西部の都市ジトーミルに住む女性がNHKの取材に応じ、ロシア軍による空爆や砲撃が行われる中、現地の人々の間で医薬品の不足などが深刻になっている状況を話しました。
オンラインで取材に応じたのは、北西部の都市ジトーミルでチェルノブイリ原発事故の被害者の医療支援などに取り組む団体の理事を務めるイェヴヘーニヤ・ドンチェヴァさんです。
ドンチェヴァさんによりますと、今月4日の朝には職場から100メートルほどの場所にある4階建ての学校が爆撃で半壊したということです。
ドンチェヴァさんは、「朝、自宅にいたら、すごい大きな音がしました。友人たちから連絡があり、学校に爆撃があったことがわかりました。職場の建物の窓ガラスも吹き飛んでいて、今は建物が封鎖されています」と話していました。
また今月7日の夜には、近郊にある石油の備蓄タンクが爆撃されて火災が発生し、今も煙が出ているということです。
現在、生活面で最も困っているのは医薬品の不足だということで、市内の病院が閉鎖され、救急の患者以外は自宅に帰されている状況だということです。
ドンチェヴァさんは、「糖尿病の知人はインスリンが手に入らず困っています。別の町に住む知人は甲状腺ホルモンの薬が手に入らず、ボランティアの救援センターに申請しても連絡がなかったので、薬があと4日分しかないという状態になって町を出て行きました。薬がなくなるかもしれない、あすは救急車が来なくなるかもしれないと思うと、それだけでパニックになります」と話していました。
現在、ドンチェヴァさんは、外出を最低限に抑えて自宅で生活していますが、精神的に大きな負担を感じているということで、「ニュースで悲惨な情景を見ると、あすはわが身と思い、非常に恐ろしくなります。みんな、もともとはとても社交的な人たちですが、今は誰もが押し黙っています。近所の人や友人とでさえも『大丈夫だった?』『生きているわ』というとても短いやり取りを交わすだけです。きょうを生き延びることができても、あすはどうなるか分かりません。世界の平和というのは、とてもとても壊れやすいということを皆さんにお伝えしたい」と話していました。
●ウクライナ支援 防弾チョッキなど隣国ポーランドへ出発  3/9
ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナを支援するため、防弾チョッキやヘルメットを載せた自衛隊の航空機が隣国のポーランドに向けて出発しました。
政府はウクライナからの要請を踏まえ、防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服、非常用食料など、自衛隊が持つ防衛装備品や物資を提供することにしています。
愛知県にある航空自衛隊の小牧基地では8日、防弾チョッキとヘルメットがKC767空中給油・輸送機に積み込まれ、午後11時ごろ、隊員に見送られながら基地を離陸しました。
「防衛装備移転三原則」では「紛争当事国」への武器の提供は認められていませんが、ウクライナは国連安保理の措置の対象になっていないため提供は可能で、政府は殺傷能力の無い装備品に限って提供する方針です。自衛隊の防弾チョッキがほかの国に提供されるのはこれが初めてです。
防衛省はこのほかの装備品や物資についても、準備が整い次第現地に届けることにしています。
●ゼレンスキー大統領「決して降伏しない」ロシア制裁強化求める  3/9
ウクライナのゼレンスキー大統領はイギリス議会でオンラインで演説し「決して降伏せず、決して敗北しない」と強調したうえで、ロシアに対する制裁のさらなる強化を求めました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、イギリスの議会下院でオンラインで演説しました。
冒頭、ジョンソン首相はじめ、議員が起立して拍手で迎えました。
ゼレンスキー大統領は「この戦争はわれわれが始めたわけでも、望んだわけでもない。しかし母国であるウクライナを失わないために戦わなくてはならない」と訴えました。
そして侵攻開始からの13日間でロシア軍からのロケット弾などによる攻撃で50人以上の子どもが命を失い、ウクライナ国民は水を手に入れられない状況も続いているなどと説明しました。
そのうえで「われわれは生きるか死ぬかという問題に直面している。答えは決まっている。生きることだ」と強調しました。
第2次世界大戦中の1940年に当時のチャーチル首相が議会で行った演説になぞらえて「われわれは決して降伏せず、決して敗北しない。どんな犠牲を払おうとも海で戦い、空で戦い、国のために戦い続ける」と述べたうえで、ロシアに対する制裁のさらなる強化をイギリスや国際社会に求めました。 
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 3/9
ロシアがウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、現地では今もロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続いています。戦闘の状況や関係各国の外交などウクライナ情勢をめぐる9日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします(日本とウクライナとは7時間、ロシアのモスクワとは6時間の時差があります)。
ロシア報道官「アメリカは経済戦争を宣言」
ロシア産原油などの輸入禁止措置などアメリカがロシアへの圧力を強めていることに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は9日「バイデン大統領の決定を深く分析する必要がある。ロシアの利益を守るために必要なことをする」と述べ、対応を検討する考えを示しました。そして「アメリカは間違いなくロシアに対して経済戦争を宣言し、戦争を繰り広げている」と強く反発しました。
チェルノブイリ電源喪失 IAEA「安全性に致命的影響なし」
ロシア軍が占拠しているウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所について、ウクライナのクレバ外相は現地時間の9日午後2時ごろ、ツイッターでの投稿で電源が失われたことを明らかにしました。IAEA=国際原子力機関は「安全性への致命的な影響はない」としています。ツイッターでクレバ外相は「ロシア軍に占拠されているチェルノブイリ原子力発電所への唯一の送電設備が損傷して、すべての電力供給が途絶えた。電力供給を復旧させるためただちにロシアが攻撃をやめるよう国際社会が求めることを呼びかける。予備のディーゼル発電機で48時間は電力が供給できるが、その後は使用済み核燃料の冷却システムがストップするだろう」としています。
ウクライナ NATO加盟に当面こだわらない考えか
ウクライナのゼレンスキー大統領の与党は8日、声明を出し、NATO=北大西洋条約機構はウクライナの加盟を当面は受け入れる準備ができていないと指摘しました。そのうえで、アメリカや近隣のトルコに政治や軍事面での安全の保証を求めるとともに、ロシアもウクライナに脅威をもたらさないことを保証すべきだとしています。ウクライナがこれまで目指してきたNATO加盟には当面は必ずしもこだわらない考えを示したものと見られます。ウクライナ大統領府は8日、公式サイトにゼレンスキー大統領とアメリカABCとのインタビューの内容を掲載し、この中でゼレンスキー大統領は「すべての近隣諸国や世界の主要国であるアメリカ、フランス、ドイツそしてトルコが参加する集団安全保障協定を結ぶべきである」と述べ、与党と同様の考えを示すとともに、ロシアと話し合う準備があると改めて述べました。
中国 約9000万円相当の援助物資をウクライナに提供へ
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって中国外務省の趙立堅報道官は9日の記者会見で、中国の赤十字社に当たる「中国紅十字会」が人道支援として500万人民元、日本円でおよそ9000万円相当の援助物資をウクライナに提供すると明らかにしました。そのうえで「きょう第1陣の物資が北京から輸送され、ウクライナ側にできるだけ早く引き渡される」と述べました。また、アメリカがロシアへの追加の経済制裁としてロシア産の原油などの輸入禁止を発表したことについて、趙報道官は「中国は国際法に基づかない一方的な制裁に断固反対する」と述べて批判しました。そのうえで「中国とロシアは良好なエネルギー分野の協力関係を維持しており、原油や天然ガスを含む正常な貿易協力を進める」と述べ、ロシアとの貿易をこれまでどおり続ける考えを重ねて示しました。
ウクライナ人女性が日本に避難 大阪で姉夫婦と再会
8日夜、関西空港に1人のウクライナ人女性がたどり着き、大阪で暮らす姉と再会しました。日本政府はウクライナから避難してくる人たちを積極的に受け入れる方針を示していて8日夜、22歳のウクライナ人の女性が関西空港から入国しました。大阪で暮らす女性の20代の姉と姉の日本人の夫が日本への避難を呼びかけ、女性は先週末に両親と暮らしていたウクライナ西部の街を離れ、単身で隣国のポーランド、そしてアラブ首長国連邦のドバイを経由して大阪に到着しました。姉夫婦が関西空港の到着ゲート前で妹の到着を待ち、午後7時半ごろに妹がゲートから出てくると姉妹は駆けより、涙を流しながら抱き合っていました。姉は「おなかがすいていないか」などと泣きながら妹を気遣うことばをかけると、ウクライナから逃れたきた妹は「泣かないで」と応じていました。
「ウクライナに平和を」ウクライナ人や家族などが抗議活動 仙台
宮城県内で暮らすウクライナ人やその家族などが仙台市で抗議活動を行い「ウクライナに平和を」などと訴えました。このうち石巻市で暮らすウクライナ人のシェプノフ・ヴィタリイさんと妻の早坂真由美さんは、攻撃されたウクライナ北部の住宅の写真を掲げながら「ウクライナの実家は戦闘が続く地域にあり、家族や友人からはひどい状況を聞いている。ウクライナに平和を」と訴えました。また仙台市太白区で暮らすウクライナ人のヤロスラブさんと妻の阿部奈津子さんは「ことしウクライナに行く予定だったので戦争に衝撃を受けている。ロシアは核兵器についても言及していて、被爆国である日本でもおかしいと声をあげ応援してほしい」と涙ながらに訴えていました。
被爆者団体などが改めて軍事侵攻に抗議 広島
広島市の中心部では被爆者団体などが改めて街頭に立って、一連の軍事侵攻に抗議しました。一連の軍事侵攻をめぐってはプーチン大統領が核兵器の保有を誇示するような姿勢を示したり、ウクライナの原子力発電所や核物質を扱う研究施設が攻撃されたりしていて、参加した人たちは「ヒロシマ、ナガサキを繰り返すな」などと書かれた横断幕や「原発攻撃に抗議する」などと書かれた紙を持って抗議していました。そして「核兵器の使用は二度と繰り返してはならない。ロシアはすぐに戦争を中止するべきだ」などと訴えました。
「原爆の子の像」 禎子さん兄「命を大切にする心」呼びかけへ
広島への原爆投下で2歳の時に被爆した佐々木禎子さんは白血病からの回復を願って折り鶴を折り続けましたが12歳で亡くなり、広島市の平和公園にある「原爆の子の像」のモデルになりました。禎子さんの兄で福岡県那珂川市に住む佐々木雅弘さんは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「私たち一人一人ができることは何か考えることが問われている」と話し、近く命を大切にする心をつなげたいと「連帯」を呼びかける声明を出す予定です。
チェルノブイリ原発からの核物質のデータ送信 一部停止
ロシア軍が占拠しているウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所について、IAEA=国際原子力機関は原発に設置している核物質に関する一部の監視システムからのデータ送信が停止したと発表しました。詳しい原因などは明らかにされておらず、IAEAが調べているとしています。
ウクライナからの避難者支援 医療スタッフらハンガリーへ出発
ロシアによる軍事侵攻でウクライナから200万人を超える人が国外に避難する中、岡山市の国際医療ボランティア団体のスタッフなどが多くの避難者がいるハンガリーで医療支援を行うため出発しました。スタッフを派遣するのは岡山市に拠点を置き、紛争や災害の際に人道支援活動に取り組む国際医療ボランティア団体の「AMDA」で、避難者に医療支援を行おうと徳島市のボランティア団体と合同で医師や看護師、それに現地での調整役など4人をハンガリーに派遣することを決めました。
“ロシア軍の死者 2000〜4000人か” 米国防情報局長官
アメリカのベリエ国防情報局長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍のこれまでの死者数について「信頼度は低いが2000人から4000人に上るとみられる」と述べました。情報機関のデータや公開情報を分析した結果だとしています。
“プーチン大統領 側近に意見求めず誤った判断”
アメリカのCIA=中央情報局のバーンズ長官は8日、議会下院の情報特別委員会で証言し、プーチン大統領について「深い個人的な信念に基づいてウクライナを支配しようと決断している。不満と野心が交じる中、長年いらだちを感じていた。助言する側近たちの輪もどんどん小さくしていった」と述べ、NATO=北大西洋条約機構の拡大など欧米への不満を募らせてきたプーチン大統領が側近に幅広い意見を求めなくなったことなどが誤った判断につながったという見方を明らかにしました。
ウクライナからの避難者201万人「今世紀最大の規模」
ウクライナから避難する人の数は増え続けていて、UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によりますと、隣国などに避難した人の数は今月8日までに201万人に上っています。こうした状況についてUNHCRのマシュー・ソルトマーシュ首席広報官がNHKの取材に応じ「およそ10日間でポーランド国内に100万人、全体で200万人が避難するという状況はかつてないほどの速いペースであり、ヨーロッパでは今世紀最大の規模だ」と指摘しました。また現時点では各国の政府やNGO、それにボランティアによって対応できているとしながらも、ウクライナ国内での戦闘の状況によっては、さらなる避難民が発生する可能性があると懸念を示しました。
ウクライナ 北東部から市民が避難
ロシアとウクライナの合意に基づき8日、北東部の都市から市民の避難が行われました。避難は9日も計画されていますが、アメリカ側はロシア軍は首都キエフを包囲するため部隊を前進させるなど攻撃が激しさを増すおそれがあるとして警戒を強めています。ロシア国防省は首都キエフなど5つの都市で8日、避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。このうち北東部のスムイからウクライナ中部のポルタワに退避するルートではウクライナの副首相によりますと、これまでにおよそ5000人が避難したということです。ロシア側は9日も市民の避難を計画しているとしていますが、ウクライナ側はロシア軍が停戦措置を守らずに砲撃を行うなど多くのルートで安全が保たれていないと批判していて、避難が進むのか先行きは不透明です。
ロシア軍 3方向から部隊前進でキエフ包囲計画か
アメリカ国防総省の高官は8日、ロシア軍はウクライナ側の激しい抵抗で首都キエフの中心部に今も近づけていないとの認識を示す一方、主に3方向から部隊を前進させキエフを包囲しようとしていると指摘しました。このうち最も近づいている部隊はキエフの北西方向にあるアントノフ空港付近にいてキエフ中心部からは20キロ余りの位置にいるほか、北東方向から前進する部隊は北部の都市チェルニヒウにとどまっているということです。別の部隊が北東部の都市スムイの北側から前進していて、キエフからはおよそ60キロの地点にいるとしています。
国連安保理 “ウクライナ 女性の人道状況悪化”
国連の安全保障理事会は「国際女性デー」に合わせて女性と安全保障をテーマに会合を開き、各国からはロシアが軍事侵攻したウクライナで女性の人道状況が悪化しているとして懸念を示す発言が相次ぎました。
ノルウェー ユール国連大使 / ロシアの軍事侵攻を改めて非難したうえで「ウクライナの女性に対する暴力や人身売買のリスクが高まっている」と強い懸念を示しました。
アメリカ トーマスグリーンフィールド国連大使 / 避難所で出産せざるをえないなどウクライナの女性たちは想像を絶する選択を迫られていると指摘したうえで「ロシアが対話に戻るならば女性も関与し続けなければならない。それが持続可能な平和を確保する可能性を高める」と述べました。
ウクライナの代表 / 「女性や子どもたちはロシア軍の事実上の人質となっている。避難することも許されず支援物資も届かない」と述べ、ロシア軍を止めるよう国際社会に訴えました。
赤十字「マリウポリ 特に悲惨な状況」
市民の避難を支援しているICRC=赤十字国際委員会の広報官は8日、記者会見で「われわれは人道的な避難ルートを作るため当事者間の対話を促そうと必死に努力しているが状況は悪化している。特にマリウポリでは数十万の人々が悲惨な状況にある」と述べ、ロシア軍の激しい空爆などが続いている東部の要衝マリウポリで食料や水、それに医薬品が足りなくなっていると明らかにしました。
ゼレンスキー大統領 イギリス議会でオンライン演説
「この戦争はわれわれが始めたわけでも望んだわけでもない。しかし母国であるウクライナを失わないために戦わなくてはならない」「われわれは決して降伏せず決して敗北しない。どんな犠牲を払おうとも海で戦い、空で戦い、国のために戦い続ける」と述べ、ロシアに対する制裁のさらなる強化をイギリスや国際社会に求めました。
ウクライナ市民 少なくとも474人が死亡
国連人権高等弁務官事務所はロシアによる軍事侵攻が始まった先月24日から今月7日までにウクライナで少なくとも474人の市民が死亡したと発表しました。このうち29人は子どもだということです。数百人の死傷者がいるとされる東部マリウポリなど詳しい状況が確認できていないケースも多いとしていて、亡くなった人やけがをした市民は実際にはさらに多いとみられています。
ロシアの中央銀行 市民の外貨での現金引き出しを制限
ロシアの中央銀行は9日、ロシア国内で外貨で現金を引き出す際、ことし9月までは1万ドル、日本円で115万円余りに制限すると発表しました。上限を超えて引き出す場合はロシアの通貨ルーブルでの受け取りになるとしています。またこの期間中、外貨の新たな販売も禁止するとしています。ロシアでは国際的な決済ネットワークからの締め出しといった各国の厳しい制裁によってルーブルが大きく値下がりしていて、経済の混乱は一段と広がっています。
マクドナルド ロシア国内の全店舗を一時閉鎖へ
ハンバーガーチェーン大手のマクドナルドは8日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてロシアにあるすべての店舗を一時閉鎖すると発表しました。ソビエト時代末期、1990年にモスクワに進出したマクドナルドは当時熱狂的な人気を集めたことで知られ、現在はロシアにおよそ850の店舗があります。
スターバックス コカ・コーラ ロシアでの事業停止 / コーヒーチェーン大手のスターバックスは8日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて商品の出荷や店舗の営業などロシア国内におけるすべての事業を停止すると発表しました。また大手飲料メーカーのコカ・コーラも8日、ロシアにおけるすべてのビジネスを停止すると発表しました。
バイデン大統領 ロシア産原油の輸入禁止を発表
アメリカのバイデン大統領は8日、ロシア産の原油や天然ガス、石炭などのエネルギーの輸入を全面的に禁止する大統領令に署名しました。ロシアの主要産業であるエネルギーの禁輸に踏み切ることで圧力を強めるねらいです。
イギリスもロシア産原油輸入の段階的停止へ / またイギリス政府はことし末までにロシア産の原油の輸入を段階的に停止する方針を明らかにしました。ロシアに対する制裁強化で協調を呼びかけていたアメリカに歩調を合わせた形です。
米の専門家「米単独では限定的」 / かつてアメリカの駐アゼルバイジャン大使を務め、エネルギー安全保障に詳しいリチャード・モーニングスター氏は輸入禁止措置は重要な一歩だと評価したうえで「アメリカだけでは大きな打撃を与えることは難しいだろう。ヨーロッパ各国が輸入を減らせばとてつもない打撃を与えることができる」として、アメリカ単独ではロシアに与える打撃は限定的でヨーロッパ各国が制裁に加わることが必要だと指摘しました。
英石油大手シェル ロシアから完全撤退と発表
イギリスの大手石油会社シェルは原油や天然ガスなどロシアからのすべての資源の調達を段階的に終了させ、ロシア事業から完全に撤退すると発表しました。
ウクライナ足止めのインド人留学生約700人 避難ルートへ
インド外務省の報道官は軍事侵攻の影響でウクライナ北東部のスムイで足止め状態となっていたインド人の留学生およそ700人について、避難ルートが設定されたウクライナ中部のポルタワに向けて全員が出発したとツイッターに投稿しました。
●輸入小麦 過去2番目の高値 産地不作とウクライナ情勢が影響 3/9
政府は輸入した小麦を製粉会社などに売り渡す価格を来月から17%余り引き上げることを決めました。価格は過去2番目に高い水準となります。主な産地の不作に加えてウクライナ情勢の緊迫化による国際価格上昇が影響しています。
国内で消費される小麦のうちおよそ9割は輸入で、安定的に確保するため政府は一括して調達し、製粉会社などへの売り渡し価格を半年ごとに見直しています。
来月から9月までの売り渡し価格について、農林水産省は主な5つの銘柄の平均で1トンあたり7万2530円と、前の半年間と比べて17.3%引き上げることを決めました。
この価格は輸入の際の価格を反映する今の制度になってから2008年10月期以来、過去2番目に高い水準となります。
要因としては主な産地であるアメリカやカナダでの去年夏の高温や乾燥による不作が大きく影響しました。
さらにウクライナ情勢の緊迫化でロシアやウクライナからの小麦の供給不安が広がり、国際価格を押し上げたことも要因になっています。
農林水産省は、食品の価格への影響を試算し、家庭用薄力粉が1キロあたり12.1円、率にして4.4%の値上がり、食パンが1斤あたり2.6円、1.5%値上がりするとしています。
製粉会社が実際に小麦粉の価格を改定するのは過去の例ではおよそ3か月後だと農林水産省では説明しています。
ウクライナ情勢の緊迫化などで世界的に小麦の価格が上昇していることを受けて、学校給食の献立を考える現場では食材のコストがさらにかさむのではないかと懸念する声があがっています。
東京・葛飾区の清和小学校では校内で給食を調理していて、毎月1回、手作りのパンを提供しているほか、子どもの考案したメニューを取り入れるなど食育に力を入れています。
しかし、食材価格の高騰により、今年度だけで油が3回値上げされたほか、小麦粉も来月から3割ほど値上げすると業者から連絡を受けているということです。
献立を考える担当者は限られた予算の中で必要な栄養をとれるよう頭を悩ませ、肉は安い鶏肉を使ったり、なるべく油が汚れないよう揚げ物の順番を工夫したりしてきました。
こうしたなか、ウクライナ情勢の緊迫化などで世界的に小麦の価格が上昇し、パンやうどんなどに使われる小麦粉が値上がりすることで、食材の調達コストがさらにかさむのではないかと懸念しています。
清和小学校の栄養教諭の佐藤寿子さんは「子どもたちに“食べることを好きになって欲しい”という思いで献立を考えている。食材が高騰してもなるべくこれまでどおりの給食が提供できるよう見えない形で工夫したい」と話していました。
葛飾区は食材が高騰するなかでも給食の水準を維持しようと、来年度の給食の公費補助を倍増し、小中学生1人あたり月額およそ600円の補助を検討しています。
栃木県さくら市のパンメーカーでは、ウクライナ情勢の緊迫化の影響で小麦価格がさらに上昇した場合、値上げを検討せざるを得ないとして、影響の長期化を懸念しています。
さくら市にある昭和16年創業のパンメーカーは、県内の直営店のほか、関東地方を中心にスーパーなどにもパンを出荷しています。
メーカーによりますと、最近では、小麦をはじめ、食用油やアーモンド、果物など材料の仕入れ価格が値上がりし、ガス代などの燃料費も高騰しているため、製造にかかるコストが急激に増加しているということです。
このため、ウクライナ情勢の緊迫化の影響で小麦価格がさらに上昇した場合、パンの値上げを検討せざるを得ないとしています。
「温泉ぱん・リテール」の稲澤一義代表取締役は「企業努力で大きさやトッピングの量などを変えずにパンの値段を据え置いてきましたが、小麦価格のこれ以上の上昇は厳しいです。影響の長期化を懸念しています」と話しています。
長野市にある、郷土料理の「おやき」を製造・販売する店では、ウクライナ情勢の緊迫化の影響で小麦の仕入れ価格がさらに上昇した場合、製造コストが増加し、経営を圧迫するのではないかと不安を感じています。
「おやき」は、小麦粉などで作った皮で具材を包み、焼いたり蒸したりして作る長野県名物の郷土料理です。
長野市で60年余り前から「おやき」を製造・販売している店ではことし1月、燃料価格の上昇や、北米産と県内産の小麦価格が上昇したため、12年ぶりに値上げを行いました。
こうしたなか、ウクライナ情勢の緊迫化などを背景に、政府が9日、輸入小麦の売り渡し価格を来月から引き上げることを決めました。
店では、小麦の仕入れ価格がさらに上昇した場合、製造コストが増加し、値上げしたばかりの「おやき」の価格を上げるのも難しいため、経営を圧迫するのではないかと不安を感じています。
「信濃製菓」の小宮山幸広専務取締役は「できるだけ手軽におやきを買ってもらいたいので、小麦価格の上昇は本当に何とかならないのかと悩んでいます」と話していました。
●トヨタ、ウクライナ情勢で約3億円寄付 従業員を支援 3/9
トヨタ自動車は9日、ウクライナ情勢を巡り、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や赤十字に最大250万ユーロ(約3億円)を寄付すると発表した。トヨタのウクライナ人従業員とその家族に対して食事や宿泊、移住の支援をする「トヨタ人道支援基金」を設立し、資金を提供する。
無条件で50万ユーロを寄付するほか、欧州全域の従業員にも募金を呼びかけ、トヨタの欧州事業体が募金額の4倍にあたる最大200万ユーロを送る。トヨタではチェコやポーランドでの事業を中心に、1700人を超えるウクライナ人が働いている。
このほかトヨタは避難者が近隣諸国に逃れる場合の仮住まいの提供や、通訳といったボランティア活動に1人あたり年間40時間を有給で認めるという。トヨタは「平和で安全な世界が戻ることを願い、人道支援をする」とコメントした。
●NATO加盟の棚上げ案、ウクライナ与党が声明 地元メディア報道 3/9
ウクライナのゼレンスキー大統領の与党「国民のしもべ」は8日、声明を出し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を当面棚上げし、ロシアを含む周辺国と新たな安全保障の取り決めを結ぶ構想を明らかにした。地元メディア「ウクライナ・プラウダ」などが報じた。
声明は「(NATOが)ウクライナを最低15年は受け入れる用意がないことは明白だ」と指摘し、NATO加盟までは「ウクライナの安全を完全に保障するしっかりとした取り決め」を、ロシアを含む周辺国や米国、トルコと結ぶ必要があると主張した。
この構想は、こうした取り決めにより、ロシア側にウクライナの存在を法的に認めさせ、ウクライナの国と人々を脅すことを思いとどまらせる効果を期待しているとみられる。
一方、ロシアによるクリミア半島の併合や、東部の親ロシア派武装勢力の支配地域の独立は認めない方針で、ロシア側の示す停戦条件とは隔たりがある。
声明に先立ち、ゼレンスキー氏は米ABCのインタビューで「ずいぶん前にNATOがウクライナを受け入れる用意がないと理解し、この問題に冷静になっていた」と加盟を求めないことを示唆。「(NATOは)ロシアとのもめ事や対立を恐れている」とも述べた。
●戦争の度に“支持率上昇”プーチン大統領 ウクライナ侵攻で支持は… 3/9
ウクライナ侵攻を続けるなか、プーチン大統領はロシア国内のメディア統制を強めています。
今回の軍事行動に関して、ロシア当局が言うところの虚偽情報を広げた場合、最大15年の禁錮刑を与えます。これは、現地の海外メディアも処罰される可能性があります。また、イギリスのBBCなど欧米メディアのウェブサイト閲覧は遮断され、フェイスブックやツイッターの接続も遮断されています。さらに、反戦デモ参加者を大量に拘束していて、小学生も拘束されている状況です。
ロシア情勢に詳しい、防衛省防衛研究所の兵頭慎治さん、ロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠さんに聞きます。
(Q.ロシア国内でプーチン大統領の行動に賛成している人がどれくらいいると分析していますか)
兵頭慎治さん:「現地に行けず、分からないところがありますが、大半のロシア国民、特に地方や高齢者は新聞・テレビ・ラジオなどを情報源として頼っていると思うので、そういう方の多くはロシアの公式見解を信じていると思います。他方で、若い世代はSNSなどでウクライナで何が起こっているのかを、リアルタイムで、生の映像で見てきたので、現実をある程度、理解していると思います。情報統制が始まってSNS・ネット・国内の報道も規制されて、独立系のメディアも外国のメディアも報道ができなくなってきています。ただ、抜け道もあって、ロシアの規制はそこまで厳しくないので、じわじわとウクライナで何が行われているかという情報は入り、口伝えで広まることもあります。情報統制がありながらも、時間と共に現実の動きはロシア国内で共有されていくのではないかと思っています」
(Q.ロシア政府よりの新聞は『Z』の印が描かれた車が列を組んで行進する様子を伝えました。この映像から読み取れることはなんですか)
小泉悠さん:「『Z』は、ウクライナに侵攻しているロシア軍が車体に描いているマークで、同士討ちを防ぐための識別マークです。2008年のグルジア戦争の時は十字のマークでした。ロシアのメディア空間上では、ウクライナを解放するロシア軍のシンボルマークとして扱われています。2014年にクリミア半島を占拠した時は、特殊部隊が規律正しく振る舞う様子から『礼儀正しい人々』というワードがバズりました。今回は『Z』マークを愛国心、ロシアの戦争を支持するシンボルに使おうとしているんだと思います。ただ、クリミア占拠の時のような熱狂はいまいち感じられません。一部の人は熱狂的に支持していますが、全国民的に盛り上がっているようには見えません。一部には常に『Z』マークに感激してデモ行進をする人がいるんだと思いますが、これがどれくらいロシア社会の中に広がるかはまだ分かりません」
第1次政権からのプーチン大統領支持率を見ると、22年間ずっと、60%以上を上回っていて、最新の今年2月には71%となっています。戦争を仕掛けるたびに支持率をアップさせていて、2008年8月、現在のジョージアと“衝突”した時や、2014年3月、ウクライナ南部のクリミアを併合した時に支持率が上昇しています。
(Q.プーチン大統領の支持率は今後どうなると予測しますか)
兵頭慎治さん:「プーチン大統領は過去に、軍事的行動を取ったことで求心力を高めることができましたが、今回のウクライナ全土に軍事侵攻するというレベルで、支持率を上げることできるかどうかは疑問です。クリミア半島の併合は、もともとロシアの領土だったものを取り戻したんだという点で、ロシア国民の多くの人も納得したと思います。ただ、今回の全土侵攻は何のためにやっているのか、ロシア国民も理解されないし、ロシア兵も含めて兄弟民族であるウクライナ側にもかなりの犠牲者が出ています。かなり行き過ぎた行動に対して、ロシア国民は本当に支持していくのか。情報統制されているので、よく知られていないのかもしれませんが、今回に関してはプーチン大統領の支持率向上にはならないと思います」
(Q.マクドナルド、スターバックスなど、様々な企業がロシアでの販売を停止していますが、ロシア市民に影響はありますか)
兵頭慎治さん:「マクドナルド1号店は、ソ連崩壊後の1990年にオープンしました。その時に私はロシアにいました。あの時のモスクワ市民は、ソ連が崩壊しつつあって、自由なアメリカの文化が入ってきたことに、熱狂的な歓迎ムードがありました。今回、マクドナルドをはじめとしたアメリカ系の企業の撤退は、昔のソ連時代に逆戻りする、統制された社会に戻ってしまうというショックを受けているのではないかと想像します」
小泉悠さん:「マクドナルド、スターバックスがなくなって困ることがないとしても、これまでできていたこと、当たり前にあったことがなくなっていくショックは、特に若い世代にとって大きいと思います。不便かどうかを通り越して、大きなビジネスがロシアからどんどん退避していくのは、経済にダイレクトに影響があります。足元の経済も悪くなるので、普通に考えれば、こういうことを長くは続けられないと思います。ただ、プーチン政権が国民からの評判で戦争をやめようと思うのかどうか。誰もがまさかやらないだろうと思った戦争を始めているので、常識的な判断が働くかどうかという自信は持てません。もしかすると、スターリンの時のような強硬な弾圧を行って反対論を抑え込んでしまうかもしれません。それに対して、西側はどう反応するのか。今回の情勢を見ながら、明るい展望を描けないなと思っています」
(Q.ロシアが仮にウクライナを軍事的に制圧したら、戦争に勝利したと言えるのでしょうか)
兵頭慎治さん:「ウクライナ全土侵攻は失うものが大きいので、外から見る我々からすると勝ち目がないように見えます。しかし、プーチン大統領の頭の中では、勝つために目標を完遂しているようにも見えます。プーチン大統領と、外から見ている我々の思いの間でずいぶんかい離があるような気がします」
小泉悠さん:「戦闘には勝てるでしょうが、戦争に勝てるかは全く別の問題だと思います」 

 

●キエフの「グロズヌイ化」、プーチン氏の政治目標も破壊−戦争は泥沼 3/10
身の毛もよだつロシア軍のウクライナ侵攻を見ていると、この悲劇を以前にも目にしたとの感覚を禁じ得ない。住宅地や避難路への砲撃、無秩序で尊大な攻撃は、チェチェン、ジョージア、シリアで全て見られた光景だ。場所がどこであれ、ロシア軍は都市をがれきの山にした。
プーチン大統領がウクライナでの戦争を始めて2週間足らずだが、達成可能な最終目標がない泥沼の様相を呈し始めつつある。プーチン氏は侵攻に際し、ウクライナに「反ロシア」でない政権を樹立し、冷戦後の欧州安全保障の秩序をロシアが望む方向に変えるという目標を持っていた。こうした目標とウクライナの荒廃とを、どのように整合できるのかは不明だ。
プーチン氏の目標はどれも実現しそうにない。ウクライナを完全に見誤っていたからだ。プーチン氏はソ連の復活に似た形が歓迎はされなくても、少なくとも受け入れられるとみていた。軍事的にも大きな計算ミスを犯し、戦争初期に軽武装のロシア兵数百人がその犠牲になった。
「ロシアは2014年のクリミア併合のような形をもくろんだが、1994年のチェチェンになってしまった」とカフカス地域を研究するトーマス・デワール氏は指摘する。クリミア併合ではほぼ流血の事態が起きなかったが、94年のチェチェンでは独立を阻止しようとするロシアが2回にわたる残酷な戦争を開始した。この戦争では妥当な見積もりとして約5万人の民間人が犠牲になったとされ、チェチェン共和国の首都グロズヌイは廃墟と化した。ウクライナの人口はチェチェンの30倍だ。
チェチェンの戦闘が終了した際、プーチン氏は軍閥のカディロフ氏を同共和国の大統領に据え、広範な自治権を与えて好きなように統治させた。このモデルをウクライナに移植するのは難しいだろう。まず、非常に広大なウクライナを1人の軍閥や武装集団指導者が支配するのは不可能だ。さらに、ロシア人有権者の多くはイスラム教徒が大半を占めるチェチェン人にあまり親しみを持っていなかったのに対し、プーチン氏はウクライナ人とはつまりロシア人であり、キエフは中世におけるロシアの歴史と文化の源だと長年主張し続けてきた。
短期間での無血勝利であれば、確かにロシア国内で支持を得られただろう。キエフを「グロズヌイ化」する戦争は、そうでない可能性が高い。長く続く国際的な孤立という犠牲を強いられる場合にはなおさらで、陰惨な現実はメディア規制にもかかわらずロシア国内に伝わるはずだ。ワシントンの安全保障シンクタンク、CNAのロシア軍事力に関する専門家であるマイケル・コフマン氏は、「この戦争がどれだけ長く続こうとも、ロシアが政治的な目的を達成することはできない」と述べた。
●米「プーチン政権が陰謀論でっち上げ」「中国も便乗」と非難 3/10
米国務省は9日、ロシアのプーチン政権が「米国とウクライナが同国内で化学・生物兵器の開発を行っているというまったくの偽情報を意図的に拡散させている」と非難する声明を発表した。声明は、中国政府もこれに便乗して陰謀論を広げようとしていると指摘。「ロシアは自分自身の残虐行為を正当化しようと噓をでっち上げている」と糾弾した。
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、ネット上ではこのところ、「新型コロナウイルスの新種を開発している米国の研究所を破壊するためだった」などとする陰謀論が広がっていた。
国務省は「米国はウクライナ国内に化学あるいは生物研究施設を所有も運営もしていない」と言明した上で、生物・化学兵器の開発や貯蔵を禁じる国際条約に違反する物質を「実際に保有しているのはロシアだ」と強調した。
ロシアは2018年に起きた露情報機関元将校らへの襲撃事件や、20年の露反体制派指導者ナワリヌイ氏の暗殺未遂で化学兵器の一種であるノビチョク系の神経剤を使用し、米欧から制裁を受けた。
●「なぜプーチンはこれほど強気?」ウクライナ在住ジャーナリストが警告する“習近平との結託” 3/10
国際世論の猛反発を無視してウクライナ侵攻という暴挙に出たロシアのプーチン大統領。いったいなぜ、プーチン大統領はこれほど強気なのか? 今回の戦乱の中、ウクライナ在住ジャーナリストの古川英治氏は、猛烈な空爆に晒される首都キーウ(キエフ)から「文藝春秋」に緊急寄稿した。その中で古川氏が指摘するのは「中国」、「新ヤルタ体制」というキーワードである。
モスクワからの警告
ロシア軍が侵攻する前夜の2月23日午後9時過ぎ、古川氏は長年の知人であるロシア政府関係者から「脱出するなら、今夜しかない」との警告を受け取ったという。
それはこんな内容だった。
〈北、東、南からウクライナを取り囲んだ約20万人のロシア軍がおそらく明日、全面的な侵攻を開始する。3〜4日で首都を包囲し、内側からも破壊工作を仕掛ける。狙いはウォロディミル・ゼレンスキー政権を転覆させ、傀儡政権を樹立することだ。
首都では精度の高い巡航ミサイル攻撃で軍の拠点、政府機関などを無力化し、空爆による都市破壊や戦車を侵攻させる市街戦は想定していない。特殊部隊を侵入させてネット・通信網、電力の供給を遮断し、混乱を煽って包囲戦を展開する。
包囲されてライフラインが切られれば、都市は長くはもたない。政権はすぐに降伏するはずだ。市民が抵抗しても簡単に制圧できる。大半は占領軍に従うだろう〉
この“予言”は的中。ロシア軍は翌24日午前5時、ウクライナ各地へのミサイル攻撃を開始した。
ヒトラー、スターリンの密約との酷似
それにしても、なぜプーチン大統領は欧米諸国をはじめ国際世論を敵に回しても平気でいられるのか? 古川氏はその背景に「中国とロシアの結託」という構図があることを指摘する。
〈欧米がロシアを非難し、対ロ制裁を打ち出したのをよそに、中国外務省スポークスマン華春瑩は2月24日、「侵略」という言葉に反論した。「ロシアはウクライナで特別な軍事行動をおこなっているが、都市をミサイルや火砲で攻撃してはいない」などと、平然と事実とは異なる見解を示した。
プーチンは2月4日の北京五輪の開会式に合わせて訪問した北京で中国国家主席の習近平と会い、それぞれの「核心的利益」を相互に支援することで一致していた。
中ロの共同声明には、ウクライナを巡ってロシアが問題視するNATO拡大に反対することが盛り込まれており、中国は「ヨーロッパの安保についてのロシアの提案を支持する」とした。代わりにロシアは「1つの中国の原則」を支持し、台湾の独立に反対すると明記している。インド太平洋で中国の抑止を狙ったアメリカ、イギリス、オーストラリアの安全保障の枠組(AUKUS)にも懸念を表明した。〉
お互いの核心的利益のために結託し、他国の領土を分割する密約を交わす――こうした現在のロシア・中国関係にそっくりな構図は、じつは第二次世界大戦の前にもあった。史上最悪の独裁者2人、ヒトラーとスターリンの密約である。
〈チェスの元世界チャンピオンでロシアの反体制活動家、ガルリ・カスパロフは中ロの結託をナチスドイツのアドルフ・ヒトラーとソ連最高指導者ヨシフ・スターリンが1939年に結んだ「モロトフ=リッベントロップ協定(独ソ不可侵条約)」になぞらえた。
この条約の裏でヒトラーとスターリンは、東ヨーロッパを分割支配する秘密協定を結んでいた。締結から1週間後にナチスが西からポーランドに侵攻、第二次世界大戦の開戦につながった。ソ連も協定に基づき、ポーランドに東から攻め入り、バルト3国も併合している。〉
「新ヤルタ体制」を狙ったプーチン
では、プーチンと習近平が狙う新しい世界秩序の見取り図はどのようなものなのか? 古川氏は中ロの思惑を以下のように読み解く。
〈プーチンは長年にわたり、「ヤルタ2・0(新ヤルタ体制)」とも呼ばれた欧米との取引を探ってきた。第二次世界大戦後の処理を巡る米英ソの首脳協議で東欧のソ連支配を固めた「ヤルタ協定」のように、ウクライナを含む旧ソ連諸国を自らの勢力圏と認めさせようとしたわけだ。〉
ではロシア、中国という強権国家に立ち向かうために、日本を含む自由・民主主義陣営はどうすべきなのか?
●米情報当局「怒ったプーチン、民間人死傷者を考慮せず、さらに強気に」 3/10
米国の情報当局は8日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が誤った判断にもとづいてウクライナ侵攻を開始し、今後も民間人の死傷者を考慮せずに、さらに強気に出て来るだろうと予測した。
中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官はこの日、全世界の脅威をテーマとした下院情報委員会の年次公聴会に出席し「プーチンは現在、怒りと挫折を感じていると思う」とし「民間人死傷者とは関係なしに、さらに強気に出て、ウクライナ軍を破壊しようとする可能性が高い」と述べた。米情報当局は、プーチン大統領はウクライナの激しい抵抗を予想できず、首都キエフ(現地読みキーウ)を速やかに掌握できると判断して開戦したとみている。
アブリル・ヘインズ国家情報長官(DNI)も公聴会で「ロシアは、いま我々が見ているウクライナの抵抗力、そして誤った計画、士気問題、相当な兵站問題などの内部の軍事的挑戦課題の大きさを過小評価した」と述べた。さらに、世界各国と民間企業までもが同調している対ロシア制裁も、プーチン大統領の予想を超えるものだと指摘した。しかしヘインズ長官は「プーチンは抵抗によってもあきらめず、ウクライナの非武装化と中立化を達成し、ウクライナが米国、NATO(北大西洋条約機構)とさらに統合するのを防ぐために、むしろいっそう強気に出る可能性があるというのが我々のアナリストたちの判断」との懸念を示した。バーンズ長官も「これから厳しい数週間」になるだろうとして同意を示した。
バーンズ長官はまた、ウクライナ人が予想を超える強烈な抵抗の意志を示していることについて、ロシアによって2014年3月にクリミア半島が武力で奪われて併合された経験により、領土主権と国に対する認識が強まったためだと評価した。さらに、ロシア内部のメディア統制のせいで、今回の戦争でロシアが直面している軍事的、経済的試練にロシア大衆が気付くまでには時間がかかるだろうとし、戦死者の葬儀が行われるのを見れば影響があるだろう、との見通しを示した。
しかし情報当局は、ウクライナの首都キエフがロシア軍の包囲作戦に耐えるのには限界があるとみている。国防情報局(DIA)のスコット・ベリア局長は公聴会で、「(食糧などの)供給が途絶えれば、私の考えでは(キエフの状況は)10日から2週間後にはある程度差し迫ったものになるだろう」と述べた。
米情報当局は、先月24日のウクライナ戦争開始から現在までのロシア軍の死者を2000人から4000人の間と推定している。ロシアは、2日に自軍の死者数を498人と発表して以降は、被害規模を公開していない。
●石油禁輸でロシアの「戦争金庫」に打撃、プーチンを打ち負かせるか 3/10
「プーチンの戦争に補助金はつけられない」劇薬を処方 独自制裁だがロシア産排除の雰囲気を造成 石油メジャー、相次ぎロシアから事業撤退を宣言 禁輸の雰囲気に劣らず他の産油国への説得も重要 「サウジ・UAEの実力者、バイデン大統領との電話会談を拒否」
米国のジョー・バイデン大統領は8日(現地時間)、ロシア産の石油、天然ガス、石炭の輸入中断を発表し、ウラジーミル・プーチン大統領に「強力な打撃」を与えたと強調した。冷戦時も西側に石油を売っていたロシア(当時ソ連)を相手に一種の劇薬を処方したのだ。
石油をはじめとする化石燃料は、歳入の60%を占めるほど、ロシアにとって絶対的な存在だ。ロシアが1990年代の経済崩壊から抜けだす際に原油高は大きな役割を果たした。ロシア軍を現代化し、これをもとに周辺国を脅かすことを可能にしたものも石油だといえる。石油がロシアの「戦争金庫」を満たしたわけだ。バイデン大統領が「米国人は、プーチンの戦争に補助金をつけることはできない」と述べたことも、これを指したものだ。ホワイトハウスは、輸入中断措置は金額では年間数十億ドル水準だと説明した。
石油禁輸は米国が独自に実施し、英国が年末までにロシア産の輸入を中断すると明らかにしたことから、これまでの制裁に比べて欧州の同盟国との協力の水準は低い。米国の総輸入量のうちロシア産の原油と精油製品の割合は7〜8%の水準だ。サウジアラビアと1・2位を争う石油輸出国であるロシアには、米国での販路を失うという事実自体は決定的ではない。
問題は流れだ。欧州連合(EU)は、ロシア産の石油(25%)と天然ガス(40%)への依存度が高く、禁輸に参加できないが、今年中にロシア産化石燃料の輸入を3分の2減らし、2030年になる前に、完全な「エネルギー独立」を達成するという計画を打ちだした。石油メジャーも相次いでロシアから脱している。欧州最大の石油企業シェルは、原油購入をただちに中断することに続き、「すべてのロシア産化石燃料の事業から撤退する」と宣言した。ロシアのガソリンスタンドも閉鎖すると述べた。米国のエクソン・モービルと英国のBPも、ロシアとの関係を断ち輸入量を制限すると明らかにした。これに先立ち、米国はロシアに対する先端精油技術の移転を禁止した。
米国商務省の暫定集計によると、ロシア産原油の米国輸入は、最近はすでにまったくない水準に落ちた。「石油代金=戦争資金」という公式が広がり、不買運動の雰囲気が形成されたのだ。このような流れが国際的に広がると、石油をもとに政治・経済・軍事的な影響力を強めたロシアには決定打になるに違いない。
しかし米国には、40年ぶりの最悪のインフレに対応するために、産油国を説得しなければならない課題もある。バイデン大統領がロシア産石油の禁輸を発表した8日、米国のレギュラーガソリンの平均価格は1ガロンあたり4.17ドルになり、過去最高を記録した。米国はサウジアラビアはもちろん、敵性国といえるベネズエラにまで使節団を送り増産の可能性を打診したが、明らかになった成果はない。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、バイデン大統領がサウジの実力者のムハンマド・ビン・サルマン皇太子やアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド首長世子と電話会談を試みたが、彼らは会談を拒否したと報道した。サウジを説得するためには大統領が直接訪問しなければならないという意見まで出ている。しかし、2018年に批判的なジャーナリストのジャマル・カショギ氏の暗殺を指示したと指摘されているビン・サルマン皇太子とは握手できないという見方が多い。もう一つの変数は中国だ。中国がロシア産の石油と天然ガスの輸入を大幅に増やせば、今回の措置の効力に影響を及ぼしかねない。
●プーチン氏、急所は2人の娘 家族はシベリアの核シェルターで避難か 3/10
ロシアには《きのこと名乗ったからにはかごに入れ》ということわざがある。何かを始めた以上は、途中で投げ出さずに最後までやり切れ、という意味で、ロシア人の精神性を端的に表現する。
隣国ウクライナへの侵攻の手を緩めないプーチン大統領(69才)率いるロシア軍。想定外の激しい抵抗を受けても、“侵略”した以上は、“統治”するまで途中で投げ出さないというプーチン氏の強い意志を感じる。しかし、この蛮行により国内外からさまざまな形での反撃に遭い、プーチン氏自身が追いつめられているのが現状だ。
「資産凍結や銀行取引停止などの経済制裁をはじめ、スマホの出荷停止やネットサービスの利用制限など多岐にわたります。ロシア出身でアメリカ在住の資産家は、プーチン氏の身柄拘束に懸賞金100万ドル(約1億1000万円)を支払うと発表しました。プーチン氏自身も暗殺を恐れて、カザフスタンとの国境地帯の山脈に身を潜めている可能性が報じられています」(国際ジャーナリスト)
さすがのプーチン氏も自分の身が大事なようだ。そして、自分の家族のことも──。
「プーチン氏は、2人の娘が人質になることを何よりも懸念しており、シベリアの核シェルターに家族を避難させたとも報じられています。怖いもの知らずのイメージのあるプーチン氏ですが、娘の存在は唯一の急所といえるでしょう」(大手紙外信部記者)
プーチン氏の家族についてはこれまで“軍事機密レベル”でトップシークレットとされてきた。かつて米CNNのインタビューで「なぜ娘たちの存在をそこまで隠すのか」と聞かれ、プーチン氏はこう答えている。
「残念ながらわれわれにはテロリズムにかかわる問題がたくさんあるので、娘たちの安全を考えなくてはならない」
自分への憎悪が娘たちに向かうことを恐れているのだ。娘たちが大学で学んでいたときは、キャンパスに通わせず、教授を公邸に呼んで授業を受けさせたほどだ。かつて娘たちの写真を正面から撮ろうとしたカメラマンにプーチン氏が「殺してやる」と言い放ったというエピソードまである。愛する娘たちは今、父の行動をどのように見ているのだろうか。
●ロシア各地で反戦デモが激化 反プーチン運動の鍵を握るのは「高齢者」 3/10
時事通信は3月6日、「ロシアで反戦デモ、3500人拘束」との記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。言論の自由が保障されていないロシアにも、ウクライナ侵攻に反対する人々が存在することに、世界の注目が集まっている。
産経新聞も7日の朝刊に、共同通信が作成した「ウクライナ侵攻 露44都市、反戦デモ 参加者2000人超を拘束」の記事を掲載した。
《ロシアの人権団体「OVDインフォ」によると、同国の44都市で6日に反戦デモがあり、極東ウラジオストクや東シベリアのイルクーツクなどで少なくとも2034人が拘束された。ロイター通信が伝えた。》
《OVDインフォによると、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以来、反戦運動で拘束された人は1万人を超えた。》
担当記者が言う。「欧米のメディアを中心に、ロシア国内で反戦デモに参加しているのは、多くが若者と報じています。ウラジーミル・プーチン大統領(69)はフェイクニュースを通じて、ウクライナ侵攻を正義の戦いと宣伝しています。ところがロシアの若者は、スマートフォンで欧米の正確な報道にアクセスしているのです。ロシアのウクライナ侵攻が大義のない戦争であることを分かっており、義憤から反戦デモに参加しています」
筑波大学の中村逸郎教授(ロシア政治)は、かつてアメリカはベトナム戦争の泥沼化で苦しんだが、同じことがロシアに起きる可能性があるという。
「ウクライナ侵攻が、ロシアにとってのベトナム戦争と化す可能性は、決して低くないでしょう。1960年代のアメリカでは、若者が中心となり、従来の価値観に異議を唱えるカウンターカルチャーが生まれました。差別の撤廃と法の下の平等、市民としての自由と権利を求める公民権運動も活発化しました。政府の権威が失墜し、国民が自由を求める動きが先鋭化したと言えますが、似た動きがロシアで起こっても全く不思議はありません。ロシアの若者がプーチン政権打倒に動くのではないかと、世界中のロシア専門家は注視すると思います」
中村教授によると、経済制裁によるインフレに苦しむロシアでは、高値にもかかわらずウオツカが飛ぶように売れているという。
「ウオツカを買っているのは、比較的年齢の高い層です。文字通り『ウオツカでも飲まなければやってられない』と、自宅で酒をあおっているのです。彼らは表立って反プーチンには動きませんが、内心では若者のデモに共感しており、酒で気を紛らわしている姿が浮き彫りになります。そして、彼らがいつまで黙っていられるのかという問題も、専門家の関心を集めています」
ロシア人は、自らの手で“革命”を成し遂げた記憶を持っている。これまでの歴史を振り返っても、政府が弾圧すればするほど、反政府運動は盛り上がってきた。
「1905年、ロシア帝国の首都サンクトペテルブルクで起きた、労働者の権利や日露戦争の中止を求める民衆のデモを、軍隊が発砲して鎮圧しました。これが『血の日曜日事件』と呼ばれて教科書にも載っていますが、この暴挙に激怒したロシア国民は蜂起し、ロシア第一革命が起きたのです」(前出の記者)
一気に時代を飛ばすと、1991年には「ソ連8月クーデター」が起きた。これをモスクワ市民が立ちあがって鎮圧したという歴史もある。
「当時、ソ連の最高指導者だったミハイル・ゴルバチョフ氏(91)の改革路線に反発した保守派が、クーデターを起こしたのです。ゴルバチョフ氏は別荘に軟禁され、保守派が全権を掌握しました。ところが、モスクワ市民が銃や火焔瓶で武装し、クーデター派のソ連軍と対峙しました。最終的にはロシア共和国の大統領という立場だったボリス・エリツィン氏(1931〜2007)がクーデターを鎮圧しました」(同・記者)
プーチン政権が情報統制や厳罰化で国民を締めつけようとすればするほど、今はウオツカを飲んで気を紛らわせている高齢層が、反プーチンに傾く可能性があるという。
「どうやって反政府運動を組織し、全国的に拡げていくか、ロシア人の高齢層は“ノウハウ”を持っています。ロシア人の父や母は、子供に打倒プーチンのやり方を教えることができるのです」(同・中村教授)
●プーチン政権亀裂の序曲か…ロシア内部文書「衝撃の中身」 3/10
ロシアの政府情報機関「連邦保安局(FSB)」が作成したとされる内部文書には、プーチン大統領の決断を否定する衝撃の内容が記されていた――。
3月7日に、内部文書の存在を報じたのは英国紙『タイムズ』だ。ロシアの反政府サイト『Gullagnet』を運営すウラジミール・オセツキン氏が、FSBの内部告発者から2000ページにおよぶ報告書を入手。文書の中には「勝利への選択肢がなく敗北だけが残った」という趣旨の部分も含まれているという。
2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻開始から、2週間あまり。戦況は、プーチン大統領の思惑どおりには進んでいない。
「プーチン大統領は当初、2日ほどで首都キエフを占領し、北京パラリンピックが始まる3月4日までにウクライナを降伏させられると考えていたようです。しかし、進軍は遅々として進んでいません。いまだにキエフを制圧できず、ロシア軍は北30qほどの場所で停滞。ウクライナ側の抵抗が、予想以上に激しいのでしょう。
プーチン大統領は、イラ立ちを強めているといわれます。精神状態を不安視する声もある。米国のマルコ・ルビオ上院議員は、ツイッターでこう記しました。『本当のことをもっと明かしたいが、今間違いなく言えることは一つ。プーチン大統領は、何かがおかしいということだ』と」(全国紙国際部記者)
プーチン大統領は、核兵器の使用を示唆している。焦りが募り、より非人道的な攻撃手段をとる可能性もあるのだ。すでに、ウクライナ国内の原発などの核施設3ヵ所を攻撃。英国のトニー・ラダキン国防参謀長は、3月6日に同国メディア『BBC』に出演しこう危惧した。
「プーチン氏がさらに残酷な手段に出る危険性が高い。民間人への無差別爆撃や、核施設に深刻な影響を与える破滅的な砲撃だ」
泥沼化する戦局。英紙『タイムズ』によると、冒頭で紹介した内部文書には次のような驚きの内容が記されているという。
〈ロシア軍の犠牲者は、すでに1万人を超えた可能性がある。主要部隊との通信が途切れ、政府は正確な死者数を把握できていない〉
FSBの内部告発者は、同紙に「今のロシアは第二次世界大戦中のドイツと同じだ」とコメント。難局を打開する手段もなく、出口が見えない状況に陥り「プーチン政権崩壊の序曲となる」と指摘したという。内部文書は、崩壊の時期についても記している。
〈諸外国の経済制裁で、戦局が長期化すればロシアが破綻する恐れがある。暫定的なデッドラインは今年の6月だろう〉
ロシア当局は報道に対し正式な見解を出しておらず、文書の真偽は不明だ。だがロシア国内でも、ウクライナ侵攻に対する反発の声が少なからずあるのは事実だろう。
●ウクライナ侵攻を決断したプーチン大統領の変質  3/10
30年以上前に独立した隣国ウクライナをロシアの衛星国に変えようとして全面戦争を仕掛けたプーチン大統領による今回の侵攻。冷戦時代にソ連が有していた「勢力圏」の復活に執念を燃やす大統領が、前世紀的大国主義に基づく蛮行を行った。国際社会を一挙に敵に回した暴挙の背景には、権力の一層の集中で独裁色を強め、反対意見を進言する側近もいなくなったプーチン政治の変質がある。
側近中の側近も反論できず…
驚愕の出来事ばかりの今回の侵攻劇。2022年2月21日深夜の国家安全保障会議(SGB)の異様な進行もその1つだ。安保問題での最高決定機関であるSGBは、この日に限って深夜に、しかもテレビ中継された。プーチン氏は居並ぶ最高幹部たちを前に、ウクライナ東部を2014年に武装占拠して作った親ロシア派の2つの「共和国」を国家承認することを提案した。これを受けて、一人一人が登壇して自分の意見を述べ、事実上の踏み絵を踏まされた。
ラブロフ外相らが次々と賛成を表明する中、1人が緊張した表情で登壇した。ナルイシキン対外情報局長官だ。プーチン氏と同じKGB(旧ソ連国家保安委員会)のスパイ出身で対外諜報活動のトップだ。一時は大統領府長官を務め、「ポストプーチン」の有力候補の一人と目され、日本政府が東京に招待したこともある大物だ。
しかし、その彼が顔は緊張でこわばり、口ぶりはぎこちない。「最後に西側のパートナーたちにチャンスを与え、至急ウクライナが平和を目指すよう強制してもらい、だめなら結局今日の提案通りに……」と要領を得ない。すると、いら立ったプーチン氏は「また西側と話し合いをしろと言うのか、はっきり言いなさい」と突っ込む。するとナルイシキン氏は両共和国の「ロシアへの加盟を支持する」とトンチンカンな回答を行った。これにプーチン氏は「今そんな話はしていない」と怒りを隠さなかった。結局、ナルイシキン氏は大統領の提案に賛成を表明した。
できない生徒を叱る教師のようなこのシーンは、クレムリンの最深部で起きているプーチン体制の激変ぶりを図らずもさらけ出した。2000年の大統領選でプーチン氏の選挙戦略をまとめ「プーチンをつくった男」と呼ばれる独立系政治コメンテーターであるパブロフスキー氏はこう指摘する。「出席者は皆、自分のものではない意見を言っただけだ。皆プーチンを恐れている」。最高幹部ですらプーチン氏に異議を唱えることができなくなっているという。
このプーチン氏への「恐怖蔓延」について証言はまだある。かつてクレムリンのスピーチライターを務め、クレムリン内の事情に精通している政治コメンテーターであるガリャモフ氏は、ラジオ局のインタビューでこう話した。「ナルイシキン氏は見るからにショック状態だった。出席者全員がショックだったと思う。彼らは以前から大統領を恐れていたが、今は一層怖がっている」。
この文脈でナルイシキン氏の発言を聞くと、1つの可能性が浮かぶ。ナルイシキン氏は「共和国」承認から派兵へと走り出したプーチン氏の方針に、恐る恐る別の選択肢を示そうとした可能性だ。「西側のパートナーと……」という発言には侵攻にすぐ踏み切らず、西側との外交交渉を続けるべきとのニュアンスがあった。
アフガン侵攻時のソ連共産党との比較
今モスクワでは、このシーンと1979年12月にソ連が始めたアフガニスタン戦争とを比べることが盛んに行われている。比較されるのは、侵攻をめぐるソ連共産党政治局内での決定過程だ。1979年春から検討を開始した政治局内では賛成、反対の意見の両論が複数出て、決定を先送りした。最終的にゴーサインが出たのは1979年12月に入ってからだった。ソ連末期の当時の状況より、今のプーチン政権のほうが最高指導部ですら異論を許さない「上意下達」体制ということになる。
2021年秋、侵攻を最初に「予言」した前出のパブロフスキー氏は、この独裁ぶりをプーチン氏の「スターリン化」と評した。スターリンはたびたび真夜中に政治局会議を開催した。粛清で銃殺を決める際には政治局員全員に賛否を言わせ、「集団責任」の体裁を好んだという。このスターリンの行動については独裁者特有の猜疑心、妄想癖のなせる業との評価がロシア内外ですでに定着している。
プーチン氏の「スターリン化」説と表裏一体の関係になるのだろうが、今国際的に議論されているのがプーチン氏の精神的異変説だ。多数の民間人の犠牲者も構わず砲撃を拡大し、ついには原発をも攻撃したロシア軍の今回の無差別攻撃を受け、プーチン氏の精神状態をいぶかる声が広がっている。
アメリカ議会からもプーチン氏の精神状態を疑問視する意見が出ている。バイデン政権の国家安全保障会議でロシアを担当し、その後シンクタンクに移ったロシア専門家であるケンドール・タイラー氏も2022年3月初め「何かが変だ(something is off)」とインスタで発信している。アメリカ政府は情報機関から機密報告を受けているらしいが、当面「something is off」がワシントンでの統一見解になりそうだ。
スターリンの例もあるように、指導者の精神状態が異常をきたしたとしても、その事実が表面化するのは在任中はないだろう。しかし常軌を逸した今回の侵攻を目の当たりにすると、真相に迫るのがメディアの役目だと思う。
2022年2月18日付のアメリカ・ニューヨークタイムズ紙は、一部の専門家がプーチン氏について、コロナ禍での執務室での閉じこもり生活の中で「より偏執病的に、分別がなくなる変化を遂げたとの考えを否定しなくなった」と慎重な言い回しで伝えた。最近プーチン氏の行動で「奇行」が目立つのは確かだ。そのひとつが「長辺が6メートルの巨大テーブル」だ。調停外交のため2022年2月に訪ロしたフランスのマクロン大統領をクレムリンで迎えたプーチン氏は、このテーブルの端同士で向かいあう形で座った。コロナの感染を防ぐという理由であれ、トップ会談のセッティングとしては異例だ。
数日間で終了する電撃作戦だったのか
そもそも今回侵攻に踏み切ったプーチン氏の判断自体、その「プラス・マイナス」を考えた時、通常の理屈では説明しにくいものだ。ウクライナ「制圧」はプーチン氏にとって念願の目標を達成することなのだろう。しかし前例のない大規模な制裁などその代償は計り知れないほど大きい。侵攻作戦自体もプーチン政権の当初の目算が狂っていることが次第に明らかになっている。越境してすぐに燃料切れで立ち往生する戦車。あわてて燃料や兵器を追加的に輸送しようと国境に並ぶトラック部隊。こうした光景は、ロシアが長くて数日間の電撃作戦で、ゼレンスキー政権を追い出し、傀儡政権を据えられると踏んでいたことを強く示すものだ。
通常、ロシア軍は遠距離から大規模な砲撃を加えた後、地上部隊が進撃するのが典型的なやり方だ。今回、最初に陸軍部隊と一緒に国境を超えたのは、治安維持や警備が任務の国家親衛隊だった。戦闘はすぐ終わり、政府庁舎の警備や関係者の逮捕などに移る作戦だったことを物語る。
前出のガリャモフ氏はこう説明する。「多くのクレムリン関係者も侵攻を知らず、ショックを受けている。明らかに軍部はプーチン大統領に対し、クリミア併合の時のように短時間で(ウクライナを制圧)できると説得したのだろう。ゼレンスキー大統領は侵攻すればすぐ国外に逃げるだろうから、誰か親ロシア派の政治家を据えればいいと言ったのだろう」。ガリャモフ氏はさらに、「予想していなかったウクライナ軍の抵抗に遭い、死者も大勢出ている。大統領は茫然としているだろう」と言う。いずれにしても、ロシア軍の戦力上の優位は明らかだ。一方、もしキエフが陥落してもゲリラ戦を展開するなど、ウクライナ側の士気も高い。侵攻作戦の結末を今、見通すことは難しい。
戦況とは別に今でも残る大きなナゾがある。プーチン氏がなぜこのタイミングで侵攻に踏み切ったのかという問題だ。軍部が大統領に電撃作戦を提案したとしても、これはプーチン氏の決断を受けてのものだろう。
筆者の見方では、侵攻の理由は3つある。1ロシア依存を深めるベラルーシとともに、ウクライナも掌握することで「スラブ系3カ国によるミニソ連」を実現。これを成果に2年後の大統領選で5回目の当選を果たす、2プーチン氏に批判的なバイデン政権の登場で、ゼレンスキー氏が強気になりNATO(北大西洋条約機構)との軍事協力を強化したため危機感を強めた、3飲料水不足が深刻なクリミアや、東部両「共和国」の運営はロシアが支えているが、財政的に丸抱えでは厳しい。ウクライナ全体を属国化、独立採算にすることで負担を免れる、である。
アメリカはなぜ侵攻を防げなかったのか
いずれにしても2021年7月以降のプーチン氏は、ウクライナに対する異様としか言いようのない脅迫的発言が目立っていた。「ウクライナの真の主権はロシアとの友好関係の中で初めて可能」と言ったが、今のウクライナに主権はないと言い切ったも同然の発言だ。2021年11月には、ウクライナ国境に軍部隊を集結させた。さらにウクライナ軍幹部が「ロシア軍は2022年1月か2月に侵攻する計画だ」と暴露した。
しかしこれだけ「状況証拠」が揃ったのに、アメリカは侵攻を事前に防げなかった。NATOは加盟国ではないウクライナを守る義務を負っていないとはいえ、国際法に明確に違反する侵攻を阻止できなかった国際社会には反省が重く残るだろう。とくにバイデン政権の責任は大きい。
元々バイデン氏個人は従来から際立った「反プーチン」論者だ。2012年にプーチン氏が首相から大統領に復帰した際には、これに強い反対を表明するなど内政干渉すれすれの行動に出た。政権発足後の2021年3月には、「プーチン氏は殺人者」発言も飛び出した。しかし、対中封じ込めに外交資源を集中したいとの思惑から、対ロ対決姿勢を「戦略的安定」論へと軟化した。ロシアが望んだ6月の初の米ロ首脳会談にも応じた。先述した、プーチン氏のウクライナへの脅迫的言辞が7月に始まったことは偶然ではないと思う。
さらにクリミア併合に対し国際社会が毅然とした対決姿勢をとらなかったことが結果的に今回の侵攻を許す誘因となったことも間違いない。オバマ政権は制裁を科したが、明らかに併合に見合った、より厳しい内容でなかった。
これを踏まえ、プーチン政権と対峙するうえで国際社会には喫緊の課題があることを指摘したい。開戦理由をとうとうと述べたプーチン氏へのきちんとした反論、否定をより大掛かりに内外に示すことだ。ロシアの代表的なリベラル派政治学者であるコレスニコフ氏は「プーチン体制の特徴は、言葉の意味をひっくり返してゲームをすることだ」と喝破する。今回の侵攻をめぐっても大統領は「ゼレンスキー政権がネオナチ政権」で「東部地域でジェノサイド(民族大虐殺)をしている」と正当化している。第2次世界大戦でナチスドイツが侵攻して2000万人もの死者を出した苦い記憶を語り継ぐロシア国民の感情に訴え、支持を得る狙いだ。
盤石なロシア世論を崩せるか
しかしこの言説に対し、ある事実を提示すれば、説得力は一気に瓦解する。ゼレンスキー氏がユダヤ系であるという、プーチン氏が触れなかった事実だ。「ジェノサイド」についても国連などの報告はない。しかし、ジュネーブでの首脳会談でアメリカ政府は雄弁なプーチン氏のペースになることを嫌い、共同記者会見を避けた。独自に会見を開いたプーチン氏は、得意の長広舌で外国記者の質疑応答で主導権を握った。バイデン氏は正面から論戦を展開すべきだったと思う。
だが結局、プーチン政権の今後の運命を占う意味でカギを握るのはロシア国民だろう。今回の国際的孤立を見て、政権が倒れるのは早いと考える向きが日本でも多いと思う。しかし、プーチン氏支持の国内世論は海外が考える以上に底堅い。今回の欧米との対立で逆に増える可能性すらある。政府系の「全ロシア世論調査センター」が侵攻開始直後に2回に分けて行った調査では、作戦「支持」が最初の調査結果65%から68%に増えた。逆に「支持しない」は25%から22%に下がった。
プーチン人気の根底にあるのは、1990年代末期のエリツィン政権時の混乱から一転して安定をもたらした内政面での業績だけではない。冷戦終結時「敗戦国」だったロシアを外交・軍事面で大国として蘇らせたことへの評価がある。
一方で、クレムリンに近い新興財閥(オリガルヒ)からは戦争に反対する声も出始めている。都市部の若者からも批判が高まる可能性もある。長い目で見れば、侵攻がプーチン政権の「終わりの始まり」になる可能性も否定できない。プーチン政権と対立し、ロシアを追われた元オリガルヒで反プーチン派のリーダーの一人であるホドロコフスキー氏は、「プーチンに戦争を許したのはロシア国民の責任でもある。結局国民がとめるしかない」と指摘する。しかし情報統制により、ロシアの地方では侵攻の事実を知らない国民も結構いるようだ。国際社会も日本政府もロシア国内の動向にも大きな注意を向けるべきだ。
●プーチン政権崩壊の可能性は? 元外交官が明かす“統治システム” 3/10
ニュース番組『ABEMAヒルズ』では、10年間ロシア外交に携わった元外交官で著述家・亀山陽司氏にロシア視点でウクライナ侵攻に関する話を伺った。
――今回のウクライナ侵攻、ロシア国民はどう考えている?
「今回ロシアがウクライナに侵攻したということで、2014年のクリミアとロシアが併合したときとは異なり、ロシア国内でも批判や疑念がかなり高まっている。ロシアとウクライナは人の行き来も多いので、親戚や友人がウクライナにいるということがある。そのことから、ロシア国民にとっても受け入れがたい面があるというのは否定できない。一方で、プーチン大統領の発言が正しいと思っている人もかなり多いと考えている。というのも、ロシア社会で、プーチン大統領への批判より、アメリカに対する不信感のほうがはるかに高いという事情がある。『ウクライナとは戦争したくない。でも背後にいるアメリカやNATOを許せない』こういった意見も影響していると思う」
――経済制裁などで、世界から孤立に向かっているロシア。ロシア国民は、現実として受け止めている?
「ロシア人というのは、愛国心も強く、社会も非常に保守的。そういう中でロシアがアメリカと対峙していることやNATOの統合拡大によって、ロシアの安全保障が脅かされていることをプーチン大統領は、数度にわたって長い演説でロシア国民に語りかけている。この内容をそのまま受け止めている層が一定数いる。そういう人たちからすると、制裁を受けている現状がプーチン大統領の正当性を図らずしも証明してしまっているという側面もある」
――世界はプーチン大統領への批判が高まり続けているが、プーチン政権の内部崩壊はありえる?
「私は懐疑的だと思っている。ロシアにおけるプーチンの統治システムというのは非常に強固。ソ連が崩壊したときに、ロシアは経済的にも社会的にも不安定だった。そうした中で、プーチン大統領は、ロシアを復活させた功績がある。多くのロシア国民は、そのことをよく理解している。さらにロシアの政治体制を見てみると、日本やアメリカなどと違い、野党が非常に弱く、そもそも政党政治がうまく機能していない。その中で、プーチン大統領を支持している軍や警察、諜報機関などの実力部隊(シロヴィキ)に加えて、新興財閥(オリガルヒ)の元で、巨大な官僚機構が行政を執行しているという構図になっている。この構図から、短い期間で内部崩壊が起きることは考えられない」
――オリガルヒが、プーチン大統領に提言することで踏みとどまることは考えられるか?
「プーチンが大統領になったときに、ロシアの政界に批判的なオリガルヒは追い出された。現在残っているオリガルヒは、プーチン大統領を掲げて生き残っているというところもある。なので、彼らがプーチン政権に批判的な態度を取ったり、プーチン大統領の方向性を変えようとすることは、自らの立場を弱めたり、生き残れなくなる危険性もある。オリガルヒの生存基盤というのは、プーチン政権自体にあるとも言える。プーチン大統領の中では、『ロシアあってこそのオリガルヒ』というわけで、ロシアの安全を守るという大義の前では、オリガルヒの権力は限定的なものになる」
――プーチン大統領の歴史観についてはどう考えている?
「第2次世界大戦の結果を神聖視している。彼の頭の中では『第2次世界大戦は、過ぎ去った過去』ではない。第2次世界大戦でウクライナは、ナチスに占領されている時期がある。また、ウクライナの民族主義者も武装勢力があり、ソ連の赤軍と戦っていた。なので、ソ連の歴史観を引き継いでいるプーチン大統領からすれば、『ウクライナの民族主義者は、ナチの手先である』というふうに見ている節がある」
――何かのきっかけで終戦とするか、ロシア内部では決まっているのか?
「やはりロシア内部の事情となると難しい。一方で、停戦協議がまとまりはしないものの続いている。ロシアは今キエフを包囲しようとしていて、アメリカなどからは、『キエフ陥落は間近』とみられている。そうなった場合、アメリカとイギリスは、ゼレンスキー大統領を亡命させ、亡命政権を樹立させようという計画を模索している。これは難しいところで、ゼレンスキー大統領がキエフ陥落などの状況によって、プーチン大統領の要求に屈服したとなると、ウクライナを支援してきたNATOやアメリカなどは、今までやってきたことを失った上で、介入するきっかけを失ってしまう。そうなるくらいなら亡命政権を樹立して、引き続きロシアとの対立を続かせるという可能性もあるとみている」
――ロシアは、日本を非友好国に認定したことがわかった。岸田総理は北方領土を日本固有の領土と表現を変えたが、この先の日本とロシアとの関係はどうなるか?
「日本は、安全保障上や経済的な問題でロシアを重視してきた。また、歴史上でも無視できない隣国である。一方でこういう自体になった今、日本における選択肢は限られていて、現政権が言っている通り、G7と連携してやっていく選択肢以外ない。その中でロシアとの関係を狭めていかざるを得ないというふうに思う。その中で、北方領土の交渉をする機会も減っていく局面にあるというのも言わざるを得ない」
●「プーチンの支持率が71%に」ロシア国民がウクライナ侵攻に賛成する理由  3/10
真実が知られないようメディア統制を強化
ロシアのプーチン大統領が命じたウクライナ侵攻は、次第に無差別攻撃の様相を呈し、学校や病院、原発を攻撃するなど泥沼化してきた。
残虐な戦争の実態はロシアでは報道されず、逆に愛国主義が高揚し、2月28日の世論調査では国民の68%が「特別軍事作戦」を支持。反対は22%だった。プーチン大統領の支持率も侵攻1週間で71%に上昇した。
政権側は反政府系メディアや外国報道機関の活動を統制するなど、戦争の真実が国民に知られないよう躍起になっている。
プーチン大統領の暴走を阻止できるのは、政権内部のクーデターと国内の反戦運動だが、政権の亀裂は現実的でない。国内の反戦世論が今後どう広がるかを探った。
学校では「これは平和維持活動」と教育
プーチン政権は前例のない報道管制に着手した。政権の支配下にある上下両院は3月4日、「ロシア軍に関する虚偽情報を広める行為」に最大15年の禁固刑を科す法案を可決。ロシアへの制裁を支持する行為にも最長3年の禁固刑を科すとしている。
政権は反政府系ラジオ局「モスクワのこだま」やテレビ局「ドーシチ」を閉鎖に追い込み、メディア各社の検閲を強化した。シンクタンクのサイトも更新されておらず、学者らにも反戦論調の禁止を命じている。西側主要メディアもモスクワでの報道活動を自粛した。
国営テレビはウクライナ政府の東部での「ジェノサイド」(大量殺戮)を非難するキャンペーンを延々と報道。最近では、ロシア側が市民退避ルートの「人道回廊」を提案しても、ウクライナ側が拒否したと一方的に非難している。
ウクライナ侵攻を支持するシンボルとして、アルファベットの「Z」が社会に拡散している。
独立系メディア「メドゥーサ」によれば、ロシアの学校に、ウクライナ戦争に関するガイダンスが配布された。それによると、生徒が「これはウクライナとの戦争なのか」と質問した場合、「戦争ではなく、ロシア語圏の人々を弾圧する民族主義者を封じ込める特別な平和維持活動」と答えるよう指示されている。
ロシア人セレブ、スポーツ選手らが停戦を呼びかけ
国民を闇に包む「愚民政策」の一方で、SNSやツイッターでは反戦論も発信されている。
英国で活動するロシアのベストセラー作家、ボリス・アクーニン氏は「ロシア人が精神を病んだ独裁者の蛮行を止められなかったことは、ロシア人全員の責任だ」と強調した。
1990年代に日露交渉に携わったゲオルギー・クナーゼ元外務次官も「精神異常者の愚行を止められなかったことをウクライナの人々に謝りたい」と書いた。
経済学者のアンドレイ・チェレパノフ氏は「真実を伝えるメディアがあれば、戦争終結を求める反乱が起きたはずだ。クレムリンはそれを極度に恐れた」と指摘した。
このほか、大統領選に出馬したタレントのクセニア・サプチャク氏、映画監督のロマン・ボロブエフ氏、テニスのダニール・メドベージェフ氏、ノーベル平和賞を受賞した「ノバヤ・ガゼータ」紙編集長のドミトリー・ムラトフ氏、「アルミ王」と呼ばれた新興財閥のオレグ・デリパスカ氏ら多くのセレブやスポーツ選手らが停戦を要求した。
即時停戦を求めるオンライン署名は100万人を超え、医師や建築家ら各業界の抗議書簡も発表された。
50都市以上で反戦デモが行われているが…
詐欺罪などで投獄されている反政府運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は獄中から発信し、プーチン大統領を「狂気の皇帝」と非難。「ウクライナ侵略戦争に気づかないふりをする臆病者の国になってはならない」とし、不服従の抗議デモを毎日行うよう国民に呼びかけた。
ナワリヌイ氏は2020年夏、シベリアで化学兵器の一種であるノビチョクを何者かにもられて重体となり、ドイツの病院で療養。昨年1月に帰国した際、空港で逮捕され、有罪となった。
ナワリヌイ氏らの呼びかけに応じ、2月24日の開戦以来、50都市以上で反戦デモが週末に行われ、数万人が参加。3月6日までに約7000人が拘束された。
ロシアでは、選挙不正や年金改革に反発するデモは発生するが、反戦デモは異例だ。とはいえ、モスクワのデモは3000人規模にとどまっており、参加者の多くは警察に連行された。政権に打撃を与えるには10万人規模に広がる必要がある。2011年の下院選の不正に反発する反プーチン・デモは、若者や中産階層を中心に10万人以上に膨れ上がり、警察は座視するだけだった。
「プーチンはエリートの間で支持を失っている」
2014年にロシアが無血でクリミアを併合した時、国民は陶酔状態となってプーチン支持に結集した。しかし、8年後のウクライナ戦争は凄惨な市街戦となり、エリートや知識層の間で動揺が広がっているようだ。
著名な社会学者、オリガ・クリシュタノフスカヤ氏は、「プーチンはエリートの間で支持を失っている。政権幹部の忠誠心にも陰りが出始めた。情報源をテレビからネットに切り替える人が増えており、誰もが真実の情報を求めている」と分析した。
ロシアは口コミ社会で、犬の散歩や台所の会話で、人々は情報交換し、激しい議論を展開しているという。
欧米が発動した過去最大の経済制裁も今後、庶民の生活を脅かし、生活水準低下を招くのは必至だ。生活苦も反戦機運を高める要素となる。
社会学者のグリゴリー・ユーディン氏は「メドゥーサ」のインタビューで、「反戦デモに参加すれば、脳震盪のうしんとうを起こすほど殴られたり、刑務所で下着を脱ぐよう命じられたり、前科一般として就活が難しくなると警告される」としながら、「ウクライナへの電撃戦が失敗したのは明らかだ。ロシア側はすでに大量の死傷者を出し、焦ってクラスター爆弾を使用するなど非人道的攻撃をしている。ウクライナに親戚を持つロシア人も多く、無謀な戦争への反発が高まっている」と述べた。
「ロシアの歴史上、最も無意味な戦争」(同氏)とされるウクライナ戦が長引くほど、ロシア社会の反戦機運も高まる可能性がある。
戒厳令を敷けば無期限の「戦時大統領」に?
ロシアの今後の方向としては、プーチン政権が反政府運動を鎮圧し、外国との交流を制限する「要塞」化のシナリオが有力だ。
頑固なプーチン大統領は、ウクライナ軍の抵抗や欧米の制裁がいくら強くとも、ウクライナの分割・解体という最終目標に向けて突き進むだろう。停戦や撤退は敗北を意味し、政権基盤を揺るがすことになる。
プーチン氏にとって、政権のサバイバルは至上命題であり、国内の反戦論や国際社会の制裁に対抗し、戒厳令を導入する可能性もある。インターネットやSNSを遮断し、国際関係を制限し、総動員令を敷いて危機突破を図るというシナリオだ。
戒厳令を発動する場合、2024年3月に実施予定の大統領選も中止されよう。プーチン氏は「戦時大統領」として強権体制を維持、強化することになる。
●米議会下院 ウクライナ緊急支援に総額136億ドルの予算案可決  3/10
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、アメリカ議会下院は、ウクライナへの兵器の供与や人道支援などのために総額136億ドル、日本円でおよそ1兆6000億円を拠出することを含む予算案を超党派の賛成で可決しました。
アメリカ議会下院は9日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けた緊急支援として総額136億ドル、日本円でおよそ1兆6000億円を拠出することを含む予算案について、賛成多数で可決しました。
法案には、ウクライナへの兵器の供与などに35億ドル、ウクライナの周辺国にアメリカ軍の部隊を派遣する費用におよそ30億ドルのほか、食料や医薬品などの人道支援が含まれています。
バイデン政権は当初、議会に100億ドルの予算を要求しましたが、ロシアに対する批判の高まりを背景に、超党派の合意のもと30億ドル余りが増額されました。
与党、民主党指導部は「ロシアによる不法で人の道を外れた軍事侵攻に対しては緊急の支援が必要だ」としています。
法案は近く上院でも可決される見通しで、バイデン大統領の署名を経て成立する見通しです。
バイデン政権は先月26日に3億5000万ドル、日本円でおよそ400億円の追加の軍事支援を発表するなど、去年以降、ウクライナに14億ドル以上の支援を行ってきましたが、今回、可決した予算案はその10倍近い規模に上ります。
●プロパガンダ合戦先鋭化 虚実交え憎悪あおる―ロシアのウクライナ侵攻 3/10
ロシアのウクライナ軍事侵攻で、両国のプロパガンダ合戦が先鋭化している。ロシアが国営メディアやテレビを重視する旧来型の宣伝工作を行っているのに対し、ウクライナはインターネット交流サイト(SNS)を使って情報を拡散。虚実入り交じった情報で憎悪をかき立てる手法は、双方に深い禍根を残しそうだ。
プーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権をナチス・ドイツの流れをくむ「ネオナチ」と決め付け、ウクライナの「非ナチ化」を侵攻の目的に掲げている。そのためロシア国営テレビでは「ネオナチ」という言葉が飛び交い、著名俳優らが「ナチズムの遺物が(第2次世界大戦終結の)1945年以降も残っていた」と語り、侵攻を支持する宣伝も流れるようになった。
「ウクライナは非道」と印象付けるために「ウクライナの研究施設で生物兵器が開発されていたことが確認された」(国防省)といった主張も繰り返されている。プーチン政権が近年、ロシアの前身のソ連が第2次大戦でナチスを破った歴史を求心力維持のために活用してきた経緯もあり、「ネオナチとの戦い」を前面に出して侵攻を正当化している。
これに対しウクライナは、情報機関のウクライナ保安局(SBU)がフェイスブックなどのSNSを主戦場に情報戦を展開する。SBUは、捕虜となったロシア兵がロシア国内の家族に電話で「プーチンはわれわれを裏切った。民間人を殺すために戦場に送り込まれた」などと話す様子を動画で公開。「ロシアの戦争犯罪者の摘発を続けている」とアピールしている。
ただ、ウクライナ側のこうした対応は捕虜の人道的待遇を定めたジュネーブ条約に違反している可能性がある。赤十字国際委員会(ICRC)は4日の声明で、「捕虜と拘束された民間人は尊厳をもって扱われなければならず、ソーシャルメディア上で流通する画像を含め、公衆の好奇心にさらされることから絶対に守られなければならない」と批判した。
●米 国務省と国防総省高官 来日しウクライナ侵攻への対応協議へ  3/10
アメリカの国務省と国防総省の高官が今週、日本を訪れ、日米の外務・防衛の局長級会合に出席し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻への対応などをめぐって協議することになりました。
アメリカ政府は9日、国務省で東アジア外交を取りしきるクリテンブリンク国務次官補が今週10日から12日までの日程で、国防総省でインド太平洋地域を担当するラトナー国防次官補が11日から12日までの日程でそれぞれ日本を訪れると発表しました。
両次官補は外務省の市川北米局長や防衛省の増田防衛政策局長とともに日米の外務・防衛の局長級会合を開催し、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援やロシアに対する制裁などについて協議するとしています。
また会合では、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、軍によるクーデターで混乱が続くミャンマーへの対応をめぐっても意見を交わすということです。
さらに日本とアメリカ、韓国の3か国の協力が、インド太平洋地域の平和と安定の礎だと強調する会合になるとしていて、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮への対応についても協議するものとみられます。
松野官房長官は、午後の記者会見で「協議では、ことし1月の日米の外務・防衛の閣僚協議、いわゆる『2プラス2』での議論を踏まえ、インド太平洋地域の安全保障環境を含む国際社会の諸課題や、日米間の具体的な安全保障、防衛協力について意見交換を行う。日米同盟の抑止力や対処力を一層強化する観点から、当局間で緊密に連携することは有意義だと考えている」と述べました。
●ロシア、徴集兵の軍事作戦参加認める ウクライナ侵攻で 3/10
ロシア国防省は9日、ウクライナでのロシア軍の軍事作戦に徴集兵が参加していたことを初めて認めた。ロシアの独立系メディアは侵攻開始直後から家族らの証言を基に徴集兵が参加している可能性を報道。プーチン大統領はこうした見方を否定していたが、国防省は一転して認めた。
国防省報道官は「ウクライナで特別軍事作戦に参加している部隊に徴集兵がいることが幾つかの事実として明らかになった」と説明。徴集兵の多くはロシアに撤収したが、後方支援を行っていた部隊の一つが攻撃を受け、「徴集兵を含む兵士らが捕虜になった」と明かした。
●ビットコインによる寄付と制裁回避、ウクライナ情勢で暗号資産に注目集まる 3/10
今年に入ってからロシアとウクライナの緊張関係が懸念されてきましたが、2月末、ついにロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始されました。北大西洋条約機構(NATO)への加盟を目指すウクライナに対して、ロシアはそれを断固として認めない姿勢を示しています。一方で、米国をはじめとするNATO諸国はウクライナを擁護しようとロシアに対して厳しい制裁措置を次々に講じています。
ロシアとNATO諸国との対立によって「第三次世界大戦」の可能性までもが意識され、金融市場ではリスクオフの動きが強まっています。そのなか投資資産として見たときの暗号資産は株式と同様に売り優勢の展開が続いています。しかし、この対立の一部では暗号資産が国や金融機関に依らない送金手段として大きな注目を集めています。
今回は、ウクライナ情勢や過去の事例を踏まえながら、国家間の対立時に暗号資産がどのように活用されうるかについて解説します。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、国際世論ではロシアを非難し、ウクライナの支援を呼びかける声が支持を集めています。欧州各地では平和を願う人たちによって「戦争反対」を掲げるデモが行なわれ、日本でも東京都渋谷区周辺では数千人を超える人たちが反戦を訴えるために集まりました。それだけ世界中の多くの人がウクライナを支援したいという想いを抱えています。
そこでウクライナを支援する手段の一つとなっているのがビットコインをはじめとした暗号資産です。通常、私たち個人が有事の際に寄付を行うにはユニセフなどの非政府組織(NGO)を通します。また、国内の募金箱を利用して寄付した場合でも、最終的には金融機関を介して寄付金が支援先に届けられます。そのため、実際に支援が届くまでには相応に時間がかかります。
しかし、暗号資産の場合は支援先のウォレットアドレスさえわかれば、世界中のどこからでも寄付金を直接送ることができます。今回、実際にウクライナ政府が寄付用にビットコインやイーサリアム、テザー(米ドル連動のステーブルコインの一種)のアドレスを公開したところ、数日の間に数十億円もの寄付金が世界各国から集まりました。また、同国政府は寄付金と引き換えに記念のノンファンジブルトークン(NFT)を販売することも検討しています。
●林外相、トルコ・UAE訪問へ ウクライナ情勢・原油安定供給で協議 3/10
林芳正外相は19〜21日の日程で、中東のトルコとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問する調整に入った。ロシア、ウクライナ両国と関係が良好なトルコとは、ウクライナ情勢を巡って意見交換する方針。産油国のUAEに対しては、原油高騰を踏まえて安定供給を要請する。
日本政府関係者が明らかにした。ロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相は10日にトルコ南部アンタルヤで会談する予定で、トルコのチャブシオール外相も同席する見通しだ。林氏はその後にトルコでチャブシオール氏と会談することで、ウクライナ情勢の最新情報を得るほか、事態打開へ日本とトルコの連携を確認したい考えだ。
UAEでは、アブドラ外務・国際協力相らとの会談を調整。UAEは日本にとってサウジアラビアに次ぐ原油の供給国で、エネルギー情勢について意見交換する方針だ。
●対露制裁で「1ルーブル=1円以下」続く 日本経済への影響は? 3/10
「ついにルーブルが1円を切った」――こんなツイートがTwitterで話題になっている。「ルーブル」とはロシアの通貨のことだ。ウクライナに軍事侵攻したロシアに対して、米国やEUを中心とした欧米諸国が経済制裁を課し、ルーブルの貨幣価値が急激に下落。3月9日のルーブルの終値は「1ルーブル=0.89円」で、3月3日から4営業日連続で1円以下の状況が続いている。
こうした状況は日本経済や、企業活動にどんな影響を与えるのか。外国為替の市場動向に詳しい、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストに話を聞いた。
外貨凍結で「為替介入」できないロシア中央銀
現在、ドル高ルーブル安が進んでいる。なぜルーブルのレートが下がっているのだろうか。市川氏は直接の原因について「西側諸国のロシアに対する経済制裁が原因」と指摘する。制裁の中でも、ロシアに特にダメージを与えているのが、ロシア中央銀行が保有する外貨準備の凍結だという。
野村総合研究所のレポートによると、ロシア中央銀が保有する外貨準備は、約6300億ドル(日本円で約73兆円、2021年末)。ロシアのGDP(国内総生産)の4割に相当し、これは世界で5番目の規模だという。
通常、自国通貨の為替レートが下がり続けた場合、各国の中央銀行が自国通貨を購入し、外貨を売る「為替介入」を行う。ただ、今回のロシアの場合、各主要国の経済制裁で、約6割(約43兆8000億円)の外貨準備が凍結されたとみられ、これまで通りの為替介入ができない。
ロシアは14年のクリミア半島への軍事侵攻時にも、各国から経済制裁を受けているが、為替レートは1ルーブル=2〜3円で推移しており、1円を下回ることはなかった。それだけ、今回の経済制裁が強力だということの証左といえるだろう。
日本への影響は「一時的」
ルーブル安は日本経済にどのような影響を与えるのか。市川氏は「ロシア経済の混乱が日本経済に与える影響は一時的」と推測する。
その根拠として市川氏が指摘するのが、日本の対露貿易の規模の小ささだ。財務省の貿易統計(2021年)によると、日本の輸出入総額全体に占めるロシアの割合は、輸出が約1.04%、輸入が約1.82%と、割合ではそこまで大きくはない。
日本の対露貿易での輸出総額は約8600億円で、主な輸出品目は自動車(41.5%)、自動車部品(11.6%)、ゴム製品(5.4%)。輸入総額は約1兆5400億円で、主な輸入品目は液化天然ガス(LNG、24.1%)、非鉄金属(18.9%)、石炭(18%)、原油(16.7%)だった。
こうした状況から市川氏は「一時的に貿易には影響出るが、他のルートである程度、代替可能。時間の経過とともに落ち着いていくだろう」とし、日本経済全体へのダメージは限定的との見方を示した。
原油価格高騰 原材料価格への影響も
一方で、ウクライナ情勢の長期化やルーブル安などの影響で、原油価格の高騰が続いている。市川氏は「原油価格が相当な勢いで上昇している。仮に高止まりした場合、原材料価格の高騰につながる可能性がある」と警戒感を示す。
市川氏は影響が出る可能性が高いものとして、ガソリン価格やクリーニング代、化学製品、紙、海産物などを挙げる。「電気代やガス代にもじわじわ影響が出る可能性がある」としつつ「代替ルートの確保で解消されるため、影響は短期的ではないか」とした。
対露制裁で世界経済は1.28%のマイナス成長か
ウクライナ侵攻の長期化とルーブル安は、世界経済に与える影響力はどの程度なのか。三井住友DSアセットマネジメントはロシアが中国のみと貿易した場合、世界経済の対GDP成長率を1.28%押し下げると試算。日本が対露貿易を停止した場合は、同マイナス0.5%になるという。
日本海で合同軍事演習を行うなど、事実上の軍事同盟を結んでいる中国がロシアとの貿易関係を解消する可能性は低いものの、仮に中国も主要国の動きに同調し、ロシアとの貿易を停止した場合は、影響はさらに拡大するとみられる。
影響は限定的とは言え、一時的には日本経済に影響を及ぼす、ウクライナ情勢。日本政府は、欧米諸国と同様に、国際決済網「国際銀行間通信協会」(SWIFT)からロシアの主要銀行を排除する方針を示しているため、今後、同国との資金決済が困難となる。
市川氏は日本企業に対し「ロシア以外の輸出先や輸入先を迅速に見つけることが重要だ」と呼び掛けた。
●SIE、ウクライナ情勢を受け ロシアでのPS Storeの運営 3/10
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は3月10日、ウクライナの情勢を受け、ロシアでのハードウェア・ソフトウェアの出荷やPlayStation Storeの運営を停止した。
今回の発表は、PlayStation公式Twitterを通じて公開されたもの。現在のウクライナ情勢を受け、ロシアでのハードウェア・ソフトウェアの出荷や同国での「グランツーリスモ7」の発売、PlayStation Storeの運営などを全て停止したことを明らかにした。
また親会社であるソニーグループは、人道的支援として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」へ200万ドル(約2.3億円)の寄付をすると発表。SIEは「グローバルコミュニティーとともに、ウクライナにおける平和を願います」とコメントを寄せている。
●欧州11の国と地域向けEMS(国際スピード郵便)の引き受け停止 3/10
ウクライナ情勢をめぐり日本郵便は3月8日、イギリスやドイツ、フランスなど欧州の11の国と地域向けのEMS(国際スピード郵便)について、新規引き受けを停止すると発表した。
EMSの新規引き受け停止対象は、アンドラ、英国、ガーンジー、ジャージー、ドイツ、フィンランド、フランス、ベルギー、マン島、モナコ、ガドループ。
ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、ヨーロッパ各国は対ロ経済制裁の一環として、各国領空での飛行を禁止。その対抗措置としてロシアは、ヨーロッパ各国の航空機の領空通過を禁止したため、航空機を使った輸送にも影響が出ている。
あわせて、航空便で輸送する国際郵便物の新規引き受けも停止した。対象は、EMSの引き受け停止対象に、ボスニア・ヘルツェゴビナなどを加えた18の国と地域向け。
アンドラ、英国、ガーンジー、ジャージー、ドイツ、フィンランド、フランス、ベルギー、マン島、モナコ、ガドループ、ガボン、チュニジアなどへの船を使った郵便の引き受けは続けている。
なお、オーストリア、オランダ、スウェーデン、チェコ、デンマーク、ノルウェー、ハンガリー、ポーランド、ポルトガル、ラトビア、リトアニアなどは、新型コロナウイルス感染症の拡大により、3月1日にEMSの引き受けを停止したと発表している。
●第三次大戦勃発のリスクすら漂うウクライナ情勢 3/10
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからというものの、憂鬱な日々が続く。がれきの山に変貌しつつあるキエフやハリコフなど、何が起こったのかを想像したくない光景が日夜報じられている。この紛争がどのような終結を迎えるのかは誰にも分からない。3回目の停戦交渉でもほとんど進捗がみられない現時点では戦争の長期化も視野に入り、地政学的リスクは確実に高まりつつある。
ウクライナ侵攻の影響は欧州に限らず随所に現れており、特に欧州からアジアに行く物流は既に滞り始めている。年末年始のオミクロン株大流行による人手不足も重なったのか、筆者がロンドンから昨年12月に出した航空郵便が、ようやく今年3月に東京に届くなどの混乱が続いている。欧州各国の飛行機はロシア上空通過を禁じられているため、日本を含めアジアに行くフライトのキャンセルが相次いでいる。
また、ロシアへの制裁により、金融市場の一部には既に金融危機を想起させるストレスの兆しが見えている。ドル建てロシア国債の利払い期限が3月16日に迫っており、選択的債務不履行(セレクティブ・デフォルト)に陥る可能性が高いことが指摘されている。しかも西側諸国の大規模な対ロシア制裁強化により、複雑なデリバティブ契約の決済にも混乱が生じる恐れもある。そのためCDS取引ではロシアのデフォルトに際し、十分なプロテクションが付与されない可能性も出ているという。ロシア政府は、対外債務返済をルーブルのみで一時的に認めているにすぎず、海外債権者(いわゆる非友好国の債権者)がどう反応するかは未知数である。とはいえ、制裁による影響はロシアに限らない。石油やガスの価格は上昇を続け、同様に食料品価格も高騰するなど世界的なインフレ圧力をさらに強めている。ウクライナ侵攻の結果が、西側諸国とロシアの経済圏の間に、深く長期的な分断を招くことになれば、さらに影響が長引く可能性がある。
また最近欧州で、指摘され始めているのが、第三次世界大戦勃発の可能性である。西側諸国は一連の武器をウクライナに供与しているが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、激化するロシア軍の攻撃を防ぐには不十分として、戦闘機の必要性を訴え、NATO諸国に援助を求めている。しかし要請に応え戦闘機を供与すれば、ロシアはNATOがロシアとの直接的な紛争に踏み出したと解釈すると警告している。さらにロシア国防相は、ウクライナの隣接諸国に対し、国内の空軍基地をウクライナ空軍に利用させることは、武力紛争への関与とみなすと発言している。ただ米国ではポーランドまでの戦闘機の供与について、超党派の支持が集まっており、第二次大戦中に可決された連合国への軍事援助を行うための武器貸与法に似通った法制を検討する声もある。ウクライナ軍事力強化に向けできる限りのことをすべきという世論の支持もあり、政治的には難しくないという。とはいえ、経済制裁の影響で追い詰められたプーチン大統領が激高して、極端な策を取る可能性を指摘する声も増えつつある。
●ウクライナ情勢でトルコの貿易や物流が混乱 3/10
ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、両国間の物の流れが停滞したことで、トルコの貿易および物流セクターに混乱が見られている。トルコのウクライナ、ロシアとの貿易は海運やトラック輸送が主流で、多くの輸送トラック(RORO船移動を含む)が、トルコとウクライナ、またウクライナ経由でロシアをつないでいた。しかし、ロシア軍によるウクライナ侵攻により、トルコ企業のトラック約500台とその運転手が、ウクライナで立ち往生する事態が発生した。
また、ロシアからウクライナ経由でトルコに戻る予定だったトラックが、通常は利用しない、通関のキャパシティが小さいジョージア経由での帰国を選択したことから、ロシア・ジョージア国境で約20キロ、ジョージア・トルコ国境で約7キロとなる渋滞が発生した。トルコのロシア向け輸出の約53%をトラック輸送が占めていたことから、代替の空輸も含めて輸送コストが急上昇している。
他方、ロシアからの輸入は、その約94%を海運に依存している。このため、ロシアがアゾフ海での海運を停止したことで、トルコ向けヒマワリ油を積んだ貨物船15〜16隻がロストフ・ナ・ドヌー港から出港できず、スーパーマーケットなどではヒマワリ油の買い占めなどの混乱をもたらした。トルコの国産で足りない分のヒマワリ油の輸入においては、ロシアとウクライナからの輸入が全体の92.8%を占めているためだ。
この件については、トルコ植物油産業協会(BYSD)が3月2日、トルコ貿易省に緊急対策を求めたほか、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領による出港要請を、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が承認したことで沈静化に向っていると報じられている。
●“マリウポリの産院にロシア軍が攻撃” ゼレンスキー大統領  3/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ツイッターで、東部マリウポリの産院がロシア軍の攻撃を受け、がれきの下敷きになっている人がいると明らかにし「残虐だ。世界はいつまでテロを無視する共犯でいるつもりなのか。いますぐ空を閉ざせ。殺りくを止めろ」などと書き込みました。
複数の外国メディアはウクライナの当局者の話として、これまでに17人のけが人が確認されたものの、死亡した人はいないと伝えています。
AP通信が現地の状況だとして配信した動画には、けがをした妊婦とみられる女性が担架で搬送される様子や、割れたガラスなどが床に散乱している様子が映っています。
また、イギリスのジョンソン首相もツイッターで「弱者や無防備な人を標的にすることほど下劣なことはない。プーチン大統領のおそろしい犯罪の責任を追及していく」とロシアの攻撃を批判しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領が東部マリウポリの産院がロシア軍の攻撃を受けたと明らかにしたことについて、ユニセフ=国連児童基金のラッセル事務局長は9日、声明を発表し、「子どもと女性ががれきの下じきになっているという情報に恐怖を感じている。死傷者の数は不明だが最悪の事態をおそれている」としました。
その上でウクライナでは、ロシアの軍事侵攻から2週間たらずで、少なくとも37人の子どもが死亡し、100万人を超える子どもが国外に避難したとして、直ちに子どもや民間施設への攻撃をやめるよう訴えました。
●ロシアのウクライナ軍事侵攻から2週間 侵攻後初の外相会談へ  3/10
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めてから10日で2週間がたちましたが、ロシア軍は、依然として民間の施設も対象に攻撃を続けています。両国は10日、侵攻後、初めてとなる外相会談を開きますが、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構に加盟しないとする「中立化」など、ロシアが求める停戦の条件をめぐって具体的なやり取りが行われるかが焦点です。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、首都キエフに向けて主に3方向から部隊を前進させているとみられるほか、民間の施設も対象に攻撃を続けています。
このうち東部の都市マリウポリでは、9日、産科などが入る病院が、ロシア軍の攻撃を受け、メディアは、ウクライナの当局者の話として、これまでに17人のけが人が確認されたとしています。
現時点で死亡した人はいないということです。
国連人権高等弁務官事務所によりますと、先月24日から今月8日までにウクライナで、少なくとも市民516人の死亡が確認され、このうち37人は子どもだということです。
一方、ウクライナの当局は、激しい戦闘が続くマリウポリだけで、これまでの犠牲者が少なくとも1170人に上るとしています。
アメリカ国防総省の高官は9日、ロシア軍がミサイルの発射や爆撃を増やしているなどと指摘したうえで、標的に向けて精密な誘導ができない爆弾を投下している可能性があると懸念を示しました。
また住民の避難について、ロシア国防省は9日も、首都キエフを含む5つの都市などで避難ルートを設置したとしていましたが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、避難できたのはキエフなどの3か所からおよそ35000人にとどまっているとして、ロシア軍による攻撃が収まらない中での避難は困難だと批判しています。
一方、ロシア軍が占拠しているウクライナ北部にあるチェルノブイリ原子力発電所で外部からの電源供給が失われたのに続き、IAEA=国際原子力機関は9日、南東部のザポリージャ原子力発電所では、監視システムからのデータ送信が停止したことを明らかにしました。
詳しい原因は、現時点で分かっていないということです。
10日には、トルコ政府の仲介で、軍事侵攻が始まってから初めてロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相がトルコ南部のアンタルヤで会談する予定です。
ロシアは、停戦の条件として、ウクライナがNATOに加盟しない「中立化」と「非軍事化」を強く要求していて、外相会談でこうした条件を巡って具体的なやり取りが行われるかが焦点です。
“米などが生物兵器開発に関与”と主張 米が真っ向から否定
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して2週間となる中、ロシアはアメリカなどがウクライナでの生物兵器の開発に関与していると主張し、これに対し、アメリカが真っ向から否定する事態となっています。
ロシア外務省のザハロワ報道官は9日、アメリカが関与している生物兵器の開発計画の証拠を隠滅しようとした文書がウクライナで見つかったなどと、一方的に主張してアメリカなどを非難しました。
これについてアメリカの国防総省や国務省の報道官は9日、相次いで「お笑いぐさで、ばかげている」とか、「ロシアがウクライナで行っているおぞましい行為を正当化するために、うその口実をねつ造している」などと真っ向から否定しました。
そして、ホワイトハウスのサキ報道官はツイッターへの投稿で、「これはロシアがウクライナやほかの国々で何年にもわたって繰り返し行い、うそだと証明されている情報操作の1つだ」と反論しました。
そのうえで、「ロシアがウクライナで化学兵器や生物兵器を使ったりそれらを用いて偽旗作戦を行ったりすることを、われわれは警戒すべきだ」として、ロシア側が事実と異なる口実をもとに攻撃を仕掛けるおそれがあると警戒感を示しました。
●チェルノブイリ原発 電源喪失 IAEA「安全性に致命的影響なし」  3/10
ウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所について、ウクライナのクレバ外相は9日午後、電源が失われたとツイッターに投稿しました。IAEA=国際原子力機関はツイッターへの投稿でウクライナ側から報告を受けたとしたうえで「安全性への致命的な影響はない」としています。
ロシア軍が占拠しているウクライナ北部にあるチェルノブイリ原子力発電所について、ウクライナのクレバ外相は現地時間の9日午後2時ごろツイッターでの投稿で、外部からの電源供給が失われたと投稿しました。このなかでクレバ外相は「ロシア軍に占拠されているチェルノブイリ原子力発電所への唯一の送電設備が損傷して、すべての電力供給が途絶えた。電力供給を復旧させるためロシアがただちに攻撃をやめるよう国際社会は求めてほしい」としています。また「予備のディーゼル発電機で48時間は電力が維持できるが、その後は使用済み核燃料の冷却システムがストップするだろう」としています。
IAEA「安全性に致命的影響なし」
IAEA=国際原子力機関は日本時間の午後10時すぎにツイッターに投稿し、ウクライナからの報告として、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所について電力供給が停止されたことを明らかにしたほか、現時点で「安全性への致命的な影響はない」とする見解を示しました。ツイッターでIAEAのグロッシ事務局長は、今回の事態について声明を出し「原発に電力供給を続けるという安全性の担保を揺るがすものだ」としています。また、その直後の投稿でこれまでの情報を更新し、チェルノブイリ原発にある使用済み核燃料は保管している専用のプールに冷却用の水が十分にあるため、電力供給が停止しているが冷却機能を十分維持しているとしています。
ウクライナ原子力規制機関“キエフの高圧電線の停電が影響”
ウクライナの原子力規制機関は、現地時間9日午前11時20分すぎに起きた首都キエフにある高圧電線の停電による影響で、チェルノブイリ原子力発電所にあるすべての施設への電力の供給が停止したと発表しました。このため、チェルノブイリ原発では、非常用のディーゼル発電機で原発の安全上重要な設備に電力を供給しているということです。また、非常用のディーゼル発電機は48時間稼働できるとしています。一方で、ウクライナ国営の電力会社の情報として「周辺地域で戦闘が行われているため、電力供給網の復旧作業が実施できない」としています。
専門家「すぐに大事故考えにくい」
原子力委員会の元委員長代理で長崎大学の鈴木達治郎教授は「廃炉となってから長時間経過していることから使用済み核燃料から出る熱の量は低く、電力が復旧できないとしてもすぐに大事故につながるとは考えにくい」と指摘しました。そのうえで「電力供給の遮断が意図的かどうかは分からないが、戦争状態であることを考えるとロシアがさらに攻撃を仕掛けてくることも考えられ、非常用電源がもつ48時間以内に復旧できずに事態が悪化することも懸念される。まずは復旧できるかどうかを注視する必要がある」と話していました。また、原子力発電所の構造に詳しい日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野廣委員長は、チェルノブイリ原発で保管されている使用済み核燃料について「使用済み核燃料は原子炉から取り出されたあとも熱を発するため、専用のプールで保管する。その後も、水を循環させて冷却している使用済み核燃料は一定程度残されている。廃炉になって数十年がたち、冷却はかなり進んでいて、電源が必要ない空冷式の保管方法に変更されたものもある。状況を注視する必要はあるが、すぐに大事故が起きることはないと考える」と指摘しています。
チェルノブイリ原発とは
チェルノブイリ原子力発電所は1978年から1984年にかけて4基が営業運転を開始し、1986年に事故を起こした4号機は、コンクリートなどで覆う「石棺」と外側を覆う巨大なシェルターで、放射性物質の飛散を防ぐための対策が行われています。また、1号機から3号機は2000年までに順次閉鎖され、世界原子力協会によりますと、この間に発生した2万体あまりの使用済み核燃料が、水で冷やすタイプと空気で冷やすタイプの設備で保管されているということです。 
●ウクライナ侵攻で“板挟みの苦しみ”…中国・習近平国家主席 3/10
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、にわかに中国の動向に注目が集まっている。3月2日、ニューヨーク・タイムズ紙は、中国がロシアのウクライナ侵攻計画を事前に把握しており、「北京冬季五輪の閉幕前に侵攻しないよう、ロシア側に求めた」と報じている。
実際、五輪開幕の日である2月4日にはプーチン大統領が習近平国家主席と首脳会談をおこない、NATO(アメリカを中心とした軍事同盟)の拡大に反対する共同声明を発表している。
さらにウクライナに侵攻したロシアを、台湾統一を望む中国になぞらえ、台湾が “第2のウクライナ” となることを懸念する声も出ている。
世界は、中ロvs.欧米という新冷戦体制へと移行するのだろうかーー。だが、中国情勢を専門とする拓殖大学の富坂聰教授はこうした展望を一笑に付す。
「正直、『来たか』という感じです。まず、中国政府がウクライナ侵攻を事前に知っていたというのはあり得ないと思いますよ。西側メディアは、中国を “悪のグループ” にまとめてしまいたいという動機が強いのでこんな報道が出るのでしょうね。情報源は匿名の政府高官の証言だけ。新型コロナウイルスは武漢のウイルス研究所から流出したという説と同レベルの眉唾な話です。中国外交部の華春瑩報道官は、定例会見で記者から『武器を裏でロシアに供与しているんじゃないか』と質問され、苦笑いしてました。メディアは大国同士の複雑な関係を、あまりにわかっていないんです」
富坂氏は、中国はむしろ今回のウクライナ侵攻で板挟みにあい、苦悩していると指摘する。
「たしかに中国は、NATOの東方拡大に反対です。NATOに加盟する中央・東ヨーロッパの国が続々と増えています。しかし、NATOとは、要するにアメリカなんです。アメリカに牛耳られているから、ヨーロッパ内部でもNATOに対して疑問視する声がある。たとえばフランスのマクロン大統領は、『NATOはアメリカのためにあるので、独自に欧州軍を作る』と何年も前から言っています。中国からすればNATOの拡大は“アメリカの手先”が増えているということで、ロシアが危機感を高めたことに理解を示しています。ですが、中国は決して、EU諸国を敵対視しているわけではないんです」
中国はウクライナとの関係も良好で、EUとの関係性も重視しているという。
「ウクライナとは経済的な交流も深いですからね。中国は遼寧という空母を持っていますが、これはもともと、ウクライナの『ワリャーグ』という空母なんです。ウクライナはロシアの強い反対を押し切って、この空母を中国に渡している。つまり特別に深い関係があります。中国がロシアと手を組んでいるのは、あくまで “対米” という1点だけ。ロシアが主権国家たるウクライナに、軍事侵略をおこなうことには当然反対なんです」
3月3日には、国連総会でロシア非難決議が141カ国の支持をうけ採択された。中国とインドは棄権したが、これもただちに “親ロシア” を意味するわけではないという。
「中国とインドの外交方針は、『非同盟』なんですよ。これは1955年に開催されたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)以降の両国の外交の一番根っこなんです。じつはロシアも、ソ連崩壊後は基本的に『非同盟』を重視するスタンスなんです。先ほどの中露共同声明にも、『我々は非同盟の関係だ』とわざわざ書いているわけです。徒党を組んで、誰かをいじめるというのには、絶対参加しない国なんです。だから棄権しました」
一部メディアによると、ウクライナにおけるロシア軍の動きは停滞している。SWIFT(銀行間の国際決済システム)からの排除など、ロシアへの数々の制裁が実施されるなか、“軍事作戦” に要する時間が長引けば長引くほど、ロシアの国際社会での孤立は深まっていく。
「中国は、ロシアの孤立が決定的になって、アメリカ中心の世界にやられる展開となったときは、ロシアを助けるでしょう。ただそれをすれば、EUとの関係が悪化するのは必至です。中国としては、ウクライナに軍事侵攻するというプーチンがとった最後の手段は受け入れられない。でも、今回の件ではロシアに同情すべき点もあるので、西側諸国のような感じで思い切りこぶしは振り下ろせない。そういう板挟みの状態なんです」
ロシアに同情すべき点とはなにか。
「中国は、ゼレンスキー大統領をアメリカの手先だと考えていますから。アメリカの威を借りてミンスク合意(戦闘停止の取り決め)を反故にし、さんざんロシアを挑発した結果がこれだ、という認識です。ゼレンスキーに倒れては欲しいとは思っていません。でも、彼が後悔する姿は世界に晒されてほしいと思っているはず。EUの議会で、とある議員は『間違った情報を捏造して、イラクという国を “滅亡” させたとき、わが国のテレビ塔は国旗の色を変えたのか。国旗の色を変える前に、イラクの国旗さえ知らないだろう。イラクのときは何人死んだんだ、ウクライナどころじゃない』という趣旨の演説をしました。中国の見方もまさに同じ。これまでアメリカは、さんざん戦争を仕掛け、主権国家を潰してきました。でも、今回はロシアが軍事侵攻してしまい、世界的にウクライナ=アメリカが正しいという風潮になってしまった。これに習近平国家主席は頭を抱えているわけです」
ウクライナ侵攻と台湾問題も混同すべきでないと指摘する。
「結局、中国からすると、ウクライナは国連に加盟している主権国家でしょう。それが攻撃を受けたのと、台湾の問題って根本的に違うんですよ。要するに、台湾問題のルーツは共産党と国民党という2つの政党の喧嘩なわけでね。そこを混同されるのは中国としては困る。中国が台湾と戦争すれば、もちろん勝てますよ。でも、その後2000万人の怒れる人々を抱えながら台湾を経営していくメリットは、中国にはほとんどありません」
ロシアとウクライナの間では停戦交渉が進められているが、両国の出す条件には大きな隔たりがある。中国が第三国として停戦を仲介すべきだという意見もあるが……。
「そういう交渉の “場” だけなら、中国も提供できると思います。だけど、基本的にロシアの懸念というのは、ロシアの体制保障ですからね。ロシアの体制保障には、NATO=アメリカの排除しかないんですよ」
“新冷戦” が起きないのは結構だが、今もウクライナでは犠牲者が増え続けている。1日でも早い停戦が待たれる。
●中国外相、ウクライナ情勢は「戦争」 早期停止を期待 3/10
中国の王毅外相は10日、フランスのルドリアン外相とオンライン会談で、初めてウクライナ情勢を「戦争」と表現し、ウクライナでの戦争ができるだけ早く停止することを期待すると中国の立場を示した。
中国国営テレビによると、王外相は「戦闘と戦争ができるだけ早く停止することを期待する」と発言。全ての当事者に対し、ウクライナ情勢の緊迫化を防ぐため、冷静な態度で一段の措置を講じるよう求めた。
中国はこれまで、ロシアのウクライナへの軍事攻撃を「侵略」という表現を使わず、非難も控えていた。
●“マリウポリの産院にロシア軍が攻撃” ゼレンスキー大統領  3/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ツイッターで、東部マリウポリの産院がロシア軍の攻撃を受け、がれきの下敷きになっている人がいると明らかにし「残虐だ。世界はいつまでテロを無視する共犯でいるつもりなのか。いますぐ空を閉ざせ。殺りくを止めろ」などと書き込みました。
複数の外国メディアはウクライナの当局者の話として、これまでに17人のけが人が確認されたものの、死亡した人はいないと伝えています。
AP通信が現地の状況だとして配信した動画には、けがをした妊婦とみられる女性が担架で搬送される様子や、割れたガラスなどが床に散乱している様子が映っています。
また、イギリスのジョンソン首相もツイッターで「弱者や無防備な人を標的にすることほど下劣なことはない。プーチン大統領のおそろしい犯罪の責任を追及していく」とロシアの攻撃を批判しました。
ユニセフ“子どもと女性ががれきの下じきの情報に恐怖”
ウクライナのゼレンスキー大統領が東部マリウポリの産院がロシア軍の攻撃を受けたと明らかにしたことについて、ユニセフ=国連児童基金のラッセル事務局長は9日、声明を発表し、「子どもと女性ががれきの下じきになっているという情報に恐怖を感じている。死傷者の数は不明だが最悪の事態をおそれている」としました。
そのうえでウクライナでは、ロシアの軍事侵攻から2週間たらずで、少なくとも37人の子どもが死亡し、100万人を超える子どもが国外に避難したとして、直ちに子どもや民間施設への攻撃をやめるよう訴えました。
松野官房長官「状況を深刻に懸念」
松野官房長官は、午後の記者会見で「ロシア軍は学校や病院、住宅なども攻撃し、多数の民間人が死亡している。このような状況をわが国も深刻に懸念している。国際秩序の根幹を守り抜くためきぜんと行動し、こうした暴挙には高い代償が伴うことを示していかなければならない。ロシアが侵略をやめ、国際社会の声に耳を傾けるよう引き続きG7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携して適切に対応する」と述べました。
また、「いわゆる人道回廊の設置は両国間で10ルートで合意されたという報道があり、民間人の避難が実際に進むのか注視したい」と述べました。
●善意につけこむ偽募金 在日ウクライナ大使館が注意呼びかけ 3/10
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、ウクライナ大使館を装い寄付を募る偽メールが相次いでいて、在日ウクライナ大使館が注意を呼びかけています。
在日ウクライナ大使館の公式ツイッターによりますと、大使館が呼びかけている人道支援のための寄付は今月7日時点でおよそ15万人の日本人などから40億円近くが集まっているということです。
その一方で、在日ウクライナ大使館は善意につけこむ「偽メール」が出回っていると明らかにしました。メールの発信元は英語で「ウクライナ大使館」を名乗り、ビットコインなどの暗号資産による寄付を募り、不審なURLが記載されているということです。
在日ウクライナ大使館は、メールは偽物で騙されないよう呼びかけています。これについて警視庁も「昨今の情勢に応じた寄付を呼びかける詐欺のメールにご注意をお願いします」としています。
●プーチン大統領 “ロシア山岳地帯”に潜伏? 欧州議員に情報 3/10
いま、注目されているプーチン大統領の“居場所”。めざまし8が、あるヨーロッパ議会議員を取材すると、「ロシアの山岳地帯にいる」という情報提供があったといいます。一体、どんな場所なのでしょうか。潜伏先として取り沙汰される山岳地帯の謎を追いました。
暗殺への“恐れ”…ウクライナ軍人から「居場所」の手紙
元CIA諜報員 ジョン・サイファー氏:彼は暗殺を恐れていると思います。引きずられ、撮影され、血まみれになることを恐れていると思います。
「暗殺を恐れており、そのため身を隠している」という見方も浮上するプーチン大統領。今、どこにいるのでしょうか。
退役将校・欧州議会議員 リホ・テラス氏:公での露出を直接見た人はいません。
プーチン大統領の居場所を聞いたというエストニアのヨーロッパ議会の議員を独自取材。すると。
ウクライナの軍人から、プーチン大統領の居場所について手紙をもらったといいます。その中身は。
「ウラル山脈にある隠れ家でオリガルヒを集めて、会議をした。プーチン大統領は数日で戦争が終わると思っていたが、いまだ続くことに激怒した。」
そして、最近のプーチン大統領についてこう指摘します。
退役将校・欧州議会議員 リホ・テラス氏:最近のプーチンの公への露出の仕方を見ると疑わしい。彼がクレムリンにいるかどうかも疑わしい。近くの山々にシェルターもあるので、そこで隠れていることも考えられる。
浮かび上がったのは、ロシアの山岳地帯。ロシア政治に詳しい筑波大学の中村教授もこう分析しています。
疑わしい山岳地帯 “プーチン大統領の別荘”も浮上
筑波大学 中村逸郎教授:このウラル山脈のずっと南の方、マグ二トゴルスクっていう都市があります。この山岳地帯に実は秘密の地下都市、シェルター。地下都市といってもまあ非常にでかい巨大な地下都市があるといわれているんですね。
この地域を、衛星画像で見てみると、地下都市があるとされるウラル山脈南側の都市・マグ二トゴルスク付近では小さな町が点在するものの、ほとんどが山となっています。本当にこのような場所にいるのかでしょうか。現地の住人に電話取材をしました。
ウラル山脈南側の住人:私はプーチンの居場所が分かりません。誰も見たことがありません。彼のプライベートのことについて私たちは何も知りません。私は皆さんに伝えたいことがあります。戦争をしないでください。
プーチンの居場所は不明であると回答。一方、中村教授が指摘したのは、もう1つの可能性。
筑波大学 中村逸郎教授:このバルナウルっていう都市があるんですけども、ここから南側ですよね、この辺り山岳地帯で、そして森林も深いんですね。ちょうど森林地帯の中にプーチン大統領の別荘があると。
ロシア中南部に位置する、アルタイ地方。その南側は高い山に囲まれています。こちらも、住人に話を聞きました。
アルタイ地方の住人:(別荘など)分かりません。知らないです。
ウラル山脈南部と、アルタイ地方。現在、指揮命令系統のほころびについての情報は浮上していません。こうした遠隔地から最前線へ指揮を執り続けている可能性もあります。
●ウクライナへの軍事作戦必要、ロシアは勝利者に=プーチン氏側近 3/10
ロシアのプーチン大統領の側近であるセルゲイ・チェメゾフ氏は、ウクライナでの軍事作戦がロシアへの攻撃を防いだと述べ、西側による制裁にロシアは打ち勝つとの見通しを示した。
国営コングロマリット、ロステックの最高経営責任者(CEO)であるチェメゾフ氏はスタッフに対し、「ロシアの歴史を見てみると、その歴史のほとんど全てでロシアはさまざまな制裁や包囲する敵との戦いに臨み、常に勝利者となった」と指摘。「今回も同じだろう」と述べた。
同氏はソ連崩壊前に東ドイツでプーチン氏とともに旧ソ連国家保安委員会(KGB)のスパイとして活動。ロシアで影響力を持っている。
ロステックから送られてきた動画によると、チェメゾフ氏は「単純な生活にはならないだろう」とし、「制裁はかなり深刻だ」と語った。
しかし、ウクライナ東部のロシアが支援する地域への攻撃、そしてロシア自体への攻撃を防ぐために今回の軍事作戦は必要な行動だと指摘。制裁によってロシアは内部発展を遂げることができると述べた。
●ニューヨーク・タイムズ、記者をロシア国外に退避…プーチン氏の報道統制 3/10
ロシアが、政権に都合が悪い情報を「虚偽」とみなして厳罰を科す新法を成立させ、報道統制を強める中、欧米などの海外メディアは、ロシア国内での活動を巡り対応に苦慮している。
米紙ニューヨーク・タイムズは8日、ロシアから記者らを一時的に国外に移す方針を明らかにした。記者の安全確保が理由としている。米ブルームバーグや米CNNもすでに、ロシア国内で取材や報道を一時停止することを決めている。
一方、英BBCは当初、ロシア国内での活動を一時的に停止するとしていたが、8日、ロシア発の英語報道を再開すると発表した。同社は声明で「独立かつ中立的な立場で報道する」と述べた。
また、米紙ワシントン・ポストは、ロシアに駐在する記者らの安全を図るため、特定の記事で筆者名などを載せていないという。
●ロシアの芸術家にプーチン批判を求め、「祖国」を捨てさせる 3/10
2月25日、ニューヨーク市マンハッタンの中心部にあるアメリカ最高のコンサート会場、カーネギーホールでのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の公演に、予定されていた指揮者の姿はなかった。
ラフマニノフというロシアを代表する作曲家の作品を演奏するために本来起用されていたのは、同じくロシア出身の世界的指揮者ワレリー・ゲルギエフ。同時に協奏曲のソリストとして予定されていたロシア人ピアニストも降板がアナウンスされた。
発表には明記されていないが、広報担当者はメディアの取材に対して「昨今の世界的規模の出来事」が理由だとコメントしている。コンサート自体は急きょ代役を立てて行われたが、あまり息の合わない演奏だったようだ。
ゲルギエフは23日、ミラノ・スカラ座で公演を行ったばかりだった。だがロシアのプーチン政権による翌24日のウクライナ侵攻直後から、「それを非難しなかった」として手にしていたスカラ座を含む名門歌劇場やオーケストラでの地位を相次いで追われ、マネジメント会社との契約も解消された。
ゲルギエフは、ウラジーミル・プーチンが1990年代初頭にサンクトペテルブルク市で政治家としてのキャリアをスタートさせた頃からの知己で、2012年に大統領選のテレビコマーシャルに出演したり、14年のクリミア併合に賛意を示したりと、これまでもその忠実な支持者と見なされ批判も少なくなかった。今回も高い知名度も相まって真っ先にやり玉に挙げられたと言えるだろう。
権力者による芸術「支援」と「利用」
プーチン政権はウクライナ侵攻の理由の1つを「非ナチス化」だと語る。だが、そのナチスドイツも希代の名指揮者として名高いフルトベングラーや作曲家ワーグナーのオペラを、権威を高めるための舞台装置として利用してきた。
もちろんナチスだけではなく、古来よりオーケストラは王侯貴族の持ち物だったし、コンサートのチケット収入によって自力で収入を得るようになった後も権力者や富豪たちが自らの権勢を示すために芸術家を「支援」してきた歴史がある。
一方、事務局・裏方・演奏家など100人以上を養う必要がある現代のオーケストラの懐事情はどこも非常に厳しい。楽団を運営し、演奏の拠点をつくり、音楽祭などの大規模イベントを仕掛けようと思えば、おのずから多くの資金を含む援助が必要になる。お互いの思惑がそこで一致するのだ。奏でられる音楽が持つ高い芸術性は、それが無垢であることを必ずしも意味しない。
もちろんそうした打算的な関係だけではない。
『オリエンタリズム』などの著作で知られるパレスチナ系アメリカ人のエドワード・サイードとイスラエル人の指揮者ダニエル・バレンボイムは1999年にウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団を創設。イスラエルとアラブ諸国出身の若手演奏家が集まり、1つのオーケストラとして合奏することで対立する双方の相互理解につなげたいという理念を形にした。サイードが03年に死去した後、さまざまな困難に行き当たりながらも現在でも演奏活動を行っている。
政治的な活動や平和運動のために設立したわけではない。ひとりの人間として相手の奏でる音や動きを見て聞くことで、相手を理解して敬意を払うようにしてほしい――現在も楽団を率いるバレンボイムは、朝日新聞の取材にこう語る。
ほかにも、ナチスドイツによるソ連侵攻から50周年を迎える91年の記念日に、ドイツとソ連(当時)の演奏家によって結成されたオーケストラによる演奏会でのパフォーマンスは名演奏として今でも高く評価される。欧州で最も有名なフェスティバルの1つ、ザルツブルク音楽祭は第1次大戦後、戦争により分断した欧州を芸術の力で融和させようと作曲家リヒャルト・シュトラウスなどを中心に創設され現在まで続く。
このように音楽が統合の象徴として用いられながら、同時に音楽そのものとして高い評価を得ている例も数多い。
独裁者の保護を受けた社会的活動
崇高な理念が政治体制と妥協を迫られることもある。貧困の中で薬物や犯罪に走りがちな若者に楽器を教え、そこで育ったメンバーで構成されるベネズエラのシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラの演奏は一時世界的なブームを巻き起こした。しかし、その教育システムは独裁者ウゴ・チャベスと後継者ニコラス・マドゥロによる手厚い保護によって育てられ、国家のイメージアップの道具としても利用されてきた。
その申し子ともいえる指揮者グスターボ・ドゥダメルは現在、政権と袂(たもと)を分かっている。しかし公にそうした態度表明を行うことは、彼が少なくともマドゥロ政権が続く間は故郷に帰れなくなることをも意味する。
ゲルギエフが学び、プーチンが政治家としてのキャリアを築いた街サンクトペテルブルクが生んだ大作曲家にショスタコービチがいる。
ショスタコービチは社会主義リアリズムの名の下に政治が芸術を統制するスターリン政権下で、ソ連共産党機関紙プラウダによる批判、そして体制の緩みを引き締めるため党中央が芸術全般を弾圧した「ジダーノフ批判」という2度の強い迫害にさらされた。ただ彼は迎合的・党賛美にも見える曲を書いて「プロパガンダ作曲家」と揶揄されながらも権威主義体制への批判精神を失わず、多くの作品を残した。
とはいえ、表現者ではあっても創造者ではないゲルギエフが、同じような方法でしたたかに面従腹背することも難しい。
ゲルギエフのデビューは文豪トルストイの長編小説を原作とした歌劇『戦争と平和』の指揮だった。そして彼は国連設立50周年を記念して95年につくられ、平和を訴えたり、復興を記念する行事があるときのみ活動する楽団「ワールド・オーケストラ・フォー・ピース」の指揮者を97年から務めている。
音楽家に銃で何かを解決することはできない
現在、楽団のSNS公式アカウント上ではウクライナ侵攻で釈明・意思表示を求められた共同創設者によって、10年のドキュメンタリー番組内のインタビュー映像が「ゲルギエフの平和の希求への意思表示」として紹介されている。彼は自らこう語っている。
「軍人でも政治家でもないわれわれ音楽家は、制服を着て、あるいは銃を持って何かを解決することなどできない。われわれにできるのは、ただただ(平和への)意思表示を行い続けることだけだ」
ゲルギエフはこの言葉どおりに行動せよ、という意見は正論ではある。さりながら、そうすればたった1日で、そして最悪の場合は永遠に祖国を捨てる決断を迫ることにもなる。たとえそれが彼のこれまでの交友や発言の蓄積が招いた結果であるとしても、簡単な踏み絵ではない。
芸術家の苦悩は終わらない。
●プーチン大統領の“命の盾”マスケティアーズ“の実態  3/10
ロシアのウクライナ侵攻が続く中で、プーチン大統領は警護の特別部隊に命を守られているといいます。その名は、「マスケティアーズ」。一体、どんな存在なのでしょうか。その実態について、専門家が解説しました。
“24時間”帯同 「見てはいけない姿」見ることも
筑波大学 中村逸郎教授: 警護隊がいるんですよ。これ約40名います。プーチンに1番近いところの人で、絶えずプーチン大統領の身の安全を確保している人なんです。
中村教授が指摘したのは、ロシア連邦警護庁の警護部隊である「マスケティアーズ」。約40人で構成されるボディーガードで、エリート中のエリートです。さらに、「プーチン大統領の居場所を知っているのは、マスケティアーズと料理人だけだと思う」と中村教授は述べています。
マスケティアーズは、ただのボディーガードの役割だけではありません。あらゆる盗聴機器を駆使して、様々な施設や組織へアクセスすることができます。また、1班10人〜15人の交代制の24時間体制で各任務を遂行している中で、いまは、マスケティアーズも非常に緊張感が高まっている状況が想定されます。さらに、24時間帯同していく中で彼らには“あるリスク”もあると中村教授は指摘します。
筑波大学 中村逸郎教授:24時間帯同しています。だから逆に彼らというのはプーチン大統領を守るだけではなくて、実は非常に彼らが自分の命をかけてプーチン大統領を守っているというところがあります。なぜかというと、24時間一緒にいるわけで、見てはいけないプーチン大統領の姿を目撃することもあるんですよ。いまプーチン大統領は70歳に近いわけで、色々体調の変化もある。体調がおかしいという様子を1番知っているのは、そばにいる人達なんですね。ですから、彼らは守るだけではなくて、プーチン大統領の「知ってはいけない現実」というものを知ってしまうリスクが非常にあるんですよ。
そして、プーチン大統領を支える人々として、政治的には「シロビキ」という方々、経済面で支えてきた「オリガルヒ」、そして、約40人の「マスケティアーズ」が挙げられます。実はいま「シロビキ」と「オリガルヒ」の中でプーチン離れが進んでいる中で、「マスケティアーズ」はプーチン大統領の“命の盾”とも言える存在なのです。では、マスケティアーズはロシア国内でも有名な存在なのでしょうか。
求められるハイスキル 大統領を守る「4重の守り」の存在も
筑波大学 中村逸郎教授:有名です。プーチン大統領が外出する時とか、車に乗ったりしますよね。その時に周りを囲んでいるので、「この人はそうだな。」とだいたい分かるわけですよ。ただ、彼らがどんな訓練を受けているのか、具体的にどんな人なのかはほとんど分かりません。きっとロシアの“最高国家機密”ですよ。
そのような中で、「マスケティアーズ」の分かっている情報としては、35歳未満、身長は175cm〜190cm、75〜90kgという制限の存在。さらに、危険察知能力が高いこと、寒さや暑さに強いということが求められ、暑さという意味では汗をかかない訓練も行っていくそうです。そして、外国語も理解しながら政治に精通していることが必要になってくるといいます。
さらに、大統領を守る「4重の守り」の存在もあります。1段階目は「最も近くで守る」こと。ジュラルミンケースの中には、防弾チョッキを貫通する威力の銃や、銃弾を防ぐ傘が入っているそうです。そして、2段階目「群衆に溶け込み探る」、3段階目「群衆を取り囲み防ぐ」、4段階目「スナイパーが遠くから監視」と続きます。普段からプーチン大統領はかなり警戒していることが分かります。そして、今はより警戒していて、なるべく公の場には出たくないのが現状だとみられます。
●北方領土に「免税特区」、プーチン氏が署名…日本に揺さぶりかける狙いか  3/10
ロシアで9日、北方領土に外国企業を誘致するため「免税特区」を創設する法律がプーチン大統領の署名で成立した。ロシアは今月7日、ウクライナ侵攻に絡み対露制裁を科した日本を米欧諸国などとともに「非友好国」に指定したばかりで、北方領土問題でも日本に揺さぶりをかける狙いがあるとみられる。
法律は、クリル諸島(北方領土と千島列島)に進出する内外の企業を対象に法人税などを20年間、減免する内容で、プーチン氏が昨年9月に特区を設置する計画を発表していた。
ロシアはこれまで、中国や韓国の企業に進出を働きかけてきた。ウクライナ侵攻を機に「ロシア離れ」が急速に進む中で、法成立により特区への外資進出に弾みがつくかどうかは不透明だ。 

 

●プーチン氏の2人の娘は大の親日家 度々来日し名所を満喫、爆買いも 3/11
ロシアのプーチン大統領(69才)は、国民からの質問に生放送で答えるテレビ番組で「何より愛しているものは?」と質問されると、間髪を入れず「ロシアだ」こう答えた。家族でも恋人でも国民でもなく「ロシア」が好き。愛国心をストレートに表現する皇帝だが、心の奥底では父親として愛娘への情愛がいちばん激しく燃えているようだ。
隣国ウクライナへの侵攻の手を緩めないプーチン大統領率いるロシア軍。蛮行に世界から怒りの声が上がっているが、プーチン氏の急所と言えるのが2人の娘の存在だ。プーチン氏は娘が人質になることを何より懸念しており、シベリアの核シェルターに家族を避難させたとも報じられている。かつては、娘の写真を撮ろうとしたカメラマンに「殺してやる」と言い放ったエピソードまである。
「正式な発表がほとんどないので、確実な情報が非常に少ない。1985年生まれの長女がマリア(36才)で1才年下の次女がカテリーナ(35才)ということ、姉妹は現在ロシアに住んでいることなどくらいでしょうか。しかし、プーチン人気に陰りが見えてきた近年、恐怖政治の影響力も弱まり、独立系メディアや海外メディアが娘のことをポツポツと報じ始めました」(外信部記者)
そこから見えてきた2人の共通点は、「日本好き」だ。特に次女のカテリーナの親日家ぶりが目立っている。
「彼女は学生時代に何度も日本に来ていますが、外遊などではありません。そもそもプーチン氏の外遊に娘が同行したことは一度もなかったと記憶しています。娘の存在を公に出すことを避けていたんでしょう。
カテリーナさんの来日目的は、純粋な観光。同級生や姉と日本に来ては、東京ディズニーランドや京都、北海道などに旅行に出かけていました。滞在期間は2、3週間。1回の旅行で洋服などを数百万円も爆買いするなどショッピングも満喫していたそうです」(外務省関係者)
2014年6月、カテリーナは何度目かの来日を果たす。そして、そこで世界で初めて記者からの直撃取材を受けた。
「関西国際空港の大韓航空のカウンターでチケットを手にした彼女に声を掛けたら、特に驚く様子もなく、にこやかな表情で向き合ってくれました」
そう語るのは、直撃したジャーナリストの竹中明洋氏だ。カテリーナは、身分を隠すために「チホノワ」という祖母の姓をもとにした名前を名乗って入国していたが、竹中氏が「カテリーナ=ウラジミーロブナ」と彼女の名前を丁寧な呼び方で呼んだところ、振り返ったのだ。
「名刺を渡して、何度も日本に来ている理由を尋ねたら、急に険しい表情になって『大使館を通してください』と言われたんです。続けて質問をしたら私の太ももくらいの腕の大男が2人、私の前に立ちはだかって『あちらに行きましょう』と連れていかれそうになりました。すかさず彼女に『あなたは大統領の娘ですよね?』と問うと、突然ハッハッハッ!と高笑いをして、搭乗口へと去っていきました」(竹中氏)
カテリーナはこの日本滞在中に、兵庫県の大学で学生との交流を図っていた。
「彼女はアクロバットロックンロールというダンス競技に打ち込んでいました。2013年にスイスで開かれた世界選手権で5位に入賞したほどの実力者。当時、来日したときもダンス競技団体の『モスクワ支部代表』という肩書でした。大学の講堂に集まった学生を前に、カテリーナさんは『皆さん、こんにちは。私は覚えている日本語が少ないのでロシア語で話をします』と流ちょうな日本語で挨拶をしていました」(竹中氏)
彼女は、プーチン氏の母校でもあるサンクトペテルブルク大学の東洋学部日本語学科で学ぶほどの日本好き。しかし、彼女が数少ないラブロマンスで世間を沸かせた相手は、韓国人の男性だった。
「2010年に韓国メディアが結婚間近と報道したのです。相手は、在モスクワの韓国大使館職員の息子で、サムスン電子のモスクワ法人に勤務するエリート。インターナショナルスクールのダンスパーティーで出会ってから急接近し、日本の北海道で彼の両親との顔合わせも済ませていること、結婚後は韓国で一緒に暮らすこと、そしてプーチン氏も結婚に賛成していることが報じられました。それに激怒したのが、何を隠そうプーチン氏だったのです」(国際ジャーナリスト)
プーチン氏は、報道が出た直後になんと彼氏本人をクレムリン(大統領府)に呼び付けて「私たち家族と私生活について、一切言及しないように!」と雷を落としたのだ。外遊にも同行させない徹底的なガードだったのに、愛娘が熱愛ゴシップのネタにされたのに相当腹を立てたようだ。当然、この韓国人との縁談は破談となった。その後、カテリーナは、プーチン氏の盟友の息子と結婚し、2017年頃に離婚した。
長女・マリアはオランダ人の夫との間に3人の子供がいるといわれている。マリアも日本を愛好し、2018年4月には家族旅行で訪れ、鬼怒川温泉や歌舞伎町、表参道、渋谷などを巡ったという。マリアは「ヴォロンツォワ」と名乗っていた。
「ある意味、長女の存在はプーチン氏の悩みの種かもしれません。彼女のものとおぼしきSNSが流出した際に、レズビアンの芸術家やゲイのフィットネストレーナーとの交友関係が表沙汰になったのです。プーチン氏は2020年に改めて結婚を『男女の結びつき』と憲法改正するほど、同性愛に対して厳しいスタンスを取っています。海外経験が長いマリアさんの現代的な考えとプーチン氏の保守的な考えとの溝は大きいでしょう」(前出・国際ジャーナリスト)
現在、2人は研究職に就いて、それぞれ医療や人工知能などの研究に勤しんでいるといわれている。
「しかし、これらの事業に莫大な国家予算が付いていることが国民から批判を呼んでいます。今後、プーチン氏の国内支持が揺らげば、2人の研究もストップせざるを得なくなっていくと思われます」(前出・国際ジャーナリスト)
プーチン氏の一挙手一投足を祈るように見つめるのは、平和を願う世界中の誰よりも、いちばん近くにいる2人の愛娘かもしれない。
●コナー・マクレガーもビビった… プーチン大統領屈強ボディーガード軍団=@3/11
総合格闘技イベント「UFC」の元2階級制覇王者コナー・マクレガー(33=アイルランド)がビビった…。ウクライナ侵攻で世界中から非難されているロシアのプーチン大統領(69)を守る屈強ボディーガード軍団の恐ろしさが話題となっている。
ウクライナへの容赦ない攻撃を続け、もはや制御不能となったプーチン大統領だが、事態終息のために暗殺≠フうわさまで浮上している。そんな中、米「ニューヨーク・ポスト」は大統領のボディーガード軍団を特集。「作戦心理学」「肉体的スタミナ」「寒さに耐え、暑さで汗をかかない能力」などの資質で、厳選された精鋭部隊を紹介した。その怖さを伝える例に挙げたのが、マクレガーの伝説の豹変ビデオ≠セ。
ユーチューブ上に残されている動画で、2018年サッカー・ロシアW杯期間中に会場を訪れたマクレガーが、プーチン大統領と談笑する場面から始まる。マクレガーが大統領の肩に腕を回し、カメラに向かってポーズを取った瞬間、離れた場所で見守っていたボディーガードの一人が鋭い視線で格闘家をにらみ、手で「やめろ」と割って入った。
すると、ボクシングで無敗の5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米国)とも戦った、泣く子も黙るUFC王者が緊張感いっぱいに表情をこわばらせ、素直に指示に従い自分の体の前で両手を組んだのだ。同メディアが「ヒツジのように」と表現したほどの従順さだった。
にらみ一つで戦い≠制してしまうとは…。身の安全のためか、姿を現さないプーチン大統領。格闘家も黙るボディーガード軍団に今も囲まれているのは間違いない。
●ウクライナが東西分断国家に、プーチンが狙う休戦ラインとは 3/11
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、世界中が固唾を飲んでその行方を注視している。
日米欧などの民主主義諸国にとっては、ウラジーミル・プーチン大統領が失脚するなどにより、ロシア政府の方針が大きく覆され、ロシア軍がウクライナ領土から撤退することが最も望ましい展開であることは間違いない。
しかしながら、近日中にそのような事態が起きる望みは極めて薄いということが大方の共通認識となる中、世界中の国際政治学者や国際ジャーナリストが、それぞれの専門的知識や精力的な取材力を発揮して、今後予想される事態の展開について議論を戦わせている。
今回のロシアの暴挙は、それを許せば今後の国際秩序の崩壊にもつながる大問題であり、日米欧諸国が先の展開を読んだ上で、今直ちに適切な手を打つためには、このような議論は極めて重要であろう。
筆者は、35年間の陸上自衛隊勤務を通じ、戦車小隊長、戦車中隊長、普通科連隊長、師団長、方面総監として、数百回に及ぶ図上、実動の作戦シミュレーションを行って部隊を訓練してきた。
その経験から、陸軍の作戦について実務者としてそれなりの土地勘を持っているつもりである。
そこで本稿では、特に軍事作戦という視点から、現在進行中のロシア軍の作戦について、現時点における暫定的な分析を行うとともに、今後どのような展開があり得るのかについて考察していく。
何ら特別の情報源を持っているわけではないので、公表された報道内容に基づく分析ではあるが、読者の皆さんが今後ニュースを読み解いていくための、何らかの参考としていただければ幸いである。
プーチンは何を考えていたのか?
米国のシンクタンクである戦争研究所(ISW:Institute for the Study of War)の分析によると、今回のロシアのウクライナ侵攻は、4つの作戦軸に沿って行われている。
第1の作戦軸は、ベラルーシ領内からドニエプル川の西側に沿ってキエフに南下するルート、第2はウクライナ北東部のロシア国境からハリコフに向かうルート。
第3はクリミア半島から東のマリウポリ方向に攻撃してドネツク州の親ロシア派支配地域との連携を図るルート、第4は同じくクリミア半島から西のへルソン方向に攻撃して最終的にはオデッサを目指すルートである。
今回の侵攻の緒戦において、この第1の作戦軸沿いで、世界中の軍人や軍事専門家たちの頭をひねらせる信じられないことが起きた。
侵攻したロシア軍の車列が、60キロ以上の長さにわたり、道路に沿って長期間停止したままになるという事態が発生したのである。
密集して停止する車両の写真を見て、指揮官経験者のみならず、およそ陸軍軍人や陸上自衛官であれば誰でも、これは到底、戦闘地域における軍の振る舞いとしてあまりに異常であると感じたに違いない。
道路に沿って密集して停止した車列は、敵の航空攻撃の格好の標的になるばかりでなく、たとえ味方の航空優勢に守られていたとしても、周囲の森林などから敵の伏撃部隊に攻撃されれば一網打尽となってしまう。
冷戦間、米軍と対峙した旧ソ連軍の流れをくみ、精強なはずのロシア軍が、このような醜態をさらすとは、到底信じられないことである。
この車列の兵士たちは、戦争に行くという意識ではなく、指定された場所に向かって移動しているという意識だったように見える。
また停止した理由は燃料不足とも伝えられており、いずれにせよ部隊として戦争の準備が全く整っていなかったと考えざるを得ない。
どうしてこのようなことが起きたのか。
考えられるのは、プーチン大統領のウクライナ侵攻という意思決定が、直前まで第一線部隊に伝えられていなかったのではないかという点である。
軍隊というものは、命令されればいつでも動くと思われがちであるが、大部隊になるほど、様々な準備が必要になるものである。
燃料や弾薬など兵站の準備はもちろんのこと、事前に作戦地域の地形を仔細に研究し、様々な不測事態にも対応できる計画を作っておかなくては、先頭が道を間違えただけでも、大部隊全体が混乱に陥ってしまう。
特にこの第1の作戦軸に沿って国境を越えた部隊は、シベリアの東部軍管区などからベラルーシとの共同訓練を名目として遠路機動してきた部隊であった。
第2軸正面の部隊は、平素からハリコフ一帯の国境を担任区域としている西部軍管区の部隊が主体であるし、第3軸、第4軸の部隊はもともとクリミア半島にいた南部軍管区の部隊が主体である。
急にウクライナへの侵攻を命じられて、どの部隊も準備が不足していたのか、緒戦におけるロシア陸軍の動きにはややもたつきが感じられた。
しかし、もともとウクライナ国境を担任区域としていた西部軍管区や南部軍管区の部隊は、その正面からウクライナに侵攻する場合の地形研究や作戦計画の策定を行っていて当然であり、比較的早く攻撃行動に対応することができたと考えられる。
それでは、なぜ最も重要であるはずのキエフ正面の部隊が、遠方から来た準備不足の部隊だったのか。
筆者の推測になるが、プーチン大統領以下、軍首脳陣がこの第1軸の部隊に期待していたのは、ウクライナ軍との本格的な戦闘ではなく、とにかくキエフに向かって突進することだったのではないだろうか。
ロシア軍の大部隊が100キロ程度先の国境を越えてキエフに向かっているとなれば、ウクライナ国民の意気は阻喪し、キエフにおいても親ロシア派が決起することで、ウォロディミル・ゼレンスキー政権は早期に瓦解するというのが、プーチン大統領の読みだったとすれば、軍事的には納得がいく。
第1軸のロシア軍は、ウクライナ国民へのブラフ、威嚇のための部隊だったというわけである。
そしてこの突進部隊は、キエフで親ロシア派が決起した際にこれと提携してキエフを押さえる部隊ですらなかった。
その役割を担っていたのは、ロシアにおいては陸軍と別の軍種として扱われ、急襲作戦などに用いられる精鋭の空挺部隊である。
侵攻の直後、キエフ中心部から北西約20キロにあるアントノフ(ホストーメリ)国際空港に、ロシア軍空挺部隊を載せたヘリコプターの編隊が着陸し、空港は一時ロシア側に占拠された。
これに引き続き、1機で40トン以上の人員、兵器を搭載できる「イリューシンIl−76」大型輸送機の編隊によって1000人規模とも言われる大規模な空挺部隊が同空港に降り立ち、キエフに進撃する予定だったようである。
しかし、このうちの2機がウクライナ側によって撃墜され、この作戦は計画通りに進展しなかった。
これが影響したのか、あるいはプーチンの読みに反して反ロシア一色に染まったウクライナ国内の世論のせいか、結局キエフで親ロシア派が決起することはなく、動きが止まった第1軸の部隊は、その役割を果たすことなくその場に留まり続けることになる。
現在の戦況をどう見るか?
第1軸が機能を果たさず、キエフの早期確保あるいは傀儡政権擁立に失敗したロシア軍であったが、前述したように、もともとその正面に配備されていた第2〜4軸の部隊は、その後着々とウクライナ領内の都市を陥落させていった。
もともとそういう計画であったのか、あるいは第1軸と空挺部隊のキエフ侵攻失敗を受けて変更されたのか、第2軸の部隊はハリコフを攻撃すると同時に、大規模な部隊をもってスムイからキエフ東部地域に向けて進撃し、本稿執筆の3月9日時点で、その先頭はキエフ市街地のすぐ東側に到達しつつある。
今後は態勢を立て直した第1軸の部隊と空挺部隊が西から、第2軸の部隊が東からキエフを挟撃する態勢になり、ウクライナ軍のキエフ防衛は正念場を迎えることになろう。
一方クリミア半島から進撃した第3軸および第4軸の部隊は、それぞれ東のマリウポリ、西のヘルソンに達し、東側ではドネツク地区に繋がる回廊を確保しつつあると同時に、西側ではオデッサへの攻撃準備の態勢を整えつつある。
今後、キエフ死守と同時に、ウクライナ防衛において大きな意味を持つのが、オデッサを守り抜くことである。
なぜならば、ロシア軍がオデッサを確保した場合、もはやモルドバ国境は目と鼻の先となるからである。
モルドバ領内のドニエストル川東岸、南北に細長い地域(地図上のピンクの部分)は、「沿ドニエストル共和国」と自称する地域で、モルドバ政府の統治は及んでいない。
この地域は、ソ連解体時にソ連体制に固執してモルドバに所属することを拒み、1992年のモルドバとの戦争を経て、現在は独立した地域となっている。
同国を承認しているのは、同国と同様、国際的にほとんど承認されていない南オセチア、アブアジア、アルツァフ(ナゴルノ・カラバフ)のみであり、ロシアも同国を国家承認してはいない。
ただ、ロシアは同国に1000〜2000人の軍隊を駐留させていると言われており、同国とロシアは軍事面も含めて良好な関係を保っている。
したがって、今後もしもロシア軍がキエフとオデッサを確保した場合、この「沿ドニエストル共和国」地域を含めて、ウクライナの東半分の地域は、西半分に通じる幅約300キロの部分を除き、ロシア軍に周囲を囲まれた状態になってしまうのである。
ウクライナ国家東西分断の危機
今後の状況進展を軍事的な視点から見た場合、どのような推移が考えられるであろうか。
ウクライナ軍は、市民による地域防衛のための義勇部隊も含め、強靭な抵抗を続けており、今後もその奮闘は続くであろう。
ただし、一部では逆襲反撃も伝えられてはいるものの、正規軍の兵力と近代装備において圧倒的優勢を誇るロシア軍に対し、正面からの決戦で勝ち切ることは極めて困難である。
撃破されたロシア軍車両等の状況の報道写真を見ても、ロシア軍が予期せぬ場所で不意急襲的な伏撃を繰り返すことで損耗を強いるのが、ウクライナ側の主たる戦法であると推測される。
この戦法で、ロシア軍に損耗を重ねさせることはできるだろうが、地域的には徐々に後に下がらざるを得ず、ロシア軍の部隊の進撃が継続する中、残念ながら現状では、ウクライナ側は時間と共に東から西へと後退を余儀なくされよう。
それでは、もしもロシア軍がキエフとオデッサを奪取した場合、ロシア軍はそのままポーランド国境まで西進を続けるのだろうか。
途中でウクライナ側の抵抗が弱まれば、ロシア側が全面制圧を目指すこともあり得ようが、ウクライナ側が強靭な抵抗を続ける場合、ロシア側も相当の損耗を覚悟した上で、長期にわたる戦争を継続しなくては、全面的な占領はできないと思われる。
ロシア軍が西に進むにつれ、既にNATOに加盟しているポーランドおよびルーマニアの国境に近づくことになる。
ロシアの航空機は、両国に配備された対空レーダーや、その上空を飛行する早期警戒管制機(AWACS)のレーダーによって捕捉される可能性が高くなり、その情報がウクライナ軍に提供されれば、ウクライナ軍はこの地域で有効な対空戦闘が行える。
ロシア空軍の掩護を受けることができず、逆にウクライナ空軍からの脅威を受けることになるロシア陸軍は、今までのようには行動できないであろう。
そこでロシア側の選択肢として浮上すると思われるのが、「沿ドニエストル共和国」北端から北のベラルーシ国境まで南北に引いた線(地図上の橙色破線)付近での休戦である。
この地域には大きな川や山脈等、明確な地形上の結節はないため、休戦となった場合には、激しい戦闘が行われている地域では、北朝鮮と韓国間にあるような非武装地帯が設定され、それ以外では旧東ドイツと西ドイツ間の国境に似た境界線が引かれることになろう。
このような休戦は、ウクライナ側にとっては決して望ましいものではない。
ゼレンスキー政権は、キエフが陥落した場合、現在各国大使館の移転先となっているリビウに移って政権を維持することになる可能性が高い。
これにより西側地域でウクライナ国家を存続させることはできても、東側に取り残された人々は、抵抗すればロシア軍や傀儡政権によって弾圧され、圧政下での生活を余儀なくされることになる。
しかしロシア側にとっては、このような休戦は魅力的に映るかもしれない。
休戦の条件として、西側地域のウクライナがNATO非加盟での中立を維持することとされれば、ロシアはNATO加盟国との間に、中立の西部ウクライナと、傀儡政権による東部ウクライナという二重の緩衝地帯を持てることになる。
その上、プーチン大統領がロシアの原点とする古都キエフと、東部の工業地帯、黒海沿いの港湾などは、すべて傀儡国家の統治下に入る。
軍事的にも、東から西に押し出したウクライナ軍を掃討するために、大きな損害を覚悟する必要はなくなるのである。
このように、ウクライナが東ウクライナと西ウクライナという分断国家になることは、ウクライナ国民にとってまさに悪夢であろう。
このような状況に陥らないために、日米欧などの民主主義諸国は、ウクライナ軍がキエフとオデッサを最後まで守り抜くことができるよう、どのような支援をすればよいのか、今こそ知恵を絞り出すことが必要な時である。
●「核兵器を使う可能性」示唆…プーチン大統領の“脅し文句” 3/11
ロシアとウクライナの外相会談は、進展がないなか、物別れに終わりました。ラブロフ外相は「ロシアはウクライナを攻撃していない」と話し、打開策が見通せない状況が続いています。
外相同士の会談も…議論かみ合わず
会談の冒頭、コの字型のテーブルで向き合い、ウクライナのクレバ外相が相手を直視しているのに対し、ロシアのラブロフ外相は下を向き、何かメモを取るような姿もありました。
軍事侵攻が始まってから2週間。初めて実現したロシアとウクライナの外相会談です。
世界が注目するなか、1時間半の会談を終えたクレバ外相は、次のように話しました。
ウクライナ・クレバ外相:「24時間の停戦を提案したが、進展はなかった。私の印象では、ロシア側は、現時点では停戦を成立させる気がない。そもそも、前提となる立場が違っていた。私は解決策や決断を託された外相として交渉に臨んだが、ラブロフ外相は『意見を聞きに来ただけ』と言っていた。これだけの温度差があった」
一方、ラブロフ外相は、次のように話しました。
ロシア・ラブロフ外相:「この場で停戦の合意について、話し合う計画はなかった。ベラルーシで行われている停戦協議以外の選択肢はない。ロシアは、ベラルーシで行われている協議で、ウクライナの問題を解決するための議論を行いたい」
前回、ベラルーシで行われた3回目の停戦協議でロシア側は、具体的な要求を提示し、次回の協議でウクライナ側の回答が得られるはずだと明かしました。
停戦協議を重視するロシアと、事態の打開につなげたいウクライナ。その隔たりは大きく、外相同士が直接会ったにもかかわらず、双方の議論がかみ合うことはなかったようです。
ロシア外相「攻撃していない」
さらに、ラブロフ外相の口からは、信じられない主張が飛び出しました。
ラブロフ外相:「我々は、ウクライナを攻撃していない。ロシアの安全が脅威にさらされているのだ。これは、ウクライナという実験室で行われている、アメリカ国防総省の実験だ。ロシアが戦争を望んだことは、一度もない。ウクライナ市民は、“人間の盾”にされている。“人間の盾”として、人質になっている民間人を解放したい」
多くのウクライナ人が犠牲になっているなか、ラブロフ外相は「ロシアは攻撃していない」と言い放ちました。
クレバ外相:「相手の主張をずっと聞かされるのは、決して楽ではなかった。それでも私は、人道問題に直ちに対処するよう、何度も訴えた。マリウポリ発着の『人道回廊』設置の合意を持ち帰るつもりだった。しかし、残念ながら、ラブロフ外相から確約は得られなかった」
「核兵器を使う可能性」を示唆
そして、プーチン大統領が何度も口にしている“脅し文句”は、ラブロフ外相からもありました。
ラブロフ外相:「核戦争が始まるとは、信じたくない」
軍事攻撃が激化するなかで、この先「核兵器を使う可能性」を示唆しました。
ラブロフ外相に対して、記者からはこんな質問がありました。
記者:「ロシアは本当に、真剣に交渉を行っているのでしょうか?」
ラブロフ外相:「真剣ですよ」
記者:「そうであれば、これまで何か進捗はありましたか?」
ラブロフ外相:「…」
●プーチン大統領 クリミア併合で語った“独自の理論” 3/11
2月24日、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を開始した。ウラジーミル・プーチン大統領は、侵攻の目的について「ウクライナ政権によって虐げられてきた人々を保護すること」と述べている。
アメリカ合衆国の映画監督であるオリバー・ストーンは、近年の国際的な緊張についての「ロシア側の見方」を明らかにするために、2015年7月2日から2017年2月10日にかけてプーチン大統領へインタビューを行った。ストーン監督の代表作には、ベトナム帰還兵である自身の実体験を基に描いた映画『プラトーン』や、アメリカ政府による個人監視の実態を告発したエドワード・スノーデンの伝記映画『スノーデン』などがある。
インタビューは、アメリカのテレビ局「ショータイム」が放送する4回シリーズのドキュメンタリーと、書籍『 オリバー・ストーン オン プーチン 』にまとめられた。ここでは、2013年の反政府デモに始まるウクライナとロシアの緊迫した関係についてプーチン氏が語った内容を、同書より再構成して紹介する。
ウクライナがEUとの貿易協定を結ぶのはルール違反
2013年11月、当時のウクライナ大統領であり、親ロシア派でもあったヴィクトル・ヤヌコーヴィチが、EUとの連合協定への調印を見送った。EU加盟を願っていた市民の怒りは、これをきっかけに大規模な反政府デモへと繋がり、2014年2月の騒乱では、ヤヌコーヴィチ氏がロシアへ逃亡するまでに至る。
この一連の動きに対して、自身の見方を尋ねられたプーチン氏は、次のように答えた。
「ウクライナで何が起きていたのか、1990年代初頭からさかのぼって知りたくはないかね? そこで起きていたのはウクライナ国民からの組織的略奪さ。独立直後からウクライナではロシア以上に大々的な民営化と国家資産の横領が横行し、それが生活水準の低下につながった。ウクライナの独立直後からだ。どんな勢力が政権に就こうと、一般の人々の暮らしは一向に変わらなかった」
「当然ながら国民は、上層部の身勝手な行動やとんでもない腐敗、貧困、そして一部の人間ばかりが不法に富んでいく状況にうんざりしていた。それが人々の不満の根っこにあった。そしてどんなかたちであれEU世界に出ていくことが、1990年代から始まった悲惨な状況からの解放につながると考えた。それがウクライナでの一連の出来事を引き起こした原動力だったと私は考えている」
さらにプーチン氏は、ヤヌコーヴィチ氏がEUとの政治・貿易協定に調印するのを延期したのは、ウクライナがすでに、旧ソビエト連邦の構成共和国で形成された国家連合であるCIS(独立国家共同体)自由貿易協定の加盟国だったからであるとした。CIS自由貿易協定については「ウクライナが設立を主導した」と語る。
「その結果として、またロシアとウクライナの経済が一体性を強め、両国の間に特別な経済関係が生まれたことで、両国の企業の多くは互いから独立して存在することができなくなった」
「ロシア市場はウクライナからの輸入に対して完全に開放されていた。当時も今も関税障壁はゼロだ。両国は単一のエネルギーシステムと輸送システムを共有している。両国の経済を結び付けていた要素はほかにもたくさんある」
だから、ウクライナがEUとの貿易協定に調印すれば、「EUは一切の交渉もなく、あらゆる製品をわが国の領土に持ち込めることになる」ため、ルール違反だと言うのである。
「当然われわれとしては対応をとらざるをえない。そこでこう言ったんだ。ウクライナがそのような行動をとると決めたのなら、それは彼らの選択であり、ロシアは尊重する。だからといって、われわれがその代償を払ういわれはない。なぜ今日ロシアに住んでいる人々が、ウクライナ指導部の選択のツケを払わなければならないのか」
「国民は自らの意思でロシアへの編入を支持した」
ヤヌコーヴィチ元大統領のロシア亡命後は、親米派のアルセニー・ヤツェニュクが暫定的にウクライナ政権を握ることになる。その直後にロシアはウクライナのクリミア半島に侵攻。ヤツェニュク政権に対する報復措置ともとれるタイミングだった。
プーチン氏は次のように語っている。
「新政権が早速議論しはじめたのは、ロシア語の使用を制限する法律を作ろうという話だ。ヨーロッパ諸国がやめさせたが、社会にシグナルは送られてしまった。ロシア系住民が圧倒的多数を占めるクリミアなどは、国がどこに向かおうとしているかはっきりと認識した。この地域のウクライナ国民の多くはロシア語を母語だと考えている。クリミアの人々は新たな状況に特に恐怖を抱いた。彼らに対する直接的脅しもあった」
「クリミアの人々は国民投票に参加した。ムチやマシンガンで脅したわけじゃない。そんな方法で国民を投票所に行かせることなどできない。国民は自らの意思で投票所に来て、投票率は90%を超えていた。さらに投票した人の90%以上がロシアへの再編入を支持した。人々の選択は尊重しなければならない。そして民主主義の原則にそむき、自らの政治的利益に合わせて国際法を捻じ曲げることは許されない」
ロシアによるクリミア侵攻の後、クリミア自治共和国とセヴァストーポリ特別市は、ロシア連邦に編入する是非を問う違法な住民投票を実施。9割以上がロシアへの編入を支持した結果を受けて、ロシアはクリミア半島を「併合」したのである。
ストーン監督による「つまるところ、結局は力のある者が勝つという話じゃないか」という指摘に対し、プーチン氏は「アメリカの武力によるイラク侵攻についてはまさにそのとおりだ。イラクでは選挙は行われなかった。一方クリミアでは、われわれは民衆が投票所に来られる状況を整えた」と譲らない。
さらに「クリミア併合に対して、国連の非難決議はあったのか」と問われても、「いや、私の知る限りなかった」と答えるのみだった。
国連総会は2014年3月に、「住民投票」の無効や、他国によるウクライナの国境線変更を認めないことを採択したが、ロシアによるクリミア半島の占領は今日まで続いている。
プーチン氏はクリミア侵攻の理由を「自国民保護のため」としているが、今回のウクライナ侵攻でも、「ウクライナ政権によって虐げられ、大量虐殺に遭ってきた人々を保護すること」を目的と述べている。しかし、これをプーチン氏の真意と受け取る人は少ないだろう。
つづいて、世界におけるロシアの立場やNATOについて、 プーチン氏が語った内容 を紹介する。
「私にはパートナーの行動原理が理解できないこともある」プーチンが語っていた、アメリカやNATOに対する“根本的な疑念” へ続く ・・・
●プーチンが語っていた、アメリカやNATOに対する“根本的な疑念” 
2月24日、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を開始した。ウラジーミル・プーチン大統領は、侵攻の目的について「ウクライナ政権によって虐げられてきた人々を保護すること」と述べている。
アメリカ合衆国の映画監督であるオリバー・ストーンは、近年の国際的な緊張についての「ロシア側の見方」を明らかにするために、2015年7月2日から2017年2月10日にかけてプーチン大統領へインタビューを行った。ストーン監督の代表作は、ベトナム帰還兵である自身の実体験を基に描いた映画『プラトーン』や、アメリカ政府による個人監視の実態を告発したエドワード・スノーデンの伝記映画『スノーデン』などがある。
インタビューは、アメリカのテレビ局「ショータイム」が放送する4回シリーズのドキュメンタリーと、書籍『オリバー・ストーン オン プーチン』にまとめられた。ここでは、世界におけるロシアの立場やNATOについてプーチン氏が語った内容を、同書より再構成して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
アメリカはロシアという外敵を必要としている
ロシアとウクライナとの関係について話す中で、ストーン監督はウクライナで多くのNGOが活動していることを指摘し、アメリカの政治家や投資家が、ウクライナの独立を支援している例を挙げている。
例えば、東欧を担当するビクトリア・ヌーランド国務次官補(当時。現在は国務次官)は、政権交代を積極的に支持していた。全米民主主義基金(NED)代表のカール・ジャーシュマンも、ウクライナの独立を望んでいたという。
この指摘に対してプーチン氏は、以下のように述べた。
「私にはパートナーの行動原理が理解できないこともある。ときどき彼らはNATO陣営をまとめる、あるいは緊張感を持たせる必要があり、そのために外敵を必要としているんじゃないかという気がしてくる。イランに対しては様々な懸念があるとはいえ、現時点ではそうしたニーズを満たすことはできない」
インタビューの中でプーチン氏は、度々アメリカを「パートナー」と呼称するが、そこには皮肉のニュアンスが感じ取れる。
ストーン監督が「要するに、ロシアのような外敵がいれば、アメリカとしてはヨーロッパ、そしてNATOが一致団結してアメリカを支持する状態に保てるわけだ」と返すと、プーチン氏は「まさにそのとおりだ」と続けた。
「私にはわかる。感じるんだ。そんな具合に内部から締め付けなければ、欧州大西洋主義は不安定化する。もはや冷戦時代ではない。数年前、国家指導者の集まりでこんな話を聞いたんだ。アメリカはロシアが自分たちの脅威となることを期待している。だが自分たちはロシアを恐れてはいない、と。世界が変わったことを理解していたからだ。外的脅威など……そんな緊張感を保つのはいまや不可能だ。おそらく誰かの利益に沿う考えなのだろうが、私は誤った論理だと思う。それは過去を向いた論理だ」
「残念ながらアメリカとの良好な関係を育もうとするわれわれの働きかけには、無理解か無関心しか返ってこなかった。だがそんな状況を続けるわけにはいかない」
プーチン氏は何を脅威と感じているのか
2014年3月、ロシアはウクライナのクリミア半島へ侵攻し、違法な住民投票によって、クリミア自治共和国とセヴァストーポリ特別市を「併合」した。ストーン監督は、セヴァストーポリには侵攻前からロシアの黒海艦隊が駐留していたことを踏まえ、「もしアメリカやNATOの軍がこの基地の支配権を得たら、どのような影響があるか」と尋ねる。
「きわめて重大な影響があっただろう。この基地自体にたいした重要性はない。まったく重要性はない。しかし彼らがそこにABMシステム(注:弾道弾迎撃ミサイルシステムのこと)あるいは攻撃用システムを配備していたら、ヨーロッパ全体の状況を一段と悪化させたことは間違いない。ちなみに、それこそ今、東欧で起きていることだ」
ここから、プーチン氏の語りは、NATOに対する疑念に及んでいく。
「われわれはNATOという組織の存在意義……正確に言えば存在意義がないという事実、そしてその脅威をよく理解している。この組織にまとまりがなく、存続性のないこともわかっている。北大西洋条約第5条に何と書かれていようと、それは変わらない。われわれが懸念しているのは、その意思決定のあり方だ。私はNATOでどのように意思決定が行われているか知っている」
「ある国がNATOに加盟すると、二国間交渉が行われる。二国間ベースであれば、どんな話も比較的簡単にまとまる。わが国の安全保障を脅かすような兵器システムも含めてだ。ある国がNATO加盟国になれば、アメリカほどの影響力のある国の圧力に抗うのは難しく、その国に突如としてあらゆる兵器システムが配備される可能性がある。ABMシステム、新たな軍事基地、必要があれば新たな攻撃用システムだって配備されるかもしれない」
「そうなったら、こちらはどうすればいいのか? 対抗措置を取らざるをえない。それはわれわれから見て新たな脅威となりつつある施設に対して、ミサイルシステムの照準を合わせるということだ。そうすれば状況は一段と緊迫化する。誰が、どんな理由でそのような事態を望むというのか」
最後に、ストーン監督が「あなたは近い将来ウクライナをめぐって戦争をする気があるのか」と尋ねるシーンを紹介する。プーチン氏の答えはこうだ。
「それは最悪のシナリオだと思う」
今起きていることは、過去にプーチン氏自身が述べた「最悪のシナリオ」ではないのだろうか。ロシアによるウクライナ侵攻は今日も続いている。
●ロシアに「破壊的代償」 米大統領、プーチン氏反発 3/11
バイデン米大統領は10日の声明で、対ロシア制裁の影響をめぐり「米国の家計負担は生まれるが、はるかに破壊的な代償をプーチン(ロシア大統領)やその仲間に科している」との考えを示した。イエレン米財務長官も「ロシア経済は壊滅的な打撃を受けるだろう」と強調し、さらなる制裁を検討していると述べた。
一方、インタファクス通信によると、プーチン氏は10日に「私たちは(制裁による)困難を克服する」と強調。「彼ら自身の(制裁に伴う原油高という)過ちの結果を、私たちのせいにしようとしている」と反発した。
米労働省が10日発表した2月の消費者物価指数は前年同月比で7・9%上昇した。バイデン氏はこれを受けて声明を発表し「プーチンによる価格高騰」などと非難した。
●ロシア側が経営権取得も 外資撤退なら―プーチン大統領 3/11
ロシアのプーチン大統領は10日、ウクライナへの軍事侵攻を受けて外国企業がロシア事業の停止や撤退を決めた場合、企業の資産を事実上差し押さえたり、ロシア側が経営権を取得したりする可能性があると警告した。外資の「ロシア離れ」をけん制する狙いがあるとみられ、実施されれば日米欧などの企業に影響が出る恐れがある。
プーチン氏は10日の閣議で「生産拠点の閉鎖には断固とした対応をしなければならない」と強調。「外部による管理を導入した上で、企業を希望者に譲渡する必要がある」とし、「この問題に対して法的解決策を見いだすだろう」と語った。一方で「外国パートナーとの協力にオープンだ」とも述べた。
ロシア紙RBKによると、外国資本が25%以上を占める企業がロシアでの事業を停止する場合、裁判所の判断で外部管理を導入できるようにする法案を与党が提案しているという。
●プーチン大統領 撤退企業の動きけん制「希望者に譲渡が必要」  3/11
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻を受けてロシアからの事業撤退を決めた欧米などの外資企業に対して「希望する者に譲渡することが必要だ」と述べ事実上、資産をロシア側のものにする考えを示し、撤退の動きをけん制しました。
プーチン大統領は10日、政府閣僚とのオンライン会議で、欧米などの企業が相次いでロシアからの事業を撤退したり一時停止したりしている現状を受けて「生産設備を停止する企業には断固とした態度で臨む必要がある」と述べました。
そして「外部の経営を導入し、希望する者に譲渡することが必要だ。そのための法的な解決策を見いだす」と述べ、事実上、設備などの資産をロシア側のものにする考えを示しました。
またミシュスチン首相は「経営者の決断しだいで会社の命運が決まる。重要なのは雇用の維持だ」と述べ、国内経済の混乱を防ぎ雇用を守るために新たな法案を策定していると明らかにしました。
プーチン大統領は今月5日、欧米諸国などがロシアに対する経済制裁を強化していることについて「宣戦布告のようなものだ」と述べ、強くけん制していて、経済面でも欧米との対立を一層深めています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、大手自動車メーカーのフォルクスワーゲンや家具大手のイケアなどが相次いでロシアでの事業見合わせを決めたほか、マクドナルドがロシアにあるすべての店舗を一時閉鎖すると発表するなど、ロシア離れの動きが加速しています。
●ロシアから撤退なら外資系企業の「資産差し押さえ」…プーチン氏が検討指示 3/11
タス通信などによると、ロシアのプーチン大統領は10日、閣僚らとの会合で国内経済対策を協議し、ウクライナ侵攻を受け、ロシアからの事業撤退を判断した外資系企業の資産差し押さえを検討するよう指示した。
ロシアでは、侵攻に抗議したり、米欧の厳しい制裁の影響を懸念したりして、事業の停止などに踏み切る外資系企業が相次いでいる。プーチン政権は失業者の増加などで政権への批判が高まることを警戒しているとみられ、撤退を防ぐため、圧力をかけようとしている。
オンライン形式による会合に出席したミハイル・ミシュスチン首相は「不当に閉鎖した(外資系)企業に、政府が(企業の)外部による管理を導入すること」を提案し、「決定次第で、企業の運命が決まる」と強調した。プーチン氏も賛同し、「働きたがっている者にそのような企業を引き渡すことが必要で、法的な解決策を見つけよう」と述べた。
●プーチン氏「ロシアは強大な国へ」、制裁は西側に跳ね返ると警告 3/11
ロシアのプーチン大統領は10日、ロシアに対する制裁は食料やエネルギー価格の上昇といった形で西側諸国に跳ね返るという考えを示した。同時に、ロシアは問題を解決しながら一層強大な国家になると宣言した。
プーチン氏の発言は、自身が主張する自国の銀行、企業、新興財閥(オリガルヒ)を狙った「経済戦争」にも耐え得るとロシア国民を安心させる狙いがある。
政府の会議で、ロシアがウクライナで行っている特別軍事作戦に代わるものはなかったと強調。ロシアは短期的な経済的利益のために主権を妥協することを受け入れることができなかったし、ロシアへの制裁はどのような場合でも課されただろうとした上で、「疑問や問題、困難があっても、われわれは過去に克服してきたし、今回も克服する。最終的にこれはすべてわれわれの独立、自給自足、そして主権の拡大につながるものだ」と訴えた。
ロシアは、欧州で天然ガスの3分の1を供給する主要なエネルギー生産国だが、各国地域から包括的な制裁を受けながらも、契約上の義務を果たし続けると確認。米国がロシア産原油の輸入を禁止したことで「物価は高止まり、インフレは前代未聞の高さとなって歴史的な水準に達している。彼らは自分たちの過ちの結果をわれわれのせいにしようとしているが、われわれは全く関係ない」とした。
諸問題を解決
プーチン氏は、2月24日のウクライナ侵攻以来、ロシアに科されている制裁が効いていると認める一方、「われわれは冷静に対応しながら、諸問題を解決していくことに疑いの余地はない。人々はいずれわれわれが閉鎖して解決できないような出来事は単純に存在しないことを理解するだろう」と述べた。
さらに、ロシアが農業用肥料の主要生産国であると指摘。西側諸国がロシアのために問題を引き起こせば、世界の食料市場に対する「負の影響」は避けられないと主張した。
ロシアのシルアノフ財務相は会議で、ロシアが資本流出を制限する措置をとっており、対外債務をドル建てではなくルーブル建てで返済すると説明した。
その上で「この2週間、西側諸国はロシアに対して経済的、金融的戦争を仕掛けてきた」とし、「このような状況下では、金融システムの状況を安定させることが優先される」と述べた。
●ウクライナ避難民“増加” 「子どもの問題が一番…」 3/11
ロシアの軍事侵攻開始から2週間で、230万人以上がウクライナから国外に避難したといいます。9日も、厳しい寒さが続くポーランドでは雪が降る中、次々と避難してくる人の姿がありました。こうした中、隣国で避難民の支援を続ける日本人に話を聞きました。
国連難民高等弁務官事務所(=UNHCR)によると、軍事侵攻開始から2週間で、ウクライナから国外に避難した人は230万人以上だということです。
ウクライナからポーランドに避難した女性は、「子どもがいなかったら、軍を助けるためにウクライナにいたと思う。子どもは町に爆弾が落ちる音なんて聞くべきではないと思うので、ここに来ました。(キエフにいる)夫にまた会えるかどうかは、分かりません…」と涙声で語りました。
9日、日中でも気温が氷点下となるなど厳しい寒さが続くポーランド・メディカでは、雪が降る中、次々と避難してくる人の姿がありました。
避難してきた女性「寒い中、子どもと移動するのは大変です。できるだけ、暖かくしてあげています」
過酷な環境下での避難を強いられ、凍傷や低体温症になる子どもや高齢者が増えています。命を落とした子どももいるということで、国境を越えてすぐの場所では、新たに医療用のテントを設置して対応に当たっていました。
避難者は日に日に増え続け、ポーランドとの国境周辺にあるほぼ全ての避難所が満員になっているといいます。
避難所に来て4日目 ウクライナからの避難者「これから先どうしていいか 分からなくて不安です。ポーランドに残りたいけど、仕事や住むところがありません」
ポーランドの首都ワルシャワにも近いツェレスティヌフ郡にある24時間態勢で避難者を受け入れている施設では7日、日本人の坂本龍太朗さんが映像を撮影していました。
坂本さん「ちょうど今、難民のみなさんいらっしゃいました。だいたい30人ぐらい来ましたかね。みなさん本当に荷物が少ないですね」
ポーランドで日本語学校を経営している坂本さんは、避難民の支援を続けています。
ポーランドで避難者支援 坂本龍太朗さん「夜は、70人くらいの難民の方々が過ごしている。スタッフとしては、受け入れ担当の方、または物を整理する方々含めて、5人くらいが常に働いている。マンパワー的にはとても厳しい状況が続いている」
「ウクライナのどこから避難してきたか」が書き込まれた地図を見せてくれました。当初は西部が多かったものの、最近は、激戦が続く東部や南部から避難する人が増えてきているといいます。
必要な支援物資を集め、子どもたちの遊ぶスペースも作ったといいます。
ただ、今、一番必要なものについて、坂本さんは「子どもの問題が一番ありまして、(子どもたちは)外に出たがらない。お父さんは今こちらにいないので、お母さんから離れることに大きな恐怖を持っている。心のケアが大切です」と語りました。
●ウクライナ巡るサイバー空間の攻防、ロシアの「控えめな攻撃」のワケは? 3/11
ロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴い、サイバー空間でも緊迫した状況が続いている。軍事侵攻の直前に、ウクライナがマルウェアによる攻撃を受け、Microsoftなどが対応を支援。ハッカー集団やセキュリティ研究者はロシア支持とウクライナ支持に分かれて攻防を展開している。ただ、当初危惧されたほどの破壊的なサイバー攻撃は起きていないことから、ロシアの内情を巡り臆測も飛び交う。
2月24日、ロシア軍が侵攻を開始する数時間前。Microsoftはウクライナのデジタルインフラに対する破壊的なサイバー攻撃の発生を検知した。同社は新手のマルウェアが使われているなどの状況を直ちにウクライナ政府に伝えて対策を助言し、その後もウクライナの軍事機関や政府機関などを狙った攻撃に関する情報提供や対策支援を続けているという。
セキュリティ企業ESETによると、ロシア軍の侵攻直前にウクライナに対して使われたのは、データを消去する「ワイパー」と呼ばれるマルウェアだった。続いてウクライナの主要サイトにDDoS攻撃が仕掛けられ、ロシア軍が軍事侵攻を開始。さらにウクライナ政府のネットワークが別のワイパー型マルウェアに攻撃され、同時にランサムウェアも展開された。
この攻撃で使われた2種類のワイパーとランサムウェアは、ESETが過去に発見したどのマルウェアともコード上の類似性は見つからず、どんな集団が関与したのかは現時点で確認できていないという。
これとは別に、ランサムウェア「Conti」を開発する犯罪グループは2月25日、ロシア政府を全面的に支持すると表明した。Contiはこれまで多数の企業を恐喝して身代金を脅し取り、被害組織の情報をリークしてきた集団。しかし同集団のロシア支持に対抗して、TwitterでContiの内部情報をリークする「@ContiLeaks」というアカウントが現れた。
2月27日に開設された@ContiLeaksは、Contiのメンバー同士の会話のログ記録や、Contiランサムウェア関連のソースコードなどを次々に暴露した。ソースコードはパスワードで保護されたアーカイブファイルに含まれていたが、別の研究者がクラッキングして、誰でもアクセスできる状態になったとBleepingComputerは伝えている。
Krebs on Securityによると、@ContiLeaksを開設したのはウクライナのセキュリティ研究者だった。Contiメンバーの会話からは、普通の中堅中小企業と同じようなContiの組織構造や、勤務時間の長さと給料の安さを嘆くメンバーの実態が見て取れるという。
一方、ロシアに対する「サイバー戦争」を宣言した匿名のハッカー集団「Anonymous」は2月25日以降、「ロシアのプロパガンダ放送局RT NewsのWebサイトをダウンさせた」「ロシア国営テレビチャネルがAnonymousにハッキングされ、ウクライナで起きている真実を報道した」などと発表。
3月4日までに「ロシアとベラルーシの政府、国営メディア、銀行、病院、空港、企業、ロシア寄りのハッキンググループのWebサイト2500以上をハッキングした」と伝えている。
報道によれば、ウクライナ副首相が創設を表明した「ウクライナIT軍」や、ベラルーシの有志も加わったサイバーゲリラ組織も対ロシア作戦を展開している様子だ。
ただ、ウクライナを襲ったサイバー攻撃の第一波は、当初危惧されたほど壊滅的な事態は招かなかった。「ロシアがウクライナで行っているキャンペーン全体の中で、サイバー攻撃がそれほど重要な役割を果たしていないことに、多くの人がかなり驚いている」。Googleの専門家は「予想より控えめだった」攻撃について、New York Times紙にそうコメントしている。
ウクライナは過去に何度も、ロシアが関与したとされる大規模サイバー攻撃を経験してきた。2015年には電力会社が攻撃されて大規模な停電が発生し、2017年6月に猛威を振るったマルウェア「NotPetya」では銀行や電力、鉄道などのインフラに大きな被害が出て、他国にも影響が広がった。
そうした中で今回は軍事的緊張の高まりを受け、さらに破壊的なサイバー攻撃の発生も予想されていた。しかし今のところ、重要インフラがまひするような事態は起きていない。この状況についてTime誌は、「ロシア自慢のサイバー能力はここ数年でおろそかにされ、それほど広範なダメージを引き起こさず、抑制や防御がしやすい安価で効果の低いサイバー兵器開発を優先するようになったように見える」と分析する。
NotPetyaの時は、当時まだ公になっていなかったWindowsのゼロデイの脆弱性「EternalBlue」が悪用されたために、被害が瞬く間に拡大した。今回もそうした未知の脆弱性を突く高度なマルウェアが使われたとすれば、たとえMicrosoftなどが対応を支援したとしても、大きな被害は免れなかったと思われる。
しかしセキュリティ企業Symantecによれば、今回の攻撃のうち少なくとも1件は、Microsoft SQL Serverの既知の脆弱性が使われていたという。
ロシアに手持ちのゼロデイ脆弱性がなかったのか、かつてのように破壊的なマルウェア開発のリソースなくなったのか、政府が有能な人材を確保できなくなったのか、ただ単に、サイバー攻撃は目標達成のために効果的な手段ではないと判断しただけなのか――。Time誌はさまざまな可能性を推測している。
ただ、今後破壊的なサイバー攻撃が起きないという保証はない。SNSでもロシア側が偽情報を流したり、ウクライナ関係のアカウント乗っ取りを仕掛けたりしているとされ、FacebookやYouTube、Twitterなどが相次ぎ対応を表明した。
「現状を考えると、ウクライナ政府を支持する国、あるいはロシアに制裁を科した国に対して、さらなる攻撃が仕掛けられるリスクは引き続き存在する」とESETは警告している。
●“ベラルーシの支援でチェルノブイリ原発 電源復旧” ロシア側  3/11
ロシア軍による占拠後、電源が失われていたウクライナ北部にあるチェルノブイリ原子力発電所について、ロシアのエネルギー省の次官は10日、原発と距離的に近い、隣国ベラルーシから電力の供給を受けたことを明らかにしました。これによって原発の施設は電源が復旧したとしています。
これについて、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアのプーチン大統領から9日に電話で電力供給の要請を受けて対応したことを明らかにしました。
ロシア軍が占拠したチェルノブイリ原発については、ウクライナのクレバ外相が9日、原発の送電設備が損傷して、外部からの電力供給が途絶えたとしたうえで、ロシア側に攻撃をやめるよう強く訴えていました。
これについて、IAEA=国際原子力機関は9日、ウクライナ側から報告を受けたとしたうえで「安全性への致命的な影響はない」としていました。
これについてIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、日本時間の11日午前3時半ごろ、チェルノブイリ原発との情報伝達は不安定な状況にあるとしたうえで「確認できずにいる」と述べました。
●「情報戦」でウクライナが圧倒的に優勢な理由  3/11
現地時間の2月24日、ロシアはウクライナへの侵攻を開始。ウクライナ東部2州への派兵を行い、さらに首都キエフを含めたウクライナ国内の軍事施設へのミサイル攻撃も始めた。執筆時点では、ロシアはウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大規模の原子力発電所、ザポリージャ原子力発電所を掌握、東部の要衝マリウポリへの攻勢を強めている。
「ナラティブ」の発話数が急上昇
PRの専門家として見ると、この戦争での「情報の戦い」では、ウクライナのほうが有利と考えている。その理由として「ナラティブ(物語)」というキーワードを挙げたい。
日本語だけの調査ではあるが、ツールを使って独自にTwitter上での「ナラティブ」というワードの発話量を調査した。すると、「ナラティブ」の発話量がロシアによるウクライナ侵攻を機に急上昇しており、侵攻前と比べて平均で約9倍に膨れ上がっていることがわかった。
投稿の内容は、「ナラティブの積み重ねではウクライナの圧勝」「ウクライナのナラティブの醸成は完成している」等々。この傾向は日本だけではなく、国際的な報道にも見てとれる。
ナラティブとは「社会で共有される物語」のことだ。「ストーリー」が起承転結のフォーマットで一方的に語られるものであるのに対し、ナラティブは「共に紡ぐ」、つまり共創という特徴がある。
ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授もその著書『ナラティブ経済学(Narrative Economics)』の中で、「特定の物語が世の中で語られて人を動かす」と述べている。「ナラティブ」は今注目のキーワードなのだ。ウクライナでの戦争で「ナラティブ」という単語の発話が増えていることもそれを示唆している。
戦争における情報戦としてよく知られているものに、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争がある。1992年春から1995年末まで続いた旧ユーゴスラビアの民族紛争だ。旧ユーゴスラビア連邦からの独立を背景として、セルビアvs.ボスニア・ヘルツェゴビナ(以後、ボスニア)の戦いという構図になる。
ボスニア紛争での情報戦のポイントは、ボスニア政府が当初から紛争の「国際化(internationalize)」を考えていたことにある。それについては『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争』(高木 徹、講談社文庫)に詳しい。この本での解説を参考に、情報戦の全容をかいつまんで紹介しよう。
「世論を味方につけよ」というアドバイス
紛争を国際化する手段として、ボスニア政府はアメリカのPR会社、ルーダー・フィン社と契約する。担当は当時同社の国際政治局長だったジム・ハーフというすご腕のPR専門家だ。
というのも、当時のアメリカの国務長官、ジェームズ・ベーカーに次のようにアドバイスされたからだ。「西側の主要なメディアを使って欧米の世論を味方につけることが重要だ」。
ハーフは、ボスニアのハリス・シライジッチ外務大臣をメディアトレーニングしてスポークスマンとして鍛え上げ、記者会見を開く。ハンサムで流暢な英語を話し「流血と殺戮の現場サラエボからやってきた外相」というイメージを作り上げたシライジッチ外相を語り部とする作戦は見事に成功した。
そしてハーフは次のフェーズとして、決定的な手を打つ。それが「民族浄化(ethnic cleansing)」という戦略PRのキーワードだ。
ポイントは、「民族浄化」というワードが新しく作られた言葉ではなかったことだ。先に旧ユーゴスラビア連邦から独立していたクロアチアやスロベニアではすでに使われていたが、国際社会で定着しているわけではなかった。ハーフはこれに目をつけたのだ。ハーフの言葉を借りると「メッセージのマーケティング」ということになる。
ルーダー・フィン社はこのセンセーショナルなワードを駆使してボスニアで何が起こっているのかを発信し、あらゆるメディアがこのワードに飛びついた。最終的にはアメリカ政府、そしてジョージ・ブッシュ(父)大統領もスピーチで使うようになる。ちなみに「民族浄化」は後に辞書にも載る。戦略PRのキーワードとしては第1級の成功例だろう。
一方のセルビアはPRの重要性に気づくのに遅れた。そのため、次々と悪役のレッテルを貼られ、国際世論を味方につけることができず、結果的に敗北した。
さて、ルーダー・フィン社とハーフの仕事は見事だったが、SNSのない1990年代のことで、戦術的な面においては、オーソドックスなことしかしていない。プレスリリースやニュースレター「ボスニア通信」はファクスで送信、あとは記者会見やジャーナリストとの面会などだ。現在から見ると、前世代的な手法である。
フラット化した世界とSNS
ひるがえって、2020年代のウクライナ情勢における情報戦を見ると、そこには非常に現代的な要素がある。実際に起こっていることを3つのポイントにまとめてみよう。
1つめは、フラット化した世界とSNS。ボスニア紛争ではトレーニングされたシライジッチ外相が、セットされた記者会見で話すことで情報発信をした。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、等身大で親近感を持たれる振る舞い──自身をMan on the Street(一般の人)と見せる発信がポイントとなっている。
象徴的なのが、「逃げた」と噂を流されたゼレンスキー大統領が政府の高官4人と一緒に首都キエフの中心部から自分のスマホで「私たちはまだここ(キエフ)にいる。国を守る」と話す自撮り動画を国民に向けて発信したことだ。国のために戦うウクライナ市民と上下関係を感じさせないフラットなスタンスが見てとれる。
また、ロシアの攻撃が始まった直後の2月24日に開かれたEU首脳の緊急会議で、リモート会議でつながったゼレンスキー大統領がEU首脳を前に行った切実な訴え──「われわれは、欧州の理想のために死んでいく」「生きて会えるのはこれが最後かもしれない」は多くのメディアで報道され、経済措置に及び腰だったEUの空気を変えたといわれる。
ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタル変革大臣のSNSの使い方もうまい。Twitterで直接スペースX社のイーロン・マスクに通信衛星回線を要請したのだ。内容はこうだ。
「@イーロン・マスク、あなたが火星を植民地化しようとしている間に、ロシアはウクライナを占領しようとしています!あなたのロケットが宇宙着陸に成功している間に、ロシアのロケットがウクライナの市民を攻撃しているのです。ロシア人に立ち向かうことができるように、ウクライナにスターリンク局を提供してください。お願いします」
10時間後、イーロン・マスクは次のように返信した。
「ウクライナでスターリンクのサービスが開始されました。さらに多くのターミナルが控えています」
これらのやり取りは非常に現代的だ。今は組織格よりも「個人格」の訴求力が強い時代となっている。国や会社よりも(国や会社に所属していても)個人の時代であり、そこには上下関係がなくフラットな世界となっているのが特徴だ。個人の発信が先で、メディアはそれを報道している構図である。メディアが個人格の後を追っているというわけだ。対してロシアはまったく異なるアプローチをしている。ちなみに、真偽のほどは不明だが、プーチンはスマホすら持っておらずネットも見ていないともいわれている。
巨大なストーリーではなく個人ナラティブ
ポイントの2つめは、巨大なストーリーよりも個人ナラティブが人々の心に響くということである。
象徴的な出来事に、ロシア兵の捕虜の話がある。
ウクライナはロシア兵の捕虜のためにホットラインを開設した。その名も「come back alive from Ukraine(ウクライナから生きて帰る)」。ウクライナで捕虜となったロシア兵がどのような状況にあるかをロシアにいる家族に知らせるもので、開設早々、問い合わせが殺到しているそうだ。
これまでの戦争でも捕虜の扱いについての発信はあった。国の代表などが出てきて「捕虜は無事で丁寧な待遇をしています」と記者会見で述べるというやり方だ。それに対してウクライナによるホットラインは非常にうまい方法となっている。なぜならロシアで待つ家族は、現場にいる捕虜となった息子の口から直接「大丈夫だったよ」「こんな戦争はすべきではない」と聞くのだから。
3月1日にニュースとして伝えられた国連総会の緊急特別会合でのエピソードが象徴的だろう。ウクライナのキスリツァ国連大使がロシア語で読み上げた、死亡したロシア兵の携帯に残された母親とのメッセージのやり取りだ。「ママ、ウクライナにいるんだよ。本当の戦争が起きている。怖いよ」。
これは、巨大なストーリーではなく、1人の若いロシア兵の個人のナラティブだ。メディアが個人ナラティブを増幅させる時代であり、大義名分による巨大な政府(国)のストーリー、つまりロシア政府が発信したい、「ロシア軍は解放者だ」というストーリーはまったく効果を上げていない。それよりも、捕虜となったロシア兵と母や家族との物語のほうがよほど強いメッセージとなる。
3つめのポイントは、戦争当事者以外が参画する余白と、それによって形成される共創の構造だ。ボスニア紛争のときにはなかった事象で、これこそネットやSNSなど現在の環境があってのことだろう。
いわゆる「シチズンジャーナリズム」ともいえるだろう。ロシアによるプロパガンダや、ウクライナによるSNSなどでの情報発信という当事者に加えて、一般の人がどんどん参画してきてナラティブを作るという構造だ。
例えば、今年1月、イーロン・マスクのプライベートジェットを追跡するボット「Elon Musk's Jet」を作った19歳の大学生が話題になった。その彼が今度はプーチンやオリガルヒ(政権と深い関係のあるロシアの新興財閥)のプライベートジェットを追跡するアカウント「@PutinJet」「@Russian Oligarch Jets」を作った。
また、広く報道されているとおり、国際的なハッカー集団「アノニマス」を名乗るグループが、2月25日にロシアに対するサイバー攻撃を行うとTwitter上で発表している。
このように、情報戦に当事者外の人や集団がどんどんと入ってきて、それによって情報の再生産が起こる。非常に現代的な共創構造といえるだろう。
戦争プロパガンダから、ナラティブの戦いへ
現代社会は共感と共創の時代に入っている。プロパガンダと呼ばれるものは通用しなくなってきているし、プロパガンダはプロパガンダであると見抜かれてしまう。
プロパガンダは日本語だと世論操作、大衆扇動と呼ばれる。歴史的にプロパガンダは戦争において多用されてきた。ナチスの宣伝相ゲッベルスによるものが有名だが、ゲッべルスの宣伝省は最盛期で1万5000人を有する巨大組織で、「宣伝省の中に政府がある」と揶揄されたほどだ。北朝鮮政府内にある「宣伝扇動部」しかり、もちろんロシア政府の中にも同様の部門がある。
これは自分たちに都合のいい、(フェイクも含む)お話を作り上げて一方的に押し付け、自国民に信じさせるというやり方だ。こうしたやり方はかつての日本にもあったし、それが効いた時代もあった。しかし、一方的な都合のいいストーリーの押し付けというプロパガンダ・アプローチはもう通用しないだろう。
これからはナラティブ・アプローチが共感と共創を生むのは明らかだ。それが、この戦争の情報戦においてウクライナが有利となった理由でもある。ボスニア紛争の終結に情報戦の貢献があったように、ウクライナとそれを支持する人々の動きが功を奏して、1日も早くこの戦争が終結に至ることを願ってやまない。
●ロシア ウクライナ 外相会談も隔たり埋まらず “進展なし”  3/11
ロシア軍がウクライナ各地で攻勢を強める中、双方の外相がトルコ政府の仲介で初の会談を行いましたが、隔たりは埋まりませんでした。ヨーロッパの首脳たちもプーチン大統領に即時停戦を働きかけるなど外交の動きは活発になっているものの、停戦に向けていまだ進展は見られません。
ロシア軍は10日も、首都キエフの包囲に向けて軍の部隊を進めるなど、各地で攻勢を強め、国連人権高等弁務官事務所は、9日までに子ども41人を含む少なくとも549人の市民の死亡が確認されたと明らかにしました。
東部マリウポリでは産科などが入る病院が空爆で破壊されましたが、ロシア国防省は10日、病院への攻撃を否定する一方、郊外の複数の地区を掌握したと発表しました。
さらにロシア国防省は、ウクライナの研究施設がアメリカからの資金援助を受けてコウモリのコロナウイルスを使った生物兵器の開発を進めていた疑いがあるなどと一方的に主張しました。
ロシアは、これまでもウクライナが核兵器を開発している疑いがあると主張していて、新たな疑惑を持ち出すことで軍事侵攻を正当化するねらいがあるとみられます。
こうした中、10日にはロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相がトルコ政府の仲介でロシアの侵攻後初めての会談を行いました。
会談後の記者会見で、クレバ外相は停戦について「進展はなかった」としたうえで、ウクライナの降伏を含むロシア側の要求は受け入れられないと強調しました。
一方、ロシアのラブロフ外相は「ロシアは他国を攻撃するつもりはないしウクライナを攻撃したわけでもない」という主張を繰り広げたうえで、ウクライナの「中立化」と「非軍事化」が必要だと改めて強調し、双方の主張の隔たりは埋まっていません。
また、ロシア大統領府は、プーチン大統領が同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領と11日にモスクワで会談すると明らかにし、ウクライナでの軍事作戦などについて意見が交わされる見通しです。
ウクライナ各地で市民が巻き込まれて被害が広がる中、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は10日、ロシアのプーチン大統領と3者で電話会談を行って即時停戦を働きかけるなど、各国の首脳たちによる外交の動きが活発になっています。
しかしプーチン政権の強硬姿勢は変わらず、停戦に向けていまだ進展は見られません。
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は10日、ウクライナとロシアの外相会談にあわせてトルコ南部のアンタルヤを訪問し2人の外相と相次いで協議を行いました。
協議を終えたグロッシ事務局長はウィーンで記者団の取材に応じ、「重要なのはウクライナもロシアもIAEAとの連携に賛同したことだ」と述べ、核施設の安全性を確保するため詳細なアイデアを早期に双方に提示する考えを明らかにしました
●ウクライナ大統領 “ロシアのメディアがうその情報”  3/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日に公開した動画のなかで前日に東部のマリウポリにある産科などが入る病院がロシア軍の攻撃を受け、女の子1人を含む3人が死亡し、子どもや医療従事者など17人がけがをしたことに言及しました。
このなかで「ロシア側は、当時、産科病棟には女性も子どもも患者もいなかったとうそを伝えた。戦争犯罪は、それを隠そうと宣伝する者たちの存在なしでは不可能だ。彼らは市民への爆撃を命じている者たちと同じように責任を問われることになるだろう」と述べ、ロシアのメディアがうその情報を流していると強調しました。
そして「ロシア軍はすでに人道的な大惨事を起こしたがそれは計画の一部にすぎない。ウクライナの人々が水や食料を得るために侵略者にひざまずかなければならないようにしている」と述べて、各地で街を包囲するロシア軍がウクライナの人々を兵糧攻めにしていると強く非難しました。
一方、この動画のなかでは10日に行われたロシアとの外相会談への言及はありませんでした。 
●難民250万人に 国内でも200万人が避難 3/11
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のグランディ難民高等弁務官は11日、ツイッターで、ロシアのウクライナ侵攻にともなって国外に逃れた難民が250万人に達したと明らかにした。グランディ氏は、ウクライナ国内でも約200万人が避難せざるをえなくなっているとの見方を紹介した上で、「愚かな戦争で数百万人が自宅を追われた」と指摘した。
●中国全人代が閉会 李首相“ウクライナ情勢で積極的役割を”  3/11
中国の重要政策を決める全人代=全国人民代表大会は11日、ことしの経済成長率の目標を5.5%前後とした政府活動報告などを承認して閉会しました。李克強首相は記者会見で、ウクライナ情勢について国際社会とともに平和を取り戻すための積極的な役割を果たしたいという考えを示しました。
中国の全人代は最終日の11日、北京の人民大会堂で、習近平国家主席らが出席して10の議案の採決を行いました。
このうち、ことしの経済成長率の目標を5.5%前後とした政府活動報告は、反対が3票、棄権が3票あったものの、賛成は2752票となり、賛成多数で承認しました。
また、去年より7.1%多い国防費などを盛り込んだことしの予算案も賛成多数で承認しました。
さらに、香港とマカオの全人代の代表の選出方法について、国家の安全に危害を加え有罪判決を受けた場合、立候補する資格を失うなどとした議案も賛成多数で承認しました。
李克強首相は、閉会後に開いた記者会見で、ウクライナ情勢について「各国の主権や領土の一体性は尊重されるべきだ。また、各国の合理的な安全保障上の懸念も重視されるべきだ。中国はこうした考えに基づいてみずから判断し、国際社会とともに平和を取り戻すため、積極的な役割を果たしていきたい」と述べました。
習主席は、ことし後半に行われる5年に1度の共産党大会で、党トップとして異例の3期目入りを目指すとみられています。
中国政府は政府活動報告の中で、ことしの活動について「あくまで安定を最優先にする」としていて、ウクライナ情勢を受けて世界情勢が不透明感を増す中、習主席としては続投に向けて「安定」を最優先に政権運営を進めることになります。
李首相 米中関係改善望む姿勢
中国の李克強首相は全人代閉会後の記者会見で、米中関係について「われわれは理性的かつ建設的な方法で対立をコントロールし、互いの核心的利益や重大な懸念を尊重することを望む。より多くの対話や意思疎通が必要で、開かれているドアを閉じてはならない」と述べました。また、アメリカが中国企業に対する締めつけを強めていることをめぐって「たとえ貿易や経済の分野で競争があるとしても、それは健全な競争でなければならない。両国の協力分野は広大で巨大な潜在力があり、もしアメリカが中国への輸出制限を緩和すれば、両国の貿易額はさらに拡大し、双方の国民が恩恵を受けることができる。中国はアメリカとともに長期的な利益を追求していきたい」と述べ、関係改善を望む姿勢を示しました。
李首相「5.5%前後の成長実現 容易ではない」
また、ことしの経済成長率の目標を5.5%前後と設定したことについて「新たな下押しの挑戦に直面しており、さまざまな複雑な環境が変化し不確定な要素が増えている。5.5%前後の成長を実現することは容易ではない」と述べました。そのうえで「マクロ経済政策によって支えなければならない」と述べ、財政政策や金融政策などで景気を下支えする姿勢を強調しました。
李首相 今後の「ゼロコロナ」明確な答え避ける
そして、徹底して感染を抑え込む「ゼロコロナ」政策を今後も続けるかどうか問われたのに対し「感染拡大から2年が経過したがウイルスは変異し続けており、しっかりと研究していく必要がある。新型コロナの状況の変化とウイルスの特徴に応じて、科学的かつ正確に対策と制御を行っていく」として明確な答えを避けました。
李首相「私が首相を務める最後の1年」
また「私が首相を務める最後の1年だ」と述べ、来年3月に任期が切れるのに合わせて、首相を退任することを示唆しました。共産党序列2位の李首相は、2013年3月の全人代=全国人民代表大会で首相に選出され、これまで2期にわたり首相を務めています。中国では、4年前の憲法改正で、国家主席の任期の制限が撤廃されましたが、首相は2期10年までとなっていて、李首相は、憲法の規定どおり退任することをみずから認めた形です。
●ウクライナ情勢で原油価格に心配の声も 大企業の景況感3期ぶりマイナス 3/11
オミクロン株と物価上昇で大幅下方修正
財務省が3月11日に公表した「法人企業景気予測調査」によると、2022年1月から3月までの大企業の景況感は3四半期ぶりのマイナスだった。この調査は2月15日を基準日としたもので、オミクロン株の感染拡大真っ只中。また、ロシアによるウクライナ侵攻(2月24日)前にはほぼ回収し終わったものだが、財務省担当者は「実態的なウクライナ情勢の影響についての声はなかったが、先行きについては世界経済の不透明さ、原油をはじめとした資源価格の動向を心配する声はあった」と話す。調査は約1万1000社が答えたアンケートを集計したもの。うち約3700社が大企業、2900社が中堅企業、4300社が中小企業だ。予測から大きな下方修正になり、大企業の景況感は3四半期ぶりのマイナスに転じた。中でも目立つのは食料品製造業で、今回37.9ポイントのマイナスだった。原料の仕入れ価格の上昇と、オミクロン感染拡大による外食の需要減が響いているという。同様の理由で飲食店などのサービス業や、運輸・郵便業もマイナスになっている。一方で、自動車や半導体関連、建設業は好調でプラスだった。財務省と内閣府は、来期(4月〜6月)の景況感について、大企業と中堅企業はプラスに転じると予測している。オミクロン株の感染の落ち着きや、半導体などの供給の制約が緩和されるとみている。一方で、ウクライナ情勢を受けた原油などの物価の上昇については不透明で、2022年度の全企業の経常利益については0.3%の減益の見通しを打ち出している。
賃上げにつながるか?利益配分のスタンス
また、この調査では利益配分の考え方も各企業に聞いている。内訳を見てみると、大企業は「設備投資」の重要度が最も高く、次に「株主への還元」「内部留保」がつづく。一方で中小企業では「従業員への還元(=賃上げ)」を最も重視している。内部留保とは利益剰余ともよばれ、企業の利益から税金や株主への配当金などによる支出を除いて残った分を指す。財務省は以前から、「企業が内部留保を減らさずにため込んでいる」と指摘している。岸田政権が進める賃上げ政策。新型コロナやウクライナ情勢など先行きの見通しが不透明な今、どこまで従業員への還元にまわせるか注視したい。
●「核戦争に次ぐ、危機」 ウクライナ情勢による日本の物価上昇 3/11
テレビ朝日の玉川徹氏が11日、テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」に出演。ウクライナ情勢の影響で日本国内の物価が上昇が予想されることに、「核戦争に次ぐ、危機だと思う」と懸念を語った。
番組では、日本を含む国際社会がロシアへの経済制裁を強めている影響で、日本で続々と値上がりしていることについて取り上げた。特に90%を輸入に頼っている小麦は、すでに北米産の不作が原因で輸入小麦の政府売り渡し価格が4月から17・3%値上がりすることが決まっている。ウクライナ情勢の影響でさらなる高騰も危惧されていることを紹介した。
玉川氏は、1970年代のオイルショックで年率25%物価が上昇したことを例に出し、「戦争によって20%ぐらいの物価の上昇があってもおかしいとは言えない思うんですよ。余裕のある人はいいけど、稼いだお金を全て消費するぐらいの人にとってみれば20%の上昇は、収入が20%減るのと同じことですね」と予測した。
当時の日本は経済成長があり物価高を吸収できたものの、「(今は)経済成長してない。賃金が上がらないんだけど物価だけが上がるという状況が年単位で続く可能性がありますね。我々日本人にとって最大の危機は核戦争が起きて巻き込まれるというふうなことだと思いますが、それに次ぐ危機だと僕は思っています」と持論を語っていた。
●“ロシア政府をターゲット”と宣言 「アノニマス」は何者?  3/11
ロシアによるウクライナの侵攻を巡って「アノニマス」を名乗る国際的なハッカー集団がロシア政府を攻撃のターゲットとすると宣言。関連はわかりませんが、その後、ロシア政府のサイトなどが実際にサイバー攻撃を受けたと見られています。「アノニマス」とは何者なのか。10年以上にわたり、その動向を追ってきたSBテクノロジーのセキュリティーリサーチャー、辻伸弘さんに聞きました。
“国営放送の配信チャンネルをハッキング”と投稿
今月7日「ロシアの国営放送の配信チャンネルなどをハッキングして、ウクライナの戦場の映像を流した」という投稿が、ネット上で話題を呼びました。投稿したのは、アノニマスを名乗るツイッターのアカウントでした。辻さんによりますと「アノニマス」は、2006年ごろ、インターネット上の掲示板に出現した緩やかなつながりのハッカー集団で、政治的な主張などを目的にサイバー攻撃を仕掛ける「ハクティビスト」の1つとして位置づけられています。
アノニマスは“うごうの衆”
「アノニマス」は英語で「匿名の」を意味する形容詞で、世界各地のハッカーが活動に匿名で参加しているとみられますが、どんな人物がメンバーなのかなど詳しくはわかっていません。メンバーになるのに条件はなく、出入りは自由で、辻さんは「グループのように捉えがちだがそのつどの内容にしたがって抗議の声をあげる人の集まりのようなもので、自分がアノニマスと宣言してしまえば、誰でもなれてしまう。アノニマスには、リーダーがいるわけでもないし、会員名簿があるわけでもない。うごうの衆という表現がいちばん適切かもしれない」と話しています。主に行う手口は、ウェブサイトやサーバーに対して大量のデータを送りつけて機能停止に追い込む「DDoS攻撃」で、これまでも、各国の政府や企業などへの攻撃を繰り返してきました。
サイバー攻撃を行ったと主張したのは
・2010年から翌年にかけては「アラブの春」に伴い、エジプト政府などに
・2012年には日本の違法ダウンロードの罰則化に抗議して、政府や裁判所などに
・2013年は日本のイルカ漁に抗議して和歌山県の自治体などに
・2016年には海洋生物の保護を訴えて、日本の水族館や企業などに
・おととしにはミャンマーの軍事クーデターに抗議して軍などに対して、
サイバー攻撃を行ったと主張しています。日本では、財務省や国会それに関西空港などのウェブサイトがサイバー攻撃を受けたケースでも関与が疑われています。
メンバーだとするアカウントは無数
アノニマスは、攻撃活動を行う際には、特定のテーマを設定したうえで、ネットで多くの人に共感を得ようと自身の主張や要求などを公開します。辻さんによりますと、ツイッターには、アノニマスを名乗るアカウントは、数万人以上フォロワーを抱える主要なものだけでも10程度は確認されていて、メンバーだとするアカウントは無数にあるということです。また、ツイッターと同様、ユーチューブなど複数のSNSにアカウントがあります。
アカウントの1つ「ロシア政府をターゲット」
今回は、ロシアによる侵攻が始まった直後、ツイッターのアカウントの1つが「私たちの作戦はロシア政府をターゲットにしている。今こそ、ロシア国民が一丸となって、プーチンの戦争に『NO』を突きつける時だ」などとするコメントを投稿。
機密データ盗み取ったと主張も…
また、侵攻前、別のアカウントでは、仮面をかぶった人物が英語を話す動画が公開され、ウクライナなどがNATOやロシアとは異なる中立的なグループを形成すべきだという持論を展開しました。それぞれのアカウントが別々に、ロシア政府やエネルギー企業、メディアなどのサイトをダウンさせた、または機密データを盗み取ったなどといった主張を行っていて、その数は数え切れないほどです。関連はわかりませんが、ロシア政府に関連する一部のサイトは実際にダウンしました。ただ、複数の専門家によりますと、ダウンさせたとしているウェブサイトを調べると、ロシア国外からは接続できないものの国内からはアクセスが可能なケースがあるなど、実際に攻撃が成功しているのかどうかについては不明な点も多いと言います。辻さんは「サイトをダウンさせたと主張しながら、実際は接続できたり、もとから接続ができないサイトだったにもかかわらず、意図的なのかはわからないがダウンさせたと騒ぎ立てたりしたケースもある。アノニマスに限ったことではないが、すべてがうそである可能性があり、裏がとれていない情報として扱うことが大事だ」と話しています。
「情報盗んで公開するのは犯罪」
最後に辻さんは現在、アノニマスの行動に対してたたえたり、ときには神格化したりする記事などがあることを指摘したうえで「思想信条はどんなことでももちろん自由だが、アノニマスの行っていることは犯罪行為であることはしっかりとみておかなければならない。サイトをダウンさせたり情報を盗んで公開したりすることは、どこまでいっても犯罪に変わりない。自分もやろうなどと思わないでほしい」と呼びかけていました。
●西部2都市の飛行場、夜間に空爆とロシア国防省 3/11
ロシア軍は戦闘地域から離れたウクライナ西部2都市の飛行場を夜間に空爆した。ロシア国防省は、イバノフランコフスクとルーツクの飛行場を破壊したと発表。ウクライナ側は両都市が攻撃を受けたものの、飛行場への空爆は確認していないとしている。
キエフ市長は10日、ロシアによる首都攻撃開始以後、ほぼ半数の市民が退避したと明らかにした。AP通信によれば、新しい衛星写真はロシア軍の部隊がキエフ近郊の町や森に散開していることを示しているもよう。
ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で、10日に民間人4万人余りが戦闘地域から退避し、人道回廊を通じて退避できた総数は約10万人に達したと語った。ただロシア軍の攻撃により、港湾都市マリウポリを含め南部の都市からの市民の退避は妨げられていると窮状を訴えた。
欧州連合(EU)はフランスのベルサイユで首脳会議を開催。しかしウクライナの加盟プロセスを迅速に進めるかどうかを巡り、なお溝は埋まらなかった。EUはロシア産化石燃料への依存から2027年までに段階的に脱却する措置を検討している。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
ウクライナ西部の都市にも攻撃
イバノフランコフスクの市長は、市民に対し空爆に警戒を促す警報システムがうまく作動しなかったと説明。ウクライナ東部のドニプロも夜間に空爆を受け、1人が死亡したと当局者は話した。
バイデン米大統領、ロシア貿易優遇剥奪表明へ
バイデン米大統領はロシアとの正常な貿易関係に終止符を打つことを表明する。ロシアからの輸入への関税率引き上げにつながる措置だ。米上院本会議はロシアによる侵攻を受けたウクライナへの支援を盛り込む総額1兆5000億ドル(約175兆円)の包括的歳出法案を可決した。超党派の支持が広がった。同大統領は10日、民主党全国委員会(DNC)の冬季会合で演説し、ロシアのウクライナ侵攻で物価が一段と上昇し、民主党への逆風が強まる中で、今年11月の中間選挙に向け党の結束を呼び掛けた。
中国首相、ウクライナに向け停戦で支援に努力
中国の李克強首相は11日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)閉幕後の記者会見でウクライナ情勢について、停戦に至るようロシアとウクライナへの支援に最大限努力すると表明。中国は情勢を深く憂慮し、心を痛めているとした上で、状況が早期に和らぎ、平和が戻ると心から期待していると語った。
ウラン価格が急上昇
ウランのスポット価格が急上昇している。米政権がロシアの国営原子力企業ロスアトムへの制裁を検討していると伝えられ、供給懸念から2011年3月の福島第一原子力発電所事故以来の高値となった。UxCがまとめたデータによると、指標のUx・U308ウランは10日の取引で11%値上がりし1ポンド=59.75ドルとなった。
米上院、ウクライナ支援盛り込んだ法案可決
米上院は10日の本会議で、ロシアによる侵攻を受けたウクライナへの支援を盛り込む総額1兆5000億ドル(約175兆円)の包括的歳出法案を賛成68、反対31の賛成多数で可決した。136億ドルの対ウクライナ人道・安全保障支援の必要性を巡る切迫感から超党派の支持が広がった。
EU首脳、ウクライナは「欧州のファミリー」に属する
EU首脳は共同声明を出し、ウクライナがEU加盟の道筋をたどるのを支持すると表明。ウクライナは「欧州のファミリー」に属しているとしたが、加盟の特別な措置や迅速プロセスなどには言及しなかった。
ロシアが安保理会合要請、「生物学的軍事活動」巡り
ロシアは国連安全保障理事会に対し、米国がウクライナで生物学的軍事活動を行っているとする自国の主張を議論する会合の開催を要請したと明らかにした。米国とウクライナの当局者はロシアの主張について、偽旗作戦の一環の可能性があると指摘している。
米国はロシア事業巡り決断する企業を支持する−米報道官  
ホワイトハウスのサキ報道官は、米国はロシア事業巡り決断する企業を支持するとツイートで述べた。またロシアが米国など外国企業の資産差し押さえを検討している可能性があるとの報道を米政府は認識しているとした。
ロンドン金属取引所、11日のニッケル取引再開ない
ロンドン金属取引所(LME)は10日、ニッケル市場を11日に再開しないことを明らかにした。再開する前の営業日の午後2時前に通知する予定だとした。
IAEA、チェルノブイリ原発の電力回復確認できず
国際原子力機関(IAEA)はチェルノブイリ原子力発電所の電力が回復したとの報道について、同原発と連絡が取れないため確認できていないと明らかにした。ウクライナの原子力当局はIAEAに対し、ディーゼル燃料の非常用発電機が核燃料の安全な保管に必要なシステムに電力を供給していると説明していた。
ユニクロも一転、ロシア事業見直し相次ぐ−日本企業でも「人権重視
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本企業でロシアでの事業を見直す動きが相次いでいる。事業継続の方針を示していたファーストリテイリングが一転して一時停止を決め、戦争反対の姿勢を強調した。セイコーエプソンや資生堂も、人権重視の観点を前面に出した声明文を公表。
日本政府:資産凍結対象にベラルーシ共和国開発銀行など3行追加
外務省、財務省、経済産業省は11日、ウクライナ情勢を踏まえた資産凍結などの措置を巡り、対象にベラルーシの特定銀行3行を追加すると発表した。
小麦先物急落、トレーダーは需要とウクライナ情勢を両にらみ
シカゴの小麦先物は10日の取引で一時10%下落し、2008年以来の大幅な下げとなった。トレーダーは米農務省が発表した3月3日までの1週間の小麦輸出高が前週から横ばいと予想を下回ったことと、ロシアの軍事侵攻で世界有数の穀倉地帯であるウクライナからの供給が脅かされていることを両にらみしている。
ムーディーズがベラルーシを「Ca」に格下げ、見通し弱含み
ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、ベラルーシの長期外貨建て債務格付けを「B3」から「Ca」に引き下げた。
ウクライナは生物兵器開発せず−米国家情報長官がロシアに反論
ヘインズ米国家情報長官は10日、ウクライナが生物兵器や核兵器を開発しているとのロシアの主張を否定するとともに、そうした主張は恐らく、同国がウクライナ侵攻で講じるかもしれない動きをごまかすための作り話だとの見解を示した。
JPモルガンとゴールドマンがロシア撤退へ
米銀JPモルガン・チェースは10日、ゴールドマン・サックス・グループに続き、ロシアのウクライナ侵攻への対応としてロシアからの撤退を発表した。ロシア国内の事業を縮小しており、現在の活動は限定的だと説明した。ゴールドマンもこの日、ロシア事業を閉鎖する計画を発表していた。
JT、ロシアでの新規投資・マーケティング活動を一時停止へ
日本たばこ産業(JT)は10日、ロシア市場における全ての新規投資とマーケティング活動を一時停止すると発表した。現在のロシア・ウクライナ情勢を踏まえた措置としている。
電通グループ、ロシア企業との関係見直し
電通グループの欧州・中東・アフリカ(EMEA)担当の最高経営責任者(CEO)、ジュリオ・マレゴリ氏は10日、同社が「国際的な制裁に完全に準拠するようロシア企業との全ての関係を見直している」と電子メールで送付した資料で明らかにした。
IMF、ロシアのデフォルトはもはや起こりそうもない事態でない
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は10日、ロシアのデフォルト(債務不履行)がもはや「起こりそうもない事態」ではないと述べた。専務理事は記者団に対し、「ロシアは資金がないわけではなく、それを使うことができない」と指摘。ウクライナ侵攻に対する前例のない制裁措置でロシアはIMFの特別引き出し権(SDR)の通貨への交換が難しくなると語った。
ディズニー、ロシア国内の全事業停止
米ウォルト・ディズニーはロシア国内での全ての事業活動を停止すると発表した。
EU、2027年までのロシア産化石燃料依存脱却目指す
フォンデアライエン欧州委員長は、欧州連合(EU)がロシア産化石燃料への依存から2027年までに段階的に脱却する措置の5月提案に向け、EU首脳の合意取りまとめを目指している。同委員長はツイッターで、自身の計画をベルサイユでのEU首脳会議で各国首脳に示したと明らかにした。
MSCI、社債指数からロシアの証券除外へ
MSCIは10日、社債指数からロシアの証券を除外すると発表。企業の所有構造を通じてロシアへのクレジットエクスポージャーを有する債券を3月11日の取引終了時点で除外するとした。
中国の行動で対ロ制裁効果は薄まっていない−イエレン氏
イエレン米財務長官は、米国や欧州の対ロシア制裁が中国の行動で大きく損なわれているとは考えていないとの認識を示した。イエレン氏は10日、米紙ワシントン・ポストのウェブキャストでのインタビューで「中国はロシア産原油を購入しているが、中国などに売るロシアの能力は制裁で限定されていると思う」と発言。ドルやユーロの取引を扱う中国の金融機関は「リスク回避」行動を取っており、制裁違反を避けようとしていると指摘した。
ロシアは対外債務を履行する、外貨準備凍結なら−財務相
ロシアは外貨準備の凍結が解除されれば外国の債権者に対する支払いを履行する用意があると、シルアノフ財務相が述べた。同国は6430億ドル(約74兆6000億円)に上る外貨準備の大半が制裁により凍結されている。
ロシア鉄道、ユーロ債クーポンまだ支払わず−債券保有者
国営ロシア鉄道の債券保有者らは9日に見込んでいたユーロ建て債券のクーポン支払いをまだ受け取っていないと明らかにした。2300万ユーロ(約29億3000万円)に上るこのクーポン支払いの期日は6日だったが、ロシアの祝日だったため、9日に延期されていた。しかし、支払いが履行される兆しは全くないと、債券保有者らは匿名を条件に話した。
民間人の死傷者数、増加止まらず−OHCHR
ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日以来、民間人の死傷者数は少なくとも1506人に上ると、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が発表した。このうち死者は549人で、実際はこの数字よりもはるかに多い恐れがあると説明した。
G7、ロシア産燃料の輸入抑制目指す−萩生田経産相
主要7カ国(G7)のエネルギー担当相は、ロシアへのエネルギー依存を長期的に低減する必要があると表明した。萩生田光一経済産業相が10日、東京で記者団に対して語った。
独仏首脳、プーチン大統領と電話会談
ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領はロシアのプーチン大統領と電話会談し、即時停戦をあらためて求めた。ドイツ政府当局者によると、3者は向こう数日間に緊密な連絡を継続することで合意した。
ロシア、ウクライナ戦争終結の政治的意思ない−エストニア首相
ロシアのプーチン大統領とその政府にはウクライナでの戦争を終わらせる政治的な意思が全くないと、エストニアのカラス首相が非難した。カラス首相は10日、トルコでウクライナとロシアの外相会談が行われた後、パリでブルームバーグテレビジョンのインタビューに応じ、ロシアはウクライナにできる限りの損害を与えたいと考えていると指摘。「プーチン氏はポーカーで言う『オールイン』、つまり勝つか負けるかの勝負に出ているように思われる。プーチン氏の戦争勝利を確実に阻止できるかは、われわれ全員にかかっている」と続けた。
英政府、ロシア富豪らに制裁
英政府はさらに7人のロシア人に対する制裁を決め、資産を凍結する。サッカー英プレミアリーグのチェルシーを所有する富豪ロマン・アブラモビッチ氏、ロシアのアルミ大手ルサールの持ち株会社En+グループの株主であるオレグ・デリパスカ氏、石油会社ロスネフチのイーゴリ・セチン最高経営責任者(CEO)らが新たに対象となった。アブラモビッチ氏はチェルシーを売却すると発表していた。英当局は、制裁対象となる資産は推定150億ポンド(約2兆2900億円)に上るとみている。
中国、人民元の対ルーブル許容変動幅を2倍の10%に拡大
中国は11日、人民元のロシア・ルーブルに対する許容変動幅を10%に拡大する。これまでは5%だった。中国人民銀行(中央銀行)が毎営業日設定する中心レートからルーブルが10%まで変動することを認める。中国外国為替取引システム(CFETS)が声明で発表した。
●ロシア軍が首都キーウに迫り、南部でも激しい攻撃 ウクライナ侵攻15日目 3/11
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって3週目に入った10日、同国の主要都市でロシア軍の攻撃が続いた。同軍は首都キーウ(キエフ)に向け前進している模様。ウクライナ側は民間人の死傷者が増え続けている。
マリウポリの惨状
南部の港湾都市マリウポリからは悲惨な状況が伝えられている。報道によると、ロシア軍の激しい爆撃が9日間続いており、食料や医薬品の入手が難しくなっている。住民らは雪を溶かして水を得るなど、深刻な人道危機の懸念が高まっている。人口約40万人の同市は、ロシアの支援を受けるウクライナ東部の反政府勢力が、南部クリミアの部隊と合流する上での要所となっている。ロシア軍に包囲されており、爆撃は無差別になっている模様。集合住宅が破壊され、住宅地も壊滅的な被害を受けている。BBCが10日に現地で撮影されたと確認した動画では、砲撃を受けていることがわかる。これは、同市議会が出した、爆撃が続行されているとする声明と合致する。ウクライナのドミトロ・クレバ外相はこの日、マリウポリの状況は国内で最も厳しいと話した。
前日9日にあった同市の病院の爆撃では、産科・小児科病棟が破壊され、少女1人を含む3人の死亡と、17人の負傷者が確認された。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、爆撃を「残虐行為」と非難した。この病院についてロシアは10日、しばらく前からウクライナ軍によって占拠されており、軍事施設だったと主張した。だが、米AP通信が現地で撮影した写真からは、爆撃後、妊娠中の女性が担架で病院の外へ運ばれた様子が見て取れる。セルヒィ・オルロウ副市長は同日、路上に残されたままの死体の収容と埋葬を市当局がようやく開始できるようになったとBBCに話した。市内のこれまでの民間人の死者は、推定1300人に上っているという。副市長は、「個人の墓を確保できる可能性はない。砲撃が続き(死者の)人数が多いからだ。集団墓地に埋葬している」と述べた。マリウポリでは過去5日間、住民らの避難が計画された。しかし、停戦が合意されたにもかかわらずロシア軍の砲撃が再開されており、避難は実現していない。オルロウ副市長によると、10日には市民約100人が自家用車で市外への脱出を図り、ウクライナ当局が設置した検問所を抜けた。しかし、ロシア軍が車列近くを攻撃をしたため、Uターンせざるを得なかったという。
首都にロシア軍が迫る
首都キーウ近郊でもロシア軍が攻勢を強めている。米マクサー・テクノロジーズの人工衛星写真では、ロシア軍の車列の状況から、同軍がキーウ近郊で再編成を進め、首都に向けてさらなる攻撃を計画している様子がうかがえる。同社によると、写真からは、キーウ近郊のアントノフ空港の北西にいたロシア軍の車列が、キーウ周辺の街に移動している。北側にいた別の車列もルビャンカ付近に移動し、砲撃の陣地を構えたことも見て取れるという。一方、アメリカの国防当局者は、ロシア軍が過去24時間でキーウに向けて5キロ前進したと話した。
キーウの北西に位置するブチャでは、ロシア軍の砲撃が絶えず、住民らは地下シェルターへの避難を余儀なくされている。弁護士のドミトロ氏(30)は、女きょうだいと母親、74歳と83歳の祖母2人と共に、避難することを決めた。しかし間もなく、祖母の1人が歩けなくなり、家族が祖母を引きずるようにして安全な場所まで移動したという。「おばあちゃんは、置いて行ってと訴えた。私たちの足手まといになりたくないと思っていた。でも愛する人を残していくことなどできなかった」と、ドミトロ氏は話した。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、政府の支援によって約4万人が10日に避難したと説明。ここ2日間で最大10万人が避難したとした。大統領はまた、ウクライナ軍が攻撃を受けている都市などに、食料や医薬品などの重要物資を送り届けることができたと述べた。ただ、マリウポリと、その近くのヴォルノヴァハは「完全に封鎖状態のままだ」とした。
侵攻後初の外相会談
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから初となる両国の外相会談が10日、トルコで開かれた。ウクライナのクレバ外相とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、話し合いを続けることで合意した。しかし、停戦合意に向けた実質的な進展はなかった。双方の主張には大きな隔たりがある。ラブロフ氏は、ウクライナの非武装、中立化を要求。クレバ氏は、降伏を求めているのと同じだとして、受け入れられないとした。クレバ氏は「ウクライナは降伏していないし、これからも降伏しないと繰り返し言う」と述べた。一方のラブロフ氏は、ロシアの軍事作戦は計画どおりに進んでいると主張。ロシア政府は、要求に対するウクライナ政府の回答を待っていると述べた。同氏はまた、西側諸国がウクライナに武器を提供し、紛争を激化させていると非難した。西側の制裁については、「私たちは対応し、生活のどの面においても西側に頼らないようにあらゆる努力をすると断言する」と述べた。ロシアの全面侵攻でウクライナの被害は拡大しており、これまで230万人以上が国外に逃れたとみられている。
アブラモヴィッチ氏に制裁
ウクライナで戦闘が続く中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と関係のある個人や企業への報復的な制裁が次々と実施されている。イギリス政府は10日、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)7人に対する制裁を発表。これには、サッカーのイングランド・プレミアリーグ、チェルシーFCのオーナーで、ロシア人資産家のロマン・アブラモヴィッチ氏をも含まれている。アブラモヴィッチ氏とロシア政府の関係は不透明なままだ。プーチン大統領が大目に見ているに過ぎないという人がいれば、関係はもっと密接だと主張する人もいる。
ロシアが対抗措置
オリガルヒに対する制裁は、西側がロシアを相手に実施しているさまざまな措置の一部でしかない。アメリカとイギリスは、ロシア産の原油の輸入を禁止している。ロシアの銀行は国際決済システムから排除され、中央銀行は資産が凍結されている。ロシア国民の生活に浸透している外国企業も、次々と同国での事業を停止している。国民は金持ちかどうかに関係なく、ビッグマックを食べることも、ネットフリックスを見ることもできなくなっている。こうした状況で、ロシアは数々の対抗措置を発表。農業機械や通信機器などの製品などの輸出を禁止するとした。また、外国企業の資産を差し押さえる可能性があると警告した。ただ、禁輸リストには金属などの原材料が含まれておらず、一連の措置は象徴的な意味合いが強い。
●プーチン大統領 戦闘地域に外国の戦闘員送り込む考え示す  3/11
ロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を続ける中、ロシアのプーチン大統領は国家安全保障会議を開催し、戦闘地域に外国の戦闘員を送り込む考えを示すとともに、押収した欧米製の兵器をウクライナの親ロシア派の武装勢力に提供するよう指示しました。人員や兵器の投入を強化することで、戦況を有利に進めたい思惑があるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は11日、ウクライナの軍事作戦を巡り、クレムリンで関係閣僚たちと国家安全保障会議を開催しました。
この中でショイグ国防相が「ウクライナ東部の戦闘に志願して参加したいという申請が、多くの人々、国々から寄せられている。特に中東からは1万6000人以上の申請がある」と報告しました。
これに対しプーチン大統領は「欧米側は、世界中からよう兵を集めてウクライナに送り込んでいる」と批判したうえで「ウクライナ東部の住民を助けたいと志願する人々が戦闘地域に行けるよう支援すべきだ」と述べ、今後ウクライナに外国の戦闘員を送り込む考えを示しました。
またプーチン大統領は、ウクライナ側から押収した欧米製の兵器を、ウクライナの親ロシア派の武装勢力に提供するよう指示しました。
アメリカなどがウクライナに軍事支援してきた対戦車ミサイル「ジャベリン」などが含まれているとみられます。
ウクライナで続くロシアの軍事侵攻が、ウクライナ軍の激しい抵抗などで、当初の想定より停滞しているとも指摘される中、プーチン大統領としては、人員や兵器の投入を強化することで、戦況を有利に進めたい思惑があるとみられます。
●ウクライナ侵攻 企業から原材料「希ガス」の供給に不安の声 3/11
製品の加工や検査に、ウクライナ産のさまざまなガスを使っている都内の中小企業からは、ロシアの軍事侵攻を受けて、供給不足や価格高騰への不安の声が出ています。
東京・羽村市に工場がある「東成エレクトロビーム」は、航空や医療関連の部品などのレーザー加工を手がけています。
レーザーを発するのに必要なネオンガスや、検査に使うヘリウムガスなど、いわゆる希ガスは、ウクライナから輸入していますが、会社ではロシアの侵攻による影響を心配しています。
このため、会社は都の中小企業振興公社に今後の対応を相談していて、11日は公社の担当者が工場を訪れました。
このなかで上野邦香社長は、ネオンガスなどの供給不足や価格の高騰などが懸念されると説明しました。
また、この工場で材料として使っているアルミはロシア産のものが多いとして、今後、影響が出ないかも心配だと伝えていました。
これに対し、公社の担当者は原材料の調達が困難な場合に活用できる融資制度があることや、コスト削減の相談に対応する専門家の派遣など都の支援策について説明していました。
会社によりますと、ネオンガスの価格は、新型コロナの影響による輸送コストの増加などを背景にもともと上昇傾向が続いていたうえ、ウクライナへの軍事侵攻の影響でさらに上がり、供給不足への懸念も加わっているということです。
上野社長は「新型コロナや軍事侵攻の影響でネオンの価格は3割も上がっている。戦争が長引けばますます上昇してしまう。国や都の施策なども活用してリスクヘッジできるよう取り組んでいきたい」と話しています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて原材料などの安定供給への懸念が広がるなか、東京都は中小企業などを対象とした緊急支援策を実施します。
このうち、中小企業に対しては、燃料や原材料などの価格の高騰やロシア企業との取り引き停止などの影響で売り上げが減少しているか、減少が見込まれる場合は、金融機関を通じて運転資金などとして1億円を限度に融資を行います。
また、コスト削減や省エネ対策などに向けたアドバイスを行う専門家を派遣するとともに、必要な設備を導入する費用の一部を助成します。
農業や漁業、林業の事業者に対しては、燃料や資材などのコストが増加している場合、法人に1000万円、個人に200万円を限度にした無利子の融資制度も設けます。
いずれの支援制度も今月15日から受け付けます。
また、ロシア企業との取り引きが困難になった企業を支援するため、11日から都の中小企業振興公社に無料の相談窓口を開設し、別の国と取り引きする際の仕組みや規制などの情報提供を始めました。
●ロシアの軍事侵攻 経営に影響企業5割超 大阪商工会議所調査 3/11
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ガソリンが高騰して物流コストが上がるなど、すでに経営に影響が出ている企業が5割を超えることが、大阪商工会議所の調査でわかりました。
この調査は、大阪商工会議所が、今月(3月)8日までの5日間にわたり、市内に本社がある企業を対象に行いました。
それによりますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、現在、「影響がある」と答えた企業は51.1%に上り、「特に影響はない」の26.7%を大きく上回りました。
影響の内容を聞いたところ、エネルギー価格のさらなる高騰が31.1%、原材料価格のさらなる高騰と、物流の混乱・コスト上昇がそれぞれ20%、関連地域との取引中断が15.6%などとなっています。
具体的には、「ロシアとベラルーシの企業との取り引きを中断」、「ガソリンの高騰で物流コストが上昇している」、「ロシア産の海産物が品薄になった」などといった声が聞かれたということです。
大阪商工会議所は、「想定以上に影響を受けている企業が多い。エネルギーや原材料の価格高騰に拍車がかかり、景気の先行きが懸念される」としています。
●軍事侵攻からわずか2週間で...ウクライナ避難230万人超に 国境に子供たち  3/11
ウクライナへの軍事侵攻16日目。ウクライナからの避難者が120万人を超えたポーランド。ボランティアは、食事だけでなく、子どもたちにぬいぐるみも配っていた。同じく国境を接するモルドバにも、多くの子どもたちが避難している。強い風が吹く中、幼い子どもが、泥だらけの靴で寒さに耐えていた。温かい飲み物を口にする子どもや、猫を抱いて笑顔を見せる女の子もいる。国連によると、軍事侵攻が始まってからの2週間で、ウクライナ国外に避難した人は230万人を超えたという。
●ロシアによるウクライナ侵攻は第三次世界大戦のはじまりなのか 3/11
「ロシアがウクライナで複数の町を攻撃して占領した」。2月24日、世界中がこのニュースに直面した。ロシアとウクライナが極度の緊迫状態にあるなか、戦争はヨーロッパの玄関口に立っているのか。何が起ころうとしているのだろう。ロシアのプーチン大統領はどこまで行くつもりなのだろう。私たちは戦争の渦の中にいるのだろうか。ロシア軍によるウクライナ侵攻はこれから何を巻き込んでいくのか、私たちは予想がつかずにいる。
私たちは第三次大戦の入り口に立たされているのだろうか
Twitterでは、同日に最もツイートされたワードが「WWIII」「World War 3」、同義のフランス語「Troisième Guerre mondiale」(「第三次世界大戦」の意)だった。
多くのユーザーが第一次世界大戦や第二次大戦を意識し、自分も軍隊名簿に載って強制的に戦争に参加しなければいけなくなる日を想像した。
いま私たちは第三次大戦の入り口に立たされているのだろうか。
モンペリエ大学とパリ外交研究所でロシア地政学に詳しいキャロル・グリモ・ポター氏に聞いた。
――ロシア軍によってウクライナへの侵攻が開始されたことで世界的な戦争がはじまってしまうのでしょうか?
いいえ、第三次世界大戦に向かっていくのではありません。しかし、懸念の声が上がるのは当然です。問いを発したり、懸念されたりしてもおかしくないことです。
――なぜ世界的な大戦にはならないといえますか?
ウクライナはNATO加盟国ではないので、「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という集団防衛のルールが適用されません。それはウクライナにとっては不幸なことですが、私たちにとっては幸運なことと言えます。
アメリカのバイデン大統領はウクライナに米軍を派遣することは検討していないと述べました。NATOの加盟国も介入しません。ただ、軍事的支援をする可能性はあります。
公式な外国の軍隊はウクライナに駐留していません。ドンバス戦争の流れから考えると、非公式の民兵や民間の軍事会社はあるかもしれませんが、いずれにしても公式なものではありません。
――プーチン大統領がウクライナから範囲を広げる可能性はあるのでしょうか? プーチン大統領が隣国であるウクライナに焦点を合わせる理由は? 焦点が旧ソビエト系の他国にも及ぶことはあるのでしょうか?
今回の侵攻は、これまで何年にも渡ってロシアと西側諸国の間に存在してきた緊張関係の爆発とみるべきでしょう。
2000年代にクレムリンがNATOの東方拡大を非難して以降、ロシアはNATOのヨーロッパにおける安全保障の再建を要求してきました。その要求が宙に浮いたままのところへ、ウクライナは西を向いてNATOとEUへの加盟を求めました。
今、モスクワが目指しているのは、ウクライナ政権を東に向かせ親ロシア政府に置き換えることです。
プーチン大統領が旧ソビエト系の他国をも攻撃する可能性があるかどうかについては、完全にないとは言い切れません。別の隣接国でも今回と同じシナリオが繰り返される可能性はあります。
特にポーランドやバルト諸国。これらの国がNATO加盟国であることが、ロシア軍の圧力がこれらの国の国境に及ばないとは言い切れない理由です。いずれにしても、今の焦点はウクライナにあります。
――現時点では、世界的にどんな影響があると考えられるでしょうか?
冷戦は起こるかもしれません。ポーランドとバルト諸国は軍事インフラを保持しているので、むしろロシア政権は軍事インフラがないウクライナを取ることでパワーバランスを取ろうとしています。
ロシアはベラルーシに軍事基地を建設し、その地で核兵器を含む軍事的な広がりを見せるでしょう。日数としては数カ月かかるはずです。
そして、継続的な軍事圧力と脅威によって、かつてのような冷戦状態へ向かっていく可能性です。
ロシアは外交的にも経済的にも孤立していくでしょう。中国とタッグでブロック経済を組むかもしれません。
ウクライナは侵攻を受けて多くの人が国外に避難するでしょう。避難先は、すでに多くのウクライナ人を受け入れているポーランド、フランス、他のEU諸国、多くのウクライナ人移民を抱えるカナダ、そしてアメリカ領です。アメリカは入国を促進すると思います。
――フランスはこの紛争に軍事的介入をするでしょうか?
今、マクロン大統領は制裁を約束しているだけです。フランス軍が軍事介入するとは私はみていません。ヨーロッパ諸国の中で、NATOやEUとは別に独力で軍事介入を行う準備ができている国も他にはないでしょう? 可能だとしても、EUから独立してそれを行いたいと思っている国があるとは思えません。EUが掲げる統一のイメージが曖昧になってしまいますから。
ウクライナのゼレンスキー大統領も、現時点では外国の武装勢力が入ってくることを望んでいません。(編注:その後、ウクライナ領空をNATOの「飛行禁止空域」にすることを求めていたが、ロシアとの戦闘を避けたいNATOから却下されている)
自ら危険を犯す国はないでしょう。特にプーチン大統領が演説によって、彼を止める勢力に対して、「これまでにない結果になりかねない」と圧力をかけて以降は。核兵器を意識しないわけにはいきません。ですから冷静な頭を使って、国のリーダーが決断するのを待つしかありません。
――待っていたら、ウクライナはどうなるでしょう?
今のところ、ウクライナは自分たちの武装勢力だけでロシア軍に立ち向かってもらうしかないです、残念なことですが。
●世界1位ロシア・6位ウクライナ 小麦シェア大国の軍事侵攻で価格高騰 3/11
できたての惣菜パンに、ふわふわのマフィン。ずらりとパンが並ぶのは札幌市東区にあるベーカリーです。パンはすべて店で手作り。焼きたてのパンが食べられると人気です。主に輸入小麦を使っていますが、店は今後に大きな不安を抱えていました。
(イソップベーカリー本店 須貝敬恵店長)「なるべく安くするにはどうすればいいのかって、すごいずっと不安です」
不安の理由、それは。激しい攻撃が続き、被害が拡大するウクライナ情勢の影響です。ロシアは小麦の輸出量で世界第1位。ウクライナは6位と大きなシェアを占めていて、ウクライナ情勢の緊迫化をうけ、2月末から世界的に小麦の価格が急高騰しています。日本の主な輸入先のアメリカ・カナダが不作だったため、政府が買い付けた輸入小麦の売り渡し価格は4月1日から17.3パーセント引き上げられることになりました。
(ベーカリーの従業員)「平均30から35キロくらい。土日の忙しい時で50キロくらい使う」
小麦粉を大量に使うパン作り。なるべく安い材料を探すなど値上げをしない努力を続けているものの、不安は増すばかりです。
(イソップベーカリー本店 須貝敬恵店長)「今回はさすがにきつい。(価格の)上げ幅が大きかったので。ずっと不安です。4月からもどんどん上がるのではと」
北海道の店まで影響を及ぼし始めたウクライナ情勢。国外で起きた戦争が私たちの生活にも暗い影を落とし始めています。
●“ロシア軍 キエフ中心部まで約15キロに” 米 国防総省高官  3/11
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍について、アメリカ国防総省の高官は10日、首都キエフの中心部からおよそ15キロの位置にまで近づいたと明らかにしました。一方、ロシア軍は、病院や核関連施設など重要な社会インフラへの攻撃も続けていて、ロシア側の要求をウクライナ側に受け入れさせるため、一層圧力をかけるねらいもあるとみられます。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍について、アメリカ国防総省の高官は10日、首都キエフに北西方向から向かっているロシア軍の部隊は、一日で5キロほど前進し、中心部からおよそ15キロの位置にまで近づいたと明らかにしました。
また、キエフの東側からも前進し、およそ40キロの位置に到達したとしていますが、ウクライナ側が激しい抵抗を続けているとして、中心部に入るのにどのくらいの時間がかかるかは予測できないとしています。
一方、東部マリウポリで産科や小児科が入る病院が空爆で破壊されたことにロシアへの非難が一層高まる中、ロシア国防省は10日、病院への攻撃を否定しました。
これに対して国連のデュジャリック報道官は10日、現地の国連スタッフへの聞き取り調査の結果「病院への無差別攻撃があり、当時、病院に女性や子どもたちがいたことを確認した」と述べ、ロシア側の主張を否定しました。
国連人権高等弁務官事務所によりますと、先月24日から今月9日までにウクライナで、少なくとも549人の死亡が確認され、このうち41人は子どもだということです。
市民を安全に避難させることが当面の課題となるなか、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日に公開した動画の中で「人道回廊」と呼ばれる複数の避難ルートを使い、10日だけでおよそ4万人が避難できたと明らかにしました。
ただ、ロシア側が避難ルートを設置したとしているマリウポリについては「ロシア側の攻撃が続き、完全に封鎖されている」と述べ、ロシアを厳しく批判しました。
一方、ウクライナの議会と原子力規制当局は、東部のハリコフにある核物質を扱う国立物理技術研究所が今月6日に続いて10日、ロシア軍から再び、砲撃を受けたとSNSで発表しました。
ロシア軍は、キエフの包囲に向けて軍の部隊を進めるとともに、病院や核関連施設など重要な社会インフラへの攻撃も続けていて、ウクライナの非軍事化などロシア側の要求をウクライナ側に受け入れさせるため、一層圧力をかけるねらいもあるとみられます。
●ウクライナ駐日大使 “避難者が就労可能で中長期的な滞在を”  3/11
ロシアによる軍事侵攻をめぐり古川法務大臣は、ウクライナのコルスンスキー駐日大使と会談しウクライナから避難する人を積極的に受け入れる方針を伝えたのに対し、コルスンスキー大使は、避難者が就労可能で中長期的に滞在できるよう求めました。
古川法務大臣は11日午後、法務省でウクライナのコルスンスキー駐日大使と会談しました。
この中で古川大臣は「一刻も早く、ロシアが侵略行為をやめて、ウクライナに平和が戻るよう、ウクライナや国際社会と強く連帯することを表明する」と述べ、ウクライナから国外に避難する人を積極的に受け入れる方針を伝えました。
これに対し、コルスンスキー大使は「大きな感謝の意を表したい」と述べたうえで、避難者を受け入れてもらう際は、就労が可能で中長期的に滞在できるよう求め、古川大臣は、避難者のニーズに応じて適切に対応していく考えを示しました。
●ロシア、中東などからの志願兵の参戦を歓迎=プーチン大統領 3/11
ロシアのプーチン大統領は11日の安全保障会議で、ウクライナ軍との戦いに加わりたい志願兵の参加を認めるべきとの見解を示した。
またウクライナから奪った西側のミサイルシステムを親ロシア派武装勢力に提供することを承認した。
「ジャベリン」や「ストリンガー」などの米国製対戦車ミサイルをルガンスクとドネツクの親ロシア派勢力に供与することをショイグ国防相が提案したことを受けた。
プーチン氏はロシア軍と共に戦うことを望む人々の志願を許可すべきと述べた。
ショイグ氏は中東で1万6000人の志願兵が、ロシアが支援する部隊と共に戦う準備ができていると語った。
●「プーチン大統領を止められるのはロシア人だけだ」 3/11
国際社会からの非難を浴び、厳しい経済制裁を受けてもなお、ウクライナに対する攻撃の手を緩めないロシアのプーチン大統領(69)。旧ソ連時代には諜報機関「KGB(ソ連国家保安委員会)」に工作員として勤務していたことはよく知られているが、一体どのような人物なのだろうか。
記者として11年半にわたってモスクワに滞在した産経新聞外信部編集委員兼論説委員の遠藤良介氏は、その内面の変化を指摘する。
スパイに憧れた青年が、激動の中で異数の出世
まず、その生い立ちについて簡単に振り返る。
「レニングラード(現サンクトペテルブルク)の裕福ではない家庭に育ち、自身が明かしているところによれば“不良”で非常に喧嘩っ早く、路上でファイトをするということで、決して優等生ではなかったそうだ。それが変わったのが、柔道との出会いだったという。今の状況を見れば柔道の精神をどれだけ分かっているのか、“悪しき柔道家”としか言いようがないが、そこから勉強もするようになり、名門のレニングラード大学(現サンクトペテルブルク大学)に入学する。その直前のエピソードとして印象的なのは、数千人の軍隊でもできないようなことを一人でやってのけるスパイが出てくる小説や映画に非常に感銘を受けたということだ。KGBの支部に出向き、どうすれば就職できるか聞いたこともあるそうだ。そこで法学部を出るといいとのアドバイスを受けたという」(遠藤氏)。
首尾よくKGBに入ったプーチン大統領は旧東ドイツに赴任する。これもよく知られた経歴だが、そこで直面したのが東西ドイツの統一、そして旧ソ連の崩壊だった。
「ドレスデンにおいて東ドイツの内政をフォローしたり、シュタージ(秘密警察)と接触したりしていたようだ。ただ、ドレスデンというのは一流のKGB職員の勤務先ではなく、ごくごく並の勤務評価をされていたのではないかとの見方もある。ところが89年、ベルリンの壁の崩壊という大事件に直面することになる。混乱の中で、秘密警察に対する怒りを爆発させた群衆が、プーチン氏の勤務先に押し寄せてきたこともあったようだ。こうした状況を目の当たりにしたプーチン氏は、“残念ながら東側陣営、共産圏、ソ連は終わりが近い”と悟ることになる。失意の中で帰国、異動したのは故郷の出身大学の学長補佐で、学生や教官に反ソ的な思想や言動がないかを監視していたようだ。そんな中、改革派の市長として非常に勢いがあったサプチャークとの面識を得て、副市長に招かれる。ロシアは今もそうだが、民間でも行政でも、信じられないくらいにコネで物事や人事が動き、若い人が驚くような出世をすることもある、この時のプーチン氏もその典型で、激動の中、驚くべき出世をしていく」(遠藤氏)。
政治家に転身、実務能力を発揮して権力の掌握へ
KGBを退職、政治家として歩み始めたプーチン大統領は、サンクトペテルブルク市副市長、大統領府副長官と、急速に権力の階段を上り始める。わずか9年で首相となった1999年には、エリツィン大統領の辞任に伴い大統領代行。そして首相の期間を挟んで、大統領4期目を務めている。
「人脈と能力、両方があったんだと思う。ロシアから外資がどんどん逃げている今から見れば驚きだが、サンクトペテルブルク副市長時代にはコカ・コーラの工場を誘致することに成功しているし、モスクワの大統領府に呼ばれたことを見ても、官僚としての実務能力は高かったんだと思う。2000年に大統領になった当時も、市場経済を重視するリベラル派と、自身のようないわば“武闘派”、シロヴィキの間でバランスを取っていたと思う。一方、90年代のロシアでは、日本語でいう“政商”のような新興財閥(オリガルヒ)が非常に力を持つようになっていて、そこに対しては警察権力を使ったり、言論に対してもやはり警察権力を使ってテレビ局を徹底的に支配下に置こうとしていった。そのようにして立法、司法、行政を固めてきた。つまり見た目上は選挙をやっているが、民主主義としては骨抜きされた国にしていったということだ」(遠藤氏)。
侵攻直前の2月21日に行われたロシア連邦安全保障会議で、ウクライナ政策について口ごもる対外情報局のナルイシキン長官に対し「支持するのかしないのか、はっきりと」「イエスかノーで」と厳しく詰め寄る様子は、国際社会に驚きを与えた。それでもなお、国民の支持率は6割程度に達している(ウクライナ侵攻前)。しかし内実はそうではないという。
「対抗馬になりそうな人物は全て潰してきたし、主な放送機関は国営か政府系で常に自身を持ち上げるような報道をさせている。だから意識の高い人を除いて、“プーチン氏しか選択肢がない”という状況になっているわけだ。実際は、本当に強く支持している人は大体よくて4割、あるいは3割程度というのが専門家の見立てだ。やはり国のトップをあまり長く務めるのは良いことではなく、プーチン氏も2期目が終わった2008年のあたりで潔く辞めていれば今のような悲劇もなかっただろうし、今とは異なる評価で歴史に名前を残したかもしれない。ところが彼は一度首相になり、再び2012年に大統領になった。しかも憲法を改正し、事実上の“終身独裁”をやろうとしている。クリミア併合もそういう中で起きてきたし、彼自身も変わってきたと思う。本来のプーチン氏は合理主義的で、損失できるだけ少ない状況でどれだけの効果を得られるのか、と考えただろう。そういう意味で、今回は今までと違うと思う。人命が失われ、世界からも総スカンを喰らい、国内経済がここまでガタガタになって破綻に向かっている、それで何が得られるというのか。ウクライナを支配したいという、彼の妄信だけではないか。クリミア併合時には支持率が8割に達したが、これでは心あるロシア国民は付いてこないだろう」(遠藤氏)。
クーデターのような終わり方になるのではないか
柔道だけでなくアイスホッケー、乗り物の運転など、スポーティーな面や肉体美を披露するなどの一面を見せ、人気もあったプーチン大統領。彼を止められる人物はどこにいるのだろうか。遠藤氏は、それはロシア人自身だと指摘する。
「最近は健康不安説も囁かれていて、例えばパーキンソン病に罹っていて、その薬が非常に強く、手が自由に動かせていないのではないかという指摘もある。ただし確たることは分からない。では、彼を支えているのはどんな人達か。オリガルヒの人たちもいれば、情報機関、あるいは軍もいる。プーチン氏の力の源泉、上手いところは、そういう人たちの中にある勢力のバランスを取って、派閥争いが起きても仲裁をし、その上に乗っかるというところだった。しかし今回の侵攻に関しては、そうした財閥からも異論が出てきている。これは異例なことだ。そして小規模ではあるものの、反政府デモも起きている。当面は血みどろにしてでも押さえつけようとするだろうし、彼を止めることは難しい。もう、プーチン氏を止められるのはロシア人しかいないと思う。遅かれ早かれプーチン体制というのは終わりに向かうだろうし、それは選挙によらない政治体制である以上、クーデターのような終わり方になるのではないか。今回の侵攻で、それが早まるのではないかという気がしている」(遠藤氏)。
●プーチン大統領はなぜウクライナを攻めるのか 欧米の価値観を“全否定” 3/11
終結の見通しが全く立たない、ロシアによるウクライナ侵攻。プーチン大統領は、ウクライナを完全に掌握するまで攻撃の手を緩める気がないように見える。一体、彼は何に突き動かされて他国への侵攻を推し進めるのか。欧米諸国からは理解しがたい、その行動原理を、元ANNモスクワ支局長の武隈喜一が解説する。
「自由」「多様性」はロシアを堕落させる
ロシアは「力」がすべての国だ。「力」で相手を押さえつけ屈服させることが「正義」だ。だからロシア国民の伝統的な価値観では、一度戦争を始めた軍隊は、撤退できない。そして決定的な勝利を見せつけるまで戦いを止めてはならない。撤退や休戦は「弱みをみせる」ことだからだ。戦いを止めるのは、痛めつけられ、いたぶられた敵から哀願された場合だけだ。それがロシアの「正義」だ。1994年のチェチェン戦争では、そうやって首都グローズヌイを、ひとつの建物も残らないほど破壊しつくした。
プーチンは20万の大軍を一挙に投入して戦争を始めれば、3、4日でひ弱なウクライナ軍を打ち破り、ウクライナ人はロシア軍に屈すると妄想していた。「力」の世界で権力の階段を上りつめたプーチンには、はるかに強力な相手に屈せず、死ぬまで戦い続ける、という生き方は、想像できないものだろう。だから、プーチンは停戦協議など意に介することなく、「軍事作戦を停止するのは、ウクライナ側が戦闘行為をやめ、ロシアの要求を飲んだときだけだ」と言い放つのだ。「非軍事化」や「中立化」という言葉を使っていても、それは「降伏してロシアに従え」ということで、ウクライナが到底承服できるものではない。
プーチンは、欧米が掲げる「民主主義」、「自由」、「多様性」などという価値観は、ロシアには無縁なものであるだけでなく、ロシアを堕落させるものだと考えている。ある集会で同性婚を「悪魔崇拝」とプーチンが呼んだ時、ロシア社会や経済界を仕切る取り巻きのオリガルヒ(新興成金)たちは拍手喝采を送った。欧米における同性愛者の権利拡張を、プーチンは、無垢なロシアを堕落させるために欧米が仕掛けた世界的陰謀だとみなしている。しかもプーチンは、ロシア国内でみずからの政権に反対する民主派勢力を「外国と結託して同性愛を煽る異常性愛者」と決めつけている。
プーチンは反政府運動の陰の首謀者としてヒラリー・クリントンを名指ししたことがあった。ヒラリー・クリントンが堕落した「多様性」の元凶であるからこそ、2016年のアメリカ大統領選挙に露骨に介入してまでヒラリーの追い落としをはかった。プーチンには〈女性〉で〈リべラル〉でロシアへの経済制裁の先頭に立ったヒラリー・クリントンはそれほど許せない存在だったのだ。
ナチズム支持者の思想と出会い「帝国復活」へ
しかし、プーチンも2011年頃までは欧米を敵視していたわけではなかった。当初は、ロシアはEUやアメリカと対等な立場で協力し合うべきだ、という考えに傾いていた。しかし、アメリカもヨーロッパも、ロシアと決してまともに向き合おうとはしなかった。
天然ガスなどの地下資源をテコにすることによって、ロシアを最悪の経済状態から立ち直らせたプーチンは、「帝国の復活」に舵を切った。その背景にはイワン・イリイン(1883-1954)という不遇の哲学者の思想との出会いがある。イリインはロシア革命後、ドイツへ逃れ、武力で革命ロシアを転覆させようと奔走し、ナチズムを熱烈に支持した。イリインによれば共産主義は退廃的な西欧によって無垢なロシアに押し付けられたもので、「自由」や「平等」などといった退廃した西欧的価値に汚されていない純粋なロシアこそが世界を救い解放するのだと説いている。プーチンは年次教書演説で、何年か続けてイリインの名を出し、その文章を引用した。
プーチンは時々、長大な論文を書く。いまから10年前の2012年1月に書かれた論文では、ロシアは地理的な国家ではなく「カルパチア山脈からカムチャツカ半島」まで、同じ「ロシアという文化」を共有する人びとが散らばる大地のことであり、ロシアは国家を超えた「偉大な文明」なのだ、と書いた。プーチンによれば、ロシアは法的な国境をも超える文明であり、文化を共有するものは「友」、文化を共有しないものは「敵」だ。あまり注目されることのなかったこの論文の最後で、プーチンは「ロシア人とウクライナ人は何世紀にもわたってともに暮らしてきた。そしてこれからもともに暮らしていく。われわれを分断しようとする者に告げる―― そんな日は決して来ない」と締めくくった。その2年後の2014年、プーチンは正体不明の軍部隊を送ってクリミア半島をウクライナから奪い取り、併合した。
親衛隊「夜の狼」とクリミアを爆走
ロシア連邦議会がクリミア併合を可決した日、黒の革ジャンに身を包んだバイクライダーたちの集団がクリミアに集まり祝宴を開いた。このバイク乗りの集団「夜の狼」(ノチヌイエ・ヴォルキ)は、プーチンのプロパガンダ部隊であると同時に親衛隊的準軍事組織だった。それとともに、彼らは同性愛を「悪魔主義」として欧米からロシアへの攻撃だとみなす過激なロシア民族主義者でもあった。
プーチン自身、「夜の狼」の集会に何度か参加しており、革ジャンを着てバイクにまたがり、彼らとともに集団で走り抜ける映像は、「マッチョ」なプーチン像として知られている。2019年にはクリミア半島で行われた「夜の狼」のイベントに参加、バイクを運転するパフォーマンスを見せた。
クリミア併合以降、ロシアの外交方針は「自国の文化に属すると認めた者は誰であれ、国家がそれを守るために介入して良い」というのが原則となり、それにのっとって、ウクライナ東部のロシア人居住地域は「人民共和国」へ仕立て上げられてきた。
改めて考える。ロシアでは一度戦争を始めた軍隊は撤退できず、決定的な勝利を見せつけるまで戦いを止めてはならない。プーチンはロシアの文化圏のもとにある「友」から、欧米のNATOという、ロシア以外の文化へ移行しようとするゼレンスキーのウクライナを「敵」として、自らの足元にひざまずくまで、決して手を緩めることはないだろう。プーチンはウクライナが「敵」であるならば、「核兵器」を使ってせん滅させてもかまわない、それはロシアを堕落した西欧から守ることになるからだ、と考えているのだ。
●プーチン氏、ロシア撤退外国企業の資産押収を承認 3/11
ロシアのプーチン大統領は10日、閣僚会議を開き、ウクライナ侵攻を受けてロシアから撤退した外国企業の資産を押収し、希望者に渡す政府方針を承認した。タス通信が伝えた。プーチン氏は、撤退によるサービス停止への対応や、失業対策を理由に「(撤退企業の資産を)外部から管理することが必要だ」と述べた。
プーチン氏は「法的な手段も市場の手法も十分にある」と述べた。実際にどのように進められるのかは不明だ。外国企業の撤退が相次ぐ中、国民の間で動揺が広がるのを抑えるとともに、企業側に撤退を思いとどまらせる狙いとみられる。
ミシュスチン首相は「今のところ大多数の外国企業は『一時活動停止』を表明し、雇用を維持し賃金も支払い続けている。今後の状況を注視する」と述べた。
米ホワイトハウスのサキ報道官は「撤退も活動停止も企業の判断だ。これらの企業の資産を没収するような無法な決定をすれば、ロシアへの投資は危険だ、とのメッセージにしかならない」とツイッターに投稿した。
●プーチン大統領が“戦闘員”募る ロシア側、兵力不足か 3/11
ロイター通信によりますと、ロシアのプーチン大統領が11日午後、安全保障に関する会議のなかでウクライナ軍と戦う戦闘員を国内外を問わずに募集すると発言しました。戦闘地域で活動するロシア軍を支援するためだとしています。ショイグ国防相は「中東地域から1万6000人の志願兵が戦う意思を示している」と語ったということです。戦闘が長引くなか、ロシア側の兵力が不足している可能性もあります。ロシアはこれまでに市街戦の経験が豊富とされるシリア兵を募集していました。
●プーチン大統領 戦闘地域に外国の戦闘員送り込む考え示す  3/11
ロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を続ける中、ロシアのプーチン大統領は国家安全保障会議を開催し、戦闘地域に外国の戦闘員を送り込む考えを示すとともに、押収した欧米製の兵器をウクライナの親ロシア派の武装勢力に提供するよう指示しました。人員や兵器の投入を強化することで、戦況を有利に進めたい思惑があるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は11日、ウクライナの軍事作戦を巡り、クレムリンで関係閣僚たちと国家安全保障会議を開催しました。
この中でショイグ国防相が「ウクライナ東部の戦闘に志願して参加したいという申請が、多くの人々、国々から寄せられている。特に中東からは1万6000人以上の申請がある」と報告しました。
これに対しプーチン大統領は「欧米側は、世界中からよう兵を集めてウクライナに送り込んでいる」と批判したうえで「ウクライナ東部の住民を助けたいと志願する人々が戦闘地域に行けるよう支援すべきだ」と述べ、今後ウクライナに外国の戦闘員を送り込む考えを示しました。
またプーチン大統領は、ウクライナ側から押収した欧米製の兵器を、ウクライナの親ロシア派の武装勢力に提供するよう指示しました。
アメリカなどがウクライナに軍事支援してきた対戦車ミサイル「ジャベリン」などが含まれているとみられます。
ウクライナで続くロシアの軍事侵攻が、ウクライナ軍の激しい抵抗などで、当初の想定より停滞しているとも指摘される中、プーチン大統領としては、人員や兵器の投入を強化することで、戦況を有利に進めたい思惑があるとみられます。
●「ロシアはより強くなる」プーチン氏、西側の制裁に徹底抗戦の構え 3/11
ロシアのプーチン大統領は10日、ロシアに対する制裁は食料やエネルギー価格の上昇といった形で西側諸国に跳ね返るという考えを示した。同時に、ロシアは問題を解決しながら一層強大な国家になると宣言した。
プーチン氏の発言は、自身が主張する自国の銀行、企業、新興財閥(オリガルヒ)を狙った「経済戦争」にも耐え得るとロシア国民を安心させる狙いがある。
政府の会議で、ロシアがウクライナで行っている特別軍事作戦に代わるものはなかったと強調。ロシアは短期的な経済的利益のために主権を妥協することを受け入れることができなかったし、ロシアへの制裁はどのような場合でも課されただろうとした上で、「疑問や問題、困難があっても、われわれは過去に克服してきたし、今回も克服する。最終的にこれはすべてわれわれの独立、自給自足、そして主権の拡大につながるものだ」と訴えた。
ロシアは、欧州で天然ガスの3分の1を供給する主要なエネルギー生産国だが、各国地域から包括的な制裁を受けながらも、契約上の義務を果たし続けると確認。米国がロシア産原油の輸入を禁止したことで「物価は高止まり、インフレは前代未聞の高さとなって歴史的な水準に達している。彼らは自分たちの過ちの結果をわれわれのせいにしようとしているが、われわれは全く関係ない」とした。
プーチン氏は、2月24日のウクライナ侵攻以来、ロシアに科されている制裁が効いていると認める一方、「われわれは冷静に対応しながら、諸問題を解決していくことに疑いの余地はない。人々はいずれわれわれが閉鎖して解決できないような出来事は単純に存在しないことを理解するだろう」と述べた。
さらに、ロシアが農業用肥料の主要生産国であると指摘。西側諸国がロシアのために問題を引き起こせば、世界の食料市場に対する「負の影響」は避けられないと主張した。
ロシアのシルアノフ財務相は会議で、ロシアが資本流出を制限する措置をとっており、対外債務をドル建てではなくルーブル建てで返済すると説明した。
その上で「この2週間、西側諸国はロシアに対して経済的、金融的戦争を仕掛けてきた」とし、「このような状況下では、金融システムの状況を安定させることが優先される」と述べた。
●「中国が“第2のロシア”になるリスク」プーチン暴走でインフレ加速の日本の懸念 3/11
給与が上がらない中、物価はみるみる上昇。そこにロシアのウクライナ侵攻。原油や天然ガス、小麦など生活に不可欠なものがさらに高騰し、家計を圧迫する恐れがある。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「日本の経常収支はこの1月、1兆2000億円近くの赤字になり、不況下のインフレであるスタグフレーションに陥る可能性もある。また、6年以内に台湾統一を果たすと公言している中国は“第2のロシア”になるリスクがある」という――。
インフレ圧力がもともと高まっていた
ロシアのウクライナ侵攻は日本経済の回復をこれまで以上に遅らせることになりそうです。先月の本連載で、日銀が4月以降のインフレ対応に苦慮するだろうということを説明しましたが、さらに雲行きが怪しくなってきました。
このところ多くのモノやサービスの値段が上がっています。ガソリンは言うに及ばず、コンビニでもおにぎりやサンドイッチなどの値上げが発表されています。ファミレスに行っても少し値段が高くなったと感じる人は少なくないでしょう。
2022年4月以降は、前年比で見た場合に現状の消費者物価上昇率に加えて1.5%程度の物価上昇が加わり(菅義偉内閣の時に携帯電話料金の値下げを実施したことの影響がなくなるため)、2%程度の物価上昇になります。
一方、ひとりあたりの賃金の上昇を表す「現金給与総額」は1年前に比べて1月で0.9%上昇していますが、コロナ前の水準よりは0.3%程度低い状態となっています。このままでは、賃金上昇でインフレをカバーできない状況となり、国民生活はより厳しくなります。
2021年10〜12月の実質GDPはその前の7〜9月期が年率でマイナスだったこともあり4.6%(改定値)の成長となりました。10月1日に多くの地域に出ていた緊急事態宣言などが解除されたことも景気に良い影響を与えました。
そのことは、図表1にある「街角景気」の数字を見ると一目瞭然です。この数字は、タクシーの運転手や小売店の店頭に立つ人、ホテルのフロントマン、中小企業経営者など、経済の最前線にいて景気に敏感に反応する人たちに内閣府が毎月調査を行っているものです。
景気が良くなっているか悪くなっているかの方向感を示すだけの数字ですが、「50」が良いか悪いかの境目。10月以降12月までは50を大きく超えていて、景況感はかなり良かったのが分かります。
しかし1月、2月は37程度まで大きく低下。これは、1月に入り、日本各地でオミクロン株の急速な拡大が起こり、感染者数が高止まりしていることが大きな原因です。
経営コンサルタントである私の顧客の飲食店を見ていても、21年末まではなんとか来店客を維持していましたが、1月以降は少し厳しいところが増えています。
そこにインフレが近づいているだけでなく、ウクライナ情勢が追い打ちをかけようとしています。ワクチンの3回目接種も進みはじめ、東京などでは感染者数も少しずつ減って明るさも見えている中での、ロシア軍のウクライナ侵攻。このことが世界経済、ひいては日本経済に悪影響を及ぼすことは容易に想像できます。
ウクライナ情勢でインフレに拍車が
ウクライナ侵攻に対抗するために、西側諸国はロシアに対して国際的な決済網のSWIFTの使用停止、VISAやマスターなどの国際カード決済中止をはじめ、ロシア船籍の港湾の使用中止や物資の移動の禁止などかなり厳しく対処しています。
短期的に大きな影響が出るのが、原油や天然ガスのエネルギー価格です。図表2は、日本が大きく依存するドバイ原油の価格です。コロナが流行し始めた2020年4月には1バレル17ドル台まで落ちた原油価格ですが、直近(3月11日午前)では約106ドルになっています。
天然ガスも、ロシアからドイツまで開通予定だった「ノルドストリーム2」のパイプラインの運用が、米国の圧力などから行われない状態となっており、価格も高騰しています。
当然のことながら、日本でもガソリン価格や石油製品の価格が高騰しています。
この戦争がいつまで続くかは分かりませんが、米国がロシア産原油の輸入を制限したことなどから、しばらくは石油製品の高止まりが続くでしょう。ガソリン車ユーザーの大幅なコスト増は避けられません。日本政府はガソリン価格などを抑えるために、補助金を出していますが、焼け石に水状態で、物価の上昇を抑えられないでしょう。
また、ロシアやウクライナは世界有数の小麦生産国であり、小麦製品のさらなる値上がりも想定されます。パン、麺類などは毎日のように食卓に並ぶだけに価格増が家計に大ダメージを与えるのは必至です。
経常収支も赤字で日銀はどう対応する
国の台所事情も大変です。日本ではとうとう経常収支も赤字に陥りました。経常収支は、実力値でのその国の「稼ぎ」を表すものです。
・モノの輸出入の差額=「貿易収支」
・特許料などサービスの対価の出入り=「サービス収支」
・金利や配当の出入り=「(第一次)所得収支」
などからなります。
経常収支の赤字長期化による円安で輸入インフレが加速
ここ最近は、これまでの海外投資などからの果実である「所得収支」が大きく黒字となっているために「貿易収支」+「サービス収支」に赤字が出ても、全体の経常収支レベルでは黒字を維持できました。ところが、ここにきてエネルギーの輸入額が大きく増加しているために、1月は経常収支が1兆2000億円近くの赤字となっています(図表3)。
このことは、日本が海外から稼げなくなっている、ということを意味します。この経常収支の赤字状態が長期化すれば円の信用度にも影響し、円安をもたらす可能性があります。円安はさらなる輸入インフレを加速することにもなりかねません。
この原稿を書いている時点では、まだ発表されていませんが、米国ではインフレに対応するために3月15日、16日に行われる中央銀行(FRB)の公開市場委員会(FOMC)で利上げが発表される予定です。金融引き締めに大きく舵を切るのです。
一方、日銀は、10年国債利回りの上限(0.25%)を死守するために、市中から無制限に国債を買い入れ、資金を放出することを発表しています。これまで以上の緩和策に打って出るわけです。
米国は引き締めであるのに対して、日本は緩和。これがさらなる円安を招く可能性があり、インフレにまったく対抗できません。そこにウクライナ情勢というさらに強力なインフレ要因が追加されるのです。
このままでは、不況下のインフレである「スタグフレーション」となる恐れもあります。日銀は、経済の不安定化を招く不確定要因を山ほど抱えることとなるのです。
「ロシアの次は中国」同じことが起こる可能性がある
将来的にはさらなる不安要因があります。
今、欧州経済や西側経済はロシアを切り離す動きを加速化させています。エネルギーや希少金属など資源分野で、世界はロシアなしでのやりくりの模索を始めています。それ以外の業種でも、一時的か恒久的かは不明であるものの、工場の停止や撤退の動きも急速に広まっています。多くの業種でロシア排除が進み、それが長期化する可能性もあります。
もっと気になるのは、お隣の中国です。
中国では習近平主席が2021年に「6年以内に台湾を統一する」と公言しました。軍事的侵攻をとならなかったとしても、強硬的な手段を選択すれば、米国はじめ西側諸国は今回ロシアに対してとった経済制裁を科す可能性があります。中国の孤立化がロシアのように進むことも懸念され、これは、経済的に密接な日本にとってかなり大きな問題となります。
いずれにしても、日本のインフレ進行度と、それに対する日銀の対応、ロシア・中国・米国・西側諸国の動きからは目が離せません。
ウクライナに平和が戻ることを心より願っています。
●Facebookがプーチンやルカシェンコの殺害 許可するようにポリシー変更 3/11
FacebookやInstagramで、ロシアにウクライナ侵攻に呼応する形で発せられる「ロシアの侵略者に死を」のような「暴力的な言論」が一時的に許可されることになりました。従来なら「悪意ある表現に関するポリシー」に抵触するものですが、「通常ならポリシー違反となるような政治的表現も一時的に許容することにした」とのことです。
ポリシー変更によってこの種の言論が許容される対象は地域が限られており、アルメニア、アゼルバイジャン、エストニア、ジョージア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、ウクライナの12カ国。
ロシアのプーチン大統領やベラルーシのルカシェンコ大統領に対する「ぶっ殺す」のような表現についても、「他の標的を含まない」「場所や方法などの具体性がない」の2点を満たす、具体的な殺害予告ではないものについては許容されます。
Metaの広報担当者であるアンディ・ストーン氏は「ロシアのウクライナ侵攻の結果として、我々は一時的に『ロシアの侵略者に死を』といった暴力的言論のような、ポリシーに違反する政治的表現を考慮に入れました。ロシアの民間人に対する暴力的な呼びかけは許容されません」と述べました。
なお、ロシア国内ではすでにFacebookはアクセス制限の対象となっています。Facebookよりも人気があるというInstagramやWhatsAppは規制対象外です。
●ロシア軍、各都市へ攻撃強化 医療施設砲撃、首都包囲で攻防も 3/11
ウクライナに侵攻したロシア軍は11日、中部ドニプロや北西部ルツクなどで、2月24日の侵攻後初めてとみられる攻撃を行った。
ドニプロでは幼稚園や住宅近くが空爆され1人が死亡。これまで比較的戦禍を免れていた各都市へも戦線が徐々に拡大しつつある。また、首都キエフでは中心部まで約15キロ地点に迫るなど包囲に向けた態勢を強化しており、攻防が激しさを増している。
ロシア国防省は11日、同国軍の支援を受ける親ロ派が東部ボルノバハを制圧したと主張した。南東部の要衝マリウポリの北にあるボルノバハをめぐり、ロシア軍は5日に限定的停戦と民間人避難のための「人道回廊」設置を発表していた。
ロシア軍は11日朝には高精度兵器による攻撃でルツクと西部イワノフランコフスクの軍用飛行場を破壊。ウクライナ兵らに死傷者が出た。第2の都市ハリコフでは、精神神経科施設が砲撃された。建物にいた身体障害者ら330人に死傷者はいなかったが、ウクライナのポドリャク大統領府顧問はツイッターで「ウクライナの大都市が再び壊滅的な打撃にさらされている」とロシアを非難した。
ロシアは11日もキエフやハリコフ、包囲攻撃を受けているマリウポリ、北部チェルニヒウなどで人道回廊を機能させ、民間人避難を進める方針を表明。市民を退避させた後、一気に制圧を目指す可能性が取り沙汰されている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日の動画メッセージで、回廊を通じて過去2日間で約10万人が退避したと語った。人道危機が深刻化するマリウポリに食料や医薬品を送ったことを明らかにするとともに、「市民にとって『命の回廊』なのに、侵略者は意図的に攻撃している。相手はテロ国家だ」と批判した。
一方、ロシアのプーチン大統領は11日の安全保障会議で、外国からの戦闘志願者を受け入れ、「戦地への移動を助けるべきだ」と述べた。ショイグ国防相は、中東から既に1万6000人超の応募があると説明した。 
●プーチン、異常なウクライナ「執心」の訳...1000年に及ぶ歴史から解説 3/11
ウクライナの危機については、経済や安全保障の観点からさまざまな解説がなされている。だが、それだけでは事の本質が見えてこない。ロシアとウクライナの紛争に関しては、文化的、歴史的、宗教的な背景を知ることが重要だ。
それは「ロシア」とは、「ロシア人」とは何なのかという問いにさかのぼる作業。そして古い「神話」をめぐって、その正しさはわが方にあると、どちらが主張できるのかという点に集約される。
昨年7月12日、ロシア政府の公式ウェブサイトに、ウラジーミル・プーチン大統領による「ロシア人とウクライナ人の歴史的な一体性について」という論文が掲載された。プーチンをはじめとして多くのロシア人の考えを形成する歴史的な視点を知る上で、重要な資料だ。
まず、プーチンや多くのロシア人は、ロシア人とウクライナ人を同一の民族と見なしている。ロシア人は「大ロシア人」、ウクライナ人は「小ロシア人」と呼ばれる。ベラルーシについても同様で、国名は「白ロシア人」を意味する語に由来する。
1547年にイワン4世が戴冠したとき、公式の呼び名は「全ロシアのツァーリ(皇帝)」だった。「全ロシア」とは、キエフ大公国の後継国や諸公国を指している。
キエフ大公国は、9世紀のバイキングを祖とするリューリク朝の治世下にあった。リューリク朝はノブゴロドで発祥し、その後882年にキエフに遷都。キエフはリューリク朝の諸公国の大首都となった。この頃のモスクワは僻地で、初めて文書に記されたのは1147年だった。
キエフ大公国を祖とする3カ国
ロシアとウクライナ、ベラルーシの関係が他の旧ソ連諸国とのそれと大きく異なるのは、起源とする国が同じだという点だ。
この3国は、いずれもキエフ大公国を文化的・政治的な祖としている。プーチン自身もこの考えを信奉しており、自身の論文にこう書いた。
「キエフの君主は、古代ルス(ロシア)において支配的な地位にあった。これは9世紀後半からの慣例である。『原初年代記』には、オレグ公がキエフについて語った『ロシアの全ての都市の母になれ』という言葉が残されている」
プーチンも示しているが、ロシアとウクライナの密接な関係を示す説の裏付けの大半は宗教に絡んでいる。始まりは、988年に東方正教会を国教としたことで知られるキエフ大公のウラジーミル1世だ。
ウラジーミル1世が正教に改宗し、ビザンティン帝国(東ローマ帝国)の皇女を妃に迎えたことで、この帝国にさかのぼる正統性の系譜が始まることになる。
モスクワを「第3のローマ」にする
1113〜25年にキエフを統治したウラジーミル2世モノマフは、「全ルスのアルコン(支配者)」という「ギリシャ式」の呼称を好んだ。モノマフの名は、ビザンティン帝国皇帝コンスタンティノス9世モノマコスにつながる系譜に由来する。
ビザンティン帝国は、正教会のトップを務める総主教による戴冠が行われた皇帝を擁し、諸国の王やアルコンの上に立つ存在だった。
だがこの秩序は、東方からの征服者に揺るがされる。まずモンゴル人の侵入を受けたキエフ大公国がいくつもの属国に分割され、さらに1453年にオスマン帝国によってコンスタンティノープルが陥落。栄華を誇ったキエフは荒廃した。ロシアの王たちの上に君臨していたビザンティン帝国の皇帝もいなくなった。
15世紀後半にモンゴル勢が弱体化し始めると、当時は「ロシア」と呼ばれていた旧キエフ大公国の一部が正統性を取り戻そうとした。しかし西部地域では、現在のウクライナ西部の大半がポーランドに併合され、ベラルーシがリトアニアに吸収されるなど、さまざまな脅威にさらされていた。
かつてキエフ大公国の中心地だったウクライナがその名を得たのは、この頃だった。ウクライナと呼ばれるようになった根拠については、主に2つの説がある。
多数の歴史学者とロシア政府が支持する説では、1569年にキエフ大公国の中心地だったキエフがポーランド王国の支配下に入ると、この地域は古代スラブ語で「国境の隣」を意味するウクライナと非公式に呼ばれるようになった。ポーランド側から見れば、平原に接し、タタール人などの半遊牧民がいたためだ。
その一方、ウクライナの学者と政府は、ウクライナ語の「oukraina」と、古代スラブ語の「okraina」の意味の違いに着目する。どちらも語源は古代スラブ語で「境界」を意味する「kraj」だが、前置詞に重要な違いがある。「ou」は英語の「in」、「o」は「a b o u t 」や「around」を意味する。
つまりウクライナ語の「oukraina」は「中央に所属する土地」を意味し、キエフ大公国を取り囲む土地、あるいは直接的に従属する土地を指す。こじつけのようだが、ウクライナ人にとってはキエフ大公国の系譜への強い帰属感をもたらす説だ。
一方でロシアは、正教会における自らの位置付けと、ローマ帝国に連なる国家的・政治的な正統性の起源を唱える必要に迫られた。「第2のローマ」であるコンスタンティノープルがイスラム国家のオスマン帝国に征服されたため、モスクワが「第3のローマ」にならなくてはいけない。
ロシアの言い伝えでは「2つのローマが陥落し、第3のローマは興隆する。そして第4のローマはないだろう」とされた。
ソ連が確立したかった「物語」
この視点はロシアの権力構造に有用だった。ロシアの総主教の支援を得て、君主による中央集権的な統治が実現し、モスクワが切望していた正統性も得られた。ロシアの統治者は、ビザンティン帝国皇帝の血を引く人間と結婚し、自分たちが帝国の継承と信じるものを正当化するため、さまざまな神話をつくり出した。
しかし、ちょっとした問題があった。ローマを支配していなければローマ皇帝とは呼ばれないように、ロシア全土を支配していなければロシア皇帝とは呼ばれない。キエフ大公国の文化的・歴史的・宗教的な重要性は、実に大きかった。だが西方の失われた領土を奪還し、一方では東方への拡大を目指すロシアの皇帝たちにとってそれは問題ではなかった。
ロシア帝国は、その文化的記憶から他の東スラブの言語を消し去ろうとした。ウクライナやベラルーシが一度も存在したことがないかのような姿勢を取ったのだ。
ロシア帝国によればウクライナ人は昔からロシア人であり、独自の歴史を持ったことがない。ウクライナ国家主義はロシアの建国神話にとって脅威であり、「全ロシア国民」をつくり出す彼らの試みにとっての脅威だった。
現代に入り、ソビエト連邦初期の理想主義者たちが違う考え方を取る。彼らはウクライナ、ベラルーシとロシアを「ソビエトの理想によって結び付いた別々の国」と考えていた。
しかしその理想主義はすぐに崩れ、ヨシフ・スターリンはウクライナつぶしに躍起になった。1932年から翌年にかけて起きたホロドモール(スターリンの政策が引き起こした人為的な大飢饉)では、何百万人ものウクライナ人が命を落とした。
学校でウクライナ語を教えることが禁止されたり、学校そのものが閉鎖されるなど、ウクライナ文化への弾圧が行われた。
スターリンの後継者となったニキータ・フルシチョフは自身もウクライナ人で、49年までウクライナ共産党の第1書記を務めていた。そのため彼は、ウクライナを徹底的に弾圧するよりも効果的な政策として、ソ連の政治体制により統合しつつ、いくらかの自治権を認めた。その一環として57年には、地域別の国民経済会議が設置された。
「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」は、ソ連の法律と矛盾しない範囲で、またソ連の各組織の指示の下であれば独自に法律を定める権利を得た。キエフはソ連内のごく普通の首都とされ、他のソ連構成国と比べて何ら特別な配慮や特権を与えられることはなかった。東スラブの歴史におけるキエフの特別な位置付けは、ないものとされた。ソ連が確立したい物語に合わなかったからだ。
建国神話が崩れればロシアが分裂する
しかしプーチンのロシアにとっては、こうした歴史上のキエフの位置付けは大きな問題だ。今のロシアは、ソ連時代のような融通無碍な考え方も、ロシア帝国時代のような広大な領土も持っていない。
プーチンはロシア皇帝のようになりたがっている。将来の歴史書に「ロシアの領土を統合した偉大な人物」と書かれることが、彼の野望だ。
プーチンは常に自分を輝かしい指導者、そして勝利を得た征服者として見せようとしてきた。2012年の大統領選に勝利して「偉大なロシアに『ダー(賛同する)』と言った全ての人に感謝する」と涙ながらに語った言葉や、クリミア併合について議会での演説で「彼らは自らの土地に戻った」と述べて併合の歴史的重要性を強調したことなどからも、それがよく分かる。
彼の望みはソビエトのレガシーを自分の功績にすること、それと同時にかつての皇帝たちのような存在として見られることだ。そのためにはロシア帝国時代の建国神話や価値観を復活させる必要があり、だからキエフを支配下に置く必要があった。
結局「第3のローマ」となったのは、栄光を取り戻したキエフ大公国だった。ウクライナが独自路線を行き、キエフ大公国を自らのレガシーであると主張し、ロシア正教とは別の、独自の正教会を設けたことは、いずれもロシア国家の建国神話に反する。
これらの神話がロシアを、そしてロシア人であることの意味までも定義付けている。これがなければ多くのロシア人にとって、ロシアはロシアでなくなる。
プーチンは、社会を結び付けているこの建国神話が損なわれれば、ロシアは再び分裂すると考えている。自分がそれを許せば、自らのレガシーが台無しになることも。彼にとって、ウクライナ独自の言語、文化、歴史は、存在してはならないものだ。
一方で、ウクライナも同様の問題に直面している。ウクライナはロシアではなく自分たちこそが、キエフ大公国の真の継承国だと考えている。キエフ大公国と現代ロシアを切り離して考え、独自の歴史を示す必要があるのだ、と。
ロシアが今後も自分たちの定義するロシアとしての立場を確立したいと考える限り、そしてキエフ大公国の他の継承国がロシアの介入なしに自分たちの将来を決め、独自の言語や歴史、伝統を持ちたいと考え続ける限り、軋轢の種は残る。
経済的な問題は解決できるだろう。安全面の保障をすることも、新たな条約を結ぶことも可能だ。だが、古くからあるこれらの問題は違う。建国神話の支えを必要としない新しい考え方と、新しい正統性の基盤を備えた全く新しい動きがなければ解決できない。
第3のローマはもはや滅び去るべき時ではないか。そして、これらの古い神話を葬り去るには、決して第4のローマを築いてはならない。 
●ロシア北方領土「特区法」成立で安倍元首相が大失態… 3/12
ロシアのプーチン大統領が9日、クリール諸島(北方領土と千島列島)に免税特区を設置するための法改正案に署名し、成立した。日本がロシアへの経済制裁を発動したことに対し、北方領土の実効支配を強める腹積もりだ。返還交渉を続けてきた安倍政権の8年間は、いったい何だったのか。SNSでは〈安倍晋三のせいで台無しになった〉という声が上がっている。
「安倍さんは首相時代、従来の『4島返還』要求を『2島返還』に後退させています。プーチン大統領と27回も面会を重ねファーストネームで呼び合う親密関係を築き、3000億円の経済協力まで打ち出しながら、結局、返還交渉は1ミリも進みませんでした。安倍さんは国民に謝罪すべきですよ」(霞が関関係者)
この安倍元首相の大失態に矛先を向けているのが岸田首相だという。ウクライナ侵攻を契機に、安倍元首相が蜜月関係だったプーチン大統領を一気に突き放している。
「返還交渉に前のめりだった安倍政権は、北方領土を、従来の『固有の領土』から『我が国が主権を有する島々』と曖昧な表現に変えてしまった。プーチン大統領を刺激しないための配慮です。ところが、岸田首相はこの3月、呼称を『固有の領土』に戻した。安倍さんの『プーチン蜜月外交』を否定した格好です」(永田町関係者)
岸田首相は、これまでも要所要所で安倍批判を繰り返してきた。安倍元首相が言及した「核シェアリング」については、「政府として議論しない」とバッサリ。安倍元首相肝いりの「アベノミクス」からの転換を言い出したり、天下の愚策「アベノマスク」についても、「廃棄する」と切り捨てていた。
「安倍さんは、『なぜ岸田さんは俺の言うことを聞かないんだ』と相当、怒りを募らせているようです。ところが、岸田さんは支持率アップのためなら『安倍批判』もいとわない。今後も安倍政権時代の対ロ政策を否定してくる可能性があります」(永田町関係者)
9日に、岸田首相と約20分間面会した安倍元首相。「ウラジーミルを刺激し過ぎないでよ」とクギを刺したのかもしれない。
●NYダウ反落、112ドル安 ウクライナ情勢・インフレ警戒 3/11
10日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反落し、前日比112ドル18セント(0.3%)安の3万3174ドル07セントで終えた。ロシアとウクライナの外相会談が目立った進展なく終え、投資家心理を冷やした。2月の米消費者物価指数(CPI)を受けてインフレ警戒が改めて強まり、ハイテク株を中心に幅広い銘柄に売りが優勢となった。
CPIは前年同月比7.9%上昇と伸び率は1月(7.5%)から拡大し、市場予想(7.8%)も上回った。欧米による対ロ制裁を背景に原油価格が高止まりし、高インフレが長く続くとの見方が多い。CPIを受け、米長期金利は一時2.02%と前日終値(1.95%)から上昇した。
長期金利上昇を受けて高PER(株価収益率)のハイテク株が売られた。スマートフォンのアップルは3%下げ、顧客情報管理のセールスフォース・ドットコムも安い。物価上昇によるコスト高が収益の重荷になるとの見方から、日用品のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や飲料のコカ・コーラなどディフェンシブ株の一角も下げた。ロシア市場からの撤退が伝わった金融のゴールドマン・サックスも安い。
半面、資源高の恩恵を受ける石油のシェブロンが3%上げ、建機のキャタピラーも買われた。幹部が10日の投資家向けイベントで「業績はウクライナ情勢による悪影響を大きく受けていない」と述べたと伝わった小売りのウォルマートは2%高で終えた。
ハイテク比率が高いナスダック総合株価指数は反落し、前日比125.583ポイント(0.9%)安の1万3129.963で終えた。ソフトウエアのマイクロソフトや半導体のエヌビディアなど主力株が総じて下げた。前日夕に株式分割と自社株買い増額を発表したネット通販のアマゾン・ドット・コムは5%高で終えた。
●ロンドン外為9時半 ユーロ、下げ幅拡大 ウクライナ情勢の不透明感で 3/11
11日午前のロンドン外国為替市場で、ユーロは対ドルで下げ幅を広げた。英国時間9時30分時点は、1ユーロ=1.0970〜80ドルと、前日の同16時時点より0.0040ドルのユーロ安・ドル高で推移している。ウクライナ情勢の不透明感に加え、ロシア政府がロシア事業の停止や撤退を判断した外資系企業の資産を差し押さえる検討に入ったと報じられるなど、報復制裁的な措置を取る可能性が出ている。西側諸国とロシアとの経済的な対立が一段と強まる公算が大きく、ユーロ圏経済の下押し懸念から、ユーロ売り・ドル買いが優勢となっている。
英ポンドも対ドルで一段安となり、英国時間9時30分時点は1ポンド=1.3060〜70ドルと、前日の同16時時点より0.0060ドルのポンド安・ドル高で推移している。
●東京株午前、反落して始まる ウクライナ情勢進展なく 3/11
11日午前の東京株式市場で、日経平均株価は反落して始まった。
10日にトルコで開かれたロシア・ウクライナ外相会談は目立った進展がなく、停戦に向けた交渉の長期化を警戒した売りが先行している。ウクライナ情勢の緊迫化やインフレ懸念から、前日の米国市場が株安となったことも重しとなり、前日終値からの下げ幅は一時、300円近くまで広がった。
日経平均株価は午前9時5分現在、前日終値に比べ257円84銭安の2万5432円56銭。
●東証14時 安値圏、週末のウクライナ情勢警戒 3/11
11日後場中ごろの東京株式市場で日経平均株価は前日比640円ほど安い2万5050円近辺ときょうの安値圏での推移となっている。市場では「週末にウクライナ情勢を巡って再び悪材料が出る可能性もあり、投資家は買いに慎重になっている」(国内運用会社)との指摘があった。
14時現在の東証1部の売買代金は概算で2兆4332億円、売買高は10億4068万株だった。
ソフトバンクグループ(SBG)やエムスリー、TDKが安い。INPEXやENEOS、出光興産が買われている。

 

●イラン核合意の間接協議 ウクライナ情勢で先行き不透明に  3/12
イラン核合意の立て直しに向けたアメリカとイランの間接協議について、仲介役のEU=ヨーロッパ連合は中断することを明らかにしました。大詰めを迎えていた協議はロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で先行きが不透明となる事態となっています。
アメリカとイランは核合意の立て直しを目指し、イランの核開発制限やアメリカによる制裁解除の進め方などをめぐり、EUや合意関係国のロシアなどを介して間接協議を進めてきました。
こうした中、EUの外相にあたるボレル上級代表は11日、ツイッターで「外的な要因によって一時中断が必要だ」として、協議をいったん中断することを明らかにしました。
「外的な要因」が何かは具体的に言及していません。
ただ、ウクライナへの軍事侵攻を受けてアメリカなどがロシアに対する制裁を強化するなか、ロシアは、核合意が立て直されたあとイランとの間の貿易などは軍事侵攻に絡む制裁とは関係なく保証されるべきだと、今月になって突然要求しました。
これに対し欧米各国は「核協議と関係のない条件を加えるべきではない」などと批判し、大詰めを迎えていた協議はロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で先行きが不透明となる事態となっています。
●注目集まる「ウクライナ情勢」と「米国不動産業界」の関係性 3/12
ウクライナ危機の余波により、住宅ローン金利が低下
住宅ローン専門メディア「モーゲージ・ニュース・デイリー」によると、人気の30年固定住宅ローンの平均金利は、年初から2月25日までの二ヵ月あまりの間に1ポイント近く上昇し、4.18%を記録しました。
例年どおりであれば、春のシーズンは繁忙期であるため、住宅購買意欲の高まりを反映して住宅価格はさらに上昇すると予想されます。金融リサーチ会社・コアロジック社が3月1日に発表したレポートによると1月の価格は前年同月比19.1%増でした。
今のところ、住宅ローン金利は米国10年債の利回りに概ね連動しており、3月1日には1月下旬以来の低水準に落ち込みました。しかし、この状況がいつまで続くかは分かりません。
住宅ローン金利は、住宅ローン担保証券(MBS)の需要により強く連動します。MBSの需要が下がると、金利が上がる逆相関の関係にありますが、現在、そのMBSの需要見通しが不安定です。
MBSの一番の需要者であるFRB(連邦準備制度)が、債権購入への切り替え見通しを発表したことから、MBS需要の低下が予想されていました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻による地政学的な緊張は短期債への需要を高めるため、MBSの需要も高まり、ローン金利の低下が生じているのが今の状況です。
金利が今後どう動いていくのか、その答えはウクライナ情勢に左右されます。
airbnb、ウクライナ難民向けに無料の仮設住宅を提供
2月28日、Airbnbはウクライナから逃れてきた最大10万人の難民に、無料で仮住まいを提供すると発表しました。これらの資金はAirbnbのホストからの援助と、同社が運営する非営利団体Airbnb.orgの難民基金への寄付によって賄われます。
AP通信によると、戦争が始まって以来、50万人以上のウクライナ人が国外に逃れています。Airbnbの共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキー氏はTwitterで、「この目標を達成するために助けが必要だ。今我々が最も必要としているのは、ポーランド、ドイツ、ハンガリー、ルーマニアなどの近隣諸国で家を提供出来る人を増やすことだ」と述べました。
この取り組みは、Airbnb.orgが8年以上に渡って行ってきた、困窮者への住宅提供の一環です。
また、同社は2021年9月にも、アフガニスタン難民への仮設住居提供数を、当初予定の2万人分から4万人分に増やす計画を発表しており、2月末時点で、21,300人のアフガニスタン難民に住居を提供しているとのことです。
AirbnbとAirbnb.orgは、過去5年間でシリア、ベネズエラ、アフガニスタンなど多くの国からの難民や亡命を認められた人たちに、5万4000件の仮住まいを提供してきました。
●ウクライナ侵攻後、支持率70%超に上昇 ロシア調査でプーチン氏 3/12
ロシア政府系の「全ロシア世論調査センター」は11日、同国のウクライナ軍事侵攻後、プーチン大統領の支持率が70%超に上昇していることを示す調査結果を発表した。調査は侵攻開始4日後の2月28日〜今月6日に1600人を対象に実施。「プーチン氏を信任する」との回答は77.4%で、2月14〜20日の調査時の67.2%から約10ポイント上昇した。
●ロシア軍 キエフに急接近 ウクライナ「空港」を爆撃 3/12
ウクライナの首都・キエフに東側からロシア軍が急速に接近している。また、飛行場を爆撃するなど空からの反撃を封じ込める動きも見られる。
アメリカの政府高官が11日、ロシア軍が首都・キエフを包囲しようとしている中、北西から攻めている部隊は中心部から15km地点で動きがない一方、東から攻めている部隊が前日の40km地点から20〜30km地点まで侵攻していると明らかにした。
また、新しい動きとして、これまであまり攻撃されていなかったウクライナ西部で空港を爆撃していて、戦闘機による空からの反撃を封じこめる意図があるとしている。
一方で、ウクライナの情報当局は、ベラルーシは近く軍事侵攻を始める可能性があるとの見方を示している。ウクライナ領内からロシアの攻撃を受けたベラルーシ軍がそれをウクライナからの攻撃として軍事侵攻を始めるとのシナリオだとしている。
ウクライナ側は、ロシアがベラルーシを戦争に巻き込もうとしているとして、軍事侵攻に加わらないよう呼びかけている。これについてアメリカの政府高官は、ベラルーシが軍事侵攻する兆候は確認されていないとしている。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は11日、ロシアのプーチン大統領と会談し、欧米各国の経済制裁などに連携して対応する方針を確認していた。
●プーチン大統領 中東からウクライナに戦闘員派遣するよう指示  3/12
ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領は、11日、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、今後の軍事作戦についても意見を交わしたとみられます。
また国家安全保障会議を開いて、中東からウクライナに戦闘員を派遣するよう指示し、今後、戦闘がさらに激化するのではないかと懸念が深まっています。
ウクライナに侵攻したロシア軍は、首都キエフを包囲する部隊が中心部まで15キロの地点に接近したほか、東部の要衝マリウポリにも攻勢をかけ、ウクライナ軍が抵抗を続けています。
市民の犠牲者は増え続け、国連人権高等弁務官事務所は、10日までに、41人の子どもを含む少なくとも564人の市民が死亡したと明らかにしました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日「侵攻がはじまってきょうで16日が経過した。われわれは自分たちの領土を決して渡さない」と述べ、ロシア軍への抵抗姿勢を強調しました。
一方、ロシアのプーチン大統領はウクライナと国境を接し、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領と11日、モスクワで会談しました。
この中で「ソビエト連邦は、常に制裁を科されていたにもかかわらず、発展し、大きな成功を収めた。われわれも、いまは経済が大きな打撃を受けているが、欧米の制限を受けながらも、新しい技術を獲得し、強くなってきた」と述べ、協調して欧米に対抗するよう求めました。
ルカシェンコ大統領はロシアの軍事侵攻を支持する姿勢を示したうえで、ウクライナがベラルーシにとって脅威になっていると主張し、今後の軍事作戦についても意見を交わしたとみられます。
またプーチン大統領は11日、主要な閣僚を集めて国家安全保障会議を開き「ウクライナ東部の住民を助けたいと志願する人々が戦闘地域に行けるよう支援すべきだ」と述べ、ウクライナに、外国の戦闘員を送り込む方針を示しました。
会議の中でショイグ国防相は、1万6000人を超える中東出身者から志願兵の申請が寄せられていると発言し、友好国シリアの戦闘員を中心にウクライナに派遣する計画とみられています。
さらに、プーチン大統領は、アメリカがポーランドなどに派遣した軍の部隊の動きに警戒するよう指示し、欧米諸国がウクライナに対して軍事的な関与を深めないようけん制しました。
欧米は、ロシアに経済制裁を科したほか、ウクライナへの対戦車ミサイルなどの兵器の供与といった軍事支援も強化し、ロシアの軍事侵攻は想定以上に時間がかかっているとも指摘されています。
プーチン大統領としては、戦況の優位を保つため、態勢の強化に動いているものとみられ、今後、戦闘がさらに激化するのではないかと懸念が深まっています。
●ウクライナ侵攻は自動車産業も直撃 ドイツで不足する「自動車部品」? 3/12
コロナとウクライナ侵攻のダブルパンチ
ドイツの自動車業界は2021年、2020年と新型コロナウイルス感染拡大による移動制限やサプライチェーンの機能不全に苦しめられた。さらに2022年に入り、ロシアによるウクライナ軍事侵攻がドイツの自動車産業を直撃している。というのも、ウクライナにある車両部品工場が軍事衝突により停止してしまっているからだ。今回は、ドイツで不足する自動車部品についての状況を見ながら、今後について考察する。
主な自動車工場が稼働停止に
ドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレ(DW)によると、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響がメルセデスベンツ・BMW・フォルクスワーゲン・ポルシェ・アウディなどのドイツの自動車産業を直撃、ドイツ国内の主な自動車工場が操業停止になっている。3月3日時点での各社の現状、および見通しは以下のとおりだ。
・メルセデスベンツ:ウクライナからの部品に依存しているものの、生産調整回避の取り組みを精力的に行っている。しかしながら、来週から生産計画の見直しが必要になる。
・BMW:週の半ばから生産調整と一部モデルの生産中止を始めた。
・フォルクスワーゲン:ドイツ東部にある2か所の工場で短時間勤務を実施している。また、ヴォルフスブルクの主力工場においても生産調整が始まり、再来週には完全に操業停止する見込みである。
・ポルシェ:ライプツィヒの組み立てラインを来週末まで操業停止した。なお、ツッフェンハウゼンの主力工場において生産を維持する予定であるが、材料調達には予断を許さない状況とのことである。
このように、ドイツの自動車産業はウクライナからの部品の供給停止により、大きなダメージを受けている。それでは一体、どの自動車部品の供給が滞っているのだろうか。
供給が滞るケーブルハーネスとは
ウクライナからの供給が滞っている部品は、ケーブルハーネスと呼ばれるものである。ケーブルハーネスは、電源を供給したり信号を伝送したりするケーブルをまとめた複合部品である。ケーブルハーネスは、エンジンやハンドルなどの各種制御をはじめ、ライト類・メーター類・カーナビ・エアコンなどの電気製品の稼働を支えている。余談であるが、車1台あたり長さにして6〜8km、重さで60kg以上のケーブルが使用されているとのことである。このケーブルハーネスが工場に届かない限り、他の部品が整っていたとしても、そこから先に生産を進めることができない。ドイツ自動車工業会(VDA)によると、ウクライナは北アフリカにあるチュニジアに次いで重要なドイツの自動車部品供給地である。なおウクライナにおいては、日本のフジクラ、住友電気工業、ドイツのLeoni社などが、配線システムやケーブルハーネスを大規模に生産していた。しかしながら、それらの企業も2月の末から工場の稼働を停止している。
ケーブルハーネス以外のリスクも
VDAはケーブルハーネス以外にも、自動車製造における部品関係の原料不足と価格の高騰、およびエネルギー供給に関するリスクを懸念している。例えば、ウクライナはネオンガスの重要な供給地である。ネオンガスは半導体製造において高出力レーザーに使用されており、ネオンガスの供給不足がさらなる半導体不足を引き起こす可能性がある。また、ロシアから輸入していたパラジウムやニッケルの供給もストップしている。パラジウムは排ガスを抑制する触媒になるもので、ニッケルはリチウムイオン電池の原料である。エネルギー供給面では、ドイツは輸入ガスの約半分をロシアに依存している点が懸念材料だ。現時点では、ロシアは天然ガスの供給を停止させてはいないものの、今後供給量を縮小する可能性はある。天然ガスの供給がストップすれば、間違いなく価格高騰につながる。また、原油価格の高騰も電力価格の上昇を引き起こす一因となっている。このように、自動車産業だけに限られた話ではないが、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が産業各界に大きな影響を及ぼしつつある。
日本の自動車メーカーへの影響
フジクラ、住友電気工業のウクライナ工場操業停止に伴う、日本の自動車メーカーへの直接的な影響は見受けられない。しかしながら、ウクライナおよびロシア国内における自動車製造や販売の停止が相次いでいる。主要なメーカーの対応状況は、次のとおりである。
・トヨタ自動車:ウクライナトヨタの事業活動を全て停止した。また、ロシアのサンクトペテルブルク工場の稼働、および同工場からの完成車の輸入を停止している。
・日産自動車:ロシアへの自動車の輸出を停止しており、また、ロシアのサンクトペテルブルク工場を近日中に停止する予定である(3月7日時点)
・本田技研工業:ロシアに生産拠点はないものの、ロシアへの自動車や二輪車の輸出を一時停止した。
・マツダ:ロシアのウラジオストクに、ロシアの現地自動車メーカーと合弁で自動車製造工場を設けている。日本から部品を輸出しウラジオストクで自動車を組み立てているものの、部品の輸出を停止した。
・三菱自動車:ロシアのカルーガにある生産拠点をはじめ、販売拠点の稼働停止を検討している。(3月1日時点)
サプライチェーンリスクが一気に露呈
ウクライナ国内におけるこの先の部品製造については、現時点においては誰も予測できない。ロシアと各国の関係悪化によっては、ウクライナでの部品の製造のみならずロシア国内での車両の製造・販売が不可能になる可能性もある。
自動車産業に限らず多くの産業では、製品の最終的な組み立てを行う国で部品までも製造するのではなく、世界各地に部品工場を分散してきた。そのような時代の流れのなか、2021年や2020年においては、新型コロナウイルス感染拡大に伴う輸送部門の混乱によるリスクを露呈した。
そして今回のロシアによるウクライナ軍事侵攻では、工場を分散する地政学的なリスクが露呈したのである。
今後は、過度に経済効率性を重視してリスクをとるのではなく、コストに幾分か跳ね返るかもしれないが、持続的に安定稼働が可能な地域で部品を生産するなど、サプライチェーンのあり方を見直す必要があるのかもしれない。
●ベラルーシ参戦に警戒 ロシアが軍事侵攻 3/12
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が続く中、ベラルーシ軍が参戦することへの警戒感が高まっている。
アメリカの政策研究機関「戦争研究所」の分析によると、ロシア軍は、8日から10日にかけて、キエフを包囲するための攻撃に失敗したほか、南から侵攻している部隊の進撃も進んでおらず、士気の低下や補給の問題が深刻化しているとしている。
そして、ロシアが戦力を増強するために、シリア人の傭兵部隊を近く派遣する可能性があるほか、ベラルーシに対して、ウクライナに軍事侵攻するように圧力をかけているとしている。
ゼレンスキー大統領は10日、新たな動画を公開し、「南東部マリウポリでは、食料・水・薬が不足しているが、ロシア軍による妨害で支援ができていない。再度挑戦する」と話した。
病院内を撮影した男性「産院が攻撃された。ロシアのひどい攻撃だ。誰かいますか? 血だらけだ...」
一方、9日、南東部マリウポリの産科・小児病院がロシア軍の攻撃を受け、病院から避難する妊婦の写真が世界に広まったが、地元メディアは、この女性が10日夜、女児を無事出産したと伝えた。
●ウクライナ侵攻で露呈「ロシア軍」驚くべき脆弱さ  3/12
戦争では「物量が物を言う」。これが軍幹部らの常識だ。だが、ヨーロッパにおいて1945年以来で最大の地上戦となったウラジーミル・プーチン・ロシア大統領のウクライナ侵攻から2週間が経過し、他国が恐れ、見習うべきとされてきたロシア軍のイメージは砕け散った。ウクライナ軍はあらゆる面でロシア軍に見劣りしているにもかかわらず、敵の進軍をどうにか食い止めている。アメリカ当局によると、ウクライナ兵に殺されたロシア兵の数は少なく見積もっても3月7日時点で3000人を超えた。ウクライナはロシア軍の空挺部隊を乗せた輸送機を撃ち落とし、ヘリコプターを撃墜、アメリカの対戦車ミサイルとトルコが開発した攻撃用ドローンを使ってロシア軍の車列に穴を開けていると、アメリカの当局者は情報機関の分析を引き合いに出して語った。
自軍の車両を破壊するロシア兵
ロシア兵の士気は低く、燃料不足や食料不足にも悩まされている。アメリカをはじめとする西側の当局者によると、一部の部隊はウクライナ国境を越えるときに2002年に期限切れとなったMRE(携行食)をあてがわれていた。戦闘を避けるために降伏したり、自軍の車両を破壊したりする部隊もあるという。確かに大多数の軍事専門家は、最終的にはロシアがウクライナ軍を制圧すると話している。90万人の現役兵と200万人の予備兵から成るロシア軍の規模は、ウクライナ軍の8倍だ。それでも、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が1日、また1日と持ちこたえる中、いら立ったロシアが砲撃の手を強めながらも、兵力で劣る敵をたたきつぶすことができないという画像が世界中で流れるようになった。その結果、かつてロシアを恐れていたヨーロッパの軍人は、ロシアの地上部隊に以前ほどの脅威は感じなくなったと話すようになっている。
ロシアは極めて早い段階でピンポイント攻撃を放棄し、退避しようとする民間人を殺すようになった。これにより、プーチン大統領が長期戦に勝利する見込みは乏しくなった可能性がある。残忍な戦術でウクライナ軍をねじ伏せたとしても、そうした戦術はほぼ間違いなく血みどろの反乱を引き起こし、ロシアは泥沼にはまり込んで何年も身動きがとれなくなるかもしれないと、軍事アナリストらは指摘する。そして何よりもロシアは今回の戦争で、敵対するヨーロッパの近隣諸国やアメリカに対して、軍事的な欠点をさらすことになった。今後の戦闘で、相手につけ込む隙を与えてしまったということだ。「この巨大な軍隊は、さして巨大ではないことがわかった」。エストニア国防軍司令官のマーティン・ヘレム中将は、アメリカ軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長とともにエストニア北部の空軍基地で行った記者会見でこう述べた。ヘレム中将の同僚でエストニア空軍司令官のラウノ・サーク准将が現地紙のインタビューで語ったロシア空軍の評価は、もっと露骨だった。「向こう側にあるものを見れば、もはや敵はいないということがわかる」。
予算横領に阻まれた兵器近代化
ロシアがウクライナ全土に展開する15万人超の部隊は主に徴集兵で、その多くは首都キエフの北で足止めを食っている。侵攻開始から数時間で陥落すると予想されていた北東部の都市ハリコフは、ロケット弾と爆撃による猛攻撃でボロボロになってはいるが、依然として持ちこたえている。「ロシア政府は過去20年間を費やして軍の近代化に努めてきた」。ボリス・エリツィン政権でロシア外相を務めたアンドレイ・コズイレフ氏は、ツイッターでこのような投稿を行った。「その予算の多くは盗まれてキプロスの豪華ヨットなどに使われた。しかし軍事顧問らはこうしたことを大統領に報告できず、ウソをついてきた。偽りの軍隊だ」ロシアは戦況についてほとんど情報を出そうとしないため、全体像の把握は難しい。ただ、アメリカ、北大西洋条約機構(NATO)、ウクライナの当局者20人以上への取材を基にロシア軍のこれまでの実態を分析すると、現場で判断を下す権限を与えられていない若くて経験の浅い徴集兵と、同じく自ら判断を下すことが許されない下士官たちの姿が浮かび上がってくる。ワレリー・ゲラシモフ参謀総長を頂点とするロシア軍の指揮系統はあまりに中央集権的だ。取材した当局者によると、中尉はささいなことでも許可を求めなければならないという(当局者らは作戦に関わる内容だとして、取材では匿名を条件とした)。
さらに当局者によると、ロシア軍の上層部はこれまでのところリスクを避ける傾向が強いこともわかっている。ロシア軍がウクライナ全土の制空権をいまだに確保できていない理由の一端もこうした慎重姿勢にあるという。ウクライナ北部の悪天候に直面して、ロシア軍将校は攻撃機や攻撃用ヘリコプターの一部を地上に待機させる一方、ほかの機体を低空飛行させた。そのため、ウクライナの地対空ミサイルに撃墜されやすくなったと、アメリカ国防総省のある高官は話した。「ロシアの戦力の多くは投入されないままとなっている」。アメリカの防衛研究機関、海軍分析センター(CNA)でロシア研究の責任者を務めるマイケル・コフマン氏は電子メールでこう指摘した。「部隊の配置にはまったく合理性がなく、実戦の備えは皆無に近く、士気も驚くほど低い。この戦争に送られると聞かされていなかったのは明らかだ」。
エリート空挺部隊「撃破」の衝撃
複数の当局者によると、ロシアの戦車部隊は、砲撃を行いつつ戦車を守るには配備された兵士の数があまりに少ない。ウクライナが使用するジャベリン対戦車ミサイルに次から次へと爆破され、キエフに進軍する車列が停滞しているのはこのためだ。ロシア軍が戦場で敗北を喫し、犠牲者が増え続けていることも、ロシア軍の士気に影を落としている。「精鋭のロシア空挺部隊がウクライナ軍に撃破されたことで、ロシア軍の士気はズタズタになるはずだ」。ロシア軍に詳しいアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン氏は、「これを見たロシア兵は『なんていうところに足を踏み入れてしまったんだ』と言うに違いない」と話した。精密攻撃でウクライナ軍の部隊を降伏に追い込む作戦が難航している以上、ロシア軍はすでに民間人に多数の死者を出している無差別攻撃を一段と拡大してくる可能性が高い。ロシア軍は苦戦しているとはいえ、軍当局者はやはり最後には物量が物を言うと考えている。NATO欧州連合軍の元最高司令官で退役将軍のフィリップ・ブリードラブ氏は、ウクライナ危機に関する4日のオンラインイベントで次のように語った。「ロシアの進軍は遅い。だが、攻撃は容赦なく続いており、投入できる戦力もまだ豊富に残されている」。
●ウクライナから日本に避難した女性 入国までの状況明かす  3/12
ウクライナから娘が暮らす日本に避難してきた50代のウクライナ人の女性がNHKの単独インタビューに応じ「住んでいる街がミサイルの攻撃を受け、みんなパニックになった。子どもたちを避難させようと大勢の人たちがポーランドとの国境に向かっていた」などと、日本に入国するまでの状況を明らかにしました。
インタビューに応じたのは、ウクライナ東部から日本に避難してきたリボフ・ヴィルリッチさん(59)です。
ヴィルリッチさんは、ロシアによる軍事侵攻が始まった翌日の先月25日に、娘のユリアさんが暮らす日本への避難を決断し、ポーランドなどを経由して10日、孫のブラッド・ブラウンさん(12)などとともに羽田空港から日本に入国しました。
ヴィルリッチさんは、侵攻が始まったときの状況について「先月24日の朝、爆弾の音がしました。その後、ニュースで住んでいた街がミサイルの攻撃を受けたことを知り、みんなパニックになりました。私には持病があり、街の中から食料品や薬が無くなったので、すぐに避難することを考えました」と振り返りました。
ヴィルリッチさんは、自宅からポーランドとの国境に近いリビウまで数百キロの道のりを、娘の夫が運転する車で孫とともに移動し、道中では、燃やされた車やガソリンスタンド、それにミサイルで攻撃された跡を数多く目撃したということです。
当時は、子どもたちを避難させようと大勢の人たちがポーランドとの国境に向かっていたということです。
ヴィルリッチさんは「いちばん悲しかったのは、お母さんと小さな子どもたちが避難する姿をたくさん見たことです。ただ、避難の途中では皆さんにとても優しく接してもらい、ありがたいと思いました。日本に対しても受け入れてくれたことに感謝しています」と述べました。
そのうえで「頑張っているウクライナの兵士たちには感謝の気持ちを伝えたいです。ロシアが軍事侵攻をやめれば平和でいられます。私たちウクライナ国民は、自分で自分を守ることしかできない。できるだけ早く終わってほしいです」と話していました。
●ウクライナ侵攻受けEU首脳会議 防衛力強化で合意 3/12
EU=ヨーロッパ連合は首脳会議を開き、防衛力の強化やロシアへのエネルギー依存の解消を目指すことで合意しました。EU首脳会議は11日、ロシアの脅威に対する今後の方針などを示した「ベルサイユ」宣言を採択しました。
ロシアの軍事侵攻について「ヨーロッパの歴史上、構造的転換となるものだ」と危機感をあらわにし、防衛力の強化やロシアへのエネルギー依存の解消を目指すとしています。また、ウクライナへの武器供与の額を5億ユーロ追加することでも合意しましたが、ウクライナが求めるEUへの早期加盟については慎重な声が相次ぎました。
●ウクライナへの支援 日本企業が寄付や生活物資提供  3/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、日本企業の間で、国際機関への寄付や生活物資の提供などウクライナへの支援の動きが広がっています。
このうち、流通大手の「イオン」はユニセフ=国連児童基金に1億円を寄付するほか、今後、必要な生活物資を現地に送ることも検討しています。
さらにグループの全国およそ1万の店舗に募金箱を設置し、買い物客に支援を呼びかけています。
環境・社会貢献部の鈴木隆博部長は「ウクライナの子どもたちが一日も早く安全で安心な生活を送れるよう支援したい」と話していました。
また、ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」は避難生活を送るウクライナの人たちへ防寒着などの衣料品20万点を提供するほか、人道支援に当たるUNHCR=国連難民高等弁務官事務所に11億円余りを寄付することを決めました。
さらに、食品大手の「日清食品ホールディングス」や「味の素」がカップ麺などの食料支援を行うほか、化粧品大手の「資生堂」は洗顔料のほか乳児向けの粉ミルクといった生活必需品を避難地域に送ったということです。
ウクライナへのロシアの軍事侵攻を受けて日本企業の間ではロシア国内の店舗を一時閉鎖したり、製品やサービスの提供を停止したりする動きが相次いでいますが、その一方で、厳しい状況を強いられ避難を余儀なくされているウクライナの人々を支援する動きが広がっています。
ウクライナへの経済界からの支援は生活物資の提供にとどまらず、国外に避難した人への住宅の提供などさまざまな形で広がりを見せています。
このうちトヨタ自動車は、東ヨーロッパのチェコやポーランドの生産拠点で働いている1700人のウクライナ人従業員の家族で、避難して来た人の避難場所や移動手段の提供を行っています。
また、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアで、避難して来た人の通訳などのボランティア活動を行う従業員を後押ししようと、一定程度の時間、これらの活動を有給扱いとしています。
ディスカウントストア大手の「ドン・キホーテ」などを運営する「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」はウクライナから日本に避難し政府の認定を受けた人たちの支援を行うと表明していて、住宅などの提供のほか自社が運営する店舗で働く場の提供を検討しているということです。
このほか、ウクライナに事業拠点がある楽天グループの三木谷浩史社長は自身のツイッターで、ウクライナ支援のため個人として10億円を寄付することを明らかにしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領に宛てた文書も公開し「いわれのない攻撃に対し勇敢に抵抗する姿を見て、日本から何ができるかと考えた」と記したうえで、今後も支援を続けると表明しています。
●ロシアを食い荒らす「オリガルヒ」が、ウクライナ侵攻後もプーチンを支え続ける 3/12
ロシア軍のウクライナ侵攻に対する制裁措置として、日本政府は8日にロシアとベラルーシの政府関係者32名と12の団体に対する資産凍結の実施を発表した。欧米ではすでに新たな制裁対象をオリガルヒと呼ばれる新興財閥の有力者らにも拡大しており、アメリカのバイデン大統領は1日に行った一般教書演説の中でオリガルヒについても言及。「あなたたちが不正な手段によって得た利益を、われわれは取りに行くつもりだ」と厳しい言葉で語り、司法省傘下にオリガルヒ追及チームを設置することを発表した。オリガルヒ追及をめぐる動きは欧州連合(EU)でも活発化しており、議長国のフランスは9日にオリガルヒとロシアの高官に対する新たな制裁で合意に達したことを発表している。なぜビジネスパーソンであるはずのオリガルヒが一連の制裁で対象となっているのか。ロシアの社会や政治におけるオリガルヒの影響力とはどのようなものなのか。「少数による支配」を意味するギリシャ語が語源とされるオリガルヒについて、本稿では考えてみたい。
ソ連崩壊後を牛耳ったオリガルヒのプーチン大統領就任後の明暗
国際通貨基金(IMF)の調べによると、ロシアの2021年の国内総生産(GDP)は約1兆4600億ドルで(世界11位)、ブラジルやオーストラリアと近い額になっている。アメリカや中国、日本はもちろんだが、ドイツやイタリア、韓国といった国も、GDPではロシアを超えている。一方、ロシア国内のビリオネア(10億ドル以上の資産を持つ者)は現在117人いるとされ、これだけを見ると世界第5位になる。
人口では日本より約2000万人多いが、GDPでは日本の3分の1以下となるロシアで、ビリオネアの数が日本の倍以上という現状から、ロシア国内の深刻な経済格差が垣間見える。だが、それ以上に興味深いのはロシアのビリオネアの大半が「オリガルヒ」に分類されている面々という点だ。
アメリカ財務省が作成した制裁対象者のリストには、約200人の政府関係者(プーチン大統領から官僚までが含まれる)と19人の国営企業トップ、そして96人のオリガルヒが含まれていた。
その中には、2003年にイングランド・プレミアリーグのサッカークラブ「チェルシーFC」を買収し、ポケットマネーで多くの有名選手を獲得し、クラブを強豪の一つに押し上げた実業家のロマン・アブラモビッチ氏の名前も記載されていた。
プーチン大統領と近い関係にあるとされる同氏だが、3日にはチェルシーFCの経営権を売却する意向を表明。売却の純益は新たに創設する財団に全て寄付し、ウクライナにおける戦争の犠牲者を支援するために使うのだという。
一部のオリガルヒは1991年のソ連崩壊前から大金を稼いでいたが、当時は大富豪になるだけのビジネスを展開していたわけではなく、規制が厳しかった西側諸国の製品を輸入し(その多くは密輸)、コンピューターなどは一般人の稼ぎでは購入できない金額で販売していたという。
だが、ソ連崩壊後に発足したロシアのエリツィン政権でオリガルヒの力は一気に増大。オリガルヒやマフィアがロシアの政治に頻繁に絡んでくるようになった。ソ連崩壊後のロシアにおける政治環境が混沌としていたことも理由ではあるが、カネ(賄賂)で物事が決まる傾向がより強くなった時代でもあった。
1998年に財政危機に見舞われたロシアでは、前年に発生したアジア通貨危機とのダブルパンチで、デフォルトが発生した。この際に巨額の財産を失ったオリガルヒもいたが、財政危機を乗り越えたオリガルヒや新たに生まれたオリガルヒは、これまで以上に影響力を持つようになっていたのだ。
順風満帆に見えたオリガルヒだが、2000年に大きな転換期を迎える。ゲームチェンジャーとなったのは、同年5月に第2代ロシア大統領に就任したウラジミール・プーチンであった。
プーチン大統領は大統領就任から2カ月ほどたった2000年7月28日、21人のオリガルヒを集め、プーチン政権の経済政策などについて話し合いを行った。しかし、話の中心は今後の経済政策ではなく、実際にはプーチン大統領に忠誠を誓うかどうかの踏み絵をさせ、残す者と排除する者を決めたとされる。この会談の様子を記録したニュース映像は現在も残っているが、多くのオリガルヒが文字通り顔面蒼白(そうはく)の状態であった。
プーチン大統領と距離を置いたり、反プーチンを声高に叫ぶオリガルヒもいた。2006年8月に経営破綻したロシアの石油会社「ユコス」の元社長で、2003年時点で1兆5000億円以上の資産を保有し、ロシア一の大富豪とされたミハイル・ホドルコフスキー氏はプーチン政権の政策を公然と批判し、野党への政治献金を繰り返した。
しかし、ホドルコフスキー氏は2003年に脱税の容疑で逮捕。2005年に禁錮10年の刑を科せられ、2013年12月にプーチン大統領による恩赦で釈放され、国を追われる形でイギリスに移住。現在も生活の中心はイギリスだ。
プーチン大統領によるアメとムチによって、多くのオルガリヒがプーチン大統領と一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係となり、同時に個人の資産もさらに増やしていくようになったのだ。
オリガルヒが造反してもプーチン政権への影響は限定的
昨年4月に経済誌フォーブスが発表した世界のビリオネアの保有資産額に目を向けると、ロシアのオリガルヒで最もリッチな人物とされるアレクセイ・モルダショフ氏の資産が約3兆円で(世界第51位)、それにウラジミール・ポターニン氏(約2兆8000億円)、ウラジミール・リシン氏(約2兆7000億円)という順に続く。
ロシア国内で少なくとも18人が1兆円以上の資産を保有し、そのうちオリガルヒと無関係なのは、ロシア最大のSNS「VK」や通信アプリ「テレグラム」の創設者として知られるパーヴェル・ドゥーロフ氏や、ロシア最大のECサイト「ワイルドベリーズ」の創設者で、唯一の女性でもある韓国系ロシア人のタチヤーナ・バカルチュク氏ら数名に限られる。
ドゥーロフ氏とバカルチュク氏に共通するのは、ロシア以外の国でも見られるIT企業を自分で創設して億万長者になったことだ。
また、プーチン大統領やロシア政府の中枢に近付きすぎないスタンスを取っていることも共通している。
ドゥーロフ氏はフェイスブックにインスパイアされてVKの開発を始めたが、クリミア危機が発生した2014年4月にVKの最高経営責任者を解任されている。
解任の1週間前、ドゥーロフ氏はロシアの治安機関から反プーチンデモに参加しているウクライナ人ユーザーの個人データを提出するように求められたが、これを拒否。さらにロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の個人ページを削除するようにも求められたが、こちらも断固として拒否していた。
バカルチュク氏はECサイトの代表ということもあり、ドゥーロフ氏のように治安機関から何らかの要請を受けたという話は無い。大学卒業後に英語教師として働いていた彼女は2004年、28歳の時に産休で多くの時間を自宅のアパートで過ごしていた。その際にネットでほしいものが購入できれば便利だと考え、700ドル相当の貯金を切り崩して、ワイルドベリーズを立ち上げた。IT企業でエンジニアとして働いていた夫の助けもあり、ワイルドベリーは順調に業績を上げ、2017年にロシア最大のECサイトとなった。
プーチン政権と親密な関係にある実業家がより多くの利益を手にしてきたロシアの社会構造について、アメリカのサウスカロライナ大学で准教授として経済を専門に教鞭をとるスタニスラフ・マルクス氏にオリガルヒが社会に与える影響について聞いた。
マルクス氏は幼少期をロシアとウクライナで過ごし、ドイツに移住。これまでに、ロシア経済やオリガルヒに関する論文や著作を発表している。マルクス氏はオルガリヒが大きな影響力を持つロシア経済に、次のように警鐘を鳴らす。
「(米アマゾン・ドット・コムの創業者である)ジェフ・ベゾス氏や(米テスラ最高経営責任者の)イーロン・マスク氏のように、一般人とは比較できないくらいの資産を持つ人はたくさんいますし、アメリカでは経済格差も大きな問題となっています。ただし、ロシアと大きく違うのは、ベゾス氏やマスク氏といった実業家はゼロからのスタートで、世界的な企業を作り上げたということです。大統領やその側近らによって、成功を確約された状態でビジネスをしてきたわけではないのです。これがロシアとの大きな違いです。ロシアではベゾス氏やマスク氏のような実業家が誕生するのは、構造的に非常に難しいのです」
オリガルヒはロシアだけではなく、ウクライナにも存在するが、彼らに対する世論はそれぞれの国で異なっていたとマルクス氏は語る。
「ロシアでもウクライナでも、ソ連崩壊後に国営企業の民営化の過程で、うまくチャンスを手にした者がオリガルヒになりました。ロシアでは90年代にオリガルヒが莫大な資金力を背景に政治に介入するようになり、それぞれの事業に有利な法案を通過させ、自治体のトップになる人物もいました。この構造を変えようとしたのがプーチンですが、結果的に自らにとって都合のいいオリガルヒを残すだけになりました。ウクライナではゼレンスキー大統領が誕生するまで、オリガルヒに対する規制などがほとんど行われてきませんでした。前任のポロシェンコ大統領やティモシェンコ元首相は有名なオリガルヒです」
経済制裁対策との見方もあるが、プーチン大統領と親密な関係にあるオリガルヒから、ロシア軍の軍事侵攻に反対すると声を上げる者や、ロシア国籍を捨てる意向があると表明した者もいる。しかし、マルクス氏は、オルガリヒが造反したとしてもプーチン政権の基盤に大きな影響は出ないと語る。
「オリガルヒが結束して反プーチンの姿勢を明確にしたとしても、それがすぐにプーチン政権の終わりを意味するとは思えません。また、プーチン大統領に背を向けることは、彼らの将来の終わりも意味するため、リスクが非常に高いのです。現実的ではないですね。ただし、確率としては非常に低いですが、オリガルヒではなく、軍のような大きな力を持つ組織がプーチン大統領に背を向け始めた場合は、話は大きく変わってきます」
ロシア軍のウクライナ侵攻がいつどのような形で終わるのかは誰にも分からない。しかし、オリガルヒへの規制と徹底した汚職対策は、ロシアとウクライナの両方で「待ったなし」の状態だ。マルクス氏が語る。
「私はソ連崩壊後のロシアとウクライナが『ピラニア資本主義』の犠牲になってきたと考えています。政府や自治体、民間企業がまとまった予算を出しても、オリガルヒや官僚がピラニアのように集まり、中抜きや賄賂という形で食い荒らしていくのです。ピラニアに食い荒らされた社会が30年も続いているのです」
ロシアでは2007年に国防大臣に就任したアナトーリ・セルジュコフ氏が、国防省やロシア軍部隊にまん延していた汚職の摘発を積極的に行い、ロシア軍の組織改革や兵力削減に向けて動いていたが、2012年に国防省傘下企業との間で横領事件に関与したとして、突然国防相を解任されている。オリガルヒが関与しない領域でも、ロシア社会の至る所に無数のピラニアが生息しているようだ。
●プーチン批判しないならキャリア剥奪は正当か ロシア人アーティスト? 3/12
「芸術家に政治的な立場表明を強要するのはフェアじゃない」
世界各国の音楽やアートなどの芸術団体が、プーチン政権を批判しないアーティストを降板させたり、団体から解雇するなどのボイコットの動きを強めている。同時に、ロシア人アーティストへの「ウクライナ侵攻に対する立場表明」を求める圧力も広がっていると、報じられている。
実際、ウクライナ侵攻から10日ほどの間に、親ロシア、親プーチンだと見なされたアーティストらが“キャンセル(業界から追放)”された。
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者だった著名指揮者のワレリー・ゲルギエフは、ロシアのウクライナ侵攻を非難する声明を出すことを拒否したのちに解雇され、同じく、国際的な人気を博していたソプラノ歌手のアンナ・ネトレプコも、プーチン大統領の批判をしなかったことで降板させられた。
ただ、ネトレプコは「この戦争に反対する」と表明していた。彼女が公演から外された要因は、プーチンおよび政権を明確に批判しなかったことだとされている。そのことでネット上でも批判を集めた彼女は、「ユーロニュース」によれば、こう反論していたという。
「芸術家に公に対する政治的意見の表明や、故郷を非難することを強制するのはフェアじゃない」
「私は政治家でも、政治の専門家でもない。芸術家として、政治的分裂を越えて人々を団結させることを目的に活動している」
現在、彼女のコメントは削除されているが、メトロポリタン歌劇場(MET)の総支配人であるピーター・ガルブは、彼女のこの表明に対して「プーチンと非常に密接な関係にある人の場合、戦争を非難するだけでは不充分だ」と、米紙「ニューヨーク・タイムズ」に語っている。
また、彼は米紙「ニューヨーク・ポスト」に対しても、「アンナはMETの歴史の中で最も偉大な歌手のひとりだが、プーチンが罪のない人々を殺している現状では降板せざるをえない」。「彼女がMETの舞台に戻ることを想像するのは難しい」と述べている。
しかし、プーチンを公に批判しないロシア人アーティストは、本当に業界追放に値するのだろうか。これについては賛否両論となっている。
独裁者の寵愛を受けた国の宝が「そう簡単に非難などできない」
団体や組織は、アーティストにどこまで立場表明を要求すべきなのか──。独メディア「ドイチェ・ヴェレ」(以下、DW)は、そう疑問提起している。
この問いに対し、「ニューヨーク・ポスト」はオピニオン記事の中で「(業界追放に)値しない」と述べ、キャンセル文化を批判している。
もっとも前述の2人は、国の宝としてプーチンの寵愛を存分に受けながらキャリアを築いてきた人物である。そんな彼らのようなアーティストが、いくら成功者とはいえ「自国の独裁者(プーチン)を公然と非難するなどできるわけがない」。もし、そんなことをすれば、彼らはキャリアだけでなく命も危険に晒される可能性があると同紙は示唆し、「(プーチンのような)独裁者が、自分を非難する著名人にどんな仕打ちをするか」、それを想像すべきだと述べている。
著名な指揮者であるトーマス・ザンデルリングもまた、「有名アーティストに政治的立場を選ばせ、その表明を強制し、それに応じなければキャリアを剥奪するというのはフェアではないと、私は思う」と「DW」に語っている。
彼は先日、ロシアのウクライナへの侵攻への抗議として、ロシアのノボシビルスク・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督を辞任した。ただし、彼は辞任という形で自身の政治的スタンスを明確にした一方で、業界のロシアボイコットを痛烈に批判している。
「いま多くのロシア人アーティストが政権批判を期待されており、厳しい局面に立たされている」。「政治的スタンスを持つことは重要だが、それは必須事項であるべきではない」。発言するかしないかも含め、本来「個人の選択に委ねられるべきものではないか」。
芸術界のロシアボイコット 「なんとも非文化的で馬鹿げている」
ロシアのウクライナ侵攻以来、ロシアの若い音楽家は欧州の音楽コンクールへの出場ができなくなり、ロシア人作曲家の作品が演目から外されることも増えてきていると、「DW」は書く。カンヌ国際映画祭も、ウクライナ侵攻への抗議表明として、今年はロシア代表団の出席を拒否すると発表した。
ザンデルリングは、こういったロシアボイコットに対しても、プーチン政権の違法行為のせいで、それに関わっていない「罪のないロシア人が罰を与えられるのはおかしい」と、異議を唱えている。
「文化的かつ芸術的な素晴らしい才能や作品が(政府の野蛮な行為を理由に)禁止されるというのは、なんとも非文化的で馬鹿げている」
前述の「ニューヨーク・ポスト」のオピニオン記事もまた、このように締めくくられている。
「芸術は人間の生活に常に欠かせないものだ。政治的緊張が走る時代であればなおさら、文化交流は重要なものになる」と。
●「大ロシア」の再興を求めて…「プーチンの戦争」には隠れた“本質”がある 3/12
現在も閉じ込められたまま…
2月24日午前5時(現地時間)頃、ロシア軍が全正面においてウクライナへの軍事侵略を開始するまで、同国には運転中の原子力発電所が4カ所、原子炉が15基あった(1986年に発生した史上最悪のチェルノブイリ原発放射能汚染事故で廃炉となった原子炉4基を除く)。
原子力が発電総量の60%弱という“原子力大国”のウクライナにはロブノ原発(4基)、フメルニツキ原発(2基)、南ウクライナ原発(3基)、ザポリージャ原発(6基)がある。そして原子炉はすべて露ロスアトム製の加圧水型軽水炉(PWR)。
隣国ベラルーシから侵攻したロシア軍は同日午後7時50分、首都キエフ北西のウクライナ北部にあるチェルノブイリ原発及び周辺地域を制圧した。そして現在もロシア支配下にある同原発の保安要員100人と国家親衛隊の警備員200人は閉じ込められたままだ。
ロシアが次の標的としたのは南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原発である。短距離ミサイルなどを含む総攻撃を受けた4日午前、1基が出力60万キロワットに抑えて運転中だった。
ロシア軍「管理下」におかれて
幸いにも原子炉6基に被害はなく、現状では放射性物質の大気中への流出もないことが、6日未明にワシントンで行われた米国防総省高官のバックグラウンド・ブリーフィングで確認されている。それにしても、同原発は国内電力の約25%を供給しているだけに、ロシアの電源掌握がウクライナ経済・軍事へ与える影響は計り知れない。
続く6日には東部ハリコフの原子力研究施設・国立物理技術研究所が多連装ロケット弾の攻撃を受けた。同研究所には核物質が保管されており、放射性物質が拡散すれば甚大な環境破壊につながりかねない。ザポリージャ原発と国立物理技術研は現在、共にロシア軍「管理下」に置かれているため、被害状況の実態が判然としていないのが不気味である。
さらに南部正面のクリミア半島・アゾフ海、黒海方面から国境を突破したロシア軍は、短距離ミサイル、多連装ロケット攻撃、そしてヘリ空爆の援護を受けて南ウクライナ原発制圧を目指している。
なぜ、原発や原子力研究所を攻撃・制圧に固執するのか。それは「プーチンの戦争」そのものと関係する。ウクライナのゼレンスキー政権がこうした原子力施設・研究所で「核兵器を秘密裏に開発している」と断じるウラジーミル・プーチン大統領は電光石火の侵攻・制圧作戦を命じたのだ。「管理下」にある各施設・研究所の捜索で核兵器開発の「証拠」を発見したと喧伝し、侵攻を正当化するために。もちろん、それはでっち上げの「証拠」を作りだした上でのことになる。
この「核兵器開発」同様に東部の親露勢力地域で出来したとする「ジェノサイド」(集団殺害)や、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領以下政権幹部を「麻薬中毒者やネオナチの一味」と批判を繰り返すのもウクライナ侵略のための「口実」である。
なぜ、プーチン氏は武力による現状変更をしてまでウクライナの主権及び領土を侵害するのか。そして国際法違反してまで国際秩序の根幹を揺るがすのか。付言すれば、今回の侵略が世界から総スカンを食らい、厳しい金融・エネルギー・通商・貿易・輸出管理などの分野で制裁措置を科せられることは明々白々だったのに、なぜプーチン氏は侵略を決断したのか、である。
「大ロシア」の再興を夢見て
1991年の旧ソ連崩壊でウクライナは独立した。そのウクライナが選りに選って北大西洋条約機構(NATO)に接近・加盟を求めた。これが許せない。だから手練手管を使って元の版図に組み入れようというのだろう。「大ロシア」の再興を夢見ているのではないか。
恐らく、お膝元のロシア国内の冷酷な統治体制下では一般大衆、メディア、知識層などからそれほど大きな反発は出来しないと、甘く見ていたのではないか。首都モスクワだけでなく国内各地で数千人規模の抗議デモが頻発している。連日連夜、治安当局はデモ参加者から見物人までを大量検挙・拘束しても「戦争反対」の声は「プーチン退陣」にエスカレートしている。
プーチン政権中枢に近いオリガルヒ(新興財閥)の中からも批判の声が上がるだけではない。富裕層の一部は母国の先行きに展望がないと見限り、隠し資産を持つ南仏や英国に脱出・逃亡し始めた。
さて、プーチン氏はどうする――。勝海舟と山岡鉄舟と並んで「幕末の三舟」と言われた高橋泥舟の狂歌「欲深き人の心と降る雪は 積もるにつけて道を忘るる」を進呈したい。因みに、筆者が住む東京・小石川の播磨坂桜並木に泥舟・鉄舟義兄弟の碑がある。
●プーチン大統領などへの暴力的なSNS投稿 一時的に容認 メタ  3/12
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐりフェイスブックから社名を変更した、アメリカのIT大手メタが、ロシアのプーチン大統領などに対する暴力的な内容の投稿を一時的に容認していることが明らかになりました。
アメリカメディアなどによりますと、メタは、ロシアやウクライナなどでのフェイスブックやインスタグラムへの投稿を対象に、ウクライナに侵攻しているロシア軍や、プーチン大統領、それにロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領に対する暴力的な投稿を一時的に認めているということです。
具体的には「ロシアの侵略者に死を」などといったコメントの投稿を認めるとしています。
一方、ロシアの一般市民に対する暴力的な投稿は認めていないということです。
メタは、ヘイトスピーチや、暴力を称賛する投稿などを削除する対応を強化してきましたが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が激しさを増す中、ルールの一時的な変更に踏み切ったものとみられます。
ただ、メタをめぐっては、去年、アメリカの連邦議会に暴徒化したトランプ前大統領の支持者らが乱入した事件でフェイスブックへの過激な投稿が実際の暴力行為につながったという指摘もあり、今回の措置は議論を呼ぶ可能性があります。
メタ幹部「言論の自由を守るため」
アメリカのIT大手メタの国際渉外部門のトップ、ニック・クレッグ氏は、自身のツイッターで声明を公表し「プーチン大統領によるウクライナへの軍事侵攻についての投稿をめぐる我々の方針について、さまざまな報道や議論がなされている」と認めたうえで「侵攻に対する自己防衛として、人々の言論の自由を守るためだということは明確にしておきたい」とコメントしました。
そのうえで「既存のルールをそのまま適用すると、ロシア軍の侵攻に対するウクライナの人々の抵抗や怒りを示す内容まで削除することになる」などとルール変更の理由を説明しました。
そして「ロシアの一般市民に対する差別やハラスメントなどの投稿は一切認めない」としたうえで、あくまで前例のない事態に対応するための一時的な措置だと強調しました。
ロシア メタを「過激派組織」と認定
ロシアの通信当局は11日、ロシア軍やロシア人に対する暴力行為を呼びかける内容を含む情報がインターネット上で拡散されているとして、アメリカのIT大手メタの傘下のソーシャルメディア、インスタグラムへのアクセスを制限すると発表しました。
ロシア国営のタス通信などによりますと、検察当局は、メタを「過激派組織」と認定し、ロシアでの活動を禁止するよう裁判所に申し立てたということです。
ロシアのプーチン政権は、ウクライナへの軍事侵攻に反対する声がやまないことに神経をとがらせ、情報統制を一層強めています。
●「プーチン万歳!」と叫ぶロシア人の心理を、香港デモ取材から考える 3/12
<世界のかなりの国々がウクライナを支持しても、普通のロシア人の目にプーチンは「国民の利益を守る勇敢な真の愛国者」と映る。彼らがそう信じる理由を、われわれは「フィルター」をかけて排除していないか。香港デモの取材では、私たちから見て「悪」であるはずの人々にも、それなりの根拠や理屈があった>
ロシアのウクライナ侵攻が続いている。停戦協議が行われているが、プーチン大統領は強硬姿勢を崩さず、交渉は難航しているようだ。民間人向けの避難ルート「人道回廊」もうまくいくのかどうか、非常に危うい。
はじめに断っておくと、私はロシアの専門家でもなければウクライナ事情にも明るくない。そんな人間がウクライナ情勢を語る資格などないのかもしれないが、それでも語ろうとしているのには、理由がある。頭の片隅に、これまで取材を続けてきた香港デモの光景や当時のメディアの様相がオーバーラップするからだ。
ウクライナ支援の声は、世界中に広まっている。日本でも渋谷や表参道でデモが行われたし、楽天の三木谷浩史社長は個人名義で10億円をウクライナに寄付。東京都庁や京都・二条城は青と黄色のウクライナカラーにライトアップされ、ツイッターやフェイスブックでは、アイコンをウクライナカラーに変更した人もしばしば見かける。あの二色は、今や平和を願う反戦ムーブメントのシンボルカラーとなっている。ついでに言うと、鮮やかな明るい青と黄のコントラストは、視覚的にもたいへん美しい。
でも、私はほんの少しだけ、「私たちの見ている世界」が本当に正しいのかどうか、不安な気持ちになる時がある。念のために言っておくが、ロシアのウクライナ侵攻を正当化するつもりなど毛頭ないし、泥棒にも三分の理だとか、どっちもどっち論みたいな逆張りをしたいわけでもない。今般のウクライナ侵攻は、弁解の余地のない侵略行為にほかならない。ロシアの行為は、明らかに間違っている。
ただ、それでも言えることは、彼らはまったく違う世界を見ているということだ。「彼らの見ている世界」のなかでは、プーチン大統領はロシア国民の利益を守る勇敢な真の愛国者として存在している。彼らは「NATOの東方拡大によって自国の生存が危機に瀕した」と主張しているが、彼らの見ている世界のなかでは、きっと本当にそのように見えていて、心からそう思っているのだろう。
ウクライナ侵攻を自存自衛のための正当な武力行使と信じ、プーチン大統領の強行姿勢に快哉を叫んでいる人々がロシアにいる。しかも彼らは、きっと悪人ではない。私たちとあまり変わらない、ごく普通の人たちだ。だからこそ、始末が悪い。
香港デモの現場では、催涙弾の白いガスが漂う荒れ果てた繁華街の一角で、欧米のニュースキャスターが悲しげな顔つきで「香港市民たちは、民主主義を守るために立ち上がっています」と語っている光景に出くわした。当時から現在に至るまで、欧米メディアのほとんどは香港デモを「専制主義vs民主主義のために戦う市民」という構図で捉えている。
もちろんそれは大筋として間違っていないのだが、香港社会を知れば知るほど、そう単純な話ではないと私は考えるようになった。と同時に、日本のメディアの国際報道は、多分に欧米メディアの影響を受け、欧米寄りのものの見方をしている、とも自覚した。
たとえば、香港の報道の自由を殺したとすら言われる「国家安全法」。日本でニュースを見ていると、全市民が圧政に苦しんでいるようにも見えるが、香港民意研究所がロイター通信から委託を受けて行った世論調査によると、国安法施行直後の2020年8月時点で、約3割の市民が同法に「支持」を表明している。
3割という数字は一部分ではあるが、決して小さくはない。香港社会はそれほど多様で、混沌としている。私が泊まっていたホテルの女性従業員は、当初は「デモを応援している」と力強く語っていたものの、運動が長期化し、暴力行為がエスカレートするにつれて「いつまでも応援を続けられない」とこぼすようになった。そして、国安法成立後は「あれほど社会が混乱してしまったから......」と、悩みながらも同法を必要悪として受忍している様子だった。
もっとはっきりと「治安維持のために国安法は必要だ」と両手を挙げて賛成している人も、稀ではなかった。私たちから見て「悪」であるはずの人々にも、それなりの根拠や理屈があった。そういう「不都合な人々」の声が、欧米や日本のメディアで取り上げられることは極めて少ない。
欧米由来のニュースだけを見ていると、まだら模様であるはずの現実がところどころ都合良く捨象され、画像補正がかかってしまうことがある。
私たちがウクライナ侵攻のニュースを見るときも、欧米寄りのフィルターがかかっている。そのフィルターは、たぶん正しい。でも、絶対的に正しいのかと問われると、私は少し不安になる。複雑な事象を単純化して見ているのかもしれないし、ウクライナやアメリカにとって不都合な真実から、敢えて目を背けている部分だってあるかもしれない。
私たちがプーチン大統領の蛮行を憎むのと同じぐらいの強度で、ゼレンスキー大統領やバイデン大統領に憤怒している人々が、ロシアにはいるに違いない。
できることなら、「彼らの見ている世界」をもっと知りたい。私の立っている場所からは、どうしてもそれが見えないのだ。
●プーチン政権を支えるロシア大富豪「オリガルヒ」続々国外脱出… 3/12
ロシアへの制裁で欧米が力を入れるのが、「オリガルヒ」と呼ばれる富豪の締め付けだ。彼らはソ連崩壊に乗じて石油や金属の国営企業を手に入れ、プーチン大統領の下で巨万の富を築いた新興財閥。元KGBなど、プーチン大統領と関係が深い“仲間”たちで、財力でプーチン独裁体制を支える代わりに、既得権益を拡大してきた。
プーチン大統領の最も古い側近とされるオリガルヒのアリシェル・ウスマノフ氏の資産は約2兆円とされる。ウスマノフ氏が所有するヨットの価格は約850億円だという。ドイツのハンブルク港に泊められていたこのヨットは、2日にドイツ当局が押収した。
欧米はプーチン大統領と関係の深いオリガルヒを狙い撃ちにし、個人資産凍結やビザの発行停止で兵糧攻めにする方針だ。
オリガルヒの資産の多くは国外にある。それらを保全するためなのか、プーチン大統領がウクライナ侵攻を開始した2月24日以降、オリガルヒのロシア脱出が急増。世界の航空機運航状況が分かる「フライトレーダー24」によると、侵攻翌日の25日に60機の小型ジェット機がロシアから飛び立った。出入国が制限される前に、現金や金塊などの財産を積めるだけ積んだ自家用ジェットで飛び立ったとみられる。
米国との間で犯罪人引き渡し条約がないモルディブにも、オリガルヒの豪華ヨットが集まってきているという。
「このままプーチン大統領を支持していたら、どんどん制裁が厳しくなる。資産を失うことを恐れたオリガルヒはプーチン大統領に見切りをつけ、海外逃亡しているのでしょう。数少ない仲間も離反し始めたことで、ロシア国内の声でプーチン大統領の狂気を止めることができるかもしれない期待が持てます。プーチン大統領が戦争を続けるには、オリガルヒの資金が頼りです。戦争が長期化すればプーチン大統領は追い込まれていくでしょう」(経済評論家・斎藤満氏)
公然と戦争反対を言い出すオリガルヒも出てきた。「アルミ王」と呼ばれるオレグ・デリパスカ氏は、SNSに「戦争を終わらせるための話し合いを開始すべきだ」などと書き込んだ。ロシア有数の金融機関「アルファ銀行」会長のミハイル・フリードマン氏も、社員宛ての文書で自分の両親はウクライナ市民だと明かし、「紛争は両方にとって悲劇」「流血を終わらせるべきだ」と訴えた。
プーチン批判がタブーのオリガルヒを変えるほど、経済制裁は効き始めている。ロシア富豪も「最後は金目」ということか。
●ウクライナ侵攻を「プーチン氏の暴走」と結論付けることのリスク 3/12
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、世界中が指摘するロシアのプーチン大統領の“暴走”について。
米国のバイデン政権が、プーチン大統領の精神状態の分析を最優先課題にしていると米メディアが報じたのは3月1日。プーチン氏が「妄想に陥り、追い詰められると暴発する危険性のある指導者」と米情報機関が解析したという。ウクライナへの攻撃は激化しているが、プーチン氏は本当に妄想に陥っているのだろうか。
2015年にアスペルガ―症候群の可能性も指摘されていたプーチン氏。その彼が、「変わってしまった」というコメントを目にしたのは今年2月のことだ。2月7日、クレムリンでプーチン氏と会談したフランスのマクロン大統領が、こんな言葉を側近に漏らしたと報じられていた。「彼は3年前とは別人になってしまった。頑固で孤立している」。
ロシアのウクライナへの侵攻が始まると、マルコ・ルビオ米上院議員は自身のツイッターに「プーチン氏は明らかに何かおかしい」とコメント。英インディペンデント紙にも「いくつかの神経学的、心理的問題を抱えているようだ」と述べたという。米国では政治家を中心に、「プーチン氏は変わった、おかしい」という声が上がっていく。プーチン氏が核の使用について言及したため、「常軌を逸している」と思われたのだ。
一方、ジェームズ・クラッパー元米国家情報長官はCNNのインタビューで「プーチン氏は動揺している。彼の洞察力とバランス感覚が本当に心配だ」と述べ、8日には米下院の公聴会で、中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官が「プーチン氏は(現在の戦況に)怒り、いらだっている」という分析を明らかにし、同時に「精神状態は異常ではないと思う」と証言した。
某情報番組にリモートで出演した元CIAの諜報員だというサイファー氏も、プーチン氏は変わったのではないかという質問にはっきりNOと答え、「20年間、彼は変わっていない」と言い切っていた。元外交官で作家の佐藤優氏も、文化放送のある番組でプーチン氏の行動について「暴走、独走じゃないんです」と述べている。
さまざまな発言があるが、プーチン氏の精神状態が不安定になり、妄想に陥って暴走しているわけではないと私も考える。米の政治家らが「変わった」と言ったのは、自分たちにとって想定外の言動をするプーチン氏が理解不可能、制御不能になったと結論付けてしまえば、今の状況を理解しやすくなるという感覚があったのではないだろうか。
日本のメディアは、連日のようにプーチン氏のいらだち、暴走、孤立を強調している。ロシア軍の苦戦と停滞を伝え、ロシアの反戦活動の様子を流し、大統領を公私に渡って支える新興財閥オリガルヒの離反の可能性や、ウクライナのゼレンスキー大統領のSNS戦略を詳しく分析し、彼の言動に対する各国の反応や著名人、有名企業による支援を伝えている。そこから見えてくるのは、ロシアの中でプーチン氏がますます孤立し、暴走していく姿だろう。
誰でも持っている認知バイアスの1つに「確証バイアス」がある。自分の考えや予想に反する情報ではなく、一致する情報ばかりを探してしまうという傾向だ。身近なバイアスだけに、自分ではこのバイアスに気がつかないことも多い。
ロシア国内では、政府により戦況などは国民に隠され、正しい情報が流されていないと聞く。日本のメディアも、厳しい情報統制はないが、米国の一方向からの情報や分析も目立ち、意図せずに情報にフィルターがかかり、コントロールされているようにも思える。どの番組を見ても、同じような内容ばかりが横並びに流されているからだ。
もし日米の政府や情報機関、メディアに携わる人々が確証バイアスによって情報を収集分析し、流していたとしたら、プーチン氏の言動や意図を読み間違えることもあるのではないのだろうか。
前出したバーンズ長官はプーチン氏の意志決定について「助言できる人がどんどん少なくなり、個人的な信念がより重きをなしている」と分析し、「プーチン氏はさらに危険なかけに出る可能性が高い」と指摘した。そしてウクライナ侵攻は「プーチン氏の個人的な強い決意」だとした。
だが前出の佐藤氏は、番組の中でこんなことも述べている。「むしろ怖いのがロシア人が普通に考えていること。武力で実現しようとしていることは、プーチン氏だけじゃなくロシア全体の考えなんです」。 
フィギュアスケート男子でトリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ氏が、ウクライナを批判するインスタグラムに複数の「いいね」をして批判が集まっているが、プーチン氏の言動に賛同し支持するロシア国民は、日本人が知らないだけで多いのだろう。
「民間人の犠牲を無視してウクライナ軍を打ち破ろうとするだろう」とも分析されたプーチン氏には、ロシア軍によるチェチェンでの虐殺という前例もある。暴走ではないからこそ、プーチン大統領は恐ろしい。暴君となっていくプーチン氏の行きつく先には、いったい何があるのだろう。
●習主席、ウクライナ情勢の読み間違いに落ち着かず? 米CIA 3/12
米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は12日までに、中国の習近平(シーチンピン)国家主席はロシアのウクライナ侵攻に伴う事態の進展が、中国が得た諜報(ちょうほう)内容とは異なる方向となっていることが一因で「気持ちが落ち着かない状態にあるだろう」との見方を示した。
米上院情報特別委員会の公聴会で述べた。中国指導部はまた、ロシアの醜悪な侵略行為とのかかわりで中国が被っている評価の低落を懸念しているとも指摘。自国の経済成長率が過去30年の実績よりも落ち込んでいる現状を踏まえ、侵攻による経済的な損害も危惧しているとした。
その上で、習主席はプーチン大統領の行動が米欧諸国の団結をより強めていることを目にして少し落ち着かない状態にあるだろうと推測。米欧同盟の強化は侵攻前に想像することは難しかったであろうとも述べた。
中ロ両国が近年、連携を深めるなか、習主席とプーチン大統領はウクライナ侵攻前、北京冬季五輪の開幕式に合わせて首脳会談を実施。「際限ない」協力関係を確認する共同声明も発表していた。
この首脳会談をめぐっては、中国はロシアに冬季五輪の閉幕まで侵攻を見合わせるよう促したとする西側諸国の諜報が浮上。ただ、この諜報の内容の解釈にも幅があり、プーチン氏が首脳会談の席上でこの問題を習主席と直接話し合ったのかは不明となっている。
一方、中国外務省報道官は12日までに、ロシアの主張に同調する形で、米国の資金援助が疑われるウクライナ内にある生物兵器の研究所への多国間参加の査察が受け入れられるべきだとの立場を示した。
報道官は会見で、国営の中国中央テレビ局(CCTV)によるロシア国防省の報道官の発言に依拠した報道に言及。ロシア国防省は、米国はウクライナの研究所で生物兵器の開発に資金を提供していたと主張していた。
中国外務省の報道官は、ウクライナ内の米国の研究所の秘密を暴いたロシアの軍事作戦はいわゆる宣伝工作かつ馬鹿げたものとはねつけられる事柄ではないと主張した。
米ホワイトハウスのサキ報道官はこの研究所の問題について「陰謀論」と一蹴(いっしゅう)した。
●ウクライナ情勢 キエフに向け進軍 米「最恵国待遇」取り消し 3/12
ウクライナ情勢です。ロシア軍は首都キエフに向けて複数の方向からさらに前進しています。一方、アメリカはロシアに認めている貿易上の「最恵国待遇」の取り消しなど新たな制裁を発表、G7=主要7か国も協調して追加の制裁を表明しました。
住宅地から上がる炎と煙。アメリカの民間企業が公開したキエフの北西およそ20キロの地点で11日撮影された衛星写真です。
アメリカ政府高官が11日明らかにしたところによりますと、キエフに最も近づいているロシア軍の部隊は前日と同じ北西に15キロの位置にいるものの、北東から向かっている部隊は前進し、中心部まで20キロから30キロの地点に近づいているということです。
こうした中、国連では、ロシアの要請で安保理の緊急会合が開かれました。ロシアのネベンジャ国連大使はウクライナにあるペストや炭疽菌などの実験を行う施設にアメリカ国防総省が関与しているなどと主張。
アメリカ トーマスグリーンフィールド国連大使「今日聞いているような嘘をこれ以上広めるつもりはない。この会合にふさわしくありません」
これに対し、アメリカ側は「偽情報を拡散するために安保理会合を利用した」と非難、各国からもロシアに対する批判が相次ぎました。
アメリカ国防総省の高官は「ロシア側が生物化学兵器に関するうその情報を流した上で、それを口実にウクライナで実際に使用する可能性がある」と警戒感を示していて、バイデン大統領はこの可能性について聞かれると…
アメリカ バイデン大統領「機密情報は話さないが、ロシアが化学兵器を使ったら厳しい代償を払うことになる」
また、バイデン大統領はロシアへの新たな経済制裁も発表。
アメリカ バイデン大統領「プーチンへの圧力をかけ続ける。プーチンは侵略者だ。代償を払わなければならない」
ロシアに対し、関税の税率を引き下げるなどの貿易上の優遇措置「最恵国待遇」を取り消す手続きに入るよう議会に求めました。
さらに、この後、G7=主要7か国の首脳も共同声明を発表し、各国が「最恵国待遇」をロシアに与えないよう努めると表明しました。
岸田首相「G7首脳声明を発出しました。政府としても声明に基づいてG7と協調しながら具体的な行動をとっていきたい」
一方、岸田総理はG7=主要7か国の首脳がロシアの追加制裁について“さらなる措置を行う用意がある”などとする声明を発表したことを踏まえ、他のG7首脳らと協調して追加制裁について検討する考えを示しました。
●ロシア軍が「同盟国ベラルーシでも空爆、派兵迫るため」… 3/12
ウクライナ国営通信は、ロシア軍の爆撃機が11日午後、隣国ベラルーシ領内の複数の集落を空爆したと報じた。ウクライナ軍や内務省は、ロシアが同盟国のベラルーシに派兵を迫るため、ウクライナによる攻撃と見せかける偽装工作を行ったと指摘している。
露軍機はウクライナ領内からベラルーシへ出撃し、3か所の集落を爆撃したという。ベラルーシ国防省は11日、「偽情報だ」と攻撃被害自体を否定した。
ベラルーシのルカシェンコ大統領=ロイターベラルーシのルカシェンコ大統領=ロイター
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は11日、モスクワを訪問し、プーチン露大統領と会談した。インターファクス通信によると、会談ではロシアがベラルーシに「最も近代的な兵器」を「近い将来」配備することで合意したが、ベラルーシの直接参戦には踏み込まなかった。ベラルーシは露軍部隊に基地を提供しているものの、自国軍のウクライナ派兵には慎重だ。
米国防総省高官は11日、ベラルーシ軍の動向に関し、「ウクライナ領内に入ったとの情報はない」と説明した。露軍がベラルーシの集落を爆撃したとの情報については、「確認できない」と述べた。ウクライナ側が情報戦を仕掛けた可能性もある。
●露、キエフを挟み撃ちか 3/12
ロシア軍がウクライナの首都キエフを東西から「挟み撃ち」するよう進撃しているとの分析を、米国防総省が明らかにした。ロシアのプーチン大統領は中東などからの「義勇兵」を受け入れることを了承した。ウクライナ情勢を巡る日本時間12日の動きをまとめた。
米国防総省は11日、ウクライナに侵攻するロシア軍が、首都キエフを東西から「挟み撃ち」するように進撃しているとの分析を明らかにした。北西から向かう部隊は市街地から約15キロの地点でとどまっているものの、北東からの部隊は過去24時間で十数キロ進み、キエフの東20〜30キロの位置に達している。ロシアのプーチン大統領は11日、中東などからの「義勇兵」を受け入れることを了承した。
ベラルーシ「協力誓う」露と首脳会談
ロシアのプーチン大統領は11日、モスクワで隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領と会談。ルカシェンコ氏は「我々はいつも同盟国を助けてきた」と米欧などの経済制裁を受けるロシアへの協力を誓った。ウクライナでは、ベラルーシ軍が同盟国のロシア軍支援のため参戦することへの警戒感が高まっている。
バイデン氏、化学兵器使用なら「厳しい代償」
バイデン米大統領は11日、ホワイトハウスで演説し、ロシアが化学兵器を使用した場合、「厳しい代償を支払うことになる」と警告した。米国は、ロシアが民間人の犠牲もいとわず「無差別」(バイデン氏)に攻撃する姿勢を強めているとみており、生物・化学兵器の使用への警戒を高めている。
露「最恵国」から排除 米にG7協調
バイデン米大統領は11日、ロシアへの追加制裁措置として、ロシアからの輸入品に対する関税優遇措置を撤回すると表明した。主要7カ国(G7)も首脳声明を発表し、関税率を引き下げる優遇措置を実施する「最恵国待遇」をロシアに与えないよう「各国が手続きを進めるよう努める」と宣言した。国際社会が協調して経済的な締め付けを強めていく方針だ。
岸田首相「日本も具体的行動を」
岸田文雄首相は12日午前、G7首脳が共同声明で表明したロシアへの追加制裁措置について「(日本)政府としても声明に基づいて具体的な行動を取りたい。各国との連携との観点から、どうあるべきか考えたい」と述べた。
バッハ会長、露を非難
国際オリンピック委員会(IOC)は11日、ロシアのウクライナ侵攻を非難するバッハ会長のメッセージを公式サイトで公開。国際大会からのロシア選手除外は「スポーツの政治化だ」と主張するロシア側に「安直な議論のわなには引っ掛からない」と不快感を示した。
●「妊婦を演じた役者だ」ロシア大使館の投稿、ツイッター社が削除 3/12
ウクライナの産科病院がロシア軍に爆撃された問題について、在英ロシア大使館が「病院は閉まっていた」などと根拠を示さずに主張したSNS投稿が10日、ツイッター社により削除された。
ウクライナのゼレンスキー大統領らによると、同国南部の港湾都市マリウポリの産科病院が9日、ロシア軍に爆撃され、女の子1人を含む3人が死亡し、17人が負傷した。破壊された建物から毛布を体に巻き付けて避難する妊婦の姿など、被害の深刻さを伝える写真が世界中に広まった。
これについて在英ロシア大使館は10日、「産科は長らく閉鎖されており、ウクライナ軍や、ネオナチなどの過激派に使われていた」「女性は、妊婦を演じた役者だ」「写真も、著名なプロパガンダ写真家に撮影された」などと根拠を示さずに投稿。妊婦の写真に「フェイク」のスタンプを押した画像も併せて投稿した。
ツイッター社は同日中にこれらの投稿を削除。英BBCによると同社は削除理由を「暴力事件の否定に当たる」と説明したという。
ウクライナのキスリツァ国連大使も11日の安全保障理事会で、ロシアの主張を退けた。妊婦と赤ちゃんの写真をタブレットで議場に見せた上で、「女性は昨夜元気な女の子を出産した。名前はベロニカです」と述べ、実在する妊婦だったと示した。
爆撃された病院をめぐっては、ロシアのラブロフ外相も10日の会見で「病院はすでに過激派に占拠され、その拠点になっていた」などと主張した。
●ウクライナ情勢とNATO諸国の軍用機「ISR資産」  3/12
2022年2月24日にロシアがウクライナに戦争を仕掛けて以来、現在でも交戦は続いている。そうした中で注目を集めているのが、「Flightradar24」で東欧諸国の上空に現れている、NATO諸国の軍用機だ。
空中給油機がぐるぐる
特に目立つのが空中給油機。空中給油機は一般的に、一定の空域内でレーストラック・パターンを描きつつ、周回飛行を実施する。もちろん、燃料が減ってきたら補給のために基地に戻り、代わりの機体がやってくる。
常識的に考えれば、「軍用機なんて存在を秘匿したいだろうに、どうしておおっぴらに飛んでいるの?」となりそうではある。
そこで関わってくるキーワードが、ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast、放送型自動従属監視)。ADS-Bのトランスポンダを搭載して、自機の位置や所属などの情報を告知している機体が、「Flightradar24」の画面に現れる。
この仕組みは、洋上で用いられる、船舶自動識別システム(AIS : Automatic Identification System)と似たところがある。ところが、AISでは意図的に贋の情報を放送したり、送信機を切ってしまったりする事例がある。
空の上でもそれは同様で、ADS-Bの送信を意図的に止めたり、内容を偽ったりする機体がいても不思議はない。見方を変えれば、意図的にトランスポンダをオンにして自機の存在を “広告” している軍用機は、何らかの意図があって自機の存在を公にしているのだと考えるほうが自然であろう。
といっても、空中給油機が飛んでいるだけでは「何のために飛んでいるの?」ということになる。空中給油機がいるのは、燃料を受け取る必要がある機体が同じ空域にいるからだ。では、何者が?
何が飛んでいるかが問題
こういう状況下で空中給油を必要とする可能性が高い機体といえば、各種の情報収集資産と相場は決まっている。つまり、ELINT(Electronic Intelligence、電子情報)やSIGINT (Signal Intelligence、信号情報)の収集を企む機体である。
実戦となればレーダーや通信機を使わざるを得ない。それを仮想敵国の側から見れば、ELINTやSIGINTの収集を実現する絶好の機会となる。実戦に限らず演習でも、同じ理由からELINTやSIGINTの収集を目論む「のぞき屋」がやってくる。どこの国でもやっていることだ。
また、早期警戒機を飛ばせば、ベラルーシやウクライナの上空を飛んでいる飛行機の動向を把握できる。高度10,000mを飛んでいれば、400kmぐらい先までの範囲が見通し圏内に入る計算だから、それだけのレンジを持っているレーダーを作動させれば、航空機の動向を把握できる理屈。
さらに、陸上の移動目標、言い換えれば走っている車両を捕捉追尾できるレーダーもある。いわゆるGMTI (Ground Moving Target Indicator)機能で、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)のモード切替によって実現する事例が多い。
早期警戒機、あるいはGMTI機能を備えたレーダーを搭載した機体があれば、状況把握だけでなく、ロシア軍の動向に関する情報をウクライナ側にこっそり流す支援も実現できる理屈となる。ELINTやSIGINTは、妨害の参考にしたり、通信内容を盗み聞きしたりといった使い方がある。
つい、戦闘機や爆撃機といった戦闘用機にばかり注目が集まってしまうが、情報収集や敵軍の動向監視も極めて重要な要素。それによって状況認識が進めば、より効果的に交戦できる可能性が高くなる。この手のISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)資産はフォース・マルティプライヤーと呼ばれることがあるが、これは「戦力を増やしたのと同じ効果を発揮させるやつ」というぐらいの意味。
この手の機体は、できるだけ隠密裏に任務を実施したいから、存在を秘匿すると考えるのが常識。もし、わざとADS-Bトランスポンダを作動させることがあれば、それは自機の存在をおおっぴらにすることで、何らかの「効果」を期待する意図があってのこと。
ISR用途の無人機
ただし、有人機では飛行可能な時間に限りがある。燃料切れや搭乗員の疲労という制約があるからだ。前者は空中給油機を使うことで補えるが、後者は対処が難しい。すると、航続距離が長い無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)ではどうか、という話になる。大形の機体なら丸一日ぐらいの滞空が可能だし、人が乗っていないから、人的な制約は生じない。オペレータは地上で勤務して、適宜、交代すればよい。
例えば、RQ-4グローバルホーク。現時点で米空軍の現役にあるグローバルホークは「ブロック30」と「ブロック40」の2種類があるが、このうちどちらが飛んでいるかで、手に入る情報は違う。
ブロック30の場合、EISS(Enhanced Iintegrated Sensor Suite)と称するセンサー群を備えているが、これはAN/ASQ-230 ASIP(Airborne Signals Intelligence Payload)と電子光学センサーが中核になる。
一方、ブロック40で中核となるのは、MP-RTIP(Multi-Platform Radar Technology Insertion Program)というレーダー。これは合成開口レーダー(SAR)だが、GMTIの機能も備えている。
つまり、単に「グローバルホークが飛んでいる」というだけでなく、ブロック30が飛んでいるのか、ブロック40が飛んでいるのかで、飛ばすことの意味は違ってくる。
●「防空壕ではこんな物を食べてます」 ウクライナ女性の“生の声” 3/12
ロシアの軍事侵攻により、自宅を破壊されたウクライナ人女性が「防空壕生活で食べている物」をTiktok上で紹介したことが注目されている。
バレリア・シャシーノック(20)は、同国北部の都市チェルニーヒウ在住の写真家だ。紛争開始以来、がれきと化した建物や、スーパーマーケットの空の棚など、現地の惨状を世界に発信してきた。彼女はいまも情報を発信している。
シャシーノックは自身のTiktokに「私は防空壕でこんなものを食べています」と題した動画を投稿。動画は、本人がゆで卵を剥く姿から始まり、市販のクロワッサンや新鮮なりんご、母親が料理したというウクライナ風パンケーキを含む、複数の食品が紹介されている。また動画内で、シャシーノックはロシアのプーチン大統領を揶揄する表現を用い、遠回しに批判している。過酷な状況にかかわらず、現地の様子を届け続けるシャシーノックに世界中から励ましの声が寄せられている。
●ロシア富豪、プーチン氏に警鐘 撤退企業の資産接収なら100年前に逆戻り 3/12
ロシアで最も裕福な実業家ウラジーミル・ポターニン氏は10日、大統領府がウクライナ侵攻を受けロシア事業撤退を表明した企業の資産差し押さえを示唆したことに触れ、国を100年あまり逆戻りさせる措置だと警鐘を鳴らした。
ポターニン氏は金属大手ノリリスク・ニッケルの社長で、同社の筆頭株主を務める。欧米企業や投資家に対して門戸を閉ざせば、1917年の革命以前の混乱した時代に逆戻りする恐れがあるとして、資産接収に関しては極めて慎重に対応するようロシア政府に促した。
ボターニン氏はテレグラムに投稿したメッセージで、資産接収に動けば「今後数十年にわたって世界の投資家からロシアに不信感が向けられる結果になる」と指摘した。
さらに、ロシア事業を停止するという多くの企業の決定はやや感情的なものであり、海外世論の圧力を受けた結果として下された可能性があると説明。撤退した企業はまた戻ってくる可能性が高いとの見方を示し、「個人的にはそうした機会を残しておきたい」と言い添えた。
ブルームバーグ通信によると、ポターニン氏はロシア最大の富豪。ノリリスク・ニッケルの今年の株価下落にともない資産の約4分の1を失ったものの、保有資産は依然として約225億ドル(約2兆6400億円)に上るという。
ノリリスク・ニッケルはパラジウムや高品位ニッケルの世界最大の生産者で、プラチナや銅に関しても主要な生産者となっている。同社やその主要製品は今のところ西側諸国の制裁対象になっていない。
ロシアのプーチン大統領は10日、撤退する外国企業に「外部管理」を導入する計画を支持すると表明。「生産を打ち切る予定の企業に対し断固たる対応を取る必要がある」「外部管理を導入したうえで、意欲のある者にこれらの企業を譲渡することが必要だ」と述べていた。
●プーチン氏“逆上”皆殺しの危機 米CIA、ウクライナ侵攻激化の警告 3/12
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が激高している。ウクライナ侵攻が想定通りに進んでいないうえ、欧米諸国による経済制裁を受けて「国家破綻」の可能性も指摘されているのだ。ロシア軍はこれまでも、病院や学校、原子力発電所などに無差別攻撃を続けてきたが、米CIA(中央情報局)は、プーチン氏が市民の犠牲を顧みずに攻勢を強める恐れがあると警告した。民間人を避難させる「人道回廊」設置も、総攻撃に向けた準備の一環とみられている。ロシアが「戦術核兵器」を使用する危険性とは。こうしたなか、中国の習近平国家主席は、人民解放軍に「戦争準備」を指示した。これ以上、ロシアを暴走させていいのか。
「(ロシアによるウクライナ侵攻は)甚大な苦しみと無用な犠牲者を生んでいる」「都市、民間の学校、病院、集合住宅を標的にしてきた」「欧州最大級の原発を攻撃し、メルトダウン(炉心溶融)を誘発する可能性を無視した」「プーチン氏はいかなる代償も顧みず殺戮(さつりく)の道≠歩み続ける決意を固めたようだ」
ジョー・バイデン米大統領は8日、ホワイトハウスでの演説でこう語り、世界中の即時停戦・軍撤退を求める呼び掛けを無視したプーチン氏に強い懸念を示した。
そのうえで、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナについて、「勇気や愛国心、自由に生きるという反骨精神」を称賛し、「プーチン氏は都市を奪うことはできても、国を取ることはできない」と強調した。
この「侵攻失敗」については、ロシアも理解しているとの報道がある。
英紙タイムズは7日付で、ロシア情報機関「連邦保安局(FSB)」の内部文書とみられる報告書の内容を報じた。これによると、ロシア軍の死者がすでに1万人規模に上っている恐れがあるとし、「ロシアは追い詰められている。勝利の選択肢はなく、敗北のみだ」と指摘した。
ロシア軍の死者について、同国国防省は今月2日、498人と発表。ウクライナ外務省は8日、最大1万2000人としている。
前出の文書は「主要部隊と連絡が取れていない」として、ロシアのプーチン政権内で正確な死者数を把握できていないとの見方も示した。
さらに、欧米諸国による制裁の影響で、ロシア経済が破綻する恐れもあり、文書は6月が侵攻の「暫定的な最終期限」だとも指摘した。
ただ、独裁者であるプーチン氏は冷静な判断ができないようだ。
CIAのウィリアム・バーンズ長官は8日、下院情報特別委員会の公聴会で証言し、ロシアの想定通りにウクライナ侵攻が進んでいないとの見方を示し、「プーチン氏は憤り、いら立っている」と述べた。ロシア軍が今後、市民の巻き添えを顧みずに攻勢を強める恐れがあると警告した。
ロシア国防省は8日、首都キエフや、キエフ北方のチェルニヒウ、東部ハリコフ、東部スムイ、南東部マリウポリの5カ所からの「人道回廊」を設置したと一方的に発表した。ただ、退避先の大半はロシアやベラルーシとしており、ウクライナ側は反発している。
欧米諸国は、ロシアによる「人道回廊」の設置が、「一般市民は避難していなくなったはずだ」という口実に利用され、その後の無差別的な総攻撃につながることを強く警戒している。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「CIAのバーンズ長官は『ロシアとウクライナが折り合うことがない』とみている。戦況次第だが、西側諸国はこれまで以上に制裁を強めて、ロシアを国際社会から孤立させるのだろう。米国も『最悪の場合、プーチン氏が核兵器を使用する可能性がある』とみている」と指摘した。
「核兵器使用」を懸念する声は他にもある。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「プーチン氏は追い込まれており、このまま戦況を長引かせてもメリットがない。『人道回廊』の設置で、大都市への総攻撃を掛けやすい状況になる。『戦術核兵器の使用』まであり得るのではないか。1962年のキューバ危機以上に危険な状況かもしれない」と指摘した。
●プーチンがNATOを“憎む”理由 「NATOに加盟したかったができなかった」 3/12
国際情報誌「フォーサイト」元編集長の堤伸輔氏(65)が12日、テレビ朝日「中居正広のニュースな会」(土曜正午)に出演。ウクライナ問題について語った。
番組ではNATOについて徹底解説。ロシアとNATOの関係が悪化した理由について、堤氏は「ロシアはNATOに加盟したかったが、実現できなかったから」と指摘した。
プーチン氏は00年に大統領に就任。堤氏は「そのわずか後に、当時のNATOの事務総長がプーチン氏と面会するんです。その時、プーチン氏は『NATOはいつロシアを招待してくれるんだ』と言ったんです」と明かす。さらに、「事務総長は『NATOは招待はしません。そちらから加盟申請してください』と返事をした。すると、プーチン氏が何と言ったか。『すでにNATO加盟を申請している国がありますよね。ロシアがその列の一番後ろに並ぶことはしない』。要するに特別扱いでNATOに迎え入れてくれと言ったわけです」と伝えた。
NATOはそれに全く反応しなかったわけではない。「実は02年にロシアを対等のパートナーという呼び方で、NATOとロシアの合同会議を設置して、仲間に入れてはいるんです。ただ、ロシアから見たら、他の国の列の後ろに並べと言われたことは取り消されていないように見えて、実は納得いっていない」と説明。両者の溝が埋まることはなかったと述べた。
●自国を売り渡し、「戦争の共犯者」に成り下がった「欧州最後の独裁者」 3/12
「欧州最後の独裁者」ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は3月11日、モスクワでウラジーミル・プーチン露大統領と会談した。これに先立ち、ルカシェンコ氏はウクライナに侵攻したロシア軍の補給線を断つ後方からのいかなる攻撃も阻止しなければならないと表明したとベラルーシ国営ベルタ通信は伝えている。
2020年9月、ルカシェンコ氏はプーチン氏から15億ドル(約1750億円)の融資を取り付けた。昨年12月には新たに30億〜35億ドル(3500億〜4100億円)の支援を要求しているとみられている。ルカシェンコ氏が自分の体制を維持するために、主権をプーチン氏に売り渡したのは誰の目から見ても明らかだ。
キエフ大公国(9世紀末から13世紀)に起源を持つ3カ国のうちロシア、ベラルーシは「悪の枢軸」と化し、残るウクライナを攻撃する。昨年7月、プーチン氏は「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文の中で「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、統一性を持っている」との自説を展開した。
「ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人は欧州最大の国家だった古代ロシアの後継者だ。しかしウクライナのロシア人は自分たちのルーツを否定するだけでなく、ロシアが自分たちの敵だと信じることを強いられている。ロシアは(3カ国の結束を弱めようとする勢力の策略による)『フラトリサイド(兄弟殺し)』を止めるためにあらゆることをしてきた」
キエフ市民が歓喜の声でロシア軍を迎え入れるという妄想が破れたとたん、ウクライナの主要都市への容赦のない無差別攻撃を開始したプーチン氏こそ紛れもない「フラトリサイド」の主犯である。「皇帝気取り」のプーチン氏はロシア正教を広めたウラジミール大帝に自分を重ね合わせて、独裁のため宗教や歴史を都合よく利用しようとしている。
ベラルーシ民主派のリーダーでバルト三国のリトアニアに逃れたスベトラーナ・チハノフスカヤさん(39)は英有力シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)での講演で、戦争の共犯者ルカシェンコ氏とその政権に国際決済ネットワーク、SWIFTからの排除をはじめ対ロシアと同様の厳しい制裁を科すよう国際社会に求めた。
「ウクライナの同胞が最愛の家族を失い、祖国を後にしなければならない。産科病院が爆撃された。ベラルーシはロシアによって戦争の踏み台に使われた。私たちの祖国は事実上、ロシアに軍事占領されている。2月24日のウクライナ侵攻で始まった新たな現実は、民主主義を守る私たちの闘いが主権を取り戻す闘いに変わったということを意味する」
開戦2日後の26日、ベラルーシの首都ミンスクでは1年半に及ぶ民主派弾圧にもかかわらず、数万人が抗議のため街頭に繰り出し、800人以上が当局に拘束された。国外から抗議活動を主導したのはスベトラーナさんだ。2年前、大統領選に立候補する予定の民主活動家の夫セルゲイさん(43)が当局に拘束され、代わりに自分が立候補するまで一介の英語教師に過ぎなかった。
2児の母親でもあるスベトラーナさんは政治や選挙についてはズブの素人だったが、「大統領選に当選したら全政治犯を釈放する。半年後に大統領選をやり直す」という、夫を愛する妻としての訴えが国中の共感を集めた。元駐米ベラルーシ大使の妻ベロニカ・ツェプカロさんとフルート奏者マリヤ・コレスニコワさんと一緒の写真は選挙運動のシンボルになった。
大統領選の結果、スベトラーナさんの得票率は10%。ルカシェンコ氏は80%の支持を得て大差で6選を果たしたが、「選挙に不正があった」とベラルーシ全土に抗議デモと混乱が広がり、スベトラーナさんは安全のため祖国を逃れた。夫のセルゲイさんには昨年12月、大規模な混乱を組織した罪などで懲役18年の実刑判決が宣告された。
チャタムハウスの世論調査ではベラルーシ市民の11%がロシア軍を支援するためベラルーシ軍をウクライナに送ることに同意したが、「今やルカシェンコ支持者でさえ戦争に反対している。ベラルーシはロシアのように世界の嫌われ者になることを望んでいない。戦争反対の声が祖国の民主化を後押ししている」とスベトラーナさんは力を込めた。
彼女によると、現在、ベラルーシ軍は国境を越えてウクライナに入るのを拒んでいる。しかし「独裁者の考えを改めることはできないし、彼らは決して平和をもたらさない。ルカシェンコは憲法を改正して生涯、刑事責任を問われることはなくなった。ウクライナに兵を送るのは平和維持のためだと平気で嘘をつくだろう」という。
ベラルーシの市民・人権団体、メディアは徹底的に弾圧された。政権を批判するメディアはすべて閉鎖された。ロシア軍がウクライナに侵攻したどさくさに紛れてルカシェンコ氏は大統領権限を強化し、ロシアの核兵器で再武装できる憲法改正の国民投票を行い、80%以上の賛成で承認された(ロシアのタス通信)。
しかしスベトラーナさんは「国際コミュニティーのおかげでオルタナティブメディアは海外に拠点を移し、ネットワークを復活させることができた。今や民主主義を信じるベラルーシの全市民がジャーナリストだ」と強調した。ベラルーシの民主運動には欧州議会から人権を守る人々の活動を支援する「サハロフ賞」が贈られている。
新聞やテレビ、ラジオといった伝統的なメディアではなく、テクノロジーの扱いに慣れた若者たちは当局の統制を逃れるVPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使ってインスタグラムやユーチューブに「大本営発表」ではない真実を投稿する。こうしたオルタナティブメディアの草の根ネットワークはロシアにも広がっているという。
「私が大統領選に立候補した時、平和的な革命を目指したと非難されることがある。どうしてルカシェンコの転覆を目指さなかった、甘過ぎると糾弾される。しかし私たちは法の支配を信じていた。団結の力を信じていた。強い決意が私たちを助けてくれると考えていた。みんな暴力を経験したことがない普通の市民だった」
「ウクライナでは政権も市民も同じ側に立ちプーチンと戦っている。ベラルーシは政権と市民が別の方向を見ている。しかしベラルーシの市民はまだ銃を取る必要はないと信じる。平和的な手段で祖国を民主化できると信じている。これから何が起きるのかは誰にも分からない。ベラルーシの未来はウクライナにかかっている」とスベトラーナさんは語る。
●専門家の「責任逃れ」に聞こえるプーチン異常説=@3/12
ロシア軍の軍事侵攻に対するウクライナ軍と市民の抵抗が続くなか、ウラジーミル・プーチン大統領の精神状態に注目が集まっている。彼は「正気を失って」戦争を始めたのか。そんな主張は、むしろ「専門家の責任逃れ」のように聞こえる。
かねて親交のあるフランスのエマニュエル・マクロン大統領は2月7日、クレムリンでプーチン氏と会談した後、「彼は3年前とは別人になってしまった。頑固で孤立している」と側近に語った、と報じられた。
「極度に緊張し、病気の噂もある」とか、「精神的に不安定さを増している」といった報道もある。
侵攻が始まる前、日本の専門家の間では「プーチン氏は合理的に考えるので、侵攻の暴挙に出るとは考えにくい」という見方が多かったらしい。
そんな人たちからも、「プーチンは人が変わった」という見方が盛んに発信されている。
米ニューヨーク・タイムズ電子版は3月5日付で、「米情報機関がプーチン氏の精神状態の分析を急いでいる」と報じた。
これらをどう見るか。
まず、米国の情報機関が敵の精神状態を分析するのは、当然だ。普段から分析しているはずだし、まして戦争中なら、なおさらだろう。従って、これは「プーチン異常説」の証拠にはならない。
侵略戦争を始めた独裁者が非常に緊張し、かつ孤立しているのは不思議でも何でもない。独裁者が孤立しているのも、独裁者なのだから、当たり前だ。独裁者が周囲の話をよく聞くようになったら、むしろおかしい。
情けないのは、日本の「ロシア専門家」なる人たちが、異常説を声高に唱えている点だ。「彼は合理的だから戦争はない」と言っていたのに、いまになって「戦争を始めたのは正気じゃないからだ」などと言う。これでは「自分が間違えた言い訳」にしか聞こえない。
プーチン氏は、なぜ戦争を始めたのか。
話は2008年4月、ルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に遡(さかのぼ)る。このとき、NATOは全会一致で、ウクライナとグルジア(=現在はジョージア)の将来の加盟を決めた。ただし、両国が実際にいつ加盟するか、は決めなかった。
当時、2期目の大統領職にあったプーチン氏は、米国のウィリアム・バーンズ国務次官(現・CIA=中央情報局=長官)に対して、「ウクライナがNATO加盟への第一歩を踏み出したことに、手をこまねいているロシアの指導者はいない。これはロシアに対する敵対的行動だ」と警告した、という。実際に同年8月、グルジアに侵攻した。
14年には、ウクライナ南部のクリミア半島にも侵攻し、以来、東部ではウクライナ軍と親ロシア派勢力の戦闘が続き、現在の戦争につながっている。つまり、プーチン氏の言動は「少なくとも08年以来、一貫している」とみるべきだ。
プーチン氏には、それが妥当かどうかは別として、彼なりの言い分がある。そこをしっかり見ないで、「正気の沙汰ではない」などと論評しても、ほとんど意味はない。
必要なのは、当事者の論理と行動を見極めることだ。
私は、経済制裁が効いてくれば、「もはや、プーチンは用済み」とみて、恩恵にあずかっていた側近たちが「反乱を起こす可能性も十分にある」とみる。それが、彼らにとっては合理的であるからだ。 
●「露情報機関幹部を軟禁」報道 プーチン政権、内部粛清開始か 3/12
ロシアの独立系メディアは11日、情報・治安機関の露連邦保安庁(FSB)の対外諜報(ちょうほう)部門のトップらが自宅軟禁に置かれた可能性があると報じた。侵攻を続けるウクライナでの諜報活動を担当していたといい、首都キエフ攻略などが思うように進まない中、プーチン政権が内部粛清を始めたとの見方も出ている。
FSB幹部の自宅軟禁については、ロシアの情報機関の取材を長年続けるロシア人記者が11日にSNS(ネット交流サービス)で報じ、隣国ラトビアに拠点を置く独立系ニュースサイト「メドゥーザ」などが詳しい内容を伝えている。
報道によると、自宅軟禁処分となったとみられるのはFSBの「第5局」と呼ばれる部署の局長ら。旧ソ連諸国を中心とした対外諜報活動を担当しており、容疑は資金の着服のほか、ウクライナの政治状況に関する誤った情報を報告したことが挙げられているという。
同局は侵攻直前にウクライナの政治状況をプーチン大統領に伝える役割を担っていたとみられる。この情報を報じた記者はメドゥーザに対し、「第5局は指導者を怒らせるのを恐れ、プーチン大統領が聞きたいことだけを報告していた」と指摘している。
プーチン政権はキエフを短期間で陥落させ、ゼレンスキー政権を崩壊させる「電撃戦」を狙っていたとみられるが、2月24日の侵攻から2週間以上が経過した3月12日時点でも主要都市の多くを制圧できていない。プーチン氏は侵攻2日目の2月25日にウクライナ軍に対してクーデターも呼びかけた。ロシア軍が侵攻すれば、自身が「ネオナチ」と呼ぶウクライナの現政権への国民の支持がすぐに崩れると考えていた可能性がある。
ウクライナ政府は9日、ロシア軍の将官8人前後がすでに解任されたとの見方も示している。戦況次第では、今後もさらに「粛清」が続く恐れがある。
●ウクライナ大統領「ロシア軍は戦車などに大きな損失」 3/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日に公開した動画で、「ロシア軍は戦車や戦闘機などに大きな損失が出ている」としたうえで、「ロシア軍は新たに部隊を投入しているが私たちは絶対に諦めない」と、市民に一致団結して抵抗するよう呼びかけました。
また、「人道回廊」と呼ばれる避難ルートをめぐって、東部のマリウポリなどに食料や水、薬を届けて民間人を避難できるようにするために、「ロシア軍は絶対に攻撃しないように保証してほしい」と強く求めました。
さらに、ヨーロッパ委員会とEUの加盟に向けた手続きについて早急に合意するよう努力していることや、ロシア経済に打撃を与えるためヨーロッパに新たな制裁を期待していることを明らかにしました。 
●ウクライナ情勢 キエフに向け進軍 米「最恵国待遇」取り消し 3/12
ウクライナ情勢です。ロシア軍は首都キエフに向けて複数の方向からさらに前進しています。一方、アメリカはロシアに認めている貿易上の「最恵国待遇」の取り消しなど新たな制裁を発表、G7=主要7か国も協調して追加の制裁を表明しました。
住宅地から上がる炎と煙。アメリカの民間企業が公開したキエフの北西およそ20キロの地点で11日撮影された衛星写真です。
アメリカ政府高官が11日明らかにしたところによりますと、キエフに最も近づいているロシア軍の部隊は前日と同じ北西に15キロの位置にいるものの、北東から向かっている部隊は前進し、中心部まで20キロから30キロの地点に近づいているということです。
こうした中、国連では、ロシアの要請で安保理の緊急会合が開かれました。ロシアのネベンジャ国連大使はウクライナにあるペストや炭疽菌などの実験を行う施設にアメリカ国防総省が関与しているなどと主張。
アメリカ トーマスグリーンフィールド国連大使「今日聞いているような嘘をこれ以上広めるつもりはない。この会合にふさわしくありません」
これに対し、アメリカ側は「偽情報を拡散するために安保理会合を利用した」と非難、各国からもロシアに対する批判が相次ぎました。
アメリカ国防総省の高官は「ロシア側が生物化学兵器に関するうその情報を流した上で、それを口実にウクライナで実際に使用する可能性がある」と警戒感を示していて、バイデン大統領はこの可能性について聞かれると…
アメリカ バイデン大統領「機密情報は話さないが、ロシアが化学兵器を使ったら厳しい代償を払うことになる」
また、バイデン大統領はロシアへの新たな経済制裁も発表。
アメリカ バイデン大統領「プーチンへの圧力をかけ続ける。プーチンは侵略者だ。代償を払わなければならない」
ロシアに対し、関税の税率を引き下げるなどの貿易上の優遇措置「最恵国待遇」を取り消す手続きに入るよう議会に求めました。
さらに、この後、G7=主要7か国の首脳も共同声明を発表し、各国が「最恵国待遇」をロシアに与えないよう努めると表明しました。
岸田首相「G7首脳声明を発出しました。政府としても声明に基づいてG7と協調しながら具体的な行動をとっていきたい」
一方、岸田総理はG7=主要7か国の首脳がロシアの追加制裁について“さらなる措置を行う用意がある”などとする声明を発表したことを踏まえ、他のG7首脳らと協調して追加制裁について検討する考えを示しました。 
●米国株式市場=続落、グロース株が安い ウクライナ情勢巡り不透明感 3/12
米国株式市場は続落。ハイテク株やグロース(成長)株が売られ、この日の下げを主導した。ウクライナ情勢を巡る懸念が強まると同時に、投資家の注目は来週開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けられている。
ロシアのプーチン大統領が11日、ウクライナの協議で一定の進展があったと発言したことを受け、株価は上昇して寄り付いた。しかし、上げを維持できず、値を消す展開となった。
週足ではS&P総合500種が2.9%安と、2週連続で下落。ダウ工業株30種は5週連続の下げとなった。
ミラー・タバックのチーフマーケットストラテジスト、マット・マリー氏は「相場は週半ばに盛り返したものの、かなりの不透明感が存在する」とし、短期筋は取引を手じまいたいと考えているという見方を示した。
11日はS&Pの主要11セクター全てが下落。通信サービスは1.9%安、情報技術は1.8%安。
大型グロース株の下げが目立ち、アップルは2.4%安、テスラは5.1%安。
メタ・プラットフォームズも3.9%下落した。「フェイスブック」と「インスタグラム」について、ウクライナ侵攻に関連し、一部の国のユーザーによるロシア人やロシア兵への暴力を呼び掛ける投稿を容認する方針を示したことを受け、ロシアはメタに対し刑事訴訟を起こした。
米10年債利回りが2%近辺で推移したことも、グロース株への圧迫材料となった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、ウクライナがロシアとの戦争で「戦略的な転換点」を迎えたと表明。ロシアが徴集兵や予備兵、シリアの傭兵を使って侵攻軍をてこ入れしていると述べた。
チェース・インベストメント・カウンセルのピーター・タズ社長は、ウクライナ情勢を巡り「何が起こるか想定できず、週末に向けてリスクを取る理由はないだろう」と述べた。
朝方発表された3月の米ミシガン大消費者信頼感指数(速報値)は、2011年9月以来の低水準となった。ロシアとウクライナの紛争による影響でガソリン価格が過去最高値を付けたことが重しとなり、予想以上の落ち込みとなった。
●米国株15時、ダウ続落 ウクライナ情勢見極めで買い続かず 3/12
11日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、15時現在は前日比62ドル20セント安の3万3111ドル87セントで推移している。ロシアのプーチン大統領が「ウクライナとの対話で前進があった」と述べたと伝わり、停戦に向け進展するとの期待から買いが先行した。だが、ロシア軍の攻撃は拡大しているとの報道もあり、買いは続かなかった。米消費者の景況感悪化も重荷となり、ダウ平均は午後に下げに転じた。
11日発表の3月の米消費者態度指数(ミシガン大学調べ)は59.7と前月(62.8)から低下し、市場予想(62.0)も下回った。同調査によると消費者が予想する1年先のインフレ率は1981年以来の高さとなった。インフレ加速が消費を冷やし、景気減速につながりかねないとの懸念が強まった。
景気敏感や消費関連株の一角が売られている。銀行のJPモルガン・チェースやスポーツ用品のナイキが安い。米長期金利が上昇し、相対的な割高感が増したハイテク株も下げ、スマートフォンのアップルやソフトウエアのマイクロソフトが安い。
半面、ディフェンシブ株には買いが入り、外食のマクドナルドやバイオ製薬のアムジェンが高い。資源高が業績の追い風になるとみられる建機のキャタピラーも買われている。

 

●ウクライナ南部の都市 市長をロシア軍が拉致  3/13
ウクライナの外務省はロシア軍が掌握したとする南部の都市メリトポリで11日、イワン・フェドロフ市長がロシア軍に拉致されたと訴え「戦時に民間人を人質に取ることを禁じたジュネーブ条約などで、戦争犯罪に分類されるものだ」と非難する声明を出しました。
そのうえで、「フェドロフ市長をはじめとする民間人の拉致に直ちに対応し、ウクライナの人々に対するロシアの野蛮な戦争を終わらせるよう圧力を強めることを国際社会に対して求める」などとしています。
拉致された際の様子が映っているとして、ウクライナ政府が公開した監視カメラの映像では、男性が腕を捕まれて軍服を着た集団に連れ去られるような様子が確認できます。
これについてウクライナのゼレンスキー大統領は11日「明らかに侵略者の弱さの表れだ」と述べ、軍事侵攻を進めるロシア側が新たな手法でウクライナ側に圧力を強めようとしていると非難しました。
●「Z」ロシア国内で軍事行動を支持するシンボルに  3/13
ロシア国防省はウクライナに侵攻するロシア軍の車両にアルファベットの「Z」を書き、その画像を積極的にソーシャルメディアなどで拡散させています。
ロシア国防省は「Z」の意味を明らかにしていませんが、ロシア語で「勝利のために」や「西」を意味することば、あるいはウクライナの「ゼレンスキー大統領」を示しているなどさまざまな見方が出ています。
「Z」の文字をめぐっては今月、中東カタールで行われた体操の国際大会で、ロシアの選手がこの文字を胸につけて表彰台に立ったことで物議を醸しました。
また、ロシア軍を支持する集会で「Z」の文字が掲げられているほか、市民が車につけるなど、ロシア国内では軍事行動を支持するシンボルとして広がっています。
ロシア政府としては「Z」の文字を広めることで軍事侵攻への支持が広がっているという雰囲気をつくりだすねらいがあると見られます。
●ゼレンスキー大統領「約1300人のウクライナ兵が死亡」  3/13
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日に開いた記者会見で、ロシアによる軍事侵攻が始まって以降「およそ1300人のウクライナ兵が死亡した」と明らかにしました。
また「われわれにとってこの戦争での勝利はウクライナ人が生き続け、ウクライナを存続させることを意味する。ウクライナの存続を望むのであれば、勝つしかない」と述べ、降伏する意思がないことを改めて強調しました。
国連人権高等弁務官事務所は、ロシアによる軍事侵攻が始まった先月24日から今月11日までにウクライナで少なくとも579人が死亡したと発表しました。
このうち42人は子どもだということです。亡くなった579人のうち、130人が東部のドネツク州とルガンスク州で、ほかの449人は首都キエフや第2の都市ハリコフ、北部のチェルニヒウ、南部のヘルソンなど各地で確認されています。犠牲者の多くは砲撃やミサイル、空爆などによって命を落としたということです。また、けがをした人は1000人を超えたということです。国連人権高等弁務官事務所は、数百人の死傷者がいるとされる東部マリウポリなど、詳しい状況が確認できていないケースも多いとしていて、亡くなった人やけがをした市民は実際にはさらに多いとみられます。
ウクライナの公共放送は動画投稿サイト、ユーチューブで国内各地の被害状況を英語で連日、伝えています。12日の動画では、ウクライナ北部の都市チェルニヒウで深夜、ロシア軍が中心部にあるホテルなどを爆撃し、周辺の建物をことごとく破壊したと伝えています。この攻撃でけがをした人はいませんでしたが、一帯では停電が続いているほか、携帯電話やインターネットがつながりにくい状態で、復旧に向けた取り組みが進められているということです。また、首都キエフ近郊にある軍の飛行場周辺にミサイル6発が着弾し、弾薬庫の燃料タンクが炎上して人々が消火に追われる様子を伝えています。
一方、第2の都市ハリコフ近郊では複数の医療機関が前日に続いて砲撃を受け、ガスが使えなくなったほか、一部で停電が起きていると伝えています。映像には砲弾によると見られる痕が建物に多く残っている様子や、窓が割れた救急車などが映されていて、被害の大きさを物語っています。この日は犠牲者はいませんでしたが、前日の攻撃では3人が亡くなったほか、病院のスタッフがけがをしたということです。
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は12日、声明を発表し、ウクライナ南東部にあるザポリージャ原子力発電所をロシア国営の原子力企業ロスアトムが完全かつ恒久的に管理しようしているとウクライナ側から報告を受けたとしています。ウクライナ国営の原子力企業の報告では、ザポリージャ原発はロシア軍司令官の指揮下にあり、およそ400人のロシア兵士がいるということです。一方、ロスアトムの代表はグロッシ事務局長に対して、ロスアトムの専門家がザポリージャ原発にいることは認めたものの、原発の運用は掌握しておらず、原発を管理体制に組み込む意図もないと否定したとしています。
ウクライナ各地でロシア軍による攻撃が続く中、西部の都市リビウでは、幹線道路などに市民に対して戦闘に備えるよう訴える看板が数多く設置されています。このうち、銃を構える2人の兵士が描かれている看板には「国の守り方を心得よ」と書かれていて、市民に対して、地元で結成されている防衛組織に参加するよう呼びかけています。また、今後、ロシア兵が市街地に攻め入ってくる事態も想定して、ロシア兵向けの看板も設置されていて、「ロシア兵よ、止まれ。家族を思い出して、国に帰れ」と記されたものもあります。ウクライナでの戦闘はこれまでのところ首都キエフの周辺や南東部に集中していますが、これらの地域と比べると、比較的安全だとされている西部のリビウでも日に日に緊張が高まっています。
ルーマニア国境から40キロほど離れたウクライナ西部にはヨーロッパ各国から送られた医薬品などの支援物資が集まり、国内各地に送り届ける拠点になっています。ウクライナ西部チェルニフツィ市はルーマニア国境までおよそ40キロのところにある人口およそ26万人の街です。首都キエフまで500キロ余り離れていますが、市内各所にはウクライナ軍の兵士が配置され、市役所の入り口には土のうが積まれるなどロシア軍の侵攻に備えていました。中心部にある病院にはヨーロッパ各国から届けられた薬や医療器具などの支援物資が集まり、薬剤師やボランティアが仕分け作業に追われていました。この病院によりますと、戦闘が続いている地域の病院の求めに応じて、必要とされる医薬品などを届けているということです。
一方、市の中心部にあるスーパーでは食用油や小麦粉の購入が制限されていたほか、街角には空爆に備え、地下シェルターの場所を知らせる貼り紙が張られるなど、市民生活に暗い影を落としています。また、チェルニフツィ市によりますと、戦闘などで家を追われた人たちのため、50か所余りの公共施設などに避難所を設けていて、現在、およそ4万人を受け入れているということです。ロマン・クリチュク市長は「ここはまだ空爆を受けていない街の1つなので安全だ。軍や警察などと常に連携をとって情報収集をしている。シェルターなども準備している」と話していました。
また、支援物資の拠点となっている病院のビクトル・プロッツ院長は「砲撃などの被害を受けて東部などでは包帯や、やけど用の薬が足りていません。けが人に医薬品が届いていないという情報が各地の病院から寄せられている」と話していました。キエフから家族14人で避難しているという女性は「最初に避難していたキエフ近郊の息子の家の近くに砲撃を受けたので、ここに逃れてきました。ウクライナのために力になりたいので、国内に残るつもりです」と声を詰まらせながら話していました。
●日本の制裁に対抗措置か 政府 ロシア側に自制求める方針  3/13
ウクライナ情勢を受けて日本がロシアへの制裁を科す中、ロシア側は日本を非友好的な国に指定し、北方領土をめぐって対抗措置ともとれる動きを強めていて、日本政府としては外交ルートを通じて自制を求めていく考えです。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対し、日本政府はこれまでに、欧米各国と協調してプーチン大統領をはじめとした政府関係者や金融機関の資産凍結を行うなどの制裁を科しています。
また、岸田総理大臣は12日、追加の制裁措置について「各国とも具体的な取り組みを進めようとしており、連携の観点から日本もどうあるべきかしっかり考えたい」と述べ、G7=主要7か国の各国と協調しながら具体的な行動をとっていく考えを示しました。
こうした中、ロシアは今月7日には日本を非友好的な国に指定したと公表し、9日には日ロ両国の合意に反して、ロシア政府の認定を受けて北方領土に進出する企業の法人税などを免除する措置を決めました。さらに10日には、ロシア国防省が北方領土に配備された地対空ミサイルシステムの訓練を行ったと発表するなど、対抗措置ともとれる動きを強めていて、日本政府としては外交ルートを通じて自制を求めていく考えです。
●仏・独・ロ首脳が電話会談 ウクライナ軍事侵攻  3/13
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、フランス、ドイツ、ロシアの3者による電話での首脳会談が行われた。
フランス大統領府は、マクロン大統領が12日、ドイツのショルツ首相とともに、ロシアのプーチン大統領と電話で会談したと発表した。
会談後、ロシア大統領府は、プーチン大統領が「ウクライナ東部の保護のための作戦における人道上の状況について説明」し、ウクライナを非難したと明らかにしている。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、外国メディアも含めた記者会見を行い、イスラエルのべネット首相に対し、プーチン大統領との会談をイスラエルで行う可能性について提案したと述べた。また、欧米各国に対し、ミサイル迎撃システムなど武器の面での支援を求め、「費用を支払う用意はできている」とも述べている。
一方、ロシア国防省は、12日もSNSに複数の動画を掲載し、ロシア軍の車両がキエフ近郊のチェルニヒウを「パトロールした」とする動画では、「住民に薬や食料を提供した」との説明を掲載している。
●独仏と電話会談もプーチン大統領「停戦の意思見られず」  3/13
ロシア軍がウクライナの首都キエフの包囲に向けて侵攻を続ける中、ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は12日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、直ちに停戦するよう強く求めました。しかし、プーチン大統領に戦争をやめる意思は見られなかったということで、戦闘のさらなる激化が懸念されます。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は12日、首都キエフ周辺の軍用の飛行場や施設を攻撃したと発表したほか、部隊を3方向から前進させているとみられ、首都包囲に向けて攻勢を強めています。
各地でも激しい戦闘が続いていて、国連人権高等弁務官事務所は、11日までに42人の子どもを含む少なくとも579人の市民が死亡したと明らかにしました。
ICRC=赤十字国際委員会は12日、ウクライナ東部のマリウポリにいるスタッフから伝えられた話として現地の情報をツイッターに投稿しました。
それによりますと、現地では電気やガス、水道が寸断され、食料や飲料水が底をつき始めていて、スタッフたちは自宅にあった食料などを持ち寄り事務所で避難生活を続けているということです。
現地スタッフの1人は「人々は寒さで病気になっています。本当に寒いです」と述べ、避難生活の厳しい環境を訴えています。
ICRC=赤十字国際委員会のフローリアン・セレックス広報官は10日、NHKのインタビューに対し、「支援の必要性が爆発的に増している」と危機感を示したうえで、「紛争の当事者は市民が安全に避難できるよう具体的かつ効率的な合意を行う必要がある。それがいま最も重要だ」と述べ、一刻も早い停戦の実現を訴えました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日に公開した動画で「ロシア軍は戦車や戦闘機などに大きな損失が出ている」としたうえで、「ロシア軍は新たに部隊を投入しているが私たちは絶対に諦めない」と市民に一致団結して抵抗するよう呼びかけました。
こうした中、ドイツのショルツ首相とフランスのマクロン大統領は12日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談しました。
ドイツ政府の報道官によりますと、ショルツ首相とマクロン大統領はプーチン大統領に対し、直ちに停戦するよう強く求めたということです。
しかし、フランス大統領府によりますと、会談でプーチン大統領に戦争をやめる意思は見られなかったということで、戦闘のさらなる激化が懸念されます。
一方、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は停戦をめぐるロシアとウクライナの代表団による交渉が、ここ数日間、オンライン形式で行われていたと明らかにし、交渉の内容を両首脳に説明したとしています。
ただ、交渉の詳細については明らかにしていません。
双方の代表団は今月7日にベラルーシで対面での3回目の交渉を行いましたが、大きな進展は見られていませんでした。
●ウクライナ侵攻、日本政府と国民が絶対やるべきこととは? 3/13
軍事力をてこに国内を掌握し国外で覇権を誇示したい独裁者がいる
ロシアのウクライナ侵攻から2週間が経過したが、いまだ終息の気配はない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、3月7日時点で民間人の死者数は406人。ただし、実際はもっと多いだろう。残念極まりないことだが。
ウクライナとロシア、双方が歩み寄る余地は小さく、また、有力な仲介者が不在ともいえる状況では、戦争の長期化・泥沼化が想定される。一時的な停戦合意はありえても、本格的な停戦と平和回復への道筋は描きにくいと思われる。双方の主張に隔たりが大きすぎるのだ。
終息の方向はまだ見えないが、これだけは言える。第二次大戦後の現代史において、分水嶺(ぶんすいれい)となる歴史的な大事件であることは間違いない。
もし、プーチン大統領のたくらみが、ウクライナの中立化といった形である程度でも成功すれば、今後、他国への軍事侵攻という手段が国際政治において有効になる。世界には、軍事力をてこに国内を掌握し、国外で覇権を誇示したい独裁者がごろごろいる。第二次大戦後の平和的な秩序が崩壊してしまう。
なぜ、これほど事態が深刻化しているのか。それはプーチン大統領の、ある“成功体験”が、ウクライナ侵攻では仇(あだ)になったと筆者は考えている。
加えて、こうした有事の際、日本政府や国民がもっと真剣に取り組むべきことがあると筆者は考える。次ページ以降で、この2テーマについて解説する。
ジョージアの“成功体験”がウクライナでは仇になった
振り返れば2008年にも、ロシアは旧ソ連の近隣国へ侵攻している。ジョージア国内で、ロシア人が多い非政府支配地域である「南オセチア自治州」に、ジョージア政府が侵攻したことに対する、ロシア側の侵攻である(この経緯については諸説ある)。
この時は、5日間で軍事攻撃は終わった。ロシアが圧倒的に強いことに加え、フランスの仲介が功を奏したのだ。
ロシアは今回も同じ青写真を描いたのであろう。圧倒的な軍事力の差を見せつけて、数日でウクライナの首都キエフを落とすと。
しかし、今回は様相が違った。ジョージアに比べてウクライナの面積や人口がはるかに大きいことや、ウクライナ軍の想定以上の抵抗が大きな要因だ。
国際世論はプーチン大統領を厳しく非難している。国際金融網からの締め出しや、天然資源の禁輸などの強い経済制裁も、ロシアという大国に確実にダメージを与えている。
他国の仲介は、今回は難しいのではないか。ある意味、ジョージアの“成功体験”が、今回は仇になったといえる。
世界は大きな転換点を迎えている。こうした有事が起きたのを受けて、日本政府や国民一人一人が、もっと真剣に考え取り組むべきことがある。それは、「人道支援」に関することだ。
難民受け入れに迅速に行動したカトリックの国ポーランド
3月8日時点で、ウクライナから約200万人が国外脱出した。2週間余りで約200万人が国外脱出したというのは、割と速いスピードではないだろうか。ウクライナ周辺国では、避難民への人道支援が進んでいる。
ウクライナの隣国、ポーランドの政府は、侵攻勃発直後に100万人程度の避難民の到来を見通して、宿泊施設を準備すると表明した。鉄道などの交通手段は避難民に無償で提供している。9日時点で、約170万人がポーランドに避難したとの報道もある。これは当初のポーランド政府の予想を超えている。
じつはポーランドは、EU(欧州連合)内で「問題児」と称されることもある。それは、性的マイノリティー保護を掲げる活動をすると逮捕される場合があるなど、人権保護に関して物議を醸したことがあるからだ。
しかし、今回のウクライナ侵攻への対応は、秀逸だといえる。一般市民のボランティアで食料支援も進んでいる。これは、善行を重視するカトリック教徒の良い面が出ているように感じる。ポーランドの取り組みを受けて、避難民への鉄道無償化が欧州全体で広がっている。
UNHCRは、世界各国に対して、ウクライナ難民への緊急支援を呼び掛けている。日本政府も、国民一人一人も、今できることをぜひとも実践するべきだ。
人道支援への意識が乏しい日本 明らかに低い難民認定率
しかしながら、日本は人道支援への意識が乏しく、特に難民の受け入れに関しては、まだその土壌を育成している段階だと筆者は感じる。
もし仮に、北朝鮮が崩壊して100万人規模の難民が日本に到来したら、宿泊所提供、鉄道無料化、ボランティアによる食料支給など、日本政府や日本国民は積極的にできるだろうか。
戦争・紛争からの避難者や政治亡命者を難民として受け入れることにおいて、日本は世界最低レベルである。
例えば、2020年にドイツでは6万人以上の難民を受け入れているが、日本は47人である(UNHCR調べ)。難民申請者に対する認定率は、ドイツが40%超であるのに対して日本は0.4%である。これは他の先進国と比べても明らかに低い数字だ。
実際これまで、国際会議では「日本が難民受け入れに後ろ向きだ」と問題視されてきた。日本で、難民受け入れに積極的な情報発信をしている政治家は少なく、政党の公約に難民関連のトピックが入ることも少ない。
ウクライナ侵攻と今後の世界動向を俯瞰(ふかん)して、日本は改めて難民受け入れについて真剣に考えるべきだ。
それと同時に、ロシア人への差別意識も徹底して排除するべきだ。
今回の侵攻の直接の被害者はウクライナ国民であるが、多くのロシア人も間接的な被害者である。
経済制裁で経済的苦境に陥るのは、プーチン大統領ではなく、一般市民である。また、国外に居住しているロシア人は、居住地での誹謗(ひぼう)中傷にさらされる。
日本国内でも実際、ロシア料理店に対して誹謗中傷が寄せられ、営業妨害的な行為も起きているそうだ。また、ロシア人のSNSに心ない書き込みも増えているという。
必要十分な情報を持ち合わせない国内のロシア人と違い、国外のロシア人は、プーチン氏の愚行に批判的な人が多いことだろう。しかし、そのプーチン氏のせいで自らが危険にさらされている。
誹謗中傷は決して許されるものではない。日本政府がロシア人への差別を行わないように呼び掛けるとともに、一人一人が注意するべきだ。
ウクライナだけでない避難先を求め苦しむ人々に入国ビザを
世界で軍事紛争に苦しんでいるのはウクライナ人だけでない。シリアやアフガン、イエメンなど他国の状況にも関心を持つべきだ。世界には多くの紛争があり、予備軍を含め多数の避難民が生まれている。
例えば、アフガニスタンでは21年8月のタリバン制圧後、政治的弾圧に加え、経済的にも疲弊していることから、多くの人が隣国イランやパキスタンに避難しようとしている。しかし、これらの国への入国ビザの取得は容易ではない。避難を求める多くのアフガニスタン人が待機を余儀なくされている。
筆者は現地のアフガニスタンの人々と連絡を取っていて、こうした苦境を聞いている。何とか支援したいと思うものの、隣国や、その先の国に逃れることが本当に難しい。待機の間にもタリバンによる政治的・人道的抑圧が続いている。しかし、国際社会の関心は薄い。
ロシアのウクライナ侵攻は、ある国が他国を侵攻して、他国を支配下に置こうとする帝国主義的な戦争である。
数十年にわたり類似の例――少なくともこれほど大規模な事例――はなかったこともあり、世界が注目している。国際秩序への影響は大きく、気の早いメディアでは、中国にロシアを加えた「新冷戦」といった言葉が飛び交う。
しかし、今はそうした危機をあおるよりも、やるべきことがある。世界中で行き場を失っている人々への支援を一刻も早く進めることだ。
日本をはじめ各国政府は、人道危機の場合には無条件で入国を認め、支援する仕組みをよりいっそう現実化させるべきだ。多くの避難民の来訪を閉ざすような入国ビザの仕組みは、大きな修正が求められる時代になったはずだ。
●「うわっ、ロシア人だ」小6女児は心無い言葉に涙した 子どものいじめ 3/13
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続く中、在日ロシア人や関係者たちへの嫌がらせが起きている。特に心配なのは子どもへの「いじめ」。親たちを取材した。
「ママ、学校に行きたくない。頭痛と吐き気がするから」
先日、公立小学校に通う6年生の長女に、母親である首都圏に住む40代のシングルマザーのロシア人女性は言われた。長女の目は真っ赤だった。
「どうしてなの」と聞いたところ、長女はその理由を明かした。「学校で私は何もしていないのに、クラスのみんなは笑いながら『うわっ、ロシア人だ』とからかう。クラスメートが毎日、ウクライナとロシアの戦争の話をしているから、教室にいても気まずいし……。きょうは『ロシア人は死ぬわよ』と言われた」
母親は、こう励ますほかなかった。「もうすぐ小学校を卒業して、中学生になるんだから、毎日学校へ行きましょう。あなたは日本で生まれたんだし、パパは日本人なんだから」
母親は20歳の頃に来日。日本人男性と結婚し、1男1女をもうけたが7年前に離婚した。国籍はロシアだが、日本の永住権がある。
長女の学校での様子についてこう話す。「娘は先日、学校で保健室へ行ったそうです。クラスにいたくなかったのかもしれません。保健室の先生から心配され、担任の先生に連絡が行ったそうです」
数日前、担任から電話があった。
「先生からは『気づかなくてすいません。明日、戦争の話を大きな声でしないように、クラスの子供たちに指示をしようと思いますが、お母さんはどう思いますか』と聞かれました。私は『もっと早く、(戦争についての)対応してほしかった』と答えました。先生は1週間から10日間くらい対応が遅かった」
学校側としても、ロシア人の女性の子どもの境遇に気づくべきではなかったのか。その後、クラスの様子はどうなのか。ロシア人の母親は言う。「先生が戦争の話は大きな声でしないでと言ってからも、子どもはしちゃうんです。娘は学校へ行きたくないと言って、すごい泣いてました。ちょうどさっき騒いでいたところ。なんとか卒業まで頑張れば、春休みに入るので、落ち着くと思うのですが」
最終的には娘の状態から判断して、卒業式まであとわずかだが学校には行かせないで家で過ごすことにしたという。
ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が激しさを増すにつれ、ロシアという国家だけでなく、その国民や関係者に対して日本でネガティブな感情が沸き出てきている。学校でのいじめもその一つ。
前出のロシア人の母親はSNSでのロシアンコミュニティで交わされる情報をこう明かした。「SNSのロシア人のママたちのグループでは、 中学校の生徒が、『ロシアに帰れ』と言われ、殴り合いのけんかになったというコメントがありました」
別のコメントではこんなものもあったという。「『あなたの国は日本人を殺した』と、子どもが言われたというコメントもありました。日露戦争や第二次世界大戦のことを言っているのでしょうか。子どもはまだピュアだから、テレビのニュースとか親が家で会話していることをそのままストレートに言っちゃうんでしょうね」
さらにはSNSではロシア料理店への嫌がらせもあるという。「いろんなロシア料理店の名前を上げ、『不味すぎ』とかコメントが書いてあって、死体のようにうずくまる兵士の格好の写真を載せています。お客さんは誰も行かなくなるじゃないですか」
こうした嫌がらせは、これまでになかったことだという。
「SNSのママたちのグループではこれまでは日常生活の中で困ったことがあったときに、誰か似たような経験があったら解決法を教えてくださいというような書き込みに、みんな相談に乗っていたんですよ。でも、今回は、困っていても子どものいじめについては、話を表に出したくないと怖がっています。子供がもっとひどいいじめにあうかもしれなとおそれているのです。こんなことは初めてです」(同)
別の30代のロシア人女性はこんな話を聞いたという。「日本語学校でオンライン授業を受けている18歳のロシア人女性の母親から、『先生が無視して挨拶もしない』『先生から、ウクライナとロシアの戦争をどう思いますか、と質問された。そんなことを授業中に話すことなのでしょうか』と相談を受けました。母親は心配していました」
ウクライナ出身の女性は子供のいじめについて、こう話す。「日本に住んでいるウクライナ人の子どもはいじめられたという話は聞きません。だけど、ロシア人の子どもは『あなたの国はウクライナを攻めた』といじめられていると聞きます」
さらに、大人の世界でも戦争は友情に暗い影を落としている。戦争をきっかけに、日本に住むウクライナ人とロシア人の関係が微妙になってきているという。ウクライナ人女性はこう続ける。「来日してから6年間、ずっと仲良しのロシア人の友達がいました。でも、この戦争をきっかけに、連絡を取るのをやめました。私の両親はウクライナの首都キエフにいて毎日、心配しています。なのに、今、友達はやさしくない。だからもう嫌だ。ロシア人の中にはインスタグラムとかフェイスブックとかを使って情報を流して、ロシア軍を支持している人もいる。だから、今はロシア人と話したくないのです」
日本とロシアの間を何度も行き来している、10歳の子を持つロシア人女性はこう話す。「ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の2人が悪い。私たち普通の市民のことを考えていない。人生では、おいしいものを食べ、いい暮らしがしたい。生活が心配にならないような毎日が欲しい。だけど、今はみんな明日のこともわからない。戦争に行かせるために子どもを生んだのではない」
そして、ロシア人の子どものいじめについてはこう言った。「偉い人たちのやったことの責任を私たちの子どもに負わせないでください。早く戦争をやめて、と神様にお願いしています」
国家としてのロシアの選択が誤っていたとしても、国民ひとり一人の考えは違う。まして、子どもに罪はない。周囲のわれわれはどのように対応すればいいのだろうか。
公立小学校で23年間教師を務めた教育評論家の親野智可等(おやのちから)氏は小学校でのロシアにルーツがある子どもへのからかいや戦争の話題が子どもたちの間で出ることにいてこう話す。
「ある程度予想できることなので、事前に、ロシアの子どもが居づらいという気持ちになるようなことが起こる前に、先生の指導が必要ですね。そういう小さい芽を発見したら、先生が生徒たちにわかるように話をしてあげることです。たとえば、その子がいない時に、『○○君がそういう話を聞くと、自分が責められているわけでなくても、気にしちゃうし、学校へ行くたくなくなっちゃうから、聞こえるようなところで話さないようにしようね。ロシアの子に戦争の責任があるわけではないから。それはやっぱり区別しないとね』というような話をしてあげることは必要だと思いますよ。ロシアのプーチンは弱いものいじめをしているわけですよ。それと、同じようなことを結局、してしまう。意図しなくても、そういうことをクラスで話すことで非常に傷つく子がいるんだということを教えてあげれば、『あ、そうか』と子どもたちも気がつくし、大事なことだと思います」
続けて親野氏はこう指摘する。
「日本人の親御さんがまず家で、子どもに話をして欲しい。親御さんもなかなかそこまで配慮がある人ばかりではないんですが、クラスにロシア人あるいはルーツにロシアを持つ子がいる場合、『うわっ、ロシア人だ』なんて言ったら当然、子どもが傷つくということがわかるわけだから」
子どもだから仕方ないとあきらめず、親が教えれば、今ウクライナで起きていることの責任は目の前の友達にはないことは、子どもは理解できるという。
「とにかく何気ない一言で傷つくことがあるんだということはロシアの問題に限らず、いろんな場面であるわけです。小学校、中学校の先生や親がちょっと言ってあげれば子供は気づくんだよね。そんな長々と話す必要はなく、2〜3分でいいんです。『クラスにロシアの子がいるけど、あなたたち、ロシア人がどうのこうのと言ってると、そういうの気にしちゃうし、逆の立場だったら嫌でしょう。プーチンは確かに悪いけど、ロシア人の子どもが悪いわけじゃない。全然関係ないですよ。責任は全くない。そういうことは教えていく必要はあるよね」
●プーチンはなぜウクライナの「非ナチ化」を強硬に主張するのか?  3/13
日本ではあまり注目されていないが、プーチン大統領は、ウクライナへの侵攻に際して「非ナチ化」という言葉を頻繁に使っている。じつはこの言葉が用いられる背景を知ると、プーチン大統領がどのような歴史的な論理でこの侵攻を正当化しているのかが見えてくる。静岡県立大学の准教授で、著書に『ユーラシア主義とは何か』(成文社)最新の訳書に『ファシズムとロシア』(マルレーヌ・ラリュエル、東京堂出版)がある浜由樹子氏が解説する。
2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。その際、ウラジーミル・プーチン大統領は、「特別軍事作戦」の目的をウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」だと説明し、停戦交渉にあたってもそれらを条件として提示している。
この「非軍事化」ないし「中立化」については、ウクライナのNATO加盟問題と絡めて多くのメディアで解説されてきたが、「非ナチ化」についてはほとんど注目されていないようだ。単なる誹謗中傷、あるいは、ユダヤ系であることを明らかにしているゼレンスキー大統領を「ネオナチ」呼ばわりする世迷言と受け止められている。
しかし、この「非ナチ化」にはいくつもの重要なメッセージが込められている。ここでは、3つの文脈から読み解いていこう。
「歴史をめぐる戦争」
前提として、ロシアにとって第二次世界大戦、とりわけ独ソ戦が持つ意味についておさえる必要がある。当時のソ連は、第二次世界大戦で最大の人的犠牲を払った国であり、(諸説あるが)その数、およそ2600万から2700万人とされる。これは当時の人口からすれば10人に一人(以上)。つまり、すべての人が誰かを失い、どの家族にも悲劇があったということを意味する。
国民の英雄的な戦いの末にナチ・ドイツを打ち破り、連合国の勝利に貢献し、ファシズムから世界を解放したこと――「反ファシズム」「反ナチズム」国家としてのアイデンティティは、今でもロシア社会を束ねることのできる数少ない要素である。
しかし、この歴史解釈に対して異議を唱える動きが、とりわけ2000年代初頭あたりからウクライナ、バルト諸国、ポーランド等で活発化する。各国は自分たちをナチズムとスターリニズムという二つの全体主義体制の犠牲者と位置づけ、ナチ・ドイツとソ連を同列視する歴史観が政治家によって次々と示された。
例えば、2020年、ゼレンスキー大統領は、ナチ・ドイツとソ連が共謀した独ソ不可侵条約が第二次世界大戦を、そしてホロコーストの実行を可能にしたと発言した。これは、間接的に、ソ連にもホロコーストの責任があると(ユダヤ系の出自を持つ大統領が)主張しているということになる。
いうまでもなく、これに対してロシアは猛反発した。議論は欧州議会や国連にまで波及し、ロシア国内では、翌年7月に第二次世界大戦でのソ連の決定や行為を公にナチ・ドイツと同一視することを禁じる法改正が行われた。
「バンデラ主義者」とは何か
「ネオナチ」という言葉と並んで、「バンデラ」「バンデロフツィ(バンデラ主義者たち、バンデラ一派)」という用語が、プーチン大統領や政府高官の発言、国営メディアにも、ウクライナを非難する文脈で登場する。しかし、日本のメディアでは、この意味についても誤解、誤読が散見される。
この用語自体は、「ウクライナ・ナショナリスト」を指す言葉としてソ連時代から使われてきたが、もともとはステパン・バンデラ(1909-1959年)の名前に由来する。バンデラは、戦間期から第二次世界大戦中にかけてポーランドとソ連の両方と戦った活動家であり、極右的な準軍事組織を率いた人物である。
ウクライナの見解では、彼はウクライナの独立のために戦った「自由の闘士」「独立の英雄」ということになっている。しかしながら同時に、彼は1941年と1944年にナチ・ドイツと協力した「ナチ協力者」でもある。彼とその仲間が発表した声明には、反ユダヤ主義が色濃く表れており、ロシア人、ポーランド人、ユダヤ人を「敵対民族」として排斥することが謳われていた。
また、ナチズムの思想に通じる純血主義も窺われるが、こうした側面はウクライナではあえて触れられない。言及されることがあったとしても、ソ連の支配からウクライナを解放するために、「敵の敵は味方」の論理でドイツと手を結んだに過ぎない、ということになる。
ウクライナがソ連の構成国だった時代には、当然ながら、ナチ協力者は裏切り者として断罪されていたが、1991年の独立に伴い、ウクライナでは徐々にバンデラの名誉回復の動きが進んだ。そうした動きは、ロシアに批判的な姿勢を示す政権の下で活性化した。
例えば、ウクライナでは2004年に、大統領選の結果をめぐる民主化運動で親ロシア政権が倒れる政変(オレンジ革命)が起こった。この「革命」によって、いわゆる親欧米/反ロシア色の強いユシチェンコ政権が誕生したが、同政権は、2009年、バンデラを郵便切手のデザインに採用し、2010年にはバンデラに「ウクライナの英雄」の称号を与えた。しかしこれは、ウクライナ東部や国内外のユダヤ人からの抗議にあって撤回された。
2013年末にウクライナで始まったユーロ・マイダン革命の結果、EUよりもロシアとの関係改善に前向きなヤヌコーヴィチ政権が倒れ、ポロシェンコ政権が樹立されると、2015年、かつてバンデラが率いた「ウクライナ民族主義者組織」「ウクライナ蜂起軍」の故メンバーたちを「20世紀のウクライナ独立の闘士」とみなすという法案が議会に提出された。また、マイダンの混乱の中、ウクライナ蜂起軍の赤と黒の旗を掲げる人々がニュース映像にも映っていた。
ポロシェンコ新政権の下、議席を得た極右政党「自由」や、「右派セクター」といった議会グループは、その反ユダヤ主義的志向を隠そうとしなかったため、ロシアはこれらを容易に「ファシズム」に結び付け、プーチン大統領はマイダン革命を「ナショナリストとネオナチ」が起こしたクーデターであると非難した。そして今でも、ドネツクとルガンスクでロシア系住民に「ジェノサイド」が行われていると主張している。
ロシアが「ネオナチ」「バンデラ主義者」という言葉でウクライナを非難するのは、今回の侵攻を、ここまで見てきたような2000年代初頭から続く一連の「歴史をめぐる戦争」の延長線上に位置づけていることを意味する。
ソ連を(ロシアから見れば不当にも)ナチ・ドイツと同等の占領者とみなし、一方でナチ協力者たちの名誉回復を進めるウクライナ――これが、プーチン大統領が「反ロシアのウクライナ」と呼ぶものの一側面であり、これを「正す」ことが「非ナチ化」の一つ目の意味である。
ロシア国内社会の団結
「非ナチ化」メッセージの先に意識されている第二の対象は、ロシア社会である。冒頭で述べた通り、「反ファシズム」戦争であった第二次世界大戦の記憶は、ロシア国民を束ねられる数少ない、というよりもむしろ、唯一の要素である。1980年代後半に始まった資本主義への転換によって生じた社会経済的分断も、都市と地方の格差も、ソ連時代を経験した世代とソ連を知らない世代の間のギャップも、民族や宗教の違いさえ、乗り越えることができる。
今回のウクライナ侵攻を批判し、抗議する声は、ロシア国内でも、プーチン政権支持層の中でさえも高まっている。いったん始めてしまった以上、この不人気な戦争を絶えず正当化し続ける必要がプーチン政権にはある。そこで使われるのが、この第二次世界大戦(特に独ソ戦)の「記憶」なのである。
プーチン政権はこれまでも、様々なかたちで、ロシア社会にとっての第二次世界大戦の特別な意味を強調してきた。5月9日の戦勝記念日のパレードやコンサートに莫大な投資をし、独ソ戦物の映画やテレビの特番を後援し、各種記念団体の設立に携わり、戦争に関わった家族の写真を持ち寄って行進する追悼行事「不滅の連隊」(当初は草の根レベルで自然発生的に始まったものであったが)を制度化した。
こうしてこの戦争は、実際に経験していようがいまいが、ロシア国民の感情にダイレクトに訴えかける、特別な出来事として浸透してきた。
ウクライナ情勢が緊迫し始めてから、インターネット上には、ウクライナを非難する目的の真偽不明の情報が連日流れている。ロシアの友人が知らせてくれた複数のサイトには、無残な死体の写真や、ドンバスでウクライナ軍とウクライナの武装組織がロシア系住民に行っているとされる「戦争犯罪」のリストがアップされていた。
また、別のサイトには、ウクライナの地元有力者が人道支援物資を横流ししているとか、ウクライナの武装勢力が人道回廊を使って避難しようとする市民が逃げられないようにしているとか、そうした情報が、通常私たちが日本で目にするようなニュースと織り交ぜて掲載されている。
出所不明で、一体誰が、どこで、何を撮り、加工したものなのか確かめようのない写真や映像、記事を、人々は「真実」だと信じてしまう。戦場にいないからこそ、そうした情報に頼ってしまう。そして善意の人であればそれだけ、感情を揺さぶられ、義憤にかられる。
それはいつの時代のどこの戦争でも同じであるから、有効なプロパガンダの手法として20世紀の戦争を通じて確立されてきた。今はインターネットやSNSがあるから、いくつもの情報源に接することができ、「正しい」情報を得られるはずだ、というのは幻想に過ぎない。
おそらくはロシア国民をターゲットにして出回っているこれらの写真や文書に特徴的なのは、「ウクライナのナチ」「ジェノサイド」「モロトフのカクテル(火炎瓶の意)」といった用語や、ナチ武装親衛隊のシンボルを模した極右政党の旗であったり、独ソ戦時の写真とのコラージュだったりが添えられていることだ。
第二次世界大戦を想起させる言葉や視覚イメージには、ロシアの人々を感情的にさせる威力がある。戦争には反対で、ウクライナの人々を気の毒には思っても、「特別軍事作戦」は仕方のないものだと思い込ませるだけの力を発揮することが、それらの言葉やイメージには見込まれ、期待されているのだろう。
ウクライナの権力中枢に入り込んだ「ネオナチ」を倒し、ドンバスのロシア系住民を「ジェノサイド」から守り、新たに出現した「ファシズム」を打ち破ることが目的だと語りかけることで、プーチン政権は、この戦争を「大祖国戦争」(ロシアでは第二次世界大戦はこう呼ばれる)の時のように団結して戦い抜き、経済制裁によってもたらされるであろう生活苦に耐えることを、ロシア国民に求めている。
ヨーロッパにおけるロシアの正統性
第三の文脈は、ヨーロッパ安全保障に関わるロシアの正統性の主張である。
ヨーロッパを「ファシズムから解放した」勝利ゆえに、ソ連は第二次世界大戦以後のヨーロッパ国際秩序構築に携わる正統性を持っていた。たとえ同時期に冷戦が始まり、原理的には対立するはずの自由主義と社会主義の「奇妙な同盟」が崩れて、米英とソ連が対立関係に陥っても、重要案件についてのソ連の意見は、公的な場であろうと水面下であろうと一定程度勘案されていた(とロシアは解釈している)。
しかし、冷戦終焉後、EU╱NATOを中心とするヨーロッパ国際秩序はロシアを排除してきた。それどころか、いく度となく反対したにもかかわらず、NATOは次々と東方拡大を続け、遂にウクライナとジョージアの加盟まで視野に入ってきた。第二次世界大戦終結時とも、冷戦期とも、大違いである。
今回の軍事進攻の目的を「非ナチ化」とするのは、かつての第二次世界大戦後のように、ロシアをヨーロッパ安全保障枠組の中に再び位置づけることを求めるメッセージでもある。
もっとも、これがもはや現実的でないことは言うまでもない。ウクライナにしてみれば、ロシアの行為は、かつてナチ・ドイツがオーストリアやズデーテン地方の併合で行ったことと重なって見えるのであり、ロシアこそが「ファシズム」の再来である。「西側」から見ても、ロシアが対話を欲しているとも、ヨーロッパ安全保障の枠組に包摂すべき相手だとも、考えられないだろう。
プーチン・ロシアにはもう、疎外と孤立の道しか残されていないかもしれない。
●避難中の7人死亡 プーチン氏に戦争終結の意思見えず 3/13
ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、キエフ州で避難中の市民が攻撃を受け、7人が死亡しました。一方、ロシアのプーチン大統領は依然、戦争を終わらせる意思を示していません。
ロイター通信によりますと、ウクライナの情報機関は12日、ロシア軍がキエフ州の村から避難しようとする市民に発砲し、子ども1人を含む7人が死亡したと発表しました。
ロシアは一般市民への攻撃を否定していますが、南部のマリウポリで撮影された映像にはロシア軍の戦車が集合住宅や店などに向けて発砲する様子が映っています。
こうしたなか、ロシア、フランス、ドイツの3カ国首脳による電話会談が12日、およそ1時間半行われました。
フランス大統領府によりますと、マクロン大統領とショルツ首相が即時停戦を求めたものの、プーチン大統領に戦争を終わらせる意思は見られなかったということです。
一方、ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領はロシアとウクライナの代表がテレビ電話で複数回にわたって協議を行ったと説明したということです。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領は12日の記者会見で、エルサレムでプーチン大統領と首脳会談を行う可能性に言及し、イスラエルのベネット首相による仲介に期待感を示しました。  
●ロシア軍の大半、キエフの25キロ圏内に到達か 各地で「町が消滅」 3/13
ロシア軍の侵攻が続くウクライナ情勢について、英国防省は12日、部隊の大部分が首都キエフ中心部から25キロの圏内に到達したとの見方を示した。地方でも激しい攻撃が続き、ゼレンスキー大統領は複数の町が「消滅した」と訴えた。
南部の港湾都市マリウポリの衛星画像には、複数のアパートやガソリンスタンドが破壊され、炎上する様子が写っている。
国際NGO「国境なき医師団(MSF)」の緊急対応担当者はCNNとのインタビューで、同市は現在、大惨事の局面にあるとの見解を示した。
キエフの西約50キロに位置する村マカリフからは、ロシア軍の空爆によるとみられる被害状況の画像がSNSに投稿され、CNNが真偽を確認した。アパートや学校、医療施設が標的になったとみられ、破壊されている。
ゼレンスキー氏は12日の記者会見で、「いくつかの小さな町はもはや存在しない。これは悲劇だ。町は消滅し、人々が永遠に消えた。われわれ全員が前線にいる」と語り、同日までにウクライナ兵約1300人が死亡したと述べた。
国連からの最新の報告によると、ウクライナではロシア軍の侵攻が始まってからこれまでに民間人579人が死亡、1002人が負傷した。死者のうち42人、負傷者のうち54人は子どもだという。
ロシアのプーチン大統領は12日午後、マクロン仏大統領、ショルツ独首相との電話会談に応じた。仏大統領府の当局者はCNNに、プーチン氏は依然として「ウクライナでの目標を達成する決意」が固いとみられるが、仏独首脳との対話を続けていることから、外交解決の可能性を排除していないことがうかがえると語った。
一方でウクライナのクレバ外相は同日、対話は続いているものの、ロシア側は依然として無理な要求を提示してくると指摘。プーチン氏の思考に外交の余地はほとんどないと、悲観的な見方を示した。
●ウクライナ戦で指揮官3人射殺…「怒ったプーチン、将軍8人解任」 3/13
ロシアのプーチン大統領が短時間でウクライナ軍を制圧し占領できなかった責任を問い、軍将軍級高官8人ほどを解任したとの報道が出てきた。
英ザ・タイムズやデイリーメールなどが12日に伝えたところによると、ウクライナ国家安全保障会議(NSC)のダニロフ議長はウクライナ国営テレビとのインタビューで「奇襲的な全面侵攻を通じ開戦から2〜3日でウクライナの首都キエフなどを速やかに占領しようとしていたロシア軍の戦略がウクライナ軍の頑強な抵抗を受け事実上失敗した。この過程で腹を立てたプーチン大統領が最高位級将軍8人を電撃的に解任する措置を下した」と説明した。
これに先立ちロシアは先月24日にウクライナへの侵攻を開始してから攻勢を強めているがキエフを占領できずにいる。この交戦過程でロシア軍は3人の指揮官を失ったりもした。ロシア政府は彼らの死亡を確認していないが、西側関係者はコレスニコフ少将を含む3人の死亡を確認したと外信は伝えた。
ダニロフ議長は「プーチン大統領が短期戦を予想してまとめた戦略を全面修正した。ロシアが切迫した状況に置かれたという証拠だ。今後もロシアが望む結果は見られないだろう」と強調した。
このほかにもザ・タイムズによるとウェブサイト「アゲントゥラ」のアンドレイ・ソルダトフ編集長はセルゲイ・ベセダ連邦保安局(FSB)第5局長、アナトリー・ボリューフ副局長が逮捕され自宅軟禁中という事実を把握した。
FSBはロシア最高の情報機関だ。前身が世界最高の情報機関に挙げられる旧ソ連のKGBだ。プーチンは1998年にこの機関の局長を務めている。
アゲントゥラはロシア最高の情報機関であるFSBなどロシア機関の活動を追跡するウェブサイトだ。
ソルダトフ編集長はこれに先立ちFSBが戦争前にロシアのウクライナ侵攻は現地で大衆的歓迎を受けるという誤った情報を提供し、ウクライナの抵抗の強さに関しても誤った判断を下したことが今回の戦争でのロシアの不振の原因になったと主張した。
ソルダトフ編集長はこうした高官級情報責任者の粛清は情報機関が提供するウクライナ関連情報が誤っていたと考えるプーチン大統領の不信が大きくなっている傍証だとし、「プーチンはついに自身が誤った方向に導かれたことを悟った」と主張した。
一方、今回逮捕されたベセダ局長が率いるFSB第5局はウクライナ情報収集の責任を負う部署だ。英国のMI5と同様にFSBは公式には国内情報を担当するが、1990年代末にプーチン大統領がFSB局長だった当時に旧ソ連構成国に対する情報活動を目的に第5国が設置された。
●ロシア軍 ウクライナ西部にも空爆 支援の動きけん制か 3/13
ウクライナで侵攻を続けるロシア軍は、首都キエフへの攻勢を強めるとともに西部の軍の施設にも空爆を行い、地元の知事によりますと、少なくとも35人が死亡、134人がけがをしたということです。プーチン大統領は、NATO=北大西洋条約機構の軍の動向を警戒するよう指示していて、ウクライナを支援する動きをけん制するねらいもあるとみられます。
ウクライナで侵攻を続けるロシア軍は、首都キエフ周辺の軍用の飛行場を攻撃したほか、部隊を主に3方向から前進させているとみられ、攻勢を強めています。
ウクライナのクレバ外相は12日「ロシア軍はキエフに侵攻し、占領しようという最初の試みを打ち破られ、甚大な損失を出した。しかしわれわれも代償としてキエフ郊外の町ブチャが壊滅的な被害を受けた」と述べ、首都をめぐる攻防は依然、切迫しているとの認識を示しました。
一方、ロシア国防省は13日、これまでに3687の軍事施設や車両などの標的を破壊したと発表しました。
またウクライナの軍当局は13日、ウクライナ西部にある軍の施設「国際平和維持治安センター」が空爆を受けたと明らかにしました。
この施設はポーランドとの国境からおよそ30キロのところにあり、地元の知事によりますと、30発以上のミサイルが発射されて少なくとも35人が死亡、134人がけがをしたということです。
ウクライナのレズニコフ国防相はツイッターで「センターでは外国人の教官が活動している」としたうえで「平和と安全への新たなテロ攻撃だ」と非難しました。
ロシア国防省は11日にはウクライナ西部のルツクとイワノフランキフスクにある飛行場も攻撃したと発表しています。
これに先立ってプーチン大統領は、11日に開催した国家安全保障会議で、アメリカなどがNATOに加盟するヨーロッパの国々に軍の部隊を派遣していることを警戒するよう指示しています。
ロシア外務省のリャプコフ外務次官も12日、ロシアのメディアに対し「多くの国がウクライナに兵器を供与するのは危険な行為だ。兵器を運ぶ車両はロシアの合法的な攻撃対象となる」と述べました。
ロシアは、ウクライナ軍が激しく抵抗を続ける中、NATOなど欧米側の軍事支援を強く警戒していて、ウクライナ西部への攻撃はこうした動きをけん制するねらいもあるとみられます。
●ウクライナ西部の軍施設にミサイル30発、35人死亡…近くに避難ルート 3/13
ウクライナ国営通信などによると、ウクライナへの侵攻を続けているロシア軍が13日、西部リビウ州の軍訓練施設「国際平和維持・安全センター」を空爆し、地元政府は少なくとも35人が死亡、134人が負傷したと明らかにした。空爆では約30発のミサイルが発射されたという。
センターがあるヤボリウは、隣国で北大西洋条約機構(NATO)に加盟するポーランドとの国境から約20キロ・メートルに位置する。ウクライナのウニアン通信は、同州内での爆撃は初めてと報じており、露軍は攻撃の範囲をさらに拡大させている状況だ。
英BBCなどによると、攻撃を受けたセンターに近いリビウでは、13日未明から空襲警報が何度も発令されており、爆発が起きたとの情報もある。
リビウはウクライナ西部の主要都市で、ポーランドとの国境からは約60キロ・メートル。ロシアの侵攻から逃れる市民らが、ポーランドなどに避難するルートの拠点にもなっている。
露軍は、13日もウクライナ各地で激しい攻撃を続けている。西部イワーノ・フランキーウシクでは空港が攻撃を受け、地元市長は「(空港の)施設はほぼ崩壊した」と自身のSNSに投稿した。
ロイター通信などによると、南部ミコライウでは、空爆で9人が死亡した。東部ドネツク州では、旅客列車が攻撃を受け、乗務員1人が死亡したという。
●ウクライナ南東部マリウポリに深刻な被害 3/13
米民間企業マクサー・テクノロジーズは、12日に撮影された衛星画像に基づき、ウクライナ南東部マリウポリの西部地区に炎が上がる様子が確認され、数十棟の高層マンションが激しく損壊していると明らかにした。
ウクライナのクレバ外相は12日、マリウポリはロシア軍によって包囲されているが、まだウクライナの管理下にあると強調。マリウポリ市当局の11日の発表によると、12日間にわたるロシア軍の包囲攻撃で少なくとも民間人1582人が死亡した。
●軍事侵攻受ける中、ウクライナ勢がメダル29個で2位…トップは中国61個 3/13
北京パラリンピックは大会最終日の13日、全競技が終了し、国・地域別のメダル順位も確定した。
金メダル数、総数でもトップは開催国の中国でそれぞれ18個、61個。2位はロシアによる軍事侵攻が進行する中で参加したウクライナで、13日も距離スキーのオープン10キロリレーで金メダルを獲得するなど大会を通して、その活躍は大きな印象を残した。金11個、総数29個は、パラリンピック公式メディアサイトによると、同国の最多をそれぞれ更新した。金8個、総数25個のカナダがそれぞれ3位。
前回平昌大会で金13個、総数36個を獲得し、それぞれトップだったアメリカは今回金6個(5位)、20個(4位)に減らした。日本はドイツ、ノルウェーと並ぶ金4個だったが、銀メダル数で劣り9位。総数7はノルウェー、イタリア、スウェーデンと並ぶ8位タイだった。
●ロシア軍 思わぬ”停滞”の理由 なぜウクライナ軍は待ち伏せ攻撃できたのか 3/13
なぜか小規模の部隊で動き、ウクライナ軍の待ち伏せで犠牲を重ねたロシア軍。一方、なぜウクライナ軍はロシア軍を待ち伏せ攻撃できているのか。ウクライナ侵攻の裏側で繰り広げられていた情報戦について、シリーズの第3回は、圧倒的な戦力を誇るはずのロシア軍が停滞を余儀なくされている謎に迫る。
アメリカによるインテリジェンス支援の実態
前回、記したように、いくら作戦の初期段階において地上部隊を大規模に投入しない「手加減」をしていたとしても、ロシア軍は巡航ミサイルや弾道ミサイルをウクライナ軍の防空施設や指揮所に撃ち込んでいる。ロシア軍が発射したミサイルは700発以上にのぼる。
ロシア軍に詳しい現役の軍関係者は「全体像はわからないが、初期のミサイル攻撃、航空攻撃によってウクライナ軍のC4I(指揮・通信・統制・コンピューター、情報)システム、防空システム、司令部機能の多くは破壊されたと見るべき」だと指摘する。そのうえで「ウクライナ軍の神経機能と眼と耳の多くは失われ、ウクライナ軍は組織的な戦闘というよりも、生き残った部隊ごとに独立的に戦闘をおこなっていると見るべき」だという。
それにもかかわらず、ウクライナ軍はロシア軍の車列を対戦車ミサイルやドローンで待ち伏せ攻撃をしている。動画で明らかになっている範囲でいえば、ウクライナ軍の戦い方は進撃しつつロシア軍の陣地や拠点を正面から叩くという積極攻勢ではなく、あくまで道路上を進んでくるロシアの小規模の車列を後方に回り込んで待ち伏せて叩く、という守勢的な作戦だ。
待ち伏せには敵がやってくる位置とタイミングを正確に把握することが必須なのは言うまでもない。前述の軍関係者はアメリカのインテリジェンス支援があるのではないか、と疑う。「たとえば市街地で待ち伏せをするにしても、ロシア軍の経路、車列の規模、先端の位置などがわかっていなければ準備のしようもないはず」と前述の軍事専門家は言う。「『マルチドメイン作戦』(陸海空、宇宙、サイバー空間を含む多角的で高度な作戦 )の支援が、間接的に行われているとしか思えない。今、それができる能力を持つのはアメリカだけ」だという。
この疑問は3月2日のホワイトハウスのサキ報道官の会見で氷解した。記者に問われるとサキ報道官はあっさりウクライナ側に「リアルタイムで」インテリジェンスの提供をしていることを明らかにしている。
CNNによれば、アメリカ軍はロシア軍の動きや位置に関する情報を入手して30分から1時間以内にウクライナ側に伝達しているという。おそらくこれは大まかな動き、たとえばロシア軍の輸送トラックの車列がどの道をどの方角に向かいつつある、という情報なのだろう。特定の戦車をミサイルで照準して撃破するのに使えるような、より精度の高い個別の目標に関するターゲティング情報まで提供しているかどうかはアメリカ政府はコメントを避けている。
アメリカ軍はさらに開戦前まで首都キエフ西方でウクライナ軍に訓練を施してきた。米陸軍特殊部隊グリーンベレーとフロリダ州軍の兵士が教官として教育した数は延べ2万7千人にのぼるという。
「ロシア軍と事を構える気はない」として地上部隊のウクライナ派遣など直接介入を早々に否定しているバイデン政権だが、武器の提供、訓練の提供、そしてインテリジェンスの提供など間接介入の範囲で最大限できる支援をしている。
軍事大国アメリカの「冷静と情熱」
どんなに美しい外交的レトリックで飾ったとしてもアメリカがウクライナの直接支援のために軍を派遣しないのは、そこに戦略的利益がないからである。戦略的利益があると判断すればアメリカはもっとリスクをとって軍事的対抗策を打ち出すこともあったかもしれないが、今のところ変化の兆しは見られない。ヨーロッパに派遣している軍の増強もバルト3国やポーランド、ルーマニアといった東欧のNATO加盟国に対する安心供与のためであり、ウクライナ防衛のためではない。
ロシア軍の爆撃やミサイル攻撃に苦しむウクライナ政府が再三、求めているウクライナ上空の飛行禁止空域の設定でもアメリカ政府は拒否の姿勢を崩さない。そんなことをすれば「NATO軍機がロシア軍を撃墜する展開となり、第三次世界大戦に発展してしまう」からだ。ロシアと事を構えることになるようなリスクは一切とらない、それがアメリカ政府の戦略的目標だ。
どんなに非人道的な破壊行為がおこなわれていて、心を痛める光景があろうとも、できないことはできないし、しないことはしない。国際政治が冷徹な国益の計算に基づいていることに気づかされる。
だが、そのアメリカも冷徹な国益計算だけ、というわけではない。利益だけではない、情熱(感情)で動いている側面ももちろんある。武器の提供がいい例だ。ウクライナへの武器の輸送は主にポーランド、ルーマニアから陸路でおこなわれているが、ロシア軍からの攻撃を受けるリスクと隣り合わせだ。
流れはこうだ。アメリカをはじめ各国が提供する武器は一度、ウクライナと隣接するポーランドとルーマニアにある非公表の飛行場に空輸されたのちに陸路でウクライナに搬入される。基地をホストしているポーランドが果たしている役割はロシア軍から見れば敵対行為であり、場合によっては当該飛行場に攻撃が加えられることもあり得る。実際、ロシア軍の作戦はポーランドとの国境に近いところにも及んでいて国防総省が強い懸念を示している。またポーランドとウクライナが接している国境付近の空域はベラルーシに配備されたS-300地対空ミサイルの射程に収まっており、ロシアがその気になれば空輸に対して妨害や攻撃を加えることもできる。
なぜ小国・中立国までがリスクを冒すのか
武器の提供と一言でいっても、やっている側も相当のリスクをとってやっていることなのである。実際、NATO各国は大国から小国までリスクをとってウクライナ支援に動いている。ロシア侵攻があった翌日には早速、アメリカ、カナダ、スロバキア、リトアニア、ラトビア、エストニアなどの各国が共同で武器弾薬をポーランド経由で送っている。
GDPや国防予算が日本よりも圧倒的に小さいような国々もリスクをとって責任と役割を果たしている姿からは冷徹な国益計算とともに、何か心意気のようなものさえ感じさせる。オランダは数少ない輸送機を使って、対戦車ミサイル400発、スティンガー携帯型対空ミサイル200発を輸送しているし、デンマークも自ら輸送機を飛ばして対戦車ミサイルを空輸している。最終便がデンマーク本国に帰還したのはロシア軍による攻撃が本格化している3月1日のことだった。持っている輸送機の数も稼働数も少ない、これらの国にとっては決して楽なオペレーションではなかったはずだ。
小国といえばバルト3国の本気度はさらに高い。リトアニアはロシアによる侵攻がはじまった2日後の2月26日、早速、陸路でウクライナに武器を届けている。忘れてはいけないのはフィンランドやスウェーデンといったNATOに加盟しない、歴史的に中立的立場をとってきた国々もウクライナ支援の列に加わったことだ。フィンランドは1500のロケットランチャー、2500丁のライフル、15万発の弾を提供したほか、スウェーデンも7700発の対戦車ミサイルを送っている。
なぜ、ヨーロッパの小国や中立国がこれほどの支援をするのだろうかー。それはロシアに近い位置にある国々にとってウクライナ侵攻は「明日は我が身」だからだ。まずは自分達に累が及ぶ前にウクライナで食い止めてもらいたい。それが偽りのない本音だろう。そこには当然、小国なりの冷静な国益計算と自己防衛本能がある。
だが、彼らを動かしているのはそれだけではない。それはウクライナが本気と勇気を世界に示しているからだ。
ウクライナの「クリエイティブな戦い」
「ウクライナ軍、そして人々は勇敢に、そしてクリエイティブに戦っている」(アメリカ国防総省)。まさにウクライナが見せている抵抗は勇気にあふれ、創造的な戦法がとられている。
アメリカの情報機関はロシア軍が数日で首都キエフを陥落させられると考えていたと分析している。その電撃的短期決戦の先兵として首都キエフに投入されていたのが、ゼレンスキー大統領の暗殺を狙った工作員だ。ウクライナ兵に身分偽装した工作員の数は100人とも200人とも言われ、開戦6日前の2月18日からキエフ市内で活動をしていたという未確認情報もある。SNS上にはウクライナ軍に身分を見破られて捕らえられた工作員たちとされる写真が出回っている。ウクライナ側はロシア人には発音しにくいウクライナの方言を合言葉にして、それを言えなかった工作員たちを次々に見破っていったとも言われている。
ウクライナ軍はロシア軍の進軍を少しでも遅らせるために道路標識を書き換えたり、非武装の一般市民がグループで道をふさぐ形でロシア軍の進軍の前に立ちはだかったりしている。18歳から60歳の男性の出国を禁じているウクライナ政府だが「前線で罪を償える」(ゼレンスキー大統領)として軍務経験のある受刑者を急遽、釈放して戦力にしている。
クリエイティブな戦い方といえば、極めつけはウクライナ軍がロシア軍パイロットに呼び掛けている懸賞金だ。航空機であれば100万ドル、ヘリコプターであれば50万ドルの懸賞金を渡すので投降を呼びかけているのだ。懸賞金目当てで機体ごとパイロットが投稿すれば、ロシア軍にこちらの犠牲なしで実質的なダメージを与えられるという、合理的でユニークな発想だ。ウクライナ国防省が作った動画には連絡先の電話番号もある。さて、ホットラインが鳴ることはあるだろうか。
立ち上がった「普通の人々」
SNSや報道にではウクライナのごく普通の人たちが戦いに加わっていることが伝えられている。「自分の孫のために戦う」と入隊を希望しに来た80歳のおじいさん、火炎瓶作りに精を出す車椅子の人たち、銃を手に取ったバレリーナ、戦うため、子供に別れを告げる夫婦。侵攻後の混乱の中で出会い結婚したカップル、立ち上がる女性たち。写真に映る彼ら、彼女らからは強さと弱さがない混ぜになったようなものがにじみ出る。勇気、覚悟、忍耐と同時にどこか、ごく普通の人たちが持つ柔らかい気持ち、いたわりや優しさのようなものを隠しきれていないところに、この戦いの不条理と非情さがある。
軍人だけではなく、ごく普通の一般市民たちが銃を取り、火炎瓶を作り、自分がやれることをやり抵抗しようとしているウクライナ。そのウクライナは一時期、アジアの大国に停戦の仲介を期待したことがあった。中国だ。しかし、その期待は最初から裏切られていたのであった。
●岸田首相「暴挙を強く非難」 ウクライナ侵攻受け「3文書」改定など訴え 3/13
岸田文雄首相は13日、自民党大会の総裁演説で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について「今われわれがこうして集まっている瞬間もウクライナでは罪のない市民、将来のある子供たちがロシアの侵略によって尊い命を落としている。力による一方的な現状変更によって主権と領土の一体性を犯すロシアの暴挙を強く非難する」と述べた。
首相は「ロシアの暴挙」への対応として、外交・安全保障政策の根幹となる国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の戦略3文書改定や日米同盟強化など防衛力を強化する考えを示した。ロシアが国連の常任理事国で拒否権を持つため、ウクライナに全面侵攻したロシアに対する非難決議の採択が困難である点を踏まえ、国連や安全保障理事会の改革実現にも意欲を示した。 

 

●「国民の恐怖を煽ってヒーローに」プーチン氏の狙いは?  3/14
ロシア軍のウクライナ侵攻から約2週間が経ったが、攻撃は激化の一途をたどっている。6日、今回の侵攻について、イギリス国防省は「ロシアは1999年にチェチェンで、2016年にシリアで同様の戦術を取った」と発表。第2次チェチェン紛争と状況が似ていると指摘した。
1999年に撮影されたチェチェン共和国の首都・グロズヌイの映像を見てみる。映像には、破壊された市内に残り、ロシア軍に抵抗する兵士と市民の様子が映っている。
当時、チェチェン共和国の独立をめぐり、独立阻止のために侵攻してきたロシア軍。ロシア軍は人道回廊を設置したものの、都市を無差別に攻撃し、市民に多数の犠牲を強いて降伏させる戦術を取った。その後、ロシアは親ロシア政権をチェチェン共和国に樹立させた。
第2次チェチェン紛争と今回のウクライナ侵攻、一体どのような類似点があるのだろうか。ニュース番組『ABEMA Prime』では、当時現地を取材したジャーナリスト・常岡浩介氏と共にウクライナ侵攻の今後の展開を考えた。
両戦争の類似点について、常岡氏は「戦争の始まり方」に言及。「ウクライナはロシアとヨーロッパ、どちらの同盟につくのか、国論も二分していた。チェチェンもほとんど同じ状況だ。ソ連が崩壊したタイミングで、国内で『ロシア連邦に残留したい勢力』と『独立したい勢力』があった。独立派が優勢になって94年に第1次紛争が起こり、ここでは独立派が勝った。第2次のタイミングで、モスクワで連続爆破事件があり、ロシアは『テロの背後に独立派の大統領マスハドフがいる』と言って翌日に攻め込んできた。今回のウクライナでは『東部で独立紛争が起こっていて、そこで虐殺が起こっている。親ロシア派の住民を助ける』という名目で攻め込んできた。何らかの理由を使って攻め込んでいるが、親ロシア派の地域で虐殺が起こっているという実態はない。デマだ」と述べた。
さらに、常岡氏によると、当時モスクワで起こった連続爆破事件は「ロシアの諜報機関FSBによる偽旗作戦の疑いが濃厚だ」という。「リトビネンコというFSB諜報機関の中佐、のちに毒殺されたが、この人が暴露している」と明かした。
ひろゆき氏も「ロシアは(第2次チェチェン紛争とウクライナ侵攻で)まったく同じ作戦をとっている。同じことをやって、同じ結果になりつつある話だ」と同意。「チェチェンも人口100万人くらいの共和国だが、一説によると(第2次チェチェン紛争で)20万人以上が亡くなっていて、国民の5分の1が殺されている。同じようなことがすでにウクライナのマウリポリでも起きて、病院が爆撃されたり、普通に住宅街が爆撃されたりと、映像で出ている。まったく同じ作戦をやっているようにしか見えない」と指摘した。
第2次チェチェン紛争時、指揮をとっていたのが当時のプーチン首相だ。プーチン氏は翌2000年に大統領になったが、紛争時の功績が大統領につながったと考えていいのだろうか。常岡氏は「プーチン氏は国民の恐怖を煽ってその恐怖を解決する、ヒーローのような指導者という自分をプロデュースすることに成功した」と見解を述べる。
「プーチン氏はまず首相代行になり、首相、大統領代行になって、その後大統領になった。首相代行という形で世間に出てきたときには支持率が2%、最大でも5%しかなかったと言われている。その状況で、いたるところでチェチェンのテロと称するものが何度も起こり、ロシアの市民がチェチェンのテロに対する恐怖心に囚われた。それをうまく利用したというよりも、それ自体が偽旗作戦だったと思う」
ここで、ひろゆき氏は常岡氏に「チェチェンも民衆はずっと対抗し続けた。結果、多くの人が亡くなる事態になって、親ロシア政権を立てることで戦争をやめた。ウクライナも4000万人にうち1000万人くらい亡くなったら、さすがにもう音を上げると思うが、本当にロシアはそこまでやるのだろうか」と質問。
常岡氏は「4000万人と100万人では攻撃の規模が違う」とした上で、「第2次チェチェン紛争並みにウクライナが戦う可能性は高い」と答える。
「1000万人死ぬことはないにしても、ウクライナもチェチェンも我々が知っている戦争の前から400年間、ずっとゲリラ戦が50年ごとに続いている。ウクライナも第2次世界大戦では最大の人的被害、何百万人が殺された。あるいはスターリンの飢餓作戦と言われてる『ホロドモール』によって、餓死させられた経験もある。大戦の中、スターリンに抵抗してゲリラ戦をやり、ヒトラーが占領したら今度はヒトラーに対してゲリラ戦をやり、ものすごい犠牲を出した。それでも抵抗をし続けた。今のウクライナのお年寄りはそれをやっていた人たちだ。まったくその記憶が過去のものになっていない。今回たくさん殺されたら諦めるのかというと、少なくともチェチェン並みに戦う可能性は高いと思う」
多数の犠牲者が出る前に、戦争をやめることはできないのだろうか。常岡氏は「チェチェンの人たちと話していると、昔の日本軍みたいな感じがある」という。「やたら『これは美しいでしょ』という言い方を挟む。美学を優先して、自分たちが死ぬ前提の話ばかりする。『死んだら君たちは負けるじゃないか』というが、『我々が死んでも子どもが戦うから』という言い方をする。実際400年、何度もロシアあるいは昔のペルシア帝国、トルコとも争っているが、勝てていない」と指摘した。
また、今回のウクライナ侵攻における人道回廊が「本当に人道的なのか」という質問について、常岡氏は「本当にそう思う」と同意。
「第2次チェチェン紛争では包囲された後、投降したチェチェンの独立派はだいたい投獄され、数年のうちに獄中で拷問などで不審死した。あとは脱出した人たちがどこに脱出するかで、例えばジョージアに脱出した人で、ジョージアからロシアに引き渡された人もいた。引き渡された人は、その後死んだ。ヨーロッパもチェチェン人を引き渡すかどうかかなり揉めて、結局はほとんど引き渡してないようだが、捕まったら投降していても、武器を捨てていても、いずれは暗殺という形で死んでいくとみんな知っている」
今回のウクライナ侵攻で再び注目を集めている第2次チェチェン紛争。歴史的な経緯を学ぶことで、見えてくるものがあるかもしれない。
●ロシア人の隣国フィンランドへの出国相次ぐ  3/14
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、欧米各国がロシアからの航空便の受け入れを停止する中、ロシア人たちが陸路で、隣国のフィンランドに次々と出国しています。
フィンランドの首都、ヘルシンキの中央駅には、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクからの長距離列車「アレグロ号」が、1日2回到着しています。
この路線を運営する鉄道会社によりますと、今月に入ってからロシア人の利用客が大幅に増え、定員およそ350人の列車はほぼ満席の状況が続いているということです。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が影響しているとみていて、今後、列車を増便する計画だとしています。
ロシア人の利用客のうち、デザイン関係の仕事をしているという男性は「出国が難しくなったり、不可能になったりするリスクがあるので、出国を早めた」と話していました。
海外で暮らしていて去年12月からロシア国内の家族のもとを訪れていたという男性は「来月まで滞在する予定だったが、さまざまなデジタルサービスが停止し、銀行のカードも使えなくなった。インターネットがつながらなくなると仕事もできなくなるので、出国することにした」と話していました。
エネルギー関連のビジネスに携わっているという女性は「欧米による制裁が強化される中、このままではビジネスが成り立たないため、トルコに行って仕事を続けようと考えている」と話していました。
一方で、ロシア人の利用客からは、今後世界でロシア人が差別されるのではないかという不安の声が聞かれたほか、ロシア政府による言論統制が強まっている中で、取材を拒む人も目立ちました。
●米中高官、14日にローマで会談 ウクライナ情勢協議 3/14
米中両政府は13日、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員が14日にローマで会談すると発表した。サリバン氏はウクライナ侵攻を続けるロシアへの支援を停止するよう求める見通しだ。
米国家安全保障会議(NSC)は声明で「両国の競争を管理するための取り組みを話し合い、ロシアが引き起こしたウクライナとの戦争が地域や世界の安全保障に与える影響を議論する」と説明した。会談について「米中間の開かれた対話ルートを維持するための取り組みの一環だ」とも強調した。
中国外務省は中米関係や関心を共有する国際と地域問題について意見交換すると発表した。
サリバン氏と楊氏が会談するのは2021年10月上旬以来、5カ月ぶりとなる。当時は11月中旬に開いた米中首脳のオンライン協議を調整していた。
サリバン氏は13日、NBCテレビのインタビューで、中国はロシアへの経済支援を通じて米欧によるロシアへの経済制裁の打撃を和らげるべきではないと訴えた。「中国も他のいかなる者もロシアの損失を補えないようにしていく」と言明した。ロシアへの支援策を講じた場合には中国への制裁を辞さない構えを見せた。
ロシアは米国がウクライナとの生物兵器の開発に関わっていると主張し、米国は真っ向から否定している。米国は中国がロシアの偽情報を支持して広めていると批判しており、サリバン氏が会談で立場を問いただす公算が大きい。
ロシアがウクライナによる生物・化学兵器の開発をでっち上げて、それを口実にウクライナに対して同兵器を使う恐れがあると米国は懸念している。
●ウクライナ情勢めぐり 林外相 トルコとUAE訪問へ  3/14
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、林外務大臣は今週末からトルコとUAE=アラブ首長国連邦を訪問し、政府要人らと会談する方向で調整を進めていて、停戦に向けた外交交渉での連携やエネルギーの安定供給をめぐって意見を交わしたい考えです。
政府関係者によりますと、林外務大臣は国会日程などとの折り合いがつけば、今週末からトルコとUAE=アラブ首長国連邦を訪問し、両国の政府要人らと会談する方向で調整を進めています。
トルコはNATO=北大西洋条約機構に加盟する一方、ロシアともつながりが強いとされ、今月10日に行われたロシアとウクライナ両国の外相会談でも仲介役を担いました。
林大臣としては、ウクライナ情勢の最新情報を共有するとともに、今後の停戦に向けた外交交渉での連携を図りたい考えです。
また、UAEは、中東やアフリカなどの産油国が加盟するOPEC=石油輸出国機構とロシアなどとの間の枠組み「OPECプラス」に加わっている一方、今月、国連総会で採択されたロシアの軍事侵攻を非難する決議に賛成していて、エネルギーの安定供給をめぐって意見を交わすことにしています。
●ロシア軍銃撃でアメリカ人ジャーナリスト死亡 米複数メディア  3/14
アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズなどはウクライナ当局の話として首都キエフの近郊で取材中だったアメリカ人のジャーナリストがロシア軍に銃撃され死亡したと伝えました。
ニューヨーク・タイムズなどアメリカの複数のメディアは13日、ウクライナ当局の話としてウクライナで取材中だったアメリカ人のジャーナリストで映像作家のブレント・ルノーさんがロシア軍に銃撃され死亡したと伝えました。
ルノーさんはウクライナの首都キエフの中心部から西に20キロほどの街、イルピンで取材中だったということで、ほかにもけがをしたジャーナリストがいるということですが詳しい状況はわかっていません。
ルノーさんは50歳で、過去に、ニューヨーク・タイムズなどアメリカの主要メディアの報道にも貢献したことがあるということです。
また、2014年には、兄とともに制作したアメリカ中西部のシカゴの学校についてのドキュメンタリーで、世界の優れたテレビ番組などを表彰する国際的な賞、「ジョージ・フォスター・ピーボディー賞」を受賞したこともあるということです。
ニューヨーク・タイムズは「我々は深く悲しんでいる。ルノーさんは才能のある映像作家だった」とコメントしています。
兄のクレイグ・ルノーさんはNHKの取材に対し「彼はロシア兵に殺された。首を銃撃された。防弾チョッキを着ていたが、防げなかった。キエフから避難している人たちを撮影していた。彼は自分が伝えようとしていた人たちのことを気にかけていた。私たちは悲しみにうちひしがれている」とコメントしています。
ウクライナの首都キエフの近郊でアメリカ人のジャーナリストがロシア軍に銃撃され死亡したと伝えられたことについて、ユネスコ=国連教育科学文化機関のアズレ事務局長は13日、「ジャーナリストは紛争中に情報を提供する重要な役割を担っており、決して標的にされてはならない。ジャーナリストとメディアで働く人たちが確実に保護されるよう、国際的な人道基準を尊重するよう求める」という声明を発表しました。
また、世界のジャーナリストの権利を守る活動をしている「国境なき記者団」も13日、「深く心を痛めている。この攻撃がどのような状況で行われたのか明らかにするよう求める。ジャーナリストが戦闘の標的にされてはならない」とSNSで非難しました。
●ウクライナ情勢緊迫化の中、日本はサーバー設置国をどう公表するのか 3/14
ロシア軍によるウクライナ侵攻が続く中、通信インフラも攻撃の対象になっている。こうした中で、日本では2022年3月4日、インターネットのユーザーに関する情報の保護強化などを盛り込んだ電気通信事業法の改正案が閣議決定された。
検索サイトやSNSを運営する企業が利用者の閲覧履歴を広告会社など外部に提供する際に、通知や公表を求める。日本国内の利用者が1000万人以上の携帯電話事業者、SNS、検索サイトの事業者などが対象となる。同法の改正をめぐっては、ネット広告のあり方だけでなく、サーバーの設置国の公表をめぐる議論にも注目したい。
2021年3月、LINEの中国の関連企業のスタッフが、ユーザーの個人情報にアクセスできる状態だったことが発覚。同年4月、総務省などがLINEに行政指導した。この問題を受け、総務省はユーザーの情報を保存するサーバーをどの国に設置しているかを、事業者に公表するよう義務付ける案を打ち出した。しかし、この案に対しては経済界からの強い反発があり、総務省はサーバー設置国について、どのような方法で公表するかを、いまのところ明確にしていない。同省は今後、経済界との議論を経て、公表のあり方を決める方針だ。
国際情勢が緊迫する中で、さまざまなユーザーの情報が保存されるサーバーの安全をどう確保するか。安全保障の視点も含めた議論は避けられない状況にある。
ロシア軍は、2月24日にウクライナへの侵攻を開始すると、ウクライナ国内の重要インフラ施設を次々に攻撃した。原子力発電所が占拠され、3月1日には、首都キエフのテレビ塔が攻撃された。3月2日のNHKの報道によれば、ロシア国防省は「情報作戦の拠点を攻撃する」との声明を出している。ロシア側からと見られる大規模なサイバー攻撃や、アノニマスなどのハッカー集団によるロシアに対するサイバー攻撃に注目が集まっているが、インターネットの通信インフラもロシア軍の攻撃対象に含まれているはずだ。
IT企業がサーバーの設置国を公表する案をめぐる議論は、2021年12月にさかのぼる。「電気通信事業ガバナンス検討会」の事務局を務める総務省が『電気通信事業ガバナンスの在り方と実施すべき措置』という資料を公表した。この資料の中に、ユーザーの情報を保存するサーバーの所在国や、業務を委託した第三者の所在国の明記が触れられている。しかし、この案について、さまざまな経済団体から反発の声が上がった。新経済連盟は、2021年12月28日に公表した『電気通信事業法改正の方向性に対する懸念点』という文書で、次のように指摘した。
「『社会的法益』『国家的法益』のためであれば、国名の公表に意味はあるのか?」総務省の方針に反発した団体の中には在日米国商工会議所も含まれる。この団体は、日本に支社や事業所を置く米国の企業などが加盟し、グーグルやアマゾンなどのIT大手も会員になっている。この団体は所在国の明記について次のように指摘している。
「扱うデータの中身に関わらずサーバーの所在国を明記させるルールは国際的にも極めて異例。データ流通に関する考え方を同じくする関係国と高リスク国が同じ扱いで、これまでの国際連携の方向性と整合せず」 ・・・
●ポーランド ウクライナからの避難者 167万人あまりに  3/14
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴って隣国のポーランドには、ウクライナ各地から子ども連れの女性や高齢者が避難してきていて、ポーランド内務省によりますと、12日だけでおよそ7万9800人が入国し、避難者の累計は167万人あまりに上っています。
この中には、ロシア軍が激しい攻撃を行っている地域や都市から逃れてきた人もいます。
南部の都市ミコライフから3日かけて避難してきたという女性は「ミコライフを出るのに2日間かかった。ロシア軍に囲まれていてすごく怖かった」と話していました。
また、現地に残っている夫によると、ロシア軍はまだ街なかには侵攻していないものの「学校や病院への攻撃が行われていて、市民の犠牲も出ている。13日朝も同じような攻撃があった」ということです。
首都キエフ郊外のブチャから2日前に逃れてきたという女性は「最初の2週間はずっと地下に避難していた。ガスも水も電気もなかった」とした上で「ブチャは、ロシア軍に完全に掌握された状態で破壊が進んでいて、白旗を掲げながら逃げてきた。途中で狙撃される家族もいたが、私たちはなんとか逃れることができた」と話していました。
ウクライナ南部のへルソン出身で、一時的に避難していた港湾都市オデッサから逃れてきたという女性は「海上からの射撃音がたまに聞こえたが、街なかでは、激しい攻撃は行われていなかった」と話していました。
ただ、現地に残る家族によると「ヘルソンを統治するのはロシア側に変わってしまった。街なかで狙撃されることもある」ということです。
ウクライナからの多くの避難者が列車やバスで到着しているポーランド南東部の町、プシェミシルの中心部にあるキリスト教会の教会では13日、日曜日のミサが行われました。
ミサでは、ウクライナから避難してきた女性や子どもたちが、地元の人とともに聖書を読み上げるなどして、戦闘の終結を祈っていました。
西部のリビウから2人の子どもと一緒に逃れてきたという女性は「ウクライナのことを思って祈りました。早く戦闘が終わり、多くの命が救われてほしいです」と話していました。
また、娘とともにウクライナ西部から数日かけて避難してきたという女性は「避難する前は何度もシェルターに隠れました。ウクライナに平和が訪れるよう祈りました」と話していました。
●ロシア情報機関に異変か 「誤算」で幹部軟禁、内部告発も― 3/14
ウクライナ侵攻後、ロシアのプーチン大統領が在籍した旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関、連邦保安局(FSB)内部で異変が生じているもようだ。プーチン氏にウクライナ情勢を報告する立場にあったFSB幹部が自宅軟禁されたとの見方が浮上。事実なら、戦況が思うように進まない「誤算」の責任を取らされた可能性が高い。
「侵攻から2週間。プーチン氏は第5局に対する弾圧を始めた」。ロシア独立系メディアは12日、FSBに情報筋を持つ著名記者2人の話を基に伝えた。
「第5局」は主に国内を担当するFSBの対外情報部門の通称。ソ連崩壊に伴うKGB解体で、対外情報局(SVR)などと分かれたが、第5局は旧ソ連構成国をロシアの勢力圏にとどめる役割を担ってきたとされる。
独立系メディアは「第5局は侵攻に先立ち、プーチン氏にウクライナの政治状況を報告する任務にあった。第5局はリーダー(プーチン氏)を怒らせることを恐れ、聞き心地のいいことだけを報告したもようだ」と分析している。
事実、ロシア軍はウクライナで「電撃戦」どころか苦戦を強いられている。東部での紛争と8年間も向き合ってきたウクライナ兵の士気は高く、住民も各地でロシア軍への抗議デモを繰り広げている。こうした想定し得るシナリオが、事前にプーチン氏の耳に届かなかった可能性もある。
米情報機関は8日、ロシア軍の推定死者数を「最大4000人」と公表。中央情報局(CIA)のバーンズ長官は「プーチン氏はいら立ち、怒っている」と証言している。
このほか、FSBの「内部告発」とされる文書がインターネット上に流出。真偽は不明だが、英紙タイムズが7日に紹介した。「勝利の選択肢はなく、敗北のみだ」と暴露。仮にウクライナを占領したとしても、統治に50万人以上の要員が必要だと指摘した。また「前世紀初めを100%繰り返している」とし、日露戦争の敗北にもなぞらえた。
プーチン政権は一枚岩とされながら「不協和音」もささやかれている。侵攻3日前の2月21日の安全保障会議で、SVRのナルイシキン長官が、ウクライナ東部の独立承認を求めるプーチン氏への返答に窮する場面がテレビで放映された。
●ロシア、中国に軍事支援要請か ウクライナ侵攻巡り 3/14
ロシアがウクライナ侵攻を進めるため中国に武器供与などの軍事支援を要請していたことが13日、分かった。複数の米欧メディアが米政府当局者の話として報じた。中国の反応は明らかになっていないが、中国が支援に回ればロシアの進軍が勢いづく可能性がある。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、ロシアはウクライナ侵攻の開始後に軍事・経済支援を求めた。侵攻が計画通りに進まず、米欧による大規模な経済制裁を科されて中国に支援を訴えた可能性がある。米政府当局者はロシアが中国に求めた支援の詳細について説明を拒んだとしている。
中国はこれまで公の場で軍事支援の可能性を否定している。
ロシアのプーチン大統領は2月上旬、北京冬季五輪の開幕に合わせて北京を訪問し、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談した。会談後に発表した共同声明で「中ロの新型の国際関係は冷戦期の軍事・政治同盟を超えている」と明記し、軍事や経済を含めて多面的に関係を深めていく考えを示した。
習氏は3月8日、ドイツやフランスの首脳とのオンライン協議で米欧によるロシアへの経済制裁に反対を表明した。「緊迫した情勢がエスカレートし、暴走することを避けるのが急務だ」とも指摘し、欧州側とウクライナ情勢をめぐり話し合いを続ける方針を示した。米国では中国が過度にロシアへ肩入れすることを避けるとの見方がある。
●チェコ、ウクライナに追加の軍事支援表明 スロバキアも検討 3/14
チェコ政府は13日、ロシアが軍事侵攻したウクライナに対して追加の軍事支援を行うと表明した。隣国スロバキアも防空システムを送ることを検討すると明らかにした。
チェコの防衛相、Jana Cernochova氏はテレビ番組討論会で、チェコは既に、ウクライナ向けに7億2500万クローナ(3155万ドル)相当の軍事支援を行ったと述べ、「(追加支援は)少なくともその倍の水準になる」と語った。チェコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国。
安全保障上の懸念から詳細は明らかにしなかった。チェコ政府は先月、ウクライナに機関銃や自動小銃、弾薬などを供給したと明らかにしている。
ロシア軍は13日、ポーランドとの国境付近にあるウクライナ西部の軍事施設を空爆した。地元当局者が13日明かした。約30発のミサイルが発射され、少なくとも35人が死亡、134人が負傷したとしている。
米ホワイトハウスによると、バイデン大統領は12日、ウクライナからの要請を踏まえ、同国への武器支援強化で最大2億ドルの予算支出を承認した。
オースティン米国防長官は3月16日に開かれたブリュッセルでのNATO会議出席後、スロバキアを訪問する予定。スロバキアもポーランド同様にNATO加盟国でウクライナと国境を接している。
スロバキアのヘゲル首相は13日、同国が保有するソ連製の防空システム「S300」をウクライナに送る可能性について議論する考えを示した。
●ウクライナの英雄シェフチェンコが「身勝手だ」とロシアに怒り! 3/14
ウクライナの英雄は、ロシア軍の侵攻によって深刻化し続けている母国の惨状を訴え続けている。アンドリー・シェフチェンコ氏だ。
先月24日にウラジミール・プーチン大統領が特別軍事活動を承認して以来、ウクライナへの軍事侵攻が始まったのは周知の通りだ。日々犠牲者は増えており、ロシアに対しては国際的な非難の声が上がっている。
スポーツ界でもロシアへの非難は高まり、各競技で“制裁”が強化されている。サッカー界では、FIFA(国際サッカー連盟)とUEFA(欧州サッカー連盟)が、早々に国際大会からのロシア勢の締め出しを決定した。
そうしたなかで、ウクライナへのより多くの支援を求めているのが、シェフチェンコ氏だ。かつてミランやチェルシーで活躍した往年のレジェンドは、現地時間3月13日に伊紙『Corriere Della Sera』の取材に応じ、「私が願っているのは、私の愛する人たちやウクライナの人々が救われることなんだ。争いじゃない」と訴えた。
何よりも、侵攻を推し進めるプーチン政権への怒りがこみ上げた。現在イタリアで生活するシェフチェンコ氏は、「何度も帰る術を考えたけど、無理だった。空港が爆撃されて、すべてがシャットダウンしてしまった」と吐露。そして、こう続けた。
「我々はロシア国民に対して無差別に批判をしているわけじゃない。ただ、この戦争を支持する人間たちを非難しているんだ。ロシアでも多くの人たちが戦争に反対しているのは、知っているからね。今繰り広げられているのは、紛争でもなければ、特別な作戦でもない。ロシアが身勝手に、悪意を持って仕掛けてきたことだ。これは侵略で、民間人に対する犯罪行為だ」
さらに「ロシアがこんなことをするなんて、誰も想像していなかったはずだ。こんなことはできっこないと思っていた」と本音を漏らしたシェフチェンコ氏は、同紙のインタビュアーから2004年のバロンドール受賞の思い出を問われるも、「申し訳ない。今の私の頭の中は別のところにある。全て祖国のためにあるんだ」と遮り、想いの丈を訴え続けた。
「イタリアには難民を受け入れ、虐殺に終止符を打つための解決策を見出すための、あらゆる手段を講じてほしいとお願いしたい。ウクライナ人は今起こっている苦しい悲劇に値しない。今、プーチンを止めなければ、明日には他のヨーロッパ諸国が侵略される可能性だってあるんだ」
最後には「私たちは誰も攻撃していない。ただ、自分たちと、愛する人たちを守っているだけだ」とコメントしたシェフチェンコ氏。サッカー界を代表するスーパースターの声は、攻撃の手を緩めようとしないロシア軍にどう響くだろうか。
●プーチンの独裁、スターリン化するロシア 3/14
ウクライナで勝てないことが分かるにつれ、ウラジーミル・プーチンはロシア国内での圧政に傾斜している。ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻を命じた時、ロシア帝国の栄光を取り戻すことを夢見ていた。しかし思惑通りにことは運ばず、ヨシフ・スターリンの恐怖を復活させることになった。欧州では1939年以来となる正当な理由なき猛攻撃を始めただけでなく、その結果としてロシアの独裁者に変身しつつあるからだ。過去に例のないほど嘘と暴力を多用し、パラノイア(偏執症)にとらわれている21世紀のスターリンの誕生だ。
真っ赤な嘘と非道な暴力
プーチン氏の嘘の甚だしさを理解するために、今回の戦争がどのように計画されたか考えてみよう。
大統領は、ウクライナはすぐに陥落すると思っていた。
そのため侵攻に際して自国民に心の準備をさせたり、任務に臨む兵士に覚悟をさせたりしなかった。実際、エリート層に対しては、戦争は起きないと確約していた。
戦場で悲惨な2週間が過ぎた今でも、プーチン氏はまだ、欧州では1945年以来の大戦争になるかもしれない戦闘を自分が行っていることを否定している。
そしてこの真っ赤な嘘がバレないようにするために、独立系のメディアをほぼすべて閉鎖し、ジャーナリストに対しては当局による嘘の発表をそのまま報じなければ最長15年の懲役刑が待っていると脅しをかけ、反戦デモの参加者を数千人単位で逮捕させている。
さらにロシアの国営テレビは、プーチン氏の軍事「作戦」はウクライナの非ナチス化だと主張することで、ロシアの再スターリン化を進めている。
次に、プーチン氏の暴力志向を理解するために、この戦争がどのように戦われているか見てみよう。
素早い勝利を手に入れられなかったため、ロシアはウクライナの都市を兵糧攻めにし、無差別に爆撃してパニックを引き起こそうとしている。
3月9日には東部マリウポリの産婦人科・小児科病院を攻撃した。
もしプーチン氏が、手記で褒めたたえたスラブ人の仲間に対して戦争犯罪を行っているのであれば、自国で大量殺戮を働くことも厭わないはずだ。
深刻なパラノイア
そして、プーチン氏のパラノイアの深刻さを測るには、この戦争の終わり方を想像してみるといい。
火力はロシアの方がウクライナより上だ。ロシア軍は今もまだ、特に南部で進軍を続けている。首都キエフを制圧する可能性もある。
だがそれでも、仮に戦争が数カ月間に及んだとしても、プーチン氏を勝者と見なすのは難しい。
ロシアがウクライナに新しい政府を作ることに成功すると仮定してみよう。
ウクライナ国民は侵略者に対して団結している。プーチン氏の傀儡政権は占領なしでは国を支配できないが、ロシアの資金力や兵員では、ウクライナの半分を占領することすらおぼつかない。
米国陸軍のドクトリンによれば、反乱――ウクライナの場合は北大西洋条約機構(NATO)の後押しを受けた反乱になる――を抑え込むためには、人口1000人当たり20〜25人の兵士が必要になる。
ロシアには4人強しかいない。
クレムリンは、プーチン氏がウクライナに傀儡政権を樹立しない(力不足で樹立できないため)というシグナルを発し始めたようにも思える。
その場合、同氏はウクライナとの和平交渉で譲歩せざるを得なくなる。
しかし、そのような合意がなされても、実行に移すのに苦労するだろう。とどのつまり、和平後のウクライナが再び西側にすり寄り始めたら、プーチン氏はどうするのか。また侵攻するのだろうか。
ロシアにもたらした破滅
ウクライナを攻撃することでプーチン氏は壊滅的な失策を犯したという真実が、理解されつつある。
まず、手強いとされたロシア軍の評判が崩れ去り、小規模で装備も劣るが士気の高い相手に対して、戦術的に劣ることを露呈した。
ロシア側は大量の装備を失い、数千もの人的損害を出している。2週間で出した犠牲者は、米国が2003年の侵攻以来イラクで失った兵士の累計に迫る。
プーチン氏は壊滅的な制裁を自国にもたらした。
中央銀行は、自国の銀行システムを支えたり通貨ルーブルを安定させたりするのに必要なハードカレンシー(交換可能通貨)にアクセスできなくなった。
家具大手イケアや米コカ・コーラなど、開放性の象徴であるブランドは事業を閉鎖した。配給制になった品物もある。
西側の輸出業者は生産に欠かせない部品の出荷を見合わせ、工場が操業休止に追い込まれている。
エネルギーへの制裁――今のところは内容が限定的――は、ロシアの輸入代金決済に必要な外貨の流入を抑制する恐れがある。
そして、かつてスターリンがやったように、プーチン氏はロシア近代化の大きな原動力であるブルジョアジーを破壊している。
こうした資本家階級はグラーグ(強制労働収容所)に送り込まれる代わりに、トルコのイスタンブールやアルメニアのエレバンといった都市へ逃げている。
ロシアに留まることを選んだ人々は、言論や集会の自由の制限によって黙らされている。今後は高インフレや経済の混乱によって打ちのめされる。
彼らはほんの2週間で自分の国を失ってしまった。
スターリンとは似て非なる指導者
スターリンは経済が成長する土地に君臨した。いかに残忍であったとしても、本物のイデオロギーを頼りにした。
非道な行為に手を染めながらも、ソビエトという帝国をまとめ上げた。
ナチスドイツに攻撃された後には、自分の国の信じられないほど大きな犠牲に救われた。ソ連はほかのどんな国よりも、戦争に勝つために多大な努力をした。
プーチン氏にはこうした強みが一つもない。好んで始めた戦争に勝てず、国民を疲弊させているだけではなく、政権にはイデオロギーの中核がない。
「プーチン主義」なるものはあるが、あれはナショナリズムとオーソドックスな宗教を混ぜ合わせただけのテレビ受け狙いの代物だ。
11のタイムゾーンにまたがるロシアの各地域ではすでに、あれはモスクワの戦争だとする不満が漏れている。
プーチン氏が犯した失敗の規模が明らかになるにつれ、ロシアは今回の紛争で最も危険な局面を迎える。
体制内部の派閥が互いに反目し、責任をなすりあうようになる。クーデターを恐れるプーチン氏は誰も信じず、権力保持のために戦わざるを得なくなるかもしれない。
さらに、化学兵器や核攻撃をも使ってウクライナの敵を脅し、西側のウクライナ支援者を追い払うことで戦争の形勢を変えようとする可能性もある。
行く手の危険を抑制するためにすべきこと
世界は状況を見守りつつ、将来の危険の抑制を目指すべきだ。真実を育むことでプーチン氏の嘘を暴かなければならない。
西側のハイテク企業がロシア事業を閉鎖するのは誤りだ。情報の流れをプーチン政権に完全に掌握させることになってしまうからだ。
また、ウクライナからの難民を受け入れている国の政府は、ロシアからの移住者も受け入れるべきだ。
NATOはウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ政権に武器を供給し続け、大統領が真剣な交渉に入る時が来たと判断した場合には同氏を支えることによって、プーチン氏の暴力を――少なくともウクライナでは――抑えることに一役買える。
また、世界経済に負担を負わせることになるとしても、より素早く大規模なエネルギー制裁を推し進めることで、プーチン氏への圧力を強めることもできるだろう。
そして、西側はプーチン氏のパラノイアの封じ込めを試みることもできる。NATOは、先制攻撃を受けない限りロシア軍に発砲しないと明言すべきだ。
飛行禁止区域は設定してはならない。設定すれば軍事力の行使が必要になり、ロシアに戦線拡大の理由を与えてしまう。
ロシアの新政権を西側がいくら熱望するとしても、体制転換を直接企てないと明言しなければならない。解放はロシア国民自身の仕事だ。
世界を味方につけるウクライナ大統領
ロシアが沈むなか、隣国の大統領との対比が際立っている。
プーチン氏は孤立し、道徳的にはまさに死に体だ。片やゼレンスキー氏は勇敢な「普通の人」で、国民や世界各地から支持を集めている。
ゼレンスキー氏はプーチン氏に対するアンチテーゼだ。そして、ひょっとしたら歯が立たない強敵なのかもしれない。
「21世紀のスターリン」から解放された時に、ロシアがどんな国になるか考えてみるといい。
●ロシア敗北の予兆 時代錯誤すぎるプーチンの言論統制 3/14
ペテルブルク大学の学生が「戦争反対」デモに参加、身柄を拘束されると、直ちに学籍が剥奪されるという事態が起き、ショックを受けているというメールを学生からもらいました。私の身近で起きたこの出来事から「敗色濃厚なロシア」が見えてきます。
大学は人種のるつぼ
連日ロシアのウクライナ侵攻、いわゆる「ウクライナ戦争」の情勢が伝えられますが、日本国内ではあまり身近に感じることは少ないかもしれません。
いや、そうでもないエリアもあります。
例えば東京都港区西麻布にある駐日ウクライナ大使館や、同じく港区麻布台の駐日ロシア大使館近くでは、両国の国籍を持つ人や、日本を含む第三国民による「戦争反対」のデモンストレーションなども見られます。
それらとちょっと違う、国際的な環境にあるのが「大学」です。
日本各地の大学に様々な国の留学生が在籍している。ここ四半世紀、私が教えてきた東京大学にもロシア、ウクライナ両国国籍を持つ学生や関係者は存在しています。
ウクライナ系米国人で日本に帰化した学生などという複雑な経緯を辿った若者もいます。ちなみにその彼は優秀なシステム・エンジニアで博士号を取得するタイミングにあたっています。
こうした様々な当事者が多様なリスクを懸念・・・というか不安に思っています。
例えばロシア人学生が、言われなくヘイトされたり暴力を振るわれたりするのではないかと心配して、部屋を出ることを控えている。
ロシア料理店への嫌がらせなども報道されている通りです。
別段「ロシア人」すべてが、ウクライナを占領しようと思っているわけではありません。
むしろ国内ではプーチン政権の侵攻策に疑問、ないし批判的な意見も決して少なくありません。
ウラジーミル・プーチン以下、ワレリー・ゲラシモフ参謀総長、セルゲイ・ショイグ国防相などの戦争指導部の作戦行動には、少なくないロシア国民が実は疑問を持っているようです。
ところがそんなロシア政府が「大本営」化し、戦時中の日本同様「特高警察」が言論封殺を進めているという情報が、大学間ネットワークを通じて入ってきました。
例えば冒頭に触れたペテルブルク大学の学生は、反戦デモに加わって身柄を拘束されると、学籍を剥奪されてしまった。日ロ各国籍の友人たちを含めショックを受けています。
国民にウソを流し始め、反論を封殺するというのは、戦争指導部が劣勢を自覚し始めた何より雄弁な証拠とも解釈できます。
プーチン政権はいったいロシア国民に、何を強要しているのか?
ジャーナリズム凍結、暗黒のスターリニズム
ロシアでは、国軍の活動に関する「偽情報」を報道したものを拘束し、懲役刑に処することができるようになりました。
対象はロシア国民に限られず、外国人ジャーナリストも含まれ「深刻な影響」を与えた場合、最長15年の間、閉じ込めておくことができる。
つまり、欧米や日本を含む各国のジャーナリストが「こちらモスクワです。反戦デモが・・・」などと報道すると「やらせのニセ情報を報道した」と身柄を拘束され「深刻な影響」が出たと判決を下されたら15年、ロシアの牢獄に「合法的に」放り込まれてしまう。
それが「プーチンのロシア」の現実です。
すでに各国は、記者が身柄拘束されないよう、報道の停止を決定、ロシア国内のリベラル系ラジオやテレビ局も閉鎖され、完全に「戦時下」報道規制の状況に陥ってしまった、
これはまた、かつてソビエト連邦時代末期、ミハイル・ゴルバチョフ書記長が推進したグラスノスチ=「情報公開」改革(1986〜) 以前のソビエト=ロシアへの逆戻りを意味します。
グラスノスチが急速に進んだのは、周知のとおり、1986年4月にウクライナで発生したチェルノブイリ原発事故の賜でした。
放射能漏れや核の灰の沈降は、現場管理責任者にとって都合の良い場所にだけに限られません。
すでに動脈硬化の末期症状を呈していた1980年代ソ連官僚制下では、少しでも責任を問われそうな事態はすべて隠蔽され、ゴルバチョフ指導部には何の情報も入って来なかった。
そこで、古くはスターリン体制下から続いた言論・出版・結社・集会・報道などの検閲が廃止され、ロシアはほぼ70年ぶりに自由な報道体制が敷かれることになった。
そうした「ペレストロイカ」の成果をすべて否定して成立しているのが、現在のプーチン政権の実態ということになります。
この1987年、プーチンは1952年生まれですから当時35歳、75年にレニングラード大学(と改称されていたペテルブルク大学)を卒業してKGBの対外情報部員となって12年、検閲時代ロシアで「情報手法」を身に着けた諜報中佐として辣腕を発揮していたわけです。
「戦争」と言ってはいけない
端的な話、モスクワやペテルブルグでは今回の「ウクライナ戦争」を「戦争(война)」と呼ぶことが許されていません。
「今回の戦争は・・・」と発言しているのをスパイに見つかると「軍事に関わる偽情報」を流したとして当局に身柄を拘束、悪質と見なされると(何をどう悪質と見なすかは政権の匙加減次第、完全に恣意的)「懲役15年」。
本稿冒頭に示したペテルブルク大学の学生は、おそらく「戦争反対」程度の発言しかしていません。
「あれは、ウクライナ勢力圏にあるロシア人に対して、西側軍事力を背景とする<ネオナチ>ゼレンスキー一派がジェノサイド(大量虐殺)を行っているので、それを救うべく特殊軍事行動を行っているのだ」
これがプーチン政権のが「正しい」軍事情報で、それ以外はすべて「偽情報」である。悪質な偽情報を流した者は長期の懲役刑もありうる・・・。
こういう当局の恫喝で、言いたいことが何も言えなくなっている。
さらに、大学人として懸念するのはペテルブルク大学の「偽情報学生」に対する「除籍」措置。
これがどのように決定されたか、そのプロセスを察するに、非常に不健康なものを感じずにはいられません。
ペテルブルク大学、正確にはサンクトペテルブルク大学は「戦争反対デモに関わった学生」を即刻除籍処分としました。
この大学は、ほかならずプーチンやドミトリー・メドベージェフ(元大統領・元首相)も学んだなどという程度の大学ではありません。
ロシア革命の父ウラディーミル・レーニンの母校で、帝政期から数学者のレオンハルト・オイラー、作家のニコライ・ゴーゴリ、条件反射で有名なイワン・パブロフ(第4回ノーベル医学生理学賞受賞)、白血球の機能を解明したイリヤ・メチニコフ(第8回ノーベル医学生理学賞受賞)、確率論数理の基本であるマルコフ連鎖のアンドレイ・マルコフらが教壇に立ち、作家のイワン・ツルゲーネフ、物理学者のレフ・ランダウ(1962年ノーベル物理学賞)、米国に亡命し経済数理の実証分析を確立したワシリー・レオンチェフ(1973年ノーベル経済学賞)・・・。
とても書き切れない俊才を生み出してきた。
帝政期、ソ連、冷戦後ロシアを通じて、トップを輩出してきた名門中の名門大学「でも」あります。
しかしです。
これと同時に、スターリン体制下の1940年代後半、「反革命」「資本主義的堕落」あるいは「反ユダヤ」粛清が激化、「レニングラード事件」の舞台の一つともされて教授らが獄死、ユダヤ人受験生の合格者枠制限といった、それこそ「ホロコースト」的差別措置も講じられ、これはペレストロイカで廃止されるまで残ったとされます。
ペテルブルク大学の「反戦学生」除籍措置は、プーチン政権の圧力による側面のほか、大学当局内にそうした体質が残っていた可能性も考えられます。
しかし、私が最も恐れるのは、影響の拡大を嫌って「反戦学生」は大学と無関係ですよ、とトカゲのシッポ切りで逃げた、無責任体質の可能性です。
対岸の火事ではないロシアの粛学
いま国際社会からの経済制裁が進行中のロシアでは、今後とてつもなく酷い国内状況の劣悪化が容易に想像されます。
そうした中での「ウクライナ戦争」ロシアの「言論統制」「粛学」。
下手に長期化すると、かつてソ連をボロボロにしたミチューリン農法やルイセンコ遺伝学のように、サイエンスをも歪めてしまう懸念があり、心配です。
またウクライナ戦争そのものの勝敗のいかんにかかわらず、ロシア国内では様々な社会経済へのダメージは避けられません。
そこから派生しうる新たな地域紛争の懸念。ロシアはチェチェン、南オセチアなどを筆頭に地政的リスクオンパレードの国土です。
しかしプーチン政権の歪んだ言論弾圧は、あらゆるリスクに対して合理的な対処に著しくマイナスに働くでしょう。
例えば原発攻撃に付随して放射能漏れなどがあっても、西側が検知するまでロシア内部では隠蔽される懸念がある。
これはすでにゴルバチョフがウクライナで経験済みの事態です。
同様の「臭いものに蓋」は歴史を振り返っても日本にとって決して対岸の火事ではない。二流三流が権力を握って正当な成果を歪めてしまう。
国民から思想、信条の自由を奪うと、合理的な科学的対策を講じることができなくなります。そのような戦争指導部がどのような末路を辿るかは、多くの事例が示している通りです。
畏友、佐藤優氏などは今回の戦争、ロシアの勝利を予言しています。
しかし、露骨な言論統制や「粛学」は、ウクライナ戦争とプーチン政権の末路を示している。
「敗色濃厚」
プーチンの皮算用に入っていないSNSなどを通じてロシア現地から入ってくる情報は声なき声でメッセージを伝えています。
●ロシアの政権瓦解は確実? 戦況次第ではクーデターの可能性も 3/14
暴走を続けるプーチン大統領に対し、ロシア国内でも“異変”が起きているという。今後、クーデターが起こる可能性などについて専門家に聞いてみると――。
「外敵を異様におそれ」、「病的な外国への猜疑心」「潜在的な征服欲」「火器への異常信仰」を持つ――司馬遼太郎は著書『ロシアについて』の中で、かの国の根底にある精神をこう特徴づけた。これはそのままプーチンの深層心理にも重なるところがありそうだ。
その彼の犯した罪については現在、国際刑事裁判所(ICC)が捜査を開始している。ロシア軍がウクライナで行う無差別攻撃が、戦争犯罪や人道に対する罪に当たるというものだ。イギリスなど加盟国39カ国の付託によって開始されたが、当のロシアはICCに加盟していないため、実効性は保証できない。しかし、確実にプーチンへの包囲網は狭まっているようで、
「現在、ロシアでは、千人規模のデモが頻発している。これは既に異常事態です」と述べるのは、元産経新聞モスクワ支局長で大和大学教授の佐々木正明氏である。
「ロシアでは許可なく大規模集会を開いたり、デモを行ったりすること自体が禁止されています。プーチンは取り締まりを激化させていて、『NO WAR』というプラカードを持っただけの5歳の子どもまで拘束し、親から親権を奪おうとしている。それでもデモの波は止まないのです」
30代後半以上にとっては「救世主」
しかも、その参加者の顔ぶれに“変化”の兆しが見えるのだという。
「プーチンの岩盤支持層は、30代後半以上でソ連崩壊以前を知り、国営メディアで情報を得、ウクライナの今を知らない人たち。彼らにとってみれば、崩壊前後の苦しい時代を体験しているため、再びロシアを豊かにしてくれたプーチンは『救世主』なのです。しかし、今回のデモを見ていると、そうした人たちまで顔を出し始めている。ロシア人はウクライナ人に対して同族意識が強く、血縁者も多い。ロシア正教の聖地でもあり、乱暴な言い方をすれば、モスクワにとってのキエフは、東京から見た京都のような位置付けです。そこを爆撃するとなれば、プーチン支持者からも嘆きと怒りの反応が一気に噴き出すでしょう」(同)
実際、オリガルヒと言われる新興財閥も公然と侵攻を批判し始めたのは報道されている通り。
「ソ連崩壊以来、30年経ってロシア社会に地殻変動が起きつつある」(同)
反対派によるクーデターの可能性
さらに、SWIFT排除に続き、諸外国は続々と経済制裁を進めている。
となれば、今後、戦況や経済状況の悪化によっては、プーチンがロシア国民から排除される日が来るのか。
独裁者の末路といえば、ルーマニアのチャウシェスク大統領の例が有名だ。チャウシェスクは1989年、民主化を求めた人民の暴動とそれに同調した軍部が反旗を翻したことに慄(おのの)き、宮殿から逃亡。捕えられ、公開の場で銃殺された。
「可能性は非常に低いですが、もしあるとすれば、この軍事作戦が完全に失敗し、ウクライナからの全面撤退というような事態に追い込まれた場合でしょう」
と述べるのは、元防衛大学校教授で、国際問題研究家の瀧澤一郎氏である。
「その場合も国民の蜂起というよりは、クレムリン内部の反対派によるクーデターになるのではないでしょうか。そうなれば、クレムリンを数十万の民衆が取り囲むような光景が現出するかもしれません」
政権が瓦解に向かっていくのは確実
一方、「チャウシェスクになるかはともかく、今回の戦争がプーチンにとって、“終わりの始まり”となるのは間違いないでしょう」とユーラシア21研究所の吹浦忠正理事長は語るのである。
「尊敬を集めない権力が潰れていくのは、世界史が教えるところです。いくら上から押さえつけようとしても、『シロビキ』と呼ばれる軍や警察、情報機関の関係者がサボタージュを起こせばそれもかなわなくなる。かつてのソ連が崩壊したように、権力、統治能力が次第に低下し、やがて政権が瓦解へと向かっていくのは確実なのではないでしょうか」
プーチンが取った選択はやはり破滅への道。
“最狂の皇帝”自壊の末路を、我々はいま目撃しているのかもしれない。 
●ウクライナ戦争に投入されるシリア人義勇兵の正体とは 3/14
ロシアはウクライナ侵略でシリア人傭兵部隊を投入するなど、戦争は一段と複雑な様相を見せ始めた。この裏では、プーチン・ロシア大統領の私兵軍団とも呼ばれる民間警備会社「ワグネル」の暗躍が取り沙汰されているが、外国人傭兵の参戦は「ロシア軍の損害が予想以上に甚大である証拠」との見方が強い。
報酬3000ドルで募集
米紙ワシントン・ポストなどによると、プーチン氏は3月11日のショイグ国防相とのオンライン会談で、義勇兵をウクライナに送り込むことを承認した。同氏は「手弁当でウクライナ東部ドンバス地方の(ロシア系)住民を助けたいという人々がいる。彼らを戦闘地域に移動させなければならない」と述べる一方で、ウクライナが国際法を侵犯し、公然と外国人傭兵を募っていると非難した。
国防相によると、世界中から多くの義勇兵が「ウクライナ自由運動」に合流したいとして、ロシア当局に申請書を提出しており、その人数はこれまでに1万6000人以上に達しているという。ほとんどが中東からの人々だ。一方でプーチン氏が非難するウクライナ側の義勇兵は52カ国から約2万人。米国防総省は彼らを「国際軍団」と呼んでいる。
そもそもシリア人義勇兵とは何者なのか。中東専門誌などによると、SNSを中心に「ウクライナでの戦闘任務に熟練の戦闘員を募集」という徴募の広告が出回っており、報酬は約3000ドル。この報酬が一時金なのか、1カ月の給料なのかは不明だが、戦闘員個人の戦闘経験と専門性、熟練度によって異なるという。
広告の一部はシリア軍の最強、最大の「第4機甲師団」の兵士に向けられたものとされ、義勇兵の構成はシリア正規軍の兵士や親アサド・シリア政権の民兵が中心と見られている。応募を希望する戦闘員は氏名や携帯番号などの連絡先、専門とする戦闘任務を記すようになっている。
内戦で経済が壊滅状態のシリアでは軍の将兵への給与も滞っており、彼らにとって3000ドルというのは大金だ。義勇兵とは言うものの、その実態はカネ目当ての傭兵で、ウクライナ軍と戦う大義などはない。中東専門誌によると、ロシア国防省はウクライナに向かうシリア人部隊と見られる動画を公表している。
「ワグネル」の正体
ロシア軍の意向を受けて徴募を担当しているのは事実上、軍の別働部隊と言われている「ワグネル」とされる。ウクライナ戦争でのロシア軍兵士の戦死者は4000人を超えていると伝えられているが、「義勇兵はこの戦死者の穴を埋めるための補充であり、ロシア兵の損害を最小限にするための政策。ロシア軍の侵攻作戦がうまくいっていない証拠だ」(ベイルートの専門家)との見方が強い。
ウクライナの首都キエフに迫るロシア軍は今後、待ち構えるウクライナ軍との間で激しい市街戦を想定していると見られている。市街戦では民間人の死傷者の急増が懸念されているが、シリア人傭兵部隊は市街戦の前線に投入され、民間人の殺りくをも辞さない作戦に投じられる可能性が高い。汚れ役≠フ役割を担わされるということだ。
「ワグネル」の実態は謎に包まれている。情報を総合すると、同組織の創設者は元ロシア軍兵士のドミトリー・ウトキン氏。2016年12月、クレムリンの式典でプーチン大統領と一緒にいるところを目撃されている。同氏はナチのタトゥーを入れているとされる。「ワグネル」という名称もヒトラーが好んだドイツの作曲家ワーグナーにちなむものという。
現在の実際の経営者はロシアの実業家のエフゲニー・プリゴジン氏。プーチン大統領に近く、16年の米大統領選への干渉容疑で、米国内で起訴されているいわくつきの人物だ。今回のウクライナ侵略でも、その強大なネットワークを使って欧米向けに偽情報を流し続けているとされる。
「ワグネル」は14年のクリミア併合でロシア軍の先兵として浮上、その後のウクライナ東部ドネツク州などでの戦闘に参戦していたと伝えられており、今回のウクライナ侵略でも重要な役割を果たしていると見られている。
ワシントンの専門機関などによると、「ワグネル」は16年以降、28カ国に活動の足跡を残しているが、うち18カ国はアフリカだ。シリアやリビア内戦でも、その存在が取り沙汰されてきた。同社はリビア内戦では、数百人規模のシリア人傭兵を送り込んだ。
しかし、「ワグネル」の実態は不明の部分が多い。英作家フレデリック・フォーサイスの小説『戦争の犬たち』を彷彿させるような活動をしていると言われるが、18年に中央アフリカでの暗躍ぶりを取材していたジャーナリストが何者かに殺害されたり、シリア内戦の活動を伝えたロシア人記者が自宅のアパートから転落死するなど、不可解な出来事も起きている。
アサド政権に打撃
しかし、シリアのアサド大統領にとっては、最強の正規軍から傭兵として数千人の兵士が引き抜かれるのは極めて危険だ。内戦は膠着状態にあるが、シリア北西部イドリブ県は依然、「シリア解放委員会」などの反体制派が支配しており、正規軍が弱体化した機会に乗じて、彼らが一気に攻勢に出る可能性があるからだ。
アサド政権はロシアの軍事力で政権を維持してきたが、正規軍の力がそがれた上、駐留していたロシア軍がウクライナに回るようなことになれば、反体制派との戦力バランスが崩れかねない。だが、だからと言って兵士の徴募というロシアの意向には反対できないのが実情だろう。
ウクライナ戦争は政治的な面でもアサド大統領にとっては大きなマイナスだ。シリアは内戦でスンニ派イスラム教徒を弾圧したなどとしてアラブ連盟から除名された。しかし、最近になって一部のペルシャ湾岸諸国と関係改善、アラブ世界への復帰も見え始めていた。ウクライナ戦争はこうした動きに水をさしかねない。ロシアに逆らえない大統領は大きなジレンマに直面した格好だ。
●「戦争なんかダメ!」ウクライナ戦争で田中眞紀子が動き出した 3/14
「何なのよこれは! いったい何がどうしてこうなっちゃったの 戦争なんかしちゃ、絶対にダメっ!」2月24日、ロシア軍のウクライナ侵攻を知った田中眞紀子は、身体を震わせて怒り、立ち上がってこう叫んだという。
この日から、元外務大臣・田中眞紀子は一気に走り出した。思いつく限りの政界、財界、文化人、あらゆる著名人へ電話をかけ、ウクライナへの支援態勢を呼びかけたのだ。
眞紀子氏は即座に動いた
「眞紀子さんが連絡をしたのは、建築家の安藤忠雄氏、ヴァイオリニストの前橋汀子氏、前・文化庁長官の宮田亮平氏、元ウクライナ大使の坂田東一氏など、さまざまな分野の人です。IT企業CEOや、かつて親交があった政治家たちなどにも連絡して、すでに多くの賛同者が集まっていると聞いています」(呼びかけに応じた財界人)
侵攻から週が明けての2月28日には、夫の田中直紀・元防衛大臣とともに港区西麻布にあるウクライナ大使館を訪問した。田中夫妻と、セルギー·コルスンスキー在日ウクライナ全権大使との面会は1時間以上に及んだという。眞紀子氏は深刻な事態を憂慮していると語り、
「民間の方々から義援金を募って、ウクライナの方々にお届けしたいと思っています。それ以外にも、出来ることがあればなんでも、相談してください」と、熱い連帯を伝えた。
眞紀子氏の呼びかけに応えた有志によって「みらいウクライナ難民支援基金」(仮称)という募金活動を開始すると、大使に告げた。
岸田政権が「遅すぎる!」
コルスンスキー大使はこのとき「林芳正外相との面会が果たせていない」と訴えた。このことで、眞紀子氏の怒りは岸田文雄首相にも向かったようだ。
「岸田政権は何をやっているの。どっちつかずの煮え切らない答弁ばかりして。ウクライナや、サポートするポーランドが、ロシアがいつ攻めてくるのか怖くて怖くてたまらない毎日を過ごしている気持ちがわかっていないんじゃないの? 岸田政権の対応は、遅いったらありゃしない!」
ウクライナ国民に心を寄せた眞紀子氏。そして連帯する隣国に比べ、我が国の対応が遅いことに、元外相として許せない気持ちだったに違いない。
このことについて、防衛省キャリアは、言葉を選びながらこう危機感を語った。
「そう遠くないうちに、首都キエフは陥落することになってしまうのではないでしょうか。世界秩序の大きな転換点を迎える、非常事態だと考えています。しかし国際世論の反発もあり、ロシアはウクライナを完全には統治できないと思われます。その結果、ウクライナ新政権は、反政府勢力との泥沼の内戦となり、緊迫したストレスフルな状況が長期化することになる。そのことを懸念しています」
開戦から半月。ここにきてやっと、プーチン大統領の理屈がまかり通るような世界であってはならない、と岸田首相周辺の語気が荒くなった。
「岸田首相は、徹底的に経済制裁を発動していきます。制裁の最終段階は、欧米とともに日本も、ロシア産原油と天然ガス取引の全面停止措置をとるでしょう。ただ、そこに至るまでには1〜2年かかる。エネルギー資源がない日本にとって、極めて難しい決断を迫られることになる」(官邸スタッフ)
今も強力な発信力をもつ眞紀子パワーに集まる期待
政府の動きが鈍い。ならばこそ、田中眞紀子が動くウクライナ人道支援は賞賛に値するし、大きな期待が集まってもいる。この組織がいつ本格稼働するのか正式な発表はまだない。しかし、田中眞紀子の発信力は、「引退」後の今も、現役政治家をはるかに凌駕するキレと強さがある。
2012年の総選挙で落選し、そのまま政界引退してちょうど10年。しかしこの間、「田中眞紀子待望論」は常にあったのだ。
「待望されてもね、政界復帰なんて考えていないわよ。『ローマの休日』じゃないけど、やっと『老婆の休日』がとれるようになったんだから。政界の伏魔殿は、もうこりごりなんだから」
周囲にはこう語っているという眞紀子氏だが、その存在感はやはり圧倒的だ。
かつて、ロシアをめぐって鈴木宗男氏と激論を戦わせた田中眞紀子氏。今、この現状に「ほら、だから言った通りじゃない!」と思っているに違いない。眞紀子氏がどのような「老後」を描いていても、ロシア侵攻に対する日本の明瞭な意思表示が必要な今、眞紀子パワーに大きな期待が集まっているのかもしれない。
●ウクライナ侵略戦争で忘れ去られたロシアのドーピング疑惑 3/14
2月24日にロシアのウクライナ軍事侵略が始まって2週間以上が経過した。停戦交渉も進展がなく、心がずしんと重くなる映像、ニュースが毎日次々と報じられている。
北京オリンピックで起きた、ロシアのカミーラ・ワリエワのドーピング陽性結果が世界のトップニュースだったことが、まるではるか昔のことのようだ。
その無法国家ぶりをあらわにしたロシアに関して、今さらスポーツのドーピング違反を論じることなどもはや虚しく、無意味にすら思える。
だが改めて考えてみることにより、今のロシアの現実というものも見えてくる。
国連で採択された五輪休戦決議(北京冬季五輪の開幕7日前の1月28日からパラリンピック閉幕7日後の3月20日まで)に違反したロシアのウクライナ侵略で、IOC(国際オリンピック委員会)は各スポーツの国際連盟にロシアとベラルーシを国際大会から除外することを要請。ISU(国際スケート連盟)も、この2カ国の代表選手を期限未定で国際大会から締め出すことを決定した。
通常の場合だったなら、独裁政治の責任をアスリートに問うのは酷だという意見も出ただろう。トリノ五輪男子シングル金メダルのエフゲニー・プルシェンコや、プーチン大統領の右腕ドミトリー・ペスコフ報道官の妻で元アイスダンス・トリノ五輪金メダリストのタチアナ・ナフカなどロシアのスケート関係者たちから、この処分に対して激しい非難が寄せられた。
だが少なくともフィギュアスケートにおいては、ロシア人以外からこの処分に対する疑念の声は聞こえてこない。
侵略前に生まれていたロシアへの不信
その根本にあるのは、2月8日に発覚した15歳のカミーラ・ワリエワのドーピング陽性に伴って、ロシアのスケーターとその関係者に対する新たな不信感が生まれたことだ。
フィギュアスケート界のみならず、スポーツ界全体をゆるがした大事件だが、コーチ陣も含むロシア側の対応が、あまりにも誠意と配慮に欠けている印象を拭えなかった。
当初の管轄だったRUSADA(ロシア反ドーピング機関)は、陽性判明後にワリエワを暫定的に資格停止としたが、ワリエワ側からの異議申し立てを受け、資格停止処分を解除した。
IOC、ISU、WADA(世界反ドーピング機関)が上訴したスポーツ仲裁裁判所(CAS)は、大方の予想に反してワリエワの競技続行を許可。その理由はいくつか挙げられたが、彼女がWADAの規定で、「要保護者」とされる16歳未満であること、出場を禁じれば、仮に陽性判定が何かのミスだった場合ワリエワに取り返しのつかないダメージを与えるということが含まれていた。
だが彼女は世界中からの疑惑の目と激しい批判にさらされながら滑ることになり、フリーでは崩れに崩れて総合4位に終わった。
明らかに、CASの判断ミスだったと言うしかない。
単独のケースなのか?
世界中の人々が知りたいのは、ワリエワのドーピング陽性判定が最終的なものとすれば、誰がどのようにして彼女に違法薬物を摂取させたのかということだ。
検出された違法薬物「トリメタジジン」は心臓への血流を増やして、本来は狭心症や心筋梗塞などの治療に使用されるものだ。ロシア側は、この薬を服用していたワリエワの祖父と彼女がコップを共有したのが原因だったと弁明したが、多くの専門家はその可能性を真っ向から否定した。
その後ニューヨーク・タイムズによると、同じ検体から「ハイポキセン」と「L-カルニチン」という二つのサプリメント(こちらは違法薬物のリストに入っていない)も検出されたという。いずれも心肺能力を高め、疲労回復に対しての効果があるとされているものだ。ワリエワは日常的に、こうした総合カクテルを常用してトレーニングをしていた可能性をうかがわせた。
指導者のエテリ・トゥトベリーゼとそのコーチ陣は、生徒たちに厳格な体調管理をすることで知られる。食事はもちろん、飲料水の量まで制限してきた彼女たちが、この事実に全く関わっていないとは、考えにくい。
ここで誰もが思うのは、ではワリエワ単独の特殊なケースなのか、ということだ。
膨らんでいく疑惑
トゥトベリーゼが世の中に送り出してきたメダリストたちの名前をざっと上げると、ユリア・リプニツカヤ、エフゲニア・メドベデワ、アリーナ・ザギトワ、アリョーナ・コストロナヤ、アレクサンドラ・トゥルソワ、そして北京で新五輪女王となったアンナ・シェルバコワがいる。この過去数年間の女子の表彰台の歴史は、彼女の生徒なしでは語れない。
一体どんな魔法を使ってこうした優秀な選手を次々育てているのだろうか、と世界中の関係者はトゥトベリーゼとそのチームに一目も二目もおいていた。だがワリエワのドーピング陽性結果によって、そのトゥトベリーゼの魔法が瞬時にして解けてしまった感がある。
タチアナ・タラソワやタマラ・モスクヴィナのように人生経験を積んだ老練なコーチだったなら、自らがマスコミの矢面に立って「潔白はいずれ必ず証明される。今は選手を尊重して競技に専念させて欲しい」と選手を守る言動をとっただろう。だがトゥトベリーゼは、最初から最後まで高飛車で強気の態度を貫いた。
もう以前とは同じ目でロシアの選手を見ることができないというのは、ほとんどのフィギュアスケートファンたちの正直な気持ちではないだろうか。
ワリエワの陽性判定は、なぜ起きたのか。チームの中で、組織的なドーピング違反があったのか。
続いてきたロシアのドーピング疑惑
北京オリンピック終了後、ロシア・フィギュアスケート連盟は世界選手権にも予定通りワリエワを出場させる、と発表していた。またあの北京での騒ぎが繰り返されるのかと誰もがうんざりしていた中で、ロシアのウクライナ軍事侵略が始まった。
冒頭に書いたように、ここに来てようやくIOCは、ロシアが「五輪休戦決議」を破ったことを理由に、各スポーツ連盟に対し、ベラルーシとロシアの競技からの除外を要請したのである。
だが本来、IOCはもっと早いうちからロシアに対して厳格に対処するべきだったと批判する声も少なくない。2014年ソチオリンピックの後、内部告発により国家主導のドーピング違反があったことが判明。IOCはロシアに国家としての競技参加を禁じる処罰を与えたものの、その実態は国旗と国歌の使用を禁じただけだった。
ロシアの選手たちはOAR(オリンピック・アスリート・フロム・ロシア)、ROC(ロシア・オリンピック委員会)の代表として、平昌、東京、そして北京オリンピックに出場し続けてきた。
IOCが当初からもっとロシアに毅然と対応をしていたら、北京女子のドーピング違反騒ぎは未然に防ぐことができていたかもしれない。
国旗と国歌がなかったアルベールオリンピックから30年
筆者がフィギュアスケートの取材を始めた1992年は、ソビエト連邦が崩壊してまだ間もない頃だった。
その年の2月のフランス・アルベールビル冬季オリンピックでは、4種目中、男子、ペア、アイスダンスの3種目で旧ソ連出身(EUN)のスケーターたちが金メダルを獲得。だが表彰式では国旗の代わりに五輪旗が揚げられ、国歌の代わりにIOCの五輪賛歌が流れた。
あれから30年後の北京では、再びロシアの選手たちは国旗と国歌なしでオリンピックに参加した。だが「鉄のカーテン」を取り外して国際社会へ一歩踏み出した当時から、ロシアは再び後退、孤立化しようとしている。
国際大会の参加ができなくなった現在、ワリエワのドーピング違反の捜査は一時的に停止せざるを得ないだろう。このウクライナ侵略戦争は、いつ終わるのか。ロシアとベラルーシの選手はいつになったらISUの大会に戻ってくることが許されるのか。その場合、ワリエワのドーピング違反はどのような形で最終的な結論が出されるのか。
この先の展開が全く見えない現在の情勢だ。今はただ1日も早い停戦と、北京オリンピックで笑顔を見せていたウクライナの選手たちの無事を祈るばかりである。
●ロシアとNATO、直接衝突の危機高まるか…合同軍事基地を攻撃 3/14
ウクライナに侵攻中のロシア軍は13日、開戦後初めてポーランドとの国境地帯にある軍事基地を攻撃した。攻撃された基地は、米国などの西側の軍事顧問がウクライナ軍を訓練する場所。ウクライナ軍を支援する西欧諸国に対する措置とみられる。
ロシア軍はこの日、ウクライナ西部リビウ近郊のヤボリブ基地にミサイル攻撃と空爆を加えた。ロイター、AFPなどの外国メディアがリビウ市の当局者の話として報じた。この空爆で35人が死亡、130人以上が負傷したとされる。リビウ州のマクシム・コジツキー知事は、ロシアの戦闘機がヤボリブ基地に約30発のロケットを発射したと語った。
空爆された基地は「平和維持安保国際センター」といい、米国やカナダなどの軍事顧問がウクライナ軍を訓練する場所だ。また、同基地はウクライナ軍とNATO(北大西洋条約機構)加盟国が合同軍事演習を行う際の中心地でもある。この基地は、ウクライナ戦争が勃発して以降、難民が西側に行く際の関門となっている西部の国境の町リビウから西に40キロ離れた場所に位置し、ポーランドとの国境に近い。
この日の同基地への空爆は、ロシア軍が攻勢を西部地域の中心都市にまで本格的に拡大し、ウクライナ全域が戦場化しつつあることを示した。ロシア軍はさらに、NATO加盟国のポーランドをも軍事的に威嚇することで、ウクライナ戦争に介入する西側諸国に警告したものとみられる。
この日の空爆により外国の軍事顧問が被害を受けたかどうかは確認されていない。ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、ウクライナにいた外国軍は撤退したことが確認されている。米国は先月12日、自国の150人の軍事顧問がウクライナを離れたことを発表している。
空爆の前日の12日、米国はウクライナに対する2億ドルの追加軍事援助を発表している。これに対し、ロシアは同日、ウクライナへの西側の兵器供給をロシア軍の攻撃目標にする可能性があると警告した。約360平方キロメートルの広さを持ち、ウクライナ西部では最大の施設である同基地は、ポーランド国境から20キロ離れた場所に位置し、ウクライナに対する西側の軍事支援の経路の役割を果たしている。
ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相はオンライン声明で「ロシアがリビウに近い平和維持安保国際センターを攻撃した」とし「外国の教官たちがここで働いている。犠牲者情報は把握中」と述べた。
●元側近語る「プーチンは21年前から戦争計画」…侵攻が遅い「4つの理由」 3/14
依然としてウクライナの主要都市への攻撃を続け、強硬姿勢を崩さないプーチン大統領。そんな中、めざまし8はプーチン大統領の元側近を独自取材。すると、ウクライナの首都・キエフに対する真の狙いが見えてきました。
“キエフ制圧“への前進も…元側近「陥落はできない」
プーチン大統領の元側近 アンドレイ・イラリオノフ氏:プーチン氏は公式の場でも、非公式の場でも口癖のように、『キエフを併合するんだ』と言っていました
取材に答えたのは、プーチン大統領の元側近、アンドレイ・イラリオノフ氏。プーチン氏が大統領に就任した2000年から5年間、経済顧問を担当。政権の中枢にいた人物です。そんなイラリオノフ氏が明かしたのが…
イラリオノフ氏:プーチンは、ウクライナに対する戦争を21年前から計画していた。これはロシア部隊を打ち負かした、ウクライナ軍が得た機密文書の情報だが、実は2022年1月18日には、『ウクライナへ侵攻せよ』との命令が下されていた
以前から“ウクライナ侵攻”への計画があったというのです。
実際に現在ロシア軍は、ウクライナの首都・キエフ制圧に向けて部隊を前進させているとみられています。アメリカ国防総省の高官によると、「ロシア軍は3方向から侵攻。北西から攻めている部隊は、キエフ中心部か15km、東から攻めている部隊は20から30km地点まで迫っている」との分析結果を明らかにしました。
さらに、ロシア軍はこれまであまり攻撃をしてこなかったウクライナの西部にある軍事施設を攻撃するなど、戦闘を全域に展開。ロシア軍が攻撃したのはリビウ近郊にある軍事施設で、ミサイル30発以上が打ち込まれ、少なくとも35人が死亡、134人が負傷。西部にあるリビウは、東部からの避難者が集まるほか、物資供給の拠点にもなっており、攻撃が激しくなれば混乱が拡大する可能性があります。
また、アメリカの政策研究機関によると、ロシア軍は8日から10日にかけて、キエフを包囲するための攻撃に失敗し、11日から新たな作戦に向けた準備を進めるため、補給や部隊の再編成を行っているとしています。
また、イギリス国防省が明かしたのは。「ロシアが『燃料気化爆弾』の使用認める」という内容です。
ロシアが、ウクライナで「燃料気化爆弾」の使用を認めたとツイッター投稿で発表しました。通常兵器に用いる高性能爆薬よりはるかに威力が大きく、高い殺傷能力を持つ燃料気化爆弾。その使用は、民間人などを戦闘から保護する目的で作られた「ジュネーブ条約」で禁止されています。
禁じ手すら使ったとすれば、その背景にはなにがあるのでしょうか。プーチン大統領の元側近、イラリオノフ氏が語ったのは…
イラリオノフ氏:今回の軍事行動は、プーチンが考えていた計画通りには、いっていない。元々2週間と考えていたくらいだ。私はロシアがキエフを陥落することはできないと思う。ウクライナ人は絶対に諦めないからだ
ウクライナ侵攻遅れ…専門家指摘「4つの理由」
1つ目は、「ロシア軍連携不足」。アメリカ国防総省高官によると、ロシア軍は「地上部隊と航空部隊の連携不足が目立つ」と発言しています。航空部隊の支援がないままに地上侵攻し、反対に攻撃を受けてしまうということです。ではこの連携不足はなぜ起こるのでしょうか。筑波大学の中村逸郎教授によると、「無線機器が古すぎて指示が伝わらない」「無線を傍受されて、敵にも情報が伝わってしまう」ことが、連携不足に繋がっているといいます。
そして、2つ目は「ウクライナ軍の戦術」。ウクライナ軍は“最新兵器”を駆使して、“ヒット&ラン作戦”というものを行っています。具体的には、最新兵器なので軽くて運びやすく、自分たちはすぐに攻撃をして、すぐに待避することが出来ます。これには実は“高層ビルが多く、広いところがない”といったウクライナの街というのも非常に影響しています。そういった意味で、ロシア軍としてはゲリラ戦に近いものに非常に苦しめられているという分析を中村教授はしています。
3つ目は「民間軍事組織の参戦」によるもの。民間軍事組織というのは、軍人たちで形成されている会社のようなものです。スパイなどを研究している東京工科大学の落合浩太郎教授によると、国家が軍事経験者を雇い、1日最大で2000ドル(約23万円)の報酬を出すケースがあるそうです。具体的な行動内容としては、「最前線で戦闘」「一般市民を救出」「ウクライナ軍への武器の指導」が挙げられます。
さらに、4つ目は「ロシア軍の誤算」。ウクライナの土壌は「黒土」と呼ばれていて、水分を含むと粘土質になります。そうなると、戦車の運行の妨げになるというのです。軍事ジャーナリストの井上和彦氏によると、戦いがロシア側の予想より長引き、雪解けが始まり、地面がぬかるんでしまったので、戦車なども思うように進みづらい状況になったといいます。
実際、ウクライナの平均気温は例年よりも5℃〜6℃暖かくなったことで、雪解けの時期が前に来てしまった可能性があります。戦闘の終結は、依然見通せていません。
●IDC、ロシア・ウクライナ戦争がICT市場において「技術需要の変動」 3/14
IDC Japan株式会社は、ロシア・ウクライナ戦争が世界のICT市場に与える影響についてのレポートを発表した。
ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う外交的・経済的対応は、欧州と世界にとって重大な転換点につながっている。情報通信技術(ICT)市場は、この紛争だけでなく、米国、欧州連合(EU)、その他の国々がロシアに課した経済制裁やその他の措置の影響も受けている。IDCが発表したレポートでは、危機が世界中のICT支出およびテクノロジー市場にどのような影響を与えるかを評価している。
「変化を続ける地政学的シナリオが、今後数か月から数年の間に世界のICT需要に影響を与える可能性があることは間違いありません。IDCのユーザー調査である「IDC Global CIO Quick Pulse Survey」では、回答者の半数以上が2022年の技術支出計画の見直しを行っており、回答者の10%はICT投資計画の大幅な変更を予定しています」とIDC European Customer Insights & AnalysisのアソシエイトリサーチディレクターであるAndrea Siviero氏は述べている。
IDCは、ロシアとウクライナにおけるICT支出の急激な減少と回復の鈍化を予測しているが、この減少の世界的な影響はやや限定的だという。両国のICT支出額を合わせても、欧州の5.5%、世界全体の1%にすぎない。同時に、この危機が貿易、サプライチェーン、資本フロー、エネルギー価格に与える影響は、より広範な規模で世界経済に波及する可能性がある。これらの結果には、次のことが含まれる。
技術需要の変動 / ロシア経済が西側諸国による制裁の早期影響を受けている間、紛争によってウクライナでの事業活動は停止している。これによって、2022年に現地市場需要が2桁縮小し、両国の技術支出は強い影響を受ける。一方、西欧諸国の技術支出は、防衛と安全保障の配分の拡大によって一部増加する可能性がある。
エネルギー価格とインフレ圧力 / ウクライナの紛争を巡る緊張は、特に価格指数へのカスケード効果がすでに感じられている特定の欧州諸国にとって、エネルギー価格と供給の安全の両方に広範な影響を及ぼす。ほとんどの国は、炭素ベースのエネルギー源への依存を減らす努力を加速しながら、短期的なエネルギー計画を迅速に再評価する必要がある。
スキルとインフラストラクチャの再配置 / 100社以上のグローバル企業がウクライナに子会社を設立し、さらに多くの企業がロシアで事業を展開している。この紛争によって、すでにウクライナで何万人もの開発者が避難を余儀なくされ、両国の一部のサービスが移転している。ウクライナの子会社とロシアでの事業展開の関係は、こうしたグローバル企業が有する物理的資産と人員だけでなく、将来の拡張計画と共に、紛争に照らして再評価する必要があるとしている。
現金と信用 / これまでの金融制裁は、ロシアにおける外国の信用の確保に深刻な課題を提示する一方で、EU諸国がロシアに発行した融資に対する潜在的な損失を生み出している。新たな融資を得ることができなければ、ほとんどの組織は近い将来に新しい技術投資を停止せざるを得ないとIDCは考えている。同国はまた、深刻な現金不足に苦しんでおり、消費者支出に大きな影響を与えている。
サプライチェーン・ダイナミクス / ロシアへの完成品や技術部品の輸出は制裁の影響を大きく受けるが、市場規模を考えると欧米企業への影響は比較的小さくなる。特にチップ製造に使用されるネオンガス、パラジウム、C4F6(ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン)の供給が大幅に削減される半導体部門では、ロシアとウクライナからのハイテク材料の輸入も影響を受ける。また、物流がこれらの国を迂回することでコストが増大し、紛争は世界的なサプライチェーンをさらに混乱させると予測している。
為替レートの変動 / ロシアの通貨は、最初の制裁に応じて価値が急落し、IT機器やサービスの輸入が大幅に高価になった。その結果、多くの企業は、支払いが可能であっても、ロシアへの出荷を拒否している。これはまた、ロシアのPC、サーバー、通信機器のメーカーが業務を継続できなくなることを意味する。地政学的緊張は、ユーロを含む地域全体の他の通貨にも影響を与えている。
上記の現状に加えて、株式市場の大幅な変動や市場投機、サイバー攻撃のリスクと、より広範なサイバー戦争の可能性、ロシアとウクライナ両方のスタートアップ環境の混乱、これらの状況に対処する新しいビジネスの創造と科学面での協調など、短期的および長期的な影響が予測される。
「紛争の流動的な性質を考えると、IDCは、企業がバリューチェーンエコシステムの弱いリンクを特定し、アジャイルなサプライチェーン戦略を策定し、さまざまな破壊的な市場の動きを予測し、対応することを可能にする行動計画の作成を推奨しています」とIDC Worldwide Thought Leadership ResearchのグループバイスプレジデントであるPhilip Carter氏は述べている。
●機会よりも危機…中国「第2のロシアではない」 3/14
「中国は西側の強力な対応とウクライナ国民の猛烈な抵抗に驚いて不安に陥った」。米国中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ局長の分析だ。8日、下院公聴会でウクライナ侵攻後のロシア状況を見つめる北京の危機感を指摘した。
侵攻17日目だった12日、元環球時報編集者の胡錫進氏はSNSに「中国の対米・対西方政策が『ロシア化』してはいけない」と書いた。中国は第2のロシアではないとの趣旨で「友(ロシア)を守り、(米国・西側への)敵対感を解き、自分がすべきことをやらなくてはならない」という解決法を提示した。
台湾奪取を狙う中国にロシアのウクライナ侵攻は反面教師だ。ウクライナ戦争は米国が参戦していない点だけが中国にとって機会要因である以外は危機要因一色だ。湖西(ホソ)大学のチョン・ガリム教授は台湾が第2のウクライナになる可能性は低いとし、その理由を4つ挙げた。
第一に、中国は1989年天安門流血鎮圧以降、国際制裁の威力を体験済みだ。2000年以降、エネルギーの輸出で急浮上したロシアとは違い、改革開放によって成長した中国は制裁に脆弱だ。第二に、軍事力の側面で戦争経験や新武器開発能力においてどれもロシアに及ばない。第三に、政治的要因だ。中国内部の視線を台湾統一路方向に集めなけばならないほど最高指導者には政敵はおらず、政治的モメンタムが弱い。1958年金門島砲撃戦は毛沢東の政治的危機時点と重なる。第四に、軽率な武力使用は米国が主導する中国包囲網に正当性を与えることになりかねない。
台湾海峡戦争はすでに始まっている?
内部の計算とは違い、中国のレトリックは険しくなる傾向だ。5日、中国の李克強首相は今年の政府業務報告を朗読して「確実かつ敏捷に軍事闘争を展開しなければならない」とした。中国の「軍事闘争」はロシアの「特別軍事行動」と一脈相通じる表現だ。解放軍が台湾で取る軍事行動だと香港明報が9日、指摘した。「軍事闘争」は昨年11月、中国共産党(中空)の第3の歴史決議で初めて登場した。「『台湾独立』分裂行為は震えるほど恐ろしいことだと思わせろ」とし、銃口の方向を明確にした。
李首相はまた「新時代の党の台湾問題解決に向けて総体的方略を貫徹しなければならない」とし「両岸同胞は民族復興の輝かしい偉業に心を一つにして成し遂げなければならない」と要求した。「総体的方略」も第3の歴史決議に登場した用語だ。台湾統一のためのマスタープランが近々出てくるという予告ともいえる。
台湾は敏感に反応した。12日、台湾の蔡英文総統は防弾ヘルメットと防弾チョッキを着用して台北郊外周辺の林口実弾射撃場を視察した。新たに導入した予備軍の14日動員訓練実態を点検した。「ウクライナ状況は国家を守るために国際連帯・支援の他にも全国民の団結が必要だという事実を再度証明した」とした。
蔡総統の発言は『歴史の終わり』の著者、スタンフォード大学のフランシス・フクヤマ教授がウクライナ国民と違って台湾人の抵抗意志の低下が懸念されるという発言が背景だ。フクヤマ教授は先月27日、あるフォーラムに台湾の徴兵制廃止を懸念して「台湾は米国が助けるだろうと期待はしないほうがいい」と付け加えた。蔡総統は中国の心理戦を警告している。先月25日、「台湾海峡という自然要塞と地政学と戦略的地位を持っている台湾はウクライナとは違う」とし「中国の認知戦(Cognitive warfare)防御を強化し、外部勢力と内部協力者がウクライナ非常事態を利用してパニックを作り出すためにフェイク情報を操作して台湾社会の民心と士気に影響を及ぼすことができないように手を打たなくてはならない」と話した。
中国、統一戦線・認知戦の強化か
ウクライナ指導者と国民が見せた激烈な抵抗とロシアの電撃戦失敗を目撃した中国は軍事行動よりも統一戦線と宣伝強化に注力する公算が大きい。台湾は昨年の国防白書で「中空はグレーゾーンの威嚇で、戦争のない台湾奪還を企てるだろう」と警告した。グレーゾーン戦術の一つでとして内部を混乱させて抵抗意志を弱めるための認知戦を4つの形態に分けてみた。
中国の官営メディアを使った海外宣伝モデル、コメント部隊を動員したピンクモデル、特定コンテンツや記事を農場で作物を育てるようにまき散らす農場モデル、現地協力者を抱き込んで利用する協力モデルの4つだ。台北大学の沈伯洋教授は2020年台湾総統選挙当時のインターネットとSNSを分析して実証的に証明した。
統一戦線もアップグレードした。チョン・ガリム教授は「伝統的に中国は辺境の少数民族地域に漢族を大挙移住させて掌握する方式に長けている」とし、人口を使った伝統戦術を指摘した。香港の中国化には1997年返還当時649万人だった人口が中国人の移住で760万人以上急増し、香港のアイデンティティが変わったことを踏まえ、これを台湾に適用する可能性があると分析している。
台湾海峡危機が韓半島(朝鮮半島)に及ぼす影響はどうか。韓国軍事問題研究院のユン・ソクチュン客員研究委員(元海軍大佐)は「台湾海峡でもし軍事衝突が起きた場合、韓半島に火の粉が飛び散る可能性は北朝鮮次第」とし「北朝鮮は6・25当時、米国第7艦隊学習効果で1958年金門島砲撃戦と1996年台湾海峡ミサイル危機当時に挑発を自制した先例がある」と話した。
●西部で大規模攻撃…「敵対する外国からの雇い兵と大量の武器を壊滅」  3/14
ロシア軍は13日、ウクライナ西部リビウ州にある軍訓練施設「国際平和維持・安全センター」に大規模な攻撃を加えた。州政府によると、ミサイル約30発が撃ち込まれ、少なくとも35人が死亡、134人が負傷した。各地での無差別的な攻撃も続いている。
ロイター通信などによると、センターでは米軍など外国の要員が、ロシアの侵攻開始前までウクライナ軍の訓練を行い、供与した兵器も残されていたという。
ロシア側は13日、「ロシア兵に敵対する外国からの雇い兵と大量の武器を壊滅させた」とセンターへの攻撃を認め、志願兵への攻撃を続けると主張した。欧州諸国などからはウクライナ軍を支援する志願兵が入国を始めており、西部での攻撃を強める可能性がある。
センターはポーランド国境から約20キロ・メートルに位置する。米国防総省のジョン・カービー報道官は13日、米ABCニュースで、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドにも攻撃が及んだ場合の対応を巡り、「米国は東欧に部隊を移し、NATO加盟国の領土の隅々まで防衛できるようにしている」と述べ、ロシアを強くけん制した。
ウクライナ西部の中心都市リビウでも緊張が高まっている。市内で取材を続ける外国人記者らによると、13日早朝、郊外から複数の爆撃音が響いたという。リビウを経由して国外に避難する市民も多く、西部で攻撃が拡大すれば影響が懸念される。
ウクライナ国営通信などによると、東部ドネツク州では13日、戦闘地域からの避難者を乗せた列車が攻撃を受け、乗務員1人が死亡した。露軍に包囲されている南東部マリウポリの市議会は13日、侵攻以降の住民の死者数が2187人に上ったと発表した。
●ロシア軍、ウクライナ沖封鎖か 英国防省 3/14
英国防省は13日、ロシア海軍が黒海のウクライナ沖合を封鎖したことを明らかにした。これによってウクライナは、海運を通じた外国との貿易から切り離されることになる。
同省はツイッターへの投稿で、ロシア海軍が引き続きウクライナ国内の標的にミサイル攻撃を加えていると指摘。数週間以内に海からの上陸作戦に踏み切る可能性もあると予想した。
●チェチェン独裁者、ウクライナ入り ロシア軍に同行、降伏促す 3/14
ロシア南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は14日、通信アプリ「テレグラム」を通じ、自身がロシア軍と共にウクライナ入りしたと明らかにした。ロシア軍が侵攻初期に制圧した首都キエフ近郊の飛行場にいるというが、主張が正しいかどうかは確認されていない。
カディロフ氏はアプリに、軍服姿で兵士らとテーブルを囲む様子の動画を投稿。「キエフのナチスどもよ。われわれは先日、おまえたちまで約20キロの地点にいたが、今はさらに近づいている」と書き込むとともに、降伏しなければ「おまえたちは終わりだ」と警告した。カディロフ氏の部隊は、チェチェンで数多くの人権侵害に携わったとして、国際的に非難されている。
●ロシアが中国に軍事・経済援助要請か 3/14
ウクライナ侵攻開始から18日目の13日、ウクライナとポーランドの国境に近い、西部の軍事訓練施設にロシア軍の巡航ミサイルが次々撃ち込まれ、少なくとも35人が死亡し、134人が負傷した。この施設は北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドへの中継地点となっている。同日には英米の複数メディアが、ロシアは中国に軍事・経済支援を要請していると伝えた。
ロシアは中国に支援要請か
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)と米紙ニューヨーク・タイムズは、ロシアが中国に軍事・経済支援を求めていると伝えた。
FTによると、ロシア政府はウクライナで使う軍事機材の提供を中国に求めた。匿名の複数米政府筋の話として、ロシアはウクライナ侵攻開始からずっと中国に支援を要請しているとFTは伝えた。米政府筋は、ロシアがどのような機材を求めているかは明らかにしなかったという。さらに同紙は、中国が支援提供に向けて準備している可能性もあると伝えた。
これとは別にニューヨーク・タイムズは、米政府筋の話として、ロシアが経済制裁の打撃を緩和するため、中国に経済支援を要請していると伝えた。
米ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は14日にもローマを訪れ、楊潔篪(ヤン・チエチー)中国共産党中央政治局委員と会談する予定。サリヴァン氏は13日、米NBCニュースに対して、「中国だろうと誰だろうと」ロシアの経済損失の穴埋めをできないよう、アメリカが対応すると話した。
ロシアが中国に軍事支援を要請したという報道について、ロイター通信によると、在ワシントン中国大使館の劉鵬宇(リュウ・ペンギュウ)報道官は、「ウクライナの状況には確かに当惑している」とした上で、「いま最優先されるのは、緊迫した状況のエスカレーションを、あるいは状況が制御不能になるのを、防ぐことだ」と述べた。
米国務省出身で米外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏はツイッターで、「プーチンが習に軍事援助を求めていると報道されている。応じれば、中国自身が制裁対象になり、国際社会から疎外されてしまう。断れば、欧米と少なくとも限定的な協力関係を築ける可能性が維持される。習にとって、中国にとって、そして21世紀にとって、決定的な瞬間になる」と書いた。
ポーランド国境近くへ砲撃
ウクライナによると、ロシア軍はポーランド国境に近い西部ヤヴォリウにある軍事訓練施設にミサイルを30発ほど撃ち込んだ。
ロシアは後に、外国の傭兵と武器を標的にした攻撃だと認めた。
BBCが検証した、オンラインに投稿された攻撃後の様子をとらえた動画には、現場に巨大なクレーターができ、近くの建物では火災が発生して煙が立ち上っているのが確認できる。
「夜空が赤く染まった」と、複数の目撃者はBBCに証言した。この攻撃は、これまで平和だった西部地域にまもなく紛争が拡大するのではないかという恐怖を引き起こした。
ポーランドは、アメリカが主導する軍事同盟NATOの加盟国。
こうした中、ウクライナとロシアの交渉担当者は、停戦をめぐる交渉でこれまでで最も進展があったとの認識を示した。詳細は明らかにしなかった。
マリウポリでの民間人避難、「時間切れ」の懸念も
ロシア軍に包囲され、人道回廊による民間人の避難が進んでいない南東部マリウポリの当局者によると、これまでに住民2100人以上が死亡した。赤十字国際委員会(ICRC)は住民を救える「時間切れになりつつある」としている。
ICRCのペーター・マウラー総裁は、「我々は、戦闘に関与する全ての当事者に対し、人道的必須事項を最優先するよう求める」と述べた。
「マリウポリの人々は数週間にわたり生きるか死ぬかの悪夢に耐えてきた。これを今すぐ終わらせる必要がある。住民の身の安全、そして食料や水、シェルターへのアクセスが保証されなくてはならない」
ICRCは声明で、年金生活者や子供たち、赤十字社スタッフが死体が散乱するマリウポリで、暖房のない地下室に避難していると指摘。人的被害は「計り知れない」と述べた。
ICRCは「具体的かつ的確で、実行可能な合意」を「滞りなく」実施し、民間人が安全に移動できるようにすることを求めた。また、停戦を尊重し、住民が移動する時間を与えるよう求めた。
さらに、「国際人道法を尊重し」、民間のインフラや病院、医療関係者を標的にしないようロシアとウクライナの双方に訴えた。合意に達しなければ、
「もし双方ができるだけ早期に合意に達しなければ、マリウポリの現状を恐怖しながら振り返ることになるだろう」
アメリカ人ジャーナリストが死亡
首都キーウ(キエフ)郊外で戦闘が続く中、イルピンでアメリカ人ジャーナリストのブレント・ルノー氏(50)が射殺された。米誌タイムズ・スタジオズの企画取材でウクライナ入りしていたという。
警察によると、ルノー氏はロシア兵に狙われた。ほかにジャーナリスト2人が負傷し、病院に搬送された。
ウクライナでの戦闘を取材する外国人ジャーナリストの死亡が報告されたのは初めて。
イギリスの難民受け入れ制度
イギリスのマイケル・ゴーヴ住宅担当相は13日、ウクライナ人難民の受け入れを目的とした制度の詳細を発表した。
「ホームズ・フォー・ウクライナ」制度は、難民が少なくとも6カ月間、指名された個人または家庭の住居または別の物件に無料で滞在してもらうことを可能とするもの。難民のスポンサーを希望する人が意思表示できるウェブサイトは14日に開設される予定。
この制度を利用するウクライナ人には3年間の滞在許可のほか、就労や公共サービスを利用する権利も与えられる。受け入れ家庭には月350ポンド(約5万4000円)の「謝礼」が支払われる。
一方で、この制度は不十分だという批判も出ている。
英アカデミー賞の授賞式に出席した英俳優ベネディクト・カンバーバッチ氏は、自分も難民を受け入れるつもりだと意向を示した。
「難民危機が続く限り、みんなで政治家に圧力をかけ続け、プーチン政権に圧力をかけ続け、寄付や難民の受け入れなど自分にできる方法で援助を続けていかなくてはならない。どれも僕はやるつもりだし、すでにしてきたこともある」と、カンバーバッチ氏は述べた。
ロシアの頭脳流出
ロシア人経済学者の推計によると、ウクライナ侵攻開始以降、20万人ものロシア人が国を離れたという。
欧州連合(EU)、アメリカ、イギリス、カナダはロシア航空機の自国領空での飛行を禁止している。そのため、こうしたロシア人たちはトルコや中央アジア、南コーカサスなど飛行が許可され、ビザが不要な国に向かっている。その多くはアルメニアに逃れている。
BBCのレイハン・ディミトリ記者は、隣国ジョージアに到着したロシア人に話を聞いた。多くの人がスーツケースを手に、首都トビリシをさまよっている。ペットを連れている人もいる。
「プーチン政権に対抗する最善の方法は、ロシアから移住することだと理解していた」と、エフゲニー氏(23)は語った。大学で政治学を学んだというエフゲニー氏は、「ウクライナ人を助けるためにできることは何でもする。それが私の責任だ」とした。
10代の志願兵
キーウで取材するBBCのジェレミー・ボウエン中東編集長は、10代の志願兵に話を聞いた。
志願兵の多くは学校を卒業して間もない10代後半で、3日間の基礎訓練を受けた後、戦闘の最前線あるいはそれに近い場所へと向かうのだという。志願兵の中には、小さすぎる膝当てを付けている者もいた。寝袋を確保できている人は少なく、1人はヨガマットを使っていた。
志願兵のドミトロ・キシレンコさんは、「もちろん、心の深いところでは少し怖い。死にたい人なんていませんから、いくら自分の国のためでも。なので僕たちには死ぬという選択肢はありません」と話した。
●ロシア・ウクライナ、14日に再び協議 軍事施設空爆では35人死亡 3/14
ウクライナ紛争を巡り、同国とロシアの交渉官は13日、協議に進展があったとの認識を示した。ロシア軍がポーランドとの国境付近にあるウクライナ西部の軍事施設を空爆し、他の場所で戦闘が激化したものの、14日に再び協議する見通しだ。
13日に空爆を受けたのはポーランドとの国境からわずか25キロメートルの「ヤボリウ国際平和維持・安全保障センター」。ウクライナ西部の軍の訓練用施設としては最大規模で、侵攻前には北大西洋条約機構(NATO)との合同訓練にも使用されていた。地元当局者によると、約30発のミサイルが発射され、少なくとも35人が死亡、134人が負傷したという。
一方、ロシア国防省は、空爆でウクライナ国外から供与された大量の兵器を破壊し、「最大180人の外国人雇い兵」を殺害したと発表した。
ロイターは双方が報告した死傷者数をいずれも独自に確認できていない。
ロシアのプーチン大統領が、危険なナショナリストや「ナチス」をウクライナから排除するとして特別軍事作戦と称する作戦を開始した2月24日以降、何千人もの人々が亡くなっている。
バイデン米大統領とマクロン仏大統領は13日、ウクライナ情勢について電話で協議し、ロシアの責任を問う姿勢を強調した。ホワイトハウスが明らかにした。
また、米国のブリンケン国務長官とウクライナのクレバ外相も電話で会談し、ロシアのウクライナ軍事侵攻を停止させる外交努力について協議した。米国務省が声明を発表した。
ロシアとウクライナは週末の交渉後、最も前向きな評価を下した。
ウクライナ側の交渉官であるポドリャク大統領顧問はインターネットに投稿した動画で「われわれは原則的にいかなる譲歩もしない。ロシアは今やこれを理解している。ロシアは既に、建設的に話し始めている」と説明。「まさに数日以内に何らかの成果を出せると考えている」と述べた。
一方、ロシア通信(RIA)によると、ロシア側交渉官のレオニド・スルツキー氏は交渉で大きな進展があったと発言。「私の個人的な期待としては、この進展が強まり、数日内に双方の共通の見解、文書の署名につながるかもしれない」と語った。
双方とも、どの範囲での合意が見込めるかについて明らかにしなかった。
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日遅く、同国の交渉団がロシアとの首脳会談開催を目指すと表明した。首脳会談を開催すれば、和平につながる可能性があるとしている。
米高官が中国に警告
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は13日、中国がロシアの制裁逃れを支援すれば「間違いなく」報いを受けることになると警告した。14日に中国外交担当トップの楊潔チ・共産党政治局員とローマで会談するのを前に、米CNNに述べた。
こうした中、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)と米紙ニュー
ヨ−ク・タイムズ(NYT)は13日、ロシアが先月24日のウクライ ナ侵攻開始以降に、中国に軍事装備品の提供を求めたと報じた。
在米中国大使館の劉鵬宇報道官は報道について「聞いたことはない」と述べた。その上で、ウクライナの現状は「気掛かり」だとし、「中国は危機の平和的解決に資するあらゆる努力を支持する」と発言。「平和的な結果を生み出すのは困難な状況だが、ロシアとウクライナの交渉推進の支援に最大限の努力をすべき」と述べた。
ウクライナの警察当局は13日、首都キエフ近郊のイルピンで、米国人記者がロシア軍の銃撃を受け死亡したと明らかにした。別の記者も負傷したとしている。
英国防省は、ロシア海軍がウクライナの黒海沿岸を封鎖したと発表。ロシア海軍はウクライナの標的へのミサイル攻撃を継続している。ロシアは、アゾフ海で実施したような海からの上陸作戦を今後数週間にさらに実施する可能性があるという。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、11日時点でウクライナから国外に逃れた人の数は約260万人に達した。直近では避難民の数は減少しているが、女性や子供を中心に依然多くの人が国外に逃れており、周辺国の政府やボランティアが対応に追われている。
●諜報トップ粛清<鴻Vアで内部対立が勃発 3/14
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、いら立っているのか。当初、ウクライナへの侵攻開始から2日後に「首都キエフ陥落」を想定していたようだが、20日近くたっても「祖国を守り抜く」というウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ軍の士気が落ちないのだ。ウクライナ軍のドローン(無人機)や対戦車ミサイル、地対空ミサイルなどの攻撃で、ロシア軍に深刻な被害が出ており、プーチン氏が情報機関幹部を軟禁したとの報道もある。欧米主導の経済制裁も効いており、識者は、ロシア国内で内部対立が勃発しかねないと分析する。
「ロシアは数千台の軍用車両、74機の軍用機、86機のヘリコプターを失った」
ゼレンスキー氏は13日午後、SNSに新たなビデオメッセージを投稿し、こう主張した。CNN(電子版)が同日報じた。ゼレンスキー氏は前日も「ロシア軍は1万2000人の損害を出している。(ウクライナとの損害率は)1対10だ」「ウクライナが100%勝つ」といい、祖国防衛戦を戦い抜く姿勢を示していた。
確かに、ロシア軍の苦戦は想定以上のようだ。
プーチン氏は当初、ロシア軍が短期間でウクライナの首都キエフを制圧し、ゼレンスキー政権転覆を狙っていたとされる。ロシアの国営メディア「RIAノーボスチ通信」が、侵攻開始から2日目の2月26日午前8時、ネット上に「キエフ陥落」を想定した予定原稿を誤配信し、直後に削除したことからも、プーチン氏の当初の計画がうかがえる。
海外メディアなどによると、戦力規模で劣るウクライナ軍は、トルコ製の偵察攻撃ドローン「バイラクタルTB2」や、米対戦車ミサイル「ジャベリン」、米携帯型地対空ミサイル「スティンガー」などを効果的に使用してロシア軍に対抗しているという。
バイラクタルTB2は、全長6・5メートル、全幅12メートル。ミサイルや誘導爆弾、ロケット弾で武装することができる。防衛システムを備えた正規軍相手には不向きとされたが、ロシア軍車両などを撃破する動画がツイッターで拡散しており、ウクライナ軍は成果を強調している。
ジャベリンは、全長1・1メートル、直径127ミリの歩兵携行式ミサイルで、射程は約2・5キロ。兵士が肩に担いで発射し、ミサイルは目標に向けて自動的に飛び、戦車の側面や装甲の比較的薄い上部を撃破する。
米国防総省高官は先週末、ロシア軍がウクライナ軍の「柔軟で俊敏」な抵抗に遭い苦戦しているとの見方を示した。ロシアの情報機関も激しい抵抗を予測できていなかったという。
こうしたなか、プーチン氏のいら立ちが伝わるニュースが流れた。
ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」が14日までに、プーチン氏に侵攻前のウクライナ政治情勢を報告していた連邦保安局(FSB)の対外諜報部門トップらが自宅軟禁に置かれたと伝えたのだ。ウクライナ侵攻が計画通りに進まないことへの「懲罰」とみられる。
FSBは、プーチン氏の古巣である旧ソ連時代のKGB(国家保安委員会)の流れをくむ組織。外国の諜報活動を担う部門のトップ、セルゲイ・ベセダ氏らが、不確かな情報を報告した疑いが掛けられているという。
さらに、ロシア軍は13日、ウクライナ西部の要衝リビウの北西ヤボリウにある軍事基地「国際平和維持・安全保障センター」を、30発以上のミサイルで攻撃した。ウクライナ当局は、少なくとも35人が死亡し、134人が負傷したと明らかにした。
ポーランド国境まで約60キロと近いリビウは、ロシア軍の激しい攻撃を受けるウクライナ東部など各地から避難民が集まり、物資供給の拠点にもなってきた。これまで戦火が及んでいなかったが、プーチン氏が米欧諸国の軍事支援を牽制(けんせい)した可能性もある。
欧米諸国は、ロシアへの経済制裁に加え、プーチン氏の独裁的権力を支えてきた側近や新興財閥「オリガルヒ」ら富豪への制裁を強めている。
ジャネット・イエレン米財務長官は11日、「エリートたちへの制裁でロシア経済をさらに孤立させる」と強調した。オリガルヒの中には、欧米の資産凍結を恐れて、プーチン氏と距離を置く動きも見られる。
ロシア軍は、キエフを包囲しつつあるが、今後どうなりそうか。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「プーチン氏が情報機関幹部を軟禁したのは、ウクライナ侵攻がうまくいかないことへの不満の意思表示だろう。ロシア国内では、欧米の制裁による国民の不安が増大し、オリガルヒの離反も招いている」といい、続けた。
「かつてCIA(米中央情報局)高官は、プーチン氏を『猜疑(さいぎ)心の塊だ』と指摘した。側近や周囲の人間に不信感を募らせている可能性がある。プーチン政権の『内部対立』の入口に来ているのではないか。ロシア軍の犠牲や損害が増えるにつれ、国民の『反プーチン』の動きも大きくなる。経済制裁による不満などで、治安維持も収拾がつかなくなるとも予想され、プーチン氏も追い詰められていくことになる」
●「1日2兆円以上」の巨額戦費にロシア国民悲鳴 ウクライナ侵攻「長期化」予想 3/14
ロシア軍が、ウクライナの首都キエフに近づいている。米国防総省高官は11日までに、北東部からの部隊が市中心部から約15キロにまで前進したとの分析を明らかにした。中東からの志願兵も募り、総攻撃が近いとの見方もある。ただ、ウラジーミル・プーチン大統領が当初想定していた「短期間での電撃作戦」は完全に失敗した。相次ぐ国際法違反に加え、子供や女性を含む民間人にも多数の犠牲者が出ており、「ロシア=国際社会の敵」となった。1日2兆円以上という巨額戦費と、ロシア経済を直撃する経済制裁。産経新聞論説副委員長の佐々木類氏は、軍事力でキエフを陥落させても、「ロシアの勝利はあり得ない」「ロシア国民は塗炭の苦しみを味わう」と喝破した。
キエフに迫るロシア軍だが、「国民の生命と財産」「祖国の独立」を守ろうとするウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、プーチン氏が目指した「短期決戦によるウクライナ全土の制圧」は失敗に終わった。
侵攻開始(2月24日)当初は、専門家の「数日間でキエフは陥落する」との観測もあった。だが、ロシア軍の進撃速度は、第2次世界大戦の独ソ戦で、ドイツ陸軍機甲師団が見せた電撃作戦とは程遠い遅々としたものだった。
その理由について、吉田圭秀陸上幕僚長は10日の会見で、「ロシア軍が制空権を掌握しない中で、(ウクライナを)多方面から侵攻したのは、短期決戦を想定していたからだ」とし、今後のロシア軍の展開については「後方支援に非常に大きな問題がある」との見方を示した。
つまり、ロシアは近代戦の定石である「制空権の奪取をおろそかにした」うえ、食糧や武器弾薬、燃料などの「兵站(補給)に問題を抱えている」のだ。これに、「戦費の増大」と「経済の疲弊」も加わり、ウクライナ侵攻は長期化が予想される。
ロシア軍は数カ月前からウクライナ国境に長期滞留していた。厳寒の中で、ロシア兵は疲弊している。これに食糧不足や燃料不足が追い打ちをかければ、どんなに訓練された将兵といえども士気が下がろうものだ。
戦費の増大も深刻だ。
英国経済回復センターなどによると、侵攻開始から最初の5日間で、ロシアは装備や兵の死傷で約70億ドル(約8168億円)を失ったという。20万人規模の将兵、補給・救護などの要員、燃料や食糧などの兵站、高価な精密誘導弾など、戦費は1日約200億ドル(約2兆3338億円)かかっている可能性もあるというのだから驚きだ。
何しろ、ロシアのGDP(国内総生産)は、世界11位の1兆4785億7000万ドル(約172兆5343億円)に過ぎない(2021年、IMF=世界通貨基金調べ)。
10位の韓国を下回る額である。ロシア軍が1カ月間戦っただけでGDPの3割近くを消耗する計算となる。これが家計なら「一家離散の危機」である。
なのに、ロシア軍はヨーロッパで3番目に面積が広いウクライナ全土の制圧を目指して多方面から攻め込んでいるのである。打ち出の小づちがいくつあっても足りなかろう。
それだけではない。日米欧主導の強力な経済制裁で、ロシア通貨のルーブルが大暴落した。西側諸国への送金禁止などで、国内経済は音を立てて壊れつつある。
苦しむのは前線の将兵だけではない。ロシア国民がソ連崩壊時に経験した「経済崩壊」という塗炭の苦しみを再び味わわされるのである。
ロシア国民はソ連崩壊後、西側の自由経済という旨味を覚えてしまった。困窮する生活への不満の矛先となるプーチン氏が、内政面でも窮地に追い込まれるのは時間の問題だ。
ロシアは歴史的に、フランスのナポレオン、ドイツのヒトラーに代表されるように、外敵との「祖国防衛戦争」を戦ってきた。敵を広大な領土に深く引き込んで補給路を断つ。さらには、冬将軍の力を借りて敵を撃退する「持久戦」を得意としてきた。
経済力に裏付けされた兵站なくして、ロシアの勝利がないことは自明の理だ。プーチン氏はキエフ陥落という戦術で勝てたとしても、ウクライナ全土制圧という戦略で負けるだろう。
●「スーパーカー」でも遅刻するプーチン大統領 “皇帝”のような振る舞い 3/14
ロシアのウクライナへの軍事侵攻から2週間余りが過ぎた。いま世界が最も知りたいのはロシアのプーチン大統領が「何を考え」、「次に何をしようとしているか」だろう。多くの専門家が彼の心と頭の中を予測してはいるのだが、その真意はプーチンのみぞ知るという状態が続いている。今回は得体のしれない政治家プーチンの行動を垣間見た経験を記したい。
黒い塊に乗って現れたプーチン
お腹に響くような重低音が遠くから聞こえてきたかと思うと、見たこともない黒い塊が悠然と入ってきた。フランス大統領府・エリゼ宮の門をくぐってきたのはロシアのプーチン大統領を乗せた車だった。
2018年11月11日、第一次世界大戦終結から100年を祝う式典に合わせ世界中のリーダーが集まって行われた昼食会に出席するためやって来たプーチン大統領は笑みを浮かべながら我々プレスに手を挙げて会場へと入っていった。動画でご覧いただいたのはその時の一コマである。15mほどの距離で見た生プーチン。いま険しい表情でウクライナへの侵略戦争を仕掛け、欧米の制裁などを批判する姿とは異なって柔和な印象を持ったのを覚えている。
約1600万人が戦死したとされる第一次世界大戦。主な戦場となったヨーロッパでは、日本人が考えている以上に人々の記憶に色濃く残る戦争である。フランスで休戦協定が結ばれた1918年11月11日から100年の節目は大きな出来事であった。
ただ4年前のあの日、取材の焦点はアメリカ大統領選挙をめぐるロシア疑惑などを抱えるトランプ大統領(当時)とプーチン大統領が会談などで接触するかどうかだった。
「主役」の2人は異彩を放っていた。
式典のホスト役であるフランス・マクロン大統領やドイツのメルケル首相(当時)。
日本の麻生太郎副総理兼財務大臣(当時)ら世界の約70人の首脳は一緒にバスに乗り国際協調よろしく集団で歩いてエリゼ宮へ入ってきたのだが、2人はそれぞれの大統領専用車で乗りつけた。
スーパーカーに乗っても「遅刻」する男
アメリカの大統領専用車はGM車をベースにした「キャデラック・プレジデンシャル リムジン」。防弾、テロ対策が施され「ビースト」の呼び名で知られている。
一方で、プーチン大統領の専用車はというと胴長でちょっといびつなフォルム、およそ見たことがない車種だった。ネットで調べた限りだが、どうもロシア国営の中央自動車エンジン科学研究所というところが開発した「アウルス」というブランドのセダン「セナート」のリムジンタイプだとのこと。全長が6m30cm、車幅2m20cmというスペックでエンジンは4.4リッターV型8気筒エンジン、ハイブリッドシステムに9速オートマチックを組み合わせた4WD、最高出力598馬力なのだとか。かつてはプーチン大統領含めてロシアの政権幹部はメルセデス・ベンツに乗っていたそうだが、なにかと西側諸国と対立するなかでベンツはどうもなあーということになったようで、自国モデルの「アウルス」が生まれることとなったそうだ。
話が横道にそれてしまったが、本稿で伝えたいのは、そんな超スーパーカーに乗っていれば一番乗りできそうなものなのに、式典に'遅刻'したプーチン大統領の振る舞いである。昼食会の前にパリの凱旋門で開催された記念式典。世界の首脳らは揃ってシャンゼリゼ通りを歩き席に着いていたのだが、別行動したトランプ大統領は「ビースト」に乗って遅れて到着した。しかし、そこからさらに数十分遅れて登場したのがプーチン大統領だった。世界中のメディアが注目する式典に遅刻してきたにもかかわらず、笑いながら入ってきた。そして彼は式典を始められず、さぞかしやきもきしていたであろうマクロン大統領の隣に当たり前のように着席した。ロシアは第一次大戦の「戦勝国」ではあるのだが、自らが最も尊重されるべき存在だと言わんばかりの行動であった。まるで皇帝のように。
「遅刻」は手段 その狙いは?
プーチン大統領の遅刻癖はつとに有名である。様々な国際政治の舞台でなかば常套手段のように「遅刻」を演じている。私は2016年に山口県で行われた日ロ首脳会談での取材でも経験している。当時の安倍晋三首相が自らの地元である山口・下関へプーチン大統領を招いた。有名温泉旅館を宿泊場所にして裸の付き合いで?の北方領土問題の進展も期待されたのだが、この時、プーチン大統領は2時間半も遅刻してきた。安倍首相の接待も効を奏すことなく、領土交渉に1mmも進展は無かった。このように遅刻をテクニックとして使い、「大国」を率いる自らの格を示し、会談や交渉事で主導権を握ろうとしてきたのだと思う。一般社会、特に日本では遅刻はダメだとされ、普通は遅れた方が恐縮してしまうものだが、プーチン大統領にその感覚はない。おそらくこれは単なる遅刻癖なのではなく、遅れて相手を待たせることで相手との上下関係をはっきりさせ、その場で誰が偉いのかマウントポジションを取ることを意図しているのではと推察される。KGB(ソ連国家保安委員会)出身で巧みに人の気持ちを操り予測や期待を裏切ることを常に考えてきた人間の行動パターンなのかもしれない。
遅れて始まった式典でマクロン大統領は次のように演説していた。
「自国の利益が第一で他国は構わないというナショナリズムに陥るのは背信行為だ。今一度、平和を最優先にすることを誓おう」
悲しいかなプーチン大統領にこの言葉は響いてはいなかった。
連日、プーチン大統領自身の報道も続いている。「心理状態がおかしい」、「怒りで冷静さを欠いている」など、独善的な思考と行動に拍車がかかっているのではと伝えられている。しかし、果たしてどれが真実なのかもわからない。プーチンという一人の男にウクライナ、ロシア両国の国民、そして世界が揺さぶられ続けている。世界の予想を裏切る形で始めた今回の軍事侵攻、せめて、せめて、最悪の予測を裏切ってはくれまいか。
●プーチン氏、「粛清」の恐れある軍トップたちによる「クーデター」に “対備中” 3/14
「ウクライナに対する侵攻命令を下したが、予想外の苦戦を強いられているロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自身に不安を抱いているロシア軍トップたちによるクーデターに対する備えを積極的に行なっている」という分析が公開された。
13日(現地時間)英デイリー・エクスプレス紙によると、20余年間ロシア諜報機関の活動を追跡してきたウェブサイト“Agentura”の編集者は、英国の報道番組に出演し「ウクライナでロシア軍が強烈な抵抗に遭い動揺している状態により、プーチン大統領がクレムリン宮殿(ロシア大統領府)内部発のクーデターに直面する恐れがある」とし「ウクライナへの全面侵攻が、このような可能性を生じさせた」と主張した。
つづけて「プーチン大統領は、すでに自身の身辺に危害が及ぶ恐れがあることをよく知っている」とし「そのような理由により、自身の生命までも脅かす恐れのある潜在的なクーデターに対して備えている」と強調した。
また「プーチン大統領は、ロシア最高の諜報機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)がウクライナの状況に関して誤った予測を伝えてきたこと、ウクライナに進駐しているロシア軍の進撃状況が遅々として進んでいないことに対して憤っている」とし「FSB第5局局長と副局長が逮捕され、ロシア軍指揮官8人前後が解任されたことも、そのためだ」と分析した。
さらに「ウクライナ内部には、ウォロディミル・ゼレンスキー ウクライナ大統領の率いるキーウ(キエフ)中央政府に立ち向かう反対勢力がいないということも、プーチン大統領はいまや知るようになった」とし「ウクライナの戦況に関する情報も、誰にも頼れない状況に置かれている」と語った。
ロシアSS(ロシア秘密警護局)内部に信頼できる消息筋を置いているこの編集者は「ロシア軍とFSB高位当局者たちは、プーチン大統領があまりにも恐ろしくて真実を伝えることができないでいる」と説明した。
このことについて「プーチン大統領は自らが世界で最も博識な政治家だと信じていて、地政学に関する自身の知識を自慢することを好む」とし「ロシアの高位核心部は、プーチン大統領の聞きたくない話をする人が生き残ることのできない構造だ。誰も責任を持って正しいことを言おうとする人はいない」と付け加えた。
つづけて「現在モスクワのクレムリン宮殿には、(戦況や外交的現実に関係なく)『ウクライナへの攻撃をより強化すべきだ』という話をする人たちがいるだけだ」とし「ロシアの指揮系統がだんだんと異常になっている」と付け加えた。
●「プーチンは戦略的惨事にはまった」 マッカフリー元米軍大将 3/14
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「戦略的惨事」にはまり込んでいると、バリー・マカフリー元米陸軍大将は言う。
ロシアが2月24日にウクライナへの軍事侵攻を開始すると、国際社会からすぐさま激しい非難を浴びた。挑発されたわけでもないのに始めたこの攻撃を正当化するため、プーチンは「ウクライナの指導者たちは『ネオナチ』だ」とするおかしな説を唱えた。だがウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はユダヤ人で、親族にはナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)で命を落とした人もいる。
アメリカとカナダ、それに欧州の同盟諸国は足並みをそろえ、ロシア経済や大物政治家とオリガルヒ(新興財閥)に厳しい経済・金融制裁を科している。一方でウクライナ軍は多くの市民ボランティアに支えられながら、多くのアナリストの予想を上回る善戦ぶりだ。
マッカフリーは13日、MSNBCのインタビューに対し、アメリカのバイデン政権は「この事態にアメリカ一国ではなく同盟として前進するという、非常にうまいやり方で対処した」と述べた。
核攻撃には15分で反撃する
「私たちはプーチンが自らを戦略的大惨事に追い込むのを目の当たりにすることになると思う。首都キエフをめぐる攻防が激化する中、ウクライナの理不尽な苦しみを終わらせるためにわれわれがどう行動するか、それが問われている。これから数週間、見るのもつらい状況になるだろう」とマッカフリーは述べた。
「首都キエフを包囲し破壊しようとするプーチンの行動は、欧州諸国にとって許容範囲の限界に近付いていると思う」
だが、プーチンが核戦争勃発の「リスクを冒す」のではないか、という懸念は一蹴した。プーチンが核兵器を使う可能性は「ゼロに近い」と彼は言う。
「ロシア空軍の中佐が核兵器の使用に合意するなど想像できない。米海軍は原子力潜水艦に戦術核兵器を搭載している。もしロシアが核を使えばものの15分で報復できるだろう。核戦争で勝てるなどと正気で考える人間はいない」とマッカフリーは述べた。
プーチンがウクライナ側の抵抗や西側諸国の反応を甘く見ていたと考えるアナリストは多い。プーチンや政権幹部は数日のうちにウクライナの大半の地域を掌握できると思い込んでいたとされるが、侵攻が始まって2週間以上が過ぎてもロシア軍はウクライナの大都市を陥落させるに至っていない。
一方で欧米による制裁はロシア経済に深刻な打撃を与えている。西側諸国の企業は相次いでロシアから撤退し、ロシアの株式市場は2月25日に取引を停止。少なくともあと1週間は取引再開はないだろう。もし再開が認められても株価は暴落するのは間違いないとアナリストは見ている。
「問題は、ロシア政府が経済について無策だということだ」と、ロシアの経済学者ルーベン・エニコロポフはモスクワ・タイムズに述べた。
多くが旧ソ連育ちの政府幹部は価格統制や国有化で乗り切ろうとするが、それらは一時的には効果があっても、長期的には経済に災難をもたらすものだとエニコロポフは述べた。
ロシアのアントン・シルアノフ財務省は地元テレビ局に対し13日、経済制裁のためにロシア政府の外貨・金準備の半分が使えなくなっていると述べた。
「ロシアが保有する(外貨)準備の約半分だ。外貨準備の総額は約6400億ドルだが、このうち約3000億ドルが現在使えない」と蔵相は述べたとロシア国営タス通信は伝えている。 
●午前の日経平均は反発、ウクライナ情勢好転への思惑や円安が支援 3/14
東京株式市場で、日経平均は前営業日比174円61銭高の2万5337円39銭と、反発して午前の取引を終えた。朝方に高く寄り付いた後も上値を伸ばし、一時400円超高となった。ウクライナ情勢の好転への思惑や円安が支えとなった。ただ、買い一巡後は伸び悩んだ。
米主要株価3指数先物が朝方から堅調に推移したほか、WTI原油先物が軟調となり、投資家心理が改善した。日経平均は一時、468円23銭高の2万5631円01銭に上昇した。
ドル/円が117円台後半へと上値を伸ばし、輸出関連株がしっかりだったほか、岸田文雄首相が政府の観光支援事業「GoToトラベル」の再開に前向きな考えを示したと週末に伝わり、旅行関連や空運、陸運株が買われた。米長期金利が上昇し、金融株が堅調だった一方、高PER(株価収益率)銘柄の一角は上値が重かった。
ウクライナ情勢を巡っては、ロシアとウクライナの当局者らが13日、交渉でこれまで最も進展があったとの認識を示し、数日内に何らかの成果が出る可能性に言及したと伝わっていた。
ただ、買い一巡後は伸び悩んだ。ウクライナ情勢に一喜一憂する展開が継続しており「まだ予断を許さない」(国内証券)として上値追いに慎重な見方も根強い。一方、日本株の値ごろ感を意識する声も聞かれる。市場では「事態が完全に改善するまで相場が上がらないわけではない。どこかで買わないといけないことも意識されている」(岩井コスモ証券の林卓郎投資情報センター長)との見方が出ていた。
TOPIXは0.92%高の1816.03ポイントで午前の取引を終了。東証1部の売買代金は1兆4061億6600万円だった。東証33業種では、値上がりは不動産業や保険業、証券業など30業種で、値下がりは精密機器と電気・ガス業、小売業の3業種だった。
トヨタ自動車やファナックが堅調。エイチ・アイ・エスが大幅高のほか、ANAホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループもしっかりだった。一方、ファーストリテイリングやリクルートホールディングス、エムスリー、ソフトバンクグループは軟調だった。
東証1部の騰落数は、値上がりが1458銘柄(66%)、値下がりは622銘柄(28%)、変わらずは100銘柄(4%)だった。

 

●ウクライナ戦争への「中国の役割」…王毅外相と李克強首相の会見から 3/15
中国はどう考えているのか
2月24日にロシアが突然、ウクライナに侵攻してから、まもなく3週間が経つ。私はあえて「ウクライナ戦争」と呼ぶが、このウラジミール・プーチンという独裁者の愚かな侵攻を、誰か止めることはできないのか? そんな時、動向が注視されているのが、「戦犯」ロシアと「準同盟関係」にあると言われる中国だ。中国は一体何を考え、どう動こうとしているのか? 
3月7日、国会にあたる全国人民代表大会(3月5日〜11日)で、王毅国務委員兼外相が、年に一度の定例記者会見を開いた。内外の記者から計27の質問を受け、1時間40分かけて答えた。
中国メディアの記者は、あえてウクライナ問題に触れないようにしていたが、外国メディアはそうはいかない。早速、2番目に質問に立った英ロイター通信記者が、やや興奮気味に聞いた。
「ロシア軍はウクライナで、すでに非軍事施設への軍事行動を行っている。中国は衝突を解決すべく、さらなる努力を行わないのか?」
これに対し王毅外相は、あらかじめ質問を予期していたようで、「来ましたね」という澄ました表情で答えた。やや長くなるが、全訳する。
「ウクライナ問題において、われわれは終始、客観的で公正な態度に立ち、起こっていることそのものの是非曲直に基づいて、独立自主の判断を行い、主張を表明する。
凍りついた三尺の氷は、一日の寒さによるものではない。ウクライナの情勢がいまの状態に発展するまで、複雑で錯綜した原因を経てきた。複雑な問題を解決するには、冷静さと理性が必要だ。かつ火に油を注ぎ、矛盾を激化するようなことがあってはならない。
中国は、当面の危機を冷ます必要があると考えている。そのためには国連憲章を旨とし、原則とすることを堅持しなければならない。そして各国の主権と領土の確立を尊重しなければならない。
すなわち安全堅持と分割不可の原則、当事者の合理的な安全の懸念への配慮だ。さらに対話と交渉を通じて、平和的な方法でもって争議を解決することを堅持しなければならない。地域の長治久安を見据え、均衡ある有効な持続可能なヨーロッパの安全体制を構築していかねばならない。
現在、国際社会は二つの大きな問題に焦点を当てて努力している最中だ。第一に、対話を勧め、促すことだ。
中国はこの方面で、すでに一部の活動を行っている。常に各方面と密接なやりとりを行ってきた。衝突が発生した二日目には、習近平主席はプーチン大統領の求めに応じて通話し、ロシアとウクライナの双方ができるだけ早期に対話を行うよう求めている。プーチン大統領も、積極的な応答だった。
ロシアとウクライナは、すでに2度にわたって交渉を行った。できれば3回目の交渉で、新たな進展が見られることを願っている。
中国としては、情勢が緊張するほど、交渉を停止してはならないと考えている。すなわち、意見の相違が大きいほどに、膝を交えて交渉することが必要なのだ。中国は引き続き、交渉の勧告に建設的な役割を発揮していく。また必要な時には、国際社会とともに必要な斡旋を行っていく。
第二に、大規模な人道主義の危機を防止していくことだ。これについて中国は、6点を提唱する。
一つ目は、人道主義の行動は、必ずや中立公正の原則を尊重し、人道問題が政治家していくのを防がなければならないということだ。二つ目は、ウクライナの難民を全面的に注視し、その適切な処置を助けてあげることだ。
三つ目は、市民をしっかりと保護し、ウクライナ国内に人道災害が出ないようにしていくことだ。四つ目は、人道援助の活動が順調に進み、安全が広がるよう保障してやることだ。それは、スピーディでセイフティでハンディキャップのない人道主義を適用することを含むものだ。
五つ目は、ウクライナにおける外国人の安全を確保することだ。ウクライナを安全に離れることを許可し、かつ帰国の手助けをしてあげることだ。六つ目は、国連がウクライナへの人道援助に協調的な役割を果たすことを支持し、国連がウクライナ危機で調停役として活動するのを支持することだ。
中国は、人道主義の危機を克服するため、引き続き努力していくつもりだ。中国赤十字会はできるだけ早期に、ウクライナに対する人道主義に基づく緊急物資援助を提供する」
以上である。全訳していて、中国語という言語は、つくづく修辞法に優れていると再認識した。おそらく4000年の歴史の中で、王毅外相のような人物が、取り繕って取り繕って持論を展開する中で、表現方法が磨かれていったのだろう。
単に「消極的態度」を示しただけ
はっきり言って、この王毅外相の発言は、長広舌をぶってはいるが、国際社会が知りたい「中国の具体的行動」については、一切述べていない。つまり「逃げの会見」だ。ジャーナリストの用語を使うなら、「見出しにならない会見」というものだ。
ところが日本のメディアは、これを下記のように報じた。
・中国外相、仲裁意思を表明 ウクライナ情勢で(共同)
・「必要時の仲裁」前向き(時事通信)
・中国 ウクライナ侵攻で 「必要な仲裁」に前向き(テレビ東京)……
これらの見出しだけ読めば、すぐにも中国が、ロシアとウクライナの間に入っていって、仲裁に乗り出しそうに思えてしまう。ところが重ねて言うが、実際は逆で、王毅外相は「消極的態度」を示したのだ。
私は王毅外相の定例会見を、最初に行った2014年3月の時から、9年連続で、インターネットの生中継で見てきた。他にも、公式の場で行った日々の発言は、逐一フォローしている。そのため、王毅外相が何を言わんとしているかは、概ね理解しているつもりだ。
3月7日時点での王毅外相の立場は、以下の2点だったと推測される。
一つ目は、中国政府という組織は巨大な官僚社会なので、ウクライナ戦争という突発事件に対して、どう対処するかを判断する時間的余裕がなかったということだ。そのため王毅外相は、「対話による解決」とか「人道主義の尊重」などと、誰も反対しないような無難な語句を並べて、その場を凌いだ。
もう一つは、プーチン大統領と38回も首脳会談を行っていることが自慢の習近平主席が、ウクライナ戦争に関わることに消極的になっているということだ。
習主席としては、「盟友」プーチン大統領に肩入れしたいところだが、それをやると欧米を始めとする国際社会を敵に回してしまう。そもそも中国が起こした戦争でもないので、誰も敵に回したくない。
さらに、これが一番大きな理由だが、今年後半に、5年に一度の共産党大会を控えている。その大会で本来なら総書記を退任しなければならないのに、「続投」をゴリ押ししようとしている。それには莫大なエネルギーがかかるので、内政に集中したいのだ。
というわけで、習近平主席はウクライナ戦争に対して「消極外交」を望んでいる。そのため、習主席の意を汲むことにかけては突出した才能を見せる王毅外相が、修辞法を駆使して「消極外交」を表明したということだ。
李克強首相の会見はどうだったか
この王毅外相の会見から4日後の3月11日午前、全国人民代表大会が終了した直後に、李克強首相が定例会見を行った。李首相が会見を行うのも一年に一度だけで、しかも今回は最後の会見だった。来年3月に退任が決まっているからだ。
私は李首相の会見も、9年連続で見てきた。王外相の会見が、常に習近平主席の意向を百パーセント汲んだものであるのに対し、李首相は言葉の端々に、習主席の考えとは異なるニュアンスのことを婉曲的に唱える傾向がある。そのために、一年にただ一度のチャンスを利用しているようなところがあるのだ。
特に今回は、最後の記者会見である。思い返せば10年前にも、温家宝首相は最後の会見を、3時間以上もぶっ通した。そして会見のおしまいに、当時、中央政治局委員(トップ25人)で重慶市党委書記だった薄熙来氏に対する批判を、間接的に述べた。「習近平氏のライバル」と言われた薄氏が失脚したのは、その翌日だった。現在は、習近平政権になって無期懲役刑を喰らって獄中にいる。
今年の李克強首相は、10年前の温家宝首相ほど劇的な発言はなかったが、それでもウクライナ戦争について、踏み込んだ発言をした。
この日、李克強首相は、内外メディアの13人の記者からの質問に答えた。その中で2回、ウクライナ問題に言及した。
まず最初の質問に立った米AP通信記者が、中国経済の今年の成長目標を、5.5%前後と強気に設定した根拠を聞いた。その中で、ウクライナ危機が中国とヨーロッパの関係に影響し、中国経済が悪化する懸念はないのかと問うた。
すると李首相は、得意の中国経済について、持論を長々と述べて、5.5%前後の成長は達成可能であると自信を覗かせた。その上で、付け加えるようにウクライナ問題について言及した。
「あたながいま言ったウクライナ情勢について話そう。現在のウクライナの情勢には驚くばかりだ。中国も深い心配と心痛の中にある。心から、ウクライナ情勢が和らぎ、早く平和が訪れることを願っている。中国は終始、独立自主と平和的な外交政策を貫いている。二国間関係の発展において、第三者の側には立たない。われわれは相互尊重をもとにして、互利共勝の精神で、各方との協力関係を発展させ、世界にさらに多くの安定性を提供していきたい」
この発言は、その4日前に王毅外相が発言した内容を、情に篤い李克強首相らしい言葉でなぞったものと言えた。換言すれば、党中央(習近平総書記)が定めて、外交部が外向きに微調整したレールに沿った発言だ。
続いて、英ロイター通信の記者が、激しい口調で李首相に質した。
「ロシアのウクライナへの攻撃で、すでに200万人の難民がでており、数百人の市民が死亡している。人々はこの状態がさらに悪化していくことも懸念している。だが中国は、ロシアに対してまったく譴責せず、もしくはそうした行為を侵入とも言わない。中国は何が行われてもロシアを譴責することはないのか? ロシアが制裁に直面する中で、中国はさらにロシアに経済及び金融協力を続けていくのか? そんなことをして他の国々から制裁を受けるというマイナスの影響は心配していないのか?」
これまで李首相の会見で散見されたのは、記者は冷静に質問しているのに、李首相が勢い込んで回答するという場面だった。だがこの時は逆で、李首相は「そんなことは分かっているよ」と言わんばかりに、淡々と答えた。以下、やや長くなるが全訳する。
王毅外相の発言と異なる点
「私が先ほど言ったように、中国は従来常に、独立自主の平和外交政策を貫いてきた。ウクライナ情勢に関して、中国が主張するのは、各国の主権と領土の完備は尊重されるべきだ。そして国連憲章の主旨と原則も順守されるべきだ。各国の合理的な安全への懸念も重視されるべきだ。中国はこれらに基づいて自己の判断を下す。かつ国際社会と一体となって平和の回復に積極的な役割を発揮していく。いまのウクライナ情勢は、本当に心配だ。最大の努力でもって、ロシア・ウクライナ双方が困難を克服し、交渉していけるよう支持していくべきだ。危機を平和的に解決するのに利することはずべて、われわれは支持し奨励していくべきだ。そして急務なのは、緊張した局面がさらにヒートアップしていくのを避け、ひいては落ちつくようにしていくことだ。それが国際社会と各方の共通認識でもある。中国は、最大限度の我慢を保持し、大規模な人道主義の危機を防止することを呼びかける。中国はすでにウクライナ情勢に対応するため、特に人道面での提唱をし、並びにウクライナに対して、引き続き人道援助を提供していく。現在、世界経済はコロナウイルスの影響で、すでに大変なことになっている。それに制裁を加えることは、世界経済の回復に打撃をもたらすことになり、各方にとって不利だ。中国は世界の平和と安定を維持、保護し、発展と繁栄を促進するための建設的な努力を行っていく」
以上である。一見すると、この発言も4日前の王毅外相の発言をなぞったかのように思える。だが私は注意して聴いていて、一ヵ所だけ似て非なる発言をしたことに気づいた。その部分を取り出し、原文で比較してみる。
王毅外相(3月7日): 中方愿継続為勧和促談発揮建設性作用,也愿在需要時与国際社会一道開展必要的斡旋。
李克強首相(3月11日): 中方据此作出我們自己的判断,并愿意和国際社会一道為重返和平発揮積極的作用。
つまり核心部分が、王毅外相の「発揮建設性作用」(建設的な役割を発揮していく)から、李首相の「発揮積極的作用」(積極的な役割を発揮していく)へと変わっているのである。「消極外交」から「積極外交」への変化だ。
あくまでも私の推定にすぎないが、ウクライナ問題に関して李首相に外交部が提出した草稿には、王外相の草稿と同じ「発揮建設性作用」と記されていたのではなかったか。それを李首相が自分で、「発揮積極的作用」と書き直した。
換言すれば、一向に重い腰を上げない習近平主席に対して、「もっと中国が積極的な役割を果たすべきだ」と発破をかけたのである。
習近平主席に対する痛烈な皮肉
李首相が「習近平体制の現状」に満足していないことは、この日の会見のちょっとしたことにも表れていた。
例えば、100人以上集まっている中国内外メディアの記者の誰を指名するかは、ひとえに壇上の側(王外相や李首相)に委ねられている。これまでの慣例では、まず中国メディアの記者を指名し、次に外国メディアの記者を指名する。そして以下は、たすき掛けのように交互に指名していく。つまり奇数の順番を中国メディア、偶数の順番を海外メディアとして、内外の均衡を図るのだ。
ところがこの日の李首相は、「掟破り」を行った。1番目…米AP通信、2番目…英ロイター通信、3番目…米CNBC、4番目…香港フェニックスTVと指名していき、5番目にようやくCCTV(中国中央広播電視総台)の記者を指名したのである。まるで、「中国大陸のメディアなんかすべて、習近平の手先だろう」と言わんばかりの行為だ。
ちなみにその後は、スペイン通信社、新華社、米ブルームバーグ、中国新聞社、台湾ET today、シンガポール・ストレーツタイムズ、人民日報、日本・共同通信社と続き、やはり中国大陸3社に対し、それ以外が5社だった。
そんな李克強首相は、最後の共同通信の質問に答えた後、まるで「遺言」のように、力を込めて述べた。
「私は明確に、皆さんに言っておきたい。国際的な風雲がいかに変幻しようと、中国は確固として、開放を拡大していく。長江、黄河は、逆流することはない。中国はこの40数年、常に改革の中で前進し、開放の中で発展してきた。ハイレベルの開放拡大に有利な時は、われわれは積極的にそれを行う。かつ多国間貿易体制をしっかりと維持し、保護していく。これはわれわれ自身の発展に必要でもあるのだ。中国は対外開放して40数年が経つが、自分が発展し、国民に福をもたらし、世界にも利することをしてきた。これこそが機会の大門であり、われわれは決してこの門を閉めることはなく、また閉めることもできない。皆さん、ありがとう!」
まさに、市場経済を社会主義で覆いかぶせようとする習近平主席に対する痛烈な皮肉を述べたのである。
私は、習近平・李克強体制が発足して半年後の2013年9月、李首相の生の講演を間近で聴いた時のことを思い出した。
その時、李首相は「改革開放」という言葉を連発したが(「習近平」という言葉は一回も出なかった)、「改革」(ガイグー)とか細く言って、「開放」(カイファン)に語気を強めるのだ。普通は4字の漢字が並んだ場合、最初の2字の方を強く発音するのが自然だが、李首相はあえて後ろの2字を強調したのである。
それからの9年間、李首相は忍従を強いられ、存在感を失っていった。それが最後の会見の最後の場面で、「これだけは言い遺しておきたい」という気持ちで、「開放」の意義を強調したのだ。
「開放」は「親欧米」と近い言葉である。ウクライナ問題に立ち返ると、李首相は、現在習近平主席が主導している「消極外交」に不満を持ち、内部で「積極外交」を唱えているのではないか。
すなわち、今年後半に行われる第20回中国共産党大会に向けて、ウクライナ問題が「中南海」(北京の最高幹部の職住地)で、「政局」になっていく可能性がある。ウクライナ問題における中国の動向は、「中南海政局」が絡み、より複雑なものになっていくということだ。
日本としては、そうした事情を勘案しておく必要があるだろう。
●ウクライナ戦争が世界の物流を直撃、「一帯一路」が迂回路に? 3/15
ロシアによるウクライナ侵攻が世界の資源調達や物流に大きな影響をもたらしている。肥料として使われる塩化カリウムもその1つで、全量輸入に頼る日本でも危機感が高まっている。塩化カリウムの輸送ルートをたどると、中国の「一帯一路」が迂回路として利用されている実態が浮かび上がってくる。
資源調達、一極集中のリスク
窒素、リン酸、カリウムは、高収穫を目指す農業には欠かせない複合肥料の3大成分だ。塩化カリウムの世界生産量は年間4300万トン(2020年、アメリカ地質調査所)。その9割は肥料として使われ、カナダ、ベラルーシ、ロシアという3カ国の生産量は全体の約6割超を占めるといわれている。
日本は塩化カリウムを全量輸入に頼っている。2019年7月〜2020年8月にかけて49.8万トンを輸入した(農林水産省、財務省)。主な輸入相手国はカナダ(31.9万トン、構成比65%)、ベラルーシ(6.1万トン、12%)、ロシア(5.5万トン、11%)などである。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻により、ベラルーシとロシアからの輸入は危うくなった。塩化カリウムの輸入は、肥料メーカーや商社、全国農業協同組合連合会(JA全農)などが行っているが、JA全農は「今回のウクライナ侵攻を受けて現在ロシアからの輸入を停止している」という。
JA全農は「カナダからの安定調達を図っていく」としているが、これには「一極集中」のリスクもはらむ。資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は、「日本をはじめ多くの国がロシアやベラルーシから塩化カリウムを輸入できなくなれば、輸入相手国がカナダに集中します。すると肥料の価格が高騰し、日本の農家を直撃するでしょう」と警鐘を鳴らす。
ウズベキスタンからも買いつける日本
日本は今後、新たな輸入相手国からの確保を検討する必要が出てくるだろう。実際、その予兆を示す動きがあった。2月26日の深夜1時30分、日本に輸出するカリ肥料を積んだ国際貨物列車が、中国・新疆ウイグル自治区のコルガス市の出入国検査場に到着したという。
コルガス市は、カザフスタンのアルマトイ州と接する国境の町で、中国と欧州を結ぶ貨物鉄道のコンテナの積み替えが行われる場所だ。中国国営通信社「中国新聞網」の報道によると、日本行きのカリ肥料を乗せた貨物列車は、ウズベキスタンの首都タシケントを出発した後、カザフスタンと新疆ウイグル自治区を経由して中国東部の江蘇省連雲港に向かい、そこで船に積み替えられるという。92のコンテナに積載された2438トンのカリ肥料は、金額にして78.5万ドル(約9000万円)に相当する。
ウズベキスタンも塩化カリウムの生産国として有望視される国の1つだ。農林水産省農産局は、ウズベキスタンをはじめとする中央アジア産の塩化カリウムの輸入実績は、今のところ「あるとしてもごくわずか」だという。だが、「一極集中」を避けるためにも主要輸入先の候補となるだろう。
「一帯一路」沿線国からの調達を強化する中国
中国もまた、中央アジア産のカリ肥料に目をつけている。
中国は最大の塩化カリウムの消費国で、年間1700万トンの需要がある。自国でも生産しているが、約50%が対外依存だ。主要輸入相手国はカナダ、ロシア、ベラルーシ、イスラエル、ヨルダンなどである。
中国は長年カリ肥料不足に悩まされ続けてきた。とくに、昨年(2021年)から価格高騰によって、需要を満たせない状態となっている。前出の柴田氏は「国内優先策に転換した中国と日本との間で塩化カリウムの争奪が起きる可能性も出てきました」と懸念する。
一方、中国は「一帯一路」沿線国からの輸入増強策を画策している。東南アジアではタイやラオス、中央アジアではウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、アフリカではエチオピア、エリトリア、エジプトなどの国々だ。中国は「一帯一路」沿線国にロシアとベラルーシも加えており、一説によれば「一帯一路」沿線国では26のカリ鉱床が発見されており、塩化カリウムの資源量は年間40億トンを超え、世界の約7割を占めるという。
中国の業界団体、中国無機塩工業協会によれば、中国企業による海外での塩化カリウム製造プロジェクトは2020年時点で12カ国・34件に及んでいる。特に力を入れているのがラオスで、中国の複数社がラオスのカリウム鉱山を買収して、生産規模を拡大している。カリウムの輸送を担うと期待されるのが、2021年末に開通した「中国・ラオス鉄道」だ。中国国内への輸送はもとより、農業の盛んな東南アジアでの販売を本格化させる計画だ。
また、ウズベキスタンにおいても、中国資本の支援を受けて塩化カリウム製造工場の建設が進んでいる。中国メディアは、「インドネシアやフィリピン、ベトナムなど東南アジアへの輸出が行われている」と報じている。
中国が「一帯一路」建設で力を入れてきた陸上輸送は、現在、中国の各都市と欧州20以上の国々をつないでいる。中国各都市と、カザフスタン、ロシア、ベラルーシを経由してドイツなど欧州を結ぶ「中欧班列(ちゅうおうはんれつ)」(トランス=ユーラシア・ロジスティクス)が主なルートだ。2016年の年間運行本数は1702本足らずだったが、この数年で著しく増加した。
中国の国際貨物鉄道の事情に詳しい国際経済研究所の竹島慎吾主席研究員は次のように語る。「中欧班列の年間の運行本数は2020年に約1万2400本、2021年には約1万5200本と右肩上がりに伸びており、ロシアによるウクライナ侵攻で、今後さらに注目を集める可能性もあります。中国は食糧や資源の安保のために鉄道や高速道路網を張り巡らしてきましたが、有事の局面でその使い勝手が一層高まっています」。
北極海ルートにも目を向ける中国
ベラルーシの国営通信によると、バルト三国の一角でありNATOおよびEU加盟国のリトアニアは2月1日、ベラルーシの塩化カリウムの輸送列車の立ち入りを禁止した。これまでは、ベラルーシから運ばれた塩化カリウムがリトアニアの港湾都市クライペダで積み替えられ、各国に向けて輸出されていた。
中国は、ロシアおよびベラルーシへの制裁による物流の遮断を受け、新たな輸送ルート確保に目を向けている。それが陸運の「中欧班列」であり、また海運の「北極海ルート」だ。
「北極海ルート」とは、中国が北極圏への延伸として「一帯一路」に取り込んだ「氷上のシルクロード」のことだ。北極海ルートを利用して欧州からの輸入を確保する。
中国自然資源部が発行する「中国自然資源報」によれば、「『氷上のシルクロード』には、ロシア海域を通過する北東航路、カナダ海域を通過する北西航路、北極海の中央海域を通過する中央航路が含まれる」という。中国が目下、関心を持つのは、欧州西部から北極海を経由してベーリング海峡を通り、最終的に中国東部の港に到着するルートだ。
以上の塩化カリウムの輸送ルートからは、「一帯一路」という巨大経済圏構想が“有事の国際物流の迂回路”になりつつある兆しが見て取れる。
ただし、「中欧班列」の状況は時々刻々と変化する。中国メディアの「環球網」は「ウクライナに向かう中欧班列の運行が停止された」と報じ、日本の大手物流会社も「ロシアの各地で『通過不能となった』などの情報が入ってきている」とコメントしている。「北極海ルート」にしても、元々はロシアと共同で開発してきたルートである。今後もロシアとの連携を強めれば世界の批判を浴びかねない。
「一帯一路」は果たして有効な物流手段となり得るのか。その実効性を具体的に検証する、またとない機会が到来していると言えるだろう。
●ロシアで「頭脳流出」進む 数千人が海外へ脱出 3/15
東欧のジョージア議会の外で、1人男性が衣服や食料が入った箱を、ウクライナに向かうトラックに積み込んでいる。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、ジョージアには2万5000人以上のロシア人がやってきている。先ほどの男性、エフゲニー・リャミンさん(23)もその1人だ。
ロシア人たちはジョージア国内のあらゆる主要都市で、手頃な宿泊施設を見つけるのに苦労している。多くの人がスーツケースを手に、首都トビリシをさまよっている。ペットを連れている人もいる。
リャミンさんのトレンチコートの襟には、ウクライナ国旗の青色と黄色のリボンがついている。ロシアがウクライナに戦争を仕掛けた翌日、彼が反戦デモに参加したとして逮捕されたのは、このリボンのせいだった。
「プーチン政権に対抗する最善の方法は、ロシアから移住することだと理解していました」と、大学で政治学を学んだというリャミンさんは言う。「ウクライナ人を助けるためにできることは何でもする。それが私の責任です」。
ロシアを脱出した人たちの行き先は、ジョージアにとどまらない。欧州連合(EU)、アメリカ、イギリス、カナダはロシア航空機の自国領空での飛行を禁止している。そのため、こうしたロシア人たちはトルコや中央アジア、南コーカサスなど飛行が許可され、ビザが不要な国に向かっている。その多くはアルメニアに逃れている。
ロシア人経済学者の推計によると、ウクライナ侵攻開始以降、20万人ものロシア人が国を離れたという。
ロシアの同盟国ベラルーシの人々も国外へ移動している。弾圧から逃れ、権威主義的な同国の指導者アレクサンドル・ルカシェンコ大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に協力したとして西側諸国が科した制裁から逃れるために。
そのため、トルコ・イスタンブールやアルメニアの首都エレヴァンといった主要都市に向かう直近のフライトや宿泊施設などの価格が急騰している。
「イスタンブールへの片道航空券は、私たち夫婦の月収を上回る額です」と、アーニャさんは名字を伏せて話してくれた。
アーニャさんが国外への脱出を決断したのは、ロシアで新たな「国家反逆」法が施行されたことがきっかけだった。ウクライナへの支持を表明した者は20年以下の禁錮刑が科される可能性がある。アーニャさんは自分が標的にされるかもしれないと考えたという。
「閉ざされた国境や政治的抑圧、強制的な兵役に対する恐怖は、私たちのDNAに刻まれています。祖母がスターリン政権下の恐怖に包まれた暮らしについて話してくれたのを覚えています。私たちはいま、そういう状況下にいるのです」
どんな人が海外に移住しているのか
新たな移住者の多くは、リモート勤務が可能なハイテク産業の専門職の人たちだ。トビリシのカフェで出会ったゲーム開発者は、自分や知り合いのほとんどはロシアの政策に反対していると話した。どんな抗議活動も暴力的に弾圧されると、今は理解しているのだという。
「私たちが抗議するためにできる唯一の方法は、技術やお金を持って国を出ることです。私たちの仲間はほとんど全員が同じような決断をしています」と、イゴールさん(仮名)は言った。彼はトビリシで歓迎されていないと感じ、この街を離れるつもりだという。
米民泊仲介サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)で宿泊先を提供しているホスト側が、ロシア人やベラルーシ人に自分の物件を貸すことを拒否する事案が多数報告されている。
あるホストは、ベラルーシ人カップルに「ロシア人とベラルーシ人はお断り」、「あなたたちには休暇を取る時間なんてない。腐敗した政府に反抗して」と伝えたと、BBCに明かした。
「みんな、私たちがアップルペイが使えなくなったからロシアから逃げ出していると思っているんです」と、イゴールさんは不満を口にした。「私たちは快適さを求めて逃げているのではありません。私たちはあそこ(ロシア)で全てを失ってしまった難民のようなものです。プーチンの地政学が私たちの生活を破壊してしまった」。
トビリシの公共サービスホールでは、新しくやってきた人たちが事業登録や住民登録の申請を行っている。
ベラルーシの首都ミンスクから来たITスペシャリストのクリスティナさんとニキータさんは、個人事業主として登録した。これでジョージアの銀行で口座を開設できるという。
「私たちは自国の政府を支持していません。逃げ出したのですから、支持していないのは明白だと思います」と、クリスティナさんは話した。「でも国籍を理由にいじめられる。出身国を隠さないといけないし、出身地を聞かれると居心地の悪さを感じます」。
戦闘が始まって以来、トビリシではウクライナを支援するための最大規模の集会が開かれている。最近の調査では、ジョージア人の87%がウクライナでの戦闘を、自分たちとロシアとの戦いとみなしていることが明らかになった。
ロシアがジョージアに侵攻してから14年ほどしかたっていないため、多くのジョージア人はロシア人の劇的な流入を不安視している。
プーチン氏が在外ロシア人の保護が必要だと主張するかもしれないと、危惧する人もいる。これは実際に、2008年にプーチン氏が南オセチアへの派兵を正当化するために口実として利用したものだった。現在もジョージアの領土の20%はロシアの占領下にある。
しかし、技術系起業家のレフ・カラシニコフさんは、ロシアの現代史における最大規模の頭脳流出が起きていると断言。ジョージアがこの恩恵を受けることになるとみている。手続きのために列に並んでいる間、カラシニコフさんはメッセージアプリ「テレグラム」で移住者向けのグループを開設した。
「私の前に50人、私の後ろに50人いました。彼らが最初の登録者になって、今では4000人近いメンバーが集まっています」
メンバー登録した人たちは、宿泊先を探す場所や銀行口座の開設方法、人前でロシア語を話しても安全かどうかなどを話し合っているという。
エフゲニー・リャミンさんはすでに、ジョージア語の勉強を始めている。ジョージアの独特な文字をノートに書いて練習している。
「私はプーチンに反対しているし、戦争にも反対です。ロシアの銀行口座からはいまだにお金を引き出せないけど、ウクライナ人が直面している問題と比べれば何でもない」
●ロシア経済を荒廃させても制裁強化を 3/15
悪は存在する。怒りと権力欲に駆られた悪は、クレムリンに鎮座している。そして自由と民主主義を夢見る罪を犯した国に侵攻している。どうすればこのような悪を打ち倒せるのか。経済制裁がウクライナ国民による抵抗と相まって、ウラジーミル・プーチンを撤退に追い込めるだろうか。さらには、これがプーチン政権の崩壊につながることもあり得るだろうか。それとも逆に、プーチンは核兵器を使用するところまでエスカレートするリスクを冒すのか。
強力な経済制裁に動く西側諸国
西側による制裁が強力なことは間違いない。プーチンは制裁を「戦争行為に近い」と形容している。ロシアは世界の金融システムからほぼ切り離され、外貨準備の半分以上が役に立たなくなった。西側の企業は評判の悪化やリスクの増大を懸念し、ロシアに関わり続けることを怖がっている。キャピタル・エコノミクスのチーフエコノミスト、ニール・シアリングは、ロシアの国内総生産(GDP)が8%急減し、その後長い景気低迷が続くと予想している。中央銀行が政策金利を一気に年20%に引き上げたこと自体も重荷になるだろう。シアリングは楽観的すぎるかもしれない。米国のバイデン政権が主張しているように、ドイツは反対しているものの、西側が取るべき次の対策がエネルギーの輸出制限であることは明らかだ。控えめに言っても、プーチンの犯罪によって引き起こされたエネルギー価格の上昇がロシアに犯罪の原資をもたらす事態は好ましくない。ウクライナのエコノミスト、オレグ・ウステンコは、ロシア産エネルギーのボイコットを強く求めている。これに対し、米ハーバード大学のリカルド・ハウスマンは、ロシアの石油・ガス輸出に90%の関税をかける巧妙な代案を出している。供給の弾力性が小さいため、この制裁ならコストは西側の消費者ではなくロシアの生産業者がかぶることになるし、石油・ガスの希少性レント(供給量に限界があるのに需要がうなぎ登りに増える時に生じる超過利潤)も消費者側に移転される。
エネルギー制裁の実行可能性
その実行可能性についてハウスマンは、ロシアが2019年に輸出した鉱物燃料の55%は欧州連合(EU)向けで、さらに13%が日本、韓国、シンガポール、トルコに送られたことを指摘している。もしこれらの国がすべて課税に同意すれば、ロシアは中国などに石油を売ろうとするかもしれない。だが、輸送面の課題や西側から何らかの報復措置を受けるリスクなどがあるなかで、中国はどれほどの石油を引き取ろうとするだろうか。問題は、世界がこのエネルギーの調整にどの程度うまく対応できるか、だ。「ブリューゲル」の略称で知られるシンクタンクのブリュッセル欧州世界経済研究所の分析では、強い決意で取り組む必要があるものの「経済活動を大きく損なったり、人々を凍えさせたり、電力供給を混乱させたりすることなく、次の冬に備えてロシア産ガスをほかのガスに切り替えることは今でも可能なはずだ」と結論づけている。ハウスマンの言う輸入税を導入すれば、世界のほかの地域では石油・ガス価格が下落する可能性すらある。
ロシアの政策や体制を変えるのは困難
しかし、制裁発動の目的はロシアに方針を転換させること、可能であればモスクワの政権も交代させることだ。それは果たして実現可能なのだろうか。過去の経験を踏まえて言えば、国民に多大なコストを負わせることを厭わない独裁政権を倒すのは難しい。最近ではベネズエラが好例だ。この点については、プーチンはウクライナや西側との長期戦にロシア国民を動員しているわけではないと反論することもできるだろう。プーチンは「ネオナチ」に対する「特殊軍事作戦」という遠回しな表現をしている。こういった嘘はほころび始めるかもしれない。ただ、パリ政治学院で教鞭を執るロシア生まれの経済学者セルゲイ・グリエフが米プリンストン大学のマーカス・ブルネルマイヤーとの対話で指摘しているように、プーチンは情報操作による独裁から恐怖による独裁に移行しつつある。戦争が思い通りに進まなくとも、制裁による痛みがどれほどひどくなろうとも、取り巻きの忠誠心が衰えない限り、プーチンは権力を維持する可能性が十分にある。
広範な経済制裁は諸刃の剣
この種の広範囲な制裁は諸刃の剣だ。一般市民に多大なコストを負わせることで効果を発揮するからだ。特に、向上心の強い中間層は最大級の負担を被ることになるだろう。そうした犠牲者たちに、制裁による痛みは西側の敵意を証明するばかりだと信じ込ませることなど、プーチン政権にとっては朝飯前かもしれない。確かに、ロシア国民のなかにはプーチンを責める人がいるだろう。しかし、何と言ってもプーチンはメディアを掌握していることから、悪いのは西側だと大多数の国民が考える可能性がある。制裁の効果についても気の滅入る証拠がある。メンフィス大学のドゥルスン・ペクセンは次のような結論を示している。
(1)標的とした国に大きなダメージを即座に与えることを目指せ
(2)他国に協力を要請せよ
(3)独裁国家は民主主義国家よりも制裁に対する抵抗力があると心得よ
(4)同盟国は敵国よりも反応が速いと心得よ
(5)制裁の目標が大きい時には、比較的小さい時に比べて達成の効率が低くなると心得よ――。
リストの第1項目については、ロシアのエネルギー輸出を一段と抑制することが必要かもしれないし、第2項目については中国の協力が求められるかもしれないものの、西側陣営は最初の2項目については、なかなかいい線を行っている。だが、西側は敵対的な独裁者を相手にしており、この独裁者が自分にとっても国家にとっても欠かせない利益だと考えている戦争を覆そうとしている。先行きが明るいようには見えない。
悪い選択肢ばかりでも進むしかない
ウクライナへの支援がうまくいき、制裁がロシア国民に多大なコストをもたらしながらも政権転覆には至らない場合には、プーチンがさらに大きなリスクを取る気になるかもしれない。そこにはウクライナやそのさらに西方に位置するほかの標的に大量破壊兵器を使用することさえ含まれるかもしれない。今にして思えば、西側はウクライナ独立への支援について、もっと曖昧さのない態度で臨むべきだった。こうなった以上は、ウクライナの生き残りを賭けた戦いを支援するために、できることは何でもやらなければならない。ただし、北大西洋条約機構(NATO)の空軍力を戦争に直接投入するという、過大なうえに無益かもしれないリスクを取ってはいけない。制裁は強化すべきだが、その場合には、ロシアの政策や政権を変えることなくロシア経済だけを荒廃させる恐れがある。我々はロシア国民と戦争しているのではないと明言しておくべきだが、制裁がもたらす痛みについてロシア国民は許してくれないかもしれない。さらに、我々は中国とインドに声をかけ、戦争をやめるようプーチンを説得してほしいと要請するべきだが、そのような努力が失敗に終わる可能性がかなり高いことは承知しておかねばならない。悪い選択肢しか存在しない。それでもウクライナを見捨てるわけにはいかない。我々は進み続けなければならない。
●ウクライナ侵攻したロシア軍の戦死者は9000人か498人か 3/15
今頃、最恵国待遇取り消し
ジョー・バイデン米大統領は、3月11日、ロシアに対する貿易優遇措置「最恵国待遇」を取り消す手続きを米議会に求めた。これを受けて日英独など主要先進国首脳会議(G7)首脳は対ロシア追加経済制裁を発表し、「最恵国待遇」の撤回を表明した。ロシアのウクライナ侵攻から15日経ってのことだ。本当にロシアを制裁するなら小出しにせず、いっぺんにやってしまえばよさそうなものを・・・と、落語の「熊さん八つあん的」発想では考える。あとほかに何が残っているのか。殴る以外にはない。あとは米国もメンバーの北大西洋条約機構(NATO)が軍事介入する以外ない。もっともそれはできない。バイデン大統領もNATO首脳も、第3次世界大戦になるから絶対にやらぬと公言している。悪ガキに殴られているひ弱な子を助けられない。手足を自分で縛った口喧嘩しかできない。欧米のメディアによれば、これまでに幼子を含む227人のウクライナの市民が殺され、200万人のウクライナ人が国外に避難している。国際世論がロシアに戦闘の即時停止を訴えても悪ガキは手を緩めようとしない。国連も西側首脳たちの説得も全く通じない。同じキリスト教(ロシア正教ではあるが)のカトリック教を「国教」とするロシアだから、多少聞く耳を持つかと思ったフランシスコ教皇(アルゼンチン出身)の諭も軽くいなした「ウラジミール・プーチンのロシア連邦」とその国民は一体何を考えているのだろうか。
侵略かウクライナ系ロシア人解放闘争か
今続いているウクライナ戦争をどう見るか。ロシア人(と中国を含む親ロシア国家)と、日本を含む西側民主主義国家の国民との間には、大きな乖離がある。何が起こっているかを知る情報源が全く異なるのだ。例えば、両軍の戦死者数だ。ウクライナ軍の発表をそのまま報ずる欧米メディアによれば、侵攻から9日間に戦死したロシア兵は9000人、ウクライナ兵は2870人、負傷者は3500人。一方、ロシア軍(陸軍大本営)によれば、戦死したロシア兵は498人、負傷者は1597人と大きく異なる。戦死したロシア兵が9000人と498人では大きな違いだ。どちらが正しいのか(おそらく政治的にはどちらも正しいのだろう)。前者を基に欧米メディアはウクライナ軍が善戦していると報じ、ロシアメディアは「首都キエフ陥落は時間の問題」と報じている。ことほど左様に、米国にはフェイクまがいの情報が散乱している。サイバー時代の今、第2次大戦時には考えられなかったような大量の情報、偽情報が発信され、世界は肩摩轂撃(けんまこくげき)の渦になっている。例えばこんな具合だ。米メディア:「米情報機関によるとプーチン大統領がキエフ攻撃を前に市街戦が得意なシリア軍退役兵士を募集し、すでに1000人以上がロシア国内に待機している」ロシア・メディア:「ロシア情報機関によるとNATOがテロリストを集めてウクライナ軍に合流させている」米メディア:「プーチン氏が3月11日の国家安全保障会議で『外国からの戦闘志願者を受け入れ、戦地への移動を助けるべきだ』と発言、セルゲイ・ショイグ国防相は『中東からすでに1万5000人超の応募がある』と語った」米メディア:「シリアの国営メディア『デリゾール』によれば、ロシア軍はシリア内戦の際に出動し、共に戦ったシリア軍兵士の退役軍人を6カ月契約で200ドルから300ドルで雇った」報道する目線が「ウクライナ侵略」か、それとも「ウクライナ系ロシア人解放闘争」なのかによって「ウクライナ戦争」の実相は何から何まで違ってくる。
ロシアは国営テレビ、ウクライナはSNS
メディア専門誌「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」が3月11日、「ロシア・プロパガンダは誰のためか」(Who is Russian propaganda for?)というタイトルでウクライナ戦争をめぐるメディア報道の実態を分析している。ジョン・オルソップ記者が、ロシア、ウクライナのメディア事情に詳しい学者やジャーナリストからの最新情報を基に検証している。世界中に情報や動画を流すSNSは流動化するウクライナ情勢を睨みながら行動に出た。米アルファベット傘下のグーグルが運営する動画投稿サービス「ユーチューブ」は3月1日、ロシアの国営メディアRTとスプートニクに関連したチャンネルを欧州全域で排除。前日の2月28日には「フェイスブック」を運営する米メタが、欧州連合(EU)域内で同社プラットフォームからRTとスプートニクにアクセスできないようにすると明らかにしていた。またツイッターはロシア国営メディアのコンテンツを含むツイートに注意喚起のラベルを付けると発表した。オルソップ氏によれば、欧米のSNSがいくらロシアとのアクセスを遮断してもロシアは痛くも痒くもないという。なぜなら、プーチンはメディアを通じて国際世論にロシアが「正しいこと」を訴えるつもりはさらさらないからだ。
一、ウクライナ侵攻の正当性をロシア国民に示し、ウクライナ国内に住むロシア系を弾圧から解放させる「闘争」でわが軍はどれほど善戦しているかを知らせるのが目的だからだ。
二、第一、ロシア国民の大半、特に中高齢層の間にはSNSは全く普及しておらず、若年層でもSNSは欧米ほど使われていない。
三、ソ連邦崩壊後もロシア国民は政府から完全に独立したメディアという欧米のようなメディア観にはなじんでおらず、国営テレビに絶大な信頼を寄せている。
ロシアの国営放送の内容は以下のように、こうしたプーチン路線を見事なまでに反映している。
一、ゼレンスキー政権はナチス・ドイツの流れをくむ「ネオ・ナチ」だ。ロシアがウクライナに侵攻したのはウクライナを非ナチ化させることにある。ウクライナには1945年以降もナチズムの遺物が残っている。
二、ウクライナは非道な国だ。その一例として、ウクライナの研究施設では生物兵器が開発されていたことがロシア国防省によって確認された。
ロシア国民はプーチンを信頼し切っている
こうしたロシア国内事情について、国際情勢を分析し、近未来を予測する「ユーラシア・グループ」のイアン・ブレーマー氏はこう指摘している。「ロシアは今のようなプロパガンダ作戦を続けると、だんだん窮地に追いやられるだろう。しかし、ロシア国民の大半はそう思ってはいない」「なぜなら国民の大多数は国営テレビでしかウクライナ情勢を知らされていないからだ。SNSのようなデジタルで情報を入手していない」「そうした背景には、ロシア国民がプーチン氏を圧倒的に支持している下地がある。こうした傾向は今後続くだろう」「プーチン氏の反対勢力が運営している世論調査機関が最近行った世論調査でも、ウクライナ侵攻を支持するロシア国民は60%近くあった」「同世論調査では、ほとんどの国民が国営テレビの報道に信頼を寄せているといった結果も出ている」
「プーチンの戦争」を支持するロシア国民は、特に中高齢層が多い。ハーバード大学ショレンスタイン・センターが2020年に公表した報告書でもロシア国民の年齢差ギャップが指摘された。だが欧米や日本とはかなり異なる。「確かにロシアにも年齢差ギャップによるメディア消費習慣が存在するが、ギャップ解消の速度はスローだ。前途は厳しい。2年前よりも後退している」その理由についてロシア人ジャーナリストのイリナ・ボロガン氏はこう述べている。「ロシア政府のプロパガンダは、国民が何を聞きたいかを巧みに盛り込んでいる。国民の側は、それが事実なのか否かなど詮索しない」「こうなってほしい、こうなればいいといったコンテンツを国営テレビは流すのだ」 ロシア国民が聞きたいこと、それは「大ロシア」の復活であり、超大国に返り咲く祖国の姿だ。2014年3月には「奪われていた領土・クリミア半島」を奪い返した。そして今、ウクライナ東部に居住するウクライナ系住民を「ナチ・ウクライナ政権」から解放する闘争にロシア国民が一丸となって戦う――。ロシア国民の大半は本当にそう信じている。
(ウクライナ政府・軍の発表によれば)ロシア軍は3月11日、中部ドニプロや北西部ルツクに2月24日の侵攻後、初めて攻撃を加えた。また首都キエフやハリコフ、包囲攻撃を受けているマリウポリ、北部チェルニヒウに設置された人道回廊の機能をマヒさせた。マリウポリへの食糧や医療品の輸送まで妨害する動きを見せている。ロシア政府・軍が国営テレビでどう報じているか、米国に住む筆者の情報網には入ってきていない。最近までウクライナで現地取材していたジャーナリスト、アン・クロスビー氏はMSNBCとのインタビューでこう述べている。「クレムリンはウクライナが発信する事実をまことしやかに否認する能力に磨きをかけている」「プーチン氏にとっては国際世論がウクライナの言うことを信じようと信じまいと一切関知していないように見える」「彼にとっては暴力こそがゴール。ウクライナ国民に恐怖心を植え付けることがゴール。テロこそがゴール。そうした状況を効果的に出現させている」
ウイリアム英王子 「ヨーロッパとはかけ離れた戦争」
ウイリアム英王子は9日、ウクライナ戦争についての感想を聞かれて「ヨーロッパとは極めてかけ離れた(Very Alien)状況だ」とコメント。当初流れた報道では「アジアやアフリカならいざ知らず」と述べたと報じられた(その後、動画を見る限り、その発言はなかった)。確かに白人同士の戦争はボスニア紛争以来だ。あの時は、NATOは「民族独立」を錦の御旗にユーゴを空爆、セルビア人が多数を占める地域に親欧米国家を力ずくで建設してしまった。プーチン氏は今、同じことをやっている思いなのだろう。プロパガンダ合戦が激化する中で虚と実が入り交じった情報で憎悪がエスカレートし、また今日も尊い命が奪われている。
●シリア 報酬目当てのよう兵 ウクライナへ向かおうとする動き  3/15
ロシアのプーチン大統領がウクライナに外国の戦闘員を送り込む方針を示す中、内戦が続く中東のシリアから報酬を目当てにしたよう兵としてウクライナへ向かおうとする動きが出ていて、現地での戦闘の激化を招くおそれがあります。
シリアでは、ロシアが後ろ盾になっているアサド政権の協力のもと、ロシア側に立ってウクライナでの戦闘に参加するよう兵の募集が各地で進められていて、現地の情報を集めている「シリア人権監視団」によりますと、すでに4万人以上が登録したということです。
現在、戦闘経験に基づいた選考が行われているとみられ、一部は、ロシア軍が駐留するシリアの空軍基地からすでに現地に派遣された可能性があるということです。
こうしたよう兵の募集が行われている南部のスウェイダでは12日、ウクライナに軍事侵攻したロシアを支持する集会が開かれました。
集会では、プーチン大統領とアサド大統領が一緒に写ったポスターが掲げられ、集まった人々は「シリアとロシアは1つだ」などと声をあげていました。
市内では、現地の警察署によう兵の登録センターが設けられ、ウクライナへの派遣を志願する人たちが登録に訪れています。
登録を終えたという政府軍の元兵士で29歳の男性はNHKの取材に対し「申請が承認され次第、北西部のラタキアにある空軍基地に移され、契約を交わしたあと派遣されることになる」と話していました。
よう兵になる理由について男性は「生活が苦しく、お金のためと内戦でわれわれを支えてくれたロシアのためだ」としたうえで「ウクライナの戦闘の最前線で戦えば月に7000ドルが、後方でも3000ドルが支払われるとの説明を受けた」と明らかにしました。
そして「死につながる道かもしれないが、家族を養うためにこの機会を逃したくない」と話していました。
一方、ウクライナ側に立ってロシア軍と戦うよう兵の登録も同じシリアで始まっています。
こうした登録は、反政府勢力の拠点となっている北西部のイドリブ県で行われていて、手続きを済ませたという反政府勢力の元戦闘員で36歳の男性は、「大規模な戦闘や衝突の可能性がありますが、われわれはこの種の戦いには慣れています。志願した理由は2つで、ロシアと戦うためと、生活苦による経済的な理由です」と話していました。
ウクライナ政府が、こうしたよう兵を受け入れるかは明らかになっていませんが、シリアの反政府勢力内の各組織が登録を受け付けているということで、男性は「名前や必要な情報の登録を済ませ、次の指示を待っています。私だけでなく10人、20人と志願し、同じように待っている状況です」と話していました。
シリア人よう兵は、これまでも北アフリカのリビアや旧ソビエトのアゼルバイジャンとアルメニアの係争地にも派遣されていて、紛争を複雑化させる要因の1つともなってきました。
今回のウクライナへの派遣では、市街戦に投入されるのではないかとの見方が専門家から出ていて、ウクライナでの戦闘の激化を招くおそれがあります。
シリア人権監視団「状況さらに悪化」強い懸念
シリア人よう兵のウクライナへの派遣の動きについて、シリア人権監視団のラミ・アブドルラフマン代表は13日、NHKの単独インタビューに応じ、「よう兵は民間人の犠牲をいとわず状況をさらに悪化させる」として強い懸念を示しました。
この中で、アブドルラフマン代表はロシア側にたって戦うシリア人よう兵の登録はシリア軍の元兵士など4万人以上にのぼり、戦闘経験に基づいて選考が行われているとしたうえで多くは、生活苦による報酬目当てだと指摘しました。
選考では、ゲリラ戦の経験があるかどうかが重視され、すでに一部がシリア北西部のロシア軍が駐留する空軍基地から派遣されている可能性があるとしています。
そのうえで、「シリア人よう兵は派遣されたリビアでは、『雇われた殺人者』と呼ばれ、その名の通り、ウクライナであろうがどこであろうが、民間人の犠牲をいとわない。状況をさらに悪化させるだろう」と述べ、強い懸念を示しました。
また、ウクライナでのロシア軍の戦術について、かつてシリアで実行されたものだと指摘し、「都市を包囲する前に事前に退路をつくり、相手が退却しない場合は完全に包囲し、降伏させ支配下に置くまで飢えの苦しみと爆撃を続けるやり方だ」と述べシリアで起きた人道危機が繰り返されているとして、ロシアを非難しました。
シリア内戦に至るデモから11年
シリアでは11年前の3月15日、「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が波及する形で反政府デモが各地に広がり、これをアサド政権が弾圧したことで激しい内戦に発展しました。
内戦は、混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートが勢力を拡大するなど泥沼化し、現地の情報を集める「シリア人権監視団」によりますと、これまでの死者は49万9657人にのぼり、このうちおよそ3人に1人が民間人だということです。
また、内戦で国民の2人に1人が家を追われ、国連のまとめでは、国外に逃れた難民は670万人以上にのぼります。
一時は劣勢となったアサド政権は2015年からロシアによる空爆の支援を受けて反政府勢力やISの支配地域を次々と奪還しました。
一方、反政府勢力は、1つにまとまれずに分裂が進み、北西部イドリブ県とその周辺に追い詰められ、ISも弱体化する中、アサド政権は軍事的な勝利をほぼ確実にしました。
おととし、アサド政権を支えるロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦で合意してからは、大規模な戦闘は収まっていますが、政権側と反政府勢力、それにアメリカが支援し、北東部を事実上支配するクルド人勢力など国は分断され、散発的な衝突が続いています。
また、国連安全保障理事会の決議に基づく自由で公正な選挙に向けた憲法の起草など政治的な解決を目指すプロセスは行き詰まっていて、内戦の終結は見通せていません。
シリア人権監視団のアブドルラフマン代表は「内戦を終わらせる唯一の解決策は国際社会の力でシリアを変えることだが、いまのロシアとアメリカの対立の事態を受けてそれも望めない。シリアという国が近い将来、再び1つにまとまることはないだろう」と述べ、ウクライナ情勢を受けてシリアの和平はより遠のいたとの認識を示しました。
●プーチン・ロシアは既に「デフォルト状態」…経済制裁で「戦費」は枯渇する? 3/15
5回に分けて発動された経済制裁
ロシア軍のウクライナ侵攻の直前から、日本、アメリカ、ヨーロッパの西側諸国は様々な経済制裁を実施してきた。
あまり報じられていないが、筆者から見れば、乱発した制裁の中には強力なものもあった。その効果は絶大で、ほんの数週間前まで隆々としていた世界第11位の経済大国ロシアをすでに事実上のデフォルト(債務不履行)に追い込んだ。
ロシア軍はウクライナ侵攻のために湯水の如く戦費を費やしている。こうした経済制裁について、戦費にどのような影響を与えうるのかを含めて考えてみたい。
まずは、日米欧の西側諸国がどのように制裁を実施してきたかを振り返っておこう。
制裁はこれまで5回に分けて、その発動が発表されてきた。以下、そのパッケージをひとつひとつ検証するが、流れとしては軽い制裁、つまりロシアの国力をそぐという意味ではあまり効果のないものから始まり、徐々に厳しいものにエスカレートしてきたと言える。
では、制裁の第1弾だ。これは2月22日に打ち出された。
ロシアのプーチン大統領が前日に、安全保障会議を開催、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の一部地域の独立を承認したうえで、平和維持を口実に親ロ派支配地域へのロシア軍の派遣方針を決めたことに対抗したものだった。
中身は、米国が、(1)インフラ整備を担うロシア国営銀行「国営開発対外経済銀行(VEB)」と軍需産業の資金調達を役割とする「プロムスビャジバンク(PSB)」の2行が米国内で取引できないようにする、(2)ロシア政府が国債や政府機関債を通じて西側で資金調達できないようにする、(3)プーチン政権の幹部やその家族らの個人金融資産を凍結する――ことの3つだった。
欧州諸国も各国・地域内でロシアの銀行の取引を制限、政権幹部らの個人資産を凍結した。
この時、欧州で特に注目されたのが、ドイツの対応だ。ショルツ首相が一転して、ロシアとドイツを結ぶ新しいガスパイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続きを停止すると発表したからである。
それまで、ドイツは巨額の投資が無駄になるだけでなく、先行きの天然ガス調達に支障が生じるとして、制裁に一貫して慎重姿勢をとってきたが、態度を一変させたのだ。ただ話題としては大きかったものの、このパイプラインは新設だ。現時点での輸入を抑えて、ロシアの輸出にダメージを与える制裁ではなかった。
日本も翌日、関係者へのビザの発給停止および資産凍結、ロシア政府による新たなソブリン債の日本における発行・流通の禁止など制裁措置を打ち出して、欧米と足並みを揃えた。
しかし、これらの制裁第1弾はいずれも、ロシア経済に決定的な打撃を与えるにはほど遠いものに過ぎなかった。
通貨危機でロシア国内では「取り付け騒ぎ」も
制裁第2弾は、2月24日、ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始したことを受けて行われた。
この時の中身は、米国を例にとると、軍事、バイオ、航空・宇宙産業で使われる懸念のある半導体や通信機器のロシア向けの供給停止と、ロシア最大の銀行ズベルバンクを含む金融機関5行の米金融機関との取引禁止措置の2つだ。
ただ、金融関係の制裁の本丸と見られていた、ロシアの銀行の国際決済網SWIFTからの排除には至らなかった。バイデン米大統領がその理由として欧州諸国の反対に言及したため、欧米諸国の連携不足が懸念されることになり、やはり制裁として力不足の感が否めなかった。
米欧カナダの6カ国と欧州連合(EU)が2月26日、日本が翌27日に発表した追加制裁、つまり制裁第3弾には、ようやく制裁らしいインパクトのあるものが含まれることになった。
この時点では数日中に対象を公表するとしていたものの、ロシアの大手銀行数行を国際決済網SWIFTから排除するほか、初めてロシア中央銀行を制裁対象として、同行が各国の中央銀行に預けていた外貨準備を凍結することによってロシア通貨ルーブルの通貨防衛を不可能にしたのである。
ところが、ロシアからのエネルギー供給の途絶を誘発しかねないとして慎重論があったSWIFTからの締め出しが実現したものの、数日後の発表で資産額ロシア第1位のズベルバンクと国営ガス会社ガスプロム傘下のガスプロムバンクが対象から外れたことで、各国メディアでは制裁には抜け道があるという論評が主流になってしまった。
EU諸国は天然ガスの4割をロシアに依存してきたので、やはり実効のある制裁はできないという批判が沸き起こったのだ。
確かに、そういった側面は否定できないものの、ロシア中央銀行が日米欧の中央銀行に持つ外貨準備の凍結措置については、もっと評価されるべきだろう。
というのは、ロシア中銀は昨年末時点で、実にロシアのGDPの4割に相当するおよそ6300億ドルの外貨準備を持っていたからである。これは、世界で5番目に多い外貨準備高になる。GDPで世界11位のロシアは、その経済規模に比べて圧倒的に潤沢な外貨準備を誇っていたのだ。
振り返ると、ロシアはクリミア半島を併合した2014年から、資源輸出などで稼いだ外貨を積み上げ、外貨準備を1.6倍に増やしていた。並行して、いざと言う時に凍結対象にされ易い米ドルの比重も下げていた。当時から、今日のウクライナ侵攻を目論んで準備していたのではないかと言われる所以がここにある。
ロシアの外貨準備の内訳は、ユーロが32.3%、ドルが16.4%、英ポンドが6.5%。日本円は2%程度と推測されていた。それ以外は金が21.7%、中国人民元が13.1%などだ。そして、日米欧の凍結措置によって、一瞬にして積み上げてきた外貨準備の6割近くを失う羽目になったのだ。
「外貨売り・ルーブル買い」の為替介入という方策を封じられ、あっという間にルーブルの通貨としての信認は失墜した。
2月28日になると、ルーブルは急落。一時1ドル=119ルーブルと史上最安値を付けた。ロシアがウクライナ侵攻を始めた24日の1ルーブル=90ドル近辺から、わずか4日間で3割近くも急落したのである。これは、もはや「通貨危機」と呼ぶべき状態だ。
たまらず、ロシア中央銀行は2月28日、政策金利を従来の9.5%からいきなり2倍以上の20%に引き上げた。通貨急落に伴うインフレの加速を抑えるための緊急の利上げである。が、ロシア経済を大きく落ち込ませるという副作用を伴うことはだれの目にも明らかだった。
ロシア国民の自国通貨ルーブルへの信認はもともと高くなく、外貨預金をする人が多かった。このため、今回の通貨危機では、この外貨預金を銀行から急いで引き出そうとする人が急増した。
つまり、ロシア国内では、ある種の「取り付け騒ぎ」が始まっているわけだ。外貨不足でロシアの銀行が引き出しに応じられなくなれば、銀行は窓口を閉めて休業せざるを得なくなる。これは一種のデフォルトと言うべき状況だ。
ロシア政府はすでに、ルーブル建てのロシア国債を保有する外国人投資家に対する利払いを停止した。また、国外への外貨送金を禁じる措置も打ち出している。これらも厳密に言えば、事実上のデフォルトという言い方ができるはずだ。
そして、ロシア国債は今月中旬からぱらぱらと利払い期限を迎える。その最初の支払期限は3月16日で、払えなかった場合の猶予期間は30日という。つまり4月中旬の利払いができなければ、格付け機関などから正式にデフォルトと認定される事態が目の前に迫っている。正式なデフォルトも秒読みの段階なのだ。
ロシアの日銭獲得手段
駆け足で、第4弾と第5弾も見ておこう。
4度目の制裁は、バイデン米大統領が3月8日に発表したアメリカ単独でのロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連製品の輸入の全面的な禁止だ。同日に大統領令に署名し、即日発効した。これに呼応して、英国も年末までにロシアからの原油輸入を停止する方針を表明した。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、ロシア産原油の輸出総額に占める国別の内訳は、2020年時点で米国が2.3%に対し、欧州向けは53.5%に達している。
そもそも米国は原油と天然ガスの世界一の産出国で、ロシア産の原油、天然ガスの輸入禁止は打ち出しやすい制裁だ。逆にヨーロッパはロシア産に多くを依存しているし、日本も極東ロシアからの天然ガス輸入に8.0%を依存している。
にもかかわらず、主要7カ国(G7)は3月10日、リモートで臨時のエネルギー大臣会合を開催。その共同声明で、EUの天然ガスのロシア依存を減らすことを「特に緊急の課題」としたほか、各国の「供給多様化や省エネの推進で年末までに大きな進展が可能」とも記し、結束が揺らいでいないことを誇示した。
実際のところ、この声明の持つ意味は決して小さくない。というのは、金融制裁が大きな効果を発揮する中で、欧州向けの天然ガスと原油の輸出がロシアの貴重な日銭の獲得手段として残っているからだ。
貿易関係者によると、ロシアの原油輸出は日量500万バレル。このほぼ半分が欧州向けだ。仮に、原油価格を1バレル=120ドルとすると、欧州向けだけで1日に3億ドル、全体で6億ドルの収入がある計算だ。1ドル=115円で換算すれば、690億円の収入になる。
加えて、関係者によると、タンカーを使った原油輸出は減っているものの、パイプラインを通じた天然ガスの欧州向け輸出は健在だ。筆者の手元には、欧州側の主要6ポイントでの3月6日時点の輸入実績は、2月21日との比較で42%伸びたというデータもある。
この状況については、ロシア産の天然ガスの輸入をただちには減らせないという欧州諸国側の事情と、貴重な外貨獲得手段である天然ガスの輸出を減らすことができないというロシア側の事情が反映されているとみてよいだろう。
米国のように即時とはいかなくても、G7エネルギー担当大臣会合の声明が実現すれば、今後数カ月でロシアが稼ぎ出す日銭は大きく減少することになるだろう。
日本も、例えば、今は多くが米国向けに輸出されているカナダ内陸部産の天然ガスを輸入するため、太平洋側への輸送を目的としたパイプラインを建設して貰い、液化する設備を作ったうえで、日本に輸入することなどを考えなければならないと筆者は考えている。
戦費の負担>>輸出収入
第5弾は、G7が3月11日に発出した共同声明に盛り込まれた追加制裁だ。目玉は、世界貿易機関(WTO)ルールに基づく「最恵国待遇」を主要なロシア製品に与えないという措置だ。
これによりG7諸国とEUは、これまで輸入品価格の3%前後にとどめていた関税を30%程度に引き上げられるようになる。米国は、ロシア産の魚介類やウオッカ、ダイヤモンドなどを念頭に置いているという。米国以外のG7諸国とEUも同様の措置に努めると声明に明記しており、ロシアの外貨取得手段は一段と細って行く見通しだ。
さらに、G7は国際通貨基金(IMF)、世界銀行、欧州復興開発銀行といった国際機関によるロシアへの融資阻止で協力するほか、ロシア向けの宝石などの輸出禁止措置や、さらに多くの富豪らの資産凍結も進める方針だ。
ロシアとの全面的な輸出入禁止と、ロシアの完全な経済封鎖に向けて、また一歩近づいた形で、ロシア経済の窮乏に拍車がかかるだろう。
では、ロシアはウクライナ侵攻でどれくらいの戦費を費やしているのだろうか。
イギリスのコンサルティング会社「the Centre for Economic Recovery」など3社が連名で、「コンサルタンシーeu」というオンライン・プラットフォームで公表した試算によると、ロシア軍のウクライナでの戦費は1日に2.3兆円という。
これが正確な数字だとすれば、ロシアには前述のように原油の輸出で1日当たり700億円弱の収入が、そして貿易全体ではその数倍の輸出収入があってもおかしくないとみられるものの、戦費の負担が輸出収入より桁違いに大きいことになる。
こう見てくると、ウクライナでの停戦やロシア軍を撤退に追い込むまでに時間がかかる可能性がある一方で、経済制裁は着実にロシアを追い詰めているはずなのだ。
追い込まれているからこそ、プーチン大統領は焦りを募らせて、なりふり構わぬ非人道的な攻撃に走っているという見方も成り立つのではないだろうか。
●「核戦争起き得る」 ウクライナ情勢、世界に警告―国連総長 3/15
グテレス国連事務総長は14日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、ロシアによる侵攻が続くウクライナ情勢に絡み「かつて考えられなかった核戦争が、今では起こり得る」と危機的な状況を世界に警告した。しかし「外交と対話に遅過ぎることはない」とも述べ、真剣な交渉と戦闘行為の即時停止を改めて訴えた。
またウクライナへの人道支援のため、加盟国が拠出する国連中央緊急対応基金(CERF)から4000万ドル(約47億円)を追加拠出すると発表した。「ウクライナでは何百万人もが飢えや水、薬の不足に直面している」と指摘した。
●台湾はウクライナの対ロシア戦術に学んでいる…「非対称戦争」に備えて 3/15
•ウクライナ侵攻が起こったことで、中国も近いうちに台湾を武力で奪うつもりなのではないか、という憶測が広がっている。
•台湾は「非対称戦争」に向けて、ウクライナでの戦争を研究している。
•ただし台湾の国防部長は、通常と異なる中国軍の配備は確認していないと述べている。
台湾は「非対称戦争(軍事力が大きく異なる当事者間の戦争)」に備えて、ウクライナ人がロシアの侵略をどのように抑えているかを研究していると、邱国正国防部長は2022年3月10日、同国の国会議員に向けて語ったという。
同氏は、議会でウクライナ侵攻の影響に関して報告し、その後の会見で「台湾軍は、ウクライナ軍がいかにして自国が戦場となったことの優位性や認知戦(メディア等を利用して人間の認知領域に働きかける新たな戦争形態)の経験を活用しているのかを研究しており、その学びを非対称戦争の計画に取り入れようとしている」と述べたと、FTVニュースが報じた。
ロシアのウクライナ侵攻以来、台湾を自国の領土と主張する中国が、この機会に台湾を攻撃するのではないかという憶測が広がっている。
中国と台湾はともに、ウクライナ侵攻と台湾の問題は関係ないと強調し、両政府の代表は、これらを比較するのは不適切だと述べている。
一方で、台湾の呉サ燮外交部長は、ウクライナの抵抗を「権威主義的な権力からの脅威や強制に直面している台湾の人々にインスピレーションを与えるもの」と述べている。
●プーチン氏イスラエル首相と電話会談 ウクライナ情勢を協議 3/15
ロシア大統領府によりますとプーチン大統領は14日、イスラエルのベネット首相と電話会談し、ウクライナ情勢をめぐる協議を行いました。
この中でプーチン氏はロシアとウクライナの代表団による停戦交渉の状況について伝えたということです。また、ベネット氏からは他国の首脳との最近のやり取りについて報告があったとしています。
ベネット首相は5日にモスクワでプーチン氏と会談したほか、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話会談を重ねていて、ゼレンスキー氏は12日、ロシアとの仲介役として期待感を示しています。
●爆撃機から巡航ミサイル数十発 ウクライナ西部の演習場攻撃 3/15
米国防総省高官は14日、ウクライナ西部リビウ近郊の軍事演習場に対する攻撃について、ロシア軍の長距離爆撃機から発射された巡航ミサイルによるものだと分析結果を明らかにした。11日には西部の飛行場2カ所も爆撃を受けており、カービー国防総省報道官は「ロシアが(西部にも)攻撃対象を広げているのは明白だ」と懸念を示した。
高官は、演習場を標的とした13日の攻撃について「ロシア領空内から巡航ミサイル数十発が発射され、少なくとも建物7棟が損壊した」と記者団に説明した。演習場はポーランド国境近くに位置し、かつては米軍がウクライナ軍兵士に訓練を行っていた。空爆による軍事支援物資の輸送に影響はないという。
●チェルノブイリ原発 攻撃で送電線再び損傷 ウクライナ電力会社  3/15
ウクライナの電力会社は14日、チェルノブイリ原発への送電線がロシア軍の攻撃によって再び損傷したと発表しました。この損傷によって原発への外部からの電力供給がすべて失われたかどうかについては明らかになっていませんが、ロイター通信は、関係者の話として、チェルノブイリ原発ではディーゼル発電機による電力供給が行われていると伝えています。
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は14日、声明を発表し、ウクライナ北部のチェルノブイリ原子力発電所への送電線が、ロシア軍の攻撃によって再び損傷したと報告を受けたものの、その後、外部からの電源供給ができるようになったとしています。
また声明ではウクライナ南東部のザポリージャ原発について「ロシア軍が敷地内で弾薬を爆発させたという情報を把握している」としたうえで、IAEAとしてウクライナ側から情報の入手を進めているとしています。
●ウクライナ侵攻 無差別攻撃は犯罪だ  3/15
ウクライナに侵攻したロシア軍の蛮行が目に余る。都市を無差別攻撃して民間人の犠牲がうなぎ上りだ。産院や学校も攻撃され、原子力発電所も標的にされている。プーチン政権には軍事作戦の即時停止と撤退を重ねて要求する。
侵攻開始数日でウクライナは白旗を掲げる、という甘い見通しをプーチン政権はもっていたのだろう。軍事作戦が長期化すれば西側の制裁によってロシア経済の疲弊が進み、国民の厭戦(えんせん)気分は高まる。攻撃を激化させている裏にプーチン政権の焦燥感が見てとれる。
民間人や民間施設を狙った無差別攻撃は、国際法が禁じる戦争犯罪に当たる。戦争という極限状態であっても、人倫にもとる行為は慎むべきである。国際刑事裁判所(ICC)はロシア軍に対する捜査開始を宣言した。
国連憲章は武力による威嚇とその行使を禁じている。ロシアはそれを破った上にウクライナの主権を侵害し、民間人の命も顧みない。「人道回廊」を使った民間人の避難も、ロシアの再三にわたる停戦違反が障害になっている。
プーチン政権はチェチェン紛争やシリア内戦でも無差別攻撃を容赦なく行い、都市をがれきの山にした。そのたびに残虐ぶりが世界から非難を浴びた。
北大西洋条約機構(NATO)は軍事介入するつもりはなく、ウクライナのゼレンスキー政権が要求した飛行禁止区域の設定も拒否した。ロシアと直接衝突する事態を恐れるからだ。
だが、民間人の犠牲が増え続ければNATO諸国の世論が硬化し、ロシアに一段と強硬姿勢で臨むよう自国政府を突き上げる可能性がある。
また、NATOがウクライナに供与する武器を輸送する車両は「正当な標的になる」とロシアは警告したが、実際に攻撃すればウクライナ領外に戦火が拡大する危険が伴う。
攻撃を激化させればさせるほど、自らを一層の窮地に追い込みかねないことをプーチン氏はわきまえるべきだ。
●ロシア国営「第1チャンネル」放送中 編集担当者が「反戦」訴え  3/15
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を巡り、プーチン政権の意向に沿った報道を続けているロシア国営テレビで、ニュース番組の放送中に突然、職員の女性がスタジオで反戦を訴えました。言論統制が強まる中、国営メディアから政権批判の声があがった形で、反響が広がっています。
ロシア国営の「第1チャンネル」で14日、午後9時の看板ニュース番組「ブレーミャ」で、キャスターが、欧米による経済制裁についてのニュースを伝えていたところ、手書きの文字が書かれた紙を持った女性が突然スタジオに入ってきました。
紙には「戦争反対」という英語とともにロシア語で「戦争をやめて。プロパガンダを信じないで。あなたはだまされている」と書かれていました。
女性が「戦争をやめて」と繰り返し叫んでいたところ、放送は突然、別の映像に切り替わりました。
ロシアのメディアによりますと、女性はこのテレビ局で編集担当者として働くマリーナ・オフシャンニコワさんで、このあと警察に拘束され、公共の場で軍事行動の中止を呼びかけることなどを禁止した法律に違反した疑いで取り調べを受けているということです。
オフシャンニコワさんは、事前に収録していたビデオメッセージをSNSに投稿していて、父親がウクライナ人、母親がロシア人だと明かしながら、「今、ウクライナで起きていることは犯罪だ」と述べ、プーチン大統領を非難しました。
プーチン政権は、軍事侵攻に反対する声がロシア国内で高まっていることに神経をとがらせ、法律を改正するなどして言論統制を強めています。
こうした中で政権の意向に沿った国営テレビの放送の最中に図らずも反戦を訴えるメッセージが伝えられたことに対して、SNS上ではロシア国内からも賛同したり応援したりするメッセージが相次ぐなど、反響が広がっています。
●「プーチンは正気じゃない この国にもう未来はない」 ロシア人の“大脱出” 3/15
先週、何千人ものロシア人がヨーロッパの駅や空港に降り立った。この数週間で世界から孤立し、国内では反体制派の弾圧に動く政権に愛想を尽かして、母国を後にしてきたのだ。
彼らの多くは復路のチケットを予約していない。ウラジーミル・プーチン大統領に対する怒りを口にする人もいれば、今のロシアの状況を恥じる人、そして現状について語るのさえ恐れる人もいた。
「あの国にとどまっていても意味がありません。私たちには未来がないのですから」
そう話すのは、妻と7歳の娘と一緒にロシア西部の都市サンクトペテルブルクを後にしてきたヴャチェスラフ(59)だ。一家は月曜の朝早くに高速鉄道に乗り、午後にはフィンランドの首都ヘルシンキに到着していた。
セルビアの首都ベオグラードの空港に降り立ったロシア人女性は、「プーチンは正気を失っています」と語った。彼女は10代の息子を連れて祖国を脱出してきた。
独立系の調査機関によると、ロシア人の過半数がプーチンのウクライナ侵攻を支持しているとのデータもあるが、正確な数字はわからない。ただ、一部のロシア人がもう二度と戻らないつもりで出国を急いでいるのは事実だ。
まもなくロシアの国境が封鎖され、国外で暮らす家族と断絶されるのではないかと懸念して脱出してきた人もいれば、徴兵を恐れて逃れてきた人もいる。そして彼らは皆、ウクライナ侵攻に反対しており、プーチン政権による弾圧を恐れて国を後にしてきたという。
すでにロシア当局が出国しようとする人々の取り締まりに乗り出しているとの報道もあり、ヨーロッパの各都市に到着したロシア人のなかには恐怖心をにじませている人たちもいた。ロシアに残してきた家族や友人の身に危険が及ぶのを懸念し、フルネームで取材に答えるのを拒んだ人たちもいる。
いずれにしても、彼らがロシアから逃げ出す道はきわめて限られていた。欧米による制裁を受けて、ヨーロッパの航空会社のほとんどがロシア便の運航を停止したためだ。
そこで北欧へ向かうには、車で国境を越える、あるいはバスや列車でフィンランドに乗り入れるしかなかった。東欧や南欧へは、トルコやセルビア行きのフライトがわずかながら残っており、数少ないチケットをめぐって争奪戦が繰り広げられた。
エア・セルビアの飛行機でモスクワからベオグラードに到着したナタリア・グリズノワ(58)は、以前からプーチンに反対の声を上げており、なんとか国を脱出できて安堵していると話す。
彼女は先々週、1枚だけ残っていたチケットを1000ドルで購入し、スーツケース2つに荷物を詰め込んでセルビアに飛んできた。ロシア政府が戒厳令を敷いて国境を封鎖するという噂が広がってすぐに出国の準備をしたという。
彼女の28歳の息子は現在、米ハーバード大学に留学しており、西側とロシアの間に新たな「鉄のカーテン」が引かれるのを恐れたと話す。
「もしかしたら当然の報いなのかもしれません。私たちは、あの独裁者が20年もの間、権力の座に居座ることを許したのですから。あの国はもうロシアではなく『プーチンの国』に成り果ててしまったのです」
●プーチンが下した鉄のカーテン、ロシア経済と社会激変 3/15
いま欧米メディアで「鉄のカーテン」という言葉が使われ始めている。
この言葉はもちろん冷戦時代にヨーロッパを分断する象徴的な事例を表したもので、共産主義陣営と資本主義陣営を隔てる表現だった。
1990年10月に東西ドイツが統一されたことで「鉄のカーテン」は終結をみる。
だが、ウラジミール・プーチン大統領がウクライナを軍事侵攻してから、再び使われ始めている。
英フィナンシャル・タイムズは「ロシアは再び鉄のカーテンの向こう側へ」というタイトルの記事を掲載。
米公共ラジオ放送NPRも「マクドナルドなどの企業が提携を解消し、ロシアに経済的な鉄のカーテンが降りる」と告げた。
さらに米クリスチャン・サイエンス・モニター紙は「新たな鉄のカーテン? ロシアの侵攻は世界をどう変えるのか」と題した記事で、ウクライナ侵攻によってプーチン氏は孤立を深めていくことになると記した。
孤立だけではない。
ロシア国内ではウクライナでの戦争で、ロシア政府の政策に反する情報を伝えたジャーナリストに対して最大で「15年の懲役刑」を科す法律を成立させるなど、独善的な手法が目につく。
法律の厳格化が国家を前進させていくとは思えないが、こうした流れによって多くの西側メディアはすでにロシアでの業務を停止している。
さらにソーシャルメディアのプラットフォームも消滅しつつある。
多くの知識人や西側の情報に精通しているロシア人は、これまでロシアにあったリベラリズムは終わり、「自分たちは鉄のカーテンの内側にいる」ことを認識し始めている。
その一方で、今でも多くのロシア人は国内での変化に無頓着でいるという。
ワシントン・ポスト紙がロシア国内で先週行った世論調査では、ウクライナでの戦争支持者は58%で、不支持の23%を大きく上回っていた。
ただ、ロシアからマクドナルドやスターバックスが去り、ウォルト・ディズニーがロシアでの全事業を停止したことで、一般市民が鉄のカーテンによって大きな影響を被ることは明らかだろう。
さらにティックトックは動画のアップロードをやめ、一部のスーパーでは小麦粉や砂糖の購入量を制限し始めた。
それだけではない。世界的な会計事務所のKPMGとPwCプライスウォーターハウスクーパースはロシアからの撤退を表明し、米大手クレジットカード会社のビザとマスターカードもカードの決済事業を停止すると発表している。
ロシアとの関係を絶つことを決めた国際企業は雪だるま式に増えている。
エール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授がまとめたリストによると、3月13日現在、350社に及ぶ。
こうなると、プーチン氏は自由を謳歌できて当たり前の時代に、自らの首を絞めるようにして鉄のカーテンを下ろしにいっているとしか思えない。
ただ、ロシア国内には別の見方もある。
西側諸国がロシアを突き放して孤立させているわけではなく、北京が主導する経済圏内にロシアを追いやっただけとの解釈だ。
というのも中国はロシアには制裁を発表しておらず、いまでも中露関係は良好で、ロシアは中国に対してこれまで以上に寄り添っているとの指摘もある。
事実、3月10日に行われた米上院情報特別委員会の公聴会で、中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官はウクライナ情勢をからめた中露関係について証言した時、こう述べている。
「(中露関係は)すぐに変化することはない。これまで中国はロシアに多大な投資をしてきている」
習近平主席がロシアのウクライナ侵攻に諸手を挙げて賛同していなくとも、両国トップの基本的な立場には大きな変化は見られない。
しかも、実は習近平主席はプーチン氏の軍事行動を事前に周知していたとの情報もある。
今回のウクライナ侵攻については中国側から異論が出たとの見方もあるが、2月初旬、習近平氏は「中国とロシアは志を変えず、背中を合わせて戦略協力体制を進化させていく」と発言しており、中国は基本的にロシアを世界から孤立させないとの思い入れをもつ。
それでもいま、ロシアに住む多くの人たちは声を大にして口にできないプーチン批判を抱えたまま、経済的にも文化的にも世界から孤立しつつあることを感じ始めている。
それが鉄のカーテンという言葉によってさらに増幅され、ロシアという「閉じられた世界」が形成されつつあるようだ。
実名を伏せた23歳のロシア人女子学生は過去2週間ほど、家族と共に国外脱出を試みていたが航空券の入手は難しく、半ば諦めていたという。
だが先週、アルメニアの首都エレバンに行く航空券を入手できて、束の間の喜びを覚えたという。
だが実際は、「今の状況に対して深い悲しみを覚えていますし、怒りがこみ上げてくることもある」と複雑な心境でいる。
もちろんアルメニアは彼女と家族にとって、全く見ず知らずの土地で、単にロシアを脱出できるからという理由だけで航空券を入手した。
「プーチン氏はウクライナだけでなく、ロシアとベラルーシの3か国に住む市民の生活を破壊したのです」
「是非お伝えしたいのは、プーチン支持者とロシアに住む一般市民とを分けて考えてほしいということです」
「多くのロシア人はウクライナでの戦争を望んでいませんし、強く反対しています。しかし政権側は私たちを黙らせようと必死なのです」
この女子学生はこれまでロシアには欠点はあっても明るい将来があると確信していたが、いまは悲観的な考えに変わったという。
ロシア国内からはプーチン氏の権威主義に反旗を翻した人たちが国外へ逃亡し、その数はすでに250万を超えている。
今後、プーチン氏が内外からの声を聴かず、さらに鉄のカーテンを強固にしていくと、戒厳令や徴兵、国境封鎖という流れが視野に入ってくる可能性もある。混沌はしばらく続きそうである。
●ウクライナ侵攻のロシア軍に未熟な徴兵者、母親ら批判 3/15
「ウクライナに侵攻しているロシア軍の中に、訓練が不十分な徴兵者たちがいることが明らかになった。プーチン大統領は否定したが、彼らを派兵しているとの疑念は強く、ロシア国防省は関係者の処分を急ぐ考えを表明した。ロシアでは約30年前の内戦で、徴兵された若者たちが多数死亡し、彼らの母親が政権を激しく非難して厭戦ムードが高まったことがある。今回も母親団体から懸念の声が上がり始めており、戦争継続への影響が注目される。」
「徴兵された兵士たちは(ウクライナでの)軍事行動に参加していないし、これからも参加することはないと強調しておきます」
国際女性デーの3月8日、プーチン大統領は女性たちへの恒例の祝辞でこう断言した。これより前、ウクライナ侵攻に徴兵された若者たちが派遣されているとの指摘があり、そうした批判をかわす意図があったとみられる。
大統領は、派兵されるのはプロの将兵である契約兵のみだと述べた。一方、徴兵された兵士は徴集兵と呼ばれ、入隊後、約4か月しか訓練を受けず、本格的な作戦は難しいからだ。
ところがこの翌日、ロシア国防省の報道官は派遣部隊に徴兵された兵士がいることを明かし、次のように述べた。
「残念ながら、徴集兵のいるロシア軍部隊がウクライナで特別軍事作戦に参加しているという事実が、いくつか発覚した。後方支援の任務に当たっていた部隊の一つが敵に攻撃され、徴集兵を含む多くの軍人が捕らわれた」
実は、徴集兵が作戦に参加するのではないか、という疑いは開戦前から浮上していた。徴集兵の人権を守る活動をしているNGO団体「兵士の母の会連合会」(本部・モスクワ)は侵攻開始4日前の2月20日、モスクワ近郊の部隊に所属する徴集兵たちがウクライナ国境まで移動したことを公式サイトで次のように報告した。
「約100人の徴集兵 ドルビノ駅の構内で飢えている 兵士の母の会連合会のホットラインに、ドルビノ駅(ウクライナ国境沿いのロシア西部の駅)の構内に、第4親衛戦車師団(司令部・モスクワ州)の契約兵と徴集兵が100人以上いると、地元住民から連絡があった。兵士たちはすでに5日もとどまっており、自腹で食料を買っているが、金がつきた兵士もいるという。兵士用の携帯食はどこにもなく、いつ届くかもわからない。住民が証拠の写真を送ってくれた。たくさんの戦士が、缶詰に入ったニシンのように、狭いところにいる。タイルの床にじかに寝ている。食料も手を洗う水もない。」
「母の会」は軍司令部に善処を求めたが、状況は変わらず、翌2月21日には兵士たちが目的地へ派遣された、との連絡を受けたという。
「母の会」のスベトラーナ・ゴルブ会長は侵攻が始まった2月24日、公式サイトに次のようなコメントを発表した。
「法律上、徴集兵は軍の作戦に関われない。しかし、事実は異なる。ロシアで徴兵された兵士が、本人が知らないうちに契約兵とされ、国境を越えさせられた例があり、今回もそうなっている可能性は十分ある」
軍は沈黙を続けたが、開戦後も新しい情報が次々と明らかになった。ウクライナ・プラウダ(3月9日付)は、投降したロシア兵の発言を紹介した。
「徴兵された兵士たちが本人の同意なしで契約兵にされ、ウクライナで戦っている。我々はプーチン大統領がウソをついていることの生きた証拠だ。ウクライナでは契約兵だけが参戦していると彼は言ったが、全く違う」
ロシアの別のNGO「ロシアの兵士の母委員会」は、プーチン大統領の発言を疑問視する公式声明を出した。
「プーチン大統領は、ウクライナの特別作戦に派遣されるのは契約兵だけだと述べた。しかし、作戦地域へ徴兵された兵士を、だまして送り込もうとする指揮官についての(母親からの)訴えが、毎日、私たちに寄せられている。私たちは、軍検察、国防省とともに、すべての訴えについて解明にあたっている」
徴集兵の母親による抗議は地方でも起きている。英国紙テレグラフやラジオ局「スバボーダ」などによると、ロシア南部のケメロボ州で、兵士の母親たちがツィヴィリョフ州知事と面会し、次のような厳しいやりとりを交わしたという。
母親 みんな騙された。
知事 誰もだましていません。
母親 大砲の餌食になるため送られた。ベラルーシで演習なんてやらなかったのでは。準備もできていなかったのに、なんで若者が送られたんですか。みんな20歳ですよ。
知事 これは特別な作戦で、誰もコメントはしないんです。それは正しい。彼ら(若者)を使ったのは...
母親 「使った」って!私たちの子供を「使った」のですか。
知事 彼らは、特別な任務を与えられて、そのため努力しているのです。
母親 彼らは自分の任務を知りません。
知事 叫ぶことや、誰かを批判したりすることはできますが、今行われているのは軍事作戦です。結論めいたことを言ったり、批判したりしてはいけません。作戦はまもなく終了します。
母親 その時には、みな死んでいる。
ロシア社会では、徴兵された若い兵士たちが戦地に派遣されることには根強い反発がある。ソ連崩壊3年後の1994年、ロシアでは南部のチェチェンで独立を目指す武装勢力と政府軍とで内戦(第1次チェチェン紛争)が起き、未熟な徴集兵たちが多数戦死したからだ。
この際、政府に撤退を求めたり、反戦活動をしたりしたのが兵士の母の会だった。紛争はチェチェン側の根強い抵抗で泥沼化し、一時休戦となったが、母の会からの「圧力」も政権にとっては無視できない要因だった。
自ら非を認めることの少ないプーチン政権が今回、徴集兵の派遣を明かして迅速に関係者の処分に着手したのも当時の教訓があったためとみられる。
一方、ウクライナ側はこうした「弱点」を突く手法を採っている。ゼレンスキー大統領は3月12日、メッセージアプリ「テレグラム」で、ロシア人の母親に対し、「特に徴兵者の母親たちに言いたい。外国との戦争に息子たちを送らないで。あなたたちの息子がウクライナとの戦争に派遣されたという疑惑が少しでもあるなら、即座に行動を起こして下さい」と呼びかけた。
ロシア軍は兵器や兵員数でウクライナ軍を圧倒しているものの、士気が低いとの指摘もある。
米紙ニューヨーク・タイムズ(3月7日付)は「ロシア兵の死者は少なくとも3千人」にのぼり、「15万人あまりのロシア軍の多くを徴集兵が占める」と伝えた。
4月1日、今年春の徴兵が始まる。兵士の母の声が広がり、徴兵がうまくいかないようなことがあれば、プーチン政権にとって戦争継続の妨げになりかねない。
ロシアの徴兵制
ロシア紙イズベスチアなどによると、総勢約90万人のロシア軍のうち、7割が契約兵、3割が徴集兵。徴兵は春と秋の年2回実施され、任期は1年。
国防省によると、昨年は計25万5千人が徴兵対象になった。ただ、医師の診断書などをつくって「兵役逃れ」を助けるサイトもネット上にあり、実際に徴兵に応じた人は、もっと少ないとみられる。ソ連時代から長らく続いてきた新兵のいじめ問題などが影響しているとみられる。
プーチン政権は軍の近代化の一環として、徴兵制から完全契約兵制へと移行する計画を立てていたが、いまだに実現できていない。 
●ウクライナ軍の激しい反撃、ロシア軍停滞の主な要因か… 3/15
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は14日、西部リウネ近郊のテレビ塔をミサイルで攻撃し、地元メディアによると、9人が死亡、9人が負傷した。露軍は西部で訓練施設や軍用空港といった兵員や物資の補給拠点を攻撃してきたが、通信施設にも対象を拡大した。
地元リウネ州の知事によると、テレビ塔ではがれきの下敷きになっている人がいるといい、死傷者はさらに増える可能性がある。東部ハリコフでも断続的に攻撃が続いた模様だ。
一方、露国防省は14日、ウクライナ軍が短距離弾道ミサイル「トーチカU」を親露派武装集団が実効支配する東部ドネツク市の住宅街に向けて発射し、民間人20人が死亡したと発表した。同省はウクライナの軍需産業に「迅速な行動を取る」と警告しており、攻撃強化の口実にする可能性がある。
露大統領府によると、プーチン大統領は14日のイスラエルのナフタリ・ベネット首相との電話会談でドネツクへのミサイル攻撃を「野蛮な行動」と批判した。
ウクライナ軍はロイター通信にミサイル発射を否定し、露軍がウクライナ軍がミサイルを発射したと偽装したとの可能性を指摘した。
14日に行われたロシア、ウクライナ両国の代表団による停戦協議は、15日も続けられる予定だ。露側はウクライナの「非武装化」と「中立化」を目指す原則的な立場を崩しておらず、交渉は難航が予想される。
米国防総省高官は14日、首都キエフに向けた露軍の進軍が停滞しているとの見方を記者団に明らかにした。キエフ中心部から北西約15キロ・メートルと北東20〜30キロ・メートルの地点でそれぞれ確認され、3日前とほぼ同じ場所にとどまっているという。
高官はウクライナ軍の激しい反撃が主な要因だとし、作戦変更で意図的に停止している可能性もあると指摘した。市街地への無差別砲撃が「明らかに増えている」といい、露軍が引き続き主要都市を包囲しようとしているとも分析している。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ウクライナから国外に逃れた難民が13日の時点で282万人を超えたと明らかにした。
国際原子力機関(IAEA)は14日、露軍がウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所の敷地内で弾薬を爆発させたとの報道に関し、放射線量は通常の範囲内だと明らかにした。
同原発の敷地内では、今月4日の露軍の攻撃で残された不発弾を処理する作業が続いていたという。
●SNSで広がる「ひまわり」 ウクライナ市民と連帯を  3/15
ロシアによるウクライナ侵攻開始から約3週間。SNS上では厳しい状況に置かれたウクライナの市民への連帯を示そうと、ウクライナにとって象徴的な花、ひまわりの絵や写真の投稿が相次いでいます。
こちらのひまわり畑と白いはとをあわせた絵を投稿したのは40代のsatoshi☆galleryさん。数日かけて描いたといいます。
satoshi☆galleryさんは「平和への願いを込めました。テレビやネットから流れる情報を見て、なんでこんなことになっているのかと思います。子どもを含む民間人が殺されていることに心が痛みます。何もできないけど、この絵を見た人に少しでも平和への思いが芽生えてほしいです」と話していました。
青い空と一輪の大きなひまわりをアクリル絵の具で描いたtakahiroさんは、こうしたひまわりの投稿が広がることで、現地に少しでも連帯のメッセージが届くことを願っています。
takahiroさんは「ウクライナの人に届いたらいいなという思いで描きました。遠い国から戦況を見守るしかできないけど、ウクライナのことを思っているということがこうした投稿で広がって、現地の人たちを少しでも勇気づけたいです」と話していました。
ウクライナの経済や社会に詳しい神戸学院大学の岡部芳彦教授によりますと、ウクライナでのひまわりの栽培は主にひまわり油の生産のために20世紀初頭から広がり始め、国を象徴する花だということです。
岡部教授は「まさに経済と一緒に広まった主要な農産品ですので、国の誇りでもあると思います。ひまわりは公式な国の花ではありませんが、ウクライナ人にとって象徴的な花でもあるし重要な場面で思い浮かぶ要素だと思います」と話していました。
ウクライナを象徴するひまわり。いま平和への願いとともに大きな広がりをみせています。
●ウクライナ情勢、ドイツ機械関連企業の約8割に間接的影響 3/15
ドイツ機械工業連盟(VDMA)は3月11日、ウクライナ情勢がビジネスに与える影響とサプライチェーンの逼迫に関する緊急アンケート結果を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。本アンケートは3月2〜3日に実施し、国内機械関連企業547社が回答した。
ウクライナ情勢について、この設問への回答企業542社中、ビジネスに間接的に「甚大な影響がある」とした企業は23%、「かなり影響がある」とした企業は55%だった。間接的な影響とは、エネルギー価格の高騰、顧客の不安度の高まり、ロシア通貨ルーブル安などを指す。一方で、ビジネスに直接的に「甚大な影響がある」とした企業は14%、「かなり影響がある」とした企業は31%にとどまった。直接的な影響とは、経済制裁、プロジェクトの延期、ロシア・ウクライナにおける売り上げ減などを指す。
2021年9月(2021年9月24日記事参照)、2021年12月(2021年12月21日記事参照)にも実施した、サプライチェーンの逼迫に関する問いに対しては、この設問への回答企業544社のうち、74%が供給網に影響を受けていると回答。前回12月の調査(84%)に比べて10ポイント減少した。VDMAは、アンケート結果にはまだウクライナ情勢の最新状況が反映されていない可能性もあるとした。
原材料別の逼迫状況に関する質問では、「電子・電気部品」は、この設問の回答企業534社のうち80%が逼迫状況にあるとし、最も逼迫している原材料となった。他方、「化学製品」は、回答企業497社のうち逼迫状況にあるとしたのは9%にとどまった。今後の見通しについて、約3分の2の回答企業は、「電子・電気部品」が2023年以降にならないと状況が改善しないとみている。VDMAによると、約75%の回答企業が調達の見直しに取り組んでおり、具体的には、(1)調達先の拡大(地理的分散を含む)、(2)調達方針の変更、(3)在庫積み増しなどを進めている。
VDMAは今回、アンケート結果の発表に合わせ、2022年のドイツ国内の機械・設備生産高の実質伸び率の予測を7%から4%に引き下げた。引き下げの理由として、(1)2021年第4四半期の伸びが低かったことで2022年の伸び率の「ゲタ」が低くなったこと、(2)ウクライナ情勢の直接的影響、(3)国内機械関連企業とその顧客の不安感の高まりを挙げた。受注額自体は高い水準にあるものの、以上の理由から予測を引き下げるに至ったという。
VDMAによると、2021年のドイツ国内の機械・設備生産高は前年比6.4%増。2021年の機械・設備の輸出額は8.0%増の1,794億ユーロで、ロシア向け輸出額は全体の3.0%を占めた。
●岸田首相 国際社会と連携 ウクライナ支援に取り組む考えを強調  3/15
ウクライナ情勢をめぐり、岸田総理大臣は、政府与党連絡会議で、G7=主要7か国をはじめとする国際社会と連携しながら、引き続きウクライナへの支援や避難民の受け入れに取り組む考えを強調しました。
この中で、岸田総理大臣は、ウクライナ情勢をめぐって「わが国は、ウクライナ国民とともにあり、G7をはじめとする国際社会と連携しながら、迅速かつ確実な支援を実施し、ウクライナの人々の受け入れを進めていく」と述べ、引き続きウクライナへの支援や避難民の受け入れに取り組む考えを強調しました。
また、原油や原材料などの価格高騰に関連して「国民生活や企業活動への影響を最小限に抑えていく。さらに原油価格が上昇し続ける場合にはあらゆる選択肢を排除することなく検討し対応していく。穀物や水産物をはじめとするさまざまな影響についても、国内価格への波及などを注視し機動的に対応していく」と述べました。
このほか、今月21日が期限となる18都道府県のまん延防止等重点措置について、今週中に扱いを判断する考えを示したうえで「全国的な感染状況は改善が続いている。引き続き慎重さを堅持し、第6波の出口に向けて歩みを進めていく」と述べました。
一方、公明党の山口代表は、原油などの価格高騰を受けて「これまでの補助金による支援に加え、ガソリン税などを一時的に引き下げる『トリガー条項』の凍結解除など、さらなる対応が必要だ。国民生活を断じて守るため、新たな経済対策を検討してもらいたい」と述べ、政府に対し「トリガー条項」の凍結解除や追加の経済対策を求めました。
●停戦協議は中断、マリウポリから一部住民が避難 3/15
ロシアによるウクライナ侵攻19日目の14日、ロシア軍の攻撃は続き、首都や近郊などで死傷者が出た。南東部マリウポリでは初めて、民間人の一部が事前合意された避難ルートに沿って市外に脱出した。両国は4回目の停戦協議をオンラインで開いたが、15日まで中断となった。
首都などで民間人に死者
ロシアの侵攻は数カ所で進んでいる。ウクライナは予想されたより強力な抵抗をみせているが、ロシア軍は南部で占領地を拡大し続けている。首都キーウ(キエフ)に向けても徐々に前進している。キーウのクレニヴカ地区ではミサイルの破片が道路に落下し、1人が死亡、6人が負傷した。ヴィタリー・クリチコ市長によると、ウクライナ防空システムが破壊したミサイルの破片だったという。一方、キーウ近郊イルピンのオレクサンドル・マルクシン市長は、市内全域で「非常に激しい砲撃と爆撃が続いている」と、通訳を通してBBCに話した。ロシア軍は学校や住宅地、民家、文化財などを攻撃しているという。市長はまた、避難は日々続いているが、危険と隣り合わせだと説明。避難活動に参加したところ、「私の50メートル前にいた子ども2人と夫婦の家族が地雷で死んだ」とし、ロシア軍は民間人に向けて発砲していると非難した。北部リウネ州の当局者は、通信塔がミサイル攻撃を受け、少なくも9人が死亡、9人が負傷したと明らかにした。同州のヴィタリ・コヴァル知事は、アントピ村にある電波塔と、付近の管理施設がミサイル2発で攻撃されたと説明。「がれきの下にまだ人がいる」と話した。現地メディアは、テレビとラジオの地上波放送が同州で遮断されたと伝えた。こうした中、アメリカの国防当局幹部は、ロシア軍のほぼすべてで進軍が滞っているとの見方を示した。ウクライナの抵抗による部分が大きいという。この幹部によると、ロシア軍はキーウに向けて目立った前進をしておらず、同市の北西に位置するホストメル空港周辺で停滞している。また、車両50〜60台が、ハルキウ(ハリコフ)南東のイジュムに向けて移動しているという。ただ、ロシア軍の部隊増強の動きを示すものは、今のところないとしている。
停戦協議は15日まで中断
停戦に向けたロシアとウクライナの4回目の協議が14日、オンラインで開かれた。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は、双方がそれぞれの立場を明確にしたとした。協議前にはウクライナとして、停戦の確立とロシア軍の撤退、ウクライナの安全の保証を求めるとしていた。ポドリャク氏はその後、個々の言葉の明確化などのため、協議は15日まで「技術的な休止」を取っているとし、その後に継続されるとツイートした。ウクライナのゼレンスキー大統領は、フェイスブックにビデオ演説を投稿。協議が「けっこういい感じ」で続いていると報告を受けていると述べた。「様子を見ましょう。(交渉は)明日も続きます」と大統領は話した。一方、ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は14日、ウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳協議について、ウクライナ側からまだ要請を受けていないと述べた。ペスコフ氏は先に、両首脳が協議する可能性は排除されていないと話していた。ゼレンスキー氏はこれまで、戦争を終わらせる唯一の方法だとして、プーチン氏との直接交渉を求めてきた。ロシアメディアによると、ペスコフ氏は、プーチン氏とアメリカのジョー・バイデン大統領との協議は検討されていないと述べた。
「4000人超が避難」
ウクライナのイリーナ・ヴェレシチューク副首相は、前線となっている数都市から14日、4000人以上の民間人が無事避難したと述べた。副首相はビデオ声明で、人道回廊の7ルートで避難が実施されたと説明。一方で、別の3ルートでは実施できなかったと述べた。また、首都キーウ周辺で、ロシア軍が避難する民間人に向けて発砲していると非難した。ロシアは、民間の避難者は標的にしていないと繰り返し主張している。
マリウポリの人道危機
主要港湾都市のマリウポリは、ロシア軍の砲撃が2週間近く続いており、人道危機に直面している。食料、水、医薬品が底をつきつつあり、外部との通信がほぼ遮断されている。これまで何度か、民間人の市外避難で合意が形成されたが、そのたび短時間で破られてきた。しかし14日は、市民らの車160台が市外に出て、北西方向にある比較的安全なザポリッジャ(ザポロジエ)に向かったと、マリウポリ市議会が明らかにした。マリウポリの破壊の状況は、ドローン映像で明らかになった。集合住宅群が爆撃で焼け果て、がれきから煙が上がっていた。
妊婦と赤ちゃんが死亡
先週、ロシア軍がマリウポリに放った爆弾が産科病院に直撃した。破壊された建物から妊娠中の女性2人が逃げ出す衝撃的な写真が、世界中に広まった。だがBBCは14日、女性のうち1人が死亡したとの情報を得た。おなかの赤ちゃんも帝王切開で死産が確認されたという。外科医ティムール・マリン氏がAP通信に語ったところでは、赤ちゃんに生存の兆候がなかったため母親に集中したが、救うことができなかったという。
集団墓地
マリウポリのセルヒイ・オルロフ副市長は、民間人の死体が増え続ける状況への対策として、市内数カ所で埋葬用の穴が掘られていると、BBCに述べた。副市長によると、市の清掃員や道路補修員らが路上の死体を収容している。ウクライナの大統領顧問は、戦争が始まってからのマリウポリの死者は2500人を超えているとしている。BBCは、ウクライナ国内の別の自治体の職員らからも同様の話を聞いている。キーウ近郊の町ブチャでは、集団墓地に死体60体以上が埋められたとされる。
米国が中国に警告
ロシアが中国に軍事支援を要請したと複数の米メディアが報じたことを受け、アメリカは中国に対し、ロシアの制裁回避を支援すれば重大な結果を招くことになると警告。一方、中国外務省はアメリカが偽情報を流していると非難し、ロシアも中国に軍事支援の要請はしていないとした。超大国の間で緊張が高まる中、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は14日、紛争のこれ以上の悪化は「全人類の脅威になる」と警告。核紛争が「今や再び現実味を帯びている」とした。
新興財閥の豪邸が標的に
ウクライナ侵攻で、ロシアの富豪が所有する世界各地の豪邸に注目が集まっている。富豪の多くは、ウラジーミル・プーチン大統領と盟友関係にある。英ロンドン中心部では14日、エネルギー業界の大物オレグ・デリパスカ氏の所有とみられる豪邸のバルコニーに、抗議者たちがよじ登った。同氏はロシアのウクライナ侵攻に絡み、英政府の制裁対象となっている。抗議者らは、国外に逃れたウクライナ難民のために建物を回収していると主張した。英首相報道官によると、制裁の対象となったオリガルヒ(新興財閥)の所有物を難民収容に利用できるか、政府で検討しているという。ただ、利用には新たな法律が必要だとみられている。
ロシア国営テレビのスタジオで抗議
ロシア国営テレビで14日夜、ニュース番組の生放送中、テレビ局の関係者が「戦争反対」のプラカードを掲げた。国営テレビ「チャンネル1」の夜のニュース番組の生放送中、原稿を読むアナウンサーの後ろで、女性が「戦争反対。戦争止めろ。プロパガンダを信じないで。ここの人たちは皆さんにうそをついている」と書かれたプラカードを掲げ、「戦争反対! 戦争を止めて!」と声を上げた。この女性は、「チャンネル1」の編集者、マリナ・オフシャニコワさんだとされている。現在は、警察に拘束されているとみられている。オフシャニコワさんが反戦メッセージを掲げて間もなく、番組の映像はスタジオ内から、録画映像に切り替わった。ロシアのテレビニュースは政府に厳しく統制されており、ウクライナ侵攻については「特別軍事作戦」と呼ぶ公式見解しか報道していない。この抗議行動の前に、オフシャニコワさんは動画メッセージを録画。その中で、ウクライナで起きていることは「犯罪」で、侵略者はロシア、責任はウラジーミル・プーチン大統領1人にあると発言。「テレビ画面からうそをつくことを、自分に許していたのが恥ずかしい。ロシア人をゾンビにしてしまった自分が、恥ずかしい」と、オフシャニコワさんは言い、「この狂気を止められる」のはロシア国民だけだとして、戦争に反対するよう呼びかけた。
●ゼレンスキー大統領 「ロシア兵士よ、無意味な戦争でなぜ死のうとするのか」 3/15
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナの領土内で軍事作戦を繰り広げているロシア軍兵士たちに対して「無意味な戦争で命を失うことなく、戦争から引き上げよ」と要請した。
ゼレンスキー大統領は15日(現地時間)SNSによる演説動画を通じて「わがウクライナ市民たちは、あなたたち(ロシア軍兵士たち)がこの無意味で不名誉な戦争に参加しどのような精神的苦痛を受けているのか、侵略の決定を下したあなたたちの国家(ロシア)に対してどのような考えをもっているのかをきちんと知りたい」とし「ウクライナ市民を代表し、皆さんに生き残ることのできる選択をする機会を提供する」と伝えた。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナへの侵略戦争に疑いを抱いているロシア軍兵士たちが銃と戦車などの武器を捨て、ウクライナ軍に降伏することを求めた。
ゼレンスキー大統領は「ロシア軍兵士そして将校の皆さん、あなたがたとえ戦場にいたとしても、無意味に死ぬことなく生き残ることを望んでいるということをよく知っている」とし「あなたが所属している部隊で、きちんと人間としての待遇を受けられなかったこととは違い、我々は降伏した人たちに最善を尽くし待遇する」と強調した。
このようなゼレンスキー大統領の発言は、実戦投入ではなく訓練だと思って戦争に参加しているロシア兵が多く、開戦後、補給難などによりきちんとした食糧がロシア軍から供給されていないというニュースが続いていることを踏まえ「最大限、感傷的な方法でロシア兵士たちにアプローチする」という意図があるものとみられる。
ゼレンスキー大統領は「ロシア軍はウクライナへの全面侵攻において、すでに過去2回行われたチェチェン紛争により多くの兵力と装備を失った」とし「戦場に連れてこられたあなた(ロシア兵)たちが、何のため無意味に死ななければならないのか」と付け加えた。
●ウクライナが募る「外国人義勇兵」がロシアに捕まったらどうなるか 3/15
「ウクライナ軍と一緒にこの戦争を戦ってほしい。外国人義勇兵の助けを必要としている」
ロシアの侵攻を受けたウクライナのゼレンスキー大統領がそう呼びかけたことにより、これまでに52ヵ国から約2万人が志願の手を挙げたという。米紙「ワシントン・ポスト」が在米ウクライナ大使館から得た情報によれば、このうち約4000人がアメリカ人だ。
バイデン政権はウクライナに赴くのは危険だと繰り返し警告している。それにもかかわらず、現地へ向かうアメリカ人が後を絶たない。彼らの多くは、ウクライナの防衛に「大義」を見いだし、危険を顧みない退役軍人だ。
また、ロシア軍と直接戦うのではなく、ウクライナ兵に軍事訓練を施したり、医療支援や補給支援など、よりリスクの低い形でサポートしようとする元米兵たちもいる。
このように外国人義勇兵の任務は多岐にわたるとみられ、ゼレンスキーが新しく創設した「国際部隊」を越えて、外国人兵がウクライナ戦争に幅広く関与していく可能性が高いと、ワシントン・ポストは指摘している。
たとえば、ウクライナ国軍ではなく、民兵のグループに加わることを選ぶ外国人もいるだろう。在米ウクライナ大使館の職員によれば、そうした非正規軍のなかには、パスポートを没収して長期の従軍を要求する組織がある一方、母国での仕事や家庭の事情による帰国を自由に認める組織もあるという。
だが正規軍か非正規軍かにかかわらず、外国人義勇兵が直面するリスクは計り知れない。ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は、ウクライナ軍を支援する外国人を「傭兵」と見なすとし、拘束された場合は「最善のシナリオでもロシアで犯罪者として起訴されるのを覚悟しておくべきだ」と述べている。
安全保障や外国人義勇兵に詳しいアメリカン大学のデビッド・マレット准教授は、この戦争に外国人が直接関与することによって意図せぬ事態を招いてしまう可能性があると警鐘を鳴らす。
マレットが懸念するのは、西側の義勇兵がウクライナの極右の民兵組織に加入した、あるいはロシア軍に拘束されたり殺されたりした場合だ。いずれのシナリオでも、プーチン大統領に格好のプロパガンダ材料を与え、ロシア国内でNATO攻撃を支持する声が高まるかもしれない。
マレットいわく、最悪のシナリオはアメリカをこの戦争に駆り立ててしまうような、つまりアメリカ人義勇兵が絡んだ事件の勃発だ。そうなれば、米露の直接対決、第三次世界大戦につながりかねない。
●ウクライナへ「降伏しろ」発言の愚かさ 露の隣国ジョージア人が激白 3/14
ロシア軍の侵攻から祖国を守ろうとするウクライナに対し、日本の影響力のある著名人から、ロシアへの「降伏」や「妥協」を求める発信が見られる。これにロシアの隣国、ジョージア出身で慶応義塾大学SFC研究所上席所員のダヴィド・ゴギナシュヴィリ氏(38)が異を唱えている。
「ウクライナ兵は士気が非常に高い。そうしたなかで、降伏や妥協を求めるのはおかしい。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にも失礼だ。未来への希望も失われてしまう。軽々しく言うべきではない」
ダヴィド氏はこう語った。
母国ジョージアには親露分離派地域があり、ダヴィド氏が留学生として来日した2008年、ロシア軍の「自国民保護」を口実にした侵攻を受けた。今回のウクライナ侵攻も「断じて許せない」という。
ウクライナの徹底抗戦が続くタイミングで、日本で降伏を迫るような発信が出てきたことには、「倫理上も、合理性の観点からも間違い」という。まず、「倫理上」の解説をする。
「事実上、侵略者のロシアを支持、容認することになる。降伏後も確実にロシアの抑圧でウクライナの被害は続く。その責任は『ロシアに折れろ』と呼びかけた人も共有することになる。倫理上、非常にまずい発信だ」
では、「合理的」にはどうか。
「仮に降伏して戦争は終わっても、今度はロシアの支配下での治安の悪化などで、戦闘中をはるかに上回る犠牲者が出る。ウクライナの降伏は、近隣諸国にも計り知れないほどの大打撃だ。ロシアは次にモルドバなどを狙い、同じことを繰り返す。ロシアと同様、好き勝手にやる国が出て、国際秩序は成り立たなくなる。合理的ではない」
前出のゼレンスキー大統領は8日、英議会でのオンライン演説で、「どんな犠牲を払っても自国を守るために決して降伏しない」と語っている。
ダヴィド氏は「確かに、言論の自由はあるだろうが、ウクライナの大統領が決意を示すなか、『ロシアに降伏しろ』という発信は理解できない。ロシアのプロパガンダ(政治宣伝)にはだまされてはならない。ウクライナが敗北すれば民主主義が危機にひんする。いまはロシアを止めるため妥協せず、団結するときだ」と強調した。
●ウクライナ戦争でいよいよ始まったエネルギー戦争… 韓国も「自立」へ 3/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は先月24日、世界の反対にもウクライナを侵攻した。2〜3日で終わるだろうと思われていた戦争はロシアの期待とは違って20日が経過した。プーチン大統領の慌てぶりは歴然としている。戦況がロシアの思い通りになっていない理由はプーチンの2つの誤った判断に起因する。
まずウクライナの戦力と国民の抵抗を軽視していた。世界2位のロシア軍が行く先々でウクライナの防御膜がドミノ倒しになるだろうという予想とは裏腹に、ウクライナ国民は一丸となって固く団結し、激しく抵抗している。ロシア軍の進撃は各地で阻まれている。このような誤った判断の根拠は誤った情報だった。ロシア情報機関は戦争を望むプーチンの好みにあうようにゆがんだ情報を報告し、これは致命的な結果につながった。
また、プーチンは欧州の反発もそれほどではないだろうと踏んでいた。米国の制裁は想定内としても、欧州はロシアがクリミア半島を併合した時のように「微温」対応をするだろうと期待した。プーチンがこのように判断したのはロシアに強力な武器があるためだ。それがエネルギーである。欧州連合(EU)は天然ガスの40%、原油の25%をロシアに頼っている。エネルギーに関する限り、ロシアがEUの首根っこを掴んでいるというわけだ。だが、EUは戦争が勃発するとロシアに対する強力な制裁とともにウクライナに対する全面的な援助計画を発表した。
戦争の余波でエネルギー値急騰という津波が全世界を襲っている。戦争前は1バレル=70〜80ドル水準だった国際原油価格は天井知らずに高騰し、今では140ドルに迫っている。専門家は状況がさらに悪化する場合、1バレル=200ドルを突破すると見ている。
韓国は火の粉が飛んできたのではなく、風前の灯火のように打つ手がない。三面が海に囲まれていて、38度線で北朝鮮と分断している韓国はどこからも電気を借りてくることはできない「エネルギー島国」だ。韓国のような国は万一の事態に備えてエネルギー自立度を高めるのが必須だ。ウクライナ事態は韓国経済に1次オイルショック(1973〜74年)、2次オイルショック(79〜80年)に劣らない衝撃を与える可能性があるとの展望も出ている。
だが、韓国は経済規模が大きくなり、エネルギー自立度がむしろ低くなった。2次オイルショック直後には石炭のためエネルギー輸入依存度が75%だった。数十年が過ぎた最近では、エネルギーの92.8%(2020年)を輸入に頼っている。エネルギー生産国が咳さえすれば、韓国はインフルエンザにかかるようになっている。
貿易に大きく依存する韓国は経済規模(2021年名目国内総生産基準)が世界10位だ。今回戦争を起こしたロシア(11位)よりも大きい。規模の面では経済大国の仲間入りを果たした韓国だが、エネルギーに関する限り弱小国だ。エネルギーの安定性が担保されなければ韓国は常に周辺国の顔色を伺い、びくびくと身を縮める境遇に陥らざるをえない。戦争が起きて20日経過し、すでに韓国経済は不安定な兆しを示している。関税庁によると、今月1〜10日の貿易収支は13億9000万ドル(約1644億円)の赤字を記録した。輸出増加(14.9%)よりも輸入増加(15.3%)が上回ったせいだ。エネルギー値の急騰でこの期間は原油(43.6%)だけでなくガス(87.0%)や石油製品(46.3%)の輸入額が大きく膨らんだ。
すでに世界各国ではエネルギー戦争が始まった。西側諸国はロシア制裁に乗り出しながら、先を争ってエネルギー自立を叫んでいる。EU加盟27カ国は今月10〜11日、パリで首脳会議を開き、ロシア産化石燃料の依存度を減らして2027年までに独立すると明らかにした。このためにガス・石油の輸入先を多角化し、再生エネルギーの開発を加速することにした。これに先立ち米国のジョー・バイデン大統領は8日、ロシア産エネルギーの禁輸を発表してエネルギー自立を強調した。バイデン大統領は「今回の危機は長期的に米国経済を保護するためにエネルギー自立が必要だということを思い出させてくれた」と述べた。米国は多くのエネルギーを自らの調達でき、エネルギー自立を成し遂げた国と評価される。そのような米国でも「経済保護」を掲げてエネルギーの自立を叫んでいる。
エネルギーの92.8%を海外に依存している韓国はどうなのか。過去5年間、脱原発・カーボンニュートラル政策などを前面に出して、単価が高い天然ガス発電の比重が高まってエネルギー費用が大きくかさみ、エネルギー供給に対する不安も高まった。今後はエネルギー自立という大きな枠組みで化石燃料、原発、再生エネルギーに対する計画を用意しなければならない。このためには電力需給基本計画をはじめとするエネルギー政策を策定し直さなければならない。エネルギー自立がなければ、世界10位経済大国も砂の上の城にすぎない。
●ロシアのウクライナ侵攻に対峙するNATOの憂鬱 3/15
今回、プーチン大統領が開いた欧州のパンドラの箱、すなわち、ウクライナへの「特別な軍事作戦」の幕開け、一方的な核兵器の態勢強化による威嚇、ベラルーシとの実質上の軍事同盟化、いずれもロシアによる覇権主義的な挑戦を象徴するものであり、世界的にも力による現状変更の謀計として認められるべきものではない。他方、米国を含むNATO諸国も、パートナー国であるウクライナ領内に自国部隊を配備する計画や意図が無いことを早々に表明したことで、ロシア側の作戦に向けた軍事的姿勢を助長することになり、結果的に侵攻を抑止できなかったという道義的な批判を免れることはできない。本稿では、今年6月のマドリッド首脳会議で新たな「戦略概念(Strategic Concepts)」の採択を控えるNATOが、現下の状況の中で、今後どのような同盟政策、核抑止政策を取っていくのかという問題意識に基づいて考察する。
1.本来任務に回帰するNATO
現在、NATOは、加盟国に対するロシアの軍事的影響を排除すべく、130機を超える戦闘機や200隻以上の艦艇による警戒監視活動を継続する他、新たにルーマニアに多国籍戦闘群を展開することを決定し、その要員として既にフランス軍500人の派遣を終えるなど、地上戦力の増強を断続的に行っている。この結果、NATO外縁の東方側面に位置するバルト3国、ポーランドにおける「増強前方戦闘群(enhanced Forward Presence : eFP)」の強化に加えて、南東部側面にも新たな戦闘群が展開し、ロシアの軍事脅威に対するNATO領域防衛の盾が張り巡らされつつある。また、最高意志決定機関である北大西洋理事会(NAC)の承認を得て、多国籍の陸海空軍で構成される最大4万人規模のNATO即応部隊(NATO Response Force: NRF)は、段階的対応計画(Graduated Response Plans)によって、今回、初めて実戦配備の任務に就くことになった。2004年の運用開始から約20年の時を経て、危機管理から集団防衛まで幅広い危機事態に至短時間で対応することが要求され続けてきたNRFは、これまで主にアフガニスタンでの避難民支援や大統領選挙支援などの非軍事的な活動にとどめ置かれたが、今後、ロシアの脅威対処において如何なる軍事的役割を果たしてゆくのか、その真価を試される時機を迎えている。
2.ハイブリッド戦争への対抗
今後のウクライナ情勢の推移は予断を許さないが、予想を超えるウクライナ側の抵抗、善戦ぶりが顕著であり、大方の予想に反して、プーチン大統領の戦争が長期化しつつある。その中で、ロシアが幾つかの戦闘において勝利を収めるものの、戦術的には作戦が停滞し、焦燥感をつのらせているように見える。過去の例を振り返れば、ロシア軍は、2008年のジョージア侵攻では5日、2014年のクリミア併合においては4日で戦闘行動を終結しており、今回も、プーチン大統領としては、軍事手段と非軍事手段を組み合わせたハイブリッド脅威を駆使することで、短期間の作戦終了を想定していたものと考えられる。
しかし、戦局推移の見積もり段階から、ロシア側が侵攻プロセスを誤算していたとすれば、その原因の一つとして、以前から続けられてきた、NATO及び各加盟国によるウクライナに対する軍事支援がある。ロシアのクリミア併合以来、二国間ベースながら、NATO加盟国である米国、英国、カナダ、更にはトルコが中心となって、ウクライナに対して各種装備品を供与し、軍人の教育訓練に関する支援などを通じて、ウクライナ軍の能力向上に貢献してきた。また、今回の軍事侵攻に際しても、キエフに所在するNATO連絡事務所を通じて、サイバー防御、指揮通信、商用衛星画像の提供、ロジスティックスなどの総合的な支援が行われ、ロシア軍の攻撃に対するウクライナ軍の防御能力の抗堪性や持続性を確保する上で成果を発揮している。更に、NATOやEUによる、2008年から始まるロシアによるハイブリッド戦争へ対抗するための努力の積み重ねが、この状況で功を奏していると見られる。2014年のクリミア併合以降、欧州においては、戦車や戦闘機などの軍事的手段のみならず、サイバー攻撃や偽情報などの非軍事的手段が実存的な脅威として強く意識されるようになり、その対抗措置を整えるべく、相次いでハイブリッド脅威に関わる独立した中核的研究機関(Center of Excellence : COE)が設立され、NATO、EUとCOE間の連携強化が図られている。そして、今回、それらの協力の上に、迅速かつ有効な対ハイブリッド脅威への具体的措置が取られると共に、極めて稀有なことであるが、同盟、国境の枠を超えたインテリジェンス・コミュニティによる情報面の直接協力が実現したことも成功の要因として挙げられる。例えば、情報同盟であるファイブ・アイズ(Five Eyes) の試みとして、戦闘領域における衛星画像、ドローン映像、レーダー情報、傍受された通信へのアクセスを一部開放することで、豪州、ニュージーランドという太平洋諸国によるウクライナへの情報支援における一定の関与を導いた。それらが、NATOやパートナー諸国間の円滑な情報共有の実現とロシア側の虚偽を反証するための西側情報の迅速な公表に結びつき、ロシアによる非軍事的手段による攻撃効果を低減させ、被害の拡大と深刻化を未然に防ぐための布石となったことになる。すなわち、2014年以来続けられてきたハイブリッド戦争に対する分析、検討、対応手段の構築などの地道な努力が、今回のロシアのハイブリッド戦争の効果を減殺し、更にグローバルな情報連携がロシア軍の侵攻を遅らせることに関係していたと考えられる。このようにNATOや関係国による努力の結果、ウクライナに一縷の「希望」が見られる一方、NATO自身は、今回の軍事侵攻を契機として、軍事同盟としての基本、すなわち伝統的な軍事的手段に対する対応が同盟としての根源的な課題でありながら、結果的に、侵攻を抑止できず、無力さを露呈したという現実に再び向き合うことになる。
3.NATO首脳会議と新戦略概念
現在、NATOは、2022年6月開催予定のマドリッド首脳会議に向けて、2010年以来12年ぶりとなる新戦略概念の採択を目指した準備を進めている。そこでは、今後10年間NATOが直面すると見込まれる幅広い課題への対処が戦略の中核を占めるが、今回のロシアによる軍事侵攻を受けて戦略概念の内容は一部修正せざるを得ないであろう。しかし、それ以上に、欧州の安全保障秩序の再編を狙ったプーチン大統領の暴挙は、同盟存続に係る根本的な問題をNATO加盟国に投げかけたことになる。例えば、欧州情勢が混迷を深める中、インド太平洋に向けての戦略重心の転換を図りつつある米国の軍事プレゼンスを如何に欧州に引き止めるのか、昨年末からのロシアとの協議を通じて表面化した同盟内の凝集性への懸念をどうやって払拭するのかなど、これまで繰り返し議論されてきた機微な問題が表面化しかねない。そして、特に、ロシアのウクライナ侵攻によって顕在化した核抑止の実効性をめぐる問題は、新たな戦略概念の中での取り扱いを含めて、首脳会議の大きな議題となるであろう。
それは、2月27日、プーチン大統領が、今回の軍事侵攻を機に、核戦力などの特別態勢への移行を命じ、核兵器の無い世界を目指す西側諸国を震撼させたことに端を発する。これまでも、ロシアは、2018年9月のロシアの大規模軍事演習「VOSTOK 2018」における核/通常弾頭搭載可能な弾道ミサイルの発射訓練や、2020年5月ロシアの飛領地で、NATO加盟国の領土に接するカリーニングラードに、核搭載可能な中距離核ミサイルSS-26 Stoneミサイル(Iskander-M)配備を既成事実化して、NATO同盟国に対して核兵器による威嚇を続けてきた。将来的に、ロシアが、超音速ミサイルシステムや巡航ミサイルなどの新たな核運搬手段の開発配備を推進し、通常精密兵器と低出力核兵器を一体的に運用することを通じて、作戦上の主導性を確保するという戦い方を続けるのであれば、従来のNATOの核政策も大きな影響と変更を迫られることになるであろう。これまでも、NATOは、世界に核兵器が存在する限り「核同盟であり続ける」として、核計画部会(Nuclear Planning Group:NPG)での核政策や核態勢の協議等を行い、通常戦力やミサイル防衛能力と共に核戦力を適切に組合せ、維持する姿勢を堅持してきた。しかしながら、そのようなロシアの核戦力の運用に係る不透明性と不確実性が強まる中にあって、NATOは、時代と状況に応じた核戦力を伴う抑止戦略を模索し、合意し、それを実際の行動に移す責務を負っている。
また、作戦面でも、将来的にベラルーシ領内に核・非核両用の核戦力を擁するロシア軍部隊が駐留するような事態によって、ポーランド・リトアニア国境の僅か104kmの狭い「スヴァルキ・ギャップ(Suwalki Gap)」と呼ばれる、NATO防衛において緊要な戦略的回廊の脆弱性が増大する問題に直面する。それは、今回のウクライナ侵攻の影響が周辺地域に波及する形で、バルト3国やポーランドの安全への不安と動揺が高まる中で、NATOがNRFを現地に事前展開しようとしても、ベラルーシに配備されるロシアの中・長距離核戦力による打撃力がそれを阻む可能性が高いことを指す。その結果、NATOは、自らの領域内であっても、東方側面における自由な作戦機動を躊躇せざるを得なくなり、バルト三国が作戦、補給、通信面で分断され、孤立するという最悪のシナリオが現実のものとなりかねない。そのような事態は、NATOの集団防衛条項(第5条)の早期発動の可能性を高め、欧州における核戦力を含む大規模な戦争の閾値が下がるような事態を招くであろう。
このような核戦力をめぐる懸念に対して、INF条約の破棄後、米国による「核の傘」の信頼性を確保する新たな手立てが見えない中で、欧州としては、NATO加盟国間で核抑止のリスクと責任を共有することを保証する核共有(Nuclear Sharing)協定の拡大に着手する可能性がある。核共有は、同盟内の責任分担、被害共有を明確に示し、事態生起の際には機能発揮する核抑止システムであり、現在、ドイツ、オランダ、トルコ、イタリア、ベルギーが核共有国としての位置づけにある。新たな欧州の戦略環境の変化において、NATO首脳会議等での議論を経て、この核共有システムを中・東欧の加盟国が広く受け入れ、NATO東方に核の盾を築くことは、多角的核抑止戦力としてロシアの軍事的膨張を未然に抑えることへの期待にも結びつく。
今後、東アジアにおいても、欧州と同様に、中国、北朝鮮などによる核脅威が一層高まることが懸念される中、非核国家としての日本は、欧州の教訓とその動向を参考にして、どのようにそれらを抑止していくのか、真剣な政治的議論が求められる時期に来ている。先ずは、その第一歩として、現在、政府内で検討が進められている敵基地攻撃能力と併せて、我が国を取り巻く環境変化に応じた核共有に関する議論が公の場で開始されるべきであろう。急激に流動性と不透明性を強める世界において、我々に残された時間は長くはない。
●ドイツの対ロシア貿易、ウクライナ侵攻前の1月は輸出入とも大幅増 3/15
ドイツの対ロシア貿易が、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始する直前の1月に大幅拡大していたことが、連邦統計庁が15日発表した統計で明らかになった。
1月のロシア向け輸出は前年比30.7%増の21億ユーロ(23億1000万ドル)、輸入は前年比57.8%増の40億ユーロ。
原油と天然ガスの輸入価格の上昇を背景に貿易赤字は18億ユーロと前年同月の9億ユーロから拡大した。
ドイツは天然ガスなどエネルギー分野でロシアへの依存度が高い。
●「プーチンは習近平のポチである」 日本人が知らない"中華秩序" 3/15
なぜロシアは欧米の反対を押し切って、ウクライナに侵攻したのか。ウクライナ人政治学者のグレンコ・アンドリー氏は「それは中国という後ろ盾があったからだ。ロシアにとって中国共産党は、価値観を共有できる仲間であり、日米がどんなにがんばっても引き離せない。日本は両国とどう接するべきかを、しっかり考える必要がある」という――。
多くの日本人が中ロの関係を理解していなかった
プーチンのロシアは中国と親密な関係を持っている。
それにもかかわらず、日本においては、ロシアを対中国包囲網に引き込むことができると考えている人が多い(さすがに今は変わったかもしれないが)。
彼らはおおよそ、以下のように主張している。
1、「ロシアはたしかに今のところ中国と密接な関係にあるが、プーチンは仕方なく中国に友好的な振る舞いをせざるをえないのであって、中国依存から脱却する方法を探している。だから日本がいい話を持ち掛ければ、それに乗る可能性がある」
2、「日本一国だけでロシアを引き込むのは無理であっても、日米ならできるはずだ。米中新冷戦のなかでトランプはロシアと友好的な関係を築き、日米側に引き込むのが狙いだ。だからアメリカの大統領と日本の首相が共に協力すれば、プーチンを説得できる」
さらに、先述の二つとは多少違う話もある。すなわち、
3、「プーチンを日本の味方にすることは無理だろう。しかし、敵に回さないことぐらいはできる。ロシアと平和条約を結んで経済的に援助すれば、ロシアは中国の対日侵略には付き合わないはずだ。日本がつねにロシアを経済的に援助すれば、ロシアは金の卵を産む鶏を自分の手で殺さないだろう。日本を助けることもないが、中国と共同で日本を侵略するようなこともしない、という可能性はある。中ロを共に同時に相手にするよりは、中国のみと対立したほうがマシだ」
たしかに3つ目の話は、最初の2つと比べたら理屈としてはまだマシである。だが、この考えを持っている人も中ロ関係の本質を理解していない。本稿においては、なぜプーチンのロシアは中国と距離を置き、欧米陣営に「鞍替え」することができないのか、解説したい。
プーチンの後ろ盾は中国
中国はロシアの第一の貿易相手であり、資金調達の源である。中国と距離を置くことは、中国市場で今までどおり儲けられなくなることを意味する。また、すでにかなりの数の中国人がロシアに移住しており、中国企業がロシアの土地を大量に借りている。
つまり人民の保護、投資保護を口実に、中国はロシア領の一部を制圧する可能性がある。装備では劣らないが、数では優っている中国軍を敵に回すことが、ロシアには怖くてできない。
しかし、本当に大事なのは前述した理由ではない。ポイントは、仮にプーチンが物理的に中国から離脱できたとしても、彼は絶対にそうしない、ということだ。
最大の理由は地政学である。
プーチンはアメリカを始めとする西洋を「敵」と認識している。西洋に対する謀略や他の敵対行為は、その敵対意識をよく表している。さらに言えば、プーチンは中国というバックがあるからこそ、西洋に対して強く出られるのだ。
同時に、その逆もある。
つまり欧米と対立しようとしているから、中国に逆らうことができない。今のロシアの国力では、欧米と中国を同時に相手にすれば100パーセント潰される。したがって、必ずどちらかの陣営には付かなければならない。
中国とロシアは運命共同体
そして、中国もロシアを必要としている。
米中一対一の対立であれば、中国は間違いなく負けるが、ロシアの力が加わったら、辛うじて対等に近い。だから中ロは互いを必要としており、相手が潰れたら困るのだ。ロシアは中国が潰れたら困る。単独では西洋と対立できないからだ。同じく中国もロシアが潰れたら困る。単独ではアメリカと対立する力が足りないからである。
中ロは互いが潰れないように支え合っている。だから日本であろうが、アメリカであろうが、中国包囲網や中国抑止の話をプーチンに持ち掛けたところで、プーチンは絶対に乗らないのだ。中国が潰れることでいちばん困るのはプーチン本人である。中国共産党体制の滅亡は、必然的にプーチン体制の滅亡を意味しているからだ。
中国にとってプーチンは安心安全な指導者
両国の国力を総合的に見れば、中国はロシアよりもかなり強い。ロシアは中国に依存しており、中国はかなりの程度ロシア国内に進出している。普通に考えれば、ロシアにとって恐るべき状態である。にもかかわらずなぜ、プーチンは安心して中国共産党に身を委ねるのか。
疑問に思うであろうが、答えは簡単である。
それはロシアが中華秩序の一部であるかぎり、プーチン体制は安泰だからである。少なくとも、中国の手でプーチン体制が倒されることは100パーセントありえない。中国からすれば、プーチン体制が続く限り、ロシアは中華秩序の一部であり続ける。
しかしプーチン体制が覆ったら、次の指導者は中国からの離脱を図ろうとするかもしれない。それは中国にとって厄介なことである。だから欧米陣営に寝返る恐れのないプーチンは、中国にとって安心・安全で最高なロシアの指導者なのである。
中国のほうもロシアを潰すつもりはないし、領土を併合するつもりもない。理由は先述したアメリカとの対立において、ロシアの国力が必要だからである。しかも今の中国は、ロシアの国力を利用できる状態にある。親中プーチン政権が習近平の言うことを絶対に聞くからである。
中国にとってロシア侵攻のメリットは少ない
仮に、中国がロシアの広大な領土を併合すると決めたとしよう。その場合は軍事力を総動員して、ロシア極東やシベリアの地域を制圧しなければならない。もしくは中国人を戦略的に、大量にロシア国内に入れ、その地域に「北中華」などの名前をつけて、ロシアからの独立を宣言させる。あるいは土地の買い占めなど似たような方法でロシアの領土を制圧する。
中ロの国力の差を考えれば、不可能な話ではない。しかし、中国はそれを実行しないだろう。もし実際にロシア領土を併合したら、どうなるか。当然、残ったロシア人は中国の敵になり、全員が中国を憎むようになる。そして、米中対立において中国は不利になる。
たしかにロシアのシベリアや極東を制圧できたら、中国は膨大な領土や資源を手に入れて、さらに巨大な国家になれる。しかし、それで中華陣営全体が強くなるかといえば、ならないのだ。ロシアの東半分を制圧した場合、中国の国力はどれほど上がるのか。正確な計算は難しいが、今のロシアの国力の2、3割が中国の国力にプラスされる、といった程度だろう。
しかも残った半分のロシアは敵になる、というマイナスも生じる。中国にとってそれでは足りない。習近平はロシアの国力を100パーセント自分のものにしたい。というか、ほぼ手中にしている。ロシアはすでに中国陣営の一員だからだ。したがってロシアの国力のたかが2、3割を呑み込むために、ロシアを丸ごと利用できる現状をわざわざ潰すわけがない。
中国にとって、地球儀でシベリアと極東がどの色に塗られているかなど二の次の話なのである。重要なのは、その膨大な領土が中華陣営の勢力圏にある、ということなのだ。中国にとっては、「ロシア連邦」という形をそのまま残し、友好を謳いながら段々ロシアを中国化することが最善の方法である。
両国を引き離す唯一の可能性は「ロシア民主派」
では、ロシアが中国から離れることはいかなる状況であってもありえないのか。じつはそうとも限らない。可能性は非常に低いが、ロシアが中国から離脱する可能性は一つだけある。
それは、ロシア国内で革命的な変化が起き、親欧米派、民主派が政権を取ることである。ロシア民主派のリーダーだったネムツォフはすでに「プーチン政権は親中政権である」と警鐘を鳴らしている。
ロシア民主派の人びとであれば、ロシアの立ち位置は欧米陣営、自由民主主義陣営であるべきだと考えている。彼らは西洋の基本的な価値観を共有しており、中国共産党のやり方を受け入れないだろう。したがって、中華秩序からの離脱を実行しようとするはずだ。
ロシア民主派の支持率は5%と極めて低い
しかし、ロシアにおいて民主派が政権を取る可能性は非常に低い。プーチンが築き上げた現在の独裁体制において、彼らの居場所は全くない。また徹底的なテレビ・プロパガンダによって、ロシアの民主派には完全に売国奴、西洋の手先というレッテルが付いている。
今のロシアにおいて民主派の支持率は1割にも満たず、せいぜい5パーセント程度である。ロシアで教養が最も高いモスクワ市内であっても、民主派の支持率は20パーセント程度で留まっている。この状態では、プーチンの代わりに政権を取ることはできない。
ロシアにおいて民主派が支持を得るのは、一般人の意識がひっくり返るような天変地異が起きないかぎり不可能である。しかし天変地異が内発的に起こることはありえず、外からの力でプーチン体制を崩壊に追い込まなければならない。したがって少しでも中国からロシアを離脱させるような手法で、中国追従のプーチン体制を崩壊に近付ける必要がある。
以上のように、日米がどんなに頑張っても、プーチンを中国から離れさせることはできない。プーチンは、自分がアメリカと喧嘩しているようなポーズを見せられるなら、いくらでも習近平に頭を下げるだろう。彼にとってはアメリカと対等に対立している(ように見える)状態が、喜びや満足感を与えるからだ。この理想的な状態を自分から変える必要はない。
価値観の面においても、プーチンのKGBの価値観は中国共産党の価値観と共通している。プーチンが西洋の首脳と分かり合うのは不可能であるが、中国共産党の幹部とは十分に分かり合える。日本人は「プーチンは反中である」という何の根拠もない幻想は捨て、中華秩序の一員であるプーチンのロシアと現実的にどう接するべきかを、しっかり考える必要がある。
●プーチン大統領は停戦に動くか最後の攻勢か?  3/15
14日、ロシアとウクライナの4回目の停戦交渉がオンラインで行われた。ここへ来て、停戦に近づいているとの臆測も浮上。早速、マーケットは好感し、“リスクオン”の方向に動いている。近く、停戦は実現するのか。
2月24日のウクライナ侵攻後、安全資産とされる米国債が買われ、10年モノの金利は1.7%台まで下落していたが、2%台を回復。130ドルを突破していたWTI原油先物価格も100ドル強と落ち着いている。
「近く何らかの形で停戦へ向かうとの臆測が広がり、マーケットはリスクオフからオンに転じています。戦争が長期化し、両国とも疲弊し、そう長くは続けられないとみているからです」(兜町関係者)
ロシアにもウクライナにも、一刻も早く停戦したい事情もある。
「ニューズウィーク日本版」によると、キエフのクリチコ市長は、食料などの備蓄があと2週間ほどしか持たないと明かしたという。
ロシア経済も瀕死の状態だ。国際銀行間通信協会(SWIFT)は12日、ロシアの銀行7行を決済ネットワークから排除した。ロシアの外貨獲得には大きな打撃だ。
SWIFTから排除され、ロシアがデフォルト(債務不履行)に陥るリスクも高まっている。16日期日のドル建て国債1億1700万ドル(約138億円)を皮切りに次々と支払期限がやってくる。外貨払いは難しく、デフォルトは時間の問題とみられている。
ビザなどのカード会社が次々と撤退し、ロシア国内でクレジットカードも使えなくなっている。ルーブル紙幣の増刷と輸入品などのモノ不足が同時進行し、“ハイパーインフレ”が迫りつつあるのだ。
「地方はしばらくの間、自給自足で何とかなるでしょう。しかし、モスクワやサンクトペテルブルクといった都市部はそうはいかない。クレジットカードの生活にも慣れ、輸入品への依存度も高い。日々の暮らしが目に見えて苦しくなれば、都会のロシア人はプーチン大統領への批判を強めるはずです」(経済担当記者)
ロシアはいつまで軍事攻撃を続けるつもりなのか。軍事ジャーナリストの前田哲男氏が言う。
「ロシアは短期決戦をもくろんでいましたが、長期化し、行き詰まってしまっている。経済制裁の効果も出始め、国民からの不満が大きくなる可能性もある。いつまでも武力攻撃を続けられるわけではありません。ロシアが、向こう1週間のうちに、打開できる方向で動くことも十分考えられます」
はたしてプーチン大統領は停戦に動くのか。停戦に向かうとしても、“停戦交渉”を有利に進めるため、ロシア軍が最後に攻勢を強める恐れがある。今週がヤマ場になるのか。
●停戦交渉のカギ握る謎多き人物・メジンスキー大統領補佐官 3/15
ウクライナ政府が公式SNSに投稿した一枚の写真。日本時間3月14日夕方から始まった、ロシアとの4回目の停戦交渉の様子です。過去の3回と違って、今回はオンラインでの話し合いでした。しかし交渉の場は、16日まで中断となったといいます。
交渉の“キーパーソン”メジンスキー氏
ウクライナ側の代表団は、交渉でロシア軍の撤退、安全保障などについて議論する考えを示していましたが、交渉は中断となってしまいました。この停戦交渉を巡って、ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎教授は、交渉のカギを握るのはロシア側のトップ、メジンスキー大統領補佐官だと指摘します。
中村教授:メジンスキーさんというのは、プーチン大統領にとって自分の掲げる強いロシアを思想的に支えてくれる大切な人です。
プーチン大統領の思想を支えている重要な人物だというメジンスキー氏は、これまでに行われた3回の停戦交渉にもロシア側の代表として参加。4回目の交渉の写真でも中心に座っています。
“プーチン世代”の新リーダー
メジンスキー氏とはどんな人物なのでしょうか。これは2019年、SNSに投稿された写真です。プーチン大統領と対面しているのが、当時、ロシアの文化省の大臣を務めていたメジンスキー氏で、プーチン大統領とは緊密な関係であることをうかがい知ることができます。中村教授が取り出したのは、作家でもあるメジンスキー氏が書いた本です。これらはロシアで購入したもので、日本では入手困難な本だといいます。
中村教授:ロシアというのは独自の道、独自の歩みを歩んで来た。そして、このロシアの魂が謎に満ちていることについて書いてある本なんですね。
中村教授によると、その内容は抑圧・弾圧などを肯定したものだといいます。メジンスキー氏はロシアの国会議員を経て、42歳という若さで文化省の大臣に就任。2020年には大統領補佐官となりました。
中村教授:メジンスキーさんは、30代前半からずっとプーチン大統領の元で育ってきた、いわゆる“プーチン世代”の人なんです。そういう意味でプーチン大統領にとっては自分が育ててきた、自分の体制下で育ってきた非常に大切な人物であり、一言でいうとプーチン世代の新しいリーダーという風に思えます。
そして今回、プーチン大統領の意を受けて、停戦交渉のロシア側のトップに就任したとみられます。これまでの交渉でメジンスキー氏は、一貫してウクライナ側に厳しい姿勢を見せ続けてきました。
メジンスキー氏: 私たちは平和を求めている。ウクライナ側が、交渉への参加を断れば流血の責任はウクライナ側が負うことになります。
――停戦交渉が進まない理由はメジンスキー氏に関係がある?
中村教授:ロシアがいかに手強いか、妥協してこないのかっていうところを演出しているわけです。
謎に包まれた人物像
ではメジンスキー氏は、普段はどんな人物なのでしょうか。
中村教授:メジンスキーさん自身がどんな人柄なのか、実は謎に包まれてるんですね。まさにロシアの歴史と同じで、謎に包まれた人というところです。
謎に包まれたキーパーソンの1人、メジンスキー大統領補佐官。今後、停戦交渉をどう導いていくのでしょうか。
●プーチン大統領は現代版ヒトラー “愛国心”を煽って他国を侵略 3/15
プーチン大統領はウクライナを攻撃する際、「ウクライナ政府はネオナチ」としばしば表現する。そして「ネオナチによる弾圧からロシア系住民を保護しなければならない」と言って、ウクライナを攻撃する。これは最近思いついたものではなく、2014年のクリミア侵攻の時からずっと言い続けている。しかし、実際にプーチン大統領がやっていることこそ、ナチスと驚くほど似ている。とくにその類似性が指摘されたのが、「同胞を守るため」という侵攻の口実だ。
プーチンとヒトラーとの共通項とは
プーチンは2月24日、侵攻開始にあたって「ウクライナ東部のロシア系住民を守るために特別軍事作戦を命じた」とした。それに先立って、2月21日にウクライナ東部のロシア軍の配下の親ロシア派民兵が支配している自称国家の独立をロシア政府が公式に承認し、その自称国家政府にロシアによる軍事介入を要請させた。ロシアだけが認める「正式な政府からの要請による出兵」というわけだ。
この「同胞を守る」との口実で他国を侵略する手法は、かつてヒトラーも、欧州侵略を始めた頃の1938年に実行している。チェコスロバキア(当時)のズデーテン地方に住むドイツ系住民の自治運動を扇動し、域内のドイツ系住民を保護するとの名目で同地域を併合し、その勢いでチェコスロバキア全体を制圧したのだ。 
それだけではない。じつはその他にも、プーチン大統領のロシア統治そのものが、ナチスの手法の再現といっていい。キーワードは「民族主義・愛国主義の扇動」と「メディア支配による国民洗脳」だ。
まず、ヒトラーもプーチンも、その独裁権力を獲得した手法として、生活に困窮している国民に民族主義・愛国主義を扇動したという共通項がある。
1918年に終結した第1次世界大戦の敗戦国だったドイツは、当時の国民総所得の2.5倍もの莫大な賠償金支払いで国民の生活は困窮しており、さらに1929年に始まった世界恐慌の追い打ちによって大量の失業者で溢れていた。そんな社会情勢で、「悪いのは外国だ」としてドイツ民族の復権を主張したことで、いっきに人気政治家になったのがヒトラーだった。
プーチンは困窮するロシアの“ヒーロー”だった
プーチン大統領の場合も同様だ。彼はエリツィン大統領の指名で1999年に首相に就任して政治的実権を握る。すでにその頃から「ロシア人vs.それ以外」という構図で強硬な姿勢を鮮明にしており、ロシア民族主義を前面に押し出して国民を誘導していた。最初の標的は「チェチェン人」だった。ロシアの憲法ではチェチェン共和国はロシア連邦の一部であるとされているが、1991年にチェチェン共和国が「独立」を宣言し、これまでたびたびロシアとの軍事衝突を繰り返してきた。
当時、ロシア裏社会ではチェチェン・マフィアが一大勢力を誇っており、ロシア国民の反感が強かった。その国民意識を背景に、プーチン首相(当時)はチェチェン独立派をイスラム・テロリストだと一方的に宣伝した。それゆえ、多くの国民はプーチン首相が強引に進めたチェチェン侵攻を支持したのだ。
もちろんマフィアと一般のチェチェン人は無関係だし、独立派もテロ組織などではない。しかし90年代の極端な困窮に喘いでいたロシア国民の中には、プーチン首相の「悪いのはチェチェン人」との扇動に騙された人も少なくなかった。
ちなみに、プーチン政権(エリツィン大統領はすでに重度のアルコール依存症で職務不能)はチェチェン侵攻の口実作りのために、情報機関「FSB」(連邦保安庁)にチェチェン人のしわざと見せかけたモスクワ爆弾テロを起こさせるなどの裏工作をしていたことが今ではわかっている。すべて計算ずくの謀略である。
2000年にプーチンは大統領に就任するが、当初、標的としたのが新興財閥「オリガルヒ」だった。旧KGBの権限を強化し、ロシアの国家資産を私物化して海外で富を築いていたオリガルヒを次々と弾圧。この時もオリガルヒに反感を募らせていた多くのロシア国民が拍手した。プーチン大統領はそんな国民に対し、「悪いのは西側だ」と扇動した。
プーチン大統領は2005年4月の連邦議会では「ソ連の崩壊は、20世紀最大の地政学的惨事である」と演説。プーチン大統領の言う惨事とは、社会主義の崩壊ではなく、大国ロシアの崩壊という意味だ。
この「大国ロシアの復活を」と「悪いのは西側(とくに米国)だ」というキャッチーな言葉は、とくに90年代に苦難の時代を経験した層に広く受け入れられ、国内世論でプーチン大統領の人気は高まり、盤石の支持が維持された。
「ウクライナはネオナチ」作り話が信じられたワケ
その後、2014年のクリミア侵攻・併合ではロシア政府が喧伝した「ウクライナのネオナチ勢力に弾圧されていたロシア系住民を救った」という作り話が浸透し、プーチン大統領の人気は絶頂を極めた。
プーチン大統領はさらに愛国主義を扇動し、しかも国の制度に取り入れている。
たとえば2015年4月、プーチン大統領は愛国教育の強化の必要性を主張し、教育科学省(現・教育省)に愛国教育の拡大を命令。さらに連邦青少年問題局「ロスモロデジ」に対して、2016年から2020年までの5カ年計画として「ロシア国民愛国教育計画」を計画させた。同計画では、「国を誇りに思う」と考えるロシア国民を8%増加させることが目標とされている。
これらの仕組みは、かつての社会主義をそのまま愛国主義に替え、全体主義的社会を作ろうという試みにほかならない。社会主義から愛国主義にイデオロギーが替わったソ連の復活のようなものだ。
小中学校で銃器の扱いを教える「軍事教育」導入
2016年2月、プーチン大統領は、「教育とメディアによって愛国心を広める」ことを国の唯一の指針と宣言した。その後、ロシアの小学校や中学校では「愛国教育」との触れ込みで、銃器の扱いも含めて基礎的な軍事教育をイベント形式で教える試みが始まっている。
愛国主義を前面に立てたソ連復活は軍にも及んでいる。2018年7月、ロシア軍内に新たに「軍事政治局」が設置され、軍内での愛国主義の徹底が指示された。かつての旧ソ連軍内にあった政治総本部の復活そのものだ。
疲弊した国民に耳障りのいい民族主義・愛国主義を扇動し、「悪いことは全部、他者のせいだ」として攻撃することで国民的人気を集める。ヒトラーとまったく同じである。そして、人気を集めて権力を握った後は独裁者となり、反対・批判する者を弾圧する。その手口の流れまでヒトラーのコピーと言っていいだろう。
さらにもう一つ、ナチスと酷似しているのが、メディア支配による巧みな国民洗脳の手法だ。
「メディア王」を弾圧 大手メディアを“宣伝機関”に
かつてナチス政権は、ヨーゼフ・ゲッベルス国民啓蒙・宣伝大臣を中心に徹底したメディア統制を行い、ヒトラー崇拝をドイツ国民の隅々まで行き渡らせた。プーチン大統領も同じようなメディアを利用した宣伝を、権力者となったと同時に始めている。彼の場合、ナチスを参考にしたというより、旧ソ連で思想統制を行っていたKGBの手法を復活させたということだろうが、結果的に「やったことはナチスと同じ」だ。
プーチンが大統領に就任したのは2000年5月だが、翌6月にウラジーミル・グシンスキーという人物を逮捕した。グシンスキーは全国ネットのテレビ局など多数のメディア企業を所有し、「メディア王」と呼ばれていた人物だが、それにより彼のメディアはすべてプーチン政権の支配下となった。それを足がかりにプーチン政権は国内の大手メディアを次々と支配し“宣伝機関”とした。
こうして国内のメディアをほぼ統制したプーチン政権は、前述したロシア民族主義・愛国主義の宣伝を強力に進め、国民の洗脳に励んだ。とくにテレビに情報源を頼る地方在住の中高年層は、プーチン政権が流す創作された「物語」(悪いのは米国だ、など)だけを目にすることになった。
本来は自由な言論空間であるはずのネットでも、同様のことが起きた。
もともとエリツィン政権下のロシアのネット空間は、ほぼ西側と変わらない自由な雰囲気の言論空間だった。しかしプーチン政権発足後、急速にロシア民族主義・愛国主義が拡散される場に変化した。FSBの介入によるものと見ていいだろう。
SNSは愛国主義を宣伝するメインエンジン
ロシア語の記事しか読まない普通のロシア国民が普段読んでいるような大手のニュースサイトにも、プーチン政権が流す“ウソ”がちりばめられた。SNSでも、2006年に設立されて、2016年にはロシア最大規模に成長した「VK」(フコンタクテ)などは、もはや愛国主義を宣伝するメインエンジンのような役割を果たしている。
それでも都市部の若者を中心に、海外のサイトを見るような層はおり、彼らを中心に民主化運動が起きた。プーチン大統領はそれを徹底的に弾圧するとともに(指導者は毒殺未遂。現在は収監中)、2019年3月に「フェイクニュース禁止法」を成立させた。
これはロシア政府がフェイクと判断した情報をネットに書き込むことを取り締まる法律で、政府に都合の悪い真実を書き込むネット言論が違法となった。また同時に国家の権威、すなわちプーチン大統領を侮辱する書き込みも違法になった。これもまさに「ヒトラー崇拝」の再現である。
今回のウクライナ侵攻で、プーチン政権はさらに徹底的な言論統制を打ち出している。2022年3月4日、先の法律より徹底した取り締まりを目指す「フェイクニュース法」を成立させた。海外のメディア記者も含め、ロシア国内で当局の意に沿わない情報を流すと長期刑を含む刑罰が科されることになったのだ。
無茶苦茶な言論統制だが、それだけプーチン大統領は来るロシア経済の壊滅的ダメージを前に、メディア統制を重視しているということだろう。
文中では、とにかくロシアとベラルーシにウクライナを合わせた、大いなるロシアの復活が謳われている。それを読むと、プーチン大統領が昨年12月に言い出した「NATO拡大を防ぐ」といった要求も実は些細なことだったようだ。
実際にはロシアは、“東スラブ民族(ロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人、少数民族など)による偉大なる国”を作り、アングロサクソンに対抗するというのである。これはそのまま東スラブ民族をアーリア系ゲルマン民族と置き換えれば、まさにナチスそのものだろう。
このように「やり口」が酷似している2人だが、共通しているのは、悪い意味で「戦略家」だということだ。そして、「今ならやれる」と判断したことに躊躇はない。さらに問題なのは、プーチンもヒトラーと同じく、極めて悪い意味で「信念の人」だということである。つまり、自分の思うとおりに事態が進まなかっとしても、途中で「降りる」ということが期待できないのだ。
常にナチスを敵視し、ウクライナ政府を「ネオナチ」と罵ってきたプーチン大統領。しかしその独裁者然とした姿に、ヒトラーを見ずにはいられない。 
●ロシア、追加戦力投入迫られる 外国戦闘員派遣、国外部隊呼び戻しも 3/15
ウクライナに軍事侵攻したロシアが、ウクライナ軍の激しい抵抗を受け、中東の外国人戦闘員の受け入れや外国駐留の部隊呼び戻しなど追加の戦力投入を迫られているもようだ。ロシアは侵攻前に最大19万人の部隊を対ウクライナ国境に展開させ、既にほぼ100%を投入したとされる。
ロシアのプーチン大統領は11日の安全保障会議で、シリアなど中東から戦闘員を受け入れ、戦地に派遣することを承認した。ロシアは2015年にシリア内戦に軍事介入し、アサド政権の後ろ盾となってきた。さらにリビアでも戦闘員を集めているという情報もある。
ウクライナ国防省情報総局は13日、シリアで戦闘員募集所が14カ所開設され、重火器や狙撃銃を扱える戦闘員数千人が集まったと分析。戦闘員の月給は「300〜600ドル(約3万5000〜約7万円)」と見積もった。ロシア軍が駐留するシリア北西部ラタキア近郊のヘメイミーム空軍基地から輸送機でモスクワ郊外の軍空港に送り込まれていると指摘した。
このほか、20年にアルメニアとアゼルバイジャンが争ったナゴルノカラバフ紛争の停戦後に平和維持部隊として現地に展開しているロシア軍の呼び戻しや、アルメニアに駐留するロシア軍部隊の移動といった情報が浮上している。
ロシア国防省は2日、ウクライナでの自軍の戦死者について498人と公表。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、ロシア軍の戦死者は「1万2000人以上」と主張したが、詳細は不明だ。
ただ、ロシア軍が予想以上の損失を被っているのは確かで、チェチェン紛争やシリア内戦に参戦した歴戦の将官らの前線での戦死が伝えられている。プーチン氏の側近であるゾロトフ国家親衛隊隊長は13日、ロシア正教会の行事で「確かに全てが思うように迅速に進んでいるわけではない」と認めた。 

 

●ウクライナ ゼレンスキー大統領 NATO加盟が困難との認識示す  3/16
ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、イギリスが主導する防衛関係の会議のなかで動画で演説し「NATO=北大西洋条約機構の扉は開かれていると何年も聞かされてきたが、入ることができないとも聞いている。それは事実であり、認めなければならない」と述べ、目指してきたNATO加盟が当面難しいとの認識を示すとともに、ウクライナの安全を確保する新たな枠組みが必要だと訴えました。
ゼレンスキー大統領や大統領府の幹部らは最近、ウクライナのNATO加盟には当面は必ずしもこだわらないという立場をたびたび示しています。
これについてロシア側からは一定の評価の声もあがっていますが、停戦に向けた交渉の妥協点になるかどうかはまだ見通せない状況です。
●岸田首相 ロシアへの「最恵国待遇」停止の方針固める  3/16
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する追加の制裁措置として、岸田総理大臣は、貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」を停止する方針を固めました。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの対応をめぐって、アメリカのバイデン大統領は先に、関税などでほかの貿易相手国と同じ条件を保障する「最恵国待遇」を取り消す方針を示し、日本を含むG7=主要7か国の首脳も取り消すよう努めるなどとした共同声明を発表しました。
これを受けて岸田総理大臣は、ロシアに対する追加の制裁措置として、「最恵国待遇」を停止する方針を固め、16日にも発表することになりました。
ロシアへの制裁措置として、日本政府は、すでに先端技術を使った製品に加えて一般向けの半導体などの輸出を禁止しています。
●ウクライナ紛争と「欧米vsロシア 経済戦争」の行き着く先…中国は漁夫の利 3/16
ウクライナ紛争(ロシアの軍事侵攻)は2月24日の開戦以来、約2週間が経過したが、いまだに収束の兆しは見えず、ドロ沼の様相を見せ始めている。
ロシアは軍事大国である。動員兵力は85万人に達する。さらに、大量の核兵器を持っている。国力の面ではロシアのGDPが1兆7107億ドルなのに対し、ウクライナのGDPは10分の1以下の1646億ドルにすぎない。人口は1億4593万人対4373万人である。
これを見る限り、ロシアはウクライナ(兵員20万人)を圧倒している。ロシア当局が「侵攻後、48時間以内にウクライナ全土を占領、親ロ政権を樹立する」と、短期決戦を想定していた(開戦直後に「制圧」の予定稿が流出)のは当然だろう。
しかし、ウクライナ紛争は単にロシアとウクライナの2国間の戦いではない。真の当事者はNATO(北大西洋条約機構)、つまり欧米とロシアの衝突である。もちろん、核ミサイルは使えない。お互いに破滅だ。当然、この戦いは経済戦争となる。
この場合、ほぼ中国を除く全世界を敵に回したロシアは厳しい。西側陣営のGDPは主要10カ国だけで46兆5164億ドルに達する。
これは勝負にならない。それに、決済システム「SWIFT(国際銀行間通信協会)」の遮断、外貨準備(6300億ドル)の凍結は最終的に、カネとモノの移動を止める。
ヒトの動きもなくなる。輸出信用状の発行が消え、海上保険はかけられない。ビザ、マスターなど米系カードは使えない。ロシアは8割がカード決済だ。突然、「現金払い」と言われても……。もとより、貿易、投資は制限される。
一方、中国とインドは国連決議には参加せず、西側陣営の金融制裁に加わっていない。中国はロシアとの貿易を通常通り実施し、行き場を失って格安になりそうな原油、天然ガス、小麦などを買うつもりだろう。
いわゆる、漁夫の利である。ついでに、人民元を軸とする決済システム(東西冷戦時代のスイス・フランのような役回り?)を構築しようとの狙いなのか。
半面、ロシアを締め出す西側陣営はどうか。ロシア最大の銀行ズベルバンク(天然ガスの決済を担う)のSWIFTからの排除はロシア産天然ガスの供給がストップすることを意味する。
ドイツは今年中の原発廃止、2030年までの石炭火力発電所の休止計画を見直すようだが、LNG(液化天然ガス)の輸入には基地とLNG船が必要だ。これには3年の歳月と5000億円の費用がかかる。
いずれにせよ、先週には原油価格が1バレル=130ドル台に乗せた(その後、急落)が、西側陣営のインフレは避けられない。インフレに備えた投資戦術、生活防衛が必要ではないか。
●ロシアのウクライナ侵攻は日本の対プーチン認識の「甘さ」に鉄槌を与えた 3/16
ウクライナ紛争は、わが国にどのような影響を及ぼすだろうか。2014年のロシアによる「クリミア併合」以来、G7(西側7大国)は対露制裁を続けてきた。しかし、日本の制裁は名目のみだった。
その理由は2つある。一つは安倍政権が自らの政権において北方領土問題を解決しようとしたため、プーチンが対日強硬姿勢を示すと、その懐柔のためにむしろ対露協力を強めると言った論理的に矛盾した政策を続けてきたからだ。柔道家プーチンは親日的で、北方領土問題も「ヒキワケ」という柔軟姿勢を示した、との幻想もあっただろう。
もう一つの理由は、対露制裁といっても、わが国の経済のどこにも痛みが出ない形で行うことを政府も経済界も不文律としていたからだ。だから安倍時代に首相側近として対露政策を担ったのも、対露経済協力一辺倒の経済省庁出身者たちだった。
さらに、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や有力商社などのロシア専門家たちの多くも、プーチン自身が、「エネルギー資源は戦略物資だ」と公言しているにも拘わらず、「ロシアは純粋に経済論理で動いており、エネルギーの開発・輸出に政治的意図は全く無い」という無知、あるいは自己利益のためとしか言えない主張を強くしてきた。
今回のウクライナ問題の最大の影響は、このようなわが国の甘い対プーチン認識に鉄槌を与えたことだ。
安倍首相自身は退陣時にロシアとの領土問題に関して「断腸の思い」と述べた。領土交渉は座礁したのではなく、何十年も後退した。皮肉なことに、プーチンが彼の政権下での領土問題解決は不可能だと示したために、岸田政権は、むしろより積極的に、G7の強力な金融制裁を含めた対露政策に協力の姿勢を示している。
ただ、本気で経済制裁が実効的なものになるには、経済連携が国際的に密接になっている今日においては、制裁をする国自身も相当の痛手を覚悟して初めて可能となる。2005年にロシアと対立した時、ガス供給をロシアにのみ依存するモルドバの大統領は、「わが国はガスを失っても、領土問題では譲歩はしない。ガスなしでも、震えながら冬を過ごす覚悟が出来ている」とさえ述べている。
ウクライナの事件は、遠い国の出来事ではなく、ロシアに領土を不法に占領されているという意味で、同じ立場にあることの認識が重要だ。また、極東でも同様の事態が生じる可能性は否定できない。われわれの安全保障への姿勢が根本的に問われている。
●スターリン化するプーチン大統領 その思想を支える男がいた 3/16
プーチン大統領はなぜ“侵略”の道を選んだのか。なぜ核をちらつかせ、民間施設への攻撃を続けるのか。プーチン氏の判断を見るうえで外せない人物がいる。西側との融和路線を転換した2012年。それと時をほぼ同じくして、そして現在までプーチン氏から重用され続けている歴史家、ウラジミール・メジンスキー氏。その人物が歴史書で、歴史は事実そのものが問題ではなく、それをどう解釈するかによって歴史は変わるという説を説いている。果たしてプーチン大統領は最終的に何を目指しているのだろうか、読み解いた。
「事実は意味を持たない すべては解釈から始まる」
繰り返されるロシアとウクライナの停戦交渉。番組ではロシア側の交渉団のトップに注目した。大統領補佐官にして政治学者でもあり作家でもあるこの人物、ウラジミール・メジンスキー51歳。
彼は著書「戦争〜ソ連の神話」の中でこう書いている。
「事実はそれ自体大きな意味を持たない。事実は概念の枠組みの中にだけ存在する。すべては事実ではなく解釈から始まる」
事実よりも解釈として、ソ連時代の負の歴史も、時の政府の解釈次第で正解になる…そう考える男が大統領補佐官として、いまプーチン氏の思想を下支えしているのだ。
メジンスキー氏に詳しい畔蒜泰助氏は言う。
笹川平和財団 畔蒜泰助 主任研究員「プーチン氏の世界観が反米に向けて大きく変わったのは、大統領に再選を果たし、涙を流した、この2012年なんです。この年の5月にメジンスキー氏は文化大臣に重用された。まさにこの後“ルースキーミール(ロシアの世界)”というプーチンのイデオロギーが徐々に表に出てくる。このイデオロギーをおそらくメジンスキー氏が下支えしている。さらに注目すべきは、その翌年ロシア軍事歴史連盟の代表に就任している」
ロシア軍事歴史連盟とは、文字通りロシアの歴史を研究し解釈、つまりロシアの歴史観を位置づける組織だ。そしてメジンスキー氏が代表を務める間にキエフにしかなかった“ウラジーミル大公”の銅像をモスクワに作った。ウラジーミル大公とは、キリスト教に改宗しロシア正教をこの地にもたらした聖人。キエフがロシア人にとって古都とされるゆえんの人物でもある。
畔蒜主任研究員「ウラジーミル大公が改宗して初めてルーシ(古代ロシア)がロシア正教になるんです。そのウラジーミル大公の銅像をクレムリンの横に作った。これはつまり、ウクライナのキエフはロシアなんだ。(中略)メジンスキーは、あちこちの銅像を建て、プーチン氏のルースキーミール(ロシアの世界)、ウクライナもロシアの一部だという概念を理論的に支えていった」
そして去年7月プーチン大統領が発表し今回の戦争の根底理論かもしれないと注目されている論文、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」。これにもメジンスキー氏が深くかかわっているといわれる。今回の停戦交渉においてメジンスキー氏が先頭に立っているのも意味があると畔蒜氏は言う。
畔蒜主任研究員「今回のプーチン大統領のウクライナ侵攻の背景には、やはりルースキーミールの考え方が根底にあるっていうことの証左だ。彼はコロナ禍もあってなかなか会えないプーチン氏と会える人物、急速に接近しているキーパーソンの一人だ」
こうした独自の解釈による歴史観をもったプーチン大統領の独裁ぶりについて「スターリン化」と呼ぶ専門家も多い。
「プーチン大統領が目指すのはソ連ではなく、ロシア帝国だ」
ヨシフ・スターリンは、ソ連時代の最高指導者。政治的敵対者、批判者を徹底的に粛清し、独裁政権を確立した。実は今、プーチン政権下でも粛清が始まっているという。
ロシアの独立メディア「メデゥーサ」によるとFSB(ロシア連邦保安庁)第5局対外諜報活動部門の局長と次長が自宅軟禁されている。容疑は、資金着服と不十分な情報の報告だが、実際は第5局は大統領を怒らせないように大統領が聞きたい情報だけを報告したとみられている。事の詳細と信憑性は確かではないが、スターリンのソ連時代には頻繁にあったこうした軟禁は最近のロシアでは極めて稀なことである。
森本敏 元防衛大臣「プーチン大統領がKGBから上がってきた独裁者だってよくわかります。つまり情報を操作してリーダーシップを発揮しようとする人は、すべてのことを知っていないと困るんですね」
他にも「スターリン化」と言われる根拠はある。先日プーチン大統領がロシアを撤退した外国企業の資産を差し押さえる旨の考えを述べた際、オルガルヒ(ソ連崩壊後の新興財閥)の一人である大手金属企業の社長がSNSで「我々を1917年(共産主義の始まり)に引き戻し、投資家のロシアに対する世界的不信感を何十年も経験するだろう」と発信した。
しかし、これに対抗するようにプーチン大統領は、こう述べている。
「ソ連は常に制裁下で生きてきたし、発展したし、とんでもない成功も達成した」
この発言をアメリカはどう見るか、ホワイトハウス内の情報にも精通する小谷哲男氏は言う。
明海大学 小谷哲男 教授「プーチン大統領の最大の目的は秩序を取り戻すこと。ソ連崩壊の混乱を経験したプーチン氏にとって(ソ連時代のような)秩序をもたらすためには情報統制もするし、民主的なプロセスを止める。彼が合理的な判断をしてない、正気を失ったという人もいるがそうではなく、プーチン大統領はもともとそういう人物である」
ソ連時代の秩序への憧憬…これに対し森本氏は言う。
森本元防衛大臣「秩序よりもっと根底に何があるかというと、冷戦時代、ソ連はアメリカと超大国として戦ってきた。そのポジションが、冷戦が終わってずり落とされた。その恨み…。もう一度超大国に戻るんだ。自分がそれをやるんだ。この政治家としての野心のほうが強いんじゃないか」
プーチン大統領の野心、頭に思い描いているものは、ソ連の再興なのか、それ以上の秩序なのか。
畔蒜主任研究員「まさにルースキーミール(ロシアの世界)という世界観を持ってすべてやっている。そして歴史に名を残したいんだと思う。その世界観は実はソ連邦の再興ではなくて、彼の頭の中にあるのはロシア帝国なんですよ。ロシアン・エンパイア。彼の地図にはそれがある」
●プーチン愛人説<Jバエワ氏はスイスでVIP出産 3/16
ロシアのプーチン大統領(69)がウクライナ侵攻で猛批判を浴びる中、愛人とされる元新体操五輪金メダリストで「元祖軟体女王」アリーナ・カバエワ氏(38)の超極秘生活≠ェ注目を集めている。
プーチン大統領はカバエワ氏と4人の子をスイスの豪華施設にかくまっていると伝えられているが、英「デーリー・レコード」は居場所の詳細と生活を報道。イタリアとの国境に近いルガーノ市の関係者は「新型コロナウイルス流行前は、プーチンの愛人がこの町にいるというウワサ話がよく出ていた。彼らがここに強いコネクションがあることは知られているが、彼らを知る者たちは、かたくなに秘密を誓っている。ここはプーチンがアリーナと子供たちを送り込むのに最適な場所だ」と証言している。
ルガーノ市とカバエワ氏のつながりは7年前。同メディアによると、2015年に地元テレビ局が、カバエワ氏が同市近郊の超VIP病院で出産したと報じた。ロシアの富裕層に人気の産院で、カバエワ氏は出産用と家族、ボディーガード用の2部屋を予約。プーチン大統領も立ち会ったという。
産院と言えば、ウクラナのマリウポリでロシア軍が砲撃し、世界中から批判されたばかり。「デーリー・レコード」は「(カバエワ氏が出産した産院は)丁寧に手入れされた芝生の下の地下駐車場には高級車が乗り入れ、入り口にはフラミンゴが飾られている。一方、マリウポリでは妊娠中の母親が担架でがれきの中から運び出された後、砲弾がまだ打ち込まれている」と記述し、プーチン大統領の愛人へのVIP待遇と、ウクライナに対する残忍な行動を比較。カバエワ氏にも冷たい視線が送られている。
●プーチンから距離を置き始める新興財閥“オリガルヒ”たち 3/16
ロシアの反体制派指導者、ナワリヌイ氏が主宰する団体は、プーチン大統領が豪華な宮殿を所有し、まわりには資金面などの支えになっている「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥の面々がいると告発している。オリガルヒとはどんな人物なのか、専門家に聞いた。
日下部正樹キャスター「プーチン大統領を支えてきた人たちというのは、どういう人たち?」
笹川平和財団 畔蒜泰助 主任研究員「プーチン時代のオリガルヒという人たちはプーチン大統領のKGBの同僚です。がっちりと儲けているプーチンのお友達。(エネルギー関連の)国営企業をプーチンの委託を受けて運営している人たちです」
ロシア最大の国営石油会社のセーチン氏をはじめ、オリガルヒの中でも特に力を持っているのが、ヨーロッパ各国に輸出している石油、天然ガスなど、エネルギー部門のトップに立つ人たちだ。
ロシアのGDPの約15〜20%の資産を保有していて、プーチン大統領に忠誠を誓う見返りに利権を得ているという。
欧米諸国はいまこのオリガルヒに狙いを定めている。
アメリカ・バイデン大統領「暴力的な政権と一緒になって何十億ドルを吸いあげてきたロシアの新興財閥に、もう、そうはさせない。欧州の同盟国と同調し所有している高級マンション、自家用ジェット機を差し押さえる」
かつてのオリガルヒの一人で、アメリカに亡命しているアレックス・コナニキン氏が報道特集の取材に応じた。
今回のプーチン大統領の行為は戦争犯罪だとして、「生死を問わずプーチン大統領を捕まえた人に100万ドルの懸賞金を支払う」とSNSで呼びかけた。
アレックス・コナニキン氏「彼を権力の座から引きずり下ろすには、ほかのシナリオが思い当たりません。肯定的な反応が多く、私の提案が圧倒的に支持されました。プーチンには戦争犯罪の責任を負わせなければなりません」
コナニキン氏はオリガルヒへの経済制裁は、一定の効果を上げていると話す。
アレックス・コナニキン氏「オリガルヒにとってプーチンはビジネス上、都合がいい存在でした。ですが経済制裁によって多くの国とビジネスができなくなり、これまでプーチンに近かった人も距離を置き始めています」
だが、経済制裁はまだ十分ではないという指摘がある。国際的な金融機関の決済、SWIFTからロシアの銀行を排除したが、天然ガスの決済にからむ一部の銀行は対象外だ。なぜなら、ヨーロッパは天然ガスの多く(約4割)をロシアに依存しているためだ。特にドイツは天然ガス輸入量の約5割をロシアに依存しており、ショルツ首相はロシアからのエネルギー調達をすぐにやめることはできないという立場だ。
畔蒜主任研究員「(ロシアの)エネルギーにどこまでメスが入れられるのか、そこが最大の焦点で、そもそもロシアのエネルギーを世界市場から完全に排除する毒薬を我々は本当に飲むことができるのだろうか。おそらくアメリカも含めて、この議論は十分にまだされていないのではないかと思う」
●プーチンの末路3つのパターン、クーデターか内戦か・・・ 3/16
報道から垣間見えてしまうロシア国内の変化について、日本の報道から漏れていると思われる内容を記します。まず最近プーチン政府が発表した幾つかの報道写真を見てみましょう。例えば、治安当局者を集めた会議の風景をご覧ください。あるいは、軍と国防の2大トップとの会談を収めた・・・。異常なものを感じられませんか? 
狙っているのはカメラの砲列だけではい
上の会談は、国内メディアでゲラシモフ参謀総長とショイグ国防相だけをクローズアップして、通夜のような表情を戦局と結びつけたりする日本語の記事も目にしましたが、文字通り近視眼としか言いようがありません。
こうした記事に記された「大統領の遠い着席位置」を「専制君主のような」といったピンボケの日本語と共に伝えても、事態の理解におよそプラスにはなりません。
どうして物理的にこんなに距離が離れているのか? 
ヒントは写真の中にあります。
この会議は戦争指導部としてのトップ会合で、ロングのショットではショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長をビデオカメラがとらえているのが分かるはずです。
必要があれば、随時、最前線の指揮官などともつなげるよう、遠隔会議の設定にもなっている可能性があります。
ただ、2022年の戦争指導部最高会議にしては、使っている機材が大型で、古めかしいデジタルビデオであるのが目を引きます。
デジタルビデオがこのサイズでなければならなかったのは1990年代末、記録メディアがデジタルカセットテープだった時代の話です。
今日では、報道用にカメラマンが安定して持てるよう、あえて大型に作ったプロ機材以外、こんなサイズは必要ない。
長年使い慣れた旧式サイズの機材を、わざわざ三脚に立てて、しかも2台も並べる、テクノロジカルな理由は一切ありません。
なぜこのような旧式機材をつかっているのか。ロシアは小型のウエブカメラを装備できないのか・・・。いや、そうではないでしょう。
こうした機材の選択には、最低あと2つ程度の背景が考えられます。それはすべて「威嚇」です。
第1の威嚇は「お前のここでの発言は、すべて記録しているんだぞ」という威嚇です。
戦争の執行にあたってほんの少しでもプーチンの思惑に反する発言があれば、後々そのビデオを証拠として、国家反逆罪など、どのような罪にでも問えるという威嚇。
目の前からカメラとマイクが狙っていたら、言いたいことなど何一つ言えません。
第2の威嚇は、この第1の威嚇の背後に存在する「護衛」にあります。
狙っているのは「カメラの放列」だけではないのです。会議の室内には映っていませんが、壁一枚隔てた背後には、いくつもの銃口、つまり本物の「砲列」が、ショイグとゲラシモフを狙っている。
彼らが通夜のような表情にならざるを得ないのは、ピストルを突きつけられて会議を強要されているからです。
この1の1を押さえておきましょう。
誰の指示で引き金は引かれるか? 
ゲラシモフもショイグも、ロシア国軍のトップで軍の実権を掌握する実力者です。
彼らが指令を発すれば、何万というロシア軍が動き、大量の破壊兵器が発射され、無辜のウクライナ市民が何百、何千人と殺されます。
しかし、いま会議場に引き立てられたゲラシモフやショイグを「護衛」しているのは、彼らの指揮下にある軍ではありません。
正確なことは分かりませんが、大統領を警護する別系統の部隊であるのは間違いありません。
大統領府の護衛部隊はプーチンの命令で、不穏分子を即座に射撃することが許されているはずです。
そうした彼らがゲラシモフ参謀総長やショイグ国防相を「護衛」している。
この「護衛」は本質的にプーチンの護衛であって、髪の毛一つ程度でも不穏なことがあれば、またプーチンから指示があれば、たちどころにショイグもゲラシモフもハチの巣状態、という現実があります。
無用に大きく旧時代型のデジタルビデオカメラの砲列は、もう一つの「本物」の方も忘れるなよ、「メメント・モリ」死を忘れるな、と露軍トップ2人を現在進行形で恫喝しているとみるのが妥当と思います。
こうした構造は時代と場所を問わず多くの国家で見られます。
例えば、ナチスドイツが政権を奪取した際「鳥羽伏見の戦い」に相当する功績を上げたエルンスト・レーム・ナチス突撃隊幕僚長が、天下を取った翌1934年「長いナイフの夜」と呼ばれる粛清で、ハインリヒ・ヒムラー率いる「アドルフ・ヒトラーを護衛するための武装組織」親衛隊に射殺されたケースなど、枚挙の暇がありません。
ロシアのケースでプーチンに直結するのは、かつてソ連で「スターリン大粛清」の主要な執行者とされるラヴレンチ・べリアと、その最期のケースでしょう。
飼い犬が手を噛むとき
グルジアのアブハジアで生まれたラヴレンチ・べリア(1899-1953)は工業学校で学んだ後、20歳でアゼルバイジャンの保安部隊に入り、翌年21歳でレーニンの設立した秘密警察「チェーカー」に入りました。
20代前半からグルジアやアゼルバイジャンでの「反革命分子」の「一掃」に辣腕を振るいます。早い話、若い時から謀殺組織の実行部隊であった。
1924年にはグルジア「民族主義者」の弾圧で、少なく見積もって1万人を処刑した「仮借なきボリシェヴィキの働き」で赤旗勲章などもらってしまい、25歳かそこらでコーカサス秘密警察の長官になりましたので始末におえません。
終生グルジア共産党を支配下に置き、党第1書記として1934年からは中央政界に転じます。
1938年にはモスクワに送り込まれ、スターリン大粛清で数百万人を殺害(正確な数はよく分かっていない)したのを振り出しに、1939年連邦治安管理局長官、41年人民委員会議副議長(副首相)、45年ソ連軍元帥、46年党政治局員と、もっぱら諜報と暗殺、大量虐殺で立身出世していきます。
戦後は実力者アンドレイ・ジダーノフと対立(出身地であるウクライナのマウリポリは、冷戦終結まで「ジダーノフ」の都市名で呼ばれていました)ジダーノフの死後にべリアたちが引き起こしたのが、前回触れたレニングラード事件です。
この粛清だけでも2000人以上の人が殺されています。
スターリンは1953年3月5日に急逝します。それは3月1日にべリアたちと夕食を共にした際に倒れ、そのまま息を引き取ったものです。
スターリン期ソ連の外交責任者ヴャチェスラフ・モロトフの回想録によると べリアはスターリンに毒を盛ったことを自慢していたようです。
ではなぜ、こんな好き勝手をべリアはし続けることができたのか? 
ロシアのあらゆる要人の「護衛」を担当する兵士たちは、べリアの指揮下にあったからにほかなりません。
フルシチョフなどは、国家保安省のトップであったべリアのこの「護衛戦法」に苦しめられました。
何せ、国が派遣しているはずの「護衛」が、べリアの都合が悪くなると、突然「反革命の手先」「資本主義の傀儡」「スパイ」などの「容疑」で、即座に銃口から火を吹くのですから、たまったものではありません。
しかし、最終的にべリアは「失脚」そして「処刑」されます。
いかにしてべリアは失脚したのか? 
フルシチョフは1953年6月23日「政治局集会」を招聘、その場にべリアをおびき寄せます。
スターリン死後、実質的にソ連のトップに上り詰めていたべリアの、一瞬のスキを突いたのです。フルシチョフの政治局集会には、べリア指揮下の武装警護はついていませんでした。
その場でフルシチョフは「べリアが英国諜報機関に雇われていた」と口撃を開始。
べリアの即時解任を要求すると、盟友だったはずのマレンコフが机のボタンを押し、隣室に控えていたゲオルギー・ジューコフ元帥以下のソ連軍兵士がべリアに殺到して身柄を確保。
「ソビエト特別法廷」で弁護人なし、弁明権なしの特別法廷で死刑宣告、同年12月23日に銃殺されたとされます。
もっとも、この裁判が秘密法廷で弁護人も弁論もなしだったのは、裁判が始まった時点で既にべリアは生きておらず、6月26日にピストルで射殺されていたからだったなど異説もあります。要するに権謀術数の中で殺されました。
べリアの死後、国家保安省は一委員会に格下げされ「ソ連国家保安委員会」に縮小されました。
そのようにして生まれたのがKGB、つまりプーチンを生んだソ連秘密警察にほかなりません。プーチンはスターリン粛清の担い手、べリア機関直系の後継者で、あらゆる手法を受け継いでいるわけです。
プーチン失脚、3つの可能性
スターリン粛清のべリアや、ヒトラーの盟友レーム、さらには維新後明治政府の政変や暗殺などを参照しても、プーチンが失脚するとすれば3つの可能性が指摘できるでしょう。
第1は軍によるクーデター、これはすでに全ロシア退役将校会会長のレオニード・イワショフ退役大将がプーチンに大統領辞任を要求するなど、軍人としては本音でしょう。
この戦争に「大義」など何もないことは、専門である防衛関係者の方がよく分かっています。
加えて、クレムリンは出撃命令するだけですが、実際に時代遅れの国境突破など、白兵戦を展開して、殺されたり怪我をしたり、身体に障害を負って残りの人生を送らなければならなかったりするのは軍人サイドです。
まともな将官なら反対するのが当たり前。
これはイワショフ大将でも、昨秋亡くなった米国のコリン・パウエル元米国務長官・米軍参謀本部議長など、普通に分別のある軍人なら誰でも同じ反応を見せるでしょう。
しかし現役トップであるゲラシモフたちは、自分や家族の命を人質に取られたまま最高指導者を演じさせられていますから、秘密警察を掌握する大統領の言うことを聞かざるを得ない。
ということで、青年将校が反乱を起こすなどしてロシア軍が機能不全を起こした場合、プーチン政権は停止する可能性があるでしょう。
「ロシアの2.26型崩壊シナリオ」と呼んでおきましょう。
第2は、前回稿にも記した通り、言論統制など恐怖政治の圧力に耐えかねたロシア国民から革命的な火の手が上がる可能性。これは現実には少ないかもしれません。
しかし、対するウクライナでは、市民が自衛軍・民兵組織を編成して、徹底抗戦の構えを見せており、ロシア軍は全く士気が上がりません。
良いたとえではないですが、これは、気乗りのしない大阪府軍が、去年まで同じ国だった京都に「人道的特殊軍事作戦」を命じられ、兵士の大半は京都府民を撃ったりしたくない中、京都の自衛民兵が武装組織を編成して猛反攻しているような状況。
ウクライナではこれが現実のものとなっています。「ロシアのウクライナ型政変シナリオ」、説としては弱いかもしれません。
より実際に可能性が高いのは第3のパターンではないかと思います。
1979年10月26日夜、韓国の軍事政権トップであった朴正煕大統領は、酒宴の席で、側近であった韓国情報部=KCIA部長だった金載圭陸軍中将によって射殺されました。
最高権力者を守るはずの銃口が、最高権力者の方向に向けられると、それより先には守る盾がありません。
プーチン政権はすでに内部でも様々な不協和音が隠せません。老KGBに瞬時の隙ができた時が、ロシアにとって運命の岐路になる可能性が考えられます。
プーチンのKCIA型射殺シナリオ、飼い犬に手を噛まれる可能性は、日本の東条英機暗殺計画、ドイツで数多く準備されたヒトラー暗殺計画同様、今現在ロシア国内に複数準備があると見て外れないでしょう。
こうした情勢の検討は、かつて澁澤栄一財団の戦略的外交人材育成奨学生として、分析を学んだ際、生々しい事例に触れました。
私の指導教員であった田中均さんは、金正日体制の北朝鮮との外交交渉で「ミスターX」とテーブルに着いた際、「あなた方日本人は、交渉が決裂してもそれで終わりだろう。でも私たちは失敗した場合、自分や家族が銃殺される。そういう覚悟でテーブルについている」と告げられたそうです。
これを教えてもらったのは2009年のことでしたが、極めて残念なことに、ミスターXこと柳敬・国家安全保衛部副部長は、2011年1月頃に起きた政変によって、実際に銃殺刑に処されてしまいます。
何が起きても全く不思議ではありません。
●「プーチンは狂っている」――そう判断した時、私たちの敗北は始まる 3/16
時々刻々、深刻化するウクライナ情勢に「プーチンは正気か」「プーチンはボケたのか」という言説が取り沙汰されている。もちろん、この21世紀に起こったこの事態を目の当たりにすれば「正気ではない」と評価するのが妥当であろう。「正気ではない」からこそ、あらゆる経済制裁にも外交措置にも揺るがず、それどころか「核兵器使用」や「欧州全面戦争」をちらつかせて、逆にプレッシャーを与えてくる。
したがって「ついにプーチンは狂った」と、捉えなければ、この事態を理解することは難しいし、今後の対応も取りにくい。しかし、「狂った」と思わせること自体がプーチンの策謀だったとしたらどうだろうか? 
これは、かつてベトナム戦争時にニクソン大統領が密かに用いた「マッドマン・セオリー(狂人理論)」に通じるものがあり、外交交渉においては、決して無視してはならないものである。
プーチンが狂人か、否か――その判断を下すヒントは彼の過去に示されていた。
以下、プーチン研究の第一人者、米ブルッキングス研究所のシニアフェロー、フィオナ・ヒル氏が著した『プーチンの世界―「皇帝」になった工作員―』より、ニクソンの「狂人理論」ともとれるプーチンの「策謀」について紹介しよう。
「危険を察知する感覚が鈍い」
(2014年の)ウクライナ危機の最中、プーチンが危険なリスクを冒す無謀なギャンブラーだという説が一般的に認められるようになった。この主張は、プーチンがKGB時代の教官たちに「危険を察知する感覚が鈍い」と指摘されたという真偽不明な話に基づいたものだ。
近年の関連本でさも新事実であるかのように紹介されることがあるが、プーチンの2000年の自伝『プーチン、自らを語る』の読者にはすでにおなじみのエピソードである。プーチン自身の説明によると、KGB赤旗大学で学んでいたころ、「危険を察知する感覚が鈍い」ことが非常に「重大な欠点」であると指摘されたという。
とはいえ、この本が唯一の情報源なので、盲信は禁物だ。もともと『プーチン、自らを語る』は選挙活動用の伝記であり、半自伝的な作品だった。厳選された3人のロシア人記者による一対一のインタビューを中心にまとめられたこの本は、プーチンのチーム・スタッフの手によって2000年春に刊行された。当時のプーチンは次期大統領候補ではあったものの、その人となりはあまり一般には知られていなかった。
プーチンのチームの目的は、全ロシア国民に対する最初のアピールの舞台を整えることだった。この本はプーチン本人、彼の妻、少年時代や青年時代の知人へのインタビューで構成されており、紹介されるエピソードや新事実はどれも一定の政治的目的のために選ばれたものである。また、プーチンにインタビューした記者たちは、話の内容の一部を自身の新聞や雑誌の記事として発表した。
とすれば、プーチンがそんな性格上の欠点を明かした目的とは何なのか? その答えは、この本の興味深い終わり方を読むとわかる。
『プーチン、自らを語る』の最後では、それまで彼の人生のエピソードをずっと聞いてきたインタビュアーが、プーチンのことを「単純で平凡な人間」だと指摘する。今まで、気まぐれで自由に行動したことなどないのでは? 
するとプーチンはある事件のことを話しはじめる。
彼は大学生のころ、レニングラード郊外の道路で車を運転中、自分自身と同乗者である格闘技のコーチの命を危険にさらしたことがあった。プーチンは車の窓を開け、すれ違う農業用トラックに積まれた干し草をつかもうとして、危うく車のコントロールを失いかけたのだ。九死に一生を得ると、真っ青な顔をしたコーチが(たぶん内心怒って)プーチンのほうを向き、「ずいぶんと無茶をするね」と言った。プーチンはなぜそんなことをしたのか? 「干し草のいい匂いがしたからだろうな」とプーチンは言った。
それが伝記本の最後の一文だ。読者は間違いなくプーチンのコーチに感情移入し、こう思うに違いない。「ちょっと待った。どういう意味だ? いったいこの男はどういう人間なんだ?」
プーチン、そして彼のチームは、何通りにでも解釈できるような紛らわしい方法で情報を提示し、人々を操ろうとする。この話はその典型例である。同じ本のなかでプーチンは、矛盾するような話もいくつか披露している。たとえば、KGB時代に危険を察知する感覚が鈍いことを指摘されたという話の直後、大学時代(つまりKGBに入るずっと前)から彼自身も友人もそんなことはわかっていたと話している。
そのようにして、プーチンは一定の自己像を作りつつも、同時に相手を惑わせようとする。「危険を顧みない男」というイメージと、「リスクは冒しながらも、いつも代替策を用意した計算高い人間」というイメージの両方を植えつけようとする。
どちらが本当の彼の姿なのか? 
どちらのイメージにも一定の影響力と効果がある。プーチンの偽情報や矛盾する情報は、彼が理解不能で予測できない男、さらには危険な男というイメージを人々に与える。彼にとっては、それこそが国内政治や国際政治における「遊び」の一部なのだ。プーチンはいったいどう反応するだろうか――いつも相手にそう勘ぐらせ、時には恐れさせるのである。
「狂人理論」の実践者
こうした意識的なイメージ操作、合理性や正気さえも疑わせる行動は、世界のリーダーの常套手段ともいえる。ベトナム戦争におけるリチャード・ニクソンの悪名高い「狂人理論(Madman Theory)」はその代表例だ。
1972年、北ベトナムに脅しをかけて戦争終結の交渉のテーブルにつかせるチャンスと見ると、ニクソンは国家安全保障問題担当大統領補佐官のヘンリー・キッシンジャーに指示を出し、ソ連を介して「ニクソンは核兵器を使用する覚悟がある」というメッセージを北ベトナムに伝えた。ジャーナリストのジェームズ・ローゼンとルーク・ニクターは最近発表した記事のなかで、「ニクソンは、アメリカ大統領がまさに狂人だという印象をソ連に植えつけようとした。情緒不安定で、意思決定に一貫性がなく、何をしでかすかわからない男だ、と」とその作戦について解説した。
当時首席補佐官だったH・R・ハルデマンは回顧録のなかで、ニクソンがすべての台本を入念に練っていたことを明かしている。ハルデマンによると、ニクソンは彼にこう言ったという。「これを狂人理論と呼ぼうと思う。戦争を終わらせるためなら何でもしかねない――私がそんな精神状態に達した、と北ベトナムに信じ込ませるんだ。“ニクソンは共産主義を根こそぎにしようとしている。いったん怒り出したらもう抑えられないぞ。しかも彼は核のボタンを握っている”というメッセージをこっそり伝えるのだ。そうすれば、ホー・チ・ミン自身も和平を求めてすぐにパリを訪れることになる」
お前たち、オレを見ろ、判断しろ。そして混乱するがいい
実際のところ、プーチンが自分自身に関する種々の物語によって人々を誘導するのには、ニクソンより複雑な目的がある。彼の目的は、単に特定のイメージを植えつけ、“本当”のプーチンについて混乱を引き起こそうとするだけのものではない。そういうメッセージの最初の種が、誰によってどう運ばれていくのかを追跡することも目的の一つなのだ。
もともとの物語がどう脚色され、巡り巡って自分のところにどんな形で戻ってくるのかを確かめたいわけだ。つまり、プーチン版の伝言ゲームである。不可思議な物語の種を蒔くことで、プーチンは相手が自分の言葉をどう解釈し、どう反応するかを確かめようとする。
彼が注目するのは現実よりもむしろ人々の認識だ。プーチンの人間性や行動基準について知識を持たない人々がどう考え、行動するかを探ることは、彼の政治戦術にとって大きな利点になるのである。
本書(『プーチンの世界』)の執筆を通してわかったのは、ウラジーミル・プーチンにとって大事なのは、情報が真実かどうかではなく、彼の言動を相手がどうとらえるかである、ということだ。プーチンにとって興味があるのは、特定の現実を伝えることよりも、その情報に対する周りの反応を確かめることなのだ。
彼にとって、周りの人間は自分がコントロールするゲームの参加者にすぎない。彼が情報を選び、周りが反応を返し、それを評価する。情報に対する反応を見れば、相手が自分を何者だと考えているかだけでなく、相手の人間性、望み、関心までわかる。
一方で、ウラジーミル・プーチン自身はほとんど情報を明かさない。むしろ、あらゆる手を尽くして、ほかのゲームの参加者を混乱させようとする。大統領や首相として、彼は実にさまざまなペルソナを見せてきた。2000年以降、プーチンは国際政治の場で究極のパフォーマンス・アーティストを演じてきたのである。
●動機はNATOへの積年の恨み? 「心のブレーキ」を外しつつあるプーチン 3/16
ロシアがウクライナに全面侵攻してから3週間近くが過ぎた。ロシアのプーチン大統領は12日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相と共に電話協議を行った。独仏両首脳が即時停戦を強く迫ったのに対し、プーチン大統領は戦争をやめる考えを示さなかったという。戦闘は、軍事施設だけを狙った精密爆撃という段階を超え、民間施設を含む無差別攻撃に移っている。米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は10日、英BBC放送の番組で、ロシアの行為が戦争犯罪にあたるという考えを示した。一部にはプーチン大統領の精神状態に懸念を抱く声も上がっている。防衛省防衛研究所の吉崎知典特別研究官はプーチン大統領の言動について「戦術の誤算はあったでしょうが、発言には一貫性があります。狂っているわけではありません」と語る。「プーチン氏の心の奥底にあるものは、NATO(北大西洋条約機構)に対するルサンチマン(恨み)です」とし、原点の一つとして1999年のコソボ空爆を挙げる。
吉崎氏はその理由に、プーチン氏がしきりに唱える「ウクライナへの人道介入」という発言を挙げる。プーチン氏は2月24日、ウクライナでの「大量虐殺」からロシア市民などを保護するために「特別軍事作戦」を命じたと明らかにした。ウクライナ侵攻にあたり、ロシアは市民を安全に避難させる「人道回廊」の設置も提案した。吉崎氏によれば、ロシアのこうした行動は、NATOがコソボ空爆で取った動きと同じだという。NATOは当時、コソボ紛争に介入してユーゴスラビア(当時)の軍事施設などを攻撃していたが、セルビア系住民による虐殺行為などへの「人道介入」を行うとして、首都ベオグラードなどの民間施設も空爆するようになった。同年5月にはベオグラードの中国大使館を誤爆する事件も起きた。「人道回廊」もコソボ紛争でも使われた言葉だという。吉崎氏は「プーチン氏は、NATOが人道介入を理由にコソボで好き勝手なことをしたと考えています」と語る。ロシアと中国はコソボの独立を認めず、国連加入も拒んでいる。
そして、コソボ空爆後の作戦には、ポーランド、チェコ、ハンガリーという旧ワルシャワ条約機構加盟国の軍隊がNATO新規加盟国として参加した。そして2003年のイラク戦争後には、ウクライナやジョージアなど旧ソ連構成国が多国籍軍として参加した。日本政府の元高官も「1989年にベルリンの壁が崩壊したとき、プーチンは東ドイツ領だったドレスデンにいた。プーチンは30年以上もの間、ソ連帝国が崩れていく様子を目の当たりにしてきた。その姿にがまんできなかったのだろう」と語る。
プーチンはミロシェビッチの二の舞に?
プーチン氏は今回、「ウクライナの非ナチ化・非武装化・中立化」という言葉も使っている。吉崎氏によれば、これはスターリンが第2次大戦後に、ドイツ占領政策として使った「3D(非ナチ化、非軍事化、民主化)」を真似た発言だという。同氏は「非ナチ化といった表現には、昔を知るロシアの古い世代が共感を覚えます。ウクライナでの戦争は、ロシアに正義があるとアピールしたいのでしょう」と説明する。
プーチン氏が介入の論理や正義にこだわったため、ウクライナ侵攻がロシアの思い通りに運んでいないとの見方もできる。吉崎氏は「ロシアは航空優勢を取り切れていないかもしれませんが、それでもキエフに対する全面的なミサイル攻撃や空爆は仕掛けていません。できる限り、軍事施設への攻撃に絞った『きれいな戦争』をしたかったのでしょう。キエフがロシア発祥の地だという思いもあったかもしれません」と話す。
ただ、プーチン大統領は徐々に、こうした「心のブレーキ」を外しつつある。プーチン氏に「自分は、コソボ空爆の時のNATOと同じことをしているだけだ」という自己正義の論理があるとすれば、沸騰する「ロシア・プーチンは悪だ」という国際世論は耐えがたいものがあるだろう。プーチン氏は11日、ショイグ国防相に対し、ウクライナ侵攻に外国人志願兵が参加できる措置を取るよう指示した。攻撃側が守備側の6倍の兵力が必要とされる市街戦に入る決意を固めたのかもしれない。米軍は東京大空襲の際、戦争の局面が予測できなくなるとして、皇居や国会議事堂、大本営などを攻撃対象から外した。ロシアが今回、ウクライナの大統領府なども攻撃対象に含めるようであれば、それはロシアに余裕がなくなってきていることの証左でもある。
吉崎氏は「プーチンのルサンチマンを考えれば、ウクライナ指導部の交代やウクライナ軍の非武装化、ウクライナの非同盟化を果たすまで、戦争を続ける決意を固めているかもしれません」と語る。そして、プーチン氏の恨みは、ウクライナよりもNATOに対してより深いものがある。「プーチン氏は絶対にNATOに軍事介入させたくありません。そのための切り札が核使用の脅しなのです」
プーチン氏は今、自分の姿を、コソボ空爆当時のクリントン米大統領に重ね合わせている可能性がある。でも、実際は、人道の罪で起訴されたミロシェビッチ・ユーゴスラビア大統領と同じ道を歩むのかもしれない。
●田原総一朗「強気崩さぬプーチンはトランプ政権復活を望むか」 3/16
ジャーナリストの田原総一朗氏は、プーチン大統領がトランプ氏の政権復帰を期待していると見る。
世界中でロシアのプーチン大統領への大批判が巻き起こっている。
今月4日に、ロシア軍は何とウクライナ最大の原子力発電所であるザポリージャ原発を砲撃した。
これはどう考えても常軌を逸している。もしも原発本体が破壊されたら、ロシア側にも大きな被害が及ぶはずである。
何よりも、こんなことをすれば、世界中から大非難を浴びる、とは百も承知しているはずである。
前回も記したが、プーチン氏にとって大誤算が生じたのだ。
プーチン氏がウクライナに軍事介入する以前は、ウクライナのゼレンスキー大統領の支持率は30%を割っていた。ゼレンスキー氏の下での政界の腐敗に、国民の多くが反発を覚えていたわけだ。
だからプーチン氏としては、軍事介入をすれば、国民の反ゼレンスキー感情が高まり、簡単に親ロシア政権に変えられるのではないか、と考えていた。しかし、軍事介入の結果、ゼレンスキー氏の支持率は91%に跳ね上がってしまったのである。
そして、ウクライナ軍の抵抗は強く、ロシア軍は思うように進撃できなかった。
かといって、ここで進撃を思いとどまったら、戦略の失敗としてプーチン政権は破綻(はたん)し、プーチン氏は逮捕されるなど、身の危険が生じる。ここが、全体主義国の難しい点だが、プーチン氏としてはまったく展望がつかめなくても、進撃を続けざるを得ないわけだ。
米欧の国々は、ロシア軍が民間施設や住宅街にまで攻撃対象を広げていると見ている。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は4日の記者会見で、「ここ数十年の欧州で最悪の軍事攻撃だ」と糾弾し、ロシアによるクラスター爆弾の使用についても主張。ブリンケン米国務長官も6日、「戦争犯罪になりうる民間人への意図的な攻撃について、非常に信頼できる報告を受けている」と語った。
米欧はロシアに対して経済制裁を強化しているが、プーチン氏はこうした経済制裁の強化を「宣戦布告のようなものだ」と述べ、強い不満を表明しているようだ。
バイデン米大統領は、経済制裁を強化するだけではプーチン氏の姿勢を変えられない、とわかっているはずである。プーチン氏の軍事侵攻を止めるには、軍事力で対抗することだとわかっているが、バイデン氏がそのような姿勢を示せば、米国民から総攻撃を受けてバイデン政権は崩壊するはずである。
さらに、バイデン氏を困惑させているのは、トランプ前大統領の共和党が厳しいバイデン批判を繰り広げていることだ。プーチン氏が強気の発言を続けているのは、アフガニスタンからだらしのない撤退をするなどバイデン氏が意欲を失ったとしか判断できないため、などと批判されている。
インフレによって米経済が悪化し、バイデン氏の支持率は40%を切っていた。このままでは秋の中間選挙で民主党は共和党に敗れるのではないかとの見方が強まっているが、もし民主党が大敗すれば、それはバイデン政権の崩壊につながり、それを最も期待しているのがプーチン氏であろう。
バイデン政権が倒れれば、トランプ氏が政権を握る。トランプ氏はプーチン氏と大の仲良しだからである。
●プーチン大統領が明言している核兵器「先制使用」の条件とは 3/16
「プ―チンはウクライナで核兵器を使うのか?」――こんな議論が米国で真剣に交わされるようになった。ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ侵攻に際してロシアの核戦力部隊を臨戦態勢におくという措置を宣言したからである。
米国の専門家たちの間では、今のところ、プーチン大統領の核発言は米欧諸国のウクライナ支援を抑えるための脅しであり、実際に核攻撃をかける可能性は低いという見解が多い。だが一方で、ロシアの近年の核戦略では小規模な戦争で小型の戦術核兵器を実際に使って戦闘を勝利に導くという手段が現実の政策選択肢として確立されており、実際の危険性は高いとする専門家たちも存在する。さらに米国の一般国民の間でも、プーチン大統領の実際の核兵器使用への懸念が高まってきた。
専門家だけでなく米国民一般も強く懸念
プーチン大統領は2月27日、ロシアの国防大臣と参謀総長に対してロシアの核抑止部隊を「特別の臨戦態勢」におくことを命令した。「核抑止部隊」とは核戦力の部隊のことである。
ロシア軍は2月24日にウクライナへの軍事侵略を開始していた。その3日後の「核抑止部隊の臨戦態勢」への配置はウクライナでの戦闘に核兵器を使う可能性を示していた。プーチン大統領は侵略的な野望を核兵器を使ってでも実現すると、全世界への威嚇をこめて宣言したわけだ。
ウクライナは核兵器を保有しておらず、非核の通常戦力でもロシアにははるかに劣る。そんなウクライナにロシアが一方的に侵略し、しかも軍事優位に立ちながら、その劣勢かつ弱小の相手に対して核兵器を使う可能性もある、と宣言する。これほど一方的で威嚇的、かつ理不尽な軍事脅迫は近年の世界では他に実例がない。しかもロシアの軍隊がウクライナで民間の市民や施設を殺傷し破壊している最中なのである。
米国ではこのプーチン宣言に対して猛烈な反発と警戒の波が広がった。軍事や核戦略に詳しい専門家であればあるほど、その反応は鋭く険しかった。
米国側の当初の反応は当然ながら、プーチン大統領がウクライナでの戦闘で本当に核兵器を使うかどうかの究明だった。単なる恫喝なのか、それとも真剣に検討する現実の選択肢の1つなのかの見極めでもあった。
米国の多数の官民の戦略問題専門家たちが、公開の場でも熱のこもった議論を始めた。
たとえば米国の主要外交問題専門誌「フォーリン・ポリシー」が3月11日号に掲載した専門家2人の緊急対談は、まさに「プーチンは核兵器を使うか?」と題されていた。登場したのは欧州問題研究の大手機関「大西洋評議会」のマシュー・クローニグ副所長とエマ・アシュフォード上級研究員だった。ともにアメリカの政府や大学で欧州やロシア、米欧関係などを専門としてきた人物である。
専門家たちの議論を当初の段階で総括するならば、「プーチンはウクライナで実際に核兵器を使用することはまずないだろうが、なおわからないし、場合によっては使うかもしれない」という骨子となる。その「わからない」という部分や「使うかもしれない」という部分が死活的な重みを持つことは当然である。
専門家だけではなく米国民一般も反応した。一般国民の反応はこの最悪の事態への懸念の深刻さを示していた。
3月14日に発表された全米世論調査の結果では、米国民の大多数がロシアによるウクライナでの核兵器使用があるだろうと思っていることが判明した。多数ある米国の世論調査機関のなかで最大手のラスムセン社が3月9、10日の両日、全米合計1000人の有権者を対象に実施したウクライナ戦争に関する緊急論調査で、「ロシアはウクライナ侵攻で核兵器を使うと思う」と答えた人が全体の77%にも達した、というのだ。
核兵器を先制的に使う権利があると宣言
専門家の間でこの懸念が強いことにはそれなりの理由がある。プーチン大統領自身がつい最近、ロシアが核兵器を先制手段としても使いうる方針を明示していたからだ。
プーチン大統領は2020年6月、「ロシア連邦の核抑止分野での国家政策の基本的原則」と題する政令に署名した。この文書は、ロシアがどんな場合に核兵器を使用するかを具体的に明記していた。
文書では核兵器を使用する際の基本的原則について大きく2つの条件が記されていた。
第1は「ロシア連邦は自国とその同盟国に対する核兵器、あるいは他の種類の大量破壊兵器の使用に対して核兵器の使用の権利を有する」とされていた。そのうえで第2として「ロシア連邦に対する通常兵器使用による攻撃でロシアの国家の存続が脅かされた場合にも核兵器使用の権利を有する」と明記されていた。
つまり、今回のプーチン大統領の核準備言明はこの第2の記述を根拠としている。ロシアは自国が核攻撃を受けなくても、さらには相手が核保有国でなくても、核兵器を先制的に使う権利があると宣言しているのだ。その宣言には「ロシア連邦の国家の存続が脅かされた場合」という条件こそついているが、この条件はどのようにも解釈できる。ウクライナへの軍事侵攻がロシアにとって円滑に進まない場合でも、ロシアの国家としての存続が脅かされたと主張できるわけだ。
ロシアの核戦力は、もちろんその主体を旧ソビエト連邦から継承している。だがロシアは新国家誕生の1991年ごろから少しずつ、旧ソ連の掲げていた核先制不使用を否定するようになった。核先制不使用とは、たとえ戦争でも核兵器は先には使わない、敵から核攻撃を受けた場合だけの報復攻撃に限る、だから非核の相手国にも核は使わない、という方針である。だが、ロシアはこの方針を放棄した。
その結果、米欧側が、ロシアの各種の核戦力のうちウクライナ戦争と重ねて合わせて最も警戒するのは、地域的な戦争への対処で想定される短距離、中距離用の核兵器である。米国の国防総省などの情報では、「非戦略的核兵器」と呼ばれるこの種の攻撃用の核弾頭はロシア軍全体で約2000個と推定される。核戦略用語では一般に「戦術核兵器」と呼ばれてきた種類である。
ロシアの「非戦略的核兵器」の実際の使用は、短距離ミサイルやロケット砲、さらには潜水艦や水上艦からの同じく短距離の発射などとなる。万が一、ロシア軍がウクライナで核兵器を使う場合は、これらの兵器が使用されることとなるわけだ。
この種の戦術核兵器は旧ソ連軍の時代よりもロシア軍になってから大幅に増大しているという。ロシア軍の通常戦力が旧ソ連時代よりずっと弱小となったため、核戦力への依存が高まったのだとされる。
ロシアの戦略「非エスカレートのためのエスカレーション」
米国側の軍当局や核戦略専門家がさらに注視しているロシア側の核がらみの新戦略に「非エスカレートのためのエスカレーション」という概念がある。この概念は、地域的な軍事衝突や戦争が起きた場合に、ロシア側が戦闘の拡大を防ぐために、早期に戦術的な小型核兵器を使うという手法だとされる。
ロシア側では「非エスカレートのためのエスカレーション」という表現は直接は使ってはいないが、ここ10年にも及ぶロシアの軍部や政府の首脳の言明、公式戦略などを総合すると、まさにその表現が適切な新戦略思考が明確になるという。
その内容は、地域的な限定戦争でロシア軍に対する敵側への支援拡大を防ぐために、早い時期に限定された核攻撃を実施して敵側の動きを抑え、戦争自体のエスカレーションを防ぐ、あるいはロシア側の敗北を防ぐ、という考え方である。
だから米国側が「プーチン大統領の命令によるウクライナでの核兵器使用があり得る」として警戒を高める理由は厳存するのである。
ただし3月中旬の時点で米国の軍当局はロシア軍の核兵器の管理や配備の態勢に大きな変化はない、という判断を示している。だから当面、ウクライナでの核攻撃もないだろう、という見方も生まれている。だがその一方、ロシアのプーチン独裁体制下での核兵器をめぐる戦略、戦術の変化は、ウクライナでの核使用をも促しうる方向へ大きく変わってきたことも上記の説明のように現実なのである。
●ハンガリー、ウクライナ戦争に関与せず=首相 3/16
ハンガリーのオルバン首相は15日、ウクライナには武器を供与せず、戦争には関与しないと表明し、野党がハンガリーを戦争に巻き込もうとしていると批判した。支持者集会で述べた。
ハンガリーでは4月3日に議会選が実施される。今回の選挙では野党が政権打倒に向けて連合を結成、オルバン首相が率いる与党フィデスは厳しい選挙戦を強いられる見通しだ。
オルバン首相はロシアのプーチン大統領と長年親密な関係にあり、野党から批判を浴びている。
首相は、中欧諸国は大国の「チェス盤」にすぎず、ハンガリーが自国の利益を守らなければ、容易に巻き添えになると発言。
「ロシアはロシアの利益を、ウクライナはウクライナの利益を考えている。米国も欧州連合(EU)も、ハンガリー人の気持ちになって物事を考えることはないだろう。われわれは自らの利益を守らなければならない」とし、「この戦争から距離を置く必要がある。このため、戦場に軍や兵器を派遣することはない」と述べた。
●ロシア・ウクライナ戦争の和平を実現するために「最も重要なモノ」 3/16
ロシア・ウクライナの戦争はどこに行くのか。多くの人々が、様々な議論をしている。軍事専門家は、どれだけ苦戦しようともロシア軍の勝利が動くことはありえないと述べる。ロシア軍の軍事的優位は圧倒的であり、プーチンが殲滅作戦に入ったら、悲惨なことになる。歴史家は、ウクライナの最終勝利は疑いないと言う。20万人程度の軍隊で、結束を強めた4,000万の人口を持つ国を統治し続けていけるはずがないからだ。
戦争がこのまま続けば、人道的惨禍が拡大し続けることは必至である。もちろん最大限の努力でそれは避けたい。だが国際秩序を無視した侵略者に対して、国家の独立を賭けて戦うウクライナに妥協を迫ることは、長期的に持続可能性のある解決方法ではない。プーチンが侵略者で、ウクライナが国際秩序の擁護者だという理解は、国連総会決議でも確認されている。だが力と勝利が権力維持の基盤であるプーチン大統領にとっては、自らの号令で始めた戦争を、成果なく終わりにすることは、応じることが難しい相談だ。
状況は困難である。だがそれでも被害の甚大さを考えれば、前に進むための努力は続けなければならない。
プーチンのロシアの核心的利益
紛争解決論の考え方では、まず行わなければならないのは、表面的な立場を超えたところに存在する紛争当事者の核心的利益の把握だ。紛争当事者双方の核心的利益を分析することによって、何とか利益の共有の余地を探し出す。
その観点から、戦争を開始した侵略者側のプーチン大統領が考えるロシアの核心的利益について考えてみよう。なおとりあえずここではプーチン大統領が考えるロシアの核心的利益を、プーチン大統領の権力維持という個人的な利益とは切り離して、考えてみる。
なぜプーチン大統領は、数千人以上とされる自国兵士の犠牲も厭わず、戦争を仕掛けたのか? そこに何らかのロシアの核心的利益に関する考え方があるはずだ。端的に言えば、ウクライナがNATO寄りになると、ロシアの安全保障が脅かされる、とプーチン大統領が信じ込んでいることが、戦争の原因である。
プーチン大統領は、NATOは本質的に反ロシア軍事同盟であると信じている。NATO構成諸国とロシアが国境を接する事態が生まれてしまえば、遅かれ早かれロシアは浸食される。もしそうなれば、プーチン大統領の権力基盤は弱体化し、権威主義的な政治文化への反対運動が高まり、軍事力そのものですら相対的に優位性を失う。
そしてプーチン大統領が再興したロシアの国威は失われ、ロシアは惨めな反主権国家に没落する。アメリカ(特にオバマ/バイデンの民主党政権)はこのシナリオの実現を狙っている、という陰謀論めいた考え方すら、プーチン大統領は持っているようだ。
この観点から見て、プーチン大統領にとってウクライナは特別な国である。西欧に続く広大なヨーロッパ平野においてロシアと国境を接している最重要の「緩衝地帯」である。NATO東方拡大が進んだといっても、旧ソ連共和国が崩壊して独立国となった地域からのNATOへの加盟はいまだ発生してない。
もっともロシアから見れば、バルト三国も旧ソ連の一部だったという認識があるだろうが(実際には旧ソ連崩壊前に独立している)、いずれにせよウクライナのNATOへの加入は、ロシアとNATOとの「緩衝地帯」の消滅を意味する点で、プーチン大統領にとっては安全保障上の深刻な脅威である。
もっともウクライナが特に重要視される背景には、ロシアとウクライナの間の特別な民族的・宗教的・文化的な類縁性の理解も関係している。プーチン大統領は、ウクライナはロシアの一部である、という歴史観すら披露している。プーチン大統領は、攻撃停止の条件としてウクライナの「非武装・中立化」をあげているとされるが、それはウクライナを単なる「緩衝地帯」ではなく、ロシアの「影響圏」の一部に置く、という決意であるとも言える。
ゼレンスキーが代表するウクライナの核心的利益
現在ウクライナ人はロシアの侵略に団結して立ち向かっている。もっとも独立以来、親ロシア派と親西欧派の間の対立構図があったことは、よく知られている。その意味では、抗戦しているウクライナの核心的利益は、現在のゼレンスキー大統領の考え方によって代表されていると考えることもできるだろう。
ゼレンスキー大統領は、英国議会に向けた演説においてシェークスピアの『ハムレット』の中の有名な台詞「生きるべきか、死ぬべきか(to be, or not to be)」を引用しつつ、「答えは、生きる/存在することだ」、と述べて、祖国に残って戦うことが「生きる/存在する」ことだという見解を示した。
ウクライナから逃亡して物理的な生命の維持を求めることは、ウクライナ人としての自分が「生きる/存在する」ことにならない、という結論に達したという示唆が、そこにある。同時に、「降伏」してしまえば、ウクライナという国は「死ぬ/存在しなくなる」という認識も示した。
ゼレンスキー大統領にとっては、「非武装・中立化」を前提にした「降伏」は、ロシアの「影響圏」に置かれるということだ。いわばウクライナが属国になり、衛星国と言っても過言ではない存在になるということだ。仮にウクライナ全域がロシアに併合されるわけではないとしても、およそ独立国とは言えない従属的な状態に置かれるということだ。それではウクライナが「生きている/存在している」とは言えない。「降伏」は、ウクライナという国の存在そのものを喪失させる核心的利益の放棄である。
ウクライナという国の存在そのものという核心的利益に照らしてみたとき、ウクライナのNATO加盟はあくまでも利益達成の一手段にすぎないことがわかる。戦争を継続してでも達成したい核心的利益はNATOへの加入それ自体ではない。ウクライナという国の独立の維持こそが、核心的利益である。
共通の利益は見出せるのか
戦争を停止させるためには、紛争当事者の双方が共通の利益だとみなせるものを見出したうえで、両者が譲れない核心的利益だと考えるものの調整を図らなければならない。
プーチン大統領は、ウクライナを属国のようにしてロシアの「影響圏」に置くのでなければ、ロシアの地位を保つ核心的利益は確保できないと考えている。ゼレンスキー大統領は、ロシアの「影響圏」に置かれた属国としての扱いを受けるのでは、ウクライナの独立という核心的利益は保てないと考えている。
両者が見出さなければならないものは、ここまでの分析からは明らかではある。自由で独立したウクライナの確証が、ロシアの脅威をもたらさないという確証と両立していなければならない。
ただし、これはまだ抽象的すぎる言い方だ。「それはつまりどういうことか?」という問いに対する答えのレベルでは、表現できない。抽象的な言い方では把握できている方向性を、具体的な制度や政策として表現するための努力を、ロシア人もウクライナ人も他の東欧諸国の人々もNATO構成諸国の指導者たちも、過去30年にわたって繰り返し行ってきた。残念ながら、その問いに答えを与える課題が困難であるがゆえに、今日の破綻を迎えている。
プーチン大統領は、「答えは、ウクライナの非武装中立(衛星国化)だ、安心しろ、ウクライナという国を併合するつもりまではない、ただ属国扱いするだけだ」、という考えを持っている。ゼレンスキー大統領は、「答えは、ウクライナのNATO加入だ、安心しろ、NATOがロシアを攻めるようなことはない」、という考えを持っている。それぞれの立場から見ると、「答え」になりうるのだが、相手側にとっては全く「答え」ではないので、戦争になっている。
長期的な安定のためには、ロシア・ウクライナ・NATO構成諸国を含みこんだ地域組織であるOSCE(欧州安全保障協力機構)による新たな安全保障の傘の創出が必要だ、といった言い方まではできる。それを前提にしてウクライナの独立保障とし、ウクライナの軽武装化・中立化を可能にしてロシアの撤退を引き出せるか、といった可能性が模索される。
ロシアとNATO構成諸国の共同行動の模索はかえって和平の障害になるという場合には、国連の枠組みでヨーロッパ域外からの平和維持組織の展開をもってウクライナとロシアの安全保障の同時達成を模索するべきかもしれない。
ボスニア・ヘルツェゴビナの戦争を終結させたデイトン合意のように、国土の事実上の分割と異なる安全保障体制の導入を図る特殊な連邦制の仕組みも、各方面に苦痛を伴うが和平につながる可能性があるのであれば、検討対象にはせざるをえないかもしれない。ただしこの方向性は、あるいは朝鮮戦争後の措置でとられたように、相互交流を欠いた二つの国家領域へのウクライナの分割を意味してしまうかもしれない。しかもそれが長期的な安定につながる見込みがあるわけでもない。
紛争調停の「成熟」理論
和平交渉の理論研究において「成熟(ripeness)」理論として知られている考え方がある。紛争の調停の可否は、紛争当事者が紛争を止めたいという考えるタイミングを見極めて調停活動を行うかどうかにかかっている、という理論である。和平は、和平への機運が「成熟」したときに、達成される。したがって調停者に求められるのは、表層的な交渉術ではなく、和平の「成熟」の度合いを見極める洞察力だ、ということになる。
これはつまり、和平交渉には、時間軸がある、ということである。刻一刻と動く戦争の状況によって、紛争当事者の停戦へのインセンティブも刻一刻と動く。そこに政策的な介入の影響もかかわってくる。
戦争を開始したのはウクライナではない。したがって国際社会のルールにそってロシア側の撤退が約束されれば、ウクライナ側は停戦に応じるだろう。問題は、プーチン大統領が戦争を止めるインセンティブを感じるタイミングの見極めである。プーチン大統領が、戦争停止にインセンティブを持つように、ウクライナ人たちは戦争に伴う被害が大きくするために抗戦しているし、国際秩序の維持を目指す諸国は大規模な経済制裁にも踏み切っている。全ては、戦争のコストを高めて、プーチン大統領に停戦へのインセンティブを働かせるための措置である。
ウクライナを「影響圏」に置くことはロシアの核心的利益だ、というプーチン大統領の理解に見合うレベルで、NATOからの支援を受けたウクライナの抵抗や国際的な経済制裁が、ロシアの核心的利益に影響していかなければならない。
日本国内では、即日で瞬時に戦争を終わりにするのでなければ、戦争を終わりにすることにならない、といった見方がとられがちである。だがそのような非現実的な願望だけにもとづいた態度では、かえって和平へのタイミングを見逃す。日本のお茶の間のテレビを平和にしてほしいという思いだけでその場限りの取り繕いをお願いしても、何の魅力もないため当事者に聞いてもらうことすらできないだろう。
日本は、国際的な経済制裁の実施に参加し、ウクライナへの支援も行っている。それらは全て和平への機運を高めるためである。制度的な可能性の余地を検討し、時間軸にそった展開を見極めて、和平に貢献したい。状況は困難だが、少なくともそのような方向性の感覚を持って、国際秩序を守るためにウクライナを支援しながら、プーチン大統領が戦争のコストを強く感じ取るための措置を実施していきたい。
●ロシア国営テレビでウクライナ戦争に抗議した職員、裁判で有罪に 3/16
ロシア国営テレビ「第1チャンネル」でニュース番組の生放送に乱入して戦争反対を訴えたテレビジャーナリストの女性が15日、「無許可の公的イベント」を組織したとして有罪を言い渡された。
判決を言い渡されたのは、同局編集者のマリーナ・オフシャニコワさん。モスクワ地方裁判所によると、「行政違反」の罪で有罪とされ、3万ルーブル(約3万3000円)の罰金を命じられた。
これに先立ちオフシャニコワさんは、裁判所で弁護士と一緒にいる写真が撮影されていた。
以前オフシャニコワさんの弁護を担当していた別の弁護士によると、行政違反の罪状は、オフシャニコワさんが放送に乱入する前に録画していたビデオ声明のみに関連している。
オフシャニコワさんは14日、ニュース番組の放送中にキャスターの後ろに立って戦争反対のメッセージを掲げた。この抗議運動の前に録画していたビデオ声明では、「今ウクライナで起きていることは犯罪であり、ロシアは侵略国です」などと訴えていた。
ロシア政府は15日、オフシャニコワさんの行動を、ロシアで犯罪とみなされる「フーリガン行為」と形容した。
国営タス通信は、「ロシア軍の使用に関して故意に偽情報を流布させた」問題について、司法当局が捜査に乗り出したと伝えた。
オフシャニコワさんの勇気ある抗議運動は、海外のテレビ局が繰り返し放送。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は記者団に対し、大使館での保護や亡命を通じ、オフシャニコワさんを守るための外交措置を講じると表明した。
●ロシアTV職員に「保護」 仏大統領、プーチン氏に提案へ 3/16
フランスのマクロン大統領は15日、ロシアの政府系テレビで14日に「戦争反対」のメッセージを掲げた女性スタッフについて、仏大使館での「保護」や亡命受け入れの用意があると表明した。仏西部でウクライナ難民受け入れ施設を視察した際、記者団に語った。
マクロン氏は「大使館での保護か、亡命受け入れを提案するための外交手続きを開始する。次のロシア・プーチン大統領との会談でこの解決策を提案する」と述べた。
●ウクライナが得た大量の対戦車ミサイル、ロシアに戦術変更迫る可能性 3/16
ロシアによるウクライナ侵攻は3週目に入り、過酷な市街戦となる見通しが一段と強まっている。こうした中、ウクライナに各国から大量に送られた対戦車ミサイルが戦争の流れを変える可能性がある。
一部の軍事アナリストは、過去数週間でウクライナに送り込まれた最新式対戦車ミサイルの量は驚異的であり、近代の主要戦争では前例のない規模をウクライナ軍が手にした可能性があると指摘する。
英国は次世代軽対戦車(NLAW)ミサイル3615基をウクライナに送ったと発表。ドイツは1000基、ノルウェーは2000基、スウェーデンは5000基の対戦車兵器をそれぞれ供与する。米国は数量こそ公表していないが、携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」をウクライナに提供する。他の国も同様の兵器を送っており、その多くは最新技術ではないものの、ロシア軍にとっては相当な脅威となる。
プーチン大統領が始めた侵攻はウクライナ側の抵抗とロシアの誤算により、当初の想定通りには進んでいない。最新鋭の対戦車兵器もロシア軍を阻む要因の一つだ。
米シンクタンク、ジェームズタウン財団でロシア軍を専門とするパベル・フェルゲンハウアー氏(モスクワ在勤)によれば、最新式のロシア戦車でさえジャベリンには弱いことが明らかになっている。ジャベリンもNLAWも戦車の装甲が最も弱い上方から攻撃するタイプで、ミサイル自体が標的を追尾する能力を持つ。発射したらすぐにその場を離れることが可能であるため、敵に位置を知られずに済み、反撃されるリスクを減らすことができる。
ソーシャルメディア上で広く共有された動画では、キエフ近郊のブロバルイに進入しようとしたロシア軍の戦車や装甲車の車列が攻撃を受けて退却する様子が映し出されていた。
フェルゲンハウアー氏は「都市部の制圧に際しては、爆撃するだけなく、防御側がショックを受けている間に歩兵が進入することが重要」であり、それが不可能なら目標は達成できないと指摘する。
ロンドン大学キングス・カレッジ戦争学部のローレンス・フリードマン名誉教授は最近のブログで、「主要都市への本格的な進軍がないのは注目に値する。ロシア軍上層部は、ウクライナ側が入念に準備してきた市街戦に及び腰な部隊を無理に送り込むことを懸念しているのかもしれない」と分析。それが事実であれば、交渉による解決の可能性は高くなるとの見方を示した。
しかし、停戦が実現しない限り、ウクライナがロシアの戦車による都市部進攻を防げたとしても、それによってさらに戦争は長期的かつ残酷な展開となる恐れもある。
フェルゲンハウアー氏によると、現在ウクライナにいるロシア軍司令官のほぼ全員がシリアでの戦争経験を持つ。当時、ロシア軍はアレッポなどの都市を空爆したが、シリア政府軍が追撃に失敗し、泥沼の包囲戦が2年にわたって繰り広げられることになった。
●ウクライナ侵攻で核戦争への不安 世界で核シェルター需要急増 3/16
ロシア軍のウクライナへの侵攻で、ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用を示唆する発言を威嚇的にしたことを受け、核戦争に対する危機感が世界的に高まっている。女優でジャーナリストの深月ユリア氏は「有事」に備えた核シェルターの需要が高まっているにもかかわらず、日本での普及率が世界から見ても極端に低いことを指摘した。
日々緊張が高まるウクライナ情勢で、核戦争も現実味を帯びている中、現在、日本国内の核シェルターの需要が急増している。核シェルターは、核戦争勃発時に放射線から身を守る設備だが、核のみならず、地震・津波・火災に対する防災としても有用だ。諸外国には有事の際に国民が避難する核シェルターが普及しているが、NPO法人「日本核シェルター協会」によると、日本の普及率はたった0・02%だったという。
同協会によると、各国の「核シェルター普及率」は、スイス・イスラエル(ともに100%)、ノルウェー98%、米国82%、ロシア78%、英国67%、シンガポール54%、韓国ソウル市323・2%(※人口比の3倍以上)、日本0・02%となる。
日本は「日米安保条約と憲法9条があるから安全」という考え方もあるが、オバマ政権以来、米国は「世界の警察官」を辞めてしまった。日本は被爆国であり、ロシア、北朝鮮、中国に囲まれているにも関わらず、有事の際に国民を守るシステムが不十分である。しかし、ウクライナ戦争で「平和ぼけ」といわれる日本人の意識に変化が起きたのか、複数の核シェルター会社に問い合わせたところ、どこも「問い合わせが殺到している」「注文が急増している」、さらに「核兵器のみならず、ロシアのサリンなど生物兵器にも対応するシェルターの需要が増えている」とのこと。
創業60年の「株式会社シェルター」(本社・大阪府羽曳野市)の担当者は「日本の近隣には核の脅威が絶え間なく存在しています。日本に地下街は数多くありますが、地下にスペースがあるだけでは核シェルターとして機能しません。実は重要なのは換気設備であり、これがなければ放射性物質から身を守ることはできないのです。 放射性物質は、少なくとも2週間は降り続けるといわれています。 日本は、国家レベルで大量破壊兵器への備えが足りないといわざるを得ません」と説明する。同社では、イスラエル製、スイス製、米国製、ドイツ製などの核シェルターを販売。室内据え置き型のシェルターは機種にもよるが、150万〜300万円ほどで購入可能だという。
核シェルター普及率100%のスイス人男性(41歳、都内在住)に聞いたところ、「スイスには有事の際に対応する為の民間防衛白書があります。全ての家庭にも核シェルターが配備されていて、2週間分の食料を貯蔵しています。ウクライナ人はポーランドに避難していますが、日本は島国なのですぐに避難できる国がありません。核シェルターは必要です」と指摘した。
核兵器が投下されたら想定される被害は、国際戦略研究所(IISS、本部・ロンドン)や国際平和拠点ひろしま等の資料によると、例えば、100キロトン級の原爆(広島に投下された原爆は15キロ)が爆発すると、半径2キロ以内の人間は即死する。300キロトンの原爆なら、周辺126平方キロメートルの人間は即死する(数十万人が死亡)。
最新の核兵器の威力は、広島・長崎型の何万倍にもなり、広島・長崎に投下された原爆の何百万倍もの放射線を放出するので、想定される被害はまさに地獄図だ。
生き残ったとしても、放射線は、人体の細胞を破壊し、血液を変質させ、肺や肝臓等の内臓を侵すので、2週間、身を潜められる核シェルターが必要になる。
公共の核シェルター創設は以前より国会で議論されたものの、お蔵入りになってしまったが、世界情勢が激変している今こそ、国家事業として進めていくことが急務ではないだろうか。 
●ウクライナ侵攻、「脱ロシア」と「脱炭素」で揺らぐ中央銀行のモノサシ 3/16
ウクライナ危機深刻化の陰で中央銀行が直面する「重要課題」
ロシアによる軍事侵攻が展開されるウクライナ問題が激しさを増す中、FOMC(米連邦公開市場委員会)や日本銀行は今週、金融政策を決定する。
市場は、FOMCが25bpの利上げを決める一方、日銀は金融政策を据え置くとみている。
しかし、長い視点に立ったとき、中央銀行はより重要な課題に直面しようとしている。
それは、地球温暖化対策としての「脱炭素」、そしてウクライナ侵攻への批判を原動力とする「脱ロシア」という「2つの脱」が、金融政策を調整する際に中央銀行が用いる「モノサシ」を不安定化させようとしているからだ。
「2つの脱」に共通する成長と物価安定とのトリレンマ
もともと「脱炭素」については、「1脱炭素2物価の安定3経済の安定成長」は同時には成り立たないというトリレンマが指摘されていた。
「脱ロシア」も、同様のトリレンマを引き起こす可能性が高い。つまり、「1脱ロシア2物価の安定3経済の安定成長」は同時には成り立ちにくい。
「脱炭素」と「脱ロシア」が類似のトリレンマにつながる理由の一つは、これら「2つの脱」がいずれもエネルギー供給の不安定化に直結するからだ。
しかも「脱ロシア」は、単に世界経済・金融システムからロシアを排除することにとどまりそうにない。その先には「中ロ経済ブロック」の形成も待ち受ける。
なぜなら、「脱ロシア」は、その反動として、ロシアと中国の政治的、経済的な結びつきを強める作用を持つからだ。
この点は、原油や天然ガスなど燃料の貿易構造に如実に表れている。
   図表1:ロシアと中国に見る燃料貿易の利害
燃料の純輸出国(輸出>輸入)を見ると、最上位に位置付けられるのはロシアだ(図表1左参照)。
一方、純輸入国・地域(輸出<輸入)にはEU(欧州連合)、日本、中国が並ぶ(同右参照)。とりわけ中国の純輸入額の大きさが目立つ。
したがって、日本やEUが中長期的にロシアからの燃料輸入を抑える(すなわち「脱ロシア」)と、中国がその受け皿となり得る。
同時に、中国が半導体など技術製品をロシアに輸出すれば、両国の利害は一致しやすい。
その結果、「脱ロシア」の延長線上には、「中ロ経済ブロック」の形成が控えていると予想される。
侵攻の「前」と「後」の世界政治・経済 中ロ経済ブロック形成、インフレ高止まり
今回のウクライナ侵攻が主要西側諸国(日本を含む)の「脱ロシア」の動きを強め、その反動として「中ロ経済ブロック」が形成されると仮定しよう。
その前後で世界政治・経済はどう変わるだろうか。
それを示したものが、図表だ。
   図表2:ウクライナ侵攻の「前」と「後」の世界経済
まず政治面では、1政治の不安定化、2「鉄のカーテン」(第2次世界大戦後に東欧の社会主義国が資本主義諸国に対して取った秘密主義的で閉鎖的な政治行動)の復活、3情報操作の3点が象徴的な変化として挙げられるだろう。
次に経済面では、1優先対象は自由な経済活動から安全保障に、2サプライチェーンはグローバル化からローカル化(反グローバル化)に、3貿易調整の軸はWTO(世界貿易機関)のルールから制裁に、4物価はディスインフレからエネルギー価格の高騰を伴うインフレの高止まりに、といった変化が考えられる。
加えて、政治・経済面での主要リスクとしては、中央銀行による政策エラー(金融政策運営の誤り)が、軍事的緊張や紛争地域の拡大、経済活動の不安定化、物価の不安定化などが見込まれる。
以上の結果、設備投資や個人消費を中心に経済活動の予見性と効率性が下がるだろう。
経済活動の効率性の低下は生産性の低下であることから、インフレの高止まりを常態化させる恐れがある。
つまり、「脱ロシア」後のインフレの高止まりは、決してエネルギー需給の逼迫だけに起因するものではない。中ロ経済ブロックと西側ブロック(日本を含む)という世界経済の分断に根差す経済活動の非効率化も、インフレの高止まりにつながり得る。
モノサシのフィリップス曲線が上方シフト 2%インフレ目標は再考の時
「脱ロシア」が、その反動として「中ロ経済ブロック」の形成につながったとき、FED、日銀、ECBなど主要中央銀行は大きな問題に直面する。
それは、金融政策を調整する際のモノサシとなるフィリップス曲線の不安定化だ。
そして原因は、上述した経済活動の効率性(生産性)の低下とインフレの高止まりにある。
フィリップス曲線にはいくつかのバリエーションがあるが、ここでは縦軸にインフレ率、横軸に失業率を取ったものを想定しよう(図表3参照)。このときフィリップス曲線は右下がりとなる。
   図表3:「脱ロシア」でフィリップス曲線が上方シフト
ここでは技術的な議論は省くが、フィリップス曲線の切片は、予想インフレ率と正の関係(予想インフレ率が上がると切片も上がる)、生産性と負の関係(生産性が上がると切片は下がる)にある。
ここで、「脱ロシア」の前の中央銀行がインフレ率2%を目標にし、それに対応する雇用(=最大雇用)が4%だったとしよう(図表3の点1)。
その後、「脱ロシア」ひいては「中ロ経済ブロック」の形成を経て、世界経済の効率性(生産性)が下がり、インフレ率が上がると、フィリップス曲線の切片は上がる。つまり、同曲線が上にシフトする。
新たなフィリップス曲線では、2%インフレに対応する失業率は上昇する(図表3の点2)。
したがって、「脱ロシア」後も中央銀行が2%インフレ目標に固執するのであれば、失業率4%を最大雇用とみなし続けることはできなくなる。
あるいは、「脱ロシア」後の中央銀行が、2%インフレ目標ではなく、失業率4%にこだわるとすれば、インフレ目標は2%ではなく、例えば3%に引き上げられる必要がある(図表3の点3)。
このように「脱ロシア ⇒ 中ロ経済ブロックの形成 ⇒ 世界経済の効率性低下およびインフレの高止まり」という流れが現実のものになると、「脱ロシア」前のフィリップス曲線は中央銀行にとって適切なモノサシとはいえなくなる。
「脱炭素」というもう一つの「脱」も、フィリップス曲線に同様の作用(同曲線の切片の上方シフト)を加える。
今週のFOMCや日銀の政策決定が、コロナ禍の経済回復やロシア制裁などの影響で急伸するインフレにどういうかじ取りをするのか、という意味で重要なイベントであることは明白だ。
しかしより長い目で見ると、モノサシ(フィリップス曲線)の不安定化という根深い問題に、中央銀行は直面しつつある。その延長線上で、「2%インフレ目標」の意味合いも再考を迫られるだろう。
●旅客機「借りパク」問題だけじゃない! 「航空業界」は前途多難 3/16
ロシア上空飛行禁止の影響
ロシアがウクライナへ侵攻したことで戦争が起き、航空業界にも多大な影響を及ぼしている。まず、ウクライナを支持する西欧諸国の航空会社がロシア上空の飛行を禁じられ、日本をはじめとするその他の国々も、ロシア上空を避ける動きが活発化している。
その結果、通常はロシア上空を飛んでいたヨーロッパと東アジアを結ぶ航空便が最も影響を大きく受け、コロナ禍以上の欠航便数となっている。
運航便が少なくなると、旅客便は運賃が高騰し、貨物便では荷物の配送遅れが生じる。しかも、現在運航するロシア上空を避ける便は、運航時間が通常より少なくとも数時間多くかかっている状況だ。
さらに、ロシアからの輸入が事実上ストップしているだけでなく、例えば、日本郵便による一部のヨーロッパ行き郵便も「今般のウクライナの情勢不安を受け、下表に掲げる国・地域への送達手段が確保できなくなったことから、船便以外の引き受けを停止いたします」(日本郵便ウェブサイト)との理由で一時停止するなど、物流への影響も大きい。
ウクライナでの事態が早期収束する気配は、今のところ見られない。航空業界への主な影響やその理由、今後起こりうる事態などを解説する。
迂回ルートの問題点
日本発着欧州行きの大量欠航はロシア上空を飛行できなくなり、たとえ運航しても迂回(うかい)を余儀なくされている。
日系航空会社は、欧州エアラインのようにロシアから飛行禁止を先に通告されたわけでなく、自主的に飛行ルートを変更した。日本政府が欧米諸国と同じ立場であることから、先手を打った。
ロシア上空を避けて飛行するとさまざまな問題が発生する。そのひとつが、飛行時間の大幅な増加だ。
日本〜ヨーロッパのノンストップ運航では、例えば日本航空(JAL)の東京(羽田) = ロンドン(ヒースロー)線の場合、これまでは行きの東京発が約12時間、帰りのロンドン発が約11時間の飛行時間だった。それが現在、行きが約15時間、帰りが14時間ほどかかっている。飛行時間が長くなると、燃料を多く積む必要があり、その分、搭載できる貨物の量も減る。長時間のフライトは、乗客・乗員の負担も増える。
紛争地域の近くを飛行するリスクも大きい。
もしロシア上空でトラブルが発生した場合、これまではロシア国内の空港へいったん着陸して対処することが可能だった。しかし現在は緊急着陸しても、現地で航空機の代替部品を調達することは難しい。
ロシアへの物流はほぼ全面ストップし、航空機を製造するボーイングやエアバスといった主要メーカーもロシアでの企業活動を停止して、航空部品の提供なども事実上止まっている。加えて、緊急着陸時に航空保険が契約できる確約もない。
「北回り」「南回り」ルートの復活
これまで、日本をはじめとする東アジア〜ヨーロッパを結ぶ旅客便・貨物便は、ロシア上空を通過してノンストップで運航してきた。
ロシア上空を飛ぶノンストップ便では、航空会社はロシアに対し、いわゆる「シベリア上空通過料」を支払い、この料金は乗客が支払う運賃に上乗せされていた。それでもいち早く目的地にたどり着けるメリットは大きく、全日本空輸(ANA)やJALといった日系航空会社や欧州系エアラインも、ロシア上空を飛ぶ便を毎日多く運航してきた。
ところで、戦後の東西冷戦時は旧ソ連の上空が飛行禁止だったため、アメリカのアンカレッジを経由してヨーロッパへ向かう「北回りルート(ポーラールート)」と、中央アジアなどの上空を飛ぶ「南回りルート」が一般的だった。現在、この北回りルートと南回りルートが復活を見せている。
2022年3月現在、JALは唯一の欧州便である羽田 = ロンドン線のみを、アラスカ上空を通過する北回りルートで運航。一方、ANAは羽田 = フランクフルト線をウィーン経由で、成田 = ブリュッセル便を直行便として、いずれも中央アジアを通る南回りルートで運航する。日系航空会社による欧州便はこれだけしか運航されておらず、その便数はコロナ禍での減便後よりも少ない。
一方、欧州エアラインでは日本と欧州を結ぶ便は
・羽田 = フランクフルト線(ルフトハンザ・ドイツ航空)
・成田 = パリ線(エールフランス航空)
・成田 = ヘルシンキ線(フィンエアー)
などに限られ、北回りルートと南回りルートのいずれかで運航している。KLMオランダ航空は3月14日以降、ソウルを経由した欧州便を運航再開。ただ、他の欧州便に運航再開の動きはほぼ見られない。
戦争が終結してもすぐには元に戻らない
2020年春から世界中で新型コロナウイルスが感染拡大し、航空業界も大きく影響を受けた。しかしそれも、昨冬のヨーロッパ諸国をはじめとしたオミクロン株による感染爆発をピークに、世界の多くの国・地域で収束傾向にある。
日本では、入国規制の大幅緩和が2022年3月1日から始まった。海外旅行再開への見通しもやっと見え始めたかというタイミングで、今回のロシアによるウクライナ侵攻が起き、再び先行き不透明となった。
たとえ戦争が収まっても、航空業界への影響は長期に及ぶことが予想される。というのも現在、ロシアと世界の他の多くの国・地域は、国交がほぼ断絶した状況で、両国間を結ぶ国際線は欠航し、早期再開も見込めない。しかも、ロシアで事業展開する外資系企業の撤退も相次いでおり、ロシアの現政権が交代しない限り、以前の状況に戻るのは難しいだろう。
さらに、ロシアの航空会社が欧州諸国の企業からリース中の航空機を返還することを一方的に拒否しているとの報道もある。航空機は定期整備が必要不可欠だが、先に述べた通り、ボーイングをはじめとした航空機製造メーカーからの部品供給は期待できない。
代替部品がない状況では安全性にも懸念が出てくる。無理に飛ばしてはロシア国内での事故のリスクも高まる。
以前の状況に戻るとしても数年、数十年かかる可能性もある。その間も航空業界への影響は確実に続く。リース機返還問題で、ロシアへの投資リスクも顕著になった。一連の影響は今後さらに多岐におよび、航空業界のみならず国際ビジネス全体にも影響するだろう。
●ハンガリー、ウクライナ戦争に関与せず=首相 3/16
ハンガリーのオルバン首相は15日、ウクライナには武器を供与せず、戦争には関与しないと表明し、野党がハンガリーを戦争に巻き込もうとしていると批判した。支持者集会で述べた。
ハンガリーでは4月3日に議会選が実施される。今回の選挙では野党が政権打倒に向けて連合を結成、オルバン首相が率いる与党フィデスは厳しい選挙戦を強いられる見通しだ。
オルバン首相はロシアのプーチン大統領と長年親密な関係にあり、野党から批判を浴びている。
首相は、中欧諸国は大国の「チェス盤」にすぎず、ハンガリーが自国の利益を守らなければ、容易に巻き添えになると発言。
「ロシアはロシアの利益を、ウクライナはウクライナの利益を考えている。米国も欧州連合(EU)も、ハンガリー人の気持ちになって物事を考えることはないだろう。われわれは自らの利益を守らなければならない」とし、「この戦争から距離を置く必要がある。このため、戦場に軍や兵器を派遣することはない」と述べた。
●ロシア、ウクライナで「戦争の実験場」再現か シリアでの戦術に酷似 3/16
都市の包囲や民間インフラへの砲撃、市民を退避させる「人道回廊」の設置──。ウクライナ侵攻でロシアが採用している戦術は、シリア内戦に軍事介入して反体制派を弱体化させるために試し、微調整を加えてきた手法に酷似している。
ただし、作戦計画は異なるものとなる。シリアの反体制派武装勢力には、軍事力も国際社会からの広範な支援もなかった。西側の支援を受けたウクライナ軍は、いずれの点も大きく上回っていると、アナリストは指摘する。
ロシアは2015年、バッシャール・アサド政権を支援するためにシリア内戦に介入。10年超に及ぶ内戦における決定的な戦いで、政権側に勝利をもたらしてきた。
ウクライナでも、ウラジーミル・プーチン大統領が先月24日に侵攻を命じて以降、大規模なロシア軍部隊が進攻。都市中心部に砲撃を加えたり、多数の民間人に避難を強いたりし、国際社会から激しい非難の声が上がった。
ロシア軍が民間人居住区を標的にしていることを示す多くの証拠があるにもかかわらず、ロシア側はこれを否定。これに対し、西側主要国や人権団体は、戦争犯罪の可能性があると糾弾している。
フランス軍事筋はAFPに「シリアは小さな舞台だった」とし、ロシアのウクライナ侵攻で特筆すべきは「規模の違い」だと語った。
ただロシア軍は、シリアで複数の兵器体系の試験を実施し、重要な実戦経験を積んだ。ウクライナで採用されている戦術の多くも、シリアでの経験から導き出されたものだ。
アナリストのファブリス・バランシュ氏は「ロシアにとってシリアは兵士や装備の実験場だ」と解説する。
恐怖をあおる戦術
人権団体は、アサド政権が反体制派を要衝から排除するため、民間人居住区を包囲したり、インフラを爆撃したりするのをロシアが支援してきたと批判している。
バランシュ氏は、アサド政権のてこ入れに向け、経済の中心地である北部アレッポや首都ダマスカス周辺の反体制派支配地域を含む「大都市を制圧することが、ロシアの初期の目標だった」と分析する。
同氏によると、ロシア軍はウクライナでも首都キエフやハリコフ、オデッサを含む重要都市に向けて進攻し、シリアと同じようなパターンを踏襲したが、それにはウクライナの統治体制の正統性を奪う狙いがあった。
病院や学校を標的とした無差別爆撃も、民間人の「恐怖をあおる」ためにシリアで用いた戦術と同じだと、同氏はみている。
ソーシャルメディアに投稿された、戦争の記録を保存する非営利団体「シリアン・アーカイブ」によると、シリアでは2011年以降、ロシア軍やアサド政権によって医療施設少なくとも270か所が攻撃された。人権団体によれば、2016年のアレッポへの攻勢などで、学校や市場も標的となった。
バランシュ氏は「ロシアは軍事的な標的を爆撃した後、民間人の生活を壊して退避に追い込もうと、医療やエネルギー関連のインフラを次に狙う」と指摘。「市民が去れば、軍の進攻は容易になる」と語った。
国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチとアムネスティ・インターナショナルは先月、ロシア軍がハリコフで病院や学校に対してクラスター弾を使用したと非難した。
今月9日には、南東部の港湾都市マリウポリにある小児科・産婦人科病院を空爆したとされる。ウクライナ政府によると、少女を含む3人が死亡した。これを受けて国際的に非難の声が高まり、主要国はロシアが残虐行為を働いていると糾弾した。
異なる戦場
もう一つ類似する戦術として、包囲した都市からの市民を退避させるための「人道回廊」が挙げられる。専門家によると、これもシリアで試された戦術であり、包囲された反体制派支配地域から国際的な保障のないまま避難する民間人は、時に死傷したり、拘束されたりする。
シリアとは状況が異なる点もある。米首都ワシントンにあるシンクタンク、ニューラインズ研究所のニコラス・ヘラス氏は「シリアでロシア軍は、親アサド派部隊に助言したり、援護したりする際、空軍力や特殊部隊に主に依存していた」のに対し、「ウクライナではロシア軍自体が(主要な)戦闘部隊になっている」と解説する。
またヘラス氏は、相手の戦闘能力という面でも大きな違いがあると指摘する。ロシア軍は現在、対空砲や対戦車砲などを西側諸国から供与されたウクライナ軍と戦っているが、「ロシア軍が完全に優勢だったシリアでは、マイナーリーグに参戦したようなものだった」と話した。
とはいえ、ロシアの有力シンクタンク、ロシア外交問題評議会のアントン・マルダソフ客員研究員によれば、ロシアは兵器体系についての感覚を磨いてきた。
マルダソフ氏は「(ロシア軍は)シリアで使用した地対空の精密誘導兵器の欠点を修正した」とし、「ウクライナでは精密誘導兵器を積極的かつ正確に使用している」と述べた。
●ウクライナ戦争への姿勢は「ブレない」米世論 3/16
ウクライナ戦争が勃発して2週間が経過しました。この間、アメリカでは、同じ自由陣営ということからウクライナへの共感が高まっており、反対にロシアのイメージは最悪になっています。まずこの点については「ブレ」がありません。その一方で、NATOが戦争に巻き込まれるのを警戒し、ウクライナへの支援は「間接的に」行うというバイデン政権の姿勢は支持されています。こちらも「ブレ」はありません。
こうしたアメリカ世論の現状は、複数の世論調査の結果が示しています。
まず、「ニューヨーク・タイムス(電子版)」が3月12日に配信した記事『アメリカの有権者は、今や、ウクライナをフランス、ドイツ、日本と同等の好感度で見ている』というネイト・コーン氏の記事では、オンライン世論調査機関の「ユーガブ」が継続的に調査している「国別の好感度」調査の最新の結果が紹介されています。
この調査では、英語圏の「カナダ、英国、豪州」の3カ国が「好感度プラス80ポイント」のグループを形成し、その次に言語は異なるが価値観が共通な「日本、フランス、ドイツ」が「プラス75ポイント」のグループになっています。ウクライナは1991年の独立以降、プラス20から40だったのが一気に「プラス75」になっています。反対にロシアは「マイナス60」で安定していたのが、北朝鮮以下の「マイナス85」にまで落ちています。
消えた「トランプ流」ロシア観
興味深いのは、このウクライナの好感度アップ、ロシアの急降下について、民主・共和両党の支持者の間で差がないということです。戦争の以前は、ウクライナに関しては民主党支持者の好感度が共和党支持者より高く、ロシアの好感度についてはマイナスであったものの、共和党支持者の方が高かったのです。ところが、開戦後は、両者に差が全くなくなっています。この左右の「ブレのなさ」というのは特筆に値すると思います。
特に重要なのは、共和党支持者の態度です。「俺はプーチンと取引できる」「シリアはプーチンに任せた」「プーチンは天才だ」などと言っていたトランプ流の「斜に構えた」ロシア観、あるいは「ウクライナはバイデン一家と癒着していて腐敗している」などという党派的な態度は、ほとんど消えたと見ていいでしょう。この勢いは、もしかすると共和党の「トランプ離れ」に発展するかもしれません。
もう1つ、ロイター通信社と調査機関のイプソスによる連合世論調査では、開戦の直前直後の「2月23日から24日」のタイミングと、開戦から1週間を経た「2月28日から3月1日」のタイミングで、ウクライナ戦争を中心とした同様の調査を行なっています。つまり、1週間の経過を踏まえた世論の動きを追っているのです。
ここで注目されるのは、開戦と戦況の推移を踏まえて、アメリカがウクライナ戦争に対する姿勢について、項目別に問いかけた部分です。
米軍の介入には「ノー」
まず「アメリカは、ウクライナ問題に関するロシアとの外交に努力すべきか?」という問いですが、これに対する「イエス」は「72%」から「63%」に低下しています。これは、戦況の推移とロシアの態度から見ると現時点では「米ロ直接交渉は不可能」という感触が広がっているものと理解できます。
次に、「アメリカはロシアへのより強力な経済制裁を行うべきか?」という問いについての「イエス」は、「69%」から「77%」にアップしています。これも現実の流れを受けてのものだと思います。
重要なのは、「アメリカはウクライナ軍を援護するために空爆を行うべきか?」という問いです。この質問への「イエス」は、そもそも「34%」と低く、1週間後も微増の「37%」でしかありません。
また「アメリカは、ウクライナ防衛のために陸上部隊を派遣すべきか?」というストレートな質問に関しては、「イエス」が「38%」から「37%」へ微減となっています。
珍しく両派が一致
本稿の時点でちょうど入ってきた最新の世論調査(ヤフー/ユーガブ連合調査)では、3月10日から14日の時点で「アメリカは、地上軍をロシアとの戦闘のために、ウクライナに派遣すべきか?」という問いに対して、「イエス」が「19%」、「ノー」が「51%」となっています。ちなみに、民主党支持と共和党支持の間には大きな差はありません。
アメリカの世論は、今回の戦争に重大な関心を払っていますが、同時に米軍の直接関与には反対しています。そして、この姿勢に関しては民主党支持者と共和党支持者の間で大きな差はありません。
現時点では、FOXニュースの記者がウクライナ領内で死傷するといった問題が発生、またゼレンスキー大統領のリモート演説を前に、議会ではより強い支援策が議論されています。ですが、国としての姿勢に大きな変化が起きる気配はありません。アメリカは珍しく、今回の事態に対して「ブレない」姿勢を見せています。 

 

●バイデン氏、プーチン氏を初めて「戦争犯罪人」と ロシア反発 3/17
ジョー・バイデン米大統領は16日、ウクライナ侵攻を続けるロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んだ。ロシア側はこれに猛反発しており、外交上の緊張関係が悪化するとみられている。
バイデン氏はホワイトハウスで記者から、「これまで目にしてきたことを踏まえて、プーチンを戦争犯罪人と呼ぶ用意はありますか」と問われた。大統領は一度は「いいや」と答えたものの、「私が言うかどうかの質問ですか?」と聞き返し、その上で「ああ、彼は戦争犯罪人だと思う」と述べた。原稿が用意されていたわけではなく、その場での発言だった様子。
バイデン氏がプーチン氏をこのような表現で非難するのは初めて。ジェン・サキ大統領報道官は後に、大統領は公式に宣言したのではなく、ウクライナで起きている「野蛮な」暴力の映像を目にして、自分の心で感じていることを口にしたのだと説明した。
サキ報道官は、戦争犯罪の認定は国務省による別の法的手続きがあり、それは現在進行中だと述べた。
大統領の公式ツイッターアカウントは、「プーチンは恐ろしい破壊と恐怖をウクライナにもたらしている。集合住宅や産院を爆破している。これは非道な残虐行為だ。世界全体への暴虐だ」と強い調子で非難した。
一方でロシア政府は、バイデン氏の発言を「許しがたい表現」だと猛反発している。ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は、国営タス通信に対して、「国家首脳によるこのような表現は、容認しがたく許しがたいものだと考える。とりわけ、世界中で何十万人もの人を爆弾で殺してきた国の首脳の発言としては」と批判した。
ゼレンスキー氏は米議会でビデオ演説
これに先立ち、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米連邦議会に対して、オンラインで演説した。アメリカが空襲された1941年の真珠湾攻撃や2011年9月11日の米同時多発攻撃に言及した上で、ウクライナ各地の凄惨な被害状況を映像で示した。大統領は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するようアメリカにあらためて要求し、もしそれが無理なら、防空システムや戦闘機を供与するよう求めた。
ゼレンスキー氏は英語で、バイデン氏を名指しし、「あなたには世界のリーダーになってもらいたい。世界のリーダーになるとは、平和のリーダーになることです」と促した。
アメリカをはじめ北大西洋条約機構(NATO)加盟各国は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定した場合、それを侵犯するロシア機をNATO機が攻撃しなくてはならない事態につながり得るとして、一貫して拒否している。
ポーランド政府は今月初め、保有するミグ29戦闘機全機をウクライナに供与するため米軍に引き渡すと提案したものの、米政府はこれを却下した。米政府は戦闘機や殺傷力の高い攻撃兵器を、NATOがウクライナに提供すれば、NATO加盟国が戦争に巻き込まれる事態につながると懸念している。
しかし、ゼレンスキー大統領の議会演説から数時間後、ホワイトハウスは8億ドル(約950億円)規模の武器の追加供与を発表。アメリカのウクライナ支援はこれで10億ドルに達した。追加供与される武器には、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」800基、対戦車ミサイル「ジャヴェリン」2000基、AT4携行対戦車システム6000基、戦術ドローンシステム100基、グレネードランチャー100門のほか、ライフル銃5000丁や機関銃400丁、ショットガン400兆、砲弾、ボディアーマー(全身防護服)2万5000個、ヘルメット2万5000個などが含まれる。
プーチン氏は「裏切り者」罵倒
この日にはプーチン大統領がテレビ演説で、西側がうそでもってロシアを分断しようとしていると非難し、欧米に感化されたロシア国内の「裏切り者」を罵倒した。
プーチン氏は、国や組織を内部から攪乱(かくらん)しようとする者を意味する「第5列」という表現を繰り返し使い、「(西側は)もちろんいわゆる第5列、裏切り者たちを頼りにする。ここで金を稼ぐものの、実際には向こうに住む連中だ。住むとは地理的な意味ではなく、考え方、隷属(れいぞく)的な考え方という意味だ」と述べた。
プーチン氏はさらに、「誰でも、特にロシアの人たちは常に、真の愛国者と、くずや裏切り者を区別できる。そのような国内のくずや裏切り者は、たまたま口に飛び込んだハエのように、吐き捨てれば済むだけのことだ」とも述べ、こうした社会の「自浄」はロシアを強くすると話した。
続けてプーチン氏は、西側が「ロシアの破壊」を目標に、ロシア国内の内紛を引き起こそうとしていると非難した。
ロシアに詳しいアナリストやジャーナリストの多くは、プーチン氏のこの演説内容を不安視している。
政治アナリストのタティアナ・スタノワヤ氏は米紙ニューヨーク・タイムズに対し、プーチン大統領はロシア当局に「西側的な生活様式に共感するあらゆる者を」摘発するよう合図したのだと話した。
かつてプーチン政権に仕えた後、プーチン氏を激しく批判するようになったミハイル・カシヤノフ元ロシア首相はツイッターで、プーチン氏が「ロシア破壊の行動を激化させている」と非難。「独裁政権を支持しない全員を徹底的に抑圧するつもりだ」と書いた。
●難民に対する「選択的思いやり」、ウクライナ戦争が見せつけた欧州の現実 3/17
アラブ首長国連邦アブダビ(CNN) ロシアのウクライナ侵攻を受け、西側諸国は前例のない協調と連帯の姿勢を示した。政府も企業も個人も一丸となって対ロシア制裁やボイコット運動を行い、欧州は大量の難民の流入に門戸を開いた。
だが欧州のウクライナ難民に対する姿勢は、中東からの難民に対する姿勢との違いを際立たせている。
ウクライナの難民危機は深刻な状況にある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシア軍の侵攻が始まって以来、300万人以上がウクライナから避難した。これと比較すると、シリア内戦が始まってから2年近くたった2013年、100万人がシリアを脱出するまでには半年を要した。
この2つの戦争は、違う時期に、異なる大陸で発生した。だが紛争を逃れたシリア人と異なり、ウクライナ人は欧州ではるかに温かい出迎えを受けている。
米シンクタンク、カーネギー国際平和基金のH・A・ヘリヤー氏は言う。「彼らは欧州政府によって比較的簡単に受け入れられている。ロシア侵攻に対する窮状が圧倒的な連帯感につながっている」
マーティン・グリフィス国連事務次長(人道問題担当)はCNNの取材に対し、難民受け入れの優先順位には「ショッキングな違い」があると述べる一方、近隣国が大量の難民を受け入れるのは異例ではないと付け加え、トルコのシリア難民やパキスタンのアフガニスタン難民を例に挙げた。
デンマークは欧州の中でも特に厳格な反移民政策で知られる。政府はウクライナ難民を歓迎し、全ての難民を平等に扱うと言いながら、一方で一部のシリア難民に対しては、今も衝突が続くシリアに帰国するよう促している。
フランスでは大統領選に出馬を表明した極右のエリック・ゼムール氏が今月8日、BFM TVに対し、欧州からの難民に対するルールと、アラブのイスラム諸国からの難民に対するルールの違いは容認できると述べ、「アラブやイスラムの移民は私たちから遠すぎて、文化変容や同化が難しいことは誰でも知っている」と語った。
ブルガリアのボイコ・ボリソフ首相はロシア軍のウクライナ侵攻が始まった数日後、欧州の国はウクライナからの移民に不安を感じないと述べ、「これは今までの難民とは違う。今まではどうしたらいいのか分からなかった。不確かな過去を持っていて、テロリストなのか(どうかも)分からない」と発言していた。
難民に対するこの待遇の差は、ウクライナが受け入れ国に近いこと、さらにはロシアがこの戦争を通じて欧州の安全保障を脅かしているという西側の認識に起因するのかもしれないとヘリヤー氏は解説する。
「それでももっと生々しい、民族的な反応を過小評価することはできない」と同氏は述べ、欧州がウクライナ難民に目を向けているのは単純に、ウクライナ人が白人で、キリスト教を受け継いでいるという理由もあると言い添えた。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのジュディス・サンダーランド氏は「同情心や連帯感は、見た目や宗教が自分たちと同じ人たちだけでなく、助けを必要とする人全員に行き渡らなければならない」と訴える。
国連の2021年の報告書によると、シリアからの避難を余儀なくされた約700万人のうち、約100万人が欧州に住み、このうち70%はドイツとスウェーデンが受け入れている。
UNHCRは、300万人のウクライナ難民が欧州各国で無条件に受け入れられていると指摘、「世界中で避難を強いられたほかの8400万人にも、同じ連帯、同情、支援が広がることを望む」と訴えた。
●ウクライナで戦争犯罪の強力な証拠、プーチン氏が背後に=英外相 3/17
トラス英外相は7日、ウクライナで戦争犯罪が行われた「非常に強力な証拠」があり、「ロシアのプーチン大統領がその背後にいる」という認識を示した。ただ、プーチン氏を「戦犯」と断言するには至らなかった。
トラス外相はBBCラジオに対し、「最終的には国際司法裁判所が誰が戦争犯罪者であるかどうかを決定する。われわれは証拠を提出する」と述べた。
バイデン米大統領は16日、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は「戦争犯罪者」と言明。ロシアのペスコフ大統領報道官は「容認できず、許されないレトリック」と批判した。
●プーチン大統領、今後はメンツを保つ方法を探る ウクライナ侵攻 3/17
最悪の戦争にも終わりは来る。時にそれは、1945年のように、死闘を戦い抜かなければ終わらないこともある。だが多くの戦争は、誰も完全には満足できない合意で終わる。それでも、少なくとも流血は止まる。
そして、最悪の激烈な紛争を経てもなお、双方がかつての、対立が緩和した関係を徐々に取り戻すこともよくある。
私たちは運が良ければ、ロシアとウクライナの間でこのプロセスが始まるのを目にし始めている。
怨念は、特にウクライナ側のものは、何十年も尾を引くだろう。だが双方とも平和を望み、平和を必要としている。ウクライナは市や町がひどい打撃を被った。ロシアは、ウクライナ大統領によると、チェチェンにおけるひどく激しい2度の戦争で失ったよりも多くの人と物を、すでに犠牲にした(それを確かめるのは不可能だが)。
しかし、自国の破滅につながるような和平協定に進んで署名する人はいない。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、面目を保つ方法を探っている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、すでに外交官としての並外れた技量を見せており、ロシアの介入を取り除くため自分と国民が受け入れられることなら、進んで言い、進んで行動するのは明らかだ。
ゼレンスキー氏には、譲れない点が1つある。ウクライナがこの恐ろしい経験から、結束した独立国家として浮上することだ。ロシアの一地方としてではなく。プーチン大統領は当初、ウクライナをロシアの一部にしてしまえると考えていたようだが。
プーチン大統領にとっていま大事なのはただひとつ、勝利宣言だ。この不必要な侵攻でロシアの面目が傷ついてしまったことを、たとえ政権内の全員が承知していようと、それは構わない。プーチン氏が自ら作り出した幻想にすべてを賭けた挙句、賭けに負けたのだと、実際の世界情勢を理解している約2割のロシア国民が承知していようと、それも関係ない。
プーチン氏にとっては、残る大多数の国民の支持を勝ち取れるかどうかが、勝負所になる。国営テレビが言うことを、ほとんどそのまま信じがちな人々の支持だ。驚くほど勇敢なテレビ編集者マリナ・オフシャニコワ氏が、国民が耳にしていることはすべてプロパガンダだと非難するプラカードを持って、テレビ画面に突然現れるといったことも起きてはいるのだが。
では、プーチン大統領が、ロシア国民の大多数の支持を得ながら、この悲惨な戦争から抜け出すにはどうしたらいいのか。
まず、ウクライナに近い将来、北大西洋条約機構(NATO)加盟の意図はないと、場合によっては同国の憲法に書かせて、確約を得ることだ。ゼレンスキー大統領は、すでにこれに向けて筋道をつけている。つまり彼は、NATOに無理な要求をした上で(ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定)、要求を拒否するNATOを批判し、挙句は、こんな対応をするNATOに加盟する価値があるのか、あえて声に出して疑って見せている。
巧妙で賢明な政治的ポジショニングとしては、これ以上のものはない。NATOは批判される。しかし、NATOは批判されても大丈夫だ。簡単に対応できる。そしてウクライナは、思うように行動する自由を手にする。
ただし、簡単なのはここまでだ。NATO加盟は諦められるとしても、EUにはすぐに加盟したいと願うゼレンスキー大統領とウクライナの切迫した思いに、上手に対応するのはもっと難しい。ロシアは、ウクライナのEU加盟にも、NATO加盟と同じくらい、強く反対しているので。ただし、それすらも迂回(うかい)する方法はある。
ウクライナにとって何より受け入れがたいのは、ロシアによる領土の簒奪(さんだつ)だ。ロシアはかつて友好協力条約に署名し、ウクライナの領土を保全すると厳粛に約束しているのだが、実際にはこれに真っ向から抵触している。
そのためウクライナは、2014年にクリミアをロシアに奪われた。このことを、ウクライナはいずれ何らかの形で、正式に容認せざるを得なくなるかもしれない。ロシアは明らかに、すでにロシアの実効支配下にあるウクライナ東部は手放さないつもりだし、それ以上にウクライナの国土を手に入れようとするかもしれない。
ヨシフ・スターリンは1939年、かつてロシア帝国の一部だったフィンランドに侵攻した。ロシア軍はあっという間に快進撃を果たすはずだと、スターリンは確信していた。プーチン氏が2022年にウクライナについて考えたのと同じだ。スターリンの将軍たちは、当然ながら身の危険を恐れ、最高指導者の言う通りだと約束した。もちろん、スターリンの言う通りにはならなかった。
冬戦争は1940年まで長引き、ソヴィエト軍は屈辱にまみれ、フィンランドは超大国に見事抵抗したことで相応の国民的誇りを手にした。フィンランドは領土の一部を失ったが、それはスターリンやプーチン氏のような専制君主がこうした戦争をやめるには、勝ったかのように見せかけなくてはならないからだ。
その見せかけのために、フィンランドは領土の一部を失った。しかしフィンランドは、最も重要で、最も不滅なものを維持した。自由で、自己決定できる国としての完全な独立だ。
現時点でウクライナは、ロシアの攻撃を実に次々と撃退しており、おかげでプーチン氏の軍は実行力に乏しい弱々しい存在に見えている。それだけに、今のウクライナなら、フィンランドのような勝利が可能なはずだ。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を陥落させ、これまで以上に多くのウクライナ領土を占領しない限り、ウクライナは1940年にフィンランドがそうしたように、国としての実体を維持するだろう。
ウクライナがクリミアと東部の一部を失うのは、苦く、違法で、完全に不当な損失だ。しかしプーチン氏が勝者となるには、これまで以上にはるかに破壊力の強い武器を投入しなくてはならない。戦闘開始から3週目に入った今の状況からして、この戦争の真の勝者が誰なのか、本気で疑問視できる人はいないはずだ。
●ウクライナが「ロシアから離れたい」経済的理由  3/17
ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナに対する戦争が始まったのは今年2月ではなく、8年前の2014年2月にプーチン大統領がクリミアを占領し、ウクライナ東部2地域に傀儡政権を樹立した時のことだ。プーチン大統領は今、ウクライナにこれらを「独立した共和国」として承認するよう要求している。
何がきっかけで、プーチン大統領は侵攻を急に開始したのだろうか。それは、ウクライナの首都キエフに居座っていた、プーチン大統領の傀儡ヴィクトル・ヤヌコビッチなる男を、ウクライナ国民が2013年の「ユーロマイダン革命」によって追放したからである。
この反乱は、ロシア政府の命令で、当時ウクライナの大統領だったヤヌコビッチ氏がEUへの完全加盟を目的とした協定を破棄したことに始まる。ヤヌコビッチ氏はその代わりに、ロシア側の対抗勢力であるユーラシア経済連合への加盟を目指した。プーチン大統領によるウクライナ領土の掌握は、彼がロシアに亡命する2日前に始まっていたのである。
ウクライナがEU加盟を望む理由
ブレグジットが行われるような時代に、ウクライナの一般国民がEU加盟への望みから、ロシア政府の支配下に置かれていた独裁者に対して立ち上がったことは驚くべきことである。何が人々を街頭に駆り立てたのだろうか。それは、EUへの加盟が、ウクライナを独立した自由で豊かな民主国家にすることと結びついている点にある。
この目標にはヨーロッパ並みの生活水準を達成することが含まれており、これはEUへの加盟なくしては実現できない。ポーランドはベルリンの壁が崩壊した1989年に西欧側に鞍替えした。それに比べてウクライナはどうか。余りにも長くロシアに強く束縛されている状態だ。
ロシアの影響力は非常に強大で、2002年の時点では、ロシア政府の誰かがスイッチ1つでウクライナの電力を停止することができたほどだ(幸いにも、現在はそのようなことはない)。ポーランドの1人当たりGDPは1990年から3倍になったが、ウクライナの1人当たりGDPは1990年代に半減し、2020年現在でも30年前の水準より25%低い。
EUに加盟した東欧6カ国と、未加盟国であるロシア、及びその他3カ国(ウクライナを含む)の成長を比べてみよう。
1990年当時、各グループの1人当たりGDPの平均は、ユーロ通貨圏の1人当たりGDPの44%だった。2019年には、EUに加盟したグループでは、1人当たりGDPはユーロ圏の水準に対し70%まで上昇したが、ロシアほか3カ国ではなんとユーロ圏の39%にまで落ち込み、後れをとっている。
さらに、EU加盟6カ国のうち1990年に最も貧しかった国が、最も大きく追い上げている。比較的貧しかったポーランドとリトアニアは、より豊かなチェコ共和国よりも速く成長した。チェコは依然として最も豊かな国であるが、他との差は縮んでいる。
対照的に、ロシアは2013年以降、回復が停滞した。偶然であるかはともかく、それはプーチン大統領が経済復興重視から帝国としてのロシア/ソビエト再興を目指す路線へシフトした際と時期が重なる。
元共産主義国だった15カ国のうち、2013〜2019年間の1人当たり所得の伸びは、他の国々の平均が年間3%だったのに対し、ロシアはわずか0.5%と3番目に低い伸びを記録した。これよりひどかったのは、ベラルーシと、その侵略の犠牲となった国だけであった。ウクライナである。
EU完全加盟が経済的な違いを生むワケ
なぜ、EU諸国との統合、ひいてはEUへの完全加盟が、ウクライナにとってこれほど大きな違いを生むのだろうか。
1つには、EUは移行措置として非加盟国との連合協定を結んでいるものの、完全加盟には「コペンハーゲン基準」と呼ばれる一定の基準を満たすことが必要である。コペンハーゲン基準は、単に法の支配、一定の民主主義的規範、腐敗防止策だけでなく、成長を促す市場志向の経済改革や、最終的にユーロ通貨を採用することを推進するものだ。各国は通常、数年かけて準備を整える。
プーチン大統領の前任ボリス・エリツィン氏はロシアのEU加盟について発言したことがあるが、プーチン大統領はというと、EUのロシア問題に対する干渉を伴うとし、けっしてそれを望んだことはない。その代わりとして、旧ソ連にかつて吸収された国々や、ロシアの衛星国のみからなるユーラシア経済連合を組織した。
EU加盟には、経済的・政治的近代化とともに、貿易や外国直接投資(FDI)の拡大による真の意味での単一市場への統合が求められる。FDIとは、外国企業がその国に進出すること、あるいは既存の企業の株式を購入することを指す。
変動の激しい「ホットマネー」が流れ込むわけではない。貿易と対内直接投資が活発な国ほど、経済成長が速いということは以前から知られている。これは、貿易と対内直接投資が現代的な技術や新しい経営戦略を導入するためでもあり、また、力による競争を高めるためでもある。
幾年にわたって徐々にロシアから方向転換
貿易面では、これまで見てきた共産主義後のEU6カ国では、貿易(輸出+輸入)の対GDP比率は1990年には平均70%だった。2019年には130%とほぼ倍増している。対内直接投資の累積残高も、1990年にはごくわずかだったものが、2020年時点ではGDPの60%に達するまでに急増している。
ウクライナはこの間、幾年にわたって経済も社会全体も徐々にロシアからEU諸国へと方向転換してきた。2019年に、新たに設立されたウクライナ正教会がロシア正教会の支配からの独立をイスタンブールの総主教によって認められたことも、その一端を物語っている。
貿易面では、ウクライナは西側へ方向転換した。ウクライナの対ロ貿易額のピークは2011年で490億ドルあったが、2020年にはわずか72億ドルにまで激減している。一方、EUとの貿易は2021年には総額580億ドル以上に上る。
ロシアがウクライナの貿易を支配していた時代、ウクライナ人は「木を切る者、水を引く者」として、主に農産物、エネルギー製品、基礎金属、そして一部の機械類を輸出していた。
ほかの国々と同様、EUとの貿易が増えれば、ウクライナの輸出品目はより知識集約的なものになり、経済全体のアップグレードにつながる。そして、それが生活水準の向上にもつながるのである。
FDIも経済のアップグレードにおいて大きな役割を果たしている。1990年にはごくわずかだった対内直接投資残高が、2020年には対GDP比32%まで増加した。投資元の上位国はアメリカで全体の20%を占め、次いでドイツ、イギリスが続く。ロシアは上位10位にも入っていない。
重要なのは、この投資の半分がソフトウェア、再生可能エネルギー、ロジスティクスの分野で行われていることである。EUへの完全加盟は、FDIおよび貿易額の両方をさらに増加させ、その結果、近代化を加速させるだろう。
ウクライナ人にとって、繁栄、民主主義、独立、そして今日のヨーロッパにおける共同体の一員となることは、別々の目標ではなく、1つのタペストリーの中の不可分の糸なのである。
プーチン大統領がウクライナを脅威と見なす理由
この姿勢は、ヤヌコビッチ氏が大統領選を強行した2004年に顕著に表れた。人々は街頭に出て平和的な抗議を行い、その運動は「オレンジ革命」と呼ばれるようになった。彼らは再選挙を認めさせ、同選挙でヤヌコビッチ氏は敗北した(6年後には勝利したが)。
プーチン大統領は、「オレンジ革命」は純粋な民衆の感情から起こったのではなく、西側情報機関の策略が裏にあるのだと自らを納得させた。その1年前にグルジアで起きた親モスクワ派の支配者に対する「バラ革命」についても、同じような妄想を抱いていた。
この自己欺瞞があったからこそ、プーチン大統領は、今年実行したウクライナ征服の試みにウクライナ人が強く抵抗することを予測するのに完全に失敗したのである。
プーチン大統領がウクライナを脅威と見なすのも無理はない。もしウクライナ国民が豊かな自由主義国家を築くことができれば、ロシア国民もまた「われわれにできないはずがあろうか」と問い始めるかもしれないからだ。
●ウクライナに残り戦争報道を続ける日本人学生記者── 3/17
ロシア軍との攻防が激化するウクライナでは外国人人記者も銃弾に倒れている。そんななか、元々ウクライナに在住していた日本人記者は、リスクを承知で現地から決死の報道を続けている。
キエフの英字メディアで働く日本人
ウクライナ侵攻が起きるまで、ウクライナに住む大学生の寺島朝海(21)は、遠隔で通う米ウィリアムウッズ大学のオンライン授業と、英字メディア「キエフ・インディペンデント」の記者職を両立していた。
そして、ロシアがウクライナに侵攻した際、彼女にはウクライナから脱出する機会があった。しかし、彼女はウクライナに残ることを決め、戦争の報道にずっと明け暮れている。
「キエフ・インディペンデント」については、ウクライナ侵攻についてよく追っていれば、聞いたことがあるかもしれない。同メディアは、少人数の記者チームによって運営され、ロシアによる攻撃とそれに対する国際的な反応について継続的に発信している。
同メディアのTwitterアカウントは、侵攻前のフォロワー数は約3万3000人に過ぎなかったが、現在180万人にまで増えた(3月14日現在)。
「戦争は私たちにも影響を及ぼしています。でも、私たちはまだ現地で取材を続け、最善を尽くしてここで何が起きているかを伝えようとしています。ロシアによるウクライナに対する戦争行為すべてを記録しようとしているのです」
寺島は、これまでウクライナに対するサイバー戦争のリスクやロシアへの制裁措置の展開などについてリポートしてきた。彼女は、ウクライナの声を伝え続けることが重要だと考えているという。
「現在ウクライナで戦争を取材しているメディアはたくさんあります。でも、私たちは現地のジャーナリストとして、いつもここにいるからこそ理解できることがあります。私たちはここの言語を話し、ここにずっといます。私は、多くのメディアが取り上げないウクライナの人々の声を届けようとしています。戦争が終わっても、私たちはずっとここにいるんです」
断った出国のチャンス
日本で生まれた寺島は、幼少期に家族でモスクワに移り住み、その後ウクライナに移った。短期間の米国留学を除き、2010年以降はずっとウクライナに住んでいる。
大学生の彼女が学んでいたのはビジネスで、戦争記者になりたいなどとは思っていなかった。しかし侵攻が始まったとき、仕事を続けたいと思った。
「絶対にウクライナを離れたくなかったんです。2月24日に目が覚めたとき、私にはここを離れることもできました。防空壕に行かなければならないとわかっていたので、荷造りを始めました。でも、離れたくなかったんです」
彼女のその言葉は、自分の命が危険にさらされていると充分承知しながら、米国からの避難支援の申し出を断ったウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の言葉と重なる。
寺島の両親は、父親の会社の要求で、すでにポーランドに脱出している。彼女も一緒に行くことができた。しかし、彼女は「いやだ、乗らない」と断ったそうだ。
国連の難民支援機関によると、侵攻開始以来、人口4400万人のうち280万人以上がウクライナを離れ(3月14日現在)、その多くが幼い子供を連れた母親だという。
ウクライナの一般的な給与は月600ドル程度に過ぎず、それゆえに出国する余裕がない人もいる。また、18歳から60歳までの男性は、国の防衛のための徴兵を視野に出国を禁止されている。
国のために自らを捧げるウクライナの人々
一方、寺島のように自らの意思でウクライナに留まる道を選んだ人も多い。
ある老女は、近隣のビルがミサイルで攻撃を受けた際も、自分は去るつもりはなく、自衛部隊を結成した隣人を支援したいと米誌「ニューヨーカー」に述べた。「もし何もできなければ、サンドイッチでも作ります」と彼女は答えた。
寺島は言う。「みんな今後起こるかもしれないことに怯え、不安を抱えているのに、ウクライナの人々はとても落ち着いていて、パニックになっていないんです。とても勇敢です。理性的に話すし、愛する国のために何をすべきかを知っているのです」
それは、寺島にとってはノートパソコンに釘付けになり、最新のニュースを伝え続けることだった。今のところインターネット接続が切れることはないそうだ。戦闘が激化した3月1日、彼女はついにキエフから別の都市へ向かう列車に乗った。
「私たちはウェブサイトを運営し続けなければならないですし、私は紛争地帯に行けるほど訓練を受けていませんから」と彼女は言う。それでも、彼女はウクライナに留まるつもりだ。
彼女は、ウクライナ人はこれからも戦い続けるだろうと言う。
「ウクライナ人の国家に対する思いは、世界の人々が想像しているよりもずっと大きいのです」
●国際司法裁判所 ロシアに直ちに軍事行動やめるよう暫定命令  3/17
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、オランダにある国際司法裁判所は「国際法に照らして重大な問題を提起している」としてウクライナ側の訴えを認め、ロシアに対して直ちに軍事行動をやめるよう命じる暫定的な命令を出しました。
ウクライナは先月26日、ロシアによる軍事侵攻には正当な理由がないとして、オランダのハーグにある国際司法裁判所に提訴し、合わせてロシアに対して直ちに軍事行動をやめさせる暫定的な命令を出すことも求めました。
国際司法裁判所は16日「ウクライナで起きている広範な人道上の悲劇を深刻に受け止めており、人命が失われ人々が苦しみ続けている状況を深く憂慮している。ロシアによる武力行使は国際法に照らして重大な問題を提起しており、深い懸念を抱く」として、ウクライナ側の訴えを認め、ロシアに対して直ちに軍事行動をやめるよう命じる暫定的な命令を出しました。
国際司法裁判所の訴訟には当事国の同意が必要で、今回ロシアはその意思を示していませんが、裁判所は暫定的な命令には法的拘束力があるとしています。
命令には15人の裁判官のうち13人が賛成し、ロシアと中国の裁判官が反対しました。
国連の主要機関で「世界法廷」とも呼ばれる国際司法裁判所で、軍事侵攻に厳しい判断が示されたことで、たとえロシアが受け入れなくても、ウクライナへの国際的な支援に一層の正当性が認められることになり、同じハーグにある国際刑事裁判所で始まっている戦争犯罪などの捜査にも影響を与える可能性が指摘されています。
国際司法裁判所の暫定的な命令が出されたあと、ウクライナの代表は記者団に対して「ロシアは国際法上の義務である裁判所の命令を順守し、軍事作戦を停止しなければならない。ウクライナは正義を実現するために国際法のあらゆる手段に訴える」と述べました。
国際司法裁判所が暫定的な措置についての判断を示すのに合わせ、裁判所の前には16日、ウクライナの国旗などを持ったおよそ100人の市民が集まりました。詰めかけた人々は「プーチンを止めろ」と書かれた横断幕を掲げながら「戦争反対」などと声をあげ、ロシアによる軍事侵攻に抗議の意思を示していました。
林外務大臣は「わが国は、ロシアによるウクライナ侵略は、国際法や国連憲章の違反だと強く非難するとともに、攻撃の即時停止と部隊の撤収を求めてきた。ICJによる暫定措置命令は当事国を法的に拘束するものであり、日本としては措置命令を支持し、ロシアに対し、直ちに従うことを強く求める」などとする談話を発表しました。
中国外務省の趙立堅報道官は17日の記者会見で「われわれはロシアとウクライナが話し合いを通じて問題を適切に解決すること、そして国際社会が平和的な解決のために積極的な役割を果たすことを支持する」と述べる一方「各国は、複雑な要素を増やすことを避けるべきだ」と、くぎを刺しました。
●NATO国防相理事会、ウクライナ軍事支援や東欧増派で一致… 3/17
北大西洋条約機構(NATO)は16日、ブリュッセルで国防相理事会を開き、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの軍事支援を続けることや、東欧への戦力増派で一致した。ウクライナが求める飛行禁止区域設定については、ロシアとの対立深刻化を懸念し、直接関与しない方針を示した。
ロシアの軍事的脅威の高まりを受け、理事会にはNATOに加盟していないウクライナやジョージアの国防相も参加した。NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は理事会後の記者会見で、「プーチン露大統領はNATOを甘く見ていた。我々は結束を維持する」と述べた。
ロシアが2月24日にウクライナへの侵攻を始めて以降、NATOは東欧への増派を進めており、欧州には現在、約10万人の米軍、約4万人のNATO多国籍部隊が配備されている。
ストルテンベルグ氏は、「長期的な集団防衛や抑止について考え直さなければならない」と述べ、東欧地域を中心とした中長期的な配備や、訓練の増加を検討する考えを示した。
NATOは24日、ブリュッセルで首脳会議も開催し、同盟国の協力強化について、首脳陣が直接協議する。 

 

●膨れ上がるウクライナでの死者数、ロシア軍の態勢にさらなる疑問符 3/18
米国や北大西洋条約機構(NATO)の当局者は今週、CNNに対し、1カ月近く前にウクライナ侵攻が始まってからのロシア兵の死者数は数千人に上るとの見方を示した。士気の低下やウクライナ側の激しい抵抗に直面するなか、ロシアはこうした兵士の補充に苦慮している。
NATOの当局者によると、首都キエフ攻略を目指すロシアの攻勢はほぼ失速。ウクライナは17日、同市郊外の完全支配に向けた反攻を開始したことを明らかにした。
諜報(ちょうほう)に詳しい情報筋はCNNの取材に、ロシア軍の正確な死者数に関し、米国や同盟国の分析には大きな幅があると語った。ただ、最も少なく見積もっても数千人に上るという。
情報筋の1人によると、現時点での死者数を約7000人とみる推計もある。ただ、米紙ニューヨーク・タイムズが最初に報じたこの数字は米国の推計値の中でも高い部類に入る。正確な計算方法がないことから各種推計にはばらつきあるのが実情で、死者数を約3000人とする推計もあれば、1万人以上が死亡したと示唆する見方もある。
これまでのところ、こうした数値は非政府組織からのオープンソース情報やウクライナ政府の発表、商業衛星、傍受されたロシアの通信により算出されている。米当局では破壊されたロシア軍戦車の数から死者数を推計する場合もあるという。
正確な数値は不明だが、欧米の情報当局者はロシアが兵士の補充に苦慮しており、それがロシア軍の士気に大きく影響しているとの見方を示す。
NATOの情報当局者は16日夜、記者団に「プーチン氏が重大な判断ミスを犯したことが日に日に明らかになりつつある」「ロシアは引き続き戦闘での損失を埋め合わせるのに苦労しており、ロシアの民間軍事会社やシリア人戦闘員を含む不正規軍の活用を試みる場面が増えている」と語った。
同当局者はウクライナ軍参謀本部の話として、「ロシア軍要員は退役軍人の地位や高い給与を約束されても、ウクライナ行きを拒むことが増えている」と説明。NATOの予想では「ロシア国民が損失の規模を認識し始めるにつれ、報じられている死傷者数の多さに対して国内でも何らかの反応があるだろう」と指摘した。
米国防当局高官は17日、記者団に対し、国防総省がロシア兵の士気低下を示す事例証拠を入手していることを明らかにした。米当局者2人によると、ロシア兵が破損した車両を放棄し、戦車や装甲兵員輸送車を残したまま立ち去ったケースもあるという。
●ウクライナ戦争 追い詰められたプーチンが始める「大粛清」の中身 3/18
「ロシア軍が一気に首都・キエフに襲いかからず、15〜30q手前で駐留しているのは、歩兵、戦車、ロケットなどの軍備が整うのを待っているからでしょう。シリアで募集した実戦経験豊富な兵士の到着を待って、総攻撃を始める可能性が高い」(元傭兵で軍事評論家の高部正樹氏)
ロシア軍による侵攻が始まってから3週間、ウクライナ戦争に重大局面が訪れようとしている。地図を見てほしい。キエフや第二の都市・ハリコフなど北部の都市で戦闘が激化しているのが分かる。都市部では市民への無差別攻撃が行われ、ウクライナからロシア、ベラルーシへ抜ける人道回廊に地雷が設置されるなど非人道的行為も続いている。一方のNATO(北大西洋条約機構)はポーランド、ルーマニア、バルト三国に軍を配備し、ロシア軍を牽制。にらみ合いが続いている。前出の高部氏が続ける。
「ロシアはキエフへの総攻撃と時を同じくして、南部の都市・マリウポリを攻撃する算段でしょう。マリウポリが落ちれば、親ロシア派地域のドネツクからクリミア半島まで陸路で繋がります。ウクライナを黒海から孤立させるため、オデッサにも攻撃を仕掛ける。原発がある西部のロブノ、フメリニツキーを制圧して隣接するポーランドなど西側諸国に圧力をかけ、補給線の遮断も狙うはずです」
プーチン大統領(69)は暗殺リスクを避けるため、一部の最側近を連れて、モスクワから逃れたという。
「クレムリンと遜色ない機能を持つ秘密指令部が西部のウラル山脈と中国国境地帯にあると言われています。もしものことを考慮するなら、中国国境にいる可能性が高いでしょう。ただ、プーチンの周辺にはGPSが起動しないよう外からの電波を遮断するジャミング装置があるので、正確な居場所の把握は困難です」(全国紙モスクワ支局記者)
モスクワから遠く離れた地でプーチン大統領はどんな次の手を考えているのか。ロシア政治に詳しい筑波大学教授の中村逸郎氏が語る。
「大粛清です。侵攻に苦戦したのには二つの理由があります。一つはFSB(連邦保安局)に反プーチン派がいて、情報を西側に漏洩(ろうえい)していたこと。実際に3月11日、対外諜報部門のトップらが拘束されています。二つ目はロシア軍の腐敗です。ショイグ国防相(66)など軍トップは汚職にまみれ、末端の兵士は兵器の横流しや麻薬でカネ儲けしていた。当然、若手兵士の士気は低い。プーチンは保安局と軍内の粛清を早々に済ませてから、キエフへ総攻撃を仕掛けるでしょう」
前出のモスクワ支局記者が続ける。
「プーチンにとって停戦交渉はただのパフォーマンス。妥結なんて望んでいない。実際は時間稼ぎで、その間に軍備の増強と粛清を進めているのです」
前出の中村氏によれば、「ロシア軍の脅威はウクライナ以外の国に向けられている」という。
「今後、東ヨーロッパのポーランド、ルーマニア、ブルガリア、バルト三国にある軍事基地やウクライナ難民も標的になる可能性があります。欧州は経済制裁の代償で一枚岩ではないし、米国は弱腰。プーチンは、NATOは反撃できないと踏んでいるのです。リトアニアとポーランドの間にあるロシアの飛び地・カリーニングラードに進駐する恐れもある。そうなれば、東欧諸国がロシア本国とベラルーシに挟み撃ちされる形となり、西側諸国は一気に不利になります」
世界は21世紀最大の危機を乗り越えられるか。
●「ベトナム化」するウクライナは日本経済の脅威 3/18
ウクライナでは、停戦の話し合いが続けられている。ロシアにとっては、ここまで戦争が長期化するのは予想外だったと思われる。当初は電撃戦で短期間にキエフを占領し、傀儡政権を樹立して既成事実をつくるクリミアのような展開を考えていたようだ。
ところがウクライナ軍の抵抗が強く、キエフはまだ陥落しない。ロシアはウクライナの「中立化」やクリミアの主権承認を求めているが、武装は認めるなど、軟化の兆候がみられるという。そう簡単に停戦はできないだろうが、ロシアの作戦が失敗したことは明らかだ。どこに誤算があったのだろうか。
本当の戦いは停戦から始まる
ロシア軍の侵略は、いつも冬に行われる。クリミアで非常事態宣言が出されたのは2014年2月19日、プーチンがロシア軍の派遣を決めたのは3月1日だった。3月16日には「住民投票」でロシア編入が決まった。
今回も2月24日にプーチン大統領が「特殊な軍事作戦を行う」と発表したときは、同じぐらいのスケジュールで傀儡政権の樹立を予定していたと思われる。当初は彼も「コメディアンのゼレンスキー大統領に何ができる」と高をくくっていたのだろうが、ウクライナ軍は予想外に善戦した。
キエフはロシアとの国境から約200キロメートル。戦車なら1日で到達できる距離だ。ロシア軍が3週間たっても占領できないとは、西側でもほとんどの人が予想できなかった。その原因は、ウクライナ人の愛国心が強いからだけではない。アメリカなどNATO(北大西洋条約機構)が軍事支援を続けているからだ。
ロシア軍に残された時間は少ない。ロシア軍の軍備は冬に最適化されており、戦車は凍土の上を進軍するようにできている。春になって凍土が溶けると、戦車がぬかるみで動けなくなるので、3月いっぱいが勝負である。それがロシアが譲歩している理由だろう。
ウクライナ戦争は「ベトナム型」
しかし本当の戦いは、停戦から始まる。20世紀以降の歴史が教えるのは、占領統治は戦争よりはるかに困難だという事実である。その困難さは、国家の大きさと関係ない。
日本のような大国でも、その政権基盤がすでに空洞化していた場合には、占領統治はあっけないほど簡単だった。アメリカの占領軍が日本に上陸したとき、国民の決死の抵抗を恐れていたが、日本人は星条旗を振ってマッカーサーを歓迎した。
冷戦の終焉で誰もが驚いたのは、70年以上にわたって続いた社会主義が、数カ月で崩壊したことだ。恐れられていた軍事衝突は、旧ソ連の内戦などを除いて、ほとんど起こらなかった。戦前の天皇制が日本人の支持を失っていたように、社会主義は国民の支持を失っていたのだ。
他方ベトナムのような小国では、アメリカの軍事力をもってすれば傀儡政権の維持は容易だと思われたが、1955年にゴ・ジン・ジェム政権ができてからもベトコンのゲリラ戦が続き、アメリカが撤退したのは1975年だった。アフガニスタンも2001年に9・11のあと、アメリカがタリバン政権を倒したが、それから20年たってバイデン政権は撤退した。
2003年にイラク戦争が始まる前、ブッシュ政権のボルトン国務次官は「米軍がバグダッドを占領すれば、イラク国民は1945年の日本人のように星条旗を振って迎えるだろう」といったが、そうはいかなかった。国民の支持を得ていない傀儡政権や外国統治に対してはゲリラの抵抗が続き、彼らが撤退するまで内戦は終わらないのだ。
このように占領統治に日本型とベトナム型があるとすると、ウクライナは明らかにベトナム型である。プーチン大統領は、ロシア軍がキエフを占領して住民投票を行えば、クリミアのように圧倒的多数がロシアの統治を望むと思っていたのかもしれないが、ゼレンスキー大統領はSNSを活用して国民を団結させた。
ベトナムと似ているのは、アメリカが軍事支援をしたことだ。ベトナムのときもベトコンだけでは勝てなかったが、北ベトナムが「ホーチミン・ルート」で軍事支援を続けたことが大きかった。
今回はアメリカが戦争の前からウクライナ政府を支援した。対戦車ミサイル「ジャベリン」2600発など、総額20億ドルの武器支援を行っており、今回さらに追加で8億ドルの支援を決めた。物量においては、ウクライナ軍は装備の古いロシア軍より優勢だったのだ。
このような物量の差は、短期決戦で勝負がつく場合にはあまり問題にならないが、戦線が膠着すると、ロシア軍には補給がきかなくなる。そこに経済制裁で物資が足りなくなり、国債のデフォルトで財政が破綻し、海外の資産凍結で外貨準備がなくなると、海外から調達できなくなる。
それでもプーチン大統領がやっているように、国内の他の地域に配備した部隊をウクライナに移すなどして頑張れば、キエフの占領統治を続けることぐらいはできるだろうが、西部ではゲリラ戦が続くと予想される。
ベトナムのように民間人と区別のつかないゲリラがロシア軍に抵抗すると、世界最強の米軍でも、20年戦った末に撤退した。GDP(国内総生産)がアメリカの7%しかないロシア経済は、1年ともたないだろう。
そのとき社会主義が崩壊したように、プーチン政権も崩壊するだろう。あるいはそこまでに軍のクーデターや暗殺などで政権が倒れるかもしれないが、最悪のシナリオはプーチンがウクライナを占領したまま粘ることだ。
グローバル化が逆転して円安が加速する
停戦交渉では、ロシアはクリミアやウクライナ東部の「共和国」の主権承認を求めているので、東部を支配下に置いてウクライナを分割し、「フィンランド化」する可能性もあるが、それはここまで戦ったウクライナ政府が許さないだろう。ウクライナ全土がどっちに支配されているかわからないベトナム的な状況が続き、プーチン政権が倒れるまで経済制裁が続くのではないか。
それは日本にとって最悪の状況である。日本の輸入する原油のうちロシアからの輸入は6%、天然ガスは9%を占めているが、経済制裁でそれを止めると、1次エネルギーが6%ぐらい供給不足になり、電気料金が数倍に上がる。そういう時期に「脱炭素化」などといって石炭火力を廃止したため、日本のエネルギー脆弱性はドイツ並みに上がった。
それが1ドル=119円を超える円安になった原因である。これは今までにない現象である。1990年代に社会主義の崩壊で東欧経済が破綻したときも、2008年にリーマン危機が起こったときも、円は「安全な通貨」として買われ、1ドル=80円台まで上がったが、今回は日本経済の脆弱性が円売りの原因になっている。
これは序幕である。1990年代から続いてきた世界経済のグローバル化は、大量の安い労働力を抱える中国と、大量の天然資源をもつロシアが世界経済に入ってきたことで急速に進んだが、それがが逆転し、中露とそれ以外にブロック化し始めたのだ。
今のところ中国は、経済制裁に協力しないが反対するわけでもない曖昧な態度をとっている。ロシア・中国・インドを除く世界のすべての大国がロシア制裁に賛成する展開は予想できなかったからだろう。
中国がロシアに協力すると、経済制裁はロシアよりはるかに困難だ。経済小国ロシアとは違い、中国のGDPは世界第2位。いまロシアに対してやっているように日系企業が中国から撤退すると、日本の製造業は壊滅する。
だからこの戦争は対岸の火事ではない。日本が経済制裁に強くコミットすることは、中国が台湾にロシアのような軍事介入をすると世界から孤立するというシグナルを送って、日本の安全を守ることになる。
それは日本経済にとって大きなコスト負担になるが、これを機に脱炭素化を見直し、原子力を再稼動してエネルギー自給率を高め、ブロック化する世界経済に対応する強靱な日本経済を構築する必要がある。
●ウクライナで戦争犯罪との見方に賛同=米国務長官 3/18
ブリンケン米国務長官は17日、バイデン大統領に賛同し、ウクライナで戦争犯罪が行われているとの認識を示した。米国の専門家が戦争犯罪を証明する証拠を集めているという。
バイデン大統領は前日、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は「戦争犯罪者」だと述べた。
ブリンケン長官は会見で、バイデン大統領の見解に「個人的には賛成だ」と指摘。「意図的に民間人を標的にすることは戦争犯罪だ」とし、ロシアが過去数週間のウクライナ侵攻で戦争犯罪をしていないと「結論づけることは難しい」と述べた。
また、市民が避難している病院や学校、劇場などをロシア軍が爆撃していることについて触れ、これは「ウクライナ全土の民間拠点に対する攻撃の一部だ」とした。
ブリンケン長官によると、15日に米上院で承認されたベス・バンシャーク国際刑事司法担当特使が「ウクライナで行われている潜在的な戦争犯罪の実証と評価」を目的とする国務省の取り組みを指揮するという。
●ウクライナ戦争でロシア軍が犯した8つの間違い 3/18
1.侵攻自体が間違い
そもそもロシアにとってウクライナに軍を進める合理性が全くない。まず侵攻前にウクライナ東部のドンバス地方の2州を国家として承認したが、ロシアはウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟して自国とNATOの間の“バッファ”がなくなることを阻止するのが国家戦略。そしてNATOは国内に紛争を抱える国の加盟を認めていない。しかし東部2州が独立してしまえば、残りの大部分は「ウクライナ」として加盟できることになる。
また、ウクライナのNATO非加盟確約について、NATOは交渉のテーブルには着いていた。つまり軍事力をちらつかせて自国の主張を世界にアピールし、交渉を始めるという外交的成果を得ていた。
さらに、ゼレンスキー政権はロシアへの危機感を強調したことで、2月には経済への悪影響などから支持率が低下し“自滅”の可能性すらあった。しかし2州の独立承認で支持率は90%を超え、侵略によってウクライナ国民が強固に結束するという真逆の結果を招いた。
つまりロシアは侵略によりこうした「果実」をすべて失った。
2.グダグダな軍事作戦
セオリーから行けば、まず大規模な空爆を数日以上続け、徹底的に敵の航空戦力や警戒監視レーダー、地対空ミサイル、地上部隊などをつぶしてから味方地上部隊が侵攻する。湾岸戦争やイラク戦争などがお手本だ。
ロシア軍もこうした先例を学び、巡航ミサイルなどを大量に装備しているとされてきた。毎年秋には軍管区(全土を4つの地域に分けた陸海空の統合軍と北方艦隊で計5つある)レベルで大規模演習を行っており、そこでもこのセオリーにのっとっていた。
ところが、劈頭の航空攻撃は中途半端。まずミサイルで敵レーダーをつぶしてから、次に戦闘爆撃機が戦果拡張を行うはずが、そうしていないようだ。空爆も西部に及んでいなかった。それはロシア軍自身が、西部にあるスタロコスティアニフ空軍基地を3月6日に、ヴィーンヌィツァ空港を3月8日に攻撃したと発表していることからもわかる。
米国防総省の高官は、3月11日時点でウクライナ空軍の戦闘機は約56機が残存しており、これは開戦前の約80%だとしているという。
3.「非軍事施設」攻撃の誤り
ロシア軍はチェチェンやシリアで病院や学校などを攻撃しており、常とう手段といっていい。シリアでは市場も狙った。食料品を買う人の列ができているので場所がわかりやすいからと指摘されている。こうした非軍事施設をターゲットにするのは民衆に厭(えん)戦気分をまん延させるためだ。
今回も市街地のアパートや市庁舎などをミサイルで攻撃しているが、逆効果になっている。特に病院への攻撃は決定的だ。3月9日のマリウポリの病院空爆では、当時女性や子供はいなかったとロシア側は強弁したが、国連のデュリジャック報道官が病院は無差別空爆にあい、女性や子供が当時いたことを確認したと発表。傷病者や病院、非戦闘員の保護などを定めたジュネーブ条約違反で戦争犯罪だと世界中から激しい非難が集中している。ロシアはもちろん同条約の締約国だ。
世界保健機関(WHO)は3月11日に、開戦から9日までに医療機関への攻撃を26回確認し、死者12人、負傷者341人と発表している。
成果を上げていないことから、ロシア軍は恐怖を植え付ける作戦をエスカレートさせざるを得なくなっている。その典型が自治体首長の拉致だ。3月11日に南部メリトポリのイワン・フェドロフ市長を拉致。13日には南部ドニプロルドネの市長も拉致したとウクライナのクレバ外相が公表した。
今後も自治体首長など象徴的な人物の拉致は続くだろう。意に沿わない人物は排除されるという恐怖を与えると同時に、後釜に意を受けた人物を据え、形だけの住民投票を行って占領の正当性やロシアへの帰属などを主張する意図だ。2014年のクリミア半島と同じことをやるつもりではないか。
4.少なすぎるロシア軍の兵力
ロシア軍はウクライナ軍を包囲して攻め込む「外線作戦」だから、守る側を大幅に上回る兵力を配置して敵兵力を分散させたうえで、どこかを集中的に攻撃し突破していくのが、これもセオリー。
しかし開戦直前、米国はウクライナ国境周辺のロシア軍は15〜19万人としていた。これが主に5つの方向からウクライナに侵攻していったので、平均で1正面4万人以下になる。
これに対してウクライナ陸軍は約16万人とみられており、これに準軍事組織の国家親衛隊6万人前後と、今年になって組織された民兵組織の領土防衛隊約13万人が加わる。しかも「内線作戦」として包囲の内側にあるため、攻撃側よりも狭い範囲で補給を続けられるなどの利点があり、これがロシア軍より機能している。
15〜19万人はロシア軍が投入できる兵力のほぼ全力というのが、多くの見立てだ。しかしこれでは少なすぎるのはロシア側も認識している可能性がある。3月7日付英紙タイムズは情報機関の連邦保安局(FSB)の内部文書とみられる報告書の内容を報じている。そこでは「ウクライナの最小限の抵抗に対処するためには後方支援部隊を除いた数だけでも50万人超が必要」とされている。
通常、兵站部隊は戦闘部隊の3倍前後は必要とされているから、全部で150万人が必要ということになる。しかしロシア軍は陸軍以外もすべてひっくるめて90万人前後。とてもではないが、侵攻自体が最初から無理という計算になる。
3月11日にプーチン大統領が外国からの志願兵を送り込む考えを示した。ショイグ国防相は志願者は1万6000人とし、シリアの人権団体は13日までに4万人以上が傭兵として登録したとしている。このこと自体が自ら兵力不足を認めていることにもなる。
5.ウクライナを過小評価
劈頭の航空攻撃の不徹底や兵力不足もこの点に集約されるのだが、ロシアは今回の戦争を2〜3日間で終えられると考えていたと推測できる。侵攻すればさしたる抵抗もなくキエフに到達し、ゼレンスキー政権が崩壊するとの甘い見通しだ。
これは、航空攻撃が不十分なまま地上部隊を侵攻させたこと、過小な兵力であること、ウクライナ軍の捕虜になった兵士が「3日分の食料しか与えられていなかった」と証言をしていること、さらに死亡したロシア兵の携帯電話から母親に「人々は私たちを歓迎してくれると聞かされていた」とのメッセージが送られていたことなどから得られる。このメッセージは2月28日にウクライナの国連大使が国連総会で公表した。
ところが、ウクライナ軍はゲリラ戦をうまく組み合わせて遅滞作戦に成功している。正規兵だけでなく民兵も「徹底して敵の補給線を狙うように指示されている」と証言する。
その際、不可欠なロシア軍の位置や兵力などの情報は、後述する周辺国上空で活発に活動している北大西洋条約機構(NATO)の各種情報収集機のほか、通信アプリ「テレグラム」を活用した、国民がロシア軍情報を通報できるシステムなどによってもたらされているようだ。皮肉なことにテレグラムはロシアで開発された。「人民の海」に沈むロシア軍の動静はほぼ丸裸の状態だろう。
遅滞作戦は敵の侵攻を遅らせることで増援が到着する時間を稼いだり、敵にとって長期戦が不利になる場合に用いるのだが、今回は後者が狙いになる。
3月7日付の英紙タイムズが、連邦保安庁(FSB)の内部文書で現在の局面が続くと経済が崩壊する可能性があり、今年6月が「暫定的デッドライン」と示されていると報じた。文書の真偽は確定していないが、ロシアに年単位の継戦能力がないことに異をはさむ人はいないだろう。
6.西側からの充実した兵器供与
戦闘場面の映像を見ると、10人程度の分隊レベルでも携帯型対戦車ミサイルや携帯型対戦車ロケットを携行している兵士が数人見られる。陸上自衛隊や米陸軍ではこうした対戦車火器は1〜2基なので、装備が充実しているといえる。
ウクライナ軍に対しては西側諸国から大量の携帯型対戦車ミサイルや対空ミサイルが供給されている。2018年から米国は携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」を供与しており、計390発に及んでいる。加えてグリーンベレーなどからなる軍事顧問団を派遣してウクライナ兵の訓練を行ってきた。ウクライナ兵の練度は大幅に向上していたようだ。
また英国は今年1月に携帯型対戦車ミサイル「NLAW」2000発と特殊部隊SASを送り込んでおり、これを含めNATOから供与された対戦車ミサイル・ロケットは計1万7000発、携帯型地対空ミサイル(MANPADS)「スティンガー」が計2000発に上るようだ。そしてウクライナ軍は効果的に使用している。
こうした西側の支援に対して、ロシア軍は焦りを強めている。3月12日にウクライナへの西側の兵器供給を攻撃目標にする可能性があると警告。13日に西部ヤボリブの基地を空爆した。ウクライナはロケット弾約30発とし、米国防総省はロシア領空内にいた長距離爆撃機からの巡航ミサイルだったとしている。この基地は「平和維持安保国際センター」の名称で、米国やカナダなどの軍事顧問がウクライナ軍を訓練する場所とされており、そこを狙ったのは西側の支援に対する焦りと威嚇だろう。
反対にロシア軍は弾薬や食料、燃料の補給に苦しんでいるだけでなく、兵器そのものも不足してきた兆候が見られる。3月11日にプーチン大統領はウクライナ軍からの鹵獲(ろかく)兵器をウクライナにいる親ロ派武装勢力に支給するよう命じた。13日にはロシアから中国に対して軍事物資の支援が要請されていると報じられた。具体的にどのような兵器なのか、そもそも真実なのか不明だが、操作の習熟などを考えるとあまり高度ではない兵器や弾薬、補給物資が考えられる。
7.情報提供と相次ぐ将官の戦死
西側からの援助で重要なのはモノだけではない。情報が非常に大きな役割を果たしているとみられる。
ロシア軍の将官がこれまでに4人も戦死している。侵攻したロシア軍には20人ほどの将官がいるというから、20%もの戦死率だ。2月28日にアンドレイ・スホベツキー少将がウクライナ軍の狙撃兵に射殺された。3月7日にはヴィタリー・ゲラシモフ少将がハリコフ近くで、12日にはアンドレイ・コレスニコフ少将が戦死。15日にマリウポリ近郊でオレグ・ミチャエフ少将が戦死した。 これは偶然ではないだろう。ゼレンスキー大統領の側近の一人は米紙に将官らの動静を専門に扱う軍情報チームがあるとしている。それだけではなく、西側が情報提供している可能性が濃厚だ。
ポーランドなどで米軍やNATOが信号情報収集機RC−135V/Wリベットジョイント、対地早期警戒管制機E−8Cジョイントスターズや早期警戒管制機(AWACS)E−3セントリーなど、敵の動向を把握し味方に適切な指示を出すための航空機がひっきりなしに飛んでいるのが確認できた。これらで通信傍受や地上の車両などの動きをつかみ、さらに偵察衛星などの情報も含めているのはまず間違いない。
また最前線のハリコフ付近での狙撃については、輸送部隊を督励していたとの情報があり、作戦の進行が遅れていることの証左にもなろう。
今後もウクライナ軍は狙撃を重視してくるだろう。狙撃手の存在は敵兵士に強い恐怖を呼び起こすからだ。
8.プーチン大統領自体がブレーキ
プーチン氏が作戦に口を出していることもロシア軍にとって重い足かせとなっている。プーチン氏は2月27日に「核抑止部隊」に「戦闘任務の特別態勢」に入るよう命じた。この場面としてロシアが公表した画像には長いテーブルの端にプーチン氏が座り、そこから4〜5メートル離れてショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が浮かない表情で座っている。つまり、プーチン氏に意見できる状況にないことが見て取れる。
加えて前述のプーチン氏による鹵獲(ろかく)兵器の活用命令は、大統領が出すレベルではなく、細かい指示で組織を管理しようとするマイクロ・マネジメントの典型といっていい。これは米海兵隊などが重視している任務指揮の対局で、現場の柔軟な対応や意欲、発想を奪う。ロシア軍でも数年前から大隊指揮官クラスに裁量が与えられるよう改革が始まっているとされるが、トップ自ら改革をつぶしている。
加えて情報戦、サイバー攻撃、電子戦など現在の戦争で欠かせない分野でも有効な手を打てていない。
従前の予想とは全く違って、あまりにも弱いロシア軍に世界が首をひねっているが、反面教師として教訓に満ちている。
●習近平、幻の「秋に台湾侵攻」計画...ウクライナ戦争で白紙に 3/18
「中国の習近平国家主席がこの秋、台湾を併合する計画を立てていた」とする文書がインターネット上で公開され、注目を集めている。ロシアの諜報機関が書いたものだとされているが、台湾の外交官はこの文書について、本物かどうかは確認できていないと語った。
台湾の呉サ燮(ジョセフ・ウー)外交部長は3月16日に記者団に対して、「中国が台湾を攻撃するのかどうか、いつ攻撃するのかといった情報に関係なく、我々としては常に防衛の備えをしておかなければならない」と語った。
呉外交部長は立法院で開かれた外交・国防委員会での答弁の中で、ロシアの諜報機関である連邦保安局(FSB)のアナリスト(実名は明かさず「変革の風」と名乗っている)が書いたとされる問題の文書について、報道があることは認識していると発言。文書が本物かどうか、個人的に確認することはできなかったが、台湾の諜報機関が詳しく調べているところだと述べた。
問題の文書は、ロシア人の人権派弁護士であるウラジーミル・オセチキンが公開した、複数の文書のうちの1つだ。オセチキンは現在フランスで暮らしており、ロシアの腐敗を告発するサイト「グラグ・ネット」を運営している。2021年には、ロシアの刑務所で起きた虐待行為を撮影したとする1000本以上の動画を、同サイト上で公開した。
オセチキンは、ロシアがウクライナ侵攻を開始してからこれまでに、合わせて7通の文書を入手したとしている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の計画については、FSBでも事前に知っていた者はごくわずかだったようで、そこにはFSB内部の「恐怖と混乱」が詳細につづられている。
ロシアのウクライナ侵攻で中国が窮地に
調査報道サイト「ベリングキャット」のクリスト・グロゼフ事務局長は3月に入ってから、問題の文書についてFSBの複数の情報源に確認したことを明かしている。それによれば、彼らは文書を書いた内部告発者について、本物のFSB職員だという見方を示したということだ。
内部告発者は、オセチキンに送った3月9日付の4通目の文書の中で、ロシア政府が中国政府を難しい立場に追いやっているとの分析を示した。プーチンのウクライナ侵攻を受けて西側諸国が結束した結果、ロシアが国際社会の「のけ者」になっており、中国がロシアに支援を提供することも難しくなっているためだ。
内部告発者は、「ロシアはウクライナに侵攻したことで、多くの国から悪いイメージを持たれている。中国がロシアの制裁逃れを手助けするリスクがあると見れば、アメリカは少なくともヨーロッパ諸国と協調して、中国に対する制裁を強化する可能性がある」と指摘し、さらにこう続けている。「中国は輸出に大きく依存しているし、(資源など)コモディティ価格から大きな影響を受ける。それを考えると、制裁強化は中国に壊滅的な打撃をもたらすことになるだろう」
内部告発者は、さらにこう続けている。「習近平はこの秋に台湾を占領することを、少なくとも検討はしていた。彼は、中国共産党内の権力闘争に勝ち抜いて3期目続投を実現するため、自らの「小さな勝利」を必要としているからだ。だが今回のウクライナでの戦闘勃発によって、その絶好のチャンスが失われた。そしてアメリカには、習近平を脅し、また彼の政敵たちと好条件で交渉を行うチャンスがもたらされた」
そしてこの内部告発者は、ロシア政府の行動が中国を窮地に陥れ、指導部が台湾侵攻計画を断念せざるを得ない状況に追い込んだと結論づけた。
本誌はこのFSBの文書が本物かどうか確認することができなかった。だが(ここに書かれている)中国の計画についての情報が、台湾の諜報機関の情報と異なることは、注目に値する。
台湾の独自分析とは異なる内容
ロシア軍がウクライナとの国境地帯での兵力増強を始める前の2021年10月、台湾情報機関のトップである陳明通は、立法院での答弁の中で、中国による台湾攻撃について、蔡英文総統の任期中には起こり得ないという見方を示していた。蔡英文の任期は2024年5月までだ。
中国が秋に水陸両用作戦によって台湾に侵攻するという説も、軍事的に従来の考え方と相反するものだ。夏の始まりから少なくとも9月にかけて、台湾海峡は(台風が多発するなど)気候条件が良くないためだ。
習近平が3期目就任を狙う中国共産党の第20回党大会は、秋に開催が予定されており、10月か11月に始まる見通しだ。
●「ロシア軍、3週間で7千人死亡」…士気の低下が戦闘に影響か 3/18
ウクライナ戦争でロシアの兵力の損失が膨らみ、ロシアは軍の士気の低下が問題になっているとする分析が発表された。
米国の情報当局は、先月24日のウクライナへの侵攻開始から約3週間のロシア兵の死者数を約7000人と推定している。「ニューヨーク・タイムズ」が16日に報じた。これはメディア報道、ウクライナとロシア双方の推計、攻撃を受けた装甲車の映像、衛星写真の分析などを総合したもので、保守的な推計だという。ロシア軍の死者数を1万3500人だとするウクライナの主張と498人だとするロシアの主張の中間水準でもある。7000人は、第2次世界大戦における日本の硫黄島での36日間の戦闘で死亡した米海兵隊員(6821人)の数とほぼ同じだ。
米国の複数の高官は「3週間で7000人死亡」は非常に大きな数字で、これはロシア軍の効率性について暗示するところが大きいと評価する。これに加えて米当局は、ロシア軍の負傷者数を1万4000人から2万1000人と推定する。ニューヨーク・タイムズは、米国防総省は1つの部隊の死傷者の割合が10%に達すれば戦闘関連任務の遂行が難しくなると評価するとし、ロシアがウクライナに投じた兵力が約15万人であることを考慮すれば、すでにロシアの死傷者の割合はその水準に達すると伝えた。ロシアはまた、将軍も少なくとも3人失っている。
ニューヨーク・タイムズは、このような戦死者の規模はロシア軍の士気を低下させうると報じた。米国防総省はウクライナ情勢に関する最近のブリーフィングで、ロシアの兵士たちが車両を止めて森の中に入っていってしまうなど、士気が落ちていると明らかにしている。
バラク・オバマ政権時代の国防総省でロシアとウクライナを担当していた元官僚のエブリン・パーカーズ氏は「特にロシアの兵士は、自分たちがなぜ戦っているのか理解できていない状況なので、こうした損失(多くの死傷者)は士気と部隊の団結力に影響を与える。誰かが運転し、誰かが撃たなければならないが、全般的な状況意識が低下する」と述べた。ロシア軍による最近のウクライナの都市の住宅街、病院、学校に対するミサイル攻撃は地上軍の不振を覆い隠すことに貢献している、と米政府の官僚たちは語った。
ただ、自国兵力の被害が増えているからといって、ウラジーミル・プーチン大統領が心変わりするかは疑問だ。米下院で軍事委員会の委員を務める民主党のジェイソン・クロウ議員は「それ(ロシア軍の被害)がプーチンの計算に影響を与えるとは考えない。彼は負けることを望まない。彼は窮地に追い込まれたまま、その問題に軍を投入し続けるだろう」と述べた。
●ロシア ウクライナ侵攻 マリウポリの劇場破壊 救助活動続く  3/18
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナでは東部マリウポリで多くの市民が避難していた劇場が破壊され、救助活動が続けられています。一方、両国は停戦交渉を進めていてウクライナの安全保障をめぐる枠組みで進展がみられるかが焦点となっています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は首都キエフの包囲に向けた攻勢を強めているほか、南部の港湾都市、オデッサの近郊の町に攻撃をしかけたとみられ黒海沿岸でも戦闘を激化させています。
また東部のマリウポリでは子どもを含む多くの市民が避難する劇場が破壊されました。現地では救助活動が進められていますが、被害の全体像は明らかになっていません。
一方、ロシア国防省は17日、ウクライナがアメリカの支援で生物兵器の開発を進めていた疑いがあると改めて発表しました。アメリカなどはロシア軍がこの主張を利用して、逆にウクライナで生物兵器や化学兵器を使用するのではないかと警戒を強めています。
交渉 “安全保障めぐる枠組みで進展みられるか”
こうした中、ロシアとウクライナの停戦をめぐる交渉はオンライン形式で続いていてロシア外務省のザハロワ報道官は17日「軍事的、政治的、人道的な問題が話し合われている」と述べました。
交渉ではロシアが強く要求してきたウクライナの「中立化」をめぐり、NATO=北大西洋条約機構に加盟しない代わりになる別の安全保障の枠組みについて議論が続いているとみられます。
これについて双方の仲介役として動くトルコのチャウシュオール外相はウクライナのクレバ外相との会談後「国連安全保障理事会の常任理事国とドイツ、それにトルコが参加するウクライナの安全を集団で確保するための協定についてウクライナから提案があった」と明らかにしていて、安全保障をめぐる枠組みで進展がみられるかが焦点となっています。
ただウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は双方の主張の隔たりは依然として大きく、合意にはまだ数日から1週間半ほどかかるという見通しを示しています
米国務長官「ロシアが化学兵器使用しうその主張する可能性も」
アメリカのブリンケン国務長官は17日の記者会見で「われわれはロシアが化学兵器を使ったうえでそれをウクライナがやったとうその主張を展開し、みずからのウクライナの人々に対する攻撃の強化を正当化しようとしているかもしれないと見ている」と述べ、ロシアが攻撃を正当化するため化学兵器を使ってそれをウクライナ軍が使ったことにする虚偽の主張をする可能性があるという見方を示し、けん制しました。そして「より大規模な軍事行動を正当化するためにジェノサイドをねつ造するのはロシアがこれまでもとってきた方法だ」と述べました。
またブリンケン長官はバイデン大統領がプーチン大統領について「戦争犯罪人だ」と述べたことに関連し「個人的には同意する」と述べました。
さらにウクライナ東部のマリウポリで大勢の人が避難する劇場や病院が攻撃されたとして「意図的に市民をねらう行為は戦争犯罪だ」と指摘しました。そのうえでアメリカ政府として戦争犯罪が疑われるロシア軍の行為を調査しているとして「われわれの調査が戦争犯罪を捜査し責任を追及する国際的な取り組みに役立つと確信している」と述べて、戦争犯罪や人道への罪などの捜査を担う国際刑事裁判所に協力していくとしています。
●ウクライナ マリウポリ 市民避難の劇場が破壊 救助活動難航か  3/18
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナでは、東部のマリウポリで大勢の市民が避難していた劇場が破壊されましたが、依然として被害の全容は明らかになっておらず、救助活動は難航しているとみられます。一方、アメリカ国防総省の高官は、これまでにロシア軍が発射したミサイルが1000発を超え、民間人に対する攻撃が増えていると指摘していて、人道危機への懸念が強まっています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、首都キエフの包囲に向けた攻勢を強めています。
こうした中、東部のマリウポリでは、子どもを含む大勢の市民が避難していた劇場が破壊されましたが、依然として被害の全容は明らかになっておらず、救助活動は難航しているとみられます。
マリウポリの市議会は17日、SNSの「テレグラム」に投稿し「ロシア軍による攻撃が連日のように続き、1日当たり50発から100発の砲撃を受けている」としたうえで「街は16日間にわたって封鎖されていて、およそ3万人が脱出したものの、35万人以上の住民がシェルターや地下室に隠れて生活を続けている」と明らかにしました。
また、ICRC=赤十字国際委員会のペーター・マウラー総裁は、キエフからのオンラインでの記者会見で、マリウポリでの支援活動が全くできない状況になっているとして、人道危機が深まっている現状に強い懸念を示しました。
一方、アメリカ国防総省の高官は17日、これまでにロシア軍がウクライナ全土に発射したミサイルが1000発を超え、民間人に対する攻撃が増えていると指摘しました。
また、キエフの北西と北、それに北東にいるロシア軍の地上部隊には、目立った前進はないものの、キエフ中心部に最も近い北西15キロの地点の部隊に、後方から進んできた砲兵部隊が合流する動きが見られると明らかにしました。
さらにこの高官は、ロシア軍が長距離からキエフを砲撃し「街を徐々に破壊しようとしている」としたうえで「引き続きキエフを包囲したいと考えており、遠くから砲撃する能力を向上させようとしている」という分析を示しました。
ロシア軍の被害状況について、アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは16日、これまでに7000人以上が死亡し、1万4000人から2万1000人が負傷したとみられると伝えています。
一方、ロシア国防省は17日、ウクライナがアメリカの支援で生物兵器の開発を進めていた疑いがあると改めて主張しました。
これに対し、アメリカのブリンケン国務長官は「ロシアがうその主張を展開し、みずからを正当化しようとしている」と非難しました。
●軍事力で大きく劣るウクライナ軍が、ロシア軍を相手に善戦できる理由 3/18
クリミアを無血併合したロシアのハイブリッド戦
2月22日に開始されたロシア軍のウクライナ軍事侵攻は迅速だった。紛争直前に米国情報機関は「ロシア軍が侵攻した場合、キエフは2日以内に陥落する」と分析していた。
ところが軍事力で大きく劣るウクライナ軍は予想に反して善戦している。その理由はどこにあったのか?
ロシア国防省は戦闘開始の24日早々に「ウクライナの軍事インフラ、防空システム、軍用空港、空軍は高精度の兵器で無力化された」と声明を出した。そのため、侵攻直後にウクライナは壊滅的な損害を受けた可能性があるとして、多くのメディアがロシア優勢と報じた。
同日にはウクライナの首都キエフ、ハリコフ、ドンパス、オデッサ等で爆発が確認された。複合的攻撃でロシア優勢を印象づけ、「戦いは終わった、すでにウクライナは現状変更された」と欧米諸国に誤認識させれば支援や抵抗を阻むことができ、ロシアの勝利は容易だ。
だが、ウクライナの防空網は今も健在であり、3月10日、オデッサへの上陸作戦を試みたロシア軍揚陸艦もクリミアへ引き揚げた。開戦直後のロシア軍優勢情報のほとんどが意図的に発信された虚偽情報だったことが明らかになってきた。
強硬姿勢を貫くプーチン大統領には2014年のクリミアの分離独立とロシア連邦への編入成功の実績があった。情報遮断とサイバー攻撃を使い、無血で勝利を勝ち得たハイブリッド戦だった。
クリミア危機ではウクライナ海軍艦艇の海路を3隻の船を沈没させて妨害、幹線道路や空港を封鎖、海底ケーブルを切断して完全な情報網遮断を成し遂げた。こうして孤立したクリミアで、ウクライナからの分離独立が議会決議された。さらにそのロシア制圧下で住民投票が行われ、圧倒的多数でクリミアはロシア連邦への加入を承認した。
2014年のクリミア危機当時のウクライナ兵士への聞き取り調査で、通信網遮断後のロシアはウクライナ軍用通信や商用携帯ネットワークにウクライナ軍の上官名で「撤退しろ」とメールを送ったことが明らかになった。
情報遮断下ではメールの真偽を確認できない。ウクライナ軍はこの情報かく乱工作に翻弄(ほんろう)された。情報遮断後のサイバー攻撃、電子戦で優位に立ち、クリミアを併合した勝利体験を、再びロシアは繰り返そうと考えたのではないか。
クリミアを無血併合した直後のプーチン大統領の支持率は85%を記録した。ロシアのクリミア併合は「ハイブリッド戦」と呼ばれ新たな戦争の形態となった。プーチン大統領の支持率は、戦争をすれば必ず上がっている。今回のウクライナ侵攻でも支持率は67.2%から77.4%に上がった。
SNSに多数寄せられたロシア軍優勢の偽情報
ウクライナ侵攻では真偽不明なロシア軍優勢との情報がSNSに多数寄せられた。
一例を挙げると、キエフ近郊のドニエプル川付近で、ロシア軍のスホイ25(Su-25)が飛行する動画が軍事侵攻直後に投稿された。SU-25はかなり古い戦闘機であり、ステルス性もない。この旧式戦闘機が首都キエフ近くを飛行できるのであれば、すでにウクライナ防空網が破られた証拠となる。
しかし、ウクライナ軍は本をただせばソ連軍であり、当時の同型戦闘機を所持している。不鮮明なSU-25の画像では、ウクライナ空軍の機体かロシア軍のものかは判別できない。
外国のメディアやSNS(フェイクニュースを含む)に自らに都合の良い情報をばらまき、国際世論を誘導し、相手国の指導者や関連諸国の政策決定を(この場合はロシアの)都合の良い方向に変えることを認知領域戦という。情報社会の新たな戦争形態だ。ロシアはサイバー攻撃とともに、認知領域戦もここで仕掛けていたのだ。
ウクライナ首都、キエフはベラルーシに近接しており、敵を迎え撃つリアクションタイムがわずかしか取れない。それゆえ、攻撃を遅らせる縦深防御(じゅうしんぼうぎょ)が難しい。敵の損失や犠牲を増やす(縦深性防御力)が弱いため、制空権が奪われれば、キエフは数日で容易に陥落していた可能性があった。
2月26日にロシアの国営通信RIAノーボスチが“ロシア勝利宣言”の予定稿を誤配信し、世界中に拡散された。この誤報からも、ロシアが短期決戦をもくろんでいたのは明らかだ。
マスク氏による衛星通信網の提供でロシアのハイブリッド戦が困難に
しかし、この膠着状態を変えたのは、衛星通信に関する先端のテクノロジーだった。
テスラCEOであり、宇宙開発企業のスペースXを率いるイーロン・マスク氏は、スペースXが21年に始めた小型衛星を利用した高速インターネット接続サービス「スターリンク」をウクライナで提供することを明らかにした。
これにより、仮にウクライナで地上の通信施設が破壊されても、インターネットにつなげるようになる。
スターリンクは比較的低い軌道で高機能の衛星を多数運用することで、これまでネットワーク環境構築が難しかった地域にも良好な通信環境を構築可能なサービスだ。
スペースXは2020年から3年にわたる米陸軍の運用テスト契約中でもある。スターリンクは米陸軍からもテストオファーされるほどの可能性が認められたネットワークだ。すでに2000基以上の衛星を打ち上げている。
なぜこのようなことが実現したのか。
ウクライナのミハイロ・フョードロフ副首相兼デジタル変革相は2月27日、イーロン・マスク氏に対して、ツイッターで次のように訴えた。
「ロシアがウクライナを占領しようとしています。あなたのスターリンクステーションを提供いただき、ロシアに立ち向かわせてください!」
すると10時間後、イーロン・マスク氏本人から次のようなツイートがあった。
「スターリンクサービスはすでにウクライナでアクティブとなっています。さらに多くのターミナルもあります」
このイーロン・マスク氏のツイートを、「ボタンを押して歴史の流れを変えた」と、ウクライナ政府のみならず全世界が称賛した。
ハイブリッド戦で勝利するには、情報遮断が大前提となる。これを阻止したのは、ウクライナ軍ではなく、民間企業の持つ最新衛星通信網、テクノロジーだった。
ロシアの戦闘機が多数撃墜される理由
こうして良好な通信ネットワークが確保できたことで、SNS上では、一般市民からもロシア軍の動向を伝える動画や写真があふれた。特にTikTokやYouTubeなどの動画サイトへの投稿が、西側の軍事関係者にロシア軍の情報をもたらした。
ウクライナの防空網は現在も健在であり、ロシア空軍の戦闘機はレーダーに捕捉されないように低空飛行している。ロシアもウクライナも旧ソ連軍当時の戦闘機を持つ。一部の戦闘機の性能はロシア軍が勝るが、互角の戦闘機であれば上空にいる方が圧倒的に有利だ。
ロシア空軍の戦闘機が多数撃墜された理由もわかってきた。低空飛行を強いられる戦闘機には地上からの対空攻撃が可能だ。ウクライナ空軍は制空権があり、レーダーにロシア軍戦闘機の姿ははっきり見えているのだ。
上空にいる戦闘機は位置エネルギーを持つ。上から投げたボールは早く下におちるが、下から放り上げたボールは速度を失う。この原理が戦闘機の攻撃でも起こる。上にいる方がより早く、より強力に攻撃可能だ。さらに空気が薄い上空での飛行に比べて、低空飛行は空気抵抗が高く、速度が出しづらい。
ロシア戦闘機の撃墜動画を確認すると、初歩的なミスで撃墜されている例もある。1983年に運用開始のウクライナ軍のミグ29(MiG-29)が2007年運用開始のロシア軍のスホイ34(Su-34)を撃ち落とす動画も存在する。
ロシア空軍は十分な戦闘機訓練を受けていないパイロットを投入したのではないかと疑うほどだ。しかも、空爆の動画では、ロシア軍が誘導爆弾を使っておらず、攻撃目標が定まらない攻撃をしていることもわかる。補給線問題もありそうだ。
ロシア軍はウクライナ侵攻に複数箇所からの一斉攻撃を仕掛けたが、武器弾薬補給用の仕組みをつくり戦いを継続することを考慮していなかったのではないか?
以上がウクライナ軍の善戦の理由だ。ロシア軍の動きを正確に把握し、偽情報に踊らされないための衛星通信網が戦況を変えた。民間企業が国家の枠組みを超えて安全保障の一翼を担うプレーヤーとなる新たな展開だった。
●ウクライナ侵攻で広がる企業の“ロシア離れ” 3/18
ロシアがウクライナに軍事侵攻してから3週間がたちました。国際社会からロシアへの非難が強まる中、欧米の企業の間では“ロシア離れ”の動きが広がっています。ロシアでビジネスを続けてきた日本企業も対応を迫られています。米エール大学のまとめでは、何らかの対応を取ると発表した世界の企業や団体は17日の時点であわせて400以上。最新の状況をまとめました。
世界を代表する企業が次々と
ロシアから距離を置く動きを見せているのは、世界的に名前が知られた大企業です。ITやファッション、製造業から金融まで、あらゆる業種に広がっています。
   IT
アメリカのIT大手アップルは今月1日、「ロシアによるウクライナへの侵攻に深い懸念を抱いている」と表明。ロシア市場でシェア1位のスマートフォンをはじめとするすべての商品の販売取りやめを発表した。
・マイクロソフト ロシアにおけるサービスと製品の新規販売をすべて停止。
・グーグル 検索サイトやYouTubeの広告サービスを一時停止。
・アマゾン ロシアに向けた商品の配送やクラウドサービスの契約の受け付け停止。
   外食・食品
アメリカのハンバーガーチェーン大手のマクドナルドは8日、「ウクライナの罪のない人々に言い表せない苦しみを引き起こしている」として、ロシア国内のおよそ850の店舗の一時閉鎖を発表。モスクワの店舗では閉店前に多くの人が訪れ、店の外まで長い行列ができた。
・スターバックス ロシア国内に少なくとも100ある店舗の営業を停止。
・コカ・コーラ ロシアにおけるすべての事業を停止。
   家具・ファッション
スウェーデン発祥の家具大手イケアは3日、ロシア国内の店舗の営業を一時停止すると発表。ロシアとの間の製品のやり取りも停止。軍事侵攻を非難するとともに、サプライチェーンや貿易の混乱が深刻であることも訴えた。
・シャネル ロシア国内の店舗を一時閉鎖ロシアへの商品配送やオンライン販売も停止。
・プラダ ロシアでの店舗販売を停止。
・H&M ロシア国内の営業を一時停止。
・ナイキ ロシア国内での注文受け付けを一時停止。
   自動車・航空機
ドイツの大手自動車メーカー、フォルクスワーゲンは3日、軍事侵攻を「大きな落胆と衝撃」と表現し、ロシアにある2つの工場での車の生産を停止することを発表。ロシアに向けた車の輸出も停止した。
・フォード ロシアにおける合弁事業の停止。
・ボルボ トラックの現地生産と乗用車のロシアへの輸出を停止。
・ボーイング ロシアの航空会社に対する機体のメンテナンスや技術的な支援を中断。
   クレジットカード・金融
アメリカの大手クレジットカード会社、マスターカードとビザは、それぞれ5日、ロシアでのカード事業の停止を発表。ロシアの金融機関が発行した両社のカードの決済ができなくなった。ほかの国で発行されたカードもロシア国内で使えなくなった。
・ゴールドマンサックス アメリカの主要金融機関で初めて、ロシア事業からの撤退を表明。
   エネルギー
イギリスの大手石油会社シェルは8日、原油や天然ガスなどの調達を終了させてロシア事業から完全に撤退すると発表。軍事侵攻のあともロシアから原油を購入していたことについて「正しい判断でなかった」と釈明した。
・エクソンモービル ロシア極東のサハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン1」の稼働を中止し、撤退に向けた手続きを始めると発表。
情報統制の影響挙げる企業も
ロシア事業を停止する企業の中には、情報統制が厳しくなっていることを理由に挙げるところもあります。
・TikTok 動画投稿サービスを停止。
ロシア軍の活動について意図的に誤った情報を拡散した個人や団体に罰則を科すとする法律の改正案にプーチン大統領が署名したことで、従業員やユーザーが不利益を被るリスクを配慮したとしている。
・ネットフリックス ロシア国内でのサービスを停止。
一定規模以上の動画配信サービス企業に対し、政府系テレビ局などの放送の配信を義務づけるロシアの新しい法律には従わないと表明。
日本企業も対応迫られる
ロシアの軍事侵攻をめぐり事態が深刻化するなか、日本企業の間でもロシアでの生産や輸出を停止する動きが広がっています。
・トヨタ自動車 ロシアでの現地生産・完成車のロシアへの輸入停止。
・日産自動車 ロシアでの現地生産・完成車のロシアへの輸入停止。
・パナソニック ロシアとの取引は原則停止。
・コマツ 当面、ロシア向けの出荷を見合わせ。
・日立製作所 ロシアへの輸出、電力設備を除くロシア製造拠点の稼働を順次停止。
・ソニーグループ ゲーム機「プレイステーション」とソフトウエアについてロシアへの出荷を停止。ロシア向けオンラインストアも運営を停止。
・任天堂 ロシア向けオンラインショップでの販売を停止。
・資生堂 ロシア向け輸出出荷を停止、ロシアでの広告宣伝など中止。
・花王 ロシアへの輸出出荷・広告活動を停止(女性や乳幼児の衛生的な暮らしを最低限維持できる製品のみ継続)。
・ファーストリテイリング ユニクロのロシア事業一時停止。
日本企業への影響は
物流の混乱や不透明な経済状況など、企業によって事業を見直した理由はさまざまです。
JETRO=日本貿易振興機構がロシアの軍事侵攻が始まった直後の2月に、ロシアでのビジネスへの影響について複数回答で尋ねたところ、下記のような結果になりました。
・ルーブルの下落に伴う販売価格への影響など(71%)
・海外送金や入金決済の困難(52%)
・通関以外の物流面の混乱(40%)
調査を行ったJETRO海外調査部ロシア・CIS担当の下社学主幹は、今後、現地での事業の縮小や撤退に踏み切る企業が出てくる可能性を指摘します。
下社学主幹「ロシアに対する経済制裁の緩和は見通しが立たないと思いますし、いったん定着してしまったネガティブなイメージを覆すことは容易ではない。サプライチェーンの混乱などもあるなかで、限られた資源やリソースをいかにうまく配分していくかという中においては、事業の縮小、さらに撤退を余儀なくされる企業も出てくるかもしれない」
ロシアは強く反発
企業のロシア離れに、プーチン大統領は強く反発しています。
10日には、「生産を停止する企業には断固とした態度で臨む必要がある」と述べて、撤退を決めた外資企業の資産をロシア側のものにする考えを示しました。
このプーチン大統領の反応を、一般社団法人・ロシアNIS貿易会モスクワ事務所の齋藤大輔所長は、雇用や社会の安定を維持するためロシア離れの流れを食い止めようと強くけん制したものだと分析しています。
齋藤所長も、ロシアでのビジネスの先行きは厳しいと見ています。
●30代ロシア人2人が語る「私たちの偽らざる本音」  3/18
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから17日で3週間が経った。国連やウクライナ当局によると、既に何千人もの民間人が犠牲となり、300万人以上が国外に退避した。その一方、ロシア各地で反戦デモが起きている。
筆者はロシアの若い世代の2人に、今回のウクライナ戦争に対する見方やロシア国内の世論の動向をリモートで取材した。
取材は英語で行ったが、2人とも、ロシア当局が「虚偽」とみなす情報を発信した者に最大で15年の禁錮や懲役を科す法律を制定したため、取材当初は「War」(戦争)や「Military actions」(軍事行動)という言葉を使わず、慎重を期して「Conflict」 (紛争)との言葉を使用していた。
しかし、この情勢下、ご本人たちへの影響を鑑みて「インタビューは匿名とする」との条件を示すと、「戦争」や「軍事行動」が使えるようになった。こうしたやり取り1つとっても、プーチン体制の言論統制の厳しさを浮き彫りにしていた。2人へのインタビューを順に紹介したい。
モスクワで働くロシア人女性(31)
――ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いています。どのように見ていますか。
私には今、起きていることはすべて外交の失敗のようにしか見えません。私は欧州をはじめとする西側のすべてのリーダーがこのような状況を予想していたと思います。しかし、彼らは何もできなかった。今回の紛争にそもそも興味を持っていた国々があったと思わざるを得ません。
――他のロシアの人々はどのように見ていると思いますか。
私が知る限り、社会はかなり分裂しています。特にモスクワがそうですが、大都市に住む大半の若者は、いかなる軍事行動も支持していません。
その一方、40歳以上の人々の中には、「NATO(北大西洋条約機構)の潜在的な脅威」から国を守るためにロシア政府が正しいことをしていると信じる人も少なくないと感じます。また、このような人々の多くは、今回の作戦が防御のための作戦だと思っています。彼らは実際のところ、ウクライナで亡くなっている民間人について多くの情報を得られていません。
ウクライナに親戚や友人がいる人々は、もちろんそれとは違った感情を持っています。彼らはどうしてこのような状況に陥ったのかを理解できません。これが最大の問題です。つまり、問題を解決できていない政治がはびこりすぎている。ウクライナとロシアの間には密接な繋がりを持つ何百万人もの人々がいる中、政治的陰謀で離ればなれにされてしまっている。
外国に旅行に行ったこともない人もいます。他の言語ができない人もいます。字を読めない人もいます。彼らはただ働き、日々自らのパーソナルライフのみに集中しています。彼らは真実を発見しようとする必要性をまったく感じていません。彼らはローカルニュースを見聞きし、それを信じているのです。
――あなたの場合は?
私は、ロシア語のほか、英語とドイツ語ができ、国内外から情報を得ています。
――あなたはモスクワに住んでいますが、経済制裁の影響を感じていますか。
いえ、まだ実感していません。経済制裁の影響が感じられるまでには、何カ月もかかるのではないかと思います。
――ロシア各地で反戦デモが起きていますが、プーチン政権は崩壊すると思いますか。
これから先のことを誰がわかるでしょうか。今は何事も予測不可能になっています。もう何も確信が持てません。
ドイツ・ベルリン在住、会社員のロシア人女性(32)
――ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いています。どのように見ていますか。
人命が失われていることを目にするのはとても悲しいことです。おぞましいです。すべての人命が重要です。
しかし、今回の紛争については、私自身はイエスともノーとも簡単に答えることができません。経済分析を基にして考えると、今回の紛争にはあらゆる当事者が関わり、不可避だったと思っています。そして、あらゆる当事者が紛争に向けて準備をしてきました。
私は、主として国際金融制度の変化と両国の対立が紛争のきっかけになったと思っています。そして、誰も今回の紛争について、あらゆるサイドから見た情報を提供できずにいると思っています。フェイスブックやツイッター、ロシアの放送チャンネルなどこれらすべてのプラットフォームが検閲を受けています。
これはいわゆる「認知戦」(筆者注:民意を操って意思決定に影響を与えるとされていて、第6の戦場とも言われている)です。各自のスマートフォンの画面が戦場になっています。
――あなたは今、ベルリンにいます。ベルリンでもウクライナからの避難民を見たり、聞いたりしていますか。
はい。私の友だちが実際に彼らを助けています。私も彼らのことを気の毒に思っています。紛争が一刻も早く終わることを祈っています。しかし、願いに過ぎません。私たちにはそれを止める力がありません。
私は戦争についてのグループソウル(類魂)にエネルギーを費やしたくありません。その代わりに平和を祈っています。
――ロシア国営テレビのニュース番組生放送中に「戦争反対」のプラカードを掲げて拘束された女性についてはどう思いますか。
彼女はヒーローです。モスクワでは今、戦争を支持している人はそれほど多くありません。彼女は大変な勇気を持って、ライブ配信中に規則を破り、自らの行動がもたらす法的結果を覚悟していたと思います。彼女の行動は、ロシアの多くの人々の間で共感を呼んでいます。
ただ、ちょうど同じ頃にウクライナ陣営によってドネツクの民間人が殺されていたということも報道されています。彼女の行動によって、このことから人々の目がそらされてもしまいました。
ロシアの世論はSNSで変わるか
以上、ロシアの若い世代の2人の声を紹介した。今回インタビューした2人はいずれもモスクワなど都市部では反戦ムードが強いとみている。ウクライナの民間人犠牲者増加の情報がロシア国内にうまく伝われば、同国の世論もさらに相当変わる可能性がある。
プーチン大統領は厳しい言論統制をしき、そうはさせないよう強化するだろう。しかし、ソーシャルメディアを通じて戦場からリアルタイムで届けられる情報の拡散はとどまるところを知らない。プーチン政権の行く末を見るうえでも、ロシアの世論の動向に注目したいところだ。
●プーチン氏は「人殺しの独裁者」 米バイデン大統領、ロシア侵攻批判 3/18
アメリカのバイデン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領を「人殺しの独裁者だ」と厳しく批判しました。
アメリカ バイデン大統領「アイルランドやイギリス、その他の国民がウクライナの人々に非道な戦争を行っている真の悪党で人殺しの独裁者に対して団結している」
バイデン大統領は17日、ロシアのプーチン大統領を「人殺しの独裁者だ」と呼んだうえで、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を改めて批判しました。
また、前日にバイデン大統領がプーチン氏を「戦争犯罪人だと思う」と発言したことについて、ブリンケン国務長官も「個人的には賛成だ。意図的に市民を標的にするのは戦争犯罪だ」と強調しました。
●「ウクライナの安全よりも経済を優先させた」ゼレンスキーがドイツを批判 3/18
ロシアによる軍事侵攻が続く中、ウクライナのゼレンスキー大統領はドイツ議会で演説し、ドイツはウクライナの安全よりも経済を優先させたと批判した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、ドイツの連邦議会でビデオ演説した。ロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルド・ストリーム2」  について、「我々がロシアの戦争への準備だと伝えた際にドイツ側はこれは単に経済活動だと答えた」と批判した。
また、今はベルリンの壁ではなく「自由と不自由の壁がある」と述べ、その壁はウクライナを助ける決断が見送られる度に高くなるとして、ショルツ首相に対し「この壁を壊してほしい」と訴えました。
CNNによりますとショルツ首相はその後の会見で、ゼレンスキー大統領の演説に心をうたれたと述べ、「戦争を終わらせるためにあらゆることをする義務があると感じている」と強調した。
●憲法九条では日本を守れない、ウクライナ侵略が示す日本の欠陥 3/18
国際法を無視する大国の横暴が止まらない。
明治維新直後に米欧を回覧してまわった岩倉具視代表団にプロシア宰相のビスマルクが語った「万国公法(今日の国際法)は強国に味方する」という言葉が思い起こされる。
強国は国際法を破ってでも自国の意思を通し、正統性を主張するため油断してはならないと警告したのだ。
戦後は「力で一方的に現状変更してはならない」というのが通念であるが、ロシアの今次のウクライナ侵攻ばかりか、クリミア半島の併合も力による一方的な現状変更の試みであった。
しかし、国際社会は見て見ぬふりをしてきた。
中国が南シナ海で人工島を築いて領有権を主張していることや、尖閣諸島を核心的利益として自国領化しようと企んでいるのも一方的な現状変更である。
こうした国際法違反のなし崩しに対して国際社会の対処はあまりにも生温かった。自分の国は自分で守る以外にないという現実を示している。
本論ではウクライナ問題が反面教師として教える日本の実情について検討する。
国際法を捻じ曲げて正当化する大国
中国の薛剣(せつけん)・大阪総領事は、「弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚か(な行為)をしてはいけない」とツイッターに書き込んだ。
中国が「核心的利益」を言えば素直にを是認せよというもので、大国の横暴以外の何物でもない。無茶な言説であり、総領事個人の考えというよりも、中国の考えそのものでもあるようだ。
ウクライナ問題でロシア大統領のウラジーミル・プーチンは「ウクライナを攻撃しない」と語っていたし、実際に侵攻しキエフを指呼の間に収める現在に至っても、ラブロフ外相は「ロシアはウクライナを攻撃していない。特別軍事作戦をしているだけだ」と語っている。
中国の核心的利益やロシアの特別軍事作戦は「侵攻」を正統化し、「侵略」を否定して自国領や傀儡政権樹立に道を開くものである。
ロシアのウクライナ侵攻は紛れもなく侵略である。
多数の無辜のウクライナ国民の犠牲を前に、国際社会の大半が一刻も早い停戦を望んでいる。
ロシアの侵攻が成功し、国際社会が看過するならば、尖閣諸島や台湾を併呑する意思を隠していない中国の暴挙をも許すことにつながる。
国連安全保障理事会をはじめとする国連の戦争抑止機能に欠陥があることが白日の下にさらけ出された。
ウクライナ問題が一段落した後には、21世紀にふさわしい戦争抑止の国際機構を模索する必要がある。その際は、拒否権などの特権を大国に認めることがあってはならない。
ウクライナの願望
ソ連の食糧庫と称されたウクライナはスターリン治世の1930年代に食糧を強制的に収奪され、大飢饉となり300万人とも600万人とも言われる餓死者(ホロドモール)を出した。
ソ連崩壊後は独立したウクライナであったが、2014年にはプーチンによって海軍基地としての立地に優れたセバストポール基地を含むクリミア半島を奪われた。
独立派と親ロ派が拮抗する紆余曲折を経て、俳優として大統領を演じただけで政治経験が全くないゼレンスキー氏を大統領に選ぶ。純粋に自由を尊重する西側と共に生きたいという願望の表れであった。
それを「良し」としないロシアは東部ウクライナの親ロ派を支援して独立を承認する。その独立国が支援を要請してきたとしてプーチンは援軍を送る。筋書通りの流れである。
2月に入ると、独立共和国の東部方面ばかりでなく、不法占拠した南部のクリミアと北部に位置するベラルーシの3方面で演習と称して約10万の軍隊を展開した。
政敵を次々に倒してきたプーチンに敵対するものはないといわれた大統領である。
閣議はともかく、最高級の指揮官会議などでは高級将校から(ウクライナ侵攻への)反対や危惧の念が出たようであるが、聞く耳がなかったとされる。
実際、ウクライナに侵攻すると兵員の士気は振るわず、燃料の補給も思うようにできない状況に置かれた。
クリミア半島の強奪で国民の支持を得たプーチンであるが、ウクライナ侵攻では国内からも反対の声が上がり、「裸の王様」になっていたことが日を追うごとに明らかになりつつある 
国連安保理ではロシアが非難決議を拒否権で葬ることができたが、国連総会では141か国が賛成し、反対はわずかに自国やベラルーシを含む5か国、中国さえ反対に回らずインドなどと共に棄権(35か国)した。
世界の多くの国は、派兵こそしないが兵器や弾薬などをウクライナに追送し支援している。
ウクライナは平和願望が強い国で、ロシアとは兄弟国とさえみなされる関係にあったことから、軍事力と言えるほどの軍事力を有していなかった。
軍事力の必要を感じたのはロシアがクリミア半島に侵攻した2014年以降とされる。
それでも、当時は親ロ政権であったため、本格的な軍事力育成は現ゼレンスキー大統領(2019年5月就任)になって以降である。
首都キエフは3日で陥落するという見方さえあった。しかし、侵攻開始から10日経った時点ではキエフから25キロ地点まで近づいたが、その後は停滞していた。
侵略開始から3週間を迎えた現在、補給線などを立て直して3方向から首都を包囲しつつある。しかし、ウクライナ軍の強力な抵抗を受けている。
侵攻数日でウクライナの首都キエフを陥落させ、ゼレンスキー大統領の身柄を確保できると見られたプーチン大統領の初志は完全に裏切られた。
ウクライナが明らかにする日本の問題点
ロシアによるウクライナへの侵攻とその後の状況から、日本が汲み取るべき数々の教訓が得られる。
 ・戦争は当方が好まないでも相手次第で起きる
 ・最高指導者の安全(健在)と指揮の連接
 ・最高指導者の発信、特に戦時発信で国民を鼓舞
 ・デマの否定と正確な情報の伝達
 ・国際社会を味方につけることの重要性
 ・核兵器の脅威が存在する
 ・原子炉攻撃がありうる
 ・軍隊の士気
 ・兵站の確保(ガス欠では動けない)
 ・国民の国防意識
 ・シェルターや地下壕、退避場所としての地下鉄の整備
 ・非常用衣食(ウクライナでは1か月とも)の準備
軍事的専門事項は軍隊自体の問題であろうが、軍隊が機能する前提は政治にあり、その基底は憲法や国民教育などにある。
列挙したほとんどすべての項目が日本では欠落か不足しており、明日と言わずに即刻、詰める必要がある。
念のために、いくつかを取り上げて、政治家や国民の猛省を促す。
理念も地勢も通じない現実世界
日本では平和は念願すれば達成されるとか、「憲法9条で戦争放棄する国を攻撃する国はない」などとして、9条を「守り神」とする政党や言説が流布してきた。
他方で、9条の改正や廃止を唱える党や人々を「好戦派」とか「戦争勢力」として非難・攻撃の対象にしてきた。
しかし、ウクライナの状況からは戦争を好まないでも相手次第で起きることが明確になった。普段から抑止力としての軍隊を保持する必要があることを教えている。
四面環海という日本の地勢(立地)を取り上げて、国境を接する国との違いを強調する国民もいる。
しかし、20世紀以降は、航海や飛行がさほど発展していなかった19世紀までとは根本的に環境は異なってきた。第1次世界大戦、第2次世界大戦では艦船や航空機が活躍して海の障害を低下させた。
今日においては中長距離の各種ミサイルが装備され、また宇宙・サイバー・電子戦の戦いとも言われるように、ほとんどの場合において海が制約になることは少なくなってきた。
それどころか、潜水艦などを利用して隠密に近傍まで接近できる利便性さえ提供する状況である。
最高指揮官の発信と国を守る国民の意志
ロシアの侵攻を受けたウクライナでは成年男性の国外脱出を禁じている。
国家防衛の戦力として活用するためであり、国民は支持している。男性が国外脱出する女性と子供、老人を見送る風景が連日報道されている。
事実を国民に知らせ奮起を促す大統領の発信で、国民は国の防衛に一致団結して立ち上がっている。まさしく 「自分の国は自分たちで守る」という姿勢を示している。
ウクライナの非常な決意と悲惨な状況、ロシアの非道に怒る国際社会は、武器や弾薬をウクライナにどんどん送り込み支援を惜しまない。
ウクライナのこうした姿勢を見ながら、思い出されるのは日本の現状である。
作家の佐藤愛子氏は、しばしば日本男児の愛国心の欠如を批判してきた。
何年か前の話であるが、インタビューで「(戦争になれば)逃げる」と答えた人を、「どこに逃げるというのだろうか」「逃げる場所があるとでも思っているのだろうか」と突き放し、男たちの軟弱化を嘆いていた。
今日でも同様のアンケートへの答えはあまり変わっていないように見受ける。現実のウクライナ情勢も長年の「平和」教育で受けた意識を転換させるのは容易ではないであろう。
国家の防衛という大問題は、国民に期待する以前に政治に期待すべきであろう。
しかし、核の脅迫があっても政府は非核三原則云々と言葉を濁し、また原発施設への現実的な攻撃が行われても、地方自治体は「非核平和宣言都市」の看板を下ろして核シェルターなどの「備えの必要性」に移行する姿勢を一向に見せない。
近年、教育機会の平等の一方で、エリート教育の必要性が叫ばれている理由が理解できる。
政治は何を決めてきたか
ウクライナが世界の国々に戦争のための武器・弾薬の支援を求めている。日本にも対戦車砲を含む支援を求めてきた。
しかし、日本は武器・弾薬はおろか装備品についても「防衛装備移転三原則」で、紛争当事国への移転を禁じている。
しかし、世界がウクライナを支援している状況から、また「力による一方的な現状変更に対抗する陣営の一角」(産経新聞)として、防弾チョッキやヘルメットを提供することにした。
移転原則を決めたときはウクライナのようなケースは想定していなかったため、侵攻されたウクライナを「紛争当事国に当たらない」として提供したとされる。
かつて、自衛隊のいる所が「非戦闘地域」として自衛隊を派遣したと同様に場当たり的というべきか、普段からあらゆる状況を想定してしっかり詰めていないという政治の貧困がさらけ出された。
日本は何かあると、「法的ぎりぎりの決定」とか、「法の空白部分」であったなどという。
これこそが世界の現実に目をつむってきた故の「政治の貧困」と言わずして何というべきだろうか。
現実に自衛隊が海外に派遣されるようになってからも20年以上が経つ。
派遣される自衛隊への命令付与(ポジリスト)の欠陥が指摘されながら、「羹に懲りてなますを吹く」状況を続けている。
自衛隊は文民統制で旧軍とは全く運用を異にしており、政治が世界の現実や自衛隊の現状を見れば、前向きの議論が必要となるであろう。
普段の行政では少々の時間的遅れは許されるかもしれないが、戦争や大規模災害などの非常時においては国家の三要素である領土、国民、主権の全部やいずれかが侵害される。
これまでは憲法9条で日本の防衛は二進も三進も行かなかった。
平時という認識があったのかもしれないが、尖閣諸島への中国公船の侵入は日常化しており、領域侵害が継続して行われているという認識に立つならば少なくも平時ではない。
日本がしっかりした姿勢を示さなければ、薛総領事の発言が真実になりかねない。
防衛の正面から対処するだけでなく、経済安全保障も含めた総合的視点からの対処が必要であり、「大きな市場」という視点だけに目を奪われてはならない。
早急に欠落している穴を埋めよ
撤退企業を国有化するというプーチンの手法は、単なる脅しだけではない。
中国の国防動員法でも在中邦人会社は有事には中国共産党の指示に従い、中国に刃向かう国家(すなわち自国)に対抗する勢力として協力することとされている。
日本の企業はそうした状況に対する予防策を持って中露に進出しているのだろうか。企業の問題という以前に政治の問題ではないだろうか。
戦時下のウクライナにあって、ゼレンスキー大統領は国民に向けメッセージを発信し、またロシアの偽情報を的確に否定している。
日本の場合、安全保障にかかわる法令の欠陥、中でも9条と自衛隊問題だけがクローズアップされてきた。
しかし、それ以上に(あるいは以前に)非常時の行政府の機能、国民の防衛義務、スパイ防止法、在外邦人の保護などについて真剣な議論を交わし、法令を整備していなければ、正しくなし崩し的に、また泥縄式にその場その場を繕わざるを得ないであろう。
今次のウクライナで、東部2州の親露分子は別にして、ウクライナ全土でロシアに唆されたスパイなどの報道が全くと言っていいほど聞かれない。
スパイ防止法などによって普段から敵性分子が厳重に取り締まられてきた結果ではないかと見ている。
日本の場合、スパイ防止法はなく、在日中国人は中国共産党の指示に従うことになっており、日本の至る所に散在する中国資本の土地で蜂起して混乱させ危惧がある。
そもそも、外交関係では相互的であるはずであり、同盟関係にある日米においてさえ大使館や総領事館敷地は賃貸である。
しかし、日中間においては、中国における日本大使館や領事館敷地は賃貸であるが、日本における中国大使館や総領事館敷地は中国の所有となっている。
ここには何らかの意図が隠されており、この歪な状況を改善する必要がある。
この期に至っても軍隊の有無論議など許されるのだろうか。核問題についても然りである。
多数決の民主主義には欠陥も多い。新型コロナウイルス感染症問題でも民主主義諸国では民意の集約が迅速にできず、全体主義国家に後れを取る面も見られた。
だからこそ、平時において有事を想定して法制などを完備しておく必要がある。
おわりに
ウクライナでは成年男性の国外脱出が制限されている。国家非常時に奉仕する義務があるからである。
正規の軍隊では到底太刀打ちできないわけで、多くの市民が義勇兵となって兵器をとり立ち向かっていることも分かる。
憲法でも国民には国を守る義務が科されている。国民も普段から、国家に身を捧げる軍隊と軍人に敬意を払い、その意気が有事には武器を取らせる原動力となっている。
フィンランド、バルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)、ポーランド、ドイツ、チェコ、イスラエルなどを旅して見受けるのは(核)シェルターの表示などで、日本のような「非核平和宣言都市」などの看板ではない。
平和は具体的施策で達成するものであり、願望では達成できないことを知り尽くしているからである。
なお、日本の安全保障上の問題点(欠陥)はすでに十分に分析されているので、この半年間国会議員には土日返上で、問題克服の仮条文作成などをやってもらいたい。
議論が不十分とか拙速であるなどの異論が出るのは承知の上だ。
ロシアのウクライナ侵攻という現実を前にして、もはや「9条云々」などと騒いでいる余裕はない。騒いでいるうちに「日本」自体が消滅するかもしれないからである。杞憂を願うばかりである。 
●プーチン大統領「クズどもと裏切り者をロシアから一掃する」 反体制派への弾圧強化の姿勢 3/18
反体制派への締め付けが続くロシア国内。プーチン大統領は3月16日、国内に裏切り者がいると非難した。
「西側は、いわゆる第5列(スパイ)に望みをかけるだろう。民主主義の裏切り者たちに制裁で我が国を分断し、“第5列(スパイ)”を使って、市民の対立を引き起こそうとしている。その目的はロシアの崩壊だ」
その上で、「クズどもと裏切り者をロシアから一掃する」と発言し、反体制派への弾圧をさらに強める姿勢をみせた。
「ロシア国民は、真の愛国者と人間のクズや裏切り者を常に見分けることができる。口の中に入り込んできたハエを道端に吐き捨てるように排除するのだ」 

 

●ウクライナ“最後の砦”オデッサを緊急取材 日常に忍び寄る戦争の影 3/19
ウクライナ第三の都市・オデッサ。100万人もの人口を有し、黒海に面するリゾート地としても有名なこの都市は、ロシアによるウクライナ侵攻の局面の中で、にわかに重要性が高まっている。
ウクライナにとっての“最後の砦”に、TBSテレビの須賀川拓記者が取材を敢行。そこで目にしたのは、人が消えた街の様子や無数に並ぶバリケード・・・取材中も、突如として空襲警報が鳴り響く。静かに、でも着実に、オデッサの町には戦争が迫っていた。
●サハリンからウクライナへ 2度の戦争に翻弄された日本人男性が帰国 3/19
ロシアのウクライナ侵攻、そして約80年前の第2次世界大戦。二つの戦争に翻弄(ほんろう)された日本人男性が19日、ウクライナから戦火を逃れ、帰国した。降籏英捷(ふりはたひでかつ)さん(78)。1歳で日本統治下の南樺太(現ロシア・サハリン)で終戦を迎え、ソ連の占領後は帰国できず、20代のころからウクライナで生活してきた。孫やひ孫とともにポーランドに避難し、ようやく故国の土を踏んだ。
19日午後5時過ぎ、成田空港の到着ロビーに英捷さんたちが現れた。出迎えた妹で五女の畠山レイ子さん(70)=北海道旭川市=が大きく手を広げ、ロシア語で「とてもうれしい」と言いながら英捷さんを強く抱きしめた。そして、兄で長男の信捷さん(80)=北海道稚内市=が英捷さんと抱き合った。
英捷さんは「日本に到着でき、兄や妹に出迎えてもらえた」とロシア語で語った。さらに「ロシア軍は理由もなくウクライナを攻撃し、市民が犠牲になっている。そして、ロシア側にも犠牲者が出ている」と訴えた。
帰国の手助けをした日本サハリン協会やレイ子さんによると、英捷さんが暮らしていたのは、首都キエフの西約130キロにあるジトーミル。ウクライナ出身のポーランド人の妻と一人息子に先立たれ、一人暮らしだった。
ロシアの侵攻後、英捷さんの自宅近くも攻撃を受け、3月5日、急いで孫息子の妻(27)とひ孫(2)と車でポーランドへ向かった。途中で孫娘(18)と合流したが、車の故障や、食料と飲み水の不足に悩まされた。国境付近では避難する人々の車で大渋滞が発生。一家がポーランドにたどり着いたのは8日だったという。
●「戦争中の情報は霧の中…」ウクライナ在住の日本人、ニセ情報の怖さ体験  3//19
偽情報の恐ろしさを体験した日本人がいる。ウクライナ国営通信ウクルインフォルムで、日本語版ニュースを編集する平野高志さん(40)だ。
平野さんは、東京外国語大学でウクライナ語を学び、2008年に同国に渡った。日本大使館で専門調査員として勤務していた14年、ロシアによってクリミア半島が併合された。ロシア側は、ウクライナ政権を「ファシスト」と非難し、クリミア半島の住民が、ロシア軍の受け入れを歓迎しているかのような偽情報を発信。国の一部が奪われていくさまを目の当たりにした。
平野さんは「多くの人がロシア側の偽情報を信じてしまい、これはまずいと感じた」と振り返る。大使館での勤務の契約が終了した18年、国営通信に入った。「ウクライナ側の情報を発信しなければいけない」との使命感からだった。
平野さんは今もウクライナに残り、戦況に関する記事などを日本語に翻訳する作業を続けている。戦火を逃れながらほとんど外にも出られず、午前9時から深夜1〜2時頃までひたすら書き続けている。
平野さんは、ウクライナ政府側からも誤った情報が発信されていることを認めた上で、こう話す。「戦争中の情報は霧の中にあるようなものだ。批判的に受け止めながら、読者が考えられる形で何とか記事として残し続けている」
●習近平「台湾併合の夢」を萎ませたウクライナ戦争プーチンの沈没 3/19
習近平の挙動不審
ロシアによる現在進行中のウクライナ侵略戦争に関し、中国の習近平政権は開戦の以前からそれを後押しして、プーチンの戦争に事実上加担した経緯がある。
2月4日、北京五輪開幕式に合わせてプーチンが中国を訪問した時、習近平が彼と長時間の会談を行い、「NATO拡大反対」というロシアの主張に対し、中国としては初めて支持するとの態度を明確に示した。
その一方、ロシアからの天然ガスの輸入を今後において大幅に増やすことも約束した。そして中露首脳会談の共同声明においては、双方は両国関係の性格についてそれが「無上限・無禁区」の関係であると宣言した。ある意味では習近平はこの時からすでに、プーチンの戦車に乗ってしまったのである。
習近平からの後押しがあったからこそ、北京から帰国したプーチンがさっそく戦争の準備に取り掛かり、そして中国の意向を汲んで北京冬季五輪の閉幕を待って侵略戦争の発動に踏み切った。ロシアが開戦した2月24日当日、中国は間髪入れずにしてロシアからの小麦の輸入を全面的に開放すると発表した。それは明らかに、ロシアの侵略戦争に対する経済面での支援であろう。
国際社会からの批判と西側の反発を招くことを覚悟の上、中国は堂々ロシアの侵略戦争に加担したのは一体何故か。そこに習近平のさまざまな思惑はあるが、そこのキーワードの一つはやはり「台湾」である。
狙いは一つ「台湾併合」
毛沢東・ケ小平と肩を並べて「中国の偉大なる指導者」として歴史に残るために、習近平は今、台湾の併合に情熱を燃やし、今年秋から始まる自分の政権の3期目の達成すべき最大の目標にしている。
もちろんその際、習近平は台湾併合のために戦争することも辞さないし、武力による台湾占領をきちんと念頭に入れている。彼は今まで、軍幹部と会議するたびに「戦争の準備を整えよう」と指示するのはまさにそのためである。
そして習近平からすれば、プーチンの戦争を後押ししてそれを成功させていたら、それは当然、自分の発動する台湾併合戦争への大いなる追い風となるのであろう。
プーチンのウクライナ侵攻が成功すれば、それは国民を大いに鼓舞し、台湾併合戦争に対する中国軍の自信を高める絶大な効果があるし、党内の慎重論や時期尚早論を封じ込むための好材料にもなる。そしてウクライナがロシアの手に簡単に落ちるようなこととなれば、将来における中国の侵攻に対する台湾の抵抗意欲を削ぐことにもなるのであろう。
その一方、プーチンが欧州で戦争を発動して欧米との対立が激化すれば、アメリカもNATOも力を集中してプーチンに対処しなければならないから、中国の発動する台湾併合戦争に全面的に対抗する余裕はもはやない。つまり習近平からすれば、プーチンの戦争は結局、中国の台湾併合戦争にとっての環境整備となるのである。
さらに習近平からしては、プーチンの戦争に加担することによって中露関係は準軍事同盟的なものとなれば、いざ対台湾戦争を発動した時には中国はもはや、欧米の制裁も国際社会からの孤立化も怖がる必要はない。逆にロシアが今度は習近平の戦争に加担してくることはありうるから、中国にしてはまさに鬼に金棒なのである。
「期待」はずれの泥沼化
このような思惑があって、プーチンの戦争が始まる前から、習近平の中国は露骨にロシアに加担する行動をとっていた。おそらくその時の習近平はプーチンと同様、ロシア軍の快進撃による大勝利を信じて、それに大きな期待をかけていたのであろう。
しかし、まさにここに彼らの誤算があった。いったん戦端が始まってみると、戦局の推移はこの2人の期待を見事に裏切って、まったく不本意な方向へと展開していったのである。
この原稿を書いている3月17日現在、プーチンのウクライナ侵略戦争は3週間以上を経過したが、周知の通り、これまで戦況の推移はロシアにとってはまさに頓挫の連続であった。
ウクライナ人の予想外の果敢な抵抗に遭って、ロシアが開戦当時に想定していた速戦即決の電撃戦は完全に失敗に終わり、双方の対峙が膠着状況となって、ロシア軍のさらなる進軍は何一つ思惑通りに進まない。
今後の戦局がどう展開するかについての予測は筆者の専門範囲を超えているが、大方の見方からしては、ロシア軍が短期間で決定的な勝利を手に入れることはやはり無理ではないのかと思われる。例えキエフなどの大都市を制圧できたとしても、ウクライナ側の抵抗を鎮めることはもはや不可能。ロシア軍とロシアは進むも地獄退くも地獄の泥沼にはまってしまう公算が高い。
欧米全体との戦争になってしまった
その一方、ロシアにとつての最大の誤算と失敗はすなわち、アメリカとNATO同盟国が一致団結してウクライナの決死の抵抗を支援したことである。
欧米諸国が派兵こそはしていないが、それ以外の多くの面では対戦車ミサイルなどの最新鋭武器を惜しみなく提供したり、現場で戦うウクライナ軍に有用な情報を提供したりしてウクライナの祖国防衛戦を外から支えた。これがあるからこそウクライナがそれほどまでに善戦したわけであるが、ある意味では今の戦争はすでに、ロシア対欧米全体の戦争となっているのである。
それと同時に、西側が一致団結してロシアに対する未曾有の厳しい経済制裁を加えた。国際的ドル決算システムからロシアを排除した制裁措置にしても、ロシアから石油や天然ガスを禁輸したり輸出量を減らしたりする措置にしても、もともと脆弱であったロシアの経済に致命的な打撃となろう。そのままではロシア経済の崩壊は必至のことである。
たとえプーチンが対ウクライナ戦争に最終的に勝利したとしても、ロシアという国の沈没はもはや避けられない。ロシアにとって、破滅を避ける唯一の道は要するにすなわちウクライナからの全面撤退であるが、しかしそれではプーチン政権は保たない。来るべきプーチン自身の破滅は目に見えてくるのである。
習近平の意気消沈の中身
こうした中で、当事者のプーチンが絶望的な気分に陥っていることは想像できるが、最初からプーチンの戦争に加担してきた中国の習近平も、今の状況を見て大いに落胆して意気消沈となっているはず。というのも、今日に至るまでのプーチンの失敗と今後におけるプーチンとロシアの転落は、習近平が企む台湾併合戦争に黄信号を点滅させているからである。
まずは軍事の面からすれば、ウクライナにおける強大なロシア軍の予想外の頓挫は、中国が発動する台湾併合戦争が旨く遂行できる保証はどこにもないことを教えてくれている。
「世界軍事力ランキング2019年版」では、台湾は21位であって、22位のウクライナよりも1つ上である。そして台湾は事実上の独立国家として、今まで長年にわたって中国からの侵攻を国防上の最大の脅威と見做してそれに対する備えをずっと進めてきている。
その一方、アメリカ政府は「台湾関係法」に基づいていつも台湾に最新鋭の武器を提供してきているから、台湾の軍事力は決して弱くはなく、ウクライナ以上の強さがあるはずである。
軍事的にさらに重要なのは、台湾と中国との間には、平均して150キロメートルの幅のある海峡が隔たっていることである。軍事の専門家でない私たちから見ても、海峡を渡っての中国軍の台湾侵攻は、ロシアのウクライナ侵攻よりは難度の遥かに高いものであろう。
支援を得れば台湾だって
その後の問題は、台湾人はいざとなる時にウクライナ人のように自国を守るための決死の戦いをするのかであるが、3月15日に台湾国際戦略学会と台湾国際研究学会が発表した、台湾人の70.2%が中国の武力侵攻が発生すれば台湾のために戦うとの世論調査の結果から見ても、台湾人の戦う意志は決して過小評価できない。そして台湾では昔から徴兵制があるので、成人の男のほとんどは現役の兵隊か元兵隊であるから、その戦闘力は侮れない。
こうしてみれば、台湾海峡でいったん戦端が始まると、台湾側はウクライナ人のように決死の抵抗さえすれば、戦局は習近平の思惑通りになる保証は全くないし、速戦即決はほぼ不可能であろう。
中国軍は遠距離から台湾にミサイルなどを大量に打つことができても海から上陸して台湾を制圧するのは至難の技。台湾併合戦争は台湾海峡を挟んでの長期戦・消耗戦になる可能性は大。つまり習近平は、今のプーチンの場合と同様に泥沼に陥って、進むが地獄退くも地獄の状況に置かれてしまうのである。
その一方、アジアにおける民主主義の優等生である台湾が中国に侵攻されていると、特に中国軍が遠距離から打ったミサイルは台湾の民間人に多大な被害を与えた場合、今の欧米世界は対ロシアで一致団結したのと同じように、クアッド(日米豪印)などのインド太平洋地域の民主主義国家陣営は団結して台湾支援に当たることになろう。
その中では、「台湾関係法」という国内法を持つアメリカは、ウクライナに対する支援以上の支援を台湾に与えるのに違いない。そして米国大統領の判断一つで、米軍が台湾防備に出動して中国軍と戦うこともありえよう。
米軍が出動すればそれこそは中国と習近平にとっての悪夢であるが、ウクライナ戦争の経験からしては、例え米軍は直接に出動しなくても、武器・物資・情報などの多方面における米国の支援(あるいは日米同盟の支援)が保障されれば、台湾は中国を相手に十分に戦えるのであろう。
国際依存の中国が恐怖する経済制裁
中国にとってのもう1つの悪夢はすなわち、台湾併合戦争の発動に対する欧米・日本からの徹底した経済制裁である。2021年、中国の対外輸出総額は人民元建てでは21.73兆元であって当年度の中国のGDPの約2割を占めている。国内の消費と固定資産投資と並んで、対外輸出は中国の経済成長を支える3本の柱の1つとなっている。
しかしもし、習近平の発動した台湾併合戦争に対し、アメリカとEUと日本は団結して、ロシアに対する同様の経済制裁を加えた場合、それは中国経済に与える打撃の大きさが図りきれない。
アメリカ・EU・日本は合わせて中国からの輸出の半分以上を引き受けているから、この3者は中国製品に対する全面禁輸にでも踏み込めば、中国経済はその1割を失うことになる。
さらに、もし西側は団結して中国をドルの決済システムから排除するようなこととなれば、中国の対外輸出はほぼ全滅して、産業や国民生活に必要な物資の輸入すら思うままにできない。日本などよりも対外依存度の高い中国経済はこれで破綻するしかないのである。
つまり、もし中国が国際社会の反発を無視して台湾併合戦争を発動した場合、しかも台湾が今のウクライナと同様に決死の抵抗を行なって世界からの支援と同情を手に入れた場合、中国はまさに今のプーチンのロシアと同様、破滅への道を突き進んでいく可能性は十分にある。そしてこのことを世界と中国に教えてくれているのは、まさにプーチンの行う現在のウクライナ侵略戦争である。
戦争を発動してからのロシアとプーチンの惨状を目の当たりにして、習近平は今眠れない夜を過ごしているのであろう。彼には普通なみの認知能力と判断力があるなら、自分の企む台湾併合戦争に不安要素が多すぎてまさに前途多難であることを悟っているはずである。
いったん戦争を始めると、事態が自分のコントロールできる範囲を超えて悪い方向へとどんどん進む可能性は十分にありうるし、場合によってプーチンという前車の轍を踏むかもしれない。そうなると、習近平は毛沢東やケ小平なみの偉大なる指導者として歴史に残るどころか、せっかく勝ち取った中国共産党独裁者の地位を保つことすらできない。元も子もないとは、まさにこういうことである。
したがって習近平は今後、台湾併合戦争の発動には今まで以上に躊躇いを感じざるを得ない。さまざまな利害損得と最悪のシナリオを考えれば、そう簡単に決断することはできないはずである。
もう共産党幹部ですら反対する
その際、例え習近平はプーチンと同様、自分の野望のために無理な決断を行おうとしても、おそらく中国共産党の最高幹部たちの多くは、彼の暴走を食い止めようと必死になるのであろう。幹部たちが必死になる理由の1つは当然、政権と国を破滅から救うためである。船が沈んでいたら彼たちも道連れにされる可能性はあるからである。
そして、共産党の高級幹部たちが今後、習近平の戦争に大いに反対しなければならいもう1つの理由はすなわち、彼ら個人に対する欧米の制裁を怖がっていることである。
今回のロシアのウクライナ侵略戦争では、プーチン以下のロシア高官たちは欧米での財産が凍結されたり差し押さえられたりする憂き目にあっていたが、中国共産党高官たちも当然、同じことをされるのを心配しなければならない。ロシア高官と同様、あるいはロシア高官以上に、彼らもアメリカやEUなどで巨額な隠し財産を持っているはずである。
したがっていざとなる時、彼らは習近平に戦争の発動を思い止まらせることに全力をあげることになろうが、その際、プーチンの戦争が上手くいかなったこと、あるいは失敗に終わったことは当然、中国共産党高官たちの台湾併合戦争反対の理由にもなるし、習近平を説得するための材料にもなろう。
今の習近平は独裁者になっているとはいえ、かつての毛沢東ほどのカリスマ性もなければ幹部たちの大半の反対を押し切って独断専行するほどの力もない。自分たちの財産を守ろうとする幹部集団の攻勢のままでは習近平が敗退する可能性もある。
そして幹部たちによる習近平の説得が不発に終わった場合、彼らは「国を救う」との大義名分において習近平に対するクーデターを起こす可能性は全くないわけでもない。もともと、習近平の内外政策に対する党内の不平不満はすでに広がっているから、反習近平の「火薬」はどこかで大爆発する危険性は常にある。
もちろん習近平自身もそれを知っているから、自分と幹部集団との決裂はやはりどこかで避けたい。そしてこの要素はまた、彼の企む台湾併合戦争発動の妨げになるのである。
こうしてみると、「ポスト・ウクライナ戦争」において、習近平中国の台湾侵攻は以前よりも大変難しくなっていることは分かる。
もちろん、習近平が今でも台湾併合の危うい野望を捨てていないし、台湾有事の危険性は去ったわけでもない。確実に言えることは一つ、「盟友」プーチンの暴走と失敗のおかげで、台湾併合への習近平の夢がいくぶん萎んできている、ということである。
●国家理性と国民感情、そしてG7対BRICSの対立構図を浮かび上がらせる 3/19
今や世界のヒーローになったかのようなウクライナのゼレンスキー大統領は、3月8日の英国を皮切りに15日カナダ、16日米国、17日ドイツと、欧米の各国議会でオンライン演説を行い、ウクライナへの軍事支援とロシアに対する経済制裁の強化を訴えている。
フーテンは米国議会での演説を生中継で見たが、ゼレンスキー大統領は米国が襲われた真珠湾奇襲攻撃や9・11同時多発テロを思い出させ、またキング牧師の「私には夢がある」という有名なセリフを引用するなど、演説の中に米国民の感情に突き刺さる言葉をちりばめた。
英国議会ではナチスと戦ったチャーチル首相の言葉を引用し、またドイツ議会ではベルリンの壁に言及したようなので、それぞれの国の国民感情を動かすことに演説の力点は置かれている。
そして演説の途中で、ウクライナ国民の悲惨な状況映像がビデオで流され、いやでもウクライナ支援の感情が高まる仕掛けになっている。ドキュメンタリー・ディレクターとして映像で人を感動させる仕事をしてきたフーテンは、ゼレンスキーの裏に宣伝のプロがいると思いながら、こうして人々の感情を高まらせれば、戦争は終われなくなると思ってしまう。
戦争を終わらせることができるのは感情ではなく理性的判断しかないとフーテンは思っている。だからフーテンは戦争報道を見る時、悲惨な映像に感情的に反応するのではなく、極力それを排して理性的判断で見るよう心掛けている。つまりすべての情報を疑い、時間をかけて納得するまで信じ込まない。
そうしたところ、今週発売の「週刊新潮」に「国家理性と国民感情」と題する片山杜秀氏のコラムを見つけた。フーテンの考えと近いので内容を紹介する。コラムは「日露戦争に負けていたら、日本はロシアの一部になっていたろう」という書き出しから始まる。
しかし日本はロシアに勝った。国民感情からすれば圧勝だった。だが冷静に考えれば、南下政策を採るロシアを北満州まで引かせたに過ぎない。しかもロシアには戦争継続の余力がある一方、日本は金も人員も生産力も限界だった。
米国の仲介でポーツマス講和条約が結ばれたが、ロシアは負けたと思っていないので賠償金を払わない。日本は遼東半島と南樺太と南満州鉄道の権利を得ただけに終わった。
この時の日本には国家が安全に生きるための理性が働いていた。ところが国民は納得できない。9万人以上が戦死したのに何たる弱腰か。暴動が起きて東京の交番の3分の2以上が焼かれた。国家理性を国民感情が押しのけようとしたのである。戒厳令が2か月も布かれ、軍隊が出動してようやく収まった。
やがて大正デモクラシーの時代となり政党政治が始まる。国民感情を理解しながら、国民を説得し、国家理性でまるめて、両者の間の緩衝材の役を果たし、落としどころを探るのが政党のはずだが、それが機能しなくなるとポピュリズムが生まれる。
国民感情の波を捕まえた英雄主義的政治家が、瞬間的な受けに走り、国家理性を消してしまうのだ。片山氏はそれが近衛文麿だったと指摘する。国民大衆に人気がある近衛首相は、日中戦争を早期に終わらせようと考えたが、南京が陥落すると国民は熱狂し、近衛は引けなくなる。
ポピュリストの首相は国民受けの良いことをやるしかなくなり、戦争は終われなくなった。そこで片山氏はこう書く。「一国の指導者は、国民を煽って後で恥をかくよりも、宥めて国民に踏みつけられるくらいがちょうどよい。今、世界の運命を握る、ヒロイックに振る舞いたがるポピュリストたちに、この国の失敗を捧げます」と。
片山氏は「ポピュリストたち」と複数にして、誰か一人を指しているわけではないが、フーテンの脳裏にはウクライナのゼレンスキー大統領が浮かんだ。彼はそもそもウクライナ軍と東部地域の親露派武装勢力との戦争を終わらせようとする和平派だった。しかしそれは国民から弱腰と見られ、支持率は20%台に落ち込み、大統領再選も絶望的だった。
それを巻き返そうと思ったのか、ゼレンスキーはトルコからドローンを輸入し、それを親露派武装勢力の攻撃に使ってプーチンを激怒させる挑発行為に出た。プーチンが戦争の理由とする東部の親露派勢力を守るためというのはそのことだ。彼はプーチンに戦争の口実を与えた。
ウクライナが軍事大国ロシアを敵に回すとなれば、NATOの後ろ盾がなければならない。しかしプーチンはウクライナのNATO加盟を絶対に認めない。ロシアの安全が守れなくなるからだ。第三次世界大戦を引き起こしてでも認めない覚悟だ。
欧米はそれを知っているから、実はウクライナのNATO入りは絵に描いた餅に過ぎなかった。しかしウクライナ国民はそんなことを知らないからNATO加盟を熱望する。ゼレンスキーはNATOがウクライナ加入の覚悟がないことを「かなり前に知った」と語ったが、本来ならその時点で国民を説得し、他の方法を模索するのが政治家の務めである。
国民感情を国家理性で宥めていかねばならなかったのだ。しかし現実はまったく異なる展開となり悲惨な戦争が始まった。世界最強国家であり、戦争を止めることのできる米国は、この戦争を止めようとしないどころか、これをプーチン潰しの好機と捉え、戦争を長期化させる方向にもっていこうとしている。
バイデン政権が支持率を低下させた去年8月のアフガン撤退の記憶を消し去り、国民が被害を受けるインフレもすべてプーチンのせいにできるからだ。戦争が長期化すればソ連崩壊の一因となったアフガニスタン戦争の再現で、米国に訓練されたゲリラがロシア軍の足を引っ張り、ロシア財政を破たんさせる。
しかしその間にウクライナの国土は荒廃していくだけだ。ゼレンスキーがやるべきはそれを止める事ではないのか。バイデン大統領は国際社会は結束し、プーチンだけが孤立しているというが、本当だろうか。
確かにG7(先進7か国)の米、英、加、仏、独、伊、日は経済制裁で結束している。しかしその7か国の後を追う新興勢力のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)の5か国はそうではない。
BRICSは21世紀に入って目覚ましい経済発展を遂げた新興勢力である。中でも中国とインドの経済成長は著しい。BRICSの世界に占める規模を見ると人口で43%、国土面積で29%と大きく、経済規模では30%とEUの16.6%、米国の15.9%を上回っている。・・・
●ウクライナ大統領の偽動画、ディープフェイクが戦争の“武器”となる世界予見 3/19
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のディープフェイク動画(偽動画)がネット上に投稿された。ロシアへの降伏を呼びかける内容の今回の偽動画は素早く削除されたが、ディープフェイクの技術が政治や戦争の“武器”となりうる現実が改めて浮き彫りになっている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がロシアへの降伏を発表しているように見せかけたディープフェイク動画(偽動画)を敵側が作成している可能性がある──。そんな警告をウクライナ政府の戦略的コミュニケーションセンターが発表したのは、3月2日(米国時間)のことだった。その警告が、どうやら現実のものになったようだ。
FacebookとYouTubeで3月16日に確認された偽動画には、異様に動きのないゼレンスキーが登場し、いつもの口調とは異なる声でウクライナ軍に武器を置くよう呼びかけていた。米国のシンクタンクのアトランティック・カウンシルによると、この動画はTelegramのほかロシアのSNS「VKontakte(フコンタクテ)」にも投稿されたという。テレビ局のUkraine 24によると、ハッカーがこの動画から切り取った静止画を使った同局のウェブサイトを書き換え、番組で流れるテロップにこのフェイクニュースの要約を挿入していた。
Ukraine 24がこのハッキングについて投稿した数分後、ゼレンスキー自身がFacebookに動画を投稿した。ウクライナ人に武器を置くよう呼びかけたことを否定し、偽動画を幼稚な挑発であると断じたのである。
Facebookの運営元であるメタ・プラットフォームズのセキュリティーポリシー部門を統括するナサニエル・グライシャーは、誤解を招く恐れのある操作されたメディアに対するポリシーに違反したとして、このディープフェイク動画を削除したとツイートした。ツイッターの広報担当者が発表したコメントによると、同社はこの動画の動向を追っており、偽の合成メディアを禁止する規則に違反した場合は削除しているという。ユーチューブの広報担当者も、やはりアップロードされた動画を削除したと説明している。
お手本のような対応策
この短命に終わった偽動画は、武力紛争において初めて“兵器”として利用されたディープフェイクとなった可能性がある。
だが、誰がどのような動機でこの動画を作成し、拡散したかは明らかになっていない。一方で、今回の偽動画の存在がこれほど素早く認識され削除された流れからは、少なくとも条件が適切な場合には、どうすれば悪意あるディープフェイクに打ち勝てるのかが見えてくる。
ゼレンスキー自身は、政府がディープフェイクによる攻撃に備えていたこともあって、うまく対処することができた。動画が偽物であることを暴いた動画を彼が素早く投稿したことに加えて、Ukraine 24とソーシャルメディアのプラットフォームが迅速に対応したことで、この偽動画がそのまま拡散される事態を防げたのである。
これらは、政治的な意図をもって作成されたディープフェイクと同じくらい新しい脅威に対し、防御する際のお手本となる戦略だ。事前の準備と素早い対応は、2020年の米大統領選向けて国際平和カーネギー基金が公表したディープフェイク対策の中核をなしている。
ゼレンスキーはまた、世界で最も注目度の高い人物のひとりとしての立場と、このディープフェイクの精度の低さからも恩恵を受けていた。ディープフェイク動画のゼレンスキーは顔と体がマッチしていないことで不自然に見え、声も本人とは異なるように聞こえたのである。
ほかの紛争や政治指導者は、これほど幸運ではないかもしない。それにディープフェイクによる混乱に対してもっと脆弱である可能性があると、非営利団体「Witness」でディープフェイク政策に取り組むサム・グレゴリーは指摘する。
ゼレンスキーの知名度は、ウクライナによる2週間前のディープフェイクに対する警告が国際的なニュースで取り上げられる上で役立った。また、ゼレンスキーが16日にとった素早い対応が急速に拡散される際にもひと役買ったのである。
その知名度はまた、動画に対するソーシャルメディア企業の素早い対応を促した可能性もある。メタやユーチューブの広報担当者は動画を検知した方法について明言していないが、ツイッターは不特定の「外部調査報道」としていた。
ゼレンスキーが「最後」ではない
ディープフェイクの標的となったすべての人がゼレンスキーのように機敏に対応できるわけでも、否定したところで広く信用されるわけでもない。「ウクライナは素早く対応しやすい状況にありました」と、Witnessのグレゴリーは指摘する。「これはほかの事例とは大きく異なります。できの悪いディープフェイクでも、信頼性に対する疑念を生む場合があるからです」
グレゴリーが指しているのは、ミャンマーで21年に公開された偽動画のことである。この動画には拘束されていた前大臣が登場し、ミャンマーの前指導者であるアウン・サン・スー・チーに現金と金塊を渡したと語っているように見せかけたものだった。
クーデターによりアウン・サン・スー・チーを排除した軍事政権は、その映像を利用して彼女の汚職を非難したのである。しかし、この動画では前大臣の顔と声がゆがんでいたことで、多くのジャーナリストや市民が動画が偽物であると言い出すようになったのだ。
技術的な分析でも、この謎は解明されていない。ひとつには動画の精度が低いせいだが、その理由は前大臣や真実をよく知るほかの人たちが、今回のゼレンスキーほど自由に話したり、多くの聴衆に語りかけたりできなかったからだ。いつの日かディープフェイクの自動検知システムが悪意あるなりすましに対抗する上で役立つ可能性があるが、これらはまだ進行中の取り組みである。
ディープフェイクは人々をだます目的というよりも、人々を扇動したり嫌がらせをしたりする目的で広く使われている。そして作成が容易になるにつれ、その傾向はさらに顕著になっている状況だ。
ロシア大統領のウラジーミル・プーチンのディープフェイクもこのほどTwitterで拡散したが、これについては最初から偽物と認定されていた。しかし、ゼレンスキーのディープフェイク動画とそれに伴うハッキングは、新たな問題を顕在化させる可能性がある。動画への素早い対応が成功したことからは、ちょっとした工夫と適切なタイミングによってディープフェイク攻撃を効果のある政治的な兵器にしうる現実も浮き彫りになったからだ。
「これがもし手の込んだ動画であったとして、しかもロシアによるキエフへの進軍がもっとうまくいっていた場合に早い段階で公表されていたら、かなりの混乱を引き起こした可能性があります」と、非営利団体のCNAでロシアの防衛技術の専門家であるサミュエル・ベンデットは言う。ディープフェイク技術が利用しやすくなり、その説得力が増していけば、偽動画の標的となる政治指導者はゼレンスキーで最後ということにはなりそうもない。
●ウクライナ情勢 体の不自由な高齢者も 避難余儀なくされる  3/19
ロシア軍がウクライナ各地で戦闘を拡大する中、体の不自由な高齢者も避難を余儀なくされています。
このうち、ウクライナ第2の都市ハリコフから逃れてきたという82歳の男性は、脳梗塞によって体が不自由になったため、娘の夫に付き添われて避難したということです。
軍事侵攻が始まった日から自宅近くへの攻撃が続いたため、地下鉄の構内で10日間にわたって、避難生活を余儀なくされたということです。
この男性は「家を離れなければならなくなった時、悔しい気持ちになりました。故郷は故郷ですから。今はなんとか新しい自分の居場所を見つけたいです」と話していました。
また、この男性に付き添った娘の夫は32歳ですが、自身も持病があり、防衛態勢を強化するための出国制限を免除されたことから、義理の父親を抱きかかえながら列車に乗って、西部の都市リビウに逃れたということです。
リビウでは、ボランティアの人たちが運営する高齢者施設に数日間滞在したのち、手に入れた車いすに義理の父親を乗せて、18日にポーランド南東部の国境を越えてきました。
男性は「爆撃がとても怖くて何も考えられないまま避難してきました。詳しいことはわかりませんが、義理の父親が暮らせる施設がフランスにあると聞いたので向かいたいです」と話していました。
●ゼレンスキー大統領「今こそ話し合おう」ロシア側に呼びかけ 3/19
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、ビデオメッセージを新たに公開し「交渉は、ロシアがみずからの過ちによる犠牲を減らすことができる唯一の機会だ。私たちはずっと、対話の用意があるとしてきた。モスクワにいる皆さんに言いたい。話をする時が来た、今こそ話し合おう」と述べ、建設的な停戦交渉を進めるようロシア側に呼びかけました。
また、ロシア軍による激しい攻撃が続く東部のマリウポリから18日に9000人以上が避難したほか、設置された避難ルートでこれまでに18万人が退避したことを明らかにしました。
ただ、ゼレンスキー大統領は「占領されている地域に必要な物資も届けられているが、占領軍は、物資の運搬を阻止し続けている。これは明らかに意図的なものだ」として、ロシア側が人道的な支援を妨げていると強く非難しました。
●ウクライナへの志願兵 米で約6000人が応募 退役軍人など相次ぐ 3/19
ウクライナ政府が外国からも志願兵を募っていることを受け、アメリカでは退役した軍人などの間でウクライナの部隊に加わることを希望する人が相次いでいます。
これまでに約6000人が応募
アメリカにあるウクライナの大使館や領事館では志願者を受け付け順次面接などを行っています。アメリカのメディアは大使館関係者の話としてこれまでにおよそ6000人の応募があったと伝えています。
志願した元軍人「正しいことをするのがアメリカの理念」
アメリカ海兵隊に所属していた、東部コネティカット州に住むデニス・ディアスさん(39)も志願している1人です。大使館での面接を終え、現在は出国に向けたウクライナ政府からの連絡を待っています。武器は現地でウクライナ政府から供与されるということですが、それ以外の装備品はすべて自費で用意しました。4人の子どもがいるディアスさんですが、ロシア軍による攻撃で子どもを含む大勢のウクライナ市民が命を落としていることを見過ごすことはできないと考え決断したといいます。バイデン政権は当初から、ウクライナ国内にアメリカ軍の部隊は送らないとしています。また、ウクライナの部隊に加わることを希望するアメリカ人に対しても、危険だとして渡航しないよう呼びかけています。これについてディアスさんは「ロシアとの戦争を望まないからという理由は理解しているが、正しいことをする、自由を守るというのがアメリカの理念だ。ウクライナの人々は文字どおり自由のために戦っているのだから、現地に行って助けるべきだ」と話しています。ディアスさんは2003年にイラクとアフガニスタンに派遣され、戦闘や人道支援任務に携わりました。そのアフガニスタンで去年夏、アメリカ軍が撤退するなか、イスラム主義勢力タリバンが再び権力を握ったことはディアスさんにとって大きなショックだったといいます。そのことも今回の決断を後押ししたといい「このような結果のために自分たちは命をかけて戦ってきたのかと思った。今度はイラクやアフガニスタンでできなかったことを成し遂げられるだろうということが大きな動機になっている。自由を求めているウクライナの人々を助けて、この戦いに勝ってみせる」と話しています。
手続き経ずにウクライナに向かう人も
ウクライナ大使館による面接などの審査を待っていては時間がかかりすぎるとして、こうした手続きを経ずにウクライナに向かう人たちも出てきています。アメリカ南部ミシシッピ州の農場で働いていたウェスリー・ラウリーさん(23)は、ロシアによる軍事侵攻に対しては経済制裁だけでは不十分だと考えています。ラウリーさんはウクライナの人たちを直接、助けることが必要だと考え、軍事侵攻の数日後、SNSに志願兵として現地に向かうことを希望する人たちが情報交換できるグループを立ち上げました。立ち上げから1週間でおよそ800人から問い合わせなどの書き込みがあり、およそ3週間たった今では、アメリカをはじめ各国の2000人を超える人がこのSNSのグループでやり取りをしているということです。その多くが軍隊での経験がある人で、現地への渡航情報や資金面での相談などについて、情報交換をしているということです。ラウリーさん自身は軍隊での経験はなく大使館での手続きは経ていないということですが、ウクライナの外国人部隊の担当者に直接連絡を取ったところウクライナ西部のリビウに向かうよう指示を受けたとして3月14日、アメリカを出発し現地に向かいました。出発前の空港でラウリーさんは「ライフルを持って前線に行けと言われればそうするし、後方支援としてトラックを運転しろと言われればそうする。行けと言われたらどこにでも行く。怖い気持ちもあるが、とにかく現地に行って、何かの役に立ちたい」と話していました。
専門家 “志願兵の加入で事態の悪化するおそれ” 指摘
一方、外国からの志願兵が戦闘に加わることで事態が悪化するおそれがあるという指摘もあります。外国人戦闘員について研究を行っているアメリカン大学のデイビッド・マレット准教授は、「外国人戦闘員が加わることで結果として勝利することもあるが、歴史上、外国人戦闘員が加わった戦争はより高いレベルでの暴力がみられ、民間人に対する暴力も増える」と指摘しました。そのうえで現在のウクライナの状況について「50か国以上から外国人戦闘員が集まっている」という見方を示したうえで、「紛争の対象が世界数十か国に広がっているように見える。紛争がより激しくなり、より多くの国が巻き込まれるおそれがある」と述べ、懸念を示しました。さらにマレット准教授は「アメリカ人の戦闘員が殺されたり、捕虜になったりしたら、世論が変わり、以前はなかった戦争への衝動が生まれる可能性もある」と述べ、戦闘の状況によってはアメリカの世論に影響を与える可能性もあるという考えを示しました。
●米中首脳 ウクライナ情勢めぐり会談 議論は平行線のまま終了か 3/19
ウクライナ情勢をめぐって、アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席がオンラインの首脳会談を行い、バイデン大統領が中国がロシアを支援すれば代償がともなうことを警告したのに対し、習主席はロシアへの制裁に反対する姿勢を崩さず、議論は平行線のまま終わったとみられます。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、初めてとなるアメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席によるオンラインの首脳会談は18日、1時間50分にわたって行われました。
アメリカのホワイトハウスは会談後、声明を発表し「バイデン大統領は、ウクライナの都市や市民に残虐な攻撃を行うロシアに中国が物資を支援した場合の結果と代償について説明した」として、習主席に警告したことを明らかにしました。
さらにバイデン政権の高官は会談後、記者団に対し、中国によるロシアへの支援は「中国とアメリカとの関係だけでなく、中国と世界各国との関係に影響を及ぼすことになる」と伝えたとしています。
一方、中国外務省によりますと、習主席は会談で、西側諸国がロシアに厳しい制裁を科していることを念頭に「全方位的かつ無差別的な制裁を科しても苦しむのは庶民だ」などとして制裁に反対する姿勢を改めて強調しました。
そのうえで「アメリカとNATO=北大西洋条約機構がロシアとの対話を進め、ロシア・ウクライナ双方の安全保障上の懸念を解消しなければならない」と述べ、アメリカこそがロシアとの対話に乗り出すよう促しました。
中国は、西側諸国からロシアへの圧力が強まる中でもロシア寄りの立場を変えておらず、今回の会談でも議論は平行線のまま終わったとみられます。
●ベルギー 脱原発方針を一部見直しへ ウクライナ情勢受けて 3/19
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、EU=ヨーロッパ連合が石油や天然ガスなどの輸入でロシアに依存している状況からできるだけ早く脱却することを目指すなか、ベルギー政府は原子力発電所の運転を3年後までに止める従来の方針を一部見直すことを決めました。
ベルギー政府は18日、今後のエネルギー政策を巡って協議した結果、国内にある7基の原子力発電所の運転を2025年末までに順次、止めるとしていた従来の方針を一部見直すことを決めました。
具体的には7基の原発のうち、比較的新しい2基の原発について2025年以降も10年延長させる形で稼働させる計画だということです。
ベルギーは原油の輸入のおよそ3割をロシアに依存していて、今回の方針の見直しについてデクロー首相は「今の地政学的な状況の中で化石燃料への依存から脱却する必要があり、今回の決定で大きく踏み出すことができる」と意義を強調しています。
EUは先週、フランスで開いた首脳会議でロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、石油や天然ガスなどエネルギー資源の輸入でロシアに依存している状況からできるだけ早く脱却することを目指すことで合意しています。
天然ガスの多くをロシアからの輸入に頼ってきたドイツも、これまで国内になかったLNG=液化天然ガスの受け入れ基地の建設を決めるなど各国が具体策の検討を急いでいます。
●ネットを軽視してウクライナ侵攻に失敗した情弱プーチン 3/19
ロシアによるウクライナへの無謀な軍事侵略が止まりません。
3月16日にはウクライナ最大の軍港都市「オデッサ」に向けて、黒海洋上からロシア軍の砲撃が確認されています。
あくまで火力の差にものを言わせて、国土制圧に向けて前線を進めています。
こうした蛮行を受けて、日本でもウクライナの首都キエフの呼び方を「キーウ」とウクライナ語に名称変更されるようです。
さて、軍事の常識から考えて、こうしたな作戦がウクライナ側でも、また銃後を支えるはずのロシア側でも持つわけがないことは、JBpressが配信するエコノミスト記事など、多くの国際報道が伝える通りです。
この戦争は、仮に3日間で終わっていたら、ロシアの勝利があり得たでしょう。それを先例として秋には中国が台湾侵攻の見通しだった・・・と言った論説も、あちこちに噴出してきました。
背景には2月5日、北京冬季五輪開催に合わせて設定された2年ぶりの中ロ首脳会談での合意があったものとみられます。
2月4日に始まった五輪が20日日曜日に終了、2月24日木曜に開始されたウクライナ武力攻撃は、プーチンの目算では週末から2月末までに「キエフ制圧、露軍勝利」で一方的終結宣言を出したかった。
しかし、コメディアン出身で軽いと見られていたウォロディミル・ゼレンスキー大統領は亡命もせず、ウクライナ国内は「ベトナム戦争化」、住民が民兵軍団まで組織して抵抗するという、旧ソ連時代とは勝手が違う状況となってしまった。
前回稿にも記した通り、現在のクレムリンはプーチンとその取り巻きの命令が絶対的で、軍事のプロが合理的に検討、準備した作戦がとられているとは思われません。
延々64キロに及ぶ軍事車両の列が丸見えだったり、原発を攻撃して制圧してみたり、やってることがしっちゃかめっちゃかです。
原発攻撃などは、国家のトップが命じない限り軍最高幹部のレベルだけでも決定できるような水準の判断ではありません。
第2次世界大戦末期のナチスと同様の状況と考えるのが妥当でしょう。
つまり「誰も猫のクビに鈴をつけられない」状態で、危険なダッチロールを続けています。
「プーチン一人の戦争」ではない
誰かを象徴的な人物として描くのは、大衆政治の常道です。例えばナチスについて「ヒトラーの狂った命令」と人は認識しやすい。
しかし現実はそうではない。
ヒトラーという偶像を操って、ゲシュタポ諜報部トップだったラインハルト・ハイドリヒやその上司であるハインリヒ・ヒムラー、戦後のポピュラービジネスの雛形となるナチス・デマゴギー大半を一人で作り上げたヨーゼフ・ゲッペルス、ヒトラーの官房長として実質的に政策決定していた マルチン・ボルマン・・・。
こうした「ナチ・エリート」を代表する象徴的な名としての「アドルフ・ヒトラー」なのです。
これに相当する「プーチン一派」、ソ連時代からの表現を用いるなら ノーメンクラトゥーラの一団が、愚かな戦争指導部を形成していると見るべきでしょう。以下でもそういう意味で「プーチン」の名称を使います。
本当はチームである「プーチン」人に知られた名前としてはドミトリー・メドベージェフがいます。
彼はペテルブルク大学(レニングラード大学時代のOB)法学部でプーチンの後輩に当たり、1999年までは母校講師として司法を講義、教科書も執筆する机上のエリートから、「法律顧問」としてプーチンの側近に転じました。
日本に当てはめてみれば東大法学部卒、34歳までは母校で教壇にも立っていた。
つまりエリートたちは、ある種の「アタマ」は良いのです。
今回の露軍「ウクライナ侵攻」も文官的には綿密に対策を立てたつもりになっているのは、佐藤優氏の綿密な解説などにもある通りです。
ただし徹頭徹尾文官なので、軍事の皮膚感覚が分かりません。
3日間戦争のはずだったウクライナ電撃戦が「真珠湾」的な奇襲成功ともならず、西側などから武器の供与を受けた市民まで蜂起するという、旧ソ連ではあり得なかった事態に直面。
原発攻撃や子供病院爆撃など、明らか国際法違反までやらかし続けているのは、喧嘩慣れしていない優等生がブチ切れ、限度というものを知らずに同級生を殴り過ぎ、生命に危険な状況が出来しているような「ならずもの国家」状態と見るべきでしょう。
以下では怜悧なプーチンが「情弱高齢者」として敗北した具体的な経緯を見てみたいと思います。
「相互監視」「密告支配」のツケ
2018年、しばらく前になりますが、プーチンの旧東ドイツ「スパイ時代」の身分証明書が、旧東ドイツにあたるザクセン州、ドレスデンの「シュタージ記録保管所」で発見されました。
「シュタージ」とは旧東ドイツの秘密警察で、国民に「相互監視」と「密告」を奨励、東西ドイツという分断国家で多くの悲惨な状況を生み出した、諸悪の根源のような組織でした。
同様の恐怖支配は「ロシア連邦」の様々な地域、自治共和国などにも敷かれ、当然ながらウクライナでも旧ソ連時代を生きた、現在30代以上の大人には、その記憶や、場合によると「経験」がある人も含まれているはずです。
そのような旧世代の存在も見越しつつ、ウクライナ政府は31歳の若者をデジタル相に据え、完全に西側形のSNS情報収集を展開し始めました。
これはつまり、かつてソ連が恐怖支配した際に国民が縛られ、植え付けられた「交互監視」「密告」の生活習慣を、冷戦崩壊後に発達した21世紀のネットメディア、SNSで世界公開することで、ロシア軍の行動を、スマホを持つあらゆる市民がリポートできる体制になっていることを意味します。
プーチンは柔道黒帯で(ただし今回の武力侵攻で、国際柔道連盟から名誉会長職は剥奪されてしまいましたが)、マッチョ志向はつとに知られるところです。
90万のロシア軍に対して20万のウクライナ、せいぜい5分の1の火力だから3日間電撃戦で殲滅可能と高を括っていたのかもしれません。
しかし、長期戦化するとベトナム戦争時の「ベトコン」的泥沼が深まります。
ウクライナの人口は4400万人ほど。すでに300万人と10%に迫る人数が難民として隣国に脱出していますが、いまだ3000万人以上の人口を擁し、その大半は反ロシアで団結しています。
仮に2000万人が成人で、ロシアの侵略を認めておらず、かつスマートフォンを持っていたとしたら、どうでしょう?
ロシアは20万人弱の兵力でウクライナを攻めていますが、そのロシアが植え付けた「相互監視」「密告」のノウハウも知る2000万ウクライナ市民が、24時間365日露軍のありのままをSNS投稿し続けたら?
情報力としてはウクライナ対ロシアは、2000万ウクライナに対して20万ロシア。
実際には国境外に配備された露軍もまだ多いので ウクライナの情報自衛力人員数は前線展開しているロシア軍人の100倍以上と見積もることが可能です。
私が比較的早くから「ロシアはこの戦争に絶対勝てない」と記す、強力な根拠がここにあります。
一言でいうと、1990年代にクレムリンに入り、ソ連アタマのまま権力者となってしまったプーチンや、法学部講師で文系アタマのメドベージェフには、ネット情報力の底力が全く分かっていなかった。
「ジャスミン革命」に学べなかったプーチン
ロシアのソ連型ノーメンクラトゥーラたちは2010年「ジャスミン革命」 に端を発する携帯の情報力、デジタル・デモクラシーの威力が全く分かっていなかった。
ジャスミン革命の嵐は直ちに隣国に飛び火し、2011年1月にはエジプトでムバラク政権が崩壊。2月にはリビアでカダフィ政権が機能不全に陥りました。
「最高指導者」カダフィ大佐はジャスミン革命直前、天安門事件を例に「戦車で反乱民衆を蹂躙することで国家の統一が保たれた」と中国の反体制派弾圧を賞賛し、中国側からは迷惑がられました。
福島原発事故のあった2011年、リビアでは春から内乱状態が激化し、6月には国連安全保障理事会決議から付託を受けた国際刑事裁判所から、人道に関する罪でカダフィを国際手配、8月政権崩壊、逃走中の10月、民兵に発見され、なぶり殺しで命を落としたと見られ、死体の状況はネットで広く国際発信されました。
このカダフィ大佐と親しかったはずのプーチンが、なぜジャスミン革命から学べなかったのか?
むしろ「天安門事件」をなぞる武断に終始したのは、政権奪取直後、まだネットも発達していなかった2000〜04年の第2次チェチェン紛争、2008年の南オセチア紛争と立て続けに武力で封じ恐怖統治を現在まで維持。
「カダフィは下手を打っただけ、俺はもっとうまくやる」とばかりに2014年のクリミア併合など2匹目、3匹目のドジョウを武力で掬い続け、同じ手法が東欧産業最大の中心部であるウクライナに通じると錯覚したのが間違いだった。
他方、プーチン政権首脳に対しては、カダフィを追いつめて裁いたのと同じシナリオは成立しうることに注意しておく必要があるでしょう。
今回稿ではデフォルトなど金融・経済面に触れませんでしたが、ウクライナ戦争は長期化すればするほど、ロシアを体制変革でリセットせざるを得なくなる公算が高くなるのは間違いありません。
●露と同盟ベラルーシ大統領 ウクライナへ“警告” 3/19
ベラルーシのルカシェンコ大統領が、19日放送のTBS系「報道特集」(土曜後5・30)のインタビューに答え、ロシアから軍事侵攻されているウクライナへ警告めいた発言を行った。
旧ソ連でロシアと国境を接し、現在も同盟関係にある同国は、ウクライナ侵攻に協力しているとして西側諸国からの経済制裁対象になっている。
ルカシェンコ大統領は首都ミンスクにある独立宮殿で取材に応じ、「ロシアはウクライナに、プーチンはゼレンスキーに受け入れ可能な協定を提案しています。これは事実です」と述べた。その上で「もし(ウクライナの)ゼレンスキー大統領が提案に応じなければ、彼は近いうちに降伏文書にサインしなければならないでしょう。ウクライナはこのチャンスを逃してはいけません」と、ロシア軍による攻撃の激化を予測した。
当初は短期決着とみられた軍事侵攻は、ウクライナ軍の激しい抵抗でロシア軍の苦戦も伝えられている。それでもルカシェンコ大統領は「ロシアはこの戦争には負けません。協定が合意するまでは、ロシアが軍事作戦を止めることはありません」と、同盟国の意思を代弁するように述べた。
●バイデン氏、習氏に警告 対ロ支援けん制、制裁示唆―米中首脳 3/19
バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は18日、テレビ電話で会談し、ロシアのウクライナ軍事侵攻について協議した。バイデン氏は、中国がロシアへの支援に踏み切った場合の「結果」を説明し、対抗措置も示唆して習氏に警告した。バイデン政権は今後も中国の行動を注視していく構えだ。
米中両政府が会談結果を発表した。バイデン氏は会談で、中国が検討しているとされるロシアへの軍装備品支援を念頭に「物的支援」をめぐる「意味と結果」について習氏に説明。影響は米中関係だけでなく「より広い世界」に及ぶと述べ、米欧日が中国に結束した対応を取る可能性を示唆した。対ロ支援自制を促した形で、強くけん制した。
これについてサキ大統領報道官は会談後の記者会見で「(対応には)さまざまな手段があるが、制裁もその一つだ」と言及。ただ、バイデン氏は「具体的要求」を習氏に突き付けておらず、一定の配慮を示した可能性がある。米政府高官は「中国の決定を見守る」と話しており、中国側が実際に対ロ支援に踏み出すかどうか警戒を続けていく方針だ。
一方、習氏は「世界の平和と安定のため努力する必要がある」と訴え、米中関係改善とウクライナ情勢での協調を呼び掛けた。また、対ロ非難を控え、「無差別の制裁実施で苦しむのは庶民だ」と改めて制裁に異論を唱えた。ロシアへの支援については発表では一切触れなかった。
●米中首脳がビデオ会談、プーチン氏は「ロシアの団結示した」軍称賛 3/19
ロシアによるウクライナ侵攻23日目の18日、ロシア軍に包囲されたウクライナ南部の港湾都市マリウポリでは生き埋めとなった避難者の救出活動が続いた。マリウポリ市長は攻撃により「市中心部はなくなった」と述べた。こうした中、アメリカのジョー・バイデン大統領は中国の習近平国家主席とビデオ会談を行い、中国がロシアを支援すればアメリカは相応の対応をするとけん制した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ東部クリミア併合から8年になるのを前に国民に向けて演説し、クリミア併合とウクライナ侵攻を称賛した。
バイデン米大統領と中国の習主席は18日、ウクライナ情勢をめぐりビデオ会談を行った。話し合いは2時間に及んだ。
米ホワイトハウスによると、バイデン氏は「ウクライナの都市と市民に対する残忍な攻撃を行うロシアに対し、中国が物質的支援を提供した場合に予想される影響と結果について説明」した。
一方で中国外交部は、習氏が「国連安全保障理事会の常任理事国として、また世界の2大経済大国として、我々は中米関係を正しい方向に導くだけでなく、我々が共有する国際的責任を果たし、世界の平和と平静のために努力しなければならない」と述べたと明らかにした。
●ロシアでプーチン支持率71%に上昇 今後は政権維持のため戒厳令の導入? 3/19
真実が知られないようメディア統制を強化
ロシアのプーチン大統領が命じたウクライナ侵攻は、次第に無差別攻撃の様相を呈し、学校や病院、原発を攻撃するなど泥沼化してきた。
残虐な戦争の実態はロシアでは報道されず、逆に愛国主義が高揚し、2月28日の世論調査では国民の68%が「特別軍事作戦」を支持。反対は22%だった。プーチン大統領の支持率も侵攻1週間で71%に上昇した。
政権側は反政府系メディアや外国報道機関の活動を統制するなど、戦争の真実が国民に知られないよう躍起になっている。
プーチン大統領の暴走を阻止できるのは、政権内部のクーデターと国内の反戦運動だが、政権の亀裂は現実的でない。国内の反戦世論が今後どう広がるかを探った。
学校では「これは平和維持活動」と教育
プーチン政権は前例のない報道管制に着手した。政権の支配下にある上下両院は3月4日、「ロシア軍に関する虚偽情報を広める行為」に最大15年の禁固刑を科す法案を可決。ロシアへの制裁を支持する行為にも最長3年の禁固刑を科すとしている。
政権は反政府系ラジオ局「モスクワのこだま」やテレビ局「ドーシチ」を閉鎖に追い込み、メディア各社の検閲を強化した。シンクタンクのサイトも更新されておらず、学者らにも反戦論調の禁止を命じている。西側主要メディアもモスクワでの報道活動を自粛した。
国営テレビはウクライナ政府の東部での「ジェノサイド」(大量殺戮)を非難するキャンペーンを延々と報道。最近では、ロシア側が市民退避ルートの「人道回廊」を提案しても、ウクライナ側が拒否したと一方的に非難している。
ウクライナ侵攻を支持するシンボルとして、アルファベットの「Z」が社会に拡散している。
独立系メディア「メドゥーサ」によれば、ロシアの学校に、ウクライナ戦争に関するガイダンスが配布された。それによると、生徒が「これはウクライナとの戦争なのか」と質問した場合、「戦争ではなく、ロシア語圏の人々を弾圧する民族主義者を封じ込める特別な平和維持活動」と答えるよう指示されている。
ロシア人セレブ、スポーツ選手らが停戦を呼びかけ
国民を闇に包む「愚民政策」の一方で、SNSやツイッターでは反戦論も発信されている。
英国で活動するロシアのベストセラー作家、ボリス・アクーニン氏は「ロシア人が精神を病んだ独裁者の蛮行を止められなかったことは、ロシア人全員の責任だ」と強調した。
1990年代に日露交渉に携わったゲオルギー・クナーゼ元外務次官も「精神異常者の愚行を止められなかったことをウクライナの人々に謝りたい」と書いた。
経済学者のアンドレイ・チェレパノフ氏は「真実を伝えるメディアがあれば、戦争終結を求める反乱が起きたはずだ。クレムリンはそれを極度に恐れた」と指摘した。
このほか、大統領選に出馬したタレントのクセニア・サプチャク氏、映画監督のロマン・ボロブエフ氏、テニスのダニール・メドベージェフ氏、ノーベル平和賞を受賞した「ノバヤ・ガゼータ」紙編集長のドミトリー・ムラトフ氏、「アルミ王」と呼ばれた新興財閥のオレグ・デリパスカ氏ら多くのセレブやスポーツ選手らが停戦を要求した。
即時停戦を求めるオンライン署名は100万人を超え、医師や建築家ら各業界の抗議書簡も発表された。
50都市以上で反戦デモが行われているが......
詐欺罪などで投獄されている反政府運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は獄中から発信し、プーチン大統領を「狂気の皇帝」と非難。「ウクライナ侵略戦争に気づかないふりをする臆病者の国になってはならない」とし、不服従の抗議デモを毎日行うよう国民に呼びかけた。
ナワリヌイ氏は2020年夏、シベリアで化学兵器の一種であるノビチョクを何者かにもられて重体となり、ドイツの病院で療養。昨年1月に帰国した際、空港で逮捕され、有罪となった。
ナワリヌイ氏らの呼びかけに応じ、2月24日の開戦以来、50都市以上で反戦デモが週末に行われ、数万人が参加。3月6日までに約7000人が拘束された。
ロシアでは、選挙不正や年金改革に反発するデモは発生するが、反戦デモは異例だ。とはいえ、モスクワのデモは3000人規模にとどまっており、参加者の多くは警察に連行された。政権に打撃を与えるには10万人規模に広がる必要がある。2011年の下院選の不正に反発する反プーチン・デモは、若者や中産階層を中心に10万人以上に膨れ上がり、警察は座視するだけだった。
「プーチンはエリートの間で支持を失っている」
2014年にロシアが無血でクリミアを併合した時、国民は陶酔状態となってプーチン支持に結集した。しかし、8年後のウクライナ戦争は凄惨な市街戦となり、エリートや知識層の間で動揺が広がっているようだ。
著名な社会学者、オリガ・クリシュタノフスカヤ氏は、「プーチンはエリートの間で支持を失っている。政権幹部の忠誠心にも陰りが出始めた。情報源をテレビからネットに切り替える人が増えており、誰もが真実の情報を求めている」と分析した。
ロシアは口コミ社会で、犬の散歩や台所の会話で、人々は情報交換し、激しい議論を展開しているという。
欧米が発動した過去最大の経済制裁も今後、庶民の生活を脅かし、生活水準低下を招くのは必至だ。生活苦も反戦機運を高める要素となる。
社会学者のグリゴリー・ユーディン氏は「メドゥーサ」のインタビューで、「反戦デモに参加すれば、脳震盪(のうしんとう)を起こすほど殴られたり、刑務所で下着を脱ぐよう命じられたり、前科一般として就活が難しくなると警告される」としながら、「ウクライナへの電撃戦が失敗したのは明らかだ。ロシア側はすでに大量の死傷者を出し、焦ってクラスター爆弾を使用するなど非人道的攻撃をしている。ウクライナに親戚を持つロシア人も多く、無謀な戦争への反発が高まっている」と述べた。
「ロシアの歴史上、最も無意味な戦争」(同氏)とされるウクライナ戦が長引くほど、ロシア社会の反戦機運も高まる可能性がある。
戒厳令を敷けば無期限の「戦時大統領」に?
ロシアの今後の方向としては、プーチン政権が反政府運動を鎮圧し、外国との交流を制限する「要塞」化のシナリオが有力だ。
頑固なプーチン大統領は、ウクライナ軍の抵抗や欧米の制裁がいくら強くとも、ウクライナの分割・解体という最終目標に向けて突き進むだろう。停戦や撤退は敗北を意味し、政権基盤を揺るがすことになる。
プーチン氏にとって、政権のサバイバルは至上命題であり、国内の反戦論や国際社会の制裁に対抗し、戒厳令を導入する可能性もある。インターネットやSNSを遮断し、国際関係を制限し、総動員令を敷いて危機突破を図るというシナリオだ。
戒厳令を発動する場合、2024年3月に実施予定の大統領選も中止されよう。プーチン氏は「戦時大統領」として強権体制を維持、強化することになる。
●プーチン氏「粛清」標的になったのは20人以上 苦しみ抜かせる残忍な手口 3/19
ウクライナ侵攻に踏み切ったロシアのプーチン大統領。その裏側には、恐るべき“粛清”の歴史がある。
「プーチンよ、1人の人間を黙らせることができても、世界中の抗議の声を封じ込めることはできない」──死の2日前、妻マリーナにそう言い残し息を引き取ったのは、元FSB(ロシア連邦保安局)幹部のアレクサンドル・リトビネンコ氏だ。
2006年11月、英国・ロンドンに亡命して6年目の記念日を妻とささやかな手料理で祝った直後に、体調が急変──髪の毛はすべて抜け落ち、腎臓や心臓などの内臓は蝕まれ、骨髄不全に陥るという壮絶な最期だった。リトビネンコ氏はプーチン政権による不正や暗殺を内部告発し、ロシアのチェチェン侵攻を徹底的に批判していた。それゆえ、プーチン氏から“報復”を受けたとされている。英国在住の国際ジャーナリストである木村正人氏が解説する。
「リトビネンコ氏の遺体からは、ロシアの国家施設でしか製造できないといわれる放射性物質の『ポロニウム210』が検出されました。英国の調査委員会は事件から9年後の2016年、暗殺にロシア政府が関与しており、少なくともプーチン大統領の承認を得ていたと結論づけました」
プーチン氏は常々、「組織の裏切り者には残酷な死を与える」と公言。背筋が凍るのはその手口だ。
「すぐには殺さず苦しみぬいて死ぬように量を調整された放射性物質がリトビネンコ氏に対して使われたとみられています。反逆者を見せしめにすることで、組織への忠誠を誓わせる狙いなのでしょう」(木村氏)
2000年のプーチン大統領就任後、未遂も含めると20人以上が命を狙われたとみられている。
「プーチンは99年に勃発した第二次チェチェン紛争を制圧して権力の中枢に駆け上がりました。KGB(ソ連国家保安委員会)の後身であるFSBの長官時代には、特殊工作を行なう機関を創設しており、それ以降チェチェン独立派の指揮官や政敵、ジャーナリストが次々と不審な死を遂げました。さらに近年は一般市民や活動家にまで及んでいます」(木村氏)
2018年3月、英国南部の古都ソールズベリーのショッピングモールのベンチに1組の男女が意識不明で倒れているところを発見される。2人の体からは神経剤の「ノビチョク」が検出された。
意識を失っていたのは、元二重スパイのロシア人男性セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさん。ノビチョクは旧ソ連時代に開発された神経剤で、VXガスの5〜8倍の威力があるとされる。
「スクリパリ親子は一命を取り留めたものの、事件現場でノビチョクが仕込まれた香水瓶を拾った別の女性がそれを手首に振りかけたために1人が死亡して、ほか2人が重体となりました。それ以降の傾向として、反体制運動を行なう一般人などにも矛先が向けられています」(木村氏)
2018年9月には反体制的なロシアの女性ロックバンドの関係者が、2020年8月には反体制活動家のアレクセイ・ナワリヌイ氏がターゲットとなった。いずれも毒殺未遂に終わったが、命の危機に晒された。
現在、プーチン氏が狙うのは、ウクライナのゼレンスキー大統領だろう。すでに3回の暗殺が試みられたと報じられている。
「今後も、ゼレンスキー氏の拉致が企てられる可能性があるでしょう。カメラの前でロシアに有利な内容をしゃべれば生かし、拒否すれば殺すといった手段を取りかねない。そうした事態を防ぐため、アメリカや西側諸国が必死に守っているのです」(木村氏)
これ以上、犠牲者を増やしてはならない。 

 

●ロシア軍「衝撃の弱さ」と核使用の恐怖──戦略の練り直しを迫られる米  3/20
ウラジーミル・プーチン大統領のウクライナ侵攻で明らかになったこの事実は、パラダイムシフト的な驚きをもたらし、ロシアの実力、脅威、そして国際舞台におけるロシア政府の将来に対する西側諸国の見方を一変させるだろう。
戦闘開始からわずか1日で、ロシアの地上軍は当初の勢いをほとんど失った。その原因は燃料や弾薬、食糧の不足に加え、訓練や指導が不十分だったことにある。ロシアは陸軍の弱点を補うために、より離れた場所から空爆、ミサイル、砲撃による攻撃を行うようになった。プーチンは核兵器を使う可能性をちらつかせて脅したが、これはロシア軍の通常戦力が地上における迅速な侵攻に失敗したからこその反応だと、アメリカの軍事専門家は指摘する。
他の軍事専門家からは、ロシア本土から完全な準備を整えて侵攻したロシア軍が、隣接する国でわずか数十キロしか進めなかったことに唖然としたという声もあがった。ある退役米陸軍大将は、本誌に電子メールでこう述べた。「ロシアの軍隊は動きが遅く、その兵力はなまくらだ。そんなことは知っていた。だが最小限の利益さえ達成する見込みがないのに、なぜ地球全体の反感を買う危険を冒すのか」。この陸軍大将は、ロシア政府が自国の戦力を過大評価していたという説明しかないと考えている。
ロシア軍の実態が露わに
「ロシアの軍事に関する考え方は、第二次大戦時に赤軍を率いて東欧を横断し、ベルリンに攻め入ったゲオルギー・ジューコフ元帥のやり方が中心にあると思う」と、元CIA高官は本誌に語った。ジューコフは、「大砲を並べ、……諸君の前方にあるものすべてを破壊せよ」と命じたという。「そして生存者を殺すか強姦するために農民兵士部隊を送り込んだ。ロシア人は繊細ではない」
短期的には、ウクライナにおけるロシアの軍事的失敗は、核兵器使用の可能性を含む戦争拡大の脅威を増大させる。だが長期的に見れば、戦いが拡大することなく、ウクライナ紛争を食い止めることができれば、ロシアを軍事的脅威と見る必要はなくなる。今回明らかになったロシアの通常兵力の弱さは、米政府内部の専門家を含む地政学的ストラテジストがロシアを脅威と見ていた多くの前提を覆すものだ。
アメリカと西側諸国にとって、ロシアのウクライナ侵攻のつまずきはソビエト連邦崩壊を思い起こさせる。ソ連の経済の崩壊と政治的・人的基盤の脆弱さが阻止できないほど強力と思われていた軍事力に隠されていたことが露わになった瞬間だった。30年後の今、当時の教訓はほとんど生かされていないようだ。
ロシア政府は、戦争の人的側面(および国民国家の強さの人的側面)を無視する代償として、ハードウェアへの投資を続けている。また、情報化時代における成功は、たとえそれが軍事的成功であっても、教育、オープンな構想、さらには自由が要求されるという現実をロシアの指導者たちは無視してきた。
「権力を維持したい独裁者は決して、配下の軍指導者に多くの技能を教えようとはしない」と、前出の退役陸軍大将は本誌へのメールで書いている。サダム・フセインやプーチンのような指導者は、部下の軍人があまりにも優秀であるとクーデターを起こす可能性が高まると見なすからだ。
アメリカの軍事アナリストや専門家は、ロシアによるウクライナ侵攻のこれまでの展開を見ながら、いくつかの教訓を抽出した。2月24日の現地時間午前4時頃、ロシアは主に4方向から攻撃を仕掛けた。ウクライナの首都にして最大の都市(人口約250万人)のキエフを攻撃する部隊は二手に分かれ、70マイル(約113キロ)北にあるベラルーシ領とさらにその東側のロシア領から進軍した。
第2の部隊は、ロシア国境から20マイルも離れていないウクライナ第2の都市ハリコフ(人口140万人)を急襲した。そして、第3の部隊はロシアが占領したクリミアと南の黒海からウクライナに入り、ウクライナ第3の都市オデッサ(人口100万人)を東から狙った。第4部隊は東からルガンスクを西に突き進み、親ロシア派が支配するドンバス地域から攻め込んだ。
物量だけの大攻勢
陸の侵攻と同時に、ロシアのミサイル160発が空、陸、海から標的を攻撃した。攻撃にはロシア爆撃機と戦闘機約80機が同行し、2度に渡る大攻勢をかけた。米情報筋や現地からの報告によると、最初の24時間で約400回の攻撃を行い、15の司令部、18の防空施設、11の飛行場、6つの軍事基地を攻撃したという。
圧倒的な攻撃ではなかった。だが欧米のアナリストの多くは、ロシアとしては地上軍が首都を占領し、政府を転覆させるための道を開くだけでよかったとみている。特に初日の攻撃では、ロシア空軍とミサイル部隊のごく一部しか動員されていないことからすると、追加の攻撃が行われるはずだ。
24日の終わりまでに、ロシアの地上部隊は短距離砲撃とミサイル攻撃でみずからを援護しながらウクライナに進駐した。ロシアの特殊部隊と破壊工作員は、制服と私服の両方でキエフの市街に姿を現した。キエフの北西にあるホストメル空港には、地上軍に先駆けて落下傘部隊が降下した。
最も侵攻が進んだのは、ウクライナの北東端、ロシア最西端のベルゴロドからキエフに至る一直線上のルートだった。首都攻撃をめざす第2のロシア軍部隊は、キエフから約200マイル(約320キロ)の地点から出発していた。
だがその後、徴兵制であるロシアの軍隊、その軍備、そして楽観的すぎる戦略の弱点が見え始めた。おそらく最も大きな影響があったのは、キエフ北部のホストメル空港での戦闘だった。ウクライナの民主的政権を速やかに転覆させ、「政権交代」を実現しようとするロシアの重要目標だ。ヘリコプターで運ばれたロシアの空挺部隊は、24日の早朝に空港に着陸し、市内に入る足がかりをつくった。しかし、その日のうちにウクライナの守備隊に追い返された。
一方、ロシア軍主力部隊の最先端は、キエフの北20マイル(約32キロ)の地点で足止めを食らった。ベラルーシ国境から延び、ウクライナの首都を分断するドニエプル川の西岸に沿って南下すると、戦車や装甲車の進むスピードは鈍った。ロシアの兵站補給が滞っていた。ウクライナの地上防衛隊と戦闘機が前進するロシア軍部隊を攻撃し、予想外の勝利を収めた。
混乱し、士気を喪失した兵士の話が次々と明らかになり、ロシアの陸軍部隊は計画通りの役割を果たせないことが明らかになった。一方、ウクライナ軍とウクライナ国民の防衛力は予想以上だった。箒で武装したバブーシュカ(老婦人)がロシア軍を打ち破る――そんなイメージが支配的になった。
先端兵器は宝の持ち腐れに
長距離攻撃を除いて、ロシア軍の侵攻作戦はほぼすべて失敗した。ウクライナの防空網は破壊されなかった。ウクライナの飛行場は機能停止に陥らなかった。ウクライナの守備隊はその場を守り、国内をほとんど自由に移動することができた。ウクライナの予備軍と民間の防衛隊はすばやく動員された。
ウクライナの中心部に投入されたロシアの空挺部隊と特殊部隊は、ロシア地上軍の本隊から孤立し、基本的な物資、特に弾薬の補給を絶たれた。
重要なのは、ロシアが電子攻撃、サイバー攻撃、宇宙からの攻撃といった近代戦の手段を攻撃に組み入れることができなかったことだ。ウクライナでは電気も通っていたし、インターネットを含む通信インフラもフル稼働していた。
米情報筋は本誌に対し、ロシアの地上部隊は驚くほど鈍重で連携が取れていないが、ロシア政府の戦略と目標のせいで最初の攻撃が厳しい制約を受けていたことも指摘した。
2003年のイラク戦争の計画に携わったある米空軍将校は、「国の占領を意図しているならば、破壊できる民生用のインフラは限られている」と言う。また、ウクライナはロシアの一部であると主張する以上、モスクワはウクライナ国民をあからさまに直接攻撃することはできない、と軍事オブザーバーらは言う。
また、ロシアは意図的に民間人や民間施設を攻撃しないことで、国際社会(さらにはウクライナ国民)との親善の姿勢を少しでも維持しようとしたのかもしれない。ウクライナ政府は、攻撃初日の民間人への攻撃はわずか32件で、そのほとんどが偶発的なものであったと主張している。
侵攻数日後も攻撃件数は少なかったが、ウクライナの保健当局によると、民間人約300人が死亡し、さらに1000人が負傷したという。民間施設への攻撃は数えきれないほどだが、今のところ意図的なものはないようだ。
ウクライナに侵攻しているロシア軍の規模は総計15万人。かなりの数に聞こえるかもしれないが、約15カ所から分かれてウクライナに侵攻しているため、個々の攻撃の威力は分散されている、と別のアナリストは言う。
このような多方面からのアプローチは、自国の軍事力を過大評価してウクライナをすばやく占領できると考えたロシア側の誤算を示していると、このアナリストは述べた。
侵攻開始から2日〜3日目にかけてロシア東部から西進する部隊は、進撃を続けた。このルートには最も強力な物資の補給線が存在する。12個大隊の戦術部隊(約1万1000人)がキエフから約100マイル(160キロ)のところにあるオヒティルカに到達した。大規模な砲撃の末に戦車部隊がウクライナ第2の都市ハリコフに侵入し、さらに市内での攻撃をエスカレートさせ、都市の支配を目指した。
進軍を阻まれた主力部隊
北からキエフを攻めるロシア主力部隊の大部分にあたるドニエプル川西岸で活動する約17個大隊の戦術部隊とその支援部隊(2万4000人)はあまり前進していない。前衛部隊は26日までにキエフ都市圏の北部に到達した。28日にはキエフの中心部付近で激しい戦闘が繰り広げられた。
侵攻開始から72時間が経過する頃には、ロシアの攻撃の大部分は長距離砲撃とミサイル攻撃に移行しており、そのほとんどは発射元が報復を受けないロシアとベラルーシの領土から行われた。
ウクライナ国防省は、3日間の戦闘で、戦車150台を含むロシア車両約700台が破壊あるいは、機能停止、または放棄されたと主張している。ロシアの航空機とヘリコプター約40機が撃墜された(一部は墜落)。
ウクライナ空軍のSu-27「フランカー」戦闘機が、ウクライナ占領のための兵員を乗せたロシア軍の大型輸送機を撃墜したこともあった。
ロシアは、侵攻3日目の終わりまでに、14の飛行場と48の防空施設を含む、820の軍事施設を破壊したと主張した。またロシアは、戦場でウクライナ軍の戦車87台「およびその他の目標」が破壊されたと主張している。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月26日に公開した動画で、ロシア軍のキエフ侵入は阻止され、首都を迅速に陥落させて傀儡政権を打ち立てるというロシアの作戦は失敗したと戦況報告をした。「キエフの本格的な戦闘は続行中だ」と、ゼレンスキーは述べ、「私たちは勝利する」と宣言した。
装備の数では圧倒的な差があるようだが、ロシア軍とウクライナ軍の犠牲者の数を比べると、ロシアの圧勝を許さない実態が見えてくる。米情報筋は、戦闘が始まってから3日後に、ロシア軍は1日に約1000人の死傷者を出していると述べた。ウクライナ軍もほぼ同程度の死者を出しており、最前線での地上戦の凄まじさをうかがわせる。ウクライナ外務省の27日の発表によれば、ロシア兵4300人が殺され、200人余りが捕虜となった。米情報機関によると、ロシア軍からは戦闘開始から数日で脱走兵が出始め、戦わずに降伏する部隊が出ていることも報告されている。
「2003年にイラクに侵攻した米軍が3時間でやってのけたことを、ロシア軍は3日掛けても達成できていない」と、米空軍の退役将校はやや大げさに話した。この退役将校によれば、侵攻開始後の3日間にロシアが狙いをつけた照準点の数は、イラク空爆開始時に米軍が狙いをつけた照準点(3200カ所余り)の4分の1にすぎない。米情報機関の初期分析では、ロシア軍は1万1000個の爆弾とミサイルを撃ち、うち照準点に命中したのは820個で、命中率は7%程度だった(2003年の米軍のイラク侵攻では80%を超えた)。
「ゾッとするほどお粗末」
ロシア軍の命中率の低さでは「一連の攻撃による相乗効果が得らない」と、退役将校は見る。例えば防空システムを破壊するには、ミサイル発射装置と早期警戒システムを結ぶ通信網を攻撃しなければならないが、「ロシア軍はばらばらの攻撃に終始しているようだ」と、彼は話す。「連携のとれた攻撃は、彼らには複雑すぎて実施できないのだろう」
別の退役将校は、イラクの首都バグダッドを集中的に攻撃し、イラクの政権と指令系統を回復不能な大混乱に陥れた米軍の「衝撃と畏怖」作戦をもじって、ロシアの作戦は「衝撃とゾッとするほどお粗末」作戦だと冗談交じりに言う。
ロシアのプーチン大統領は27日、核抑止部隊に「戦闘任務の特別態勢」に入るよう命じた。西側観測筋の解釈では、これは核戦争に対する備えを一段と引き上げることを意味する。プーチンは、警戒レベル引き上げをNATOの「攻撃的な声明」への対応だと述べており、より厳密に解釈すれば、ロシアの軍事作戦が失敗した場合に備え、考え得るあらゆるNATOの介入を事前に封じるため、プーチンは核をちらつかせたのだろう。
プーチンが作戦の失敗に備えて手を打っていることは、ベラルーシの国境地帯でロシアの代表団が28日にウクライナ側と停戦協議を行ったことからもうかがえる。引き続き3月3日に2回目の協議が行われることになったが、軍事に詳しい観測筋によると、プーチンが確保できる最善の軍事的な成果は、ウクライナに3つの楔を打ち込むことだ。その3つとはキエフとハリコフ、そしてクリミア半島に隣接する地域だ。プーチンはこの3つの楔を交渉の切り札にして、ウクライナは西側同盟に加わらない、公然と「中立化」を宣言する、NATOと連携しないなど「安全保障上の保証」を取り付けるつもりだと見られている。
ジョー・バイデン米大統領は1日に議会で行った一般教書演説で、ウクライナ危機に焦点を当てた。バイデンはロシアの一方的なウクライナ侵攻とプーチンの国際法違反を非難し、ウクライナの人々の勇敢な防衛戦をたたえ、西側はロシアに対する厳しい制裁措置で一致団結し、ウクライナの戦いを支援すると述べた。
だが、バイデン演説の底流に流れていたのは、あえて口には出さなかったロシアの核の脅威だ。これは米政界ではこれまで誰も予想していなかった脅威だが、今では亡霊のようにバイデン政権につきまとっている。
戦略変更を迫られる
対立がエスカレートし、核が使用されることへの危機感が、短期的には米政府とNATOのウクライナに関する意思決定に大きな影響を及ぼしかねない。西側は再び冷戦時代のやり方でロシアと対峙することになるかもしれない。
ロシア軍の弱さが分かったことで、長期的には、アメリカは戦略と資源投入の優先順位、さらには世界における指導的地位の保持に至るまで、根本的な見直しを迫られる。ロシアを自国と「対等な軍事力」を持つ敵対国家と見なす米政界の強迫観念や、ロシアに軍備で勝ろうとして、防衛費を膨張させる風潮も再考を迫られることになる。
ロシアの軍事力の評価が変わることで、NATO、そして欧州のNATO加盟国も根本的な戦略の見直しを迫られる。ロシアが極端な行動、さらには無謀とも言うべき行動に走ることは、今回の出方でよく分かったし、それに対する警戒感も高まっているが、その一方で防衛費の拡大や欧州の地上部隊の強化は必要ではないことも明らかになった。
新たな課題は実は古い課題であり、いま求められているのは封じ込め、国家を弱体化させる経済戦争、核軍縮協議だといえるだろう。だが一方、ロシアの視点に立てば、軍隊の弱さが露呈したことで、核保有が自国の真の強みだという認識が強まったはずだ。国家を維持する、少なくとも現在ロシアを支配している政治体制を維持するためには、核の威力がかつてなく重要な意味を持つ。
ロシアの欧州に対する軍事的脅威の観点から言えば、ロシア軍が恐れるに足りないことが分かって、バイデン政権は安堵しただろうが、気を緩めるわけにはいかない。国家安全保障戦略の練り直しが急務だ。ロシアをアメリカと対等な軍事大国と見なさず、なおかつプーチンを追い詰めたらどうなるかを想定した現実的かつ冷徹な戦略が求められている。
●プーチン大統領&ウクライナ・ゼレンスキー大統領のパフォーマンス&ェ析 3/20
ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアのプーチン大統領(69)の精神状態を疑問視する声が噴出している。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領(44)は首都キエフにとどまり、国民を鼓舞。世界から共感を集めている。両者について、自己表現力の向上を目指すパフォーマンス心理学の第一人者でハリウッド大学院大学の佐藤綾子教授が独自の指標で分析した。
「話をするときに顔の正面を相手に向けず、流し目で相手を見るなど視線が泳ぐことが多くなった」。佐藤教授はプーチン氏の視線の動きから、精神状態の異変を見てとる。「こうしたしぐさは心が不安な時に現れる」と指摘した。
プーチン氏の異変=Bフランスのマクロン大統領が懸念を漏らしていると伝えられ、米国の上院議員らも指摘。米情報機関がプーチン氏の精神状態分析を最重要課題の一つとしているなどとも報じられた。
佐藤教授は「心理的不安を抱え込むほど外に敵を作りだそうとする」。経済制裁を科した諸国を「うその帝国」と批判するなど「いじめられている」ような発言をするのは、その表れとする。
プーチン氏がショイグ国防相らを前に戦略的核抑止部隊への「特別警戒」を命令した際、長いテーブルの端に座って4〜5bの距離をとったことにも着目。「物理的な距離は、心理的な距離に比例する。自分が『絶対的な君主』と考えていることを如実に示している」とした。
これらの根底にあるのは「コンプレックスと支配欲」と推測。「身長や外見、出世が遅かったことなどが影響している可能性がある。コンプレックスの塊になれば判断を間違う」と危惧した。
一方のゼレンスキー氏。徹底抗戦を唱えているが、佐藤教授は「本気度を強く感じさせる」と指摘した。米欧から亡命を勧められたが断ったこと、首都キエフにはロシアの暗殺部隊が潜入しているにもかかわらずとどまっていること、SNSで濃い緑色のTシャツ姿を見せていることなどを理由に挙げた。
「トップの服装は気概を示す。今はスーツを着ている場合ではなく、戦うんだという意思を示している。適切な色」
佐藤教授は「PQ(Performance Quotient)」という新たに開発した自己表現力指数で、両者を分析。特徴的な4項目について検証した。佐藤教授はプーチン氏について「外に弱く、内に強い人間像が出てくる」と解析。ゼレンスキー氏については「外に強く、やり取りも上手。ただ深刻な事態にどの程度耐えられるか過去の実績からは未知数。今、試されているところだが、もっと高くなるだろう」と総括した。
自らの考えを相手に理解してもらい共感を呼び寄せる力では、プーチン氏はすでに敗北しているようだ。
●プーチン痛烈批判のロシア人モデル「失踪後の戦慄の末路」 3/20
〈おこなったことは正しいと信じているが、自分の安全については心配で仕方がない〉
番組放送中に「NO WAR」と書かれた紙を掲げ、ロシアのウクライナ侵攻を批判した、同国政府系テレビ『第一チャンネル』のマリーナ・オフシャンニコワさん(43)。3月16日に米メディア『CNN』の取材を受け、こう不安を口にした。
モスクワの裁判所は、無許可の反戦デモ参加をSNSで呼びかけたとして、オフシャンニコワさんに3万ルーブル(約3万円)の罰金の支払いを命令。3月4日に成立したばかりの偽情報を取り締まる情報統制法にも問われており、最大で懲役15年の厳罰を受ける可能性もある。
「ウクライナ侵攻に反発したのは、オフシャンニコワさんだけではありません。『第一チャンネル』では、人気キャスターやアナウンサーら6人が離職。独立系新聞『ノーバヤ・ガゼータ』は、オフシャンニコワさんの行動を英雄視し1面で取り上げています。
こうした動きに対し、ロシア政府は統制を強めている。各地で起きている反戦デモで、言論封殺を揶揄する白紙を掲げただけで多くの市民が警察に連行されているんです。人権団体『OVDインフォ』によると、ウクライナ侵攻後に拘束された人は1万5000人に達しています」(全国紙国際部記者)
3月15日には、衝撃の事実が明らかになった。米テレビ『FOXニュース』や英紙『ミラー』などによると、プーチン大統領を批判し続けたロシア人モデルが「戦慄の末路」を迎えたというのだーー。
「渦中の人物は、グレタ・ベドラーさん(23)です。ベドラーさんは、昨年1月に、自身のSNSでプーチン大統領を激烈に非難。『彼は自分でなんでもできると勘違いしている』『ロシアのためと思ってすることは必ず失敗する』『彼はサイコパスとしか思えない』などと」(ロシアに滞在経験のあるライター)
1ヵ月後、ベドラーさんは突然姿を消す。彼女が発見されたのは、1年後の今年3月15日。最後に生存が確認された場所から480kmも離れた東部リペツク州で、車のトランクに収納されたスーツケースから遺体となって見つかったのだ。
「加害者として逮捕されたのは、ベドラーさんと交際していたという同い年の男性です。おカネのトラブルで口論になり、首を絞め殺害してしまったと。事件とプーチン大統領批判は、関係ないと供述しているそうです。彼女が生きていると見せかけるために殺害後もなりすまして、しばらくベドラーさんのSNSから発信していたとか。
しかし、謎も多い。なぜ遠く離れた東部に遺体が放置され、1年間も見つからなかったのか。親族や友人は何をしていたのか。交際相手の証言は本当なのか……。反政府活動が活発になる中、プーチン大統領批判を繰り返したベドラーさんは見せしめにされたのではないか。そんな憶測さえあるんです」(同前)
プーチン大統領批判とベドラーさんの事件が、関連しているという証拠はない。ただ、彼女の死に不審な点が多いことは確かだろう。真相は闇の中だ。
●ウクライナ反戦は「裏切り者」 プーチン氏発言、抑圧強化か―ロシア 3/20
ロシアでウクライナ侵攻に反対する国民を「裏切り者」と決め付け、糾弾する動きが強まっている。プーチン大統領は16日の政府会議で「ロシア国民は真の愛国者と裏切り者を見分けることができ、たまたま口に入ってきた虫のように簡単に(裏切り者を)吐き出すことができる」と発言。国民への抑圧が一層強まり、ロシアの前身のソ連のような全体主義体制への回帰が加速するとの懸念が広がる。
プーチン氏は、裏切り者の排除は「社会の自浄作用」であり「われわれの連帯と結束、あらゆる挑戦に立ち向かう覚悟を強化する」と強調。スパイを意味する「第五列」という言葉も使い、「欧米はわれわれの社会を分裂させ、ロシアの市民対立を誘発し、第五列を用いて目的を達成しようとしている」と主張した。
実際に元政権幹部も含めて侵攻に反対した人の排除が始まっている。プーチン政権で要職を務めたドボルコビッチ元副首相は14日公開の米メディアのインタビューで「戦争は人生で直面する可能性がある最悪の出来事だ」「私の思いはウクライナ市民と共にある」と反戦の立場を表明した。
これに対し、プーチン政権与党「統一ロシア」幹部のトゥルチャク上院第1副議長は「まさに国家に対する裏切りであり、大統領が言う第五列そのものだ」と非難。ドボルコビッチ氏は18日、先端技術の研究を後押しする政府系財団の総裁職を辞任した。
反政権派のカシヤノフ元首相は「プーチンはロシアの破壊に向けた行動を強化し、政権に同意しない人々に対する大規模な抑圧の開始を表明している」とツイッターに投稿。「これは既に歴史上起きたことだ」と恐怖政治の再来に警鐘を鳴らした。
●核衝突の可能性・・・?ウクライナ侵攻で可視化された核の脅威とは 3/20
プーチン大統領の口から飛び出した核を匂わす発言。世界中に緊張が広がっています。
依然戦闘が続くウクライナ情勢を念頭に14日、国連のグテーレス事務総長は世界に警鐘を鳴らしました。
国連 グテーレス事務総長「かつては考えられなかった、核衝突の可能性が、今や再び現実のものになった」
背景にあるのが、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからプーチン大統領が行ったこの発言。
ロシア プーチン大統領「国防相と参謀総長に対しロシア軍の抑止力を特別戦闘態勢にするよう命じる」
ここでいう抑止力とは、核の使用をちらつかせたものとみられ、世界に衝撃を与えたのです。
侵攻が始まって既に3週間。ロシア軍が予想以上の苦戦を強いられている中、ロシアは「クラスター爆弾」や「燃料気化爆弾」など、国際条約で使用が禁止された兵器を次々使用しているとされます。
さらに19日、ロシア国防省は極超音速ミサイル「キンジャール」を使ってウクライナ軍の地下軍事施設を破壊したと発表。「キンジャール」は核弾頭が搭載可能なミサイルです。
ウクライナ情勢が緊迫化する中、いまやロシアによる「核攻撃」の可能性すら、頻繁に語られつつあります。
実際、2月には、トランプ政権で国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏も、発表した文章の中でこう語っています。
「プーチンは、ロシアの核兵器をウクライナの戦域で使用することを真剣に考えている可能性があるー」
1月、ロシアを含む核兵器を保有する5か国は、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」として、共同声明を発表したばかりでした。
中国外務省 傅聡軍備管理局長「世界平和を維持し、核戦争のリスクを減らすという、5か国全体の意思が表明されたー」
皮肉にも、そのわずか2か月後に起きたロシアの軍事侵攻は、こうした5大国による「核抑止」が、既に破綻しているのではともいえる状況です。
しかも5大国に限らず、いまやインドやパキスタン、さらに北朝鮮なども核兵器を保有していると見られるなど、「核拡散」は深刻な状況にあります。
そしてさらに深刻さを増しているのが、核兵器そのものの進化です。
ロシア プーチン大統領「既に皆さんも察していると思うが、世界に類似の兵器はない」
2018年、プーチン大統領は新型核兵器の開発を明言。
この時期以降、アメリカも対抗するように核戦力を大きく見直し、新型核兵器の積極的な導入を進めました。
こうした国々が開発を進めているのが、いわゆる「使える核兵器」なのです。
アメリカやロシアなどの核大国が開発を進める「戦術核」。これは大型で威力が大きい、いわゆる「戦略核」と違い、局地的な攻撃などを想定した、比較的威力の小さい核兵器のこと。
核開発を進める国々はこれまでの戦術核をさらに小型化し、「使える核兵器」にしようとしているとされます。長崎大学の吉田文彦教授は・・・
吉田文彦教授(長崎大学核兵器廃絶研究センター・センター長)「核は抑止のためであって、基本的には使わない兵器、人道的な見地から使えない兵器、『核のタブー』が存在すると長年言われてきました。ところが今回のように核兵器を誇示して行動に出たということは、70数年にわたる核のタブーを破ることになります」
こうした核兵器のリスクの高まりを受け、その影響は今、日本にも及んでいます。他国の核攻撃に備え、アメリカの核兵器を日本に配備し、共同で運用する「核共有」を巡る議論です。
これについて岸田総理は・・・
岸田文雄首相「『非核三原則』を堅持するという、わが国の立場から考えて、(核共有は)認められない」
あくまで非核三原則を守り、「核共有」は考えていないとして、アメリカの核の傘のもとにある「拡大抑止」を重視する考えを示しています。
その一方で、かつてアメリカとロシアが結んだ「INF・中距離核戦力全廃条約」はすでに失効。核軍縮は進んでおらず、その間、中国は核戦力を増強するなど、核を巡る状況は日増しに緊迫の度合いを増しています。
吉田文彦教授(長崎大学核兵器廃絶研究センター・センター長)「ウクライナ危機を経て、核兵器を使う敷居が低くなるかもしれません。プーチン大統領のとった選択というのは、核使用のリスクがリアルに存在するんだということを明示したと思うんです。この問題をどう受け止めて、対応するのかということが、その後の世界に大きな影響を与えることは間違いない」
国連のグテーレス事務総長が“核衝突の可能性”が現実のものとなったと指摘する中、改めて核との向き合い方が問われています。
●ウクライナ大統領「戦争犯罪として刻まれる」 マリウポリで市街戦激化 3/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は、南東部マリウポリで続くロシア軍による包囲攻撃を「戦争犯罪」だとして厳しく非難しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「マリウポリの封鎖は戦争犯罪として歴史に刻まれるだろう」
ゼレンスキー大統領は19日、こう述べたうえで、ロシア軍の包囲攻撃は何世紀にもわたって記憶される「テロ行為」だと非難しました。
マリウポリでは市街戦が激化していると伝えられていて、別の地域に家族とともに逃れた男性はマリウポリの状況について次のように話します。
マリウポリから避難した人「人々は路上で死んでいた。死体が道に横たわっていた」
さらに、ロイター通信はさきほど、マリウポリ市当局の話として、400人が避難している芸術学校が爆撃されたと伝えました。被害の詳しい状況は分かっていません。
ウクライナ政府高官は、マリウポリについて現状では「軍事的な突破口はない」としていて、ロシア軍が圧倒していると訴えています。
一方、南部ミコライウでは・・・。ウクライナメディアによりますと、18日、ロシア軍のロケット弾によりウクライナ軍の兵舎が攻撃され、これまでに少なくとも50人の死者が確認されていますが、犠牲者はさらに増えるものとみられています。
こうしたなか、ロシア国防省の高官は19日、ウクライナ側の武装勢力が南部で有毒な薬物を使用した挑発行為を計画していて、ロシア軍が近づけば薬物ごと爆破するつもりだなどと主張しました。
アメリカはこれまでに、ロシアが化学兵器や生物兵器を使い、それを相手方のせいにする「偽旗作戦」を実施する可能性があると指摘しています。
●ウクライナにチェチェンの“残虐部隊”投入 プーチンに忠誠を誓うカダロフツィ 3/20
「勢いを失っている」そうイギリス国防省が分析したロシア軍。そんな状況の中、ロシア側に新たな勢力が加わった。その勢力こそ“チェチェンの独裁者”と言われるカディロフ首長とその私兵、カディロフツィ・・・拷問や暗殺を繰り返してきた残虐なプーチン大統領の“親衛隊”ともいえる部隊である。
「KGB出身者も持て余す汚れ仕事を担う集団」
ウクライナでの軍事作戦が続くさなかの今月15日、プーチン大統領の最側近であるパトルシェフ・ロシア安全保障会議書記がチェチェン共和国を訪れた。出迎えたのは、チェチェン共和国のトップ、カディロフ首長だ。果たしてどんな人物か・・・。ロシアの安全保障に詳しい兵頭慎治氏に聞いた。
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「チェチェン共和国はかつてロシアからの分離独立を求めていて、イスラム系の大統領がいた。これを2度の紛争を経て制圧した。その後ロシア寄りの傀儡政権ができた。それを率いているのがカディロフという人で、行政のトップということで“くび長”首長という肩書。プーチン大統領に絶対の忠誠心を誓っているので大統領は名乗らない。その見返りとしてロシアから得る資金は国家予算の8割。そして、2万人の私兵(=カディロフツィ)を使って力ずくでチェチェンを統治している。イスラム系の分離主義者たちが今もいるわけですから、このカディロフツィたちは、誘拐・拷問・殺害などかなり残忍な行為に及ぶこともある」
さらに、このカディロフ首長とカディロフツィは、チェチェンの統治だけにとどまらず、プーチン大統領のためなら何でもやる集団と考えたほうがいいという。2006年のロシアの元スパイ、リトビネンコ毒殺事件や、チェチェン紛争での人権侵害を告発し、プーチン批判で知られた女性ジャーナリストの銃殺事件など数々の謎の事件でも、カディロフツィの存在が浮上している。
今回のウクライナ侵攻においても、ゼレンスキー大統領の暗殺未遂に関与していたといわれる。
パトルシェフ・ロシア安全保障会議書記がチェチェンを訪れたことは、ウクライナへの本格参入を示唆していると兵頭氏は言う。
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「(今回チェチェンに赴いた)パトルシェフは、プーチン大統領が全幅の信頼を寄せる唯一の人物で、ウクライナ侵攻の決定にも深く関与している。このパトルシェフって人は元KBG の“ドン”で、プーチン氏からすれば“師匠”みたいな人物。このパトルシェフを通じてカディロフそしてカディロフツィにプーチン氏の意向が伝わって動いている」
このカディロフツィが今ウクライナに投入されるということは、単に軍の頭数を増やすというより特別な意味を持つと兵頭氏は言う。
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「これは軍事的作戦だけではなく、ゼレンスキー政権打倒という政治的オペレーションにもかかわってくる。その工作もカディロフツィならやる力がある。(中略)政治的な工作活動も含め手段を問わない人たちなんです。おそらくキエフに投入して、最終的にはゼレンスキー政権を追い込む」
それにしてもパトルシェフ氏が元KBG の“ドン”であるなら、難しい局面では元KGBを使えばいいと思うが、なぜカディロフツィなのだろうか・・・。
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「旧KGBの工作員も、変死事件や政治工作活動は国内外でやっているんですが、その人たちでも手に負えないようなところを、カディロフツィに委託するのです」
つまり、プーチン政権の“汚れ仕事”を一手に引き受けることで成長したのが、カディロフ首長とカディロフツィなのだというのだ。そのカダロフ首長は、今回ウクライナ領内で撮影したとみられる動画をインターネットに投稿、カメラに向かってこう言っている。
「私たちを探す必要はない。私たちがお前を探し出すからだ」
「戦争にもマナーがある。これはギャングを送り込むようなものだ」
カディロフツィが、ウクライナの侵攻に加わることを日本の制服組のトップにいた河野克俊氏はどう思うか聞いた。
河野克俊 前統合幕僚長「今回の侵攻は、ロシアの安全保障を確保するっていうのが大名目ですよね。でも、このカディロフツィは、暗殺などダーティーなことをやる集団。(中略)戦争にも、最低限守らなきゃいけないマナーがあるはず。それがもう何か知らんけどギャングを送り込むような形にしてるっていうのは、もう異常だと思います」
これによってウクライナ人の怒りは一層増すだろうと河野氏は結んだ。さらに朝日新聞の峯村氏はこう言う。
朝日新聞社 峯村健司 編集委員「プーチンの焦りだと思う。カディロフツィ投入は最後の手段。斬首作戦にしても、ウクライナのゼレンスキー政権には、ロシア寄りのスパイが入っていて簡単にできるだろうと思っていた。ところがイギリスやアメリカの軍事顧問や特殊部隊が守っていることで、それができないことへの焦りだと思う」
さらに峯村氏は、この“チェチェン”がキーワードだという。
「チェチェンの成功体験がプーチン氏の原動力」
朝日新聞社 峯村健司 編集委員「ロシアに長く勤務していたアメリカ政府の幹部が言っていた。やはりチェチェンの成功体験がプーチン氏のいちばんの原動力になっていると。チェチェン紛争を制圧したことで権力を掌握したプーチン氏は、その成功体験があるから、戦争を勝たなければいけない。今回の侵攻も次の24年の大統領選を圧勝したいがために仕掛けた。だから負けるわけにはいかない・・」
チェチェン紛争は1994〜96年と1999〜2009年の2回にわたって行われた。99年からの戦いはプーチン氏が大統領になって間髪おかずに始めた戦争だ。この時、ロシアはチェチェンの街を徹底的に破壊。首都・グロズヌイは、廃墟と瓦礫だけの死の街と化した。しかし、現在のグロズヌイの街は、近代的インフラが整備され、高層ビルが建ち並び、ヨーロッパ最大ともいわれるモスクまである美しい都市に変わっている。
空爆などで完全に破壊し、その後の傀儡政権に資本を投入することで、現代的な街の繁栄を築ける。プーチン氏の成功体験の象徴ともいえる現実が、ここにあるのだというのだ。
さらにプーチン氏はチェチェン制圧によってロシア国内で支持を集め、その後今に至る強大な権力を掌握していった・・・
ウクライナ侵攻でも同じことがあるのだろうか?
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長「チェチェンの時と同じ成功が今回のウクライナでも起こるかというと大きく疑問が残る。(中略)これだけ広範囲に破壊しておいて、この後チェチェンみたいに復興するからといってロシア国内で支持を得るというわけにはいかない。ウクライナ全土でこれだけの攻撃をした“やり過ぎ感”っていうのは、むしろ国内で今、反発が始まって、反プーチン的な動きも高まっている。やっぱりやり過ぎによる逆効果だと思います」
●ウクライナ侵攻による正教会の混乱、孤立するロシア総主教 3/20
ロシア正教会のキリル総主教が、ロシアによるウクライナ侵攻に高らかな祝福を与えたことで、世界中の正教会は分裂の危機に陥り、専門家から見ても前代未聞の反乱が正教会内部で生じている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の盟友であるキリル総主教(75)は、今回の戦争について、同性愛の受容を中心に退廃的であると同師が見なす西側諸国への対抗手段であると考えている。
キリル総主教とプーチン大統領を結びつけるのは、「ルースキー・ミール」(ロシア的世界)というビジョンだ。専門家の説明によれば、「ルースキー・ミール」とは、旧ソ連領の一部だった地域を対象とする領土拡張と精神的な連帯を結びつける構想だという。
プーチン氏にとってはロシアの政治的な復権だが、キリル総主教から見れば、いわば十字軍なのである。
だが総主教の言動は、ロシア国内にとどまらず、モスクワ総主教座に連なる諸外国の正教会においても反発を引き起こしている。
ロシアでは、「平和を支持するロシアの司祭」というグループに属する300人近い正教徒が、ウクライナで行われている「非常に残忍な命令」を糾弾する書簡に署名した。
この書簡には、ロシア政府とウクライナ政府の板挟みになっている数百万もの人々に触れ、「ウクライナの人々は、銃口を突きつけられることなく、西からも東からも圧力を受けることなく、自らの意思による選択を行うべきだ」と書かれている。
ロシア政府は「特別軍事作戦」と称する今回の行動の目的は、領土の占領ではなく、隣国の非軍事化と「非ナチ化」であると表明している。
正教会系のキリスト教徒は全世界で2億6千万人。そのうち約1億人がロシア国内で、他国の正教会の中には、モスクワ総主教座と連携しているものもある。だが今回の戦争により、その関係に緊張が生まれている。
キリル総主教のためには祈らない
オランダ・アムステルダムの聖ニコラス正教会では、この戦争を機に、教区司祭が礼拝の際にキリル総主教を祝福する言葉を入れることをやめた。
西欧在住のロシア人主教が訪問して考えを変えさせようとしたものの、同教区では、この決定は「心からの痛みをもってなされた、非常に困難な一歩」だとして、モスクワ総主教座との関係を断ち切った。
「キリル総主教は、まぎれもなく正教会の信用をおとしめた」と語るのは、リバプール・ホープ大学のタラス・ホームッチ上級講師(神学)。神父でもあるホームッチ氏は、ウクライナのビザンツ式典礼カトリック教会の一員だ。同氏はロイターによる電話インタビューで、「ロシアでも声を上げたいと思っている人はもっと多いが、恐怖を感じている」と語った。
ウクライナには約3000万人の正教徒がいるが、「ウクライナ正教会」(モスクワ総主教庁系、UOC─MP)と、別の2つの正教会に分裂している。後者の1つが、完全独立系「ウクライナ正教会」である。
ウクライナは、ロシア正教会にとって文句なしに重要な存在だ。ウクライナはロシア文明のゆりかごだとされており、10世紀には、ビザンチン東方正教会の布教により異教徒だったボロディーミル大公を改宗させた地だからである。
UOC─MPのキエフ府主教区大主教であるオヌフリー・ベレゾフスキー師は、プーチン大統領に対し「同胞が相争う戦争の即時停止」を要請し、もう1人のUOC─MP府主教区大主教であるエボロジー師(東部スムイ市出身)は、配下の司祭たちに、キリル総主教のための祈りをやめるよう指示した。
キリル総主教は、ウクライナを自らの精神的管轄領域の不可分な一部だと主張している。すでに、トルコのイスタンブールを拠点とするエキュメニカル総主教のバルトロメオ師との関係は決裂した。バルトロメオ師は、正教会の世界における同格の存在の中で真っ先に反旗を翻し、ウクライナ正教会の自治を支持したからだ。
ジョージアでは、かつて同国の駐バチカン大使を務めたこともあるイリア国立大学のタマラ・グルゼリゼ教授(宗教学)が、ロイターに対し「いくつかの正教会は、キリル総主教の戦争に対する態度について激怒しており、世界各地の正教会で大混乱が生じている」と述べた。
フォーダム大学(米ニューヨーク)の正教会キリスト教研究センターやボロス神学研究アカデミー(ギリシャ)をはじめとする研究機関に所属する正教会系の神学者らは、「敵意を積極的にあおる方向で祈りを捧げるよう信徒たちに指示する」教会指導者たちを非難する共同声明を発表した。
●プーチンはなぜウクライナに侵攻したか  3/20
なぜロシアのプーチン大統領は、国際社会から非難を浴びることが明らかなウクライナ侵攻に踏み切ったのか──。経営コンサルタントの大前研一氏は「ロシアとプーチン大統領の側に立って“ロシア脳”で見てみるとウクライナ問題には別の一面があることがわかる」と指摘する。どういうことか、大前氏が解説する。
本稿執筆時点(2022年3月11日)では、ロシアのウクライナ侵攻が長期化・泥沼化の様相を呈し、犠牲者や避難民が増え続けている。
アメリカやEU(欧州連合)はロシアへの経済制裁を強化しているが、それに対し、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナが抵抗をやめてロシア側の要求を満たした場合のみ、軍事作戦を停止する」と述べ、一歩も引かない構えである。
言うまでもなく、ロシアが主権国家のウクライナを侵略することは許されない。私は、自分が主宰している経営者の勉強会「向研会」の視察などでウクライナを何度も訪問し、同国の人々に親愛の情を抱いている。ロシアの軍事侵攻は極めて遺憾であり、速やかな戦争終結・和平を祈るしかない。
一方、日本のマスコミ報道を見ていると、なぜプーチン大統領が国際社会から非難を浴びることが明らかなウクライナ侵攻に踏み切ったのか、さっぱりわからない。単純にプーチン大統領を横暴で残忍非情な独裁者と批判し、米欧を正義と位置付けているだけである。
だが、そういうレッテル貼りは、無意識のうちに“アメリカ脳”で世界を見ているからにほかならない。その逆に、ロシアとプーチン大統領の側に立って“ロシア脳”で見てみると、ウクライナ問題には別の一面があることがわかる。むろん、私は親露でも反米でもない。だが、あえて“ロシア脳”で考えれば、プーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切った理由が見えてくる。歴史的な視点からすると、“アメリカ脳”と“ロシア脳”の両方を併せ持っていなければ、国際問題に対して的確な判断はできないと思う。
勢力圏を削られる屈辱と危機感
19世紀以降のロシア(ソ連)は、侵略するより侵略されたことのほうが多い国である。1812年にはナポレオンが攻め込み、1918年〜1922年には日本を含む第一次世界大戦の連合国がロシア革命に干渉してシベリアに共同出兵した。第二次世界大戦ではナチス・ドイツが侵攻した。
今回、フランスのマクロン大統領はプーチン大統領との仲介役を買って出た。ドイツのショルツ首相もプーチン大統領と電話会談を行なった。しかし、“ロシア脳”から見れば「フランスよ、胸に手を当てて考えてみよ。ナポレオンは何をしたか?」「ドイツよ、ナチスの侵攻を忘れたのか?」となる。かつて侵略した国が説得しようとしても、聞く耳を持つはずがないだろう。
そして1991年12月25日、ロシアはソ連崩壊という史上最大の屈辱を味わった。その後、ソ連を構成していた共和国が次々に独立し、バルト3国や東欧諸国は米欧の軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)に飲み込まれた。
プーチン大統領は、冷戦終結後の1990年代初めに西側は「NATOは1インチたりとも東方に拡大しないと約束した」と主張している。“アメリカ脳”だと「それは正式な外交文書になっていない」と反論するが、“ロシア脳”からすれば約束は約束であり、その後のNATOの東方拡大は「騙された!」となる。
さらに、友好関係にあるはずの中国もまた、近年はウクライナとの関係を深める一方で、巨大経済圏構想「一帯一路」によってカザフスタンなど中央アジア諸国や黒海沿岸の利権を侵食してきている。ロシアには、周囲の勢力圏をどんどん削り取られているという危機感があるはずだ。
ただし、プーチン大統領が本心からNATOを恐れているかというと、全く恐れていないと思う。たとえば、今もしNATO軍が動いたら、瞬時にロシア軍が猛反撃して壊滅状態に追い込む自信はあるだろう。
それよりもプーチン大統領が危惧しているのは、ウクライナ東部ドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)のロシア系住民に対する抑圧だ。同地域は人口の約30%がロシア系で、なかでも親露派分離勢力が実効支配する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」では70%に及び、ロシアが2014年に併合したクリミア半島と同じような状況にある。プーチン大統領は両「共和国」の希望者にロシア国籍を与え、ロシアのパスポートも発給している。
そして今回プーチン大統領はそれらを独立国家として承認し、しかも両「共和国」の領土がそれぞれの州全体であると認めるようウクライナに要求している。
その背景にあるのは、バルト3国におけるロシア系住民への迫害だ。とりわけラトビアは人口の24.4%をロシア系が占めているが、その多くは公務員や正規雇用の仕事に就けず、パスポートも与えられていない。これはロシア国民の多くにとって許せないことであり、ドンバス地域のロシア系住民が同様の境遇になるのを防がねばならないのだ。
しかし、ゼレンスキー大統領はドンバス地域への“挑発”を続け、この問題を深刻化させていた。どんな理由であれ軍事侵攻は絶対に容認できないが、ロシア側からすれば、ゼレンスキー大統領のやり方が無視できない“暴挙”と映っていたことは想像に難くない。
●アメリカ ロシアから送金禁止で経営行き詰まる企業も 3/20
厳しい経済制裁を受けているロシアが海外への送金を禁止した影響で、アメリカではロシアからの投資で事業を展開していた企業の経営が行き詰まり、国内の経済活動にも影響が出ています。
ロシア企業の関連会社でアメリカの新興宅配サービス、「バイク」はオンラインでの注文から15分以内で商品を配達することを売りにニューヨークやシカゴで事業を展開してきました。
しかし、ウクライナへの軍事侵攻でアメリカなどから厳しい経済制裁を科されたロシアが通貨ルーブルの下落を抑えようと海外への送金を禁止したことから事業に必要な資金の受け取りができなくなりました。
このため経営が行き詰まり、17日に日本の民事再生法にあたる連邦破産法の適用を申請しました。会社は現在、事業の売却先を探しているとしています。
「バイク」のジェームズ・ウォーカーCEOはNHKの取材に対し「欧米の経済制裁への対抗措置としてロシアが始めた送金の規制が事業の継続を難しくした。軍事侵攻は今後も世界中のビジネスに影響を及ぼすだろう」と話しています。
ロシアとの製品や資金のやり取りが困難になる中、アメリカではロシアでのビジネスを見直す企業が相次いでいますが、国内の経済活動にも影響が出ています。
●ウクライナ 国連“市民847人死亡確認 国外避難は330万人超に”  3/20
UNHCR=国連人権高等弁務官事務所は、ウクライナで今月18日までに少なくとも64人の子どもを含む847人の市民の死亡が確認されたと発表しました。
この中には、首都キエフ、第2の都市ハリコフのほか、東部のドネツク州やルガンスク州などの市民が含まれています。
ただ、激しい攻撃が続く東部のマリウポリなどは、市民が多数犠牲になったという情報があるものの、詳しい確認が取れておらず、実際の犠牲者数はさらに多いとしています。
また、国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、ロシアによる軍事侵攻を受けてウクライナから周辺国など国外に避難した人の数は18日現在、330万人を超えています。
それによりますとポーランドでおよそ201万人、ルーマニアでおよそ52万人、モルドバでおよそ36万人などとなっています。また、ロシアに避難した人はおよそ18万人となっています。
一方で、IOM=国際移住機関は18日、ウクライナ国内で避難している人は16日時点の推計でおよそ648万人に上ると発表しています。
●ウクライナ軍兵舎にミサイル攻撃、約80人死亡か 3/20
ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナ南部のミコライウでは、ウクライナ軍の兵舎がミサイル攻撃を受け、少なくとも約80人が死亡した可能性がある。岸田文雄首相は、訪問先のインドでモディ首相と首脳会談。首相は24日に開かれる主要7カ国(G7)首脳会議に出席する意向を示した。日本時間20日の動きなどをまとめた。
ウクライナ軍兵舎にミサイル、80人死亡か
ロシア軍による侵攻が続くウクライナの南部ミコライウで19日、ミサイル攻撃を受けたウクライナ軍の兵舎で少なくとも約80人が死亡した可能性があることが判明した。ロシア軍の空爆や砲撃が各地で続く中、国連の推計では1000万人近くが国内外に避難したとみられる。
ロシア人宇宙飛行士がウクライナ色飛行服
ロシア人宇宙飛行士3人が18日、ウクライナ国旗をほうふつとさせる、黄色と青色を使った飛行服で国際宇宙ステーション(ISS)に登場した。欧米メディアでは「ウクライナ支持の意思表示か」などと臆測を呼んでいる。
ウクライナ小麦、侵攻で他の紛争地への影響危惧
世界食糧計画(WFP)でウクライナを担当するアビール・エテファ上席広報官が毎日新聞の取材に応じた。エテファ氏は、穀倉地帯のウクライナが侵攻されたことで、WFPが同国産の小麦を配給する中東のシリアなどに影響を与えると指摘した。
ウクライナ侵攻「平和的解決を」日印首脳会談
岸田文雄首相は19日午後、訪問先のインドのニューデリーでモディ首相と会談し、ロシアのウクライナ侵攻について、紛争の平和的解決を求める必要があるとの認識で一致。人道支援を進めることを確認した。
首相、G7首脳会議に出席意向
岸田首相は19日(日本時間20日)、ウクライナ情勢を協議するため、ベルギーの首都ブリュッセルで24日に対面で開催される主要7カ国(G7)首脳会議に出席する意向を示した。
JR新宿駅でウクライナ支援デモ
「戦争をやめよう、プーチンを止めよう――」。東京都新宿区のJR新宿駅南口では20日、ロシアのウクライナ侵攻に反対する在日ウクライナ人や若い日本人らが、3連休で街行く人々に、ウクライナへの支援を訴えた。
●“力による現状変更”許さない ウクライナ情勢めぐり日印首脳  3/20
インド訪問中の岸田首相は19日、モディ首相と会談し、緊迫が続くウクライナ情勢をめぐり、「力による一方的な現状変更は、いかなる地域でも許さない」ことを確認した。
今回の訪問について、政府高官は「今までよりも、より突っ込んだ明確な合意ができた」と述べ、モディ首相とのトップ会談での手応えを強調している。
岸田首相「モディ首相との間で、力による一方的な現状変更は、いかなる地域においても許してはならないこと、こうしたことを確認をいたしました」
そのうえで岸田首相は、「『自由で開かれたインド太平洋』の実現へ緊密に連携していく重要性が格段に増している」と強調した。
会談では、岸田首相から「ロシアの今回の行為に対しては、コストがかかるということを明確に示す必要がある」とし、各国が経済制裁で連携する重要性を伝え、モディ首相も理解を示したという。
また、会談では中国を念頭に、東シナ海、南シナ海での現状変更の試みや経済的威圧に強く反対していくことで一致した。
岸田首相は会談後、記者団に対し、24日にベルギーで予定されているG7(主要7カ国)首脳会議に出席する意向を示した。
そのえで、「G7の結束を示すことが大事だ」と強調した。
●ウクライナ 南部や東部で激しい戦闘 市民の犠牲者増え続ける  3/20
ロシアの軍事侵攻が続いているウクライナでは、南部や東部で激しい戦闘がおき、市民の犠牲者が増え続けています。プーチン政権は、ウクライナ側が生物兵器や化学兵器を使用する疑いがあると一方的に主張し、アメリカなどは、ロシアが虚偽の主張をもとに攻撃をエスカレートさせることを警戒しています。
先月24日、ウクライナに侵攻したロシア軍は首都キエフを包囲する部隊の増強を進めるとともに、南部のミコライフや東部のマリウポリにミサイル攻撃を行い、抵抗するウクライナ軍との間で激しい戦闘が続いています。
国連人権高等弁務官事務所は、ウクライナで今月18日までに少なくとも64人の子どもを含む847人の市民の死亡が確認されたと発表しました。
東部のマリウポリでは、ロシア軍の攻撃で都市が孤立し、激しい市街戦が続いているとみられ、多くの住民が周辺の地域に逃れています。
南東部のザポリージャに避難した人は「多くの人が路上で亡くなり、遺体が横たわっていました」と現地の凄惨(せいさん)な状況を語りました。
市街戦に備えて、ウクライナ各地で市民の戦闘訓練が行われていて、今後、ロシア軍の本格的な侵攻が予想されている南部の都市オデッサでは、18日、若者たちが自動小銃の扱い方などを教わりました。
こうしたなか、ロシアのプーチン大統領は19日、ルクセンブルクのベッテル首相と電話会談を行い、ロシア大統領府によりますと「ウクライナでアメリカが、生物学的な軍事活動を行い、容認できない。ロシアだけでなく、ヨーロッパに大きな危険をもたらしている」と述べ、ウクライナ側が生物兵器を使用する疑いがあると一方的に主張しました。
さらにロシア国防省も19日、「ウクライナの民族主義者が北東部のスムイでアンモニアや塩素を使用する疑いがあり、南部ミコライフ州の村でも有害な化学物質の入った容器を爆発させることを計画している」と主張しました。
アメリカやイギリスの国防当局は、ウクライナ軍の激しい抵抗によりロシア軍部隊が予想以上に苦戦していると分析していて、ウクライナの通信社は19日、ウクライナ軍の発表として軍事侵攻が始まってから3週間の間に、ロシア軍の将校を含む少なくとも10人の軍幹部が戦死したと伝えています。
アメリカなどは、ロシアが虚偽の主張をもとに生物兵器や化学兵器を使用するなど、攻撃をエスカレートさせることを警戒しています。
●ウクライナをなぜ「ナチス」呼ばわり? プーチン大統領の歴史観… 3/20
ウクライナへのロシアの軍事侵攻。 ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻の理由として、ウクライナの「非ナチ化」に言及している。
いったいなぜ、ウクライナが「ナチス」と呼ばれるのか。そこには、第二次世界大戦の「独ソ戦」と深い関係があった。ウクライナ研究の第一人者、神戸学院大学の岡部芳彦教授の解説だ。
「ナチス」呼ばわりで侵攻を正当化か
(Q.プーチン大統領は、「ナチス」「ナチ」という言葉を頻繁に使っています。2月24日、演説で『NATOはウクライナの“ネオナチ”をあらゆる面で支援している、ウクライナの“非ナチ化”を目指さなければならないんだ』と言っています。まず、なぜウクライナがナチスと呼ばれるのでしょうか)
岡部教授:第二次世界大戦以降、'ナチス‘という言葉はロシア人にとって、とても強いワードになっています。このワードがあれば、侵攻が正当化をされ、士気も高まるとみられます。5月9日はロシアでは最大の休日でして、これは対独戦勝記念日、これはソ連時代から重要な休日だったんですね。軍事パレードなんかも行われます。赤の広場で。そのナチスに勝ったという事実、ナチスを倒したという事実は、これはソ連の人、あるいはロシアの国民にとって非常に重要な意味を持ちます。やはり自分たちは正義だということを強調できる。それで今回も、このウクライナがナチスだということによって、侵攻も正当化されてしまうし、士気も高まるし、ちょっと極端なことを言うと、ナチスを倒すためだったら、少々市民の犠牲が出ようが、子どもの犠牲が出ようが構わないというような、ちょっと危ない考えにもつながっていくということになります
ウクライナによるジェノサイドは「全くない」
(Q.ウクライナによる、親ロシア派と言われている方たちへのジェノサイドを、ウクライナがナチスである理由の一つとしているんですが、事実関係はどうなんですか)
岡部教授:一言でいうと、全くない。もちろん今回、8年間、戦争が2014年から続いてきた地域なので、当然戦闘が散発的に起こって、死者は、ロシア系武装勢力ですとか、ウクライナ軍にも出ている。ただ、大量虐殺というようなことは全くありません。ただ、ナチスというと、どうしても虐殺っていうようなことと紐づけないといけないので、こういう主張をされてるという形になります
「独ソ戦」に翻弄されたウクライナ
(Q.ただ、もう一個深い歴史的な意味を持ってプーチン氏は、ウクライナがナチスだと表現をしているということですか)
岡部教授:第二次世界大戦で、ナチスドイツはソ連に侵攻しました。その過程で、ソ連の一部を構成していたウクライナも関わってくるわけです。主に東部・西部で対応が分かれて、西に近い方たちは、一部ウクライナ蜂起軍(UPA)という形で、一時的ではあるんですが、ナチス・ドイツに協力をしたことがあります。ただ、これは最初だけ。当初の一時期ナチスに協力をした方が、確かにウクライナの中にいた。一方で、実はソ連軍を構成する人の4分の1はウクライナ人だったという事実もあります。
戦後、ソ連側はウクライナ蜂起軍がナチスの協力者だっただろということで、ウクライナをナチス呼ばわりするようになった、と
岡部教授:UPAは、前身はウクライナ民族主義者組織というものがありまして。これが統合されていくんですけども、最初は、ソ連からウクライナを独立させるために、ドイツに協力を求めるというか、協力してもらっていました。ただ、第二次世界大戦が始まるとすぐ、はしごを外されまして、ドイツは独立を認めなかったんです。ドイツに裏切られたので、ドイツとも戦う、もちろんソ連とも戦う形になりました。一方で、ソ連軍にはもちろん、ナチスと戦うために多くのウクライナ人が兵士として参加をしまして、もう4分の1ぐらい、ソ連軍の4分の1ぐらいはウクライナ人だったのです
プーチン大統領の極端な歴史解釈
(Q.しかし、ソ連軍を構成していたウクライナ人たちのことは考慮せず、UPAだけを取り立てて、ウクライナはナチスだと)
岡部教授:戦後も実は、UPAの人たちは、戦後もゲリラ化して、山にこもって、反ソ連活動を続けていたこともあって、ソ連の中ではナチス協力者だと言われてきました。歴史の一部を切り取って、解釈が定まってしまった、という形です
(Q.最近になって、この一時期ナチスに協力をしたUPAの人たちと、ソ連に協力をした人たちが、手打ちをするというタイミングがあったんですね)
岡部教授:2014年以降、ロシアがクリミアを占領した後から、歴史の見直し、あるいは歴史の和解というものが進んでいきました。両者ともこれはやはり、ウクライナのために戦った、ウクライナの独立を目指していたというような形で、元UPAの兵士と元ソ連軍の兵士、2人ともウクライナ人なのですが、握手を交わすというシーンもありました。このような歴史的和解がどんどん進められていったと。しかしプーチン大統領の解釈は、もうソ連の公式見解のままの主張なのです。実は8年近くの間に、ウクライナでは大きな歴史的な和解がどんどん起こっているのに、そういうことは全く関係なく、逆に、握手をしたウクライナ人のソ連軍の軍人さんもUPAに寄ったと、ナチスに寄ったというような解釈をしてしまっている。非常に極端な歴史的解釈、それを公式に大統領が発言をしている形になります  
●西部攻撃激化と支援策に見るアメリカの意志 3/20
ロシア軍による激しい攻撃がウクライナ各地で続いている。両国による停戦交渉も行われる中で、ロシアの侵攻は今後、どのような展開を見せるのか。ウクライナ西部で激化するロシア軍の攻撃、そしてアメリカの支援など様々な要素を検討し、ANNワシントン支局長の布施哲が読み解く。
深刻な意味合いをもつ“西部”への攻撃
そのウクライナの西部エリアには3月第2週の週末に気になる、新たな動きがあった。
11日、西部の都市ルーツク、イワノ・フランコフスクがミサイル攻撃を受けた。そして、12日と13日には、よりポーランドに近い、ヤボリウという町にも巡航ミサイルによる攻撃が行われた。アメリカの国防総省によると、ヤボリウへの攻撃では空中発射型のロシアの巡航ミサイルで、少なくとも40〜50発が、ヤボリウに弾着したといわれている。
ヤボリウという町は、元々アメリカをはじめとするNATO軍がウクライナ軍をトレーニングする「訓練センター」が置かれている場所だ。 今、アメリカの特殊部隊が、この訓練センターにいるかどうかは不明だ。しかし、少なくとも、各国の支援を受けている訓練センターがある町に攻撃が行われたということで、ロシア軍はNATO(北大西洋条約機構)とウクライナの連携を強く牽制しようとしていると考えられる。
ヤボリウは隣国ポーランドまで車でわずか30分の距離にあるが、国境を越えてポーランドに入ってすぐの“あるところ”にアメリカ軍やNATO軍の航空拠点がある。そこはアメリカやNATO各国からの武器や支援物資が集まる場所だ。そこに集められた武器や補給物資はトラックに載せられて陸路でウクライナに運び込まれている。つまりヤボリウに対する攻撃は、NATOによるウクライナに対する武器支援、補給ルートに対する圧迫、牽制とも受け取れる。実際、ロシアは支援武器を運ぶ車列が攻撃対象になることを示唆している。
また、18日にプーチン大統領が「理想の兵器」とする最新鋭の極超音速ミサイル「キンジャール」がイワノ・フランコフスクの地下弾薬庫を破壊したと、ロシア国防省が19日に発表した。実際は空中発射型に改良した短距離弾道ミサイルが使用された可能性が高いが、仮にロシアの発表通り極超音速ミサイルだとすれば、実戦で使われたのは初めてとなる。
懸念されることはロシア軍の圧迫作戦の範囲が、ポーランドに近づいているということだ。ポーランドには、アメリカ軍をはじめとして、NATO軍も展開している。まさに、物理的にロシア軍の作戦範囲がNATO軍に近付いていることになる。そこで予期せぬ武力衝突のリスクが高まるという意味で、西部への攻撃は深刻といえる。
アメリカが「飛行禁止空域の設定」に反対する理由
そして、空の戦い。国防総省の説明によると、ロシア軍は、1日およそ200回の出撃(ソーティ)をこなしているという。一部はベラルーシ国内にある航空拠点から出撃する。また、これまでに少なくとも980発のミサイルを発射しているとされていて、その約半分がウクライナ国内に展開しているロシア軍から発射されたもので、残りの半分がベラルーシ領空を飛行している航空機から発射されたという。
ロシア軍爆撃機がウクライナ領空に至らず、ベラルーシ上空からミサイルを発射しているということはウクライナにおける航空優勢をロシアが握っていないことを強く示唆している(もちろん巡航ミサイルが長射程のため、あえてリスクをとってウクライナ上空に進出する必要がないという見方もできる)。
ウクライナの手が届かないベラルーシ領空を飛んでいるロシア軍から発射された、西部の都市に対する巡航ミサイル攻撃。
今、話題になっている「飛行禁止空域」の設定は、ウクライナが強く求めているが、アメリカ政府は「飛行禁止空域」の設定は意味がないと説明している。なぜなら、ウクライナ上空に飛行禁止空域を設定しても、ベラルーシ領空を飛行中のロシアの爆撃機には手出しできないからだ。手出しができないポジションから長射程の巡航ミサイルを撃ってくる状況では地上の被害を防ぐことはできない。巡航ミサイルによる地上への被害を食い止めようとすれば、ベラルーシ領空を飛ぶ爆撃機を攻撃せざるを得なくなり、そうなればベラルーシ軍とも交戦状態になりかねない。ベラルーシ軍だけでなくロシア軍も自軍の爆撃機を守ろうと、ロシア領内の地対空ミサイルで攻撃してくるかもしれない。飛行禁止空域をパトロールするNATO軍機が自衛のためにロシア領内にある地対空ミサイルを攻撃すれば、一気に米ロ軍事衝突に発展していく。この点が、アメリカ政府が飛行禁止空域の設定に消極的な理由の一つだ。
一方のウクライナ空軍は、アメリカの国防総省の説明によると1日当たり、5回から10回の出撃をこなしているという
ただ、ウクライナ北部や南部は、ロシア軍の地対空ミサイルの射程に入っているため、ウクライナ空軍が活動できるのはウクライナの西部もしくは中部の空域だと推測される。
「戦闘機供与」よりも有効な手立てとは
ウクライナ空軍は開戦当初、ロシア軍によるミサイル攻撃を避けるため、隣国のルーマニアに戦闘機を避難させたといわれている。現在は、40機ないし50機程度の航空機を保有していたのではないかといわれていて、そこから、1日5回〜10回の出撃をこなしていると考えられる。
国防総省は、ロシア空軍はまだ、ウクライナにおける航空優勢を握っていないという説明をしているが、ウクライナ空軍が低調ながらも活動を継続していることはその表れだろう。
そして、前述の飛行禁止空域の問題だが、渋るアメリカ政府に対して埋め合わせとしてウクライナが求めているのが戦闘機の供与だ。
16日のゼレンスキー演説に触発されたアメリカ議会でも推進論が出ているが、軍事合理性の観点からはほとんど意味がない、というのがアメリカ政府、軍事専門家の一致した見方だ。
ポーランドのミグ29を提供するにしても、搭載しているNATO用の暗号無線機を取り外す必要があるほか、ウクライナ軍の通信体系にポーランド軍機が適合するのか、という技術的な課題がある。またロシアの攻撃を受ける可能性がある中、どこの基地からどのようなルートで輸送をするのか、というロジスティクス上の課題もある。もちろん空中発射型、海上発射型の巡航ミサイルによる攻撃もあるが、ウクライナ側が最も悩まされている民間人や民間施設に対する攻撃の多くは、ロシア軍機による攻撃より、地上部隊の多連装ロケット砲や長距離砲、地上発射型の短距離弾道ミサイルによるものだ。
それらに対抗するのに有効な兵器は戦闘機ではなく射程の長い地対空ミサイルであり、ドローンだというのがアメリカ政府の見解だ。実際、ウクライナ軍はトルコ製のドローンを使ってロシア軍地上部隊の撃破で成果をあげている。
3月16日に発表された8億ドル規模の追加の軍事支援の中には、従来の射程の短い肩撃ち式の地対空ミサイルの供与に加えて、長射程の地対空ミサイル取得の支援が含まれた。
これはウクライナ軍も運用しているロシア製地対空ミサイルS-300の供与を指している。同ミサイルはブルガリア、スロバキア、ギリシャなどが運用していて、それらの国から提供してもらうおう、というものだ。すでにアメリカ側の働きかけを受けてスロバキアが提供に前向きな姿勢を示している。
S-300は敵の航空機だけでなく、限定的ながらも短距離弾道ミサイルに対する対処能力もあるとされている。ロシア軍による空爆、そして短距離弾道ミサイルによる攻撃に対処できるうえ、戦闘機と比べて運用コストや手間、メンテナンスにかかるコストが圧倒的に少なく済む。つまり戦闘機よりよっぽど効果的で使い勝手がいいものだ。
バイデン政権の追加支援にはドローン100機の提供も盛り込まれた。米メディアの複数の報道によれば、提供されるのはスウィッチブレードと呼ばれる「神風ドローン」だ。これはドローンではなくLoitering Missile/Ammunitionというもので、直訳すれば「空を徘徊するミサイル・弾薬」だ。空を自律的に飛行して滞空し、あらかじめプログラムされた戦車や対空レーダーといった目標を探知すると、それに突っ込んでいくというものだ。地上の兵士がタブレットで操作することも可能だ。これが列をなしている輸送トラックに襲い掛かったどうなるのか。また、大がかりな装備も訓練も不要である点も、導入後すぐに運用を急ぎたいウクライナ軍にとっては利点となる。
このようにウクライナ側やアメリカ議会から高まる感情的な訴えに対して、アメリカ政府は事態をいたずらにエスカレートさせない、しかし軍事的に有効な兵器を冷静に選択してウクライナ軍の抵抗を支えようとしている。
軍事行動で政治目標を達成しようしているロシアに対して、緻密な軍事的分析を加えた対抗策をとるアメリカ。まさに米ロ、そしてウクライナは好むと好まざるとにかかわらず「軍事」を通してシグナルを送り合っており、軍事領域の動向の理解なくして今後のウクライナ情勢を読み解くことは難しいと言える。  

 

●ウクライナ侵攻で逆風一転、欧州最大級ガス田が増産機運 3/21
ウクライナ各地の病院や集合住宅が爆撃で破壊されている写真を目にして、ジャニー・シュラージさん、バート・シュラージさん夫妻は、第2次世界大戦中の自国の光景を思い出した。オランダ北部で現役引退後の生活を送る夫妻は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による軍事作戦を足止めするのに効果的な手段を自分たちが手にしていることに気づいた。そう、天然ガスだ。
シュラージ家は、欧州最大規模のガス田、フローニンゲン・ガス田の上に建っている。10年前、相次ぐ地震により家を離れることを余儀なくされて以来、2人はガス生産に反対してきた。だが、州内での世論調査で多数を占めた意見と同様、2人は今や、ウクライナ支援につながるならばガス増産を認めてもいいと言う。
以前はフローニンゲン大学で助手を務めていたバート・シュラージさんは、窓辺に飾られたウクライナ国旗のそばに立ち、「こんな言葉が自分の口から出るようになるとは思ってもみなかった」と語る。
シュラージ夫妻の家は1997年にプレハブ工法で建築されたが、昨年、解体・再建せざるをえなくなった。ガス採掘に誘発された地震により、安全ではないと判断されたためである。2人が暮らす人口500人の村オーフェルスヒルトでは、ほとんどすべての家が全面的な改修または建て替えが必要になっている、と夫妻は言う。地元住民は何年にもわたって、ガス田閉鎖を求める運動を続けてきた。
「プーチンは、私の考えを変えることには成功した」とバートさんは言う。
こうした反応は、2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻を引き金とする欧州全体でのエネルギー政策の急変を物語っている。ウクライナのボロディミール・ゼレンスキー大統領は今回の侵攻を、欧州大陸を横切るように落ちてきた新たな「鉄のカーテン」と表現する。これによって、欧州のロシア産エネルギーへの依存が浮き彫りとなり、ロシア以外の数少ないエネルギー供給源を慌てて確保しようとする動きを招いた。非ロシア系の供給源としては米国やカタール、さらには液化天然ガス(LNG)の自国輸入分の一部を欧州向けに融通する予定の日本まで含まれる。
ロシアは民間人への攻撃を否定し、ウクライナの非軍事化に向けて「特別軍事作戦」を展開していると主張している。衝突が激化する一方で、欧州で供給の40%を占めるロシア産天然ガスは、依然として欧州に流入している。だがロシア外務省当局者は12日、欧州連合(EU)は、ロシア政府に対する制裁の結果として、石油・ガス・電力のコストが少なくとも3倍に上昇することになるだろうと述べた。
ドイツから英国に至るまで、気候変動を抑えるために脱炭素化を推進してきた政策担当者らは、その野心的計画の規模縮小を迫られている。ドイツは石炭火力発電、さらには原子力発電の運用期限を延長する可能性がある。英国の国会議員は、環境負荷が高いとされる資源採取法であるフラッキング(水圧破砕法)の一時停止措置を解除するよう政府に要求した。
フローニンゲンガス田の可採埋蔵量は約4500億立方メートル。オランダ応用科学研究機構(オランダ語の略称ではTNO)の天然ガス専門家ルネ・ペーテルス氏によれば、ロシアから欧州が輸入している量の約3年分に相当するという。
フローニンゲン産の天然ガスは、半世紀にわたり、国内での住宅用暖房や発電に用いられ、国内外の産業に電力を供給してきた。オランダ統計局によれば、オランダからドイツ、ベルギー、フランスに向けて輸出された天然ガスは、2000─2018年の期間で2020億ユーロ(約26兆5800億円)に相当する。
だが、ガスの採掘によってガス鉱床の上部の土地の安定性を損なうことは科学的に立証されている。前週、ガス生産を監視するオランダの国内団体は、生産量が低水準だとしても、ガスの採掘は安全性に欠ける住宅で暮らす人々にとって地震によるリスクを増大させていると警告した。
「大地震による家屋倒壊、あるいはストレスと不安により、フローニンゲン住民の死亡リスクが高まっている以上、安全のために、ガス生産からの段階的撤退と耐震補強の早急な実現が必要とされる状況は続く」と語るのは、オランダ鉱業監督庁で統括監察官を務めるテオドール・コッケルコレン氏。
オランダ政府は14日に発表した声明の中で、可能な限り早期、すなわち2023年か2024年にガス田を恒久的に閉鎖する目標に変わりはないと表明。ただし政府は、「ロシアによるウクライナ侵攻を一因とする」新たな不確実性のため、フローニンゲン産の天然ガスが最後の手段として必要とされる可能性があるとしている。
オランダ政府、そして国際石油メジャーのシェル、エクソンモービル両社による合弁企業であり、フローニンゲンガス田での生産を管理するオランダ石油会社(NAM)を相手に何年にもわたって展開された補償をめぐる紛争を経て、フローニンゲン住民の多くは増産に反対している。NAMはこの記事に向けたコメントを控えた。
シュラージ夫妻は、家屋の再建を完了するために退職金の貯蓄から2万5千ユーロを取り崩さなければならなかったと話す。夫妻は、将来的に生じうる損害のコストを補償するよう政府が約束することを求めているが、状況が改善するならば、家が倒壊してもそれだけの意味はあるかもしれない、と言葉を添える。
「この街はガス田のおかげで振り回されてきた」とバートさん。「だが、それを何か前向きな方向に活かし、ウクライナでの戦争を終わらせることに貢献できるならば、そうする必要がある」
もしそうなれば、フローニンゲンの住民にとっては劇的な変化だろう。ロシアによるウクライナ侵攻のわずか数週間前には、住宅改修の工事現場や廃屋が点在する通りで暮らすシュラージ夫妻は、ガス採掘の停止を求め、燃えるたいまつを持って行進する数千人のデモ隊に加わっていた。
1959年に発見されたフローニンゲン・ガス田は、世界でも最大規模に数えられる。このガス田は多くの点で、戦後オランダの、そして欧州大陸全体の繁栄を象徴していた。
●なぜプーチンの侵攻は国内で支持されるのか−そのロジックと言論空間 3/21
「もうウクライナとの交渉に疲れた」
2月24日、プーチンは「ウクライナの非軍事化・非ナチ化」を名目に、ウクライナに対する「特別軍事作戦」の実行を命じた。「特別軍事作戦」という奇妙な表現が使われているものの、実際に行われているのは、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻・侵略である。
この侵攻により、2014年から続くウクライナ危機は新たなフェーズへと突入したことになる。
ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか。理由はいくつか考えられるが、その中でも重要なのは、ウクライナとの交渉の「疲れ」であろう。
ロシアにとって、この8年間は、ウクライナの政権と欧米諸国に対する信頼関係が著しく低下するプロセスであった。ロシアとしては、ドネツクとルガンスク両地域に「特別な地位」を与えることを含んでいるミンスク合意が守られず、欧米諸国もウクライナに対して、同合意の履行を促してこなかったことに対して、強い不満を抱いてきた。
ロシアからすれば、NATO加盟国とウクライナに対して、様々なシグナルを送ったり、圧力をかけたりしてきたが、それらが真剣に検討されなかった。この一例として挙げられるのが、NATOがこれ以上の拡大をしないという保証の要求や、ウクライナ国境付近での軍事演習だ。
最後は押し付け、強行
むろん、こうした要求はウクライナにとっても、NATO加盟国にとっても受け入れられるものではなく、そもそもそれらは無理難題であった。
このような状況下では、ウクライナ危機の当事者の間での合意に達することが難しく、ロシアは自国の解釈をウクライナと欧米諸国に対して押し付けるようになっていく。
クレムリンとしては、2月21日に「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を国家承認するカードを切ったが、それでもウクライナと欧米諸国側からは望んでいた回答を得ることができなかった。プーチンが3日後の24日に「特別軍事作戦」の実施に至ったのは、このような背景であった。
ロシアがこの軍事侵攻カードを切ったのは、これ以上この問題を外交交渉で解決するつもりがないという強い意思表示のためである。もちろん、だからといって、他国への軍事侵攻は許されない。
しかし、この政権のロジックは、ロシア社会で広く共有されている「現実」である。
侵攻はこう報道されている
この侵攻は、ロシア国内ではどのように報道されているのだろうか。日本をはじめ、海外の主要メディアではロシアを非難する報道が主流であるが、ロシア国内では事情が違う。
というのも、ロシアの中では、今回の問題の責任は米国やNATO側にあるという受け止め方が主流である。
例えば、2021年末にウクライナ東部の状況の悪化の原因を問う世論調査があったが、そこで主な原因として挙げられたのが米国とNATOであった(50%)。2位のウクライナ(キエフ)の16%であり、ロシアの責任と回答したのは4%に過ぎず、そしてドネツクとルガンスクの未承認は3%にすぎない。(レヴァダ・センター)
このような数字になるのは、言語空間や言論空間の違いによるものもあるが、同時にロシアにおける長年のメディア規制の結果でもある。プーチン政権では、主要メディアに対して様々な報道規制をかけ、政権の意向に沿った内容の報道を求めてきた。政権にとって都合の悪い情報は「フェイク」と認定され、独立系メディアに対しての取り締まりも強化されてきた。ウクライナ危機以降、こうした規制はますます強まっている。
もちろん市民にとっては、ロシア語で発信している外国メディアという選択肢もある。しかし、この外国メディアも、政府から「外国のエージェント」と認定され、取り締まりの対象であってきた。近年では、ロシア国内における情報発信は著しく規制され、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけで、外国メディアの報道は、ロシアではほとんどみられなくなっている。
「すべてNATOに責任がある」
つまり、ロシア国内で見られる報道のほとんどは、政権の意向にかなうものばかりとなっている。
テレビをつけて、ウクライナに関する報道を見ても、ロシア軍が人道支援物資を市民に配ろうとしているのを現地の人から拒まれ、それを別の人が非難するという映像ばかりが流れる。
そして病院施設や学校などへの攻撃は、ロシア軍によるものではなく、ウクライナ軍によるものであるという報道がされる。たとえ言及があったとしても、それらがウクライナや欧米メディアによる「フェイク」と断定される。
政治討論番組に至っては、「西側諸国がいかにロシアを騙してきたのか」「ウクライナ政権がどのような非人道的なことをしてきたのか」という論題ばかりになっており、その主張の正当性や事実関係に対しては、疑問が挟まれない。
このようなメディア空間では、「悪いのは欧米諸国である」「すべては米国の責任」「ウクライナ国民は、洗脳されている」という情報だけがシャワーとして浴びせ続けられる。通常は陰謀論として扱われるような内容が、ロシアでは「真実」として広く共有されている。
このようなシステムは、長年かけて構築されてきた。最新の世論調査では、プーチンの支持率は71%となっており、反対は22%にすぎない。現在のロシアは、文字通り別世界になっている。
当然強まるSNSへの締め付け
もちろん、市民にとって、テレビや新聞の他には、インターネットやSNSという情報源もあろう。しかし、ウクライナへの侵攻が始まってからは、それらへの規制もますます強まっている。
ロシアのウクライナへの侵攻以降、ロシアでもSNSにて、反戦を訴える広告が流されてきた。しかし、3月5日にはFacebookとTwitterはブロックされ、15日にはInstagramもアクセスできなくなってしまった。本稿執筆時点では、YouTubeは閲覧できるが、それもいずれロシアでは見られなくなるという報道もある。
このような規制は外国産SNSに限らない。ロシアにはTelegramやVkontakteという国産のSNSも存在しているが、そこでの規制も強まっているようで、政権にとって都合の悪い情報が削除されることも珍しくなくなってきた。
こうした規制は、ロシア語しか使えない人にとって、政権の意向に沿った情報しか得られなくなることを意味する。
もちろん、VPN(ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク)を通せば、こうした情報網にはアクセスできるが、多くの無料のVPNは使えなくなるケースが増えてきており、有料のものに至っては、購入したくても、制裁の影響でロシアのカードが使えないという問題もあるようだ。
ロシアの世論は、こうした規制と統制の中で形成されている。
その閉ざされた世論は、経済制裁等、国際社会の圧力によって変化する可能性があるのか、後編「ロシア国民を混乱させる経済制裁、それでもまだ戦争反対の声は小さい」で分析していきたい。
●ロシア国民を混乱させる経済制裁、それでもまだ戦争反対の声は小さい 3/21
強まる対露制裁にロシア国内は
今回のウクライナ侵攻の結果、G7諸国はロシアに対して、新たな制裁を課した。その内容は、プーチン大統領とその周辺の人物、および政権に近いオリガルヒ(新興財閥)の海外資産の凍結、関係者へのビザの発行停止、主要銀行との取引停止やSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除などである。
2014年以降、G7はロシアの行動を非難するという点では一致しているが、ロシアに対する経済制裁の内容については、これまでは足並みがそろってこなかった。これは各国のロシアとの貿易事情の違いによるものであり、とりわけエネルギーなどの分野への制裁は避けられてきた。
しかし、今回の制裁ではアメリカとイギリスは、ロシアからの原油と天然ガスの輸入禁止に及んでいるのに加え、ドイツもノルドストリーム2の承認作業の停止を発表している。ドイツや日本は、程度の差はあれ、ロシアに対する制裁には参加してきたが、同時に制裁下でもロシアとの協力関係の拡大を目指してきた。しかし、今回のウクライナ侵攻により、制裁下での協力関係の拡大は、もはや当分望めなくなっている。
またG7はロシアに対する最恵国待遇の取り消しでも一致した。本稿執筆時点では戦闘が続いており、その状況次第では、ロシアに対するさらなる制裁措置が取られることだろう。
結果として、ロシアの国際社会における孤立は深まっていく一方である。
世界経済から切り離されるということ
新しいトレンドとして、ロシアにて活動している企業がウクライナに賛同し、ロシアでの活動を停止するようになった事例が増えている。例えば、大手企業ではマイクロソフト、Adobe、アップル、IKEA、メルセデス、ZARA、マクドナルドやスターバックスといった企業が営業停止を発表している。
こうした動きには、ユニクロ、トヨタや任天堂といった日本企業も追随しており、ロシアでの営業停止を発表している。
このような企業の対応に対し、プーチンは「宣戦布告のようだ」と激しく反発しており、ロシアから撤退する企業の国有化の検討も発表されている。
だが、これらの企業の対応は、ロシアのウクライナでの軍事行動を批判によるものもあれば、そもそも通常通りの活動が困難になっているため、営業停止をした事例もある。そのため、一括りにはできないだろう。
というのも、現在のロシアにはもう海外から送金ができなくなっており、物流や決済システムへの影響も既に出ている。ロシアでは、外国で発行されたクレジットカードのVisaとMasterはすでに使えなくなっており、ロシアの銀行はVisaとMasterの代替として中国のUnion Payに切り替えることを発表している。
これらの影響は、ロシアに住む外国人にとってはもちろん、企業活動そのものにも大きな影響を与えている。果たしてこれが短期的な営業停止で済むのか、それともロシアからの撤退にもいずれつながるきっかけになるかについては、戦闘が続いている現段階ではわからない。
ただロシア国民にとって、こうした外国企業の対応は雇用に直結する問題である。たとえ現段階では、雇用が保障されていたとしても、ルーブル安による影響や海外送金に付随する問題によっては、企業が通常通りの営業に戻るのには時間がかかる可能性がある。そして、外国企業にとって、その過程でロシアからの撤退も一つの選択肢になることも十分考えられる。
ロシア国民の「制裁慣れ」
そして、今回の制裁の影響は、市民生活にも影響が出る分野にも及んでいる。現在はだいぶ落ち着いたが、カードがいずれ使えなくなるという不安から、現金を引き出す人々の長打の列ができ、ATMが空にも珍しくなかった。また仮に引き出せたとしても、少額のみになるようなことも多々あった。
3月16日、モスクワ市内の米銀店舗に集まる人々 by Gettyimages
物価も徐々に上昇しており、ロシアでの営業を停止した外国企業の製品の買い占めにより、スーパーでは空の棚が目立つようになっている。こうしたことはレストランやバーでも同様で、仕入れの問題で提供できなくなっているものも徐々に増えてきている。
筆者の愛飲するビールもロシアへの出荷を停止しているようで、仲のいい店員に入荷見込み時期を聞いても「わからない。でももしかしたら、ロシアではその銘柄が二度と飲めなくなるかもしれない」といわれる始末だ。
しかし、こうしたことは国民に危機意識を抱かせるのには至っていない。というのも、ロシアでは2014年以降「制裁慣れ」が進んでおり、物価はコロナ禍においても上昇してきた。大多数の国民の間には、「どうせすぐに終わる」という楽観的な考えがまだ広がっているようだ。
そして重要なことは、こうした制裁は、ロシア国民の政権に対する態度を変えるに至っていない。
戦争反対の声はあるにはあるが
もちろん、今回のウクライナへの軍事侵攻に対して、ロシア国内でも反対の声が強まっている。週末になると、モスクワだけでなく、各都市の中心で戦争反対を訴えるデモが行われており、回数を重ねる度に逮捕者や拘束者の数も増えている。
このようなデモは、初めて起こったわけではない。例えば、昨年、ロシアの反政権活動家であるアレクセイ・ナワリヌイとその陣営が中心になって反政府デモを呼び掛けてきた。この時もロシア各地では大規模なデモが開催され、当時も当局からデモの会場や最寄駅の封鎖など、様々な規制があったが、今回のデモに対する規制は比べものにならない。
今回のデモに対して、ロシア当局は会場になりやすい中心の公園や広場を封鎖し、デモが発生しやすいエリアにはあらかじめ大量の治安維持部隊を配備するなどの対策を取っている。
昨年と比較しても、少なくともモスクワでは動員されている車両の数が増えており、通常はデモがある日や重要施設の前でしか目にすることができなかった治安維持部隊の車両は、平日の昼間であっても目にすることができるようになっており、警戒態勢の違いが伝わってくる。
そしてデモに対しては、日を追うごとに、ロシア当局からの締め付けが強くなっており、「No War」はもちろん、「2語」と書いたプラカードだけでなく、白い紙を持っているだけでも、治安維持部隊に両脇を抱えられ、バスに連れ込まれる映像が拡散されている。
ロシアの公式見解では、現在ウクライナで行われているのは「特別軍事作戦」であり、戦争という表現にはかなり神経質になっているのも関係しているだろう。
ただこうしたデモの映像は、テレビでは放映されておらず、拡散されているのはSNS上が中心である。
こうした締め付けの強化により、国民側の萎縮も目立つようになっている。例えば、ロシア外務省附属のモスクワ国際関係大学では、卒業生が中心となり、ウクライナでの軍事行動に対する抗議する公開書簡が用意され、署名が呼びかけられていた。しかし、当局からの締め付けが強くなってからは、賛同者の安全のため、署名者リストは非公開になり、公開書簡のみが残されるようになった。
また高等経済学院やサンクトペテルブルグ大学の学生に対しては、「反特別軍事作戦デモ」により捕まった学生は、たとえどのような理由があったとしても退学になるという通達があった、という報道もあった。
戦争に反対しているロシア人と話すと、「デモには行きたいが、家族もおり、声を上げたくても上げることができない」「ウクライナには友達が多くても、彼らには今後顔向けできなってしまった」という悲観的な声しか出てこない。
まだ続くプーチンへの喝采
ただこういう声は、残念ながら、マジョリティーになるには至っていない。
現状としては、プーチンの決断を支持する声がほとんどであり、こうしたことは知識人にも共有されている。先日、ロシアの大学学長連盟では「今回のプーチンの決断はもしかしたら彼の大統領人生の中で、最も難しいものであったかもしれない」として、支持する旨を表明したほどである。
こうした大統領への支援は市民の間でも強い。例えばモスクワでは18日に、「クリミアのロシアへの再統一記念コンサート」が開催されており、プーチンが登場すると会場は大きな拍手と喝采に包まれていた。筆者はたまたまこのコンサートが終わった後の時間帯に、地下鉄でモスクワの中心へ移動していたが、会場の最寄駅に止まった時、車両にロシア国旗を持った熱狂的な人々が大量に流れ込んできたのを目の当たりにした。
現状ではプーチンの支持率は7割であり、大半の人々はロシアのウクライナへの侵攻を支持している。ロシア人から筆者へ届くメッセージの大半には、「ファジズムには負けない」「最後に勝つのはロシアだ」「すべてはNATOのせい」と返信する気も失せるような内容ばかりが書いてある。
こうしたロシアの認識はすぐには変わらないだろう。
●ウクライナ大統領 対話実現の考え示すも事態打開の道筋見えず  3/21
ロシア軍がウクライナで侵攻を続ける中、東部のマリウポリではおよそ400人の市民が避難していた学校が爆撃を受けるなど、さらに深刻な状況に陥っています。ウクライナのゼレンスキー大統領はプーチン大統領との対話を実現させたいという考えを改めて示しましたが、事態を打開する道筋は依然として見えていません。
ウクライナで侵攻を続けるロシア軍は東部の要衝マリウポリで都市を包囲し、激しい市街戦が続いています。
マリウポリの市議会は20日「ロシア軍が、女性や子ども、高齢者などおよそ400人の市民が避難する芸術学校を爆撃した。建物は破壊され、市民ががれきの下に取り残されている」と明らかにしました。
マリウポリでは今月16日にも子どもを含む大勢の市民が避難していた劇場が破壊され「数百人ががれきの下にいる」と伝えられているほか、19日には市議会が市民1000人以上が避難していた施設からロシア軍によって強制的に連れ出されたと訴えるなど、さらに深刻な状況に陥っています。
こうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、アメリカのCNNテレビのインタビューで「私はプーチン大統領と交渉する用意がある。交渉抜きにこの戦争を終わらせることはできない。仮に1%でもこの戦争を終わらせるチャンスがあるのであれば、交渉する必要がある」と述べ、あらゆる手を尽くしてプーチン大統領との対話を実現させたいという考えを示しました。
ただ、ロシア軍は2日連続で極超音速ミサイル「キンジャール」を発射するなど攻撃を緩める兆しは全くみせておらず、さらに、アメリカなどはロシア軍が生物兵器や化学兵器を使用するのではないかとも警戒を強めていて、事態を打開する道筋は依然として見えていません。
ウクライナ西部の町 たびたび空襲警報鳴り響くなど緊迫
ロシア軍による攻撃がウクライナの西部にも広がる中、モルドバとの国境に接する西部の町では、たびたび空襲警報のサイレンが鳴り響くなど緊迫しています。
モルドバと国境を接するウクライナ西部モギリョフ・ポディリスキーでは、いまのところ物資が不足するなどの混乱は起きていないということです。
しかし、住民の話では、この町でも空襲警報のサイレンが1日に7、8回ほど鳴り響いているということです。
また、ロシアによる軍事侵攻の後、集合住宅の地下室が身を守るためのシェルターとして使われ、中には水などが保存されているということです。
一方、隣町のモルドバ側のオタチでは20日もウクライナから女性や子どもが相次いで避難してきていました。
この町では、避難してきた人たちのためにユニセフ=国連児童基金が支援の拠点を設けているほか、国際的なNGO「国境なき医師団」が20日から医師を配置しています。
モルドバにはこれまでに人口の1割を超える36万人以上がウクライナから逃れてきていて、G7=主要7か国が支援に乗り出しています。
ウクライナ議会議員「悲劇は長期に及ぶだろう」
ウクライナの議会議員で外交問題に詳しいボロディメル・アリエブ氏が20日、NHKのオンラインインタビューに応じ、事態の長期化は避けられないとの厳しい見通しを示しました。
この中でアリエブ氏はウクライナとロシアとの停戦交渉の中で議論が続いているとみられる、NATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる別の安全保障の枠組みについて触れ「そういった議論が行われていることは承知しているが、攻撃が続く中で行われている交渉では合意は不可能だ」と述べ、交渉が難航しているとの認識を示しました。
そのうえでアリエブ氏は「私たちはウクライナの国家の生存のために戦っている。これは短期的なものではなく、悲劇は長期に及ぶだろう」と述べ、事態の長期化は避けられないとの厳しい見通しを示しました。
一方、現在、最終的な調整が進められている日本の国会でのゼレンスキー大統領のオンライン形式での演説については「大統領はこれまでも世界の議会での演説でそれぞれの国との団結を呼びかけてきた。ロシアの行動を許せば、ウクライナだけにとどまらず、アジア太平洋地域でも同じようなことが起きかねず、ウクライナを支援することは日本の国益にとって重要だ」と述べ、演説では両国の団結を呼びかけることになるとの見通しを示しました。
●ロシア、南部攻撃激しく ウクライナ侵攻 3/21
ウクライナに軍事侵攻を続けるロシア軍は19日も南部の都市などに激しい攻撃を続けた。南東部の港湾都市マリウポリでは市街地での中心部で戦闘が起きており、救助活動や住民の避難が困難になっている。ロシア軍は停滞した戦況の打開に向けてミサイル兵器への傾斜を強めており、音速の5倍以上の速度で飛行する極超音速ミサイルも投入。米欧に軍事力を誇示している。
マリウポリの市長は19日、英BBCで「市中心部で市街戦が起きている」と述べ、16日に爆撃された劇場での救出作業が、絶え間ないロシア側の攻撃により阻害されていると指摘した。多くの住民が避難していた劇場からは130人が救出されたが、数百人がとじ込められているもようだ。マリウポリ市議会は、住民約400人が避難していた美術学校も19日にロシア軍の爆撃を受けたとSNS(交流サイト)上で発表した。多くの住民ががれきの下敷きになっているもようだ。
激しい市街戦のため市外へ安全に避難することも難しくなっている。ウクライナ当局によると19日には、一部の市民がいわゆる「人道回廊」を通ってマリウポリからザポロジエに避難したが、マリウポリにはなお30万人ほどの住民がとどまっている。ウクライナのゼレンスキー大統領は20日のビデオ声明で「包囲は戦争犯罪として歴史に刻まれる。何世紀にもわたり人々の記憶に残るテロだ」と非難した。
ミコライウにある軍事基地には18日早朝、ロシア軍のミサイル複数発が撃ち込まれた。米ニューヨーク・タイムズ(電子版)は19日、兵士40人以上が死亡したと報じた。
戦局の打開に向け、迎撃が難しい極超音速ミサイルも投入し始めている。ロシアのインタファクス通信によるとロシア国防省は20日、ウクライナへの攻撃で極超音速ミサイル「キンジャル」を再び発射したと発表した。国防省は同ミサイルを18日に初めて実戦投入したと説明していた。米CNNも米当局が初使用を確認したと伝えた。
ロシアは米国のミサイル防衛(MD)システムの突破に向けて、地上レーダーによる探知が困難な極超音速兵器の開発を急いできた。キンジャルの実戦での使用には、ウクライナへの軍事支援を増やす米欧を威嚇する思惑も透ける。
ウクライナ侵攻による避難民は増え続けている。グランディ国連難民高等弁務官は20日、ウクライナ侵攻で国内外に避難した人々が合計1000万人を超えたとツイッターで明らかにした。
●夢破れたプーチンロシア…窮地に立たされた「親友」習近平中国 3/21
勝利の目が消えたプーチン…「3つ」の大誤算
軍事、地政学の専門家ではないが、一定の論点整理を試みたい。電光石火の攻撃により緒戦で勝利し、ウクライナ側に (1)非武装中立化、(2)クリミア半島の主権譲渡、等を飲ませるというプーチン氏の目論見は完全に失敗した。傀儡政権の樹立も今では難しくなっている。
プーチン氏の見込み違いは、敵を甘く見たことに尽きる。
1.ウクライナ国民の抵抗
2.国際民主社会の結束(EUおよび非同盟欧州)
3.米国の強靭さに対する軽視
である。
米国についてプーチン氏は、アフガン撤兵の混迷でバイデン政権の無能さが露呈された、また米国国内にはロシアの要求(NATO東進拒否)には合理性があると考える人々、トランプ前大統領が掲げたアメリカファーストと孤立主義の信奉者がおり、ウクライナへの介入はないと踏んだのだ。
チキンレースが始まった。プーチン氏は二回目の見込み違いをするだろう。緒戦でもたついた分を更なる強硬策で突破し、ウクライナ側の屈服を勝ち取ろうとするだろう。プーチン氏のdouble down(2倍賭け)戦略である。原発攻撃はdouble downそのものかもしれない。
キエフを巡って市街戦が始まり、流血の惨事が一気に拡大しそうである。生物兵器、化学兵器の使用が始まるかもしれない。
第三次世界大戦へのエスカレートを回避したいバイデン政権との肝試しが始まった。バイデン氏は「ウクライナ国内でロシア軍と対戦しない」と明言しているが、ウクライナ国内の残虐にいつまで耐えられるだろうか。
悪しき前例を作らないために…NATO参戦か
バイデン政権は1インチたりともNATO領域を侵させないことをレッドラインとしているが、ウクライナのジェノサイドをいつまでも見逃すことはできないはずである。
米国・NATOがプーチンの暴虐に耐えられないのは、より強力な現状変更勢力、台湾を自国領土として取り返すことを国是としている中国が控えているからである。
ここで侵略が正当化される前例が作られれば、台湾併合を狙う中国に大きなインセンティブを与えることになる。ウクライナ戦争は将来予想される台湾有事の格好の土台になるはずである。WSJはNATO参戦準備を提起し始めた(3月14日社説)。
よってウクライナの敗北はあり得ないだろう。結局は、プーチン氏の野望に相応の懲罰が課されることになるだろう。ロシアは西側による経済制裁、頼みの綱であるエネルギーも取り上げられ、大ロシア主義は破綻、発展途上貧国として長期停滞を余儀なくされるだろう。
ロシアの敗北がちらつくなか…窮地に立たされる中国
米国とNATOは中国に踏み絵を迫っている。
ロシア産天然ガスの購入、軍事物資支援などを通して経済支援を行い西側の制裁に対する抜け道を提供することが疑われているが、それへの対応次第では中国が孤立しかねない。中国の1〜2月のロシアとの貿易総額は前年同期比38.5%増と急増し、中国全体の貿易総額の伸び率(15.9%増)を大きく上回った。
中国は国連総会でのロシア非難決議に棄権した。また欧米の首脳がボイコットした北京オリンピック開幕式に訪中したプーチン氏との間で、「一致してアメリカに対抗する姿勢を鮮明にした共同声明(2月4日)」(NHK)を発表している。曰く
「中ロの国家間関係は冷戦時代の政治軍事同盟より上位のものであることを両国は再確認する。両国間の友情は無限であり」、「両国の協力にタブーも上限もない」
さらに「NATOのさらなる拡大に反対する」、「中国側は、ロシアが提案しているヨーロッパにおける長期的で法的拘束力のある安全保障の形成について共感し、支持する」また「米国のインド太平洋戦略が地域の平和と安定に与える負の影響を強く警戒する」とうたっている。
法的同盟関係ではないが、露中協商の成立ともとれる内容である。プーチンロシアの敗北が見えている以上、習近平中国は窮地に立たされていくのではないか。
中国封じ込めの新冷戦が現実のものとなり、それはとりもなおさず、米国の覇権強化につながっていくだろう。 
●ロシア、侵攻批判封じ込め プーチン氏「裏切り者浄化」 3/21
ロシアで言論統制が強まっている。プーチン大統領はウクライナ侵攻に反対する国民を「裏切り者」と断じて徹底排除する方針を示した。当局は「偽情報」に最大で懲役15年を科す法律に基づく摘発を始め、米欧系SNS(交流サイト)の遮断も急ぐ。戦局の停滞が指摘されるなかで批判の封じ込めに躍起で、恐怖政治への回帰が一段と進むとの懸念が広がる。
「これはプーチンの戦争であり、ロシア人の戦争ではない」。ロシア国営テレビの番組で「戦争反対」のメッセージを掲げたマリーナ・オフシャンニコワ氏は20日、米ABCテレビに出演して訴えた。同氏は3万ルーブル(約3万2千円)の罰金刑を受けていったん釈放されたが、偽情報を広めたとして今後刑事責任を問われる可能性もある。
「国民は愛国者と裏切り者を見分けられる。口に飛び込んだ虫のように簡単に吐き出せる」。プーチン氏は16日の政府会議でこう言い放った。「社会の自然な浄化作用が国を強くする」と語り、徹底的な取り締まりを示唆した。スパイを意味する「第5列」という言葉も交えて「欧米が第5列を使いロシアを壊そうとしている」と持論を展開した。
プーチン氏の発言にあわせるかのように侵攻に反対する国民の「排除」は始まっている。連邦捜査委員会は16日、軍事行動について「虚偽の情報」を拡散した疑いで著名ブロガーら3人の捜査を始めたと発表した。
治安当局はロシアに住むウクライナ人への監視も強めた。人権団体OVDインフォには自宅の捜索や事情聴取を受けたとの報告が寄せられている。携帯電話で連絡先や閲覧履歴を調べられたり、出国しようとした際に拘束されたりした事例があるという。
矛先は元政権幹部にも向かう。ドボルコビッチ元副首相は18日、先端技術の研究開発を促進する財団「スコルコボ」の総裁を辞任した。米メディアの取材に「戦争は最悪のものだ」と政権周辺では異例の反戦を表明し、与党議員から「裏切り」と批判を浴びていた。
意見を表明するのは日増しに難しくなっている。侵攻後に国内各地で開かれた反戦を訴える抗議で治安当局に拘束された参加者は21日までに1万5000人(OVDインフォ集計)に達した。「平和」と書いた紙ですら掲げることは許されない。19、20日の週末にも抗議は起きたが規模は縮小した。
インターネットで情報を得るハードルも上がる。通信規制当局は18日までにフェイスブックとツイッターに続き、インスタグラムへの接続を遮断した。ロシア通信は同日、通信当局筋の話としてユーチューブについても「来週末までに」遮断される可能性があると報じた。
統制の強化は侵攻が計画通りに進まないことへの政権の焦りを浮き彫りにしている。プーチン氏は当初、短期間でウクライナ政権を降伏させ、2014年に一方的に宣言したクリミア併合から8年となる18日の支持者集会で「勝利」を誇示することをもくろんでいたとの観測が出ている。
ウクライナの激しい抵抗で、ロシア軍は「消耗戦に移行し始めた」(英国防省)と苦境が指摘され始めた。制裁の国民生活への打撃が深まり、ロシア兵の犠牲の全容も明らかになれば、国民の不満が膨らむのは必至だ。追い詰められた政権がさらなる強硬策に訴え、粛清が相次いだソ連時代のような恐怖政治への回帰を加速させる恐れもある。
●政権打倒のための“非ナチ化”協議項目入りの意味…ロシアの態度に変化 3/21
ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、両国の停戦協議が21日に行われたことが明らかになりました。
ウクライナメディアによりますと、停戦協議はオンライン形式で、1時間半にわたって行われました。
ウクライナ代表団のアラカミア議員は「公式代表団の協議は終わったが、作業部会の交渉は現在も続いている」と説明しているということです。
ロシア、ウクライナの外相と会談をしてきた、トルコのチャブシオール外相らの話として、トルコメディアが協議の詳しい内容を報じています。その中身は次の6項目で、歩み寄りが見られているのは(1)〜(4)の4項目ということです。
(1)ウクライナの中立化
(2)非武装化と安全保障
(3)ウクライナの「非ナチ化」
(4)ウクライナ国内のロシア語の使用制限解除
(5)東部ドンバス地域の帰属
(6)クリミア半島の帰属
ロシア情勢に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.協議内容の情報には、信ぴょう性があると考えていいですか)
トルコは外相は両国の外相会談を仲介しました。双方の協議担当者から直接、進捗状況について聞く立場にあり、情報を得ていると思いますので、一定の信ぴょう性があるとみています。さらに交渉を進めるために、トルコが後押しする可能性もあると思います。
(Q.6つの項目のなかで、注目するのはどこですか)
今回新たに「非ナチ化」が取り上げられました。「非ナチ化」というのは、ロシアがウクライナに軍事侵攻する大義名分の一つです。ゼレンスキー政権をナチスになぞらえて、ロシア系住民を集団虐殺している。さらには核開発などを行って、ロシアに脅威をもたらしている。それを除去するために軍事侵攻し、ゼレンスキー政権を妥当するというキーワードが「非ナチ化」というプーチン大統領の一方的な言葉です。
ウクライナからすると一方的な言いがかりで、全く受け入れられず、交渉の議題になり得ないものでした。「非ナチ化」について明示的に協議するということではないと思いますが、交渉のなかで、ゼレンスキー政権の存続を前提としたやり取りがあり、ロシアが「非ナチ化」にこだわらなくなってきたとトルコが解釈しているのではないでしょうか。
軍事侵攻、キエフ陥落、ゼレンスキー政権の打倒、ロシアの傀儡政権の樹立。ロシアはこれを目標にしていたと思われていますが、ゼレンスキー政権の打倒も、その前提のキエフ陥落も難しくなってきています。ゼレンスキー政権の存続を前提としたうえで、停戦協議を行う。そのなかで妥協点を見出す姿勢が見られるんじゃないかと思います。
必ずしもゼレンスキー政権の打倒ではなく、無力化・無害化したと説明することで、プーチン大統領は対面を保つのかもしれません。
(Q.停戦協議が進むなか、ロシアはなぜ攻撃の手を緩めないのでしょうか)
停戦協議と軍事侵攻はセットになっていて、停戦協議を有利に進めるためにも、軍事的圧力を強化して、相手から歩み寄りを得たい。これはロシアもウクライナも同じだと思います。
シナリオが上手くいかないなか、ゼレンスキー政権の存続を前提とした新たな選択肢をロシアが想定し始めた可能性があります。ただ、どちらを最終的に取るかは、協議の行方と軍事侵攻の見通しをみながら、プーチン大統領が決断すると思います。
(Q.ゼレンスキー大統領はプーチン大統領との直接会談を求めていますが、どういう状況になれば行われると思いますか)
東部ドンバス地域とクリミア半島の帰属を認めるか認めないかは、中間点で折り合うことが難しい項目です。プーチン大統領は「ある程度、項目がまとまれば、首脳会談に前向きだ」という姿勢を見せたようですが、ロシアの報道官は「協議に大きな進展がないので、首脳会談は時期尚早」と説明しています。
6項目がどれだけ煮詰まっていくのか。それを踏まえて首脳会談に移れるのかどうか。そこに注目したいと思います。
●プーチンがウクライナ戦争という賭けに負ける時 3/21
ダニエル・グロス(欧州政策研究センターの特別フェロー)がProject Syndicateのサイトに3月7日付けで「プーチンのポチョムキン軍(Putin ' s Potemkin Military)」という論説を書いている。
「ポチョムキン軍」という言葉は、18世紀のクリミア併合を指揮したロシアの軍人・政治家、グリゴリー・ポチョムキンに由来する。彼は1787年、エカテリーナ大帝が新しく領土になったクリミアとその周辺を視察する旅行をした時に、皇帝に見せるためにニセの居住地を建設したとされている。このエピソードの史実性は疑わしいとされているが、「ポチョムキン軍」というのは、見せかけだけの軍隊の意味である。
論説は、ロシア軍が見せかけだけであると指摘し、それほど強くないこと(予想された激しいサイバー攻撃や圧倒的な空軍力による制圧が無かった)、軍を支える経済産業力が西側に比較して劣ること(EU全体のGDPはロシアのGDPの約10倍である)、戦争およびプーチン政権の潮目が今後変わりうることを指摘したものである。
「ロシアを士気が低くなる経済的衰退の路線に乗せた。それら以上に彼はウクライナ人が自由のために激しく戦うように動機づけた」、「もしウクライナ人が当初の攻撃に何とか耐えることができたら、無制限の西側の支持と彼らの決意は、プーチンの戦争、プーチン政権の潮目を変えることができるだろう」と言っている。若干楽観的な見方のように見えるが、一理ある議論であると思われる。
ロシア軍の侵攻について、プーチンは予定通りであると言っているが、ウクライナ側の強い抵抗によりプーチンが期待したように進んでいないことは明らかである。民間人への攻撃、原発への攻撃など戦争犯罪に当たる乱暴なことをしているが、それでもロシアの思惑通りに戦況が動いているとは思われない。
ロシア経済は西側の制裁でますます弱くなるだろう。国民生活は圧迫される。ロシア国民のウクライナ戦争への反対は経済困難、戦争の早期決着がないなか、今後徐々に高まると考えてよい。プーチンはそれがわかっているから、厳しい情報統制を行い、国民の目をふさごうとしているが、真実を正直に知らせずに嘘で国民の戦争支持を得ることはできないだろう。
注目に値するニュースが二つある。
一つは、「ウクライナに侵攻したロシア軍は職業軍人よりなっており、徴集兵はいない」とプーチンが言ったとのニュースである。徴兵された人は派遣されていないとの発言は、ウクライナ戦争への国民の支持が弱いとプーチンが認識していることを示している。アフガン戦争の時には、「兵士の母」という団体があり、徴兵兵士の母親が息子のことを心配し、戦争の是非を問題にしたことがあった。プーチンはそれを覚えているだろう。
今一つは、プーチンがシリアより市街戦に経験のある兵士を傭兵として雇うとのニュースである。これも兵士不足、その背後にはロシア国内での戦争反対があることを示す。
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルク事務局長は、ウクライナ情勢は今のところ良くなるより悪くなる可能性が高いと言っており、その通りであると思われるが、プーチンがこのウクライナ戦争という賭けに勝つシナリオは見通せない。プーチン政権が終わる可能性は、時期や形は不明であるが、かなりある。
●英首相、ウクライナ戦争とブレグジット投票を並列 欧州や与野党から非難 3/21
ボリス・ジョンソン英首相が、ロシアの軍事侵攻に反撃するウクライナ人の戦いと、イギリス国民が欧州連合(EU)離脱に投票したことを並列して比較したため、与野党や欧州から強く非難されている。ジョンソン氏は19日、英ブラックプールで開かれた与党・保守党の党大会で発言した。
ジョンソン首相は春の党大会で、イギリス人はウクライナ人と同じように直感的に「自由を選択」するのだと述べ、その最近の例として2016年6月のブレグジット(イギリスのEU離脱)をめぐる国民投票を挙げた。
「この国の人たちは直感的に、ウクライナの人たちと同様、毎回必ず自由を選ぶものだと、私は承知している。最近の有名な例をいくつか挙げよう。イギリスの人たちがあれほど大勢こぞってブレグジットに賛成して投票した時、それはその人たちが外国人を敵視していたからだとはまったく思わない」と、ジョンソン首相は述べた。
「(ブレグジットを支持した人たちは)これまでと違う形を自由にやりたかったし、この国のことは自分たちで決めたかったからだ」とも話した。
ジョンソン氏はさらに、イギリス人が新型コロナウイルスワクチンの接種を選んだのは、「早く自分の生活を続けたかったからで」、「私のような人間からああしろこうしろと言われるのにうんざりしていたからだ」と述べ、これもイギリス人が自由を選んだ一例として挙げた。
首相の発言は保守党支持者を勢いづけることが目的のものだったが、イギリスと欧州の政界から強い非難の声が上がっている。
ドナルド・トゥスク元欧州理事会議長はツイッターで、「ボリス・ジョンソンは、ウクライナ人が戦うのはイギリス人がブレグジットに投票するようなものだと比べた。(イギリスの)国民投票の結果を、プーチンやトランプがどれだけ歓迎したか、私は今でも覚えている。ボリス、あなたの言葉はウクライナ人とイギリス人と良識を侮辱するものだ」と書いた。
欧州議会のブレグジット交渉主任ヒー・フェルホフスタット元ベルギー首相は、「ジョンソンが、ウクライナ人の勇敢な戦いをブレグジットと比較したのは、狂っている。ブレグジットは自由をなくしてEUを出るためのものだった。ウクライナの人たちはもっと自由を手にしてEUに入りたがっている!」とツイートした。
英保守党の上院議員、バーウェル卿は、国民投票への参加と、戦争で「自分の命をかけることとは、まったく比較しようもないことだ」と述べた。
テリーザ・メイ前首相の首席補佐官だったバーウェル卿は、「自由で公平な国民投票に投票することと、自分の国を侵略者から守るために命を懸けることは、まったく比較しようもない。加えて、ウクライナ人はEUに加盟する自由のために戦っている。こうしたぎこちない不一致をのぞけば、(首相の)比較はばっちりだ」と述べた。
保守党のトバイアス・エルウッド下院国防特別委員会委員長は、「プーチンの独裁に対するウクライナの人たちの戦いを、イギリス人のブレグジット投票と比較するなど、私たちが展開しようとしている国政の基準を、損なうものだ」とツイッターに書いた。
野党・自由民主党の党首、サー・エド・デイヴィーは、「プーチンの爆弾から逃げる多くの女性や子供たちを、国民投票と比較するなど、全てのウクライナ人への侮辱だ」として、ジョンソン首相の発言は「イギリスにとって国民的な恥」だと述べた。
野党・労働党のレイチェル・リーヴス影の財務相はBBCに対して、「ウクライナの人たちは、生きるために戦っている。EU離脱のための投票を、それを並べて語るなど、まったく恥知らずだ」と批判した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は早期のEU加盟を希望しているだけに、ジョンソン氏が言うような比較には共感しないだろうとも、リーヴズ氏は述べた。
20日のBBC番組で感想を求められたジョンソン政権のリシ・スーナク財務相は、「首相は、2つの事柄を直接結びつけて比較していたわけではないと思う。類似することではないのは、明らかなので」と弁明した。
「人は自由を希求するものだという、一般論的な見解」を首相は口にしたのだと、スーナク氏は述べた。
スーナク氏はさらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して強いメッセージを発するよう、ジョンソン氏は世界世論を鼓舞し続けてきたとして、「私たちはそこに注力すべきだ」と述べた。
一方、ジョンソン氏は19日付の英紙サンデー・タイムズのインタビューで、プーチン氏が「罪のない民間人を押しつぶそうとしている」と述べ、「善と悪がこれほど明白に分かれているのを見たことがない。正義は圧倒的にウクライナ人の側にあるのは明白だ。だから、ウクライナがいかに悲惨な状況に置かれているか、世界中からはっきり見て取れる」と非難した。
その上でジョンソン氏は、「時間がたち、ロシアによる残虐行為の数が積みあがっていくにつれて、プーチンの侵略を積極的に、あるいは暗黙のうちに承認している人にとって、事態はひたすら厳しく政治的に恥ずかしいものになっていくと思う」として、中国政権による中立姿勢について、中国政府内にも「考え直す」動きが出始めていると述べた。
「黙って座視していれば済むだろうと思っていた人たちは、今かなりのジレンマの中にいる」とも、首相は述べた。
●米戦争研究所「ウクライナ・ロシア戦争、膠着状態に向かっている」 3/21
軍事専門家らは、ウクライナ戦争が膠着状態に向かっており、ロシアはこれを打開するために攻勢を強化する可能性があると見通した。今後2週間が非常に重要だという分析も出ている。
米国の戦争研究所(ISW)は、19日に公開した報告書「ロシアの攻撃戦評価」で、ウクライナを掌握しようとするロシアの攻撃が「頂点に達した」と評価した。ロシア軍がウクライナの首都キエフ(現地読みキーウ)と第2の都市ハリコフ(現地読みハルキウ)、南部の港町オデッサなど主要都市をいち早く掌握しようとしたが、開戦3週間が過ぎた時点でもそれらの目標達成に「失敗した」ということだ。
研究所は「ロシア軍はキエフおよび他の地域の周辺部でその地域に対する政治的統制を強化し、(物資の)再供給を受け、部隊を補強しようと試みながら待機している」とし、「概ね現在の前進拠点近くで無期限に待機できる条件を作り始めた」と指摘した。さらに「ロシアの初期作戦がピークに達したのは、ウクライナのほとんどの地域で膠着状態の条件を形成している(ことからわかる)」とし、膠着状態が「数週から数カ月続く可能性がある」と分析した。ロシア軍がここ数日間、キエフ郊外で塹壕を掘っている様子を捉えた米国の民間企業マクサー・テクノロジーズの衛星写真や、「ウクライナが疲労困憊して5月に降伏する」というロシア議員の発言がこれを裏付けていると研究所は説明した。
このような分析は、ロシア軍がマリウポリなどウクライナ南部では掌握に速度をあげているが、キエフなど大半の地域ではウクライナの強い抵抗と兵站問題などで停滞しているという米軍当局の分析に近い。
しかし研究所は「膠着状態は休戦や射撃中止ではない」とし「特に長引く場合、膠着状態は非常に暴力的で血みどろになる可能性が高い」と見通した。研究所は、第1次世界大戦時のソンム、ヴェルダン、パッシェンデールの戦いを例に挙げ、戦争で膠着状態は、両者が状況を根本的に変えないまま攻撃的作戦を展開する条件になると指摘した。また「ロシアはウクライナの戦闘継続の意志をくじくために、ウクライナの民間人に対する爆撃を拡大するだろう」と見通した。
これに関し、英国の国防・安保シンクタンクの王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング氏は「今後2週間が非常に決定的になるだろう」とし、ロシアから発信されるすべてのシグナルはロシアが攻撃を緩和するよりは強化するものとみられると述べたと、ワシントン・ポストが報じた。
実際、ロシアは今月16日、少なくとも数百人の民間人が避難していたマリウポリの劇場を無差別に爆撃し、週末にウクライナ西部の軍事施設などに2回、極超音速ミサイルを発射するなど、さらに乱暴な行動を取っている。
退役した米陸軍将軍のベン・ホッジス氏は「米国が主導する西側は、ベルリン空輸作戦のような規模と緊迫感を持ってウクライナに対する支援を早急に拡大しなければならない」と述べたと、ニューヨーク・タイムズが報じた。ベルリン空輸作戦とは、第2次世界大戦当時、ソ連によって封鎖されたベルリンに物資を供給するため、米国などの西側が行なった大々的な輸送作戦をいう。
●メディアはアメリカの影響を受けすぎ マリウポリ戦とウクライナ戦争地図の疑問 3/21
最近、日本のメディアを見ていて、一つ不安になることがある。あまりにもアメリカに影響されすぎているのではないか、ということだ。
数日前、ロシアは「露軍がマウリポリ市内に入った」と発表した。
これは、フランスではすぐにニュースとなった。英国やポーランドでもそうだったと認識している。主要トピックの中に1日あった。
ところが日本のメディアでは、これをはっきりと報じた所と報じなかった所に分かれたと思う。
なぜだろうと考えると、私が把握した範囲であるが、アメリカのメディアが言わなかったからだと思う(大衆紙レベルでは報道されていたようだ)。
アメリカ側は「ロシア軍によるマリウポリ包囲戦がどんどん激化しているが、ウクライナ軍はまだ必死に抵抗している」という立ち位置である。
公式にはアメリカは参戦していないが、アメリカのメディアには「情報戦でロシアと戦争をしている」という強い意識はあるだろう。だから、ロシア側という「敵側」の戦況の発表など、意にも解さないのは当然かもしれない。
問題は「ロシア軍が市街に入って戦闘をしている」と、「包囲戦で戦っている」の違いである。
芸術学校が攻撃されて何百人もの犠牲者が出たとか、市民が強制的に移動させられたなどは、アメリカでもどの国でもニュースになっている。
その際の映像や写真で、市街の激しい被害は見ることができる。
でも爆撃の被害は、至近距離から戦車等で発せられたためか、どこか遠くから爆弾やミサイルが飛んできたためか、そこまではわからない。
それに、市職員や目撃者によって得られたという「市民が強制的に移動させられている」というニュース。考えてみれば、露軍が市内にいなければ不可能な行為である。でも、そこまで普通、ニュースを見て考えるだろうか。
「ロシア軍が市街に入って戦闘をしている」と「包囲戦で戦っている」の違いは、「メディアの倫理に関わる問題」という話ではないだろう。実際に、ウクライナ側は降伏していないのだから、包囲戦の続きだとは言える。
でも、視聴者や一般市民に与える印象は、とても大きく異なるのではないだろうか。
もちろん日本はアメリカの同盟国で、今回の戦争では反ロシア側ではある。でも、そんなところまでアメリカに追随したり、影響されたりする必要があるのだろうか。
ここ最近は、やたらにロシア軍の不備が指摘されていた。
1週間から2週間近く、ロシア軍の大きな移動がないというのは、アメリカに限らず、フランスや英国の専門家も述べていた事だ。ロシア軍にとって、補給や補給線が問題になっているというのは、共通の認識のようだ。
そのためか、ロシア軍の将校が次から次へと死んでいるとか、シリア人の援軍を呼んだがレベルが低いとか、おそらく事実なのだろうが、ロシア軍がいかに困っていて弱いかを強調する記事が増えていた。
そんな調子だったこともあり、疑い深い筆者は、いまロシア軍がマリウポリを奪取寸前で、東の二つの自称独立共和国と、西方面のクリミア地域がつながってしまいそうな事実を、アメリカ側はそう簡単に認めたくないのではないのか・・・と、うがって邪推したくなるほどだ。
米シンクタンクの良し悪し
それともう一つ。「なんだか・・・」と思っている事がある。
米戦争研究所の情報だ。Institute for the Study of Warという、アメリカのシンクタンクである。
日本のメディアが使っている戦況を示すウクライナ地図は、おそらくほぼ100%、この研究所が発表している地図を大元にしていると思われる。
ここが発表する戦況情報は大変詳細だし、信頼に足るものであることは疑っていない。おそらく世界中のウオッチャーが、ここの情報を毎日見ていると思われる。筆者も毎日見ている。
しかしーーとあえて異を唱えてみたい。まず、当の地図である。この地図は確かにすごい。
これが日本のメディアが使っている地図の大元である Institute for the Study of War の地図である。
昔の戦争映画には、関係者以外は絶対に入ってはいけない部屋の中で、参謀が集まって、大きなテーブルの上に大きな地図を載せて、極秘の戦略作戦会議を開くーーよくそんなシーンが出てくる。
その地図がデジタルになり、ネットで世界中のスマホにお茶の間に配信されているかのようだ。このような地図をつくれる米戦争研究所には、敬意を表したいと思う。
ただ気になるのは、南ブーフ川が描かれていないことだ。
もともとここの地図は、川は目立った形で描かれていない。肝心かなめのドニエプル川すら、目を凝らせば見える細い線でしか描かれていない。
このことは、心の底からいかがなものかと思う。この川は、戦争の最初から注目すべき重要な地勢だったでしょうに。
おそらく大元がこの状態のせいで、日本のメディアがつくる地図には、当初はこの川が描かれていないものが多かった。今ではだいぶ改善された。その点に関しては、この研究所より日本のほうが上ということになるかもしれない。
それでも、まだ南ブーフ川は描かれていない。
いま、マリウポリがロシア軍の手にわたろうかという時である。これが実現すれば、次の重要な標的は、間違いなくオデッサである。ロシアから見ると黒海沿岸域の制覇である。
オデッサ守備のために、この川は非常に重要である。河口から遠くないせいもあって、そう簡単に渡れる幅ではない。川の東側にあるミコライフ市から、川を渡って西側に行き、オデッサ方面に到達するのには、橋が1本しかない。この橋を、ウクライナ軍は死守しているのだ。
ミコライフ市は、かつてロシア帝国海軍の司令部があった街である。
19日土曜日、ロシア軍はミコライフ市に強烈な空爆をして、多大な市民の犠牲者が出ている。
米戦争研究所は、ロシア軍は、陸軍がオデッサ周辺地域に到着してから、海からの攻撃をかけて、上陸作戦をするのではないかという見立てをずっと行ってきた。
ミコライフの上に長い間、にょきっと北に出っ張っている所があった。だいぶ前からロシア軍が北上していたことを意味する。
これは南ブーフ川の東側に沿って、露軍が北上していたのだ。おそらく、川を渡ろうとしていたのだろう(一時、ある場所から渡ったという情報があったが、あれはどうなったのか。誤報か、撃退されたのか。加えて最近、状況が変わった)。
次に重要な攻防戦は、間違いなくミコライフであり、要となるのは南ブーフ川である。
それなのに、地図に南ブーフ川がない。
加えていうのなら、一番最初に西側で起こったミサイル爆撃・ヴィーンヌィツャ空港も、南ウクライナ原発も、この川沿いにある。
確かにこの川は、首都キエフ(キーウ)の真ん中を流れるドニエプル川ほどには、大きくも長くもない。
ウクライナを流れている川はたくさんあるが、川そのもの長さでいうと、南ブーフ川は、ドニエプル川の約3分の1である(ワールド・アトラスによる)。
ドニエプル川はロシアもベラルーシも流れている大河なのに対し、南ブーフ川はウクライナしか流れていない。描かれないのは、わからないでもないのだが・・・。
しかし、戦争は地図とのにらめっこである。地政学の最たるものだ。今必要とされているのは、学校の地理の授業のために使う地図ではなく、戦況を示すための地図である。
今、川をめぐって大きな戦闘が行われているのに、米戦争研究所は川を描かないで平気でいられるのが驚きである。情報収集能力が大変高いだけに、その落差がよけいに際立つ。
やっぱりアメリカ人なんだな・・・と思う。アメリカ人らしい弱点というべきか。
それに、この研究所の見立てが必ずしも当たるとは限らない。最近特に思う。
アメリカの研究所だから、どうしてもウクライナびいきで、ウクライナ発の情報に偏っていると感じる。
ウクライナ当局が出している情報は、アメリカとの連携によるものだと推測できるので、アメリカの研究所がアメリカ側の情報を出していると言えるかもしれない。その情報を疑っているわけではないが、それだけでどこまで客観的な分析ができるかどうかは、疑ってみる必要がある。
例えば、この研究所は、ずっと「オデッサでは陸軍を待って、海から上陸作戦を行う可能性がある」と見立てていた。
でも、そうではない可能性もある。筆者は戦争の専門家ではないので、「そんなものなのか」と思いつつ、陸軍を待たずに海軍が上陸作戦を展開する可能性はないのだろうかと、ずっと不思議だった。クリミアは露軍が制圧しているのだから、海からの補給は困らないはずだ。
それに、オデッサのすぐ近く、モルドバとウクライナの間には、沿ドニエストル共和国という、これもまた自称独立国があり、ロシア軍がいるのだ。
ヨーロッパ人は歴史でロシアと黒海をよく知っていて、陸軍を待っても待たなくても、オデッサはいつ海軍に攻撃されてもおかしくないと思っているのではないか。フランスのニュースは、はっきり覚えていないが2週間近くは、毎日毎日オデッサのニュースが流れている。
ついでにいうのなら、米戦争研究所の地図は、モルドバや沿ドニエストル共和国が、キエフの拡大地図に隠れて見えないのも「なんか・・・」である。まだ必要ないのかもしれないが、「アメリカ人だなあ。ヨーロッパ人じゃやらないなあ」と思ってしまう。
もっと自立するには
この戦争は、アメリカとロシアの情報戦という側面がある。そしてアメリカが優勢である。
だから、日本人でもなに人でも、アメリカの情報を取るのは当たり前の事である。メディアからでもシンクタンク(研究所)からでも、外から見えない所からでも。
その事が悪いと言っているのではない。アメリカばかりになって頼りすぎるのは危険ではないのだろうか、と言いたいのである。
確かにロシアのプロパガンダはあまりにもひどすぎて、危険すぎて一切取り扱いしたくなくなるのはわかる。
ロシアが主張する「アメリカがウクライナで化学生物兵器の開発をしており、戦争で使用するつもりだ」は頭から信用せず、「マウリポリ市内に自国軍が入った」という発表は信じる。なぜだ、その違いは何かーーと問われると・・・答えにくい。
でも、そこは自分の頭で判断するしかないのではないだろうか。
自分の頭で判断するには、日本の社会やメディアが、アメリカ(+少し英国)一辺倒、英語一辺倒を改める必要がある。
一人の問題ではない。一人は英語しか知らなくても、日本社会やメディアの社内に、英語以外の言語がわかる人が大勢いればいい。一人は一つの分野しか知らなくても、他の分野に詳しい人が日本社会やメディアの社内に大勢いればいい。
日本は、頑張ってはいるものの、そのような多様性がまだまだ乏しいのが、大変不安である。この不安は、日本の周りが民主的ではなく敵になりかねない国ばかりなために、いっそう強くなる。
それに、日本にとってアメリカは絶対的に必要な唯一の存在でも、アメリカにとって日本は、世界中の国から援助の依頼が来る、そのうちの一つの国にすぎない。
日本社会は、世界から多様な情報を得て、それを独自に分析できる能力を身につける必要がある。
さらに言えば、外国メディアや、シンクタンク、専門家から情報を得るだけではなく、独自に一次情報を入手できる能力を、もっともつ必要があると思う。
今の日本の政治家や官僚システムでは、硬直しすぎて心もとない。アメリカでは様々な分野で活躍した人が、政治家に転身したり、政府や政治家の参謀として貢献したりしている。欧州も、アメリカほどではないが、多様性に富んでいる。
もっと日本が自分の足で立ち、自分の頭で考えることが出来るようにするにはどうしたらいいのか、平和を守るために真剣に考えなくてはならない時代が来たのだと思う。
●「知ってほしい。これは紛争や危機でなく、戦争と『大量虐殺』だ」 3/21
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から間もなく1カ月。無差別化するミサイル攻撃や爆撃の痛ましい犠牲は、子どもや女性らにも広がる。それでも戦争を続けるウラジーミル・プーチン大統領の野望とは、ウクライナの人々が守り抜こうとするものとは?その因縁の歴史と戦争の現実をつなぐ手記を、ウクライナ人ジャーナリストがTOHOKU360に寄せた。
アンドリー・バルタシェフ(ジャーナリスト、米ニューヨーク在住)
ウクライナ人の私は今、ニューヨークで活動しているが、母国は隣国ロシアと(注・まるで身内の争いのように)「紛争」あるいは「危機」に立ち至った―という言葉を知り合いの「国際派」ジャーナリストたちから聞いて、心を傷つけられてきた。起きている現実は違う。ウクライナを語ることは、野蛮な戦争、ウクライナ人の大量虐殺を意味するのだ。TOHOKU360の読者に分かっていただくために、少なくとも何十年かの歴史を一緒に振り返ってほしい。
国の独立をロシアに奪われた歴史
ウクライナが、そもそも自発的に旧ソビエト連邦の一部となった事実はない。1917年にロシア人たちに占領されて以来、独立への戦いの歴史があった。1922年には旧ソ連の15の構成国の一つに強制的に組み入れられ、「悪の帝国」の異名を取った大国が存在した間、モスクワの支配者たちはウクライナの言語、文化、慣習、多様な伝統をなきものにしようとした。ウクライナ人の独立の意思を根絶するためには、数えきれない弾圧の手段を用いた。
1991年の旧ソ連崩壊で、ウクライナは悲願の独立を手にした。が、国内の東部地域に過去とつながる親ロシア派住民が数多くおり、新たなロシアの政権もウクライナの内政に影響を及ぼす企みをやめなかった。重大な出来事が、旧ソ連時代からの偉大な独立運動家でジャーナリスト、ヴィアチェスラフ・チョルノヴィル(1937〜99)の死だ。見た目は交通事故だが、誰もが「政治的殺人」を疑い、事実、ウクライナの国づくりに大きな痛手となった。
街頭の市民革命で勝ち取った自由
その後、モスクワからの独立と、ヨーロッパの一員としての発展を望む国民の志向は、首都キエフの自由広場の街頭活動で一つになった。2004年、大統領選挙のロシア寄りの選挙結果改ざんに抗議し、再選挙を実現させた「オレンジ革命」がその成果だった。2014年には、ヨーロッパとの経済協力からロシア主導の共同体加盟へ舵を切ろうとした、ロシア寄りの大統領を再び市民が自由広場での抗議活動で追い出した、「尊厳の革命」を実現させた。私自身、市民が鎮圧部隊と対峙した現場に立ち会って取材し、誇りをもってテレビで伝えた。
しかしこの時、ロシアはウクライナ南部のクリミア半島に侵攻、占拠して、偽りの住民投票で併合してしまった。親ロシア派が多い東部のドネツク、ルガンスクでも、住民に「反ウクライナ」の活動を煽り、武器を与えて反乱者に仕立て、「ロシア語を話す住民を助ける」という偽の名分で軍事支援した。以来、その戦いのためにウクライナは8年を費やさせられた。ロシアはまた、「ウクライナは『ナチス国家』をつくっている」「東部の住民を根絶やしにしようとしている」「ロシアを攻撃するつもりだ」との大量宣伝も流し続けてきた(注・ロシアのプーチン大統領はこれらを、今回のウクライナ侵攻の理由にも挙げた)。
「戦争犯罪」を重ねるロシア軍
そして2022年2月24日、プーチン大統領は「東部地域の独立のために戦う人々を助ける“軍事作戦”」を宣言した。現実には、東部からはるかに離れたキエフや、私の故郷であるハルキフなどをミサイルや爆弾で攻撃し、占領しようと目論む攻撃だった。
毎日、軍事基地や工場のみならず、住宅地、閑静な農村、学校、病院、幼稚園まで破壊し、女性や子ども、高齢者を含む市民たちを殺害している。捕虜になったロシア兵が「市民を殺害してよい」とする命令を上官から受けていた―とのウクライナ軍や目撃者の話があり、また市民の生活基盤である施設を標的にするよう命令された、というロシア軍パイロットの捕虜の証言もあった。人々の暮らしを支える場も日々破壊されている。
戦争が始まって20日余り、プーチン氏がウクライナ市民の大量殺害に手を染めたとする証拠は十分にある。彼を、米国のバイデン大統領が「戦争犯罪人だ」と名言した理由もそこにある。(注・16日、記者団に。17日には「ウクライナ国民へ非道な戦争を仕掛けている人殺しの独裁者」と発言した)
日々増える子どもと女性の犠牲
戦場となったウクライナの街々は広く荒廃し、なお間断ない爆撃に苦しめられている。人々が隠れられる場所は地下室や地下鉄などしかなく、どこも飲み水や食べものが不足している。子どもの病院や幼稚園も、もはや安全ではない。この原稿を書きながら、南部の街マリウポリの劇場がロシア軍に爆撃されたニュースを知った。そこに、子どもや女性ら1000人以上が避難していたという。
建物は破壊され、犠牲者の数はまだ不明だ。注目してほしいのは、劇場の庭に「子ども」の(注・ロシア語)文字が、空から見えるように白く大きく描かれていたことだ。が、助けにはならなかった。子どもと女性の死亡率は毎日のように上がっている。これ以上、あるいは最後には、何人が犠牲にされるのか。「自由な国になる」という当たり前の望みのために、どれほどの代償を、ウクライナは払わねばならないのだろう?
すべての文明世界に対する戦争
プーチン氏がウクライナを嫌っている、というのは明白だ。ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟する意思を持つとの政治的理由だけでなく、私たち国民が、ロシア国民よりも豊かな暮らしを不埒にも望んでいる、それが許せない、という感情的理由からだ。8年間の国内の紛争と、ロシアのクリミア半島併合という苦難にも関らず、ウクライナは経済成長を続けてきた。EU(ヨーロッパ連合)もウクライナに国境を開き、もはやビザを要求されることもない。ウクライナの国民は言論・表現の自由を持ち、あらゆる面でロシアの国民よりも幸福であったと思う。それこそが、プーチン氏が戦争を始めた理由なのだ。
さらに言えば、ウクライナは国内にいかなる危機もなく、改革も汚職との闘いも実践して成果を上げ、EUへの加盟に向かっていた。先の道のりはまだ長いが、トンネルの終わりの光が見えてきていた。それこそが、プーチン氏が攻撃したいものだった。それゆえに、これは戦争なのだ。ウクライナに対してのみならず、すべての文明世界に対する戦争だ。プーチン氏を止めなくてはならない理由である。
読者の皆さんには、身近な、できるところからウクライナを支援していただけたら幸いだ。
●国外避難民339万人、9割は女性と子供…18〜60歳男性は国外に出られず  3/21
フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は20日、ロシアのウクライナ侵攻で家を追われ、国内外に避難した人数が1000万人を超えたとツイッターで発表した。「ウクライナでの戦争は非常に壊滅的だ」と述べた。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナ国外に逃れた難民は19日時点で約339万人で、ポーランドでは205万人に達した。国内での避難民は650万人前後とみられる。侵攻前の人口約4200万人の4分の1近くが避難を強いられた形だ。
ポーランドのクラクフで、主要駅に集まるウクライナからの避難民(ロイター)ポーランドのクラクフで、主要駅に集まるウクライナからの避難民(ロイター)
18〜60歳のウクライナ人男性は国外に出られず、難民の9割は女性と子供だ。国連児童基金(ユニセフ)は、難民の半数以上が子供だとしている。ロイター通信によると、チェコの政府関係者が「快適な生活を提供できるぎりぎりの状態でバランスを取っている」と述べ、一部の国では受け入れ態勢が限界に近づいているとの見方も出ている。
●ウクライナ侵攻で「世界的な」食糧危機の恐れ=仏農業相 3/21
フランスのドノルマンディー農業・食料相は21日、ロシアのウクライナ軍事侵攻は「世界的な」規模の食糧危機を招く恐れがあると述べた。訪問先のベルギー・ブリュッセルで欧州連合(EU)の農業関連会合への出席を前に語った。
ロシアとウクライナは世界有数の穀物生産国。
ドノルマンディー氏は、EU加盟国の閣僚がビデオ会議でウクライナ首脳と食糧事情について意見交換すると説明した。
国連世界食糧計画(WFP)の関係者は18日、ウクライナの食料サプライチェーン(供給網)は崩壊していると指摘。橋や鉄道などの主要インフラが爆撃で破壊され、多くの食料品店や倉庫が空になっている状態だと明らかにしていた。
●キエフ市長 私はプーチンの嘘を許さない ウクライナ人は「平和の民」だ 3/21
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1ヶ月が経過しようとしている。ウクライナの国土は激しい戦闘のため焦土と化し、多くの尊い命が奪われた。ロシア軍は首都キエフ陥落を目指し、攻勢をいっそう強めている。そんな中、キエフ市のビタリ・クリチコ市長が「週刊文春」のインタビューに応じた。戦禍の中、陣頭指揮を執るクリチコ市長は、かつてWBC世界ヘビー級王者に輝くなど一時代を築いた元プロボクサーでもある。現在のキエフの様子や日々の職務、そしてロシアへの想いなどを明かした。
――侵攻開始から1ヶ月が経とうとしています。
第二次世界大戦以降ヨーロッパで起きた一番大きな戦争であり、数百万人のウクライナ人が西部や海外へと避難しています。大きな悲劇です。なぜこの戦争が起きたのかを皆が知る必要があります。
2014年にウクライナは民主主義を受け入れて、ヨーロッパの仲間入りを目指しました。しかし、ロシアとプーチンは我々の意志を受け入れることを拒否しました。彼はもう一度ソビエト連邦を作りたいと願っているからです。ロシア帝国を作ろうとしているのです。そして、ウクライナはその計画上とても大きなピースなのです。ですが、我々はその計画がどこで終わるのか分かりません。ドネツク・ルガンスクで終わるのでしょうか。もしかすると、ポーランドの一部やバルト三国、ドイツにまで支配を広げたいのかもしれません。
ロシアは嘘を広めています。プロパガンダを使って「ウクライナにはファシストがいる」と偽の情報を流しているのです。我々ウクライナ人は平和の民です。これまで一度でさえ他国を武力攻撃したことはありません。ロシアに圧力をかけたこともないのです。ウクライナはロシアにとって脅威だと言いますがそんなことは全くあり得ないことです。
私は東ヨーロッパ最大の都市のひとつキエフの市長ですが、半分ロシア人です。母親がロシア人だからです。どうしてロシアのことを憎めるでしょうか。そしてなぜ、ユダヤ人のバックグラウンドを持つゼレンスキー大統領がファシストになれるのでしょうか。これらは嘘ですよね?
この戦争はロシアの野望によって引き起こされたのです。そして、その矛先は軍隊に対してだけではありません。一般人に対しても向いているのです。これはジェノサイドです。ハリコフ、マリウポリ、ブチャなど小さな街が壊滅的に破壊されています。どれ程の一般人が殺されたか分かりません。今も数えられないほどの犠牲者が出ていると考えられます。この戦争は、ウクライナの人々の人生を完全に変えてしまいました。
キエフには200万人ほどが留まっている
――市長として日々どのような職務を行っているのですか?
我々の国のインフラは壊滅的な被害を受けています。橋が壊され、コミュニケーション手段、物流にも大きなダメージが出ています。市長としての役割は、公共サービスを市民に提供することです。戦争前、キエフには360万人の人が暮らしていました。大部分の子供や女性は避難していますが、それでも現在200万人ほどが残っていると思われます。彼らの生活を守るためのサービスを提供しなくてはなりません。現在とても寒くて雪も降っていますが、幸いなことに電気は通っています。水道サービスの確保も私が担当すべきものです。それに加えて、民間防衛を通じての軍への支援も行う必要があります。
――あなたの弟である元プロボクサーのウラジミール・クリチコ氏や現役のプロボクサーであるワシル・ロマチェンコ選手は前線で戦っていると聞いています。
すべての人は自分の人生の計画を持っています。本来なら今頃は休暇やお祝い事を計画していたかもしれません。しかし、それらの計画は全て破壊され、生活は一変しました。私はいま全てのウクライナ人に感謝していますが、男性に対しては特に感謝したいです。ウクライナ男性の使命は国土を守ること、家族を守ること、そして子供たちを守ることです。ロマチェンコのようなスポーツ選手は今、市民生活や競技を忘れて国を守る覚悟ができているのです。彼らには最大限の敬意を払います。
――キエフは日々要塞化していると聞きます。街の様子を教えてください。
ロシア最大の標的になっているこの都市を守る準備はできています。すべての道、建物において戦い、防衛する備えはできています。この街は毎日爆弾による攻撃を受けています。アパートや住宅にはロケット弾が撃ち込まれています。インタビューを受ける数分前にも近くで爆発があって、私はこの後現場に向かいサポートしなくてはなりません。現場に行くのはとても重要なことです。
「日本人のためにも戦っている」
――改めてロシアやロシア人に対する思いを聞かせてください。
ロシア人を恨む感情はありません。ロシアの攻撃的な政治と政府が批判の対象なのです。政治と政府がロシアを間違った道へと導いているのです。ロシアは平和な国家でなくてはなりません。ですが、周辺諸国であるジョージアやアブハジア共和国などにロシアの手垢が付けられていきました。国際社会への好戦的な姿勢には反感を抱きます。
それともう一つ。我々は世界第3位の核保有国でしたが、1994年にすべてを放棄しました。ロシアがウクライナを守ると保証したからです。国土の独立も尊重すると言いました。にもかかわらずクリミアへの侵攻が始まり、ドネツク・ルガンスクも制圧されました。ロシアのことは絶対に信用してはいけないのです。
――あなたはよく今回の戦いは「情報の戦争」だと話しています。
ロシアは情報戦をよく知っています。ロシア人は誤った情報を与えられ、多くの人がそのまま受け止めています。この戦争によってロシアの国益が守られると信じているのです。そして、その国益とはウクライナのことなのです。そのための手段である攻撃が民間人に向けられているのが現状です。
今、私たちはウクライナのためだけに戦っているのではありません。キエフのためだけでもありません。あなた方日本人のためにも戦っているのだと思っています。日本とも共有する価値観や原理のために戦っているからです。ロシアによる侵略によって次はどの国が攻撃を受けるか分からないと思っています。
ロシアのメディアには言論の自由がありません。政府が言うことに反論はできません。だからこそ、すべての人が能動的になってウクライナに平和をもたらす努力をしなければなりません。ロシア大使館の前でデモを行ったり、経済制裁をして欲しいのです。ロシアの企業が稼ぐ利益は全て戦争のために使われています。経済制裁は時に痛みを伴いますが着実に効果をもたらすと考えています。ロシアとの経済関係を止めることで我々を支援して欲しいです。 
●キエフのショッピングセンターで爆撃、8人死亡 ロシア「ロケット弾使用」 3/21
ウクライナの首都キエフで20日夜、ショッピングセンターが爆撃を受け、少なくとも8人が死亡した。ロシア軍の攻撃が続く中、キエフのクリチコ市長は21日、外出禁止令を強化し、市民に対し自宅またはシェルターにとどまるよう呼び掛けた。
ショッピングセンターの爆撃から一夜明けた21日、現場では消防隊が消火作業を続けるとともに生存者の救出作業が引き続き行われている。
クリチコ市長は「現時点で入手できた情報によると、(ポディルの)ショッピングセンターのほか、数戸の住宅が攻撃を受けた」とテレグラムに投稿。現場近くの道路には6体の遺体が横たえられているのが確認された。ウクライナ検察当局は、少なくとも8人が死亡したとしている。
ロシア国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官は21日、「ショッピングセンター付近はロケット弾の保管や多連装ロケットランチャーの再装弾のための大型基地として使用されていた」と主張。高精度の長距離ロケット弾がショッピングセンター内のウクライナ製多連装ロケットランチャーや弾薬庫を破壊したと述べた。 
●林外相 UAE外相と会談 ウクライナへの軍事侵攻めぐり協調対応  3/21
ロシアのウクライナへの軍事侵攻をめぐり、林外務大臣は訪問先のUAE=アラブ首長国連邦でアブドラ外相と会談し、国際秩序の根幹を守るため、さまざまな外交交渉の場で協調して対応していくことを確認しました。
会談は日本時間の21日未明に行われ、ウクライナ情勢などをめぐって意見を交わしました。
この中で林大臣は、ロシアの軍事侵攻はウクライナの主権と領土の一体性を侵害するもので、国際法の重大な違反だという認識を伝え、両外相は、国際秩序の根幹を守るため、今後もさまざまな外交交渉の場で協調して対応していくことを確認しました。
また両外相は、ロシアによる核兵器の威嚇、使用もあってはならないという認識で完全に一致しました。
一方、林大臣は、原油価格の高騰への懸念を伝えるとともに、主要な産油国として国際原油市場の安定化にいっそう貢献するよう求めたのに対し、アブドラ外相は戦略的パートナーの日本との関係は揺るぎないとして、連携していく意向を示しました。
会談後、林大臣はトルコとUAEの2か国の訪問日程を終え、帰国の途につきました。
これに先だって、林大臣は現地で記者団に対し「喫緊の課題のウクライナ問題について意見交換し、日本として、問題解決に向けて外交努力をさらに強めていける一環になった」と成果を強調しました。
UAE 単独での原油追加増産に否定的な姿勢
UAE=アラブ首長国連邦は日本が輸入する原油のおよそ3割を供給していて、日本の企業も現地で原油生産を行っています。
UAEが加盟するOPEC=石油輸出国機構と、ロシアなどの主な産油国は「OPECプラス」と呼ばれる枠組みのもと、原油需要に応じて生産量を調整しています。
OPECプラスの参加国は原油価格が低迷したおととし、世界の原油生産の1割にあたる日量970万バレルの大幅減産に踏み切りましたが、その後は生産量を回復させ、去年8月からは日量40万バレルの小幅増産を続けています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を背景に原油価格が高騰しているのを受け、消費国は産油国にさらなる増産を求めていますが、産油国は慎重な姿勢を崩していません。
OPECは15日に公表した報告書で、原油需要の見通しについて「まだ評価の途中で、地政学的な混乱による広範な影響が明らかになった場合は見直すことになる」と述べるにとどめています。
UAEのマズルーイエネルギー相は、OPECプラスの枠組みを尊重する考えを表明していて、単独での追加増産についても否定的な姿勢を示しています。
UAE 石油政策めぐりロシアとも関係深める
UAE=アラブ首長国連邦はアメリカと同盟関係にあり「中東の親米国家」として知られていますが、石油政策をめぐってロシアとも関係を深めています。
主な産油国が協調して原油の生産量を調整する「OPECプラス」に参加するUAEは、ロシアがウクライナへの軍事侵攻で国際的に孤立する中でもOPECプラスの一角のロシアに配慮する姿勢を示してきました。
UAEの事実上の指導者、アブダビ首長国のムハンマド皇太子は今月1日、プーチン大統領と電話で会談し、OPECプラスにもとづく協力関係を確認しています。
ムハンマド皇太子の弟、アブドラ外相も今月17日ロシアを訪問し、ラブロフ外相とエネルギー市場の安定について意見を交わし、友好関係をアピールしました。
UAEは再生可能エネルギーの導入や石油以外の産業育成など、石油への依存を減らす取り組みを進めるため、重要な収入源である原油の価格を少しでも高く維持したい思惑があります。
そのため、世界有数の産油国ロシアとOPECプラスの枠組みで協力することで、国際的な原油価格への影響力を保ちたい狙いがあるものとみられます。 

 

●中国とロシアが思い描く新たな世界秩序 3/22
全国各地の都市や町にロシアの砲撃が雷鳴のごとくとどろくウクライナは、来る日も来る日も新たな惨事に見舞われている。
大都市ハリコフは2週間にわたる砲撃によって瓦礫の山と化し、海に面したマリウポリは破壊された。
この戦いから果たして勝者が現れるのか、現時点では分からない。だが、地球の裏側では、新興の超大国が選択肢を吟味している。
一方には、中国は戦前に明言していたロシアとの「限界のない」友情を土台にして専制国家の枢軸を形成するとの見方がある。
他方には、米国は中国を恥じ入らせ、ロシアと袂を分かち、ウラジーミル・プーチン大統領を孤立させるよう仕向けられると反論する向きがいる。
本誌エコノミストの報道を見る限り、どちらのシナリオも実現しそうにない。
中国がロシアとの絆を深めるとしたら、それは慎重な利己主義に沿って行われ、米国の必然的な衰退と見なすものを促進するためにウクライナでの戦争を利用する。
中国の焦点は常に、西側の自由主義的な世界秩序に代わる秩序を打ち立てる夢に置かれる。
リベラルな世界秩序を崩す共通の夢
中国の習近平国家主席とプーチン氏はともに、世界をいくつかの勢力圏に切り分け、少数の大国が牛耳るようにしたいと考えている。
中国は東アジアを支配し、ロシアは欧州の安全保障に対する拒否権を持ち、米国は外国から撤退することを余儀なくされる。
この代替的な秩序では、普遍的な価値観や人権は重視されない。習氏とプーチン氏はこれらを、自分たちの政権の転覆を正当化するための西側の策略だと見ている。
どうやら両氏は、こうした概念は近く人種差別的で不安定な自由主義のシステムの遺物となり、それに代わって世界全体の勢力バランス内で各国が自分の居場所をわきまえる階層構造が誕生すると考えているようだ。
従って習氏は、ロシアのウクライナ侵攻によって西側の無力さが浮き彫りになることを望んでいる。
ロシアの金融システムやハイテク産業への制裁が失敗に終われば、中国はそうした兵器を以前ほど怖がらなくて済むようになる。
逆にプーチン氏がウクライナでの誤算によって失脚すれば、中国はショックを受けるかもしれない。
そのプーチン氏と組んだことでやはり計算を誤ったと見なされる習氏は、間違いなく恥をかく。近年の慣例を破って3期目の中国共産党トップの座を目指している時に、ダメージとなる。
中ロの友情には限界
だがそれでも、中国の支援には限界がある。
ロシアの市場は小さい。中国の銀行や企業としては、制裁を無視することによってロシアよりもはるかに価値のある他国のビジネスを失うリスクを負うのは避けたいところだ。
また、中国にとって弱いロシアは好都合だ。中国の言いなりになる以外に選択肢がほぼなくなるからだ。
そうなれば、プーチン氏がロシア北部の港へのアクセスを習氏に与えたり、例えば中央アジアにおける中国の権益拡大を容認したり、安価な石油・ガス、国家機密に関わる軍事技術などを提供する可能性が高まる。
ひょっとしたら、先進的な核兵器の設計図も提供するかもしれない。
もっと言えば、習氏はプーチン氏が圧倒的な勝利を収めなくても中国は一歩抜け出すことができると考えているようだ。プーチン氏は生き残ってくれれば十分、というわけだ。
中国の政府高官は外国の外交官たちに、戦争が長引き、西側有権者のコスト負担が増えるにつれ、ロシア問題に対する西側の結束がほころびると自信たっぷりに話している。
中国はすでに、米国が高いエネルギー価格、軍備拡大、そして300万人を超えるウクライナ難民の受け入れの負担のコストを欧州諸国に負わせながら、自国の影響力を強化していると主張し、欧州と米国の間に楔(くさび)を打とうとしている。
中国の想定は米中競争
ロシア・ウクライナ戦争に対する中国のアプローチは、21世紀の大競争は中国と米国の間で行われるという習氏の信念から生まれた。
中国が必ず勝利すると好んで示唆する争いだ。
中国にとって、砲撃を受けているウクライナの都市で起きていることは、この大競争における小競り合いだ。
だとすると当然、西側陣営がここでプーチン氏への対応に成功することは中国の世界観を決める一因になり、後々の西側による習氏への対応の仕方に大きく影響することになるだろう。
では、どうすればいいのか。
まず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は結束を維持し、中国の予想を裏切らなければならない。戦いが数週間から数カ月へと長期化するにつれて、それは難しくなるかもしれない。
ウクライナでの戦闘が市街戦の残酷なパターンにはまり込み、どちらが勝っているのかはっきりしない状況を想像してみるといい。和平交渉で停戦が決まっても、結局破られることになる。
さらに、冬が近づいてきて、エネルギー価格がまだ高止まりしていると想定してみよう。戦争当初のウクライナの例は欧州全土で支持を集め、各国政府の気概を強めた。
今度は、政治のリーダーが自ら決意を固めなければならない時が来るかもしれない。
西側がすべきこと
意志の力は改革につなげることができる。民主主義を守ったら、西側諸国はその民主主義の補強に取り組まねばならない。
ドイツは、ロシアと交易するのではなく対峙することによって対応することを決意した。欧州連合(EU)はイタリアやハンガリーなど、親ロシアの国々を囲い込む必要がある。
欧州北部10カ国が参加して英国が主導する合同遠征軍は、ロシアの攻撃に真っ先に対処する部隊に進化しつつある。
アジアでは、防衛力を改善し、多くの場合中国が絡む不測の事態に対応する計画を立てるために米国が同盟国と協力することができる。
西側諸国の結束した行動はロシアに衝撃を与えたが、もし中国が台湾に侵攻した場合には、中国にとって意外なことではないはずだ。
さらに、西側は中国とロシアの大きな違いを利用する必要がある。
30年前には、両国の経済規模は同じだった。今では中国がロシアより10倍も大きくなっている。
習氏がどれだけいら立っているにせよ、中国は今の秩序のもとで繁栄しており、ロシアはその秩序を傷つけているだけだ。
言うまでもなく、習氏はこの世界のルールをもっと自分に有利な方向に変えたいと思っているが、妨害の脅迫や武力でしかロシアの影響力を行使できないプーチン氏とは異なる。
プーチン政権下のロシアは世界ののけ者だ。米国や欧州と経済的なつながりがあることから、中国は世界の安定に利害がある。
ドニエプル川に臨む上海
米国とその同盟国は、中国も一緒に「国家の集まりから追い出し、そこで空想に耽り、憎悪を募らせ、隣国を脅かす」に任せるのではなく――リチャード・ニクソンは50年前の電撃訪中より何年も前にそう書いていた――、新興の超大国はロシアと違うと考えていることを示すべきだ。
その狙いは、西側と中国は可能なところでは同意し、そうでないところでは違いを認めることによって共に繁栄できるということを習氏に納得させることであるべきだ。
そのためには、関与が安全保障に役立つところと逆に脅かすところを峻別しなければならない。
中国がウクライナでの戦争を素早く終結させる手助けをすることによって、そうした方向に向かい始める可能性はあるだろうか。
残念ながら、ロシアが化学兵器や核兵器を使わない限り、その見込みは薄いだろう。なぜなら中国はロシアを、自由主義の世界秩序を破壊する仲間だと見ているからだ。
中国の計算に影響を及ぼすにあたっては、外交的な要請よりも、プーチン氏に何としてでも犯罪の代償を払わせる西側の決意の方が効果的だ。
●ギリシャ系少数民族も直撃 マリウポリに「戦争の野蛮」―ウクライナ 3/22
ロシア軍が包囲するウクライナ南東部マリウポリ一帯では、ギリシャ系少数民族も攻撃に巻き込まれた。ギリシャのミツォタキス首相は、マリウポリについて「われわれの心の都市であり、戦争の野蛮さの象徴」だと強調。民間施設への空爆に加え、水や食料の不足で人道危機に見舞われている多数の「同胞」との連帯を示している。
ギリシャ系少数民族はチュルク諸語の一つを話すキリスト教徒で、マリウポリを中心に、ウクライナ全土に約10万人が居住。18世紀にロシア皇帝エカテリーナ2世によって、クリミア半島から移住させられたと言われる。アゾフ海や黒海の沿岸には、ギリシャ語で都市を意味する「ポリス」に由来する「ポリ」を語尾に付けた地名が多く残る。
ミツォタキス氏は侵攻開始2日後の2月26日、「空爆で罪なき同胞10人が死亡した」と発表し、ロシアを強く批判した。ギリシャ政府は侵攻後も在マリウポリ総領事館を維持したが、ロシアが事実上支配するクリミア半島とウクライナ東部から挟み撃ちされる格好で戦火が波及。総領事館は2月末、難を逃れるため、東部での停戦監視の終了を余儀なくされた欧州安保協力機構(OSCE)の旧マリウポリ事務所に移転した。
AFP通信によると、ミツォタキス氏は今月14日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談し、総領事やギリシャ系住民らに対する人道回廊や支援物資の提供などをめぐり協議。ギリシャ系コミュニティー幹部も、公開書簡で「ロシアによるジェノサイド(集団虐殺)」が続いていると訴えた。その後、総領事は隣国モルドバへ脱出して20日に帰国。ロイター通信によれば「マリウポリは戦争で壊滅した都市として(歴史に)記されるだろう」と語った。
マリウポリでは9日、産科病院が攻撃を受け、女児らが死亡したと伝えられる。ミツォタキス氏は18日、病院再建を支援する用意があると表明。ロシアへの国際的な非難が高まる中、16日には劇場、19日には学校と、住民の避難先となった施設が次々と破壊され、被害は拡大の一途をたどっている。
●ウクライナ、ロシアの最後通告受け入れず 大統領表明 紛争激化 3/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシアが南東部マリウポリのウクライナ軍に武器を捨てるよう要求したことに対し、ウクライナはロシアからの最後通告を受け入れないと表明した。
ロシア国家防衛管理センターのミジンツェフ所長はモスクワ時間21日午前10時(日本時間同午後4時)にマリウポリから東西に向けて民間人の人道回廊を設定すると表明。モスクワ時間同日午前5時までにこの提案に回答し、武器を捨てるようウクライナ側に要求した。
これに対しゼレンスキー氏は、ウクライナはロシアの降伏要求に決して屈しないとし、首都キエフのほか、マリウポリやハリコフなどの都市がロシアに占領されることはないと表明。「従えば戦争を終結させるという最後通告を突きつけられている。こうした最後通告は受け入れられない」と強調した。
また、戦争終結に向けたいかなる妥協案も、ウクライナの国民投票で決定される必要があると述べた。
ウクライナのメディアによると、ベレシュチュク副首相も「いかなる降伏も、武器を捨てることもあり得ない」とし、「ロシア側に既に伝えた」と述べた。
攻撃激化
マリウポリがロシア軍による攻撃の中心地となる中、21日にはハリコフでも攻撃が激化していることが確認された。
ハリコフの市長によると、住宅を中心に数百棟の建物が破壊されたという。「最悪の事態が過ぎ去ったとは言えない。常に爆撃を受けている」と述べた。
また、首都キエフでは20日夜、ショッピングセンターが爆撃を受け、少なくとも8人が死亡した。ロシア軍の攻撃が続く中、キエフのクリチコ市長は21日、外出禁止令を強化し、市民に対し自宅またはシェルターにとどまるよう呼び掛けた。
ロシア国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官は21日、「ショッピングセンター付近はロケット弾の保管や多連装ロケットランチャーの再装弾のための大型基地として使用されていた」と主張。高精度の長距離ロケット弾がショッピングセンター内のウクライナ製多連装ロケットランチャーや弾薬庫を破壊したと述べた。
ウクライナ軍によると、南部ヘルソンでは親ウクライナ派の抗議集会を解散させるためにロシア軍が銃や音響閃光弾(スタングレネード)を使用したという。
ヘルソンはロシアのウクライナ侵攻開始後に初めて制圧された主要都市で、制圧後、住民グループはヘルソンの中心部で定期的に集会を開き、ロシア軍による占領に抗議している。
和平交渉再開
和平交渉は21日に再開され、ベレシュチュク副首相は21日、民間人を戦闘地域から安全に退避させる8つの「人道回廊」の設置についてロシア側と合意に達したと述べた。ただ、その中にマリウポリは含まれていないとし、これ以上の詳細は明かさなかった。
バイデン米大統領は21日、独仏英伊の首脳と電話会談し、ウクライナにおけるロシアの「残忍な」戦術への協調対応を巡り協議した。ホワイトハウスが明らかにした。
一方、欧州連合(EU)外相は21日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアの原油部門に対する制裁措置の導入について討議したものの、見解は一致しなかった。
EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は、ロシア軍によるウクライナ南東部のマリウポリに対する攻撃は「著しい戦争犯罪」と非難。ロシアに対する圧力を高める必要があるとし、記者会見ではEUは「ロシアを孤立させ続ける」としたが、具体的な決断はまだと述べた。
●国連総会でウクライナの人道状況の改善求める決議案 採決へ  3/22
市民の犠牲が増え続けているウクライナの情勢をめぐり、国連総会で市民の保護など人道状況の改善を求める決議案の採決が行われることになりました。国連総会での決議案の採決は今月2日に続いて2回目で、欧米各国は、前回を上回る賛成を得て採択することで、ロシアへの圧力としたい考えです。
ロシアが軍事侵攻したウクライナでは、激しい戦闘で市民の犠牲が増え続け、国外に避難する人があとを絶たないなど、深刻な状況となっています。
これについて国連では、フランスとメキシコが敵対行為の即時停止のほか、市民や民間施設の保護、それに人道支援の安全確保などを求める決議案を取りまとめ、23日から開かれる国連総会の緊急特別会合で、各国の代表による演説のあと、採決が行われることになりました。
ロシアがウクライナに軍事侵攻して以降、国連総会で決議案の採決が行われるのは、今月2日に続き2回目となります。
今月2日に採択された決議は、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める内容で193の国連加盟国のうち141か国が賛成し、ロシアの国際的な孤立を強く印象づけました。
今回の決議は、人道状況の改善に焦点をあてた内容となっていて、欧米各国としては、前回を上回る国の賛成を得て採択することで、ロシアへの圧力としたい考えです。
●バイデン大統領 “ロシアが生物兵器など使用するおそれ”  3/22
アメリカのバイデン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領について「追い詰められている」とした上で、生物兵器や化学兵器の使用に踏み切るおそれがあるという認識を示しました。さらに、ロシア側がサイバー攻撃を計画しているという情報もあるとして、アメリカの企業にセキュリティーの強化にただちに取り組むよう求めました。
ウクライナに侵攻しているロシア軍について、アメリカ国防総省の高官は21日、首都キエフに向かっている地上部隊のうち、より中心部に近い2つの部隊はこの1週間、いずれも大きな前進が見られず、北西およそ15キロと東におよそ30キロの地点にいることを明らかにしました。
また、ウクライナ側との戦闘で損害を受けているものの、90%弱の戦力は依然として戦闘可能な状態で、東部の要衝マリウポリを引き続き孤立化させているとしました。
そして、人口の多い都市を制圧するため、ミサイル攻撃や遠距離からの砲撃を増やしているとした上で、民間人に大きな被害が出ることに強い危機感を示しました。
こうした中、アメリカのバイデン大統領は企業経営者を集めた会合でロシアの軍事侵攻に言及し、欧米などが結束してウクライナを支援していることを背景に「プーチンは追い詰められている。そして追い詰められれば追い詰められるほど、より激しい戦術を使うだろう」と述べました。
その上で、プーチン大統領が欧米やウクライナに生物兵器や化学兵器があると、事実と異なることを主張しているとして「これこそ、彼がその両方を使うことを検討している明らかな兆候だ」と述べ、警戒を呼びかけました。
さらに、バイデン大統領は、欧米が経済制裁を科したことなどへの対抗措置としてロシアがサイバー攻撃を計画しているという情報もあるとして、セキュリティーの強化にただちに取り組むよう求めました。
政権高官によりますと、アメリカでインフラを運営する民間事業者を狙ったサイバー攻撃が行われる可能性があり、バイデン政権は先週、100以上の企業を集めてこうした情報を共有し、対策を示したということです。
●EU ウクライナへの追加軍事支援で合意 支援額は650億円余  3/22
ロシアによるウクライナへの攻撃が激しさを増すなか、EU=ヨーロッパ連合はウクライナに対し、5億ユーロ、日本円で650億円余りの追加の軍事支援を行うことで合意しました。
EUは21日、ベルギーのブリュッセルで外相会議を開き、ウクライナに侵攻を続けるロシアが攻撃を激化させていることについて対応を協議しました。
会議のあとの記者会見でEUの外相にあたるボレル上級代表は「ウクライナへの経済的、財政的、人道的な支援と、ウクライナ軍への支援を続ける」と述べ、先月表明したウクライナに対する軍事支援の額を倍増し、5億ユーロ、日本円で650億円余りを追加支援することで各国が合意したことを明らかにしました。
支援の詳しい内容については明らかにしていません。
一方、エネルギー分野の制裁についても議論が行われましたが、ドイツがロシアからのエネルギー調達を当面、維持する方針を示す中、各国の意見はまとまらなかったとみられます。
また会議では、2030年までのEUの安全保障上の戦略指針を承認し、2025年までに最大5000人規模の独自の即応部隊を創設する方針が決まりました。
ボレル上級代表は、この指針について現在のウクライナ情勢を解決するものではないとしたうえで「危機に対応し、EUと市民を守る能力が向上する」と述べて意義を強調しました。
●ウクライナ情勢が日本にもたらす「ジリ貧家計」、物価上昇率2%は達成? 3/22
パンがないなら、お菓子もない!小麦粉高騰は必至
農林水産省は4月からの輸入小麦の民間への売り渡し価格を発表したが、2021年10月期と比べて17.3%の引き上げになるという。
そもそも小麦価格は4月と10月に見直される。例えば、22年年頭から相次いだパンの値上げは、21年10月の引き上げを反映したもので、21年4月期と比べ19%アップした。つまり、小麦粉を材料とする加工食品の価格は、しばらくすると、今よりさらに上がる可能性があるわけだ。農水省は、食パンは1斤当たり約3円のアップと試算している。しかし、それはまだ序の口かもしれない。
小麦粉と聞いてピンとくる人は多いだろう。ロシアのウクライナ侵攻だ。
なんといっても、ロシアとウクライナは小麦の輸出大国であり、合計すると世界の輸出量の3割を占めているとのことだ。日本はロシア産小麦の輸入国ではないが、安心している場合ではない。戦闘が長引けば小麦の供給不安から、それ以外の地域の小麦の取引価格が高騰することは容易に想像がつく。4月の売り渡し価格の見直しにもウクライナ情勢の影響が出始めているが、本格化するのはこれからだ。10月の数字を見るのが恐ろしい。
日本は小麦の9割を外国から輸入している。政府が購入し、民間に売り渡された小麦は製粉業者によって小麦粉にした後、さまざまな食品に加工される。パン、うどん、中華麺、ギョーザの皮などの他、ケーキやカステラ・ビスケットなどの菓子類にもなる。つまり、「パンがないなら、お菓子を食べればいいじゃない」と言ったマリー・アントワネットは正しくないのだ(実際にはそんなこと言っていないらしいが)。
小麦粉が上がればパンもお菓子も上がる。事実、銀座コージーコーナーは4月から生菓子11品、焼菓子7品の値上げを発表した。今より5〜10円ほど高くなってしまう。
そればかりか、「スーパーの食品が高いなら、外食すればいいじゃない」も通じなくなりそうだ。今後の見通しを考えるほど、暗い気持ちになるかもしれないが、家計を守るためにも備えておかなくてはならない。
現時点での値上げより怖いのは、年後半のウクライナ関連の影響
相次ぐ値上げを見て「これからは外食が上がるのでは」と案じてきたが、どうもその通りになってきている。
まず、マクドナルドが3月14日より一部品目で10〜20円の値上げをした。さらに驚いたのが、コンビニも値上げに踏み切ったことだ。セブン-イレブンは、サンドイッチのパン生地や具材等の刷新とともに、価格も5〜12%程度引き上げた。ローソンも、おにぎり、寿司、調理麺、調理パン、サラダの一部商品を2〜14%の値上げに踏み切った。たまごサンドは228円から246円と18円の値上げだ(税込み価格)。ランチを、コンビニおにぎりかサンドイッチで済ませているビジネスパーソンには痛い。
さらに、輸入小麦粉から製造される中華麺やギョーザの皮への影響も気になるところだ。
名古屋のソウルフードとして愛されてきたスガキヤも、4月から主なメニューを値上げすると発表した。ラーメンが330円のところ、360円へと30円の値上げだ。安さが人気の一つだったスガキヤが上げるとは、いよいよ感が強い。ファミリー層に人気のギョーザチェーンの動向も気にかかる。ラーメンギョーザ定食がプチぜいたくメニューになる日は遠くないかもしれない。
しかし、この値上げはまだウクライナ侵攻が大きく影を落とす前だということを忘れてはいけない。年の後半こそ、外食チェーンの値上げが相次ぐのではないかと懸念している。
もっとダイレクトに影響が出そうな食品もある。日本がロシアから輸入しているものといえば水産物だ。カニ、サケ・マス、タラの卵、ウニなどが上位に挙がる。食べ放題で人気のカニはほとんどがロシア産だと聞いたことがあるが、今後カニはメニューに並ばなくなるかもしれない。今でも口に入ることが少ないウニも、ますます縁遠くなりそうだ。
原材料価格の他に、飛行機の領空乗り入れ制限でも影響が出てきそうだ。航空機がロシア上空を避けるため遠回りの航路を取らざるを得ず、輸送コストがかさむという話だ。むろん、エネルギー価格の上昇も大きな懸念材料で、二重三重に物流コストが重くなる。
たとえ、ウクライナ侵攻がロシアの思惑通りに早期に終結したとしても、それで制裁措置が終わるわけではないだろう。ロシアへの制裁が長期になればなるほど、我々の食生活への影響も長引き、かつ重くなると覚悟したほうがいい。
コロナ要因が解消すれば食品の高騰は徐々に収まるだろうという見方もあったが、まったく楽観できなくなった。メーカーも外食産業も「さらなる値上げやむなし」の判断にますます傾くのではないか。
価格据え置くメーカーがあっても、時間の問題
庶民の生活もしんどいが、企業もしんどい。3月10日に、楽天と西友の楽天ポイントをめぐる新たな協業体制の発表会があった。その席で西友の大久保恒夫社長はこう発言した。「原材料高・原油高という現状だが、最大限の企業努力でPB(プライベートブランド)の店頭価格は極力上げないようにしたい。(PBである)『みなさまのお墨付き』は6月末まで価格凍結する」と、いわば決意表明した。
先に書いたように、コンビニはPB価格の見直しに手を付けた。イオンはPB「トップバリュ」の価格凍結を3月末までとしている。イオンが延長するかはわからないが、「PBは値上げはしません」という姿勢にもいつか限界が来るだろう。
ウクライナ情勢が長引けば長引くほど、国際的な商品の取引価格は上がり、インフレに向かうだろう。各食品メーカーが値上げの大合唱を続ける中で、PBだけが企業努力で無風というわけにもいかない。一気に値上げはないにしろ、一部商品からステルス値上げ(値段を据え置き、内容量を減らす実質的な値上げ)を含めてじわじわ上がっていくと予想する。このまま値上げが続けば、政府や日銀が目指してきた物価上昇率2%は、皮肉にも達成されるだろう。
値上げもそうだが、そもそも消費への心理的悪影響もある。戦闘の映像がテレビやネットで繰り返し流されるうちは、のんきに旅行や買い物でお金をどんどん使いましょうと言われても盛り上がらない。本来は物価高に対応できるだけの賃上げが期待されてきたが、果たしてそうなるか。
明るい材料が見つからない。
家族総動員で支出の点検を
物価高への対策として、我々に何ができるだろう。
残念ながらウルトラCや一発逆転ワザはない。4月の新年度で少しでも給料が上がることを期待したいが、まずは支出の総点検をしておこう。家族が利用している月額課金サービスを洗い出して不要なものは解約する。年会費がかかるのにあまり出番のないクレジットカードも整理したほうがいい。家族でも契約は個人事だ。一人一つは支出を見直すというルールを決めて、家族全員で取り組めば節約効果も倍増する。
見直しで浮いたお金は家計費に回ることになるだろうが、できればその一部の数千円でも積み立てに回し、それを家族レジャーに使うのもいいだろう。節約継続のモチベーションにもなるし、ガス抜きにもなる。先が見通せない時代だからこそ、それぞれが協力し合って家計の困難を乗り越えるほかはない。
●ブラジルの国家肥料計画が施行、ウクライナ情勢で肥料確保を目指す 3/22
ブラジル政府は3月11日、同日付で「国家肥料計画2022-2050」(政令第10,991号)を施行した。目的は、肥料の国産化を促進し、海外からの輸入依存度を下げるためだ。具体的には、2050年までに肥料の輸入割合を45%に低下させるという。ブラジル全国肥料普及協会(ANDA)の公式サイトによれば、ブラジルで使用される肥料の85%は海外からの輸入に依存している。経済省貿易統計COMEXSTATによれば、ブラジルが2021年に輸入した肥料の主な輸入元はロシア、中国、カナダ、モロッコ、ベラルーシなど。
同計画を発表した、テレザ・クリスチーナ農業・畜産・供給相は「(肥料の)自給自足のみを目指すのではない。課題への対応力を養い、ブラジルのアグリビジネスを守りたい」と、意気込みをみせた。
同計画は、大統領府戦略問題特別局の管轄下に新設される国家肥料・植物栄養委員会(CONFERT)が担当する。CONFERTでは、具体的には、税制の見直し、研究開発やイノベーションの実施、投資環境の改善、インフラやロジスティクスの拡大に向けた計画策定などが挙げられている。各措置の詳細は今後、発表される見込み。
直近で開始されるものとしては、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)との連携で実施される「EMBRAPAフェルチブラジル・キャラバン」だ。本プログラムでは、肥料を効率的に使用するべく、EMBRAPAの専門家が4月以降に全国140以上の市町村を訪問し、農場での肥料の使用方法を調査しつつ農家へ指導を行う予定。
「国家肥料計画2022-2050」の策定に向けては、既に2021年1月22日付の政令第10,605号により動きがあった。ただ、2022年3月11日付EMBRAPAの公式サイトによると、「(肥料の)国外からの輸入が、ロシアとウクライナの対立によって悪化」しており、「EMBRAPAフェルチブラジル・キャラバン」のようなプログラムを実施しながら、中短期的に輸入依存度を下げる必要性に触れている。
サンパウロ大学応用経済研究所(CEPEA-USP)の公式サイトによれば、アグリビジネスはブラジルの2020年GDPの26.6%を占めている。また、米国農務省(USDA)の2022年2月9日付「ブラジル経済・農業概要」では、「ブラジルは農業製品の重大な生産者および輸出者で、世界の食糧安全保障への取り組みをリードできる数少ない国の1つ」と言及されている。
●尿素、国際市況が反転上昇、露ウクライナ情勢影響 3/22
尿素の国際市況が上昇に転じている。昨秋以降、中国の輸出規制の影響で急騰した後、今年に入ってから軟化していたが、2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻を受け、状況が一変した。FOBエジプトはここ数週間で80%以上高騰。1トン当たり1100ドル台に乗せ、最高値を更新している。
●中東の食卓から消えたパン…露・ウクライナに小麦依存 3/22
ロシアのウクライナ侵攻が中東・北アフリカの「台所」を揺さぶっている。地域の主食である小麦などの穀物自給率は4割程度で、ロシアやウクライナからの輸入に大きく依存するためだ。紛争地では人道危機の深刻化が懸念され、政情悪化を危惧するエジプトなどは国民の不安 払拭ふっしょく に躍起となっている。
人道危機
パレスチナ自治区ガザ地区のスーパーでは侵攻後、50キロ・グラムの小麦粉が3割値上がりし、100シェケル(約3600円)となった。供給元のエジプトがガザへの輸出制限を始め、砂糖や肉などの価格も4割上昇。人口の6割が貧困層のガザ市民に打撃を与え、購買力低下でスーパーでは棚の売れ残りが多くなった。
タクシー運転手のマハムード・アブデルハデルさん(55)宅の小麦は尽き、食卓からパンは消えた。週に5回の楽しみだったレンズ豆のスープも週2回に減った。「一番安い豆すら買えない。今後生きていけるのか」と不安を吐露した。
貧困家庭に食糧支援を行う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の小麦も、ほとんどがウクライナ産だ。供給元のトルコの業者が輸出制限する動きもある。内戦下のイエメンも3割をウクライナに依存しており、国連の3機関は14日、「年末までに最も深刻な飢餓状態に陥る」と共同声明を出した。
自給率低く
日本の農林水産省の統計などによると、中東・北アフリカ各国の穀物自給率は平均4〜5割程度で、半数以上の国は3割以下だ。米マサチューセッツ工科大系のサイト「経済複雑性観測所(OEC)」によると、ウクライナの小麦輸出(2019年)の53%がこの地域向けとなっている。
小麦自給率が4割で、輸入分の8割を露・ウクライナ産に依存するエジプトでは侵攻後、制裁や供給減の不安が高まり、パンの価格は50%上昇した。輸入代替国の確保は難航し、政府は15日、販売店に価格上限を指定する方針を表明した。
レバノンは国内に出回る小麦の9割以上が露・ウクライナ産で、「国内備蓄は残り4〜6週間」(経済省幹部)の危機的状況だ。政府は外貨不足で穀物を代替輸入する余裕はなく、スーパーでは連日、パンや小麦を求める列ができている。
動乱の火種
中東では、パンの値上がりが動乱の契機となった歴史がある。エジプトでは2011年の「アラブの春」で市民の蜂起拡大の要因となった。今月、小麦価格が2〜4倍に跳ね上がったイラクでは市民デモが各地で散発。政府は便乗値上げに走る業者を摘発し、不安の沈静化を図っている。
穀物自給率が5%未満のサウジアラビアなど湾岸産油国は、原油高で得た利潤を輸入穀物の高騰への対応にあてる方針だ。だが、他の国では政府補助金の引き上げが、財政悪化に拍車をかける危険が高い。カイロ大学経済学部のワリド・ガバラ教授は「世界各国が輸入代替国を探す中、中東の非産油国が競争に勝てる見込みは少ない」と指摘する。
●投降勧告を拒否、マリウポリへの「無秩序な砲撃と空爆」…無差別攻撃激化  3/22
ロシア国防省の投降勧告を拒否したウクライナ南東部の主要都市マリウポリでは21日、露軍が激しい無差別攻撃を仕掛けている模様だ。黒海でも露海軍の動きが活発になっている。
マリウポリでロシア軍に抵抗を続けるウクライナの部隊は21日、露軍が工場や企業の建物に対し「無秩序に砲撃、空爆を行っている」と明らかにした。
ロシア軍の無差別攻撃は、他の都市でも続いている。ウクライナ国営通信によると、首都キエフの市長は、21日までに子供4人を含む計65人の市民が死亡したと発表した。東部セベロドネツクでは21日、小児病院が砲撃を受けた。米国防総省高官によると、露軍のミサイル発射は1100発を超えたという。
米国防総省のジョン・カービー報道官は21日の記者会見で、黒海北部でロシア海軍の活動が目立ってきたと指摘した。南部オデッサには、艦艇からの砲撃も行われているという。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、ロシアとの停戦協議を巡り、「国民が妥協の形について答えを出さなければならない」と述べ、ロシア側に譲歩するかどうかを判断する場合は、国民投票で決定する考えを示した。
ゼレンスキー氏は、国民投票にかける可能性がある項目として、東部の親露派武装集団の支配地域とロシアが併合した南部クリミアの「主権」承認や、安全保障の問題を挙げた。
ただ、ロシアとウクライナの代表者による停戦協議は、21日もオンライン形式で行われたが、目立った進展はなかった。ロシアの侵攻が続く中で国民投票を実施できるかどうかも見通せず、ゼレンスキー氏の発言の真意は不明だ。
●ロシア外務省、日露平和条約への交渉「継続するつもりはない」… 3/22
ロシア外務省は21日、声明を発表し、日本との平和条約締結に向けた交渉を継続するつもりはないと表明した。ウクライナ侵攻に対する日本の対露制裁に強く反発したものだ。
声明では、日本と北方領土の間のビザなし交流の停止を決めたと明らかにし、北方領土での共同経済活動に関する協議にも応じない姿勢を示した。
ロシア側は、日本の対露制裁について「公然と非友好的な立場を取り、我々の国益に損害を与えようとしている」と非難した。
そして「2国間の協力における損害、日本にとっての損害の全ての責任は日本側にある」と強調した。
●ロシア外務省 日本との平和条約交渉を中断する意向を表明  3/22
ロシア外務省は、日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対して日本政府が厳しい制裁措置を講じたことに反発した形です。
ロシア外務省は21日「日本政府の決定に対するロシア外務省の対応について」とする声明を発表しました。
この中で、北方領土問題を含む平和条約交渉について「継続するつもりはない」として中断する意向を表明しました。
その理由について「ウクライナ情勢に関連して日本による一方的な規制措置が明らかに非友好的であることを考慮した。2国間関係の基本文書について議論を行うことは不可能だ」としています。
また、平和条約交渉の前進に向けた北方四島での共同経済活動に関する対話からの離脱や、北方領土の元島民らによるいわゆる「ビザなし交流」などの交流事業を停止する意向についても合わせて明らかにしました。
ロシア外務省は「2国間協力や日本の利益を損なうすべての責任は、反ロシア的な行動をとる日本側にある」と一方的に非難し、日本がG7=主要7か国と足並みをそろえて貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回やプーチン大統領ら政府関係者への資産凍結など、厳しい制裁措置を講じたことに反発した形です。
これについてモスクワの日本大使館は「平和条約の締結交渉をロシア側から一方的に継続しないという決定は極めて遺憾であり、断じて受け入れられない」というコメントを出しました。
岸田首相「極めて不当 断じて受け入れられない」
岸田総理大臣は22日の参議院予算委員会で、ロシア外務省が日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明したことについて「今回の事態は、すべてロシアによるウクライナ侵略に起因して発生している。それを日ロ関係に転嫁しようとする対応は極めて不当で、断じて受け入れられない。逆に日本として強く抗議する」と述べました。
そのうえで「北方領土問題を解決して平和条約を締結するという基本的なわが国の立場は変わっていない」と述べました。
また、新年度予算案に盛り込まれているロシア関連の事業について「参加した日本企業を支えるための予算などが含まれており、今後、ウクライナをめぐる情勢は極めて不透明で、どう展開するかわからない中、修正することは考えていない」と述べました。
松野官房長官「厳しく非難 ロシア側に抗議」
ロシア外務省が日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明したことについて、松野官房長官は、記者会見で「ロシアによるウクライナ侵略は力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす行為だ。明白な国際法違反で、断じて許容できず、厳しく非難する」と述べました。
そのうえで「今回の事態はすべてロシアによるウクライナ侵略に起因して発生しているもので、それを日ロ関係に転嫁しようとするロシア側の対応は極めて不当で断じて受け入れられない」と述べ、外務省の山田外務審議官がロシアのガルージン駐日大使に抗議したことを明らかにしました。
そして「日本政府として、領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針は不変だ。わが国としては、国際秩序の根幹を守り抜くため国際社会と結束して、引き続ききぜんと行動していく」と述べました。
自民 茂木幹事長「極めて遺憾 2国間での約束守ること重要」
自民党の茂木幹事長は記者会見で「ロシアの暴挙に国際社会全体が批判の声をあげ、G7をはじめ、多くの国が制裁措置をとっているわけで、仮に制裁に対して、これまで行ってきた国際交渉を取りやめるということであれば極めて遺憾だ。2国間で約束したことを守ることも国際社会においては極めて重要だ」と述べました。
モスクワの日本大使館「断じて受け入れられない」
ロシア外務省が日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明したことについて、モスクワの日本大使館はコメントを出しました。
この中で「平和条約の締結交渉は、両国間が締結した国際約束である日ソ共同宣言においてその継続に合意し、その後、両国の首脳間の諸合意に基づいて真摯(しんし)に取り組まれてきたものであり、ロシア側から一方的に継続しないという決定は、極めて遺憾であり、断じて受け入れられない」としています。
また、北方四島の交流事業の停止表明については「これまで30年以上にわたり、領土問題が存在する中で日ロ間の相互理解の増進のため、また、人道的見地から実施されているもので、一方的に中止することは、元島民やその家族の気持ちを強く踏みにじるものである」と非難しています。
さらに、共同経済活動に関する対話からの離脱表明については「2016年の安倍総理とプーチン大統領の合意に基づき検討を続けてきた経緯があり、断じて受け入れられるものではない」としています。
そして、「そもそも、ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みとして、国際秩序の根幹を揺るがすものだ。明白な国際法違反として断じて許容できず、強く非難されるべきものだ」としたうえで、それにもかかわらず、一連の措置を一方的に発表し、その責任を日本側に押しつけようとしているとして強い抗議を表明しました。
ロシア外務省発表の声明全文
ロシア外務省の発表した「日本政府の決定に対するロシア外務省の対応について」とする声明の全文です。
「ウクライナ情勢に関連して日本による一方的な規制措置が明らかに非友好的であることを考慮し一連の措置を講じる。ロシア側は現状において、平和条約に関する日本との交渉を継続するつもりはない。公然と非友好的な立場をとりわが国の利益を損なおうとする国と、2国間関係の基本文書について議論を行うことは不可能だ。ロシアは1991年に合意した『ビザなし交流』、1999年に合意した元島民やその家族がかつて住んでいた場所などを訪れる『自由訪問』の停止を決定した。ロシアは、日本との共同経済活動に関する対話から離脱する。ロシアは黒海経済協力機構の分野別対話パートナーとしての日本の地位の拡大を阻止する。2国間協力や日本の利益を損なうすべての責任は、互恵的協力や善隣関係の発展の代わりに反ロシア的な行動をとることを選んだ日本側にある」
平和条約交渉 これまでの経緯
日本とロシアの平和条約交渉を巡って、安倍元総理大臣とプーチン大統領は、2018年11月、シンガポールで行った首脳会談で、「日ソ共同宣言」に基づいて交渉を加速させることで合意しました。
しかし、ロシア側は「島々は、第2次世界大戦の結果、ロシア領になったと日本がまず認めるべきだ」と主張したり、仮に北方領土を引き渡した場合、アメリカ軍が展開することへの懸念を示したりして、領土交渉に進展は見られていませんでした。
また、おととし7月、ロシアでは憲法が改正され、他国への領土の割譲を禁止する条項が盛り込まれました。
プーチン大統領は、去年2月、平和条約交渉に関連して「憲法に矛盾することはしない」として領土の割譲を禁止した新しい憲法に従って北方領土の引き渡しをめぐる交渉は行わないという考えを強調するなど、一層強硬な姿勢を示していました。
去年9月、ロシア極東のウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」で、プーチン大統領は、「日本との平和条約締結という点においてはわれわれのアプローチを変えるものではない」と明言し日本との平和条約交渉は引き続き進めたい意向を示しました。
ただ、このフォーラムで、プーチン大統領は北方領土に進出する企業に対し、税制の優遇措置を設ける計画を発表し、今月9日、この措置に関する法律が成立していて、北方領土をあくまで自国の領土だとして開発を進めたい思惑があるとみられています。
日本の岸田内閣が発足してから、去年11月に初めて行われた日ロ外相の電話会談では、ロシア外務省は「ラブロフ外相は、日本側の呼びかけに応じて、2国間関係全体を根本的に新しいレベルに引き上げていく中で平和条約交渉を継続する用意があることを確認した」としていました。
またことし1月、ラブロフ外相は記者会見で、ことし春ごろをめどに、日本を訪問する方向で日本側と調整を進めていることを明らかにし、平和条約交渉については、領土問題を含めず、両国の関係を引き上げるため条約の締結を優先させるべきだと強調していました。
しかし、先月ロシアがウクライナに軍事侵攻し、国際社会との対立が深まるなか、今月3日にロシア外務省のザハロワ報道官は記者会見の中で、北方領土について言及し「日本政界の特定勢力は領有権の主張が実現される可能性を念頭に置いているが、そのような選択肢は今回限りで忘れることを勧めたい」と述べ態度を硬化させていました。
西銘沖縄北方相「元島民の思いに応えたい」
西銘沖縄・北方担当大臣は閣議のあと記者団に対し、政府としては極めて遺憾であり断じて受け入れられないという立場だとしたうえで「ご高齢になられた北方領土の元島民の方々の思いに何とかお応えしたいという気持ちに変わりはない」と述べました。
また、元島民らによる墓参や「ビザなし交流」など、交流事業の再開の見通しについて「非常に厳しい状況にあるという認識だ」と述べました。
根室市長 “遺憾だが一日も早い状況改善を願う”
ロシア外務省が平和条約交渉を中断し「ビザなし交流」などを停止する意向を表明したことについて、北海道根室市の石垣雅敏市長は「予測していた反応とはいえ、遺憾だ。強い懸念を持つところだが、今は一つ一つの事象に左右されることなく、ウクライナ情勢を注視しながら1日も早く状況が改善することを願う」というコメントを発表しました。
元島民「また振り出しに戻った」
歯舞群島の勇留島出身で千島歯舞諸島居住者連盟根室支部の角鹿泰司支部長代行(84)は、根室市内でNHKの取材に応じ、「私だけでなく、返還運動を続けてきた元島民は皆、大きなショックを受けている。戦後77年たったが、また振り出しに戻った。今まで一生懸命になって親から引き継いで、後継者も含めて大変な思いでやってきたことがいちからやり直しになるのかと皆心配している」と述べました。
そのうえで、角鹿さんは「元島民は平均年齢86歳を超え高齢化が進み、せっぱ詰まっている状態だ。国は交渉を進める責任があるし私たちは諦めることはできない。まずはウクライナ問題がとにかく早く解決して平常を取り戻してほしい」と話していました。
公明 山口代表「ロシア側の対応理解できず きちんと反論を」
公明党の山口代表は、記者会見で「ウクライナ侵略に伴うさまざまなわが国の対応は、ロシアの国際法違反に対し、国際社会と連携して行っているものであり、それを理由に2国間の懸案をけん制し、進行を阻害するロシア側の対応は到底、理解できるものではない。きちんと反論して、2国間の懸案を解決する取り組みは今後も続けるべきだと主張すべきだ」と述べました。
●ウクライナ侵攻で世界経済から孤立…「ソ連時代へ逆行」するプーチン 3/22
ロシアのウクライナへの軍事侵攻からひと月近くが経った。各国による経済制裁は拡大を続け、ロシア産資源の禁輸や、SWIFT(銀行決済網)からの締め出し、ロシア国内での外資系企業の営業停止と多岐にわたる。
もっとも、世界のサプライチェーンが緊密に結びつく現在、制裁のツケは自国にも回る。「ソ連時代へと逆光する」かのように孤立するロシアに対し、日本と日本企業はどのような選択をすべきか。
米国の投資運用会社で働いた経験があり、著書『マネーの代理人たち』もある小出・フィッシャー・美奈氏がこの「経済戦争」の行方を占う。
「自分で戦え」
鬼才クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト(暗黒の騎士)」シリーズは、人気コミック「バットマン」を主題にしながらも、実社会と表裏一体のディストピアを描いた。
その中に、敵に包囲されたゴッサム・シティー(モデルはニューヨーク)の市民に向けて、ホワイトハウスの政治家がテレビ演説をする場面が出てくる。
「皆さんの強さは今回も証明されるでしょう。政府はテロリストと交渉はしません。現実を見極めて対処します。状況が変わる中で、これだけははっきりしています。市民の皆さん、我々は皆さんを見捨てはしません」
これを聞いていた警護隊員の一人が「いったい、どういう意味だ?」と呟くと、隣の同僚が「自分らだけで戦えってことさ(”we are on our own”)」と答える。助けは来ない。背筋の凍るような場面だ。
生命の危機に晒されるウクライナの人々から見れば、国際社会の対応は冷淡に映るかもしれない。
国連総会が141カ国の賛成でロシア非難決議を採択し、「ユー・アー・ノット・アローン」とウクライナとの連帯や支援を熱い言葉で謳っても、核保有国であるソビエトとの全面戦争につながりかねない人的な兵力派遣は、北大西洋条約機構(NATO)も米国も出来ない。軍事的支援は武器供与などにとどまる。
ロシア地上軍が北、南、東から侵攻し、全土で爆撃が続く中、ウクライナは領域上空に「飛行禁止区域」を設けることを繰り返しNATOに求めた。だが、飛行禁止区域を設置するということは、それを遵守させるために区域内に飛んできたロシア機をNATO軍が撃墜することになり、それはすなわちロシアとの軍事衝突を意味する。
ゼレンスキー大統領はNATOがウクライナ市民を見殺しにしている、と悲痛な訴えを行ったが、「飛行禁止区域」はNATOや米国にとって受け入れられる案ではない。
ロシアのウクライナ侵攻、原発や民間人への無差別攻撃は明らかな国際法違反だ。だが、ではルール違反を罰し、国際社会の原理原則を守るためにどこまで自国を犠牲にできるか、自らの痛みを許容できるかーー。事態はとてつもないジレンマを生み出した。
他人事ではない
「核戦争の代わりの経済戦争」とも言えそうな今の状況でも、同じ葛藤が生まれている。世界のサプライチェーンは緊密に結びついていて、経済制裁が直ちに自国に跳ね返ってくるからだ。
ウクライナは、ロシア産石油資源の全面禁輸を含め、徹底した経済制裁を行うことを西側諸国に求めた。「アパルトヘイトの時のように」(ウクライナ元経済相)プーチン政権を足元から揺さぶり、軍事侵攻をやめさせるのが目的だ。
だが、天然ガス輸出で世界1位、原油輸出で世界2位というロシア資源の存在感は圧倒的で、その禁輸は西側が足並みを揃える制裁としては含まれなかった。ロシア金融機関のSWIFT(国際銀行間通信協会、銀行間の国際取引を仲介する機関)からの排除についても、石油取引の決済が不能に陥らないよう、ロシア最大銀行のズベルバンクと3位のガスプロムバンクは閉め出されなかった。
その間にも資源価格は激しく高騰し、ニューヨーク原油先物が1バレル140ドル近く、欧州の天然ガスにいたっては原油換算で1バレル600ドル以上に上昇する場面もあった。日本円で1000億円を優に超える資源収入が毎日ロシアに入る状況では、経済制裁の効果が著しく削がれる。結局米国が単独でロシア産資源の即日禁輸に踏み切り、英国も年末までの輸入停止を決めた。
だが、これは「シェール革命」で資源輸出国に転換した米国や、北海油田やノルウェーから天然ガスを調達する英国だからできることで、ロシアから天然ガス需要(全エネルギー消費の15%)の半分以上を賄うドイツをはじめ、イタリア、中・東欧など依存度の高い国々は急には動けない。
もう、全く他人事ではない。日本の電力に占める液化天然ガス(LNG)比率は4割弱で、その内の8%がロシアからの輸入だ。2011年の東日本大震災で電力の「4分の1」を供給していた原発が一斉停止した時ほどの規模感ではないにしても、小さな数字ではない。個別事業者を見れば、広島ガスはLNGの5割をロシアから調達する。
シベリアの「サハリン1」プロジェクトには、日本政府と伊藤忠、丸紅、石油資源開発とINPEXが合わせて3割を、また「サハリン2」には三菱商事と三井物産が合わせて2割程度を出資する。英BPが早々とロシア国営石油会社持株の全売却を発表したのに続き、エクソンとシェルが「サハリン1」「サハリン2」からの撤退を次々表明したことで、日本企業と政府が難しい立場に置かれることになった。
政府や商社は、「国際社会と連携しつつ対応(松野官房長官)」「日本政府や事業パートナーと協議を続ける(三井物産)」などと苦しい表現で、現状ではロシアからの調達を続ける構えだ。背景には欧州諸国も自国のエネルギー安全保障を優先していることがあるが、代替先探しは緊急の課題となった。
ESGの正念場
日本の商社を含め、ロシア進出企業の悩みは深い。ESG投資が主流となった今の時代(フェイスブック株価を下落に追い込んだ「ESG投資」の仕組み)、企業には社会的な課題にどう対処するか自らのスタンスを明確にすることが求められる。「態度保留」のダンマリは嫌われる。
ウクライナの元経済相は3月3日欧米メディアに寄稿し、この時点でロシア事業を継続していたマクドナルド、コカコーラ、ユニリーバやネスレなどを名指しにして、企業のESGとは、「利益を損なわないのならやる」という飾りものに過ぎないのか、と質した。
ウクライナ侵攻以来、ロシアの経済制裁に加わった世界的な大企業は、イェール大学の集計(Over 400 Companies Have Withdrawn from Russia―But Some Remain)では、3月18日現在約400社以上に上る。企業の動きはかつてないほど迅速だ。「完全撤退」組も150社を超える。
「営業一時停止」リストの約180社には、アップルやアマゾン、ナイキやディズニー、シャネルなどに混じり、日本勢ではトヨタなど自動車各社が勢揃いした他、電子機器ではソニー、パナソニック、任天堂にキャノンやリコー、建設機械ではコマツと日立建機、またクレジットカードのJCBなどが並ぶ。
態度を保留した企業には投資家などから公開質問状が来て、説明を求められる。米最大の公的年金カルパースなど多数の年金基金もロシア資産売却に乗り出し、ロシアで事業を続ける企業に対して事業停止や撤退を求めた。こうしたことを受けて、マクドナルドやコカコーラ、ペプシ、スターバックス、ユニリーバやネスレなども事態発生から約2週間後にロシア制裁に加わった。
「衣服は生活必需品だ」と柳井会長が営業継続の考えを表明していたファーストリテイリングも10日に一転、営業停止に踏み切った。ブリヂストンも14日にタイヤ工場停止と輸出停止の方針を発表し、最後まで上記リストに残っていた電通インターナショナルも、ロシアでのジョイントベンチャーを解消する方針を表明するなど、リスト入りする企業は連日増えている。
ロシア事業の規模や利益貢献が大きいほど、企業の対応は難しい。上記のイエール大学の集計には、3月18日現在、400店舗以上のファーストフードチェーンを展開する「サブウェイ」やロシアで家電トップの韓国LG電子など、約30社がロシアでまだ操業を続ける多国籍企業としてリストアップされている。
「事業縮小」リストに名を連ねながらも苦しい対応を強いられる企業もある。例えば「ウィンストン」や「キャメル」でロシアトップシェアの日本たばこ産業(JT)。シェア2位の「マルボロ」のフィリップモリスに歩調を合わせて新規投資を凍結したが、ロシアでの生産と販売は今のところ続けている。
だが「ラッキーストライク」の英ブリティッシュ・アメリカン・タバコは11日にロシアからの完全撤退を発表している。JTもさらに厳しい選択を迫られるかもしれない。ロシアはJTが20年も買収や投資を繰り返してきたコア市場だ。手を引くのは容易なことではない。
長期的な「負け組」はロシア
プーチン政権が侵攻前にここまでの民間企業の反応を見越し、サプライチェーンの徹底したチェックを行ったかは、甚だ疑問だ。ロシアではやがて旅客機も満足に飛ばなくなるかもしれない。
ロシア旅客機の半数以上、約500機は海外のリース会社から貸し出されている(IBA社)。EUの経済制裁発動を受け、最大手のエアキャップや三井住友銀行系のSMBCアビエーションキャピタルなどリース会社が一斉に航空機返還を求めたが、あろうことかプーチン大統領はロシアの航空会社がリース会社に機体を返還しなくてよい、という法案に署名して対抗した。約1.2兆円分と言われる航空機の事実上の強奪だ。
でもこんなことをやれば、今後ロシアに航空機をリースしようという西側企業は現れなくなるだろう。ロシアの民間航空機の3分の2はボーイングとエアバス製(航空データ会社「シリアム」)なので、スペア部品やメンテナンスサポートも受けられなくなる。中国さえ航空機部品の供給を拒否したとロシア高官が発表している(その後、この高官は更迭されたとロシアメディアが報道)。
短期的にはリース会社やファンドが大損失を被っても、長期的な打撃が大きいのはロシアの方だろう。
さらに、スマホから自動車、戦闘機やミサイルに至るまで、あらゆる電子機器の心臓部となる半導体禁輸のインパクトは大きい。ロシアには自前の半導体産業が存在しないからだ。台湾ファウンドリーTSMCの重要性については以前の記事でも触れた(「米中半導体戦争」のカギを握る台湾TSMC、その「したたかな戦略」と日本への影響)が、仮にロシアが中国からの半導体に頼ったとしても「周回遅れ」の技術しか入らなくなるだろう。
さらにバイデン政権は中国に対して、中国ファウンドリーSMICがロシアにチップを売るようなことがあれば、事業を「実質的に閉鎖(商務省長官発言)」させる、と圧力をかけた。例えばチップ設計用ソフトウェアは米国3社の独壇場なので、サプライチェーンの川上から締め上げることができる。
世界のサプライチェーンからの孤立は、あらゆる産業分野や生活面で「ソ連時代への逆行」を連想させる質の後退を意味する。
ソフィア・ローレン主演映画「ひまわり (1970年)」の撮影場所であるウクライナ・ヘルソンで、一人の女性が重装備のロシア兵に向かい、「ひまわりの種をポケットに入れなさい。あなた達が死ねば、花が咲くから」と叫んだ映像がソーシャルメディアで出回った。
プーチン大統領の暴挙は、ウクライナ市民の愛国心に火をつけ、キエフが「二日以内に陥落」するという当初の読みは完全に狂った。
侵攻前のプーチン大統領には、耳に優しい助言ばかりが届いていたのかもしれない。
●バイデン大統領 欧州首脳と電話会談 ウクライナ支援継続を確認  3/22
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナ情勢をめぐり、アメリカのバイデン大統領はヨーロッパの主要4か国の首脳と電話会談し、ウクライナへの軍事支援や人道支援を続けていくことを確認しました。バイデン大統領は今週開かれるG7=主要7か国の首脳会議などでもこうした方針を共有し、ロシアへの対抗姿勢を強めるものとみられます。
バイデン大統領は21日にイギリス、フランス、ドイツ、それにイタリアの首脳とおよそ1時間にわたって電話会談を行いました。
ホワイトハウスのサキ報道官は会見で「首脳たちは市民への攻撃を含む、ウクライナでのロシアによる残虐な作戦への重大な懸念について話し合った」と述べ、各国が連携してウクライナへの軍事支援や国内外に避難した人たちへの人道支援を続けていくことを確認したとしました。
また、停戦に向けたウクライナへの外交的支援についても検証したと明らかにしました。
ウクライナ情勢をめぐって、バイデン大統領は今週、ベルギーの首都ブリュッセルで開かれるNATO=北大西洋条約機構やG7の首脳会議に出席したあと、ウクライナの隣国ポーランドを訪れる予定です。
一連の訪問について、サキ報道官は「バイデン大統領は、非常に効果的で影響力のあるものにすることができると感じている」と述べ、ロシアに対抗していくため、各国が軍事や人道支援、それに経済面での連携を確認する場になるという見通しを示しました。
●「ウクライナ危機は半年以上続く」と危惧、今こそ地政学が欠かせない理由 3/22
なぜ起こった、いつまで続く ウクライナ危機を地政学で解く
戦車の砲撃で崩れるビル。迫撃砲で吹き飛ばされ、絶命する親子。2月24日に始まったロシアによる隣国ウクライナへの軍事侵攻はすでに1400人を超える民間人の犠牲者を生み、さらに混迷が続いている。
21世紀の現代において、今回のような武力による他国への侵攻が起こるとは、多くの人が予想し得なかった。現代の戦争の在り方は、サイバー攻撃や情報工作、ハイテク技術競争など「硝煙なき戦い」だという言説が少なくなかった。
いったいこの予想外の事態は、なぜ起こったのか。ウクライナはいつ平和を取り戻せるのか。同じような武力による侵攻は、世界の他の地域でも起こるのか――。容易には答えを出せないこれらの問を考える上で、「地政学」の考え方が役に立つ。
地政学は英国の地理学者、マッキンダー(1861〜1947年)や米国の海軍士官、マハン(1840〜1914年)が理論化した。地理的条件が、政治や軍事における各国の行動を左右するとみる思考体系だ。
この地政学の基本的な考え方に、ランドパワー(大陸国家)とシーパワー(海洋国家)という、分かりやすい二分法がある。
ランドパワーのロシア・中国が シーパワーの米国と同盟国に挑戦
ランドパワーの国は内陸に勢力を有し、支配領域の拡大を目指す。ロシアや中国、ドイツ、フランスなどがこれに分類される。
一方シーパワーは、基地や港の整備でネットワークを構築して権益を守る。世界の秩序は、海洋と大陸ですみ分けることで維持されるというのが、地政学の分かりやすい考え方だ。
この理論でウクライナ侵攻の背景も理解できる。
陸続きの領域を拡張したい大陸国家のロシアと、NATO(北大西洋条約機構)というネットワークでヨーロッパ大陸における影響力を維持したい米国。この両国の均衡が崩れたのが、ウクライナというロシアとNATO領域の間の「緩衝地帯」だったわけだ。
歴史を振り返れば、地政学の考え方が役に立たないように見えた時期がある。それは東西冷戦期だ。共産主義・社会主義という政治イデオロギーが強烈な影響力を持ち、地政学的なものを上回った。
冷戦終結から約30年がたち、イデオロギーがほとんど意味を成さなくなった今、地政学的な振る舞いが亡霊のようによみがえっているのだ。
ロシアの暴挙は、決して許すことはできない。日米欧はロシアに対し厳しい経済制裁を加えるし、今後はロシアを支援する国にもその制裁範囲が広がるだろう。国際情勢に詳しいジャーナリストの池上彰氏は、ロシアの動向を基にするとウクライナ危機は今後半年以上に渡って続くと懸念した上で、「制裁による世界経済の減速があっても、自由と民主主義を守る上でのコストとして覚悟しなければならない」と指摘している。
ウクライナ侵攻後の世界は、陸と海の両勢力の間で、音を立ててきしみ続ける。この環境の中で、戦後の日本で長くタブー視されてきた「禁断の学問」地政学は、現代人に必須の学問となりそうだ。
●プーチン大統領「日本通の愛娘・カタリーナ氏」を表舞台に出さない理由 3/22
世界中から非難されながらもウクライナへの軍事侵攻という蛮行を続けるロシアのプーチン大統領。22年間にわたってロシアに君臨し、無慈悲な侵略戦争を仕掛ける暴君だが、そんな彼にも溺愛する人がいる。2人の愛娘だ。とりわけ日本通とされる次女・カタリーナ氏は、プーチン氏の素顔を知る上では欠かすことのできない存在である。次女に取材した経験があるジャーナリストの竹中明洋氏がリポートする。
プーチン氏には、2013年に離婚したリュドミーラ夫人との間に生まれた2人の娘がいる。1985年に生まれた長女・マリヤ氏と、翌1986年生まれの次女・カタリーナ氏。どちらも日本とはゆかりが深い。とりわけ次女のカタリーナ氏は、サンクトペテルブルグ大学の日本学科を卒業し、日本語にも堪能である。好きな日本料理は湯葉というから、なかなかの通である。
私はかつてカタリーナ氏に関西国際空港で直接取材を申し入れたことがある。2014年6月のことだ。彼女は母方の実家に由来する「チホノワ」という姓を名乗り、ロシアの名門モスクワ大学の副学長補佐という肩書き、そしてもう一つ、アクロバット・ロックンロールというスポーツ競技の団体の役員という肩書きを持っていた。日本にはこの競技の選手らを引き連れて訪れ、関東や関西の大学で実演して回っていた。
アクロバット・ロックンロールは日本では馴染みがない競技だが、ロック音楽にあわせて男女のペアがアクロバティックに飛んだり跳ねたりダンスする。欧州ではそれなりに競技人口があるそうだが、かなりハードな競技である。じつは彼女自身もこの競技の優れた選手であり、前年にスイスで開かれた世界選手権で5位に入賞している。柔道家として知られる父親譲りの運動神経の持ち主なのか。
「ロシアはプーチン氏の故郷であるサンクトペテルブルグへの五輪招致を狙っており、それにあわせてこの競技を正式種目にすべく、日本に何度もやってきて普及を図っているのではないか」
ロシア研究者のひとりからはそんな見立てを聞いたことがある。ともあれ、私が見た彼女は、父親に似てロシア人としては背があまり高くないがブロンドのショートヘアで知的な顔立ちをした女性だった。大学を訪ねて回る合間には、東京のお台場でショッピングを楽しみ、スターバックスでコーヒーを買うという庶民的な様子も。
ただし、彼女の周辺を見るからに屈強そうなボディーガードらが取り巻いており、声をかけるのはなかなか勇気がいった。かつて自分の娘たちを正面から撮影しようとしたカメラマンにプーチン氏が「殺してやる」と言い放ったことがあるそうだが、ロシアではプーチン氏の娘たちの動向について報道するのは、タブーだ。そのため彼女らの存在は秘密のベールに覆われており、私が次女のことを取材していた当時は、インターネット上で検索しても、やたらと胸が強調された赤の他人の写真が出てくるだけだった。
かつてプーチン氏はなぜ娘たちのことを表に出さないのかと米テレビ局のインタビューで聞かれてこう述べている。
「残念ながら我々にはテロリズムに関わる問題がたくさんあるので、娘たちの安全を考えなくてはならない」
ようするにテロの標的になることを恐れていたのだ。2人の愛娘がプーチン氏のアキレス腱になりうるということを示すエピソードだった。
さて、2014年に関空で彼女に直接声をかけた際のやりとりである。一行は大韓航空のソウル行きの便に乗るためにカウンターで手続きを済ますと、手荷物検査場へと向かっていた。先頭を歩く彼女に名刺を示しながらロシア語で声をかけた。最初こそにこやかに対応していたが、記者だと名乗った途端に顔が曇り、「大使館を通してください」と言う。それでも質問を重ねようとすると、腕の太さが私の腿くらいあるのではないかという筋骨隆々としたボディーガードらに取り囲まれてしまった。
その様子を見て、彼女はスタスタと検査場へ向かおうとする。その彼女に向かって追いすがるように「一つだけ聞かせてください。あなたが大統領の娘だというのは本当でしょうか?」と投げかけた途端に、「ハハハハハ」と高笑いして去ってしまった。
予想外の反応に、ボディーガードたちに名刺を没収されながらも呆気に取られてしまったのを憶えている。
この時、彼女は右手の薬指に指輪をしていた。ロシアでは結婚指輪は右手にする。当時は相手が誰か分からなかったが、のちにロシアのオリガルヒ(新興財閥のオーナー)であるニコライ・シャマロフの息子・キリル氏と結婚したとロイターなどの西側のメディアが報道した。結婚は私が関空で彼女に取材を試みた前年のことだと見られる。
ニコライ氏はソ連崩壊後にKGBを辞めたプーチン氏が中央政界に出るまでにサンクトペテルブルグ市役所に勤務していた時代の部下で、サンクトペテルブルグに本店があるロシア銀行の大株主でもある。プーチン氏の取り巻きを構成するサンクトペテルブルグ人脈の一人である。カテリーナ氏は父親の長年の子分の息子と結婚したということだ。ただ、その後、2018年に離婚したと伝えられる。
現在はモスクワ大学で研究者としての立場にあるほか、若手科学者を支援するプロジェクトの運営にも関わっているという。娘を表に出したがらない父親の考え方を受けてか、彼女は政治の世界には関わらないできた。エリツィン政権時代にエリツィンの次女・タチアナ氏が大統領顧問に就任して国政に大きな影響力を持ったのとは対照的だ。
ウクライナへの軍事侵攻を決断するにあたってプーチン氏の周辺のイエスマンらが都合の良い情報ばかりを上げていたとの報道もある。彼女にこそ父親の暴挙を思い止まらせることを期待したいが、叶わぬことだろうか。 
●首都キエフ商業施設が崩落 再び外出禁止令へ マリウポリ降伏拒否し抵抗 3/22
ウクライナ政府は、南東部の都市マリウポリの明け渡しを求められたが即座に拒否し、再び首都キエフへの外出禁止令を発表するなど、ロシア軍に屈しない姿勢を示している。
首都キエフでは日本時間の21日午前6時前、市内のショッピングセンターなどが攻撃を受け、火災が発生。生き埋めになった人の救助活動が行われた。夜が明けると建物が崩れ落ち、辺りにはがれきが散乱。焼け焦げた車が放置されていた。
日本人ジャーナリスト・小西遊馬さん「たったいま不発弾が爆発しました。非常に大きな爆撃音で爆発した。黒煙が上がっているのが見えると思う。ここは現場付近。現場から20メートルほど離れた場所だが、ガラスなどは爆風でやられています」 小西さんによると、攻撃されたショッピングモールには軍への武器や食料などの物資が置かれていて、補給を絶つ狙いがあったとみられている。この攻撃で、少なくとも8人の死亡が確認されたという。
市街地への無差別攻撃が激しさを増す中、キエフでは再び外出禁止令が発表された。対象となるのは現地時間の21日午後8時(日本時間の22日午前3時)から35時間。小西さん「ロシア側から誰かが住んでいるとわかると危険なので、ほとんどの住民が、この時間帯になると電気を消して過ごしている」
ロシア軍の激しい攻撃で、80%以上の住宅が破壊された、南東部の都市マリウポリ。市民400人が避難していた美術学校が、攻撃を受けた。ウクライナのゼレンスキー大統領「(美術学校周辺には)軍事拠点はなく、約400人の民間人がいました。大半は女性や子ども、高齢者です」 そのマリウポリをめぐり、ロシア国防省は20日、ウクライナ軍に対し武器を置いて撤退するよう要求。ウクライナの副首相は、「降伏することはあり得ない」と要求を拒否したと地元メディアが伝えている。 
●ロシア軍「武器保管施設狙った」 キエフの商業施設攻撃で  3/22
ウクライナの首都キエフにあるショッピングセンターなどへの攻撃について、ロシア軍は「ウクライナの武器保管施設を狙った」と主張した。ロシア軍がキエフで20日夜、ショッピングセンターなどに対して行った攻撃では、少なくとも8人の死亡が確認されている。民間の施設を狙ったことについて、ロシア国防省は21日、「ウクライナ側が武器の保管施設として使っていた」と主張した。ポルトガルのテレビ局の記者が現地で撮影した映像には、被害が広い範囲に及んでいた様子が記録されている。
一方、先週、ロシアが州全体を制圧したと発表した南部のヘルソンでは21日、市民たちによるデモをロシア軍が排除した。ウクライナメディアは、光や爆音で人の感覚を一時的にまひさせる道具が使われたと報じている。 
●キエフのショッピングモールを攻撃するロシア国防省 ロケット弾薬貯蔵基地 3/22
ロシアは月曜日、ウクライナ軍によってロケット貯蔵所と装填ステーションとして使用されているため、ウクライナのキエフのショッピングセンターを高精度の長距離武器で攻撃したと発表した。
キエフのショッピングセンターが日曜日の夜に攻撃され、少なくとも8人が死亡し、近くの建物が破壊され、煙のような瓦礫の山と数百メートルにわたって散らばった燃える車の残骸が残されました。
「ショッピングセンター近くの地域は、ロケット弾を保管し、いくつかのロケットランチャーを装填するための大きな基地として使用されています」と、ロシア国防省のスポークスマン、イーゴリ・コナシェンコフ少将は、ロイター通信から引用された3月22日、記者団に語った。
「3月21日の夜、高精度の長距離兵器が、複数のロケットランチャーを備えたウクライナのバッテリーと、機能していないショッピングモールの弾薬庫を破壊した」と彼は語った。
コナシェンコフ少将は、ウクライナがショッピングモールを武器基地やリロードステーションとして使用していたことを示すビデオを見せた。
既報の通り、日曜日の夜にウクライナのキエフのショッピングセンターを襲撃し、少なくとも8人が死亡し、近くの建物が破壊され、煙の瓦礫の山と数百メートル以上に散らばった燃える車の残骸が残された。
月曜日の夜明けが明けると、消防士は市内のポディル地区の駐車場、ショッピングセンターの建物からくすぶっている死体の周りに小さな火を消し、生存者の可能性を探しました。
爆発の力はショッピングセンターの駐車場の構造物を壊滅させ、隣接する10階建ての建物を壊滅させ、近くの住宅タワーブロックの窓を粉々にしました。
「ロシア人は私たちのショッピングセンターに発砲しました。その周辺のショッピングモールと住宅の建物は深刻な被害を受けました」と陸軍牧師のミコラ・メディンスキーは語った。
彼は、この地域には戦略的な軍事物はなかったと付け加えた。ロイターはすぐにはコメントを検証できなかった。ロシアは民間人を標的にすることを否定している。
6人の遺体が舗装道路に横たわり、救急隊員が瓦礫の中をくぐり抜け、遠くで砲撃の声が聞こえた。一方、ウクライナの司法長官は、少なくとも8人が死亡したと述べた。
2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、戦闘で数千人が死亡し、約1000万人が避難民となり、そのうち約350万人がポーランドなどのヨーロッパの隣国に逃れたことが知られている。
●キエフの商業施設に攻撃、8人死亡 ロシアは「弾薬庫」と主張 3/22
ロシア軍による侵攻が続くウクライナの首都キエフで現地時間の20日夜、大規模商業施設にミサイルとみられる攻撃があり、少なくとも8人が死亡した。ロシア国防省は21日、「休業中の商業施設にある弾薬庫」などを破壊したと発表。キエフなどの制圧が進まない中、露軍が「軍事施設への攻撃」などと正当化しながら、遠距離から民間施設を標的とする事例が続いている。
地元メディアによると、攻撃を受けたのは市北部にあるショッピングセンターやオフィス棟、スポーツクラブなどを併設した商業施設。爆発の後に火災が発生し、周辺の住宅も被害を受けた。米紙ニューヨーク・タイムズは「首都中心部を震わせた最大の攻撃の一つ」と表現し、「破壊された施設には軍の車両や装備の痕跡は見られない」とも指摘した。
しかし、露国防省は施設周辺で「ウクライナの民族主義者の部隊が住宅に隠れながらロケット弾による砲撃をしていた」と主張。商業施設がロケット弾の保管や装塡(そうてん)に使われていたとの見方を示し、「精密誘導兵器」による攻撃を正当化した。
キエフのクリチコ市長は21日、市内の民間人の死者がこれまでに子供4人を含む65人に上ることを明かし、「侵略者は2、3日でキエフを制圧しようとしたが、うまくいかず、無力感から民間人のいる建物を攻撃し、軍人だけを狙っているというプロパガンダを流している」と非難した。市長はさらなる攻撃の恐れがあるとして、23日朝まで夜間の外出を禁止する方針を示した。
英国防省は21日、キエフ侵攻を狙うロシア軍の大半がウクライナ軍の反撃を前に市中心部から25キロ以上離れた地点で止まっていると指摘。「ロシア軍はそれでもキエフを主要な軍事目的とし、今後数週間で包囲することに優先順位を置いているようだ」と分析している。
露国防省は北東部スムイ近郊で21日に化学工場が砲撃され、アンモニアが流出したことも「ウクライナの民族主義者による計画された挑発行為」と訴えた。露軍が「極超音速ミサイル」と称する新型兵器「キンジャル」を使ったウクライナ軍の武器庫への遠距離攻撃も続けたとしている。
南部ミコライウでは21日にガソリンスタンドが砲撃されて炎上し、3人が死亡。南東部ザポロジエ州ではマリウポリからの避難者を乗せたバスの周辺で砲撃があり、子供4人が負傷した。民間人を巻き込む被害が絶えず、ウクライナのレズニコフ国防相は21日、訪問先のロンドンでロシアが「国家によるテロ」を行っていると非難した。
ロシアとウクライナの政府代表団による停戦協議は21日、オンライン形式で再開されたが、約1時間半で終わり、交渉の場は再び作業部会に移された。ロシアのペスコフ大統領報道官は同日、「交渉の動きは望ましいほどではない」と述べ、ウクライナのゼレンスキー大統領が呼びかけるプーチン露大統領との早期の直接会談には否定的な考えを示した。
一方、ゼレンスキー氏は同日、ロシアとの停戦協議で安全の保証や領土問題で妥協が必要になる場合は「国民が答える必要がある」と国民投票を行う考えを明らかにした。 
●ウクライナ戦争で「世界中が飢饉に」 大統領、一層の支援要請 3/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は22日、ロシアによるウクライナへの攻撃で、世界中の国々が飢饉に見舞われる恐れがあると述べ、ロシアに対抗するため一層の支援を要請した。
イタリア議会でのビデオ演説で、ロシア軍がウクライナの各都市を荒廃させ、市民を殺りくする中、国民は必死に生き延びようとしていると述べた上で、「ロシア軍にとって、ウクライナは欧州の門であり、そこに押し入ろうとしているが、野蛮な行為を許してはならない」と強調した。
さらに、戦争の影響はすでに世界の多くの地域に及んでいるとし、「最も恐ろしいのは、一部の国々に迫り来る飢饉だ。ウクライナはこれまで最大の食料輸出国の一角であったが、ロシアの砲撃の下でどうやって(作物の)種をまくことができるだろうか?」とただした。
レバノンやエジプト、イエメンなどの国々は近年ウクライナの小麦への依存度を高めている。ウクライナ戦争によって小麦の価格は急騰し、先月には50%上昇した。
●「この戦争は誰のためにもならない」国連総長、ウクライナ和平交渉の必要性 3/22
ニューヨーク:国連のアントニオ・グテーレス事務総長は24日、ロシアのウクライナでの戦争は「この戦争は誰のためにもならない」と述べ、紛争を戦場から交渉のテーブルに移すよう繰り返し訴えた。
「どうにもならないことだ」とニューヨークの国連本部で述べた。「唯一の問題は、あと何人の命が失われなければならないか、ということだ。あといくつ爆弾が落とされなければならないか。どれだけのマリウポリが破壊されなければならないか?」
「この戦争に勝者はなく、失う事しかない事を皆が理解するまでに、どれだけのウクライナ人とロシア人が殺されるのだろうか?この戦争を止めるために、あと何人の人がウクライナで死に、世界中のどれだけの人が飢餓に直面しなければならないのだろうか?」
「ウクライナで戦争を続けることは、道徳的に受け入れられず、政治的に弁解できず、軍事的に無意味である」。
ロシアが「国連憲章に違反して」ウクライナに侵攻してから1カ月、戦争が激化し、破壊的で「1時間先さえ予測できない」状態になるにつれ、世界はひどい人的被害を目撃しているとグテーレス大統領は述べた。市民は「組織的な砲撃」と、病院、学校、アパート、避難所の破壊による恐怖にさらされており、1000万人のウクライナ人が家から追い出されている、と彼は付け加えた。
「しかし、戦争は過ぎ去っていない」とグテレス氏は述べた。マリウポリ市は2週間以上にわたって包囲され、「容赦なく」攻撃されていると指摘した。
外国人ジャーナリストは街を離れ、激しい砲撃のため、街に残る民間人のほとんどは地下室に身を隠している。
「何のために?」と彼は尋ねた。「マリウポリが陥落しても、ウクライナを街ごと、通りごと、家ごとに征服することはできない。見渡す限り、より多くの苦しみ、より多くの破壊、より多くの恐怖がもたらされるだけだ。」
ウクライナ人は「生き地獄」に耐えており、その余波は食糧やエネルギー価格の上昇となって世界に及び、「世界飢餓危機」を引き起こすおそれがあると述べた。現在、すでに発展途上国はCOVID-19の大流行の影響で動揺している。
「今、途上国もまた、この戦争の結果として重い代償を払っている」とグテーレス氏は述べた。しかし、すべての希望が失われたわけではない、と彼は付け加えた。
「様々な関係者への働きかけから、いくつかの重要な問題で外交的進展の要素が見えてきた」と述べた。「今、敵対行為を停止し、真剣に交渉するのに十分な条件が整っている。」
彼は再び戦争の終結を訴え、こう述べた。「どう考えても、最も賢い選択をするなら、今すぐ戦闘を止め、平和にチャンスを与えるべき時だ。この不条理な戦争を終わらせる時が来たのだ」。
●人類初「デジタル戦争」の最前線で何が起きているのか  3/22
ロシアによるウクライナ侵攻では、SNSで戦場の「今」が瞬時に世界に発信され、サイバー攻撃も活発に行われています。こうしたことから、いま起きているのは人類史上初の「デジタル戦争」とも言われています。ウクライナ側のデジタル戦略を指揮するのは、2年半前に創設されたデジタル庁。そのトップは副首相で起業家でもある31 歳のフェドロフ大臣です。そして副大臣に就くのが同じく起業家出身で、40歳のボルニャコフ副大臣です。今回、テレビ東京はボルニャコフ副大臣の単独インタビューに成功。デジタル戦争の最前線で、一体何が行われているのか聞きました。
――現在のウクライナの状況を教えてください。
ロシアの侵攻が始まった時、私はキエフにいたのですが、キエフの爆撃が始まり、シェルターに入らなければいけなくなりました。それから2 日後、より安全な場所に避難することにしました。仕事をするのが不可能だったからです。現在は交戦地帯からは少し離れ、仕事もできる安全な場所にいます。
――あなたはウクライナのデジタル担当副大臣として、暗号資産会社の法的枠組み開発にこの2年間取り組んできました。このようなことをやることになると想像していましたか。
いいえ。われわれは皆、この意図しない出来事に巻き込まれました。侵攻前日までロシア軍が全力でウクライナ全土に進行してくるとは思っていませんでした。ウクライナ東部で何か予期しないことが起きるかもしれない、何か被害が与えられるかもしれないとは考えていましたが、まさか全力で進行してくるとは考えておらず、われわれは普通の生活を送ろうとしていました。
それまで私は暗号通貨の法的枠組みに取り組んでいました。IT企業やベンチャーキャピタルのスタートアップシステムなどが、私が重点的に取り組んでいた分野でした。われわれはスタートアップの支援やIT企業の支援、ウクライナに来る外資系企業の支援をしていました。楽天などいくつかの日本企業もあり、人材や法律などの面でウクライナ進出を支援をしていました。しかし朝の6時に爆発音で目が覚め、戦争が始まりました。
――それ以来、休みは取れていないのですか。
2月24日以来、ウクライナにはもう休みはありません。週末はなく、われわれは毎日働いています。緊急でやらなくてはいけないことがたくさんある。新しい現実に慣れなければいけません。
デジタル庁にはリモートで仕事をする人もいますし、今いる場所から離れることができない人もいます。交戦地帯から抜け出せないからです。街を離れるのは死刑宣告を受けるようなものです。街を脱出しようとすれば、高い確率で爆弾やロケットの犠牲になるからです。でもチームのほとんどの人は無事です。私の親族なども大丈夫です。
――戦争が始まり、一番最初にしたことはなんですか。
サーバーなどのデジタルインフラを安全な場所に移すことでした。ウクライナの行政やデジタルサービスを支えているものです。全てキエフにありましたが、戦争1日目に激しい攻撃を受けたため、データを損失しないようサーバーの移動が必要でした。クラウドに移行したり、物理的に移設したりして、デジタルインフラを復元しています。
そして初日のうちに、プロパガンダ活動、外交、そしてロシアのデジタルインフラを混乱させるためT専門家を集め、IT軍を作る事を決めました。あとは軍のための資金調達も始めました。現状では我々は市民サービスの提供を継続できています。通信や必要な行政書類などは平時と変わらず提供できています。
――インターネット接続環境は必ず守りたかったのですね。
もちろんです。人々がつながっていることはとても重要だと思います。このような状況では友達や家族の無事を知りたいものです。またパニックを防ぐこと、全てが問題なく、事態は収集されていると人々に知らせること、何か問題があった場合に助けを求められる連絡先がわかることも重要です。ほとんどの地域ではインターネットは無事で携帯電話も使えます。我々は通信の確保に最大限努力し、今のところ上手く行っています。
――ウクライナのIT軍には何人が参加しているのですか。
ウクライナはIT産業が盛んです。サイバーセキュリティ会社や有能なエンジニアやクリエイターが数多くいます。我々が組織するIT軍は30万人のIT専門家によって成り立っています。彼らは母国ウクライナを防衛するため、我々の呼びかけに応えてくれた人々です。
――ウクライナ人でなくてもIT軍に参加できるのですか。
はい。我々が使うSNS、テレグラムのグループには誰でも参加できます。そこには我々がやってほしい指令が書いてあって、それを実行してもらうという仕組みです。
IT軍のスパイはどうチェックするのか?
ウクライナのIT軍のSNSサイトを見ると、毎日いろいろな指示が書き込まれています。このグループにはおよそ30万人が参加しているのが分かります。ボルニャコフ副大臣によれば、ウクライナのIT軍は、ロシアの政府機関や企業、メディアのホームページなどに日々サイバー攻撃を仕掛けていると言います。
ボルニャコフ副大臣:IT軍は一般のロシア人に真実を伝える努力もしています。彼らはバブルの中にいるようなもので、市民はプロパガンダを伝えられているだけですから、われわれはそこを突き破って、本当は何が起きているのかを伝えようとしています。実際、何百万人ものロシア人に「戦争でウクライナでは人々が死んでいる」「あなたたちはこれを止めなければいけない」「あなたの大統領にこれは良くないと伝えなければいけない」と伝えることができました。ですから、われわれのIT軍はたくさんの成功を収め、今もうまく機能していると思います。
――IT軍は開かれた組織ですから、ロシアのスパイがいるかもしれません。その人物がロシアのスパイかどうかチェックする方法はありますか。
テレグラムのグループは誰でも見ることができます。しかし、もしロシアのスパイがいたとしても、見られるのはわれわれが何をターゲットにしていて、具体的に何をしたいかだけです。意思決定のプロセスは分かりません。われわれが何をしようとしているかは分かるので、反応することはできても、誰の指示なのか、次の狙いは何になるかは分かりません。システムのデザイン上不可能なのです。
――この戦争における、SNSの力をどう評価しますか。
SNSは非常に重要です。我々はSNSで国民とコミュニケーションをとる事が出来ます。彼らに安全を届け、この戦争に勝てるという自信を与える事が出来ます。ウクライナ政府の動きも国民に共有できます。SNSなしではとても難しいでしょう。
また、我々はSNSを利用して、世界にメッセージを届ける事が出来ます。これはとても重要です。世界中の企業と連絡をとり、ロシアとのビジネスを止めるよう呼び掛けています。SNSがなければ不可能です。グーグル、メタ、フェイスブック、インスタグラム、ツイッター、ユーチューブなどには非常に感謝しています。われわれを支援してくれ、われわれと共にある。それには非常に励まされます。
――なぜSNSを使うのか教えてください。
それが一番インパクトが強いからです。メールなど公式ルートで連絡しても、彼らは「見てない」と言えます。しかしSNSで公開した形で連絡をとれば、瞬時に何百万もの人の目に留まり、注目が集まり、企業も反応を示さないわけにはいけなくなる。多くの人の目にふれることがこの戦争ではとても重要です。中には反応したくない企業もあるでしょうが、SNSは反応する事を余儀なくさせます。
――ウクライナのフェドロフ副首相がTwitterでスペースXのイーロン・マスク氏に対して、人工衛星を使ったインターネット接続サービス「スターリンク」の提供を求めました。既にウクライナに届き運用中ですか。
はい。ウクライナには1000以上のスターリンクが届けられ、軍や重要な公共インフラに配布されています。ロシアが通信を妨害しようとしても、スターリンクは物理的に接続する必要なく、衛星につながるので助けられています。
――これまでどれほどの企業に連絡しましたか。
300社以上に連絡しました。そのほとんどがロシアでのビジネスを中止しました。
資金集めに暗号資産を利用、NFTでの資金調達を計画
――サイバー攻撃についてお聞きします。ウクライナからのロシアへのサイバー攻撃は多く見られ、ロシア政府のウェブサイトがシャットダウンしたりしていますが、ロシアからのウクライナへの大規模なサイバー攻撃はあまり顕在化していません。サイバー攻撃で何が起きているのか教えてください。
私はサイバー防衛は専門ではありませんが、ロシアはわれわれのインフラにずっとサイバー攻撃をしています。ただこの攻撃は2週間前に始まったわけではなく、クリミア侵攻が始まった8年前から続いています。つまり我々はサイバー攻撃に対する防衛ノウハウを蓄積しているのです。そのためロシアはあまり成果が挙げられていないと思います。
――ウクライナは暗号資産を使った資金集めを行っています。なぜ資金集めに暗号資産を使うのですか。
われわれが戦争の初日に現金の国際送金などに関する制限に直面したからです。そこでわれわれは暗号資産で資金集めを始めました。スピーディーな国際送金ができ、手数料の支払いも素早くできるためです。今はとにかくスピードが重要です。これまで6,000万ドル以上が集まりました。金額は予想以上でした。集まった資金はウクライナ軍が使う防弾ベストや暗視ゴーグル、ヘルメットの購入、食糧供給や医療物資などに当てています。
――NFTによる資金調達の計画について教えてください。
われわれは暗号資産とNFTのコミュニティをつなげることに取り組み始めています。支援をより一層増やすためです。たとえばNFTコミュニティに戦争博物館を作っていて、われわれはこれを「Never Forget This」と名付けています。戦争の記録を時系列で集めて、世界的な認識を高め、資金を集めるのです。
――いつ始める予定ですか。
今から1〜2週間後に始める予定ですが、他のNFTプロジェクトも多くあります。個人や民間団体もNFTを使った取り組みを始めています。
――戦争が始まる前、ウクライナ軍とロシア軍には圧倒的な軍事力の差があり、ロシアはウクライナを数日で侵攻できると一部の専門家から見られていました。しかし結果は違った。そこにはIT軍や暗号資産による資金調達などのデジタル技術が一定の役割を果たしていると思いますか。
デジタル戦略はこの戦争で非常に重要な役割を果たしています。ロシアのインフラを妨害することで、彼らの動きを遅くしています。企業に呼びかけ、ロシア経済が停滞することで、ロシアの軍資金は減っているのです。また暗号資産を使うことで、海外から直接ウクライナ軍に対して金銭的な支援を受けることができています。それらもとても役立っています。
――あなたやウクライナ政府は、この戦争でロシアに勝てると信じていますか。
はい。92〜93%のウクライナ人がこの戦争に勝つと自信を持っています。
――日本の人々に何かメッセージはありますか。
21世紀において国際法を順守しない、近隣国の主権を順守しない国を認めてはいけないと思っています。日本の国民や企業、そして政府にはロシアの行動を非難し、他の独裁者たちが同じことを繰り返さないようにしてほしいです。われわれは団結していることを示し、これはやってはいけない、これは受け入れられないということをロシアに見せなければいけません。
――ありがとうございました。今度は対面でお会いしたいです。
戦争が終われば、われわれは国を再建し、皆さんを歓迎します。
●ロシア軍 東部掌握に向け圧力も ウクライナは徹底抗戦の構え  3/22
ロシア軍は、東部マリウポリの掌握に向け、ウクライナ軍に事実上の降伏を迫るなど、圧力を強めています。ロシアとしては、苦戦が続くとされる中で、東部の要衝を完全に掌握したとして戦果を強調したいねらいもあるとみられますが、ウクライナ側は、徹底抗戦する構えです。
ロシア国防省は22日、親ロシア派の武装勢力が複数の地区を掌握するなど、ウクライナ東部で支配地域を広げていると発表しました。
また、ロシア軍は、東部の要衝マリウポリを包囲するとともに20日からはウクライナ軍に対し、武装解除して都市を明け渡すことなど事実上の降伏を迫っています。
これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は21日「『この最後通告に従えば戦争が終わる』と言われても、それは正しくない」と述べ、拒否する考えを強調しました。
マリウポリの戦況について、イギリス国防省は22日、ウクライナ軍は、占領を試みるロシア軍を撃退し続けていると分析していてウクライナ側は、徹底抗戦する構えです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、首都キエフでウクライナ公共放送などのインタビューに応じ「どんな形式であれ、ロシアの大統領との会談が実現するまでは、停戦に向け彼らにどのような用意があるのか、真に理解することは難しい」と述べ、プーチン大統領との対話を実現させたうえで、交渉の妥協点を見いだしたい考えを示しました。
そのうえで、当面、NATO加盟は難しいとの考えを改めて示したうえで「われわれの安全保障について話す中で、憲法の改正やウクライナの法律の変更についても話し合うことになるだろう。どんな結果になろうとも、大統領だけで決定をすることはない。変更が歴史的に重要なものになる場合は、国民投票を実施して決めることになる」と述べ、停戦交渉での合意内容によっては国民投票が必要との考えを示しました。
ただ、ロシア側はウクライナ側とのこれまでの交渉について「大きな進展は見られていない」としていて、両国の首脳会談や停戦の見通しが立たない中、ロシア軍の攻撃によって市民の間に犠牲が広がる状況を食い止める手だてさえ見いだせない状況が続いています。
●岸田首相 ウクライナ情勢に伴う物価高 状況に応じ機動的に対応  3/22
岸田総理大臣は、参議院財政金融委員会で、ウクライナ情勢に伴う物価高への対応について、状況に応じて、新たな対策を機動的に講じていく考えを示しました。
参議院財政金融委員会では22日、岸田総理大臣も出席して税制関連法案の質疑が行われました。
この中で、国民民主党の大塚耕平氏は「ウクライナ情勢も加わってインフレになってきた。新年度予算案成立後には景気対策が必要であり、果断な判断をお願いしたい」と求めました。
これに対し、岸田総理大臣は「物価高は国民の生活、経済にとって大きな課題を突きつけている。さまざまな価格高騰対策も至急用意して、国民のもとに届けなければいけない。不透明な国際情勢を考えると、さまざまな動きも想定しておかなければならず、状況を判断して機動的に対応していきたい」と述べました。
岸田総理大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し「足元では、新型コロナの感染状況が落ち着きを見せ始めているが、感染の再拡大を防ぎつつ、新型コロナで傷ついた日本経済を再生していくためには、これからが正念場であると思っている」と述べました。
そのうえで「ウクライナ情勢の影響を受けた原油高など、新たな危機が国民生活や企業経営を脅かしており、こうした状況にも機動的に対応していきたい。国会での予算審議は終わったが、直ちに当初予算の早期執行に取り組んでいかなければならない。原油高や原材料高、さらには食材高、こうした足元の経済状況にも万全の対応をしていかなければならない。そのうえで、日本経済の再生につなげていきたい」と述べました。
●ウクライナ情勢 増え続ける避難民 「受け入れ側にもサポートを」  3/22
ウクライナ情勢、非人道的攻撃への懸念です。アメリカのバイデン大統領は、ロシアのプ−チン大統領が生物・化学兵器の使用を検討している「明確な兆候がある」と警戒感を示しました。
アメリカ バイデン大統領「プ−チンは追い詰められている」
プ−チン大統領が「追い詰められている」と指摘したアメリカのバイデン大統領。
アメリカ バイデン大統領「(プ−チンは)アメリカがヨ−ロッパに生物兵器や化学兵器を持っていると主張しているが事実ではない、保証する」
ロシア側がアメリカやウクライナが生物兵器や化学兵器を保有していると主張していることを挙げ、プ−チン氏が事実をねつ造し生物兵器などを使用するうえで口実とするためのいわゆる「偽旗作戦」を行っていると強調し、警戒を強めています。
バイデン大統領は具体的なケースは明らかにしませんでしたが、プ−チン大統領について・・・
アメリカ バイデン大統領「すでに過去に化学兵器を使用しており、私たちはこれから起こることに注意する必要がある」
こうした中、ウクライナ対する激しい攻撃は21日も続き、一般市民の犠牲も広がっています。
国際人権団体は南東部マリウポリについて、侵攻以降3000人を超える市民が死亡した可能性があると指摘。これまでの停戦交渉でロシア側は一方的に併合したクリミア半島の主権を認めることなどをウクライナに要求していますが、ウクライナのゼレンスキー大統領は・・・
ウクライナ ゼレンスキ−大統領「歴史的に重要な変化について話し合うには、国民投票を行う必要がある」
妥協を含む問題の決定には国民投票が必要になるとの考えを示すとともに、「戦争を止めるにはプ−チン大統領と会談しないとロシア側がどこまで妥協できるか誰も分からない」と訴えました。
一方、ウクライナの隣国ポ−ランドでは避難民が200万人を超えています。
日本人学校を運営する坂本龍太朗さん「坂本です、よろしくお願いします」
現地で日本人学校を運営する坂本龍太朗さん(36)は首都ワルシャワ郊外の自宅に避難民を受け入れ、生活を支援しています。
こちらの姉弟は両親がウクライナ国内に残ることを決断、叔母と一緒に戦火を逃れてきたといいます。
記者「いま誰に会いたい?」
姉・ビオレッタさん(14)「両親です」
弟・マキシムさん(11)「ウクライナに帰れなくてもいいから、早く両親と会いたい」
ポーランドはウクライナへの強い連帯を示していますが、一方で支援に携わる坂本さんは、この状況が続けば受け入れ側にもいずれ限界がくると指摘しています。
日本人学校を運営する坂本龍太朗さん「自分たちの責任としての仕事や家族がある、ポ−ランド人にも。今後も同じようなペースで受け入れができるかというと、そんなことはない。受け入れる方に対する支援というのも必要になってくると思う」
停戦に向けた道筋がいまだ見えない中、増え続けていく避難民をどうサポ−トしていくのか、国際社会全体の課題となっています。 

 

●ウクライナ研究者ら 早期戦争の終結を求める 文化財被害も危惧  3/23
ロシア軍による侵攻でウクライナにある貴重な文化財にも被害が広がるおそれがあるとして日本の研究者などは早期の戦争の終結を求めています。
筑波大学の上北恭史教授はウクライナの西部などにある世界文化遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会」の保存に協力しています。
これらの教会は16世紀から19世紀にかけての16棟の伝統的な木造建築で、上北教授は「建てられた当初の状態を維持し傑出した価値がある」として、ウクライナの研究者などと共に今後の保存の進め方を協議していたということです。
しかし、新型コロナウイルスの影響で協議は滞り、その後に始まった軍事侵攻がこれからも続けば、被害を受けるおそれもあると懸念しています。
さらに、首都キエフの「聖ソフィア大聖堂」など、ほかの世界遺産についても市街戦によって破壊されるおそれがあるのではないかと危機感を強めています。
上北教授は人命第一を前提としたうえで「第二次世界大戦などの危機を乗り越えてきた貴重な文化遺産として継承しなければならない。改めて戦争の終結を強く求める」と訴えていました。
筑波大学の上北恭史教授と交流があるキエフ国立建築建設大学のガリーナ・シェフツォバ教授も文化財への被害を懸念しています。
オンラインで取材に応じたシェフツォバ教授によりますと、ウクライナの木造の教会はログハウスのように木材を水平に積み上げて組み上げるのが特徴で、攻撃を受けて出火すれば被害は大きく、修理や復元も難しいといいます。
自分は1週間ほど前にキエフから避難して西部のリビウの知人の家に身を寄せているということで、被害の状況は、インターネットでしか把握できていないということです。
シェフツォバ教授は「毎日のように攻撃を受けている地域もあるので、いつ被害が出てもおかしくない。今は祈るしかない」と話しました。
そのうえで「被害を出さないためには、一刻も早く戦争を終わらせるしかない。世界の協力も必要です」と訴えていました。
●ウクライナとロシアの宗教戦争 キエフと手を結んだ権威の逆襲 3/23
コンスタンティノープル総主教ヴァルソロメオスが、独立教会のトモスを、エピファニウス氏に手渡す。儀典上、キエフ総主教が独立した瞬間である。2019年1月6日。「ロシアがウクライナで行っている戦争は、宗教的なものでもあります」と、歴史家のアントワーヌ・アルジャコフスキー氏は分析する。2018年12月、キリスト教の正教会に、大激震となる出来事が起きた。ウクライナの首都キエフ(キーウ)で開催された協議会によって、ウクライナ正教会の独立が決まったのである。それまでウクライナ正教会は、ロシア正教会に屬していた。332年間も。それを、正教会の中で最も象徴的な権威をもつコンスタンティノープル正教会が、独立を認めたのだった。ウクライナの信者をモスクワ総主教の直接の監督下に置くという勅令がくだされたのは、1686年のことだ。それを「撤回」したのだった。既に2カ月前の10月、承認が発表されていた。モスクワ総主教庁は、この承認に反発し、コンスタンティノープルとの関係を断絶した。以下、アルジャコフスキー氏が『ル・モンド』紙のインタビューに答えた記事を中心に据え、同紙の他の記事を参照し加えながら、筆者が再構成した内容を、わかりやすい言葉にして、時々別資料から説明を足しながら説明したい。
キリル総主教と同じ考えのプーチン大統領
キリスト教は、大きく分けて3つある。カトリックはローマ教皇を頂点とするピラミッド型、プロテスタントはそういうものを排除。その両方と異なり、正教会――東方正教会ともギリシャ正教会とも呼ばれる――は、それぞれに独立した対等な総主教がいる。ロシアとウクライナは、主に正教会に属する地域である。正教会の古い総主教はローマ、コンスタティノープル、アレクサンドリア、エルサレム、アンティオキアである。「五本山」と呼ばれる。後代の総主教はブルガリア、グルジア、セルビア、ルーマニア、そして最大のモスクワがある。モスクワ総主教のキリル氏は、2009年に即位した。そして「ロシア世界」のイデオロギー信奉者となった。彼の帝国主義的な考え方では、ロシア、ベラルーシ、ウクライナの国家は同じものであり、その中心はモスクワにあるとなる。この見解は、2月21日のプーチン大統領の言葉と同じである。プーチン大統領は、ウクライナは独立国家としての正当性がなく、ロシアの軌道に戻すべきだと主張した。「我々にとって、ウクライナは単なる隣国ではなく、我々の歴史、文化、精神空間の不可分の一部だ」という彼の言葉は、そのままキリル氏の考えが反映されている。キリル氏は、ウクライナ戦争が始まって数日後の2月27日、「ロシアとロシアの教会の統一に常に反対してきた」者たち、つまりプーチン大統領の計画に反対するウクライナ人を「悪の勢力」と表現し、大々的に説教したのである。キリル氏は、クリミア併合やシリアのアレッポ空爆など、常にプーチン大統領の政策に揺るぎない支持を示してきた。モスクワ総主教の意味論によれば、ウクライナへの侵攻は、正教を分裂させた、あの上長を拒否する教会(autocéphale)であるウクライナ教会を含む悪の帝国からの防衛であり、コンスタンティノープル総主教の決定による侵略から、我が身を守るための方法となる。このように、教会に関する2つの概念が衝突しているおり、宗教的・教会学的な要因が、ウクライナとロシアの対立の主な原因の一つとなっているのである。
複雑な二つのモデル
この新しい独立教会は、ウクライナの指導者たちにとって、どのような政治的な道具にもなっているのだろうか。この教会は、民族性重視主義者ではない基礎で、国民感情を作り出そうとしている。キリル総主教が掲げるロシアの世界観の問題は、キエフ・ルス(キエフ大公国)からプーチンのロシアまでの記憶と民族の連続性に基づいていることだ。この純粋に神話的な概念は、帝国の建設を支えるのに、役に立つだけである。ウクライナの対抗モデルは、言語的および文化的な分断を克服しようとしている現代の国民国家のモデルに反対している。このウクライナ正教会は、わずか43歳のエピファニウス氏が率いている。キリル氏が75歳なのと対照的である。キリル氏は侵攻を祝福しているが、エピファニウス氏はここ数日(3月初頭)、彼に宛てて、少なくとも亡くなった兵士を送還し、尊厳を持って埋葬するように求めている。この非常に強い声明は、明らかにロシア国家に恥をもたせると同時に、モスクワ教会の良心を目覚めさせ、ウクライナ国民の結束に貢献することを意図している。
現在の正教会の分裂はどこから来ているのか
ここから、いにしえの昔の歴史をたどってみたい。キリスト教の歴史は長いので、歴史をたどらないと今の争いが理解できないのだ。7世紀以降になると、五本山のうち、アレクサンドリア、エルサレム、アンティオキアの三教会が、いずれもイスラムの支配下に入って衰えてしまった。残ったローマとコンスタンティノープルの二教会が、激しく首位権を争うようになった。8世紀に聖像崇拝問題を巡って、東西両教会は対立するようになり、最終的に1054年、ローマ=カトリック教会とギリシア正教会として分離した。さて、9世紀には、東スラブ人が形成した最初の国家、キエフ・ルス(キエフ大公国)が生まれている。キエフ大公国の版図は、大まかに言うと、今のウクライナの北半分程度、ベラルーシ、その上(北)の部分のロシアの地域であった。キエフ正教会は、988年に最初に伝道された教会であり、スラブ地域のキリスト教会の原点である。最初の転機は1240年である。タタールの侵攻によって、キエフ公国が滅んでしまった時である。北と東はイスラムのハーン(イスラム教)の支配下に、南と西はポーランド・リトアニア(カトリック)の支配下に置かれたことである。その後、キエフの本拠地は分裂し、キエフの府主教はモスクワ大公国に、別のものがリトアニアに、そして再び新たにキエフに置かれることになった。モスクワ大公国は、のちのロシアである。ロシアは、滅んでしまったキエフ公国の継承者を自負してきた。15世紀、新たな転機が訪れた。正教会は、ビザンチン帝国(東ローマ帝国)に保護されていた。しかし、オスマン・トルコ帝国(イスラム教)の脅威が迫ったのである。オスマン帝国に対抗するために、東西のキリスト教徒間の統一を話し合う「フィレンツェ公会議」が開かれた。しかし、モスクワの大公は、参加を拒否したのである。こうして、モスクワ教会は1448年に独立を宣言したのである。ただし、ウクライナ(キエフ)の正教会は、会議を受け入れていた。細かいことに見えるかもしれないが、モスクワとコンスタンティノープルの争いは、既にこの頃から始まっていて、キエフの立場は注目するべきだと言えるだろう。しかし1453年、オスマン・トルコとの戦争に破れ、東ローマ(ビザンチン)帝国は滅びてしまった。オスマン・トルコは、首都コンスタンティノープルの名前を、イスタンブールと変えた。このことは、帝国の首都に存在していたコンスタンティノープル総主教庁に、大打撃を与えたのである。
どのように二者は対立しているか
コンスタンティノープル総主教庁は、正教会の歴史的な発祥の地である。それゆえに、正教会の世界を象徴する力を持っている。1054年の西方キリスト教会(ローマ=カトリック教会)と、東方の正教会の分裂以来、コンスタンティノープルは、「対等な第一人者」となっている。つまり、その権威はあくまでも精神的・道徳的なものであり、ローマ=カトリックのように、ローマ教皇を頂点とするピラミッド型ではない。異なる総主教庁や各正教会は独立して組織されている。だから「対等」なのであるが、発祥の地としての権威をもっているので「第一人者」なのである。20世紀になると、1923年にトルコ共和国が誕生し、ほとんどのギリシャ人が国外に追いやられてしまった。そのためコンスタンティノープルには数千人の信者がいるに過ぎない。ギリシャの一部と、西欧を中心としたディアスポラ(離散した者)の一部の教会を管轄している。それに対するのが、ロシアの権力に近いモスクワ総主教庁である。世界の正教会の約半数を束ね、キリスト教文明の新しい中心である「第三のローマ」を長い間自負してきた。ここでいう「第三」とは、一番目が古代ローマ(ローマ帝国)、395年に東西に分裂、二番目が東ローマ帝国(ビザンチン帝国)、その次の三番目という意味である。政治的には、東ローマ帝国の最後の皇帝の姪であり、皇帝の孫であるゾイ・パレオロギナが、モスクワ大公イヴァン3世と結婚したからである。彼女は、ビザンチン帝国の文化を、モスクワにもたらしたと言われている。こちらはソビエト連邦の時代には、共産主義体制下で、宗教は否定された。1991年にソ連が崩壊すると、正教会が復活した。このようなキリスト教において、「1000年に一度の大分裂」をもたらすことになるのが、2014年のクリミア併合と、キエフ正教会の独立であった。
●国連総長が停戦呼びかけ「ばかげた戦争をやめるときだ」… 3/23
国連のアントニオ・グテレス事務総長は22日、ロシアのウクライナ侵攻について「ウクライナの人々は生き地獄を味わっている。ばかげた戦争をやめるときだ」と語り、即時停戦を呼びかけた。国連本部で記者団に述べた。
グテレス氏は、侵攻の影響で食料やエネルギー、肥料の価格が高騰して「世界的な食料危機」につながるとの警戒感を示した。
一方、22日の安全保障理事会では、ウクライナ東部スムイの化学工場が21日に攻撃を受けてアンモニアが流出した問題が議論された。
ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連第1次席大使は会合後、記者団に化学工場への攻撃について「ウクライナの民族主義者による挑発行為」と主張し、露軍の関与を否定した。
これに対し、米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は記者団に「ばかばかしい主張」と切り捨て、「ロシアが化学兵器を使用する前兆ではないかと懸念している」と述べた。
また、安保理は、ロシアが独自に提出した人道支援決議案を23日に採決する見通しになった。欧米の批判を受け、ロシアは18日に予定した採決を見送っていたが、「決議案の共同提案に関する要請を受けた」などとして採決を求めることにしたという。採択される可能性は低い。
●ロシア国営テレビ、パリ特派員がウクライナ戦争に抗議し辞職 3/23
ロシア国営テレビ「第1チャンネル」で今月まで記者を務めていたジャンナ・アガラコワさんが22日、パリで記者会見し、ロシアがウクライナで行っている戦争に抗議して辞職したと述べた。
元ニュースキャスターで、辞職当時はパリ特派員だったアガラコワさんは「上司と話をした際、これ以上この仕事はできないと伝えた」、「私が第1チャンネルを去ったのは、まさに戦争が始まったことが理由だ」と述べた。
また、ロシアのテレビはクレムリン(ロシア大統領府)のプロパガンダに利用されており、当局は長年にわたって独立メディアを抑圧してきたとの認識を示し、ロシア国民に自身のメッセージを聞いてもらい、プロパガンダによって「ゾンビ化」せず、別の情報源を探し始めてほしいと語った。
ロイターはアガラコワさんの発言についてクレムリンにコメントを求めたが、今のところ回答を得られていない。
第1チャンネルを巡っては、編集者のマリーナ・オフシャンニコワさんが生放送中に映り込み、反戦を訴えた出来事が今月にあったばかり。
●ウクライナ、中国の「目立った役割」に期待 戦争終結に向け 3/23
ウクライナのゼレンスキー大統領のイェルマック上級補佐官は22日、ロシアによるウクライナ侵攻の終結に向け、中国がより「目立った役割」を担うことを望むという認識を示した。
ゼレンスキー大統領が「非常に近いうちに」中国の習近平国家主席が対話すると期待しているとしつつも、詳細には踏み込まなかった。
イェルマック氏は「これまでのところ、中国は中立的な立場を示しているが、中国がこの戦争を終わらせ、新たな世界的な安全保障体制の構築で、より顕著な役割を果たすべきと確信している」と語った。
さらに、新たな安全保障の枠組みにおいて、中国がウクライナの安全保障に対する「保証人」となることに期待を表明した。
●マリウポリで大型爆弾投下、ゼレンスキー氏「市民避難の実現」訴え 3/23
ロシアによるウクライナ侵攻27日目の22日、ロシア軍に包囲された南東部マリウポリでは大型爆弾が投下された。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はイタリア議会でのビデオ演説で、マリウポリには「何も残っていない」と述べ、市民を避難させるようロシアに求めた。こうした中、エマニュエル・マクロン仏大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と停戦などについて協議した。
ゼレンスキー氏はイタリア議会での演説で、「あそこには何も残っていない。あるのは廃墟だけだ」と述べた。
南東部の港湾都市マリウポリは、ロシアにとって戦略上重要な都市で、数週間にわたりロシア軍の砲撃に耐えてきた。当局によると、住民は食料や医薬品がなく、電力や水道が止まった状況に置かれている。
ゼレンスキー氏が演説している最中、マリウポリ市議会はロシア軍が2発の大型爆弾を投下したと発表した。死傷者や被害状況の詳細は明らかにしなかった。
「占領軍はマリウポリという街に興味がないことが、またもや明らかになった。街から何もかもを消し、灰で覆われた死の土地にしようとしている」
ロシアは民間人に対する攻撃を否定している。
ゼレンスキー氏はこの日、ローマ教皇フランシスコと電話会談し、戦争終結に向けて仲介役となるよう要請した。
また、同日夜にはフェイスブックに毎夜投稿している演説動画で、「現在、約10万人が(マリウポリ)市内にいる。非人道的な状況にある。完全に封鎖されている。食料も水も医薬品もない。砲撃と爆撃が絶え間なく続いている」とした。民間人の避難はロシア軍に妨害されるなどしているが、22日には「7026人の市民が救出された」とした。
ゼレンスキー氏の演説に先立ち、ウクライナのイリナ・ヴェレシュチュク副首相も、民間人の避難を可能にする人道回廊の設置を改めて求めた。
ヴェレシュチュク氏によると、少なくとも10万人が避難を希望しているが避難できない状況だという。
ロシアは現地時間21日午前5時までにマリウポリが降伏すれば、同10時までに住民が避難できるよう人道回廊を開放すると提案したが、ゼレンスキー氏はロシアの最後通告には決して屈しないとしてこれを拒否していた。
ヴェレシュチュク氏は、南部ヘルソンの住民に人道支援物資を届けようとしているが、ロシア軍がそれを阻んでいるとも述べた。
ロシア報道官、「国の存続危機なら核兵器使用も」
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は米CNNのインタビューで、核兵器の使用を検討するかと問われ、「我々には国内の安全保障に関する概念がある。それは公開されており、核兵器が使用される条件はすべて確認できるようになっている」と述べた。
「もし、わが国の存続に関わる脅威があれば、我々の概念に沿って核兵器を使用することができる」
ウラジーミル・プーチン大統領は先月27日、戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令している。
ペスコフ氏が核兵器使用の可能性を否定しなかったことについて、専門家たちはロシアの核政策に変化があったと解釈すべきではないと指摘する。
セキュリティ企業「iSEC Partners」と「NGS Secure」の元主席セキュリティコンサルタント、マット・テイト氏は「これは長年にわたるドクトリン(原則)を改めて提示したものであり、今に始まったことではない」とツイートした。
「誤解を恐れずに言えば、(ロシアは)アメリカが核兵器についてパニックになるのを楽しんでいる。しかしこれは、(ロシアの)姿勢の変化とは切り離された発言だ」
仏大統領、プーチン氏と電話会談
こうした中、フランス政府はマクロン大統領が22日にロシアのプーチン大統領と電話会談を行ったと明らかにした。
マクロン氏はこれまで、ウクライナでの停戦と、現在も続く安全上の懸念についてプーチン氏と協議しているが、今回もこの問題について話し合ったという。
仏政府は声明で、「現在のところ合意はなされていないが、マクロン大統領が努力を続ける必要性を確信していることに変わりはない。停戦すること、そしてロシアがウクライナと誠実に交渉する以外に道はない」とした。
さらに、マクロン氏は「ウクライナと共にある」と付け加えた。
ロシアメディアも、両首脳の電話会談を報じた。国営通信社RIAノーボスチによると、会談はフランス側が提案した。インタファクス通信は、両首脳がウクライナの和平交渉について議論したと伝えた。
マクロン氏はこの日、ドイツのオラフ・ショルツ首相とイタリアのマリオ・ドラギ首相とも協議した。ウクライナ戦争を念頭に、欧州のエネルギー需要や食料安全保障の懸念について話し合ったという。
「生き地獄に耐えている」
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は米ニューヨークの国連本部で記者団に対し、ウクライナの人々が生き地獄に耐えていると述べた。そして、状況は刻々と破壊的かつ予測不可能なものになってきていると警告した。
「この戦争は足踏み状態にある」とし、この戦争に勝者はいないと述べた。
「ウクライナで戦争を続けることは道徳的に受け入れられず、政治的に弁解できず、軍事的に無意味だ。(中略)今こそ戦闘をやめ、平和にチャンスを与える時だ」
●「合意は戦争の“中止”ではない」ロシアとウクライナ、停戦協議の行方? 3/23
20日、ロシア軍がキエフの巨大ショッピングモールを砲撃し、8人が死亡した。また、激しい市街戦が繰り広げられているマリウポリでは、約400人が避難していた美術学校も砲撃され、多くの市民が瓦礫の下敷きになるなど、ウクライナでは市民への被害が甚大になっている。
ロシアの狙い、そして状況をどう見ているか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、ウクライナ出身で国際政治学者のグレンコ・アンドリー氏に話を聞いた。
「ロシアは当初の作戦が失敗してから、なりふり構わず大規模の攻撃に出ている。ここで大事なのは、ロシアは意図的に民間人を狙っているということ。わざと多くの民間が被害に遭ったり、死亡するようにミサイル攻撃などをして、ウクライナ人の戦意喪失を狙っている」
一方、ウクライナとロシアの停戦協議ではどのような話がされているのだろうか。トルコの日刊紙『ヒュリエット』では具体的な論点は6項目あるとし、次のように詳細を伝えている。
1.ウクライナの中立化
2.非武装化と安全保障
3.非ナチ化
4.ロシア語の使用制限の解除
5.東部ドンバス地域の帰属
6.クリミア半島の帰属
グレンコ氏はこの6項目について「あくまでもロシア側のみの要求であり、ウクライナ社会は絶対に認めないものだ」と述べた。
「交渉の中でも項目1の“ウクライナの中立化”については受け入れられても、特に項目2、3、4は絶対に認めない。この条件が飲めない以上、ロシアがそれを引き下がらない限り停戦交渉は成立しない。では、どの場合停戦に応じるのかというと、今回の攻撃でウクライナを全部制圧する見込みがないと判断したときになる。ただ、重要な点は仮に停戦合意が成立したとしても、あくまで戦争の延期になるだけで、中止にはならない。仮に停戦成立しても、その後、ロシアは次の戦争の準備を始めて、数カ月後または半年後に新しい戦争が起きる。それはロシアの目的が中立ではなくてウクライナを完全支配することだからだ」
ロシアはウクライナを完全支配するまでは軍事侵攻を続ける……。ウクライナ側には解決の糸口は見えていないのだろうか。
「見えていない。この対立は、ロシアの目的が変わらない以上、ロシアの支配または政権が崩壊し、政権交代するかのどちらかでしか解決しない。妥協はありえない」
●ベラルーシ軍、「近く」ウクライナ参戦の可能性 米・NATO当局者 3/23
米国と北大西洋条約機構(NATO)はベラルーシが「近く」ロシアの対ウクライナ戦争に加わる可能性があるとみている。複数の当局者がCNNに明らかにした。すでに参戦に向けた措置を取っているという。
NATO軍当局者の1人は21日、ベラルーシ参戦の可能性はますます高まっていると指摘。「(ロシア大統領の)プーチン氏は支援を必要としている。何でも助けになる」と説明した。
ベラルーシ反体制派の情報筋は、数千人規模の戦闘部隊が早ければ数日内にウクライナに入る準備が整っていると明らかにした。
これとは別にNATO情報当局の高官は、ベラルーシ政府が「ウクライナへの攻勢を正当化するための環境づくりを進めている」とのNATOの分析に言及した。
ロシアはウクライナ攻撃の一部をベラルーシ領から開始しており、先月の侵攻開始の前には「演習」と称してロシア兵数千人がベラルーシに集結していた。米欧の制裁ではロシアに加え、ルカシェンコ大統領を含むベラルーシの当局者も対象となっている。
ベラルーシは先月、ロシア軍と核兵器の恒久的な受け入れを認める憲法改正を行った。ただ、米当局者はCNNに対し、ロシアが核兵器を移動させたり移動の準備をしたりしている証拠はまだ見られないと強調している。
情報筋らは、ベラルーシが現在ウクライナでの戦闘に参加していることを示す情報はないと強調。米国防当局高官は、国防総省では「ベラルーシがウクライナ侵入を準備していたり、そのような合意をしたりした兆候」を確認していないとしている。
●ロシア、化学兵器部隊投入 ウクライナ東部に―英情報筋 3/23
ウクライナに侵攻したロシア軍が化学兵器を扱う部隊をウクライナ領内に投入したとみられることが分かった。英情報筋が22日、明らかにした。米欧などはロシアがウクライナで化学兵器を使用する可能性があるとみて警戒している。
化学兵器とみられる装備と関連部隊は今月中旬、ウクライナ東部の国境から親ロシア派武装勢力が支配するドンバス地方に入った。その後も東部にとどまっているもようだ。化学物質を搭載した弾道ミサイルか砲弾が実戦配備された可能性がある。
また、これらの部隊とは別に、核・生物・化学兵器(NBC兵器)戦に対応した特殊部隊もウクライナ領内に入った。情報筋は「いつでも(化学兵器を)使えるよう準備しているのかもしれない」と述べた。
●ロシア報道官「国が存亡の危機になれば核兵器使える」 牽制か 3/23
ロシアのペスコフ大統領報道官は22日の米CNNのインタビューで、ロシアが「存亡の危機」に直面すれば、核兵器使用は可能だとする考えを示した。
ペスコフ氏は「ロシアのプーチン大統領は核兵器を使用するか」と問われると、核兵器使用は「公にされているロシア国内の安全保障の概念」に基づくとの考えを示した。そのうえで、「もし我々の国が存亡の危機になれば、核兵器は使用できる」と述べ、ウクライナ侵攻をめぐる核兵器の使用の可能性を否定しなかった。
プーチン氏は2月下旬に核戦力を含む抑止力を「特別態勢」に移すように命じており、核兵器で威嚇している。
ペスコフ氏の発言は、2020年に公表された政策文書「ロシアの核抑止に関する基本原則」に基づくとみられる。同文書では、ロシアが「存亡の危機」の際に「核兵器を使う権利をもつ」と記載されている。
ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、北大西洋条約機構(NATO)が24日にブリュッセルで緊急首脳会議を開催。バイデン米大統領も参加し、ウクライナの軍事支援の強化を協議し、ロシアへの新たな経済制裁を発表する予定だ。ペスコフ氏の発言は、NATO側の動きを牽制(けんせい)する狙いもあるとみられる。
●ロシアは軍事的に何を誤ったのか ウクライナ侵攻 3/23
ロシアは世界有数の強力な軍隊を保有している。しかし、その強力な軍事力はウクライナ侵攻の開始当初、ただちにあらわにならなかった。西側の軍事アナリストの多くは、ロシア軍のこれまでの戦いぶりに驚いている。「みじめなものだ」と言う専門家もいる。
ロシア軍の軍勢はほとんど前進せず、これまでの損失から立ち直れるのだろうかと疑問視する人もいる。3月半ばになって、北大西洋条約機構(NATO)の軍幹部はBBCに対して、「ロシア軍は明らかに目的を実現していないし、おそらく最終的にも実現しないだろう」と話した。だとすると、いったい何がうまくいかなかったのか? 西側諸国の複数の軍幹部や情報当局幹部に、ロシアが何をどう誤ったのか、尋ねてみた。
事実誤認が前提に
ロシアの最初の間違いは、自分たちより小規模なウクライナ軍の抵抗力と能力を過小評価したことだった。ロシアの年間国防予算は600億ドル(約7兆2600億円)以上。対するウクライナはわずか40億ドル(約4800億円)余りだ。
同時にロシアは、多くの諸外国と同じように、自らの軍事力を過大評価していたようだ。ウラジーミル・プーチン大統領は、ロシア軍を大胆に刷新し近代化してきた。それだけにその威力を自分で信じ込んでしまった可能性もある。
イギリス軍幹部によると、ロシアの軍事投資の大部分は、大量の核兵器と最新兵器の実験に費やされてきた。極超音速ミサイルの開発などが、それに含まれる。ロシアは世界最新鋭のT-14アルマータ戦車を開発したとされる。モスクワの赤の広場で行われる戦勝記念軍事パレードでT-14アルマータが登場したことはあるものの、戦場には現れていない。これまで実戦に投入されているのは、旧式のT-12戦車や、装甲兵員輸送車、大砲やロケットランチャーだ。
侵攻開始当初、ロシアは明らかに空では有利だった。国境近くまで移動させた戦闘機の数はウクライナ空軍の戦闘機の3倍だった。ほとんどの軍事アナリストは、ロシア軍が侵略開始と共に直ちに制空権を掌握するものと見ていたが、実際にはそうならなかった。
ロシア政府は、特殊部隊も、素早い決着をつけるのに重要な役割を担うはずだと考えていたかもしれない。
西側政府の情報当局幹部がBBCに話したところでは、特殊部隊スペツナズや空挺部隊VDVなどが少数精鋭の先遣隊となり、「ごく少数の防衛部隊を排除すれば、それでおしまい」だとロシアは考えていたようだ。しかし、開戦間もなく首都キーウ(ロシア語ではキエフ)近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。このためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保しそこねた。
代わりにロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になっている。このため軍用車両の渋滞が発生し、渋滞すると予測できる場所も生まれ、ウクライナ軍からは急襲しやすくなっている。道路から外れて進もうとした重装甲車は、ぬかるみで身動きが取れなくなった。「泥沼にはまった」軍隊のイメージが、ますます強くなった。
この間、人工衛星がウクライナ北部上空で撮影したロシア軍の長大な装甲車の列は、いまだに首都キーウを包囲できていない。ロシア軍は主に、鉄道を使った補給ができている南部で、軍を進めている。イギリスのベン・ウォレス国防相はBBCに、ロシア軍が「勢いを失っている」と話した。
「(ロシア軍は)身動きが取れない状態で、じわじわと、しかし確実に、相当な被害をこうむっている」
かさむ被害と低い士気
ロシアは今回の侵攻作戦のために約19万人の部隊を集めた。そのほとんどはすでに戦場に投入されているが、すでに兵の約10%を失ってしまった。ロシア軍とウクライナ軍双方の戦死者数を正確に判断するための、信頼できる数字はない。ウクライナはロシア兵1万4000人を死なせたと主張するが、アメリカはおそらくその半数だろうと見ている。
ロシア兵の間で士気が下がっている証拠もあると、複数の西側当局者は言う。士気は「とてもとても低い」とさえ言う当局者もいる。別の政府関係者は、ロシア兵はそもそもベラルーシとロシアの雪の中で何週間も待機させられた挙句に、侵略を命じられたので、「凍えているし、くたびれて、腹を空かせている」のだと話した。
ロシアはすでに失った分の兵士を補充するため、国の東部やアルメニアなど遠方の予備役部隊さえウクライナに移動させている。シリアからの外国人部隊や、謎めいた傭兵組織「ワグナー・グループ」も、近くウクライナでの戦闘に参加する可能性が「きわめて高い」と、西側当局者は見ている。NATOの軍幹部はこれについて、「たるの底にあるものを必死でかき集めている」印だと述べた。
ロシア軍は基本的な部分でつまずいた。軍事には、素人は戦術を語るが、プロは兵站(へいたん、物資補給などの後方支援)を学ぶという古いことわざがある。ロシアは後方支援について、十分に検討していなかったと言える証拠がいくつもある。装甲車の縦隊は、燃料も食料も砲弾も足りなくなった。故障した車両は放置され、やがてウクライナのトラクターに撤去されていった。
複数の西側当局者は、ロシア軍は特定の砲弾も不足しつつあると考えている。巡航ミサイルを含め長距離精密誘導兵器をすでに850〜900発は使用済みだが、これは無誘導型の兵器よりも補充しにくい。この不足を補うため、ロシアは中国に支援を求めていると、米政府は警告している。
対照的に、西側諸国からウクライナへの武器供与は絶えることなく続いており、ウクライナ側の士気を高めている。米政府は8億ドル(約950億円)規模の武器の追加供与を、発表したばかりだ。対戦車ミサイルや地対空ミサイルが追加されるほか、アメリカ製の小型自爆ドローン「スイッチブレード」も含まれる見通しだ。スイッチブレードはバックパックで運べるサイズで、地上の標的に小型の爆発物を届けることができる。
一方で西側当局者は、プーチン大統領が今からでも「これまで以上に残酷な形で攻撃を激化させる」こともあり得ると警告する。ウクライナ各地の都市を「かなり長期間」攻撃し続けられるだけの火力は、まだ残っていると。
様々な問題が作戦の速やかな遂行を妨げているとはいえ、プーチン大統領は「後には引かないだろうし、むしろエスカレーションを選ぶかもしれない。ロシアが軍事的にウクライナを敗れると、おそらく今でも自信を持ち続けているだろう」と言う情報当局者もいる。そしてウクライナ軍は確かにこれまで激烈な反撃を続けてきたものの、相当量の補給が続かなければウクライナも「いずれは弾と兵士が尽きてしまう」とも、この情報関係者は言う。
開戦当初に比べると、ウクライナが圧倒的に不利な状況ではなくなっているものの、それでもウクライナの劣勢は変わっていないようだ。
●ロシア戦闘力、ウクライナ侵攻前の90%に低下=米高官 3/23
米国防当局者は22日、ロシアの戦闘力について、ウクライナ軍事侵攻前の約90%に低下したとの見方を示した。ロシア軍死傷者が増加している可能性がある。
ロシアは2月24日のウクライナ軍事侵攻前、国境付近に15万人以上の兵力を集結させ、本格的な攻撃のための戦闘機や戦車などを配備していたと米国は推定している。
米国防当局者は匿名を条件に記者団に対して「(戦闘力は)初めて90%を若干下回った可能性がある」と語った。根拠は示していない。
ロシア軍の攻撃は主に南東部の港湾都市マリウポリに集中している。米高官によるとロシア軍は直近24時間、アゾフ海からマリウポリに砲撃していた可能性が高い。ただ、同高官は「昨日はそうではなかった」と述べた。
ロシアは3月2日に兵士の死者498人、負傷者1597人に達したと発表したが、それ以降は死傷者数を公表していない。
ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は22日、ロシア側の死傷者数は推計数千人に上ると述べたが、正確な数字には言及しなかった。
●防弾チョッキ提供 ウクライナに武器輸出? 3/23
3月8日の深夜、愛知県の航空自衛隊小牧基地から飛び立った1機の自衛隊機。載せていたのは、ロシアの侵攻を受けているウクライナへの支援物資、自衛隊の防弾チョッキとヘルメットだった。日本が、まさに武力衝突が起きている国に、しかも、武器=防衛装備品の防弾チョッキを提供することは、前例がなかった。どのようにして前代未聞の支援が決まったのか、関係者への取材から深層に迫った。
きっかけは1通のレター
2月末、防衛大臣・岸信夫の手元に、英語で記された1通のレターが届いた。差出人は、ウクライナ国防相のレズニコフ。直筆のサインも添えられていた。「ウクライナ国民とウクライナ軍はロシアからの全面侵略を撃退している。親愛なる閣下に対し、この機会に、ウクライナへの最大限の実用的な支援、すなわち防御用の兵器、兵站、通信、個人防護品の物品供与をご検討いただけないか、お願いします」レターの日付は2月25日。ロシアによる軍事侵攻が始まった翌日だ。遠く離れた日本の防衛大臣に、軍事的な支援を要望する内容だった。そして、ウクライナ軍が特に必要としている支援物資のリストがずらりと並んでいた。
対戦車兵器、無人航空機…
「ウクライナ軍は、特に、対戦車兵器、対空ミサイルシステム、弾薬、電子戦システム、レーダー、通信情報システム、無人航空機、防弾チョッキ、ヘルメットが深刻に不足している。私は日本とウクライナの連帯が強固であることを信じている」レターを読んだ防衛省幹部の1人は、戸惑いを隠せなかった。確かに、ロシアによる一方的な侵攻は、国際秩序の根幹を揺るがす行為だ。日本もウクライナの主権と領土の一体性を支持しなければならない。しかし、ウクライナに軍事的な支援を行うことは「不可能ではないか」というのが率直な印象だったという。「日本には『防衛装備移転三原則』がある。殺傷能力のある武器は絶対に提供できない。しかも、軍事侵攻を受けているさなかの当事国への支援は難しいのではないか」「そもそも、弾薬なんか要求されても、旧ソ連系の兵器を使うウクライナ軍に、口径も違う日本の自衛隊が使う弾薬を送っても意味がない」
防衛装備移転三原則
「防衛装備移転三原則」。以前は「武器輸出三原則」と呼ばれていた。武器は海外に輸出しない、昭和40年代から日本政府が堅持してきたルールだ。これが平成26年に「防衛装備移転三原則」に衣替えして、厳格な審査のもと透明性を確保して、一部、解禁された。「安全保障環境が厳しさを増し、複雑・重大な国家安全保障上の課題に直面するなどして国際協調主義の観点から積極的な対応が不可欠だ」などという理由だった。ただ、武力衝突が起きている国への供与は前代未聞だ。ウクライナ側の要望に防衛省幹部が戸惑ったのも当然だった。岸も当初、日本ができる支援の枠組みを超えるものばかりだと感じたという。しかし、国際社会や日本の安全保障に与える影響を考えれば、ここでウクライナの要望を無碍にすることはできない。判断を迫られた岸は、こう指示したという。「何かできることがあるはずだ。できることを探せ」岸の命を受けた防衛省幹部は、至急、国家安全保障局、外務省、経済産業省などの関係省庁に対し、日本が提供できる支援物資を選定するよう話を持ちかけた。ここから、怒濤の調整作業が始まることになる。
各国は“異次元”の軍事支援
「できることを探せ」岸がそう指示した背景には、ウクライナへの前例のない軍事支援に乗り出す世界各国の姿があった。防衛省のまとめによると、3月18日現在、NATO=北大西洋条約機構の加盟国を中心に23の国とEUが、ウクライナに軍事支援を行っている。軍事支援の中心的な兵器が、対戦車ミサイル「ジャベリン」や、携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」だ。いずれも、持ち歩きが容易で機動性が高く、実際、ロシア軍の戦車や戦闘機の進軍を食い止めるのに大きな威力を発揮しているという。軍事支援の規模で突出しているのがアメリカだ。軍の部隊を派遣することは「第3次世界大戦につながりかねない」などとして、明確に否定しているが、ジャベリンの供与を中心に、追加的な支援を相次いで打ち出し、軍事支援は、バイデン政権の発足後、3月16日までに、あわせて20億ドル以上、1ドル=120円で計算して2400億円を超える規模に上っている。これまでの防衛政策を大きく転換した国々もある。ドイツは、ロシアによる侵攻開始のおよそ1か月前の1月26日、ヘルメット5000個を送ることを表明。しかし、ウクライナやドイツ国内の失望や不満を招いたことなどを受けて、その後、紛争地に武器を送らないという原則を転換。2月26日には、対戦車ミサイルやスティンガーなどの供与を発表した。NATO非加盟で中立国でもあるスウェーデンやフィンランドも、対戦車兵器の供与を相次いで発表した。アジアでは、韓国が軍服や装具類を、台湾が医薬品や医療器材の支援を表明した。「日本だけが取り残されるのではないか」こうした世界情勢の中で日本に何ができるかが問われていたと、防衛省幹部は振り返る。
自衛隊法の“壁”
日本がウクライナの要望に応えられる支援はあるのか。岸の命を受けて始まった政府内の検討で、いくつかのハードルをクリアする必要性が浮上する。その1つが「自衛隊法」だった。自衛隊法の116条の3は、開発途上にある国などに、自衛隊の装備品を譲与したり、廉価で譲り渡したりできるとする条文だ。結果的に、政府が今回の支援で使ったのはこのスキーム。しかし、条文で武器と弾薬は送れないことになっている。殺傷能力があるためだ。このため、レズニコフがレターで求めていた、対戦車兵器、地対空ミサイル、弾薬などを送ることは不可能だった。殺傷能力のある武器・弾薬を除いて、何を送ることができるのか。関係者によると、政府は、東京都内にいるウクライナの武官などと意見交換しながら、具体的な支援物資をリストアップしていったという。
絞られたリスト
その結果、候補として絞られたのは次の物資だった。
〈第1優先〉防弾チョッキ、ヘルメット、テント、発電機、防寒服、毛布、軍用手袋、カメラ、ブーツ。
〈第2優先〉医療器材、白衣、医療用手袋。
しかし、簡単にはいかない。問題になったのは、防衛装備移転三原則の細かなルールを定めた「運用指針」だった。防衛装備移転三原則では、一部、武器などの防衛装備品の輸出が解禁されたが、「厳格な審査」と「透明性の確保」が謳われ、輸出が可能なケースがルール化されている。
「紛争当事国」?
その第1原則では「紛争当事国」への輸出は禁止されている。ロシアの軍事侵攻に対して武力で立ち向かうウクライナは、「紛争当事国」に見える。しかし、外務省によると、防衛装備移転三原則で定義する「紛争当事国」は「国連安保理の措置を受けている国」。現在、該当する国はなく、過去に遡っても朝鮮戦争下の北朝鮮と湾岸戦争下のイラクしか該当しないのだという。ウクライナは「紛争当事国」ではないとして、防衛装備品を送れる可能性は残された。しかし、この原則以外で「運用指針」に引っかかることがわかったのだ。当初、防衛装備品にあたると考えられていたのは、防弾チョッキとヘルメットだった。防衛装備品に該当するかどうかは「輸出貿易管理令」で細かく定められていて、「防弾衣」と「軍用ヘルメット」が記載されている。しかし、同盟国でもなく、物品などに関する相互協力の協定を結んでもいないウクライナに防衛装備品を送る場合は、目的が「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5つに限定される。ロシアによる軍事侵攻が続いているウクライナは、どのケースにも当てはまらなかったのだ。運用指針“違反”となるため防弾チョッキとヘルメットは送れない。しかし、殺傷能力のある武器ではないし、ウクライナも必要としている。何とか送れないものか…。
“奥の手”
ここで浮上したのが、運用指針の“変更”だった。政府は、ウクライナを「国際法違反の侵略を受けている」国と明記。その上で、今回のやむをえないケースに限定するという形をとり、運用指針に新たな1項目を加える案をひねり出し、防衛装備品の防弾チョッキを送れるようにしたのだった。政府の動きは早かった。与党の自民・公明両党への説明を急ピッチで進め、運用指針の変更を図る。レズニコフからのレターが届いてから政府の方針決定・輸送開始まで、1週間余り。「異例のスピード」(政府関係者)での決着となり、初めて自衛隊の防弾チョッキが他の国に提供されることになった。一方で、ヘルメットは、防衛装備品の「軍用ヘルメット」に該当しないと政府は判断した。今回、ウクライナに送る「88式鉄帽」というタイプのヘルメットは、民間で類似の物が販売されていることなどが、その理由とされた。
土壇場で慎重論
政府は、運用指針の変更によって提供が可能となった防弾チョッキのほか、ヘルメットを支援の第1便として送ることを決め、3月8日、政府・与党内の手続きを済ませ、その日のうちに自衛隊機を出発させた。関係者によると、実は、政府内では、一時、ヘルメットの提供を見送る案があった。政府が防弾チョッキとヘルメットを送るという方針を発表したのは3月4日。その前日の3月3日の内部資料には、ヘルメットの記載がなかった。前述のドイツが批判を浴びた経緯を踏まえ、官邸サイドから躊躇する意見が出たためだったという。土壇場でこうした慎重論も出たが、ウクライナが強く求める物資だったため、最終的には送ることになった。その後も政府は、自衛隊の輸送機に加え、民間機やアメリカ軍の輸送機も使って、支援物資を送り続けている。
さらなる提供は?
ウクライナ側からは、さらなる支援を求める声が寄せられている。第1便が出発した翌日の3月9日、岸と面会した駐日ウクライナ大使のコルスンスキーは、防弾チョッキやヘルメットなどの提供に謝意を伝えた。その一方で、20余りの物資を新たに要望。この中には、戦闘用ナイフや銃の照準器なども含まれ、ウクライナは、殺傷能力のある武器の支援を求める姿勢を崩していない。ただ、政府関係者は、防弾チョッキが日本が提供可能な「ギリギリの防衛装備品」だとしている。
「この方法しかなかった」
政府の“奥の手”とも言える運用指針の変更。泥縄式に拡大解釈されていく心配はないのか。岸は、今回の対応で、防衛装備移転三原則が「形骸化することはない」と強調する。安全保障政策や防衛装備品の移転に詳しい拓殖大学国際学部教授の佐藤丙午は、懸念を示す一方、やむをえない対応だったと理解も示す。(運用指針を変更して防弾チョッキを送ることにした政府の判断について)「『こういうやり方でいいのかな?』とは思った。以前の武器輸出三原則では、官房長官談話を発表することで例外措置を重ねてきたが、それをいまの防衛装備移転三原則にする際に、移転できる範囲を厳密に決めて、『これ以降、例外措置を設けない』ということで運用指針ができた。それなのに、それをいとも簡単に変えてしまった。一方で、当初から硬直的と言われてきた防衛装備移転三原則を、政治判断で運用指針を変更することで障壁を突破する道をつくったことはプラスにも評価できる。今回のケースでは、政府がとった方法しかなかったのではないか」
くすぶる不満も
「日本にとって、決して対岸の火事ではない」ロシアによるウクライナ侵攻を受け、最近、政府内でよく聞かれるフレーズだ。今、政府内にある危機感は、今回のロシアの力による一方的な現状変更の試みを国際社会が許してしまえば、アジアでも同じような事態が起こりかねないということだ。東シナ海や南シナ海では中国が海洋進出を強めていて、「台湾有事」という言葉も聞かれる。今回、政府は、ウクライナに限定する形で防弾チョッキを送れるようにする見直しを行ったが、自民党内には、ウクライナに限定するのではなく、他の国・地域にも送れるように対象をもっと拡大すべきだったという不満もくすぶる。もし今後、ウクライナ以外の国・地域で同様の事態が起きたら、国際社会の中で、日本がどのような立場をとり、対応すべきなのか。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、政府は、防衛力を抜本的に強化するため、防衛政策の大方針を定めた安全保障関連3文書=「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」を、ことしの年末までに改定する方針だ。日本の平和と安全を守るために、どのような施策が必要なのか。検討が急がれる。
●強力制裁、ロシア痛撃 戦後最大の包囲網―日米欧「抜け道」警戒 3/23
ウクライナに軍事侵攻したロシアに対し、日米欧が第2次世界大戦後で最も強力な経済制裁を科し、包囲網を狭めている。急激なインフレや外貨不足がロシア経済を直撃する一方、ロシアにとって最大の貿易相手国である中国が制裁の「抜け道」をつくるとの観測も消えない。国際経済秩序は新たな試練に直面している。
「ロシアは世界経済の亡国となる」。バイデン米大統領は先進7カ国(G7)とともに、「金融版核兵器」と称される劇薬を一斉に投入した。ロシア中央銀行が保有する外貨建て資産を凍結したほか、米欧が主導する銀行決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行を排除。米国は基軸通貨であるドルの紙幣供給まで禁止しており、ロシアの国民生活にも打撃が及び始めた。
通貨安に外貨不足、高インフレ―。米議会調査局は「ロシア経済は旧ソ連時代末期のようになる」と分析する。ルーブル相場は侵攻前の1ドル=70〜80ルーブル台から侵攻後に一時150ルーブル台へ急落。輸入品も値上がりし、ロシアの物価は1年で2倍になる勢いだ。16日が利払い期日だった外貨建てロシア国債のデフォルト(債務不履行)は回避されたが、今後も返済期限が迫るためデフォルト懸念はくすぶる。
一方、経済制裁をめぐる日米欧の対応には、ロシア経済への依存度によって温度差もある。バイデン氏は「ロシア経済の大動脈を標的にする」としてロシア産原油の輸入を禁止したが、21日時点でG7のうち禁輸などの制限措置を表明した国は、輸入量が少ない米国、英国、カナダのみ。対ロシア貿易を優遇する「最恵国待遇」を撤回し、輸入品に北朝鮮並みの高関税を課す措置も、G7首脳声明の表現は「努力目標」止まりだ。
「経済制裁は宣戦布告のようなものだが、そうなっていないのはありがたいことだ」。ロシアのプーチン大統領はG7の歩調のずれを見透かし、余裕を見せた。中国からロシアへの半導体輸出、中国人民元とルーブルの決済網統合、中国によるロシア産エネルギーの購入拡大。ロシアはこれら中国の支援を後ろ盾にする構えだ。中国の習近平国家主席も「全方位、無差別の制裁で被害を受けるのは一般庶民だ」と対ロ制裁に強く反対している。
ウクライナ危機は日米欧と中ロ両国との対立の構図を浮き彫りにした。米国は、東西融和の象徴としての役割も担ってきた世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)におけるロシアの特権剥奪や、「ドル離れ」が加速することを覚悟の上で追加の金融制裁を視野に入れる。
ロバート・ゼーリック元世界銀行総裁は、米英中とオランダの4カ国による日本の経済封鎖が第2次大戦の遠因になったことを念頭に「経済のブロック化が再び鮮明になる」と予想。ウクライナ危機が新たな世界大戦の引き金になりかねないと警鐘を鳴らす。
●ロシアで「プーチン支持率70%超」報道の胡散臭さ 実際はどれくらい? 3/23
ロシアの世論調査で、ウラジーミル・プーチン大統領(69)の支持率が70%を超えたと発表され、日本でも複数のメディアが報じた。
時事通信は3月12日、「ウクライナ侵攻後、支持率70%超に上昇 ロシア調査でプーチン氏」の記事で以下のように報じた。
《ロシア政府系の「全ロシア世論調査センター」は11日、同国のウクライナ軍事侵攻後、プーチン大統領の支持率が70%超に上昇していることを示す調査結果を発表した》
朝日新聞デジタルも12日、「プーチン氏支持率77%、侵攻前から10Pアップ 政府系世論調査」と報じた。
また「PRESIDENT Online」も10日、「『プーチン大統領の支持率が71%に』ロシア国民がウクライナ侵攻に賛成する深刻な理由」を配信している。
だが、さるメディア関係者は、こうした報道に「違和感がないといえば嘘になります」と言う。
「何しろロシアには言論の自由が存在しません。更に今のロシアはウクライナに侵攻しており、いつも以上に愛国的な世論を作り出そうと画策しています。ところがどの記事も、『支持率が本当に70%もあるのか?』という疑問は指摘していません。これではミスリードと言われても仕方ないのではないでしょうか」
従来は「支持率60%」
プーチン政権に対する“本当の支持率”は一体どのくらいなのか、筑波大の中村逸郎教授(ロシア政治)に訊いた。
そもそもウクライナ侵攻前は、どれくらいの支持率だったのだろうか。
「ロシアには世論調査を行う会社が複数ありますが、いずれも政府系です。調査方法は対面か電話ですので、調査の対象に選ばれたロシア国民にとっては、自分の名前や住所、連絡先などの個人情報を抑えられているという不安があります。この時点で、公正な世論調査は期待できないと考えるべきでしょう」
ウクライナ侵攻前は、支持が60%、それ以外が40%程度だった。
「支持の60%も信頼の置ける数字ではありませんし、残りの40%も基本は『回答しない』でした。今も昔も、ロシア人が世論調査で面と向かって『プーチン大統領を支持しない』と回答することはリスクなのです。とはいえ、こうした世論調査が全く参考にならないかと言えば、それも違うと思います。6対4という数字から、様々な分析を行うことは可能だと考えます」(同・中村教授)
都市部と農村部
例えば、都市部では「反プーチン」、農村部では「親プーチン」の傾向があるという。この場合、性別や年齢の違いは関係ないようだ。
「プーチンの権力基盤は、自分の仲間に“特権”を与えることで強固なものになりました。大統領に就任すると、故郷の友人など、気の許せる腹心を新興財閥のリーダーに据え、彼らに資金や公有地を違法に供与することで巨額の利益を得られるシステムを作り上げたのです。恩義を感じた仲間がプーチンに忠誠を尽くしたことで、長期政権が可能になりました」(同・中村教授)
“コンプライアンス”を重んじる西側社会では、“禁じ手”と言っていい。もし日本の首相が国有地を無料で民間企業に譲渡したことが発覚したら、内閣は総辞職となり、逮捕者が出ても不思議ではない。
こうした癒着や腐敗をどう受け止めるか、都市部と農村部では差があるという。
「やはり農村で農作業に従事している人々は、なかなかプーチン政権の癒着や汚職に気づきにくいでしょう。都市部であれば、新興財閥に勤務している人もいます。自分たちのトップが、どれほど法的に問題がある行動をしているか、よく分かっている社員もいるわけです。こうして一般的に、都市部の住民のほうが『反プーチン』色は強いという傾向がありました」(同・中村教授)
ロシアの腐敗
話は少し脇道に逸れるが、プーチン政権はトップから腐敗しているのだから、ロシア中に腐敗が蔓延している。
「ロシアで腐敗している組織として、庶民に最も身近なのが警察です。ロシア人にとって警察とマフィアは似たようなものです。些細な交通事故でも難癖をつけ、賄賂を要求してきます。更にロシア軍の腐敗も深刻です。軍事費を横流しして蓄財したり、様々な密輸ビジネスに軍幹部が手を染めたりしています。軍事費が正しく使われなかったことが、ウクライナ侵攻で苦戦している原因だと指摘する専門家もいるほどです」(同・中村教授)
ただ、ロシア軍がウクライナに侵攻しても、「最初は世論の反応は鈍かった」と中村教授は分析している。
もちろん、支持率が60%から70%に上昇したという調査結果は信用できない。だが、60%から50%に下落したような気配もなかった。
後で詳しく説明するが、インターネットを利用し、「プーチン政権の支持率は10%」と発表した世論調査もあるという。これが参考になるようだ。
「インターネット調査の数字は、欧米が厳しい経済制裁を科し、日常品の値上がりが大問題になってから発表されたものです。実際に侵攻が始まった時期とは“タイムラグ”がありました。こうした動きを見ますと、ロシア人は当初、それほどウクライナ侵攻を問題視していなかった。それが経済制裁を身近に感じると、急速にプーチン大統領の支持率が下落した可能性が浮かび上がるのです」(同・中村教授)
急激に下落する支持率
中村教授は「注意が必要なのは、ネット調査による支持率10%という結果も、同じように信用はできないということです」と言う。
「ウクライナ侵攻で、いつも以上に言論の自由が制限されています。調査するほうも様々な手を尽くしているとは思いますが、どうしてもサンプルは都市部に住む若者に偏ってしまうでしょう。それを考慮した上で、経済制裁がロシア国民に与えたインパクトを見るには、興味深いデータだと言えるのではないでしょうか」
ちなみに都市部であれ農村部であれ、ロシアの若者層は「反プーチン」が増えているという。
「彼らは生まれた時からプーチン大統領だったわけです。若者層はスマートフォンなどを使い、欧米のメディアにも接しています。アメリカでもイギリスでもフランスでもドイツでも、国のトップは変わるし、政権交代は起きることを知っています。『それに比べて、自分たちの国は遅れているね』という意識は高いのです」(同・中村教授)
結局のところ、支持率70%とか10%という数字も信じられないが、正確なパーセンテージも分からない。
ひょっとすると50%かもしれないし、30%かもしれない。何しろ今のロシアでは、国民が正直に支持や不支持を回答し、それを正確に集計して発表する世論調査は存在しないからだ。
テレビで「戦争反対」
ただ、プーチン大統領の支持率がどんどん下降していることだけは間違いないという。
今後、プーチン政権の支持率がどれほど下がるのかを考える際、中村教授は「ロシア国営テレビの職員が放送中に反戦を訴えたことが世界中で注目されました。あの影響は大きい可能性があります」と言う。
3月14日、ロシアの国営放送「第1チャンネル」の午後9時から放送される看板ニュース番組「ブレーミャ」で、「戦争反対」と書かれた大きな紙を持った女性が画面に映った。
紙には《「戦争反対」という英語とともにロシア語で「戦争をやめて。プロパガンダを信じないで。あなたはだまされている」と書かれていました》という。
《ロシアのメディアによりますと、女性はこのテレビ局で編集担当者として働くマリーナ・オフシャンニコワさん》
オフシャンニコワさんには今のところ、日本円で約3万2000円の罰金を科す判決が下った。
だがこれは、“余罪”に適用されたものだということも判明している。SNSで反戦デモの参加を呼びかけたことに対する判決であり、テレビで反戦を訴えたことは審理に含まれていない。
もしロシア政府が本気でテレビでの罪状も追及するつもりなら、最大で禁錮15年の判決が下る可能性が取り沙汰されている。
口コミの威力
オフシャンニコワさんの行動は、ロシア国民の世論を変えてしまうだけのインパクトがあるという。
「指摘したいのは、特に農村部への影響です。農村の高齢者はインターネットに触れていないので、ウクライナ侵攻に関する知識はそれほどなかったはずなのです。ところが、この『ブレーミヤ』という番組は、喩えて言うならNHK総合の『NHKニュース7』(毎日・19:00)や、『ニュースウオッチ9』(平日・21:00)といった番組以上の影響力を持っているのです。農村部の高齢者には、毎晩、必ず『ブレーミヤ』を見て寝る、という人も少なくありません。彼らは今、『何が起きたのか』と驚き、情報収集を行っているはずなのです」(同・中村教授)
ネットをあまり使わない高齢者は、どうやって情報を集めるのか。
「ソ連崩壊の時もインターネットはありませんでした。ロシア人は親しい人との会話や、農村部に住む高齢者の場合は電話で都市部に住む孫から教えてもらったりすることで、共産党が追い詰められていることを把握したのです。今は経済制裁による苦境も口コミのネットワークで情報が流布しているはずですが、それにオフシャンニコワさんのことやウクライナの情勢などが加わっているはずです」(同・中村教授)
第1チャンネルの腐敗
プーチン政権としては、オフシャンニコワさんを黙らせたいが、厳罰に処すると“やぶ蛇”になるリスクも承知しているという。
「もしオフシャンニコワさんが突然、消息不明になったら、欧米のメディアは大きく報道するでしょう。重い懲役刑が科せられても同じです。強攻策に出ると、欧米だけでなくロシア国民からもオフシャンニコワさんの擁護論が高まるかもしれません。最悪の場合、ロシア人のプーチン政権打倒の運動に火を付けてしまうかもしれないのです」(同・中村教授)
複数の識者が「戦争反対の紙が画面に映った瞬間の不自然さ」を指摘している。中村教授も「同感です」と言う。
「女性アナウンサーの背後で大ハプニングが起きたにもかかわらず、彼女は振り向きもしませんでした。カメラマンも微動だにせず、綺麗な状態で『戦争反対』の文字が映し出されました。何らかの形で事前に打ち合わせをしていた可能性はあると思います。そもそも第1チャンネルこそ、プーチンの腹心がトップに据えられたという政権の腐敗を象徴するようなテレビ局なのです」
そうしたテレビ局の現状を憂いていた人々が、ウクライナ侵攻で「反プーチン」の決意を固め、オフシャンニコワさんに協力した──こんな可能性もあるという。
ロシアのジャンヌ・ダルク
中村教授は「場合によってオフシャンニコワさんは、ジャンヌ・ダルクのような“シンボル”に祭りあげられる可能性もあります」と指摘する。
「プーチン政権としては、ロシア国民がオフシャンニコワさんのことを忘れてもらうのが理想的でしょう。罰金刑にとどめておけば、もう話題になることもなく、うまくごまかせるかもしれません。その一方で、プーチン政権がどんな対策を講じても、ロシア人の怒りは激しく、オフシャンニコワさんのシンボル化が進む可能性もあります。果たしてプーチン政権反対のデモがロシア中で更に激化するかどうか、今は注視する時期だと考えています」
●情報機関がプーチンに反旗?ロシア内部に大きな亀裂の兆し 3/23
プーチン大統領がなぜウクライナ侵攻を決意したのか。様々な専門家が多様な理由や見方を語っており、おそらくプーチンの決意には多くの要素が複雑に絡んでいるのだろうと思われる。
今回、プーチンのウクライナ侵攻に際しての主張を見ると、「ロシアとウクライナが分かれた1991年のソ連崩壊は我々の歴史における大惨事だ」「両国の分離を長期にわたって許せば、先祖の記憶を裏切るだけでなく、子孫からも呪われるだろう」「ウクライナ問題の解決を次世代に委ねない歴史的責任を自ら負ったのだ」とし、さらに、「ウクライナが東部の親ロシア派に対しジェノサイド(集団虐殺)を行っている」「ウクライナは、ロシアの安全保障にとって脅威だ」「ウクライナを非ナチ化する」などと主張している。
こうしたプーチンの主張が正しいかどうかはともかく、プーチンの決意の裏にはKGB(ソ連国家保安委員会)時代に培われた情報機関員としての視点、思考などが大きく影響していると考えられる。
プーチンに影響を与えたKGBの思想
プーチンは元々、KGBの職員で、ソ連崩壊後は、KGBの後継組織FSB(連邦保安庁)の長官も務めていた。東ドイツでは、KGBから派遣されて東ドイツ国家保安省(MfS、通称「シュタージ」)に対する指導や指示をしていたようだ。シュタージは、東ドイツ国民に対する徹底した監視活動を行い、相互監視や密告を国民に強制し、一時期はKGBを凌ぐような巨大組織だった。プーチンは、1975年にKGBにリクルートされ、1990年まで在籍していたが、1989年のベルリンの壁の崩壊を体験し、ソ連の崩壊後はKGBが解体される惨状も目の当たりにした。
プーチンが在籍していた頃のKGBの歴代議長は、ユーリ・アンドロポフ (1967年5月から1982年5月まで就任)など4人だが、中でもアンドロポフは、その後最高指導者である共産党中央委員会書記長に上り詰めるほどの人物だった。
KGB時代、アンドロポフは、「人権のための闘争はソビエトの国家基盤を弱体化させる帝国主義の陰謀である」と主張し、反体制派を弾圧するためにKGBに第5総局を設立した。
この第5総局にはプーチンも所属していた。アンドロポフは、1968年にチェコスロバキアで発生した「プラハの春」はCIAなど西側情報機関の陰謀によるものだということを、証拠もないのに頑なに信じていた。
当時のKGBでは、アンドロポフに限らず、イデオロギーにとらわれた硬直した官僚組織の軛(くびき)から脱することができず、「ソ連は超大国だ。すべてにおいて西側を上回らなければならない」という幻想と、「共産主義は資本主義より優位だ」というイデオロギー、「すべては西側の陰謀だ」という妄想から、解き放たれなかった。ソ連にとって都合の悪い情報は無視する、そして官僚たちの自分の地位を頑なに守る、という姿勢がソ連の崩壊を早めた。
プーチンが今回、ウクライナに侵攻した理由には、このKGB時代の思想が色濃く影響していると言えるだろう。
情報機関の支持を失いつつあるプーチン
報道によれば、ウクライナ侵攻後、FSB(連邦保安局)で外国の諜報活動を担う部門のトップ、セルゲイ・ベセダが自宅軟禁された模様だ。プーチンはFSBの第5局に対する弾圧を始めたとも言われている。
第5局は侵攻に先立ち、ウクライナの政治情勢を報告する任務にあったが、プーチンを怒らせることを恐れて、ウクライナ軍の士気、ゼレンスキー政権の統率力、民衆の支持状況などについて、耳ざわりの良いことだけを報告していたようだ。こうしたことは、情報機関にとって、本来タブーとも言える行為だ。
また、FSBの「内部告発」とされる文書がインターネット上に流出し、「勝利の選択肢はなく、敗北のみだ。仮にウクライナを占領したとしても、統治に50万人以上の要員が必要だと指摘し、前世紀初めを100%繰り返しているとして、日露戦争の敗北にもなぞらえた」とされる。
ウクライナの国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記が明かしたところでは、 「チェチェンのカディロフツィ(チェチェンを事実上統治する準軍事組織)が、ゼレンスキー大統領を暗殺する特別作戦を行っていることを我々は分かっている。というのも、今回の血なまぐさい戦争に参加したくないFSBの内部から情報を受け取っているからだ。そのおかげでカディロフツィの特殊部隊を破壊できている」とFSBから内通があることを暴露した。
さらに、侵攻3日前の2月21日の安全保障会議で、「SVR」(ロシア対外情報庁)長官ナルイシキンが、ウクライナ東部の独立承認を求めるプーチン氏への返答に窮する場面がテレビで放映された。
こうした報道が事実ならば、一枚岩だったはずの情報機関内部に大きな亀裂が生じ、ロシアの現体制の根本を揺るがしていることがうかがわれる。
KGBが支えたゴルバチョフ
ソ連時代から情報機関は巨大な組織として君臨し、国内の反体制派の弾圧、西側の政治、経済、科学技術など、あらゆる情報を集めて時の政権を支えてきた。かつて最初で最後の大統領となったゴルバチョフは、KGBの強い支持を得ていたことが最高指導者になった大きな理由だと言われている。
ミハイル・セルゲーエヴィチ・ゴルバチョフは、ソビエト連邦最後の最高指導者で、ソ連共産党中央委員会書記長、大統領となった人物だ。1985年3月、チェルネンコの死去を受けて党書記長に就任。その時、書記長の座を狙う、ゴルバチョフの有力なライバルとして、重工業・軍事工業担当書記グリゴリー・ロマノフ、モスクワ党第一書記ヴィクトル・グリシン、外相アンドレイ・グロムイコなどがいた。これらの強力なライバルを押しのけてゴルバチョフが書記長に就くことができた理由は、当時、KGBがゴルバチョフに強く肩入れしていたことによる。
KGBは、ソ連の経済水準が米国の経済優位にもはや追い付ける状況ではなく、当時のソ連国民が抱いていた「ソ連は米国に匹敵する世界の超大国である」との傲慢な意識とソ連の現実が大きく乖離していることをよく知っていた。また米国の情報機関がソ連経済の困難につけ込んで、深刻な経済的打撃を与える計画を立てているとも確信していた。
KGBは、こうした深刻な事態を打開するためには、チェルネンコに代わる若くて新しい考えを持つ指導者を選び、体制を刷新しなければソ連経済の困難に終止符を打てないと考えていた。そこでKGBはゴルバチョフを支えることに全力を挙げ、持てる情報のすべてをゴルバチョフにだけ報告した。その結果、ゴルバチョフは他の有力候補者に大きく水をあけることに成功した。
こうしたゴルバチョフの例を挙げるまでもなく、当時のソ連では、党、軍、そして情報機関を掌握することが最高権力者の必須条件と言われた。今、情報機関の支持を失いつつあるプーチンは、この苦境をどう脱するのだろうか。
強気で強面を演出するプーチンの杞憂は、実は途轍もなく深く、未来への光が見えない闇の中をもがいているのかもしれない。
●反プーチン政権のナワリヌイ氏 新たに懲役9年で刑期大幅延長  3/23
ロシアの反体制派の指導者で、刑務所に収監されているナワリヌイ氏についてロシアの裁判所は22日、新たに詐欺などの罪で懲役9年の判決を言い渡し、刑期が大幅に延長されることになりました。
プーチン政権を批判する急先ぽうとして知られるナワリヌイ氏は2020年8月、ロシア国内を旅客機で移動中に突然、意識を失い、ドイツの病院に搬送されました。
このときドイツ政府は、ナワリヌイ氏が旧ソビエトで開発された神経剤と同じ種類の物質で攻撃されたと発表し、ロシア政府の関与が疑われる毒殺未遂事件として世界に衝撃を与えました。
その後、療養先のドイツからロシアに帰国した直後、過去の経済事件を理由に逮捕されましたが、収監されている今も支援者を通じて刑務所からSNSで政権批判を続けています。
特にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってからは人々に反戦デモなどを呼びかけていて、神経をとがらせるプーチン政権としては、ナワリヌイ氏に対する締めつけを強めるねらいがあるものとみられます。
判決のあとナワリヌイ氏はツイッターで「人をだます、泥棒のようなプーチン政権に対抗し、この戦争犯罪人に反対するあらゆる行動を」と投稿し、人々に、政権への抵抗を続けていくよう訴えました。
ロシアの裁判所による判決で、ナワリヌイ氏の刑期が大幅に延長されることになったことについて、アメリカ国務省のプライス報道官は22日、記者会見で「いかさまの裁判だ。反体制派や表現の自由に対するロシア政府による弾圧の1つの例だ」と強く非難し、ナワリヌイ氏の即時釈放を求めました。
●「全部ロシアが悪い」岸田首相がキレて媚プーチン外交から脱却へ 3/23
岸田文雄首相がついに、感情を露に猛反発をみせた。
「すべてロシアによるウクライナ侵攻に起因して発生している。今般のロシアの対応、これは極めて不当であり、断じて受け入れることができない。逆に日本国として強く抗議をするところであります」
22日午前の参院予算委員会で、岸田首相はいつになく強い語気でこう話した。21日にロシア外務省が発表した「対日平和条約交渉」の決裂声明に対する「日本の返答」だ。外相経験者が言う。
「アメリカからもたらされる軍事情報は、官邸と市ヶ谷自衛隊本部に集中していることから、今、外務省は脇に追いやられています。戦火が拡大している現状ではやむを得ないのかもしれないが…。
今日の岸田発言は、ロシアのウクライナ侵略が一段と深刻になるという情報が背景にあるのでしょう。ここ一週間ほどで、さらに大きな動きになるという判断もあるのではないかと。
安倍晋三元首相は、アメリカ大使と会談して以降、発言をピタリと止めました。彼は親プーチンでしたから。そして外務省も、今や外交的にロシアや中国に気を遣うことを諦めたように見えます」
この外相経験者は、「この戦争は、一気に停戦となるのかもしれない」とも言う。それぐらい「Xデーが近づいている極めて緊迫した情勢」だと付け加えた。
どのような形にせよ、ウクライナ国内は今後も非道にさらされ、混沌とした政情が続く。
直近の岸田政権支持率調査は、支持率微増または微減と小幅な振幅にとどまり、総じて比較的高い水準を示しているが、そこに明確な「理由」はない。
「岸田首相の政権運営、失点最小限大作戦は効を奏している。何もしないから、反発もない。しかし、今回のスピード感のある『猛反発』で存在感を示した。一方、頭越しにやられた感のある外務省は、この対応に右往左往しています」(岸田首相周辺)
岸田政権にとって不測の事態続きとはいえ、だからこそ、切羽詰まった内外情勢をどのように乗り切るか政治家としての器量が問われるところだ。
「この国際的な危機に、これまでのような何もしない作戦では政権を運営できません。各省庁との連携も含め、政権を強固にしなければ」(同前)
エネルギー関連の危機が迫り、また国民に節電を呼びかける事態にもなっている今、東欧の戦争は「遠い国の出来事」ではない。政権の知恵と明確な態度、リーダーシップが期待されている。 
●ウクライナでの戦争が変える世界秩序−プーチン氏の思惑とは別物に 3/23
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻開始を軍に命じた2日後、国営通信社RIAノーボスチは勝利が目前に迫っていることを前提にした記事を配信した。西側諸国による支配の終わりや米国と欧州大陸諸国との結束の分断、世界における公正な地位へのロシアの復帰を特徴とする「新時代」を祝うものだった。
ウクライナでの戦争が激化するにつれて、同国とロシア、ベラルーシを一体化させた単一の「ロシア・ワールド」の到来を告げるのはよくても時期尚早の様相を呈し、同通信社はすぐに記事の掲載を取りやめた。ただ、プーチン氏が下した侵略の決断が国際秩序を変革しつつある様子だと指摘した部分は正しいだろう。それが必ずしも同氏の計画した形ではないとしても。
ドイツ、英国からバルト3国に至るまで、従来の西欧諸国防衛の基準はズタズタに引き裂かれた。大規模戦争はもはや考えられないものではなくなり、各国政府は国防費や購入すべき装備品、どのように戦闘を行う必要があるかについて再検討している。
欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は米国と袂(たもと)を分かつのではなく、むしろ結束強化に動いた。プーチン氏がウクライナ侵攻前に要求したような1990年代のNATO拡大前の規模に縮小する代わりに、NATO加盟国は東方への3000人規模の増派に加え、ヘリコプターや戦車、戦闘機も配備し、ロシア側が戦場拡大の決断を下すのを抑止しようとしている。
英国統合軍司令官を務めたリチャード・バロンズ退役陸軍大将は「今は皮肉に聞こえるかもしれないが、この戦争がどうなるにしても、プーチン氏によるウクライナ攻撃はロシア、やがては中国と対抗することができるよう、態勢立て直しに必要な時間を欧州に与えていると歴史家は指摘するだろう。ウクライナが大きな代償を払うことでわれわれは時間稼ぎをしている」と語った。
欧州にとって大きな問題はこの与えられた時間の使い方だ。国防費の1000億ユーロ(約13兆4000億円)増額を発表したドイツの例は最も顕著なものの一つで、これは対ロシアだけでなく欧州内の力の均衡にも影響する。
ショルツ独首相はまた、年間国防支出をNATO目標である国内総生産(GDP)比2%以上と、昨年の同1.53%から増やす方針を表明。現在の独GDPに基づけば年間210億ドル(約2兆5400億円)の増額を意味し、ロシアの国防予算全体の約3分の1に相当する。
プーチン氏についてかねて警鐘を鳴らしていたバルト3国を含め、他の国々も国防費の増強に動いている。実現するかどうかは不透明ではあるものの、NATOには恒久的な基地設置や長距離対空システムを求めてもいる。
こうした状況が示唆するのは欧州における安定回復ではなく、安定が失われたことの認識だ。米国家安全保障会議(NSC)で欧州・ロシア担当上級部長を務めたフィオナ・ヒル氏は先週、デンバー大都市圏州立大学のイベントでプーチン氏のウクライナ侵略について、「帝国主義以降・植民地主義以降の土地争奪だ」とし、「これを容認すれば、前例をつくることになる」と指摘した。
プーチン氏はなおも目標の一部を達成することができるかもしれない。さらに、同氏は自身の誤りを認めるよりも、ロシアの孤立やウクライナおよび欧州の恒久的な不安定化を選択するであろうことがあらゆる兆候からうかがわれる。敗北は同氏の政治的生き残りに疑問を投げ掛けることになりかねない。
それでもロシア軍はウクライナでの戦争で打撃を被り、精密誘導ミサイルの在庫は枯渇した。米統合参謀本部議長の特別補佐官だったマイケル・マザー氏は、こうした戦況の結果、現在の戦争の壊滅的なエスカレーションがなければ、ロシアがNATOに戦争を仕掛ける可能性は2月24日のウクライナ侵攻の前よりも減じるだろうとみる。
しかしマザー氏によれば、欧州の安全保障秩序には一段と憂慮すべき変化が待ち受けている。超大国間の安定は現状維持についての何らかの相互合意に依存しており、1960年代以降の旧ソ連との間でもそれは達成されたが、プーチン氏支配下のロシアとの間では決して成立したことはなく、冷戦後のNATOの東方拡大の見識がどうであれ、現在では不可能と考えられるという。
マザー氏はロシアがウクライナに侵攻した今となっては、「地政学的パートナーとして扱えるような体制がクレムリンにはなく、屈辱感を強めて超国家主義的かつ、衰退の道をたどる危険な超大国と絶えず対立する状況にわれわれは置かれている」と説明した。
一方、退役陸軍大将のバロンズ氏は、プーチン氏のウクライナ侵略で欧州全域にこれほどまでの衝撃が広がった理由は、極超音速兵器やサイバー・情報・経済戦争の時代にあっては、距離はあまり守りにはならないことを誰もが突如、理解したことにあると分析。「90分もあればロンドンに複数の巡航ミサイルが飛来する」と語った。
●ロシアはなぜ侵攻したのか? ウクライナ危機の背景 3/23
ロシアが2月24日にウクライナに攻め込み、戦争が始まりました。ウクライナ市民の犠牲は増え続けており、国際社会からはロシアへの厳しい非難の声が上がっています。ロシアはなぜ、「兄弟国」とも言われた隣国に侵攻したのでしょうか。「ウクライナ危機」の背景をまとめました。
Q ウクライナってどんな国? ロシアとの関係は?
A ウクライナは東をロシアに、西を欧州連合(EU)の国々に挟まれた、人口4千万人を超える国です。面積は日本の1・6倍、耕地面積は農業国フランスの1・8倍もあり、小麦などがたくさんできることから「欧州のパンかご」とも呼ばれます。国旗の空色・黄色の2色は、青空と小麦の黄色い畑を表しています。
今の首都キエフに生まれた「キエフ公国」(キエフ・ルーシ)が10〜12世紀に欧州の大国となり、同じ東スラブ民族からなるロシア、ウクライナ、ベラルーシの源流になりました。ルーシとはロシアの古い呼び方です。
13世紀のモンゴルによる侵攻などで、キエフ・ルーシは衰退。その後に栄えたモスクワがロシアを名乗り、キエフ・ルーシを継ぐ国と称しました。ウクライナは東スラブの本家筋ですが、分家筋のモスクワが台頭して大きくなった、ととらえることもできます。
ウクライナの一帯はその後、さまざまな大国に支配され、1922年にソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)ができると、ソ連を構成する共和国の一つとなりました。30年代にはソ連の圧制下で大飢饉(ききん)が起き、数百万人が亡くなったと言われています。
86年にはキエフの北約110キロにあるチェルノブイリ原発で事故が起き、広い範囲の人たちに深刻な健康被害をもたらしました。ソ連が崩壊した91年に独立を宣言。その後、国内では親ロシア派と親欧米派が対立を続けてきました。
ロシア系の住民が2割ほどいます。ウクライナ語が国家語とされていますが、ロシア語を話す人も多くいます。文法的には似ていますが、語彙(ごい)に違いがあります。
Q ロシアはなぜウクライナを攻撃したのか?
A ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、ウクライナ側の激しい抵抗だけでなく、欧米諸国をはじめとする国際社会の強烈な反発を招きました。ロシアは世界から孤立し、経済制裁で大きな打撃を受けています。
こうした大きな痛手を負うと知りながら、ロシアはなぜ、言語や文化が極めて近い「兄弟国」のウクライナへの攻撃に踏み切ったのでしょうか。
「ロシア、そして国民を守るにはほかに方法がなかった」。ロシアのプーチン大統領は2月24日、攻撃開始を宣言する演説でそう述べました。親ロシア派の組織が占拠しているウクライナ東部で、ロシア系の住民をウクライナ軍の攻撃から守り、ロシアに対する欧米の脅威に対抗するという「正当防衛」の主張です。
ロシアは、東西冷戦の時代からの西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)が自分たちを敵とみなしてきた、と主張してきました。
ウクライナはかつてロシアを中心とするソ連の構成国でしたが、ソ連が崩壊したことで独立。いまのウクライナのゼレンスキー政権は親欧米で、NATOへの加盟を目指しています。ロシアにとって、これはがまんがならない。そのため、いろんな理由をつけてゼレンスキー大統領を何とか武力で排除し、ロシアに従順な国に変えてしまいたいのです。ウクライナを影響下に置けば、地理的にもNATOに加わっている国々とロシアとの間のクッションにもなります。
でも、戦争の代償の大きさを考えれば、攻撃の開始を理性的に判断したのかどうかは疑問が残ります。プーチン氏はかねて、ウクライナ人とロシア人は「歴史的に一体だ」と主張し、ウクライナを独立した存在として認めてきませんでした。そうした独自の歴史観や国家観が影響した可能性も否定できません。
Q プーチン大統領ってどんな人?
A ロシアの大統領として今回のウクライナ侵攻を始めたプーチン氏とは、いったいどんな人物なのでしょうか。
69歳のプーチン氏は20年以上にわたって権力を握り、ロシア国内には、エリツィン政権時代に混乱した社会の安定を取り戻したとの評価があります。その一方で、ほかの国に対して軍事力を使うことも辞さず、国内の反対派を締めつけてきた姿が「独裁者」のイメージを形づくってきました。
プーチン氏は1952年に、旧ソ連の第2の都市・レニングラード(今のサンクトペテルブルク)で、工場の熟練工の家に生まれました。早くからスパイになることを志したとされ、大学を卒業した後、旧ソ連の情報機関である国家保安委員会(KGB)に採用されました。
91年にソ連が崩壊した後、サンクトペテルブルク市の副市長、KGBの後継組織である連邦保安局(FSB)の長官などを経て、99年に首相に就任。翌年の大統領選で初当選しました。2008年には後継指名したメドベージェフ氏の大統領就任に伴って首相に転じますが、4年後に大統領に復帰。18年には4選を決めました。
ソ連崩壊後にロシアの経済は混乱しましたが、自国でとれる原油の価格上昇などを追い風にして経済を安定させたことは、ロシア国内での功績とされています。その一方で、周りの国々への強硬な姿勢で批判も浴びてきました。
08年に、ジョージアからの分離独立を求める南オセチアの紛争に軍事介入。14年には、ウクライナで親ロシアの政権が倒され、親欧米の新政権ができたことに怒り、ウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合してしまいました。
ロシアの国内では、プーチン政権に批判的な人権団体や独立系メディアを解散させるなど、言論の自由も弾圧してきました。
10代のころから柔道に親しみ、離婚した前妻との間に娘が2人います。
Q NATOって何? なぜロシアと対立している?
A ロシアはウクライナへの侵攻を、NATOの脅威に対する自衛措置だとも説明しています。プーチン氏は2月24日の演説で「NATOはロシアを敵と見なしてウクライナを支援している。いつかロシアを攻撃する」と言い切っています。
NATOは東西冷戦期の1949年、米英仏など西側陣営の12カ国が、旧ソ連や社会主義陣営に対抗するために結成した軍事同盟です。防衛を最大の目的とし、加盟国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなして集団的自衛権を行使すると規定しています。
NATOに対抗するために55年、旧ソ連を中心に結成されたワルシャワ条約機構は、冷戦終結を受けて91年に解体されましたが、NATOはその後も存続しました。
冷戦の終結に続くソ連の崩壊で、ロシアと互いに協力関係を模索した時期もありましたが、99年以降、ソ連による侵攻や支配を受けた経験があるポーランドや旧ソ連構成国のバルト諸国などが、ロシアから身を守るためとして次々にNATOに加盟。現在は30カ国にまで拡大しています。2008年には、ウクライナやジョージアが将来的な加盟国と認められました。
不信を募らせたロシアは「東方拡大しないという約束をNATOが破った」と主張し、ロシアへの直接的な脅威だとして対立姿勢を強めています。プーチン氏には「NATOにだまされた」との怒りがあるとも言われますが、ロシア側が主張する「約束」は文書に残っておらず、欧米側は否定しています。
NATOが拡大を続けることの是非については、欧米でも議論があります。一方で、NATO側に全ての非があるとするロシアの主張にも無理があり、外敵をつくることで国内世論をまとめたいプーチン政権の思惑もありそうです。
Q 「ウクライナ危機」の世界経済への影響は?
A ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン政権の財源を断とうと、米国や欧州は厳しい経済制裁を科し、ロシア産の原油や天然ガス、石炭などの輸入も減らそうとしています。ただ、資源大国のロシアから各国への供給が大きく減れば、世界的なエネルギー価格の上昇につながり、その影響は日本の経済にも及びます。
ロシアは天然ガスの輸出で世界1位、原油の生産では同3位。原油輸出だけで政府歳入の17%を稼ぎ、政権を支える財源としてきました。米国はロシア産の原油や天然ガス、石炭の輸入を禁じると決め、英国やEUもエネルギーの調達で「脱ロシア」を進める計画を公表しています。
米国はシェールと呼ばれる、地中深くの硬い岩石の層からとれる原油や天然ガスが豊富で、自国で増産を進める方針です。一方、EUはこれまで、天然ガス輸入の4割をロシア産に頼っていました。ほかの調達先を増やし、再生可能エネルギーも活用することで埋め合わせをする計画ですが、供給が滞れば市民生活に大きく響きます。
日本は輸入エネルギーのうち、ロシア産が天然ガスで約8%、原油で約4%を占めています。世界全体の供給量に余裕がない中で輸入を制限すれば、日本経済にも相応の影響はあるだろうとみられています。
資源の輸入以外でも影響は出ています。日本ではロシアの領空を通る空輸が難しくなったことから、人気のノルウェー産サーモンの供給が不安定になっています。日本がロシアから輸入してきたカニやウニの品薄や値上がりのほか、ロシアとウクライナが世界に向けて輸出してきた小麦も世界的な値上がりが心配されています。
●「世界の軍需企業」はウクライナ戦争でこれほど莫大な富を得ている 3/23
ウクライナ侵攻により、人命や生活、故郷、自由が人々から奪われている。誰もが失ってばかりの戦争だ。ただひとつ、戦争を支える武器をつくる軍需企業を除いては。
ロシアによる侵攻以降、各国の企業は兵器を通してどのように「儲けて」いるのだろうか。英エセックス大学の経営学教授が「カンバセーション」に寄稿した。
軍需企業の株価が急上昇
ロシアのウクライナ侵攻は、その不当な攻撃ゆえに広く非難されている。ロシア帝国の復活、そして新たな世界大戦に対して恐怖を覚えることは当然だ。
一方、あまり話題にされていないことがある。軍需産業がおよそ5000億ドルの武器を両陣営に供給し、かなりの利益を得ようとしているのだ。
この戦争における防衛支出は既に膨大なものとなっている。EUは4億5000万ユーロの武器を購入し、ウクライナに輸送した。アメリカは90トン以上の軍需品と、昨年だけでも6億5000万ドルの援助をしたことに加え、さらに3億5000万ドルの軍事支援を約束した。
まとめると、現時点(原記事掲載時の3月9日)で、アメリカとNATOは1万7000発の対戦車兵器と、2000発の防空ミサイル「スティンガー」を供給している。イギリス、オーストラリア、トルコ、カナダを含め、世界的な国家連合もまた、ウクライナのレジスタンスに積極的に武器を供給している。これが世界最大級の防衛関連企業に、多大に貢献しているのだ。
レイセオン社はスティンガー・ミサイルを製造し、さらにロッキード・マーティン社と共同でジャベリン対戦車ミサイルを製造した。これらはアメリカやエストニアのような国に供給されている。
S&P500指数が1%下がっているにもかかわらず、レイセオン社とロッキード社のシェアは約16%上昇し、ウクライナ侵攻以来、それぞれ3%上昇しているのだ。
また、イギリスとヨーロッパで最大の防衛関連企業、BAEシステム社は26%上昇した。売上高世界トップ5の防衛関連企業のうちでは、主に航空路線への影響が原因で、ボーイング社のシェアだけが下落している。
戦争で儲かる国がある
西側諸国のトップ兵器企業は戦争に先駆け、利益が増大しそうであることを投資家たちに報告していた。アメリカの巨大防衛関連企業、レイセオン社の最高経営責任者であるグレゴリー・J.・ハイエスは、1月25日、以下のように業績発表を行っている。
「先週UAEで起きたドローン攻撃に注目する必要がある……そしてもちろん、東ヨーロッパの緊張、南シナ海の緊張、こういったことはすべて、現地における軍事費のいくらかを圧迫している。そこから利益を獲得できるであろうことを、我々は最大限に期待している」
その当時でさえ、世界的な防衛産業は、2022年に7%成長することが予想されていた。アメリカの防衛コンサルタント会社、エアロ・ダイナミック・アドヴァイザリー社の最高経営責任者であるリチャード・アブラフィアが言うように、投資家にとって最大のリスクは「すべてがロシアの砂上の楼閣であると明らかになり、脅威が消滅することである」。
そのようなことが起こらなかったため、防衛企業はいくつかの方法で利益をあげている。交戦中の国に直接武器を売りつけるだけではなく、ウクライナに武器を供与している他の国に武器を供給しているのだ。軍事費の増強を宣言しているドイツやデンマークといった国からの追加要請もあるだろう。
この産業の“世界のリーダー”はアメリカであり、2016年から2020年にかけて37%の兵器を売っている。次がロシアで20%、フランスが8%、ドイツ6%、中国5%と続く。
だが武器輸出トップ5のこれらの国以上に、この戦争で利益を得る可能性がある国がいくつかある。トルコはロシアの警告に逆らい、ハイテク・ドローンなどの武器をウクライナに供給することを宣言した。ハイテク・ドローンはトルコの防衛産業に大きく寄与しており、世界市場の1%ほどを供給している。
世界中のセールスの約3%を占めるイスラエルでは、現地の新聞が「ロシアの侵攻の最初の勝者は、イスラエルの防衛産業である」と称えた。
ロシアに関して言えば、2014年に遡る西側諸国の制裁への対応として、自前の軍需産業を打ち立てている。ロシア政府は巨大な輸入代替計画を作成し、国外の兵器と軍事知識への依存度を縮小し、さらには国外への武器輸出を増大させようとしているのだ。
世界第2位の武器輸出国として、ロシアは世界中の顧客をターゲットにしている。同国の武器輸出は2016年から2020年の間に22%まで下落した。だがその主な原因は、インドへの輸出が53%減少したことだ。時を同じくして、中国、アルジェリア、エジプトといった国への輸出は劇的に強化されている。
アメリカ合衆国議会予算報告書によると、「ロシアの兵器は高価ではないだろうし、西側諸国の兵器システムと比べると操作やメンテナンスが簡単だ」という。ロシアの最大の兵器企業はミサイル製造のアルマズ-アンテイ社(売上高66億ドル)、ユナイテッド・エアクラフト社(46億ドル)、ユナイテッド・シップビルディング社(45億ドル)などだ。
「人殺し」に依存した経済基盤を放置してはならない
プーチンの帝国主義に直面して、成し遂げられることには限界がある。ロシアから長年の脅威に直面しているウクライナが、武装解除するという可能性はほとんど見出せない。
しかし、状況を沈静化する努力はいくつかなされてきた。たとえばNATOは、飛行禁止区域を設けるようにというウクライナ大統領ウォロディミル・ゼレンスキーの要求を、公然と拒絶した。
だがこうした努力が、兵器レベルを向上させようとする双方の巨大な経済的特権によって蝕まれている。
西側諸国とロシアが共有しているのは、大規模な軍産複合体だ。どちらの陣営も巨大兵器関連企業に依存し、その影響を受ける可能性がある。あるいは実際すでに、影響下にある。こうした影響力の強さはドローンや、洗練されたAI制御の自動兵器システムにいたるまで、新たなハイテク攻撃能力によって推進されるのだ。
最終的なゴールが事態の沈静化と持続可能な平和なら、「軍隊による攻撃」に依存した経済基盤を真剣に批判していく必要性があるだろう。
ロシアの兵器産業が原材料の入手をしづらくし、軍備に再投資するために外国へ商品を売ることがより難しい状況にすることで、アメリカは直接的な制裁を加えるとした。ジョー・バイデン大統領によるこの声明を、私は歓迎している。
そうは言っても、これは西側諸国の防衛関連企業に商機をもたらすだけかもしれない。それによって、アメリカとヨーロッパの企業に一時的な真空地帯が残され、今後の競争がかなり優位になる。その結果、世界的な兵器開発競争が拡大し、新たな戦争に備えた大きなビジネス上の特権が創出されることもありうる。
この戦争の余波として、私たちは軍需産業の権力と影響力を制限する方法を探求するべきだ。それには、特定の武器の販売を制限する国際的な同意や、防衛産業を縮小しようとする国への国際的な支援、軍備費を増強させようとロビー活動をしている軍需企業に制裁を加えることなどが含まれる。より根本的には、さらなる軍事力の展開に対抗する運動が含まれるだろう。
もちろん、簡単な答えなどない。一夜のうちに達成できることでもない。しかし儲かる経済産業としての「兵器の製造と販売」をできるだけ多く廃止しなければ、永続的な平和が訪れることはない──私たちはこの事実を、国際社会の一員として認識することが必要だ。
●ゼレンスキー大統領 国会演説 日本国内の反応は  3/23
ウクライナのゼレンスキー大統領は、23日午後6時から日本の国会でオンライン形式で演説し、ウクライナの惨状を訴えたうえで「日本はアジアで初めてロシアに圧力をかけた」と述べ、日本の対応を評価したうえで、ロシアに対する制裁の継続を呼びかけました。演説を聴いた、国内の反応です。
ICAN 川崎国際運営委員「国内でも議論発展させていくこと必要」
ウクライナのゼレンスキー大統領の演説について、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの川崎哲国際運営委員は、「化学兵器や核兵器といったこれまでとは次元の違う兵器の脅威にさらされ、非人道的な事態になることへの強い危機感が伝わってきた。直接的な言及はなかったが、広島と長崎の原爆の被害や福島のことも言外にはあったように受け止めた」と述べました。そのうえで「大変な危機のもとにある指導者が、国際秩序を立て直す必要性を訴えるなど、戦争が終わったあとのことをメッセージとして発信したことは驚きであり、非常に感銘を受けた。ゼレンスキー大統領は日本が果たすべき役割の方向性を示してくれたと思うので、国際社会の不公正をどう立て直していくか、国内でも議論を発展させていくことが必要だ」と話していました。
日本被団協 中重代表委員「私たち被爆者も最後のふんばりを」
日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の代表委員で被爆者の田中重光さん(81)は23日、長崎市内の自宅のテレビで、ウクライナのゼレンスキー大統領の演説を聴きました。田中さんは演説を聞きながら時折、その内容をメモに書き留めていました。演説を聞き終えて田中さんは「大統領は、戦場の中にいるのに落ち着いて語っていたと思う」と話しました。また、演説でウクライナ国内の原発に対するロシア軍の攻撃に触れたことを受けて、「原発を攻撃して、万が一原子炉に命中するようなことになれば、核物質が世界中に飛散することはチェルノブイリや福島での事故で明らかだ。原発への攻撃は、核兵器を使うことと同じだ」と述べ、ロシア側を改めて非難しました。そのうえで、「『長崎を最後の被爆地に』という思いで、核兵器禁止を呼びかけてきた。それは世界中の願いでもある。私たち被爆者も最後のふんばりをしないといけないと思っている」と話していました。
広島県被団協 箕牧理事長「本当に核兵器使用するのではと心配」
広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の理事長で、被爆者の箕牧智之さんは、自宅のテレビでゼレンスキー大統領の演説を聴きました。ゼレンスキー大統領がロシアによる核兵器の使用の可能性に懸念を示したことについて、箕牧理事長は、「プーチン大統領が威嚇ではなく、本当に核兵器を使うんじゃないかと心配している。核を使われたら人類はおしまいですよということが、なかなか世界の政治家に伝わっていないのではと思う」と述べました。そして、核兵器を使えば地球全体の危機になるという考えを示したうえで、引き続き核兵器の廃絶を訴えるとともに、日本の多くの人たちがウクライナへの支援を広げるべきだとしました。
広島県被団協 佐久間理事長「平和な暮らしに戻ること祈る」
また、もう1つの県被団協の佐久間邦彦理事長は、広島市の事務所でゼレンスキー大統領の演説を聴きました。佐久間理事長は、「大統領の演説を聴いて、核の脅威でウクライナを威嚇するロシアに対して憤りを感じるとともに、国際的に非難されるべきだと改めて感じました。自分たちは被爆者として、停戦を訴えるとともに、国際機関を通じてウクライナへの人道的な支援を続けていきたいと思います。この戦争がいち早く終わり、市民の人たちが避難することなく平和な暮らしに戻ることを祈るのみです」と話していました。
ウクライナ出身の大阪の女性「応援し続けてほしい」
ゼレンスキー大統領の国会演説を聴いた、ウクライナ出身の大阪の女性は「冷静な気持ちでは聴けませんでした。日本の皆さんにはウクライナを応援し続けてほしいです」と語りました。大阪に住むウクライナ出身の須田エフゲーニヤさんは、キエフ国立大学で日本語や日本文学を学び、およそ20年前から日本国内で通訳や翻訳などの仕事をしています。エフゲーニヤさんは午後6時から、ゼレンスキー大統領がオンライン形式で行った国会演説をテレビで聴きました。時折涙を浮かべて、メモを取りながらおよそ12分間の演説を聴き終えると、静かに拍手していました。エフゲーニヤさんは「戦争の話を聴くのは楽なことではないので、冷静な気持ちでは聴けませんでした。日本の皆さんには、ことばでも思いやりでも経済でも、ウクライナを応援し続けてほしいです」と語りました。ウクライナに残る妹など家族や友人の安否を毎日気遣っているということで、23日もキエフからウクライナ西部の町に3人の子どもとともに避難した友人にテレビ電話をつなぎ、現地の様子や体調を尋ねていました。エフゲーニヤさんは「毎日ニュースを見ると泣きたくなるような話ばかりで、涙が出てしまうこともあります」と話します。そのうえで「安全な海外にいるウクライナ人の1人として自分に何ができるのか考えていますが、私は翻訳などでウクライナの情報を発信していきたいです。これからもウクライナが独立国家として発展するように、どうか世界が力を合わせてほしいし、私にできることをしていきたいと思います」と語りました。
SNS上の声は
ウクライナのゼレンスキー大統領の国会演説の内容について、SNS上では肯定的に捉える声が多く見られました。「抑制的で品格がある演説。キーワードを良く絞っていると思います」「放射能やサリン被害といった痛みの共感に力を入れてて、何したら日本人の琴線に触れるかちゃんと考えてる」という声がありました。また、「かなり日本向けに研究された内容だったと思う」「情緒的訴え方がとても日本向けっぽかった」など、日本向けに考えられた演説だったという評価も目立ちました。このほか、「戦後日本が平和外交に徹しているからこそ武器提供など難しい要求ではなく、さらなる経済的圧力への協力などライトなものになってると思う」「日本にできることは限られるので、あまり期待していないことの裏返しかも」など、各国での演説に比べて抑制的な内容だったという意見も見られました。
●積み重なる子供の遺体…絶望のマリウポリ 3/23
ロシア軍の激しい攻撃を受けるウクライナ南東部の港町マリウポリ。国際的な報道機関として唯一同地で活動するAP通信の記者が、多くの子どもの遺体が横たわる惨状を取材した。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は日本の国会で演説し、「日本は戦争の停止に動き始めた」と呼びかけた。米国は欧州と共に対ロシア追加制裁を24日に発表する。日本時間23日の動きをまとめた。
マリウポリ AP通信記者がルポ
砲撃が絶え間なく続くマリウポリ。集団墓地には何十体の遺体とともに子どもの遺体も積み上げられていた。頭部に砲弾の破片が当たった生後18カ月の子、サッカー中に爆発で足を吹き飛ばされた16歳――。最も若い子は、へその緒がついたままだった。作業員はトラックから遺体袋を引き出しながら怒りを込めて言う。「これを始めたやつらはくそだ!」
ゼレンスキー氏、国会で演説
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、日本の国会でオンライン形式で演説し、「日本がすぐ援助の手を差し伸べてくれて心から感謝している」と謝意を示した。
米欧、対ロシア追加制裁へ
サリバン米大統領補佐官は22日、バイデン大統領が24日に訪問先のブリュッセルで欧州首脳らと新たな対ロシア経済制裁を発表すると明らかにした。また、欧州のエネルギー安全保障を強化し、天然ガスのロシア依存度を削減する「共同行動」も発表する。
ウクライナ軍が反撃
米国防総省高官は22日、ウクライナ軍が、ここ数日で反撃に転じているとの分析を示した。ロシア軍によって制圧状態とみられている東部イジュームでは、ウクライナ軍が奪還に向けて激しい戦闘を展開。また、米CNNテレビによると、21日にはウクライナ軍が首都キエフから約50キロ西の町マカリウの支配を取り戻したという。
「存亡の脅威あれば核使用ありえる」
ロシアのペスコフ大統領報道官は22日、核兵器使用の可能性について「ロシアの存亡に関わる脅威があった場合にはありえる」と言及し、状況次第では核の使用も辞さないとのプーチン政権の姿勢を強調した。米CNNテレビのインタビューで語った。
ロシアの新聞編集長、ノーベル賞メダルを寄付
2021年にノーベル平和賞を受賞したロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長、ドミトリー・ムラトフ氏は22日、同賞のメダルをウクライナ難民を支援する基金に寄付すると明らかにした。
道知事、日露平和条約交渉打ち切りに抗議
北海道の鈴木直道知事は22日、ロシア外務省が日本との平和条約交渉の打ち切りを発表したのを受け「(北方四島の)元島民らの心情を考えると極めて不当で断じて受け入れられない」と述べた。
●情報戦、SNSで激化 ロシアとウクライナ 3/23
ロシアのウクライナ軍事侵攻で、インターネット上の交流サイト(SNS)を舞台にした両国の情報戦が激しさを増している。ウクライナは米アップルなどのIT企業を対象に展開してきた「ロシア排除」の要請を電機メーカーにも拡大。一方、ロシアはウクライナのゼレンスキー大統領が国民に降伏を呼び掛ける偽動画を投稿し、抵抗を続けるウクライナの戦意をそごうと躍起だ。
「メタ(旧フェイスブック)はロシアのうそ排除へ踏み出した。ユーチューブはいつか」。ウクライナのフョードロフ副首相はツイッターへの投稿で、米グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」にロシアの偽動画などを直ちに削除するよう迫った。ユーチューブはこれを受け、サイト上でロシア国営メディアの番組を閲覧できないようにした。
アップルやグーグルがロシアでのスマートフォン販売を停止後、ウクライナは米半導体大手インテルや韓国サムスン電子などにも製品の販売中止を要請。市民生活や企業活動の必需品供給などがじわじわと止まっていくことで侵攻の代償の大きさを理解させ、ロシア国内でのプーチン大統領への反発を高める戦術だ。
これに対しロシアは、ウクライナのゼレンスキー大統領が国民に武器を置くよう促す偽動画を仕立てた。人工知能(AI)を使い、実際には行われていない動作や発言などを映像化する「ディープフェイク」技術の産物で、メタが発見し、削除した。
ロシアはサイバー攻撃で一般人のSNSアカウントを乗っ取った上、ロシア人がウクライナ軍の攻撃を受けたと装う偽動画なども投稿している。侵攻を機にロシアに集中している世界の非難をかわそうと、ハイテク技術を駆使して情報操作を試みているようだ。
●ロシアの外国企業「国有化」は、プーチンへのさらなる「権力集中」の前兆 3/23
ウクライナ侵攻によって経済制裁を受けているロシアが、自国から撤退した西側企業を国有化する方策を検討している。他国の資産を一方的に接収するというのはまさに暴挙といえるが、ロシアという国の本質を考えた場合、こうした手段を用いる可能性は十分にある。現実問題として紛争が長引き、ウラジーミル・プーチン大統領が権力を維持した場合、旧ソ連や北朝鮮のような国にシフトすることも念頭に置く必要があるだろう。
ロシアに進出している西側各国の企業は、ウクライナ侵攻に伴い、ロシア国内から撤退、あるいは店舗や工場などを一時閉鎖するといった措置を実施している。ロシア側は西側企業の対応はロシアに対する戦争行為であると主張し、報復措置として西側企業の国有化を検討している。現時点では検討段階であり、実施が決まったわけではないが、同国の歴史やプーチン政権が進めてきた産業政策を考えた場合、一方的に外国企業を接収することはあり得ると考えたほうがよい。
旧ソ連は、第2次大戦終了後、ドイツの自動車メーカーの工場を接収しモスクビッチという国産車の生産を開始した。当時のソ連の技術力は西側とは大きな隔たりがあり、工場を接収したとはいえ、高性能な自動車を開発することはできなかった。それでも国産車の製造は旧ソ連崩壊まで続き、国民は品質の低い自動車に乗らざるを得なかった。
プーチンの国家統制的な産業政策
旧ソ連とは体制こそ異なるが、プーチン政権も1998年の経済危機をきっかけに、西側に依存しない産業構造の構築を進めてきた。具体的には石油や天然ガスなど、経済の基軸となる産業について国家主導で育成するとともに、優先度の高い分野を重点的に支援する国家統制的な産業政策である。
2014年のクリミア併合によって西側から経済制裁を受けたことをきっかけに、プーチン氏は可能な限り自国産製品を用いる輸入代替策をさらに強化している。金融面でも、米欧が力を持つ金融市場に支配されないよう国債発行を最小限にとどめ、国営のズベルバンクが国民の預金や決済の多くを管理する体制が構築された。
戦時下の日本と似た手法
かつての日本では、日中戦争をきっかけに、当時は商工省(現経済産業省)の幹部だった岸信介元首相らが軍部と協力し、旧ソ連を参考に国家統制的な産業政策を立案した。プーチン政権による一連の施策は総動員体制の日本やスターリン時代の旧ソ連、あるいは毛沢東時代の中国の手法とよく似ている。
国家主義的な産業政策のほとんどが失敗に終わっており、当然のことながら豊かな国民生活も期待できない。だが強権的な政府の場合、国民の不満をある程度、実力で抑圧できる。自由貿易や国際金融に依存しないため、戦時中の日本や北朝鮮のように、国民を窮乏させながらも、権力の維持を図ることができてしまう。
ウクライナ侵攻の泥沼化によってプーチン政権の継続が難しくなっているとの指摘もあるが、仮にプーチン氏が失脚しても、完璧な民主主義体制が確立される保証はない。現時点において統制主義的な経済体制へのシフトが進みつつある現実を考えると、プーチン政権が維持された場合はもちろんのこと、ポスト・プーチン体制においても、内向きな国家運営が続く危険性について考慮に入れておく必要があるだろう。 

 

●プーチン大統領 ロシアの天然ガス購入“ルーブル支払いのみ”  3/24
ロシアのプーチン大統領は非友好的と指定した国がロシアから天然ガスを購入する際には通貨ルーブルでの支払いしか認めない方針を示しました。値下がりしているルーブルの相場を支えるねらいがあるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は23日、関係閣僚とのオンラインの会議で西側の各国がロシアの外貨準備を凍結したことを批判し「このような状況でドルやユーロなどの外貨でわれわれの商品の支払いを受ける意味はない」と述べました。
そのうえで「まず非友好国と地域に供給する天然ガスの支払いをルーブルに変更する。一連の措置を速やかに講じることを決定した」と述べて、ロシアが非友好的と指定した日本やアメリカ、それにヨーロッパなどがロシアから天然ガスを購入する際には通貨ルーブルでの支払いしか認めない方針を示しました。
ルーブルは西側の各国がロシアに厳しい経済制裁を科したことで大幅に値下がりしていて、天然ガスの調達に伴ってルーブルを買う必要がある仕組みにすることで相場を支えるねらいがあるとみられます。
ロシアの天然ガスはヨーロッパの各国が多く輸入していることから市場では供給の先行きが不透明になったとの見方が強まっていて、「オランダTTF」と呼ばれる天然ガスの指標価格が前日に比べて一時、30%以上、値上がりしました。
ロシアの宇宙開発公社「ロスコスモス」は23日、海外との取り引きは通貨ルーブル建てにすると明かしました。これは「ロスコスモス」のロゴージン社長の話としてロシア国営のタス通信が伝えたものです。ロゴージン社長は、ルーブルでの支払いを求める動きは全国で始まっていると指摘したうえで、「われわれも海外との取り引きはすべてルーブル建てにする」と述べました。今後もあらゆる分野でルーブルで支払うことを求める動きは広がる可能性があるとみられます。
またロシア極東のサハリンで進められている天然ガスの開発プロジェクト、「サハリン2」に出資する大手商社の三井物産と三菱商事はNHKの取材に対して「事実関係を確認中です」とコメントしています。日本と地理的に近い「サハリン2」が生産するLNG=液化天然ガスは日本の電力会社とガス会社が長期契約で購入していて、日本が輸入するLNGのおよそ1割を占めています。
松野官房長官は、24日午前の記者会見で「プーチン大統領が、ロシアから非友好国へ供給される天然ガスについて、ルーブルでの支払いを行わせると指示したことは承知している。まずは日本の関係企業とも連携しながら情報収集と分析に努めていきたい」と述べました。
●ロシア追加制裁が焦点 燃料禁輸では溝も―G7・NATO・EU首脳会合 3/24
ベルギーの首都ブリュッセルで24日、先進7カ国(G7)と北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)の首脳会合が相次いで開かれる。ロシアのウクライナ侵攻開始から1カ月となり、戦況悪化に歯止めがかからない中、対ロ追加制裁やウクライナ支援を協議。結束を維持し、さらに踏み込んだ措置を打ち出せるかが焦点だ。
日本からは岸田文雄首相がG7に参加する。バイデン米大統領はEUの定例首脳会議にも出席。米欧の連携を誇示する。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は22日の記者会見で、「大統領はパートナー国と共にロシアに追加制裁を科す」と説明。バイデン氏が追加制裁を表明するとの見通しを示した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、バイデン政権はロシア下院議員300人以上を対象にした制裁を準備しているとされる。注目されるのは、EUがロシア産原油や天然ガスへの制裁に踏み切るかだ。
米英は8日に輸入禁止を発表したが、EUと日本は見送っており、足並みはそろっていない。EU内でも、ポーランドやバルト3国は原油輸入禁止を含むさらに厳しい制裁を主張。しかし、化石燃料のロシア依存度が高いドイツやイタリア、ハンガリーなどは自国への副作用懸念から消極的で、溝が生じている。
ベーアボック独外相は「輸入を1日で止められない国は他にもある」と述べ、依存度の低減が先との考えを強調する。EU内では、「制裁疲れ」も指摘され始めた。
一方、ウクライナへの軍事支援にも手詰まり感がある。ロシアの爆撃を防ぐためウクライナが望む飛行禁止区域の設定は、ロシアと交戦する事態を避けたいNATOが拒否。戦闘機の供与には、米国が難色を見せる。
NATO首脳会議ではウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説する予定で、強力な制裁や支援を訴える見込み。外交筋は「首脳が集まって、何も決めないという選択肢はない」としており、各国は決断を迫られている。
●ロシア軍の一部、ウクライナで戦争犯罪 米が判断=国務長官 3/24
ブリンケン米国務長官は23日、政府として、ロシア軍のメンバーがウクライナへの侵攻で戦争犯罪を犯したと判断していると明らかにした。
声明で「われわれの評価は公的な情報源と情報機関からの入手可能な情報を慎重に検討した結果に基づいている」と指摘。ロシア軍に包囲されているウクライナ南東部マリウポリに言及し、ロシア軍による「無差別攻撃や民間人を意図的に標的とした攻撃、その他の残虐行為に関する信頼できる多くの報告がある」と述べた。
さらに、米国が戦争犯罪に関する報告の追跡を続け、収集した情報を同盟国や国際機関と共有すると言明。その上で「あらゆる犯罪容疑と同様に、犯罪を管轄する裁判所が特定のケースにおける犯罪を認定する最終的な責任を負う」とし、「われわれは利用可能な全ての手段を行使し、説明責任を追求することにコミットしている」と述べた。
バイデン米大統領は先週、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は「戦争犯罪者」と発言。ロシア外務省は「米大統領によるこのような発言はふさわしくなく、ロシアと米国の関係を崩壊の危機にさらしている」と表明した。
国際司法裁判所は今月初め、ロシアがウクライナで戦争犯罪を犯しているかどうかを巡り調査に乗り出している。
●ウクライナ戦争で身動き取れない中国、ロシアとの複雑な関係 3/24
はたから見ても中国が今、身動きが取れず様子見を決め込んでいることは明らかだ。何事にも独自の理論を展開し、周囲の事情など顧みることなく自国の利益を強引に追求する中国が、ウクライナ戦争に関してはほとんど動かない日々を送っている。
ウクライナで膠着状態が続く3月18日、アメリカのバイデン大統領は中国の習近平国家主席に電話会談で、もしも中国がロシアを支援した場合、「それがもたらす影響と結果を詳しく説明した」という。つまり、ロシアの求めに応じて中国が経済的、軍事的な支援をすれば、中国もロシア同様に経済制裁を受けるぞ、という脅しである。
これに対し習近平氏が会談でどう応じたかは知る由もないが、中国政府の公表文書は、「ロシアとウクライナの対話と交渉を共同で支援する必要がある」などと当たり障りのない内容にとどまっている。
ウクライナとロシアの間で続く交渉の行方が最も重要なことは言うまでもないが、同時に世界が注目しているのが表舞台に出てこようとしない中国の動きである。
ロシアの行為に極力言及しない
ロシアの侵略が短期間で片付くという見通しでも持っていたのか、中国メディアは当初は「アメリカが人口1.4億人のロシアを世界から孤立した島に押し込むことは不可能。そうしようとすることは世界の分裂と対立を招く」「ワシントンは混乱の源として行動するのではなく、特別な責任を取るべきだ」(環球時報)などと、ウクライナに侵略したロシアではなく、お門違いのアメリカ批判を繰り返していた。中国外交部の記者会見もやはりアメリカやNATO批判に力点を置き、ロシアへの言及を避け続けていた。
141カ国の圧倒的多数の賛成で「ロシア非難決議」を議決した国連総会の緊急特別会合で中国は棄権票を投じた。中国の演説は「緊張を悪化させるアプローチを拒否し、継続的な人道的努力に対する支持を表明する」「すべての国の主権と領土保全が支持されなければならない」「冷戦は終わった。新しい冷戦を掻き立てることから何も得られない」など、やはり意味不明の内容だった。
ロシアの侵略を公式に支持することはできない。だからと言ってロシアを切り捨てることもできないから、ロシアの行為については極力、言及しない。一方で東方拡大を続けたNATOやその中心にいるアメリカは批判する。かといって欧米に対して何か行動するわけでもない。中国がこうしたわかりにくい行動をするにはそれなりの理由がある。
中国とロシアは現在、ともにアメリカに対峙する同盟国のように見える。しかし、中ロ関係は単純ではない。中国共産党は100年前に結党したが、当初はモスクワ留学から帰国した「ソ連留学組」の党員が力を持っていた。ところが長征の過程で権力を握った毛沢東は中国国内の事情を無視してコミンテルンの指示に従うだけのソ連留学組を次々と粛清し党中枢から外していった。
やがて中国共産党は国民党との戦いに勝利し中華人民共和国の独立にこぎつける。毛沢東は国家運営についてソ連のスターリンに指導を仰ごうとする。ところがスターリンは、中国共産党をインテリ労働者ではなくマルクス理論をまともに知らない農民出身者の党であると見下しており、毛沢東を冷たくあしらった。それでも毛沢東はスターリンに対する畏敬の念を失わなかったようで、1950年に「中ソ友好同盟相互援助条約」を締結しソ連と軍事同盟を結ぶ。
経済では欧州・アメリカ、軍事ではロシアと協力
そうした関係は長く続かず、1956年にソ連共産党第一書記のフルシチョフがスターリン批判を展開すると、この同盟関係は崩壊し、中ソ対立の時代に入る。それを好機と見たアメリカが中国に接近し1972年のニクソン訪中が実現した。以後、経済成長を優先するケ小平が改革開放路線の名のもとに西側諸国と良好な関係を構築し、経済大国への道を走り続けた。一方で中ソ両国は長きにわたり対立関係にあったのだ。
冷戦終焉とソ連崩壊が転機を招いた。ゴルバチョフ大統領のもとで、長年の懸案であった中ソ国境問題解決の動きが加速し、2008年に最終的な決着を見た。それを受けてロシアが中国に対し活発に戦闘機やミサイル、艦船などの供与や軍事技術の協力などを進め、中国は一気に軍事大国に成長した。
中国は経済成長を欧米の協力で、軍備の近代化をロシアの協力で実現した。今やアメリカとの関係は対立に変化する一方で、ロシアとは経済力で圧倒し支援を求められる関係になったのだ。
つまり中国はその時々の国家目標を実現するために手を握る相手を現実的に選んできたのだ。こうした実利を優先する国家関係に真の信頼関係が生まれないことは言うまでもない。しかも今の中国とロシアとの間に、かつてのような軍事同盟条約はない。近年の中ロ両国は共通の敵であるアメリカを前に蜜月を演じていたのだろう。
こうした中ロの歴史を踏まえると、米中対立が構造化し激しさを増している今、中国にロシアを切り捨てるという選択肢はないだろう。だからと言って今や侵略国家となったロシアを全面的に支援するということも難しい。
仮に中国が欧米諸国と同じようにロシアを侵略国であるとして切り捨てればどうなるか。
ロシアはさらに劣勢に陥り、ウクライナ戦争の結果いかんにかかわらず、衰退を加速させるだろう。もちろん中国との蜜月関係は終焉する。国連安保理などで中ロが共同歩調をとることも減り、中国の孤立化が進む可能性が出てくる。また米中対立が解消するわけでもない。ウクライナ問題と米中対立は別の話であり、引き続き緊張状態が続く。つまり、中国にとってメリットはほとんどない選択肢なのだ。
では逆に苦境にあるロシアを支持し、経済・軍事的支援に踏み切ることができるか。こちらの選択肢も容易ではない。
まず欧米との対立が決定的となり、バイデン大統領が牽制しているように中国もロシア同様の制裁対象となりうる。さらに米中対立も経済面だけでなく安全保障の面など幅広く深刻化し、それらが中国の国内経済に大きな影響を与えるだろう。
米中関係を見ながらあいまいな態度に終始
一方、ウクライナ戦争の出口が見えない中、ロシア自体が中国にとって経済、軍事面でどこまでお荷物になるかもわからない。また大国が中小国を力の論理で侵略し国家主権を犯すというロシアの行為を支持すれば、中国自身が掲げてきた「すべての国の国家主権、領土保全を尊重」という主張に矛盾することになる。当然、国際社会で批判を受けることは避けられず、一帯一路政策などによる莫大な資金提供を投じて作り上げてきた多くの国との関係は一気に崩れていき、国際的な孤立が進むだろう。
つまり、ロシア支持の道も中国にとっては得るものがあまりないのである。簡単に言えば、中国は今、袋小路に入り込んでしまい身動きが取れない。だからあいまいな態度を続けながら、ウクライナ情勢だけでなく米中関係をみているのだろう。
とはいえ、いずれ何らかの決断を下す日が来るだろう。もちろんロシアを切り捨てることはできない。同時にアメリカが容認できる道としたい。それが中国にとってはベストだろうが、そんな都合のいい方策があるのか。
党書記の任期延長がかかる党大会
習近平氏にとって、さらに重要なことは秋に予定されている党大会で自らの党総書記の任期制限を撤廃し3期目に入ることだ。そのためにはここで失敗は許されない。
習近平氏は2月4日、北京五輪開会式の日に、プーチン大統領と会談し「NATOの継続的な拡大に反対」などという共同声明に調印し、反欧米での協調ぶりを誇示したばかりだ。したがって、共同声明と今後のロシア侵略への対応との整合性も問われることになりかねない。短期間で政策がぶれることになれば、党大会で政権延命を目指す習近平の足元が大きく揺らぐことは間違いない。
朱鎔基元首相ら引退した党幹部の間から任期延長に反対の声が出ているとも伝えられている。習近平氏はいかにして自らが生き残るか、思いをめぐらせていることだろう。
●包囲され、砲撃を浴びて、なお戦い続けるウクライナ 3/24
交渉が行われているにもかかわらず、なかなか終わりが見えてこない。
「真珠湾を思い出してください」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米連邦議会にこう懇願した。
「(2001年)9月11日を思い出してください・・・ウクライナ各地の都市ではこの3週間、毎晩、ロシアが空を死の源に変えているのです」
ゼレンスキー氏が求めたのは憐憫(れんびん)の情ではなかった。飛行禁止区域を設定してほしい、それが無理なら武器を送ってほしいというのが大統領の望みだった。
2人の大統領の対照的なスピーチ
「私には夢があります。やらねばならないことがあります。私たちの国の空を守らねばならないのです」
地対空ミサイルの供与を要請するためにマーティン・ルーサー・キング・ジュニアを引き合いに出したのは、まず間違いなくゼレンスキー氏が初めてだろう。
ゼレンスキー氏が3月16日の演説を始める少し前、ロシアのテレビはウラジーミル・プーチン大統領の演説を放送していた。
ゼレンスキー氏がすべてのウクライナ人の名のもとに訴えたのに対し、プーチン氏はロシア人とロシア人を対立させた。
「第五列(スパイの意)と裏切り者は・・・(ロシア国民の)口のなかに飛び込んできた小さな虫のように」吐き出されると毒づいた。
そして聞き手が当惑するほどお馴染のファシスト的なレトリックを用い、そのような「クズ」を追い出してロシアを浄化する必要性を説いた。
「こうした自然かつ必要な社会の自浄作用は我が国とその結束を強くするばかりだと確信している」
真実から遠ざけられているロシアの独裁者
戦争は「計画通りに」進んでいる、と独裁者は言い張った。
本当にそう思っているのであれば、独裁者は取り巻きの手によって真実から遠ざけられている。
米国の防衛筋によれば、恐らくは兵士が死傷してロシアの侵攻部隊の10%が失われた。
また、インターネット上に公開された写真を使って兵器の追跡調査を行っているブログ「Oryx」によれば、ロシア軍の戦車は少なくとも233両、地対空ミサイル発射装置は32台、航空機、ドローンおよびヘリコプターは計41機減っている。
ロシア軍は使用できる装備を破壊されるだけでなく、かなりの割合で敵に鹵獲(ろかく)されている。
インターネットに投稿された動画には、農民が嬉々としてトラクターを操って軍用車両を牽引していく様子が映っている。
これは人的にも物的にも深刻な損失だ。
おまけに、損失はロシア軍の空挺部隊VDVや特殊部隊スペツナズ、そして訓練も装備も充実していると噂された第1親衛戦車軍といったエリート部隊に不釣り合いに多く発生しているように見える。
英国の防衛情報筋は、これらの損失は極めて深刻で、ロシアが「攻撃作戦の実行に苦労している」ほどだと話している。
ロシア軍は、東部軍管区(日本海に面したウラジオストクまで広がる区域)や太平洋艦隊、アルメニアなどから部隊を配備することを強いられている。
ロシア人やシリア人の傭兵も募集している。
乏しい戦果に対する高い代償
今のところ比較的乏しい成果しか上げていないことを考えると、これは高い代償だ。
ウクライナ東部では、ロシアは侵攻初日に攻め落とそうとして失敗した都市ハリコフの郊外で足止めされている。
ハリコフの北西に位置するスムイには、ぬかるみにはまって動けなくなったロシア軍戦車が点在している。ウクライナの春の雪解けが進むにつれ、ますます深刻になる問題だ。
ロシア軍部隊はウクライナの首都キエフの中心から北西に15〜20キロ、そして東に20〜30キロの地点にしっかり陣取っており、それ以外の首都郊外は破壊されている。
キエフ市街には、次々とロケットやミサイルが撃ち込まれている。
だが、こうした砲火に対し、ウクライナは反撃している。
キエフを取り囲むように塹壕(ざんごう)を掘って大砲を設置し、携行型のミサイル発射装置を配備している。
スーパーマーケットの棚は「品物であふれている」にはほど遠いが、食料は尽きていない。水道も電気もガスもまだ通っている。
そして国民の士気は高い。
「私はニワトリさえ1羽だって殺したことがない」。52歳の電気技師、ウラディスラフさんはこう言う。
聞けば、3月14日にテレビを見ていた時に、自宅のある地区にミサイルが飛んできたそうだ。「でも今は、あのプーチンのバカ野郎を殺してやりたい」。
ウクライナはキエフ南部につながる回廊を支配下に置いており、国内のほかの地方、そして世界とのつながりを維持できている。
その証拠に、3月15日にはチェコ、ポーランド、スロベニアの3カ国の首相がキエフを訪れた。
ウクライナに流入し続ける西側の兵器
このようなつながりは単に、象徴的なだけではない。物資の補給も可能にしている。
ウクライナにとって2番目に大きな優位性は、西側の兵器がまだ流入していることかもしれない。
3月15日には欧州北部10カ国が参加する英国主導の合同遠征軍が、追加の兵器の「手配、代金融通、供給」に同意した。
3月16日には、米国がウクライナ向けの8億ドルの追加安全保障支援を発表した。
ここには携行型地対空ミサイルシステム「スティンガー」800発、対戦車ミサイル「ジャベリン」2000発、さらにはドローン100機が含まれる。
ドローンの機種は明らかにされていないが、最長40キロ先の戦車を攻撃できる徘徊型兵器(自爆ドローン)の「スイッチブレード」だと見られている。
米国のロイド・オースティン国防長官は同盟国のスロバキアとブルガリアを訪問する際、両国が保有するロシア製の長距離地対空ミサイルシステム「S300」などをウクライナに提供するよう要請すると予想されていた。
ウクライナの防衛にとって、こうした物資の補給以上に重要かもしれない唯一のものは、この補給も支えになっている士気の高さだ。
ウクライナ軍の部隊は挑戦的で自信に満ちており、自分たちの成果に意気軒高としている――もっと言えば驚いている。
西側の専門家の多くが数日で終わると考えていた戦争に3週間持ちこたえているだけでなく、敵軍に深刻な損害を与え、立ち往生に近い状態に追い込んでいる場合すらあるからだ。
簡単な逃げ道はない
総じて言えば、クリミア半島から北に向かったロシア軍部隊は、ベラルーシやロシアから南下した部隊よりも前進している。だが、その南部でも攻撃の一部は行き詰まっている。
南西部では、オデッサに至る道路を守る港湾都市ムイコラーイウで身動きが取れなくなっている模様だ。
ロシアの部隊は都市を攻撃することも海から侵入して占領することも、さらにはこの都市を迂回することもできずにいる。
そのため、ロシア軍ではよくあることだが、離れたところから市街を砲撃している。市立動物園にはロケットが少なくとも3度着弾した。
鳥類を集めた区画にはロケット発射装置「スメーチ」から放たれたロケット弾1発の後部が刺さったままだ。スタッフによれば、その攻撃があった日からクジャクの様子がおかしいそうだ。
動物園の管理者は「あの大バカヤロウが虐殺戦争を始めてから3週間になる。その結果がライオンやトラやヒョウが自由に歩き回る光景だとしたら本当に笑い種だ」と話している。
だが、ロシア軍の機能不全と、ウクライナの情報戦での大勝利のおかげで、ウクライナの脆弱さが一部見えにくくなった可能性は否定できない。
包囲され、攻撃され、それでも屈していない都市からいくらか離れたところの弱さは、特にそうだ。
ウクライナ軍の弱点
ロシア軍はムイコラーイウでは苦しんでいるかもしれないが、その北東約150キロに位置する都市クリビリフにはかなり素早く進軍できている。
この作戦がうまくいけば、ドニエプル川の重要な渡河点を支配している大きな都市ドニエプロを脅かすことになる。
もしロシア軍がハリコフを何とか通過して南下してきたら、これら2つのグループでの挟み撃ちが可能になり、東部でロシア系分離主義者と戦っているウクライナ軍が孤立させられる恐れが出てくる。
「統合部隊」の名で知られる東部のウクライナ軍部隊は、正規軍のかなりを占める兵士で構成されていると考えられている。
フランス軍のティエリー・ビュルカール統合参謀総長は部下に宛てた3月9日付の書簡で、ウクライナは「作戦予備軍が全くない状況で、広がった陣地を維持する困難に直面すると、あっという間に崩れる恐れがある」と指摘している。
長期的に見て、戦場で部隊を失うことはウクライナにとって悪い兆しになる。
それぞれの弱点と損害――ウクライナ市民の死傷者数、特にマリウポリでのそれは多い――が念頭にあるのか、ロシアもウクライナも、停戦もしくは終戦に向かうかもしれない交渉に以前より真剣に取り組んでいるように思える。
ここ数日間でウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に「加盟しない」ことを認めたゼレンスキー氏は、ロシアが停戦について「より現実的に」なっているようだと述べている。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は3月16日、ウクライナが中立国になって国の安全に対する保証を得る取り決めについて両国が「合意に近づいている」と語った。
もっとも、フランスのジャン・イブ・ルドリアン外相は、ロシアは交渉するふりをしているだけだと述べたと伝えられている。
停戦に向けた大きな障害
交渉で障害になりそうな問題は、争われる領土だけではない(もしマリウポリを陥落させたら、ロシアは同市を含むドンバス地方で得たものをそのまま支配し続けたいと考える)。
どのような安全保障を誰が提供するのかということも、領土問題と同じくらい、あるいはそれ以上に重要になるだろう。
ウクライナ側の交渉メンバーの一人であるミハイロ・ポドリャク氏は本誌エコノミストの取材に対し、受け入れられる取引は「具体的で法的拘束力のある保証」が付いたもの。
つまりウクライナが「何らかの攻撃を受けた時」に米国、英国、トルコなどウクライナの同盟国が「積極的に介入できる」内容だけだと語った。
ゼレンスキー大統領の側近アンドリ・イェルマク首席補佐官は、保証する側にはウクライナの友好国だけでなく、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国すべてが加わらなければならないと主張している。
イェルマク氏はさらに、合意の土台は両国の交渉団で用意できるが、いかなる合意も最終的には両国の大統領によって交わされなければならないと述べている。
両者の切り札の強さは、今後の戦いの形勢に左右される。
どちらかが、あるいは双方が切羽詰まるまでは、交渉が大統領のレベルに持ち込まれることはないかもしれない。
しかし、何が起きるとしても、ゼレンスキー氏が世界の善意とウクライナ国民の熱烈な期待を交渉のテーブルに持ち込むことは、3月16日の放送で明らかになっている。
キエフの電気技師のウラディスラフさんは「大統領には『勝つまで戦え!』と言いたい」と話している。
一方、プーチン氏の立場は、ロシアの国内状況とそれに対する見方によって形成される。どちらもウクライナに比べればはるかに暗いものだ。
●ロシア軍事侵攻1か月 プーチン大統領の発言変遷 裏には焦り?  3/24
ウクライナへの軍事侵攻を巡るロシアのプーチン大統領の発言は、この1か月、侵攻の名目を変えるなど、一貫性を欠いてきました。
2月21日「ウクライナ政府 問題を軍事的に解決しようとしている」
侵攻前の先月21日、プーチン大統領は「ウクライナ政府は、東部の問題を軍事的に解決しようとしている」と主張し、東部2州の親ロシア派が事実上支配している地域を独立国家として一方的に承認するとともに「平和維持」の名目でロシア軍の部隊を送り込む構えを見せました。
2月24日「武力で押さえつけるつもりはない」
軍事侵攻に踏み切った24日もプーチン大統領は、国民向けのテレビ演説で「ウクライナ政府によって8年間虐げられてきた人々を保護するためだ」と述べ、ロシアとゆかりが深い東部の住民を保護するための軍事作戦だと主張しました。ただ、「ウクライナ領土の占領は計画にない。武力で押さえつけるつもりはない」と強調しました。
2月25日「民間人の犠牲の責任をロシアになすりつけ」
ところが翌25日に開かれた安全保障会議でプーチン大統領は、「民族主義者やネオナチは、キエフやハリコフなどの主要都市で複数の重火器を配備しているのが確認された。民間人の犠牲の責任をロシアになすりつけようとしている」と述べ、東部の親ロシア派の支配地域を越えた都市部への攻撃を正当化しました。そして、ウクライナ軍に対してゼレンスキー政権を見限り権力を奪取することまで促しました。
3月5日「軍事インフラをすべて破壊する」
今月5日、ロシアの大手航空会社の客室乗務員たちとの会合でプーチン大統領は、「厳しい決断だった」と述べ理解を求めました。そのうえで「欧米が民族主義者や過激派を無条件に支援している以上、武器弾薬や装備が際限なく供給されることになる」と主張したうえで「わが軍は別の道をとることにした。軍事インフラをすべて破壊する」と述べウクライナ各地の軍事施設などを攻撃する理由を説明しました。
3月16日「ウクライナの大量破壊兵器 ロシアが標的となる」
そして今月16日、プーチン大統領は、「ウクライナが外国の技術援助を受けて大量破壊兵器を手に入れればロシアが標的となるのは明らかだ」としてウクライナ政府が核兵器を開発しようとしているなどと、一方的に主張します。
「ウクライナで生物兵器がつくられた」
さらに「ウクライナで生物兵器がつくられたと信じる理由が十分にある」と強調し、アメリカなどは、ロシア軍が虚偽の主張をもとに生物兵器や化学兵器を使用する恐れがあるとして警戒を強めています。
この1か月間のプーチン大統領の発言の変遷を見ると、軍事侵攻の計画が想定通り進んでいないとされることへの焦りのほか、ロシア国内で反戦の声が上がる中、国民への理解を求めたい思惑などもうかがえます。
●ロシアの侵攻から約1カ月、ウクライナ最新事情  3/24
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、日本の国会でオンライン形式の演説を行い、ロシアへの制裁の継続を訴えた。
バイデン米大統領はロシアが化学兵器を使用する可能性を警告。ロシアのプーチン大統領の特使はウクライナでの戦争に反対し辞任、同国を去った。
ドイツのショルツ首相は、制裁措置による深刻な打撃をロシアはまだ感じ始めたばかりだと述べ、今後さらなる措置が続くと語った。
ゼレンスキー大統領は、ロシアのウクライナ軍事侵攻について協議するため今週開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にオンライン形式で参加する。NATO会議に参加するバイデン大統領は、ロシアに対する追加制裁を訪欧中に発表する。
ウクライナ情勢を巡る最近の主な動きは以下の通り。
バイデン大統領、プーチン氏が化学兵器使用する恐れを警告
バイデン大統領は訪欧前にホワイトハウスで記者団に対し、プーチン大統領がウクライナで化学兵器を使用する可能性を懸念しているとし、「現実的な脅威だと考えている」と述べた。
ロシア中銀、MOEX指数33銘柄の24日取引再開を承認−空売りは禁止
ロシア中央銀行はモスクワ取引所で株式33銘柄の取引を24日に再開することを承認すると発表した。同中銀によれば、取引が認められる銘柄はMOEX指数の構成銘柄で、取引時間は現地時間で午前9時50分から午後2時までとなる。空売りは禁止される。同日以外の取引については今後発表される見通しだ。
プーチン氏特使チュバイス氏が辞任しロシア去る、戦争反対で
ロシアで気候問題の大統領特使を務めるアナトリー・チュバイス氏が辞任し同国を去ったと、事情に詳しい関係者2人が明らかにした。プーチン大統領が始めたウクライナでの戦争への反対が理由だという。ウクライナ侵攻を巡りクレムリン(ロシア大統領府)との関係を絶ったロシア当局者の中では最も高位となる。
ネスレ、ロシアでの生産停止へ−必需品に限定
食品最大手ネスレは、ロシアでの生産の大半を停止することを明らかにした。同国ではベビーフードや医療向け栄養食品などの必需品に限定して取り扱うという。
ロシアへの制裁継続を訴え、ウクライナ大統領がオンライン演説
ゼレンスキ―氏は、日本の援助に謝意を表明した上で、ロシアとの貿易禁止を求めた。国連安全保障理事会が機能していないとも指摘し、日本の指導者に積極的な役割を果たすよう要請した。アジアで初めてロシアに強い圧力をかけた点も評価した。チェルノブイリ原子力発電所を戦場に変えたとロシアを批判。サリンなどの化学兵器を使った攻撃を準備しているという報告を受けたと説明した。外国首脳が国会でオンライン演説を行うのは初めて。衆院第1議員会館の会議室に生中継され、岸田文雄首相らが出席した。演説はウクライナ語で行われ、日本語に同時通訳された。
プーチン大統領、インドネシアで開催されるG20会合に出席の意向
ロシアのプーチン大統領はインドネシアで今年開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に引き続き出席する意向だ。ロシアのリュドミラ・ボロビエワ駐インドネシア大使が23日、ジャカルタでの記者会見で明らかにした。
中国がロシア支援なら「結果」との米の警告、他のアジア諸国も懸念
バイデン米大統領が中国の習近平国家主席に対し、ロシアを支援した場合の「結果」について警告したことを受け、他のアジア諸国はロシアのウクライナ侵攻を巡り中立的な姿勢を維持すれば、同じような制裁の対象になるのではないかと懸念している。
米下院議長、プーチン大統領は「既に失敗しつつある」
ペロシ米下院議長は、ウクライナに侵攻しているロシア軍部隊が「行き詰まっている」と指摘し、これはプーチン大統領が「既に失敗しつつある」ことを意味すると述べた。テキサス州オースティンのリンドン・B・ジョンソン大統領図書館で語った。
米原油先物上昇−アジア時間23日午前
米原油先物はEU首脳会議とNATO首脳会議を控え、アジア時間23日午前の取引で上昇し、1バレル=110ドルに近づいた。前日には若干下げていた。
英議員グループ、対ロシア追加制裁を呼び掛け
英議会の財務委員会は報告書で対ロシア制裁について、プーチン政権に打撃を及ぼし得ると分析した上で、英政府は推進すべきだと指摘した。
約10万人がなおマリウポリに−ウクライナ大統領
ゼレンスキー大統領はビデオを通じた国民向け演説で、港湾都市マリウポリにはなお10万人余りが取り残されており、食料や飲料、医薬品がない状況で継続的な砲撃にさらされていると指摘した。
ゼレンスキー大統領、NATO首脳会議に参加へ
ゼレンスキー大統領は24日に開かれるNATO首脳会議にオンライン経由で参加する。演説を行うとともに、協議にも「全面的に参加する」という。大統領の報道官がテレビで明らかにしたもので、ゼレンスキー氏は「民間人と民間インフラに対するロシアの犯罪」を終わらせる要求をあらためて表明する。
マリウポリから約6000人が退避
ウクライナ南東部の激戦地マリウポリからさらに6000人が人道回廊を使って自家用車で西方のザポロジエに退避した。ベレシチューク副首相が明らかにした。
仏ロ首脳が電話会談−ロシア大統領府
ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領が電話会談を行い、ウクライナとロシアの代表団の協議の進行具合について話し合った。ロシア大統領府が明らかにした。
米国と同盟国、対ロシア追加制裁を発表へ
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はホワイトハウスで記者団に対し、バイデン大統領が24日に「パートナー国と共にロシアに対して追加制裁を科す。既存の制裁についても強化し、回避を防ぎ確実にしっかりと執行する」と発言した。また「バイデン氏は欧州のエネルギー安全保障強化とロシア産ガス依存削減に関する共同行動計画を発表する」とコメント。ロシアが北大西洋条約機構(NATO)加盟国にサイバー攻撃を行った場合、米国と同盟国は対抗措置を講じる可能性があるが、必ずしも軍事的な措置に限らないと述べた。
独首相、G20からのロシア除外を議論するのは時期尚早
ドイツのショルツ首相は20カ国・地域(G20)や世界貿易機関(WTO)からのロシア除外を議論するのは時期尚早との考えを示した。
仏トタルエナジーズとクレディAがロシア取引停止
フランスのトタルエナジーズはロシア産の原油とディーゼルの購入を年末まで停止すると発表した。同国の銀行大手クレディ・アグリコルはロシア国内での商業活動を全て停止した。
ロシアはウクライナ侵攻で主要な目的を何も達成できていないと、エスパー前米国防長官が主張した。
エスパー氏は22日にブルームバーグテレビジョンで、ロシア軍の装備が整っておらず、士気の低さが影響していることは明らかだと指摘。戦争が「ロシア人とロシア軍にとって壊滅的」な影響をこれまでに及ぼしているとし、苦戦を強いられたプーチン大統領が化学兵器を使うリスクが高まっているとの見解を示した。ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定することについては、現時点では支持しないとしながらも、人道的な状況が悪化を続ければ米国は「道義的に行動を迫られる」可能性があると述べた。
ウクライナ大統領顧問、領土割譲は「全く議論の余地ない」
ゼレンスキー大統領の顧問を務めるアレクサンドル・ロドニャンスキー氏はブルームバーグテレビジョンに対し、領土の割譲については「全く議論の余地がない」としつつ、中立化に関する交渉は進展の可能性があると語った。ロシアのプーチン大統領は交渉に十分真剣ではないと懸念を表明。ロシアがウクライナで化学兵器や大量破壊兵器を使用する場合には、「レッドライン」を引くよう世界に呼び掛けた。
ウクライナ、4回目の戦時国債発行で約250億円調達
ウクライナ政府は4回目となる戦時国債の入札を実施し、60億4000万フリブナ(約250億円)を調達した。
国連事務総長:戦闘でなく交渉すべき時だ
国連のグテレス事務総長は「いくつかの主要争点」で外交的な取り組みが進展しつつあると語った。グテレス氏は「戦争行為を直ちに止めるための用意は十分にそろっている」と述べた上で、真剣な交渉に向けて複数の外交筋と接触を続けていると明らかにした。
ウクライナの食料インフラ破壊、世界に新たな飢餓−農業相
ウクライナのレシェンコ農業食料相はロシアの侵攻で重要なインフラが破壊されているとし、穀物や植物油、食肉の輸出ができなくなっているため食料不足や飢餓に苦しむ地域が世界で新たに生まれるだろうと警告した。ミコライウの穀物輸出港が22日にロシア軍の爆撃を受けて破壊されたと同相は述べ、飢餓を意図的に広げようとしているとしてロシアを非難した。
ロシア、「偽情報」に刑罰科す新法の対象を拡大
ロシア下院は22日、外国での軍事作戦に関する「偽情報」に刑罰を科す法の適用範囲を拡大し、全ての国家当局の国際的な活動についても対象とすることを承認した。
ギリシャ外相、マリウポリ支援で現地同行を計画
ギリシャのデンディアス外相は22日、ロシア軍に包囲されたマリウポリに向けた人道支援物資の輸送を妨げないよう、ウクライナとロシアに要請した。同外相は赤十字国際委員会の総裁と連係し、輸送に同行する意向だと明らかにした。ギリシャ政府の優先課題はマリウポリのギリシャ人社会と民間人の保護だとも語った。
ロシア人IT技術者、4月に最大10万人が出国も
4月にロシア人IT技術者7万−10万人が移住のため出国する可能性があると、ロシア電子通信協会の試算としてインタファクス通信が報じた。同協会によると、第一波として5万−7万人がすでに出国し、これに続く動きだという。ロシアはIT技術者の流出を食い止めようと、税優遇や住宅ローンの補助、徴兵猶予などさまざまなインセンティブを策定している。
ゼレンスキー大統領、ローマ教皇に仲介依頼
ウクライナのゼレンスキー大統領はローマ教皇と会談し、「人道的に困難な状況と、支援のための回廊がロシア軍により封鎖されている」ことを話したと、ツイッターで明らかにした。
ロシア、ウクライナとの交渉は遅く内容薄い−大統領府
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ウクライナとの和平交渉は「期待したよりも進展が遅く内容が薄い」と述べた。
●プーチン政権高官 特別代表が辞任 軍事侵攻への反対が理由か  3/24
プーチン大統領の大統領特別代表を務めるアナトリー・チュバイス氏が辞任していたことが明らかになり、一部メディアは、ウクライナへの軍事侵攻への反対が理由だったと伝えています。
チュバイス氏は、1990年代に初代大統領だったエリツィン氏の側近で、大統領府長官や第1副首相などの要職を歴任し経済改革に携わってきました。
プーチン大統領のもとでは国営企業のトップを務め、おととしからは気候変動問題などについて国際機関と調整する大統領特別代表に任命されていました。
ロイター通信など一部メディアは、複数の関係筋の話として「チュバイス氏の辞任はロシアによるウクライナへの軍事侵攻が理由で、すでにロシアから出国している」と伝え、軍事侵攻に反対していたと指摘しています。
これについてロシア大統領府のペスコフ報道官は23日、チュバイス氏が辞任したことを認めたうえで、「みずからの希望で辞めたのであって、ロシアから出て行ったかどうかは彼の問題だ」と述べました。
ロシアがウクライナへ軍事侵攻を開始した先月24日以降にプーチン政権の高官が辞任するのは初めてとみられます。
●ロシア通・鈴木宗男が語る 日本のメディアが伝えない「プーチンの素顔」 3/24
本当に「プーチンが悪い」で済ませていいのか? 2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻して第三次世界大戦の危機が訪れている。大統領就任直後、プーチンが最初に会った外国の政治家である鈴木宗男が、ウクライナ危機と日露関係の出口戦略を田原総一朗に激白した。
人情家としてのプーチンの素顔
田原総一朗 鈴木宗男さんといえば、日本の政界では随一のロシア通です。いったい鈴木さんは、いつどこでプーチンと出会って仲良くなったんですか。
鈴木宗男 一番最初にプーチンさんに会ったのは1999年8月、あのときは大統領ではなく首相です。ニュージーランドのオークランドでAPEC(アジア太平洋経済協力)が開かれたのですが、エリツィンさんは体調が悪くて来れず、プーチン首相がかわりにAPECに来ました。
田原 プーチンはどういう人柄でしたか。
鈴木 一般的に「KGB(ソ連国家保安委員会)出身の冷たい人間だ」と受け止められていますが、実際には日本人的で繊細なメンタリティをもっています。柔道家ですから「礼に始まり礼に終わる」という人柄なのです。ちょうどあのとき、中央アジアのキルギスで日本人技師が4人拉致されていました。日本としては、拉致された日本人4人をなんとか無傷で取り返したい。そのためにはロシアの力を借りるしかありません。日本が困っている状況ですから、普通は「ロシアの力を貸してやろう」と恩着せがましく振る舞い、これ幸いと外交カードとして利用するものです。ところがプーチンさんは、こちらからお願いする前に自分から「4人は元気だ。何も問題ない。情報はすべて我々がもっている。日本に協力しよう」と言ってくれました。「この人は人情家だな」という印象を強くもったものです。
田原 次にプーチンに会ったのはいつですか。
鈴木 2000年3月26日に大統領選挙に当選した直後、4月4日に会談しました。この3日前に小渕さんが脳梗塞で倒れ、再起不能の状況になってしまったのです。次期総理大臣に内定していた森喜朗さんから「鈴木さん、予定どおりにモスクワに行って、オレとの会談予定を取ってきてくれ」と頼まれました。小渕総理の特使としてモスクワでプーチンさんに会うと、大統領選挙に勝ったばかりですから、背もたれ椅子に座り意気揚々としています。当時の私は内閣官房副長官を終えて、自民党総務局長(現・選挙対策委員長)という今でいう党四役の一人です。ペーペーの私と大統領では格が違いますから、一生懸命しゃべっても話を聞いているのか聞いていないのかわかりません。そのときハッとひらめきました。その部屋は、1年5ヵ月前の1998年11月に小渕・エリツィン会談を開いた部屋だったのです。
「大統領、1年半前あなたの席にエリツィンさんがいた。今私が座っている席には小渕総理がおり、私はその隣に座っていた。小渕総理は今生死をさまよっていて、残念ながらもう再起はない。大統領、今私はここに小渕恵三がいるという思いであなたに会っているのです」
鈴木 そう言って涙をポトッと落としたところ、背もたれ椅子に座っていたプーチン大統領が前かがみに姿勢を変え、テーブルに手をついて真剣に話を聞いてくれたのです。そこで私は「日本では4月29日からゴールデンウィークという長期の休みがある。次期総理はこの時期にロシアを訪問したい」と切り出したところ、プーチンさんが自ら手帳を出して「4月29日に、サンクトペテルブルクで世界アイスホッケー選手権がある。私がホストだ。そこに次期森総理をご招待しよう」と言って即座に日程を決めてくれました。このときあらためて「この人は人情家だな」と感激したものです。
ゼレンスキー大統領の不作為と怠慢
田原 2月24日、プーチン大統領のロシアがウクライナに軍事侵攻しました。なぜこんなバカなことをやったんですか。
鈴木 私はもちろん軍事力による侵攻はあってはならんと思います。ただし、ここに至るまでの経緯をしっかり踏まえなければいけません。
田原 どんな経緯か教えてください。
鈴木 2019年5月、ゼレンスキーがウクライナの大統領になってからおかしくなったのです。ウクライナ東部で、親ロシア派の武装勢力とウクライナ軍による軍事紛争が起きていました。2014年9月のミンスク合意によって、ロシアとウクライナは和平合意を結びます。
田原 ミンスクとはベラルーシの首都ですね。
鈴木 それでもまだ紛争が治まらなかったため、プーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領が、2015年2月に2回目のミンスク合意を結びました。ところが2019年5月にゼレンスキーが大統領に就任すると「ミンスク合意なんてオレの時代に作ったものではない」「オレはオレの考えでやる」と言い始めたのです。大統領就任直後は75%もの支持率を誇っていたのに、彼は政治経験がない素人ですから、翌年には支持率は30%台まで落ちてしまいました。
田原 2021年の支持率なんて、わずか17%です。
鈴木 政権への求心力を回復したいがゆえに、ゼレンスキーはNATO(北大西洋条約機構)の軍事同盟に加入したいとか、さまざまな行動を起こしました。
田原 東西冷戦時代、ウクライナは完全にソ連領でした。そのウクライナがロシアと袂を分かってNATOに加盟すれば、ロシアは大変な危機感を覚えます。
鈴木 ウクライナ戦争を考えるにあたり、ベルリンの壁崩壊(1989年11月9日)と統一ドイツの誕生(1990年10月3日)、ソ連邦解体(1991年12月25日)の30年を振り返らなければいけません。統一ドイツができたとき、ドイツのコール首相はソ連のゴルバチョフ大統領に「西ドイツが東ドイツと統一しても、NATOの東方拡大はこれ以上やらない」と約束しています。アメリカのベイカー国務長官もゴルバチョフに「NATOの東方拡大はない」と約束しました。ゼレンスキーがその約束を破ってNATOに加盟すれば、ロシアにとっては自分の庭先までNATO軍が迫り、銃口を向けられているようなものです。ウクライナは旧ソ連の中では一番裕福な国でした。小麦はよく穫れるし、ヨーロッパで一番大きいザポリージャ原子力発電所もある。宇宙基地もありますし、戦略上極めて大事な場所なのです。
田原 バイデンもNATO諸国も「まさかプーチンが軍事介入なんてしないだろう」とロシアをバカにしていたんじゃないですか。
鈴木 ウクライナ侵攻の3日前にフランスのマキロン大統領とドイツのショルツ首相が会談を申し入れましたが、ゼレンスキーは返事をせず3日間放置しました。彼がようやく「会談の席につこう」と連絡したのは、侵攻の日の朝です。もちろんロシアの軍事侵攻は許されることではありませんよ。でも戦争を未然にストップできなかったのは、話し合いを無視したゼレンスキーにも問題があると思います。
原発の敷地内に隠されていたウクライナ軍の兵器
田原 プーチンの判断は大誤算だと思う。ロシアがウクライナに武力行使を仕掛けたとき、ゼレンスキーの支持率は17%でした。軍事介入すればもっと支持率が下がり、簡単に親ロシア派政権ができるんじゃないかとプーチンは考えた。だけど軍事介入したら、17%の支持率は一気に91%まで跳ね上がりました。
鈴木 そこがテレビやインターネットの怖さですよ。
田原 どういうこと? 
鈴木 ウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州は、親ロシア派勢力がウクライナ政府とぶつかって、独立国家化を宣言しています。それ以外の地域には反ロシア派が多いですから、ゼレンスキーはその人たちに向けて「私は国民を守る。断固逃げない」と宣言し、反ロシア派の国民の気持ちをうまくつかまえました。
田原 ゼレンスキー政権を打倒して、ウクライナに親ロシア派の新政府を樹立したいというプーチンの思惑はわかります。その目的を達成するために、なんでウクライナ最大の原発をミサイルでガンガン攻撃するんですか。そんなことをしたら、世界中から大批判を受けるのは当たり前でしょう。
鈴木 私が知りえている情報では、原発施設そのものには攻撃していません。
田原 あの映像は、どう見たって攻撃しているじゃない。
鈴木 いや、あれは原発のプラントとは離れた鉄塔なのです。ロシアが発表した映像によると、攻撃を加えたあの鉄塔の下には武器がいっぱい隠されていました。ロシアはそこをピンポイントで攻撃しているのです。だから原発は正常に動いていますし、IAEA(国際原子力機関)も「冷却水がたくさんあるので何も心配ない」と発表しています。原発を撃って爆発でもすれば大変ですし、ロシアがそんな危険を冒すとは思えません。原発に何かあれば、ロシアも風の流れで大きな影響を受けます。
田原 ロシアは民間病院も攻撃しましたね。これはどういうこと? 
鈴木 赤ん坊が泣いている姿、子どもが逃げていく姿を見ればみんな同情しますし、私だって心が痛みますよ。ウクライナ側は「300人死んだ」とか「400人死んだ」と発表しています。ロシアが本気になって攻めれば、被害者はこれだけの数にとどまるわけがありません。いずれにしても、今メディアに流れているのはウクライナ側の情報ばかりです。ロシアの情報は、欧米のメディアでも日本のメディアでも全然流れてきませんよね。両方の情報が出て初めて、私は状況を公正に見て判断できると思うのです。
田原 ロシア軍は首都キエフに総攻撃を仕掛けると言われています。
鈴木 人道回廊(市民を戦闘地域から安全に避難させるための非武装地帯)を通じて、ウクライナの避難民がロシアやポーランドに避難しています。民間人の犠牲を出さないよう、プーチン大統領が配慮していると思います。
田原 ただプーチンを批判していれば無難だから、鈴木さんみたいな意見は、佐藤優さん以外日本では誰も言いませんよ。
鈴木 だから私もツイッターでメチャクチャに叩かれています。かわいそうなことに、関係ない娘(自民党の鈴木貴子衆議院議員)まで叩かれていますよ。
●ロシアの侵攻で露呈「安倍政権」重すぎる負の遺産  3/24
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻は、日本とロシアとの懸案である北方領土交渉を大きく後退させた。安倍晋三元首相は、首相在任中にプーチン氏との「個人的信頼関係」をアピール。それまでの4島一括返還の原則を事実上、「2島先行返還」に交渉条件を引き下げて成果を出そうとしたが、ロシア政府は3月21日、外務省声明を出し、ウクライナ侵攻に対する日本政府の経済制裁などを理由に交渉の打ち切りを宣言した。
北方領土問題は振り出しどころか、マイナスからの仕切り直しとなる。日本側の見通しの甘さによって領土問題が大きく後退した経緯は厳正に検証されなければならない。
第2次安倍政権の日露首脳会談は24回
2012年から7年8カ月続いた第2次安倍政権で、安倍首相(当時)とプーチン大統領との日露首脳会談は24回に上った。安倍首相は「シンゾー、ウラジーミルの個人的信頼関係が構築された」と強調。北方領土問題で次々と妥協案を提示した。
2016年5月、ロシア南西部のソチで開かれた日露首脳会談で、安倍首相は領土問題解決と平和条約締結に向けた「新しいアプローチ」を提案した。これは「日露双方に受け入れ可能な解決策」を作成しようというもので、領土問題を事実上、わきに置いて1医療、2都市環境整備、3中小企業、4エネルギーなど8項目の経済協力を進めようという内容だ。2014年のクリミア編入で欧米から厳しい経済制裁を受けていたロシアにとってはありがたい「支援」だった。
安倍首相は2016年9月にはロシア極東のウラジオストクを訪問。スピーチでは、会場にいたプーチン大統領に向けて「ロシアと日本が今日に至るまで平和条約を締結していないのは異常な事態だと言わざるをえません」「ウラジーミル、私たちの世代が勇気をもって責任を果たしていこうではありませんか」「この70年続いた異常な事態に終止符を打ち、次の70年の日露の新たな時代を共に切り開いていこうではありませんか」と述べた。
同年11月にはプーチン大統領が山口県長門市を訪問。安倍首相との首脳会談が開かれ、領土問題での前進が期待されたが、平和条約問題に向けた「真摯な決意」を確認するにとどまった。
2018年11月、シンガポールで開催された日露首脳会談で、安倍首相は領土問題でさらに譲歩する。1956年に当時のソビエト連邦と日本が合意した共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることでプーチン大統領と合意したのである。
慎重論を押し切る形で共同経済活動を推進
日ソ共同宣言は、平和条約締結後に北方4島のうち歯舞、色丹の両島を日本に引き渡すことを明記している。日本にとっては、歯舞、色丹のほか国後、択捉の4島一括返還を求めてきた基本方針を改め、「歯舞、色丹の2島先行返還、国後、択捉は継続協議」の路線に譲歩することを意味する。
さらに安倍首相は、一連のプーチン大統領との会談で、北方領土内でロシア共同経済活動を進める方針を表明。日本の外務省内には、日本とロシアとの主権をあいまいにした形での共同経済活動に慎重論があったが、安倍首相側が押し切る形で続けられた。
安倍政権では、安倍氏自身がレガシー(政治的遺産)として北方領土問題の解決と平和条約の締結に強い意欲を持っていた。側近の今井尚哉・首席秘書官(経済産業省出身)は外務省が中心となって進めてきた北方領土交渉に対して「アイデアがない」と不満を表明。経済支援を先行させて領土問題を解決に向かわせるべきだと主張していた。
領土問題で安倍首相が妥協する形で進められた日露交渉だが、プーチン大統領からは明確な合意方針が示されないままだった。ロシア側としては、領土問題での姿勢をあいまいにしたまま、日本からの経済支援をできるだけ引き出そうという計算があったのは明らかである。
2020年9月に安倍首相が退陣、後継の菅義偉政権、岸田文雄政権でも北方領土問題での進展は見られなかった。そうした中で、ウクライナ情勢が緊迫。2月24日にロシア軍の侵攻が始まった。岸田首相は、欧米各国と足並みをそろえ、ロシアの侵攻を「力による現状変更の試み」として厳しく非難。プーチン大統領らロシア要人の資産凍結や最恵国待遇の停止などの経済制裁に踏み出した。
ロシアのウクライナ侵攻は、軍事拠点だけでなく病院や学校なども標的とされ、子供を含む市民の犠牲者が急増している。ロシア軍はウクライナ軍の抵抗の前に苦戦を強いられており、日本や欧米による制裁でロシアの市民生活も疲弊している。
そうした中で、ロシア政府は日本との北方領土・平和条約交渉や共同経済活動の打ち切りを通告。岸田首相は「今回の事態はすべて、ロシアによるウクライナ侵攻に起因している」「日露関係に転嫁しようとするロシアの対応は極めて不当で、断じて受け入れられない」と反発している。日露関係が大きく後退することは必至だ。
不法占拠された4島の一括返還を求めるのが当然
そもそも、外交交渉は国力や国家の歩みを反映するものでなければならない。日本が太平洋戦争での敗戦から立ち直ろうとしていた1956年にソ連との間で合意した共同宣言で「歯舞、色丹2島の引き渡し」が明記された。当時の日本は国際社会への復帰もままならず、経済も回復途上だった。その後、平和憲法の下で経済成長を成し遂げ、国際社会でも経済協力を拡大、先進国の仲間入りを果たした。
一方のソ連・ロシアはどうか。チェコスロバキアに軍事介入(1968年)して民主化を弾圧。アフガニスタンにも侵攻(1979年)して傀儡政権をつくった。ソ連崩壊後もロシア国内では民主化の動きを押さえ込み、2014年にはウクライナのクリミアに軍事侵攻して併合。これには国際社会からの制裁が続いている。
そうした両国の歩みを考えれば、北方領土交渉で日本が1956年の合意を超えて、ソ連・ロシアに不法占拠されてきた4島の一括返還を求めるのは当然であり、譲歩すべきなのはソ連・ロシア側である。日本外交はそうした原理原則を掲げたうえで、交渉を進めるべきだったが、安倍政権では成果を焦るあまり、前のめりの姿勢で妥協案を提示し、プーチン大統領にかわされ続けたのが実態だ。
プーチン大統領にとってみれば、レガシーづくりを狙う安倍氏の足元を見ながら経済支援を引き出し、日本との友好関係を強調することでアメリカなどG7の足並みの乱れを誘おうとしていたことは明らかだ。日本政府も国会も、安倍政権以降の一連の対露外交の経緯について、交渉の内容や経済協力の中身などを詳細に検証し、国民に公開しなければならない。
ロシアによるウクライナ侵攻に対する日本を含む国際社会の制裁は、ロシアによる北方領土交渉の打ち切り通告という報復につながった。この戦争では、仮にロシアがウクライナの主要都市を制圧したとしても、ウクライナ側の抵抗はやまないし、国際社会からの制裁は継続する。最終的にロシアが「戦争の勝者」となる可能性はないだろう。遠からず、プーチン大統領がどのような形で権力を失うのかが焦点となってくる。
信頼してはいけない人を信頼してしまった
ウクライナ戦争が終結し、ロシアの政治情勢が新局面に移ることがなければ、日露の外交交渉が本格的に再開することはないだろう。ただ、その場合でも、北方領土交渉はかつての「4島一括返還」ではなく、安倍政権下で示された「2島先行返還」を基礎に始まる可能性が大きい。「ゼロからの出発」ではなく「マイナスからの出発」を余儀なくされそうだ。安倍政権の「負の遺産」は日本外交に重くのしかかる。
安倍氏の一連の対露外交について、外務省の事務次官経験者がこう語っている。
「世界の政治家は2種類に分けられる。プーチン氏を信頼する政治家と信頼しない政治家だ。安倍氏やトランプ前米大統領は前者、バイデン米大統領やメルケル前ドイツ首相は後者だ。ウクライナ戦争を見ればわかるが、安倍氏は信頼してはいけない人を信頼してしまった」
●ゼレンスキー「真珠湾発言」に怒る日本人、プーチン支持ロシア国民と瓜二つ 3/24
「真珠湾」発言に釈然としない日本人、 世界からどう見えるか
ウクライナのゼレンスキー大統領による国会リモート演説が賞賛されている。
「アジアで初めてロシアに対する圧力をかけ始めたのは日本です。引き続き、その継続をお願いします」
「日本は、発展の歴史が著しい国です。調和を作り、その調和を維持する能力は素晴らしいです。また、環境を守り、文化を守るということは素晴らしいことです。ウクライナ人は日本の文化が大好きです」
ドイツなど欧州の国々では対ロシア政策を批判するような刺激的な発言もあったが、日本に対してはかなり抑制的で、シンプルに日本への敬意と感謝を述べたことが、「日本人の気質をよく理解している」「スピーチライターが優秀すぎる」などベタ褒めされているのだ。
しかし、その一方でネットやSNSでは、日本の連帯や支援を呼びかけるのならば、まずはあの「非礼」について一言詫びるのが筋ではないかという批判的な声も少なくない。ゼレンスキー大統領は3月16日におこなわれた米連邦議会のオンライン演説で、日本人としては受け入れ難いことを力一杯訴えたからだ。
「真珠湾攻撃を思い出してほしい。1941年12月7日、あのおぞましい朝のことを」
「あなた方の国の空が攻撃してくる戦闘機で黒く染まった時のことを」
さらにその後に、9.11同時多発テロを例に出したことで、かつての日本を世界から孤立して暴走するロシアと重ねているだけではなく、イスラム原理主義者といっしょくたにしているとして一部から「日本をバカにしている」などの怒りの声が上がっているのだ。なかには「謝罪して撤回するまでウクライナは支持しません」という人まで現れている。
そこまで怒っているわけではないが、釈然としないものを感じている人もかなりいる。例えば、お笑い芸人の松本人志さんもテレビ番組でこう述べている。
「真珠湾攻撃を出してきたのは、僕としてはちょっと引っかかってて…。それは日本人としては受け入れがたいところがあって。奇襲攻撃だったことは間違いないけど、民間人を巻き込んだわけではないので、今回と同じ風に語られるのは僕としてはちょっと嫌だった」
これには同意をする人も多いかもしれない。
ただ、もしこのような発言や一部で沸き上がる「真珠湾発言」への強い反発などが、アメリカをはじめとした西側諸国で「日本の世論」として報じられたら、世界の人々はこう思うはずだ。
「日本人も戦争に負けたことでようやく民主主義の国になったかと思ってたけど、本質的には報道規制で国民が洗脳されてるロシアとそんなに変わらないな」
怒る方もいらっしゃるかもしれないが、残念ながら、これがロシアを「悪の枢軸」、プーチンを「残酷な独裁者」として糾弾している西側諸国の極めて平均的な国際感覚なのだ。
かつての日本は「テロ国家」という アメリカの常識
それがよくわかるのが、2020年1月、イラン革命防衛隊を長年指揮してきたカセム・ソレイマニ司令官をアメリカが「イラク国内だけでも600人以上のアメリカ人を殺害したテロリスト」と断定して殺害した時に、アメリカ国務省高官がメディアに向けて述べた言葉だ。
「1942年にヤマモトを撃墜したようなものだ。まったくもう!我々がこうしたことをする理由をわざわざ説明しなくてはいけないのか」(yahooニュース個人 アメリカ国務省高官、殺害したイランのソレイマニ司令官を山本五十六元帥に例える 2020年1月5日)
ここででてくる「ヤマモト」とは山本五十六。言わずと知れた、真珠湾攻撃作戦を発案した帝国海軍連合艦隊司令長官である。つまり、アメリカ政府の中では、真珠湾攻撃を仕掛けた当時の日本は、今で言うところの「テロ国家」という認識でコンセンサスがとれているのだ。
これは今に始まったことではない。
アメリカの教育現場では、真珠湾攻撃は民間人68人が命を奪われた、卑劣な奇襲攻撃として教えられる。2007年には、ブッシュ大統領(当時)も国内で演説中、米軍のイラク駐留を継続させる理由を述べる際、アルカイダの同時多発テロ事件と真珠湾攻撃を重ねる発言をしている。
もちろん、我々が日本にいるアメリカ人に対して、「広島と長崎でどれだけの民間人を殺したかわかっているのか!慰霊碑に行って謝罪しろ!」なんてことを言わないように、アメリカ政府も同盟国の日本を前にして、「昔は卑劣なテロリストでしたね」なんて失礼なことは言わない。しかし、それはあくまで外交上の建前であって、国内でのぶっちゃけトークや、自国民のナショナリズムを鼓舞するような演説の場においては、「真珠湾攻撃=テロ」「中国大陸進出=侵略」というのは、アメリカ人の常識なのだ。
欧州でも「カミカゼ」に対する強烈な恐怖 海外から見える日本の姿
このような認識は欧州もそれほど変わらない。
2016年に、フランスやベルギーでイスラム原理主義者による自爆テロをメディアも政治家もごく自然に「カミカゼ」と呼んでいる。それ以前にもスペインでバスク地方の分離独立を目指すテロリストがそのように呼ばれていたケースもある。
日本のマスコミは、「『死を恐れない決行者』として拡大解釈された格好だ」(産経ニュース2016年8月3日)などと、日本語が欧州に間違った形で伝わってしまった「誤訳」だとかなりご都合主義的な解釈をしているが、それはさすがに無理がある。
太平洋戦争時、日本の神風特攻隊や万歳突撃は連合国側に、理解不能な自爆テロとして強烈な恐怖を植え付けて、その衝撃は西側諸国を中心とした戦後の国際社会でも広がった。筆者も若い頃、中東を貧乏旅行した時、行く先々で神風特攻について根掘り葉掘り尋ねられた記憶がある。
我々からすれば、非常に不本意な評価だが、西側諸国の価値観からすれば、日本は狂気を感じさせるような奇襲や自爆で、国際社会に立ち向かった「テロリスト国家」から、西側諸国の支えで心を入れ直し、“仲間に入れてもらった国”という位置付けなのだ。
そのような意味では、NATO(北大西洋条約機構)加盟を切望して西側諸国の仲間入りを果たしたいゼレンスキー大統領が、アメリカの議会で「真珠湾攻撃」をディスるのは当然である。あの表現は「私は西側諸国のみなさんと全く同じ価値観ですよ」ということを国際社会に示す“踏み絵”のようなものと思っていいかもしれない。
日本の愛国者とプーチン支持者の 思考回路は瓜二つ?
…という話を聞いていると、あまりに歪んだ歴史認識に怒りが爆発してしまう愛国者の方も多いかもしれない。
ネットなど、ちまたにあふれる「学校で教えてくれない歴史の真実」では、太平洋戦争というのは、アジアを白人支配から解放するための戦いであって、真珠湾攻撃も西側諸国が日本を悪者にするために仕組んだ陰謀というのが“定説”となっているからだ。
「その通り!西欧諸国は日本を孤立化させて先制攻撃させるように仕向けたのだ。実際、アメリカ側は攻撃を事前に知っていたんだ。太平洋戦争は実は自衛のための戦いであり、日本ははめられたのだ!」
そんな主張をされる方もネットやSNSでは珍しくない。ただ、実際にそれを職場や友人などにすると周囲の反応はかなり微妙な空気になってしまうのではないか。
しかし、世界は広い。このような愛国者の皆さんの歴史認識に対して「わかる、わかる」と大きくうなずいてくれる人たちもいる。意見交換すればするほど考え方が近いことがわかって意気投合すること請け合いである。
その人々とは、プーチンの軍事侵攻を支持しているロシア国民だ。
日本や西側諸国のメディアでは連日のように、ウクライナ侵攻に反対するロシア人ばかりが登場する。あたかもロシア国民の多くが、プーチンが怖くて従っているだけで、本音の部分では戦争に反対している人が大半のような錯覚を受けるが、実はロシア国内の最新世論調査ではプーチンの支持率は71%となっている。
これは報道規制でかなりかさ上げされているだろう。とはいえ、21日にロシアの32歳のチェスプレイヤーがSNSでプーチン支持の投稿を繰り返して国際チェス連盟から6カ月の資格停止処分を受けたように、心の底から「西側諸国とウクライナの脅威からロシアを守るためにプーチンは軍事侵攻に踏み切った」と信じて疑わない愛国者もかなりいるのだ。
「真珠湾攻撃はアメリカの陰謀で、太平洋戦争は自衛のための戦争だった」という日本の愛国者の主張と、双子のように瓜二つなのだ。
それぞれ信じる正義は異なる 日本人が注意すべきこと
なぜこうなってしまうのかというと、教育と報道によるものだ。そして何よりも大きいのは、「自国の利益や国民の命を守るための戦いは常に正しい」と信じる心、あるいは信じたいという願望など、ナショナリズムのバイアスである。
それがよくわかるのが、モスクワ在住国際政治アナリストの村上大空氏が以下の現地レポートである。
「政治討論番組に至っては、『西側諸国がいかにロシアを騙してきたのか』『ウクライナ政権がどのような非人道的なことをしてきたのか」という論題ばかりになっており、その主張の正当性や事実関係に対しては、疑問が挟まれない。
このようなメディア空間では、『悪いのは欧米諸国である』『すべては米国の責任』『ウクライナ国民は、洗脳されている』という情報だけがシャワーとして浴びせ続けられる。通常は陰謀論として扱われるような内容が、ロシアでは「真実」として広く共有されている」(現代ビジネス、3月21日)
上記にある文章内の「ロシア」という言葉を「日本」に、「ウクライナ」を「中国や韓国」に入れ替えていただきたい。ネットやSNSに溢れる日本の愛国者の皆さんの主張そのものではないか。
断っておくが、だからナショナリズムが悪いとか言いたいわけではない。国にはそれぞれ信じている正義が大きく異なっており、単純にあちらが悪い、こちらが洗脳されているというような問題ではないということを指摘したいだけである。そして、自国が信じている正義を、武力を用いて、他国にまで押し付けようとすることこそが、「戦争」というものの本質なのだ。
ゼレンスキー大統領の演説が賞賛されたことで、日本中でウクライナ支援の声が高まっている。戦争の犠牲になる人々の命を救うためにできる限りの国際協力をするのは当然だが、ウクライナの「正義」だけに肩入れをして、西側諸国と一緒になってロシアを「悪」と断罪するようなことは避けなくてはいけない。「西側諸国の正義」を制裁や武力でロシアに押し付けて屈服させようとしても、それは新たな憎悪と戦争を生み出すだけだ。
それはまさしく第一次世界大戦後にドイツでナチスが台頭した原因であるし、80年前の日本の軍国主義が先鋭化したきっかけでもある
プーチン大統領にもっと厳しい制裁をすべきだ。この戦いを終わらせるためには、ロシア国民を覚醒させて、プーチンを権力の座から引きずり落とすべきだ――。
今、多くの日本人が、まるで自分たちの戦争であるかのように「ロシアをどうすれば屈服させられるか」を盛んに論じている。かつて自分たちを「テロリスト国家」扱いした「西側諸国の正義」に肩入れをして、それをロシアに押し付けようとしている。
プーチンの主張を「正義」と感じるロシアの愛国者からすれば、日本は完全に「敵国」である。我々の祖父母が米英に感じていた憎悪と同じものではないか。
このような日本の立ち振る舞いが、平和につながる方法だとはとても思えない。それどころか、新たな国家間紛争の幕開けになっているように感じるのは、筆者だけだろうか。 

 

●ウクライナ情勢 欧米などの首脳が結束確認 ロシアへの制裁追加  3/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、欧米などの首脳はNATO=北大西洋条約機構やG7=主要7か国などの枠組みで相次いで会議を開き、結束を確認するとともに、ロシアへの制裁など追加の対応を打ち出しました。アメリカのバイデン大統領はこのあと多くのウクライナ人が避難しているポーランド南東部を訪問し、現状を視察することにしています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で1か月となりましたが、欧米諸国がロシアに対し、さまざまな制裁を科すなかでもロシア軍は無差別的な攻撃を拡大しています。
こうした状況を踏まえ、24日、欧米などの首脳はベルギーの首都ブリュッセルでNATOやG7などの枠組みで相次いで会議を開きました。
そして、NATOとしてウクライナに追加の軍事支援を行うことで合意したほか、G7としてロシアに軍の撤退を要求するとともに、アメリカとEU=ヨーロッパ連合は、エネルギー分野でのロシア依存からの脱却に向けた取り組みを後押しするため合同の特別作業チームを立ち上げることになりました。
会見したバイデン大統領は「ロシアのプーチン大統領はNATOの足並みが崩れることを期待していたが、NATOがきょうほど結束した日はない」と強調しました。
アメリカ政府はロシア議会の議員など400を超える個人や団体の資産を凍結する新たな制裁を発表し、各国が連携してロシアへの圧力を強めています。
さらにバイデン大統領は、ロシアがウクライナに対して化学兵器を使用した場合には「相応の対応をとる」と述べてロシアをけん制しましたが、NATOが軍事的な行動をとる可能性については「そのときに判断する」と述べるにとどめました。
24日、化学兵器には指定されていないものの、非人道的だとして、国際社会で議論になっている「白リン弾」をロシア軍がウクライナ東部で使用したと、ゼレンスキー大統領がNATOの首脳会議で訴えました。
ウクライナのメディアは、「白リン弾」が使われた可能性がある攻撃によって2人の子どもを含む4人が死亡したと伝えています。
バイデン大統領はこのあと多くのウクライナ人が避難しているポーランド南東部の都市ジェシュフを訪問し、人道支援の状況や現地に派遣されているアメリカ軍部隊の活動を視察することにしています。
●西側各国の首脳、対ロ結束を強調 ロシアの化学兵器使用を懸念 3/25
ベルギー・ブリュッセルでは24日、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、主要7カ国(G7)の首脳が一堂に会し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して結束して対抗していく姿勢をあらためて示した。対するロシアは、NATOが紛争の継続を望んでいると批判した。ブリュッセルで西側諸国の様々な緊急首脳会議が相次ぎ開かれるのは、きわめて異例。
「プーチンはNATOを分裂させようと」=バイデン氏
NATO加盟国やG7の首脳と会談したアメリカのジョー・バイデン大統領は、「我々にとって何より大事なのは結束を続けること。そして世界は、(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が)いかに残酷な暴君か見つめ続けなくてはならない」と記者団に話した。
バイデン氏は、プーチン氏が「NATOを分裂させようとしている」と繰り返し、「アメリカと連帯してまとまった30カ国よりも、ばらばらになった30カ国と個別に対応したい」とプーチン氏は考えていると述べた。
「NATOやG7や欧州議会だけでなく、ひとつにまとまった欧州は、本当に大事だ。この男を止めるには、わが国ではすでに戦争犯罪を犯したと考えるこの男を止めるには、(欧州の連帯が)何より大事だ」
バイデン氏はまた、ウクライナ侵攻を決めたプーチン氏がひどい誤算をしたと指摘。「NATOは分裂するはずだと思い込んでいた。私との会話の中でも、我々がこれほどの一体性を維持できると(プーチン氏が)思っていなかったのは明らかだった」と述べた。
「ウクライナに侵攻した時、こうなるはずだと彼が思っていたのと真逆の事態が、いまプーチンにふりかかっている」、「今のNATOはかつてないほど一致団結している」と、バイデン氏は話した。
バイデン氏はさらに、米政府がロシアの400の個人・組織を制裁対象に加えたと説明。これにはロシアの国会議員300人と、政府に近い大財閥(オリガルヒ)、防衛系企業も含まれるという。
さらに、中国の習近平・国家主席に対しては、もし武器供与などで中国がロシアを支援するなら、中国の欧米との経済関係を「深刻な危険」にさらすことになると、明確に告げてあると記者団に話した。
中国を「脅したわけではない」ものの、ロシアの「野蛮な行動」の結果、どれだけの欧米企業がすでにロシアを撤退したかなど、指摘したという。
バイデン氏はさらに、ロシアがウクライナで化学兵器を使用すると懸念されている状況について、もしロシアがそのようなことをすればアメリカは対応するし、「その対応の内容は、(化学兵器を)どのように使ったのかに応じたものになる」と警告した。
諸外国の首脳も、もしロシアが化学兵器や核兵器を使うなら、西側として対応するしかないと口々に述べた。ただし、どのような対応になるのかは言明していない。
他方、NATO加盟各国は首脳会議を経て、東欧での防衛力強化で合意した。スロヴァキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアに新たに4つの部隊が派遣される予定。
NATOは戦争継続を期待=ロシア外務省
この日のNATO首脳会議を受けて、ロシア外務省は、西側の同盟が戦争の継続を願っているのだとコメントした。ロシアの国営RIA通信が伝えた。
ロシア外務省は、そもそもウクライナ東部でロシアが後押ししてきた分離派を攻撃するよう、ウクライナを促したのは西側だと批判。西側がウクライナに武器供与するという自らの判断から「恐ろしい収穫を得ている」と述べた。
開戦に先立ちロシアは、ウクライナ東部の分離派が「ジェノサイド(大量虐殺)」の危険にさらされていると主張し、侵攻の理由の一つにした。
マリウポリに医薬品届けられず=WHO
世界保健機関(WHO)はこの日、ロシア軍の徹底攻撃を受けて包囲されている南東部マリウポリについて、必要とされている医薬品を届けられずにいると明らかにした。黒海沿岸沿いの西部ミコライウについても同様という。
東部ドニプロに到着したばかりのタリク・ヤサレヴィッチWHO代表はBBCに対して、WHOは人道支援物資の輸送拠点を設置しているものの、マリウポリとミコライウへは物資を届けられずにいると話した。
ヤサレヴィッチ氏によると、ウクライナでは3月21日までに少なくとも64回、医療施設が攻撃を受けたことをWHOとして確認した。ロシア軍の攻撃で、病院、医療センター、救急車が被弾しているという。
医療従事者は不安の中で働き、患者は治療を受けに行くのをためらっている状態で、ワクチン接種事業のほか、糖尿病やがんなど慢性病の治療、妊産婦への手当などがすべて影響を受けているとヤサレヴィッチ氏は説明し、ロシア軍による医療施設・関係者への攻撃は「あらゆる人にとてつもない打撃を与える」と批判した。
ウクライナ軍は補給線などを攻撃=英国防省
ロシア・ウクライナ戦争の戦況分析を連日公表している英国防省は24日、ウクライナ軍が南東部ベルディヤンスクの揚陸艦や弾薬庫など、ロシア制圧地区で重要な標的を次々と攻撃していると明らかにした。
国防省は、「(ウクライナ軍は)ロシア制圧地区で物資補給用の拠点・資材を標的にし続けるだろう。これによってロシア軍は、自分の補給路防衛を優先することになり、必要度がきわめて高い兵員増強が得られなくなる。そのためロシア軍は攻撃作戦の実施能力が減退し、ただでさえ低下している士気がますます損なわれる」と分析した。
ウクライナは勝てる=ジョンソン英首相
ブリュッセルの首脳会議に出席したボリス・ジョンソン英首相は、イギリスがウクライナにミサイル6000発を提供すると発表した。またウクライナ兵の給与支給のため、2500万ポンド(約40億円)を支援する方針も示した。
「プーチンはすでに野蛮の域へと、一線を越えてしまった」とジョンソン首相は記者団に述べた。
さらに、BBC番組「ニューズナイト」に対して首相は、「ウクライナの人たちがこれほど抵抗するなど、(プーチン氏には)まったく予想外だったのだと思う。ウクライナというものを、まったく誤解していたし、ウクライナという国を消滅させるどころか、むしろその団結を強めた」と話した。
●NATO首脳会議 ウクライナへの追加の軍事支援を合意  3/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続くなか、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議がベルギーの首都ブリュッセルで行われ、ロシアが生物・化学兵器などを使用するおそれもあるとしてウクライナに追加の軍事支援を行うことで合意しました。
NATOの首脳会議は、アメリカのバイデン大統領など加盟30か国の首脳が出席して24日、ブリュッセルにある本部で行われました。
このなかでは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、事前に収録した演説で「NATOが持っている戦闘機や戦車の1%を提供してほしいと求めてきたが、明確な返事がない。制限のない軍事支援が必要だ」と訴えました。
会議のあと、NATOは声明を発表し、ロシアが生物・化学兵器などを使用するおそれもあるなか、こうした攻撃から人々を守るための装備品など、ウクライナに追加の軍事支援を行うことで合意したとしています。
また、NATOのストルテンベルグ事務総長は会議後に開いた記者会見で「生物・化学兵器などがウクライナで使用されれば汚染が広がり、NATO加盟国に住む人々にも影響を及ぼすおそれがある」と述べNATOとしても備えを強化したことを明らかにしました。
一方、首脳会議では、ヨーロッパ東部のルーマニアやスロバキアなど4か国にNATOの多国籍部隊を配置するなど、防衛態勢を強化する方針を確認したほか、中国に対し、ロシアへの経済的、軍事的な支援を行わず事態打開に向けてロシアに働きかけるよう、求めることで一致したということです。
ストルテンベルグ事務総長は「各国が結束していることが確認された」と述べ、加盟国が連携してロシアの脅威に対抗していく姿勢を強調しました。
ゼレンスキー大統領「NATOが真の行動を起こすこと待ち望む」
NATOの首脳会議では、ウクライナのゼレンスキー大統領が事前に収録された演説の映像が、流されました。
この中でゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が始まって1か月がたったことを踏まえ「私たちはこの1か月間、同じことを言い続けてきた。それは制限のない軍事的な支援が必要だということだ」と述べました。
そのうえで「ウクライナの人々を救うため、NATOが保有している戦闘機や戦車の1%を提供してほしいと求めたが、いまだ明確な返事がない。戦争のさなか、助けを求める国に対して明確な回答をしないのは最も好ましくないことだ」と述べ、NATOの姿勢を批判しました。
またゼレンスキー大統領は「ロシアはウクライナだけにとどまるつもりはない。その先にあるNATOの東側の国々、バルト3国やポーランドにも手を付けるだろう」と述べ、各国に警戒を呼びかけました。
そして「NATOは人々を救うことができる世界で最も強力な軍事同盟であるのに、その力を示していない。世界とウクライナの人々はNATOが真の行動を起こすことを待ち望んでいる」と述べ、改めてNATOに協力を求めました。
一方でゼレンスキー大統領は、これまでウクライナが目指していたNATOへの加盟や、ロシアの軍事侵攻のあと求めてきた飛行禁止区域の設定を、改めて求めることはありませんでした。
ロシア外務省報道官 NATO首脳会議を批判
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議についてロシア外務省は24日、テレグラムの公式ページでザハロワ報道官のコメントを投稿し「NATO加盟国はワシントンへの絶対的な忠誠心と、ロシアを完全に抑え込む政策に従う用意があることを示した」と批判しました。
そして「ウクライナを支援する決定は、NATOが軍事行動に関心を持っていることを示している」として、NATOこそウクライナにおける緊張を高めていると一方的に非難しました。
また、NATOがヨーロッパ東部のルーマニアやスロバキアなど4か国に多国籍部隊を配置するなど、防衛態勢強化の方針を確認したことを念頭に「ヨーロッパの軍事化は勢いを増している。大げさな反ロシアのヒステリーは、新たな兵器の購入費を増やす。その主な供給源はアメリカの軍需産業だ」などとして、アメリカを利することが目的だと主張しました。 
●バイデン大統領 ポーランド南東部のジェシュフ訪問へ  3/25
アメリカのホワイトハウスは、ヨーロッパを訪問中のバイデン大統領が25日、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの国境からおよそ70キロ離れたポーランド南東部のジェシュフを訪問すると発表しました。ジェシュフではポーランドのドゥダ大統領の出迎えを受けたあと、ウクライナからの避難者への人道支援について説明を受けるほか、現地に派遣されているアメリカ軍部隊を視察するということです。
●バイデン米大統領、ウクライナでの戦争で食糧不足は「現実化」へ 3/25
バイデン米大統領は24日、ロシアによるウクライナ侵攻の結果、世界は食糧不足に見舞われるだろうと述べ、増産が同日開催された主要7カ国(G7)首脳会議の議題の1つだったことを明らかにした。
ブリュッセルで記者会見した同大統領は、食糧不足が「現実化するだろう」と述べ、「制裁の代償はロシアだけに科されているわけではなく、欧州諸国や米国を含む極めて多くの国も科されている」と指摘した。
ウクライナとロシアはいずれも小麦の主要生産国。ウクライナ政府は既に、戦争で作付けと収穫がひどく混乱していると警告している。
バイデン大統領は食糧不足を補完するため、カナダのトルドー首相と農産物の生産拡大について議論したと説明。欧州諸国を含む全ての国に食糧輸出を制限し得る貿易規制の撤廃を要請していることも明らかにした。
●ロシア艦撃沈、ウクライナ軍大反撃=@露軍は補給に支障 3/25
ロシアによるウクライナ侵攻開始から1カ月が過ぎた。民間人への無差別攻撃も厭わないウラジーミル・プーチン大統領のロシア軍に対し、祖国を守り抜こうとするウクライナ軍の反撃が目立ちだした。ウクライナ海軍は24日、ロシアの戦車揚陸艦「オルスク」を撃沈したと発表した。首都キエフ周辺でも、ロシア軍部隊を一部後退させたという。「対露制裁の強化」で合意したNATO(北大西洋条約機構)や、G7(先進7カ国)の緊急首脳会議が開かれた24日、北朝鮮が米本土全域を射程に収めるという新型の弾道ミサイルを発射した。ロシアと連携した脅し≠ネのか。ウクライナ戦争の長期化・泥沼化が懸念される。
「(ウクライナは、欧米と)共通の価値を(ロシアの侵攻開始から)1カ月にわたって守ってきた」「ウクライナは無制限の軍事支援が必要だ」「戦時で最悪なのは、助けを求めて明確な回答が得られないことだ」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は24日、NATOの緊急首脳会議でオンライン演説し、こう訴えた。ロシア軍の侵攻に対峙(たいじ)するため、航空機や戦車、防衛兵器などの供与を求めているが、全面的な支援が受け入れられていないとして失望感を示した。
ただ、ウクライナ軍の士気は高く、ロシア軍への反撃が伝えられる。
ウクライナ海軍は24日、アゾフ海に面した南部の港湾都市ベルジャンシク周辺で、ロシアの戦車揚陸艦「オルスク」を撃沈したとする動画と写真を公表した。動画には攻撃された艦艇で爆発が起きる様子が映されているが、オルスクかどうかは不明。
英BBCによると、オルスクは戦車20台、装甲車45台、兵士400人を運べる揚陸艦。別の揚陸艦も損傷を受けたという報道もある。
ベルジャンシクは、ロシア軍が包囲攻撃を続ける港湾都市マリウポリの西方約60キロメートルにある。今回の揚陸艦撃沈が事実なら、ロシア軍の補給に支障が出る可能性がある。
米国防総省高官は23日、ウクライナ軍がキエフ東方のロシア軍部隊をキエフの中心部から約55キロの地点まで数十キロ後退させたとの分析を示した。
キエフ北西ブチャの議会によると、ロシア軍が一部占領していたブチャ、イルピン、ホストメリの3自治体をウクライナ軍が奪還、反撃の動きを強めているという。
ロシア軍は当初、首都キエフを短期で陥落させて「親ロ政権」を樹立する計画だったとされるが、大半の要衝は制圧できていない。欧米諸国からウクライナ軍に提供された、トルコ製偵察攻撃ドローン「バイラクタルTB2」や、米対戦車ミサイル「ジャベリン」、米携帯型地対空ミサイル「スティンガー」などが、甚大な被害を与えているという。
通信手段にも問題がある。ロシア軍は旧式無線や携帯電話など機密性のない通信に依存しており、ウクライナ軍に傍受されて反撃を招いたり、将官の居場所を特定されたりしている。
士気の差も大きい。
祖国防衛に燃えるウクライナ軍に比べ、ロシア軍は食料や燃料などの補給も停滞。米国防総省高官によると、防寒具が足りずに兵士が凍傷になって戦線離脱した部隊もあるという。
米紙によると、ロシア軍は推計で7000人超が戦死した(=ウクライナ軍は、ロシア軍の戦死者は約1万5000人と主張)。すでに将官6人が死亡したとされる。
ロシアの軍事専門家は「短期間でこれほどの損失を出したのは、旧ソ連時代を含めた数十年で初めてだ」と話す。
井上和彦氏「大義なき露の苦戦は続く」
西側諸国の追加制裁も厳しい。
NATOとG7、EU(欧州連合)はロシアの侵攻開始から1カ月となる24日、ベルギー・ブリュッセルで緊急首脳会議を開いた。
米政府は同日、G7やEUと連携して、ロシアの400以上の個人や企業などに追加制裁を科すと発表した。ロシア下院や下院議員328人、防衛産業を含む。また、中央銀行などの外貨準備凍結対象に金も含める措置を新たに発表した。
ウクライナ軍の反撃と、ロシア軍の停滞、西側諸国の制裁などが、プーチン氏を停戦に向かわせることになるのか。
軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「ウクライナ軍の善戦は、ロシア側にとっては大誤算だ。短期間で、これだけの大損害が出たのは第二次世界大戦後でも例がない。『祖国を敵に渡さない』というウクライナ軍、国民の士気の高さや、ロシア軍の武器弾薬などの補給の欠乏、士気の低さが主な要因だ。NATO側からウクライナ軍への武器供与や、非公式なかたちでの戦争指導も有効に機能しているようだ。今後もロシア側の体力的、精神的消耗は続く。自暴自棄となり、生物・化学兵器の使用をチラつかせ、核兵器で恫喝(どうかつ)しても、ウクライナは国際世論の圧倒的な支持を背景に、徹底抗戦する覚悟だ。大義なきロシアの苦戦は続く」と語っている。
●“プーチン時代の終わりの始まり”?ロシア国内情勢は  3/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で1か月となりました。この間、ロシア軍は1200発以上のミサイルを発射するなど攻勢を強めてきましたが、ウクライナ軍の激しい抵抗により部隊が後退する動きも見られ、戦況はこう着しています。
今回の軍事侵攻や欧米の制裁に対するロシア市民の反応は?、また政権基盤への影響は?ロシアの政治と外交に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之さんとロシアを長年取材してきた石川一洋解説委員が解説します。
「基本的には今回の戦争はプーチン大統領時代の終わりの始まりだと思っています。ロシア国民にとってはプーチン大統領は“良き皇帝”と受けとめられてきました。90年代の混乱を収め国を安定させたということが国民の支持の土台にあります。しかし自らの支持の土台である安定を戦争という究極の形で壊してしまいました。今後、戦争の実像が国民に伝わるにつれてプーチン大統領は“良き皇帝”から“悪しき皇帝”に変わるかもしれません。またプーチン大統領の存在が体制にとって安定ではなく危険な要素であるという認識を持つエリートが増えてくるかもしれません」と石川解説委員は解説します。
また防衛研究所の長谷川さんは「プーチン大統領が正確な情報を得ることができているのか、それらが政策判断に生かされているのか、少し怪しいのではないかとみています」と指摘しています。
●プーチン大統領に焦り?ウクライナ侵攻から1か月  3/25
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で1か月となりました。この間、ロシア軍は1200発以上のミサイルを発射するなど攻勢を強めてきましたが、ウクライナ軍の激しい抵抗により部隊が後退する動きも見られ、戦況はこう着しています。2人の専門家の解説です。
ロシアの政治と外交に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之さんは、「ロシア軍としても大義なき戦争ということで全体として士気が上がっていないというように見えます。それが個々の軍事オペレーションの質の低下につながっていて、さらにロシア軍や準軍事組織、そしてクレムリンの戦略中枢の連携不足に陥っているのかなと見ています」と話しています。また今後、ロシアが生物・化学兵器など大量破壊兵器を使うおそれがあるという情報を懸念しつつ、ロシアによる情報戦の観点からも含めて慎重に分析する必要があると指摘しています。
またロシアを長年取材してきた石川一洋解説委員は「泥沼の長期戦は避けたいのはプーチン大統領の本音で、その焦りが今後ロシア軍の攻撃を激化させないか心配するところだ」と解説しています。
●ウクライナ軍「独創的な防空態勢」で善戦…  3/25
ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、両国軍による制空権争いが激化している。爆撃機や巡航ミサイルで攻撃するロシアに対し、ウクライナは限られた防空兵器を効率的に運用するなどして善戦している。長期戦も見据え、ウクライナ側はより射程の長い地対空ミサイルの供与などを求めており、米欧が要望に応えられるかが今後のカギを握る。
米国防総省高官は、制空権を巡って両軍が激しく争っており、「ロシアが優位には立っていない」との見方を示す。ウクライナ軍の善戦の理由は「独創的な防空態勢」だと分析する。
ウクライナ軍は、迎撃ミサイル「パトリオット」など高度な装備は保有していないが、米欧が提供する携行型の地対空ミサイル「スティンガー」や旧ソ連製の移動式の長距離防空ミサイルを組み合わせ、機動的な動きで、露軍機などに打撃を与えている。
ベルギー王立士官学校のヨハン・ギャロン教授は「ウクライナは、防空関連の装備をロシアに破壊されないよう、適切なタイミングでのみ地対空ミサイルなどを使用し、使用しない時は露軍機から見えない位置に隠すなど、被害を最小限にしながら効率的に運用している」と指摘する。
ただ、ウクライナが長期戦でどこまで持ちこたえられるかは見通せない。米国防総省高官によると、露軍機は撃墜を恐れ、ウクライナ上空での飛行を避ける傾向にある。西部リビウ州の軍施設を狙った13日の攻撃は、露上空の爆撃機から長距離巡航ミサイルが使われたことが確認された。露軍はウクライナ国境周辺からのミサイル攻撃を多用している。包囲されたウクライナ南東部マリウポリでは、空爆やミサイル攻撃で壊滅的な被害を受けた。
ゼレンスキー大統領は、飛行禁止区域を設定すべきだと再三にわたって主張しているが、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は24日、NATO首脳会議開幕前に記者団に対し、「ロシアの戦闘機を撃ち落とすことになる」と語り、改めて難色を示した。
こうした中で、ウクライナ側が求めるのが、より射程の長い地対空ミサイル「S300」だ。旧ソ連時代から開発され、ウクライナ軍でも独自に運用が可能で、所有するスロバキアが供与に前向きな姿勢を示している。米国がスロバキアに代替の地対空ミサイルを提供する案が検討されている。ただ、調整が続いており、24日のNATO首脳会議でも結論は出なかった。
また、「限定的な飛行禁止区域」を設定すべきだとの声もあがる。交戦の意思がないことをロシア側に明示し、民間人を退避させることに主眼を置いた措置で、米国では元米軍幹部や元政府高官らが公開書簡の形で、バイデン政権に設定を要求している。
●ウクライナ海軍「ロシア軍の大型揚陸艦を撃沈」…  3/25
ウクライナ海軍は24日、南東部のアゾフ海に面したべルジャンシク港で、停泊していたロシア軍の大型揚陸艦「オルスク」を撃沈したとする動画と写真を公開した。ベルジャンシクは、マリウポリの西方約80キロ・メートルにあり、露軍が補給拠点に使っている。別の揚陸艦が深刻な損傷を受けたとの情報もあり、事実なら南部の戦況に影響するとみられる。
英BBCによると、オルスクは戦車20両、装甲車45台、兵士400人の輸送が可能とされる。
米国防総省高官は23日、記者団に対し、ウクライナ軍が首都キエフの東側で反転攻勢を強め、ロシア軍部隊を後退させたと明らかにした。露軍は22日までキエフから20〜30キロ・メートル地点に停滞していたが、55キロ・メートル地点まで押し戻したという。
北西の露軍部隊はキエフ中心部から15キロ・メートル地点にとどまり、高官は「露軍はキエフ周辺で防御態勢に追い込まれている」と分析。ウクライナ軍はキエフ近郊のイルピンなどでも反撃し、英国防省は「ウクライナ軍が露軍部隊を包囲できる可能性がある」と指摘した。
AP通信によると、北大西洋条約機構(NATO)は露軍の戦死者が7000〜1万5000人に上ると推計した。
●ウクライナ公共放送 連日ユーチューブで現地状況 国内外に発信  3/25
ウクライナの公共放送は動画投稿サイト、ユーチューブで現地の状況を連日、国内外に英語で発信しています。
24日に公開された放送によりますと、首都キエフでロシア人ジャーナリスト、オクサナ・バウリナさんがロシア軍による被害の様子を撮影中、砲撃を受けて亡くなったということです。
また、南東部のザポリージャ州では地雷か不発弾とみられるものが爆発し、子ども3人がけがをして入院したと伝えました。
さらに、東部のルガンスク州で、ロシア軍の攻撃で少なくとも2人の子どもを含む4人が死亡し、6人が負傷したという地元当局の話を伝え、攻撃には、ロケット弾に加え、大やけどなど人体に深刻な被害が出る「白リン弾」が使われた可能性があるとしています。
また、北東部スムイ州には死亡したロシア兵の遺体が残されていて、引き取られる見通しがたっていないと伝えています。
このほか、東部ハリコフ州では人々がロシア軍の攻撃を避けるため地下鉄を利用したシェルターで生活を続けていて、子どもたちのための遊び場が作られているということです。
ここではミュージシャンがコンサートを開き、ウクライナ国歌を子どもたちとともに歌っている様子が確認できます。
●ウクライナ情勢と情報通信業界の動向― 3/25
1. ウクライナ情勢と情報通信業界の動向――デジタル戦の様相も強まる
今週も、緊迫が続くウクライナ情勢に関係する情報通信業界の動向をまとめておく。ロシア側からの情報をフェイクであるとして遮断するインターネットメディア側と、国がコントロールできないSNSで流れる情報を遮断するロシア側との応酬が繰り広げられている。メタ(旧フェイスブック)はウクライナ大統領に関するディープフェイク動画を削除したと発表(CNET Japan)したが、ロシア側はメタを過激派と認定し、FacebookとInstagramの利用を禁止した。そして、グーグルなどはロシア政府系メディアを排除した(ロイター)と報じられている。また、金融分野ではPayPalがウクライナ人への直接送金を可能にするサービスを拡充した(TechCrunch日本版)。ウクライナのデジタル変革省は暗号資産を合法化すべく動き出している。ミハイロ・フェドロフ副首相によれば「戦争が始まり、暗号資産はウクライナ軍支援のための強力なツールになった。3週間以上続く戦争で、暗号基金は5400万ドル(約64億円)を調達した」としている(ITmedia)。さらに、同副首相は「IT軍」を率いてサイバー攻撃を仕掛けたり、多国籍企業にロシアをボイコットするよう圧力をかけているとされている(ITmedia)。この記事によれば、現在、ウクライナとの通信が完全に途絶えていないのは、「Teslaのマスク最高経営責任者(CEO)に対し、マスク氏が率いる宇宙開発Space Xを通じた衛星回線の提供を呼びかけた。マスク氏はこれに応じ、端末を送った」という背景もあるようだ。そして、そのためのアプリのダウンロード数も急上昇しているという(Gizmode)。一方で、ロシア軍のウクライナ侵攻をきっかけに、サイバー犯罪集団においても、親ロシア派と親ウクライナ派に分かれる「前例のないイデオロギー分断」が生じているという調査レポートについて報じているメディアもある(ITmedia)。日々、ニュースで報じられる爆撃の話題だけでなく、可視化されていないサイバー空間での闘争もこれまでにない様相を呈しているといえよう。
2. 「ネットを活用していないシニア層」と「SNSを生活情報の収集基盤とする若年層」
ウイルス対策ソフトを提供するアバストの「シニア層のインターネットの利用頻度に関する調査」によると、「国内の66歳以上の3人に1人(33%)がネットを全く利用していない」ことを指摘している(ITmedia)。一方、NTTドコモ「モバイル社会研究所」の「週1回以上アクセス(視聴)して日常的に生活情報を得ているメディア」に関する調査では、10代から20代のおよそ6割はSNSで生活情報を取得していることを指摘している(ITmedia)。情報収集のチャネルについて、世代間で二極化する結果となっている。これは想定の範囲内ではあるが、こうした特性がさらに強まると、日常の生活行動様式やコミュニケーションの頻度や内容にも影響が多かれ少なかれ生じていくことになるだろう。
3. 狙われる自動車業界――続くランサムウェア被害
ここのところトヨタ自動車関連の企業がランサムウェアの被害に遭ったことが続けて報じられてきたが、次はブリヂストンの米国事業を統括する子会社がランサムウェアの被害を受けている(ITmedia)。一連の動きは偶然なのか、意図的なことなのかは知る由もないが、大手の国際企業が狙われているということは他社も留意をすべきだ。また、不正アクセスも続いている。東映アニメーションで不正アクセスを検知し、システムを停止する対応をした。これを受けて、全国公開を予定していた映画「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」の公開日を延期すると発表している(ITmedia)。森永製菓でも不正アクセスがあったことを発表している(INTERNET Watch)。そして、フィッシング詐欺も巧妙になっている。ユーザー数も多いモバイルSuicaに関するメールには留意をする必要がありそうだ(INTERNET Watch)。加えて、ウクライナ情勢に便乗するネット詐欺も報告されている(INTERNET Watch)。
4. 今週のNFT動向:ザッカーバーグCEO、InstagramにNFTを導入すると発言
国内外ともにNFTに対する大手企業の動きが報じられている。海外では、メタ(旧フェイスブック)のマーク・ザッカーバーグCEOが、InstagramにNFTを導入すると発言したことが注目されている(CNET Japan)。具体的にどのように利用できるのかは明らかではないが、すでに、SNSとしてはTwitterがNFTをプロフィール画像として表示できるようにすると発表している。また、音楽ストリーミングのSpotifyは、関連する技術者の求人を進めていることから、NFTへの事業拡大を目指しているのではないかとされている(BUSINESS INSIDER)。国内では、「LINE NFT」が4月13日に開始されることが報じられている。ローンチのタイミングでは「吉本興業やB.LEAGUE、スクウェア・エニックスなど計17コンテンツと連携し、エンターテインメント、スポーツ、ゲーム、アニメ、アーティスト、キャラクター、イベントの計7ジャンル、100種類以上のNFTを発売する」ということだ(CNET Japan)。また、ローソンエンタテインメントは、SBINFTと提携することで、NFTサービス「LAWSON TICKET NFT」を今春から開始する(ガジェット通信)。そのメリットとして、「実際のイベント会場の座席情報などが記載されたチケットを、保管可能な記念チケットNFTとして販売することができます」としている。実証実験としては、電通グループ、シビラ、ソニーの3社が、個人の学びや活動実績をデジタル化してNFTで記録し、それを管理することを共同で実施することが発表されている(CNET Japan)。
5. 文藝春秋、デジタルに特化する「Bunshun Tech ZERO」を設立
文藝春秋は、「紙媒体の展開を通して蓄積してきたコンテンツ製作のノウハウをデジタル分野に活用することで、新たな情報やエンターテインメントを提供する」ことを目的とする新会社「Bunshun Tech ZERO」を設立した(Web担当者フォーラム)。これまで、「文春オンライン」「Number Web」「CREA WEB」を展開し、とりわけ「文春オンライン」は2021年8月には自サイトのページビューが6億3094万を記録するなど、ウェブビジネスが急速に拡大していることを踏まえ、技術人材を新会社に集約させるという。電子コミック以外の分野でも出版業界のデジタルコンテンツ対応が本格化している。
●ロシア駐在アメリカ大使“ウクライナで米ロ連絡ルート拡充を”  3/25
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、ロシアに駐在するアメリカのサリバン大使が、ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」紙のインタビューに答え、24日付けの電子版に掲載されました。
この中でサリバン大使は「ロシアの指導部からは、アメリカとの外交関係を断つのではないかという兆候が見られる」と指摘したうえで「アメリカはモスクワの大使館を閉鎖するつもりはない」と述べ、外交関係を維持する考えを強調しました。
そして、アメリカとロシアの間では緊急事態に備えてホットラインがあり、今もそれは維持されているとしたうえで「ウクライナの問題に関する国防省幹部どうしのホットラインが設置されることを望む」と述べ、偶発的な衝突を避けるため、よりスムーズに意思疎通が行えるよう、連絡ルートの拡充を呼びかけました。
またサリバン大使は、米ロ両国が核軍縮の枠組みの構築などについて話し合う戦略対話について「米ロ両国が大量破壊兵器を含む安全保障の問題を協議していくことは重要だ。今の状況では協議を行うのは難しいが、人類の幸福のために再開されることを願う」と述べ、ロシアがウクライナから軍を撤退させ、協議が再開されることに期待を示しました。
●ウクライナ情勢が大統領選の追い風となったマクロン 3/25
フランス大統領選は、4月10日に投票が行われ、過半数を得た候補者がいなければ同24日に決選投票が行われることになる。
マクロン大統領は、なかなか再選出馬を表明しなかったが、締め切り期限の前日、3月3日に、大統領選挙への立候補を表明し、4日付のローカル紙に「同胞への手紙」という文書を掲載し、立候補の意図や背景、重視する政策の方向性を示した。立候補の宣言を遅らせたことは、当初より1つの選挙戦術であったと思われるが、このタイミングとなったことについては、コロナ対策やウクライナ問題への対応に追われたことによる。
エコノミスト3月5日号の社説は、2期目の政権構想について十分な議論を行わない場合には、マクロンが当選したとしてもその政権運営に悪影響が生ずると反マクロン陣営からは、候補者間での議論の時間が足りず、民主主義のルールを軽視した選挙戦術だとの批判も出ている。
世論調査では、常にマクロンが25%前後で1位、12月までは、共和党のペクレスが2位に付け、決戦投票ではマクロンと接戦となるとの予想もあった。しかし、1月に入りペクレスは失速し、ルペンやゼムールにも後れを取り4位に後退している。
その原因は、選挙集会でのパフォーマンスが悪く政治家としてのカリスマ性に欠けるとの印象を与えたこと、政策的にも党内右派強硬派の支持を得るために移民問題やEUとの関係について、極右派に迎合するような発言をしたことなどがある。党内の有力者の中にマクロンや極右派への支持を表明するものも出てきており、重鎮のOBであるサルコジ元大統領は、ペクレスへの支持を未だに表明していない。
ルペンとゼムールは、共にこれまでプーチンを理想的指導者として礼賛していたことが、ロシアのウクライナ攻撃を契機に強い批判を浴びており、移民問題についてもウクライナからの難民を巡り歯切れが悪く、直近の世論調査ではいずれも支持率を落としている。特に、ルペンは、かつてロシアによるクリミア併合を許容する発言を行い、選挙資金をロシアの銀行から借りるなど、ロシアと近かっただけに今後更に支持率に影響が出るのではないかと思われる。
ウクライナ問題でマクロンは更に優位となったようだ。マクロンは、ウクライナ問題で何度もプーチンと交渉を行い、結局プーチンの行動をやめることは出来なかったが、メディアは、フランス国民はその努力を評価していると見ている。
ルペンやゼムールがウクライナ問題の逆風を乗り越えるのは難しいように思える。ペクレスも、欧州連合(EU)を強化することがフランスの利益となるとの外交的信念、気候変動への対応や先端技術の開発、年金制度の改革や教育の機会均等といった課題を明確化しているマクロンに対抗できるだけの構想を提示するのは難しいように思える。
マクロンは、毀誉褒貶はあるが、労働市場の近代化のための労働法改正、フランス国鉄の改革、年金改革などの経済改革やEUにおけるリーダーシップの面においてはかなりの成果を上げたと評価すべきであろう。そして、新型コロナについても収束の兆しが見えてきていることはマクロンにとり更なる追い風である。
対外政策については、EU政策において、メルケルとのコンビで2019年のEU議会選挙で親EU中道派の勝利を実現し、20年にはコロナ復興支援のためのEU債を財源とする画期的な大型予算を成立させた。また、気候変動対策としてEU委員会が原子力発電を「グリーン」なエネルギーと認定したこともフランスの国益に大いに資するものだ。
マクロンが再選されれば、内外において更なるリーダーシップを発揮しようとするであろう。弱点は、国内では与党「共和国前進」の基盤が依然として極めて弱いことである。従って、マクロンにとっては、短い選挙戦の間に第2期政権の構想を十分に国民に浸透させるためにも、他の候補者と議論を尽くす必要がある。決戦投票がルペンとの戦いとなることが、選挙後の政局運営の上でも都合が良いということになろう。
外交面では、プーチンとのある種の個人的な信頼関係を、妥協を拒否するプーチンとバイデン政権との間で、また、EU、北大西洋条約機構(NATO)の結束を優先させなければならない中でどう活かせるのか疑問ではあるが、今後の情勢の展開にもよるであろう。従来の持論である、EUの「戦略的自律」の具体化については、新たな状況に応じた調整が必要と思われる。
●岸田首相 ウクライナ情勢めぐるG7緊急首脳会議を終え帰国  3/25
ウクライナ情勢をめぐるG7=主要7か国の首脳会議に出席した岸田総理大臣は25日午後、日本に帰国しました。
岸田総理大臣はウクライナ情勢をめぐってベルギーの首都ブリュッセルで開かれたG7=主要7か国の緊急の首脳会議に出席しました。
岸田総理大臣は、ロシアに対する制裁措置として貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」を撤回するため、今の国会で法改正を行う方針や、ウクライナや周辺国に対し1億ドルの支援を追加することを表明しました。
また、アメリカのバイデン大統領とも短時間協議し、いかなる地域でも、力による一方的な現状変更を許してはならず、そうした試みには甚大なコストが伴うことを明確に示すことが重要だという認識で一致しました。
一連の日程を終えて、25日未明に現地をたった岸田総理大臣は、午後3時すぎ、羽田空港に到着しました。
26日は地元広島で、アメリカのエマニュエル駐日大使とともに平和公園を訪れることになっています。
●『ロシア軍の"損耗率"から読み解く、ウクライナ戦争のゆくえ』 3/25
2月24日にウクライナへの侵攻を開始したロシア軍。短期決戦に失敗したことで、当初の作戦の変更を余儀なくされている。その矢先、3月24日にロシア海軍の戦車揚陸艦を、黒海の港・ベルジャンシク港で爆発撃沈したとウクライナ海軍が発表した。
泥沼化する気配も漂う戦いが続いているが、戦争の動向は「損耗率」から読み解くことができるという。元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補に解説して頂いた。
3月23日の報道によると、アメリカ国防省高官が、ロシア軍は開戦1ヶ月で総兵力19万人の内、その10%を喪失していると発言した。
「部隊の損耗率で、戦争が継続できるか否かの目安がわかる」と二見元陸将補は語る。
「部隊の10%の損耗で、戦闘行動に支障が出始めます。これが15%になると、部隊交代や人員の補充・再編成(新たな人員の補充と損耗した部隊の補充)が必要となります」
"部隊交代"とは、損耗した最前線の部隊を後方に下げ、充足率100%の部隊と入れ替えることだ。これをサッカーに例えるならば、疲れたフォワードの選手交代に当たるだろう。
さらに3月23日のアメリカメディアの報道によると、ロシア軍は1ヶ月の侵攻で死傷者・行方不明者・捕虜の合計が約4万人にのぼるとの数字が出たという。
そうなると、最初に投入したロシア軍総兵力19万人の内、損耗率は約21%になる。
「戦闘部隊は、損耗率20%で"ほぼ戦闘不能状態"となります。損耗率30%で"戦闘不能状態"、50%で"全滅"と判断されます」
21%は半全滅と考えてもよい。そうなれば、ロシア軍は部隊交代や人員の補充・再編成を行うための戦線の整理が必要となってくる。
ウクライナ軍は3月23日に、キエフ東方20−30キロにいたロシア軍を、中心部から55キロ後退させるのに成功したと発表している。
「ロシア軍部隊の損耗が激しいため、部隊を後方に下げたというのが正しい見方だと思います。しかし、それだけウクライナ軍が善戦している証です。ロシア軍には今、攻勢戦力が圧倒的に足りません」
防衛省発表資料によると、ロシア軍の陸上総兵力の合計は約33万人。そのうち、19万人がウクライナに投入されたとなると、全軍の57.5%にあたる。ロシア軍は既に6割に近い兵力を使い果たしていることになる。
「ロシア軍には歩兵学校、砲兵学校、工兵学校、降下兵学校など各種の軍学校があります。今後はそこの学生と教官を集めて部隊を作り、最前線に投入することも考えられるでしょう。
ロシア軍は数日の短期決戦で首都キエフ陥落、大統領殺害を狙っていました。しかし、開戦1ヶ月でその戦略を変えざるを得なくなった。次の段階における新たな作戦とは、クリミア半島とウクライナ東部の親ロシア派占領地域を陸続きにするというものです。
もし作戦目的を変更した場合、他軍管区の兵力やウクライナ北部と北東から侵入したロシア軍戦力を再編成し、東部と南部へ必要な戦力を転用する必要があります」
兵力再編成は、キエフ東方で開始されている。兵力の足りないロシア軍は、総兵力約5万人のベラルーシに対し、ウクライナへ派兵するよう迫っているようだ。
「そうなれば、主戦場はマリウポリになると予測できます。現在、マリウポリはロシア軍に包囲されており情報が外に出ないため、ロシア軍が化学兵器を使う可能性が十分に考えられる。ウクライナ軍はそれをさせないための作戦に出ると考えています」
そのウクライナ軍の作戦とはこうだ。キエフ首都攻防戦においてロシア軍の圧力が弱まったため、ウクライナ軍の兵力には余剰が出てきた。さらには、首都防衛のために温存していた予備兵力が不必要になった。この2つの兵力を投入し、ロシア軍のマリウポリ包囲網の突破を試みる、というものだ。
「マリウポリがウクライナ軍に奪還されれば、ロシア軍のクリミア半島と親ロシア派支配地域を陸続きにするという戦略は幻と消えます」
そんな時、マリウポリから西へ80キロのベルジャンシク港に停泊していたロシア海軍大型揚陸艦オルスクが、大爆発を起こして撃沈された。
ロシア海軍は、アメリカが供与した対戦車ミサイルにより、陸上での戦車にかなりの損害が出ている。その補充のために、海からマリウポリへの戦車上陸作戦を狙っていたが、ウクライナ海軍に阻止された形だ。
さらに混迷を深めるウクライナ戦争。この戦いの出口は、まだ見えそうにない。 

 

●戦車を止めようとした司祭を射殺、ウクライナ当局が戦争犯罪を記録 3/26
ウクライナのイリーナ・ウェネディクトワ検事総長は、戦闘規則に関する刑法に違反すると思われる数千件の事件を記録している最中だという。
3月24日現在、同検察官事務所が記録した事件は2472件にのぼる。ウェネディクトワ検事総長は23日、集めた事件をどのように扱っているか、概要をメディアに説明した。
「ウクライナの司法権が有効で、犯罪加害者が物理的にウクライナにいる場合、私たちが取る戦略はひとつだ。ウクライナで成功しないとわかれば、国際刑事裁判所(ICC)にリソースを振り向け、特定の人物、個人が処罰されるようにする」
BBCは、戦争犯罪の疑いがあるとして記録されている事件の一つについて、目撃証言などを収集した。

それは、ロシアがウクライナに侵攻して1週間余りの頃に起こった。首都キーウ(キエフ)の西40キロにある小さな村ヤスノホロッカでは、隣人や友人たちか集まる有志グループが、コミュニティーの入り口を守る検問所で配置についていた。
ロシア軍とウクライナ軍の戦闘は、すでに残忍なほど激しくなっていた。ウクライナ全土で、町や村の入り口に検問所が設置され、正式な軍事訓練を受けていない地元の有志が、そのほとんどを守っていた。
3月5日の午後、村の司祭のロスティスラフ・ドゥダレンコさん(45)は、ヤスノホロッカの検問所にいた。ドゥダレンコ司祭の役割は、近づいてくる車をチェックすることだった。しかし、他の従軍司祭と同じように、ドゥダレンコさんも精神的なサポートを提供するためにそこにいた。その時、司祭は私服だった。
何が起こったのか、正確に立証することはできない。しかし、攻撃の生存者の一人、ユヒムさん(仮名)はBBCに、ドゥダレンコさんを含む十数人と検問所を守っていたところ、3台のロシア戦車が村を通過したと知らされたのだと話した。そこで一行は森の中に隠れ、必要なら戦車に立ち向かおうと決めたのだという。
検問所に近づくと、ロシア軍は「四方八方へ発砲」し始めたと、ユヒムさんBBCに語った。「私たちが草むらに隠れているとわかると、戦車で私たちをひき殺すために道路から外れ出した」。
戦車が道路まで戻ってきたとき、ドゥダレンコさんは姿を現そうと決めたのだと、ユヒムさんは話した。
「ロスティスラフが十字架を頭上に掲げ、隠れ場所から立ち上がり、何かを叫びながら戦車に向かって歩いて行くのを見た。ロシア軍を制止したかったのかもしれない。私はロスティスラフに声をかけようとした」
すると、司祭の方向へ発砲があった。ユヒムさんの位置からは、直接ドゥダレンコさんに向かって撃ったように見えたと言う。「それでおしまいだった。彼は2、3歩歩いただけで倒れた」。
ユヒムさんもこの攻撃で撃たれてけがを負った。その時点でウクライナ軍が到着してロシア軍を後退させなければ、その場のにいた全員が殺されていただろうと、ユヒムさんは思っている。
ドゥダレンコさんが所属していた有志グループは、軍とは無関係だった。同じグループのエドゥアルドさん(仮名)によると、軍事訓練を受けていたのは数人で、東部ドンバスでロシアと長年続く紛争で戦闘を経験した人たちだという。グループには、アマチュアの猟師もいた。参加者のほとんどは50歳以上だという。
エドゥアルドさんは当時、別の検問所を担当していた。エドゥアルドさんが到着した時にはロシア軍戦車は撤退した後で、道路には遺体が散らばっていた。その中にはドゥダレンコさんや、やはり丸腰だった輔祭、別の防衛志願者2人、そして見知らぬ人物が1人含まれていた。
ドゥダレンコさんの母ナディイアさんは、一人息子は自分の役割を果たそうとしていたと語った。
「息子はみんなを守れるようになりたいと思っていた」と、ナディイアさんはBBCに話した。
「説得してやめさせようとしたけれど、反論できなかった」
一行は猟銃に加え、少ないながらロシア軍のカラシニコフを所持していた。防弾チョッキはグループ全体に3着だけだった。しかし、ドゥダレンコさんは司祭として武器を持つことを拒否していたと、友人で同じく司祭のセルヒイ・ツォマさんがBBCに語った。
それだけに、ドゥダレンコさんがいざ戦車と対決しようと決めた時、撃たれればひとたまりもなかった。しかし、目撃者のユヒムさんによれば、こうした行動がドゥダレンコさんの本質だったという。
「ロスティスラフは親切で楽観的な人だった。だから、ロシア軍を止めようとしたんだと思う」
ツォマさんも、ドゥダレンコさんはヤスノホロッカではいつも人助けをする人物として有名で、日曜日のミサの前には、車で村中を回って年配の信者を集めていたと話した。
ドゥダレンコさんの奉仕活動自体も自己犠牲的なものだったと、常連の信徒の一人、テチャナ・ピリプチャックさんは言う。
ドゥダレンコさんが所属していたウクライナ正教会は、2019年にようやくロシア正教会からの独立が認められた。しかし、ロシアはこれを認めていない。
正式な分裂以前、ウクライナの正教会はモスクワに忠実な支部と、キーウに忠実な支部に分かれていた。ドゥダレンコさんはキーウ寄りの教会に所属していたが、2010年に親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコビッチ元大統領がウクライナの政権を握ると、モスクワ総主教庁がキーウ総主教庁の教会を乗っ取り始め、ドゥダレンコさんの教会もその憂き目にあった。
ドゥダレンコさんは自分の信条を裏切らず、教会を出て屋外で、雨の中でも礼拝を行ったと友人たちは言う。その後、寄付を募ってトレーラーに仮設の教会を建てた。
ピリプチャックさんはフェイスブックのドゥダレンコさんの追悼ページに、「あなたがいなければ私たちの教会は路頭に迷っていた」と感謝をつづった。
過去数週間にウクライナ全土で起きた数千件の事件と同様、この殺人事件は警察と地方検察庁、国家検察庁によって速やかに記録され、それぞれのフェイスブックページで詳細が公開された。
また、ウクライナの第438条「戦闘規則の違反」に抵触する疑いがある事件も、政府機関が使用する集約ウェブサイトにアップロードされた。
ウェネディクトワ検事総長は、先週英語で行われた取材でBBCに対し、こうした証拠の記録を残すことが重要なのだと語った。
「検事総長の事務所には戦争特別部門がある(中略)すべての法執行機関が(中略)戦争犯罪を調査するために私たちに協力している。我々の最優先事項だ」
「もちろん、捜査官の数は十分ではない。そのため、warcrimes.gov.uaという共通のウェブサイトを作った」と、ウェネディクトワ検事総長は説明する。
このウェブサイトは検察庁だけでなく、ウクライナの外務省や法務省など他の国家機関も利用しており、すべての証拠が文書化されている。
「我々にとって非常に重要なものだ。(これらの証拠は)ウクライナの裁判所でも、ICCや他の司法管轄区でも受け入れられるべきだ」
キーウ州検察庁は、3月5日のヤスノホロッカの事件については発砲をめぐる捜査が終了し次第、起訴状が出ると述べている。
同庁は声明で、「検察は、あらゆる戦争犯罪と、侵略国の兵士から将軍、軍部と政府の高官に至る加害者一人一人の状況を立証するために全力を尽くしている」と述べた。
また、一部のケースではロシア兵がすでにウクライナの起訴手続きの第一段階に直面していると述べ、「欠席判決の見通しについてだけ話しているのではない。それぞれの具体的なケースについて、戦争犯罪者はウクライナの法律に従って処罰されることになる」と説明した。
●ウクライナ戦争で国内左翼のピンボケ$ヤ裸々に 3/26
ウクライナ戦争が、野党を含めた日本の左翼勢力の「無責任さとトンチンカンぶり」を赤裸々に暴露している。
直近の例は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領による国会演説(23日)をめぐるドタバタだった。
立憲民主党の泉健太代表は16日、演説を希望する大統領の意向が伝わると、自身のツイッターで以下の発信をした。
《ゼレンスキー大統領による日本の国会での演説。他国指導者の国会演説は影響が大きいだけに、オンライン技術論で論ずるのは危険》《私は日本の国民と国益を守りたい。だから国会演説の前に「首脳会談・共同声明」が絶対条件だ。演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。それが当然だ》
命を賭けて侵略国家と戦っている最中の大統領に対して、よくも言えたものだ。いま日本の岸田文雄首相と首脳会談を開いたり、共同声明をまとめて発言要項を擦り合わせたりしている場合なのか。これほどのピンボケ発言は、ちょっと記憶がない。
翌日になって、《実施が前提の投稿》などと釈明したが、この一言で、泉氏には、国を率いるセンスも能力もないことがはっきりした。
ある民放テレビのキャスターは、現地まで取材に出かけたはいいが、安倍晋三元首相の「核シェアリング(核共有)発言」が報じられた直後のせいか、「日本が核シェアリングなど、とんでもない」とばかりに現地で声を張り上げた。
これも、ウクライナ戦争で「世界が一変した」現実を理解せず、彼らの平和ボケが続いている証拠である。
野党を含めた日本の左翼勢力は、これまで「憲法9条があるから日本は平和でいられる」と、お経のように唱えてきた。「日本は9条が歯止めになるので、他国を攻撃できない。だから戦争にならない」という理屈だ。
ところが、今回の戦争はどうだったのか。
ロシアは一方的にウクライナに侵攻し、核兵器や生物・化学兵器の使用をチラつかせて、国際法を完全に無視した残虐非道な攻撃を続けている。
そんな国が日本の隣に控えているのに、「私たちは攻撃しないから、あなたも攻めないで」などという話が通用するか。通用するわけがないのは、誰でも分かる。
日本はロシアだけでなく、中国や北朝鮮のような専制主義・独裁国家に周囲を囲まれている。彼らを相手にするのに「他国の善良さに依存した憲法」のままで、平和は守れないことがはっきりした。
しかも、相手が核保有国だと、米国は武器を供与するだけで、直接対決を避けることも分かった。米国やNATO(北大西洋条約機構)は今後、ロシアが核兵器を使ったとしても、武力介入しないだろう。
そうだとすると、中国が台湾に武力侵攻しても、米軍は来援しない可能性がある。私は来援に悲観的だ。日本は米国と安保条約を結んでいるので、沖縄県・尖閣諸島が攻め込まれたときには、米軍が支援する建前になっている。
だが、日米同盟も決して「永遠に不滅」ではない。日本が真に「抑止力の構築」を目指すなら、「独自の核保有」も視野に入れる必要がある。むしろ、それを言わない限り、米国は核シェアリングに前向きにならないだろう。
もはや世界は劇的に変わった。「平和ボケ」から抜け出せない左翼勢力には、ご退場いただくほかない。
●バイデン氏、ポーランドを訪問 ウクライナ戦争は世界に影響波及と指摘 3/26
ポーランド・ワルシャワ(CNN) バイデン米大統領は25日、ロシアの侵攻が続くウクライナの隣国ポーランドを訪問した。国境付近で抑止任務に当たる米軍要員に対し、わずか80キロ先の紛争の影響が世界各地に及ぶ可能性があると述べた。
バイデン氏は第82空挺(くうてい)師団の要員を前に、「重要なのはウクライナ国民を助け、殺りくが続くのを阻止するために、我々が今ここで行っていることだけでない。それにとどまらず、あなた方の子どもや孫の自由が今後どうなるかが懸かっている」と語った。
さらに「あなた方の取り組みはウクライナ国民の苦しみの軽減にとどまらない重要性を持つ」と述べ、現在は新たな局面、転換点を迎えているとの認識を示した。
ウクライナで続く戦争をきっかけに、欧米諸国がかつてない協力態勢を取る一方、自宅を追われた数百万人はポーランドなどに流入している。バイデン氏は同国ジェシュフを訪問中、この両方の要素を目の当たりにした。ジェシュフは欧米の対ウクライナ軍事支援の集積拠点の役割を果たす一方、避難民の中継地としても機能している。
バイデン氏が到着したとき、空港の敷地には対空ミサイルが見えた。その後、バイデン氏は人道危機緩和に取り組む支援関係者の話に耳を傾けた。この危機はロシアのプーチン大統領が引き起こしたものだと述べ、プーチン氏を再び「戦争犯罪人」と呼ぶ場面もあった。
バイデン氏は今週、急きょ欧州を訪問中。欧米諸国の協力を強化するとともに、米国が安全保障面の支援を行うという安心感を与える狙いがある。
●ウクライナ情勢 ロシア「第一段階の主な任務達成」 3/26
ウクライナへの侵攻を続けるロシアは、軍事作戦について第一段階の主な任務は達成したとしました。
黒く焼け焦げたバス。攻撃を受け倒壊したとみられる建物も。これは南東部マリウポリの25日の様子です。手作りの墓標からは犠牲者の埋葬すら行えない現状がみてとれます。
住民「みんなで遺体を集め、埋め続けています。ビルのまわりに埋めた遺体の数を見て下さい」
ウクライナ ゼレンスキー大統領「マリウポリはとてもひどい状況だ。ロシア軍はいかなる人道支援も認めない」
ゼレンスキー大統領は25日、マリウポリの惨状について述べた一方、「我々の勇敢な軍隊は、敵に強力な打撃を与えた」として、ウクライナ軍による抗戦を讃えました。
一方、ロシア国防省は25日、ウクライナでの「特別軍事作戦」について、第一段階の主な任務は達成したとしました。そのうえで「主要な目的とする東部ドンバス地方の解放に集中できる」としています。ウクライナ東部ではロシア軍の支援を受けた親ロシア派がルガンスク州の93%、ドネツク州の54%を掌握したということです。
アメリカ国防総省の高官は「ロシア軍がジョージアから援軍を送ろうとしている初めての兆候を確認した」「援軍はドンバス地方に対する攻撃のための模様」として監視を続けるとしています。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は文化人らとの会合で、西側諸国が歴史認識を歪曲していると主張し、原爆投下について、「追悼の日に誰が原爆を落としたのか言わないことになっている」と日本を批判しました。
また、根拠は不明ながら、日本の歴史教科書について、「アメリカによる虐殺行為という真実をなかったことにしようとしている」などと持論を展開しています。
●ロシア軍幹部「第一段階」完了と 侵攻は予定通り進んでいないのか? 3/26
ロシア軍は計画の変更を余儀なくされているのか? ウクライナに対する政府の野心そのものを、縮小するとか?
断定するにはおそらく時期尚早だが、ロシア軍の言い分の重点は明らかに変わった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ軍事侵攻の開始から1カ月たった25日、ロシア軍のセルゲイ・ルドスコイ第1参謀次長はモスクワで記者会見し、作戦の「第一段階」はほぼ完了したと発表した。
ルドスコイ将軍は、ロシア軍は今後「ドンバスの完全解放」に注力していくと述べた。ドンバスとは、ウクライナ東部でロシアが後押しする分離派が実効支配する地域のこと。
ロシア軍は、一方的な独立宣言をロシア政府が承認した「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」と、ドンバス地域でもウクライナが支配する地域との境界線を、さらに西へ移動させようとするものとみられる。
ウクライナの他地域でロシア軍は、遅々として進んでいない。首都キーウ(ロシア語でキエフ)周辺では、ウクライナ軍の抵抗に遭い後退させられており、これ以上の被害を防ぐために、あるいは何らかの小休止のため、塹壕(ざんごう)を掘るなどして防衛の足場を固めているという情報もある。
ロシアが首都制圧を諦めたと結論するのは、まだあまりに早すぎるだろう。しかし、ロシア軍は失点に次ぐ失点を重ねていると、西側当局は言う。
西側当局筋は25日、ロシア軍が7人目の将軍を失ったと明らかにした。一部の部隊では、士気はこれ以上下がりようのないところまで下がっているとも話した。
ルドスコイ将軍の今回の発表は、開戦前にロシアが計画していた野心的な戦略は失敗したと、ロシアが承知していることの表れだ――西側当局者はこう言う。
「複数の軸で同時に作戦展開するのは無理だと、ロシアは認識し始めている」と、西側政府関係者の1人は話した。
最大10の大隊戦術群が新たに編成され、ドンバスへ向かっているという。
2月24日に戦争が始まる前から、ウクライナとロシアの境界線に沿って配備されている合同部隊作戦(JFO)を構成するウクライナ軍の精鋭部隊が、ロシア軍の徹底攻勢によって包囲され制圧されてしまうのではないかと、西側は懸念していた。
後退は野心の穏健化を意味するのか
ロシア軍の新たな展開では、ドネツクとルハンスク両地方の未制圧地域まで入り込もうとするかもしれない。ハルキウやイジウムから南下する部隊との合流を目指す可能性もある。
そしてついにロシアがアゾフ海に面した南東部の港湾都市マリウポリを完全制圧したあかつきには、他の部隊は北上してJFOの包囲を完了する可能性もある。
こうした目的の一部はまだ難しそうに思える。マリウポリの防衛部隊はすさまじい徹底抗戦を繰り広げている、そのため、ドンバスからクリミア半島までの陸路を確保するという開戦前のロシアの目標は実現していない。
しかし、仮にロシア政府が、少なくとも当面は、個々の目的をひとつずつ実現することに集中した方が賢明だと結論したなら、おそらく攻撃力を集約してくるだろう。とりわけ空からの爆撃力を。
ウクライナ軍は目的意識が高く、規律も取れている。しかしそれでも、ロシアの徹底的な空からの攻撃を耐えしのぐには、ありとあらゆる援助を必要とするはずだ。
「まさにそこで、西側からの武器供与がウクライナ軍を大いに助けるはずだと、自分は期待している」と、西側当局者の1人は話した。
もし今後数日の間に、ロシア軍がドンバスに注力し始めたとしても、だからといってロシア政府が大きな野望を諦めたことにはならない。
「侵略作戦全体の再評価をしている様子は見られない」と、米国防幹部は話した。
●米国防総省高官 “ロシア軍 ウクライナ東部地域で作戦を強化”  3/26
アメリカ国防総省の高官は25日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍について、首都キエフに向けて前進する兆候が見られないとしたうえで、親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ東部地域で軍事作戦を強化しているとの見方を示しました。
それによりますと、首都キエフに迫っていたロシア軍の地上部隊はいずれも前進が見られず、最も近い部隊は北西方向におよそ15キロから20キロの位置にとどまっているとしています。
また、北東方向におよそ55キロの位置にまで後退した部隊もその後、動きがみられないということです。
この高官は、ロシア軍がキエフに対して遠距離からの砲撃や空爆などを続けているものの、地上部隊が前進しようとしている兆候がなく「率直に言って、少なくとも今の時点ではキエフ制圧を求めるつもりがないようだ」と指摘しました。
一方この高官は、ロシア軍が親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ東部地域での軍事作戦をより優先して、攻撃を強化しているとの認識を示しました。
この地域では、地上での激しい戦闘や集中的な空爆が行われていて、この高官はウクライナ側との停戦交渉で、より実質的な利益を確保できるようにすることなどがねらいだと指摘しました。
そのうえで「ロシア軍はキエフなどの制圧に向けた自分たちの能力を過大評価し、ウクライナ側の抵抗を過小評価していたのは明らかで、情報分析の失敗に直面しているのは間違いない」と述べました。
一方、ロシア軍が戦力を強化するため、ジョージアの一部地域に駐留するロシア軍部隊をウクライナに投入する兆候が見られると明らかにしました。
ジョージアには、一方的に独立を宣言している親ロシア勢力の地域があり、ロシア軍が部隊を駐留させています。
アメリカ国防総省の分析では、ロシア軍はウクライナ側との戦闘による損失などで、当初の戦力の85%から90%程度になっていて、ウクライナ国外から戦力を補充するねらいがあるものとみられます。
●ウクライナ ゼレンスキー大統領「敵に強力な打撃を与えた」  3/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は、25日に公開した動画で「この1週間、私たちの勇敢な軍隊は、敵に強力な打撃を与えた。著しい損失だと思う」と述べ、ウクライナ軍がロシア軍に反撃できていると強調しました。
一方、ロシア軍が攻勢を強める東部マリウポリについて「2万6477人の住民が『人道回廊』と呼ばれる避難ルートを使って、南東部のザポリージャになんとか避難できた。ただ依然として、悲劇的な状況が続いている。ロシア軍は私たちに人道的な援助をさせてくれない」と指摘し、ロシア側の対応を批判しました。
そのうえで「私たちは意義がある形でかつ緊急に、そして公平に話さなければならない。それは結果を出すためであり、時間をむだにするためではない」と述べ、ロシア側に対話の必要性を訴えました。
●ロシア ウクライナ東部で支配拡大に重点 停戦交渉は依然不透明  3/26
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は首都キエフ周辺などで戦況がこう着する中、ロシア側は親ロシア派の武装勢力が影響力を持つウクライナ東部で支配地域を広げることに重点を置く考えを示しています。
こうした中、両国の停戦交渉は主張の隔たりが埋まっておらず、事態の打開に向けた合意は依然として見通せない状況です。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの国防省は26日、北西部ジトーミル州のウクライナ軍の武器弾薬庫や南部ミコライフ郊外の燃料施設を巡航ミサイル「カリブル」などで破壊したと発表しました。
また、25日にはこれまでの戦況の評価として、ロシア軍が首都キエフや第2の都市ハリコフなどの軍事施設を攻撃し都市周辺の封鎖を試みたことは、親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ東部の軍事作戦を成功させるため、ウクライナ軍を足止めし打撃を与えることが目的だったなどと主張しました。
そのうえで「第1段階の主要目的は達成された」として、ウクライナ軍の戦闘能力をそいだと強調し、今後は東部での作戦に重点を置くとしました。
ロシア国防省はこれまでの作戦でウクライナ東部ではルガンスク州の93%、ドネツク州の54%をロシア軍や親ロシア派の武装勢力が支配下に置いたと主張していて、今後、要衝のマリウポリを含む2州の完全掌握に向け、攻勢を強める考えと見られます。
ロシア軍の侵攻については、アメリカ国防当局も25日、キエフ周辺の部隊に前進しようとする兆候が見られず、東部での軍事作戦を優先して攻撃を強化しているという見方を示しました。
また、イギリス国防省は26日、ロシア軍が都市部で歩兵部隊による大規模な作戦を行うことに消極的で、空爆や砲撃による無差別攻撃でウクライナ側の士気を低下させようとしていると指摘し、市民の犠牲がさらに広がるおそれがあると警告しています。
こうした中、停戦に向けたロシアとウクライナの交渉は26日もオンラインで続けられる見通しですが、ロシア代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官は25日「重要な問題が堂々巡りになっている。ウクライナ側が話し合いを引き延ばそうとしている」と批判しました。
これに対し、ウクライナのクレバ外相も「ロシアとの意見の一致はまだない。ウクライナは停戦と安全保障を明確に求めている。領土保全では決して妥協しない」と述べるなど交渉は難航していて、事態の打開に向けた合意は依然として見通せない状況です。
ロシア国防省はこれまでの作戦でウクライナ東部ではルガンスク州の93%、ドネツク州の54%をロシア軍や親ロシア派の武装勢力が支配下に置いたと主張していて、今後、要衝のマリウポリを含む2州の完全掌握に向け、攻勢を強める考えと見られます。
ロシア軍の侵攻については、アメリカ国防当局も25日、キエフ周辺の部隊に前進しようとする兆候が見られず、東部での軍事作戦を優先して攻撃を強化しているという見方を示しました。
また、イギリス国防省は26日、ロシア軍が都市部で歩兵部隊による大規模な作戦を行うことに消極的で、空爆や砲撃による無差別攻撃でウクライナ側の士気を低下させようとしていると指摘し、市民の犠牲がさらに広がるおそれがあると警告しています。
こうした中、停戦に向けたロシアとウクライナの交渉は26日もオンラインで続けられる見通しですが、ロシア代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官は25日「重要な問題が堂々巡りになっている。ウクライナ側が話し合いを引き延ばそうとしている」と批判しました。
これに対し、ウクライナのクレバ外相も「ロシアとの意見の一致はまだない。ウクライナは停戦と安全保障を明確に求めている。領土保全では決して妥協しない」と述べるなど交渉は難航していて、事態の打開に向けた合意は依然として見通せない状況です。
●ウクライナ副首相 “各地の市長ら14人がロシア軍に拉致” 3/26
ウクライナのベレシチュク副首相は記者会見し、ロシアの軍事侵攻が始まって以降、ウクライナ各地で市長や副市長、地方議員ら合わせて14人がロシア軍に拉致されていると発表しました。
ウクライナのベレシチュク副首相は24日に行った記者会見で、南東部ザポリージャ州のドニプロルドネの市長や、南部ヘルソン州のベリスラフの市長、それに別の都市の副市長や地方議員ら合わせて14人がロシア軍に拉致されていると発表しました。
ロシア軍が侵攻した地域では、これまで各地の市長らがロシア軍に連れ去られたという報告が相次いでいて今回、ベレシチュク副首相が全体状況をまとめて発表した形です。
ベレシチュク副首相は「拉致されて無事に逃げ出した人からは『ロシア軍が拷問を行っていた』という報告を受けている」と述べてロシア軍を強く非難しました。
●米とウクライナ 外務・防衛担当閣僚ら 軍事支援の在り方協議  3/26
ウクライナの隣国ポーランドで、アメリカとウクライナの外務・防衛担当の閣僚協議が行われました。ロシアによる軍事侵攻が始まって以降、両国の主要2閣僚が直接協議したのは初めてで、アメリカのウクライナへのさらなる軍事支援の在り方などについて意見を交わしました。
アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官、それにウクライナのクレバ外相とレズニコフ国防相による閣僚協議は26日、日本時間の26日夜、ウクライナの隣国ポーランドで行われました。協議は予告なく行われ、アメリカのバイデン大統領も協議の一部に参加しました。
ホワイトハウスなどによりますとバイデン大統領は、今週行われたNATO=北大西洋条約機構の首脳会議に触れ、アメリカが、ウクライナを支援するため、世界をどのように結束させようとしているのか説明したということです。
また、双方は、アメリカのウクライナに対するさらなる軍事支援の在り方について意見を交わしたとしています。
ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATO首脳会議で戦闘機や戦車といった、より攻撃力が高い兵器の供与を改めて要請したのに対し、アメリカ側は、ロシアとの直接の軍事衝突につながらないことが重要だとして戦闘機などの供与には慎重な姿勢を崩していません。
アメリカ側はさらなる軍事支援について、どのような意見を交わしたのか明らかにしていません。
●非道プーチン<Eクライナ国民を極東サハリンに強制移送 3/26
ロシアによるウクライナ侵攻で、残虐非道がまかり通っている。祖国を守り抜こうとするウクライナ軍は首都キエフ周辺では善戦・反撃しているが、東部マリウポリではロシア軍の包囲攻撃が2月末から続き、街は廃虚となり、多くの一般市民が犠牲になっているという。ウクライナ政府は、約6000人のマリウポリ市民がロシアに拉致・強制移送され、約1万5000人が同様の対象になっていると訴えた。移送先は、ロシア北部が示され、極東サハリンも含まれるという。ソ連による国際法違反である「シベリア抑留」を思い出させる。ウラジーミル・プーチン大統領の暴走を止められないのか。
「民主主義が勝つか専制主義が勝つか。今問われている」「(ロシアや中国など専制主義勢力に勝利を許せば)世界は変わる」
ジョー・バイデン米大統領は25日、ウクライナと国境を接するポーランドを訪れ、NATO(北大西洋条約機構)加盟国防衛の一環として派遣された米兵を激励し、こう訴えた。
ウクライナ軍は、ロシア軍部隊を首都キエフの中心部から約55キロの地点まで後退させるなど善戦が伝えられる。ただ、南東部ではロシア軍による激しい攻撃が続いている。
ロシア軍は25日、東部マリウポリの一部を制圧したとみられ、地元メディアは同市市長が市外へ退避したと伝えた。タス通信によれば、親露派武装勢力が実効支配する「ドネツク人民共和国」のトップ、デニス・プシーリン氏が同日、市内に入ったという。
マリウポリ当局は同日、ロシア軍の16日の空爆で崩壊し、避難していた多数の市民が生き埋めになっていた劇場について、「死者は約300人に上る」と発表した。劇場近くの路上には、空から視認できる大きな白い文字で「子供たち」と書かれていた。
同市の中心部は、ロシア軍の空爆によって、都市全体が廃虚と化しており、路上に死体が放置されている。22日までに市民3000人以上が死亡したとみられ、今後も増えることが予想される。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も「何も残っていない」と述べている。
ロシアの非人道的行為はさらに続く。
ウクライナ政府によると、約6000人のマリウポリ市民がロシアに拉致・強制移送されており、約1万5000人に同様の危険性があると伝えている。移送先はロシア北部といい、直線距離で7000キロ以上も離れた極東サハリンまで送られる可能性があるという。
国際政治学者の島田洋一氏は「強制移住は、非人道的行為を禁じた『ジェノサイド条約』に明記されており、ロシア側が強行したとすれば十分にジェノサイドと認定される。市民の生活基盤を奪うことで抵抗できなくする狙いだろうが、発想はスターリンによる民族政策と同様で、戦後の日本人に対する『シベリア抑留』も想起させる」と非難した。
一方、ウクライナ軍の士気は落ちていない。
ウクライナ海軍が、南部の港湾都市ベルジャンシク周辺で撃沈したと伝えていたロシアの戦車揚陸艦「オルスク」は、大型揚陸艦「サラトフ」だったと情報が更新された。同「ツェーザリ・クニコフ」と「ノボチェルカスク」にも損傷を与えたという。
ロシア国防省は25日、ウクライナ侵攻で露軍の将兵1351人が戦死し、3825人が負傷したとやっと発表した。
ただ、米紙は、ロシア軍は推計で7000人超が戦死したと報じている。ウクライナ軍は、ロシア軍の戦死者は約1万5000人と主張している。ロシア軍が想定以上に損傷しているのも確かだ。
前出の島田氏は「プーチン氏は現在、ウクライナ全土ではなく、実効支配している東部ドンバス地域と南部クリミア半島の間にあるマリウポリを制圧することに集中している。NATOは踏み込んだ軍事支援を表明していないが、秘密裏に新たな軍事支援を行う必要がある。戦局停滞を受けて、プーチン氏が今後、戦術核などを使う危険性もある。西側諸国による牽制(けんせい)と、ウクライナへの支援が重要になる」と指摘した。 
●ウクライナ東部へ重点攻勢のロシア、ジョージア駐留部隊を投入の兆候  3/26
ロシア国防省は25日、ウクライナでの軍事作戦について、東部の親露派武装集団支配地域の拡大に重点を移す方針を示した。南東部マリウポリなどの制圧を目指すとみられる。米国防総省高官も25日、記者団に対し、露軍が東部で攻勢を強めているとの分析を示し、旧ソ連構成国のジョージアに駐留する露軍部隊をウクライナに援軍として送る兆候があるとも指摘した。
米国防総省高官は、露軍が東部に注力する狙いについて「東部にいるウクライナ軍を遮断するためだ」と指摘。首都キエフでは露軍が苦戦しており、東部で制圧地域を拡大し、停戦協議を有利に進める意図があるとの見方を示した。
露軍が投入する兆候がある援軍は、ロシアを後ろ盾にジョージア(当時グルジア)からの分離独立を一方的に宣言した南オセチア自治州とアブハジア自治共和国に駐留する露軍部隊だとみられる。
マリウポリについて、東部ドネツク州の知事は25日、「まだウクライナ軍が管理下に置いている」と述べたが、露国防省は、制圧に向け激しい攻撃を続けている。ロイター通信によると、現地で人権状況を監視する国連担当者は25日、マリウポリで死者をまとめて埋葬する集団墓地が増え続け、約200体が1か所に埋葬された墓地もあると報告した。
ウクライナ外務省は24日、「ロシアは約6000人のマリウポリ市民を強制的に連行し、ウクライナに政治的な圧力をかけるための人質に使おうとしている」と非難した。
ウクライナのイリナ・ベレシュチュク副首相は25日、露軍が14都市の市長を拉致し捕虜にしたと主張。露軍捕虜と交換する目的だと非難した。キエフ北東のチェルニヒウ州当局は25日、露軍が地元の行政職員2人、市民11人を拉致したと明らかにした。
また、キエフ北部のチェルノブイリ原子力発電所の職員が住む都市の近くで露軍の攻撃があり、国際原子力機関(IAEA)は25日、原発の技術職員が21日以降、再び勤務の交代ができない状態だと発表した。 
●キエフの1か月 ロシア軍”苦戦”の理由は  3/26
「ロシア軍の攻撃は日に日に近づいています。キエフは安全だと思っていましたが、そうではなくなったようです」家族を国外に避難させ、今もウクライナの首都キエフに残る男性が語った街の様子です。ロシア軍が強める攻勢。一方で最近はウクライナ軍が反撃に転じているという分析もあります。キエフをめぐるこの1か月の攻防からは、プーチン大統領の「誤算」がかいま見えてきました。「誤算」の中身、”苦戦”の理由、詳しく分析します。
「ウクライナで また家族と一緒に」
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1か月。家族を国外に避難させ、みずからは首都キエフにとどまっているゲラ・トゥラベリーゼさん(50歳)がオンラインインタビューで今の状況を説明しました(取材は現地時間の3月24日)。
Q キエフ市内、今の状況は?
「今のところ一部のスーパーなどは営業しているので食料を確保できていますが、この状況が続けばいつまでもつかわかりません。市民は状況がよくならないことに疲れている様子です」
Q ロシア軍の攻撃は?
「自宅から2キロほどの場所で、きのうロシア軍が住宅街に向けて砲撃を行い、ガスのパイプも破壊され、多くの人たちが住む場所を失いました」「侵攻後数週間は住宅街がねらわれることはありませんでした。ロシア軍の攻撃は日に日に近づいています。爆発音やロケット攻撃の音が毎晩夜通し聞こえます。キエフは安全だと思っていましたが、そうではなくなったようです」
Q いま、願うことは?
「ウクライナで、また家族と一緒に暮らしたい」
キエフをめぐる 1か月の攻防戦
ロシア軍は侵攻開始直後からキエフへの攻勢を強めてきました。主にベラルーシを経由して南下し、キエフへ向かったとみられるロシア軍。アメリカ国防総省の高官は当時「彼ら(=ロシア軍)は、ウクライナ政府を崩壊させ、自分たちの統治方法を確立するつもりだと考えられる」と指摘していました。侵攻開始から約2週間後、ロシア軍はキエフ中心部から約15キロまで近づきます(アメリカ国防総省高官分析)。最新の戦況については、キエフ北東方向から中心部まで20〜30キロにいたロシア軍部隊が、約55キロの位置まで後退しているとみられます(アメリカ国防総省高官分析)。イギリス国防省は、キエフ北東のロシア軍部隊が物資不足や士気低下といった深刻な問題に直面しているとしています。ウクライナ軍がキエフ近郊の複数の町で反撃に転じ、北西のブチャやイルピンではロシア軍を包囲できる状況にあるとしています。
プーチン大統領の“誤算”
こうした状況から、この1か月はプーチン大統領の「誤算」がかいま見え、それを象徴するのがキエフをめぐる攻防だったと言えます。
(1) ウクライナ側の抵抗
(2) ロシア軍の準備不足
(3) ロシア軍の士気低下
(4) 通信内容も傍受される
(5) 戦力分散で膠着状態
この5つの要因から、「誤算」を詳しく読み解きます。
ウクライナ側の抵抗
アメリカのメディアは、ウクライナ軍が機動性のある小規模な部隊を構成し、戦力的に優位なロシア軍に対して待ち伏せや夜間の攻撃を仕掛けていると伝えています。
ウクライナ側にはアメリカなどの西側諸国から
・戦車などの装甲を貫通する対戦車ミサイル「ジャベリン」
・ヘリコプターや戦闘機などを撃墜できる携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」
といった兵器が供与されているといいます。
強力なミサイルを標的に向けて自動で誘導する精密兵器で、兵士が肩に担いで発射できる機動性も兼ね備えています。都市部の戦闘では防衛する側が敵の侵入を待ち伏せすることができるため有利になるとアメリカの軍事専門家は指摘していて、ウクライナ側が供与された兵器を活用して効果的に侵攻を食い止めているとみられます。
ロシア軍の準備不足
ロシア軍の部隊は侵攻開始直後から、燃料や食料など作戦を遂行するのに必要となる物資の不足に悩まされ、進軍の遅れにつながっていると指摘されています。アメリカ国防総省は、短期戦になると見込んだロシア軍が物資補給について適切な計画を立てていなかったと分析していて、現地では防寒具も不足し、一部の兵士が凍傷に苦しむなど戦闘ができない状態になっている兆候があるとしています。ウクライナ側はロシア軍の前線部隊に補給を行う車両にも攻撃を仕掛けていて、ロシア軍の物資の不足は今も続き、部隊前進の停滞を招く一因になっているとみられます。
ロシア軍の士気低下
アメリカ国防総省によりますと、前線に送られた一部の兵士は、あくまでも“演習に参加するだけ”で戦闘に加わることを知らされておらず、ウクライナ側の抵抗に直面し、士気が低下しているとの情報もあるということです。
通信内容も傍受される
長期間に及ぶ侵攻を想定していなかったロシア軍は、広大なウクライナ領域をカバーできる通信環境を整えることができなかったと、アメリカメディアは当局者などの話として伝えています。機密情報のやりとりも専用の無線通信システムではなく一般のシステムを使わざるをえなくなり、ウクライナ軍に通信内容を傍受されているとみられるということです。
戦力分散で膠着状態
ロシア軍が首都キエフや第2の都市ハリコフなど複数都市を同時に制圧しようとした結果、戦力が分散し、いずれの地域でも膠着(こうちゃく)状態に陥ったとの分析も専門家から出ています。
「ロシア軍 適切に計画立てたとは思えない」
「ロシアは第2次世界大戦以来、これほど大規模な作戦を行ったことがなく、作戦の規模に対して適切に計画を立てたとは思えない」ロシア軍が予想以上に苦戦しているとみられることについて、アメリカ国防総省の高官はこう指摘します。ウクライナへの侵攻当初は“圧倒的優勢”と思われていた、軍事大国ロシア。しかし現実はそのとおりにはなっていません。それどころかウクライナは対戦車砲などの武器を最大限に活用し、多大な犠牲を払いながらも抵抗を続けています。一方で、ロシア軍は「第5世代」と呼ばれる最新鋭の戦闘機や爆撃機など、強大な戦力を温存しているといいます。そして状況によっては核兵器を使用する可能性も排除しない姿勢を示しています。ロシア軍とウクライナ軍による戦局は、予断を許さない状況が続いています。
●プーチン体制をきしませるロシア内の2つの勢力  3/26
ウクライナ侵攻作戦開始から1カ月が過ぎたロシア。軍事作戦が難航する中、政権内の大物が戦争を批判して出国するなどプーチン体制の動揺が少しずつ表面化してきた。治安機関などエリート層でも責任のなすり合いの動きが始まった。苛立ちを強めるプーチン氏はついにスターリン時代の粛清を想起させる強烈な演説を行い、恐怖をちらつかせて国民全体に対し団結と自らへの再忠誠を求める事態となっている。
2022年3月23日までに辞任して出国したのは、エリツィン政権時代に第1副首相として民営化の推進役を務めたチュバイス大統領特別代表だ。政権内で侵攻に反対して辞任した初の大物だ。リベラル派でプーチン氏とは近い存在ではなく、政権の中枢ではなかった。しかし知名度では国民の間で高く、政権に打撃となるのは必至だ。これにより政権内部から同様の離脱が続く可能性が出てきた。
これより先、国内では国営テレビの編集者が看板ニュース番組の放送中に侵攻に反対する抗議プラカードを掲げるなど、異議申し立ての動きが少しずつ出ていた。これを受け大統領は2022年3月16日、力で反対論を押さえ込む強硬姿勢を明確に打ち出した。
スターリン時代を彷彿させる発言
プーチン氏は会議での演説で、スターリン時代の大規模粛清の歴史が国民的記憶になっているロシア社会にとって、背筋が凍るような言葉を満載した発言を行った。主な内容はこうだ。「西側はわれわれの社会を分裂させようとしている。戦争の損失を利用して国民間の対立を挑発しようとしている。『第5列』を利用して、目的を実現しようとしている」。キーワードは「第5列」。スターリン時代、外国の手先となって反国家的行動をしたとして粛清された多くの共産党幹部、軍人が張られたレッテルだ。
プーチン氏はさらに、強烈な言葉で踏み込んだ。「ロシア国民は本当の愛国者と裏切り者を区別できる能力がある。社会の自浄こそがわが国を強化する」。「裏切り者(ロシア語でプリダーチェリ)」とは、プーチン氏の言説の中で最も憎むべき相手を指す言葉だ。
最近も使った例がある。2018年にイギリスで元ロシア情報機関幹部のスクリパリ氏が毒物で襲われた事件で、プーチン氏はロシアの関与を否定する一方で、同氏を「プリダーチェリ」と吐き捨てた。ソ連崩壊時元KGBのスパイだったプーチン氏にとって、西側に寝返った元スパイは絶対に許せない「敵」なのだ。一方で、最大の政敵である反政権派リーダーのナワリヌイ氏に対しては、毒殺未遂までして刑務所に送り込んだにもかかわらず、彼にはこの言葉は使わない。
さらに「自浄」にも、中年以上のロシア人なら誰でもわかる仕掛けがあった。「浄」を指すロシア語は、「粛清」をも意味するからだ。この激烈な発言をちりばめたプーチン氏の視線の先にあるのは、先述のテレビ局職員でないことは明らかだ。侵攻への懸念を表明した元閣僚や一部の新興財閥(オリガルヒ)といった、プーチン体制のインナーサークルからの一連の発言をより深刻視しているのは間違いない。
ロシア既成支配層の一員として、最初に明確に戦争反対を表明したのはドボルコビッチ元副首相(49歳)だ。2018年に解任された同氏は、アメリカのリベラル系雑誌のインタビューで「この戦争も含め、戦争というものは最悪のものだ。ウクライナ市民にお見舞いを申し上げる」と反戦の立場を鮮明にした。日本では無名だが、同氏はリベラル派の経済専門家だ。現在の国家安全保障会議副議長であるメドベージェフ氏が大統領在任中は、経済顧問も務めた。それだけに同氏の反戦発言はプーチン氏にはショックだったろう。
先述の演説でプーチン氏は「第5列」に当てはまる人を、「ロシアで収入を得ながら、精神的には外国のために動く人物」と規定した。元副首相の言動は、まさにこの「定義」に当てはまる。与党である「統一ロシア」の議員からは、プーチン演説の意を受けた批判が飛び出した。「ドボルコビッチは国家的裏切りであり、第5列的行動だ」と。そのため、同氏は先端技術開発の財団のトップを降りることになった。この事態は多くの政府職員にとって大きな警告になったはずだ。
だが、プーチン氏が現時点で最も警戒しているのは、オリガルヒが離反するかどうかといった動きだろう。彼らは治安機関とともに、プーチン体制を支える政商集団だからだ。侵攻が始まった直後の2022年2月末、代表的なオリガルヒ2人が侵攻の中止を求める声をあげた。その2人とは、ウクライナ生まれの金融王のフリードマン氏とアルミ王のデリパスカ氏で、いずれも世界有数の大富豪だ。
プーチンを支える2つの政商集団
フリードマン氏は社員宛ての書簡で、両親がウクライナ西部のリビウに住んでおり、両国民にとって戦争が「悲劇だ」と嘆いた。デリパスカ氏は、最近プーチン政権との密着ぶりが反政権側から批判されている大物だ。しかしその後、両者を含め侵攻に強硬に異議を表明する発言はオリガルヒから出ていない。おそらくプーチン氏の「第5列」演説が、恐怖感を彼らに強く植え付けたからだろう。プーチン氏はこう巧みに警告した。「フランスにヴィラ(邸宅)を持っていても非難しない。問題はこうした人々の心がロシアになく、向こうにあることだ」と。
オリガルヒの巨万の富の象徴は、欧州の有名リゾートに建てた宮殿のようなヴィラと巨大なヨットだ。欧米の大規模な制裁を受け、プーチン政権の強硬路線に不満を感じながらも、オリガルヒは一斉に口をつぐんだとみられる。
一口にオリガルヒと言っても、大きく2グループに分かれる。ソ連崩壊後のエリツィン時代に地位を築いたフリードマン氏とデリパスカ氏が代表するような前政権からの生き残り組と、2000年にプーチン氏が大統領に就任して以降、彼から利権の分配を受けてそれぞれ巨大な企業グループを作り上げた「プーチン氏のお友達から転じたオリガルヒ」たちだ。プーチン氏との密着度は後者のほうが当然強い。
最近有名になったのは、銀行・建設業グループを率いるロテンベルク兄弟だ。元々はプーチン氏の柔道仲間だ。2021年1月、ロシアの反体制派のナワリヌイ氏の調査チームは、大統領がロシア南部の黒海沿岸に推定1000億ルーブル(約1400億円)相当の豪華な「宮殿」を所有していると批判する動画を公開した。大統領側は所有を否定しているが、この際に建設資金を工面したのが同兄弟と言われた。さらに同兄弟はロシアが2014年に併合したクリミアでの橋建設にも協力するなど、政権と完全に一体化している。
もう1人、今回の侵攻に絡んで存在がクローズアップされた「お友達オリガルヒ」が、国営軍事企業ロステックを率いるチェメゾフ氏だ。ロシア軍は2022年3月18日に部隊配備されたばかりの極超音速滑空体ミサイル「キンジャル」を初めて攻撃で使用した。キンジャルを製造したのがこのロステックだ。チェメゾフ氏は、旧東ドイツでプーチン氏と同じアパートに住んでいたスパイ仲間だ。
プーチン政権の特徴は、このような「お友達オリガルヒ」たちとがっちり築いた「個人専制主義体制」だ。投獄されたナワリヌイ氏率いるグループは、こうしたオリガルヒを含めプーチン氏に近い35人を制裁の対象とするようアメリカ政府に提言したが、2021年6月のジュネーブでの米ロ首脳会談前にバイデン氏が却下した経緯がある。
政商集団への制裁は打撃となるか
しかし侵攻後、一転して、35人すべてが制裁の対象になった。今後制裁がじわじわとオリガルヒたちのビジネスに打撃を与えることになるのは必至だ。近年、プーチン政権が欧米との対立を深める中、グローバル経済に組み込まれたオリガルヒたちがビジネスへの悪影響を懸念してクレムリンから離反するのでは、との観測は出ていた。これからもオリガルヒから離反者を出さないことがプーチン体制の命運を握ることになりそうだ。
逆に言えば、バイデン政権にとっては両者を離反させることがプーチン氏の権力掌握を弱めるうえで重要になってくる。バイデン政権発足当初、ホワイトハウスの国家安全保障会議で対ロシア政策を担当したケンドール・タイラー氏らは、アメリカがプーチン政権の壮大な腐敗構造の実態をロシア国民に直接伝えるべきと主張している。
一方、プーチン政権のもう一つの権力基盤である治安機関で、オリガルヒらの動揺がよりはっきりと表面化している。ロシア有力紙コメルサントは2022年3月17日、治安維持や国家施設の警備などを担当する国家親衛隊(NGR)のガブリロフ副隊長が辞表を提出したと報じた。副隊長が逮捕されたとの未確認情報も流れている。理由は明確でないが、侵攻作戦の当初の失敗で責任を取らされた可能性がある。
NGR部隊は侵攻時に陸軍部隊とともにウクライナに侵入した。通常の作戦では、治安維持が任務となるNGRが攻撃の最前線に立つことはない。明らかに「軽武装」だった今回の侵攻作戦をめぐっては、クレムリンでスピーチライターを務めた経験からクレムリンの内幕に詳しいガリャモフ氏が「クリミア併合時のように、短期間で簡単にキエフを制圧できると軍部が大統領を説得したため」と解説している。
NGRをめぐり、クレムリンの内幕を暴く調査報道で定評のある国際調査報道組織「ベリング・キャット」の看板記者グロゼフ氏は、より衝撃的情報を伝えている。副隊長は逮捕されたのであり、その理由は機密漏洩という。具体的には、ウクライナ国内でのロシア軍部隊の配置に関する情報漏洩という。この関連で想起されるのは侵攻直前にロシア軍の侵攻が間近だと断言したバイデン氏の発言だ。
最大の治安機関FSBにも異変が
グロゼフ氏はさらに、ロシア最大の治安機関である連邦保安局(FSB)でも異変が起きていると伝えた。FSBでウクライナ情報を担当していた第5局のトップであるベセニン氏が、クレムリン内で逮捕されたとするものだ。もしこれが事実なら、軍部だけでなくFSBも侵攻前に、大統領にウクライナに関する不正確な情報を報告した可能性が出てくる。
これらの情報が意味することは、当初の作戦失敗をめぐりプーチン政権内で対立と責任のなすり合いが始まったということだろう。一方で、プーチン氏は失敗の責任を軍部や治安機関に押し付ける可能性を示唆した。2022年3月16日の演説で侵攻作戦について、「軍事行動の戦術は軍と参謀本部がまとめた」とわざわざ「戦術」に言及したのだ。侵攻するという自分の戦略は正しかったが、戦術が間違っていたと言わんばかりだ。今後の治安機関内での捜査が進む中で、自らの責任を棚上げし、粛清の対象として「犯人」を国民に示すかもしれない。
だが、作戦の当初の失敗は軍部のお粗末さが要因だったとしても、その裏に実は別の重要な要因があると筆者は考える。簡単にキエフを制圧できるとの報告を信じ込んだプーチン氏自身の責任である。その背景には、ウクライナを下に見るプーチン氏の「侮蔑」があったのではないか。西側に走った「弟」ウクライナ軍を相手に大した兵力は必要ないし、簡単に勝利できるとの自信過剰だ。軍部や治安機関はそんなプーチン氏の過信に忖度して、プーチン氏が聞きたいストーリーを「情報」として吹き込んだだけではないのか。
そうだとすれば、偽情報で国際社会を翻弄したプーチン氏が部下の偽情報で判断を誤ったという皮肉な「ブーメランの構図」が浮かび上がる。
こうした疑心暗鬼が広がる中、プーチン氏は2022年3月18日、モスクワの巨大なスタジアムでクリミア併合8周年を祝う大集会を開催した。会場周辺も含め20万人以上が参加したという集会に登場したプーチン氏は、「こんな団結は長いことなかった」と国民団結の必要性を訴えた。
とはいえ、大統領が引き続き国民から高い支持を得られるかどうかと、ガリャモフ氏は疑問を呈する。「国民がこれまで支持してきたのは、プーチン氏が始めたことを必ず成功させてきたから。失敗すれば支持は消えるだろう。大統領には国民が納得できる成功が必要だ」。同氏の指摘を待つまでもなく、プーチン氏自身もこれをよくわかっているはずだ。何らかの「成功」を達成するためにも、恐怖心を煽ってでも政権の下に国民を結集させることが不可欠だ。
背水の陣を敷いたプーチン
高級紙ネザビシマヤ・ガゼータは2022年3月16日の演説の意味について、このような見方を示している。「大統領がエリートに向けて再度の忠誠を求めたものであり、エリートに対する粛清はやがて一般国民にも広がるだろう」と。
反政権派が現在懸念しているのは、「第5列」という新たなレッテルが組織や個人に公式に張られることだ。政権は2021年夏から独立系のメディアや組織に対し、「海外の代理人」「望ましくない団体」などの指定を恣意的に乱発することで新聞を閉鎖に追い込み、民主派政治家を海外移住へと追いやってきた。
すでに、こうした懸念を立証しそうな前触れ的「事件」が起き始めている。反戦的言動をしたジャーナリストが住むアパート入り口のドアに、「祖国を裏切るな」との警告文とともに、今回の侵攻作戦でロシア軍のシンボルとなった「Z」の文字がペンキで書かれたのだ。この「事件」は写真付きでネットで報じられている。ナチス・ドイツがユダヤ人家庭のドアにダビデの星マークを付けた、おぞましい記憶が蘇る話だ。
プーチン氏は常軌を逸した侵攻を続ける一方で、ロシア国内でも恐怖を武器にこれまでの「プーチン1強体制」を死守するための背水の「戦争」を仕掛けている。

 

●在外ロシア人が「反プーチン」デモ プラハで5000人 3/27
在チェコのロシア人らが26日、プラハ中心部で、ロシアのプーチン大統領にウクライナ侵攻中止を要求するデモを行った。主催者によると参加者は約5000人で、「プーチンのいないロシアを」「ロシアに自由を、ウクライナに平和を」とシュプレヒコールを上げた。
デモを主催したプラハ在住の芸術家で活動家アントン・リトビンさんはAFP通信に、「ここで暮らすロシア人はプーチンと戦争に反対し、ウクライナを支持していることを示したかった」と説明した。デモではロシア人に対し「声を上げ、ウクライナではなく真の敵と戦え」と訴える横断幕も掲げられた。
●バイデン氏「プーチン氏は権力の座にいられない」… 3/27
米国のバイデン大統領は26日、ワルシャワで演説し、ロシアのプーチン大統領を「独裁者」と呼んで厳しく批判した上で、「ロシアはウクライナで勝利を手にすることはない。自由を求める人々は、失望と暗闇に満ちた世界を拒むからだ」と訴えた。「民主主義と自由、可能性に根付いた明るい未来が訪れるだろう」とも述べ、「この男(プーチン氏)は権力の座にはいられない」と結んだ。
プーチン体制の転換を求めたとも受け取れる発言に対し、米ホワイトハウス関係者は「プーチンによる他国への力の行使が許されるべきではない、というのが大統領の発言の趣旨だった。体制転換について語ったものではない」と米メディアへの釈明に追われた。
バイデン氏の発言について、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官はロイター通信に対し、「ロシアの大統領はロシア国民が選出しており、バイデンが決めるものではない」と述べた。
●プーチン氏は「権力から引け」 バイデン氏、ワルシャワで演説  3/27
バイデン米大統領は26日、訪問先のワルシャワで演説し、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領について「権力の座にとどまるべきではない」と強く非難した。また、「民主主義と専制主義の戦いだ」と位置付け、「数年後、数十年後も結束し続けなければならない」と述べ、各国に対ロ共闘の継続を呼び掛けた。
ホワイトハウス当局者は演説後、バイデン氏の発言に関して記者団に「隣国やその地域でプーチンが権力を行使することは容認されるべきではないという意味だ」と述べ、政権交代や体制転換に言及したものではないと釈明した。米政府はこれまでロシアの体制転換は追求しない方針を示している。
ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官はバイデン氏の発言について問われ、「バイデンが決めることではない。ロシアの大統領はロシア人によって選ばれる」と述べた。
バイデン氏は演説で、ウクライナ侵攻は「第2次大戦後に確立されたルールに基づく国際秩序への真っ向からの挑戦だ」と批判。ウクライナの人々は法の支配や言論の自由など「民主主義の原則」を守るために抵抗しており、「この戦争は既にロシアの戦略的失敗だ」と強調した。
また、対ロ制裁の影響でロシア経済が縮小し、世界上位20位から転落すると予想。一方でロシア国民が「罪のない子供を殺すことを受け入れているとは思わない」とし、「侵略がロシアの人々を世界から切り離した」とプーチン氏の責任を追及する姿勢を示した。
●米大統領、ウクライナ外相・国防相と“直接会談” 3/27
アメリカのバイデン大統領は26日、訪問先のポーランドで、ウクライナの外相・国防相と会談しました。ロシアの軍事侵攻後、ウクライナの政権幹部と直接会談するのは初めてです。
会談は、アメリカとウクライナの2プラス2=外務・防衛の閣僚協議に、バイデン大統領が加わる形で行われました。
バイデン大統領は、アメリカが進める軍事支援や人道支援について直接説明し、今後の取り組みも協議しました。
その後、大統領は、ウクライナの隣国ポーランドのドゥダ大統領とも会談しました。
バイデン大統領「プーチンは過去の歴史に基づき、NATOを東西で分断し、国家を分断できると思っていたのだろう。しかし、我々は結束している」
バイデン大統領は、ポーランドにはウクライナから200万人を超える避難民が逃れていることを踏まえ、「ポーランドは非常に大きな責任を担っている」と強調しました。
また、ドゥダ大統領に対し、アメリカには、ポーランドも含めたNATO(=北大西洋条約機構)の加盟国への防衛義務があると改めて伝えました。
●ロシア軍 東部で軍事作戦強化 キエフ周辺などの長距離攻撃継続  3/27
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ東部で軍事作戦を強化する構えを見せる一方で、地上部隊の苦戦が伝えられる首都キエフ周辺などにはミサイルなどによる長距離の攻撃を続けています。
ロシアの国防省は26日、キエフ州にあるウクライナ軍の対空ミサイルシステムを短距離弾道ミサイル「イスカンデル」で攻撃したほか北西部ジトーミル州の武器弾薬庫を巡航ミサイルで破壊したと発表しました。
西部の主要都市リビウでも26日午後、複数の爆発音が聞かれ、地元当局は、「ロケット弾による攻撃で燃料施設が燃えている」と発表しました。
ロシア国防省は25日に、欧米側がウクライナに行う兵器の支援を批判し、「兵器が供給された場合には、放置することはない」としていて、一連の動きは、欧米側をけん制した可能性もあります。
また、ロシアのショイグ国防相は26日、軍幹部を集めた会議で、「前線に武器や装備の供給を継続する。優先すべきは、長距離の精密兵器や航空装備、それに戦略核戦力の戦闘態勢の維持だ」と述べました。
イギリス国防省は26日、戦況がこう着している都市部ではロシア軍は歩兵部隊による大規模な作戦に消極的で、空爆や砲撃による無差別攻撃で、ウクライナ側の士気の低下をねらっていると分析し、市民の犠牲がさらに広がるおそれがあると警告しています。
一方、ロシア軍はウクライナ東部での軍事作戦を強化する構えを示しています。
特に激しい戦闘が続いている東部の要衝マリウポリでは、すでにロシア軍が一部地域を掌握したとみられていて、アメリカのシンクタンク、「戦争研究所」は、「今後、数週間以内にロシア軍が市の全域を掌握するか、ウクライナ側が降伏する可能性がある」としています。
ウクライナ公共放送 動画投稿サイトで発信
ウクライナの公共放送は動画投稿サイト、ユーチューブで現地の状況を連日、国内外に英語で発信しています。
26日に公開された放送では、首都キエフの北にあるスラブチチにロシア軍が侵攻し、病院を占拠したほか、市長を一時、拘束したということです。
これに対して大勢の市民が広場に集まり大きなウクライナの旗を掲げながらデモ行進を行うなどしてロシア軍に抗議し、市長は解放されたということです。
また、東部ハリコフ州では25日、ロシア軍によってガスのパイプラインが破壊され火が出たということです。映像では、町の中でも大きな火柱が出て消防隊が消火活動をしている様子が映っています。また、ハリコフの動物園では、8頭のカンガルーを車に乗せて避難させる様子も伝えています。
動物園によりますと、これまでに大型のカメなどは避難させたということですが、攻撃が続く中で2頭のカンガルーが死んだということです。
●親ロ派地域で「プーチン擁護論」 モルドバ、第2の侵攻に懸念 3/27
ウクライナの隣国で欧州連合(EU)加盟を目指す旧ソ連構成国モルドバでは、戦禍のウクライナに同情を示す人が多く、反戦機運も強い。一方、同じ国内でも親ロシア派が分離独立を宣言し、事実上ロシアの支配下にある東部の「沿ドニエストル共和国」では事情が全く異なり、プーチン政権を擁護する住民が目立つ。ロシアによる「第2の侵攻」の口実に利用されるのではないかとの懸念が広がっている。
モルドバの首都キシニョフから東へ車で1時間半。「国境」はない場所に検問所が見えてくる。ここは1990年に多数派のロシア系住民が「共和国」として分離独立を宣言した地域。ロシアが支援し、92年にモルドバ軍と本格的に衝突した。国際的に国家承認されていないが、モルドバ政府の統治は及ばず、今も約1500人のロシア軍部隊が駐留する。
パスポートを出して「入国」すると、様相が一変。看板や標識はロシア語で書かれ、赤緑の「国旗」とロシア国旗が並んではためく。「首都」ティラスポリの議会前にはレーニン像がそびえ建ち、旧ソ連製とみられる古い戦車の展示も。まるでソ連時代にタイムスリップした雰囲気だ。
ティラスポリ市内は一見、すぐ近くで紛争が起きていることが信じられないくらい穏やかだ。公園でくつろぐ人々にウクライナ情勢をどう思うか聞くと、弁護士のリュドミラ・リトビネンコさん(36)は「戦争は心配」だが自分は政治的に中立と強調。「私たちを助けてくれるロシアを悪くは言えない。ロシアは公共施設を建て、奨学金を出し、年金を補助してくれる」と主張した。
教師のデニス・ブルカさん(35)は「親戚がウクライナにいて心配」である一方、「ロシアばかりが悪いわけでない。開戦前はロシア側が歩み寄ろうとしたが、汚職まみれのウクライナ政府は何もしなかった」と発言。年金生活者のアラ・サフチェンコさん(63)は「ウクライナ人同士が殺し合っている。ロシアは見ているだけ」と述べた。プロパガンダと情報統制の影響とみられ「プーチン大統領はいい人」という声も聞かれた。
ロシアのてこ入れを受けるこの地域は、ウクライナ東部の親ロ派支配地域「ドネツク人民共和国」や「ルガンスク人民共和国」としばしば比較される。プーチン政権は2月21日に両地域を独立承認し、住民保護を名目としたウクライナ侵攻につながった。モルドバ国民の間では、沿ドニエストルが「ウクライナ東部化」し、ロシアの介入を招くのではないかとの不安が高まっている。
●露軍が作戦を転換、「ロシアを締め上げて中国を脅す」バイデン作戦が奏功か 3/27
「鶏を殺して猿を脅す(殺鶏嚇猴)」という中国の諺がある。ロシア軍のウクライナ侵攻でウラジーミル・プーチン米大統領の横暴を許せば、中国も台湾に武力侵攻しかねないという懸念が西側にはくすぶる。
ここはしっかりウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を軍民両面で支援し、前例のない経済制裁でプーチン氏を破滅に追いやれば中国の習近平国家主席も肝を冷やすに違いない。そんな深謀遠慮が西側にはある。
「ロシアを助けるとどうなるか分かっているか」
ジョー・バイデン米大統領は3月24日、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部で記者会見し「習氏と6〜7日前に電話で話した際、脅しこそしなかったが、ロシアを助けるとどうなるか分かっているか確認した。中国は自国の経済的な未来がロシアよりも西側と密接に結びついていることを理解している。だから習氏が関わらないことを望んでいる」と、旧知の習氏を牽制した。
首脳会議を開いたNATOの30カ国首脳も「中国を含むすべての国家に対し、国連憲章に謳われている主権と領土保全の原則を含む国際秩序を維持し、ロシアの戦争努力をいかなる形でも支援せず、ロシアの制裁回避を助ける行動も控えるよう要請する。中国政府高官の最近の公的発言を懸念しており、中国に対し、特に戦争とNATOに関するクレムリンの誤ったシナリオを増幅することを止め、紛争の平和的解決を促進するよう求める」と警告した。
国連総会(193カ国)は24日、緊急特別会合で「ウクライナで深刻化する人道危機はロシアによる敵対行為の悲惨な結果」と表明し、即時停戦と数百万人の市民、住宅、学校、病院の保護を求める人道決議案を賛成140カ国で採択した。反対はロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮など5カ国。中国やインド、南アフリカ、イランは棄権した。3月2日の敵対行為の即時停止とロシア軍の撤退を求める国連総会のロシア非難決議案も中国は棄権した。
中露「限界なき戦略的パートナーシップ」
ウクライナ侵攻前の2月4日、プーチン氏は北京冬季五輪の開会式出席に合わせて習氏と会談、同盟とまでは行かないものの“不可侵条約”とも言える中露共同声明を発表した。「すべての核兵器国は冷戦思考を放棄して海外配備の核兵器を撤回、ミサイル防衛システムの無制限の開発を排除する」「特定の国家、軍事的・政治的同盟と連合が地政学的対立を激化している。NATOのさらなる拡大に反対する」と限界なき戦略的パートナーシップを宣言した。
プーチン氏は2日間の軍事作戦でゼレンスキー氏の首を親露派の傀儡政権にすげ替え、長期的で法的拘束力のある欧州の安全保障を構築する構想を習氏に内々で伝えていたはずだ。しかしプーチン氏の思惑は外れ、戦闘は泥沼化した。このまま無差別の砲撃や爆撃が続けば、ウクライナの都市は露チェチェン共和国のグロズヌイやシリアのアレッポのように瓦礫と化す。中国も共犯にされるのを恐れて、即時停戦に動かざるを得なくなってきた。
ボリス・ジョンソン英首相は3月19日、英紙サンデー・タイムズ(電子版)に「時間が経つにつれ、ロシアの残虐行為が増えるにつれ、プーチン氏の侵略を容認することは確実に難しくなる。このまま見過ごせると思っていた人たち、塀の上に座っていられると思っていた人々は今、相当なジレンマを抱えている。北京では考え直す人が出始めたようだ」との見方を示している。
秦剛・駐米中国大使は20日、米CBSのインタビューに「中国は戦争に反対し、即時停戦を求めている。ロシアに軍事援助を行うという偽情報があるが、それを否定する。中露は何年もかけて築かれたユニークな信頼関係にある」と述べた。
ロシアを批判する側には回らないが、表立って軍事援助を行うわけにもいかない――中国のそうした態度表明に、ロシアも軍事作戦計画を見直さざるを得なくなってきた模様だ。
予想を上回る損害を出しているロシア軍参謀本部は25日「作戦の第一段階の主要任務」を終了したと取り繕い、キエフ包囲を諦め、東部ドネツク、ルガンスク州の占領に集中する作戦に切り替えると表明した。
ウクライナの激しい抵抗に直面し軍事作戦の停滞が指摘されるロシアが、より限定された目標に切り替えはじめた可能性がある。
23年前の在ベオグラード中国大使館「誤爆」の悪夢
中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」(英語版)は「NATO首脳会議はウクライナ危機の火に油を注ぐ」と題して3月24日「23年前の同日、NATOは78日間のユーゴスラビア爆撃を開始し、数千人の市民を殺害した。NATOは今年も同じ日に首脳会議を開き、“平和”の名の下に軍事配備を強化し、さらにウクライナを武器で武装させるのは誠に皮肉であり、偽善である」という中国人アナリストの分析を伝えている。
1999年5月7日、ベオグラードにある中国大使館が米軍のB2ステルス爆撃機の「誤爆」で中国人3人が死亡、20人以上が負傷した。中国人民は激怒し、北京では直後から大規模な反米デモが起きた。
米国務長官として米中関係の危機を処理したマデレーン・オルブライト氏は同月23日、がんのため84歳で死去した。当時のクリントン米政権は「事故」と謝罪したものの、中国国内には「故意の誤爆」との疑念が今もくすぶる。
コソボ紛争に介入したNATO軍は、主権侵害を理由に和平合意後のNATO主体の平和維持軍駐留を拒否するセルビアへの空爆に踏み切った。この時、セルビアと同じスラブ系のロシアとベラルーシは国連安全保障理事会で武力行使の停止を求めたが、賛成3カ国、反対12カ国で退けられた。中国はロシアとともに賛成に回った。
「誤爆」は、陰でセルビアを支援していると疑われていた中国への嫌がらせと直感する人は少なくなかったのが実情だ。
筆者は「誤爆」の現場を訪れたことがあるが、今回の伏線はこの時始まっていた。99年チェコ、ハンガリー、ポーランドがNATOに加盟。2003年米英がイラク戦争を強行。04年東欧とバルト三国の7カ国がNATOに加盟。09年アルバニアとクロアチアがNATOに加盟。11年米英仏がリビアに軍事介入。12年米CIA(中央情報局)がシリア反体制派に武器供与を開始。17年にモンテネグロ、20年に北マケドニアとNATO加盟が続いた。
「プーチン氏ほど習氏をサポートする指導者はいない」
ロシアの勢力圏への西側の拡大を苦々しく思ってきたプーチン氏がチェチェン紛争を制圧したあと08年グルジア(現ジョージア)紛争、14年のクリミア併合とウクライナ東部紛争への介入、15年のシリア軍事介入と、NATOの東方拡大とアメリカの中東政策に反発する形で軍事行動を起こしてきた。4000キロメートル以上の国境を接する中露関係の歴史は複雑だが、現在は西側の自由と民主主義の排除と原油・天然ガスの供給で利害は一致している。
1956年のスエズ危機をきっかけにアメリカと対立した西欧は旧ソ連の原油・天然ガス依存を深める。ウクライナを経由してパイプラインで結ばれたロシアと欧州は一蓮托生の関係だ。
プーチン氏は短期間でウクライナに傀儡政権を樹立できれば欧州はこれまで通り“形だけの経済制裁”で済ませ、米欧間を分断できると読んでいたに違いない。
しかし今回の戦争でその思惑は大きく外れ、ロシアと欧州は分断し、欧州はアメリカと、ロシアは中国とのエネルギー関係を強めることになった。
英保守党「中国研究グループ」の討論会で、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)中国パワー・プロジェクトのボニー・リン部長は「プーチン氏ほど習氏を支持している指導者はなかなか見当たらない」と指摘する。
「プーチン氏は第1回、第2回の『一帯一路フォーラム』に出席し、新型コロナウイルス・パンデミックでは他国が北京のせいにすることは許されないと公言した。北京冬季五輪でも孤立する習氏をプーチン氏はサポートした」
プーチン氏のこうした献身ぶりもあり、習氏は簡単にロシアを突き放すことはできないと分析する。
「中国はウクライナで平和構築の役割を果たすと言っているが、ロシアとの関係の重要性を根本的に変えたり、見直したりしているとは思えない。中国が今回、何をやっても問題視されると考えたなら、ロシアに近づくことをなぜためらうだろうか。米欧が最初から中国に対抗することを決めているなら、中国は何も失うものはないという議論になりかねない。その意味で中国は戦略的パートナーのロシアを失うわけにはいかないのだ」(ボニー・リン部長)
「中露関係は同盟(alliance)ではなく連携(alignment)」
ロシアは中国にとってサウジアラビアに次ぐ第2の原油供給国で、昨年は総輸入量の16%に当たる日量160万バレルを供給。天然ガスではオーストラリア、トルクメニスタンに次ぐ第3位の166億立方メートル(同10%)を供給した。この2月、露ガスプロムとロスネフチは新しいパイプラインを通じて年間100億立方メートルの天然ガスと日量20万バレルの原油を供給する長期契約を中国側と締結した(米コロンビア大学国際公共政策大学院まとめ)。
中露両国に詳しい米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院のセルゲイ・ラドチェンコ特別教授は、先に触れた英国保守党の討論会で、こう歴史を振り返った。
「中露の出会いは全くと言っていいほど友好的ではなかった。19世紀に入るとロシアはますます東方に進出し、清は衰退した。1949年に毛沢東と中国共産党が革命に勝利し、中ソは接近した。しかし50年に結ばれた同盟はわずか10年で破棄された。中国がボスのソ連に従うという上下関係があったからだ」
69年には中ソ間で国境紛争が勃発。この不和が72年のニクソン電撃訪中につながる。アメリカは中国との関係を深める一方で、ソ連とは政治対話を進めた。ラドチェンコ氏は現在の中露関係について「50年代のような同盟(alliance)ではなく連携(alignment)だ。つまりロシアがウクライナでやっていることは必ずしも中国の賛同を得られるとは限らないということだ。中国はデスカレーションをよびかけ、ある種の調停者になろうとしている」と語る。
「『殺鶏嚇猴』という中国の諺がある。猿を怖がらせるために鶏を殺すという意味だ。西側がロシアに制裁を加える場合、ロシアは猿を脅すための鶏で、中国が猿だ。ロシアに起きたことを目の当たりにして北京はどう思うだろう。ロシア経済は完全にメルトダウンしている」(ラドチェンコ氏)
ロシア軍が作戦を転換したのは態勢の立て直しが不可欠になったことが大きいが、習氏が最大の理解者のプーチン氏を失うのを恐れて停戦を勧めたとみても間違いないだろう。
●ニュースでは伝わらない「ウクライナ人の叫び」  3/27
激しい戦闘が続くロシアによるウクライナ侵攻。戦争で犠牲になるのはそこに生きる普通の人々だ。ある日突然、戦禍に放り込まれたウクライナの人たちのリアルな現状を世界に訴えかけようというプロジェクトがある。それが「War. Stories from Ukraine」だ。
紹介されているストーリーはさまざまだ。
例えば、病理生理学を専攻する25歳の大学院生は、ロシア軍の砲撃が続くハリコフに留まることを選択した。病院に寝泊まりしながら、定期健診、応急処置、無料のオンライン相談、ボランティアから持ち込まれた薬の仕分けなどを担う。彼がもっともショックを受けているのは一般市民への無差別な攻撃だ。負傷して運び込まれた老婦人は、ナチスでも右翼でも重要な軍事ターゲットでもないと憤る。
"イルピンは地獄 "だと語る30歳の女性は、戦争が始まるまではウエイトレスとして働いていた。彼女と夫は、ロシアに占領された街で、インターネットへのアクセス、電気、暖房、水なしで1週間を過ごした。彼女と3匹の猫は危険を冒して脱出を試みた。彼らは幸運だったが、多くの市民は脱出できなかった。今はリヴィウにいるが沈黙が怖く、外に出るのも怖いという。唯一の夢は、ウクライナの勝利である。
以前はショップの店員として働いていた妊娠8カ月目の女性は、お洒落をして生まれ故郷のキエフの街を散策するのが好きだった。親族や友人に促された彼女は田舎町に避難したが、83歳の祖母は「第二次世界大戦を生き抜いたのだから、この戦争も生き抜く」と故郷を離れることを拒んだ。親戚や友達にもう会えないこと、帰る場所がなくなることを恐れている。戦争が終わることだけが、今の彼女の夢だという。
SNSを通じて多言語で発信
「War. Stories from Ukraine」はロシア軍の侵攻により否応なく戦争に巻き込まれてしまったウクライナの人々の現実を、FacebookやInstagramというソーシャルメディアを使い多言語で世界中に発信している。ウェブサイトも準備中で、一部のストーリーは日本語にも翻訳されるという。
2月24日以降、生活が一変してしまったウクライナの人々は今、何を感じているか、何を恐れているのか、家から逃げるときに何を持っていったのか、なぜロケット弾の攻撃を受けている街に留まったのか、戦禍の中での生活はどのようなものなのか、悲惨な状況でも他人を助ける強さはどこから来るのか、彼らは何を恐れ、何を夢見ているのか……など、1人ひとりの魂の叫びとも言える“ストーリー”を発信している。
「私たちは皆、戦争が起こる前はほかのヨーロッパの国々の人たちと同じような生活を送っていました。ただ1つ違うのは、すぐ隣にロシアがあったということです」と語るのは、このプロジェクトを創設したジャーナリストのアリョーナ・ヴィシニツカさん。
ストーリーの執筆にあたるのは、ウクライナや海外のメディアで豊富な経験を持つジャーナリストたち。対面や電話、インターネットを介して取材を行い、書き上げた原稿はプロの編集者がチェックを入れている。それぞれのストーリーは個人的な体験に基づいている部分が多いが、可能な限りファクトチェックも行っている。戦禍の中でもプロの仕事をまっとうすることで、クオリティの高いストーリーを発信する。
プロジェクトを始めることになったいきさつをヴィシニツカさんは次のように語る。
「ウクライナはロシア軍に囲まれ、毎日どこかで砲撃が起き、人々が犠牲になっています。侵攻が始まった最初の数日間は脳がパニックを起こしていたのか食事も睡眠もとれず、何も手につかないような状態になってしまいました」
しかしやがて、戦時下においての自分の使命について考え始める。「戦時中は誰もが自分が果たすべき役割を考え、実行することが重要だと思います」と言うヴィシニツカさん。彼女の場合は、「真実を伝える」ことが自分の使命だと考えた。
「私たち1人ひとりに何が起こっているのか。私は真実だけがプロパガンダと戦うことができると確信しています。だからこそ私たちは、戦禍に生きる人々のリアルなストーリーを伝えるのです」
100人以上がプロジェクトに参画
ジャーナリストとしてのコネクションを活かし、チームとして活動してくれる人たちを探し始め、現在はなんと100人以上がこのプロジェクトに関わるまでに拡大。
「ストーリーを取材、執筆する人が約20人。イラストを担当するアーティストが約20人。この人たちはウクライナのさまざまなメディアで活躍しているプロです。さらに約70人がテキストを12カ国語に翻訳しています。このほかにも編集者や、翻訳者やイラストレーターのコーディネートをする人、ソーシャルメディアマーケティングに携わる人もいます。毎日、10人くらいが稼働しています」と語る。
皆、ボランティアで活動しており、新たなメンバーが次々と加わっている。大半がウクライナ国内に留まっている。
「私たちのチームの中には、つねに砲撃を受けているキエフや、ロケット弾の脅威に日々さらされている地域で活動している人もいます」(ヴィシニツカさん)
いつ何時、ロケット弾や銃撃の的にされるかわからない状況の中、自分や家族の安全確保に気を配ったり、占領地から家族を避難させようとするなど、さまざまな困難を抱えながらもこのプロジェクトに参加しているのだ。
「ほとんどの人は自分たちに“明日”が来るかどうかもわからない状態です。それでも皆、ウクライナで何が起こっているのか、人々がどのように戦争を生き抜いているのか、その真実を世界に伝えようと頑張っているのです」
それぞれが持つ信念と使命感
ロシア軍の執拗な攻撃にさらされ、文字通り「明日は来ないかもしれない」という状況にありながら情報を発信し続ける。そのモチベーションはどこにあるのだろう?ヴィシニツカさんがチームの一部にヒアリングした回答を紹介しよう。
「ウクライナで実際に何が起きているのかを知ってもらいたいのです。海外の人にもウクライナの悲劇は他人事ではないと感じてもらうことが重要で、それを伝えることが自分の役目だと感じます」(オレクサンドラ・ランコ/レポーター)
「情報を発信することで私たちに共感してくれる外国人が増え、ウクライナの人々に何が起こっているのか理解が深まることを期待します。また、ウクライナ人が自分の気持ちを整理するのにも役立つと思います」(ポリーナ・リミナ/ソーシャルメディア編集者)
「これらのストーリーは未来の歴史研究者にとって貴重な資料となるでしょう」(ユリア・クリッシュ/翻訳助手)
「リアルな情報を世界に発信することで、ロシアの残虐行為を訴求する一助になればと思っています。そうすれば、ロシアに対する政治的な圧力が高まり、ウクライナへの支援も増えるでしょう」(ユリア・マクリウク/ウェブサイト開設支援)
「私のモチベーションは、人々の魂に正義の炎を呼び起こすことです。他人の命を奪う権利があると考える人たちの居場所は世界のどこにもないはずです」(ターニャ・グシチナ/イラストレーター)
「私ができる最高のこと――つまり絵を描くことでウクライナとウクライナの人々を応援したいのです。ストーリーを語る人たちが受けた痛みや災厄は私のものでもあります」(ボロヴィク=サモレフスカ・ウラジスラヴァ/イラストレーター)。
「それぞれの人が語る一言一句に涙が出ます。だからこそ一人でも多くの人にこのストーリーを知ってもらいたいと思います」(オクサナ・マムチェンコワ/編集者)
「すべてのインタビューは私にとってかけがえのないもの。緊迫した状況のなかで私は息子の世話をし、不足している薬を探したりしなければなりません。でも自分の話では泣けないから、人の話を聞いて泣くんです。私は以前から人間の物語の力を信じていましたが、今、その力をさらに強く感じています。人間の物語は、どんな統計よりも戦争の真実を表します。だから私はできる限りこの仕事を続けるつもりです」(アナスタシア・コバレンコ/レポーター)
「人と話していると生きていることを実感します。耳を傾け、物語を記録し、ウクライナからの声を少しでも多くの人に伝える――このような機会に恵まれたことに感謝しています。砲撃の中で生活する人々とのコミュニケーションは、痛みだけでなく、感動も与えてくれます。地獄のような状況にあっても動物を助け、破壊された家の瓦礫の下で本を書き、弱者をいたわり、冗談を言い、勝利を信じる。それは精神と愛の驚くべき力です」(マリー・バンコ/レポーター)
どの人も自分の使命というものを強く感じているようだ。彼女たちは実際に銃を手に戦線に臨んでいるわけではないが、自分がもっとも貢献できるやり方で参戦しているといえるのではないだろうか。
ウクライナ人とはどういう人たちなのか
今回の侵攻が起こるまで、日本人にとってウクライナはなじみの薄い国だった。ウクライナ人とはどういう人たちなのか、理不尽に戦禍に放り込まれてしまった現況にどのように対処し、何を望んでいるのかヴィシニツカさんに聞いてみた。
「私たちが日々発信しているのは、かつては普通の日々を送っていた人たちのストーリー。仕事を持ち、働き、友達と語り合ったり、時には旅行を楽しんでいました。私たちは自分の街をよりよくしようと努め、自分たちの意見を表明することを恐れてはいませんでした。今、旅行は避難に、親しい人との語らいは身内の安否を気遣うことに取って代わってしまいましたが、誰もが1つのことを望んでいます。それはウクライナの自由を守り、平和を回復し、安全を確保することです。しかし、平和は空から降ってくるものではないことも誰もが知っています。ウクライナ人はどの国旗の下で生きるかを気にしていて、自由のために戦う準備ができています」
この戦いはウクライナだけの問題ではない
ウクライナの人たちは、自分の家がいつ爆撃されてもおかしくないとおびえつつも、ロシアによる民間人への銃撃、誘拐、強盗、強姦、都市を占拠しようとすることに対し、命がけで抵抗している。
「軍隊経験のないウクライナ人が軍隊に入隊し、国を守り、緊急救命措置を行い、瓦礫の中から子どもたちを救い出しています。ロシア軍がほかの村を爆撃しないように、彼らは寒さの中、塹壕の中で眠るのです。まだ爆撃が行われていない都市では、ウクライナ人は大量の餃子、キャベツの詰め物、サラダを用意して、砲撃から身を隠すシェルターへ持っていきます。毎日、休みなく防弾チョッキや迷彩ネットの縫製をしています。みんな何かをやっています。みんな国のために勇気をもって戦っているのです」
そう語るヴィシニツカさんは、この戦いはウクライナだけの問題ではないとも言う。「今、『ウクライナ人とはどういう人か』と問われれば私は『全世界の自由と人道のために戦う人たち』と答えるでしょう」。
●イタリア人が「ロシアの戦争」から受ける深刻影響  3/27
4月1日から、50歳以上の人たちの、職場でのワクチン証明義務解除になるイタリア。ワクチン接種をしていなくても、陰性証明さえあればすべての人が職場に復帰できることになる。そして5月からはワクチン接種済みの人、または4カ月以内にコロナから回復した人だけが持てる「スーパーグリーンパス」も不要となり、どこへ行くのも自由、ほぼ完全に普通の暮らしが戻ってくる。2年前のちょうど今頃は、北イタリアを中心に毎日1000人近くもの人が亡くなり、恐ろしい日々が続いていた。そんなつらい日々もようやく終わりを迎え、明るい春を迎えるはだったイタリア人の気持ちは、弾まないままだ。
ウクライナへのロシアの侵攻が始まって、もう1カ月。破壊された建物、負傷して瓦礫の中から救出される人、避難する人々の長い列。そんな映像がテレビからは終日流れ、新聞もソーシャルネットワークも戦争のニュースでもちきりだ。狙われないよう「PRESS」と大きく書かれた防弾チョッキとヘルメットを身につけた、イタリア報道各社のジャーナリストたち。命の危険と背中合わせに最新の情報を伝えてくれる彼らに感謝しながら、ロシア軍の蛮行に怒り、胸を痛める日々だ。
他人事ではない「戦争」の影響
イタリアを含む欧州一帯では、昨年末ごろから供給不安定のため、ガス・電気代の高騰が言われ始めていた。実際、今年に入って電気代やガス代が2倍になった、3倍になったという声が各方面から聞こえてきた。エネルギー料金の値上がりは、一般家庭だけでなくさまざまな経済活動を直撃する。製造業重工業などはもちろん、パスタを作る工場の機械を動かすにも、パン屋さんのオーブンを温めるにも、エネルギー料金の高騰がすべてに影響する。船が出せないので漁に行けない、だから魚がない。そんなニュースもあった。
そこに戦争が始まった。天然ガスの約40%、石油の12%をロシアからの輸入に頼っているイタリアでは、経済制裁をロシアに科すのは賛成でも、ガスの供給が止まってしまったらどうなるんだろう? 暖房や調理に使うガスは配給制になってしまうのだろうのか?などと多くの人が心配した。原発を持たず、元々電気料金が高いイタリアでは、暖房は電動のエアコンではなくガスを使った温水暖房が中心的存在なのだ。今のところ、ロシアからのガスは届いているものの、より厳しい経済制裁が求められる中で、イタリア政府は他の供給源を模索中だ。
そんな動きに対してロシア側は3月19日、「イタリア政府が今以上の制裁措置を取った場合、両国間の関係において‟不可逆的な”結果をもたらすだろう」と脅しをかけてきた。「コロナのときの恩を忘れたのか」という捨て台詞のような一言まで添えて。2020年3月、ヨーロッパで最初に新型コロナウイルスの感染が爆発し、毎日1000人近くの死者が出ていたイタリアでは、酸素吸入器など医療機器が不足し危機的状態に陥っていた。そんなイタリアを、ロシア政府が物資と人材を派遣して助けたことを言っているのだ。それに対してマリオ・ドラギ首相は「憎むべき、受け入れられない比較である」とコメントした。
ガソリンは一時1リットル2ユーロ50セント近くまで高騰した。公共交通機関が日本ほど発達していない車社会のイタリアでは、とても深刻な問題だ。一般ドライバーだけでなく、輸送費の値上がりからさまざまなものの値上がりが予想された。運送業のトラックドライバーたちはストライキを起こした。危機感を抱いた政府は減税を決定。3月22日の火曜日から、1リットルにつき25セントの税が段階的に削除されることになり、かろうじて1ユーロ代に戻ることになった。だが、平均給与が手取り1700ユーロのイタリア庶民にとって、1ユーロ代後半ではそもそも高すぎる。しかも税カットは4月いっぱいだけの暫定措置だという。それでは不足だとして、運送業者のストライキは4月にも再度予定されている。
小麦粉類、パスタ類の棚がスカスカ
一方、ウクライナとロシアはヨーロッパの重要な穀物生産地だから、特に小麦粉、サンフラワーオイルが足りなくなる、値段が高騰するというニュースが2月後半にテレビ、ネットを賑わした。買い占めが起きるかもしれないな、そう思った私は、普段はあまり行かない大型スーパーに行ってみた。すると思った通り、小麦粉類、パスタ類の棚がスカスカになっていた。パスタやパンが食の基本であるイタリアで、小麦粉が手に入らなくなるのは恐怖である。思わず私もいつもより多めに買ってしまった。ところがその10日後には、品揃えは普通に戻っていたので、買い占めによる一時的品薄だったのかもしれないが、戦争が長く続くようであれば、この先どうなるかはわからないという不安は常につきまとう。
スーパーではサンフラワーオイルも品薄が目立っていた。イタリアにはサラダオイルというものは存在せず、イタリア料理に必須のオリーブオイルのほか、揚げ物などにサンフラワーオイルがよく使われるのだ。しかも私のような在住日本人が日本料理を作る場合、個性の強いオリーブオイルでは味が変わってしまうから、サンフラワーオイルは貴重な存在だ。トリノで和食レストランを経営する友人によれば、レストラン業者にはサンフラワーオイルの購入制限がかけられたという。
そしてロシアに科している経済制裁は、ロシア経済を痛めつけるだけでなく、イタリアの経済にも大きな打撃となることは明らかだ。イタリア中の観光地にも、ミラノやローマの高級ブランド街にも、近年ロシア裕福層の観光客が目立っていたが、そんな人たちが姿を消したら? イタリア自慢の高級自動車を買わなくなったら?
経済的な心配ばかりではない。追い詰められたプーチンがウクライナに向けて核のボタンを押した場合、被害はウクライナだけに止まらないと言われている。ロシア軍が欧州最大という原発を攻撃し火災が起きた3月4日の朝には、イタリアでもその話題で持ちきりだった。オランダに住む友人は、安定ヨウ素タブレットが売り切れ続出だと言っていた。安定ヨウ素タブレットとは、放射線ヨウ素が甲状腺に溜まるのを防ぐ効果があるというものだ。でも私の周りではそんな話は聞こえてこなかった。
3月19日現在、5万5711人のウクライナの人々がイタリアに到着している。そのうち2万8537人が女性、2万2398人が未成年、男性は4776人だという(イタリア内務省発表)。
イタリア人の、困った人にさっと手を差し伸べる反射神経は素晴らしく、コロナ禍でも度々感動させられた。今回は特に南イタリアの人たちの熱い心はすごいな、と実感した。戦争が始まって何日も経たないうちに、ナポリのある女性がトラックに救援物資を積んでウクライナまで行き、帰りは避難する人たちを乗せてきたと、カーラジオでインタビューを受けていた。知り合いのローマの女性も、やはり戦争開始直後にご近所さんが「明日ウクライナに行ってくる!」と言うので驚いたそうだ。それで彼女も、薬品など必要なもの200ユーロ分ほど買って託したという。
一方、私の住む北イタリア、ピエモンテ州あたりの人たちが、助けたい気持ちはあるものの、迂闊に手を出して問題が起きたらどうするのだ、などぐずぐずと考えてなかなか腰が上がらないのは、私を含めた日本人に似ているのかもしれない。
避難してきたウクライナ人への支援
戦争開始から1カ月が経った今、イタリア中がいてもたってもいられず、ウクライナの人々をいろいろな形で支援している。
イタリア各地にある救援団体は、食料や薬品、寄付金を集めてウクライナに送ると同時に、避難してきた人々の宿泊先の手配、子どもたちの学校への転入手続き援助などなど、各州政府と協力して活発に行っている。大量に集まる食糧衣料の仕分け、分配作業にボランティアが必要というので私も先日行ってみたらものすごい人で、仕事を見つけるのに苦労するほどだった。
イタリア各地の病院や孤児院では、病気入院中だった子どもたちや、孤児になってしまった子どもたちを受け入れている。先日のニュースでは、フランシスコ教皇がローマのジェズ小児病院を訪れた様子を放送していた。ウクライナ人の小さな子どもが、頭をなでてくれた教皇の手をつかんで離そうとしない、その姿に胸が痛んだ。
義援金ディナーやさまざまなチャリティー活動、ネットやスーパーで買い物をしながら簡単に寄付できるシステムの設置なども活発に行われている。ローマで、ミラノで、フィレンツェで、若者を中心とした反戦デモも起きている。世界でも最高峰の1つであるキエフバレエ団で学んでいたバレリーナの少女が、避難中も練習できるようにと受け入れたヴェネト州のバレエ学校、小学校に通い始めたウクライナの子どもたちを全校生徒が拍手で迎えたなど、胸を打つエピソードがあふれている。
とはいえ、そんなストーリーの先には何が待っているのだろう。個人で避難民を受け入れてはみたものの、言葉も通じない、生活習慣も違い、大変な思いをしている人も多い。どんどん増えていくウクライナから避難して来た人たちは、これからイタリアでどうやって暮らしていくのか。ただでさえ失業率の高いイタリアで、女性たちは仕事を見つけることができるのか。ウクライナの医師免許があればイタリアで医療行為を認めるという特例措置が決まったが、そんな特殊技能を持たない人が大多数なはずだ。それをイタリア政府は支えきれるのか。そして子どもたちは、安心して暮らしていけるのか。
戦争が1日も早く終決し、ウクライナに平和が戻ってくることはもちろん、世界中の人々が安心して暮らせる日々が訪れることを願ってやまない。
●「ウクライナ占領」でもロシアを待ち受ける泥沼 3/27
2月末にウクライナに侵攻したロシア軍の進軍ペースは、観測筋が想定していたよりも遅くなっている。ロシア軍は病院のような民間施設も標的にしているとみられ、その残虐さによって国際社会から広範な非難も浴びている。
ウクライナ軍は欧米諸国からの武器などを供与されているが、仮にロシアがこの侵攻に「成功」してウクライナを事実上の占領下に置いたとしても、ソ連やロシアの占領者としての過去の実績からみて、そうした占領状態を維持できるかは疑問視されている。
ロシアがこの戦争に勝っても、ウクライナ軍は「抵抗軍」として戦闘を続けると専門家は予想している。占領者ロシアはウクライナ国内に、反抗する武装勢力を抱え込むことになるということだ。こうした武装勢力は正規軍に比べ縛られるルールが少なく、機敏で、ゲリラ戦法をとることが多い。そのため、伝統的な軍部隊が見つけ出して抑え込むのも難しくなる。
こうした反抗勢力の鎮圧を目的とする「対反乱作戦(COIN)」で、ソ連やロシアの軍隊が過去に散々な結果だったことは、よく引用されるランド研究所の論文でも示されている。たとえば1992年のアフガニスタン占領失敗は、対反乱作戦の専門家であるアンソニー・ジェームズ・ジョーズによって「大国がどうしてゲリラとの戦争に勝てないかを示す教科書的な研究事例」に挙げられているほどだ。
ロシアが対反乱作戦に繰り返し失敗している要因のひとつとして、ランド研究所は「鉄拳(iron fist)」アプローチとも言われる軍事力頼みのやり方を挙げている。1994年にチェチェン共和国の独立派武装勢力をつぶそうとした際も、ロシアの軍隊は戦略や装備、士気の問題に直面しただけでなく、地元住民の支持もまったく得られず、鎮圧に失敗した。ロシア側はそもそも、武装勢力から民心が離れるように住民の不満点を改善することなどに関心を払っていなかった。
ランド研究所の研究によれば、軍事力だけに頼った対反乱作戦が成功した事例は過去にほとんどなく、通常は非軍事手段も用いたほうがはるかに効果的だった。脅迫や集団的懲罰、汚職、略奪なども対反乱作戦の成功を妨げる要因として挙げられており、もちろん外国からの反抗勢力への支援が戦いを複雑にすることもある。
1960年代から70年代にかけて南ベトナム、カンボジア、ラオスの政権とともに現地の共産勢力と戦った米軍は、対反乱作戦の手際はロシア以上にまずかったと評価されている。世界でもっとも高い能力をもつ米軍ですら、東南アジアのゲリラに対応して制圧することはできず、1975年に敗退した。
歴史的に、対反乱作戦のやり方が巧みだったとされるのは英国だ。大英帝国の植民地だった国に関係したものだけでなく、北アイルランドでの紛争でもその手並みは比較的すぐれていたとみられている。
英国も大半のケースで武力に訴えているが、少なくとも1948年に当時のマラヤ連邦(現マレーシア)で起きた共産主義者の蜂起や、1969年から99年まで北アイルランドでアイルランド共和軍(IRA)が繰り広げた反政府活動では、戦闘手段と非軍事手段を組み合わせ、最終的により望ましい結果をもたらしている。
ランド研究所は武力行使のほか民衆の支持や政府改革なども考慮して過去59件の対反乱作戦の巧拙を評価し、点数化したランキングを発表している。一部を紹介しておこう(最高は15点、最低はマイナス11点)。
米国 / 南ベトナム(1960〜75年):マイナス11点・・・カンボジア(1967〜75年):マイナス7点・・・ラオス(1959〜75年):マイナス5点
ロシア/ソ連 / チェチェン(1994〜96年):マイナス6点・・・アフガニスタン(1978〜92年):マイナス3点
英国 / オマーン(1957〜59年):3点・・・北アイルランド(1969〜99年):8点・・・ギリシャ(1945〜49年):10点・・・マラヤ連邦(1948〜55年):11点
●林外相 ウクライナ情勢でアフリカ諸国にも連携呼びかけ  3/27
日本が主導するTICAD=アフリカ開発会議の閣僚会合が26日夜開幕し、林外務大臣は、ウクライナ情勢をめぐり、武力の行使の禁止など、国際社会がよって立つべき原則を守る重要性を強調し、アフリカ諸国にも連携を呼びかけました。
TICADは、日本が主導してアフリカの開発などを協議する国際会議で、26日夜、オンライン形式で開幕した閣僚会合には、およそ50か国が参加しました。
この中で林外務大臣は、ロシアの軍事侵攻を重ねて非難したうえで「問われているのは陣営を選ぶことではなく、武力による威嚇や行使を禁じる国連憲章や基本的人権の尊重など、国際社会がよって立つべき原則を守ることだ」と述べました。
また「エネルギーや食糧供給に実体的な影響も見られ、アフリカの人々の生活を守るためにも、国際社会と一致して事態に対処していく必要がある」と述べました。
アフリカ諸国の中にはロシアや、ロシアに配慮する中国とのつながりが強い国も多いとされます。今回の会合に参加している国のうち、今月24日に国連総会で採択されたウクライナの人道状況の改善を求める決議案に賛成したのは、およそ半数にとどまっていて、林大臣は、日本の立場を重ねて伝え、アフリカ諸国にも連携を呼びかけた形です。
今回の会合は2日間の日程で開かれ、27日は、民主主義の定着などの平和と安定に関するテーマや、新型コロナ対策を含めた保健分野での協力などについて議論が交わされます。
●ロシア軍 東部で攻勢強化 ゼレンスキー大統領 動画で支援訴え  3/27
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部の要衝マリウポリなどに対する軍事作戦を強化する構えを見せているほか、各地にミサイルなどによる長距離の攻撃を続けています。国営の「ロシア通信」はマリウポリを1週間で掌握できるという見立てを伝えていて、ウクライナのゼレンスキー大統領が西側諸国にさらなる軍事支援を求めています。
ロシア軍は親ロシア派の武装勢力が影響力を持つウクライナ東部で軍事作戦を強化する構えを示しています。
要衝マリウポリでは激しい戦闘によって甚大な被害が出ていて、国営の「ロシア通信」は26日に「あと1週間でマリウポリを掌握できる」とする親ロシア派の武装勢力の見立てを伝えました。
さらにロシア軍はウクライナの各地にミサイルなどによる長距離の攻撃を続けています。
西部の主要都市リビウでは26日午後、燃料の貯蔵施設や軍の関連施設で複数の爆発が起きました。
地元当局はいずれもロシア軍によるミサイル攻撃によるもので、合わせて7人がけがをしたと発表しました。
ロイター通信などはリビウ市長の話として、ミサイルはロシアが2014年に併合した南部クリミアの軍港都市セバストポリから発射されたと伝えています。
ロシア軍による攻撃が続く中、ウクライナのゼレンスキー大統領は26日に公開した動画の中で「十分な数の戦車や軍用機がなければマリウポリの包囲を解くことは不可能だ。アメリカやヨーロッパも分かっているはずだ」と述べてNATO=北大西洋条約機構などに戦車や軍用機などさらなる軍事支援を急ぐよう訴えました。
●ロシア軍 東部で軍事作戦強化 キエフ周辺などの長距離攻撃継続  3/27
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ東部で軍事作戦を強化する構えを見せる一方で、地上部隊の苦戦が伝えられる首都キエフ周辺などにはミサイルなどによる長距離の攻撃を続けています。
ロシアの国防省は26日、キエフ州にあるウクライナ軍の対空ミサイルシステムを短距離弾道ミサイル「イスカンデル」で攻撃したほか北西部ジトーミル州の武器弾薬庫を巡航ミサイルで破壊したと発表しました。
西部の主要都市リビウでも26日午後、複数の爆発音が聞かれ、地元当局は、「ロケット弾による攻撃で燃料施設が燃えている」と発表しました。
ロシア国防省は25日に、欧米側がウクライナに行う兵器の支援を批判し、「兵器が供給された場合には、放置することはない」としていて、一連の動きは、欧米側をけん制した可能性もあります。
また、ロシアのショイグ国防相は26日、軍幹部を集めた会議で、「前線に武器や装備の供給を継続する。優先すべきは、長距離の精密兵器や航空装備、それに戦略核戦力の戦闘態勢の維持だ」と述べました。
イギリス国防省は26日、戦況がこう着している都市部ではロシア軍は歩兵部隊による大規模な作戦に消極的で、空爆や砲撃による無差別攻撃で、ウクライナ側の士気の低下をねらっていると分析し、市民の犠牲がさらに広がるおそれがあると警告しています。
一方、ロシア軍はウクライナ東部での軍事作戦を強化する構えを示しています。
特に激しい戦闘が続いている東部の要衝マリウポリでは、すでにロシア軍が一部地域を掌握したとみられていて、アメリカのシンクタンク、「戦争研究所」は、「今後、数週間以内にロシア軍が市の全域を掌握するか、ウクライナ側が降伏する可能性がある」としています。
ウクライナの公共放送は動画投稿サイト、ユーチューブで現地の状況を連日、国内外に英語で発信しています。
26日に公開された放送では、首都キエフの北にあるスラブチチにロシア軍が侵攻し、病院を占拠したほか、市長を一時、拘束したということです。
これに対して大勢の市民が広場に集まり大きなウクライナの旗を掲げながらデモ行進を行うなどしてロシア軍に抗議し、市長は解放されたということです。
また、東部ハリコフ州では25日、ロシア軍によってガスのパイプラインが破壊され火が出たということです。映像では、町の中でも大きな火柱が出て消防隊が消火活動をしている様子が映っています。また、ハリコフの動物園では、8頭のカンガルーを車に乗せて避難させる様子も伝えています。
動物園によりますと、これまでに大型のカメなどは避難させたということですが、攻撃が続く中で2頭のカンガルーが死んだということです。
●ロシア軍、西部リビウを空爆 原発近くの都市制圧―ウクライナ 3/27
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は26日、西部リビウ郊外を空爆し、ウクライナ側によると、5人が負傷した。ロシア軍はまた、北部のチェルノブイリ原発近くの都市スラブチッチを制圧した。
リビウは隣国ポーランドとの国境から約60キロに位置。今月13日に近郊の軍事演習場がロシア軍のミサイル攻撃を受け少なくとも35人が死亡したが、これまで大規模な爆撃や戦闘を免れていた。戦禍を逃れるため首都キエフなど他の都市から避難民が集まる拠点にもなってきた。
AFP通信によると、リビウのサドビー市長は記者会見で、燃料貯蔵施設や防衛施設に被害が出たと説明。「侵略者たちはきょうの攻撃で、ポーランドにいるバイデン(米)大統領にあいさつしたいのだろう」と述べ、バイデン氏の訪問に合わせてロシア軍が攻撃したとの見方を示した。
スラブチッチ制圧について国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は26日の声明で、ウクライナ側から通知があったと明らかにした。原発作業員の多くはスラブチッチから原発に通っているが、声明によると、1週間近くにわたり作業員の交代が行われていないという。
●ロシア軍の犠牲が予想以上、キエフ攻略手詰まり…将官の戦死7人目  3/27
ロシア国防省が25日、ウクライナ侵攻作戦の重心を、東部の親露派支配地域の拡大に移す方針を表明したのは、ウクライナ軍の激しい抵抗で自軍の犠牲が予想以上に膨らみ、首都キエフを早々に陥落させる当初のもくろみも外れたためだ。露軍が手詰まり状態を打破するため、生物・化学兵器に手を出す危険性は高まっている。
露軍参謀本部の幹部は25日の記者会見で、2月24日にウクライナに全面侵攻したのは、親露派武装集団が実効支配する地域を拡大するためだったと説明した。プーチン政権は侵攻当初、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の退陣と、ウクライナの「非武装化」実現を強調していたが、軌道修正した。
プーチン大統領も今月18日のクリミア併合8年の式典で、侵攻目的について、親露派地域の「解放」にだけ言及していた。
侵攻目的を表向き下方修正したのは、戦力面でウクライナを圧倒しているはずの露軍が苦戦しているためだ。英紙ザ・タイムズは26日、南部ヘルソン近郊で露軍のヤコフ・レザンツェフ中将が戦死したと伝えた。露軍将官の戦死は7人目で、指揮命令系統に混乱が生じている可能性がある。
ロシア軍がシリアやリビアなどから外国人戦闘員をかき集め、ミサイルや爆撃機を使った攻撃手法を多用しているのは、自国の犠牲者を増やしたくないという事情がある。
露国防省が「東部重視」の方針転換を発表したことについて、米政策研究機関「戦争研究所」は25日、「国内世論対策」だとの見方を示した。ロシア軍は、キエフなど大都市の攻略に手こずる一方、東部では比較的順調に制圧地域を拡大している。東部での軍事作戦の「成果」を国民に示し、他地域での苦戦ぶりから目をそらさせる意図とみられる。
●米大統領、プーチン氏が「権力の座にとどまってはいけない」 ロシアは反発 3/27
ロシアの侵攻が続くウクライナの隣国ポーランドを訪問中のジョー・バイデン米大統領は26日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が権力の座にとどまることがあってはならないと述べた。ロシア政府は、「バイデンが決めることではない」と反発している。
バイデン米大統領はポーランド・ワルシャワでの演説で、プーチン氏について「本当にまったく、この男が権力の座にとどまってはいけない」と述べた。
ホワイトハウス当局者はその後、バイデン氏は政権交代や体制転換を要求したのではなく、プーチン氏がこの地域の近隣諸国に対して実力行使することは許されないと強調したのだと説明した。
これについてロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は、「それはバイデンが決めることではない。ロシアの大統領はロシア人が選出するものだ」と述べた。
バイデン氏はワルシャワ市内でウクライナ難民と面会した際、ウクライナ侵攻を続けるプーチン氏を「虐殺者」と呼んだ。
ポーランドには現在、200万人以上のウクライナ人難民が避難している。
ロシア政府のペスコフ報道官は、バイデン氏の発言によって両国の関係修復の可能性が狭まったと述べたと、ロシア国営タス通信は伝えた。
これに先立ち、バイデン氏はウクライナのドミトロ・クレバ外相とオレクシー・レズニコウ国防相と面会した。
クレバ外相とレズニコウ国防相がウクライナを離れてポーランドに向かったのは、ロシア軍に対するウクライナの反撃への自信が高まっていることを示すものだと受け止められている。
米国務省の報道官によると、会談ではアメリカの「ウクライナの主権と領土保全への揺るぎないコミットメント」について話し合われたという。
●プーチン氏は「権力にとどまれず」、ポーランドでバイデン氏演説 3/27
バイデン米大統領は26日、ポーランドのワルシャワで演説し、ロシアのプーチン大統領は「権力の座にとどまることはできない」と述べた。この発言についてホワイトハウス当局者は、ウクライナを巡る紛争長期化に備えるよう世界の民主主義国に呼び掛ける意図があり、ロシアの体制転換に言及したものではないと説明した。
バイデン氏の演説開始直前には、ポーランドとの国境から約60キロに位置するウクライナ西部の都市リビウでロケット弾による攻撃があった。
バイデン氏は演説で、民主主義諸国は世界の安全保障と自由に対する脅威として独裁的なロシアに立ち向かうことが急務になっていると主張。
プーチン氏に対する戦いを「自由のための新たな戦い」と呼び、「絶対的権力」へのプーチン氏の欲望はロシアにとって戦略的失敗であり、第二次世界大戦以降に広く行き渡った欧州の平和に対する直接的な挑戦だと述べた。
「西側は今、かつてないほど強く、結束している」と強調した上で、「この戦いは数日や数カ月で勝てるものでもない。これからの長い戦いに備え、気を引き締める必要がある」と呼び掛けた。
演説の締めくくりに、プーチン大統領は「権力の座にとどまることはできない」と述べた。
バイデン氏はこの日、プーチン氏を「虐殺者」とも呼び、ロシア批判を強めたことから、米国がロシアに対する態度をエスカレートさせたとの見方が高まった。
ホワイトハウス当局者は、バイデン氏の発言は米国の政策転換を示すものではないと説明。「大統領の要点は、プーチン氏が隣国や地域に対して権力を行使してはならないということだ」とし、「ロシアでのプーチン氏の権力や体制転換に言及した訳ではない」と述べた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はバイデン氏の発言についてロイターに対し、「バイデン氏が決めることではない。ロシア大統領はロシアの国民によって選出される」と語った。
バイデン氏はこの日、ウクライナのクレバ外相およびレズニコフ国防相と会談した。クレバ外相によると、防衛協力の強化に向けた追加支援の確約をバイデン氏から得たという。
●ゼレンスキー大統領演説受け、プーチン大統領が「ブチ切れた」 3/27
ロシア政治を専門とする筑波大・中村逸郎教授が27日放送のフジテレビ「ワイドナショー」(日曜前10・00)に出演。ロシアからの軍事侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領が23日に、日本の国会でオンラインを通じて演説を行ったことに言及した。
ゼレンスキー大統領は、ロシアを厳しく非難するとともに、日本の支援に感謝。対口経済制裁の在り方も高く評価した。戦禍で荒廃した国土を憂える思いが強く、復興を成し遂げた戦後日本の姿をイメージしてか「発展の歴史が著しい」とも指摘、日本の協力への期待感もにじませた。国会で海外の要人がオンラインで演説するのは初めてだった。
中村氏は「演説を聞いて一番びっくりしたのは、原発の話が出てきた」ことだと話し、さらに「今、北方領土で今週に入ってからも軍事演習ガンガンやりだしたんですね。ゼレンスキー大統領が国会演説した後のタイミングで北方領土で軍事演習をしていると考えると、ゼレンスキー大統領の演説にプーチン大統領がブチ切れた可能性も否定できない」と持論を述べた。
●プーチンの残酷さを知る元オリガルヒの訴え「次はバルト三国かポーランド」 3/27
2000年代初頭にロシアでもっとも裕福なオリガルヒの一人だったミハイル・ホドルコフスキーは、プーチンに失脚させられた過去を持つ。野党に財政支援をしていた彼は2003年に逮捕され、所有していた石油会社も奪われ、10年間の禁錮刑を経てイギリスに亡命した。
プーチンをよく知るホドルコフスキーは、「無法者」のプーチンに対してNATOはもっと厳しい態度に出るべきだと英誌で訴える。
NATOのリーダーは無法者と対峙する術を持たない
私は20年近くプーチン大統領と個人的に対立してきた。その結果、私はロシアで10年間投獄され、帰国すれば終身刑という警告とともにその後追放された。
誰がそんなことをしたのか、私は知っているつもりだ。だからこそ私は、ジョー・バイデン大統領やエマニュエル・マクロン大統領、ナフタリ・ベネット首相といった西側諸国の指導者たちの敗北主義的アプローチに絶望している。
彼らの行動が有権者にどう映っているのか、私には判断できない。しかし、長テーブルの端に座っているプーチンが彼らをどう見ているかは、私にはよくわかる。
彼らはモスクワに飛び、プーチンに電話をかけ、止めるように頼む。しかし、干渉はしないし、挑発しないようにする。プーチン大統領は、これらすべてを弱さとみなす。これは非常に危険なことだ。
問題の一つは、現在の西側諸国の指導者は「無法者」に対処したことがないということだ。彼らの経験と教育は政治家間の交流に関するもので、その行動原理は、有権者や国民の利益のために双方が譲歩し合うというものである。彼らにとって戦争は悪であり、武力行使は最後の手段だ。
規則を破り、暴力に頼るのがプーチンのやり方
一方、ウラジーミル・プーチンにはこれは当てはまらない。彼を育てた組織は、暴力に頼り、法律を無視するソ連国家保安委員会(KGB)だ。
1990年代初頭、サンクトペテルブルク市役所に勤務していた際、彼は法執行機関とギャングとの非公式なやりとりを担当していた。当時のサンクトペテルブルクは、禁酒法時代のシカゴのような場で、麻薬や石油を売っていた。
時代は変わっても、彼の問題解決法は変わらなかった。数々の過去の毒殺事件は首謀者の指示によるものだということが、スペイン検察公開のプーチンの側近と著名犯罪者の会話録の一部を読めば理解できる。
アレクサンドル・リトヴィネンコ(英拠点で反体制活動を行い、2006年に毒殺された元KGB職員)の殺害や、アレクセイ・ナリワヌイやスクリパリ父娘(英在住で反体制派の元ロシア諜報機関職員の父親が2018年に狙われた)の毒殺未遂などがそうだ。
プーチンが無法者だからこそ、このような行為が大統領の周辺では常態化しているのだ。
20年以上政権を担当し、強者のイメージと自信を得たとしても、周囲からの認識は依然として「悪党」のままだ。彼を普通の政治家として見るのは非常に大きな間違いで、ロシアのパートナーは、彼の本当の姿を理解できていない。
譲歩は「弱さ」と受け取られる
この悪党を長年相手にし、ロシアの刑務所で10年過ごした私の経験から言えるのは、彼らに弱さや不確かさを見せるのは非常に危険だということだ。強さをはっきり示すことなく、彼らの要求を一歩でも飲めば、それは弱さと受け取られる。
彼らの論理では、西側諸国がウクライナをロシアの手に渡さないと言いながら、実際ウクライナ陥落を許せば、それは彼らが弱いということになる。
そうすると、プーチンは、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドなど、かつてロシア帝国の一部であった隣国に目を向ける可能性が高くなる。
プーチンが頭で長く意識していたのはウクライナではなく、アメリカとの戦争だ。そして今アメリカとNATOは後退しているように見える。
このように認識している悪党は、彼だけではない。アメリカの不名誉が世界中に見せつけられるなか、他の無法者たちも自分たちの出るタイミングを伺っている。
トランスニストリア(モルドバ東部とウクライナ国境との間に位置する、ロシア軍が駐留する分離独立派の未承認国家)は再びきな臭くなっており、バルカン半島の国々は再び不安を抱えるようになった。
イランは米軍基地を攻撃している。いずれアメリカとNATOは報復に出るだろうが、その時点ですでに世界各地のカラスやハゲタカに苦しめられているだろう。プーチンもその抵抗の深刻さにはすぐには気づかないだろう。
プーチンは今後バルト三国かポーランドを侵略する
罰から逃れようとする悪党たちの習慣は、そう簡単にはおさまらない。そして、もっとひどい戦争、もっと大きな戦争が起こる可能性が高い。
もしかしたら、これは信じがたいことかもしれない。しかし、こう考えてほしい。プーチンが1999年に就任した際、チェチェン紛争を通じて彼は支持を高めた。
2008年のグルジアとの紛争では、「暫定大統領」であったドミトリー・メドベージェフをコントロールした。プーチンの命令で戦争に突入したメドベージェフ大統領は、自らの近代化政策を放棄せざるを得なくなった。
そして2013〜14年に低下していたプーチンの支持率は、その後のクリミア併合を通じて高まった。
今回のウクライナでの戦争によって、ロシア経済は過去10年間よりはるかに激しく停滞するだろう。もしプーチンがウクライナを支配することになれば、汚職と制裁によって経済は崩壊し続ける。一方、ウクライナでのゲリラ戦は止まないので、大量の棺桶がロシアに戻ってくる。そして国民感情は悪化の一途をたどるだろう。しかし2024年には選挙がある。
これに対して、プーチンはどう対応するだろうか。きっとまた「特別作戦」があるだろう。モルドバは小さすぎるので、バルト三国かポーランドになる可能性が高い。ウクライナ上空でプーチンを止めない限り、NATOは地上で戦うしかなくなる。
核兵器の使用に関しては、スターリンのような歴史的人物になることに執着しているプーチンの躁病だ。彼はクレムリンの門にロシアの創造主であるウラジーミル王子の巨大な像を設置した。彼は自滅しようとしているわけではない。そうでなければ20フィートのテーブルで取り巻きと反対側に座ることはないだろう。
彼は、それに対して何の反応もないと確信した場合にのみ核兵器を使用する。しかし、NATOがウクライナ上空の飛行禁止区域を拒否するたびに、彼の自信は増している。
私は自分の国がNATOと国際的な戦争をするのを望ましいと思わない。しかし自分の力を見せつけずに悪党と話をしていれば、そういう状態に陥りかねないだろう。
●“プーチンの戦争” ウクライナ侵攻から見えたプーチン氏の原点 3/27
ウクライナ侵攻が始まって1か月。プーチン大統領の野心の背景にあるものとは何なのでしょう。
ロシアの激しい侵攻を受け、包囲されたウクライナ・南東部のマリウポリ。ゼレンスキー大統領は、ロシアに対し、こう訴えかけました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「マリウポリの封鎖は、第二次世界大戦中のレニングラード包囲とどう違うと言うのですか?」
ゼレンスキー大統領が口にしたのが、歴史上の「レニングラード包囲」と呼ばれる悲劇でした。
第二次世界大戦下の1941年9月、ナチス・ドイツは、ソ連の大都市、レニングラードに侵攻。約900日間続いた包囲状態により市民は孤立。砲撃や飢餓状態の中で、100万人以上もの人が命を奪われるという、独ソ戦の中でも、最も悲惨な出来事となりました。
実はこの時、レニングラードには、プーチン氏の母親と兄が居住。兄は病死し、母も、あやうく餓死するところだったのです。
「母が生きのびたのは奇跡だと思う」とプーチン大統領は自らの著書で語っています。
1958年、母親の膝であどけない表情を浮かべるのが、当時5歳のプーチン氏。厳しい戦火の下、肉親を襲った悲劇の体験がプーチン少年の心に刻みつけた影の深刻さは、測りしれません。
そして、ロシアのウクライナ侵攻から一ヶ月を経た今・・・。
グテーレス国連事務総長「今ウクライナの人々は、生き地獄を耐えている。この戦争に勝者はなく敗者だけであることに気付くまで何人の人が殺されるのでしょう」
ロシア軍に包囲されたウクライナの都市・マリウポリ。人権団体は「3000人を超える市民が死亡した可能性がある」と推定。
電気・ガス・水道などのライフラインが遮断され、市民は水や食料が不足する厳しい避難生活を強いられています。
地下壕で避難している市民「一週間後には何もなくなります。食べ物もなくなったら、どうしたらいいの」
そんな中、今回のロシア軍のマリウポリ包囲の理由について、ウクライナの副首相は、次のような見解を示しました。
「プーチン氏が住民への個人的な復讐を果たしているのだと思う」
2014年、ロシアによるクリミア併合の際、市民の抵抗が強く、マリウポリを占拠できず悔しい思いをした。プーチン氏はその時の報復をしているのでは、というのです。
非戦闘員の市民まで苦しめる、戦争犯罪とも呼ぶべき状況をもたらしたプーチン大統領。その胸中には、そんな思いもあるのでしょうか?
東西冷戦期の1980年代。旧東ドイツのドレスデンという都市で、旧ソ連のKGBに所属し、諜報活動に携わる人物がいました。当時30代のプーチン氏です。
その在任中の1989年、プーチン氏を驚愕させる事件が起きました。ベルリンの壁の崩壊。さらに1991年、ソ連に戻ったプーチン氏は、ソビエト連邦の崩壊する姿までも、目の当たりにしたのです。
多数の市民の力により、一夜にして、国家体制が崩れていく悪夢のような現実。それは底知れない恐怖となってプーチン氏の心に刻まれた、と専門家はいいます。
拓殖大学海外事情研究所 名越健郎教授「2年間のうちに2つ(東ドイツとソ連)の強力な中央集権国家社会主義が崩壊した。それは彼にとって、一種のトラウマなわけですね。革命という言葉がプーチンは大嫌いになったんですね。そういう、ゆがんだ意識がウクライナ侵攻につながったと思う」
そして今、ウクライナの一都市を包囲し、人々を飢餓状態に追い込む、過酷な兵糧攻めを展開するロシア。実は、ウクライナとロシアの間には、もう一つ、悲劇の歴史があったのです。
ロシアとウクライナを巡る、もう一つの悲劇。その歴史的事実をテーマにした、映画があります。
『赤い闇スターリンの冷たい大地で』。1930年代のスターリン時代、旧ソ連の統治下にあったウクライナで起きた、大飢饉=ホロドモールを描いた作品です。
ウクライナは、当時から「欧州のパンかご」と呼ばれる、穀倉地帯。ところが、スターリンは重工業化を進める外貨獲得のため、ウクライナから穀物などを強制的に徴収。その結果、400万人の餓死者が出たのです。
拓殖大学海外事情研究所 名越健郎教授「(スターリンは)穀物を徴収して、それを売って、武器を買ったり重工業化の基礎をつくった。ウクライナの人々には、ロシアに対する怨念と恨みがずっと増幅していった。民衆の蜂起、それがふくれあがって、コントロールが出来なくなる事態がある。そういう恐怖感がある。今度の戦争はロシアの戦争というよりもプーチンの戦争」
二つの国の間に横たわる、悲劇の歴史。そこにまた、新たな悲劇を書き加えようとしている今回のウクライナ侵攻。
都市の破壊は日に日に拡がり、双方の死者や負傷者が増え続ける中、休戦・和平への道は、まだまだ見えてきません。
●ウクライナ西部リビウ、ロシアがロケット弾攻撃 石油施設被害 3/27
ウクライナ西部リビウで26日、ロケット弾による攻撃があった。ロシアによる侵攻開始以降、同都市が大規模な攻撃を受けるのは初めてとみられ、戦線拡大の可能性が懸念されている。
隣国ポーランドではバイデン米大統領が演説し、プーチン・ロシア大統領を非難するとともに、今後の長い戦いに向けて欧州の結束を呼び掛けた。
バイデン大統領は「(プーチン氏は)権力の座にとどまることはできない」と述べた。
侵攻は4週間以上に及んでいるが、ロシア軍はウクライナの主要都市を制圧できていない。
ロシアは25日、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部ドンバス地域に集中すると表明し、ウクライナでの野心的な計画の縮小を示唆していた。
地元当局によると、バイデン氏がワルシャワで演説を開始する直前にリビウ郊外にロケット弾4発が打ち込まれた。5人が負傷し、住民には避難指示が出された。リビウはポーランドとの国境から約60キロに位置する。
ロイターの記者は、リビウ北東部から黒い煙が立ちあがるのを目撃した。同市市長によると、石油貯蔵施設が攻撃された。
ウクライナ当局はその後、別の攻撃でリビウのインフラに大きな被害が出たと明らかにした。ただ、今のところ死者は出ていないという。
ロシア軍はまた、チェルノブイリ原子力発電所近くの都市スラブチッチを制圧した。3人の死者が出たという。インタファクス・ウクライナ通信が市長の話として伝えた。 

 

●ウクライナ戦争の影で行われている壮大な安倍外し〜岸田首相 3/28
エマニュエル大使と広島訪問の意味
岸田文雄首相は3月26日、任命されたばかりのエマニュエル・アメリカ大使とともに被爆地の広島市を訪れ、平和祈念公園で原爆死没者慰霊碑に献花した。
アメリカ大使がその任期中に広島を訪問することはほぼ通例。しかし日本の首相が同行することはあまりない。だが広島は岸田首相の地元であり、外相時代の2016年にはアメリカのオバマ大統領(当時)を招待したこともある。
オバマ大統領が「核のなき世界」を提唱したのは、2009年4月5日。チェコの首都プラハで数万人を相手にした演説だった。そして同年12月にオバマ大統領はノーベル平和章を受賞。この時の演説のタイトルは「「正義として持続する平和」だ。
「私たちはそう遠くない過去に解き放たれた恐ろしい力に思いをはせるために訪れたのです」
オバマ大統領は6年前に広島でこう述べている。そして現在、ロシアはウクライナを侵攻し、その思いと裏腹に核兵器の使用すら仄めかしている状態だ。
「今日、エマニュエル大使との間においても、核兵器のない世界を目指す、そういった思いを共有させていただいた」
原爆資料館で岸田首相が記者団に語った言葉は、唯一の被爆国として平和を願うという世界に向けたメッセージであるとともに、国内政治への強烈なアピールともいえるだろう。
というのも2月27日に民放テレビ番組に出演した安倍晋三元首相が、日本にアメリカの核兵器を配備し、日米が共同で運営する「核シェアリング」を取り上げたからだ。そして安倍元首相の発言をきっかけに、「少なくとも核保有について議論すべきではないか」という意見が出てきた。もちろん議論自体は悪くはない。だが非核3原則が作られた歴史的な意味をどうとらえるのか。軽薄に形式的な民主主義に流されては困る。
そもそもNATOにおける核シェアリングとは、もっぱら侵入してくる外敵に対して核兵器が自国領土内で行使されるもので、それを日本国民が受け入れるのか。さらに領土を拡張しつつある中国に、それが通用するのだろうかという問題もある。尖閣諸島の領有を主張する中国に予防効果があるのかどうかは不明だからだ。エマニュエル大使とともに原爆死没者慰霊碑に献花した岸田首相には、そうした核シェアリング論とは一線を画したい思いが見える。
安倍元首相に3度裏切られ
それはとりもなおさず、安倍元首相からの決別に思えてくる。岸田首相は少なくともこれまで3度、安倍元首相から裏切られたという経緯がある。ひとつは2020年の自民党総裁選で、支援してくれなかったことだ。
この時、安倍元首相の健康状態を知る菅義偉官房長官(当時)が出馬準備を進め、いちはやく二階俊博幹事長(当時)らの支持を取り付けたため、たとえ「岸田を応援したい」と安倍元首相が願ったとしても叶わなかったという事情もある。
次は2020年4月のコロナ対策としての給付金問題だ。安倍元首相は当初、岸田政調会長(当時)が提案した減収世帯に30万円支給する案を閣議決定したが、後にひっくり返し、1人一律10万円支給に切り替えた。背後に公明党と二階氏からの圧力があったためだ。
そして昨年の総裁選だ。4人の候補者のうち、2度目の出馬となった岸田首相は優位な立場にあったが、それを引きずり降ろそうとしたのが安倍元首相だった。高市早苗元総務大臣を支援していた安倍元首相は、投票権を持つ自民党の国会議員ひとりひとりに電話をかけて、岸田票を剥がそうとした。もっともこれについておひざ元の清和研内でも批判が大きかったために、「高市氏を連れて清和研に復帰する」という安倍元首相の予定は実現していない。
にもかかわらず、岸田政権と岸田執行部の中心に、安倍元首相は手を突っ込もうとした。政府の要である官房長官に腹心の萩生田光一元文科大臣を、人事とカネを一手に握る党の幹事長に高市氏を押し込もうとしたのだ。
当然岸田首相は却下した。そもそも幹事長ポストは、総裁選で応援してくれた甘利明氏に決めていたが、憲政史上最長の総理大臣就任記録を持つ元首相の意向はなかなか無視できるものではない。そこで高市氏には政調会長、萩生田氏には経済産業大臣のポストを割り振った。政調会長は党三役のひとつだが、権力とは無関係。同じ開成閥の嶋田隆元経済産業省事務次官を秘書官に据えた岸田首相には、萩生田大臣は掌中にあるのも同然だ。
また福田達夫氏を総務会長に、松野博一氏を官房長官に抜擢した。福田氏も松野氏もともに清和研所属だが、安倍元首相とは系統が異なるため微妙な距離がある。
ロシアへの経済制裁は安倍元首相へのリベンジか
さらにプーチン大統領が率いるロシアへの大きな経済制裁に踏み切ったという点も、安倍元首相へのリベンジになる。岸田首相は初めこそドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国への経済政策に押しとどめ、2014年のクリミア騒動で安倍元首相が採用した「真空斬り」を踏襲したが、ロシアがクリミアへの侵略行為を開始すると、ロシアに強く抗議するG7の他の国と足並みを揃えた。ロシアは日本を非友好国リストに入れ、平和条約締結に向けた交渉を中断。「プーチン大統領と27回も会った」ことが自慢の安倍元首相は、まったく立場を失った。
そして岸田首相の何よりの支えは、安定した内閣支持率だ。いずれも支持率が不支持率を上回り、さらに自民党の政党支持率より優っている。たとえばFNNの3月の世論調査では、内閣支持率は65.8%で、不支持率は27.9%。自民党支持率は37.1%で、内閣支持率を28ポイントも上回っている。
もっとも「他に良い人がいないから」が最大の41.8%と消極的支持が目立つが、それは安倍元首相を含めて、他に有力なライバルがいないことに他ならない。今夏の参議院選を乗り切れば、後3年間は安泰だ。その間にこれまでの安倍カラーを払しょくすることも不可能ではない。
世界が注目するウクライナ戦争の影で、壮絶な政局が動いている。いままさに時代が変わる分岐点であると同時に、日本の政治の分岐点でもあるのかもしれない。
●ベラルーシは参戦するのか。ロシアが1000ドルで兵士を募集中 3/28
最近、ベラルーシ軍がウクライナ戦争に参加するのか、ロシア軍と共に戦うのかが注目されている。
この国は、政治的にも経済的にも、ロシアに完全に依存している。そのため、モスクワの意のままに、戦争の広大な後方基地と化している。
首都キエフ(キーウ)に向けて、侵攻初期にロシア軍が進軍したのは、ベラルーシからであった。
ベラルーシ軍の飛行場は、ロシア空軍が使用している。
そして、ロシアのミサイルは、同国の領土からウクライナに向けて発射されている。ルカシェンコ大統領自身が認めている。
おまけに、2月末に行われた憲法上の国民投票では、核の中立政策を放棄、ロシアの核ミサイルが国内に配備されることになってしまった。
そして、これまでポーランドとバルト海の国境にのみ集中していた部隊が、ウクライナとの国境にも配備されるようになった。
このように、ベラルーシはロシア軍の好きに使われている。それでも、ベラルーシはロシアの同盟国として参戦はしていないし、する様子もない。
独裁者として大いに批判されるルカシェンコ大統領であるが、それでも自国民を戦争に駆り出そうとはしない。最後の一線は超えていない。
所詮、自分の独裁を守りたいだけ、自分の身が可愛いだけというのは本当だとしても、それでも、たとえ属国のようになっても、結果として国民を守っている。
一口に民主主義国家と言ってもレベルがあるように、独裁者といっても色々レベルがあるものだ。ルカシェンコ大統領の綱渡りの能力はかなり高いと、認めざるを得ない。
月給に加えて、モスクワ留学
なぜロシアはベラルーシの参戦を求めているのだろうか。
地元メディアが引用していたウクライナ情報機関の情報によると、モスクワはすでに、個々のベラルーシ人に戦争への参加を促そうとしており、1000ドルから1500ドルの月給やロシアの大学での訓練・教育を約束しているという。
兵士は一人でも多く必要としているのは確実なようだ。
詳細に理由を考察してみると、フランス国際関係研究所(Ifri)のロシア政治専門家、タチアナ・カストゥエヴァ=ジャンさんがフランス公共放送に語ったところによると、以下のとおり。
1、武器供与のハブとなっているポーランド国境からウクライナに入る部分で、武器を遮断すること。
2、NATO加盟国とバルト諸国の間の唯一の地上アクセスである、リトアニアとポーランドの国境100キロメートルの「スヴァウキ回廊」で行動を実行する。
しかしこれは、NATOとベラルーシが直接対決をすることになり、大変高いリスクを伴う。
それに、この回廊を絶つことで、ロシアにどんなことが出来るというのか。
確かに、プーチン大統領がNATOに要求している「1997年の状態に戻せ」に従えば、バルト3国はNATOに入っているべきではない。
しかし、この旧ソ連領を自分の勢力下に取り戻したいというのなら、この3国を占領するだけの力がなくてはならない。陸で攻め入るのに十分な陸軍、空から制圧するには制空権。そのような余裕が、今のロシア+ベラルーシにあるのだろうか。
「連合国」案が再浮上のロシアとベラルーシ
ロシアとベラルーシは、両国の統合という課題を最近進めていた。
大変長い話を短く語るのなら、1997年と1999年に両国の間に結ばれた二つの条約が、連合国(連邦国とも訳せる)をつくるための基礎となっている。しかし、ほぼ死文化しており、特に政治統合の分野は進んでいない。
ルカシェンコ大統領は、ロシアに頼りながらも、EUとロシアの間をうまくバランスを取るようにして独立を保ってきたのだ。
それが、2020年のベラルーシ大統領選において、ルカシェンコがまたもや再選、市民が不正選挙と腐敗にうんざりして、全国的な抗議デモを展開した。これを暴力で抑えつけて以来、ルカシェンコは反動化した。
米欧の制裁を受けている者同士として、よりプーチン大統領に頼るようになった。そして、この「連合国」構想が再び浮上してきたのだった。
参考記事:ベラルーシはどうなっているか。下僕志望を公に表明のルカシェンコと軍事演習の行方:ウクライナ危機(2月18日の記事)
上記の参考記事で、筆者は「このままルカシェンコが完全に下僕になるとは、今までの経緯があるので、とても筆者には思えない。これは完全に推測であるが、『あそこまで私はプーチンの下僕であると、世間にはっきりと見せたではないか』と言う必要があるほど大きな動きが、背後にあるという仮説も成り立たないでもない」と書いた。
でもまさか、戦争になるとは思ってもいなかった。
ベラルーシの軍事専門家アレクサンドル・アレシン氏によると「ベラルーシとロシアの軍事協定では、ベラルーシがロシア軍と一緒に戦えるのは、どちらかが攻撃されたときだけと決められている」という。『ル・モンド』が報じた。
そのせいなのだろうか、ウクライナ軍は3月11日、ウクライナ国境付近のベラルーシの村を、ロシア軍機が空爆を行ったと発表した。空爆はウクライナ領空から行われたという。
ウクライナ軍は、自国が行った行為ではなく、そのように見せかけて実際はロシア軍が行ったのであり「ベラルーシ軍を対ウクライナ戦に巻き込むことを狙った挑発だ」と指摘した。
何が本当かウソかはわからないが、確かにベラルーシが攻撃されれば、ロシア軍としては軍事協定を盾に、参戦の説得がしやすくなるのは確かである。
また、領土外への軍隊派遣は憲法で禁じられているが、「ロシアの圧力で採択された新しい特別法では、兵士が海外派遣に志願することができる」ともアレシン氏は指摘している。
今年の1月に、カザフスタンで起きた暴動が例となった。
政権内の対立をめぐる暴動で、トカエフ大統領はロシアに軍事支援を要請、難を逃れた。大統領を支援するために展開された、モスクワ主導の「平和維持」作戦には、ベラルーシが参加したのだった。
有名なベラルーシのパルチザン
しかし、ベラルーシがたとえ参戦したとしても、決定的なものにはなり得ない。
「ベラルーシの軍事力は、徴兵を含めて4万5千人を超えません。NATO諸国との国境が非常に長いので、そこに多くの部隊が駐留しています」とアレシン氏は言う。
ウクライナ西側への攻撃に参加できるのは、理論上、ほとんど経験のない6千人の部隊しか残っていないとも語る。
政治アナリストのアルチョム・シュライブマン氏は、「政権支持者や軍内部でさえも、ベラルーシのどの層にも戦争への参加意欲はない」と指摘している。
それどころか、ウクライナ人と共にロシア軍と戦うベラルーシの志願者もいる。
「ベラルーシ人はルカシェンコではない。ベラルーシ人が権利のために戦っていることを、人々は理解するだろう」と、戦闘員の一人であるグレブ・グンコは、フランス公共放送に語った。
彼は、政権の弾圧でポーランドに亡命した青年で、ウクライナのリヴィウのトレーニングセンターに入り、その後キエフ(キーウ)に向かった。
こういった人々の数は正確にわからないが、「ベラルーシのパルチザン(レジスタンス)」というのは有名である。第二次大戦で、ナチス・ドイツに抵抗運動をした人たちのことだ。Wikipediaに、約10ヵ国語でページがあるくらいだ。
前述のロシア専門家のタチアナさんによれば、ウクライナの大統領顧問オレクシィ・アリストビッチ氏は、国境の自国側で、定期的にベラルーシ人に「あいさつ」をしているという。
ベラルーシからウクライナに入ってくるロシアからの物資を輸送する鉄道を使えなくして、迂回を余儀なくさせるよう、彼らを励ましているのだ。そのためか、管理システムやシグナルが、あちこちで故障しているという複数の証言があるのだという。
この戦争の経緯や結果次第で、特にロシアが極度に弱体化した場合は、ベラルーシでもどういう状況になるのか、まったくの未知数である。
●ドイツ輸出見通し、ウクライナ戦争で大幅悪化=IFO 3/28
ドイツのIFO経済研究所は28日、同国の3月の輸出見通しが、ウクライナ戦争を受けて、2020年4月以降で最大の悪化を記録したことを明らかにした。
3月の輸出見通し指数はマイナス2.3で、前月の17.0から悪化。新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた20年4月は31.2ポイント低下した。
調査は製造業2300社を対象に実施した。
IFOのクレメンス・フュースト所長は「輸出は大幅に伸び悩むだろう。輸出見通しは製造業の全ての分野で低下した」と述べた。
●ウクライナ軍首都近郊で攻勢 ロシア東部戦線に兵力集中か 3/28
ウクライナ軍は首都キーウ(ロシア語表記キエフ)の西約60キロに位置するマカリウ周辺で反撃に転じ、首都の包囲、陥落を目論んだロシア軍を押し戻した。
マカリウ郊外のシトニャキには、ウクライナ軍の攻撃で破壊され、焼け焦げたロシア軍の戦車や多連装ロケット砲、装甲兵員輸送車両などが乗り捨てられており、戦闘の激しさを物語っている。
北部戦線でウクライナ軍の攻勢を受けたロシア軍は、首都陥落という侵攻初期の作戦から、親ロシア派武装勢力が実効支配する工業地帯、ドンバス地域を含む東部戦線に兵力を集中してウクライナ軍を消耗させて、キーウに同国の東西分割を迫る作戦に変更したとみられる。
しかしウクライナも、2014年のロシアによるクリミア半島併合以降、東部に兵力を集中しているおり、ウクライナ戦争は長期戦の様相を呈し始めている。
●ロシアの軍事侵攻 ジャーナリスト12人死亡 ウクライナ検事総長  3/28
ウクライナのベネディクトワ検事総長は、ロシアの軍事侵攻により、これまでに国内外の合わせて12人のジャーナリストが死亡し、10人がけがをしたことを明らかにしました。
そのうえで「プーチンの侵略についての真実を明らかにすることは、ますますリスクが高くなり、危険になってきている」と危機感を示しました。
ジャーナリストの被害については、13日にはアメリカの複数のメディアがアメリカ人のジャーナリストで映像作家のブレント・ルノーさんがロシア軍に銃撃され死亡したと伝えているほか、アメリカのテレビ局FOXニュースが14日にウクライナの首都キエフ近郊で取材チームが攻撃を受け、カメラマンとウクライナ人ジャーナリストの合わせて2人が死亡したことを明らかにしています。
また、23日にはロシアの調査報道サイト「インサイダー」が首都キエフを取材していた所属のジャーナリスト、オクサナ・バウリナさんがミサイル攻撃を受けて、死亡したと伝えています。
●TICAD閣僚会合が閉幕 ウクライナ情勢で国際社会協力を  3/28
日本が主導するTICAD=アフリカ開発会議の閣僚会合が閉幕しました。日本とアフリカ各国は、ウクライナ情勢への懸念とともに、国際社会が協力して対応していく必要があるという認識を共有しました。
アフリカの開発や支援を協議するTICADの閣僚会合は、27日までの2日間、50か国が参加してオンライン形式で行われました。
一連の日程を終えたあと、林外務大臣は27日夜、記者団に対し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は国際法に違反する行為で断じて認められないとする日本の立場を伝え、連携を呼びかけたと説明しました。
そのうえで、「アフリカ各国から、ウクライナ情勢とその影響について懸念が述べられ、国際社会が協力する必要性についての認識が共有された」と明らかにしました。
また、国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアが国際秩序を揺るがす行為に及んでいることを踏まえ、安保理改革の早急な実現への協力も働きかけたとしています。
このほか会合では、民間投資の促進による強じんな経済の構築や、新型コロナ対策を含めた持続可能な社会の実現などをめぐって議論を交わしました。
TICADは、ことし8月に首脳会合が予定されていて、林大臣は「閣僚会合の結果を踏まえて日本とアフリカ諸国で連携し、成功に導いていく」と述べました。
●ロシアから撤退か、継続か 難しい判断迫られる産業界  3/28
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、英シェルや米エクソンモービルなどの欧米企業が相次ぎロシアでの事業撤退を表明する中、日本企業も対応に追われている。
日立製作所は当面の間、ロシアへの輸出やロシアにおける製造拠点の稼働を、順次停止していくことを決めた。ロシア事業の大半が建設機械事業。グループ売上高10兆円に占めるロシア事業の割合は約0・5%で、今期(2022年3月期)業績への影響はないという。また、トヨタ自動車やソニーなども相次ぎ操業停止や商品の輸出停止を決め、欧米企業と歩調を合わせた形だ。
一方、アパレル業界では、スウェーデンの『H&M』や『ZARA』のスペイン・インディテックスがロシアでの営業停止を決める中、『ユニクロ』を展開するファーストリテイリングは、当初、「衣服は生活の必需品」として事業を継続する方針だった。しかし、「あらゆる戦争に強く反対する」として一転、事業の一時停止を決めた。
ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使はツイッターで「ユニクロは生きる為のウクライナの基本的ニーズよりも、ロシアのパンツやTシャツ需要の方が重要であると判断した」と表明。コメント欄にはユニクロに対して批判的な意見も多く、同社もこうした意見に配慮したものとみられる。
また、冬の寒さが厳しいウクライナでは、「3月でも気温が氷点下となることが多く、防寒対策も急務」(同社)。人道支援の観点から、ポーランドなどに避難した難民に、毛布や『ヒートテックインナー』などの衣料品や防寒具合計20万点を提供。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、1千万米ドル(約11億5千万円)を寄付することも決めた。
ロシアにも拠点のある某企業関係者は「欧米企業に比べて判断が遅いと言われればその通りかもしれないが、一時停止はともかく、完全撤退を決めるのは難しい」という声もあり、もどかしい様子が伝わってくる。
戦争には反対だが、現地の雇用やサプライチェーン(供給網)を考えると迂闊には判断できない。しかし、結論が長引けば戦時下で犠牲者を出すことにもつながりかねず、難しい判断を迫られる日本企業である。
●ウクライナまで70キロ、迎撃ミサイル並ぶ補給拠点…ポーランド市民の不安 3/28
ロシアの侵攻を受けたウクライナに、隣国ポーランドは人道分野や軍事面で支援を拡大している。国境近くの補給拠点ジェシュフでは、戦乱に巻き込まれることへの不安の声も聞かれた。
補給路
25日にポーランド訪問を始めた米国のバイデン大統領は、ジェシュフ近郊の空港に降り立った。民間機も利用する飛行場だが、迎撃ミサイル「パトリオット」の発射機が何基も連なり、厳重警戒に当たっていた。
国境から約70キロ・メートルのジェシュフは、ウクライナ向けの重要な補給拠点だ。地元報道などによると、軍の輸送機が頻繁に着陸し、トラックに装備を積み替え、ウクライナに向かう。ジェシュフ近郊では2月中旬以降、米国が派遣した欧州への増派部隊約2000人の大半が駐留しており、街中でも至るところで米兵の姿を見かける。
ジェシェフ近郊のジャションカ空港に配備されている地対空ミサイル(25日)=冨田大介撮影ジェシェフ近郊のジャションカ空港に配備されている地対空ミサイル(25日)=冨田大介撮影
人道支援物資もここを経由する。国際機関や支援団体が臨時事務所を置き、各国もウクライナ西部リビウから移転した臨時大使館を構える。ポーランドは国別で最多の200万人超のウクライナ難民を受け入れている。ジェシュフでも避難所が設置され、人口約18万人の街は急激に過密化した。
不安
「北大西洋条約機構(NATO)は我々を守ってくれる。部隊も装備も、もっと来るべきだ」。空港近くのガソリンスタンドで働くピオトル・コシバさん(47)はこう話した。
ポーランドはNATOの加盟国で、ロシアのウクライナ侵攻後、NATOの「支持率」が跳ね上がった。調査会社スタティスタの世論調査によると、2014年のロシアによるクリミア併合以降、支持率は80%前後の高水準で推移してきたが、今年3月に94%になった。戦争に巻き込まれる不安感が反映されたようだ。
ウクライナのザポリージャ原子力発電所が攻撃を受けた4日以降、薬局に甲状腺 被曝ひばく を防ぐ安定ヨウ素剤などを買い求める人が殺到し、品切れ状態が続く。
ポーランドのヤロスワフ・カチンスキ副首相は15日、チェコ首相らとウクライナの首都キエフを訪問した際、「ウクライナ領土にNATOや、可能ならより国際的な組織の平和維持部隊を置く必要がある」と述べた。ラブロフ露外相は23日「ロシアとNATO軍の直接衝突になる」と反発した。
「指先を触れると体全体が巻き込まれるということを歴史が語っている。国境を越えて何かをするべきではない。ポーランドは中立であるべきだ」。空港近くの住宅街でゼベシェク・ファエルさん(60)は語った。
●ロシアメディア ゼレンスキー大統領にインタビュー 侵攻後で初  3/28
ロシアの複数のメディアは、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから初めてウクライナのゼレンスキー大統領へのインタビューを行い、27日、その内容を明らかにしました。
インタビューを行ったのは、ロシアの独立系メディアの「メドゥーサ」や「ドーシチ」、それに大手新聞社の「コメルサント」などのジャーナリスト4人で、オンライン形式でロシア語で行われました。
このうち「メドゥーサ」は動画でも掲載し、この中でゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が続く現状を明らかにするとともに、あらゆる面で破壊的な影響を及ぼしていると改めてロシアを非難しています。
インタビューが掲載された直後、ロシアの通信当局は声明を発表し「ロシアメディアはインタビューの公開を控えるよう警告する。取材したメディアについては責任の所在を確認する」として、ロシアメディアはインタビューの内容を引用も含めて発信しないよう警告しました。
さらに、検察当局も声明で「膨大な量の反ロシアのプロパガンダと、うその情報が定期的に投稿されている」としたうえで、インタビュー内容を掲載したメディアに対して捜査を開始することも辞さない構えを示しました。
プーチン政権は国内外で拡大する反戦の声に神経をとがらせていて、ゼレンスキー大統領自身が明らかにする人道危機などの現状がロシアメディアを通じて国内に広がることを強く警戒しているものとみられます。
●なぜトルコが仲介?ウクライナとロシアの交渉  3/28
「誰かロシアを止めてくれ」と思っている人も多いでしょう。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、注目されている国が中東のトルコです。双方を仲介して停戦にこぎつけようと、独自の外交を展開。しかし、そもそも、なぜトルコが仲介役に?現地での取材をもとに、詳しく解説します。
初めて行われた外相会談 その評価は?
3月10日、ウクライナとロシア、両国の外相が相まみえました。2人が会って話すのは、侵攻が始まってから初めてのこと。たとえわずかでも、停戦につながる糸口を見いだせないか、世界が期待して見守りました。しかし、会談は1時間ほどで終わり、目に見える進展はありませんでした。記者会見も別々の部屋で行い、溝が埋まらなかったことを象徴しているようでした。ただ、少なくとも、戦っている国どうしの代表が1つのテーブルにつき、どちらも交渉の継続に前向きな姿勢を示したということで、確かな手応えを感じている人がいました。この会談の実現に汗をかいた、トルコのチャウシュオール外相です。会見で、改めて双方に停戦を呼びかけました。「戦争に勝者はいない。敗者はいつも罪のないの市民だ」。トルコのエルドアン大統領も、アメリカのバイデン大統領に電話し「この会談自体が外交的勝利だ」と成果を強調。バイデン大統領も「外交的な解決に向けたトルコ政府の関与に感謝する」と一定の評価をしました。
なぜトルコが仲介役に?
そもそも、なぜトルコは「仲介」というこの大役に名乗りを上げたのでしょうか。トルコはウクライナとロシア、いずれとも黒海を挟んで向き合います。しかし、その動機は地理的に近いだけではなさそうです。ヒントは外相会談が行われた、まさにその街にありました。トルコ南部、地中海に臨むアンタルヤ。街を歩くと至るところで目に入ってくるのが、なんと、ロシア語やウクライナ語で用いられる「キリル文字」の看板です。実はこの街、ロシアとウクライナから観光客が多く集まるリゾート地。2つの国はいずれも、観光大国トルコにとっての「お得意様」だったのです。空港から乗せてくれたタクシーの運転手。「早く平和になってほしい。ロシアへの経済制裁で苦しんでいるのはプーチン大統領ではなくて一般市民だ。このままでは夏のシーズンはどうなることか…」。ここでは、ロシア人とウクライナ人は単なるお客さんではありません。ホテルの受け付けで迎えてくれたアレキサンドラさんはウクライナ東部ドニプロの出身。聞けば、どのホテルにも両国出身のスタッフがいて、仕事が終わると同胞たちで情報交換しているそう。「家族が故郷に残っているのでとても心配です。何かあれば呼び寄せたいけど、あまり考えないようにしています」。去年1年間にトルコを訪れた観光客は、ロシアが1位でおよそ470万人、ウクライナが3位でおよそ210万人。両国だけで全体の5分の1以上を占めました。2つの国には平和であってもらわないと、これだけの観光客は望めません。
観光以外にもつながりあるの?
今度は同じアンタルヤの、内陸部に目を向けます。上空から撮った写真にうつるのは、野菜の農業用ハウスが無数に並ぶ広大な土地。さらに、露地にはレモンやオレンジなどの果物がたわわに実っていました。こうした農作物の出荷先が、ロシアやウクライナなのです。地元の輸出業者のトルガ・トゥルグトさん(31)は、軍事侵攻のさなかにあっても、両国向けの輸出をなんとか続ける努力をしたいと話していました。「どんな時でも食べ物は必要だ。私たちのトマトを届ける方法があるのなら、それをするまでだ」。ちょうど取材中にも、ウクライナからの買い付け人が輸出業者のもとを訪れていました。情勢の悪化により帰国できなくなったということです。業界団体のまとめでは、トルコの去年1年間の野菜・果物の輸出額は、対ロシアがおよそ10億ドル、対ウクライナがおよそ2億ドル。これに、ベラルーシを含めた3か国で全体の半分を占めました。しかし、軍事侵攻で戦地となったウクライナへの輸出はゼロに。ロシア向けも半分に減ったといいます。今、トルコは世界的な物価高の影響に加え、経済政策の行き詰まりもあり、年間50%を超える記録的なインフレに見舞われていて、市民生活は苦しくなる一方です。ロシアによる軍事侵攻は、低迷するトルコ経済にさらに暗い影を落とし、このまま見過ごすわけにはいかない切実な事情があるのです。
つながりは経済面だけ?
安全保障面でもトルコと両国は深くつながっています。トルコは、ロシアが脅威とみなすNATO=北大西洋条約機構の加盟国です。にもかかわらず、アメリカとの関係が冷え込んだ際には、あろうことか、ロシアから最新鋭の迎撃ミサイル「S400」を購入し、ほかの加盟国を不安がらせました。一方、ウクライナには、トルコ製の攻撃型無人機「バイラクタルTB2」を売ってきました。ウクライナ軍は2021年10月、これを使って親ロシア派の武装勢力を攻撃し、プーチン大統領の怒りを買う事態に。これについてトルコ政府は「民間企業がやっていることだ」として、政府としての関与はないと、一貫して主張しています。ロシアとウクライナ、双方と「ただならぬ関係」にあるのがトルコなのです。
結局、トルコはどちらの味方?
再び時計の針を現在に戻します。今回の軍事侵攻について、トルコはどういう立場を取っているのでしょうか。ウクライナで、ロシアによる侵攻が始まるのではないかと、緊張が高まっていたことし2月、エルドアン大統領は首都キエフを訪問。「隣国」として双方に対話を求めるとともに、その機会を提供すると提案しました。その一方で、ウクライナに、トルコ製無人機の製造拠点を作るなど、軍事支援も表明。さらに、侵攻後の2月28日には「ウクライナ政府と国民の戦いを称賛する」として、ウクライナ支持の立場を鮮明にします。背景には、トルコ系住民の保護という側面ものぞきます。2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアには、トルコ系民族である、少数民族クリミア・タタール系の住民が暮らしていて、トルコ政府が保護を訴えてきた経緯があるのです。
ロシアに制裁はしないの?
ウクライナ支持を明確にした、まさにその日。トルコは、地中海からエーゲ海を通り、黒海へと抜ける際に通る2つの海峡(ボスポラス海峡とダーダネルス海峡)について、艦艇の通過を制限する措置を発表しました。これは、トルコが2つの海峡の管理権を持ち、戦時には交戦国の艦艇の通過に制限をかけられると定めた国際条約に基づく措置です。表向き、ロシアに圧力をかける方向に動いているように見えますが、ロシアの黒海艦隊は黒海に面する基地を母港としていて、制限の対象外であるため、実質的な影響はほとんど受けないとみられています。では制裁は?欧米などと異なり、トルコはロシアへの制裁を行っていません。ロシアを締め上げ、追い詰めるのでなく、対話できるラインを残しておく。そして、その役割をトルコが担う決意と読み取れます。侵攻が始まる前、エルドアン大統領が記者団に語ったことばには、双方と強い結び付きがある、トルコの難しい立場が表れています。「どちらの国も諦めたくない。私たちはどちらかを諦めることなく問題を解決できる」。
プーチン大統領と「話せる関係」って本当?
しかし、いくらトルコが仲介したいと言っても、今のロシアが話を聞いてくれるのでしょうか?それが、聞いてくれるんです。エルドアン大統領はこれまでプーチン大統領と地域情勢をめぐり、たびたび対立しながらも「話せる関係」を築いてきました。2015年にはトルコ軍が、隣国シリアとの国境付近でロシア軍機を撃墜し、関係が悪化したこともありましたが、エルドアン大統領がプーチン大統領に謝罪の書簡を送り、関係を修復。そのシリアの内戦で、トルコとロシアはそれぞれ敵対する勢力を支援しながら、和平の枠組みを一緒に作ったという実績もあります。時に鋭く対立しながらも、妥協点を探って話し合う両国の関係性がかいま見えます。エルドアン大統領は侵攻前夜の2月23日、そして、3月に入っても繰り返しプーチン大統領と電話会談を行うなど、緊密なやり取りを続けています。この中で「いくつかのテーマで合意するためには首脳どうしの会談が必要だ」として、プーチン大統領とゼレンスキー大統領をトルコに招く提案をしました。
停戦交渉の行方 トルコはどう見る?
その実現に向け、今、トルコはシャトル外交を加速させています。チャウシュオール外相は10日にトルコのアンタルヤでロシアとウクライナの外相会談の仲介を行ったあと16日にモスクワに飛びロシアのラブロフ外相と会談、翌17日にはウクライナ西部のリビウに入り、今度はクレバ外相と会談しました。そのうえで「ウクライナの安全を集団で確保する協定」について、ウクライナ側から提案があったことを明らかにし、ロシアが受け入れるだろうという見方を示しました。さらに19日には再びアンタルヤで、林外務大臣と外相会談。日本政府とも最新の情勢を共有しました。このとき、チャウシュオール外相は私たちの取材に対し「うまくいっている。これからもっとうまくいくだろう」と述べ、交渉は着実に進展しているとアピールしました。一方、時を同じくして、トルコのカルン大統領首席顧問は3月17日、エルドアン大統領とプーチン大統領の電話会談の直後、ロシア側の真意についての見解を明らかに。プーチン大統領が挙げた停戦の条件には、ロシア側のメンツを保つことが目的と思われる要求が並んでいて、これは解決可能だというのです。このうち「ウクライナの中立化」つまりNATOに加盟しないことは、ウクライナも譲歩の姿勢を見せているため、それほど難しい内容ではなく、また「非ナチ化」も、ウクライナがネオナチと呼ばれる勢力を取り締まれば十分だろうという見方を示しました。そのうえで、論点になるのは、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部地域と、2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島の地位をめぐる問題だと指摘しました。
トルコはロシアを止められる?
アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」がことし1月に発表した「ことしの10大リスク」にはロシアとトルコの名前がありました。ウクライナ情勢をめぐるロシアの動向と、エルドアン大統領が進める政策の動向がリスクとされていたのです。今、そのリスクの一方が現実のものとなり、もう一方がリスクの拡大を止めようとする側にいます。法の支配や人権を掲げてきた欧米ではなく、これまで強権、時に独裁と批判を受けてきたエルドアン大統領が、世界的な危機にあたって仲介役を務めようとしています。その実は外貨獲得のための「トルコ・ファースト」が見え隠れするのも確かですが、動機はなんであれ、トルコにとっての理想的な着地点は、ロシアとウクライナが破滅的な結末を迎える前に、少しでも早く戦闘を終わらせることです。それは戦火であすをもしれない日々を過ごすウクライナの市民にも、前例のない制裁下で苦しい思いをするロシアの市民にとっても、待望される展開です。トルコの外交手腕に世界の関心が集まっています。
●ロシア キエフ攻略は挫折?最新戦況と現地の声  3/28
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻から24日で1か月がたちました。首都キエフでは、ロシア軍がミサイルなどで攻撃を続けている一方、ウクライナ側も激しく抵抗しています。こうした中、キエフには今も多くの市民が残っています。現地は今、どんな状況なのか。市民の安全はどうなっているのか。専門家と、市内にとどまり続けている男性に話を聞ききました。
専門家分析
現在の戦況をどう見るのか。安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の高橋杉雄室長に聞きました。
   戦況:こう着状態も一部戦線ではややウクライナに傾きか
「基本的にはこう着状態。こう着状態といっても決して単ににらみ合っているだけではなくて、前線では常に交戦をしているので、そのバランスが今、やや一部の戦線でウクライナに傾いたということではないか」「特にウクライナの場合は、大きく後退したあとで、ジャベリンとかスティンガーを使って少人数で、例えば3人とか5人ぐらいのグループで、かなりの破壊力を持つ攻撃ができたというのは大きかったんじゃないか。ただ、占領した国境から、かなりの面積を占領したロシア軍を押し戻すほどの力をウクライナ側が持つかどうかについては、まだ判断できない」
   軍事作戦:ロシア キエフの攻略挫折で別の作戦に
「ロシア軍自体は、そもそも2つの作戦を行っていた。1つがキエフの攻略を目指す侵攻、もう1つがドンバス(東部の一部地域)からクリミアにかけての侵攻。キエフの攻略が挫折した。少なくとも第1作戦は挫折した。そうなった時にロシア側としては選択が2つあって、北部の方の戦力を増強して、もう一度、キエフ包囲を試みる。あるいは、東南部ドンバス(東部の一部地域)、クリミア方面に戦力を増強して守りを固めていく、あるいは、少しずつ占領地域を増やしていく。2つの選択肢があったんですけれども、その後者を選んだというようなことだと思う」
   今後の見通し:ロシア キエフ周辺に軍維持 東南部支配へ
「キエフ周辺にロシア軍を維持して、ウクライナ軍を引きつけさせつつ、東南部の支配を確立していると、そういう形になるのではないか。だからといって、防戦一辺倒になるわけではおそらくなくて、都市攻撃というのは継続的に行われるんだと思う」
キエフに残る市民はいま
オンラインでの取材に応じてくれたのは、キエフ中心部で語学学校を経営するゲラ・トゥラベリーゼさん(50)です。ゲラさんは、妻、次女、長男の4人で暮らしていましたが、ウクライナ各地で戦闘が激しくなった2月28日に、家族を隣国ポーランドに避難させました。また、近くに住む長女の家族も、ウクライナの西側に避難したといいます。ゲラさん自身は、男性の出国が制限されていることから、今も自宅に残り、キエフの状況をSNSで発信し続けています。
キエフ市内の戦闘状況は?
「今のところ中心部では、大きな被害は確認されていませんが、キエフ近郊で行われているロシア軍の攻撃が、少しずつ近づいているように感じています。23日には、自宅から2キロほど離れた住宅街が、ロシア軍による砲撃を受けました。幸運にも犠牲者は出ていないようですが、ガスパイプが破壊され、多くの人が住む場所を失いました」
ロシア軍の攻撃に変化は?
「これまでは、私が住むところの近くで住宅街が無差別に攻撃されるようなことはありませんでした。連日、爆発音や砲撃の音が聞こえ、キエフ周辺への攻撃は確実に強まっているように感じます。キエフは安全だと思っていましたが、今はその確信が持てなくなってきています」
市内はどういった様子か?
「キエフ郊外と中心部で違いはあると思いますが、私が住む中心部では、一部のスーパーや薬局は営業していて、水や食料などは確保できています。ただ、スーパーの棚は品薄になってきていますし、ガソリンも手に入りにくくなっています。今は、備蓄された食料や燃料で生活できている状況ですが、ロシア軍による包囲が続くと、いつまで持ちこたえられるかわかりません。今後、市民の生活は悪化していくと思います」
市民の暮らしは?
「大勢の女性や子どもが避難しましたが、今も多くの市民が残っています。砲撃の被害を最小限にとどめようと、土のうを積んだり、道路に障害物を設置したりするなど、ロシア軍の攻撃に備える市民の姿が見られます。一方で、こうした状況が長く続いていることで、市民の“疲れ”も感じています。侵攻当初は、空襲警報が鳴ると、ほとんどの人が地下シェルターに避難していましたが、最近はあまりにも頻繁に警報が鳴るため、多くの人が避難しなくなっています。また、空き地でサッカーをする人も出てくるなど、少しでも日常生活を取り戻そうと努めているようにも感じます」
今の状況は改善するか?
「ウクライナとロシアの間で停戦合意が結ばれるまで、今の状況が改善するとは思いません。ただ、ロシア側はウクライナが到底受け入れられない要求をしているので、停戦合意は難しいように感じています。私には、ロシア人の友人もいて『ウクライナを応援する』と言ってくれていますが、一方で『強権的な政権を前に、できることが少ない』とも嘆いていました。ロシアでは、国営通信などを通じて、偽情報が流されているといいますが、ロシア人たちが、本当は何が起きているのかに気付き、立ち上がってくれることを期待しています」
今後もキエフにとどまり続けるか?
「今のところ、キエフを離れることは考えていません。ウクライナは私の祖国で、キエフがロシア軍に占拠されたら、2度と取り戻すことができないことをわかっているからです」「侵攻前は、子どもをダンス教室に連れて行ったり、一緒にスポーツをしたりしていました。長女は毎週末、孫を見せに来てくれました。そんな幸せな生活はすべて壊されました。これからどうなるのか、先が見えない状況ですが、家族と再び一緒に暮らしたい。それが私の一番の願いです」
●「ゴール」動かしたロシア、行き詰まるウクライナ侵攻 3/28
ロシアはプーチン大統領がウクライナに勝利を宣言して面目を保てるよう、「ゴールポスト」を動かした──軍事の専門家の間でそうした見方が出ている。
ロシアは2月24日、陸、海、空からウクライナに攻撃を仕掛け、首都キエフまで迫った。ウクライナと西側諸国は侵攻の狙いについて、ゼレンスキー大統領率いる民主政権を転覆させることだと指摘していた。
しかし、ロシア軍高官は今月25日、真の目的はウクライナ東部ドンバス地域の「解放」だと述べた。この地域では過去8年間、ロシアの支援を受けた親ロシア派武装勢力がウクライナ軍と戦闘を重ねている。
ロシアのセルゲイ・ルドスコイ第1参謀次長は「作戦の第一段階の主目的はおおむね遂行された」と発言。「ウクライナ軍の戦闘能力は大幅に減退した。これにより、われわれは主な目標であるドンバスの解放を達成するための努力に注力できるようになった」とした。
プーチン氏は、ウクライナがドンバスでロシア系住民の「ジェノサイド(集団殺害)」を行っていると、証拠を示さずに主張してきた。ロシアが長年繰り返してきたウクライナ批判の中で、この地は特別な存在となっている。
しかし、ドンバス全体の掌握が当初の目的であったとすれば、ロシアははるかに限定的な攻撃を仕掛け、北、東、南からウクライナに侵攻することによる労力や損失を免れることができたはずだ。
欧州でかつて米軍司令官を務め、現在は欧州政策分析センター(CEPA)に所属するベン・ホッジス氏は「彼らが計画していたことすべてに完全に失敗したのは明白だ。だから今、勝利を宣言できるように目標を定義し直している」と指摘。
「彼らは明らかに大規模な攻撃作戦を続ける能力がない。兵たんに問題があるのは誰の目にも明らかであり、人的資源にも深刻な問題を抱え、予想だにしなかったほどの強い抵抗に遭っている」と述べた。
ロシアが言う「特別軍事作戦」による代償は大きい。ルドスコイ第1参謀次長は25日、これまでのロシア兵の戦死者は1351人だと述べた。ウクライナ側は、実際の人数はその10倍だと主張している。
検証可能な写真や動画を元に両軍の装備の損失を記録しているオランダの軍事ブログ「Oryx」によると、ロシアはこれまでに戦車295台、航空機16機、ヘリコプター35機、船舶3隻、燃料輸送列車2本を含む1864の装備を失った。ウクライナ側については戦車77台を含む540の装備の損失を確認している。
両軍は定期的に敵側の装備の損失数を発表しているが、自国側の損失は確認していない。
進軍を阻止されたロシアは、ロケット弾や迫撃砲による都市部への攻撃に出ている。
ロンドンのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)の地上戦専門家、ニック・レイノルズ氏は「現段階では進撃が止まっているか、せいぜい非常にゆっくりとしか進んでいない」と分析。「当初の戦略は今や完全に達成不可能になった。当初の戦略はウクライナ政府の排除、もしくは侵攻するだけで崩壊の原因を作ることだった。それが実現しなかったのは明白だ。正反対に近いことが起きている」と述べた。
ロシアは東部からウクライナ軍を追い出すという、縮小後の目標を達成するのにさえまだ努力が必要だ。ドンバス地域を構成する2州のうち、ルガンスク州はロシアの支援を受けた軍が93%制圧したが、ドネツク州は54%の制圧にとどまっているとウクライナ国防省は説明している。
一方、ウクライナは日増しに自信を深めているようだ。Oleksandr Gruzevich陸軍幕僚副長は25日、ロシア軍がキエフを制圧するには現状の3倍から5倍の部隊が必要だと指摘。ロシア軍は併合したクリミア半島とドンバスを南岸沿いに結ぶ「陸の回廊」を確立しようと試みているが、阻止されていると述べた。
米軍元司令官のホッジス氏は、ロシアが化学兵器や核兵器に手を出すのではないか、との恐怖に西側が打ち勝ち、ウクライナへの支援をさらに強化できるかが今後の焦点だと強調する。ホッジス氏によると、化学・核兵器の使用はロシアにとって何ら戦術的メリットがない。
同氏は、長距離ロケット弾、迫撃砲、ドローンといった兵器の供与拡大と併せ、諜報面でも西側が支援することにより、ウクライナは防戦から攻勢に転じることが可能だと指摘。「われわれはウクライナに大量の支援を行っておらず、小出しにしかしていない。負けてほしくはないが、積極的に勝たせようともしていない、といった感じがする」と語った。
●姿を消したロシア国防相 軍とプーチン氏に亀裂も 3/28
普通であれば、ロシアが26日に公表した、ショイグ国防相が軍事作戦を巡る調達について話している2分間の動画はほとんど注目されなかっただろう。だが、この映像は大きな話題を提供した。ショイグ氏の姿が、2週間ぶりに確認されたからだ。
ショイグ氏はロシア政府で最も在任期間が長い閣僚だ。過去30年間、ほぼ絶え間なくテレビに登場していた。いまは戦時中であり、国防相が姿を見せないことで、健康不安の観測が流れ、ロシア大統領府が否定していた。
ロシア政府は、ショイグ氏がなかなか姿を見せない理由を、単に忙しいからだと説明している。ロシアのペスコフ大統領報道官は24日、記者団に対し、ショイグ氏は「多くの仕事を抱え、(ウクライナへの侵攻という)特殊軍事作戦を抱え、いまはメディア対応に時間を割けない」と語った。
ショイグ氏はロシアで最も人気が高い政治家の一人で、プーチン氏の長年の盟友でもある。そのショイグ氏を取り巻く謎は、同氏が責任者として強化してきたロシア軍がウクライナでの作戦を思うように進められなくなり、侵攻が行き詰ったタイミングで浮上してきた。
ロシアの軍事作戦はセオリーを逸脱
複数のアナリストは、ロシアの軍事作戦が戦場におけるセオリーから大きくそれている事実に衝撃を受けている。ロシア軍は最高司令官が最終的な決定を下す統合指令部の構造を設けなかったもようで、航空機による地上部隊の支援や補給を含むすべてについて調整が困難になっている。
「訓練、準備、装備においてロシア軍による戦いとはほど遠い」。ロシアの軍隊を研究しているユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのマーク・ガレオッティ名誉教授は指摘する。
「当初の作戦は、ウクライナに対するプーチン氏の凝り固まった考えの上に構築されていた。ウクライナは国家の体をなしておらず、国民の帰属意識も低く、攻撃すればすぐに全体の構造が崩壊するもろい存在だ」という見方だ。
軍事面で失敗したショイグ氏が明らかに孤立し、一部のアナリストはプーチン氏が職業軍人でなく、同氏の仲間であるかつてのソ連国家保安委員会(KGB)の高官とともに作戦を立てたのではないかと考えるようになった。
侵攻の前、ロシア軍のレオニード・イワショフ退役大将は公開書簡で、ウクライナに対する攻撃は「無意味で極めて危険」であり、ロシアの存続を脅かすと警告した。
モスクワで活動する軍事アナリストのパベル・ルージン氏の見解はこうだ。「ロシア大統領府は軍人の言葉に耳を傾けなかった。この特殊作戦を速やかに実行できると言った人たち(秘密情報機関の高官)の話を聞いた。その人たちは、軍がこことそこにロケット弾を撃ち込んでもらい、ウクライナの首都キエフに戦車を進めてもらえれば、それでよいと話していた」
ショイグ氏が孤立との見方
こうした分析から、プーチン氏と長く親しかったショイグ氏が孤立したとの観測が強まった。ショイグ氏はシベリアのへき地トゥバ出身で66歳だ。かつては頻繁にプーチン氏とともにシベリアの森で休暇を取った。ここで上半身裸のプーチン氏が馬に乗り、山あいの川で泳ぎ、ショイグ氏とそろいの服を着て茶を飲む写真をロシア大統領府は公表した。
プーチン氏は、キリスト教の一派であるロシア正教会と、第2次世界大戦における旧ソ連の勝利への礼賛を組み合わせて演説するのが好きだ。これを声高に支持する取り巻きの一人がショイグ氏だ。20年には、カーキ色の迷彩服姿でロシア軍の大聖堂の竣工に立ち会った。大聖堂はロシアの歴史のなかでの重要な戦いを描くモザイク画や浅掘りのリリーフで飾られている。床は第2次大戦で撃退したナチスドイツの兵器や戦車を溶かした素材でつくられ、ヒトラーが生前に所有していたとされる帽子といった戦争の「遺物」を展示する博物館を備えている。強い抗議を受け、後に撤去されたモザイク画は、プーチン氏とショイグ氏がクリミア併合の様子を一緒に見る光景を描いていた。
ショイグ氏は14年の一方的なクリミア併合宣言をプーチン氏とともに計画した4人の高官の1人だ(そのなかで唯一、旧KGB出身でない高官だった)。だが、今回のウクライナ侵攻計画が本格的に動き出すと、独断傾向を強めたプーチン氏はあからさまにショイグ氏と、文字通りの距離を置くようになり、見るからに長い大統領府のテーブルの端の6メートルも離れた席にショイグ氏を座らせた。
政治コンサルティング会社R・ポリティークの創設者タチアナ・スタノバヤ氏は「彼(ショイグ氏)は言われたことを実行する良い兵士だ。プーチン氏と母国を決して裏切らない」と指摘する。「ところが、プーチン氏はショイグ氏のプロフェッショナルな能力をあまり信頼していない。実のところ、あの2人はそれほど親しくない」
ショイグ氏が政界に入ったのは1991年、当時のソ連の緊急救助隊のトップに就いたことがきっかけだ。ショイグ氏は被災地からのテレビに映ることで有能だとのイメージを高め、エリツィン大統領(当時)の後継候補としても名前が挙がった。だが、大統領にはならず、自分の政党をほかの2党と合併させ、いまではプーチン氏の重要な政治ツールになった政党、統一ロシアを立ち上げた。
ショイグ氏は軍歴をもたない。だが、高い人気と不言実行のイメージのおかげで2012年、プーチン氏によって国防省トップに引き上げられた。08年のジョージア(当時、現在はグルジア)戦争の後、ロシア軍のアップグレードを率いた。軍の指揮統制の系統を全面刷新し、3階建てのハイテク作戦指令室を設けた。ショイグ氏とプーチン氏はこの指令室で、シリアのアサド政権を支えるロシア軍の兵器配備を指揮した。
ウクライナにおける地上戦は近代化されたロシア軍の限界を露呈した。米欧の政府高官によると、ロシア軍の戦死者は最も多く見積もって1万5000人。精密誘導ミサイルの20〜60%が的を外れた。ウクライナ側は、将官7人を含む15人のロシア軍司令官を殺害したと発表した。これが事実ならば、ロシアは効果的な将校団を編成できなかったことになる。
「ロシア大統領府は自軍の士官を信用しておらず、司令部からスカイプを通じて戦闘を指揮しようとしている」とルージン氏は話す。「将官は実際の戦況を理解しているが、司令部からの命令を実行しなければならず、万事がそれほど悲惨なわけではないと部隊に嘘をつかなければならない。だから将官は実行不可能な命令を受け、前線に走っていき、自ら手を振ってすべての戦車を誘導し、命を落としている」
戦闘の犠牲者についてウクライナやロシアが発表する数字を取材で確認することはできなかった。ロシア側の戦死者は増えており、軍の内部で不協和音が広がっているようだ。米欧側の高官の一人によると、第37自動車化狙撃旅団の隊員たちは司令官に激しく反発し、故意に戦車でひき殺した。それでも、ショイグ氏が軍の窮状をロシア大統領府に訴えたり、プーチン氏に意見を申し立てたりする可能性は低いと、複数のアナリストは見込んでいる。
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのガレオッティ氏は「プーチン氏の取り巻きが、同氏の望んでいること、明らかに固執していることに反対するのは極めて難しいだろう」と推測する。「ショイグ氏が立ち上がり、プーチン氏に面と向かって『もしこれ(ウクライナ侵攻)をやりたいのならば、いまのやり方が正しいわけではない。準備する時間がもっと必要だ。別の戦略を考えないと』と言ったわけではない」
●プーチンが最も恐れているもの 3/28
ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。ロシアのプーチン大統領は皆さんに、侵攻はNATO(北大西洋条約機構)のせいであると信じてもらいたいと考えている。動員された19万人に上るロシア兵や海兵ではなく、NATOの東方拡大がこの危機の主因であるとしばしば(この侵略が始まった際のロシア国民に向けた演説を含めて)主張してきた。
「ウクライナ危機は西側諸国の過ちにより引き起こされた」と主張する米国の政治学者ジョン・ミアシャイマーの2014年の『フォーリン・アフェアーズ』の挑発的な論考以来、NATO拡大に対するロシアの反動という物語がウクライナこれまで継続してきた戦争を説明するための(正当化するためのものではないものの)主要な枠組みとなってしまった。この考えは、米国、欧州、さらにそれ以外の国々において、政治家、研究者、執筆者によって繰り返されてきた。
つまり、彼らは次のように主張する。NATOの度重なる拡大により、ロシア国境のより近くにNATO軍が迫るようになったため、ロシアの安全保障上の不安は増大し、プーチンに突然の攻撃を行わせるよう刺激した。すなわちプーチンは、2008年にジョージア(グルジア)、14年にはウクライナに武力侵攻し、かつてない大規模によることが見込まれる2度目の侵攻を行った。この説明では、ウクライナのNATO加盟問題が紛争の原因であると同時に解決ともなる。つまり加盟問題をテーブルから取り除けば、戦火は避けられることになると議論は続くのである。
だか、以上のような言説には2つの欠陥がある。一つは歴史的な誤りであり、もう一つは、プーチンの思考についてである。
まず、NATO拡大をめぐる問題は、これまでのロシアと欧米諸国の外交関係において、変数の一つではあったものの、常に両者に緊張をもたらしてきた原因とはいえない。この30年間、この問題の重要性を上下させたのは、NATO拡大の波ではなく、ユーラシアにおける民主主義の拡大の波である。非常にはっきりと、民主化が達成されたのちにロシアのNATOについての不満は急増するのである。
ジョージアとウクライナへの悲劇的な侵略と占領のため、二つの国のNATO加盟の希望についてプーチンは事実上の拒否権を手にした。なぜならばNATOはロシア軍に部分的に占領されている国の加盟を認めることは決してないからである。この事実はプーチンの現在の侵略はNATO加盟に向けられたものであるという主張を弱める。彼は事実上NATO拡大をすでに阻止しており、このことから、彼が今日のウクライナにおいて、はるかに重要なことを望んでいることを明らかにしている。つまり、ウクライナの民主主義を終焉させることと従属国への引き戻すことが目的である。
この現実は第2の誤りを浮き彫りにする。プーチンと、彼の専制的な政権において最大の脅威は、NATOではなく、(近隣国の)民主化だということだ。NATO拡大の動きが一時的に止まったとしても、民主化という脅威は魔法のように消えてなくなってしまうわけではない。NATOの拡大が止まったとしても、プーチンはウクライナやジョージアあるいは地域全体の民主主義と主権の弱体化を探る動きを止めることはない。自由な国々において、市民が自らの指導者を選び、内政・外交政策において自らの方針を決めるという民主的な権利を行使続ける限り、プーチンはそうした人々にその照準を定め続けていくだろう。
これまでの経緯
もちろんNATOとその拡大問題は米国とソ連の関係、また米ロ関係において、常に緊張の原因であったことは確かだ。この論考の筆者の一人であるマクフォールが、ジェームズ・ゲイエとともに20年ほど前、米ロ関係について書いた本「Power and Purpose」で、その一つの章につけた小見出しが「NATOは禁句の4文字言葉(Four-Letter Word)だった。歴代のクレムリン指導者はゴルバチョフもエリツィンもメドベージェフも、それぞれ程度は違ってもNATO拡大に懸念を示していた。
1949年の設立当初から、NATOは加入の基準に合致する国には広く門戸を開いてきた。だから91年のソ連崩壊後、これまでソ連の併合や征服、侵攻を受けてきた諸国が西側と安全保障面でより緊密な関係を求めても、驚くべきことではなかった。米国とNATOの同盟諸国は、それらの新しい自由社会の意向を否定しない一方で、ロシアと欧州やその他の安全保障問題について連携するよう懸命に努めてきた。それは成功したケースもあれば、うまくいかなかったケースもある。
現在のウクライナ情勢をめぐりNATOの過ちを強調する論者は、冷戦終了から30年余りの間に、モスクワによるNATO拡大の拒絶姿勢は、何度となくいろいろな方向に向きを変えているという事実を見落としている。
97年に当時のエリツィン大統領が「NATO・ロシア基本議定書」に調印することを同意した時に、両者はこの合意に包括的な協力課題を文章化して盛り込んだ。エリツィン大統領は調印式で、「非常に重要なことはロシアとNATOとの間に協議と協力の仕組みをわれわれが創出しているということである。そしてこの仕組みによって、われわれは地域の安全保障と安定に関わる主要な問題、つまり、われわれの利益に関わる課題や分野について、公平かつ平等な立場で話し合い、必要なら共同決定を行うことが可能になる」と宣言した。
2000年に大統領代行としてロンドンを訪れた際、プーチンはロシアが将来NATOに加盟する可能性を示唆する発言すらしている。彼はその時「なぜダメなのか。ロシアの国益を考え、もし平等なパートナーということであれば、その可能性を排除しないのは当然だ、ロシアは欧州文化の一部であり、ロシアが欧州の中で孤立するとは考えていない。だから、NATOを敵対視することは困難だ」などと話している。ロシアに脅威となるといわれているNATOに、なぜプーチンは加盟したいというのだろうか。
01年9月11日の米中枢同時テロ発生後、ブッシュ米大統領とプーチンは共通の敵であるテロリズムと戦うため、親密な協力関係を結んだ。その当時、プーチンはNATOとの対立ではなく、協力に目を向けている。これまでNATOが唯一、条約第5条(集団防衛)を発動したのはアフガニスタンへのNATOの介入であり、プーチンは国連安保理でこれを支持した。彼は、さらに続けてNATOを外交面で支持、これは具体的な軍事支援を伴った。
同年11月の訪米中、プーチンは(テロとの戦いについて)「われわれは異なったやり方や手段を用いるかもしれないが、それは同じ目標に向かうものであり…、どんな解決方法が見つかったとしても、それは両国と世界における利益を脅かすものではない」という現実的だが友好的な手記を発表した。また、同月行ったインタビューでは「ロシアは国際社会におけるNATOの役割を理解しており、この組織との協力を拡大する用意もある。もしわれわれが両者の関係を質的に変化させ、関係の形式を変容させるなら、NATO拡大という問題はもはや懸案でなくなり、 関連のある問題ではなくなるだろう」とまで述べている。
NATOは02年、エストニアとラトビア、リトアニアの旧ソ連圏バルト三国の加盟方針を打ち出したが、プーチン大統領はここでもほとんど反応しなかった。加盟阻止に向けた侵攻の脅しもなかった。01年末に、バルト諸国のNATO加盟に反対するのかと具体的に質問された際に、プーチンはは、「われわれはもちろん、(他国に)どうしろという立場にはない。彼らが安全保障を強化したいと希望する場合に特定の選択を禁止することはできない」と述べている。
この時期にプーチンは、ウクライナが将来NATOに加盟するかもしれないという問題をめぐっても同様の態度を示している。02年5月に、ウクライナとNATOの紹介の関係について見解を問われた際、彼は「ウクライナはNATOや西側諸国との全面的な関係拡大を望んでいると、私は確信している。ウクライナとNATOの協議体も創設されるなど、すでに独自の関係がある。時期がくれば、両者が決断を下すだろう。これは彼らの問題だ」と冷静に答えている。
その10年後、メドベージェフ大統領の時代に、ロシアとNATOは再び協力に向かう。リスボンで開催された2010年のNATO首脳会議で、メドベージェフは「われわれの間に距離があり、互いに要求し合う時代はもう終わった。われわれは将来を楽観的に眺めており、ロシアは、NATOと本格的なパートナーシップを(構築することに向かっており)、全ての面で関係を発展させることができる」と発言。さらに、彼は首脳会談で、ロシアとNATOのミサイル防衛協力の可能性まで言及した。NATO拡大への懸念の発言は全く出なかった。
冷戦時代から2014年のロシアのウクライナ侵攻まで、欧州におけるNATOの軍事費と兵力は一貫して削減傾向にあった。加盟国が拡大した2000年代よりも、1990年代にはより大きい軍事力をNATOは保持していた。この時期、ロシアは多額の軍事費を投じて兵器の近代化、欧州における戦力拡大を進め、NATOとロシアの間の戦力バランスはロシアがより有利なようにシフトした。
以上のようなロシアとNATOの実質を伴う協力関係の実例があるので、この30年もの間の「NATO東方拡大」が常にそして継続的にロシアを西側との対立に向かわせてきた駆動力であったのであるという議論を弱める。ロシアと西側の対立、そして14年から続くロシアのウクライナ侵攻の原因をNATO拡大のみに押し付けるのは歴史的事実からみて間違っている。それよりも、われわれはプーチンの持つ敵意の真の源泉がウクライナ、そして欧米諸国そのものにあることを理解すべきだ。
プーチンの真意
より深刻な緊張を引き起こした原因として、2000年代を通じて民主化を掲げて起きた一連の政権交代や民衆の抗議行動、いわゆる「カラー革命」の発生がある。プーチンは米国が支援したクーデターと説明するこれらの事件によってロシアの国益が脅かされていると考えている。2000年のセルビア、03年のジョージア、04年のウクライナ、11年の「アラブの春」、11-12年のロシア反政府運動の発生、13-14年のウクライナ(ヤヌコビッチ政権崩壊)が起きるたびに、プーチンはより米国に対し敵対的な政策に傾き、その理由として「NATO拡大の脅威」を挙げた。
エリツィン大統領はNATO拡大を決して支持しなかったが、1997年の第1次拡大を許容した。彼はクリントン米大統領や米国との緊密な関係をNATO拡大という比較的小さな問題のために犠牲にする価値はないと考えたからである。「平和のためのパートナーシップ」 そして特に「NATOロシア基本議定書」を通じて、クリントンと彼のチームは米露関係を前向きなものにしようと努力する一方で、NATO拡大に対処しようとした。
99年のコソボ紛争でNATOは民族浄化を阻止するためにセルビアを空爆し、その戦略は試練の時を迎えたが、クリントンはロシアに交渉解決の役回りを持たせることで何とか関係を維持した。その1年後にユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領が政権を追われ、旧共産圏で初めての「カラー革命」が起きた。就任したばかりのロシアのプーチン新大統領はこの政変を嘆いたが、大げさな反応は控えた。その時点ではプーチンにとって、まだ欧米やNATOとの協力の可能性を考えていた。
しかし、ソ連崩壊後の世界での民主化の次の拡大、すなわち、2003年のジョージアの「バラ革命」で、米ロの緊張が著しく増大した。プーチンはこの民主化の実現、また「親米の傀儡(かいらい)」とみなすサーカシビリ大統領の政権擁立を直接支援したとして、米国を名指しで非難した。バラ革命の直後から、プーチンはジョージアの民主主義の弱体化を図り、最終的には08年に軍事侵攻してアブハジアと南オセチアを独立国家として承認した。この年に、米ロ関係は最悪の状態に陥った。
バラ革命から1年後の04年には、ソ連崩壊後の世界で最も重大な民主主義の拡大となる「オレンジ革命」がウクライナで起きた。この重大な事態に先立つ数年間、クチマ大統領のもとでウクライナ外交は相対的に東西間のバランスを取ることを志向していたが、徐々にモスクワとの関係を改善させてきた。しかし、04年大統領選での不正行為のために、何十万人ものウクライナ人が街頭での抗議行動を起こし、クチマとプーチンが選んだ後継のヤヌコビッチは追放された。これによってウクライナ外交の方向は変わった。代わって、ユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相が率いる親民主的で親欧米のオレンジ連合が権力を握った。
2000年のセルビア、03年のジョージアに比べ、ウクライナのオレンジ革命はプーチンにとって、遥かに大きな脅威だった。第一に、ロシアと国境を接し、国土も格段に大きく、より戦略的な国で、突然、オレンジ革命が起きた。ユーシェンコとその同盟勢力による西側接近により、プーチンは象徴としても戦略的にも死活的な重要性があると認識しているウクライナを「喪失」したのだ。
プーチンにとって、オレンジ革命は彼の「大戦略」の中核目的を損なった。その目的とは、かつてソ連邦を構成していた領土全体にロシアが特権的で排他的な勢力圏を確立することである。プーチンは勢力圏を信じている。大国として、近隣諸国の主権的、政治的決定に拒否権を持つという考えだ。また、プーチンは近隣諸国において排他性も求めている。つまり、ロシアは近隣諸国に対してそうした特権を行使でき(さらに緊密な関係を築ける)唯一の大国であるべきだとも考える。しかし、02年 にプーチン大統領が融和的なポジションを取って以来、ウクライナにおけるロシアの影響力が弱まり、ウクライナ国民がモスクワの支配から逃れたいという願望を繰り返し示してきたため、プーチンの望む「勢力圏」維持は難しくなっていた。
「ロシアへの隷属」こそが求められる。プーチンが最近書いた歴史論文の中で、ウクライナ人とロシア人は、たとえ強制によってであっても、再統合すべき「一つの民族」なのだと説明したように。したがって、プーチンにとって、2004年のウクライナの喪失は、同年あったNATO再拡大よりもはるかにはっきりと米露関係を悪化させる大きな転機となった
第二に、自由を守るために立ち上がったウクライナ人は、プーチンの価値観によると、ロシアと歴史的、宗教的、文化的に密接なつながりを持つスラブ人の兄弟たちだった。もし自由を求める動きがキエフで起きるなら、モスクワでも起きるかもしれないではないか?
現に数年後、11年12月の不正議会選挙の後、ロシアではモスクワ、サンクトペテルブルク、その他の都市で一連の大規模な抗議行動が発生した。これはソ連が崩壊した1991年以来、ロシアで最大の抗議行動だった。プーチンが権力の座について10年以上たって初めて、一般のロシア国民はプーチンの権力保持を脅かす意志と能力を持っていることを示した
中東諸国のいわゆる「アラブの春」と同じ年に起きたロシアの民衆蜂起、そして、それに続く2012年のプーチン の3期目の大統領としてのクレムリン復帰は、米ロ関係にもさらに否定的な影響を及ぼした。すなわち、09年から続いていたオバマ米大統領とメドベージェフ大統領の協力関係リセットの動きは終了した。ここでも、米ロ協力の最終章を終わらせたのは中東の民主化、次いでロシアの民主化の動きであり、NATO拡大によるものではなかった。これ以降現在まで米ロ協力の新しい章はない。
米ロ関係はその後、14年にまたもや新しい民主化の拡大のために、さらに悪化した。プーチンを脅かす次の民主化の動きは、13=14年に再度ウクライナで起きた。04年のオレンジ革命後、プーチンはウクライナを侵略しなかったが、子飼いの親ロ派であるヤヌコビッチが6年後の大統領選に勝利するよう、さまざまな影響力を行使した。しかし、ヤヌコビッチは忠実なクレムリンの召使いではなく、ロシアと欧米の双方と友好関係を探った。最終的にプーチンは選択を迫り、13年秋にヤヌコビッチはロシアを選ぶ。ヤヌコビッチは、ロシアのユーラシア連合加盟を優先させ、欧州連合(EU)との連合協定調印を見送る。
このヤヌコビッチの連合協定を自沈させるという決定はウクライナで再び大規模なデモを引き起こし、何十万人もの人々が街頭に繰り出した。これにはモスクワ、キエフ、ブリュッセル、ワシントン全てが驚いた。このユーロマイダンあるいは「尊厳革命」として知られるようになる運動は、ヤヌコビッチが西側に背を向けたことに抗議行動として広がった。街頭での抗議は数週間にわたり続き、ヤヌコビッチ政権により平和的な抗議参加者数十人が殺害された。最終的に政権は崩壊し、14年2月にヤヌコビッチはロシアに逃亡し、キエフで新しい親欧米政権が成立した。プーチンは10年の間に2度もウクライナを「失なう」ことになった。
今回は、プーチンは新政権を米国に支援されたネオナチ強奪者と揶揄し、軍事力で制裁しようと反撃した。ロシア軍はクリミアを占領し、ウクライナ領だった半島を併合した。また、ウクライナ東部の分離主義者を支援するために資金、装備、兵士を提供し、ドンバス地方で、この8年間に爆発寸前の戦争を続かせる。この戦争で、約1万4000人が殺害された。この侵略後(侵略の前からではない)、プーチンは、この好戦的な行動を正当化するため、NATO拡大に対する批判を増幅させた。
この2度目のウクライナの民主的革命に対して、プーチンは選挙や他の非軍事的手段は、軍事的な侵攻も含めたより脅迫的圧力と重ね合わせられくてはならないと結論づけた。尊厳革命以来、プーチンは、民主的に選出されたウクライナ政府を不安定化し、最終的に打倒するため、あらゆる軍事的、政治的、情報的、社会的、経済的手段を使って、ウクライナに対して前例のない戦争を遂行してきた。プーチンは民主的なウクライナ主権国家こそが秘められた病気であると信じており、ウクライナとNATO、米国の関係などは、その単なる症状に過ぎない。
●侵攻の真の狙いは「民主化の阻止」  3/28
驚くべきことに、8年にもわたるロシアの容赦ない圧力にもかかわらず、ウクライナの民主主義は持ちこたえた。その逆である。プーチンによる併合やドンバス地方における戦争の支援の後にウクライナ国民は、今や自国の歴史上のどの時期よりも、民族的、言語的、地域的分裂を越えて団結している。2019年の大統領選では、ゼレンスキー氏が全ての地域で支援を集め、地滑り的勝利を得た。驚くことではないが、プーチンの起こした戦争はNATO加盟に対するウクライナ国民の支持を増大させた。
プーチンはここに至り、ウクライナの民主化を終わらせるための新たな戦略を決断した。つまり大規模な軍事侵攻だ。プーチンはその目的を「NATO拡大の阻止」だと主張する。しかし、それは虚構に過ぎない。ウクライナは将来のNATO加盟を熱望しているかもしれない(それはウクライナ憲法にも書かれている)が、近年は加盟に向けた動きは一歩も進んでいない。NATOの指導者たちは門戸開放の原則は変わらないとする一方で、今日のウクライナに参加の資格はないと明確に述べている。プーチンが現在主張する開戦の理由は、彼自身による「発明」というほかない。
プーチンは、ウクライナの民主主義をさらに直接的に弱体化させるため、NATO拡大を名目としたこの危機をでっち上げた。既に、ウクライナ国境へのロシア軍動員により、ウクライナ経済は大きな損害を受けている。そして、ゼレンスキーがこの危機にどう対処したかをめぐり、ウクライナの政党間での新たな分裂を煽っている。大連立あるいは挙国一致内閣を発足させるべきだったとの声もあれば、侵攻への準備が不十分だったとの批判もある。
また、ゼレンスキーは欧米との団結が最も必要とされている時に、ロシアによる侵略の可能性についてバイデン米大統領と議論することで、彼の外交経験のなさ示したとしたと非難する声も出ている。主張する者もいる。要するに、プーチンが兵力を動員するだけでも、ウクライナ民主主義の弱体化に向けた彼の戦争は、既にいくつかの初期の成功を達成しているのだ。
逆説的だが、ロシアによる「力の行使」は、短期的にはウクライナの民主化への動きを強化することにつながるかもしれない。ドネツクとルハンスク地域(国際的にはウクライナの主権領土として認知されている)にロシア軍を派遣してウクライナを侵略するというプーチンの決定はウクライナ人を団結させ、ゼレンスキーの指導者としての人気は高まった。しかし、長期的にウクライナの民主主義が生き残れるかどうかは予断を許さない。プーチンの好戦的なレトリックは、攻撃が始まったばかりであることを示唆している。
電撃戦による侵略、キエフの急速な包囲により、ゼレンスキー政権が権力を追われる可能性がある。そして銃を突き付けられた状況下での新たな選挙で、プーチンが望む政権が誕生するかもしれない。これらは第2次大戦後の東欧諸国で、ソ連の戦車の影で起きたことと同じだ。結果がどうなるのかはまだ分からない。だが、プーチンの狙いがどこにあるのかははっきりしている。
プーチンはNATO拡大を好まないだろうが、それを本気で恐れてはいないだろう。ロシアは欧州最大の陸軍力を保持しており、この20年間にふんだんな資金を投じた結果、能力も向上している。NATOは防衛的な同盟である。先にソ連やロシアを攻撃したことはないし、将来攻撃することもない。プーチンはそのことを知っている。しかしプーチンは、ウクライナで成功した民主主義に脅かされている。彼は、成功し、繁栄し、民主的なウクライナが国境に存在していることに耐えられない。特に、ウクライナ国民が経済的にも繁栄を始めれば尚更である。それはクレムリン自身の体制の安定を損ない、独裁的な国家指導についてこれまで説明されている理由そのものが問われることになる。彼がロシア国民の意思がに国の将来を導くことを許さないように、同じ歴史と文化をともにするウクライナ国民がそのために投票し、戦ってきた繁栄し、独立し、自由な未来を選び取ることを許すことができない
緊張緩和の可能性は遠いが、さらなる交渉、また制裁への恐れが理論的には、今後数日、あるいは数週間の、ロシア軍のドンバス地方を越えた地域への侵攻を回避できるかもしれない。だが、プーチンがルハンスクとドネツクであれ、ハリコフ、オデッサ、キエフ、あるいはリヴィウであれ、どこで最終的に進軍停止を命じようとも、それが終わりではない。プーチン政権が存続する限り、またはその後も専制政治が続く限り、クレムリンはウクライナに限らず、ジョージア、モルドバ、アルメニアといった近隣国の民主化の動きに対抗し続けるだろう。悲しいことに、ジョージ・ケナンの1947年のフォーリン・アフェーアズの論考「ソ連の行動の源泉」(X論文)の内容はいまだに真理を突いている。
「クレムリンがイデオロギーによって、自らの目的を性急に実現するように求められているわけではない…、ここでは慎重さ、周到さ、柔軟性、策謀が優れた資質とされ…、タイムテーブルに縛られていないために、そのような退却が必要になってもパニックに陥ったりはしない。その政治行動は、目的に向かって、動けるならばどこでも絶えず動いていくような柔軟な流れである」
プーチンの長期的な戦略について幻想を持つべきではない。長期的な戦略とはウクライナとその周辺国の民主化拡大を、なんとしても阻止するということだ。
●ロシアの新興財閥が離反の動き スイス隠し資産公開 “金欠地獄”か 3/28
ウクライナ侵攻から1カ月が経過し、ロシア軍の苦戦も伝えられるが、ウラジーミル・プーチン大統領が戦争を止める気配はない。そこで西側諸国が経済制裁の標的とするのがソ連崩壊後に勃興した「オリガルヒ(新興財閥)」と呼ばれる大富豪たちだ。プーチン氏の「金ヅル」とされるオリガルヒだが、一部には離反の動きもある。制裁でプーチン氏を追い詰めることができるのか。
ロシア出身の「石油王」で、イングランド・プレミアリーグ「チェルシー」のオーナーとしても知られるロマン・アブラモビッチ氏が所有するスーパーヨット「エクリプス」など2隻が22日、トルコの港に入った。
エクリプスは全長533フィート(約162メートル)、重量1万3000トンで世界で2番目に大きい規模で、推定10億ドル(約1216億円)とされる。英大衆紙「ザ・サン」(電子版)によると、9つのデッキがあり、ヘリパッドのほか、サウナ、マッサージルームなども併設。ミサイル防衛システムも搭載しているという。
イタリアやフランスではオリガルヒのスーパーヨットが押収されており、現状では制裁に加わっていないトルコに逃れたものとみられる。
欧米各国はオリガルヒへの制裁を強化。日本政府も25日、資産凍結の対象にロシア政府関係者やオリガルヒの富豪の親族ら25人を追加した。
オリガルヒらの資産の隠し先の一つとみられていたスイスも情報公開に動いた。かつては秘密主義で知られたスイスの金融機関だが、ブルームバーグ(日本語電子版)によると、スイス銀行協会(SBA)は18日、国内の銀行に保管されているロシアの富裕層の資産が総額1500億〜2000億スイスフラン(約19兆2000億〜25兆6000億円)に上るとの概算を発表。プライベートバンクも個人への融資実績などを公表した。
オリガルヒらは暗号資産(仮想通貨)を使い、資産を安全な場所に移すため、アラブ首長国連邦(UAE)に押し寄せているという。
オリガルヒとプーチン氏の関係の深さについて語るのは、投資ファンド、エルミタージュ・キャピタル・マネジメントのビル・ブラウダーCEOだ。今回の制裁にも協力し、「オリガルヒ・ハンター」の異名を持つブラウダー氏は、プーチン氏がオリガルヒに対して資産の折半を強要してきたと指摘。米経済誌バロンズに「プーチン氏を止める唯一の方法は、彼の個人資産やオリガルヒの資産を凍結し、企業にロシアでのビジネスを止めさせることだ」と語る。
西側諸国の標的となっているオリガルヒだが、ボリス・エリツィン政権当時に成り上がったグループは総じてウクライナ侵攻に否定的だ。
アブラモビッチ氏もその一人だ。米紙ウォールストリート・ジャーナル(同)は24日、ロシアとの和平交渉の橋渡し役になり得るとして、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がジョー・バイデン米大統領との電話協議でアブラモビッチ氏への制裁見合わせを要請したと報じた。
エリツィン閥では石油大手「ルクオイル」のヴァギト・アレクペロフ氏は「ウクライナでの悲惨な出来事を懸念する」として停戦を訴える声明を出した。金融大手「アルファ・グループ」の創業者、ミハイル・フリードマン氏や、アルミ大手「ルスアル」のオレグ・デリパスカ氏も侵攻に反対した。
これに対し、プーチン氏に近い「プーチン閥」で、ソ連国家保安委員会(KGB)出身で軍需産業「ロステック」を率いるセルゲイ・チェメゾフ氏らはウクライナ侵攻を支持する。
青山学院大・新潟県立大の袴田茂樹名誉教授(現代ロシア論)は「エリツィン閥はロシア経済への懸念を率直に表明している。プーチン閥も公に反対しづらいが、内心は悲鳴を上げているはずだ、いずれも西側に多くの資産を持っており、ウクライナ侵攻が長期化すれば大きなダメージになる」とみる。
ただ、プーチン氏は政策を周辺のごく数人で決めているとされ、オリガルヒを制裁してもウクライナ侵攻に与える影響は限定的との見方も強い。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「有力なオリガルヒの多くはプーチン氏に付いている。欧米の誘いに乗る一部の離反組は、FSB(連邦保安局)に暗殺される恐れもある。当面は制裁を継続し、反プーチンの国民運動が盛り上がることに期待するしかないのではないか」と見据えた。
●プーチンはロシア国民も殺す。地獄の制裁で経済成長率マイナス20% 3/28
ウクライナ侵攻開始から1ヶ月以上が経過するも、思い通りの戦果を挙げられていないとされるロシア。複数の将官が戦士したとも伝えられていますが、ロシア軍はこの侵略行為にどのような決着をつける腹積もりなのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ロシア軍にとって何より重要なのは「プーチンの体面保持」とし、そこから考えうる国民にロシアが勝利したと弁ずることが可能な「落としどころ」を考察。さらにこのウクライナ侵攻が、プーチン政権にとっての「終わりの始まり」である理由を解説しています。
劣勢ロシア軍が考え出した国民向け【言い訳】
劣勢ロシア軍が、国民向けの【言い訳】を考えだしたようです。
BBC NEWS Japan 3月26日。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「特別軍事作戦」と呼ぶウクライナ軍事侵攻の開始から1カ月たった25日、ロシア軍のセルゲイ・ルドスコイ第1参謀次長はモスクワで記者会見し、作戦の「第一段階」はほぼ完了したと発表した。
ルドスコイ将軍は、ロシア軍は今後「ドンバスの完全解放」に注力していくと述べた。
「第一段階はほぼ完了」だそうです。
もちろん、これは【ウソ】です。プーチンは当初、ウクライナ侵攻は2〜3日で終わるだろう なぜならお笑い芸人大統領のゼレンスキーが逃亡し、政権は即座に崩壊するからだ ウクライナ国民の半数以上は、ゼレンスキー「ネオナチ政権」を嫌悪している だからロシア軍は、「解放軍」として、歓喜してむかえられるだろう 欧米は、ロシアからの石油、ガスに依存しているドイツの反対で、強い制裁を打ち出せないだろう。こんな超楽観的シナリオを描いていたのです。
ちなみに、このシナリオをプーチンに伝えていたFSB第5局のセルゲイ・ビセーダ局長は「処分」されたとか。
このあまい見通しは、完全にはずれました。ゼレンスキーは逃亡せず、政権は維持されている プーチンは「現代のヒトラー」(プトラー)と呼ばれ、ゼレンスキーはウクライナだけでなく、「世界の英雄」になった ウクライナ国民は、ロシア軍を歓迎するどころか、憎悪している ドイツはウクライナ侵攻がはじまった2月24日以降、豹変 2月26日には、ロシアをSWIFTから排除することなどが決まった 結果、ロシア経済はボロボロになっている
とまあ、プーチンが思い描いた夢と現実のギャップは、あまりにも激しいのです。
ウクライナ軍健闘の理由
なぜ、ウクライナ軍は強いのでしょうか?
世界を驚かせているウクライナ軍の強さには、いくつかの理由があります。
1.士気の高さ
ウクライナ軍には、「侵略して自国民を殺しまくっているロシア軍を追い出す」という正義があります。彼らにとってこれは、「聖戦」ともいえる。
一方、ロシア軍は、意味もわからず他国を侵略し、自分の親戚と同じ言葉を話す、同じ顔をした人たちを殺さなければならない。まともな人間だったら、士気が低くて当然です。
2.欧米からの武器のサポート
欧米は、ゼレンスキーが求める「飛行禁止区域の設定」や「戦闘機の供与」を拒否しています。それをやると、プーチンは「NATOが参戦した」とみなし、第3次世界大戦になってしまう。
そうなるとロシア軍に勝ち目はなく、プーチンは「核の使用」を決断するかもしれない。人類滅亡につながりかねない。
だからゼレンスキーやウクライナ国民がかわいそうでも、要求に応じることができない。
しかし、そのかわり欧米は、惜しみない援助をつづけています。その中で、三つの武器が、ウクライナ軍を強くしています。
一つ目は、携帯式対戦車ミサイル「ジャベリン」。これは、重さが20キロほど。これがあれば、歩兵が戦車を破壊することができる。ウクライナ軍は、すでにロシア軍の戦車200台を破壊したそうです。
二つ目は、携帯式防空ミサイル「スティンガー」。ウクライナ軍は、これでヘリや、低空飛行中の戦闘機を撃墜することができる。ロシアは、いまだに制空権をとれていません。
三つめは、ドローン。「戦争の形態を変える」といわれる兵器。2020年9月に起こったアゼルバイジャン・アルメニア戦争。アゼルバイジャン軍のトルコ製ドローンが、アルメニア軍戦車部隊に壊滅的打撃を与えたといわれています。そのトルコ製ドローンやアメリカ製ドローンをウクライナ軍が使っている。
3.アメリカ、イギリスからの情報サポート
ウクライナは米英の諜報機関と密接な関係を保っているようです。米英の諜報機関から、ロシア軍の位置情報をもらっている。だから、奇襲をかけて、大きな打撃を与えることができる。
こんな感じなので、開戦1カ月たっても、首都キエフを陥落させることができないでいる。「ロシア軍劣勢」というのは、本当みたいです。
ロシアの国営テレビでも、そのことを認めるコメントがでてきました。ある専門家は、「われわれはウクライナに勝てないのか。ゼレンスキーに勝てないのか。であるなら、NATOやアメリカに勝てるはずがない。ウクライナに負ければ、国家としてのロシアは終わる!」とコメントしていました。ロシア側の支配層にも悲壮感が漂っています。
そして、ロシアの「ショイグ国防相が消えた!」というのが話題になっています。2週間姿を現していない。先日テレビにちょろっと顔を出しましたが、「あれは過去の映像だ」といわれています。ショイグ国防相は、すでに「粛清」されたのでしょうか?
ロシア軍の言い訳
ロシアは、どうするのでしょうか?
ロシア軍にとって一番の課題は、「プーチンの体面をどうやって保つか?」です。重要なのは、この一点。
どうやって?
そもそもこの「特別軍事作戦」の宣言された目的は、「ウクライナのネオナチに8年間ジェノサイドされつづけてきた、ドネツク、ルガンスク人民共和国の民を守ること」でした。
プーチンは2月21日、ドネツク、ルガンスク人民共和国の独立を承認した。そして、「平和維持軍を派遣する」という話だった。
ところが2月24日に、ウクライナ全土への攻撃をはじめた。既述のように、ゼレンスキー政権を崩壊させ、傀儡大統領たてる。傀儡大統領は、クリミアをロシア領と認める ルガンスク、ドネツクの独立を認める NATOに加盟しないことを約束する 非軍事化することなどを宣言する。
しかし、この作戦について、プーチンは公式に明かしたことはありません。だから、「もともとルガンスク、ドネツクを解放すれば、それでよかったのだよ」と言い訳できる。ついでに、ゼレンスキーが「NATOに入らなくてもいい。中立でもいい」といいはじめた。だから、ウクライナから、ルガンスク、ドネツクを事実上解放した。ルガンスク、ドネツクとクリミアの間にあるマリウポリを制圧した。ウクライナにNATO非加盟を約束させた。このあたりを落としどころにすれば、「プーチンの体面は保てる」(自分たちは、粛清を免れることができる)と考えているのでしょう。
つまり、これをもって「ロシアは勝利した!」と宣言する。もちろん、国際社会は、「プーチンは負けた!」と報道するでしょう。ですが、その情報は国民に知らせなければいい。
目論見通りになっても、ロシアの【戦略的敗北】は不可避
私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「プーチンはウクライナとの戦争に勝っても負けても、【戦略的敗北】は避けられない」と書きつづけています。どういうことでしょうか?
2014年3月、プーチンは、ほぼ無血でウクライナからクリミアを奪いました。これは、【戦術的大勝利】です。しかし、欧米日の制裁で、その後ロシア経済はまったく成長しなくなった。2000年〜08年、ロシア経済は年平均7%の成長をつづけていた。ところがクリミアを併合し、制裁を科せられた2014年から2020年まで、ロシアのGDPは、年平均0.38%しか成長していない。これが【戦略的敗北】の意味です。
そして、今回は、クリミア併合時とは比較にならない、【地獄の制裁】が科せられている。ロシアの経済成長率今年、マイナス8%〜マイナス20%になるといわれています。
結局、2022年2月24日にはじまったウクライナ侵攻は、【プーチン政権おわりのはじまり】になるのです。 
●G7、ルーブル建て支払い拒否で一致−ロシア産ガスでプーチン氏要求 3/28
主要7カ国(G7)のエネルギー担当相は、ロシアからの天然ガス購入契約を巡りルーブル建てでの支払いを求めているプーチン大統領の要求について、拒否することで一致した。
ドイツのハーベック経済相は28日、欧州連合(EU)当局者らとの会合後、ベルリンで記者団に対し、ロシアの要求は「一方的で、明らかな契約違反」だと言明。「ルーブルでの支払いは容認できず、関係する企業に対しプーチン氏の要求に従わないよう強く求める」と述べた。
さらに、「プーチン氏がわれわれの間に亀裂を生じさせようとしているのは明白だが、われわれが分裂することはない。G7の答えは明らかだ。契約は順守される」と語った。 

 

●ウクライナ戦争が日本に突きつける「老朽化原発」再稼働問題 3/29
欧州だけがロシアへのエネルギー依存リスクに直面しているわけではない。仮にロシアの天然ガスが禁輸になれば、日本も別のエネルギー源への移行を迫られる。玉虫色の表現で先送りされてきた原発再稼働の検討は急務だが、老朽化問題が「なし崩し」的に看過される恐れがある。
ロシアのウクライナ侵攻は泥沼化の様相を呈している。主要都市へのミサイル攻撃による民間人の被害が拡大しており、西側諸国は激しくロシアを批判している。一致して取り組んでいるロシアへの経済制裁も強化される見通しだ。
そんな中で、最大の焦点がロシア産エネルギーの行方である。パイプラインでつながっている欧州諸国のロシア依存度は高く、ドイツのガス使用量の4割以上をロシア産が占める。米国は早々にロシア産原油や天然ガスなどエネルギーへの禁輸措置に踏み切ったが、ドイツなどはエネルギーを制裁対象から外している。2021年のEU(欧州連合)の天然ガス輸入では約45%、原油輸入では約27%がロシアからである。
それでもドイツは中長期的にロシア産エネルギーへの依存度を下げる方針を打ち出しているが、直近でガス輸入を止めればドイツ自身の国民生活が大打撃を受けることになる。西側諸国は銀行間の決済ネットワークであるSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの主要銀行を排除する経済制裁に踏み切ったが、エネルギー取引の決済に使われる最大手の「ズベルバンク」と3位の「ガスプロムバンク」については排除対象から除外した。これもロシア産エネルギーに依存しているドイツなどに配慮したとの見方が支配的だ。
もっとも、ロシアのウクライナ攻撃がエスカレートする中で、いつまでもエネルギーを制裁対象から除外し続けられるかどうかは微妙だ。第二次世界大戦で旧ソビエト連邦軍と直接戦ったドイツはロシア人を心底恐れている。ウクライナ侵攻を許せば、さらに旧ソ連圏諸国へと触手が伸びてくることになりかねない。ドイツが軍事費予算を急遽2倍に引き上げたり、これまでは封印してきた紛争地への武器供与を、ウクライナについては解禁したことも、その「恐怖」の反動と見ることができる。
さらにロシアの戦闘が拡大した場合、ドイツ自身が身を切ってでもエネルギー輸入を止める可能性は出てくるだろう。また、逆にロシア側が経済制裁への対抗手段として欧州へのガス供給を止めることも十分に考えられる。
原油以上に問題なのは「天然ガス」
問題はそこまで対立がエスカレートした際の日本への余波だ。日本のロシアからの2020年のエネルギー輸入は、原油で3.6%、天然ガスで8.4%である。一見影響は大きくなさそうだがどうか。
ロシア産原油の世界全体の原油生産量に占める割合は12.6%で、米国の17.1%に次ぐ2位。サウジアラビアの12.5%よりも若干多い。原油の場合、サウジアラビアなどOPEC(石油輸出国機構)に増産余地がまだあり、仮にロシア産原油が止まっても、需要を賄えないことはなさそうだというのが専門家の見立てである。実際、原油先物価格が1バレル=140ドルの最高値を窺ったところで下落しているのは、OPEC(石油輸出国機構)の増産見通しが出てきたためだ。もちろん、だからと言って価格が下落を続けるわけではないので、原油価格上昇によるガソリン代の高値は当面続くだろう。
日本にとっての問題は天然ガスだという見方は専門家に共通する。ロシアは世界の天然ガス生産量の16.6%を占め、米国の23.7%に次ぐ。3位はイランの6.5%、4位は中国の5.0%だ。天然ガスの場合、長期契約の調達が多く、スポットで手に入れようと思うと価格は極端に高くなる。日本の場合、パイプラインではなく、LNG(液化天然ガス)に変えて船で輸入するため、LNG施設を持つところとしか取引できない。つまり、ロシアからのガスが万一にも禁輸になれば、その穴埋めをするのは難しく、原油や石炭など別のエネルギー源に移行せざるを得なくなる。そうでなくてもタイムラグを経て今後大幅に上昇する見通しの電気料金はさらに上昇せざるを得なくなる。
ロシア産LNGを担っているのはロシア極東での石油ガス開発事業「サハリン2」である。すでに英国の石油大手シェルがこの「サハリン2」からの撤退を表明している。「サハリン2」には三井物産が12.5%、三菱商事が10.0%出資しており、今後、日本がどう対応するかが焦点になっている。
「サハリン2」などサハリンでのエネルギー開発は、中東湾岸諸国への依存度を下げたい日本政府肝煎りのいわば「国策事業」である。問題はこの事業から、日本も撤退せざるを得なくなるのかどうかだ。
排除できない「サハリン2」撤退シナリオ
萩生田光一経産相は国会で対応を問われると、「撤退することがロシアに対する経済制裁になるのだったら一つの方法だが、われわれがいま心配しているのはその権益を手放したときに、第三国がただちにそれを取ってロシアが痛みを感じないことになったら意味がない」と答弁し、すぐに撤退を決めることに否定的な考えを示した。第三国というのは当然、ロシア擁護の姿勢を貫いている中国のことと思われる。
日本もドイツ同様、エネルギーを経済制裁の「枠外」と捉えて、サハリン2の利権は確保し続けたいというのが経産省の考えだが、ウクライナ情勢がさらに深刻化し、ドイツもエネルギーを例外扱いにしなくなったりした場合、日本が国際世論に負けてサハリン2利権を手離さざるを得なくなる可能性もある。また、すでにロシアは日本の制裁への対抗として「平和条約交渉の中止」などを通告してきているが、場合によってはサハリン2をロシア政府が接収することなども考えられる。
ロシア産の原油や天然ガスが全面的に西側諸国に来なくなった場合、とりあえずはOPECの増産で乗り切れるというシナリオは根底から崩れる。当然、エネルギー価格はいま以上に上昇するのは確実だし、そもそもエネルギー調達不足が生じる可能性もある。欧州でロシア産ガスが止まることも想定し、すでに米国などの呼びかけでLNGを欧州向けに振り替える協力態勢ができている。これが本格化した場合、日本に入ってくるLNGが足りなくなり、電気料金が急騰することも十分にあり得る。
「新しい原発の方が安全に決まっている」
3月22日、経済産業省は東京電力と東北電力の管内を対象に、初の「電力需給逼迫警報」を発令した。3月16日に発生した東北地方での地震によって火力発電所が停止しているところに、気温が大きく低下、電力需要が急激に増えたためだ。
経産省の呼びかけにもかかわらず22日は朝から需要増が続いたため、午後になって萩生田経産相が緊急会見し、「このままでは、いわゆるブラックアウト(深刻な大規模停電)を避けるために、広範囲で(一部地域の自動的な)停電を行わざるを得ない」とさらなる節電を呼びかける事態になった。結局、揚水発電などのバックアップにより停電は避けられたものの、日本の電力供給体制の綱渡りぶりが鮮明になった。
これを受けて、経団連の十倉雅和会長は、「既設の原子力発電で安全性が担保されて地元住民の理解が得られる原発については速やかに稼働をしないと大変なことになる」とし、原発再稼働に言及した。さらに「世界がロシア離れをしてLNGを集めようとしているが大変だ」と指摘。「原発の有効活用を真剣に考えるべきだ」とした。
これまで政府は、安全が確認された原発から再稼働を進める、としてきたものの、将来のエネルギー源として原発をどうするかという議論は避け続けてきた。2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故以来、国民の反原発感情は収まっておらず、政治家も真正面からの議論を避けてきた。
政府が昨年11月に閣議決定した「エネルギー基本計画」でも、「再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」という姿勢は変えていない。老朽化している原発の建て替え(リプレイス)や新設については議論を封印したままだ。一方で、足らなくなる電源を補うために、老朽化した原発の稼働期限を延長する方向性を窺わせる内容も基本計画には盛り込まれている。
だが、目先の需要を賄うために、老朽原発の再稼働や稼働延長を「なし崩し」で進めていくことには危うさを感じる。原発推進派の経産官僚OBですら「30年以上前の技術でできた原発よりも新しい原発の方が安全に決まっている」と語る。より安全性の高い小型原子炉を活用したリプレイスや新設などの議論をむしろ真剣に始めるべきではないのか。ウクライナ戦争をきっかけにしたエネルギーの逼迫を機に、本当の意味でのエネルギー安全保障を考える時だろう。
●マリウポリ死者5000人か ウクライナ側推計「戦争でなく大量虐殺」 3/29
ロシア軍による侵攻が続くウクライナ南東部のマリウポリの市当局は28日、露軍の包囲が始まった3月1日からの27日間で子供約210人を含む約5000人が死亡したとする推計を発表した。ウクライナメディアが報じた。
人道危機が深刻化する同市の状況についてウクライナのベネディクトワ検事総長は「ジェノサイド(大量虐殺)に当たる」との認識を示し、露軍を強く非難した。ウクライナメディアによると、マリウポリでは包囲前に約14万人、包囲後には約15万人が避難に成功したが、今も市内には約17万人が取り残されているとみられる。このほか、市当局は市民約3万人がロシア側に「連行」されたと訴えている。市の推計では住宅や病院、学校などの約9割が露軍の攻撃により何らかの被害を受け、約4割は大破したとみられる。市内では今も戦闘が続いており、正確な死者数は確認できない状態という。
ベネディクトワ氏はマリウポリの状況について「これはもはや戦争犯罪どころではない。戦争にはルールがある」と指摘し、「市内全てが人質になっている。水も食事も暖房もなく、避難しようとした住民の車列は攻撃される。(露軍に)連れ出された子供は2000人以上だ。これは戦争犯罪を超えている」と訴えた。ロシア国防省は「ウクライナの民族主義者部隊」が住民を「人間の盾」にしているなどと非難。露国内への住民避難を「自発的」で強制ではないと主張している。
一方、ウクライナ軍の反攻が続くキエフ北西部のイルピンの市長は28日、同市がウクライナ軍に「解放された」と明らかにした。市内ではまだ露軍の掃討作戦が続いているとし、露軍の再反撃の可能性にも触れたが、「我々はここを守り抜く。イルピンはウクライナだ」とビデオ声明で訴えた。
キエフ周辺では露軍による砲撃やミサイル攻撃が続く。キエフのクリチコ市長は28日、ロシア軍の侵攻以降、市内で少なくとも子供4人を含む100人以上が死亡したと明らかにした。82棟の高層マンションが破壊されており、死者数はさらに多い可能性があるという。クリチコ氏はウクライナ軍の抵抗で露軍の首都侵攻を阻止しているとし、「我々はロシア軍の『無敵神話』を打ち破り、彼らの(キエフ制圧という)目的を変更させることに成功した」とも強調した。
29日にはトルコのイスタンブールでロシア、ウクライナ政府代表団による4度目の対面の停戦協議も開かれる予定だ。インタファクス通信によると、ロシアのラブロフ外相は28日、ウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」が停戦合意の必須の要素となるとの露側の立場を改めて強調。停戦協議を「ロシアにとって原則的な目的を達成する結果で終えることに関心がある」と強硬姿勢を崩さなかった。一方で「合意のチャンスはある」と歩み寄りへの含みも持たせた。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、停戦協議を前に英国のジョンソン首相と電話協議した。ジョンソン氏はロシア経済への圧力を強化する意向を表明。両者は今後も緊密に連携を取っていくことで一致した。
●反戦派のロシア人、自宅に脅迫相次ぐ ウクライナ侵攻 3/29
ロシア政府がウクライナで行っている「特別軍事作戦」について、国内で反対の声を上げているジャーナリストや活動家の自宅が、正体不明の親政府派による破壊行為の被害にあっている。
アパートの扉に、ここの住人は「裏切り者」だという脅迫文を貼られ、ウクライナ侵攻を支持するシンボルとなっているアルファベットの「Z」が落書きされるケースが相次いでいる。
さらに過激な例もある。あるロシアの著名ジャーナリストは、玄関先にかつらを被せられた豚の頭部が置かれ、ドアには反ユダヤ主義者のステッカーが貼り付けられているのを発見した。
ラジオ局「Ekho of Moscow」の編集者を長年務めたアレクセイ・ヴェネディクトフ氏は、この破壊行為の写真を投稿し、「ファシズムを打ち破った国」で反ユダヤ主義的攻撃が起こることの皮肉さを指摘した。このラジオ局は、当局の検閲強化により、現在は放送が停止されている。
このような破壊行為は、ウクライナでの戦争への反対を公に表明する人々に対して、ロシア国内で威圧的な雰囲気がますます強まっていることの表れといえる。
玄関先に肥料が
ダーリャ・ケイキネンさんがサンクトペテルブルクの自宅の扉ののぞき穴をのぞいた時、扉の外側が赤く塗られていることに気が付いた。
ケイキネンさんはすぐに何が起こったのか理解した。似たようなことが、他の活動家にも起きていたからだ。
扉を開けると、そこには赤い大きな文字で「裏切り者」と書かれており、「祖国の裏切り者がここに住んでいる」と書かれた紙が貼られていた。さらに、玄関マットには肥料の山が置かれていた。
著名な政治活動家であるケイキネンさんはBBCの取材に対し、「おそらく私が反戦・反政府の姿勢を公にしているからだろう」と話した。また、サンクトペテルブルクの活動家3人にも、同時期に同じことが起きたと語った。
次の朝にも同じことが起こった。しかし、今度はケイキネンさんの家だけだった。
「扉が緑のペンキで塗られていて、鍵穴にスプレーで泡が盛られていた。(名字がフィンランド由来のため)『ナチズムを許さない』、『フィンランドのナチスがここにいる』というメッセージもあった」
こうしたメッセージの裏側には、ウクライナ政府がナチスによって運営され、同国を「非ナチス化」するために作戦が必要だという、ロシア政府の偽の主張がある。
ケイキネンさんは破壊行為の犯人は分からないものの、自分が知る限り、この住所を把握しているのは両親と警察だけだと話した。
「怖いとは言えない。実は面白く感じた。どこかのばかが11階まで、2晩連続で肥料の袋を運んだかと思うと」
「くずの裏切り者」
ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、反戦派の生活は非常に困難なものになっている。新法により、政府が「フェイク」と断じる情報を拡散した人は15年の禁錮刑を科せられることになった。
ウラジーミル・プーチン大統領をはじめとする政治家は、反戦派を国家の裏切り者だと表現している。
プーチン大統領は16日の演説で、「誰でも、特にロシア人は、いつでも愛国者とくずの裏切り者の区別が付けられるし、うっかり口の中に飛び込んでしまったハエのように裏切り者を吐き出すのだ」と述べた。
さらに、西側諸国が「ロシア国内の敵」を使って市民を分断し、ロシアを破壊しようとしていると主張した。
この演説のわずか数時間後、学生活動家のドミトリー・イワノフさんは母親から電話を受け、自宅玄関の扉の落書きを見たかと聞かれた。イワノフさんはメッセージアプリ「テレグラム」のチャンネルで1万人近いフォロワーを持ち、主に反戦意見を語っている。
「そこには『ディマ、母国を裏切るな』と書いてあった」と、イワノフさんはBBCに語った。また、3つの大きな「Z」があり、これがウクライナにおけるロシアの行動に関連するメッセージであることは明らかだった。
イワノフさんは、「隣人はおそらくそれほど驚いていないでしょう」と説明。警察が時々、抗議行動に参加しないように警告するためにやってくるため、自分の政治的意見は秘密ではないと話した。
その日の夜には、モスクワの3人の活動家やジャーナリストの自宅の扉が破壊された。
しかし、2018年のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会で、大学の真正面にあった騒々しいファンゾーンについて通報したことから抗議活動を始めたイワノフさんは、今回の襲撃でも、気落ちしなかったという。
「警察の行動の方がもっと怖い。警察は人々の人生を台無しにするリソースと力を持っているが、これはただの小さな暴動に過ぎない」
イワノフさんは、この破壊行為を警察に通報しないことにした。逆に逮捕されたくないからだという。
一連の破壊行為は小さなものかもしれないが、戦争を支持するか裏切り者とラベルを貼られるかという政治的環境の産物といえる。
ウクライナでのロシアの行動に反対する人々が受ける影響は多岐にわたり、職を失ったり、刑事訴追されたりすることもある。
しかしイワノフさんは、このような危険な状況でも反対運動を続けるつもりだという。
「禁錮15年は心配だが、戦争はもっと怖い。この完全に破壊的で無意味な残虐行為が、自分の国によってその名の下に行われるのは大きなショックだ」
●「ウクライナはプーチンのアフガン」…プーチン政権没落のきっかけとなるか 3/29
ロシア軍のウクライナ侵攻で膠着状態が続いていることで、ウクライナはロシアにとっての「第2のアフガニスタン」になる可能性があるとの見通しすら登場しはじめている。
米国のマイケル・ビッカース元国防次官は27日のCBSのインタビューで、今回の戦争を「赤軍が史上初めて敗北した」旧ソ連のアフガン侵攻に例えた。当時、中央情報局(CIA)の軍事要員として、1979年に勃発した同戦争においてアフガン抵抗勢力の支援を担当していた同氏は、経済制裁や国際的孤立などがロシアのウクライナ戦争の展望を暗くしていると語った。
ビッカース氏は、ソ連軍は1980年代にアフガンでまともに作戦を遂行できていないケースが多かったが、「現在のロシア軍よりははるかにましだった」と述べた。当時のソ連軍は戦争初期に2〜3週間でアフガンのほとんどの地域を掌握したが、ロシア軍はウクライナ軍の抵抗に直面し、進軍が止まっているというわけだ。ウクライナ戦争はウラジーミル・プーチン政権の崩壊につながりうるかとの問いには「彼の22年間の統治に初めて疑問符が付いたと思う」と答えた。
ロシア駐在米国大使を務めたマイケル・マクフォール氏も、先日の「ワシントン・マンスリー」とのインタビューで「ウクライナはプーチンのアフガンだと思う」と述べた。同氏は「アフガン侵攻とソ連崩壊は密接につながっていた」とし「今回の戦争はプーチニズムの終わりの始まりだと考えている」と述べた。
二つの戦争を直接比較する見方が登場しているのは、それだけ似ている点があるからだ。ソ連は、国境を接するアフガンが西欧に接近し、米軍基地が設置されうるとの判断から戦争を開始した。ロシアは、北大西洋条約機構(NATO)への加盟計画を理由として隣国ウクライナに侵攻した。当初はまともに抵抗できていないように見られていたにもかかわらず、米国などの軍事援助を受けて頑強に抵抗していることも、アフガンとウクライナの共通点だ。両戦争ともに、米国が弱点を露呈した状況において始まっていることも似ている。米国は、ソ連のアフガン侵攻の際にはイランの米国大使館人質事件で苦境に陥っており、今回はアフガンからの無秩序な退却で打撃を受けていた。
最大の関心は「今回もロシアやプーチン政権にとって没落のきっかけとなり得るのか」に集まる。1980年代にソ連は軍備に過度な支出を行うとともに、戦争を10年も引きずったことで軍と市民の士気が落ち、その影響圏にあった国々がソ連の脆弱な実態を確認したことで、没落の道へと足を踏み入れている。
1986〜89年にパキスタン駐在のCIAの作戦部長としてアフガン抵抗勢力の支援を率いたミルトン・ベアーデン氏も「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、ロシアがウクライナの首都キエフ(現地読みキーウ)を占領しても、根強い武装抵抗に直面するとの見通しを示した。ベアーデン氏は、戦争開始わずか20日でロシア軍には7千人の戦死者が出ていると推定されているが、アフガン戦争ではこれほどの戦死者が出るまでに数年かかったと述べた。同氏は「プーチンのアフガニスタン」と題するこの文章で、戦況が今のように展開されれば「アフガン戦争がソ連に対してそうだったように、プーチン政権とプーチン自身の生存を脅かしうる」と主張した。また、プーチン大統領はソ連の影響圏の回復のために「歴史の逆行」に着手したものの、「(自滅の)歴史を繰り返すことになりかねない」と述べた。
●ウクライナ戦争、途上国の債務不履行リスク高める=世銀  3/29
10カ国を超える発展途上国が今後1年でデフォルト(債務不履行)するリスクが高まっている。ウクライナ戦争によってコモディティー(国際商品)価格が上昇し、新型コロナウイルス関連の圧力に拍車が掛かっているからだという。世界銀行の上級エコノミストが28日、明らかにした。
世界銀行のグローバルディレクター(マクロ経済学・貿易・投資担当)を務めるマルセロ・エステバン氏はブログで、高水準の債務を抱える新興・途上国経済は、ロシアがウクライナに侵攻する前から不安定な状態にあったと指摘。コロナ禍を受けて、新興・途上国の総債務残高は50年ぶりの高水準(政府歳入の2.5倍超)に達した。
エステバン氏は「ウクライナ戦争によって、主要な商品輸入国であったり観光業や国外からの送金への依存度が高かったりする途上国の多くの見通しは即座に暗くなった」とし、世界は「一世代で最大の債務危機の連鎖」に見舞われる可能性があると述べた。
同氏は危険な状態にある国名を挙げなかったが、エコノミストらによると、輸入小麦への依存度が高い国、特にアフリカ・中東諸国は、ウクライナとロシアの主要輸出品である小麦の価格急騰により経済苦境や社会不安に陥る深刻なリスクがある。
世界最大の小麦輸入国であるエジプトは、ウクライナ戦争に起因する経済的圧力にすでにさらされており、先週、国際通貨基金(IMF)に金融支援を求めた。200億ドル余りの対外債権を抱えるスリランカも、IMFに金融支援を求める方針を示している。
●米インフレ緩和へ、ウクライナ戦争受けた物価高でも=CEA委員長 3/29
米大統領経済諮問委員会(CEA)のセシリア・ラウズ委員長は28日、ロシアによるウクライナ侵攻を受けエネルギー・食品価格の上昇が見込まれるとしながらも、インフレ率は向こう1年で緩和するとの見方を示した。
ホワイトハウスはこの日、5兆7900億ドルの2023年度予算案を発表。ラウズ委員長は、同予算案はロシアによるウクライナ侵攻のかなり前の昨年11月10日時点の想定に基づいて編成されているとし、「不確実性は極めて高いが、CEAやその他の外部予測ではインフレは向こう1年で緩和するとの見方が示されている」と述べた。
その上で、ホワイトハウスはウクライナ戦争がインフレに与える影響を織り込みながら、年内に経済見通しを修正する予定とした。
昨年11月の予算案では、国内総生産(GDP)の実質成長率について、22年度が4.2%、23年度は2.8%と想定。消費者物価指数(CPI)の伸びは22年度が4.7%、23年度は2.3%を見込む。
ラウズ氏はウクライナ戦争が「今後1年間、さらなる物価上昇圧力をもたらす一方、経済を支える基本的な要因は引き続き改善するはず」と述べた。
●インフレはプーチンのせいだけではない…最大の原因はアメリカの政策 3/29
ガソリンや食料品の価格高騰について、アメリカ人はプーチンだけを責めることはできないと、あるエコノミストが述べている。
リバタリアン寄りのシンクタンク、アメリカ経済研究所のウィル・ルガー(Will Ruger)所長は、Insiderに「インフレ問題の最大の原因は、目先のことだけでなく、ここ数年の我々自身の政策にある」と語った。
ABCニュースが最近行った世論調査で、アメリカ人の5人に4人が、ガソリンスタンドや食料品店で彼らが直面している経済的課題についてロシアの大統領に責任を押し付けていることが分かった。
「アメリカの消費者が、食料品店やその他の場所でのコスト増をロシアのせいにしているとしたら、実際に起こっていることを理解していないということだ」とルガーは述べている。
ロシアがウクライナに侵攻するずっと前から、アメリカ経済は高いインフレ率に悩まされていた、と彼は話す。
「我々はすでに問題を抱えていた。たとえ明日平和になったとしても、この先、いくつかの問題を抱え続けるはずだ」とルガーは言う。
「その大きな要因は、金融政策と財政政策がしばらくの間、軌道に乗っていなかったことだ」
ロシアがウクライナに侵攻し、アメリカ、イギリス、欧州連合(EU)など欧米諸国がロシアに大規模な制裁措置を講じたことで、ガソリン、食料、自動車などの主要な商品価格はさらに上昇した。アメリカはロシアの石油、天然ガス、石炭の輸入を禁止している。
アメリカエネルギー情報局のデータによると、3月上旬のガソリン価格は過去最高を記録し、1ガロン(約3.8リットル)あたり4.20ドル(約513円)近くにまで上がった。
ジョー・バイデン大統領は、ロシアのエネルギー利用禁止は燃料価格の上昇、「プーチンの値上げ」につながると警告した。バイデン大統領は、高騰するインフレをプーチン大統領のせいにしようとしているのだ。
●プーチン大統領、戦争終結へ妥協の用意ないもよう=米高官 3/29
米国務省高官は28日、ロシアのプーチン大統領が現時点でウクライナでの戦争終結に向け「妥協する用意はないもよう」で、ウクライナのゼレンスキー大統領がどのような決断をしなければならないかは不明という認識を示した。
ロシアとウクライナは、初の対面形式での停戦交渉を行う準備を進めている。トルコのエルドアン大統領は27日、プーチン大統領と電話会談し、ロシアとウクライナの次回の協議をイスタンブールで開催することで合意。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、停戦交渉がトルコで29日から始まる可能性があるとし、対面で交渉するのは重要と指摘した。
ゼレンスキー大統領は27日、ロシアとの和平合意の一環として、ウクライナの中立化と東部ドンバス地方を巡る譲歩を協議する用意があると述べた。
ゼレンスキー大統領はまた、停戦とロシア軍の撤退なしに和平合意の実現は可能ではないと言明した。
●爆発音で眠りに就く日々。ゼレンスキー大統領夫人「戦争に慣れないで」と 3/29
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の妻オレナ・ゼレンスカ氏が自身のInstagramを更新し、「お願いですから、戦争に慣れないでください」と世界中に訴えた。
ロシアが2月24日にウクライナに軍事侵攻してから1カ月余。戦争の長期化が懸念される中、ゼレンスカ氏はウクライナの現状を英語でつづり、「戦争の毎日が人生のようです。私たちの子供たちは既に爆発音で眠りに就くことに慣れてしまっています」と説明した。
「ヨーロッパは、砲弾の音に眠り、明日生きているかどうかも分からない子どもたちに慣れることはできない。平和な街が大量の墓場と化していくことに慣れることはできない」と記したゼレンスカ氏。
「ウクライナでの戦争は、あなたの家の玄関先での戦争なのです。平和と人道の側にいてください。そうすれば、ウクライナの勝利はあなたの勝利になる」と呼びかけた。
●ロシア、「ウクライナ政権除去」から「ドンバスの分断・掌握」に目標転換か 3/29
ロシアのウクライナ侵攻が1カ月を過ぎ、プーチン大統領が望む戦争の「最終目的」は何かということについて様々な見方が飛び交っている。一部では、ウクライナの強い抵抗に阻まれたロシアが、首都キエフ(現地読みキーウ)制圧をあきらめ、東部ドンバス地域を確保する方向へと目標を修正したとの見方が出ているが、ウクライナ内部では朝鮮半島式の「永久分断」を試みるのではないかという懸念の声が出ている。
ロシアが戦争の目標をウォロディミル・ゼレンスキー政権の斬首(除去)から東部地域の確保へと引き下げたという主張の根拠になったのは、ロシア国防省の25日の記者会見だった。セルゲイ・ルツコイ作戦本部長はこの日、ウクライナ侵攻作戦の「第1段階の成果は達成された」とし、「今後、主要目標であるドンバス地域の住民解放に主要な力を集中する」と明らかにした。これをめぐり、一部の外国メディアは、ロシアが「ゼレンスキー政権交代」という目標をあきらめ、21日に独立を承認した東部ドンバス地域の二つの「自称国家」を支援することに力を注ぐという現実路線に傾いたのではないかという分析を示した。
それから2日後、ウクライナからは少し異なる脈絡の分析が発表された。ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ軍事情報部長は27日に発表した声明で、ウクライナ全体を飲み込む(swallow up)ことができなくなった「ロシアが、これまで占領したすべての地域を一カ所に集め、朝鮮半島でそうだったように『準国家のような実体』を作ろうとしている」と主張した。その根拠として、ロシアが「首都キエフでウクライナ中央政府を転覆しようとして失敗した後、主な作戦の方向を東部と南部に転換した」という点を挙げ、「彼(プーチン大統領)は恐らくウクライナに朝鮮半島のようなシナリオを考えているようだ。占領地域と非占領地域を分離しようとしている。ウクライナに韓国と北朝鮮を作ろうという試みだ」と懸念した。
実際、ロシアは戦争初期、空挺部隊と機甲戦力をキエフに集中させてゼレンスキー政権を倒し、一気に戦争を終わらせようとしていたが、事実上この目標の達成は難しくなっている。むしろ23日ごろからは、ロシア軍がキエフ付近から後退しているという報道が出ている。
それと同時に、ロシア軍は当初親ロシア武装勢力が一部を掌握していた東部地域を越えて、黒海に面した南部地域の攻略に全力を集中している。ロシアは21日、2014年3月に併合したクリミア半島と親ロ勢力が占領したウクライナ東部地域を連結することに成功したのに続き、南部の占領地域では単純な占領ではなく、永久統治を念頭に置いたような動きを見せている。一例として、ウクライナのザポリージャ州軍当局は26日、ロシアが占領した都市メリトポリでロシア支持を表明する集会が計画されており、別の占領都市トクマクでは、来月の4月から通貨をウクライナのフリブナからロシアのルーブルに変える計画が進められていると明らかにした。ロシアの「RIAノーボスチ」も同日、南部ヘルソンとザポリージャ州のロシア占領地域で、ロシア軍が既存の政府を解体し、新しい民軍合同政府を組織していると伝えた。この試みが成功すれば、ウクライナは黒海へとつながる通路の大半を封鎖され、内陸国家へと縮小することになる。
さらに一歩進み、親ロ勢力が作った「自称国家」ルガンスク人民共和国(LPR)のレオニード・パセチニク首長は27日、「近いうちに有権者が憲法的権利を行使し、ロシアの一部になることを支持するかを問う住民投票を実施する可能性がある」と述べたという。ロシアは2014年3月のクリミア半島併合の際にも、住民投票を大義名分として吸収作業を一気に終えた。そうなれば、ウクライナは英雄的な抗戦にもかかわらず、領土の相当部分を失う最悪の状況に直面することになる。
●Google「ウクライナ侵攻に『戦争』という単語を使うな」 翻訳業者に指示 3/29
Googleでロシア市場向けの文章を翻訳していた翻訳業者が、2022年3月上旬にGoogleから「ロシアによるウクライナ侵攻は『戦争』と呼ばずに『緊急事態』と表現するように」と指示するメールを受け取ったと報じられています。ニュースメディアのThe Interceptによれば、このGoogleの指示は、ウクライナ侵攻直後に制定されたロシアの検閲法に準拠する方針によるものとのことです。
ロシアのプーチン大統領が2022年3月4日に署名した検閲法では、ロシア軍に関する誤情報を流すと最高で懲役15年が科されるなど、厳しい刑事罰が設定されています。この刑事罰の対象には、ウクライナ侵攻を「戦争」「侵攻」と称することも含まれると解釈されているため、ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシア国内だと「特別軍事作戦」「(ウクライナの)緊急事態」などと表現されています。
欧米諸国がロシアに対して経済制裁を決定したのと同時に、多くの企業がウクライナ支持とロシアへの非難声明を発表し、製品やサービスをロシアに提供しないことを決定しました。Googleもウクライナ支持とロシアへの非難を表明し、ロシア政府によるプロパガンダの拡散を防ぐためのポリシーも導入。さらにロシアでの広告販売、ロシアにおけるGoogle Cloudの登録や決済機能を一時停止しました。
GoogleはGoogleマップやGmail、AdWordsといったサービス、さらにGoogleのポリシーページなどを世界各国の言葉に翻訳しています。ほとんどの翻訳はAIによって自動的に行われますが、コミュニティのルールやサポートページなど、自動翻訳だと表現に齟齬(そご)が生まれかねない場合、人間である翻訳業者のチェックが入るそうです。しかし、今回Googleが翻訳業者に送った指示は、ロシア側におもねった内容となっているとThe Interceptは述べています。
以下は、「デリケートな事象に関するポリシーの更新」の日本語ページで、「ウクライナでの戦争」と書かれています。これに対して、ロシア語版では「ウクライナの異常事態」という言い方になっています。
また、「ディスプレイ&ビデオ360ヘルプ」にある「制限されている商品とサービス」の日本語版のページだと、「ウクライナでの戦争」「現在の情勢(ウクライナでの戦争)」などと表示されています。しかし、ロシア語版のページだと、「ウクライナの例外的な状況」という言い方に変わっていました。The Interceptは翻訳指示について、「Googleがロシアの検閲要求に屈服した一例です」と述べています。
なお、Googleの広報担当者はThe Interceptに対して、「ロシアにおけるGoogleの広告事業と商業活動の大部分を一時停止していますが、現地従業員の安全には引き続き注力しています。広く報道されているように、現在ではロシア国内の通信が制限されています」と答えました。
●ロシアの民間雇い兵を初確認、ウクライナ東部に展開… 3/29
ロシアのウクライナへの軍事侵攻を巡り、英国防省は28日、露民間軍事会社「ワグネル」の雇い兵がウクライナ東部に展開していると発表した。ロシアは作戦の重心を東部に移す方針を表明しており、戦力強化のため正規軍とは別に投入された模様だ。ロシアの雇い兵がウクライナで確認されたのは初めてとみられる。
ワグネルはプーチン政権に近く、シリアやアフリカなどで活動し、民間人殺害への関与も指摘される。英国防省は、ロシアが「重大な損害と侵攻の停滞」を受け、アフリカなどで活動するワグネルの雇い兵を投入せざるを得なかった模様だと分析している。幹部を含む1000人以上が投入される見込みとした。
ウクライナ軍参謀本部は28日、ロシアを後ろ盾にジョージア(当時グルジア)から一方的に独立宣言した南オセチア自治州に駐留する露軍部隊150人が、クリミア半島に到着したと発表した。この部隊も東部攻略に投入される可能性がある。
米国防総省高官は28日、露軍がウクライナ東部で侵攻の動きを強めていると記者団に明らかにした。首都キエフ周辺では3日前から前進していないが、キエフへの長距離砲撃を続けていると指摘した。
28日、ウクライナ南東部マリウポリで、破壊されたアパート近くを歩く親露派武装集団の兵士(ロイター)28日、ウクライナ南東部マリウポリで、破壊されたアパート近くを歩く親露派武装集団の兵士(ロイター)
ウクライナ国営通信によると、露軍が包囲攻撃する南東部マリウポリの市長は28日、民間人の死者が約5000人に上ると公表した。このうち約210人が子どもで、依然として約16万人が市内を出られない状態という。
同通信によれば、ロシアとウクライナの停戦協議は29日午前10時半(日本時間同午後4時半)から、トルコのイスタンブールで開催される。対面での交渉は、ベラルーシで今月7日に開かれて以来となる。
ロシアは北大西洋条約機構(NATO)への加盟断念を迫っている。これに対し、ウクライナ側は、米英などによる「安全の保証」を条件に「中立化」には応じる構えだが、国民投票でその是非を判断するとしている。ウクライナは露軍の侵攻以前の位置までの撤退も求めるとみられ、協議は難航する可能性が高い。
●ロシアの富豪 アブラモビッチ氏と停戦交渉関係者に毒物か 米紙  3/29
ウクライナとロシアの停戦交渉に関わってきたロシア人の富豪、アブラモビッチ氏とウクライナ交渉団のメンバー2人が、今月初めに毒物を吸入したような症状を訴えていたことが関係者の話で分かったと、アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルなどが伝えました。
アブラモビッチ氏は、プーチン大統領に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪の1人で、サッカーのイングランドプレミアリーグ、チェルシーのオーナーとして知られていますが、ウクライナとロシアの仲介にあたっていたとされています。
アブラモビッチ氏とウクライナの交渉団の3人は、今月初めウクライナの首都キエフで目が充血し涙が止まらなくなり、顔や手の皮がむけるなどの症状が出ましたが、すでに回復して命に別状はないということです。
ウォール・ストリート・ジャーナルとともに調査にあたった国際的な調査報道グループのベリングキャットは、「専門家による検査によれば、何らかの化学兵器によって症状が出た可能性が高い」としています。
これに対してウクライナのゼレンスキー大統領の報道担当者はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し「毒が盛られた疑いがあるという情報はない」としているほか、ロシア側からも公式な発表はありません。
真相は明らかではありませんが、過去にロシアの反体制派の指導者ナワリヌイ氏が化学兵器の神経剤で襲われる事件も起きているだけに、今後の停戦交渉の行方に影を落とすことも懸念されます。
●ウクライナ側要請で「和平後押し」か、露の富豪・アブラモビッチ氏に毒物症状 3/29
国際的な民間調査機関「ベリングキャット」や複数の欧米メディアは28日、ロシアとウクライナの非公式な和平協議に参加したウクライナ側の交渉担当者ら3人に、毒物の中毒症状が確認されたと報じた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、和平の頓挫を狙ったロシアの強硬派の仕業との見方を報じている。
非公式の和平協議は3月3日にウクライナで行われ、同日夜、協議に参加したウクライナ国会議員ら2人が目と皮膚の炎症や目を突き刺すような痛みを訴えた。
同じく協議に出席した英サッカー・プレミアリーグの「チェルシー」オーナーで、英国などの制裁対象となっているロシア人富豪ロマン・アブラモビッチ氏にも症状が出て、数時間視力を失ったという。同氏はウクライナ側の要請で、和平を後押しするために協議に参加したとみられている。
ベリングキャットは専門家の分析として、化学物質が使われた可能性が高いとした。その種類や量は致死的でなく、「脅しのためだった可能性」も指摘した。
●ウクライナ侵攻 中東地域などでは食糧危機招きかねない事態  3/29
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、両国からの小麦の輸入に大きく依存する中東地域などでは小麦の価格高騰や供給不足で食糧危機を招きかねない事態となっています。国連は経済的に貧しい国々は深刻な影響を受ける恐れがあると警告しています。
ロシアとウクライナは穀物の輸出大国でこのうち小麦は両国をあわせると世界の輸出量の3割を占めますが、輸出が滞る懸念から3月上旬には国際的な指標となる先物価格がおよそ14年ぶりに最高値を更新するなど高騰しています。
さらに、両国からの小麦の輸入に依存する国が多い中東やアフリカでは供給不足への懸念も広がり、食糧危機を招きかねない事態となっています。
このうち、小麦の輸入のおよそ7割をウクライナに頼ってきた中東のレバノンでは、ロシアの侵攻後、ウクライナからの輸入がストップしたうえ、おととし8月の首都ベイルートでの大規模な爆発事故で国内最大の穀物貯蔵庫が損壊した影響もあり、小麦のストックは1か月足らずとなっています。
また、内戦が続く中東のイエメンでは小麦の輸入の4割をロシアとウクライナに頼っていますが、主食のパンが値上がりを続けるなか、食糧危機に拍車がかかり、飢餓に陥る人がさらに増える恐れがでています。
こうした国々はロシアとウクライナに代わる小麦の輸入先を探していますが、自国の食糧確保のために輸出を制限する国も出ていて、世界的な影響が広がっています。
FAO=国連食糧農業機関のボーバカル・ベンハサン市場・貿易部長は「特に経済的に貧しい国は深刻な影響を受けるおそれがあり、食糧の輸出制限を設けないよう各国に働きかけている」と話していました。
●そもそもロシアはなぜ侵攻したのか ウクライナ危機の背景 3/29
Q ウクライナってどんな国? ロシアとの関係は?
A ウクライナは東をロシアに、西を欧州連合(EU)の国々に挟まれた、人口4千万人を超える国です。面積は日本の1・6倍、耕地面積は農業国フランスの1・8倍もあり、小麦などがたくさんできることから「欧州のパンかご」とも呼ばれます。国旗の空色・黄色の2色は、青空と小麦の黄色い畑を表しています。今の首都キエフに生まれた「キエフ公国」(キエフ・ルーシ)が10〜12世紀に欧州の大国となり、同じ東スラブ民族からなるロシア、ウクライナ、ベラルーシの源流になりました。ルーシとはロシアの古い呼び方です。13世紀のモンゴルによる侵攻などで、キエフ・ルーシは衰退。その後に栄えたモスクワがロシアを名乗り、キエフ・ルーシを継ぐ国と称しました。ウクライナは東スラブの本家筋ですが、分家筋のモスクワが台頭して大きくなった、ととらえることもできます。ウクライナの一帯はその後、さまざまな大国に支配され、1922年にソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)ができると、ソ連を構成する共和国の一つとなりました。30年代にはソ連の圧制下で大飢饉(ききん)が起き、数百万人が亡くなったと言われています。86年にはキエフの北約110キロにあるチェルノブイリ原発で事故が起き、広い範囲の人たちに深刻な健康被害をもたらしました。ソ連が崩壊した91年に独立を宣言。その後、国内では親ロシア派と親欧米派が対立を続けてきました。ロシア系の住民が2割ほどいます。ウクライナ語が国家語とされていますが、ロシア語を話す人も多くいます。文法的には似ていますが、語彙(ごい)に違いがあります。
Q ロシアはなぜウクライナを攻撃したのか?
A ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、ウクライナ側の激しい抵抗だけでなく、欧米諸国をはじめとする国際社会の強烈な反発を招きました。ロシアは世界から孤立し、経済制裁で大きな打撃を受けています。こうした大きな痛手を負うと知りながら、ロシアはなぜ、言語や文化が極めて近い「兄弟国」のウクライナへの攻撃に踏み切ったのでしょうか。「ロシア、そして国民を守るにはほかに方法がなかった」。ロシアのプーチン大統領は2月24日、攻撃開始を宣言する演説でそう述べました。親ロシア派の組織が占拠しているウクライナ東部で、ロシア系の住民をウクライナ軍の攻撃から守り、ロシアに対する欧米の脅威に対抗するという「正当防衛」の主張です。ロシアは、東西冷戦の時代からの西側諸国の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)が自分たちを敵とみなしてきた、と主張してきました。ウクライナはかつてロシアを中心とするソ連の構成国でしたが、ソ連が崩壊したことで独立。いまのウクライナのゼレンスキー政権は親欧米で、NATOへの加盟を目指しています。ロシアにとって、これはがまんがならない。そのため、いろんな理由をつけてゼレンスキー大統領を何とか武力で排除し、ロシアに従順な国に変えてしまいたいのです。ウクライナを影響下に置けば、地理的にもNATOに加わっている国々とロシアとの間のクッションにもなります。でも、戦争の代償の大きさを考えれば、攻撃の開始を理性的に判断したのかどうかは疑問が残ります。プーチン氏はかねて、ウクライナ人とロシア人は「歴史的に一体だ」と主張し、ウクライナを独立した存在として認めてきませんでした。そうした独自の歴史観や国家観が影響した可能性も否定できません。
Q プーチン大統領ってどんな人?
A ロシアの大統領として今回のウクライナ侵攻を始めたプーチン氏とは、いったいどんな人物なのでしょうか。69歳のプーチン氏は20年以上にわたって権力を握り、ロシア国内には、エリツィン政権時代に混乱した社会の安定を取り戻したとの評価があります。その一方で、ほかの国に対して軍事力を使うことも辞さず、国内の反対派を締めつけてきた姿が「独裁者」のイメージを形づくってきました。プーチン氏は1952年に、旧ソ連の第2の都市・レニングラード(今のサンクトペテルブルク)で、工場の熟練工の家に生まれました。早くからスパイになることを志したとされ、大学を卒業した後、旧ソ連の情報機関である国家保安委員会(KGB)に採用されました。91年にソ連が崩壊した後、サンクトペテルブルク市の副市長、KGBの後継組織である連邦保安局(FSB)の長官などを経て、99年に首相に就任。翌年の大統領選で初当選しました。2008年には後継指名したメドベージェフ氏の大統領就任に伴って首相に転じますが、4年後に大統領に復帰。18年には4選を決めました。ソ連崩壊後にロシアの経済は混乱しましたが、自国でとれる原油の価格上昇などを追い風にして経済を安定させたことは、ロシア国内での功績とされています。その一方で、周りの国々への強硬な姿勢で批判も浴びてきました。08年に、ジョージアからの分離独立を求める南オセチアの紛争に軍事介入。14年には、ウクライナで親ロシアの政権が倒され、親欧米の新政権ができたことに怒り、ウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合してしまいました。ロシアの国内では、プーチン政権に批判的な人権団体や独立系メディアを解散させるなど、言論の自由も弾圧してきました。10代のころから柔道に親しみ、離婚した前妻との間に娘が2人います。
Q NATOって何? なぜロシアと対立している?
A ロシアはウクライナへの侵攻を、NATOの脅威に対する自衛措置だとも説明しています。プーチン氏は2月24日の演説で「NATOはロシアを敵と見なしてウクライナを支援している。いつかロシアを攻撃する」と言い切っています。NATOは東西冷戦期の1949年、米英仏など西側陣営の12カ国が、旧ソ連や社会主義陣営に対抗するために結成した軍事同盟です。防衛を最大の目的とし、加盟国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなして集団的自衛権を行使すると規定しています。NATOに対抗するために55年、旧ソ連を中心に結成されたワルシャワ条約機構は、冷戦終結を受けて91年に解体されましたが、NATOはその後も存続しました。冷戦の終結に続くソ連の崩壊で、ロシアと互いに協力関係を模索した時期もありましたが、99年以降、ソ連による侵攻や支配を受けた経験があるポーランドや旧ソ連構成国のバルト諸国などが、ロシアから身を守るためとして次々にNATOに加盟。現在は30カ国にまで拡大しています。2008年には、ウクライナやジョージアが将来的な加盟国と認められました。不信を募らせたロシアは「東方拡大しないという約束をNATOが破った」と主張し、ロシアへの直接的な脅威だとして対立姿勢を強めています。プーチン氏には「NATOにだまされた」との怒りがあるとも言われますが、ロシア側が主張する「約束」は文書に残っておらず、欧米側は否定しています。NATOが拡大を続けることの是非については、欧米でも議論があります。一方で、NATO側に全ての非があるとするロシアの主張にも無理があり、外敵をつくることで国内世論をまとめたいプーチン政権の思惑もありそうです。
Q 「ウクライナ危機」の世界経済への影響は?
A ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン政権の財源を断とうと、米国や欧州は厳しい経済制裁を科し、ロシア産の原油や天然ガス、石炭などの輸入も減らそうとしています。ただ、資源大国のロシアから各国への供給が大きく減れば、世界的なエネルギー価格の上昇につながり、その影響は日本の経済にも及びます。ロシアは天然ガスの輸出で世界1位、原油の生産では同3位。原油輸出だけで政府歳入の17%を稼ぎ、政権を支える財源としてきました。米国はロシア産の原油や天然ガス、石炭の輸入を禁じると決め、英国やEUもエネルギーの調達で「脱ロシア」を進める計画を公表しています。米国はシェールと呼ばれる、地中深くの硬い岩石の層からとれる原油や天然ガスが豊富で、自国で増産を進める方針です。一方、EUはこれまで、天然ガス輸入の4割をロシア産に頼っていました。ほかの調達先を増やし、再生可能エネルギーも活用することで埋め合わせをする計画ですが、供給が滞れば市民生活に大きく響きます。日本は輸入エネルギーのうち、ロシア産が天然ガスで約8%、原油で約4%を占めています。世界全体の供給量に余裕がない中で輸入を制限すれば、日本経済にも相応の影響はあるだろうとみられています。資源の輸入以外でも影響は出ています。日本ではロシアの領空を通る空輸が難しくなったことから、人気のノルウェー産サーモンの供給が不安定になっています。日本がロシアから輸入してきたカニやウニの品薄や値上がりのほか、ロシアとウクライナが世界に向けて輸出してきた小麦も世界的な値上がりが心配されています。
●侵攻の経済損失、70兆円 ロシアに賠償要求 ウクライナ 3/29
ウクライナのスビリデンコ第1副首相兼経済相は28日、ロシアの軍事侵攻でこれまでに被ったウクライナの経済損失が約5650億ドル(約70兆円)に上るとの試算をフェイスブックに投稿した。
その上で、国内で凍結したロシア資産の接収などにより、一部を穴埋めする意向を示した。
侵攻が長期化すれば、損失のさらなる増大は避けられない見通しだ。スビリデンコ氏は「ウクライナはあらゆる障害を乗り越え、侵略者に賠償金を要求することを目指す」と訴えた。 
●「ゴールポスト」動かしだしたロシア 行き詰まるウクライナ侵攻 3/29
ロシアはプーチン大統領がウクライナに勝利を宣言して面目を保てるよう、「ゴールポスト」を動かした──軍事の専門家の間でそうした見方が出ている。
ロシアは2月24日、陸、海、空からウクライナに攻撃を仕掛け、首都キエフまで迫った。ウクライナと西側諸国は侵攻の狙いについて、ゼレンスキー大統領率いる民主政権を転覆させることだと指摘していた。
しかし、ロシア軍高官は今月25日、真の目的はウクライナ東部ドンバス地域の「解放」だと述べた。この地域では過去8年間、ロシアの支援を受けた親ロシア派武装勢力がウクライナ軍と戦闘を重ねている。
ロシアのセルゲイ・ルドスコイ第1参謀次長は「作戦の第一段階の主目的はおおむね遂行された」と発言。「ウクライナ軍の戦闘能力は大幅に減退した。これにより、われわれは主な目標であるドンバスの解放を達成するための努力に注力できるようになった」とした。
プーチン氏は、ウクライナがドンバスでロシア系住民の「ジェノサイド(集団殺害)」を行っていると、証拠を示さずに主張してきた。ロシアが長年繰り返してきたウクライナ批判の中で、この地は特別な存在となっている。
しかし、ドンバス全体の掌握が当初の目的であったとすれば、ロシアははるかに限定的な攻撃を仕掛け、北、東、南からウクライナに侵攻することによる労力や損失を免れることができたはずだ。
欧州でかつて米軍司令官を務め、現在は欧州政策分析センター(CEPA)に所属するベン・ホッジス氏は「彼らが計画していたことすべてに完全に失敗したのは明白だ。だから今、勝利を宣言できるように目標を定義し直している」と指摘。
「彼らは明らかに大規模な攻撃作戦を続ける能力がない。兵たんに問題があるのは誰の目にも明らかであり、人的資源にも深刻な問題を抱え、予想だにしなかったほどの強い抵抗に遭っている」と述べた。
ロシアが言う「特別軍事作戦」による代償は大きい。ルドスコイ第1参謀次長は25日、これまでのロシア兵の戦死者は1351人だと述べた。ウクライナ側は、実際の人数はその10倍だと主張している。
検証可能な写真や動画を元に両軍の装備の損失を記録しているオランダの軍事ブログ「Oryx」によると、ロシアはこれまでに戦車295台、航空機16機、ヘリコプター35機、船舶3隻、燃料輸送列車2本を含む1864の装備を失った。ウクライナ側については戦車77台を含む540の装備の損失を確認している。
両軍は定期的に敵側の装備の損失数を発表しているが、自国側の損失は確認していない。
進軍を阻止されたロシアは、ロケット弾や迫撃砲による都市部への攻撃に出ている。
ロンドンのシンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)の地上戦専門家、ニック・レイノルズ氏は「現段階では進撃が止まっているか、せいぜい非常にゆっくりとしか進んでいない」と分析。「当初の戦略は今や完全に達成不可能になった。当初の戦略はウクライナ政府の排除、もしくは侵攻するだけで崩壊の原因を作ることだった。それが実現しなかったのは明白だ。正反対に近いことが起きている」と述べた。
ロシアは東部からウクライナ軍を追い出すという、縮小後の目標を達成するのにさえまだ努力が必要だ。ドンバス地域を構成する2州のうち、ルガンスク州はロシアの支援を受けた軍が93%制圧したが、ドネツク州は54%の制圧にとどまっているとウクライナ国防省は説明している。
一方、ウクライナは日増しに自信を深めているようだ。Oleksandr Gruzevich陸軍幕僚副長は25日、ロシア軍がキエフを制圧するには現状の3倍から5倍の部隊が必要だと指摘。ロシア軍は併合したクリミア半島とドンバスを南岸沿いに結ぶ「陸の回廊」を確立しようと試みているが、阻止されていると述べた。
米軍元司令官のホッジス氏は、ロシアが化学兵器や核兵器に手を出すのではないか、との恐怖に西側が打ち勝ち、ウクライナへの支援をさらに強化できるかが今後の焦点だと強調する。ホッジス氏によると、化学・核兵器の使用はロシアにとって何ら戦術的メリットがない。
同氏は、長距離ロケット弾、迫撃砲、ドローンといった兵器の供与拡大と併せ、諜報面でも西側が支援することにより、ウクライナは防戦から攻勢に転じることが可能だと指摘。「われわれはウクライナに大量の支援を行っておらず、小出しにしかしていない。負けてほしくはないが、積極的に勝たせようともしていない、といった感じがする」と語った。
●プーチンは大誤算…米英最強「特殊部隊」がウクライナ侵攻前から現地潜入 3/29
ウクライナに侵攻するロシア軍の苦戦が伝えられている。当初は数日間で首都キエフ陥落のシナリオを描いていたというが、プーチン大統領の思惑通りにいかなかった理由のひとつは、ウクライナの兵力を読み違えたことだ。
侵攻したロシア軍は20万人規模とされる。対するウクライナ側は陸軍14万5000人に空挺隊などを加えても15万人程度が限界で、地上戦の兵力で圧倒するロシアが断然優位とみられていた。
しかし、ウクライナは2014年のロシアによるクリミア侵攻を機に徴兵制を復活。訓練済みの予備役兵は100万人近くいる。ゼレンスキー大統領が18〜60歳の男性の国外退避を禁じたこともあり、実際の“兵力”はロシア軍が投入した20万人を大きく上回るのだ。
もうひとつの誤算が英米の特殊部隊の暗躍だ。ウクライナ国内には、米陸軍特殊部隊「デルタフォース」や、11年にアルカイダ指導者のウサマ・ビンラディンを射殺して注目を集めた米海軍特殊部隊「ネイビーシールズ」が潜入しているとみられる。
さらには、世界最強の呼び声も高い英陸軍特殊空挺部隊「SAS」も現地に送り込まれているという。一説には、SAS隊員1人で1個中隊(200人)に相当する戦力を持つといわれる。まさに一騎当千の精鋭部隊だ。
英紙ミラーなどによると、ロシア侵攻前に100人以上のSAS隊員がウクライナ入り。民間義勇兵に紛れて潜り込んでいる隊員や、民間軍事会社に雇われて戦闘に加わったSASの退役軍人もいるという。
「米英のチームはロシア侵攻に備えて昨年末から現地入りし、ウクライナ軍に武器の使い方や警護の訓練をしていたようです。今もウクライナ国内にとどまり、何らかの活動をしている可能性が高い。英米は公式には派兵していないため、ウクライナ国内にいる特殊部隊は軍服を着ておらず、民間人になりすましているはずです。秘密作戦の指揮を執っているのは米CIAで、英国の諜報機関MI6がサポートしている。通信傍受などにも協力しているでしょう」(軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏)
英紙タイムズは26日、ロシア軍将官に7人目の死者が出たと報じた。将官の戦死が異常に多いのは、狙い撃ちにしているせいなのか。
米英の特殊部隊は、ドローンを使った暗殺の実績も豊富だ。
旧ソ連のスパイだったプーチン大統領が特殊部隊の恐ろしさを知らないはずがないが、その実力は想定以上だったのかもしれない。
●首都キエフ制圧できず…プーチン氏迷走¢_いを東部ドンバスに変更 3/29
ロシアとウクライナの停戦交渉が29日、トルコのイスタンブールで対面形式で行われる。ウクライナへの侵略開始から1カ月過ぎたが、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシア軍は首都キエフを制圧できず、祖国を守ろうとするウクライナ軍の反撃で周辺地域を奪還されている。迷走・失敗を隠すためか、ロシア軍は狙いを東部ドンバス地方に変更した。停戦交渉では、民間人の命を守るため、双方の譲歩が注目される。ただ、朝鮮半島のような「分割」となれば、結果的に「力による現状変更」を許し、「台湾有事」「尖閣有事」を誘発することになりかねない。国際社会はロシアへの制裁強化の徹底が不可欠だ。
「ロシア軍には、ウクライナ全域からの撤退を求める。撤退後に、ウクライナの『軍事的中立化』について、国民投票で賛否を問う」
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は27日、ロシアの複数の独立系メディアとのオンライン会見で、こう語った。トルコで29日に再開される停戦交渉を見据えたものだ。
ゼレンスキー氏は会見で、関係国による安全保障の枠組みで「ウクライナの主権と領土の一体性」を確保することを条件とした。そのうえで、ロシアが求めるNATO(北大西洋条約機構)加盟を断念する「中立化」を受け入れる方針を示し、「核武装も否定する用意がある」とも語った。
ウクライナとして一定の譲歩を示した形だが、ロシアが軟化して歩み寄るのか、先行きは見通せない。
ロシア軍の侵攻開始から1カ月が過ぎ、ウクライナ側の反撃を伝える報道も目立つようになった。
ロイター通信によると、首都キエフ近郊の街、イルピンの市長は28日、「イルピンをロシア軍の支配から完全に奪還した」と述べた。欧米諸国が提供した対戦車ミサイル「ジャベリン」などが甚大な被害を与えたようで、キエフ攻略を目指したロシア軍の一部部隊が、キエフ州から北方のベラルーシへ後退したことも確認された。
プーチン氏は当初、「ウクライナが再核武装を狙っている」などと主張し、首都キエフを制圧してゼレンスキー政権を転覆させる計画だった。ところが、想定外の苦戦を強いられ、軍事目標をウクライナ東部のドンバス地方を確実に支配下に収めることに変更したようだ。
ロシア軍の包囲が続く南東部マリウポリでは、約16万人の市民が取り残されるなか、無差別攻撃が続き、激しい市街戦も起きている。マリウポリのボイチェンコ市長は28日、同市での死者が5000人近くに達したと述べた。このうち210人が子供だという。
ロシアによる「朝鮮半島シナリオ」も指摘される。
ウクライナ国防省の情報部門トップは27日、「ロシア軍は占領地域をウクライナ本国から切り離し、国家が南北に分かれる朝鮮半島のような分断を画策しているようだ」と強い警戒心を示した。
タス通信も、ロシアのニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が28日、「ウクライナの政権交代を目指していない」と述べ、侵攻の当初の目的が修正されたことを示唆した。
プーチン政権が戦争計画を変更した背景に、ロシア国内の混乱もありそうだ。
西側諸国による経済制裁の効果が出てきている。各国の中央銀行はロシアの外貨準備を凍結し、ロシア進出企業の撤退も相次いでいる。
ソ連崩壊後にロシアの市場経済移行を主導し、大統領特別代表を務めていたアナトリー・チュバイス元第1副首相が辞任した。ロシア中央銀行のエリビラ・ナビウリナ総裁も一時、辞意を表明したという報道もある。これは、プーチン氏が拒否したとされる。
戦局の停滞を打破するため、ロシアが生物・化学兵器や戦術核の使用に踏み切る危険性もある。
プーチン氏は今後、どうするのか。
国際政治学者の島田洋一氏は「プーチン氏は、ウクライナ東部の戦況を有利に進めることで、停戦交渉を優位に進め、国内世論にも『戦争目的を達成した』と言い張るつもりだろう。だが、緒戦の作戦失敗は覆い隠せない。ロシア経済の回復も無理だ。西側諸国は決して『力による現状変更』を認めてはならない。(東アジアなど)各地に連動させてはならない。戦争が長期化すれば、プーチン政権はさらに追い込まれる。『勝利宣言』を出すことはできない」と語っている。
●プーチン氏の狂気、戦術核使用も辞さず−NATO元司令官 3/29
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で用いる軍事的手法について、興味深い二項対立があると、われわれは最近数週間で気付いた。
極超音速ミサイルやサイバー攻撃、精密誘導兵器といった最新兵器に手を伸ばす一方、大都市を包囲して破壊するぞと脅す古くからの戦い方をプーチン氏は命じている。
ロシア軍が包囲した南東部のマリウポリを守る英雄的人々に対し、プーチン大統領は「降伏すれば、家や伴侶、子供たちに危害を加えない」との呼び掛けを事実上行った。ウクライナの人たちは予想通りきっぱり拒否したが、砲撃の音がとどろき巡航ミサイルが飛び、戦争犯罪が日に日に増している。
核戦力の「特別態勢」への移行を命じ、「有名な黒いスーツケースと赤いボタンについてご存じだろう」とペスコフ大統領報道官が不気味な発言をしたことを含め、核兵器を巡るプーチン大統領のあからさまな威嚇が、恐らく最も懸念される。
プーチン氏にも子供がいて祖国を深く愛しており、大破局レベルまで事態をエスカレートさせることは望んでいないに違いない。欧米からの核報復を回避したい思惑もあり、あるいは民間人がほぼ避難した後に都市を粉々に破壊する目的で、比較的低出力の戦術核兵器を使うような危険を冒すだろうか。
そこまでするかもしれない。だが実際に行えば、歴史に残る戦争犯罪人の殿堂の筆頭に名前が掲げられよう。脅しは今後も続くとしても、そもそもプーチン氏が越えたくない一線なのではないかとは思う。
ロシアが化学兵器を使用する可能性の方が高いだろう。プーチン大統領は、ウクライナがひそかに保有していると同国を不当に非難した際にそれを予見させた。北大西洋条約機構(NATO)は脅威を深刻に受け止め、ストルテンベルグ事務総長は「生物・化学兵器、放射性物質、核の脅威に対しウクライナを守る装備品」などについて「追加支援供与の合意を期待する」と語った。
生物・化学兵器の攻撃は住民を恐怖に陥れるだろう。ウクライナ政府の首を取る電撃作戦「プランA」が失敗した今、それがプーチン氏の「プランB」戦略の主要目標だ。減り続ける巡航ミサイルや爆弾を温存する効果も期待できる。神経ガスの煙より速く都市を空にする手段はそうあるまい。
プーチン大統領が大量破壊兵器を使用すれば、ポーランドからウクライナへの武器の供給ラインを確保しておくため、少なくとも西部上空の飛行禁止区域設定というNATOが避けてきた対応が恐らく必要になるだろう。
ウクライナ全土での抵抗活動の開始に備え、ゼレンスキー政権が西部のリビウに移らざるをえない事態も想定される。化学兵器による攻撃が実際あれば、リビウ防衛のためNATOが地上軍派遣を求められる状況にもなりかねない。
ロシアが実戦使用を発表したもう一つの最新兵器が、極超音速ミサイル(「キンジャール」)だ。同ミサイル発射の重要性はウクライナを打ち負かすことでなく、欧米へのメッセージに大いに関係している。核兵器を保有しているだけでなく、それを防ぎようのないプラットフォームを使って配備できるという米国およびNATOへの警告だ。
NATOはプーチン氏のシグナルを真剣に受け止めるべきだが、過剰反応すべきでない。欧米側には、必要ならサイバー戦争や通常兵器の攻撃、海上対応といった段階的に拡大できる他の多くの選択肢が存在する。
ロシアのウクライナ侵攻から1カ月余りが経過し、都市を破壊し、住民を恐怖に陥れる古くからの戦略をプーチン大統領は主に用いている。しかしその背後からは、サイバー攻撃と極超音速ミサイル、恐らくは化学兵器、戦術核さえ含む最新鋭兵器が不気味に迫る。米国と同盟国はそのどれにも、また全てに対応する計画を今準備しなければならない。 
●ゼレンスキー「ロシア兵の遺体の腐臭で息もできない」 3/29
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、自国の兵士たちの遺体を放置していると非難。ウクライナの一部の地域では、ロシア兵の遺体の腐敗臭がひどくて「息ができない」状態だと述べた。
ゼレンスキーは3月27日発行のエコノミスト誌のインタビューの中で、「侵略者たちは、自分たちの側に出た犠牲者を悼むことさえしない」と批判した。
「私には理解できない。この1カ月で、約1万5000人のロシア兵が死亡しているが......プーチンは彼らの遺体を蒸気機関車の火室に投げ込む薪のように扱っている。遺体は埋葬さえされず、路上に置き去りにされている。ウクライナ軍の複数の兵士によれば、一部の小さな都市では、ロシア兵の遺体の腐敗臭がひどくて息もできない状態だということだ」
さらにゼレンスキーは、プーチンがロシア兵に対して敬意を欠く扱いをしているのに対して、ウクライナ軍は「恐れを知ることなく」国を守るための戦いを続けながら、死傷した兵士たちにきちんと対応していると主張した。
死傷者の扱いが「根本的に異なる」
「兵士たちによれば、戦闘中に仲間が死亡した場合は、そこにとどまって遺体を埋葬しなければならず、負傷した者がいれば、彼らの命を救わなければならない。命がある限り、彼らを守らなければならないということだ。これが、ロシア側と我々の根本的な違いだ」
ロシアがウクライナ侵攻を開始して、1カ月以上が経過した。この間に戦死したロシア兵の数は、過去20年に戦死した米兵の数を上回っている。NATOのある高官は先週、これまでに7000人から1万5000人のロシア兵が死亡し、そのほかに負傷したり、捕らえられたり、行方が分からなくなったりした兵士が数万人にのぼると推定している。
ロシアはこれに異論を唱えており、3月25日までに死亡したロシア兵の数は、わずか1351人だとしている。
ウクライナ側の戦死者については、ゼレンスキーが3月12日の記者会見で、ロシアによる侵攻開始以降で1300人の兵士が死亡したと発表していた。だがAP通信によれば、アメリカはこれまでのところ、ウクライナ軍の兵士の死者数について、推定値を公表していない。
今回の戦闘では、戦死したロシア軍の指揮官の数も、歴史的な水準に達している。これまでに少なくとも7人の将官が死亡したと伝えられており、ワシントン・ポスト紙によれば、わずか1カ月でこれほどの数の将官が死亡したのは、第二次世界大戦以降でほかに例がないということだ。
ロシア軍はこれまでのところ、ウクライナのどの主要都市も、制圧することができていない。それでも国連によれば、これまでの戦闘でウクライナ各地が壊滅的な被害を受け、1100人を超える民間人が死亡している。住むところを失ったウクライナ人は少なくとも1000万人にのぼり、このうち400万人近くが国外への避難を余儀なくされている。
ゼレンスキーは27日付のエコノミストに対して、ウクライナ国民は「勝利を信じて」おり、自分たちの家や独立を守るための戦いをやめることはないだろうと述べ、できる限り多くの人の命を守ることが、自分にとって最も重要なことだとつけ加えた。
「勝利とは、できる限り多くの命を救えることだ。それができなければ、何も意味がないからだ。もちろん我々の土地は大切なものだが、結局のところは、ただの領土だ」と彼は同誌に語り、戦争は「我々がウクライナを守り、この地に立っている状態」で終結すると信じていると述べた。
●ロシア、キーウ周辺の軍事作戦を大幅に縮小 ウクライナは中立化を提示 3/29
ロシアによる軍事侵攻がウクライナで続く中、トルコ・イスタンブールで対面形式の停戦交渉を行った両国の代表団は29日、一定の譲歩に応じる姿勢を示した。ロシアの国防次官は、首都キーウ(ロシア語でキエフ)および北部チェルニヒウの周辺での軍事作戦を大幅に縮小する方針を明らかにした。対するウクライナ側は、安全の保証を条件に、ロシアが強く求めてきた中立化に応じる考えを示した。
両国の交渉団はこの日、イスタンブールで約3時間にわたり協議を続けた。その後、ロシアのアレクサンドル・フォミン国防次官は記者団に対して、「相互の信用を増幅」するため、ロシア軍は首都キーウおよび北部チェルニヒウの周辺での軍事活動を大幅に縮小することにしたと述べた。
フォミン次官は、「ウクライナの中立性と非核化、そして(ウクライナのための)安全の保証について、合意に向けた交渉が実務的段階へ移行していることを踏まえ、今日の協議で話し合われた原理原則を考慮に入れ、ロシア連邦の国防省は、相互の信用を増幅するため、そして交渉継続および前述の合意署名のために必要な条件を作り出すため、キエフとチェルニヒウにおける戦闘作戦を大幅に縮小する決定をした」と述べた。
ウクライナは中立化を提示
これに対してウクライナの交渉団は、ロシアが特に強く要求していた中立化を受け入れる考えを示した。
中立化とはこの場合、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)などの軍事同盟に一切参加せず、他国軍の駐留基地を国内に置かないことなどを意味する。
ウクライナの安全を保証する国の候補として、ポーランド、イスラエル、トルコ、カナダなどが浮上している。
ウクライナ代表団によると、両国が検討している和平案には、ロシアが2014年に併合したクリミアの地位について15年間の協議期間を設けることなどが含まれる。ただし、完全な停戦が実現しない限り和平合意は履行されないと、ウクライナ側は説明している。
ウクライナの代表団は、自分たちが提案した和平案には具体的内容が十分含まれており、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の直接会談を実施するに足りるものだと主張。ロシア側の回答を待っているところだと話した。
両政府の代表団による対面での協議は、ベラルーシで今月7日に実施されて以来。協議を仲介しているトルコのメヴリュット・チャヴシュオール外相は、協議開始以来最も重要な進展が見られたと評価した。
チャヴシュオール外相は、両国が特定の懸案事項について譲歩し合い、共通認識に到達することを歓迎すると述べ、戦争は可能な限り速やかに終わらせなくてはならないと繰り返した。
外相はさらに、「もっと難しい問題」は今後、両国の外相同士が話し合うものと予想されると述べた。
●ウクライナ戦争で不況の瀬戸際に直面する英国経済 3/29
ロシア・ウクライナ戦争の勃発(2月24日)と、それに伴う西側の対ロ経済制裁により、英国経済はインフレ圧力が一段と高まり、同時にリセッション(景気失速)リスクが高まるという、スタグフレーション(景気後退でもインフレ率が上昇する状態)危機に直面しているという論調が強まってきた。
英ウォーリック大学のアンドリュー・オズワルド教授は3月2日付の英紙ガーディアンで、英国の過去のリセッションとエネルギー価格急騰の因果関係を強調。「ほぼすべての戦後のリセション前には石油価格が高騰していた。原油価格は1973年、1979年、1990年、2007年に急上昇し、その後、リセッションが起きた」と警告する。
また、英国商工会議所(BCC)のエコノミストであるスレン・ティル氏は英紙ガーディアン(3月4日付)で、英国の今年の経済成長率は、インフレ高騰や高額増税、ウクライナ戦争の不確実性により半減すると予想する。「2022年のインフレ率は8%上昇に達し、その結果、勤労者の可処分所得が減少。コロナ禍からの景気回復にブレーキをかける」という。
BCCは最新の経済予測で、今年の英国のGDP伸び率見通しを前回予測の4.2%増から3.6%増に下方修正した。2021年のGDP伸び率7.5%増の半分以下だ。ティル氏は、「今後数カ月で経済成長は止まる。ウクライナ戦争は、消費者と企業へのインフレ圧迫を高め、世界のサプライチェーンのボトルネックを増大させ、経済活動を悪化させる。2021年10−12月期のGDPは前期比1%増だったが、今年の1−3月期は同0.7%増、4−6月期は同0.2%増、7−9月期は同0.1%増と、徐々に伸びが停止状態となり、その後も2023年は1.3%増、2024年は1.2%増と、低成長が続く」と警告する。
また、同氏は、「英国では米国や大半の欧州諸国と異なり、リシ・スナク英財務相の減税や補助金を使って投資を増やそうという試みが失敗に終わった」と断じる。昨年、同相は新工場や機械、技術への支出に対し、130%の税額控除を認める減税案を提案したが、企業投資は増えず減少。BCCは2022年の企業投資を3.5%増と、前回予想の5.1%増から下方修正した。イングランド銀行(英中央銀行、BOE)の最新経済予測の13.75%増を大幅に下回る。
実質所得、50年ぶり大幅縮小へ
英シンクタンクのリゾルーション・ファウンデーションは米経済通信社ブルームバーグ(3月8日)で、ウクライナ戦争による英国の所得縮小に警鐘を鳴らす。「ウクライナ戦争が英国の元々の生計費危機を深刻化させている。このため、英国の今年の(実質所得ベースでみた)生活水準は1950年代以来、約50年ぶりの大幅低下となる可能性が高い。戦争による石油・ガス価格高騰で今春、インフレ率が前年比8%上昇(最近では1991年の同8.4%上昇)を超え、所得収入が実質で4%、金額換算で約1000ポンド(約16万3000円)減少する。これは、1980年代初頭と1970年代半ばに起きた金融危機当時のリセッションで見られた大きさだ」という。
他方、米証券大手ゴールドマン・サックスは英紙フィナンシャル・タイムズ(3月10日付)で、「英国のインフレ率は4−10月に前年比9.5%上昇に達する。家計の可処分所得が30年ぶりの大幅縮小となり、経済成長は止まる」と、悲観的だ。米金融大手バンク・オブ・アメリカもガーディアン紙(2月26日付)で、2022年の世帯の実質所得は前年比3.1%減と、1956年のスエズ危機以来の大幅減少を予想している。
貧困世帯の急増
リゾルーションは英国で貧困世帯が急増し、貧困格差に拍車がかかると警告する。「生産性と賃金の見通しにかなりの改善がなければ、2025年度の平均的な家計所得は2021年度の水準を下回り、絶対的貧困状態にある子供たちの割合が2026年度には2010年代よりも高くなる。現代の英国ではこれまで見たことがない状況になる」という。
英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスの主席エコノミスト、ポール・デールズ氏はガーディアン紙(3月2日付)で、「石油価格は1バレル130ドルに上昇し、2023年初めまで100ドルを上回る。欧州の卸売ガス価格も1メガワット時当たり160ユーロに上昇し、今年は約100ユーロで終わる」と予想。「その場合、英国のインフレ率は前年比8%上昇を超えてピークに達し、年末まで同6%上昇が続く。消費者への圧迫を強め、高価なエネルギーと低い消費需要で企業の利益に打撃を与える」と警告する。
英国の投資銀行・資産運用大手インベステックはウクライナ戦争が勃発した2月24日付の英紙デイリー・テレグラフで、「天然ガス価格が高騰するにつれ、英国の家計は年間3000ポンド(約49万円)超のエネルギー費用に直面する。英国の卸売ガス価格は2カ月間にわたり、過去最高値を更新したため、政府の消費者保護のためのエネルギー価格上限も10月の改定で、さらに1000ポンド(約16万円)超引き上げられ、多くの世帯が燃料貧乏に追い込まれ、多くの企業が限界点に達する」と悲観的な見方を示している。
英国のエネルギー価格上限は4月に1971ポンド(約32万円)と、約500ポンド(約8万円)引き上げられ、10月にも再改定される予定だ。インベステックのエコノミストであるマーティン・ヤング氏もテレグラフ紙(2月24日付)で、「(ウクライナ戦争前は)10月時点でエネルギー価格上限は2200ポンド(約36万円)超に引き上げられると予想されていたが、卸売ガス価格の急騰を受け、3000ポンド(約49万円)超に引き上げられるだろう。この増加は英国の家庭にとって壊滅的で、『食べるか、家を暖かくするかのどちらかだ』というジレンマに直面する。政治危機が激化し、政府は現在の家計支援を一段と強化する必要がある」という。
環境保護偏重がロシアの脅威を招く 急がれる軍事費の急増
一方、米ハーバード大学のケネス・ロゴフ経済学教授は、著名エコノミストらが寄稿するプロジェクト・シンジケートの3月3日付コラムで、ウクライナ戦争の勃発を受け、西側陣営の各国の軍事増強の必要性を指摘する。「ウクライナ戦争は西側諸国が外部からの攻撃を防ぐために十分な資金を残さなければならないことを思い出させる」とした上で、「現在の危機に対応するためにヨーロッパと米国がどのような短期的な戦術を使用するかにかかわらず、欧州の長期的な戦略は、エネルギー安全保障を環境の持続可能性と同等にし、社会的優先事項への資金提供と同等の本質的な軍事抑止に資金を提供する必要がある」という。現在、英国とフランスは国家収入の2%強を防衛に費やし、ドイツとイタリアは約1.5%だ。
さらに、同氏は、「環境保護対策が通常タイプの戦争の可能性を高めるという戦略的弱点に陥るならば、環境保護はやる意味がない」とした上で、「西側がさらなる自国のエネルギー戦略の失敗を避けることこそが助けになる」と主張する。天然ガス需要の50%以上をロシアに依存しているドイツは、2011年の福島第一原発事故以降、すべての原発を廃止するという歴史的な過ちを犯した。対照的に、原子力によりエネルギー需要の75%を賄うフランスはロシアの脅威に対する脆弱性が大幅に低くなっているという。
また、ロゴフ氏は、「今日、政策立案者は(多くの善意の経済学者とともに)、新型コロナのパンデミック(世界大流行)や金融危機などの大きな世界的な経済ショックが常に金利を押し下げ、巨額の借金を調達しやすると確信するようになった。しかし、戦時中は、巨額の一時的な支出を前倒しする必要があるため、借入コストが簡単に押し上げられる可能性がある」と、景気悪化リスクへの懸念を示す。その上で、「誰もが永続的な平和を望んでいるが、各国が持続可能で公平な成長をどのように達成できるか分析した結果では、外部からの攻撃を防ぐためのコストのために、緊急借入能力を含む財政余力を残す必要がある」という。
テレグラフ紙のコラムニストのジェレミー・ワーナー氏は3月8日付で、「リセッション(景気失速)が不可避なとき、リシ・スナク英財務相は春の予算演説前にもウクライナ危機対策を講じる必要がある」とし、「インフレが急上昇し、成長が打撃を受けているときに増税することは賢明とは思えない。財務省のドアをノックしているのはもはや医療費の増加問題だけではなく、軍事費と難民危機だ」と指摘。その上で、「我々は自由を抑圧する人々(ロシアのプーチン政権)から自由を守るためにかなりの苦労を厭わない。今のところ財政はより良い状態にあるように見えるのも事実。戦争時には財政保守主義は後回しにされなければならない」と語る。
英国では4月からガス・電気料金の末端価格の大幅上昇に加え、増税が貧困世帯の家計費を直撃する。今や英国は貧富格差の拡大だけでなく、ウクライナ難民の移民流入やウクライナ戦争に伴う軍事費の増大など新たな財政危機の火種となる問題が加わり、ボリス・ジョンソン首相やスナク財務相の政治手腕が問われる。
●「プーチンの裏庭」でもう一つの戦争? ナゴルノ・カラバフ紛争が再燃か 3/29
ロシアがウクライナ侵攻に忙しいなか、クレムリンの裏庭ではアゼルバイジャンとアルメニアの紛争が再燃しそうになっている。
両国は2020年に係争地ナゴルノ・カラバフをめぐって軍事衝突。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の仲介で停戦協定が結ばれるまでの44日間で数千人が死亡した。協定には、ロシアがナゴルノ・カラバフの停戦を監視するために2000人の平和維持部隊を派遣することが盛り込まれた。
ナゴルノ・カラバフはアルメニア人が多く住む地域だが、国際的にはアゼルバイジャンの一部と認識されている。
ロシア国防省は、アゼルバイジャンがロシアの監視区域内の村に進軍し、同地域のアルメニア軍に対してトルコ製のドローンで攻撃を行い、休戦協定に違反したと非難している。アルメニア系住民が実効支配する「ナゴルノ・カラバフ共和国」の防衛軍は、3月24〜25日の衝突でアルメニア兵3人が死亡し、14人が負傷したと発表した。
アルメニア外務省は28日、ロシアの平和維持軍はアゼルバイジャンの侵攻を止めるための「具体的な措置」を取るべきだとの声明を出した。プーチンとアルメニアのニコル・パシニャン首相は25日に電話会談を行い、対立が深まっていることについて話し合ったという。
アルメニアでは、ロシア政府が平和維持軍をナゴルノ・カラバフから撤退させ、その兵力をウクライナに送るのではないかと懸念する声も上がっている。地元メディアの報道によると、隣国ジョージアの南オセチア自治州に駐留していたロシア軍は、すでに今月初めにウクライナに再配備されたという。 

 

●「プーチンを倒せば平和が訪れてハッピーエンド」か 3/30
ウクライナの戦いに貢献せよというプレッシャー
「みなさんは何千もの戦闘機を持っているのに、まだ1機も受け取っていない」
3月24日、ウクライナ・ゼレンスキー大統領はNATOサミットで、アメリカや欧州諸国にそんな不満をぶちまけた。ロシア軍を撃退するために、「際限のない軍事支援」をしてくれないと困ると強く要求したのである。
世界が称賛する「英雄」にここまで言われたら、西側諸国も断れない。もともと各国の軍部からは、「ミグ戦闘機などを欲しがるだけ提供すべき」という声も上がっていたので、ウクライナ軍に最新兵器が提供されるのも時間の問題だ。
そうなると、アメリカの「舎弟」である日本も、「いや、うちは憲法9条あるんで、カネだけ出します」なんて言い訳は通用しない。これまで防衛装備移転三原則の運用指針を変更して、どうにか防弾チョッキなどの提供をしているが、西側諸国からもっと戦闘に役立つものを提供せよとプレッシャーをかけられる可能性も高い。
また、この流れでいけば「後方支援」の名のもとに自衛隊の欧州派遣の可能性もある。現在、米軍とNATO軍はウクライナを囲むように東欧諸国に即応部隊を派遣、日本もポーランドに自衛隊の医官を派遣しているが、戦いが長期化すれば「日本も部隊を出してちょっとは貢献しろよ」と迫られるはずだ。
“降伏論”を唱えた人はバッシングを受けた
そう聞くと、「世界的な危機に日本も協力をするのは当然だ」と感じる人も多いだろう。「#プーチンは人類の敵」というハッシュタグができているように、ネットやSNSでは、核や化学兵器の使用も囁かれるプーチン大統領を食い止めるためには、「戦争反対」なんて甘っちょろいことを言ってられないという意見が増えているからだ。
実際、ロシアの侵攻開始時、ワイドショーのコメンテーターの中には、「国民の命を守るために抗戦せずに退避をする選択肢もあるのでは」という“降伏論”を唱える人もいたが、「ロシアに奴隷にされるのがわからないのか」「ウクライナの人々に謝れ」などとバッシングを受けている。また、ロシア国内での営業継続を表明していた企業も「日本の恥」などとボロカスに叩かれた。
今、ウクライナで起きていることは「人類の敵・プーチンを倒す正義の戦い」であって、そこに非協力的な態度や「反戦平和」などを軟弱な姿勢で臨むことは、日本人として許されることではないというムードが強まっているのだ。
それをさらに後押ししているのが、「日本を守るため」にもこの戦いを積極的に支援すべきといういわゆる「集団安全保障」の視点である。
ロシアは北方領土で軍事演習を開始
ロシアと中国との間に「領土問題」を抱えている日本にとって、日米同盟や西側諸国との友好関係が一定の抑止力になっていることは言うまでもない。いざという時に助けてもらうのだから、それらの国々が足並みを揃える「対ロシア包囲網」に参加しないわけにはいかないというわけだ。戦闘自体はウクライナで起きているものの、日本もこの戦争の「当事者」というわけである。
国民の大多数は、日本はウクライナ国民の命を救う人道支援や、戦争をやめさせるような働きかけに協力をしているだけという“第三者的ポジション”だと思い込んでいるが、客観的にみれば、我々はもうこの戦争にガッツリと参加している。実際、ロシアは日本を「非友好国」と呼び、北方領土で軍事演習も開始しているのだ。
日本は未だかつて経験したことのないような「岐路」に立たされているような印象を受ける方も多いだろう。しかし、それは我々の多くが「戦後生まれ」ゆえの錯覚だ。
今、90歳から100歳くらいの方たちからすれば、今の日本国内の「正義の戦い」を支持するムードや、知識人やマスコミによる「西側諸国ともっと連携を」という呼びかけは「やれやれ、またかよ」という既視感しかない。
80年ほど前の日本も「人類の敵」と戦っていた
というのも80年ほど前の日本社会も「西側諸国と連携して人類の敵を倒せ」の大合唱だったからだ。「戦争をしても死ぬのは国民なんだから話し合いで解決しない?」なんて口走ろうものなら、SNSでボコボコに叩かれるように袋ただきにされるのも同じだった。
ただ、ひとつだけ違っているのは、連携する「西側諸国」はドイツとイタリア、そして「人類の敵」がプーチン大統領ではなく、アメリカのルーズベルト大統領だったということである。
当時の日本人が考える「正義の戦い」がどういうものかを理解するのにうってつけなのが、ナチスドイツのアドルフ・ヒトラー総統の「演説」である。
戦後はその名を口にするのも憚られる「狂気の独裁者」というイメージが定着しているが、実は当時の日本人とってヒトラーは日本をベタ褒めする親日家で、連戦連勝の天才的戦略家として人気があり、今のゼレンスキー大統領どころではない「異国の英雄」だった。だから遠く離れたドイツで行われた演説もすぐに要約されて、新聞の1面を飾った。
例えば、1941年12月5日の真珠湾攻撃の1週間後、アメリカに宣戦布告をしたヒトラーの演説は「最後の勝利確信 人類の敵 米の野望」(読売新聞1941年12月13日)と大きく報じられ、多くの日本人の留意を下げた。その一部を抜粋しよう。
日本人を奮い立たせたヒトラーの演説
「ドイツ国民は日本がこの人道をはづれたアメリカに敢然抗議した最初の国家として日本に對し最上の尊敬の念を捧げざるを得ない」「われわれと日本が同盟関係をもつていなかつたとしたならばルーズヴェルトとユダヤ人が各國を次々と滅亡して行ったであらう」
ヒトラーは今回の戦争の火付け役は、ヨーロッパの紛争に介入してきた米ルーズベルト大統領だと指摘、「精神錯乱に陥っている」「詐欺と搾取の世界」をつくり上げていると痛烈に批判して、そんな「人類の敵」にはじめて立ち向かった日本を大絶賛しているのだ。
ご存知のように、日本人は外国人に褒められると弱い。ドイツの英雄から「日本スゴイ」と持ち上げられたことで、当時の日本は「今こそ同盟国との連帯強化だ」「聖戦完遂」の大合唱がおこった。そして、大人から子どもまで、人類の敵・ルーズベルトを叩きのめす「正義」にのぼせ上がった。
「日本人は軍に脅されて嫌々戦争をしました」と信じて疑わない人たちにはなかなか受け入れ難い現実だが、当時の日本人はオリンピックで日本人が金メダルを取るのと同じような歓喜と熱狂の中で、多くの国民が「正義の戦い」にのめり込んでいたのである。
遠い国のリーダーの「日本スゴイ」が持つ力
ちなみに、この後も日本人の「ヒトラー演説人気」は衰えることはなかったのだが、そこで大きなポイントになっているのが、「やっぱりヒトラー総統とは気が合うなあ」という親近感である。1942年10月2日の「読売新聞」の社説がわかりやすい。
「ヒトラー総統のこの演説は、何ものを以てしても動かすことをえない勝利への絶対的確信とかゝる確信を抱いて邁進するヒトラー総統の背後に随うドイツ国民の旺盛なる愛国心と団結力のいかに強固にして偉大なるものであるかについて、特にわれわれに深い印象を與へるのである」
当時、日本人がヒトラーとドイツ人が好きだったのは自分たちと同じく「愛国者」ということが大きいのだ。実際、ヒトラーが戦地に赴いた際には、日本では「皇国先人の烈々の愛国魂」(読売新聞1943年4月9日)をおさめた「愛国百人一首」を制作して、ドイツ大使経由で贈り物をしている。
さて、このように、遠い国のリーダーの「日本スゴイ」にうっとり聞き惚れて、その愛国心に心を震わせて戦意を高めた80年前の日本人の姿を見て、何かと重ならないか。そう、ゼレンスキー大統領の演説に対して、「日本のことをよくわかっている」「感動をした」と称賛をした今の我々の姿と丸かぶりなのだ。
日本人に刺さったゼレンスキー大統領の演説
「ロシアの侵略と戦うゼレンスキー大統領とヒトラーを重ねるなんて許せない! 謝罪しろ!」という猛烈な抗議がきそうなので、あらかじめしっかりと断っておくが、大量虐殺をした非道な独裁者と、ゼレンスキー大統領に指導者として重なる部分など1ミリたりともない。
ここで筆者が指摘をしたいのは、「外国のリーダーからの呼びかけに対する日本人のリアクション」が80年前も現在もそれほど変わっていないという事実だけだ。
ご存知のように、ゼレンスキー大統領は演説で、「日本はアジアのリーダーとなった」「日本の文化は素晴らしい」と日本をベタ褒めした。そこに加えて、ロシアが核施設を戦場にしたことに触れて、プーチン大統領がいかに人類全体の脅威であることを訴えた。原爆を落とされて、福島第一原発事故を経験している日本にとってこれほど刺さる話はない。
これらのスピーチで、ウクライナへの親近感と、ロシアの危機感が高まって、徹底抗戦を全面的支援するというムードが社会に一気に広まっているのはご存知の通りだ。
そこに加えて、ゼレンスキー大統領とウクライナ国民の「命を投げ出してでも国を守る」という姿勢も、日本の愛国者のハートをガッチリと捉えている。演説後の山東昭子参議院議長のコメントがわかりやすい。
「先頭に立ち、貴国の人々が命をもかえりみず祖国のために戦っている姿を拝見し、その勇気に感動している。一日も早く貴国の平和と安定を取り戻すため、私たち国会議員も全力を尽くす」
「正義の戦い」はエスカレーションしていく
80年前と今では感動している相手は「狂った独裁者」と「英雄」でまったく異なっている。しかし、「アジアのリーダー」と持ち上げられながら、我々と一緒に手を取り合って「人類の敵」を叩きのめそうと呼びかけられて、一気に戦争にのめり込んでいるムードは、80年前と恐ろしいほど酷似しているのだ。
断っておくが、だからアメリカや西側諸国に協力するな、などと言いたいわけではない。今の日本が置かれている状況を考えれば、ウクライナの全面支援をするのも当然だ。ロシアから敵国扱いされてもこの「正義の戦い」に参加しなくてはいけない。
ただ、歴史を学べば、「正義」を掲げた戦争の多くは一度始まってしまうとなかなか止められないでエスカレーションして結局、犠牲になるのは指導者ではなく国民という厳しい現実がある、ということを指摘したいだけだ。
エスカレーションしていく最大の理由は、「支持率」である。
リーダーの戦争への姿勢と支持率は明らかに連動する
よく言われることだが、この戦争の前まで、ゼレンスキー大統領はウクライナ国民からそれほど人気はなかった。今年2月までは支持率は41%だったが、ロシアが侵攻してきて徹底抗戦をすることで91%と爆上がりした。これは、対するプーチン大統領も同じで、これまでクリミア半島などで戦争を仕掛けるたびに支持率をアップさせている。
これは裏を返せば、国際社会の圧力などで、軍を撤退させたり、和平交渉を進めたりすると、ゼレンスキー大統領やプーチン大統領の支持率はガクンと下がって最悪、愛国的な政治勢力から批判されて権力の座から引き摺り下ろされる恐れもあるからだ。
つまり、一度始まってしまった「正義の戦い」が、自国の国民が犠牲になってもなかなかやめられないのは、リーダーたちの「保身」もあるのだ。
先ほども申し上げたように、ロシアは日本を完全に「敵国」扱いして、北方領土で軍事力を行使してくる。あちらからすれば、「先に挑発をしたのはそっちだろ」という言い分だ。
となると、日本政府としては、これに毅然とした態度で臨まないといけない。「まずは話し合いを」なんて弱腰なことを言うと、国民から「そんな生ぬるい事を言っているからナメられるのだ! ゼレンスキー大統領の爪の垢を煎じて飲め」と突き上げられて、支持率も低下していってしまう。
戦争で犠牲になるのは指導者たちではなく国民だ
こうなると、「日本の領土は死んでも守る!」「核共有も真剣に議論すべき!」「敵基地を先制攻撃だ」と威勢のいい事を言えば言うほど支持率が上がる。そうなると、プーチンや習近平と同じで、権力を揺るぎないものとするためにもっとナショナリズムを刺激するように周辺国への対応が過激化していく。ここまでくると、武力衝突まであと一歩だ。
よく社会が右傾化していくことをじわじわと広がっていくことを、「軍靴の音が聞こえる」なんて表現をするが、実は「正義の絶叫が聞こえる」の方が正しい。
そして、この「正義の戦い」で犠牲になるのは、指導者たちではなく国民だということも忘れてはいけない。
日本にしかできない国際協力があるのではないか
80年前、日本は「正義」の名のもとで中国や東南アジアに進出したが、そこで現地の民間人の命も多く奪った動かし難い事実がある。また、自国民も約300万人が亡くなっている。そして、アメリカ側も「正義」の名のもとで都市を空襲して、広島と長崎に原爆を落とした。こちらも犠牲になったのは無数の市民で、日本の戦争指導者たちはほとんど無事だった。
今起きていることも基本的には変わらない。ロシアは「正義」の名のもとにウクライナ国民を惨殺している。一方、ウクライナ側も、捕虜にしたロシア軍兵士を膝まづかせて殺害した動画が報道されている。「正義」と「正義」のぶつかり合いで犠牲になるのは、常にそれぞれの国で最も弱い立場の「国民」なのだ。
そんな「正義の不毛さ」を、我々はどこの国よりも思い知っていたはずではなかったのか。
「もっと西側諸国と連帯せよ!」という叫びが社会に溢れる今だからこそ、少し冷静になって、自分たちがかつてロシアとまるっきり同じ立場だったことを思い出すべきだ。
個人的には、欧米の“2軍的立場”で対立を煽るのではなく、トルコのようにどちらの国とも友好関係を維持したまま、「仲裁」に奔走することこそが、日本にしかできない国際協力ではないかと考えている。
少なくとも、「プーチンを倒せば平和が訪れてハッピーエンド」という、ハリウッドの戦争アクション映画みたいなお花畑的なストーリーは懐疑的に見るべきではないか。
●国連世界食糧計画、ウクライナ戦争で活動に壊滅的打撃=事務局長 3/30
国連の世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は29日、ウクライナ戦争について、世界の約1億2500万人に食料を供給するWFPの取り組みに打撃となる恐れがあると警告した。ウクライナが「世界の穀倉地帯からブレッドライン(食料供給を待つ人の列)になった」ためとしている。
国連安全保障理事会で、「ウクライナとその地域が壊滅的な打撃を受けるだけでなく、第2次世界大戦以降に目にしたことがないようなグローバルな影響をもたらすだろう」と指摘。WFPが購入する穀物の50%はウクライナ産で、「われわれの活動だけでも壊滅的な打撃を受けることは想像に難くない」と述べ、「農民が最前線にいるのだ」と強調した。
●ロシアのプーチン大統領にとって危険な数字 3/30
ロシアはウクライナでの戦争に勝利しておらず、むしろ負けている可能性すらある。
どちらの選択肢もロシアのプーチン大統領にとって良いものではない。冷戦を経験した者として、そしてロシア史を学ぶ者として、プーチン氏は間違いなくそのことを十分わかっているはずだ。
ロシアが最後に戦争で敗れたのは1980年代のアフガニスタンでのことだ。79年の侵攻で早々に勝利を収めた後、ソ連はアフガン全土で反乱に直面した。ただ、ロシアが完全に制空権を握っていたことから、最初はそれほど効果的な反乱ではなかった。
バイデン米大統領がきょう直面するジレンマと重なる部分もあるが、レーガン政権はソ連との核衝突の可能性を恐れ、当初は反乱勢力への対空兵器の供与に消極的だった。
86年までにはレーガン政権当局者の間で、反乱勢力の勝利の助けとなりうる兵器の供与に消極的な姿勢は消え去っていた。米中央情報局(CIA)がアフガン人にスティンガー対空ミサイルを供与した結果、ソ連の航空優勢に終止符が打たれ、戦場でソ連軍に甚大な損失を与えるアフガン側の能力が大幅に向上した。
敗戦に向かっていることを悟ったソ連は89年2月にアフガンから撤退し、共産主義の傀儡(かいらい)政権を据えた。3年後、ソ連自体の消滅を経てこの政権も崩壊した。
9年あまり続いたアフガン戦争で、ソ連の公式の死者数は1万5000人程度だった。これを踏まえると、ウクライナでの数字はきわめて示唆的と言える。北大西洋条約機構(NATO)の高官がCNNに明かした推計によれば、ロシアはウクライナでわずか1カ月の間に最大で兵士1万5000人を失った可能性がある。
ソ連軍が89年にアフガンから撤退した時、当時さまざまな程度でソ連の支配下にあった東欧諸国やその国民は見逃さなかった。恐れられていたソ連軍が自国の国境でアフガンのゲリラ勢力に勝てないのなら、それは東ドイツやハンガリー、ポーランドの運命を支配するソ連の力について何を意味するのか――。そんな疑問が頭をもたげたのである。
アフガン戦争での失敗はソ連帝国を崩壊に導く決定打となった。わずか数カ月後にベルリンの壁が崩壊し、東ドイツが西側諸国に開かれるようになったのは偶然ではない。
恐らくこれがプーチン氏の成人後の人生の転機となったとみられる。当時のプーチン氏は東ドイツに駐在する国家保安委員会(KGB)の将校だった。ソ連軍のある部隊にプーチン氏が対応法の指示を仰いだところ、返ってきた答えは「モスクワは沈黙している」。それ以来、プーチン氏はロシアのかつての栄光を可能な限り取り戻すことを目標に掲げ、ロシア政府の沈黙を破ろうと試みてきた。
ソ連がアフガン戦争の敗北によって解体したのと同様、ロマノフ王朝も20世紀初頭の軍事的敗北を機に、3世紀に及んだロシア支配に終止符を打たれ解体に至った。
皇帝ニコライ2世の脆弱(ぜいじゃく)な統治の下、ロシアは1905年の日露戦争で散々な戦いぶりに終わり、欧州の大国がアジアの大国に敗れる近代史上初の例となった。日露戦争での敗北に続き、ロシアは第1次世界大戦でも敗北。相次ぐ敗戦に他の要因も重なり、17年のニコライ2世失脚とその後のソ連台頭につながった。
これとは対照的に、スターリンは第2次世界大戦で勝利したが、その陰には推定2500万人以上のロシア人が死亡する甚大な犠牲があった。ロシアで「大祖国戦争」として知られるこの勝利により、スターリンはスターリンであること、つまり人殺しの独裁者であり続けることが可能になった。
英誌エコノミストは今月「ロシアのスターリン化」を指摘した。これがプーチン氏の目標であることは間違いない。ただ、敗者でありながら新スターリン主義を掲げるのは至難の業だ。しかも、プーチン氏にとってウクライナでの敗北は全くあり得ないことではない。
このことは言うまでもなく、米当局者が警鐘を鳴らし続けている可能性、つまり、窮地に立たされたプーチン氏が化学兵器や生物兵器を使う可能性を提起する。
ロシアのペスコフ大統領報道官は22日、CNNのクリスティアン・アマンプール記者に対し、核兵器の使用についても排除しない考えを示した。
プーチン氏は自ら選んだ戦争の結果、大量破壊兵器を使う状況に追い込まれる可能性がある。そしてその場合ですら、戦争に負ける可能性がある。
プーチン氏はこんな形でロシアの栄光を復活させることを夢見ていたわけではなかったはずだ。その夢はいま、急速に灰と化しつつある。プーチン氏によってウクライナの都市マリウポリが灰と化したのと同様に。
●ロシアとウクライナ停戦交渉 歩み寄りはどこまで?  3/30
ロシアとウクライナは29日、停戦交渉を行い、ウクライナ側はNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる関係国との新たな安全保障の枠組みを提案しました。一方、ロシア側も首都キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小すると述べ、双方は一定の譲歩を示した形ですが、具体的な停戦に結びつくかは依然、不透明なままです。
今回の停戦交渉について国際部の北村雄介デスクは「ロシア側に有利な内容が目立つ」としたうえで、領土に関する問題で大きなすれ違いを抱えたままであり、妥結は容易ではないと解説しています。
「中立化」めぐる議論は
ロシア、ウクライナの双方がそれぞれ一定の譲歩を示した。まずウクライナ側は「中立化に応じる」。具体的に言えば、欧米の軍事同盟であるNATOへの加盟を目指す方針をいったん取り下げるということ。ゼレンスキー政権にとっては看板政策の転換で、大きな譲歩と言える。
次にロシア側は「軍事作戦の縮小」。具体的には首都キエフと北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めたとしている。ポイントは「北部」に限定している点。東部や南部の戦闘はむしろ激しくなるおそれもある。
――ただ、NATO加盟に代わるものとして、ウクライナ側は「新たな安全保障の枠組み」を作るよう提案している。これはどのようなもの?
ウクライナは今回のような突然の軍事侵攻に対して反撃もできない、丸腰の国になるつもりはない。どのような国がその枠組みに参加する可能性があるかと言うと、北米のアメリカ、カナダ。それからイギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの主要国。それに東欧の地域大国、ポーランド。トルコやイスラエルといった、強力な軍事力を持つ国、さらに欧米と対立するロシアや中国も含まれている。
なぜこのように多くの国に入ってほしいとウクライナが求めているかというと、実は過去に苦い経験があるから。ウクライナが28年前、1994年にアメリカ、ロシア、イギリスと交わした「ブダペスト覚書」。旧ソビエト時代にウクライナ領域に配備されていた核兵器を放棄する見返りに、国の安全を保障するという覚書を交わした。しかしこの覚書は、2014年のクリミア併合、ドンバス紛争などでロシアによって破られた。今回も、軍事侵攻したロシアは言語道断として、ウクライナの安全を保障すると約束したアメリカやイギリスも、結局実行できていないじゃないかという不満がウクライナ側にはある。このうち何か国が「新たな安全保障の枠組み」に入るか分からないが、ウクライナがこれだけ多くの国を挙げた背景には、次の国際合意こそは実効性のあるものであってほしいという、強い願望が込められている。
領土に関する問題ではすれ違い大きい
実効性のある停戦、つまり本当に銃声がやむまでの道のりは遠いと正直思う。さきほどは双方が譲歩した点をあげたが、もちろん譲歩できない点も見えてきた。まずロシア側、東部を完全制圧するねらいは変わっていないとみられる。ロシアはすでに国家として承認した親ロシア派の支配地域を、ドネツク州、ルガンスク州の境界まで拡大したい。その後はクリミアと陸続きにする。そうすることで東部の支配を盤石にしたい。しかしこれは、ウクライナの領土主権を明らかに侵害するもので、ウクライナとしては到底受け入れられない。一刻も早く戦闘を止めるため、ウクライナ側は今回の停戦交渉では事実上棚上げしたが、領土に関する問題は最も根深く、解決が困難。大きなすれ違いを抱えたままの交渉は、容易に妥結できないと思う。
ロシア側に有利な内容目立つ
――すると今後、首脳会談の実現も、時間がかかりそうか?
今回の停戦協議全体を見て、ロシア側に有利な内容が目立つ。ロシアの方が優位なポジションで交渉を進めた印象。つまりプーチン大統領は決して要求を大幅に引き下げたわけではない。ロシア側も、少なく見積もって数千人、多く見積もれば1万人を超える死者を出している。大きな成果もなく撤兵したのでは、プーチン大統領の求心力の低下は避けられない。首脳会談の実現には、まだそれなりに時間がかかると思う。
交渉の具体的な中身は
停戦交渉では、以下の内容が話し合われたとみられます。内容を5つのポイントにまとめました。
   NATO加盟に代わる集団的安全保障の枠組み
まずロシアが求めてきたウクライナの「中立化」についてです。ウクライナ側によりますとNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わり、新たな集団的な安全保障の枠組みを提案したということです。この枠組みについてウクライナ側は、アメリカやイギリス、ドイツ、フランスのほか、中国、ロシア、カナダ、イスラエル、ポーランド、トルコなどが含まれる可能性があるとしています。そのうえで、この枠組みによって自国の安全が確保できれば、「非核の地位」と、NATO加盟を断念する「中立化」を受け入れるとしています。「中立化」には、
・ウクライナ国内に外国の軍事基地を設置しないことや、
・外国の部隊を駐留させないこと
・軍事演習などを行う場合は関係国との同意を条件とすることも含まれるとしています。
一方、ロシア側はこの提案について検討する考えを示しました。そのうえで、関係国からウクライナの安全が守られる対象地域について、南部クリミアと親ロシア派の武装勢力が事実上、支配しているウクライナ東部の地域は、対象外になると説明しています。「中立化」をめぐるウクライナ側の提案について、今後、合意に向かうかが注目されます。
   南部クリミア・ウクライナ東部の主権
次にロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアの主権について、ウクライナ側は今後15年間協議を続けるとしていて、この間、領土問題の解決のために武力は行使しないとする提案をしました。また、親ロシア派の武装勢力が事実上支配しているウクライナ東部の主権問題についても、今後首脳どうしで話し合う項目だとしています。この点についてロシア側は、クリミアが自国の領土だと強固に主張しているほか東部地域の独立をすでに承認しており、ウクライナ側としては、今回の停戦交渉では、最も解決が困難な主権をめぐる問題を、事実上棚上げした形です。
   首脳会談
ウクライナ側が求めてきた首脳会談についてもロシア側は、まずは、外相レベルで合意内容が承認できたら、首脳会談を実施することが可能だとしています。
   キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小
また停戦交渉に関連してロシア側は首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めたとしています。ロシア側は、これは停戦ではなく、信頼醸成措置だとしています。また、ロシア国防省は、ウクライナ東部に軍事作戦の重点を置く方針を示しています。
   そのほか
このほかロシア側は、ウクライナがEU=ヨーロッパ連合に加盟することは否定しないとしています。また合意内容についてウクライナ側は、憲法を改正する必要があることなどから国民投票を行って民意を問うことが必要だとしています。またそのためには停戦やロシア軍の撤退が必要だとしています。
●ロシアとウクライナ 停戦交渉終了 キエフなどの攻撃大幅縮小へ  3/30
ウクライナで激しい戦闘が続く中、トルコのイスタンブールでロシアとウクライナによる対面形式の停戦交渉が日本時間の今夜行われ、双方の代表団は一定の進展があったという認識を示しました。ロシアの国防次官は、首都キエフなどでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにしました。ウクライナへの軍事侵攻を続けているロシア軍は、29日も東部の要衝マリウポリの完全掌握を目指すなど攻勢を強める一方、ウクライナ軍も反撃しています。それぞれが戦況の優位性を強調する中、双方の代表団による対面形式の停戦交渉がトルコのイスタンブールで行われました。
ロシア国防省次官「キエフなど軍事作戦大幅縮小を決定」
交渉の終了後、双方が会見を行い、このうちロシア国防省のフォミン次官は「相互信頼を高めて次の交渉に必要な条件を整えて条約の調印という目標を達成するため、首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決定した」と述べました。
ウクライナ代表団「新安全保障枠組みが機能なら中立化に応じる」
一方、ウクライナ代表団の関係者はNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる新たな安全保障の枠組みについて協議したことを明らかにしたうえで、それが機能すればロシアが求めるウクライナの「中立化」に応じる考えを示すなど一定の進展があったという認識を示しました。協議の内容を受けて両国の首脳がどのように判断するのかが今後の焦点です。
トルコ外相「最も意味のある進展があった」
ロシアとウクライナの交渉を仲介したトルコのチャウシュオール外相は「いくつかの項目で合意ができ、これまでで最も意味のある進展があった」と評価しました。そのうえで「もっと難しいテーマについては、それぞれの外相どうしの会談で結論を出すことになるだろう」と述べ、解決の難しい課題が残されているものの、今後の交渉の進展しだいでは両国の首脳どうしによる会談もありうるという考えを示しました。
ウクライナ市民からは冷ややかな声
ロシアとウクライナによる停戦交渉で、双方の代表団が一定の進展があったという認識を示し、ロシア側が首都キエフ周辺などでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにしたことについて、ウクライナ西部の主要都市、リビウでは、市民から「簡単には信じられない」などといった冷ややかな声が聞かれました。このうち、北部のチェルニヒウから避難してきたという高齢の女性は「できるだけ早くふるさとのチェルニヒウに帰りたいです。ただ、私たちが戦っているのはファシストよりひどい連中で、私たちのことなど何も考えていないし、悪いとも思っていない」と話していました。ロシア出身で長年ウクライナに住んでいるという女性はロシア側が今回の軍事侵攻についてロシア系住民を保護することが目的だとしていることについて「私は助けてほしいと言ったことはない。彼らが『助けてくれる』のであれば、どうして私は2歳の孫娘と一緒に1週間もシェルターに避難しなければならないのか。ロシアが言っていることはすべてうそだ」と強く非難しました。
アメリカ国務長官 ロシア軍の出方を見極める考え示す
トルコのイスタンブールで29日に行われたロシアとウクライナによる対面形式の停戦交渉について、アメリカのブリンケン国務長官は訪問先のモロッコで「効果的に物事を前進させるものは見られない。ロシアに真剣さの兆候が見られないからだ」と指摘しました。そして「ロシアによる発言と行動のうち、注視しているのは行動だ。ロシアが行うべきことは、軍事侵攻や砲撃をやめ、軍の部隊を引き揚げることだ」と述べ、ロシア軍を速やかに撤退させるよう重ねて求めました。一方、ロシア国防省が、ウクライナの首都キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小するとしていることについては「ウクライナ東部での戦闘に集中するという侵攻の方向転換なのか、人々を欺くための手段なのか、軍の部隊が大きな損失を受けたことによる再編成なのかわからない」と述べ、今後のロシア軍の出方を見極めていく考えを示しました。
専門家「南東部の取り扱い 折り合いつけられるか課題」
ロシアの国防次官がキエフなどでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにしたことについて、ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は「キエフ周辺の地域はロシアの軍事行動が滞っていたところであり、停戦交渉を進展させるための環境づくりを口実にして、作戦縮小の判断をしたと受け止められる」と話しています。そのうえで「プーチン大統領の最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記が『軍事作戦の目標はウクライナの体制転換ではない』と発言したことも考え合わせるとロシアは、ゼレンスキー政権の打倒という当初の目標を断念したのではないかと受け止めている。キエフの陥落を事実上断念するということはウクライナに対して妥協の姿勢を示すことにもなりロシアとしても停戦交渉を進めたいという意図のあらわれではないか」と指摘しています。一方、兵頭さんは「ロシアが制圧を進めている南東部での軍事行動は続いており、今後、さらに集中することもありえる。今回の判断がロシアが軍事作戦自体をやめるとか、撤退することを意味するわけではないことに留意する必要がある」と話しています。また、今後の停戦交渉については「南東部について、ウクライナがロシアの即時撤退まで求めるのか、ロシアによる掌握を認めるのかなど、その取り扱いで折り合いをつけられるかが課題になるだろう。いくつかの論点で歩み寄りは見られるが、両者の主張には依然として隔たりも大きく、楽観視することなく、交渉の行方に注目していく必要がある」と指摘しています。
●国連 安保理 ロシアとウクライナの停戦交渉に各国が言及  3/30
ウクライナ情勢をめぐって、国連の安全保障理事会で会合が開かれ、ロシアとウクライナの停戦交渉について、アメリカはロシア側の行動を見極める姿勢を示したのに対し、ロシアは交渉について言及しませんでした。
国連安保理では29日、ロシアが軍事侵攻したウクライナの人道状況について会合が開かれ、トルコのイスタンブールで行われたロシアとウクライナの停戦交渉についても各国から言及がありました。
このうち、アメリカはシャーマン国務副長官が出席し「ロシアが何を言うかではなく、何を行うかが焦点だ」と述べ、ロシア側の具体的な行動を見極める姿勢を示しました。
そのうえで「この人道的な大惨事を終わらせる唯一の方法は、ロシア軍の完全撤退だ」と強調しました。
また、ウクライナのキスリツァ国連大使は「持続可能な停戦と包括的な緊張緩和まではまだ長い道のりだ」と述べ、ウクライナへの支援とロシアへの制裁を続けるよう各国に呼びかけました。
一方、ロシアのネベンジャ国連大使は、現地の人道状況には配慮しているなどとこれまでの主張を繰り返しましたが、今回の停戦交渉については言及しませんでした。
●英政府、ウクライナ情勢受けた新たな対応策、支援策を発表 3/30
英国政府は3月下旬、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う対ロシア制裁などの対応策やウクライナへの支援策を発表した。
内閣府は3月28日、公共部門にロシア企業やベラルーシ企業との契約の早急な見直しを促すガイダンスを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。公的機関の調達部門に対し、両国企業との契約を直ちに特定し、最小限の混乱でサプライヤーの変更が可能な場合には、合法的に契約を解除する方法を模索するよう推奨した。
また、ジョージ・フリーマン科学・研究・技術革新担当相は27日、ロシアとの共同研究・イノベーションに関する制裁を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。政権を戦略的に利するロシアの大学や企業との共同プロジェクトへの公的資金の停止や、ロシアとの新たなプロジェクトに対する英国の研究・イノベーション機関による出資の停止、英国がロシアに有する科学・イノベーション・ネットワークを通じた既存の政府間対話の停止を行う。
一方、フリーマン担当相は同日、ウクライナ人研究者を対象にした支援策も発表。ウクライナから避難中、または英国に滞在していて帰国できない研究者に対し、300万ポンド(約4億8,000万円、1ポンド=約160円)規模の支援策を提供する。対象研究者には2年間、給与や研究費、生活費を支給する。
エリザベス・トラス外務・英連邦・開発相は、26日、ロシア軍が包囲するウクライナの地域に200万ポンド分の乾燥食品、缶詰、水など不可欠な食料品を供給する外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますことを確認した。
また、政府は28日に紛争の影響を受けるウクライナ人に対する人道支援提供に向けたオーストラリアとの共同計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。英国は物資の提供と配送の手配、オーストラリアは資金を拠出する。衛生キットや太陽光ライト、毛布のほか、暖房器具などを提供する。
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)やペイジ・グループ、FDMグループなどの英民間企業は慈善団体「レフュ・エイド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と提携し、英国に避難するウクライナ人の雇用支援を行うスキームに署名。3月28日付「フィナンシャル・タイムズ」紙によると、英国の起業家エマ・シンクレア氏が呼びかけたもので、各企業は政府のビザスキームの対象となる50人の避難民に英語教育や定住支援、訓練を行う。これらの企業は現在、避難民に対する雇用機会提供を通じた支援についても協議を行っていると同紙は報じた。
●「弱まる成長、高まる物価」軍事侵攻が世界経済にもたらすもの  3/30
“景気の悪化で勤め先の業績が落ち、給料は上がらない。にもかかわらず、食品などの価格上昇が止まらないーーー”
これは、経済の停滞とインフレが同時に起こる「スタグフレーション」と呼ばれる現象だ。実際に1970年代のオイルショックのとき、日本やアメリカで起きたことがある。
政府や中央銀行にとって、何としても避けたい事態だが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって1か月が過ぎ、不透明さが増す世界経済をめぐって、こうした事態を警戒する声がじわじわと広がり始めている。
“ブーメラン・インフレ”
「この鋼材の主要な生産国がロシアなんだ」
3月14日、アメリカ中西部ミシガン州で、工場を経営するボブ・ロスCEOは、浮かない表情でこう話した。
GM=ゼネラル・モーターズなどの自動車工場に納入する変圧器を製造しているが、一部にロシア産の鋼材を使っている。経済制裁を科されたロシアからの供給が減少するという警戒から、価格は1か月前と比べて30%も上昇しているという。
この1年、全米でインフレの現場を取材してきたが、アメリカの製造業でもロシア産の原材料が使われている現実を知り、コロナ禍で大きく混乱した世界のサプライチェーン=供給網の正常化が遅れ、物価に影響を及ぼすのではと嫌な予感がした。
軍事侵攻をきっかけに、世界でインフレが加速している。ロシアやウクライナが、さまざまな資源や食料の供給地であるためだ。
原油や天然ガスの高騰がその象徴だが、OECD=経済協力開発機構の分析では、軍事侵攻後、小麦が88%、トウモロコシは42%も上昇。そして、ニッケルは63%、パラジウムは34%、アルミニウムも17%上昇と、半導体や自動車、航空機など、幅広く使われる原材料も値上がりが著しい。
やっかいなのは、軍事侵攻が起きる前から世界のインフレがすでに記録的な水準だったことだ。
欧米などによる“過去最大級”の経済制裁のねらいは、ロシア経済に深刻な打撃を与えること。その効果は、通貨ルーブルの下落などによって、すでにロシア国内に表れつつある。
一方、ロシアを締めつければ締めつけるほど、各国にも“ブーメラン”のように跳ね返りの影響が出る。アメリカのバイデン大統領は、ロシア産原油の禁輸措置を発表した3月8日に「アメリカ国内にも犠牲が出ないわけではない」と述べた。一定の“ブーメラン効果”を覚悟してでも、ロシアに対して厳しい態度で臨まなければならないという意味だ。
問題は、ブーメラン効果がどこまで強まるかにある。IMF=国際通貨基金や世界銀行は、インフレは貧しい家庭に最も打撃を与え、アフリカなどで飢餓や社会不安をもたらすと警鐘を鳴らしている。
弱まる成長、高まるインフレ
「経済成長が減速している」
3月22日、IMFのゲオルギエワ専務理事は、軍事侵攻がインフレに拍車をかけるとともに、世界経済の成長を押し下げていると指摘した。
世界で加速するインフレは個人消費を弱めかねず、厳しい経済制裁に伴う貿易の停滞なども、経済成長を阻むことになる。IMFは、1月時点で+4.4%を見込んでいたことしの世界全体の成長率を、大きく下方修正する見込みだ。
OECDも、軍事侵攻による経済影響を分析した最近のリポートの中で、世界経済の先行きを「より弱い成長、より強いインフレ」と表現した。軍事侵攻が、ことしの世界全体の成長率を1ポイント以上押し下げる一方、物価を2.5ポイント押し上げるとの厳しい見通しを立てる。
今のところ、世界全体の成長率がマイナスに転じるという予測まではない。しかし、経済が停滞するのにインフレが止まらない「スタグフレーション」の可能性について、3月に入り、アメリカのサマーズ元財務長官がワシントン・ポストへの寄稿の中で指摘するなど、警戒が徐々に広がっている。
とりわけその懸念が大きいのが、ヨーロッパだ。
OECDは、軍事侵攻がアメリカの成長率を0.9ポイント押し下げると見込む一方で、ロシアとの結びつきが強いユーロ圏の成長率は1.4ポイント押し下げられると見込む。
実際、ユーロ圏最大の経済規模をもつドイツでは、3月15日に発表された、この先6か月の景気を占う「景気期待指数」が、マイナス39.3と、調査開始の1991年以降で最大の下落幅を記録した。
ドイツはロシアへのエネルギー依存度が高いだけでなく、ロシアで事業を展開する企業も多い。
「フォルクスワーゲン」は、ロシアにある2つの工場での現地生産を停止したうえで、輸出も止めた。ヨーロッパ最大の自動車メーカーの動きは、国内の部品産業などにも影響を与えそうだ。
また、イギリスの予算当局は、3月23日、国内の経済・物価の予測を、いずれも大幅に修正。この先の経済減速とインフレ加速を象徴する数字が示された。
中央銀行の難路
経済の減速とインフレの加速が同時に進むことへの懸念が高まる中で、極めて難しい対応を迫られるのが、“物価の番人”である中央銀行だ。
軍事侵攻の前、世界経済は、コロナ禍からの回復が進む一方、供給網の混乱などからインフレが顕著になり、各国の中央銀行の間で、金融の引き締めにあたる「利上げ」へと政策転換に踏み切る動きが相次いだ。
しかし今、軍事侵攻に伴う成長の減速という新たな懸念が出てきたことで、インフレの抑制を進めながらも、経済を冷え込ませないようにするという点に、より神経を使う必要が出てきている。
金融の引き締めは、かじ取りを誤れば景気を過度に下押ししかねない“もろ刃の剣”だ。
コロナ禍による景気の急激な落ち込み。そこからの回復過程で起きた記録的な物価上昇。そして、ロシアによる軍事侵攻。
相次ぐ“想定外”の事態は、各国の中央銀行に対し、先行きをどう見通し、いかに機動的に政策を打っていけるのか、その手腕を問い続けている。
●プーチン大統領が直面する金欠地獄 かさむ戦費すでに87.5兆円 3/30
ロシアのウクライナへの軍事侵攻は31日、開始から6週目に突入する。1カ月以上に及ぶロシア軍の攻撃は、やむ気配がなく、戦費は垂れ流し状態だ。対面交渉が29日に再開したものの、停戦合意には至っていない。このまま攻撃を続ければ、プーチン大統領は金欠地獄に落ちる一方である。
トルコのイスタンブールで再開した停戦交渉はロシアとウクライナ双方に歩み寄りが見られたものの、一時停戦の結論は得られなかった。ロシアがウクライナに要求している「非武装・中立化」を取り下げる気配はないが、かといって侵攻を続けられるかは疑問だ。ズバリ「金欠」だからだ。
英コンサルティング会社の試算によると、ロシア軍のウクライナにおける戦費は1日あたり200億ドル(約2兆4700億円)。しかも、この金額は「少なくとも」であり、実際は推計以上の可能性がある。
1日2.5兆円の戦費がどれだけ異常かは、ロシアの国家予算と比べるとよく分かる。ロシア連邦上院が昨年末に可決した連邦予算案によると、今年の歳出は23兆6942億ルーブル(約35兆円)。侵攻開始から丸5週間で、かかった戦費は87.5兆円。国家予算の約2.5倍だ。
停戦合意か暴発か…デフォルトのヤマ場は4月4日
「ロシアもホンネでは、『せめて1〜2週間でも停戦したい』と考えているはず。というのも、来月4日に20億ドルのドル建て債の金利・元本の返済期限を迎えるからです。ウクライナ侵攻で制裁を科されて以降、最大の償還額です。今月16日、21日の利払いではデフォルトを回避してきましたが、来月4日は今まで以上のヤマ場になりそうです。ロシアとしては、短い間だけでも戦費を抑えたいところでしょう」(筑波大教授の中村逸郎氏=ロシア政治)
ただでさえ経済制裁によって、ロシア中央銀行の保有する6300億ドル(約77兆円)の外貨準備は約6割が使えない。かといって、暴落するルーブルを下支えしようにも、G7はルーブル建ての天然ガス代金の支払いを拒否している。「供給停止」をチラつかせて脅しても、流れ出る戦費の蛇口を塞ぐためには稼がないわけにはいかない。ジレンマだ。
「だからこそ、ロシアは核使用の条件に『国の存亡の機』を挙げているのです。これには国としてのインフラ基盤の崩壊、つまりデフォルトも含む。デフォルトに追い込めば核使用も辞さないと、西側諸国を脅しているのです」(中村逸郎氏)
すでに金欠のロシア経済に、「賠償金」問題も横たわる。ウクライナのスビリデンコ第1副首相兼経済相は28日、ロシアの軍事侵攻によるウクライナの経済損失が約5650億ドル(約70兆円)に上るとの試算をフェイスブックに投稿。ウクライナ国内で凍結したロシア資産の接収などにより、一部を穴埋めする意向を示し、「侵略者に賠償金を要求することを目指す」と強調した。
1991年の湾岸戦争のように、国連安全保障理事会が停戦後、ロシアに「不当な侵攻・占領に伴う賠償責任がある」とする決議を諮ろうにも、安保理常任理事国のロシアは拒否権を発動できる。実際に払わせるのは困難とはいえ、今後もロシアが攻撃を続ければ突き付けられる賠償金額も跳ね上がっていく。
停戦が先か、暴発が先か。金欠地獄のプーチン大統領は一体、どちらに転ぶのか。
●北欧目指すロシア人に聞く オフレコで出た本音とは  3/30
ロシアへの経済制裁を受け、北欧フィンランドとロシアとを結ぶ国際長距離列車は3月28日に運行が停止されました。ロシアがウクライナに軍事侵攻してからおよそ1か月、ロシアとEUとを結ぶ事実上ただひとつの鉄道路線を利用していたのは、多くのロシア人たちです。重い口を開いて出てきた本音とは。
スーツケース抱えて“脱出”
朝9時過ぎ。私たちが待っていたのは、ロシアのサンクトペテルブルクから来るアレグロ号です。約350席は満席が続いていると聞き、その理由を確かめに来ました。400キロを3時間半で結ぶ特急から降りてくる人たちの中には、大きなスーツケースをいくつも持った家族連れも目立ちます。新型コロナ対策で、列車にはロシア人とフィンランド人しか乗れません。利用客が急増した3月初旬は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて欧米諸国からの経済制裁が強まった直後。欧米各国がロシアからの航空便の受け入れを拒否し、ロシアから出国する手段も限られるようになったときでした。ロシア人がフィンランドに入国するには、ビザに加え、EUで認められているワクチンの接種証明も必要で、思い立ったらすぐ出発というわけにはいかないのです。
ロシアを出られなくなるかも
なぜ今、祖国ロシアを離れたのか。多くの人が口にしたのは、やはり経済制裁の影響です。「もしかしたら今後、国境が封鎖されて国外に出られなくなってしまうかもしれない」そんな不安もよぎったといいます。IT関連の仕事で、ふだんは海外で暮らす32歳の男性は、去年12月からロシアに里帰りしていました。経済制裁が次々と強化され、いつも使っている銀行のカードが使えなくなりました。仕事に欠かせないインターネットも、外部から組織内のサーバーにアクセスするためのVPNがロシア国内で遮断される可能性もあると考え、予定を早めてロシアを離れました。エネルギー関連のビジネスに携わっている32歳の女性も、ビジネス環境の悪化を理由に挙げました。金融機関での送金ができなくなり、国際線がほとんどなくなって出張はできません。ヨーロッパ各国の取引先とやりとりも難しくなり、ロシアに留まって働くことはできません。ヘルシンキからトルコのイスタンブールに向かい、そこでビジネスを立て直そうと考えています。ただ、多くの人たちは、カメラを持った私たちを、避けるようにして足早に通り過ぎて行きます。ロシア国内で言論統制が強まるなか、自分や家族の身に危険が及ぶことをおそれているようです。
“両親は親プーチン、子は反プーチン”
少しほっとした表情の女性が目に入りました。留学先のドイツの大学に戻るという30歳の女性は、匿名を条件に、取材に応じてくれました。経済制裁を受けて「ZARAやH&Mが閉店する前に買わなくちゃ」と買い物に走る人もいたそうですが、この女性の周りの若い世代の多くはVPNを使ってロシア国外のメディアから情報を集めようとしているといいます。プーチン大統領が「特別な軍事作戦」と呼ぶ今回のウクライナ侵攻に疑問を感じている人たちは、彼女の家族が住むサンクトペテルブルクでも行われている抗議デモに参加しています。ただ、一緒に声をあげたくても、女性のように参加をためらう人は少なくありません。警察に拘束されれば職を失うなど大きな代償を払うことになりかねないからです。彼女はたまたま留学ビザを持っていましたが、どこかの国のビザを取得できる算段もないまま、出国できずにいる友人も少なくないそうです。ドイツに向かう前に友人たちと集まったときには、これから自由にものが言えなくなると絶望している人もいたそうです。一方で彼女曰く「親の世代はまた別」です。「私の両親はプーチン大統領を支持しています。でも兄と私は反対の立場なので、家族のなかで、政治の話は絶対にしません。家族だからといって何でも話せるわけではありません」この光景、この世代間ギャップは、彼女のまわりでは、ごく普通のことだといいます。最後に、留学が終わればロシアに帰るのか尋ねると、女性は言葉に詰まりました。しばらく考えて彼女が絞り出したのは「ロシアは私のふるさとで家族も友人もいます。戻りたい。でも戻れるかどうかわかりません」という答えでした。
「私たちロシア人は世界から嫌われていくんだろう」
カメラを回さないことを条件に、聞くことができたロシアの人たちの本音です。「もう友達もできないかもしれない。ロシア人というだけで、これから差別され続けていくんだろうか」「ウクライナの人につぐなうためになんでもしたいと思うが、私ひとりの力は限られている。何ができるのかわからない」「私たちロシア人は世界から嫌われていくんだろう」ほとんどの乗客がホームを去り、私たちも取材を終えて歩いていたときです。若い女性が後ろから走って追いかけてきました。「自分はロシアを離れ、安全な場所にいるけれど、ロシアに残らざるを得ない人たちに対し罪悪感がある。少しでも自分にできることをしたい。何か手伝えることはないか」。ロシア国内で政権に不満を持つ人たちが声を上げられない分、自分には世界に現実を知らせる責務があると思い詰めているようでした。ロシアが引き裂いたのは、決してウクライナの人たちの人生だけではありません。 
●プーチン氏、マリウポリを救うためには「ウクライナ軍が武器を置くべきだ」  3/30
ロシアとウクライナが29日に臨んだ停戦協議で、ロシア側が首都キエフ周辺などでの軍事行動縮小を表明したのを受け、米国は同日、露軍がキエフ制圧に失敗したと断定し、一部部隊による離脱の動きを確認したと明らかにした。米国などはロシアの今後の行動を注視する必要があるとして、慎重な構えは崩していない。
米国防総省のジョン・カービー報道官は29日の記者会見で、露軍が「キエフ制圧に失敗した」との見解を示した上で、離脱を始めた部隊はごく一部であり「露軍が今後、どのような行動を取るか判断するのは時期尚早だ」と強調した。東部地域攻撃に向けた部隊再編成が行われ、キエフを含めた全土で大規模な無差別攻撃が続く可能性も指摘した。
英国防省も29日、露軍が「キエフを包囲するという目的に失敗したのはほぼ確実だ」との分析を示した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領も29日夜、国民向けの演説で、「(停戦協議の)交渉では前向きなシグナルが送られてくるかもしれないが、ロシアの砲弾の破裂は静まらない」と慎重な立場を示した。「防衛を緩めることはない」とも主張した。
露国防次官は29日の停戦協議後、キエフ周辺での軍事行動縮小は「相互信頼を高め、ウクライナとの交渉に必要な条件を作るためだ」などと説明していた。
ウクライナは停戦協議で、ロシアが求める「中立化」に応じる条件として、自国の安全を保証するため、国連安全保障理事会の常任理事国である米英仏中と、トルコ、ポーランド、イスラエルなどが参加する新たな枠組みを提案した。ウクライナは攻撃を受ければ3日以内に関係国に協議を求めることができ、関係国はウクライナを軍事支援しなければならないとする国際条約締結を主張している。
プーチン露大統領が提案にどう判断を示すかが今後の焦点となる。タス通信によると、プーチン氏は29日、フランスのマクロン大統領との電話会談で、民間人約5000人が死亡した南東部マリウポリの人道危機を解決するには「ウクライナ軍が武器を置くべきだ」として、改めて投降を迫った。
ウクライナ国営通信によると、キエフ郊外では29日夕、露軍の攻撃により、倉庫約2万平方メートルが焼ける大規模な火災が起きた。西部フメリニツキー州では、空港が露軍の攻撃を受けた。
●ECB総裁、ウクライナ戦争は成長へのリスク−インフレも高める 3/30
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、ロシアのウクライナ侵略による悪影響について警告した。
総裁は30日キプロスで、「戦争が長引くほどにコストは大きくなるだろう。欧州は必要な投資が可能な限り迅速かつ円滑に行われるよう計画する必要がある」と語った。
ロシアのウクライナ侵攻は「成長への大きなリスク」であり、経済見通しへの「相当の不透明」をもたらすと指摘。同時に、エネルギーコストの高止まりや食料品の値上がり、サプライチェーンの目詰まりが「インフレを高める可能性が高い」との認識を示した。
「この不確実性を金融政策が乗り切る最良の道は選択性と漸進主義、柔軟性の原則を強調することだ」と述べた。
●ウクライナ戦争、物価見通しに重大な影響 ECBは必要な行動とる 3/30
欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのマクルーフ・アイルランド中銀総裁は30日、ロシア・ウクライナ戦争が経済やインフレの見通しに重大な影響を及ぼしており、これまで明瞭になりかけていた先行きに新たな不確実性が加わっているという認識を示した。
議会委員会で、ウクライナ戦争がもたらす経済的影響について「確定的な見解を示すのは時期尚早」としながらも、「戦争はユーロ圏の経済活動とインフレに重大な影響を与える恐れがある」と指摘。「ECBは物価の安定を追求するという使命を果たすために、必要なあらゆる行動をとる」と表明した。 

 

●軍事力で圧倒しているロシアがウクライナに負ける 3/31
ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月以上が経つが、戦闘がすぐに収まる気配はない。3月29日、ロシアとウクライナによる停戦交渉が行われたが、紛争の終結にはなおも時間がかかりそうだ。むしろウクライナ国内では地域によって、戦闘が拡大している場所もある。それだけではない。ロシアのウラジーミル・プーチン政権はウクライナに向けて精密誘導兵器や超音速ミサイルを使用していることが分かっている。
さらに、今後は生物・化学兵器や戦術核兵器の使用も懸念されている。プーチン氏がさらなる窮地に追い込まれた時に、最終兵器とも言える戦術核を使用してくる可能性も捨て切れない。この点では欧米の軍事専門家の間でも意見が分かれる。というのも、ロシアの軍事作戦が計画通りに進んでいない兆候があるため、プーチン氏が今後、どういった行動をとるかが読めないからである。ウクライナ侵攻前、プーチン氏はウクライナを制圧するのに1カ月以上を費やすとは考えていなかったはずだ。軍事侵攻にあたって、ロシア側が採用した考え方は「垂直的エスカレーション」というものである。
これはシンクタンクや情報機関などで使われる表現で、紛争や戦争の強度が垂直的に上昇していくことを意味する。端的に述べると、ウクライナでの垂直的エスカレーションの頂点は「核兵器の使用」である。米ランド研究所のサム・チャラップ氏は、「核兵器の使用だけでなく、ウクライナで病院を爆撃したり、市民の住む地域を破壊したりする行為も垂直的エスカレーションに含まれる」としている。ただプーチン氏の心中に、本当に戦術核のボタンを押す心づもりがあるのかどうかは計れない。
プーチン氏の報道官ドミトリー・ペスコフ氏はCNNとのインタビューで、核兵器使用の可能性は低いと否定した。ところが、プーチン氏がどういった条件であれば使用に踏み切るのかとの質問では、「もしそれが我が国にとって存立に関わる脅威であれば、(使用は)可能だ」と答えている。それは政権内で核兵器の使用が議論されていることでもある。垂直的エスカレーションの頂点が用意されているといえなくもない。この発言後、米国防総省のジョン・カービー報道官は「責任ある核保有国が取るべき行動ではない」とペリコフ氏の発言を非難。ただロシアによる核兵器使用の可能性は以前から語られてきたことである。大型の戦略核兵器の使用はないとしても、局所的な破壊にとどめる戦術核の使用の可能性は捨て切れない。
プーチン氏が戦闘で大敗を喫することになったり、国内経済が破綻して政治生命が脅かされたりした場合、垂直的エスカレーションの最終段階に帰着することもあり得る。ただ同時に、プーチン氏も核兵器の使用がどれほど壊滅的な結果をもたらすかを理解しているはずで、核兵器を本気で使用するかどうかについては否定的意見もある。米マサチューセッツ州タフツ大学フレッチャースクール法律外交大学院のダニエル・ドレズナー教授はワシントン・ポスト紙に寄稿し、プーチン氏が核兵器使用をチラつかせているのは「誇張でしかない」と述べる。同教授はロシアによる核兵器の使用が迫っている場合、米政府は警戒態勢を敷くだけでなく、独立した報告書を出したり、諜報機関が変化を察知するはずだが、そうした動きはないというのだ。
同教授は、もしロシアが核攻撃を仕掛ければ、ロシアこそが「悲惨な結果に終わることになる」とも予見する。しかし「ロシアのウクライナ軍事作戦が計画通りに進んでいない兆候があり、今後プーチン氏がますます予測できかねる行動をとるようになるかもしれない」とも記す。そしてウクライナを迅速に制圧できなかったことで、垂直的エスカレーションの危険性が高まっていることも認識する。ロシア軍が1カ月以上経ってもいまだにウクライナ全土の掌握どころか、首都キエフを包囲することすらままならない。こうした膠着状態が続けば、プーチン氏は当初の侵攻目的を見直さざるを得なくなるかもしれない。
さらにプーチン氏は、今回の戦争で勝てるとは限らない。専門家の中にはロシア国内で反政府勢力の動きがより活発化し、執拗に反プーチンの活動が継続される可能性がある指摘する声もある。さらに欧米からの制裁はロシア経済を圧迫しており、永続的な痛手になっている。今回、取材した安全保障問題を専門にする米人記者は、「ここまでのロシアの軍事パフォーマンスはあまりにもお粗末である」と述べた後、こう続けた。
「総合的にはロシアの軍事力の方が勝っているが、最終的にはウクライナに軍配が上がるかもしれない」さらにロシア軍の兵士たちの腐敗が「進軍を遅らせる最大の要因」とも指摘する。また「兵站支援も滞っており、今後高い水準で軍事力を維持できるとは思えない」と述べた。今後、プーチン氏は当初抱いていたウクライナ侵攻の目的を達成できないことが分かると、目的を見直すかもしれない。キエフのウォロディミル・ゼレンスキー政権の交代やウクライナの占領を諦めるかわりに、東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」におけるロシアのプレゼンスを強化していくようになるかもしれない。
最後に楽観的な言説を記したい。カート・ボルカー元NATO(北大西洋条約機構)大使が米テレビCNBCのインタビューで述べていた内容だ。「ロシアが侵略を長引かせる中で直面しているのが物流の課題だ。さらに武器と兵士の質を考えると、最初につまずくのはロシアだろう」「ロシアがまず疲弊する。そしてプーチン氏は(戦争の)決着をつけざるを得なくなる」そしていま、「ウクライナ人は自分たちに強い自信を抱き始めている」という。さらにボルカー氏はこうも述べる。
「いましばらくは現在の状態が続くでしょうが、最終的にはロシア人がウクライナから出ていくことになる」 この通りになればいいのだが・・・。
●プーチン大統領、天然ガス代金のユーロ支払いを容認 独首相に説明 3/31
ドイツ首相府報道官によると、ショルツ首相とロシアのプーチン大統領が30日、電話会談した。プーチン氏はこの中で、欧州各国が4月以降にロシアから買う天然ガスの代金について、ユーロで支払いを続けられると説明したという。会談はプーチン氏からの要請だったとしている。
プーチン氏は、EUの経済制裁の対象ではないガスプロムバンク(銀行)に代金が振り込まれれば、銀行側が支払いをロシアの通貨ルーブルに換えると説明したという。ショルツ氏はこの手続きに同意したわけではないが、手続きを正確に理解するため、書面での情報提供を求めたという。
プーチン氏は23日、米国や欧州、日本など「非友好国」に売る天然ガスについて、ルーブルでの支払いを求める考えを表明。主要7カ国(G7)は28日、「支払い通貨の変更は明確な契約違反」として、ルーブルでの支払いを拒否することで一致していた。拒否した場合、ロシアが供給を止める恐れも懸念されていた。
●ウクライナ戦争で迎えるポスト・アメリカ時代 3/31
ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアが、3月10日付の同紙で、プーチンのウクライナ侵略は新たなポスト・アメリカ時代の始まりを告げるものであり、それがどのような時代となるかを論じている。
ザカリアは、ロシアのウクライナ侵略により時代が変わり、新たな時代がどのような時代となるかを論じている。重要なことは、冷戦終了後の時代を特徴付けていた経済合理性に基づく経済成長や市場経済の原則に代わり、安全保障を始めとする政治的考慮が優先する時代となると指摘している。具体的には、当面の間、ロシアと西側諸国の間での第二次冷戦構造が復活するのであろう。
その結果、国際社会が相互依存関係に頼らず不効率な国内生産を重視するため、世界的に慢性的なインフレ状態となる可能性があり、特に、エネルギー価格が高止まりすることから、炭化水素生産国に富が集中することとなると論じている。
次に、ザカリアは、新時代の決定的な特徴の1つとして、パックス・アメリカーナの終焉を指摘している。オバマ元大統領が既に米国は世界の警察官ではないと述べたが、中東では、イスラエルとの同盟や湾岸産油国の保護者としての米国の存在感は継続していた。ところが、ウクライナ危機で米露が対立する中で、アラブ首長国連邦は安保理決議案に棄権し、サウジアラビア、イスラエル、ブラジルといった従来の親米諸国が対ロシア制裁に参加せず、経済関係を継続するとしている。
国連緊急総会でのロシア非難決議には、141カ国が賛成し、ロシアの孤立が顕著であったとメディアは報じたが、3月8日に、ロシアが非友好国と指定した国、即ち、対ロシア制裁に参加したのは48の国に過ぎない。その内訳は、米国、欧州連合(EU)諸国、英国、カナダ、豪州、日本、韓国、台湾など先進国を除けば、あとは欧州の小国、シンガポール、ミクロネシアだけである。中南米、アフリカおよび大半のアジア諸国、アラブ諸国は参加していない。
ザカリアの論説の最後には、もう1つのあり得る大きな変化として、欧州が結集して戦略的な役割を担うようになり、米国との同盟関係が強化される可能性を挙げ、その為にはウクライナでの成功、即ちプーチンの野望を挫くことが必須の条件だと結んでいる。しかし、逆に、ウクライナ問題でプーチンの主張が実現すれば、ロシアの脅威が前線諸国におよび、EUや北大西洋条約機構(NATO)が分裂しかねない恐れもある。
いずれにしてもウクライナ戦争後の地政学的国際秩序がどうなるかには不確定要素が多い。プーチンが勝利し、或いは、膠着状態となれば、その過程で欧州の安定が脅かされ、アジアでの中国の力による現状変更への道を開く恐れがある。逆に、対露経済制裁とウクライナ間接支援によりプーチンが妥協しウクライナが生き延びれば、西側諸国の経済制裁の抑止力が評価され、アジアにおける力による現状変更の試みに対しても歯止めとなろう。
バイデンは、ロシアとの直接軍事衝突が第三次世界大戦になりかねないことを恐れ、条約上の防衛義務がない限り、ロシアに侵略された国に対し集団的自衛権は行使しないとの原則を明確にした。この原則は、今後万が一ロシアがモルドバやジョージア、或いは、フィンランドなどに侵攻したとしても当てはまるのであろうか。そうであれば、是が非でもウクライナについて経済制裁や間接軍事支援だけでプーチンを挫折させなければならず、中国に対する牽制も重要であり、日本企業も有事に備える必要があろう。
第三次世界大戦を避けたいとの考慮が、米国とロシアの指導者に非対称的に作用するとプーチンが思い込めば、今後もロシア、中国、更には北朝鮮が、その要求を実現するために武力や核を威嚇手段として用いる可能性も排除できない。また、これまでの相互確証破壊理論や核の傘による拡大抑止の考え方がどう影響を受けるのかもポスト・アメリカ時代において極めて深刻な問題になると考えられる。
ポスト・アメリカ時代を前に、領土や独立の不可侵、武力や核による威嚇禁止、国際人道法の遵守、核不拡散、更に表現・報道の自由等の人権の尊重、公正で独立した司法権などの国際法や国際人権法の原則を国連総会の場で再確認する決議を採択するといったことも意味があるのではないか。ロシアや中国はともかく、国連緊急総会の対ロシア非難決議に賛成した国々の間で、これらの原則を改めて共有することは、新たな国際的秩序の枠組みを模索する基礎となるのではないか。
●NY商品、原油が反発 米国在庫減やウクライナ情勢の不透明感で 金は反発 3/31
30日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は3営業日ぶりに反発した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で、期近の5月物は前日比3.58ドル(3.4%)高の1バレル107.82ドルで取引を終えた。米原油在庫が市場予想以上に減り、需給逼迫が意識された。ウクライナ情勢を巡る不透明感も買いを誘った。
米エネルギー情報局(EIA)が30日に発表した週間の石油在庫統計で、原油在庫の減少幅が市場予想を大きく上回った。エネルギー価格の上昇が進む中でも需要の強さは続いているとの見方が広がった。
ロシアのペスコフ大統領報道官が30日、ウクライナとの29日までの停戦協議について「期待できそうなことは何もなかった」と述べたと伝わった。前日に高まっていたロシアの軍事活動の縮小への期待が後退し、原油先物の買い直しを誘った。
ドイツのハベック経済・気候相が30日、天然ガスの安定調達で「早期警報」を発令したと発表した。ロシア産のガス確保が難しくなる事態に備え、予防措置が必要と判断した。欧州のエネルギー供給を巡る不透明感が改めて意識されたことも原油相場を支えた。
ニューヨーク金先物相場は反発した。ニューヨーク商品取引所(COMEX)で取引の中心である6月物は前日比21.0ドル(1.1%)高の1トロイオンス1939.0ドルで終えた。外国為替市場でドルが対円やユーロなどで下落し、ドルの代替投資先とされ、逆の動きをしやすい金先物が買われた。
●株が反落、ウクライナ情勢への楽観後退−原油と金は反発 3/31
30日の米株式相場は反落。ウクライナ情勢を巡る緊張緩和への期待がしぼんだ。
・米国株は反落、ナスダックの下げ目立つ−ダウ平均65ドル安
・米国債は上昇、10年債利回り2.34%に低下
・ドルが下落、対円は121円台後半−ユーロ上昇
・NY原油は3日ぶり反発、ロシアとウクライナの交渉行き詰まり
・NY金は反発、米民間雇用統計が堅調でインフレ圧力示す
S&P500種株価指数は5営業日ぶりに反落し、前日比0.6%安の4602.45。ダウ工業株30種平均は65.38ドル(0.2%)安の35228.81ドル。ナスダック総合指数は1.2%下落。ハイテク銘柄中心のナスダック100指数は1.1%安。アップルも下げて、2003年以来の長期連騰がストップした。
ロシアはウクライナとの交渉で突破口となる急展開はなかったとの見解を示した。さらに、ドンバス地方の完全掌握に向け軍を再編しているとも明らかにした。
モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントのリサ・シャレット最高投資責任者(CIO)は「期待に関して、前のめりになることには懐疑的だ」と発言。流動性が潤沢なことや、S&P500種の調整やナスダックの弱気相場を受けた押し目買いの意欲は尊重するが、リスクは地政学的あるいはファンダメンタルズ的にかかわらず根本的に高まっているというのが現実だとし、「企業業績が影響を受けやすくなっていることについて当社は引き続き警鐘を鳴らしている」と述べた。
米国債は上昇し、ニューヨーク時間午後4時21分現在、10年債利回りが6ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の2.34%。2年債利回りは6bp低下の2.30%。
外国為替市場ではドル指数が続落し、4週間ぶり安値。ドルは主要10通貨の大半に対して値下がりした。米国債利回りの低下が背景。一方、ユーロは上昇。スペインとドイツのインフレ率が予想以上に加速した。
主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は0.5%低下。ニューヨーク時間午後4時22分現在、ドルは対円で0.9%安の1ドル=121円82銭。ユーロは対ドルで0.7%高の1ユーロ=1.1158ドル。
ニューヨーク原油先物相場は反発。ロシア大統領府が和平交渉で突破口となる急展開はなかったとの見解を示したほか、ウクライナ側はロシアが新たな部隊を戦線に投入していると指摘したことから、停戦への期待が打ち砕かれた。
トータスのポートフォリオマネジャー、マット・サリー氏は「欧州がロシア産エネルギーからの脱却を模索しているという大きなトレンドが今は定着している。これを背景に、既にタイトな市場は短期的だけでなく中期的に一段と引き締まるだろう」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は、前日比3.58ドル(3.4%)高の1バレル=107.82ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント5月限は3.22ドル高の113.45ドル。
ニューヨーク金相場は反発。スポットは1カ月ぶり安値から持ち直した。米民間雇用者数の統計が堅調な内容となり、インフレ圧力が浮き彫りになったことを背景に、価値保存手段としての金の需要が高まった。
市場のインフレ期待指標が上昇し、債券の実質利回りが低下したことも、金の支えになった。
スポット価格はニューヨーク時間午後3時22分現在、前日比0.7%高。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は、1.1%高の1オンス=1939ドルちょうどで終了した。
●マリウポリ市長 “中心部の半分がロシア軍に占領されている”  3/31
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は首都キエフ周辺などでの軍事作戦を大幅に縮小するとしている一方、東部での攻勢を強めています。NHKのインタビューに応じた東部の要衝マリウポリの市長は市の中心部の半分がロシア軍に占領されていることを明らかにし、人道危機がさらに深まることが懸念されています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアは29日のウクライナ側との停戦交渉のあと、信頼醸成のためとして首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを明らかにしました。しかし30日、キエフのクリチコ市長はオンラインの演説で「キエフの北と東で一晩中、大きな爆発音が聞こえた」と述べたほか、チェルニヒウ州のチャウス知事も「ロシアの攻撃はやんでいない」と述べ、攻撃が続いていると訴えました。
ロシア国防省は30日夜になって「キエフとチェルニヒウ方面でのロシア軍の主な任務はすべて完了した」と発表し、今後攻撃が鎮静化するかどうかが焦点です。
一方、ロシアの国防省はウクライナ東部の軍事作戦に重点を置く方針を示しています。
こうした中、ロシア軍に包囲されている東部の要衝マリウポリのボイチェンコ市長が30日、NHKのインタビューに応じ、現地の状況について「極めてひどい状況だ。水、食料、電気、暖房、通信手段もない。水がないことが最も大きな問題だ。人道危機の一線を越えている」と述べました。そのうえで「常に市街戦が続いていて市の中心部の50%がロシア軍に占領されている状態だ」と述べ、ロシア軍が中心部にまで侵攻してきていることを明らかにし人道危機がさらに深まることが懸念されています。
マリウポリについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は29日「ロシア軍は着実に前進し続けている。おそらく数日以内にロシア軍が掌握するとみられる」と分析しています。
ウクライナ側は停戦交渉でNATO=北大西洋条約機構への加盟を断念する代わりとなる新たな安全保障の枠組みをロシア側に提案しています。
これについてロシアの代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官は30日「ロシアが主張してきた基本的な要求を満たす用意があるとウクライナは宣言した。この約束が果たされればNATOがウクライナ領土で足がかりを築く脅威はなくなる」と述べ、評価する姿勢を示しました。
ただロシアが一方的に併合した南部クリミアや東部の親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ地域についての主権問題はロシアが譲るつもりはないと強固に主張し、交渉の行方は予断を許さない状況です。
●中ロ外相「制裁は逆効果」 軍事侵攻後初の訪中  3/31
ロシアのラブロフ外相は30日、中国の王毅外相と会談し、「ロシアへの制裁は逆効果」との認識で一致した。
ウクライナ侵攻後、初めて中国を訪問しているラブロフ外相は、30日午後、東部の安徽省で王毅国務委員兼外相と会談した。
ロシア外務省によると、ウクライナ情勢をめぐって意見交換され、双方が、アメリカを中心に行われているロシアへの制裁は逆効果だとの認識を示したという。
また、中国側の発表によると、王毅氏は「中露関係をより高い水準に押し上げることを望む」と述べ、ロシア包囲網を強める西側諸国との違いを鮮明にした。
そのうえで、ロシアの立場に一定の理解を示し、「停戦交渉の継続を支持する」として、話し合いによる解決をあらためて求めた。
●プーチンすら策に嵌めるか習近平。中国「ウクライナ戦争」を利用した債務の罠 3/31
国際社会の厳しい目もあり表立ってロシアの支援に動けない中国ですが、水面下ではプーチン政権に救いの手を差し伸べているようです。今回のメルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』では著者でジャーナリスト・作家として活躍中の宇田川敬介さんが、中国が「民間ベース」で行なっているというロシア支援の実態を裏情報を交えリーク。しかもその援助はあくまで自国都合のもので、習近平国家主席がプーチン大統領に仕掛けた「戦争を利用した債務の罠」であるとの見方を示しています。
「緊迫するウクライナ情勢に見るロシアと中国と北朝鮮」と題して話をしてきましたが、基本的にすでに2カ月たっていながら、まだ決着がついていないという感じですね。
このまま続けてもよいのですが、来月からは、こちらのメールマガジンでは、日本の防衛ということについて考えてみたいと思います。
さて今、ロシアのような国(といってもすぐにどの国か見当がついていると思いますが)が攻めてきた場合、日本はウクライナのように戦えるのかということを考えてみたいと思うのです。
もちろん、折りに触れてウクライナの事をしっかりと考えて見たいと思いますが、それを他山の石とすることなく、日本人の教訓としてしっかりと考えて見るべきではないかと思います。
そこで、今回は「経済制裁がどのような効果を出したのか」ということを考えてみましょう。
基本的に「日本が攻められた場合」も、日本人の代わりに諸外国が戦うというようなことは、あまり期待できないでしょう。
今回、ロシアのウクライナ侵攻において、ウクライナはNATOに加盟していないということで、NATOは援軍を送ることはしませんでした。
つまり、日米安全保障条約があるということで、アメリカはなんらかの条約に従った行動をとると思いますが、NATO加盟国など他の国は、日本を守る条約も法的根拠も何もないということになります。
その状況で、NATOが参戦するとは思えません。
今回見ていてわかるように、「戦う」のは「ウクライナ人」で、NATOもアメリカも物資の補給以外にはしていないということになります。
もちろん、「物資」の中には、兵器も含まれています。
では、日本の場合同じような状態で戦えるのかということを、しっかりと分析してみなければならないのです。
さて、今回は、今月の最後で、そのNATOが精一杯やっている経済制裁によって、どのような効果が、ウクライナ、ではなく日本に影響しているのかということを見てゆきましょう。
経済制裁は、既にご存じのように、ロシアにとっては輸入などが滞り、ドル建ての国債やドル建ての支払いが全て滞るということになります。
これは、ロシアにとってはかなり響いているのではないかと考えられます。
基本的にロシアの貿易における基軸通貨は、ドルが90%以上になっているということを考えると、そのドルがない、なおかつ、国債などの追加の発行がないということは経済的にかなりひっ迫するということを意味します。
経済的な逼迫は、そのまま、同盟国への依存という形になるのです。
同盟国の依存とは何か。
単純に、中国や北朝鮮に外貨の借款、または、決済の代行ということを依頼するということになるのです。
当然中国は、その決済の代行を受けることになります。
つまり、中国を経由した輸入ということになります。
私が様々な中国の友人に問い合わせたところ、その場合手数料は約30%〜50%上乗せ、ロシアが払えないこともあるので、ロシアに輸出する側が、その分の補償金を預託するというシステムを取っているということです。
要するに、日本から今までロシアに何かを輸出していた場合、その値段が100であれば、ロシアに対して150で売るということになるのです。
しかし、その50値上げした分をロシアが払えないかもしれないので、売り先である日本に補償金を積めということになります。
そこまでしてロシアと取引をしたいという人は非常に少ないということになります。
そのために「支援している」ようなことになっていても、一方で中国の支援が実際にロシアの役に立っているかどうかは不明ということになるのです。
民間がそのようにして「欲が出る」ということから、基本的に機能しないので、結局はロシア系中国人がロシアのために輸入代行や決済代行をするということになるのです。
一方中国政府としては、ここでロシアを支援してしまっては、中国そのものもスイフトから排除されてしまうということになってしまいます。
そのために、中国はある意味で「民間が勝手に行った」というような形式をとらなければならないということになりますので、なかなか支援が前に進まないということになります。
この時に役に立っているのが「人民解放軍系商社」である「保利大厦」と「海利大厦」の二つになります。
アメリカやヨーロッパから「経済制裁に参加しない」「援助をすれば、制裁する」と通告されている中国は、政府としては支援できないので、このような民間会社として支援をするという形になります。
中国の場合は、中国が経済制裁されてしまうと、決済代行などできなくなってしまうということになります。
基本的に、「国際社会の仲間入り」しながら「国際社会の仲間からはみ出したロシアを支援する」ということになってしまいますので、「政府」と「国営企業」を切り離して行うということになります。
実際に、中ロ国境では、義勇軍が多くロシアに入国し、同時に、保利大厦系の商社のメークの入ったコンテナが多く入国しているという報告が入っています。
また、その義勇軍は、ロシアの入国管理によると55歳を超えた人が多いということを言います。
ちなみに中国人民解放軍は、兵卒であれば45歳、左官(大佐まで)は55歳が定年で、将官のみそれより上でできるということになっています。
要するに、この経済制裁が大きく、なおかつ国連でも141カ国もの国々が行っていることから、中国も簡単に支援できなくなったということになり、そのことから「ロシアと国際社会の板挟みになったという感じです。
そのために「民間人が勝手に行ったこと」として義勇軍なども編成するということになりますし、企業もロシアと取引を行うのです。
ちょうど中国企業の中にはファーウェイやZTEなど、アメリカやイギリスなどで取引をできない企業も少なくないので、そのような企業が中心になって支援をしている。つまりすでに取引が規制されている企業が中国を代表してロシアを支援しているということになります。
また、高齢者の義勇兵が多いということは「正規軍」はそのまま中国国内で温存しているということを意味します。
要するに、中国からすれば「体の良い厄介払い」といってしまえば言い方は悪いですが、そのような状況になっているのです。
ご存じのように、中国は2004年まで発表していましたが、中国国内におけるデモの多くは、退役軍人による軍事年金要求(値上げ要求を含む)のデモです。
これはデモの回数などを発表しなくなった今日も同じで、元人民解放軍であるということから、それらの要求は非常に強く存在するということになるのです。
要するに、元軍人の老人は、中国にとって、仕事をするわけでもなく、年金などで金がかかる厄介者ということになります。
その人々に、ある程度の資金と補償を出して、ロシアに出すということになるのです。
このように「中国の同盟支援」という形は、一方で、中国の都合に合わせた内容であって、他の国のように「運命共同体」的な支援を行っているのではない。
では、このような支援の「借り」を、ロシアはどのように返すのであろうか。
基本的に、民間の内容であるといっても、たぶん中国政府はその恩を着せるということになるでしょう。
そのうえで、中国は中国の野望をロシアにぶつけることになります。
具体的に言えば、「資源」または「北極海航路」における港の租借ということになるでしょう。
習近平国家主席によって「一帯一路」ということが大きな目標になっている中国は、「一路(海のシルクロード)」で北極海航路を中国の権益に含むとして、ロシアと一時険悪になっていたことがあります。
当然に今回の恩を売ることによって、その部分を要求してくることになると考えられます。
ある意味で「戦争を利用した債務の罠」が発動するということになるでしょう。
プーチン大統領はそれを受けるのか、あるいは、そのことをもって中国と対立してゆくのかということになってゆきます。
一つのウクライナの戦争が、次の戦争を引き起こすきっかけになるということになるのではないでしょうか。
また、そのときに、経済制裁が終わっているのか、あるいは、そのまま経済制裁を継続しているのかということも大きな問題になってくるということになるのではないでしょうか。
そのように考えると、今後大きな選択肢があり、その中では、日本も巻き込まれる世界大戦がはじまる可能性があるということになるのではないでしょうか。
●ウクライナ侵攻に見る世代の戦い。「暴力による支配」と「SNSでの共感戦略」 3/31
毎日のように目にするウクライナの戦争の報道で、これまた毎日のように出てくるプーチン大統領。もうこの顔見たくないんだってば……とか思ってたわけですが、だんだんとその行動パターンを興味深く見始めてる今日この頃。つい「プーチン本部長」とか呼びたくなっちゃうのは、めっちゃ古い体質の日本企業にいそうなマッチョなおっさんだからです。
私が「これは!」と思ったのは、「平和条約交渉打ち切り『責任は日本に』ロシア声明趣旨」という記事で、タイトルまんまロシアの声明なんですが、その最後についてるこの言葉。
「2国間関係と日本自身の利益への損失に対するすべての責任は、相互利益の協力と善隣関係の発展の代わりに、反ロシア路線の方を意識的に選んだ日本政府にある」
これは「こんな目に合うのは、俺にたてついたお前が悪い」っていう、DV男特有の理論展開では……。前回の記事(映画界の性暴力被害)で触れた「有害な男性性」がまさにこれなのですが、よく考えたらプーチン本部長、じゃなかった大統領の言動って「有害な男性性」の象徴なんじゃないか。例えば、毎年夏のワイルドな休暇にマスコミ軍団を同行させて、自分の筋肉とマッチョぶりを見せびらかして世界中に配信させるのもそうだし、現在の戦争でも、核や化学兵器をちらつかせながら欧米をチキンレースに引きずり込もうとするのもそうだし。戦争が始まった時、軍事評論家の方が「なんでこんなに非効率的な攻め方をするのか、よくわからない」と言っていたのですが、想像するにプーチン本部長、じゃなかった大統領の目的は、破壊しつくした都市を全世界に見せることだったんじゃないかなあ。シリアとかチェチェンもそうだったし。
さておき、ウクライナ関連のニュースを見ていて、ずっと不思議だったことがあります。ええと、こんな混乱した状況で、なんでウクライナのネットはつながってんのかしら? ロシアは戦争の最初の頃にそういう施設をぶっ壊してたはずなのに、ゼレンスキー大統領(44歳)も戦線の攻撃の模様も、市民の投稿も普通に配信されているし……。その謎が解けたのが、テレビ東京(さすが!)が実現させたウクライナのデジタル副大臣へのインタビュー。
かいつまんでいうと、ウクライナにはIT企業家のデジタル大臣(31歳)と副大臣(40歳)がいて、デジタルの世界であらゆることを処理してるんですね。例えばアメリカの宇宙開発企業「スペースX」のCEOで天才エンジニアのイーロン・マスクとやりとりして衛星から直接ネットにつながるようにしたり、支援を含むお金のやり取りにデジタル通貨を使ったり、世界的な企業にSNSを通じて呼びかけ、ロシア市場から300社以上を撤退させたり(「SNSだと世界中が注目しているから、僕らの呼びかけを黙殺できないんですよ」)、ネット上にデジタル軍(30万人)を創設し、SNSを通じて指令を出しデジタル攻撃を仕掛けてたり……。私は思いました。もしかしたらウクライナは、ロシアを押し戻せるんじゃないか?
そしてなんとなーく感じるのは、この戦争はある意味では「世代の戦い」なんじゃないかということです。スターリンに例えられることも多くなったプーチン大統領(69歳)は、権力と暴力、力と数の論理で他者を従えてきた、あまりにも20世紀的な「支配者」です。一方のゼレンスキー大統領(44歳)はSNSを駆使して国民はもとより国外の様々な協力者とつながり、国際社会から「共感」を得ることに全力を尽くし、各国のネット演説を見る限りでは、どうすればそれが実現するかも完全に理解している人のようです。もちろん今回のロシアの軍事侵攻には1ミリも共感できないけれど、その一方で、危機に際して即座に戦える年齢の男性の出国を禁じ、ロシア相手にこれだけ戦えるウクライナだって、ある意味の「軍事国家」であるに違いありません。にもかかわらず。当事者である2つの国が、ここまで違って見える戦争も珍しい気がします。特に西側でプーチン大統領があまりに不人気なのは「権力と暴力で威圧すりゃあ誰もが言うこと聞くと思ってる、恐竜時代のおっさんにはもううんざり」といったところかもしれません。
日本においてあきれ返るのは、そんなプーチン大統領の「恐竜時代的な強者による、権力と暴力による支配」を前に「ウクライナはどうせ勝てないんだから、傷が浅いうちに降伏すべき」などと、公共の電波で無神経に言う人ーーコメンテーターとか芸人とか政治家とかがいることです。私は戦争に反対だし、どんな戦争も起きてほしくないけれど、スターリン時代の歴史をフラッシュバックさせるプーチンの横暴に「No」を言い続けるウクライナの人たちの覚悟を、「どうせ勝てないんだから」と否定する気にはなれない。だってそれはまるで「DV夫から一度は逃げたのに、捕まってしまった妻」に、「また逃げられないから、歯向かっても仕方ない」「あなたがおとなしくしていれば、そこまでひどくは殴られないのでは」「向こうはあなたのためを思ってる」みたいなことを言う、知った顔して何もわかってない、おためごかしの、そして結局のところ「強者による権力と暴力の支配」を肯定しているクソ野郎にしか見えないからです。
戦争を単純に「勝ち負け」という視点でしか見ない人は、つまりは「勝てる」と思えば戦争をする人なのかもしれません。実際、そういう人たちがゼレンスキー演説の後に「自分はゼレンスキー派」アピールしだすのも、彼らが「勝ち馬」に乗りたいってことなんでしょう。でもあらゆる国が、経済、エネルギー、環境、金融でつながった現代における戦争で、得する国なんてあるんでしょうか? 国際社会から締め出されたロシアはもちろん、主要都市を破壊しつくされたウクライナだって、たとえロシアを追い出しても「負けなかった」だけで「勝った」とはいえないでしょう。人もお金もあらゆることがもったいない。
●プーチン氏、「ウクライナ軍が武器放棄すれば」マリウポリでの攻撃停止 3/31
ロシア政府は30日、ウラジーミル・プーチン大統領が29日の仏大統領との電話会談で、ロシア軍が包囲したウクライナ南東部の港湾都市マリウポリについて、ウクライナ軍が降伏した場合にのみ砲撃を停止すると述べたと発表した。一方、ロシア国防省は民間人避難のためとして、マリウポリで現地時間31日午前から、1日限定で停戦するとした。
ロシア政府の声明によると、プーチン大統領は29日に行われたフランスのエマニュエル・マクロン大統領との電話会談でマリウポリでの砲撃を停止する条件に言及した。この日の電話会談は1時間に及んだという。
仏政府関係者は、プーチン氏が民間人をマリウポリから避難させる計画を検討することに同意したとしている。
ロシアはその後、31日に1日限定で停戦すると発表した。
ロシア国防省によると、停戦は現地時間31日午前10時(日本時間同日午後4時)に開始される。ロシアの支配下にあるベルディアンスク港を経由してザポリッジャ(ザポロジエ)に移動できるようになるという。
同省は赤十字社と国連の難民機関にもこの避難活動に参加してもらいたいとしている。また、ロシアの提案に対するウクライナからの回答を待っているところだとした。
マリウポリでの停戦実現に向けたこれまでの試みは、両国が互いに不誠実さを非難し合い失敗に終わっている。ロシアは、ウクライナの民間人数千人をロシアの支配地域に強制的に移住させたとして非難されている。
こうした中、マリウポリの破壊状況をとらえた新たな衛星画像が公開された。
米人工衛星会社マクサーが公開した衛星画像では、住宅地ががれきと化し、マリウポリ郊外にはロシア軍の大砲が配備され発射態勢を取っている様子が確認できる。
●プーチン大統領 ドイツ・イタリアの首相と電話会談  3/31
ロシアのプーチン大統領は30日、ドイツのショルツ首相とイタリアのドラギ首相と相次いで電話で会談し、ロシアが非友好国と指定する国に、天然ガスの購入費用を通貨ルーブルで支払うよう求めている問題について協議しました。
このうちドイツ政府の報道官の声明では、プーチン大統領は4月からルーブルで支払いを求めるものの、ヨーロッパの契約者は、これまでと変わらずユーロで支払い、ロシアの銀行に送金されたあと、ロシア側でルーブルに両替されると説明したということです。
プーチン大統領は、送金先としてEU=ヨーロッパ連合の制裁の対象となっておらず、エネルギーの取り引きに使われるロシアの銀行「ガスプロムバンク」を挙げたということです。
ショルツ首相は会談では同意せず、書面で詳しい説明を求めたということです。
また、イタリア政府の関係者によりますと、プーチン大統領は、ドラギ首相との会談でも、イタリア企業が「ガスプロムバンク」にユーロ建ての口座を開けば、ユーロで支払うことが可能で、その後、ロシア側でルーブルに両替されると伝えたということです。
この関係者は、ドラギ首相がどう答えたのかは明らかにしていません。
一方、ロシア大統領府によりますと、いずれの会談でもプーチン大統領は、ルーブルで支払うよう伝えたと発表するにとどめていて、プーチン大統領の説明が、この問題にどのような影響を与えるかは不透明です。
●国内の信頼度調査で常にトップのプーチン氏、侵攻後の支持率は? 3/31
ロシアが2月24日、ウクライナ侵攻を開始してから1カ月が過ぎた。一部報道では米国や英国の軍・情報機関の分析などから、侵攻は想定された計画より遅れ、ウクライナ軍の抵抗でロシア軍が各地で苦戦、「(ロシアにとって)ショックだった」(ペスコフ大統領報道官)とされる欧米、日本などの厳しい制裁で、ロシアは苦境に立ち、早期停戦どころかロシアの体制転換の可能性すら指摘されている。
しかし、一部新興財閥が停戦を求めるなど体制の「大本営発表」に抗する発言があり、反政府デモも各地で行われているものの、総じてプーチン大統領への国民の支持は高い。現在行われている停戦交渉の行方は、プーチン氏の決断など属人的要素が大きく予測するのは困難だが、少なくともロシア側では現時点で、プーチン体制に大きなほころびは見えない状況だ。
ウクライナ侵攻でプーチン氏の信頼度は…
政府系の全ロシア世論調査センターが毎週行っている政治家への信頼度調査は、特定の政治家について「信頼するか」「信頼しないか」を問うものだが、当然ながらプーチン氏はいつもトップ。「信頼する」と答えた人の割合は、ここ半年ずっと60%台だったのに対し、侵攻後の2月27日の結果では73%、3月6日は77・4%、13日には79・6%、20日は80・6%と右肩上がりに上昇。同様にミシュスチン首相も右肩上がりで、2月27日の55・6%から3月20日には62・6%に上がった。
また、23日発表の調査結果では74%が「特別軍事作戦」を支持するとしており、支持しないはわずか17%だった。
いずれも、戦争や紛争など緊急時に指導者や軍への支持が高まる「危機ばね」が働いたとの見方が強い。同センターは100%政府が出資する会社で、結果がある程度、政府寄りになることは考慮しなければならず、侵攻後は多くの人が政治的迫害を恐れ回答を拒否していると指摘されているものの、プーチン体制がなお、一定の支持を得ていることは確かだ。独立系調査機関レバダ・センターは侵攻前の2月17日までの調査結果として、プーチン氏の支持率が71%と2018年5月以来、最高になったと発表したが3月28日現在、最新の支持率は発表していない。
これを裏付けるように3月18日、モスクワのルジニキ競技場で開かれたクリミア半島編入8周年の集会には多くの芸能人、作家、北京五輪のメダリストらスポーツ選手とともに、プーチン氏も参加。クリミア編入後の「この8年間で多くのことが成し遂げられた」と主張するプーチン氏に対し、国旗を持った市民で埋め尽くされた会場は喝采を送った。警察発表では集会には20万人以上の支持者が集まった。歴史的に見てもチェチェン紛争やクリミア編入など「紛争」は短期間であれ、ロシア国民を結束させることが多い。
国営テレビがゼレンスキー氏を「麻薬常用」
こうした高い支持の背景にあるのが、クレムリンのメディア戦略だ。要点は2点。一つは国営メディア、特にテレビを使っての徹底的なクレムリン、ロシア軍の主張の宣伝。もう一つは国内の独立系や外国メディアの締め付けだ。
ロシアの多くの世帯が主要な情報源としている国営・政府系テレビのニュース・政治番組の主張は、日本や欧米のニュースに慣れた目から見れば、異なる世界であると言える。私たちがニュースで目にするウクライナ首都キエフの住宅街の爆撃や、南東部マリウポリで大規模避難所として使われていた劇場の空爆、担架で運ばれる負傷した妊婦の写真が世界に衝撃を与えた産科小児科病院の爆撃、欧州最大級の南部ザポロジエ原発への攻撃などは触れられることは少なく、たとえニュースで言及があったとしても「フェイク」か「ウクライナによる挑発的攻撃」「ウクライナ軍の拠点だった」などと説明される。
戦闘に関する主要ニュースはたいてい、ウクライナ東部ドンバス地域のもので、ウクライナの「ネオナチ」が民間人を不当に攻撃しており、ロシア軍が応戦、撃退したという内容だ。ウクライナ軍や政府高官は「ネオナチ」と形容され、ロシア国営テレビはゼレンスキー・ウクライナ大統領については、専門家の話を引き合いに根拠なく「麻薬を常用している疑いがある」と批判した。
3月16日の閣僚、地方の知事らとのオンライン会議でプーチン大統領はかつてない激しい口調で、ウクライナと欧米を批判、今後国内のさらなる締め付けを強化することを示唆した。主な主張は次の通りだが、テレビ局の報道内容は、こうしたプーチン氏の主張をまさに補強するものとなっている。
・ウクライナはロシアを標的に生物・核兵器など大量破壊兵器を入手しようとしていた。
・(8年間に及ぶ)ドンバス地域の紛争を、交渉を通じて平和裏に終結させようとしたが、全て無駄に終わり、軍事作戦以外に選択肢はなかった。
・西側諸国はウクライナを流血に向け扇動している。制裁はロシアの弱体化、自らに隷属させることを狙ったもので、ロシアは決して屈することはない。
筆者の知人のあるロシア人は、「日本は8年間のドンバス地域の紛争に全く触れていない」「ウクライナ側の残虐行為もあったが、伝えないのはおかしい」「プーチン氏は理由があって行動している」などと主張しているが、愛国主義の強いロシア人の中では、こうした主張が受け入れられやすいのは否めない。
「虚偽情報処罰法」が成立
一方、独立系・外国メディアへの対応策として、ロシア議会はウクライナ侵攻後、軍事作戦について虚偽の情報を流した者に対し最高禁錮15年の刑を科する法案を可決、大統領の署名で成立した。ネットテレビ「ドシチ」は放送を休止し、ラジオ局「モスクワのこだま」は解散、編集長のムラトフ氏が昨年、ノーベル平和賞を受賞した新聞「ノーバヤ・ガゼータ」は休刊こそしなかったものの、「戦争」「侵攻」などのワードは禁句となり、軍事作戦に関する報道は大幅に制約された。3月25日には軍だけでなく、在外大使館や治安部隊「国家親衛隊」、緊急事態省などの情報も対象にする法律も成立した。
「虚偽情報処罰法」では最近、当局が初めてフランスに住むロシア人の著名ブロガー、ベロニカ・ベロツェルコフスカヤさんの捜査を開始した。具体的にどういった行為が虚偽情報流布に当たり処罰の対象になるか明確ではなく一時、英BBC放送や米CNNテレビ、米紙ニューヨーク・タイムズなどが処罰を恐れ、ロシアから記者を撤退・活動停止させた。
ロシアでも多くの人が使う会員制交流サイト(SNS)についても、フェイスブックやツイッターが遮断・制限され、ユーザーは通信規制を回避できる「VPN」(仮想私設網)を使って閲覧せざるを得なくなったほか、動画投稿サイト「ユーチューブ」についても制限が検討されている。
正教会もウクライナ侵攻を支持か
侵攻支持の動きは宗教界にも広がりつつある。ロシア正教会は東方正教会のうち、最大の信者数を誇り、ロシアでは人口の8割近くが聖教徒だが、そのトップ、キリル総主教の発言が波紋を呼んだ。独立新聞(電子版)などによると、総主教は3月6日、信者に対し、ドンバス地域で正教会が強く反対するゲイパレードを行う動きがあったとして、侵攻を正当化したともとれる発言をした。また、同9日には「二つの民族の対立が始まったが、正確には一つの民族、ロシア民族だ」「大きな政治の動きがウクライナ民族を利用して、ロシア弱体化を図っている」と語った。
「ロシアとウクライナは一つの民族」「欧米によるロシア弱体化の狙い」はかねて、プーチン大統領が主張してきたテーゼで、ここでもクレムリンの主張に沿った発言と受け取られている。
キリル総主教に対しては、ウクライナの隣国ポーランドの正教会(国民の多くがカトリックだが正教徒もいる)が、戦争反対を強く主張すべきだと要求。ウクライナのほか、バルト諸国のエストニアやラトビアの正教会は侵攻を非難する立場を明確にしている。
ロシア正教会とクレムリンは、伝統的家族制度など、その保守的な見解や立場を一にすることが多く、一昨年改正された憲法では、同性婚が事実上、禁止された。今回の総主教の発言は、宗教界においてすら、今回の侵攻を是認する風潮があることを浮かび上がらせている。
ソ連時代よりはるかに強い制裁への抵抗力
ウクライナ侵攻に対して、西側諸国が科した経済制裁のうち、特に効果があるとされているのが銀行などを対象とした金融制裁。具体的には、国際決済ネットワークである「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行を排除したほか、ロシア中央銀行の資産凍結に踏み切り、通貨ルーブルは一時、40%近く暴落、ロシアの株式市場は取引停止に追い込まれた。ロイター通信によると、国際金融協会(IIF)はロシアの2022年の国内総生産(GDP)成長率予想を従来のプラス3%からマイナス15%へと引き下げた。ロシアの著名な経済学者ウラジスラフ・イノゼムツェフ氏は制裁と国際的孤立による企業の収益悪化により、次の冬までにロシア経済は「死に至る」と予測した。
しかし、こうした経済危機でもロシアが譲歩しない場合、石油天然ガス関連の歳入が国家予算の3分の1を占める同国経済に作戦継続を諦めさせるほどの、さらなる経済的苦痛を与えるには、石油・天然ガスとその関連商品の禁輸しかないというのが多くの専門家の見方だ。一方、現在のところ禁輸に踏み切る方針を発表した主要国は米国、英国、カナダと自国にエネルギー資源を持つ国に限られる。
欧州連合(EU)欧州委員会は3月8日、ロシア産天然ガスの依存度を年内に6割低下させ、「2030年よりかなり前に」ゼロにする計画を発表したが、法的な拘束力のない努力目標にすぎず、パイプラインなどでロシアとつながり依存度の高いドイツなどが、どこまでロシア産に替わる供給源を見つけられるか疑問視する声も強い。
1991年のソ連崩壊の要因として、85年から始まったサウジアラビアの大増産によるソ連の主要輸出品である原油の価格暴落(米国の要請に応じたものとロシアは主張している)に加え、アキレス腱と言われた穀物生産の低迷が経済の足を引っ張ったことが大きいとされている。
一方、現在のロシアは2014年のクリミア併合後、通貨ルーブルの下落に加え制裁に対する対抗措置として米国、カナダなどの穀物輸入を制限したことで国内の穀物生産を急増させ現在は純輸出国になったこと、さらに昨今の原油価格の高騰により、当時のソ連と比べるとはるかに制裁に対する抵抗力は強いと言える。 
●米政権「プーチン氏に正しい情報報告されず」と分析 3/31
アメリカ政府の高官は、ロシアのプーチン大統領が軍部からウクライナでの戦況などの情報を正しく報告されておらず、軍部との間に緊張が生じているとの見方を示しました。
ホワイトハウス、ベティングフィールド広報部長:「我々は、プーチンがロシア軍の動きがいかに悪いか、制裁でロシア経済がいかに疲弊しているかについて、アドバイザーから誤った情報を与えられていると考えている」
ホワイトハウスの高官は30日、こう述べたうえで、アドバイザーが正しい情報を報告できないのは「プーチン氏を恐れて、真実を言えないためだ」との見方を示しました。
また「プーチンがロシア軍部に欺かれたと感じているという情報がある」と述べ、国防省との間で緊張が生じているとも指摘しています。
これらの分析は、アメリカの情報機関による機密扱いの調査結果に基づくものだということです。
機密を解除して公表した理由について、ホワイトハウスは「ロシアにとって戦略的な失敗だったと理解することにつながる」と説明しています。
長期に及ぶプーチン政権の内情を巡っては、今月上旬の時点でCIA=アメリカ中央情報局のトップからも「プーチン氏に意見できる側近が減っている」などとして、プーチン氏が孤立を深めているとの見方が示されていました。
●プーチン大統領にロシア高官らが戦況など誤情報報告か  3/31
米ホワイトハウスのベディングフィールド広報部長は30日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻の戦況や米欧日などの制裁による経済の疲弊について、軍幹部や高官から誤った情報をもたらされているとの分析を明らかにした。「怖くて真実を伝えられないからだ」と指摘し、プーチン氏との間で「緊張関係が続いている」と強調した。
米メディアによると、プーチン氏が信頼していたショイグ国防相らとの関係に緊張が走っているという。米国防総省は29日、ロシアが主要目的としたウクライナの首都キエフ攻略に失敗したとの見方を示していた。
ベディングフィールド氏は「プーチンの戦争は長期的にロシアを弱体化させ、国際社会で孤立を招く戦略的失態であったことが一層明白になっている」と述べた。 
●ウクライナ戦争は終わった、アメリカ抜きで 3/31
ロシア軍のウクライナ侵攻開始から1カ月余り。電撃作戦は頓挫し、ロシア軍は疲弊しきっている。戦況は一進一退というより、物量ではるかに勝るロシア軍がウクライナ側の反転攻勢にじわじわと押し返されるありさまで、大量投入されたロシア部隊の人的・物的損害は拡大の一途をたどっている。
この状況では、ロシア政府も早急に停戦協議をまとめて消耗戦を終わらせようというウクライナの提案をまともに検討せざるを得ない。その証拠にロシアはウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊に集結していた部隊の一部を撤退させると発表した。
「ウクライナ戦争はもう終わりだ」と、米国防総省情報局(DIA)の匿名の高官は本誌に語った。
だがアントニー・ブリンケン米国務長官の見方は異なる。3月29日にモロッコで行われた記者会見で、ブリンケンは「ロシアは言うこととやることが必ずしも一致しない。われわれが注目するのは後者のほうだ」と述べた。
ブリンケンは交渉の進展を認めず、ロシアに対し「今すぐ侵攻をやめ、戦闘を停止し、部隊を撤収させろ」と呼びかけるばかりだった。
交渉は確実に進展
バイデン政権はそもそもの初めから停戦協議にはさほど関心を見せず、もっぱらロシアに厳しい制裁措置を科し、さらにはロシア軍の戦争犯罪を認定することに力を入れているようだった。ジョー・バイデン米大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領への怒りを噴出させ、ポーランドで行なった演説で、とっさに出た言葉とはいえ、ロシアの体制転換を示唆するような発言までした(これにはNATO加盟国も不快感を示し、ホワイトハウスが火消しに追われ、バイデン自身も釈明することになったのだが)。
専門家によれば、米政府はもはや停戦を仲介できる立場にない。米政府は裏ルートでロシアに働きかけることもできたはずだし、ウクライナに戦術的な情報だけでなく、プーチンの思考回路を読み解くための情報を提供することもできたはずだが、そのいずれも怠った。
ウクライナはアメリカの支援なしにロシアとの交渉を進めている。両国の交渉団は29日、トルコのイスタンブールで3時間余りにわたって対面で話し合い、停戦に向けて、それぞれが受け入れ可能な条件を提示した。注目すべきは、ウクライナがロシアの安全保障上の懸念をなくすため、NATOへの早期加盟を断念することもあり得ると述べたことだ。
「ウクライナは、(NATOの集団防衛を定めた)北大西洋条約第5条のような形で(同盟国から)安全を保障されることを条件に、中立の立場を固め、外国の軍隊の駐留を拒否することに同意した」と、ウクライナ代表団のメンバー、アレクサンドル・チャルイは語った。
他国から攻撃されたら同盟国が守ってくれると「法的拘束力がある形で、明確に保証されるなら」、ウクライナは安心して「核を持たない非同盟の永世中立国」になれる、というのだ。
一方ロシア側は、キーウとチェルニヒウにおける軍事活動を縮小すると約束した。キーウの150キロ北東に位置するチェルニヒウはウクライナ軍の北部作戦司令部がある軍事都市で、ロシア軍が激しい攻撃を続けてきた。地元の自治体職員によると、人口30万人の半分以上が既に避難したという。
それでもロシア軍はこの小さな都市を制圧できず、キーウ周辺に大部隊を展開させながらも、この大都市の中心部に進軍もできていない。東部ではウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)もロシア軍の猛攻に耐え続け、南部に位置する第4の都市オデッサも陥落をまぬがれている。その他スムイ、ドニプロ、サボリージャ、ミコライウなどの主要都市もウクライナ側が死守していて、ロシア軍の凄まじい無差別攻撃で廃墟と化したマリウポリもかろうじて持ちこたえている。
「ロシア軍は部隊を再編し、再補給を試みているが、ウクライナ軍は効果的な反撃を試み、ロシア軍を押し返している」と、キーウの北と東、さらに南部の戦況についてDIAの高官は言う。ロシア軍は唯一制圧した南部の都市ヘルソン近郊の空軍基地を拠点にし、南部全域への攻撃を強化する作戦を進めていたが、ここでもウクライナ軍の攻撃で将官が次々に死亡するなど、ロシア軍は作戦変更を余儀なくされた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日、国民に向けた演説でキーウ近郊のイルピンを奪還したと発表し、慎重ながらも楽観的な見通しを語った。「今はバランスの取れた賢明な視点で状況を見守る必要がある。戦果が上がっても過剰に興奮せず......戦い続けなければならない......今こそ冷静さが求められる。過大な期待は禁物だ」
「歩み寄り」はポーズか
ロシアの交渉団を率いるウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官はイスタンブールで交渉を終えた後、ウクライナが「十分に練り上げた明確なプラン」を提示したことに安堵したと語った。ウクライナ側の提案は「精査した上で、国の指導部に報告する」という。
「彼らの提案に対する、われわれの提案も示すつもりだ」と、メジンスキーはその後にロシアの国営メディアRTに述べている。
メジンスキーはまた、ロシアはウクライナ北部での軍事作戦で、ウクライナ側に「大きく2歩」歩み寄ったと語り、ゼレンスキーとプーチンの首脳会談を計画よりも早期に準備する考えも明らかにした。
さらに、ウクライナとの合意にはロシアが併合したクリミアと「ドネツクとルガンスクという親ロ派地域」の処遇は含まれず、これらの地域については2国間の「交渉を通じて、外交的に」解決を探ることになる、とも述べた。
メジンスキーは、北部における作戦縮小で、ロシアが「ウクライナに歩み寄った」ことを認めつつも、「これは停戦ではない」と釘を刺し、合意に至るには「まだ長い道のりがある」と述べて楽観論を封じ込めた。
一方、バイデン大統領は29日にホワイトハウスで行われた記者会見で、ロシア軍の作戦縮小については、その裏にどんな意図があるのか、今後の動きを慎重に見守る必要があると述べた。
「今はまだ何とも言えない。彼らがどんな行動を取るか見極めるまでは判断を差し控える」
ブリンケン国務長官も、ロシアは「またもや人々の目を逸らし、欺こうとしている」ようだと疑念を露わにした。キーウ攻略の手を緩める代わりに、南部の制圧に兵力を集中させ、その後に再び首都を目指す可能性がある、というのだ。
2月24日の侵攻開始以来、ロシア軍の苦戦ぶりとウクライナ軍の強固な抵抗は、軍事と情報の専門家を驚かせてきた。
トッド・ウォルターズ米欧州軍司令官は29日、米上院軍事委員会の公聴会で、ロシアの意図を読み損ね、ロシア軍の能力を過大評価していたことは、嘆かわしい「情報ギャップ」であり、徹底的な検証が必要だと述べた。
ウォルターズによれば、ロシア軍は物量ではウクライナ軍より圧倒的に有利で、しかも既に兵力の70〜75%をウクライナに投入しているにもかかわらず大苦戦しており、もはや余力はほとんど残っていない。精密誘導弾は既に弾切れとなり、無誘導爆弾を連発するありさま。本国から続々と補給部隊が送り込まれているが、最新型の戦車やその他の兵器をウクライナに投入することを、ロシアはためらっているという。
極超音速巡航ミサイルの使用については一部にエスカレーションとの見方もあったが、ウォルターズは、ウクライナを実験場にした新たな兵器の「能力を誇示」だったとの見方を示した。「実験が成功だったとは思わない」
またウクライナ軍部隊は「きわめて学習が速く」、ロシア軍を撃退することもできるかもしれないと「楽観的」に考えるようになっている、とも語った。
ウクライナ軍参謀本部は2週間前から、ロシア軍の各部隊が「大都市を制圧する」という目標を断念しつつあると指摘してきたが、ウォルターズも「まさにその通りのことを目撃している」と述べた。
ベラルーシ軍部隊が帰還
アメリカの有識者たちは、ロシア側の消耗や破たんを示す兆候はほかにもあると指摘する。米空軍の元高官で、現在は防衛関連の事業を請け負う人物は、「ロシアの多くの兵士は食料、燃料から士気まで使い果たし、ロシア軍はそれを戦闘能力のある集団と入れ替えることができていない」と本誌に語った。
ロシア軍は疲弊した地上部隊を温存するため、「非誘導型の」無差別爆弾や長距離ミサイルを多用した。迫撃砲や多連装ロケット砲の発射頻度を間引きさえした、と指摘する。「弾薬を節約するためだ」と、元高官は言う。
ベラルーシ軍の複数の部隊が本拠地に帰還したことが確認されたという事実も、ロシアの戦略転換を伺わせるものだ。前述のDIAの高官は、「ウクライナ当局は何週間も前から、ベラルーシの参戦を警戒してきたが、今ではその可能性は低いように思える」と語った。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2月24日にウクライナでの「特別軍事作戦」の実施を発表した際、その目的について、ロシアとの国境沿いにあるウクライナ東部のドンバス地方に多く暮らしている、ロシア系住民を守ることだと説明していた。彼はまた、同作戦は「ウクライナの非武装化と非ナチ化のため」だとも述べていた。
「この作戦の目的は、8年間にわたってウクライナの政権に虐げられ、ジェノサイド(集団虐殺)に遭ってきた人々を保護することだ」とプーチンは主張した。
侵攻当初、ウクライナ全土にわたるより広い領土の制圧を目指すかに見えたロシア軍は、ドンバス地方での支配を確固たるものにすることに重点をシフトさせてきた。西側の複数の有識者はその狙いは、ウクライナを朝鮮半島のように恒久的に分断支配することではないかと推測する。
DIAの高官は、別の見方をする。「プーチンはこれで、『ウクライナの非武装化と非ナチ化』という当初の大言壮語をなかったことにして、(ドンバスの解放という)今回の戦争を始めたそもそもの目的を達成したと、勝利宣言することができる。このように限定的な目標に重点を置くやり方は、ウクライナの政権交代を断念したことを目立たせず、またウクライナの占領を『西側諸国による作り話』だと主張するための策略なのかもしれない」
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は3月29日に会見を行い、特別軍事作戦の最大の目的は常にドンバスの「解放」だったとして、「作戦の第一段階の主な任務は完了した」と述べた。さらに彼は、「ウクライナ軍の戦闘能力は大幅に低下した」と述べ、ウクライナの「非武装化」という目的も達成したかのような言い方をした。
だがブリンケンは、「彼らがウクライナの東部や南部『だけ』に集中する」というのは「ごまかし」で、ロシアが戦略転換したという話は信じられないと主張した。「事態が前進している証拠も、ロシアが真剣であることを示す兆候もみられないからだ」
双方が勝利宣言できる
アメリカ同様、イギリスも現在の停戦協議については懐疑的な見方をしている。イギリスのリズ・トラス外相は「停戦協議の中で、ウクライナがロシアに売られることがあってはならないし、プーチンが侵略によって利益を得ることがあってはならない」と、述べた。「ロシアとの今後のいかなる交渉も、ウクライナを売り渡したり、過去の過ちを繰り返したりする結果にならないようにしなければならない」
では全てを手にするか、全てを失うかのどちらかしかないのだろうか。DIAの高官は、「誰が今回の惨事の責任を問われるのかをめぐって、モスクワでは既に深刻な内紛が起きている」と述べ、ロシアの指導部は戦争の終結を視野に入れていると示唆した。「一連の誤算のおかげでプーチンの立場は弱くなっており、ロシア経済は大きな打撃を受けている。全ては一変し、決して元通りになることはないだろう。だが現在進行中の戦争の終結に関して言えば、あらゆる兆候が、事態が正しい方向に進んでいることを示している」
またこの高官は、プーチンが勝利を宣言することができるのと同様に、ゼレンスキーとウクライナも勝利を宣言することができると指摘した。ロシア軍を撃退し、独立国家としての揺るぎない自覚を確立した。そして大国に立ち向かう小国の手本を示したのだから。
ウォルターズは米議会での証言で、ロシア軍はウクライナ国民の「心に恐怖を植えつける」ことに失敗したと指摘した。だがDIAの高官は、ウクライナはロシアのこれ以上の侵略を阻止することはできるかもしれないが、「ドンバス地方のルガンスクとドネツクをロシア軍が掌握している現状を覆すことはできないだろう」と言う。
「もはやこの戦争で誰も勝者になり得ないなか、今週の一連の殺りくはとりわけ愚かなものに感じられた」とこの高官は語る。「一方がどこかでわずかな戦果を勝ち取れば、もう一方がまた別のところでわずかな戦果をもぎ取っている。だがどちらも、相手を完全に圧倒することができる状況にはない。この戦争にはもう何も残っておらず、ただ無実な一般市民が板挟みになっているだけだ」
ゼレンスキーはテレグラムに投稿した2つ目のメッセージの中で「もちろん、さまざまなリスクがある。当然ながら、我々に対して戦争を仕掛けてきた国の代表の言葉を、信用する理由はない」と述べた。つまり「事実を検証せずに信じることはない」ということだ。
DIAの高官は、「バイデン政権は、この戦争の終結に向けた方針を何も持ち合わせてないように見える」と言う。「戦争犯罪を追及するのもいいだろう。ロシアの撤退を求めるのもいいだろう。だがこうした幻想のような方針以外の何かがあるのだろうか。私たちは、戦争の終結を促すためだけに支援を行っているのではない。停戦協議を意義あるものにするためにできることもたくさんあるはすだ」 
 

 

●いよいよ自壊が始まったプーチンのロシア帝国 3/31
プロローグ/2月24日、全面侵攻開始
筆者は2月9日、JBPressに「ウクライナ侵攻で得するのは、ロシアではなく米国だ」の記事の中で、ロシア軍のウクライナ侵攻はあり得ない旨の論考を発表しました。筆者はロシア軍によるウクライナ侵攻はあり得ないと考え、そのように主張してきました。ロシア軍がウクライナに侵攻する意味も意義も大義もないからです。しかし、2月22日の朝目覚めたら、世界は一変していました。ロシアのV.プーチン大統領(69歳)がウクライナ東部2州の親露派が支配する係争地を国家承認したというのです。
この日一日、筆者は文字通り脳死状態でした。これは明らかに2015年の「ミンスク合意2」に違反します。方針大転換の日はモスクワ現地時間2月21日深夜。プーチン大統領はロシア高官全員から賛意を取り付けた上で上記2州の国家承認を行う手続きを開始する予定でした。しかし、KGB(ソ連国家保安委員会)後輩のS.ナルィシュキン対外諜報庁長官は逡巡し、本心では反対の様子でした。付言すれば、未確認情報ながら、ほかにも異を唱えた人物がいた模様です。2月24日には米露外相会談が予定されており、その場で次回米露首脳会談の日程が協議されることになっていたので、このタイミングでウクライナ東部2州の係争地を国家承認することは無意味でした。なぜなら、この2州の係争地は既に実質モスクワのコントロール下にあるのですから。その後、事態は急速に悪化。プーチン大統領は2月24日にウクライナ侵攻作戦を発動、ロシア軍が対ウクライナ国境を越えて全面侵攻開始。その後の欧米側からの大規模経済制裁強化措置は当然の帰結と言えましょう。筆者は当初より、ロシア軍のウクライナ侵攻はあり得ない・あってはならないと考えていたので、予測は大外れ。ウクライナ侵攻は万死に値する愚行と言わざるを得ません。
当時、一部の軍事評論家は「ロシア軍がベラルーシ側から侵攻すれば、首都キエフはあっと言う間に陥落します」とテレビで解説していました。米WP(ワシントン・ポスト)紙は情報筋の話として、「ロシア軍が軍事侵攻すれば、キエフは2日間で陥落する」などと報じていました。ところが、ロシア軍のウクライナ全面侵攻開始から既に1か月以上経過した現在、戦線は膠着状態となり、その後の戦闘は誰も予想だにしなかった・できなかった展開になりました。プーチン大統領はなぜ不合理・不条理なウクライナ全面侵攻に踏み切ったのでしょうか?
本件に関し最近、プーチン大統領は人が変わったとか発狂したのではないかとの憶測も流れるようになりました。しかし筆者は、生来備えていた負の側面が、一番悪い形で一番悪い時期に火山のごとく噴出したものと考えます。すなわち、同じプーチン・コインの表裏が入れ替わった姿が今回のウクライナ軍事侵攻と考えております。では、今後ロシア・ウクライナ関係はどうなるのか、プーチン・ロシアは今後どうなるのか、筆者の独断と偏見と想像を交え、予測大外れの恥を忍んで「敗軍の兵、将を語る」ことにした次第です。筆者の結論を先に書きます。プーチン・ロシアは内部から自壊すると予測します。本稿では、旧ソ連邦・新生ロシア連邦における治安・情報機関の変遷とプーチン人物像を概観し、プーチン・ロシアの近未来を考察したいと思います。
第1部:旧ソ連邦・新生ロシア連邦の情報機関
プーチン大統領がKGB出身であることは秘密でも何でもありません。本人が公表しています。本稿では、旧ソ連邦と新生ロシア連邦における情報機関の変遷を概観したいと思います。
   1917年10月革命前夜
最初にKGB誕生の時代背景を概観します。当時のロシアは文字通り波乱万丈の歴史であり、興味が尽きません。一発の銃声が引き金となり、1914年7月に第1次世界大戦が勃発しました。
帝政ロシアでは怪僧ラスプーチンが暗殺され、ロシアは大混乱。1917年3月12日(*旧暦2月27日)の「2月革命」によりニコライ3世は退位、ケレンスキー臨時政府が成立しました。レーニンはかの有名な封印列車で亡命先のチューリッヒから敵国ドイツを通過(*「敵の敵は味方」)、サンクトペテルブルクに凱旋。同年11月7日(*旧暦10月25日)、日本海海戦に参戦した巡洋艦オーロラ号の冬宮(*エルミタージュ)砲撃を合図に水兵が冬宮に突入、ケレンスキー内閣崩壊。この「10月革命」によりレーニンを首班とするソビエト政権が樹立、ここにボルシェビキ(多数派)政権が誕生しました。一方、ロシア国内では赤軍と白軍の内戦が勃発。この機に乗じ、日本軍はウラジオストックに上陸。トルコ軍は黒海のバツーミ(*帝政ロシアのバクー原油輸出港)を制圧、ドイツ軍はウクライナ全土とクリミア半島を占領。その後ボルシェビキ党は分裂し、かの有名なクローンシュタットの反乱が勃発。10月革命に参加した水兵が、10月革命の指導者に反旗を翻しました。この頃から赤色テロが始まり、ポーランド人フェリックス・ジェルジンスキーを初代長官とする秘密警察(GPU)が誕生。この秘密警察組織はその後何回か名称を変更して、ソ連国家保安委員会、現在の対外諜報庁(S.ナルィシュキン長官/旧KGB第1総局)や連邦保安庁(A.ボルトニコフ長官/同第2総局)と名前を変えながらも連綿と続くことになります。なお、ライバルのGRU(赤軍参謀本部情報総局)はトロツキーにより1918年に創設された軍の諜報機関であり、『日本、北進せず』で有名なゾルゲはGRUのスパイです。
   ソ連国家保安委員会/過去と現状
ここでソ連邦時代末期(1991年当時)の国家保安委員会を概観します。
KGB議長:V.クリュチュコフ議長
主要組織 :第1総局〜第9局+国境警備隊(*兵力約30万人)(*第1総局=対外諜報/第2総局=国内防諜/第5総局=反体制派監視/第9局=クレムリン警備隊)
ちなみに、1975年レニングラード大学法学部国際学科を卒業した若きV.プーチンはKGBに入局。ドイツ語能力を買われ、第1総局第4課(欧州担当)に配属。西独・オーストリア担当となり、ジーメンス社を標的としました。
この組織は国境警備隊という軍事組織以外、アルファ・ビンペル・カスカードなどの特殊部隊を有していましたが、当時これらの組織はほとんど知られていませんでした。モスクワにて1991年8月19日クーデター未遂事件発生の際、V.クリュチュコフ議長はアルファ部隊の指揮官カルプヒン将軍に出動を命令、エリツィン・ロシア共和国大統領逮捕を指示しました。しかしこの時、アルファ部隊は抗命。エリツィン大統領は逮捕を免れ、最高会議ビルに籠城。歴史に「もしも」は禁句ですが、もしもこの時エリツィンが逮捕されていればソ連邦は崩壊せず、現在のプーチン大統領も登場しなかったことでしょう。このソ連邦クーデター未遂事件後、強大になりすぎたソ連国家保安委員会をエリツィン共和国大統領は5つの部局(対外諜報庁・連邦保安庁・国境警備隊・連邦通信庁・大統領警護庁)に分割しました。それから2年後の1993年10月4日、エリツィン新生ロシア連邦初代大統領はアルファ部隊に出動を命令。2年前には最高会議ビルに一緒に籠城した、ルツコイ副大統領とハズブラートフ最高会議議長逮捕を命令。これを歴史の皮肉と言わずして、何と言えましょうか。
   治安・情報機関の機構改革(2003年3月)
5分割されたこれらの情報・治安関係機関は2003年3月11日付けプーチン大統領令により、再度大幅に解体・統合されることになりました。参考までに、新組織の概要は以下のとおりです。
国家麻薬・薬物流通取締り監視委員会(*V.チェルケソフ長官/定数4万人)新設。
国境警備隊(21万人):⇒連邦保安庁に統合
連邦通信庁(53400人):⇒解体され、連邦保安庁と国防軍傘下に統合。
税務警察(5.3万人):⇒解体され、2万人を内務省、3.3万人を国家麻薬監視委員会に統合。
内務省:⇒内務省麻薬対策局(人員7千人)を国家麻薬監視委員会に統合。
新設の国家麻薬監視委員会議長には、プーチン側近のKGB同僚(*第5総局勤務)V.チェルケソフ前北西管区大統領代表が任命されました。この人事により、プーチン側近のシロビキ(力の省庁/情報・軍・治安関係者)三羽烏、S.イワノフ国防相・N.パートゥルシェフ連邦保安庁長官・V.チェルケソフ長官が軍・情報・治安機関を掌握したことになります。
   治安・情報機関の機構改革/シロビキ幹部の大異動(2016年)
その後、プーチン大統領周辺では2016年に入り、シロビキ幹部の大規模な人事異動がありました。2016年に入ってからの主要人事は以下のとおりです(SPB=大統領警備局)。2016年2月:SPB出身のA.ジューミン国防次官(43歳)がトゥーラ州知事代行に就任。2016年4月:SPB出身のロシア内務省国内軍V.ゾロトフ総司令官が、4月に新設されたロシア国家親衛隊の総司令官(閣僚待遇)に就任。
2016年5月:Ye. ムーロフ連邦警護庁長官(70歳)からの辞職願を受理して、解職。2016年8月:プーチン大統領の盟友S.イワノフ大統領府長官(63歳)が辞任して、知日派のA.ヴァイノ大統領府副長官(44歳)が長官に昇格。では、上記一連の人事異動が何を意味するのか、プーチン大統領は何を求めていたのか考察します。2016年の人事異動の特徴は、従来“影の存在”であったプーチン大統領の副官が“表の舞台”に登場してきたことです。表の舞台で政治経験を積ませた上で、これらの若手人材の中から後継候補者を選定するプーチン大統領の意図が透けて見えてきます。当時のプーチン大統領が求めていたもの。それは、プーチン大統領周辺のシロビキ間の力の均衡を回復することでした。強大になりすぎたFSB(連邦保安庁)やSVR(対外諜報庁)勢力に拮抗する新たな勢力を台頭させることにより、プーチン政権の安定化を図るものであったと筆者は推測します。
A.ジューミン氏は大統領の身辺警護を担当する連邦警護庁出身であり、2012年より警護庁副長官、2014年から国軍参謀本部情報総局(GRU)副長官。2015年中将に昇進、同年12月国防次官に就任。プーチン大統領側近グループの一人で、プーチン大統領のアイスホッケー仲間です。プーチン大統領もプレイする「夜のアイスホッケー・リーグ」ではゴールキーパーのポジションを務めています。出身地はクルスク、43歳、既婚。プーチン大統領にとり命の恩人であり、2014年2月にはウクライナのヤヌコビッチ大統領クリミア半島救出作戦の指揮を執り、クリミア半島併合作戦の総指揮官とも噂されています。
現政権幹部の信任も厚く、彼に欠けているものは政治手腕のみ。そこで2016年、プーチン大統領は彼に政治家としての修業の場を与え、大統領後継者として育成するとの見方が有力でした。プーチン大統領は2016年4月5日、国家親衛隊新設構想と、連邦麻薬流通取締庁(FSKN)と連邦移民庁(FMS)を廃止して全権限を内務省に移管する構想を発表。FSKNの V.イワノフ長官(66歳)はKGB時代のプーチンの上司にあたります。国家親衛隊は従来の内務省国内軍を母体として創設され、特別任務機動隊オモン(OMON)や特殊即応部隊ソーブル(SOBR)、国営警備会社オフラーナなどを吸収し、国内治安や対テロなどを目的とする強大な治安軍隊が誕生することになりました。国家親衛隊総司令官には大統領令により、V. ゾロトフ内務省第1次官兼国内軍総司令官が就任。ゾロトフ氏は閣僚待遇となり、国家安全保障会議メンバーにも選出されました。換言すれば、2016年の機構改革により、旧ソ連邦時代の国家保安委員会の後継機関たる対外諜報庁や連邦保安庁に拮抗する、新たな武力機関が創設されたことになりました。
   プーチン大統領周辺人事/大統領警護隊の地位向上(2022年)
ロシア・プーチン大統領周辺の側近事情が今、大きく揺れ動いています。現在何が起こっているのか結論から先に申せば、プーチン大統領周辺の力の均衡が、旧KGB第1総局(対外諜報/現SVR=対外諜報庁)と第2総局(国内保安/現FSB=連邦保安庁)重視政策から、旧KGB第9局(要人警護/現FSO=連邦警護庁)人脈重用に移りつつあります。連邦警護庁は米国で言えば大統領を警護するシークレットサービスですから、これはプーチン大統領が暗殺を恐れていることを示唆しています。すなわち、プーチン大統領は旧第9局人脈を登用し始め、SVR/FSB人脈のロシア政府内の要職や知事職を徐々にFSO とその傘下のSPB(大統領警護局)人脈が占めるようになりました。
上記より今後、FSB やSVRの相対的地位低下が予見されます。換言すれば、連邦警護庁と対外諜報庁や連邦保安庁の間で対立が表面化することも予見されます。付言すれば、プーチン大統領が政府要人と会う場面ではコロナ感染を恐れて5メートル以上離れた席で会談していますが、これはコロナ感染を恐れているのではなく、暗殺を恐れている証左です。小型拳銃であれば、5メートルも離れていればまず命中しませんので。
第2部 プーチン大統領の人物像
   プーチン大統領誕生(2000年3月現在)
V.プーチン氏は1975年、レニングラード大学法学部卒業後、国家保安委員会第1総局第4課(西欧担当)に入局。KGBには計9局あり、第1総局は対外諜報を専門とする最重要部局でした。プーチンKGB少佐は1980年代後半の5年間、東独ドレスデンに勤務。ベルリンの壁崩壊も経験しています。得意のドイツ語を生かし、西独スパイ網の管理官(ケース・オフィサー)となり、ライプチッヒや東ベルリンにも一時勤務。プーチン少佐は1987年11月21日、「ドイツ(東独)・ソ連邦友好黄金勲章」を授与されました。
彼は後に、「ドレスデン駐在時代が一番幸福であった」と述懐しています。プーチン少佐はドレスデン駐在中、中佐に昇進。1990年に東独勤務終了後、帰任して辞職。同氏はKGB予備役大佐として1990年に予備役編入。その後、レニングラード大学にて学生の監視、サプチャク市長の側近として、サンクトペテルブルク副市長などを務めました。プーチン氏は1998年7月に連邦保安局長官として、ジェルジンスキー広場に建つ懐かしのルビアンカのKGB建物に戻ると、KGB幹部を前にしての第一声が「生まれ故郷の懐かしい両親の家に戻ってきたようだ」。これがプーチン長官開口一番の心情吐露。すなわち、彼は生粋のKGBマンと言えましょう。プーチン首相兼大統領代行は2000年3月の大統領選挙で当選。同年5月、新大統領に就任しました(当時47歳)。
プーチン首相の大統領就任後、プーチン氏の人物像に関する記事はマスコミに登場しなくなり、プーチン大統領の個人情報や家族情報が載るとそのマスコミが閉鎖される事例も出てきました。しかし大統領選挙中はプーチン候補に関する記事が数多く掲載されており、当時サハリン駐在中の筆者はそのような記事を収集・分析しておりました。今回は記事の一つを紹介します。現在のロシアでは掲載不可能な記事ですが、当時は堂々と掲載されており、その意味では今では貴重な情報になりましょう。モスクワの週刊新聞紙「ベルシア」2000年#2はプーチン特集でした。一面トップ記事として、東独シュタージ(秘密警察)の制服を着たプーチン少佐の写真を掲載。ドイツ語のフラクトゥーラ(飾り文字)で“Das ist Putin”(これがプーチンだ)と大書しています。ただし、飾り文字を使用したのはヒトラーを連想させようとしたものと推測しますが、これは間違い。ヒトラーは飾り文字を廃止しました。当時インターネット上で発表されていたプーチン首相の経歴は1975年から1990年まで空白でしたが、「ベルシア」#2はこの空白を埋める貴重な資料でした。
   プーチン大統領代行の人物像(2000年1月現在)
プーチン首相は2000年3月の大統領選挙で当選。生粋のKGB機関員の大統領就任はソ連・露の歴史上初めてのことになりました。旧ソ連邦ではL.ブレジネフ亡き後、Yu.アンドロポフKGB議長が書記長に就任しましたが、彼は元々外交官です。1956年のハンガリー動乱の際、当時のソ連駐ハンガリー大使がアンドロポフであり、ソ連軍介入を要請した人物です。アンドロポフ書記長就任にあたり、イメージ・アップのため、西側諸国に対し「彼は英語が得意であり、こよなくジャズを愛する」という偽情報を流したのもKGBです。
プーチン新大統領就任にあたり、「彼は信頼がおけ、首尾一貫しており、決断力がある。勤務以外ではゲーテとシラーをこよなく愛する、筋金入りの愛国者」との人物像が流れました。この人物像を流した人物こそ東独シュタージのプーチン相棒M.ヴァルニッヒにて、彼は現在、ノルト・ストリーム2社の社長です。プーチン大統領代行誕生後の2000年1月、露マスコミには、大統領代行が唱える「強いロシア」と表裏一体を成すロシア国益論が台頭しました。ロシア史を習った人は、「第三ローマ」論を聞かれたことがあると思います。当時、筆者は久しぶりにこの言葉を聞いた時、我が耳を疑いました。聞き間違えたのかと思ったのです。16世紀の概念が、プーチン大統領代行誕生と共に突然ゾンビのように蘇りました。ビザンチン帝国の首都コンスタンチノープルは1453年に陥落。最後の皇帝コンスタンチヌス11世は首都で戦死。その姪美貌のソフィアは、ローマ教皇の仲介により、モスクワ大公国のイワン3世に嫁ぎました。ビザンチン帝国の紋章「双頭の鷲」が、モスクワ大公国に継承されたゆえんです。イワン3世の孫、イワン4世(1530〜1884年)の渾名はイワン雷帝。恐怖政治を行い、雷帝(グローズヌィ)と称せられたが、頭脳明晰、有能な統治能力を発揮。日本では織田信長の時代です。弱冠17歳にして「皇帝」(ツァーリ)を名乗り、カザン汗国、アストラ汗国、シビル汗国を併合して、領土を拡大。ちなみに、現在のシベリアはこのシビル汗国が語源です。「タタールのくびき」を脱し、ビザンチン帝国の後継者としての地位を確立しつつあったイワン雷帝は自己の帝国と帝位の正当性を求め、ここでロシア正教の神学者が考え出した理論が「第三ローマ」論です。「第一のローマ」は「ローマ帝国」そのものであり、「第二のローマ」は「ビザンチン帝国」、「第三のローマ」が「モスクワ」であるという理論を創作・展開しました。
第3部:プーチン大統領の力の源泉 ロシア産石油と天然ガス
   プーチン大統領の国家エネルギー戦略
プーチン氏は大学の卒業論文にて天然資源の国家統制の重要性を強調しました。プーチン首相は2000年5月大統領に就任。就任後の石油・ガス会社再編成の過程は、まさに国家エネルギー政策の具現化でした。エリツィン前大統領の「弱いロシア」の時代に石油工業省は解体され、大手生産公団は二束三文で民営化され、後にオリガルヒと呼ばれる新興財閥に搾取されました。プーチン新大統領誕生後、ロシアの石油会社は政権に忠実な上昇組と批判的な下降組に分かれ、プーチン新大統領は民営化された石油会社の国家統制を強化・再統合したのです。
ガス工業省は解体されず、コンツェルン「ガスプロム」に変貌。天然ガスの輸送方法はガスパイプライン網であり、パイプラインの分割は不可能のため、統一組織として生き残りました。これが、現在のガスプロムです。今では、ガスプロムは世界最大のガス会社、ロスネフチは世界最大の石油会社に成長。これらの大企業が生み出す富がプーチン大統領にとり「力の源泉」になりました。
   露ウラル原油・北海ブレント・米WTI/週間油価推移概観 (油価:US$ / bbl)
現在の世界最大の産油国・産ガス国は米国であり、米国は石油とガスの純輸出国です。原油の性状(比重や硫黄分含有量等)は採取される油田鉱区毎に異なり、油価に反映されます。ご参考までに、2021年1月から2022年3月までの3油種の週間平均油価推移は以下のとおりです。     
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油(同1.5%程度)です。露ウラル原油の輸出ブランド名はREBCO(Russian Export Blend Crude Oil)で、2006年10月にNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)に登録されました。ちなみに、日本が輸入しているロシア産原油はサハリン-1ソーコル(鷹)原油・サハリン-2サハリンブレンド・ESPO原油は軽質・スウィート原油で、日本はウラル原油を輸入していません。参考までに、2019年のロシア産原油輸入シェアは5.1%、2020年3.4%、2021年3.6%でした。2022年2月24日のロシア軍のウクライナ全面侵攻を受け急騰した油価は先週急落。3月14〜18日の週間平均油価は北海ブレント$109.59/bbl(前週比▲$12.7/スポット価格)、WTI $100.43(同▲$12.96)、ウラル原油(露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$73.14(同▲$19.67)となり、特にウラル原油が暴落。この結果、ウラル原油と他の油種との価格差が過去最高のバレル30ドルとなりました。これは、露ウラル原油が市場から敬遠されていることを示唆しています。
   米国のロシア産原油・石油輸入量
米国はロシア産原油(ウラル原油)と重油を輸入しています。特に、2019年から増えました。米国は従来、ベネズエラ産重質油を輸入していましたが、ベネズエラの大統領選挙に介入した結果、同国との外交関係が悪化。ベネズエラ産重質油が入らなくなり、2019年から代替品としてロシア産原油(ウラル原油)と重油輸入を拡大。これが、2019年から米露エネルギー貿易が急拡大した背景です。米EIA(エネルギー省エネルギー情報局)発表のロシア産原油・石油製品・石油(原油+石油製品)輸入シェアは以下の通りです。
この数字からも、原油なのか・石油製品なのか・石油(原油+石油製品)なのか、言葉(単語)を正確に使うことがいかに重要であることかお分かりいただけると思います。日本の場合は上述どおり石油製品を輸入していないので、結果として「原油輸入=石油輸入」になります。この辺から原油=石油と報じているのかもしれませんが、言葉は正確に使いたいものです。
   米国/ロシア産原油と石油製品の輸入割合/単位:mbd=百万バレル・日量
米国はロシア軍のウクライナ全面侵攻に対する経済制裁措置強化の一環として、ロシア産石油(原油+石油製品)の輸入禁止措置を発表。ベネズエラ産重質油の代替原油たるロシア産原油(ウラル原油)と重油の代わりに、また元のベネズエラ産重質油の輸入再開交渉に入りました。米国はメキシコやブラジルとも重質油供給拡大問題に関する交渉を開始。かくしてロシアは石油・天然ガス市場を失いつつあり、ロシア経済衰退は必至と言えましょう。繰り返しになりますが、原油と石油は異なります。米国のロシア産石油禁輸に関して日本では今でも原油禁輸と報じられていますが、正しくは石油禁油です。ロシアの石油を報じるのであれば、マスコミ関係者はもう少し勉強した方がよいと思います。
エピローグ/自壊する帝国プーチン・ロシア
沈みゆく船から真っ先に鼠が逃げ出すがごとく、プーチン周辺では側近のプーチン離れが加速しています。側近が次々と離反するプーチン政権は早晩自壊必至と言えましょう。政権中枢からA.チュバイス大統領特別代表が辞任して、ロシアを去りました。彼は無名のプーチンKGB予備役大佐をレニングラード市役所からクレムリンに就職の世話をした大恩人です。
彼の“ひき”がなければ、現在のプーチンは存在しません。その恩人がウクライナ戦争に反対して辞任しました。ロシア中銀のE.ナビウーリナ総裁も辞表を提出しましたが、プーチン大統領は辞表を受け付けなかった由。彼女は西側金融界から信頼されている、数少ないロシア高官の一人です。彼女が辞任すれば、ロシア金融界は崩壊するでしょう。A.ドボルコビッチ元副首相も政府系スコルコボ財団総裁を辞任しました。残る大物はA.クードリン会計検査院総裁です。彼は初期プーチン政権では財務相と副首相を務めた、ロシア金融界の大物・専門家です。ロシア石油基金を創設したのもクードリン元財務相でした。この意味でも、彼の去就が注目されます。今までのプーチン大統領の対米外交は上手く進展していたと筆者は考えております。後1週間我慢すれば、望み通りのものが手に入らなくとも、多くの外交成果が期待できたはずです。象徴的な言い方をすれば、「ミンスク合意2」から7年間待ったのですから、あと7日間待つことはプーチン大統領の選択肢にあったはず。そして、1週間後にはロシアの歴史の新しい1ページが拓かれていた可能性も十分あったと、筆者は今でも考えております。では、なぜあと7日間我慢できなかったのでしょうか?外交交渉が成立・合意すると困る勢力が存在したことが考えられます。そして、困る勢力とは畢竟、プーチン大統領本人だったのかもしれません。
最後に、今回のウクライナ侵攻とプーチン大統領の近未来を総括したいと思います。ただし、現在進行中の国際問題ですので、あくまでも2022年3月28日現在の暫定総括である点を明記しておきます。
筆者の推測ですが、ウクライナへのロシア軍関与は当初、「ロシアがウクライナ東部2州の親ロシア派が支配する地域を国家承認する→その国からロシアに対し、治安部隊の派遣要請を受ける→ロシア治安部隊が平和維持軍として派遣される」との限定的作戦だったと考えます。期首目的はウクライナ限定侵攻のはずが、プーチン大統領に対してウクライナ短期制圧可能との楽観的情報のみが報告され、プーチン大統領の野望によりウクライナ全面侵攻となったと推測します。そう考えると、すべて辻褄が合います。ウクライナ全面侵攻2日後には、ロシア国営ノーボスチ通信は、誤って予定稿の「勝利宣言」を流してしまいました。対ウクライナ全面侵攻に踏み切ったことはプーチン大統領の誤判断であり、この戦争はロシアの戦争ではなく、“プーチンの戦争”と言わざるを得ません。プーチン大統領が当初描いていた電撃作戦による短期決戦・ウクライナ制圧構想は挫折しました。ロシア国内では既に厭戦気分も出ており、今後支持率低下は必至と筆者は予測します。プーチン大統領支持率が低下するとロシア国内が流動化することも予見され、今回の軍事侵攻は「プーチン時代の終わりの始まり」を意味すると考えます。ロシアはプーチン大統領の所有物ではなく、ロシア悠久の歴史の中で彼は一為政者にすぎません。その一為政者がロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に最大の汚点を残す侵略者になりました。プーチン側近の治安・情報関係者間の対立も噂されており、今後、本人の失脚もあり得ます。今回のウクライナ軍事侵攻はプーチン・ロシアの自壊を意味することになるでしょう。 
 
 
 

 



2022/2-3
 
●「モスクワ川に浮くぞ」警告が… 「恐さがなければ大統領はつとまらない」 2014/3
選挙で「うんと悪い候補者」を排除
筆者の政治感覚は、標準的な日本人と比較するとすこしずれているような気がする。選挙とは、われわれの代表者を政治の場に送り出すことと頭ではわかっているのだが、どうも皮膚感覚がついていかない。
われわれの日常生活とは次元の異なるところから候補者が降ってくる。「悪い候補者」と「うんと悪い候補者」と「とんでもない候補者」だ。その中から「悪い候補者」に一票を投じ、「うんと悪い候補者」と「とんでもない候補者」を排除するのが選挙であるというのが、筆者の率直な認識だ。これはロシア人の標準的な選挙観だ。
筆者は1987年8月から1995年3月までモスクワの日本大使館に外交官として勤務した(正確に言うと最初の1988年5月まではモスクワ国立大学で研修)。
その間に1991年12月のソ連崩壊があった。まず、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長が進めたペレストロイカ(立て直し)に対する期待感と幻滅を目の当たりにした。中途半端な経済自由化によって、指令型計画経済のネットワークが崩れ、石けんや砂糖さえ満足に手に入らなくなった。
また、アゼルバイジャンとアルメニアの民族紛争、沿バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)のソ連からの分離独立運動の現場を見た。ナショナリズムの力が、創造性、破壊性の両面において、桁違いに大きいことを実感した。
「モスクワ川に浮くぞ」と警告
ソ連崩壊後のロシアで、もはや秘密警察を恐れることはなく、自由に政治活動、経済活動ができるというユーフォリア(陶酔感)を一時期、筆者もロシア人と共有した。しかし、その陶酔感は、ソ連崩壊から1年も続かなかった。「ショック療法」と呼ばれる新自由主義的な経済改革が行われ、1992年のインフレ率は2500パーセントに達した。
ソ連時代の国有財産のぶんどり合戦が始まり、経済抗争はある閾値を超えるとカラシニコフ自動小銃で処理されることを知った。筆者が親しくしていた銀行会長とスポーツ観光国家委員会の次官が、カラシニコフで蜂の巣にされて生涯を終えた。
利権抗争ではないが、北方領土関係でクレムリン(大統領府)と議会に対してロビー活動を行っていたら「モスクワ川に浮くぞ」と警告されたことが複数回ある。秘密警察関係者からの政治絡みの警告だったこともあるが、北方四島周辺の密漁で外貨を稼いでいるマフィア関係者と手を握った官僚からの警告だったこともある。後者の方が恐かった。
日本に戻ってきたのは、1995年4月だが、その後もロシア各地に頻繁に出張した。特に1997年11月に西シベリアのクラスノヤルスクで橋本龍太郎首相とエリツィン大統領が会談し、北方領土交渉が動き始めてからは、3、4週間に1回はモスクワに出張した。
そのような状態が2001年4月に小泉純一郎政権が成立し、田中真紀子氏が外相に就任するまで続いた。それだから当時のロシアの雰囲気が脳裏に焼き付いている。
プーチン独裁を正当化する“伏線”
現在のロシアでは「混乱の90年代」という表現がなされることがある。エリツィン時代は、過度な民主化、自由化のために社会が混乱し、国民にとって不幸だったという意味である。ロシアの義務教育9年生(日本の中学3年生に相当)でもっとも広く用いられている「プロスヴェシチェーニエ(啓蒙)」出版社の歴史教科書において、エリツィン時代は次のように総括されている。
〈1990年代には、ロシア連邦を再建し、その統一性を保持し、国の連邦体制の新たな原則を定着させることに成功した。中央と地方の関係は、より対等になった。この関係は、多民族国家の現代的な発展傾向を考慮したのであった。これが連邦建設の主な結果であった。
対立をすべて抑え、問題をすべて解決することはできなかった。地方との関係で連邦中央政権の役割は弱体化した。その一方で、民族問題がますます大きな意義をもった。ロシア人の民族運動が活発化し、その指導者は、ロシア人の諸問題に政権の関心が払われないことに不満を示した。
ロシアの領土保全は、依然としてもっとも喫緊の課題のひとつであった。ロシアは、ソ連がたどった崩壊への道を繰り返しているように思われた。中央の経済的・政治的意義の低下は、地域間の結束を弱め、連邦権力の参加なしでもすべての問題が解決できるという印象を与えた。チェチェン共和国での失敗は、国の他地域の分離主義者を奮い立たせ、民族政策を変更する必要性が生じた。〉(アレクサンドル・ダニロフ/リュドミラ・コスリナ/ミハイル・ブラント[寒河江光徳他訳]『世界の教科書シリーズ32 ロシアの歴史【下】 19世紀後半から現代まで―ロシア中学・高校教科書』明石書店、2011年)
エリツィン時代に「ロシアは、ソ連がたどった崩壊への道を繰り返しているように思われた」という評価は辛辣だ。現在のロシア政府は、あのままエリツィン路線が続いていたら、ロシア国家が崩壊していたという認識を義務教育で、生徒に叩き込んでいるのだ。これは、プーチンによる独裁に限りなく近い権威主義的体制を正当化する伏線でもある。
KGB出身で「しかるべき秩序」をもたらした
プーチン政権の誕生について、この教科書の記述を見てみよう。
〈ロシアの第2代大統領となったウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチンは、1952年10月7日に生まれた。レニングラード国立大学法学部を卒業したのち、1975〜1991年まで国家保安機関に勤務した。1991〜1996年までサンクトペテルブルク副市長を務め、その後、ロシア大統領府へ転属し、短期間のうちに大統領府副長官に上り詰めた。
1998年にプーチンは連邦保安局(FSB)長官に任命され、1999年の夏にはロシア連邦首相に就任した。
2000年3月26日の大統領選挙で、V・V・プーチンは、第1回投票で勝利を獲得し、ロシアの第2代大統領に選出され、同年5月7日に大統領に就任した。(略)
V・V・プーチン大統領は、ロシアにおけるあらゆる進歩的改革を保障する強力な国家権力の推進者であることを鮮明にした。したがって、新大統領の最初の方針は、社会活動における国家の権威と役割を強固にし、しかるべき秩序をもたらすことに向けられた。
こうして、1990年代に行われた民主主義路線はこれまで通り継承された。〉(前掲書)
プーチンが、KGB(ソ連国家保安委員会)出身で、「社会活動における国家の権威と役割を強固にし、しかるべき秩序」をもたらしたことを強調している。
国内に統一した法治社会を復活
具体的には、中央集権の強化である。プーチンは、ロシアを構成していた諸連邦を、7つの管区に集約し、各管区に大統領全権代表を置いた。
〈(それまで各連邦で)採択された3500以上の法令は、ロシア憲法や連邦法に合致していなかったため、そのうちの5分の4が改正された。
こうした措置は、地方における中央権力の役割を強化させ、連邦を強固にし、ロシア国内に統一した法治社会を復活させることになった。〉(前掲書)
さらには連邦会議(上院)も、それまでは各連邦の知事と議会議長から構成されていたのが、立法機関からの選出と、プーチンが指名した行政の長により任命された地方の代表者で構成されるようになった。さらには、
〈ロシアの多党制も改善されつつあった。政党法は、国民の大多数の支持を得ている組織のみを政党と認めた。結果として、国家活動における政党の意義が高まった。〉(前掲書)
地方の自治権を取り上げて、中央集権制を強化することをプーチンは「法の独裁」と名づけた。教科書では、プーチンが好んで用いた「法の独裁」という言葉を記録していない。スターリン時代に「プロレタリアート独裁」の名の下で、大規模な人権弾圧が行われたことを髣髴させるからであろう。
地方が採択した法令の8割が変更されるというのは、統治のゲームのルールの大きな変化だ。知事選挙も廃止し、中央政府による任命制になった。さらに検察、警察、FSBなどの「力の省庁」を用いた統治メカニズムが導入された。
さらに、プーチンは国家統合を強化するためのシンボル操作を行った。
〈ロシアの国家シンボルの問題をめぐる無益な争いは、約10年にわたって続いていた。プーチン大統領は、様々な社会階層の立場を近づける妥協案を提示した。2000年12月に国家会議(下院)は、ロシアの国家シンボルに関する法律を採択した。白・青・赤の3色旗と双頭の鷲の紋章は、ロシア1000年の歴史を想起させるものである。大祖国戦争におけるわが国民の勝利の赤旗は軍旗となった。ソ連国歌のメロディーにのせられたロシア国歌は、世代の統一と、わが国の過去と現在、未来の不可分な結びつきを象徴している。(略)
V・V・プーチン新大統領の活動は、社会の賛同を得た。大統領の最初の任期終了までに、ロシア国民の約80%がプーチン大統領を支持した。〉(前掲書)
「教育とは暗記なり」が常識
この教科書には、課題がついている。例えばこんな内容だ。
〈社会的・政治的安定の達成は、過去2年間のもっとも重要な成功のひとつと認識されています。なぜ現代ロシア社会がそれほど強く安定を求めているのか、クラスで議論しましょう。安定は何によってもたらされますか。何のために安定が必要なのか、改革の成功のためなのか、あるいは改革から徐々に脱却するためなのか、考えましょう。大統領と政府は、この問題に対してどのような立場をとっていますか。本文中やマスメディアの資料を用いましょう。〉(前掲書)
ロシア人は、6、7歳の子どもでも、本音と建て前の区別がつくようになっている。
「何のために安定が必要なのか、改革の成功のためなのか、あるいは改革から徐々に脱却するためなのか、考えましょう。」という設問に対して、「改革から徐々に脱却するためです」という間抜けた答えをする生徒は1人もいない。
そもそも義務教育段階では、「教育とは暗記なり」というのが、ロシア人の常識だ。教師が提示する模範解答を丸暗記するのが、常識である。
「真の改革のためには、秩序と安定が必要だ。プーチン大統領と政府は、ロシアの国家体制(госудáрственность、ゴスダルストベンノスチ)を強化するために全力を尽くしている。この路線を国民も支持している」というのが模範解答である。
現実問題として、ロシア人は、プーチン政権の現状を消極的にではあるが、支持している。ロシア人にとって、そもそも政治は悪である。政治における最大の悪は、スターリンのような、政治、経済、文化だけでなく、人間の魂も支配しようとする独裁者が現れることだ。
また、政治指導者が弱く、国内が混乱することも、ロシア人の考える巨悪である。そう考えると、ゴルバチョフのペレストロイカやエリツィンの改革も巨悪なのである。
現在のロシアには、そこそこの言論、表現の自由がある。経済活動も、プーチンの設定したゲームのルール、すなわち「経済人は政治に嘴を差し挟まず、金儲けに専心し、税金をきちんと納める」という原則さえ守れば、自由にできる。
そもそも良い人は政治家にならない。プーチンは悪い政治家である。しかし、うんと悪い政治家、とんでもない政治家ではない。まあ、この程度の独裁者ならば許容できるというのが、ロシア大衆の平均的感覚なのだ。
「プーチンのような恐さがなければ…」
普通のロシア人とプーチンについて議論すると、
「昔のような熱い支持はないよ。もう飽きた。しかし、プーチンの代わりに大統領を務めることが出来る人もいない。メドベージェフの小僧が大統領をやったが、力量不足だ。あいつは、ツイッターで軽々に発信する。それに英語でちゃらちゃら話をするあたりが軽い。プーチンのような恐さがなければ、ロシアで大統領はつとまらない」という返事が返ってくる。
世論調査の結果でも、2013年11月の大統領支持率は61パーセントに過ぎない(2013年12月3日ロイター)。プーチンを熱烈に支持する発言をするのは、クレムリン、政府、議会与党、社会院(社会の代表者から構成されているという建前の機関だが、実態は謎で、クレムリンの裏工作に従事している)の関係者だ。プーチンをぼろくそに非難するのは、一部の知識人とジャーナリストだけである。こういう人たちは、基本的に西欧派的な世界観を持った人だ。 
 
●「クソ野郎」と公然と言い放つプーチン大統領に強烈な質問をぶつける… 2014/3
独裁者との対話
世論調査の結果でも、2013年11月の大統領支持率は61パーセントに過ぎない(2013年12月3日ロイター)。プーチンを熱烈に支持する発言をするのは、クレムリン、政府、議会与党、社会院(社会の代表者から構成されているという建前の機関だが、実態は謎で、クレムリンの裏工作に従事している)の関係者だ。プーチンをぼろくそに非難するのは、一部の知識人とジャーナリストだけである。こういう人たちは、基本的に西欧派的な世界観を持った人だ。
その1人に著名なジャーナリストのマーシャ・ゲッセンがいる。彼女はユダヤ系で、1967年にモスクワで生まれ、81年に米国に移住した。ソ連崩壊直後の91年末にロシアに戻り、米国とロシアの二重国籍を持つジャーナリストとして活躍した。プーチン政権に対する批判を強め、2013年5月に拠点を米国に移してジャーナリスト活動をしている。
2012年9月にゲッセンは、クレムリンでプーチンと面会している。その記述を読むと、プーチンの独裁者としての実態が浮き彫りになる。当時、ゲッセンは『世界を巡る』という科学雑誌の編集部に勤務していた。ペスコフ大統領報道官から、西シベリアのツルを野生に戻すときに、プーチンがハンググライダーで一緒に飛行するので、それを取材して欲しいという要請があった。プーチンのイメージアップを狙った「やらせ記事」なので、ゲッセンは断った。するとプーチンから直接、アプローチがあった。
プーチンから打ち合わせの電話が
〈翌日(9月2日)の早朝、私は面談取材の仕事でプラハに飛んだ。私はタクシーの中で疲れて、車酔いした。私の電話が鳴ったとき、どこにいるのかわからなくなった。男性の声が電話を切らないように求めた。2分間、私は沈黙を聞かされ、いらついた。「電話を切らないで。私がつなぐから」と先ほどの声とは違う男性の声が耳に入った。私は爆発した。「私は誰かに電話をつなぐように頼んだ覚えはないわ! どうして私が待たねばいけないの? 私に電話したいと言っている人は誰なの? あなたは自己紹介したいの?」。
「プーチンだ。ウラジミール・ウラジミーロヴィッチだ」と電話の向こう側から大統領の声がした。「君がクビになったというのを聞いたよ」と彼は続けた。私はこれが悪ふざけであるかもしれないという実感を、彼が何やら言っている間に、大急ぎで彼に何らかのメッセージを組み立てて話そうとした。「はからずも君がクビになったことについて私はあずかり知らなかった。ところで、私の自然保護活動の取り組みは、政治と分離しがたいものであることを知っておくべきだ。私の立場になれば、自然保護と政治を分離することは困難なのだ」。
この独特の言い回しは、大統領職で威圧しながら、同情を求めるプーチンのお家芸として長らく結びつけられてきたものであった。
「もし異論がなければ、私は我々が会ってこの問題について話し合うことを提案する」と言った。
「異論はありません。しかし、これが悪ふざけでないと私はどうしたらわかるのでしょうか?」
プーチンは打ち合わせを手配する電話を私が受けることを約束させ、そうすれば自分が打ち合わせに現れると約束した。〉(マーシャ・ゲッセン[松宮克昌訳]『そいつを黙らせろ―プーチンの極秘指令』柏書房、2013年)
ゲッセンがプーチンと面談したときの描写が興味深い。プーチンが、非公式の打ち合わせのときにどのような立ち居振る舞いをするかということについての証言は意外と少ない。その意味で、この記述は貴重な資料的価値がある。
「迫害されたジャーナリストの立場が君のキャリアに役立つことになるのかね?」
〈我々が中に入ったときプーチンは、デスクに座っていた。入り口で面会するものと思ったかもしれない訪問客に、そうではなく自分のデスクに近づくよう強いる典型的なロシアの権力者の官僚的な仕草を示すものだった。この執務室は1990年代のクレムリンの時代からあまり変わらない、1960年代の光沢のある木製の家具、大きなデスクに会議テーブルといったソビエト時代のクレムリンにこぎれいに手を加えた感じだった。デスクとテーブルの両方に、ソビエト時代のボタンのないプラスチック電話が置かれていた。完全にクレムリンの定型どおりに、プーチンが我々に挨拶をするために立ち上がる前、我々は部屋の中央に行って待機した。彼は握手をし、会議テーブルに我々を案内した。彼がテーブル先端の中央席に着いてから、ヴァシリエフと私は彼の両脇に座った。ヴァシリエフは顔を赤くして汗ばんでいた。プーチンはちょっと眺めただけではわかりにくいが、かなりの整形手術を施したせいか不相応に大きく見えた。
「会議を始める前に、この会話が意味あるものかどうかを確かめたい。君は自分の仕事が好きかね? もしくは君はたぶん他の計画を持っていて、迫害されたジャーナリストの立場が君のキャリアに役立つことになるのかね?」と彼は言った。
彼は明らかに簡潔な情報さえ事前に与えられていなかった。彼は私が何者であるのかわかっていなかった。彼は本について知らなかったか、デモ運動における私の役割、ロシアの出版界で私が書いてきた彼や彼の行政に関する多くの記事について知らなかった。また彼はこの会議について事前に何らかの情報を求めなかったように思える。さらなる証しは、独裁者ならではの孤立感や自分中心に世界が回っているような自己中心性が目につくようになっていた。〉(前掲書)
「大統領はよいニュースだけを知りたがる」
プーチンは、ゲッセンが彼を独裁者だと激しく非難し、不正蓄財やジャーナリスト暗殺疑惑について書いていることを知らないのである。
ちなみにエリツィンは、新聞を読まず、テレビを見なかった。自分を非難する不愉快な情報を知りたくなかったからだ。ニュースについては、報道担当大統領補佐官がA4判3〜4枚にまとめたサマリーを毎朝、渡していた。筆者がこの補佐官から直接聞いた話だが、「大統領はよいニュースだけを知りたがる。悪い話については、それへの対策を記しておかないと機嫌が悪くなるので、この作業には神経を使う」ということだった。プーチンもエリツィンと同じような状態になっているのであろう。
プーチンは、環境保護に強い関心を持っている。ゲッセンの著書から引用を続ける。
ゲッセンからプーチンに強烈な質問
〈「結構だ。それでは我々は話し合える。私は子猫や子犬、小さな動物が好きだ」と彼は微笑んだ。彼は絶滅危惧種のための彼の公共的努力が重大な問題に対する注意を惹くことに役立ったと感じ、「だから、私はシベリア鶴のプロジェクトを考え出したのだ」と言った。
これは私にとってニュースだった。シベリア鶴の個体数を回復するプロジェクトは、1970年代後期に遡る。私は彼にこの考えの提唱者が自分であると主張することによって、彼が何を狙っていたのかを明らかにするよう彼に求めた。プーチンは数年前にこの計画について聞き、この計画に運転資金がないことを知り、この計画に再び支援資金をつけるのが彼の考えだった。〉(前掲書)
このあと、ゲッセンはプーチンに強烈な質問を浴びせる。それまでプーチンが自然保護プロジェクトにおいてやらせを行ってきたことを、直接、ぶつけたのだ。
「言うまでもなく、やり過ぎの事実があったな」
〈「(略)大統領がシベリア虎に衛星送信機の首輪をつけたとき、その虎がハバロフスク動物園から実際に借りてきたものだったことを、おそらく大統領はお気づきのことと思います。大統領が北極グマに送信機をつけたときも、そのクマは事前に捕獲され、大統領が到着されるまで鎮静剤を打たれた状態にされていたのです」と私は言った。
プーチンは「言うまでもなく、やり過ぎの事実があったな」とむしろ陽気な調子で、私の指摘をさえぎり、「私はその仕事をさせるために人を連れて行ったのだ。とはいえ、私にはこの問題に注意を惹かせることがはるかに重要だったのだ! 確かに、雪ヒョウが鎮静剤を打たれていたな」と彼は言った(私は雪ヒョウについては言及しなかったのだが)。「しかし大事なことは、雪ヒョウ・プロジェクト全体を考え出したのは私だったということだ。虎もだ。私がそれを考え出したあとに、虎が生息する20カ国がこの問題に取り組み始めた。言うまでもなく、行き過ぎもあったことは確かだな」と彼は繰り返した。〉(前掲書)
このように、プーチンの方から、自分に不利な事実を語る。これは独裁者の心性を考える上で非常に興味深い。そしてさらに言葉を重ねる。
「私が脳なしのクソ野郎のように…」
〈「あのときのように、私が古代ローマの両手付きブドウ酒の壺を潜水して持ってきたようにね」。
私はプーチンが、古代ローマの両手付きのブドウ酒の壺を2つ抱えて黒海の海底から現れ、カメラに向かってポーズを取った1年前のあのことのあとに、すぐに判明してしまったような、彼が海底で見つけるように用意されていた両手付きのブドウ酒の壺を発見するやらせの類似例を引き合いに出すことなど信じられなかった。
「誰もが両手付きのブドウ酒の壺が用意されていたことを書き始めた。もちろん、それらはこっそりと持ち込まれていたものだよ! 私が海に潜ったのは自分の力を大きく見せつけるためでなかった。そのようなことは、海の中の一部の生物がライバルを威嚇するために自分を大きく見せることと同じさ。あの場所の歴史に注意を惹かせようとして潜ったのだ。あれから誰も彼も、私が脳なしのクソ野郎のように両手付きブドウ酒の壺を持って海中から現れたと書き始めた。ところが一部の人は、実際に歴史の本を読み始めたのだ」
彼が使用した「ムーダク」(引用者注・正しくは「ムダーク」)という言葉は、ロシア人が完全に不適任と見なした人間をけなすときに表現する言葉の一つである。相手を威圧するために自分を大きく見せるようなプーチン流の口の悪い野卑な話し方は、かつて自分がKGB要員のリクルーターのつもりでいた人間としてはひどい失言だった。彼の話し方は、私そして会見にとって穏当なものではなかった。〉(前掲書)
限りなくマフィアの親分に近い雰囲気
ここで、ゲッセンが衝撃を受けた「мудак(ムダーク)」という言葉は、「キンタマ野郎」「クソ野郎」とかいう罵倒語で、高等教育を受けた人間が公の場で使うことはない。ゲッセンが伝えるプーチンの雰囲気は、限りなくマフィアの親分に近い。

筆者は、根っからの功利主義者だ。独裁者プーチンが、情報から遮断された環境にいることは、北方領土交渉にとってプラスになる可能性があると考える。
2月8日、ロシアのソチで行われた日露首脳会談は成功だった。プーチン大統領の安倍晋三首相に対する信頼感が一層高まった。その理由の一つがソチに向けて飛び立つ直前、7日、東京の北方領土返還要求全国大会の挨拶で、安倍首相が「明日、プーチン大統領と、5回目の首脳会談に臨みます。私は、日露関係全体の発展を図りつつ、日露間に残された最大の懸案である北方領土問題を最終的に解決し、ロシアとの間で平和条約を締結すべく、交渉に粘り強く取り組んでまいる決意であります」と述べたことだ。安倍首相が「四島」に言及しなかったことをクレムリンは、日本の新たなシグナルと受け止めている。
今回の首脳会談で筆者が最も注目するのは、谷内正太郎内閣官房国家安全保障局長を安倍首相がプーチン大統領に紹介したことだ。安倍首相が、「谷内さんはお酒を飲めない」と冗談半分に紹介すると、プーチンは「酒を飲めないでいったいどういう交渉をするのか。私の方で何とかしよう」と答えた。
この発言は、谷内氏が、安倍首相の「個人代表」として、今後、プーチンとの連絡係になることを強く示唆する内容だ。プーチンが「私の方で何とかしよう」と述べたことは、今後、首相の個人代表として谷内氏を受け入れるという意味だ。
谷内氏を通じて、北方領土問題解決に関する試案をプーチンに提示してみると面白い。プーチンの腹にストンと落ちると、それが大統領案になる。北方領土交渉に慎重な態度を崩していないロシアの外務官僚も、独裁者の意向に反することはできない。独裁者プーチンの心理に谷内氏が巧みに付け込むことに成功すれば、北方領土交渉の突破口が開けるかもしれない。