過去最大の国家予算

過去最大 「異次元」の23年度国家予算

新規国債発行 35.6兆円
財政健全化 ・・・ 遥か 遠退くばかり
毎年 増え続ける予算 後は野となれ山となれ

政治家の先生方 「先生」で居続けることが最優先 
地元・後援団体・所属団体 バラマキ政治
税金の分捕り合戦 お役人 バラマキのお手伝い

監視役のメディア 気楽な忖度メディアに生まれ変わりました
嫌味な記事は書きません


日本の未来 どなたか絵を描いてください
 


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●厚労省 薬剤費3100億円削減 社会保障関係は前年比4100億円増 12/22
鈴木俊一財務相と加藤勝信厚労相は12月21日、予算編成の大臣折衝で、23年度薬価改定の改定範囲を平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目とし、同時に不採算品と新薬創出等加算品への臨時的特例的な措置を講ずることで薬剤費を3100億円削減することを確認した。国費ベースの削減額は722億円となる。このほか診療報酬上の対応として、医薬品の供給不安に対する医療現場の協力促進として、23年12月末を期限に一般名処方、後発品の使用体制に係る加算、薬局の地域支援体制に係る加算の上乗せ措置を合意した。
大臣折衝では23年度社会保障関係費の伸びを薬価引き下げなどで圧縮し、4100億円程度とすることを了承した。薬価改定による薬剤費削減額は3100億円。内訳は、新薬780億円、うち新薬創出等加算対象が10億円、長期収載品1240億円、後発品1210億円、その他品目+130億円。改定対象品目数は、全体で1万3400品目(69%)。内訳は、新薬1500品目(63%)、うち新薬創出等加算対象240品目(41%)、長期収載品1560品目(89%)、後発品8650品目(82%)、その他品目1710品目(36%)となった。
診療報酬上の対応 オンライン資格確認、医薬品供給不安への医療現場の対応
このほか診療報酬上の対応として、オンライン資格確認の導入・普及の観点から、23年12月末を期限に、初診時・調剤時における追加的な加算、再診時の加算を設定する。さらに加算に係るオンライン請求の要件を緩和するとした。一方、後発品を中心に医薬品の供給不安が医療機関や薬局にも広がっていることを踏まえ、23年12月末を期限に般名処方、後発品の使用体制に係る加算、薬局の地域支援体制に係る加算の上乗せ措置を講ずることで合意した。これら診療報酬上の対応の財政影響額は、医療費で250億円、国費ベースで63億円。
加藤厚労相 医薬品が無い場合の処方替えなど「(医療現場の)負担になっている」
加藤厚労相は大臣折衝後の記者会見で、「医薬品の供給についての理由は2つある。一つはコロナの関係で需要が増えていること。もう一つは後発品メーカーの経営的な問題や生産の問題で結果的に需要が下がっている」と指摘。「実際の医療現場では医薬品が無い場合に処方替えすることがかなりある。これが(医療現場の)負担になっている。そういったことを踏まえて今回は臨時的な対応ではあるが、それに対する加算措置を取ることにした」と説明した。
●23年度予算案の社会保障費36兆円台後半 12/22
政府は22日、2023年度当初予算案の社会保障関係費を36兆円台後半とする方針を固めた。一般会計の歳出総額は114兆円台前半とし、23日に閣議決定する。
●長野県、23年度予算要求 1兆921億円 12/22
長野県は22日、2023年度予算の要求概要を発表した。一般会計の要求総額は22年度当初予算比で0.7%増の1兆921億円だった。新型コロナウイルス対応に関係する予算が高い水準を続けたうえ、社会保障関係費などが膨らんだ。
新型コロナ対応の予算は21年度当初予算比3.2%減の2122億円となった。患者を受け入れる病床の確保に240億円、ワクチン接種体制の確保に47億円、経営が悪化した中小企業向けの制度融資に1668億円を盛り込んだ。
産業関連の新規事業では、電気自動車(EV)関連産業の創出に2500万円、地域ブランド商品を商談会などでPRする事業に3500万円、県内へのデジタル地域通貨導入に向けた研究に3200万円などを盛り込んだ。 

 

●過去最大の23年度予算、日銀緩和修正で超低金利依存から脱却急務 12/23
政府は23日、過去最大規模となる2023年度当初予算案を閣議決定する。日本銀行による予想外の政策修正を受けて市場は来年以降の利上げを織り込み始めており、異次元緩和による超低金利に依存した財政政策からの脱却が急務となる。
ブルームバーグが入手した資料によると、23年度予算案の一般会計総額は114.4兆円程度と防衛費を中心に22年度当初予算から約6.8兆円増え、11年連続で過去最大を更新。税収の増加で新規国債発行は35.6兆円程度と22年度当初の36.9兆円から抑制するものの、国債残高の累増に伴い、国債費は25.3兆円程度と22年度当初から0.9兆円増える見通しだ。
日銀は20日、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の誘導水準を0%程度に維持しつつ、許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。黒田東彦総裁は「利上げや金融引き締めではない」としたが、唐突な政策修正だったこともあり、日銀が再び豹変(ひょうへん)するリスクを市場は意識せざるを得ない状況だ。
21日の債券市場では一時、2年国債利回りがマイナス金利導入前の15年以来のプラス圏に浮上。ブルームバーグのデータによると、先行きの金融政策に対する市場の見方を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS、2年)は0.25%程度と08年のリーマンショック直後以来の水準に上昇している。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、「日銀は利上げではないと言っているが、正常化に向けた流れだとの見方が市場で強まっている」と指摘。「そろそろ政府の方も国債費が増え続けていく可能性に注意を払うべき時期に来ている」との見方を示した。
財務省によると、日銀による金融緩和の長期化によって普通国債の加重平均金利は低下を続け、17年度末に1%を割り込み、21年度末は0.78%まで低下している。一方で国債の利払い費は2000年代半ばを底に緩やかな増加傾向にあり、超低金利下にもかかわらず、国債残高の累増が徐々に財政を圧迫しつつある。
金利が上昇しても発行済みの国債の表面利率は変わらず、利払い費が直ちに急増するわけではないが、残高1000兆円を超える国債が次第に高めの金利に入れ替わるインパクトは小さくない。財務省は、金利が予算編成上の想定(10年国債利回り)よりも1%上昇した場合、国債費は23年度に0.8兆円、24年度に2.1兆円、25年度に3.7兆円増加すると試算している。
「ミスターJGB(日本国債)」と称される財務省の斎藤通雄理財局長は8月のインタビューで、日銀の大規模な国債買い入れと超低金利政策が「未来永劫(えいごう)続くわけではない」とした上で、「発行当局としてできることは何か、何が残っているのか総点検を行い、市場を整備していく必要がある」と述べた。
来年の春闘で相応の賃上げが実現すれば、さらなる異次元緩和の修正も視野に入ってくる。仮に2%の物価安定目標の実現に近づいたにもかかわらず、日銀が緩和政策の継続に固執すれば、今度こそ「財政ファイナンス」との批判から逃れられない。政府と日銀は後手に回らないよう、金融市場の安定確保に向けた一層の連携が必要となる。
岸田文雄政権はこのほど、30兆円近い一般会計の追加歳出を伴う総合経済対策を取りまとめたばかり。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の対策のような大きな財政拡大はなかなか続けられないとし、「長期政権をにらんで政権基盤を強くしていくならば、財政再建は必須だ」と語った。
●23年度予算案、過去最大114兆3812億円 政府決定 12/23
政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決定した。22年度当初予算から6兆7848億円増え、11年連続で過去最大を更新した。110兆円超えは初めて。高齢化による社会保障費の膨張に加え、1兆4192億円の大幅増で6兆7880億円を計上する防衛費が総額を押し上げた。
税収は69兆4400億円と過去最高を見込む。堅調な企業業績や雇用者数の伸びが背景にある。歳出の拡大に追いつかず、35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めする。全体の31.1%を借金に頼る。
政府は今後5年間の防衛費を従来の1.5倍の43兆円程度とする方針。初年度の23年度は前年度から1兆4192億円増やした。伸びは近年の500億〜600億円程度から一気に拡大した。
一般会計の3割を占める社会保障費は36兆8889億円計上した。高齢化による医療や介護の費用の自然増で、前年度から6154億円上振れした。地方自治体に配る地方交付税に一般会計から出す額は5166億円増え16兆3992億円とした。国債の元利払いに充てる国債費は、25兆2503億円と9111億円膨らんだ。
新型コロナウイルス禍で始まった巨額の予備費も引き続き計上した。コロナ・物価高対策で4兆円、ウクライナ危機対応で1兆円を盛った。予備費は政府が閣議決定で具体的な使い道を決められる。国会の監視が及びにくいとの批判がある。 
●予算案を閣議決定、防衛費は過去最大6兆8219億円…GDP比1・19%  12/23
政府は23日、2023年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は114兆3812億円と、22年度当初予算から6兆7848億円増え、11年連続で最大を更新した。防衛力の抜本的な強化に向け、防衛費は過去最大の6兆8219億円を計上し、国内総生産(GDP)比では前年度の0・96%から1・19%に伸びた。〈予算案のポイント12・13面、関連記事3・4・8・9面〉
一般会計の増加幅はリーマン・ショック後の09年度(5・4兆円)を上回り、過去最大となった。予算総額が100兆円を超えるのは5年連続だ。
防衛費では、反撃能力の要となる米国製巡航ミサイル「トマホーク」購入に2113億円を計上。「12式地対艦誘導弾」の改良、量産費用として計1277億円を盛り込んだ。自衛隊の施設整備や艦船建造などの財源に、初めて建設国債4343億円を充てる。
政府は防衛費と関係費の総額を27年度にはGDP比2%に引き上げる方針で、今後5年間の増額分を賄う防衛力強化資金(3兆3806億円)も新設した。
歳出の3分の1を占める社会保障費は36兆8889億円。薬価の引き下げなどで計約1500億円を圧縮したが、自然増などで6154億円増えた。子ども政策では、出産時に給付する出産育児一時金を1人当たり原則42万円から50万円に引き上げる。23年4月に創設するこども家庭庁の関連経費も盛り込んだ。
23年度に初めて発行する国債「グリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債」は、22年度補正予算の事業分と合わせ、計約1・6兆円分を措置する。
公共事業費は26億円増の6兆600億円を確保した。岸田内閣が成長戦略の柱と位置づける「デジタル田園都市国家構想」の交付金には1000億円を充てた。
歳入は、税収を69兆4400億円とし、当初予算として過去最大だった22年度より4兆2050億円増えた。新たな国債(国の借金)の発行額は35兆6230億円と1兆3030億円減ったが、歳出の3分の1を借金で賄う厳しい財政状況は継続する。
前年の22年度当初予算の一般会計歳出は107兆5964億円だったが、その後に1次、2次補正が編成され、総額は139兆2196億円に膨らんだ。23年度も同様に巨額の補正予算が加わり、歳出がさらに膨張する恐れがある。
政府は23年1月に召集される通常国会に予算案を提出し、3月末までの成立を目指す。
●23年度予算案決定、過去最大114兆円 国債依存なお3割 12/23
政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決めた。新型コロナウイルス禍で拡張した有事対応の予算から抜けきれず、膨らむ医療費などの歳出を国債でまかなう流れが続く。米欧で1〜2割前後に下がった借金への依存度はなお3割を超す。超低金利を前提にしてきた財政運営は日銀の緩和修正で曲がり角に立つ。
23年1月召集の通常国会に予算案を提出する。一般会計で当初から110兆円を超えるのは初。
歳出は社会保障費が36兆8889億円。高齢化による自然増などで6154億円増えた。国債の返済に使う国債費は9111億円増の25兆2503億円。自治体に配る地方交付税は一般会計から5166億円増の16兆3992億円を計上した。
切り込み不足で増大するこうした経費をまかなう歳入は綱渡りだ。税収は企業業績の回復で69兆4400億円と過去最大を見込む。それでも追いつかず、新たに国債を35兆6230億円発行して穴埋めする。うち29兆650億円は赤字国債だ。
歳入総額に占める借金の割合は31.1%と高水準。00年代半ばまでは2割台だったのがリーマン危機後の09年度に4割近くに跳ね上がって以降、3〜4割台で推移する。
大規模緩和前の00年代半ば、日本の長期金利は1%を超えていた。10年代に入って長期金利0%台以下になるのに合わせるように政府は国債への依存度を高めた。
各国で基準をそろえた公債依存度をみると日本も米国やドイツといった他の先進国もコロナ下の20〜21年度は一様に4〜5割前後に高まった。米独は22年度に2割台前半に下がった。日本だけが3割台で高止まりする。
コロナ禍や物価高、ウクライナ情勢に柔軟に対応するための予備費は計5兆円を盛り込んだ。危機対応の予算編成がなお続いていることを示す。
結局、次の成長への予算配分は乏しい。脱炭素の研究開発にはエネルギー特別会計で約5000億円を積んだ。量子や人工知能(AI)などの科学技術振興費は微増の1兆3942億円。これらを足し合わせても2兆円程度にとどまる。
経済が停滞したまま債務だけが増大する悪循環の出口は見えてこない。
●次年度予算のポイント 12/23
2023年度一般会計予算案に盛り込んだ「日本が直面する内外の重要課題への対応」の主なポイントは以下の通り。
安全保障・外交
・日本を取り巻く安全保障環境を踏まえ、新たな国家安全保障戦略などを策定。5年間で防衛⼒を抜本的に強化するため、43兆円の防衛⼒整備計画を実施。防衛⼒を安定的に維持するための財源を確保
・主要7カ国(G7)広島サミットや⽇本・ASEAN(東南アジア諸国連合)友好協力50周年などを見据え、「新時代リアリズム外交」を展開するための予算を確保(外務省予算:5年度7560億円、4年度補正と合わせ1兆0233億円)
・地⽅交付税交付金は、リーマンショック後最高の18.4兆円を確保
地⽅・デジタル田園都市国家構想
・デジタル田園都市国家構想交付金(23年度1000億円+22年度補正800億円)により、自治体のデジタル実装の加速化や、デジタルの活⽤による観光・農林 水産業の振興など地⽅創生に資する取り組みを支援
こども政策
・来年4⽉にこども家庭庁を創設
・出産育児⼀時金を42万円から50万円に引き上げ
・妊娠時から出産・子育てまで⼀貫した伴走型相談支援と、妊娠・出生を届出た妊婦・子育て家庭に対する経済的支援(計10万円相当)をあわせたパッケージを継続実施
GX
・「GX経済移⾏債」の発行により、民間のGX投資を支援する仕組みを創設
・2050年カーボンニュートラル目標達成に向けた革新的な技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入などの支援を開始
メリハリの効いた予算
・社会保障関係費+4100億円程度(高齢化による増、年金スライド分+2200億円程度除く)
・社会保障関係費以外+4兆7400億円程度(税外収入の防衛力強化対応4兆5900億円程度を除き、+1500億円程度)
・新規国債発行額を減額(22年度当初36.9兆円→23年度35.6兆円)  

 

●「防衛増税」で自民にしこり、「政治とカネ」でさらなるダメージ… 12/24
続落する内閣支持率
師走は政治が激しく動いた。
旧統一教会をめぐる被害者救済法を臨時国会最終日に成立させた岸田政権は、間髪を入れず「反撃能力」の保有を打ち出し、防衛増税の議論を推し進めた。
防衛力の強化と財源問題で首相自ら陣頭に立ち指導力の回復を狙ったが、自民党内の対立が表面化。増税に対する世論の反発も強く、内閣支持率は軒並み過去最低を更新。
「政治とカネ」の問題も相次いだ。岸田文雄首相は政権浮揚への決め手を欠いたまま、立て直し策を思案している。
「戦後の安保政策を大転換」
政府は23日の臨時閣議で、一般会計総額114兆3812億円の来年度予算案を決定。
このうち防衛費は今年度当初予算比26.4%増、過去最大の6兆7880億円となった。1兆4192億円の増額だ。500〜600億円程度だった近年の伸びから大幅に拡大した。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、岸田首相はかねて「防衛力の抜本的強化」に言及してきた。中国は東アジアで覇権主義的な動きを強め、北朝鮮は性能を向上させたミサイル発射を重ねている。
5月に行われたバイデン大統領との日米首脳会談で岸田首相は、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」との決意を伝えていた。
外交・防衛の基本方針を定める「国家安全保障戦略」など「安保関連3文書」改定の閣議決定は12月16日。
「反撃能力」の保有や防衛関連の予算を2027年度に対GNP比2%へ倍増させることを明記し、23年度から5年間の防衛費総額を現行計画の1.6倍に当たる43兆円とすることを盛り込んだ。
岸田首相は記者会見で「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と強調した。
1兆円増税に自民紛糾
国土と国民を守るための防衛力の整備と防衛費の増額は必要だ。そのための財源の確保も。だが、財源確保策をめぐっては、岸田首相の方針に閣僚や自民党議員から異論が噴出した。
岸田首相が示したのは年間1兆円強の増税方針だ。27年度以降に毎年4兆円の追加の財源が必要だとし、このうち3兆円は歳出改革などで賄うが「残りの1兆円強は国民の税制で協力をお願いしなければならない」と増税を検討するよう与党に求めた。
これに噛みついたのが高市早苗経済安全保障担当相だ。「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された真意が理解できない」とツイッターに投稿。
西村康稔経産相も記者会見で、「大胆な投資のスイッチを押そうとしている時であり、増税は慎重にあるべきだ」と異論を唱えた。
自民党の政調全体会議では「バカヤロー」と怒号が飛び交う事態に。
「拙速だ」、「プロセスに問題がある」など発言者の7割が反対の意見を述べた。また、党内有志議員の会合では「内閣不信任案に値する」といった過激な発言も飛び出していた。
最終決着を先送り
激論の末、自民党税制調査会は増税反対派に譲歩する形で決着を図った。
岸田首相の指示通り税目と税率を税制改正大綱に記載するものの、実施時期は明示せず。判断は来年に先送りとなった。岸田首相がこだわった防衛力強化の内容と予算、財源を「三位一体」で年内に決着させる方針は、あいまいな部分を残す結果に終わった。
政府は27年度に法人税で7000〜8000億円、所得税とたばこ税で各2000億円、合わせて1兆円強を防衛費増額のための財源として確保することを目指している。
しかし、FNN世論調査(17、18日実施)では、防衛費増額の財源の一部を増税で賄うことを決めた岸田首相の方針について、「評価しない」が69.5%と「評価する」の25.6%を大きく上回っている。
自民党内の対立が再燃するのは確実で、増税を実現できるかは不透明だ。
「政治とカネ」で議員辞職
岸田政権では「政治とカネ」をめぐる問題が続いている。
収支報告書への不適切な記載が原因で寺田稔総務相が11月に辞任。秋葉賢也復興相は選挙運動費をめぐる疑惑が指摘され、野党から厳しい追及を受けている。
こうした中、自民党の薗浦健太郎衆院議員が「政治とカネ」をめぐる問題で議員辞職。政治資金パーティーの収入を収支報告書に実際より少なく記載したとして政治資金規正法違反の罪で略式起訴された。
岸田政権へのさらなる打撃は避けられそうにない。
記載しなかった金額は合わせて4900万円に上る。罰金刑が確定すれば、原則5年間、公民権が停止され全ての選挙に立候補できなくなる。
薗浦氏は当初、報道陣の取材に対し「会計責任者が全部やっていた」と説明していた。しかし、東京地検特捜部の事情聴取には一転、「秘書から事前に聞いて知っていた」と自身も認識していたことを認めた。
議員辞職の際、「私にも一定の責任がある。国民の政治不信を招きかねないもので、誠に申し訳なく、心より反省している」とコメントを発表したが、公の場には姿を見せず、説明責任から逃げたままだ。
当選5回、麻生太郎副総裁の側近として知られ、首相補佐官や外務副大臣を歴任したベテラン議員にしては極めて無責任な対応だと言わざるを得ない。
通常国会を乗り切れるか
秋葉復興相をめぐっては、ここに来て政府・与党内で交代論が浮上。来年1月下旬召集の通常国会で野党から追及を受ける前に交代させ、政権運営を安定させたいとの狙いだ。時期も含め岸田首相が最終判断するが、早ければ年内にも交代との見方が出ている。
通常国会は正念場だ。予算案の審議を通じて野党の攻勢にさらされるのは必至。岸田首相の真価が問われる場になる。政権の立て直しなくして150日間の長丁場を乗り切ることはできないだろう。
第二次岸田改造内閣が掲げる基本法方針は「国民の信頼と共感を得る政治」だ。防衛力強化をはじめとする重要課題や「政治とカネ」の問題に改めて正面から向き合い、国民に対する説明責任を果たす。このことに全力を挙げるべきだ。「信頼と共感」はその先にある。
●23年度予算案、閣議決定 12/24
23年度予算案の概要
一般会計総額     114兆3812億円(6.3)
【歳入】
税収        69兆4400億円(6.4)
税外収入      9兆3182億円(71.4)
新規国債      35兆6230億円(3.5)
赤字国債      29兆650億円(5.2)
建設国債      6兆5580億円(4.9)
【歳出】
一般歳出      72兆7317億円(8.0)
地方交付税交付金等 16兆3992億円(3.3)
国債費       25兆2503億円(3.7)
政府は23日の閣議で、2023年度予算案を決定した。コロナ禍や物価高、ウクライナ危機などの難局を乗り越え、未来を切り拓くための予算と位置付け、一般会計総額は114兆3812億円と11年連続で過去最大を更新。子育ての伴走型相談支援と経済的支援の継続実施や出産育児一時金の増額、自治体の脱炭素化促進など、公明党の提言や主張が大きく反映された。政府は来年1月に召集の通常国会に予算案を提出し、年度内成立をめざす。
社会保障費は高齢化で医療費などが増加し、過去最大の36兆8889億円を確保する。地方に配分する地方交付税交付金などは16兆3992億円。防衛費は6兆7880億円とする。
歳入面では、23年度の税収見通しが69兆4400億円となり、過去最高だった22年度当初予算の65兆2350億円を大幅に上回る。税収が増加するため、新規国債の発行額は35兆6230億円と、22年度当初予算(36兆9260億円)から減額する。
23年度予算案は、公明党の強い主張を受け、子育て支援を大きく拡充。22年度第2次補正予算で創設した、妊娠期からの伴走型相談支援と妊娠・出産時に計10万円相当を給付する経済的支援を一体的に行う「出産・子育て応援交付金事業」の継続実施を盛り込んだ。
出産時に支給する出産育児一時金は、現行の42万円から50万円に増額。過去最高の引き上げ幅とした。来年4月に「こども家庭庁」を創設し、子ども・子育て支援を強化することも明記した。
脱炭素化の促進に向けては、「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を発行し、民間のGX投資を支援する仕組みを創設。また、自治体による脱炭素の取り組みや再生可能エネルギーの普及に対する支援を手厚くする。
このほか、自治体のデジタル実装の加速化や、デジタル活用による観光・農林水産業の振興も支援する。
予備費については、新型コロナ・物価高対策予備費に4兆円を確保。22年度第2次補正予算で新設した「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」にも1兆円を計上する。
閣議決定に先立ち、政府・与党は23日午前、首相官邸で政策懇談会を開催。公明党から山口那津男代表らが参加した。公明党は同日の政務調査会部会長会議で同予算案を承認。その後、持ち回り中央幹事会でも承認した。
政府・与党政策懇談会の終了後、山口代表は首相官邸で記者団に対し、23年度予算案について、「出産・子育て応援交付金」の継続実施や、出産育児一時金の増額など子育て支援が拡充されることに触れ「公明党が一貫して推進してきたものだ。その後の継続的な取り組みへの議論も重ねていきたい」と力説した。
また、防衛費増額や脱炭素投資を促進するため創設する「GX経済移行債」発行が同予算案に盛り込まれている点に関し、国民の理解が広がるよう「政府においては、丁寧で分かりやすい説明を求めたい」と強調した。
●復興庁23年度予算、福島国際研究機構に146億円計上 12/24
政府が来年4月に浪江町に設立する福島国際研究教育機構について、復興庁は2023年度予算で主に研究開発を進める事業費として146億円を計上し、東京電力福島第1原発事故からの本県の産業再生を目指す国家プロジェクトに着手する。ただ、自前の研究施設の整備に向けた関連予算は含まれておらず、国内外の研究者が集う本格的な研究体制の構築は24年度以降となる見通し。
復興庁は、機構の設立時から当面の期間は浪江町に置く仮事務所を拠点に、まずは県内の大学や既存の研究機関などに委託して研究開発事業を進める。委託事業はロボットやスマート農業、創薬医療など機構が掲げる5分野の研究テーマに基づき、地域のニーズも踏まえて決める方針。
機構関連の予算を巡り、復興庁は今夏の概算要求の段階では金額を明示しない「事項要求」としていた。秋葉賢也復興相は確保した146億円について「満足している。事務方を含めて調整を頑張った結果だ」と強調した。機構の目的と同様に「世界最高水準の研究拠点の形成」を掲げ政府の主導で12年に開学した沖縄科学技術大学院大学(沖縄県)への予算措置が年間約80億円とし「(146億円は)県民の期待に応えうる相当な水準」とも語った。
一方で、復興庁は最先端の研究開発の推進に向け「国内外から優秀な研究者を集める」との方針だが、研究者の活動拠点となる自前施設については現段階で規模や用地取得の見通しが定まっておらず、施設整備関連の経費は盛り込まなかった。施設は復興庁が存続する30年度までに順次開設する方針だが、被災地の住民からは「施設がない環境の中で本格的な研究開発を進められるのかどうか疑問だ」との声も上がる。機構設立の効果を最大限に発揮できるよう、復興庁には施設整備の前倒しに向けた不断の取り組みが求められる。
●米国防権限法成立、国防予算は前年度比10%増… 12/24
米国のバイデン大統領は23日、2023会計年度(22年10月〜23年9月)の国防予算の大枠や国防政策の方針を定める国防権限法案に署名し、法律を成立させた。中国やロシアとの競争激化や、歴史的なインフレ(物価上昇)を背景に、国防予算総額は前年度比10%増の8580億ドル(約113兆円)とし、過去最大となった。
法案は上下両院で超党派の賛成を得て議会を通過していた。台湾への支援を強化するため、対外軍事融資制度を使い、武器購入や訓練資金として今後5年間で最大100億ドルを支援する。米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」に台湾を招待することも求めた。
一方、下院は23日、総額1・7兆ドル(約225兆円)規模の23会計年度歳出法案を賛成多数で可決した。ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)同盟国への支援に約450億ドルを計上した。上院は既に可決しており、バイデン氏の署名を経て近く成立する。
23会計年度はこれまで予算が成立しておらず、暫定予算(つなぎ予算)で政府資金を確保してきた。23日夜に政府機関の閉鎖につながる予算の期限切れを迎えることから、バイデン氏は23日、期限を30日まで延長する法案に署名した。 
●政府予算案 財政健全化へ吟味尽くせ 12/25
無駄な支出はないか。不要不急の事業が紛れ込んでいないか。年明けに召集される通常国会で、吟味と精査を尽くさねばならない。
政府が2023年度予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は114兆3812億円に上り、11年連続で過去最高を更新した。防衛力強化を最優先課題と位置付け、防衛関連予算を大幅に積み増したことや、高齢化に伴い医療などの社会保障費が膨らんだのが主な要因である。
防衛関係では、米軍再編経費を含めた防衛費は過去最大の6兆8219億円となり、22年度当初の1・26倍に増えた。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に向けて、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費を計上した。
政府は防衛力を抜本的に強化するため、今後5年間の防衛費総額を約43兆円と決めており、23年度はその初年度に当たる。ただ「防衛力強化の中身、予算、財源をセットで詰める」と繰り返してきた岸田文雄首相が今月上旬、内容が固まる前に予算規模を打ち出したことには、唐突感が否めない。
23年度の防衛費に関しても、防衛力強化の中身や必要性について、精緻な議論が行われたのか疑問だ。政府はしっかりと説明すべきだ。
高額な防衛装備品の購入費を複数年度でローン払いする「後年度負担」が22年度の約5兆8千億円超から約10兆7千億円へと一気に拡大したのも気掛かりだ。高額装備品は完成までに時間がかかるため、支払いを複数年度に分けるのが通例となっている。とはいえ、ローン払いがかさめば、将来の予算の硬直化を招きかねない。
歳入面では、依然として借金頼みの財政運営が続いており、財政規律の緩みも目立つことが懸念される。税収は景気回復を前提に過去最大の69兆4400億円を見込むものの、全体の約6割を賄うにとどまる。そのため35兆6230億円の国債を発行して歳入の約3割を賄う。
国債を軸とした国の借金は6月末で約1255兆円に上っている。今後、金利が上昇すれば、利払いなどに回す国債費は増大し、他の政策経費を圧迫することになる。日銀は大規模な金融緩和策の修正に動いているだけに、金利上昇への備えが急がれる。
内閣が使い道を決められる予備費として、22年度当初に続き5兆円を計上したことも問題だろう。機動的にお金を使える利点があるのは確かだが、財政規律の軽視につながるとの指摘は根強い。
施策の効果を見極め、無駄な支出を洗い出す一方で、捻出したお金を経済成長や社会の安定につながる政策経費に重点配分するのが本来あるべき姿だ。
今後の審議では、国会のチェック機能をしっかりと発揮してもらいたい。財政を立て直し、健全化を図ることが強く求められる。  

 

●「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント  12/26
岸田文雄内閣は12月23日、2023年度予算政府案を閣議決定した。一般会計歳出総額が、114兆3812億円と過去最大となった。直前に、防衛費をめぐり将来の増税を提起したこともあり、何かと防衛費に注目が集まりがちだが、2023年度予算案にはどんな特徴があるか。詳しく見てみよう。
歳出総額の増加幅は6.7兆円と過去最高
まず、一般会計歳出総額は、2022年度当初予算の107兆5964億円から6兆7848億円ほど増えるのだが、この増え幅は過去最高である。
どうしてこんなに歳出が増えたのか。それは、逆説的な言い方になるが、収入が増えたからである。一般会計予算は、歳入総額と歳出総額が同額になるように編成する。歳入が増えないと、歳出は増やせない。増やす歳出を賄うための財源を、いろいろと工面した結果ともいえる。
歳入が増えた最も大きな要因は、税収増である。消費税の標準税率を10%にした2019年10月以降の税収は好調で、コロナ禍でありながら、2020年度以降過去最高を更新し続けている。2023年度予算案の一般会計税収は、69兆4400億円と2022年度当初予算と比べて4兆2050億円も増えて過去最高となる見通しである。
2023年度予算案の税収増を支えているのは、消費税と法人税である。2022年度当初予算と比べて、消費税は1兆8110億円、法人税は1兆2660億円増えると見込んでいる。
それに加えて、防衛力強化の影響もある。12月16日に閣議決定された「防衛力整備計画」で、2023年度からの5年間で防衛経費の総額を43兆円程度とすることとしたのに伴い、その財源として「防衛力強化資金(仮称)」という財源管理をする「財布」を別に設けることとした。
その防衛力強化資金に繰り入れるとともに2023年度の防衛費に充てるために、特別会計の剰余金や独立行政法人の積立金、国有財産の売却収入などをかき集めて4兆5919億円の収入を得る(ただし、ほかの税外収入が減ることから、税外収入としては全体で3兆8828億円の増加となる)。この収入増も、歳入増に貢献した。
日銀納付金は防衛力強化資金の財源にしない
ちなみに、量的緩和政策をめぐり注目を集める日本銀行の財務状況に関連して、日銀納付金は税外収入として9464億円計上されているが、これは防衛力強化資金の財源にはしないこととしている。
防衛費のためにかき集めてきた財源のうち、1兆2113億円を2023年度の防衛費に使い、残りの3兆3806億円は防衛力強化資金に貯めておき、次年度以降の防衛費に充てる予定である。防衛力強化資金に回す支出は、例年の予算にはなく、それも歳出の増加要因として加わっている。
歳入面でのもう1つの注目点は、国債の新規発行額である。2023年度予算案では35兆6230億円と、2022年度当初予算より1兆3030億円ほど減った。この国債発行額が歳出総額に占める割合である公債依存度は、31.1%となり、3分の1を下回るところまで低下し、ようやくコロナ前の水準に戻ってきた。
コロナ禍が直撃した2020年度決算では、公債依存度が73.5%という異常な水準に達していた。2023年度は依然として高い水準ではあるものの、平時に戻る兆しが見え始めた。
ただ、前述のように税収が約4.2兆円増えているのに、公債発行額は約1.3兆円しか減っていない。それだけ、税収増を公債発行の抑制よりも歳出増に充てていることがわかる。財政健全化に向けてはまだまだ道半ばである。
歳出に目を移すと、やはり防衛費の増加が目立つ。防衛費(防衛力強化資金への繰り入れを除く)は、6兆7880億円と、2022年度当初予算より1兆4192億円増える。
2023年度予算案の歳出総額は、2022年度当初予算と比べて、防衛力強化資金への繰り入れを除くと3兆4042億円ほど増えるが、その4割強を占めるのが防衛費ということだ。それだけ、防衛費増加のインパクトは大きい。
例年ならば、政策的経費で最大費目である社会保障費がどれだけ増加するかに注目が集まるが、社会保障費の増加は6154億円で、そのうち年金給付のための支出増が物価スライドなどにより2200億円程度を占めている。
2023年度の社会保障費では大きな改革事項はなかったから、比較的静かな決着といえよう。ただ、翌2024年度予算で診療報酬・介護報酬の同時改定を控えており、山場は1年後に迎えることになる。
巨額予備費が常態化、補正予算はもはや不要だ
ただ、予算編成上の課題も多く残されている。巨額の予備費は、2023年度予算案でも計上されている。新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費が4兆円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費が1兆円、計5兆円である。
コロナ前の補正予算の規模が3兆円だったことを踏まえると、当初予算から補正予算が上乗せされたような規模である。使途について議決を経ない巨額の予備費を常態化させれば、財政民主主義を形骸化させかねない。
この予備費があるのなら、2023年度はもはや巨額の補正予算は不要だといえるだろう。おまけに、過去には補正予算の財源になった決算剰余金を、今後は防衛費増加の財源に充てるつもりなのだから、補正予算はまともに組めない。これを機に、巨額の補正予算を断ち、日本経済の財政依存からの脱却を目指すべきである。
そして、もう1つの懸念は利払費である。2023年度予算案の利払費は、2022年度当初予算と比べて2251億円増える。これは、国債金利がほぼゼロといいながら、塵も積もれば山となり、残高が増えるだけ利払費も増える可能性を示唆している。
日銀政策修正ですぐに利払費増とはならないが…
日銀が12月20日に決定した長短金利操作(YCC)の運用見直しで、10年物国債利回りの許容上限を0.25%から0.5%に引き上げた。これにより、直ちに一般会計の利払費が増大するわけではないが、中長期的には利払費の増加要因となる。
そもそも、決算段階でみても7兆円を超える利払費を国の一般会計で支出している。これは、増やした2023年度の防衛費(防衛力強化資金への繰り入れを除く)よりも多い。それだけ、国民が納めた税金が利払費に食われて政策的経費に回せないのだ。
確かに、この利払費は、国債保有者にとっては収益源にはなる。しかし、銀行預金などを通じて間接的に国債を保有している国民にしか、その収益は得られない。金融資産を持たない国民は、ただそのコストを税金の形で払わされるだけである。
国債の発行がほぼコストなしにできるという認識は早急に改め、いかに国債への依存を減らして財政政策を運営できるかを、もっと真剣に考えるときである。
●岸田大軍拡予算 暮らし置き去り政治の転換を 12/26
岸田文雄政権が23日に閣議決定した2023年度政府予算案(一般会計総額114兆3812億円)で軍事費は「防衛力強化資金」への繰り入れ3兆3806億円を合わせて10・2兆円となりました。財務省も「防衛関係費」は前年度比89%増と説明し、1・9倍の増額です。歳出総額の9%が軍事費という異常な大軍拡です。その一方、社会保障や暮らしの予算を軒並み削りました。コロナ危機や物価高騰への対応はまったく不十分です。
抑制続ける社会保障費
「防衛力強化資金」は23年度の軍事費6兆8219億円とは別建てで、24年度以降に使う軍事費を先取りする、異例の予算です。外国為替特別会計からの繰り入れ、政府が保有する不動産の売却のほか国立病院の積立金やコロナ対策資金の一部まで流用します。
自衛隊の艦船建造、施設建設に4343億円の建設国債を充てます。「軍事費の財源として公債を発行することはしない」(1966年の福田赳夫蔵相答弁)とした政府見解をほごにするものです。
社会保障費は、高齢化で増える「自然増」の伸びを1500億円、圧縮します。75歳以上の高齢者の医療費窓口負担の2倍化などで「自然増」を削減します。公的年金の支給額は抑制し、物価高で実質減となります。首相が言う「子育て予算倍増」は実現の見通しがありません。
中小企業対策費は22年度当初予算から9億円減らされ、1704億円しかありません。トマホーク巡航ミサイルの購入費2113億円すら下回っています。賃上げ支援として計上されている生産性向上の助成金は以前から使いにくいと指摘され、実効性がありません。雇用全体の7割を占める中小企業には、社会保険料の軽減など抜本的な賃上げ支援が必要です。
不公平税制の是正は置き去りです。首相が就任前に掲げた「1億円の壁の打破」「金融所得課税の強化」は影も形もありません。
物価高騰で一段と必要性が高まっている消費税減税は相変わらず拒んでいます。消費税収の23年度見込みは23兆円超です。国民が困窮を深める中、4年連続で最大の税目となります。
原発については「次世代革新炉」の研究開発支援に新規で123億円を計上しました。東京電力福島第1原発事故の教訓を投げ捨てるものです。取り返しのつかない重大事故を起こした原発の推進を「グリーントランスフォーメーション」(GX)と称して強行することは許されません。
使途を事前に国会にはからず、政府の判断で使える予備費は5兆円を計上しました。巨額の予備費の常態化は財政民主主義に反しています。
戦争への道を繰り返すな
国民の暮らしを犠牲にし、「戦争する国づくり」に財政を総動員するのは、日本がアジアへの侵略戦争でたどった道です。戦費調達を目的とした国債を大量に発行し、際限のない軍拡に突き進んだ歴史を繰り返してはなりません。
23年度予算案は平和と暮らしを守るものに抜本的に組み替えなければなりません。大軍拡に対するたたかいは日本の進路にかかわる重要な意義を持っています。憲法、暮らし、平和を守る世論と運動を大いに広げましょう。
●政府の23年度予算案、大阪万博「日本館」に24億円 12/26
政府が23日閣議決定した2023年度予算案で、経済産業省は25年国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する日本政府館(日本館)の建設などに24億円を計上した。資材の購入費や人件費を含む建設関連費に22億円、広報・周知活動に2億円を充てた。同館の建設は23年度中に開始される予定だ。
日本館では、ものを大切に使い切る日本文化のあり方を示し、来場者に「循環型社会」を体験してもらうことを目指す。設計図の作製などに5.5億円、広報活動に3.1億円の合計8.6億円を計上した22年度当初予算より、約2.8倍多い規模となった。建物には新建材のCLT(直交集成板)を使用する計画で、万博後の再利用も検討されている。
経産省は23年度予算案に、大阪・関西万博での飛行を目指す「空飛ぶクルマ」や、近年注目が集まるドローンの社会実装に向けた関連費用31億円も計上。22年度当初予算より2億円増額した。民間企業や研究機関が、機体の安全性を評価する手法などを開発する際に必要な委託料や補助金の原資として活用される。
また、23日に閣議決定された23年度税制改正大綱では、万博に参加する企業への税制優遇措置も盛り込まれた。参加企業は、建設したパビリオンに対する不動産取得税や固定資産税、万博会場内に設けた事業所に対する事業所税が、開催期間中は免除される。都市計画税も免除の対象だ。
●23年度政府予算案 防衛以外の歳出にも目配りを  12/26
他の政策にしわ寄せが及ばぬよう、財源確保が重要だ。
政府の2023年度予算案は一般会計の総額が114兆3812億円と、前年度当初予算比6・3%の大幅増となった。予算の増額は11年連続になる。
ただ歳入面では税収増とその他収入の増加を見込んで国債発行を抑制し、公債依存度を22年度の34・3%から31・1%に引き下げてはいた。
一般歳出の増加の主役は、前年度までの社会保障関係費から防衛関係費に転換した。社会保障の増加額が6154億円だったのに対し、防衛費は1兆4192億円もの増額だ。さらに「防衛力強化資金」という新たな制度を設け、3兆3806億円をプールする。この資金は24年度以降の防衛費増に振り向ける予定としている。
自衛隊の強化に関する岸田文雄政権の意志は明確で、国民も一定に理解している。ようやく、その財源確保をどうするかが明らかになった。
「防衛力強化資金」は特別会計からの繰入金、コロナ禍対策予算の不使用分、国有財産の売却益、決算剰余金、歳出削減を主体に確保。それでも不足する年間1兆円を増税で賄い、現行の防衛費5・2兆円を27年度に8・9兆円程度に引き上げる。
増税を圧縮したように見える。しかし特別会計からの繰り入れや決算剰余金は景気対策などの補正予算の財源であり、一部は国債償還に充当して財政再建に寄与してきた。
これらの使途が防衛費に限定されることは、国の財政自由度の低下を意味する。歳出削減も「従来より相当の努力をしないと(防衛費が)確保できない」(財務省幹部)という。今後、社会保障と防衛以外の政策にしわ寄せが及ぶ懸念がある。
さらに防衛費の一部を新たに建設国債で賄うことにしたことも、長期的に財政の悪化につながろう。
経済安全保障に関わる新政策や脱炭素・エネルギー対策など、産業社会を維持・発展させていくには相応の予算が必要だ。景気浮揚による税収増など財源確保に努めてもらいたい。  

 

●革新炉・量子コンピューター・EV…政府・23年度予算案を紹介 12/27
政府はグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタル変革(DX)、宇宙など科学技術への重点投資を盛り込んだ2023年度予算案を決定した。成長分野への大胆な投資でイノベーションを生み出し、脱炭素など社会課題を成長エンジンに転換する。ロシアによるウクライナへの侵攻の長期化などを背景に、世界経済は景気後退懸念が高まっている。日本経済の強靱(きょうじん)化を図り、持続的な成長の実現を目指す。
経産省 次世代革新炉で新規/環境省 中小のCO2削減に補助拡充
世界的な脱炭素化の潮流とエネルギー安全保障の重要性の高まる中で、政府が原子力の活用を打ち出した。経済産業省は23年度当初予算案で原子力関連の新規事業を盛り込んだ。高速炉実証炉開発事業に76億円、高温ガス炉実証炉開発事業に48億円を計上。原子力産業の人材や技術、産業基盤の維持・強化につなげ、米仏との協力で高速炉などの技術開発を推し進める。
再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代ネットワークの構築加速化事業に10億円、系統用蓄電池の導入や配電網を合理化する事業に40億円、それぞれ新規で計上。引き続き再生エネの主力電源化も進める。水素サプライチェーン(供給網)構築に向けた技術開発事業も新規で80億円を充てた。
電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などクリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金に200億円、充電・充てんインフラ導入促進補助金に100億円を計上した。
環境省はGX関連として中小企業の支援策を並べた。二酸化炭素(CO2)の排出削減計画に応じて補助を拡充する設備投資支援事業に36億円を計上した。22年度補正予算との合計で76億円を充て、中小企業の脱炭素化を後押しする。
さらに商工会議所などと連携し、地域ぐるみで中小企業を支援する新規事業に14億円を盛り込んだ。業界別では135億円を充てて、商用車の電動化を支援する事業を創設する。
ほかにも、民間の脱炭素事業を資金支援する官民ファンド「脱炭素化支援機構」関連は、財政投融資で22年度当初予算比2倍の400億円を計上。温暖化対策に積極的な「脱炭素先行地域」を集中支援する事業に同75%増の350億円を充てる。22年度補正予算との合計は400億円となり、事業2年目で増額した。
文科省 量子コンピューターと「富岳」融合 新技術に23億円
文部科学省は、量子コンピューターとスーパーコンピューター「富岳」を組み合わせて高度な計算を実行する基盤技術の開発に新規で23億円を計上した。両方のコンピューターが得意な分野を分担して計算することで、全体の計算能力を高める。経済安全保障の強化や地球規模の生態系予測など社会課題の解決に向けた幅広い分野で活用でき、研究DXの強化につながる。
宇宙航空分野の研究開発には1560億円を盛り込んだ。23年2月に打ち上げ予定の新型の大型基幹ロケット「H3」や固体燃料ロケット「イプシロンS」の開発や高度化を進め、宇宙輸送分野の国際競争力を高める。さらに米国主導の「アルテミス計画」に向けた研究開発として、新型補給機「HTV―X」や火星衛星探査計画「MMX」などのプロジェクトを加速させる。宇宙分野の国際競争が激化する中で、日本の技術力や信頼性などを生かして開発を進める。
国交省 運輸業界の脱炭素化支援
国土交通省は運輸業界の脱炭素化を積極的に支援する。航空分野では、植物油や廃食用油を原料とする「持続可能な航空燃料(SAF)」導入促進や空港における再生エネの拠点化などに22年度当初予算比16%増の21億円を計上。SAF導入に向けた環境整備、航空機の脱炭素化に貢献する新技術の実用化を進める。 
港湾・海事分野では、脱炭素に配慮した港湾機能の高度化を進める「カーボンニュートラルポート」の形成など、同29%増の427億円を盛り込んだ。このほか、液化天然ガス(LNG)燃料船の普及促進や温室効果ガス排出量ゼロに向けた国際戦略の推進、洋上風力発電の導入を促す基地港湾の整備などを促進する。
また建設、運輸、海運・造船、宿泊・観光業での人材確保・育成や生産性向上に34億円を盛り込んだ。
総務省 量子暗号通信網に15億円
総務省はDX分野に力点を置く。量子関連では、グローバル量子暗号通信網の構築に向けた研究開発事業に15億円を計上。量子コンピューターの出現で、これまでの暗号の安全性の破綻が懸念されていることを踏まえ、国家間や国内重要機関間の機密情報のやりとりを安全に実行できるようにする。
新規で盛り込んだ、量子インターネット実現に向けた要素技術の研究開発事業には25億8000万円を充てる。将来の量子コンピューターの大規模化や量子暗号通信の高度化に向けて、量子状態を維持し、安定した長距離量子通信の実現につなげる。
第5世代通信(5G)の次の世代「ビヨンド5G」の技術戦略の推進には、22年度当初予算比1・5倍となる150億円を計上した。電波の有効利用に資する重点技術などの研究開発を支援していく。
厚労省 医療・介護でDX化推進
厚生労働省は、医療・介護分野でのDXを進めるため、総額19億円を盛り込んだ。中でも、国内の医療機関を標的としたランサムウエアによるサイバー攻撃が増えてきていることから、サイバーセキュリティー対策の調査事業として、1億円を盛り込んだ。専門家の派遣による感染原因の特定や対応の指示などの初動支援体制を強化する。併せて、従来のサイバーセキュリティー研修に加え、サイバー攻撃を想定した訓練拡充など、実用性のある研修を実施する。
電子カルテ情報の標準化の推進費として、5億3000万円を充てる。異なるカルテの医療機関同士でも医療情報が共有できるように、必要なカルテ情報を早期に標準化し、その情報を全国の医療機関や患者本人が安全に閲覧できる仕組みを構築する。
併せてこれらの情報を利活用する環境整備に取り組む。
●23年度政府予算案 巨額予備費の”バラマキ”を警戒  12/27
予備費は支出決定のたびに従来以上の内容説明を求めたい。
政府の2023年度予算案は、子ども政策の充実やデジタル田園都市国家構想、GX(グリーン・トランスフォーメーション)などを重点項目として掲げた。だが実際には一般歳出の増分の大半は防衛関係費と社会保障関係費で占められた。
こうした窮屈な予算の中で、異色なのは予備費である。22年度予算では「新型コロナウイルス感染症対策及び原油価格・物価高騰予備費」として5兆円を計上していた。23年度予算案はこれを4兆円に減らしてはいるものの、一方で「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」を1兆円規模で新設している。
政府予算の本来の予備費は5000億円。衆院の解散・総選挙や自然災害の被災地支援などを想定する。3500億円規模の時代が長く、19年度に5000億円に増額した。この10倍に当たる5兆円の予備費はコロナ禍が始まった21年度に新設したもので、3年連続となる。
予備費は閣議決定だけで支出できる。国会審議が必要な補正予算に比べて使いやすい。「非常時に機動性の高い執行が必要だ」と財務省は説明する。
しかし政府予算の一般歳出のうち、1割近くが予備費という状況が3年も続くことは、予算執行の不透明さにつながりかねない。リーマン・ショックに揺れた09年度予算に「経済緊急対応予備費」を計上した前例があるが、その規模は1兆円だった。コロナ禍が落ち着きを見せる中で、5兆円もの予備費を継続する理由はあらためて問わなければならないだろう。
むろん政府の機動的な経済政策には期待したい。しかし予備費が安易な“バラマキ”型の給付金などの財源になることは許されない。また予備費の使い残しも増大するため、翌年度の財政当局の予算裁量範囲は拡大する。経費別の予算額の増減では政府の方針が見えにくくなる。
予備費の支出決定について十分に国民に説明すること。そして24年度以降に巨額予備費を収束させていくこと。これが政府に課せられた使命である。
●食料安保強化へ構造転換に予算 総額2兆2683億円 農林水産予算 12/27
12月23日に閣議決定した2023年度予算のうち農林水産関係予算は2兆円2683億円となった。
22年度予算にくらべて99.6%だが、22年度補正予算の追加額8206億円と合わせ3兆889兆円となる。
「食料安全保障の強化に向けた構造転換対策」では283億円を措置。畑作物の本作化対策として、定着までの一定期間の支援のほか、農地利用の団地化に向けた関係者間の調整や種子の確保、排水改良による水田の畑地化・汎用化、畑地かんがい施設整備、草地整備などを支援する。
23年度当初予算では畑地化促進助成(水田活用の直接支払交付金のうち22億円)、国産小麦・大豆供給力強化総合対策(1億円)、農業農村整備事業(150億円)などを活用する。22年度補正予算でこれに該当する事業として確保した1144億円と合わせて畑作物の本作化を進める。
そのほか米粉の利用拡大の支援策(8億円)では、製粉企業、食品製造者の施設設備、専用品種増産に必要な機械・設備の導入を支援する。加工業務用野菜の生産拡大対策(8億円)では、必要な栽培技術の導入、冷凍野菜の安定供給に向けた施設整備などを支援する。
「生産基盤の強化と経営所得安定対策の着実は実施」のうち、水田活用の直接支払交付金の総額は3050億円で前年度と同額とした。
ただし、このうち22億円は畑地化促進助成にあてる。畑地化支援は高収益作物で10a17.5万円、高収益作物以外の畑作物(麦、大豆、牧草など飼料作物、子実用トウモロコシ、そばなど)で同14.0万円。
それに加えて畑地化を定着させる支援策として、高収益作物には10a2万円(加工業務用野菜は同3万円)を5年間交付する。高収益作物以外の畑作物には10a2万円を5年間交付する。
そのほか産地づくり体制構築支援として農地利用の団地化など関係者の話し合い、調整などを行う地域協議会に300万円を上限に支援する。
そのほか子実用トウモロコシには10a1万円を交付する。
また、コメ新市場開拓等促進事業として110億円を確保する。輸出など新市場開拓米への10a4万円と加工用米への同3万円に加えて、パンと麺用の米粉専用品種には同9万円を交付する。パン用の専用品種には「ミズホチカラ」、「笑みたわわ」など、麺用品種には「亜細亜のかおり」、「ふくのこ」などがある。
そのほか、野菜、果樹、花き、茶・薬用作物などの「持続的生産基盤強化対策事業」に160億円、「畜産・酪農の環境負荷軽減型持続的生産支援事業」に63億円などを盛り込んでいる。
「2030年輸出5兆円目標の実現」に向けた予算は109億円で、マーケットインによる海外での販売力の強化(23億円)、輸出産地・事業者の育成・展開(7億円)、輸出向けHACCP対応施設整備(21億円)、知的財産の実効的な管理・保護と海外流出の防止(5億円)などのほか、「適正な価格形成」のため消費者理解醸成と適正取引推進に関する調査などで1億円を確保している。
「みどりの食料システム戦略の実現に向けた政策の推進」では、環境負荷低減と生産性を両立する新技術・品種開発などの実証事業に32億円、環境負荷低減と持続的発展に向けた地域ぐるみのモデル地区を創出する総合対策として7億円などを確保する。
そのほかスマート農業の総合推進対策(12億円)、めざす地域の将来像に向けた地域計画の策定推進(8億円)、新規就農者の育成・確保に向けた総合的な支援(192億円)なども盛り込まれている。 

 

●岸田首相の持ち味「変わらぬ力」 何があっても表情も言うことも常に同じ会見 12/28
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、岸田文雄首相の”変わらない”会見について。

今年、印象に残った会見について振り返ってみようと思ったところ、浮かんできたのは冴えない一人の顔。いやいや印象に残ったというのではない。毎回毎回、代わり映えのしない発言を繰り返して、メディアも国民の間にも、いい加減うんざりしてきたという雰囲気が色濃くなってきたと思っていたら、突然、朝令暮改のような発言をする。さらに自分が選んだ閣僚までもが反旗を翻すような発言をする。それなのにどの会見を見ても表情はいつも同じ、口調もほとんど変わらない。
内閣の閣僚辞任ドミノと言われた政治家の辞任や、企業の不祥事や芸能人の不倫など謝罪会見もあれば、先日まで開催されていたFIFAワールドカップカタール大会で活躍した日本選手団による会見や羽生結弦選手の競技からの引退会見、芸能人たちのおめでたい結婚会見もあった。日本だけでなく世界に目を向けると、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア侵攻による実情を訴えるオンライン会見も印象的だった。なのに岸田首相の顔が思い浮かんだのだから、それだけ首相の顔をニュースなどで見た1年だったということだろう。
さて今年は首相の口から「指摘は真摯に受け止める」「丁寧に説明を行うべき」「説明責任を果たすべき」という言葉を数えきれないくらい聞いた。失言する閣僚が出た時も、安倍晋三元首相の国葬の費用が問題視された時も、旧統一教会と政治家との関係が取りざたされた時も、内閣改造を行ってすぐ後任の大臣の発言が批判を浴びた時も、いつも言うことは同じ、使われる表現も同じだった。
政権発足時に自らアピールした「聞く力」は、思いがけないところで突然発揮された。10月には旧統一教会の問題を巡り、宗教法人への解散命令の要件に関する答弁を一夜で修正。議員たちや官僚たちは、メディアはもちろんのこと国民みんなを驚かせた。今国会では成立は難しいと思われていた旧統一教会の問題を受けた法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律(被害者救済法)の早期設立を目指すと述べ、審議入りからわずか5日で救済法を成立させ、それなりに評価もされたが、支持率は上がらなかった。
首相の決断力が問われたこともあった。旧統一教会との関係で任命した閣僚らが煮え切らない発言や失言を繰り返しても、なかなか決断せず、首相自らも煮え切らない発言をしてみせた。相手がきっちりと説明責任を果たすのを待つという姿勢を鮮明にしていたのに、自分は時々、その説明責任とやらをどこかに忘れてしまうらしい。
10月には30年間岸田首相に仕えたベテラン秘書を辞任させ、公設秘書を務めていた長男の翔太郎氏を政府担当の首相秘書官に就任させ、批判を浴びた。そうかと思えば防衛費を大幅増額させるために増税を行い、その中には東日本大震災の「復興特別取得税」を一部転用することも検討していると伝えられた。防衛の中身を説明するより財源の話が先行したことで、自民党内からも批判が集中。高市早苗・経済安全保障担当相には「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信された総理の真意が理解できません」とTwitterで批判され、西村康稔経産相にも「このタイミングでの増税は慎重になるべきだ」と言われる始末だ。
それでも岸田首相の会見は変わらない。それが良いか悪いかではなく、あまりに変わらないことが逆に印象的だったのだ。まるで同じ情報に触れることで、それが真実だと感じられる「真実性の錯覚」みたいに、変わらないことが岸田首相の存在感を増している。聞く力や決断力などより、この変わらなさが岸田首相の一番の持ち味かもしれない。
●来年度予算案 子育て支援、脱炭素など強力に推進 12/28
2023年度予算案が23日に閣議決定された。
日本の未来を切り開くため、少子化対策や脱炭素化、デジタル化の推進などが柱となっている。来年の通常国会での早期成立を期したい。
公明党の強い主張を受けて大きく拡充されるのが子育て支援策だ。
出産育児一時金は現行の42万円から50万円に増額する。これは過去最高の引き上げ幅である。また、22年度第2次補正予算で創設された、妊娠期からの伴走型相談支援と妊娠・出産時に計10万円相当の給付を一体的に行う「出産・子育て応援交付金事業」を23年度も継続実施する。
今年の出生数は初めて80万人を割り込むとみられ、想定を上回るスピードで少子化が進んでいる。子育て支援を強力に進めねばならない。
脱炭素の分野では、二酸化炭素の排出量に応じて企業などに費用負担を求める「カーボンプライシング」を導入。これを活用した新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を約1兆6000億円発行し、民間のGX投資を支援する。
温室効果ガス排出削減に向けた革新的な技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入などを促進するための重要な取り組みだ。
デジタル化では、「デジタル田園都市国家構想交付金」に1000億円を盛り込み、地方のデジタル化や地域活性化を支援する。
安全保障環境の悪化を踏まえ、防衛費は22年度当初比26.3%増の6兆8219億円を計上した。
このほか、新型コロナ・物価高対策として4兆円の予備費を確保した。状況の変化に応じて機動的に対処できるよう万全を期す。
23年度予算の一般会計総額は114兆円3812億円となり、11年連続で過去最大を更新した。
ただ、企業業績の回復を背景に税収は過去最高の69兆4400億円を見込む。これにより新規国債の発行額が22年度当初予算より減額されていることも強調しておきたい。

 

●どこまでアメリカファーストなのか 日米同盟にすがりつくための防衛費増額 12/29
日本政府が防衛予算を大幅に拡大させるのに伴い、以前より危惧していたとおりアメリカからの武器弾薬調達費が爆発的に膨張しそうである。
2023年度防衛予算案はおよそ6兆8219億円と今年度(2022年度)当初予算のおよそ1.26倍である。それに対して米国からの武器輸入(注)予定額はおよそ1兆4768億円であり、昨年の3797億円の3.9倍に上る。
また国防予算に占める米国からの兵器システム購入予定費がおよそ22%も占めている。これではどこの国の国防費かわからない。あるいは明治期のように、近代海軍を誕生させたばかりで、自ら軍艦どころか鉄鋼すらまともに大量に生み出すことができなかった時代に逆戻りしたかのような状態である。
(注)より正確には、米政府が米連邦議会の承認を得て米国製武器弾薬を有償で援助する武器弾薬供与制度(FMS)に基づいた形の購入である。FMSでは米国軍需企業が利益を得るだけでなく米国政府も手数料収入を確保できる。もし、供与先の国が購入資金に困っている場合には、FMSを担当している国防総省内の機関が資金融資も行う制度がある。つまり、米国が売りたい兵器は金を貸し付けてでも売却し、売りたくない兵器は、政府や議会の拒否手続きにより売却しない、という国家兵器弾薬売り込みシステムを米国防総省は担っている。
アメリカの情報戦にはまった日本政府
以前指摘したように、懐が潤うアメリカ政府や軍需産業界は当然ながら、“相互運用性”向上という表看板の下でますます自衛隊を属軍化できることになる米軍当局も、日本政府が打ち出した新防衛方針を“高く評価”し、諸手を挙げて支持している。
日本政府が打ち出した新防衛方針と言っても、実態はアメリカの情報戦に見事にはまった結果と考えられる。
つまり、アメリカ政府・軍当局・軍需産業界が、中国による台湾への軍事的圧力の強化およびロシアによるウクライナへの軍事侵攻といった軍事情勢を、日本やフィリピンや韓国のようなアメリカの軍事的依存国に軍備拡張を促進させる絶好の好機と捉えて、「ウクライナの次は台湾だ、台湾の次は日本だ」あるいは「中国の台湾侵攻は日本の危機だ」といった軍事的恐怖を煽り立てた。日本政府はその策略に陥り、アメリカ側が望んだ通りの新防衛方針を打ち出したというわけだ。
もっとも日本とアメリカの間には、日米安保条約、というよりは地位協定ならびに実質的にはかつての占領軍の継続のような日米合同委員会などが存続している。アメリカの軍事同盟国のうち最も独立性が乏しく属国度が高い日本に対しては、日米合同委員会などを通して、露骨に防衛政策の変更ならびにアメリカからの兵器システム大量購入という“ガイアツ”が加えられた可能性は高い。
以前より存在していたトマホーク調達案
今回の米国からの大量武器輸入の中には、反撃能力の象徴的兵器として500発のトマホーク長距離巡航ミサイル(以下「トマホーク」)の購入が組み込まれている。
これこそ、まさに日本が望んでもアメリカが望まなければとても輸入などはできない、米国による武器輸出戦略の典型例である。
そもそも、自衛隊がトマホークを調達するというアイデアはかなり以前より存在していた(本コラム、2013年1月17日、2017年3月16日、2020年12月24日などを参照)。それは、中国や北朝鮮の、直接日本そのものを主敵として本格的な軍事攻撃を実施する対日軍事攻撃能力に対抗する、日本自身が保持する最小限度の抑止力を期待しての調達案であった。
ただし、アメリカからの調達はあくまでも第1段階であり、トマホークを輸入調達している期間に自国で長射程ミサイルを開発・製造し始めて、将来的には「最小限」の抑止力としての国産長距離巡航ミサイルならびに国産弾道ミサイルを配備するというアイデアの流れであった。
しかしながら、この数年の間に、中国が保有している対日攻撃用弾道ミサイルや長距離巡航ミサイル、それにサイバー攻撃能力などは質・量ともに飛躍的に強化されている。北朝鮮の弾道ミサイル戦力もしかりである。したがって、「最小限」の度合いはさらに限定的なものになりつつある。
日本がこのアイデアを持ち出した当時は、米軍関係者も純軍事的に日本の防衛を分析した場合には、自衛隊がとりあえずトマホークを手にすることにより限定的とはいえども自前の報復戦力を用意することに意義を認めていた。ただし、米政府や連邦議会が日本にトマホークをそれも大量に供与することを認めるか?  というと、ハードルは高いとも指摘していた。
なぜならば、その当時、アメリカとしては、日本の軍事力を強化して中国を刺激したくはなかったからである。したがってアメリカ側としては、日本にトマホークを売るつもりはなかった。
アメリカ製兵器システムを売り込むチャンス到来
しかしながら状況が変わった。1995〜96年の台湾海峡危機のときのように、もはやアメリカの軍事力では中国を威圧することはできなくなってしまった。
アメリカは、もしも中国による台湾に対する軍事攻撃が現実のものとなった場合、自由と民主主義を擁護するリーダーを表看板に掲げつつ築き上げてきた国際的覇権を維持するために、なんらかの軍事介入を行わなければならない。とはいっても、アメリカ政府も連邦議会も、そして米軍当局も、中国との直接的な軍事衝突は絶対に避けなければならないと考えている。第3次世界大戦あるいは核戦争に発展しかねない中国との直接衝突を覚悟してまで米中戦争に突入する気などないのは当然だ。
そこでアメリカは、ウクライナ戦争と類似した方式を用いることになる。すなわち、中国による軍事攻撃が発動される以前に、台湾の防衛戦力に資する兵器弾薬を供与して、台湾軍が島内で抵抗を続ける能力を増強させるのである。もちろん米当局としては、その程度の軍備増強によって台湾軍が中国侵攻軍を撃退できるなどとは考えていない。
同時に、アメリカの軍事力に頼り切り自主防衛力強化を等閑視してきた日本が、ウクライナ戦争をきっかけとして本気で中国の強大な軍事力に脅威を感じ始めたため、日本に対してアメリカ製兵器システムを売り込むチャンス到来と判断したのである。
要するに、アメリカ当局は「日本にトマホークを売ってやろう」と考えたのだ。
そもそも、トマホークという1つの兵器取引に限らず、国防予算案のおよそ4分の1がアメリカからの兵器システム購入、それもアメリカ側が日本に装備させたいと考えている兵器システムの購入に当てられている事実を見れば、日本政府が新たに打ち出した防衛政策が、アメリカの意向を忖度しつつ、日米同盟に縋(すが)りつくために生み出されたものとみなされても致し方ない。
日本政府・国会は、アメリカが「敵」と名指しすれば、日本の国益に関する利益衡量なしにアメリカに迎合して敵視し、アメリカが「反撃準備をしろ」といえば日本の国益に資するかどうかの慎重な分析も行わずにあわてて攻撃能力を手にしようとする。こんなアメリカの国益を優先させる属国根性からいい加減に脱却して、日本自身の国益の維持進展を最優先させる観点から、国防政策を希求するべきである。 
●国債支払利子2倍に引き上げへ 日銀緩和修正で 12/29
財務省が来年1月に発行する10年物国債の入札で、国債の買い手に支払う利子の割合を示す「表面利率」を現在の2倍に引き上げる方針を固めた。日本銀行が大規模な金融緩和策の修正を決め、実質的な利上げに動いたことを反映し、現在の年0・2%から0・4〜0・5%へと引き上げる。次回の入札を予定する1月5日朝の市場利回りの動向をもとに表面利率を最終的に判断する。
引き上げは0・1%から現在の0・2%とした今年4月以来。0・4%以上の表面利率は平成27年11月以来、7年2カ月ぶりとなる。普通国債の発行残高は1千兆円規模に上る。国債を投資家に安定的に買ってもらうには表面利率を市場金利に合わせて上げる必要があるが、政府の国債利払い費が増えることになり、その分だけ財政が圧迫されることになる。
表面利率は国債の額面価格に対する利子の割合を示しており、額面100万円で表面利率が0・4%の場合、10年物国債の保有者は毎年4千円の利子を満期までの10年間、国から受け取れる。10年物の表面利率はバブル期の平成2年に7・9%まで上昇した。平成25年4月に日銀の大規模な金融緩和が始まってからは大きく下がり、マイナス金利政策導入後の28年3月からは0・1%が続いた。
政府が今月23日決定した令和5年度予算案では、国の借金返済や利払いに回す国債費として25兆2503億円を計上。このうち利払い費は8兆4723億円を見込んだ。財務省は、仮に5年度から金利が1%上昇した場合、7年度の国債費が3兆7千億円程度膨らむと試算している。

 

●欺かれるのはやっぱり国民 「虚構」の防衛財源スキーム 12/30
防衛財源スキームは虚構なのか。防衛費を国内総生産(GDP)比2%の規模に増額する財源の枠組みが決まった。2027年度に必要になる総額約4兆円の追加費用を剰余金や歳出削減、増税などで賄う。岸田文雄首相は赤字国債には頼らなかったと胸を張るが、恒久財源とは名ばかりで、結局は国債増発に追い込まれる可能性がある。
結局は赤字国債発行か
政府は12月16日、国家安全保障戦略など安保関連3文書を閣議決定し、23〜27年度の防衛費を現行計画の1.5倍となる総額43兆円とした。27年度時点で必要になる約4兆円を増税(法人税、復興特別所得税、たばこ税)で1兆円強、防衛力強化資金(外国為替資金特別会計からの繰り入れなど)で0.9兆円、決算剰余金で0.7兆円、歳出改革で1兆円強をそれぞれ賄うとしている。
防衛力強化の内容、予算、財源を一体で年末に決めると言い続けてきた岸田首相は同日の記者会見で「借金で賄うのが本当に良いか、自問自答を重ね、安定的な財源で確保すべきだと考えた」と胸を張った。
「フィクション(虚構)のような部分が含まれている」。こう語るのは、東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹。財務省主税局の出身で、社会保障・税の一体改革に携わった。理論から制度、霞が関・永田町の力学まで知り尽くした税のプロフェッショナルだ。
森信氏がまずやり玉に挙げたのは剰余金だ。予算として計上したものの、年度中に使われず余ったお金を指す。防衛財源スキームでは予算を作る前から剰余金を見込んでいるが、本来なら決算を締めてみるまで剰余金が出るかどうかは分からないはずだ。それを可能にする裏技が「剰余金が出るように当初から予算を組む」ことだという。
どういうことか。例えば、歳出を高く見積もっておき、税収で足りない分は赤字国債を発行する。そうすれば使わない「不用額」が生じ、剰余金の一部になる。逆に税収を低く見積もって当初予算で赤字国債を多めに発行し、税収が増えた分が剰余金の一部になる。そういった裏技めいた手法が考えられるという。
また剰余金はこれまで補正予算の財源として活用してきた。防衛費に転用するからと言って、災害や景気対策のための補正予算を編成しないわけにはいかない。結局、赤字国債を増発して補正を組むことになる。
防衛費であれ何であれ、予算のお金に色は付いていない。防衛財源スキーム上は国債発行を回避できたように見えても、財源に転用した費用の穴埋めとして借金が新たに発生し、その分だけ国家財政は悪化する。剰余金を転用したつけを赤字国債で払うことになると、「国民を欺くことになる」(森信氏)。
歳出削減についても、予算の付け替えに終わってしまう可能性があるという。防衛力強化資金は為替介入の原資となる外為特会の剰余金が主で、安定的に繰り入れられるものではない。
すなわち増税1兆円以外は決して恒久財源とは言えないものばかりだ。これは岸田政権のポリティカル・キャピタル(政治的資本)の減少によるところが大きい。参院選に大勝した岸田首相は最長25年まで国政選挙がない「黄金の3年」を手にしたはずだった。だが世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題への対応に手間取り支持率は低迷。体力の低下した政権に、消費税増税以来となる大型増税を与党や国民に説得できる力は残っていなかった。約束した年末の予算編成が迫る中、4兆円のうち残る3兆円の財源ねん出を迫られた財務省は、数字合わせに走らざるを得なかった。
請求書だけ国民に押し付け
一方、増税1兆円に問題はないのか。森信氏は復興特別所得税ではなく、富裕層を対象にした金融所得課税強化で対応すべきだったと考えている。所得1億円を境に急速に税負担率が下がる「1億円の壁」の是正にもつながり、「一石二鳥」だからだ。富裕層は戦争で失う財産が多くなるため、国防強化で得る恩恵も大きく、応分の負担をすべきだという考え方もできる。実際、時事通信が9月に報じたように、秋の段階では金融課税は防衛財源として政府・与党内で検討の俎上(そじょう)に上っていた。だが昨年秋の就任時に金融課税強化を掲げて株価が急落した「岸田ショック」に懲りたのか、日の目を見ることはなかった。
また増税は実現するのかという懸念もある。年内に決めるはずだった時期は、自民党内の反対で来年に持ち越された。来年10月末で衆院議員は任期4年の折り返しを迎え、解散・総選挙の風が徐々に吹き始める。内閣支持率の低迷が続けば、増税の決断はさらに先送りされる可能性がある。
12月の時事通信・世論調査では、防衛費増に賛成の人でも増税を支持する人は2割にとどまる。防衛論議はGDP2%という規模ありきで始まった。長射程ミサイルの開発などスタンド・オフ防衛能力に5年間で5兆円を計上するが、いつごろ完成するのか、抑止力にふさわしい性能なのか、どこに配備し、どう運用するのか。国民に十分な判断材料は与えられていない。「中身が分からないまま請求書だけ押し付けられる」(森信氏)国民が反発するのも無理はない。何に使うのかという説明を尽くさなければ、増税に対する国民の理解が得られないのは言うまでもないだろう。
さらに23年の世界経済は、インフレと金融引き締めで多くの国がリセッション(景気後退)に陥るとみられている。日本は内需に支えられるが、外需は期待できない。月を追うごとに景気が厳しくなる中で、増税の決断はますます難しくなる。財務省が年内にこだわったのはこうした理由からだ。
増税ができないからと言って、これまでのように安易に国債を発行して低利で財政資金を調達する道は閉ざされつつある。日銀は12月20日、突如として長期金利の変動許容幅を0.25%程度から0.50%程度に引き上げた。黒田東彦総裁は否定したが、事実上の「利上げ」と受け止められ、21日の東京債券市場で長期金利は7年ぶりとなる0.48%まで急上昇(債券価格は低下)した。10年間続く大規模緩和を縮小する「出口戦略」は来年4月の黒田総裁退任以降と思われたが、タイミングは早まりつつある。国債発行のコストは増え、財政運営は厳しさを増す。
戦前の日本は軍事費の公債依存を高めて軍拡に走った。21世紀の日本は民主主義陣営の一員だ。国家安全保障上の理由から防衛費増強が必要なら、真正面から負担増を訴えるしか国民の理解を得る方法はないと思う。ウクライナを見るまでもなく、国民に支持されたリーダーは強く、外交力と国際的立場を高める。それも抑止力になるはずだ。いばらの道ではあるが、岸田首相には王道を歩んでほしい。
●「経済破綻してよかった」中国に借金漬けにされたスリランカの現状 12/30
2022年5月、スリランカはデフォルト(債務不履行)に陥りました。1948年のイギリスからの独立以来、初めてのことです。6月にはインフレ率が54.6パーセントまで上昇しました。反政府デモ隊が当時のラージャパクシャ大統領の公邸に迫り、大統領は7月に家族を連れ国外に逃亡しました。
これまでスリランカは、ラージャパクシャ一族に強固に支配されてきました。一族は、スリランカが破綻する前、国家予算の75パーセントを握る政治のポストを牛耳り、中国から大金を借りて、私腹を肥やしていました。そして気づけば、中国に借金漬けにされ、従属化していました。僕はある意味で、スリランカは今回破綻してよかったと思っています。一族と中国の影響力を取り除き、再スタートするチャンスなのです。
神格化された、初代ラージャパクシャ
スリランカは、多民族・多言語・多宗教国家ですが、シンハラ民族が多数派で、約70パーセント。少数民族のタミル人の過激派との間で、26年に渡る内戦がありました。僕の友達もそこで亡くなりました。その戦争が、2009年に終わりました。中国から政府軍への武器の提供もあったと言われています。その頃から国内に華僑が増えていったという記憶があります。
その時の大統領が、初代(マヒンダ・)ラージャパクシャでした。彼の弟で、当時国防次官だったのが、逃亡した2代目の(ゴーターバヤ・)ラージャパクシャです。初代ラージャパクシャは、戦争を終結させたということで、神格化されました。彼は10年に渡って大統領の座にあり、その間に、一族を政治や企業の要職につける文化を作っていきました。その後、今度は弟を大統領選に担ぎ出します。彼も戦争のヒーローなので、少数派のタミル人からの支持は得られませんでしたが、勝利しました。
その際彼は、人気を得るためのマニフェストを掲げました。それがその後の経済破綻に繋がっていくわけですが。
経済破綻につながった、3つの政策
まず1つ目は、税金の引き下げです。観光業関連の税金は、3分の1に下げられました。半分にしたものもあります。2つ目が、有機栽培の徹底。農業を全て無農薬でやること。3つ目が、「ワンカントリー・ワンロー」(一国一法)という政策です。多数派のシンハラ民族のナショナリズムに、他の民族も合わせてもらいます、というものです。結局、1つ目と2つ目は失敗しました。その失敗を誤魔化すために、3つ目を使いました。つまり、少数民族をいじめることによって、国民の不満のガス抜きをしたのです。
では、2つの政策はなぜ失敗したか。そもそもスリランカの経済は、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字と言われ、それが慢性化していました。スリランカは農業国家であり、第1次産業や観光業が主要な産業で、外貨が稼げるものはたかがしれている。外国から支援も受け、なんとか誤魔化してきたのが実情です。こんな状況で税金をカットしてもうまくいくはずがない。
また、農業の全面無農薬化を進めたら、米の生産量が半減し、外貨がないのに米を輸入しなければいけない状況になってしまいました。さらに、輸出産業の大きな柱となっていた紅茶の生産量も半減しました。そこにコロナ禍となり、観光業は大打撃を受けました。
ラージャパクシャ一族と中国の蜜月
このような経済状況の一方で、一族は徐々に中国との関係性を強めていました。それには、先ほどの内戦が関係しています。政府軍が勝利したものの、戦後、世界の人権団体から軍の戦争犯罪が指摘されるようになります。少数民族のタミル人が無差別に殺されたり、レイプされたりしていたのです。そのためスリランカは国際社会から孤立していきました。そこに中国が入りこむ隙間があったのですね。
実は86〜08年までは、スリランカへの支援額は日本がトップだったのです。それが、09年からは中国に代わります。借り入れ額も一気に増加していきました。普通、お金を借りる時には、返済も計画に入れて考えますが、中国とラージャパクシャ一族の間ではそのようなことは全くなく、好きなだけ借りていたのです。それを使い、一族は選挙基盤の土地に、港や空港、スタジアムなど色々なものを作るわけです。そうして建設されたハンバントタ港は、世界で一番暇な港と呼ばれています。
そんな状況なので資金難に陥り、港湾運営権が中国国有企業に99年に渡って貸し出されることになりました。この港は偶然にも、中国の一帯一路政策のルート上にあるのです。22年8月にはハンバントタ港に、中国の調査船が入港しました。海洋調査が目的だとしていますが、隣国インドは、インドの弾道ミサイルや人工衛星などの監視が目的ではないかと警戒しています。
スリランカは「性悪説に基づいた社会」
そんな中でのデフォルトは、ある種の祭りでした。物が何も入ってこないため、生活が追い込まれたと実感した人々が団結し、不満の矛先がとうとう大統領に向いて、デモが起きました。ただし、一族の影響を全て排除できたとは思えません。彼らは今でも政治に大きな影響を与えています。また国民の大多数は、一帯一路という言葉を知りません。今回デモが起き、大統領を追放できたのは生活が困窮したからであって、彼らが中国と蜜月にあったことまでは見えていないのです。
スリランカは家族、一族の繋がりを大事にする文化です。逆に言うと、性悪説に基づいた社会です。家族しか信用できる人がいないのです。ですからビジネスでも、自分の周囲に家族を置いておくということはよくあります。スリランカではかつて、母親が首相で、娘が大統領になったというケースもありました。しかし、民主主義の国で、ここまで品格のかけらもなく一族が国を私物化したのは、歴史上でもほとんどないと思います。
私は、中国が政治・軍事的にスリランカを支配したいのだとは思いません。ただ、世界の経済を牛耳りたいのです。しかしその力は、軍事力と不可分なのです。
●受信料見直しで揺れる「BBC」はNHKの見本になるか、公共放送の行方 12/30
NHKとよく比較されるのがイギリスの公共放送である「BBC」だ。NHKと同じ受信料制度を取るが、その制度の見直しを迫られている。イギリス在住の筆者が最前線をレポート。今年夏以降、スキャンダルや財政政策の失敗で3人目の首相を迎えたイギリス。トップすげ替え劇の影で年明けに持ち越しが確実になったのが、公共放送BBC(英国放送協会)の料金徴収のあり方だ。日本のNHKの放送受信料に相当する、BBCの「テレビ・ライセンス料」(以下、「受信料」)制度が今後も続くべきなのかどうか。
イギリスの放送・通信業を管轄するデジタル・文化・メディア・スポーツ(DCMS)省のナディーン・ドリス大臣は今年1月、ツイッターで受信料制度の廃止を暗示した。ドリス大臣は反BBCの強硬派で知られる。もし廃止となれば、BBCの将来が危うくなる。新聞各紙は大きな見出しでこれを報じた。
追って4月、政府は放送業の未来を描く「白書」で制度見直しを明記。これを踏まえて夏には政府とBBCが話し合いを始めるはずだったが、7月上旬、ボリス・ジョンソン首相(当時)がコロナ禍でのパーティー疑惑で与党党首を辞任し、9月に引き継いだリザ・トラス首相も大型減税案が金利の急騰と通貨下落を招き、超高速で辞任した。
「受信料制度は不公平な税金だ」
10月末に成立したリシ・スナク政権で文化相を担うのは、トラス首相時代に任命されたミシェル・ドネラン氏だ。かつて「受信料制度は不公平な税金だ。いっさい廃止するべき」と発言した人物である。
年の瀬も押し迫る12月6日、下院のDCMS委員会に召喚されたドネラン文化相は過去の発言からは一定の距離を置いたものの、「受信料制度が長期的に持続可能なモデルでないことは否定できない」と述べた。
代替の制度決定には調査委員会を立ち上げ、メディア市場が今後どうなっていくのか、ほかの収入源としてどんなものがあるかなど、「根拠となるべき情報に基づいて」決定したい、と語った。調査委員会はこの時点では設置されておらず、12月末日現在、設置の発表はない。
BBCは民間放送企業としての開局から、今年10月で100周年を数える。1927年に公共的な放送局として組織替えした。
1920年代から、BBCの国内活動の資金ほとんどは受信料収入による。支払い対象となるのは、BBCを含むいずれかのテレビ局の番組を放送時にあるいは後で視聴する世帯だ。さらにBBCの放送と同時配信および見逃し視聴ができるオンデマンドサービス「BBCアイ・プレーヤー」を使って番組を視聴あるいはダウンロードする世帯も対象となる。テレビ受像機のあるなしにかかわらない。
金額は一律徴収で年間159ポンド(約2万6000円)。ただし、低所得の高齢者など一定の条件を満たす人は支払いが免除される。
ちなみに、NHKの受信料は衛星放送も受信できる場合を選択すると、クレジットカード払いで2万4180円。物価や賃金体系が異なるため単純比較はできないが、それほど変わらないレベルであろう。
最新の年次報告書(2021-2022年)によると、受信料収入の総額は38億ポンド(約6100億円)に達する。これに国際ラジオ放送「BBCワールド」運営のための政府の交付金、制作コンテンツを海外市場向けに販売する商業部門関連の収入を合わせると、53億3000万ポンドに上る。職員数は約2万1000人だ。
BBCは約10年ごとに更新される「王立憲章(ロイヤル・チャーター)」によって、その存立が定められている。現行の王立憲章の有効期間は2017年1月から2027年12月末。この期間内は受信料制度が継続されることが決まっている。焦点となるのは、2028年以降、どうなるかだ。
受信料の金額は政府とBBCの話し合いで決定される。1月、ドリス前文化相は159ポンドの受信料を今後2年間、2023年−2024年度まで値上げをしないと発表した。その後はインフレ率に上乗せした形で上昇する。
現行の金額は2020−2021年度から続いているが、イギリスは今、物価とエネルギー価格の急騰が国民の生活を直撃している。10月のインフレ率は前年同月比で11.1%上昇し、過去41年で最高水準になった。11月は微減に転じたものの10.7%。インフレ率を加味すると、受信料収入は実質的に2桁台の減収となる。
受信料制度の土台が崩れてきている
受信料制度が「維持できない」理由はメディア環境の激変だ。
放送局が提供する番組を局側が設定した番組表に沿って放送と同時に視聴する、いわゆる「リニア視聴」から、好きなときに番組を視聴する「オンデマンド視聴」へと視聴形態が変わってきている。デバイスもテレビ受像機からノート・パソコン、スマートフォン、タブレットなど複数の選択肢がある。
BBCを含むイギリスの主要テレビ局は15年ほど前からオンデマンド・サービスに力を入れ、無料で利用できることもあって広く普及したが、若者層は既存の放送局が提供する番組コンテンツではなく、動画投稿サイト「ユーチューブ」や短尺の動画をシェアする「TikTok」を好むようになった。
同時に、アメリカ発祥の有料動画サービス「ネットフリックス」「アマゾンプライム」などが巨費を投じて番組制作し、その配信コンテンツは多くの人を魅了している。
つまり、「同じ番組を放送時に視聴する」という行為が次第に脇に追いやられてしまった。視聴者はそれぞれ好きなときに好きなデバイスで好きな番組やコンテンツを視聴している。同額を一律徴収する現在の受信料制度の土台が崩れてきているのである。
NHKは2008年か12月から見逃し・アーカイブ配信サービス「NHKオンデマンド」を有料で開始しているが、受信料契約者の世帯を対象に放送同時・見逃し配信サービス「NHKプラス」を無料で提供したのは2020年からだ。
イギリスではBBCが当初から無料で「BBCアイ・プレーヤー」サービスを開始し、ほかの主要放送局も原則無料でサービスを展開したことによって、オンデマンド市場が一気に発展していった。
また、NHKのネット配信サービス(NHKオンデマンド、NHKプラス、NHK防災アプリなど)は従来NHKが行なってきた放送業務を補完する「任意業務」として位置づけられている。イギリスでは、ネットが生活の一部になった今、放送局によるネット配信は本業の一部である。ゆくゆくは日本もそうなっていくだろう。
オンデマンド市場で先を走るBBCの今後は、NHKの将来を考える上でヒントになりそうだ。
では、「公共のための放送局」BBCはどのようにして収入を得ればよいのか。
今年7月、貴族院の通信・デジタル委員会が受信料制度に代わる資金調達方法について調査を行った結果を報告書としてまとめている。
複数の例が紹介されているが、1つ目が広告収入のみの場合だ。BBCの収入が減り、広告収入を主要な収入源とする民放への負の影響がある。また、広告主の要求に沿う番組作りとなり、質が落ちる可能性がある。
2つ目が有料購読制。これも収入が減る見込みで、視聴者の幅を大きく限定することになる。国内全体に価値あるサービスを提供するというBBCの存在目的を満たすことができなくなる。
3つ目は、所得額と関連付けた金額を徴取する案。価格が上下する、不公平感が出る可能性などが指摘された。
4つ目が、通信税を導入する案。ブロードバンド環境の違いによって、これも不公平感が出る可能性ある。
5つ目が、普通税の一部とする案だ。視聴する・しないにかかわらず一定金額を徴取するが、住宅の価値によって決まるカウンシル税(地方税に相当)にひもづけるなどで不公平感を解消させる。ただし、住宅の価値が高くても収入が低い場合、逆に不公平感が増す場合もありそうだ。
ほかには、公共サービスとしての意義が高い番組に公的資金を投入するハイブリッド型として、国内の活動は受信料で海外市場では有料購読制とする、なども提示された。
受信料制度を廃止する国が相次いでいる
欧州各国では、公共放送の受信料制度を廃止する国が相次いでいる(委員会調査などによる)。ドイツ、フランス、フィンランド、スイス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどがそうである。 
ドイツやスイスでは普通税の一部が使われ、フィンランド、スウェーデンでは所得税から公共放送用の資金を捻出。ノルウェーとデンマークは国家予算として割り当てられ、フランスは消費税を資金源とする。何らかの形で税金を投入し、公共放送を維持する流れがある。
欧州の他国で一定の金額を一律に徴収する受信料制度の維持が困難になったのは、イギリスの場合同様、メディア環境の変化とそれに伴う不公平感の広がりだった。
しかし、イギリスの場合、税金と関連付ける収入源は時の政府や政治家の影響を受けやすく、報道機関としての独立性を重要視するBBCにはそぐわないという見方が強い。
欧州放送連合(EBU)は公共放送の資金繰りについて考えるときに守られるべき指針を出している。「安定し、適切かどうか」「政治的および商業上の利益から独立しているか」「国民および市場から見て公正か」「調達方法に透明性があるか」である。
イギリスでは、クリスマスから年末にかけての休暇期間後、元旦の翌日2日から通常業務モードに切り替わる。政府とBBCは、2028年以降の公共放送の新たな資金調達方法について、年明け早々本格的な話し合いを始める見込みだ。 

 

●規模先行の防衛費増 遠のく「財政正常化」 負担は将来世代に 12/31
政府の2023年度当初予算案は、防衛力の抜本強化に向けた経費がかさみ、過去最大の114兆円台に膨らんだ。社会保障費の拡大が続く中、国債増発に歯止めがかからず、先進国で最悪の財政状況は一段と悪化。ウクライナ危機や物価高も重なり、新型コロナウイルス禍からの「財政の正常化」は見通せない。「規模ありき」の巨額予算のツケは将来世代に回されることになる。
建設国債で「禁じ手」
「今までの防衛力整備も国債を使ってきた。将来世代に負担を求めることが十分に許容され得る」。23年度予算案で建設国債の対象経費を初めて自衛隊の艦船に広げた根拠について、鈴木俊一財務相は記者会見でこう強調した。
財政法は、歳入不足を補う赤字国債の発行を原則禁止する一方、資産として残る道路や橋といった公共事業などを使途とする建設国債は例外的に認めている。戦前、国債を乱発して軍備を拡張し、敗戦後には超インフレを招いて国債が紙くずになった苦い教訓があるためだ。
今回、財務省は防衛費の増額に対応するため、戦闘で破壊されかねない防衛装備品の財源に建設国債を充てる「禁じ手」に手を出した。
不透明な防衛増税
一方で、安定財源の見通しは立っていない。当面は外国為替資金特別会計(外為特会)など特別会計からの繰入金や、国有資産売却などの税外収入で財源を捻出するが、法人税などを増税する具体的な時期の決定は来年に先送りした。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「来年には景気情勢が厳しさを増し、増税議論がさらに先送りされる可能性もある」と指摘。「そうなれば、なし崩し的に国債発行で防衛費増額が賄われるようになる」と懸念する。
日銀は20日、大規模金融緩和策の縮小にかじを切った。大量の国債発行を買い支え、長期金利を低く抑え込んできた日銀の政策転換により、金利が上昇すれば国債の利払い負担は増加する。財政悪化懸念は一段と高まっている。
「党高政低」で膨張
今月成立した22年度第2次補正予算を巡っては、財務省は当初25兆円規模を主張したが、自民党の要求で約4兆円が積み増された。今後5年間の防衛費を定めた「防衛力整備計画」でも、48兆円を求めた防衛省に対し、財務省は30兆円台半ばに抑えようとしたが、最終的に43兆円に押し切られた。
岸田文雄政権の下、政府(官邸)と与党の力関係は、それまでの「政高党低」から「党高政低」に変化したとされる。「コロナ対応からの財政の正常化」に向け、パイプの太い岸田首相の指導力に期待した財務省だが、「政権が弱体化すると財務省の力は低下する」(経済官庁幹部)ことを図らずも示した。
自民党内の積極財政派が主導する「財政政策検討本部」は年明けから、現在の財政健全化目標の妥当性などを議論する見通し。政府は、国と地方の政策的経費を借金である国債に頼らず、税収でどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支の25年度黒字化目標を維持しているが、与党内では「予算が必要なのは防衛費だけではない」(中堅議員)と、目標見直しを求める声が日増しに強まっている。
●防衛費5年間で大幅増の43兆円、実際は60兆円近くに膨張 そのわけは…  12/31
政府が2023〜27年度の5年間の次期計画で打ち出した防衛費の大幅増に関し、実際の規模は60兆円近くに膨れ上がることが分かった。政府は5年間の規模を43兆円としているが、それ以外にも、期間中に新規契約する装備品購入費で28年度以降にローンで支払う額が16兆5000億円あるためだ。保有を決めた敵基地攻撃能力(反撃能力)向けのミサイルや戦闘機などの高額兵器を一気に増やすことが影響しており、防衛費のさらなる膨張や予算の硬直化につながる恐れがある。
28年度以降のローン支払いが16兆5000億円にも
5年間で43兆円という金額は、政府が今月に閣議決定した安全保障関連文書の一つ「防衛力整備計画」で示した。現計画の1.6倍近い大幅増となる。内訳は自衛隊員の給与や食費など「人件・糧食費」11兆円、新たなローン契約額のうち27年度までの支払額27兆円、22年度までに契約したローンの残額5兆円となっている。
5年間に組む新たなローンの総額は、現計画の17兆円から43兆5000億円へ2.5倍にはね上がる。27年度までに支払う27兆円を差し引くと、16兆5000億円が28年度以降のローン払いで、政府が5年間の規模とする43兆円と合わせれば、59兆5000億円になる計算だ。
国の予算は、その年の支出はその年の収入や借金を充てる単年度主義が原則だが、高額な装備品や大型公共事業は1年で賄えないため「後年度負担」と呼ばれる分割でのローン払いが認められている。安倍政権はこの仕組みを使って、米国製兵器の購入を大幅に拡大させ、岸田政権も「防衛力の抜本強化」を掲げてその流れを加速させた。
積み残しの16兆5000億円は28年度以降に返済を迫られ、仮に28年度から5年間の防衛費が同規模の43兆円とすれば、4割弱をローン払いが占めることになる。その場合、新たに必要となる装備品購入にしわ寄せがいくが、防衛省の担当者は「試算では大丈夫だ」と主張する。
財務省「通常あり得ない」 防衛省、全体像示さず
一方、予算を査定する財務省幹部は「これだけ期間外のローン払いが膨らむのは異例で、通常はあり得ない」と懸念。防衛費の次期計画の上限額を前提とせずに、必要性を精査して圧縮していくべきだと訴える。
防衛省がホームページで公表する防衛力整備計画は30日時点で、16兆5000億円に関する記述がなく、国民に説明責任を果たそうという姿勢は見えない。
一橋大の佐藤主光もとひろ教授(財政学)はローンが重荷となり「次の計画で新しく買うべき装備品が買えなくなる可能性がある。そうでなければ年間の防衛費が国内総生産(GDP)比2%を超えて膨張する恐れもある」と指摘。ローンの財源や年1兆円強の増税方針について「政府は国民に全体像を丁寧に説明すべきだ」としている。  
 
 

 

●年頭のあいさつ・自民茂木幹事長「統一地方選で最後のジャンプ」 1/1
自民党の茂木敏充幹事長は1日付で年頭所感を発表した。

あけましておめでとうございます。
昨年の参院選で、わが党は議席を大幅に伸ばし、改選過半数となる63議席を獲得することができました。国民の皆さまから「政治の安定」という大きな力を与えていただいたと受け止めており、皆さまからの期待に、政策の実現力、改革の実行力でしっかりと応えてまいります。
昨年10月には、足元の物価高への対応、世界経済の下振れリスクへの備え、さらにはデジタル、グリーンなど成長分野への投資拡大に向け、事業規模71・6兆円の「総合経済対策」を取りまとめ、12月に総額29・1兆円の「補正予算」を成立させました。景気の回復を図り、日本経済をさらなる成長軌道に乗せるため、さまざまな施策を速やかに執行していきます。
また、過去最大114・4兆円となる「令和5年度予算」には、新たな成長分野であるGX(グリーントランスフォーメーション)への投資促進や、42万円から50万円に増額する出産育児一時金はじめ子育て支援の拡充に加え、前年度の5・4兆円から6・8兆円に拡充した防衛関係費などを盛り込んでいます。
これは、わが国を取り巻く安全保障環境が加速度的に厳しさを増していることに、対応していくためのものです。昨年12月、新たな「国家安全保障戦略」をはじめとする「安保関連3文書」を策定し、わが国の防衛力の抜本的強化に向けた中長期の基本方針を示しました。この中で、今後5年間の防衛費については、これまでの1・6倍の43兆円と大幅に増額し、反撃能力の保有や、能動的サイバー防御、自衛隊と海上保安庁の連携強化など、防衛体制を充実していきます。
また、安全保障政策の推進とともに、平和外交を力強く展開していきます。今年1月から日本は国連安全保障理事会の非常任理事国となり、5月にはG7サミット(先進7カ国首脳会議)が広島で開催されます。ウクライナ情勢などで揺れる国際秩序の維持・強化に、G7議長国として日本が主導的役割を果たしていきたいと思います。
今年は4月に統一地方選挙が行われます。地域経済や教育、医療・福祉など、暮らしに直結する政策が争われる選挙であり、わが党にとっても、党の基盤を支える地方議員・地方組織の強化と拡大を図る重要な戦いとなります。
今年の干支は「うさぎ」です。跳躍力に優れたうさぎの如く、2年前の衆院選がホップ、昨年の参院選がステップ、そして今年の統一地方選で、最後の力強いジャンプを実現したいと思います。選挙戦の勝利に向け、党の総力を結集して戦い抜く決意です。
国民の皆さま、党員・党友の皆さまにとっても、本年が飛躍の一年となりますことを心よりお祈りいたします。
●「国民を守る日本」へ進もう 1/1
「日本が努力しなかったら、戦後初めて戦争を仕掛けられるかもしれない。戦争したくないから抑止力を高めようとしているんですよ」
このように語ると、たいていの人が首肯してくれた。
昨年は仕事柄、なぜ岸田文雄首相が防衛力の抜本的強化へ動いているのか―と問われる機会がしばしばあった。それへの説明である。
ロシアがウクライナを侵略し、岸田首相は「東アジアは明日のウクライナかもしれない」と語った。日本の首相が戦争の危機を公然と憂えたのは、少なくともこの数十年間なかったことだ。安全保障環境はそれほど深刻である。
世論は防衛強化を支持
岸田政権が決めた国家安全保障戦略など安保3文書は、反撃能力の保有や5年間の防衛費総額43兆円などを盛り込んだ。安保政策の大きな転換で岸田首相の業績といえる。
安倍晋三政権は集団的自衛権の限定行使を容認する安保関連法を制定した。軍拡を進める中国や北朝鮮に比べ防衛力が十分でないという課題が残ったため、岸田政権は防衛体制の質と量を整える実践面の改革に着手した。それは平和を追求する日本外交の発言力も高める。ウクライナ人が祖国を守る姿を見た国民の多数は防衛力強化を支持している。
もちろん、政策文書だけでは安全は手に入らない。今年は3文書の抑止力強化措置を講じる最初の年だ。令和5年度予算成立なしには防衛費増額も始まらない。関係者の努力や同盟国米国との協力が重要だ。
台湾への中国軍の侵攻があれば、地理的に極めて近い南西諸島が戦火に見舞われる恐れはある。中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)を台湾の付属島嶼(とうしょ)とみなしている。「台湾統一」が中国の夢なら尖閣も含めようとするだろう。台湾有事と日本有事が否応(いやおう)なく連関する点から目を背けて、備えを怠れば本当に戦争がやってくるかもしれない。抑止力と対処力の向上が急がれるゆえんだ。
北朝鮮の核・ミサイルも問題だ。ところが、反撃能力保有をめぐり一部野党や多くのメディアは「相手国が発射する前の反撃能力行使は先制攻撃になる恐れ」や「歯止め」を専ら論じている。核ミサイルも抑止しなければならないのに、バカも休み休み言ってもらいたい。
日本が参考にすべきは同じ民主主義の欧米各国の防衛政策だが、ミサイル対処で日本のような見当違いの議論が横行する国はない。理由なく相手を叩(たた)く先制攻撃が国際法上不可なのは自衛隊も先刻承知だ。反撃能力の円滑な導入を論じてほしい。
それでも反撃能力の運用は何年も先になる。既存の部隊や装備を十分活用するため弾薬、整備部品の確保を急ぎたい。特に弾薬庫増設は重要で地元自治体は理解すべきだ。
「シェルター」担当相を
ロシアは国際法を無視してウクライナの民間人・施設をミサイル攻撃している。このような非人道的な戦術を中朝両国が有事に真似(まね)ない保証はない。台湾のように、日本でも地下シェルター整備は急務だが、内閣に整備促進の担当相がいないのは疑問だ。政府はウクライナや台湾、欧米、イスラエルへ調査団を派遣し、国民保護の手立てを学ぶべきだ。
残された問題はまだある。
中朝露が核戦力増強に走っているのに、安保3文書に国民を守る核抑止態勢強化の具体策がない。岸田首相には取り組む責務がある。
何より、北朝鮮に拉致されたり、それに似た状況に置かれた国民を、自衛隊は海外で救出することが許されていない。憲法9条の解釈で海外での武力行使が禁じられているせいだ。現地政府の了解を得た警察権の代行なら余地があるというが、敵対的な国で日本国民が非道な目にあっている場所が分かっても、救出作戦の選択を端(はな)から放棄しているのが戦後日本だ。国民を守らない9条の呪縛である。
1976年にイスラエル軍は、ウガンダのエンテベ空港で、テロリストがハイジャックした民航機を急襲し、人質だった自国民のほとんどを解放した。このとき、ウガンダ政府は反イスラエルの姿勢だった。
日本が国民を守れる国になるには乗り越えるべき壁がまだある。
●日本人から徴税してアメリカから兵器を買う 岸田首相の防衛増税の矛盾 1/1
2022年12月、突如として「防衛費増額のための増税」を表明した岸田文雄首相。自民党内からも反対の声が噴出したが、結局、防衛費の総額は2023年度から2027年度の5年間で43兆円規模(過去5年間の約1.5倍)と決まり、2027年度からは不足する年1兆円の財源補填のため、所得税・たばこ税・法人税の「増税」が政府与党の方針として固まった。岸田首相は「(防衛増税は)将来世代への責任として対応すべきもの」などと国民に理解を求めるが、その後、閣議決定された2023年度当初予算案で、建設国債の使い道に戦後初めて「防衛費」が含まれることになり、「(防衛予算確保のための)国債発行は将来世代にツケを回すこと(借金)」と否定してきた首相発言との矛盾を指摘する声もある。
しかし、岸田首相の経済政策の一貫性が問われるのは、それだけではないようだ。金融・経済を題材にした小説『エアー3.0』を執筆する小説家・榎本憲男氏が、首相が2021年の就任以来、看板に掲げる経済・財政政策「新しい資本主義」との整合性について考える。

岸田首相が防衛予算を確保するための増税を発表して、議論を引き起こしている。この防衛予算のための増税について、岸田首相が唱える「新しい資本主義」や「新自由主義からの脱却」とどのように整合性が取れるのかについて考えてみたい。
そして、判断材料として使うのは昨今巷を賑わしている経済理論「MMT(現代貨幣理論=Modern Monetary Theory)」だ。というのは、実は僕は、この増税の発表がある前までは、岸田首相はMMT支持者ではないかと思っていたのである。たとえ口では否定しているかのような報道に接してさえ(2022年1月26日の衆院予算委員会での発言「(岸田政権では)MMT政策は採っていない」など)、MMTがあまりにも異端の学説であるので、一国の首相としては支持を表明しにくいだけではないか、と勘ぐっていたのである。実はいまMMTはひそかにパワフルな経済理論になりつつある。経済政策や財政政策の議論は大きくは、MMTを有効と見なすか、それとも異端の経済論として退けるべきかに二分されている。
けれどこの度、防衛予算確保のための増税を発表したことで、ちょっと分からなくなった。なぜなら、MMTによれば防衛費増額のためには増税などする必要はないからだ。では、まずMMTとはなんなのか、簡単に紹介しよう。
MMTでは「税は財源確保のためではない」
MMTは、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授らが提唱したことで有名になった理論だ。財政出動と公共事業で市中にお金を回して不況からの脱却を図ろうとするときに、「そんなことしたらとんでもないことになる」あるいは「そんなことをしても無駄」という市場原理主義的な批判を無力化する理論ともいえる。つまり日本の場合は、「日本円で政府が借金してお金をこしらえても、インフレにならない限り、政府の赤字は気にしないでよい」と主張するのがMMTだ。
新自由主義に異を唱えたポストケインジアンの理論とも言えるMMTを推し進めることは、「新自由主義からの脱却」を目指すことでもあるし、MMTの貨幣論のチャータリズムを押し進めれば、資本主義は新しい局面(「新しい資本主義」)を迎えることにもなるだろう。なぜそうなるかについて、MMTの理論と絡めて考えてみよう。
まず、チャータリズムという貨幣理論がある。この理論はお金の価値はその中に含まれている原材料(貴金属)にあるのではなく、「国家が価値があるものだと保証しているから」価値があるのだと唱える。
そして、主権国家における政府の借金というのは、「自国通貨で負っている限りは債務不履行など起こさない。日本政府の借金が円建てでさえあれば、円は政府(中央銀行)が発行しているのだから問題ない」とも主張する。これによって財政赤字、プライマリーバランスの問題はほぼなくなる。
さらにケインズ経済学が MMTの理論的支柱に加わる。不完全雇用にある場合、財政赤字なんか気にせず公共事業をやるべしとケインズは主張したが、この不完全雇用つまり「失業者が街にあふれているならば」を「極端なインフレにならない限り」に置き換えると、ケインズ経済学はMMTにぐっと近づく。
以上、MMTについては、このような紹介がよくされるが、税に対してもMMTは非常にラジカルな捉え方をしている。MMTは「税は財源を確保するためのものではない」という驚くべき主張を展開するのである。実はMMTの真のラジカルさはここにある。財源確保のために徴税があるのでないのなら、なぜ国民は納税しなければならないのか。
MMTによれば、「日本国民に日本円を持たせるため」である。極端な例で思考実験してみよう、すべての資産をドルで持っている日本人がいる。この人が日本政府に税金を払おうとすれば、ドルを円に変えて円で納税しなければならない。つまり、日本政府の徴税には「日本人は日本円を持て」「日本人は日本円を持つことによって日本人となる」というメッセージが込められているのである。
外国製兵器の購入は防衛(=公共事業)にならない
さて、ここで防衛力強化のための増税に話を戻そう。岸田政権は、「新自由主義からの脱却」を宣言し、また成長を目されている産業への投資に積極的な姿勢を示すなど(内閣官房の資料「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を読む限り)、MMTを意識しているのではないか、と思っていた。というか、ここまでのことはMMTのバックアップなしには言えないだろうと思っていたわけである。しかし、防衛費について岸田首相は、「借金で賄うことが本当によいのか、自問自答を重ね、やはり、安定的な財源で確保すべきであると考えた」と語って、増税に理解を求めたので、僕は「えっ!?」となった。明確な理由を示さないまま、借金(国債)で防衛費を賄うことが悪いと言い、借金は安定的な財源ではないと決めつける、これはまったくMMTの主張と反する。
では、MMTの観点から、防衛費のための増税について、考えるとどうなるだろうか。防衛というのは公共事業だと考えることができる。実際、アメリカでは防衛産業は巨大な公共事業のひとつだ。ならば、政府が国債を発行し、その金で防衛のための戦闘機やミサイルをはじめとする諸々の武器を作って防衛省に納めるというのは、道路を作って国に納めるのと、お金の流れで見ればまったく同じだ。国内に有効需要が生まれ、お金が市場に回り出し、景気回復に役立つ、ということになる。MMTではこうなる。
岸田首相は増額した防衛費をなにに使うのかというと「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということ」だと言う。では、どこから買うのかというと、まちがいなくアメリカだ。しかし、このお金の流れはかなり問題である。例えて言うならば、お湯が足りないからとコックをひねってお湯を足している(増税)のに、バスタブに穴が開いてそこからお湯が(アメリカへ)漏れているようなものだ。これではMMT支持者が目論むような公共事業にはなっていない。
ではどうすればいいかと言うと、MMTでは、武器は外国から買わずに自国で作ってそれを使えばよい、ということになる(武器を作れるかどうかという技術的な問題はいったん横に置く)。必要なだけ国債を発行して、政府は借金をし、政府は防衛のための戦闘機やミサイルを作れと国内企業に発注して金を払う、企業は戦闘機やミサイルを防衛省に納品する。そうすれば、日本国内でお金が回る、という理屈になる。
岸田首相は2022年12月13日の自民党役員会で、「責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民が自らの責任としてしっかりその重みを背負って対応すべきものである」と発言した。後日「国民が自らの責任として」ではなく「我々が自らの責任として」だったと訂正したが、“我々”の中に国民が入っていないわけがない。せめて、どうしても税を取りたいのであれば、日本を守るための武器は日本人が自らの責任として作ったものを使ったほうがいい、ということにならないだろうか。
また、岸田首相の「新しい資本主義」や「新自由主義からの脱却」のロードマップの実現性はどのような経済理論に立脚しているのだろう。政府官房の資料「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」では、さかんに「官も民も」という言葉と「投資」という言葉がくり返されている。MMT的な発想なくしてこの財源をどこから調達しようとしているのだろうか?
●新年を迎えて 本物の安心醸成しよう 1/1
燃えさかる戦火が消えぬまま2023年を迎えた。ロシアが昨年2月下旬、ウクライナ侵攻を始めて10カ月余。多くの命を奪い続ける侵攻をいかに終わらせるか。世界が突き付けられた課題はあまりにも重い。
核使用という脅しを振りかざすロシアによって世界の安全保障環境は著しく傷ついた。不安の影を落としたのはロシアだけではない。昨年、北朝鮮は数知れぬミサイルを発射。中国は台湾へ軍事圧力を強めた。
日本が自衛目的で他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費の大幅増にかじを切ったことにも影響した。ただ安保環境悪化を防衛力強化だけで解決することはできない。むしろ軍拡競争を招く恐れすらある。
今年は日本が先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の議長国を務める。G7の連携を強化し、外交の力で緊張緩和を粘り強く働きかけることが大切だ。
また今月、日本は国連安全保障理事会の非常任理事国に就任する。紛争の解決や人道支援などへ、いかに貢献できるのか。国連の果たす役割が試されよう。
ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギーや穀物の供給不安が高まり、世界的なインフレを招いている。日本ではこれに円安が加わり、食料品や石油製品の値上がりが深刻化。国民生活が脅かされている。
日本はエネルギーの多くを輸入に頼り、食料自給率も低い。これでは有事の際に国民の生活を守れないのではないか。
21年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%と低水準が続く。農業従事者は減少の一途だ。いざというときの食料確保は暮らしの安全の基本。自給率向上に本腰を入れたい。農業県である本県はその向上に寄与できよう。
気候変動対策が喫緊の課題とされる中、エネルギーの化石燃料依存は見直す必要がある。しかし政府が原発政策を転換し、新増設や運転期間延長に踏み切ろうとしているのは疑問だ。安全性、コスト、発電開始時期などを考えれば、風力などの再生可能エネルギー拡大こそ急ぎたい。
能代港湾区域内で昨年末、国内初となる大規模な洋上風力発電所の商業運転がスタート。秋田港でも今月中に運転が始まる見込みだ。洋上風力の一大拠点へ第一歩を踏み出した本県が再生エネ生産を後押しする。
一方で少子化という静かな有事が進行中だ。22年の全国の年間出生数は初めて80万人を割り込む見通し。日本の総人口は2100年に6千万人弱まで落ち込むとの推計もある。4月発足の「こども家庭庁」をしっかり機能させ、少子化に歯止めをかけなくてはならない。
日本の国債発行残高は既に1千兆円を超え、主要国最悪の財政状況。それでもなお国債発行を膨れ上がらせるのは人口減少が確実な未来の世代に重荷を背負わせることになる。
この3年間、猛威を振るってきた新型コロナウイルスは現在、流行「第8波」。医療の逼迫(ひっぱく)が生じるなどまだ気は緩められないが、人々の暮らしは日常を取り戻しつつある。
コロナの非常時から抜け出し、日本も本来の姿を目指す時だ。エネルギーや食料の自給率を高め、国債依存から脱却する。そんな当たり前のことを一つ一つ前進させていくことで本物の安心を醸成しよう。
●日本経済は大転換へ〜市場の圧力が「日銀の不合理な政策」を変更させた 1/1
日銀の政策変更は、金融緩和政策の終了に向かっての第一歩だ。日本経済は、これから大きく変わる。これは日銀が望んで行なったことではない。市場の圧力に押されて行われたことだ。こうしたメカニズムが、健全な経済を支える。
2023年の日本経済は、これまでと大きく変わる
日本銀行は、昨年12月20日に長期金利の変動幅を引き上げた。
決定直後から、長期金利が急上昇し、為替レートが急激に円高になった。金利の上昇と円高方向への為替変動は、さらに続くだろう。
これは、企業の業績やさまざまな経済活動に大きな影響を与える。2023年の日本経済は、2022年のそれとは大きく変わるだろう。
ところで、上記の日銀決定は、日銀が自ら望んで行ったものではない。市場の圧力に追い詰められて、行われざるを得なかったものだ。
では、どのような経緯で日銀は上記の決定に追い込まれたのか? それについて、以下に説明しよう。
矛盾した政策が投機の対象となった
2022年の3月以降、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が金利を引き上げ、世界各国の中央銀行もそれに追随した。ところが、日本銀行はそれまでの金融緩和政策をかたくなに続け、金利を抑制し続けた。その結果、様々な歪みが生じた。
何より大きな問題は、日米の金利差が拡大した結果、急激な円安が進み、輸入物価が高騰して、国内の物価が上昇したことだ。
これに対処するため、政府はガソリン価格や電気料金の凍結等の物価対策を行った。物価高騰の原因を日銀が作り、政府が火消しに回るというのは、全く矛盾した事態だ。
矛盾した政策は、投機の対象となる。事実、そのような投機が生じた。
海外のヘッジファンドが、日銀の金利抑制策が近い将来に変更されるだろうとの見通しの下で、投機を仕掛けた。これは、日本国債のショートポジション(先物売り)を取るという戦略だ。
見通しどおりに日銀が金利抑制策を解除して金利が上昇すれば、この取引は利益をあげられる(このメカニズムは若干複雑だ。詳しい説明は、拙著『円安と補助金で自壊する日本』〈2022年10月、ビジネス社〉を参照されたい)。
2022年の6月には海外ヘッジファンドによるこのような取引が急増し、日本の国債市場で取引が1時停止になるなどの混乱が生じた。
ただしこのときには、日銀が巨額の国債を市場で購入して防戦し、結局のところ、長期金利の上限は維持された。ヘッジファンドは敗退した。
国債市場が機能不全に陥った
2022年の秋には、以上で見た投機取引だけでなく、国債市場が機能不全に陥り、正常な取引ができないという事態が生じた。
10月、11月には、10年物国債の業者間取引が成立しない日が続いた。日銀が設定している10年国債の利回りの上限が低すぎるために(つまり、国債の価格が高すぎるために)、日銀以外に買手がいなくなってしまったのだ。
11月には、10年物の地方債の利回りが急上昇した。これらは日銀の購入対象ではないので、市場原理に基づく金利が成立する。それが、日銀が設定する国債の利回りよりずっと高くなったのだ。つまり、日銀が直接コントロールしてないところでは、すでに金利が上がり始めたのだ。社債等についても同様の問題が生じた。
さらに、イールドカーブ(残存期間に応じて、利子率がどのように変化するかを示す曲線)が、歪んだ形になった。日銀が購入の対象とする10年債の利回りが極端に低く、それ以外のコントロールされていない金利が高くなるという形になったのだ。
投機ではなく、市場が日銀を屈服させた
冒頭で述べた日銀の決定は、日銀対ヘッジファンドの戦いで日銀が敗れたことの表れだと言われることがある。確かに、日本国債のショートポジションをとっていたヘッジファンドは、日銀の政策変更によって巨額の利益を手に入れた。
しかし、日銀の政策変更が、ヘッジファンドの投機の圧力によって行なわれたとは考えられない。
事実、前述のように、6月には日銀はヘッジファンドの攻勢に対して国債購入でうち向かい、これを敗退させている。
この戦いは、投入できる資金額の規模で決まる。これに関して中央銀行が圧倒的な有利性を持っていることは間違いない。
日銀が民間銀行から国債を購入するのは、銀行が日銀に持っている当座預金を増やすという操作によって行われる(しばしば、「日銀は紙幣を刷って国債を購入する」と説明されるが、この説明は誤りだ)。だから、事実上、いくらでも購入できるわけだ。
2022年における日銀の国債買い上げ額は、100兆円を超える。いかに巨大ファンドといえども、これだけの資金を簡単に調達するのは不可能だろう。
だから、資金額で中央銀行(とくに、日銀のような巨大な中央銀行)に対抗することはできない。
しかし、それは、中央銀行が何でもできるということではない。
中央銀行の行動が経済合理性を欠くものであれば、それはマーケットに様々な歪みを作り出すのである。それが上で述べた国債マーケットの機能喪失に他ならない。これによって、中央銀行の行動に制約がかかる。
いかなる権力者も市場の判断に逆らえない
以上で述べたことは、財政資金との関係で極めて重要な意味を持っている。いまの日本では、防衛費の増額を国債でまかなってよいかどうかという問題だ。
日本の総理大臣経験者には、「日銀は政府の子会社だ」と言った人がいる。その人は「防衛費増額は国債で賄えばいい」と簡単に言った。
しかし、マーケットがそれを日本経済にとって望ましくないと判断すれば、市場金利が上昇して資金調達コストが上昇し、そうした財政支出は抑圧される。
日本の政治システムには極めて問題が多いが、金融のシステムは、最終的には不合理な政策に対してノーをつきつけることができる。だから、いかなる権力者も好き勝手なことはできない。
それが証明されたという意味で、12月20日の決定は極めて重要な意味を持っていた。
ただし、このことは、無条件で成立つわけではない。仮に財政法第5条で禁じられている国債の日銀引き受けが許されると、以上のメカニズムは働かない。したがって、財政法第5条を堅持することは、極めて重要な意味を持っている。
2022年の12月1日に発行された10年国債の半分以上がその日のうちに日銀に買い上げられた。このニュースはさして注目されなかったのだが、大変重要なものだ。このような行為は、財政法第5條の脱法行為と考えざるをえない。
幸いにして、このような事態は、12月1日だけで済んだようだ。そして、事態は、第5条脱法という誤った方向ではなく、長期金利の引上げという正しい方向に向かいつつある。
財政支出を市場の判断にさらすというメカニズムを維持することは、財政支出の無制限な膨張を防ぐために、本質的な意味をもっている。
●2023年展望 国の行く末 確かなものに 1/1
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、2023年を迎えた。日本国内での感染拡大から間もなく丸3年となるものの、死者は連日400人前後に上り、昨年1年間だけで4万人近くに達するなど、収束には程遠い。国民の命と暮らしに関わる重い課題を抱え岸田文雄政権は国内外の懸案にどう対応していくのか。
G7議長として
ロシアによるウクライナ侵攻はさらなる長期戦の様相にある。世界の分断と民主主義や人権の危機は一層深まっている。ロシアと欧米など民主主義陣営が対峙(たいじ)する戦争は世界大戦にもつながりかねない、ぎりぎりの地点に踏みとどまっている状態だ。自制のたががはずれれば、さらなる大きな悲劇が待ち受ける。
まずは、ロシアが核兵器を使用しないように、西側同盟は結束を図りながら強いメッセージを発し続けなければならない。5月に広島で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)で議長を務める岸田首相は唯一の被爆国のトップとして時計の針を1945年に逆戻りさせないよう、指導力を発揮する必要がある。
大転換論戦へ
今月下旬にも召集される通常国会での当面の焦点は23年度予算案で過去最大の6兆8219億円を計上した防衛費の妥当性だろう。他国のミサイル発射拠点などを攻撃可能とする反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に向け、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費も盛り込んでいる。
首相は「1年以上にわたる丁寧なプロセス」を経ていると説明したが、政権内の議論にとどまる。先制攻撃と映れば、日本攻撃の口実を与え国内に被害が及ぶ恐れも否めない。増税方針は「自問自答」を重ね、公明党との与党協議に諮ったと強調。首相判断に国民の賛同が得られるのか。国会で徹底論戦が必要だ。
原発回帰政策も同様に大転換となる。福井県内の立地自治体などが長年求めてきた建て替えに応じた形だが、脱原発を望む国民も少なくない。60年超運転延長については、古い原発を使い続けることに不安を感じる県民もいる。その前に、今年末までに関西電力が使用済み核燃料中間貯蔵施設の県外計画地点を示さなければ、美浜3号機と高浜1、2号機は運転できない。
子ども予算の行方
少子化対策の行方も大きな焦点となろう。政府は全世代型社会保障構築本部の報告書で、子育て支援の拡大を求めながら、必要となる財源に触れず、首相肝いりの「子ども関連予算倍増」の議論を今年夏まで先送りした。
22年の子どもの出生数は初めて80万人割れする見通しで想定よりも8年も早いペースで減り続けている。報告書は「地域社会を消滅に導き、経済社会を縮小スパイラルに突入させる。国の存続にかかわる」と警鐘を鳴らしている。
米ブラウン大学経済学教授のオデッド・ガロー氏は近著「格差の起源」で、産業革命以前と以後を分析。後者では人口が減少傾向にあったものの人的投資、つまり教育の充実により新たな技術開発が進展し、持続的成長につながっていると説いている。
子どもへの投資が繁栄の鍵となるならば、子育て支援への公的支出が主要国で見劣りする日本はますます取り残されてしまうのではないか。教育の無償化などを推し進め、あまねくチャンスを得られる仕組みが必要だ。防衛増税も重要だが、国の行く末を確かなものにするには、手厚い子ども施策が欠かせない。  
●2023年度当初予算案は「過去最大」114兆円...止まらない肥大化 1/1
「行き着くところまできた感がある」
霞が関の某省庁幹部はため息まじりに、こうつぶやいた。
政府が22年12月23日に閣議決定した2023年度当初予算案のことだ。
将来にわたる防衛費の大幅増額に踏み出したことで、日本という国の借金拡大は、新たな段階にステップアップした。
国債頼りの厳しい財政状況に拍車 23年度は35兆6230億円の国債発行
2023年度の一般会計の総額は114兆3812億円。22年度当初予算から6兆7848億円も増え、11年連続で過去最大を更新した。
これに対し、歳入の柱である税収は69兆441億円。法人税収などの増収を見込んだ結果、当初予算としては最大になるものの、歳出全体の6割程度しか賄えない。
このため、23年度も当初段階で国の借金に当たる国債を35兆6230億円発行する。国債頼りの厳しい財政状況に拍車がかかることになりそうだ。
冒頭の省庁幹部が嘆くのは、23年度当初予算の肥大化要因が従来の当初予算とは決定的に違うためだ。
従来の当初予算の押し上げ要因は、歳出の3分の1を占める社会保障費の増大だった。少子高齢化に伴う自然増が避けられず、これが財政を圧迫し続けてきた。
だが、2023年度はこれに防衛費の増額が重なる。
防衛力強化を目指す岸田文雄政権は、防衛費と関係費の総額を27年度に国内総生産(GDP)比2%に引き上げる方針を掲げている。今後5年間で43兆円を防衛費に充てるとしており、従来に比べ計17兆円も積み増す必要がある。
その初年度に当たる23年度は防衛費に過去最大となる6兆8219億円を計上した。22年度当初比1兆4214億円の増額となり、GDP比は22年度の0.96%から1.19%に拡大する計算だ。
さらに政府は、防衛費増額に対応するため、複数年度にわたって使える「防衛力強化資金」を新設。23年度は特別会計の剰余金や国有財産の売却などから23年度の防衛費を除いた3兆3806億円を計上した。
歳出削減など耳が痛い話題からは顔を背ける...政治の無責任
もっとも、最大の問題は、防衛費増額の財源がいまだ不明確なことだ。
政府・与党は2022年末の税制改正議論で、防衛費増額の財源に、法人税、所得税、たばこ税の増税で対応する方針を23年度税制改正大綱で示したものの、引き上げ時期の明記は見送られた。
23年度以降の税制改正議論で増税に向けた道筋を具体化するというが、国民受けの悪い増税には自民党内などの反発が強く一筋縄ではいかない。
新設の防衛力強化資金に充てた国有財産の売却なども、あくまで一時的な収入に過ぎず、安定財源とはとても言えない。それも27年度までの5年間分を決めただけで、その先の見通しは立っていない。
「防衛費増額の財源が不足すれば、国債発行でまかなうしかなくなる。それだけでは何としても避ける必要がある」
政府関係者はこう指摘するが、23年度当初予算でさえ、本来は他の事業に充てるべき財源をかき集めて、何とか体裁を整えたに過ぎない。岸田政権は財源が固まらないまま、防衛費増額へと見切り発車したのだ。
「社会保障費に、防衛費増額が加わり、歳出の拡大は確実に新たなステージに突入した」
財務省からはこんな声が聞こえてくる。
当初予算の止まらない肥大化は、国民受けのいい政策に熱を入れ、歳出削減など耳が痛い話題からは顔を背ける政治の無責任体質の象徴といえそうだ。
●岸田首相、逆風克服か失速か 解散へ駆け引き、人事も焦点 23年政局展望 1/1
岸田文雄首相が逆風を克服できるのか、あるいはさらに失速するか。
2023年は、閣僚辞任ドミノで苦境が続く岸田政権の浮沈が懸かる分かれ道となる。5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、首相は地道に求心力回復を図る考え。衆院解散・総選挙をにらんだ与野党の駆け引きも活発化しそうだ。
重要課題「動かす年」
「未来の世代に責任を持って日本を引き継ぐ」。首相は22年暮れ、内外情勢調査会で講演し、新年の抱負をこう語った。防衛力強化や「新しい資本主義」、少子化対策といった重要課題に「布石」を打ったとして、「実際に稼働させ、動かしていく。これが23年の位置付けだ」と力説した。
とりわけ重視するのが、G7指導者を地元・広島に集めるサミット。だが、首相がこの「晴れ舞台」にたどり着くまでには数々の試練がある。
最初の関門は、1月23日召集の通常国会だ。政府・与党は、過去最大の114兆3812億円に上る23年度予算案を提出し、年度内成立に全力を挙げる。「政治とカネ」の疑惑を抱えた秋葉賢也前復興相らを年の瀬に更迭した首相に対し、野党は任命責任を厳しく追及する方針。防衛費増額やそのための増税など首相が矢継ぎ早に決めた重要政策を主な論点に、与野党が冒頭から激突しそうだ。
経済運営も成果が問われる。4月8日に任期が切れる黒田東彦日銀総裁の後任人事案を、政府は3月までに国会に提示する方針。異次元金融緩和を推し進めてきた黒田路線は修正されるのか。経済界も政界も首相の判断に目を凝らす。
物価高の痛みを和らげる賃上げの動きを広げられるかも課題だ。春闘の結果は、首相が掲げる新しい資本主義の成否につながる。
4月は統一地方選が行われるほか、欠員が生じた衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区で補欠選挙も実施される見通し。自民党は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の影響を懸念する。
「常在戦場」で選挙準備
次期衆院選は小選挙区の「1票の格差」是正のため、定数を「10増10減」する新たな区割りで行われる。10月に衆院議員の任期満了まで残り2年の折り返しを迎えることから、与野党とも「常在戦場」(政権幹部)と身構える。
解散権を握る首相は、自民党総裁の任期切れまで9月で残り1年となることを念頭に、総裁再選に向けた解散戦略を慎重に探る。解散の選択肢の一つと目されるのが広島サミット後だが、内閣支持率の低迷が続けば政治決戦はおぼつかない。
首相は防衛費増額のための増税実施までに衆院選を行う考えも示している。増税の時期は、自民党内の反対派に配慮して「24年以降の適切な時期」と曖昧にしており、23年は増税を巡る党内対立が再燃する。首相が解散をちらつかせて反対派をけん制する可能性もある。
内閣改造・党役員人事も、首相の局面打開のカードだ。党幹部は「夏に人事がある」との見方を示す。「ポスト岸田」に意欲を隠さない茂木敏充幹事長の処遇が焦点。首相と距離を置く菅義偉前首相の要職起用も再び取り沙汰されそうだ。国民民主党を連立政権に加える案もくすぶり続ける。
立・維の共闘は
野党は巨大与党にどう対峙(たいじ)するのか。立憲民主党と日本維新の会は先の臨時国会での「成果」に味をしめ、共闘を継続する方針だが、憲法改正や安全保障政策など基本政策で溝が深く、一枚岩にはほど遠い。統一地方選では競合し、国政選挙でも「野党第1党」を競う敵同士だ。
●やられる前に「先に攻撃」も 「経済安全保障」が本格始動 1/1
政府は、去年12月20日に、経済安全保障を強化するため、11項目の「特定重要物資」を閣議決定した。経済安保を巡っては、物資のサプライチェーン(供給網)の強化を国が支援する取り組みが現状では先行しているが、2023年以降は、サイバーセキュリティなど新たな経済安保の議論が本格化、国の「規制色」が強まることで、「国会が荒れる」と指摘する政府関係者もいる。
「国民の生活を守る第一歩に」
「国民の生存や生活、経済活動を守るために、我が国にとって重要な物資のサプライチェーンの強靭化を進める取り組みの第一歩となった」高市経済安全保障相は、12月20日の記者会見で「特定重要物資」指定の意義を強調した。
「特定重要物資」とは、「国民の生存に直接的な影響が生じる」「供給が特定の少数の国に偏っていて、供給が途絶えた場合に甚大な影響が生じる」などのおそれがあるもの。政府は、5月に成立した「経済安全保障推進法」の基本方針に基づき、半導体や蓄電池、肥料など11項目の指定に向けた作業を進めてきた。
政府は、特定重要物資の安定したサプライチェーンの構築に向け、中国など特定の国に依存することを避けるため、物資の製造や材料を扱う企業に対して、春ごろをめどに認定作業を開始し、国内や他国への工場移転などの支援を行う方針だ。
臨時国会では、「特定重要物資」の安定的な供給を強化するための予算として総額1兆円超を確保し、日本の「経済安保」が初めて本格始動した形だ。
下水からリンを回収
ロシアによるウクライナ侵攻は、「資源小国」の日本にとって大きな転換点となった。LNG(液化天然ガス)などのエネルギー以外でも深刻な影響が及んだ。例えば、「肥料」について、政府は「ウクライナ情勢による影響により輸入困難になるなど、減に供給途絶リスクが顕在化している」としている。こうした中、国内で、肥料の安定確保に向けた画期的な取り組みが始まっている。
神戸市は、肥料の主要な成分となるリンが、人体で吸収しきれず大量に下水道へ排出されている点に目をつけた。市内の下水処理施設に特殊な設備を使い、リンを回収する技術を開発。2015年から再生リンを使用した農家向けの肥料を販売しているほか、一般向けの販売も開始した。
リンは、2020年7月からの1年間での輸入量について中国からが9割を占めるなど、“中国依存”が顕著になっており、経済安保上の喫緊の課題の一つと言える。
神戸市は、現在市内に1つしかない再生リンを回収できる施設を今後増やしていく考えだが、リンが原材料の肥料が特定重要物資に指定されたことで、「こうした企業を大きくしていく」(政府関係者)という国の方針に則り、国の予算が使われるかもしれない。
サイバーめぐり「国会が荒れる」
年末になって具体的に動き出した「経済安保」だが、「特定重要物資」の指定を含む安定供給の確保は、4本柱のうちの一つでしかない。政府は今後、電気やガスなど「機能が停止・低下した場合、国家・国民の安全を損なう恐れが大きい」とされる「重要インフラ」の安定的な確保について議論を進めていく方針だ。
サイバー空間で不正アクセスを行い、データを盗むなどの「サイバー攻撃」は近年、高度化している。このため、サイバー攻撃から重要インフラを守る「サイバーセキュリティ」をいかに高めるかも経済安保上の重要な課題となる。
政府が16日に改定した外交安全保障の基本指針「国家安全保障戦略」では、「重要インフラ等に対する重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、これを未然に排除し、被害の拡大を防止するために能動的サイバー防御を導入する」と明記された。
「能動的サイバー防御」は明確な定義がないものの、政府関係者は、サイバー攻撃について「防御だけでは守り切れない」としていて、攻撃を未然に防ぐためには「先にサイバー攻撃をする」ことなども視野に入れているという。
一方で、政府による「能動的サイバー防御」は、場合によっては、メールなどの内容を第三者が把握することを禁止する「通信の秘密」に触れるとの見解もあるため、野党が厳しく追及する展開が予想され、「次の通常国会は荒れる」との指摘が早くも出ている。
国民の生活を守るためにますます重要度が増す「経済安全保障」だが、一方で国民の権利や自由な活動を規制しかねない側面も持ち合わせている。日本を取り巻く環境が厳しさを増す中で、経済安全保障が重要となる分、岸田総理には、国民が納得し、安心する説明が求められている。

 

●トマホーク「役に立つか立たないか論争」に見える日本の課題 1/2
日本政府は、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の導入を決めた。12月16日の閣議で新たに決めた反撃能力は、敵の射程圏外から攻撃できる長射程のミサイルを使った「スタンド・オフ防衛能力」を活用する。国家防衛戦略は「2027年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含めスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する」としている。トマホークはその「つなぎ」とみられ、政府は来年度予算にトマホーク取得予算として2100億円余りを計上するという。
そして今、一部でかまびすしいのが「トマホーク役に立たない論」だ。トマホークは1980年代から配備が始まり、湾岸戦争やイラク戦争など、様々な戦闘で使われてきた、「現存するなかで、最も信頼性の高い巡航ミサイル」(自衛隊幹部)だ。ただ、弾頭重量は1千ポンド(約450キロ)で、2千ポンド級もある地上攻撃用爆弾と比べれば、見劣りがする。「鉄筋コンクリートの建物に穴は開けられるが、完全に吹き飛ばすほどの力はない」(同)。トランプ米政権は2017年4月、シリア軍の基地などにトマホーク59発を発射したが、大きな打撃を与えるには至らなかったとされる。速度も900キロ足らずのため、携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」で撃墜されることもあった。
事前に目標の座標と画像を入力し、GPS機能と画像照合システムで飛行するため、精密攻撃に適しているが、米軍に現在配備されているトマホークは移動する標的は狙えない。米軍はすでに、地上や海上を移動する目標を攻撃できる改良型トマホークの実験を終えているが、配備は2〜3年ほど先になると言われている。こうしたことが、「トマホーク役に立たない」論者の根拠になっている。
元海上自衛隊海将補で徳島文理大人間生活学部の高橋孝途教授(国際政治・安全保障論)は「役に立たない論」について2種類あると指摘する。高橋氏は「それは、持ってはいけない論者と、論理的に考えた結果論者に分類できます。前者は、そもそも反撃能力は憲法・専守防衛違反だから、トマホークを持つなどとんでもないという人々。こうした方たちは、トマホーク役に立たない、という議論を積極的に支持します」と語る。
これに対し、後者の人々は、日本政府は、これから反撃能力を構築するのに、装備の導入を先に決めるのは「順番が違うのではないか」と主張する。日本が反撃能力の導入を正式に決めたのは12月16日だ。これから、反撃能力を使うための情報収集の仕組み、指揮体系、発射プラットフォーム、配備場所などについて詳細に詰める必要がある。関係者の1人によれば、「トマホーク導入」は確かに、こうした議論の積み重ねの結果決まったのではなく、どちらかといえば、政府高官らの「トマホークがあるじゃないか」といった「半ば思いつき」(同)によって決まったという。
高橋氏は、後者の主張は傾聴に値すると評価しつつ、「それでも導入を決めた背景を理解する必要があるのではないでしょうか」と語る。「日本の安全保障環境はかつてないほど悪化しています。一日も早く準備をしなければならない以上、とりあえず、手に入るものは先に手に入れるという発想は間違いではありません。トマホークもスーパーで野菜を買うようなわけにはいきません。発注してから生産、引き渡し、操作員の養成などに時間がかかります。その間に、反撃能力の全体システムを構築しようということなのでしょう」
それでも、「役に立たないトマホークを買っても意味がないではないか」という主張は残る。自衛隊幹部は「確かに、中国やロシアが保有するS300やS400といった近代的な防空システムがあれば、トマホークの相当数は撃墜される可能性があります。でも、相手に届く兵器があるのとないのでは、まったく効果が違います」と語る。「トマホークがあれば、相手がそれを防衛している間、こちらが作戦を遂行する時間を稼ぐことができます。評論家の方々は、トマホークの能力にだけ注目しがちですが、作戦全体を考えた場合、トマホークは有力な手段になり得るのです」
また、今回の反撃能力に否定的な主張の論拠には2つの種類があるようにみえる。ひとつは、「護憲・平和論」だ。理念は貴いものがあるし、大事にしたいが、こうした人々もロシアによるウクライナ侵攻や、中国軍が今年夏に台湾周辺で行った軍事演習に賛成しているわけではない。国家安保戦略が反撃能力の根拠として掲げる「日本周辺の安保環境の悪化」にはある程度の理解があるとみられる。つまり、こうした人々は「令和の状況」を認めながら、「主張は昭和のまま」という状態に陥っているようにも見える。
もう一つは「増税反対論」だ。この反発の背景には、岸田文雄首相がまず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に出てきた「国防費のGDP(国内総生産)比2%」の流れに乗り、「金額先行」の流れを作ったという事情がある。ただ、自民党ベテラン議員の言葉を借りれば、「自分の財布を開けてでも、平和と安全を守ってくださいという気分になれない」という心理状態もあるだろう。政府が議論の進め方を間違えたために起きた反発が、「自分の財布を開けてでも、平和を守ってもらわないといけない状況」を直視できない状況を生み出している。
来年の通常国会での予算審議で、政府が走りながら考えている、「トマホークを、どのような状況で使うつもりなのか」「どんなシステムを構築し、どんな目標を狙うのか」といった具体的な議論が絶対に必要だ。ここで論理破綻したら、導入を諦めるしかない。逆に政府が議論から逃げたら、トマホークを持っても、国民の支持や団結を得られない。
日本は、そのくらい切迫した状況に直面している。
●岸田首相は遂に「増税派の傀儡」としての本性をむき出しに 1/2
’23年の何月から景気が悪くなるかの議論はあっても、良くなるかもしれない、との議論は成立し得なくなってしまった。それほど決定的な事件が起きていたことに、どれほどの日本人が気付いているだろうか。’22年2月のウクライナ事変をきっかけに、防衛費倍増の議論が待ったなしとなった(それでも5年後に、などとヌルい結論になったが)。政府は参議院選挙後、これ一本にかかりきりになった感があるが、曲がりなりにも与党をまとめた。また、(安倍晋三元首相の側近だった)与党幹部の萩生田光一政調会長が「財源として来年からの増税はしない」と押し切った。ところが、突如として岸田文雄首相は「防衛増税」を打ち出した。岸田首相は遂に「増税派の傀儡」としての本性をむき出しにした。
増税派が狙うは「日銀人事」
これに対し、先週号で「高市の乱」を伝えた。閣内にいながら、高市早苗経済安保担当大臣が反旗を翻したのだ。既に趨勢(すうせい)は見えていたが、案の定、腰砕けとなった。SNSでは「どうせ、いつものガス抜きだろ」と冷ややかな視線が圧倒的多数だった。だが、そんな単純な話ではない。自民党良識派も決起、反対論が燎原の火の如く広がり、「来年からの増税」は阻止した。結果、「再来年以降のどこかで増税」となった。要するに先送りであり、玉虫色の決着だ。むしろ良識派は「来年からの増税を阻止した」「その先の事は後でいくらでも潰せる」と怪気炎を上げるかもしれない。ここで問題である。増税派は、最初から「再来年以降のどこかで増税」を考えており、織り込み済みの結論だったのだ。では、増税派は何を狙っているのか。  日銀人事である。
「史上最強の財務事務次官」が副総裁に急浮上
黒田総裁と二人の副総裁の任期切れ後、どのような人事を望むのか。  総裁は、雨宮正佳現副総裁の昇格が有力視されてきたが、ここにきて中曽宏前副総裁が有力視されるようになってきた。雨宮氏と中曽氏のいずれも、日銀プロパー。副総裁には、木下康司元財務事務次官が急浮上している。自民党総裁選・衆議院選挙・東京都議選挙・参議院選挙と連戦連勝、経済もアベノミクス絶好調だった、絶頂期の安倍首相に対し真っ向から喧嘩を売り、消費増税8%を押し付けた。いわば、「史上最強の財務事務次官」「増税大魔王」である。5年後には総裁に昇格する含みの副総裁である。もう一人の副総裁は、金融緩和を中核とするアベノミクスを支持したリフレ派を追放できれば、なんでもいい。「初の女性副総裁」として複数の名前、たとえば翁百合日本総研理事長のような名前が挙がる。要するに「リフレ派以外の学者で、女であれば誰でもいい」のである。
利害の一致した財務省と日銀による「増税派」
従来、財務事務次官出身者と日銀プロパーが交互に正副総裁を出し合う「たすきかけ人事」を行ってきた。政治介入を防ぎ、官僚が勝手に人事を、そして経済政策を壟断(ろうだん)する体制を再び築きたいのだ。財務省にとって日銀総裁は最高の天下り先でロイヤルロードと呼ばれる。日銀総裁に就いた元事務次官は彼らの世界で「ドン中のドン」の地位を手にする。事務次官を経験していない黒田氏の総裁就任を苦々しく思ってきた。日銀は自分たちの思想に反する金融緩和を行ってきた黒田路線を一刻も早く否定したい。ここに財務省と日銀の利害は一致した。かくして「増税派」が形成された。そして支持率低下で窮地に追いやられている岸田首相に手を差し伸べて、今回の防衛増税を仕掛けてきた。日銀人事を制し、金融緩和を潰すために。
岸田政権が存続する限り、黒田路線は……
金融緩和とは、低金利政策である。日銀は、一刻も早く金融緩和を止めて利上げをしたい。ようやくデフレ脱却が見えてきたところで、借金の利子を高くしてしまえば、デフレに逆戻りするのは目に見えている。例えば、変動金利で住宅ローンを組んでいる人など、地獄だろう。給料が上がりそうな直前で景気回復策をやめる。なぜそこまで日銀は金融緩和を憎むのか。「そういう宗教だから」としか言いようがない。また、財務省は増税を実現した者が出世する、日銀理論では「利上げは勝利!」なのである。始末に負えないが、総理大臣を取り込んで、我々国民に対して増税を仕掛けてきた!と思わせて、囮である。結果、’23年の増税は避けられた。しかし、岸田首相は生き残った。おそらく1月下旬に通常国会が開かれ、2月あたりに岸田首相が人事を提示する。となると、正副総裁候補に、今ごろ打診が行く。岸田政権が存続する限り、今の黒田路線を否定する人事が行われるだろう。誰も抗することができない。私は蟷螂之斧(とうろうのおの)の如く、「リフレ派の若田部昌澄副総裁の総裁昇格を!」と、狂ったように言い続けたが、風前の灯火だ。
長期金利の上限引き上げは“実質利上げ”だったのか
そんな中、12月の日銀政策決定会合で、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた。発表された直後、円高が4円も進んだ。これは「実質利上げか」と報じられた。かなり高度で技術的な話なので詳細は省略するが、黒田総裁の説明および専門家の言を総合すると、これは「利上げ」ではない。この種の技術的な利上げは、過去の黒田日銀も行っている。では、金融緩和を否定したいマスコミが煽ったから円高が進行したのか。’22年に入り、国債の市場が歪んでいるので、是正を図ったとのことだ。すなわち、10年債の金利と7〜9年債のそれが逆転する現象が起きていた。だから引き上げただけ、とか。確かに、金融緩和によって生じた歪みはあった。だが、黒田後任の総裁がそれを理由に大きく金融緩和を修正したら、余計に悲惨になりかねない。だから、先手を打って衝撃が大きくない時期とやりかたを選んで、今回の「実質利上げ」と受け取られかねない挙に出た、とのことだ。
黒田日銀総裁は「敗戦処理」をしたのではないか
ここで、経済知識が無くても、政治センスがあれば気付くことがある。つまり、黒田総裁の後任は、絶望的な人選が動いているということではないか。今回の行動は、「敗戦処理」だったということではないか。さあ、どうする?岸田首相に代わる、マトモな総理大臣を選び直すしかないではないか。それが自民党の中と外の、どちらにいるかはともかく。そして個人としては、不況に備えるしかない。
●「防衛増税」政局の裏の猿芝居=@1/2
野党の政権追及が尻すぼみに終わった臨時国会の最終盤に、岸田文雄首相が「独断専行」で打ち出した「巨額防衛費の財源を増税で賄う」との方針が、国民や野党だけでなく自民党内でも大炎上し、党内政局の様相を呈した。結果的に決着先送りの「妥協案」によって短期で収束したが、その舞台裏を探ると、「最大派閥・安倍派内の覇権争い」(自民長老)が浮き彫りとなり、「政局を装った手の込んだ猿芝居=v(同)との冷ややかな見方も広がる。
永田町を騒がせた「防衛増税」政局のきっかけは、首相が臨時国会の会期末を前に、唐突に打ち出した相次ぐ独断決定≠セ。まず、2022年度第2次補正予算の成立を受け、12月5日に23〜27年度の5年間の防衛費総額を約43兆円とするよう関係閣僚に指示。続いて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済法に会期内成立のめどがついた同8日には、27年度以降に必要となる年4兆円の防衛費増加分のうち1兆円強を増税で確保する一方、23年度は増税せず、所得税については増税を行わない方針を表明した。
これを受け自民党税制調査会(宮沢洋一会長)は、直ちに法人税、たばこ税、復興特別所得税(復興税)を増税の対象とする内部協議を開始。37年までの時限措置だった復興税の活用では、上乗せ分の1・1%を復興財源、1・0%を防衛財源に振り分ける案を打ち出した。課税期間を延長することで復興財源の総額は確保するとの理屈だが、これが党内外の猛反発を招いた。本来なら38年になくなるはずの上乗せ分が延長される一方、1・0%分の使途を防衛費に限定(防衛特定財源化)すれば事実上、防衛費増額のための所得増税となるからだ。
安倍氏遺児≠スちのアピール合戦
同案が表沙汰になると、野党では立憲民主党の安住淳国対委員長が「被災地に対する背信行為」と猛批判、日本維新の会の馬場伸幸代表は「あまりにもひどい発想」と酷評した。政府・与党内でも、自民の萩生田光一政調会長が「当面、国債発行も選択肢」と異論を述べ、高市早苗経済安全保障担当相はツイッターに「真意が理解できない」と書き込んだ。西村康稔経済産業相も「このタイミングでの増税は慎重にあるべきだ」と批判した。3氏は、いずれも故安倍晋三元首相の「腹心」を自任する内閣・党の要職者で、高市氏は「罷免も覚悟」とまで踏み込んで党内の安倍派議員の造反を誘発。その時点で「防衛増税」政局となった。
ただ首相の最側近である宮沢氏が、15日に「防衛増税の無期限延期」とも解釈できる妥協案を示すと、状況は一変。論議の舞台となった税調会合は約2時間で宮沢氏に対応を一任し、騒ぎは沈静化した。妥協案は、増税対象として法人・所得・たばこの3税を列挙する一方、増税時期を「24年以降の適切な時期」として、最終決定を先送りしたのがポイントだ。
16日には与党が23年度税制改正大綱を、政府が安保関連3文書の改定を相次いで機関決定し、政府・与党内の混乱はわずか1週間余で収束。首相は16日夜の記者会見で「国家・国民を守り抜く使命を果たす」と大見えを切り、自らの決断の正当性をアピールした。
一連の経過を振り返ると、首相の「防衛増税」を攻撃したのはいわゆる安倍チルドレン≠ホかりで、「首相がかねて用意の妥協案で譲歩すると、あっという間に退散した」(岸田派若手)のが実態だ。「結局、安倍氏を信奉する遺児≠スちのアピール合戦」(同)に終わった格好で、永田町では「安倍派の内紛を利用した首相らの狡猾(こうかつ)なガス抜き作戦」(自民長老)との皮肉な見方も広がる。
●増税に国債も…防衛費の大幅増を誰が負担? 国民が考えるべき「3つの財源」 1/2
岸田政権は防衛力強化に大きくかじを切り、2023年度の予算案で防衛費の大幅な増額を閣議決定した。ここで問題になっているのが財源だ。国債や増税などで賄うとされているが、防衛費増額については国債で賄うべきではない。その理由で一般に言われるのは「国債で、将来世代に負担を移転しているから」である。しかし本質的にはそうではない。この財源問題は日本経済に大きな影響を与えるため、日本国民は「国債の負担」に関する正しい理解の上に、この問題を議論する必要がある。
防衛費増額の財源問題が“簡単ではない”ワケ
防衛費の増額と、その財源をどうするかが問題となっている。
世論調査を見ると、「国債で賄ってはならない」という意見が大多数だ。「国債は将来世代に負担を強いることとなるので問題だ」という考えによるものであり、この考えはごく普通に受け入れられている。
では、国債による財源調達は、本当に負担を将来に移転するのか。実は、この問題は一般に考えられているほど簡単なものではない。
家計が借金をする場合を考えてみよう。
この場合には、たしかに負担は将来に移転する。借金をしたときには、収入を超える生活資金を使うことができるので、豪勢な暮らしができる。しかし、借金を返済する時点になれば、収入の多くを返済に充てなければならないので、生活は貧しくなってしまう。
家計で考える、「外国債」と「内国債」の違い
上で述べたのは、これと同じようなことが国債についても起こるという考えだ。たしかに、外国債については家計の借金と同じことが起きる。しかし、内国債については事態がまったく異なる。その理由は、次のとおりだ。
第一に、国債を発行した時点で、国が全体として使える資源の総量が増えるわけではない。国債は国内の誰かが購入するので、その人の支出が減少している。
第二に、将来、国債を償還する時点では国全体として使える資源の総量が減るわけではない。なぜなら、国債の償還金は国内の誰かが受け取るからだ。利子の支払いについても同様だ。
つまり、国債の発行・償還・利払いに伴う資金移動は国内で起こるので、国全体として使える資源の総量には変化が生じない。この点で、外国債と内国債は基本的に異なるのだ。
家計にたとえれば、内国債は夫が妻から借金するようなものなのである。家計全体で見れば、このような借金をしても借金時に使える金額が増えるわけではないし、返却時に貧しくなるわけでもない。
では、財政支出を国債で賄っても、内国債であるかぎり、何も問題はないのだろうか?
「現代貨幣理論」(MMT)の信奉者は、内国債なら問題ないとし、財政支出のすべてを内国債によって賄うべきだと主張した。しかし、この考えは誤りなのだ。その理由を次で説明しよう。
「内国債で財政支出を賄うべき」が誤りである理由
財政支出のすべてを内国債によって賄うべき、という考えが誤りである理由は以下のとおりだ。
家庭内の貸し借りであっても、将来に負担が生じる場合がある。たとえば、妻が店を経営しているとしよう。酒飲みの夫が妻から借金をして飲み代に使えば、店の維持に使える額は減る。それによって、店の収入は減ってしまうだろう。店の収入が減れば、将来の家計は貧しくなる。このような意味において、家庭内の貸し借りであっても、問題が生じるのだ。
これから分かるのは、借金した金を夫が何に使うかが重要であることだ。飲み代に使ってしまうのでは、将来に負担が生じる。しかし、妻から借金した金で夫が事業を興し、それが成功したのだとすれば、将来に負担が生じることはないだろう。
これと同じことが、国の場合にも生じる。国が国債を発行して財政支出を増大させると、金利が上昇し、民間が設備投資にあてるための資金は減る。その結果、資本蓄積が減少し、将来の生産性が低くなるという問題が生じるのだ。
国の借金が家計の借金と違うからといって、MMTが主張するように、借金財政がいくらでも許されるわけではない。以上で述べたことは、「国債の負担」として知られる問題で、1940年代から50年代ごろに、経済学者の間で議論された。
その結果の要約が、以上で述べたことだ。国債の負担は、普通言われるような意味(つまり、利払いや償還が将来行われること、それ自体)によって生じるのではなく、金利上昇−投資減少−資本蓄積減少という過程を通じて、将来の生産性が低下することにより生じるのだ。この考えは、A.ラーナーなどの経済学者によって定式化された。
防衛費を賄う「建設国債」の問題点
国が、国債発行で調達した資金を社会資本の整備にあてるのであれば、上の家計の例で、夫が新しい事業を興すようなものだ。それは、経済全体の生産性向上に寄与する。だから、国債発行で民間設備投資が減少することになっても、経済全体としては問題がない。
このような考えから、日本では、「建設国債」という制度が導入された。これは、次のように財政法第四条に定められている。
「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金および貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。 」
しかし、現実には「赤字国債」が発行されている。これは、建設国債の限度を超えるものだ。家計のたとえで言えば、夫が妻から借金した金を消費してしまうようなものだ。だから、将来に負担を残すわけで、問題だ。
防衛関係費は、将来の生産力を増やさない。したがって、国債で賄うとすれば、赤字国債になる。自衛隊の建物などであれば建設国債で賄って良いという考えもあるが、それは、空虚な形式論にすぎない。自衛隊の建物が将来時点での生産力に寄与するとは考えられない。
防衛費増額は国債で賄うべきか?
以上の議論はかなり複雑だ。そこで、これを踏まえながら、防衛費財源に関する議論の状況をまとめておこう。
第一に、「増税は政治的に抵抗が大きいから、国債で財源を調達すれば良い」という意見がある。これは、与党野党を問わず、政治家の間で強い意見だ。しかしこれは、まったくの無責任な議論としか言いようがない。
第二に、これへの批判として、「国債は、負担を将来世代に移転するから望ましくない」との意見がある。これは、新聞などのマスメディアで、正論として受け取られている意見だ。しかしこれは、国の借金と家計の借金を混同しているという意味で、間違いだ。
防衛費の財源をどうするかは、将来の日本経済の生産性に重大な影響を与える大問題である。今、必要とされるのは、本稿で説明したような意味での「国債の負担」が存在することを考慮しつつ、財源問題を議論することだ。
防衛関係の支出は、将来の日本経済の生産性を高めることにはならないので、国債で賄うことは避けなければならない。
防衛費の財源で議論されるべき「支出削減・国債・法人税」
防衛費の財源問題は、次の方向で検討すべきだ。
第一に、現在の財政支出を徹底的に再検討し、ムダな支出を削減する。特に、人気取りのためのばらまき補助金を削減することが必要だ。
第二に、国債は上で述べたような意味で将来の生産性を低下させるので、これによるべきではない。また、負担が明示的でないために、財政支出が安易に増大しやすいという問題もある。
第三に、以上で足りない分を、増税によって賄うことになる。法人税の増税は投資に悪影響を与えるという意見が強いが、これは次の理由で誤りだ。
法人税は利益に対する課税である。利益は、企業が雇用や投資に関する最適化行動を行った後に結果として残るものなので、法人税の税率は投資行動には影響を与えないはずである。だから、その税率を高めても、国全体としての資本蓄積には影響が及ばないはずだ。  

 

●安全保障戦略の転換と新年度予算案 1/3
昨年12月16日、政府は「国家安全保障戦略」を閣議決定し、同24日、防衛費の大幅増を含む来年度当初予算案を閣議決定した。これは戦後日本の安全保障政策の大転換であり、憲法9条に基づく「平和国家」と「専守防衛」の国是を揺るがすものだ。
記者会見で「唐突な決定ではないか」との質問に対して、岸田首相は「国家安全保障会議(NSC)や有識者会議で意見を聞いたし、与党のプロセスも経ているので、問題はない」と答えている。国民への説明は後回しということであろう。
さて、新聞各紙はどのように報じたろうか。社説を比較読みして、以下に見出しを列記してみた(「」内が見出し、・印が小見出し)。各紙の主張、その概略を把握できると思う。
茨城「信問うべき平和国家の進路」
毎日「国民的議論なき大転換」・揺らぐ専守防衛・緊張緩和する外交こそ
朝日「平和構築欠く力への傾斜」・反撃でも日米一体化・中国にどう向き合う・説明と同意なきまま
読売「国力を結集し防衛体制固めよ」・反撃能力で抑止効果を高めたい・硬直的な予算を改めた・サイバー対策が急務・将来の財源は決着せず
日経「防衛力強化の効率的実行と説明を」・戦後安保の歴史的転換・安定財源確保進めよ
産経「平和守る歴史的大転換・安定財源確保し抑止力高めよ」・行動した首相評価する・国民は改革の後押しを
国会熟議と国民説明が必要
茨城、毎日、朝日の3紙は批判的論調、読売、日経、産経の3紙は肯定的論調と、ほぼ予想通り。防衛予算についても同様の論調であった。意外だったのは、安保戦略の歴史的転換を扱っているにしては、各紙とも抑えた書き方をしている、そんな印象を受けたことだ。その分、今回は軍事や外交の専門家の発言が目立った。その中からいくつか拾い出してみよう。
香田洋二氏(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)は、大幅増となった防衛予算について現場サイドによる検討がなされた形跡がないとし、予算の無駄は本当に必要な防衛力とトレードオフの関係にあるとして、予算の中身に深刻な懸念を表明している。
田中均氏(元外務審議官)は、防衛予算の拡充も必要だが、それ以上に経済、技術、エネルギーなどの国力を強化すべきだといい、さらに外交とインテリジェンス(情報の収集と分析)の役割の大きさを強調した。
藤原帰一氏(東大名誉教授・国際政治論)は、新安保戦略の本質を「日米同盟のNATO化」であると喝破した。その上で、抑止力に頼るだけの対外政策は戦争のリスクを高めるとし、外交による緊張緩和の努力が欠かせないとした。岸田政権は抑止力強化には熱心だが、外交努力が足りず、そこが危ういと藤原氏はいう。
ともかく、安全保障について次の通常国会で熟議を重ね、国民に十分に説明しなければならない。国会議員自ら超党派で勉強会を開き、専門家の知恵を借りるなどすればと思うのだが、現状の国会では無理だろう。安全保障環境を整えるための最優先課題は、「この国の国会と国連それぞれの待ったなしの改革だ」と考える国民は少なくないはずである。
●2100年までの未来 世界人口の行方について断言できる6項目 1/3
1 人口規模には重い意味がある
どれほどテクノロジーが進歩しようが、どれほど社会がポストモダンになろうが、やはり人口規模には重い意味がある。そして、基本原則は変わらない。すなわち、「多ければ多いほどいい」だ。
この原則にはある程度、文字どおりの意味がある。とはいえ、大半は、認識の問題だ。
歴史的に見ても、人間が構築してきた部族や国家、さまざまな政体は、常に数の多さを強みとしてきた。同時に、数の減少は弱みと認識してきた。政治経済学の理論もまた、この考えを現代まで支持してきた。
富の集積こそが国家権力を左右すると考えた重商主義の経済思想も、人の蓄積が富の主要な源であると見なしていた。根本的に、人的資本は国力を考えるうえで重要な要因であり、とりわけ軍事力や経済力には欠かせない。
社会の人口とその構造は、社会のほかの要因にダイレクトに影響を及ぼし、ある集団がほかの集団と比べて自分たちにはどんな強みがあるかを認識するうえで、大きな比重を占めている。
2 人々はある程度、予測可能なパターンで移動する
今後数十年、紛争や経済危機が起こるたびに移住者が大量発生し、そのたびに世界が「驚く」ことになるのは確実だ。しかしながら、そのように、突然、大量の移住者が発生する状況を正確に予測するのは不可能だ。
ただし、経済的な理由(危機がない状態)による移住は予測しやすい。資本主義はグローバル化し、資本は大きな見返りが得られる場所へと、労働者は賃金が高い場所へと動いていく。
移住労働者の大半は、規模の小さい中所得国から規模の大きい高所得国へと移動する。2019年には、国際移住者の3分の2が高所得国に住んでおり、29%が中所得国に住んでいた。
ヨルダンやフィリピンなど1人当たりGDPが約1万ドルの国からの移住者は、ニジェールのように1人当たりGDPがわずか1000ドルほどの国からの移住者の2.5倍も多い。
だが、国が下位中所得国のランクに近づくにつれ、より多くの国民が移動に必要な金銭的余裕と、そのための技能や手段を持つようになる。
高所得国のランク、すなわち1人当たりGDPが1万〜1万2000ドルと世界銀行が定義しているランクにまで上がると、国外への移住率は減り始める。というのも、この時点で国内に魅力的な雇用機会が増えてくるからだ。
世論調査によれば、サハラ以南のアフリカ諸国では国外への移住を希望する人が多いものの、そうした地域の国はたいてい所得水準が低すぎるため、集団での移動は難しい。だが、所得が増えるにつれ、移住を実行しやすくなる。
同様に、開発が進むにつれ、人口は高齢化し、労働力の需要が高まるので、高所得国に仲間入りした国は多くの移住者を引き付けるようになるだろう。これには労働力としての移住者と、紛争による移住者の両方が含まれる。
後者の例を挙げれば、2020年を迎える頃、メキシコで庇護申請を行う人の数が急増し、2013年から17年のあいだに11倍にもなった。
暴力が蔓延する中央アメリカから逃れてきた人の庇護申請数は、18年、19年、そして20年初めの3ヵ月まで上昇を続けたが、新型コロナウイルス感染症の流行によって国境管理が厳しくなり、メキシコへの入国が困難になった。
メキシコは歴史的にずっとアメリカへの移住者を排出する国だったが、国内の所得が上昇し、人口が高齢化するにつれて、メキシコ自体が移住者の目的地となりつつある。
3 世界では都市化が進んでいる
西半球とヨーロッパの都市人口が飽和状態であることを考えれば、今後、成長が見込める都市の大半は、アジアとアフリカのものになるだろう。これまでと比較して、アフリカの都市ははるかに速いスピードで成長している。
1800年から1910年の工業化の最盛期、ロンドンは年2%のペースで成長した。つまり、ロンドンの人口が25年ごとに倍増していたのである。
一方、ルワンダの首都キガリの人口は、1950年から2010年にかけて年7%で成長し、南アフリカの研究者グレッグ・ミルズによれば、10年ごとに倍増しているそうだ。
また、インドでは4億9500万人が、中国では8億9300万人が都市に暮らしている。さらに、2018年から2050年にかけての世界の都市人口増加において、インド、中国、ナイジェリアが35%を占めることになるだろう。
インドでは4億1600万人、中国では2億5500万人、ナイジェリアでは1億8900万人、都市生活者が増加すると見込まれている。
2050年には、世界人口の70%が都市に暮らすことになると予測されるが、その大半は中・低所得国で起こるだろう。
今日の先進国は都市化によって経済的な恩恵を享受しているが、いまなお世界では約8億人がスラムで暮らしている一方で、基本的にいわゆる「スーパースター」的な都市だけが、イノベーション、資本、人材、投資のすべてを引き付けている。
都市化により莫大な経済的利益が生じているわけだが、所得や生活の質の向上を損なうかたちで、環境変化ももたらしている。
さらに、低所得国や下位中所得国における都市化は、食糧不安という危機をもたらす。増加する人口が輸入品に大きく依存していたり、いまだに自給的農業が主流であったりするからだ。
人口が増えれば必ず食糧危機に見舞われると、話を単純化しているわけではないし、厳格なマルサス主義に基づいて分析するつもりもないが、気候変動がすでに干ばつや洪水を悪化させていることは否定できず、急増する都市部はそうした自然災害にいっそう弱くなっている。
4 高齢化「世界」がやってくる
122歳を超える長生きはできないかもしれないが、いま100歳以上の人は以前より増えている。そして、日本では興味深い事態が生じている。
これまで日本政府は、100歳を迎えた高齢者に記念品として銀杯を贈ってきたが、100歳以上の長寿者の数はこの50年間、連続して増加している。
1963年に記録を開始したときにはわずか153人だったのに、2020年には8万人近くに増えているのだ。あまりにも人数が増えたことから、政府は経費削減のため銀杯を純銀製から銀メッキに変更した。これは懸命な対策だった。
なにしろ日本の100歳以上の人は、2027年には17万人になると予測されているからだ。
死ぬよりは老いるほうがましだ。そう考える人は多い。こうした考え方は高齢化社会にもある程度、当てはまる。
これからも高齢者の平均余命は延びるだろうし、乳児死亡率も減り続けるだろうから、それほど子どもをせっせと産まなくても大丈夫だと人々が自信を持てるようになるのは寿(ことほ)ぐべきことだ。
ところが、高齢になれば誰もが痛みや負担を感じるように、高齢化社会にも痛みや負担が生じる。20歳から69歳の人口は、2050年には韓国で16.2%、台湾で14.9%、中国で8.9%も減少するだろう。
高齢者への給付金支給や早期退職を保障している国が、このまま政策を変えずに高齢化すれば、経済は縮小する可能性が高く、政府は責務を果たすうえで難題に直面するだろう。
また、長期介護が可能な施設がほとんどなく、給付金の支給額が低い国では、高齢者の介護の負担を家族が負うことになり、出生率をさらに押し下げるだろう。
経済発展がきわめて早く起こった国は、高齢化においても第1波に乗ったため、近視眼的な年金対策しか立てておらず、莫大な予算を割かなければならない。
というのも、労働力が減少している高齢化国では、必要な財源をその時々の保険料収入から用意する賦課(ふか)方式の年金制度は持続不可能だからだ。
たとえ年金制度を回避したとしても、失業などによって早期に労働市場から退出することを高齢者に認めてしまえば、やはりコストがかかる。よって最先進国は、前例のない超高齢化に直面し、政策改革の難しい舵取りを迫られている。
あらゆる年齢の女性を労働市場に参入させ、高齢の労働者がもっと長く労働力人口にとどまれるようにする政策(たとえば定年制の廃止)を実施すれば、女性と高齢者の労働力率が低い社会(つまり最先進国)における労働力を、劇的に増加させることができるだろう。
こうした国々はまた、経済成長に貢献する労働力以外の要因に目を向け、対策を練ることもできる。
たとえば、生産性と効率性はテクノロジーで改善できるだろう。オートメーション化と移民の受け入れを実施すれば、高齢化に伴う労働力不足をいくぶんは埋め合わせできるだろうが、完全に相殺するのは無理だ。
健康もまた、高齢化する世界で生活の質を高く保ち、コストを下げ、生産性を上げて繁栄を続けるうえで、カギを握ることになるだろう。
5 適切な政策を実施すれば、望む未来へと歩めるようになる
人口は、私たちをのみ込む波ではない。何をしようと、人口の波が私たちをさまざまな場所へと押し流すわけではない―その流れの方向は、政策で変えることができる。そして、ありがたいことに、私たちはその政策を選ぶことができる。
つまり、因果関係を示す矢印は双方向で、一方には人口があり、その反対側には政治、社会関係、経済がある。言い換えれば、方程式の片側で行動を起こせば、反対側の変数が変わってくるのだ。
だが、これは問題にもなりうる。たとえば、人口ボーナスを最大限に利用したい国は、成長への土台となる政策を先行させなければならない。
そうした政策には、人口ボーナス期に生産年齢に達する若者の教育と訓練、海外からの投資を促すマクロ経済政策や、投資家がリスクを冒すだけの魅力がある平和で安定した国の構築などがあり、あらゆる手段を講じなければならない。
どれも簡単なことではないが、国際政策に詳しいメリリー・グリンドルは「十分なガバナンス」を目標にすることを推奨し、小さな変化のパワーを評価すべきだと論じている。
また、社会学者のジャック・ゴールドストーンと政治学者のラリー・ダイアモンドは、そうした政策のリストを簡潔に挙げている。
「教育、健康、インフラへの賢明な投資、自発的な家族計画への支援、基本的な財産権の保障、より包括的な経済成長の実現、非生産的で有害な目的のための国富や歳入の流用の防止」がそれである。
私たちに新型コロナウイルス感染症のパンデミックから学んだことがあるとすれば、優れた医療体制が整備されている国のほうが、不測の事態に向けた準備を整えられるということだ。
何がうまく機能したのかを検証し、そうした方策を幅広く実施するようにすれば、世界全体の健康状態を改善する道筋をつくることができる。
たとえば、マラリアはいまだに年間43万人の命を奪っているが、2010年から17年のあいだにマラリアの患者数は18%減少し、死亡者数も28%減少した。
2019年にはアルジェリアとアルゼンチンがマラリア根絶を宣言し、ガーナ、ケニア、マラウイではマラリアワクチンの接種が試験的に実施された。
また、エイズに対する世界的な闘いにおいても、大きな前進が見られている。ほんの数年前まで、アフリカ南部の一部の国々では、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に人口の3分の1を超える人々が感染していて、平均余命を最大15年も縮めていた。
だがWHOの報告によれば、2000年から18年のあいだに、HIVの新規感染者数は37%も減少した。感染に関連した死亡者数も37%減少し、抗レトロウイルス療法(ART)のおかげで1360万人の命が救われた。
その一方で、新型コロナウイルス感染症が本来ほかの医療分野に充てられるべき資金を奪っているため、従来の重点分野における前進のスピードが短期的に遅くなるのではないかという懸念の声が、専門家のあいだから上がっている。
先進国がパンデミックへの備えに尽力した結果、途上国の医療や健康問題に充てる資金が実際に減っていくかどうかを論じるのは時期尚早ではあるものの、ほかの疾患との闘いをパンデミックへの備えに置き換えるだけでは、一つの政策を近視眼的で不完全な政策に置き換えることになってしまう。
そうではなく、私たちはもっと全般的な健康問題に資金を投じる必要がある。そうすれば、健康に関する数々の課題に長期的かつ包括的に取り組むことができるだろう。
政策はまた、人口高齢化の強い影響力を評価する際にも役立つ。人口統計学的に見れば、ブラジルはロシアや中国よりもずっと若い国だ(中位数年齢は中国が38.4歳、ブラジルが35.5歳)。とはいえ、中国同様、ブラジルでも急速に高齢化が進んでいる。
そして人口統計のデータから得られるもっとも有益なことは、人口転換がかなり進んだ国は、ほぼ予測可能な道筋をたどって発展していくということだ。つまり、これから何が起こるかが、だいたい予測できるのだ。
ブラジルの合計特殊出生率は1.7で人口置換水準を下回っているため、ブラジルの政策立案者やビジネスリーダーは国が高齢化していることを認識している。にもかかわらず、ジルマ・ルセフ元大統領は1期目に、なんと年金支給額を増やしたのだ。
ブラジルはGDPに占める年金支給額の割合が、世界でもっとも高齢の国である日本よりも大きい。しかも平均退職年齢は日本が71歳であるのに対し、ブラジルはいったい何歳だと思われるだろうか?
なんと、56歳。人口高齢化に対処するうえで、これでは基盤が弱すぎる。
インドについても考慮すべきだろう。インドと中国を同列に語る人がいるのは、どちらも巨大な国であり、隣国であり、近年、似たような経済成長を遂げたからだ。
しかし、インドと中国を合わせれば世界人口の37%を占めるという、その人口規模を除けば、人口統計学的にも、その他多くの点でも、この2国は似ても似つかない。
国が導入する教育、都市化、年金といったありとあらゆる政策によって、人口動学(ダイナミックス)がどう作用するかが変わってくる。
インドと中国はさまざまな政策によって、人口動態が異なる道筋をたどっている。中国全土の人々がほぼ全員、文字の読み書きができる一方で、インドの女性の識字率はわずか66%だ。
中国の大規模な都市化は経済成長を大きく牽引したが、インドの都市化は2021年にはわずか35%で、世界平均の55.7%よりはるかに後れを取っている。
中国はその潜在能力を活かし、人口統計学を最大限に活用しているが、インドはそうした施策を行っていないのだ。
6 人口統計値に見られる格差が国の命運を分ける
人口のデータを見ると、世界の先進国と途上国のあいだの格差がどんどん広がっていることがわかる。2020年から50年の世界人口の増加の89%以上が、下位中所得国または低所得国で生じ、高所得国のそれは3%にすぎないだろう。
サハラ以南のアフリカは世界でもっとも急速に成長している地域の一つで、国連の推計によれば、この亜大陸における出生率が、現在の平均である女性1人当たり約5人から3人と少しに減らせたとしても、2045年までに人口は倍増する。
出生率が現在の水準でとどまった場合、この地域の人口はこれよりも10年早く倍増し、2035年には17億人を超えるだろう。
さて、この格差の反対側では、世界人口の42%が少子化の国(大半が先進国)で暮らしている。
一方、世界でもっとも人口が若い10ヵ国のうち、ソマリア、コンゴ民主共和国、ウガンダといった国はとりわけ若い。と当時に、これらの国は開かれた平和な民主国家ではないうえ、活発な経済成長を遂げているわけでもない。
年齢構造はすべてを物語るわけではないものの、さまざまな国の政治・社会・経済の問題に関する明確なヒントを伝えている。
出生率と年齢構造の関係、そして年齢構造と紛争や発展の関係を考慮すると、出生率がきわめて低い国(中年以上の年代が多い)と高い国(きわめて若い年代が多い)の経済は、それぞれが従属人口の要求を満たすうえで課題に直面するだろう。
その一方で、多くの新興国のように中間の年齢構造を持つ国は、高い経済成長と平和というボーナスを得るだろう。こうした変化がどのように列強に影響を及ぼし、世界に平和や繁栄をもたらしていくかは、今後、注目していくべきだろう。
また、地球規模で不平等がさらに広がり、悪化していくだろう。中東と北アフリカの地域(MENA)を見れば、この格差の大きさがよくわかる。
イランやチュニジアなど、この地域の多くの国が比較的出生率が低く、人口も高齢化しつつあるのに対し、イエメンといった国はいまだに出生率が高く、年齢構造も若い。
後発開発途上国は引き続き、国内での過酷な不平等に苦しむだろうし、これが不満の種となって政治的暴力を引き起こす可能性がある。
気候変動はさらなる課題をもたらすだろう。貧困国は割が合わないほどの悪影響を受けるだろうし、先進国でさえ貧困層は同様に苦しむことになるだろう。
貧困国や貧しい地域は、高温や極端な異常気象に適応する能力が低いからだ。人口増加と収入増加が続けば、とくにアメリカや中国が明確なリーダーシップを発揮しないかぎり、温室効果ガス排出量も増え続けるだろう。
温暖化と気候変動はまた、感染症を新たな地域に広げることになる。たとえば蚊の分布域は拡大しており、黄熱病などの感染症が伝播するリスクがある地域も広がりを見せている。
●連鎖する危機の時代 戦略国家への日本改造の論点  1/3
連鎖する危機の時代:戦略国家への日本改造の論点
疫病が地球を覆い、戦禍に伴うエネルギー・食糧危機が迫り、世界分断、インフレ、スタグフレーション、進んでは世界恐慌の足音が聞こえ、挙句には「死ぬのがいいわ」が世界的ヒット曲として紅白歌合戦の掴みとなる等、時代は2、30年遅れの世紀末感が漂っている。
こうした中で、ことさら主体性を欠落した我が国の漂流が加速している。
防衛財源論と外交
防衛費を倍増するに当たって、財源を増税によるのか国債にするのか等で揉めているが、答えは諸外国並みに近付けて「武器輸出の範囲を広げ国産武器のコストを下げ競争力を高め、それによる税収増等で極力埋める事を図り、海外武器輸入に当たってもバーゲニングパワーを高めつつ、それまでの間は国債で繋ぐ」という方向以外にない。
当事者意識無く世論のバランスボール乗りに長けただけの岸田首相がお茶を濁すのは詮無い事だが、保守言論までもがそこに言及する事を躊躇するのは何事であるのか。
なお外交全体としては、来るべき激動乱流の時代に於いてこそ横井小楠の謳った「大義を四海に敷かんのみ」を旨とし情勢を読みつつ先手を打ちながら、国際的大義を伴う長期的国益の追求へ向け性根を入れ直してブレずに行くべきではある。
コロナ対策
オミクロン株以降は、諸外国並みに日本でも感染症法の2類相当である分類を5類以下に下げて普通の風邪のように扱うべきだったろう。
しかしこれが為されないのは、民間病院が多くかつ医師会の政治力の前に統制が取れず、医療逼迫した際のリソース配分の緊急対応シフトが出来ぬため、ただただ行動制限、営業制限に頼る他ないからである。なお、万が一の際の医療トリアージを許さぬ国民意識にも一因があると言えよう。
また世界の趨勢が、コロナワクチンの効果と副作用・死亡リスクのバランスから、若年層への接種非推奨等の脱ワクチンに向かっている中、何に忖度しているのか、我が国は幼児にまで接種を努力義務化する等、倒錯した姿を世界に曝しているザマだ。
その他、ゼロコロナ明けの中国からの春節観光客に対し、ビザ発行停止等の断固する手を打たず、検査・隔離の強化はすれど強制力が弱く穴だらけのザル体制。
こうしたポンコツ医療・検疫体制の逆を行くべきだが、各種利権に塗れた立法府も居眠り状態である。
エネルギー・食糧危機
ウクライナ戦争を巨視的に見れば、戦略物資であるエネルギー・食糧を武器とした世界覇権争いの一現象であるとも言える。
この戦争は、ロシアのアイデンティティー vs ウクライナのアイデンティティー + 軍産複合体の利益、米英による大陸ヨーロッパ分断統治指向の伝統、ネオコン・ソロス等の「民主主義への理想追及」、冷戦時代のソ連・ルッソフォビア等の構図でもあった。
だが、ノードストリーム爆破の翌日にノルディックパイプラインが開通し、天然ガスに窮したドイツに米国が液化天然ガス供給を申し出る等、いつの間にかエネルギー・食糧大国のロシア + 市場大国の中国 vs 西側諸国の構図が浮かび上がり、インドを筆頭としたBRICS諸国、中東、アフリカ、東南アジアが前者に靡きつつある風情である。
こんな中、我が国が取るべきスタンスは、食糧に於いては、コスト面をある程度犠牲にして自給率を高める事であり、その中心となるのは穀物によるカロリー及びタンパク質ベースである。この2つが押さえられてしまえば、有事には戦わずして城を明け渡す事になろう。
エネルギーに於いては、CO2温暖化原因説は、両者に相関性はありそうだが因果関係が逆である可能性が高い。一方エネルギー自給率が低い我が国は、化石燃料輸入への依存度を下げる事自体にはメリットがある。このため「脱炭素」には、温暖化説ではなくエネルギー自給強化、多様化の観点にシフトしながら付き合うのが国益となる。新型原発、地熱を中心に拡充するとともに、太陽光、風力については国土破壊等にならぬよう規制しつつ行い、電圧安定化のため水素、アンモニア変換によるものの他、例えば重力蓄電等、蓄電技術の開発を図るべきである。
内政・経済
結局、年金財政・健康保険を現役世代で支えるのは不可能であり早晩破綻する。
これに対するには健康寿命を延ばし、老齢者が週休3日で亡くなる数年前まで働く体制、生命維持装置に頼った寝たきり等の過剰医療の抑制、人材流動化の奨励策とセーフティーネット構築、少子化対策と敵性国家と不良外国人を実質的に排除し、生涯想定国益貢献度をベースにした移民システム等を「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の建設」のベクトルのもと整備すべきである。
以上、筆者は警鐘を鳴らすべく縷々書いたつもりだが、恐らく今後も日本は主体性無く、茹でガエルの状態のまま目覚める事無く底辺まで転げ落ちて行くだろう。
主体性欠如の象徴、キッシーこと現首相の「岸田」は幻であり実在ではない。在るのは日本人の意識であり、それが投影され「岸田」として現れているに過ぎない。
転げ落ちたとして、その沈没した日本が極東の小島としてそのまま歴史の波間に消えて行くのか。あるいは再び浮かび上がる事が出来るのか。その運命は国民の自覚一点に掛かっている。 
●防衛増税、首相が理解獲得に努力 1/3
岸田文雄首相は3日放送の文化放送ラジオ番組で、防衛費増額に伴う増税に対する国民の理解を得るため、説明に努める意向を示した。国債発行に頼らずに財源を確保することが「未来の世代への責任」と主張。早期に米国を訪問し、防衛力強化の方針をバイデン米大統領に伝えて信頼関係を高めていく考えを強調した。番組は昨年12月19日に収録された。
2023年度から5年間の防衛費総額約43兆円のうち、歳出改革を進めても不足する財源に関し「戦闘機やミサイルを買うのに国債を発行して未来の世代につけを回すのがいいのか、今を生きるわれわれの責任として払うのか」と提起した。
●日本の金融政策は「軍拡」を支えるか? 1/3
日本の金融政策が先週突如「転向」し、日本国内及び国際市場から持続的に注目されている。10年国債利回りの許容変動幅の上限を0.25%から0.5%に引き上げたほか、日本銀行は長期金利の上昇を認める上限を従来の0.25%から0.5%に引き上げた。日本メディアは、これは日本が10年維持している超量的緩和策の調整の前兆と解読した。今回の政策の「急変」は、日銀が国内外の経済情勢の変化、危機的な円相場、政府の財政出動などの各方面を総合的に考慮した結果と見られている。(筆者=陳友駿 上海国際問題研究院研究員)
(一) 実際の効果は利上げに近く、日米間の「金利差」問題を和らげ、持続的な円安に歯止めをかける有利な条件を作った。過度な円安は日本の貿易発展に不利で、かつ日本国内の恐慌ムードを引き起こしやすい。急激な円安が日本経済のシステマティックな崩壊を起こすことが広く懸念されている。そこで日銀の今回の政策調整は、為替問題を考慮したものと見られる。
(二) 日銀の政策の「バランス感」を高める。黒田東彦氏が2013年に日銀総裁に就任すると、日本の金融政策は急進的な「高速道路」に入った。超量的緩和はその象徴の一つ、アベノミクスの重要な構成部分になった。しかし10年続く超量的緩和策は最近、日本国内で一定の批判を浴びている。そのため日銀の国債利回りなどの調整は、積極的に対策を講じ経済情勢の変化に対応しようとする日銀のイメージを作り、国内の批判を和らげることができる。
(三) 国債市場の活性化は、日本の財政出動の条件を作る。日本国内の政界は現在、右翼・保守勢力の働きかけを受け、過激な軍拡路線を歩もうとしている。岸田政権は日本の防衛費の対GDP比を2%に引き上げようとしており、5年後の防衛費は過去最大の43兆円にのぼる見込みだ。防衛予算の増額には資金の負担者が必要だ。先ほど自民党内及び日本国内で盛んに議論されていた増税案については現在、反対の声が多く出ている。岸田政権はその他の案の考慮を迫られており、「赤字財政」が再び選択肢になる可能性が高い。そうなれば日本国民及び企業が事実上の主な税負担者になる。
(四) 指摘しておく必要があるが、日銀の今回の重大な政策調整には「諸刃の剣」の効果がある。国債利回りの引き上げは日本の未来の財政に大きな困難をもたらす。これは日本政府の金利の負担と借金返済の圧力を直接拡大する。日銀の政策調整が発表されると、日本の株価が急落した。これはこの決断に対する市場のネガティブなマインドを反映している。この心理は市場の動向を決める主なバロメーターの一つと言える。日本経済、政府財政、金融政策などが今後、より大きな圧力、挑戦、不確実性に直面することになる。

 

●新年に日本経済を考えるヒントにしたい「30の命題」 1/4
年始なので、筆者が日頃考えている日本経済に関する「30の命題」を挙げてみた。命題は、【「資本主義」論の勘違い】【労働と賃金と生産性】【セーフティーネット】【財政】【国としての日本のリアルな形】の5カテゴリーに6個ずつリストアップしている。2023年の日本経済を考える上でヒントになったら幸いだ。
2023年の日本経済を 「30の命題」から考える
あけましておめでとうございます。本年もご愛読をよろしくお願いいたします。
さて、年の初めなので、今回は広く日本経済全般を考えてみたい。筆者が日頃考えている日本経済に関わる命題を30個ほど挙げてみた。個々には、自信度に差があったり、前提条件が付くものもあったりするのだが、筆者が概ね「YES」だと考えている命題だ。読者には幾つ賛成してもらえるだろうか。
30個の命題を5つのカテゴリーの6個ずつに分けて、思考の筋道に従ってさらっと並べてみた。賛否は読者にお任せするが、日本経済を考えるヒントになると幸いだ。
【「資本主義」論の勘違い】 に関わる6つの命題
1. 日本は総体として資本主義の国ではない
2. 日本経済の上層は資本主義的競争を回避した「日本的縁故主義」である
3. 日本経済の下層はカール・マルクスの想定よりも苛烈な「ブラック資本主義」だ
4. 経済成長がなくても資本主義システムは維持可能だ
5. 日本の低成長の大きな原因は新自由主義がなかったからだ
6. 上層も劣位者は経済停滞によって下層に飲み込まれつつある
岸田文雄内閣では「新しい資本主義」が相変わらず検討されているものの、議論の大筋では何ら進展が見られない。それもそのはずだ、と筆者は思う。なぜなら、日本経済の運営は総体として資本主義ではないからだ(1)。
何よりも、経済力的に大企業正社員から上の層の運営にあっては、生産手段(労働力・資本とも)が十分商品化されていない。正社員をクビにできないシステムは少なくとも資本主義ではない。
大企業正社員、医師などの高級専門職、官僚、政治家はいったんメンバーになったら仲間内で保護し合う日本的縁故主義とでも呼ぶべきシステムに組み込まれる(2)。この時点で日本は資本主義的なダイナミズムから大きく遠ざかっている。
ところが、非正規労働者や下層正社員は、「取り替え可能な商品」のように扱われて低賃金でかつ雇用が不安定な、まごうかたなき資本主義下の労働者だ。彼らの賃金水準は、かつてマルクスが考えた「次世代の労働力を含めて明日の労働力を再生産するコスト」以下にとどまっており、マルクスの想定以上に苛烈な「ブラック資本主義」とでも呼ぶべきシステムの支配下にある(3)。子ども2人を育てられる賃金ではない世帯が少なくない。
ところで、世間では「資本主義の限界」を語ることが時々はやる。その中で、もっともらしく聞こえるけれども間違った意見の典型として、資本主義は成長のフロンティアを失うと維持できないとするものがある。
投下される資本の量は機会(環境と技術に依存する)に応じて調節されるので、資本主義は低成長やマイナス成長でも維持可能だ。リスクに見合うもうけがないと判断された場合、利潤は資本として投下されず、株主に返されて消費されるだけのことだ(4)。例えば、自社株買いについて考えてみるといい。
ところで、「新しい資本主義」の検討会議の資料にあるように、新自由主義は格差拡大や環境問題などの問題をはらんだものの、先進国の経済成長に一定の役割を果たした。過去30年、元は先進国であった日本がほとんど成長できなかったのは、日本には新自由主義がなかったからだ、と考えるのが自然だ(5)。
日本経済では上層の停滞と、下層の拡大による利潤追求の結果として、上層のメンバーが下層に滑り落ちる動きが起こっている。現象としては、中間層の崩壊として表れている(6)。
筆者は、上層の活性化とその成果の国による大規模な再分配が求めるべき解だと思っているが、「上層の活性化」への道は遠い。
【労働と賃金と生産性】 に関わる6つの命題
7. 有能な社員が会社に囲い込まれ交渉力が乏しく賃金が上がらない
8. 報酬の上限が見えているので有能な社員はベストまで努力しない
9. 正社員を捨てる機会コストが大きいので起業のハードルが高い
10. 賃上げとROE(自己資本利益率)を同時に求めると経営者は自分に得な後者を選ぶ
11. 労働組合は賃金を生産性が下回る「働かないオジサン」のためにある
12. 能力主義的競争の徹底には前提としてセーフティーネットが必要だ
日本の生産性も賃金も上がらない理由は、それらが可能なはずの「有能な人」が生産性を上げないし、賃金を上げられないからだ。
労働市場の流動性が低く組織に人が囲い込まれる日本的縁故主義では、有能な社員であっても会社に対する交渉力が弱い。彼らの賃金が上がりにくい仕組みだ(7)。
有能な社員は、努力をしても報酬はたかが知れているのだし、組織内相対競争上は高い報酬を確保できるのだから能力のベストを尽くして働くモチベーションが乏しい(8)。
かくして、生産性は上がりにくく、イノベーションが起こりにくい。また、有能な社員は、正社員の安定とまあまあの生涯収入を捨てる機会コストが大きいので、独立・起業に向かいにくい(9)。
さて、政府から賃上げと資本効率を上げるガバナンス改革の相反する要求を受けた経営者は、賃金を抑えてROEを上げ、自分の報酬が上がりやすくなる道を選ぶのが自然だ(10)。上場企業経営者の報酬が一貫して上昇する一方で、勤労者所得の伸びが停滞した背景の一つだ。
ところで、多くの労働組合は、非正規社員の保護よりも、正社員の権利保護を優先する「正社員クラブ」だ。そして、主に自由な経済原理の下では解雇されたり賃下げされたりするような正社員、つまり俗に「働かないオジサン」と揶揄(やゆ)されるような社員の経済条件を守ることが主な機能になっていると理解できる(11)。この働きは、間接的に有能な社員の報酬を圧迫する。
労働生産性の改善と経済成長のためには、雇用の流動化を通じた能力主義の徹底が有効であることが明らかなのだが(これに反対する勢力こそが日本経済の実質的な「敵」だといえよう)、徹底的な能力主義の世界は「生まれてくるのが怖い」のも事実だ。実は、経済取引への政府の介入を非とする自由主義的な能力主義は、いわば「社会的保険」としての政府の手厚いセーフティーネット(富の再分配や、教育コストの公的負担、職業訓練の提供など)を必要とする(12)。
私見では、新自由主義の徹底よりも、セーフティーネットの整備が先だ。柔道で、投げ技よりも先に受け身を教えるのと同じだ。
【セーフティーネット】 に関わる6つの命題
13. 価格介入する物価対策は資源配分を歪め、同時に富裕者をより多く援助する
14. 子どもの教育と親の介護を家庭に求めると、子どもと結婚が減り家族が痩せる
15. 福祉を企業に求めると、企業は正社員雇用に消極的になり正社員層が痩せる
16. 個別の価格介入政策は近視眼的な国民、官僚、政治家、業界に好まれる
17. 現物支給やクーポン券よりも同額の現金の方が効用は大きい
18. 現金給付政策は追加的にお金を配っているのだから必ず財源がある
ガソリン代、電気代の補助のような物価対策は、富裕者に対する補助効果の方が大きいし(アパートの一室よりも豪邸の方が電気代は高い)、価格メカニズムを歪めている(13)。例えば、少し前までは炭素税による価格上昇を通じて環境を守ることが検討されたのではなかったか。SDGs(持続可能な開発目標)は、それ自体はいいことだが、金持ちが気まぐれに行う寄付のように頼りないことが分かる。
人的投資や福祉・セーフティーネットにあって家庭の役割、企業の役割を重視するほど、重い負担を嫌って家庭も企業も痩せていく(14、15)。家庭や企業を健全に守るためにも、国のセーフティーネットが重要だ。いわゆる「保守派」の人々もそろそろ気付いた方が賢いのではないか。
ガソリン代のような個別商品の価格対策にお金を使うよりも、困窮者にのみ現金で補助を行って、お金持ちには価格を見て消費を考え直してもらうといいことが、予算の面でも資源配分の面でも明らかだろう。
しかし、「自分に今よりもメリットがあること」を評価してとりあえず満足する国民と、個別の対策で「やっている感」や相対的なメリットが得られる官僚・政治家・業界など多くの関係者が喜ぶ個別対策は、メンバーが近視眼的利益にのみ反応する世界では多数に好まれ、実現する(16)。妙に安定的な「愚民均衡」が方々で成立する。全体の効率性やよりよい調整の可能性は「近視眼的視野」の外にあり、検討の対象にならない。
さて、子ども1人にひと月2万円補助するとして、「教育クーポン」や衣料、食糧などの「現物給付」よりも、同額の現金の方が個々の家庭で最も有効な目的に使える。従って、受け取った側の効用はより大きい(厳密には「決してより小さくならない」)はずだ(17)。給付のコストも小さいだろう。
国民の支出に対して政府は余計な介入をしない方がいい。補助するなら国民を信じて現金を渡そう。
ところで、ベーシックインカムをはじめとする現金給付政策に対して、「財源がない」という反対があるのはどうしたことか。追加で現金を配っているのだから課税できる対象が必ずある(18)。
仮に国民へ一律に7万円配るとしよう。所得の下半分の国民に4万円、上半分に10万円課税したらどうなるか。財政収支はプラスマイナスゼロで、上半分の国民から下半分の国民に3万円移転する効果が生じる。
もちろん、マイナンバーで所得を把握してこの「差額の移転」のみを行うことも理屈上できるが、「一律給付+貧富差を課税で調整=再分配」ならIT化が遅れているわが国でも導入可能だ。
後述のように同様の課税を給付と同時に「直ちに」行うのが適切だとは限らないが、長期的な状態において「財源はある!」。思うに、ベーシックインカム導入を主張する人は、時々のマクロ経済対策と話を混ぜないで、「ベーシックインカムと財源の話」を独立させて説く方が分かってもらいやすいのではないか。
【「財政」のあれこれ】 に関わる6つの命題
19. 個別の支出に個別の財源を対応させる論法が財政の非効率を生む
20. 財政収支の正負大小は経済環境によって調節されるべきで一定ではない
21. 国が支出を決めなくても減税や現金給付で財政赤字の供給は可能だ
22. 財政赤字供給のあるべき「不足」と「過剰」はインフレ状況で区別できる
23. 雇用にも物価にも金融政策と財政政策の一方だけで対応する必要はない
24. 財政赤字は国債も相続されるので世代を越えた負担にはできない
2022年は内外の中央銀行の金融政策が注目されたが、その背後で財政が重要なテーマだったと筆者は考えている。そして、日本の財政はあまりに非効率的なのだが、その仕組み自体が論じられることが少ない。
さて、お金に色は着いていない。その柔軟性こそがお金の長所だ。だが、財政の運営はこの長所を殺そうとするのだからもったいない。例えば、社会保障(増)=消費税(増)、防衛費(増)=所得税(増)のように、個別の支出に対して個別の財源を対応させるやり方は財務マネジメントとして硬直的に過ぎる(19)。
また、財政にはマクロ経済の調節機能がある。財政収支の大きさは経済環境に応じて調節すべきであって、個別の支出が税金で賄われるか国債でファイナンスされるかは時により異なる(20)。一律に「○○費は××税を財源とすべきだ。国債で賄うのは無責任だ」と言い張るような議論はマクロ経済に対して無責任であり、硬直的で不毛だ。
国の債務残高やその中で貨幣化された「マネー」の分量は時々に調節されるべきだが、経済成長と共に大きくなっていくのが自然だ。国の債務とマネーを供給することは財政(と中央銀行)の任務だが、財政赤字の追加的な供給の手段は、国が支出の中身を決める「財政出動」である必要はない。減税や現金給付など、国民に支出の内容(ひいては付随する資源配分)を決めてもらってもいい(21)。
この点は、しばしば盲点に入りがちで、財政赤字や財政支出の金額の国内総生産(GDP)比は現金給付で大きくても、政府が支出の内容に関わらないという意味で、「大きな支出で、小さな政府」が成立し得る。
大まかには、インフレを目指す場合には財政赤字の追加的供給が必要で、特に政策金利ゼロまで金融緩和を行ってしまうと、マネーを有効に増やすためには財政の協力が必要だ。他方、インフレを抑制するには財政を引き締める(赤字を減らしたり、黒字にしたりする)必要がある(おそらく今の米国には必要な政策だろう)。財政赤字の供給過剰の主な副作用はインフレだ。インフレ率が高すぎる場合には財政を引き締めたらよく、そのためのめどとしてインフレ目標がある(22)。
いわゆる政府と日銀のアコード(政策合意)にあっては、財政側をマクロ経済運営に協力させることの必要性こそが大きいのではないか。いずれにしても、景気や雇用の対策にも物価対策にも、「金融政策のみ」あるいは「財政政策のみ」を割り当てなければならないということはない。両者の組み合わせを使うことが必要であり自然だ(23)。
ところで、時に財政赤字について「将来世代に負担を先送りすることはできない」と叫ぶ政治家がいるのは困ったものだ。国債は将来税金で償還しなければならないかもしれないが、他方将来の税金の負担者の中には資産としての国債の持ち主(相続でもらった次世代かもしれないが)いる。そうであるから、国債が国内で消化されていたら「将来世代全体としては」世代内で貸し借りの清算が行われるだけで負担が増えるわけではない(24)。
損得は発生するかもしれないが(国債の保有者は例えば将来予想外のインフレになると実質的に損をするし、その逆もある)、それは将来の課税や再分配で調整可能だ。大きな声では言えないが、「将来世代へのツケ回し論」を大っぴらに言うか否かを、政治家の知能テスト代わりにするといい。
【国としての日本のリアルな形】 に関わる6つの命題
25. 日本は米国の意思を権威と仰ぐ「ソフトな権威主義国家」だ
26. 現状の日本は日本人が自由に自己決定できる国ではない
27. 大砲を独占すると「大砲もバターも」独占できる
28. 日本国憲法には「子会社の定款」のような拘束力と有用性とがある
29. 国の管理職である官僚は大金持ちの強化も経済的弱者の救済も好まない
30. 「手による投票」も大事だが、真に有効なのは「足による投票」だろう
昨年はウクライナで戦争が始まって、国というものについて考える機会が増えた。好き嫌いを排して現実的に考えたい。
日本は、建前として自由な言論と選挙制度を持っている自由な民主主義国家だ。しかし、実質的には独裁者の代わりに米国の意思を権威と仰ぐ「ソフトな権威主義国家」なのだと理解しておくと物事の見通しが良くなる(25)。
ウクライナ戦争は米国の軍産複合体にとって、米国人の血を流さない軍需創出を可能にした新しいビジネスモデルの成功例となった。そして、日本はこれに呼応して、防衛予算のGDP比2%への倍増と敵基地攻撃能力の保持をすんなり決めた。仮に政党ベースで政権交代があっても、実質的に米国の支配下にある体制に変化はあるまい。日本は事実上、体制や国としての大きな行動方針を自分では決められない(26)。
日本が米国に追従する以外に当面の選択肢がない理由は、軍事力を米国に依存しているからであり、軍事的な自立が不可能だからだ。前の戦争の負け方が響いている(今の国民には「サンクコスト(埋没費用)」なので仕方がない)。「大砲か、バターか」は軍事と民生のバランス選択に関する古い例えだが、大砲で圧倒すると、他人のバターも自分の支配下に置くことができるという嫌な現実に気が付く(27)。
日本は日米地位協定の支配下にあり、良くも悪くも米国の子会社のような存在だ。日本国憲法は、子会社の運営について定めた「子会社の定款」のような存在だ。「押しつけられた憲法だ」というのは、その通りなのだが、子会社の社員(=日本国民)としては「親分(=米国)、定款を変えてくれないと、われわれは直接戦争には行けないのです」と言い訳できる楯のような有用性が存在する(28)。
時間稼ぎくらいには使えるだろうから、「方便として護憲派になる」という選択肢もある。ただし、「解釈改憲で何でもできる」との悪知恵もあるし、選挙の有権者数のかたよりのように違憲でも実行して開き直るという方法もある。将来世代には「時間稼ぎにしかならないと思っておけ」と言っておきたい。
日本という国を実質的に動かしているのは、弱体化しつつあるとはいえ官僚組織だろう。政治家はシンクタンク機能を欠いた投票装置にすぎないし、メディアは官僚と同質のサラリーマンなので根本的な批判機能は持っていない。そして官僚組織は、経済の上層が活性化して羽振りのいい金持ちが大いにもうけることが嫌いだし、下層に対して手厚く再分配を行うことも好まない(努力と生産性が不足していると思っているのだろう)。
つまり、「セーフティーネット構築を前提とした自由競争による経済活性化」は起こりそうにない(29)。この状況は「愚民均衡」(16)的な構造によって強固に支えられているので、変えることが極めて難しい(不可能だと断言はしないが、解決策は提示できない)。
日本にあって、建前上は選挙を通じて社会を変えることができる。しかし、国のシステムと運営を根本的に変えることはあまりにも難しい。「手による投票」による選挙権は使える限り有効に使うといいので投票には行くべきだが、影響力に大きな期待はできない。個人として無駄が小さくかつ社会に対しても有効なのは、海外移住、国内移住、転職、ライフスタイルの変更など、広義の「足による投票」の方だろう(30)。
個人としては、日本をより良くする機会を求めつつも、仕事、人間関係、資産、生き方などのフットワークを強化しつつ日本と現実的に付き合いたい。
最後に一つ付け加える。筆者は、脱日本や海外投資を推奨したいと思っているわけではない。現在の「安いニッポン」には、個人や企業がお金、時間、努力などを「投資」する上でむしろ大きなチャンスが存在しているように思う。
●外務省が創設する防衛装備品支援事業の危うさ  1/4
外務省は2023年度予算で、民主主義などの価値観を共有する「同志国」との安全保障上の協力を深化させるためとして、相手国の軍に防衛装備品や物資の提供を行う新たな国際協力の経費20億円を初めて盛り込む。開発途上国の貧困対策などを目的とした従来の政府開発援助(ODA)とは別の新たな無償資金協力の枠組みで、提供する装備品の候補として防弾車や沿岸監視用レーダーなどが検討されているもようだ。
防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転3原則」に基づき、「国際紛争との直接的な関連が想定しがたい分野に限る」という条件をつけたうえで、今後、実施方針を定めるという。
この支援事業は22年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」に盛り込まれた。「同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上」を目的としたもので、「総合的な防衛体制の強化のための取り組みの1つ」と説明されている。
ODA予算でも、これまでに東南アジア諸国に巡視船や沿岸監視用レーダーなどを供与してきた実績がある。だが、「非軍事原則」により相手国の軍との直接の協力関係を結ぶことが難しいという制約があるため、今回、別のルートを設ける。国際協力を通じて、日本企業が製造した防衛装備品の移転を推進するという狙いもある。
人権弾圧に悪用の懸念も
だが、こうした支援事業については、途上国支援に関わるNGO(非政府組織)などから危惧の声が上がっている。ODAなど開発協力のあり方を議論する外務省の懇談会で委員を務める稲場雅紀氏(特定非営利活動法人アフリカ日本協議会共同代表)は、「日本が掲げてきた国際協力における『平和主義』の原則を掘り崩すことになりかねない」と懸念する。
稲場氏は「日本が同志国と認めて防衛装備品などを供与する対象国には、非民主的な国が含まれる可能性もある。日本が供与した資機材が市民への弾圧などに用いられない保証はない」と説明を続ける。
12月16日の記者会見で林芳正外相は「いずれの国が『同志国』に当たるのかについては、日本と目的を共にするかといった観点から個別に判断しているところである」とし、明確にしなかった。
ただ、国家安全保障戦略などの政府文書によれば、インド太平洋地域における平和と安定を確保するという理由から、同地域で中国などの進出を抑止するうえで連携が期待できる国などが対象になりそうだ。
支援事業の多くの問題
いったん供与すると、適正使用のモニタリングが難しいといった問題もある。すでにこれまでODAによって供与した資機材が軍事利用されたと疑われているケースもある。最近では、17年から19年にかけミャンマーに供与された旅客船3隻のうち2隻を、軍事クーデターを起こして政権を奪取したミャンマー国軍が軍事目的に利用したという指摘がなされている。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、独自に入手したミャンマー当局の文書には、22年9月に旅客船が100人以上の軍人と物資を戦闘状態にあるラカイン州で移送したことが記されているという。この問題については同NGOの指摘からすでに2カ月以上も過ぎているにもかかわらず、外務省は「事実関係について確認が取れていない」という。
今後、相手国の軍に直接、防衛装備品が供与されるようになれば、誤って利用されるリスクは今までにも増して大きくなる。外務省によるモニタリングが機能する保証もない。装備品提供の新たな支援事業は多くの問題を抱えている。
●23年県内政局展望 軍備増強の流れに対峙を 1/4
平和な沖縄を願う県民の声を国政に届けるという意味において、2023年は重要な一年となる。南西諸島の軍備増強がこのまま推し進められれば、基地負担は増大し、県民の生活は深刻な打撃を受けるからだ。危機感をあおって強行される軍備増強の流れにどう対峙(たいじ)するか、県内政党の真価が問われる。
政府与党が主導した安保関連3文書の改定で敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が明記された。防衛費倍増も決まった。ことしの政局は防衛費増額に伴う増税が論戦の柱になるとの報道各社の見立てもある。
軍備増強の財源に焦点が移っているとの見方にも取れるが、沖縄の実情に照らしても強い違和感を拭えない。外交努力を尽くして緊張を緩和し、地域の安定を図るのが平和国家の役割ではないのか。
ロシアのウクライナ侵攻や中国の海洋進出、北朝鮮の動向が軍備増強の理由に挙がるが、有事をあおることに終始し、戦後一貫して守った平和国家の国是を曲げるような防衛政策の大転換に関する論戦は低調だった。
米軍基地の集中する沖縄においては、自衛隊の増強によって基地負担が増幅される。ミサイル基地などを置くことによって、諸外国から狙われることになるのではないかとの懸念が強まるのは当然のことだ。
石垣市議会は市内の駐屯地内に配備が見込まれる長射程ミサイルに関して意見書を可決した。「専守防衛のための自衛隊配備」とのこれまでの説明とは異なっているとして十分な説明を求めるものだ。背景には市民の間に不安が高まっていることがある。
通常国会は1月下旬召集予定だ。県民の不安を一顧だにしない審議に終始し、県民生活に逆行するような施策や予算が素通りするようなことがあってはならない。沖縄の民意を体した論戦を県選出・出身国会議員に強く求めたい。
国政では4月に統一地方選、衆院補欠選が控えるが、ことし県内では全県選挙の予定がない。来年の県議選に向け、県内各党は党勢拡大や政策の浸透を図る大事な一年になる。
昨年の県内選挙では、執行された7市長選で自民・公明陣営が全勝した。対抗する「オール沖縄」は知事選と参院選に勝利し、互いに影響力を保った。
有権者にとって身近で切実な問題である貧困や生きづらさといった暮らしの課題を解決する政策を打ち出す努力が各党に求められる。
「誇りある豊かさ」の実現に向け、生活者の視点から政策を組み立ててもらいたい。
日本復帰から半世紀が過ぎ、新たな50年を刻み始める年でもある。50年後の沖縄を見据えた大局的な政策論争を展開する必要もある。
各党ともに復帰100年の沖縄を展望した活発な論議を望みたい。
●令和の「空洞首相」は政権危機をどう乗り切るか? 2023年の政局を読む 1/4
昨年7月、参院選期間中に起きた安倍晋三元首相銃撃事件は永田町の景色を一変させた感がある。安倍氏の急死で生じた「権力の空白」は今も埋まらず、オウンゴールの連発で迷走を続ける岸田文雄政権を前に、野党側も明確な対立軸を打ち出せずにいる。不透明感を増す政局の行方を、岸田政権発足時から定点観測を続けてきたノンフィクション作家の塩田潮氏に占っていただいた。
耐用年数10年を超えた自民党政権
2023年が始まった。自民党政権の復活は12年12月26日で、満10年が過ぎた。当時の石破茂幹事長が後にインタビューで「何があっても最低10年は政権を維持しなければ」と語った。その言葉が今も耳に残っている。石破氏は「自民党政権の賞味期限は最低でも10年」と唱えたが、そのとき、復活した自民党政権の耐用年数も10年かも、と勝手に思った。
耐用年数の10年目という場面で政権を担っているのが現在の岸田文雄首相である。ところが、22年9月、内閣支持率の低迷が始まった。時事通信調査で、8月は44.3%だったのに、9月は32.3%、10月に27.4%に落ちた後、12月までずっと30%以下が続いている。
岸田首相は21年10月の就任後、衆参の選挙を乗り切った。「与党1強」を維持し、政権基盤は盤石のように見えるが、実際は青息吐息で、賞味期限切れ寸前という見方も多い。
就任以来、22年7月の参院選までの10カ月は、計画どおり安全運転第一で、「不挑戦・課題先送り」に徹した。参院選後に初めて「政権の自前走行」に踏み出した途端、「裸の実力」が露呈した感がある。掲げた「新しい資本主義」は生煮えの看板倒れ、政権運営力も危機対応力も未熟で、首相としての条件と資質を疑問視する国民が急増した。
宏池会出身首相の巡り合わせ
岸田首相が安全運転第一を続けていた22年前半、皮肉にも内外で「戦後初」という大きな異変が発生した。「内」では戦後初の元首相射殺事件、「外」では第2次世界大戦後初の核兵器保有大国の隣国軍事侵略となるロシアのウクライナ侵攻が起こった。
過去に同じく最大派閥の長だった田中角栄元首相が突然、病気で永田町から姿を消し、自民党内の権力構造が大きく変化するという事例もあったが、誰も予期しなかった暗殺・退場による「権力の空白」と、以後の政権の漂流は、初めての出来事である。
岸田首相のウクライナ危機との遭遇も、不思議な歴史の巡り合わせと背中合わせだ。岸田首相は1993年退任の宮沢喜一元首相以来、28年ぶりの「宏池会首相」である。「保守本流・経済重視・軽武装」が理念の派閥・宏池会(岸田派)の会長として、池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮沢の各氏に次いで5人目の首相となった。
歴史の巡り合わせとは、安全保障問題で伝統的に「平和外交・リベラル」が基本路線の宏池会の首相が、なぜか旧ソビエト連邦・現ロシアによる「安保危機」とぶつかるという因縁だ。古くは62年に旧ソ連がキューバ危機を引き起こしたとき、日本は池田首相だった。79年のソ連のアフガニスタン侵攻は大平首相時代に始まった。宮沢首相の91年、ソ連が崩壊してウクライナが独立した。さらに岸田首相の2022年にウクライナ戦争が勃発した。
現実主義か、場当たり対応か
岸田首相は安倍晋三内閣の時代、専任外相として戦後最長在任記録を残した。その経験から、自身の武器は「岸田外交」という自負がある。他方、17年暮れ、インタビューしたとき、「軽武装、経済重視が宏池会の理念と言う人がいるが、その時代に徹底した現実主義を貫いた結果と思っている。イデオロギーや主義主張にとらわれず、時代の変化に応じて徹底した現実主義で」と自ら語った。
「自前走行」に転じて5カ月後の22年12月16日、岸田首相はウクライナ危機や中国の膨張主義への備えなどを視野に、戦後の防衛政策の大転換を決めた。国家安全保障戦略(NSS)など、安保3文書を閣議決定し、敵基地攻撃能力(文書では「反撃能力」)の保有と、向こう5年間の防衛費の 1.5倍増への拡大などを明記した。専守防衛による平和主義が基本方針だった戦後の安保政策を大きく変更する決断を行った。
首相にすれば、自身の武器の「岸田外交」と、宏池会流の「時代の変化に応じて徹底した現実主義」に基づく対応、と自任しているのかもしれない。対して、一方で現実主義という名の無原則の状況順応主義、実態対応優先の後追い型政治という批判も強い。
岸田流の現実主義政治は、安保や防衛の問題に限らず、政権運営と各種の政策決定で、場当たり主義というマイナス面が色濃く表れる形となっていると映る。政権漂流は「権力の空白」の下での首相の空念仏と空振りによる空回りが原因ではないか。
政権の空転が続くのは、実質的権力を掌握していない「空洞首相」という素顔が露呈した点が大きいと思われる。岸田首相は就任前、自民党国会対策委員長、外相、政務調査会長などを経験したが、政権運営と与党操縦の中枢を担う内閣官房長官、官房副長官、自民党幹事長はすべて未体験だった。1960年代以降の21人の自民党首相では、超短命だった宇野宗佑氏、「自民党をぶっ壊す」と言った小泉純一郎氏と岸田氏の3人だけだ。
岸田流政治は霞が関の官僚機構への依存が目立つ。官僚主導型は宏池会政治の特徴という側面だけでなく、岸田首相の場合、本質的に政権運営や権力行使の実質に対する理解が乏しいのも影響しているという分析もある。その結果、国民の間に「期待外れ、役立たず、ご用済み」という失望感が広がったのが支持離れの要因と見て間違いない。
1998〜2000年に在任した小渕恵三元首相は「空洞首相」という冷評を逆手に取って、重心の低さを武器に何でものみ込んで実績を上げ、「真空総理」と評判になった。岸田首相は23年、「空洞首相」の壁を克服して長期政権の基盤を確立できるかどうかの正念場だ。
2度あることは3度ある?
一方、野党側も10年ぶりというこの政権漂流を見逃さなかった。長らく「水と油」だった野党第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が、22年秋の臨時国会で「呉越同舟」の国会共闘に舵を切った。野党側には「非自民・非共産」による勢力結集を待望する声も強いが、将来の選挙共闘を含めた新野党体制作りは簡単ではない。
国民の間には、実際には「政権交代可能な政党政治の復活」を望む声は小さくないが、現実には「自民1強」の突破、つまり自民党の過半数割れが生じない限り、政権交代は起こりえない。それには野党側による与党分断の成否がかぎとなる。
実は今、分断の起爆剤となりそうな大きなテーマが目の前に横たわっている。安保政策、それと背中合わせの防衛予算と財源としての増税対策、その根幹の憲法問題の3点だ。
そんな潮流の中で、最も気になるのは岸田首相の23年の取り組みである。真っ先に必要なのは政権の立て直しだ。危機突破策として、23年1月の通常国会開会前の内閣改造説、一点突破で政局転換を図るための衆議院の「リセット解散」説がささやかれている。それどころか、4月の統一地方選挙前の首相交代説という憶測も流れる。
実際には衆参与党多数という形を手にしている岸田首相は、奇手奇策は選択せず、おそらく「忍」の一字で、当面の課題を処理しながら、5月開催の広島サミット(主要先進国首脳会議)に臨み、それを転機に再浮上という正攻法で危機突破を図る作戦だろう。最大の問題は、民意がどこまで気長に岸田首相に政治を託し続けるかだ。
「政治の節目の年」という意味で、23年はもう一つ、自民党の野党初転落の1993年から数えて30年目に当たる。その間、自民党は野党を2度、経験した。「2度あることは3度ある」という言葉があるが、23年以降、3度目の下野が起こるかどうか。
岸田首相が「現実主義」という名の下で、表面を糊塗するだけの後追い・先送り政治に終始するなら、民意は本気で「政権交代可能な政党政治の復活」に動き出す可能性がある。「2度あることは3度」で、3度目の自民党下野という展開もゼロとは言い切れない。
●日本経済再生 大きく賃上げへ踏み出す年に  1/4
日本経済は、物価高という新たな課題を抱えて今年を迎えた。経済環境の変化を的確に捉えた政策と、企業の意識変革が問われる1年となる。
日本はデフレに苦しみ、過去10年、毎年の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率を平均すると0・5%に届かなかった。
ところが、昨年11月は前年同月比で3・7%上昇し、第2次石油危機の影響が残る1981年12月以来の高い伸び率となった。
「国際分業」は岐路
企業同士が売買するモノの価格動向を示す企業物価指数は、11月に9・3%上がっている。原材料価格の高騰ぶりを示しており、物価の上昇圧力はなお強い。
そうした動きの背景には、世界的な経済構造の変化があることに留意する必要がある。
世界経済は得意分野を補い合う国際分業で発展してきた。人件費の安い中国が「世界の工場」として成長したのが典型例だ。日本も資源など多くを輸入に頼る。それは自由貿易が前提となる。
だが、米中対立で自由貿易体制が揺らいだ。追い打ちをかけたのがロシアのウクライナ侵略である。供給網の分断で、安価なものを世界中どこからでも買える状況ではなくなりつつある。影響は長引くことが想定される。
物価高の中で人々の収入が伸びなければ、消費が落ち込み、コロナ禍からの回復途上にある景気が失速しかねない。それを防ぐには賃上げが不可欠だ。
今春闘が焦点となる。連合は賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)3%を含めて5%程度の賃上げを要求するという。特にベアは賞与や退職金にも反映され、賃上げを実感しやすい。物価上昇に見合うベアが重要だ。
海外と比べて賃金が伸び悩み、日本の平均賃金は主要先進国の中で最低水準となった。各企業の横並び意識が強く、好業績の企業も経営が厳しい他企業に配慮し、賃金上昇を抑える傾向があったことが一つの要因だろう。
横並びからの脱却を
好調な企業は率先して賃上げを行い、全体を 牽引けんいん すべきだ。
政府は以前から、賃金を引き上げた企業に対する税制優遇などを実施しているが、成果を上げたとは言い難い。赤字企業や収益力が低い企業にとっては、活用の機会が限られるとの指摘がある。
企業のニーズも精査し、広く恩恵が届く施策を講じてほしい。
日本企業は利益の蓄積である内部留保をため込み、500兆円を突破した。過去10年で200兆円以上増えている。先行き不安もあって、賃上げや設備投資を手控えてきた結果であろう。
脱炭素やデジタル化の進展で企業の経営環境も変化が激しい。だからこそ今、積極的な投資で成長を確かなものにすべきだ。
日本銀行の金融政策の行方も今年の大きな注目材料となる。
金融政策は転換の時か
黒田東彦総裁は4月に退任する見通しだ。黒田氏は2%の物価上昇率目標を掲げ、異次元の金融緩和を続けてきた。当初は為替を円安に導き、企業業績と株価を押し上げるなどの成果を上げた。
しかし、緩和の長期化で超低金利による銀行の収益力低下など副作用が目立ってきた。最近は米国の利上げに反して緩和を維持したため日米の金利差が広がり、過度な円安が進んで物価高を加速させていると批判された。
それでも、黒田氏は金融緩和の見直しを否定してきたが、昨年12月に突然、長期金利の変動幅拡大を容認し、政策を修正した。事実上の利上げと受け止められた。
市場では、金融緩和が転換されるとの見方が広がっている。総裁交代を機に論議が活発化する可能性が高い。新総裁には、緩和策の効果と副作用を点検し、政策を柔軟に運営することが望まれる。
国の財政悪化が深刻だ。新年度予算案は、一般会計総額が当初予算で初めて110兆円を超えた。約69兆円を見込む税収を大きく上回る規模で、3割以上を国債発行に頼る状況が常態化している。
国の長期債務残高は1000兆円を上回る。借金は将来世代へのつけ回しにほかならない。
防衛費や社会保障費に加え、脱炭素や少子化対策にも多くの支出が必要だ。むだな事業を徹底的に洗い出し、歳出構造を再構築する時ではないか。国会による予算のチェック機能強化も求めたい。
今後は日銀の政策修正による金利上昇で、国債の利払いに充てる国債費が増える恐れがある。財政再建にどう取り組むか、国民的な論議に着手することが急務だ。 
●岸田内閣総理大臣年頭記者会見 1/4
【岸田総理冒頭発言】
皆さん、明けましておめでとうございます。
冒頭、この年末年始、大雪と災害に見舞われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。引き続き各自治体と連携しつつ、国としても万全の対策を採ってまいります。
先ほど私は伊勢神宮に参拝し、国民の皆さんにとって今年がすばらしい1年になるよう、また、日本、そして世界の平和と繁栄をお祈りしてまいりました。
今年の干支(えと)は、「癸(みずのと)卯(う)」です。「癸卯」の「癸」は、十干の最後に当たり、一つの物事が収まり、次の物事へ移行する段階を、そして「卯」は、「茂(しげる)」を意味し、繁殖する、増えることを示すと言われています。この両方を備えた「癸卯」は、去年までの様々なことに区切りがつき、次の繁栄や成長につながっていくという意味があると言います。
私は、本年を昨年の様々な出来事に思いをはせながらも、新たな挑戦をする1年にしたいと思います。
今、世界、そして日本は、経済についても、国際秩序についても歴史の分岐点を迎えています。政権をお預かりして1年3か月、この時代の大きな転換期にあって、未来の世代に対し、これ以上先送りできない課題に正面から愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出していく、それが岸田政権の歴史的役割であると覚悟し、政権運営に臨んでまいりました。
この覚悟の下で取り組んだのが、国際社会が分断し、急速に安全保障環境が厳しさを増す中で、国民の命や暮らしを守るために待ったなしの課題である、防衛力の抜本的強化、エネルギーの安定供給のためにも、多様なエネルギー源を確保するためのエネルギー政策の転換とGX(グリーン・トランスフォーメーション)の実行、さらには、日本における第二の創業期を実現するためのスタートアップ育成5か年計画、資産所得倍増に向け、長年の課題であったNISA(少額投資非課税制度)の恒久化など、先送りの許されない課題でした。昨年に引き続き、本年も覚悟を持って、先送りできない問題への挑戦を続けてまいります。
特に、2つの課題、第1に、日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動する。第2に、異次元の少子化対策に挑戦する。そんな年にしたいと考えています。
この30年、世界では、グローバル化の進展とともに、マーケットも生産・製造も物流も一体化が進んできました。そして、我々は世界の一体化とともに、垣根が取り払われ、平和と繁栄を手にできると信じてきました。しかし、現実には、格差の拡大、地球環境問題などの課題の深刻化に直面しています。また、権威主義、国家資本主義的な国々と、自由主義、資本主義を掲げる我々民主主義国家との対立を深刻化させています。我々は、協力と対立、協調と分断が複雑に絡み合う、グローバル化の第二段階に入ったと認識しなければなりません。
グローバル化を利用し、コストの安い国に工場を移すことが効率的だ、グローバル化で拡大するマーケットを低価格の商品、サービスで確保することが先決だ、企業の利益を上げるため、賃金や研究開発、設備投資等もできるだけ抑えよう、こうした考え方を私たちは、言わば常識として信じてきました。
しかし、グローバル化の第2弾とも言える国際社会の現実を前に、我々は正にこの常識への挑戦を求められています。コロナ禍でマスクや半導体の不足に直面したように、生産拠点の海外移転は国の安全保障にまで影響を与えています。安売り競争に勝つための強力なコストカットにより、人への投資が十分になされず、賃金も上がらず、さらに、研究開発投資等も抑制された結果、新たな価値創造も停滞し、日本企業は競争力を失う一方で、現預金は増え続けてきました。
こうした現実を前に、今こそ我々は新たな方向性に踏み出さなければならない。私の掲げる新しい資本主義はそのための処方箋です。新自由主義的発想から脱却し、官と民の新たな連携の下で、賃上げと投資という2つの分配を強固に進め、持続可能で格差の少ない、力強い成長の基盤をつくり上げていきます。そのためには、成長と分配の好循環の中核である賃上げを何としても実現しなければなりません。企業が収益を上げて、労働者にしっかり分配し、消費が伸び、企業の投資が伸び、更なる経済成長が生まれる。こうした経済の好循環が実現されて初めて国民生活は豊かになります。しかし、この30年間、企業収益が伸びても、期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった。私はこの問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくります。
今年の春闘について、連合は5パーセント程度の賃上げを求めています。是非、インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたいと思います。政府としても、最低賃金の引上げ、公的セクターで働く労働者や政府調達に参加する企業の労働者の賃金について、インフレ率を超える賃上げが確保されることを目指します。
そして、この賃上げを持続可能なものとするため、意欲ある個人に着目したリスキリングによる能力向上支援、職務に応じてスキルが正当に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給の確立、GXやDX(デジタル・トランスフォーメーション)、スタートアップなどの成長分野への雇用の円滑な移動を三位一体で進め、構造的な賃上げを実現します。本年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめ、働く人の立場に立って、三位一体の労働市場改革を加速します。
もちろん女性の積極登用、男女間賃金格差の是正、非正規の正規化なども経済界と共に進めていきます。また、女性の正規雇用におけるL字カーブや、女性の就労を阻害する、いわゆる103万円、130万円の壁などの是正にも取り組んでまいります。
官民連携でのこうした取組を通じて、実質賃金の上昇が当たり前となる社会、そうした力強い経済の実現を目指します。賃上げはコストだという時代は大きく変わり、能力に合った賃上げこそが企業の競争力に直結する時代になっています。賃上げによる人への投資こそが日本経済の未来を切り開くエンジンとなります。
加えて、重要な2番目の柱が、国内での研究開発投資や設備投資による日本企業の競争力強化です。一部の権威主義的国家は、サプライチェーンを武器として使い、外交上の目的を達成するために経済的威圧を使うようになりました。もはやコストが安いというだけで海外に生産を依存するリスクを無視できません。そして、世界では、官民連携の下での投資促進によって、技術力、競争力を磨き上げる熾烈(しれつ)な競争が起こっています。今こそ、国内でつくれるものは国内でつくり、輸出する、また、研究開発投資、設備投資を活性化し、付加価値の高い製品サービスを生み出す、日本の高度成長を支えたこうした原点に立ち返るときではないでしょうか。
そのために、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、企業に対して期待成長率をはっきりと示すことで企業の投資を誘引していく、そうした官民連携が不可欠です。官民合わせて150兆円のGX投資を引き出す成長志向型カーボンプライシングによる20兆円の先行投資の枠組みは、その先行事例の一つです。今後、半導体、人工知能、量子コンピューター、バイオ技術、クリーンエネルギーなど、次世代の経済を支える戦略産業について強固な官民連携を打ち立て、国内で大胆に投資を進めていきます。
こうした新たな官民連携の成否を最終的に決める鍵は、民間のアニマルスピリットです。幸い、我が国には、社会課題を解決しよう、社会変革を促そう、世界に打って出よう、挑戦の心を持った方々が多数おられます。そうした方々の挑戦を妨げる規制は、断固、改革していきます。また、皆様が失敗を恐れず果敢に挑戦できるよう、昨年決定したスタートアップ育成5か年計画を着実に実行していきます。その中でも、日本をスタートアップのハブとするため、世界のトップ大学の誘致と参画による「グローバルキャンパス構想」を本年、具体化していきます。
そして、今年のもう一つの大きな挑戦は少子化対策です。昨年の出生数は80万人を割り込みました。少子化の問題はこれ以上放置できない、待ったなしの課題です。経済の面から見ても、少子化で縮小する日本には投資できない、そうした声を払拭しなければなりません。こどもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転させなければなりません。本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において必要とされるこども政策を体系的に取りまとめた上で、6月の骨太方針までに将来的なこども予算倍増に向けた大枠を提示していきます。
しかし、こども家庭庁の発足まで議論の開始を待つことはできません。この後、小倉こども政策担当大臣に対し、こども政策の強化について取りまとめるよう指示いたします。対策の基本的な方向性は3つです。第1に、児童手当を中心に経済的支援を強化することです。第2に、学童保育や病児保育を含め、幼児教育や保育サービスの量・質両面からの強化を進めるとともに、伴走型支援、産後ケア、一時預かりなど、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充を進めます。そして第3に、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実です。女性の就労は確実に増加しました。しかし、女性の正規雇用におけるL字カーブは是正されておらず、その修正が不可欠です。その際、育児休業制度の強化も検討しなければなりません。小倉大臣の下、異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現するべく、大胆に検討を進めてもらいます。
以上、今年は、賃上げ、投資促進、子育て支援強化に全力で取り組みます。賃金が増え、日本企業が強くなり、子供が増える、そんな社会を次の世代に引き継いでいきます。
そして、この伊勢の地を訪れるたびに思い出すのは、7年前の伊勢志摩サミットです。G7議長としての安倍(元)総理の卓越したリーダーシップの下で、世界経済の安定化、海洋秩序の維持など、多くの成果が上げられました。7年の時を経て、本年、再び我が国はG7議長国を務め、5月にはサミットを開催します。今年の開催地は広島です。ロシアのウクライナ侵略という暴挙によって国際秩序が大きく揺らぐ中で、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜くため、そうしたG7の結束はもとより、G7と世界の連帯を示していかなければなりません。同時に、対立や分断が顕在化する国際社会をいま一度結束させるために、グローバルサウスとの関係を一層強化し、世界の食料危機やエネルギー危機に効果的に対応していくことが求められます。
また、世界経済に様々な下方リスクが存在する中で、G7として世界経済をしっかりと牽引(けんいん)していかなければなりません。さらに、感染症対策や地球温暖化問題などの地球規模課題においてもリーダーシップの発揮が求められます。そして、ロシアの言動により核兵器をめぐる深刻な懸念が高まる中、被爆地広島から世界に向けて、核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージを発信してまいります。こうした考えの下、まずは、諸般の事情が許せば、1月9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国を訪問し、胸襟を開いた議論を行う予定です。G7サミット議長として今年1年強いリーダーシップを発揮してまいりたいと思います。
このうち、米国バイデン大統領との会談は、G7議長としての腹合わせ以上の意味を持った大変重要な会談になると考えています。我が国は年末に安全保障政策の基軸たる3文書の全面的な改定を行いました。そして、それを形あるものにする防衛力の抜本的強化の具体策を示しました。これを踏まえ、日本外交、安全保障の基軸である日米同盟の一層の強化を内外に示すとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた更に踏み込んだ緊密な連携を改めて確認したいと思います。
最後に、新型コロナウイルス対応について申し上げます。
年末年始、基本的な感染防止対策、適切な換気、さらにはワクチン接種など、国民の皆様に多大な御協力を頂き、ありがとうございます。まだ安心できる状況にはありませんが、こうした皆様の御努力を力に変えて、足元の感染状況に十分注意しながら、いわゆる第8波を乗り越え、今年こそ平時の日本を取り戻してまいります。そして、今後いつ襲ってきてもおかしくない感染症に適切に対応するため、感染症危機管理統括庁や、いわゆる「日本版CDC」の設置などのための法案を次期国会に提出いたします。引き続き、国民の皆様の御協力をお願いいたします。
なお、中国本土からの入国者に対する年末年始の検査結果や各国の水際措置を踏まえ、臨時的な措置を強化します。8日より中国本土からの入国者の検査を抗原定量又はPCR検査に切り替えるとともに、中国本土からの直行便での入国者に陰性証明を求めることとします。あわせて、検疫に万全を期するため、中国本土便の増便について必要な制限を引き続き行うことといたします。詳細は担当部局より公表いたします。
今年は4月に統一地方選挙があります。国民に最も近い地方自治体における選挙は、我が国民主主義にとって非常に重要な選挙です。デジタル田園都市国家構想を進め、地方創生につなげていくためにも、与党としてもしっかりとした成果を出してまいりたいと思います。
結びに、国民の皆様にとって本年が実り多い1年になりますことを心から御祈念申し上げて、年頭に当たっての御挨拶とさせていただきます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
【質疑応答】
(内閣広報官) それでは、これから記者の皆様より御質問いただきます。御質問される方は挙手の上、社名とお名前を明らかにしていただいた上で質問をお願いいたします。それでは、まず内閣記者会の代表の方から御質問をお願いいたします。
(記者) 西日本新聞の岩谷です。総理、明けましておめでとうございます。さて、岸田政権は昨年、政治とカネや、旧統一教会をめぐる問題で短期間に相次いで閣僚が辞任するなどし、内閣支持率も低迷したまま年明けを迎えました。重要課題が山積する中、今月、通常国会を迎えます。何を政権の最優先課題として国会に臨み、そして政策を進めていくのか、お考えをお聞かせください。また、総理は、防衛増税が段階的に実施される前には衆議院選挙があるという認識を示されていますが、年内に解散に踏み切る考えはあるのかお伺いします。
(岸田総理) まず前段の方の質問ですが、先ほども申し上げたように、今の政権の歴史的な使命は、我々が歴史的分岐点を迎える中、未来の世代に対しこれ以上先送りできない課題に正面から、そして愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出していくことだと考えています。課題は山積しておりますが、本年は特に3つの課題に取り組まなければならないと思っています。第1に、日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動していくこと、そして第2に、異次元の少子化対策に挑戦すること、そして第3に、G7議長国、また安保理非常任理事国として、日本、そして世界の平和と繁栄に主導的役割を果たしていくこと、この3つに重点的に取り組んでいきたいと思います。そして、後段の解散についての質問ですが、その質問は恐らく先日のテレビ番組での私の発言に関わる御質問だと思いますが、あの番組での私の発言は、今の衆議院の任期満了は令和7年10月であり、それまでに衆議院選挙はいつでもあり得るということ、そして他方、防衛費の財源確保のための税制措置については、令和5年の税制改正大綱において、令和6年以降、そして令和9年度に向けて複数年かけて段階実施する、このことが決まっており、その間の適切な時期に実施されることとなっております。よって、この結果として、税が上がる前に選挙があることも、日程上、可能性の問題としてあり得るということを申し上げた、こうした次第であります。いずれにせよ、解散総選挙については、専権事項として時の総理大臣が判断するものであると認識しております。
(内閣広報官) それでは、続きまして、三重県政記者クラブの代表の方から御質問をお願いいたします。
(記者) CBCテレビの越智と申します。新型コロナについてお伺いします。東海地方でも感染者数が再び増加傾向にありますが、今後の感染対策についてのお考えをお聞かせください。特に観光圏である三重県はインバウンド需要に期待が寄せられていますが、今後の旅行支援の在り方やインバウンド増加に向けた具体的な政策についてのお考えをお願いいたします。
(岸田総理) 新型コロナについては、社会経済活動との両立を図るということで取組を進めてきています。新型コロナの5類への引下げ、感染症法上の取扱いについても議論になってきていますが、厚生労働省においてコロナウイルスの病原性の評価等について専門家の議論も開始いたしました。こうした専門家等の意見も聴きながら、最新のエビデンスに基づきながら議論を進めていきたいと思っています。また、基本的な感染防止対策として、換気などに加えて場面に応じた適切なマスクの着脱、これもお願いしているところです。こうした感染対策の在り方については、科学的な知見を踏まえ、不断に見直しを行っていかなければならないと考えています。マスクの着用に対する考え方についても、インフルエンザとコロナの同時流行ですとか、ワクチンの接種の進展ですとか、飲み薬の普及、こういったものを踏まえつつ、専門家の意見も聴きながら考えていかなければならない、このように思っています。そして、観光政策についての御質問ですが、今後の観光政策に関して、全国旅行支援については3連休明けの今月10日より再開し、できる限り多くの方々に地域を訪れていただけるよう、全国的な旅行需要の喚起、これを着実に進めていきたいと考えます。また、インバウンドの本格的な回復に向けて昨年成立した補正予算と来年度当初予算の合計で2,000億円を超える額を計上しており、訪日外国人旅行消費額5兆円超の速やかな達成を目指して集中的な政策パッケージに基づく取組、これを進めていきたいと考えています。
(内閣広報官) それでは、再び内閣記者会の代表の方から御質問をお願いいたします。
(記者) よろしくお願いします。NHKの唐木と申します。日本は今年、G7の議長国です。ロシアのウクライナ侵攻は収束の糸口が見いだせないまま、間もなく1年を迎えようとしています。G7を含め、国際社会をどのようにリードしていくお考えでしょうか。そして、自身の手腕で侵攻停止を実現することは可能だと考えますか。また、5月には岸田総理大臣の地元でもある被爆地広島でG7サミットを開催する予定です。どのような会議にしたいとお考えでしょうか。よろしくお願いいたします。
(岸田総理) まずG7として取り組む課題、これはたくさんあります。世界経済についても議論を行わなければなりません。また、ウクライナ、あるいはインド太平洋といった地域情勢について、さらには核軍縮、気候変動、あるいは保健、開発といった地球規模の課題、さらには経済安全保障、こうした課題も重要な議論となると思います。G7の議長国としては、こうした様々な課題をリードしていかなければならないと思いますが、その中にあっても、今、ロシアによるウクライナ侵略が行われ、国際秩序の根幹が揺るがされています。こうした力による一方的な現状変更は世界のどこであっても許してはならないという強力なメッセージを示すこと、これは今回のG7広島サミットにおいて大変重要なメッセージになると思います。あわせて、我が国は唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核による威嚇、これは断じて受け入れることはできない。核兵器のない世界に向けてもG7として世界にメッセージを発することがG7広島サミットでできればと思っています。そして、ウクライナ情勢の今後の帰趨(きすう)につきましては、確たることを申し上げることはできませんが、まずはロシアに対する制裁、そしてウクライナ支援、これを改めてしっかりと確認するとともに、グローバルサウスと言われるような国々、要は中間国に位置する多くの国々とも連携し、思いを一つにして、停戦に向けて、平和に向けて努力するべきだというメッセージを世界に広げていく、こういったことが停戦にもつながるということになると思います。是非G7からそういったメッセージを世界に広げていく、こういった手掛かりをつかむことができればと思っています。
(内閣広報官) それでは、最後に三重県政記者クラブの代表の方から御質問をお受けいたします。
(記者) 毎日新聞の朝比奈といいます。よろしくお願いします。昨年の骨太の方針では、リニア中央新幹線について2023年に名古屋−大阪間の環境影響評価に着手できるよう必要な指導や支援を行うと明示して、昨年6月には岸田首相も三重県と奈良県の両知事に協力を要請されました。一方で、県内外にはリニア計画への不信感ですとか環境への影響を懸念する声も強くあります。工事には多くの国民が計画に納得できることが必要と考えますが、計画を後押しする政府としてどう取り組むか教えてください。あわせて、県内ではG7の関係閣僚会合である交通大臣会合が6月に志摩市で開催される予定です。リニア中央新幹線を含めて日本が交通分野で強みとする技術をどのように発信して成果につなげていくか、会合を開催する意義を含めて総理のお考えをお聞かせください。
(岸田総理) リニア中央新幹線は、デジタル田園都市国家構想を実現するためにも重要な基幹インフラであると思っています。本年はリニア中央新幹線の全線開業に向け、大きな一歩を踏み出す年にしたいと思います。その中で、まず静岡工区に関しては、水資源と、そして環境保全について地元自治体との調整、あるいは国交省の有識者会議での議論、これを更に進めてまいります。また、リニア開業後の東海道新幹線における静岡県内の駅等の停車頻度の増加について、本年夏をめどに一定の取りまとめを行い、関係者に丁寧な説明を行っていきたいと思います。そして、名古屋−大阪間については、駅位置の絞り込みが進められており、本年から環境影響評価に着手できるよう政府としても指導、支援を行っていくほか、三重、奈良、大阪の各駅を中心としたまちづくりに関する検討が進むよう関係者と連携して取り組んでまいります。また、今年の夏に策定予定の新たな国土形成計画にリニア中央新幹線を位置づけ、総合的、長期的な国土づくり、これを進めてまいります。そして、G7の交通大臣会合についてですが、6月16日から18日にかけてG7三重・伊勢志摩交通大臣会合を開催する予定にしておりますが、その中で、現在、各国が直面する少子高齢化に伴う地域格差、あるいは地球規模の気候変動などの課題の解決に向けて、リニアを含めた日本の技術革新、あるいは先進的な取組、これは大きな意義を有していると認識をしています。是非、こうした大臣会合において、今後の交通政策に関する議論にこうした日本の技術革新や先進的な取組を反映すべくしっかりと取り組み、そして、交通大臣会合において共同声明として世界に発信をする、こうしたメッセージを発することができればと期待しております。
(内閣広報官) 以上をもちまして、岸田内閣総理大臣の令和5年年頭記者会見を終了させていただきます。
御協力どうもありがとうございました。   

 

●「防衛国債」実現に消費増税も 防衛費“ゴリ押し”開く「亡国の扉」 1/5
岸田文雄首相が突如として打ち出した1兆円の「防衛増税」に、波紋が広がっている。いくら防衛力強化が必要といっても、国民が疲弊してしまっては元も子もない。なりふり構わぬ防衛費の膨張の先に待つのは、いつか来た道なのか──。
臨時国会が終わった途端、岸田文雄首相は唐突に「防衛増税」へと舵を切った。拙速に増税の方針を打ち出したことで、自民党内からも異論が噴出。党内では防衛費の増額は当面、国債で賄うべきとの声が強まっていた。
高市早苗経済安全保障担当相は「総理の真意が理解できない」とツイッターに投稿。萩生田光一政調会長も「増税はさまざまな努力をした後の最後の手段だ」と批判した。もっとも、2023年春の統一地方選を前に国民に負担を強いる増税論議は避けたいとの意向が透ける。
政府は12月16日、外交・防衛政策の基本方針である「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定し、閣議決定した。相手国のミサイル基地などを直接たたく敵基地攻撃能力の保有を明記するとともに、23年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる43兆円とすることを盛り込んだ。27年度から年間11兆円とし、GDP(国内総生産)比2%に増額する。
27年度時点で新たに約4兆円の財源が必要となるが、岸田首相はこのうち1兆円強を増税で捻出することを表明。対象となるのは、法人税、所得税、たばこ税の3税だ。
岸田首相は「未来の世代に対する私たちの世代の責任だ。増税が目的ではなく、防衛力の強化が目的だ」と強調した。防衛増税について国政選挙で国民の信を問うこともなく、国会の審議も経ないまま決めたことへの批判に対しても、「1年以上にわたる丁寧なプロセスを経て決定した」などと反論した。立憲民主党代表代行の逢坂誠二衆院議員が厳しく批判する。
「日本にどのような防衛力が必要なのか。その中身の議論を全くせずに金額だけ先に決めて、増税か国債かを議論しています。通常の予算審議ではあり得ないことで、基本姿勢として“丁寧なプロセス”以前の話です。安全保障環境も変化していますから、防衛は確かに大事です。きちんと必要な議論を積み上げて、その結果として防衛費がこれだけ増えるということを、国民に説明できなければなりません」
特に悪評ふんぷんなのは、東日本大震災後に創設された「復興特別所得税」の転用だ。まず所得税に税額1%を上乗せする新たな付加税を課し、そのうえで復興特別所得税の税率を現行の2.1%から1%引き下げる。復興財源に影響が出ないよう、37年までの課税期間を最長13年延ばすという姑息な手段だ。
経済学者の浜矩子・同志社大学大学院教授はこう憤る。
「被災地の人々の神経を逆なでする感覚の鈍さに、唖然とするというほかない。課税期間を延長するから総額は変わらないのでいいでしょうという言い訳がさらに怒りを買うことに思いが至らない想像力の欠如が、また一段と許せません」
復興特別所得税は旧民主党政権下の11年11月、復興財源として創設された。逢坂氏は当時、総務大臣政務官として制度設計に関わった。
「被災地のみなさんに様々なお叱りを受けながら議論をして決めていきました。それをぶん捕るように防衛費増額の財源に充てるというのは、言語道断です。いくら何でも筋が悪すぎるし、無責任極まりないと思います」
今回、戦後初めて防衛費のために建設国債を充てるという“禁じ手”も使う。23年度から1.6兆円の発行に踏み切る。建設国債は道路や橋、港湾施設など公共事業の財源に充てるために発行される国債だ。それを自衛隊の隊舎や倉庫などの施設にも使えるというアクロバティックな理屈でゴリ押しした。浜氏がこう解説する。
「将来、国民のための資産が残るような投資なので一時的に借金をしてもいいというのが建設国債の趣旨です。自衛隊施設にも使えるという理屈は通りません。それより建設国債で国防関係の支出を賄うという前例をつくると、艦船や戦闘機など武器調達にも使えるという道を開いてしまう可能性がある。安倍晋三元首相が生前、提唱していた『防衛国債』が実現してしまう恐れがあるのです」
軍費膨張させた戦前の特別会計
日本がNATO(北大西洋条約機構)と歩調を合わせ「GDP比2%防衛費」へ邁進すれば、中国、北朝鮮、ロシアなど近隣諸国との緊張を高めるばかり。浜氏が続ける。
「外交による対話にはほとんど触れられず、防衛力強化一辺倒です。かくして軍拡競争はどんどん進む。海外メディアは、日本が戦後一貫して保持してきた平和主義を放棄したというふうに報道していますが、それでいいんですか」
現代の日本を取り巻く喫緊の課題は、防衛問題に限らない。逢坂氏が挙げるのは、人口減少問題と教育問題だ。22年の出生数は1899年の統計開始以来、初めて80万人を割る見通し。また、世界で18〜20年に発表された自然科学分野での上位論文数で、日本は12位。統計がある1981年以降、初めて10位以内から脱落した。逢坂氏がこう警告する。
「限られた予算をどう案分するのか。人口減少問題や教育問題を含めて財源の議論をしなければならないのに、防衛費だけ決めて後は知らないでは、日本は潰れます」
今回の増税議論に対し、軍事評論家の前田哲男氏はこう指摘する。
「かつて、日中戦争以降に設けられた臨時軍事費特別会計を連想しました。軍事費捻出のため、いわば『つかみ金』でした。国会に上程はされるのですが、何に使われたのかは一切説明不要。この特別会計によって、軍事費はどんどん膨張していったのです」
政府は防衛費捻出のため他にも歳出改革、決算剰余金の利用、防衛力強化資金の創設を掲げているが、いずれも目算どおりにいくかは不透明だ。
「一番手っ取り早く、広く薄く徴収できるということで、結局、消費税が狙われることになるのではないか」(前田氏)
敵基地攻撃能力は相手国が攻撃に「着手」した段階で行使できるのか。その判断基準を問われた岸田首相は「安全保障の機微に触れる」として回答を避けた。説明責任はすべて棚上げ状態だ。
●国債の利率0.5%に引き上げ、8年ぶり高さ 財務省 1/5
財務省は5日に実施する10年物国債入札で、毎年支払う利息を示す表面利率を0.5%と従来の0.2%から引き上げた。引き上げは0.1%から0.2%に上げた2022年4月以来で、水準は14年12月以来8年ぶりの高さ。日銀が金融緩和修正で10年債利回りの上限を0.5%程度と従来の0.25%程度から引き上げたことで、市場で取引される国債利回りが上昇したことに合わせた。
財務省は5日午前の10年債の取引利回りを元に表面利率を決めた。投資家が得る利益や財務省の支払総額を示す「利回り」は、表面利率と債券の価格で決まる。表面利率が市場実勢より低すぎると同じ利回りでも債券の発行価格が額面を大きく下回ってしまうため、表面利率は市場実勢の利回り水準に合わせている。
表面利率が上がると財務省が毎年支払う利払い費が増額することになる。財政悪化が続くなかで利払い費の負担が増せば、経済政策にも悪影響を及ぼす可能性がある。 
●経済安保「自分の国は自分で守る」 高市早苗氏、単独インタビュー 1/5
高市早苗経済安全保障担当相が、夕刊フジの単独インタビューに応じた。日本を取り巻く安全保障環境は極めて厳しい。中国は軍事的覇権拡大を進め、ロシアなどと合同軍事演習を繰り返している。北朝鮮は核・ミサイル開発を強行している。「台湾有事」「日本有事」に備えた防衛力強化は急務で、経済の側面から日本の国益を守り切る経済安保が注目されている。激動の時代を乗り切る、意気込みを力強く語った。
――2022年を振り返り、どう感じるか
「とにかく、激動だった。ただただ無念なのが7月8日。安倍晋三元首相が、ああいうかたちでお亡くなりになった。辛さを、ずっと、引きずっている」
――安倍氏は、21年の自民党総裁選で高市氏を推した。外交・安全保障などの理念継承も期待される
「1997年ごろから、教育問題に始まり、さまざまな勉強会でご一緒した。安倍氏の理念は突き詰めると『国力を強くする』ということだったと思う。国力は経済力であり、国防力でもあり、今や情報力、サイバー防御力など、多様な分野に広がった。安倍氏はずっと、『自分の国は自分で守る』という信念を語っていた。日本はまさに、その局面にある。力をつけなければならない」
――自民党政調会長から岸田文雄内閣入りした
「試行錯誤のなか、自分なりの達成感はある。総裁選に名乗りを上げた後、政調会長を務めた。22年8月10日からは、経済安全保障担当相として、新たな挑戦が始まった」
――日本を取り巻く情勢をどう見るか
「拡大する中国の軍事動向、ロシアのウクライナ侵略、北朝鮮の核・ミサイル開発など、国際社会は戦後最大の試練を迎えている。日本も『新たな危機の時代』に突入したといえる」
――「台湾有事=日本有事」の懸念が高まる
「有事では、まず日本が主体的に対応する。これを忘れず、必要な能力をつけなければならない。日米同盟は重要だが、『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)』でも、何か事があれば、まずは日本が主体的に対処し、米国はこれを補完、支援する立場だ。有事に米軍が最初から戦ってくれるのではない」
――戦略、政策が問われる
「まさに国防もそうだが、政調会長として短期間で政権公約を作り、全国遊説し、21年の衆院選に勝利できた。22年の参院選の公約もうまくまとまり、結果もよかった。その点での達成感はある」
――経済政策の指針となる「骨太の方針」で、プライマリーバランス(PB=基礎的財政収支)の黒字化にこだわる財務省とのせめぎあいがあったと聞く
「政調会長として、やはり『骨太の方針』が一つの山だった。党全体の会議でさまざまな意見が出たが、最後は一任していただいた。岸田首相と対面で議論し、『ただし、重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない』との一行を加筆していただいた。財政規律を重んじる内閣の中にあっても、非常に影響力のある一行を盛り込めた。食料やエネルギー、経済などの安全保障を徹底し、政策の安定性、継続性を確保するうえで、重要政策は当初予算で措置することなどが盛り込まれたのも成果だろう」
――防衛費増額では、岸田首相の「増税」方針が波紋を呼んでいる
「政調会長としてまとめた自民党公約には、『NATO(北大西洋条約機構)諸国並みの対GDP(国内総生産)比2%以上を念頭に』と書き込んだ。参院選ではさらに踏み込み、『5年以内に抜本的に強化』『NATO諸国並みの対GDP比2%以上』と明記した。中国、ロシア、北朝鮮。日本は、隣国すべてが核保有国だ。3カ国のリーダーへのメッセージでもあることを意識して、公約を打ち出した」
――閣僚として初めて、亡命ウイグル人でつくる「世界ウイグル会議」のドルクン・エイサ総裁と面談した
「中国の人権侵害の実態について、さまざまな話をお聞きした。有意義だった。人権尊重も自民党の公約だ。岸田首相も人権担当補佐官に中谷元氏を置いている。人権外交にしっかりした問題意識をお持ちだと確信している」
――自身の担当にも関連する
「人権問題は経済安全保障にも関わる問題だ。中国の人権状況に対して、欧米では、強制労働で生産された製品の輸入を規制した」
――日本の姿勢が問われる
「中国をめぐっては近年、サイバー攻撃などが主要課題だったが、人権が重視されるようになった。米国は昨年から、エンティティリスト(=米商務省が管轄する貿易取引制限リスト)で、人権侵害に関与する団体・企業を対象に追加した。米国の輸出管理は日本にも適用され、罰則もある。欧州も同様だ。人権は、経済安保にも関わるテーマだ。政界、経済界を含め日本全体が高い意識を持たないと、サプライチェーン(供給網)から弾き出される」
――具体的な課題は
「いま歯を食いしばって頑張っているのは、機密情報の取り扱い資格『セキュリティー・クリアランス』(適格性評価=SC)だ。これを確実に法制化しなければならない。すべてが手探りで、まずはG7(先進7カ国)の情勢を調べた」
――G7は進んでいたか
「詳細は機微に触れ、なかなか教えてもらえなかった。恥を忍び、英国のシンクタンクに個人的に依頼して調べると、G7各国が、相当しっかりしたSCを持っていることが分かった」
――日本の現状は
「日本唯一の法定のSC制度は、安倍氏が政権の命運をかけてつくった『特定秘密保護法』に基づく適性評価の仕組みだけだと思う。ただ、秘密の指定対象は『防衛』『外交』『テロ』『スパイ行為』の4類型で、各大臣が『特定秘密』指定した情報などにアクセスすることにしかならず、対象が非常に限定的だ。その経済版を作りたい」
――具体的には
「特定秘密保護法改正で対応する手もあるが、目的を考えると少し違うと思っている。例えば、最近の社会では、民生と軍事の両方で活用される『デュアルユース』の先端技術があふれている。民間でも活用される技術を、特定秘密に含めて指定するのは現実に即していないだろう。そこで、経済安全保障推進法の改正案で、『産業版SC制度』をつくりたいと私は考えている」
――法制化の課題は
「G7は友好国だ。このチームから弾き出されるのは、国益や経済上、得策ではない。特定秘密保護法では、対象情報の範囲のほか、適性評価で調査できる事項も法律で限定されている。一方、海外のSCでは、国籍をはじめ、家族の渡航歴、思想信条、忠誠心などまでが調査項目だ。隣人や知人へのヒアリングも行われる。日本が受け入れられるかが難しい」
――なぜ導入が必要なのか
「このままでは、日本企業が、海外との共同研究、外国政府の調達、民間企業同士の取引などから排除される恐れがある。これが大きな理由だ。特定秘密保護法では、特定秘密にアクセスしたくない人は、国家公務員でも適性評価を受ける必要はない。強制ではなく拒否できる。一方、SCを有していないと、積極参入を希望する日本企業や個人が大変苦労することになるかもしれない。政府に限らず、海外の民間企業との取引でも、情報通信、量子技術、AI(人工知能)など、多くの分野がデュアルユースだ。SCだけでなく、他国企業からの調査を求められる状況まで出てくる。なお、企業における従業員に対する自主的なバックグラウンドチェックについては、労働法制がネックとなってやりづらいという声があり、ここへの対応も考えなくてはならない」
――新年への意気込みと目標を
「いま申し上げたSCを、いかに法制化できるか。日本政府として、大変な作業に挑むことになる。1年で出来上がるかどうかも分からない、気が遠くなるような作業だが、何とか法律にしたい。もう一つは、G7の科学技術相会合の議長を務める。さまざまな技術の共有をめぐる意識を議論したい。宇宙担当相として『デブリ(ごみ)』の問題にも取り組みたい。宇宙空間を浮遊する中国やロシアの衛星破壊実験で生じた破片など、危険なデブリが問題化している。日本は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と民間企業が協力してデブリ回収技術を開発している。ビジネスの可能性にもつながる話だ。国際ルール策定も含め、壮大な宇宙分野にも挑戦したい」
――多忙な日々だ
「録りためたドラマを見る暇もなくなったが(笑)。国民の期待に応えられるよう、力を尽くしたい」
●経済3団体共催2023年新年祝賀会 1/5
令和5年1月5日、岸田総理は、都内で開催された経済3団体共催2023年新年祝賀会に出席しました。
総理は、挨拶で次のように述べました。
「皆様、新年おめでとうございます。御紹介にあずかりました内閣総理大臣の岸田文雄でございます。本日は経済3団体の新年祝賀会にお招きいただきました。心から厚く御礼を申し上げます。会員企業の皆様方がこうしておそろいで、健やかな新年をお迎えになられましたこと、心からお慶(よろこ)びを申し上げます。
先ほど小林会頭の御挨拶の中にもありましたように、今年の干支(えと)は、『癸(みずのと)卯(う)』であります。『癸卯』の『癸』は、十干の最後に当たり、一つの物事が収まり次の物事へ移行する段階を、そして、『卯』は『茂(しげる)』を意味し、繁殖する、あるいは、増える、を示すと言われています。
この両方を備えた『癸卯』は、去年までの様々なことに区切りがつき、次の繁栄や成長につながっていくという意味があると言われています。
私は、本年を、昨年の様々な出来事に思いをはせながらも、新たな挑戦をする一年にしたいと思っています。
政権をお預かりして1年3か月。歴史の大きな分岐点にあって、未来の世代に対し、これ以上先送りできない課題に、正面から愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出していく。それが、岸田政権の歴史的役割であると覚悟し、政権運営に臨んでまいりました。
昨年に引き続き、本年も、覚悟を持って、先送りできない課題への挑戦を続けてまいります。
具体的には、特に、2つの課題。第1に、日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動する、第2に、異次元の少子化対策に挑戦する、そんな年にしたいと思っています。
この30年、世界では、グローバル化の進展とともに、マーケットも生産・製造も物流も、一体化が進んできました。そして我々は、世界の一体化とともに、垣根が取り払われ、平和と繁栄を手にできると信じてきました。
しかし現実は、格差の拡大、地球環境問題などの課題の深刻化に直面しています。また、権威主義・国家資本主義的な国々と、自由主義・資本主義を掲げる我々民主主義国家との対立を深刻化させています。
こうした現実を前に、今こそ、我々は、新たな方向性に踏み出さなければならない、私の掲げる新しい資本主義は、そのための処方箋です。
官と民の新たな連携の下で、賃上げと投資という2つの分配を強固に進め、持続可能で格差の少ない、力強い成長の基盤をつくり上げていきます。
まず実現を目指すのは、成長と分配の好循環の中核である、賃上げです。能力に見合った賃上げこそが、企業の競争力に直結する時代です。
連合は、今年の春闘において、5パーセント程度の賃上げを求めています。是非、インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたいと思っています。政府として、最低賃金の引上げなどの取組を進めてまいります。
今、日本経済は大きな分かれ道にあります。輸入物価だけでなく、経済全体の物価上昇が欧米のように進行し、賃上げがそれに追い付かなければ、スタグフレーションに陥ってしまうと警鐘を鳴らす専門家がいます。
一方で、コロナ禍からのリバウンド需要、円安環境をいかしたインバウンドや輸出の増加、GX(グリーン・トランスフォーメーション)等の投資ニーズの拡大など、日本経済の体質転換を図る上で、数十年に一度のチャンスを迎えていると言う専門家もいます。
どちらの見方にも共通するのは、今年の賃上げの動きによって、日本経済の先行きは全く違ったものになるということです。日本全体の賃上げを引っ張り上げるのは、ここにいらっしゃる企業の皆さんです。グローバル企業から、賃上げに向けた様々な前向きな取組が出てきており、心強く思っています。
政府は、財政規模39兆円の経済対策、防衛政策、エネルギー政策の大きな転換、そして、GX投資の促進を始め、引き続き、果敢な取組を続ける決意です。
産業界の皆様にも、是非御協力いただきたいと思っています。
さらに、この賃上げを持続可能なものとするため、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、GXやDX(デジタル・トランスフォーメーション)、スタートアップなどの成長分野への雇用の円滑な移動、これらを三位一体で進め、構造的な賃上げを実現いたします。そのために、本年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめ、三位一体の労働市場改革を加速いたします。
加えて重要な2番目の柱が、国内での研究開発投資や設備投資による、日本企業の競争力強化です。
一部の権威主義的国家は、サプライチェーンを武器として使い、外交上の目的を達成するために、経済的威圧を使うようになりました。また、世界では、官民連携の下での投資促進によって、技術力・競争力を磨き上げる苛烈な競争が起こっています。
今こそ、国内でつくれるものは、国内でつくり、輸出する。また、研究開発投資・設備投資を活性化し、付加価値の高い製品・サービスを生み出していく。これらに官民挙げて、取り組もうではありませんか。
そのために、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、企業に対して期待成長率をはっきり示すことで、企業の投資を誘引していく、そうした官民連携を行ってまいります。
官民合わせて150兆円のGX投資を引き出す成長志向型カーボンプライシングによる20兆円の先行投資の枠組みは、その先行事例の一つです。
半導体、人工知能、量子コンピュータ、バイオ技術、クリーンエネルギーなど、次世代の経済を支える戦略産業について、強固な官民連携を打ち立て、国内での大胆な投資を進めていこうではありませんか。
あわせて、民間の皆さんの力を引き出すための、規制改革、スタートアップ育成にも全力で取り組みます。
そして、今年のもう一つの大きな挑戦は、少子化対策です。
昨年の出生数は80万人を割り込みました。少子化の問題は、これ以上放置できない、待ったなしの課題です。経済面から見ても、少子化で縮小する日本には投資できない、そうした声を払拭していかなければなりません。
本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において必要とされるこども政策を体系的に取りまとめた上で、6月の骨太方針までに、将来的なこども予算倍増に向けた大枠を提示していきます。
対策の大きな柱の一つに、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実があります。女性の就労は確実に増加しました。しかし、女性の正規雇用におけるL字カーブは是正されておらず、その修正が不可欠です。その際、育児休業制度の強化も検討しなければなりません。産業界の皆様にも、是非お力をお貸しいただきたいと思っております。
最後に、外交についても一言申し上げます。本年、我が国はG7議長国を務め、5月には、広島サミットを開催いたします。
ロシアによるウクライナ侵略という暴挙によって国際秩序が揺らぐ中で、自由・民主主義・人権・法の支配といった普遍的価値を守り抜くため、そうしたG7の結束はもとより、G7と世界の連帯を示していかなければなりません。同時に、対立や分断が顕在化する国際社会を、いま一度結束させるために、グローバルサウスとの関係を一層強化し、世界の食料危機やエネルギー危機に効果的に対応していくことが求められます。
また、世界経済に様々な下方リスクが存在する中で、G7として世界経済をしっかりと牽引(けんいん)していかなければなりません。
さらに、感染症対策や地球温暖化など地球規模課題においても、リーダーシップの発揮が求められます。また、被爆地広島から世界に向けて、核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージを発信してまいります。
結びに、本日御参加の皆様方、経済3団体の会員企業の皆様によって、本年が実り多い1年となりますことを心から御祈念申し上げまして、年頭に当たっての私の御挨拶とさせていただきます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。」
●要警戒、日本がアジア最大のイージス艦隊を構築へ 1/5
日本の自衛隊は軍拡の動きを繰り返している。米国の海軍情報サイトは3日、日本はイージスシステムを搭載する最新型のミサイル駆逐艦2隻を建造し、米国製イージス駆逐艦の数と性能でアジア一を維持することを検討していると伝えた。
報道によると、日本は先ほど閣議決定した安保政策文書「国家防衛戦略」の中で、海上自衛隊のイージス駆逐艦の数を現在の8隻から10隻に増やすとした。この規模は韓国をはるかに上回り、また在日米海軍第7艦隊が保有する9隻をも上回る。日本は米国製イージス駆逐艦の保有数がアジアで最多の国になる。
規模を拡大するほか、日本はさらにこれらのイージス駆逐艦の全面的なアップデートを検討している。日本政府は米国製巡航ミサイル「トマホーク」を500発調達し、イージス駆逐艦に搭載することを決定済みだ。そのため日本は防衛予算に、現役イージス駆逐艦の必要な改造を行うとして1104億円を計上した。
●国債金利、2・5倍の0・5%に 財務省、利払い増で財政負担懸念  1/5
財務省は5日、1月に発行する10年物国債の表面利率を従来の年0・2%から2・5倍の0・5%へと引き上げた。0・5%は8年1カ月ぶりの水準だ。国債の利払い費の増加につながり、今後も上昇が続けば財政運営の重荷となる懸念がある。
政府は23年度当初予算案で金利を1・1%と想定して利払い費を算定。実際の金利が想定を下回ることで生まれる余剰分を、これまで補正予算の財源に活用してきたが、利払い費の増加で補正の財源が減少する恐れがある。
財務省は25年度予算案で想定する長期金利を1・3%とし、金利がさらに1%上昇すれば、国債費が3兆7千億円程度上振れると算出している。
●10年物国債の「表面利率」を0.5%に引き上げ 約8年ぶりの水準に 1/5
財務省は10年物国債の入札を行い、毎年支払う利息を示す「表面利率」をおよそ8年ぶりの水準にまで引き上げました。
財務省は5日、10年物の国債の入札を行い、毎年支払う利息を示す「表面利率」をこれまでの0.2%から0.5%に引き上げました。利率が0.5%になるのは、2014年12月の入札以来、およそ8年ぶりのことです。
財務省によりますと、日本銀行が先月、金融緩和策を修正したことを受け、市場で取引される10年債の利回りが上昇していることを反映したということです。
表面利率の上昇で、国が毎年支払う利払い費は増加することになります。
2023年度予算案でも3割以上を国債に頼る中で、利回りがさらに上昇すれば財政に一定の影響を与える可能性もありそうです。
●岸田総理が異次元の少子化対策「大胆に検討」、小池知事「本来は国が…」 1/5
所得制限を設けず、18歳までの子に月5000円を支給する方針を打ち出した小池都知事。異次元の少子化対策を大胆に検討するとした岸田総理大臣に苦言を呈しました。
5日朝、総理官邸に設置されたのはG7広島サミットまでの日数を表示するカウントダウンボードです。サミットが開幕する5月19日まで134日。日本が議長国だけにその手腕が問われます。
岸田総理大臣「未来に向けて明確なビジョンやメッセージを発する貴重な機会を設けたいと思っています」
国内外に課題が山積する岸田総理ですが、今年特に取り組む課題の1つとして挙げたのが少子化対策です。
岸田総理大臣「異次元の少子化対策に挑戦する。大胆に検討を進めてもらいます」
目指すは子どもファーストの経済社会を作り上げること。
実に40年以上にわたって下がり続けている日本の出生数。去年は初めて80万人を割り込む見通しで、国の予測より8年も早いペースで少子化が進んでいます。また、男性・女性ともに結婚しない人が増えていて、各年代で未婚率が増加。少子化の一因になっているとみられています。岸田総理は異次元の少子化対策の基本的な方向性として、経済的支援やサービスの拡充など3つを挙げていますが、具体策はこれから検討する段階。
岸田総理大臣「少子化の問題はこれ以上放置できない、待ったなしの課題です」
将来的に子ども予算を倍増させる方針です。
そんななか、国に先駆けて具体的な対策に着手したのが東京都です。
東京都・小池知事「今回、0歳から18歳まで切れ目なく毎月5000円、これを給付致しますと。ただ1回のショットだけでなく子育てはずっと続くわけですね。やはり子育てをするんだという安心感に少しでもつながるように、都としてのメッセージをお伝えをしたいと」
小池知事は4日、都内に住む0歳から18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を表明。国の児童手当では去年10月から一定の所得を超えると支給されなくなりましたが、都独自の新たな子育て支援策は所得制限を設けず、児童手当が適用されない16歳以上も対象としています。
東京都・小池知事「所得制限があることによって、夫婦で一生懸命働いて納税をしているがゆえに逆にそういった給付が受けられないというのは、ある意味で子育てに対しての罰、罰ゲームのようになってしまうと。子育て、そして人口減少、色んなキーワードがありますけれども、一つひとつ丁寧に、だけど一貫性のあるものを本来は国がやるべきだと思いますが、都として行っていく」「(Q.なぜこのタイミングなのか?)(出生数が)80万人を切ったことですね。これに反応しないのは無責任だというふうに思いました」
5000円給付について都民は…。
都内在住(子ども2人)「5000円頂けるのはすごくありがたいと思います。塾とか習い事とかもあるので」
都内在住(子ども1人)「子どもを産む時に、やっぱり子育てとの両立は難しいかなと思って退職もしたので、少しでも補填して頂けるのはありがたかったかなと思います」
都内在住(子ども2人)「金額としては少ないかもしれないんですけれども、それが刺激になって、流れが変われば良いなとは思ってますけれども」
一方、岸田総理が掲げる異次元の少子化対策については。
都内在住(子ども3人)「『異次元』という言葉をどう解釈するんだろうなと。1回、児童手当を削減、所得制限を設けたという事実を覆すことはないのであまり期待していないです」
都内在住(子ども1人)「(Q.期待できそうですか?)期待したいなという思いはありますけど」
東京都・小池知事「子どもに対してこのような形でしっかりとサポートするというのは、まさに将来への社会の宝への投資であり、それぞれが一人ひとりの自己実現ができる、そういう東京であると、そしてそういう国であるという、こういう流れができてくれば良いなと」
政府が準備を進めるなか、岸田総理に近い議員からは。
自民党・岸田派議員「小池さんはやっぱり良いタイミングで打ち出してくるな。カネのある東京都だからできることだ」
5000円給付について、東京都は2023年度からの開始を目指して検討を進めていく方針です。
●出産一時金が50万円に増額、岸田首相は「過去最高」と誇示するが… 1/5
子どもを産んだ際に受け取れる出産育児一時金が、2023年度から8万円増の50万円となることが決まった。岸田文雄首相が2年以上取り組んできた肝いりの政策で「引き上げ幅は過去最高だ」と誇示した。子育て世帯からは歓迎の声が上がったものの、一方で「これだけではもう1人産もうと思わない」と冷静な声が聞こえてくる。(共同通信=若林美幸)
菅前首相に対抗する形で打ち出した政策
岸田首相が出産育児一時金に言及したのは、2020年9月の自民党総裁選。当時政調会長だった岸田首相は初めて出馬し、当時官房長官だった菅義偉氏の少子化対策に対抗する形で、一時金の引き上げによる「出産費用の実質無償化」を掲げた。一方、菅氏は「不妊治療の保険適用」を掲げた。
総裁選に敗れて菅政権が発足した後、出産費用の負担軽減に関する国会議員連盟を立ち上げ、共同代表に就いた。議員連盟として出産育児一時金の引き上げを政府に提言したものの、待機児童解消など他の子育て政策に財源が必要となり、見送られた経緯がある。首相に就任した今回はリベンジの意味合いが強く、2022年6月に「大幅に増額する」と早々に宣言した。
出産にかかる費用は、年々上昇している。2021年度の公的病院の平均額は約45万5千円に上る。これに加え、出産事故に備える「産科医療補償制度」の掛け金1万2千円もかかる。合計約47万円が必要だ。
現行の出産育児一時金は42万円で、出産費用の支払いの際には平均で5万円足りない計算だ。一時金の引き上げ幅はこれまで5万円が過去最大だったが、今回は8万円増の50万円になった。理由は、岸田首相が「47万円では大幅増額とは言えない」として一層の上積みにこだわったからだ、と政府関係者は説明する。引き上げにこだわった背景には「せめて出産時にかかる平均費用は一時金でカバーしたい」との思いもあったという。
ただ、出産育児一時金の主な財源は、現役世代の公的医療保険の保険料。増額すれば、負担は若い世代にのしかかる。このため政府は2024年度以降、75歳以上の保険料からも一部を拠出する仕組みへ変更することも決めた。
政府はさらに、出産前後で計10万円相当を配る「出産・子育て応援交付金」も新たに創設した。相次ぐ閣僚の不祥事や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などの逆風に直面する中、政府一丸での少子化対策をアピールする狙いだ。
「地方では子どもを大学に進学させることが一番の出費」
出産育児一時金の額は全国一律だが、出産は病気ではないため原則自由診療で、かかる費用は地域や医療機関によって大きく異なる。
東京都のフリーランスの明日香さん(35)=仮名=は2021年、都内の有名病院で無痛分娩により長男(1)を出産した。夫婦ともに実家は遠方にある。新型コロナウイルス禍のため里帰りは諦め、自宅から近くて設備や体制が整った病院を希望した。
出産育児一時金を超えて支払った自己負担分は約90万円。明日香さんは、安心のための必要経費だったと納得している。ただ、こうも思った。「一時金の増額はありがたいが、お金がかかるのは出産後だ」
「もっと保育所に子どもを預けやすい社会にしてもらいたい。現状は保育所に入れるのはフルタイム勤務の母親が中心だ。パートやフリーランスでも入りやすくなるよう充実させてほしい」と訴えている。
熊本市の会社員の真弥さん(37)=仮名=は2022年、個室で豪華な食事が付き、新生児集中治療室(NICU)もある病院で長男を出産した。自己負担は5千円で済んだ。出産育児一時金が増額されれば出産費用は全て賄え、数万円が余ることになる。
それでも、真弥さんも財源を注いでほしいのは出産費用ではないと言う。「地方では、子どもを都会の大学に進学させることが一番の出費。出産時や子どもが小さい頃に比べ、高校や大学進学にかかる負担の方が大きい。県外の高校や大学に行けば、都会に住む家庭よりも費用がかさむ」
出費が同時期に集中することを避けるため、長女の出産から6年空けて長男を産んだ。「夫婦ともに正社員でも、子どもは2人が限界。高等教育への補助を増やしてもらう方が良い」
明日香さん、真弥さんの2人に共通するのは「出産前後の支給が若干増えるくらいでは、もう1人産もうという動機にはならない」という思いだ。
女性が産み育てやすい環境を
日本は少子化に歯止めがかからず、2022年の国内の出生数は統計開始後、初めて80万人を割る見通しとなっている。女性の出産年齢も上昇。背景には、低賃金で子どもを持つ余裕がなかったり、キャリア確立のため先送りせざるを得なかったりする事情がある。
日本総研の西沢和彦主席研究員は、そもそも出産費用を抑える工夫も必要だと指摘する。出産年齢が上がると高度な措置が必要となるケースも増えるなど、費用も上昇する相関関係があるため「女性が産みたい時に産めるように環境を整えることが必要だ」。政府にはこう注文を付けた。「政府は各論に終始するのではなく、労働環境の整備や男性の意識改革など、複数の政策を組み合わせた『青写真』をきちんと描くべきだ」
●岸田首相の「異次元の少子化対策」に明石市長・泉氏が言及…「増税やめて」 1/5
岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」について、さまざまな意見が上がっている。兵庫県明石市の泉房穂市長も5日までに、ツイッターで言及した。
明石市では、泉市長のもと次々と少子化対策を打ち出し、出生率を2018年には1・7にまで上げた実績がある。「総理が年頭会見で『異次元の少子化対策』を表明したとのこと。かねてから『子ども予算のグローバルスタンダード化』(諸外国の半分程度の予算額を諸外国並みに)を訴え続けている立場からすると、異次元でなく普通でいいので、すぐに予算倍増を実行していただきたいとの思い」。子供予算を6月に倍増するという事について、「どうして『今』じゃないのか。『防衛費』だと即断なのに『子ども予算』だと先送りの理由がわからない。ちなみに財源不足を理由に『増税』や『保険料増額』はやめてくださいね。財源捻出は政治家の仕事ですから」とツイート。続けて「『日本がすでに低い方での“異次元”』とはそのとおりで、日本は昔から『子どもへの冷たさ(子ども予算の少なさ)』において“異次元”のレベルにあった。『子どもを応援しない日本に未来はない』とレポートに書いたのは、今から40年前のこと。総理、“異次元”じゃなく、“普通”に少子化対策をお願いします」とした。
昨年の6月にも少子化問題の参考人として参院で明石市の取り組みについて話し、所得制限なしで18歳までの医療費無料、第2子以降の保育料全員無料、おむつ満1歳まで宅配、中学生の給食費自己負担なし、遊び場では親子共に自己負担なしなど経済的施策が有名。所得制限なしという点も強く訴えている。お金だけではなく親子に寄り添う施策も行っている。

 

●針路問われる日本外交 国際秩序の構築最優先に 1/6
「外交には裏付けとなる防衛力が必要であり、防衛力の強化は外交における説得力につながる」。これは昨年12月に「国家安全保障戦略」など3文書を改定した際、記者会見で岸田文雄首相が発した言葉だ。外相を4年半余り務め、外交を得意とする首相だけに違和感を持った人も少なくないのではないか。
首相は今月9日からフランス、イタリア、英国の欧州3カ国に加えカナダを訪問し、13日にはワシントンでバイデン米大統領と会談する。5月に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に向けた地ならしの一方で、各国との首脳会談で防衛力を強化する新しい国家安保戦略を説明し、同盟強化を確認するのが狙いだろう。
首相は、改定された国家安保戦略について「力による現状変更の試み」を批判し、多国間の協力による国際協調への取り組みをアピールしている。日本の防衛力強化は、米国や欧州諸国には「説得力」があるのだろう。アフガニスタン撤退を決断した際のバイデン氏の発言にもあるように「自ら助くる者を助く」という理屈が同盟強化の基盤にもなるからだ。
一方で、防衛関連予算の倍増や、他国の領域内を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などに踏み込んだのは、軍備拡張を進め台湾統一に武力行使も辞さない中国や、核・ミサイル開発にまい進する北朝鮮、さらにはウクライナ侵攻をやめないロシアが念頭にある。「力」に「力」で対抗する日本の動きに対して、中国などは反発を強め北朝鮮はミサイル発射など軍事行動も示唆するなど、およそ「説得力」たり得ない反応ぶりだ。
日本は今年、G7の議長国と、国連安全保障理事会の非常任理事国という二つの重要な役割を担う。「平和国家」を掲げてきた日本の外交・安全保障政策の針路が問われる重要な1年となろう。非常任理事国として機能不全に陥っている安保理をどう立て直すのか。指導力が試される。首相は広島サミットで「核兵器のない世界に向けた大きな目標への歩みを世界に発信したい」と意気込む。
ただ、こうした主張が説得力を持つには平和国家の立場を堅持してこそではないか。国家安保戦略は安保政策を大転換させながらも「平和国家として専守防衛に徹する」とし、「他国との共存共栄、多国間の協力を重視する」と「多国間主義」も強調している。資源が乏しく他国との協調が欠かせない日本が目指すべきは、近隣諸国との対話を進め平和と安定に向かわせる以外にないはずだ。基本原則を忘れずに、分断解消へ国際秩序を構築する外交戦略を最優先に求めたい。
●安保3文書の運用で鍵となる「政策の統合」と「国力としての技術力」 1/6
3文書改定は外交・防衛のみならず経済安全保障、サイバー、海洋、宇宙、エネルギー、食料といった多元的な安全保障政策を「高次のレベルで統合」する指針を明確にした。ただし、日本の国力の重要な要素である「技術力」について、「民生用か、安全保障用か」という非現実的な議論の呪縛を解くという課題が残っている。
日本は太平洋を背に、中国、北朝鮮、ロシアという3つの核保有国を前にし、民主主義国家と専制主義国家の対立の最前線に位置している。同時に、インド太平洋地域は世界の人口の半数とGDP(国内総生産)の約6割を擁し、世界経済の成長エンジンである。地政学的競争が激化するなか、日本はいかにして平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄など自らの国益を守っていくべきか。いわば、荒れ狂うインド太平洋の海で、日本はどう生き延びていくのか。2022年12月16日、岸田政権が閣議決定した安全保障3文書は、その荒れ狂うインド太平洋における航海の海図となるものである。
防衛力の統合から「総合的な国力」の統合へ
戦略に求められる要素とは、脅威を分析したうえで、守るべき国益を明確にし、目標(ends)を設定し、とるべき政策のアプローチを手段(means)と方法(ways)として示すことである。新しい国家安全保障戦略は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」という国際情勢認識に基づき、「国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略が必要」であるとの視点に立ち、旧戦略と比べ国益や安全保障上の目標をより明確にし、反撃能力の保有など新たなアプローチを示した。また目標達成のための手段として、外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力の5つを束ねた「総合的な国力」を活用すると明記した。さらに昭和51年(1976年)に防衛計画の大綱が策定されてから46年、政府は国家防衛戦略を初めて策定した。安全保障に関する国家戦略の体系化が進んだと言えよう。日本の安全保障政策にとって歴史的な転換点である。
2013年12月、第二次安倍政権は史上初の国家安保戦略を策定し、あわせて防衛計画の大綱(25大綱)を定めた。25大綱は陸・海・空の統合機動防衛力の構築を、さらに2018年の30大綱では宇宙・サイバー・電磁波といった新領域を含めた多次元統合防衛力を構築することとした。政府はこうして統合運用体制の整備を進めてきたが、はたして有事に、自衛隊を真に統合して運用できるのか、という懸念が提起されてきた。こうした中、2021年に発足した米バイデン政権は統合抑止(integrated deterrence)を提唱し、あらゆる領域、戦域、紛争の烈度において、米国の全ての国力に加え、同盟国や同志国とのネットワークもフルに動員して、中国をはじめとする脅威を抑止する、という方針を掲げた。自衛隊は統合運用の実効性を高めつつ、統合抑止を旗印に掲げる米軍とともに、日米共同運用のオペレーションを、より一層、進化させる必要がある。
そのため今回の国家防衛戦略は、常設の「統合司令部」創設を定めた。これまで有事となれば自衛隊はその都度、統合任務部隊を編成する必要があった。東日本大震災では東北方面総監を指揮官とする災統合任務部隊が編制された。今後は平素から統合司令部が一元的に部隊運用を行い、有事となれば統合司令部の長である統合司令官が部隊を指揮し、統幕長は防衛大臣や総理など政務の補佐に徹する、という体制が見込まれている。
このように防衛力の統合は着実に進んできたが、今回の安保3文書で重要なことは、統合が防衛力に留まらなくなった、という点にある。岸田文雄総理は3文書の閣議決定後の記者会見で「防衛力だけでなく、総合的な国力を活用し、我が国を全方位でシームレスに守っていきます。このため、海上保安庁の能力強化、経済安全保障政策の促進など、政府横断で早急に取り組みます」と明言した。
日本の国益を守り抜く。その手段として総合的な国力を統合するというアプローチが、「国家の対応を高次のレベルで統合させる」最上位の戦略である国家安保戦略で明記された。
経済安全保障という新機軸
その国家安保戦略の新機軸として盛り込まれたのが、経済安全保障である。ポイントは以下のとおりである。
第一に、経済安全保障を「我が国の平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済上の措置を講じ確保すること」と定義した。これは自民党が2020年12月に発表した「『経済安全保障戦略』策定に向けて」における定義を修正した表現になっている。2022年5月に国会で成立した経済安全保障推進法、そして同年9月に閣議決定された基本方針(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針)のいずれも、経済安保の定義付けを行ってこなかった。
第二に、経済安保政策のアプローチは、おおむね既存の政策体系を踏襲したものとなった。国家安保戦略は、我が国の自律性を向上し、優位性、不可欠性を確保すべく、サプライチェーン強靭化、重要インフラ、先端重要技術に関する措置に言及した。そのうえで、「セキュリティ・クリアランスを含む我が国の情報保全の強化の検討」を進めると明記した。
第三に、経済安保政策について、「取り組んでいく措置は不断に検討・見直しを行い、特に、各産業等が抱えるリスクを継続的に点検」することとした。政府は安定供給を確保すべき重要物資の特定を進め、2022年12月20日、抗菌薬、半導体、蓄電池、重要鉱物、工作機械など11物資を政令で指定した。このプロセスで各省庁が実施したのが、サプライチェーンの全体像や脆弱性を把握する調査――サプライチェーン・マッピング――である。経済安保をめぐる脅威はダイナミックに変わるため、リスクは「継続的に点検」し、措置も「不断に検討・見直」すことが肝要である。
第四に、経済安保と密接不可分なサイバーセキュリティについて、「サイバー安全保障分野での対応能力の向上」を掲げた。対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させるべく、能動的サイバー防御を導入し、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を発展的に改組し、サイバー安全保障分野の政策を一元的に総合調整する新たな組織を設置する。この政策の対象は、国のみならず「重要インフラ等」の安全等となっている。これは経済安保推進法で取り組む、基幹インフラ役務の安定的な提供の確保と、直結している。サイバー攻撃を仕掛けてくる、あるいは、その兆候が見られるサーバを検知するためには、国内の通信事業者の情報も必要となる。経済安保政策とサイバー安保政策を統合するため、法制度整備や運用強化がこれから課題となる。
第五に、「エネルギーや食料など我が国の安全保障に不可欠な資源の確保」は、「経済安全保障政策の促進」と別のセクションで論じた。書きぶりからは、エネルギー安全保障は経済産業省や資源エネルギー庁、食料安全保障は農林水産省が主管省庁として想定されているように見える。しかし、いずれも経済安全保障担当である高市早苗大臣の担務である、特定重要物資の安定供給確保と重なる。特定重要物資には天然ガスや肥料が候補にあげられている。
改めて2013年の国家安保戦略と比べてみると、国力や国益の拡がりとともに、アプローチとしての安全保障政策の対象も拡大したことがわかる。優先順位も変わった。旧戦略でとりあげられた国際平和協力や人間の安全保障は、新戦略でトーンダウンした。地政学的競争が激化し、日本を取り巻く安全保障環境が変わったことによる変化なのであろう。
これからの3文書の運用では、外交、防衛のみならず、新機軸である経済安全保障、そしてサイバー、海洋、宇宙、エネルギー、食料といった多元的な安全保障政策の統合が求められる。
国力としての技術力に不可欠なマルチユース技術と社会実装力
総じて言えば、国家安保戦略は高く評価されるべき文書となった。
一方で、取り残された課題もある。最大の課題は、技術力をめぐる指針である。
新戦略が「総合的な国力」を構成する要素に技術力を含めたこと自体は画期的なことであった。その技術力について、有識者からもイノベーティブな概念が提唱された。岸田総理は2022年9月から11月にかけ「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を開催した。有識者会議の報告書は、「最先端の科学技術の進展の速さは、これまでの常識を遥かに超えており、基礎研究の成果がすぐに実用技術で展開されるようなケースが増えている」とし、次のように論じた。「先端的で原理的な技術は、ほとんどが民生でも安全保障でも、いずれにも活用できるマルチユースである。言い換えれば、民生用基礎技術、安全保障用の基礎技術といった区別は、実際には不可能になってきている」。
ここで注目すべきは、マルチユース、つまり技術の多義性である。
これまで技術をめぐっては軍民両用のデュアルユースの是非が問題となってきた。それは民生か安全保障かという二項対立での議論を惹起し、時として先鋭化した論争を巻き起こしてきた。マルチユースは、そうした議論を過去のものとし得る、包摂的で、知的にイノベーティブな概念である。それは重要新興技術をめぐる最近の動向にも合致している。たとえば、火災報知器がビルや住居、オフィス、工場、軍などで幅広く使われるように、CBRN(化学・⽣物・放射性物質・核兵器)脅威の検知技術は、産業、防災、治安、防衛など様々な分野で活用できる。
国家安保戦略は「技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携の強化」について指針を定めた。そして、内閣府が所掌する経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)を含む研究開発の成果を、安全保障分野へ積極的に活用すると記した。5000億円規模のK Programは無人航空機(UAV)、衛星通信、AI、量子、ロボット工学、先端センサー、バイオ領域などの重要技術を支援対象とする。いずれも民生や防衛のみならず、防災、治安などマルチユース技術としての可能性を秘めている。
興味深いことに、3文書では、国家防衛戦略が有識者会議の提言を受け止め、マルチユースに言及した。しかしそれは「装備化に資するマルチユース先端技術を見出し、防衛イノベーションにつながる装備品を生み出すための新たな研究機関を創設する」との指針であり、あくまで防衛技術基盤の強化という文脈である。そこには、GPSのように、防衛分野で開発された先端技術を、民間や防災、治安など、マルチユースに還元させるという発想は見られない。
本来であれば、マルチユースという包摂的な概念は、最上位の国家安保戦略にこそ書き込まれるべきであったろう。その意味で3文書は、民生か安全保障かというデュアルユースの呪縛から逃れることができなかったとも言える。
今後は3文書の運用において、内閣府が進める経済安保のK Programや、総理主催の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が推進する科学技術政策と、防衛省・自衛隊が進めていく防衛基盤技術の強化について、政策を統合していくことが必要である。国による新興技術の開発支援政策を「高次のレベルで統合」していかなければ、支援の分散、重複、逐次投入につながりかねない。
海外に目を転じれば、日本にとって「これまでにない最大の戦略的な挑戦」である中国は、「科学技術の自立自強」を掲げ、米国、日本、欧州など西側諸国にチョークポイントを握られている技術とサプライチェーンの内製化、そのためのイノベーション推進に躍起になっている。
これに対し米国は、自らの国力の源泉が経済力と技術的優位性にあると考えている。バイデン政権が2022年10月に策定した国家安保戦略(NSS)は技術のセクションに1ページ以上を割き、「技術は、今日の地政学的競争、そして国の安全保障、経済、民主主義の将来にとって中心的な存在である」と力説した。
国の存亡が、新興技術にかかっている。そうした切迫した危機感は、残念ながら日本の国家安保戦略からは伝わってこない。
新型コロナは日本で5万8000人以上の国民の命を奪ってきた。そのコロナ危機の初期、日本はPCR検査とmRNAワクチンについて優位性のある技術を持ちながら、社会実装できなかった。日本のある企業は全自動PCR検査機器を開発していた。日本でPCR検査の目詰まりが指摘されていた2020年3月頃、この検査機器に飛びついたのは日本政府でなく、フランス政府だった。また2015年頃から日本で進んでいたmRNAワクチンの研究開発も、国から臨床試験の予算が得られず途中で打ち切られ、国産mRNAワクチン計画は頓挫した。その結果、日本は2.4兆円をかけて海外からワクチンを調達することになった。
米中が新興技術をめぐって覇を競うなか、日本は、アカデミアやスタートアップ企業が有望なマルチユース技術を持っていても、社会実装まで仕上げることができていない。
日本の技術力には、社会実装力が欠けている。その現実を直視しなければ、科学技術の研究開発にどれだけ国費を投じても、有望なイノベーションを創出し、国益を発展させることにつながらないのではないか。
荒れるインド太平洋を生き抜くために
国家安保戦略は、「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」ことを強調した。戦後日本の安全保障にとって大きな転換点となった3文書は、1年間におよぶ政府横断、そして有識者や財界も交えた政官財学での議論の結晶である。
戦略は、政策当局のオペレーション(作戦)と戦術と組み合わされることで、現場で実践されていく。国民の決意を引き出すため、安全保障政策の統合が、これからますます重要となる。
その鍵を握るのが技術力である。
天然ガスを冷却して液化し、船に積み、輸入して電力を供給するLNG(液化天然ガス)発電。その社会実装に世界で初めて成功したのは日本であった。日本は1969年にアラスカからLNG輸入を実現し、1970年にはLNGを燃料にした火力発電に成功した。そして1970年代、日本は石油危機で原油輸入の中東依存という課題に直面した。それを克服するため日本は東南アジアや豪州へ、太平洋を渡ってLNG確保に奔走した。いまやLNGは日本の発電の約4割を占めるに至った。
荒れるインド太平洋を生き抜くため、日本には安保3文書という海図とともに、技術が要る。日本がLNG発電というイノベーションを社会実装したように、スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力も、無人アセット防衛能力も、技術を社会実装させねば、国力とならないのである。
●子ども政策 予算倍増へ道筋示せるか 1/6
昨年生まれた赤ちゃんの数が統計開始以来、初めて80万人を下回る見通しとなった。国が想定していたよりも8年早く、少子化は加速度的に進んでいる。
子どもを持つかどうかは個人の選択であることは言うまでもない。ただ、少子化が進めば、年金や医療・介護などの社会保障制度の支え手が減るというだけでなく、生産や消費活動の担い手が減って経済規模が縮小し、国力が衰退していく恐れがある。
各種の調査から、少子化の背景に経済問題があるのは明らかだ。若い世代の中には雇用や所得が不安定で、結婚や出産、子育てに不安を感じ、ためらう人が少なくない。安心して子どもを持てる社会への転換を急がねばならない。
岸田文雄首相は年頭の記者会見で「子どもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転させなければならない」と述べた。言葉通り、対策を前に進められるかどうかが今年の焦点となる。
首相が対策の1番手に挙げたのは、児童手当の拡充など経済的支援の強化だ。拡充する方針は昨年12月、政府の全世代型社会保障構築本部が決定した報告書で示されており、児童手当の拡充のほか、育児休業給付の対象外となっている自営業やフリーランスへの給付、子育て中に時短勤務をする人への給付などが並ぶ。2023年中の具体化を目指すとしている。
日本は子育て支援への公的支出が少ないことが以前から指摘されてきた。国内総生産(GDP)に対する子育て関連支出は、出生率が高いスウェーデンやフランスなどの欧州主要国が3%を超えているのに対し、日本は2%程度にとどまる。
首相は政権発足当初からたびたび「子ども関連予算の倍増」を表明。年頭会見では、倍増に向けた大枠を6月の経済財政運営指針「骨太方針」までに示すと明らかにした。
驚いたのは「異次元の少子化対策」との強い表現で意欲を示したことだ。ただ、どれだけ言葉を並べても、財源の裏付けがなければ絵に描いた餅である。首相は防衛費をGDP比2%へ「倍増」させる議論を先行させ、そのしわ寄せを受ける形で子ども関連予算の財源を巡る議論が先送りされた経緯がある。
政府は4月に、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」を発足させる。厚生労働省や内閣府の関連部署が移り、少子化に加え、児童虐待防止などの対策強化を目指す。同庁の23年度の予算案は約4兆8千億円。倍増するなら、将来的に5兆円近い上積みが必要ということになる。
現状では実現可能性に強い疑問を抱かざるを得ない。どのように「異次元の少子化対策」を実現するのか。主導する首相の姿勢が問われる。
●岸田首相 少子化対策強化へ “具体策のたたき台3月末めどに”  1/6
少子化対策の強化に向けて、岸田総理大臣は小倉担当大臣に対し、児童手当を中心とした経済的支援の拡充など、具体策のたたき台を3月末をめどにまとめるよう指示しました。
岸田総理大臣は6日午前、総理大臣官邸で、小倉少子化担当大臣と会談しました。
この中で、岸田総理大臣は、小倉大臣に対し、少子化対策の強化に向けて、厚生労働省や内閣府など関係府省による新たな会議を設置して検討を進め、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめるよう指示しました。
これを受けて小倉大臣は、近く会議の初会合を開き、児童手当を中心とした経済的支援の拡充や、幼児教育や保育サービスなどの充実、それに育児休業制度の強化などの議論を始める方針です。
政府は、会議がまとめるたたき台をもとに「こども家庭庁」が発足する4月以降、さらに詰めの検討を続けることにしています。
少子化対策をめぐっては、岸田総理大臣が6月の「骨太の方針」の策定までに、子ども予算の倍増に向けた大枠を明らかにする方針を示していて、政府内では、対策強化のための財源の確保についても議論が進められる見通しです。
小倉大臣は、会談のあと記者団に対し「スピード感を持ちながら、多くの方から納得と共感をいただけるたたき台をまとめたい」と述べました。
小倉少子化相「幅広く財源を議論する土台に」
小倉少子化担当大臣は記者会見で「社会全体での費用負担のあり方を考えるには、まずは必要な子ども政策が何かをしっかり議論する必要がある。岸田総理大臣の指示はそのための大きなスタートで、たたき台が国民各層の理解を得ながら、幅広く財源を議論する土台になるよう努めたい」と述べました。
また、少子化対策を検討する新たな会議について、みずからが座長を務め、内閣府や厚生労働省、それに文部科学省などの局長級のメンバーで構成する方針を示しました。
そして、早ければ通常国会召集前に初会合を開催し、学識経験者や子育ての当事者からヒアリングなどを行いたいという考えを示しました。
松野官房長官「財源確保で消費税は当面触れること考えず」
松野官房長官は記者会見で「少子化の問題は待ったなしの課題であり、恒久的な施策には恒久的な財源が必要だ。歳出の内容に応じてさまざまな工夫をしながら、社会全体で負担のあり方について幅広く検討を進めていくことが必要だ」と述べました。
そのうえで、財源を確保するため、将来的な消費税の引き上げも検討の対象になるかどうかについて「消費税については社会保障の財源として今後も重要な役割を果たすべきものだが、当面触れることは考えていない」と述べました。
●政府 少子化対策で新たな会議設置 経済的支援の拡充など検討へ  1/6
岸田総理大臣が少子化対策を強化する意向を示したことを受けて、政府は小倉少子化担当大臣のもとに関係府省による新たな会議を近く設置し、児童手当を中心とした経済的支援の拡充など具体策の検討を始めることになりました。
岸田総理大臣は先に行った年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と述べ、小倉少子化担当大臣に対し、子ども政策の強化策の取りまとめを指示する考えを示しました。
これを受けて、政府は小倉大臣のもとに厚生労働省や内閣府など関係府省による新たな会議を近く設置し、具体策の検討を始めることになりました。
この中では、児童手当を中心とした経済的支援の拡充や幼児教育や保育サービスの充実、育児休業制度の強化を含めた働き方改革の推進などの検討を行う方針です。
少子化対策をめぐり、岸田総理大臣は、ことし6月の「骨太の方針」の策定までに子ども予算の倍増に向けた大枠を示す方針も示していて、政府内では、今後の具体策の検討状況も踏まえながら、恒久的な財源確保の在り方についても議論が進められる見通しです。
●自民 甘利氏“少子化対策の財源 消費税率引き上げも検討対象”  1/6
今後の少子化対策を進めるための財源について、自民党の税制調査会で幹部を務める甘利前幹事長は、将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。
岸田総理大臣は、先の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と述べたうえで、児童手当を中心にした経済的支援の強化などの検討を進める方針を示しました。
これに関連して自民党の甘利前幹事長は、5日夜出演したBSテレ東の「日経ニュースプラス9」で「岸田総理大臣が少子化対策で異次元の対応をすると言うなら、例えば児童手当なら財源論にまでつなげていかなければならない」と指摘しました。
そのうえで「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければならず、将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、少子化対策を進めるための財源として、将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。
一方、甘利氏は防衛費増額に伴う増税に関する自民党内の議論について「財源は確定していて、要するにいつから増税を実施するかだ。ことしは年末ではなく、通年で早くから根本的な議論をしようとなっていて、そこで防衛費の議論は終結する」と述べました。
●少子化対策に私見「所得制限撤廃などのほうが希望が持てるのでは?」 1/6
5児の父であるタレントつるの剛士(47)が6日までにツイッターを更新。少子化対策に向けた自身の考えをつづった。
岸田文雄首相は4日に行った年頭の会見で、少子化対策を進めるとの意向を示し、児童手当などの経済的支援や、幼児教育、保育サービス等を強化すると表明した。
ただ、児童手当は現在、中学校修了前までの子どもを養育する世帯を対象に、子ども1人あたりに月5000円〜1万5000円が支給されているが、所得制限もある。また、財源の問題もあり、SNS上では首相の打ち出した「異次元の少子化対策」を冷ややかに受け止める声が少なくない。
つるのは「税金を一時的な給付金や出産一時金増額…などに回すよりも、子育て世帯からの回収を継続的に減らす、例えば子どもの人数に応じて累進所得税減税や、所得制限撤廃…などのほうが希望が持てるのでは?と思う子育て世帯主のつぶやき」と提案。
フォロワーからは「それいいですねぇ!政府がお金をばら蒔くよりも、各家庭が申告してくれるようになればお役所の方も管理・確認がしやすいでしょうし、家庭持ってる人たちも免税されるならと正しく報告しようとしてくれますよ。お互いにとって優しい提案だと思います」「ほんとそれ!!です。付け加えるならば、年少控除を復活させることで、納税額を減らせる&多子世帯に大きくプラスに影響するので、対策の一つにぜひ加えていただきたく!」「同意します!もう一人産めるかな…と思えるのは子育て期間中の支援です。ただ、一番欲しいものは、大学までの学費など教育費の完全無償化です。それならば絶対にもう一人産みます」などといった賛同の声が多数寄せられた。 
●消費税率の引き上げ「当面触れることは考えていない」官房長官会見 1/6
松野官房長官は、6日午前の会見で、子ども予算の倍増のために、消費税の増税により財源を賄うことに否定的な考えを示しました。「恒久的な施策には恒久的な財源が必要」としながらも「当面触れることは考えていない」と述べました。
会見トピックス / 閣議の概要・岸田首相のウクライナ訪問・岸田首相G7各国への歴訪・甘利前幹事長の消費増税発言・ウクライナ情勢
○松野官房長官 閣議の概要について申し上げます。一般案件1件、政令、人事が決定されました。大臣発言として、外務大臣臨時代理である私からハイチにおけるコレラの感染拡大に対する緊急無償資金協力について申し上げ、小倉大臣および国家公安委員会委員長から、交通安全対策の推進について。岸田総理大臣から海外出張不在中の臨時代理等について、それぞれご発言がありました。私からは以上です。
――岸田総理のウクライナ訪問について伺う。ウクライナ大統領府長官は松田大使と会談し、大統領の意向として、岸田総理のウクライナ訪問を要請したと明らかにしました。どのようなやり取りがあったのか。G7議長国日本の総理の訪問の意義、今後の検討方針を伺います。
○松野官房長官 1月4日、松田駐ウクライナ大使がイェルマークウクライナ大統領府長官と会談した際に同長官から岸田総理のウクライナ訪問について招待がありました。我が国は祖国を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民と共にあります。そのような中で、対露制裁とウクライナ支援を強力に推進しつつ、ウクライナ政府をはじめ G7や同志国との間でも緊密に連携して対応してきています。両首脳間においても、これまで累次にわたる首脳電話会談を通して緊密に意思疎通を行ってきています。本年はG7議長国であることも踏まえつつ、引き続き日本として適切な形で対応していく考えであります。
――関連で、岸田総理のG7各国への歴訪について伺います。岸田総理は9日からG7各国を歴訪します。5月の広島サミットの成功に向け今回の歴訪を通じて どういった連携を確認する方針でしょうか。また、今年はG7の議長国として重要な舵取りを担う1年になります。ウクライナ支援などどのような外交方針で臨んでいく考えなのか、政府の外交方針についてもあわせて伺います。
○松野官房長官 諸般の事情が許せば、岸田総理は1月9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国を訪問し、各国首脳との会談を行う予定であります。今回の岸田総理によるG7各国訪問では、G7広島サミットに向けた議長国としての考え方を説明するとともに、世界がロシアによるウクライナ侵略、大量破壊兵器の使用リスクの高まりなど未曾有の危機に直面する中で、広島サミットにおいて法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7のビジョンや決意を示していくことを確認したいと考えております。また、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、核軍縮・不拡散、経済安全保障、また、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題などについて、G7が結束して取り組んでいくことを確認する考えであります。ロシアによるウクライナ侵略に対しては、これまでもG7は結束して対応してきました。我が国としては、G7議長国としてこれまで以上にG7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、対露制裁およびウクライナ支援を引き続き強力に推進していきます。
――自民党税調幹部の甘利前幹事長は今後の少子化対策を進める財源について将来的な消費税の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。受け止めを。
○松野官房長官 ご指摘の発言については承知しています。政府としては少子化の問題はこれ以上放置できない待ったなしの課題であり、経済的支援の強化、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実という基本的な方向性のもと、まずは子ども政策として充実させる内容について、具体化していく考えであります。その上で、恒久的な施策には恒久的な財源が必要であり、その歳出の内容に応じて、様々な工夫をしながら、社会全体での負担のあり方について、幅広く検討を進めていくことが必要と考えていますが、消費税についてはこれまでも総理が述べられているとおり、社会保障の財源として、今後も重要な役割を果たすべきものでありますけれども、当面触れることは考えていません。
――ウクライナ情勢について伺う。ロシア大統領府は、プーチン大統領が6日から7日の36時間は停戦するよう命じたと発表した。 アメリカなどからは、懐疑的な見方も出ているが、政府としての見解とロシアに求めることをお聞きする。
○松野官房長官 1月5日、プーチン大統領はロシア正教のクリスマスに合わせ、1月6日12時から1月7日24時までウクライナにおけるすべての戦線で停戦体制を導入するよう国防大臣に指示したと承知しています。これに対し、ウクライナ政府は1月5日に発表したゼレンスキー大統領のビデオメッセージにおいて、より早期に戦争を終結させるためには、クレムリンの休戦提案は全く必要とされていないと述べて、ロシア側の提案を拒絶していると認識しています。いずれにせよ、一刻も早くロシアが侵略を止め、ウクライナから部隊を撤退させるため、国際社会が連携してロシアに対して断固とした措置を取っていくことが重要であります。我が国として引き続き、今後の状況を注視しつつ、G7等と連携し、適切に取り組んでいきたいと考えております。
●防衛費の大幅増も令和臨調で議論へ 「財源に国債はあまりに安易 1/6
経済界や学識者でつくる「令和国民会議」(令和臨調)共同代表で、日本生産性本部会長の茂木友三郎キッコーマン名誉会長らは6日、東京都内で年頭会見を開き、3月末までに取りまとめる令和臨調の提言に関して「立場や党派を超えて取り組まねば解決困難な課題に取り組む。本格的に世論喚起や合意形成に踏み出す1年とする」と述べた。
提言は、選挙制度や国と地方の関係を考える「統治構造」、持続可能性が問われる「財政・社会保障」、人口減少や高齢化を踏まえた「国土構想」の3部会で議論してまとめる。令和臨調共同代表で元総務相の増田寛也日本郵政社長は、本紙の取材に「政府が6月に策定する経済財政運営指針の骨太方針に提言が反映され、その後の政策選択に影響を与えられる内容にしたい」と語った。
茂木氏は、政府が昨年末に決定した防衛費の大幅増に関しても、令和臨調で議論する考えを示した。歴代政権はこれまで、国債発行で軍事費の膨張を招いた戦前の反省を踏まえ、戦後は建設国債を防衛費に充てるのを避けてきたが、岸田政権は2023年度当初予算案で、建設国債で自衛隊の施設整備費や艦船の建造費を賄うことを決めた。
令和臨調共同代表の小林喜光よしみつ東京電力ホールディングス会長は会見で「大変な財政状況の中で国債はあまりに安易で、たがが緩んでいる」と指摘した。

 

●「日本の国際貢献度が低すぎる」とアメリカ議会が「暴発」寸前… 1/7
戦後政策の大転換
岸田文雄首相は1月13日、念願かなって米ワシントンのホワイトハウスでジョー・バイデン米大統領と首脳会談を行う。
岸田官邸が2023年初っ端の首相外遊として日米首脳会談を想定し、早くから準備していたのは事実である。それにはもちろん、理由があった。
岸田政権は外交・防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の安保関連3文書を、昨年12月16日夕に官邸で開催した国家安全保障会議(NSC)、続いて開いた臨時閣議で決定した。
この戦後政策の大転換を示す「国家安全保障戦略」(概要)を作成したのはNSC事務局に当たる国家安全保障局(NSS。秋葉剛男局長)である。同概要III.に「我が国の国家安全保障に関する基本的な原則」5項目が記述されているが、筆者は本稿で第4項「日米同盟は我が国の安全保障政策の基軸」を取り上げたい。
今年は主要7カ国(G7)首脳会議(5月19〜21日)の議長国が日本であり、岸田首相の地元・広島で開催される。一昨年10月に政権の座に就いた岸田氏が当初からG7広島サミット実現に強い想いを胸中に秘めていたことは周知の事実である。
そして昨年は、2月のロシアによるウクライナ侵略に始まり、米中対立が先鋭化するなか中国の台湾侵攻が現実味を帯び、且つ北朝鮮の相次ぐミサイル発射など日本を取り巻く国際環境が激変した1年間だった。
成功への必須条件
では岸田氏自らが主宰するG7サミットを成功裏に終えるための必須条件は何か。それこそ日米同盟の緊密化と、件のバイデン氏の全面協力である。確かに、閣議決定した国家安全保障戦略には「日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、我が国の安全保障のみならず、インド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定の実現に不可欠な役割を果たす」と書かれている。
しかし、同盟国の米国が果たしている役割と比べて日本が果たしているそれは彼の国を十分に納得させるものなのか。要するに米側に日本への不満が無いのか、ということなのだ。答えは否である。
昨年夏前から日米両国の外交・安保担当高官は様々なレベルで意見交換を重ねてきた。そして秋葉NSS局長はカウンターパートであるジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)や米議会有力者との協議の中で、民主、共和党を問わず米議会には日本の「国際貢献」に対する不満が高まり“暴発”寸前であることを知らされたというのだ。
岸田官邸が行き着いた結論は、ある意味で極めてシンプルな結論だった。求められる役割を果たす我が国の“本気度”を示すのは「防衛予算」と「防衛装備」であると。
23年度当初予算案で防衛費は過去最大の6.8兆円とした。27年度までの5年間に防衛費総額43兆円、現行5年間の計画の約1.5倍に増やすことも決めた。しかもその財源として自民党内の反対論を抑え込んで防衛増税(法人・所得・たばこの3税)を打ち出したのである。
一方、安保関連3文書改定の柱である「反撃能力」保有として、相手のミサイル発射拠点を叩く反撃能力を持つ米製巡航ミサイル「トマホーク」取得費2113億円を計上した。さらに反撃能力向上のために、相手の脅威圏外から撃つ長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」の導入も盛り込まれた。
付言すべきは、3文書改定の重要項目であるサイバー安全保障の強化を盛り込んだことである。改めて指摘するまでもなく、我が国はサイバー防衛で米欧主要国に大きく後れを取っているからだ。
それにしても、である。これまで見てきたように、今回の安保関連3文書改定は、一にかかってバイデン米政権を安堵させるものであったということである。事実、12月16日の閣議決定後の米側の素早い反応が全てを物語っている。
バイデン大統領は16日午後7時1分(米東部時間)、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)も同9時1分(同)それぞれツイッターで歓迎の意向を表した。それだけではなく、米議会のジャック・リード上院軍事委員長(民主党)、ミット・ロムニー上院外交委員(共和党)ら有力者も歓迎のツイートをしているという。異例のことである。
以って懸念された米議会の“暴発”を未然に防いだと言っていい。すなわち、岸田氏は13日のバイデン氏との首脳会談に万般の自信を持って臨むことができるのだ。
●平和を生む日本の「変わり身の早さ」と「節操のなさ」がおかしな方向に… 1/7
きのうまで「鬼畜米英」を唱えていた人たちが、敗戦となった途端、「アメリカ大好き、民主主義バンザイ」を唱えた。この変わり身の早さと節操のなさゆえに日本は滅びなかったといえる。
日刊ゲンダイの保阪正康さんのコラム「日本史縦横無尽」によれば、なんと8月15日のポツダム宣言受諾直後に、当時の警視総監(前日まで風俗紊乱や反戦主義者を取り締まっていた右翼の先鋒)が米軍相手の「特殊慰安施設」をつくれと命じたという。総監は都内の主要な接客業組合の代表者を集めて、「米軍が駐留中は愉快に過ごしてくれることが望ましい」とのたまったとか。
そんな節操のない日本が、おかしな方向に走り出そうとしている。岸田総理は自民党の麻生副総裁から「有事の宰相」と持ち上げられ、政治的難題に答えを出すのが「私の歴史的役割」と述べた。
政治家の歴史的役割の第一は「平和を守ること」だ。
戦時中、軍医見習だった故・箕輪登議員は自民党きってのタカ派だったが、「先制攻撃は絶対にいかん」「政治家が考える一番の人間の幸せは平和だ」と言ったという。田中角栄も「戦争を知らない世代が政治の中枢となったら危ない」と言ったそうだ。
そもそも総理が属する宏池会は吉田茂、池田勇人の流れをくむもっともリベラルな派閥だった。中国を“仮想敵国”としたところで、日本の10倍の超大国にはかなわないに違いない。かつての対米戦争と同じだ。北朝鮮の軍備増強も日本などハナから問題にしていない。
だがマスコミはそれを報じない。岸田総理らへのお追従の記事ばかり載せるさまは、戦前のマスコミが軍国政府の言いなりだったのと同じだ。
先の戦争で死んだ兵士たちは、日本をこんな国にするために犠牲になったのではない。当時もみな「生きて虜囚の辱めを受けず」という東条英機が作った“戦陣訓”に縛られて亡くなった。敗戦後、当の東条本人が連合軍に虜囚の辱めを受けて裁かれる結果となったが、彼は平和をどのように考えていたのだろうか。
もちろん国の守りは必要だ。自衛官(国家公務員)の給料は警察官や消防士(地方公務員)よりも低く、定年も早い。国防の重責を担う彼らはもっと優遇されるべきだが、武器や兵器を買うために予算を増やす必要はない。
ロシアのウクライナ侵攻の遠因は、欧米人から侮蔑され、三等国扱いされてきたことへのプーチンの恨みである。その行いはむろん非道だが、西側諸国にも責任はある。日本人は明治以来、ロシアの文物に親しんできた。私も若い頃は歌声喫茶で「カチューシャ」や「黒い瞳」などのロシア民謡を聴いたが、欧米人はロシアを“敵性国家”だと差別してきたのだ。
人が生きる権利は何よりも尊い
シベリア抑留経験者は、米軍が捕虜の労働に給料を払っていたと聞いて仰天したという。70万人の日本兵を不法に連れ去り、うち10万人を理不尽な強制労働で死なせたソ連に比べると、アメリカは人道的に映る。だがそのアメリカも朝鮮戦争やベトナム戦争で蛮行を重ねた。60年代の公民権運動で黒人差別を撤廃したのは素晴らしいが、いまだに人種差別は根強く、多くの問題を抱えている。
日本が彼らにならう必要はない。国を挙げての差別や殺戮とは、永久に決別しなければならない。命が大事、平和が第一だ。人が生きる権利は何物にも代えがたく尊いものだ。それを奪うことは、国家にさえも許されないのだ。
●なぜいま消費税率アップ発言?「自民党は経済政策の正常化を」 森永卓郎氏 1/7
岸田文雄首相が防衛費増額のための増税の考えを公表し、国民から反発の声が上がる中、自民党の甘利明前幹事長が、少子化対策のために「将来的な消費税率の引き上げも」などと発言。火に油を注いだかたちとなり、SNSでは批判のコメントが殺到して“炎上”した。「岸田首相は『税金倍増計画』を断行している」と苦言を呈する経済アナリストの森永卓郎氏に、岸田首相の狙い、今後の国民生活などについて聞いた。
――防衛増税について、どう見ていますか?
防衛費の増額の必要はないと私は考えていますが、最近の国際情勢を踏まえて、増額するということは受け入れたとしても、増税でその費用を賄う必要はないです。
現在でも国民の税負担はかなり過酷なものになっています。国民の所得がどのくらい税金や社会保障費に持っていかれているかを示す国民負担率を見ると、2021年度は48%です。11年度は38.9%だったので、この10年で10%近く上がっています。
岸田首相は「10年程度は消費増税はしない」、「国民の所得を倍増させる」と言った人です。その人がなぜ、国民の生活にしわ寄せがくる増税をしようと考えたのか。それは、増税による財政の健全化に固執する財務省の考え方を受け入れたからでしょう。
今のような社会経済状況で、増税などするべきではありません。安倍(晋三)元首相は「防衛費増額の財源は国債でやればいい」と主張していました。私もこの主張には賛成です。
岸田首相は、国債だと「将来の子ども世代の負担になる」という考えのようですが、国債を日銀に買ってもらい、満期になったら日銀が再び国債を買えば、国は元本の返済の必要はなくなります。国が日銀に支払う利子は、日銀の経費を差し引いて、ほとんどが国民の財産として国庫に戻ってきます。ここには将来世代への負担などありません。
これをやりすぎると「インフレになる」という、リスクを指摘する声もあります。ただし、アベノミクスで行われた日銀の異次元緩和で、14年から年間80兆円もの国債を購入できるようになりました。それでもインフレは起きなかった。日銀の購入できる“天井”はものすごく高いことがわかっています。80兆円からすれば、増税で賄おうとしている1兆円くらいは“ゴミ”のような金額ですよ。
――国債以外に財源を賄う方法はないのでしょうか。
もし国債がダメでも、庶民への増税に頼らない方法はいくらでもあります。政治家の文書通信費(現、調査研究広報滞在費)や、赤坂にありながらも超格安の議員宿舎など、見直しをするべきです。国家公務員の給与も大企業の正社員の給与並みになっており、非正規や中小企業なども含めた民間給与の平均より54%も高いです。極論ですが、国家公務員の給与を民間給与並に削減すると、2・9兆円も捻出できます。
年間所得が1億円を超えると、所得税の負担率が下がる「1億円の壁」もおかしな話です。財務省によると、所得税と社会保険料の負担率が、年間所得300万〜400万円の人と比べ、100億円の人のほうが低いことがわかっています。
また、日本人がドバイで暗号資産を売ってもうけると課税されない、といった抜け道もある。富裕層に課税すれば、2兆円でも3兆円でも出てくるのではないかと見ています。
増税前にこうした構造的な問題を一つひとつ議論していくべきです。こうした状況を放置して、搾れるところから搾り取ろうなんて、こんなバカなことがあっていいわけありません。
――岸田首相は当初、「所得倍増計画」を掲げていましたが、負担が増えています。
防衛費増額による増税のほかにも、岸田首相が掲げる「子ども予算の倍増」のためには「消費増税が必要」と自民党から声が上がっています。さらには、これまで免税事業者だった中小企業や個人事業主から消費税を徴収しようとしています。
このままでは国民負担率は50%を超えるように思えます。江戸時代では四公六民(収穫高の4割が税、6割が農民の所得)だったのが、幕府の財政悪化で五公五民になり、農民が窮乏化した結果、全国で百姓一揆が起きました。今の日本でもこれ以上負担が増えると経済が窒息し、国民の生活も回らなくなりますよ。
岸田首相は就任当初、金融所得課税を強化し、富裕層からの富を分配すれば、経済成長の好循環が始まると主張し、国民の所得を増やす「所得倍増計画」を掲げていました。それを聞いたときは、「正しい考えだな」と思いましたね。だけど、いまや完全にうそつきだとわかりました。これまでの施策を見ていると、「税金倍増計画」を断行しているように見えます。
私からすれば岸田首相は、弱い農民から搾り取ろうとする江戸時代の悪代官のようです。昔、小学校で、江戸幕府の役人が「菜種と百姓は絞れば絞るほど出る」と発言したのを学びましたが、この思想はいまの岸田首相の考え方と重なって見えます。
――岸田首相はどのような政策を目指しているのでしょうか。
岸田首相の政策では、これから国民の生活はどんどん厳しくなります。
現在、輸入原材料が高騰しており、物価も上がっています。他方で、輸入品を除いた物価指数を表すGDPデフレーターを見ると、実はマイナスになっている。つまり、日本の経済はいまデフレになっている。賃金が上がらないのも、そのためです。
デフレ下では金融緩和と財政出動をしないといけないのに、岸田首相は逆に財政と金融の引き締めをやろうとしています。
例えば、国の借金を見てみると、一昨年度に102兆円増えましたが、昨年度は25兆円と、大幅に赤字の増加額が減りました。これは岸田首相が財政引き締めに、すでに舵を切っている証拠だと見ています。
また、金融引き締めについては昨年12月、日銀は長期金利を引き上げる方針を出しました。これは岸田首相の意向を反映したものだと見るべきです。今年4月、日銀の黒田東彦総裁が任期を終えます。金利を上げる、つまり、金融引き締めをする新総裁が選ばれ、超低金利政策は、おそらくここで終わると見ています。
岸田首相の財政健全化と金融正常化は、信念なのでしょう。そこには経済政策という科学的な論理はなく、宗教的な信仰に見えます。岸田首相のような政策から財政再建や経済成長を実現できた国を、私は一つも知りません。逆に大不況に陥った事例ならあります。
1929年に就任した浜口雄幸首相の時代です。世界で景気が後退し、日本でもデフレ下にあるときに、財政と金融を引き締めてしまい、昭和恐慌になりました。
――国民生活は今年、どうなるでしょうか。
日本では今年、経済が一気に失速するかもしれません。金利が上がることで、住宅ローンも上がります。住宅ローンの4分の3は変動金利ですから、住宅ローン破産が増えるでしょう。
また、コロナ禍で中小企業を支援するために行われた「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保)が今年5月ころから有利子化、つまり、利子を払う必要が出てくるため、ここでも破綻する企業が出てくるでしょう。
政府はリスキリング(学びなおし)をして成長産業に転職すればいい、と考えているようですが、中高年にとってそれはかなりハードルが高い。結局は、非正規職にしか就けず、年収が激減。そうした人たちを、強い企業が安い賃金で雇うような状況になるのではないでしょうか。
昭和恐慌では4人に1人が失業しましたが、同じような恐慌になるかもしれません。私は、大学を卒業する学生の就職口がないような社会にはしたくないと思っていますが、就職氷河期が再び来るような強い懸念を持っています。
岸田首相は、憲政史上最悪の首相になるかもしれません。今年の統一地方選で、自民党は惨敗するのではないでしょうか。早く経済政策が正常化することを望んでいます。
●消費税13%に現実味…岸田政権の目玉「子ども予算倍増」必要財源は6兆円 1/7
「異次元の少子化対策に挑戦する」──。4日の年頭会見で岸田首相が力を込めた「子ども予算倍増」。財源について市場関係者の間では「消費税増税しかないだろう。またしても景気の腰を折るつもりか」と警戒感が強まっている。これまで消費税増税のたびに消費を冷え込ませてきたからだ。案の定、自民党の甘利明前幹事長が少子化対策の財源に消費税率の引き上げも検討の対象になるとの認識を明らかにした。ホントに消費税増税はあるのか。
2022年度の少子化対策予算は約6兆円。倍増なら、新たに6兆円の財源が必要になる。なぜ、消費税が有力なのか。市場関係者がこう説明する。
「すでに財務省は、防衛費増額に向けて歳出削減に動いているだけに、これ以上の歳出カットは簡単ではない。子ども予算の財源を歳出削減で捻出するのは難しいでしょう。かといって赤字国債の乱発も容易ではない。財務省は5日、10年国債の金利を前月の0.2%から0.5%に引き上げました。今後も金利は上昇するとみられ、利払い負担は増えます。財政圧迫につながる国債で子ども予算を賄うことは考えにくい。現実的に6兆円もの財源は基幹3税で賄うしかないが、“法人税”と“所得税”は防衛費増額で増税を予定済み。残るは“消費税”ということです。少子化対策なら社会保障という消費税の使途にも合致します」
財源議論 防衛費増額を優先させた思惑
早速、松野官房長官は5日、児童手当の拡充について「恒久財源」の検討を表明している。赤字国債の発行や、歳出見直しによる財源確保を否定した格好だ。
立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏(税法)が言う。
「岸田政権が子ども予算倍増について夏まで先送りし、防衛費増額の議論を優先させたのは、子ども予算の財源に消費税増税を充てる計画が念頭にあったからでしょう。子ども予算を先に議論すると、法人税や所得税など、あらゆる財源が候補になってしまい、必ずしも消費税に結びつかない。先に防衛費で消費税以外の財源を押さえてしまおうということです」
しかし、岸田首相は21年秋の総裁選で「(消費税は)10年程度は上げることを考えていない」と発言していたはずだ。昨年11月の衆院予算委員会でも、この発言について問われ「申し上げたように変わっておりません。上げることは考えていない」と答弁している。もし、消費税増税を強行したら、大モメになるのは確実だ。
子ども予算の新たな財源6兆円をまるまる消費税で賄えば、税率は13%に跳ね上がる。
「消費税は低所得者ほど負担が重くなり、税の役割である富の再分配に逆行する悪税です。ましてや物価高騰下に消費税率を上げられたら国民生活は壊滅的になるでしょう」(浦野広明氏)
“異次元の消費大不況”に見舞われそうだ。
●憎まれ役を買って出た? 甘利明氏の消費増税発言の真意 1/7
岸田文雄首相が打ち出した防衛増税についての議論も収まらないうちに、今度は消費税増税を念頭においた発言が、自民党元幹事長の甘利明氏から飛び出した。負担に次ぐ負担に、国民はいつまで耐えればいいのか。なぜこのタイミングでその発言が出るのか。真意は? 自民党関係者らはこの発言をどう受け止めたのか。
岸田文雄首相が「防衛増税」を視野に入れるなか、1月5日、テレビ番組に出演した自民党前幹事長の甘利明氏は、「岸田首相は少子化対策についても異次元的に新たな対応をすると言っている。消費税も含めて、論議しなければならない」と消費税増税に言及した。
そして、さらに踏み込み、「子育ては国民に関わることで、幅広く支える体制を取らねばならない」と述べ、岸田首相が唱える防衛増税については、「いつから増税を実施するのかである」とすでに自民党内では決着済みという認識まで示したのだ。
この発言にさっそく反応したのは、大阪府の吉村洋文知事。
SNSで、「少子化対策の為に消費税増税? 勘弁してよ。一体我が国の国家運営はどうなってるんだ? 逆だよ、逆。減税」とコメント。
少子化対策で実績をあげている、兵庫県明石市の泉房穂市長は取材に、「国債など発行できない明石市は、予算のやりくりで子ども関連予算を倍増させています。その結果、人口、出生率は増加し、経済も活性化しました。明石市でできたことがなぜ国でやれないのか。増税しなければ少子化対策ができないと、政治家と官僚が増税ありきの思い込み」と甘利氏の言動を批判した。
岸田首相は2020年10月の就任当初、子ども関連予算の倍増を公約としていた。
しかし、実際は子ども関連予算には見向きもせず、昨年12月、突然、防衛増税をぶち上げた。
自民党のある閣僚経験者は、「新しい年に入って、あまりに防衛増税ばかりがクローズアップされることもあってか、岸田首相は急に子ども関連予算倍増を復活させた。そこに、甘利氏が消費税増税を言い出した。税金をアップさせるのが政治家の役目と言わんばかりに。春に統一地方選と衆院補欠選挙という大きな“審判”があるのに、防衛増税で批判される中での甘利氏の消費増税発言は、火に油を注ぐようなものだ」と厳しい見方だ。
●子ども財源、岸田政権また難題 増税論浮上、世論の反発危惧 1/7
岸田文雄首相が表明した「異次元の少子化対策」を巡り、財源をどう確保するかが政権の難題になってきた。
念頭にある児童手当の拡充などに向け、国民負担増は不可欠との見方が浮上。ただでさえ防衛力強化に伴う増税への反対論が根強い中、世論のさらなる逆風を危惧する声も漏れ始めた。
首相は今年に入り、子ども政策を政権の中心課題に位置付けるようになった。4日の年頭記者会見で、「静かな有事」と称される少子化の進行に対する危機感を表明。経済財政運営の基本指針「骨太の方針」を決定する6月ごろまでに、子ども予算の倍増に向けた大枠を提示する考えを示した。
しかし、焦点となる児童手当などの拡充には、恒久的な財源の議論が欠かせない。今後、児童1人当たりの支給額引き上げや、第2子以降の加算、所得制限の緩和などが論点となる見通しで、少なくとも数千億円規模に上る可能性もある。
このため、自民党の甘利明前幹事長は5日のBS番組で「消費税も含めて地に足を着けた議論をしなければならない」と述べ、消費税率の引き上げに言及した。
一方、松野博一官房長官は6日の記者会見で「(消費税は)当面触れることは考えていない」と述べ、沈静化を図った。新たな子ども政策の具体像が見えないまま、増税のイメージが先行するのは避けたいのが本音だ。
子ども政策を巡っては、東京都が都内の0〜18歳を対象に1人当たり月5000円程度の給付を検討。しかし、政権幹部は「都とは連携していない」と明かす。支援の適正な規模や、国と地方の連携など、政府内の議論が熟しているとは言い難い。
政策課題を多く抱えながら、優先順位を決めないことへの懸念も漏れる。昨年末に首相が打ち出した防衛力強化のための増税は、開始時期の決定を今年に持ち越した。子ども政策の財源論を並行して議論することについて、公明党幹部は「増税しか考えない内閣のように見られる」と指摘した。
首相は6日、自民党の萩生田光一政調会長と首相官邸で会談。子ども政策について、防衛力強化や脱炭素などの取り組みとバランスを取りながら議論を進める方針で一致した。
●「異次元の少子化対策」実現に必要なたった一つのこと 1/7
岸田文雄首相が1月4日の年頭の会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げ、有識者で作る新たな会議の設置を指示した。この会議は小倉將信少子化対策担当大臣をトップとし、有識者のほか、財務、厚生労働、文部科学各省などで構成されるようだ。
なお、岸田首相が「異次元の少子化対策」を発表した同日に、東京都の小池百合子知事が所得制限なしで月5000円の給付金支給を発表した。機を見るに敏といえばそれまでだが、新型コロナウイルス対策でロックダウンを先走って口にした結果、その後の政府の新型コロナ対策が先鋭化していったことを思えば、単なるバラマキ合戦に堕してしまうのではないか、悪い予感しかしない。
なぜ、過去の少子化対策は失敗≠オたか
それはさておき、日本の少子化対策は、1990年のいわゆる1.57ショックを契機に開始されたエンゼルプランを嚆矢(こうし)とする。
エンゼルプラン以降、児童手当、子どもの医療費無償化、高校無償化等、さまざまな少子化対策が拡充されながら実施されているにも関わらず、少子化に歯止めがかかっていない。この点に鑑みれば、これまでの少子化対策はいずれも控えめに言っても失敗だったと評価せざるを得まい。
岸田首相が「異次元の少子化対策」を実施するにしても、なぜこれまでの少子化対策が失敗したのか検証が必須だ。3月末までにたたき台を示すというのは拙速にすぎる。結局、時間とおカネの浪費にしかならないのではないか。
そもそもこれまでの少子化対策は、出生数を目標にしたものか、出生力を目的にしたものなのか、そして何のための少子化対策なのか、その目的がハッキリしていなかった。今回の対策はどうだろうか。
出生数の変動の要因は、子を持つ適齢期(と考えられている)15歳から44歳までの女性人口と総出生率に分けられる。
1980年と2020年を比較すると、15歳から44歳までの女性人口は24%減少、総出生率は30%減少している。つまり、社会の出生力が低下しているのに加えて、女性人口が減少しているので少子化が進行しているのだ。その意味では、出生数の増加は現時点では移民を認めない限り、絶望的だ。
22年の出生数は80万人を下回ったのは確実だが、足元の15歳から44歳までの女性人口を前提に、例えば100万人程度(15年では出生数は100.5万人で16年には97.7万人と100万人を下回った)の出生数を実現しようと思えば、総出生率を41.8‰から49.7‰(1987年が50.4‰、1988年が49.1‰)へ引き上げなければならない。もしくは、現在の総出生率を前提として出生数を増やすには、女性人口を453万人増やさなければならない。
財源調達方法で変わる少子化対策の効果
報道を見る限り、今後設置される会議では児童手当を中心とした経済的支援の強化、子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進が検討項目として上がっている。その中で、児童手当の恒久財源として消費増税が検討されているようなので、子育て予算の充実と、その財源調達の違いが出生数に与える影響を考えてみたい。
筆者は、過去の出生率の推移を、婚姻数、税引き後所得、女性所得、家族向け社会保障給付、高齢者向け社会保障給付、社会保険料、消費税負担、政府債務残高を用いて推計した。その関係性を示した推計式が以下である。
出生率=10.96+0.213×婚姻数+0.369×税引き後所得-0.306×女性所得+0.014×家族向け社会保障給付-0.105×高齢者向け社会保障給付-0.330×社会保険料-0.003×消費税負担-0.0004×政府債務残高 この推計式を用いて22年の出生数を試算したところ、78.2万人、さらに、20年以降の3年間で新型コロナ禍で失われた出生数は11.4万人となった。
この推計結果を用いて、以下の政策の効果を比較・検討する。
(ケース1)家族向け社会保障給付10兆円増加。これは20年度現在の家族向け社会保障給付は10.8兆円なので子育て予算倍増に相当する。
(ケース2)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の国債を発行する。
(ケース3)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の消費税を引き上げる。
(ケース4)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の高齢者向け社会保障給付を引き下げる。
(ケース5)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の社会保険料負担を引き上げる。
 以上のケースの結果は表の通りとなった。
結果からは、高齢者向け社会保障削減の効果が最も大きく、ついで全世代で広く負担を分散できる消費増税による財源調達、赤字国債による財源調達は結局将来の負担増なので少子化政策拡充の効果が消費増税よりも多く相殺されてしまうことがわかる。何より子育て適齢世代を含む勤労世代に負担が偏る社会保険料負担増による財源調達は子育て政策拡充の効果を打ち消してしまうことが指摘できる。
つまり、もし岸田首相が「異次元の少子化対策」を実行されるのであれば、子育て関連に関しては特段の政策を講じる必要は全然なく、ましてやそのための消費増税は不要で、高齢者向け社会保障給付を削減するだけでよいのだ。
必要なのは高齢者向け社会保障のスリム化
要するに、なぜ幾たびの少子化対策が講じられても少子化が進むかといえば、重すぎる社会保障の存在があるからである。社会保障制度のスリム化が何よりも重要であるにも関わらず、歴代政権が政治的に多数派の高齢世代に遠慮して、高齢者向け社会保障制度のスリム化を怠ってきたからに他ならない。
また、少子化対策のための新たな財源を増税で手当することは、実質的に子どもを持たない者や子育てが終了した世帯に対して罰金を課すのと同じであることにも留意が必要だ。日本では子を持つ世帯は相対的に裕福であるので、子育て対策は低所得層から中高所得層への逆社会保障としても機能してしまっている。つまり、高齢者向け社会保障給付のスリム化が実現できれば、異次元の少子化対策や月々5000円程度の追加的な給付に期待しなくても大幅に手取り所得増になるし、そうなれば結婚や子どもを諦めていた若者にも希望が出てくる。
したがって、岸田首相が、シルバーデモクラシーに真っ向から挑戦して高齢者向け社会保障制度のスリム化を実現し、クレクレ民主主義とバラマキ政治と決別できれば、それこそ「異次元の少子化対策」が実現される。シルバーファーストからチルドレンファーストな日本社会へと舵を切り、日本の国難ともいえる少子化を反転させた名宰相として歴史にその名が刻まれるのは確実だ。
やるべきことは明らかなのだから、あとは岸田首相の覚悟次第だ。 
●防衛費増額で「財源にこだわる人」が抱える根本的な問題点 1/7
「防衛について考え直す」のは当然だが・・・
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本でも防衛について考え直すこと自体に違和感はない。むしろ当然だろう。
敵基地攻撃能力の保持については、「この手」によって敵が日本に手を出しにくくなって日本の安全性が増すのか、むしろ攻撃対象のターゲットとなりやすくなって危険が増すのかなどについて、納得できるゲーム論的な説明を聞きたい。
一般論として「戦いというもののコストパフォーマンス」を考えた場合、「受け一方」ではよほど戦力的に優位な差がないと勝ちにくいのが普通なので、反撃能力の保持は検討すべき選択肢の1つだろう。
平和主義を掲げて戦力を最小限の受動的防衛にとどめるという選択肢は、相手側に独特の合理性を仮定したときに有効かもしれない。だが、潜在的な敵に関して、そこまで信頼できるものかとも思う。
また、戦争を放棄した日本国憲法との関係については、解釈改憲という悪知恵に社会も司法もすっかり協力的なわが国では、今さら気にしても仕方がないのだろう。善し悪しは別として、これも想定の範囲内だ。
防衛予算を対GDP比2%に倍増させる方針があっさり決まったことについては、岸田内閣に似合わない決断スピードに驚くが、実質的に決めたのが日本の「親会社」的存在であるアメリカの意思なのだと考えると、これも容易に納得できる。
アメリカの軍産複合体は、ウクライナでの実質的な代理戦争を通じてアメリカ人の血を流さずに武器・戦争ビジネスの需要を作るビジネスモデルの開発に成功した。
この種のビジネスにとって潜在的に有力なお得意さんである日本に、購買予算の増額を迫るのは自然だ。純粋にビジネスの問題として考えると、日本企業にとっても大きな成長市場が登場した。
こと「戦争」に関しては、平時の想像を超えるようなスピードで物事が決まって既成事実化される可能性が大きいことについて、いかにも戦争に駆り出されるかもしれない若い世代だけでなく、今やその上の世代も含めて心の準備をしておく必要がありそうだ。
さて、「頭を抱えたくなった」のは、防衛費増額をめぐる財源の議論に関してだ。防衛予算増額の必要性をきっかけとして増税を決めたいとする意見と、現在の経済状況で増税は不適切であるとして国債を財源とすることを検討すべきだとする意見とがぶつかった。
メディアの論調では、防衛費を増額する以上、その財源を決めずに議論することは無責任だとして、国債による資金調達を「増税の先送り」として批判する意見が優勢だったように見えたが、はたしてこれでいいのか。
「支出・財源対応システム」の何が問題なのか
財政支出を伴う政策が論じられるときに、その支出の「財源」が反射的に問われることが多いが、これは適切なのか。
そもそも、お金は、その使い道と使うタイミングに関して柔軟性を持っていることが長所だ。個々の支出項目に、個々の収入項目を対応させる必要はない。
国の財政は、比較的毎期きっちりと支出と収入の収支が見合う必要がある「家計」よりも、複数の事業を行いながら全体の必要性に応じて資金を調達したり運用したりする「企業財務」により近い。
そう考えると、個々の支出ごとに個別の資金調達を対応させるのでは、まるで事業部がたくさんあって、財務部がない会社のような非効率であることがわかる。
企業なら、資金調達さえできるなら低収益な事業でも行っていいというものではない。個々の支出項目が財源さえ見つかるならば承認されるということなら、異なる支出項目間の優先度や効率性(例えばコスト・ベネフィットの比較)が問われる仕組みがないことになる。
また、例えば消費税の増税は、社会保障支出と軽重を比べるのではなく、まずほかの税目と比較されるべきだった。
現在の支出・財源対応システムでは、支出間、財源間それぞれの内部で適否に関する比較が十分働かない。この仕組みがもたらしている累積的な非効率性の影響はすでに莫大だろう。
現実の予算編成にあっては、個々の項目の査定や省庁間の交渉は行われても、異なる分野のコスト・ベネフィット分析を行ったことがないのが現実かもしれない。しかし、それでは知的に怠惰であると同時に、国民の財産を預かる政府として無責任だろう。
「財政のマクロ政策的責任」とは?
加えて、国の財政には、国家の債務と適切なマネーの量を供給するという、マクロ経済政策にかかわる調整機能がある。国債は、信用リスクがない資産として金融取引の基準になり、また中央銀行のマネー供給の見合いの資産にもなるべき存在なので、その残高はゼロが望ましいのではなく、国の経済規模の拡大とともに残高が拡大することが自然だ。
また、物価や景気の調節は主に中央銀行の金融政策を通じて行われるとしても、金利がゼロに達した段階では財政赤字の増減に大きく影響される。一層の金融緩和が必要な場合に緊縮財政方向に変化するべきではないし、逆の場合には財政の引き締めが必要かつ有効な場合がある。
ゼロ金利にまで達した金融緩和政策の下で消費税率を引き上げて財政再建方向に舵を切るような政策がいかに不適切なのかは、近年の経験が雄弁に語るところだ。
あるいは、財政出動をやりすぎて過剰なインフレを招いたケースについては、コロナ対策で財政を使いすぎた現在のアメリカの状況を見るといい。「緩和」と「引き締め」のどちらが適切かの判断基準は、主にそのときのインフレ率で判断できる。そのためのメドとしてインフレ目標がある。
ある年の防衛費で生じたにせよ、ほかの支出で生じたにせよ、財政の帳尻の変化を、国債で負担するのがいいか、何らかの税金の増税で負担するのがいいかは、時々の経済状況による。
なお、財政収支の赤字を追加する必要がある場合に、必ずしも政府がお金の使い道を決めて「財政出動」する必要はない。とくに投資の決定にあって政府の非効率性は、古くから指摘されるところだ。減税あるいは給付金で国民が使えるお金を増やす方法のほうが、資源配分の歪みは少なく済むことを付記しておく。
経済状況に対する判断の議論を抜きに、国債が財源であるべきだとか、国債で賄うのは無責任だとか言い合っていて、しかも後者の議論には無用に硬直的な支出・財源対応システムが付随していたので、昨年末の防衛費財源をめぐる議論にはうんざりした。
短期的には「アコード」、長期的には効率分析
個々の財政支出の項目間の比較がなされていないし、税金についても税目ごとの適切性の比較が網羅的になされることはない。加えて、財政収支に対するコントロールも金融政策とバラバラで、国債の発行額がいくらなら適切なのかが論じられることもない。ただ毎年の数字に任せて、いつも一様にキャッチフレーズとして「財政再建」が語られるだけだ。しかも、そもそも「再建」が必要なのか、それがいつなのかの議論抜きにだ。
国家財政を再び企業財務にたとえるなら、支出も、収入も、ファイナンスもコントロールできずに漂う会社の財務部門のようだ。財政支出間、さらには税目間の相互比較の作業は必ず要るものだと思われるが、率直に言って、方法を作るにも実施するにも時間が必要だろう。
一方、財政収支とそのファイナンスについては、毎年コントロールが必要だし、直ちに手をつけることができる。
巷間、政府と日銀の「アコード」(政策合意)を見直す必要性について話題になるが、アコードがもっぱら日本銀行の金融政策の修正に関連するものであることはバランスを欠いている。とくにマクロ的な影響を考えた場合の財政のあり方について「縛り」を設けるためにこそ「アコード」が必要なのが現実だろう。
日銀は、財政の問題に口を出さないのが不文律であるかのように見受けるのだが、財務省や政治家に対して専門的な見地から注文をつける言語を持ってもいいのではないだろうか。
何はともあれ、個々の財政支出について、個別に対応する財源を論じる議論はすでに「有害」の域にある。「財源」「財源」と言い立ててドヤ顔をするのは古手の新聞記者などに多いように思うが(記者としては「上がり」で論説委員などが多い)、もう少し頭を使って欲しいものだと思う。
●東京都、リスキリング支援拡充 離職者の資格取得など 1/7
東京都は2023年度、企業人材や個人のリスキリング(学び直し)支援を拡充する。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める企業などのニーズに応える。不登校の児童・生徒への支援も強化する。
7日に23年度予算案を査定した小池百合子知事が明らかにした。「リスキリングプロジェクト」と称し、産業構造の変化に対応できる人材を年間で約2万人育成する目標を掲げる。業務に人工知能(AI)やロボットの活用が進むなか、成長産業分野への労働移動を促す。
具体的には再就職を目指す離職者を対象に、ウェブデザインのようなデジタル技術などの国家資格の取得を後押しする。専門人材の育成・訓練の事業費として3億円を予算案に盛り込む。リスキリングプロジェクトの一環で女性の正規雇用へのキャリアチェンジ、高齢者の再就職の支援にも取り組む。
小中学校では不登校の児童・生徒をサポートする専門教員や支援員を配置し、学習や人間関係づくりを手助けする。オンライン上の仮想空間に学びの場を構築する事業も拡充する。
小池氏は査定後の取材に「都民一人ひとりが輝くことで都市の力は高まる」と施策の意義を強調した。
●放漫財政 次世代へ責任ある政治を 1/7
先進国最悪の債務(借金)を抱えたまま、政府は底が抜けたような財政運営を続けている。
今後、膨らむ社会保障費や不測の有事に対応できるのか。国民の将来不安に拍車をかけ、経済発展の潜在リスクにもなっている。
岸田文雄政権は持続可能な財政に向け、早急に健全化の道筋を明示すべきだ。
日本の長期債務残高は1千兆円に及び、国内総生産(GDP)比2・6倍と先進国で突出する。来年度当初予算案でも新たに35兆円の国債を発行する。
政府は2025年度に基礎的収支を黒字化する財政再建目標を掲げてきたが、岸田政権は昨年の骨太方針で時期を削った。財政規律のたがを外したのか。
約3年前からの新型コロナウイルス禍と、昨年勃発(ぼっぱつ)したウクライナ危機に伴う物価高が歳出を拡大させている。生活や経済への緊急対応はやむを得ないが、手法には問題が多い。使い道を定めず、内閣の裁量で使える「予備費」や、規模ありきの補正予算が目に余る。
さらに岸田氏は国防と子ども予算の「倍増」方針を示す。
防衛費は5年で総額43兆円が必要とし、初めて建設国債を自衛隊の艦船建造などに使うという。借金による軍事拡大で歯止めを失った戦前の教訓から、歴代政権が禁じ手とした方針の大転換だ。防衛増税の時期決定が先送りされる中、「借金軍拡」の恐れは現実味を帯びる。
岸田氏は年頭会見で子ども予算増も6月に大枠を示すとしたが、財源に踏み込まなかった。
身の丈に合わない歳出増大の背景には、日銀の金融緩和と自民党からの圧力がみえる。
マネー供給と金利抑制のため、日銀が買った国債は発行分の5割を超えた。悪性インフレを起こすと法が禁じる国債の直接引き受けに等しく、危うい。
一方、10年に及ぶ強引な緩和策は限界にある。金融を引き締める米国との金利差が広がり、円が売られ、物価高を助長する。日銀の相場支配が債券市場の機能を損ねる。年末に事実上の利上げに踏み切ったのは、市場に追い込まれた修正にほかならない。利上げは、国の利払い増で跳ね返る。緩和のつけだ。
自民内で財源不足は国債で賄えばよいとする勢力は、多くが故安倍晋三氏を支えたグループと重なる。党内基盤が弱い岸田氏は配慮をにじませる。
だが債務を積み、巨費を投じた過去の財政出動をみても経済効果は一時的だった。政治主導の非効率なばらまきや無駄な公共事業が、地域で執行する自治体にのしかかり、財政難や住民福祉の切り下げを招いてきた。
何より、通貨の価値は市場が決めることを忘れてはなるまい。英国では昨年、財源のない大型減税策が市場の不信を呼び、通貨や債券が暴落。首相が辞任した。
市場の信認が揺らげば、国が不安定化し、経済や暮らしに多大な悪影響を及ぼす。人口急減が進み、「災害列島」と呼ばれ、安全保障上の脅威も増す日本である。次世代へ可能な限り財政余力を持たせ、引き継ぐのは今の政治の責務である。
●「安倍路線」継承か脱却か 岸田首相にじむ独自色 1/7
岸田文雄首相は安倍晋三元首相の死去から半年間、「安倍路線」の継承と脱却のバランスに苦慮しつつ、独自色の打ち出しを進めてきた。昨年末には安倍氏から引き継いだ防衛力強化のため、令和5年度からの5年間で43兆円を確保する方針を決定する一方、財源論では安倍氏が生前、提唱した国債発行を否定した。政権の安定に向け、党内の不満を抑えられるかが焦点となる。
「ミサイルを買うために、国債をばんばん発行するというのは違うんじゃないか」。昨年12月、防衛費増額のための増税方針に関し、自民の安倍派(清和政策研究会)を中心に反発の声が相次いだことについて、首相は周囲にこう漏らした。防衛力強化の方針では一致しながらも、財政規律に目配りする首相と、防衛国債に言及した安倍氏の遺志を尊重する議員らとの乖離(かいり)が表面化した形だ。
昨年7月の安倍氏の死去直後、首相は憲法改正や北朝鮮による日本人拉致問題への取り組みなど「安倍路線」の継承を打ち出した。最大派閥の安倍派の支持をつなぎ留めなければ政権運営が安定しないからだ。
厳しい党運営を強いられる首相だが、「岸田カラー」へのシフトは徐々に進めている。象徴的なのが経済政策だ。今年1月4日の年頭会見では「この30年間、企業収益が伸びても期待されたほど賃金は伸びず、トリクルダウン(経済活性化による利益の再分配)は起きなかった」と安倍氏が進めたアベノミクスを含む施策を総括。その上で「この問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくる」と訴えた。
焦点となるのは4月8日に任期満了を迎える日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁の後任人事だ。安倍派内では大規模金融緩和の継続を求める声が根強いが、政権内では市場から金融緩和の弊害が指摘されていることを踏まえ、「機動的かつ柔軟にやるべきだ」との意見がある。
ただ、首相が後任人事で「脱アベノミクス」を鮮明に打ち出せば、安倍派などの不満が高まり、政権運営が不安定化する恐れもある。

 

●年のはじめに考える 「平和外交」を立て直す 1/8
昨年十二月、新しい「国家安全保障戦略」が「国家防衛戦略(旧防衛計画の大綱)」「防衛力整備計画(旧中期防衛力整備計画)」とともに閣議決定されました。
安保戦略は、おおむね十年の期間を念頭に、外交、防衛など安全保障に関連する分野の政策に戦略的な指針を与えるもので、安倍晋三内閣当時の二〇一三年に初めて策定されました。
岸田文雄首相が九年ぶりに改定した背景には、中国が軍事力を急速に増強し、力による現状変更の圧力を高めるなど国際情勢の変化があります。
安保戦略策定の目的は、日本の「主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保する」という国益のためですから、情勢の変化に応じて戦略を不断に見直すこと自体に、異論はありません。
問題は内容です。国民の命と暮らしを守るための安保戦略が周辺国との緊張を高め、逆に日本国民の命と暮らしを危険にさらすことになれば本末転倒だからです。
専守逸脱の敵基地攻撃
新しい安保戦略は主に二つの点で従来の防衛政策と異なります。その一つが政府が反撃能力と呼ぶ「敵基地攻撃能力」保有です。
日本がミサイルで攻撃された場合、歴代内閣は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、敵の発射基地をたたくことは自衛の範囲内としつつ、攻撃可能な装備を平素から整えることは「憲法の趣旨ではない」としてきました。
戦争の反省から、戦後日本は戦争放棄、戦力不保持の憲法九条に基づいて他国に軍事的脅威を与えない「専守防衛」に徹してきました。長射程ミサイルなどこれまで持たなかった敵基地攻撃能力を一転して保有すれば、専守防衛を逸脱すると指摘されて当然です。
もう一つが防衛費です。関連予算と合わせて二七年度に国内総生産(GDP)比2%まで増額することを打ち出しました。
二二年度当初予算の防衛費は約五兆四千億円。明確な決まりはありませんが、防衛費はGDP比1%程度で推移していますので、2%への増額はほぼ倍増です。
これを五年間で実現するというのですから、軍事大国化の意図を疑われても仕方がありません。
抑止力としての効果が不明な敵基地攻撃能力の保有と合わせて挑発と受け取られれば、周辺国にさらなる軍事力増強の口実を与えます。防衛政策の転換には地域情勢が好転する確証がありません。
改定前の旧安保戦略には次のような記述があります。
「我が国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた」「こうした我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない」
平和国家としての歩み自体が、日本への信頼と国際的地位を高めてきた国家戦略と言えます。
「ハードパワー」と呼ばれる軍事力とは対照的な非軍事の「ソフトパワー」、もしくは二つを組み合わせた「スマートパワー」としての外交・安保戦略です。
国際的信用という資産
新しい安保戦略はそうした視点を欠いています。「平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と記すだけで、平和国家の歩みをどう生かすか、言及がないのです。
「日本も戦後、他国を攻撃しないという専守防衛で培った世界的な信用資源がある。その延長線上で防衛体制を強化する方策があるのに、反撃能力を持って自らその信用資源をかなぐり捨てる必要はない」。国際政治学者で東大大学院教授の遠藤乾氏は本紙のインタビューでこう指摘します。
戦争とは政治の延長線上にあると指摘したのは、プロイセンの軍事学者クラウゼビッツです。長年読み継がれる「戦争論」の慧眼(けいがん)に学べば、軍事的衝突は政治・外交の失敗にほかなりません。
情勢の変化に対応するため、戦後日本が平和国家として歩み、築き上げた「信用」という外交資産を最大限生かす形で国家戦略を磨き上げたらどうでしょうか。
不透明で不安定な時代だからこそ、やみくもに軍事に走らず、冷静な視点で「平和外交」を立て直すことが必要とされるのです。
●自衛官の憂鬱すぎる「第二の人生」―― 「金」は増えても「人」が増えない理由 1/8
「結婚するなら警察や消防の人」
「防衛力の抜本的強化」に伴う防衛費増額が実現する。いわゆるNATO(北大西洋条約機構)基準では、沿岸警備費用やPKO(国連平和維持活動)拠出金、そして軍人恩給なども防衛費に含まれているため、これらを計上し、さらに「安全保障の観点」から他省庁の予算もそこに入れて、GDP(国内総生産)比2%を達成できないか検討されているという。
一方で、防衛省は長年、自衛官募集に苦労しているが、私は今回の「防衛力強化」が実現しても「募集問題」の解決にはつながらないと思っている。
いつだったか、電車の中でたまたま聞こえてきた母娘の会話には苦笑せざるを得なかった。母親が娘に「結婚するなら警察か消防の人がいいわよ。自衛隊は危ないわりに処遇が悪いからダメ」とアドバイスしていたのだ。
この母親の指摘はあまりに鋭く、否定のしようがない。昨今、子供が自衛隊を目指し合格しても、親が反対して諦めさせるケースが少なくないと聞くが、その背景が分かる気がした。
自衛官は特別職国家公務員であり、警察や消防と比べて給料が低いわけではない。ただし、定年問題については「処遇が悪い」のは事実だろう。自衛隊では「精強性の維持」のため「若年定年制」をとっている。階級によって定年の年齢は異なり、2曹や3曹(外国の軍隊でいう下士官)は54歳で制服を脱ぐ。1曹と曹長、そして准尉、3尉〜1尉は55歳だ。3佐と2佐は56歳、民間企業でいえば部長クラスに相当する1佐が57歳で、役員クラスの将官(将補および将)は60歳である。当然、退職後は年金が支給される65歳になるまで何らかの形で仕事に就く必要がある場合がほとんどだ。
一方で、警察や消防、海上保安庁では階級に関係なく60歳定年となっている。さらに、2021年には国家公務員と地方公務員の定年を65歳まで延ばす関連法が成立したため、これらの人々は定年と同時に年金が受給されることになる。
この格差を解消すべく、自衛官には退職金とは別に「若年定年退職者給付金」が支払われるが、給付は退官後の4月または10月と、翌々年の8月の合わせて2回だけ。民間の定年延長に伴い増額も予定されているようだが、現行制度では総額1000万円前後で、年金受給開始まで10年かそれ以上であることを考えると、1カ月あたり8万円ほどにすぎない。
再就職をしなければ生活は成り立たないが、50歳を過ぎてからの就職は簡単ではなく、年収の大幅減を余儀なくされている。それでも適職が見つかればいいが、仕事のマッチングが上手くいかず無職になると、退職金と給付金を切り崩して暮らしていかなくてはならないのである。
冒頭、NATO基準では防衛費に「軍人恩給」が含まれると書いたが、日本の軍人恩給は旧軍人並びにその遺族に支給されるもので、現在の自衛官には支給されない。
あらかじめ断っておくが、ただでさえ募集が厳しいと言われている中で、わざわざネガティブな情報発信をして追い打ちをかけたいわけではない。しかし「防衛力の抜本的強化」と言うならば、この人的基盤問題こそ真っ先に手をつけるべきであり、とにかく良い方向に進むことを心から願いながらこの原稿を書いている。
自衛官の退官行事を何度か見たことがあるが、見送りのために集まった多くの隊員の中に退官者の家族の姿もあり、そこにはまだ幼い子供がいる場合も多い。一般社会で50代半ばといえばまだまだ働き盛り。その年齢で、父親は門を出た瞬間から家族を養うため次の働き口のことを考えなくてはならないのだ。
因みに米軍などでは、軍人向けの年金があり、20年以上の勤務で退役時からすぐに給付を受けられる。それだけでなく、医療ケアなど、退役軍人のためのサービスも充実している。
基本的に戦地に行かない自衛隊は米軍とはリスクの大きさが違うとは思うが、自衛官は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応える」という「服務の宣誓」を行っている。
約30年間「身をもって責務の完遂に務め」、自衛隊に人生を捧げ、部下を育て、災害派遣で人々を助けていた自衛官に、この処遇が適切なのか。
スキルを活かせない再就職
若年定年制の自衛隊では、退職者の再就職のサポートをする必要があるということで、防衛省内に「就職援護」という部署があり、企業に対して再就職の依頼ができるようになっている。だが、様々な事情で再就職先を辞めてしまう例もある。保険会社に再就職したものの、元部下たちへの勧誘を期待されていることに苦痛を感じて退職したという話も聞いた。
そもそも斡旋される再就職先も、元自衛官としてのスキルが活かされているとは言えないものが多い。例えば、警備員や、高速道路の料金所、運送業、荷物の仕分け、旅館の送迎バスや幼稚園のドライバーなどである。中にはスーパーマーケットで勤務する人もいる。特に地方の場合、かなりのキャリアがあっても時給750円の仕事にも就けないという現実が実際にある。子供の進学、親の介護などの理由から、よりマシな収入を得るために転職先を探さざるを得ない場合も多いと考えられる。
以前、ある雑誌で幹部自衛官の退官後のリポートがあり、〇〇小学校に再就職したとあったので、その方のキャリアからしててっきり教育者の立場で赴任したのかと思ったら、肩書は「用務員」だった。その立場で子供たちへの情熱を語られていたことに感動を覚えた。もちろん仕事に貴賤などなく、どんなポジションであれ、世のため人のために働くのは尊いことだが、自衛官時代に築いた実績や人物としての価値が十分に活かされていないと感じざるを得ない。
こうした場合、再再就職までは自衛隊でも支援しきれず自力での就職活動となるが、「20社受けて全滅でした」などと肩を落とす人もいた。
そうした中で近年、自治体の危機管理監や防災監として自衛官OBの採用が増えているのは朗報だ。経験豊富な自衛官OBが、都道府県のみならず市区町村の防災監などで一層活躍することを期待したい。ただ、採用されても、低位のポジションになることも少なくないようで、収入は大幅に減る場合が多い。それだけでなく、問題は首長に直接に意見具申できる地位でないとその存在意義が薄くなってしまうことだ。
まして週に1日しか出勤しないようでは形式だけになってしまう。自治労(全日本自治団体労働組合)との関係などもあるだけに難しい課題だとは思うが、有効にスキルを活かせる仕組みを望みたい。そうならないと、自衛隊側も優れたOBを提供できないという悪循環に陥ってしまいかねないからだ。
将官がハローワークに
働き手不足や年金支給年齢の引き上げを受けて、2020年、自衛隊でも定年が延長された。2曹・3曹は53歳から54歳へ。1曹〜1尉は54歳から55歳へ、2佐と3佐は55歳から56歳へ、1佐は56歳から57歳へと引き上げられた。
しかし、定年を伸ばしてもすべてが解決するわけではなく、逆に新たな問題が生起してきている。その一例が、1佐と将官との差が近くなり過ぎることだ。
現在、将官の退職年齢はトップの統合幕僚長が62歳といった例外はあるが、基本的には60歳定年である。だが実際には将官のポストは極めて限られるため、将補は人事の都合上、60歳を前に退職を勧告されるケースがほとんどなのだ。そして、1佐には若年定年退職者給付金が支給される一方、将官にはそれは適用されないため、仮に今後、さらなる定年延長で1佐が58歳で退職するようになると、60歳手前で退職する将補と1佐との差が、金銭上ほとんどなくなる。
この問題は今後調整が進められるものと思われるが、現時点でも、退官と同時に将補になる1佐、いわゆる「衛門将補」も存在することから、現役の時に頑張って将補になるインセンティブがなくなっている可能性があり、さらに退職時の支給金額も1佐の方が多くなれば、将補の魅力はますます薄れてしまうことになる。
自衛隊内でも「階級の高い人は退官後も悠々自適」といった怨嗟の声が聞かれることがよくあるが、事情は大きく変わってきている。
2020年7月、陸上幕僚監部の募集・援護課が退官予定の将官に関する情報を企業に渡していたとして、歴代の課長など関係者が軒並み処分される事案があった。当時の河野太郎防衛大臣は「あってはならないこと」と厳しく断罪した。実は将官に関しては、再就職の斡旋もない。将官になると60歳が定年のため一般職国家公務員と同じ扱いになることが2015年の自衛隊法改正で定められた。そのため、再就職の斡旋が禁止されたのだ。
いわゆる「天下り」が社会問題となったためなのだろうが、退官直前に災害が起きるなど、現役時に自力で就職活動などできない場合もザラにあるだろう。昨今のように北朝鮮が連日ミサイルを発射し、中国の艦船や航空機が毎日のように領海・領空に接近している中、隊員の上に立つ将官に自分で仕事探しをしろと言うのだから、どうかしていると言わざるを得ない。
常識で考えれば、高級指揮官が任務に集中できるよう組織として支えるのは当たり前のことだ。しかし「後は任せて下さい」と本人の代わりに援護活動にあたった担当者たちが厳しい処分を受けることになったのである。彼らは詰め腹を切らされ、厳しい減給や異動などの処分を受けた。それが根本的な問題解決に繋がるとは到底思えない。
このような出来事を横目に、自衛隊幹部の中には「頑張って昇任しても何もいいことがない」という思いが蔓延しつつある。将官にまで出世しても、退官した翌日にハローワークに行くような実態では、キャリアアップに何も魅力を感じなくなるだろう。実際、退官した元将官が、再就職先も見つからないまま1年以上経っているといった話をしばしば聞くようになっている。
減っていく再就職先
将官に限らず、3佐以上の自衛官には、利害関係のあった企業に自己求職できないなどの規制が設けられるようになった。これらは特定の企業への不正な利益誘導を防ぐ目的ということだが、いちOBの影響で装備品の決定を左右するなどあり得ず、あまりにも現実離れしている。
米国などでは、退役軍人が軍需産業に入って開発の助言をしたり、軍と会社の橋渡しをしたりするのは当たり前であり、長年の知見を活かせる適切なあり方だとみられている。全く畑違いの仕事に就くより、よほど国のためになるだろう。防衛関連企業に再就職先を頼りきることがいいとは思わないが、これらの企業にOBが入ることはそれなりの理由と必要性があるだろう。ただし、民間企業に依存するだけではない、国としての責任ある援護も求められるところだ。防衛関連企業への再就職がそんなにいけないことなら、恩給制度を復活させて退官後の生活を国費で支えるべきだ。それもない中で放り出すような国家を一体誰が守るというのか。
実際には再就職先が減っていることも確かだ。これは、装備品を国内調達せず、輸入が増えていることが主な原因だ。防衛産業の防衛事業からの撤退が相次ぎ、これは自衛隊にとって、再就職先を失うことも意味している。すると、これまで1佐のOBを採用していたところに将官OBが入るようになって在籍していた元1佐を追い出す形になり、1佐が2佐の就職先を、2佐が3佐の就職先を浸食するような形になってしまっているという。そうなると、みんなが従来より低い給与に甘んじることになる。
現役のうちに自分で人脈を広げ、資格の取得などに動き始めるべきとも言われるが、そのように器用にできる人ばかりではない。また、自衛隊に国防という重責を担わせている国民の側がそれを言うのは、僭越であり間違っているだろう。
辞めたくないのに制服を脱ぐ任期制隊員
ここまで主に定年制の自衛官について説明してきたが、一方で、短期間で任期を終える「任期制」自衛官もいる。
正確には採用時は「自衛官候補生」といって、一般企業における契約社員のような位置付けとなる。2018年に採用年齢が約30年ぶりに改定され、18歳以上27歳未満の者に限られていた採用年齢の上限が一気に33歳未満へと引き上げられている。
安倍晋三元首相殺害が元任期制自衛官によるものだったことから、初めてこの制度について知った人も多いようだ。
多くの任期制自衛官は2〜3年で任期を終え、20〜30歳代で退職することになる。本人が自衛隊に残ることを望んでも、そのためには曹に昇任する試験に合格しなければならず、階級ごとに定員が限られていることもあり、ハードルは極めて高い。自衛官を続けたいのに泣く泣く辞めていく人は多い。
現在、募集難だと言われている大部分が、実はこの任期制隊員だ。高卒の若者が減っていることや将来への約束がない有期雇用ということもあり、確保が困難になっているのだ。
それだけに、この隊員たちについては、警察や消防などへの再就職といった危機管理組織内での人事運用の融通性や、自衛官としての経験を活かした再就職先の確保などが一層求められるところだ。
任期制隊員のことをまるでアルバイトのように言う向きもあるようだが、この人たちがいなければ組織は成りたたない。貴重な隊員を少しでも増やせるような魅力化政策が必要だ。
少子化を言い訳にしてはならない
縷々述べてきたが、巷間言われている「少子高齢化が進み、自衛官募集が大変な時代になっている」云々という話を聞く度に、私には自衛官になる人が少ない理由をごまかしているように思えてならない。このような「人に冷たい職場」に人気が集まるわけがないのだ。
一方で、人口減少や少子化が進んでいることもまた事実であり、今後、さらなる定年延長は既定路線となるだろう。ただし、むやみに定年を延ばして、給料が下がったり退官後の暮らしがますます厳しくなるようでは本末転倒だ。
例えば第一線部隊と後方部隊を区分けして、定年も含めて柔軟に適材適所で運用する制度を構築することや、国が長年育てた人財である自衛官を地方の守りに活かせる方策などのフレームワークを早急に検討する必要があるだろう。
応募が減って大変だと言う前に、現在の退官後の事情が、子供たちに夢を与えるものなのかどうかをぜひ考えてもらいたい。元将官がハローワークに行くような光景を見て、誰が自衛官になることを目指すだろうか。しかしこれが「抜本的防衛力強化」を目指そうとしている国の実態だ。
自衛官の多くが誕生日に退職するシステムになっていることから、今日もどこかで退官行事が行われ、その数は毎年8千人近くとなる。定年制であれ任期制であれ、すべての自衛官が「自衛隊にいてよかった」という気持ちで門を出てもらいたいし、そうでなくてはならない。国費を投じて育てた人材を、もっと国のために活かせる施策を講じる必要がある。これは間違いなく国の責務だ。
●少子化対策 充実させるための財源めぐり各党に聞く 1/8
少子化対策を充実させるための財源をめぐり、岸田総理大臣はNHKの日曜討論で、給付と負担の問題などを含めきめ細かに議論していく考えを示したのに対し、立憲民主党の泉代表は財源は歳出改革や国債の発行で賄うべきだという考えを示しました。
この中で、岸田総理大臣は「少子化対策について、給付と負担の問題や社会保険のあり方なども含め、さまざまな財源について考えていかなければならずきめ細かな議論をしていきたい。それは政策に見合った財源でなければならず、政策の整理をまず行ったうえで予算や財源の議論を進めていきたい。経済の好循環を動かしていくには、物価高に負けない賃上げがポイントになる。中長期的には構造的な賃上げが重要だ」と述べました。
公明党の山口代表は「妊娠から子どもが社会に巣立つまで、継続的に支援できる政策をそろえることが大事だ。まず、何をやるかを見えるようにし、財源についても、責任を持って見通しを立てることが必要だ。保険も含め、幅広く財源を確保していくべきだ」と述べました。
立憲民主党の泉代表は「異次元の少子化対策と言うが、生まれた年によって大幅に政策が異ならないような安定的な対策を実現すべきだ。子どもや教育の政策は未来への投資でもあり、財源として国債を考えてもよい。歳出改革と国債を前提に考えていきたい。また、物価上昇を上回る賃上げでなければ、給付も考えるべきだ」と述べました。
日本維新の会の馬場代表は「国民全員で少子化対策や子育てを応援することが必要で、幼児教育から高等教育まですべてを無償化することが必要だ。税と社会保障と働き方の3つをパッケージで改革すべきで、財源問題は、借金や負担増という考え方だけでは立ち行かなくなる」と述べました。
共産党の志位委員長は「大学の学費の無償化を目指して、まずは半分にし、入学金を廃止すべきだ。消費税の増税こそ少子化を加速させた元凶の1つで、5%に減税し、富裕層の負担や大軍拡の中止で財源をつくるべきだ」と述べました。
国民民主党の玉木代表は「教育国債の発行で子育てや教育の予算を倍増し、所得制限を撤廃すべきだ。賃金が上がると支援の対象から外れるので、頑張って納税することが『子育て罰』になるのは見直すべきだ」と述べました。
れいわ新選組の櫛渕共同代表は「消費税を増税すれば少子化はさらに加速し、国家の自滅の道だ。子ども国債や教育国債を発行して徹底的に財政出動を行い、最大の投資をすることが必要だ」と述べました。
●どうなる2023年の金利・為替・物価・賃金〜低金利時代の終了に日本経済は 1/8
2023年の日本経済の最大の課題は、大きな混乱なしに、低金利時代から脱却できるかどうかだ。賃金については、これまでの停滞状態は変わらないだろう。
長期金利が1%になるか?
日本銀行は、昨年12月20日に、長期金利の許容上限を0.5%に引き上げた。
それまで日銀は10年債利回りを0.25%に抑え込んでいたが、他の年限の利回りが上昇し、10年金利だけが不自然に低い状態になっていた。これが、地方債や社債による資金調達に障害を与えていた。12月の上限引き上げは、これに対処したものだ。
しかし、不自然な金利構造は、いまだに変わっていない。このため、海外のヘッジファンドが10年物国債を空売りする投機取引も収まっていない。また、企業が固定金利での借り入れを増やしたいとの要請が増えているという。これも、金利をさらに押し上げる要因になる。
だから、0.5%への引き上げでは収まらず、今後もさらに金利を引き上げる圧力が続くだろう。
では、日銀が長期金利の抑圧策をやめれば、長期金利はどの程度にまで上昇するだろうか? 
2013年初め頃の長期金利は、日本が0.7%程度で、アメリカが2.6%程度だった。アメリカのいまの長期金利は3.8%程度だ。仮に日米金利の比率が13年と変わらないとすれば、いまの日本の長期金利の水準は、1.2%ということになる。
もちろんこれは、大雑把な目安にすぎない。現在のアメリカの長期金利の水準は長期的な傾向に比べて高いので、今後インフレがおさまれば、低下する可能性が高い。しかし、日本のいまの水準が低すぎることは、間違いないと思われる。
長期金利の動向は、為替レートなど、様々な変数に大きな影響を与える。金利がさらに上昇すれば、住宅金利の上昇や、企業の金利支払いなどの問題が生じるだろう。
住宅ローン金利が上がる
大手銀行の一部は、1月から住宅ローンの固定金利を引き上げる。今後日銀が短期金利も引き上げれば、変動金利も上がる。
日銀の資金循環統計によれば、家計の住宅ローンの融資残高の対前年増加額は、2015年までは、6兆円程度でほとんど変わらなかった。ところが、マイナス金利が導入された2016年から急速に増加し、最近時点では12.8兆円程度となっている。残高は、16年始めの165兆円から、2000年9月末の200.7兆円まで、35兆円増えた。
固定金利が上がると、住宅ローンは、減少する可能性がある。また変動金利が上がれば、変動金利での借入れの金利負担は増加する。
金利上昇によって、国債による財政資金調達も困難になる。
財務省の「令和4年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、金利が1%上昇した場合、3年後の国債費は3.7兆円増加する。
また、株価にもマイナスの影響がある。
ゾンビ企業が破綻する
企業が資金調達する際の金利も上昇する可能性がある。
これは、とりわけゾンビ企業に大きな影響を与えるだろう。「ゾンビ企業」とは、借入金の利払いに必要な利益を生み出していない企業だ。これまでの低金利時代に生き延びてきたゾンビ企業は、金利が上昇すれば苦境に立たされる。
日本の場合、「ゼロゼロ融資」の後遺症がある。これは、実質無利子・無担保融資のことで、コロナ禍で売上高が減少した企業を支援するため、政府主導で2020年3月から始まった。民間と政府系金融機関から、22年9月末までに43兆円の融資を行った。新規融資が2022年末で終了し、2023年から返済を開始する。
融資を受けた企業の倒産がすでに増え始めていたが、日銀の利上げによって、短期融資を受けにくくなり、倒産が増加する可能性がある。
帝国データバンクによれば、ゾンビ企業の現状はつぎのとおりだ。
1. 2021年度でのゾンビ企業は、約18万8000社。19年度と比べると約3割増。ゾンビ企業率は12.9%。
2. ゾンビ企業の売上高経常利益率は、4.94%に悪化。
3. ゾンビ企業のなかで、コロナ関連融資を「現在借りている・借りた」企業は約76.3%。返済を不安視する企業が20.5%。
4. 業種別では「小売」が19.5%と、もっとも高い。従業員数別では20人以下のゾンビ企業が全体の12.9%。
春闘賃上げ3%でも、経済全体の実質賃金は大幅減
2022年には物価が高騰したのに、賃金は上がらなかった。この状況は、2023年には変わるか? 
連合は、春闘で5%程度の賃上げを要求するとしている。ところが、日本経済新聞が12月28日に行った国内主要企業の社長に対するアンケート調査によると、春闘での賃上げ率は3%が最も多かった。
春闘賃上げ率はこれまでも2%程度だったから、それが1%ポイント上がるだけのことだ。物価上昇率は3%を超えているから、実質賃金の上昇率はマイナスになる。
なお、「中長期の方針として消費者物価の上昇を上回る賃上げを実施する意向があるか」に対しては、約8割が「わからない」と答えた。大企業の中には、 物価高騰に対する手当を一時金として支給するところもあるが、賃金の引き上げには至らないだろう。
さらに重要な点は、春闘で3%が上がったとしても、それは、全体からみればごく一部である製造業などの大企業に限られたものであることだ。就業者全体の4割近く(2022年12月で36.8%)を占める非正規労働者には、恩恵が及ばない。
安倍内閣は春闘に介入し、それまで1%台であった春闘賃上げ率が、2014年以降は2%台になった。しかし、そうなっても、一般労働者の賃上げ率は0.5%程度にしかならなかった。
以上から考えると、仮に2023年の春闘賃上げ率が3%になっても、一般労働者の賃上げ率は せいぜい1%程度にしかならないだろう。他方で消費者物価上昇率はすでに3%を大きく越えている。したがって、実質賃金伸び率はマイナス2%程度になってしまうだろう。
さらに注意すべき点がある。それは、政府の物価対策によって、消費者物価の上昇率が1.2%ポイント程度、抑えられていることだ。このことを考慮すれば、実質賃金の実際の下落率はもっと大きくなっている。
急激な円安は止まったが、円高は進まず
2022年には春から秋にかけて急激な円安が進み。1ドル150円まで進んだ。
12月20日の政策変更で、前日の1ドル=135円台後半から、130円台半ばまでの円高になった。しかし、その後はほぼ同じ水準で推移しており、傾向的な円高への動きは生じていない。
その原因は、日米の金利差が縮まらないことだ。アメリカでは、インフレの高止まりを背景に、金融引き締めが長引くとの観測が根強い。
もう1つの円安要因として、貿易赤字がある。11月の貿易統計によると、貿易赤字は約2兆円。4カ月連続で2兆円を超える赤字が続いた。貿易赤字になれば、円を売って外貨を買う必要がある。金融取引に比べれば額は少ないが、金融取引とは違って、恒常的な円安圧力となる。
以上を考慮すると、為替レートは、元の水準には戻らない可能性が強い。
OECDが計算している購買力平価は、2021年で1ドル102.3円だが、この水準に戻せるかどうか、大いに疑問だ。すると、日本の国際的な地位は回復しない。
働く場所としての日本の地位は低下したままだ。人材が日本に来なくなり、日本の人材が外国に流れる。
介護施設等では、労働力の不足が深刻な問題になる。すでに深刻な問題になっているが、これがさらに進む可能性がある。どうしたら賃金を引き上げられるかが、大きな課題だ。
●「衆議院解散」が筋道の通し方 1/8
4日に岸田文雄総理が年頭会見をされました。岸田総理は年末年始に心穏やかにお休みになれたのか心配ではありますが、会見内容を含め、私の考えを述べたいと思います。
ロシアのウクライナ侵攻から世界的な経済不安が広がりました。収束が全く見えない中で、先進諸国はどのようにロシアに働きかけ、日本はどのような立ち位置でこの問題に取り組むのか、「外交の岸田」の力を示す機会でもあると思います。
また、「異次元の少子化対策」を掲げられた岸田総理。具体的な政策はこれからでしょうが、「新しい資本主義」に続くパワーワードが飛び出してきました。我が国においても数十年間、解決することができなかったこの難題を乗り越えていただきたいと切に願います。
年末から議論になっている防衛費の財源問題。国債発行論と増税論で自民党内も大きく分かれています。萩生田政調会長をはじめ党内の有力者たちも増税をするなら信を問うべきだと述べていますが、衆議院解散が筋道の通し方だと私は考えます。実際、安倍政権下では、消費増税延期という理由だけで2度も解散総選挙を行いました。
その気になればいつだってできるのが解散。4月には統一地方選挙があり、千葉5区、山口4区、和歌山1区で衆議院補欠選挙もあります。5月には広島でG7サミットもあります。この後あたりをベストタイミングとされている気がしますが、聞く力を無視するならば、統一地方選挙前、または同時期に解散総選挙をぶつける方が、全国の地方議員も躍起になって選挙戦を戦うので自民党にとっては勝率が上がるでしょう。ただ、公明党は嫌がるでしょうが…。
難題が多い中で、岸田政権の低空飛行は続くでしょうが、2023年はどんなドラマが待っているでしょうか。
●少子化、政策整理後に財源論 首相「きめ細かく議論」 1/8
岸田文雄首相は8日のNHK番組で、少子化対策は政策の整理を優先した上で、財源論の議論を進める意向を表明した。「政策の整理をまず行った上で、予算や財源の議論を進めていきたい。きめ細やかな財源の議論をしていく」と述べた。公明党の山口那津男代表は、財源論が先行する議論は避けるべきだと指摘した。立憲民主党の泉健太代表は国債発行による充当を主張した。
少子化対策の財源を巡り、自民党の甘利明前幹事長が消費税率の引き上げに言及し、野党は一斉に批判。政府、与党内でも異論が相次いだ。首相の発言は財源問題に議論が集中するのを避ける狙いがあるとみられる。
●立民・泉代表、少子化対策「歳出改革と国債を財源に」 1/8
立憲民主党の泉健太代表は8日のNHK番組で、少子化対策の財源について「子ども政策や教育政策は未来への投資だ。歳出改革と国債を前提に考えたい」と述べた。日本維新の会と歳出改革や国会議員の「身を切る改革」で連携する考えを示した。
少子化対策のほか、防衛費増税の財源論も念頭に「(23日召集の)通常国会の課題は歳出改革だ。予備費や基金でも相当な無駄を削減できる」と主張した。
維新の馬場伸幸代表は少子化対策の財源に関し「借金か増税か、ととらわれないように、税と社会保障と働き方の改革をパッケージでやるべきだ」と唱えた。
公明党の山口那津男代表は「財源も責任をもって見通しを立てることが必要だが、先行するような議論は避けるべきだ」と強調した。保険を財源に活用する案を検討する必要があると触れた。
共産党の志位和夫委員長は少子化対策の財源を確保するために消費税を増税するのに反対の意向を示した。消費税の5%への減税に加え「富裕層、大企業に応分の負担を求める」と訴えた。
国民民主党の玉木雄一郎代表は教育国債の発行による財源確保を提唱した。
●少子化対策 消費増税は本末転倒だ 1/8
少子化対策は待ったなしだ。予算倍増も不可欠だ。しかし消費税増税による「支援」というのは本末転倒である。
岸田文雄首相が年頭会見で示した「異次元の少子化対策」を巡って、裏付けとなる財源議論が政権の課題として浮上している。
岸田首相は子ども予算倍増に向けた大枠を、6月に策定する「骨太方針」に盛り込むという。
月内には少子化対策強化の政府会議で、児童手当拡充や仕事と育児の両立などの支援策議論を始め、3月末をめどに、たたき台となる方針を取りまとめる予定だ。
たたき台を踏まえ、「こども家庭庁」が発足する4月以降、財源を含む議論を加速させるとする。
子ども関連政策の司令塔となる同庁の初年度予算は約4兆8千億円。倍増には数兆円規模の予算が必要だ。
岸田首相が「異次元」という表現を使い強い意欲を示した背景には、2022年に生まれた赤ちゃんが80万人を割り、過去最少になる見通しとなったことがある。
合計特殊出生率が戦後最低となった1990年の「1・57ショック」を契機に少子化は社会問題化した。あれから30年余、政府はエンゼルプランに始まる計画を次々と打ち出したが、失敗続きで少子化に歯止めをかけることはできなかった。
これまでにない思い切った支援策と、支援を具体化する財源をセットで示さなければ同じ轍(てつ)を踏むことになる。

財源を巡って自民党内からは、消費増税論も出ている。
同党税制調査会幹部でもある甘利明前幹事長がBS番組で「将来の消費税も含め、地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、税率引き上げも検討対象になるとの認識を示したのだ。
財源議論は避けては通れないが、物価高騰と実質賃金の下落で家計が逼迫(ひっぱく)する今、子育て世代にさらに負担を課すことになる消費増税は選択肢としてあり得ない。
日本の子育て支援への公的支出の低さはよく知られている。所得から税金や社会保険料をどれだけ払っているかを示す国民負担率も50%近くに達している。
子育てにお金がかかるため2人目、3人目を諦めたという夫婦も少なくない。
倍増は必要だ。ただし無駄な予算の削減や富裕層優遇の税制の見直しなど手を付けなければならない課題は他にある。子育て世代への支援となる方法を模索すべきだ。

昨年12月の全世代型社会保障の報告書で、子育て支援拡大が打ち出されたものの、財源論には触れていない。
防衛費大幅増のあおりで、予算枠が狭まったしわ寄せが及んだのだ。
岸田首相は自民党総裁選の時から子ども予算の倍増を明言している。
「異次元」と表現する割には、のんびりし過ぎではないか。
人口が社会のさまざまな分野や政策に影響を及ぼしていることを考えると、むしろ優先順位が高いのは少子化対策の方だ。 
●年間1兆円の“防衛費増税”「反対」71% 「賛成」22%を大きく上回る 1/8
政府は来年度から5年間の防衛費を43兆円に増額する方針ですが、この防衛費の増額について「賛成」と考える人が39%、「反対」と考える人が48%であることが最新のJNNの世論調査で分かりました。
また、政府は防衛費増額の財源として、2027年度には1兆円あまりを増税で確保する方針ですが、こうした防衛費を増やすための増税については「賛成」22%、「反対」71%でした。
政府・与党はこの増税の実施時期について「2024年以降の適切な時期」としていますが、岸田総理が増税の実施前に衆議院の解散・総選挙を行い、国民に是非を問う必要があるか聞いたところ、「必要がある」76%、「必要はない」17%でした。
また、防衛費を増やすための財源として何が適切かを聞いたところ、「増税」8%、「国債の発行」12%、「他の予算の削減」72%でした。 

 

●成人の日 平和で希望ある未来をともに 1/9
きょうは成人の日です。民法改正で昨年4月に成人年齢が18歳に引き下げられ、今年は18歳、19歳、20歳の341万人が新成人となりました。新たな門出を迎えたみなさんを心から祝福します。
政治が若者を苦しめる
大学や専門学校へ進学したり、就職したりするなかで「おかしい」「なぜ」と感じる機会が多くなったのではないでしょうか。若者がぶつかる問題の背景には、社会や政治のあり方が横たわっていることが少なくありません。18歳以上は選挙権を手にしています。その権利を使えば、暮らしと未来は大きく変えられます。希望を持って、平和で豊かな人生を送れる社会を一緒に考えていきましょう。
「物価が上がっても給料は上がらない」。多くの若者があえいでいます。学生の8割が従事するアルバイトは、時給が最低賃金近くに抑え込まれています。
若者自身に責任がある問題ではありません。自民党・公明党政権の間違った経済政策が、日本を「賃金の上がらない国」にしてしまいました。賃金の底上げには、最低賃金の引き上げが不可欠です。
岸田文雄政権は最賃を過去最高に引き上げたと言うものの、全国加重平均は時給961円で、増えたのは31円だけです。ドイツでは昨年10月、12ユーロ(約1690円)となりました。昨年3回にわたって計2割増額しました。物価高騰で大幅に引き上げている欧米と比べ、日本はあまりにお粗末です。
高学費と貧弱な奨学金制度も若者を苦しめています。低所得世帯の学生に給付奨学金を支給する「修学支援制度」は成績要件などが厳しく、利用者31万人のうち5人に1人が打ち切りや警告を受けています。政府は、中所得世帯の学生にも支援を広げると言いますが、「理工農系の学生限定」など差別・選別の強化と一体です。
若者に「自己責任」を迫り、格差と貧困を拡大させた新自由主義の経済政策をただし、最低賃金引き上げや学費半額、本格的な給付奨学金など若者の切実な願いを実現することが急がれます。
戦争と平和の問題は、若者の現在と未来に関わる大きな焦点となっています。岸田政権は日本を「戦争国家」につくりかえる動きを急速に強めています。
昨年末に閣議決定された安保3文書は、米国の軍事戦略に日本を組み込み、軍事費を5年間で43兆円にするという途方もない方針を決めました。来年度予算案には、他国領土を攻撃する兵器の購入などが盛り込まれました。敵基地攻撃の兵器を持てば、周辺国との緊張が高まり、戦争の「抑止」どころか、戦争を近づけます。
大軍拡は、大増税と社会保障や教育の切り捨てへの道です。戦争で若者の未来を壊すことは許されません。憲法9条に基づく徹底的な平和外交の努力こそ強める時です。
「声を聞け」と迫ろう
気候危機打開に真剣に取り組み、ジェンダー平等社会の実現に力を尽くす政治の実現も若者にとっての大きな希望です。
若者や国民の声を聞かずに、暴走を続ける岸田政権を終わらせなければなりません。3〜4月には統一地方選挙があります。若者の1票でまず政治を動かし、衆院の解散・総選挙で、国民に信を問えと迫っていきましょう。
●20歳の3割弱「政治に期待できない」 少子化対策に関心も 1/9
20歳の若者を対象に日本の政治について聞いた調査が公表され、「期待できない」と答えた人がこの10年間で最も高い30%近くに上りました。
調査会社の「マクロミル」が2022年度に20歳を迎える500人に調査した結果、日本の政治に「期待できる」「どちらかと言えば期待できる」と答えた人は、去年より5.6ポイントマイナスの18.4%でした。
一方、「期待できない」は7.2ポイントプラスの27.6%で、調査を始めた2013年以降で最も高くなりました。
関心を持っているニュースについては、1位が「少子化対策」で2位に「経済・金融政策」が続きました。
また、「理想の大人」は誰かという質問では、母親の45.8%に対し、父親は32.1%にとどまりました。
●異次元の少子化対策 規模より政策まず示せ 1/9
取り組む内容も固まらないのになぜ「異次元の少子化対策」と大見えが切れるのだろうか。
岸田文雄首相が、少子化対策の強化に向けた具体案の検討を小倉将信こども政策担当相に指示した。3月末をめどに大枠をまとめる方針で、児童手当の拡充などが柱となるという。
2022年に生まれた赤ちゃんの数は統計を始めた明治以来、初めて80万人を割ることが確実だ。子どもが急減し、社会保障制度が立ちゆかなくなりそうな将来には不安が広がる。首相が「先送りできない課題」と述べ、新年の新たな「挑戦」に掲げたこともうなずける。
だが議論の進め方はいただけない。首相は「子ども、子育て関連予算の倍増を目指す」と強調したものの、具体策は後回し。財源の裏付けもないまま予算倍増だけを打ち出す手法は到底納得できるものではない。
首相は重点事項として、1児童手当を中心とした支援拡充2幼児教育・保育、一時預かりなどのサービス充実3仕事と育児の両立支援や働き方改革―などを小倉氏に指示したという。
新たに設ける会議でたたき台をつくって検討を本格化させ、6月にまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で全体像を示したい考えだ。
ただ、少子化対策はこれまでも充実の必要性が指摘されてきた。4月にはこども家庭庁が発足する。それなのに首相が指示した内容には思い切りも目新しさも感じられない。これだけ重要なテーマを新しい省庁が始動してから詰めるというのも随分のんびりした感じがする。
学校給食の無償化に独自財源で踏み切る自治体も出てきた。東京都は今春から所得制限なしに子ども1人に月5千円を支給する方針を打ち出した。地方が政府より先行する現実に岸田政権は危機感を持つべきだろう。
与党幹部は早くも増税を口にしている。混乱を招いた防衛費増額と同じ構図ではないか。
21年度税収は過去最高の67兆円で、22年度も伸びる見込みだ。にもかかわらず、歳出を膨張させて財源が足りなくなり、増税や国債発行で穴埋めする手法は無責任過ぎる。事業に優先順位を付け、限りある財源で最大効果を上げることが政治の使命であることを忘れられては困る。
国会議員は月100万円の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開を果たしていない。「政治とカネ」問題にもけじめをつけていない。自らに甘いまま底の抜けたバケツに水を注ぎ込むようなやり方では国民の理解は得られまい。
子育てに金がかかり過ぎ、子どもを持ちたくてもかなわない社会構造は深刻だ。フランスは多子世帯ほど税負担が減る制度などを導入して出生率が劇的に改善した。税額控除や、控除しきれなかった分を給付する国もある。参考にすべきだろう。
学歴偏重に対する意識改革も必要だ。とりわけ親の経済的負担が重いのは大学進学である。学歴を問わない能力重視の採用を促すことや、働きながら大学で学べる仕組みの充実など、取るべき方策はあるはずだ。
給付に偏った旧来型の対策では不十分だ。省庁の枠を超え、税制などにも切り込んだ、「挑戦」に値する抜本的メニューをまず示してもらいたい。予算規模を語るのはその後でいい。 

 

●日本の本気度を「予算」と「装備」で米に示した 意気揚々と首脳会談に臨む 1/10
岸田文雄首相は1月8日深夜、欧米歴訪のため最初の訪問地パリに向けて羽田空港を発つ。
欧米5カ国(フランス→イタリア→英国→カナダ→米国)訪問のメインイベントは、もちろん最後の訪問地ワシントンでバイデン大統領とのトップ会談である。
「外交の岸田」を自任する岸田氏にとって、今年はまさに外交・安保政策で正念場を迎える。
主要7カ国(G7)首脳会議(5月19〜21日)を地元・広島で、しかも自ら議長として主宰するのだ。これ以上の晴れがましい舞台はあるまい。
岸田氏のG7広島サミットへのこだわりは想像を超えたものである。然るに、ロシアによるウクライナ侵略、中国の台湾進攻懸念などからも、日米同盟の緊密化は絶対不可欠であり、そのためにも日本が果たすべき役割を具体的に米側に示す必要を痛感していたのだ。
首相周辺によると、昨年12月16日に閣議決定した国家安全保障戦略に「日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、我が国の安全保障のみならず、インド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定の実現に不可欠な役割を果たす」と記述されたことに尽きる、と岸田氏は語ったという。
平たく言えば、日本の本気度を「予算」と「装備」でバイデン氏と米議会に示したのである。
2027年までの5年間に防衛費総額43兆円、現行5年間の計画の約1・6倍に増やす。27年度に国内総生産(GDP)比2%にする。23年度予算案で防衛費は過去最大の6・8兆円とした。その財源は、基本的に防衛増税で充当する。防衛装備品についても、相手の発射基地を叩く反撃能力を持つために当面は米製巡航ミサイル「トマホーク」などを導入する。英・伊両国と次期戦闘機を開発生産する。
要するにこういうことだ。自分がやるべき事は自分でやります――。ある意味で、至極簡単なことなのだ。それを今までやってこなかった事のツケが回ったのである。
極論すると、一発のミサイルが日本国民を覚醒させた。昨夏のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に激怒した中国は、同女史が韓国に向けて発つや周辺海域で軍事演習を再開、中国軍弾道ミサイルが沖縄県与那国島沖80kmに着弾したのだ。同島から台湾の距離は約110kmである。「台湾有事」を実感したと言っていい。
こうして万感の思いを胸に岸田氏は13日にホワイトハウスでバイデン氏と会談する。岸田氏は「ジョー!やったぜ」と切り出すに違いない――。
●「イージスシステム搭載艦」とは何か 2208億円の巨額予算 1/10
防衛省が「イージスシステム搭載艦」の整備費として2208億円を計上しました。これは建造費ではなく、エンジンや装備の取得費です。ミサイル防衛の要となる装備ですが、建造方針から2年を経て、“大風呂敷”になってきています。
イージスシステム搭載護衛艦とは違う イージスシステム搭載艦
防衛省は2022年12月23日(金)に発表した令和5(2023)年度予算案に、「イージスシステム搭載艦」の整備費として2208億円を計上しました。「統合防空ミサイル防衛能力」約9867億円のうちの主要項目であり、単独項目として大きな予算を占める「イージスシステム搭載艦」とは何なのかを紐解きます。
政府は2017年、北朝鮮(朝鮮人民民主主義共和国)の相次ぐ弾道ミサイルの発射実験などにより、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増し、その対処に追われる海上自衛隊の、いわゆるイージス護衛艦の負担が増加していたことから、イージスシステム搭載護衛艦の戦闘システムを地上に設置した「イージス・アショア」の導入を決定していました。 しかし2020年6月、河野太郎防衛大臣(当時)がイージス・アショアの配備プロセス停止を表明。弾道迎撃に使用するSM-3の補助推進装置(ブースター)を演習場内へ確実に落下させるためにはソフトウェアの修正に多額の経費が必要となることや、防衛省の設置予定地に対する説明に不手際があり、地元自治体の理解が得られなかったことなどが背景にあります。 この時点で防衛省は、イージス・アショアで使用するAN/SPY-1(V)1レーダーなどを発注しており、政府はこのレーダーを活用する、イージス・アショアに代わる新たなミサイル防衛の手段を模索。その結果、2020年12月にAN/SPY-1(V)1レーダーなどを搭載するイージスシステム搭載艦2隻を建造する方針が示されました。 当時の防衛省はイージスシステム搭載艦をミサイル防衛能力に特化した艦と位置付けており、弾道ミサイルの迎撃以外の防空、対艦、対潜戦能力を持つイージスシステム搭載護衛艦とは一線を引くため、「イージスシステム搭載艦」と呼ばれるようになったと言われています。 ただ、イージスシステム搭載艦をミサイル防衛に特化した艦とする事に対して、運用を担当する海上自衛隊は難色を示していました。
やっぱり護りの装備も必要だ
イージスシステム搭載艦は有事の際に真っ先に狙われる可能性が高く、日本に本格的な武力攻撃を試みる国家の航空機や潜水艦などには格好の標的となります。イージスシステム搭載艦が航空機や潜水艦などの攻撃から自らを護る能力のない艦になってしまった場合、イージスシステム搭載艦を護るための護衛艦が別に必要となります。 イージス・アショアの導入は海上自衛隊の負担を軽減することを目的の一つとしていたわけですから、海上自衛隊が難色を示すのは当然だと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。 このような背景からイージスシステム搭載艦は、イージスシステム搭載護衛艦と同等の対潜、対空、対艦戦闘能力が与えられることとなりました。
また、巡航ミサイルや極超音速兵器の終末段階での迎撃能力を持つSM-6ミサイルのほか、日本に侵攻してくる艦艇や上陸部隊の脅威の外側から対処する「スタンド・オフ・防衛能力」を構成する長射程対艦ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型(海発型)」の運用能力の付与も決定しています。後者は12月23日に発表された国家安全保障戦略で、日本の防衛力を抜本的に強化するための重点整備項目の一つと定められたものです。 なお、令和5年度予算案には「トマホーク」巡航ミサイルの取得費が計上されており、予算案の説明資料「我が国の防衛と予算(案)」には「イージス艦」に搭載するとの記述があります。防衛省は予算案の記者説明会で、トマホークはイージスシステム搭載護衛艦に搭載し、イージスシステム搭載艦に搭載する予定がないことを明らかにしています。
陸自隊員が乗組員に
国家防衛戦略には、陸上自衛隊員3000名を海上自衛隊と航空自衛隊に移籍させる旨も明記されています。これについて酒井良海上幕僚長は、12月20日の記者会見で、海上自衛隊に移籍する陸上自衛隊員をイージスシステム搭載艦の乗員に充てると明言しています。 海上自衛隊は「我が国の防衛と予算(案)」で、イージスシステム搭載艦の耐洋性と乗員の居住性を高めるとしていますが、これは陸上自衛隊から移籍する隊員の乗務への考慮によるところも大きいのではないかと筆者は思います。 また「我が国の防衛と予算(案)」には「既存イージス艦と同等の機動力を保持」し、かつアメリカミサイル防衛庁が開発を進めている極超音速兵器を迎撃する新型ミサイルの搭載などを可能にする拡張性を与える、とも明記されています。 防衛省は令和5年度予算案でイージスシステム搭載艦のエンジンやVLS(垂直発射装置)などの取得を計画していますが、2208億円という予算額は、イージスシステム搭載護衛艦「まや」の建造費約1680億円を上回っています。 これは2隻分のエンジンやVLSの取得費です。「まや」が建造された当時(2017〜2020年)に比べれば円安が進み、また物価が上昇していることなどを考慮して比較する必要はありますが、そうしたとしても、イージスシステム搭載護衛艦より大型で強力なエンジンを搭載し、VLSの数も多い艦になるのではないかと筆者は思います。
●統一地方選へ試練続く岸田首相 :求心力回復見通せず―2023年政局展望 1/10
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係などを世論に厳しく問われ、内閣支持率が30%前後まで低下した岸田政権。2023年の政局を展望する。
岸田文雄首相は昨年後半、わずか2カ月の間に「政治とカネ」の問題などが原因で閣僚4人の更迭に追い込まれ、防衛財源確保のため唐突に打ち出した所得税などの増税方針には自民党内から反発が噴出した。辛くも乗り切ったが、野党の攻勢に譲歩を重ねたばかりか、重要政策を巡る首相の方針に足元から公然と異論が出たことは、政権の迷走を強く印象付けた。年明けはまず1月23日召集予定の通常国会で長丁場の予算審議が行われ、4月には世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で自民党の苦戦も予想される統一地方選が待ち構える。求心力回復への道筋は見いだせておらず、首相は2023年も守りの政権運営を強いられそうだ。
広島サミットで「核なき世界」訴え
首相は今月13日に、バイデン米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談する。昨年12月に改定した、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」保有を明記した国家安全保障戦略など安保関連3文書の内容をバイデン氏に直接説明し、東シナ海などで軍事的活動を強める中国や、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を念頭に、日米同盟の一層の強化を確認したい考え。首相にとっては2021年10月の就任以来初めてホワイトハウスを訪れる機会となる。5月に議長として地元の広島市で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)への協力を取り付けるため、首相は9日からG7メンバーのフランス、イタリア、英国、カナダも歴訪し、各国首脳と会談する。
通常国会の会期は6月21日までの150日間。冒頭の首相施政方針演説など政府4演説と衆参両院での各党代表質問に続き、衆院予算委員会で23年度予算案の審議が始まる。首相は予算案を3月下旬までに成立させて実績を積み、統一地方選に臨む構え。その後、広島でのG7サミットでは、ロシアのウクライナ侵攻により国際社会の分断が深刻化する中、ライフワークとする「核兵器のない世界」実現へ向けたメッセージを内外に発信する方針だ。首相には、外交を足掛かりに政権浮揚を目指す狙いもあるとみられる。
当面の政治日程
1月中旬 岸田首相が訪米、日米首脳会談(調整中)
1月23日 通常国会召集
3月下旬? 2023年度予算成立
4月8日 黒田東彦日銀総裁の任期満了
4月9日 統一地方選前半戦
4月23日 統一地方選後半戦(衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区補欠選挙の見通し)
5月19日 G7広島サミット(21日まで)
旧統一教会問題なお重荷
だが、思惑通りに運ぶかは不透明だ。昨年の臨時国会では、旧統一教会との関係が次々と明らかになった山際大志郎前経済再生担当相を首相はぎりぎりまで擁護しながら、10月下旬、一転して更迭に踏み切った。それから1カ月足らずの間に、死刑執行を軽視する失言をした葉梨康弘前法相、「政治とカネ」の問題を抱える寺田稔前総務相も相次ぎ辞任。12月10日に国会が閉幕し、23年度予算編成も終わると、首相は政治資金問題などが指摘された秋葉賢也前復興相も事実上、更迭した。いずれのケースも首相は更迭判断が遅れたという「後手」批判にさらされ、反発する野党が求めた本会議での閣僚交代を巡る説明に応じるなど、譲歩を重ねた。
臨時国会で成立した旧統一教会問題を受けた被害者救済新法についても、首相は国会閉幕後の記者会見で「成立に強い覚悟で臨んだ」と胸を張ったが、実際は異なる。創価学会を支持母体とする公明党への配慮もあり、もともとは通常国会に提出を先送りする方向だったが、閣僚の辞任ドミノなどで守勢に回り、早期立法を求めて共闘した立憲民主党と日本維新の会に押し切られたのが実態だ。
昨年末には薗浦健太郎前衆院議員が政治資金パーティーの収入を過少に記載していた疑惑を巡り議員辞職し、所属していた自民党も離党。東京地検特捜部は薗浦氏を政治資金規正法違反罪で略式起訴し、岸田政権にはさらなる打撃となった。通常国会が始まれば、野党側が政治とカネの問題や首相の任命責任を厳しく攻め立てるのは確実だ。防衛費増額のための増税方針や、原発の建て替え、運転期間の延長など首相が短期間で打ち出した重要政策の是非も論戦の焦点となる見通しで、首相は臨時国会と同様、防戦に追われる展開となりそうだ。
4月に実施される4年に一度の統一地方選は、旧統一教会と接点がある議員が集中する自民党に逆風となりかねない。首相は救済新法の成立によってこの問題に一区切りを付け、政権の立て直しを急ぎたい考えだが、教団票を差配していたとされる故安倍晋三元首相について、首相は自民党としての調査実施に否定的だ。同党出身の細田博之衆院議長は文書で教団との関係を認めたが、記者会見など公の場での説明はしておらず、野党から批判されている。そもそも教団との結び付きは国会議員以上に地方議員の方が深いと指摘されている。4月は衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区で補欠選挙も実施される見通しだ。自民党からは、旧統一教会問題が一連の選挙戦でクローズアップされることを懸念する声が漏れる。
首相、政策調整で矢面に
首相は就任直後に臨んだ2021年10月の衆院選に続いて昨年7月の参院選でも大勝し、長期政権も視野に足場を強化したはずだった。だが、時事通信の世論調査で7月に50%近くあった内閣支持率は、12月には29.2%にまで下落。旧統一教会問題や安倍氏の国葬に対する世論の批判、閣僚の辞任ドミノが響いたとみられ、こうした問題への対応で政権の体力は大きくそがれた。
安倍氏の突然の死去により政権の権力構造が一変したことは、首相には誤算だったに違いない。参院選までは、首相は防衛費や原発、社会保障といった国論を二分するような重要課題について判断を先送りし、政権の安定を最優先に臨んできた。保守派を代表する安倍氏は安全保障や経済財政政策で「高めの直球」を投げて首相に圧力をかけつつも、最後は落としどころを探り、自身が率いる自民党内最大勢力の安倍派を抑えてくれる実力者だった。
最大の「後ろ盾」を失ったことで、首相は重要テーマを巡る調整で自ら前面に出て仕切らざるを得なくなり、それが今日の迷走につながったとも言える。防衛財源確保のための1兆円強の増税を首相が唐突に打ち出し、安倍氏に近かった閣僚や議員から反対論が噴き出した昨年暮れの光景は、首相の党内掌握力低下を露呈し、政権運営に禍根を残した。「安倍政権の菅義偉官房長官のように、盾となって首相を守り前さばきをする『悪役』が今の首相官邸にはいない」(自民党中堅議員)。首相の意向を受けて与党と調整に当たるのは、本来は松野博一官房長官や首相側近の木原誠二官房副長官の役回りだが、党側からはこうした冷ややかな指摘が尽きない。
経済の動向も依然、政権の懸念材料だ。ウクライナ侵攻や円安を背景とした物価高、エネルギー価格の高騰は家計を直撃。政府・与党は昨年の臨時国会で、物価高対策の財源を裏付ける22年度第2次補正予算を成立させたが、内容は電気・都市ガス料金の負担軽減策など「小手先」の対症療法にとどまった。13年春から続ける異次元の金融緩和でアベノミクス路線を下支えしてきた日銀の黒田東彦総裁は、4月8日に任期満了を迎える。昨年12月20日に日銀が長期金利の許容変動幅を拡大すると、市場は事実上の利上げと受け止め、長期金利は急騰した。次期総裁は円安・物価高の要因である金融緩和策の本格修正に動くのか、それとも緩和路線を継続するのか、首相の人選を市場関係者は注視している。
サミット後は解散含み
「歴史の分岐点で先送りできない問題に正面から愚直に取り組み、答えを出すことに挑戦するのが自分の歴史的役割だ」。首相は昨年12月26日の講演でこう語り、政権運営への決意を強調した。支持率は低迷するものの、衆目の一致する「ポスト岸田」候補が自民党内に見当たらないことに加え、当面は国政選挙が予定されていないことが、首相の強気の背景にはある。領袖を失った最大勢力の安倍派が後継会長を決められず、漂流状態にあることも、首相にはデメリットばかりではないとの見方がある。岸田派は総裁派閥ながら党内第5勢力に過ぎず、首相は第2勢力の茂木派、第3勢力の麻生派をそれぞれ率いる茂木敏充幹事長、麻生太郎副総裁と引き続き連携し、失地回復を図る構えだ。
自民党内の一部で取り沙汰された年末年始の内閣改造を首相は見送ったが、広島サミットを経てなお浮揚が見通せない場合、局面打開に向けて内閣改造・党役員人事を求める声が再び高まりそうだ。自民、公明両党の連立に国民民主党を加える構想もくすぶり続けている。一方で、首相は昨年暮れ、防衛費増額のための増税実施前に衆院解散・総選挙に踏み切ると言及し、波紋を広げた。増税開始時期について、23年度税制改正大綱では「24年以降の適切な時期」と記すにとどめ、結論を先送りした。政府・与党は今年中に決める方針だが、安倍派などには異論が強く、党内対立の再燃も予想される。広島サミットが終われば、首相の自民党総裁任期満了まで残り1年余り。衆院議員の任期は25年10月までだ。首相が総裁再選を目指すのであれば、サミット後の政局は衆院解散含みで推移する可能性が大きく、判断が注目される。
●異次元の少子化対策 挑戦で済ませず確かな処方箋を  1/10
岸田文雄首相は4日の年頭会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。歯止めがかからない少子化がさらに進行すれば社会保障制度の持続可能性が危うくなり、国力の大幅な弱体化は避けられない。岸田首相は「挑戦」で済ませず、財源の確保を含め、有効な対策を確実に講じる実行力が強く求められる。待ったなしの課題だ。
2022年の出生数は初めて80万人を割り込み、80万人割れは政府機関の想定より8年も早まる見通しだ。政府は12年に「社会保障と税の一体改革」をまとめ、これまで消費税を財源に少子化対策を講じてきた。保育の受け皿整備や幼児教育・保育の無償化などに取り組み、17年度に約2・6万人だった待機児童が22年度に約3000人まで減少するなどの成果を上げた。
だが若者の多様な人生観や経済的負担、さらにコロナ禍も加わって少子化は一向に歯止めがかからない。政府がこれまで講じた対策がなぜ機能しなかったのか、新たな支援策を策定する上で、若者の実態を十分に把握する作業を怠ってはならない。
岸田首相は経済財政運営の基本方針「骨太の方針」をまとめる6月までに、子ども予算倍増に向けた大枠を提示するよう関係閣僚に指示した。児童手当を中心とする経済的支援、幼児教育・保育サービスの強化、育児休業制度の改善などが柱になる。支援が手薄だった非正規労働者や自営業者などにも目配りするため、兆円単位の安定財源の確保が必要とされる。
だが岸田政権は22年に防衛力増強とその財源確保の議論を最優先し、少子化対策は財源に踏み込んでいない。自民党内には将来的に消費増税を財源とする案もあるが、ハードルは高い。
少子化対策の中身も、出産をためらう既婚者や未婚者にインセンティブとなる対策を探るのは容易ではない。経済支援に加えて職場の理解と協力、さらにキャリア志向の女性の働き方なども勘案する必要がある。保育士の負担も軽減したい。課題山積の中、「異次元」と形容できる処方箋を打ち出せるのか、岸田政権の真価が問われる。 
●防衛費増額の財源確保、法案が焦点 通常国会、1月23日召集へ 1/10
23日召集予定の通常国会は、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費増額を明記した国家安全保障戦略など新しい「安保3文書」や、原発の最大限活用を盛り込んだエネルギー政策の基本方針が焦点となる。政府は防衛費の財源を確保するための法案など60本程度の新規法案提出を予定しており、与野党の厳しい綱引きも想定される。
「経済も国際秩序も歴史的な転換点を迎えている。先送りできない課題に正面から向き合っていきたい」
岸田文雄首相は8日放送のNHK番組でこう強調した。
通常国会で政府は令和5年度予算案の3月末までの成立に万全を期す。野党は引き続き世界平和統一家庭連合(旧統一教会)や「政治とカネ」問題で政権を追及する構えだ。また、立憲民主党は反撃能力の保有について「容認できない」(泉健太代表)と対決姿勢を示している。
政府が提出予定の法案では、防衛費増額の財源を確保するための法案に注目が集まっている。国有財産の売却益などをためておく「防衛力強化資金」の設置を規定し、税以外で財源を賄う内容だが、自民党内の増税慎重派は、足りない部分の増税が確定しかねないと神経をとがらせている。萩生田光一政調会長をトップとする特命委員会でも法案を精査する方針だ。
また、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)実現のための関連法案を提出し、原発の最大限活用を進めていく。平成23年の東京電力福島第1原発事故後の政府方針を転換するもので立民や共産党は「原発回帰」にかじを切ったとして撤回を求めていく方針だ。
また、政府は強制退去処分となった外国人の収容長期化を解消する入管難民法改正案などの提出も検討している。
国会同意人事である日本銀行の総裁人事も焦点だ。大規模金融緩和を進めた黒田東彦(はるひこ)総裁は4月8日に任期満了を迎える。後任人事次第では安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」からの転換と受け取られ、自民安倍派(清和政策研究会)を中心に不満が高まり、火種となりかねない。
国会議論の行方は、4月の統一地方選や同月行われる見通しの3つの衆院補欠選挙にも影響しそうだ。
●考えよう! 日本の安全保障 1/10
1月23日に始まる通常国会で審議される来年度予算案は、財政難の中、歳出(国債費などを含む一般会計歳出)総額が114兆円と大幅に増えたことで話題となっています。11年連続で過去最高を更新し、初めて110兆円を突破したということです。中でも防衛費が一気に膨らみ、「防衛費はGDP(国内総生産)の1%を超えてはならない」というこれまでの不文律をあっさり破ってしまいました。今年は日本の防衛政策、安全保障政策が歴史的な大転換を遂げる重大な1年になると思います。昨秋、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中で、岸田文雄首相が「防衛力の抜本的強化」を明確に打ち出したからです。
政府は防衛政策の大枠を検討してもらうために9月に「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を立ち上げました。有識者会議は4回の会議を経て11月に報告書(11月22日公表)をまとめています。この報告書の趣旨にそってただちに防衛政策の中身の検討が開始されました。
事実関係を追いますと、政府はこの報告書を踏まえて12月16日、いわゆる防衛3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)を閣議決定しています。次いで12月23日、来年度の防衛予算案を組み込んだ「税制改正大綱」、続けて来年度予算案を閣議決定しました。
防衛3文書に基づき2023年度から5年間で防衛費総額を43兆円程度と現行計画(2019年度から2023年度までの5年間で27兆5,000億円)の1.6倍程度の規模にする目標を設定しました。この計画が実現すれば目標年度の2027年度の防衛費はGDPの2%程度とNATO(北太平洋条約機構)加盟国の目標に並ぶことになります。2023年度予算案の防衛費が急増したのは5カ年計画の初年度に当たるからです。具体的にみますと、来年度の防衛費総額(案)は今年度に比べ1兆4,192億円増の6兆8,200億円になっています。実に26%も増えているのです。この結果、来年度の防衛費の対GDP比は1.19%(今年度は0.96%)と大きく「1%の壁」を突破することになっています(政府経済見通しのGDPをもとに計算)。
この防衛政策、安全保障政策の大転換をどう考えたらよいのでしょうか。岸田政権の防衛力強化の考え方、内容を整理しておきましょう。11月にまとめられた政府の有識者会議の報告書は次のように述べています。
・インド太平洋におけるパワーバランスの変化や周辺国による変則軌道のものを含む相次ぐミサイル発射など日本の安全保障環境は厳しさを一段と増している
・日本および日本周辺での戦争を抑止し、力による現状変更を許さないという日本の意思を国内外に示し、有事の発生を防ぐ抑止力を確保しなければならない
・自分の国は自分たちで守るという当たり前の考え方を明確にすることは同盟国などからの信頼をゆるぎないものにするために不可欠である
・厳しい安全保障環境を考えるとき、なにができるかだけではなく、何をなすべきかという発想で、5年以内に防衛力を抜本的に強化しなければならない
・防衛力の財源は歳出改革を優先し、なお不足する部分については国民全体で負担すべきだ。国債発行が前提になってはならない
日本はこれまで平和憲法と日米安保条約のもとで、軽武装、専守防衛を標榜し、防衛コストを最小限に抑えてきました。米ソ冷戦時代は両陣営のもとで世界情勢は安定していました。社会主義帝国のソ連が崩壊し、天安門事件で経済制裁を受けていた中国がケ小平の南巡講話をきっかけに市場経済化に突き進んだ30年前、世界は1つになったという楽観論が広がりました。両国が豊かになれば、人々の間に民主主義が浸透し、もう専制国家の昔には戻らないだろう、という見方も有力でした。加えて日本では、唯一のスーパーパワーだったアメリカと緊密な同盟関係にあることから「日本は攻められることはない」とする考え方が一般通念になっていたといってよいでしょう。
しかし、国際ルールを踏みにじるロシアのウクライナ侵攻、習近平一極体制の中国の国内外への強権的行動、急速に核保有国となった北朝鮮の威嚇的行為、さらにアメリカ・パワーの相対的減退など、日本を取り巻く世界の安全保障環境は明らかに変わってきています。この点、有識者会議の報告書で示されている政府の認識はきわめて妥当だと思います。
問題は、重大な政策変更にもかかわらず、きわめて短期間に一方的に結論を出したことです。政治の場ではもちろん、広く国民の間で議論がないまま「1%の壁」が破られ、抑止力強化のために敵基地攻撃能力を保有することが固まったのです。拙速に過ぎると言わざるを得ません。「国民の覚悟を問う」議論がぜひとも必要でしょう。日本国民が防衛政策、安全保障政策を「自分ごと」として考えなければならないはずです。これまでのように専門家や関係者の間でのいわば抽象的な議論に終わらせてすんでいた時代は過去のものになったのです。
そのためには、巨大化する防衛費用をどうまかなうか、という財源論がキーポイントになると思います。いうまでもなく「国を守る」というサービスは、日本国民の誰ひとりも取り残さず、全国民に恩恵がおよぶ、経済学でいう「純粋公共財」です。だから税金でまかなう必要があるのです。この点は有識者会議の報告書でも触れている通りです。自民党の一部に当面は国債でまかなおうという議論がありますが、とんでもない暴論です。国防の便益を享受する今の国民が身銭を切ってまかなうべきなのです。痛みを受け入れてこそ本当に「自分ごと」になるからです。すでに紙数がつきましたが、この問題の門外漢の筆者も自分ごととして考えてゆきたいと思っています。
●麻生太郎氏 「防衛増税は国民の理解得た」発言に集まる憤激 1/10
1月9日、自民党の麻生太郎副総裁が福岡県直方市で講演し、岸田文雄内閣が打ち出した防衛力強化に伴う増税について、国民の理解を得られているとの認識を示した。
「もっと反対の反応が出てくる可能性もあると覚悟して臨んだが、多くの国民の方々の理解を得た。真剣に取り組んでいる(政府の)姿勢を評価していただいている」
ロシアによるウクライナ侵攻について「国連は何も機能していない。自国のことは自分で守らなければならないという現実が示されている」と指摘。
「ロシアが北海道に攻めてこないという保証はない」、「(中国は)台湾を支配する意欲をまったく隠していない。台湾への侵攻を開始する可能性は否定できない」と、危機感を示した。
そのうえで、「少なくとも防衛費の増強は、やむを得ない。それに伴って、ある程度、増税があり得るかもしれないということを含めて、私どもはこの問題に真剣に取り組んでいるという姿勢を評価していただいている。そう思って、私どもは、その方向で今、進めつつあります」と、増税への理解を求めた。
大阪市の松井一郎市長は1月10日、自身のTwitterに、麻生氏の発言を取り上げた記事を貼りつけたうえで、痛烈に批判した。
《麻生御大、増税の理解って、いくらなんでも無理筋ですよ》
政府は、2023年度から5年間の防衛費を43兆円に増額する方針で、法人、所得、たばこ3税を段階的に増税し、2027年度に1兆円超を確保する方針だ。1月7、8両日、JNNが実施した全国世論調査では、防衛費の増額について「賛成」39%、「反対」48%だったが、2027年度に1兆円超を増税で確保する方針には「反対」が71%に上った。
また、防衛費を増やすための財源については「増税」8%、「国債の発行」12%、を引き離し「他の予算の削減」が72%。さらに、岸田首相が増税の実施前に衆議院の解散・総選挙をおこない、国民に是非を問う必要があるか聞いたところ、「必要がある」76%、「必要はない」17%という結果になった。
麻生氏が、防衛増税について「多くの国民の方々の理解を得た」と発言したことが報じられると、SNSでは憤激する声が巻き起こった。
《何を見て多くの国民に理解を得たと判断してるのか 麻生太郎には何も見えてないんだろうな》 《「敵が来るぞ」と煽る危機感。「敵が来る理由」の合理的な説明はない。要するにこの人たち「とにかくヤバい」としか言ってない》 《防衛費増は理解できる。でも増税の前に政策に失敗してる政治家達の減給に特権の廃止・使途不明金をなくすのが先でしょ。そんなムダ金使ってたら共感は得られないし増税も認められないよ》
2022年6月には、日銀の黒田東彦総裁が、物価高について、講演で「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言。家計の苦境を軽視する発言として批判を浴び、「誤解を招いた表現で申し訳ない」と発言を撤回することとなった。麻生氏の発言は、果たして……。
●経団連会長、賃上げは「物価を最重視」 春闘対応方針 1/10
経団連の十倉雅和会長は10日の記者会見で、近く公表する経団連の「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」に令和5年春季労使交渉(春闘)に関連して「物価動向を一番重視し、持続的で構造的な賃上げを目指して企業行動を転換する絶好の機会」といった内容の表現を盛り込み、「企業の社会的責務」として大幅な賃金の引き上げを会員企業に求める考えを明らかにした。
経労委報告は春闘に臨む経営側の指針。同日開かれた経団連の会長・副会長会議で最終案が了承された。
今回の経労委報告について、会見で十倉氏は「『成長と分配の好循環』を実現しようというのが基本的な考え方」とした上で、賃上げに加えて働き方改革や円滑な労働移動の推進、多様性の浸透などを明記すると説明。さらに、企業が働き手から選ばれる魅力と、働き手の価値を共に高める必要性も打ち出すとした。
十倉氏は「日本はデフレマインドが染みついて値上げに消極的だったが、それが崩れてきている」として、デフレマインドの払拭が日本経済の転換に向けたポイントになると指摘。賃金と物価が適切に上昇する「賃金と物価の好循環」の実現に向け、「物価高に負けない賃上げを呼び掛けていきたい」と述べた。
一方、岸田文雄首相が表明した「異次元の少子化対策」の財源に関して「広く薄く社会全体で負担すべきではないか」と述べ、法人税などの増税で財源を賄う方針を政府が決定した防衛費増額とは異なる方式が望ましいとの考えを示した。
十倉氏は「少子化問題は『静かな有事』といわれ、日本の社会経済構造に大きな影響を与えるので、しっかり対応する必要がある」と指摘。対策は長期にわたるため「財政規律の問題もあり、安易に国債というわけにはいかない」と述べ、財源に国債を充てるべきでないとの認識を強調した。

 

●コロナとウクライナ、2つの危機で露呈した「MMTの弱点」 1/11
存在感薄れたMMT 世界経済はインフレ局面に
通貨発行権を持つ主権国家は財政赤字の増大によって破綻することはないとして、積極財政政策を掲げる現代貨幣理論(MMT)が、経済の長期停滞脱却の理論として少し前に話題になった。
日本でも、デフレで苦しむ日本が取るべき経済戦略を教えてくれる有望な理論として2019年頃、注目されたが、それから3年以上たった現在ではほとんど無視されているといってもよい。
新型コロナ感染禍でも米国をはじめ主要国で国債増発による大規模な現金給付など、MMTを地でいくような財政政策が行われてきたが、ウクライナ危機での資源価格高騰もあって、いまでは多くの国がインフレ抑制で懸命に政策のかじを切りはじめている。
どうして、そうなったのか。
その原因を探ると、市場経済における国家の役割と同時にその限界も見えてくる。
コロナ危機当初は高い期待 MMTを地でいった巨額給付金
MMTが強調するのは、(1)通貨発行権を持つ政府はデフォルトのリスクや予算制約はないということのほかに、(2)財政赤字は民間資産の増加、民間への資金供給になる(3)貨幣は税の徴収のために政府が流通させたもので、価値は政府の信用で支えられる(4)租税や公債は財源調達ではなく、資金供給や金利、購買力などを調整する手段―といった点だ。
財政の積極活用を肯定するケインズ理論など従来の経済学の考え方と変わらない部分もあるが、ケインズ理論が不況時に需要が不足している際の財政出動の必要性を言っているのに対して、MMTは財政赤字を平時でも活用して財政主導で経済を回そうという考え方がにじみでる。
とりわけ貨幣については、民間金融機関の信用創造や他国の経済や通貨との関係、国民の国家に対する信頼など、貨幣の流通をめぐる複雑な要因を捨象して、貨幣の本質を極めて単純化して捉えていることが特徴だ。
筆者は、MMTをそのまま財政政策に応用することには懐疑的だが、シンプルな仮定に基づいているおかげで、MMTの前提に立てば、こういう時にはどうするかシミュレーションしやすい。
それによって、どういう政策にどういう原理的な問題があるのか考えるヒントが与えられ、思考実験をするのには有用だと思っている。
主要国では長期停滞といわれる時期が続いてきたが、2020年春からのコロナ禍でも、MMTに対する期待が高まった。
感染拡大で多くの国がロックダウンなどの行動制限を導入して外出や営業が抑えられたため、リモート対応に特化した一部のIT企業や医療産業などを除いて、企業活動は停滞し、収入が低下する人や職を失う人が増えた。
リーマン・ショックに匹敵する経済危機に対応するため、欧米や日本も財政均衡を無視して、債務証書(貨幣+国債)を大量に発行し、巨額の現金給付や支援事業が行われた。
事実上のMMT政策が、2年以上にわたって実行されたわけだ。財政赤字を気にする必要はない、と堂々と主張するMMTは頼もしく思えた。
貯蓄は増えても消費に回らず 米国では供給制約でインフレに
ただしコロナ禍での財政赤字拡大は、財政政策というよりは不可避的な措置であり、MMTが積極的に追求しようとする財政政策とは異なる。
MMTは、市場経済を前提にし、国家が債務証書を発行し、財政支出を通じて需要を作ったり貨幣を供給したりして、それを国民(納税者)に(納税の手段として)受け取らせることができるようにする。
財政が主役となって経済を望ましい状態に維持し、国家経済が回るようにすべきだというのがMMTの基本的な考え方だ。
とりわけ、これはケインズ理論も同じだが、需要と供給のアンバランスのせいで、資源や労働力が有効活用されずにいる状態の際は、国家の役割が必要だということになる。
しかし、コロナ禍で政府が財政を通じて給付するのは、休業などで売り上げや所得が激減した企業や家計が生き残りや生活を維持するためで、財政からの支出が消費を刺激し、生産を拡大するために用いられる可能性は低い。
早期に生産活動が再開されないと、赤字が増えるだけで、資源や労働力は十分に有効活用されないままだ。それどころか、企業の稼働していない生産体制が劣化し、労働者のスキルが落ちる恐れもある。
実際、日本では家計に給付された一律給付金は消費にそれほど回らず貯蓄が増えただけだったということが確認されているし、企業向けの持続化給付金なども不正受給が問題になったものの、給付金が前向きな投資に使われたという話は聞かない。
米国で景気がいち早く回復したのは、バイデン政権の家計への給付金や雇用補償金など、従来の慣例にとらわれない大型経済対策を――日本とは違って――速やかに実行したからだといわれている。
しかし需要回復の一方で、サプライチェーンの分断や物流の混乱、さらにはコロナ禍で離職した人が労働市場に戻らないなどの供給面の制約でインフレが高まることになった。
ウクライナ危機でインフレ加速 主権国家のコントロールに限界
MMTは中長期的にも財政を均衡させる必要はないとしているが、ただし財政赤字を無条件に肯定しているわけではない。インフレのリスクは認識しており、民間の生産能力を超えて財政出動をすることは否定する。
生産手段や雇用などの資源の活用につながる形で物価が上昇するのならいいにしても、これはMMTから見ても、望ましくないインフレだった。
そしてその後、ようやくコロナ禍が終息しそうな雰囲気になってきた2022年2月に起きたのが、ロシアによるウクライナ侵攻だった。
戦争それ自体と、ロシアに対する各国の経済制裁のために、エネルギーや食料を中心に物価が一段と高騰し始め、欧米では2桁に近いインフレ状況になった。
このインフレは、(軍需産業などを除いて)資源の有効活用にはつながりそうにない。MMTにとっても明らかに悪性のインフレということになる。
ただ、ウクライナ危機がインフレの主要な原因かについては議論の余地がある。
渡辺努・東大教授は近著『世界インフレの謎』(講談社現代新書)で、2021年春頃からすでにインフレ傾向が始まっていて、ウクライナ危機はインフレを加速させたが、主要な原因ではないと主張している。
渡辺教授ははっきりと原因を特定していないが、コロナ禍で、人々の経済行動が根本から変化したことで、従来の需給均衡のメカニズムが効かなくなったのではないかと示唆している。
例えば、リモートやソーシャルディスタンスに対応した商品やサービスへの需要が増える一方で、そうした分野で働こうとする人、そこに投資する企業が増えなければ結果的に需要が過剰になるというわけだ。
いずれにしても、いまのインフレが、パンデミックと戦争という、いかなる主権国家も自らの意思だけでコントロールできない二大要因の連鎖によって引き起こされているのは、間違いない。
MMTの立場からしても、インフレを抑制する必要があるが、インフレの原因が単なる貨幣の供給過剰と見るのであれば、増税か財政出の削減で抑え込めばいいということになるが、それは現状とはあまりにもかけ離れている。
むしろインフレ退治を唯一の目的にした過激な政策を取れば、コロナ禍から回復しきっていない経済に更なるダメージを与えることになる。
スタグフレーション突入の懸念 増税はさらに事態を悪化させる
実際、欧州諸国は、米国ほどコロナ禍から経済が回復していない状況で、生産活動の停滞と物価高というスタグフレーションの懸念が強まりつつあるといわれている。
日本は、アメリカやEUほどインフレ率が高くはないが、それでも、CPI(消費者物価指数、除く生鮮食品)は15カ月連続で上昇し、直近の11月は前年同月比3.7%増と1981年12月以来の高さだ。
第四次中東戦争に起因するオイルショックの打撃を受けたまさにスタグフレーションの時代以来の上昇幅であり、戦争とその機に乗じた資源価格値上げがきっかけになった点で、現在の状況と似ている。
不況で、収入が減るのに、物価が上昇し続ければ、人々の生活はどんどん苦しくなる。
従来の経済学では、物価が上昇するにつれて、失業率が減少することを示すフィリップス曲線に基づいて、財政や金融政策を決定すべきだとされていたが、スタグフレーションになると、フィリップス曲線通りに経済は動かなくなる。
渡辺教授は、失業率の改善に対するインフレの上昇幅の比率が従来よりも大きくなっているため、政府や中央銀行のインフレへの対処が遅れた、と分析している。
いずれにせよ、スタグフレーションへの懸念が強まりつつあるこの時期に増税を断行すれば、何が起こるか分からない。
就業保証プログラムの二つの困難 事業の選定や賃金水準をどう決める
MMTは、フィリップス曲線が頼りにならない現状に対して、どういう処方を考えるのだろうか。
MMTはもともとフィリップス曲線を絶対視しておらず、JGP(Job Guarantee Program:就業保証プログラム)によって、インフレ率と失業率を同時にうまくコントロールできると主張する。
JGPとは、政府が資金を出して、地方のインフラ整備など公共性の高い領域で、失業者を一定の賃金水準で雇用できるようにするというものだ。
中央政府は賃金を保証するだけで、運用は地域のニーズを知っている地方公共団体に任せる。
不況になると、JGPの利用者が増えるので、政府の財政支出も増えるが、好況になると、民間企業がそれ以上の賃金水準で人を雇うので、JGPの利用者は減り、財政支出も減る。
これによって、失業率と財政支出(によるインフレ)のバランスが自動的に取れ、悪性インフレに陥ることなく、完全雇用を目指す政策が可能になる。
加えて、JGPは職業訓練と就労の習慣の維持につながるので、長期失業によって労働力の質が低下するのも避けられると、MMTは主張する。
これは一見理想的に見えるが、JGPには二つの問題がある。
一つは、地方に事業の選定を任せるとしても、地方の担当者たちは、どうやって地域のニーズに合う事業とそうでないものを判別するのか、という問題だ。
もう一つは、政府が保証する賃金水準をどう決めるのか、という問題だ。
賃金が低すぎると雇用維持や景気浮揚の効果はあまりなく、従来からある失業対策のための公共事業と大差ないだろうし、高すぎると、景気の動向に関係なく多くの人がJGPにとどまることになるだろう。
また、JGPが効率よく成果を上げることを考えれば、すべての人が同一賃金というわけにはいかず、技能の種類とその時々のニーズで差を付けざるを得ないだろうが、これを決めるのはかなり難しい操作になるだろう。
国民全体の雇用状況や生活水準と、企業の設備投資動向などとの間の相関関係に関するデータを広く収集し、最も均衡が取れた状態を導き出したうえで、それを再現するように、プログラムの初期設定をした場合だろうが、これは至難の業になるだろう。
戦争やパンデミックで、サプライチェーンが寸断されたり、消費と労働を中心とする人々の行動変容が起こったりしているとすれば、プログラムの初期設定が狂ってしまうので、JGPが機能不全に陥りそうだ。
どこでどのように、どれくらいの時間働きたいのか、そして生活において何を必要とするかに関する人々の志向や、世界的な人と物の流れが急速に変化した時には、MMTは対応しきれない。
パンデミックなどでの経済行動の変容 経済理論だけで「解」は出ない
MMTは、グローバルに発達した資本主義市場経済で、需給のアンバランスが生じて不況になった時などに、国家に何ができるか、何をすべきかを考えるうえで、有用だ。
しかし、あくまでも、国内の(市場)経済の視点から財政の機能や役割、経済政策について考察する理論だ。新型コロナのパンデミックや、ウクライナ危機のような資源・軍事大国が深く関与した戦争のような事態が起こると、その理論的な弱点が目立ってくる。
もちろん、これはMMTだけの課題ではない。ケインズ理論なども一国の国民経済を対象としたものだし、ゼロコロナ政策と成長減速の間で揺れ動き、国民の不満が強まる中国のような統制的な経済体制についてもいえることだ。
戦争やパンデミックのような経済外の出来事によって、エネルギーや食糧価格が急騰、医療などの社会的インフラやサプライチェーンが機能不全に陥り、さらにその余波で、人々の経済行動が変容する時、国家はどう振る舞い、どのような対応や政策をすればいいのか、正解を出すのは難しい。
経済学だけでなく、政治学や人類学の知見も動員して考えるべき問題なのだろう。
●年頭の社説 産読「安保政策転換を評価」 毎日「国民的な議論を欠いた」 1/11
ロシアによるウクライナ侵略が越年し、北朝鮮は従来にない頻度でミサイル発射を重ねた。尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国は、武力による「台湾統一」を否定しない。日本をめぐる安全保障環境が格段の厳しさを増す中、主要各紙の元日付社説は、昨年末に決まった防衛力の抜本的強化など、日本が取るべき備えや国際社会での役割について提起した。
通常の「主張」に代えて論説委員長の署名論考を掲載した産経は、防衛力の抜本的強化が岸田文雄政権で進められている理由とその意義を「日本が努力しなかったら、戦後初めて戦争を仕掛けられるかもしれない。戦争したくないから抑止力を高めようとしているんですよ」とかみくだいた書き出しで解説した。
反撃能力の保有や5年間の防衛費総額43兆円などを盛り込んだ国家安全保障戦略など安保3文書を「安保政策の大きな転換で岸田首相の業績といえる」と評価したうえで、「今年は3文書の抑止力強化措置を講じる最初の年だ。令和5年度予算成立なしには防衛費増額も始まらない。関係者の努力や同盟国米国との協力が重要だ」と強調した。
一方で一部野党やメディアが主張する「先制攻撃になる恐れ」などの反対について、「理由なく相手を叩(たた)く先制攻撃が国際法上不可なのは自衛隊も先刻承知だ」と一蹴し、「反撃能力の円滑な導入を論じてほしい」と説いた。
読売も「備える力」の重要性を訴えた。「うかつに手を出したら手痛い反撃にあい、損害がわが身に及ぶとわかっていれば、無謀な攻撃に踏み切る可能性は低くなる。万一に備える防衛力の強化こそが、カギとなる」とし、「その備える力を、いま最も必要としているのが日本である」と論じた。
ロシア、中国、北朝鮮という日本周辺の3カ国が独裁体制を固めて日本への挑発行為を繰り返していることを取り上げ、「これまでの、『迎撃』本位の防衛体制では対応しきれない。日本を取り巻く安全保障の環境が一変したのだ」と指摘した。そのうえで「政府が『反撃能力』の保有など、防衛政策の大転換となる新しい安全保障政策を決定したのは当然だ」と断じた。
原発の新増設方針も含めたこれら政策転換の決定過程に異を唱えたのは毎日だ。同紙は「看過できないのは、危機を口実にした議会軽視である。日本では、専守防衛に基づく安全保障政策の大転換が、国会での熟議抜きに決定された。国民的議論を欠いたのは原発の新増設方針も同様だ」と批判した。
日経は「岸田文雄首相は昨年末に相次いで決めた防衛力強化や原発新増設などの大きな政策転換について、国民に丁寧に説明し理解を得る努力が必要になる」と主張した。
朝日は戦禍で暮らすウクライナの人々の願いや訴えを詳細に紹介するとともに、先人が模索し続けてきた「国家の暴走を止めるための仕組み」が機能しない現状を憂える主張を掲載した。
「眼前で起きている戦争を一刻も早く止めなければならない。そしてそれと同時に、戦争を未然に防ぐ確かな手立てを今のうちから構想する必要がある」とし、「英知を結集する年としたい」と述べた。ただし、岸田政権の安保政策への言及はなかった。
日本は今年から国連安全保障理事会の非常任理事国を務め、5月には議長国として広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)を主催する。日経は「政権発足時に『分断から協調へ』を掲げた岸田首相の真価が問われる年になる」とし、読売も「平和を再構築する作業を始めねばならない」「日本はその先頭に立つべきだ」と訴えた。
主要各紙の年頭の社説
【産経】年のはじめに/「国民を守る日本」へ進もう
【朝日】空爆と警報の街から/戦争を止める英知いまこそ
【毎日】危機下の民主主義/再生へ市民の力集めたい
【読売】平和な世界構築へ先頭に立て/防衛、外交、道義の力を高めよう
【日経】分断を越える一歩を踏み出そう
【東京】年のはじめに考える/我らに「視点」を与えよ
●防衛増税「先送り」の見切り発車で高まる、なし崩しの国債増発リスク 1/11
防衛費増強、見切り発車 増税は「24年度以降」に先送り
2023年〜27年度の防衛費総額を43兆円に増やすことが閣議決定されたが、「規模と中身と財源を一体で決める」という岸田文雄首相の当初の方針にもかかわらず、実際には規模を先に決めた上で財源の議論に終始した。
とりわけ政府が財源の一部に増税を充てる考えを示し、短時間での決着を目指したことが、与党内の反発を招き、昨年末にまとめられた与党税制改正大綱では、増税は「24年度以降の適切な時期に実施」とし、来年度に改めて具体策を議論するという問題先送りの着地になった。
防衛増税のほかにも財源確保の手段として挙げられた歳出削減や決算剰余金の活用も具体的なことは決まっていない一方、艦艇などの防衛装備品の調達でタブーとされてきた建設国債が充てられることにもなった。
財源確保のめどが立たないまま、防衛力増強が23年度から見切り発車で始まる。
「取りやすいところから取る」 増税では受益と負担の議論深まらず
増税案は、法人増税、所得増税、たばこ増税の3つの項目を組み合わせで、2027年度までに1兆円強の財源が捻出される。
法人増税は、納税額に4.0%〜4.5%を上乗せする付加税方式となる。法人税額から500万円を引いた額にこの税率を掛けるため、納税額500万円以下の中小企業は増税の対象とならない。
所得税については、現行2.1%の復興特別所得税の税率を1%引き下げる一方、37年度までの期限を13年間延長することで総額を変えないようにする。
その上で、1%分を防衛費の財源に充てる。合計の税率は2.1%で変わらないが、復興特別所得税の支払期間を延長することで、実質的な増税策となる。
新たな歳出増加を賄うために適切な増税項目を選択する際には、「応益原則」と「応能原則」という2つの考え方がある。
新たな歳出増加、つまり政府サービスの利益を受ける人や企業が負担するのが応益原則、負担する能力がある人や企業が負担するのが応能原則だ。
これは財政学での基本的な考え方だが、現実には、「取りやすいところから取る」という3番目の選択肢が取られることが少なくない。
今回の増税案でも、この3つの考え方が組み合わされた。
たばこ増税は取りやすいところから取るものだ。特に喫煙者が防衛費増額の負担をすべきという理由はない。
ただ、たばこ増税によってたばこの消費量が減れば、健康を害するリスクが下がるということなどから、国民に比較的受け入れやすいということなのだろう。
また、大企業を中心にする法人増税についても、大企業は巨額の利益を上げる一方で、それを賃上げなどで労働者に還元していないとの認識が国民の間に広がっていることから、やはり国民に受け入れやすい増税項目となっている。
他方、大企業中心の法人増税としたところは、応能原則に従っているといえる。そして、防衛力強化のメリットを受けるのは、企業や個人の全体だから、応益原則に照らせば、法人税と所得税が組み合わされるのは自然ともいえる。
ただし増税の選択は、応益原則を基本とし、必要に応じて応能原則を取り入れるのが適切だ。「取りやすいところから取る」という増税の在り方は大いに問題である。
不安定な財源の設計の下 先行き大きな財源不足の懸念
懸念されるのは、こうした形で増税の枠組みは作られたものの、2024年以降も実施の先送りが繰り返され、結局、増税が行われないという可能性だ。
世界経済の減速によって、おそらく23年の日本経済の状況はかなり悪化する可能性が予想される。その場合、23年中に増税実施時期が24年度とは決まらず、またまた議論が先送りされる懸念がある。
そして先送りが繰り返される中、なし崩し的に国債発行で防衛費増額分が賄われていくことにならないのか。
政府が、増税以外に防衛費増強の財源確保の手段として掲げているものにも、実効があやしいものがある。
政府は27年度までに防衛費が4兆円程度増加し、その財源として1兆円強を増税で見込むほか、1兆円強を歳出削減、7000億円程度を決算剰余金の活用、9000億円程度を防衛力強化資金で賄うとしている。
しかし、27年度までに1兆円強の歳出削減ができるのかは明らかでなく、いまだ具体策も示されていない。
また、決算剰余金や、特別会計の決算剰余金、国有財産の売却などによる防衛力強化資金も非常に曖昧な財源確保の手段だ。
毎年の剰余金の額は変動が大きい上に、そもそも今でもその一部は一般会計に繰り入れられている。それを新たに防衛費増額の財源と位置付けるだけに終わり、実際には新たな財源確保にはならない可能性もあるだろう。
そして、国有財産の売却などは、明らかに1回限りの財源でしかない。
結局、27年度で3兆円程度が歳出削減や決算剰余金、防衛力強化資金の3つで確実に賄われる保証はなく、また27年度以降についてはそのリスクはさらに高まるだろう。
その場合、仮に1兆円強の増税実施が決まっても、それだけでは防衛費増額分を賄えなくなることから、穴埋めに国債発行がなし崩し的に行われる可能性が高まる
タブー破った23年度防衛予算 艦艇建造に初めて建設国債
防衛力増強の初年度となる2023年度予算案では、ほかにも、将来の国債発行のさらなる拡大につながりかねない、気になる点があった。
それは、艦船など一部の防衛装備品の経費に建設国債が充てられたことだ。
昨年末の防衛費の財源議論でも、一時は建設国債を防衛施設の更新・修繕などの費用に充てることが検討されていた。
23年度当初予算案で防衛装備品一部に建設国債が充てられたことで、今後、防衛費増額の財源で建設国債の対象をさらに拡大させるといった声が強まることになる可能性がある。
橋や道路のように、将来世代もそれを利用し利益を受ける政府の歳出については、将来世代もその費用を負担するのが妥当だとの考えから、60年間で完全に償還される建設国債が充てられてきた。
防衛関連費の中にも将来世代が利益を受ける部分が全くないとは言い切れないが、それでも、防衛関連費を建設国債で賄うことを今まで政府は避けてきた。
国債発行で戦費を調達し、戦争を継続・拡大させてきた、第2次世界大戦あるいはそれ以前の教訓を踏まえてのことだったはずだ。
23年度予算で建設国債の対象となる防衛装備品は、運用期間が数十年間と比較的長い護衛艦や潜水艦といった防衛装備品であり、航空機は対象外だという。
しかし、技術進歩が激しい軍事分野で、装備品の多くは比較的早期に陳腐化してしまう。60年間で完全に償還される建設国債で賄うのにはなじまないのではないか。
防衛関連費の中のごく一部については、建設国債を財源にすることが正当化されるかもしれないが、重要な問題は、防衛費は建設国債で賄わないという政府が長らく堅持してきた方針を変更することが、さらなる国債増発に道を開いてしまうリスクだ。
“拡大解釈”が進んでいかないか タガが外れる危険、監視が必要
今回の建設国債発行は、自民党内の保守派が主張したと考えられるが、一部の装備品で実現したことを理由に、今後の防衛費増額についても、増税ではなく建設国債の発行で賄うべきとの議論を展開していく狙いがあるのかもしれない。
さらに、防衛関連費を建設国債で賄うことが認められれば、その他の予算項目でも、将来世代が利益を受けるのだから、建設国債を賄うことが妥当との議論が安易に広がることにもなりかねない。
すでに教育費を国債で賄うべきとの主張をしている野党がいる。現在の教育関連支出が将来の教育水準を高め、それが将来の経済成長を後押しすれば、将来世代もその恩恵に浴することができるとの考えなのだろう。
こうした考えをさらに発展させれば、社会保障給付のような支出でも、社会の安定や治安の安定につながり、そうした安定した社会が将来に継承されることで将来世代もその恩恵に浴することができるといった解釈も可能となってしまうだろう。
だが現実には現在政府が行っている公共サービスの大半は、現役世代がその利益を受けており、現役世代がその対価を払うべきものだ。
長らく堅持された防衛費に建設国債を充てないという方針を撤回することで、一気にタガが外れてしまい、多くの分野で国債発行が正当化されるリスクはないのか。
上記のような拡大解釈が展開されていく中、国債増発が正当化され、将来世代への負担の転嫁が一段と進むようなことにならないよう、防衛費を賄う建設国債の発行が、今後の議論にどのように影響していくかについて、国民はしっかりと目を光らせておく必要がある。
国債発行がなし崩し的になる 最も望ましくない方向に道を開く
防衛費増額を増税や歳出削減、国債発行のいずれの手段で賄うとしても、それは国民の負担となる。フリーランチはあり得ない。
歳出削減や増税は現在に生きる国民の負担であり、国債発行は将来世代も含めた国民の負担だ。このことを正確に理解した上で、どのような財源で賄うのかは、国民が最終的に判断しなければならない。
さらに防衛費増額について、国民がその大きな負担を受け入れるには値しない、あるいはその負担が経済や生活に大きな打撃を与えてしまうと考えれば、防衛費増額の妥当性を改めて検証するというプロセスが必要だろう。
岸田首相が当初示した防衛費増額は規模、中身、財源の3つを一体で決めるという方針はまさにそういうことを意味するのだろう。
しかし実際には、中身と財源よりも規模が先に決まってしまい、負担を踏まえて規模を再び検証するという機会は失われてしまったのだ。
今回の防衛費増額は、その妥当性や負担の在り方を国民が明確に判断しないまま、先行き、なし崩し的に国債発行で賄われる部分が広がり、将来世代に負担が転嫁されていくという、最も望ましくない方向に道を開く決着になったといえないか。
国会での予算案審議はこの点を徹底的に議論する必要がある。
●日銀緩和修正の副作用 / 市場機能改善も財政圧迫に懸念  1/11
日本の10年物国債利回り(長期金利)は日銀が許容する上限の0・5%程度に達している。日銀が17、18の両日に開く金融政策決定会合でさらなる金融緩和の縮小に動くかを金融市場は注視する。ただ金融緩和の修正は国債や社債などの市場機能改善につながる半面、財政の圧迫や日銀の財務に影響を及ぼす副作用を伴うことに留意したい。
日銀は2022年12月の決定会合で金融緩和を修正し、10年物国債利回りの許容変動幅の上限を0・25%程度から0・5%程度に上げた。政策変更を受けて長期金利は上昇し、財務省が1月発行分の10年物国債の表面利率(額面価格に対する利率)を前月比2・5倍の0・5%に引き上げるなど、日銀が上限とする金利水準に達している。
金利上昇の余地がなくなったことで、日銀が次回会合で再びサプライズとなる政策修正に動くかを注視したい。ただ、政策の修正はプラス、マイナスの両面がある。プラス面は市場の歪みを是正し、市場機能を改善できることだ。日銀は前回の決定会合まで10年物国債を大量購入し、10年物の利回りは他の国債より突出して低下幅が大きかった。日銀が10年物利回りの抑制を緩和することで歪みは改善される。市場動向を反映した柔軟な政策修正が求められる。
ただ日銀が長期金利の上限をさらに引き上げれば、それだけ財政は圧迫される。金利が1%上昇すると、政府による国債の元利払いは25年度ベースで想定より3・7兆円増加するという。政府は決算剰余金の一部を防衛費の増額財源に充てる方針だが、金利上昇で剰余金が目減りする事態も想定されてくる。
日銀が保有する国債の評価損も膨らむ。金利1%上昇で日銀の保有国債に28・6兆円の評価損が発生するという。また金融機関が日銀に預ける当座預金の利払い負担も増えるなど、財務面での副作用が懸念される。
政府による大量の国債発行を日銀が引き受ける大規模金融緩和は限界を迎えている。金融政策の正常化を見据え、政府には確かな財政健全化計画を早期に打ち出してもらいたい。
●岸田政権が少子化対策の財源に保険料値上げ画策 1/11
“異次元の負担増”が到来するのか。政府・与党が新たな少子化対策の財源として、年金、医療、介護、雇用の社会保険料の引き上げを画策している。
政府・与党が検討しているのは、非正規労働者らを対象に子育て支援を給付する制度の創設。月額保険料を国民1人あたり数百円程度引き上げ、拠出金を積み立てる。来年の通常国会への法案提出を目指しているという。
実際、岸田首相は8日のNHK「日曜討論」で、少子化対策の財源をめぐり「雇用保険、医療保険をはじめ、さまざまな保険がある」などと指摘。公明党の山口代表も同番組で、「保険も含めて幅広くさまざまな財源を確保していく議論が必要」と岸田首相に同調する姿勢を見せた。
子育て支援の財源を子育て世代にも求める“異次元”の計画に、ネット上は〈子育てのための金を子育て世代から金巻き上げてどうする〉〈国民への押しつけじゃん〉などの批判が続出。子育て世代だけでなく、子どもがいない人や高齢者も負担増となる。経済ジャーナリストの荻原博子氏がこう言う。
「現状でも社会保険料の引き上げが続いています。増税や保険料アップで給料の手取りが減る中、ただでさえ新型コロナ禍と物価高のダブルパンチに見舞われているのに、さらなる保険料の引き上げは国民の理解を得られるとは到底思えません。本当に少子化対策に取り組むつもりなら、一時給付金などではなく、奨学金を返済不要にするとか、教育無償化を推し進めるとか、切れ目のない支援が必要です」
中学生以下の子どもに1人あたり原則1万〜1万5000円を支給する「児童手当」はあるが、その前身である「子ども手当」の創設に伴い、16歳未満の子どもに対する年少扶養控除が現在も廃止されたまま。児童手当には所得制限があるため、子育て世代の負担はむしろ重くなっている。
行きつく先は「所得倍減」
「控除を復活させたら拍手喝采でしょうが、財務省主導の岸田政権が復活させることはないでしょう。行きつく先は『所得倍増』どころか、『所得倍減』ですよ」(荻原博子氏)
最新のJNN世論調査によれば、5年間で約43兆円を目指す防衛費増額について、「反対」(48%)が「賛成」(39%)を上回った。国民の声は防衛費より子育て予算だ。年少扶養控除の廃止に伴う増収分は、所得税と住民税を合わせて約9000億円。岸田首相は今こそ国民の声に耳を傾け、控除復活に防衛費を回したらどうか。
●少子化対策めぐり 菅氏「消費税は全く考えてない」 1/11
菅前総理大臣は少子化対策の財源を消費税の増税で賄うことについて「全く考えていない」と強く否定しました。
菅前総理大臣「消費税を増税してそこ(少子化対策)をやることは全く考えていません。ただ、少子化対策は極めて重要だと思います」
少子化対策を巡って自民党内では甘利前幹事長が消費税に言及していて、菅前総理はこれを批判した形です。
菅前総理はまた派閥の在り方に触れ、政治家は自らの理念や政策を重視すべきで「派閥の意向を優先すべきでない」と強調しました。
岸田総理が派閥会長を続けていることについては「歴代総理は派閥を出て総理を務めた」と苦言を呈しました。
●菅前総理「消費増税は全く考えていない」少子化対策の財源めぐり 1/11
政府が進める「異次元の少子化対策」の財源をめぐり、菅前総理は訪問先のベトナムで記者団に対し“消費税の増税は全く考えていない”と話し、財源を消費税の増税で賄うことに否定的な認識を示しました。
菅義偉前総理「消費税を増税してそこ(少子化対策)をやるという、そういうことは私自身全く考えていません」
岸田政権が掲げた「異次元の少子化対策」の財源をめぐり、菅前総理はこのように述べ、消費税の増税による財源の確保に否定的な認識を示しました。一方、「少子化対策は極めて重要だ」として、少子高齢化対策を自身の今後の政治活動の中心のひとつに据えていく考えを示しました。
政府は児童手当など経済的支援の拡充や育児休業制度の強化などに向けて、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめる予定ですが、その裏付けとなる財源の確保が課題となっています。
●「まずは国会議員から取り上げろ」橋下徹氏の “ナイスツッコミ” に賛同の声 1/11
元大阪府知事の橋下徹氏が1月6日、自身のTwitterを更新した。
《国民負担の前に、国会議員の特権の旧文通費約70億円、立法事務費約50億円、各党政党交付金剰余(内部留保)金数十億円、政治資金領収書不明金(組織活動費)数十億円を取り上げるところから》
このツイートは、産経新聞が報じた「少子化対策財源、消費増税も検討対象 自民税調幹部の甘利氏」という記事を引用し、「まずは国会議員の経費のムダを見直すことから始めよ」とするものだ。
甘利明・自民党前幹事長は、1月5日放送のテレビ番組で少子化対策の財源について、「将来的には消費税率引き上げも検討対象になる」との認識を示したことが話題となっている。
橋下氏は続けて、《開催されていない特別委員会の日当や公用車費用もまず廃止》《JR乗り放題パスも廃止》と、ツイートした。
橋下氏は同日、やはり産経新聞の「自民、防衛増税以外の財源探し特命委 萩生田氏トップ」との記事を引用し、同様の投稿をおこなっている。こちらも、防衛費増額の財源探しの議論以前に、国会議員の無駄遣いをやめよというものだ。
これらのツイートに対し、SNSでは《橋下さんの言う通り、特権的なものをまず廃止して、税金の無駄遣いもやめて、尚且つ必要なところにお金が足りないなら我慢します!》《その通りです。領収書いらない公金てなに?》《国会で寝ている議員数の削減も必須》《やること、やってくれたら年棒1億でもいいと思うよ。公約や日本のGDPxx%成長させたら年棒アップ、未達成なら減棒とかいいんじゃない》《なんでこの国はそんな簡単な事ができないんですか?》など、賛同するコメントが多数集まっている。
国会議員には給与とは別に月額100万円の「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)が支給される。2021年10月の総選挙では、当選した新人議員が在職1日で1カ月ぶんの100万円を満額支給されたことが問題となり、その後、名称を変更し日割り支給するよう法改正された。だが、領収書は不要で、使途報告や残金返還の義務はなく、議員にとって「第2のサイフ」と言われている。
立法事務費は、議員個人ではなく各会派に所属議員の人数に応じて支給されるもので、月額は議員ひとりあたり65万円。これも領収書の提出や使途報告の必要はないことで、「第3のサイフ」と言われ、不透明な政治資金の温床になっているという指摘もある。
国会議員の給与は月額129万4000円(コロナ禍で2割削減中)。300万円以上のボーナスが年に2回。JRは乗り放題、議員宿舎もある。 
「まず隗(かい)より始めよ」ということだ。 
●全国旅行支援再開 「政府はある程度の犠牲は仕方ないと判断」 1/11
年末年始に中断していた政府の観光活性化策「全国旅行支援」が1月10日、再開された。
割引上限額は、交通と宿泊がセットの商品の場合5000円、宿泊のみか日帰りの場合は3000円。飲食やお土産を買う際に使える地域クーポンは、平日2000円分、休日1000円分がもらえる。同支援は、都道府県に割り振られた予算がなくなり次第、順次終了。3月末ごろがメドとされる。
斉藤鉄夫国土交通大臣は、2022年11月の会見で、同支援により「コロナ前の賑わいを取り戻した観光地もあるなど、全国的に需要喚起の効果があらわれているものと認識」していることを強調し、観光は今後の「日本の経済の柱になるべき項目であり、地域振興の意味でも重要な産業の柱のひとつ」として、年明け以降も実施していく、と宣言していた。
しかし、SNS上での国民の声は厳しい。
《今のタイミングで? 連日死者過去最大を記録してるのに? 新規陽性者数世界一なのに?》《別に今のご時世、行きたい人は勝手に旅行行くんだし、支援しなくてももう新幹線だって飛行機だって乗車率回復してたよね? 子育て支援に全振りしてもまだ足りないくらいなんだから》《いや、それ以上に苦境に喘ぐ業界はないの? 一度こっきりの支援金で「自助共助」で喘ぎ続けてる困窮者は?看護師さん始めとする医療従事者は?保育士、介護士さんは?》
新型コロナウイルスに感染し、亡くなる人の数が過去最多を記録する自治体も登場し、そのほかにも物価高や少子化など、差し迫る課題があるなか、旅行支援の必要性、実効性はどこまであるのか。
経済アナリストの森永卓郎氏は、今回の支援再開を「超経済優先」の発想だと指摘する。
「経済効果があるのは間違いないんですよ。これだけ感染者が増えているということは、人が動いているということですから。2020年7月にスタートした『Go To トラベル』は、税金を使って感染を拡大させたと猛批判され、今回も同じことが起こっているのですが、前回と違うのは、政府は口では言いませんが、高齢者や基礎疾患をもつ人がある程度、犠牲になるのは仕方ないと判断した、という点です。第8波の死亡者数は過去最大になるのはほぼ確実で、1カ月あたり2万人以上が亡くなるかもしれないなか、超経済優先の方針になったということです。かつて日航機がハイジャックされたとき、実行犯は拘束中だった日本赤軍メンバーの釈放と引き換えに乗客を解放すると要求し、政府はそれに応じたわけです。その理由について、当時の福田赳夫総理は、『人命は地球よりも重い』と言ったんですね。私は日本はそういう国だと思っていたんですが、それが大きく変わったということだと思います。つまり、経済は人命よりも重いんだという判断を岸田内閣は事実上、したということ。私も2022年に高齢者の仲間入りをして、『年寄りよりも経済』というのは個人的には賛成しかねます。一部の医療機関はもうパンパンになってしまっていて、これ以上増えると対処できないと悲鳴を上げている状況で、もし私が政権を握っているなら、とりあえず予算を先送りし、この段階での支援の再開はしません」
本当に人命を犠牲にして経済を優先させる発想なら、日本はかなり危険な国家となったということか……。
●先制攻撃をしないためにこそ必要な核抑止力 1/11
【まとめ】
・岸田政権が「安保3文書」を閣議決定した。各政党からは『反撃能力』について様々な意見が出た。
・問題は、中国や北朝鮮が日本に対し「核の恫喝」に出てきた場合である。
・英国型の独自核抑止力を整備すべき。すなわち潜水艦に核弾頭搭載ミサイルを装備し潜行させる「連続航行抑止」という戦略である。
岸田政権が国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定(2022年12月16日)したことを踏まえ、同12月20日、立憲民主党が「外交・安全保障戦略の方向性」と題する文書を発表した。
玄葉光一郎元外相(ネクスト外務・安全保障大臣)が中心になってまとめたという。
その中で、「我が党は、政府与党が容認したスタンド・オフ防衛能力等による『反撃能力』については以下の懸念を持っている」として、こう述べている。
《政府見解では、「我が国に対する攻撃の着手」があれば先制攻撃にあたらないとされているが、正確な着手判断は現実的には困難であり、先制攻撃となるリスクが大きい》
これは理論的には正当な懸念である。
後で触れるように、政府の安保3文書は「着手」の時点で反撃とは書いておらず、「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、…更なる武力攻撃を防ぐために」としているが、ともあれまず、政界におけるここ数年の議論を振り返っておこう。
2021年9月19日、自民党総裁候補の1人としてフジテレビの番組に出演した河野太郎は、敵基地攻撃能力について次のように発言し、否定的態度を取った。
《敵基地なんとか能力みたいなものは、こっちが撃つ前に相手が撃たなかったら相手の能力が無力化される。(相手に先制攻撃の誘惑を与え)かえって不安定化させる要因になる(カッコ内島田)》
「なんとか能力」という小バカにした言い方や、建設的代案を示さない辺り、河野の不見識が表れているが、相手の予防攻撃を惹起しかねないというのは1つの論点である。
同様に、公明党の山口那津男代表も、「敵基地攻撃能力が国会で議論されたのはもう70年も前のことで、いささか古い議論の立て方だ」と繰り返し述べていた(例えば2022年1月9日のNHK番組で)。山口も建設的な代案を示していない。
山口のいう「70年も前」の議論とは、次の鳩山一郎首相答弁(1956年)を指す。
《わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います》
山口発言が出た同じNHKの番組で、立憲民主党の泉健太代表も、「今の時代は発射台付き車両からミサイルを射出する」と強調し、移動式ミサイルの位置を把握して、発射前に無力化するのは不可能との趣旨を述べている。
一方、日本維新の会の馬場伸幸共同代表は「わが党は敵基地攻撃能力とはいわず、領域内阻止能力と呼んでいる。抑止力として一定の反撃能力を持つことは絶対に必要で、領域内阻止能力は予算をつけて高めていくべきだ」と力説した。
国民民主党の玉木雄一郎代表も「敵基地攻撃能力という言葉はどうかと思うが、相手領域内で抑止する力は必要だ」と同調した。
自国領域内で超音速ミサイルの迎撃を試みるより、相手領域内で発射前のミサイルを叩く方が効果的との議論は、自民党の小野寺五典安全保障調査会長(元防衛相)などが夙(つと)に行ってきたところである。
その場合、敵基地攻撃と言ってもあくまで迎撃の一種であり(場所が自国内か敵国内かの違いだけ)、専守防衛と矛盾しないとの理論構成が採られてきた。
問題は、中国や北朝鮮が日本に対し「核の恫喝」に出てきた場合である。
その場合、発射直前に相手の核ミサイル基地を叩くという発想は現実的ではなく、非常な危険を伴う。
まず、中国も北朝鮮も移動式発射台(輸送起立発射機)をすでに運用しており、常時正確な位置情報を得るのは不可能に近い。防衛白書も移動式ミサイルは「発射の兆候を事前に把握するのが困難」と記している。
しかも、緊張が高まる状況下では、点検や修理などのメンテナンス活動を発射準備と誤認してしまう可能性も常に付きまとう。結果的にかなりの死傷者を出す不意打ち攻撃となり、相手に核ミサイル使用の口実を与えかねない。
実際、2022年4月1日、韓国の徐旭国防部長官が「(北朝鮮の)ミサイル発射の兆候が明確な場合には、発射地点や指揮・支援施設を精密攻撃できる能力を備えている」と発言したのに対し、北の独裁者金正恩の妹、金与正朝鮮労働党副部長が「南朝鮮が我々と軍事的対決を選択するなら、我々の核戦闘武力は任務を遂行せざるをえない」と核報復を示唆している(同5日)。
さらに9月8日、北朝鮮は最高人民会議で「核戦力政策に関する法令」を成立させ、「指揮統制システムが敵対勢力の攻撃により危険に瀕する場合、核打撃が自動的に即時に断行される」(第3条)と明確に規定した。
さらに金正恩は、同年の朝鮮労働党中央委員会総会最終日の12月31日、「核心的な攻撃型兵器で、敵を圧倒的に制圧できる。本当に感慨無量だ」と述べた上、「核戦力は戦争の抑止と平和・安全を守ることを第1の使命とするが、抑止が失敗したときは、防衛とは異なる第2の使命も決行する」と先制攻撃の意思を明言した。
こうした状況下では、発射前に基地を叩く戦術では、危険な相手との危険な神経戦となり、先制核攻撃を受ける可能性が高まる。
やはり、事前ではなく事後、すなわち相手が大量破壊兵器を用いたり、非人道的な無差別攻撃を行ったりした時点で、その指令系統中枢に「耐えがたい被害」を与える反撃戦略を抑止の基本とすべきだろう。
先に触れたとおり、小野寺を会長とする自民党安全保障調査会は「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」と題する文書で、次の認識を示した(2022年4月26日)。
《弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力(counterstrike capabilities)を保有し、これらの攻撃を抑止し、対処する。反撃能力の対象範囲は、相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含むものとする》
攻撃対象をミサイル発射台に限定とも取れる従来の「敵基地攻撃能力」(それゆえ河野太郎や山口那津男、泉健太らの非建設的反論を生んだ)が、対象に相手司令部など「指揮統制機能」も含むことを明示した上で「反撃能力」という言葉に変えられた。適切な修正と言える。
その後政府が発表した「国家防衛戦略について」(安保3文書の一つ)では次のように書かれている。
《相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある》
正しい発想である。ただし通常戦力による反撃では、相手司令部の無力化は困難で、抑止力として充分ではない。反撃ミサイル1発につき、地上の構造物を一つか二つ破壊できる程度だろう。
核の脅しに対しては、やはり相手の指令系統中枢を壊滅させられる核による対抗手段の明示が不可欠である。
私は英国型の独自核抑止力を日本も整備すべきだと思っている。すなわち発見されにくい潜水艦に核弾頭搭載ミサイルを装備して潜行させる「連続航行抑止」と呼ばれる戦略である。
英国の場合、具体的には戦略原潜4隻が、それぞれ16基のトライデントUミサイルを搭載し(=1基当たり核弾頭3発を装備できる。4隻合わせて約200カ所の目標を攻撃可能)、常時1隻は外洋に出るシステムを維持している。なおフランスもほぼ同様の核抑止システムを採っている。
ちなみに、ソ連が人工衛星の打ち上げに成功し、ミサイル開発で先行したことを印象付けたスプートニク・ショック(1957年)を受け、NATO首脳会議が核共有を決めたのが同年12月であった。英仏は同時に独自核抑止力の開発も加速させた。先に引いた鳩山一郎首相答弁の約1年後である。
山口公明党代表の言うように、日本が70年前の議論に固執しているのが悪いのではない。70年前に始めるべきだった本格的な核抑止力論議をいまだに始めていないことが問題なのである。
●小池知事の少子化対策に懐疑的な見方が出るワケ 都の出生数6年連続低下 1/11
「もう国会には戻れないし、誰も国会に戻ってきて活躍するのを期待してません。そうすると、何か打ち出さないとジリ貧になっちゃうし、国会に戻れないってことは来年の選挙でもう一回都知事やるっていうことしか、生きていく道は政治家としてはないんで。そうすると目立つことをやらないといけないんで、これをやった」
前東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏(74)は8日、出演した「ABEMA TV」で、小池百合子・東京都知事(70)の少子化対策案をこう断じていた。
新年早々に打ち出された「都内に住む0〜18歳の子供に1人当たり月5000円程度を給付する」という内容で、SNS上では、岸田文雄首相(65)が明言した「異次元の少子化対策」と並んで、今も賛否両論が飛び交う事態が続いている。
ネット上では《岸田さんの異次元対策という漠然とした言葉よりも、小池さんの方が具体的な内容でいい》、《小池さん、よくぞ決断してくれた》などと、小池知事の方針を歓迎する声が少なくないが、その一方でみられるのが、《いい話だと思うけれど、舛添さんの言う通り、小池さんには何か別の思惑があるのでは…》、《なんか胡散臭いんだよね》といった投稿だ。
「都が後塵を拝している」のが実態
「社会の存立基盤を揺るがす、まさに衝撃的な事態だ」
「都が先駆けて具体的な対策を充実させないといけない」
今回の少子化対策を打ち出した思いについてこう熱く語っていた小池都知事だが、昨年12月に東京都福祉保健局が公表した「令和3年東京都人口動態統計年報(確定数)」によると、都の出生数は9万5404人で、前年より4257人も減り、6年連続の減少。合計特殊出生率も1.08で、5年連続の低下となった。
都の合計特殊出生率は全国の1.30に及ばず、小池知事が言うように「都が先駆けて」どころか、全国と比べて「都が後塵を拝している」のが実態だ。
しかも、区部で最低だったのは豊島区の0.93だったため、SNSなどでは、《都内の出生数6年連続で減少って、2016年に小池さんが知事になってからずっとだよね。今まで衝撃的な実態に対して何してたの》、《確か豊島区は小池さんが衆議院時代の選挙区だったのに…。少子化に気付かなったのかな》との皮肉も。
小池都知事が自民党国会議員時代、民主党政権下で実施されていた当時の「子ども手当」(15歳以下の子供を扶養する保護者等に対し、月額1万3000円を支給)について、国会で「ただ有権者におもねるばらまき政策」などと強く批判していた過去もあるからなのか、小池知事の少子化対策について懐疑的な見方を示す国民は少なくないようだ。
●“消費増税の前に徹底的な行政改革を” 少子化対策の財源めぐり菅前総理 1/11
政府の少子化対策の財源を消費税の増税で賄う案について、菅前総理は、「物価高の中、消費増税の議論をすること自体が国民から理解されない」と述べ、増税の前に徹底的な行政改革をして、財源を確保すべきとの考えを示しました。
菅義偉前総理「これだけ物価が高騰してるときに消費税の議論をすること自体、私は国民から理解をされない」
少子化対策の財源について、菅前総理は訪問先のベトナムで記者団にこのように述べたうえで、増税の議論をする前に“徹底的な行政改革”をして財源を確保することが増税する前の最低条件だとの考えを示しました。
菅氏はきのうも、消費増税による財源確保に対し、否定的な認識を示していました。
政府は、児童手当など経済的支援の拡充や育児休業制度の強化などに向けて、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめる予定ですが、その裏付けとなる財源の確保が課題となっています。

 

●2023年のキーワードは「DX」「GX」「リスキリング」...その本質は・・・ 1/12
読者の皆様、遅ればせながら本年もよろしくお願い申し上げます。さて年初に当たり今回は、昨年の企業経営を巡る情勢を象徴するトレンドキーワードから、本年企業経営者が改めて念頭におき行動に移すべきことを整理してみたいと思います。
言葉の意味、正しく理解している?
まずなんと言っても、長引くコロナ禍で今年も引き続き強力なキーワードとなるのが「DX=デジタル・トランスフォーメーション」でしょう。DXはすでに一般用語として広く浸透していますが、その意味が広く正しく理解されているかと言えば、実はそうでもないと感じています。というのは、私自身の仕事の中で、いまだにIT化とDXを同義語として捉えているビジネスマンがけっこういる、という肌感があるからです。
いまさらですが、IT化は英語で「Digitize」であり、デジタルテクノロジーを活用した効率化や省力化という生産性の向上です。それに対して、DXは「Digitalize」と英訳され、一般にデジタルテクノロジーを活用した「顧客価値の向上」と理解するのが肝要です。
すなわち、IT化は内向きなデジタル化であるのに対して、DXは外向きなデジタル化なのです。キーワードは「トランスフォーメーション=変換」であり、デジタルテクノロジーを使い、顧客サービスを通じ、「顧客価値の向上」への変換をはかることこそ、DXの正体であるという点に注目です。
同じようなことが、昨年後半に盛んに耳にするようになったSDGsがらみの新たなキーワード、「GX=グリーン・トランスフォーメーション」にも言えます。GXとカーボンニュートラル(CN)もまた同義語と誤解されているフシがあるのですが、これもまた同じような誤解です。
CNは単純に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させることであるのに対して、GXは温室効果ガスを増やさないクリーンエネルギーを使って、「顧客価の値向上」に資するサービスに変換することという違いがあるのです。
さらにもうひとつ、昨年政府が5年で1兆円の予算を投じると宣言した「リスキリング=Re-skilling」というキーワードにもまた、同じような誤解が見られます。直訳は、「再びスキルを磨くこと」で一般には「学び直し」と訳されるこの言葉ですが、これが今注目を集める理由はリスキリングが単なる「学び直し」ではないからなのです。
正しい解釈のヒントは、リスキリングで学ぶ主な対象が、「DX知識」や「DXスキル」であるという点にあります。すなわち、最終的に直接「顧客価値の向上」に資するような知識やスキルの習得であるか否かが、一般的な「学び直し」とは異なるということなのです。
このように、今を象徴する3つのキーワードのベースに共通して存在するのは、「顧客価値の向上」であることが分かります。ではなぜいまさら、「顧客価値の向上」なのでしょう。
消極的ともいえる危機対応策から、「弱い日本」に...
日本は約10年前後おきに、経済的に大きなダメージを被るような出来事が起きています。
1990年代末にバブル経済崩壊のツケを払わされるかたちで金融危機があり、そのおよそ10年後の2008年秋から09年にかけては米国発のリーマンショックの余波で、我が国にも大きな経済的悪影響が及ぼされました。そしてさらにそれから10年余り、2020年春からのコロナ禍に襲われ、今経済活動には大きな変革がもたらされているわけなのです。
90年代末の金融危機と00年代末のリーマンショックに襲われた後の企業活動では、急速に発展したITテクノロジーを活用して効率化や省力化に力を注ぎ、コスト削減、スリム化を軸に不況からの復活を遂げてきたと言えるでしょう。
しかし、これらある意味で、消極的ともいえる危機対応策によってもたらされたものは、経済の長期デフレ化、結果として、賃金が上がることのない失われた20年と、「弱い日本」への凋落をもたらしたのです。
これら過去の反省に立てばこそ、長引くコロナ禍経済においてはDX、GX、リスキリングという新たな概念を通じて、いまさらながらに「顧客価値の向上」が訴えられているわけです。
内向きな体質強化やコスト削減ではなく、外向きにトップラインを押し上げる策としての「顧客価値の向上」。「顧客価値の向上」があってはじめて、経済はプラスに振れ、「弱い日本」の返上につながる。だからからこそ、国を挙げてDX、GXが叫ばれ、リスキリングに多額の国家予算が投じられるということなのです。
「多くの収益を上げるか」から「多くの顧客価値を生み出すか」への転換を
過去にも何度となく、「顧客重視」「顧客優先」は企業活動の中で叫ばれて来たものの、先に述べたように、いざ大きな経済的危機に対峙すると、企業は守りの改善にばかり走って、成長のバッファを食いつぶしてきてしまったのです。
結果として長期にわたるデフレ経済と低成長が、日本経済の地盤沈下を生んでしまった。だからこそ今、コロナ禍という経済的大変革の中で三度同じ轍を踏まないために、DX、GX、リスキリングの言葉を借りて企業経営者は改めて、「顧客価値の向上」に目を向けさせられている、そんな潮目の変化を感じるのです。
言変えれば、令和5年(2023年)の企業経営における大きなテーマが、「いかに多くの収益を上げるか」から「いかに多くの顧客価値を生み出すか」への転換であるということでもあります。
企業経営者が皆、「顧客価値の向上」が最終的には自社の収益増強につながり、さらには日本経済の新たな発展につながるとの理解をもって、自社における「顧客価値の向上」を改めて見つめ直し行動に移す――。今年はそんな一年であってほしいと願っています。
●再び中国からコロナが世界にばら撒かれる…習近平の「コロナ放置政策」リスク 1/12
中国でコロナ感染が再拡大している。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「習近平総書記はあえて積極的な抑止策をとっていないように見える。世界中に再び感染を広げるリスクがあるが、日本にとってはチャンスでもある」という――。
「ゼロコロナ」緩和で中国国民が移動し始めた
中国は今、新型コロナウイルスの再拡大で極めて厳しい局面に直面している。
習近平指導部が続けてきた厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ政策」(中国語で「動態清零」が全面的に緩和されてから1カ月半になる。1月8日からは、中国国民の海外渡航も段階的に再開され、中国国民の出国制限や帰国後の隔離がなくなり、香港でも中国本土への渡航が1日6万人(中国籍の市民のみ)を上限に許可された。
しかし、筆者が、北京、上海、香港の識者に取材する限りでは、中国のコロナ事情は悪化の一途をたどっているというほかない。
「お金を落としてくれるのはありがたいが、正直、今は来て欲しくない」
これは、東京・浅草の商店街で聞かれた声だが、中国政府がいくら反発しようと、日本政府は中国からの渡航者に対する水際対策を維持すべきだ。それほど中国の実情はひどい。
ほぼ国民全員が感染していてもおかしくない
「今では『もう感染した? 』が日常のあいさつになっています。行動制限がなくなり、平常な生活が戻りましたが、それも一瞬。感染を恐れて街から人がいなくなりました。車での移動が増え渋滞が深刻化しています」
こう語るのは、北京に住む清華大学の研究者だ。彼によれば、清掃業者や宅配業者にも感染者が急増したため、ゴミ収集所にはゴミがあふれ宅配物も届かない毎日だという。さらに彼はこう続けた。
「北京よりも地方は医療体制が脆弱(ぜいじゃく)。すでに国民の80%から90%が感染しているのではないでしょうか?」
もちろん推測の域を出ないが、中国疾病予防センターの首席科学者、曽光氏も、2022年暮れの時点で、「首都・北京での感染率は80%を超えた」との見解を示している。
その中国疾病予防センターでは、日々、感染者数を公表している。ただ中国は、従来WHOなどから「実数を過少申告している」と指摘され続けてきた。加えて今は大規模なPCR検査が実施されていないため、感染がどこまで広がっているのか把握するのは困難だ。
こうしてみると、今や14億人を超える中国国民のほぼ全員が感染していると考えても差し支えないかもしれない。
再び、中国から世界へウイルスが広がる
中国で感染が拡大しているコロナウイルスは、感染力が強いオミクロン株の変異型で、アメリカで猛威を振るい始めた「XBB.1.5」も含まれる。
「高熱が出て倦怠(けんたい)感もひどく、しばらく休職しました。個人差はあるにしても毒性が強いウイルスだと感じました」(上海在住テレビディレクター)
もっともWHOなどはこれらの変異株の毒性について「従来の変異株より重いとは言えない」と分析している。しかし、感染力が強いことは確かで、これが、延べ21億人が帰省や旅行に出かけるとされる春節(2023年1月21日から始まる大型連休)を経て国際社会に広がれば、中国・武漢からウイルスが世界に広がった3年前と同じ事態を招きかねない。
こうした中、香港中文大学の教員、小出雅生氏は筆者の問いに、香港市民から相次いで上がっている本音を紹介してくれた。
「中国本土との往来が再開されれば、香港は感染者だらけになる」
「中国本土から来た人たちに買いあさられ、薬局から薬がなくなってしまう」
コロナを放置する習近平総書記の“思惑”
こうした中、注目すべきは習近平総書記の思惑である。
習近平総書記は、2023年の新年のあいさつで、自身の「ゼロコロナ政策」の成功を強くアピールしてみせた。
「苦しい努力を経て、我々は前代未聞の困難と挑戦に勝利した」
つまり、「ゼロコロナ政策」をとったからこそ国民の生命と健康を守れたと自画自賛したのである。その上で、「防疫体制は新たな段階に入った」と政策の転換を正当化した。
しかし、コロナ感染者の爆発的な拡大を招いているのは、習近平指導部が拡大を食い止めるための努力を全くしていないためだ。
「ゼロコロナ政策」が遂行されていた期間には、中国共産党最高意思決定機関の中央政治局や政治局常務委員会が幾度となくコロナを議題にした会議を開催してきた。
ところが、2022年12月7日、政治局の会議で「ゼロコロナ政策」を方針転換させて以降、目ぼしい会議は開催されていない。あれほど国民の基本的人権や自由を縛る政策を推し進めてきたのがうそのように無為無策。言うなれば「放置政策」をとってしまっている。
この背景には、2022年11月、「ゼロコロナ政策」に反発する国民の抗議行動が中国全土に波及し、習近平体制を揺るがしかねない規模になったことがある。
効き目のない中国製ワクチン接種を奨励
筆者が注目したのは、習近平が新年のあいさつを収録した執務室に、江沢民、胡錦濤といった歴代の総書記経験者と一緒に映った写真が飾られてあったことだ。これは、国内のさまざまな声に配慮し、団結を求める意図があったからにほかならない。
さらに背景を探れば、国民全員を感染させることでウイルスの変異株への免疫をつける狙いがあったとも考えられる。
中国政府はワクチン接種を奨励しているが、習近平総書記は、シノバックをはじめとする中国製ワクチンに効き目がないことなど百も承知だ。
しかし、そのワクチンと「ゼロコロナ政策」で国民の生命を守ったと自画自賛した以上、今さら欧米に「ワクチンをくれ」などとは言えない。
だからこそ、習近平指導部は、日本や欧米諸国などが複数回のワクチン接種によって集団免疫をつけようとしているのとは対照的に、あえて対策をとらず、自然感染によって同じ効果を狙っているのではないだろうか。だとすれば、中国の国民は気の毒と言うしかない。
“異例の3期目”で注目すべき人事
2022年10月の共産党大会で異例の3期目に突入した習近平総書記。彼にとっては、どんな手を使ってでも早期にコロナを抑え、国内経済を再生させることが最優先課題になる。それが国民の反発を和らげ、権力基盤を盤石なものにする特効薬になるからだ。
ただこれだけでは、マイナスをゼロに戻すだけのことだ。自身が目指す「中華民族の偉大なる復興」、すなわち台湾統一は実現しない。
そこで注目すべきは、外相だった王毅を共産党中央外事工作委員会弁公室主任に据えた人事である。
共産党が全ての上に立つ中国では、この主任ポストが外相より格上になる。つまりこの人事は、習近平総書記に忠誠を尽くし、「戦狼外交」と呼ばれる強気の外交を続けてきた王毅が中国外交のトップとなったことを意味している。
さらに注目は、香港行政長官として、2019年の香港の民主化デモを鎮圧した李家超を起用した点だ。李家超はこのときから習近平総書記の信頼を得て、側近の1人になったとされる人物である。
台湾統一に動くまでの猶予は1〜2年
習近平総書記は、国民にコロナに対する集団免疫をつけさせる「放置政策」と並行して、王毅を通じ対外的に中国に有利な状況を作らせ、李家超に香港の「1国2制度」を完全に骨抜きにさせようとしている。
そして、コロナ抑制にメドがつき、2024年1月の台湾総統選挙の結果や同年11月のアメリカ大統領選挙の展望を分析しながら台湾統一に乗り出す、と筆者は見る。
そのため日本やアメリカからすれば、中国国内でコロナ感染が爆発し、習近平総書記が足踏みせざるを得ない状況は、ある意味チャンスだと言える。
この1〜2年の間に、離島防衛をはじめサイバー戦や宇宙戦に備えた協力関係を強化し、有事に即応できる体制を作り上げられるからだ。日米が結束し防衛体制を構築できれば、それが「おいそれとは侵攻できない」と思わせる抑止力にもなる。
岸田外交は「合格点」を取ることができるか
岸田首相は2023年の年明け早々、欧米5カ国歴訪をスタートさせた。その最大の目的は、言うまでもなく、5月19日から21日までの日程で開催される地元・広島でのG7サミット(先進7カ国首脳会議)に向けた地ならしである。もっと言えば、中国、ロシア、北朝鮮の専制主義の軍事国家に対し、民主主義国家の結束を示すという狙いも込められている。
なかでも、1月13日に行われるアメリカ・バイデン大統領との日米首脳会談は極めて重要な意味を持つ。
日本政府は2022年の暮れ、「反撃能力」の保有を明記した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の防衛3文書を改定し、防衛費も今後5年間で43兆円規模(来年度の防衛費に関する予算は過去最大の6兆8000億円)にまで増やすことを決定した。
これは、2022年5月、東京都内で行われた日米首脳会談で、岸田首相がバイデン大統領に約束した「相当額の防衛費増額」を忠実に実行したことを意味する。
岸田首相は自らの言葉でバイデン大統領に「約束を守り、安全保障政策を大幅に転換しましたよ」と説明し、その賛同を得て、日米の結束をアピールする共同文書を発表できれば「合格点」ということになる。
政権浮揚策が「お得意の外交・安保」
もっとも、防衛費の増額をめぐっては、1月23日から始まる通常国会で、野党側から「防衛費増額分の財源問題」や「反撃能力の保持と専守防衛という基本路線との矛盾」を追及されることになる。
それでも、欧米歴訪で成果を上げられれば、秋葉前復興相、山際前経済再生相、寺田前総務相、それに葉梨前法相、杉田前総務政務官の相次ぐ更迭劇により、永田町で「秋の山寺、枯葉散る。杉の根元の水飲めず」などと揶揄(やゆ)され、内閣支持率が30%前後にまで落ち込んだ惨状はいくらか挽回できるだろう。
岸田首相は、今年4月、任期満了で勇退する日銀・黒田総裁の後任人事、統一地方選挙、そして衆議院補欠選挙(千葉5区、和歌山1区、山口4区)というヤマ場を迎える。
それまでの岸田首相の政権浮揚策は、防衛費増税前の衆議院解散をちらつかせて政局の主導権を握ることと、「春闘での賃上げ」ならびに「得意とする外交・安保」しかないのだ。
バイデン大統領にとっても外交は切り札
一方のバイデン大統領にも事情がある。
バイデン大統領は、北米首脳会議開催とアメリカ議会開幕という過密なスケジュールの中、岸田首相をホワイトハウスに招き入れる。
これは、2022年12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領による電撃訪問を受け入れたことに続くものだ。
80歳と高齢のバイデン大統領は、まだ2024年の次期大統領選挙に出馬するかどうかを明確にしていないが、アメリカ国内での世論調査では、「バイデン大統領の再立候補を望まない」とする声が過半数を超えている。
その最大の要因は未曽有のインフレだが、これは一朝一夕には改善できない。2023年、国際社会が陥るとされるリセッション(景気後退)もバイデン政権だけでは対処が難しい。
しかし、外交であれば、これらの会談によって、ロシアと中国を強く牽制し、「強いバイデン」を国内外にアピールできる。つまり、バイデン大統領にとっても切り札となるのは外交ということになる。
台湾統一は習近平総書記にとっても、日米にとっても負けられない戦になる。迎え撃つ形となる日本やアメリカにとっては、習近平指導部の「コロナ放置政策」によってできた1〜2年の猶予が、まさに勝負どきなのだ。
●国債の償還ルール見直し、市場の信認損ねかねない論点ある=官房長官 1/12
松野博一官房長官は12日午前の記者会見で、防衛費増額の財源確保を巡って、自民党内で国債の「60年償還ルール」の見直しが検討課題に浮上していることについて、ルールを変更して償還年数を延長した場合、財政に対する市場の信認を損ねかねないという論点があると指摘した。
松野官房長官は、償還年数を延長した場合、毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字公債は減るものの、特別会計で発行する借換債が増えるため、「全体としての国債発行額は変わることはない」と説明した。また、60年償還ルールが「市場の信認の基礎として定着している現状を踏まえれば、財政に対する市場の信認を損ねかねないことなどの論点がある」と語った。
自民の萩生田光一政調会長や世耕弘成参院幹事長は、国債の60年償還ルールを見直し、防衛費増額の財源を捻出することを検討すべきとの考えを示している。
一方、松野氏は、中国による日本人と韓国人を対象とした査証(ビザ)発給の制限措置が長期化した場合の影響について「影響を注視しつつ、日本企業などへの支援をしっかりと行っていく」と語った。
中国は10日、日韓両国の水際措置への対抗措置としてビザ発給を一時停止すると発表。日本政府は外交ルートで抗議し、措置の撤廃を求めている。
●異次元の少子化対策で「消費税増税」あるのか 背後に潜む「財務省の思惑」 1/12
岸田文雄首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べた。
そもそも少子化対策について、天の邪鬼な筆者はその必要性がストンとこない。人口減少しても、一人あたりGDPで見る限り、必ずしも低下するとは言い難い。世界中で人口減少している国は30ヶ国程度あるが、一人あたりGDPが成長している国も少なくない。端的にいえば、人口減少しても電子化やロボット化でかなりの程度補えると思う。
なんでもありの世界
これまでの人口論も、有名なマルサスのものをはじめとして人口増加は等比級数だが食料生産は等差級数なので人口増加には対応しにくいと言った議論ばかりだ。一方、人口減少に対しては人への機械装備率を高めれば対応できるとの議論があった。筆者は後者の代表例だ。
何しろ人口動向の根本要因が分からないが、金銭要因による人口増誘導について、政治家のみならず在野の方から夥しい政策提言がある。少子化対策ほど、客観的なエビデンス・ベースト・ポリシーからほど遠い分野もなく、なんでもありの世界だ。
人口動向は人の生物としての本能的な営みが大きく関係するのは自明だが、それを金銭要因でどこまで誘導できるかについて、実証分析なしにもかかわらずだ。逆にいえば、基本的なメカニズムが分からないので、人口問題は政治課題なのだろう。とにかく、人口問題は国民に人気があり、政治家には人口問題に関心を持つ人が多い。
財務省の思惑
財務省から見れば、政治課題なので無視することはできない。しかし、どうせ政治要求が来るのであれば、それを逆手にとることを考えているはずだ。
そこで、少子化増税だ。人口を増やすために増税とはちょっと意表をついているが、少子化対策には安定財源をという例のフレーズだ。その財務省の思惑をつい口にしたのが、甘利明前幹事長だった。本人は、趣旨は違うのに一部を切り取られたと弁明しているが、いかにも脇が甘かった。財務省にとっても、本音が漏れたので焦っただろう。
財務省の戦略は、少子化対策について多くの政治家から語ってもらう、ただし財源論抜きでは語らせないというものだ。そして、最終的な取りまとめ段階になったら、政治家のいう少子化対策にはエビデンスがないと理由をいい、大幅に換骨奪胎するが、安定財源論だけはしっかり残して少子化増税に持っていくのだろう。少子化対策は広い意味での社会保障になるので、社会保障財源である消費税増税にもっていくのが目に浮かぶ。これはあってはならない。
●18歳の結婚観 「必ず結婚すると思う」は20%未満 1/12
2023年の新年を18歳で迎えた新成人は総務省の推計によると112万人。少子化の進行を反映して過去最小となった。
日本財団は成人年齢前後にある若者の「価値観・ライフデザイン」をテーマにした18歳意識調査の結果を発表。全国の男女計1000名を対象にしたリサーチでは、結婚観や子供を持つことへの考えが明らかになった。
「将来結婚したいか」を尋ねると、「したい」が全体で43.8%となり、男女とも4割を超える結果に。しかし、「実際には結婚すると思うか」という質問には、「必ずすると思う」と答えた人の割合が男性で2割弱、女性で1割強にとどまった。男性では「考えたことがない」の回答が1割強に上り、女性の2倍になった。
さらに、「将来子どもを持ちたいか」を聞くと、 「持ちたいと思う」「どちらかと言えば持ちたいと思う」の回答が合わせて男性で6割強、女性で6割弱が「将来子どもを持ちたい」と回答。一方で、「実際には将来子どもを持つと思うか」については、「持つと思う」(「必ず持つと思う」と「多分持つと思う」の合計)が男女とも4割台となった。
日本財団は、結婚や子どもを持つことにおいて希望する人の割合と、実際にそうすると思う人の割合に差がある傾向について、「特に女性は、精神的・経済的な負担感や不安感を感じていることが見て取れる。周囲の人やメディアなどから見聞きした情報を基に結婚・ 出産・子育てに対して漠然とした不安を抱えている若い世代に対し、その不安を軽減するような情報提供や体験者とのコミュニケーションなどの支援が必要ではないか」と分析した。
また、少子高齢化への危機感について質問すると、全体で「感じる」と答えた人の割合が74.1%に(「非常に危機感を感じる」と「やや危機感を感じる」の合計)。
少子高齢化についての考え
少子高齢化対策に対する政府の対応については、全体で「不十分」が82%を占め(「不十分である」「どちらかといえば不十分である」の合計)、「十分」とした人の割合が2割を下回った。 
少子高齢化に対する現在の政府の対応について
実施してほしい少子化政策としては、全体で「教育の無償化」が最多(39.3%)となり、「子育て世代への手当・補助金の拡充」(32.9%)、「妊娠・出産に係る手当・補助金の拡充」(23.8%)が続いた(複数回答可)。少子化の背景には、経済的な理由が存在することが見て取れる。
また、政府の少子化対策が「どちらかというと不十分である」または「不十分である」と回答した人を対象に少子化対策の財源について聞いたところ、最多が「法人税率を上げる」(29.5%)。2位「年金関連支出を減らす」(22.2%)、3位「国際協力関連支出を減らす」(21.5%)となった(3つまで回答可)。
岸田首相は年頭「異次元の少子化対策」を行なう方針を打ち出したが、具体的な財源はまだ発表されていない。日本の未来を担う新成人の多くが少子化に危機感を抱くなか、その本気度が今、試されている。  
●日・カナダ共同記者会見 1/12
【岸田総理発言】
トルドー首相、そして、カナダ国民の皆様。新年のお祝いの余韻も残るこのタイミングで温かくお迎えいただき、深く感謝申し上げます。Thank you, Justin, Merci Beaucoup.
2016年に外務大臣として訪問して以来7年ぶりに、また総理大臣としては初めてカナダを訪問することができ、うれしく思っています。7年前の2月はオタワの厳しい寒さとカナダの皆様方によるおもてなしの温かさのコントラストがとても印象的でしたが、今回もそれは変わることはありません。誠にありがとうございます。
近年、日本とカナダの関係は著しく深化しています。両国は、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する、インド太平洋地域の重要な戦略的パートナーです。今、国際秩序が様々な挑戦にさらされ、安全保障環境が一層厳しくなる中、国際社会全体の平和と安定の維持・強化のため、カナダとより一層連携を強めていきます。
本日の首脳会談では、まず私から日本の防衛力の抜本的強化及び防衛予算の増額の決定を含む新たな国家安全保障戦略について説明し、トルドー首相から、改めて、全面的に支持いただきました。
また、カナダが昨年11月に発表した「インド太平洋戦略」についても取り上げました。これは、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」実現に向けた日本とカナダの具体的な取組を取りまとめた、昨年10月発表の「自由で開かれたインド太平洋に資する日加アクションプラン」と軌を一にするものです。日本は、カナダが太平洋国家として地域への関与を強めていることを歓迎いたします。両国は、「アクションプラン」の着実な実施を通じてFOIPの実現に向けて連携していきます。
続いて、ロシアによるウクライナ侵略に対しては、G7が結束を維持し、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を引き続き実施していくことで一致いたしました。また、ロシアによる核の威嚇を深刻に懸念し、これを断じて受け入れられないこと、ましてやその使用は決してあってはならないことを改めて確認いたしました。
北朝鮮については、核・ミサイル活動の活発化への深刻な懸念を共有し、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化に向け、引き続き緊密に連携していくことを確認いたしました。この点から、日本は、カナダによる「瀬取り」警戒監視を高く評価しています。また拉致問題への対応においても引き続き協力していくことを確認いたしました。
また、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みに強く反対することでも一致し、地域の諸課題への対応に当たり、引き続き日本とカナダが緊密に連携していくことを確認いたしました。
経済面については、「LNG(液化天然ガス)カナダ」や重要鉱物資源を含め、エネルギーや食料を含む各分野で協力関係を強化すること、また、サプライチェーン強靱(きょうじん)化や経済的威圧への対応を含む経済安全保障の分野、さらに不透明・不公正な開発金融への対処においても連携していくことで一致いたしました。
会談では、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)についても率直な議論を行い、協定のハイスタンダードを維持することの重要性を確認するとともに、引き続き両国で協働していくことで一致いたしました。
また、会談では、私から本年5月のG7広島サミットに向けたG7議長としての私の考え方を説明し、サミットの成功に向け緊密に連携していくことを確認いたしました。
G7広島サミットでは、力による一方的な現状変更の試みや核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7のビジョンや決意を示していきます。
さらに、トルドー首相との間で、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、核軍縮・不拡散、経済安全保障、また、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題などの分野でもG7が結束して取り組むことが重要との認識で一致いたしました。
7年前から多くのものが変わりましたが、変わらないものも多くあります。日本とカナダが共有する普遍的価値、そして両国が様々な分野で連携していくことの意義は、これからも変わることはないと確信しております。今回も極めて有意義な訪問となりました。心から感謝申し上げます。
本年5月にジャスティンを広島でお迎えできることを楽しみにしております。
●日本はまだ「平和国家」なのか  1/12
次のG7サミットで議長国となる日本の岸田文雄首相は1月9日、欧米歴訪をスタートさせた。G7加盟国のうちフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を訪れ、各国首脳と会談する。13日には米国でバイデン大統領と会談する予定だ。岸田氏のワシントン訪問は首相就任後初めてであり、今回の欧米歴訪のハイライトとされている。世界的な地政学的緊張の高まりと日本の軍備拡張の動きを背景に、岸田首相の今回の訪問は大きな注目を集めている。
岸田首相は訪米に先立ち、バイデン氏に多くの「贈り物」を用意した。英国と防衛協定を結び、両国が互いの領土に軍隊を駐留することを認めるなど、米国の対中抑止戦略への積極的な協力もそのひとつだ。しかし、最大の「贈り物」は日本政府が12月16日に審議・可決した改訂版の『国家安全保障戦略』『国家防衛戦略』『防衛力整備計画』だ。この『安保3文書』の発表は、日本の防衛戦略の重大な変容を意味するものであり、「専守防衛」の原則を完全に放棄し、日本国憲法の平和理念から完全に逸脱し、地域の平和と安定に新たな脅威をもたらすものとして懸念されている。
軍拡目標の達成に向け、『安保3文書』では2023年度から2027年度までの防衛費総額を約43兆円とした。また、2027年度の国内総生産(GDP)に占める防衛費の割合を2%に引き上げる目標を定めている。これまで日本は「防衛費1%枠」を基本的に守ってきた。この基準を遵守するかどうかは、日本が平和主義へのコミットメントを示す重要な指標とされている。これについて、中国国際問題研究院米国研究所の蘇暁暉副所長は、「安全保障の観点から言えば、『反撃能力』の保有であれ、防衛予算の倍増であれ、最近の日本の一連の動きは、中国を主要ターゲットとし続けている」と分析している。日本は中国を封じ込めと抑止の対象と見なすだけでなく、中国を凌駕し、インド太平洋地域でより大きな影響力を持とうとしている。日本の対中圧迫政策は、米国側の戦略配置に積極的に協力するだけでなく、自国の利益の最大化を図るものでもあるのだ。
13日の日米首脳会談で岸田首相は、『安保3文書』の改定や防衛費の大幅な増額について米側に報告・説明を行い、日米首脳会談を通じて日米同盟のさらなる強化を目指したいとの考えを示した。岸田首相の今回の外遊は、表面的にはG7議長国就任に向けた準備だが、その核心は、現日本政府による「専守防衛」原則の打破、さらには憲法改正といった一連の目標の達成にある。このような事前設定された目標を達成するには、他国、特に米国の支持が必要というわけだ。
日本のこうした動きを米国も歓迎している。『安保3文書』では、米国志向がより鮮明になり、外交・安保戦略での米国への追随と同調が明らかになっている。これについて、中国国際問題研究院米国研究所の蘇暁暉副所長は、「日本の一連の大きな動きには、独自の計算がある。また、米国の懸念も考慮しながら、日米同盟を基軸とした安全保障や外交政策などを打ち出し、日米関係をさらに密接なものとしている」と分析し、「岸田氏は、米国を今回の最後の訪問地に据えた。これは、歴訪で得た情報をまとめ、米国とのより深い対話に役立てるためだろう」と語った。
2022年の日本外交は、従来の「米国追従」モデルを継続し、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」や「日米豪印クアッド(QUAD)」を利用して北大西洋条約機構(NATO)への接近を行った。日本は「専守防衛」の束縛の打破に向かっており、その「平和国家」のイメージを失墜させた。今年、日本はG7議長国を務め、さらに国連安全保障理事会の非常任理事国という重要な役割を担うことになる。分裂主義を排し、多国間主義と平和共存の原則に基づいて各国との対話を進め、地域と世界の平和と安定を守り、調和のとれた国際秩序を再構築することこそ、日本政府が負うべき国際的責任ではないだろうか。
●「助かる」「ありがたいけど…」都の少子化対策・1年分6万円“現金一括”給付 1/12
東京都の小池知事は12日、子どもに対する月5000円の給付を正式に発表しました。来年1月ごろから1年分にあたる6万円を現金で一括して給付する方針です。岸田総理が「異次元の少子化対策」を掲げるなか、先行する形で具体策を打ち出しました。
小池知事「本来であれば、国家が国家百年の計に位置付けて取り組むべき。今、待ったなしの状況を踏まえて、都独自の給付に踏み切ることにした」
さらに、2人目について、こう述べました。
小池知事「2人目を育てるための経済的負担を軽減するために、第2子の保育料につきまして無償化とします」
ほかにも、都として、結婚支援のためのマッチング事業を始めるなど、子育て支援予算に1.6兆円を充てると打ち出しました。
小池知事「東京から少子化を止める。皆、誰かがいつか何かやるだろうと言っている間に、議論ばかり重ねていて、住宅がどうだ、未婚化がどうだ。いろいろ議論ばっかりしていて、こうなったわけですから」
急激に進む日本の少子化。2022年の出生数は77万人台程になるとみられ、初めて80万人を下回るのが確実です。これは、政府の予想より8年も早いペースです。なかでも、東京都の出生率は全国最低の1.08です。
小池知事は、今回の手当に所得制限を設けない理由について、こう話していました。
小池知事「夫婦で一生懸命働いて納税をしているがゆえに、逆にそういった給付が受けられないというのは、ある意味で子育てに対しての罰ゲームのようになってしまう」
一方で、国は去年の10月から世帯主の年収が1200万円以上の家庭について、児童手当を廃止したばかりです。
政府は、3月末までに子ども政策のたたき台を取りまとめる方針で、児童手当の支給額や、所得制限の見直しも議論される方向です。
本当に実効性のある政策は何なのか。子育て中の人々の声です。
2児の母親(30代)「所得制限とかなくて、一律に給付してくれるなら、いただけるものはいただけたら助かる。やっぱり子どもがいれば、いるだけお金がかかるので、平等にいただけるのなら、それはいいのかなと思う」
1児の母親(30代)「ありがたいといえば、ありがたいが、月5000円あって、何ができるかというところもあるし、少子化の対策ということですよね。5000円あるから2人目、3人目という前向きな気持ちにはならない」
2児の母親(30代)「お金ばらまくじゃなくて、有効なことないのかなと思う。(Q.第2子、保育料無償化については)2人目、3人目って増えていけば、それだけ子育てにお金がかかるので、子ども増やしたいけどお金が…という方も多いんじゃないかなと思うので、良いと思います」

 

●アゴは弛み「髪がどんどん抜けている…」岸田首相の冬休みと近影に絶句… 1/13
1月9日未明の専用機で、フランス・パリに旅立った岸田文雄首相。完全オフのクリスマス週末から年末年始の休暇を経て、体力気力とも充実の外交が期待される。が、
「髪がどんどん抜けている…」
政権発足以来、下がり続ける支持率、安倍晋三元首相の銃殺によって露呈した自民と統一教会の密接な関係、閣僚の辞任ドミノ…。かつて「イケメン」と言われた男も65歳。頭髪が薄くなってもおかしくない年齢だ。
年末、酒を飲み倒す
「内輪の慰労会で総理は『夏以降どうなることかと思った』と漏らしていました。支持率急落のストレスか、最近急に脱け毛が多くなったことに気づいたそうです。スマートな外見に自信のある人ですから、かなり気にしていました」(首相周辺)
12月28日の19時少し前、岸田首相は、東麻布の中国料理店「富麗華」に向かった。2022年の仕事納めは、中華の高級レストランで秘書官たちの労をねぎらう会食だった。
「秘書官の慰労会とはいえ、総理自身もこれまで控えていた酒を、思い切り飲むつもりだったと思います。ビールに紹興酒、焼酎にウイスキーと、店のあらゆる酒を飲んでいました(笑)。年末には、防衛強化策を打ち出して財源を所得税で賄うとした総理案を押し切りましたから、その達成感もあったでしょう。絶好調でした。
とはいえ、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、菅義偉元総理から、『統一地方選が終わるまで増税は言うな』と釘を刺されていたのを振り切ったわけです。達成感と同時に不安もあり、酒が進んでしまった。泥酔です」(首相周辺)
国民の声を書き記した「岸田ノート」を掲げ、「聞く力」を標榜した政権は、新しい資本主義を期待させて2022年5月には68%台の内閣支持率最高値をたたき出した。前任の菅前首相が「秋田出身のたたき上げ&パンケーキ」の泥臭い演出でアピールしたのに対し、そのシュッとした「スマートさ」が売りだった。
潮目が変わったのは、安倍氏銃撃事件。安倍氏国葬儀からはジェットコースター並みの急降下で以来半年、生きた心地がしなかっただろう。
ストレスの原因は…
ある宏池会代議士は「あの辞任ドミノが、岸田首相の体力気力を激しく消耗させた」と、はっきり言う。
「山際(経済再生担当大臣)の答弁は、まったくもっていただけなかった。葉梨は、なんですぐに法務大臣を辞退しなかったのか。寺田(総務相)の事務所費問題だって、はやくケリ(辞任)をつけるべきだった。大失敗は、秋葉(復興相)。首相に近い記者から『どう見ても真っ黒』と進言され、頭が真っ白になって制御不能になってしまった」
「あのころ首相は、イメージ回復のため、メディア各社に露出の機会を頼み込んでいましたが、各社に断られ続けたんです。ただ1社、BSフジだけが応じてくれましたが、支持率はその後も下がり続けました」(自民代議士)
「情報漏洩」疑惑の長男秘書官とともに
そんな2022年だったけれど、28日には「無事」仕事納めで痛飲。大みそかには、裕子夫人、情報漏洩疑惑の長男・翔太郎秘書官、そして次男とともに、八重洲ブックセンターを訪れる様子をメディアに公開した。
「1時間ほど店内を回り、15冊を購入していました。公表されたタイトルは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟 1〜5巻』、落合陽一『忘れる読書』、そしてベストセラー1位の和田秀樹『80歳の壁』です。正直、今、これ?というチョイスですが(笑)」(政治部記者)
正月は、大好きな酒を飲んで、本を読んで、のんびり過ごすつもりだったのか…。
「元日の北朝鮮によるミサイル発射で、内閣危機管理監、官房副長官補、内閣情報官、防衛省防衛政策局長らが公邸に緊急参集しました。首相も『年が明けて2時間で起こされた』とこぼしてました。その後、皇居で新年祝賀の儀に出席。読書の時間はなかったかもしれませんね」(岸田首相に近い代議士)
元日を慌ただしく過ごした岸田首相だが、その後3が日まで、首相に会いに来る仲間議員は誰一人なかった。
「今年の岸田政権の目玉政策は、子ども対策の強化。しかし、『異次元の挑戦』とは意味が不明です。この人、本気でやる気あるのかなと思いましたね。政権の花道を5月の広島サミットと定めて、すでに幕引き気分なのかもしれませんね」(自民党重鎮)
マスクを外した欧州からの映像では、薄くなった髪と、たるんでシャツの襟に肉がのっかった顎のラインに驚かされた。そこにはもう、スマートに「新しい資本主義」を声高く語っていたあの岸田文雄はいない。
●日本の防衛費大幅増額が意味するもの 「増税」方針に揺れる世論 1/13
2023年度からの5年間で総額43兆円、27年度にはGDP(国内総生産)比で2%に膨れ上がる防衛費。大幅増の意味を多角的に分析する。
日本の安全保障・防衛政策は大きな転換点を迎えた。2022年12月に決定された新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、および防衛力整備計画のいわゆる「戦略3文書」は、日本の安全保障・防衛の新たな姿を示すことになった。具体的な中身に関しては、反撃能力の保有やサイバーや宇宙の重点化などが注目されるが、ここでは、全体にかかわる重要な問題としての防衛費に着目し、大幅な増額の意味、直近の課題、そして財源問題に関する世論と政治における課題を検討したい。
今後5年で43兆円へ
今回の防衛費大幅増額に関して注目されるのは、GDP(国内総生産)比で2%という目標である。新たな防衛力整備計画が対象とする2023年度からの5年間の最終年である27年度にこれを達成するとされた。防衛費は、安倍晋三政権下で小幅な増額を続けてきたが、それでもGDP比で1%強であったため、単純に考えれば倍増に近い。
ただし、これには若干のトリックがある。GDP比2%の対象に含まれるのは、防衛省の予算としての防衛費に加え、「それを補完する取り組み」として、海上保安庁の予算や安全保障関連の研究開発費、インフラ整備など、安全保障関連経費として算出されるものである。防衛費自体は23年からの5年間で43兆円とされた。これは、従前5年間の総額だった27兆円の約1.6倍にあたる。
23(令和5)年度の当初予算案は米軍再編などを入れて約6兆8000億円になった。27年の防衛費は約8兆9000億円と計画されている。日本のGDPは現行で540兆円から550兆円であり、この2%とすれば、11兆円程度になる。したがって、27年時点で2兆円強は、他の予算から安全保障関連経費として算入される想定になる。これに何が含まれるかについては、依然として不明な点が多い。
GDP比2%は「政治的意思」
GDP比2%目標については、「数字ありき」だとの批判も根強い。岸田首相は3文書決定後の会見で、「(自衛隊の)現状は十分ではありません」と述べたうえで、GDP比2%という数字は、「防衛力の抜本強化の内容の積み上げ」であると説明した。予算不足によってこれまで手が回ってこなかった分野を集めれば、必要な金額はすぐに膨れ上がる。
他方、 GDP比2%という数字が、純粋な積み上げの結果だという説明を信じる人はいないだろう。これは象徴的な数字であるし、北大西洋条約機構(NATO)における目標値としてのGDP比2%は、特に自民党内における議論で「参考」としてたびたび言及されてきた。積み上げたら偶然2%になったのではない。
NATOにおける2%という数字にも軍事的根拠はない。2000年代半ばに、各国の国防予算のそれ以上の低下を食い止めるために、1990年代後半の平均値だったGDP比2%が持ち出され、「せめてその当時のレベルにまで戻そう」という趣旨で使われ始めたに過ぎない。
日本において長年使われてきたGDP(当初はGNP:国民総生産)比1%という数字も同様である。軍事的根拠があるわけではなく、積み上げでもない。しかし、防衛費を抑制することで、日本が再び軍事大国にならないことを示す政治的メッセージだった。その意味では、2%も同じである。日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中で、日本が安全保障において応分の責任を果たすことへの政治的意思の表明だ。
したがって、「数字ありき」との批判はある意味で正しい。政治的な数字であることは否定できないからだ。しかし、政治の本質的な役割は資源配分である。しかもその資源には限りがある。そのため、優先順位を付けなければならない。そうした中で、「防衛を重視する」という政治の意思表示がGDP比2%なのである。
あえて加えれば、もし2%を「数字ありき」だとして批判するのであれば、防衛費の歯止めとされた1%も批判していたのでなければ筋が通らない。それこそ「数字ありき」の象徴だったからだ。ちなみに、日本を取り巻く安全保障環境がさらに悪化した場合、必要分の積み上げで予算額を決めれば、GDP比で2%では収まらず、3%やそれ以上になることも考えられる。その場合、2%は新たな歯止めとして主張されるようになるかもしれない。
抜本的強化に向け、まずは足腰強化
増額された防衛費を何に使うのか。2022年末に決定された2023(令和5)年度予算案の防衛費をみると、防衛省の考える優先順位が明らかになる。総額約6兆8000億円の中では、反撃能力を構成するスタンド・オフ能力――敵の射程圏外からの攻撃を可能とする長射程のミサイルなど――関連も多いが、従来と比較して特徴的なのは、交換部品不足を解消して可動率を上げるための装備品の維持整備費(約1.8倍となる2兆355億円)、継戦能力への不安が高まっていた弾薬の整備費(約3.3倍となる8283億円)、強靭化の必要性が指摘されていた施設整備費(約3.3倍となる5049億円、宿舎除く)などである。これに、研究開発や隊員の生活・勤務環境改善のための予算も大幅増となっている。
これらはいずれも、新たに必要になったものというよりは、これまで手当できていなかったものであり、防衛費が増額される中でようやく実現できたものということができる。施設関連では、空調関連が22年度当初予算では20億円(補正で40億円)しか認められていなかったが、23年度は424億円が計上されている。これまで自衛隊の関連施設がいかに劣悪な環境に置かれていたかを象徴的に示している。
防衛省は23年度予算を「防衛力抜本的強化『元年』予算」と呼んでいるが、実際には、反撃能力の構築などの前に、まずはこれまでの宿題を片付けることに主眼があるといえそうだ。そうした基礎がなければ、抜本的強化も砂上の楼閣になってしまう。そのことへの正しい危機感が防衛省にはあったのだろう。
増税提示に揺れる国民世論
その上で、そうした状況を見守る国民の目はどうか。2022年に入ってから、防衛費増額に対する世論の支持は高くなっていた。2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻や台湾をめぐる緊張の高まり、そして北朝鮮による記録的な頻度でのミサイル発射などで、一般の人々も日本を取り巻く安全保障環境の悪化、さらには国際秩序の動揺を意識せざるを得なくなったのだといえる。22年4月の日本経済新聞による世論調査では、防衛費をGDP比2%以上にすることに対して55%が賛成し、反対は33%だった。
しかし、「防衛強化が必要」という一般論は、「自ら負担する用意がある」ことを必ずしも意味しない。つまり「誰かがどこかで負担」するのであれば防衛費増額に賛成でも、増税などを通じて、自らの負担になるのであれば賛成できない人が多い。これは驚くには値しないだろう。
実際、同じ日本経済新聞による、3文書決定後の12月の世論調査では、防衛費を向こう5年で43兆円にすることに対して、賛成47%、反対45%と拮抗し、そのための増税について、岸田総理の説明が不十分だとする声が84%に上った。ただし、政府が増税開始の時期に関する決定を先送りしたことに対しては、「適切でない」が50%、「適切だ」が39%となった。
負担を嫌う国民感情が示された一方で、財源に関する決定が先送りされることへの不安のようなものも示されている。10月末の同じく日本経済新聞による世論調査では、防衛費増額の財源として、「防衛費以外の予算の削減」が最多の34%になり、「国債の発行」の15%、「増税」の9%を大きく上回った。ちなみに、「増額は必要ない」が31%であり、これを除けば、(防衛費増額を支持する人の中では)「防衛費以外の予算の削減」が半数近い支持を受けたことになる。
これは、国民が単に負担を嫌っているのではないことをも意味しているのだろう。もっとも、それでも、自らが利益を受けている予算が削られるとすれば、反対するかもしれないが、単に国債発行に頼ってよいという声が多数でない背後には将来への不安があるのかもしれない。そこには、揺れる国民世論が存在する。
「負担なき防衛費増額」の幻想
防衛費増額をめぐっては、増税の方針を示した岸田首相に対し、自民党内で反対の声が湧き上がった。ただ、増税反対論の中身については分類が必要だろう。マクロ経済政策として、この経済状況で増税すべきではないとの主張もあれば、財政政策として、そもそも財政赤字・政府債務の大きさは気にする必要がないという主張もある。また、外為特会などの特別会計や国有財産の売却などによる利益を活用すべきという声や、増税ではなく歳入増を目指すべきとの声もある。増税反対が一枚岩なわけではない。
今後5年間で必要となる増額分は17兆円であり、何か1つの手段によって全てをまかなうことは不可能である。増税として法人税、所得税、たばこ税の引き上げが想定されているが、そのための法案提出時期は明示されていない。実際には、増税に加え、歳出改革(他の予算の削減)や国債、特別会計など、さまざまな手段を組み合わせることになる。税収増も期待されている。岸田政権による増税方針が注目されたものの、今後5年の43兆円のうち、増税による財源確保は最終年度で1兆円程度とされる。それにもかかわらず、増税問題がここまで論争的になり、内閣支持率の低下にもつながったと考えるのであれば、問題の扱い方を間違ったというほかない。
いずれにしても、「負担なき防衛費増額」という幻想が拡大するのは問題である。国防は「誰かがどこかで負担」する他人事ではなく、国民一人ひとりの問題なのであり、そこには負担が含まれる。そしてそれに国民も気付きつつある。そのために上記のように世論は揺れているのだろう。
経済成長による歳入の自然増や国有資産の売却分を防衛費に充てることは、誰にも追加的負担がないようにみえるかもしれない。しかし、それを防衛費に充当すれば、他には使えなくなるわけであり、他の予算費目との関係ではゼロサムの関係にある。それらを合わせて、政府としての優先順位付けが問われるのである。持続可能な防衛費増額のためには、なぜそれが必要かに関する政治指導者による正直な発信がいままで以上に求められる。
●予算編成や新規事業 協議する前に持つべき視点と対話 1/13
早くも2023年を迎え、国会では来年度予算に向けた審議が始まろうとしている。昨年暮れには、防衛費の増額に対してその予算をどのように捻出するのか、与党内で活発に議論されていたことが報道で明らかになっている。国家予算としてある程度のパイが決まっている中でそれをどのように分配することが、国を発展させる最も効果的で効率的な最善策であるのか、慎重な検討は欠かせない。
しかし実際には、そのような観点から国益を追求するというよりも、縦割りの弊害により官僚間で対立する場合も多い。それが最も顕著に現れるのが予算編成である。今回は、官庁間での意見の相違や対立を例に挙げながら、交渉学におけるミッション、すなわち、俯瞰的見地から考えた最終目標を共有することの重要性について解説する。
日本に多く存在する縦割りの弊害
最近筆者の目を引いたのが、22年12月18日に日本経済新聞に掲載された「コンパクトシティー阻む「縦割り行政」 見えぬ成功例」である。
この記事は、コンパクトシティーの構築がうまく進んでいない理由は、縦割り行政だと指摘している。つまり、駅前などの開発は国土交通省、郊外の大規模開発は経済産業省とそれぞれ管轄が異なるため、調和のとれた開発が進まない状況を生み出しているという。
本来であれば、国や地方自治体が旗振り役となって、国づくり、まちづくりの主役となるべき、そこに住む人々を巻き込んだ形でどのような開発を進めるべきか議論することが成功への鍵と言えるだろう。しかし、これには相当な労力と時間を要するため、実際にそうした橋渡し的な調整が行われることはあまり期待できない。
それでもやり遂げて成功した貴重な事例として、富山市を挙げたい。森雅志前市長が、住民はじめ関係者のコンセンサスを得るために回を重ねて説明に努め、特筆すべきリーダーシップを発揮して実現したコンパクトシティー政策は、世界でも評価されている。
国の根幹に関わる「インテリジェンス」の部分においても、縦割りの問題点が指摘されている。インテリジェンスとは、収集した情報を分析・評価して、それを政策決定や危機管理に反映させることをいう。
特に、冷戦が終わる頃までは、インテリジェンスを扱う機関として、内閣調査室、外務省、防衛庁、警察庁、公安調査庁などがあったが、これらの間で情報が共有されることはほとんどなかったと言われている。いずれも秘匿性の高い組織であるとは言え、各機関が個別に対応していたということであり、当然相乗効果は望めず、日本の危機管理の甘さが官庁間の非協調性に求められ得る状況であった。
また、筆者が専門家の立場から見てきた規制緩和・規制改革や、司法制度改革についても縦割り行政の弊害が垣間見える。
規制改革は、日本の産業がいわゆる護送船団方式で構築されてきたことに端を発する問題である。これは言い換えれば、破綻させない仕組みであり、各省庁は各産業分野における旗振り役として強大な権限を持っていた。
これに対し、1990年代の日米構造会議などにおいて、日本のこうした行政運用が強く問題視され、結果として、企業間で自由に競争させ、ときに破綻もやむを得ないという方向性に日本は舵を切ることになった。これまでの権限を失うことになるため各省庁からは強力な抵抗もあったが、小泉純一郎政権の誕生によって、政治の力でそれをある程度は乗り越えてきたと言えよう。
また、司法制度改革については20年ほど前、「法科大学院(ロースクール)」導入をめぐる議論に参加させていただいたことがある。学校としての法科大学院は文部科学省の管轄になるが、法曹になるための司法試験は法務省の管轄である。
法科大学院を卒業した人に法曹資格を与えたい文科省と、一定の試験をクリアした人材を法曹として認めたい法務省、という考え方の違いが残されたまま現在に至っている。法務省と文科省の共通のミッション、問題意識を再確認した上で、法曹人材の教育・養成機関としてより意義のある法科大学院を構築していくことが今後の展開として期待される。
自らのミッションは何なのか
いずれの問題も、冒頭に論じた予算編成の議論に大きく関係してくる。そして、予算は省庁毎に編成される制度である以上、各省庁が自らの権限の範囲内で考えざるを得ない側面も理解に難くない。
ここで大切なのは、それが省益ではなく、国益にかなっているか、という俯瞰的な判断基準をもって進められているかどうかである。交渉学的に説明すると、「バルコニー(桟敷席)から見ている」かどうか、ということになる。
ビジネスの交渉現場でも、たとえば、ある製品Aをいかに安く買うか、高く売るか、といった目先の議論だけにとらわれてしまい、業界全体を見渡して他社製品との関係ではどうか、あるいは相手会社と将来的にどのようなことがしたいのかといったミッションを忘れた議論に陥ってしまうことがまま起きる。しかし、これでは新たな可能性や創造性が生まれないことは目に見えている。
したがって、国の政策となれば、このような観点がより重要であることは明らかだろう。官庁横断的な政策こそ「大局的視点」を重視する必要がある。まずは、省庁にとらわれない議論を行い、国として目指すべき方向を見定めたうえで、各省庁がそれぞれの政策を進めることができれば、予算や権限の奪い合いという駆け引きに陥ることを防ぎ、各々の専門に集中するという縦割りの良さを生かした、一体感を持った政策が展開できるのではないだろうか。
ミッションを構築する際には、「利害関係者」を把握することも重要である。特に、国レベルの政策となれば、利害関係者は多岐にわたるだろう。
例えば、国の財政健全化に向けて公共工事を減らす、と言えば、多くの国民にとってはよい方向性だと感じられるだろう。しかし一方で、工事事業者の仕事が減り、そこで働く労働者の生活が難しくなる、という側面もあわせ持つ。また、官庁間の意見の相違について前述したが、その際の利害関係者として政治家が絡んでいることも多く、どのような考えに基づいて物事が進められているのか政治的視点からも注視する必要がある。
このように、政策決定の際には、常に全方位に目を配ってさまざまな利害関係者を把握し、ある政策を実行した場合にはどのような影響を及ぼすのか、多面的に検討し熟慮することが極めて重要である。
一昨年には、「デジタル庁」という新しい官庁が発足した。アナログで非効率な業務や仕組みを、デジタル技術導入により効率の良い行政運用に変えていくという目的を考えれば、どの省庁もデジタル庁と連携し推進していくことが求められる。
すなわち、デジタル庁は、官庁横断的な政策を担うだけでなく、庁自体が横断的組織であると言える。だからこそ、さまざまな政治家や官僚が集まってこの国の未来を考えるときに、日本が今後どのようにあるべきかというミッションの共有を行い、それを具現化する手段として個別具体的な政策が展開されることを期待したい。
意外と社内で共有されていない
「わが社のミッションは何ですか?」
ある会社の取締役会で、新任の取締役が問いかけた。これを聞いた社長は、「そんなことは新任のあなた以外わかっているに決まってるじゃないか」と不満気だったが、実際に聞いて回ると、それぞれが語る内容が一致していないことが明らかになった、というエピソードがある。
取締役会という会社の中枢が集まる場ですら、意外にもミッションが浸透していない、ということである。そのような状況下で会社の経営について討議したところで、そもそも目指すべきゴールが異なっている以上、かみあわない議論になることは明らかである。
あなたの所属する会社では、従業員一人ひとりが会社としてのミッションを理解しているだろうか。近年ではパーパス経営という言葉も聞かれるが、いずれにせよ、組織が目指すべき方向性を全体で共有することの大切さにスポットを当てていることには変わらない。
国家や企業、その他あらゆる組織におけるミッションの重要性を理解していただけただろうか。新年や年度始まりという機会に一度腰を据えて、われわれのミッションは何か、という確認や議論を行うことが、より良い組織づくりへの第一歩になる。
●「矛の一部」になろうとする日本 1/13
日本は最近、野心を露わにしている。過去の自衛隊が「盾」で米軍が「矛」という分業に甘んじず、「矛の一部」になろうとしている。
日本政府は昨年末に重要な安保3文書を閣議決定した。うち「国家安全保障戦略」は、日本は「反撃能力」、すなわち「敵基地攻撃能力」を保有すべきとした。
日本政府は昨年末、さらに2023年度当初予算案を閣議決定した。防衛予算は6兆8219億円にのぼった。うち米国性巡航ミサイル「トマホーク」の調達費は2113億円で、長距離攻撃ミサイルの調達費及び関連予算は1兆4000億円。
呂氏は、「注意すべきは、米国が国家安全戦略を発表した後に、日本も安保3文書を閣議決定したことだ。つまり日本の安全はかつて米国に保護されていたが、現在の日本はその同盟国の米国も保護しようとしており、そのため攻撃的な武器が必要だと称しているのだ」と述べた。
外交学院国際関係研究所の周永生教授はさらに、「日本が反撃能力を保有すれば、かつて称していた専守防衛政策が放棄され、平和憲法も形骸化されることを意味する。戦後の自制的な軍事戦略と完全に異なる、何ら制限のない軍事戦略が見えてきた」と指摘した。
●日米2プラス2 沖縄の自由使用認めない 1/13
日米両政府は外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、米軍と自衛隊の一体化を加速させる姿勢を鮮明にした。南西諸島における施設の共同使用を拡大し、共同演習・訓練を増加させることを確認。空港・港湾を柔軟に使用することにも言及している。
県内の民間インフラを平時から日米で軍事利用し、実戦的な演習を各島で展開していくことが予想される。米軍基地の過重負担に自衛隊の配備強化が加われば、沖縄の住民の負担は増大し、多くの危険に巻き込まれる。
日米の軍事一体化と連動する沖縄全体の自由使用を認めるわけにはいかない。
2プラス2から見て取れるのは、中国との覇権争いの片棒を日本が担ぎ、米国の要求に従って軍備と借金を膨張させる構図だ。発表された共同文書は、日本側が「防衛予算の相当な増額を通じて、反撃能力(敵基地攻撃能力)を含めた防衛力を抜本的に強化するという決意」を表明し、米側は日本の新たな国家安全保障政策を強く支持した。
安保3文書は国会の議論もなく内閣の閣議決定で決めた。増税や国債発行を伴う防衛費の大幅増額にも国民の反発は大きい。23日召集の通常国会で最大の議論となるはずだ。そのような国民の同意を得ていない政策を国会よりも前に外国に約束することは、主権者に対する背信行為だ。
2プラス2では、離島での戦闘に特化した「海兵沿岸連隊」を在沖米海兵隊に創設することや、自衛隊による嘉手納弾薬庫地区の共同使用の追加なども確認された。
弾薬庫の共同使用は、長期戦に備えて南西諸島の各地に弾薬を分散・保管する一環だろう。沖縄市には陸上自衛隊の新たな補給拠点が整備され、弾薬や燃料などを備蓄する。与那国駐屯地を拡張してミサイル部隊を配置し、火薬庫を建設する計画もある。
島嶼(とうしょ)県の沖縄は保安距離をとる広大な土地はない。沖縄全体が火薬庫となれば、住民地域は危険物と隣り合わせになってしまう。
民間インフラの軍事使用を巡っては、自民党国防議員連盟が11日に宮古島市を視察し、佐藤正久参院議員は下地島空港を「県管理ではなく国管理にしたら」などと主張した。施設ごと国の管理にし、地元の反対を無力化しようとする強権的な発想だ。
1971年に屋良朝苗琉球政府行政主席と日本政府が交わした「屋良覚書」で、下地島空港の軍事利用が否定されている。79年に県と国の間で交わされた「西銘確認書」も屋良覚書の趣旨を再確認している。平和利用を続けてきた歴代県政の取り組みを反故(ほご)にすることは許されない。
抑止力一辺倒は軍事的な緊張を高め、かえって地域の安全保障環境を不安定にする。日本は外交の主導権を発揮し、中国との関係を安定させる役割を担うべきだ。
●リスキリング1兆円予算で賃上げできるのか? 1/13
要旨
• 岸田首相は2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明した。それ以来、政府は矢継ぎ早に推進策を講じ、今や「リスキリング」という言葉は流行語大賞の候補に入るほどの脚光を浴びている。
• 政府は今後、「1.労働移動」、「2.リスキリング」、「3.賃上げ」の三つの課題を「同時に取り組む」としているが、筆者は三つの課題の「解決に向けた道筋」は、「2.リスキリング」によって、成長分野への産業転換に必要な「1.労働移動」を円滑に進め、その結果「3.賃上げ」につなげることだと考えている。
• リスキリング1兆円予算を賃上げにつなげるためには、企業の「生産性・付加価値向上」によって持続的な賃上げの好循環を形成することが重要である。マクロ経済の視点からも、賃上げには企業が成長分野の事業から収益を拡大することで「1付加価値」を増やし、同時に「2労働分配率」を上げる必要がある。その際、スキルを高める労働移動(=効果的なリスキリング)を促すことが、賃上げの実現性を高めるポイントとなる。
• 「学び直しをして新しい仕事に就く」までが広義のリスキリングである。政府の5年間で1兆円の投資は、「1労働移動支援」、「2転職支援」、「3学び直し支援」を3本柱として今後施策が展開される。その際も、3の学び直しをいかに12の労働移動・転職支援によって仕事へとつなげるかが、成功のカギを握る。
• 国家戦略としてリスキリングを推進するドイツ、フランス、カナダが優れているのは、AIによる労働市場分析・提案といったデジタル技術を活用し、官民連携により、学び直しを仕事へつなげる仕組みを構築している点にある。
• リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのか。まずは、企業が主体となり2つの軸(「1付加価値」「2労働分配率」)を改善し、持続的な賃上げに向けた好循環を形成することが急務である。さらに、1兆円の予算を基軸に、個人がリスキリングを積極的に行える土壌を社会全体でつくることができれば、実現は可能である。
1. 政府が急ピッチで進めるリスキリング
政府は「人への投資」を新しい資本主義の柱として位置付けている。岸田首相は、2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明した。また、10月12日に開催された日経リスキリングサミットでは、首相自らパネルディスカッションに登壇し、この1兆円投資策の3本柱(5節で詳述)を発表した。さらに、10月下旬に発表された総合経済対策においてはその具体策が示され、現在、リスキリングに伴う労働移動を加速させるための「企業間・産業間の労働移動円滑化に向けた指針」策定に向けて政府内で議論が行われている。
こうした政府による矢継ぎ早の動きが影響し、「リスキリング」という言葉は、流行語大賞にノミネートされるほど、一躍脚光を浴びることとなった。今後の方針として、首相は「労働者に成長性のある産業への転職の機会を与える『1.労働移動』の円滑化。そのための学び直しである『2.リスキリング』。これらを背景とした構造的『3.賃金引き上げ(以下、賃上げ)』の三つの課題に同時に取り組む」としている。筆者はこの三つの課題の「解決に向けた道筋」は次の通りだと考えている。それは、「2.リスキリング」によって、企業を成長分野への産業転換を促す際に必要な「1.労働移動」を円滑に進め、「3.賃上げ」につなげるという道筋だ。果たして、このような道筋を描き、リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのだろうか。本稿では、まず賃上げに向けた道筋を解説した上で、5年間で1兆円予算の中身を検証し、国家戦略として進める海外のリスキリング事例を参考に、賃上げの実現性について企業からの視点で考察していく。
2. 「リスキリング1兆円予算で賃上げ」に向けた道筋
政府の「三つの課題(1.労働移動、2.リスキリング、3.賃上げ)」の解決に向けて筆者が考える道筋を図解したものが資料1である。前提として、低迷する日本経済の成長を促すためには、デジタルやグリーンといった新しい成長分野に企業がビジネスの活路を見出す「産業構造の転換」が必要となり、その際に既存分野から成長分野へ働き手を動かす「1.労働移動」が求められている。この労働移動を「2.リスキリング」によって円滑に行うことで、政府は「3.賃上げ」の実現を目指していると考えられる。
このリスキリングを「3.賃上げ」につなげる際、岸田首相は前述のサミットで「賃上げが高いスキルの人材を引き付け、企業の生産性向上につながり、さらなる賃上げを生むという『好循環』を機能させていく」という「賃上げによる好循環の形成」について述べた。賃上げを一時的なものではなく、継続的なものにするにはこうした好循環の形成は急務である。一方で、筆者は持続的な賃上げのためには、企業の「生産性・付加価値向上」による好循環の形成が重要だと考える。資料1の下部分にあるとおり、企業の生産性・付加価値の向上を起点として、それを原資に賃上げが行われ、より高いスキルの人材を採用できるようになる。こうした人材が活躍する分野で生産性・付加価値がさらに上がるという「持続的な賃上げに向けた好循環」を目指すべきだと考える。
   資料1 リスキリング1兆円よさんによる賃上げ実現に向けた道筋
企業の「生産性・付加価値向上」には様々な戦略があるが、産業構造の転換を目指す際、「成長分野での挑戦」に向けた後押しが重要となる。例えば、既存分野を持つ伝統的企業では、既存事業の生産性向上とともに、新規成長分野への拡大に果敢に挑戦するマインドを経営者が持つことが大きな一歩となる。一方で、特に成長分野でビジネスをスタートさせるベンチャーやスタートアップ企業を中心とした新興企業には、マインドの実現に向けて不足するヒト・モノ・カネ・情報等への支援が求められる。こうした「成長分野での挑戦」に必要となるリソースを社会全体で補っていくことが今後必要となっていくだろう。
3. リスキリングは賃上げに結びつくのか?
政府が賃上げを目指す背景には、平均賃金が伸びない日本の現状がある。日本では1990年代から約四半世紀にわたり賃金水準が伸び悩んでおり、国際比較においてもその傾向は顕著である(資料2)。その要因の一つに、労働市場の硬直化がある。日本では、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムの下、従業員は企業に長期間勤めることが良しとされてきた。一方の企業も、たとえコロナ禍であっても雇用を守り、政府も雇用調整助成金等の措置で雇用を下支えするなど、社会で雇用を守る姿勢を維持してきた。その結果、労働市場の流動性が低く、賃金が伸びない状況となっている。加えて、非正規雇用比率の上昇も平均賃金の押し下げ要因となってきた。
   資料2 平均賃金の伸び(国際比較)
一方、マクロ経済の観点から見ると、他の要因も見えてくる。資料3は賃金が生み出される構造を簡略化して示したものである。企業活動から新たに作り出される付加価値のうち、労働者へ分配される「人件費」を付加価値で割った割合を「労働分配率」と呼ぶ。企業の低成長により「1付加価値」が増えない、および/もしくは「2労働分配率」が上がらないことが、賃金が伸びない要因となってきた。
   資料3 日本の賃金が伸びない理由
資料4は日本の名目GDPと労働分配率の推移(1994-2021年)を見たものである。世界金融危機(2008年)と新型コロナウィルス感染症蔓延(2020年)の影響を受け浮き沈みはあるものの、日本は「1付加価値」を示す名目GDPが長年伸び悩み、「2労働分配率」は減少傾向にある(注1)。今回、政府がリスキリングを含む投資によって賃上げを目指す際も、この二つの軸を改善していけるかがポイントとなる。つまり、企業が自社の成長分野や新規分野での事業を拡大し、そこからの収益を拡大することで「1付加価値」を増やし、企業の賃上げマインドを醸成する。そして、同時にリスキリングで成長分野への労働移動を円滑に行うことによって、前述の資料1における「持続的な賃上げに向けた好循環」を形成し、「2労働分配率」の上昇につなげるということである。
   資料4 名目GDPと労働分配率の推移(1994-2021年)
なお、少し古いデータにはなるが、経済産業省の産業構造審議会(2016年)は、産業構造の転換を促す変革シナリオに沿って企業が成長した場合の試算を示している。資料5にあるとおり、「付加価値」の指標である名目 GDP 成長率は +2.1%ポイント、賃金上昇率は +1.5%ポイント現状放置シナリオを上回るとの結果が出ている。産業構造の転換に伴って付加価値、賃金とも大きく増加する中、名目 GDP 成長率(年率3.5%)を賃金上昇率(同3.7%)が若干上回ることで労働分配率も改善することが見込まれている(注2)。こうした変革シナリオを実現し、労働移動の円滑化および賃上げにつなげるためにも、リスキリングが重要な役割を果たすことが期待されている。
   資料5 産業構造の試算結果
また、今回の政府の施策には転職を後押しするものも含まれているが、転職で賃金は上昇するのだろうか。資料6は、転職前後での賃金の変化を雇用形態別に見たものである。正社員から正社員への転職は、男女とも約65%の人がその前後で給与は変わらない、もしくは減少している。年齢によっても異なるものの、転職しても賃金は増えにくいという事実は、日本の労働市場の実情を表しているといえる。一方、非正規社員から正社員への転職の場合、男女とも約6割が賃金が上昇している。
   資料6 転職前後の賃金の変化(2020年)
もちろん賃金体系の違いから上昇は当然だという解釈もあるが、「(正社員転身に向けて)スキルを磨いたうえでの転職(=リスキリング)は賃金上昇する」と前向きに捉えられる面もあろう。既に示した賃上げに必要な2つの軸(「1付加価値」「2労働分配率」)の改善を行う中で、スキルを高める労働移動、つまりは効果的なリスキリングを展開していくことにより、正社員から正社員の転職も含めた、幅広い層での賃上げを促すことが重要となる。
4. 改めてリスキリングとは?
ここまでリスキリング1兆円予算による賃上げの実現のための道筋を考察してきた。では、この実現性を高めるためには、どのようなリスキリング施策を推進したらよいのだろうか。本章以降では、改めてリスキリングについて解説したうえで、その効果的な施策について考えていきたい。
リスキリングとは、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)といった大きな社会の変革で生まれる新しい仕事に、労働者が円滑に移行できるようスキルや知識を身に付けさせる企業戦略・国家戦略を指す。「個人のリスキリング」という表現も聞かれるものの、リスキリングは主に企業が主導する人事戦略であり、それを政府が支援及び協働することで国家戦略として推進する動きが広がっている。さらにリスキリングは「学び直し」と言い換えられることもあるが、「学び直しをして新しい仕事に就く」までが広義のリスキリングであると筆者は考える。後述するが、この学び直しで終わらせずに仕事へつなげる仕組みづくりが、1兆円投資における成功のカギを握る。
また、リスキリングには2パターンあると考えている(資料7)。1つは、社外への転職に向けたリスキリングであり、これを「市場リスキリング」と呼ぶことにする。もう一つは、社内の成長部署や新しい職務に移行するためのリスキリングであり、これを「企業内リスキリング」とする。
   資料7 リスキリングの2つのパターン
資料7が示すとおり、「市場リスキリング」は社外への転職を軸とするものであり、受け入れ企業にとっては新しい労働力の受け入れを、また結果として従業員を送り出す企業にとっても社外でも通用する人材の育成を意味する。いわば「労働力の社会共有」が企業の目的となる。労働移動の例としては、転職のほかに社外副業(注3)、ボランティア活動等が含まれる。転職するかもしれない従業員のために会社が支援するというのは、日本企業の文化としてはなかなか受け入れ難い考え方かもしれない。しかし、欧米の大企業中心に従業員の社外への移動を支援する「アウトスキリング」と呼ばれる動きも出ており、日本でも退職した従業員向けのカムバック制度等が広がり始めている。今後は従業員を囲い込むのではなく、転職や副業を中心とした企業への出入りを許容し、人材を社会全体で共有することが重要になると考える。
一方の「企業内リスキリング」は、成長部署への異動や新しい職務の遂行が目的となり、企業にとっては「労働力の高度化」と位置づけられる。労働移動の例としては、ジョブポスティング等による社内異動、在籍型出向、社内副業(注4)、社内起業等が挙げられる。リスキリングを行う目的によって、労働移動の方法は異なり、それに伴い適切な施策も異なる。ここを整理せずに議論されるケースも散見されるが、この2つのタイプを念頭に、政府や企業は支援策を講じていくことが重要である。
5. 1兆円予算の中身は?
次に、政府が掲げる「人への投資」としての5年間で1兆円の中身を検証していきたい。首相が前述のサミットで発表した人への投資の3本柱は、1転職・副業を受け入れる企業や非正規雇用を正規に転換する企業への支援(労働移動支援)、2在職者のリスキリングから転職までを一括支援(転職支援)、3従業員を訓練する企業への補助拡充(学び直し支援)であった(注5)。
そこで、資料8に、この3本柱に沿って今後どのような施策が展開されるか筆者の予測をまとめた。具体的には、総合経済対策で示された施策からリスキリングに沿った施策を抜粋し(注6)、3本柱に分類した上で、前章で挙げた「市場リスキリング」と「企業内リスキリング」のどちらに該当するかを示した。
   資料8 1兆円の主な施策
その上で、各省の令和5年度予算概算要求(22年夏頃)および令和4年度補正予算(22年12月)より、予算規模をわかる範囲で掲載している。仮にこの右枠の予算額を積み上げていくと、合計で約1900億円となる(注7)。概算要求と補正予算が混在しているため正確な数字ではないが、5年間で総額1兆円の予算を単純計算で年2000億円組むとすると、大体このような規模感になると予測する。次に各施策の内容を具体的に見ていきたい。
まず、「1労働移動支援」には、転職者や転籍、正規雇用への転換、在籍型出向、中小企業での副業といった多種多様な労働移動を実践する企業への支援が含まれている。注目すべきは、22年12月に成立した経済産業省関連の補正予算において追加された「副業・兼業支援補助金(43億円)」である。副業促進をメインとした施策として、今後、人材を送り出す企業・受け入れる企業への補助が加わることとなり、労働移動を促す強力な支援策となりそうである。
次に、「2転職支援」では、「市場リスキリング」への支援、つまり転職を主眼とした個人への支援がメインとなる。個人の支援ではあるものの、どのような学び直しをするのか、受け入れ企業とのマッチングをいかに行うか等が焦点となるだろう。岸田首相は「学び直しから転職へ一気通貫で支援していくような制度を新設」と述べており、個人が民間の専門家に転職相談できる仕組みとして人材派遣会社への支援金の拡充が予想されている。22年12月成立の経済産業省関連の同補正予算では、「リスキリング(学び直し)を通じたキャリアアップ支援事業」として753億円が計上され、今後どのような企業がどう支援していくかに注目が集まりそうである。
最後に、「3学び直し支援」については、失業者が新たな職業に就くための従来からの職業訓練支援や、従業員に職業訓練を行う企業への支援等がある。また、文部科学省の「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」では、社会人向けにデジタルやグリーン分野のプログラムを提供する大学への支援も盛り込まれた。今後、官民連携に加えて「学」との連携を推進していくこともますます重要になるだろう。前述の通り、広義のリスキリングは「学び直しをして、新しい仕事に就く」までを指す。政府の1兆円予算においても「3学び直し支援」を、いかに「1労働移動支援」および「2転職支援」によって新しい仕事につなげていくかが成功のカギとなるだろう。
6. 国家戦略として推進する海外リスキリング事例
では、日本が今後、リスキリングを推進する際、どのように施策を拡充・新設していけばよいだろうか。国家戦略としてリスキリングを推進しているドイツ、フランス、カナダの事例を見ていきたい(資料9)。
   資料9 国家戦略としてリスキリングを進める海外事例
資料9では、ドイツの雇用エージェンシーによる「AIキャリア診断を活用した国家戦略リスキリング」、フランス職業安定所とEdtechベンチャー連携による「学習伴走型・官民連携リスキリング」、そしてカナダ政府と人材育成ベンチャー協働の「AIによる労働市場分析・提案型・官民連携リスキリング」の3つの事例を紹介している。
こうした海外事例で共通しているのは、「学び直しで終わらせない仕組み」が施策に組み込まれている点である。単に職業訓練のメニューを提供する、就職先を斡旋するだけでなく、AIによるキャリア診断・労働市場分析・提案、専門家との毎週の1on1セッション等を活用し、学び直しを仕事へとつなげる仕組みが構築されている。また政府が、技術を持つベンチャー企業と協働し、AIなどの最新技術を駆使した効果的なリスキリングを行っているのも特徴である。
日本で国家戦略としてのリスキリングを展開する際も、学び直しは学び直し、仕事は仕事と支援体制が縦割りにならないよう留意しなければならない。その上で、民間企業や大学等との協働による施策を積極的に展開していくことが期待される。このように、学び直しを仕事につなげる仕組みを構築し、大企業だけでなく中小企業の従業員、非正規雇用者、女性や高齢者、潜在的な労働者も含めた多様な層にリスキリングを促していくことが、賃上げの実現性を高めるために必要となる。
7. 「企業」が賃上げの好循環をリードし、「社会全体」でリスキリングを推進していくべき
リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのか。まずは、企業が主体となり2つの軸(「1付加価値」「2労働分配率」)を改善し、持続的な賃上げに向けた好循環を形成することが急務である。さらに、企業は、従業員がリスキリングを積極的に行える環境整備を行う必要がある。例えば、学び直しをして移動する意欲のあるリスキリング人材を積極的に受け入れ、社内で適正な評価・処遇を与える体制を整えるといったことも必要となるだろう。
その上で、1兆円の予算を基軸に、個人がリスキリングを積極的に行える土壌を社会全体で形成していくことが求められる。1兆円予算を投じた施策を、学び直しから仕事へとつなげる効果的ものとすることはもちろんのこと、産官学のリソースをフル活用し、社会全体でリスキリングを支援していくことが重要である。例えば、社会人が学びやすいよう、産学が連携して成長分野に関するオンラインや夜間講座の開設をすることや、海外事例のように技術を持つ民間企業と政府が連携してより効果的なリスキリングの仕組みを構築するといったことも挙げられる。最近では、日本でもリスキリングコンソーシアム(官民連携により学び直しや転職・副業等の労働移動を支援する場)が形成されており、こうしたコンソーシアムと政府および企業とのさらなる協働および社会全体での活用についても検討に値する。加えて、転職や副業、出向といった意欲的な「労働移動」は社会にとってプラスなものだという意識の醸成も必須となるだろう。
このように、企業がリードして賃上げの好循環を形成し、社会全体でリスキリングを推進していくことができれば、リスキリング1兆円予算で賃上げは「可能」だと考える。2022年、骨太の方針をはじめとした日本の政策パッケージに初めて「リスキリング」という言葉が盛り込まれ、その後5年間で1兆円もの予算が投じられることとなった。さらに、足元でも賃上げのモメンタムが形成されつつある。こうした流れを絶好の好機と捉え、今こそリスキリングによる持続的な賃上げを産官学が一丸となって実現していくべきである。
【注釈】
1.労働分配率が2008年(世界金融危機)、2020年(新型コロナ感染症蔓延)に上昇しているのは、経済的ショックにより付加価値が急激に減少したため。労働分配率は人件費÷付加価値額で計算されるため、分母の付加価値額が下がる一方、分子の人件費は下方硬直性があるため、労働分配率は上昇する。
2.1付加価値および2労働分配率も増加すれば、賃金は増加するが、労働分配率が一定でも、付加価値が増大すれば賃金は増加する。逆に、付加価値が一定でも労働分配率が上がれば、賃金は増加するということに留意したい。
3.社外副業は、社内異動や新しい職務遂行を目的に行われるケースもあるが、将来的に転職につながる可能性が比較的高いと考え、ここでは「市場リスキリング」と定義した。
4.社内副業とは、業務時間中に所属している部署以外の別部署で働くことを認める制度。将来的な異動や新しい職務の遂行が目的となるケースが多い。
5.1労働移動支援、2転職支援、3学び直し支援の名称は筆者の命名。
6.総合経済対策における「人への投資強化と労働移動の円滑化」に掲載された全施策は載せず、筆者の判断にて施策の影響範囲が大きいと考えられるリスキリング施策を抜粋。
7.総合経済対策で示された施策からリスキリングに沿った施策を抜粋し、積み上げた額が1916億円。実際に記載された全施策を積み上げた場合はそれ以上になる。
●国債ルール、自民に緩和論 防衛財源に充当、政府は慎重 1/13
防衛費増額の財源を確保するため、国債の「60年償還ルール」の見直し論が自民党内で浮上している。
国の借金の返済財源に充てる債務償還費を減らし、防衛財源に振り向ける構想だ。これに対し、政府は財政規律を維持するため慎重だ。防衛費増額のための増税時期と絡み、争点となりそうだ。
60年償還は、国の借金である国債について、期限を迎えた国債の一部を新たに発行する借換債と現金による払い戻しを組み合わせ、発行60年後までに完済するルール。2023年度当初予算案で債務償還費は約16兆円と、一般会計歳出総額114兆3812億円の15%近くを占める。
見直しの検討を主張する自民党の萩生田光一政調会長は、償還年数を80年に延長する案に言及している。延長すれば、毎年度の債務償還費を減らせる。自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と話す。
自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。
政府は予防線を張っている。松野博一官房長官は12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。財務省も、財政規律の観点から見直しに否定的だ。 
●非正規男性、岸田首相「異次元の少子化対策」に苦笑…悲惨すぎる給与額 1/13
岸田首相の「異次元の少子化対策」発言に「非正規社員を対象とした子育て支援」が加わり、大きな波紋を広げています。確かに「今までにない」政策かもしれませんが、当の本人たちからは「そんなの意味ない」という声も。みていきましょう。
話題になっている、岸田首相の「異次元の少子化対策」。2022年の年間出生数が80万人割れと危機的な状況のなか、飛び出した発言ですが、その基本的な方向性は「児童手当中心とした経済的支援の強化」「学童保育や病児保育、産後ケアなどすべての子育て家庭への支援拡充」「育児休業の強化を含めた働き方改革の推進」と既存政策であったため、異次元というワードに違和感を覚えた人が続出。波紋を広げていました。
そこにきて、さらに「非正規労働者などを対象とした新たな子育て支援の給付制度を新設」という報道。給付対象は、育休を取得できない非正規労働者や自営業者など。問題となる財源は、年金や医療保険、社会保険料を合わせて月に数百円程度引き上げ、拠出金を積み立てる形をつくるといいます。
そもそも原則として1歳未満の子どもを養育するために従業員が休業した場合に支給される「育児休業給付金」。受給対象は、雇用保険制度に加入している会社員だったため、自営業者などは含まれていませんでした。今回はその対象外だった層に対してお金の援助を行うというもののようです。
さらに岸田首相は「従来の省庁の縦割りではなく、横断的な取組み」を強調。しかし実質的な増税が前提となるだけに、このまま支持を受けられるか微妙です。
世間からは「非正規を理由に子どもを諦めている人たちはいると思うから、有意義な政策だ」という声が上がる一方で、当事者の非正規社員の人たちからは「非正規で子育てって……対象者がどれほどいるんだろう」と疑問の声も多く聞かれます。
厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』で、非正規社員男性の給与事情をみていくと、平均月給は(所定内給与)は24万1,300円、年収で342万7,300円。一方で日本の男性会社員の平均給与は月33万7,200円、年収で546万4,200円。月給で10万円、年収で200万円ほどの差があります。
男性非正規社員の給与を年齢別にみていくと、20代後半で月給が20万円台になったのち、30万円台に達することはありません。
【男性非正規社員の給与の推移 : 所定内給与/年収】
20〜24歳 : 187,800 円/2,590,500 円
25〜29歳 : 212,800 円/2,992,500 円
30〜34歳 : 218,700 円/3,057,600 円
35〜39歳 : 225,100 円/3,139,900 円
40〜44歳 : 230,400 円/3,225,300 円
45〜49歳 : 236,200 円/3,320,600 円
50〜54歳 : 246,900 円/3,446,700 円
55〜59歳 : 242,800 円/3,385,400 円
60〜64歳 : 274,700 円/4,101,600 円  
●君たち、中国に勝てるのか。安倍晋三元首相の警告を忘れるな 1/13
日本は中国に勝てるのか
日米両政府はワシントンで外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、日本の「反撃能力」に関し協力を深化させることで合意した。これにより日本の有事への備えは強固なものとなる。だが我々は安倍晋三元首相が生前、自衛隊幹部に言った「君たち、中国に勝てるのか」という言葉を忘れてはならない。
安倍氏のこの言葉がタイトルになった本が産経新聞出版から刊行された。安倍政権で国家安全保障局次長だった兼原信克氏や岩田清文元陸上幕僚長ら自衛隊幹部OBによる共著だ。
この中で、2018年に策定された防衛大綱を作る際に、「居並ぶ自衛隊最高幹部を前にして、いきなり安倍総理から『君たち勝てるのか』と聞かれたことがありました」と兼原氏が明かしている。
安倍氏は早くから中国の軍事的脅威に危機感を持っていたが、残念ながらこれまでの首相の中にはほとんど危機感を持たない人もいた。
米軍と協力すれば負けない
この本を読んでいて思い出したのだが、僕は10年以上前に防衛省の首脳に「戦争になったら日本は中国に勝てるのか」と、安倍氏と同じ質問をしたことがある。首脳の答えは「今は特に海軍力で比べ物にならず日本が強いから負けないが、相手はものすごい勢いで航空機などを増やしているのでいずれ負ける。ただ米軍と協力して戦えば負けることはない」ということだった。
安倍氏はこの首脳の分析と懸念をよくわかっていた。集団的自衛権の行使を容認し、国家安全保障局を作り、国家安全保障戦略を策定し、米国との軍事同盟を強固にしたのだ。岸田首相がこの安倍路線を継承し、防衛力の強化、防衛予算の増加を打ち出しているのは評価すべきことだ。
ただ先日、米国のペロシ前下院議長が訪台した際に中国が日本のEEZ内にミサイルを撃ち込んだにも拘らず、日本政府の対応は外務次官が駐日大使に抗議しただけで、事実上黙認しているようにも見えた。
これについて兼原氏は「外務省の国際法局の意見がそのまま出てしまった」もので、「安保政策上の考慮が欠如している」と政府の対応を批判している。
私の島に手を出すな
つまり岸田氏は安倍氏の安保政策を忠実に引き継いではいるものの、詰めが甘い。というか現場対応がゆるい。このままでは海千山千の中国やロシアにいいようにやられてしまうのではないか。
この本にはもう一つ面白いことが書かれている。安倍氏は中国の習近平主席と会った際に「私の島に手を出してはいけない」と言い、さらに「私の意志を見誤らないように」と言ったというのだ。台本にはない発言でみんな驚いたが、同席していた兼原氏となぜか目が合った習近平は「このまま憑り殺されるかもしれないと思うほど冷たい視線」だったそうだ。これが外交だ。
台湾有事は、あるかないかではなく、いつあるかだ。岸田氏は早い時期に習近平に会って「私の島に手を出すな」と言わなければいけない。
●中長期「1ドル200円」円安予想に変更なし ワタミ今年のテーマは「耐える」 1/13
今年の日本経済を一言でまとめるなら「厳しい」となる。円高と円安の乱高下が続き、賃金は上がらず、一方で物価は上がっていく。外食業も業績がコロナ前の70〜75%で変わらないだろう。中小の飲食店はいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済も本格的に始まる。つまり、いい話はない。
事実上の利上げに踏み切った日銀も「追い詰められたな」というのが感想だ。新総裁になっても何もやりようがないだろう。私は国会議員時代に日銀に対して「出口戦略はどうするのか」と質問し続けた。出口とは、日銀以外が国債を買ってくれる状況を作ることである。今の状況では、10年物国債の利回りを0・5%にしても買ってくれる人はいない。これ以上金利を上げれば日銀は債務超過となり円は信頼を失う可能性が高い。
為替に関しては、どう考えても中長期では、円高にはならないだろう。世界はもうばらまいたお金の回収の局面に入っているのに、日本だけがお金をまだ、どんどんばらまいている。相対的に通貨の価値が下がる「円安」は避けられない。今年は1ドル115円から155円のレンジ内を見込むが、この先2、3年では1ドル200円から300円になるという見通しを変えるつもりはない。
本来は財政再建に取り組むべきなのに、岸田政権は唐突に「異次元の少子化対策」を打ち出した。昨年、防衛費の財源が足りないから歳出改革や、増税を打ち出したばかりだ。その財源の件が片付いていないのに、さらにまた大きな問題を持ち出した。統一地方選前の人気取りとしか思いない。
少子化対策といえば、東京都が18歳以下に所得制限なしで月5000円を給付することにした。月5000円もらえるからといって、子供を産もうと思う人がどれだけいるのだろうか。私は以前から3人目以降の子供には1000万円を支給すべきだと主張してきた。今でも無駄を省けば原資は捻出できる。その3人以上の子供たちが将来、働いて納税してくれればGDPで見ても元がとれる。税金の投資対効果とは本来こういう政策だ。
ワタミでは今年のテーマに「耐える」を掲げ、内なる充実、改革に徹する。これまで、こうした消極的なテーマを掲げたことはないが、若い時よりも、冷静に経済や会社を俯瞰して見るようになった証しだ。ここは「耐える局面」だ。各事業、何があっても潰れない強い体質を作り、今までやってきたことを深く掘り下げる一年としたい。
今年に続く2024年には日銀の債務超過をきっかけとした財政破綻や、中国の台湾進攻など大きな変化があってもおかしくない。ワタミ本社近くの東京・羽田神社で引いたおみくじにも偶然「今年は根を張る年。美しい花を咲かすには土台が必要」と書いてあった。人気取りの政策が並ぶ日本の政治も、根っ子から変えるべきに思う。
●東京都、23年度予算案過去最高 - 8兆円超、少子化対策柱に 1/13
東京都は13日、2023年度当初予算案の概要を明らかにした。一般会計の総額は2年連続で過去最高を更新し8兆400億円となる見通し。都税収入の増加を背景に、少子化対策で18歳以下の子どもに月5千円を給付する新規事業などを盛り込んだ。
小池百合子知事は「歴史的な転換点を迎えている今、次の時代に先鞭をつける施策を構築することができた」と述べた。
歳出は、少子化対策や子育て支援に総額1兆6千億円を計上。第2子の保育料無償化や、将来の出産に備えた健康な女性の卵子凍結への助成を始める。災害対策など都市強靱化に向けた取り組みに7400億円を確保した。

 

●国債60年償還ルールを廃止する歳出改革で増税なしの防衛費増額は可能 1/14
• 防衛費増額のための財源確保法が通常国会を通り、歳出の事実上のキャップで、積極財政から緊縮財政に転じてしまえば、新しい資本主義は失敗をしてしまうリスクが大きくなる。
• 国債60年償還ルールに基づき国の債務を完全に返済するという恒常的な減債の制度を先進国で持っているのは日本だけである。
• 日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革すれば、歳出は債務償還費分の16.8兆円程度も削減できることになる。
• 防衛費増額分は増税なしに十分にカバーでき、新しい資本主義の成長投資に本予算でしっかりコミットすることまで可能となる。
• 60年償還ルールを廃止するような柔軟な(国民を苦しめない)歳出改革ができれば、積極財政の方針を維持でき、新しい資本主義で「成長と分配」の好循環の実績を出すことも可能となるだろう。
防衛費増額にともなう財源確保法の扱い
2023年1月23日に通常国会が召集された。この通常国会での注目は、防衛費増額にともなう財源確保法の扱いである。防衛費をGDP対比2%程度に増額するために、2027年度時点で4兆円程度の財源が必要とされている。その内、法人税を中心とする増税で1兆円強、特別会計などから組み入れる防衛力強化資金で0.9兆円程度、決算剰余金の活用で0.7兆円程度、そして歳出改革で1兆円強が捻出される計画である。増税の開始は「2024年度以降」とされ、年末の税制改正で最終決定されるとみられる。増税以外の財源を確保するための法律が財源確保法となる。
防衛費を除く歳出には事実上のキャップがかかってしまう可能性
財源確保法がそのまま国会を通り、1兆円強の歳出改革とされる削減が決まると、防衛費を除く歳出には事実上のキャップがかかってしまう可能性がある。岸田政権の新しい資本主義は、「人への投資」、「化学技術・イノベーション」、「スタートアップ」、「グリーン・デジタル」を中心に、政府の成長投資で民間を刺激して、「成長と分配」の好循環を目指す戦略である。歳出の事実上のキャップで、積極財政から緊縮財政に転じてしまえば、新しい資本主義は失敗をしてしまうリスクが大きくなる。新しい資本主義で実績が出なければ、岸田首相の求心力は更に低下し、退陣に追い込まれるリスクが大きくなるだろう。
歳出は過去最大
もし歳出改革を柔軟に行うことができれば、防衛費増額と成長投資の財源を簡単に確保することができる。日本の2023年度の国の一般会計当初予算政府案は114.3兆円となり、歳出は過去最大となっている。過去の借金に対応する利払費と債務償還費を含む国債費は歳出の15%を占めている。過去の借金への対応で歳出構造が硬直化している(首が回らない)と言われる。米国の国債費の歳出に占める割合である6.8%と比較し、とても悪いように見え、日本には歳出拡大余地はないという見方を支配的にしてしまっている。日本には、発行した国債は60年で現金償還することを定めた「国債60年償還ルール」がある。毎年の予算に国債の利払費だけではなく、債務償還費も計上している。
減債の明示的なルールはない
グローバル・スタンダードでは、原則的に、政府の債務(国内で自国通貨で発行されたもの)は完全に返済(債務をゼロに)することはなく、事実上永続的に借り換え(満期が来た国債を償還する際、償還額と同額の国債を発行する)され、債務残高は維持されていくことはほとんど知られていない。完全に返済する(現金償還する)のは、景気の過熱などで税収が増加しすぎたりした時など、国債需給の調整の例外的なもので、減債の明示的なルールはない。財政黒字の半分を減債に回すことを定めている日本のルールも異常だ。(このルールだけでもなくなれば、決算剰余金は2倍の額を防衛費に回すことができ、増税はいらなくなる。)償還ルールに基づき国の債務を完全に返済するという恒常的な減債の制度を先進国で持っているのは日本だけである。減債は民間の所得・需要を奪うことになるので当然だ。
日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革
グローバル・スタンダードでは積み上がった国の債務をどう返していくのかという問いそのものが存在せず、利払いを続けながら債務残高を経済状況も安定させながらどう維持していくのかという問いのみ存在する。その理由は、政府の負債の反対側には、同額の民間の資産が発生し、国債の発行(国内で自国通貨で発行されるもの)は貨幣と同じようなものとみなされるからだ。日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革すれば、歳出は債務償還費分の16.8兆円程度も削減できることになる。防衛費増額分は増税なしに十分にカバーでき、新しい資本主義の成長投資に本予算でしっかりコミットすることまで可能となる。60年償還ルールを廃止するような柔軟な(国民を苦しめない)歳出改革ができれば、積極財政の方針を維持でき、新しい資本主義で「成長と分配」の好循環の実績を出すことも可能となるだろう。
●異次元ではない「確かな少子化対策」が身近にある 1/14
1月5日、時事通信社の新年互礼会に出席してきた。
2021年、2022年の2年間はコロナ禍で中止や人数制限を行っていたそうだが、今年は来客も多士済々であった(なにしろ筆者が呼んでもらえたくらいだ)。しかも、立食パーティーが復活していた。久々に食べた帝国ホテルのローストビーフは、やはり美味でありましたぞ(笑)。
パーティー会場がずっと「ざわざわ」していたワケ
この新年互礼会、ときの総理大臣がかならず出席して挨拶することが「売り」になっている。今年もちゃんとお見えになりましたよ、岸田文雄首相が。
ところが壇上に上がるときに、大きな「黒いバインダー」を手にしておられる。瞬間、いや〜な予感が走りましたな。案の定、総理は長々と原稿をお読みになる。しかも、前日4日の総理記者会見とほとんど同じ内容である。「異次元の少子化対策に挑戦する」という例の一節も飛び出しましたな。
以前の小泉純一郎首相や安倍晋三首相は、「紙」なぞは持たずに壇上に立ち、当意即妙なパーティートークで会場を大いに沸かせたものであった。
しかるに、総理の後に壇上に立った新聞協会長や経済団体長も同様に「紙」付きだったから、会場はざわざわしたままで「み〜んな聞いてない〜」モードであった。どうやら長らくパーティーが「自粛」されている間に、わが国のパーティー文化は劣化してしまったようである。
それはさておき、問題は「異次元の少子化対策」である。別に「異次元」である必要はないと思うが、岸田首相は少子化問題に本腰を入れるようだ。1月6日には小倉將信・こども政策担当相に対し、3月末までに具体策をまとめるように指示し、1月中に新たな検討会の初会合を開く。そして6月の「骨太方針」には、子ども関連予算の倍増を決めるという。
防衛費倍増や原発再稼働などと同じく、岸田首相が「有言実行」スタイルであるのは結構なことだ。しかし財源として、消費増税に踏み込んだ甘利明前幹事長の発言はいただけない。そんなことをすれば、諸事物入りな子育て世代をガッカリさせること間違いなしではないか。
予算規模はおろか、政策メニューが決まる前から財源について触れたがるのは、財務省のDNAを色濃く受け継ぐ現・宏池会政権の「よろしからぬ傾向」であるように見受けられる。
かかる岸田首相の方針発表に対し、マーケットの反応が興味深かった。さぞかし「子ども関連株」が買われるかと思ったら、誰でも知っている「ピジョン」(育児用品)や「ベネッセHD」(教育)、「西松屋チェーン」(子ども服)などはほとんど変化なしだった。
上がったのは、どちらかというと「SERIOホールディングス」(育児支援)や「タメニー」(婚活サービス)、「ベビーカレンダー」(育児サイト)など、聞いたことがない銘柄ばかり。要は皆さん本気にしていないから、大型株には手を付けずに、小型株の思惑買いの材料に使われたようである。いつものことながら、こういうマーケットのぶっちゃけで現金な反応って、好きだなあ。
2022年の出生数はついに「80万人割れ」へ
あらためて少子化問題の深刻さを確認しておこう。2022年の出生数は80万人割れの見込みである。厚生労働省の公表によれば、2022年1月から10月までの累計で出生数は66万9871人、死者数は128万9310人である。するとこの10カ月分の人口減少は、61万9439人というゾッとするような数となる。この勢いが継続するようなら、わが国の人口は遠からず1億人を割り込むことだろう。これはやっぱりエライことである。
しかし冷静に考えてみれば、岸田内閣が出産育児一時金を増額し、不妊治療の拡大を図ったところで、効果はたかが知れている。それというのも出生数とは、「出産可能な女性の数」に「合計特殊出生率」を掛け合わせたものである。出生率が少しくらい増えたところで、今後は若い女性の数が減るから「焼け石に水」である。わが国の少子化対策は周回遅れもいいところで、岸田内閣の政策もせいぜい「ダメージコントロール」と見ておくべきだろう。
「第3次ベビーブーム」どころか「就職氷河期」に
個人的なことを言わせていただくならば、筆者が高齢化や人口減少の問題に関心を持つようになったきっかけは、1987 年に長女が生まれたことであった。彼女の同年代(134万6658人)は、1966年の「ひのえうま」生まれ(136万0974人)よりも少ないことに気がついた。日本の人口動態はユニークな形をしているが、新生児の数がいよいよ「ひのえうま」を割り込んだのかと驚いた。
さらに1989年になると、出生数のみならず合計特殊出生率も1966年を下回り、世にいう「1.57ショック」が世間を騒がせた。この辺の事情はすでに忘却の彼方かもしれないが、当時の日本国内はバブル経済に沸いていたこともあり、まだまだ楽観的であった。
「もうじき第2次ベビーブーマー世代(1971〜74年生まれ)が20代になって、子供を産むようになる。それを考えれば、出生率は上昇に向かうだろう」という説明がなされていた。第2次ベビーブーマー世代はマイホーム主義で育った世代だけに、あっけらかんと子供をつくるんじゃないか、という見通しにはそれなりに説得力があった。
ところが1990年代半ばに訪れたのは、「第3次ベビーブーム」ではなく、「就職氷河期」であった。若者たちにとって受難の時代の始まりであった。
日本政府も、まったく手をこまねいていたわけではない。当時の厚生省は「エンゼルプラン」を打ち出し、「駅型保育」などの施策を打ち出した。
しかるに当時の日本経済は、多くのサラリーマンが夜遅くまで残業や「付き合い」をして、タクシーで帰宅するのがデフォルトであった時代。筆者も身に覚えがあるけれども、共働きで郊外に住んで、都心に通いつつ子育てするのはまことに大変なことであったのだ。
第2次ベビーブーマー世代は、年間200万人以上もいる。彼らは現在すでに50歳代に突入しつつある。これに比べると、現在の20代後半に当たる1993年から1998年生まれの人口は年間120万人前後である。これが2016年生まれ以降は年間100万人を切ってくる。いや、もちろん少子化対策はやらないよりもやったほうがいい。ただし「人口減少を食い止められる」などという幻想を持つべきではあるまい。
強調しておきたいのは、2022年の80万人割れは従来の予測を大きく上回る落ち込みであるということだ。国立社会保障・人口問題研究所は、80万人割れを2030年と推計していた。言わずと知れた新型コロナの影響である。行動制限を呼び掛けたために若者が外に出られず、出会いの機会も失われたからだ。なにしろ「若者が外へ出て感染するから、高齢者の命が危うくなる」などと言われていたからね。
いわば高齢者という過去を守るために、若者という未来が犠牲になるという、わが国が得意とするパターンである。この国の「ゼロ・リスク」症候群が、少子化の加速という形で報復を受けていると言えようか。だったら今後の「子育て支援予算」は、高齢者向けの予算を削って充当するのが「筋」ではないかという気がするが、もちろんそんなことを口にする(できる)政治家がいるわけはないのである。
少子化問題の「着手小局」は流山市にあり
さて、子育てをほぼ終えた世代として申し上げたいのは、少子化のかなりの部分は都市問題だということである。都市部における共働き世代の子育てには、依然として社会的なニーズがある。いわゆる「待機児童問題」はさすがに改善に向かっていて、2025年には利用者のピークを迎えるそうだ。それでも「量的」な問題とは別に、さまざまな「質的」な問題が残っている。
少子化問題に対しては、政府は今までにいろんなことをやってきた。企業もワークライフバランスを考えるようになりつつある。この後に重要なのは、地域社会の変容であろう。特に地方自治体の役割が大きいのではないだろうか。
この点で参考になるのは、ジャーナリスト大西康之氏の近著『流山がすごい』(新潮新書)である。近年の流山市は、「子育て中の共働き世代」に的を絞った政策を行ってきた。「母になるなら、流山市。」というキャッチフレーズは、お隣の柏市の住民である筆者にとっても目が覚める思いがしたものだ。
かかる行政の実験に対し、さまざまな住民が流山にやってきて、思い思いの冒険を行っている様子が描かれている。その多くが女性である、という点がいかにも今日的なサクセスストーリーズである。
少子化対策における「着眼大局・着手小局」を考えてみたい方にお勧めしたい。
●国の評価は人口だけでは決まらない 「あるべき女性像」を強いる少子化対策 1/14
暴論を恐れずに言えば、日本は人口を無理に増やす必要はない。人口が少なくても、国民が能力を生かして活躍できる土壌があればよいのだ。
G7各国の人口を見ると、アメリカ3億3000万人、日本1億2000万人、ドイツ8300万人、イギリス6700万人、フランス6500万人(本土)、イタリア6000万人、カナダ3700万人となっていて、独英仏伊加は日本より人口が少ないが、存在感は大きい。文化や歴史の魅力、社会保障の優位性などへの高い評価ゆえだ。国の評価は人口だけでは決まらない。
少子化問題もそうだ。岸田総理は年頭会見で「異次元の少子化対策」を発表した。現状6兆円の少子化対策予算を倍増させるという。だが、この対策自体を空しく感じるのは私だけだろうか。すべての女性がそれを望んでいるわけではないことが忘れられている。
そもそも少子化対策の根本には「女性は子どもを産むもの」という古い社会通念があるように思う。語弊があるかもしれないが、出産は女性にとって人生最大の負担だろう。
優秀な女性たちが、人生で最も仕事もプライベートも充実するであろう若い時期を妊娠や育児に費やさなければならないことは──もしそれを自分が望んでいないのだとしたら──とても残念だと思う。
「そうするものだから」と自分を曲げてまで古びた社会通念に従う必要はないのだ。
もちろんそうしたい人はすればよい。「子どもが欲しい」と望むのはごく当たり前だし、皆に与えられた権利だ。
ただ同時に、結婚や出産をしない選択をする自由や権利もある。信条として独身を選ぶ人もいれば、従来の“男女による夫婦”という枠組みを求めない人もいる。いずれも等しく尊重されるべきだ。
アメリカの研究者によれば、いま人類の「中性化」が進行中で、男性が育児に時間を費やすほど、闘争心を生み出すホルモンのテストステロンが減少し、「愛情ホルモン」のオキシトシンが増えるのだとか。逆にテストステロンは女性に増えているそうだ。
もとより闘争心のあるなしは男女を問わない。「皆が穏やかになれば無益な争いがなくなる」という意見もあろう。だが闘争心とはすなわち野心、向上心だ。誰も「上を目指そう、現状を打破しよう」と考えなくなれば、社会を変革する覇気もなくなり、国は衰退するのではないか。
「親はなくとも子は育つ」のだ。野生動物のほとんどは子どもを産みっぱなしでオスは面倒を見ないし、とても早い時期に子離れする。これだけ子育てに手をかけるのは人間だけだ。そこにも一考の余地はある。
私は男女が協力しての子育てに反対はしない。それも大切だし、保育施設を増やすことも大切だ。「男性が働きに出て、女性が子育てをする」「夫婦がともに働き、協力して子育てもする」「女性が働きに出て男性が子育てをする」「子どもは持たない」──どれを選ぶかは個人の自由だ。
人間には性別に関係なく自由な生き方が保障されているはずだ。「出生率の低下は問題だ」「子育て家庭に手厚いケアを」という考えばかりを前面に出すのは、古びた「あるべき女性像」を国民に強いる行いである。
政府はカネさえ出せば子どもが増え、人が増えれば日本は安泰だとでも思っているのか。何が国を繁栄させるのか、性根を据えて考えるべきだ。  
●フランス、イタリア、英国、カナダ及び米国訪問等についての内外記者会見 1/14
【岸田総理冒頭発言】
今回の欧州・北米訪問を終えるに当たり、一言所感を申し上げます。日本は、今月1日からG7の議長国となり、また、国連安保理非常任理事国を務めています。各国首脳と意見交換を重ねる中で、国際社会を主導していく責任の重さと日本に対する期待の大きさを改めて強く感じる歴訪となりました。
今回訪問した、G7メンバーであるフランス、イタリア、英国、カナダ及び米国のそれぞれの首脳とは、二国間の懸案・協力について、そして、緊迫している地域の情勢認識について率直な意見交換を行いました。また、私から、G7広島サミットに向けた議長国としての考え方を説明し、今年1年を通じたG7の活動の在り方について、じっくり話し合うことができました。その結果、G7が結束して法の支配に基づく国際秩序を守り抜いていくべく連携していくことについて、改めて確認することができました。
広島サミットに向けての腹合わせを行う中で、言うまでもなく最も大きな課題だったのは、開始からまもなく1年を迎えるロシアによるウクライナ侵略です。私からは、ウクライナ侵略は欧州のみの問題ではなく、国際社会全体のルール・原則そのものへの挑戦であることを指摘し、各国首脳との間で、G7広島サミットにおいては、法の支配に基づく国際秩序を堅持していくとの強い意志を示すべきだとの認識で一致し、また、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続・強化していくことを確認しました。
そして、世界のリーダーが広島の地に集まることは、単なるG7サミットにとどまらない意味を持っています。広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは、人類の生存のために決して許されないことです。被爆地広島から、こうしたメッセージを、力強く、歴史の重みをもって世界に発信したいと考えています。
また、国際社会が直面する諸課題に対応するためには、G7として、グローバル・サウスへの関与を一層強化する必要があります。各国首脳との間では、そのために、気候変動、エネルギー、食料、保健、開発等のグローバルな諸課題への積極的な貢献を通じて、グローバル・サウスへの関与の強化を進めるべきとの認識を共有し、G7で連携して対応していくことで一致いたしました。
これらのアジェンダに加え、G7は、様々な下方リスクが指摘される世界経済への対応、地域情勢や経済安全保障等、国際社会の重要課題について取り組んでいく必要があります。各国首脳との議論も踏まえ、引き続きG7としての対応を調整し、主導していきます。
今回訪問した各国首脳との間では、G7広島サミットに向けた議論に加え、二国間関係についても腰を据えて議論を行いました。
とりわけ、昨日のバイデン米国大統領との会談においては、昨年末に策定した新たな国家安全保障戦略等の3文書の内容に関し、反撃能力の保有や防衛費の増額等を含め我が国の安全保障政策を大きく転換する決断を行ったことについて、私から説明し、バイデン大統領から全面的な支持が表明されました。
日米両国が近年で最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、こうした我が国の取組は、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化にも繋がるものです。バイデン大統領のみならず、昨日意見交換を行ったハリス副大統領やペローシ前下院議長を始めとする超党派の上下両院の議員の皆さん、またジョンズ・ホプキンス大学での聴衆など、幅広い層から高い評価と支持を得たのは、その証左だと受け止めています。
また、バイデン大統領との間では、両国の国家安全保障戦略が軌を一にしていることを確認するとともに、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくとの決意を新たにし、日米共同声明を発出いたしました。サプライチェーンの強靭化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携もますます高まっています。今後とも、日本の総理大臣として、日米同盟を強化し、経済・技術まで裾野が広がった日米間の安全保障協力の強化に取り組み、もって我が国国民の安全と繁栄の確保・進展に一層努力してまいります。
ロシアによるウクライナ侵略が我々に示した教訓は、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるということです。私は、ウクライナは明日の東アジアかもしれないとの強い危機感を持って、欧州との間でも、インド太平洋地域等における安全保障協力の強化に取り組んできました。
英国のスナク首相とは、日英安全保障・防衛協力の新たな基盤となる円滑化協定に署名し、フランスのマクロン大統領との間では、インド太平洋協力の推進や、本年前半に2+2の開催を目指すことで一致いたしました。また、スナク首相及びイタリアのメローニ首相との間では、昨年12月、次期戦闘機の共同開発を発表しました。今後とも、これらパートナー国との安全保障協力を深化していきます。
なお、今回、日程の関係でお会いできなかった、ドイツのショルツ首相とは、できるだけ早く意見交換の機会を持ちたいと考えています。
我が国の周りに目を向けると、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化など、情勢は一層厳しさを増しています。各国首脳に対しても、こうした東アジアの安全保障環境や北朝鮮による拉致問題に対する私の強い危機感を改めて伝えました。
アジアで唯一のG7メンバーである日本で開催されるサミットだからこそ、インド太平洋の地域情勢についてもしっかりと議論をする必要があります。今回、カナダのトルドー首相はもとより、各国の首脳からも、インド太平洋についての高い関心が示されました。インド太平洋地域での英国やフランスの艦船の寄港、共同演習の活発化や、カナダやイタリアのインド太平洋戦略等の策定。これらは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けたG7のコミットメントの表れです。G7広島サミットでは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた一層の協力も確認したいと考えています。
長期化するウクライナ侵略、核・ミサイル能力の強化や急速な軍備増強など、緊迫の度を強める東アジア地域の情勢。さらに、不透明感を増す世界経済の先行き、世界的なエネルギー危機、食糧危機、気候変動や感染症などの地球規模課題。これらはいずれも待ったなしの喫緊の課題です。G7の結束と協調が従来以上に世界の動向を左右するものになっています。2023年、1年間を通じてG7議長国である日本は、単に5月の広島サミットの開催にとどまらない、国際社会を1年間にわたって主導していく重責を負っています。
こうした重責を果たしていく上で、今回の歴訪で各国首脳との間で様々な分野の意見交換を行い、トップ同士の信頼関係を深め、今後に繋がる結果を残すことができたことは、何よりの成果だと感じています。
以上、今回の歴訪を終えるにあたっての所感を申し上げさせていただきました。
【質疑応答】
(NHK 徳丸記者)
先ほど、総理、G7の結束の重要性を強調されましたけれども、一方で世界情勢、国際情勢を見ますと、中国が影響力を増しているという現実があります。G7だけでは国際課題に対応しきれないという状況になっていると。総理自身も仰るように、中国をどうマネージメントしていくのかというのが、大きな課題で一方であると思うのですけれども、対話は常々続けると仰っていますけれども、サミットまでに日中首脳会談を行う考えがあるかをお聞かせください。そして同じ近隣諸国のことで言えば、韓国との関係改善も重要かと思います。その韓国、太平洋戦争中の徴用をめぐる訴訟でですね、日本企業に代わって政府傘下の財団が原告への支払いを行う案を軸に検討していることを明らかにしました。これについてどう受け止めていらっしゃるかということと、今後の対応をお伺いします。
(岸田総理)
まず中国ですが、日中関係はその様々な協力の可能性があるとともに、多くの課題や懸案にも直面しています。しかし同時に、日中両国は、地域と国際社会の平和と繁栄にとって、共に重要な責任を有する大国であると考えています。中国に対しては、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかり重ねていかなければならないと思っています。そしてその上で、共通の課題については協力をする、建設的かつ安定的な関係を構築していく。そのために、双方の努力でこの関係を進めていくこと、これが重要であると思っています。そして、サミットまでに首脳会談の予定があるかという質問ですが、先般、昨年11月行われた日中首脳会談において、首脳レベルを含め、あらゆるレベルで緊密に意思疎通をしていく、このことで一致していますが、今後の日中首脳会談について、現時点で何か具体的なものが決まっているというものはないというのがこの実状です。
そしてもう一方の質問の韓国の方ですが、日韓関係については、同じく11月行われた日韓首脳会談において、私と尹(ユン)大統領は、日韓関係の懸案の早期解決を図ることで一致し、この外交当局間の意思疎通を今継続しているところです。韓国国内の具体的な動きについて、一つ一つコメントすることは控えますが、昨年の日韓首脳会談に基づいて、首脳間の合意があり、そして関係当局、外交当局等が、今努力をしているということです。ぜひこの努力を続けてもらいたいと思っています。1965年、日韓関係は国交正常化を果たしました。以来築いてきた友好関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な形に戻し、更に発展させていくため、韓国政府と引き続き緊密に意思疎通を図っていきたいと考えています。
(エル・ティエンポ・ラティーノ紙 ラファエル・ウジョア記者)
岸田総理は、日本が今年G7の議長国、また国連安全保障理事会の非常任理事国に就任したと仰いました。国際社会が民主主義陣営と権威主義陣営に分かれ、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、米国内で存在感を増しているヒスパニックの出身である中南米諸国を始め、中間国を同志国側に取り込むことがますます重要になっています。実際、ウクライナも恐らく年内に中南米戦略を発表すると表明したと承知しています。先般の外務大臣による中南米訪問の成果を踏まえ、国際社会のリーダーである日本は、今年、米国とも連携の上、中南米諸国を中心にグローバル・サウスへの働きかけをどのように強化していくお考えでしょうか。
(岸田総理)
まず、中南米諸国は、我が国と長い信頼と友好の歴史を有しています。民主主義や人権といった、この基本的価値を共有する、大変重要なパートナーであると考えています。ウクライナ情勢をめぐる国連関連決議においても、他地域に比べても、多数の中南米諸国がロシアに対する批判の声を上げていると承知しています。
また、中南米諸国は、食料、エネルギー、また鉱物資源の重要な供給源でもあります。ウクライナ情勢を契機として、グローバル・サプライチェーンの脆さが露呈している。こうした現状において、世界からの注目が中南米諸国に集まっていると感じています。
そして御指摘ありました、今般行われました、林外務大臣によるメキシコ、エクアドル、ブラジル、そしてアルゼンチンへの訪問ですが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた協力を確認いたしました。とりわけ、本年、我が国は、ブラジルとエクアドルと共に安保理非常任理事国を務めており、国連の機能強化に向けて緊密に連携していくことを確認いたしました。また、気候変動対策や中南米地域の安定的発展に向けた協力、あるいは経済関係や交流についても強化していく、こうしたことでも一致しています。
我が国は、米国を始めとする様々な国々と共に、様々な国際課題について、中南米諸国と緊密に連携していきたいと考えています。
(産経新聞 田村記者)
内政についてお聞かせください。総理はバイデン大統領との会談でも、日本の防衛力強化や防衛費の増額の決意を表明されました。一方、23日に召集予定の通常国会に向けては、野党が防衛費の財源確保のための増税については反対し、政府に行財政改革も求めています。政府、与党としてこれにどのように対応していくお考えでしょうか。またですね、国民の中にも防衛増税についてはやはり否定的な意見がありますが、いかに理解を得ていこうという風にお考えか、お聞かせください。
(岸田総理)
まず、5年間で緊急的に防衛力を強化するにあたっては、財源がないからできないといった立場はとらず、必要な防衛力とはまず何なのか、内容について議論をし、そして合わせて予算の規模を考えました。
さらに、5年間かけて強化する防衛力は、その後も維持・強化していかなければなりません。そのためには、裏付けとなる、毎年約4兆円の安定した財源が必要になる。令和9年度以降、安定した財源が確保されなければならない、こうしたことであります。
そして、この安定的な財源として、国民の御負担をできるだけ抑えるべく、必要な財源の約4分の3については、歳出改革等の取組に加えて、特別会計からの一時的な受け入れ、また、コロナ対策予算の不用分の活用、また国有財産の売却など、あらゆる工夫を行うことを確認しました。
そして残りの4分の1について、様々な議論がありましたが、私は、内閣総理大臣として、国民の生命、暮らし、事業を守るために、防衛力を抜本的に強化していく、そのための裏付けとなる安定財源は、将来の世代に先送りすることではなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものであると考えました。
防衛力を抜本的に強化するということは、端的に言うのならば、戦闘機やミサイルを購入するということです。こうした資金をすべて未来の世代に付け回すのか、あるいは自分たちの世代も責任の一端を担うのか、これを考えた次第です。
侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を行った上で、一つの結論をしっかりまとめていくのが責任政党自民党の伝統です。今回もその伝統を背負った決定ができたと思っています。
そして、次は野党との活発な国会論戦を通じて、防衛力強化の内容、予算、財源について国民への説明を徹底していきたいと考えています。
(ザ・ヒル紙 ローラ・ケリー記者)
中国の半導体生産能力を制限するために米国が行ったように、半導体生産に関する米国の輸出規制と同じような輸出規制を貴国政府も行うのでしょうか。
(岸田総理)
はい。半導体についての御質問をいただきました。具体的な対応について今確定的に申し上げることは控えますが、日本は、先ほど説明させていただきました新しい国家安全保障戦略の中でも、経済安全保障という考え方を明記し、そして重視する、こうしたことを明らかにしています。
経済安全保障の考え方に基づいて、重要物資のサプライチェーンの強靱化などを考えていかなければならない。重要物資をいかに確保していくのか、これを考えていかなければならない、こうした考え方をより一層重視していかなければならないと思っています。
そして、御指摘の半導体、言うまでもなく経済あるいは安全保障にも関わる重要物資です。日本として、半導体についても、経済安全保障の考え方に基づいて、米国を始めとする同盟国あるいは同志国と緊密に意思疎通を図りながら、取扱いを考えていかなければならないと考えています。
こうした考え方に基づいて、半導体についても、日本として責任をもって、取扱いを考えていきたいと思っています。
●脱炭素でも実質大増税≠fDPの3%、防衛費よりも巨額 1/14
岸田文雄政権は昨年末、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開き、今後10年間の基本方針を取りまとめた。世界的なエネルギー危機のなか、東日本大震災以降、停滞していた原発について、「ベースロード(基幹)電源」「将来にわたって持続的に活用」と明記し、建て替え(リプレース)や運転期間の延長などを盛り込む英断を下した。一方で、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標達成には、官民合わせて150兆円もの巨額投資が必要で、「防衛増税」をはるかに上回る「実質大増税」が不可欠だという。これで国民生活や日本経済は維持できるのか。エネルギー政策研究の第一人者であるキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹が緊急寄稿した。
「GDP(国内総生産)の2%」という防衛費騒動の陰で、より巨額な「GDP3%」もの費用を伴う「脱炭素」の制度が、公開の場でほとんど議論されることなく、導入されようとしている。今月末に始まる通常国会で守るべき国民の利益は何か。
岸田首相肝いりで政府が進めてきた「GX実行会議」は昨年12月22日、「GX実現に向けた基本方針」をまとめ、1月22日までの期間でパブリックコメントを募集している(https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221223011/20221223011.html)。
GXとは「脱炭素」のことだ。
政府は昨年末のわずか3カ月ぐらいの短期間に、官邸主導のGX実行会議でこの案をまとめた。しかし、審議会などの公開の場での議論はほとんどなかった。
同案では「安定・安価なエネルギー供給が最優先課題」とし、「原子力の最大限活用」を掲げた。ここまでは良い。
だが、政府は「10年間で150兆円を超えるGX投資」を実現し、脱炭素と経済成長を両立する、としている。そして、この投資を「規制・制度的措置」と政府の「投資促進策」で実現するとしている。
これは年間15兆円だから、実にGDPの3%である。防衛費よりも巨額の費用の話になっている。
そして、中身を見ると「再生可能エネルギーを大量導入する」(約31兆円〜)、「水素・アンモニアを作り利用する等」(約10兆円〜)、となっている。
これは既存技術に比べて大幅に高コストだ。政府はこれを丸抱えで進める。研究開発、社会実装を補助し、既存技術との価格差の補塡(ほてん)までする。
これでは防衛。
政府が「脱炭素と経済の両立」と言い始めたのは2009年の民主党政権にさかのぼる。当時の目玉は、太陽光発電の大量導入だった。だが、その帰結として、いま年間3兆円の再エネ賦課金の国民負担が発生し、「経済の重荷」になっている。今の政府案は、これを何倍にもして再現するものに見える。
政府はまた投資に充てるため20兆円の「GX経済移行債」を発行する。これを新設の「GX経済移行推進機構」が運営する「カーボンプライシング」制度で償還するとしている。
カーボンプライシングとは、エネルギーへの賦課金とCO2排出量取引制度で、実質的にはエネルギーへの累積20兆円の増税だ。
だが、これは論理的におかしい。政府は新しい制度が経済成長に資すると言うが、ならば一般財源の増収があるはずで、それで償還できるはずだ。これは建設国債と全く同じ話である。新たな償還財源など要らないはずだ。
読者諸賢はパブコメを
そして累積20兆円もの規模で特別会計のごときものを作り、その運営のための外郭団体である「機構」を設立するというのは問題だ。行政の本能として、この機構を維持・拡大しようとするようになる恐れがある。そのためにカーボンプライシングが強化されるならば、これも「経済の足かせ」になる。
排出量取引は欧州が先行したが、失敗の連続だった。排出権割当ての制度変更が延々と続き、不安定で経済は混乱した。行政は肥大化した。なぜ、日本が追随するのか。
一連の新しい制度を通じて、政府はエネルギーの生産・消費に関連する投資に、ことごとく関与するようだ。だが、何に投資するか政府が決めるというのは計画経済で、経済成長は望めない。
以上のように、現行の政府案には、巨額の国民の財産が関わっており、重大な問題が山積している。まずは読者諸賢に置かれてもパブコメを出してほしい。そして、月末に始まる通常国会は、公開の場で大いに議論し、制度の性急な導入を阻止すべきだ。

 

●対中国軍事同盟」露骨化した米日同盟…韓国、戦略的位置づけ狭まるか 1/15
「皆さん、こんにちは。ロイド・オースティン長官と私は、我々の仲間である林芳正外相および浜田靖一防衛相と、非常に生産的で幅広い対話を今終えました。米日同盟は非常に重要であり、70年以上にわたりインド太平洋地域の平和と安定の礎石となってきました」
11日午後6時6分から40分間ほど行われた米日外交・国防長官会談(2プラス2)を終えた後、閣僚らは速い足取りで米国務省の記者会見場であるベンジャミン・フランクリンルームに向かった。アントニー・ブリンケン米国務長官は軽い微笑を浮かべ、米日同盟の重要性を強調した後、日本が先月16日に公開した国家安全保障戦略など3文書の改定を歓迎し、「2027年までに防衛予算を2倍に増やすという日本の誓約に拍手を送る」と述べた。
続いてブリンケン長官が間髪を入れず言及したのは「中国の脅威」だった。ブリンケン長官は「中華人民共和国(PRC)は、我々と我々の同盟国・パートナー国が直面している共通の戦略的挑戦(strategic challenge)だという点で意見が一致した」と強調した。その後を継いだオースティン米国防長官は「今回の会合で、我々は『反撃能力』(敵基地攻撃能力)を確保するという日本の決定を強く支持する」とし、「この能力を使う上で両国が密接に調整することが米日同盟を強化するものだと断言する」と述べた。
第2次世界大戦以降、米国は米日同盟の役割分担について、“外部の敵”に向け米国は攻撃(矛)を担当し、日本は防衛(盾)に専念するという基本方針を維持してきた。だが、2010年代に入り東シナ海や南シナ海などで中国の軍事的脅威が高まると、2015年4日に日本は集団的自衛権を行使できるようにし、「日本の盾」が及ぼす範囲を米軍にまで拡張した。それに続き、米国はこの日、ついに日本が反撃能力という名の「攻撃能力」を持つことを認め、その力で中国の軍事的挑戦に対抗するという意向を明確にした。このような米国の要請に、林芳正外相は「中国はかつてない最大の戦略的挑戦」だとしたうえで、「自らの利益のために国際秩序を作り変えることを目指す中国の外交政策に基づく行動は、同盟及び国際社会全体にとっての深刻な懸念」だと述べて応じた。
この日の会談を通して中国に対する「戦略的認識」を共有した両国は、米日同盟の抑制力と対処力を拡大するために、安全保障について全方向的な分野で協力を強化していく予定だ。具体的には、日本が敵基地攻撃能力を通じて北朝鮮と中国を直接攻撃するために米国の情報提供が必須だ。日本経済新聞は「(日本が)反撃能力を行使する際は自衛隊と米軍が敵の軍事目標の位置情報を共有する」とし、「日米でミサイル探知から反撃まで連携する共同対処計画の策定を始める」と報じた。日本は反撃能力確保のために、射程距離が1250キロメートル以上となる米国の巡航ミサイル「トマホーク」を導入し、自衛隊が運用中の「12式地対艦誘導弾」の射程距離を1000キロメートル以上になるよう改良し、実戦配備する予定だ。
また両国は、米日安保条約の適用範囲に宇宙を含める▽サイバー上の脅威に対する協力強化▽平時から台湾に近い日本の南西諸島の基地・港湾・空港の共同使用の拡大▽沖縄県駐留の米海兵隊の『海兵沿岸連隊』(MLR)への改編(2025年まで)などにも合意した。日本は自主的に陸海空自衛隊の部隊運用を担当する「常設の統合司令部」を設置し、米軍との意思疎通を強化する。
米日同盟が中国に対抗する軍事同盟という性格を露骨化するにつれ、米日から軍事協力を深めるよう要求されている韓国の戦略的位置づけは、ますます狭まることになった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、先月28日に公開した「自由・平和・繁栄のインド太平洋戦略」で、中国を「戦略的挑戦」とみなす米国や日本とは異なり、「地域の繁栄と平和を達成するにあたって重要な協力国」と規定した。
●岸田首相の記者会見要旨 防衛増税「国会論戦通じ説明」 1/15
岸田文雄首相が14日(日本時間15日未明)、ワシントンで開いた内外記者会見の要旨は次の通り。
【冒頭】
フランス、イタリア、英国、カナダ、米国の各首脳と2国間の懸案や協力、緊迫する地域の情勢認識について率直な意見交換をした。広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に向けた議長国としての考え方を説明した。
最も大きな課題だったのはまもなく1年を迎えるロシアによるウクライナ侵略だ。欧州のみの問題ではなく国際社会全体の原則そのものへの挑戦であることを指摘した。
各国首脳とはG7広島サミットで法の支配に基づく国際秩序を堅持していく強い意思を示すべきだとの認識で一致した。厳しい対ロ制裁と強力なウクライナ支援の継続、強化も確認した。
世界のリーダーが広島に集まることは単なるG7サミットにとどまらない意味を持つ。被爆地・広島からメッセージを力強く歴史の重みをもって世界に発信したい。
長期化するウクライナ侵攻や東アジア地域の情勢、不透明感を増す世界経済の先行き、世界的なエネルギーや食糧危機などはいずれも待ったなしの喫緊の地球規模の課題だ。G7の結束と協調が従来以上に世界の動向を左右する。
【質疑】
――中国とどのように向き合いますか。G7広島サミットまでに習近平(シー・ジンピン)国家主席と首脳会談をする考えはありますか。
日中関係は様々な協力の可能性があるとともに多くの課題や懸案にも直面している。両国は地域と国際社会の平和と繁栄にとってともに重要な責任を有する大国だ。中国には主張すべきは主張して責任ある行動を求めつつ、諸懸案を含め対話を重ねなければならない。その上で共通の課題について協力し、建設的かつ安定的な関係を構築していく。双方の努力で関係を進めていくことが重要だ。2022年11月の日中首脳会談で首脳レベルを含めあらゆるレベルで緊密に意思疎通をしていくことで一致した。次の日中首脳会談について現時点で具体的に決まっているものはない。
――韓国政府は元徴用工問題を巡り韓国の財団が日本企業に代わり賠償金相当の額を原告に支払う解決案を示しました。
22年11月の日韓首脳会談で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と日韓関係の懸案の早期解決をはかることで一致した。外交当局間の意思疎通を継続している。韓国国内の具体的な動きについて一つ一つコメントすることは控えるが、22年の首脳会談に基づき首脳間の合意があり外交当局などが今努力をしている。この努力を是非続けてもらいたい。1965年に国交正常化を果たして以来築いてきた友好関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な形に戻して発展させるため韓国政府と引き続き緊密に意思疎通をはかりたい。
――国際社会の指導国家としてどのようにグローバルサウス(南半球を中心とする途上国)に連携を訴えていく考えですか。
日本と中南米諸国は信頼と友好の歴史をもつ。民主主義や人権といった基本的価値を共有する大変重要なパートナーだ。ウクライナ情勢を巡る国連関連の決議でも多数の中南米諸国がロシアへ批判の声をあげている。中南米諸国は食料やエネルギー鉱物資源の重要な供給源でもある。ウクライナ情勢を契機として国際的なサプライチェーンのもろさが露呈している。世界の注目が中南米諸国に集まっている。
――野党が防衛費増額の財源となる増税について反対しています。
5年間で緊急的に防衛力を強化するにあたり、財源がないからできない立場は取らなかった。必要な防衛力とは何か内容とあわせて予算の規模を考えた。防衛力は将来も維持・強化しなければならず、裏付けとなる毎年4兆円ほどの安定した財源が27年度以降確保されなければならない。十分な議論の上で結論をまとめるのが自民党の伝統だ。今回も伝統を背負った決定ができた。次は野党との活発な国会論戦を通じ、防衛力強化の内容や予算、財源について国民への説明を徹底したい。
――米国は中国の半導体生産能力を制限するため規制をしました。日本も米国と同様の輸出規制をしますか。
具体的な対応について確定的に申し上げることは控える。経済安保の考え方に基づき、重要物資のサプライチェーンの強靱化や確保策を考えなければならない。半導体は経済や安全保障にも関わる重要物資だ。日本として経済安保の考え方に基づき米国をはじめとする同盟国らと緊密に意思疎通をはかりながら、責任を持って取り扱いを考えていかなければならない。
●日米首脳会談 対中緊張緩和を第一に 1/15
岸田文雄首相はバイデン米大統領とホワイトハウスで会談し、防衛力強化や防衛費増額の方針を説明した。バイデン氏は賛意を示し、日米同盟の深化への決意を共有。対中国を念頭に連携強化で一致した。
ただし反撃能力(敵基地攻撃能力)保有をはじめ日本の政策転換を巡っては、国内議論が尽くされたとは言い難い。にもかかわらず日米間で既定方針とされることは、国民や国会を軽視することにつながりかねない。防衛力強化に偏ることなく、中国との緊張緩和に向けて外交努力を第一に取り組むべきだ。
両首脳は会談後、共同声明を発表。台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を指摘したほか、ロシアのウクライナ侵攻については「強く反対する」とした。力による勢力拡大を図る中ロへの対抗姿勢を鮮明にしたと言える。
バイデン政権が最大の競争相手と位置付けるのは、急速な軍事力拡大を進める中国。日本の防衛力強化を評価する背景には、台湾有事が起きれば、もはや米国だけでは対抗できないとの危機感があるとされる。
首脳会談に先立ち開かれた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、日本の反撃能力を巡り「効果的な運用へ協力を深化させる」と合意。反撃対象に関する情報収集などは米国への依存が避けられず、自衛隊と米軍の一体化が加速しそうだ。米国の軍事行動にいや応なく巻き込まれる可能性は捨てきれない。
日米両国に求められるのは、抑止力強化だけでない。共同声明も「両岸問題の平和的解決を促す」と記している。中国との意思疎通を図り、地域の緊張を紛争に発展させないための取り組みが重要になる。
同盟関係にあるとはいえ、日米間では利害が異なる場合もあり得る。独自の平和外交など日本は主体的な戦略を維持する必要性を忘れてはならない。
日本が反撃能力として導入する米国製巡航ミサイル「トマホーク」の配備は2026年度の予定。中国の核・ミサイル力増強は急速に進んでいる。反撃能力保有が果てしない軍拡競争につながる恐れもある。
政府は、防衛費を倍増させ、国内総生産(GDP)比2%とする方針。裏付けとなる財源は歳出改革で捻出するほか、法人税、所得税、たばこ税の増税も行うとする。果たして増税に国民の理解が得られるだろうか。
防衛費には本来、安定した恒久財源が必要だ。国民の理解を得た上で、国民が負担に耐えられる範囲にとどめる努力が欠かせない。安易に国債を発行することは、財政悪化をさらに深刻化させるだけとなりかねず、あってはならない。
23日に開会見込みの通常国会で政府、与野党は徹底的に議論を深めるべきだ。岸田首相は国民の声に耳を傾け、自ら説明を尽くす責任がある。
●岸田首相、防衛増税「国会論戦通じ国民への説明徹底」 米で会見  1/15
訪米中の岸田文雄首相は14日(日本時間15日未明)、ワシントンで記者会見し、防衛費増額に伴う増税について、23日から始まる通常国会で説明する考えを示した。「野党との活発な国会論戦を通じて防衛力強化の内容、予算、財源について、国民への説明を徹底していきたい」と述べた。防衛力強化に向け「裏付けとなる安定財源は将来の世代に先送りすることではなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものだ」と理解を求めた。
5月に広島で開催する主要7カ国首脳会議(G7サミット)に関しては「77年間核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは人類の生存のために決して許されない。被爆地広島からこうしたメッセージを力強く、歴史の重みを持って世界に発信したい」と決意を述べた。「アジアで唯一のG7メンバーである日本で開催されるサミットだからこそ、インド太平洋の地域情勢もしっかりと議論する必要がある。『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた一層の協力も確認したい」とした。
米国が主導する半導体の対中輸出規制を巡る対応に関しては「経済安全保障の考え方に基づいて、米国をはじめとする同盟国、同志国と緊密に意思疎通を図りながら取り扱いを考えていかなければならない」と述べた。
今回のフランス、イタリア、英国、カナダ、米国の5カ国歴訪の成果については「G7が結束して法の支配に基づく国際秩序を守り抜くべく連携していくことについて改めて確認できた」と語った。今回、ドイツのショルツ首相とは日程の都合で会えなかったとし「できるだけ早く意見交換の機会を持ちたい」とした。
●リーマン危機を予見した経済学者が懸念「世界はゆっくりと大災禍に向かう」 1/15
2008年の世界金融危機を予言したことで知られる経済学者ヌリエル・ルービニが、英経済紙に登場。“破滅博士”の異名を持つルービニが、景気低迷や気候変動といった脅威にさらされる世界の行く末を大胆に予測し、歯に衣着せぬ論調で警鐘を鳴らす。
「現在の不況は深刻なうえに長引く」
深夜便でロンドンに到着したヌリエル・ルービニは、憂うつだった。
レストラン「ノブ」の席が予約できなかったからでも、経済学上の懸念のためでもない。いま世界で起きている新旧の問題すべてが、彼を憂うつにしているのだ。
「世界はゆっくりと大災禍に向かっています。以前は存在しなかった新しく大きな脅威がいくつも生まれていますが、人類はそれにほとんど対応できていません」とルービニは言う。
2006年、住宅価格の暴落により、70%の確率でアメリカは経済不況に陥るとルービニは警告した。当初、彼は変人扱いされ、この予測は無視されていたが、2008年にリーマンショックに端を発した世界金融危機が起きるとその予測の正しさが証明された。
彼はにこりともせず、断固として悲観的だ。それを目の当たりにすると、普通の人間が物事に対処する方法とルービニのそれは、明らかに違うとわかる。
昨今、悲観論はいたるところで聞かれるが、ルービニの主張の暗さはそのなかでも抜きん出ている。彼の著書『MEGATHREATS(メガスレット)』(日本経済新聞出版)には、インフレ、AI(人工知能)、気候変動、第三次世界大戦など、ありとあらゆるリスクが登場する。こうした問題の積み重ねが、最悪の状況を引き起こすだろうと彼は主張する。
本書でルービニは「もっと強い警戒心を持つべきだ」と書く。状況を好転させるには、運と、国際社会の相互協力と、前例のないレベルの経済成長が必要だと彼は言う。
ルービニは、政策立案者たちを過小評価しているのではないかという疑問が湧く。2020年にコロナ禍が始まったとき、「各国政府は大がかりな財政政策を打ち出さないだろう」と彼は予測した。だが、実際にはその反対だった。各国の中央銀行は、インフレ抑制ために本格的に金利を上げているが、ルービニはそうした対応を評価していない。
「政策立案者や金融機関の対応は、体系的に間違っています。まず彼らは、『インフレは一時的なものだ』と言います。今回のインフレの場合は当初、単なる不運か政策の失敗によるものと見られていました」
こうした見解は、ロシアのウクライナ侵攻や、中国のゼロコロナ政策によって物資の供給が停滞する状況を念頭に置いての発言だった。世のなかは「不況が半年も続いているなんて、一大事だ」と騒いでいるが、ルービニはこう釘をさす。
「いまの不況は、短期間では終わりません。その影響は深刻で、しかも長引くでしょう」
ルービニはさらに悲観的な話を続ける。
「アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)や欧州中央銀行、ウォール・ストリートやシティ・オブ・ロンドンの金融機関では、今回のインフレは『ソフトランディング(景気を後退させない程度に、インフレを抑制すること)するだろう』と見ています。しかしながら、ここ60年のアメリカの金融史で、インフレ率が5%以上かつ失業率が5%以下だったとき、金利を上げてソフトランディングしたことはありません。現在のインフレ率は7.1%、失業率は3.7%です。景気が急激に悪化してもおかしくない状況です」
欧州の状況は、さらに悪いとルービニは言う。
「イギリスはすでに不景気です。インフレ率は10%以上で、英中央銀行ですら少なくとも5四半期はマイナスの経済成長になると予測しています。そのうえ、イギリスにとってブレグジット(EU離脱)は自殺行為でした。それもスタグフレーションの一因となるでしょう」
1999年、世界の債務の合計は世界全体のGDPの約220%を占めていた。それが2019年には約350%に増加している。だから各国の中央銀行は金利を充分に上げられないだろう。
金融バブルがいつ来るかを突き止めるため、経済学者たちは歴史的なパターンに着目することが多く、今回も例外ではない。だが、現在の危機的な状況においては、脅威がおよぶ範囲が異なる。
この75年が「例外」だった
「私は1958年にトルコで生まれ、テヘラン、さらにイスラエル、イタリアへと移り住みました」とルービニは言う。彼の父親はミラノで絨毯の輸入業を営み、のちに家族全員でアメリカに移住した。ルービニは自身を世界市民だと考える。
現在起きている危機を、彼は次々にまくしたてる。
「かつて大国間の戦争を心配したでしょうか? まったくしていません。1970年代に緊張緩和があり、ニクソンが中国を訪問して、核戦争の危機もゼロになりました。気候変動の心配をしていたでしょうか? 気候変動なんて言葉は聞いたこともありませんでした。パンデミックを心配したでしょうか? 新型コロナ前に最後にパンデミックが起きたのは、1918年でした。
AIが人間の仕事を奪うと心配したでしょうか? 脱グローバル化や貿易戦争を心配したでしょうか? 答えはノーです。極右・極左のポピュリスト政党が権力を持つかもしれないと心配したでしょうか? 過去には、現在ほどの分断はありませんでした。深刻な景気後退や大不況を心配したでしょうか? もちろんしていません。1970年代には、スタグフレーションを経験しましたが、その後は『大いなる安定期』(経済指標の変動が小さく金融市場全体が安定していた期間)に入りました。経済危機を心配したでしょうか? 私は経済危機なんて言葉、聞いたこともありませんでした」
ルービニはさらに続ける。
「現在の状況は特別に見えるかもしれませんが、それは過去と比べてのことです。これまでの75年は、比較的平和で、世界は繁栄し続けました。しかしながら、それ以前は、干ばつ、戦争、流行り病、大量殺戮などが起きていました。この75年が例外だったのです。それが基準になるわけではありません」
ルービニは、ハエをハエ捕り紙で捕るように、悪いニュースを集めてくる。気候変動への対策が、あまりにもお粗末だと彼は指摘する。
「COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)で合意した取り決めをすべて実践しても、気温は2.4度も上がります。すべてを実践しなければ3度の上昇に向かいます。これは本当に恐ろしい数字です。アメリカでは国民の半分が気候変動を信じていないか、陰謀だと思っていますし、共和党が政権をとれば、いままでの取り組みも無に帰するでしょう」
老人も若者も身勝手すぎるのだとルービニは言う。
「世界中で排出される二酸化炭素の多くは、畜産業に由来します。私たちはビーガンになるべきですが、そうはなっていません。私も3ヵ月挑戦して、挫折しました」
ルービニは、AIがホワイトカラーの仕事を奪うという主張も曲げない。
「私が生業としているFEDウォッチャー(金融政策を中心に、米連邦準備制度理事会を観察・分析する専門家)が、完全に時代遅れになるのは時間の問題です。10年後、AIは理事全員の演説とあらゆる経済データを分析し、人間の有能なFEDウォッチャーよりも正確な予測を下すでしょう」
彼の悲観論を鎮めるには、何が有効なのだろうか。「テクノロジーです」とルービニは言う。彼は核融合でのエネルギー生成には肯定的だが、「あと15年から20年かかり、そのときには私たちは破滅していますね」と言う。
ルービニに対しては、彼が「メガスレット(大いなる脅威)」と呼ぶもの同士が、よい方向に作用しあう可能性を無視しているという批判もある。たとえば、気候変動によって移動を強いられた人たちが、欧米に移住し、高齢化社会を救うかもしれない。だが彼はこれによって、仕事の奪い合いが起きると考える。
いま「安全な投資先」は
「壊れた時計も一日2回は正しい時刻を指す」──それが自分に対する周囲の評判だとルービニは言う。彼は2020年に「米国とイランの戦争が起きる可能性が高い」と予測していた。これについて「常に正確に将来を予測できる人はいません」と彼は述べる。
世界金融危機を予測したのは、すばらしい偉業だ。彼のチームには一時期、60人の研究員が所属していたが、薄給で長時間労働だったことから、2016年に解散したという。ルービニは当時をこう振り返る。
「その頃は人生をまったく楽しめませんでした。シンガポールの正午は、ニューヨークの真夜中ですからね。医者には『あなたはタバコも酒もドラッグもやっていないけど、このペースで出張を続けていたら心臓発作か脳卒中を起こしますよ』と言われました。いまよりさらに太っていましたし」
ここ10年、ルービニは収入の20%を貯金している。彼は現在、アラブ首長国連邦の都市アブダビに拠点を置く投資会社アトラス・キャピタルでアセット・マネジャーとして働いているが、高インフレのせいで通常のヘッジ戦略はうまくいっていないという。
「2022年は誰もが、株主資本より事業債で資産を失いました。それにこのインフレの先行きを予測するのが、難しくなっています」
だから、投資家は別の安全な投資先を探す必要がある。「米国短期国債かインフレ連動債、金が選択肢となるでしょう」とルービニ。金利の上昇から、不動産価格は下落している。中央銀行は及び腰になるだろうから「土地は良いヘッジです」と彼は付け加えるが、ただし条件があるという。
「気候変動に耐えられる物件のみです。アメリカの国土の半分は気候変動によって破壊されるでしょうから、私たちはすべての国のすべての建物のデータをチェックし、どの不動産投資信託がこの点で信頼できるかを確認しています」
ルービニがロンドンのイベントに登壇した際、司会者は彼を「破滅博士」と呼んだ。ルービニはこのニックネームが嫌いで、むしろ「リアリスト博士」と呼ばれたいと思っている。その理由として、彼が2015年に「ギリシャはEUを離脱しないだろう」と予測し、2016年には「中国はソフトランディングする」と述べていたことを引き合いに出した。「私は世論よりもずっと楽天的なんです」と彼は言う。
だが、この取材中にルービニが口にしたのは不吉な話題ばかりだった。「アメリカが中国への半導体の輸入を大幅に規制した2022年10月に、第三次世界大戦が始まっていたのだ」と彼は主張する。貿易で生まれる敵対心は広範囲に影響するし、まもなくあらゆるものに半導体が使われるようになるからだ。炭酸水のボトルを指さしながら、「これにも5Gチップが埋め込まれるでしょうね」と彼は言う。
世界は発展すると予測する人は、いまはいない。「次の10年は素晴らしい時代になるという本を書く人を、私は知りません」とルービニも同調する。そんな人がもしいたら、いわゆる逆張りだろう。
ルービニの悲観論は、彼の人生に影を落としているのだろうか。64歳の彼には子供はいない。
「子供はほしくありません」とルービニは言うと、さまざまな脅威を羅列した後にこう続けた。「もしこうした危機が起きたら、ディストピア的世界に生きるより、死にたいですね」
ルービニはパーティー好きという評判だが、旅行は疲れると言う。
「旅行中はちゃんと食べられないし、運動もできないし、睡眠時間も減るし、瞑想する余裕もなくなります。ニューヨークにいるときのほうが、ずっとほっとします」
コロナ禍で彼は料理を始めた。毎週金曜には安息日のディナーに20人ほどを招き、人生の意味やその他の問題について議論する。これが「リアリストの、人生最上の喜び」のひとつだそうだ。
別れ際にルービニは私に言った。
「今日私に会ったことで、あなたが失望していないといいんだが。私たちはきっと生き残ります。私は自分だけでなく他の人についても、心配しているんです」  
●自民・麻生副総裁、少子化の最大の原因を“晩婚化”との見方を示す 1/15
岸田総理大臣が今年の主要テーマに少子化対策を掲げる中、自民党の麻生副総裁は少子化の最大の原因は晩婚化との見方を示した。
「(少子化の)一番大きな理由は出産するときの女性の年齢が高齢化しているからです」(自民党・麻生太郎副総裁)
麻生副総裁は講演で、女性の初婚年齢が「今は30才で普通」だと指摘し、複数のこどもを出産するには「体力的な問題があるのかも知れない」と指摘した。
そのうえで、少子高齢化で「医療や介護の費用が増え負担が重くなる」と強調し、「中長期的には日本の最大の問題」だと危機感を示した。
●少子化対策の拡充で“増税” 反対56% 1/15
NNNと読売新聞が今月13日から15日まで行った世論調査で、少子化対策を大幅に拡充するための財源として増税を含めた国民負担が生じることについては「反対」が56%で「賛成」の38%を上回りました。
岸田首相が示した、少子化対策を大幅に拡充する方針については「評価する」が58%、「評価しない」が34%でした。

 

●サミット手応えも効果見えず 政権浮揚になおハードル 欧米歴訪終える 1/16
岸田文雄首相は15日、欧米5カ国歴訪を終えた。
5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、各国首脳と連携を確認。自身が重視する核軍縮のメッセージを発信するための地ならしに努めた。ただ、近く開幕する長丁場の通常国会は不安要素が多い。支持率が低迷する政権の反転につなげられるか、道筋は見えていない。
首相は帰国を前に米ワシントンで内外記者会見に臨み、「国際社会を主導する責任の重さと日本に対する期待の大きさを強く感じる歴訪だった」と振り返った。
4年7カ月の外相経験を持つ首相は外交を得意分野とする。同時に、今後の政治日程を見渡すと、首相が議長として仕切る広島サミットは「政権浮揚の数少ないチャンス」(政府筋)。準備に万全を期し、機運を盛り上げるため、今年最初の外遊先をメンバー国の仏伊英加米5カ国とし、9日未明に羽田空港をたった。
各首脳会談では、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、G7が結束して「核兵器による威嚇とその使用」「力による一方的な現状変更の試み」に断固反対すべきだ、とする考えを表明。核軍縮をサミットで議論することに「理解と支持」を得た。バイデン米大統領とは「核なき世界」に向けた協力でも一致した。
歴訪のもう一つの目的は、軍事的威圧を強める中国へのけん制だった。5カ国の首脳に対し、「アジアで開くサミットだからインド太平洋について議論したい」と伝達。安全保障協力の強化も打ち出した。
具体的には、自衛隊と英軍の相互訪問時の法的地位を定めた円滑化協定(RAA)に署名。仏伊両国とは外務・防衛当局間の連携推進を決めた。ウクライナ危機に比べて東アジア安保への関心が薄い欧州勢を引き寄せておく狙いがある。
歴訪のハイライトとなった日米首脳会談では、日本の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を踏まえた一体運用の強化を確認。政府高官は「だいたい目的を果たした」と語る。
ただ、G7サミット開催は5月19〜21日。それまで首相の前には難関が続く。
今月23日召集の通常国会では、防衛力強化のための増税、「異次元の少子化対策」に必要な財源、原発政策の転換を巡り、野党が追及ののろしを上げる。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題はなおくすぶり、閣僚の不祥事などが新たに持ち上がる可能性もある。展開次第で4月の統一地方選や、同時期の実施が見込まれる衆院の補欠選挙に影響が及ぶ。
自民党内では首相の求心力に陰りが見える。反主流派に位置付けられる菅義偉前首相は「派閥政治を引きずっている」と公然と批判。外交で手応えをつかんだ首相だが、苦しい日々が待ち構える。
●「平和予算ODAを軍事に使える」国民が知らない“安保3文書”恐るべき全貌 1/16
日本政府が2022年12月16日に閣議決定した、安全保障関連の3文書。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記したことが注目を浴びているが、実はあまり気付かれていない重要で大きな改定が他にもある。それは、政府開発援助(ODA)の使い道に関する大変革だ。
敵基地攻撃能力の保有の明記以外に注目すべきはODA使途の変革
革命的転換であった「安全保障3文書」の、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有をダイヤモンド・オンライン『「日本は世界屈指の防衛能力を手に入れる」シン安保戦略の衝撃の中身』で詳しく述べた。そして今回は、「安保3文書」のもう一つの大転換である「政府開発援助(ODA)の使途変革」について述べていく。
日本政府は2022年12月16日、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を同時に改定、閣議決定した。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記したことが注目を浴びているが、実は日本国内も周辺国、そしてメディアでさえも気付いていない重要で大きな改定が他にもある。
これまで政府開発援助(ODA)の予算だったものの一部が、軍事目的に使われ得る――。その大変革の扉を開く文言が盛り込まれているのだ。その文言を紹介するとともに、それが意味するところについて防衛政策に詳しい自民党中堅議員の言葉を引用しながら解説する。
安保3文書の改定 米主要メディアはどう報じたか
まず、日本政府の「安保3文書」閣議決定についての各国のメディア報道を見ていこう。これから紹介する報道を通じて、「安保3文書」がどのような安保上の意味を持つのかが理解できるはずだ。たかが他国の閣議決定ともいえる話についての報道の「分厚さ」から、各国のこの問題に関する関心の高さがうかがえるといえよう。
米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(22年12月16日)は次のように報じている。
「日本は中国を安全保障上の最大の課題とし、他国を攻撃可能なミサイル購入費を含む軍事費の大幅な引き上げを発表した。日本にとって、第2次世界大戦以降において、平和主義からの最も大きな転換の一つとなる」
「中国を脅威と呼ぶかについて与党で議論した後、日本政府は中国を『これまでにない最大の戦略的な挑戦』と表現することに落ち着いた。この文言は、最近発表された米政府の国防戦略と重なる。(中略)米国との協力関係の強化は安保3文書のテーマである」
平和主義からの転換、中国への踏み込んだ表現が評価を受けたようだ。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」(22年12月16日)は、次のように指摘している。
「何十年もの間、日本を平和主義的な制約のない、いわゆる普通の国にしようとする努力は、主に日本の強力な右翼の関心事だった。日本の軍事力に対する憲法の制限が、日本の自衛や日本が世界情勢の中での適切な役割を果たすことを妨げてきたと主張してきた」
「しかし今月、岸田氏が防衛倍増計画を発表すると、その後の議論の焦点は計画が認められるべきかどうかではなく、財源をどう調達するかに当てられた」
おそらくロシアによる侵略行為を目の当たりにした国民にとっては、防衛力の強化は当然の前提であり、その是非には焦点が当たらなかったということであろう。
米紙「ワシントン・ポスト」(22年12月16日)は、「日本は軍備を強化する、これは良いことだ」という見出しで、次のように中国を非難するとともに日本を絶賛している。
「米国とその民主主義同盟国が中国の侵略を封じ込めるのであれば、日本の防衛費倍増は必要なことだ。(中略)米国人は日本の勇気に拍手を送るべきだ。米国は効果的なアジア全域における防衛構想の基幹国であり続けるが、単独でその重荷を背負うことはできない。(中略)中国は憤慨するだろうが、非難されるべきは中国自身だ」
安保3文書の改定 韓国・中国メディアはどう報じたか
韓国メディアはどうだろう。韓国3大保守紙の「東亜日報」(22年12月17日)は「(日本の)専守防衛の原則は77年ぶりの大転換を迎えた。今回改正された安保戦略は、平和憲法9条を完全に無力化する内容だ」とした。
「聯合ニュース」(22年12月17日)は、「自衛隊は米国に対する攻撃が発生した時も、敵国のミサイル基地等を攻撃できるようになる。自衛隊の朝鮮半島介入は、日帝侵略と植民地支配に対するトラウマがある韓国には想像もできないことだ。いかなる場合であれ、韓国の同意なしに日本または日米の決定だけで朝鮮半島で日本が軍事行動をすることがあってはならない」とした。
やはり同じ民主国家であっても、お隣の韓国は、日本への警戒が極めて高いようだ。
中国の人民日報グループにある「環球時報」(22年12月17日)は、以下のように報道をしている。
「注目に値するのは、『防衛計画大綱』を『国家防衛戦略』に改称したことであり、日本が『平和憲法』の理念から乖離し、『防衛力』を高めて国益を追求する戦略的意図が表れている。反撃能力の保有は、平和憲法が定めた『専守防衛』を突破し、日本がもはや平和憲法の束縛を受けるつもりはなく、軍事的により攻撃的になり、政治・軍事大国になることを追求する意図を示している」
台湾への侵略意図を隠そうともせず、日米から仮想敵国のような扱いを受けている中国は、今回の改定に際して、批判的な立場に回るのは当然であろう。
各国の報道に共通するのは、平和憲法を日本がいよいよ捨てたという認識だろう。財源論に議論が集中した日本ではそのような話が一つも盛り上がっていないが、周辺国には大きなインパクトを与えたようだ。
反撃能力と聞いて、日本人は「第二撃」(相手が撃ってきたことに対する撃ち返し)を想像するだろう。しかし、今回の「反撃能力」とは、相手国がミサイル攻撃に着手した時点で国際法上は「攻撃」であり、実際の被害が出なくても敵基地を攻撃することができることを意味する。平和憲法を捨てたと思われても仕方がないぐらいの重大な閣議決定であるということだ。
ODA予算の使途に大変革をもたらす 目立たないが重要な文言とは?
しかし、今回の「安保3文書」の閣議決定において、日本国内も周辺国も、そしてメディアでさえも気付いていない大きな改定がある。ほとんどの人が気付いていないようだ。
それは、「国家安全保障戦略」の「VIー2ー(1)ーキ」の項目「ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用」の最後の段落にひっそりと記されていることである。以下、当該文言を引用する。
「同志国との安全保障上の協力を深化させるために、開発途上国の経済社会開発等を目的としたODAとは別に、同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上を目的として、同志国に対して、装備品・物資の提供やインフラの整備等を行う、軍等が裨益者となる新たな協力の枠組みを設ける。これは、総合的な防衛体制の強化のための取組の一つである」(※「裨益者」とは、受益者のこと)
霞が関の官僚による作文なのか、この文からは意味が判然としない部分もある。どういう意味を持つのかについて、防衛政策に詳しい自民党中堅議員に背景を含めて解説してもらった。
「この非ODAの安保協力は、外務省にとって10年以上にもわたる悲願がやっと成就した形です。実施体制をつくるのすらこれからですが、これまで日本に対して非常にリクエストが多かったのが安保面での援助・協力です」
「例えば、途上国にはたくさんある軍民共用の飛行場や港の補修などはこれまでODAではできませんでした。他にも軍用病院の補修・建設、レーダー、巡視艇の供与などに対するニーズが多かったです。少しでも軍事利用の可能性があると“純血主義”のODAでは実施できず、支援する日本も支援される側にとっても使い勝手が悪いものになっていました」
「非ODAとはあるものの、実態としては一緒に運用されます。三菱電機製のレーダーを欲しいと思っている国はたくさんあります。これらを無償であげるのです。この条文、本当はもっと踏み込んだものでしたが、公明党から物言いがつき、少し後退した表現となりました」
このODAと一体的に運用される非ODAは、来年に実施体制を構築し、どんどん大きな規模の予算になっていくという。大きな枠組みで考えれば、これまでODAの予算だったものの一部が、今後は軍事目的にも使われるという大変革なのである。
ウクライナ戦争を機に大きく変わった世界の安全保障環境だが、日本政府は防衛戦略について予算を増やすだけでなく、その位置付けや役割を根本から変える戦略を打ち出した。これが台湾有事を未然に防ぎ、東アジアの平和と繁栄につながることを願ってやまない。
●政府の管理下から消えた3200億円 イラクで汚職、首相が返還訴え 1/16
世紀の窃盗事件――。そう呼ばれるスキャンダルがイラクを揺るがしている。日本円で3200億円以上の現金が政府の管理下にある口座から消えたのだ。
調査報告書を入手したAP通信や中東のメディアによると、事件は公務員や実業家らの広範なネットワークによって画策されていたという。合計金額は、2021年のイラクの国家予算の3%弱に相当する約3兆7千億ディナールだった。
現金は、2021年9月から22年8月の約1年間、国営銀行の支店から五つの企業に渡っていた。引き出された口座には、政府と取引がある企業などが税金の支払いのために一定の金額を預けていた。関わった5社のうち3社は、引き出しが始まる数週間前に設立されたばかりだった。
容疑者の一人で実業家の男は22年10月、首都バグダッドの空港からプライベート機で国外に逃亡しようとしていたところを拘束された。日本円で1千億円以上を受け取ったと供述しているという。一方、税務当局者らも拘束されている。
「この件に関わる容疑者に自首と、盗んだ金を返すことを求める」。スダニ首相は22年11月27日、回収できた大量の札束を前に演説し、不正の撲滅を訴えた。だが、総額の10%も回収できていないという。
各政治勢力の対立が長引くイラクでは昨年10月、総選挙から1年を経てようやく新政権が発足した。世界屈指の産油国だが、汚職が国家運営の障害となっている。
●「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が… 1/16
財務省はまた否定的だが
防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く国債を返済する仕組みである「60年償還ルール」を見直す議論を始める。
自民党の萩生田光一政調会長は、自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。償還年数の延長や償還ルールの廃止は財源捻出になる。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と同調している。
この動きを後押しするのは、自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表は中村裕之、顧問城内実)。同連盟はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。
一方、政府は消極的だ。松野博一官房長官は1月12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。その背後には財務省があり、財政規律の観点から見直しに否定的だ。
60年償還ルールとはどのようなものでなぜ作られたのか。緩和や撤廃をすると問題は生じるのか。
筆者は、今から30年ほど前の大蔵省(現・財務省)の役人時代に、国債整理基金の担当をしたことがある。その当時、海外の国債管理担当者に対して、「日本では減債基金があるので国債が信用されている」と言った。それに対し、海外の先進国から「うちの国は減債基金がかつてあったものの今はないが、なぜ日本にはあるのか」「借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものか」と反論され、まともな再反論が出来ずに参ったことがある。まったく彼らの言うとおりだからだ。
よく考えてみたら、日本でも民間会社は社債を発行しているが、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でもわかる話だ。
異例の「減債基金」存在の理由
民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたが、今ではなくなっている。
さらに、金利環境に応じて買入償却するなど国債全体をいかに効率的に管理するかが重要なので、金融のプロを国債管理で配置し、債務管理庁などのプロ組織にしている。
減債基金は、債券関係の用語だ。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とあるが、国債に限らず地方債にもある。国債の減債基金を「国債整理基金」という。
60年償還ルールは、減債基金のためにどのように繰り入れるかを示すものだ。建設国債の場合、社会インフラの構築のために発行されるが、その耐用年数が60年程度なので、それに合わせて60年償還とされている。減債基金への毎年の繰入額は国債残高の60分の1で1.6%ということになる。
それではなぜ日本では減債基金が存在しているのだろうか。地方は国の国債整理基金があるからというだろう。では国の国債整理基金はなぜあるのか。建前としては、国債の償還を円滑に行い、国債の信認を保つためという。これは筆者が30年前に言わされた公式見解だ。しかし、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからだ。
まず、国債費のうち債務償還費(国債整理基金への繰入)といって、毎年10兆円程度以上(2023年度予算で16.4兆円)の予算の水増しが可能になる。本来であれば、債務償還費は不要なので、その分国債発行額を減らせる。少なくとも日本以外の先進国ではみなそうなっている。しかし、日本では国債発行額が膨らむが、財務省にとって財政危機を煽れるメリットがある。
また、国債金利の市場金利は低いにもかかわらず、予算上の積算金利は市場金利より高めに設定し、国債費のうち利払費を水増ししている。こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなくそう目くじらをたてることもないが、この点からも、必要以上に国債発行額を膨らまして、財政危機を煽るという悪い面が目立っている。
的外れの反論
総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとする。筆者が総務省にいた2007年頃、公募地方債金利を自由化したが、総務省官僚は猛烈な抵抗を示した。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものだ。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのだが、それは違うだろう。
いずれにしても、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在している。大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困るだろう。
国際基準からの正解は、まず60年償還ルールを廃止してプロの債務管理庁を創設することだ。
60年償還ルールを廃止すると国債の信任が失われると財務省はいうが、他国の例から的外れだ。また、過去に1.6%の債務償還費を計上しなかったことも、1982〜89年、1993〜95年と11回もあるが、国債の信任という問題になっていない。
60年債務償還ルールを持ちだすと、財務省からは、アメリカでは債務上限ルールがあり、ドイツでは国債発行を例外とするルールがあるという、やや的外れの反論もある。それらに対し、筆者は、アメリカの債務上限はあまりにバカげていて、毎年のように政治取引に使われており、参考とすべき例でない、ドイツについては欧州の国は債務をEU機関に振り替えられるので全体として見れば緩く、一部だけを切り取りのは不適切と再反論してきた。財務省は筆者が当時の大蔵省見解を言った30年前からまったく進化していないのは驚く。
国で60年償還ルール、減債基金を見直し・廃止すると地方まで波及する。それは地方財政に無用な制約をなくして財政余力が高まることを意味する。
地方の場合、減債基金残高は2〜3兆円であるが、そのほかに満期一括償還に備えた積立金が10兆円程度ある。国の償還ルール変更により、地方もおそらく10数兆円程度の財政余裕になるだろう。
国と地方をあわせて30兆円程度の財源になり得る。これは令和の埋蔵金だ。4月に統一地方選があるので、国の償還ルールの見直しを是非とも政治課題にすべきだ。
●日本の防衛政策の変化、民意はどこへ行くのか 1/16
ロシアによるウクライナ侵攻の終わりが見えないまま新しい年を迎えた。新年の挨拶では、今年はよいことがあるように祈るというのが定番だが、多くの日本人は2023年を安全保障と経済の両面で大きな不安を抱える中で迎えることとなった。ロシアがウクライナに侵攻したのと同じように、中国が台湾を攻撃する可能性があるという認識が日本における防衛力増強の根拠となっている。そして、昨年12月に岸田文雄政権はこれからの5年間で防衛費を倍増し、GDP比2%にすること、敵国の基地を攻撃する能力を保持することを柱とする新しい安全保障戦略を決定した。
防衛力強化自体には、国民の支持が存在する。岸田政権の政策転換を受けて日本経済新聞が昨年12月末に行った世論調査では、防衛力強化について支持が55%、不支持が36%だった。倍増させる防衛費でどのような装備をそろえ、自衛隊の編成をどのように変えていくかという具体的な議論は、まだない。東アジアにおける緊張の高まりに漠然とした不安を抱く国民にとって、巨額の防衛費はお守りのようなものだろう。
国民が本気で日本の安全保障について憂慮し、防衛力強化を自分の問題として受け止めるならば、そのための費用負担についても国民的合意ができるはずである。しかし、現実に防衛費の財源探しを始めると、国民の反応は複雑となる。民間放送のTBSが1月初めに行った世論調査によれば、防衛費増額について、賛成が39%、反対が48%と、先に紹介した日本経済新聞の調査に比べて反対論が急増している。その理由は、昨年末の政府、与党の政策論議の中で、防衛費の財源として近い将来に1兆円の増税を行うことが決定されたことへの反発が考えられる。TBSの調査では、防衛費増額のための増税について、71%が反対と答え、賛成はわずか22%だった。
防衛政策をめぐる民意の動揺を見ると、日本国民が直面している政策課題について冷静な議論を行うことが難しいと感じる。政治とは国民に共通する困難や課題を協力して解決するという活動である。今の日本人にとって、人口の急速な減少、経済的停滞と科学技術の遅れ、安全保障環境の険悪化など難問が山積している。他方、日本の財政赤字はGDPの2倍を超え、先進国で最悪である。また、昨年末以来、国債の金利が上昇し始め、日本銀行による国債購入と低金利誘導という政策が限界に突き当たっている兆候が表れている。いくらでも国債を発行できる時代はもうすぐ終わるのだろう。
この時代、未来に不安を持つことは自然な心理だと思う。課題についてイメージだけで受け止め、漠然とした不安を抱くという思考停止状態が続けば、日本の凋落が続くばかりである。人口減少であれ、経済的停滞であれ、問題には原因がある。不安を招いている原因を正確に認識し、その上で対策について費用・効果の両面から吟味し、合意された政策に限りある資金を投入するという意思決定が今の日本には必要である。
日本の古い俳句に、「幽霊の正体見たり枯れ尾花(枯れ尾花とは枯れたススキのこと)」というものがある。我々を怖がらせているものの正体を見据えるには知性が必要である。知や文化を軽んじる日本の政策は根拠のない恐怖を蔓延させ、政府は不安な気分に乗じて効果不明の政策を進めようとしている。
民主主義の歴史をさかのぼれば、増税によって懐を痛められることに対する反発が民主主義拡大の契機であった。防衛増税への反発が大きいことは、とりあえず健全な民意ということはできる。しかし、それが民主主義を進化するための突破口になるのかどうかは不明である。私たちが若者や子供たちにどのような社会を残したいのか、そのためにどれだけのコストを払う決意があるのかが問われている。
●米海軍作戦部長、「日本の原子力潜水艦」に言及 1/16
15日、米海軍研究所が運営する軍事専門メディア「USNI News」によると、マイケル・ギルディ作戦部長が最近オンラインフォーラムで「日本が原子力潜水艦を建造しようとする決定は、数年間にわたり政治的および財政的に国家的次元の支援が求められる大きなステップ」と述べた。
ギルディ氏は米国・英国・オーストラリア間で2021年9月に締結した安全保障同盟「AUKUS(オーカス)」を通じて豪政府が2040年代までに攻撃型原子力潜水艦を建造することができるだろうとし、日本がAUKUSと類似の形で原子力潜水艦の確保に出る可能性があることを示唆した。
日本の原子力潜水艦保有論に弾みがつくことになれば、韓国海軍の念願である原子力潜水艦確保にも影響を与える見通しだ。
ギルディ氏は韓国SBS(ソウル放送)のインタビューでは、米海軍艦艇が西海(ソヘ、黄海)に進入して合同演習を行う可能性も示唆した。
●「東京の電車賃は安い」はウソである…乗り換えのたびに「初乗り運賃」 1/16
東京では鉄道会社の相互乗り入れが進み、移動が便利になった。日本女子大学の細川幸一教授は「利便性は向上したのに、東京の鉄道運賃は高い。鉄道事業者の料金体系はバラバラで、利用者は乗り換えるたびに新たな運賃を各社に支払わなければいけない」という――。
東京の鉄道運賃が高いと言える理由
首都圏の鉄道を利用していると急速にバリアフリーが進んでいることを実感する。エレベーターやエスカレーターの設置が進み、お年寄りや障害のある人の鉄道利用もだいぶ容易になった。
また、相互乗り入れも増え、乗り換えが不要になるケースも増えた。例えば、東京メトロ副都心線の開通で西武池袋線・東武東上線方面と東京メトロ、東急東横線、みなとみらい線(横浜高速鉄道)が一本でつながった。
一方で、日本の鉄道運賃で問題となるのは、運賃のバリアだ。
「失われた30年」で日本は物価の安い国という評価が定着してきた。円安もあって海外の旅行者が日本の物価安を口にすることが多い。しかし、それでも彼らの多くが口にするのは、日本の交通運賃の高さだ。
特に地域観光に必需の交通手段と言える鉄道運賃の高さを指摘する旅行者は多い。乗り換えるたびに新たな運賃を取られるという不満が中心だ。
まずはフランスのパリ、韓国のソウルの運賃を見てほしい。東京の運賃がいかに重い負担になっているかが分かる。
フランス・パリは「ゾーン制」を採用
日本人が海外の都市を旅行するときに交通運賃の安さを実感することも多いだろう。パリの鉄道には区間運賃がなく、ゾーン別の共通運賃だ。
しかも、メトロ、路面電車(トラム)、バス、郊外へ行きの電車RER線、国鉄(SNCF)線すべての公共交通がこの共通運賃で利用可能となっている。
1回の移動ごとに購入する切符が1.9ユーロ(約260円)。この切符が10枚セットになったカルネを購入すると14.5ユーロで、1枚当たり1.45ユーロ(約200円)。日本の都市交通の初乗り運賃程度でパリ中心部(メトロ全線とゾーン1のパリ20区すべての交通機関を網羅)を移動できる。一定時間内であれば乗り継ぎもこの切符で可能だ(ただし、メトロ/バス、メトロ/トラム、RER/バス等には制約がある)。
またフリーパスも充実している。このパスを利用すればすべての交通機関が乗り降り自由だ。
パリとその郊外はゾーンで区間が区切られている。パリの中心部をゾーン1とし郊外に向けて放射線状にゾーン1、2、3、4、5というように広がっている。パリ市内はゾーン1、2のフリーパスで移動可能だ。
1日フリーパスは「ゾーン1ー2」が7.5ユーロ(約1050円)だ。1週間用、1カ月用のフリーパスもあり、さらに格安で定期券代わりになる。日本の定期券にあたる1カ月用のフリーパスはゾーン1〜5すべて利用できて、75.2ユーロ(約1万520円)だ。
韓国・ソウルも共通運賃制でより安く
韓国・ソウルでは李明博元大統領がソウル市長だった頃、都市交通の大改革を行い、料金制度が一新された。
首都圏電鉄という広域電鉄の概念でソウル首都圏の鉄道事業者が網羅され、韓国鉄道公社・ソウル交通公社・仁川交通公社・空港鉄道等が運営する路線の運賃は、通しで計算される通算運賃制度を導入している。
ソウル市内の鉄道、バスの運賃支払いが一元化され、ICカードである「T-money」を利用すると初乗り料金1250ウォン(約130円)で10キロメートルまで乗車でき、バスと地下鉄、あるいはバスとバスの乗り換え等の際にも10キロメートル以内なら追加料金はない。10キロメートルを超えると、5キロメートルごとに100ウォン(約11円)が加算される。
すなわち、鉄道だけでなく、バス等も含めてゾーン制あるいは通算運賃となっているのだ。
これらでは事業者ごとの自立採算制をとらずに運輸連合体を設立し、各社からの事業収入を運輸連合でいったんプールしたうえで一定の基準で参加事業者に再配分する共通運賃制度を導入する施策をとっている。
先述のパリの場合も、パリ運輸組合に地下鉄、バス、フランス国鉄など50社余りが加入しており、乗継割引制度という概念ではなく、ゾーン制の共通運賃だ。
複数の会社路線を利用すれば運賃が跳ね上がる
日本の首都圏を例に取ると、鉄道網はかなり充実しており利便性も高い。一鉄道会社線だけを利用する場合は、北総鉄道、東葉高速鉄道などの一部の高額運賃路線を除けば、安く移動できる場合も多い。
一方で事業者数がかなり多く、それぞれが独立採算で経営しているため、目的地まで複数の事業者路線をまたがって利用すると、それぞれの鉄道会社の初乗り運賃を含む運賃が加算され割高となる。東京でも「フリーパス」の名のキップはあるが、利用範囲は限定的だし、定期券も同様だ。
都内に路線を持つ旅客鉄道会社はいくつあるのだろうか。列記してみよう。
JR東日本、JR東海(新幹線のみ)、東京地下鉄(東京メトロ)、東京都交通局(都営地下鉄等)、東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄、京王電鉄、小田急電鉄、東急電鉄、京浜急行、東京モノレール、ゆりかもめ、東京臨海高速鉄道、多摩都市モノレール、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、北総鉄道、埼玉高速鉄道(都内では短距離)。
以上18社もある。首都圏に広げればさらに鉄道会社数は増える。2社間の短い区間同士等では数十円程度の乗継割引運賃制度はあるが、基本、各社の初乗り運賃を含む運賃が単純加算されるから、複数会社線を利用しての移動は高額となる。
例えば、前述した西武鉄道の飯能駅からみなとみらい線の元町・中華街駅への交通運賃で考えてみたい。
電車を利用すると、西武線から東京メトロ副都心線、東急東横線の直通運転を経て、みなとみらい線に乗り入れる。このルートでは、西武、東京メトロ、東急、みなとみらいの4社線を乗り換えなしで利用できるが、運賃は480円+250円+280円+220円の計1230円となる。
東京にはパリやソウルのような異なる事業者の路線を乗り継いでも高額にならないような制度はない。直通運転でバリアフリーは格段に進んだが、運賃は各社に支払わなければならず、運賃のバリアはそのままだ。
東京メトロと都営地下鉄はいまもバラバラ
乗継割引制度は一部の区間で適用されているが、割引率が高いのは東京メトロと都営地下鉄を利用した場合の70円割引(普通運賃の場合の「連絡特殊割引普通旅客運賃」)だ。
両社とも都内の地下鉄同士で、利用者から統合すべしという意見がことさら強い。そのため比較的大きな乗継割引額となっている。経営統合などを求める声は大きく、猪瀬直樹都知事時代、東京オリンピックを控えた頃、議論は盛んになった。
2017年6月29日、東京メトロの山村明義社長が就任会見で、「両社の乗り継ぎ時には70円の運賃割引をしているが、どちらかだけを利用した場合に比べて割高になる。将来は乗り継いでもどちらか1社だけの利用とみなし、初乗りの徴収を一度だけにするしくみを検討している」という趣旨の発言をしたが、現在まで割引額の拡大は行われていない。オリンピックが無観客開催となり、「喉元過ぎれば……」の状態ということだろうか。
そもそも日本ではJR、私鉄、地下鉄を当たり前のように区別する発想があるが、JRも民営化したし、地下鉄も多くが地下を走っているというだけで、この区分に意味があるのだろうか。
しかも、小田急バス、西武バス、京急バスなど、鉄道運営会社のグループ会社が経営するバス会社も数多いが、これらのバスと鉄道を乗り継いでも運賃は別々だ(一部地方都市では割引制度がある)。鉄道の出発駅、到着駅でバス利用も必要だと交通運賃はさらに高額になるのが日本の実情だ。
日本は鉄道会社ごとに運賃を支払うため割高に…
問題の根本は、国策として交通網の社会資本をどのように位置づけるかという点にある。
例えば、高速道路などの一部の有料道路を除き、道路網は全国的に整備され、誰でも無料で利用できる。郵便はハガキや封筒などは全国一律料金であり、遠隔地・僻地などコストがかかる郵送でも都市部の近場の郵送でも一律料金だ。
これはユニバーサルサービスと言われる。社会全体で均一に維持され、誰もが等しく受益できる公共的なサービスのことだ。
この考え自体も時代とともに揺らいではいるが、鉄道などの交通網についてはこうした考えが貧弱だ。
JR各社はもともと日本国有鉄道(国鉄)であったがゆえに運賃は全国一律、通し運賃となっている(幹線・地方交通線の運賃差はあり、運賃以外の特急料金、グリーン料金等については異なる)が、私鉄を含めた運賃体系は前述のように各社が独立採算で鉄道事業を行っているため、運賃水準はバラバラで、乗り換えごとに運賃が加算されてしまう。
海外では運賃の共通化から、無料化へ
海外に目を転じれば、運賃の共通化のみならず、無料化まで実施されている。現在、世界の100以上の都市で公共交通が無料で利用できる。そのうちおよそ30がフランスの都市であるという。なぜそのようなことが可能なのだろうか。
フランスでは、都市内の公共交通は、国の方針に基づいて各都市が方針を定め、運営している。基本となる国の方針は各種法律によって定められているが、国内交通基本法(LOTI)、交通法典(Code des transports)が重要法だ。
国内交通基本法は1982年に制定され、現在フランスの公共交通運営理念の基軸とも言うべき、交通権の保障を明文化している。交通権とは、「利用しやすい施設・設備で、一定以上のクオリティの交通を、利用しやすい料金で誰もが享受して移動できる権利」を指す。その後、国内交通基本法の内容の多くは、2010年制定の交通法典に移行されている(交通経済研究所・石島佳代氏の論文による)。
フランスにおける運営費用に関しては都市によって多少の割合の違いはあるものの、運賃収入のほかに国・地方行政による費用負担や、都市圏内の企業から徴収される交通負担金(Versement transport/VT)が充てられるのが特徴だ。フランスの都市内交通公共料金運営支出の割合は以下の通りだ(2013年全国平均)。
フランスで重視される「交通権」
運賃収入による収支カバー率は全国平均(2013年)で全体の17.3%にすぎないが、フランスにおいてこの収支状況は不採算とは考えられていないという。そもそも運賃収入は全体の収入の10%〜40%ほどと考えた上で運賃水準が設定され、それを念頭に置いて交通負担金の税率や国・行政の費用負担額が決められている。
「公共交通料金の財政補助状況が教育などと並列して説明されることが多かったりする現状を考えると、フランスの公共交通の運賃は、日本における医療費の患者負担分や義務教育期間中の教育費のような位置づけとなっていることが窺われる」(石島氏)という。
日本では交通権という発想がそもそも乏しいし、鉄道運営費に関しては一般的な公的財政支援もない。また、フランスの交通負担金というような制度もない。
この制度は興味深い。交通負担金制度は、都市自治体が域内の事業所(企業および公的機関・学校や病院など)に対して、従業員の給与を課税ベースとして都市公共交通の財源を課税する地方税制度である。交通負担金は事実上の法定目的税であり、定められた条件の範囲内で、自治体が自らの裁量で徴税するか否か、および税率の決定を行うことができる(南聡一郎氏の論文による)。
SDGs、持続可能性が叫ばれ、高齢者の自動車運転事故が社会問題にもなっている。そうした中で環境負荷が少なく、比較的安全な鉄道網をどう維持し、バスも含めて公共交通手段の利便性を少子高齢化が進む今日、どのように図るかは大きな政治課題だろう。
大学生の貧困も近年話題になっているが、学生と話していると就活時の交通運賃の高さを指摘する声も多い。日頃は通学定期券で通学する学生も就活であちこちに移動するときは定期券が使えず、高額な運賃負担を強いられるからだ。
東京の運賃は時代遅れになっている
日本の鉄道を中心とした交通政策は、民間が行う収益事業であることを基本としている。
国交省が、企業の開業や運営方針を尊重した上で、総括原価方式により独立採算の中で適正利潤を確保できように運賃認可を行う。フランスのように公共性を重視して事業体制や運営方針を決める仕組みではない。
路線拡張などにあたっては新たな鉄道会社がタケノコのように設立され、役人の天下り先になっている側面もある。東京臨海高速鉄道の代表取締役社長は元東京都収用委員会事務局長、代表取締役専務は元東京都交通局建設工務部長、ゆりかもめの代表取締役社長は元東京都港湾局技監だ。これも東京の交通運賃が高い一因と言えるだろう。
本稿では、東京の都市交通と運賃について取り上げたが、地方の交通はその維持が重要な課題になっている。特に国鉄の分割民営化で誕生したJR北海道は経営難が指摘されている。だが、JR各社がそれぞれ独立して経営を行う今日、高収益を上げるJR東海などがJR北海道を直接財政支援することは困難だ。
交通運賃政策は、都市交通利用者の負担軽減に加え、地方の公共交通の維持についても、政府が中心になってデザインし直す必要があるのではないだろうか。 例えば、全国一律に1回乗車当たり10円程度のユニバーサル料金を運賃に加えて徴収し、全国の鉄道網維持の財源にするとか、上下分離方式(線路などの施設は公有とし、それを利用して鉄道会社が運行する)などもアイデアとしてはあるが、実質的議論や動きはない。不採算路線をどうするかという議論は必要であるが、このままでは日本の近代化のなかで国民の財産として築かれてきた全国的鉄道網がなし崩し的に崩壊する。
岸田総理は「異次元の少子化対策」を表明したが、公共交通運賃政策についても既存の枠組みにとらわれない異次元の政策表明を望みたい。
●税制改正大綱の評価と課題 所得税、課税ベースの拡大を 1/16
2023年度の税制改正大綱を巡る議論の焦点は、防衛費増額の財源確保に向けた増税の是非だった。政府は23年度から5年間の防衛費総額を約43兆円とする方針を決めた。27年度には約4兆円の追加財源が必要になり、うち1兆円強を増税で賄うとした。税目は法人税、所得税、たばこ税だ。
法人税には税率4〜4.5%の付加税を課して7千億〜8千億円を確保する方針だ。所得税については事実上、東日本大震災の復興財源である復興特別所得税の一部を回す。同税は13年から25年間、所得税額に2.1%を上乗せする形で徴収されてきたが、税率を1%引き下げ、その分を新たな付加税として課す一方、復興財源の確保のため課税期間を延長する。所得税およびたばこ税の増税によりそれぞれ2千億円程度の財源を賄う方針だが、増税時期は「24年以降の適切な時期」として明記しなかった。

今回の増税には反対論が根強い。建設国債が社会インフラ整備に充てられるのと同様、防衛予算を「次の世代に祖国を残す予算」として国債も恒常的な財源とすべきだとの意見もある。公共事業はデフレギャップを埋める経済対策としても実施されてきた。防衛費を公共事業と同一視して積極財政論的に正当化することは、その増加に歯止めがかからなくなる懸念がある。
「政府の借金は民間の借金とは違う」と指摘されるが、それは政府が債務を返済しなくてよいことを意味しない。政府が民間と異なるのは、軍事権と課税権が与えられていることだ。家計や企業のように比較的短期に借金返済が求められないのは、政府が長期では課税権を行使し元利償還に充てられるからである。今後も増税をしないまま、つまり課税権を放棄した形で国債を発行し続けるのは持続可能でなく、市場からの信認を損ないかねない。
世界的に金利は上昇しており、日本だけが低金利を維持するのは難しいかもしれない。英国ではトラス前首相が減税を主張した途端に、財政赤字拡大への懸念から国債利回りの上昇に直面した。防衛の分野では最近、弾丸の補充など戦闘の継続能力を指す「継戦能力」が重視されるが、財政の持続性も有事に欠かせない。
ところが今回の税制改正では増税時期の決定は先延ばしされた。その増税案にしても法人税への付加税を中心とするが、法人税収は景気に左右されやすく不安定だ。コロナ禍の中でも法人税収は堅調だったが、今後も続く保証はない。従って防衛の充実に安定的に取り組むには、法人税は「安定した財源」とは言い難い。加えて、課税所得2400万円以下の中小企業は負担が増えないなど、一部の企業に負担が偏っている。
政府は増税以外で確保する約3兆円について、既存の予算配分を見直す歳出改革により捻出したり、税収の上振れや年度内に支出されなかった決算剰余金で充当したりするほか、「防衛力強化資金」を新設して国有財産売却などの税外収入を繰り入れるという。
だがコロナ禍前は決算ベースで100兆円台だった歳出が140兆円規模に膨らんでいる。非常時に拡大した財政をそのまま引き継いで防衛費に充てるなら、一度広げた風呂敷(財政)が続くことになる。また、使途が決まっていない予備費を予算に計上し、実際に支出しなければ決算剰余金は生じるが、これは当初から防衛費に充てていたことになるのではないか。
防衛費の増加は一時的でなく、将来にわたり継続すると見込まれる。恒常的な支出増には安定的な財源が求められる。防衛費に関して政府の有識者会議は「防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていく」ことを強調する。もっとも、当初25年間だった復興増税の期限を延長することで、現在の負担を増やすことなく財源を捻出する。結局、将来の納税者に負担が先送りされた格好だ。増税の実施時期が24年よりも遅れるほど、その先送りが進む。
経済状況を踏まえれば個人の負担を当面増やせないとの声もあるが、将来の経済状況が今より良好とは限らない。新たな感染症や大規模災害などの非常時は今後も発生しうる。赤字国債であれ増税期間の延長であれ、コロナ禍や安全保障など現在のリスクを将来世代に転嫁する一方、われわれは将来に生じるリスクを分担しているわけではない。将来世代が自身のリスクに対処できるだけの財政余力を残すためにも、現在のリスクは現世代が負うべきだ。さもなければ将来に危機が生じたとき、将来世代が財政的に窮しかねない。

具体的な防衛費増の内容より先に増税を打ち出すことには「順番が違う」との反発もある。ただ、国民の負担があればこそ歳出の質や効果が真摯に問われる。むしろ赤字国債は防衛費への国民自身の当事者意識も希薄化させてしまいかねない。近年「規模ありき」の補正予算が常態化しているのも、赤字国債の発行を前提にしているからだろう。増税の痛みを伴う分、所得税への付加税ならば増税への政府の説明責任が問われるという意味で、防衛費への規律付けになりうる。
また、防衛は国民の生命と財産を守るものとされるが、財産には格差がある。守られることで、より利益を得る所得の高い人に応分の負担を求める所得税が応益原則にもかなうだろう。
ただし、現行の所得税の財源調達機能は決して高くない。政府は年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が低下する不公平、いわゆる「1億円の壁」の批判を受け、分離課税される配当・譲渡益を含む合計所得金額が30億円を超える富裕層を対象に課税を強化する仕組みを25年から適用する方向だ。だが合計所得1億円あたりの負担率26.52%を維持するよう1億円超の所得層に増税しても、税収増は2200億円程度にすぎない(表1参照)。
   表1 ・ 図2
加えて所得税の課税ベースは狭い。給与所得などの「総合課税対象となる収入」が約270兆円に対し、給与所得控除や公的年金等控除などの所得控除が手厚く、さらに基礎控除など人的控除や社会保険料控除を含む所得控除後の課税所得は120兆円まで減る(図2参照)。この結果、税率1%あたりの税収は1兆2千億円で、税率1%あたり約2兆8千億円の税収を上げる消費税の半分以下だ。
当面は現行税制の下で付加税などで課税強化するとしても、これを契機に給与所得控除や公的年金等控除を抑えるなど所得控除全般を見直して、所得税の課税ベース自体の拡大を図るべきだろう。いざ増税の必要に迫られたとき、税収増効果を高められる。
コロナ禍や安全保障などの非常時は平時の構造の不備を露呈させる。以前から政府税制調査会などでも所得税の「再分配機能の回復」に加えて「財源調達機能の向上」が求められてきた。所得税の不備(狭い課税ベース)が防衛費の財源確保を困難にしかねないとすれば、税負担の公平性に配慮しつつも、その是正に取り組むことが喫緊の課題だ。
●増税、二番煎じ…岸田首相が唱える「異次元の少子化対策」は不安だらけ 1/16
2022年は参院選が実施され、自民党・公明党の連立与党が勝利しました。これにより、岸田文雄首相の政権運営が安定化したことは言うまでもありません。そのほかに昨年はロシアによるウクライナ侵攻が起き、その影響によって原油高となりました。円安も加速し、物価高となって私たちの生活を圧迫しています。
2023年は、どんな1年になるのでしょうか? 首相官邸取材歴が約15年のフリーランスライター・カメラマンの小川裕夫が、岸田政権の新たな1年間を予測します。
「異次元の少子化対策」に注目
2023年1月4日、仕事始めとして三重県の伊勢神宮を参拝した岸田文雄首相。これは歴代の首相が毎年恒例としているもので、岸田首相は2022年も伊勢神宮を参拝しています。参拝後、現地で年頭会見を実施。これも毎年恒例です。ただ、例年なら翌日に首相官邸でも年頭記者会見を実施しますが、今年は首相官邸での年頭会見がありませんでした。
参拝後の記者会見は、時間が短いうえに、形式的な話が大半を占めました。そうしたこともあり、2023年に岸田政権が重点的と考えている政策が明確に伝わりませんでした。それでも年頭記者会見で、岸田首相は3つの柱となる政策を述べています。そのうちの2つは以前から口にしている政策でした。
目新しかったのは、2番目に触れた「異次元の少子化対策」です。この政策が、今年の岸田内閣の最重要課題になることは間違いありません。なぜなら、2023年4月には「こども家庭庁」が発足するからです。
「こども家庭庁」は少子化を改善できるのか
岸田首相は、異次元の少子化対策として、児童手当を中心に経済的支援を強化、学童保育や病児保育を含め、幼児教育や保育サービスの量・質の両面から強化するとともに伴走型支援、産後ケア、一時預かりなどすべての子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実を挙げました。
岸田首相の言葉だけを見ても、いまいち何をするのか理解できません。あくまで岸田首相は少子化対策の柱となる大枠について言及しているので、具体的な政策内容はこども家庭庁の発足以降に詰めていくと思われます。
しかし、こども家庭庁が発足する以前から、同じような少子化対策は取り組まれていました。にもかかわらず、日本の少子化は依然として深刻です。少子化が改善する気配すらありません。こども家庭庁は従前の少子化対策を深化させなければならず、生半可では国民は納得しないはずです。
どんな取り組みをするのか?
岸田首相が言及したように2022年の出生数は80万人を割り込んでいます。もはや少子化対策は待ったなしの状況にあり、本来ならこども家庭庁の発足を悠長に待っている時間はありません。できることは、すぐにやらなければならない状況です。
例えば、政府は2023年4月から出産一時金を42万円から50万円へと引き上げることを決めました。予算の都合もあるのでしょうが、もっとタイミングを早めて2023年1月から開始することも可能だったはずです。
実際、菅義偉首相は内閣が発足した際の所信表明で不妊治療の保険適用に言及し、不妊治療の保険適用は2022年4月から始まりました。菅内閣が発足したのは2020年9月ですが、保険適用のスキームを決めるまでには時間がかかる。その間も出産適齢期の女性たちは不妊治療を続けなければならない。待ったなしだから、保険適用のスキームが決まるまでの間は不妊治療費助成の増額で対処するとし、2021年1月から不妊治療費助成額は増額されています。
やる気がないと言われても仕方がない遅さ
そうしたことからも、岸田首相が宣言した異次元の少子化対策はやる気がないと言われても仕方がない遅さです。もっと言えば、出産一時金の増額は2022年の出産分に遡って適用もできるはずです。すでに出産を終えた人に対して、出産一時金を増額しても意味がないのでは?と思うかもしれません。
しかし、東京都における出産費用は50万円を超えています(公立病院に限る。厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)」)。42万円では出産時に不足してしまうのです。さかのぼって増額した出産一時金を支給することで、「あと1人、子どもを産みたい」という気持ちを抱いてもらうことができれば、出生率の改善につながります。
また、岸田首相は子育て支援策として2023年1月以降に出産した世帯に対して、妊娠・出産に関する用品や産前産後ケアに活用できる10万円分のクーポンを配布することも表明(自治体の判断で現金給付も可)。
これは東京都が2021年4月より独自に取り組んでいる「出産応援事業 赤ちゃんファースト」の全国版といえるものです。岸田内閣が打ち出した10万円クーポンは東京都の二番煎じなので、支援の遅さが際立ちました。
出産を控える家庭の経済事情を理解していない
また、出産を控える家庭の経済事情をまるで理解していないことも浮き彫りになりました。なぜなら、妊娠・出産に関する用品は出産前に買い揃えておくからです。つまり、出産前に出費が重なるわけです。出産前にクーポンを配布しなければ、経済的な負担は軽減されません。経済的な負担が軽減されなければ、出生数を増やすための政策としては意味がありません。
福岡県福岡市は、2022年12月に出産した人に対して一律10万円を支給する「出産・子育て応援交付金制度」をスタートさせています。しかも、制度開始前に出産した人でも、2022年中の出産ならさかのぼって交付金が支給されることになっています。
そして、福岡市の交付金は妊娠時に5万円、出産時に5万円といった具合に段階的に支給するので、交付金を使って妊娠・出産に関する用品を出産前に買い揃えておくことができます。こうした交付金で出産をサポートすることは重要な政策ですが、スキームがまずければ、その効果は限定的になってしまうのです。
岸田首相が言及した2022年に年間出生数が80万人を割り込んだ理由のひとつに、2020年からつづく新型コロナウイルスの影響があります。コロナ禍は長期間にわたって日本社会全体を閉塞感で覆いました。
若者が経済的に困窮していれば…
もちろん、コロナだけが少子化の原因ではありません。コロナ以前から日本経済の停滞は深刻で、先の参院選でも多くの候補者が「日本は30年にわたって賃金が増えていない」ことを問題視していました。
30年間も賃金が増えない一方で、物価は確実に上がっています。実質的に可処分所得は減り、生活から余裕を奪うのです。特に自分の生活で精一杯という若者が増えていることは深刻な問題と受け止めなければなりません。
大学進学のために1000万円近い奨学金を借り、卒業後にそれを返済していく。経済が右肩上がりを続けてきた時代なら、そうした奨学金を返済することも可能でした。けれども、近年は非正規採用が増え、正規雇用は大学新卒でも狭き門となっています。
自己責任と片付けることは簡単なものの、若者が経済的に困窮していれば、当然ながら結婚を考えることはできません。結婚しても、子供をもうけようという気にはなれないでしょう。若年層を経済的困窮から救うことは、少子化対策にもつながるのです。
足立区が始めた「返済不要の奨学金制度」
実際、文部科学省は2022年の有識者会議で、返済不要とされる給付型奨学金の拡充を打ち出しました。実は、すでに返済不要の奨学金制度を決めた自治体があります。東京都足立区です。
これまでにも足立区は、独自に貸与型奨学金制度を導入していました。しかし、貸与型奨学金を利用する学生は年を追うごとに減少していきます。その背景には、先述したように大学を卒業しても返済できる見込みが薄いことがあります。返せるメドが立たないから、最初から借りない、というわけです。
そうした事情を勘案し、足立区は2023年1月に給付型奨学金を創設。貸与型から返済不要の給付型へと切り替えました。同制度は始まったばかりですが、年間40人に奨学金を支給することを目標にしています。
この奨学金を受け取った学生が、大学を卒業するのは4年後です。その後に就職、もしくは大学院進学するわけですが、いずれにしても給付型奨学金が創設されたからといって少子化がすぐに改善に向かうわけではありません。
私立大学から公立大学に鞍替えするパターンも
それでも大学卒業後に約1000万円の返済金を背負わされることがなくなります。そうした経済的負担が軽減されることで、就職後してから数年後に家庭を持とうと考える若者が増える効果は期待できそうです。足立区とは違った形で、進学時の経済的負担を軽減する取り組みをしている自治体もあります。
近年、地方都市では私立大学を公立大学へと切り替える事例が増えているのです。当初、私立大学を公立大学へと切り替える政策は過疎化対策が主眼にありました。18歳の高校卒業時に、進学を選択した若者たちの多くは県外へ転出します。大学が多く立地する東京・大阪・名古屋などに若者が流出してしまうのです。 
大学を卒業した後に戻ってきてくれるなら、自治体側は4年間辛抱すればいいだけです。とはいえ、いったん進学で地元を離れると、そのまま進学先の都市で就職してしまうケースが多いわけです。なんとか地元にとどまってもらい、地元で就職してもらう……そんな思いから私立大学を公立化していったのです。
地方自治体の活性化につながるか
公立化された大学は全国にたくさんあります。2016年には京都府福知山市の成美大が福知山公立大学に改称する形で公立化し、2017年には長野大学が同じ大学名のまま公立化、2022年にも徳山大学が周南公立大学に改称して公立化しています。
私立大学の公立化は、先述したように地元に残ってもらうという過疎化対策から始まりました。また、経営危機に直面した大学を救済するという目的もありました。私立大学の公立化は、そうした思惑とは別に副次的な効果をもたらしていきます。
東京・名古屋・大阪に進学すれば、通常は地元を離れて1人暮らしをすることになります。1人暮らしをするには、大学の授業料のほかにアパート代・食費・光熱費など年間100万円前後の費用が余分に発生します。その費用を捻出できないために進学を諦めていた若者も存在するでしょう。
地元に、しかも授業料が比較的に安価な公立大学があるなら、その大学へ進学するという選択が生まれたのです。進学にかかる経済的な費用を軽減することは、間接的に少子化対策にもつながります。子育て支援のためにお金を配ることを否定するわけではありませんが、こうした経済的負担を軽減する取り組みによって少子化を解消することもできます。
消費税増税に疑問符が
少子化対策は、政府よりも地方自治体の方が先行しています。岸田首相が「異次元の少子化対策」を宣言するなら、まずは先を行っている地方自治体の少子化対策を模倣することから始めることが理想です。良い政策は、国の施策であっても地方自治体の施策であっても関係ありません。最終的に国全体が富めばいいのです。
ところが前幹事長の甘利明衆議院議員が「異次元の少子化対策」の財源捻出のために消費税を増税する考えがあることをBS番組で言及しました。消費税は、その名の通り消費にかかる税金です。一般的に、高齢者層よりも若年層のほうが飲食や買い物など消費を伴う行動が多い傾向にあります。
つまり、消費税の増税により、ますます若者は可処分所得が減り、それが結婚や出産を控える傾向を強くし、出生率を下げるには十分の効果を発揮することは間違いありません。これでは何のための少子化対策なのか疑問です。本末転倒でしかありません。
岸田首相が宣言した「異次元の少子化対策」は、いかなるものになるのか? 2023年は、それを見極める1年になるかもしれません。  
●木原官房副長官が大炎上! 米での岸田首相会見中に“エラソーな態度” 1/16
あれでは批判が殺到するのも当然だ。自民党の木原誠二官房副長官が炎上している。
きっかけは、朝日新聞がツイッターにアップした一本の動画だ。訪米した岸田首相が、ホワイトハウスの前に立ちながらマスコミ対応している場面を公開した。
首脳会談を終えた岸田首相が「バイデン大統領自らホワイトハウス正面玄関に出迎えていただいた……」などと話している時、あろうことか、木原氏が、ズボンのポケットに手を突っ込みながら、尊大な態度で首相の話を聞いている姿がバッチリ映っているのだ。
岸田首相が「個人的な関係を深めることができた」「日米関係の連携を確認できた」と語るたびに、まるで部下を見守るようにウンウンとうなずく様子も映っている。
●防衛費「増税以外の財源」検討へ 自民党が“特命委”準備会合 1/16
岸田首相が打ち出した「防衛費増額のための増税」をめぐり、自民党は増税以外の財源を検討する特命委員会の準備会合を開催しました。
会合には特命委員会の委員長をつとめる萩生田政調会長らが出席し、増税以外の財源として歳出改革や決算剰余金などを検討することを確認しました。
自民党内に「増税」への根強い反対論がある中、出席者からは「最初から増税という政府の説明は間違っている」といった厳しい意見が出ました。
自民党・西田参院議員「最初から増税するような話になったりしてるのは、ちょっと財務省が、政府側の説明がね、良くないということを含め、様々な問題提起があった」
また、国の借金である国債について、一部を借り換えながら60年間かけて安定的な返済を目指す「60年償還ルール」の見直しも議論していくということです。
「60年償還ルール」をめぐっては、松野官房長官が先週、「財政に対する市場の信認を損ねかねない」などとして、見直しに懸念を示していました。出席者からは「党内で議論をする前に政府が否定するのは、ケンカを売っている」などの批判が出たということです。
特命委員会は19日に第一回の会合を開く予定です。

 

●「自分の国は自分で守る」、戦後最大の転換を米国に示した岸田首相 1/17
岸田首相とバイデン米大統領が1月13日、首脳会談に臨んだ。早稲田大学の中林美恵子教授は「日本が示した安全保障政策の転換は戦後最大」と評価する。そのポイントは「自分の国は自分で守る」こと。日米はこの先に、統合抑止の実現を描く。
――岸田文雄首相とジョー・バイデン米大統領が1月13日、ホワイトハウスで首脳会談を行いました。今回の会談をどう評価しますか。
中林美恵子・早稲田大学教授(以下、中林氏):これからお話しする3つの意味で重要な会談だったと思います。第1のポイントは、日本の安全保障政策が大きく変わりつつあることを示したこと。第2は米国の大きな変化を示していること。そして第3は、5月に予定される主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)への道筋をつけたことです。
吉田ドクトリンから脱却する戦後最大の変化
第1について、この変化の大きさは戦後最大と言っても過言ではありません。大きく捉えれば、これまでの安保政策は吉田ドクトリン*を継承するものでした。日本が攻撃を受けたときには「米国が守ってくれる」「米国が攻撃してくれる」という考えが根底にありました。盾と矛の役割で言えば、日本は盾の役割だけを担う。米国の軍事力に頼ってきたわけです。
*=吉田茂首相(当時)が進めた軽武装、経済重視の路線。安全保障は米国に依存することになった
これが「自分の国は自分で守る」に変わりました。この変化を後押ししたのは、ロシアによるウクライナ侵攻です。ロシアが隣国を侵略。同じく強権国家である中国も同様の行為に及びかねない。すなわち、日本の周辺でウクライナ侵攻のようなことが起こりかねない。仮にそうなったら、ウクライナのように、自分の国は自分で守るべきだ。そうしなければ、どこの国も助けてくれない――。日本の国民の間でこうした理解が進みました。岸田政権はこの機を捉え転換を明確にしました。
それが顕著に表れているのは防衛費の増額です。2027年度にGDP(国内総生産)比2%にする方針を打ち出し、2023年度予算案で過去最大の約6兆8000億円を盛り込みました。加えて、反撃能力やアクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)の導入も、この変化の一環です。
――反撃能力とアクティブサイバー防衛は、自衛隊が取る行動の作用が相手国内に及ぶため、専守防衛という基本政策との兼ね合いが議論の的になってきました。
中林氏:その議論を乗り越えて決断したのは重要です。
専守防衛の骨子は「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使」すること。つまり、日本から先制攻撃はしないことです。日本にその意図はありません。ミサイルの発射拠点をたたくことは「自衛のための必要最小限」にとどまるものです。
――日米同盟は「日本が盾、米国が矛」という役割分担とされてきました。日本が盾の役割を担う背景に専守防衛があります。今回の首脳会談で、この役割分担は修正されたのでしょうか。
中林氏:役割の修正というより、盾と矛の間に線を引くことが困難になったのだと思います。弾道ミサイルの進化など科学技術の進歩が、これを困難にしました。
――それぞれの役割を盾と矛に分けること自体が合理的でなくなったわけですね。
中林氏:そう考えます。
米国から「上から目線」が消えた
――第2のポイントは米国の変化。どのような変化ですか。
中林氏:日本の政策転換を米国がそのまま受け入れ、歓迎していることです。この転換を米国の安全保障関係者は大歓迎。私が知るある米軍関係者は「床に頭をこすりつけて感謝したいほどだ」と語っていました。かつてのような上から目線はなくなっています。
バイデン政権は同盟国との連携を強めたい考えです。その背景には、米国の軍事力が相対的にかつてより低下していることもあります。例えば、ウクライナに武器を提供していることの余波で、米国自身の充足率が低下しています。「日本や韓国、オーストラリアにライセンスを供与して生産してもらうべきだ」との声が耳に入るようになりました。
――日本は、航空自衛隊が使用する戦闘機F-2の後継機を英国、イタリアと共同開発する方針を決めました。これまでの米国だったら、口をはさんできたかもしれません。実際に、F-2開発プロジェクトは、日本は国産で開発・生産する考えでしたが、米国の介入を経て、日米共同開発になりました。それも米国が運用する既存機F-16の改造開発でした。
中林氏:そうですね。日本の次期戦闘機開発への態度も米国の変化を示す象徴の1つと言えます。
――ポイント1と2から考えて、日米同盟は今後、どのようなものになっていくのでしょうか。
中林氏:米国が言う「統合抑止」*を目指すのだと思います。
*=軍事だけでなく経済や外交も含めて、米国と同盟国が共同で実施する抑止
ポイント1で指摘した日本自身の防衛力増強は必要なことではありますが、それだけで日本を守ることはできません。中国はその経済力を高めるのと軌を一にして軍事力を高めてきました。
――2021年度の防衛予算は中国が約3242億ドルであるのに対して日本は約530億ドル。6倍を超える開きがあります。
中林氏:さらに、日本の周辺にはロシアも北朝鮮もあります。日本だけで太刀打ちできるものではありません。したがって、米国をはじめとする民主主義国・同志国との連携が欠かせません。そして、ポイントの2で述べたように、米国も日本をはじめとする同盟国の協力を必要としています。
ポイント1とポイント2のベクトルを伸ばしていった交点に統合抑止があります。例えば、陸・海・空の自衛隊を束ねる統合司令部の創設は、統合抑止に向けた動きの典型例と言えるでしょう。米軍との連携をしやすくする取り組みです。
日本が自ら率先して変化し、米国を動かした
――日米の変化について、日米首脳会談後の共同声明より、日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)後の共同発表の方が明確かつ具体的に書いています。2プラス2は、首脳会談に先立って1月7日に開かれました。2プラス2共同発表が非常に重要な意味を持っていると考えられます。過去にも、2005年の日米2プラス2の後に署名された「日米同盟:未来のための変革と再編」が「日米安全保障条約に取って代わった」と評価されたことがありました。
中林氏:確かに、2プラス2での合意文書が重要な意味を持つことがあります。
ご指摘のように、1月7日の日米2プラス2はとても重要なものでした。ただし、これと13日の首脳会談はセットで捉えるべきです。2プラス2で話し合われた内容を、首脳同士が承認したことが大事です。
――その意味で言うと、今回の首脳会談と日米2プラス2も、それだけで評価することはできないですね。過去からの積み重ねを集大成したものとの観があります。
バイデン政権が2021年1月に発足するとすぐ、日米政府は3月に2プラス2を開催しました。そのときの共同発表に「一層深刻化する地域の安全保障環境を認識し、閣僚は、日米同盟の役割・任務・能力について協議することによって、安全保障政策を整合させ、全ての領域を横断する防衛協力を深化させ、そして、拡大抑止を強化するため緊密な連携を向上させることに改めてコミットした」と盛り込みました。
その後、米国が国家安全保障戦略と国家防衛戦略を改定。日本は国家安全保障戦略を改定すると共に、国家防衛戦略を新規に策定しました。そして、今回の日米2プラス2で、両国の安全保障・防衛政策は「軌を一にしている」と承認しました。宣言した、両国の政策を「整合させ」たわけです。
そして、整合した政策の一環として米国は、在沖縄の海兵隊「第12海兵連隊」を「第12海兵沿岸連隊」に改組し、第1列島線*を守る体制を強化する方針を今回の2プラス2で打ち出しました。これは「拡大抑止を強化」につながります。「日本の反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間の協力」を深化させることも同様です。
宣言したことを着々と実現している印象を受けます。
*=日本列島および日本の南西諸島から台湾、フィリピンを経て南シナ海にかかるライン
中林氏:その通りです。さらに言えば、10年以上前から日本が警鐘を鳴らしてきた中国の脅威について、ようやく米国が理解し、政策のかじを切ったと考えることもできます。日本は中国と至近の距離にあるため、その脅威を米国よりずっと早く、そして強く感じてきました。
――振り返れば、2009年には、日中が共同開発で合意していた東シナ海のガス田「樫」(中国名・天外天)において、中国が単独で掘削していたことが判明しました。さらに遡れば、中国は1992年に領海法を制定し、尖閣諸島を中国の領土であると定めています。
中林氏:日本に比べて米国は鈍感でした。中国を脅威と捉えるどころか、対テロ戦争をともに戦うパートナーと位置づけていたのですから。中国に対するエンゲージ政策が間違いだったと明確に位置づけたのはトランプ政権になってからです。それを、現在のバイデン政権が引き継ぎました。今は共和党、民主党を問わず超党派で中国の脅威を理解しています。
第1のポイントである日本の政策転換は、中国がもたらす脅威に早くから気づいていた日本が、ロシアのウクライナ侵攻を契機に主体的に行いました。米国にせかされて、いやいや決めたものではありません。この意味で大きな変化と言えます。他方、日本はこの脅威について米国への説得に努めてきた。それが、統合抑止という青写真の策定につながったわけです。その背景に、第2のポイントである米国の変化があります。
なぜ、ガイドラインの改定に踏み込まなかったか?
1つ、課題として残ったのは、「日米防衛協力の指針」いわゆるガイドライン*の改定です。日米2プラス2でも首脳会談でも言及されることがありませんでした。実際の改定は将来の課題にするとしても、「改定を進めることで合意した」と合意文書に盛り込むべきだったと考えます。改定すること自体が、統合抑止に向けて日米が本気であることを示す象徴となるからです。
*=日米が防衛協力する際の基本的な枠組みや方向性について定めた合意文書。法的拘束力はない
――この点は気になりました。うがった見方かもしれませんが、私は次のことを考えました。岸田政権が国内世論をおもんぱかって、ガイドラインの改定に触れないことにした――。
理由は、2015年に改定された現行のガイドラインの中に、存立危機事態において日本が戦闘に参加するとは限らないという趣旨の記述があることです。
存立危機事態は、(1)日本と密接な関係国に武力攻撃が発生し、(2)日本の存立が脅かされるなどの明白な危険があるケースで、武力行使以外(3)他に適当な手段がない場合。政府がこの事態を認定すれば、武力行使ができるようになります。
ガイドラインは、日本政府が存立危機事態を認定したものの、日本が武力攻撃を受けるに至っていないとき、日米が協力して行う作戦として以下を挙げています。(1)アセットの防護、(2)捜索・救難、(3)海上作戦、(4)弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦、(5)後方支援――。(1)〜(5)はいずれも直接の戦闘行為を指すものではありません。
ガイドラインを改定するならば、台湾有事が現実となり日本政府が存立危機事態を認定したときは、日本が攻撃されていない状態でも、日本は戦う――。こうした趣旨の文言への差し替えを議論することになります。
そうなると、日本国内で反対の声が上がる可能性があるでしょう。岸田政権は防衛費の増額を増税で賄う方針を打ち出しました。これに対し、野党が反対を表明しています。NHKが1月7〜9日に実施した世論調査でも「反対」が61%に上りました。岸田政権は、こうした世論の動向を鑑みて、民意をさらに刺激しかねないガイドラインの改定を持ち出すのは得策でないと判断したのではないでしょうか。
中林氏:その可能性はあり得ると思います。
米国の視点に立てば、日本が戦う姿勢を明確にする方が好ましいでしょう。日本の強いコミットメントを感じると考えます。また存立危機事態は「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」です。日本が戦わないとすれば不思議な話です。戦う意志を示さなければ抑止になりません。
しかし、岸田政権の視点に立てば、事の重要性を鑑みて、慎重・着実にならざるを得ないのも理解できます。
台湾有事の抑止に欧州を巻き込む
――第3のポイントについて、G7広島サミットで日本がリーダーシップを発揮するメドはついたのでしょうか。
中林氏:ついたと考えます。
岸田首相は訪米に先立って、欧州諸国を訪問。民主主義や自由貿易を掲げる陣営が連携を取っていく点において欧米諸国から合意を取ることができました。加えて、台湾有事の抑止について、欧州諸国の協力を得ることにも道筋をつけました。
――日本は、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、対ロシア制裁に参加し、この問題を欧州にとどまらないグローバルな問題にすることに協力しました。台湾については「欧州諸国が協力してね」ということですね。
中林氏:その通りです。
米国に言うべきことは言えたのか?
――今回の日米首脳会談は安全保障の話に終始していた印象が強くあります。他に、話し合うべきこと、もしくは日本が米国に要求することはなかったのでしょうか。
例えば、米国で成立したインフレ抑制法のEV(電気自動車)条項について強く苦言を呈するとか。同条項は、EVを購入する米国の消費者に税額控除の優遇措置を与えるもの。その対象車両を、北米で最終組み立てが行われたものに限定しています。韓国やEU(欧州連合)は自由貿易を阻害するものとして強く反発しています。
中林氏:そうですね。べき論で言えば、主張すべきだったと思います。ただ、今回の首脳会談は安全保障政策に焦点を絞ったのだと考えます。お皿の上にいろいろなものを載せると、焦点がぼやけてしまいます。日本のこの考えは功を奏し、安全保障政策を転換するとのメッセージはきちんと米国に伝えることができたと評価します。
日本がこれまで米国に言いたいことを言えずにきたのは、安全保障において負い目を感じていたからです。韓国は徴兵制を敷き、自国の防衛に努力しています。NATO(北大西洋条約機構)諸国も米国と相互に防衛義務を負い、アフガニスタンでは対テロ戦争を米国と共に戦いました。これらに比べると、日本は敗戦国のままで、米国の軍事力に依存してきました。
安全保障政策を転換した日本が防衛力の強化を続けていけば、おのずと発言できるようになると考えます。
――もう1点、対中半導体規制についても言及がありませんでした。米国は2022年10月、半導体をめぐる対中規制を大幅に強化しました。米国は半導体製造装置や素材で力を持つ日本やオランダに同調するよう要請しています。これに対し、日本はまだ姿勢を明らかにしていません。
中林氏:そうですね。半導体をめぐる米国の危機感は非常に強く、死活的問題と捉えています。中国の軍事力強化を直接支えるものだからです。
ただ、中国とのビジネスにおいてどこまでが許されて、どこからが許されないのか、米国自身もまだ明確な線を引くことができていません。日本としては、ロビー活動などを通じて、日本に好ましいところに線が引かれるよう努力している段階だと思います。
ただし、日本は米国と協調して経済安全保障政策を推し進めるという大枠は決めました。この点はぶれずに進むと考えます。
●岸田総理がバイデンから異例の「おもてなし」を受けるが…「防衛力の拡大」 1/17
日本を高く評価
「バイデン氏は新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画に示されているような、防衛力の抜本的強化とともに外交的取り組みを強化する日本の果敢なリーダーシップを称賛した」――。
これは、日本時間の先週土曜日(1月14日)未明、米国の首都ワシントンで行われた岸田総理とバイデン大統領による日米首脳会談の後、公表された「日米首脳共同声明」に盛り込まれた一文だ。
長年、事実上の上限となっていた「国内総生産(GDP)比1%」の壁を打ち壊し、防衛費を北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国並みの2%に増額する方針を引っ提げて訪米した岸田総理を米国側は異例の歓待をもって迎えたという。
ロシアや中国、北朝鮮、イランなどが傍若無人に振る舞う中で、軍事力と経済力の相対的な低下に直面する米国にとって、日本がようやく自ら本格的な防衛力強化を打ち出したことは高く評価すべき動きだというのである。日本の防衛力強化は対米公約になったことになる。
しかし、米国で歓待されればされるほど、昨年末のドタバタ劇の中で防衛力の強化と防衛予算の拡大を打ち出した岸田政権が本当に防衛力の強化を実現できるのか。増税という難題がある以上、総理が背負い込んだ課題はあまりにも重く、政権の先行きに思いを巡らさざるを得ないというのが実情ではないだろうか。
時計の針を昨年12月に戻そう。岸田内閣は、国家安全保障戦略など安保関連3文書を改訂。今後5年間で43兆円という巨費を防衛費に注ぎ込む防衛力の増強方針を打ち出した。
増額の最大の柱は、これまで実際に戦争が起きることを想定せず、必要な資金の投入を怠ってきた弾薬や装備の維持整備費などの「継戦能力」(持続性・強靱性)の強化だ。充てる予算は16兆円と、前回の2018年に策定した中期計画の予算(6兆円)の2.7倍弱を計上した。
国民的な合意形成のプロセスを経ていない
2番目に多い額となったのは、宇宙やサイバーのほか、日本列島を取り巻く領海や領空、離島の防衛に充てる車両、艦船、航空機を確保する「領域横断作戦能力」だ。予算額は8兆円と、こちらも前回の(3兆円)2.7倍弱を確保した。
3番目は、新設の、敵基地や指令所に対する反撃能力を意味する「スタンドオフ防衛能力」の確保だ。従来はやらない前提だったことから、戦略上の大きな目玉で、今回は5兆円と前回(0.2兆円)の25倍を計上した。必要な能力確保のため、2012年度から調達されてきた陸上自衛隊の地対艦ミサイルシステムである、12式地対艦誘導弾を改良して反撃能力を持つように改造して調達する予算や、米国製の巡航ミサイル・トマホークといった敵基地攻撃用のミサイルの調達費用がこの部分となっている。
4番目は「教育訓練費、燃料費」だ。こちらは、今回、4兆円と前回(2兆円)の2倍を確保した。
5番目は、既存の戦略上にもあったミサイル防衛システムの強化だ。「統合防空ミサイル防衛能力」というカテゴリーに区分けされている。予算額は3兆円と従来(1兆円)の3倍に膨らんだ。この中には、03式中距離地対空誘導弾の改良やイージス・システム搭載艦の建造などの費用が含まれている。
その他は残りの合計で8兆円。基地の地元対策費や研究開発費が主な項目となっており、これまでの4.1兆円に対し、1.95倍に膨らんだ。
ただ、こうした予算の投入で本当に過不足なく必要な防衛力を確保できるのか。昨年末の2週間余りの間に、政府が打ち出し、自民・公明の連立与党の議員でさえ納得しない間に閣議決定をしてしまったのが、国策・防衛力整備の決定過程だった。
つまり、国民的な合意形成のプロセスを経ていないのである。
財源決定の経緯
それゆえ、今月23日召集の通常国会における与野党の論戦を見ないと、日本国民として、それらの適否が判断できない状況になっている。
国民的な合意形成のプロセスを経ていないのは、財源の問題も同じだ。岸田政権は、同じく昨年末のドタバタの中で、自民党税制調査会がとりまとめた「2023年度の税制改正大綱」を閣議決定しただけで、国民生活に大きな影響を与える法人税や所得税の増税を既成事実化できたかのような姿勢で、防衛費強化を対外的に説明している。この点が先行きを考えるうえで気掛かりな点になっている。
財源決定の経緯をおさらいすると、岸田総理は昨年12月8日に、防衛費を2027年度以降に毎年度4兆円増額する必要があり、歳出削減や剰余金・税外収入の洗い出しによって年3兆円ほどを確保するものの、それでも足りない1兆円強を増税で賄う必要があると明かした。
一方、その2日後の12月10日の記者会見では、「個人の所得税の負担が増加するような措置はとらない」と強調。増税に対する国民の警戒感を和らげる発言をした。
ところが、その舌の根も乾かない12月16日に、防衛費をGDP比で2%に倍増する方針を定めた防衛3文書を、そして同23日には、その安定財源を確保するために増税するとした2023年度与党税制改正大綱を、それぞれ閣議決定したのだった。
この税制大綱には、法人税、たばこ税、金融・不動産税、所得税などの増税方針が盛り込まれた。選ばれた過程を見ると、まず安倍政権時代の消費増税が景気の足を引っ張ったことを勘案して増税のメニューから消費税を早々に外したり、「1億円の壁」で有名になった金持ち優遇税制にメスを入れたりした点で、政府・与党なりに企業や国民の理解を得ようとの配慮を示した形跡はある。
岸田発言との矛盾
とはいえ、今回の金融・不動産税制の見直しによって、実際に増税の網がかかるのは、1億円以上の所得がある人ではなくて、30億円以上の所得がある人だ。その人数で言えば、ほんの300〜400人程度の超高額所得者に限られるとされている。これでは、典型的なやったフリに過ぎないと断じざるを得ないだろう。姑息過ぎて、却って、増税への国民のコンセンサスを取り付けるうえで、反感を買いかねないリスクが残った。
また、所得税の増税手法も姑息といえば、姑息だ。というのは、防衛費の財源としての個人所得税の増税について、岸田政権は、東日本大震災の被災地などの復旧・復興のために設けられている「復興特別所得税」の付加分の2.1%のうち1%を引き下げる代わりに、その1%分を防衛費のために引き続き付加するという手法を採用するとしたからである。結果として、「復興特別所得税」の割引分を徴収するために、2037年に終了するはずだった「復興特別所得税」の徴収期間が延びることになる。この延長期間は、最長で、実に13年程度に達する見込みだとされている。
長期にわたる増税の継続が、12月16日の「個人の所得税の負担が増加するような措置はとらない」と強調した岸田発言に矛盾することは明らかだろう。
加えて、税制大綱が増税の時期に関して、「令和6年(=2024年)以降の適切な時期」としか記していないことも、火種を残した形になっている。いずれにせよ、野党の多くは増税反対論を展開しただろうが、身内である自、公の両与党からも多くの議員が2024年以降になっても「適切な時期ではない」と主張して、岸田政権に造反しかねない書き振りになってしまったということだ。
最新の岸田内閣の支持率をみると、今年1月調査では読売新聞社が39%。NHKが33%、昨年12月の調査では、日本経済新聞社が35%、産経新聞社が37%、共同通信社が33.1%、朝日新聞社が31%と低水準に喘ぎ、いずれも不支持率を下回っている。
各社の内閣支持率の推移を振り返ると、新型コロナ・ウイルス感染症の第6波が収束して行動制限が緩和された去年5月頃にピークを記録。その後、物価高の進展や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題、相次いだ閣僚の辞任などを原因として、ほぼ一貫して下がり続けてきた。ダメ押し的に、12月の増税後に一段と下げた調査が多い。
こうした支持率を前提にすると、岸田政権にとって、防衛力増強のためとはいえ、増税について国民的なコンセンサスを取り付けることが大変な事業になることは、確実だ。
今回、岸田総理の訪米を歓待した米国でも、政府高官の中には、同総理がいつまで政権を維持できるかに関心が高まっているという。
対米公約にもなった防衛力強化を本当に実現できるのか。岸田氏の総理の座を賭した政権運営の幕は切って落とされたばかりなのである。
●平和外交だけで日本を守れるのか  1/17
岸田政権の「反撃能力」保有と防衛費増額閣議決定
自由民主党岸田文雄政権は、国際法違反のロシアによるウクライナ侵略の脅威をはじめ、中国による台湾への軍事的圧力の増大や常態化した尖閣諸島への領海侵犯を含む力による現状変更の試み、北朝鮮による核開発や度重なる軍事的挑発など、日本を取り巻く厳しい安全保障環境に即応するため、昨年12月16日に国家安全保障戦略などの「安保3文書」を閣議決定した。
そして、ミサイル防衛の困難性から敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有と防衛費増額を決定した。さらに、今年1月14日の日米首脳会談では、上記「反撃能力」保有等を踏まえ、中国・北朝鮮・ロシアの専制主義国家による脅威に対して日米同盟の抑止力と対処力を強化することで一致した。
平和外交一辺倒の「反撃能力保有反対論」
これに対し、日本共産党や、一部のマスコミ、市民団体、左翼系学者、日本弁護士連合会などは、「反撃能力」保有と防衛費増額について、「憲法9条の専守防衛をかなぐり捨て、軍事大国を目指す危険な戦争への道であり国を亡ぼす暴挙である」などと激しく反発し、閣議決定の撤回を求めている。
このような「反撃能力」保有と防衛費増額への反対論の根底には、自衛隊や日米同盟による抑止力を一切認めず、これに反対する反戦イデオロギーがある。とりわけ、日本共産党は、党綱領において「自衛隊違憲解消」と「日米安保条約廃棄」を明記し「非武装中立政策」を取っている。
日本共産党や上記諸団体等の反対論に通底するのは、軍事対軍事の悪循環に陥る戦争への危険な道であるとして「反撃能力」保有と防衛費増額による日本の抑止力強化を否定し、何よりも憲法9条に基づく「平和外交」による話し合い解決を主張する平和外交一辺倒だということである。
米国の抑止力で担保されている「専守防衛」
しかし、自衛のための抑止力を持たず、「平和外交」だけで国が守れるならば、古今東西を問わず、世界各国が常備軍を持つ根拠を説明できず、ロシアによる国際法違反のウクライナ侵略もない。そして、反対論者が金科玉条とする、日本を守る「専守防衛」も、その実態は日本国内における米軍基地と米国からの「核の傘」の借用による抑止力の存在を大前提としているのである。
反対論者は、これらの抑止力によってこそ、日本を守る「専守防衛」が担保され持続可能である厳然たる事実に目を背けている。もちろん、そのために日本は米国に対して基地提供の負担や思いやり予算等の重い代償を払っている。
平和外交だけで日本を守れるのか
このように、日本を守る「専守防衛」自体が日米同盟による抑止力の存在を大前提とするのであり、この抑止力がなくなれば、反対論者が金科玉条とする、日本を守る「専守防衛」自体が成り立たないのである。
このことからも、反対論者が共通して主張するような、自衛隊や日米同盟の抑止力を否定する「平和外交」一辺倒では到底日本を守れないことは明らかである。今回の岸田政権による「反撃能力」保有と防衛費増額は、日米同盟の抑止力を補強し日本の「平和外交」を補完することによって、反対論者が金科玉条とする、日本を守る「専守防衛」を持続可能とするものに他ならないのである。
●日米首脳会談で協議された「中国対策」、「中国の暴走」への懸念 1/17
「歴史の転換点における日本の決断」
日本時間の1月14日午前5時(アメリカ東部時間の13日午後3時)、フランス、イタリア、イギリス、カナダを経てアメリカを訪問した岸田文雄首相は、ワシントンDCのジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)で講演を行った。
タイトルは、「歴史の転換点における日本の決断(Japan’s decisions at history’s turning point)」。強調したのは、「中国への対応」だった。
首相官邸HPより
「中国と日本、中国と米国、中国と世界との間には、様々な可能性と共に数多くの懸案や課題があります。より根本的な問いかけは、中国が持っている国際秩序に関するビジョンや主張には我々と異なるものがあり、その中には我々が決して受け入れることのできない要素があることです。私は、国家安全保障戦略で、中国のもたらす挑戦は、『我が国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携により対応するべきもの』と位置付けました。我々は、中国に、確立された国際ルールを守り、これに反するような形で国際秩序を変えることはできず、またそのようなことはしないという戦略的な判断をしてもらう必要があります。そのための取組は息の長いものとなるでしょう。その過程では、力による一方的な現状変更の試みは決して認めない、抑止力は強化していく、その上で、我々は中国と共にインド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定に貢献することを希望しており、共通の課題については協力をしていく。つまり、関係を平和裡にマネージしていく必要があります。これが今の時代のステーツマンシップの成否を決める点であります。昨年11月、私は習近平国家主席と会談を行いました。その際には、尖閣諸島を含む東シナ海、昨年8月の中国によるEEZ(排他的経済水域)を含む我が国近海への弾道ミサイル発射等の軍事活動について懸念を表明しました。中国との間では、首脳を始め、できるだけ高いレベルで言うべきことは言っていくことがますます重要になります。先ほど述べたように、国際秩序の在り方について、中国と共通の理解に至るためにも、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め、対話をしっかり重ね、共通の課題については協力する、『建設的かつ安定的な関係』の構築を、双方の努力で進めていきたいと思います」 以上である。
また同日、ジョセフ・バイデン米大統領との首脳会談を、ホワイトハウスで行った。会談はランチを含んで約2時間に及び、終了後のブリーフィングで、外務省幹部はこう誇った。
「会談に先立ち、岸田総理大臣は、ホワイトハウスの南正面玄関でバイデン大統領による出迎えを受けた。両首脳は、庭園を見渡す柱廊を二人で歩きながら会談の会場へ向かうなど、会談の節々にバイデン大統領の岸田総理大臣に対する歓迎の意が見られた」
岸田政権が先月決めた「43兆円防衛予算」によって、今後ますます大量の武器をアメリカから購入することを思えば、大統領が正面玄関まで迎えに来ることくらい当然ではないのか。ともあれ、日米首脳会談での話題の中心も、「中国対策」だった。
「日米共同声明」の中身
実際、発表された「日米共同声明」では、「中国」と直接明記した箇所、間接的に中国を想定した箇所などを含めて、相当部分が「中国対策」に割かれた。以下に共同声明の一部を抜粋する。
〈 インド太平洋は、中国によるルールに基づく国際秩序と整合しない行動から北朝鮮による挑発行為に至るまで、増大する挑戦に直面している。(中略) こうした状況を総合すると、米国及び日本には、引き続き単独及び共同での能力を強化することが求められている。そのため、バイデン大統領は、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、及び防衛力整備計画に示されているような、防衛力を抜本的に強化するとともに外交的取組を強化するとの日本の果敢なリーダーシップを賞賛した。日本によるこれらの取組は、インド太平洋及び国際社会全体の安全保障を強化し、21世紀に向けて日米関係を現代化するものとなる。(中略) バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、日米安全保障条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを改めて表明した。バイデン大統領はまた、同条が尖閣諸島に適用されることを改めて確認した。(中略)両首脳は、日本の反撃能力及びその他の能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するよう、閣僚に指示した。(中略) 我々は、台湾に関する両国の基本的立場に変化はないことを強調し、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を改めて強調する。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。(中略) 我々は、日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)等を通じ、半導体等重要・新興技術の保護及び育成を含む経済安全保障、新たな二国間での宇宙枠組協定を含む宇宙、そして我々が最も高い不拡散の基準を維持しながら原子力エネルギー協力を深化させたクリーン・エネルギー及びエネルギー安全保障に関し、日米両国の優位性を一層確保していく。(中略)インド太平洋経済枠組み(IPEF)はこれらの目標達成の軸となる。(中略) 我々はまた、世界中の公衆衛生当局が感染拡大を抑制し、また新たな変異株の可能性を特定するための体制を整えられるよう、中国に対し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関する十分かつ透明性の高い疫学的データ及びウイルスのゲノム配列データを報告するよう求める。我々はまた、強固な二国間関係を基盤としながら、インド太平洋及び世界の利益のために、域内外の他の主体と協働していく。豪州及びインドと共に、我々は、日米豪印が、国際保健、サイバーセキュリティ、気候、重要・新興技術、海洋状況把握において成果を出すこと等により、地域に具体的な利益をもたらすことにコミットした善を推進する力であり続けることを確保する。我々は、引き続き、ASEANの中心性・一体性及び「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を支持していく。我々は、安全保障及びその他の分野における、日本、韓国、そして米国の間の重要な三国間協力の強化にコミットする 〉 以上である。
「中国の脅威」への対抗策として
こうした動きを受けて、例えば『日本経済新聞』(1月15日付)は、一面トップで「日米同盟、新段階に 首脳会談 対中『共同で抑止』」との見出しを掲げた。
確かに、私も岸田政権が先月策定した「防衛3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を熟読したが、日本の防衛戦略が新時代を迎えていることを痛感した。それはとりもなおさず、「中国の脅威」が差し迫っていることに他ならない。
ただ一点、「防衛3文書」を読んでいて気になったことがあった。それは、憲法第9条との整合性である。あまりにも有名な条文だが、改めて掲げてみる。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
ここから通常の国家が保有する「軍隊」ではなく「自衛隊」が誕生し、いまに至っているわけだ。私の疑問は、かなり踏み込んだ内容が明記された「防衛3文書」は、果たして近未来に、この憲法第9条を改正することを前提として書かれたものなのか、ということだった。
この点を防衛省幹部に確認すると、言下に否定した。
「それは違う。逆に、現行の憲法第9条をそのまま残しながら、どこまで日本の防衛が可能なのか、日米同盟はどこまで踏み込めるのかということを模索しながら行き着いたのが、今回の『3文書』だ。もう一つ付け加えると、韓国で少しずつ議論が始まってきた『核兵器の保有』も、前提としていない。岸田総理は、5月のG7(主要先進国)サミットを、お膝元の広島で開催するほど、核軍縮を自らの最大の政治的課題と捉えている。そのため、少なくとも岸田政権が続く限りは、日本の核兵器保有に関する議論さえ起らない。また岸田政権は、憲法9条を改正することも考えていない。そうしたことを踏まえた『3文書』ということだ」
中国が大量の核搭載ミサイルを日本に向けているであろうことを思えば、「軍隊も核兵器も保有しない」日本は、完全に中国と対等な軍事力の拮抗を目指しているわけではない。相手が「真剣」を振り回しそうなのに、こちらは「木刀」を構えることにしたと言えばよいだろうか。
『環球時報』が掲載した長文記事
だがそれでも、中国は、今回の「防衛3文書」と日米首脳会談によって、「日本の脅威」がワンランク上がったと捉えている。
中国を代表する国際紙『環球時報』(1月14日付)は、一面全体と二面の一部を使って、「岸田が門を登ってバイデンを拝見 日米の安保協力強化でアジア太平洋は攪乱!」と題した、7人もの記者による長文の記事を掲載した。その要旨は、以下の通りだ。
〈 何週か前に、日本は「地域の脅威」を口実に、軍事費支出の増額や「反撃能力」を含む大規模な軍事改革の発展を進め、アジアの国々を心配させた。かつ今回の岸田の外遊は、日米同盟を強化すると同時に、NATO(北大西洋条約機構)のパワーを引き入れてアジアでの業務に参画させようとしている意思が見て取れる。それはさらに未来のアジアを、一種の不安定な状況に直面する可能性があると、外側の人々を心配させるものだ。中国外交部の汪文斌報道官は、13日の定例会見で、こう述べた。アジア太平洋は平和と発展の高地であり、地域政治の格闘場ではない。われわれはアメリカと日本が、冷戦的思考とイデオロギーの偏見を破棄することを促す。「仮想敵」を作り出すことを止め、「新冷戦」的思考にアジア太平洋を引き込むことを止め、アジア太平洋の安定に逆流を惹き起こし、攪乱させるべきではない。『環球時報』の記者は13日夕刻、東京新宿の繁華街で、多くの労働団体や学生団体がこぶしを振り上げ、「日米首脳会談に反対」「軍事費倍増を決して許さない」といった横断幕を掲げているのを目撃した。彼らは、「『敵基地攻撃能力』の保有反対」「国民生活を破壊する大軍拡を阻止」などのスローガンを叫び、抗議していた。『環球時報』の記者の理解によれば、今回の抗議活動の主催者が考えるに、新たな安保3文書に基づき、中国を対象とした日米共同作戦計画は、まさにさらに一歩、実戦化・具体化してきており、日米首脳会談は「戦争会議」と同じだ。日米首脳会談をもとに、日本政府は6.8兆円に上る軍拡予算の支出を国会で通そうとしている。「岸田政権は自分をアメリカの戦車の上に差し出し、戦争の方向に一路狂奔している。こんなことをしていれば、日本は遠くない将来、戦争の当事者となるだろう」一般庶民は物価の高騰に苦しんでいる。生計を立てるのに必死な中、岸田政権は惜しみもなく増税して防衛費を増やそうとしている。日本の一般庶民はこのことに決して納得しない。長年にわたって、日本は対外戦略上、アメリカに全方位的に縛られていて、とりわけ対中戦略ではアメリカの「首にぶら下がる」状態となっている。13日に『環球時報』の記者の取材に答えた多くの専門家が、岸田政権の最新の軍事推進改革は、日本に戦略的な自主性を失わせるだけでなく、さらに日本がアメリカの「駒」となり、アメリカの利益を実現させるための道具となってしまっていると認識している。中国現代国際関係研究院の胡継平副院長は、13日に『環球時報』の記者にこう述べた。日本は軍事能力を強化し、軍事費をアップさせ、米欧国家との安保協力を強化。事実上、中国を含む一部の隣国を「仮想敵」としている。このことは疑いもなく、東アジア地域の安全情勢に、巨大な緊張と不確実性をもたらす。「日米首脳会談では、軍事問題に関することの他にも、いわゆる経済分野に安保を拡大させようともした」。胡継平はこうも述べた。日米は手を組んで、サプライチェーンのデカップリング(分断)などの手段で、自身の競争的優位を狙って、その他の国の科学技術や経済発展を阻止しようと目論んでいる。そのようなやり方の結果、必然的に世界の「陣営化」は加速される。かつ「陣営化」はそれらの国々をすべて巻き込み、影響を与える。この過程の中で勝者はいないのだ 〉
以上である。中国は、本来なら1月22日の「春節」を前に、早くも「正月気分」となるところなのだが、日本に対してかなりエキサイトしていることが、文面から読み取れるのである。
突然の「日本人入国拒否」の背景
そんな中で、先週10日に起こったのが、中国が日本を相手に取った「入国拒否措置」だった。すなわち、日本人の短期ビザ発給を一時停止するという措置だ。それによって、早くも日本企業の中国ビジネスや、日本人の中国留学などに影響が出始めている。
また、中国は長く、15日以内の観光目的に限って、日本人の入国ビザを免除していた。だが、新型コロナウイルスの防止を理由に、2020年3月にこの措置を一時停止し、いまに至っている。そのため、日本人は中国に観光旅行へも行けなくなったのだ。
この措置が日中関係に与える影響は甚大である。おそらく中国側は、そうしたマイナスの影響も理解した上で、今回の岸田政権の「防衛3文書」改正と、日米首脳会談が看過できないと判断したのだろう。
ともかく、単なる新型コロナウイルスの防止が理由でないことは確かだ。これは中国が日本に対して仕掛けた新たな「戦狼(せんろう)外交」(狼のように戦う外交)と捉えるべきだろう。
昨年10月に開かれた第20回中国共産党大会を経て、中国外交の方針は「習近平−王毅ライン」で決定されることとなった。今回の「日本人入国拒否」も、習近平主席と王毅国務委員が話し合って決めた措置に違いない。少なくとも、先月30日に就任したばかりの秦剛外交部長(外相)は関わっていなかったはずだ。
なぜそう断言できるかと言えば、秦剛部長は9日夜、韓国の朴振外務長官(外相)に就任挨拶の電話をかけ、より緊密な中韓関係の構築や、より大幅な人員交流などで合意した。その翌日、すなわち10日昼に、中国は韓国に対しても、日本に対してと同様の「入国拒否」を通告しているからだ。
このことからも、おそらくは9日の夕刻か10日朝、習近平主席と王毅国務委員が話し合って、即席で決めたことが推定されるのである。ちなみに秦剛外交部長は10日から、アフリカ諸国歴訪に出てしまった。中国の外相は過去33年間、新年を迎えるとまずアフリカ諸国を歴訪する習慣があるのだ。
過去を振り返れば、習近平政権はこれまで何度も、「戦狼外交」を行ってきた。例えば2016年に、韓国がTHAAD(終末高高度迎撃ミサイル)を配備することに反発し、中国国内の韓国企業を締め出したり、韓ドラを放送禁止にしたりした。
2018年の年末には、ファーウェイの孟晩舟副会長がバンクーバー空港で拘束されたことに反発し、中国国内のカナダ人たちを拘束していった。2020年には、スコット・モリソン首相が、新型コロナウイルスの原因が中国にあった可能性について言及したことに反発。オーストラリア製の牛肉やワインなどを、中国市場から締め出した。
こうした「戦狼外交」の延長線上に、今回の「日本人入国拒否」があるとも言える。いや、その背景に、岸田政権が進める「防衛の大転換」があると見られるだけに、上述の過去の「戦狼外交」よりも根が深いとも言える。もしかしたら解決までに、数ヵ月間を要するかもしれない。
「中国の暴走」を止められるか
気になるのは、今後の中国外交の行方である。
3月5日から始まる全国人民代表大会(国会に相当)を経て、3期目の習近平政権が、正式に発足する。共産党の序列でナンバー2になった李強常務委員が新首相に就くことは内定しているが、王毅国務委員が副首相に昇格するとの声も囁かれている。
ともあれ、3月に正式に発足する3期目の習近平政権は、さらに「習近平一強体制」となるのは確実だ。そして習近平皇帝に、王毅党中央外事活動委員会弁公室主任が忖度する形で、外交方針を決めていくことだろう。
だが、今回のような「行き当たりばったり外交」が横行すれば、世界が混乱するのは見えている。そしてその「最悪の形」が、「中国の暴走」ということになる。中国には、「プーチンの暴走」を奇禍としてほしいものである。
●利上げ、防衛費増額で社会保障の将来に不安の種  1/17
昨年12月、岸田文雄政権による防衛費増額の閣議決定と日本銀行による事実上の利上げがそろって実施された。いずれも日本の財政の先行きを左右する重大な出来事だ。
財政健全化の必要性を説く有識者が従前から指摘していたのは、国債費(利払い費を含む)増大が持つ潜在的な負のパワーだ。
これまで消費増税の必要性については、「社会保障制度を維持・強化するための、財源不足(財政赤字)への対応」と説明されることが多かった。国民のウケは必ずしもよくないものの、われわれが享受する便益と負担という関係で考えれば、納得感のある話ではある。
しかし財政赤字を放置した結果、公的債務残高の増大や金利上昇によって国債の利払い費が大きく増える段階まで進んでしまうと、政府は「利払いに充てるために増税する」という状況に追い込まれる。事ここに至ると、優先されるのは社会保障の給付水準の維持ではない。増税幅を抑えるため、給付の削減も俎上に載せられるだろう。
国債費増大による予算圧迫
そもそも、国債費は政府にとって最優先の支出先だ。債務不履行が起きれば、政府は市場の信認を失い、新たな借金ができず財政が持続困難になる。中には「日銀がお札を刷って元利払いに対応すればいい」という人もいるかもしれないが、それをやればなおさら政府・日銀の信用は失墜し、円自体の価値が暴落するだろう。
社会保障費は、法律で政府の支出が定められた「義務的経費」だ。行政が裁量的に減額することはできない。しかし、政府は追い込まれれば、法律を変えてでも社会保障給付の削減へ動くだろう。まさにそのような事態を回避するために、社会保障制度を担う関係者は財源確保を叫び、年金や医療・介護の制度内で支出抑制に努める姿勢も示してきたわけである。
世界の歴史的な高インフレや金利上昇を受け、日銀もついに異例の超低金利政策の修正に動き出した。もちろんまだ、緊急を要する事態には遠いが、国債費増大による予算圧迫という悪夢が頭をかすめる局面になってきたのも事実だ。
岸田政権の戦略的失敗
日銀の利上げと同じタイミングで、岸田政権は来年度から5年間の防衛費を総額43兆円(従来の1.5倍超)とする方針を決めた。ドタバタの中での決定であり、財源確保策は完全な付け焼き刃だ。本来なら国債償還に回すべき決算剰余金や過剰な積立金の国庫返納などを活用する。2027年度ベースで年1兆円分(増額の約4分の1)を増税で賄うというが、その時期や中身は不透明な部分が多い。
防衛費もまた国債費と同様、政府が支出を優先する大義名分の立ちやすい項目である。とくにロシア・ウクライナ戦争や中国・台湾情勢の緊迫化を考えれば、「国民の安全や財産を守るために防衛費を拡大しろ」との声が広がりやすい。
防衛費総額を先に決めるやり方で政策転換を行った岸田首相だが、そうではなく、仮に「財源の中心は増税とし、その中でどのような防衛装備品がどの程度必要かを決めていく」という政治的調整方法を採ったとすればどうだったか。
増税という国民負担と必要な防衛力強化という便益とのバランスを考えながら、安全保障政策の落としどころを探ることになったのではないか。地政学的危機を叫ぶ声は高まる一方だが、税金を財源とする手法は、むやみな防衛費拡大に一定の歯止めをかける機能を果たすことも忘れてはならない。
国債費に加え、防衛費による将来の予算圧迫の懸念も高まった。そのあおりで社会保障が割を食う未来にはしたくない。
●長期金利の上昇、直ちに財政へ影響生じるとは考えてない−鈴木財務相 1/17
鈴木俊一財務相は17日の閣議後会見で、足元の長期金利の上昇による財政への影響について、「今直ちに影響が生じるとは考えていない」との認識を示した。
鈴木財務相は、2023年度予算では過去の金利上昇を踏まえて積算金利を1.1%に設定し、「十分な予算を計上している」と説明した。一方、公的債務残高が国内総生産(GDP)の2倍以上に累積するなど厳しい状況下で「金利が上昇すれば利払い費の増加が起こり、それにより政策的経費が圧迫されて財政が硬直化する恐れがある」とし、財政規律を維持する重要性を改めて強調した。 
債券市場では、新発10年国債利回りが0.505%と日本銀行の許容上限0.5%を3営業日連続で上回って取引されている。
ロイター通信は17日、日銀の正副総裁の後任人事について政府が2月10日を軸に国会に提示する方向で調整していると複数の政府・与党関係者の情報を基に報じた。
鈴木財務相は「私はそういう話は全く聞いていない」と述べた。日銀の金融政策については「今後とも経済・物価金融情勢を踏まえつつ、適切に金融政策を行っていただくことを期待する」と語った。
●防衛費財源 “国債返済ルール見直し案” 公明・山口代表は難色 1/17
防衛費増額の財源を確保するため、国債を安定的に返済する仕組みを見直す案が自民党内で浮上していることについて、公明党の山口代表は慎重な考えを示しました。
公明党・山口代表:「現在、償還のルールを決めて財政規律を保っているわけであります。これを変更することによって財政規律が緩んで負担の総額がいたずらに増えていくということは慎重に考える必要があると思います」
防衛費増額のための財源確保を巡り、自民党は国の借金である国債を一部、借り換えながら返済する「60年償還ルール」の見直しも含めて議論する方針で、山口代表はこれに難色を示した形です。
また、防衛費増額の財源を国債で賄うことについて「将来の世代にツケを先送りするのは避けるべき」と否定的な考えを示しました。
そのうえで、増税については「個人や中小企業の負担が増えないよう、可能な限り小さくするような対応が望ましい」と注文を付けました。  
●財務省 想定金利を1.6%に 国債費は4.5兆円増 1/17
財務省が来年度の予算案をもとに、今後の歳出や歳入の見通しを示す「後年度影響試算」で、3年後の2026年度は想定金利を1.6%まで引き上げ、国債費は4.5兆円ほど増える見通しであることがわかりました。
「後年度影響試算」は国会で予算を審議する際の資料として、財務省が毎年、予算委員会に提出するものです。
政府関係者によりますと、今回の試算では足元の長期金利を考慮して、3年後(2026年度)の10年債の想定金利を1.6%と引き上げました。
その結果、国債費は29.8兆円となり、23年度の予算案から4.5兆円ほど膨らむ見通しだということです。
前回の試算では、23年度から25年度の長期金利を1.2%から1.3%としていて、今後の金利上昇次第では、さらに利払い費が増える可能性もあります。

 

●岸田首相は欧州歴訪の効果なく前途多難…足を引っ張る自民党「問題3人衆」 1/18
ガッカリだろう。5泊7日の欧米歴訪を終え、15日に帰国した岸田首相。5月のG7広島サミットへ向け、外交成果による政権浮揚を期待したが、全くもって振るわなかった。読売新聞が外遊中の13〜15日に実施した世論調査では、内閣支持率が39%と前回12月調査から変化なく横ばいだったのだ。
23日からの通常国会を控える中、今後も支持率回復は絶望的。自民党内の“問題3人衆”が、岸田首相の行く手を阻みかねないからだ。
筆頭は細田博之衆院議長。旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係について、これまで再三説明を求められながら全く応じず、いまだに問題がくすぶったまま。野党は徹底追及の構えを見せている。
「立憲の安住国対委員長は、細田さんについて『頬かむりしたまま何の説明もしてない』『逃げられると思ったら大きな間違い』と語るなど、追及する気満々になっている。旧統一教会の問題は昨年の臨時国会で被害者救済法が成立し、解散命令請求についても文科省が検討を重ねている状態で、下火になりつつある。ところが、細田議長については本人が説明から逃げ回っていて、まだまだ炎上する可能性が高い。春の統一地方選まで引っ張られると、自民は大打撃だろう」(永田町関係者)
岸田批判を展開した菅前首相の思惑
2人目は月刊誌「文藝春秋」(2月号)のインタビューで、異例の岸田批判を展開した菅前首相だ。菅氏に近い自民党関係者はこう言う。
「菅先生は宴席でも軽率なことを言う人ではないので、考えがあって岸田総理に苦言を呈したはず。戦う気になっているのは間違いないだろう」
菅氏は岸田首相がブチ上げた「異次元の少子化対策」の財源について、「消費税増税は国民から理解されない」と発言。防衛増税についても「唐突だ」と批判していた。
折しも16日、防衛費倍増について増税以外の財源確保策を検討する特命委員会(委員長・萩生田政調会長)の役員会が開かれ、19日に初会合を開催することが決まった。今後、岸田首相にとって厄介な「増税反対派」が勢力を拡大させることも考えられる。
最後の問題人物は麻生副総裁だ。15日に講演で、「少子化の最大の原因は晩婚化」と発言し、ツイッターが〈少子化の最大の原因は貧困化だろうがボケ!〉〈自民のせいだろ〉と大炎上。完全に岸田首相の足を引っ張っている。
党内にこれだけの火ダネを抱える岸田首相。どれか1つでもハジケれば、立ち往生しかねない。
●自民 茂木幹事長が万博会場視察 “予算確保や規制改革検討” 1/18
大阪・関西万博について、自民党の茂木幹事長は大阪市の会場を視察し、松井市長らに対し、万博の成功に向けて必要な予算確保や規制改革を検討する考えを強調しました。
自民党の茂木幹事長は、2025年の大阪・関西万博の会場となる大阪の夢洲を訪れ、日本維新の会の共同代表を務める吉村 大阪府知事や、前の代表の松井 大阪市長も同行しました。
工事現場を視察した茂木氏は、松井市長から「万博は国家プロジェクトであり、政府・与党の力を貸していただきたい」と要請されたのに対し、「必要となる予算の確保や制度設計、規制改革をしっかり検討していく」などと応じていました。
このあと、茂木氏は記者団に対し、「国や自治体、企業が一体となって機運を盛り上げていくことが何より大切で、しっかりと取り組みたい。ことし、G7の議長国である日本では国際的なイベントが開かれるが、2年先には万博があることを世界に向けても発信したい」と述べました。
●ヤバいのは防衛増税だけじゃない!岸田政権が強行する「ステルス改憲」 1/18
物価高が止まらない。調査会社『みずほリサーチ&テクノロジーズ』のリポートによると、2022年度の家計支出は前年比で年間9万6000円の増加。今年はさらに4万円も増える見込みだ。それに加えて上がらない賃金、減る一方の年金……。庶民の暮らしは厳しさが増すばかりで、安心・安全にはほど遠い。
防衛費の増額は「増税」で負担
そうした中、岸田政権は昨年12月16日、外交・防衛政策の基本方針が記された3つの文書「安全保障関連3文書」(以下、安保3文書)を改定し、閣議決定した。
安保3文書には'23年度から5年間の防衛費について、現行計画の1・5倍に当たる約43兆円に増額する内容が盛り込まれている。しかも5年目に当たる'27年度には4兆円が不足するため、このうち1兆円を増税でまかなうと表明している。
これが「防衛増税」として批判を集めたのは周知のとおり。岸田文雄首相は「未来の世代に対する私たち世代の責任」と理解を求めるが、世論の反発は大きい。名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学・平和学)も、こう批判する。
「生活困窮者が増え、非正規雇用の多い女性の自殺も問題になっています。こうした社会保障には“財源をどうするのか”という話になるのに、防衛費には“予算を増やして税金を充てます”と言い出す。国民の理解を得られるわけがありません。
そのうえ岸田政権は'27年度から、従来はGDP(国民総生産)比1%程度だった防衛費を同2%に増やす方針です。日本はアメリカ、中国に次いで、世界3位の軍事大国となってしまいます」
「防衛力」を超え「戦力」に拡充
問題はそれだけではない。安保3文書では、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の保有を明記している。日本が攻撃を受けていなくても、相手国が攻撃に着手したと判断できれば、日本から相手国に向けてミサイルを撃ち込むことを可能にするものだ。
「2015年に成立した安保法制では、“集団的自衛権の行使容認”と言って、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本が直接攻撃を受けていなくても自衛隊は武力行使ができると認められました。
ただし憲法9条は、外国を攻撃する戦力を持つことを禁じています。そのため歴代の政府は、外国領域を攻撃できる兵器を持たない方針をとってきました。
ところが岸田政権はその方針を変えて、外国を攻撃できる兵器を持てるよう安保3文書の中に明記したのです」(飯島教授、以下同)
これは「戦力」の保持を禁止した憲法9条に違反している。また、自衛のための必要最小限度の実力行使しか許されないという「専守防衛」からも逸脱する。
憲法違反してまで増強するのに、軍事的には「周回遅れ」
「安保法制の際、安倍政権は歴代政府の憲法解釈を独断で変えて、集団的自衛権の行使を閣議決定で容認しました。それと同じ問題が安保3文書でも繰り返されています。
外国を攻撃できる武器は憲法で禁じられた“戦力”です。それを持ちたければ、憲法改正の手続きを行い、主権者である国民の判断を仰ぐため国民投票を実施すべき。時の政権が独断で国のあり方を変えることは、憲法が定める国民主権からも許されません」
一方、敵基地攻撃能力を軍事的に見て「周回遅れ」と指摘するのは、軍事ジャーナリストの前田哲男さんだ。
「日本には“相手国が攻撃に着手した”と判断する手段がありません。中国や北朝鮮との間にホットラインを敷いていないため、アメリカの情報に頼らざるをえない。
加えて、日本が'25年の配備に向けて開発を進めているのは巡航ミサイルです。100キロ以上を飛ぶには、1時間はかかります。一方、日本に飛んでくるのは北朝鮮も含めて弾道ミサイル、つまりロケットなんです。最長10分で日本列島のどこにでも命中させる能力を持っています。これでは抑止力になりません」(前田さん、以下同)
「中国脅威論」はどこまで真実か?
そもそもなぜ今、軍備増強に走る必要があるのだろうか。岸田政権は「厳しく複雑な安全保障環境」を理由に挙げるが、説明不足は否めない。
「ウクライナ戦争がきっかけになったことは間違いない。以来、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国が台湾海峡に攻め込むのではないかという“台湾海峡危機”が喧伝され、自民党内で大々的に言われるようになりました」
現に、ウクライナ戦争の勃発直後の昨年2月、安倍晋三元首相は「台湾海峡危機は日米同盟の危機であり、日本有事である」と強調していた。
「こうした考えは安保3文書にも色濃く表れています。中国脅威論という立場に立ち、中国に対抗するために防衛費を増やし、抑止力を高めるという発想です」
ウクライナのように、中国が台湾に、そして日本に侵攻するのか
実際にどの程度、差し迫った危機にあるのだろうか。
「アメリカの調査会社『ユーラシア・グループ』は'22年に続き、今年も台湾有事を“リスクもどき”に分類しました。将来的に事情が変わればともかく、現状で中国が台湾を武力で侵略する可能性は極めて低いと分析しています」と、前出・飯島教授。前田さんもこう続ける。
「起こりえないと思います。台湾のような島を武力制圧するのは、軍事作戦的に極めて難しいからです。それよりも中国の傾向から見て、ジワジワと圧力を加えながら、時間をかけて民心を掌握していく方法をとるでしょう」
日本と連動するかのように、アメリカも中国への警戒心を高めている。
「とりわけバイデン政権になってからは、その傾向が顕著です。昨年11月に発表された日米共同声明には“岸田総理は日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、バイデン大統領はこれを強く支持した”とあります。対中国を念頭に、アメリカから日本へ圧力を強めている様子が読み取れます。
日本列島は中国を取り囲むように連なり、日米安保条約に基づく米軍基地も点在しています。アメリカとしては、日本を盾にすると中国に軍事的な威圧感を与えるのに都合がいい、と考えているのでしょう」(前田さん、以下同)
日米の軍事的な協力がますます強化されている
日米が軍事的に一体化する動きは近年、強化されてきた。
「現在、沖縄に駐留している陸上自衛隊の第15旅団を、より規模の大きな師団に改変する計画があります。2000人ほど増員することになるため、新たな駐屯地を作らなければなりませんが、今でさえ基地被害が深刻な沖縄では実現不可能。
となると、米軍基地の中に自衛隊が入り、共同使用することになる。まさに日米が軍事的に一体化するわけです。地元との軋轢がさらに深まるのは必至でしょう」
安保3文書を受けてアジア周辺では緊張が高まっている。飯島教授は懸念を隠さない。
「中国、ロシア、北朝鮮は安保3文書を批判し、対抗措置をとると明言したり、軍事訓練を強化させたりしています。今の中国や北朝鮮の行動にも問題はありますが、それは外交で対応すべきこと。軍事力で対抗すれば、かえって脅威が煽られ、東アジアの軍事的緊張を高めかねません」
平和国家を謳う日本はどこへ向かうのか。その行方は、私たちの今後の選択にかかっている。
●財務省政権≠ノ日本が喰われる 1/18
自民党の甘利明前幹事長が少子化対策の財源として「消費税増税も検討対象」と発言し、また麻生太郎副総裁は「防衛増税は国民の理解を得た」と講演で言い切った。コロナ禍で冷え込んだ経済がまだ十分に回復していない中での自民党の大物たちの発言は、国民感情を逆なでした。
そもそも岸田文雄首相が防衛増税をこのタイミングで打ち出したことが問題だ。物価上昇などで生活が苦しくなっているタイミングで、増税を政治のメインテーマにするのは、あまりにも下策である。
春闘で賃上げの機運が高まっているところに、「将来、増税しますよ」という政府のメッセージはあきれるレベルだ。また岸田政権が掲げる「資産所得倍増プラン」からいっても、法人税を引き上げれば株価に悪影響が出る。その一方で「貯蓄するよりも株に投資を」と国民に呼びかけるのだから意味がわからない。
もちろん消費増税など、日本経済をわざわざ低迷させるためにやるとしか思えないものだ。「消費増税はしない」と政府は火消しに一生懸命だ。だが、国民は財務省に洗脳されている岸田政権ならば、いずれやるだろうと予想している。
どう考えても今は増税ではなく、減税のタイミングだ。コロナ禍で打撃を受けた観光や飲食業、そして地方経済や低所得者の生活を立て直すには、消費減税が最も有効だが岸田政権は一切の減税を拒否している。財務省がその方針だからだろう。ひょっとしたら岸田首相は、「岸田文雄財務事務次官」の方がお似合いかもしれない。
中国など周辺国との軍事的緊張が高まる中で、防衛費の拡充は必要だ。「異次元の少子化対策」も優先課題で間違いない。だが、その財源は、まずは経済成長による税収増で行うべきだ。そのためには減税など機動的な財政政策、そしてインフレ目標達成に強くこだわる金融緩和政策を採用することだ。
後者については、日本銀行の新総裁人事が非常に心配である。ダメな総裁を選んで、さらに政府と日銀の共同声明を安易に行えば、日本経済は致命傷を負うだろう。
政府の無駄をなくす行政改革も財源捻出の手段としてありだ。菅義偉前首相が、最近この点を指摘し、岸田首相の方針を、かなりはっきり批判したのは注目すべき動きだ。日本の財政運営をおかしくしている「国債償還60年ルール」見直しの動きも与党内にある。与野党ともに積極的に、経済を立て直す政策を競うべきだ。そうしないと財務省政権≠ノ日本が喰(く)われてしまうだろう。
●22年の訪日客383万人=水際緩和で回復、コロナ前の1割 1/18
日本政府観光局が18日発表した2022年の訪日外国人数(推計値)は、前年比約15.6倍の383万1900人となった。新型コロナウイルスの水際対策が段階的に緩和され、訪日客が激減した前年から回復に転じた。ただ、過去最多だったコロナ禍前の19年(約3188万人)との比較では88.0%減と1割強の水準にとどまり、回復は道半ばだ。
同時に発表した22年12月単月の訪日外国人数は前月比約1.5倍の137万人。円安も追い風に6カ月連続で増加し、コロナ禍前の19年12月の5割強の水準まで持ち直した。入国者数の上限が撤廃され、外国人の個人旅行やビザなし渡航も再開された昨年10月の大幅な水際緩和以降、回復ペースが加速してきた。
●26年度の国債費、4・5兆円増 29・8兆円、財政一段と厳しく 1/18
財務省が将来の財政状況を見通す上で、2026年度に想定する長期金利を1・6%に引き上げたことが18日、分かった。23年度当初予算案では1・1%だが、債券市場での上昇傾向を反映させた。引き上げにより、国の借金返済や利払いに必要な26年度の国債費は、23年度より約4兆5千億円多い29兆8千億円に膨らむ。一般会計の歳出総額の25%を超え、国の財政運営はますます借金返済に追われる形となる。
国債費の増加で社会保障や公共事業、教育といった政策経費が大きく切り詰められる恐れがある。また歳出規模に比べ税収などが不足したままでは、国債発行と国債費の膨張が止まらなくなる。  
●ロシア外相「日本は見せかけの平和主義すら失った」安全保障政策転換を批判 1/18
ロシアのラブロフ外相が、「日本は軍事化政策を取り入られるようにしている」と批判した。
ラブロフ外相は18日、年頭恒例の記者会見で、日本政府が新たに反撃能力の保有を決めるなどした安全保障政策の転換が、「ロシアや中国を念頭に置いていることは、誰もが理解している」と指摘した。
日本の方針転換を軍事化だとも強調し、「日本は見せかけの平和主義すら失った。日本がロシアとの関係を正常化することに関心を抱いているとは思えない」と突き放した。
そのうえで、「日本列島付近の安全保障を、どのように確保するか結論を出す」と日本海沿岸のロシア極東(きょくとう)や、ロシアが不当に実効支配する北方領土の軍備増強を示唆した。
空席となっている駐日大使については、「後任がもうすぐ東京に行く」と明言。ただ、「日本側が勝手に関係を凍結し、傲慢(ごうまん)で好戦的な発言をし始めた。これは無視できない。しっかり考慮して決める」とロシアのウクライナ軍事侵攻にともなう日本の経済制裁を引き合いに、責任転嫁した。
●財務省 将来の“財政状況試算”で長期金利の想定引き上げへ 1/18
財務省が行った将来の財政状況の試算で、長期金利の想定を引き上げることが分かりました。利払いが増えるため、2026年度に想定する国債費は4.5兆円増える見込みです。
関係者によりますと、財務省が来年度の予算案をもとに行った、今後の国の歳入と歳出の見通しを示す「後年度影響試算」で、3年後の2026年度の国債費は4.5兆円増え、29.8兆円になることが分かりました。
試算では、3年後の長期金利の想定を1.6%にまで引き上げています。
これは現在の長期金利の上昇傾向を考慮し、利払いが上がると見込んでいるためで、今後の金利上昇次第で日本の財政運営は、さらに借金返済に追われる形となります。
●近隣諸国のマンションバブル崩壊%本にも波及目前か 1/18
21世紀の現代、世界経済は緩やかにつながっている。お互いに、そこそこ影響し合っているのだ。不動産市場についても、そういった傾向がみられる。
約1年と少し前の2021年の後半、中国のマンション・バブルが崩壊し始めた。大手のデベロッパーがデフォルトに陥ったのだ。昨年は中国で「住宅ローンを支払っているのにマンションを引き渡してもらえない」という人々の、悲惨な状況を伝えるニュース記事を何度も見かけた。
実のところ、あの国では実際にどういう状況になっているのか、今ひとつよく分からない。報道規制や検閲があるのも大きな障壁だが、中国の地方政府が正確な情報をメディアはおろか中央政府にも報告していないと推測される。
だから、トップである習近平氏も正確な現況を把握していないのではないか。恐ろしいことである。
一説には「人口14億人の国で34億人分のマンション建設が計画された」とか、「誰も住んでいないマンションが1億戸ある」などという記事も、わりあいメジャーなサイトで見かける。要は、正確な統計データがないので、憶測記事が乱れ飛ぶのだ。
しかし、本来の実需に対して数倍以上のマンションが供給された、あるいは供給されようとしたのは事実のように思える。その結果、バブルが崩壊しているのだ。
お隣の韓国でもマンション・バブルが崩壊している様子が伝えられてきている。文在寅(ムン・ジェイン)前政権の失策続きで、ソウルのマンション価格が約2倍に高騰したらしい。しかし、今では下落に転じたとか。めいっぱいの借金で物件を購入した層が、金利上昇による返済負担増で苦境にあえいでいる様子が伝わってくる。今年は個人破産の激増がありそうだ。
ベトナムでは経済の高度成長下で不動産バブルが生じたらしい。ハノイやホーチミンでは、平均年収の20倍もするマンションが売り出されて、好調に売れていたという。だが、最近ではそれが崩壊して、値下がりが始まったとも聞く。
日本でも東京の湾岸エリアのタワーマンションは平均年収の20倍くらいの価格設定だが、それなりに好調な売れ行きが続いている。購入しているのは、値上がり狙いの「転売ヤー」さんたちと、世帯年収が1000万円を超えるパワーカップル。
今年は近隣諸国のマンション・バブル崩壊が、日本にも波及するかもしれない。この10年続いた東京都心とその周辺の緩やかなバブルも、いよいよ終わりを迎えそうだ。
黒田東彦(はるひこ)日銀総裁が始めた異次元金融緩和は、すでに10年。これが日本の局地的な急騰の原因で、ちょっと長すぎた。
1970年代のフォークソングではないが「長すぎた春」もそろそろ終わりを迎えるべきだろう。年収の10倍以上、場合によっては20倍もする物件が売れる市場は、どう考えても普通ではない。
●「原発の政策方針の大転換」 エネ庁、規制委が福井県に説明 1/18
県内には現在、運転可能な原発が7基あります。そのうち、運転開始から40年を超えた原発が、美浜3号機、高浜1、2号機と3基あります。去年12月、岸田総理は原則40年、最長で60年とされる原発の運転期間について、定期検査などで停止していた期間は運転期間に含まず、運転開始から30年以降は、原子力規制委員会による10年ごとの安全審査に通れば、事実上60年を超える運転も可能とすることを盛り込んだ「原発の政策方針の大転換」を示しました。そんな中、18日、資源エネルギー庁と原子力規制委員会の幹部が県庁を訪れ、政府が示した原子力政策の基本方針案や、原発の新たな安全規制について櫻本副知事に説明しました。ただ、資源エネルギー庁からは、原発の新たな基本方針案の実現に向けた具体的な言及はほとんどありませんでした。
去年12月、岸田総理大臣が座長を務める「GX=グリーン・トランスフォーメーション実行会議」で、運転開始から60年を超える原発の運転延長の認可や、リプレースの推進などを盛り込んだ政府の基本方針案を取りまとめ、「原発を最大限活用する」方針を示しました。
これを受け、GX実行会議を主管する資源エネルギー庁の山田統括調整官が県庁を訪れ、櫻本副知事に新たな方針案について説明しました。
会談の中で、山田統括調整官は、去年示された基本方針案の閣議決定を目指すとし、櫻本副知事は、「基本方針案の閣議決定を目指すことは、原子力政策の明確化を求めてきた福井県にとっては一つ前進」と評価しました。
ただ、閣議決定などの具体的な時期についての言及はなく、櫻本副知事の質問に対しても明言を避ける場面が目立ちました。その他、「可能な限り原子力の依存度を低減する」としている国のエネルギー基本計画の見直しについては、「ただちに見直すことは考えていない。必要に応じて適切なタイミングで見直しを図る」と述べました。
最長60年とする運転期間から除外するとした「停止期間」が、具体的にどの期間を指すのかについては、「法令で可能な限り明確化を図る」と述べるに留まりました。
加えて、県内の、運転から40年を超えている美浜3号機、高浜1,2号機の場合、何年が「停止期間」にあたるかも「個別の答えは差し控える」としました。
一連の説明を受け、櫻本副知事は、「立地地域にとっては重要な事柄。出来る限り早期に方針を示して欲しい」と話しました。
また、原子力規制庁との会談では、この他、60年を超える運転を想定した新しい安全規制は、これまで以上に厳格なものになるよう進めることなどが説明されました。
●26年度の国債費、4・5兆円増 29・8兆円、財政一段と厳しく  1/18
財務省が将来の財政状況を見通す上で、2026年度に想定する長期金利を1・6%に引き上げたことが18日、分かった。23年度当初予算案では1・1%だが、債券市場での上昇傾向を反映させた。引き上げにより、国の借金返済や利払いに必要な26年度の国債費は、23年度より約4兆5千億円多い29兆8千億円に膨らむ。一般会計の歳出総額の25%を超え、国の財政運営はますます借金返済に追われる形となる。
国債費の増加で社会保障や公共事業、教育といった政策経費が大きく切り詰められる恐れがある。また歳出規模に比べ税収などが不足したままでは、国債発行と国債費の膨張が止まらなくなる。

 

●いくら防衛費が増えても、誰も装備を使いこなせない…「戦わない軍隊」 1/19
実行力のある戦いは?
バイデン米大統領は日米首脳会談で日本の防衛力強化を称賛し、岸田文雄首相を「素晴らしいリーダー、真の友人」と呼んだ。内閣支持率が30%台に低迷するなど暗い話題が多かった岸田首相だが、「日米同盟新時代」を開けて満足だったろう。
少なくとも防衛政策は、国民から支持されているのは事実だ。政府は昨年12月16日、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定した。来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、敵基地をたたく「反撃能力」を保有することになったが、この防衛力強化の方針は、「支持する」が55%で「支持しない」の36%を上回った(昨年末の日経新聞とテレビ東京調査)。
ロシアのウクライナ侵攻は覇権主義国家による理不尽な侵攻が、今も起きうることを認識させた。北朝鮮によるミサイル発射は、いつ日本に着弾してもおかしくない恐怖を与え続けている。中国が台湾に侵攻する「台湾有事」はタイムスケジュールに入っており、台湾と指呼の間にある日本に緊張が走るのは避けられない。
日本はロシア、北朝鮮、中国の隣国である。岸田首相が公約した「防衛費をGDP(国内総生産)比2%にする」という負担は重いが、軍備増強で生じるリスクを含め、国民には引き受ける覚悟に加え、それが本当に防衛力の強化として国益に適うかどうか、あるいは国民を守ってくれるどうかを見守ることが必要だ。
筆者は、本サイトで北朝鮮のミサイル飛来に合わせ、「望ましいミサイル防衛の在り方」について、識者の意見を紹介してきた。
政府が掲げる「防衛力強化策」は、そうした各種提言を生かすものになっているが、一方で、「予算」と「装備」を強化しても、それを使いこなして戦う能力と、実行力のある戦いを可能にする体制が整っていないという現実がある。そこに踏み込みたい。
まだショッピングリストの段階
予算1兆円の地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の是非が問われた際、筆者は《噴出する反対論といくつもの問題点》(2019年8月15日配信)と題して、民主党政権下で防衛政務官、防衛副大臣を歴任、自民党に移ってからも防衛問題に一家言を持つ長島昭久代議士が推奨する「統合防空システム(IAMD)」を紹介した。
イージス・アショア利用の弾道ミサイル防衛(BMD)では、低高度飛翔の巡航ミサイルや極超音速滑空弾には対応できないため、米軍と情報を共有し、迎撃対象を広範囲にしたIAMDが将来の北朝鮮以外の脅威にも備えるシステムになる、ということだった。
「国家防衛戦略」では長島氏の言うようにBMDからIAMDに移行したうえで、相手国のミサイル拠点などをたたく「反撃能力」を明記した。そのために敵の射程外から攻撃できるスタンド・オフ防衛能力を持つ米国巡航ミサイルの「トマホーク」や国産の「12式地対艦誘導能力向上型」を配備することになった。
また、ウクライナに侵攻したロシアが、超高音速ミサイル「キンジャ―ル」を初めて実戦で使用し、北朝鮮が新型大陸間弾道ミサイル「火星17号」の発射実験を行った際には、《プーチン、金正恩の脅威で岸田政権が迫られる「本気のミサイル防衛」》(22年3月31日配信)と題して、坂上芳洋元海将補にミサイル防衛の在り方を聞いた。
坂上氏は、イージス艦に配備された迎撃ミサイル「SM-3」と地上で迎え撃つ地対空誘導弾パトリオット「PAC-3」の2段構えでは、複数同時ミサイル攻撃や極超音速ミサイルには対応できないとして、長距離艦対空ミサイル「SM-6」の実戦配備など具体的な「統合対空ミサイル防衛」の数々を語った。
坂上氏は今回、「予算」と「装備」を増強して米軍との連携を強める「安保3文書」を評価しつつも、「まだショッピングリストの段階。制度や法律を整えて自衛隊の質を向上させてこそ意味がある」という。
確かに日本のこれまでの防衛力向上は、「ショッピングリスト」を満たすのに汲々としていた。象徴するのが、自衛隊の運用能力と稼働率の低さ、弾薬やミサイルの備蓄不足である。
日経新聞コメンテーターの秋田浩之氏は、同紙「オピニオン欄」(23年1月5日)で、「部品不足で稼働率は5割強」「弾薬やミサイルは不足。迎撃ミサイルは必要量の約6割」「自衛隊施設の約8割は防御態勢が不十分」としたうえで、「23~27年度に約43兆円の防衛費を投じるとはいえ、約15兆円は負の問題を解決するために吸い取られてしまう」と指摘した。
弾を撃つにも上官の許可が
「反撃能力」を保有し、GDP比2%の予算で歴史的転換期を迎えた自衛隊は、戦略的にも装備的にも新たなスタートラインに立ったといっていい。だが、そのためには制度やシステムを実戦向きに整える必要がある。ここから先は自衛隊OBや防衛産業関係者などの「本音」である。
「自衛隊は立派な装備を有し、海外では陸海空軍の扱いを受けているが、実態は『軍隊のように見える警察』に過ぎない。通常、軍隊は国際法・交戦法規が禁じること以外は何でもできるネガティブ・リスト(否定されることが決まっている)型でなくてはならない。しかし本質的に警察である自衛隊は、法令に即して行動するポジティブ・リスト(やれることが決まっている)型だ。これではダイナミックに動く戦場で戦うことなどできない」(自衛隊OB)
確かに戦闘を起こすに際し、実施可能かどうかを法令で判断、弾を撃つのに上官の許可を必要とするようなポジティブ・リスト型では敵にやられてしまうだろう。
有事の際、戦闘を継続できるかどうかの「継戦能力」にも疑問符がつけられている。
「長年、専守防衛を金科玉条としてきたために、攻撃を防ぐことしかできない。つまり継戦能力を持っていない。なのに幼児がかっこいい玩具を欲しがるように、ハイテク正面装備の調達にこだわってきた。攻撃できない弱みを装備でカバーしようとした。でも、戦えないので弾薬や兵站の準備をおろそかにした。砲弾もミサイルも圧倒的に不足している」(別の自衛隊OB)
戦いを前提とした軍隊ではないということだ。それが自衛隊の質を落とし、非戦と武器輸出三原則が防衛産業を弱体化させた。
「防衛庁(07年から防衛省)・自衛隊は、長く『違憲で無駄な存在』と見なされ、社会的に認知されなかったので優秀な人材が不足している。しかも『戦えず、戦わない自衛隊』という矛盾が、事なかれ主義者の出世を許してきた。しかも国家安全保障局(NSC)が設けられて重要な政策立案機能が内閣官房に集中するようになった結果、内局が空洞化している。一方で特殊な『自衛隊仕様』にこだわって武器装備品を製作、武器輸出三原則(2014年から防衛装備移転3原則)に縛られている間に防衛産業は衰退していった」(防衛商社幹部)
こうした弱点は防衛省・自衛隊のせいではないものの、「中途半端」に据え置かれたことで、そんな存在となった。
一挙に増えた「予算」と「装備」は猛々しく頼もしいが、反撃・継戦能力を持つということは、「戦わない自衛隊」から「戦う軍隊」に変わったことを意味する。
日米の同盟強化、豪・英・仏・伊・独などの準同盟国との関係を進展させている岸田政権に必要なのは、国会で論議を尽くして自衛隊から「戦えない」要因を取り除き、法的・システム的な環境を整えることだろう。
●新年にあらためて誓う、日本を「絶望の国」にしてはならない。 1/19
あけましておめでとうございます。僕の年明けは、例年のように、「朝まで生テレビ!」の生放送で始まった。テーマは「激論!ド〜する?! 日本再興2023」。
2000年には一人当たりGDPが、世界2位だった日本。しかし、2021年時点では27位と大きく後退した。少子化と高齢化、増大する国家予算と赤字国債……、日本はいったいどうしたらいいのか。
自民党の片山さつきさん、慶応大学准教授の小林慶一郎さん、京都大学大学院教授の藤井聡さん、国際政治学者の三浦瑠璃さんらと、なんと4時間も議論した。以前このブログでも紹介した、元ゴールドマン・サックス証券トレーダーの田内学さんにも初めて登場いただいた。田内さんは日本の喫緊の課題は、「少子化」と「生産性向上」だと言った。僕もまったく同感だ。
これまで政府は、「少子化対策」と言いながら、本腰を入れてこなかった。少子化対策担当大臣が、創設された2007年から、現在までに21人が就いている。1人あたりの在任期間は、平均1年にも満たない。
こんなにコロコロ大臣が変わって、本気の対策ができるわけがない。その結果、昨年の日本の出生数は、ついに80万人を切った。すると1月4日、岸田文雄首相が年頭の記者会見で、この問題について「異次元の少子化対策に挑戦する」と明言した。いろいろ批判はあるが、僕は岸田首相の「本気」を感じた。
「朝生」では、教育についてもおおいに議論した。かつて宮澤喜一さんが僕にこう言った。「田原さん、サミットなど、外国との議論の場で、日本の政治家は発言できないんですよ。どうしてだと思います?」僕が「英語力ですか?」と言うと、宮澤さんは「違う」と否定してこう語った。
「日本の教育は、『正解』のある問題しか与えない。しかし、いざ社会に出て、さらに国際社会においては、『正解』のない問題ばかりなんです。だから日本はもっと『正解』のない問題を、考えさせる教育をしなければならない」
「朝生」内では、お笑いタレントでジャーナリストとして活動しているたかまつななさんも、「若者が社会を変えていくことが必要。そのためには教育が大事」と語った。ヨーロッパの主権者教育は、学校のルールを子どもたちに考えさせるなど、「ルールは従うもの」という日本の教育とは、全く違うという話をした。僕は宮澤さんとの対話を思い出しながら、ほんとうにその通りだと思った。「正解を覚えればいい」「従えばいい」という教育では、日本は世界のなかで取り残される。
ところで、たかまつさんとのやりとりが、ネットを騒がせてしまった。顛末はこうである。僕がたかまつさんに、「日本はよくなると思ってるの?思ってないの?」と聞いた。たかまつさんは、「思ってないです」と答えた。その時僕は、「だったらこの国から出ていけ。この国に絶望的だったら出て行けばいい」と言った。
少し釈明したい。僕は、みんなが、「日本はよくならない」と絶望していたら、本当に「よくならない」方向に行ってしまうと思う。逆に希望を持って、「絶対によくなる」と思って進めば、よい方向に行くと信じている。
たかまつさんとは、番組以外でも親しくしており、僕が定期的に開く討論の場、「田原カフェ」にも来ていただいた。とても期待している方だし、希望を持って頑張ってほしいからこそ、瞬間的にその気持ちをぶつけてしまった。その後たかまつさんと話をして、僕の気持ちもわかってもらえた。たいへん失礼しました。
●【食料・農業問題 本質と裏側】「通常時」「緊急時」の議論は意味をなさない 1/19
昨年11月25日の衆院予算委員会では野党が政府に対し乳製品のカレント・アクセス枠全量を輸入する必要はないのではないかと追及した。野村哲郎農相は、カレント・アクセスの全量輸入は国際ルール上義務付けられてはいないと述べる一方、「通常時は全量輸入を行うべき」という政府統一見解を説明した。
野党からの「今は間違いなく平時ではなく、全量輸入の継続はおかしい」との指摘に対し、岸田文雄首相は「国内需給に極力悪影響を与えないよう需給動向を踏まえながら、脱脂粉乳やバターを輸入しており、国内需給への影響回避に向け脱脂粉乳とバターの輸入割合を調整できる余地はあると承知している」などと述べるにとどめた。
また野村農相は11月29日の閣議後会見で、1994年に公表したコメのミニマム・アクセスに関する政府統一見解(表参照)に触れ、「輸出国側が凶作で輸出余力がないような状態が例外的なケースであり、(25日の答弁でも)『今は通常のケース』だと申し上げた。WTOの中で決めたルールなので、輸出国に余力が十分あるにもかかわらず日本が輸入を拒否することはなかなか難しい。酪農もコメと同じで日本から拒否するということにはいかない」と述べている。
この説明・議論は、すべて間違いである。「低関税を適用すべき枠」としか定められていないのだから、通常時には全量輸入すべき必要など、国際的な約束にもどこにもない。「通常時」「緊急時」と言って、「緊急時」の定義を議論することに意味はない。
国家貿易だから義務が生じるという説明も、GATT協定における国家貿易企業(STEs)の定義に照らしても、明らかな間違いである。「関税及び貿易に関する一般協定」第17条は、国家貿易企業について「商業的考慮(価格、品質、入手の可能性、市場性、輸送等の購入又は販売の条件に対する考慮をいう。)のみに従って(a)の購入又は販売を行い、かつ、他の締約国の企業に対し、通常の商習慣に従って購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を与えることを要求するものと了解される」とされている。
このように、WTOでも、国家貿易企業が100%の充足率を達成すべきであるとの問題意識を持っておらず、我が国のミニマム・アクセス米などに関する取扱いは、他に例を見ないものである。・・・
●防衛費増額はだけでは日本は守れない なぜ防衛はここまでダメになった? 1/19
「反撃能力」の保持、そして、「防衛費」の増額をめぐって、与党内も国会全体も大荒れだ。メディアの報道も一貫していない。すでになにもかもが決まっているかのように報道されているが、国防議論自体があまりにも絵空事であり、しかも議論の順序が逆だ。どうやって日本を守るのか、その具体的な方策が明確でないままの増額にどんな意味があるのか? そこで、今回は、現在の日本の安全保障、防衛について、いったいどうして、こんなお寒いことになってしまったのかを考えてみたい。
アメリカ全面依存の安全保障は通用しない
世界中で日本ほど、国家と国民の安全をどうやって守るかについて、国民も政治家も無関心で、まるで他人事のように考えている国はないだろう。世界がグローバルなワンワールドなら別だが、いまところ、世界には国家と国境があり、そのなかでしか安全保障は成立しない。
しかも、日本は島国とはいえ、周囲に友好国は台湾ぐらいしかない。ロシアも中国も北朝鮮も、海を隔てているとはいえ、日本の安全保障を脅かす存在だ。
とくに北朝鮮にいたっては、日本の方向に向けたミサイルの発射を繰り返している。さらに、中国の習近平政権が3期目に入り、台湾を武力併合する可能性が高まっている。
こんな現実、脅威があれば、おそらくどんな国家も防衛力強化を図る。軍事的なバランスを維持しなければ、安全保障は担保されないからだ。
同盟を結んでいるのだから、日本の安全はアメリカが担保してくれるという考えは、ウクライナ戦争を見ても明らかなように、いまはもう通用しない。
財源が明確でない増額に国民は猛反対
したがって、岸田政権が前政権から引き継いで実現させてようとしている「反撃能力」(ついこの前まで「敵基地攻撃能力」と言っていた)の保持は間違っていない。2023年から5年間の防衛費を、これまでの約1.5倍となる総額43兆円に増額するという方針もおおむね正しいだろう。
しかし、その中身となると、首を傾けざるをえない。まず、「反撃能力」を持つとしながら、「専守防衛」を維持するということ自体が矛盾している。次に、なにに予算を割くのかという中身を吟味もせず、ただ増額だけを決めるというのは順序が違う。
しかも、岸田首相は増額の財源をはっきりさせず、増額のうちの1兆円を増税でまかなうことだけは表明してしまった。これには、世論が猛反発、与党・自民党内でも反論が続出した。メディアにおける論議も紛糾し、いまだに収束がついていない。
先月のFNNの世論調査(11月12、13日実施)では、岸田政権が目指す防衛費の増額を所得税や法人税の増税でまかなうことについて「賛成」13.2%、「どちらかと言えば賛成」16.8%に対し、「反対」45.9%、「どちらかと言えば反対」20.1%だった。じつに66%が「ノー」を示していたのである。
「反撃能力」保持なのに「専守防衛」維持?
世論がどうであろうと、「反撃能力」を持つことと防衛費の増額は既定路線となっている。年末に政府が策定する「国家安全保障戦略」の3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)には、すでに、反撃能力の保持が明記されていることが明らかになっている。
ところが、この反撃能力というのは、自民・公明両党の合意によって、「必要最小限度の自衛の措置」などと定義され、憲法や国際法の範囲内で行使されるとしたうえで、「先制攻撃」は許されないとして「専守防衛」の考え方に変わりがないと強調されている。
まったく、耳を疑うとはこのことだろう。こんな机上でしか成立しない理論を国家の安全保障の根本に据える国など、この世界のどこにもない。そもそも専守防衛などというのは、現実的にありえない。
防衛も攻撃も戦うなら同じことだからだ。「反撃できなければ抑止力にはならない」のは自明の理であって、こんなことを国会やテレビ番組で議論するのは無意味だ。なのに、それをやっているのだから、結論など出るわけがない。
こんな不毛な議論より、現実的にどうやって日本を守るか、そのためにどれほどの「攻撃能力」(わざわざ反撃能力などと言う必要はない)=「抑止力」を持つかを議論しなければならない。・・・
●異次元の少子化対策 “大胆なたたき台を” 小倉少子化相  1/19
岸田総理大臣が目指す「異次元の少子化対策」の具体化に向けた、関係府省の新たな会議が開かれ、小倉少子化担当大臣は、各府省の垣根を越え、過去にない大胆な少子化対策のたたき台をつくりたいという考えを示しました。
政府は岸田総理大臣の指示を受けて、小倉少子化担当大臣のもとに関係府省による新たな会議を設置し、3月末をめどに、具体策のたたき台をまとめる方針で、19日は東京・永田町の合同庁舎で初会合が開かれました。
小倉大臣は「これまでの漸進的な対策にとどまらず、積年の課題の解決に向けて一気に前進させられるよう、政策強化の目指すべき姿や、当面加速化して進めるべきことを示していきたい」と述べました。
そのうえで「少子化対策は岸田政権にとって最重要課題だ。少子化を解決することは、社会の存立を左右する最も大切な未来への投資であり、省庁の垣根を越え、政府一丸となって、いまだかつてない大胆なたたき台をつくっていきたい」と述べました。
そして会議では、今後有識者などにヒアリングをするなどして、たたき台をまとめる方針を確認しました。
関係府省会議の経緯と今後の予定
少子化対策をめぐり、岸田総理大臣は今月4日に行った年頭の記者会見で、ことしを「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と決意を述べました。
そして2日後には、小倉少子化担当大臣を総理大臣官邸に呼び、対策の強化に向けて、関係府省による新たな会議を設置して児童手当を中心とした経済的支援の拡充など、具体策のたたき台を3月末をめどにまとめるよう指示しました。
関係府省の会議は小倉大臣が座長を務め、内閣府や文部科学省、厚生労働省など、子ども・子育て政策に直接関わる府省に加えて、予算に関わる財務省や総務省、さらに、住宅政策を担当する国土交通省からも局長級の職員がメンバーとなり、合わせて18人で構成されています。
会議は3月末のとりまとめまでに19日を含めて5回開かれる予定で、有識者や子育ての経験がある人などから意見を聞くことにしています。
そして、岸田総理大臣が対策の基本的な方向性として示した、児童手当を中心とした経済的支援の拡充、幼児教育や保育サービスの充実、育児休業制度の強化を含めた働き方改革の推進の3点を中心に議論を行い、たたき台をまとめることにしています。
その後、4月に発足する「こども家庭庁」のもとでさらに具体的な検討を進め、岸田総理大臣が6月の「骨太の方針」の策定までに、子ども予算の倍増に向けた大枠を明らかにする方針を示していることを踏まえ、具体策のとりまとめを目指す予定です。
●「異次元の少子化対策」3月末メドにたたき台…政府が初会合  1/19
政府は19日午前、「異次元の少子化対策」の実現に向けた関係府省会議の初会合を東京都内で開き、3月末をめどに具体策のたたき台をとりまとめる方針を確認した。たたき台をもとに財源を含めた具体策を詰め、6月に子ども関連予算を倍増させる方向性を示す見通しだ。
座長の小倉少子化相は「子どもや子育て世代を支援し、少子化を解決することは社会の存立を左右する最も大切な未来への投資だ」と述べた。「いまだかつてない大胆な少子化対策に関するたたき台を作っていきたい」とも語った。
関係府省会議は、内閣官房や内閣府、厚生労働省などの局長級で構成し、計5回開催する。〈1〉児童手当などの経済的支援〈2〉幼児教育や保育サービスなどの支援拡充〈3〉働き方改革の推進――が議題となる。有識者や子育て世帯、若者らの意見を聴取する際は、岸田首相が出席する方向だ。
この日の会合では、政府の全世代型社会保障構築会議が昨年12月に取りまとめた報告書の概要について、清家篤・同会議座長が報告した。報告書では、子育て世帯への経済的支援を強化するよう求めている。
児童手当の拡充など少子化対策を巡っては、財源の確保策が焦点となる。首相はこども家庭庁が発足する4月以降、財源を含めた具体策を調整し、6月に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に、子ども関連予算の倍増に向けた道筋を明記する考えだ。  

 

●「最大の未来の投資」防衛費は国債にすべき 1/20
通常国会が23日に召集される。防衛力強化の財源や、物価高対策、脱炭素の「GX(グリーントランスフォーメーション)」などが焦点になる見通しだ。私は「増税方針の是非」が、最も重要だと思っている。
岸田文雄首相は、ジョー・バイデン米大統領との首脳会談後の記者会見で、防衛費増額に伴う増税について、「野党との活発な国会論戦を通じ、国民への説明を徹底したい」と語っていた。昨年末、他の選択肢もあるのに、たった1週間で「増税」を決めたことは理解できない。
コロナ禍や物価高で、国民生活は苦しくなる一方だ。春には日本銀行の黒田東彦総裁が任期を迎え、従来の「大規模な金融緩和」という政策が大転換する観測も広がっている。自民党幹部からは「少子化対策での消費税増税」も浮上している。
岸田政権が、このタイミングで大増税に踏み出すとすれば、日本経済にとってプラスにはならない。大きなダメージになる可能性が高い。防衛力は経済力に直結する。中国は急速な経済成長を背景に国防費を増大させた。不況になって安定的な財源を確保できなくなれば、防衛力強化も難しくなるのだ。
私は以前から、安倍晋三元首相が提案した「防衛国債」の発行が最も望ましいと考えてきた。
自民党の萩生田光一政調会長は新年早々、防衛費増額をめぐり増税以外の財源について議論する特命委員会を設ける考えを示した。最近では、萩生田氏と世耕弘成参院幹事長が、国債の「60年償還ルール」を見直し、防衛費増額の財源を捻出することを検討すべきとの考えを示している。
これに対し、岸田首相はラジオ番組で、「戦闘機やミサイルを買うのに国債を発行して未来の世代にツケを回すのがいいのか、今を生きるわれわれの責任として払うのか」と発言している。
松野博一官房長官も「財政に対する市場の信認を損ねかねないことなどの論点がある」などと否定的な姿勢だ。
安全保障や国民生活よりも、「市場の信認」や「財政再建」の方が重要と言っているように聞こえる。岸田首相が知恵を振り絞って、やむを得ず、増税方針を選択したとは到底思えない。「防衛国債」や「埋蔵金」など、まだまだ議論の余地はある。
複数の野党が、岸田首相の「大増税方針」に批判的な姿勢を示しているが、共産党などは防衛力強化に反対している。通常国会では、いつも通り、政権批判に終始する可能性が高い。
ともかく、財務省の呪縛から離れて、予算全体の見直しに着手すべきだ。国家運営や国民生活に必要な予算を並べて、優先順位をつける。有意義な国会論戦を期待している。
●「国債償還60年ルール」見直しとは? 防衛費の財源として浮上 1/20
防衛費増額の財源として国債の償還期間を延長し、自民党内で毎年の返済額を減らして財源に充てる案が浮上している。政府の借金である国債の「60年償還ルール」を見直そうというのだ。この仕組みと、見直した場合の影響をまとめました。
Q 60年償還ルールとは何ですか。
A 国債を60年かけて返す日本独自の制度です。例えば10年で返す国債を600億円発行した場合、10年後に一般会計から国債返済のための特別会計への繰り入れで100億円返し、残り500億円は借換債(借金を返すために発行する国債)の発行で返します。こうした手法を繰り返し、60年後に完済する手法です。
毎年度、一般会計からの繰り入れ額は、国債発行残高の約60分の1(1.6%)に相当する額と法律で定められています。先月閣議決定した2023年度当初予算案では、16兆円超が計上されています。
Q なぜ返済期限が「60年」なのですか。
A このルールは当初、公共事業に投資する建設国債のみに適用されていたため、道路や橋などの平均耐用年数から「60年」となりました。しかし、1985年度には単に財源不足を補う赤字国債の返済にも適用されるようになり、借金の膨張を招いたとされます。
Q 自民党はどんなルールの見直しを検討しているのでしょうか。
A 借換債を増やし、一般会計からの繰り入れを止めたり額を減らしたりする案です。繰入額を減らした分、防衛費に使える一般会計のお金を増やそうというのが狙いです。
Q 問題点はないのですか。
A 単年度では一般会計からの返済費は少なくなりますが、返済総額が減るわけではありません。借換債を余計に発行することになり、将来世代の負担はさらに増えます。明治学院大の熊倉正修まさなが教授(日本経済論)は「赤字を減らそうという力も働きにくくなる」と指摘し、財政赤字の拡大につながりかねません。
●岸田首相が残した外遊課題 ウクライナへどう貢献するか 1/20
岸田文雄首相の外遊冬の陣≠ェ終わった。一定の成果をあげたようだが、もどかしい印象もぬぐえなかった。期待されたウクライナ訪問が実現しなかったためだろう。
主要7カ国(G7)サミット首脳の中で、ゼレンスキー大統領とひざ詰め会談を未だ行っていないのは、岸田氏だけだ。今回の訪米歴訪は、そうした状況を解消するチャンスだった。諸般の事情がそれを許さなかったのはやむをえないとしても、国内事情を考えると日程はますます窮屈になってくる。
キーウを訪問できないまま、5月の広島サミットに議長として臨むのか。そうした最悪の事態だけは避けなければならない。
避けられなかった防衛予算増額
首相のウクライナ訪問問題の前に、今回の外遊について触れたい。
首相が訪米を見据えたタイミングで、安全保障戦略の改定、防衛予算の大幅増額を決断したことに対する見方は分かれる。「日本とインド太平洋地域の平和に寄与する」(産経新聞、1月15日「主張」)という好意的な評価から、「国民的議論のないまま同盟進化にひた走る」(朝日新聞、1月15日「社説」)などの批判まで、侃々諤々(岸田首相)ともいえるさまざまな議論がなされている。しかし、首相にしてみれば、以前からの懸案を積極的に解決したにすぎないだろう。
日本を取り巻く脅威が高まる一方のなかでは早晩、反撃能力(敵基地攻撃能力)を保持し、防衛予算を手厚くすることは避けられなかった。中国、欧州連合(EU)などをはじめ国防予算を増額する国が相次いでいる事実は日本だけがそれを抑制していいのかという疑問を生じさせる。
韓国を例にとってみれば、その一般会計予算が2兆7000億円程度だった1988年ごろ、日本の防衛予算は約3兆7000億円前後にのぼっていた。先方から見れば、自らの国家予算を上回る防衛予算を日本が計上していたわけで、外務省の韓国専門家が「韓国の警戒心を掻き立て反日感情につながらなければいいが」と気がかりな表情で漏らしたのを覚えている。
その韓国の国防費が2023年度は日本円で5兆9000億円。前年度から1兆5000億円と大幅に増えた日本の6兆8000億円(予算政府案)には及ばなかったが、日本の22(令和4)年度の防衛費は上回った。
日本の防衛予算がいかに抑制され続けてきたかを明確に示す事実だ。  
尖閣諸島での中国の度重なる領海侵犯、北朝鮮の相次ぐミサイル実験など今日の厳しい国際環境を考えれば、防衛予算が今の水準にとどまることが許されないことは、理屈抜きで多くの人が理解できよう。
今回の安保政策転換について、朝日新聞は米国知日派のコメントを紹介した。このなかで、外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は、「米政府は日本の戦略的思考と外交の方向性に満足している」と岸田内閣の決断を高く評価した。
政権に批判的で、岸田首相個人への攻撃とも思える紙面作りを展開している朝日新聞にして、好意的な分析記事を掲載せざるを得なかったことは、批判勢力の勢いを失わせるに十分だ。
首相に失策があったとすれば、結論を急ぐあまり、必要経費を積み上げた場合に大幅増額にならざるをえないという説明ではなく、最初から国内総生産(GDP)比2%を提示して「数字ありき」という印象を与えてしまったことだろう。
日米首脳会談決まり、キーウ訪問が困難に
今回の外遊を通じ、安全保障政策の転換は、欧州各国からも評価されたようだ。首相自身、帰国直前にワシントンで行った記者会見で、G7議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国の任期が始まったことを念頭に、「国際社会を主導していく責任の重さと日本への期待を感じた」と歴訪を振り返った。
そうならば慶賀にたえないというべきだろうが、それだけに、キーウ訪問を今回見送らざるを得なかったのは残念というほかはない。国際社会を主導していくというなら、キーウを電撃訪問して、存在感を各国に示すべきではなかったか。
首相はもともと昨年6月、スペインのマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した際、キーウ行きを検討したが、日程の都合で見送られた。今回の外遊前、首相は同じ時期に開かれるダボスの世界経済フォーラムへの出席を予定、それにあわせてウクライナに足を伸ばすことを検討したようだ。
しかし、その日程と前後して日米首脳会談がセットされたことでダボス行きがをとりやめとなり、年末からロシアによるキーウへの攻撃が激化したことなどもあって、立ち寄りも断念されたと伝えられる。
5月19日からの広島G7首脳会議の前に、首相がゼレンスキー大統領を訪ねる機会はあるのか。
1月23日に通常国会が召集され、予算審議が始まる。外務省関係者らは、情勢が厳しくなったことは認めている。しかし、チャンスが潰えてしまったわけではない。
予算委員会の審議が一段落するのを待って、週末に弾丸訪問≠キることも可能だし、4月から5月の大型連休を利用することもありうる。首相は今回訪問できなかったドイツのショルツ首相とも「できるだけ早く意見交換の機会をもちたい」(帰国前のワシントンでの記者会見)と述べており、この時に同時に訪問することも選択肢の一つだ。
ただ、週末訪問の場合は、制裁への報復として、ロシアが航空機の上空通過を禁止していることから、時間のかかる北極回りか南回りの航路をとらざるを得ず、ごく短期間での往復には障害となる。5月の連休をあてるにしても、G7首脳会議に間に合わせるため、訪問それ自体が目的になってしまったという印象をもたらすのは避けられない。
あらたな大型支援も難問
一方、訪問を実現させたとしても、手土産≠どうするか――という大きな問題が残る。
岸田政権はロシアのウクライナ侵略開始後、G7各国と歩調をあわせてロシアへの強い制裁、ウクライナへの積極支援に踏み切った。ロシア外交官8人の一挙追放、ヘルメット、防弾チョッキなど準軍事装備品の供与などで、こうした機会に、「遅い、少ない」などと揶揄される日本政府には似合わない健闘ぶりだった。
しかし夏以降、予算の問題などもあって息切れ≠オ、このところ大規模なウクライナ支援は滞ったままだ。
現在、日本は、電力不足、厳しい寒さをしのぐための発電機、ソーラー・ランタンや防寒具などのほか、最近は、地雷除去のための金属探知機の供与を開始、市民生活に有用な機材、物資を供与している。しかし、3兆円を超える軍事支援を行っている米国、陸軍の主力戦車を供与する英国、装甲車を送るフランスなどほかのG7各国に比べると、地味な印象はぬぐえない。
G7以外でも韓国は、米国に対して砲弾10万発を供与する方針で、最終的にウクライナに提供されるとの見方もなされている。
ロシアの侵略から2カ月後の2022年4月、ウクライナ政府が作成した動画の中で、支援に感謝する国としてあげられたG7各国やスペインなど31カ国のなかに日本の名前がなかった。日本の抗議を受けてわが国を追加したあらたな動画が制作されたが、このことは、1991年の湾岸戦争の際の悪夢≠思い起させるに十分だった。日本は当時、多国籍軍に多額の資金拠出を行ったにもかかわらず、クウェートが米紙に出した感謝広告では無視され、国民を失望させた。
日本の支援は重要な貢献ではあるが、目立たないのは残念というほかはない。
首相、短期間で困難な決断迫られる
広島G7サミットのウクライナ問題討議では、岸田氏を除く各国首脳が、オンラインで参加するゼレンスキー大統領と親しげあいさつを交わしたり、大統領との会談の様子について話題が及んだりすることがあろう。大統領との会談が実現しない場合、岸田首相はその輪に加わることができず、「蚊帳の外」に置かれてしまう。わが国の支援が派手さに欠けることに対しても各国から批判的な指摘がなされる可能性がある。
しかし各国並みの軍事的貢献はわが国には不可能だ。サミットまで、あまり時間がない。 
短期間のうちに首相は、予算審議に縛られながら、ウクライナ訪問の時期を探り、法律や政府方針の枠内で可能な限り大規模、各国と比べて見劣りのいない支援をどうするかなど、困難な決断を迫られる。
●戦争国家宣言はクーデター 1/20
先制攻撃準備は国連憲章違反
岸田文雄首相とバイデン米大統領の日米首脳会談を報じた1月15日の朝日新聞1面トップの4段縦見出しは「防衛強化 バイデン氏支持」で、横見出しは「安保政策転換 『同盟を現代化』」だった。他のメディアも米側が日本の防衛強化を歓迎したと報じたが、実際は、「バイデン氏支持」は「バイデン氏指示(命令)」だったのではないか。
岸田氏は「敵基地攻撃能力」(日本政府は「反撃能力」と言い換え)の保有や軍事費の大幅増を決めたと報告。バイデン氏は昨年12月16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」など軍事関連三文書を「歴史的だ」と評価し、「我々は軍事同盟(ミリタリー・アライアンス)を現代化している」と応じた。岸田氏は日本国憲法違反の攻撃兵器である米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークを導入する考えも伝え、日米共同で敵基地攻撃を行うことで合意した。
中朝ロを先制攻撃の対象に
会談後に発表した共同声明では、中国、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)、ロシアを名指しし、日本の敵基地攻撃能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するとした。また、「広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)成功へ緊密に連携」などを謳った。
岸田氏は会談後、「大統領みずからホワイトハウスの南正面玄関に迎えに出てもらった」と記者団にコメント。報道各社は、バイデン氏が執務室に案内する際、何度も右腕を大きく岸田氏の背中に回しながら歩き、ご満悦の様子の岸田氏のどや顔を映した。会談前のメディア対応でも、バイデン氏は人差し指を岸田氏に向けるシーンもあった。
日本は第二次世界大戦のポツダム宣言受諾・無条件降伏後、米軍が単独占領し、独立後も在日米軍基地(70%が沖縄)を置き、10万人以上の米軍関係者が駐留している。国家の基本である軍事・外交は77年間、米国に統制され、在日米軍トップと日本官僚で構成する日米合同委員会(月2回開催)が三権の上に君臨しており、米国の植民地状態になっている。
バイデン氏はカメラの前で、日米軍事同盟の現代化と述べたが、朝日新聞が15日夕刊でそのまま報じた以外、報道各社は「日米同盟の近代化」「同盟関係の強化」と伝えた。単なる同盟と軍事同盟ではまったく意味が異なる。
岸田氏は首脳会談後、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院で「歴史の転換点における日本の決断」と題して行った講演で、軍拡の「決断」を吉田茂首相の日米安保条約締結、岸信介首相の安保改定、安倍晋三首相の集団的自衛権行使の一部容認に続く、「歴史上最も重要な決定の一つ」と言い放った。
岸田氏は国会での議論をせず、人民に信を問うこともなく、閣議決定だけで強行した政策転換は、日本国憲法を順守する義務のある首相による憲法蹂躙であり、安倍氏が乗り移った岸田氏によるクーデターに等しい。
岸田氏は戦後、自民党政権が掲げてきた専守防衛を廃棄し、米国の対中侵略戦争に日本列島、とりわけ琉球の人民を差し出すと公約し、米国製武器を爆買いする契約を結んだ。戦後最も危険で愚かな首相だ。
岸田氏が訪米した14日、チョ・チョルス朝鮮外務省国際機構局長は国連のグテレス事務総長が12日に安全保障理事会で朝鮮の核開発を「非合法」と指摘したことを糾弾した談話で、国連憲章で日本は「敵国」と明記されていると指摘し、朝鮮半島の植民地支配を清算していない日本に安保理メンバーとなる「道徳的、法的資格はない」と主張した。
談話が指摘するように、国連憲章は日本など7カ国を連合国の「敵国」と規定し、加盟国(戦勝国)は戦犯国である「敵国」に再び侵略戦争を起こす兆しのある時は、安保理決議なしに先制攻撃できると3つの条項で明記している。米国と共に侵略戦争を構えると宣言した日本は、先制攻撃の対象になったと言えるのではないか。
広島サミットは被爆者への裏切り
米国の核の傘の下にあって、米国の対中戦争に全面加担を公約した岸田氏が「G7広島サミット」で核戦争の悲惨さを訴えるというのは、広島・長崎の歴史に対する冒涜だ。
広島県庄原市議会は昨年12月23日、「防衛予算の倍増を閣議決定した政府方針の撤回を求める意見書」を、賛成多数(10対4)で可決した。決議は「武器等の増量の理由が主権者にまったく説明されていない」と批判した。
広島県朝鮮人被爆者協議会の金鎮湖会長は日米首脳会談について、筆者の取材に「広島サミットが核兵器をなくす大きな契機になればいいのだが、日本の岸田政権は軍備増強一辺倒で米国の言いなりで、南朝鮮の現大統領も米国の言うことは何でも聞く状況になっている中で、我々が願う核兵器廃絶ができるのかという不安感がある。朝鮮半島にとっては非常に危険なことになっている」と指摘した。金氏はまた、「サミットを控える広島の雰囲気は、広島県・広島市の注目度が高まり、観光客が増えるなどの経済効果とか、そういう話ばかりになっている。サミット開催に批判的な声が多い。広島県人、市民への裏切りという声が強まると思う」と述べた。
安保3文書の撤回を求めないメディア
新聞各紙は社説で「国民への説明 後回しか」(朝日新聞15日付)「対中緩和へ外交も語れ」(東京新聞18日付)と題して、増税を伴う安保政策の大転換を国会で説明する前に、バイデン氏に報告したのは順序が逆だと批判し、23日から始まる通常国会で厳しく追及すべきだと主張した。主要メディアで軍事三文書の白紙撤回を求める報道機関はない。
岸田氏は敵基地攻撃能力保有に踏み切るため、昨年9月に政府の有識者会議(委員10人)を立ち上げたが、そのメンバーに船橋洋一・元朝日新聞主筆、山口寿一・読売新聞社長、喜多恒雄・元日経新聞社長が入っていた。
私が懸念するのは「左翼リベラル」文化人の中に、「中国の覇権主義の行動や北朝鮮の軍事挑発などの無法が許されないのは当然」(しんぶん赤旗15日付)「近年は中国が軍事大国化し、北朝鮮も派手な動きを見せている。日本を取り巻く国際環境が厳しさを増しているのは間違いない」(朝日新聞16日付、山田朗・明治大教授)などの言説があることだ。
いずれも、「しかし、防衛費増大は問題」と続けるのだが、米韓日、NATOの圧倒的な軍事力に触れず、中朝ロ3国の「無法」を持ち出すのは不当だ。
日米のトップは「あらゆる力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対」と言うのだが、米国こそ世界各地で武力による侵略を繰り返してきた戦争中毒、ならずもの国家ではないか。日本の侵略・強制占領の被害国である朝鮮と中国が日本を攻めるという仮説を持つこと自体が加害国として恥ずべきことだと思う。
古賀誠・元自民党幹事長ら自民党の長老が岸田氏の暴走を批判している。元宏池会会長の宮澤喜一首相(当時)は1992年にジャカルタを訪問した際の記者懇談会で、国会で議論されていた国連平和維持協力(PKO)法案に関し、「戦争を知らない若い世代の議員は、憲法の平和主義を理解していない。自衛隊の海外派遣で歯止めがなくなる危険性がある」と話していた。宮澤氏は岸田氏と同じ広島選出の議員だった。ハト派とされる宏池会からの久しぶりの首相になった岸田氏が安倍氏の敷いた路線を突き進んでいる。
●言い値で武器買う“飼い犬”にご褒美 バイデンが岸田首相を大歓迎 1/20
首相として初となる訪米でバイデン政権から予想を上回る歓待を受け、上機嫌で帰国した岸田文雄氏。なぜ米政府は岸田首相に対してここまでの厚遇ぶりを見せたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新恭さんが、そのもっともすぎる理由を端的に解説。さらにやみくもに米国の軍事戦略に追従する危険性を訴えるとともに、そのような日本政府の姿勢に対して批判的な見解を記しています。
バイデン政権が岸田首相を厚遇した本当の理由
「朝食会も含め、バイデン政権は首相を非常に歓迎し厚遇いただいた」
防衛費倍増のお土産をたずさえ、意気揚々とワシントンを訪れた岸田首相。同行した木原誠二官房副長官は記者団にそう語った。
バイデン大統領がわざわざホワイトウスの南正面玄関まで他国の首脳を出迎えてくれるというのは「極めてまれだ」と木原氏は言う。バイデン氏は岸田氏の肩に手をまわし、にこやかな笑顔を浮かべてローズガーデン沿いの廊下を歩いた。
日本国内では、やることなすこと批判され、ついには無策だ、無能だとレッテルをはられるにいたった岸田首相だが、バイデン大統領と握手するその顔はいかにも晴れがましい。
5月19日から21日まで広島で開かれる「G7サミット」の議長をつとめるためのプロローグとして、フランス、イタリア、英国、カナダと続いた花道から本舞台のワシントンにやってきたのだ。
内閣支持率の下落に悩みながらも長期政権を貪欲に狙う岸田首相にとって、来年秋の自民党総裁選は最大の関門である。その意味で間違いなく、これからG7サミットまでの約5か月が岸田政権の正念場となる。
通常国会を無難にこなし、サミットを成功させて、内閣支持率が上向きになったタイミングで衆議院を解散し、総選挙に勝利すれば、国民の信任を得たとして「岸田おろし」の動きを抑えることができる。そう希望的算段をしているはずだ。
トランプ前大統領に対する安倍元首相のように、昨今、米大統領の気に入られるのが外交的成果だとする風潮が日本にはある。バイデン大統領はそれを承知のうえ、岸田首相のイメージアップに協力している。それというのも、岸田首相がバイデン政権の要求を忠実に守ろうとしている点を、高く評価しているからであろう。
昨年5月にバイデン大統領が来日したさい、岸田首相は防衛費の「相当な増額」を確保することを約束した。そして、それを履行するため12月には国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定、相手のミサイル発射拠点などを直接攻撃できる「敵基地攻撃能力」(反撃能力)を保有することにし、23年度から5年間の防衛費を、これまでの1.5倍の約43兆円へと増額した。27年度にはGDPの2%に防衛予算が膨らむことになる。
この決定に米側は沸き立った。バイデン大統領はもちろん、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、サリバン大統領補佐官から手放しでほめたたえる声明が出された。
バイデン政権には、政治的にリベラルだが外交・防衛面ではタカ派で、軍需産業とも深い繋がりを持つ、いわゆる“リベラルホーク”が多い。ブリンケン国務長官、ビクトリア・ヌーランド国務次官、サマンサ・パワー国際開発庁長官がその代表格だ。オースティン国防長官は前職が巨大軍需企業レイセオン・テクノロジーズの取締役である。米軍産複合体の利益が彼らの政治判断と不可分に結びついているのだ。
彼らが望むからといって、日本が予算を倍増させて防衛力もそれに比例するかといえば、甚だ疑問である。たとえば「5年間43兆円」は米側の要求をかなえたイメージをつくるための「規模ありき」の数字であって、必要な装備などを積み上げたものではない。
それでも一応は、43兆円の内訳というものがあるらしい。東京新聞の記事によると、自衛隊員の給与や食費など「人件・糧食費」11兆円、新たなローン契約額のうち27年度までの支払額27兆円、22年度までに契約したローンの残額5兆円だという。ローンとは「後年度負担」と呼ばれる分割払いであり、1年では賄えない高額な装備品や大型公共事業に適用される。
安倍政権はこのローンの仕組みとアメリカ国防総省が行っている対外軍事援助プログラム「FMS」を使って、米国製兵器の購入を拡大した。グローバルホークやオスプレイ、イージス・アショア、戦闘機(F-35A)などがそうだ。
だが「FMS」は、メーカーではなく米政府を窓口として兵器を調達するシステムだ。対価は前払いに限られ、納期が年単位で遅れることや、支払い時には当初の見積りより価格が高騰することもざらにある。つまり米側の「言い値」と「条件」に従わなければならないのだ。
イージス・アショアの場合、2020年6月15日、河野太郎防衛相(当時)が導入計画の停止を発表したが、その代わりにイージス・システム搭載艦の採用を迫られ、その後もイージス・アショアのレーダー取得費として277億円を支払っている。
新たなローン契約額とされる27兆円のなかには、2027年度までをメドに最大500発の購入を検討しているとされる巡航ミサイル「トマホーク」も含まれるのだろうが、なぜ40年前に開発された旧式の兵器を導入するのかが明確ではない。目標までの射程は十分でも、速度が弾道ミサイルよりも遅いために、打ち落とされる可能性が高いといわれている。
しかも、日本がトマホークを使おうと思っても、米国の了解を得て、高度な情報の提供を受けねばならず、良し悪しは別として、あくまでも米国のコントロールのもとに置かれる。
「FMS」は米軍産複合体にとって、莫大な利益を生み出す仕組みである。バイデン政権の高官たちが、FMSで兵器を大量購入することを決めた岸田首相の訪米をこぞって歓迎するのは、実に素直な反応といえるだろう。
いうまでもなく、第2次安倍政権以来の“軍拡路線”は、米国政府の意向に沿ったものだ。憲法解釈を変更してまで集団的自衛権の行使を容認し、米国とともに戦うことのできる国をめざしてきた。しかしそこには、日本が危機に瀕した場合、米国は本当に守ってくれるのかという不安がつきまとっている。
だからこそ安倍晋三氏は総理在任中、米国が攻撃されたときに自衛隊が血を流す間柄になってこそ、米国も本気で日本の防衛にあたってくれるという趣旨の発言を繰り返してきたのだ。
岸田首相は安倍政権で5年近く外務大臣をつとめたこともあり、米国との無難な付き合い方を身につけているのかもしれない。つまり、米国を怒らせては政権は長続きしないという悲痛な戦後史を知悉しているのではないか。
古くは田中角栄元首相の例がある。米国の了解を得ずに日中国交正常化をなしとげ、アラブ寄りの資源外交を進めようとしたためにニクソン大統領やキッシンジャー大統領補佐官の怒りを買い、「キッシンジャー意見書」などの米側資料が東京地検の手に渡った。それがロッキード事件の引き金になり、田中氏は逮捕された。
2009年に誕生した民主党政権で首相の座に就いた鳩山由紀夫氏は米軍普天間基地の県外移設を打ち出したために、外務・防衛官僚から総スカンを食い、1年ももたずに退陣した。
日本の官僚と在日米軍幹部との協議機関「日米合同委員会」が米国側の意向を押しつける装置になっていることを鳩山首相は気づかなかった。この会議においては、日本の憲法や法律より日米安保条約が上位にある。
「砂川裁判」の最高裁判決(1959年)以来、日米安保にかかわる問題なら、たとえ憲法に反する場合でも、最高裁は違憲判決を下さないということが定着したが、それも日本の官僚が米国の言いなりになることを保身の道と考えるきっかけになった。
安倍晋三氏は野党時代に、外務・防衛官僚の組織的サボタージュで身動きがとれない鳩山政権の姿を見て、米国に取り入ることこそが政権維持のカギだと確信を深め、ジャパンハンドラーといわれる知日派米国人やトランプ前大統領らとの蜜月関係を築いていったと思われる。
そして今、米国における安倍氏の地位を継ぐべく岸田首相がワシントンに詣でて、43兆円の朝貢外交におよんだのである。それに対するバイデン大統領の“返礼”は、この言葉だった。
「米国は日本の防衛に完全かつ徹底的にコミットしている」
これさえ言えば、日本の首相は魔法にかかったように納得することを米側は心得ている。
国会で審議もせずに防衛政策の大転換方針を決め、すぐさまワシントンに飛んで米大統領から「よくやった」とばかりに歓待を受け、成功、成功と手を叩いて帰ってくる。日本国内では「岸田という『あまり頼りない』と言われた人の下で1年半、間違いなく日本は世界の中で、その地位を高めつつある」と惚けたことを言う麻生自民党副総裁のような人が待ち受ける。これで本当に日本の安全が保たれると自信を持って言えるのだろうか。
もとより良好な日米関係は日本外交の基本である。その首脳会談について中国政府は「茶番だ」と罵るが、事実より政治宣伝が優先される国に言われる筋合いはない。しかし、やみくもに米国の軍事戦略に追従し、中国との敵対関係を強めた挙句、米国に梯子を外されるようなことになったら、どうするつもりなのか。
ロシアのウクライナに対する非人道的な振る舞いを見て、中国や北朝鮮への恐怖がつのる心情は誰しも同じだ。世論調査で防衛力強化に賛成する人が半数近くを占めるのはそのために違いない。だが、軍拡競争の先には徴兵制の復活もありうるだろう。いざ有事となれば、高みの見物ではすまない。
●石破茂氏“異次元の少子化対策”に「精神論が何の意味も持たない」 1/20
自民党の石破茂衆院議員(65)が20日、自身のブログを更新。岸田内閣が打ち出した「異次元の少子化対策」などについて言及した。
石破氏は「先日の護衛艦の事故に続き、一昨日は新潟県柏崎沖で海上保安庁巡視船が座礁事故を起こすという、にわかには信じられないことが起こっています」と10日に山口県・周防大島沖の瀬戸内海を航行していた海上自衛隊の護衛艦「いなづま」が自力航行不能になったことや、18日に海上保安庁の巡視船が新潟県柏崎市沖で座礁した事故に言及。「我が国はどこか根幹でおかしくなりつつあるように思われてなりません。一般の事故とは異なり、国家の独立と平和、国民の生命・財産と公の秩序を守る任にあたる艦や船が事故を起こした重大性を強く認識すべきであるところ、組織にその危機感が薄いように思われるのは私だけなのでしょうか。ただ防衛費や海上保安庁の予算を増やしさえすればよいというものでは勿論ありません」と防衛増税が議論されている中での事故を重く受け止めるべきと指摘した。
また、政府が掲げる「異次元の少子化対策」についても「少子化対策は『異次元』を謳って臨むのですから、従来の政策の量的な拡大に終わるものであってはなりません。この問題に対して精神論が何の意味も持たないことはすでにわかりきっています」ときっぱり。「望む人が『結婚して家庭を持ち、子供を産み育てるほうが、経済的に余裕ができる』ような仕組みを構築することが必要です」とつづった。
また、23日招集の通常国会に向けて「質問する側も答弁する側も万全の体制で臨み、有権者に日本国の問題点を提示し、解決に向けての方向性を明らかにしなくてはなりません」と決意を新たにしている。
●高市早苗氏は「増税派」なのに「増税否定派」のように報じてもらえる理由  1/20
安倍晋三元首相の後継者的ポジションを自認し、「保守派のスター」とも呼ばれる高市早苗氏。しかし、彼女の人気を支える一面である「増税否定派」であるかのようなイメージは、実態と大きなギャップがある。なぜ高市氏は「増税派」なのに、「増税否定派」のようにメディアに報じてもらえるのか。今回は、高市氏の巧みなロジックとポジション取りに焦点を合わせる。
高市早苗氏は「増税派」なのに なぜ「増税待った」のような報道に?
自民党の前政務調査会長で、現在は岸田内閣の経済安全保障担当大臣である高市早苗氏。近年における彼女のメディアでの大活躍には目を見張るものがある。
2021年に行われた自民党総裁選挙で、安倍晋三元首相の支援を受けて以来、「安倍元総理の意思を継ぐ覚悟がある」として保守系言論誌の常連となり、表紙を飾ることも多くなっている。
迷走を続ける岸田政権に、閣内にあって公然と立ち向かっている姿は、新聞やテレビで大きく取り上げられることとなった。今や「保守派のスター」(「朝日新聞」、22年11月26日)とも呼ばれている。
特に注目を浴びたのは、防衛費の大幅増額に伴う財源の議論だ。新聞の見出しをいくつか並べてみよう。
   読売新聞
(22年12月11日)高市早苗氏、増税検討指示に「理解できない」「会議に呼ばれず」…現役閣僚として異例の批判
(22年12月12日)高市氏の防衛増税「理解できない」発信、松野長官「考えは閣内で共有」…閣内不一致を否定
   朝日新聞
(22年12月10日)「首相の真意理解できない」 高市経済安保相、防衛費増税の方針に
(22年12月12日)高市氏「覚悟はもって申し上げている」 防衛増税で首相に反論の全容
   産経新聞
(22年12月12日)高市早苗氏「先に財源論で戸惑った」 防衛費増税
(22年12月14日)首相へ異論の高市氏、政権に傷 くすぶる内閣改造論
これらの見出しを見て分かる通り、防衛費捻出のため1兆円の大増税に突き進む岸田政権に待ったをかけているかのように見えるポジションを、高市氏がうまく獲得しているのが分かる。見ようによっては「減税派」、もしくは現政調会長の萩生田光一氏が主張するように、財源は国債で賄うべきという一派に所属していてもおかしくはなさそうである。
実際に、総裁選で高市氏を応援した安倍派に所属する議員や無所属議員には、増税に否定的な議員も多くいる。高市氏が、増税を否定しているという見方をする人がいてもおかしくはない。
今、「(大増税に)待ったをかけているかのように見えるポジション」と意地悪のような書き方をしたが、これは意地悪でもなんでもなく、高市氏の実態である。それなのに、あたかも「増税否定派」のようにメディアに報じてもらえるのはなぜなのだろうか。
高市氏の巧妙な立ち回りをひもとくとともに、その理由を明らかにしたい。
高市氏が防衛増税で 岸田首相に苦言を呈した巧みなロジック
ダイヤモンド・オンライン『W杯の裏で「増税日本代表」が暗躍、政治家の実名・言動・手口…全て暴く』で詳しく述べたが、高市氏は、これまで増税政策に熱心な議員であった。
高市氏はかつて、月刊誌や自身の著作、発言などにおいて、50万円以上の金融所得に対する課税を20%から30%に引き上げる増税案や、企業が保有する現預金への課税の導入、炭素税などに言及。17年の衆議院選挙候補者アンケートでも消費税率10%への引き上げに「賛成」していた。
NHKの「日曜討論」(22年6月19日)で行われた討論の中で、「日本ほど国民負担率が低い国っていうのはなかなかないです」という認識を示し、消費税減税についても明確に否定している。
高市氏が筋金入りの増税派であるということを前提に高市氏に関する報道を読み返すと、まったく別の姿が見えてくるのである。
22年12月12日付の朝日新聞の記事『高市氏「覚悟はもって申し上げている」 防衛増税で首相に反論の全容』には、高市氏に直接、真意を問いただした内容が詳しく掲載されている。長くなるので詳細は、原文を読んでほしいが、要約すると以下のようになる。
(1)高市氏が驚いたこと
→国家安全保障戦略の全文を見せてもらっていないのに、財源の話が出てきたこと。
(2)高市氏が疑問に思ったこと
→順番。具体的に国防力の何を強化するのか、いくらかかるのかを報道や首相の記者会見で知った。
(3)高市氏は増税に反対なのか
→国民へ一つ一つ順を追って説明をして「じゃあ、みんなで負担しようよ」ということになることが大事。
非常に巧みな論法だが、結局のところ増税に反対など一度もしていない。防衛政策の全貌の共有について、自分が先でなく、記者会見や報道が先になったことにご立腹だったということだ。はっきり言って、言いがかりや難癖をつけるのに近いものを感じる。
やはり譲れない議論ではなかったようで、実際に、高市氏は岸田首相と10分会談をしたところで「みんなが納得する着地点が見いだされた」と一方的に宣言し、矛を収めてしまった。
毎日新聞(22年12月19日)での世論調査(22年12月17〜18日実施)では、防衛費の大幅増額の方針については「賛成」が48%で、「反対」の41%を上回った。一方、防衛費増額の財源を増税とすることについては、「賛成」が23%で、「反対」の69%を大きく下回った。
増税は「みんなが納得する着地点」でもなんでもないのだが、「みんな」が、自民党議員や内閣を指すのであれば、次の選挙で堂々と大増税を掲げてほしいものだ。
日本は本当に増税する余地がある? 消費税率だけを見ても意味はない
それにしても、高市氏に代表される「まだ増税する余地がある」という議論が日本を覆っているようだ。
先ほど「日本ほど国民負担率が低い国っていうのはなかなかないです」という高市氏の発言を紹介したが、岸田政権は今年にも「異次元の少子化対策」に充てる「子ども予算」の財源として、消費税増税を企図している。消費税増税について話し合われた第20回税制調査会においても、多くの委員から消費税は上げるべきとして「消費税はまだ海外に比べて低いので、いつどのような形で上げていくのか」「消費税率が先進国の中のかなり低い方のレベル」という発言があった。
しかし、財政赤字を加味した日本の潜在的国民負担率は、56.9%だ。「重税だが福祉が手厚い」ことで知られるスウェーデンでさえ、56.4%である。米国は40.7%、英国は49.7%だ。日本ほど国民負担率が高い国はなかなかない、というのがファクトだ(財務省「国民負担率の国際比較」〈2022〉、数値は日本が22年度、他国は19年)。
消費税だけを見れば確かに低いのかもしれない。ところが実際の国民負担率は、高福祉政策で知られる北欧のスウェーデンよりも高い、重負担国家なのである。世界的にも高い国民負担率をより高めることになれば、民間活力を奪うのは間違いない。消費税率だけを比較しても意味がない。
日本は、増税ではなく政府支出を減らし、国民負担を減らす政策へと転換しなければならないのだ。日本は国民負担率が低いなどという高市氏の勘違いは、国益を大いに毀損(きそん)している。
このまま大増税で経済成長を止めてしまえば、防衛費を増額・維持することなどできなくなるのは目に見えている。手順ということに高市氏はこだわり、岸田首相へ言いがかりをつけていたが、手順で言えば、まず日本が経済成長をし、その余力で防衛力を強化していく、というのが当たり前の手順だ。
高市氏は筋金入りの増税主義者であり、防衛費の大幅増額を巡って、有権者やメディア、自民党内の自身の支持基盤に対して、あたかも増税に反対したかのように、うまく立ち回ったにすぎない。安倍元首相と近いか遠いかという違いはあるものの、自民党内ではまったく人気のない石破茂氏と政策的ポジションはほぼ一緒であることも付言しておく。
●コロナ、今春にも「5類」移行 岸田首相が指示 1/20
岸田文雄首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の扱いを巡り季節性インフルエンザと同じ「5類」へ今春に移すよう指示した。首相官邸で加藤勝信厚生労働相や後藤茂之経済財政・再生相と協議し伝えた。
首相は協議後、官邸で記者団に「原則として春に5類とする方向で専門家に議論してもらいたいと確認した」と述べた。医療費の公費負担などに関し「平時の日本を取り戻していくために様々な政策措置を段階的に移行する」と話した。
変更後は緊急事態宣言などの措置がなくなり、感染者や濃厚接触者の待機は不要になる。推奨してきた屋内でのマスク着用も原則不要とする方針だ。首相は「一般的なマスク着用の考え方など感染対策のあり方も見直していく」と言明した。
ワクチン接種を巡っては「類型の見直しにかかわらず予防接種法に基づいて実施する」と語った。足元の感染状況に触れ「感染対策や医療体制の確保に努める。第8波を乗り越えるべく全力で取り組む」と強調した。
首相の指示を受けて厚労省が月内にも厚労相の諮問機関である厚生科学審議会に5類への見直しを諮る。政府内には移行時期を4〜5月にする案がある。
直近で新型コロナの新規感染者数は減少傾向にある。それでも感染力は依然強いとされ、死者数は過去最多の水準が続く。政府は感染状況や医療の提供体制も見極めながら最終判断する。
感染症法は新型コロナを「新型インフルエンザ等感染症」に分類しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)や結核と同様の2類以上に相当する。
現状では新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象だ。特措法は飲食店の営業や個人の移動を制限する緊急事態宣言の発令、まん延防止等重点措置の適用の根拠になっている。
感染症法に基づきいまは感染者らに入院を勧告したり外出自粛を要請したりすることもできる。感染者に原則7日間、濃厚接触者には原則5日間の待機を求めてきた。
5類は風疹やはしかと同じ扱いだ。移行した後は感染が拡大しても緊急事態宣言などは出せない。入院勧告や外出自粛、待機といった行動制限も課さない。
医療も通常に近い体制に戻る。診察を受けられる場所は特別な感染防止策を講じる発熱外来に限らず、一般の診療所や病院でも可能になる。
政府は治療や入院にかかる医療費などの公費負担、患者を受け入れた医療機関への診療報酬の加算は段階的に減らしていく。感染者数を把握する方法はさらに簡素に変えることをめざす。
屋内でのマスク着用は発熱などの症状や基礎疾患のある人らを除いて原則不要とする見通しだ。満員電車など感染リスクが特に高い場所での扱いは検討する。
●「増税で福祉無償化」永田町が注目 慶大・井手教授が唱えるこの国の理想 1/20
ひと昔前に政界で話題となった「オールフォーオール」(皆が皆のために)というフレーズを覚えているだろうか。消費税増税などを通じて介護や保育、高等教育を無償化するとの主張だ。看板政策に掲げた当時の民進党が2017年秋に分裂したことに伴い、フェードアウトしていった。
だが、その生みの親だった慶応大の井手英策教授(50)が改めて唱える「ベーシックサービス(BS)」論が、今、永田町や霞が関で静かに注目を集めている。増税による福祉サービスなどの無償提供を訴え続ける井手氏に、理想とする社会・経済・政治像を聞いてみた。(時事通信政治部 纐纈啓太)
公明党が「共鳴する考え」
昨年9月に東京都内で開かれた公明党の定期党大会。この場で井手氏の名が登場したことは、政官界の関係者を少なからず驚かせた。
石井啓一幹事長は党の活動方針を示す「幹事長報告」で、日本の高齢化ピークと見込まれる40年に向けた社会保障改革を盛り込む「2040年ビジョン」の策定を表明。「BSの考え方などを踏まえて検討していく」と説明し、「井手教授によると、BS論は教育、医療、介護など不可欠なサービスを無償化し、負担を皆で分かち合う。公明党の『大衆福祉』の理念とも共鳴する考え方だ」と付け加えた。
実は、公明党は4年ほど前から、井手氏との意見交換を定期的に続けてきた。
「話を聞きたいと言われれば話す。立憲民主党からも国民民主党からも呼ばれた。このところ一番回数が多いのは公明党です」。昨年12月、研究室で数年ぶりに会った井手氏はそう説明してくれた。
自民党議員とも交流があるほか、民進党代表だった国民・前原誠司元外相とは折に触れて連絡を取り合う。立民議員との会合にも足を運ぶ。各種寄稿、講演などの依頼は引きも切らないといった様子だ。
「年収360万円で子ども3人」を
井手氏が展開するBS論は、「経済成長最優先」「財源としての国債大量発行」といった自公政権の政策の潮流とは真逆の内容に映る。
経済見通しについては、異次元とも称される金融緩和を伴ったアベノミクス下でも「実質GDP(国内総生産)成長率は年1%程度だった」ことを引き合いに、「70〜80年代のような年率4%成長などはもう不可能だ」とみる。低位成長が常態化した日本社会においては、「経済成長で所得・貯蓄率を上げ、生活保障は自己責任で、というモデルが破綻している」と指摘する。
そこから導き出す方向性は、「年収180万円同士のカップルでも、子どもが3人いて大丈夫という社会をつくろう」というものだ。
日々の暮らしや人生に密接な医療、介護、子育て、大学教育、障害者福祉といった施策をBSと位置付け、無償でサービスを提供。財源は消費税を柱とする増税で賄う。消費税の税率は段階的にさらに10%引き上げ、「BSに6割、財政健全化に4割。6対4の比率で使っていけばいい」と主張する。
「極端に走らない覚悟」
歳出カットを伴う財政健全化でもなければ、専ら国債発行頼みの積極財政路線でもない。この点が井手氏の独特の立ち位置だろう。
自民党内などで根強い支持を集める現代金融理論(MMT)については、「財政を膨張し続ければハイパーインフレになり、経済は破綻する」と明確に批判的な立場だ。野党が軒並み主張する消費税減税は、「所得を増やして不安に備えるという前提。新しい社会モデルに全然なっていない。消費税の減税は購買力のある富裕層ほどお金が返ってくる。大きな見当違いです」とばっさり切る。
無論、反発もある。財務省幹部は「政策というより思想だな」と皮肉交じりに評し、立民の若手議員は低所得者ほど税負担が重くなる消費税の「逆進性」に関し、「井手氏が答えていない」と話す。井手氏本人も「MMT支持者や左派からはののしられ、学者ではなく扇動者だと言われたこともあります」と苦笑を浮かべる。
それでも与野党からアプローチが途切れない理由は何なのか。交流のあった自民党議員に尋ねると、こういう答えが返ってきた。「アカデミズムから出て社会への問題意識を訴えつつ、極端に振り切れず現実的な路線を探ろうとする姿勢に覚悟を感じる。主張を聴いてみたいという気になる」。
「中庸」のカギは財源論
実際、井手氏の現状に対する危機感はひときわ強い。MMTや消費税減税といった世論へのインパクトが強い政策に走りがちな「極端主義」が「明らかに今の政治には存在している」と懸念を示し、「言葉の巧みさで競い合う極端主義を排し、『正しい中庸』を探っていくのがあるべき政治の本質だと思う」と話す。
政治をこう位置付ける井手氏にとって、カギとなるのが財源論だ。「何が社会に必要なものか。そのために必要な財源を考え、どんな税をどのくらいの税率で、どういう人たちに負担をお願いするか皆で真剣に話し合っていく中で、両極端の主張の間の中庸を探っていく。これが財政民主主義という考え方です」。
政府は昨年末、駆け足でGDP比2%程度への防衛費増額を決定。新型コロナウイルス禍の中では、かつてない規模で国債発行による現金給付が繰り返された。こうした政界の動きは、井手氏の目に「民主主義の本質に関わる危機」が近づいていると映る。
「議論もせず、どんぶり勘定で防衛費を倍にしようと言っているだけ。これは最近の日本政治に通底する傾向です」
「膨大な国債を押し付けられる今の子どもや未来の子どもたちはその意思決定に関わることさえできない。民主主義が息絶えつつあるということ。こんなことは絶対にだめですよ」。井手氏の口調は厳しい。
「終わった人間」の使命
ブレーン役を務めた民進党は、小池百合子東京都知事率いる希望の党への合流騒動を境に、混乱の中で事実上解党した。「僕の敗北でもある。学者生命を賭けて政治に身を投じ、結果は出た。僕はもう終わった人間なんです」。今後、特定の政党に肩入れする気は一切ないと言う。
井手氏が「敗北」と総括する一方で、「オールフォーオール」で掲げた幼保無償化は、安倍政権がほぼ抱きつく格好で19年秋に実現させ、野党からは今、大学教育無償化を求める声が絶えない。政策論議に及ぼした影響は、決して小さなものではない。
「もし最後の仕事があるとすれば、税の見方を変え、財源論をきちんと社会に根付かせること」。そう考える井手氏は、「今こそ『ばらまき』か民主主義かの戦いであり、与野党から財源論を直視する若手が出て来なければ日本の政治は終わる」とみる。
●世界各国が「デフレを放置した日本」を反面教師に不況を逃れる皮肉な現実 1/20
世界中で、インフレが止まらない。中でも、日本は物価上昇にもかかわらず、景気低迷でお金の価値が下がるスタグフレーションの様相を呈している。
しかし、「スタグフレーションのほうが、デフレよりマシ」と指摘するのは、第一生命経済研究所で首席エコノミストを務める永濱利廣氏だ。未だ日本が抜け出せないデフレという名のアリ地獄の恐ろしさを、対話形式で誌上講義してもらった。
「合理的な選択」の結果、みんな貧しくなる悲劇
【やすお】改めて、デフレとは何ですか?
【永濱】デフレーション(deflation)の略で、インフレの逆です。物価が下がり続けることで、お金の価値が上がり続けることを指します。一時的な物価下落はデフレとは言いません。
BIS(国際決済銀行)やIMF(国際通貨基金)は、デフレとは「少なくとも2年間の継続的な物価下落」をしている状態だと定義しています。
【やすお】さきほど、永濱先生が「インフレーションよりも、スタグフレーションよりも、デフレは悪い」とおっしゃった理由はなんですか?
【永濱】これが持続すると「デフレスパイラル」に陥るからです。
【やすお】デフレスパイラル。なんか、飲み込まれそう。
【永濱】そうです。まさに「アリ地獄」ですね。先ほどの良いインフレ(ディマンドプルインフレ)の逆の状態が起こります。そもそもデフレは、景気が悪く、需要が少ないので、値段を下げないとモノが売れなくなることから起こります。すると、企業は商品やサービスの販売価格を下げざるを得ません。
【やすお】消費者の立場から見ると、価格が下がるのは嬉しいですけどね。企業から見ると、儲けが減っちゃって困るよな...。
【永濱】企業が十分な利益を得られなくなりますからね。すると、そこで働いている人の給料も減らされることになります。給料が減れば、購買力が下がるので、モノが買いにくくなります。
すると世の中全体の需要が落ち込むので、さらに企業は値段を下げざるを得ない...。このような悪循環が起こるわけです。これがまさにデフレスパイラルです(図3-3)。
【やすお】そのデフレスパイラルに日本は陥っているわけですね。
【永濱】はい。90 年代後半以降はずっとデフレですね。ではなぜデフレが最悪かというと、個人も企業も合理的な行動を選択すると、より景気が悪くなるからです。
【やすお】合理的な行動を取ると、景気が悪くなる? それって、本当に合理的なんですか? 結果的に損してるじゃないですか。
【永濱】デフレは持続的に物価が下がる、という話をしましたね。そうなると、消費者が合理的に行動するとしたら、どうしたらいいと思いますか?
【やすお】そうですね...。今後、物価が下がるなら、いま買ったら損するかもしれないですね。
【永濱】それです。できるだけ購入を我慢したら安く買えるわけだから、合理的に行動すると、みんなあまり買い物しなくなるのです。するとモノやサービスが売れないから、企業が儲からないので、給料が減る。すると買い控える。このデフレスパイラルが止まらなくなるのです。
【やすお】ううう。
【永濱】その結果、30年間は経済がほとんど成長しなくて賃金も上がっていない。こんな国は日本だけ。これがまさにデフレスパイラルのもたらした弊害です。
なぜ、日本はデフレを放置したのか?
【やすお】デフレスパイラルは困った問題ですが、そもそもなぜそうなってしまったのか。
【永濱】90年代後半以降、20年近くデフレを放置してきたからです。こんなに長期間デフレを放置してしまった国は、過去を振り返ってもありません。
【やすお】なんで放置しちゃったんだよ! なんとかしようよ!!
【永濱】一言でいえば、対応を誤ったからです。そもそもバブルが崩壊するきっかけは、1989 年の年末に3万8000円台まで上昇した日経平均をはじめとした株価が暴落したことです。
ここで上手に対応すれば、ここまでひどいデフレにはならなかったのですが...。このとき、不動産の総量規制と利上げを一緒に行ったのが大きな影響をもたらしました。
【やすお】不動産の総量規制?
【永濱】不動産バブルによる異常な地価高騰を抑えるために、国は金融機関が行う不動産向け融資を規制したのです。1990年3月に実施されました。
その結果、金融機関がこれまで不動産融資をしていた企業に対して、融資の凍結や打ち切りなどを行うようになりました。これにより、不動産投資家は得られる予定の融資が得られなくなり、資金がショートしました。その結果、不動産バブルが崩壊してしまったのです。
【やすお】規制する必要はあったんですかね...?
【永濱】異常な不動産バブルを抑えるためには、総量規制は仕方ない面もありました。しかし、影響を大きくしてしまったのは、総量規制に加えて利上げをしたことです。金利を上げることで、世の中に出回るお金を減らして、経済の過熱を抑えようとしたのですね。
具体的には1989年5月に公定歩合を2.50%から3.25%へと引き上げ、10 月には3.75%に引き上げました。12月に日本銀行総裁が三重野康氏に交代すると、さらに引き締めるようになり、就任直後に公定歩合を4.25%に引き上げ、1990年3月に5.25%、8月に6%とものすごい勢いで引き上げを続けました。
【やすお】1年とちょっとで、3.5%上昇! けっこうすごいペースですよね!?
【永濱】ものすごいペースですよ。今の日本じゃ考えられません。景気が悪くなりつつあるなかで利上げをしたら、景気がますます悪くなってしまいます。この利上げによって、国は景気の息の根を完全に止めてしまいました。
【やすお】あちゃー。
【永濱】さらに悪かったのは、アベノミクスが始まるまでデフレを放置してしまったことです。日銀も、バブル崩壊後の景気悪化に危機感を覚え、1991年7月以降は公定歩合を引き下げ、つまり金融緩和に転じました。
91年7月に6.0%から0.5%引き下げると、数カ月おきに0.5〜0.75%ずつ引き下げ、93年2月の第6次引き下げによって、引き上げ前の水準である2.5%にまで下がりました。その後も利下げを続け、99年2月にはゼロ金利に達しました。しかし、これでは「too little, too late」でした。
【やすお】トウーリトル、トウ...?
【永濱】要は、金融緩和の規模が小さすぎたし、タイミングも遅すぎたということです。ゼロ金利に達するまで約8年弱かかっていますからね。
今から振り返ってみるとバブルが崩壊したタイミングで、一気に金利を下げるべきでした。当時はそんな大胆なことをした国はなかったので、仕方がないところもあったのですが...。
景気の低迷によって、企業も消費者もお金を使わないので、物価が上がらず、デフレスパイラルが長く続きました。失われた30年のもとになったわけです。
【やすお】そうだったんですね...。
【永濱】デフレを放置すると取り返しのつかないことになることを、海外諸国はバブル崩壊以降の日本から学びました。それを反面教師に、大胆な金融・財政政策をいろいろやってきたから他国はデフレを逃れているのです。
【やすお】えー、そうなんですか...。
【永濱】たとえば、コロナショック以降にアメリカでインフレが深刻になったのは、経済対策をやり過ぎたことが原因の1つです。しかし、「経済対策が足りずに日本みたいにデフレに陥るくらいなら、やり過ぎたほうがマシ」「デフレ絶対阻止」という考え方があったはずです。
先日ノーベル経済学賞を取ったベン・バーナンキ氏は、FRBの議長のときにリーマンショック後の不況を量的緩和政策によって脱しましたが、これも日本の失敗を研究した成果なのは明らかです。
【やすお】わあ、日本の失敗のおかげでノーベル賞が取れたなんて、喜んでいいのか...。
【永濱】それが理由でノーベル経済学賞を取ったわけではないんですけどね。また、中国も2022年に利下げをしましたが、これも日本を反面教師にしています。今、中国も80年代後半の日本と同様に不動産バブルの状況で、不動産の融資規制をしています。
もっとも、2022年以降は市場の急激な冷え込みを受けて、緩和しているようですが...。日本と大きく違うのは、利上げではなく利下げをして、金融緩和を行っていることです。
日本のように、不動産の融資規制(総量規制)と利上げ による金融の引き締めの両方を行うと、デフレになって取り返しのつかないことになるので、アメとムチの政策を行っているわけです。
【やすお】完全に反面教師...。授業料くれないかな。
●原材料高騰下、製品値上げ・賃上げの好循環をどう作るか?  1/20
「今が日本再生にかける最後のチャンス」─。日本商工会議所会頭に就任した小林健氏(三菱商事相談役)はこう現状認識を示しながら、”失われた30年”と言われるほどの停滞をなぜ、日本は招いたのかを謙虚に振り返りつつも、「わたしは、まだ日本に余力が残っていると思います」と強調。「やはり、経済を成長させ、国力をつけ、そして次の世代に引き継ぐという使命がわれわれにはある」と日本再生を図る決意。折しも、『新しい資本主義』がいわれ、成長と分配の循環を適正にどう進めていくかという課題がある。コロナ禍とウクライナ危機の中で、原材料・エネルギーコストが高騰し、その分を自らの製品価格に転嫁できないという中小企業の苦しみ。商工会議所は、特に大企業と中小企業の”取引適正化”に努力してきたが、その成果はまだまだというところ。日本の生産性アップのカギを握るのは中小企業。全企業の99%強を占める中小企業の生産性をどう引き上げていくか。日本銀行の金融緩和策終了で”金利引き上げ”の局面を迎え、緊張感も漂う。
日本が停滞したことの責任は経済人にも……
「失われた30年≠ニ言われる停滞からどう抜け出すか。結果的に成長できなかったというのは、わたしも含めた産業界にも責任があると思いますし、政治にも責任があると思います」
日本再生をどう図っていくかという課題を前に、日本商工会議所会頭の小林健氏はこの失われた30年≠招いたことについてこう触れる。
「バブル崩壊後の30年、長く日本は停滞してきました。世界全体を見ても、欧米、中国、あるいは東南アジアを見渡しても、日本は成長の速度が最も遅かったわけです。この間、日本の物価、賃金、生産性は停滞し、デフレマインドが染みついてしまいました。更に新型コロナウイルス感染症によって停滞期間が長引いたわけです」
1990年代初め、バブルがはじけて不良債権が顕在化、金融危機が起こり、アジア通貨危機、そしてリーマン・ショック、さらには東日本大震災と危機が続いた。この間、政治も不安定になり、1年ごとに首相が変わるという混乱も生じた。そうした中で、個々には一生懸命にやってきたのだが、結果的に経済の停滞を招いてしまった。
ここは「謙虚に振り返って、どこに原因があったのかを突き詰める必要がある」と小林氏はしながらも、「日本にまだ余力は残っている」という認識を示す(後のインタビュー欄を参照)。
そして、今が日本の再生にとって、「最後のチャンス」として、「日本再生の最後のチャンスだと思います。経済を成長させ、国力をつけ、もう一度豊かな国にしていく。そして、次の世代に引き継ぐという使命が我々にはある」と小林氏は訴える。
小林氏は2022年11月、第22代の東京商工会議所会頭に就任。3期9年、東商会頭を務めた三村明夫氏(日本製鉄名誉会長)の後を受けての会頭就任。東商会頭は歴代、日本商工会議所会頭を兼任する習わし。
その日本商工会議所は傘下に全国515商工会議所を抱え、会員数は123万社を数える。
中小企業の振興、育成を図るのが商工会議所の役割。日本の企業総数は約360万社。このうちの99%強の約359万社が中小企業という構成である。労働力人口(全体で約6860万人)で言えば、その7割を中小企業で働く人たちが占める。
つまり、日本の生産性を上げられるかどうかは、中小企業の生産性の引き上げ如何にかかっているということ。
小林氏もそうした現状を大前提に、「家族を含めれば、日本の人口の半数以上は中小企業を頼りにして生活している」として、次のように語る。
「やはり、日本の国力をアップするためには産業力の強化が大事であると。日本の企業の99%は中小企業ですから、その方々の生活を向上させないと日本全体の成長もない。そのことを強く強調したいと思います」
全企業の99%強、全労働者数の7割を占める中小企業ということだが、この中小企業の経営にはいろいろな種類、タイプがある。
大企業を中心にしたピラミッドの中に所属する中小企業。これは下請け、孫請けというサプライチェーンの中で活動。他方、独自の技術やサービスを開発し、主体的に動く独立型もある。
そうしたいろいろな種類の中小企業がある中で、中小企業の生産性とは一体何だろう? という小林氏の問題意識。
「中小企業の生産性を考える際、参考となるのは、付加価値に占める人件費の割合、すなわち、労働分配率です。中小企業の労働分配率は75%〜80%で非常に高い。したがって、残りの20%ないし、25%で税金を払い、投資をしているわけです」
小林氏は、賃上げ問題を含めて、いろいろな問題がこの中小企業の労働分配率の高さに関わってくると指摘する(インタビュー欄参照)。
ちなみに、大企業の労働分配率は45%前後。この数字を見ても、賃上げをする余裕が中小企業と比べてあることが分かる。
では、生産性をどうやって引き上げていくか。
大企業も中小企業も日本が相当遅れているのはIT、DX(デジタルトランスフォーメーション)として、小林氏は「まずはDXへの取り組みを通じて生産性を高める。これについては、商工会議所も伴走型で支援していきます」と語る。
DX化は世界的な流れであり、当然これはやるとして、日本の場合は、大企業と中小企業の間の『取引の適正化』問題を抱えているということがある。
この『取引の適正化』問題は、三村前会頭時代も大きなテーマとして取り上げられてきた課題。
大企業と中小企業の間の『取引適正化』問題
小林氏は三菱商事社長時代(2010―2016)に東商副会頭を務めている。この『取引適正化』問題は副会頭時代から腐心しており、次のように述べる。
「高度経済成長の時代は、大企業はコストカットのために、下請け、孫請け企業に相当負担を強いてきました。コストカットが成長の源泉だったのです。生産性向上のためにはコストカットが近道だと考えた企業経営者が多かったのかもしれません」
小林氏は、自分が東商に入って以来、中小企業が大企業のコストカットに追随していく姿を目の当たりにしてきた。
「10年くらい前の円高不況局面でも大企業によるコストカット要請があり、中小企業は相当な努力をして、この要求に応え、日本全体で円高をしのいでいきました。そして、今は逆に円安局面になって、再びコスト負担を押し付けられるのかと、中小企業は非常に辛い思いをしています」(インタビュー欄参照)。
大企業と中小企業間の、この『取引適正化』は、日本の産業構造において相当に根深い問題。
本来、民間同士の取引は自由に任せるのが資本主義の基本である。ところが、現実には大企業の力が相対的に強い。このため、中小企業が大企業に納める製品の価格値上げを訴えようとしても、なかなか通らない。
とりわけ、下請けという関係になると、交渉の場さえないという現実が続く。
今、コロナ禍、ウクライナ危機の影響で、資源・エネルギーや食糧の供給が制約され、世界的にインフレ、物価上昇が進む。原材料コストが上昇し、企業は製品価格にそれを転嫁しようと動く。
この製品値上げは欧米をはじめ、各国で相次ぐ。コスト上昇に伴う製品価格の引き上げという新価格体系の構築ということだが、日本ではそれが一向に進まない。
海外の動きはどうか?
実際、国産の醤油だが、キッコーマンは戦後間もない頃から、海外販売、そして50年前から欧米での生産を開始。今や売上高の7割強を海外で販売し、全利益の4分の3を海外であげている。グローバル企業で、海外では生産コストアップ分を反映した製品値上げをすでに実施済み。
名誉会長の茂木友三郎氏は日本生産性本部会長を務め、日頃、日本の生産性向上に腐心している。その観点で茂木氏が語る。
「値上げが海外はできる。米国も欧州もきちっとできる。コストが上がっている事情をしっかり説明すれば、流通業者も消費者も納得する。コスト上昇があっても、日本はそれに抵抗する。これは日本経済をひん曲げていると思いますね」
産業向けで個人消費関連にもなる段ボールメーカーの首脳は2022年4月に第1回目の値上げ意向を表明、「顧客にもよりますが、大体、半年ぐらいかけて少しずつ浸透していった。まさに2回目をやらなければいけない所に追い込まれていますが、今度は結構抵抗が強くて……」と苦笑する。
顧客の紙卸(問屋)まで値上げの話が浸透したとして、そこから先の飲料メーカーや食品製造会社に卸す段階で抵抗が根強く、実現できないでいる。
物価は上がっているのに、賃金は上がっていないという現実の中で、消費者の抵抗は強く、新価格体系の構築もままならない。
物価は上がっているのに、賃金は上がらないという現実が2022年まで続いた。
『取引適正化』は 賃上げ問題と直結する
賃金を上げて、物価高騰を吸収する経済をどうつくり上げていくか?
賃金引き上げで所得向上を図る。そのことが消費を高めることにもなり、引いては企業間の取引も適正化されることにつながる。結果的に経済全体が上手く循環するということである。
この賃金引き上げは、菅義偉・前首相時代に最低賃金引き上げ≠ニいう形で始まっている。
三村・前東商会頭は、菅内閣の『成長戦略会議』にメンバーとして参加。同会議のメンバーの大半が「賃上げすべき」としたとき、「賃上げは必要だが、中小企業には賃上げ余力が乏しい」と発言。
中小企業の場合、付加価値の80%程度は人件費として支払われているという現実の中で、どう解決策を見出していくか。
元来、付加価値を高めるには、コストダウンという手法と製品価格の引き上げという2つのやり方がある。後者は、原材料価格の引き上げを製品価格に転嫁できるということ。それが全体に浸透していくには、経済合理的な土壌作りが広まる必要がある。
「日本全体が活性化するためには、99・7%を占める中小企業が活性化しないといけない」
小林氏はこう語り、「大企業と中小企業との取引を適正化すること。要するに、サプライチェーン(供給網)全体で利益もコストも適正に分かち合う」という方向でソリューション(解決策)を見出していくことが大事と強調。
大事なのは、『取引適正化』問題は、今の賃上げ問題と直結しているということである。
『取引適正化』を実現していくために、東商はパートナーシップ構築宣言≠すでに行っている。
「『パートナーシップ構築宣言』には国の後押しもあり、宣言企業数は増加しています。すでに1万7千社以上の企業に参加してもらっていて、これはわたしが商工会議所の会頭に就任して、第一に力を入れていこうと。サプライチェーン全体でコストを負担し、利益をシェアしていって、共に成長していこうという考え方が大切です」
大企業と中小企業のパートナーシップの実践である。
デフレ払拭へ「勇気を持って」
失われた30年≠ナデフレマインドが定着。経営資源が投資へ向かわず、内部留保は高まる一方なのに賃金は上がらないというので、全般的に士気が振るわない。
「ええ、日本企業はデフレマインド、あるいはコロナマインドによって、殻の中に閉じこもってジッと耐えることが性になってしまった部分があると思います。ですから、このマインドを勇気をもって払拭していこうということです」
段取りをどう進めるか?
「やはり、大企業も中小企業もそうですが、値上げをする勇気を持とうということです。大企業としても、孫請け、下請けがいなくなってしまったら成り立たない。これは別に我が儘を言っているのではありません。そうしないと、中小企業は倒産してしまうのです」
サプライチェーン内での交渉で解決策を見出す企業もあれば、良質の品やサービスを届けることで消費者に直接、新価格体系を訴えられる中小企業もいる。
こうやって、原材料のコストアップ分を製品価格に反映させ、そして社員の賃金アップにつないでいく。そうやって、経済全体が適正に循環していく仕組みをつくろうということである。
もっとも、日本は同じ業種に多くの企業が参入し、過当競争といわれるぐらいにシノギを削ってきた。
だから、コスト圧迫を受けて、製品価格引き上げという段になっても、「自分だけが値上げをすると、マーケットを失うのではないか……」と不安を抱く。これがデフレマインドにもつながり、結果的に経済の縮小均衡を招くという現実。
「適正利潤を生めない事業は長続きしない」という小林氏の指摘はまさにその通りで、デフレマインドをどう払拭するかという課題。
現状はどうなっているのか? 金利が付く時代≠ヨの転換
「わたしどもの調査によれば、1年前と比較してコスト負担が増加している企業のうち、発注側企業との価格交渉の協議については、7割の企業が話し合いに応じてもらえていると回答しています。しかし、中小企業は千差万別で、苦しい所もあれば、大活躍している所もあります。企業によって自ら変革を行ってきた所と、何も手を打ってこなかった所の差が出てきているのは確かです」と小林氏。
経済原則からいえば、淘汰される所も出てくるが、コロナ禍の間は政府の経営支援の補助金が出たりして、息をつぐことができた所もある。ウィズコロナ政策になった今、ある程度の淘汰は避けられないという現状。
特に、日本銀行が昨年12月20日金融の異次元緩和策≠転換させたこと。長期金利の変動許容幅を0・25%程度から0・5%程度に広げたが、これを市場では、金利が付く時代≠ヨの転換と見ている。
徐々に、今の緩和状態が転換され、金利引き上げの動きが強まった場合、一定の企業選別が出てくる可能性はある。
「コロナ禍では、政府の支援策を活用して何とか倒産を免れた企業も多いと思います。ただし、今後返済が始まり、中には借り換えの必要に迫られる企業も出てきています。しかし、政府は未来永劫、支援し続けてくれるわけではありません。これからはウィズコロナで経済社会を回していく段階になり、中小企業も生き残りをかけた大変な時期になります」と小林氏。
現状は少しずつ動いている。
賃上げができる所と できない所との差
先述の賃上げ問題に関しても、流れが変わり始めている。
賃上げに関しては、有力企業の間で実行する所が出始めた。
日本生命が7%賃上げ、日揮ホールディングスが10%、サントリーホールディングスが6%、アサヒグループホールディングスもそれ相当の賃上げに踏み切るなど、経営者の決断が相次ぐ。
一方で、賃上げまでできない所もある。まさに、今は時代が大きく動こうとする転換期。
この大きな時代の流れをどう捉えるか─。
「わたしのような、いわゆる団塊世代の経営者は、2025年には後期高齢者になります。そうなると、事業承継の問題に直面します。わたしの回りの中小企業の経営者はみな事業承継の問題を抱えています。事業承継というのは、自分の家族が継がない場合、M&A(合併・買収)をするか、廃業するかという選択に迫られます。こうした状況も考慮して、次の段階に発展できる企業はどういう企業かというと、自ら変革出来る企業だと思います」
では、そうした環境下にあって、次のステージに進める企業はどういう所なのか?
「中小企業の場合は、オーナーと従業員の距離がものすごく近いです。そういう意味では、状況に応じて素早く変化する力は十分あるし、やろうと思えばできるんです」
小林氏は出身母体の三菱商事で事業構造改革を体験。この時の構造改革をどう受けとめているのか?
「商社の場合は業態の変革ですね。わたしが中堅社員くらいの頃までは、いわゆる、商事会社というのは、仲介取引、仲介貿易を主としてやっていました」
仲介≠ニいうのがポイント。商流、つまりモノ(商品、貿易材)の流れの袂に立って、タイミングをよく見て、「流れの中からビジネスチャンスをつかむ。それを自分の仕事として収益を上げていく。こういうことをずっとやってきた」と小林氏。
いわば、商流を傍から見ていて、他者の取引を手助けする形。小林氏が部長クラスになった時から、そうした業態からの改革を迫られる。1990年代から2000年初めにかけてである。
時あたかも、バブル経済がはじけ、金融危機が起こり、日本全体が失われた10年≠ニいわれ、現状のままでは事業の持続性が失われるという危機感。
商社はどう業態変革を進めていったのか?
「ビジネスの相手方や他の産業の方々と一緒に商流の中に入って、流れの中からビジネスチャンスをつかんでいく。即ち、事業に投資をして、投資した会社に人を送り、長期的に経営のサポートをして、企業価値を高め、さらには業態転換のお手伝いをするということ。そういう意味では、仲介から経営に舵を切ったと言っていいと思います」(インタビュー欄参照)。
業態は時代の移り変わりで変革させていかないといけないが、企業経営の本質は変わらない。
三菱商事は創業以来、『所期奉公(社会のために)』、『処事光明(何事もオープンに)』、『立業貿易(グローバルな視野で)』を綱領、つまり経営指針にしてきた。
言葉は古いが、今の企業経営に求められるものも同じである。
東京商工会議所の初代会頭・渋沢栄一は明治期、約500の会社を興した。その理念は、社会(国)に貢献し、国民のためになる事業を営むということ。その著『論語と算盤』は企業経営の規範を説いたものとして知られる。
もっと言えば、渋沢は江戸末期から明治維新を経ながら、いくつもの危機や試練をかいくぐってきたということ。「逆境の時こそ、力を合わせて」コトを成していくという生き方であり、働き方であった。
コロナ禍、ウクライナ危機の今、いろいろな危機が訪れる。そして国内では、この10年近く続いた金融緩和の時代が終わり、金利上昇という新しい経済局面を迎えて緊張感も漂う。
経営を担うのは「人」。「人への投資」を含め、大企業と中小企業のパートナーシップで日本再生を図ろう─という小林氏の訴えである。
危機や試練は人を鍛える。
(新しい資本主義)「わたしはアベノミクスからの延長と捉えています。金融緩和と財政出動に次ぐ成長戦略は道半ばにして、菅(義偉)元首相、岸田首相へ引き継がれたということだと思います。菅元首相は自助・共助・公助を強調しました。それが岸田首相になって、成長戦略をより具体化するために新しい資本主義を掲げたということですよね。人への投資、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の4つは、われわれ商工会議所としても必要不可欠なことだと認識していました。新しい資本主義を実現するためにも、ウイズコロナで社会経済活動を正常化することが、一番有効かつ最大の経済対策であると考えています」
(パートナーシップ精神)「サプライチェーン全体で、コストも利益も適正に分かち合っていく。これも新しい資本主義です。なぜならば、取引の適正化を通じて生産性が上がる。要するに、労働分配率が下がって、賃上げの原資が出せるということです。持続的な賃上げが実現できれば、経済が成長して回っていくわけですから、これらは全て繋がっているということです。いま新しい資本主義実現会議で議論しているのは、どこにプライオリティー(優先度)をつけるのかということ。総花的にあれもやる、これもやるでは、なかなかうまくいかない。例えば、スタートアップ企業への支援を考えると、支援してもらう側の人間にどのようなニーズがあり、どのレベルまでスキルを身につけさせるのか。その人間が意欲を持てるような施策とすることが大事だろうと」
(中国との関係)「日本は今でこそ経済大国ですが、戦後は資源もない中で、経済力を高めて生きてきた。貿易をしなければ成り立たない国です。一方、好き嫌いにかかわらず、中国は日本の隣国です。政治的には意見の相違もありますが、中国はとにかく世界一の大きなマーケットで、14億人以上の国民が生活しているわけです。そうなると、日本は中国のマーケットにかかわっていかざるを得ない。経済的に中国を切り離すということは全く考えられません。(今後の関係では)例えば、汎用品をつくっているような所は、中国へ行って地産地消でやるのが一番効率もいいです。しかし、それ以外の半導体やIT技術など、経済安全保障にとって重要なものについては、なるべく早く国としての指針を出していくべきであろうと。ケースによっては、国内回帰が必要ならば、ある程度補助金をつけることも必要だと思います」
(習近平体制)「現地の情報によれば、あれ(白旗を掲げる運動)は暴動ではなく、国民の意思表明の一種だと捉えられているということでした。一部には、中国が民主化に向かっているなどとする見方もあるようですが、それほど単純ではないと思います。なぜ、ああいうことが起こったかというと、人の心の中は支配できないということです。ケ小平氏の改革開放政策以降、共産党政権のもと、ここまで中国が経済成長して、より良い暮らしができるようになった。そのことを国民も理解しているわけです。しかしながら、ゼロコロナ政策によって、心だけでなく、移動などの点で、体も物理的に拘束されるようになってしまった。拘束されるとか、家から出られないというストレスは相当なもので、抗議活動が活発化。そこで、ゼロコロナ政策を緩めなければならないという判断だったのではないでしょうか」  
●国や自治体が打ち出す「少子化対策」をチェック!住む街でこんなに違う!? 1/20
今月4日、岸田首相が「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。同じ日、東京都独自の給付金制度を発表した小池百合子知事。政府と都との間で、先陣を争って“さや当て合戦”の様相になっている。元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんがRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演し、国や自治体の子育て支援策について解説した。
統一地方選を前に、政府・与党に先手を打った?
小池知事って、好き嫌いは別に、世間の風というか世論をつかむことに関しては、ある意味、天才的というか、うまいですよね。マクロミルが行った「2023年・新成人に関する調査」で、新成人が関心のあるニュースの1位は「少子化対策」でしたが、これを予期していたかのように矢継ぎ早に都独自の対策を打ち出して、注目を集めています。
小池知事は首相の年頭会見と同じ日、首相会見の前に「来年1月から、18歳以下の子ども全員に、親の所得制限なく月額5,000円を給付する」と表明して、そのあと岸田首相が言った「異次元の少子化対策に挑戦する」という抽象的な話はすっかり霞みました。
しかも小池知事はその後、この5,000円は1年分の6万円を一括給付すると表明し、さらに2人目の子どもについては、今年10月から2歳までの保育料を無償化すると畳みかけました。
会見に臨んだ報道陣は「区議会議員選挙もある4月の統一地方選を前に、政府・与党に先手を打った」と思ったのでしょう。「国より早く少子化対策をする狙いがあったのか?」という質問が出ました。これに対する知事の切り返しがまた“小池節”です。「そうではなくて、国が遅いだけの話です」と来ました(笑)「国民にささる、そういう政策を掲げ、かつ速やかに実行することが必要だ」とも述べ、首相をはじめ、政府・与党幹部は歯噛みしたでしょうね。
「異次元の少子化対策」首相表明の舞台裏
実は、この舞台裏を垣間見ることができる記事が、毎日新聞デジタルの名物コラム「14色のペン」にあったのでご紹介します。1月17日、くらし医療部・横田愛記者の記事で、タイトルは「霞が関をざわつかせた年頭の首相の一言」です。
何が、霞が関をざわつかせたのか――。先ほど、岸田首相は4日の年頭会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明したと言いましたが、何もメニューを示さなかったわけではなくて、その第一に「児童手当を中心とした経済的支援の強化」を挙げました。
ところが、これが厚生労働省をはじめとする霞が関の官僚たちには寝耳に水、想定外だったんです。記事には「テレビ中継でこの発言を聞いた事務方幹部は『びっくりした』と目を丸くし、別の政府関係者は『迷走している』と吐露した」とあります。
岸田政権の少子化対策はこれまで「全世代型社会保障構築会議」で議論を重ね、2022年末に公表された報告書で優先課題とされたのは、生まれてから2歳までの支援拡充や、育休を希望する自営業者・フリーランス向けの給付創設などでした。それが、年頭会見でいきなり、児童手当の拡充が最優先になったわけです。小池発言があったからかどうかは分かりませんが、「報告書のメニューでは地味だ」という官邸の判断だったようです。
まあ、有識者の意見は意見として政治判断することは、あっていいと思います。ただ、この件に関していえば、児童手当の拡充を後回しにせざるを得ない事情がありました。「財源」です。
児童手当は中学生までの子どもに1人あたり月5,000円〜1万5,000円を支給するもので、2022年度の給付総額はおよそ2兆円。国と地方、事業主などが負担し、国の負担分だけでおよそ1兆1,000億円です。拡充となればさらに兆単位の財源が必要で、防衛費増額の財源もままならない中、見通しは立っていません。首相は否定しましたが、自民党の甘利前幹事長は消費増税の可能性に言及して、野党の反発を招きました。それくらい難しい話なんです。
また、横田記者は「そもそも自民党は、所得制限なくすべての子どもに現金を給付するとした旧民主党の『子ども手当』を真っ向から批判し、撤回させた政党」ではなかったか、と、その厚顔ぶりにも驚きます。だって、子ども手当撤回に際して自民党は「民主党の『子どもは社会で育てる』というイデオロギーを撤回させ、第一義的に子どもは家庭が育て、足らざる部分を社会がサポートする、という我が党のかねてからの主張が実現した」と、自慢していたのですから。凄い“宗旨替え”ですよね(笑)財源も含めて、首相がどういう説明をするのか、国会論議を見守りたいと思います。
こんなに違う保育料! 首都圏での子育て支援格差
一方、小池知事の少子化対策は、子育て世代にも大きな波紋を広げています。首都圏での子育て支援格差です。
実はそもそも、財政が豊かな東京都の子育て支援は充実しています。例えば医療費は23区全てで、所得制限なしに中学卒業まで無料。千代田区や武蔵野市などはさらに高校生まで無料で、今年4月からは都内全域で高校生まで無料になる方向です。認可保育園の保育料も、全国水準に比べて安く、首都圏で比べると特にそうです。
保育料は2019年に始まった「幼保無償化」で3歳から5歳は無料ですが、0歳から2歳は有料です。この額、自治体によってかなり開きがあって、保育園を考える親の会が発行する「100都市保育力充実度チェック 2022年度版」によると、都内で一番保育料が安い渋谷区は、モデル世帯で月額8,850円。23区内は最高でも3万2,500円で、ほとんどが1、2万円台です。
一方、横浜市は同じ比較で月額3万8,000円、さいたま市は4万4,000円ですから、ただでさえ差があるのに、さらに2人目は東京ならタダ。そのうえ月5,000円の給付もあるとなれば、「東京へ引っ越したい」という声が上がるのも、もっともです。だって、家賃が上がっても、その分ある程度は吸収できますから。
ちなみに、この「100都市保育力充実度チェック」によると、全国主要都市の0〜2歳児の保育料は、安い順に名古屋市29,400円、堺市3万円、札幌市3万250円などで、残念ながら福岡市は3万9,300円、北九州市は3万9,900円と、高い方にランクされています。
ただ、保育園の入りやすさ=入園希望者が実際に入れた割合=で言えば、福岡市は主要都市で2番目に高い93.4%です。先ほど、保育料が都内一安いと紹介した渋谷区は73.9%ですから、いくら安くても入れなければ意味はないわけで、子育てのしやすさは、もちろん一つの指標だけで決まるものではありません。
それでも、支援策に関して「格差」があるのは事実で、国が一律で拡充しない限り、自治体間の格差はさらに広がると考えられます。若い世代の定着や流入を増やすための競争ともいえるもので、東京都が子育て支援を充実する背景にも、コロナ禍のリモート勤務などで住環境の良い周辺部や地方に人口が流出したことがあると考えられます。
各地の支援策や政治家の声をチェック
折しも、間もなく引っ越しシーズン。これから結婚や出産を考えている方や、子育て中の方はぜひ、候補地の子育て支援策も比べて探すことをお勧めします。特に、東京や大阪など大都市圏に就職したり転勤したりする方は、市や区をまたぐだけでずいぶん違うので、必須です。私が今回、データを引用させてもらった「100都市保育力充実度チェック」を参考にしてください。
今年は統一地方選の年。そこに向けて各党・候補はおそらくこぞって子育て支援の拡充を打ち出すでしょうが、言うのは簡単、でも実現は財源問題などで厳しいのが現実でもあります。さて、どうするんでしょう? まずは国会で与野党が示すメニューに注目しています。

 

●防衛力増強には結局「消費税増税」しか道はない  1/21
岸田首相が「防衛力の増強」と「異次元の少子化対策」を打ち出しました。いずれも兆円単位の巨額の予算が必要で、財源の確保が課題になっています。
防衛費増額の財源として、政府は法人税・タバコ税などの増税を閣議決定しました。加えて国有財産の売却益、剰余金の活用などが財源になっています。少子化対策については、自民党の甘利明前幹事長が消費税増税に言及しました。他にもいろいろな財源が取りざたされ、さながら宝探しの様相です。
財政難の日本で、いろいろな財源を探すのは当然のこと。ただ、防衛力増強も少子化対策も国家の大計なので、「安定した大きな柱がなくて大丈夫なのか?」という疑問・不安が湧いてきます。
柱となる財源の候補は、1歳出削減、2国債発行、3増税の3つです。各種世論調査によると、国民の希望は高い方から1→2→3で、政府とは真逆のようです。今回は、この3つのうちどれが適切なのか、順を追って考えてみましょう。
歳出削減は必要だが、財源にはならない
まず1つ目の歳出削減。財源の議論で真っ先にやり玉に挙がるのが、「税金の無駄遣い」です。とくに、ガーシー参議院議員の一件もあって、「国会議員の報酬を減らせ」「そもそも国会議員を減らせ」という国民の批判が噴出しています。
困難を伴う大きな改革を進めるには、国民の理解を得ることが大切。そのためには、まず政治家が率先して範を示すべきで、議員報酬と(公約である)議員定数の削減が喫緊の課題です。
ただ、国会議員1人当たりの報酬は、文通費や公設秘書の報酬などを含めて年間7500万円くらい。衆参合わせても713人分の総報酬は500億円あまりにすぎません。地方議員を含めてゼロまで減らしたとしても、「焼け石に水」です。
主たる財源にするなら、やはり予算規模が大きいものがターゲットになります。2023年度当初予算案の一般会計歳出総額114兆3812億円のうち最大は、社会保障関係費36兆8889億円です。
日本では、2040年代後半まで高齢者が増え続けるので、医療・介護などの社会保障関係費はどんどん膨らみます。こうした中、逆に社会保障関係費を削減するというのは高齢者や病人の切り捨てを意味し、国民の猛反発が必至。実現は到底不可能でしょう。
社会保障関係費は、削減するどころか、大きく増やさないのが精一杯。2番目に予算規模が大きい国債費も同様で、歳出削減は主たる財源として期待できません。国が歳出削減に努めるのは大切ですが、財源の問題とは分けて考える必要があります。
国債発行は安定財源として不適切
2つ目の主たる財源の候補が、国債発行です。国債を新規に発行するのがオーソドックスな方法ですが、それに加えて最近、「60年償還ルール」の見直しという方法が議論されています。
「60年償還ルール」とは、期限を迎えた国債の一部を新たに発行する借換債と現金による払い戻しを組み合わせ、発行60年後までに完済するという財政運営ルールです。この償還年数を60年から80年などに延長すれば、年ごとの償還費用を減らすことができます。
ただし、償還費用の減少で一般会計の赤字国債は減りますが、その分、特別会計の借換債が増えます。つまり、政府全体で見ると、償還年数を延長しても収入が増えるわけではなく、実質的には財源になりません。
日本では1990年代以降、国債発行で財政出動を繰り返してきたことから、防衛力増強・少子化対策でも国債発行を財源にしようという意見があります。国債発行は財源の3つの候補の中で実行は最も容易ですが、財源として適切でしょうか。
日本の国債残高は1029兆円(2022年末)で、地方債なども合わせた国の借金はGDPの2.6倍に達し、主要国で最も高い水準です。IMFなど国際機関・アメリカ系格付け会社・海外投資家などが日本の財政の持続性に懸念を表明している通り、安定性が課題です。
海外からの懸念に対し、「日本国内で国債を消化できているのだから、外国人が何を言おうと関係ない」という反論をよく耳にします。しかし、この反論は日本国債の置かれた厳しい現実から目を背けているのではないでしょうか。
今でも、低金利で魅力に欠ける日本国債の買い手の主体は日銀という状態です。今後、高齢化で高齢者が預金を取り崩すようになったら、外国人投資家に買ってもらう必要が出てきます。今日本国内で消化できているから将来も大丈夫だと考えるのは、楽観的すぎます。
もちろん、他の財源がどうしても見つからない場合の最終手段や一時的に財源が不足する場合の緊急措置として、国債発行は必要です。したがって、「国債発行はまかりならん」ということではありませんが、主たる財源に据えるのは不適切です。
消費税の増税がベスト
歳出削減も国債発行も財源として不適切となると、3つ目の増税がクローズアップされます。税収規模が大きい法人税や消費税の増税が候補になりますが、どちらが適切でしょうか。
岸田首相が決めた法人税の増税には、大きな問題があります。1法人税は税収が景気などに左右される、2日本の法人税率は国際的に見て高水準で、増税は企業の競争力に悪影響を与え、企業の海外移転を加速させる。
また、日本では赤字法人の割合が65.4%(国税庁、2019年度)に上ります。少子化対策も防衛力増強も国民全体に関わることなので、法人税を支払っている一部の優良法人に負担させるのは、課税の公平性という点でも疑問です。
その点、消費税は、税収が景気に左右されにくく、税率も国際的に見て低く、国民に広く薄く負担を求めるという点で、安定財源として合理的です。増税するなら、法人税よりも消費税です。
ここで消費税増税には、「GDPの半分以上を占める個人消費を冷やし、経済に大きな打撃を与える。増税で経済が崩壊したら元も子もない」という強い批判があります。
たしかに、消費税増税は、短期的には経済成長率を下押しします。しかし、長期的には経済成長率に与える影響は軽微であることが、経済学の研究で明らかになっています。「そんなバカな」と思うかもしれませんが、日本よりはるかに消費税率が高い諸外国の経済成長率を見てください。
以上から、消費税増税を財源の中心に据えるのが、最も合理的です。防衛力増強も少子化対策も、一刻を争う課題。「やらない」という選択をしないなら、いかに消費税増税を円滑に進めるか、早急に議論する必要があります。
結局、増税は立ち消えか
では、向こう数年のうちに、消費税増税は実施されるのでしょうか。自民党内外で「増税するなら国民に信を問うべき」と言われる通り、カギを握るのは国民の世論です。
昭和の時代から「消費税に関わると選挙に負ける」と言われ、消費税は歴代政権を悩ます鬼門とされてきました。逆に、土井たか子社会党党首が消費税について「ダメなものはダメ」と言い放ち、国民の圧倒的な支持を集めました。
岸田首相は、法人税増税の先に消費税増税を視野に入れているようです。しかし、今後、世論の風向きが悪くなったら、政権を維持するために方針転換するでしょう。筆者は次のような展開を予想します。
国民の「増税はまっぴらごめん」「今はコロナ禍とインフレで緊急事態。増税するとしても今じゃない」という声に押されて、岸田首相は法人税の増税を「当面見送り」、そして「経過的な措置」として国債発行で賄う。数年後コロナが終息するが、すでに岸田首相は政権の座になく、消費税も含めて増税の話はすべて立ち消えになっている……。
ということで、消費税はもちろん法人税の増税も実現せず、国債発行が主たる財源になるでしょう。増税が回避されて、国民は「やれやれ」と胸をなでおろすわけですが、それが本当に国民・国家にとって良いことなのでしょうか。冷静に議論を深めたいものです。
●コロナ「5類移行」をここまで引っ張らせた真犯人 1/21
私は、毎朝、全国紙5紙と神戸新聞・東京新聞・福島民友など自らが関係する地域の地方紙、さらにいくつかの海外媒体に目を通すことにしている。
1月19日、毎日新聞以外の全国紙は、一面で感染症法上のコロナの扱いに関する記事を掲載した。毎日新聞も翌20日の一面で、この件に関する記事を報じた。朝日新聞の「コロナ5類緩和検討」から産経新聞の「コロナ『5類』4月移行」まで、論調に若干の差があるものの、全紙が一斉に報じるのだから、官邸が強い意志でコロナを2類相当から5類へ変更しようとしていることが分かる。
そして、翌20日の午前、岸田総理は、加藤厚労大臣に今春を目処に5類に変更することを指示し、ようやく、5類変更のプロセスが始まった。
専門家は2類への留め置きを求める
これまで、官邸は何度も2類から5類への見直しを提起してきた。その度に、専門家たちが、危険性を指摘し、2類に留め置くように求めてきた。たとえば西浦博・京都大学教授は、最近も「社会全体で緩和に伴う自由を手に入れることは、ヨーロッパの規模の感染や死亡を受け入れることにも通じるものです」(「8割おじさんはもう卒業」 新型コロナ第8波に向けて西浦博さんが訴えたい3つの対策/バズフィード、11月10日配信)と語っているし1月11日、厚労省の専門家組織「アドバイザリーボード」は、5類への変更に対し、「必要な準備を進めながら段階的に移行すべきだ」という声明を発表している。
いまや普通の風邪に近いコロナを、強毒性の鳥インフルエンザと同列の2類として扱うのは異様だ。そんなことをしている先進国はない。なぜ、彼らは5類変更に反対し、2類にこだわるのだろうか。それは、2類であることが、厚労省が保健所を介して医療現場に介入できる法的根拠だからだ。医療機関に対して、検査や治療を指示し、感染者の情報の提供を求めることができるのは、この感染症が、感染症法の2類相当とされているからだ。
感染症法の2類相当は金にもなる。病床確保名目などで、さまざまな予算が措置されるからだ。表は昨年8月段階の首都圏、関西圏の主要病院、および厚労省管轄の独立行政法人のコロナ患者受入状況、および補助金の受入額をまとめたものだ。
特に酷いのが、厚労省管轄の3つの独立行政法人だ。第7波の真っ最中であるにも関わらず、国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)、国立国際医療研究センターの即応病床あたりの受け入れ割合は65%、72%、42%に過ぎなかった。一方、2021年に受け取った補助金は1272億円(2019年比2803%)、556億円(同4279%)、45億円(同675%)だ。他の大学病院の受け入れとはレベルが違う。コロナが5類に変更されれば、このような「旨味」は全てなくなる。
コロナ対策の法的根拠は感染症法だ。日本のコロナ対策を論ずるなら、この法律を理解することが大切だ。
感染症法の強烈な権限
感染症法の雛形は、明治時代に確立された。基本的な枠組みは、国家の防疫のために、感染者・家族・周囲の人を強制隔離することだ。殺人犯でも、現行犯以外は、警察が逮捕するには裁判所の許可が必要だ。
ところが、感染症法では、実質的に保健所長の判断で感染者を強制隔離できる。基本的人権などどうでもいい。戦前、感染症対策は、内務省衛生警察が担当していた。当時の雰囲気がご理解いただけるだろう。戦後、感染症法は廃止し、基本的人権を保障した形で、新しく立法すべきだった。ところが、感染症法の雛形は、そのまま生き残った。
この結果、現行の感染症法は、エボラ出血熱や鳥インフルエンザのような強毒な病原体が侵入した非常事態に対応すべく、厚労省などの関係者に強い権限を与えている。いわば戒厳令のような存在だ。
権力者がいったん強い権限を得たら、自らは、なかなかその権限を手放したがらない。メディアを含め、そのおこぼれにあずかる人たちが、彼らを擁護する。戦争はいったん始めれば、なかなか終われないし、戒厳令はいったん出せば、容易には解除できない。
感染症法は、厚労省健康局結核感染症課が所管する。局長、課長ポストは医系技官の指定席だ。だからこそ、医系技官とその周囲の公衆衛生や感染症を専門とする医師たちが、前述したようにさまざまな理屈をつけて抵抗した。
余談だが、隔離一辺倒の公衆衛生は、世界標準ではない。世界の公衆衛生の雛形は、19世紀のイギリスで生まれた。産業革命で都市に人口が流入し、コレラが流行した。これを克服したのは、資本家階級による上下水道の整備だった。イノベーションが感染症を抑制したのだ。成功体験は引き継がれる。今回のコロナでも、民間企業が開発したmRNAワクチン、大規模検査、遠隔診療、デジタル医療が、コロナ克服に大きな役割を果たした。
隔離一辺倒の政策で日本に起きたこと
幕末の開国で、日本にも感染症が流入する。残念なことに、当時の日本には、イギリスのような資本家階級は存在しなかった。当時、できたのは、国家による強制隔離だった。その影響が、感染症法という形で今も残っている。検査やワクチンが発達した現在、このような隔離一辺倒の対応は合理的でない。感染者をスティグマとし、差別を生む。また、国民に過剰な恐怖心を植え付け、国民に負の影響を与える。
現に、隔離一辺倒の政策が、今回のコロナパンデミックで、日本国民に甚大な被害をもたらした。それはコロナ以外の理由での死亡の急増だ。昨年3月、ワシントン大学がイギリス『ランセット』誌に発表した研究によれば、日本の超過死亡数は、コロナ死亡数の約6倍だ。普通は0.5〜2倍の間で、日本の超過死亡は先進国で最大だ。
なぜ、死亡が増えたのだろうか。医療ガバナンス研究所の山下えりかは、厚労省の「人口動態統計」を用いて、2019年と2021年の死因の変化を調べた。
驚くべきことに、2019年と比べて、2021年に人口10万人あたりの死亡数が最も増えたのは老衰(25人増、25%増)だった。次いで、コロナ(14人増)、誤嚥性肺炎(7人増、23%増)、心疾患(6人増、3.4%)、悪性新生物(4人増、1.3%増)、アルツハイマー病(2人増、10.8%増)と続く。逆に肺炎(18人減、23%減)、脳血管疾患(2人減、1.8%減)、不慮の事故(1人減、2.1%減)は減っていた。感染症対策や自粛が影響しているのだろう。
国民に過剰な自粛をさせた結果
老衰、誤嚥性肺炎、アルツハイマー病は、老化による身体や認知機能の低下が原因だ。自粛による運動不足や、社会的な孤立が影響したと考えるのが自然だ。これは前述したように、隔離一辺倒の感染症法が、国民に過剰な恐怖心を植え付け、国民を過剰に自粛させたためだ。
いまだに専門家は、自らの誤りを認めていない。彼らにとっての関心は、国民の命より、コロナ感染者数と言っていい。ただ、これは、国家の防疫を何よりも優先する感染症法の主旨に合致している。
今こそ、感染症法は、根本から見直さなければならない。国家権力が国民を統制するのではなく、国民は医療・検査を受ける権利があると保障すること、さらに「戒厳令化」する2類認定のストップ・ルールを明確化することだ。国民が中心となり、技術官僚や専門家が暴走できない枠組み、つまりシビリアンコントロールの体制を整備しなければならない。
●通常国会開会へ 「言論の府」存在問われる 1/21
突っ込みどころ満載の通常国会が23日に開会する。岸田文雄首相が日本の針路に関わる重大な政策の「大転換」を相次いで打ち出したからだ。国会は存在意義が問われる正念場にあることを自覚し、時の政府の行政執行をしっかりと監視した上で、修正すべきは修正させなければならない。
最大の焦点は、中国や北朝鮮など厳しさが増す安全保障環境に対処するとして2023年度から5年間で約43兆円を当てる防衛力整備計画と、その財源確保に向けた増税の是非だ。23年度予算案にも反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有するための米国製巡航ミサイルの取得費が含まれている。
首相が防衛費の大幅増額や1兆円強を増税で賄う考えを表明したのは先の臨時国会が最終盤に入ってからだ。しかも、自民、公明両党の与党協議を経た最終決定は閉会後の昨年12月半ばだった。国権の最高機関である国会の関与が全くないまま、大転換の方針が決まっていった経緯がある。
加えて、首相はこうした方針を欧米の首脳との会談で「国際公約」ともいえる支持取り付けを図り、既成事実化を図った。「言論の府」をおとしめたといっても過言ではないだろう。与党が予算案や関連法案の国会審議を拙速に進めることはあってはならないし、与野党は国民の判断材料となるような熟議を政府との間で尽くすべきだ。
とりわけ、反撃能力の保有は先の大戦の反省を踏まえた専守防衛の理念から逸脱し、軍拡競争に陥る恐れも否めない。防衛増税にしても共同通信社の世論調査で6割強が「支持しない」と答えている。法人税や復興特別所得税の増税方針は政府が呼びかける賃上げや物価高に苦しむ家計に逆行するものではないか。
原子力政策の転換もしかり。首相は昨年8月に原発の活用方針の検討を指示したが、議論は主に政府内で進行。運転期間の延長や次世代型原発への建て替え方針を決定したのは国会閉会中の12月下旬だ。長年建て替えを求めてきた福井県内の立地自治体でも唐突な受け止めが少なからずあったようだ。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機などが背景にあるが、状況が変われば再び翻意することはないのか、踏み込んだ国会質疑を求めたい。
首相が施策内容や財源も曖昧なまま打ち出した「異次元の少子化対策」、2年前に一度は廃案になった入管難民法改正案、閣僚が相次いで更迭された「政治とカネ」の問題、国会議員に月100万円が支給される旧文通費の使途公表など、課題は山積みだ。国会を再生できるかどうかの瀬戸際にあることを与野党とも肝に銘じ、実りある論戦を展開する必要があろう。
●自民、巨額財源で対立先鋭化も 少子化・防衛巡る議論スタート 1/21
自民党は19日、国民の税負担を左右する二つの党内論議をスタートさせた。政府の議論着手に合わせ、「こども・若者」輝く未来創造本部で少子化対策の検討を開始。防衛費増額に向けた増税以外の財源確保策を検討する特命委員会の初会合も開いた。次期衆院選などを見据え、巨額財源を巡る財政規律派と積極財政派の対立が激化しそうだ。
財源後回し
「まずは一つ一つの政策を積み上げる」。茂木敏充幹事長は19日、党本部で開かれた少子化対策を巡る本部の会合でこう表明。会合では少子化対策の中身の議論を先行させ、財源論は4月以降に後回しにすることが了承されたという。
昨年7月から休眠していた本部が再開したのは岸田文雄首相が4日の年頭記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と打ち上げたのがきっかけだ。首相は6月までに「子ども予算倍増」の大枠を示す意向で、3月末までに具体策のたたき台をまとめるよう指示した。
もっとも、首相が周到に準備していた形跡はない。霞が関には「寝耳に水だ」との声が広がる。関係者によると、支持率低迷を受けて「反転攻勢の起爆剤に」と付け焼き刃で発言した側面が強い。
財源論議も手つかずだ。政府・与党は防衛費増額を巡る昨年末の議論で1兆円強の増税方針を決めたばかりで、党内からは「もう増税の余地はない」(中堅)との声も漏れる。党関係者は「国民が確かに異次元だと納得する少子化対策を打ち出した後でなければ、財源論には入れない」と語った。
議論蒸し返し
増税慎重論の背景にあるのは岸田政権への逆風だ。19日発表の時事通信の世論調査で内閣支持率が過去最低の26.5%に落ち込むと、党幹部は「増税論の影響だろう」と断じた。
4月には統一地方選と衆院補欠選挙が控える。10月には衆院議員任期の折り返しも迫り、増税慎重論が勢いを増すとの見方が強い。若手の一人は「選挙前に増税論議なんていいかげんにしてほしい」と吐き捨てる。
19日に開かれた特命委の初会合でも、積極財政派から「防衛費増額の財源は工夫して見つけるべきだ」などと、政府が否定的な国債償還ルール見直しを求める声が続出した。
防衛費増額のため2027年度以降に毎年必要となる約4兆円を巡っては、1兆円強を増税、約3兆円を増税以外の財源で賄うことが昨年末に決まった。しかし、複数の出席者から「増税すべきではない」「3兆円の上積みで増税幅圧縮を」などと議論を蒸し返す声が出た。
関係者によると、萩生田光一政調会長は会合の最後で「昨年末に固まった大前提は崩さない」とクギを刺したが、防衛増税への反対論が息を吹き返す可能性も否定できない。
「増税内閣VS野党」
「ダブル増税」の可能性に野党は勢いづく。増税を争点に選挙に臨めば、野党に有利とみるからだ。野党6党1会派は17日、「安易な増税路線」への反対を確認。立憲民主党は「岸田増税内閣対野党だ」(安住淳国対委員長)と息巻く。
立民は19日、少子化対策に関するヒアリングを国会内で開催。「何が異次元の対策か」「消費税増税が財源か」などと政府側を追及した。共産党の小池晃書記局長は取材に「今必要なのは国民に信を問うことだ」と衆院解散を迫った。
●日本・中国・韓国が深刻な少子化、もう「国家存続の危機」レベル 1/21
近年、日本だけでなく東アジア諸国でも少子化が深刻になっており、その対策が重要な政治課題として議論されている。
日本では、岸田文雄首相が、年頭の記者会見で「異次元の」少子化対策に挑戦すると表明した。この首相会見の3時間前には、小池百合子都知事が「チルドレンファースト」社会の実現を目指すとして、2023年度から所得制限を設けずに、0歳から18歳の子どもに、1カ月5000円の給付を行うことを華々しく打ち出した。
子どもを産まない社会は、日本だけではなく、お隣の中国も韓国も同じである。
中国、61年ぶりに人口が減少
1月17日、中国国家統計局は、2022年末の中国の人口が、2021年比で85万人減少し、14億1175万人だったと発表した。これで、人口世界一はインドとなるようである。
中国の人口減少は、1961年以来、実に61年ぶりのことである。出生数は前年比106万人減の956万人で、6年連続の減少である。人口1000人当たりの出生率は過去最低の6.77人であった。
65歳以上の人口は2億978万人、総人口に占める割合は14.9%で、2021年の14.2%から増えている。まさに少子高齢化社会の到来である。
新型コロナウイルスが流行する前、私は毎年、中国の大学に招かれて講演してきたが、私が厚生労働大臣だったこともあって、講演テーマについてのリクエストは少子高齢化問題がいつもトップであった。日本の介護保険制度などについて解説し、官民で協力して高齢者の介護に当たっている現状を説明したものである。
2019年に、中国社会科学院は、中国の人口がピークに達するのが2029年で、2030年から減少に転じるという予測を出していたが、その予測よりも8年も早く人口減少の波が押し寄せてきたのである。
1960年代以降に人口が爆発的に増加する状況に鑑み、中国政府は、1979年に「一人っ子政策」を開始した。この政策の効果も出てきたため、2015年末にはこの人口抑制策を廃止し、2016年からは2人目、2021年からは3人目を解禁している。しかし、一人っ子政策を止めても人口は増えず、逆に減っているのである。
中国では1963年〜1975年には毎年2000万人以上が誕生していた。いわゆるベビーブーム世代である。1963年生まれは、今年60歳の定年退職を迎え、これから10年で2億3400万人が退職する。ところが、労働市場に参入する若年人口は1億6600万人で、日本経済新聞の試算によると、今後10年で生産年齢は6700万人(9%)減少する。
この働き手の減少は、中国の経済成長を支えてきた柱の1つが崩壊することになる。それは、世界経済にも大きなインパクトを与える。
中国経済も失速
中国の昨年のGDP伸び率は3.0%で、これは政府目標の5.5%よりも低い。ウクライナ戦争の影響で世界的にインフレが起こり、経済成長を減速させたことが響いている。また、ゼロコロナ政策によって上海などで都市封鎖が続いたことがこの事態を招いている。この中国の低成長は、世界経済に大きなマイナスとなっている。
それに、先述した人口減少が今後とも成長の阻害要因となると考えらえる。今でも厳しい状況にある不動産不況も、人口減少でマンション購入者が減り、さらに加速化されそうである。不動産を購入する若い世代の人口が増えないからである。
しかも、昨年12月になって、習近平政権は突然ゼロコロナ政策を止めることを決めたのである。それは、11月26、27日の週末、ゼロコロナ政策に反対するデモが全国で起こり、習近平や中国共産党の退陣を叫ぶ声まで上がったからである。
この政策転換によって、コロナ感染が爆発的に増え、12月だけで人口の2割に当たる2億〜3億の人が感染したと推計されている。この感染拡大は個人消費を冷やし、生産も減速させる。12月の失業率は5.5%で、16〜24歳の若者だと16.7%の高さである。春節で多くの人が帰郷するなど移動するため、大都市から地方に感染が広まるのではないかと懸念されている。
コロナが終息すれば、一気に景気が良くなる可能性はあるが、毒性の強い新たな変異株が出現すれば、また3年前の武漢に戻ってしまう。まだ不安定要因は多々あると見なければならないであろう。
少子化は東アジアのアキレス腱
岸田政権もまた、少子化対策を重要政策として掲げている。さらには、韓国、台湾、香港、マカオ、シンガポールといったアジアの国や地域もまた少子化の問題に直面している。
2020年の合計特殊出生率は、日本が1.34、中国が1.28、韓国が0.84、台湾が1.07、香港が0.87、マカオが1.07である。とくに韓国の合計特殊出生率は世界最低である。テスラCEOのイーロン・マスクが、昨年5月に「出生率が変わらなければ、3世代のうちに韓国の人口は現在の6%になり、大部分が60代以上の高齢者になるだろう」とツイートして話題になったことは記憶に新しい。韓国の2021年の合計特殊出生率は0.81まで下がっている。
日本について詳しく見ると、日本の出生数は、終戦直後のベビーブームのときが約270万人(1949年)、第2次ベビーブームのときが約200万人(1973年)と多かった。ところが、2021年が約81万人、2022年が約77万人(推計)と減少しているのであり、この減少傾向は今後も続くと見られている。
では、なぜ日本、中国、韓国、台湾などで少子化が進むのか。様々な要因があるし、国によって特有の事情もあるが、最大の問題は子育てにおカネがかかることである。とくに教育費が問題である。
日本では、幼稚園から高校まですべて私立にすると、15年間で学習費の総額は1700万円となる。全部公立でも500万円かかる。中国や韓国では、教育費は日本以上に必要で、子ども一人の教育費を捻出するのに精一杯で、二人目は無理なのである。
東アジアの国々では、教育費の公的負担が欧米に比べて少なく、とりわけ高等教育(大学など)がそうである。私の体験も踏まえて、日本と欧米を比べて見よう。
フランスとアメリカの例
ヨーロッパでは、フランスが少子化対策に成功している。合計特殊出生率は、1993年には1.66だったのが、2020年には1.83に上がっている。これは家族手当、低所得者への保育料無料など、様々な支援策を実行に移したからである。大学も含め、教育は無償である。
とくに注目すべきは、結婚していない独身女性に対しても生殖補助医療が行われる。日本の保守派が眉をひそめるような多様性を認めているのである。結婚しないで子どもを持つ人が増えている。
フランスは、婚外子比率がヨーロッパ第一位の、実に57%にのぼっている。2位はスウェーデンで55%、以下、デンマーク53%、オランダ49%、イギリス48%である。因みに、日本の婚外子比率は僅か2.3%である。日本よりも婚外子比率が低いのは韓国のみで、1.9%である。婚内子であれ婚外子であれ、子どもの数が増えれば良いのだという認識が持てるかどうかである。
国家が費用を含め、教育に全責任を負うというフランスと対極にあるのがアメリカである。アメリカの大学は私学が基本で、授業料も高い。しかし、奨学金制度が拡充している。返還義務のないものもある。卒業生で事業に成功した実業家などは、こぞって大学に寄付をする。そのおかげで、授業料も安くなる。
このような寄付(チャリティ)の文化のあるアメリカでは、ビジネスで成功した者は、稼ぎの1割は社会に還元すべきだという考え方が広く行き渡っている。この寄付が、大学の門戸を貧しい者にも開いているのである。
日本の場合、フランス型でもアメリカ型でもない。岸田首相は、どのような「異次元の」少子化対策を国民に提示するのだろうか。
パックス・シニカは難しいか?
ウクライナ戦争でロシアが疲弊する中で、これからの世界の覇権競争はアメリカと中国によって展開されると考えられている。
要するに、パックス・アメリカーナからパックス・シニカに移行するのかどうかということである。習近平政権は、建国100周年の2049年までに世界一の大国になることを目指している。
しかし、人口減少という要因はその野望に暗い影を投げかける。合計特殊出生率は、中国が1.28なのに対し、アメリカは1.64である。しかも、アメリカは移民の流入によって若い働き手が増えている。人口という点では、はるかにアメリカのほうが優位に立つ。
最新兵器を備えても、兵隊が集まらなければ、戦える軍隊にはならない。一人っ子だと、親は子どもを生命の危険を伴う軍隊に就職させようとはしない。
習近平政権の3期目は、コロナ政策の失敗をはじめ、多難な門出となっている。  
●「毎年賃金が下がる。もう限界…」日本人の給料を上げるには「移民を・・・」 1/21
大山昌之氏の著書『財政再建したいなら移民を3000万人受け入れなさい』より一部を抜粋・再編集し、「日本の財政が悪いワケ」、そして「財政再建のための2つの方法」についてみていきます。
どんなに消費税を増税しても、日本は財政再建できない
皆さんがその融資担当者の立場だったとして、どんな会社にお金を融資したいと考えるでしょうか? もちろん、きちんと返済できる企業に融資したいに決まっていますが、仮にその融資をする事によって、その後その会社にどんな影響を与え、これから先どれだけ儲けられるのか?
返済期間を仮に十年とした場合、十年間の経営計画を作成し、その計画の信頼度を銀行に説明する。私はいつもこんな風に銀行に説明してきました。
私が、経営者として一つだけ自慢できる事があるとするならば、現在の日本政府と同じように財務内容が苦しく、明日にでも倒産しそうな会社の経営再建計画を、長年、数多く作り続けてきた事です。このため、今では会計事務所を少しもアテにせず、どんな会社の再建計画も作成できるようになりました。
政府の財政再建も、一般の企業と同じように、仮に日本政府を一つの企業として捉え、自分がその経営者になったつもりで、今後の日本政府の経営計画のシミュレーションを、いくつか組んでみました。
するとそこから、意外な事がわかってきたのです。
それは、今の日本経済の状態では、どんなに消費税を増税しても、単に税収を増やしただけでは財政再建を果たす事ができないという事です。
しかし、それもよくよく考えたら至極当然の事です。
例えば現在、少子高齢化によって国の社会保障費が増大し、毎年二十三兆円の国債を発行し続けなければならなかったとします。そこで、政府がその補填のために消費税を増税し、その時の財政の帳尻がそれで一旦合ったとしても、十年後、少子高齢化が更に進み、再び国の予算が十兆円足らなくなる……。
財務省は、こんな事が起こるたびに、これから先ずっと永遠に消費税を上げ続けるつもりなのでしょうか? 
「日本の財政は絶対に破綻しない」という真っ赤な噓
結局、日本の財政が悪いのは、困ったらその時にその原因をきちんと解決する事を避け、安易に消費税増税に頼ってきた事に原因があるのです。
ハッキリいって、財務省が提案している緊縮財政では、悪化し続ける日本の財政を再建する事は絶対にできません。そもそも財務省が国民にいつもいっている、
「財政の健全化と安心できる社会福祉のためには、消費税の増税は必要不可欠な事である」という話すら、実は真っ赤なウソなのです。
私は、日本の多くの経済学者がいっているような「日本の財政は絶対に破綻しない」という説(MMT現代貨幣理論)を全く信用していません。また、自分の事をれっきとした財政再建論者だとも思っています。
しかし、それでは財務省がいっているように、財政再建をするためには、政府はもっと強く緊縮財政を推し進めなければならないのかといえば、それについても全く同意していません。しかも、当の財務省の官僚や麻生太郎氏ですら、緊縮財政では国の財政は再建できない事を、本当は彼らもわかっているのです。
彼らの本音は、何をやったらこの多すぎる借金の返済のメドが立つのか全く見当がつかず、とりあえず緊縮財政を行う事で、これ以上日本の財政を少しでも悪化させないようにする事しか、もはや今の彼らにはできないという事なのです。
それは、「日本の財政は絶対に破綻しない」と唱える知識人も同じです。生粋のMMT論者は別として、彼らも本当はこの多すぎる財政赤字に対して、どう対処して良いのか全く見当がつかないのです。
しかしながら現在の深刻な経済恐慌に対しても、けっして放置してはおけない状況も自覚しています。そこで彼ら自身も「日本の財政は絶対に破綻しない」というMMT理論にすがるしかなかったのです。
しかし長年、会社経営をしてきた者として、ここでハッキリいわせてもらえば「いくら借金をしても、政府は絶対に財政破綻(デフォルト)しない」なんて都合のいい話、この世に存在するはずがありません。
日本経済のため「移民を三千万人受け入れるべき」ワケ
それでは、財政再建はもう完全に手遅れなのでしょうか? いえいえ、そんな事はありません。いろいろシミュレーションをかけてみたところ、私の計算では、再建できる方法は何と二つもありました。
その一つが、現在の年金、介護、医療の社会保障制度を整理、清算する事です。これを行う事ができれば、年々増え続ける国の予算の増加を抑え込む事ができます。
しかし残念ながらこの方法では、日本政府の財政を立て直す事はできても、デフレを脱却し、日本経済を立て直すところまでには至りませんでした。
それでは、日本の財政だけでなく今の弱り切った日本経済をも立て直すには、一体どうしたら良いのでしょう?
それが、日本に移民を三千万人受け入れる事なのです。
もし、政府がこの政策を実行する事ができれば、財政だけでなくデフレ、所得格差、人手不足、中小企業の低収益化など、長年この日本で苦しめられてきた様々な経済的な問題を一気に解決する事が可能となります。もちろん、皆さんの給料も上がります。
単純に考えてみればわかると思いますが、三千万人移民を受け入れるという事は、日本の人口が一億五千六百万人……、現在の約24%増えるという事を意味します。
確かにこの事は、電車やバスに乗れば乗客の五人に一人が外国人になるばかりか、会社の同僚や学校の同級生の中にも外国人の割合が増え、日本人にとっては大なり小なり今より違った生活環境になる事だけは間違いありません。
しかし、商売をしている人の立場から考えれば、お客さんの数が24%増える事をも意味します。皆さんが働いている会社の業績も、同じように最低でも24%以上上がる事は間違いないでしょう。
そして、ここで皆さんに考えてもらいたいのは、もしあなたが会社の経営者だったら、次にあげるどちらの状況の方が従業員の給料を上げやすいのか? という事です。
⒈ 会社が儲かっている時
⒉ 会社の業績は下がり気味だが、人手が足らない時
もちろん、気分良く上げられるのは、1番の会社が儲かっている時に決まっています。
「我々の給料も同じように下がってしまうのでは?」
反対に、現在の日本の企業が置かれている2番の状況では、働く従業員の給料を上げる代わりに、人数を絞り、莫大な仕事の量を少数精鋭でこなしていくしか方法がありません。最近、ブラック企業が増えてきているのは、実はこのためなのです。
もちろん、「安い働き手が日本に大量に入ってくれば、我々の給料も同じように下がってしまうのではないのか?」と危惧される方も大勢いらっしゃるでしょう。しかし、移民を大量に受け入れている先進国の全てが、皆さんの予想に反して、実は平均賃金は年々上昇し続けているのです。
反対に、移民を全く受け入れていない現在の日本だけが、残念ながら毎年賃金が下がり続けています。結局、「給料」というものは働き手が多いか少ないかではなく、その国の景気の良し悪しで決まるものだったのです。
結論から先にいってしまえば、もはやこの弱り切った日本経済を立て直すためには、日本人の力だけでは不可能で、移民による大量の輸血が必要なのです。
●自民・森山選対委員長「挑戦しないと国が危うく…」少子化対策が急務 1/21
自民党の森山選対委員長は鹿児島県内で講演し、「安心して子どもを産み育てる社会の実現に挑戦しないと国が危うくなる」と述べ、少子化対策が急務だと強調しました。
森山選対委員長「どこに政策を打てば、安心して子どもを産み育てる社会が実現できるかということに、我々はどうしても挑戦していかなければ、この国が危うくなります」
森山氏は「子どもへの現金給付がいいのか教育の無償化がいいのか、市町村の意見を聞いてやっていくのが大事だ」と述べました。
また、森山氏は「少子化対策に加え、国の安全保障、食料安全保障への取り組みが急務だ」と指摘した上で、「自衛隊設備の更新など防衛力の強化と、小麦や肥料の国産化を進めるべき」と強調しました。
一方、新型コロナウイルスの「5類」への引き下げについては、「急いで間違いが起きてはいけないので慎重に対応するのが大事だ」と述べました。

 

●防衛増税や異次元の少子化対策…詳しい説明を避けてきた岸田文雄首相 1/22
第211通常国会が23日に召集される。敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を含む防衛力強化とその財源確保のための増税方針、岸田文雄首相が「異次元」と称する少子化対策が主要な焦点となる。国民の関心が高い政治課題を巡り、首相が説明を尽くせるかが問われる。4月の統一地方選や、実施が見込まれる衆院補欠選挙もにらんだ与野党の論戦は、政権の浮沈を左右する。(曽田晋太郎)
「山積する課題に対応する予算や法律がめじろ押しだ。政府・与党で作り上げてきた政策を国民の前で野党とも正面から議論し、実行に移していく」。首相は17日の自民党役員会で、論戦を通じて国民の理解を得ていく考えを示した。
具体的なテーマとして最初に挙げたのが防衛力強化だ。政府は昨年12月の安全保障関連3文書改定で「専守防衛」から大きく踏み出し、5年後の予算倍増に向けた増税方針も打ち出したが、詳しい説明は一貫して避けてきた。
今国会には、敵基地攻撃を想定した米国製ミサイル「トマホーク」の取得費も盛り込んだ2023年度予算案や、防衛費に回す税外収入を管理する「防衛力強化資金」新設法案などが提出される。
野党は防衛増税反対で結束
野党は防衛増税への反対を旗印に結束。立憲民主党の泉健太代表は、国会審議を経ずに重要政策を決める岸田政権の姿勢を批判し、首相らに「国民の疑問をぶつける」と意気込む。政府答弁が不十分なら、自民党内の増税反対論を勢いづかせる危うさもはらむ。
首相が「社会全体を維持できるかという大きな課題で、先送りできない」と強調する少子化対策にも注目が集まる。政府は3月までに大枠をまとめ、6月に策定する経済財政運営の基本指針「骨太方針」で将来的な予算倍増への道筋を示すと説明している。
子ども関連予算は「増税」の有無も議論に
国会では、児童手当などの経済的支援強化、幼児教育や保育などのサービス拡充、働き方改革の3分野を中心に、これまでの政策の検証や改革の方向性、財源確保策などを巡って議論が交わされる見通し。
野党側は防衛力強化と同様に「増税路線に走るのではないか」(立民の安住淳国対委員長)とみており、政府から具体的な見解を引き出したい考えだ。子ども・子育て政策の拡充に関する与野党の違いが明確になれば、次の国政選挙での有権者の判断材料にもなる。
首相の説明責任は統一地方選にも影響
2月前半と見込まれる日銀総裁の同意人事は、ひずみが目立つ金融政策の先行きを占う。原発の60年超運転を認めた政府の方針転換を法的に裏付ける電気事業法改正案、日本学術会議の新会員選考に第三者委員会を関与させる仕組みを導入し、菅政権で問題になった任命拒否を追認することになりかねない日本学術会議法改正案、2年前の廃案を経て再提出する入管難民法改正案などは、与野党の対決が激化しそうだ。
5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)を含め、会期中は政治日程が立て込んでおり、与党内からは「大変厳しい国会運営になる」(自民党の世耕弘成参院幹事長)との声が漏れる。23年度予算案を審議する前半国会の論戦を通じ、首相が重要な政治課題についての説明責任を果たせなければ、内閣支持率の低迷は続き、統一地方選や衆院補選への影響も避けられない。
●岸田政権キモ入り少子化対策は「異次元」のショボさ 1/22
やっぱり看板倒れの気配だ。岸田首相がブチ上げた「異次元の少子化対策」の目玉は、児童手当の拡充。子育て世代への支援拡大でイイ顔しようとしているが、そう簡単に少子化に歯止めがかかるわけがない。諸外国の対策に比べても、「異次元」とはほど遠い。人気取りにもなりゃしない。
児童手当は現在、中学生までの子ども1人当たり月1万〜1万5000円。政府は今後、増額や所得制限の見直しを検討する方針だが、肝心の財源論は4月の統一地方選後に先送りした。
人口問題に詳しい日本総研上席主任研究員の藤波匠氏がこう指摘する。
「支援拡充などの方向性は良いと思いますが、それと並行して若い世代の経済状況も改善する必要があります。40代の大卒社員の実質年収は、10歳上の世代に比べて今は約150万円少ない。奨学金を借りた学生は、社会に出た段階ですでに借金を抱えている状態であり、高等教育費用をどうするのかも重要な課題です。学費無償化や奨学金の給付枠を増やさない限り、教育費用問題は子どもを持たないという諦めにもつながります」
少子化は、「合計特殊出生率が約2.1を下回る状態」と定義されている。OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国のうち、出生率2.1を上回っている国はイスラエルのみ。出生率2.08と、ギリ少子化のメキシコを除けば、残り36カ国は子どもが減る問題に直面している。出生率1.33の日本はワースト4位だ。
世界の中でも超少子化社会の日本なら、なおさら諸外国以上に大胆な政策が求められる。しかし、先進事例に目を向けると、本気で取り組むハードルの高さは半端じゃない。
ハンガリーは「GDP比5%」を投下
右派政権のハンガリー政府は「国家が家族を守る」とうたい、少子化対策にGDP比5%の予算を投入。その規模は2020年のGDPベースで、約77.3億ドル(約1兆円)に上る。19年からは出産を控えた夫婦を対象に、最大1000万フオリント(約360万円)を金融機関から無利子で借りることができ、3人目の子どもが生まれたら返済不要とする「出産ローン」を実施。11年に1.23だった出生率は18年に1.55まで上昇した。
ハンガリーはGDP比5%の国費を投下する大胆な対策によって出生率が上向いたが、手厚い政策でも改善しない国もある。その一例が、アーダーン首相の突然の辞意表明に揺れるニュージーランドだ。
アーダーン政権は有給の育児休暇を18週間から26週間に延長。新生児を育てる世帯に週65NZドル(約5500円)を支給するなど、政権が発足した17年以降、子どものいる10.9万世帯の収入が平均で週175NZドル(約1万5000円)増えた。
ところが、現実は厳しい。手厚い子育て政策にもかかわらず、出生率は20年に過去最低の1.61を記録した。
「保育サービスの充実などに注力してきたドイツでは、12〜16年に出生数が増えたものの、17年から出生率が減少に転じました。子育て関連の政策効果が時間を経るにつれて薄まっていったと考えられます。少子化対策は思い切った取り組みを打ち出して終わりではなく、持続性も求められるのです」(藤波匠氏)
岸田首相の打ち出す対策が、「異次元」のショボさになること必至だ。
●米軍の「共同交戦能力」搭載へ=イージス・システム艦2隻―防衛省  1/22
防衛省が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替として建造する「イージス・システム搭載艦」2隻に、米軍が導入している「共同交戦能力」(CEC)を搭載する方針を決めたことが、政府関係者への取材で分かった。日米の情報共有が加速化するが、集団的自衛権行使の目標選定に使われる可能性もある。
CECはミサイルなどの目標をリアルタイムで共有する情報ネットワーク。最新型の海上自衛隊のイージス艦2隻には搭載されており、防空網が拡大する。
防衛省は国家安全保障戦略など3文書改定に基づき迎撃、反撃能力(敵基地攻撃能力)を一元的に運用する統合防空ミサイル防衛(IAMD)の構築を決定。CECはその一角を担い、2023年度予算案に計上したイージス・システム搭載艦の整備費2208億円にCEC取得費が含まれる。
CECは複数のイージス艦や早期警戒機が探知、追尾したミサイルや敵機の情報を同時に共有する。レーダーの死角になってもCEC機能があれば別のイージス艦が追尾したデータを共有して迎撃することが可能だ。自艦のレーダーに見えなくても、共有した情報で撃墜する手法は「エンゲージ・オン・リモート(EOR)」と呼ばれ、米軍が採用している。
海自トップの酒井良海上幕僚長は記者会見で、米艦と連携してEORを行うことは「理論上は可能」と述べている。
昨年11月に米ハワイ沖で実施されたミサイル迎撃試験では、海自イージス艦「まや」(神奈川県・横須賀基地)が探知した情報をCEC経由で同艦「はぐろ」(長崎県・佐世保基地)に提供した。
日米のイージス艦がネットワーク化されれば、北朝鮮がミサイルを米領域に向け発射した場合、海自が探知した情報を迎撃する米艦に提供することが可能だ。一方、提供した情報が米国の武力行使に使われれば、憲法解釈上認められない他国の武力行使と一体化する恐れもある。防衛省は「具体的に『この目標を方位何度・角度何度で撃て』と伝えない限り、一般的な情報提供の範囲にとどまり憲法上の問題は生じない」などとしている。
日本が米国の情報に基づき武力行使する事態もあり得る。台湾有事に米軍が介入し、集団的自衛権を行使できる存立危機事態に認定されれば、米艦を標的にしたミサイルを迎撃できる。中国軍が米艦にミサイルを発射し、海自イージス艦が米国の要請を受けて撃墜すれば、中国から日本が「参戦」したとみなされる可能性もある。 
●都心回帰が鮮明、地方移住で支援金「大盤振る舞い」のお寒い実態 1/22
東京一極集中の是正、地方移住の流れは進むのか。昨年暮れ、政府は東京圏からの地方移住者を2027年度に年間1万人に増やす目標を掲げた。東京圏からの移住世帯について、世帯分100万円に加え、18歳未満の子ども1人当たりの支援金も100万円に引き上げる方針(現行は30万円)と報じられ、「大盤振る舞い」と話題になったが、現実はどうなっているのか。実態を探ってみた。
政府が移住政策を強化する背景には、東京一極集中の是正が一向に進まず、地方活性化が掛け声倒れになっているという現実がある。コロナ禍で、東京都の転出超過が一時話題になり、地方移住が進んでいるかのような報道もあった。しかし、詳細を分析すると、転出者の多くは外国人だったり、日本人の転出先も東京近郊にとどまっているケースが多かった。
公表されている直近の人口移動報告データをみると、東京都は昨年、3万5746人の転入超過(日本人対象。2022年1-11月の累計)となっている。コロナ前2019年の年間8万6575人と比較するとまだ半分以下の水準だが、2021年の年間1万0815人と比べると3倍以上だ。東京への人口流入の動きが完全に復活してきている。
東京都心の人口増が顕著
その一極集中だが、データを詳しく見ると都心部の人口増加が顕著であることがわかる。2019年と比べて2022年に日本人人口が増加したのは、23区のうち半分の12区。増加数が最も多かったのは江東区の8595人だ(増加率は1.75%)。
増加率のトップは中央区で3.27%(5216人増加)、次いで千代田区が2.99%(1874人増加)、3位の台東区が2.67%(4976人増加)となっている。2%以上の増加はこの3区のみだ。
中央区は、1月1日現在の人口(住民基本台帳)が17万4074人(うち日本人は16万4750人)となり、「70年ぶりに過去最多を更新した」と話題になった。銀座や日本橋といった繁華街を抱える中央区の人口は、バブル期に家賃をはじめ住宅コストが高騰し、バブル崩壊後の1997年には過去最少の約7万2000人まで落ち込んでいた。その後の四半世紀で2.4倍も増えたことになる。臨海部の再開発によるタワマン増加や職住近接人気で、コロナ禍でも人口は増え続けた。
さらに特徴的なのは、年齢3区分人口の割合である。最新の1月のデータ(区の発表)を見ると、年少人口(0-14歳)は2万3759人で13.6%。生産年齢人口(15-64歳)は12万4796人で71.7%、老年人口(65歳以上)は2万5519人で14.7%と、全国平均(年少11.6%、生産59.4%、老年29.0%/2022年12月)と比べて、極めて良好なバランスとなっているのだ。
このため、出生数も毎年2000人以上と高水準が続き、人口減に苦しむ地方の自治体からすれば羨むような状況となっている。東京一極集中の光を象徴するデータである。
移住支援の実績は3年間で3067人
さて、移住の話に戻ろう。岸田政権は5カ年計画の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」の一環として移住支援策を強化しようとしているのだが、はたしてどれだけの効果が見込めるのか。実は政府の移住支援金政策は2019年度から実施されていて、2021年度までの3年間の実績が公表されている。
3年間での移住支援事業総計は1545件、移住者数の総計は3067人だった。初年度はわずか71件、123人だったのが、徐々に増えていき最多の2021年度は、1184件、2381人となった。
一方、政府の地方創生関連に注ぎ込んだ当初予算は、令和3年度だけで1兆2356億円に達する。そのうち移住支援金などにあてられる地方創生推進交付金は1000億円。それだけの予算を組みながら地方自治体からの交付申請は思ったほど伸びず、移住者数は3年間で3000人強程度の実績しか出せていない。
政府は、2027年度には支援により年間1万人の移住を実現する目標を掲げている(2021年度実績の4倍超)。だが、東京圏への転入超過は8万0441人(2021年度実績)に達しており、1万人程度の移住では一極集中是正には程遠い。
移住支援政策のあまりにも寒々しい状況を紹介してきたが、政策自体の方向性は決して間違っていない。問題は、その内容だ。今回の移住支援金増額報道では、「子ども3人の一家5人家族なら最大400万円」と金額の大きさを強調するものがあったが、移住問題のネックは目先の金銭だけではない。
仕事や子育て環境、教育、医療、気象条件、近隣との人間関係など、移住環境をトータルで考慮しなければ若者や子育て世代の定着は困難だ。政府も地方自治体も、金銭的な支援で関心を惹くのではなく、移住環境の充実をいかに図り、実態に即した情報を可視化できるかがポイントだろう。
北海道のある町は、移住者向けの住宅地として町有地を無料提供する一方で、太陽光発電事業者から得られた固定資産税を子育て支援の財源に回し、18歳までの医療費無料化、保育料・給食費無料化、小中一貫教育体制の構築などを実現した。
こうした「子育て支援」をアピールして移住者が増えている。町長は「人口は増やさなくても今の水準程度でいい、住民が幸せになるまちづくりを進めていきたい」とビジョンを語っていた。明確なビジョンと具体的な施策がかみあっていないと移住政策は結実しないということだ。
地方移住が関心テーマになって久しい。いまでは全国津々浦々の自治体のホームページに移住支援策が掲載され、「大自然のなかで生活を満喫しています」といった移住者の声があふれかえっている。メディアの報道も似たようなものだ。今年に入ってからも「高齢者の町に都会からの若者が増えている」といった記事がいくつか見られた。
だが、そんなうわべの情報では本当のところはわからない。ネット上には、実際には移住先になじめず、都会に舞い戻ったケースなど失敗例が生々しく紹介されている。どれだけ自然環境に恵まれていても、冬場は毎日雪下ろしという状況では、都会暮らしに慣れた家族はとても住み続けることはできないだろう。コロナ禍では人間関係の難しさも浮き彫りにされた。
移住は昨日今日始まった話ではない。政府や各自治体はこれまでのデータを蓄積しているはずだ。うわべの情報を流すだけでなく、たとえば過去の移住者の5年後、10年後の定着率を算定し、公表してみてはどうか。移住希望者にとっては欠かせない情報だ。定着率の低い自治体にとってはその原因を検証し、対策を考えるきっかけになる。金銭支援やデジタルインフラ整備を目玉にするだけでは、状況の改善は期待できそうもない。
●国債の「60年償還ルール」を見直しても、新たな財源は1円も捻出できない  1/22
防衛費増額の財源を巡って、国債の「60年償還ルール」の見直しが争点の一つになりつつある。争点の一つに浮上した理由は、このルールを見直すことで、増税せずに新たな財源を生み出せるという「幻想」があるからだ。
しかし、この議論はまさに「幻想」でしかない。完全に間違った議論であり、国債の「60年償還ルール」を、例えば80年償還に延長しても、新たな財源は1円も捻出できない。
この事実を正確に理解するためには、その前提の予備知識として、1「60年償還ルール」の概要や、2「財政赤字の定義」を把握しておく必要がある。なので、最初に1・2を順番に説明しよう。
1の「60年償還ルール」とは何か。
このルールは、国債を発行してから必ず60年での完済を義務付けるものだ。大雑把なイメージでは、ある年度に60兆円の国債を発行した場合、それ以降は毎年度1兆円ずつ返済し、60年後に完済することを義務付ける。
では、いま日本財政は概ね1000兆円の債務(国債発行残高)を抱えているが、これを60年で完済しようとすると、毎年いくら返済すればよいか分かるだろうか。計算方法は極めて簡単であり、1000兆円の債務を60年で割り算すればよい。つまり、答えは約16兆円(=1000兆円÷60年)だ。
なので、このルールに従うと、現在の財政状況では、約16兆円の返済を行う必要があることになる。専門用語では、この約16兆円を「債務償還費」といい、この債務償還費は、毎年度における国の予算(一般会計)の歳出項目として計上される。例えば、2023年度予算案(当初)では、債務償還費として、約16.3兆円が計上されている。
なお、厳密には、法律に基づき、国債発行残高の1.6%に相当する金額を、債務償還費として国の予算(一般会計)に計上し、後述の「国債整理基金特別会計」に繰り入れた上で返済を行っている。
2の「財政赤字の定義」とは何か。
財政赤字とは「その年度における債務(国債発行残高)の増加分」として定義される。つまり、「債務がどの程度増加したか」が財政赤字の定義であり、例えば、1000兆円の債務が、翌年度に1030兆円に増加したら、30兆円がその年度の財政赤字となる。
これが財政赤字の定義だが、以下の図表の2023年度予算案(当初)ではどうか。税収や公債金収入といった歳入、社会保障関係費や国債費といった歳出として、約114兆円を計上している。このうち、新規に国債を発行して調達した「公債金収入」が約35.6兆円と計上されており、一般的なイメージでは、予算案のうち、税収を上回る歳出の超過分が財政赤字と思われるので、歳入の約35.6兆円(公債金収入部分)が財政赤字と思う人々も多いのではないか。
だが、これは間違いだ。なぜなら、財政赤字の定義は「財政赤字=その年度における債務(国債発行残高)の増加分」であるからだ。既に説明したとおり、国債の「60年償還ルール」により、2023年度予算案では、約16.3兆円の債務償還費を計上しており、この分の国債は返済している。
つまり、新規に国債を約35.6兆円発行しているが、それと同時に約16.3兆円の国債は返済しているので、この年度の債務の増加分は「約19.3兆円」(=約35.6兆円−約16.3兆円)だ。なので、財政赤字は約19.3兆円になる。このことから、財政赤字は「公債金収入」と「債務償還費」の差額であり、「財政赤字=公債金収入−債務償還費」として定義することもできる。
以上が予備知識だ。では、この60年償還ルールを見直して、60年の償還を80年に延長したら、新たな財源が生まれるのか。答えは「No」だ。新たな財源が生まれるということは、この見直しだけで財政赤字が縮小しないといけないが、それは起こらない。この事実を次に確認しよう。
まず、80年の償還に延長する場合、1000兆円の債務を80年で割り算すると約12兆円なので、債務償還費は約12兆円になる。60年償還ルールの下では、2023年度予算案で、債務償還費は約16.3兆円であったので、80年に延長すると、約4兆円(=約16.3兆円−約12兆円)も債務償還費が減少する。2023年度予算案の歳出合計は約114兆円であったので、債務償還費が4兆円減となると、歳出合計は約110兆円になる。
だが、2023年度予算案の歳入合計は約114兆円であったので、60年償還ルールを見直したとき、歳入の構造が変わらず、歳入合計が約114兆円であるとすると、あと4兆円分、防衛費などの歳出を増やすことができる錯覚に陥るが、これを実行すると、財政赤字は拡大してしまう。
思い出してほしいが、財政赤字の定義は「公債金収入−債務償還費」であった。いま歳入の合計や構造が変わらず、歳入合計が約114兆円であるとすると、このうち公債金収入は約35.6兆円だ。にもかかわらず、60年償還ルールの見直しにより、債務償還費が約12兆円になると、財政赤字は「約23.6兆円」になる。ルールを見直す前の財政赤字が約19.3兆円であったので、約4兆円も財政赤字が拡大してしまう。
なぜ、財政赤字が拡大してしまったのか。それは、ルールの見直しにより、約16.3兆円であった債務償還費が約12兆円に減少して、歳出合計が約114兆円から約110兆円に減少したにもかかわらず、歳入合計を約114兆円に維持したからだ。歳出合計が4兆円減少したなら、歳入合計も4兆円減らすのが自然である。60年償還ルールを見直しても歳入項目の税収(約69.4兆円)やその他収入(約9.3兆円)は変わらない。それにもかかわらず、歳入合計を約114兆円に維持すれば、公債金収入(約35.6兆円)も維持しないといけなくなる。
もう既に読者の多くは気づき始めていると思われるが、債務償還費が約12兆円に減少したら、歳出合計が約110兆円になるので、歳入合計も約110兆円に減額するのが自然な姿だ。なぜなら、歳出合計に対し、税収(約69.4兆円)やその他収入(約9.3兆円)が不足していたから、新規に国債を約35.6兆円も発行して資金を調達していたわけだが、歳出合計が約4兆円減少すれば、新規の国債発行もその分だけ減額できるからだ。この場合、新規の国債発行も約4兆円減となり、公債金収入は約31.6兆円となる。
このときの財政赤字を計算すると、どうなるか。「財政赤字=公債金収入−債務償還費」なので、財政赤字は約19.6兆円(=約31.6兆円−約12兆円)となり、この値は60年償還ルールを見直す前の財政赤字と完全に一致する。
以上から分かることは、国債の「60年償還ルール」を見直しても、財政赤字は全く変わらず、新たな財源は1円も捻出できないという揺るぎない事実だ。これは、60年償還ルールの見直しで、80年償還に長期化せず、40年償還に短期化しても同じことが言える。
不思議に思う読者もいるかもしれないが、このような問題が発生するのは、日本財政が膨大な債務を抱え、もはや自転車操業に陥っているためだ。
2023年度予算案をみても、歳出は税収を上回っており、そもそも1000兆円もの債務を返済する税財源はない。では、1000兆円もの債務はどう返済しているのか。先に答えをいうならば、実質的に1円も返済していない。1000兆円もの債務の中身は、2年や5年、10年・30年といった期間で返済すること約束した国債の合計額だが、平均的な返済期間(専門用語で「平均償還年限」という)は約10年だ。なので、日本財政は平均的に毎年度100兆円もの返済を迫られている。
しかしながら、図表(2023年度予算案)をみても分かるとおり、100兆円もの税収はなく、むしろ社会保障関係費や防衛費などの歳出を賄うため、新規に国債を発行して歳入を確保しているのが現状だ。このため、債務の返済はできておらず、財政当局は、債務を管理する「国債整理基金特別会計」を設置し、返済が迫られる国債を返済するために、図表とは異なる国債を新たに発行して返済している。この処理を「国債の借り換え」、そのために発行される国債を専門用語で「借換債」といい、最近は、毎年度100兆円以上もの借換債を発行している。
というのも、100兆円は平均的な返済額で、厳密には年度毎によって国債の返済額が変動するためで、2023年度の借換債の発行額は157.6兆円だ。なお、図表の国債を「新規国債」というが、この新規国債と借換債の合計だけで約194兆円の発行になり、それ以外の財投債を含め、2023年度の国債発行計画では概ね205.8兆円もの国債を発行予定だ。
以上から分かると思うが、60年償還ルールに従い、債務償還費を計上して、債務(国債発行残高)を返済しているように見えるが、実際の日本財政は借金漬けで、返済しておらず、毎年度、国債発行残高が増加し続けている。
一部でも返済するためには、債務(国債発行残高)が減少する必要があり、それは財政赤字がゼロとなり、財政収支が黒字化したときだ。黒字化の条件は、財政赤字の定義から、「債務償還費>公債金収入」となり、2023年度予算案では、債務償還費が35.6兆円を超えない限り、債務の増加が止まらないことを意味する。
もっとも、経済学的には、債務(国債発行残高)が増加しても、名目GDP比で評価した「債務残高(対GDP)」が安定的に推移していけば問題ないが、既に日本の債務残高(対GDP)は200%を超え、現在も膨張し続けているという現実も忘れてはいけない。
●財源確保で本格的な子育て支援を 小黒一正・法政大学教授 1/22
人口減に対して、積極的な政策を打ち出していくには、相当規模の財源が必要だ。さらに、効果を上げていくには複数の政策を同時に、インパクトが出る規模で展開することも肝要だ。政府は2023年4月にこども家庭庁を設置し、本格的にテコ入れを図る。今後、ほぼ確実に訪れる人口急減にどのように向き合っていくのか。人口や財政について詳しい、法政大学の小黒一正教授から話を聞いた。
研究者の間で出生率低下の原因は分かっていない
Q)将来推計人口に注目が集まっています。推計と現実を合わせるのは難しいのでしょうか。
小黒) 我が国の人口動態はおおむね、出生率と寿命の延伸の2つの要因で決定されます。このうち、寿命の延伸は高齢化率(65歳以上の人口が全人口に占める割合)として反映されますが、高齢化率の予測はおおきく外れません。他方、予測が難しいのが「出生率」の推計です。過去に外れたことも多々あり、当たったことの方がまれです。少子化の原因は一見すると簡単に思えますが、これまで様々な研究者がその原因究明を試みているものの、「なぜ出生率が低下したのか」についても基本的な合意が形成されていません。
Q)今年は5年に1度の新たな将来推計人口の発表を控えています。
小黒)国立社会保障・人口問題研究所の出生率の推計も、ブレを想定して低位・中位・高位で公表されていますね。このうち中位推計は基本シナリオを示すはずですが、基本的にそれを上回るスピードで出生率が下落しています。外れる原因を実証分析や理論モデルで解明しようとする研究者もいますが、精度が高いとは言えず、「なぜ外れるのか」はわかりません。
有配偶出生数(夫婦の完結出生児数)は、1970年代頃から結構安定していて、おおむね「2」なんですよね。つまり結婚した夫婦はだいたい2人の子どもをもつに至っています。このため、出生率低下の原因は、生涯未婚率が上昇していることがポイントだということがわかります。なぜ生涯未婚率が上昇しているのか、賃金低迷の議論もありますが、戦後直後などの方がはるかに貧しかったはずで、原因究明は難しいところです。
Q)日本に婚外子が少ないことを指摘する人もいます。
小黒)婚外子が増えれば、子どもが増えるという意見もありますが、これは誤解の可能性があります。イタリアやスペインの2カ国では、婚外子が増えているにもかかわらず、出生率は下がっているんですよね。つまり、婚外子を増やせば出生率が上昇するというのは誤解で、出生率に関係があるとは限らないんですよね。
強い支援策がないと好転しない可能性
Q)子育て支援を充実させれば、出生率は上がるのでしょうか?
小黒)フランスなど、子育て支援が充実している国で出生率が伸びているという言い方がされます。フランソワ・エラン氏(フランス国立人口研究所長、当時)が執筆した『移民の時代―フランス人口学者の視点』(明石書店)という書籍がありますが、この統計データが明らかにしているとおり、フランスでも人口が維持できている主因は「移民」なんですね。
Q)子育て支援に注力しても、少子化が緩和すとは限らないのでしょうか。
小黒)国際比較データで、「家族関係社会支出(対GDP比)」という指標がありますが、日本の数値が低いのは間違いないです。スウェーデンやフランス、ドイツなどと比較して、現在のところ、日本が子育て支援に本腰を入れていないというのは事実だと思います。ただ、子育て支援にテコ入れしても、出生率がどの程度増えるかはわかりません。でもテコ入れをしないと、増えない可能性が高いことは確かで、しかも、よほど強い支援策をしないと増えないのではないか。子どもを産めば産むほど、家族への支援金が増えるという仕組みを取り入れることも一案かもしれません。
Q)少子化対策の財源はどうあるべきでしょうか。
小黒)普通に考えれば、増税か国債発行という手段があります。でも国債発行にすれば、財政破綻リスクもあり、将来負担が大きい。増税は政治家が支持を得られないでしょう。小選挙区だと、落ちてしまいますよね。政治的に増税がクリアできるのであれば、消費税を2%ぐらい高めた方がいいです。その場合、5兆円強の財源が手に入るが、4兆円の財源でも、現在の出生数は約80万人だから、出産手当金として、1人当たり500万円を配れます。これだけ少子化が深刻化しても、少なくとも、我が国では本格的な子育て支援策を打ち出したことは過去に一度もないことは断言できますね。
個人を尊重した環境整備必要
Q)妊娠・出産が高齢化し、苦労している例もあるようです。
小黒)そうですね。「高齢出産でこんなに苦労するなら若いうちに産んでおけばよかった」という人もいるのは確かだと思います。ですが、20代は女性も仕事を習得する時期にあり、自己実現を目指す重要な時期であることも確かです。このため、妊娠・出産に関する知識をしっかりとつける仕組みをつくることは、選択肢としてあり得るとは思います。しかしそこから先に踏み込んで、若いうちに出産を促すというような意見は個人の領域に踏みいるので、私は国民的コンセンサスを得られないと思います。むしろ、労働市場の流動性を高め、どの年齢で妊娠・出産をしても自らの選択で自由に労働市場に戻れる環境の整備や、そのための子育て支援の充実が求められているのではないでしょうか。
Q)日本は危機的な状況という指摘については。
小黒)私は人口減が国力の減退につながるということについて、国民に意識が浸透していないように思います。人口動態変化と財政が専門で、各地で講演することがあります。大学という教育産業に身を置く一人として、18歳以下の人口減を実感しており、日本の将来が心配になります。ですが、人口問題について、10年前は地方で講演しても、危機感は薄いように思えました。ようやく最近は「大変だ」という人も出てきている。地方が先に人口減を体感することになりますので。でも、地方の考えの多くは、首都圏や他の自治体から人口を呼び込むという方法で「ゼロサムゲーム」的です。いずれ首都圏や日本全体が人口減になる。本格的に人口を増やすなら「出生率の底上げ」か「移民」しかないのが現状です。ただ、移民は国内で根強い反対論があり思考停止状況ですから、静かな有事である人口減少の解決策としては、前例のない規模での子育て支援しか残されていないのではないかと思います。
●菅義偉が死ぬ覚悟で「岸田増税」と闘いを始めた、石破茂は黙りなさい… 1/22
菅義偉元総理大臣が岸田文雄政権の増税規定路線に異を唱えた。不景気+インフレで生活が厳しくなっている中で、多くの国民の声を代弁した。ジャーナリストの小倉健一氏が「なぜ今岸田下ろしが起きないのか」「菅義偉氏の公然批判の意図は何か」を解説する――。
この状態でそもそもなんで岸田下ろしが起きないのか
なぜ、自民党はこの人を首相の座から引きずり下ろし、岸田文雄氏を首相の座につけたのか。私が、自民党に対して、強い不信感を持たざるを得ないのは、この点だ。
普段は「自民党は懐が深い」だの、「国益のためには、不人気な政策をも実行する」などと言いふらしておきながら、自民党国会議員たちは、自分たちの選挙が近づくと、菅義偉氏という有能な指揮官をさっさと引きずり下ろした。今、支持率が超低空飛行の岸田首相を下ろそうという動きがほぼ皆無なのは、4月に実施される統一地方選挙において改選となるのは、あくまで地方議員であり、自分たちの地位が脅かされないためだ。
「岸田を下ろすと次が河野太郎氏か、茂木敏充氏という永田町や霞が関から支持を得ていない人になるから、岸田下ろしが起きていない」などとする風説が、まことしやかに出回っているが、完全に出鱈目(でたらめ)。岸田首相が増税政策を連発する中、自民党国会議員で減税を訴えた人は100人以上いるが、とにかく国会議員という椅子にしがみつきたいから、何もしないのだ。
総理大臣にあと一歩となったところで、増税を一旦封印した岸田氏
岸田首相はこれまで、筋金入りの増税主義者として、政治家の道を歩んできた。政調会長時代には「財政健全化の道筋を示すことが、消費を刺激して経済の循環を完成させる」「財政出動が将来への不安を増大させかねない」「最優先の課題として消費税引き上げが必要」と発信してきた。つまり、増税すると世間が安心して消費をするようになる、増税が消費を刺激して景気が良くなるという摩訶不思議な理論を、政治家として実践してきた。
それが総理大臣にあと一歩となったところで、増税を封印。その後、衆議院選挙、参議院選挙を経て、何事もなかったかのように、昔の自分を取り戻し、増税を推進しはじめたのだ。
最近の例では、国が二酸化炭素(CO2)の排出に課金して削減を促す「カーボンプライシング(炭素課金)」の導入だろう。「課金」という言葉で誤魔化(ごまか)しているが、要するに「税金」のことである。昨年の防衛増税に続いて、また国民負担を増やす。
日本の潜在的国民負担率は、56.9%
財政赤字を加味した日本の潜在的国民負担率は56.9%だ。「重税だが福祉が手厚い」ことで知られるスウェーデンでさえ56.4%である。米国は40.7%、英国は49.7%だ。日本ほど国民負担率が高い国はなかなかない、というのがファクトだ(財務省「国民負担率の国際比較」〈2022〉、数値は日本が2022年度、他国は19年)。
「あらゆる国民負担を消費税で賄ったら」という試算をしたが、現在の日本人の実質消費税は115%だ。第一生命研究所の調査(2005)によれば『主要OECD諸国に関するパネル分析を行った結果、国民負担率と家計貯蓄率は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が0.28%ポイント低下する』『また、国民負担率と潜在成長率との関係についても同様に分析を行ったが、両者は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、潜在成長率が0.06%ポイント低下する』ことがわかっている。「炭素課金」「社会保険料」など、どんな名前をつけようともそれは国民負担であり、国民負担が増えれば、経済は失速し、家計にダメージを与えるのだ。
今、増税などしたら、日本の景気が失速するのは誰の目にも明らかであり、岸田政権が増税を政策の中枢に置き、妥協を許さないのであれば、引きづり下ろすことでしか、日本の経済成長に活路は見出せないということだ。
公然と批判をしはじめた菅義偉前総理の狙い
萩生田光一政調会長が中心になって増税を回避する動きに期待したいところではあるが、どこまで頑張ることができるのか。ガス抜きで終わるのではないかという疑念は拭えない。
岸田首相は今年初めに「異次元の少子化対策」なるものを発表したが、この具体策・財源が決まるのが6月だという。これもまた統一地方選挙では増税を言わずに、終わった後に増税と言い出す腹積もりなのであろう。2021年の総裁選で、岸田首相が「10年は上げない」と約束したはずの消費税の増税が見えてきた。
そんな閉塞感漂う自民党で、一人声を上げたのが、菅義偉前首相である。
菅前首相は、1月18日のラジオ日本の番組で、岸田文雄首相の増税方針表明について「突然だった」「特に増税については、丁寧な説明が必要だ」「例えば行政改革でいくら(財源を捻出した)とか、いろんなことを示した上で、できない部分は増税させてほしいとか、そういう議論がなさすぎた」と指摘した。さらに、岸田首相が表明した「異次元の少子化対策」に関しては「思い切った少子化対策は必要だ」「一時、消費増税の話が出たが、まずは少子化対策のメニューをきちっと出すことが大事ではないか。まだそこが見えていない。これだけの物価高で、何をやるかのメニューが出ていない中で消費税の議論というのはあり得ない。現実的ではない」と公然と批判をしたのである。
そんな菅前総理にのっかろうとする石破氏
それでは、なぜ、改めてこのタイミングで菅前首相は声を上げたのだろうか。はっきり言って、狡猾な考えに立つなら、今はおとなしくしておいて、国会議員たちが浮き足立つ国政選挙の前のタイミングで批判を始めたほうが良かったはずである。時の政権を批判することで、冷や飯も覚悟せねばならない。菅前首相は相当な覚悟、恐らく自民党内の自分の立場などどうなってもいいぐらいの決死の覚悟で、「このまま増税ばかりが先行しては日本経済がダメになってしまう」、そんな思いに駆られて今回の発言を行ったのではないのだろうか。
そんな菅前首相に乗っかろうと企むのが、石破茂氏(自民党元幹事長)だ。石破氏はメディアや世論からの評価は高いが、自民党内では著しく評判が悪い。なんで評判が悪いのかわからないので、私自身、石破氏の発言を調べてみたが、はっきり言って、ズルいの一言だ。例えば、石破氏は赤字のローカル線を税金(補助金)で維持しろという持論を持っているが、メディアの前では「そもそもお客様を増やす努力をせずに、補助金に頼る経営姿勢そのものも問題です」などと、聞こえのいいことをこれでもかと主張する。本音では鉄道維持に補助金が必要であることがわかってるくせに、それをひた隠して、ライバルたちを攻撃・批判するのである。デタラメもいいところだ。
岸田政権によって追い詰められる日本経済
そんな石破氏は増税派でありながら、反岸田というポジションを得るために菅前首相の行動を高く評価しはじめた。理由は、菅前首相が岸田首相に対し「(これまでの自民党政権の慣例通りに)派閥のトップをやめなさい」と苦言を呈したことだった。
はっきり言って、迷惑だ。菅前首相の強い思いも、そんな石破氏と一緒にされることで、弱体化する。石破氏が味方になることで、離れていく人たちは多い。石破氏は、自分が疫病神であることを自覚して、言動を慎むべきではないか。大人なのだから、それぐらいの分別は身につけてほしいものだ。
日本経済は、岸田政権によって追い詰められつつある。
●コロナ禍の困窮さらに厳しく 「借金頼り」の国支援、良かったのか 1/22
国内で初めて新型コロナウイルス感染者が確認されてから3年。コロナ禍で減収した世帯を対象としたコロナ特例貸付の返済が始まる。全国的に過去に例がないほど多くの人がこの3年間、借金でしのいで生活してきた。兵庫県内で約4割が免除となる半面、残る6割の対象者は返済していかなければならない。収入がコロナ以前に戻らず、さらに厳しい生活となる人も多いとみられ、貸付が基本となった国の支援のあり方に疑問の声も上がる。
当初から「返済免除」強調、申請相次ぐ
コロナ特例貸付が始まる前、困窮者への支援を国会で問われた当時の安倍晋三首相はこんな答弁をした。
「返済免除要件付きの個人向け緊急小口資金の特例を創設し、生活立て直しを支援いたします」(2020年3月11日)
「厳しい状況が続けば償還が免除されるわけでございまして、そういうことについてももっと広報していきたい」(同年3月23日)
当初から「返済免除」が強調され、20年3月25日に受け付けが始まると、一斉休校で働けず減収に苦しんだ人らの申請が相次いだ。
その後も流行の波ごとに営業自粛や外出自粛が求められ、コロナの影響は長引いた。特例貸付もそのたびに10回の延長、追加の貸付が重ねられ、多い人で200万円の借金を背負った。そして、県内で約4割の返済が免除された。
困窮「コロナが問題?」生活保護は横ばい
阪神・淡路大震災以降、生活困窮者の支援活動を続けてきた「神戸の冬を支える会」事務局長の青木茂幸さんは、免除が4割に上ることについて「生活が苦しい状況なのは、本当にコロナの影響なのか」と疑問を投げかける。
08年のリーマン・ショック時は「派遣切り」などが問題になり、多くの非正規労働者が職を失った。その影響はすぐに生活保護に表れ、兵庫県内でも受給世帯は一気に増えた。
コロナ禍では、非正規労働者だけでなく、飲食や観光業から高齢者までさまざまな影響が出ているにもかかわらず、20年以降の生活保護の受給世帯数は横ばいが続く=グラフ。
青木さんは「貸付があったから、本来は増えていたはずの生活保護が横ばいになっている。返済が始まるこれからが大変だ」とし、「これだけ多くの人がすぐに借金に頼らざるを得なかった状況がある。国はコロナのせいにしているが、背景にはコロナ禍以前からの雇用のあり方、最低賃金などに問題があったのではないか」と指摘する。
返済「10年では終わらない」
コロナ特例貸付の返済期限は長くて10年。25年から返済が始まる分も含めて34年末には終わる予定だが、県社協の担当者は「10年では終わらない」と見通しを語る。
阪神・淡路では「震災特例貸付」で約103億円、災害弔慰金法に基づく「災害援護資金」で約1309億円が貸し付けられたが、28年がたった今も震災特例貸付は約4700件、約7億5600万円が未返済のまま。災害援護資金は未返済が多い中で国が免除要件を拡大したものの、まだ約6億3700万円が未返済で、兵庫県などは解決のために免除する方針だ。
コロナ特例貸付でも免除にならないまま返済もできず、数十年にわたって借金を背負い続ける人が出かねない。県社協の担当者は「災害と違うのは、政府が国民に行動制限を求めたことだ。そこへの補償は貸付ではないはず」と指摘。「今後、返済が始まる人への支援はもちろん、免除になった人も生活が苦しく支援が必要だ。一人でも多くの人が生活を再建できる環境づくりに目を向けてほしい」と訴えた。
●「日本がギリシャのように財政破綻することはあり得ない」 3つの理由 1/22
「毎年借金が膨らむ日本は近い将来財政破綻するのでは」と心配する人がいる。経済アナリストの森永康平さんは「日本が財政破綻することはない。日本は過去に財政破綻したギリシャとは置かれている状況がまったく異なる」という――。
「財政破綻」とは債務を履行できなくなること
【森永】日本の財政破綻があり得るかどうか考えていきたいと思いますが、その前に中村くん、そもそも「財政破綻」ってどういう状態かわかりますか?
【中村】ええと……借金を返せなくなること……?
【森永】正解です。専門的にいうと「債務不履行」ですね。債務(借金)を負った人が債権者(お金を貸した人)に対して、返済義務を履行できなくなる(借金を返せなくなる)ことを指します。また、債務には利息がつきますので、その利払いができなくなることも「財政破綻」と言えるでしょう。ではもう1つ質問です。過去に財政破綻した国で、ギリシャとレバノンがどのような理由で破綻したかわかりますか?
【中村】ギリシャは欧州中央銀行(ECB)に対するユーロ建て、レバノンはアメリカに対するドル建てという外貨建ての借金で破綻したんですよね。
【森永】その通りです。よく理解できています。
日本銀行が発行する通貨で日本が財政破綻することはあり得ない
それではここから、日本について復習しましょう。日本政府が発行した国債は誰が何で買うと説明しましたか?
【中村】民間銀行が、日銀当座預金で買います。
【森永】そうです。日銀当座預金は民間に絶対に出回らない種類のお金ですが、通貨単位は「円」で共通です。また発行者は日本銀行です。自国の中央銀行が発行している通貨で、日本政府が債務を負って、その債務が不履行になると思いますか?
【中村】い、いや、ならないと思います……。
【森永】そういうことです。日本政府が円建ての日本国債で財政破綻を起こすことはまずあり得ません。これが答えです。ここから、日本の財政破綻が起こらない理由をより詳しく解説していきます。
日本は外貨建て国債を発行していない
1自国通貨を運用している
日本が財政破綻しない1つ目の理由は、何度も説明している通り、自国通貨を運用しているからです。日本では日本円が流通しており、“国の借金”はすべて日本円建てです。日本円は日本銀行と日本政府が発行することができるので、債務不履行が起きることはまずないでしょう。
【中村】日本はレバノンのように、外貨建ての国債は発行していないのでしょうか?
【森永】発行していません。2022年5月現在で、日本政府が発行している外貨建て国債はゼロですね。
【中村】過去にも一度も外貨建て国債を発行したことはなかったのでしょうか?
【森永】過去にはあります。例えば1904年から1905年にかけて行われた日露戦争では、戦費調達のためにポンド建て国債が発行されました。当時も日本円建ての国債発行や、増税による戦費調達は行われていましたが、武器や戦艦がすぐに必要だったため、外国から直接買い入れる必要がありました。そこで、イギリスで製造中だった艦隊を購入するために、イギリスに対してポンド建て国債を発行して購入したのです。
【中村】なるほど……戦争のためにお金が必要だったんですね。
【森永】そうです。当時は金本位制といって、政府が発行できる貨幣の量は保有する金(ゴールド)の量によって制限されていました。増税や外貨国債が必要だったのです。ちなみにこのポンド建て国債の返済が終わったのは、1988年の6月です。
【中村】そんなに最近なんですか? ギリギリ昭和くらいなんですね。
【森永】借入から返済まで約100年ですね。これだけ長期にわたって債務を負い続けられるのが、政府と個人の違いでもあります。
日本は国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力がある
2十分な供給能力を有している
2つ目の理由が、日本は十分な供給能力を有していることです。中村くん、レバノンの財政破綻の理由は覚えていますか?
【中村】はい、ドル建て国債を返済できなくなったからですよね。
【森永】その通りです。しかしレバノンはレバノンポンドという自国通貨も持っていましたよね。ドル建て国債で借金を負った理由は覚えていますか?
【中村】えーっと……国内でモノやサービスを生産する力がなくて、いろんなものを輸入するしかなくて……。
【森永】輸入物価を維持するために固定為替相場制にして、レバノンポンドの価値を維持するためにドルが必要で、国内で保有しているドルが不足してドル建て国債を発行し、その国債を返済できなくなって財政破綻、ですね。
【中村】あ、そうでした。あらためて聞いても、ちょっと難しいですね。
【森永】いろいろとプロセスがあり難しく思うかもしれませんが、ここでもっとも重要なのは「レバノンにはモノやサービスを生産する能力がなかった」ということです。自分の国で食糧や医療など、国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力があれば、海外から輸入する必要がなく、外貨建て国債を発行する必要もなかったわけですから。
日本は潤沢な対外純資産がある
【森永】ここでまた日本のことを考えてみましょう。日本の経済成長は25年も停滞していますが、それでもGDP500兆円以上のモノやサービスの生産能力を有する、世界3位の経済大国です。日本政府が発行する国債は毎年大部分を民間銀行が購入していますし、政府支出も国内の事業者がモノやサービスを生産することで概ね完結しています。もちろん食糧や石油などのエネルギーは輸入に頼らざるを得ませんが、日本国民の需要は概ね日本国内の行政や民間企業で満たすことができています。
【中村】この状況なら、外貨建て国債を発行する必要もないということでしょうか?
【森永】その通りです。
【中村】でも森永先生、エネルギーや食糧は輸入に頼っているわけですから、そこで外貨建て国債は必要ないのでしょうか?
【森永】今のところ必要ありません。日本は潤沢な外貨準備と対外純資産を持っているため、外貨建て国債を発行しなくても、輸入の際に問題なく支払いを行うことができます。
【中村】外貨準備……対外純資産……。
【森永】要は、外貨建て国債に頼らなくとも、外国貨幣を豊富に持っているということです。中村くんも海外旅行の経験があるようですが、日本製の自家用車が外国で走っているのを見かけませんでしたか? あれは貿易によって日本の自動車会社から外国へ輸出しているのですが、企業が得た外貨は、どこかのタイミングで日本円に両替されます。両替のタイミングで、政府や日本銀行が外貨を手に入れるというわけです。
日本の対外純資産は約356兆円
【中村】なるほど、そういうことなんですね。ちなみに日本にはどれくらいの外貨があるのでしょうか?
【森永】財務省の発表によると、2021年5月25日時点で日本の対外純資産は356兆9700億円、2022年3月7日時点で外貨準備は1兆3845億7300万ドルです。日本のモノやサービスを海外に販売することによってこれだけのお金を稼ぐ力があるので、外国から食糧やエネルギーを購入する際も、外貨建て国債を発行する必要はない、ということですね。
なお「対外純資産」とは、外国に対して負っている債務(負債)と、外国に対して持っている債権(資産)との差額です。例えばアメリカに対して10兆円の債務を負っていても、イギリスに対して20兆円の債権を持っていれば、対外純資産は10兆円となります。なお、「純資産」の中には土地や建造物などの有形資産も含まれます。つまり、日本の対外純資産が356兆円だからといって、356兆円分の外貨を持っているわけではない、ということですね。
世界が変動為替相場制に移行した背景
3変動為替相場制を採用している
【森永】3つ目の理由は、変動為替相場制を採用していることです。レバノンは国内にモノやサービスを生産する力がなく、外国からの輸入に頼らざるを得ず、輸入物価を維持するために固定為替相場制を採用した、と説明しましたね。
【中村】はい、なんとか理解できました。
【森永】では今度は日本です。日本は変動為替相場制を採用しています。夕方のニュースで「本日の為替は1ドル130円、1ユーロ142円……」と流れるやつですね。レバノンはモノやサービスを生産する能力が不足していたために固定為替相場制にする必要がありましたが、反対に日本は十分な供給能力があるから変動為替相場制を採用することができる、と言えます。
【中村】日本も昔は固定為替相場制でしたよね? 1ドル360円の時代があったと、歴史の授業で習った記憶があります。
【森永】よく覚えていますね。その通り、かつては日本も固定為替相場制の時代がありました。変動為替相場制に移行したのは、1973年のことです。アメリカの「ニクソンショック」をきっかけとした為替相場の大転換でした。
【中村】あ、それです! 授業で出てきました。
【森永】当時、アメリカは金本位制を採用していました。国内に保有する金(ゴールド)の量によって、政府が発行できる貨幣の量が制限される、というものです。これはアメリカが世界の金のうち7割を保有していて、ドルが基軸通貨として機能していたことが理由です。
しかし、1955年から20年間も続いたベトナム戦争で、武器を海外から購入するなどしてドルがアメリカ国外に流出しました。加えて、欧州各国がモノやサービスをアメリカへ輸出し、アメリカがドルでそれを購入したことも重なりました。流出したドルは、今度はアメリカの金を購入するために使われ、アメリカ国内の金が流出することになります。
【中村】ふむふむ……。
【森永】アメリカドルと金の流出が続き、アメリカ国外にあるドルが、国内の金の量を上回る寸前まで達しました。そうすると、通貨の裏付けである金が不足することになり、ドルに対する信頼が揺らいで価値が暴落する、という流れです。
アメリカも、ドルが暴落したまま傍観するわけにはいきません。そこで国内外に向けたいくつもの経済対策を打ち出しました。その1つが、ドルと金(ゴールド)との兌換だかんを停止することだったのです。
1ドル360円という価値の根拠が失われた
【中村】でもそれでなぜ、日本が変動為替相場制に移行しなければならないのでしょうか?
【森永】ニクソンショックによって、日本だけでなく世界中が変動相場制に移行したのです。変動為替相場制とは、当該国間の経済状況によって、その国の通貨の価値が変動する制度のことです。ドルは金という裏付けを失ったため、1ドル360円という価値の根拠を失い、世界中で変動為替相場制に移らざるを得なかった、ということですね。
【中村】なるほど、そういうことなんですね。
【森永】変動為替相場制を採用できているということは、MMTを考える上で非常に重要です。なぜなら固定為替相場制では、自国通貨の価値を保つために、レバノンのように外貨建て国債を発行する必要があるからです。自国通貨を運用しながら外貨建て国債を発行していれば、それを税金などで返済する必要がありますから、MMTの考え方の外にあることになります。実際にレバノン以外にも、自国通貨を運用しながら外貨建て国債の返済や利払いができずに財政破綻を起こした国は多数あります。
【中村】あ、そうなんですか。
   【図表1】財政破綻した国とその理由 ・・・
【森永】例えば1998年のロシアです。ロシアは直近でもウクライナ侵攻により外貨資産が凍結され、ロシアの主要銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されたことで、ドル建て国債が債務不履行となりました。しかし実は過去にも同じようにドル建て国債が破綻しています。これは当時のロシアが「ドルペッグ制」という実質的な固定為替相場制を採用していたためです。図表1は、財政破綻した国とその理由を簡単にまとめたものです。どの国も日本とは状況がまったく違うことがわかりますね。
●政府は「日本人の9割を正社員にする」覚悟を…「厳しすぎる現実」 1/22
岸田文雄政権が掲げる「異次元の少子化対策」。1月19日に政府が対策会議の初会合を開いた。3月末をメドに具体策のたたき台をとりまとめ、6月の「骨太の方針」までに、こども予算倍増の道筋が示されるとしている。
この異次元の少子化対策では、(1)児童手当などの経済的支援の強化、(2)産後ケア、保育などの支援の拡充、(3)働き方改革、が3本柱となる見通しだ。
『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』では、平均年収があったとしても、子どもの教育費にかかる不安が大きい。本当に必要な少子化対策とは何か、問題提起したい。
深刻すぎる少子化の根本原因
「政治家なんて、物の値段はもちろん、私たちの生活なんて分かってないと思うのです」
『年収443万円』に登場する北海道に住む女性(20代)は、寒い冬でも灯油代を節約するためストーブをつけるのは一部屋だけ。小学生の子どもの習い事も減らして出費を抑えている。食品の価格も高騰するなか、玉ねぎが1個80円もしたら買えないでいる。
新型コロナウイルスの感染拡大でアパレル店舗での職を失った。第二子が保育園から退園にならないよう清掃のパートでつなぎ、副業を始めた。夫の収入が頼りだが、その夫もコロナの影響で仕事を失いかねない状況だ。正社員の職を探しても賃金は低く、子育てと両立できないのが目に見えている。
「政府が賃上げと言っても、地域の実情なんて知らない」と、女性は憤りが隠せない。
少子化の大きな原因は、失われた30年の間に蔓延した「雇用の劣化」と「政治不信」だ。
子どもを望む世代、子どもが授かった世代が抱える不安は、大きく2つあるのではないだろうか。ひとつは、「今、抱えている不安」。もう一つは、「将来の不安」。この2つの不安の解消が必要だ。
究極の自己責任の世界
「今、抱えている不安」には、雇用や収入の不安と保育園問題がある。経営者を向いた政治が長く続くなかで、雇用の規制緩和が繰り返されて、企業は非正規雇用を増やして利益を確保するという麻薬のようなうま味を覚えてしまった。
雇用については、非正規雇用が増えたことによる歪が少子化となって現れている。バブル崩壊前の1990年の労働者に占める非正規雇用の割合は約2割だった。それが今では約4割という異常な事態に陥っている。
数ヵ月単位、1年単位で雇用契約が結ばれ、いつ失職するか分からないなかで、子どものいる生活を考えることができるだろうか。
非正社員の増加は、正社員にとっても無関係ではなかった。正社員も人件費削減の煽りを受けて、「非正社員よりいい」「嫌なら辞めろ」「不況だから働けるだけまだいい」というプレッシャーのなかで労働条件の悪化を受け入れざるを得ない状況だ。
安倍晋三政権下の働き方改革の一貫で、残業時間の上限規制が緩和され、いわゆる「働かされ放題」状態に。さらには高所得者層も狙われ、高度プロフェッショナル制度が導入された。
高プロ制度とは、年収1075万円以上で、金融界で働くディーラーやアナリスト、経営コンサルタントなどを対象に、年間104日以上の休日確保や健康管理が行われていれば、労働基準法の労働時間、休息、休日や深夜の割増賃金が適用されなくなる制度。これでは、究極の自己責任の世界で生きることになる。
残業時間の上限規制が緩和され、副業が推奨されるなど、正社員であっても安心して子どもを持てると思える労働環境にない。
規制緩和を行ってきた自民党の重鎮でさえ「正社員で9割を占めるようでなければならない」と言及している。非正規雇用の比率が高い小売り業のなかで業績を伸ばし続けている企業は正社員比率が高いことも珍しくない。
これまで行ってきた雇用の規制緩和が失政だったと認め、「格差是正法」のような新法を作って、雇用や収入が安定する手立てを打たなければ、少子化は止まらないだろう。
たとえ早期に正社員比率を高めることが難しくても、岸田政権が「勤労者皆社会保険」に言及している点は評価できそうだ。筆者は『年収443万円』でも、働くすべての人に社会保険、特に労災保険の適用が必要だと提起している。
社会保険料の負担や固定費増を嫌う企業は、法制度の網の目をすり抜ける。業務請負契約にすることで社会保険の加入が避けられるため、ウーバーイーツなどをはじめ、業務請負で働く人が増えているが、労災保険がかけられないまま事故に遭えば、失うものが大きい。
働くうえでの"足元"が揺らいでいるようでは、倒れないでいるので精一杯。安定した雇用や社会保障がない不安定な地盤のうえでは、個人も経済も成長できないのではないか。非正規雇用の増加が日本の成長を止め、世界の賃金上昇から置いていかれた現実が、雇用施策の失敗を物語る。
労働で対価を得る人全てが社会保険に加入できる仕組みを作ることでセーフティネットを作りつつ、正社員を増やす。もはや、ここから逃げるわけにはいかないだろう。
少子化対策で忘れてならないのが、事実上の「妊娠解雇」が依然として多いことだ。連合の調査では、第一子妊娠を機に退職しているのは正社員で5割、非正社員で7割に上る。
現在、平均年収を得ていたとしても中間層が沈みつつあり、いわゆる"普通"の生活が難しくなるなかでは共働き収入は必要不可欠だ。生活を維持するため、あるいは仕事のやりがいを失わないために妊娠を躊躇してしまう労働環境にある。
労働基準法や男女雇用機会均等法によって、妊娠や出産を理由にした解雇、左遷や降格処分などの「不利益な取り扱い」は禁止されている。法制度があるにもかかわらず、妊娠解雇が横行することに歯止めをかけなければならない。
「2人目なんて考えられない…」
少子化を招くもう一つの「今、抱える不安」は、孤立する育児環境や保育園の問題によるところが大きい。
妊娠を望む時期から子育てまで切れ目ない支援を拡充する必要がある。核家族化が進み、雇用の分断が社会の分断をもたらすなかでは、「子どもをちょっと見ていて」と気軽にいえる人がいなくなり、育児を辛くさせている。シングルマザーシェアハウスのように、近所の人と気軽に交流できる場を作ることが望まれている。
ある女性は「ワンオペ育児で、2人目なんて考えられない」と話す。また、第二子を妊娠中の別の女性は「夫は仕事でほとんど家にいない。2人目が生まれたら、2歳の子と赤ちゃんをどうやって私一人でお風呂に入れたらいいのか? どうやって寝かしつけたらいいのか」と頭を悩ます。依然として、夫のワークライフバランスも重要なテーマだ。
育児で孤立しないよう、仕事を辞めていても、育児休業中でも、フリーランスや個人事業主でも、保育園に預けやすくできるよう入園・利用の要件を緩和し、保育園で気軽に育児相談ができるようにすることも必要だ。そして最も重要で、待ったなしの対策は、保育の質の向上だ。
保育園が利用しやすくなったとしても、保育士による園児への虐待、不適切な保育、ケガや死亡事故などが起こっていては、本末転倒だ。
不適切保育が散見されるなか、保育の質の向上のための急務の課題は、保育士の処遇改善と最低配置基準の引き上げをセットで行うことだ。
現在、私立の認可保育園では運営費を指す「委託費」の大半を占める人件費を他に流用できる「委託費の弾力運用」という制度が国から認められている。そのため、本来は保育士にかける人件費が経営者の報酬、株主配当、事業拡大などに回ってしまっているのが現状だ。
委託費のうち8割以上が人件費を占めるが、実際には保育士の賃金が低く抑えられているケースが少なくない。そのうえ人員配置をギリギリにすることで、人件費支出を4〜5割に抑えて利益を確保する事業者が散見されるようになった。これではいくら国や自治体が処遇改善費を出しても、バケツの底に穴が空いたまま水を注ぐようなもの。
公費で出ている人件費をきちんと人件費に使う。この当たり前の規制を行うだけで、保育士の処遇は大きく改善する。公的な保育園の運営費は税金がベースとなっているのだから、使途に制限をかけるのは当然のこと。自民党政権下で委託費の使い道が自由になりすぎ、今や年間収入の4分の1も流用することができる。保育園で正しく税金が使われたのか、少なくとも園ごとに運営費の使途を公開するべきだ。
それと同時に、長年問題視されてきた保育士の最低配置基準の引き上げを今こそ断行しなければならない。認可保育園では、0歳児3人に保育士1人(「3:1」)、1〜2歳児は「6:1」、3歳児は「20:1」、4〜5歳児は「30:1」となっている。4〜5歳児の基準は、戦後まもなく決められたまま、約70年と変わっていない。
「もう高卒で良いのでは」
そして、「将来の不安」の解消も同時に行わなければならない。
『年収443万円』では、子どものいる世帯では教育費の不安が大きかった。神奈川県に住む男性(40代)は、「小学生の一人娘の学資保険が月2万円、私の小遣いは月1万5000円です。妻の体調がよくないため働けず、私の年収520万円では毎月赤字が出る生活です」と嘆く。
私大に進学したばかりの子どものいる家庭では、初年度に大学に120万円を支払い、一部は奨学金で賄った。保育士である母(40代)は、「大学は無償化か、せめて学費の安い国公立を増やしてほしい」とため息をつく。
奨学金は借金、その子が苦労することになる。学費がねん出できず、「もう高卒で良いのでは」という声が、予想を超えて多かった。
都内在住で世帯年収が約1000万円のケースでも、小学生と保育園の子の学費をためるのに、母は昼食220円、父も370円の弁当で節約。ペットボトルのお茶は飲まない、スタバは高いから我慢。常に最安値で買い物をする日々だ。
出産年齢が上がっているため、近い将来に訪れるだろう親の介護も切実だ。やはり『年収443万円』で就職氷河期世代の近未来の姿となるであろう50代半ばの男性は、介護度は低いが認知症のある親をみるため家を空けられない。デイサービスを週3日しか使えず、仕事に制約がかかって年収200万円という水準から脱せなくなっている。
介護施設を利用するには本人の介護度が基準となるため、介護度が低ければ施設を利用しにくくなり、それでは家族が働けなくなることもある。介護も保育園のように、家族が働いていれば介護施設を使えるようにするなど、抜本的な制度改革の必要性が目の前に迫っている。
政治家は、分かりやすい給付型の「ばら撒き」をしたがる傾向があるが、児童手当の拡充は「ばら撒き」の域を超えないのではないか。もはや、わずかばかりの児童手当などでは解決できない少子化のフェーズに入っている。
日本は不況を理由に非正社員を増やすことで利益を確保するという、人を大切にしない企業文化を作ってしまい、それが社会全体に及んでいる。雇用の分断が社会を分断する。これが少子化をはじめ、日本が沈みゆく一番の原因だ。
「異次元の少子化対策」をきっかけに政治に目を向け、他者に関心を持つことからはじめなければ、少子化が止まることはないだろう。
●異次元の少子化対策を「防衛増税議論一色になるを避けるため、打ち上げた」 1/22
ニュースキャスターの松原耕二さん(62)が22日、TBS系の情報番組「サンデーモーニング」に生出演。岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を発表したタイミングを思案した。
「気になるのは政策を打ち出したタイミング。防衛増税議論一色になるのを避けるため、受けの良い少子化対策を打ち上げたのでは」などと指摘した。
番組では海外に比べて子育て関連の公的支出比率が低いこととともに、岸田首相が児童手当の充実、保育サービスの拡充、子育てしやすい働き方改革などを表明しながら具体的議論が進んでいないことなどを紹介した。
松原さんは「間もなく統一地方選、補欠選がある。受けのいい政策で乗り切って、そこまでは財源議論を封印しようという動きもある。しかも、防衛の議論と違って少子化(予算)倍増は期限を区切っていない。いつまでやるかはっきりしていない」と語った上で「つまり本気度が分からないわけですよ。本気度、そして財源の裏付け。今年は金利の上昇局面になりますから、財政がますます厳しくなるかもしれない。きちんとチェックする必要がある」と断じた。
●橋下徹氏 “異次元の少子化対策”で「政府にやってほしいN分N乗方式」  1/22
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏(53)が22日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」(日曜前7・30)に出演。深刻化する少子化に歯止めをかけるため新設した関係府省会議(座長・小倉将信こども政策担当相)の初会合を開いたことに言及した。
岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げており、3月末に具体策のたたき台をまとめる。関係府省会議は(1)児童手当を中心とした経済支援策の充実(2)学童保育や一時預かり、産後ケアなどのサービス拡充(3)子育てしやすい働き方改革―を主要議題に据えた。児童手当は原則子どもが中学校を卒業するまで月1万円か1万5000円が支給されている。対象年齢の拡大や、子が多い世帯への加算、所得制限の見直しが検討される見通し。初会合では教育費の負担軽減や、保育所や幼稚園に通っていない未就園児への支援の必要性も議論された。
橋下氏は「政府にぜひやってほしいのがN分N乗方式」と、フランスなどで導入されている、子供の数が多くなればなるほど所得税が減税される方式への転換を提案。「今、子供1人当たりにかかるお金がいくらなのかっていう議論が全然ないんですけど、N分N乗になると、子供1人当たりにかかるお金がいくらなのかっていう議論をしながら、じゃあそれぞれの世帯で子供1人当たりの収入額はいくらなのかっていう、その世帯の収入で税率を決めるんじゃなくて、子供1人の収入額に引き直して税率を決めていく。要は、子供1人にいくらかかるのか、そこの収入が賄えないところの人たちには、しっかりサポートをする。しかし高額所得者に対しても子供が増えれば増えるほど、税率は下がっていくってことにすることでバランスを取っていく」と説明し、「子供1人にかかるお金って視点でこの政策議論をやっていってもらいたいですね」と自身の考えを述べた。  
●中国も食指伸ばす中、ベトナムが日本に支援要請した「高速鉄道計画」 1/22
ベトナム政府が国民の長年の夢である北部の首都ハノイと南部の主要都市ホーチミンを結ぶ高速鉄道計画に関して、日本に支援を要請したとのニュースがベトナムで大きく伝えられた。
南北に約1650キロと細長く続く国土は、東側が南シナ海に面し、西側はラオス、カンボジアに接しており東西は広い所で約600キロ、狭い所で約50キロとなっている。計画されている高速鉄道はその国土を南北に縦断することになる。
在来線ではハノイ-ホーチミン間が29時間
すでにベトナムには国土を縦断する「在来線」が存在する。その中のメイン路線となるのがハノイとホーチミンを結ぶ南北線、通称「統一鉄道」だ。ベトナム戦争で一時分断されていたこともあるこの鉄道は、ベトナム人の南北往来を支えてきた。もちろん国内線の航空便もあるが一般市民にはやはり鉄道が馴染みの「移動の足」として利用されてきた。
しかし非電化で単線の統一鉄道では、ハノイからホーチミンまで29時間もかかるという不便さがあり、高速で走る新たな鉄道の建設が早くから国民の念願となっていた。
ベトナム首相が鈴木財務相に支援要請
ベトナム・ハノイを訪問していた鈴木俊一財務相は1月13日、ベトナムのファム・ミン・チン首相と会談し、その中で高速鉄道計画への支援を要請された。
ベトナムは2022年7月にも日本の「国際協力銀行(JBIC)」に対しても高速鉄道計画への財政的支援を求めており、今回の鈴木財務相への支援要請は「同計画の実現のためにはなんとしても日本の支援が必要である」とのベトナム政府の強い姿勢を改めて印象付ける形となった。
建設に関わる費用総額は最大で648億ドル(約8兆3000億円)に上るとされる。高速鉄道計画では、現在ある在来線の南北線が狭軌であることや老朽化していることなどから、新たに高速走行が安定する標準軌で全路線を新設することが計画されている。
この新たな高速鉄道は旅客専用の路線とし、在来線は改良を加えながら貨物専用の路線として残し、活用する計画だという。
日本との関係深いベトナム鉄道
在来線の南北線は1935年に全線が開通し、その後ベトナム戦争などで北ベトナム側と南ベトナム側に分断された。しかし戦後の1976年に再び南北が開通し「統一鉄道」として南北の大動脈の役割を果たすようになった。
この在来線の南北線にも日本は協力しており、1993年には南北線橋梁のリハビリ計画を円借款で行い2004年までに19の橋梁を整備している。
このようにベトナムの鉄道と日本の関係は深く、こうした経緯から高速鉄道計画も「一帯一路」構想により鉄道建設でもベトナム進出を狙っている中国を差し置いて日本に「秋波」を送っているのだ。
中国が手がけるインドネシアの高速鉄道建設には問題がボロボロ
ベトナム南北を縦断する高速鉄道計画では車両基地を5カ所設け、全区間の60%を高架区間として高速走行を可能にし、30%が地上走行区間、残る10%がトンネル区間となる計画だ。
この高速鉄道計画には中国も強い関心を抱いているとされる。ただ、中国が受注して現在建設途上にあるインドネシアの首都ジャカルタから西ジャワ州の州都バンドンを結ぶ約150キロの高速鉄道建設は、費用の膨大化、完工時期の遅れ、死者も出る事故などで、中国への風当たりが強くなっている。
こうしたことからベトナム政府はこの高速鉄道計画への中国の関与を極力排除し、日本の支援を頼みとしているという。
ベトナムは中国の鉄道乗り入れを警戒
また中国はベトナムとは2つの路線で結ばれている。ひとつは、中国雲南省の昆明から同省・河口を経て、ベトナムのラオカイ、ハノイ、港湾都市ハイフォンに至る路線だ。この路線は、もともと仏領インドシナ時代に建設された滇越鉄道で、レール幅は1000ミリ、いわゆるメーターゲージの路線。ただ老朽化も進んでいるため、現在は中国-ベトナム間の運行はほぼ行われていない模様で、中国側は1435ミリの標準軌へのリニューアルを進めている。
もうひとつは、中国の広西チワン族自治区南寧市とハノイ市のザーラム駅を結ぶ路線である。こちらは中国側は標準軌、ベトナム側はメーターゲージだったが、ベトナム側が1000ミリの列車にも1435ミリの列車にも対応できるよう、レールを3本設置する三線軌条にすることで、中国からの乗り入れを可能にしている。
こうしたこともあり、中国はメーターゲージが主流のベトナムに、1435ミリの標準軌に変更するようたびたび求めている。
昨年秋、中国の習近平主席とベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は北京で会談しているが、会談後に発表された「中越の全面的な戦略的協力パートナーシップのさらなる強化と深化に関する共同声明」にも、<ラオカイ-ハノイ-ハイフォンの標準軌鉄道計画の見直しをできるだけ早く完了する>と明記されていた。
中国は、ベトナム最大の港湾都市ハイフォンへ続く鉄路を確保したがっているのだ。しかしそのためには、手前にある首都ハノイを通過することになる。ベトナム政府にとってみれば、これは安全保障上の大きな問題になる。
共産党の一党支配にあるベトナムは、1979年に勃発した中越戦争を経て、その後は年々、中国共産党との共産党同士の関係を深めており、現在、経済的には中国に大きく依存している。一方で、南シナ海では中国との間に領有権問題を抱え、経済での蜜月ぶりとは異なり、安全保障分野ではしばしば対立している。
そうした中国に対する警戒感から、ベトナム政府は1435ミリの標準軌への転換をためらってきた経緯がある。
そのために、今回再浮上した高速鉄道計画では、中国ではなく、日本に対して協力を要請したということなのだろう。
ベトナムからの支援要請に日本は……
では日本政府はこの要請にどう応じるのか。
ベトナムの高速鉄道計画は、2010年に閣議決定されたものの、その後の国会で「建設費用が巨額である」として否決されている。近年のベトナム経済の急成長ぶりからして、資金面では当時よりも余力があると見られるが、国会の同意をどう取り付けるかも大きな問題だ。
そして何より、日本は要請に応じるのか、そして協力するとしたらどこまで協力するのか、も大きなテーマとなる。かつてインドネシアの高速鉄道計画の入札で、日本にほぼ決まりかけていたににもかかわらず、インドネシア政府に裏切られるような形で、土壇場で中国にさらわれるという事態が発生した。
そのような事態は論外だが、だからと言って採算度外視で建設や運営にまで携わるのも問題だ。また一方では、経済的に昔からかかわりが深いベトナムとの関係や、一帯一路の拡充を目指す中国の存在を考えれば、ここは日本が積極的にかかわりベトナムのインフラ整備を推進すべきという考え方にも大いに理がある。
ファム・ミン・チン首相との会談で、鈴木俊一財務相がどのような反応を示したのかまでは伝わってきていないが、日本としては熟考が必要な案件になるだろう。
2030年までに一部区間の工事を終え、2045年までに全線の開通を目指すというベトナムの高速鉄道計画。ベトナム国民の夢はどのような形で帰結するのだろうか。

 

●日本の医薬品貿易赤字4兆5千億円超:これでいいのか日本の医療は! 1/23
今週発表された財務省貿易統計の速報値で、医薬品貿易赤字額は、4兆5584億円となった。輸出額は増えて1兆1428億円と初めての1兆越えとなったが、それをはるかに上回る5兆7012億円の輸入額となり、貿易赤字は昨年度より1兆円以上の増となった。
円安の影響で5兆円を超えるかも・・と思っていたが、昨年度よりも大きく悪化し、この分野の赤字は、日本の昨年度の貿易赤字の20%を占めている。円安の影響があったとはいえ、本当にこれでいいのかと思う数字だ。
下図からわかるように2010年以降の赤字急増は国家的な危機意識があってしかるべきだが、この国の打つ手は同じ失敗のくり返しだ。
日本が画期的新薬の開発競争に乗り遅れた最大の要因はゲノム研究に対するリテラシーの低さだ。20世紀から21世紀に代わる頃、薬剤標的になる分子を見つけて、それをもとに薬剤を開発するといったパラダイムシフトが起こった。標的を見つけるためには、ゲノム研究が鍵となったが、そこで決定的な差がついた。ゲノム研究そのものは国際的に高いレベルの時もあったが、それと創薬が結びつかなかった。
そして、国際治験の一翼を担っていることだけで医師をもてはやす風潮が、画期的新薬を日本から発出するための逆風となった。日本発の薬剤を開発するには、日本の中で第1相・第2相臨床試験に挑むことが必要だが、この部分は依然として非常に弱い。役所などはベンチャー支援と叫んでいるが、その支援は中途半端な限りだ。コロナワクチンに関しては、気前よく研究費が配分されていたが、その審査もかなり政治的だった。
ワクチン開発をするには、ある程度感染症が広がっている時期(地域)を対象にしない限り、意味のある差が出るはずもない。リアルタイムでの情報収集が不可欠だ。
コロナ感染症の経口治療薬開発は現状のままでは絶対に国内で臨床試験はできない。そもそも、タミフルやリレンザのようなインフルエンザ治療薬には発症早期に服用するようにとの注意が書かれている。臨床試験を速やかに進めるためには、リアルタイムで、どこに、どの程度の重症度の患者さんがいるのかをリアルタイムで把握する必要がある。
コロナ騒動から3年間も経つのに、残念ながらリアルタイムでの情報収集システムができたという話を聞かない。この状況でどのように対象患者を見つけるのか?
永田町や霞が関、そして大手町で、感染症対策として大きなプロジェクトが動き出している。ワクチンや治療薬を開発する方向に向かっているのはいいことだが、有効性を検証する仕組みについては全くと言っていいほど検討されていない。
日本が医学・医療分野で失地挽回を図り、国際競争力を取り戻すためには、すべてを俯瞰的に見て考えていく人材の発掘が必要だ。視野狭窄の研究者と現場を知らない役人が鉛筆を舐めながら国家予算を差配する。この仕組みが日本をダメにしている。
私が2000年前後にお世話になった科学技術庁の官僚には、大きなビジョンを理解できる人たちがたくさんいたが、今はほぼ皆無と言っていい。20〜30年後の医療の姿をシミュレーションして、将来を見据えた戦略を立て、戦術に落としこむことができるような若手研究者と若手官僚を見つけ出すことが急務だ。
今日の遅れを取り戻すために四苦八苦しているような状況では、彼我の差は拡大する一方で、日の丸の誇りは日々失われ、霞んでいく。
●安保転換と原発回帰 歴史の教訓、忘却の先に  1/23
昨年十二月、岸田文雄首相は安全保障や原発を巡る政策転換に踏み切りました。国際情勢の変化、脱炭素の要請とエネルギー危機に対応するためとしていますが、戦争や原発事故という歴史の教訓を忘れてはなりません。
新年早々、林芳正外相と浜田靖一防衛相に続き、首相がワシントンを訪問しました。新たな国家安保戦略に敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛予算「倍増」を明記したことを伝え、米政権から支持を取り付けるためです。
米側は「同盟の抑止力を強化する重要な進化」と支持。バイデン大統領は首相の「果敢なリーダーシップを称賛」したそうです。
日米の首脳や閣僚同士が結束を固める背景には、軍事的台頭著しい中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの警戒感があります。
日米など民主主義国が協調して対処する必要があるとしても、日本の対応には限界があります。
敵基地攻撃という威嚇
憲法九条はこう定めます。
《日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又(また)は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する》
戦後日本は「軍隊」を持たず、日米安保条約で米軍の日本駐留を認める道を選びました。その後、必要最小限の自衛力として発足した自衛隊は専守防衛の「盾」に徹し、攻撃力の「矛」は米軍に委ねる役割分担が定着しました。
これを根本から変え、自衛隊も攻撃力を持ち、米軍の役割を一部肩代わりするのが、敵基地攻撃能力の保有です。政府は、日本攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を高め、結果的に日本の平和と安全が維持できる、と説明します。
安倍晋三内閣当時の二〇一四年に憲法が禁じてきた「集団的自衛権の行使」が内閣の一存で容認され、翌年の安保関連法成立の強行で、外国同士の戦争への参加が法的には可能になっています。
その上、自衛隊が、海を越えて外国の領域にある施設を攻撃できる装備を実際に持てば、地域の軍拡競争の火に油を注ぎ、逆に情勢が不安定化する「安全保障のジレンマ」に陥るのは必至です。
そもそも、そうした攻撃的兵器を大量に備えることは憲法九条が禁じる「武力による威嚇」にほかなりません。歴代内閣も「憲法の趣旨でない」としてきました。
日本周辺で衝突が起き、日本も参戦すれば損害は甚大です。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は中国の台湾侵攻に日米が参戦した場合、日米は艦艇数十隻や航空機数百機を失うほか人的被害も数千人に上ると報告します。民間被害も不可避です。
戦争をしない、他国に軍事的脅威を与えるような国にならないという戦後日本の「平和国家としての歩み」は、国内外に多大な犠牲を強いた先の戦争への反省に基づく誓いそのものです。そうした安保政策を根本から転換した岸田首相には、過ちの歴史で得た教訓と誠実に向き合う姿勢が感じられません。歴史への冒涜(ぼうとく)です。
「死亡事故なし」の虚言
原発への回帰も同様です。
岸田内閣は六十年としてきた原発運転期間の延長を認めました。政府は福島第一原発事故後「新増設や建て替えは想定していない」と繰り返してきましたが、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むともしています。
事故が起きれば収束が困難で、多くの人から故郷を奪い続ける原発は、徐々に依存度を下げ、廃止することが歴史の教訓です。
再稼働にとどまらず、老朽原発を延命し、将来の新増設まで視野に入れるとは、過酷な事故を忘れているとしか思えません。
自民党の麻生太郎副総裁は講演で「原発は危ないというが、死亡事故が起きた例はゼロだ」と強調しましたが、実際には死者は出ています。首相経験者が事実を曲げてでも原発を推し進める。日本の指導層はいつからそんな恥知らずになってしまったのでしょう。
ドイツの宰相ビスマルクの格言に「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」があります。愚かなる者は歴史から学ばず、自らの経験にしか学ばないとの意味です。
戦争や原発事故を再び経験しないと学ばないのか。でも起きたら取り返しがつかない。歴史の教訓を忘れた先にあるのは破局です。きょうから始まる通常国会が、先人たちが残した教訓をいま一度思い起こす場となるよう願います。
●きょう通常国会召集 国の形 正面から論じよ 1/23
通常国会がきょう召集される。物価高、少子化対策、安全保障、新型コロナウイルス対策など論点は多岐にわたる。
個別の論点を掘り下げてほしいが、与野党双方に望むのは、日本という国の形、針路を正々堂々と論じることだ。
岸田文雄首相は安全保障、エネルギーといった政策を、国会論議もなく大転換した。首相自身の言葉で日本の未来を語り、各党がその是非を徹底して点検してもらいたい。
首相は2021年衆院選、22年の参院選を乗り切り、衆院解散がなければ25年まで国政選挙がない「黄金の3年」を手中にした。
政策を実現するのに十分な時間を得た。では首相のこの間の「実績」とは何だったか。
国是の専守防衛を逸脱する恐れのある敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を明記した安全保障関連3文書の閣議決定があった。原子力発電所の運転期間を最長60年から「60年超」とし、原発を最大限活用する方針も決めた。
安全保障政策の転換は、戦後日本が積み上げてきた平和国家の根幹を揺るがす。エネルギー政策は東京電力福島第1原発の事故を受けて、原発依存度を低め安全なクリーンエネルギーに転換する目標があったはずだ。岸田政権の方針は時代に逆行している。
何より問題なのは、これら国の方針を大きく変えるに当たり、国民に問うことなく閣議決定など政権内部で決めたことだ。国民には政権の方針のみが伝えられ、議論の過程が全く見えない。
敵基地攻撃は先制攻撃と同じ意味ではないのか。東アジアの安全保障環境の変化に対応するのに外交努力を尽くしたのか。物理的な力の増強しか道はないのか。エネルギー危機を乗り切るのに原発以外の手法を模索したか。
県民からすれば、再び国の「捨て石」として南西諸島を戦場にしかねない安全保障政策は認められない。東アジアに軍拡競争を招く可能性もある政府の方針も、とうてい納得できるものではない。
疑問や懸念は数多くある。国会の論戦を通じ、国民の不安を解消するのは当然だ。
同時に安全保障関連の議論では防衛費の増額、その財源をどうするかが盛んに語られる。だが安全保障政策の大転換に当たっては、国民的合意を得ることが前提のはずだ。
防衛費増額ありきとする議論は、そもそも前提が間違っている。政府、各党はその点を認識すべきだ。
防衛費増額については、昨年7月、海上自衛隊呉地方総監部の伊藤弘総監が「(個人的感想として)もろ手を挙げて喜べない」と記者会見で語った。社会保障にさらなる予算が必要であり、防衛費を増額できるほど日本経済に余裕はないのでは、という理由だ。
伊藤総監の言葉はコロナや物価高で生活にあえぐ国民感情と重なる。必要なのは勇ましい言葉でなく、地に足の着いた国民視線の議論だ。
●異次元の少子化対策など  1/23
石破茂です。
来週月曜日より通常国会が開会されます。質問する側も答弁する側も万全の体制で臨み、有権者に日本国の問題点を提示し、解決に向けての方向性を明らかにしなくてはなりません。
我々のように当選期数を重ねた者にはなかなか質問の機会が回ってこないのですが、常に自分が質問し、答弁する立場に立ったつもりで本会議や委員会質疑に臨みたいと思います。
先日の護衛艦の事故に続き、一昨日は新潟県柏崎沖で海上保安庁巡視船が座礁事故を起こすという、にわかには信じられないことが起こっています。我が国はどこか根幹でおかしくなりつつあるように思われてなりません。
一般の事故とは異なり、国家の独立と平和、国民の生命・財産と公の秩序を守る任にあたる艦や船が事故を起こした重大性を強く認識すべきであるところ、組織にその危機感が薄いように思われるのは私だけなのでしょうか。ただ防衛費や海上保安庁の予算を増やしさえすればよいというものでは勿論ありません。
昨朝は三か月ぶりに自民党のウクライナ関係合同会議が開催されました。ロシアによるウクライナ侵攻が開始された頃は、参加する議員も多く、白熱した議論が展開されたものですが、一年も経つと議員数も少なく、論議も低調なものとなりました。このようなことに流行り廃りがあってはなりませんし、事態は今の方がより深刻というべきでしょう。
NATOは今までウクライナに主に防御的武器を供与してきていますが、ロシアに対してこれ以上のウクライナ侵攻を思いとどまらせるような支援のあり方を考える必要があり、この戦争の出口を見出す努力をしなければならないのではないでしょうか。
国連安保理の非常任理事国となり、今夏のサミットの議長国も務める我が国は、たとえアメリカの意に全面的に沿わなくても、停戦に向けた積極的な提案をすべきです。ウクライナの独立を保つための方策を議論することこそが重要です。
少子化対策は「異次元」を謳って臨むのですから、従来の政策の量的な拡大に終わるものであってはなりません。この問題に対して精神論が何の意味も持たないことはすでにわかりきっています。望む人が「結婚して家庭を持ち、子供を産み育てるほうが、経済的に余裕ができる」ような仕組みを構築することが必要です。
知らなかったのですが、浜松市(秘書官であった中野祐介氏が目指す市長への政治活動の応援に行きました)は、太平洋戦争において最も多い34回という空襲を受けた都市であり、かつ米英艦船による艦砲射撃も受けた数少ない都市の一つだったそうです(他には室蘭市、釜石市、日立市、清水市)。
B-29爆撃機は陸軍機であり(米空軍の創設は1947年)、陸軍のマッカーサー元帥と海軍のニミッツ提督との主導権争いもあって、海軍の存在感を示す目的もあったとのこと。各軍の対立は古今東西変わらないもののようです。
統一地方選も近づき、選挙区の鳥取県のみならず、全国いくつかの地域から応援のご要請を頂いております。自民党は地方組織あってのものであり、国会議員だけのためのものではないのですから、できるだけ、ご要望にお応えしたいと思っております。
皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。
●米大統領首席補佐官にザイエンツ氏 米メディア報道 1/23
バイデン米大統領はクレイン大統領首席補佐官の後任に、ホワイトハウスで新型コロナウイルス対策調整官を務めたザイエンツ氏を起用する見通しになった。米主要メディアが22日、相次ぎ報じた。政権の要となる重要ポストで、2024年大統領選での再選出馬に意欲を示すバイデン氏を支える。
ザイエンツ氏は米デューク大を卒業後、民間企業の経験が長い。経営コンサルタントを経て、オバマ政権で初めて政府職員になった。ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)や国家経済会議(NEC)などの要職を歴任し、バイデン氏が当選した20年大統領選で陣営に参画。政権移行チームの共同議長を務めた。現在56歳。
バイデン氏は2021年1月に就任直後、ザイエンツ氏を政権のコロナ対応を指揮するコロナ対策調整官に充てた。22年4月に調整官を退任するのを前に発表した声明では、ワクチン普及などの実績を挙げ「ジェフ(・ザイエンツ氏)ほど結果を出せる人物はいない」とたたえた。
米メディアによると、クレイン氏は職務の過酷さなどを理由にバイデン氏が2月7日に米連邦議会で臨む一般教書演説の後に退任する。ザイエンツ氏はバイデン氏が副大統領時代の機密文書を不適切に扱っていた問題で劣勢に立たされる政権の立て直しをめざす。
大統領首席補佐官は連邦政府を統括するホワイトハウスの運営を取り仕切り、大統領の長年の側近が就くケースが多い。ザイエンツ氏は副大統領だったバイデン氏の首席補佐官などを務めたクレイン氏ほど深い関係にない。
米紙ニューヨーク・タイムズはザイエンツ氏について「これまでの典型的な首席補佐官のような政治経験はほとんどない」と指摘。ザイエンツ氏が政策調整を中心に取り組む一方、バイデン氏は大統領顧問ら他の側近に再選に向けた選挙戦略を任せる役割分担を想定している可能性があると伝えた。
政府高官が目まぐるしく代わったトランプ前政権と対照的に、バイデン政権はこれまで骨格を維持してきた。現時点で閣僚はひとりも代わっておらず、ホワイトハウスの高官では22年5月に大統領報道官が交代した例がある。
●国会と憲法改正 条文案の策定に着手せよ 「9条」でも合意形成を急げ 1/23
通常国会の召集日を迎えた。与野党は今年こそ、憲法改正原案の策定に着手すべきである。
ロシアによるウクライナ侵略は越年し、今も続いている。中国は軍備の増強を進め、台湾併(へい)吞(どん)に向け、武力行使も辞さない構えを取り続けている。北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返し、7回目の核実験に踏み切る可能性が指摘されている。
日本は専制国家に囲まれているにもかかわらず、国の根幹をなす憲法は、安全保障上の危機を乗り越えるのに、十分とはいえない。早期の改正が必要なのは、論をまたない。
首相が先頭に立つ時だ
政府は昨年12月、抑止力と対処力の向上に向け、国家安全保障戦略など安保3文書を閣議決定した。国民を守るためには、憲法改正も必要だ。
岸田文雄首相(自民党総裁)は先の臨時国会で「(総裁任期中の憲法改正という)思いは全く変わらない」と語っておきながら、年頭の記者会見で具体的に触れることはなかった。改憲の必要性を繰り返し訴え、国会での議論をリードすべきである。
憲法改正の本丸は第9条である。改めて指摘しておきたいのは、これまで日本の平和を守ってきたのは9条ではなく、自衛隊の存在と日米安保条約に基づく抑止力である、という点だ。9条を唱えていれば平和が訪れると考える勢力の無理解により、抑止力の構築は妨げられてきた。
世界の民主主義国は軍隊をもち、抑止力にしている。自衛隊は日本の平和と独立を守る任務を担っており、国際法上は軍隊として位置付けられている。その自衛隊を、「憲法違反」とする解釈が出てくるような存在にさせてはならない。憲法に自衛隊を明記するのは当然である。
最終的には「戦力不保持」を定めた9条2項を削除し、軍の保持を認めるべきだ。
国の根幹に関する重要な課題は山積している。与野党は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題など足元の課題に忙殺され、安保政策では防衛費増額の財源確保策の議論に汲(きゅう)々(きゅう)としている。大局からの改憲論議はおざなりにされ、9条の議論は低調のままだ。先の臨時国会で、自衛隊明記は焦点にならなかった。
その一方で、緊急事態条項の新設を巡り、国会議員の任期延長について、各党別に論点が整理されるなど、議論が進んだのは望ましかった。
南海トラフの巨大地震や首都直下地震などの大災害やテロはいつ起きるか分からない。日本有事に直結する台湾有事は、現実味を帯びている。国政選挙が実施できず、国会が機能不全に陥るなどの事態は当然、想定しておかなければならない。
憲法は衆参両院議員の任期を規定している。緊急時に国会の機能を維持できるよう延長を可能にしておく必要がある。
意見開陳に終始するな
ただ、それだけでは不十分だ。外部からの武力攻撃や大規模テロなどが発生した際に首相が緊急事態を宣言し、一時的に内閣に権限を集め、法律に代わる緊急政令を出し、予算の変更などを認める緊急財政処分を行えるよう、憲法に定めておくことが欠かせない。
衆院憲法審査会で自民党は、議員任期延長の規定創設を主張し、併せて、緊急政令の制定や緊急財政処分についても規定が必要だと唱えた。
日本維新の会、国民民主党もほぼ同様の姿勢を取っており、前向きで評価できる。
これに対し、公明党は「白紙委任的な緊急政令制度を設けることには慎重であるべきだ」とするなど、与党内で考え方に温度差がある。公明の見解は、国民を守る責務を踏まえたものとは、とても思えない。
立憲民主党は、そもそも緊急事態条項の創設に動くことに後ろ向きだ。このため衆院憲法審で「緊急事態に特化した議論ではなく、国会の召集義務や解散権などを幅広く議論することが求められる」と主張していた。意見集約を警戒しているのか。立民も改憲の対案を条文の形で示すべきだ。
通常国会では、衆参の憲法審を積極的に開催し、合意形成を急いでもらいたい。いつまでもだらだらと意見を述べ合っている場合ではない。
●戦略と意志で少子化に対応 1/23
米ジョージタウン大教授を務めたレイ・クライン博士の「国力の方程式」をご存じだろうか。「人口・領土」+「経済」+「国防」の3点に、「戦略目標」+「国家意志」を掛け合わせて国の力を算出するものだ。この明快な方程式はいわばカントリーリスクを計るためのツールでもある。残念ながら、最近のわが国の現状は、各項目を眺めても、決して楽観的なものとはいえない。特に、後半の戦略とそれをやり抜く意志が問われている。
合計特殊出生率が1・57にまで下がり大きなショックをもたらしたのは平成2(1990)年。その後、右肩下がりの数字が毎年、風物詩的な扱いで公表されるうちにも「静かな有事」は進行。生産年齢人口はこの四半世紀に約1300万人が消えた。ほぼ東京都の総人口に匹敵する。
昨年秋頃から、令和4(2022)年の出生数が初めて80万人を下回るとの予測は出ていた。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が「2030年」と推計していた80万人割れは、10年近くも早まる状況である。このまま行けば、二十数年後に日本の人口は1億人を下回ることになる。ちなみにコロナ禍は欧米で人口増をもたらしたが、日韓では減少傾向を加速させた。
社人研の令和3(2021)年の調査によれば、夫婦が理想とする子供の数は平均2・25人だ。希望する子供を持てない理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最多である。合計特殊出生率は全国平均1・30に比べ、東京は1・08で5年連続の減少となる。若年層が多い人口構成を反映しているが、「point of no return(回帰不能点)」の危機を受け止め、戦略と意志を持って、都としてのできうる対策を講じる。
一方、国全体が人口縮減するなかで、パイの奪い合い、移し替えだけでは問題の解決にはならない。内向き、縮み志向こそが、これまでの「経済」「国防」にも歪(いびつ)な影響を与えてきたのではないか。基本的な話だが、国民、都民の自己実現や幸せの追求という基本的なニーズを可能にする環境整備をスピーディーに進めることだ。
国会議員時代から、「婚活・街コン推進議員連盟」「ニーゼロニーゼロ議員連盟」「女性が暮らしやすい国は、みんなにとっていい国だ(1192)議員連盟」などを立ち上げ、政策提言を行ってきた。ダイバーシティー(多様性)の勉強会では、男性議員から「そのシティーはどの駅が近いのか」と質問が飛び出た。「女性議員比率が最も高いルワンダの研究をしよう」「婚活は行政の仕事ではない」「女性管理職を増やしても、業績は伸びない」「育休は他の社員にしわ寄せがいくだけ」など、意見交換は活発だったが、主要政策にはならなかった。議連会議には各省庁の担当局がずらりと並んでくれたものだ。
このような経過もあり、都知事に就任後は、これまで重ねてきた子供、女性政策の実践に加速度的に取り組んだ。
待機児童数は6年間で約8466人から300人へと、96%減を実現。子育て応援「赤ちゃんファースト」事業や第2子以降の保育料負担軽減、医療的ケア児支援、高校授業料実質無償化など、総合的、継続的に対策を進めてきた。参考までに、都議会も全国最下位だった女性議員比率は28%に急増し、全国最多となっている。
都はチルドレンファースト社会の実現こそ「未来への投資」との考えの下、昨年4月に「子供政策連携室」を発足し、都庁全局の関連施策を束ねる司令塔として検討を重ねてきた。新年度予算案においては、少子化対策は前年度予算から約2千億円増となる1兆6千億円に増額する。出会いから結婚、妊娠・出産、子育てという全ステージでのシームレスな支援を行う考えだ。財源は、政策・事業評価による「東京大改革」を進め、毎年約1千億円、6年間で総額5800億円をひねり出しており、「未来への投資」に充てる。
予算案では「結婚支援マッチング事業」でAI(人工知能)によるサポートや、「出会いのきっかけ創出プロジェクト」として都有施設を活用した交流イベントも行い、結婚の機運を醸成していく。結婚を予定する人を対象に交通利便性の良い都営住宅などを計300戸確保する。
子供を望む人の不妊治療支援も拡大する方針だ。これまでも東京都はAYA世代(思春期や若年成人)のがん患者が卵子凍結を望む際の費用を支援してきた。来年度予算では健康な女性が卵子凍結を行う場合の助成制度をつくるため医療機関と連携した調査も行う。
戦後初の衆院選で当選した39人の女性議員が訴えた政策は産児制限などであった。時代と国家課題の変遷を感じる。
孫子の兵法にある「兵は拙速を聞くも、未(いま)だ巧の久しきをみざる」はスピード感の重要性を教えてくれる。今後も「人」に光を当て、誰もが輝ける環境を整えてこそ都市も成長すると確信する。子供を大切にできない国には未来がない。国を挙げて危機感と意志を持って取り組むときだ。
●23年度予算案を国会提出 防衛力強化へ過去最大114.4兆円 1/23
政府は23日、2023年度予算案を国会に提出した。一般会計総額は22年度当初予算比6.3%増の114兆3812億円と、11年連続で過去最大を更新。110兆円を超えるのは初めて。防衛力の抜本的強化に向け、23年度から5年間の防衛費総額を43兆円に増やすため、「防衛力強化資金」の創設を含め約10兆円超の防衛関係費を計上する。3月末までの成立を目指す。
23年度予算案の歳出は、全体の3割超を占める社会保障費が1.7%増の36兆8889億円と過去最高を更新。防衛費は26.3%増の6兆8219億円に積み増す。これとは別に、24年度以降の防衛費増額に充てるため、特別会計からの繰入金などの税外収入3兆3806億円を「防衛力強化資金」に繰り入れる。国債の償還や利払いに充てる国債費も3.7%増の25兆2503億円に膨らむ。
歳入では、税収が6.4%増の69兆4400億円と過去最高を見込む。税収増により、歳入不足を補う新規国債の発行額は3.5%減の35兆6230億円と、2年連続で減少。新規国債のうち、赤字国債は29兆650億円、建設国債は6兆5580億円。建設国債は道路や橋など公共事業の財源に使われてきたが、初めて自衛隊の施設整備や艦船建造費に4343億円を充てる。
●第211通常国会が召集 防衛・原発・教団問題で論戦 1/23
第211通常国会が23日召集された。政府・与党は内閣支持率が低迷する中、2023年度予算案や防衛・原発政策の転換に関連する法案を早期に成立させ、国民の信頼回復を目指す。野党は4月の統一地方選などをにらみ、防衛費増額に伴う増税方針や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で対決姿勢を強める構えだ。
岸田文雄首相(自民党総裁)は同日の党会合で「昨年末に防衛力の抜本的強化を図り、エネルギー政策の見直しも行った。これから始まる国会は決断の中身を実現するため、与党が力を合わせて努力する国会だ」と強調。立憲民主党の泉健太代表は「防衛増税、しかも復興特別所得税を流用するなんてあり得ない。しっかりと訴えて戦っていきたい」と語った。
●岸田首相、少子化対策に全力 「構造的賃上げ」訴え―施政方針演説 1/23
岸田文雄首相は23日午後の衆院本会議で、施政方針演説に臨む。子ども・子育て支援を政権の最重要政策に据えて、全力で取り組む意向を強調。春闘での「物価上昇を超える賃上げ」を呼び掛けつつ、学び直しや成長分野への労働移動などを通じた「構造的な賃上げ」実現を訴える見通しだ。
首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、今春に現在の「2類相当」から「5類」に引き下げることを検討するよう指示。マスクの着用ルールの見直しも表明した。演説では、第8波を克服した上で段階的に移行させる考えを示すとみられる。
通常国会では、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の度重なる弾道ミサイル発射などを受け、防衛費の大幅増に伴う増税が焦点だ。日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、首相は将来世代につけを回さず、今を生きる世代の責任として対応する必要性を説明し、国民に理解を求めるもようだ。
5月に地元広島で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)に関しては、ライフワークとする「核兵器のない世界」実現に向け議論を主導する意欲を示す方向だ。
●岸田政権が明言しない「消費増税」の現実…「将来のために」は方便! 1/23
「将来のため」と言われてきたが
新しい年を迎え、昨年よりも、少しはマシな年になってほしいと思ったのに、正月早々に飛び出してきたのは、消費税増税の話。
自民党税制調査会の幹部の甘利明前幹事長が、少子化対策の財源として将来的な消費税の引き上げも検討対象になるとの認識を示しました。これに対して松野博一官房長官や鈴木俊一財務大臣は、「当面は増税を考えていない」と火消しに躍起です。
当然でしょう。10月には「インボイス制度」の導入で、売り上げ1000万円以下でインボイス登録をした業者から消費税をとるという実質増税が始まります。その前に、消費税増税で騒ぎ立てて欲しくない。表立って波風を立てず、何事もないかのごとく静かに一部に消費税増税をしたいのですから、火消しに躍起になるのは無理もないこと。
ただ、インボイス制度を導入したら、その先には全ての国民を対象とした本格的な消費税増税が待ち構えていることに変わりはありません。
みなさんの中には、もちろん消費増税は嬉しくないが、消費税を上げてもそれがすべて将来の子育て財源に使われるのなら仕方ないと思っている人も多いのではないでしょうか。
消費税は、増税のたびに「将来の社会保障費にあてられる」と、言われ続けてきましたから、そう思うのも当然です。
けれど、将来の子供のために消費税を使うと言うのは、嘘だと私は考えています。
なぜなら、「社会保障」を錦の御旗に税率を上げてきた消費税の大部分は、国の借金の穴埋めに使われているという事実があるからです。
消費税の8割は、国の借金の穴埋めに使われてきた
2017年の衆議院選挙で、故安倍晋三首相が、「今まで増えた税収の8割は国の借金返済に使っていたので、この額を減らします」と訴えました。
これを裏付けるように、同年6月22日に内閣官房社会保障改革担当室が出した、「消費税が5%から10%に上がったら、値上げした5%分が何に使われるのか」を説明するための資料では、そのうちの2割に当たる2.8兆円が社会保障の充実に使われ、あとは国の借金の穴埋めなどに使われるということを、解説図入りで丁寧に説明しています。
もちろん、借金の穴埋めなどという身も蓋もない言葉ではなく、8割が「社会保障の安定化」に使われ、2割が「社会保障の充実」に使われると書かれていますが、「社会保障の安定化」というのは、要は国の借金の解消や基礎年金の国庫負担分などの穴埋めです。国の借金を穴埋めするために消費税を増税しますとはいえないので、「社会保障の安定化」という言葉でオブラートに包んでいるだけなのです。
さらに、2019年9月20日、官邸で開かれた全世代型社会保障検討会議の席上で、故安倍首相は「消費税の使い道を見直し、子供たち、子育て世代に投資することを決定しました」と言いました。
この首相の発言を受けて、読売新聞が、「(首相は)消費税10%の引き上げに合わせ、増収分の使い道を“国の借金返済”から“社会保障の充実”に振り向けると国民に訴える考えだ」と書きました。さらに、「首相は“増えた税収の8割は借金返済に使われた”と周囲に不満を漏らしてきた」とも続けています。
故安倍首相は、賛否両論ある方ですが、意外にストレートな物言いをする人で、「社会保障の安定化」を「実は今まで増えた税収の8割は国の借金返済に使われた」と端的な言葉で指摘しました。
ちなみに、2022年の公費ベースの消費税増収額は14兆3000億円で、このうち幼児教育の無償化や年金生活者への給付金、医療・介護サービスなど「社会保障の充実」に使われたお金は4兆100億円に過ぎず、それ以外は「社会保障の安定化」に使われています。少しは「社会保障の充実」に使われるお金が増えましたが、それでも3割にも届いていません。
もちろん、今の国の借金も、多くは社会保障を始めとする無秩序な大盤振る舞いに起因するものなので、それを是正する意味で「社会保障の安定化」と言うのはあながち間違いとはいえないかもしれません。
しかし、これはあくまでも過去の尻拭いに使われるお金です。少なくとも、子供たちの「将来のため」に使われ、家計を楽にするものではない。そこを言葉の使い方でわざと誤魔化し、みんなに「子供の将来のために使われるならしかたない」思わせているところが姑息です。
しかも「将来のため」という欺瞞は、消費増税だけにとどまりません。後編記事『岸田首相の「ムダな少子化対策」のせいで、社会保険料がまた「値上がり」しそうだ』では、岸田政権が進めている「子育て連帯基金」構想の問題点について、詳細に論じていきます。
●岸田首相の「ムダな少子化対策」のせいで、社会保険料がまた「値上がり」 1/23
新年早々、自民党内から「少子化対策の財源として将来的な消費税の引き上げも検討対象になる」といった意見が飛び出し、政府は「当面は増税を考えていない」と火消しに躍起です。
これまで消費増税のたびに、国民に向けて「将来の社会保障費にあてられる」と説明されてきました。しかし実際には、その8割が国の借金返済に使われていたことは、前編記事『岸田政権が明言しない「消費増税」のヤバい現実…「将来のために」は方便だった!』で説明した通りです。
庶民に金を出させて「子育て連帯基金」つくる!?
実は、子供を盾に、焼け太りを図ろうとしているのは、消費税だけではありません。
岸田首相が少子化対策で「こども予算の倍増」を打ち出したことで、「子育て連帯基金」という、新たな仕組みづくりも浮上してきています。
今年の春に誕生するこども家庭庁の予算はおよそ4兆8000億円です。令和4年度第2次補正予算から前倒しで実施するものも含めると、5兆2000億円規模になります。これとは別に、22年度の少子化対策予算は約6兆円です。
岸田総理の言葉どおりこの予算を倍増させるとなれば、さらに10兆円以上のお金が必要ということになります。
そこで、「子育て連帯基金」というものをつくり、年金や医療保険、介護保険から一定額ずつお金を拠出してもらって、それを財源にしようという構想です。
実際に岸田首相は、新年の会見でも、異次元の少子化対策のために、財源として各種保険料を引き上げて当てると言っていました。
そうなれば、当然ながら値上げした保険料というのは、皆さんの懐から徴収されることになります。
それでなくても、昨年10月に雇用保険料の引き上げで、年収500万円くらいのサラリーマン家庭では、年間1万円弱の負担増になっているのですからたまりません。
すでに子育てを終わっている世代などには、「自分の子供のためでもないのに、医療保険や介護保険や年金保険などの保険料値上げを強いられるのは理不尽だ」と思っている人が少なくないでしょう。
無駄遣いの温床の「基金」を増やす岸田政権
批判が多い「子育て連携基金」ですが、百歩譲って、これをつくることで将来の子供たちの支援が万全に行えるのなら異議は唱えないという方も多いでしょう。
ただ、私などは「基金」ときいただけで、無駄遣いしか連想できません。
なぜなら、いま日本は「基金バブル」ですが、特に岸田政権になって、その傾向は顕著になっています。
毎日新聞の集計では、複数年度にわたって実施する事業の予算を積み上げる政府の基金が乱立していて、公益法人や地方公共団体に設けられた基金の総数は1900を超えているとのこと。
政府が昨年11月に国会に提出した第2次補正予算案では、基金への予算措置が8兆9000億円と過去最大でした。このうち新たな基金は16事業2兆4821億円で、それ以外の既存の基金への積み増しも膨大になった結果です。
確かに、新型コロナや物価高など、危機的な状況の中で資金を機動的に運用していくために、効果を発揮した基金もないとは言えません。
けれど、中には意味がなかったどころか、弊害となったのではないかと疑いたくなる基金もあります。
たとえば、ガソリン価格の高騰に対応するためにつくられた燃料価格激変緩和基金。当初800億円で設立され、その後令和3年度予算一般会計予備で3,500億円 、令和4年度一般会計予備で2,774億円、令和4年度一般会計補正予算で1兆1,655億円と、どんどん予算が増えていきましたが、そのすべてがスタンドでのガソリン代の値下げに使われたわけではないことが、財務省の調査で指摘されています。
だとしたら、こんな基金などつくらずに、最初からトリガー条項の凍結を解除してガソリン1リットルあたり一律に25円の値下げをしたほうが透明性も高く、納税者にも納得感があったのではないでしょうか。
「基金」は、国の監視も一般会計ほどは厳しくなく、使い勝手がいいので今や便利な「財布」と化しつつあり、無駄遣いや使われない予算の積み上げ場所にもなっていると言われています。これについては、会計検査院などもたびたび苦言を呈しています。
そうした中で、私たちの社会保険料の負担を増やしてまでつくるという「子育て連携基金」。コロナや物価高で疲弊している家計から、税金や保険料を搾り取り、使い切れずに余ったお金は基金と称して貯めているのです。
岸田政権がどんなに「異次元の少子化対策」を声高に語ろうと、現実に食事すら満足に取れない子供がいる中で、消費税を増税するだの基金を創設するだのというのは、それこそが「異次元」の話だと思うのは、私だけでしょうか。
●通常国会スタート なぜ岸田総理は増税に固執するのか? 「財源確保法案」 1/23
1月23日から始まった通常国会で注目されるのが、防衛費増額と、その財源となる増税を既成事実化する「財源確保法案」だ。増税に躍起な岸田総理と背後で暗躍する財務省。はたして両者の暴走を止めることはできるのか?
5年間で43兆円もの防衛費増額
昨年末から増税話が世間を賑わしている。
コトの発端は防衛費を5年間で43兆円増額するという話。そのための財源の一部は増税によって確保するという方向性が決まったのだが(「方向性」としたのは、いつからやるのか等についてはまだ完全に決まったわけではないから)、岸田総理が増税によって防衛費増額の財源の一部を確保すると表明してから、なんとわずか8日間、途中土日を挟んでいるので実質的には6日間で決まってしまった。
これに対しては増税に明確に反対している自民党議員たちのみならず、増税に賛成しうる議員たちからも、さすがに異論や非難の声が上がったようである。
更に、防衛費増額の議論とほぼ時を同じくして打ち出された子ども政策関連予算の倍増も、安定財源と称して増税によることが想定されているようだ。それが証拠に、岸田総理の盟友とも言われる甘利明前幹事長がテレビ番組出演時に、子ども予算の財源として将来的な消費税増税に繰り返し言及している。
官邸は火消しに躍起になり、松野官房長官は「甘利氏の意見」として事の鎮静化を図ろうとしている。だが、防衛費増額の財源としての増税のメニューの検討に際して、岸田総理は当初「所得税は考えない」としていたのに、舌の根も乾かぬうちに所得税がその対象として上がってきたことを思い出せば、火消しはごまかしなり煙幕であって、そのうち何食わぬ顔で消費税増税を表明することなど容易に想定できる。
それにしても岸田総理はなぜそんなに防衛増税の方向性という結論を急いだのだろうか? それ以外についてもなぜここまで増税に熱心なのだろうか?
それを考えるには、岸田内閣とは、岸田総理とはどういう存在なのか、そして、財務省とはどういう機関なのかについて知っておく必要がある。
岸田氏に「実現したい政策」はあるのか?
まず、岸田総理は内閣総理大臣になりたくて自民党総裁選に立候補し、国会における首班指名を経て今の職に就いた人物である。
「何を当たり前のことを」と思われたかもしれないが、「内閣総理大臣になりたくなった」の意味するところは、何かやりたいこと、実現したい政策があるわけではなく、ただただその職に就きたい、就いていたいだけ、というのがほとんどで、岸田総理も同様のケースに見える。
ただ単に政治家になりたいだけ、議員バッジを付けたいだけで立候補して運よく当選した議員も少なからずいるし、知事や市長についても同様である。しかし、一国の総理大臣がそれでは日本の行く末は暗いとしか言いようがない。
何もやりたいことがなく、唯一のやりたいことと言えば出来るだけ長く総理の地位にい続けたいということであるから、岸田総理の行動様式は、地位にしがみつくこと、つまり保身が中心となる。保身につながるならば、自ら進んで言いなりになる。
一方で保身につながらないか、立場を危うくしかねないことには、たとえそれが必要であっても検討しかしない。検討ばかりの“検討使”と揶揄された所以である。
そんな岸田総理が率いる内閣だから、やりたいことに向かって突き進むのではなく、岸田総理の保身に振り回されて動く、何がしたいのかわからないものになってしまう。総裁選で掲げた「令和の所得倍増計画」がいつの間にか「資産所得倍増プラン」に取って替わってしまったことがその象徴だろう。
岸田総理と財務省の蜜月
では、岸田総理が言いなりになる財務省とはどのような機関なのか。端的に言って、隙あらば増税をしようと画策する機関であり、また、何らかの政策の結果として税収が増えたことは評価されず、増税を実現出来たことが評価される機関である。
日本の経済状況がどうあろうと、国民生活がどうなろうと、多くの事業者が苦しい状況にあろうと、そうしたことにはお構いなしに増税に突き進む、そんな機関である。そんな機関出身者が今や岸田官邸を仕切っている。安倍内閣は経産省内閣とも呼ばれたが、今や岸田内閣は財務省内閣である。
岸田政権はその迷走ぶりや、何も決めない姿から支持率は低迷し、自民党内では既に「岸田降ろし」が始まったとも言われている。保身のために財務省の言いなりになってくれる岸田総理はいつまでその地位にい続けられるのかわからなくなってきた。
だからこそ岸田氏が総理の座にいるうちにできる増税はやってしまおう、そう財務省が考えて拙速に動き、岸田総理は言われるがままに動いた、ということのようである。端から見ると、検討しかしてこなかった決められない男であった岸田総理が、突如決める総理になったかのようであるが、背景にはこうしたことがあったのだ。
そもそも今回の防衛増税の方向性の決定の更に背景には、アメリカから大量の武器を買うことでバイデン政権の覚えがめでたくなり、保身につながるという目算もあったようだ。
財務省による「岸田総理のうちに増税」作戦は防衛費増額にとどまらず、増税できる大義名分があればどんどん実行される。その絶好の対象が子ども関連予算倍増である。これではまさに増税のための増税なのだが、増税はいきなり、一気に実施するのではなく、ジワジワと進められる。
今回の防衛費増額では法人税、所得税、たばこ税が増税の対象として上がっているが、一緒に歳出改革、つまりは様々な予算を「無駄」のレッテルを貼って削減するということも行われる。「そうだ、行政の無駄を無くせば増税は必要なくなる」と、一般国民にわかりやすく、受け入れられやすそうな考え方だが、政府の財政支出の削減は経済の縮小を意味する。GDPの計算式に政府の支出が入っていることを思い出せば理解できるだろう。
とはいえ「無駄」の削減にも限度が出てくる。「無駄」な予算の削減が難しいとなれば、「予算の削減がこれ以上できないから仕方がない」、「必要な政策の財源確保のためには避けられない」として、次なる増税が検討の俎上に乗っかってくる。それこそが消費税増税である。
しかもこのシナリオを財務省が既に考えており、それに沿ってことを進めている可能性も否定できないこのだが、もしこれらの増税が実施されれば、日本は没落の道を進むことになる(財務省はそんなことはお構いなし)。
そもそも国は税収を前提にして支出をしているわけではなく、また国債を借金と位置付けて60年で償還(返済)しなければならないとしているのは日本だけである(こうした点については別稿で改めて解説したい)。
財務省の言いなりになって、保身のためならなりふり構わぬ岸田総理の暴走を早々に止めなければならない。その最大の山場は1月23日から始まる通常国会である。この国会には、防衛増税を既成事実化するための「財源確保法案(仮称)」が提出される予定である。
この法案を国会に提出させないか、少なくとも審議入りさせてはならない。
●通常国会召集 防衛費増額「反撃能力」各党の主張は 1/23
1月23日は第211通常国会の召集日。
この国会で政府・与党は、物価高騰への対応や防衛力の強化などに向けて、新年度予算案の早期成立を目指す方針です。
これに対し野党側は、防衛費増額に伴う政府の増税方針などを追及する構えで、冒頭から激しい論戦が展開される見通しです。
召集日の1月23日は、天皇陛下をお迎えして開会式が行われたあと、衆参両院の本会議で、岸田総理大臣による施政方針演説など政府4演説が行われます。
施政方針演説で岸田総理大臣は、子ども・子育て政策を最重要政策に位置づけ、次元の異なる少子化対策を実現することや、5年間で43兆円の防衛予算の確保を通じ、防衛力の抜本的な強化を進める方針を示すことにしています。
政府・与党は、新型コロナや物価高騰対策に備えるための費用などを盛り込んだ新年度予算案の年度内成立を図るとともに、脱炭素社会の実現に向けて原発の運転期間を実質的に延長し、最大限活用することなどを盛り込んだ法案などの成立を目指す考えです。
これに対し、野党側は、岸田政権は国会での議論を行わずに重要な政策を次々に決めていると批判を強めていて、防衛費増額に伴う増税の方針や原発の活用を含む今後のエネルギー政策などを追及する構えです。
また、2022年の臨時国会で岸田内閣の閣僚が相次いで辞任したことを受けて、政治とカネの問題や、旧統一教会と政治との関係などをただしていく方針です。
通常国会の会期は、6月21日までの150日間で、4月に統一地方選挙を控える中、通常国会は冒頭から与野党の激しい論戦が展開される見通しです。
通常国会の焦点1 どうなる防衛費増額
防衛力の抜本的な強化に向けて、政府・与党は、新年度から5年間の防衛力整備の水準をこれまでの計画の1点6倍にあたる43兆円程度とするとしていて、2027年度には、防衛費と関連する経費をあわせてGDPの2%に達する11兆円の予算措置を講じる方針です。
これに対し、野党側は、日本維新の会が、GDPの2%の基準まで引き上げることは不可欠で、国際的な責務だとしています。
立憲民主党は、必要な予算を積み上げた結果として一定の増額はありえるとする一方、政府が示している43兆円程度は、数字ありきで合理性に欠けると批判しています。
国民民主党は、必要な防衛費は増額すべきとする一方、予算額ありきではなく、10年程度の期限を区切って徐々に増額すべきとしています。
一方、共産党は、大軍拡につながるとして、防衛費増額に反対しています。
れいわ新選組も、経済対策に最優先で取り組むべきだとして、防衛費増額には反対しています。
通常国会の焦点2 防衛費増額の財源は
防衛費増額の財源について、政府・与党は去年の年末、4分の3は歳出改革などで確保した上で、残る4分の1は、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目で増税を行って賄うとする方針を決定しました。
ただ、自民党内には、増税への反対論も根強く、先週から、党内の特命委員会で、増税以外の財源の上積みを探る議論が始まりました。
これに対し、野党5党は、防衛費増額に伴う政府の増税方針は、国会の審議を経ずに決定されたもので容認できないと反発していて、安易な増税には反対することで一致しています。
通常国会の焦点3 「反撃能力」の議論は
政府・与党は、迎撃によるいまのミサイル防衛だけで敵の弾道ミサイル攻撃などに対応することは難しくなっているとして、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有を打ち出しています。
これに対し、野党側は日本維新の会が、侵略を受けた場合に敵対国を直接攻撃する能力を保有することは、一定の条件のもとで認められるのが当然だとして、保有すべきとしています。
国民民主党は、安全保障環境が厳しさを増す中、アメリカに依存してきた打撃力が十分に期待できる状況ではないとして、保持するとしています。
立憲民主党は、憲法に基づく専守防衛と適合するものにかぎり、反撃能力を保有することは否定していませんが、政府が示す「反撃能力」は、日本への攻撃着手の判断が現実的に困難で「先制攻撃」となるリスクが大きいなどとして、賛同していません。
共産党と、れいわ新選組は、専守防衛の変更につながるものだとして、反対しています。
●警官、自衛官のなり手がいない! 2744集落が消滅! 少子化に打つ手なし! 1/23
人口減が予想を上回るスピードで進んでいる。岸田総理は「異次元の少子化対策」に挑戦するとぶち上げたが、もはや人口は増えないというのが大方の見解である。では私たちにはどんな未来が待ち受けているのか。「若さ」を失い衰退するだけの社会をご案内しよう。【河合雅司/ジャーナリスト】
日本が瀬戸際に追い詰められつつある。人口減少が、政府の予想を上回る勢いで進んでいるのだ。
コロナ騒動の陰に隠れて大きな話題になることはなかったが、実は2019年の年間出生数は前年比で5.8%ものマイナスを記録するという危機的な状況に陥っていた。
年間出生数が100万人を下回る「ミリオンショック」となったのは16年(97万7242人)だが、それからわずか3年後の19年には80万人台に突入する異常な速さで減っていたのである。
加えて、コロナ禍が出生数の減少に一層の拍車をかけた。非嫡出子が少ない日本においては、婚姻件数が減ると翌年の出生数も連動して減る傾向にあるが、新型コロナウイルス感染症が拡大した20年と前年19年を比べると12.3%もの大激減となったのである。21年はさらに4.6%も落ち込んだ。
この結果、21年の日本人の年間出生数は前年より3万人ほど少ない81万1622人となり、22年はついに80万人を割り込む見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は80万人を割り込む年について30年と推計していたので、かなりの前倒しである。
周回遅れの少子化対策
婚姻件数は22年も力強い回復が見られず、出生数の急落傾向は23年以降も続くものとみられる。
新型コロナウイルス感染症をめぐって政府や地方自治体は「高齢者などの命を守るため」としてやみくもに人流抑制を繰り返したが、それは多くの若者の収入を減らし、あるいは出会いの機会を奪った。結果として、将来を展望できなくなった人たちが恋愛の余裕をなくし、結婚や妊娠を思いとどまったのである。未知の感染症であり、やむを得ないところもあるが、「実質的なゼロコロナ」を目指してきた日本社会は取り返しのつかない痛手を負った。
これに対し、岸田文雄首相が出産育児一時金を現行の42万円から50万円へと大幅に引き上げる方針を表明するなど、政府や国会は「少子化対策の強化」に向けた議論を重ねている。
だが、それは周回遅れだと言わざるを得ない。いまさら出産育児一時金の増額や不妊治療の拡充といった対策を講じたところで焼け石に水だからである。出生数の減少ペースを多少緩めるくらいの効果しか期待できない。というのも、出生数の減少は過去の少子化の影響で子供を産める年齢の女性の数が少なくなってきているという構造的な問題によって引き起こされているからだ。
出産可能女性は25年で25パーセント減少
出生数の減少を加速させている要因は複雑である。男女の出会いの機会が減ったことや低収入の若者が増えたことなどが挙げられるが、これらはいまや根源的な要因ではない。しかも、日本にとって深刻なのは、子供を出産し得る女性数がこれから驚異的に減っていくことである。
出産可能な女性がどれぐらい減るのかは、年齢別人口を比較すれば簡単に予測できる。厚生労働省の人口動態統計によれば、2021年に誕生した子供の母親の年齢の85.8%は25〜39歳である。
そこで総務省の人口推計(同年10月1日現在)においてこの年齢の日本人女性数を調べてみると943万6千人だ。一方、25年後にこの年齢に達する「0〜14歳」は710万5千人なので24.7%も少ない。四半世紀で4分の3になるのでは、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供数の推計値)が多少改善したとしても出生数は減り続ける。
人口減少問題と少子化問題は別
出生数の減少が避けられない以上、日本の人口減少は止まらない。万が一、これから爆発的なベビーブームが長期にわたって起きるならば話は別だが、成熟した国家でそれは望むべくもないだろう。われわれは、人口減少は止まらないという「不都合な真実」から目をそらしてはならない。むしろ、人口減少を前提として、それでも豊かな社会を持続していくためにどうすべきかを考えることが求められている。
出生数の減少が避けられないからといって、出産育児一時金の増額などの少子化対策をおろそかにしてもいいというわけではない。今の日本にとっては出生数の減少ペースがわずかばかり緩むだけでも大きな意味がある。ペースが遅いほど、人口減少に取り組むための時間が稼げ、選択肢も増えるからだ。
厚労省の人口動態統計によれば、21年の自然増減数(年間出生数と年間死亡数の差)は62万8234人の減少となり過去最大を更新した。今後も人口減少幅は拡大していく見通しとなっているが、出生数の減少ペースの加速を許したならば毎年の減少幅は政府の想定よりも大きくなるだろう。社人研は総人口が1億人を下回る時期を53年と推計しているが、これもかなり早く到来することとなってしまう。速すぎる減少は社会の混乱を招く。
人口減少問題を考えるとき、中長期的な効果を狙って実施する少子化対策と、現実問題としてすでに進行している人口減少への備えとでは時間軸が異なっており、全く別の政策であるということを間違ってはならない。
政府や国会の議論が周回遅れになっているのは、この点を混同しているからである。両政策の目的や目標を明確に分け、双方に同時進行で取り組んでいくことが大切なのである。
外需依存度の低い国ゆえに…
現在の政策で圧倒的に足りないのは、人口減少への備えのほうである。喫緊の課題であるにもかかわらず、政府や国会が少子化対策ばかりに力点を置いてきたため、ほとんど手つかずできた。
まず取り組むべきは、人口減少によって何が起きるかを正しく理解することである。人口減少社会の未来図をしっかり把握しなければ、人口が減っても経済を発展させ、社会を維持し得る方策を考えることはできない。
人口減少は日本社会をどう変質させていこうというのか。本稿はその一端を展望することにする。まずは経済に与える影響だ。即座に思い浮かぶのは、国内マーケットの縮小や勤労世代(20〜64歳)の減少だ。
日本は外需依存度の低い国である。一般社団法人日本貿易会の「日本貿易の現状2022」によれば、20年の貿易依存度(GDPに対する輸出入額の割合)のうち輸出財は12.7%だ。コロナ禍前の11〜19年を見ても12〜14%台で推移してきた。20年のドイツは35.9%、イタリアは26.3%なので、日本はかなり低い。すなわち、国内マーケットの縮小が経営の打撃となる企業が多いということである。
「ダブルの縮小」
しかも、国内マーケットの縮小というのは単に実人口が減少するだけでは済まない。高齢化率は伸び続けており30年代半ばまでに消費者の3人に1人が高齢者となるが、高齢になると現役時代のようには収入が得られなくなるというのが一般的だ。
一方で「人生100年時代」と言われるほどに寿命が延びたこともあって、今後の医療費や介護費がいくらかかるのか見当がつかず、節約に走りがちだ。収入の低下と老後生活の不安で財布のひもが固くなっているのである。
そうでなくとも、加齢に伴って食べる量が減り、住宅などの「大きな買い物」をする人は少なくなる。今後の国内マーケットは、実人口が減ると同時に1人あたりの消費額が縮小する「ダブルの縮小」に見舞われるのである。
すでに始まっている社会の縮小
すでに社会の縮小は始まっている。コロナ禍による一時的な需要の減少もあって誤解されがちだが、ファミリーレストランやコンビニエンスストアの24時間営業の見直しはコロナ禍前から進められてきたことだ。鉄道会社の終電時間の繰り上げや運行本数の削減もそうである。
一極集中が続き人口減少とは無関係のように思われてきた東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)もいよいよ転換期を迎える。東京都は25年に人口がピークを迎えて本格的な人口減少局面に転換する見通しだ。東京圏以外も含めて政令指定都市も人口減少を記録するところが増えてきた。
東京圏の場合、これから高齢化が一気に進む。21年から40年までに高齢者人口は299万2千人増えるが、このうち東京圏が180万9千人で60.5%を占める。
人口減少が先行している地方の企業には東京圏での販売に活路を見出そうとしてきたところも少なくないが、こうしたやり方は長く続かない。
「シェア100%」でも売上減
「ダブルの縮小」など無関係とばかりに、売上高の拡大を目指してシェア争いにまい進し続ける企業はいまだ少なくない。将来的な需要をどこまで織り込んでいるのか分からないような大規模開発も全国で目白押しである。空き家が問題となる一方で新築住宅はどんどん建てられていく。足元の需要に応えていかなければならないという事情もあるだろう。また、大規模開発の場合には関係する企業が多く、人口が増えていた時代に作成された計画であっても途中で大幅に変更することが難しい面がある。だが、人口減少社会で拡大路線を続けたならば、どこかで行き詰まる。
「ダブルの縮小」が続く以上、売上高を拡大しなければ利益を増やすことのできない経営モデルは続かないのだ。シェア争いに勝利したとしても展望は開けない。仮に「シェア100%」を達成できたとしても、消費者数が減れば売上高は減っていく。日本経済に余力が残っているうちに、相当思い切って経営モデルを変えなければ倒産や廃業に追い込まれる企業が続出することとなる。
送配電工事で人材不足が深刻化? 
勤労世代(20〜64歳)の減少も社会を停滞させ、企業経営を大きく変える。
勤労世代は旺盛な消費者でもある。例えば、住宅や自動車を購入し始める30代前半の人数を、過去の年間出生数を基に計算すると、今後30年で3割ほど少なくなる。どちらも裾野が広い産業だけに、この減り方は日本経済にかなりのインパクトを与えることだろう。「20年後の20歳人口」もおよそ3割少なくなる。新規学卒者がここまで減ったのでは、あらゆる分野で人手不足が深刻化する。
大企業であっても求める人材を十分獲得できないところが出てこよう。技術者が少なくなれば、さまざまな機器のメンテナンスが遅滞する。
中でも社会への影響が大きそうなのが送配電工事だ。鉄塔の老朽化が進み建て替え需要は大きくなってきているが、巡視や保守を含めた作業は重労働で人手不足が常態化している。
政府は原子力発電所の新増設や建て替えは「想定していない」としてきた方針の転換を図る構えを示すなど「発電の在り方」ばかりに力を入れているが、送電網の老朽化対応が停滞したのでは脱炭素化どころか電気の安定供給がままならなくなる。
「若い力」の不足
新規学卒者の減少による人手不足は公務員も例外とはいかない。市役所や町村役場は45年には必要とする職員数の8割程度しか確保できなくなるとの民間シンクタンクの予想もある。
さらに警察官や自衛官、消防士といった「若い力」を必要とする職種で人手不足が深刻化すれば、日本が誇ってきた安全神話は崩壊につながる。警視庁は42年には警察官の4割が50歳以上になると推計している。
自衛隊は定年退職後の再任用者を部隊などでも活用する方針だ。防衛力強化のための財源をめぐり政府・与党内で激しい議論が起きているが、このまま少子高齢化が進んでいったならば、「60代の退職自衛官が80〜90代の国民を守るために命懸けで戦う」といった日が来るかもしれない。
若者の減少は日本の労働慣行も大きく変え、年功序列による人事制度を崩壊させることだろう。年功序列は退職する人と同規模かそれ以上の新人が入ってくることを前提としているためだ。
多くの企業は人手不足を定年延長や再雇用の拡大で補おうとしているが、年功序列の人事制度を残したままでは、賃金の上昇カーブを全体として抑えざるを得ない。そうなれば若い世代ほど割を食い、閉塞感が広がる。転職者も増えるだろう。結果として終身雇用も崩れ、成果主義的な人事評価制度が広がることとなる。すべてで人手が足りなくなる人口減少社会は、雇用の流動化が必然的に進む社会でもある。
そうでなくとも、デジタル技術が急速に進歩・普及し、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が不可避となっている。リスキリングをはじめとして従業員個々人の能力アップが問われ、かつてのように「勤務年数の長さ=職能の高さ」とはいえなくなってきた。入社年次に必要以上にこだわる制度が続くはずがない。
イノベーションが生まれなくなる
若者の減少は、日本からイノベーションも奪っていく。「新しいこと」「楽しいもの」は若者の無鉄砲とも思える挑戦と失敗の中から誕生することが多い。だが、人手が少なくなると社会は失敗に不寛容となる。勤務経験の浅い人に対して、新しいことへの挑戦より目の前の成果を出すことを求めるようになったならば、どんな優秀な若者であっても力を存分に発揮できない。こうなると組織はマンネリズムに支配されることとなる。
資源小国にとって技術力の衰退や新しき発想の欠如は致命的だ。人口減少の最大の弊害は、日本社会が「若さ」を失うことにあるといってよい。
2744集落が消滅
人口減少は地域社会にも深刻なダメージを及ぼす。鉄道の赤字ローカル線の存廃問題が急浮上している。都市圏での乗客数の減少に苦しむJR各社に経営上の余裕がなくなってきたことが理由だ。一方、廃線をきっかけとして人口流出が加速することを恐れる沿線自治体からは存続を求める声が上がっており、路線バスへの転換ではなく、地方自治体などが施設や車両を保有し、鉄道会社は運行のみを担う「上下分離方式」を模索する動きもある。
だが、鉄道の存続か路線バスへの転換かは本質的な問題ではない。どちらにせよ、利用者が増えなければ持続できないからだ。すでに代替の路線バスまで廃止になったケースが出てきている。ここで問われているのは、地域の商圏人口なのである。
ローカル線の赤字問題は鉄道会社特有の事例ではない点にも気付く必要がある。「今日の鉄道」は「明日の水道や電気」の姿なのだ。
「地方」といっても、過疎地域ほど人口の減るスピードは速いが、人口減少が進めばそうした地域は全国各地にどんどん増えていく。総務省の「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査(最終報告)」(19年度)によれば過疎地域の集落の総数は6万1511で、15年度の前回調査と比べて0.6%(349集落)減った。人口にすると6.9%(72万5590人)減だ。このうち139の集落は無人化した。住民の半数以上が65歳以上という限界集落は22.1%から32.2%へと増加しており、2744集落はいずれ消滅すると予測されている。
簡単には撤退できない
過疎化が進み商圏人口が少なくなれば、民間事業者は経営を維持できなくなり撤退を始める。水道や電気などの公共サービスは人口が減ったからといってただちに撤退するわけではないが、利用者が減れば事業者の収入が減るという点においては一般の民間事業と違いはない。
簡単に撤退できない以上、値上がりは避けられなくなる。EY新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構事務局がまとめた「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?」(21年版)は、1カ月あたりの平均料金について18年の3225円から、43年には1.44倍の4642円へと1400円ほど上昇すると予測している。
事業の性質上、コストの削減には限界がある。過疎地域に1軒でも利用者があればメンテナンスを続けなければならないためだ。水道管など設備の点検や修繕は商圏人口の減少に合わせて単純に縮めるわけにはいかない。こうした制約がある中で過疎エリアが広がり利用者が減り続けたならば、経営効率はどんどん悪化していく。
人口稠密(ちゅうみつ)地と過疎地を比較して1世帯あたりにかかるコストに大きな差が出てくれば、人口稠密地の利用者の中に「本来負担すべき額より多く支払っている」と感じる人が現れても不思議ではない。過疎地の住民に対して「受益者負担」を求める声へとつながることも考えられる。
人口減少社会でこれから起きることの一端を明らかにしてきたが、このままでは社会を根底から覆す大変化がわれわれを待ち受ける。発想を大きく切り替え、覚悟を決めて大胆に社会の仕組みを変えていかなければ、日本は沈むこととなる。  
●「危機管理欠如」か「パフォーマンス」か 岸田首相ウクライナ訪問報道=@1/23
岸田文雄首相が、2月中にウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と首脳会談を行う方向で本格的な検討に入ったという報道が飛び出した。ロシアによる昨年2月の侵攻後、英国のボリス・ジョンソン首相(当時)や、フランスのエマニュエル・マクロン大統領らがキーウを訪ねているが、戦争中だけに予告なしの電撃訪問で到着後の発表だった。首相の戦地訪問という情報が、事前に報じられる岸田政権の情報管理体制は大丈夫なのか。通常国会開会中でもあり、別の意図も推測されている。
「首相、キーウ訪問検討」「ゼレンスキー氏会談へ」「戦況見極め最終判断」
読売新聞は22日朝刊の1面トップで、このような見出しでスクープした。岸田首相は、G7(先進7か国)議長国として、ウクライナの支援継続を主導していく意向を表明するという。
記事では、ウクライナの隣国ポーランドを経由する形での陸路で入国する行程が有力とし、通常国会(23日召集)の審議に影響しないよう週末を活用する方向などと記されていた。
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアが昨年2月、国際法を無視してウクライナへの侵攻を始めて以降、欧州各国の首脳は現地を訪れ、支援を表明している。
国連安全保障理事会常任理事国や、G7の首脳として昨年4月9日、最初に訪問した英国のジョンソン氏は、予告なしの「電撃訪問」だった。
フランスのマクロン氏、ドイツのオラフ・ショルツ首相、イタリアのマリオ・ドラギ首相(当時)による同6月16日のウクライナ訪問も、仏大統領府が発表したのは当日だった。
当時の報道をみると、米CNNは「取材班が現場で確認した」とまで伝えている。それだけ、一国の首脳が、戦地であるウクライナに行くことは安全保障上、重大な情報である。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「通常、首脳の安全面を考えると、事前に旅程を発表することは考えられない。ロシアからすると、(敵国や敵対国の)首脳2人を一度に狙えるチャンスとなる。日本やウクライナとしては、岸田首相に加えて現地で出迎えるゼレンスキー氏の安全も考えないといけない。ゼレンスキー氏が昨年12月に米国を電撃訪問した際には直前に情報が洩れ、共和党が厳しく批判していた。ポーランドから陸路でウクライナに向かうとすると、警護はNATO(北大西洋条約機構)軍が行うことになるが、そちらの安全にも響いてくる。岸田首相が本当に行くつもりで報道されたとしたら、『安全管理』や『情報管理』の面で問題がある」と話す。
岸田首相は9〜15日、欧米5カ国を歴訪した。この直前、ウクライナ大統領府は、岸田首相のウクライナ訪問を招請した。このため、歴訪中の「電撃訪問」の可能性がささやかれたが、結局、見送られた。
政治学者の岩田温氏は「平和な地域を訪問するわけではない。政府の意思とは別に、訪問検討が漏れたとすれば、首相の安全や、情報管理など、危機管理上、問題がある」といい、次のように語った。
「きょう(23日)に通常国会が召集された。日本の場合、会期中は首相以下、閣僚が予算委員会に出席する必要がある。国会に諮ることになる。地域の危険性や、国会のスケジュールからみても、現実的に訪問できるのかかなり疑問だ。訪問したい思いはあるとしても、現実に訪問できないことを見据えてリークし、岸田政権が『訪問できなかったが、行く気はあった』と示すためのパフォーマンスの可能性もあるのではないか」
現在でも、ロシア軍のキーウに対するミサイルや自爆型ドローンによる攻撃は続いている。
前出の島田氏は「欧米歴訪の際、『なぜ、ウクライナに電撃訪問しなかった』という批判も一部で聞かれた。国会でも追及される恐れがあるため、その動きを牽制(けんせい)する狙いがあるのかもしれない。万が一、国会対策のために外国の首脳の安全にまで関わる情報を漏らしたとしたら、何が重要かを分かっておらず問題だ」と語った。
●基礎的収支均衡、25年度達成へ「歳出入両面で改革」=鈴木財務相 1/23
鈴木俊一財務相は23日の財政演説で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字を2025年度までに解消するため「歳出、歳入両面の改革を着実に推進していく」と述べた。経済再生と財政健全化の両立を図ることが重要との認識も示した。
日本の財政状況については、新型コロナ対応や累次の補正予算編成で「例を見ないほど厳しさを増している」と指摘した。
鈴木財務相は「財政は国の信認の礎」との認識を改めて示し、「日本の信用や国民生活が損なわれないようにするため、平素から財政余力を確保しておくことが不可欠」と強調した。
財政演説では、防衛力強化を念頭に「戦後日本が直面し、積み残してきた多くの難しい問題の解決を図っていく」との考えも述べた。日本経済を立て直し、財政健全化に向けて取り組んでいくことで「豊かな日本社会を次の世代にしっかりと引き継いでいかなければならない」と語った。
●「未来を切り拓くための予算」鈴木財務大臣が財政演説で早期成立求める 1/23
鈴木財務大臣は財政演説を行い、過去最大となるおよそ114兆円余りとなった令和5年度の予算案について、「歴史の転換期に重要課題の解決に道筋をつける未来を切り拓くための予算」だとして、速やかな成立への協力を求めました。
政府は、きょうの閣議で、一般会計の総額が114兆3812億円となる、過去最大の来年度予算案を通常国会に提出しました。
鈴木財務大臣は財政演説で、「令和5年度予算は歴史の転換期にあって重要課題の解決に道筋をつける未来を切り拓くための予算」だと強調しました。
また、「財政は国の信頼の礎で財政余力を確保しておくことが不可欠」として、2025年度にプライマリーバランスの黒字化を達成する目標にむけて、歳出・歳入両面の改革を着実に進めると述べました。
来年度予算案のうち、「防衛費」は防衛力の抜本的な強化のため、6兆7880億円と今年度より1兆4192億円増えているほか、将来の防衛力強化に充てる「防衛力強化資金(仮称)」として3兆3806億円を計上しました。
社会保障費も高齢化などで、36兆8889億円と今年度より6154億円増えています。
新型コロナや物価高騰対策の予備費として4兆円、ウクライナ情勢に対応するための予備費、1兆円と合わせて5兆円が計上されていて、こうした巨額な予備費についても国会で議論となりそうです。
なお、借金にあたる新規の国債発行額は今年度の当初予算より1兆3030億円減りますが、歳入の3割以上を国債に頼る構図は変わっておらず、厳しい財政状況が続いています。
●物価高克服し、経済成長へ 鈴木財務相が財政演説 1/23
鈴木俊一財務相は23日、2023年度予算案の国会提出を受け、衆参両院の本会議で財政演説を行った。
鈴木氏は「物価高を克服しつつ、日本経済を民需主導で持続可能な成長経路に乗せていく必要がある」と述べ、早期成立への協力を呼び掛けた。
防衛費増額や物価高対策に伴い、過去最大の114兆円台に膨らんだ23年度予算案に関しては、「重要課題に正面から向き合い、一定の道筋を付けた」と強調した。
財政状況を巡っては、新型コロナウイルス対応や度重なる補正予算編成によって、「過去に例を見ないほど厳しさを増している」と指摘。その上で「有事であっても日本の信用や国民生活が損なわれないようにするため、平素から財政余力を確保しておくことが不可欠だ」と訴えた。 
●ウクライナ融資、最大6850億円「保証」 世銀に国債拠出 1/23
政府は23日、世界銀行によるウクライナへの融資の実質的な保証額が最大6850億円になると明らかにした。財政支援に向け、政府は今国会への関連法の改正案提出を目指している。2023年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国として、米欧が先導してきたウクライナ支援の枠組みを強化する。
23日に国会提出した23年度予算案の予算総則に、円換算の上限額を6850億円とすると記した。ドル建てで50億ドル。政府は外貨建ての支出のための為替レートを定めており、23年度は1ドル=137円としている。実際の金額は関連法案などの成立後に、世銀と調整する。
世銀のウクライナ融資は一国に対する上限額に迫りつつある。世銀グループの国際復興開発銀行(IBRD)がウクライナ融資の信用リスクを移転する基金を新設し、日本は基金に対して「拠出国債」と呼ぶ特殊な国債を発行する。万一の際の債務負担を約束する。信用を補完し、世銀の融資の余地を広げる。
政府は関連法の改正で、基金に拠出国債を出せるようにする。拠出国債は相手の求めに応じて現金化する小切手のような仕組みで、市場には流通しない。世銀は他の債権者より優先的に返済を受けられるため、日本が実際に財政負担する可能性はほぼないとみられている。
●物価上回る賃上げ実現へ、経済次第で機動的に政策運営=後藤経財相 1/23
後藤茂之経済財政相は23日の経済演説で、足下の物価上昇を上回る賃上げ実現に万全を期すとともに、経済状況次第ではデフレ脱却に向け、機動的な政策運営を行う意思を示した。
後藤経済財政相は「物価上昇に負けない継続的な賃上げの実現に向け、賃上げに取り組む中小企業等への支援を大幅に拡充するとともに、価格転嫁対策を強化する」と述べた。
同時に「経済状況等を注視し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行う」と述べ、経済の下振れリスクに十分対応する姿勢も見せた。
政策運営の姿勢として「経済あっての財政であり、順番を間違えてはいけない。必要な政策対応に取り組み、経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に取り組む」との原則を改めて確認した。
賃上げが物価上昇に追いつかず実質賃金が前年比でマイナスの状況が続いている一方、賃上げの実現には生産性の向上が必要である点を踏まえ、「失業なき労働移動を進め、構造的な賃上げを実現していくため、労働円滑化のための指針を6月までに取りまとめる」と強調した。
通商政策について、日本が「自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮してきた」と指摘。 環太平洋経済連携協定(TPP )への英国加入を踏まえ「その他の加入要請を提出しているエコノミーについても、協定の高いレベルを満たす用意ができているかについて、引き続き見極めている」とし、さらなる拡大への意欲を表した。
●「建設国債の買いオペ」は実行可能か――国債の「60年償還ルール」 1/23
防衛費の増額分の財源確保の問題をめぐって、国債の「60年償還ルール」のことが話題になっている。このルールを見直せば、「埋蔵金」が発掘できて増税なしで防衛財源が確保できるという話もあるようだが、そのようなことは実現するのだろうか。以下ではこの点について論点整理を行い、それを踏まえて財政運営をめぐる課題について考えてみることとしたい。
あらかじめ記しておくと、60年償還ルールをめぐる議論をながめるうえでの大事なポイントは、財源不足を補填する手段という財政運営の面から見た場合の「国債」と、国が資金調達をするために発行する債券(金融商品)としての「国債」をきちんと分けて考えるということだ。赤字国債・建設国債というのは前者(財政面)から見た場合の国債の区分であり、短期国債・長期国債というのは後者(金融面)から見た場合の国債の区分である。
この両者の違いを意識的に分けて考えると、議論の見通しがよくなる。まずはこの点を確認するために、「建設国債の買いオペ」について考えてみよう。
1.「建設国債の買いオペ」は実行可能か
10年前、「日銀に建設国債を買ってもらう」という安倍晋三自民党総裁(当時)の発言が話題になったことがあった(2012年11月17日の熊本市での講演における発言)。この発言については、日銀に国債の引き受けを求めるのかという批判があったことから、日銀による建設国債の買い入れを求めたものだという趣旨の補足説明がなされたが、日銀引受ならともかく、日銀がオペ(公開市場操作)で建設国債のみを選択的に買い入れるというのは、とても厄介な作業である。
というのは、市場では建設国債と赤字国債を分けて国債の取引がなされることはなく、発行根拠法のいかんによらず10年債は10年債として取り扱われているからだ(場合によっては同じ銘柄の国債が、発行根拠法からすると建設国債でもあり、赤字国債でもあり、借換債でもあるということもある。たとえば、2022年3月に発行された第365回債)。
上記の補足説明では「建設国債が発行できる範囲の中で買いオペを進めていく」との例示もなされたが、もし仮にこの方針にそって国債を買い入れることにしていたら、「異次元緩和」(量的・質的金融緩和)はほどなく買い入れの壁に直面して、これほど長い期間にわたって続けられなかっただろう。建設国債の年間の発行額は6兆円程度しかなく、「長期国債の保有残高を年間約50兆円(2014年10月以降は約80兆円)のペースで増加させる」という買い入れの規模には耐えられないからだ(たとえば建設国債が10年債として発行された場合、10年経って借り換えが行われる際に発行される国債は建設国債ではなく借換債となるから、この点を踏まえると既発行の分を含めても建設国債を十分なロットで確保できないことに留意)。
このエピソードは、財政運営において財源不足を補填する手段として利用される「国債」の話と、金融商品として市場で流通している「国債」の話をひとまず分けて考えないと、議論が混乱するもとになるということを物語るものだ。となれば、まずは財政面から見た国債と、金融面から見た国債の概要を整理しておくことが、議論の見通しをよくすることに役立つだろう。
   建設国債・赤字国債・借換債
いま発行されている普通国債の大半は建設国債と赤字国債(特例国債)と借換債である(この他に、東日本大震災の復興財源を確保するために発行される復興債などがある)。財政法では国債発行が原則として禁止されているが(第4条)、公共事業費と出資金、貸付金の財源としては国債発行が認められている(第4条ただし書き)。この規定に基づいて公共事業費の財源をまかなうために発行される国債が建設国債である。
もっとも、実際には建設国債の金額をはるかに上回る規模の赤字国債が発行されている。法律は法律によって変えられるから、財政法第4条の規定にかかわらず国債発行を可能とする法律(特例法)をつくれば、赤字国債の発行が可能となるからだ。これが特例公債法に基づく国債発行であり、このようにして発行される国債は法律の名称に因んで特例国債と呼ばれることもある(こちらのほうが正式名称である)。
建設国債も赤字国債も実際に発行される債券としては5年債、10年債などの形で発行されることになるが、発行された国債の償還時には新たに国債を発行して財源を確保することが必要になる。この目的で発行される国債が借換債(借換国債)であり、この国債は国債整理基金特別会計において発行されることとなっている(特別会計に関する法律第46条)。
ここで留意が必要なのは、建設国債と赤字国債の間に、一般に持たれている印象ほど大きな違いはないということだ。財政運営の面からいうと、これらの国債の償還についてはいずれも「60年償還ルール」が適用されており(この点については後半で詳述)、発行や償還について両者の間の取り扱いが異なることもない。あり体にいえば、一般会計(国の基本的な予算を経理する会計)の財源不足をまかなうために発行される国債のうち公共事業費の金額に相当する分を「建設国債」、それ以外の分を「赤字国債(特例国債)」と呼んでいるに過ぎないということになる。
   中期国債・長期国債・超長期国債
建設国債と赤字国債はあくまで財政制度上の区分の仕方であり、実際に金融商品(債券)として国債が発行される際には、建設国債と赤字国債は一体のものとして取り扱われる(借換債についても同様)。この意味においても建設国債と赤字国債の違いは、一般に思われているほど大きなものではない。もちろん、国債の発行にあたっては、根拠法が財政法なのか(建設国債)、特例公債法なのか(赤字国債)、特別会計法なのか(借換国債)が入札時に公表されるが、同一の銘柄の国債が複数の根拠法に基づいて発行されることもしばしばあり、市場では財政上の区分は特に意識されることなく国債の発行・流通が行われている。
国債の取引においてむしろ大事なのは、その国債の年限が何年で、償還日がいつで、利回りがどのような水準になっているかということだ。年度内の資金繰りなどのために発行される短期国債(国庫短期証券)を除くと、普通国債は中期国債(2年・5年)、長期国債(10年)、超長期国債(20年・30年・40年)の形で発行されている。
   「建設国債の買いオペ」は実行できるか
このようにみてくると、「建設国債の買いオペ」は、やろうと思えばできないわけではないが(発行される各銘柄の国債について発行根拠法が明示されているため)、建設国債だけを選り分けて日銀が買い入れを行うことに実質的な意味はなく(そもそも建設国債と赤字国債の区分が今では形式的なものとなってしまっているため)、このようなことを行うことのコスパ(費用対効果)は著しく低い(金融調節という点からはどの年限の国債をどれだけ買うかが大事なのであって、買い入れる国債が建設国債であるか赤字国債であるかはどうでもよいことであるため)ということになる。
ここで心配されるのは、「60年償還ルール」の見直しをめぐる議論も同じような「財政錯覚」に陥っていて、そのために議論の混乱が生じていたりすることはないのだろうかということだ。そこで、以下ではこの点について考えてみることにしよう(なお、財政の話なので毎年の予算・決算については「年度」という表記を用いるのが一般的であるが、記述が徒に煩雑になるのを避けるため、以下では「年」と表記することを基本とする)。
2.「60年償還ルール」の見直しで「埋蔵金」は生まれるか
   60年償還ルールとは
建設国債と赤字国債については(借換債を含む)、その発行残高の1.6%に相当する金額を償還財源として毎年の一般会計予算において確保し(国債費の一部)、それを国債整理基金特別会計に繰り入れることで(定率繰入)、発行された国債を60年間で計画的に償還するという仕組みがある。これが国債の「60年償還ルール」の基本をなすものだ(実際に計算するとわかるように、この定率繰入のみでは国債の現金償還に必要な金額を60年で確保できないが、不足分については剰余金の繰り入れなどによる補填を行うことで、事実上の60年償還が確保されている)。
もっとも、ここで留意が必要なのは、現状では定率繰入の財源が税収ではなく国債発行によってまかなわれているということだ。つまり、「貯金(国債整理基金への繰り入れ)をするために借金(国債発行)をする」という状況が生じているわけであり、このような対応の仕方が資産負債管理の観点かららみて適切なものといえるのかという点については、改めて考える必要があるということになるだろう。
   見直しで新たな財源は確保できるか
「貯金をするために借金をする」というのが合理的な対応といえるかは、その時々における資金の運用と調達の状況によるため一概にはいえないが、もしこのようなやり方が非効率なものとなっているということであれば、「貯金をやめ、そのための借金もやめる」というのも一案といえるかもしれない。
地方自治体が赤字地方債(臨時財政対策債)を発行する一方、基金への積み立てを行っていることについて、以前(2017年)、財務省から問題点の指摘がなされたことがあったから、そのことに即して考えると、赤字国債を発行する一方で国債整理基金への繰り入れを行っていることの妥当性についても同様の精査が必要となるだろう。国債整理基金への定率繰入をやめれば、その分だけ国債費として確保すべき財源の額が減り(その分だけ歳出総額の圧縮が可能になる)、その結果、赤字国債の発行を減らすことができるようになる。
だが、話はここで終わらない。新たに借り入れを起こして工面したお金(定率繰入によって確保された国債償還の財源)は、過去に借りたお金の返済(既発債の償還)に充てられているからだ。60年償還ルールや定率繰入の有無にかかわらず、過去に発行した国債の満期は必ずやってくる。これは発行した国債が10年債であれば10年、20年債であれば20年で必ず生じるものであり(これは金融商品としての国債の性質から自然にしたがうものである)、定率繰入がなくなれば、それによって不足する償還財源は借換債の増発でまかなう必要が生じることになる。
したがって、60年償還ルールをなくすと赤字国債の発行はたしかに減るが、それに見合う分だけ借換債の発行が増えることになるから、総じてみると国債の発行額は減らないということになる。このような状況のもとでは、60年償還ルールの見直しによってただちに財政に余力が生じるということはなく、したがって「埋蔵金」の発掘を通じた新たな財源の確保もできない。
ではなぜこうしたもとにあっても「60年償還ルールを見直せば…」という話が盛り上がるのかといえば、それは伝統的に用いられてきた「財政赤字」の定義が歪んでいるからだ。
3.財政運営ルールの正常化に向けて
ここまで見てきたことからわかるように、「60年償還ルール」の見直しは新たな財源を生み出すことにはつながらないが、見直しそのものは債務を膨らませる要因ともならないものだ。この点からすると、「貯金をするために借金をする」ということが資産負債管理の観点から見て非効率であれば60年償還ルールと定率繰入を見直せばよく、そうでなければあえて見直す必要はないという程度の話ということになる。
それにもかかわらず、60年償還ルールの見直しが大きな話題となるのは、見直しによって赤字国債の発行が減る分だけ借換債の増発が生じるということへの認識がなく(あるいはそのことが意図的に無視されて)、定率繰入の分だけ赤字国債の発行を減らすことができるということが強調されるためだ。60年償還ルールを見直せば財政に余力が生じる(「埋蔵金」が発掘できる)という議論は、この話の延長線上にある。
もっとも、このような話が盛り上がるのは、伝統的に用いられてきた財政赤字の定義が歪んでいることによるものだ。その歪みを適切に補正したり、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を財政赤字の指標として利用するということをきちんとやれば、この問題は解消できることになる。
   「財政赤字」についての不思議な定義
財政赤字についてはしばしば不思議な定義が登場する。それは新規国債発行額(公債金収入)、すなわち「国債費を含む歳出と税収・税外収入の差額」を財政赤字の指標とするものだ。
国債費(国債の償還や利払いに要する経費として歳出に計上される費目)のうち債務償還費相当分は国債整理基金への繰り入れに充てられるものであり、現状ではその財源は国債発行によってまかなわれているが、財政赤字の額を算定する際にこの分を歳出に含めると、赤字が過大に計上されてしまうことになる。「お金を借りてそのお金を貯金する」という操作によって債務残高が増えることはなく(見かけ上の債務残高は増えるが、この場合は金融資産も増えていることに留意)、債務を増やす要因とはならないものを「赤字」として認識する必要はないにもかかわらず、それを含めて財政赤字の額を算定していることになるからだ(このような歪みが生じることがないよう、IMFの統計では適切な調整がなされている)。
したがって、新規国債発行額(公債金収入)をもとに財政赤字の額を算定するのであれば、新規国債発行額から債務償還費相当分を控除した額を利用しなくてはならないということになる。
このことは政府債務残高の定義についても同様にいえる。政府債務残高については政府の保有する金融資産を控除しない総債務(粗債務)の指標がしばしば用いられるが、政府による「貯金」の効果を適切に評価するには、金融資産を控除した純債務を債務残高の指標として用いることが適切である。G7(先進7か国)の中で日本は政府金融資産の保有額が顕著に多いため、そのことを適切に考慮したうえで国際比較を行わないと、財政状況の把握に歪みが生じてしまうおそれがあることに留意が必要となる。
   財政運営ルールの正常化に向けて
上記の点については令和3年度(2021年度)予算から、財務省の予算説明資料において適切な改善がなされている。それは「予算フレーム」の資料において歳出側の国債費について内訳(債務償還費と利払費)の金額が明示され、歳入側でも公債金収入(新規国債発行額)について同様の取り扱いがなされるようになったことだ。
こうしたもとで、「債務償還費相当分を財政赤字に含めるのは赤字を過大に計上していることになる」ということについての適切な認識が広まっていけば、その反射的な効果として、「60年償還ルールを見直せば新たな財源を生み出すことができる」ということにはならないということも適切に理解されるようになるだろう。もちろん、このことは防衛費の増額分を税と国債のいずれで調達すべきかという議論とは別の問題であり、両者はきちんと分けて考える必要がある。
ここまで、防衛費の財源確保をめぐる議論を踏まえつつ、「60年償還ルール」の見直しと財政運営をめぐる課題について論点整理を行ってきた。財政をめぐる問題については、財政状況を懸念する側からも、財政出動を志向する側からも、ともするとやや極端な議論がなされがちなところがあるが、落ち着いた環境のもとで堅実な議論がなされていくことが望まれる。 

 

●「次元の異なる少子化対策を実現」、岸田首相が施政方針演説 1/23
岸田文雄首相は23日、衆議院本会議で施政方針演説を行い、日本の持続性や社会的包摂を考える上で「子ども・子育て政策」は最重要政策だとし、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と意気込みを語った。防衛力の抜本的強化や「新しい資本主義」の前進に向け、予算案や法案を野党とも正面から議論し実行に移していくとも述べた。
歴史の分岐点に立つ日本
首相は冒頭、近代日本にとって、明治維新と、その77年後の大戦の終戦が大きな時代の転換点となったと指摘し、「奇しくもそれから77年が経った今、我々は再び歴史の分岐点に立っている」と語った。
ロシアのウクライナ侵略が法の支配による国際平和秩序を揺るがし、国連の安全保障理事会は機能不全に陥っている。気候変動や感染症対策など地球規模の課題、世界中で生じている格差なども待ったなしの問題だとし、5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)の成功を含め、G7議長国として世界を先導していく決意を示した。
積極的な外交を優先させつつ、防衛力も抜本的に強化する。首相は、日本の安全保障政策の大転換となるが「憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としてのわが国としての歩みをいささかも変えるものではない」と改めて説明した。
また、日本の外交の基軸は日米関係だとし、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するとともに、サプライチェーンの強靭化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野の連携に取り組むとした。
物価上昇を超える賃上げを改めて強調
経済面では、社会課題の解決と成長を同時に実現する「新しい資本主義」を前に進める。まずは補正予算の早期執行で足元の物価高に対応。経済を立て直し、財政健全化に取り組むと語った。
首相は、企業が収益を労働者に分配し、消費が伸びて経済成長するという好循環のカギを握るのが賃上げだと指摘。足元で物価上昇を超える賃上げが必要だと改めて強調した。中小企業の賃上げ実現に向け、下請け取引の適正化や価格転嫁の促進といった対策も強化すると語った。
ロシアが原油や天然ガスなどの供給を「武器」に利用する中、エネルギーの安定供給も課題となる。安全確保と地域の理解を大前提としつつ、原発の次世代革新炉への建て替えや、運転期間の一定期間の延長を進めると語った。国が前面に立って最終処分事業にも取り組むという。
6月までに子ども・子育て予算倍増に向けた大枠提示
急速に進展する少子化によって、日本の昨年の出生数は80万人割れが見込まれている。首相は「わが国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と問題意識を示し、「子どもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」と語った。
首相は、子ども・子育て政策について「最も有効な未来への投資だ」とも指摘。4月に発足する「こども家庭庁」のもとで体系的に政策を取りまとめつつ、「6月の骨太方針までに将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と表明した。
憲法改正も先送りできない課題
首相は、憲法改正も「先送りできない課題」と位置付けた。「今国会で制定以来初めてとなる憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待する」と語った。
首相はまた、旧統一教会との関係や、政治とカネなど、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民から厳しい声が出たことを重く受け止めていると語った。日本を次の世代に引き継いでいくため、課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くしていくと締めくくった。  
●首相が施政方針演説で強調した「防衛費増」…その財源は何?  1/23  
岸田文雄首相は23日の施政方針演説で「5年間で計43兆円の防衛予算を確保する」と強調しました。少子高齢化で増え続ける社会保障費や借金(国債)返済で財政が逼迫ひっぱくする中、防衛費増額の財源をどう賄おうとしているのかをまとめました。(山田晃史)
財源未定の2.5兆円は「さまざまな工夫」で
Q 防衛予算の規模は大きくなるのですか。
A 政府は先月、2023年度から5年間で総額43兆円となる防衛力整備計画を決めました。現行計画に比べて1.6倍の規模で、17兆円の追加予算が必要です。そのうち、14兆6000億円の想定財源は決まっていますが、残り2兆5000億円は未定で「さまざまな工夫」で確保するとなっています。
Q 現段階で想定されている財源は。
A (1)支出を効率化する歳出改革で3兆円強(2)予算の使い残しのうち翌年度に繰り越されなかったお金(決算剰余金)から3兆5000億円(3)特別会計の剰余金や国有財産の売却など税外収入で4兆6000億〜5兆円強(4)法人税や所得税の増税で残りの金額—を賄います。27年度以降も年4兆円ほどの追加財源を確保するとしています。
Q 想定通りうまくいくのでしょうか。
A 決算の剰余金は毎年平均で1兆4000億円あり、半分を国債の返済、残りを防衛費に充てる計画です。しかし、23年度予算案では前年度の大型経済対策に剰余金を充てたので、防衛費には使えませんでした。今後は剰余金を防衛費に充てますが、経済対策にお金を使うと玉突きの形で、防衛費増を賄うために借金が増える事態も考えられます。
Q ほかに問題は。
A 歳出改革は23年度に2100億円をひねり出しましたが、この水準を毎年続けるのは困難といえます。財務省幹部は社会保障費が毎年増える中「簡単に達成できるわけではない」と認めます。税外収入は23年度に1兆2000億円使い、3兆4000億円ほどを防衛力強化資金として翌年度以降の支出に備えます。ただ、継続的に収入を探すのは簡単ではありません。
Q 増税はいつからですか。
A 24年以降ですが、具体的には決まっておらず、経済や政治の状況に左右されそうです。増税への反発が強い自民党では、政府の借金返済を先延ばしするなどのルール変更で、防衛財源にする議論が始まり、増税回避を探る声も出ています。  
●首相、施政方針演説「次元の異なる少子化対策」 最重要と位置付け 1/23
第211通常国会が23日召集され、岸田文雄首相は衆院本会議で施政方針演説に臨んだ。子ども・子育てを「最重要政策」に位置づけ、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と表明。必要財源の確保に向け、社会保険料の引き上げを模索する考えを示唆した。会期は6月21日までの150日間。
首相は、2022年の出生数が80万人を割るとの見通しに触れ、「我が国は社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況」だと強調。「子ども・子育て政策への対応は待ったなし」だとし、出生率の反転に努める考えを示した。政府は1児童手当を中心とした経済的支援強化2子育て家庭向けのサービス拡充3仕事と育児の両立促進――に取り組む方針だ。
高等教育の負担軽減に向け、出世払い型の奨学金制度を導入すると説明。4月発足の「こども家庭庁」で必要な施策を体系的に取りまとめつつ、6月までに「将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と語った。
数兆円必要になるとみられる追加財源の確保に向け「各種の社会保険との関係、国と地方の役割などさまざまな工夫」を図るとし、社会保険料の見直しを念頭に置く構えを示した。
新型コロナウイルス対策では、今春にも感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げる方針を説明した。政府は今後の感染症危機への備えとして内閣感染症危機管理統括庁の設置法案を今国会に提出する。
物価高対策に引き続き取り組むとし「物価上昇を超える賃上げが必要」だとも強調。持続的な賃上げ環境整備に向け1リスキリング(職業能力の再開発)による能力向上支援2日本型職務給の確立3成長分野への円滑な労働移動――といった労働市場改革を進めるとした。
リスキリングについては企業経由が中心の在職者向け支援を個人への直接支援中心に見直す。「6月までに日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルを示す」とも語った。
エネルギーの安定供給に向け「多様なエネルギー源を確保しなければならない」と強調。安全確保と地域の理解を前提に「廃炉となる原発の次世代革新炉への建て替え」や「原発の運転期間の一定期間の延長」を進めるとした。
防衛費増額や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に理解を求めた。27年度以降、年1兆円強不足する防衛費増の財源を巡っては「今を生きる我々が、将来世代への責任として対応する」と語り、増税で対応する考えを改めて示した。
5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)議長国として「核兵器のない世界」への意欲も語った。 演説終盤、22年は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や「政治とカネ」を巡る問題で「国民の皆さんから厳しい声をいただいた」と振り返り陳謝した。その上で「今後、こうしたことが再び起こらないよう、さまざまな改革にも取り組んでいく」と述べた。
●岸田首相、少子化「次元異なる対策実行」 施政方針演説 1/23
第211通常国会が23日召集され、岸田文雄首相は午後の衆院本会議で施政方針演説に臨んだ。子ども・子育て政策で「従来とは次元の異なる対策を実現する」と表明し、「出生率を反転させなければならない」と訴えた。防衛力の抜本強化や原子力発電所の活用拡大を説明した。
子ども政策に関し「経済社会の持続性と包摂性を考える上で最重要政策と位置付けている」と明言した。2022年の出生数が80万人割れとなる見込みに触れ「社会機能を維持できるかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と説いた。
政府は4月にこども家庭庁を発足させる。6月にも決める経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに関連予算の倍増に向けた大枠を示す。首相は「年齢・性別を問わず皆が参加する従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と強調した。
財源について「各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など様々な工夫をする」と語った。高等教育の負担軽減に向け出世払い型の奨学金制度を導入すると唱えた。
22年12月に決めた国家安全保障戦略など安保関連3文書が示す防衛力の強化策も話した。反撃能力の保有や南西地域の防衛体制充実などを挙げ「今回の決断は日本の安全保障政策の大転換」と指摘した。
5年間で43兆円の防衛予算を計上するため、必要な安定財源の確保に向け「今を生きる我々が将来世代への責任として対応する」と言明した。
エネルギーを安定供給するため原子力発電所の活用を提唱した。廃炉予定の原発の次世代革新炉への建て替えや原発の運転期間の延長に取り組むと述べた。今国会で関連法案の提出をめざす。
放射性廃棄物に関し「国が前面に立って最終処分事業を進める」と明らかにした。
少額投資非課税制度(NISA)の総口座数と買い付け額を5年で倍増する方針を示した。「国家戦略として資産形成を支援し長期的には資産運用収入そのものの倍増も見据える」と発言した。
分配と経済成長の好循環のため「物価上昇を超える賃上げが必要だ」と訴えかけた。リスキリング(学び直し)の支援や職務給の確立、成長分野への雇用の移動という三位一体の改革を打ち出した。
リスキリングに関し「企業経由が中心となっている在職者向け支援を個人への直接支援中心に見直す」と提起した。「6月までに日本企業に合った職務給の導入方法を類型化しモデルを示す」と主張した。
新型コロナウイルスの感染症法上の分類を今春に5類に変更する方向を明示した。マスクの着用ルールについて「考え方を整理していきたい」と言及した。感染症対策を担う「内閣感染症危機管理統括庁」を新設するための法案を出す。
岸田政権では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点や政治とカネの問題で22年10〜12月に4閣僚が相次ぎ職を辞した。首相は「信頼こそが政治の一番大切な基盤だと考えてきた一人の政治家としてざんきに堪えない」と反省した。
旧統一教会問題での被害者救済と再発防止に向けて「21年の臨時国会で成立した新法などの着実な運用、実態把握と相談体制の充実に努める」と力説した。
●岸田文雄首相の施政方針演説 1/23
一 はじめに
第211回国会の開会にあたり、国政に臨む所信の一端を申し述べます。
先日の欧州・北米訪問の際、ある首脳から、「なぜ日本では、議会のことを、英語でparliamentではなく、dietと呼ぶのか」と問われました。
確かに、ほとんどの国は、議会を英語でparliamentと呼ぶようです。調べてみたところ、dietの語源は、「集まる日」という意味を持つラテン語でした。
国民の負託を受けたわれわれ議員が、まさに、本日、この議場に集まり、国会での議論がスタートいたします。
政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断し、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです。 
私は、多くの皆様のご協力の下、さまざまな議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討し、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。
「検討」も「決断」も、そして「議論」も、すべて重要であり必要です。それらに等しく全力で取り組むことで、信頼と共感の政治を本年も進めてまいります。
二 歴史の転換点
近代日本にとって、大きな時代の転換点は2回ありました。
明治維新と、その77年後の大戦の終戦です。そして、くしくもそれから77年がたった今、われわれは再び歴史の分岐点に立っています。
ロシアによるウクライナ侵略。世界が堅持してきた「法の支配による国際平和秩序」への挑戦に対し、国連安保理は機能不全を露呈しました。
さらに、この機に乗じて、ロシアとの連携を強める国、エネルギーなどで実利を追う国、核ミサイル開発を進める主体など、国際平和秩序の弱体化があらわになっています。
そして、もはや待ったなしとなっているのが、深刻さを増す気候変動問題、感染症対策などの地球規模の課題、世界中で生じている格差問題など、広い意味での持続可能性の問題です。
不安定で脆弱なサプライチェーン(供給網)、世界規模でのエネルギー・食料危機、さらには、人への投資不足など、世界の一体化と平和・繁栄をもたらすと信じられてきたグローバリゼーションの変質・変容も顕著です。
こうした現実を前に、今こそ、新たな方向に足を踏み出さなければならない。
これまでの時代の常識を捨て去り、強い覚悟と時代を見通すビジョンをもって、新たな時代にふさわしい、社会、経済、国際秩序を創り上げていかねばなりません。
先々週、G7(主要7カ国)議長として訪問した国、すべての首脳も、私と同様の認識を示しました。
日本は、5月の広島サミットの成功はもちろん、G7議長国として、強い責任感をもって、今年一年、世界を先導してまいります。
私は、皆さんと一緒に、この歴史の大きなうねりを乗り越え、次の世代に、この日本という国を着実に引き継いでいきます。
力を合わせ、共に、新時代の国づくり、安定した国際秩序づくりを進めていこうではありませんか。
三 防衛力の抜本的強化
そのために、今われわれが直面するさまざまな難しい、先送りできない課題に、正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく。
その強い覚悟で、昨年末、1年を超える時間をかけて議論し、検討を進め、新たな国家安全保障戦略などを策定いたしました。
まず優先されるべきは積極的な外交の展開です。同時に、外交には、裏付けとなる防衛力が必要です。
戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、いざという時に、国民の命を守り抜けるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化しました。
5年間で43兆円の防衛予算を確保し、相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の抜本強化、サイバー・宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実、海上保安庁と自衛隊の連携強化、防衛産業の基盤強化や装備移転の支援、研究開発成果の安全保障分野での積極的活用などを進めてまいります。
こうした取り組みを、将来にわたって維持・強化していかなければなりません。そのためには、2027年度以降、裏付けとなる毎年度4兆円の新たな安定財源が追加的に必要となります。
歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入の確保などの行財政改革の努力を最大限行った上で、それでも足りない約4分の1については、将来世代に先送りすることなく、27年度に向けて、今を生きるわれわれが、将来世代への責任として対応してまいります。
今回の決断は、日本の安全保障政策の大転換ですが、憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての我が国としての歩みを、いささかも変えるものではないということを改めて明確に申し上げたいと思います。
四 新しい資本主義
   (一)総論
世界のリーダーと対話を重ねる中で、多くの国が、新たな経済モデルを模索していることも強く感じました。
それは、権威主義的国家からの挑戦に直面する中で、市場に任せるだけでなく、官と民が連携し、国家間の競争に勝ち抜くための、経済モデルです。
それは、労働コストや生産コストの安さのみを求めるのでなく、重要物資や重要技術を守り、強靱(きょうじん)なサプライチェーンを維持する経済モデルです。
そして、それは、気候変動問題や格差など、これまでの経済システムが生み出した負の側面である、さまざまな社会課題を乗り越えるための経済モデルです。
私が進める「新しい資本主義」は、この世界共通の問題意識に基づくものです。
官民が連携し、社会課題を成長のエンジンへと転換し、社会課題の解決と経済成長を同時に実現する。持続可能で、包摂的な経済社会を創り上げていきます。
新型コロナ(ウイルス)から、全面的に日常を取り戻そうとする今年、日本を、本格的な経済回復、そして、新たな経済成長の軌道に乗せていこうではありませんか。
   (二)物価高対策
まずは、22年度第2次補正予算の早期執行など、足元の物価高に的確に対応します。今後も、必要な政策対応にちゅうちょなく取り組んでまいります。
経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組みます。
   (三)構造的な賃上げ 
そして、企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかり分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、「賃上げ」です。
これまで着実に積み上げてきた経済成長の土台の上に、持続的に賃金が上がる「構造」を作り上げるため、労働市場改革を進めます。
まずは、足元で、物価上昇を超える賃上げが必要です。
政府は、経済成長のための投資と改革に、全力を挙げます。公的セクターや、政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げます。
また、中小企業における賃上げ実現に向け、生産性向上、下請け取引の適正化、価格転嫁の促進、さらにはフリーランスの取引適正化といった対策も、一層強化します。
そして、その先に、多様な人材、意欲ある個人が、その能力を最大限いかして働くことが、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げにつながる社会を創り、持続的な賃上げを実現していきます。
そのために、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って、加速します。
リスキリングについては、GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直します。
加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します。
一方で、企業には、そうした個人を受け止める準備を進めていただきたい。
人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。
本年6月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします。
   (四)投資と改革
賃上げとともに、成長と分配の好循環の鍵となるのが、投資と改革です。その具体的な取り組みについて、5点申し上げます。
   (GX)
第1に、GX、グリーントランスフォーメーションです。
戦争の武器としてエネルギー供給を利用したロシア。国民生活の大きな混乱に見舞われた各国は、脱炭素と、エネルギー安定供給、そして、経済成長の3つを同時に実現する、「一石三鳥」のしたたかな戦略を動かし始めています。
日本のGXも、この3つの目的を実現するためのものです。
官民で、10年間、150兆円超の投資を引き出す「成長志向型カーボンプライシング」。国による20兆円規模の先行投資の枠組みを新たに設けます。
徹底した省エネ、水素・アンモニアの社会実装、再エネ・原子力など脱炭素技術の研究開発などを支援していきます。
これは、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、予見可能性を高め、期待収益率を見通せるようにすることで、企業の投資を誘引していく、新しい資本主義が目指す官民連携の具体化です。このための法案を今国会に提出いたします。
官民の持てる力を総動員し、GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していきます。
エネルギーの安定供給に向けては、多様なエネルギー源を確保しなければなりません。
長年の懸案となっていた、北海道・本州間の送電線整備など再エネ最大限導入に向けた取り組みに加え、安全の確保と地域の理解を大前提として、廃炉となる原発の次世代革新炉への建て替えや、原発の運転期間の一定期間の延長を進めます。
また、国が前面に立って、最終処分事業を進めてまいります。
世界規模のエネルギー危機に直面し、アジアにおける現実的なエネルギートランジションの重要性がますます高まっています。我が国は、昨年来提唱してきたアジア・ゼロエミッション構想を今春から具体化させ、アジアの脱炭素化を支援していきます。
   (DX)
第2に、DX、デジタルトランスフォーメーションです。
まず、強調したいのは、デジタル社会のパスポートであるマイナンバーカードです。
さまざまな工夫を重ね、昨年初めに、5500万件だった取得申請を、8500万件まで増やしました。今や、運転免許証を大きく超え、日本で最も普及した本人確認のツールです。
このカードによって、運転免許証、各種国家資格の証明書などのデジタル化や、確定申告の際に、オンラインで医療費控除やふるさと納税の手続きを完結することが可能となります。
医療面では、今後、スマートフォン一つあれば、診察券も保険証も持たずに、医療機関の受診や薬剤情報の確認ができるようになります。さらには、学生証への利用、買い物時の年齢確認や、コンサートのチケット購入などでの活用も進み始めています。
本人確認が必要な、あらゆる公的・民間サービスを簡単・便利に利用できる社会を創るため、官民で取り組んでまいります。
アナログ規制の一括見直しにも取り組みます。
具体的には、オンライン上で、さまざまな行政手続きを完結できるようにしたり、フロッピーディスクを指定して情報提出を求めていた規制を見直したりといった改革を、来年までの2年間で一気呵成(かせい)に進めます。
4万件の法令を点検し、準備が整ったものについて、一斉に見直すための法案を今国会に提出します。
   (イノベーション)
第3に、イノベーションです。
つい先日、日米の企業が共同開発し、世界で初めて、本格的なグローバル展開が期待される、アルツハイマー病の進行を抑える治療薬が、米国においてFDA(米食品医薬品局)の迅速承認を受けました。
日本発、世界初のイノベーションが、国境を越えて、認知症の方とそのご家族に希望の光をもたらすことは、大変うれしいことです。
こうしたニュースを次々にお届けできるよう、中長期的かつ国家戦略的な視点をもって、半導体、量子、AI(人工知能)、次世代通信技術、さらには、バイオ、宇宙、海洋。
戦略分野への研究開発投資を支援するとともに、イノベーションを阻む規制の改革に取り組みます。
社会のニーズに応じた理工系の学部再編や、若手研究者支援も進めます。
さらには、教職員の処遇見直しを通じた質の向上、教育の国際化、グローバル人材の育成に向け、日本人学生の海外派遣の拡大や、有望な留学生の受け入れを進めます。
25年には、大阪・関西万博が開催されます。空飛ぶ車など、未来社会の実験場として、イノベーティブで活力ある日本の姿を世界に向けて発信してまいります。
   (スタートアップ)
第4に、スタートアップの育成です。
5年でスタートアップへの投資額10倍増を目指し、卓越した才能を発掘・育成するプログラムの拡充や、研究開発ベンチャーへの資金供給の強化、欧米のトップクラス大学の誘致によるグローバルスタートアップキャンパス構想の実現、さらには、税制による大企業とスタートアップの協業によるオープンイノベーション支援に取り組みます。
また、創業時に、経営者保証に頼らない資金調達ができるよう、新たな信用保証制度を創設します。
さらに、世界に伍(ご)する高度人材の新たな受け入れのための制度を創設するなど、外国人材が活躍できる環境整備も行います。
今は、日本経済をけん引する大企業も、かつては、戦後創業の「スタートアップ」でした。戦後の創業期に次ぐ、第2の創業ブームを実現し、未来の日本経済をけん引するような企業を生み出していきます。
   (資産所得倍増プラン)
第5に、資産所得倍増プランです。
長年の懸案である「貯蓄から投資へ」の流れを実現できれば、家計の金融資産所得の拡大と、成長資金の供給拡大により、成長と資産所得の好循環を実現できる。
そう考え、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充や、恒久化を実現し、5年間でNISAの総口座数と、買い付け額を倍増させることにしました。
国家戦略として資産形成の支援に取り組み、長期的には、資産運用収入そのものの倍増も見据えて対応してまいります。
今こそ、これらの政策を力強く、実行していこうではありませんか。
五 こども・子育て政策
そして、今年、新しい資本主義の取り組みを次の段階に進めたいと思っています。
新しい資本主義は、「持続可能」で、「包摂的」な新たな経済社会を創っていくための挑戦である、と申し上げてきました。
我が国の経済社会の「持続性」と「包摂性」を考える上で、最重要政策と位置付けているのが、「こども・子育て政策」です。
急速に進展する少子化により、昨年の出生数は80万人を割り込むと見込まれ、我が国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれています。こども・子育て政策への対応は、待ったなしの先送りの許されない課題です。
こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければなりません。
こども政策担当相に指示した、3つの基本的方向性に沿って、こども・子育て政策の強化に向けた具体策の検討を進めていきます。高等教育の負担軽減に向けた出世払い型の奨学金制度の導入にも取り組みます。
検討に当たって、何よりも優先されるべきは、当事者の声です。まずは、私自身、全国各地で、こども・子育ての「当事者」である、お父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方、若い世代の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます。
年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。
そして、本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において、必要とされるこども・子育て政策を体系的に取りまとめつつ、6月の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)までに、将来的なこども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示します。
こども・子育て政策は、最も有効な未来への投資です。これを着実に実行していくため、まずは、こども・子育て政策として充実する内容を具体化します。
そして、その内容に応じて、各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など、さまざまな工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えてまいります。
安心してこどもを産み、育てられる社会を創る。すべての世代、国民皆にかかわる、この課題に、ともに取り組んでいこうではありませんか。
あわせて、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支えあう、持続的な社会保障制度の構築に取り組みます。
六 包摂的な経済社会づくり
老若男女、障害のある方も、ない方も、すべての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会。
意欲のあるすべての方が、置かれている環境にかかわらず、十全に力を発揮できる社会。
そうした包摂的な経済社会を創るため、これから、特に、「女性」「若者」「地方」の力を引き出していくための政策に力を入れていきます。
   (女性)
これまでの取り組みにより、女性の就労は大きく増え、いわゆるM字カーブの問題は、解消に向かっていますが、出産を契機に、女性が非正規雇用化する、いわゆるL字カーブの解消、そして、男女間の賃金格差の是正は、引き続き、喫緊の課題です。
また、女性登用の一層の拡大も進めていかなければなりません。
そのために、女性の就労の壁となっているいわゆる103万円の壁や、130万円の壁といった制度の見直し、男女共に、これまで以上に育児休業を取得しやすい制度の導入などの諸課題に対応していきます。
さらには、配偶者による暴力防止の取り組みを強化するため、DV(ドメスティックバイオレンス)防止法の改正にも取り組みます。
   (若者)
こども・子育て政策の強化、男女共に働きやすい環境の整備、全世代型社会保障改革、構造的賃上げ、スタートアップなどの成長分野への投資などは、日本の未来を担う若い世代のためにこそ進めるべき取り組みです。
こうした各般の取り組みを通じ、若者、そして若い世帯の所得向上を実現し、若者が、未来に希望をもって生きられる社会を創っていきます。
   (孤独・孤立対策)
孤独・孤立対策にも本格的に取り組みます。対策の基本となる法案を、今国会に提出し、孤独や孤立に寄り添える社会を目指します。
   (地方創生)
地方創生を進め、地方が元気になること。それが日本経済再生の源です。
地方の基幹産業の活性化に全力を注ぎます。
観光産業については、全国旅行支援による需要喚起に加え、高付加価値化の推進、国立公園なども活用した観光地の魅力向上に取り組み、外国人旅行者の国内需要5兆円、国内旅行需要20兆円という目標の早期達成を目指します。
農林水産業については、肥料・飼料・主要穀物の国産化推進など、食料安全保障の強化を図りつつ、夢を持って働ける、稼げる産業とすることを目指します。
農林水産品の輸出については、25年2兆円目標の前倒し達成を目指し、更なる輸出拡大支援を進めます。
地方経済の基盤である高速道路網について、老朽化対策と、4車線化などの進化・改良の取り組みを着実に実施するための制度整備を行います。また、地域公共交通の「リデザイン」に向け、国の支援を拡充します。
さらには、地方への企業立地支援や海外からの人材・資金の呼び込み、官民連携によるスタジアム、アリーナ、文教施設の整備、地方議会活性化のための法改正にも取り組みます。
地方創生に向けた全ての基盤となる取り組みが、デジタルの力で地域の社会課題を解決し、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を実現するデジタル田園都市国家構想です。
光ファイバー、(高速通信規格)5G等のデジタルインフラの整備を着実に進めつつ、今後、全国津々浦々で、本格的なデジタル実装を進めます。
まずは、スマート農業、ドローンによる配送、遠隔見守りサービスなどを組み合わせたプロジェクトを日本の中山間地域150カ所で実現します。
また、今年4月には、レベル4、完全自動運転を可能にする新たな制度が動き始めます。25年をめどに、全都道府県で自動運転の社会実験の実施を目指します。
全国津々浦々、すべての方々が輝ける日本を創っていこうではありませんか。
七 災害対応・復興支援
今年、関東大震災から100年の節目を迎えます。激甚化・頻発化する災害への対応も、先送りのできない重要な課題です。
5カ年加速化対策の着実な推進に加え、中長期的・継続的・安定的に防災・減災、国土強靱化を進めるため、新たな国土強靱化基本計画を策定します。
機動的に自治体を支援するなど、大雪や鳥インフルエンザなどの対応に万全を期します。
台風や豪雨などに対応するための予報高度化、猛暑から人命を守るための熱中症対策の強化、さらには、北海道知床の遊覧船事故を受けた、旅客船の安全性確保のための法案を提出し、災害や事故への対応力を強化します。
政権の最重要課題である福島の復興も、地元の皆さんとともに、取り組みをさらに前に進めます。
昨年、長期にわたり、帰還が困難であるとされた区域で初めて、住民の帰還が実現しました。
引き続き、残る復興再生拠点の避難指示解除を目指すとともに、拠点区域外についても、意向のある方が帰還できるよう取り組みを具体化していきます。
あわせて、映画など文化芸術を通じた街づくり、廃炉・アルプス処理水対策や福島国際研究教育機構の整備を、政府一丸となって推進し、責任をもって福島の復興・再生に取り組みます。
八 新型コロナ
新型コロナの感染拡大から、約3年。国民の皆さん、そして、現場で働く医師・看護師・介護職員などエッセンシャルワーカーの皆さんの協力をいただきながら、感染の波を乗り越え、ウィズコロナへの移行を進めてきました。
足元の感染状況については、感染防止対策や医療体制の確保に努め、いわゆる第8波を乗り越えるべく、全力を尽くしてまいります。
そして、原則この春に、新型コロナを「新型インフルエンザ等」から外し、5類感染症とする方向で、議論を進めます。これに伴う医療体制、公費支援などさまざまな政策・措置の対応について、段階的な移行の検討・調整を進めます。
マスクの着用についても、5類感染症への見直しと併せて、考え方を整理していきたいと思いますが、まずは、今一度、「原則、外ではマスク不要」といった現在の取り扱いについて、周知徹底を図ります。
GDP(国内総生産)や、企業業績は、既に新型コロナ前の水準を回復し、有効求人倍率も、コロナ前の水準を回復しつつあります。家庭、学校、職場、地域、あらゆる場面で、日常を取り戻すことができるよう、着実に歩みを進めてまいります。
そして、今後の感染症危機に適切に対応するため、内閣感染症危機管理統括庁や、いわゆる日本版CDC(疾病対策センター)設置に関する法案を今国会に提出します。
九 外交・安全保障
「歴史の分岐点」を迎える中、普遍的価値に立脚しつつ、国益を守り抜くため、積極的かつ力強く、新時代リアリズム外交を展開していきます。
我が国は、今年、G7議長国および国連安保理非常任理事国を務めます。その立場をいかし、世界の平和と繁栄に向けた取り組みを主導します。
ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙が継続し、また、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく、複雑な状況にあります。
力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない。広島サミットの機会に、こうした原則を擁護する、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとの強い意志を、改めて世界に発信します。
そして、世界が直面する諸課題に、国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)に対する関与を強化していきます。
そのために、エネルギー・食料危機や、下振れリスクに直面する世界経済についても、一致結束した対応を行ってまいります。また、対ロ制裁、対ウクライナ支援を引き続き強力に推し進めます。
被爆地、広島で開かれるサミットの機会を捉え、「核兵器のない世界」に向け、国際的な取り組みを主導します。「ヒロシマ・アクション・プラン」を始め、これまでの取り組みの上に立って、国際賢人会議の叡智(えいち)も得ながら、現実的かつ実践的な取り組みを進めていきます。
他にも、地域情勢、経済安全保障、人権、気候変動、保健、開発といった課題にも広く対応していく必要があります。山積する諸懸案への対応に、我が国が主導的役割を果たしてまいります。
加えて、安保理改革を含む国連の機能強化にも取り組みます。
戦後日本が積み重ねてきた信頼関係に基づく2国間関係の強化も、引き続き進めます。
我が国外交の基軸は、日米関係です。先日の日米共同声明に基づき、引き続き、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化し、地域の平和と安定および国際社会の繁栄に貢献していきます。
また、経済版「2プラス2」を含む、さまざまなチャネルを通じ、サプライチェーンの強靱化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携にも取り組みます。
日米同盟の強化とあわせて、基地負担軽減にも引き続き取り組みます。普天間飛行場(基地)の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、強い沖縄経済を作ります。
日米豪印等も活用しつつ、また、アジア、欧州、大洋州をはじめとするパートナー国との連携を深め、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための協力を一層強化します。
そして、G7議長国として達成した成果を、インドが議長国を務めるG20(20カ国・地域)に引き継ぎ、友好協力50周年を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)との特別首脳会議につなげ、アジアから世界に向け発信していきます。
また、CPTPP(包括的・先進的環太平洋経済連携協定)の着実な実施と高いレベルを維持しながらの拡大や、IPEF(インド太平洋経済枠組み)、DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)等の取り組みにおいて具体的な成果を目指します。
地域の平和と安定も引き続き重要です。中国に対しては、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを含め、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めてまいります。
そして、本年が日中平和友好条約45周年であることも念頭に置きつつ、諸懸案を含め、首脳間をはじめとする対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。
国際社会におけるさまざまな課題への対応に協力していくべき重要な隣国である韓国とは、国交正常化以来の友好協力関係に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、さらに発展させていくため、緊密に意志疎通していきます。
日ロ関係は、ロシアによるウクライナ侵略により厳しい状況にありますが、我が国としては、引き続き、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。
北朝鮮による前例のない頻度と態様での弾道ミサイル発射は、断じて容認できません。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。
中でも、最重要課題である拉致問題は深刻な人道問題であり、その解決は、一刻の猶予も許されません。すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で果断に取り組みます。
私自身、条件を付けずに金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う決意です。 
このような多国間・2国間外交の最も重要なツールの一つが、開発協力です。
今後10年間の方向性を示す開発協力大綱を、「人間の安全保障」の理念を踏まえ、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた議論をリードするようなものとするべく、今年前半をめどに改定します。
十 憲法改正
憲法改正もまた、先送りできない課題です。先の臨時国会では、与野党の枠を超え、活発な議論をいただきました。
この国会において、制定以来初めてとなる、憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待します。
十一 政治の信頼
昨年は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係、政治とカネなど、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民の皆さんから厳しい声をいただいたことを、重く受け止めております。
信なくば立たず。信頼こそが、政治の一番大切な基盤であると考えてきた一人の政治家として、ざんきに堪えません。今後、こうしたことが再び起こらないよう、さまざまな改革にも取り組んでまいります。
旧統一教会の問題については、被害者の実効的な救済と再発防止に向け、昨年の臨時国会で成立した新法等の着実な運用、そして、実態把握と相談体制の充実に努めます。
十二 おわりに
総理就任以来、私は、全国各地を訪問し、多くの皆さんと直接話をしてきました。新潟でモノづくりの技術を身に着けようと一生懸命学ばれている学生の皆さん、鹿児島で子育てをしながら、和牛生産に取り組んでおられるお母さん、渋谷の子育て支援施設で育児に取り組まれていたお父さん。
こうした日本全国の皆さんが輝ける、未来に希望を持てる、そんな日本を創っていきたいと思います。
この日本という国を、次の世代に引き継いでいくために、これからも、私に課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くします。共に、一歩一歩、前に進んでいこうではありませんか。
引き続き、国民の皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。
ご清聴ありがとうございました。  

 

●国債「60年償還ルール」見直しで防衛費捻出の悪手  1/24
防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党内で国債「60年償還ルール」の見直し議論が急速に高まっている。そもそも60年償還ルールとは何か。また、その見直しは何を意味するのか。
自民党内で国債の「60年償還ルール」見直しの議論が始まっている。
岸田文雄政権が決めた防衛費増額では、その財源として歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、増税の4つの確保策が検討されている。積極財政派が多数集まる安倍派では、増税への反対意見が強いが、同派の幹部である萩生田光一政調会長、世耕弘成参議院幹事長らが中心となって浮上させたのが、国債60年償還ルールの見直しだ。
現在のところ、2027年度ベースで年1兆円強(防衛費増額の約4分の1)を増税で確保するというのが政府の計画だが、償還ルール見直しによって新たに防衛費財源を捻出できれば、増税幅は圧縮できる。安倍派を中心とした積極財政派の狙いはそこにある。
60年償還ルールとは何か
建設国債を財源とした公共事業の建築物は、耐用年数がおおむね60年であるため、その建築のための借金(国債)も60年で現金償還を完了させるのが望ましいのではないか――。そうした考え方から生まれたのが60年償還ルールだ。
具体的には、国債発行残高の1.6%(約60分の1)を毎年度の国債償還費として一般会計に計上する。実際には誤差が生じるものの、そうやって60年かけて元本を償還していく形を取る。
一般会計に計上された国債償還費は、特別会計(国債整理基金特別会計)へ繰り入れられ、全体の償還の一部に毎年充当されている。しかし、国債償還費だけでは償還費全体を賄うには遠く及ばない。2022年度当初予算ベースで見ると、国債償還費は15.6兆円だが、借換債発行は149兆円にも上っている。つまり、現金償還(国債償還費)の10倍弱については、新たな借金(借換債)で政府はロールオーバーしている。
ただ、これまでのところ、借換債発行は大きな混乱もなく行われている。であれば、60年償還ルールは止めてしまって、借換債発行で全部対応すればいいという考え方も成り立つ。世界を見渡しても日本のような元本償還ルールを定める国は多くなく、利払い費だけを国家予算に計上する国が多い(日本の場合は、利払い費+国債償還費=国債費として計上)。
イギリスなどのように借換債発行さえ省略したような永久国債(償還が不要)も存在し、60年償還ルールの是非を議論すること自体はおかしなことではないだろう。
問題はその狙いである。萩生田政調会長を委員長とする自民党の特命委員会では、60年償還ルールを廃止したり、償還期間を延長したりすることによって浮く一般会計の国債償還費を防衛費に使おうという議論がなされている。
一般の国民から見れば、ある歳出項目を減らし、その分をほかの歳出に使うのだから財政には中立であり、よいアイデアのように映るかもしれない。だが、それは間違いだ。下図を見てほしい。
日本の一般会計は足元で年30兆円台の新規国債を発行しないと賄えない慢性的な財政赤字状態にある。もっとも、不要となった国債償還費の代わりに防衛費をそこに置けば、一般会計内での新規国債発行額には変わりはない(図の上側)。なるほど、一見、財政に中立のようだ。
借換債の増発が起きる
しかし、特別会計まで含めて考えるとどうか。現在は一般会計の国債償還費の繰り入れ分だけ借換債発行は抑制できている。この国債償還費を止めてしまえば、その分、借換債発行額は増やさなければならない。図の下側の紫部分のように借換債発行は増加する。
金融市場においては、借換債、財政赤字による新規国債発行、公共事業目的の建設国債もすべては普通国債であり、変わりはない。つまり、60年償還ルール見直しによって生まれる財源を防衛費増額に使うということは、単なる国債増発にほかならないわけだ。
これでは、安易な国債増発に頼らないとした元々の岸田政権の方針とは齟齬を来す。
こうした国民の目をくらますようなトリッキーな議論が自民党の中枢部、しかもこれまで主要官庁の大臣を経験し、将来の首相候補としても名の挙がるような人たちから出ていることには驚かされる。
加速する財政ルールの弛緩
財政赤字が常態化した1970年代の石油ショック以降、日本の財政ルールは基本的に緩む方向一辺倒で進んでいる。先述したように60年償還ルールはもともと公共事業の建築物=建設国債を想定して作られたものだ。1970年代までは、今のような赤字国債(特例国債)は、それが10年国債なら10年後にきっちりと全額現金償還するというルールだった。しかし、赤字国債は一向に減らすことができず、こちらもなし崩し的に60年償還ルールに組み込まれるようになった。
また、民主党政権時の2010年前後までは、1年限定の特例法によって赤字国債発行を認めるという国会の手続きを取っていた。しかし、その特例法を通すか通さないかが「ねじれ国会」の中で政争の具となったため、それ以後は複数年度の赤字国債発行を認める形に特例法のあり方も変わってしまった。その分、赤字国債発行のハードルは低くなった。
極め付きは、安倍晋三政権が2017年に決めた消費増税の増収の使途変更だろう。2012年に民主党政権と自民・公明の3党合意で決めた消費増税の使途について、当初の国の借金返済から、安倍政権の看板政策である幼児教育無償化などに替えてしまった。その決定直後に行われた衆議院解散総選挙では、安倍政権が圧勝。使途変更自体は、国債増発による幼児教育無償化と同じことなのだが、財政規律を重視する声はかき消されてしまった。
もともと防衛費の増額に加え、国債60年償還ルールの見直しも、安倍元首相やその周辺から出ていた話だ。泉下からいまだ影響力を及ぼし続けている安倍元首相。今度こそは度を過ぎたトリックだと国民は見破ることができるのだろうか。
●日本人が知らないフランス「少子化対策」真の凄さ 1/24
岸田文雄首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。柱となるのは、1児童手当を中心とする経済的支援強化、2幼児教育や保育サービスなどの支援拡充、3働き方改革で、6月の「骨太方針」の策定までに、将来的な予算倍増の大枠を提示するとしている。
出生率を高める政策で成果を上げているのがフランスだ。とくに2010年に合計特殊出生率が2.03人に達したことから、日本のみならず、少子化に苦しむ多くの先進国がフランスで実施されている家族政策に注目した。
では、フランスの政策は何が成功しているのだろうか。
家族政策に多くの予算を投じる
フランスも1993年から1994年にかけて出生率が1.65まで落ち込んだ。筆者が5人の子どもの子育てをフランスで開始した時期と重なる。ミッテラン政権末期で手厚い社会保障が実りを迎えておらず、移民家庭は子どもを増やした一方、白人カップルの少子化に歯止めがかからなかった時期だ。
1995年に中道右派のシラク政権に転じ、さらに1997年にはジョスパン左派内閣が発足し、週労働35時間制や同性婚カップルを含む事実婚も法律婚同様の社会保障を受けられるパートナーシップ協定の民事連帯協約(PACS)が1999年に施行された。その結果、2006年には出生率は2.0に達した。
その後、2014年を境に下がっており、2020年は1.83となったが、それでもEUの中では最も高い。出生率低下の理由は15歳から49歳の女性の数がベビーブームのときに比べて減少に転じたこと、出生率を押し上げていた移民1世の女性の数が減少し、フランス生まれの移民2世、3世の女性の出産する子どもの数が減ったことが影響しているといわれる。
また、フランスは国力と人口減に敏感で、家族政策に多くの予算を投じ続けた。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、子ども・子育て支援に対する公的支出(2017年)は、フランスが国内総生産(GDP)比で3.6%に上る。
ちなみに日本は1.79%で、OECD平均の2.34%も下回っている。ただし、3.23%のイギリスや3.17%のドイツの出生率は高くないので、フランスの出生率の高さには、予算の多さ以外の要因もあることを指摘しておく必要がある。
実はフランスの子育て支援政策は他の欧州諸国より非常にきめ細かい。毎年、家族政策に関係する公的機関や私的組織関係者らからの丁寧な聞き取りを行い、費用対効果を検証している。子ども・子育て支援に対する公的支出に3.6%も投じているのだから、当然とも言えるが、地道に課題解決に取り組んでいる。簡単に紹介すると、
  1 第3子から支給され、所得制限はあるものの大半の世帯が受給する家族手当
  2 子育て世代、とくに3人以上の子育て世帯に対して、大幅な所得税減税を適用するN分N乗方式
  3 子育てのために仕事を全面的に休むのか、週4日や3日勤務、半日勤務などの時短労働を選択できる就労自由選択補足制度
  4 育児で保育ママに子どもを預ける選択をした場合に支給される保育方法自由選択補足手当
  5 妊娠後の産科の受診料、検診費、出生前診断、出産費用など妊娠出産から産後のリハビリテーションを含む費用の全面無料化
  6 母親同様の有給扱いで育休を取る父親も賃金の80%を保障
  7 不妊治療を公費で実施(43歳まで)
  8 高校までの授業料無料、大学も少額の登録料のみ(私立は例外)、返済不要の奨学金制度
  9 3歳まで育児を引き受ける認定保育ママから学童保育まで無料
 10 PACSで事実婚の社会保障への組み込み、非摘出子という言葉の民法からの削除
 11 子どもを3人養育すると年金が10%加算される年金加算
などだ。筆者もその恩恵を受けている。30年以上、フランスの家族政策を取材してきた筆者から見ると、フランスの家族政策に学ぶべき最重要事項の1つは、政策立案段階から実施後にかけて、正確な現状把握を継続的に徹底して行っていることだ。
効果を上げるために粘り強く試行錯誤
1982年に家族全国会議(現家族児童高齢者協議会=HCFEA)が設置され、首相以下、関連省庁の大臣、自治体議会の議長、労使団体、家族協会全国連合、専門家などで構成されるメンバーが、現状の正確な把握に努めており、問題点の洗い出し、施行された政策の進捗状況や成果の検証、課題の抽出を毎年行っている。
結果として政権の人気取りと官僚の一方的な政策策定による予算のばらまきは回避されている。実質的成果を上げるための試行錯誤が粘り強く、長期にわたって積み重ねられ、結果として非常にきめの細かな家族政策が実施されてきたことは大いに評価すべき点だ。さらに政権交代に左右されないよう継続的に超党派で取り組んでいることも重要だ。
例えば、0歳から2歳までの子どもの約17%が国家資格を持つ保育士がいる保育園に預けられている一方、33%が日本でいう保育ママに相当する母親アシスタントに預けられている。政府はオランド政権時代から、母親アシスタントのスキルの平準化のため、専門性重視の研修制度を実施しており、マクロン現政権も踏襲している。
この例でも権威ある児童心理学者、シルヴィアーヌ・ジャンピノ氏が中心となり、保育士や保育園運営者、地方自治体の長や保育担当官、代議士、親など保育に関与するありとあらゆる人々への徹底したヒアリングを実施している。同氏は「何を改善するかを判断するには、現場をできるだけ近くで見て、全体像を把握する必要がある」と述べている。
現在、フランスの家族政策の政策立案、実施、運営を行っているのは、家族・児童・女性の権利省(通称、家族省)だ。それまで特命担当大臣の管轄だったのを2016年2月から省に格上げし、少子化、高齢化、女性問題に本腰を入れた。
ただその後、少子化と女性問題を結びつけたことが批判され、マクロン政権では首相府が主導する首相府付男女平等・多様性・機会均等担当大臣と、子どもの保護に特化した首相付子ども当副大臣が任命された。家族と女性人権分野の大臣は基本的に女性が任命されている。
マクロン大統領は、関係者との討論会を繰り返し、浮上した幼児を取り巻く環境格差拡大を抑制するため、5歳から7歳の幼児教育では、1クラス24人以下という少人数制導入と教師のスキル向上を方針として打ち出した。
コロナ禍で田舎に移住する若い夫婦が増加
フランスでは近年、育休事情も変化してきている。コロナ禍でテレワークが浸透したことから、都会を抜け出して田舎に移住する若い夫婦が増えた。狭い都会のアパートから庭の広い自然環境に恵まれた田舎暮らしを選択する主な理由の1つが子育てだ。
ここで注目されるのが、都会にはなかった住民たちで構成されるコミュニティーの存在だ。地域コミュニティーこそ、子育てにおいてきめ細かな支援サービスができるという考えで、6歳未満の子ども向けの保育サービスを開発するための複数年計画を自治体は採用することができると家族法に定められている。このコミュニティーで子育てを行う有効性が、今注目されている。
託児所や学童保育など集団保育施設では、保護者が就労中、研修中、求職中の6歳未満の子どもを日中受け入れることができる。最近は就労だけでなく、親が気晴らしをするための食事会やリクレーションも受け入れ理由に含む場合が多い。フランスでは集団保育施設に営利目的の民間企業が入り込むことはほとんどない。
テレワーク中心の働き方の世帯が都会から引っ越してきた場合、これらの施設は欠かせない。コミュニティー全員が子育てに参加する意識が醸成され、その安心感は子どもを産むモチベーションを後押ししている。これらの施設およびサービスは、母子保護の部門サービスを担当する医師の管理および監督の対象となっている。さらに子どもが身体的、心理的脅威にさらされた場合、自治体は施設の閉鎖命令も出せる。
人口減に苦しんできた過疎化が進む小規模の町や村では、移住してきた家族のコミュニティーによる子育て支援の充実が不可欠な要素と考えられている。政府も少子化対策の一環として地方分散とともにコミュニティーの育児施設やサービスへの支援を積極的に行っている。
「子育ては女性が中心」という概念がなくなった
フランスの特筆すべき点は、「子育ては女性が中心」という概念が長年の女性の権利、男女平等政策の積み重ねにより、完全になくなっていることだ。結果、子育てに関心のない男性はいない。同時に子どもを産むのは女性であり、その女性が何を必要とし、何を望んでいるのかという女性の要求や幸福感を尊重する段階に入っている。
家族政策は、国の成り立ち、歴史と文化、宗教を含む価値観などが複雑に絡み合っているので、どの国の少子化対策が優れているとは簡単に言えない。実際、似たような家族支援策を講じている国でも効果を上げている国もあれば、そうでない国もある。
フランスのまねをすればうまくいくわけではないが、ストレスなく出産し、仕事と子育てを両立できる環境整備は急務であり、社会全体で子育てに取り組む点でフランスの政策は参考にはなる。
「異次元の少子化対策」に挑む日本でも幸せを追求する持続可能な発展につながる政策が期待される。
●ミャンマー 日本政府の建設事業が国軍を利する 1/24 
株式会社横河ブリッジは、日本政府の開発援助事業のためにミャンマーの軍系企業ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に100万米ドル以上(約1.3億円以上)を2022年に支払ったとみられると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
日本政府は、ミャンマー国軍を利する人道支援以外の開発援助をすべて停止すべきだ。国軍は2021年2月1日の軍事クーデター以降、広範かつ組織的な人権侵害を犯してきた。また日本政府は、横河ブリッジを含む日本企業が軍系企業などと事業関係を断つよう促すべきだ。
「日本政府は、横河ブリッジとMECの事業関係を通じて、資金面でミャンマー国軍の人権侵害に事実上加担した」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平は述べた。「日本政府は、ミャンマー国軍に人道支援以外の開発援助を提供すべきではない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチが分析した取引履歴によると、横河ブリッジは2022年7月から11月の間にMECに約130万米ドル(約1.7億円)をバゴー橋建設事業のために支払った。支払いは、日本のみずほ銀行からミャンマー外国貿易銀行のMECの口座に複数回行われた。
日本政府は2016年に、対ミャンマー政府開発援助(ODA)であるバゴー橋建設事業を承認。同事業には国際協力機構(JICA)による約310億円の借款が含まれる。横河ブリッジは2019年3月に同事業の工事を受注した。
外務省の担当者はヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡に対して、クーデター以降停止していたバゴー橋の工事が、2022年4月1日に再開したと回答した。また、横河ブリッジによるMECへの支払いに関しては、「下請け契約に基づく民間企業間の取引に係る事柄であり、日本政府として説明する立場にありません」とした。
横河ブリッジはヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡に対して、「個別案件についての回答は差し控える」とした。みずほ銀行は「個別の案件については守秘義務の観点からお答えすることができない」とした。
2021年2月1日のクーデター後、米国、イギリス、欧州連合とカナダは、国軍の膨大な資金源であるとして、MECと軍系企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングスに制裁を科した。クーデター以降、ミャンマー国軍は超法規的殺人、拷問、そして「人道に対する罪」や戦争犯罪である民間人に対する無差別攻撃を行ってきた。
政治囚人支援協会によると、ミャンマーの治安部隊はクーデター以降、277人の子どもを含む2700人以上を殺害し、1万7千人以上を恣意的に拘束した。
バゴー橋建設事業におけるMECの関与は、現地メディア「ミャンマー・ナウ」が、建設にMECが保有する製鉄所が携わっていることを2021年3月に報じたことで明らかになった。JICAは報道後、ヒューマン・ライツ・ウォッチの問い合わせに対して、横河ブリッジが2019年11月にMEC及び関連会社と下請契約を締結したと認めた。2021年4月、横河ブリッジの親会社である横河ブリッジホールディングスは、工事は「現地の情勢から実質的にストップ」しており、「人権を尊重した企業行動を行って」いくとした。
以前ヒューマン・ライツ・ウォッチが記録した通り、横河ブリッジとMECの事業関係はバゴー橋建設事業の前から存在している。2015年の決算説明会資料によると、横河ブリッジは2014年3月にMECと覚書を締結しており、同資料によると、横河ブリッジはMECと「技術協力について関係を構築」し、MEC の「友好ファブへの育成」を目指している。
国連が設置した事実調査団は、2019年9月の報告書でMECはミャンマー国軍に保有されており、製造、鉱業や通信などあらゆる事業を通じて国軍に膨大な利益を生み出していると指摘。事実調査団は、ミャンマー国軍やMECを含む軍系企業が関与する「あらゆる外国の企業活動」が、「国際人権法および人道法違反に寄与あるいは関与するリスク」が高いと結論付けた。最低でも、「こうした外国企業がミャンマー国軍の財政能力を支援している」とした。
国連の人権高等弁務官事務所は、2019年の事実調査団の報告書のフォローアップとして、2022年9月に新たな報告書を発表。国際社会が、ミャンマー国軍を財政的に孤立させるために十分な行動を取っていないと指摘した上で、「ミャンマーの人々の支援を強化しつつ、国軍の財政的孤立を一丸となり実現すべき」とした。
また、国連の人権高等弁務官事務所はバゴー橋建設事業を引用する形で、各国政府は「人道支援や開発援助が国家行政評議会や軍系企業の利益にならないよう対処すべきだ」とした。その上、「ミャンマーで事業や取引、投資など行っている企業らは、サプライチェーン事業も含み、ミャンマー国軍及び国軍が所有・指揮する企業(子会社を含む)や国軍個人と事業関係を新たに持たない上継続しないようデ ューデリジェンスを実施すべきだ」と指摘している。
2021 年 5 月 21 日に国連ビジネスと人権に関するワーキンググループは、「企業 は人権に対する責任を全うし、ミャンマー国軍が深刻な人権侵害を止めるよう働きかけるべきだ」と声明を発表した。具体的には、企業は「国連のビジネスと人 権の指導原則に沿い、人権侵害の助長」を避けるべきであり、行動を取らない場合は国軍の人権侵害に「加担」してしまうと指摘した。
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」には、企業は「自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処」すべきであり、「たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める」と定められている。
日本政府は未だに、各国政府と連携しておらず、ミャンマー国軍に対して具体的な措置を取っていない。日本政府は速やかにミャンマー国軍幹部及び軍系企業らに標的制裁を科した上で、横河ブリッジを含む日本企業に制裁の規定に従うよう促すべきだ。
「日本政府はミャンマー国軍に資金を提供するのではなく、ミャンマーの人々のために行動すべきだ」と笠井は述べた。「日本政府はミャンマー国軍による人権侵害の加担者であるべきではない。」
●開いた口がふさがらない″燒ア省の言い分、国債償還ルールは不要だ! 1/24
「ワニの口」という言葉がある。財務省が持ち出した話で、政府の予算である一般会計歳出と税収の差がどんどん拡大し、その差がまるで「ワニの口」のようだ、と表現するものだ。
税収よりも歳出の方が大きいので、その差は「政府の借金」である国債の発行で埋め合わせることになる。しかもこの「ワニの口」は拡大を続けている。つまり財務省は、この「ワニの口」の開き具合が大きければ大きいほど、借金漬けで日本の財政状況は深刻だ、と言いたいわけだ。
この財務省の言い分はデタラメだ。歳出をみてみると、2022年度では、国債の利子支払い分(8兆3000億円)と元本支払い分に相当する債務償還費(16兆円)が計上されている。
だが、エコノミストの永濱利廣氏が指摘するように、国際標準では、後者の債務償還費は予算に計上されていない。米国、英国、フランス、ドイツなどの主要国は、単に利払いしか計上していないのだ。
なぜだろうか。簡単にいえば、国債を返す必要が特段ないからだ。多くの国は国債の償還期限がくれば、借換債を発行して、それで済ませている。言葉は悪いが、借金をまた借金で返済するわけだ。それで何の問題もない。
実際に日本の財政の破綻確率は、先進国の中でもドイツと並んで最も低い。だが、財務省はなぜか元本払いを続けている。それは自分たちで勝手に「国債償還60年ルール」と呼ぶ方針に異常にこだわっているからだ。どんなルールかというと、いまある国債残高を60年後には完済するというものだ。60年という目安は、その昔は公共建築の耐用年数に基づいていたが、景気対策などでも国債は発行するので現在はまったく意味をなさない。
この国債償還を完済するために、日本は「減債基金」と呼ばれる制度を運用している。正式名称は、国債整理基金特別会計だ。ここに毎年度、政府の予算からおカネが流れる。その資金を利用して、国債の償還、つまり借金の精算をしているわけである。だが、主要国の大半はこんな減債基金など持っていない。なぜなら借換債を発行すればすむ話だからだ。
「国債償還60年ルール」とこの減債基金をやめれば、防衛増税も不要だし、また「異次元の少子化対策」や減税もできる。この点を指摘したのは、日本ではエコノミストの会田卓司氏が最初だが、実は元祖がいる。ジョン・メイナード・ケインズだ。彼は減債基金をなくせば、不況を克服する財政政策を行えて、国民経済は繁栄するとした。財務省がこだわるこのルールと基金を否定することが、日本の復活の道だ。 
●岸田首相の「ムダな少子化対策」のせいで、社会保険料が「値上がり」 1/24
新年早々、自民党内から「少子化対策の財源として将来的な消費税の引き上げも検討対象になる」といった意見が飛び出し、政府は「当面は増税を考えていない」と火消しに躍起です。
これまで消費増税のたびに、国民に向けて「将来の社会保障費にあてられる」と説明されてきました。しかし実際には、その8割が国の借金返済に使われていたことは、前編記事『岸田政権が明言しない「消費増税」のヤバい現実…「将来のために」は方便だった! 』で説明した通りです。
庶民に金を出させて「子育て連帯基金」つくる!?
実は、子供を盾に、焼け太りを図ろうとしているのは、消費税だけではありません。
岸田首相が少子化対策で「こども予算の倍増」を打ち出したことで、「子育て連帯基金」という、新たな仕組みづくりも浮上してきています。
今年の春に誕生するこども家庭庁の予算はおよそ4兆8000億円です。令和4年度第2次補正予算から前倒しで実施するものも含めると、5兆2000億円規模になります。これとは別に、22年度の少子化対策予算は約6兆円です。
岸田総理の言葉どおりこの予算を倍増させるとなれば、さらに10兆円以上のお金が必要ということになります。
そこで、「子育て連帯基金」というものをつくり、年金や医療保険、介護保険から一定額ずつお金を拠出してもらって、それを財源にしようという構想です。
実際に岸田首相は、新年の会見でも、異次元の少子化対策のために、財源として各種保険料を引き上げて当てると言っていました。
そうなれば、当然ながら値上げした保険料というのは、皆さんの懐から徴収されることになります。
それでなくても、昨年10月に雇用保険料の引き上げで、年収500万円くらいのサラリーマン家庭では、年間1万円弱の負担増になっているのですからたまりません。
すでに子育てを終わっている世代などには、「自分の子供のためでもないのに、医療保険や介護保険や年金保険などの保険料値上げを強いられるのは理不尽だ」と思っている人が少なくないでしょう。
無駄遣いの温床の「基金」を増やす岸田政権
批判が多い「子育て連携基金」ですが、百歩譲って、これをつくることで将来の子供たちの支援が万全に行えるのなら異議は唱えないという方も多いでしょう。
ただ、私などは「基金」ときいただけで、無駄遣いしか連想できません。
なぜなら、いま日本は「基金バブル」ですが、特に岸田政権になって、その傾向は顕著になっています。
毎日新聞の集計では、複数年度にわたって実施する事業の予算を積み上げる政府の基金が乱立していて、公益法人や地方公共団体に設けられた基金の総数は1900を超えているとのこと。
政府が昨年11月に国会に提出した第2次補正予算案では、基金への予算措置が8兆9000億円と過去最大でした。このうち新たな基金は16事業2兆4821億円で、それ以外の既存の基金への積み増しも膨大になった結果です。
確かに、新型コロナや物価高など、危機的な状況の中で資金を機動的に運用していくために、効果を発揮した基金もないとは言えません。
けれど、中には意味がなかったどころか、弊害となったのではないかと疑いたくなる基金もあります。
たとえば、ガソリン価格の高騰に対応するためにつくられた燃料価格激変緩和基金。当初800億円で設立され、その後令和3年度予算一般会計予備で3,500億円 、令和4年度一般会計予備で2,774億円、令和4年度一般会計補正予算で1兆1,655億円と、どんどん予算が増えていきましたが、そのすべてがスタンドでのガソリン代の値下げに使われたわけではないことが、財務省の調査で指摘されています。
だとしたら、こんな基金などつくらずに、最初からトリガー条項の凍結を解除してガソリン1リットルあたり一律に25円の値下げをしたほうが透明性も高く、納税者にも納得感があったのではないでしょうか。
「基金」は、国の監視も一般会計ほどは厳しくなく、使い勝手がいいので今や便利な「財布」と化しつつあり、無駄遣いや使われない予算の積み上げ場所にもなっていると言われています。これについては、会計検査院などもたびたび苦言を呈しています。
そうした中で、私たちの社会保険料の負担を増やしてまでつくるという「子育て連携基金」。コロナや物価高で疲弊している家計から、税金や保険料を搾り取り、使い切れずに余ったお金は基金と称して貯めているのです。
岸田政権がどんなに「異次元の少子化対策」を声高に語ろうと、現実に食事すら満足に取れない子供がいる中で、消費税を増税するだの基金を創設するだのというのは、それこそが「異次元」の話だと思うのは、私だけでしょうか。  
●官庁エコノミストについて改めて考えてみる 1/24
1月19日の朝日新聞に、原真人編集委員の「岸田政権の巨額予算 司令塔なき政策の矛盾と欺瞞」という記事が掲載された。この記事については、私もインタビューを受け、その内容が記事中で紹介されている。この記事では、かつて存在した官庁エコノミストが政府から消えてしまったことが、近年、矛盾と欺瞞に満ちた経済政策が行われるようになった一因であるという主張が展開されている。この原氏の論説を題材にして、官庁エコノミストについての私の考えを述べてみたい。
官庁エコノミストの代表選手
この記事では以下のような記述がある(以下、引用は筆者が適宜編集した部分がある)。「かつてマクロ政策の総合司令塔として政府内や日銀との調整役を担ったのは経済企画庁(現内閣府)だった。官庁エコノミストと呼ばれる学者顔負けの専門家たちが集い、経済白書(現内閣府)に大きな国家構想を描いた。‥都留重人、宮崎勇、大来佐武郎、金森久雄、香西泰、吉冨勝ら戦後を代表する著名エコノミストたちがひしめいていた」としている。
いずれも懐かしい名前で、私自身も個人的に接したことのある人たちばかりである。最近、社会人を相手に経済の話をしている時に、金森さんや香西さんの名前を出して、「皆さんご存知ですか」と聞いてみたら、ほとんど全員が「知りません」という答えだったので、やや愕然としたことがある。
記事について細かい点も含めてコメントしておこう。まず、記事中に「経済白書に大きな国家構想を描いた」とあるが、経済白書で国家構想を描くことはない。国家構想を描くとすれば、経済計画であろう。経済白書は、経済の実態を分かりやすく国民に伝えるのが主なミッションだと私は考えている。また、これも後述の議論と関係するが、官庁エコノミストが国家構想を描いていいのかという疑問もある。国家構想は、選挙で選ばれた国会議員、または国会議員から選ばれた閣僚を中心に描かれるべきだろう。
また、これを読む人にとってはやや意外かもしれないが、ここで登場する代表的官庁エコノミストの中で、香西氏や吉冨氏は白書を書いていない。私から見ても、この二人が内国調査課長にならなかったのはやや不思議だし、この二人の経済白書を是非見たかったという思いがある。
ここで話はやや脱線するが、経済企画庁の歴史の中でも群を抜いた実力エコノミストであった香西、吉冨両氏が白書を書くポジションにつかなかったのはなぜだったのかを考えてみよう。私は、香西さんとの接点が多かったので、香西さんについての「なぜ白書を書かなかったのか」問題を色々考えたことがある。香西さんは、ちょうど内国調査課長の適齢期になった頃、退職して東京工業大学に移るという、多くの人にとって驚愕の行動をとったのだ。当時私も企画庁で働いていたのだが、次官をはじめとする幹部も含めて、多くの人が口々に「香西さんはなぜ役人を辞めちゃったんだい」とつぶやいていたのを覚えている。それはなぜか。私の結論は、比較優位によるというものだ。
かなり単純化して説明しよう。経済企画庁における官僚の進路には、エコノミスト路線と行政官路線の二つがある。エコノミスト路線は、経済分析を担う仕事を中心とするキャリアパスである。自分で言うのもどうかとは思うが、私自身が典型底なエコノミスト路線人間だ。私は、「内国調査課の新人」→「経済研究所研究員」→「内国調査課課長補佐」→「日本経済研究センター主任研究員」→「内国調査課長」→「経済研究所長」→「調査局長」(途中の非エコノミストポストは省略)といったコースを進んできた。多分これほど経済分析的な仕事を渡り歩いた人間は、経済企画庁の歴史の中でもあまりいなかったのではないか。
世間では、企画庁のエコノミスト的な仕事が目立つのだろうが、これは企画庁の仕事の一部であり、実際には経済政策の調整、経済見通しの作成、物価行政、消費者行政、経済計画づくりなど行政的な仕事の方が多い。
なお、企画庁の中での最高ポストである事務次官になるのは、どちらかと言えば行政的なキャリアパスを歩んできた人に多い。逆に言えば、エコノミスト路線の人間が次官になることは少ない。歴代の経済白書執筆者で、次官にまで上り詰めた人が非常に少ないことからもそれは明らかである。
さて、香西さんはエコノミスト的な仕事も行政的な仕事も両方抜群の能力を発揮していた。私が新人として経済企画庁に入った時には、香西さんは課長補佐のポジションだったのだが、既にその能力の高さは企画庁になり響いていた。経済学の知識は卓越していたし、行政的な手腕も優れている。そしてさらに宴会でも愉快にお酒を飲む。面倒見もいい。私たちの同期生が企画庁に入る直前に、先輩諸氏が歓迎会を開いてくれた。同期の中には地方から出てきた者もいたのだが、その中の一人T君を香西さんは自宅に連れて行って泊めてくれた。T君の話によると、香西さんは家に着くと、T君が泊まる手配をした後、「Tさん、人にはそれぞれの人生があるのですよ」という謎のような言葉を残して、自室で原稿書きの仕事を始めたのだという。エコノミストとしての仕事が忙しいから後輩の面倒は手を抜くということはしない人だったのだ。
例えば、こうした香西さんの行動を、僭越ながら私と比較してみよう。各分野の香西さんのパフォーマンスを100として、私と比較すると、経済的分析では40、行政能力は30、面倒見は20、宴会は10という感じだろうか。すると、香西さんは各分野での絶対優位を持っているのだが、私の比較優位は経済分析だということになる。香西さんは経済白書を書かなかったが、私は白書を書いたのはこの比較優位のためである。
というわけで、香西さんは行政分野における比較優位を発揮して、将来の次官への道を歩むよう期待されたのではないか。それを知った香西さんは、「それは自分の意に反する」と思ったのだが、「経済白書を書けないのであれば辞めます」といって幹部を脅迫するようなことはせず、すっきりと辞めてしまったのではないか(完全に私の想像です)。
官庁エコノミストへの期待
この記事中のインタビューで、原氏は私に「あなたがいま官庁エコノミストだったらおかしな政権方針を批判できますか?」と質問し、私はこれに対して「いや無理でしょう。私も財政はいつか破綻するのではないかと心配だし日銀の政策もどうかと思う点が多い。でも官僚は表だって時の政権の方針を批判できません」と答えている。これを受けて原氏は、「官僚たちが率直な意見を上げにくい風通しの悪さにこそ、理が取らぬ政策が横行する原因がある」と書いている。これはストーリーとしては分かりやすいし、確かに、私が勤務していた頃よりは、官僚が官邸の意向を気にする度合いがかなり強まっているという感じはする。この辺は微妙で、なかなか私の真意を伝えるのは難しいのだが、以下、若干の見解を述べてみたい。
まず、先ほど名前が挙がったような官庁エコノミストの代表選手たちは、現役時代に時の内閣の方針を批判していたかというと、多分そんなことはなかっただろうと思う。官僚であれば、組織の論理というものは身についているから、政治的決断が下された問題については、たとえ自分は反対であっても、組織としての決定に異を唱えることはしなかったはずだ。ましてやそれを外部に公表するようなことはあり得ない。もしそれが許されたら、組織は動かなくなってしまう。
ただ、これら官庁エコノミストの代表選手たちは、官僚を辞めた後は、政府の政策批判をすることはあった。私もそうだった。おそらく多くの人は、役人を辞めた後のこれらの人の活躍を見ており、その印象が強かったので、現役時代にも同じような発言をしていたと思ってしまったのではないか。
また、私が、「いや、無理でしょう」と答えたのは、「言いたくても言えない」というよりも、「そもそもそんなことはできないものだし、やるべきでもない」という意味での発言である。官僚は、国民に選ばれたわけではないのだから、国の方針に口をはさむことは控えるべきだというのは私の考えだからだ。もちろん、例えば私が局長で、私の所管する分野について、大臣が無理な政策を行おうとしたら、次官に相談した上で、大臣にその政策の問題点を説明して、止めた方がいいと説得することはありうる。もし局長より下の地位、例えば課長補佐であったら、まず課長を説得し、局長を説得して、局長から大臣に伝えてもらうという手順を踏むことになる。それは、実務家の官僚として、気が付いたことを進言するということであり、官僚の責務の一つだ。ただその場合でも、その内容を外部に公表するようなことは絶対にしないはずだ。
官庁エコノミストはいなくなったのか
原氏は、「次第に官庁エコノミストは重きを置かれなくなり、今や絶滅危惧種だ」と厳しい。私自身もしばしば「小峰さんが最後の官庁エコノミストですね」などと言われることがある。
これは官庁エコノミストの定義の問題だと私は思う。前記のような官庁エコノミストのビッグネームたちは、現役時代から、本を書いたり、講演したり、マスコミに登場したりして華々しく活躍した。官僚を辞めた後は、制約がなくなるのでさらに華々しく活動した。私も、これらビッグネームほどではないが、現役時代からかなり多くの本を書いたり、原稿を書いたり、外部の講演をこなしたりした。そういう人種が官庁エコノミストだと定義するのであれば、確かに官庁エコノミストは絶滅危惧種だと言えるかもしれない。
しかし、官庁エコノミストを「経済学の知識を備えて、それを政府内での経済分析、政策立案に活かそうとしている人たち」と定義すれば、官庁エコノミストはたくさんいる。企画庁の後を継いだ内閣府を見ても、私はそういう官庁エコノミストを具体的に知っている。しかし、こうした人たちはほとんど外部への発信がないので、外から内閣府を見ている人たちはその存在を認識できないのだと思う。
私は、かつてのような外部発信型の官庁エコノミストを復活させることはかなり難しいと思う。これからも、EBPMの実践やビッグデータの分析やマーケットデザインなどの経済学の新手法の応用など、経済学の知識を経済政策に生かす道は多く存在する。外部の人に名前を知られなくても、こうした分野で実践型の官庁エコノミストが活躍する道は開かれているのだと思う。
しかし、それにしても外部発信型の官庁エコノミストを輩出していた時代の経済企画庁というのはどんな雰囲気だったのだろうか。この点については、最近、私はかなりの量の新資料を発見したので、次回はこれを使って、当時の雰囲気を探ってみることにしよう。
●自民 “防衛費増額” 国債の償還見直しでの財源確保に賛否  1/24
防衛費増額の財源について議論する自民党の特命委員会の会合が開かれ、国債の償還ルールの見直しで財源を確保する案をめぐり、賛成・反対双方から意見が相次ぎました。
自民党の特命委員会は、先週の初会合に続いて、24日午前、2回目の会合を開き、防衛費増額の財源確保策の1つとして、国有資産の売却など、税金以外の収入を活用する「防衛力強化資金」を創設するための政府の法案について議論しました。
ただ会合では、防衛費増額に伴う増税の方針に否定的な立場の議員らが、国債の償還ルールを見直して財源を確保すべきだと主張したのに対し、増税に理解を示す議員が「国債に頼るのは将来世代に借金を背負わせることとなり、無責任だ」と反発するなど、法案と直接関係しない意見が相次ぎました。
これを受けて、特命委員会の幹部が「きょうは法案を検討する場で、党内を二分するような議論を行うべきではない」と指摘し、会合では、法案の国会提出に向けて党内手続きを進めていくことを確認しました。
特命委員会では次回以降、増税以外で賄う財源についての議論を本格化させることにしています。
●高成長実現で26年度にPB黒字化、歳出改革継続なら25年度も視野 内閣府 1/24
内閣府は24日、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)について、高成長を前提とした場合は2026年度に黒字化するとの試算を経済財政諮問会議に提出した。26年度の黒字化は昨年7月の試算でも示しており、見通しを維持した。一方、23年度の実質国内総生産(GDP)成長率見通しは1.5%程度とし、前回の1.1%から引き上げた。
内閣府は年に2回、今後10年程度のPBの推移などを含む「中長期の経済財政に関する試算」を諮問会議に提出している。試算では実質2%・名目3%程度の成長を前提とする「成長実現ケース」と、実質・名目ともに0%台半ば程度で推移することを前提とする「ベースラインケース」の2パターンを提示した。
プライマリーバランスは、社会保障関係費や公共事業など毎年の歳出(除く国債費)と税収など歳入との差額で、財政健全化の目安となる。今回の試算(グリーントランスフォーメーション対策の経費・財源を除く)によると、25年度は成長実現ケースで1.5兆円程度の赤字、ベースラインケースで5.1兆円の赤字が残る。
内閣府は、成長実現ケースで1年あたり1.3兆円程度の歳出改革を継続していけば、PB黒字化は25年度へ1年程度の前倒しが視野に入るとしている。一方、ベースラインケースでは32年度においても目標達成は難しい。
国・地方の公債等残高(対GDP比)は23年度に216.0%程度となる見込み。成長実現ケースでは32年度の171.7%程度まで安定的に低下していくシナリオだが、「長期金利の上昇に伴い、低金利で発行した既発債についてより高い金利による借り換えが進むことには留意が必要」とした。長期金利が継続的に0.5%ポイント程度上振れた場合は、32年度のGDP比残高は175.0%となる。
ベースラインケースでは、32年度で216.8%程度(長期金利0.5%ポイント程度上振れなら220.1%)でほぼ横ばいの見通しだ。
23年度の実質GDP成長率、1.5%程度見込む
22年度のGDP成長率見通しは、実質1.7%程度、名目1.8%程度とし、前回の実質2.0%程度、名目2.1%程度からそれぞれ引き下げた。コロナ禍からの緩やかな持ち直しが続く一方、エネルギー・食料価格の上昇や世界経済の減速が懸念されている。23年度は、政府の経済対策の効果が本格化することなどから、実質1.5%程度、名目2.1%程度の成長を見込んでいる。
成長実現ケースの先行きでは、「新しい資本主義」の実現に向けて「人への投資」や成長分野への投資が促進され、潜在成長率が着実に上昇する見通し。所得の増加が消費に結びつくことで、実質2%程度、名目3%程度の成長を実現する。
消費者物価上昇率は、成長実現ケースで26年度に2%程度に達し、32年度まで同水準を維持。ベースラインケースでは、23年度を1.7%程度とし、24─32年度にかけて0.6─1.0%程度で推移するシナリオとなっている。
●英国の景気後退リスク強まる−生産は低迷、財政赤字は過去最大 1/24
英国企業は新型コロナウイルスの流行初期以来の急激なペースで生産が落ち込んでいると示唆し、英経済がリセッション(景気後退)に陥ったとの観測を強めた。同時に、政府の財政赤字は過去最高の水準に拡大した。
S&Pグローバルが24日発表した1月の英総合購買担当者指数(PMI)は、予想以上に大きく悪化した。以前は景気を支えたサービス業の落ち込みが激しかった。英政府統計局(ONS)によると、12月の財政赤字は過去最大に上った。金利上昇で国債費が増加した。
こうしたデータは、英国が景気の落ち込みを回避できるとの期待を後退させる。一部の業種を停滞させている労働争議や通商問題の解決策や、景気対策を打ち出すようスナク首相には圧力が強まりそうだ。
S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのチーフビジネスエコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は「労働争議や人員不足、輸出の減少、生活費の高騰、金利上昇などの全てが景気の落ち込みをいま一度加速させている」と指摘。英国は「労働力不足や通商問題など欧州連合(EU)離脱に関連した長期的な構造問題による経済への打撃」にも直面していると同氏は論じた。
PMI発表後、ポンドは一時0.6%安の1.2302ドルまで下落。英国債は上げを拡大した。短期金融市場ではイングランド銀行(英中央銀行)のピーク金利見通しが後退し、市場が織り込む8月までの追加利上げ幅は101ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と、前日の105bpから縮小した。
●「総動員して環境整備」“賃上げ国会”論戦スタート… 1/24
国会では、今年初の論戦が行われました。
無所属・芳賀道也参院議員 「通常国会を本気で“賃上げ国会”にすると約束して下さい。賃上げも“異次元”の内容を行うのか、それとも企業任せの従来型のやり方なのか」
岸田総理 「民間だけに任せることなく、国も政策を総動員して、賃上げに向けた環境整備に取り組む」
物価高対策も急務です。24日に公表された内閣府による世論調査。「今後、政府が、どのようなことに力を入れるべきか」という質問に「物価対策」と答えた人は64.4%と、前回調査から倍増しました。
野党からは、減税を求める声も上がりました。
日本維新の会・石井苗子参院議員 「消費税減税を実施して、国民の消費を拡大させ、日本経済を成長の軌道に乗せる最大のチャンスではないか」
岸田総理 「足元の物価高騰の要因は、基本的にはエネルギー・食料品を中心とした物価高。こうした分野に重点を置きながら、これまでスピード感を持って、きめ細やかな対応を重層的に行ってきた。消費税は、社会保障制度を支える重要な財源、減税を考えてはいません」

 

●防衛力強化 有識者会議の議事録要旨  1/25
反撃能力 「発動」見据え議論 急務…黒江氏
中西氏  防衛力について抜本的強化が必要であることには全く賛成で、その中に反撃能力の装備等も加えて拡充する(べきだ)。
黒江氏  ロシアによるウクライナ全土に対する大量のミサイル攻撃、あるいは北朝鮮のミサイル能力がすでに非常に向上している状況を考えた時、反撃能力を保有するかどうかを議論するのはもう遅いと思う。むしろ、その能力をどのようにして発動するのか。他国の領域にあるアセット(装備品)を攻撃するという非常に重大な決断になる。例えば、国会承認といったことも視野に入れた議論をお願いしたい。
山口氏  最も優先されるべきは、有事の発生それ自体を防ぐ抑止力であって、抑止力に直結する反撃能力、つまりスタンド・オフ・ミサイルではないか。国産の改良を進めつつ、外国製のミサイルを購入して、早期配備を優先すべきだと考える。
浜田防衛相  2027年までの5年で我が国への侵攻に対し、我が国が主たる責任を持って対処し、同盟国から支援を受けつつ、これを阻止・排除し得る防衛力を構築する。おおむね10年後までに、この防衛構想をより確実にするための努力を行い、より早期かつ遠方で我が国への侵攻を阻止・排除する体制を確立したい。
防衛関係費 増額 丁寧な説明必要…翁氏
翁氏  防衛関係支出は、北大西洋条約機構(NATO)基準の国内総生産(GDP)比2%を機械的に追い求めるのではなく、真に実効的な防衛力・抑止力に資する支出内容の検討、NATO加盟国とは異なる日本の国情に即した検討が必要だ。 防衛費増額をどの程度にすべきか。負担の議論まで視野に入れる以上、防衛費増加について国民の理解を得るには丁寧な説明が必要だ。規模ありきではなく、積み上げで検討を行うと報告書に書いてほしい。防衛費増額への転換点となる報告書で、歴史の検証にも堪えられるようにする必要がある。
喜多氏  防衛というと装備品に目が行きがちだが、最前線で国を守る人たちの処遇を良くすることも忘れないでいただきたい。金額ありきではなく、有効に効率的に資金を使うことが大切だ。
山口氏  研究開発費を包含した防衛力を測る物差しが必要だ。NATO基準を参考にしつつ、日本の課題解決に適した、海上保安庁と海上自衛隊の連携強化にも資する、新たな基準を持つことが検討されてよい。防衛力の抜本的強化は、戦略性・実現性の観点から優先順位をつけ、着実に成果を上げていただきたい。予算を国会で議決された通りに執行する実現性が求められる。費用対効果を吟味することも重要だ。既存の装備品のスクラップ・アンド・ビルドを行いつつ、予算を確実に執行し、防衛力を強化して国民の信頼を一層高めるといった望ましい循環を作っていく必要がある。
佐々江氏  日本として安保関連経費の算定基準を作っていくことが非常に重要だが、我が国の努力を国際的に公正に評価してもらう視点も重要だ。日本固有の事情に配慮することは当然だが、NATO基準と大きく乖離(かいり)する算定基準とすることは問題が生じる。
上山氏  防衛とは、戦争を起こさないための努力であり、軍事力の均衡が戦争の抑止力になる。同時に、経済成長の基盤となる新たな産業構造を作り出し、新たな税収入を生み出すことも、国力としての防衛予算の大きな役割だ。
中西氏  防衛については、ある程度の複数年次が必要なものと、毎年どれだけ予算をつけていくかという話を一緒にやるのは、現場の議論としてかなり難しいのではないか。交通整理をしていただきたい。日本の防衛問題は予算の話が非常に比重が大きい。予算の話だけではなく、何のためにやるのかを議論する場を考えてもらいたい。
船橋氏  研究開発やシステム開発の優先順位、実現可能性、費用対効果などの検証が必要だ。防衛費を増やす場合は、検証してから増やす。増やした後は、必ず検証する。それを踏まえてスクラップ・アンド・ビルドを行うサイクルを作る。その上で増税をお願いするべきだ。
財源 最適な財政 あり方検討…中西氏
翁氏  無駄を取り除く歳出改革を一層進めるとともに、私たちの世代の負担が必要だ。ただ、負担能力に特段に配慮しながら具体的な道筋をつける必要があり、持続的な経済成長実現と財政基盤確保という視点に立った検討が重要だ。英国政府の大型減税策が大幅なポンド安を招いた。既に公的債務残高のGDP比が高い日本は、そのリスクを認識する必要がある。財源確保策の結論を早急に得ることが重要だ。新型コロナウイルス対策などでは、社会保障費であっても無駄の事例が指摘されている。無駄をなくして財源確保につなげる工夫が必要だ。負担が偏りすぎないよう、様々な税目で検討する努力をすべきで、将来世代のためにも責任ある選択が求められる。
喜多氏  防衛力強化は単年度の話ではなく、将来にわたって継続して取り組む課題だ。必要な財源を安定して確保していかなければならない。財源を安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担することが必要ではないか。自衛隊の隊舎など防衛費から捻出するものには建設国債が充てられない。こうした伝統的な考えも、財源確保を検討する中で見直すことが必要ではないか。
国部氏  有事に経済活動や国民生活の安定を維持していくには、機動的に財政出動できるよう、一定の財政余力を平時から保持しておく必要がある。防衛費が恒常的な歳出であることを踏まえ、全てを国債に頼るということではなく、それを賄う恒久財源についても併せて議論すべきだ。財源の一つとしての法人税については、成長と分配の好循環の実現に向け、多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいる中、こうした企業の努力に水を差すことのないよう議論を深めていただきたい。財政状態が金融資本市場に与える影響にも注意が必要だ。金融資本市場に強いストレスがかかった際、我が国経済の安定を維持できる財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない。国民に痛みを伴う負担について、首相自らの言葉で語りかけていただき、国民の生命と財産を守り抜く決意を表明いただきたい。
中西氏  有事にも経済財政状況が安定した基盤を維持できるような公債管理政策についてのシミュレーションが必要だ。経済財政諮問会議のような組織があるわけだから、最適な財政のあり方を検討すべきだ。
山口氏  「つなぎ国債」はよいとしても、恒久的な財源を確保していかなければならない。既存の歳出の削減と併せて具体的な議論が急務だ。国民負担の議論を進めるためにも、戦略性・実現性・費用対効果を踏まえた防衛力強化の中身・道筋を分かりやすく示していただきたい。
佐々江氏  防衛力の強化が待ったなしであり、国民の将来のために財政状況の改善も必要だということを率直に話して理解を求める必要がある。
船橋氏  国民に幅広く負担してもらうことが大切だ。為政者は襟を正し、意を尽くしてその必要性を国民に説明する責任がある。幅広く国民に負担していただくのが筋だ。個人の所得税の引き上げも視野に入れる必要がある。
黒江氏  国民にさらなる負担増をお願いしてでも、防衛力を強化しないといけない時期に来ている。
鈴木財務相  歳出・歳入両面にわたる財源措置は、2027年度予算までの財政需要だけではなく、その後の歳出水準の継続等を視野に入れて、恒久的な財源確保を図るものとしなければならない。不足する財源については国会・与党での議論も踏まえ、税制上の措置を含め、多角的に検討する必要がある。安定した財源の確保が基本で、今を生きる世代全体で分かち合っていくべきだとの指摘を重く受け止める。
西村経済産業相  デジタルやグリーンなどを中心に民間投資が上向くなど、日本経済にようやく変化の兆しが出てきている。この5年間がまさに成長軌道に乗るかどうかの重要な時期であることを踏まえ、財源については慎重に検討すべきだ。
情勢認識 国際秩序に深刻な挑戦…秋葉氏
秋葉剛男・国家安全保障局長  ロシアによるウクライナ侵略、中国の力による一方的な現状変更の試み、北朝鮮の繰り返される弾道ミサイル発射など、国際秩序は深刻な挑戦を受けている。ウクライナ侵略のような事態は、将来、インド太平洋地域でも発生し得るもので、我が国が直面する安全保障上の課題は深刻で複雑だ。
黒江氏  最大の脅威である中国について、ロシア以上に洗練されたやり方で(情報戦など非軍事の手法も組み合わせた)ハイブリッド戦を展開してくるだろう。現在、既に尖閣に侵入しており、サイバー攻撃を毎日仕掛けている。日中間の状況は既にグレーゾーンだ。台湾有事の際には、容易に武力侵攻につながっていくという認識を持つ必要がある。自衛隊が強くなければ、国を守れないということは、ウクライナ侵略が端的に表している。最も懸念している事態は、中国による台湾の武力統一だ。自衛隊をどこまで強くしなければならないかを示す必要がある。台湾有事で国と国民を守れる防衛力を作る必要があると、国民に明らかにすることが大事だ。
山口氏  東アジアの軍事バランスが不安定化し、新たな危機の時代に突入したと認識すべき状況だ。日本にとって脅威が高まっている現実を直視し、防衛力強化の目的を明確にすることが求められている。目的は、日本の平和を守り、東アジアの安定を図ることにある。
船橋氏  日本の周囲の国々のうち、日本に脅威を与えうる中国、北朝鮮、ロシアはいずれも専制主義国で、個人独裁体制を特徴としている。そのような体制では、政策決定過程は不透明で意図は不可測的だ。これらの国々に対しては意図よりも能力を中心に把握することが重要だ。
林外相  力による一方的な現状変更の試みが、正面から行われるようになった。防衛力の抜本的強化は急務で、防衛力が強化されると、外交も力強い展開がさらに可能になる。外務省としては、日米同盟を深化させ、抑止力・対処力の強化に努める。
浜田防衛相  我が国はロシア、中国、朝鮮半島の最前線に位置している。欧州で起きていることがインド太平洋地域で起きないよう、次の防衛目標を達成する能力を持つ必要がある。
防衛産業 開発担う基盤を強化…国部氏
喜多氏  民間の力を活用することが不可欠だ。防衛産業を育成する政策が必要になるのではないか。長い間、日本は武器輸出を制約し、日本の防衛企業の成長を妨げてきた。制約をできる限り取り除き、民間企業が防衛分野に積極的に投資する環境を作ることが必要だ。企業が防衛部門から撤退するケースが出ている。競争力のある国内企業がなければ、優れた装備品などを国産化することは不可能だ。これから強化しなければならないサイバー部門に民間企業が人や資金を投入しやすい環境を作るのも国の責務だ。
国部氏  防衛力を総合的に強化するには、装備の生産やデュアルユース分野を含めた技術開発を担う基盤の強化が欠かせない。企業に撤退を余儀なくさせている商慣行の見直しなどを通じて、サプライチェーン(供給網)の再構築に取り組むべきだ。防衛産業に携わる企業が成長事業として取り組める環境を整備する必要がある。自律的な成長を可能にする観点から、買い手が日本政府だけという構造から脱却し、政府として海外に市場を広げる方策についても議論してもらいたい。
山口氏  防衛産業を国力の一環と捉え直し、自由で開かれたインド太平洋の安保環境の整備につなげるといった大きな視点に立って、防衛装備品の輸出拡大を、日本の安保の理念と整合的に進めていくための対策が検討されるべきだ。官民一体で取り組むべきで、何が原因で企業の撤退が続いたのか、企業側は何を望んでいるのか、防衛装備品の輸出を妨げていた要因は何か、外国の防衛産業との競争に勝つにはどうすればいいかなど、課題を総ざらいすべきだ。その上で、防衛産業強化に必要な制度設計と工程表策定を進めるべきだ。諸外国は政府と企業が一体となって防衛装備品の輸出を拡大している。研究開発や公共インフラと同様に、防衛省に関係府省を加えた体制で取り組む必要がある。
黒江氏  防衛装備品は、研究開発から製造、修理、弾薬の補給まで、実際に実行しているのは全て防衛産業だ。防衛産業はまさに防衛力の一部だと考え、これまでのように、単に調達契約で対価を支払うだけではなく、育成・強化を図る必要がある。
上山氏  防衛予算の拡大は、単なる技術開発のみならず、広範囲な人材育成と産業展開に関して用いられるべきだ。
西村経済産業相  防衛力強化のために、強い防衛産業基盤が不可欠だ。収益率が低い防衛部門、防衛産業は撤退が続く状況だ。このまま推移すれば、国内の産業基盤が毀損(きそん)される恐れがあり、防衛装備に関する仕組みを見直す必要がある。防衛部門の利益率の改善や、厳格な輸出管理の下で、国、制服組が前に立った形での装備移転、輸出の抜本的拡大などに取り組む必要がある。
浜田防衛相  防衛産業にはレピュテーション(評判)・リスクや低い収益率、サプライチェーン・リスクやサイバーセキュリティーなどの課題が山積している。防衛生産・技術基盤は防衛力そのものであり、防衛省として維持・強化に努めたい。
研究開発・先端技術 民間・学界の協力必須…橋本氏
上山氏  我が国では、科学技術者がデュアルユース(軍民両用)をはじめとして、安全保障(目的の研究)を避ける傾向がある。安心して安全保障上の研究ができる特別の空間を大学の内と外に作ることも必要だ。米国の防衛関係の投資は、単に軍事力や軍事技術への資金供与ではない。経済・社会全体の国力を見据えた国家投資になっている。
喜多氏  日本の科学技術は世界的にも高い水準にある。研究開発予算もそれなりに計上されている。大学や政府機関に残る、軍民両用技術の研究を避ける傾向を転換して、防衛力の強化につながる仕組みを作ることが大切だ。(政府の)科学技術関係予算は約4兆円あるが、防衛省は約1600億円とわずかで、文部科学省の2兆円の約8%にすぎない。慣例にとらわれることなく、役所の枠を超えて研究開発に取り組んでほしい。
国部氏  研究開発は、防衛省以外の省庁の予算で取り組まれているものや、民間企業が行っているものの中にも、防衛力の強化に資するものがあるはずだ。省庁間、官民の連携を深め、国を挙げて取り組む体制を検討すべきだ。
橋本氏  ウクライナで起きていることから見ても、先端の科学技術が国家の防衛にとっていかに重要かが分かる。最近の特徴として、先端科学の基礎研究成果がすぐに実用技術で展開されるケースが増えている。先端的で原理的な技術のほとんどが民生にも安保にも使える。防衛省の研究者だけでなく、民間やアカデミア(学界)の協力が必須だ。最先端の基礎研究に資源を投入することは、防衛力の強化につながり、経済的な成果として戻ってくる可能性が極めて高い。基礎科学研究に対する投資は、防衛力強化だけでなく、経済力の強化という視点からも重要だ。米国では、大学のキャンパスで安全保障に重要な研究開発を分野を問わずに支援するシステムとしてDARPA(国防高等研究計画局)がある。ここで生まれた技術はスタートアップを輩出する不可欠な基盤になっている。
研究開発・先端技術 新分野対応「脱縦割り」…山口氏
山口氏  防衛に結び付く研究開発の促進や、宇宙・サイバー・電磁波など、新しい分野への対応は、省庁の縦割りを超えて政府全体で取り組む姿勢が不可欠だ。研究開発予算の策定に安全保障の観点を取り込む仕組み作りを含め、確実に成果をあげる体制をどう作り上げるか議論すべきだ。科学技術予算と防衛問題は政府内で制度的に遮断されている。研究開発予算の司令塔となる総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)のメンバーに防衛相は入っていない。研究開発予算を防衛費に含めるように予算区分を変更しても、防衛力の強化には結びつかない。他の省庁の予算であっても、防衛省が関与できる仕組みを作る必要がある。省庁横断で調整できる会議体の設置なども考えられる。(大学外に研究拠点を設ける)オフキャンパス型の研究機関設置は検討してほしい。西側の先進国は先端技術を守る、軍事転用を進めるという2点で協力体制を築き、強化しつつある。日本がこうした多国間の研究開発ネットワークに加わるには、セキュリティー・クリアランス(適性評価)の制度化や、サイバーセキュリティーの確保が欠かせない。機密保持のためにも、オフキャンパスの研究機関は必要になる。
松野官房長官  関係省庁が国家安全保障局、防衛省及び内閣府と連携し、防衛省の意見を踏まえた研究開発ニーズと各省が有する技術シーズ(種)をマッチングさせる横断的な仕組みを創設する。具体的には、関係府省会議で予算編成過程前に、防衛上の重要技術課題と目標額を定め、防衛省の意見を踏まえたニーズと、各省が実施可能な開発をマッチングする。
サイバー 「人材いない日本」憂慮…上山氏
黒江氏  現在、サイバーは警察、総務省などや民間企業が対応しているが、全ての関係者が認識を共有し、整合性ある対応を取ることが必要だ。ハイブリッド戦である以上、相手方は分からないように様々なところに仕掛けてくる。こちら側が被害を受けたインフラなどで関係省庁が分かれてしまうと、これほど非効率なことはない。民間も含めて一体となって対応できるような革新的な体制を考えてほしい。ウクライナでは、スターリンクやマイクロソフトといった民間企業が防衛に大きな役割を果たした。日本においてサイバー人材は極端に不足している。少ない人材で効率的に能力を発揮するためには、政府内での連携とともに、官民の協力が絶対的に必要だ。新たな仕組みをぜひお願いしたい。
船橋氏  世界では、国力を示す指標として「国家サイバー力」がますます重要な物差しとなりつつある。サイバー空間は常に非平和の状態にあり、常在戦場だ。国際秩序とルールが確立しておらず、抑止も十分に機能しない。日本にはサイバーセキュリティーを担当するトップ直結の統合的な機構が存在しない。国家安全保障局長、内閣危機管理監に並ぶ首相直属の担当官と組織を設立すべきだ。
中西氏  自衛隊は陸海空3隊で伝統的にやってきたが、既にサイバー、宇宙といった3隊にまたがる、あるいはそれらとは別の空間が非常に重要になっている。防衛大学校や各種組織でどう人材養成していくか、新しい発想で取り組む必要がある。
山口氏  サイバー防御は待ったなしだ。アクティブ・サイバー・ディフェンス(能動的なサイバー防御)の必要性も高まっている。電力会社など民間も含めた国全体のサイバー防御を進めるべきだ。
上山氏  CSTIでは、過去30年にわたる各国のサイバーセキュリティーに関する研究開発の調査を重点的に行った。中国と米国だけが突出し、イスラエル、インドが続くが、日本の研究開発がほとんどないという実態があった。サイバーセキュリティーに関する努力をしようと思っても、我が国には人材がどこにも存在せず、核となる企業体も存在しないという極めて憂慮すべき事態だ。
●宇宙めぐる安全保障の強化、ようやく重い腰上げた日本 1/25
日本政府は2022年12月16日に閣議決定した新たな国家安全保障戦略で「宇宙の安全保障に関する総合的な取組の強化」を唱えた。航空自衛隊の航空宇宙自衛隊への名称変更も決まった。政府は同月23日に宇宙開発戦略本部を開き、2023年夏を目途に、宇宙の安全保障構想を策定し、宇宙基本計画を改定する方針を決めた。米中ロなどが繰り広げる宇宙開発競争から取り残されたくない思惑が透けて見えるが、抱えた課題は少なくない。
日本の宇宙開発、ビジネス市場は限定的だった
在ベルギーの防衛駐在官などを務めた日本宇宙安全保障研究所の長島純理事は、宇宙を巡る各国の勢力図について「抜きんでた米国を中国が猛追しています。さらにロシアがいて、その後を日本、インド、独英仏加豪らが追いかける構図です。宇宙では技術力と人材、資金が重要で、自己完結した能力を持っているのは、日米中ロ印くらいでしょう」と語る。
ただ、日本の宇宙産業規模は決して大きくない。米国が主導するアルテミス計画では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を窓口に、トヨタなど様々な企業が参入しているが、これまでは科学技術の研究が先行し、企業の活動がほとんど見られなかった。
宇宙基本法の制定と、宇宙の開発や利用を巡る国家戦略を盛り込んだ宇宙基本計画が初めて策定されたのが2008年。2022年1月の経済産業省宇宙産業室の資料は、モルガン・スタンレーの予測として、宇宙ビジネス全体の市場規模が2017年の37兆円から2040年までに100兆円規模になると紹介。このなかで、日本の宇宙産業の市場規模は約1.2兆円に過ぎず、 2030年代早期に2.4兆円規模に倍増することが政府目標だとした。
専門家からは、「日本の従来の宇宙開発には制約が多かったうえ、科学技術優先で、企業のマーケットを明確に示してこなかった」との指摘が出ている。
安保での利用も可能になったが…
2008年5月に制定された宇宙基本法の特徴の一つは、1969年の国会決議で制限されていた宇宙の安全保障利用が可能になったことだ。背景には、2007年1月に中国が行った衛星破壊実験や、北朝鮮による核・ミサイル開発などもあった。
当時、航空幕僚監部防衛部長だった平田英俊・日本宇宙安全保障研究所顧問(元空将)は「宇宙の安全保障利用の推進については航空自衛隊がリードすべきだ。できれば、初代の宇宙軍司令官をやりたい」と周囲に語った。
空幕の運用、技術、情報等の担当者でチームを作り、様々な宇宙関連企業から意見を聞いた。安全保障分野での宇宙利用について議論し、航空自衛隊が取り組むべき分野や事業について検討した。
そのうえで、平田氏らは衛星や宇宙ゴミ(デブリ)などを監視するSSA(宇宙の状況監視)能力、航空機や移動発射台からの発射等、迅速な衛星発射能力の確保を目指すべきという報告書をまとめた。
空幕はこれに基づいてSSA関連の予算要求を行おうとしたが、防衛省としての予算要求は見送られた。平田氏は「省全体の予算枠が決まっていたため、宇宙の予算を要求したら、他の予算を削らなければならなくなるという受け止めでした。安全保障のための宇宙利用や宇宙の安全保障に対する当時の防衛省や日本の認識は、私自身を含め、まだその程度のものだったように思います」と語る。
ポイントは衛星コンステレーション?
そして、2022年12月に決まった安保関連3文書が宇宙分野で特に強調したのが、「衛星コンステレーション※」の構築だ。防衛力整備計画は「スタンド・オフ・ミサイル※」の運用を始めとする領域横断作戦能力を向上させるため、宇宙領域を活用した情報収集、通信等の各種能力を一層向上させる」と説明。衛星コンステレーションについても「米国との連携を強化するとともに、民間衛星の利用等を始めとする各種取組によって補完しつつ、目標の探知・追尾能力の獲得を目的とした衛星コンステレーションを構築する。」ことと、「衛星を活用した極超音速滑空兵器(HGV)の探知・追尾等の対処能力の向上について、米国との連携可能性を踏まえつつ、必要な技術実証を行う」という二つの事業が明記された。だが、元自衛隊幹部の一人は、この記述について、今後検討すべき課題が多いと指摘する。
[ ※衛星コンステレーション=たくさんの人工衛星を一体的に運用し、高速で大容量の通信などを可能にする仕組み ※スタンド・オフ・ミサイル=敵対空ミサイルの射程外から攻撃可能なミサイルのこと ]
防衛整備計画が触れた二つの衛星コンステレーション事業は、自民党の宇宙・海洋開発特別委員会が2022年4月5日に行った提言「安全保障における宇宙利用について」が指摘している。
提言は、HGV兵器開発は「すでに存在する脅威」とし、国産化を基本としながら米国との連携等で早急に衛星コンステレーションによるHGVの探知・追跡等ができる体制の整備を求めた。
反撃目標を探知・追尾するターゲッティングについては、偵察・監視、データ中継、通信などの機能を備えた官民の小型衛星コンステレーションを構築し、自衛隊がリアルタイムに衛星情報を運用に活用できる体制を構築することを提言した。
安保関連3文書では、HGVの探知・追跡等については、「必要な技術実証を行う」にとどめた。元自衛隊幹部は、この表現について「自民党の提言が最優先の課題として一刻も早い体制整備を求めていたことと温度差を感じます」と語る。
赤外線や熱源のセンサーを搭載した小型衛星の低軌道コンステレーションでHGVを探知・追尾するための国内の技術力が、まだ技実証がかなり必要なレベルにとどまっているためかもしれない。
また、反撃能力に関して、ミサイルの長射程化などが大きく報じられているが、実際には艦艇や地上の反撃目標がどこにあるのか「ターゲッティング」(目標の探知・追尾・目標割り当て等)ができなければ反撃能力は使えない。
米宇宙軍の宇宙開発局は、現在の主要な研究開発任務として衛星コンステレーションを使った「HGVの探知・追尾」と「ターゲッティング」の二つを挙げている。
自民党の提言も「自衛隊がリアルタイムに衛星情報を運用に活用できる体制の構築」を実現目標に掲げている。自衛隊元幹部は、「ターゲッティング」のための衛星コンステレーションの構築が自衛隊情報本部を中心に行われることに不安を感じるという。米軍では、宇宙システムを利用したターゲッティングを情報機関ではなく作戦部隊に直結する宇宙軍が担当しているからだという。
元幹部は「作戦情報で最も重要なことはスピードです。偵察・監視によって得られた情報を融合し、いち早く提供して目標の割り当てができるかどうかが、反撃能力のための絶対条件です」と語る。平田氏も「公にされていないだけだとも思いますが、全体の運用構想がいま一つはっきり見えない今のコンステレーション構想では、自分がやられるという事実を、あらかじめ知ることができるだけに終わりかねません」と警告する。
航空自衛隊は2022年3月、主にSSAを行う部隊として宇宙作戦群を創設し、人材の育成や装備の充実を急いできた。
2019年に創設された米宇宙軍の初代トップを昨年11月まで務めたジョン・レイモンド宇宙作戦部長が在日米軍第5空軍副司令官だったこともあり、米宇宙軍は自衛隊の人材を積極的に受け入れてきた。JAXAと自衛隊の人材交流も活発になっている。自衛隊の元幹部は「航空宇宙自衛隊は、宇宙領域の安定的利用のため、衛星やデブリなどを監視する宇宙領域把握能力と、相手方の指揮統制・情報通信等を妨げる能力の育成を急いでいます」と話す。
米国は兵士の呼び名を軍種別に分けている。陸はソルジャー、海はシーマン、空はエアマンだ。宇宙軍も独立した軍種であり、ガーディアンと呼ぶ。航空宇宙自衛隊は独立した軍種にはなっていない。平田氏は「日本に見えている宇宙は、ごく一部の領域に過ぎません。これからは(米、英、豪、加、ニュージーランドの英語圏5カ国による独自の情報網を持つ)ファイブアイズはもとより、衛星運用能力を有する多くの同志国との連携・協力が不可欠になるでしょう」と語った。  
●日本は再びアメリカの「防波堤」に 反撃能力確保、防衛費増強はなぜ決まった 1/25
岸田政権の支持率はついに20%台に落ちた。防衛費増強で増税を持ち出したのが、決定的に国民の反発を買ったからである。それにしてもなぜ、あれほど決断ができなかった首相が、今回に限っては、断固として決断したのだろうか? すでに一部で指摘されているように、日本がアメリカの「属国」だからだ。今回の一連の流れは、戦後の日本がたどった「逆コース」と、まさにぴったり符合する。
防衛費増強、反撃能力はアメリカの意向
岸田政権は12月16日、国家安全保障戦略(NSS)など「安保関連3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書)を閣議決定した。
3文書の最大のポイントは、いまの日本の安保環境が「戦後もっとも厳しい」とし、相手の領域内を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」との名称で保有すると明記したことだ。これに伴い、日本は、2023年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる43兆円にすることがほぼ決定した。そして、岸田首相は、この防衛費増強の一部を増税でまかなうことを改めて表明したのである。
増税! このインフレ不況の最中に、そんなことを言い出せば、誰だって反発する。案の定、増税発言は、ただでさえ落ち込んできた支持率を低下させたのは、言うまでもない。
最低は毎日新聞の25%、時事通信は29.2%、高めに出るFNNでも37%まで落ち込んだ。もはや、内閣がすっ飛んでいいレベルである。
ここまで統一協会問題、閣僚の不祥事、歯止めがからないインフレなどで落ち込んできた支持率を、なぜ、落ちるとわかりながら、増税にこだわったのか? あれほど決断できないと批判された岸田首相が、なぜ、防衛費増強に関してだけは即断即決できたのか?
その答えは、もはや書くまでもない。アメリカの意向だからである。
日米双方のシナリオに沿った出来レース
日経新聞は、12月19日、『反撃能力、日米で運用協議へ
共同計画改定、進む軍事「一体化」』という記事を掲載した。
この記事は、《政府は、国家安全保障戦略など安保関連3文書改定を受け、抑止力・対処力強化に向けた米国との協議を本格化させる。》としたうえで、《軍事面での日米の「一体化」はさらに進むことになる。》とし、さらに次のように述べていた。
《岸田文雄首相は16日の記者会見で「あらゆるレベルで緊密な協議を行う。日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していく」と述べた。ブリンケン米国務長官は同日の声明で「役割、任務、能力の強化を通じて同盟を近代化する日本の決意を称賛する」と歓迎した。》
なんのことはない、日米の出来レースなのである。なにしろ、岸田首相が会見したのと時を経ずして、ブリンケン米国務長官が歓迎コメントを出している。
すでに、事務方レベルでは、「防衛費増強」も「反撃能力の保持」も具体的に決まっており、岸田首相はそれをなぞったにすぎないと言えるだろう。「国民の責任」などという言葉まで持ち出し、自分の決断のごとく言うのはおこがましいというものだ。
なんのための防衛費の増強なのか?
改めて書くまでもないが、防衛費増強による予算は、まずは、巡航ミサイル「トマホーク」の購入に使われる。トマホークは最新型で1発約2億円から3億円。500発購入というから、それほどの額ではない。ただし、これを機に日本はアメリカ軍の「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)」に完全に組み込まれることになる。その費用は総額で数兆円に達するだろう。
敵基地攻撃のための中距離ミサイル開発にも、予算は割かれる。政府は、2026年度以降、三菱重工製造の国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」を長射程化(1000キロ以上)し、それを順次配備していくとしている。しかし、いまの三菱重工に、そんな技術力があるかはなはだ疑問だ。
もちろん、航空機や艦船といった装備品、弾薬などの維持整備にも予算は使われる。しかし、日本の軍需産業にこれらを供給する力はないから、もっぱら輸入に頼ることになる。
ともかく、防衛費増強は、北朝鮮、中国、そして台湾有事を意識したもので、とくに約2000発の短・中距離弾道ミサイルを保有する中国との「ミサイルギャップ」を埋めるのが目的だ。また、ICBMを開発して、米本土を射程に収めた北朝鮮に対する抑止力を強化するためでもある。
とくに、北朝鮮だけを考えると、日本の防衛というより、アメリカの本土防衛である。そのために、日本の防衛力を強化しようということだ。・・・
●「防衛増税」不要 「国債整理基金特別会計」を防衛力強化資金に繰り入れ 1/25
数量政策学者の高橋洋一が1月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。防衛費増額への財源について解説した。
岸田総理、防衛費増額を賄う増税について「丁寧に説明する」と強調
通常国会は1月24日午後、参議院本会議で岸田総理とすべての閣僚が出席し、令和3年度決算についての質疑が行われた。岸田総理は防衛費増額に伴って不足する財源を増税で賄う方針について、国会審議を通じて丁寧に説明していく考えを強調した。
飯田)また、増税の前に衆院解散・総選挙に踏み切る可能性に関しては、「どのように国民に信を問うかは、時の総理大臣の専権事項として適切に判断する」と述べました。
高橋)丁寧に説明するのであれば、「施政方針演説で説明すればいいのに」と思いました。いちばんいい場でしょう。
飯田)そうですね。
高橋)そこで言わないのは何なのでしょうか?
自民党の特命委員会で防衛費増額の財源を議論
高橋)予算案が出たあとというのは、少し異例なのです。財源確保法案は予算関連で出るはずです。本来であれば昨年(2022年)ですっきり終わっているはずなのに、手続きのミスなのでしょうが、まだ終わっていません。だからいまでも萩生田政調会長が委員長になって、特命委員会として行っているのです。先日は平場もありましたし。
飯田)平場というのは全議員から関心のある議員が集まって出席し、誰でも発言できる場です。
高橋)役員の検討などはあまり表に出ないのです。表に出したら国会で攻められますから。
飯田)「党内不一致」ではないかと。
「60年償還ルール」を一時的に撤廃し、国債整理基金特別会計を防衛力強化資金に繰り入れれば、防衛増税は必要なくなる
高橋)党内できちんと手続きできていなかった状態が表に出ているわけです。率直に言うと、いま話題になっている「60年償還ルール」がありますよね。
飯田)国債の。
高橋)あれを一時的に撤廃する。2023年度予算では、16.4兆円の債務償還費があるけれど、実はこれを他のところに繰り入れることができるのです。債務償還費をどこに繰り入れるかと言うと、もともと国債整理基金特別会計というものがあります。予算で一般会計の歳出は立っていて、他のものはすべて国民に配るのだけれど、これは国債整理基金特別会計として国のポケットに繰り入れるのです。
飯田)政府が支出してどこかにお金が行く。
高橋)行き先は間違いなく国のポケットです。右のポケットか左のポケットなのです。左のポケットにはもう1つ、防衛力強化資金がある。そこに繰り入れればいいのです。そうすると防衛財源確保法案はほとんど意味がなくなるし、防衛増税は全部吹っ飛ぶのですよ。
飯田)なるほど。
高橋)「それで何が悪いのか?」ということです。「国債整理基金特別会計を他に繰り入れたら国債が暴落する」と財務省は言うのだけれど、私は財務省のなかでこれを何回も破った常習犯なのです。
飯田)そうなのですか?
高橋)11回やりました。そのうち3回くらいは私の関連です。財務省からは、それをやると「国債が暴落する」と言われたのですが、「暴落しない!」と言って進めてしまいました。そうしたら、全然暴落しなかったのです。
飯田)何に使ったのですか?
高橋)他に使いました。いろいろと。
先進国で「60年償還ルール」で償還費を積んでいる国はない
飯田)前例はあるのですか?
高橋)11回あります。今回は12回目をつくるかどうか、それだけの話ですし、過去11回は何の問題もないですから。
飯田)なるほど。
高橋)まず大丈夫ですね。他の国でこんなことをしているところはないから、まったく大丈夫です。
飯田)「60年償還ルール」で償還費を積んでいる国は、先進国にはない。
高橋)ありません。「国債償還が滞るではないか」と言うけれど、国債整理基金特別会計では借換債という国債を出せるから、何の問題もないです。償還資金のための借換債を出すという意味で、まったく何の問題も起こりません。過去11回も行ったことがあるのに、12回目ができないというのは信じられないです。そんなことになったら予算が混乱するでしょう。
飯田)確かに。
高橋)予算組み替えでも私はいいと思うけれど、財務省は絶対に嫌だと言うでしょうね。
飯田)なるほど。でも国民からすると、「他からそうやってお金が出てくるのであれば、まずはそちらをやってよ」と思いますよね。いきなり増税ではなくて。
●衆院代表質問 立民泉代表“増税なら解散” 首相“適切に判断”  1/25
国会は、25日から衆議院本会議で、岸田総理大臣の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まりました。立憲民主党の泉代表が防衛費の増額をめぐり「増税を強行するなら衆議院の解散・総選挙で国民の信を問うべきだ」とただしたのに対し、岸田総理大臣は「時の内閣総理大臣の専権事項として適切に判断をしていく」と述べました。
25日の衆議院本会議では、自民党と立憲民主党が質問に立ちました。
立憲民主党の泉代表は、防衛費増額をめぐり「まさに額ありき、増税ありき、そして、国会での議論なしの乱暴な決定だ。防衛増税を強行するなら衆議院の解散・総選挙で国民の信を問うべきだ」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「防衛力の抜本的強化や維持を図るためには、これを安定的に支えるためのしっかりとした財源が不可欠だ。何についてどのように国民の信を問うかは、時の内閣総理大臣の専権事項として適切に判断をしていく」と述べました。
一方、岸田総理大臣は、自民党内から国債の償還期間を延長して防衛費増額の財源を確保すべきだという意見が出ていることについて「見直した場合、債務償還費の繰り入れが減少する分、赤字国債は減るが、借換債が増えることから国債発行額としては変わらない。市場の信認への影響に留意する必要がある」と述べました。
また、泉代表は、少子化対策をめぐり「岸田総理大臣が今になって最重要課題と位置づけた子ども・子育て支援政策は、防衛増税を目立たないようにするためのまやかしだ。子ども予算倍増は立憲民主党が何年も前から提案しており、遅すぎるくらいで、『異次元』ではなく『最低限』の少子化対策だ。財源はどこから確保するつもりなのか」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「社会全体の意識を高め、年齢や性別を問わず、皆が参加する次元の異なる少子化対策を実現したい。各種の社会保険との関係や国と地方の役割、高等教育の支援の在り方など、さまざまな工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えたい」と述べました。
一方、岸田総理大臣は、少子化対策の財源をめぐり「消費税について、当面触れることは考えていない」と述べました。
自民党の茂木幹事長は、ウクライナ情勢について「5月のG7広島サミットでは、大きなテーマの1つになる。岸田総理大臣みずからがウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領との首脳会談や現地状況の視察などを行っておくことが望ましいのではないか」と質問しました。
これに対し岸田総理大臣は「ゼレンスキー大統領とは、これまでも緊密に意思疎通を行ってきている。ウクライナ訪問については、現時点で何ら決まってはいないが、諸般の事情や状況も踏まえ検討していく」と述べました。
また、茂木幹事長は「日本の少子化対策で進めるべき政策の第1は、経済的支援の抜本的拡充だ。その要となる児童手当については、すべての子どもの育ちを支えるという観点から、所得制限を撤廃するべきだ」と迫りました。
これに対し、岸田総理大臣は「急速に進展する少子化により、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている。まずは、担当大臣のもと、充実する内容を具体化し、私のもとでさらに検討を深め、6月の骨太方針までに将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と述べました。
さらに、茂木幹事長は新型コロナの感染症法上の位置づけの見直しとマスクの着用をめぐり、「海外では、今、屋外でも屋内でもマスクを着用している姿はほとんど見かけない。政府も『5類』への見直しの本格的検討に入ったと承知しているが、マスク着用はどうしていくのか」と質問しました。
これに対し岸田総理大臣は「原則、この春に新型コロナを『5類』とする方向で議論を進めている。マスクの着用についても、『5類』への見直しと合わせて考え方を整理し、説明していきたい」と述べました。
立憲民主党の大築紅葉氏は、24日に細田衆議院議長が旧統一教会との関係を与野党の代表者に説明したことについて「きのうの細田議長の説明は全く不十分で、非公開だった。今、岸田総理大臣に求められているリーダーシップは、細田議長に公開の場で説明責任を果たさせ、自民党と旧統一教会との関係を明らかにし、清算することだ」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「説明責任の果たし方については、三権の長たる議長として、自身の判断で適切に対応すべきものだ」と述べました。
代表質問は、26日は衆参両院で行われます。
自民 茂木幹事長「児童手当の所得制限の撤廃は必要」
自民党の茂木幹事長は、記者団に対し「防衛力の抜本的強化や子育て支援策の抜本的充実など3点を中心に質問したが、岸田総理大臣からは強い決意表明と丁寧な説明があったと思う。子育てについては、児童手当の所得制限の撤廃に言及したが、すべての子どもの育ちを支援する観点から必要だと考えており、党でも議論をさらに深めていきたい」と述べました。
立民 泉代表「首相答弁は異次元の説明不足とはぐらかし」
立憲民主党の泉代表は、記者団に対し「岸田総理大臣の答弁はひどく、異次元の説明不足とはぐらかしだ。増税ということばを避けた『逃げの増税』だと感じ、防衛費は着々と倍増を決めて具体策まで持ってきた一方、子育て政策は後回しだと色濃く映った」と批判しました。
そのうえで「物価高で国民生活が大変な中で増税をして巨額な防衛費に使うのは大きな政策転換で、岸田総理大臣は先の衆議院選挙や参議院選挙でも言っておらず、衆議院の解散・総選挙で信を問うのは当然だ」と述べました。
●茂木氏衆院代表質問 児童手当、所得制限撤廃要求 野党から批判も 1/25
自民党の茂木敏充幹事長は25日の衆院代表質問で岸田文雄首相に対し、児童手当について「全ての子どもの育ちを支えるという観点から所得制限を撤廃すべきだ」と主張した。
茂木氏は「この10年が少子化を反転させる最後の勝負だ」と述べ、多子世帯への児童手当増額に関しても「前向きに検討を進めるべきだ」と求めた。答弁で首相は「子ども、子育て政策は最も有効な未来への投資だ」と強調したが、児童手当拡充の具体的な案には踏み込まなかった。
また、日本が議長国を務める5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)について茂木氏は、ロシアによるウクライナ侵攻などを念頭に「平時のサミットではない」と指摘。「ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領との首脳会談や現地視察を行うことが望ましい」と首相に提言した。
憲法に関しては「できるだけ早期に国民に選択肢を提示し、憲法改正を実現すべきだ」と強調。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題には「法令違反が確認されれば、速やかに宗教法人の解散命令請求を行うべきだ」と断じた。
児童手当の所得制限を巡っては2012年、当時野党だった自民などの主張により導入された経緯があり、野党から「今まで何だったんだ」などと怒号が飛ぶ場面もあった。
●「防衛予算倍増よりも子育て予算倍増が先だ」おおつき紅葉議員が代表質問 1/25
衆院本会議で1月25日、岸田総理の施政方針演説に対する代表質問が行われ、おおつき紅葉議員が登壇しました。おおつき議員は、(1)子ども子育て政策・少子化対策(2)国防と防衛増税(3)旧統一教会(4)多様性(5)燃料高・物価高(6)豪雪地帯の雪害対策(7)第一次産業(8)地域公共交通のあり方(9)知床沖遊覧船事故(10)マイナンバー(11)外国人労働者受け入れ――等について質問しました。
子ども子育て政策・少子化対策
おおつき議員は、立憲民主党が2度にわたり児童手当を高校3年生まで対象拡大する法案を提出してきたにも関わらず、政府・与党が動いて来なかったことを指摘。なぜ審議しなかったのか岸田総理に理由を問いました。岸田総理は、「議員立法ですので、まずは国会において議論いただくもの」とかわしました。
また、おおつき議員は「防衛予算倍増よりも子育て予算倍増が先だと考えています。子育て予算倍増を防衛予算倍増より先に実現すべきではないか」と岸田総理にただしました。岸田総理は、「子ども子育て政策への対応は待ったなしの先送りの許さない課題」と述べつつも、「防衛力強化のための財源は、年末に決定した方針に従って確保していく」と答えました。
国防と防衛増税
「昨年末、唐突に、そして一方的に、国民にも国会にも説明することなく決めた防衛増税、岸田増税を国民も私たちも認めるわけにはいきません」と述べたおおつき議員は、「この国会はこども国会にすべきなのに、これでは増税国会ではないか」と岸田総理を追及しました。そのうえで、岸田総理が防衛力強化の財源として「将来世代に先送りすることなく、令和9年度に向けて、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応していく」と述べたことに触れ、「なぜ、正直に増税と言わなかったのか」と質問しました。岸田総理は、「昨年末に政府・与党で確認をし、閣議決定した防衛力強化のための財源確保のための基本的な考え方や税制措置の内容は全く変わりはありません。施政方針演説ではこれを前提に行財政改革の努力を最大限行ったうえで、それでも足りない約4分の1について述べたもの」と答弁しました。
旧統一教会
旧統一教会との関係が指摘されている細田衆院議長について取り上げ、「岸田総理に問われているリーダーシップとは、細田議長を公開の場で説明責任を果たさせ、自民党と旧統一教会との関係を明らかにし清算することだ」と細田議長の公への説明を求めました。岸田総理は、「細田議長の説明責任の果たし方については、三権の長たる議長として今後ともご自身の判断で適切に対応すべきもの」と答えました。
昨年11月29日、1億数千万円の献金をして、返金請求の裁判中の中野容子(仮名)さんの母親が、旧統一教会により困惑し認知症も疑われる状態でサインをした寄附の一部の返金のみで和解する旨や寄附の返金を求めない旨の合意書、いわゆる「念書」を書かされた件について、岸田総理が「民法による不法行為が認められる可能性がある」と答弁したことを取り上げました。この答弁をもとに、12月末に公表された「被害者救済法」のQ&AのQ12において、「困惑した状態でサインをした寄付の返金を求めない旨の念書は、民法上の公序良俗に反するものとして無効になり得る」との考えを政府が示したことについて、「このQ12は、新法の内容にだけ関係するものではなく、中野容子さんのような施行前の被害に対しても同様の考えが当てはまると考えてよいのか」と質問しました。岸田総理は新法が不当な念書の無効性について認められやすくなる効果があると説明し、「一般論としても新法施行前も当てはまります」と明確に答弁しました。
多様性
おおつき議員は、自民党内でなぜLGBT差別解消法、同性婚、選択的夫婦別姓を認めないのかを質問。「多様性を尊重すれば一人ひとりがありたい自分として輝き、力を発揮します」と述べ、岸田総理の考えを求めました。岸田総理は、LGBT利害増進法案は「動きを注視する」、同性婚制度は「極めて慎重な検討を要する」、選択的夫婦別姓制度は「議論してより幅広い国民の理解を得る必要がある」と述べました。
燃料高・物価高
燃油高や物価高が止まらず、家庭や企業が光熱費の値上がりに苦しんでいることに触れました。特にものづくりの工場では特別高圧電力に補助金が出ないことで製品価格に反映できない声があり、賃上げにつながらず若者は製造業離れをしものづくり大国ニッポンが衰退することを指摘。建設業でも資材価格の高騰や建設事業費の上昇が賃上げの障害となっていることに触れ、「労務費、原材料費、エネルギーコスト等の取引価格を反映した適正な請負代金の設定や適正な工期の確保、公共事業の建築単価および公共工事設計労務単価の引き上げが必要だ」と訴え岸田総理に見解を求めました。岸田総理は「必要な費用を適切に反映して物価上昇を超える賃上げにつながるよう取り組んでいく」と考えを述べました。
●立憲・泉代表 解散迫る 衆院代表質問 初日 1/25
国会では、岸田首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が25日から始まり、立憲民主党の泉代表は、いわゆる「防衛増税」をめぐり衆議院の解散を迫った。
立憲民主党・泉代表「防衛増税を行うなら、解散総選挙で国民の信を問え。総理お答えください」
岸田首相「何について、どのように国民の信を問うかについては、時の内閣総理大臣の専権事項として適切に判断します」
また、防衛費を捻出するために、国債を60年で償還するルールを見直すか問われた岸田首相は、「結果的に国債発行額が増加することや、市場の信認への影響に留意する必要がある」と述べ、慎重な姿勢を示した。
自民党・茂木幹事長「児童手当については『全ての子どもの育ちを支える』という観点から、所得制限を撤廃するべきだと考えています」
自民党の茂木幹事長は、第2子以降への支給額の上積みについても、「前向きに検討を進めるべき」と述べたが、これらに対する岸田首相の明確な回答はなかった。
岸田首相「年齢、性別を問わず、みんなが参加する次元の異なる少子化対策を実現したいと考えております」
また、岸田首相は、ゼレンスキー大統領からウクライナ訪問の招待を受けたことについて、「現時点ではなんら決まっていないが、諸般の状況もふまえ検討していく」と述べた。
●「防衛」「原発」「子育て」首相、今国会焦点の課題で説明注力 1/25
岸田文雄首相の正念場となる、施政方針演説に対する代表質問が25日の衆院本会議で始まった。昨夏以降、下落が続いてきた内閣支持率は今年に入って下げ止まったが、苦境を脱したとまでは言い難い。首相は今国会の焦点となる「防衛力強化」「原発」「子供・子育て」などの重要政策を中心に丁寧な説明を行い、国民の理解を得ることで政権浮揚につなげたい考えだ。
「防衛力の抜本強化を図るためにはしっかりとした財源が不可欠だ。財源確保にあたっては、国民負担をできるだけ抑えるべく、行財政改革の努力を最大限行う」
首相は同日の立憲民主党の泉健太代表との論戦で防衛力強化に伴う増税に関し、こう理解を求めた。
中国、北朝鮮、ロシアの軍事的脅威に直面する中、防衛力強化は喫緊の課題だ。だが、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が21、22両日に実施した合同世論調査では、防衛費を大幅に増額する方針には「賛成」が50・7%で、「反対」の42・8%を上回る一方、必要な財源を増税で賄うことは反対が67・3%を占めた。
首相はこうした世論を重く捉えており、この論戦の前には「野党との議論を通じ、しっかりと国民への説明を尽くす」と周囲に決意を語った。
また、今国会では、首相が昨年末に建て替えや稼働延長に道筋をつけた原発も焦点となる。泉氏は「原子力の災害リスクや事故リスクは他の電源に比較して大きい」と首相の判断に疑問を呈したが、首相は「わが国の厳しいエネルギー供給状況を踏まえれば、原子力を含めあらゆる選択肢を活用していくことが必要だ」と強調した。
最優先課題と位置付ける子供・子育て政策に関しては「最も有効な未来への投資だ。個々の政策の内容や規模面はもちろん、地域社会や企業のあり方を含め、社会全体で子供・子育てを応援する次元の異なる少子化対策を実現していく」と訴えた。
今国会は会期中の4月に統一地方選を迎え、千葉5区や和歌山1区などの衆院補選も見込まれる。5月の広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)後には、首相が衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測も絶えない。首相は、政治決戦のスケジュールも念頭に置き、議場の外の民意も意識しながら重要政策での説明を尽くしていくこととなる。

 

●法改正するつもりもない防衛省、無人機や無人車輌の調達を中止すべき  1/26
先日防衛省で情報通信課からレクチャーを受けました。恐らく、大臣会見で無線や無人機の周波数帯や法規制について質問したからでしょう。
ですが、彼らの持ってきた資料は「国家防衛戦略について」のコピーだけで言われたらから仕方なくレクしました感が漂っていました。
で、無線機の周波数帯が他国と違っても問題ない。
そうであれば、なんで他国は違う周波数帯を使っているのでしょうか。実際問題として現場の隊員が米軍の無線機と露骨に違うといっているのに。
また無人機に関して他国は5GHzを使っているのに、我が国だけ2.4GHzを使用しているのを改めるかと聞いても答えられない。
スキャンイーグルも自衛隊向けは2.4GHzにスペックダウンされているが、墜落事故がおきるのは周波数帯とは関係ない、プログラムの問題だと。
そしてイージス艦のイージスレーダーは沖合50海里に出ないと使用できないが、アショアでこれを使うこと、50海里内でイージス艦がこれを使うことは電波法違反ではないか。イエス・ノーで答えられる質問にも答えられない。
一体何のためのレクだったのでしょうか。こういう話ならばやらない方がお互い時間の無駄にならないと思います。
●消費増税で「国の借金が減る事はない」…“一人当たり983万円”語る実情 1/26
消費税の増税で「国の借金を減らす事はできない」
日本の莫大な財政赤字を解決するためには、正確にこの問題の本質を見抜き、財政再建のための明確な基準を設ける必要があります。しかし実際には、財務省や政治家にとって都合の良い話ほど世間では多く広まってしまうもので、なかなか問題の本質に迫るような議論が少ないのがこの日本の残念な実情です。
その中でもとりわけこれはひどいなと感じさせる話に、日本の借金の総額を国民一人当たりで割り、日本の借金の大きさを説明する話があります。
2021年2月11日の中部経済新聞の記事によれば、日本政府及び地方の借金は2020年12月の段階で1212兆4680億円にものぼり、国民一人当たりでは約983万円にもなるそうです。
確かにこの話は間違ってはいませんが、国や政府にかかわらず会社などの組織の悪化した財務内容を改善しようとするならば、このような見方ではけっして借金問題を改善できないばかりか、時として変な勘違いすら招きかねず、それによって間違った決定を下す事にもつながってしまいます。
まず、この話を聞いた時の私の第一印象は、「借金とは毎年少しずつ返済していき、いずれは残高をゼロにしなければならないもので、今後、国民一人当たりに1000万円近くもの負担を強いなければならないので、消費税の増税は必要な事なのだ」というものでした。
しかし残念ですが、こういった発想では、間違いなく国の借金が増える事はあっても、1円も減らす事はできません。
その証拠に、今まで政府は消費税率をたびたび上げ続けてきましたが、いまだ日本の財政は再建のメドすら立ってはいないのです。普通に考えても、国の税収が約65兆円ぽっちしかないのに、まともなやり方でこの莫大な借金を返済できるはずがありません。
では、日本の財政に対して、どういった捉え方(アプローチ)をすれば、現在の政府の財務内容を改善できるのでしょうか?
「国民一人いくらと計算しても全く意味がない」ワケ
現在の日本の借金は、確かに莫大な額なのですが、それはあくまで日本のGDPに対して比較するものです。GDPとは、端的にいうと企業経営でいう売上を指す言葉で、日本国内の企業や個人事業主が年間どれだけの売上を上げているのかの一つの指標と捉える事ができます。
また、GDPを国の売上と捉えるならば、反対に税収は国の粗利益(売上総利益)と捉える事もできます。つまり国の借金約1200兆円の多さは、あくまでこの国の売上であり借金の返済原資でもあるGDP約550兆円に対して比較するべきもので、国民一人いくらと計算しても全く意味がないのです。
例えば、ある人が100万円の借金があったとすると、その借金が多いか少ないかは、その人の所得によって変わります。月10万円しか給料がない人からすれば確かに100万円の借金は多いのですが、年収1億円稼ぐ人からすれば、100万円の借金など、さほどたいした問題ではありません。
つまり、私がいいたい事は、国の借金の多さがGDPと比較して決まるモノであるならば、日本のGDPを仮に倍に増やす事ができれば、借金は半分に減った事になるのではないのかという事です(ここには、莫大な国債の残高に対して1円の返済もしてはいません)。
そうすれば、現在の日本の国家予算(国の年間の支出)がおよそ160兆6000億円(2021年度予算)に対して税収が63兆円(2021年度推定)、それがGDPが倍になる事で、税収も倍になったと仮定すれば127兆円になり、これで国の借金問題は解決した事になるのです。
そうすれば、変に増税して国民の負担を増やす必要もなくなります。一番大切な事は、いかに借金を減らすかではなく、きちんとその借金を政府がコントロールできているのかどうかが問題なのです。
それを細かく数値で計算してみると、コロナ禍が起こる以前の2019年のデータから、コロナ禍後の日本政府の国家予算と税収を推測すると、国家予算が年間約103兆円に対し、税収は66兆円程度と予想する事ができます。
それに対して年間の国債発行額は、約37兆円で、そのうち約13〜15兆円が今までの債務の元本返済にあてられているので、今回の新型コロナウイルスのような問題がなければ、毎年約23兆円ほど国の借金は増えている計算になります。
「消費税を無理矢理増税した場合」の悪夢
また、年間の国家予算は正味で必要なのが、103兆円からこの元本返済を差し引いた90兆円前後と考える事もできます。
例えば、この23兆円の借金が、たとえ毎年増え続けたとしても、それに対するGDPが年率2.0%ずつ経済成長していく事ができるのであれば、国の借金のGDP比率は変わらず、国の借金は増えていない事になります。
また、日本のGDPが750兆円に達すると、税収が約90兆円になり余計な国債の発行が必要なくなり、これでも財政のバランスがとれた事になります。
反対に強引に財政の均衡を図ろうとして消費税を無理矢理増税した場合、これにより国債の残高を毎年減らす事がたとえできたとしても、消費税の増税によってその分GDPがマイナス成長し続ける事になれば、かえってGDP比率が悪化し借金は逆に増えてしまう場合もあるのです。
●防衛費財源は増税?国債? 渦巻く自民の党内論争 1/26
去年末、総理大臣・岸田文雄が自民党内にある根強い反対を押し切る形で一旦は決着した防衛費増額に伴う増税の方針。しかし、年が明け、くすぶった火種を再燃させるかのような新たな舞台が生まれた。通称「特命委」。立ち上げたのは、党政務調査会長で最大派閥・安倍派の萩生田光一だ。財源論が党内政局に発展するのか?議論の行方を取材した。
再燃 自民党内 財源論争
「国債に頼らず、責任を持って財源を確保しないといけない」(増税を容認する議員)
「国債のルールを見直して財源を確保すべきだ」(増税に否定的な議員)
1月24日、自民党本部で開かれた「防衛関係費の財源検討に関する特命委員会」の2回目の会合。政府の防衛費増額に伴う増税方針に容認・否定的それぞれの議員の間で激しい応酬が続いた。
党幹部が「ここは赤組、白組に分かれて党内を二分するような議論を行う場ではない」と発言し、冷静な議論を呼びかけたという。
「特命委」なぜ設置?
特命委で財源の議論が始まることになった背景には、自民党内にたまっている不満がある。
党内に防衛力の抜本強化に反対する意見はほとんど聞かれないが、増税で財源を賄うことへの反対が安倍派の議員を中心に根強い。増税を容認する議員の中でも、より丁寧な議論が必要だったという受け止めは多い。
政府・与党は去年末、防衛力強化のため、今後5年間で今の1.6倍にあたる総額43兆円の防衛予算を確保することを決めた。このうち、5年後の2027年度の予算は、9兆円程度に増え、増額分の4分の3は歳出削減や決算剰余金などで捻出し、残り4分の1=1兆円余りを増税で賄う方針だ。
萩生田は議論の目的について、1月19日の初会合でこう発言している。
「財源のうち、税については、税制調査会で一定の道筋をつけていただいたものの、その他の事項は、今なお党内にさまざまな意見がある。税以外の財源の具体的なあり方について丁寧に議論する」
萩生田は周辺に「税以外の4分の3が本当に賄えるか誰も検証していない。きちんとしておかないと増税が4分の1で済むかもわからない」と語っている。
4月には統一地方選挙に加え、衆議院の補欠選挙が複数行われるなか、税以外の4分の3の財源が本当に確保できるのか、積み増しをさらにできないのか、議論する姿勢を国民に見せなければならないという強い思いもある。
国債活用の余地はあるか
特命委で議論の焦点になるのが国債の活用だ。
発端は、去年4月の安倍派の会合だった。
生前の安倍元総理大臣が、防衛費増額の財源について「道路や橋を造る予算には建設国債が認められている。防衛予算は消耗費と言われているが間違いだ。まさに次の世代に祖国を残していく予算だ」と述べ、国債の活用を提起した。
このおよそ8か月後の去年12月11日。
安倍派有力議員の1人で、政務調査会長となった萩生田は訪問先の台湾での講演で、国債活用の一環として、償還ルールの変更に言及した。
「場合によっては、国債償還の60年ルールを見直して、償還費をまわすことも検討に値する」
安倍氏が重視した台湾で、防衛費の財源として国債活用に触れた萩生田。その遺志を受け継ぐ姿勢を示したとも受け取られた。
萩生田が言及した「60年ルール」は次のようなものだ。
政府発行の国債は、満期が来た時に1度に全額「償還」=返済することは難しいので、新たな国債である「借換債」を発行して少しずつ返済していく。
国債を全額返済するまでの期間を60年に設定し、毎年度の予算でおよそ60分の1にあたる1.6%を債務の償還にあてている。
萩生田の考えは、このルールを見直し、60年となっている償還期間を延長して、単年度で償還に充てる費用を減らし、防衛力強化の財源に回すことを検討してみてはどうかということだ。
新年度=令和5年度予算案では、債務償還費は16兆7000億円程度。仮に償還期間をさらに20年延ばし、80年にすると償還費は12兆円余りとなり単年度では4兆円程度が圧縮される。
ただ、単年度で減った償還費を別の目的で使えばその穴埋めはしなければならず、「借換債」を発行する期間が長くなることで利払いが増え、国債全体の残高が膨らむことになる。国債の金利も上がることが懸念される。
“かさぶた”剥がす議論
萩生田と同じく安倍派有力議員の1人、官房長官の松野博一は記者会見で「60年償還ルールが市場の信認の基礎として定着している現状を踏まえれば、財政に対する市場の信認を損ねかねないといった論点がある」と指摘。
岸田は、萩生田が特命委で財源の議論を行うことは認めているが、国債を活用することには否定的な考えを示している。
「将来の世代に先送りすることなく、いまを生きるわれわれが将来世代への責任として対応していく」
ある政府関係者も「国債のルールを変更することは難しいと思う。そもそも『国債を使わない』ということには、総理の並々ならぬ思いがある」と漏らす。
政府・与党内では、特命委の議論をきっかけに、決着がついたはずの増税の党内議論が再び激しくなるのではないかと警戒する声が出ている。
「去年あれだけ議論したのに、税以外の財源を検討すると言いながら、かさぶたを剥がすような行為にならないか心配だ」(閣僚経験者)
「これで国債で対応します、となったら『税でやる』と言った総理の顔が立たない」(政権幹部)
安倍派の主導権争いか
一方で、増税に反対する議員は安倍派に多くいることから、安倍氏亡きあと、後継の派閥会長を選出できない安倍派の主導権争いに、議論が使われているという冷めた見方も広がっている。
「発言したい人は特に安倍派の若手に多い訳だから、議論の場を設ければ萩生田さんの求心力につながる」(閣僚経験者)
「安倍さんの国債発言に引っ張られすぎているんじゃないか。安倍さんは観測気球をポーンと打ち上げて落とすところを見つけるのが得意だったけど、今はそれをやる人がいない」(党執行部経験者)
落としどころは…
初会合で萩生田は「防衛力強化の取り組みが絵に描いた餅にならないよう責任ある議論を行っていきたい」と強調した。
自ら立ち上げた特命委の議論をまとめられるのか。
増税以外の財源の上積みを図り、増税幅の圧縮まで踏み込んだ結果を出せるのか。
党の政策責任者として、また安倍氏の後継をうかがう有力議員として、党内は萩生田のその手腕を見ている。
●代表質問始まる 苦境に寄り添う論戦を  1/26
岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が衆院で始まった。安全保障や原発を巡る政策転換に加え、物価高や賃上げ、少子高齢化など議論すべき課題は多岐にわたる。国民の苦境に寄り添い、命と暮らしを守るための建設的な論戦を望みたい。
冒頭質問に立った立憲民主党の泉健太代表=写真=は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費増額を盛り込んだ国家安保戦略について、価値観の違う国とも相互理解を育む外交の姿が見えないと指摘し、修正を促した。
これに対し、首相は「現実的な外交を行う」と修正を拒否。泉氏は防衛増税を行う前に、衆院解散・総選挙で国民に信を問うことも求めたが、首相は「適切に判断する」と取り合わなかった。
敵基地攻撃は国際法違反の先制攻撃につながるとの懸念にも、首相は「国際法の順守は当然の前提だ」と述べるにとどめた。
安保を巡る昨年十二月の政策転換は、国会審議や国民の間での幅広い議論を経ず、首相の意向で短期間で決めたものだ。「聞く力」を掲げながら、野党の提案や主張を一顧だにしないとは、とても誠実な政治姿勢とは言えない。
賃上げを巡って、泉氏は中小企業の七割以上が「賃上げの予定なし」と答えた城南信用金庫(東京都品川区)と東京新聞(中日新聞東京本社)のアンケートに触れ、価格転嫁への支援強化を求めた。
しかし、首相は現在の取り組みを列挙するだけで、材料費や人件費の上昇分を価格に上乗せできない中小企業の苦境を理解しているのか疑わしい。
少子化対策も同様だった。
泉氏だけでなく、自民党の茂木敏充幹事長も児童手当の所得制限撤廃を提言したが、首相は答弁を避けた。子ども予算倍増に向けた大枠を六月までに提示する方針を繰り返すにとどめ、具体策や財源には言及しなかった。
国会論戦を経て政策を磨くのが議会制民主主義のあるべき姿だ。首相をはじめ政府側は、国民にとってより良い政策となるよう、厳しい質問や指摘、提言にも謙虚に耳を傾けるべきである。
●代表質問始まる 暮らし守る知恵集めよ  1/26
岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が始まった。ロシアによるウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぐ中、物価高でも賃金は上がらず、少子高齢化も進む「危機」にどう立ち向かうのか。国民の安全と暮らしを守る知恵を与野党で競う論戦を望みたい。
衆院代表質問では、首相が国会審議を経ずに表明した防衛増税のほか、賃上げや少子化対策が主な論点になった。だが、首相は立憲民主党の泉健太代表らの批判を受け流し、施政方針演説をなぞる答弁に終始した。
泉氏は防衛費増額を盛り込んだ国家安全保障戦略について、価値観の違う国とも相互理解を育む外交の姿が見えないと指摘し、修正を促した。首相は「現実的な外交を行っていく」と修正を拒んだ。
防衛増税の方針を巡っては、泉氏は衆院解散・総選挙で国民の信を問うよう求めたが、首相は「適切に判断する」と取り合わなかった。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は国際法違反の先制攻撃につながるとの懸念に対しても、首相は「国際法の順守は当然の前提だ」と述べるにとどめた。
賃上げに関しては、泉氏は中小企業の七割以上が「賃上げの予定なし」と答えた城南信用金庫(東京都品川区)と本紙のアンケートに触れ、価格転嫁支援の強化を求めた。首相は現在の取り組みを列挙し、材料費や人件費の上昇分を価格に上乗せできない中小企業の苦境に寄り添う言葉はなかった。
少子化対策では、首相は子ども予算倍増に向けた大枠を六月までに提示する方針を繰り返し、具体策や財源に言及しなかった。泉氏に加え、自民党の茂木敏充幹事長も児童手当の所得制限撤廃を提言したが、首相は答弁を避けた。
国会論戦を経て政府の政策を磨き上げるのが、議会制民主主義のあるべき姿である。首相が国会論戦を自身の決断を追認する手続きだと考えているのなら、危機を乗り越える英知は結集できまい。
来週には衆院予算委員会で本格論戦が始まる。野党には政府方針の問題点や矛盾をあぶり出す質問を期待したい。政府も建設的な批判に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。
●国会代表質問 求められる誠実な答弁 1/26
岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が衆院本会議で始まった。安全保障政策の大転換や防衛費大幅増額、次元の異なる少子化対策などは国会で議論を尽くすべき重要な焦点だ。岸田首相には国民負担に関わることでも正面から伝える誠実な答弁を求めたい。
立憲民主党の泉健太代表は防衛費増額や増税方針を国会での議論を経ない「乱暴な決定」と非難した。増額は反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有する安保政策大転換と共に臨時国会閉会後の昨年12月に閣議決定。これでは国会軽視が甚だしい。
岸田首相は防衛費増額について防衛力抜本強化の必要性を強調した。「ミサイル発射に着手した段階での発動は先制攻撃にならざるを得ない」と批判された反撃能力を「抑止力として不可欠」と従来説明を繰り返し、議論は深まらなかった。
前日の参院本会議では防衛力増強方針について「先進7カ国(G7)首脳から前向きな反応を得た」と説明していた。国会より先に外遊先で報告するのは既成事実化が狙いなのか。評価を誇らしげに語るのではなく、まず国会で説明するのが筋だ。
2027年度まで5年間の防衛費増額は、なぜ約43兆円まで膨らんだのか。理由すら詳しく説明されていない。その内容をまず国会で明らかにする必要があろう。その上で増税を含む財源についてもしっかり議論しなくてはならない。
年頭記者会見で岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」は23年度予算から増額が始まる防衛費とはスピード感が全く異なる。具体的な内容はおろか、実施時期、財源なども明らかとなっていない。
はっきりしているのは子ども・子育て予算の「将来的な倍増」という大枠のみだ。代表質問で野党側が「中身も財源も全く白紙。今国会で示すべきだ」と批判したのは当然だろう。
22年に生まれた子どもの数は初の80万人割れとみられる。加速する少子化の深刻さは今更言うまでもない。歴代政権が対策に取り組んできたが、事態は一向に改善できなかった。
野党側が指摘したように過去の対策がなぜ成果を上げられなかったのかという検証をまず急ぐべきだ。与野党が国会論議でより効果が期待できる対策を打ち出し、安定した財源を確保することが求められる。
4月の統一地方選や衆院補欠選挙をにらみ、増税など国民負担に関わる問題には与野党とも慎重な姿勢だ。ただ財源を明確にしない姿勢や国債頼みでは無責任。将来を担う世代への負担先送りになってしまうからだ。
財政赤字が続き、長期債務残高は1千兆円を超えた。防衛費、子育て予算の倍増が困難なら見直しも必要ではないか。
若者が自らや家族、国の未来にどうしたら希望を抱けるのか。国の針路を定める政治が果たす責任は実に重い。
●児童手当の所得制限撤廃、支給期間延長… はぐらかす岸田首相  1/26
衆院本会議で25日に行われた各党代表質問で、本格論戦の幕が開いた。野党第1党の立憲民主党は泉健太代表らが登壇し、焦点の一つである子ども・子育て政策に照準を合わせたが、岸田文雄首相は将来的な予算倍増を掲げながら、具体的な説明を避ける姿勢に終始。少子化を「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況」と位置づけたが、言質を与えない安全運転に徹した。
「異次元の説明不足」
「子ども予算倍増は、立憲民主党が何年も前から提案していた。(政府の取り組みは)遅過ぎるぐらいだが『異次元』ではなく『最低限』の少子化対策だ」
泉氏は、施政方針演説で「次元の異なる少子化対策」を打ち出した首相にそう説くと、児童手当の所得制限撤廃や支給期間の高校生までの延長など、独自政策の受け入れを迫った。
首相は正面から答えず「まずはこども政策担当相のもとで、社会に必要とされる子ども・子育て政策の内容を具体化する」と繰り返すばかり。出産した親が育児休業を取得すると、保育園に通うきょうだいも自宅で育てるよう促される「育休退園」の改善に関しては「各市町村で適切に対応してほしい」と受け流した。
質問を終えた泉氏は記者団に「決めたことは『もう決めた』、決めていないことは『まだ言えない』では答弁になっていない。異次元の説明不足、はぐらかしと感じた」と批判した。
「子ども政策後回し政権」
具体的な説明を避ける首相の姿勢は、子ども政策の拡充より防衛力強化を優先させていることを際立たせた。今国会には防衛費を大幅に増やした2023年度予算案や、防衛財源確保のための法案が提出され、首相も必要性を雄弁に訴えているからだ。
立民の大築紅葉氏は、政府が6月にまとめる経済財政運営の指針「骨太方針」で少子化対策を具体化すると説明していることを指して「のんびりし過ぎている」と追及。「岸田政権は、子ども政策後回し政権だ。口先だけ『子どもファースト』『少子化対策は最重要政策』と言うのは、逆に政策軽視のあらわれだ」と断じたが、首相が挑発に乗ることはなかった。
「時代のニーズ考えて」
ただ、子ども政策で変化の兆しもあった。自民党の茂木敏充幹事長の質問だ。
「子育てに対する経済的支援の抜本的拡充の要となる児童手当は『全ての子どもの育ちを支える』観点から、所得制限を撤廃すべきだ」。そう言い切ると、議場はどよめきに包まれた。自民党は所得制限にこだわってきた張本人で、背景に子育てを担うのは社会全体ではなく家庭だという保守的な考え方があるからだ。
所得制限は1972年の児童手当創設時から導入され、旧民主党政権下の2010年度に子ども手当に切り替わった際、廃止された。その後、参院で野党が多数を握るねじれ国会になり、野党第1党だった自民党の要求で復活した経緯がある。
自民党が「宗旨変え」したことで、所得制限撤廃という主張は事実上、与野党の共通認識になった。茂木氏は記者団に「必要な政策は常に見直し、時代のニーズも考えなければいけない」と強調した。
●防衛増税や解散 野党追及をかわす首相 片道通行の本会議質問に限界 1/26
「額ありき 増税ありき 議論なし」。25日の衆院代表質問で立憲民主党の泉健太代表は、防衛費倍増方針を巡る岸田文雄首相の姿勢を川柳風に皮肉った。「増税するなら明言し、解散総選挙で信を問え」と首相に迫ったが、増税については「まずは行財政改革の努力を最大限行う」との入り口論、解散については「何についてどのように信を問うのかは時の総理の専権事項」との一般論でかわされた。「質問1回、答弁1回」という片道通行の本会議質問の限界が露呈した。 
首相はこの日の答弁で総枠論を持ち出し、防衛費への復興特別所得税の充当について「(復興特別所得税の)課税期間は延ばしたが税率は落としている」などと強調。安倍晋三元首相の経済施策「アベノミクス」を巡る「1人当たりの賃金は伸びていない。失敗ではないか」との追及には「賃金全体は増えた。女性や高齢者の就労が広がった」と回答。分母が増え、1人当たりの賃金が頭打ちとなったとの見解で反論した。
防衛増税の可能性については自民党の茂木敏充幹事長からも「財源策は重要」として確認があった。首相は行財政改革の実施に言及した上で「それでも足りない分は令和9(2027)年度に向けて将来世代への責任として対応していく」と付言するにとどめ、野党からは「増税隠し」とやじが飛んだ。
●反撃能力「専守防衛逸脱せず」岸田首相、別姓制度に慎重―参院代表質問 1/26
岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が26日午前、参院本会議でも始まった。首相は安全保障関連3文書の改定で明記された反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有について「弾道ミサイルなどの攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛措置として行使する」と説明。「専守防衛から逸脱するものではない」と強調した。
首相は「自衛隊の抑止力・対処力を向上させることで、(日本への)武力攻撃の可能性を低下させることが重要だ」と述べ、抜本的な防衛力強化の必要性を唱えた。
政権の最重要政策と位置付ける少子化対策に関し、首相は6月の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に一定の方向性を盛り込む考えを示した。「骨太方針までに将来的な予算倍増に向けた大枠を提示する」と述べた。
結婚する際に同姓か別姓かを選ぶ選択的夫婦別姓制度の導入については、「より幅広い国民の理解を得る必要がある」と慎重な姿勢を示した。いずれも立憲民主党の水岡俊一参院議員会長への答弁。
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けや医療への公費負担の在り方に関しては「見直しのスケジュールなどを早期にお示しする」と述べた。自民党の山本順三氏への答弁。
午後は衆院本会議で2日目の代表質問が行われる。
●参院代表質問 “反撃能力” “日本学術会議”などめぐり論戦  1/26
国会は、26日から参議院本会議で岸田総理大臣の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まり、「反撃能力」の保有の是非や日本学術会議の組織の在り方などをめぐって論戦が交わされました。
立憲民主党の水岡参議院議員会長は、防衛力の抜本的強化をめぐり、「『反撃能力』の保有や大幅な防衛予算増額などをうたいながら『専守防衛の堅持』などと言うのは矛盾ではないか。重大な安全保障政策の転換について国会に詳しく説明せず、議論する場を設けず閣議決定し、広く公表したのはなぜか」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「わが国の安全保障政策の大転換だと考えているが、あくまで憲法や国際法の範囲内で行うものだ。反撃能力は、弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力行使の3要件に基づき必要最小限度の自衛の措置として行使するものであり、専守防衛から逸脱するものではない。政府・与党の議論の進め方に問題があったとは考えてはおらず、与野党との活発な国会論戦を行っていく」と述べました。
また水岡氏は、日本学術会議の組織の在り方の見直しをめぐり、「日本学術会議法には会議の『独立性』が明記されており、政府の有識者会議や諮問会議ではない。政府などと問題意識や時間軸を常に共有する必要はなく、時には異なる目線で課題を提起する必要がある」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「問題意識などの共有とは政府との結論の共有を求めるものではない。一方で政府などへの科学的助言を行うことを役割として国費が投入される機関である以上は、受け手側の問題意識や時間軸などを十分に踏まえながら審議などを行っていただく必要がある。国民から理解され信頼される存在であり続けるためには、徹底した透明化やガバナンス機能の強化が必要だ」と述べました。
一方、岸田総理大臣は少子化対策に関連して「選択的夫婦別姓制度の導入については国民の間にさまざまな意見があることからしっかりと議論し、より幅広い国民の理解を得る必要がある。同性婚についてはわが国の家族の在り方の根幹にかかわる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と述べました。
自民党の山本元国家公安委員長は、G7広島サミットについて「ロシアの言動により核兵器をめぐる深刻な懸念が高まるなど厳しい安全保障環境という現実の中で、核兵器のない世界という理想を実現していかなければならない。G7広島サミットに向けた取り組みについて伺う」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「G7広島サミットでは広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは決して許されないとのメッセージを力強く世界に発信するとともに、広島アクションプランをはじめ国際賢人会議の英知も得ながら現実的かつ実践的な取り組みを進めていく」と述べました。
また山本氏は、賃上げをめぐり「この物価上昇局面で経済を前向きに転がすには個人消費を冷え込ませないことが大切で、そのカギは賃金の上昇だ。速やかな賃金上昇、そして中長期的には成長産業ヘの労働移動による構造的な賃上げをどう進めていくか」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「目下の物価高に対する最大の処方箋は賃上げであり、春の賃上げ交渉に向け、価格転嫁対策の強化や賃上げ税制など政策を総動員して環境整備に取り組む。そのうえで構造的な賃上げの実現に向け、企業間や産業間の労働移動の円滑化などに対する支援として5年間で1兆円の政策パッケージを着実に実行していく」と応じました。
●衆参で論戦スタート 国会は事後報告の場か 1/26
岸田文雄首相の施政方針演説に対する代表質問と決算審議で衆参両院の論戦がスタートした。野党は国会閉会中に防衛費大幅増、次世代型原発への建て替え方針など重要政策を相次ぎ決定した首相を「乱暴だ」と批判。首相は「問題ない」として正面から答えなかった。国会は首相の「決断」の事後報告を聞くだけの場ではない。国民の代表である議員の幅広い意見を政治に生かすのが国会のはずだ。
首相は先の演説で「決断した政府方針について国会で正々堂々の議論をし実行に移す」と訴えた。「決定済み」ではなく議論の結果、野党に理があれば修正にも応じるような姿勢で臨み実りある国会にしてほしい。
政府は昨年12月、「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定し防衛力強化へ踏み出した。反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有。2027年度に国内総生産(GDP)比2%の防衛費を実現し、約4兆円の追加財源のうち約1兆円は増税で賄う―。これらは平和憲法の専守防衛の原則を踏み越える「大転換」だ。
岸田政権は21年秋の発足直後から政府与党でこれらの検討を進めてきた。首相は「議院内閣制では政権与党が国政を預かっている」と答弁。政府与党で方針を決めた後に国会や国民に説明する手続きが妥当と主張した。原則的には正しい。しかし首相はこの間、水面下の検討に気をもむ国会や国民にどう向き合ってきたか。その姿勢に問題があったと指摘したい。
安保3文書決定の直前まで、国会で野党が何度聞いても首相は「あらゆる選択肢を排除せず年末までに結論を出す」と「検討中」を盾に議論に応じなかった。21年秋の衆院選、22年夏の参院選と2度も国政選挙に臨みながら、防衛力強化のため増税まで求めることに国民の信は問わなかった。
首相が年初に訪米しバイデン大統領に決定内容を伝えたことを野党が「順序が逆だ」とただしたのも当然だ。首相の「日本の現状を説明した」は全く釈明になっていない。「戦後最も厳しい安保環境に直面している。防衛力強化はシーレーン(海上交通路)確保に資する」も反撃能力保有、防衛費倍増まで進める理由には到底足りない。
原発政策の転換も全く同じ道をたどってきた。次世代革新炉への建て替えや、原発運転期間の60年超への延長を政府は国会閉会中の昨年8月に表明。首相はそれまで「現時点で想定していない」と言い続け、直前の参院選の公約にもなかった。
野党は「国会にも諮らない原発依存回帰は到底認められない」と厳しく追及。これに対して首相は、ロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー危機を強調しつつ、またもや「政府与党で1年以上議論し、進め方に問題はない。国会論戦を通じて国民へ説明する」と防衛費問題と同じ答弁を繰り返した。説明を尽くし理解を得たいという誠実な姿勢に欠ける。
ほかにも首相は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを「5類」に引き下げる方針も閉会中に決定。自ら約束した「子ども予算倍増」の財源確保策については、国会が閉じる今夏まで決着を先送りした。いずれも野党の追及をかわしたい「国会迂回(うかい)」と取られても仕方あるまい。今後の予算委員会審議では、国民が納得できる、中身がある論戦を求めたい。  
●防衛力よりいのちとくらしを最優先で 1/26
1月23日、第211回通常国会が召集された。物価高、少子化対策、安全保障、新型コロナウイルス対策など多岐にわたる論点がある。とくに昨年末には安保三文書の閣議決定や、原発政策の大転換など重大な政策転換が相次いだ。いずれも、国会での議論も経ておらず、徹底した審議を求めたい。介護保険法改悪やコロナ5類移行問題、入管難民法など、他にも重要案件も目白押しだ。
国会開会初日の所信表明で、岸田首相は安保3文書の改定と防衛費大幅増を「日本の安全保障政策の大転換」と認めつつ、「憲法・国際法の範囲内で行なうものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としてのわが国の歩みを、いささかも変えるものではない」と言い放った。詭弁(きべん)を弄(ろう)するにもいい加減にしてほしい。これまで政府は「憲法上の制約から他国に侵略的な脅威を与える武器は保持しない」ことをもって「専守防衛」としてきたはずだ。
今国会には防衛産業の国有化に道を開く「防衛産業強化法案」、学術研究の軍事化につながりかねない「日本学術会議法改正案」なども上程が予定される。日本の社会や経済・教育などを丸ごと軍事化することにもなりかねない。
老朽原発の60年越えの運転を可能とする「原子炉等規制法改正」も予定されている。原発の次世代革新炉への建て替えや運転期間の延長など、3・11以降の原発政策が大転換される。
首相は、少子化が「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」として、「異次元の少子化対策」を打ち出したが、「こども・子育て予算倍増」の方はかけ声だけで、中身は見えない。
「新しい資本主義」に関しても、「物価上昇を超える賃上げ」「日本型の職務給の確立」「成長分野への労働移動」「資産所得倍増」など、空疎な言葉が踊るだけだ。
安保政策の転換や原発推進には増税までして膨大な予算を張り付け、多くの法改正を予定しながら、子育て予算や国民生活に直結する政策に関してはスローガンにとどまっている。いのちやくらしを軽視し防衛費ばかりが膨張している。
物価高騰と生活困窮で苦しむ国民・市民に寄り添う政策と、統一教会と政治の関係解明など、政治への不信の払拭(ふっしょく)が必要だ。時代の変わり目となる重要な国会となる。未来に悔いを残さない国会とできるよう、社民党も全力で取り組む決意だ。
●施政方針演説に対する代表質問 玉木雄一郎(国民民主党・無所属クラブ) 1/26
今年こそ「賃上げ“実現“国会」に
国民民主党代表の玉木雄一郎です。昨年の代表質問で私は議場の皆さんに、この国会を「賃上げ国会」にしようと呼びかけました。あれから一年、国民民主党は、今年の通常国会こそ「賃上げ“実現“国会」にしようと改めて訴えます。米国でも欧州でも韓国でも賃金が上がっています。なのに日本だけ25年以上賃金が上がっていません。国民民主党は、この賃金デフレこそが日本経済の最大かつ本質的な課題と考え「給料が上がる経済の実現」を公約として訴え続けてきました。そして、昨年2月のロシアのウクライナ侵略以降、原油価格高騰などにより30年ぶりの物価高となっています。であれば、賃金も30年ぶりの上昇にしないと国民の生活は苦しくなるばかりです。賃金が上がらないと消費も落ち込み、年金も上がりません。「結局、問題は賃金なのです。」だからこそ、労使のみならず政府もあらゆる政策を動員して賃上げの流れを支援すべきです。もはや賃上げは、単なる個別企業の労使交渉という枠を超えた日本経済最大の課題なのです。
「賃上げ」の基本認識
まず、賃上げの必要性について岸田総理の基本認識を伺います。総理のいう「構造的賃上げ」は重要ですが、あくまで中期的な目標です。問われているのは今年の賃上げです。今年の賃上げを実現するために、総理は何をするのか、特に、企業の9割を占める中小企業、とりわけ労働組合のない中小企業の賃上げをどのように実現するのか、また、非正規労働者や派遣社員の賃金をどう上げるつもりか、具体的にお答えください。加えて、賃上げのためには、適正な価格転嫁が必要ですが、下請けや中小企業はなかなか価格転嫁ができません。価格転嫁をどのように円滑に進めるのか。また、価格転嫁によって懸念される家計の消費減少対策をどう考えているのか、その具体策を総理に伺います。
「政労使会議」を今すぐ開催
今週月曜に経団連の会長と連合の会長が会談しました。日本にしみついたデフレマインドを払拭するために賃上げが必要との認識で一致したそうです。ここに政府のトップである総理もコミットすべきです。労働組合のない企業も含め、物価上昇を上回る賃上げが必要とのメッセージを目に見える形で打ち出すことが重要です。そのため、政府・労働界・経済界の代表が一堂に集う「政労使会議」を、岸田総理が呼びかけて、今こそ開催しませんか。国民民主党としても、賃上げに向け政治が取り組むべき以下10の政策を具体的に提案します。
新「アコード」には名目賃金上昇率目標を
まず、金融政策について。岸田総理は、黒田総裁の後任総裁の下で金融政策を変更すべきと考えていますか。民間銀行の住宅ローンの固定金利は既に上昇しており、急に金融を引き締めると、民間の投資と消費を冷やし賃上げの妨げになります。金融政策の変更に当たっては、雇用や名目賃金上昇率に十分配慮すべきです。国民民主党は、政府と日銀で合意する新たな協定「アコード」に、名目賃金上昇率5%程度の目標を掲げるべきと考えますが、総理の見解を伺います。
今は増税の時期ではない
財政政策についても、雇用や賃金上昇率に十分配慮して決定する必要があります。国民民主党は、名目賃金上昇率が安定的に5%程度を超えるまで、財政の引き締め、とりわけ増税は行うべきではないとの立場です。たとえ将来のことであっても、現時点で増税の話を持ち出すことは賃上げにマイナスの影響を与えることになります。増税議論の賃上げへの影響について、総理はどう考えていますか。また、増税を決めた場合には、その実施の前に選挙で民意を問うのが筋だと考えますが、併せて伺います。
電気代のさらなる値下げ
電力各社の発表によれば、4月から電気代が3〜4割上がる見込みです。電気代高騰に苦しむ学生や、8割節電したのに電気代は4割も増えた中小企業など、悲鳴のような声がネットにも溢れています。政府の支援策で下がるのは約2割なので、4月以降は電気代が差し引き1〜2割上がります。賃上げの原資を確保し、また、価格転嫁の家計への影響を和らげるためにも、電気代をさらに値下げすべきと考えます。予備費を活用し、燃料費調整の深掘りや再エネ賦課金の徴収停止などで、さらに1割程度電気代を引き下げませんか。総理の見解を伺います。
特別高圧の電気代値下げ
クリーンルームがある半導体製造拠点や電炉のある事業所、また大型ショッピングモールなど、大量の電力を消費する工場や事業所は、2万ボルト以上の特別高圧の電力を利用していますが、特別高圧は政府の支援策の対象外となっています。中には、10億円単位で電気代がアップするところもあり、賃上げの原資が電気代に消え賃上げを困難にしています。予備費を活用して、特別高圧も電気代値下げの対象に追加しませんか。総理の決断を求めます。
賃上げはエネルギーの安定供給が大前提
我が国の化石燃料依存度が8割を超え、そのほとんどを輸入に依存している現状は、エネルギー安全保障上、極めて脆弱です。昨年の貿易収支は過去最大の約20兆円の赤字。多額の富が国外に流出し賃上げに回らないのも、化石燃料の大量輸入が大きな原因です。持続的な賃上げの実現にとっても、エネルギー安全保障と電力の安定供給が大前提と考えますが、総理の基本認識を伺います。また、電力需給ひっ迫の改善と電気代を下げるためには、原子力発電所の早期再稼働が必要です。とりわけ東日本における安価で安定した電力供給のためには、柏崎刈羽原発の再稼働が急がれます。そのために国が全面に出て具体的にどのような役割を果たすのか、総理の見解を伺います。
電力システム改革・電力自由化の検証
資源価格高騰により、電力自由化によって参入した新電力の撤退が相次ぎ、電力会社との契約ができない「電力難民」が続出しました。また、政府は、火力から再エネに電力システムを構造転換すると言ってきましたが、いま綱渡りの電力需給を支えているのは老朽化した火力です。電力システム改革は有事への備えを想定していたのか、自由化で本当に電気代は安くなったのかなどを検証し、電力の安定供給の観点から必要な見直しを行うべきです。また、供給力確保義務の徹底など、新電力への適切な事業規律の確保が必要と考えますが、総理の見解を伺います。
「インフレ手当」支給
民間企業の中には独自に「インフレ手当」を支給するところも出てきていますが、これは本来国がやるべき対策です。国民民主党は参院選公約で一律10万円の「インフレ手当」給付を訴えましたが、物価上昇による消費減少対策として、また、企業の賃上げ原資確保のためにも、国が「インフレ手当」を支給すべきです。なお、電子マネーやQRコード決済などキャッシュレスを活用し、期限付きポイントで給付すれば、貯蓄に回ることもなく、地域の消費活性化効果もより高まります。総理、いかがでしょうか。
消費税減税と社会保険料減免
賃金が上がっても、税金や保険料が高くて手取りが増えないとの声も多く聞きます。物価の上昇は、事実上、消費税率アップと同じ効果を生み出します。実際、消費税収は増えています。名目賃金上昇率が5%程度に達するまでの間、消費税を減税してはどうですか。また、正社員を雇ったり、非正規社員を正社員化した場合に、事業主が負担する社会保険料の減免措置を講じるべきと考えますが、総理の見解を伺います。
保育士、介護士、教員、公務員の給料アップ
国が賃上げを主導するのであれば、まずは、公定価格である保育士や介護士の待遇をさらに改善し、公務員の給料も上げてはどうでしょうか。また、公立学校の先生が置かれている状況はさらに厳しく、給特法という法律によって給料の4%分が上乗せされる代わりに時間外勤務手当がもらえない仕組みとなっています。総理は給特法を見直す必要があるとお考えなのか、お答えください。
製薬業界の賃上げのために薬価の毎年改定見直しを
総理も施政方針演説でエーザイの認知症治療薬を絶賛されました。しかし、毎年薬価を引き下げていく今の仕組みのままでは、国内で優れた新薬が出ててこなくなる可能性があります。また、薬の原材料価格も高騰する中、流通も含めて製薬業界は厳しい状況に直面しており、今のままでは賃上げは難しい状況です。製薬業界での賃上げを促すためにも、薬価の毎年改定は見直すべきではないですか。総理の見解を伺います。
「年収の壁」の見直し
昨年の臨時国会の代表質問でも見直しを提案した、年収103万円、130万円などの「年収の壁」について、総理が施政方針演説で制度の見直しを明言されたことは評価します。では具体的にどう見直すのか、配偶者扶養控除の廃止も含めて考えているのか、分かりやすくお答えください。
異次元の少子化対策とは
次に、「異次元の少子化対策」について伺います。総理、新しい政策に取り組む前に、まず、これまでの少子化対策は何が間違っていたのか、何が成功したのかを検証すべきではありませんか。また、兵庫県明石市による医療費や給食費などの「5つの無料化」政策は、10年連続人口増加などの実績を出しており、まずこうした政策を、国が全国一律で行うべきです。住んでる自治体によって子育て支援を受けられたり受けられなかったりする「自治体ガチャ」のような状況は、速やかに改善すべきです。
子育て支援策の所得制限撤廃
総理、ある人からこんな相談がありました。「会社から部長への昇格を打診されているが、子育て支援に所得制限があって子ども4人を大学に入れられなくから保留している」と。賃上げが実現したと思ったら、所得制限に引っかかって子育て・教育支援から外れる人が増える。これは総理が目指す方向と矛盾するのではないですか。国民民主党は昨年「所得制限撤廃法案」を国会に提出しました。総理、まずは、児童手当など子育て・教育施策の所得制限撤廃を決断しませんか。賃上げと所得制限撤廃は同時に実現すべき政策です。
障害児福祉の所得制限撤廃
国民民主党は、来週にも、障害児福祉の所得制限撤廃法案を追加で提出します。子育て施策のうち、障害児の特別児童扶養手当など障害児福祉の所得制限は真っ先に撤廃すべきです。総理、せめて障害児福祉の所得制限の撤廃を決断しませんか。政治の責任で、すべての子どもたちが安心して生きていける希望を作り出そうではありませんか。
年少扶養控除の復活
岸田総理、自民党が野党時代の公約に書いた年少扶養控除の復活はしないのですか。民主党政権が子ども手当を導入した際「控除から手当へ」ということで年少扶養控除は廃止されましたが、昨年10月に61万人の子どもに対する特例給付も廃止されました。370億円の財源が浮きましたが、控除も給付もなくなり、まさに「子育て罰」という状況です。せめて年少扶養控除だけでも復活すべきではありませんか。財源もあります。「相続人なき遺産として国に帰属したお金」は、昨年度647億円に達し10年で倍増しています。こうした資金を財源として活用すればすぐにできます。
N分のN乗による多子支援の導入
国民民主党は、フランスの例を参考に、いわゆる「N分N乗方式」の導入を提案しています。昨日、茂木幹事長も言及されましたが、子どもの数が多ければ多いほど世帯全体の所得税の負担が少なくなる、この「N分のN乗方式」の導入を、政府としても検討すべきと考えますが、総理の見解を伺います。
給付型奨学金の対象拡大
先の臨時国会で「外国人留学生の支援もいいが、日本人の学生をもっと助けて欲しい」という学生の声を紹介して質問したところ、総理は「学生への経済的支援の充実を進めてまいりたい」と答弁されました。しかし、文科省の有識者会議は、給付型奨学金の対象拡大を「3人以上の子どものいる多子世帯や理系だけ」に限定する報告書をまとめました。年収要件などをもっと幅広く緩和し、次元の異なるレベルに対象を拡大すべきではないでしょうか。
「教育国債」発行による予算倍増
「異次元の少子化対策」というのであれば、予算倍増の財源調達手段にこそ、従来とは次元の異なる新しい発想を採り入れるべきです。国民民主党は、教育・科学技術など人的資本形成に資する予算には「教育国債」という新たな国債を充てることを提案し、法案も提出しました。まずは、出世払い型の奨学金などの財源として「教育国債」を発行し、家庭の経済事情に関係なく大学や大学院に無償で通えるようにすべきです。総理、ぜひ前向きに検討していただけませんか。国民民主党は協力します。
イージス・システム搭載艦などの歳出見直し
国民民主党は、必要な防衛費の増額には賛成ですが、「イージス・システム搭載艦」については、その有用性を厳しく検証すべきとの立場です。もともと海上自衛隊の負担を減らすためにイージス・アショアを陸上に配備するはずが、導入をめぐるドタバタでまた海に戻ることになりました。海上自衛隊の負担はかえって増えることが予想されます。迎撃能力にも疑問の残るイージス・システム搭載艦について有用性を厳格に検証すれば、必要な防衛費をもっと圧縮できるはずです。
外為特会の積極活用
国民民主党は、外為特会の運用益の活用を繰り返し提案してきたので、防衛費増額の財源の一部として活用することになったことは評価をしますが、まだ不十分です。変動為替相場制のもとで、為替介入のためだけに150兆円を超える多額の外貨資産を保有する必要性は乏しくなっています。むしろ、外為特会は、安定財源確保と戦略的投資のための国家ファンドに生まれ変わるべきです。資産サイドの運用を多様化、高度化すればシンガポールの国家ファンド「テマセク」並の年率7%程度の高いリターンも可能です。3兆円程度の毎年の剰余金を7〜8兆円程度に倍増させることも可能です。国こそ「資産運用収入そのものの倍増」を実現すべきです。総理の見解を伺います。
Web3.0推進で所得税増収
日本では暗号資産の売買益に雑所得として最高55%の税率が課せられるため、多くの富裕層が海外に暗号資産を移転しています。今、ビットコインやアルトコインなど暗号資産の世界市場規模は230兆円とも言われており、このうち日本人が1割程度、約20兆円を保有している可能性がありますが、国内の暗号資産交換業者のビットコインの預託総量は0.6兆円しかありません。そこで、暗号通貨の売買益に20%の分離課税を導入することで国内に20兆円規模の資産を呼び戻すことができれば、4〜5兆円の所得税の税収増が見込めます。Web3.0を活用したスタートアップ企業を育て、税収を増やすためにも、暗号資産の売買益に20%の分離課税を導入すべきです。総理の考えを伺います。
「自分の国は自分で守る」
防衛費を倍にしても、その分、米国からの高価な防衛装備品の購入が増えるだけでは、「自分の国を自分で守る」力は強化されません。一つの戦闘機を開発するのに8,400社の企業が関わるとも言われますが、機微な技術であればそのうちの1社が抜けても開発できなくなります。ましてや他国に買収されることは避けなければなりません。総理は施政方針演説で「防衛産業の基盤強化や装備移転の支援」を進めると述べ、防衛省も法案を提出するとのことですが、こうしたリスクへの対応は十分に取られていますか。また、防衛産業の強化と同時に、国内法の整備が急がれます。国民民主党は、経済安全保障体制を強化するための「セキュリティ・クリアランス法案」と、積極的サイバー防御を可能とするための「サイバー安全保障基本法」を議員立法として提出予定ですが、政府としてこうした法案の提出はいつ頃を考えているのか、総理の見解を伺います。
水田活用直接支払交付金
一昨年12月、農林水産省は水田活用直接支払交付金の「5年に一度の水張り」要件を発表しましたが、転作を進めてきた全国の農家に不安が広がっています。このままでは離農と耕作放棄地が増え、食料安全保障にとっては明らかにマイナスです。総理、水田活用直接支払交付金は地域の事情に応じて、「5年に一度の水張り」要件を柔軟に緩和すべきではありませんか。
憲法改正
国民民主党は昨年、緊急事態条項に関する包括的な憲法改正の条文案を各党に先駆けて取りまとめました。緊急事態においても制約してはならない権利を定めたり、国会機能を維持する規定を設けるなどバランスのとれた内容となっています。イデオロギー対立が起きにくい緊急事態条項、とりわけ議員任期の延長規定についての条文案で与野党の合意を得ることが、憲法改正に向けた最も現実的かつ最短のアプローチと考えますが、岸田総理の考えを伺います。
これからも「政策先導」「対決より解決」
この通常国会に、内閣提出法案として「孤独・孤立対策推進法」が提出されます。国民民主党が、孤独対策と孤独担当大臣の創設を公党として初めて公約に掲げたのは2019年の参院選でした。最初は「ユニーク政策」と揶揄されましたが、あれから3年半。ついに、政府提出法案に至ったことは感無量です。内容も国民民主党案とほぼ同じです。政府、与党はじめ関係者のご尽力・ご協力に感謝申し上げます。私たち国民民主党は、これからも必要な政策を先手先手で打ち出し政策を先導していきます。所得制限撤廃法案が典型ですが、その他にも、ヤングケアラー支援を強化するための法案やカスタマーハラスメント対策についても具体的な政策を示し実現につなげます。もちろん、今国会最大の課題である賃上げの実現にも「対決より解決」の姿勢で建設的な議論をリードしていきます。「賃上げ“実現“国会」のため、そして、所得制限撤廃など子育て支援の拡充のため与野党を超えた同僚議員の協力をお願い申し上げ、国民民主党を代表しての質問といたします。
●成長見通し1.8%に引き上げ…財政出動の縮小・予算編成改革も求める  1/26
国際通貨基金(IMF)は26日、日本経済に関する年次調査終了に伴う声明を発表し、日本銀行の大規模な金融緩和について「長期金利の一層の柔軟化は、将来の急激な金融政策の変更を回避するのに役立つ」と提言した。
声明は、現状の緩和的な金融政策は物価目標のために「引き続き適切だ」とする一方、日銀による大量の国債買い入れで「イールドカーブ(利回り曲線)にひずみが生じている」と指摘した。
コロナ対策で膨らんだ政府の財政出動については「迅速に縮小すべきだ」と注文を付け、巨額の補正予算編成が常態化している現状を批判した。
一方、IMFは2023年の日本の経済成長率見通しを1・8%に引き上げると明らかにした。中国のゼロコロナ政策終了などを背景に、輸出や訪日観光が伸びると予測し、昨年10月に示した1・6%から上方修正した。東京都内で記者会見したギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は、「中国が経済を再開した好影響が波及する」と説明した。
●2023年対日4条協議終了にあたっての声明 1/26
「訪問終了にあたっての声明」は、国際通貨基金(IMF)職員による公式訪問(大半の場合は対加盟国)の終了に伴い発表されるもので、職員による初期評価を示すものである。IMF訪問団の派遣は、国際通貨基金協定第4条に基づき定期的に(通常は年1回)行われる協議の一環として、また、IMF資金の利用(IMFからの借り入れ)の要請に関連して、あるいは、スタッフ・モニタリング・プログラムの協議のため、さらには、職員によるその他の経済情勢モニタリングの一環として行われる。
各国当局はこの声明の公表に同意している。同声明における見解はIMF職員の見解を示すもので、必ずしもIMF理事会の見解を示すものではない。この初期評価を基に、IMF職員は報告書を作成する。その報告書はマネジメントの承認を受け、IMF理事会に協議や決定のための資料として提出される。
日本経済の回復は、ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、国境再開、政策支援によって支えられつつある。物価上昇率の伸びはここ数か月で加速した。短期の政策課題は、金融安定を維持しつつ、2%の物価目標を、大幅にオーバーシュートさせない形で持続的に達成することである。中期的な優先課題は、財政の脆弱性を低減させ、より動的かつ強靭で包摂的な経済に移行することである。
最近の経済動向と見通し及びリスク
日本は、パンデミックとウクライナでの戦争による影響からの回復の最中にある。政府は新型コロナウイルスに関連する制限を徐々に解除し、10月には制限を非常に限定的なものとした形で、国境を再開した。物価上昇率はここ数か月で加速し、主に輸入物価上昇の転嫁の影響により、より広範な物価上昇が見られる。また、日本のコア物価上昇率(生鮮食品を除いた物価指標)は、40年ぶりの高水準を付けた。
ペントアップ需要とサプライチェーンの改善、国境再開、政策支援に支えられ、経済回復は短期的に続く見通しだ。需給ギャップは2023年に解消する見込みである。サービス消費は、パンデミック中に蓄積した貯蓄によって下支えられるだろう。輸出は、受注残が解消され、供給側の制約が緩和されるにつれ、増加するだろう。当初の事業計画の後ずれや円安による企業利益の増加は、企業投資を支えるだろう。基礎的財政赤字は、2022年10月の財政政策パッケージの導入を受け、2023年においても引き続き高水準だろう。コア物価上昇率は、2023年第1四半期にピークとなり、輸入物価の上昇から来る物価高が和らぐにつれ、2024年末までに2%を下回る水準へと徐々に低下する見込みである。経常収支黒字は、2022年においては対GDP比1.8%と推計され、対外ポジションは、中期的なファンダメンタルズと望ましい政策に概ね合致する水準にあると暫定的に評価されている。
国内のリスクは均衡が取れているものの、外的要素は下振れリスクが大きい。下振れリスクには次のようなものがある。1) 更なる地経学的分断と地政学的緊張の高まり、2) 世界経済の急減速、3) 致死率と感染率が高い新型コロナウイルスの変異株の流行、4) 長引く供給側の制約、5) 自然災害、6) 債務の持続可能性、7) サイバー攻撃の脅威。さらに、現在の金融政策枠組みの突然の変更に伴い生じ得るリスクもある。上振れリスクは、サービスを中心に消費がこれまで以上に力強く持ち直すこと、そして訪日観光客が予想以上に回復することなどである。
経済政策
主要な課題は、短期的には、金融安定を維持しつつ、2%の物価目標を大きくオーバーシュートさせない形での持続的な達成を確かにすること、中期的には、財政の脆弱性を低減させ、より動的で強靭で包摂的な経済に移行することについて、必要な政策の組み合わせを調整することにある。
短期的には、物価見通しの不透明感が高く、上振れリスクと下振れリスクの両方がある。賃金上昇が大幅に加速しない限り、日本の物価上昇率は2024年末までに2%の目標を再び下回るだろう。従って総じて緩和的な金融政策が引き続き適切である。それでもなお、需給ギャップの縮小と低位の実質金利の下、物価に関しては上振れリスクの方が大きい。物価上昇に関する不確実性の高まりを踏まえたリスク管理強化のため、更に柔軟な長期金利の変動を検討すべきである。そのような柔軟性は、持続的な名目賃金の上昇と経済回復に下支えされ、物価上昇圧力がより粘着的なものと見受けられる場合には、自動的に長期金利の上昇をもたらすであろう。これは先を見据えると、物価目標が持続的に達成されたとのより強い証拠が得られた際に、中立的な金融スタンスへの移行をより円滑化することにつながる可能性がある。同時に、例えば世界経済の景気後退が生じる際など、更なる金融緩和が求められる場合にも機動的な金融政策の発動を可能とするであろう。金融政策の設定に関する変更については、十分なコミュニケーションが行われるべきである。マクロプルーデンス政策、その他の政策は、金融部門の脆弱性を抑えることを念頭に置く必要がある。パンデミック関連の財政支援策は、より迅速に縮小し、新たな政策は脆弱な世帯に対象を絞った限定的な措置であるべきだ。賃金を押し上げ、所得と成長の好循環を生み出す対策が必要である。
中期的には、公的債務を下降軌道に乗せ、財政バッファーを再構築するために、経済の状況を考慮に入れ、成長に配慮した形の信頼できる財政再建が必要である。金融支援策の対象は存続可能な企業に限定されるべきである。潜在成長率を押し上げ、男女格差を解消し、財政再建による重しを相殺するために、労働市場と財政の改革が必要である。グリーン計画やデジタル分野へ投資することは、気候変動関連の目標を達成しデジタル経済の恩恵を受けることの助けとなり得る。
財政政策
経済回復が続き、物価が上昇し、労働市場が引き締まり、需給ギャップが縮まる中、財政政策支援は今以上に迅速に縮小されるべきである。2022年10月の大規模な財政政策パッケージの導入により、すでに逼迫していた財政余地は一段と縮小した。さらに、同パッケージは物価を押し上げる可能性があり、そうなった場合、金融政策のさらに強力な引き締めが必要となる。財政負担を抑え、脆弱層を守り、省エネを促すために、エネルギー関連の補助金は、より的を絞った政策にすることが出来ただろう。政府支出の圧力が高まり続ける中、いかなる追加的支出策も的を絞り、また、歳入を増やす手段を伴うべきだ。
現行の政策の下では、公的債務の対GDP比は中長期的に上昇し続ける。基礎的財政赤字の対GDP比は、景気刺激策がなくなるにつれて短期的には低下するが、中長期的には高齢化関連の歳出圧力に対応する中で上昇すると見込まれる。こうした中、公的債務のGDP比が上昇軌道に乗っていることから、金利が急上昇し、ソブリン・ストレスがかかる可能性がある。
財政バッファーを再構築し債務の持続可能性を確保するために、財政再建が必要である。基礎的財政赤字を減らし公的債務の対GDP比を下降軌道に乗せるために、財政再建は、信頼性のある財政枠組みに裏打ちされるべきである。以下の対策が財政枠組みの信頼性を高め得る。
• より現実的な予測の採用。内閣府が公表するGDPの成長率と財政収支の予測は歴史的に楽観的過ぎた。より現実的な予測を組み込み、引き下げた潜在成長率に基づく感度分析を導入した最近の取組は、正しい方向への前進と言えよう。ただ、特に中期的な財政目標を議論する際には、一層現実的なシナリオを想定することがなお必要である。財政機関がマクロ経済予測の現実性を評価することもあり得る。
• 財政枠組みの強化。補正予算を採用する慣行がある中において、歳出のシーリングは、歳出の制約に実際にはなっていない。この慣行により、各年の予算と中期財政目標の連関性が失われている。予算編成は、拘束力のある支出上限と、年間予算と中期財政目標との整合性を確保するために改革されるべきである。目標は具体的な政策で裏打ちされなければならず、補正予算は、例外的に大きなマクロ経済ショックが発生した場合にのみに限り、頻繁に編成されてはならない。
• 債務の持続可能性と成長促進の均衡。当局は、財政再建と負のショックが現実化した場合に成長を維持するための財政支援の必要性を比較考量しながら、2025年度の基礎的財政収支目標に向けた進捗を引き続き評価すべきである。財政再建は、歳入と歳出双方の対策を要する。日本は、同じような国々と比べて税収が比較的低く、高齢化関連の歳出が多い。こうした状況下、財政再建は以下のような政策を含むべきである。
• 医療費と長期介護費を抑える政策。次のような改革を組み合わせる対策が考えられる。(i) 支出を効率化させる。(ii) 高所得高齢者の自己負担額を引き上げる等により、政策の的を絞る。こうした対策は、日本の医療制度によって既に達成されている健康面での優れた成果を保ちつつ、高齢化関連の歳出抑制の助けとなり得る。
• 歳入を増やす政策。歳入を増やす選択肢としては、消費税の標準税率の引き上げや、法人税の引き上げ、住宅用地に係る優遇措置の廃止を通じた資産課税の強化、個人所得税制における所得控除の合理化、資本所得税率の引き上げ、社会保険料の引き上げなどが考えられる。
• セーフティネットを強化する政策。ワーキング・プアのセーフティネットにおいて明確な隔たりが見られる。この文脈において、低所得労働者に税額控除を提供する勤労所得税額控除(EITC)のような仕組みは検討され得る。EITCは、的を絞れていない既存の給付措置を合理化することへの一助にもなるだろう。
金融政策
緩和的な金融政策スタンスが引き続き適切であるが、2%の物価目標を持続的に達成するために、生産性と実質賃金を改善する政策を含むその他の政策によってそれを支える必要がある。
しかしながら、ベースラインの物価見通しは非常に大きな不確実性を伴っており、リスクは上方に傾いている。物価の上振れリスクとしては、為替レート下落の影響が遅れて表れることや国境再開、輸入インフレの二次的影響、財政支援策、予想を上回る賃金の伸びなどがある。さらに、日本のインフレ期待は主として後ろ向きであるため、ひとたび高インフレが発生するとそれが長期化しかねない。下振れリスクは、主にインフレ期待の硬直性や労働市場の構造的要因による弱い賃金上昇の長期化と相まった世界経済の減速に起因する。
加えて、日本銀行はこの数か月間に大量の国債を買い入れ、現在では5年物・10年物国債の発行残高の70%近くを保有するに至っている。こうした買入れによって、日本国債市場の流動性が低下するとともに、イールドカーブに歪みが生じており、市場調査は債券市場機能が急激に低下していることを示している。こうした状況の下、日本銀行は12月の金融政策決定会合において、イールドカーブ・コントロール(YCC) の枠組みの修正を行った。
したがって、既に述べたように、物価に関する双方向のリスクを踏まえると、長期金利の一層の柔軟化は、将来の急激な金融政策の変更を回避するのに役立つだろう。これは、物価に関するリスクへの対応を改善するとともに、長期化する融緩和の副作用に対処することにも資するであろう。同時に、将来政策金利を徐々に変更する際の前提条件について明確なガイダンスを提供することは、市場の期待を安定化させ、物価目標達成に向けた日本銀行のコミットメントの信頼性を高めることに資するであろう。 金融政策の設定の変更について十分なコミュニケーションを行うことで、円滑な移行の促進と金融安定の維持がもたらされるであろう。
こうした状況において、日本銀行は長期金利の更なる柔軟性と上昇を許容するために、10年物金利の変動幅の拡大かつ/または10年物金利の目標水準の引き上げ、金利目標の年限の短期化、あるいは国債金利目標から国債買入れの量的目標への移行といった選択肢を検討し得るだろう。日本銀行は、各戦略のメリットとデメリットを慎重に見極める必要がある。 例えば、10年物金利の目標水準の上下の変動幅の拡大は、現行のYCCの枠組みの微調整を伴うが、市場原理が主導的な役割を果たすことができるような十分大きな変動幅とすることが求められる。他方で、量ベースのアプローチに移行すれば、特定の金利水準を維持する必要性やそれに伴う副作用を伴うことはないが、日本銀行による国債買入れの量は状態に依存して決定され、金利の上昇が急速過ぎる場合には調整が必要になるだろう。最後に、金利目標の年限短期化は、2%の物価目標が持続的に達成されるまでの間、(実体経済活動にとってより重要な)短期金利を引き続き低い水準に維持することに資すると考えられるが、日本銀行は特定の金利水準を目標とする場合と同様の高コストな副作用に直面する可能性がある。
さらに、重大なインフレ上振れリスクが現実化するシナリオにおいては、より一層強力に金融緩和の撤回を進めなければならず、物価上昇率を2%の目標水準まで押し下げて安定させるためには、より早期に中立的な金利水準を超える水準へと短期金利を引き上げることが必要となり得る。
2022年の間に、円の大幅な変動を引き金に、当局は外国為替市場に介入した。2022年3月以降の円の減価は主に金利差を反映したものだが、実証分析によると、6月以降においては、為替レートは、根底にある変動要因に示唆される以上に減価していたことが示されている。一般的に、為替介入は、過度な変動を抑え、円の変動のペースをファンダメンタルズや十分に機能する市場とより一致させるのに役立ち得るが、その効果はおそらく一時的なものである。原則として、為替レートの変動は、ショックの吸収に役立つ。従って、為替介入の実施は、無秩序な市場環境、急激な円の変動による金融安定に対するリスク、通貨の変動がインフレ期待を不安定化させ得る懸念があるといった、特殊な状況下に限定されるべきである。
金融安定性の維持
金融部門は2022年に見られたいくつかの世界的逆風に対して強固であったが、他の主要国・地域で金融政策が引き締められ、世界の経済活動が減速する中で、リスクが高まってきた。全体として、銀行部門は強靭性を維持しており、自己資本比率と流動性比率は規制要件を上回っている。海外有価証券の評価損と外貨資金調達・ヘッジコストの上昇が銀行とノンバンク金融機関を圧迫している。国際的に活動する主要銀行が2010年代半ば以降より安定的な外貨調達源への依存を高めてきている中、高水準にある未使用のコミットメントラインに起因するリスクの評価を含め、米ドルの流動性逼迫に対する強靭性をさらに高めるための着実な取り組みが必要である。日本国債のイールドカーブのスティープ化は、中期的には銀行に利益をもたらすと考えられるが、短期的なコストには注意が必要である。
当局は、信用リスクの動向を注意深く監視すべきである。海外与信ポートフォリオの質は概して高く、投資適格ローンが大部分を占め、不良債権の割合は低い。しかしながら、世界的な逆風を踏まえると、与信エクスポージャー、とりわけ負債比率の高い海外の借り手に対するエクスポージャーには注意が必要である。さらに、世界経済が減速すれば、国内の大口の借り手を圧迫しかねない。一部の地域銀行は、非輸出企業に対する与信エクスポージャーを通じて、円安リスクによりさらされているが、銀行システム全体に対する影響は限定的である。原材料コストの上昇を販売価格に転嫁する能力が限られている企業の流動性状況を引き続き監視すべきである。
パンデミック発生当初にGDPが急激に落ち込んだことなどを理由に、信用の不均衡が歴史的な基準に照らして高まっている。日本では諸外国と比較して住宅価格の上昇が緩やかだが、当局は、所得に対する住宅ローンの比率の上昇や債務返済比率が高い借り手の割合の上昇、大部分を占める変動金利住宅ローンに起因しうる潜在的な脆弱性に引き続き警戒を怠るべきではない。住宅ローンの伸びに由来する脆弱性の抑制を目的とするマクロプルーデンス政策は検討され得る。さらに、パンデミック関連の支援措置の縮小に伴って発生し得る信用リスクを引き続き警戒し、新規融資に対する公的信用保証を縮小することが必要である。
新しい資本主義の支援
   所得と成長の好循環を実現
所得の伸びを押し上げるための政府の「新しい資本主義」政策は、労働供給と賃金の伸び、そして生産性という3つの側面に焦点を当てるべきである。
• 第一に、各種政策によって引き続き女性と高年齢者の労働供給を促進すべきである。より多くの女性の労働力参加を促すためには、テレワークを含む働き方改革を進めることが不可欠である。柔軟な就労形態は、女性が出産時にフルタイム就業を継続する助けとなり、女性のキャリアの見通しを改善し得る。労働者が自発的に働く時間を延ばすために被扶養配偶者に関する社会保障と税制の歪みを取り除くべきである。高齢者雇用の障害をさらに取り除くことによって、労働供給が増加するだろう。
• 第二に、政府は構造改革を通じてより高い賃金の伸びを促すことができる。労働市場の二重構造を解消し、移動性を高めることは、労働者の交渉力を強化し、賃金の伸びを加速し得る。ジョブ型雇用と能力給への移行は、賃金の伸びを支えるだろう。
• 第三に、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の人材を強化することにより、イノベーションを促進し、デジタル化を容易にし、労働生産性を高めることができるだろう。労働生産性を高めるためには、各種政策によって、STEM分野の既存労働者向けに訓練や技能再教育を強化し、女性を中心により多くの学生がSTEMキャリアを追求するよう奨励すべきである。能力に基づく昇進や柔軟な就労形態などを通じてSTEM教育のリターンを高めることは、そうした目標の達成に資する。
   スタートアップとオープンイノベーションを加速
日本でスタートアップを促進するには、労働市場の制約に対処するとともに、資金調達の選択肢と起業家教育を改善する総合的なアプローチが必要である。新しい資本主義のグランドデザインは、ベンチャーキャピタルを支援する措置を含み、創業時の個人保証に係る制約を認識し、起業家教育の重要性を強調し、スタートアップハブとしての大学の役割を強化するものである。ベンチャーキャピタルによるエクイティファイナンスの利用可能性を高めることは、スタートアップとイノベーションを支援する上で非常に重要である。さらに、労働市場の柔軟性を高め、終身雇用システムから徐々に移行することにより、最も優秀な大卒者が思い切って創業することを促し、スタートアップが失敗した時には合理的なバックアップの選択肢を与えられるようになるだろう。
政府は、税制優遇措置を通じて、企業投資とイノベーションを奨励することができる。IMF職員の分析では、金融摩擦が存在する中、日本企業が無形資産の割合の増加を理由に、現金の保有を増加させていることが示唆されている。企業に投資を促すには、ICT(情報通信技術)や研究開発を中心に、投資のリターンを高めるための税制優遇策を活用し得る。
   低炭素経済へ移行
現在、日本のグリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略は、GX債を財源とする脱炭素化およびグリーン技術に対する公共投資を軸としている。政府は、グリーンプロジェクトに対する民間資金にインセンティブを与えることも予定している。政府は、2028年度以降、カーボンプライシングを現在の低い水準から拡充することにコミットしているが、詳細はまだ決まっていない。排出削減目標達成に向けた部門別計画が関係省庁によって策定中である。政府は原子力発電所の再稼働を計画しており、また、新規原発の開発が検討されている。気候ファイナンスに関しては、金融庁は「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」を公表した。加えて、日本銀行と金融庁は、大手銀行・保険会社と連携して、気候変動リスクにかかるパイロットシナリオ分析の取組を完了し、日本銀行は、気候変動対応を支援するための資金供給オペレーションにおいて、銀行に対してGDPの約0.6%に相当する貸付を行った。
気候目標を達成する上で、日本には追加の政策が必要となる。最大の排出源である電力と運輸を脱炭素化するためのグリーン投資を伴う包括的な政策パッケージや、カーボンプライシングの漸次引き上げは、日本が成長に配慮した形で目標を達成する助けとなり得る。CO2削減に向けた強力なインセンティブを提供するような水準のカーボンプライシングがなければ、目標達成は困難で、より大きなコストを伴うだろう。的が絞れていないガス・電力・燃料の補助金の廃止や規制措置も、移行を支援することになるだろう。気候政策は、脆弱な人々を保護し、高排出部門の低炭素への秩序ある移行を可能にする措置によって支えられなければならない。グリーンファイナンスは、グリーンな事業や移行に資する事業への資金供給や、気候変動関連金融リスクの適切な管理を通じて、引き続き補助的な役割を果たすべきである。
   デジタル化推進およびその他の改革を継続
デジタル庁は、引き続き公共部門をデジタル化するための政策を調整・実施すべきである。デジタルIDカードであるマイナンバーカードの普及拡大を含め、大幅な進展が見られる。しかし、政府機関間のデータ共有は依然として限定的であり、脆弱な世帯向けに的を絞った給付を実施する政府の能力を阻害している。この点に関して、我々は、地方自治体のITシステムを標準化し、中央政府・地方政府間の情報共有を円滑化するための政府の政策を歓迎する。マイナンバーカードのさらなる普及拡大や、同カードの公共及び民間サービス提供との紐づけなど、デジタル庁が示しているその他の優先課題も、包摂的なデジタルトランスフォーメーションを実現する上で不可欠である。各種政策によって、民間部門の安全かつ包摂的なデジタルトランスフォーメーションの支援も行うべきである。それには、ITスキル訓練の強化やデータプライバシーの確保、デジタルリテラシー、消費者保護、サイバーセキュリティ―が含まれる。
コーポレートガバナンスや貿易政策など、その他の分野における改革努力も継続すべきである。最近の進捗を基礎としつつ、コーポレートガバナンスの取組みと開示の実効性をたしかなものとすることで、コーポレートガバナンス改革はさらに強化され得る。日本は、WTOにおける効果的な紛争解決の確保を含め、ルールに基づく多国間貿易体制を強化するために国際パートナーとともに引き続き積極的に取り組むべきである。
●IMF提言 “日本経済 2%の物価上昇や強じんな経済移行が課題” 1/26
IMF=国際通貨基金は、日本経済についての報告書を発表し、目標とする2%の物価上昇率を持続的に達成することや、財政のぜい弱性を低減させ、より強じんな経済に移行することが日本経済が取り組むべき課題だと提言しました。
IMFの代表団は26日、都内で記者会見し、日本の経済状況や経済政策についての審査結果をまとめた報告書を公表しました。
この中で、今後の日本経済について、新型コロナで抑制されていた家計の購買需要が高まるほか、政府の経済対策の効果などもあって、短期的には回復が続くとしています。
金融政策については「緩和的なスタンスが引き続き適切だ」としたうえで、2%の物価目標を持続的に達成するために、賃金の改善や生産性の向上が必要だと指摘しています。
そのうえで、長期金利の変動に柔軟に対応することが、将来の急激な金融政策の変更を回避することに役立つとして、長期金利の変動幅の拡大や、操作目標の水準の引き上げなどが選択肢として検討できるとしています。
また、財政政策については、債務残高を減らして財政の余力を確保するために、成長に配慮した信頼できる財政再建が必要だとしています。
そして、財政のぜい弱性を低減させ、より強じんな経済に移行することが中期的な優先課題だとしています。
IMFのギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は「日本政府とは持続的な物価目標を達成できるのかどうか、ポリシーミックス=政策の組み合わせについて討議した。日本の物価は、上振れするリスクも下振れするリスクもあり、動向には注意が必要だ」と述べました。
●知事「復興が地域課題のような扱い」 岸田首相「震災」文言使わず 岩手県 1/26
岸田首相は1月23日の施政方針演説で、初めて「東日本大震災」という言葉を使いませんでした。これについて、達増知事は26日「復興が地域課題の一つのような扱いになっている」と批判しました。
達増知事「(岸田首相の)施政方針演説の中で、『東日本大震災からの復興』という言葉がなくなったことは残念だと思っている。日本としての東日本大震災の位置づけを言葉にして出してほしかった」
達増知事は26日の定例会見で、1月23日の岸田首相の施政方針演説についての所感をこう語りました。
岸田首相は「国の最重要課題」として「福島の復興・再生に取り組む」としたものの、これまでで初めて「東日本大震災」という言葉は使いませんでした。
これについて達増知事は「日本全体の課題として取り組むよう原点に立ち返ってほしい」と述べました。
達増知事「どうも地域課題の一つのような位置づけになってきているのかなと。オールジャパンとしての震災からの復興を政府で真剣に考えてほしい」
また26日は、県の新年度当初予算案の知事査定が終わり、達増知事は予算規模は要求額を200億円下回る、約7700億円になるという見通しを示しました。

 

●中期的な財政再建開始を IMF対日審査団長インタビュー 1/27
国際通貨基金(IMF)の対日審査団長を務めるラニル・サルガド氏は26日、日本の財政政策について、コロナ禍からの経済回復に合わせ「財政赤字を減らすプロセスを開始し、中期的な財政再建に踏み出すときだ」との認識を示した。東京都内で時事通信のインタビューに応じた。
サルガド氏は、防衛予算の大幅な拡大については「(安全保障政策は)各国政府が決定すべき事項」としてコメントを控えた。一方で「いかなる追加的な財政支出も、歳入増の計画と整合していることが重要だ」と述べ、法人税増税などによる財源確保策には理解を示した。
また、2%の物価安定目標の実現を目指した日銀の金融緩和政策に関し、「全面的に支持している」と表明。目標の達成へ「長期金利に一段の柔軟性を持たせることは、物価の上昇と下落両面のリスクへの対応を容易にする」と指摘し、一段の緩和修正の余地があるとの認識を示した。
●石井幹事長の衆院代表質問要旨  1/27
(物価高・経済再生)政策総動員で中小支援
電気代・ガス代の高騰による家計への影響を少しでも和らげるため、1月分から負担軽減策が始まっている。公明党の主張で都市ガス代への支援も決まり、電気やガスの使用量に応じて料金は値引きされ、家庭や事業所に届く1月使用分以降の請求書や検針票、WEB明細などでも値引き額が確認できる。こうした前例のない負担軽減策の実行を高く評価する。現在の日本経済の最も大きな課題は、持続的な賃金上昇だ。近年は緩やかな賃上げ傾向にはあるが、物価上昇に追い付いていない。これを打破する力強い政策の実行が重要。既に大企業が次々と今春の賃上げを明らかにしているが、コロナ禍や原材料・資材高などの影響を受けて傷んでいる中小企業には重い課題だ。原材料高などに見合った価格転嫁や取引適正化の徹底、円安を好機と捉えた輸出への挑戦、DX(デジタルトランスフォーメーション)を導入しての生産性向上の強化、事業承継などによる世代交代への取り組みなど政策を総動員し、日本経済の屋台骨ともいえる中小企業を支援していかなければならない。政府として、事業再構築補助金やIT導入補助金などの種々の補助金のほか、賃上げを促すための税制など、中小企業の経営を後押しするメニューを用意している。施策がより高い効果を生むためには事業者が抱える多種多様な悩みに寄り添った丁寧な対応が必要だ。
GX化の推進
わが国は世界情勢の変化でエネルギー供給が不安定化することが改めて浮き彫りになり、脱炭素化と自給率向上を同時に進めていくことが最重要課題だ。2030年度の温室効果ガス46%削減や、50年のカーボンニュートラルという国際公約の達成へ、産業・社会構造の大きな変革は待ったなしであり、これを好機と捉え、日本の強みを生かした経済成長のエンジンにしていくべきだ。再生可能エネルギーの主力電源化と、あらゆる分野でGX(グリーントランスフォーメーション)を進める施策を総動員しなければならない。昨年末に示された「GX実現に向けた基本方針(案)」によれば、「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現に向け、「GX経済移行債(仮称)」の発行による20兆円規模の先行投資や、25年度までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を選定して推進することなどが明記された。公明党が主張してきた、地域の特性に応じた脱炭素への取り組みの加速化も期待される。一方で、「GXに向けて何をしたらよいか分からない」という中小企業も多く、8割近くが検討すらできていないとの指摘もあり、きめ細かい支援策を実行すべきだ。
学び直しの成果を賃上げへ
岸田文雄首相は年頭の記者会見で、「意欲ある個人に着目したリスキリング(学び直し)による能力向上支援」などを進め、「構造的な賃上げを実現」すると表明した。例えば、無料でキャリアコンサルティングを受けられる機会を提供するとともに、教育訓練費用の一部を支給する「教育訓練給付」は利用者のニーズを踏まえて拡充すべきだ。転職・再就職する人を、前職より高い賃金で雇い入れる企業への助成など、リスキリングの成果を賃上げへと着実に結び付けていくことも重要だ。公明党は、コロナ禍が女性の就業に大きな影響を与えたことや、デジタル人材の需要が高まっている状況を踏まえ、「女性デジタル人材育成プラン」の策定・実行を推進してきた。女性の経済的自立は「新しい資本主義の中核」とも位置付けられ、地域での女性デジタル人材や女性起業家の育成を力強く推進し、男女の賃金格差の是正へとつなげていくべきだ。人への投資強化の財源として雇用保険も活用することが必要だが、財政状況は極めて厳しい。雇用調整助成金を大幅に拡充し、国費も投入しながら、企業による休業手当の支払いを支援してきたことで失業者の急増を防ぐなどの効果を上げてきたことを高く評価する。一方で今後、長期間にわたって、事業主が拠出する保険料の一部を失業者の給付の積立金に回さなければならない事態となっており、経済再生に向け、まずは雇用保険の財政問題を解決することが重要だ。ウクライナ情勢などにより、食料の安定供給のリスクが急速に高まったことを受け、食料安全保障の確立が急務だ。政府は公明党の提言を踏まえ、昨年12月に「食料安全保障強化政策大綱」を策定した。麦・大豆や肥料・飼料の国産化など、本大綱に盛り込まれた施策を継続的に実行し、食料自給率の向上に取り組むべきだ。また、コロナ禍の長期化で家計急変に苦しむ人々への食事支援が課題だ。関係省庁が連携して生活困窮者らへの食事支援を強化すべきだ。
(子育て・教育)児童手当は所得制限など見直せ
昨年の出生数は80万人を割り込むと見込まれ、少子化は想定を上回る進み方だ。公明党は、子どもの幸せを最優先する社会の実現と少子化・人口減少を乗り越えるための具体策として「子育て応援トータルプラン」を昨年11月に発表した。岸田首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦」するとして、1児童手当など経済的支援の強化2学童保育など子育て家庭向けサービスの拡充3働き方改革の推進とそれを支える制度の充実――の三つの基本的な方向性を示した。具体的な議論では、公明党のトータルプランも参考にしつつ、子ども・若者・子育て世帯の声をしっかりと聴き、当事者のニーズを踏まえた検討を進めてもらいたい。経済的支援では、児童手当について対象年齢・所得制限・支給額など、制度の見直しによる拡充を具体的に検討するべきだ。自治体による子どもの医療費助成についても、高校生が対象の自治体は約50%、中学生が対象の自治体は95%以上に上る。高校3年生までの無償化をめざして推進すべきだ。0〜2歳児の保育料の無償化は、所得制限の緩和や第2子以降の無償化など、対象を段階的に拡大すべきだ。
奨学金の減額返還
公明党は返済不要の「給付型奨学金の創設」など若者の声を政治に反映してきた。トータルプランに掲げた、多子世帯や理工農系学部の中間所得層までへの「給付型奨学金の対象拡大」や、「奨学金の減額返還制度」の見直しも24年度、開始される予定だ。給付型奨学金の対象は、昨年6月の予算委員会で首相より「年収600万円までという考え方をしっかり受け止めたい」との前向きな答弁をもらったが、できるだけ早くこれらの制度の年収目安などを発表すべきだ。特に、貸与型奨学金の月々の返還額を柔軟に変えられる「減額返還制度」は、仮に年収目安の上限が400万円の場合、20代の返還者の80%、30代の半数以上が対象だ。返還者である若者の立場に立った制度にするためにはオンラインを活用した簡単な手続きや、既卒者の利用開始時期の前倒し、月々の返還額の減額で返還期間が長引いても一定額で返還した時と利子の総額が変わらないことなどが重要だ。
医療・介護はサービス強化も
全ての世代が負担能力に応じて医療保険制度を支える仕組みを強化する法改正が予定されている。制度の持続可能性確保の観点から重要である一方で、現役世代から高齢者まで幅広い層に影響が及ぶ。政府は国民の理解を得られるよう最大限の努力を尽くしてもらいたい。また、サービスの提供体制の強化も重要だ。医療機関のかかりつけ医機能を高める法改正も予定されている。医療サービスの質など、国民目線に立った、分かりやすい説明が求められる。介護保険制度の下、必要なサービスを提供し続けるためには、特に総合的な人材確保対策と介護現場での生産性向上を加速させることが急務だ。認知症施策についても、初期集中支援チームやチームオレンジの取り組みの改善をお願いしたい。また、総合相談支援などの役割を担う地域包括支援センターの体制強化なども急ぐ必要がある。一方、給付と負担は高齢者の生活への影響を把握し、サービスの利用控えや家族への負担が増えることのないよう、丁寧に検討してもらいたい。
(新型コロナ、感染症)危機に備え司令塔必要
先の臨時国会で感染症法を改正し、平時から都道府県と医療機関との間で病床や外来医療の確保などに関する協定を結ぶ仕組みを法定化し、感染症危機への備えを大きく前進させた。残されている課題として、感染症危機に対応する政府の司令塔機能の強化がある。公明党は、新型コロナとの闘いが始まった20年の党大会で「日本版CDC(疾病対策センター)」の創設を重点政策の一つに掲げ、党を挙げて取り組んできた。今国会には「内閣感染症危機管理統括庁」の設置や「日本版CDC」の創設が盛り込まれた法案が提出される予定だ。平時から実践的な訓練・研修を積み重ねるとともに、両組織との間で緊密な連携を図りながら、感染症危機に迅速・的確に対応できる体制を構築してもらいたい。
「5類」への移行
新型コロナ対策による社会的負荷をできるだけ軽減しながら、社会経済活動を大きく回復させたい。新型コロナの感染症法上における位置付けなど必要な見直しは着実に進めていくべきだ。首相も1月20日に、原則として、この春に「5類」に移行する方向での検討を指示した。ただし仮に見直す場合は段階的にすべきだ。感染拡大防止のために、また、感染者がこれまで同様に検査や治療が受けられるよう、ワクチン接種や検査費・治療費などの公費負担は当面の間、継続するべきだ。併せて医療体制の確保・充実に全力で当たるべきだ。入院調整や病床確保費用の補助、診療報酬加算などが直ちになくなれば、位置付けの見直しも医療現場の逼迫、混乱を招く可能性がある。特例的な予算措置は段階的に縮小すべきだ。新たな変異株には、迅速かつ柔軟な対応が必要だ。エビデンス(科学的根拠)に基づく丁寧な議論を重ね、平時へ移行する道筋を国民に分かりやすく説明してもらいたい。
(復興、防災・減災)国土強靱化へ議員立法
本年4月、福島国際研究教育機構が福島県浪江町に設立される。ロボットや放射線科学などの分野で、わが国の科学技術力・産業競争力の強化をけん引する司令塔だ。政府は地元の意見をよく聞きながら、万全に準備を進めてもらいたい。原子力事故災害からの復興・再生では、ALPS(多核種除去設備)処理水の処分など、引き続き国が前面に立ち、責任を持って万全の対策を講じるべきだ。公明党はこれからも人間の復興、心の復興に取り組む。国土強靱化5カ年加速化対策は来年度で3年目を迎え、防災・減災対策が着実に進む。地方自治体や業界団体から、加速化対策後も継続的な強靱化のため、実施計画を法定化し、中長期的かつ明確な見通しの下、自治体が安心して推進できる仕組みや制度が必要との声があった。それを受け、昨年11月に与党プロジェクトチームを立ち上げ、議員立法で今国会での国土強靱化基本法改正案の提出をめざしている。
(外交・安保)対話外交に指導力発揮を
首相は今月、フランス、イタリア、英国、カナダ、米国を歴訪し、首脳らと会談した。厳しい外交・安全保障環境の中で国際社会と緊密に連携、協力を図り、対話外交を積み重ねていくことは、極めて重要だ。日本はG7(先進7カ国)議長国としてリーダーシップを大いに発揮してもらいたい。G7首脳会議(サミット)が被爆地・広島開催だからこそ「核兵器のない世界」に向けた大事な一歩としていくことも期待される。公明党は、核保有国と非保有国の橋渡し役を担う政府の取り組みを力強く後押しする。政党外交も積極的に進め、地域の平和と安定に貢献していく。
ウクライナ
昨年9月、公明党はウクライナ周辺3カ国に調査団を派遣して現地の窮状を把握し、冬の寒さに備えた支援の提供などを政府に訴えた。その結果、今年度第2次補正予算に支援策を盛り込むことができ、現地には発電機などが届いている。現地の人々に寄り添った復旧・復興、人道支援を力強く進めてもらいたい。ウクライナでの戦争の一日も早い終結に向け、国連が今一度、仲介する形で、ロシアとウクライナをはじめ、主要な関係国の首脳・外相などによるハイレベル会合を早急に開催し、停戦合意を図るなど、平和の回復に向けた本格的な協議を進めるべきだ。G7議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国である日本が国際社会と緊密に連携を図り、主導的な役割を果たすべきだ。
反撃能力、説明を丁寧に
政府は昨年末、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を改定した。公明党は実務者を中心とした与党協議を積極的に行い、防衛力の抜本的強化の施策として「反撃能力」を持つことを決定した。相手からミサイル攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網で飛来するミサイルを防ぎつつ、相手の領域でわが国から有効な反撃を加える能力を保有する必要があると判断した。有効な反撃を加える能力を持つことで相手からの武力攻撃を抑止する力が増大すると考える。一部に「専守防衛を逸脱するのではないか」などの懸念もあるが、公明党の主張もあり、国家安全保障戦略には、平和国家として憲法および国際法の範囲内で専守防衛に徹すること、先制攻撃は許されないことが明記された。丁寧な説明の下、国民の理解を得ながら、安全保障政策を進めてもらいたい。
防衛費の財源確保
防衛費の財源確保に向け公明党は、国民の負担を最小限にするため、ムダの削減や使われなかった予算の活用を優先すべきだと主張した。政府は歳出改革の徹底、決算剰余金の活用、特別会計からの繰り入れなどで可能な限りの財源を確保した上で、不足分は税制措置を取ることとしている。昨年末の与党税制協議で公明党は、1中小企業に影響を及ぼさないこと2復興事業に影響を及ぼさないこと――の2点を強く主張した。与党として、法人税は当初案では170万円だった控除額を500万円に拡充して対象法人を大幅に縮小し、復興財源は大綱に「責任をもって確実に確保する」と明記した。所得税額に対して新たな付加税を1%課すものの、現在の復興特別所得税の税率を1%引き下げることで当面、国民には負担が増えないようにする。
マイナカード
昨年末、デジタルを活用し、全国どこでも、誰もが便利で快適に暮らせる社会をめざす「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が策定された。極めて重要な役割を果たすマイナンバーカードは、国民の利便性を拡充すべきだ。自治体では「書かない窓口」の導入が増えている。カードの活用などで簡単かつ効率的に手続きの申請ができる。好事例の横展開など、デジタルによる住民生活の向上を後押しし、実用化まで検証していくべきだ。
●岸田首相が“異次元増税”に挑戦、「日本には増税余地がまだある」論の欺瞞 1/27
岸田文雄首相が防衛費増額の次に打ち出した「異次元の少子化対策」で財源問題がくすぶり、またもや増税論がささやかれている。しかし今の日本は、増税どころか国債発行に逃げることすら避けるべき危機的な国民負担の水準にある。
「異次元の少子化対策」 本当に効果は出るのか?
岸田文雄首相が念頭会見で打ち出した「異次元の少子化対策」の表明を巡って、財源をどう確保するかが焦点になりつつある。岸田首相は、1月4日の年頭会見において、「静かな有事」と称される少子化の進行を止めるべく、決意を表明。経済財政運営の基本指針「骨太の方針」を決定する6月までに、「こども予算倍増に向けた大枠を提示」するのだという。
日本はこれまで、「エンゼルプラン」「緊急保育対策等5か年事業」(1994年)など、1990年代からありとあらゆる少子化対策に取り組んできたが、効果を上げていない。海外の事例を見ても、子育て支援大国とされたフィンランドの合計特殊出生率は2019年に過去最低の1.35まで下がり、一時は日本以下になった。
少子化対策を巡っては福祉関係の識者や業界が一様に、「政府の本気(予算/財政支出)が足りないからだ」と主張している。しかし、例えば、赤川学・東京大学大学院教授は「日経ビジネス」(電子版、2022年10月23日)において次のように語っている。
「『子育て支援策をしなければ、出生率はもっと落ち込んでいたはずだ』という主張も聞きます。ただ、検証不可能なので無駄な議論でしかありません」
「もう1つの意見が、『支援の程度が足りていないから効果が表れていない。もっと財政支出を増やすべきだ』というものです。もちろん年間10兆円ぐらいつぎ込んで、壮大な社会実験をしてみるのはいいかもしれません。ただ、効果は非常に限定的なように感じます」
そして、「少子化の原因を分解すると、結婚しない人が増えていることの効果が9割を占めている」と断じている。
新自由主義との決別を宣言し、政府の財政支出増加や規制による経済成長をもくろむ岸田政権が、「結婚しない人が多くなったせい」という少子化の根本問題に、どう予算を振り分けるのか。政策効果がないことでも、予算を振り分けて「やってます感」だけ出して終わりなのだろうか。
子育て世代にお金をばらまいても、保育所を整備しても、女性支援を増やしても、ほとんど効果がない――。この難問をどう解決するのかお手並み拝見といこう。確かに、高齢者に予算を振り分けるよりは効果が期待できそうではあるが、現時点では誤差の範囲といえるような成果しかない。
「異次元の少子化対策」表明で くすぶる財源問題
しかし、岸田首相による効果のほぼ期待できなそうな少子化対策にも、財政支出の大幅増が不可避となっている。当然出てくるのが、財源をどうするのかという問題だ。
自民党の甘利明前幹事長は、「日経ニュースプラス9」(BSテレ東・1月5日)で「岸田総理が少子化対策で異次元の対応をすると言うなら、例えば児童手当なら財源論にまでつなげていかなければならない」「子育ては全国民に関わり、幅広く支える体制を取らなければならない。将来の消費税(増税)も含め、地に足を着けた議論をしなければならない」とした。
甘利氏は、後のツイートで「将来消費税を引き上げる必要が生じた時には増税分は優先的に少子化対策に向けるべきとは思います」というのが本意としている。このツイートで何が修正されたのかさっぱり分からないが、倍増を目指す少子化対策予算に消費税を充てることを許容しているのは間違いない。
自民党の世耕弘成参議院幹事長は和歌山放送のラジオ番組「2023和歌山県選出 新春国会議員座談会」に出演(1月7日)し、少子化対策を充実させる財源について「党の一部に『消費税で』という話もあったが、ちょっと拙速だ」と述べた。また、「決算剰余金をどう考えていくのかとか、介護保険のように保険料という形で薄く広く集める考え方もあり、ゼロベースで議論すべきだ」と指摘した。
世耕氏は、消費税引き上げ論については「ちょっと拙速」だとスピード感について否定は一応しているものの、「介護保険の保険料」で集める手もあるという。この「保険料」とは、呼び名が紛らわしいが税金と同じ公的負担のことだ。つまり、実質的に増税しろと言っているに等しい。
世耕氏が所属する安倍派(清和政策研究会)においては増税に否定的な議員も多く、その意味で歩調を合わせたかのようなポーズを取っている。しかし、世耕氏の実態は増税派といえる。
22年度の少子化対策予算は約6兆円。倍増なら、新たに6兆円の財源が必要になる。これまで日本で実施した消費税率の引き上げでは、1%ポイントの引き上げにつき約2兆円の税収アップにつながってきた。それが今後も続くと仮定すると、6兆円は消費税率に換算すると3%分となる。政策効果に大きな疑問が残るまま、岸田首相の異次元増税によって消費税率は13%になる可能性があるのだ。
「日本には増税余地がある」は虚偽のイメージだ
岸田首相による防衛費増税の議論を見ていても、政府や財務省内には「日本にはまだまだ増税できる余地がある」「日本の国民負担は諸外国と比べて低い」という、虚偽のイメージを持っていることが分かる。
財務省の「国民負担率の国際比較」という資料によれば、実際には、日本人の潜在的国民負担率(将来世代の負担である財政赤字を含む)は22年度(見通し)で56.9%になっている。これは、米国、英国、ドイツをはじめとする先進諸国より高く、福祉国家として知られる北欧のスウェーデンをも上回る数字だ(海外はいずれも19年実績ベース)。日本は、現時点で世界トップクラスの国民負担を背負い込んでいる。
増税はもちろんのこと、国債発行に逃げるのも避けるべき危機的状況なのだ。
第一生命経済研究所「国民負担率の上昇がマクロ経済に及ぼす影響(続編)」(05年)のマクロ経済分析レポートによれば、経済協力開発機構(OECD)の主要20カ国における1975〜2002年のデータを基に分析し「国民負担率と家計貯蓄率は有意に負の相関」にあるという結果が出たという。
具体的には、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が0.28%ポイント低下することや、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、潜在成長率が0.06%ポイント低下することが分かったとしている。
日本銀行「国民負担率と経済成長」(2000年)でも同様の分析が行われている。OECD諸国の1960〜96年のパネルデータ(異時点間にわたるクロス・セクション・データ)を用いて、対名目国内総生産(GDP)比で見た「国民負担率」「潜在的国民負担率」と経済成長率の関係について、検証を行ったものだ。
その結果によると、国民負担率、潜在的国民負担率と成長率との間で負の相関が見られた。「国民負担率が1%上昇すれば成長率は0.30%低下し、潜在的国民負担率が1%上昇すれば成長率は0.27%低下する」という。
また、「国民負担率、潜在国民負担率と貯蓄率の間には有意に負の相関があることがわかった」とも触れている。
同レポートでは、国民負担率が原因で経済成長が結果となる因果関係が存在するかどうかを明らかにするためには、さらにきめ細かな分析が求められるとしている。ただ、分析結果について「国民負担率の上昇→貯蓄率の低下→資本蓄積の阻害→成長の制約というメカニズムの存在を示唆しているように思われる」とも言及。「したがって、経済的に意味のある概念として国民負担率を議論する余地のあることが改めて確認されたと言える」と論じた。
このように、日本が経済成長できていないのは、国民負担が高過ぎることが要因である可能性が高いことを、国民はきちんと理解しておいた方がいい。増税することが経済成長にとっていい影響を与えているわけがない。
財務省の国民負担率の算出法が 海外と異なる謎
ちなみに、この潜在的国民負担率だが、「税+社会保障費+赤字国債」を「国内総生産(GDP)」で割り算するのが海外ではスタンダードだが、日本ではなぜか「国民所得(NI)」で割り算をしている。NIで割り算した方が日本の国民負担率が海外と比較して低く見えるのが、NIを採用する根拠であろう。
財務省の「国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)」(22年)という資料では、順位は国民負担率が高い順となっている。グラフの左端にはルクセンブルクがあり、国民負担率は93.4%となっているが、あまりに実態とかい離している。100万円の収入のうち、ルクセンブルクの人が93万円以上を負担しているわけがない。ルクセンブルクの国民負担率は、対GDP比であれば40.8%である。
「日本より国民負担率がべらぼうに高い国がありますよ」という実態とは違う数字を並べて、日本の国民負担率が低く感じられるようなグラフになっている。このような実態とはかい離したグラフに、何の意味があるのだろうか。財務省は、数字のマジックを駆使して国民を欺こうとしている可能性がある。
であれば、こちらも徹底的に分かりやすく、国民負担を明示する試みをして対抗したい。今、全ての国民負担(税金・社会保障)を消費税だけで賄うとしたら、消費税率換算だと何パーセントになるかを計算してみよう。
財務省「国民負担率(対国民所得比)の推移」によれば、22年度の数値は、それぞれ以下だ。
   潜在的国民負担率(財政赤字を含む)=56.9%
   国民所得=403.8兆円
   つまり、国民負担額=230兆円だ。
前述の通り、消費税率の引き上げ1%ごとに約2兆円の税収アップにつながってきた経験則が今後も続くと仮定し、230兆円を2兆円で割ると、財政赤字まで含めた全国民負担を消費税率に換算した値が割り出せる。
結果、日本人は消費税率換算で115%を、さまざまな形で国に納めていることになる。さらに、岸田政権は効果の期待できない少子化対策に消費税率3%分(6兆円)を投入しようとしている。これが実現すれば、消費税率換算の値は118%ということになる。
これは100円のドリンクを買おうとしてレジへ持って行くと、218円を請求されることになる。居酒屋で4000円飲んだら8720円の支払い、3000万円のマンションを買うには6540万円が必要だ。信じられないと思うかもしれないが、日本人はそれぐらいの税金・社会保障費をすでに政府へ支払っているのだ。
データの見せ方を「工夫」したり、「社会保険」と名前を変えたり、たばこの税金を上げていじめてみたり。これまで政府は、あの手この手を使って、重税感のない重税化を進めてきた。しかし、どんなにごまかしても、国民負担の高まりと経済の減速に相関するというデータがある以上、国民負担増は断固として避けなければならない道だ。
それを頑張ろうともせず、日本人の国民負担率は低いという虚偽の前提から「増税、増税」と安易に連呼する自民党の政治家が今の日本にははびこっている。前出の岸田首相、甘利氏に加えて、自民党の宮沢洋一税制調査会長、高市早苗氏らだ(世耕氏は、増税を避けようとしているようにも見えるので今回は外す)。
彼らがはびこる日本は今、存亡の機だ。
●日本の政府の負債残高は小さすぎて財政余力は巨大 1/27
シンカー
•日本の政府の負債残高は2022年4−6月期にGDP 比258.3%となり、米国の148.7%を大きく上回り、先進国で最悪の財政状況にあると言われる。
•日本の政府は巨額の金融資産を持っていて、グロスの負債残高だけでは公平な比較はできず、政府のネットの負債残高は124.1%となり、アベノミクス以降安定的に推移し、米国の115.4%と同水準で大きくない。
•しかも、日銀の総資産は137.0%もあり、政府のネットの負債残高は既に日銀によってカバーされ、実質的に消滅している。
•国債60年償還ルールの幻想であった歳出と税収の「ワニの口」のように、日本の政府の負債残高は、財政状況が悪く見えるように誇張されていると言える。
•日本の企業のネットの負債(除く株式等)はGDP比―12.8%と、既に消滅してしまっている。
•企業貯蓄率がプラスで、企業のネットの負債が消滅している日本では、クラウディング・アウトをともなう金利の急騰が起きるリスクは限りなくゼロに近い。
•日本の政府と企業を合わせたネットの負債(除く株式等)は111.3%となり、米国の三分の一以下 であり、日本の負債構造は極めて安定している。
•企業行動が慎重な間は、政府の支出と負債残高を増やさなければ、家計の所得と資産は大きく増加することはできず、日本の政府の支出と負債残高は小さすぎて、財政余力は巨大だと言える。
日本政府の財政状況
日本の政府の負債残高は2022年4−6月期にGDP 比258.3%となり、米国の148.7%を大きく上回り、先進国で最悪の財政状況にあると言われる。
日本の政府は巨額の金融資産を持っていて、グロスの負債残高だけでは公平な比較はできない。保有金融資産として、現金・預金のGDP比20.0%、財投投融資や政府関連機関債などの債務証券の14.0%、株式などが30.3%、外貨準備などの対外証券の48.1%などが含まれる。
保有金融資産の総額の134.2%を控除すれば、日本の政府のネットの負債残高は124.1%となる。アベノミクス以降、かなり安定的に推移し、米国の115.4%と同水準で大きくない。しかも、日銀の総資産は137.0%もあり、政府のネットの負債残高は既に日銀によってカバーされ、実質的に消滅している。
国債60年償還ルールの幻想であった歳出と税収の「ワニの口」のように、日本の政府の負債残高は、財政状況が悪く見えるように誇張されていると言える。
   図1:日本の政府総負債残高と純負債残高
企業のネットの負債(除く株式等)は既に消滅してしまっている
マクロの資金需給の環境の違いもあるため、ネットの負債残高でさえ、公平な比較にはならない。米国では、企業のネットの負債(除く株式等)は267.7%と巨額である。
社債や借入などで資金を調達し、自社株買いを行うなどしてROEを引き上げる動きが、ネットの負債を押し上げてきた。一方、日本では、デフレ構造不況の原因は、企業の支出不足による過剰貯蓄が、総需要を破壊する力となってデフレ構造不況の原因になってしまっている。
企業は借入れや株式で資金を調達して事業を行う主体なので、企業の貯蓄率はマイナスであるべきだ。しかし、日本ではバブル崩壊後、企業が後ろ向きになり、リストラと債務削減を続けた結果、異常なプラスの企業貯蓄率が続いてしまっている。日本の企業のネットの負債(除く株式等)は―12.8%と、既に消滅してしまっている。
   図2:日米の主体別純金融資産(対GDP比%)
ネットの負債残高が過剰であるかどうか
金利が急騰するケースは、企業と政府が限られた資金を取り合い、政府の資金調達が企業を阻害するクラウディング・アウトの減少を伴うことが一般的である。
企業貯蓄率がプラスで、企業のネットの負債が消滅している日本では、クラウディング・アウトをともなう金利の急騰が起きるリスクは限りなくゼロに近い。
ネットの負債残高が過剰であるかどうかは、政府だけで判断するのは適切ではなく、政府と企業を合わせたもので判断する必要がある。日本の政府と企業を合わせたネットの負債(除く株式等)は111.3%となる。
   図3:企業のネットの負債残高
財政余力は巨大
米国は383.1%と、日本はその三分の一以下であり、日本の負債構造は極めて安定している。負債構造が日本の三倍以上に膨張している米国の金利が4%程度になっているが、米国の政府が破綻する兆候は全くない。
日本では、フローでもストックでも、政府が独占的な借り手となっている。日本の政府が数%の金利の上昇で破綻するというのは過剰な警戒感であろう。
企業行動が慎重な間は、政府の支出と負債残高を増やさなければ、家計の所得と資産は大きく増加することはできず、日本の政府の支出と負債残高は小さすぎて、財政余力は巨大だと言える。
   
「ワニの口」を閉じる方法って? 日本の財政危機
2022年度末のいわゆる「国の借金」は約1055兆円となり、これだけを見ると財政危機でいつ破綻してもおかしくはないと思う人も多いでしょう。国の財政破綻は、政府の資金繰りが行き詰まることであり、国債などの対外債務の利払いや元本の償還ができなくなることで起こります。1990年代にバブル景気が崩壊してから、財政が悪化し、その度に日本が財政破綻するといわれ続けてきました。ところが、30年たっても財政破綻する気配はありません。以下、日本の財政危機や、「ワニの口」について解説します。
   日本政府の財政危機宣言
1995年11月に武村正義大蔵大臣(当時)が「財政危機宣言」を発しました。日本政府において、財政危機宣言が出された当時の国債残高は約240兆円であり、国と地方自治体を併せた負債残高は約500兆円でした。財政危機宣言が出されてから28年たった2022年度末になると、国の債務が約1055兆円、地方の債務が約189兆円となっています。国の債務だけ見ても約4倍以上です。しかし国の負債残高がそこまでふくらんでも、財政破綻には至っていません。
   日本の財政状況はどうなっているのか
日本の財政状況について、歳出と税収をグラフにすると図表1のとおりです。
   図表1 一般会計税収・歳出総額の推移
財政の危機的状況について、歳出と税収の差を図表1のようなグラフをもとに「ワニの口」と表現することがあります。図表1を見るとワニの口になっている部分は1994年から1999年までであり、その後少しだけ縮みました。その後2008年に起きたリーマンショックによってワニの口が大きく開き始め、2013年以降のアベノミクスによって徐々に縮んできました。そして2020年には、新型コロナウイルス感染症の影響によって再度ワニの口が大きく開きました。1995年11月に出された財政危機宣言以降から見ても、開いたり閉じたりを繰り返していることが分かります。
   ○政府の借金をGDPで比較する
GDPとは「Gross Domestic Product」の略称で、「国内総生産」のことです。国内総生産は一定期間内に国内において産出された付加価値の総額のことで、国の経済活動状況を表す指標となります。またGDPには、物価変動を考慮に入れた実質GDPと考慮に入れない名目GDPの2つの指標があります。財務省が算出している国と地方を併せた負債に対するGDP比は220%です。この値は債務の合計に対する比率となります。次に政府の借金と税収を国全体の経済指標であるGDPで割ることで、いわば所得に対する借金の割合が分かります。政府の借金からGDPで割ったものが図表2です。
   図表2 一般会計税収・歳出総額の推移(対GDP比)
図表2の対GDP比で見ると図表1よりも少しだけ縮んでいるように見えます。GDPで比較しているため分母が大きくなったためです。そして図表2のグラフから、一般会計税収と歳出総額の開き具合を表したものが図表3です。
   図表3 一般会計税収・歳出総額の開閉の推移(対GDP比)
ワニの口は常に開くというよりは閉じようとしている面があることも分かるでしょう。ただ、し日本の財政が悪化していることは間違いがないため、持続可能な財政にするためには対策が必要です。
   結局ワニの口はどうすれば閉じるのか
ワニの口を閉じるには、国の所得であるGDPを増やす以外にないでしょう。つまり経済成長です。経済成長しないことを前提にして、政府の負債を減らすために増税すれば経済に悪影響を与えてしまいます。その状態からさらに政府の負債を減らそうとして増税すれば、負のループに陥ってしまうでしょう。負のループに陥らないようにするためには、経済成長を目指す以外に方法はありません。個人所得や法人収益の増加、消費の拡大を促すために、政府と日銀が連携して金融政策などを行うことで、財政危機を脱することができるのではないでしょうか。
●何から何まで手を出す首相の施政方針は間違い 1/27
そんなに何から何まで、国ができるのだろうか。そんなにたくさんの政策を背負いこむ財源はあるのだろうか。国でできないことも多いのに、できると錯覚する。国でできることがあっても、財源が足りない。岸田首相の施政方針演説を読んで、多くの人がそう感じたのではないでしょうか。
岸田氏に限らず、歴代首相の多くに感じてきたことです。「金融の大規模緩和で物価を2%引き上げられる」と信じた黒田日銀総裁の異次元緩和も、できないことをできると錯覚した典型的な実例でしょう。
首相は「われわれは再び歴史の分岐点に立っている」として、明治維新、アジア太平洋戦争の終戦(敗戦のこと)に続き、現在が大きな転換点だ」と、姿勢方針演説で強調しました。確かに何から何までが音をたてて、変わり始めています。
ロシアによるウクライナ戦争、気候変動(温暖化)、感染症対策、地球規模の問題、格差問題などをあげました。さらに脆弱な世界の供給網、エネルギー・食料危機、人への投資不足、グローバリゼーションの変質に言及しました。「こうした現実を前に新たな方向に足を踏み出す」と。
政府がやるべき仕事がどんどん増えています。政府に期待されることが今や森羅万象に及びます。財源が不足し、巨大な財政赤字に陥っているのですから、「政府がやるべきこと」と「政府にはできないこと」を原点に戻って、線引きし直す局面です。首相が好むスローガン「新しい資本主義」の本質的な問題はそこにある。
「財源が足りないから国債(国の借金)でやらざるを得ない」ではなく、「効果があるかないか分からないことまで政府が手をだすから、財源が不足し、国債に頼る」のだと思います。原因と結果の順序が逆です。
財源は税収、借金(国債発行)、社会保険料(社会保障負担)などです。このうち、「政府の子会社」(安倍・元首相)に位置付けられた日銀が財政ファイナンス(実質的な国債の買い上げ)を続けていますから、借金に歯止めがかからなくなっている。
増税は国民の抵抗が強いため、借金(国債)に走る。「子会社だぞ」と言われている日銀は抵抗せず、際限なく残高が膨らんでしまった。
社会保険料(年金、医療、介護など)は実質的な税金です。その負担増は勤労者と企業に対する「見えざる増税」で、「見えにくい」から抵抗が少ない。22年度の保険料収入は74兆円に増え、税収の68兆円を上回る。
現役世代が負担する健康保険料のかなりの部分を老人医療に回してしまっているのに、現役世代は抵抗しない。
そうこうするうちに、日銀の異次元金融緩和が限界点に達し、それに代わる便法の一つとして、自民党から「国債の60年償還ルールの見直し」(萩生田政調会長)の声が上がりだした。「60年償還」は財政規律を守るためにできた決まりで、数少ない歯止めになっています。
国債償還を今の60年から80年に伸ばすとどうなるか。発行残高が約1000兆円ですから、60年で割ると毎年約16兆円(残高の1.6%)を償還(返済)することになる。一般会計予算に国債償還費として計上されてます。
それを80年に伸ばし、80年で割ると約12兆円となり、4兆円減ります。「その4兆円を防衛費増額など歳出の財源にしよう」というのが萩生田氏らの考えです。償還が長引く分だけ、財政赤字は増えてしまう。
かれらは「そんな国債償還のルールなんて他の国にはない」と主張しています。誰かが入れ知恵したのでしょう。米国には「法定の債務上限規定」があり、現在は約31兆jで、引き上げるには議会の承認が必要で、安易に変更できないようにしてあります。
EUにはマーストリヒト条約というのがあって、「債務残高のGDP比を60%以内とする。毎年度の財政収支の赤字はGDP比で3%以内とする」という決まりがあります。経済危機への対応でこの上限は突破しています。それでも日本の国債発行残高のGDP比250%という異常な高水準ではありません。
そんな日本がさらに財政規律を緩めようというのですから、あきれます。「国がやるべきことと、やりたくてもできないこと、やらなくてもいいこと」の仕分けが、今こそ必要になっているのだと思います。
財政拡張派は安倍派に多く、これまではMMT(現代金融理論)を拠り所にしてきました。「自国通貨を発行できる国は財政を拡大しても、債務不履行に陥ることはない。財政赤字はインフレが起きない範囲にとどめることは必要である」というもので、海外では、まあ無視されている理論です。
実際に資源高、円安でインフレ(消費者物価4%上昇)が起きてしまっており、さすがに分が悪いと悟った。その代わりに持ち出してきたのが「60年償還ルールの見直し」でしょう。
つまり、他の主要国は金融引き締め、財政膨張からの転換を目指しています。日本は異次元緩和の維持(黒田総裁の表現)と財政規律の後退を走り続けています。「日本だけは大丈夫」というのなら、納得させられる理論的な根拠を示すべきです。
●日本 武器を買うより 食料自給不足で戦うどころか「兵糧攻め」で餓死 1/27
戦後、米国の余剰農産物の処分場と位置付けられ、日本の食料自給率はどんどん低下した。カロリーベース38%という自給率だが、野菜の種の自給率が10%しかないことや化学肥料の自給率がほぼゼロであることを考慮すると、実質は10%あるかないかくらいとの推定もある。
我が国が国民の命を守るのにどれほど脆弱な国であるかは、海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が出るのが日本との米国の大学の試算にも如実に示されている。今こそ、国内農業生産を増強しないといけないのに、逆に、コメも牛乳も余っている。だから、コメつくるな、牛乳搾るな、牛殺せ、牛乳捨てろ、と言っている。
牛を処分してしまったら、また足りないとなっても、牛乳生産回復には3年近くかかるから絶対に間に合わない。海外からの輸入が滞りつつあるときに、逆に自ら国内生産力をそいでしまう「セルフ兵糧攻め」をやってしまっている。
牛を殺したら5万円支給とか、愚かな金の使い方でなく、他国のように、農家にしっかり生産してもらい、政府が穀物や乳製品の在庫を買い取り、国内外の援助に使うことで需要創出する前向きの政策に財政出動すれば、農家も消費者も助かるのに、日本だけはやらない。援助政策は米国市場を奪うとして逆鱗に触れる可能性を恐れている。
すでに、国内農業は肥料、飼料、燃料などの生産コスト暴騰にもかかわらず農産物の販売価格が上がらず、この半年くらいの間に廃業が激増しかねない。直近の酪農家アンケートでは98%が赤字と答えており、子供の成長に不可欠な牛乳を供給する産業が丸ごと赤字というのは社会的にも許容できない危機である。
さらに、在庫が過剰なのだから、コメつくるな、牛乳搾るな、と言いながら、77万トンものコメと13.7万トンもの乳製品の莫大な輸入は「最低輸入義務」と言って続けている。
国際協定には、そんな約束はなく、どの国もそんな輸入はしていないのに、日本は米国の怒りに触れるのを恐れて、北海道だけで14万トンの生乳の減産をしながら、13.7万トンの輸入をしている始末だ。米国から無理やり買っているコメは国産米の1.5倍に値上がりしているのに、そんな高いコメを輸入して国産を減産させている。
国内農業の崩壊を加速させ、いざというときの国民の食料確保を顧みずに、一方で「防衛費5年で43兆円」「敵基地攻撃能力強化」と叫んで、米国の武器の在庫処分にも協力している。いくら武器を買い増ししても、食料のない日本は、戦うどころか、逆に「兵糧攻め」されて餓死させられてしまう。
いくら武器を揃えても、国民の命は守れない。お金を出せば食料を買える時代は終焉した。不測の事態に国民の命を守るのが「国防」というなら、国内農業を守ることこそが安全保障の要である。食料にこそ数兆円の予算を早急に付けないと国民の命は守れない。
米国の顔色をうかがって国内農家や国民に負担を強いるのはもう限界である。政治・行政も我が身の保身でなく国民を守る覚悟を持ってほしい。国民も、お金を出せば輸入できるのが当たり前でなくなった今、国内農業こそが希望の光、安全保障の要だと認識し、一人一人が国産農産物を買い支える行動を今すぐ起こそうではないか。
●新型コロナ「5類」になったら 「マスク外す」−たったの19% 1/27
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同等の「5類」に今春引き下げられることについて、南日本新聞「こちら373(こちミナ)」はアンケートを実施した。「賛成」は44%で、「反対」の39%をやや上回ったものの、賛否が拮抗(きっこう)する結果となった。また、屋内でのマスク着用が原則不要となった場合、「外す」と回答したのは19%にとどまった。
アンケートは25〜26日、無料通信アプリ「LINE(ライン)」のこちミナに友だち登録した人を対象に実施し、830人から回答があった。
新型コロナは感染症法上、結核などの2類より幅広い措置が可能な「新型インフルエンザ等感染症」に位置付けられている。5類になれば、緊急事態宣言の発令や感染者への外出自粛要請などを定めた特別措置法の適用対象から外れる。
賛成の理由には「死亡率は低くなっている」(県内・50代女性)、「国の財政が持たない」(中種子町・60代男性)、「誰もがかかる普通の病気になってきた」(いちき串木野市・60代男性)のほか、「コロナに振り回される生活はこりごり」(薩摩川内市・40代女性)などがあった。
反対の理由は、現在の感染者や死亡者の多さを危惧する声が目立った。「特効薬がない」(鹿児島市・20代女性)、「医療費の負担が心配」(薩摩川内市・60代女性)のほか、後遺症に悩む人も複数いた。「首相の政治的パフォーマンス」(志布志市・30代男性)との厳しい指摘もあった。
「どちらでもない」が17%あり、「感染したらという不安と、元の生活に戻りたいという気持ちがある」(県内・40代女性)と複雑な心境がうかがえた。
屋内でのマスク着用については「外さない」(40%)と「状況に応じて」(41%)が合わせて81%。「持病のある人や高齢者にうつしたらいけない」(鹿児島市・40代男性)など感染対策のために着用を継続する意見が大勢だった。
少数だった「外す」の理由は「コミュニケーションが取りづらい」(同市・30代男性)、「子どもたちの教育上良くない」(霧島市・50代男性)などさまざまだった。
●日銀は金融緩和の持続性高めるためYCC運用見直し−岸田首相 1/27
岸田文雄首相は27日午前の参院本会議で、日本銀行が昨年12月にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)で長期金利の許容変動幅を拡大したことについて「金融緩和の効果を円滑に波及させ、持続性を高めるための運用の見直しと承知している」と述べた。
日本維新の会の浅田均氏への答弁。4月に任期満了を迎える黒田東彦日銀総裁の後任人事については「その時点で最もふさわしいと判断する方を任命することが基本であると考えており、今後の経済動向を見ながら的確な判断を行う」と語った。
現在の消費者物価指数の上昇は世界的な原材料価格高や円安の影響を受けたものであり、国内の需給による物価上昇圧力は「依然として強くはない」と指摘。デフレではない状況が継続しているものの、「現時点では逆戻りする見込みがないと判断できる段階ではない」と語った。
●増税には反対、教育の無償化と減税・社会保険料減免の断行を! 1/27
日本維新の会の馬場伸幸です。
令和5年の干支、癸卯(みずのと・う)には「春の兆し」や「物事の終わりと始まり」の意味があると言われます。日本は戦後最大の転換期を迎えており、あらゆる面で構造改革に着手し、その流れを軌道に乗せる年にしなければなりません。
前国会の成果
昨年、わが党はこれまで掲げてきた政治理念に基づく政策のいくつかを国会活動を通じて実現することができました。
旧統一教会の被害者救済法案は、もともと次の国会へ先送りし、ほとぼりが冷めるのを待とうとしていた政府与党に議員立法で対案を示し、前国会中の成立を実現しました。粘り強く国会質疑と折衝を繰り返すことで、抜け穴だらけだった当初の政府案に一定の実効性を持たせることに成功しました。
新型コロナ等の感染症法改正では、わが党の発案により、2類相当から5類への変更に関する文言が法案に追記されました。これが与野党及び政府の決断を促し、新型コロナの感染症法上の位置づけの見直しは現在、政府の具体的な方針として進められています。
身を切る改革では、日本維新の会が持つ科学技術・イノベーション推進特別委員長のポストを自ら返上することで、ほぼ開かれることのない特別委員会に委員長手当や公用車などの無駄な税金がつぎ込まれていることに対して問題提起をし、結果的に特別委員会を一つ廃止することができました。小さな変化ではあるものの、これまで誰もやろうとしなかった政治家の特権排除の具体的な成功事例として画期的な変化が起きました。日本維新の会はこれからも身を切る改革の理念の下、確実に一歩一歩国会改革を積み重ねていきます。
国家安全保障戦略等の安保三文書の改定については、前国会冒頭の本会議代表質問での答弁に基づき、私と岸田総理との間で議論の機会が設けられました。深刻化する安全保障環境の中で国家と国民を守り抜くという政治の責任を果たすため、自民党案よりも一歩踏み込んだ防衛力の強化を主張しました。結果としてそれに近づく形で、安全保障上の抑止力となり得る反撃能力を保有する方針が安保三文書に明記されました。
その他にも、合法的ではあっても国民の理解が得られていなかった国葬義について、本来あるべき法律の姿をわが党が与野党で最初に議員立法としてまとめ上げ、国会に提出したことは、その後の国会における検証作業へと繋がっています。物価高・円安に対する総合経済対策では、将来世代への投資拡充を中心に多くの提案した政策が実現しました。園バスの安全装置の無償化や10増10減の期日通りの実行は、わが党が立憲民主党と協力して提出、あるいは準備していた議員立法が、一連の動きを確実にし、加速させたと考えています。
こうした国民と国家にとって望ましい変化を起こすことができたのは、わが党のみならず、志ある政治家が政党の枠を超えて努力を続けた結果です。その中では、岸田総理の決断が推進力となった場面もあったと考えています。
増税
今国会でも、わが党は与野党と是々非々で協力を行う中で、こうした独自の政策理念の実現を目指して国民と国家のために全力で働きます。
その中で、次に達成したい成果の第一は、防衛費増額の財源等として示された「増税路線の撤回」です。
政府は来年度以降5年間の防衛力整備の総経費として約43兆円を確保し、令和9年度以降不足する財源約4兆円のうち、3兆円程度を歳出改革や決算余剰金などで賄い、残り1兆円超を法人税、復興特別所得税、たばこ税の増税で充てるとしています。
日本維新の会は、防衛費の増額には賛成です。しかし、その財源を得るために増税は避けられないという政府与党の説明には違和感を禁じ得ません。なぜ、数多くある方法の中から増税という国民に負担を押し付ける手段を最初から選択するのでしょうか。
政治家がまず身を切り、政治の側が行財政改革を通じた徹底的な歳出削減と経済成長による税収増で賄う中長期的な道筋を示し、どうしても足りない部分は新たな創意工夫で捻出し、もし万策尽きた最後の一滴がどうしても出てしまった場合に限り、最小限の国民負担をお願いするのが筋ではないですか。
そもそも、この増税は昨年末の国会では議論されていません。国会閉会を狙いすましたかのように、その後たった1か月程度で急に決まりました。最初から1兆円の増税ありきで議論しているように思えてなりません。増税以外の財源を探すための努力が足りていないのではないですか。
自民党政権は「新しい資本主義」のような看板を幾度となく掲げて成長戦略と称し、そこに毎年巨額の税金を投入し続けてきました。しかし今、世界の先進国で日本の成長率は最低レベルです。経済成長、それに付随する税収増加が起きなければ、ただの予算のバラマキではないですか。増税を考える前に、経済成長による増収で賄う覚悟を総理が示すのが先ではないですか。
令和4年度補正予算で税収は上振れしています。当初予算は65兆円でしたが、補正後の税収は68兆円になり、3兆円も増えました。コロナ禍からの景気回復が主要因ですので、今後はもっと税収が増えます。今年並みが続いたとして、3兆円の財源が自然に生まれます。こうした税収増はなぜ財源の中で考慮されないのですか。
歳出の自然減もあります。コロナ関連予算はこの3年間で95兆円計上されています。コロナが収束すれば、歳出は年間30兆円以上自然に減ります。防衛費に必要な財源のうち増税分は、その1/30の規模しかない年間1兆円です。歳出の自然減で十分捻出できるのではないですか。
また、国債を60年で償還するという現行のルールを改め、例えば90年償還とすれば、毎年GDP比1%分の5兆円程度の財源が生まれます。採用する考えはありませんか。60年という年数には何の根拠もなく、日本でしか使われていないわけですが、なぜこの数字にこだわるのですか。
そもそも、税率を上げたから税収が増えるわけではありません。円安や物価高騰が続く中で法人税を増税すれば、政府が目指す賃上げに水を差し、経済成長に大きな悪影響を与えますが、問題はないとお考えですか。
昨年の参議院選挙での自民党の公約は増税に一切触れていません。国家運営の根幹に関わる税のあり方の変更であり、衆議院を解散し、総選挙で「国民の信」を問うべきではないですか。
身を切る改革
国民に新たな負担をお願いする前に、国会議員は「身を切る改革」に率先して取り組むべきです。
日本維新の会は結党以来、国会議員の定数の3割カットを訴えてきました。翻って自民党は、平成24年11月の党首討論で当時総裁の安倍晋三元総理が約束した議員定数の1割削減さえ未だ与党として着手すらしていません。
自民党総裁たる総理に伺います。
自民党は昨年の参議院選挙の公約で国会議員の定数削減に触れていません。10年前の約束はどこへ消えたのですか。少なくとも自民党がかつて国民に誓った1割削減は実現させると約束していただけませんか。
常任委員長・特別委員長に対する手当や専用公用車、委員長室は全廃すべきだと考えます。自民党も同調していただけますか。総裁として答弁を求めます。
日本維新の会は、国会議員に毎月、歳費とは別に100万円支給される調査研究広報滞在費、いわゆる旧文通費の抜本改革も訴えてきましたが、使途公開と未使用分の国庫返納に自民党などが応じず、1年以上棚ざらしにされてきました。
今国会での旧文通費改革の実現に向け、自民党は協力すると約束できますか。総裁として答弁をお願いします。
少子化対策
我が国の昨年の出生数は統計開始以来、初めて80万人を割る見通しとなりました。日本は、人口危機という「静かなる有事」に直面しています。
総理は年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を掲げましたが、3本柱の児童手当の強化、学童保育などへの支援、働き方改革は、いずれも従来施策の延長に過ぎず、出生率を反転させられるとは思えません。晩婚化、非婚化の問題に光があてられていないからです。
総理にお尋ねします。
人口減少に向かう悪循環から脱するには、若い世代にとって出産と子育てが経済的にも、キャリア形成の上でも負担にならず、プラスになると実感できる社会環境を創りだすことが不可欠だと考えますが、認識をお示しください。
また、そうした社会環境を醸成するためには、児童手当のような給付ばかりに頼るのではなく、税や社会保障の負担を全体として軽減すべきです。
私たちは、ベーシックインカムなどをセーフティネットとする日本大改革プランが実現するまでの過渡的措置して、個人ごとの課税方式を改め、子どもの数が多い世帯ほど税負担を軽減するN分N乗方式を導入すべきだと考えますが、見解を伺います。
個別施策では、全国各地で保育・幼児教育の無償化や、18歳までの子どもの医療費無償化、学校給食費の無償化の取組みが進んでいます。大阪市では、塾代を助成しているほか、幼児教育は国の制度に上乗せして非課税世帯の0〜2歳児については大阪市独自の負担により更なる負担軽減を図っています。小中学校の給食費は完全無償化を実現し、来年度以降も継続される方針です。大阪府は私立高校の授業料実質無償化を全国に先駆けてスタートさせました。
そして今度は、吉村洋文知事と松井一郎市長の下、維新の会のリーダーシップにより、0歳児から大学院卒業までの教育費の無償化が、大阪という一地域では実現しようとしています。
少子化の進行による国や地域の活力の減退は地方自治体が最も強く感じています。そうした地方自治体のリーダーシップと自助努力に頼るのではなく、本来は、国が先陣を切って取り組み、地方に恩恵を与えるべきではないですか。
全国に先駆けて大阪で進むこうした正に「異次元の少子化対策」に対して、政府も同調し、後押しをするとともに、優れた取り組みとして全国に広げていくつもりはありませんか。
具体策として、児童手当の給付増額だけでなく、保育・幼児教育、医療費、給食費等について、所得制限を撤廃した無償化を進めるつもりはありませんか。
出産支援について、政府は4月から出産育児一時金を現行の42万円から50万円に増額します。ただ一時金を手厚くしても、医療機関が出産費用を上げるイタチごっこが想定され、効果は不透明です。
これに対しわが党は、出産に保険を適用し、自己負担分はクーポン等の支給で出産費用を実質無料にするべきだと訴えています。
出産費用の高騰も抑えられる、出産の保険適用を政府として導入するお考えはありませんか。
総理は「子ども予算を倍増する」を宣言しましたが、財源のメドが立たず、結論は先送りされています。政策のメニューが煮詰まっていないのに、自民党内では消費税率引き上げの声も上がっています。
安心して子どもを産み育てる環境を整えるには安定財源は欠かせませんが、どのように財源を確保するのですか。家計への負担がかさむ増税は少子化対策に逆行しますが、増税は選択肢にないとこの場で明言していただけませんか。
物価高騰・円安対策
世界的な資源高などによる物価高騰のあおりで、国内の消費者物価は急上昇しています。家計に対する影響を軽減するためには物価高を上回る賃上げが欠かせません。
しかし、政府が民間に期待する基本給の一律引き上げは、内部留保などの余力がある大企業は対応できても、原料高に苦しんでいる中小・零細企業には困難です。
総理にお尋ねします。
わが党が先の総合経済対策で提言した通り、中小・零細企業の物価高を超える賃上げを実現するためには、これら事業者の社会保険料の事業者負担分の半減や、法人税率の引き下げなどの施策が必要と考えますが、見解を求めます。
賃上げを持続可能なものにするには、大企業から中小・零細企業への価格転嫁が不可欠です。しかし、その具体策として政府が期待する企業間取引が適正価格で行われているのか監視するいわゆる「下請けGメン」制度は、長年築き上げた取引先との信頼関係を国からやってきた他人にゆだねるような制度であり、日本の商習慣に合わず機能していないとの声が、事業者から私のもとに届いています。
下請けGメン制度の現状をどう捉えていますか。中小企業に対する価格転嫁政策をより強く推進すべきと考えますが、今後、どのような具体策を考えていますか。
成長戦略
来年度予算案は一般会計で114兆円超と過去最大となりましたが、内実は社会保障費や国債費などの膨張が大きく、他の政策経費は約3割どまりです。税収も過去最高ながら、他の主要先進国と比べると増加が鈍いのが実情です。
成長につながる支出が乏しいがゆえに税収が伸び悩み、財政が硬直化して成長の余力を失う負の連鎖が浮かび上がります。
岸田政権の示す中長期の成長戦略は、人への投資、デジタル・トランスフォーメーション(GX)、グリーントランスフォーメーション(GX)といった成長に繋がる取り組みもありますが、徹底的な改革を行い、成長を呼び込む賢い支出で税収を伸ばし、次の成長投資の財源とする好循環を作り出そうという政治主導の決意や具体的行動が足りません。
総理にお尋ねします。
施政方針演説で総理は、新しい資本主義を「次の段階に進めたい」と訴えましたが、「これまで」についてはどのように総括されているのですか。
新しい資本主義という枠組みに当てはまる様々な政策を五月雨式に出すのではなく、制度疲労を起こしている日本の経済社会のシステムを抜本的に見直す骨太の成長戦略を実行すべきではないですか。
日本維新の会は、税制、社会保障制度、労働市場を三位一体で改革し、経済成長を呼び込む日本大改革プランを掲げています。このプランをどのように評価されますか。
また、各国で経済安全保障体制の整備が進み、世界経済のサプライチェーンが分断しつつある今こそ、次の時代を牽引する技術やサービス、そして、国家と国民に真に必要な物資等についてはメイド・イン・ジャパンを進めるといった戦略的な指針が必要ではないですか。
原発・脱炭素・エネルギー
政府は昨年末にまとめた脱炭素社会に向けた基本方針で、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故以来、「想定していない」としていた原発の建て替えや新増設、運転期間の延長を明記し、原発活用へと政策を転換しました。
日本維新の会は、安全が確認され、立地自治体の理解が得られた原発の再稼働の方向性は支持します。しかし建て替えや運転期間延長などを進める前に、政府がやるべきことがあります。
私は昨年12月19日に青森県・六カ所原燃の高レベル放射性廃棄物貯蓄管理センターなどの施設を、今月16日には、この春にも処理水の海洋放出が始まる東電福島第一原発を、それぞれ視察し、政治主導で早期に核のゴミの最終処理に道筋をつけるべきだという思いを強くしました。
国内の原発で保管されている使用済み燃料は約1万6千トンで、電力10社の保管容量の約75%を占めます。原発の再稼働が進めば、さらに余裕がなくなります。しかし使用済み核燃料の最終処分については、最終処分法により地層処分の場所のめども立っていません。再処理工場の稼働も遅れています。
総理に質問します。
使用済み核燃料の最終処分の方法や場所はいつまでに決めるお考えですか。原発の運転期間延長や建て替えを進めるにあたっては、国が責任をもって最終処分地などを決めるためのロードマップを作成し、関係自治体との調整を進めるべきではないですか。
政府の基本方針には、二酸化炭素排出に応じて企業にコスト負担を求めるカーボン・プライシングを来年度から段階的に導入することも盛り込まれました。
カーボン・プライシングは、事業者にとって過度な負担とならず、かつ延命策にならないことが必要であり、民間競争を促進するとともに、国際的な潮流に即した制度設計が求められます。
カーボン・プライシングは脱炭素のインセンティブとして重要であり、制度を速やかに策定し、着実に実行すべきだと考えますが、総理の認識を伺います。
コロナ対策
新型コロナウイルスへの危機対応も大きな転換期を迎えました。政府がこの春、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを、危険度の高い2類相当から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることになりました。
社会経済活動と医療体制の両立を促すべく、日本維新の会は、昨年夏の参議院選挙の公約や昨年10月のコロナ対策に関する提言11弾などで「5類への早期移行」を繰り返し訴えてきました。先ほど述べた通り、前国会での改正感染症法成立にあたっては、わが党の主導で「新型コロナの法的な位置づけの見直しを速やかに検討すること」が附則に盛り込まれました。
かくして私たちの主張が実現する形となりました。やや遅まきながらの方向転換ですが、社会の閉塞感を打ち破る政府の判断を支持します。
課題は感染対策を軽視することなく、医療体制の正常化など、平時への移行を円滑に進めていくことです。
5類への引き下げ後、感染者は発熱外来などに限らず、一般病院や診療所でも受診することができるようになりますが、受け入れ実績がない医療機関の忌避感は拭えないと指摘されています。自治体からのコロナ病床確保の要請がなくなれば病床は他の病気の患者で埋まり、感染拡大時に重症コロナ患者が行き場を失う恐れもあります。
総理に質問します。
5類移行後、医療体制をどのように確保していくお考えですか。コロナ患者受診や病床確保のための医療機関への支援について、2類相当下での補助金を主軸にした体制から、診療報酬の改定によって患者を受け入れる医療機関を拡大していく体制に移行していくべきだと考えますが、所見を伺います。
新たな変異株の登場などで医療体制が再び逼迫する可能性はあります。危機管理上、あらかじめ緊急事態宣言に代わる行動制限を発動する仕組みを構築すべきではないですか。
報道によると、政府は治療費の全額公費負担を段階的に縮小していく方針ですが、無用な混乱を招かない制度設計が必要です。どのような段階になったらインフルエンザと平仄を合わせた、通常の保険診療に移すお考えですか。
マスクの着用については、5類への移行で、屋内での着用も原則不要とする方向ですが、個人の自主判断に委ねた、明確かつ丁寧な指針を打ち出すべきだと考えます。見解をお示しください。
防衛力強化
昨年12月、新たな国家安全保障戦略など安保3文書が閣議決定されました。深刻化する世界の安全保障環境の中で、我が国は、いずれも核を保有し、力による現状変更の意思を隠さないロシア、中国、北朝鮮の隣に位置しており、国民はトリプル危機の最前線で暮らしています。
安保3文書の改定で「反撃能力」保有への道が開かれ、防衛費のGDP比1%枠の壁が取り払われました。戦後日本をほぼ丸腰にさらしてきた空想的平和主義から脱却し、戦争を抑止する真の平和主義へと舵を切ったことは評価します。
閣議決定に先立ち日本維新の会は、岸田総理に提言書をお渡ししました。私たちの提案を3文書に広く反映させていただいたことを感謝します。しかし、まだ踏み込みが足りません。自衛のための「必要最小限度」の解釈の見直しや核共有の議論開始など、抑止力の肝が抜け落ちているのです。今後の具体的な防衛力整備も同様です。抑止力にならない中途半端な反撃能力であれば、保有する意味などありません。
新人自衛官が初めて制服を身に着けたとき、こう服務宣誓をします。すなわち「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います」と。命を投げ出すことも厭わず国民のために全力を尽くという決意を示すものです。
有事の際、自衛隊の最高指揮官として、国民を全力で守ると誓った自衛官たちに「必要最小限で戦え」と本当に言えますか。他国への脅威にならない必要最小限の軍事力が本気で抑止力となるとお考えですか。
日本の防衛政策の基本「専守防衛」は、国民が傷つき犠牲になることが前提となっています。この立場を貫く以上、絶対に敵国に侵攻を許されない強力な防衛力を持つことが不可欠ではないですか。
核が最大の抑止力であることから目を逸らすべきではありません。中国、北朝鮮、ロシアが核戦力を増強する中、日本維新の会は、我が国が核共有をめぐる議論を開始することが必要だと考えています。
先の日米首脳会談の共同声明で、バイデン大統領は核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛への揺るぎない責務を表明しましたが、日本を守る核抑止の具体的な強化策は示されていません。核抑止問題について大統領とどのような議論をなされたのですか。
有事の際の国民保護への対応が遅れています。とりわけ台湾に近い先島諸島の住民約10万人の避難対策は最優先の課題です。
昨年8月には中国軍が台湾周辺の軍事演習で、沖縄県与那国島の北北西約80キロに弾道ミサイルを着弾させました。台湾から約110キロの日本最西端の島にとって、台湾有事は「対岸の火事」ではありません。
総理に伺います。
住民の避難先となる地下シェルターは国民保護の重要手段となります。しかし中国、北朝鮮がともに日本を射程に収める弾道ミサイルを所有しているのに、先島諸島には未だに地下シェルターが一つもありません。政府はいつまでに先島諸島に地下シェルターを整備する方針ですか。
国民保護法に基づいて政府が住民に避難を「指示」できるのは、自衛隊の防衛出動に必要な「武力攻撃事態」や「武力攻撃予測事態」などが認定されるときに限られています。すでに軍事攻撃が始まったか差し迫ったときであり、これでは住民避難は遅れかねません。
有事に至る前の段階の「重要影響事態」でも国民保護が行えるよう早急に法整備すべきではないですか。
訓練で重要なのは場数を踏むことです。特に先島諸島では台湾有事を想定した住民の避難訓練を国主導で積極的に実施すべきだと考えますが、併せて見解を求めます。
憲法改正
衆議院憲法審査会は昨年の通常国会において、常会で過去最多16回の実質審議の場が持たれ、先の臨時国会でも、ほぼ毎週の定例日に各党がテーブルにつきました。しかし、いつまでも漫然と意見の発表会をやっている猶予はありません。
今国会では、衆参両院の憲法審査会が足並みをそろえ、改憲項目を絞ったうえで、国民投票をいつ実施するのかゴールを定め、国会発議に向けて意見集約を加速させるべきだと考えますが、所見を伺います。
総理は来年9月末の党総裁任期中の改憲実現を明言されていますが、国民投票実施には国会発議後60日から180日間必要であることを踏まえれば、遅くとも来年7月末までに国会発議をしなければなりません。それまでに国会発議を実現させると約束していただけますか。
前国会の本院の憲法審査会では、緊急事態条項創設に関する各党見解の論点整理に入りました。今国会では、少なくとも緊急事態条項創設の成案を得るべきではないですか。自民党は具体的にどのように改憲論議をリードしていくお考えですか。総裁としての答弁を求めます。
皇位継承
総理は昨年1月、安定的な皇位継承策を検討していた政府有識者会議での議論を国会で報告しました。平成29年制定の天皇退位等に関する皇室典範特例法の附帯決議で、政府に対し「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」等について速やかに検討し、国会に報告するよう求めたことを受けてのことです。
日本維新の会は党皇室制度調査会で議論を重ね、昨年4月、政府報告書を高く評価する意見書を衆参両院議長に提出しました。
意見書では、報告書が皇族数を確保する方策として示した、旧皇族の男系男子を養子に迎える案を特に高く評価したうえで、古来例外なく男系継承が維持されてきた重みなどを踏まえ、立法府が静かな環境の中で丁寧に議論し、総意をまとめるよう求めました。
しかし、この1年、他党・会派におかれては、議論された形跡がありません。天皇は「国安かれ、民安かれ」と祈るご存在です。静謐(せいひつ)な環境の中で皇統を厚くする方策を講じることは当然ですが、国会が真摯に向き合うべき課題です。
総理に伺います。
政府の報告書は「皇族数の確保を図ることが喫緊の課題」としていますが、立法府の対応をどう受け止めますか。今国会で与野党の協議体を設け、自民党が議論を主導していく考えはありませんか。総裁としてお答えください。
結び
日本維新の会は、若くしがらみのない政党であり、国民のために真っすぐ働くことのできる唯一の政治の力であると自負しています。今国会においても、今起こせる変化を一つ一つ積み重ねていきます。そして、必ずや政権交代を成し遂げ、国家・国民のための政治を実現させることをお誓い申し上げ、私の質問を終わります。
ご静聴ありがとうございました。
●少子化ニッポン驚愕の実態、「年間出生数一桁」の自治体が128もあった 1/27
年間出生数はベビーブーム時の3分の1以下に
通常国会が始まり、岸田首相が施政方針演説で「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」としたうえで、「6月の骨太方針までに、将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」との方針を示した。
とはいえ、「5年間で総額43兆円」を明言している防衛予算とは大違いで、子ども政策関連の予算規模には一切触れないままだった。今後の具体的な政策内容をみなければ分からないが、現時点では“本気度”に確証が持てないと言わざるを得ない。
少子化対策は歴代の内閣が取り組んできたが、一向に成果が上がっていない。2021年の年間出生数は81万1622人と過去最低となった。2022年はついに80万人を割り込むとみられている。第1次ベビーブーム(1947─49年)のころは年間269万人という年もあったが、その3分の1以下の水準にまで落ち込んでいるのが現状だ。
80万人というのは日本全体の数字だが、これを全国の自治体レベルで精査してみると驚愕の事実が浮かび上がってくる。
「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(総務省2022年1月1日現在)を検証したところ、全国1700超の自治体のうち、年間出生数(日本人)が10人未満の自治体(市町村)が128もあった。
“一桁自治体”は30都道府県に点在している。もっとも多いのは北海道で24市町村。次いで長野県13村、奈良県10村、福島県9町村などとなっている。東京都は離島など4村だ。
もっとも少ないのは長野県平谷(ひらや)村と東京都青ヶ島村の0人。1人は7自治体。北海道の神恵内村と音威子府村、山梨県早川町、小菅村、丹波山村、東京都利島村、岡山県新庄村だ。年間の出生者が1人、2人という状況が続けば、20年間でも出生者総数は20〜40人である。とてもじゃないが、次世代社会にはつながっていかない。
もう一つのデータをみてみよう。日本人住民の自然増減率は、市区部計でマイナス0.48%(前年マイナス0.39%)、町村部計ではマイナス0.87%(前年マイナス0.79%)と、マイナス幅が拡大し、人口減に拍車がかかっている。自然増減率がマイナスの自治体は市区部で778(95.5%)、町村部では887(95.2%)と、あわせて1665の自治体で年間の死亡数が出生数を上回るという“縮み状況”に陥っているのだ。
年間出生数ゼロだった「長野県平谷村」の現状と支援策
2021年の出生数がゼロだった長野県平谷村の状況をみてみよう。
同村は長野県南端の山間地にある村で、星空ナイトツアーで全国的に有名な阿智村にほど近い。鉄道は通っておらず、中央自動車道飯田山本インターから国道153号線で約30分というロケーション。温泉、ひまわり畑、パラグライダー、スキー、登山などの観光スポットがあり、アウトドア派には魅力的な環境だ。
村面積77km2の96.7%が山林で、標高は920m。人口は約390人で長野県でもっとも人口の少ない村である。年間予算は歳入約11億2700万円(うち自主財源は25.6%)、歳出約9億9700万円、基金(積立金)残高約7億4400万円(2021年度決算)となっている。
1955年(昭和30年)に1234人だった人口は、約3割の水準にまで落ち込んでいる。2020年に実施された国勢調査の結果では、日本人人口は384人。0─14歳の子ども人口は46人(12.0%)、15─64歳の生産年齢人口は207人(53.9%)、65歳以上の高齢者人口は131人(34.1%)という状況だ。最近は移住者もいるが、高齢者人口の割合が全国平均を大きく上回っている。
1994年以降、出生者数は10人を下回り、2015年以降は1人、2人といった状況が続き、2000年、2021年と2年連続でゼロになってしまった。一方、若年女性人口(15─39歳)は2000年には81人だったのが、2020年には39人にまで減少した。
高齢化が進み、若い女性が減っている現状に、村は〈75歳以上の後期高齢者の割合が近年急激に上昇、若い世代が少なくなると、村の消滅危機になる可能性〉(平谷村人口ビジョン)と危機感を抱き、〈今後は「産み、育てやすい環境づくり」と同時に、子育て世代、もうすぐ子育て世代の人材定着政策を推進する必要があります〉(同)としている。
現在、平谷村の小学校に通う児童は約20人。中学校はなく、スクールバスで40分の隣村・阿智村の中学校などに通っている。厳しい状況のなかで、出産や子育て支援は以下のように手厚いものがある。主なものをピックアップしてみた。
   【結婚・妊娠】
   結婚祝金/1夫婦15万円
   出産祝金/子ども1人につき20万円、妊婦健診助成金を全額助成(12万円程度)
   【育児サポート】
   保育料/保育園児無料
   給食費/保育園児、小学生無料
   修学旅行費/小学生無料
   給食通学補助/中学生(阿智中学校 月額5000円)
    /高校通学補助(阿智高校は月額7000円、飯田・下伊那の高校は月額1万2000円)
   【医療費】
   18歳の年度まで無料
村の存続のために子どもたちを大切に育てていきたいという思いが伝わってくる。ひとつの村の実例に過ぎないが、これが地方の小さな自治体の人口減、出生者減の実態である。
次世代、次々世代のための国家ビジョンを構築せよ
さて、国の対策は今後どうなるのか。岸田首相は「私自身、全国各地で、子ども・子育ての当事者の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます」と表明し、「若者世代の負担増の抑制」に言及した。だが、聞くだけなら誰でもできる。いかに抜本的な政策を打ち出し、実行していくかが問われている。
子育て支援策については、(1)児童手当を中心にした経済支援強化(2)幼児教育・保育サービスの強化など(3)働き方改革の推進──などの方向性、柱が報じられているが、これらの政策だけで根本的な解決につながるだろうか。出産一時金を2023年度から現行の42万円から50万円に引き上げるというが、物価高騰が続くなかでは「雀の涙」でしかない。3つの柱は言ってみれば対症療法に過ぎないだろう。
安心して子どもを産み、育てられる社会を構築するためには、将来を見据えたもっとドラスチックな改革が必要だろう。
若い世代の不安解消というのであれば、まずは年金制度の大改革が不可欠。現役世代が高齢者を支える賦課方式のままでいいのか。このままでは立ち行かなくなるのは目に見えているのだから、仕組みそのものを見直し、新たな年金制度を構築することも検討すべきではないか。
雇用格差の是正も待ったなしだ。小泉政権以降、非正規社員の割合が高まり、社会格差が拡大したことがいまの日本経済の低迷をもたらしている。
2003年に1504万人だった非正規社員は、2021年には2064万人と約1.4倍に増えた。正規社員の平均年収約508万円に対し、非正規社員は約197万円(2021年民間給与実態統計)に過ぎない。この構造を抜本的に変え、正規社員比率を高めることが急務だ。実質賃金を引き上げる雇用政策の必要性は言うまでもない。
もうひとつ、反対論者が多いことは予想できるが、「移民政策」の見直しも視野に入ってくる。カギになるのは出産に大きくかかわってくる15歳から39歳の若年女性人口だ。2020年の国勢調査では15─39歳の日本人女性人口は約1477万人。一方、5─29歳の女性人口は1326万人となっている。つまり、このまま推移した場合、10年後の15─39歳女性人口は約150万人も減少することになるのだ。
この先、対症療法的な出産・子育て支援策を実施して、多少の出生率上昇があったところで、出産する世代の女性の絶対数が減っている以上、10年後に出生数が劇的に増えることは考えられない。とくに地方における若年女性人口流出は深刻で、労働力確保、少子化対策の両面で、「移民政策」を見直さざるを得なくなるのではないか。
はっきりしているのは、人口減少が続く日本は「成長」から「脱成長・成熟」へと舵を切り替え、次世代、次々世代のための国家ビジョンを構築し、そのなかで実効性のある少子化対策や地方活性化策を練っていかなければならないということだ。
根源的な変革を実現していかなければ衰退の一途である。北欧のような「高福祉・高負担」の姿を目指すのか、子育て支援など社会保障政策が充実し、女性の社会参画が盛んで移民も受け入れているフランスのようなスタイルを目指すのか──。次の総選挙では、各政党が将来の国家ビジョンを掲げて、民意を問うべきだ。
●「43兆円の血税」国を憂う〜防衛費大幅増額「数字ありきの乱暴な議論」 1/27
通常国会が開会しました。岸田総理は、GDP比2%を目標に防衛費を5年で43兆円と大幅増額する方針で、今国会ではその財源などをめぐり激しい論戦が予想されます。
日本の防衛・安全保障の大きな転換点…。民主党政権で防衛大臣を務めた北沢俊美さんは、現状の議論に警鐘を鳴らします。
長野県区選出で参議院議員を4期務めた北沢俊美さん84歳。旧民主党が政権を担っていた2009年からおよそ2年間、防衛大臣を務めました。日本の防衛トップとしての連続在任期間は歴代2番目の長さです。
北沢さんは、岸田政権の防衛費の増額方針は数字ありきで進んでいると批判します。
「唐突に5年間で43兆円に上積みするということが出てきて、23年度の予算が提出されるわけだけど、すべて事の進め方が間違っているんだよね。戦後七十数年間にわたって専守防衛で、必要最小限度の軍備を持つということできたものを、何で急に…、ロシアがウクライナに攻めたから欧米並みに(GDP比)2%、それで43兆円という金額をはじき出した」
「軍事というのは日進月歩で新しいものを作り出していくから、今までこれだけで良かったものが、相手の例えばミサイル能力にしても北朝鮮もそうだけれども、私が大臣やっているときは北朝鮮のミサイル能力とかそういうものは潜水艦から打ち上げるなんてことは想像もできないような国の実情だったものが、今やいたるところから打ち上げる」
「そういうものに対処するための防衛費の増大というか、新しいものにシフトしていくのは当たり前。私も大臣として、憲法9条に基づく専守防衛を中心に、その範囲の中で世界情勢に合わせた防衛力を増強していく-私は限られた範囲の中で精強な部隊を作るのが一番大事だと、ほぼ2年間やってきましたからね。ところが今やっていることはそういう積み上げみたいなものは何もない。まず金額ありきだから非常に乱暴な話だね」
アメリカの巡航ミサイル=トマホークを購入するという話も、まったく議論がなされていないと指摘します。
「来年度の予算にトマホークの購入整備を進める予算が入っているわけでしょ。トマホークで、大陸へ打ち込むという話だけど、これ、誰がどう判断して、誰が発射台のボタンを押すのか…、そんな話もまったくできてない。岸田総理は無責任に「専守防衛に違反してない」と。とんでもない話で、先制攻撃一つ間違ったら先制攻撃になったら、こちらは悪者としての戦争を仕掛けたことになるんだから。そういうことが全然議論されない」
「しかも2%にしてその費用を賄うために増税までするということでしょ。これ普通だったら今までの自民党の常識からすれば、1回の国会でなく、2回も3回も重ねて議論をして、その国民的議論が深まった中でどうするか決めるべき話を、あっという間に3文書を作って閣議決定して、議会に諮らないで、いきなり訪米して、国民に言わないでアメリカ大統領への手土産みたいな形で国際公約してくるわけでしょ。国民をないがしろにした大変間違った政治の選択だと思います」
「もともと2015年に安保法制ができて、そこからスタートしているわけだけどね。今度のトマホークも、どこからどんなものが飛んでくるというのを宇宙衛星から情報を取るわけだけど、これは完全にアメリカの情報もらわないと日本では対応できないわけだから、そういう意味ではアメリカから情報をもらって日本が瞬時に決断するわけだよね」
「今までの日米安保条約の役割分担からすれば、敵基地から日本に入ってきたものを、その敵基地は確実に日本に着弾したと、あるいは着弾寸前だというところでアメリカが矛の役割を果たすことになる、これは日米の役割分担で決まってきたわけですよ」
「だから日本はずっと、敵基地を攻撃することは可能、専守防衛の中で可能ではあるけれど、しかしその矛は、日本は持たないというのが歴代の自民党、総理の国会での答弁なんだよね。今度はそうじゃなくて自分がそれをやると、ところがだれがどう判断してボタンを押すのか曖昧のままに、トマホークを購入すると。なんか見ていると、全部2%がありきで、その中でつじつま合わせをしている、だから国民に説明しようとしても説明しきれないと思うんだよね。簡単にいえば生煮えのまま43兆円の血税が動き出しちゃっているということだと思う」
「防衛で政府は耳ざわりのいいことを…非常に危険だ」 
1月上旬のJNNの世論調査では5年間で43兆円の防衛費の増額について、「賛成」が39%、「反対」が48%。防衛費増額のための増税には71%の人が反対しています。
「自民党は国債で、借金でやれという。それは、党は増税でやれば国民の反対を受けるから。この問題が十分に議会も含めて煮詰まっていないから、こういう「ちぐはぐ」が起きる。防衛力増強はいい、それは賛成派が多いわけでしょ」
「その人たちに税金で賄うというと税金は嫌だというわけでしょ。ということはね、きちんと議論が成立していない証なんですよ。自民党の中も43兆円、それで2%だといって、さあ、世論も後押ししていると」
「財源はなんですかといったら、増税はダメだと、増税でやれば次の選挙でたたかれると。こんな無責任な話はない。こういうことをきちんと整理していくと議論が煮詰まっていない。国民も全体像を知らない」
「だから予算編成をする防衛省も私が聞いた範囲では、いきなり1兆円近く増やせと言ったって、そんなにすぐあれが欲しいこれが欲しいということないから、通常の予算編成で削られるものも全部含めてとりあえず出しとけと、こういう話でしょ」
北沢さんは、ロシアのウクライナ侵攻を背景に中国による台湾有事への不安が情緒的に語られているとし、今こそ冷静な外交努力が必要だと話します。
「(安保)3文書読んでも名指しで中国や北朝鮮、まあ中国と北朝鮮の状況は違うけれども、名指ししているんだよね、要するに外交で有事を抑止していくという努力は全くないままに軍事だけで抑止しようと。だけど本当にね、(人口)14億の中国と軍事でもって日本が先頭に立って対抗するのかという話になれば、それは数の論理からしても無理な話」
「だから外交努力が大事なんだよね。アメリカの力が少し落ちてきているのは確かな話なんだけれども、それを日本が賄うなんて言うことはできるはずもないはずで、非常に危険な状況に入り始めたね」
岸田総理とも交流をしてきた北沢さんは、自民党の中ではハト派の宏池会を受け継ぐ岸田総理がこうした政策を進めていることに驚きを隠しません。
「私は岸田さんが若いころからよく食事を一緒にしたりして彼を知っている。彼は長い自民党の歴史の中でリベラルな勢力として宏池会にあったわけで、それを受け継いでいる。しかも彼は非常にリベラルだった元幹事長の古賀誠さんに薫陶を受けている。その彼が何で急に、安倍総理でもなかなか手が付けにくいものを一気にやりだしたのか、なかなか私は理解ができないんだけれども」
「私は外交防衛委員会に長くいたから彼が外務大臣やっているときに質疑を何回もしたけど今のような岸田文雄を想像することはできないね。たぶんね、新聞や雑誌等でも言われているけど、党内政局を総理大臣として政治の場に持ち込んだという大きな間違いをしたんじゃないかと思うんだよね。大局を見失っているんじゃないかと思うんだよな。私が知っている彼はこんなことをやる人間には見えなかったな」
ロシアによるウクライナ侵攻のタイミングで、政権が国民の不安や情緒に訴える今の情勢は、戦前の日本の空気に通じるものがあるとして警鐘を鳴らします。
「政府自民党が防衛について耳ざわりのいいこと言っているわけでしょ、日本も軍備を増強して鉄壁の守りをするみたいなことを言うと、みんな、それはいいと。だけど自分から税金払うというと嫌だよという話。要するに国民的理解がないまま進んでいる。これは戦前の軍部が議会を掌握して国民にバラ色の話ばかり持ち掛けたあの状況に似てきていますから」
「世論という者は、いろいろ変化するから。政府が耳ざわりいいことを景気よく言うのは、非常に危険なんですよね。戦争中のことをよく知っている私のような高齢者から見ると極めて危険。こういうことに対して、警鐘を鳴らしていかなきゃいけないと思っているんだけどね、今あまりにも野党の力が弱すぎるな…」
岸田総理はアメリカのバイデン大統領との首脳会談で、反撃能力の開発と効果的な運用について協力を強化する共同声明を発表。
日本の防衛と安全保障が大きな転換点を迎えています。
国会では、防衛費増額の財源論に終始するのではなく、防衛力強化の必要性を含めた活発な論戦が求められます。
●国会論戦スタート 正面から議論を尽くせ 1/27
岸田文雄首相の施政方針演説に対する代表質問が衆参両院で始まった。施政方針で日本の安全保障政策の大転換とした防衛力の抜本的強化や、最重要政策と位置づけて「次元が異なる」とした少子化政策などについて、ようやく国会での議論が緒に就いた。
首相は「決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案」を「国民の前で正々堂々議論をし、実行に移していく」と施政方針で述べた。とはいえ、決断に至る理由や今後の進め方などが十分に説明されていない。首相も大転換や異次元と言うからにはそれなりの議論の深化が必要ではないか。言葉通りに課題に正面から向き合い、論点となる説明をしてもらいたい。
質問に立った立憲民主党の泉健太代表は「防衛費は額や増税ありきで、国会での議論はなく、乱暴な決定だ」と批判した。防衛費増額に伴って増税するなら衆院を解散して国民に信を問うべきだと迫った。ただ、野党としても批判に徹するばかりでなく、対立軸をしっかりと示すことが求められる。
防衛費財源について首相は「国民の負担をできるだけ抑えるべく、行財政改革の努力を最大限行う」とし、増税問題については明確に触れなかった。衆院解散は、「何についてどのように国民の信を問うかは、時の首相の専権事項として適切に判断する」と述べるにとどまった。
自民党の茂木敏充幹事長がただした少子化対策は、「待ったなしの先送りの許されない課題」「子ども、子育て政策は最も有効な未来への投資」とした。しかし、具体内容と財源は、6月の「骨太方針」までに予算倍増に向けた大枠を示すとの答弁を繰り返した。
防衛予算は倍増、少子化予算も倍増と威勢よく聞こえるが、国家財政は厳しい限りだ。今国会に提出された2023年度予算案では、歳入の3割を国債発行による借金で補う。他方、借金の利払いに充てる国債費が歳出の2割強を占める。かけ声だけに終わらせず具体的にどう財源を確保するかを、国会は厳しく検証しなくてはならない。
茂木氏からは、一部の高収入世帯を対象外としている児童手当の所得制限を撤廃すべきという提案もあり、場内が沸いた。かつて旧民主党政権が所得制限なしで創設した「子ども手当」に反発したのは自民で、立民は茂木氏は所得制限を主張していたと批判する。
茂木氏の提案も少子化の深刻さを示す証左かもしれないが、まず自民が自らの子育て政策を総括する必要があるのではないか。政府・与党は国民の声を聴き、柔軟に対応してもらいたい。
●「物価上昇率超える賃上げ」で論戦 どう実現? 岸田首相は 1/27
国会では、代表質問の3日目を迎え、「物価上昇率を超える賃上げ」などをめぐり、論戦が繰り広げられている。
国会記者会館から、フジテレビ政治部・長島理紗記者が中継でお伝えする。
岸田首相が目指す賃上げで、大きな課題となるのが中小企業への対応。
物価が高騰する中、どうやって賃上げを実現するのか、国会でも与野党から質問が相次いでいる。
公明党・山口代表「中小企業の賃上げが大きな課題です。原材料高が中小企業の利益を圧迫しています」
岸田首相「この春の賃金交渉に向け、物価上昇を超える賃上げ。民間だけに任せることなく、政府としても政策を総動員して、環境整備に取り組んでいます」
岸田首相は、中小企業への対策として、下請けGメンの大幅な増員などにより取引を適正化し、物価高騰を価格に転嫁しやすくするほか、補助金や支援で前向きな挑戦を後押しすると強調した。
しかし、野党からは、岸田首相の政策に「机上の空論だ」、「庶民の生活の場に立っていない」などの声も出ており、今後、実現性が国会の争点となりそう。
●「子育て支援拡充」めぐり論戦 今後の焦点は「児童手当」 代表質問最終日 1/27
国会では参議院本会議で引き続き代表質問が行われ、政府が最重要政策と位置付ける少子化対策について論戦が交わされています。国会記者会館から中継です。
公明党の山口代表は、政府の0〜2歳児への10万円の経済的支援を今後も継続し、さらに拡充すべきとして総理の認識をただしました。
公明党 山口那津男代表「1歳、2歳の時点でも、それぞれ経済的支援を行うよう財源を確保しつつ(子育て支援を)拡充すべきです」
岸田総理「今後、こども政策担当大臣のもと、0〜2歳児へのきめ細やかな支援を含め、子ども・子育て政策として充実する内容を具体化していきます」
政権の最重要政策とされる少子化対策ですが、岸田総理はきょうも具体的な政策の内容や財源については言及しませんでした。
来週以降、焦点となるのが「児童手当」です。公明党は「所得制限の撤廃が望ましい」との立場で、自民党も茂木幹事長が同様の見解を示したほか、野党も撤廃を求めています。
3月の取りまとめに向け、議論の行方が注目されています。
●首相、賃上げへ「政策総動員」 0〜2歳児支援も、参院代表質問 1/27
岸田文雄首相は27日の参院代表質問で、重視する構造的な賃上げの実現に向け「民間だけに任せることなく、政府として政策を総動員して環境整備に取り組む」と強調した。少子化対策を巡り「0〜2歳児へのきめ細やかな支援を含め、子育て政策として充実する内容を具体化する」と述べた。
賃上げに取り組む企業に対する税制や補助金面での優遇などの措置を進めていると説明。子育て政策について「最も有効な未来への投資だ」として、財源の在り方も含めた検討を急ぐ考えを重ねて示した。
5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に関し「G7首脳など各国要人に被爆の実相を伝えていく」とした。
●岸田首相「韓国は重要な隣国だ」、関係改善に改めて意欲…参院代表質問  1/27
岸田首相は27日午前の参院本会議での代表質問で、日韓関係について、「国交正常化以来、築いてきた友好協力関係の基盤に基づき、健全な関係に戻し、さらに発展させていくため、緊密に意思疎通していく」と述べた。公明党の山口代表の質問に答えた。
日韓両国の最大の懸案である元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を念頭に、関係改善に改めて意欲を示したものだ。首相は「韓国は国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国だ」とも指摘した。
防衛力強化方針については、「専守防衛から逸脱するものではない」との考えを重ねて示した。その上で、「平和国家としての歩みはいささかも変わらない」と訴え、裏付けとなる政府の増税方針に改めて理解を求めた。
●岸田首相、賃上げへ「政策総動員する」 参院代表質問 1/27
岸田文雄首相は27日、企業による賃上げに向けて「民間だけに任せることなく、政府として政策を総動員して環境整備に取り組む」と表明した。参院代表質問で公明党の山口那津男代表の質問に答えた。
税制や補助金を通じて賃上げに取り組む企業に優遇措置などを進めていると説いた。フリーランスの働き方にも触れ「個人がフリーランスとして安定的に働ける環境を整備する。取引適正化のための法整備に取り組む」と言明した。
少子化対策に関しては「0〜2歳児へのきめ細かな支援を含め具体化する」と語った。子育て政策が「最も有効な未来への投資だ」と改めて述べた。
日韓関係を巡っては「健全な関係に戻し、さらに発展させていくため、韓国政府と緊密に意思疎通する」と話した。「現下の環境を踏まえれば日韓、日米韓で緊密に連携する重要性は論をまたない」と強調した。
山口氏は2022年12月末に韓国を訪問し、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領らと会談した。「日韓関係改善への意欲と懸案解決への熱意を感じ取った」と紹介し、安全保障面で協力する重要性を指摘した。
西村康稔経済産業相は50年のカーボンニュートラルに向けて必要な原子力発電所の稼働数に言及した。政府のエネルギー基本計画によれば30年時点で総発電量のうち原子力で20〜22%程度をまかなう。西村氏は「確定的に示せないが機械的に計算すれば25〜28基程度で達成できる」と説明した。
●出産・妊娠時の給付継続 岸田首相、対中韓改善に意欲―参院代表質問 1/27
参院は27日午前の本会議で、岸田文雄首相の施政方針演説に対する2日目の各党代表質問を行った。妊娠・出産時に計10万円相当を給付する「出産・子育て応援交付金」について、「今後も継続することが重要だ。安定財源を確保し、着実な実施に努める」と述べ、制度を恒久化する方針を示した。中国、韓国との関係改善にも取り組むと述べた。
保育園で虐待など不適切な事例が相次ぐ問題に関し「あってはならず、未然に防止していくことが必要だ。実態調査を踏まえ環境づくりにつなげる」と強調した。
元徴用工問題などを巡り関係悪化が続く韓国に対し、首相は「健全な関係に戻し発展させるため、緊密に意思疎通をしていく」と述べ、外交努力を続ける考えを表明。対中外交についても「昨年11月の日中首脳会談で得られた前向きなモメンタム(勢い)を維持し、責任ある行動を強く求めつつ、首脳間をはじめとする対話を重ねていく」と語った。
反撃能力(敵基地攻撃能力)保有については「ミサイル防衛による迎撃と同様、先制攻撃とはならず、専守防衛の範囲内で運用するものだ」と重ねて理解を求めた。公明党の山口那津男代表への答弁。
新型コロナウイルス対策でのマスク着用の在り方に関し「どのタイミングで見直すのか、専門家とも相談し、できるだけ早く示したい」と述べた。日本維新の会の浅田均氏への答弁。
●参院本会議 子育て世帯への支援や新型コロナ対応などで論戦  1/27
国会は、参議院本会議で2日目の代表質問が行われ、子育て世帯への経済的な支援策や、新型コロナ対応などをめぐって論戦が交わされました。
参議院本会議では午前中、公明党と日本維新の会が質問に立ちました。
公明党の山口代表は、子育て支援をめぐり「支援が手薄だった妊娠期から2歳児に対して、身近で寄り添って相談にのる伴走型相談支援と、妊娠・出産時に合計10万円分の経済的支援のパッケージが実施される。今後も恒久的に実施することを担保するとともに、1歳、2歳の時点でも経済的支援を行うよう財源を確保しつつ拡充すべきだ」と求めました。
これに対し、岸田総理大臣は「伴走型相談支援と経済的支援などをパッケージで行う事業は、安定的財源を確保しつつ着実な実施に努めていく。今後、こども政策担当大臣のもと、0歳児から2歳児へのきめこまやかな支援を含め、子ども・子育て政策として充実する内容を具体化していく」と述べました。
日本維新の会の浅田参議院会長は、マスクの着用について「『まずは卒業式はマスクを外してやりましょう』と言っていただけないか。中学校も高校も3年間で、その間、同級生や先生の顔を、ほとんど見ずに終わってしまうかもしれない児童、生徒たちのことを考えていただきたい」と質問しました。
これに対し、岸田総理大臣は「どのタイミングでマスクの取り扱いを見直すかについては、今後、感染状況を見ながら専門家とも相談し、できるだけ早くお示ししたい。政府として学校、教育活動を含め、社会のあらゆる場面で、日常を取り戻すことができるよう着実に歩みを進めていく」と述べました。
●岸田首相「沖縄県に丁寧に説明」南西諸島の防衛強化 衆院本会議で答弁 1/27
岸田文雄首相は26日の衆院本会議の代表質問で、政府が昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書に基づき、沖縄を含む南西諸島の防衛体制強化を進めている点について「3文書などの考え方について、丁寧に沖縄県に説明していくことも重要だ」と述べた。志位和夫氏(共産)への答弁。
志位氏は反撃能力(敵基地攻撃能力)を有するミサイルの南西諸島配備について「万一有事となった際に甚大な被害をこうむるとして、沖縄県や石垣市議会は敵基地攻撃兵器の配備に強く反対している」と指摘。「『沖縄を再び捨て石にするな』との声にどう答えるか」と認識をただした。  
●岸田総理「グローバルサウスに中国含まず」 代表質問の最終日“外交” 1/27
国会で行われている代表質問、最終日の27日は、賃上げや外交の分野についても論戦が交わされました。
公明党 山口那津男代表「中小企業を含め『物価上昇に負けない賃上げ』の 実現に向けた道筋について、総理の見解を求めます」
岸田総理「物価上昇を超える賃上げ、さらにはその先の構造的賃上げに取り組んでいただくべく、民間だけに任せることなく、政府としても政策を総動員して、環境整備に取り組んでいます」
また、国民民主党の大塚参院議員は、岸田総理が、南半球を中心とする途上国、いわゆる「グローバルサウスに対する関与を強化していく」と発言していることについて問いただしました。
国民民主党 大塚耕平参院議員「国連は77の国と中国を『グローバルサウス』に分類しています。『グローバルサウス』の定義とともに、中国に対する開発協力の方針について、総理の考えを伺います」
岸田総理「私が最近、施政方針演説等で『グローバルサウス』という用語を使用する際には、これに中国は含めて考えておりません」
岸田総理はこのように述べたうえで、「2022年3月末をもって対中ODAの全ての事業が終了している」と強調しました。
●4年後予算「国債費」4兆5000億円増 歳出の4分の1に 財務省試算  1/27
財務省は、4年後の予算では国債の返済や利払いに充てる費用が、新年度=令和5年度の予算案に比べて4兆5000億円増えて、歳出全体の4分の1を占めるという試算をまとめました。債務残高の増加に加えて金利の上昇を見込んでいます。
財務省は新年度の予算案をもとに、名目で3%程度の高めの成長が続くことを前提に、令和8年度までの予算規模を試算した結果を公表しました。
それによりますと、高齢化により社会保障費が膨らむことから、一般会計の総額は新年度より1兆2000億円多い115兆6000億円と見込んでいます。
このうち、国債の返済や利払いに充てる「国債費」については、長期金利が1.6%に上昇することを前提に、新年度予算案より4兆5000億円増えて29兆8000億円と見込んでいます。
歳出全体の4分の1にあたる規模で、国債の発行残高の増加や金利の上昇で財政が圧迫される傾向がより顕著になる形です。
一方、歳入は経済成長に伴って税収が8兆円増えて、不足を補う国債の新規発行額は32兆3000億円と、新年度に比べて3兆3000億円減少しますが、それでも歳入の4分の1以上を国債で賄う厳しい財政状況が続く見込みです。
●膨らむ利払い、狭まる政策余地 国債費26年度4.5兆円増 1/27
財務省は27日、2023年度予算案をもとに歳出入の見通しを示す「後年度影響試算」を公表した。日銀による金融緩和の修正などを織り込み、26年度の想定金利を1.6%と前回試算から引き上げた。国債利払い費が膨らみ、政策にお金を振り向ける余地が狭まる。限られた財源で経済活力を生む「賢い支出」が求められる。
後年度影響試算は国会での予算案審議の参考資料として、向こう3年の財政状況を推計する。政府が27日、衆参両院の予算委員会に提出した。
試算からは借金の返済と社会保障費の支払いに追われ、政策経費の余地がしぼむ姿が浮かぶ。一般会計総額は26年度に115.6兆円と、23年度から1.2兆円増える。国債費は2026年度に29.8兆円と4.5兆円ほど増えるとした。歳出総額の25%に達し、23年度の22%から拡大する。
財務省は23年度予算案で、利払い費の見積もりに使う10年債の想定金利を1.1%とした。市場の将来予測を考慮し、試算は24年度1.3%、25年度1.5%、26年度1.6%に設定した。22年1月公表の前回試算では23〜25年度の想定金利は1.2〜1.3%だった。
日銀は22年12月、長期金利の変動を認める限度をプラスマイナス0.25%から0.5%に広げた。毎年の予算編成では長期金利の急騰に備え、利払い費算出の前提となる見積もり金利は市中金利より1%程高くするのが通例だ。
長期金利が0.5%で推移すれば、予算編成では1.6%に近い見積もりで利払い費を算出することになる。今回の試算は、すべての年限の国債金利が想定からさらに1%上振れすれば、26年度の国債費は33.4兆円とさらに3.6兆円膨らむ推計も示した。
この試算は当初予算だけを比べており、補正予算は織り込んでいない。新型コロナウイルス禍で恒例になった予備費の積み増しも想定していない。過去数年のように巨額の補正予算や予備費の計上を繰り返せば、試算で示した国債費がさらに膨らむ懸念もぬぐえない。
24年度以降の名目成長率が年3%で推移するという前提も楽観的だ。こうした甘い前提に立ってもなお、政策経費を税収などでどれだけ賄えているかを示す「基礎的財政収支」は26年度に2.9兆円の赤字になる。
近年の実態に近い成長率1.5%のシナリオでは、基礎的収支の赤字幅が5.3兆円に膨らむ。いずれにしても、いまの世代のための政策経費を税収で賄いきれず、次世代にツケを回していることになる。
国際通貨基金(IMF)は26日公表の声明で日銀の金融緩和策の追加修正を提案した。緩和修正で金融の正常化が進めばさらに金利が上がると見込まれる。日銀の異次元緩和が生んだ低金利の環境で政府が借金を重ねてきたが、金融政策の修正に合わせて財政運営に規律を取り戻す必要がある。  
●国の“債務超過額”687兆円に 14年連続で過去最大 1/27
2021年度末の国の資産と債務が公表され、負債が資産を上回る債務超過が687兆円と14年連続で過去最大を更新しました。
財務省が27日に公表した「国の財務書類」(2021年度末)によりますと、負債の合計は1411兆円でこのうち、国債発行残高が1114兆円と大部分を占めました。
資産は723兆9000億円で、負債との差額である債務超過額は687兆円に膨らみ、14年連続で過去最大を更新しました。
また財務省は、2023年度予算案を元にした「後年度影響試算」を国会に提出しました。
それによりますと、名目成長率が3%とした場合、国債の利払いなどに充てる国債費は、23年度の25兆3000億円から26年度には29兆8000億円に増加するとしています。
26年度の10年物国債の金利は、1.6%に上昇すると想定しています。
●東京都少子化対策に1兆6000億円 過去最大8兆410億円の予算案で 1/27
東京都の小池知事はきょうの会見で、来年度の一般会計予算案が過去最大の8兆410億円となったことを明らかにしました。このうち、およそ1兆6000億円を18歳以下の子どもに月5000円を支援するなどの少子化対策に計上しています。
東京都 小池百合子知事「少子化対策については本来、国が戦略的に取り組むべき課題でございますけれども、もはや一刻の猶予もないという危機意識を持ちながらそれらの状況を踏まえて、都として国に先駆ける形でございますけれども、総合的な対策を講じます」
東京都の来年度一般会計予算案は過去最大の8兆410億円となり、そのうちおよそ1兆6000億円を少子化対策や子育てを支援する政策に計上しました。
予算案には18歳以下の子どもに月5000円を支援する「018サポート」に加え、世帯年収が910万円未満の場合に、私立中学校に通う生徒の学費の一部を補助する案や、都立大学などの授業料を無償化する案が盛り込まれました。
小池知事は「出会いから結婚、出産、子育てに至るまで継続的な支援を実施をする」としています。
●実効ある少子化対策へ全体像の議論を 1/27
深刻な少子化への対策をめぐる通常国会の論戦が始まった。2022年の日本の出生数は統計開始から初めて80万人を割り込む見通しだ。若い世代の結婚・出産への希望をどうかなえるか。全体像の議論をいち早く始めるべきだ。
岸田文雄首相は施政方針演説で「年齢・性別を問わず、皆が参加する従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と述べた。意気込みは買うが、本当の意味で実効ある対策を打ち出せるのか。
大事なのは全体を見据えた議論だ。このほど政府内で始まった検討は児童手当などの強化、子育てサービスの拡充、育児休業を含む働き方改革と、小さな子どもがいる家庭向けが多くを占める。
少子化の要因は多岐にわたる。対策として、そもそも結婚に踏み切れない若者の雇用問題や教育費の負担軽減も大事になる。政府が秋にまとめる「こども大綱」にこれらの課題を盛り込むだけでなく、早い段階から国会でも踏み込んだ議論を進めるべきだろう。
財源面でも包括的な検討が重要だ。国会審議では児童手当の所得制限の撤廃を与野党がともに訴えており、歳出増の圧力は増す。首相は6月までに将来的な子ども関連予算の倍増に向けた大枠を示すというが、費用と財源の組み合わせを早めに提示してこそ、政策の効果や是非の議論が深まる。
社会保険料からの拠出を財源に充てる案も浮上しているが、本来は消費税率の引き上げなども含めて議論すべきだ。その場合も高齢者に偏る社会保障の配分の見直しと効率化が大前提となる。
少子化対策は1994年から何度も出ている。政府は幼児教育・保育の無償化などを成果にあげるが、対策メニューの一部にすぎない。とりわけ長時間労働などの硬直的な働き方や、女性に偏る家事・育児負担の見直しは、実効性を伴う取り組みが進んでいない。
ドイツでは男性の育休取得と女性の早期復職を促すなかで、出生率を回復させた。日本の取り組みの遅れの背景に、古い家族観や労働観があったのではないか。こうした検証と反省も踏まえ、効果的な少子化対策を詰めてほしい。
この30年で親となる若い世代は一段と減った。出生率が少し上がっても、出生増は望みにくい状況だ。成果が出ないときほど目玉の対策を掲げたくなるが、大事なのは基礎の積み重ねだ。企業も含めた取り組みの加速を求めたい。
●“異次元の少子化対策” 「叩いて壊れるたたき台ではいけない」 1/27
小倉將信 内閣府特命担当大臣に聞く
「小倉大臣の下、異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代のからようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現するべく大胆に検討してもらう」
2023年の年頭会見でこう述べた岸田総理は、こども政策担当の小倉將信大臣に3月末を目途にたたき台を取りまとめるよう指示した。
施政方針演説では「こども・子育て政策」を最重要政策と位置付け、6月の骨太方針までに、将来的なこども子育て予算倍増に向けた大枠を提示するとした。
番組は小倉大臣に、3月末までに子育て政策のたたき台をどう取りまとめていくのか、少子化対策の方向性を聞いた。
「異次元」の少子化対策 小倉大臣も知らなかったキーワード
――(岸田総理が年頭会見で)「異次元の少子化対策」とおっしゃった。小倉大臣は知っていましたか?
小倉將信 内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画): 総理があるいは政権として少子化対策に力を入れるということは聞いておりましたけれども、この「異次元」というキーワード、フレーズは1月4日の総理の年頭会見で初めて知りました。でも、着任して4か月以上、相当、少子化対策ですとか、子ども政策に関して子どもや当事者あるいは、有識者の先生方と議論を重ねてまいりました。そういう意味では、かなり議論してきたものを土台にして総理がしっかりと方向性を示していただいたので、今年に入ってさらに煮詰めていく段階に入ったのかなと思っています。
少子化への危機感
――少子化、やはり大問題?
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 少子化担当大臣が初めてできたのは2005年あたりです。そのときの出生率が最低の1.26で、そこから緩やかに回復はして1.45まで回復したのですが、コロナ禍で様々な行動の制約があってまた出生率が低下してしまい、(出生数は)一昨年81万人で、昨年は80万人を切ってしまうと言われています。非常に深刻な状況であって、まさに少子化の骨格は真っ先に取り組まなければいけない重要課題になっているという思いを新たにしています。
少子化の要因は「複合的なもの」
――子どもが増えないのは、教育費や出産費用の高さ、住居の狭さだったり、結婚しづらい、結婚しないというのもありますね。
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 少子化の要因は複合的なものだと思います。まずは結婚する前の段階で若い人たちの非正規化が進んで、所得自体も伸び悩んでいます。経済的に安定していないのでなかなか結婚に踏み切れない、子どもを持てないということもあるでしょうし、あるいは昔で言えばお見合い結婚や結婚相談所を通じた結婚がありましたけど、その割合が過去60年間ぐらいで10分の1になったのです。だから職場や学校を通じた恋愛結婚はの割合はそんなに変わらないのですけど、そういった(お見合いや結婚相談所での)結婚の機会がなくなっている中で、やはり若い人に聞くと、適当な相手に巡り会わない、出会う機会がないというのも多かったりします。もう一つは経済的な要因が大きいと思っていて、子どもをたくさん持ってらっしゃる方に2人目、3人目を持ちたいかと聞くと、やはり教育費とか子育ての費用が非常に高くついて子どもをさらに持ちたいけど持てないという方がたくさんいらっしゃるのも事実です。最後3点目は、最近共働きの家庭も増えています。共働きの家庭が片働きの家庭の倍を超えました。そういった中で女性が子育てとキャリアを両立しようとするとなかなか果たせない現状があります。いわゆる育児・家事の負担割合が男性に比べて女性が日本の場合5.5倍と圧倒的に多いのです。女性に(育児・家事の)負担が偏っている中で、両方やろうとするとスーパーウーマンじゃないとこなせない状況で、裏を返せばキャリアを会社で追求しようとすると子どもを持つことを諦めてしまう人も、かなり多いと思います。
異次元の少子化対策 「穴なく、漏れなく考える姿勢」が求められる
――少子化対策の方向性を3つ出されました、これまでずっとこの方向性は出ていたはずなのに、その結果が出てないという気がする。これを飛び越すと言う意味での異次元ですか?
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 結果が、出ていない、出ていないと言われすぎると、その政府の少子化対策自体のこれからの信用性が失われてしまうかと思いますので、きちんと説明しておきたいと思います。先ほど申し上げたように少子化担当大臣ができてから出生率は“なだらかに回復傾向”にあったのも事実です。例えば2つ目。「伴走型支援」としか書いてありませんが、その前に「幼児教育と保育の質量共の強化」と書いてあります。待機児童の話で言えば、かなり保育幼児教育の無償化とあわせて保育所の整備をやってまいりましたので、ひところは2万6000人を超えていた待機児童の数も足元では3000人を切るまでになっていますね。政府の政策が全く有効でなかったかというとそうではなくてやるべきことはやっていた。ただ、やはり反省すべきかというと幾分「対処療法的」ではなかったのか、あるいは「漸進的」ではなかったのか。あるいは、その動的で捉えるべきところを、静的な対応にとどまっていたのではないかというのが私の問題意識ですね。今、女性の管理職も増えておりますので、単に働くだけではなくてキャリアも追求できる働き方をせねばならないところを、育休の取得率でも女性が85%超えているのに男性は14%弱にとどまっている。だから働き方が変わっているにもかかわらず、そういったものを捉えて人道的にダイナミックな子育て支援、少子化対策を打ち出さなかったという意味では、次元が異なる少子化対策という意味では、より「穴なく漏れなく」、将来を見越した上でバックキャスティングに今の少子化対策を考えていくっていう姿勢が求められているのではないかと思います。これまでは例えば働き方改革と少子化対策が必ずしも意識的に結び付けられていなかった。男女共同参画と少子化対策が必ずしもそうでなかった、あるいは住宅政策と少子化対策が必ずしも強く意識されてこなかったということですから、今回は関係府省を集めて、それぞれの政策と少子化対策や子育て支援をしっかりと結び付けていかなければいけないと思っています。
「社会意識を変えて」「みんなで子育ての支援をしていく」
――異次元とは予算2倍ということ?
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 子ども予算の将来的な倍増に向けた大枠ということなので、予算は焦点になると思います。ただ、予算だけではなくて、制度的な支援をしっかりやっていかなければいけませんし、結婚する前の段階で若い人たちの所得が伸び悩んでいるということありますので、そういったところからリスキリングして、若い人たちの所得を伸ばしていくことも必要だと思っています。もう一つ、総理が先日の本会議で申し上げたように、経済的な支援とか制度的な支援は我々で責任を持ってやっていきますと。それだけではなくて、やはり社会意識を変えていかなきゃいけないということなのです。アンケートをとると、国が子育てにやさしいと思っている人の割合はスウェーデンでは6割弱ですが、我が国はわずか8%です。ベビーカーを押せば舌打ちされる、子どもを連れてレストランや電車に乗っていけば白い目で見られる。子どもが熱を出して休もうとすると上司からしかめっ面をされる。そういう雰囲気だと、「子どもを持ちたい」って思わないと思うのです。そういう意味では、社会意識を変えていって、子どもを「持っている」人も「持たない」人も「持っていない」人も、あるいは、個人であっても法人であっても、行政であっても、地域であっても、みんなで子育ての支援をしていくと。子育て世代に対して、子どもに対して「もう一回温かい眼差しを持ち直そうよ」というような、社会機運の醸成みたいなものもしっかりやっていくというのが、この「異次元」「次元の異なる」というキーワードに含まれているのかなと捉えています。
「たたき台」作り 3月末までに凝縮した議論で進める
――たたき台作り、その第1回の会合が開かれたということですけれども、ネットでたたかれたとか?
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 出席者が男性ばかりというのと、子育ての当事者がいないじゃないかというご批判をいただきました。ちょっと弁明しておきますと、これは局長級会議なので各省庁の局長級を集めているんです。確かに国家公務員の中で課長職と課長補佐までは増えているのですが、局長になると女性が少ないというのもありますし、まだまだ年功序列ですので局長ばかり集めるとこの年次になってしまうんです。若ければいいということで課長補佐をこの中に入れても、それぞれの部署で責任のある合意ができるか、議論ができるかというと、そうではありませんので、関係省庁会議がこの形になるのはお許しいただきたい。ただ別に子どもや子育て当事者の意見を聞かないわけではなくて、この後ヒアリングで若者や子育て当事者からお話も伺いますし、この会議を開く前までに、冒頭で申し上げたようにかなり入念に綿密に意見を聞く会を重ねてまいりました。そこで得た意見や声をこのたたき台の策定に向けて反映していきたいと思っています。3月末までに作るのですが、「そこまで悠長にやっている場合か」とネット上で言われるのです。我々の感覚では、3月末までにたたき台を作って6月に骨太の方針というのは、これだけの大きな課題に対して、これだけの短い期間で結論を出さなければいけないのは、相当タイトなスケジュールだと認識しておりますし、その期間で、前倒しでやってくれというのは、それだけ総理が少子化対策にかける情熱が大きいということの表れだと思っております。
「ジェンダー不均衡の解消をなくしては少子化の解決なし」
――小倉大臣が担当の男女共同参画、これも環境整備に必要では?
小倉將信 内閣府特命担当大臣: これも少子化に関わるところとそうでないところありますけれども、私が常々申し上げているのは、ジェンダー不均衡の解消をなくして少子化の解決なしということです。女性が男性に対して5.5倍もの無償労働負担を負っている国、あるいは出産を機に約3割の女性が仕事を続けられない国では安心して子どもを産み育てられないと思っておりますので、男女の性別の区別なく育児や家事に参加をしてもらう、あるいはキャリアを追求したければ存分に追求をしていただけるような社会の実現をなくして少子化の進行は止まらないと思いますので、もちろん男女共同参画はそれ以外にも様々な点がありますけれども、そういったことも意識しながら今の担務をこなして行きたいと思います。
子どもが熱を出して会社に行けない…「もうそれでいい」という社会
――フィンランドなど北欧に行って実際に見てきたとか。向こうとこちらで取り入れた方がいいものとか、これは日本中に合わないとかお感じになりましたか?
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 働き方改革で言えば、いっぱいあります。全部は言えないですけれども、例えば子どもが熱を出したときの親の働き方ですね。多分日本だと、何としてでも親が職場に行って仕事をこなさなきゃいけないということで、病児保育の体制をどう充実させようかって議論になりがちですけど、スウェーデンやフィンランドの人と議論すると、「子どもが熱を出して当日会社に行けなくなりました」と言っても「もうそれでいい」と、「出てきたときに自分の仕事をこなしてくれればいい」という社会なのですね。だから、そういう社会じゃないと子育てしながら仕事を続けることが男女共にできなくなると思うので、制度も充実させますけれども、社会意識を変えていくことにも取り組まなければいけないと感じました。ある種の寛容性というか日本人はすごく真面目で、1人1人が責任を持ってきちんとやるのだけれども、それで逆に社会が窮屈になっちゃっている。やった結果、北欧の人たちよりも(日本人の)生産性が高いかというと、今や1人当たりGDPも所得もそういう働き方をしている北欧の方の方がずっと高いという現実を受け止めた上で、これまでの働き方や社会のあり方を見直していく必要があると思います。
孤独・孤立も 全体として解決をしていかないと…
――もう一つ、孤独孤立対策担当でもいらっしゃるということで、母親の孤独ってあるじゃないですか。考えてみたら繋がっていますね。
小倉將信 内閣府特命担当大臣: 孤独・孤立も広範囲に及ぶ話題でして、全ての世代に孤独・孤立は存在します。全体でいえば、「強い孤独を感じている」人の割合は1割前後ですけれども、「何らかの孤独を感じている」人の割合は8割です。ですから当然、単身高齢者が増えているので、ご高齢の方の孤独の問題が大きくなっています。子どもでもいじめや不登校の問題は顕現化しているので、はたから見て孤立はしてないのだけども、子どもの内心を伺うと非常に孤独感が強い子どもも増えているのも事実です。川戸さんにご指摘いただいたように子育て世代の孤立というのもあります。ただでさえ子育ては心身ともにプレッシャーが大きい中で、今は核家族です。また専業で子どもを育てる方であっても、24時間ずっと接していたら相当な負担だと思います。孤独に感じる、誰も相談できないという状況にあると思いますので、子育て世代の孤独や孤立をいかに解消していくかというのも実は、少子化対策や子ども政策に関わっています。私の担務もそういう意味では、ありとあらゆるところが全て関係していて、それを全体として解決をしていかないとこの国の社会課題の解決は実現しないので、常にそれぞれの政策の関連性を意識しながら、有効にそれぞれが有機的に機能するように心がけてまいりたいと思っております。不退転の決意で頑張ります。

 

●年収30億円向けの「超富裕税」で、日本は全員”平等に貧乏な国”になる 1/28
「年度末までに成立しないと国民生活に重大な影響を及ぼす重要法案」のことを「日切れ法案」と言うが、2023年度の税制改正で政府が提案している、所得が約30億円以上の超富裕層を対象にした最低負担措置の導入(「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」)は、”ひがみ法案”といえる(2025年導入予定)。
サッチャー元英首相は、「ひがみは人間の最も下劣な品性だ」と看破したが、それを具現化した法律だ。成功者をひがみ、引きずりおろして留飲を下げる目的だけの法案としか思えない。
1月30日(月)に発売する週刊東洋経済2月4日号では「大増税時代の渡り方」を特集。来るべき大増税時代に備え、生前贈与による節税法やNISA(少額投資非課税制度)のイロハまで、さまざまな税金との向き合い方を盛り込んでいる。
税収はわずか200億〜300億にすぎない
この法案で期待される国の増収額だが(私は税の専門家ではないので正確な分析はできないが)、「所得50億円のケースでは2〜3%負担が増えると想定される」と新聞報道にあるので、ひとりあたり1億円ずつの追加徴収だと仮定しても、せいぜい200億〜300億円の増収にとどまるだろう。2022年度第2次補正予算後の赤字(公債費)62.4兆円に比べるとゴミみたいな増収だ。
たいした増収ではないのは該当者が毎年200〜300人と少ないからだ。その該当者も大部分はベンチャーを起業し成功して株を上場した人たちではなかろうか。
2005年まで発表されていた高額納税者(長者番付)では、逆算して年間30億円以上の所得長者はいてもせいぜい数人だった。この番付には分離課税での納税額は含まれていない。したがって、今回の税制改正の対象者が200〜300人もいるのであれば、それは、ほぼ全員が源泉分離課税での納税者、すなわち株長者だと想定される。
たった200億〜300億円の増収のために、株式市場に悪影響を与え、かつ経済を引っ張っていく起業家たちのモチベーションを下げさせるデメリットは、あまりにも大きい。起業家たちがリスクを取っても見合うような環境を作らなければ、この国の産業の新陳代謝は絶望的だ。
世界の格差は「大金持ちがさらに大金持ちになる」ことによって生じたが、日本のそれは「中間層の没落による」との分析は、研究者の間ではほぼ一致したものだ。それなのに日本では、「国力」というパイを大きくしている人たちを引きずりおろし、パイの分配のみを考えている。このままでは中間層が没落しているだけでなく、全員が平等に貧乏になり、日本は共同貧困の国となる。
その意味で、この法案は筋が悪い。成功者に高いリターンを与える環境を作らないのなら、誰も頑張らないし、働かなくなる。格差是正を究極の目的とする社会主義国家が資本主義国家に敗れたのは、この辺にあるだろう。
私がモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の在日代表兼東京支店長の時、多くの外国人部下たちが、「日本は世界最大の社会主義国家だ」と言って帰国していった。それが日本で働き、生活したうえでの感想だったのだ。日本は、大きな政府、多くの規制とともに、”結果平等”の税制を持つ社会主義国家なのだ。この法案はそれをよく表す事例である。
アメリカは5%の優秀層が国全体を大きくする
私は2022年、アメリカに2カ月間滞在した。留学時代に2年間過ごしたが、それ以来の久しぶりの長期滞在だった。JPモルガン時代にも感じてはいたが、今回の訪問で確信したのは、人口の95%で見れば、アメリカ人より日本人のほうが優秀だが、上位5%のアメリカ人は滅茶苦茶に働き、頭が抜群に良い天才たちだ。
日本人の上位5%よりはるかに優秀で働き者。その天才たちが作りだしたシステムにのっとって、残りの95%の人間が仕事をし、結果として、国全体がぐいぐい伸びていっている。それがアメリカだ。
パイが大きくなるのだから、95%の人たちも、日本人よりはるかに裕福な生活が送れる。そしてその天才たちの半分は海外からの移住組だ。GAFAの創設者をはじめ、経営幹部を見てみればよくわかる。たとえば米テスラの創業者、イーロン・マスク氏は南アフリカ共和国からの移民である。
彼らはアメリカで成功すれば大金持ちになれる。そしてその成功の報酬を、相続税を含む税金で国に持っていかれることもない。だから天才たちはアメリカを目指す。日本のように成功しても、大したリターンがないうえ、その少ないリターンからも税金をがっぽり持っていかれる、すなわち天才を引きずりおろす仕組みの国には、絶対にやってこない。逆に日本の天才たちはアメリカに逃げていく。そして日本は”平等に貧乏な国”になっていく。
日本のプロ野球では、すでにその現象が起きている。大谷翔平、ダルビッシュ有、菊池雄星などの高給取りの天才たちは、皆、大リーグに行ってしまった。高給取りが抜けた結果として日本のプロ野球は皆、報酬が低いが平等な組織となっている。
今回の税制改正では、生前贈与の相続税への3年内加算ルールが7年内加算へと延びた。これも私に言わせれば、相続税・贈与税の課税強化だ。
世界中で相続税の無税化、軽減化が進行しているとき、日本だけは重税化が進んでいる。なぜ世界で相続税・贈与税の無税化・軽減化が図られているのかを分析するべき。過度の再分配は国を弱体化させる、その結果、ひとりひとりの国民も貧乏になるという分析の結果だと、私は考えている。
欧米人と話をすると、「何に投資をするとリターンが上がるか」の話になる。「投資リターンが高い産業」とは、その国が必要としている成長産業だ。そこに金が集まる。一方、日本では「何に投資するか」の話になると、「相続税の節税商品」の話となる。国を引っ張るリーダーたちが相続税節税のため、頭と膨大なエネルギーを使う。どの成長産業に金を向けるかの話が二の次では、この国のパイが大きくなるはずがない。
ちなみに私は参議院議員時代、財政金融委員会で税の質疑に立った際は、いつも相続税廃止を主張していた。「諸外国が相続税の無税化か軽減化をしているのに、なぜ日本だけは重税化するのか?」と質問すると、政府は「アメリカも重税化しています」との答弁をしてくるので、唖然とした。
たしかにアメリカでは、一時無税化していた相続税(連邦遺産税)が復活した。その意味では重税化だが、今でも親から相続したとすると、1206万ドル(約16億円)までは基礎控除なのだ。「配偶者と子ども2人だと4800万円から相続税がかかる日本と同様、重税化していますと答弁されてもな」と思ったのを鮮明に覚えている。
国全体が豊かになる税の設計をすべきだ
相続税・贈与税の年間税収は例年ほぼ2兆円。消費税約1%分だ。私は相続税・贈与税を廃止し、消費税をその分1%上げたほうが、国力を飛躍的に伸ばせると思っている。その結果、ひとりひとりが、より豊かになるはずだし、税収も増えるだろう。パイを大きくすればパイの分け方が同じでも、国民全員が豊かになるのだ。
税とは国全体が豊かになり(=パイを大きくし)、1人当たりの生活も豊かになることを第一義に設計されるべきものだ。そうすれば結果として税収も増える。格差是正を第一義に設計されるものではない。
格差是正の税制とは国が大発展し、大金持ちがさらに大金持ちになって、格差が無視できないほどの社会問題となった時に考えるべきものだ。日本はその段階に到着してはいない。もちろん国民の生命と財産を守るのが国の最大の責務だから、真に生命が危機に面している人たちへのセーフティーネットの確立が前提での話であるのは当然だ。
どの税目にしろ、増税となると、激しい抵抗の声が上がる。しかし私が参議院議員だった時の感想は、「この財政危機のときによくもこんなにたくさんの緊急性のない歳出がゾロゾロ出てくるものだな」だった。
コロナ禍に際しても気前の良いほどのバラマキが行われた。最近は防衛費増強での年1兆円の増税が議論を呼んでいるが、1人10万円配布の際には12兆円弱もの金が使われた。旅行支援などでも多額の予算が組まれている。お金に色はないから、防衛費だけでなく、これらの歳出も、いずれは増税で賄わねばならない。増税が嫌なら、バラマキの段階で反対の声を上げるべきだ。
バラマキが、誰か他人のお金で賄える時代はすでに過ぎた。借金額が限界を超えて大きくなってしまったからだ。大きな借金を返すには、「消費増税」か「所得税の課税最低限の引き下げ」以外方法はない。ばらまけば、いずれは他人ではなく、自分たちへの増税となって跳ね返ってくることを認識すべきだ。
法人税収の2023年度予想は13.7兆円。現在23%程度の税率を2倍にしても(そんなことをすると大企業は皆海外に逃げて日本人は職を失うが)、算数の計算でいえば、(あまりにもおおざっぱであることは承知しているが)13.7兆円の増収にしかならない。相続税なら2倍にしても2兆円の増収にしかならない。
金持ちから取ればよいとの議論もよく聞くが、そもそもこの国には金持ちがいないから大きな増収は期待できない。
消費税は1%で2兆円、徴税能力は抜群に高い
少し古い資料で恐縮だが、私が参議院議員の時、2015年5月21日の財政金融委員会で国税当局に聞いた資料が手元にある。それによると総合課税の適用を受けている人が4900万人程度。このうち税率10%以下の納税者は4000万人にのぼる。
したがって日本の人口1億2484万人(2022年12月1日概算値)のうち、たったの900万人しか10%を超える所得税を払っていないのだ(分離課税を除く)。限界税率33%(課税所得900万円)を超える納税者は50万人で、限界税率40%や45%を超える納税者は30万人に過ぎない。
その結果、課税所得900万円という「小金持ちの範疇にも入らないような人」に適用されている33%の限界税率を1%上げても、1%あたり500億円しか増税にならない。一方、5%の限界税率(課税所得195万円以下)を1%上げれば、1%あたり6700億円の増収だ。多少はましだが、いずれにしても、今年度第2次補正予算後の赤字62.4兆円、コロナ前なら毎年30兆〜40兆円の赤字を、これだけで埋めるのは不可能である。
それに比べ消費税は1%で約2兆円と徴税能力は抜群で。消費税に頼らざるを得ない。消費税の大増税に課税最低限の引き上げを絡ませるしか、現在の借金を賄う手段は無いということだ。
このまま大きな政府(=大きな歳出)を続けるのなら、「消費税の大増税」+「課税最低限の引き下げ」で、国民全員に大きな負担がかかるのはやむを得ない。または借金の踏み倒し(=悪性インフレ)しかないことを肝に銘ずるべきである。
●日本の潜在的国民負担率56.9%…増税、増税、また増税 1/28
岸田増税を菅義偉がぶっ潰す 裏切った公明党の役立たず
ウラで、インチキをやっているのではないか――。岸田文雄首相が推し進める増税政策に国民の不安が高まる中、そう思われてもおかしくないぐらい、主張を180度転換した政党がある。公明党のことだ。なぜ、今になって有権者を裏切るような姿勢を取るのか。ジャーナリストの小倉健一が解き明かす。
岸田首相にとって増税は、彼の政治家人生のハイライト
1月19日に、防衛費増額の財源論について議論するため、自民党の特命委員会が発足した。ここで萩生田光一自民党政調会長が委員長となって「税以外の財源の具体的なあり方について丁寧に議論し、国民の皆さまにも納得していただける説明ができるよう、責任ある議論を行っていきたい」と発言した。
防衛費増額の財源を巡っては、政府と自民党は2022年末に、法人税等の増税による税収で4分の1を賄い、4分の3は歳出改革等で確保する方針を決めたが、この増税部分を圧縮しようと萩生田氏は意図しているようだ。果たして思い通りにことが運ぶだろうか。
残念ながら、岸田首相の増税への思い入れは、政治家人生のハイライトのようなものであり、修正が困難だ。安倍晋三政権での政調会長時代には、「財政健全化の道筋を示すことが、消費を刺激して経済の循環を完成させる」「財政出動が将来への不安を増大させかねない」「最優先の課題として消費税引き上げが必要」と繰り返し主張してきた。
財政出動をすると将来への不安が増し、増税すると将来の不安が消える。ゆえに、増税することで消費が刺激され、経済成長するという謎の理屈を、本気で主張してきた。だったら、なぜ、消費増税をするたびに消費が落ちるのかを説明してほしいが、何か見えないものが見えているのだろう。
参院選では増税反対の立場だった公明党が突然、態度を豹変
そんなよくわからないものが見えている「岸田増税」路線に、突如、歩調を合わせてきたのが、公明党である。
公明党の北側一雄副代表は、1月19日の記者会見で「国民負担の軽減に向け、どのようなアイデアが出てくるのか、関心を持って見ていきたいが、去年の年末に政府・与党で一定の国民負担について方向性を出している」として、増税はもう決まったんだから、諦めろとでもいいたげな発言をした。
また、菅前首相が増税の方針について「議論が不十分で突然だった」と指摘したことについても「防衛力の抜本的な強化の必要性は、去年のかなり早い段階から岸田総理大臣らが発信し、安定的な財源の確保は大きな課題だった。唐突に増税の話があったとは理解していない」と、岸田首相におもねるような発言をした。
ところが、昨年夏までの公明党は、増税は国民の理解を得られない、という立場であった。
『公明党の山口那津男代表は(8月)23日の記者会見で、防衛費増額の財源としての増税に慎重な見方を示した。「ただちに国民の理解を得るのは難しい」と述べた。他の歳出分野との調整などに触れ「総合的に勘案して結論を出していくべきものだ」と強調した。防衛費を巡っては岸田文雄首相が「相当な増額の確保」を打ち出している。山口氏は財源として歳出の削減、経済成長による税収増、増税と国債発行の4つがあると指摘した。「どれを選択していくか、国民の理解を得ていく必要がある」と語った。防衛費増額はまず強化すべき中身を積み上げて方向性をまとめる必要があると提起した。「それを確保する財源をどう手当てしていくかという順序で議論をしていくべきだ」と話した。山口氏は6月のBS番組でも防衛費増額の財源に国債を充てる案に関し「安易に頼るべきではない」との認識を示していた』(日本経済新聞・2022年8月23日)
大増税こそ明らかな選挙公約批判である
昨年と今年で言っていることがまるで180度違うのである。この半年に何があったのか知らないが、完全に別人格になって、増税は既定路線だと主張をしているのである。昨年の参院選挙で公明党が掲げた参院選政策集『日本を、前へ。』において、『税』について触れた箇所が30カ所あったが、防衛増税について何一つ触れられておらず、「優遇税制やります」というバラマキ色の強い文言ばかりだった。
莫大な増税を推し進めるにあたって、選挙では何も言わずに、突然態度を180度転換する行為は民主主義への冒涜(ぼうとく)に近い。ガーシー参院議員が海外にいたままで国会に来ないことを今さらになって懲罰にかけようとする与党議員がいるようだが、ガーシー議員はそのことを選挙で言って有権者の信任を得たのである。ガーシー議員が法律を犯したのであれば、当然、罰を受けるべきであると思うし、国会議員は国家権力からよほどの不当な扱いを受ける場合でもない限り、日本にいて国会に出席すべきだと私は思うが、選挙の公約という観点から言えば、選挙の後で突然大増税を既定路線かのように言い出した自民党や公明党のほうが罪は重たいと考える。
この公明党の突然の反転は、今年の年始に突然、岸田首相が言い出した「異次元の少子化対策」に理由があると言われている。全国紙政治部記者は解説する。
「岸田首相は少子化対策を含む子ども関連予算を倍増する考えを示した。防衛費同様に規模ありきで、3月末にたたき台ができあがり、財源は統一地方選挙後に発表される模様だ。このスケジュールに従えば、こんなことやります、あんなことやりますと選挙前に有権者へのエサをぶらさげておいて、選挙が終われば大増税が発表されることになる。平和の党を標榜する公明党は、防衛費予算増や安保関連3文書などに賛成している印象をあまり受けたくなく、この子ども予算倍増を統一選挙の公約にして戦うつもりのようだ。いつもながらに立ち居振る舞いがうまいと、増税議論を突きつけられた自民党議員は一様にうらやましがっている」
増税ありきの自公政権で日本経済はこのまま沈められてしまうのか
先に、北側副代表が記者会見で踏み台にした、菅義偉前首相だが、自民党内で孤軍奮闘の状態だ。菅氏の念頭には、安倍政権で法人税を引き下げ企業収益を上げたこと、そして、消費税増税で景気が冷え込んだことがある。増税がいかに経済に悪い影響を与えるかを、菅氏は身をもって知っているはずだ。
河村たかし氏が市長をつとめる名古屋市では、市民税を5%減税したにもかかわらず、税収が増えているのである。増税すれば景気が悪くなり、結果として減収する可能性があることを全く念頭におかない岸田政権は、防衛費を2倍にし、子ども予算も2倍にし、今度は炭素税を導入するという。このまま増税路線を突き進むのだろうか。今はまだ孤軍奮闘の菅氏に味方が集まり、岸田増税をなんとかぶっ壊してほしいものだ。
財政赤字を加味した日本の潜在的国民負担率は、56.9%だ。「重税だが福祉が手厚い」ことで知られるスウェーデンでさえ56.4%である。米国は40.7%、英国は49.7%だ。日本ほど国民負担率が高い国はなかなかない、というのがファクトなのである(財務省「国民負担率の国際比較」2022年度版、数値は日本が22年度見通し、他国は19年実績)。
第一生命研究所調査(2005)によれば『主要OECD諸国に関するパネル分析を行った結果、国民負担率と家計貯蓄率は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が▲0.28%ポイント低下する』『また、国民負担率と潜在成長率との関係についても同様に分析を行ったが、両者は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、潜在成長率が▲0.06%ポイント低下する』ことがわかっている。
このまま自公政権によって、日本経済は沈められてしまうのだろうか。私は心底不安で仕方がない。
●防衛費の増額などをめぐり 週明けから衆院予算委与野党本格論戦 1/28
国会では来週月曜日から2023年度予算案の実質的な審議が始まり、防衛費の増額などをめぐって、与野党の論戦が繰り広げられます。
2023年度予算案は、一般会計の歳出総額が過去最大のおよそ114兆円で、岸田政権が打ち出した防衛力の強化や少子化対策などが盛り込まれています。
あさっての衆議院・予算委員会で野党側は、政府が決めた防衛費の増額とその財源の一部を増税で賄う方針や、原発の運転期間の延長を可能とする新たな原子力政策などについて政府の考えを質す方針です。
また、岸田総理の政務秘書官を務める長男の翔太郎氏が岸田総理の欧米訪問に同行した際、公用車を使って観光していたと報じられている件についても、事実関係を追及する構えです。  
●「危機の心構え4箇条」を経営者1000人に語る ワタミ焼肉で全米進出 1/28
研修事業などを展開する日創研の新春セミナーで、中小企業の経営者約1000人に講演するのが恒例になっている。今年で14年目だが、毎回、新しい話にこだわっている。今回はコロナ危機とどう戦ったかをテーマにした。受講者は8割が黒字経営というから素晴らしい。
講演ではまず、コロナ禍でワタミの業績がどのように推移したかを説明した。影響が直撃した2020年は上期に55億円、下期に41億円の営業赤字を計上した。21年下期と22年上期は40億円超の経常黒字で、特に22年上期は撤退した店舗の減損損失も減り、32億円の最終黒字を出せた。
コロナ禍の2年半、ワタミは家賃の高い居酒屋を撤退させ、焼肉店、から揚げ店を出店するなど、3・1日に1店のペースで撤退を進め、4・9日に1店、新規出店をした計算になる。受講者は危機のなかでワタミがいつ、どのような手を打ったか、数字を見ながら読み解いてくれた。
黒字回復の根幹には、私自身の「危機の心構え」がある。1ワクワクすることしかしない2コントロールできるものに集中3方法は無限大4運を呼び込む―の4つだ。
まず、危機になると「何がもうかるか」ばかり考えるようになる。人間は欲に目がくらむので絶対にうまくいかない。私はワクワクすることだけ考えるようにしている。自分がワクワクすることなら、必ず経営理念に沿っているからだ。また、政府の方針や、生活スタイルの変遷など、自分でコントロールできないことを嘆いても仕方がない。自らコントロールできること、例えば物流費の削減、生産設備の更新、おいしいメニューの開発に集中することである。
そして「これしかない」と決めつけず、「何かほかに手があるはずだ」と考えること。方法は無限にある。さらに明るく、元気に、前向きに、すべてに感謝するなどして運を呼び込むことも欠かせない。結局は運がすべてだから、会社は運がよくなければならない。
これから先の危機についても触れた。日本の財政危機と、台湾をめぐる安全保障上の危機だ。特に財政面では、日銀が債務超過に陥れば円は信頼を失う。日本の財政破綻は、今年はまだ大丈夫だと思っていたが、金利に関する日銀の政策の行き詰まりをみると早まるかもしれない。昨年、対談した投資家のジム・ロジャーズ氏も「債務だけ増えて人口が減る国が滅びるのは明らか」と述べていた。
先日、鹿児島で和牛生産者を前に、来年早々、米テキサス州に焼肉レストランを出店する構想を発表した。米国の経済は伸びているし、円安も追い風だ。学生時代に世界一周をした際、ニョーヨークのレストランで、外食産業で起業しようと決めた。アメリカに自分の店の看板を掲げることは40年越しの夢である。この先、危機があろうが、今の心境は「ワクワク」している。
●岸田政権に異議 防衛費増額「増税は容認できない」馳浩石川県知事 1/28
政府が掲げる防衛費の増額とそれに伴う増税について、馳知事は「容認できない」として、国民への分かりやすい説明が必要だとする考えを示しました。
馳知事は金沢市内で開かれた自身の後援会が主催する新年互例会で、自民党の萩生田光一政調会長との対談に臨みました。およそ40分間行われた対談では、防衛費の増額についても意見が交わされました。
終了後、馳知事は報道陣からの質問に応じ、増額の一部を増税で賄うとする政府の方針について、「政府中枢から増税という話が出てくることは、地方の知事として容認できない」と述べ、「防衛費を増強する理由を国会論戦を通じて国民に分かりやすく伝えて財源について議論するべき」と政府の方針に異を唱えました。
その上で、財源については国の借金である国債を、発行から60年で完済する「60年償還ルール」を見直す必要があるとの考えも示しました。

 

●なぜ、金利の上昇が止まったか 1/29
こういうご時世なので、金利に興味がある人もいると思うので、なぜ、日本国債の金利上昇が足元で止まっているかについて書きますね。前回の日銀の政策決定会合の意味などを説明できたらと思います。
ぶっちゃけ、需要あるか良く分らないのですが、もし金利の話に需要あれば「日本の自治体は財政状態がそれぞれ異なるのに、同じ金利(上乗せ金利、スプレッド)で債券が評価されるのか」とか、いろいろ書いてみたいネタがあるので、実験的取り組みです。
これまでの経緯
世界的には、コロナ危機によって財政のバラマキ(需要増加要因)があるなかで、コロナで工場が動かない(供給減少要因)が起きたため、物価の上昇が続いていました。より遡れば、米中対立などから、これまでのような最適地生産が不可能になる流れがあったので、グローバル化以降続いていた低インフレの流れに変化の予兆が出ている感じでした。
それに対して日本は、主要国中最強のデフレ体質のため、そう簡単には金利が上がらない状況が続きました。ただ、それでもっていうか、それゆえにもたらされた円安(による交易条件の悪化を通じた物価高)やコモディティ価格の上昇などによって、流石に(定義にもよるけど)2022年くらいから十分な物価上昇が観測されるようになっていました。
しかし、それでも日銀が政策を変えなかったんですよね。10年債金利を強烈に抑え込む政策(指定している金利を超えたら無限に買っていく)を取っていたため、10年債金利は動けない状況でした(ただし、前後の金利は10年金利異常に上昇するっていう金利間の関係が歪みまくっている状態)。あまり日銀に批判的なことを言いたくないのですが、やはりちょっとかたくな過ぎたというか、政策的な必要性が無くなったことを認めて、より細かく柔軟に金融政策を調整していたらまた別の展開になったことと思います。そういう微修正を一切しない状態で、運命の2022年12月の政策決定会合で10年金利の変動幅を拡大(当時の情勢だと実質的な利上げ)を行ったため、国債金利市場は大きく動揺することになりました。
もう、日銀への信頼感が落ちちゃったから、追加的な政策変更を市場がどんどん織り込んで行っちゃうんですよね。こうなると、中央銀行としては、「市場との対話に失敗した」って評価されざる得ない状況になってくる。
結局のところ毀誉褒貶はあれで、黒田総裁はやっぱり名総裁だったとおもうんですよ。その名総裁が最後のかじ取りに、ちょっともたついているって状況なわけで。で、その極めて緩和姿勢が強かった総裁の交代時期が23年4月の迫っている、もしかしたらその前の副総裁交代のタイミングで早期辞任もするかもしれないってスケジュール感があるなかで、やっぱり金利は上がらざる得なかったんですよね。
金利が落ち着いた理由
そんな感じで、もう一発運命の2023年1月の決定会合を迎えました。直前に、某大手新聞社が日銀の金融政策変更を示唆するような記事を書き、市場がそれを信じちゃうくらい日銀の政策変更期待、すなわり金利の上昇期待が高まっている状況でした。
で、出てきた答えは、共通担保オペの拡充っていうまさかの金融緩和策です。金融引き締めにどんなペースで向かっていくのかって見方が多勢だったところに、まさかの緩和っていう全く逆方向の政策が飛び出したことになります。
これまでは、市場に日銀が追い込まれるような展開だったのに、逆に市場が日銀の政策に合わせた妥当な金利形成を再考しなければならない展開になりました。金利を決める主導権を、(市場から)日銀が取り戻したっていうことも出来そうです。取り戻しちゃいけないんですけどね。
で、このきっかけになった共通担保オペの拡充なんですけど、これが何を意味するかってすぐ分かる人は少ないと思います。めちゃくちゃ簡単に言うと、日銀が資金を銀行(や短資会社)に供給するのでそれを運用してくれ(国債を買ってくれ)って政策なんですよ。だから、日銀が銀行に貸す(共有担保オペ)金利よりちょっと上くらいの水準まで国債金利が下がるってことになるんですよね。国債を無リスクとするなら、国債金利より安く資金が調達出来たら、それで国債を買ったら無リスクの裁定機会があることになるので。
(厳密には金融機関にとって余剰資金はコストなんで、日銀にマイナス金利を付加されないで資金を置ける枠が残っている金融機関と残っていない金融機関では、ちょっと変わる部分はありますが、まあ細かい話なんで)
だから、強烈に金利を抑え込む作用があるんです。
こんな感じで、日本の金利上昇はいったん止まりました。これまでは、もう金利上がるしか無いじゃんって感じだったけど、上も下もあるっていう2wayリスクを意識される展開ですね。
ただ、国債金利の上昇は止まったけど、地方自治体が30bp(0.3%)の上乗せ金利が求められる感じになってきていて、国以外の債務者が負担する金利は上がりやすい傾向なるんでしょうね。
●トヨタ「EV戦略見直し」も…すべてぶち壊しかねない日本の「自動車税制」 1/29
トヨタ自動車が、EV(電気自動車)の設計・生産の体制の根本的な見直しに乗り出したことが明らかになりました。世界中でEVが急速に普及するなか、遅れを取り戻すため、EVを量産する体制を整えるねらいがあります。しかし、わが国の自動車税制や過去の政府要人の発言を顧みると、多難な前途が予想されます。本記事では、現行の自動車関連税制の問題点等について解説します。
日本の自動車税制はどうなっているか?
はじめに、日本の現在の自動車税制の概要について解説します。
「購入・新規登録時」、「保有期間中」、「車検時」に分けて、以下のように整理するとわかりやすいです。
【車両購入・新規登録時】
・自動車税・軽自動車税(環境性能割)
・自動車重量税
・消費税
【保有期間中】
・自動車税・軽自動車税(種別割)
・ガソリン税・消費税
【車検時】
・自動車重量税
なお、これらのうち「自動車税」は都道府県税、「軽自動車税」は市町村税です。
また、税金以外にも、自動車保険(「自賠責保険」と「任意保険」)の保険料、2年に1回の車検の費用等がかかります。
自動車関連税制の問題点
自動車関連の税制については、古くから様々な問題点が指摘されています。以下、それぞれの税目について、歴史的経緯も含め、解説します。
   自動車重量税・ガソリン税
自動車重量税・ガソリン税については、以下の4つの問題点が指摘されています。
1. 「一般財源化」(2009年)により存在意義が失われている
2.「一般財源化」の後も高い税率が法的根拠なく引き継がれている
3. 自動車重量税は新規登録から13年経過すると税率が上がる
4. ガソリン税については消費税との「二重課税」の問題がある
第一に、自動車重量税は、その存在意義自体が疑わしいという指摘があります。
どういうことかというと、自動車重量税は、もともと、後述するガソリン税とともに「道路特定財源」という扱いがされていました。
これは、税金の使い道を道路の整備・維持管理のみに限るというものです。なぜなら、道路を利用するドライバーに、道路の整備・維持管理のコストを負担させることが公平と考えられたからです。自動車が「ぜいたく品」だったという時代背景もあるとみられます。
しかし、その後、道路の整備が進んだこと、自動車が広く普及して税収が増えたこと等によって、「道路特定財源」における税収が歳出を大幅に上回るようになりました。
すなわち、その時点で道路特定財源は「お役御免」になったと考えるべきであり、本来、自動車重量税・ガソリン税について廃止も含め、抜本的見直しがされるべきだったはずです。
ところが、当時の政府・与党(自民党・公明党)は、「厳しい財政事情」「環境面への影響の配慮」等の理由をつけて、「一般財源」に移行したのです。
折しも当時、いわゆる「小泉改革路線」の真っただ中で、「道路特定財源が道路族議員の既得権となっている」ということが叫ばれていました。そうであるならなおさら「廃止」にすべきはずだったのですが、そうはなりませんでした。
使途が限定されない「一般財源」に移行するという方式がとられたのです。2009年のことでした。自動車重量税・ガソリン税の存在意義のすり替えが行われたのですが、それを指摘する人はごくわずかでした。多くの人が「道路族議員の既得権を奪う」という美名にとらわれた結果、「道路特定財源」の最も重大な問題点が見過ごされたのです。
なお、この一連の経緯については、2005年(平成17年)12月9日に政府・与党がまとめた「 道路特定財源の見直しに関する基本方針 」等の資料においてはっきりと確認することができます(国土交通省HP参照)。
第二に、自動車重量税・ガソリン税については、税率が不当であるという指摘もされています。
すなわち、現行の自動車重量税・ガソリン税の税率は、道路特定財源だった当時、道路整備の財源が足りないという理由で、暫定的に引き上げられたまま、ずっと続いているものです。本来、税収が歳出を大幅に上回った時点で引き下げられるべきところ、継続されてきたものです。
しかも、「一般財源化」の後もそのまま引き継がれています。
その経緯から「当分の間税率」と呼ばれ、批判されています。
第三に、自動車重量税は、新規登録から13年経過すると税率が上がる点が批判されています。これには、年式が新しい自動車ほど環境に優しいというもっともらしい理由が付けられています。しかし、新しい自動車を乗り換えることと、自動車を大事にして長く乗り続けることと、どちらが環境に優しいといえるか、疑問が残ります。
第四に、ガソリン税については、「二重課税」の問題が指摘されています。これは、ガソリン税がガソリン価格に含まれ、さらにそのうえに消費税相当額を乗せて販売される構造になっているという問題です。税金のうえにさらに税金が課されるという状態が生じています。
   自動車税・軽自動車税
次に、自動車税・軽自動車税に関する問題です。
自動車税・軽自動車税は1950年に導入された当初、「ぜいたく税」の性格をもつものと扱われていました。
しかし、その後、自動車は一般国民に広く普及しました。今日では、特に、公共交通機関が発達していない地方においては、日常生活を送るうえで必要不可欠です。
ところが、自動車税・軽自動車税の負担は依然として重いままです。たとえば、JAFが2022年10月に公表した「 2023年度自動車税制改正に関する要望書 」のなかで、日本の自動車税・自動車重量税を合わせた税負担が、欧米諸国(イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ)と比べ約2.2〜31倍にのぼると指摘されているのです。
自動車税の元来の制度趣旨から考えると、既にぜいたく品でなくなった自動車に対して高い税金を課するのはおかしいということになります。
さらに、先述した自動車重量税と同じように、新規登録から13年経過すると税率が高くなるという問題があります。もし、「ぜいたく税」と考えるのであれば、新車を乗り換える経済的余裕がある人ほど課税を強化すべきです。また、中古車ほど税率を低くしてあげなければならないはずです。
しかも、2019年10月に行われた「自動車税の恒久減税」は、同年月以降に新車新規登録を受けた車両のみが対象です。
このように、現行の自動車関連税制は問題が多く、税負担も過大であり、それが「クルマ離れ」に拍車をかけているとの指摘もあります。トヨタをはじめとする自動車メーカーが懸命にEVの生産体制の整備につとめても、現行の複雑怪奇ともいえる自動車税制が、その普及の足を引っ張りかねないというリスクがあります。
EVについては「走行距離課税」の問題も
なお、EVについては、いわゆる「走行距離課税」が導入されるのではないかという問題もあります。走行距離課税とは、走行した距離に応じて課税するというものです。
この問題の発端は、鈴木俊一財務大臣が2022年10月20日の参議院予算委員会でEVの「走行距離課税」導入の可能性に言及したことです。その理由は以下の2つです。
・EVにはガソリン税のような燃料に対する課税がない
・EVは車体が重いため、道路の維持補修の負担が増大する
しかし、「道路の維持補修の負担」をいうならば、道路特定財源を廃止して自動車重量税とガソリン税を一般財源に組み込んだのは何だったのかということになります。
また、自動車重量税の存在意義を依然として認めるならば、それと存在意義が同じ税金をもう一つ設けることになるという「二重課税」の問題があります。
さらに、EVに走行距離課税を適用した場合、ガソリン車にも適用するかどうかという問題も発生します。
岸田首相は現状、「走行距離課税」について否定的な考えを示しています。しかし、道路特定財源を一般財源に組み入れた経緯や、「当分の間税率」が続いている経緯等を考慮すると、いずれはEVについて走行距離課税が導入されるのではないかという危惧を拭い去ることはできません。
ここまでみてきたように、現行の自動車税制は様々な問題を抱えており、それが、自動車メーカーないしは国民の側でのEV推進の動きの足かせになる危険性さえ秘めているといえます。
もはや現行の自動車税制を維持することは困難であるといわざるをえません。政府・国会には、可及的速やかに、すべての国民・自動車ユーザーにとって納得感のある税制を構築し直すことが求められます。
●児童手当 所得制限撤廃や財源など 与野党が議論 NHK日曜討論  1/29
岸田総理大臣が目指す「次元の異なる少子化対策」をめぐりNHKの「日曜討論」で、児童手当の所得制限の撤廃や財源のあり方などについて与野党の幹部が意見を交わしました。
この中で、自民党の茂木幹事長は「児童手当については、少子化の問題がギリギリのタイミングであることを考えると、所得制限は撤廃すべきで、その方向でまとめていきたい。過去にはとらわれず、時代の変化に応じて必要な政策の見直しはちゅうちょなく行い、いい意見は取り入れる。自民党は、そういう柔軟で、先進的な政党でありたい。子ども予算の将来的な倍増を目指すが、増税ありきで議論を進めることはしない」と述べました。
立憲民主党の岡田幹事長は「民主党政権のときから社会全体で子育てを支援すると言ってきたが、家族中心だとして反発したのが自民党だ。未婚率の上昇と非正規の働き方には相関関係があり、不安定な働き方を変えないと少子化の根本的な解決にならない。年金や医療、介護のための保険料を対策の財源に横流しするのは納得できない」と述べました。
日本維新の会の藤田幹事長は「児童手当に限らず給付における所得制限はなくすべきだと一貫して言ってきた。大阪では行財政改革を徹底的にやって高等教育までの無償化が実現しており、全国でやりたい。出生数の減少に歯止めをかけるために大きな手を打つべきだ」と述べました。
公明党の石井幹事長は「児童手当については、支給対象の18歳までの拡大や所得制限の撤廃、支給額の増額など大幅な拡充を目指したい。政策の中身の議論がまず重要で、財源は、安定財源が望ましく、各種の社会保険料から拠出することも含めてしっかりと議論していく必要がある」と述べました。
共産党の小池書記局長は「軍事費ではなく子どもの予算を倍増し、消費税は減税すべきだ。教育費の負担の軽減が大事で1番求められており、学費を半減して、給付制の奨学金制度を拡充し、学校給食は無償化すべきだ」と述べました。
国民民主党の榛葉幹事長は「少子化の1番の原因は経済的負担で、児童手当など、ありとあらゆる所得制限を撤廃すべきだ。生まれた街によって育児に損得があってはダメで、国をあげて取り組み、財源は教育国債でいい」と述べました。
れいわ新選組の大島参議院国会対策委員長は「子どもたちに光り輝く人材に育ってもらうために教育費の完全無償化が必要であり、保育や教育に関わる人々の処遇を改善していく」と述べました。
●“ワイズ”ではなくなった“ワイド”スペンディング小池都政予算案  1/29
本日、「令和5年度東京都予算案の概要」が発表されました。期待を裏切ることについては裏切らない小池都政。脱力し萎える気持ちをふるいたたせ、地域政党自由を守る会としての見解をプレスリリース致しましたので皆々様にも公表させて頂きます。
令和5年度東京都予算案発表にあたって(代表談話)地域政党自由を守る会 上田令子
ブクブク膨らみ総額16.8兆円!
令和5年度予算案は、「明るい『未来の東京』の実現に向け、将来にわたって『成長』と『成熟』が両立した光輝く都市へと確実に進化し続ける予算」と位置付けられています。全会計あわせて、前年度対比4.5%増の16兆821億円、一般会計歳出総額8兆410億円、新規事業615件、約2,700億円も含め4年連続過去最大予算となりました。
コロナ禍であるからこそ議会にはかり、丁寧な補正予算を組むべきであったにもかかわらず過去最多に専決処分を濫発し、局・本部の新設再編を繰り返し、職員を疲弊させておきながら「『東京大改革』を爆速で進める。一層活発で機動的な組織へと進化させる」とは、誰にとっての「活発で機動的な組織」なのか?笑止千万としかいいようがありません。変質した「東京大改革」」をこそ軌道をもとに戻し大改革すべきです。小池都知事個人のための都庁・都職員ではなく、都民のための都庁・都職員である自覚を持つことを強く求めるものです。
税収増も庶民生活は豊かにならなず
一方、行動制限が緩和されたことから、消費行動も促され大手企業収益が堅調に伸びたことにより都税収6兆2,010億、昨年に続き約5,702億円、10.1%も増加しています。これは、上場企業の多くが東京都に一極集中して本社があるからであり、ロシアによるウクライナ侵攻により不安定な世界経済を遠因とする物価高に、都民、中小零細企業は景気向上の恩恵を得ずに未だ苦しみの中にあります。令和5年度予算はまず、こうした日々の経営や生活に苦しむ市井の「都民ファースト」を組み立てるものでなければなりませんでした。
天下の愚策太陽光パネル義務化予算に注目
しかし残念ながら、にわかに都民生活に寄与するとは思えない「脱炭素社会実現施策強化」に今般1,800億円もの予算が計上されています。
「元環境大臣」に固執する小池知事は、岸田・自公政権に負けじと、2030年までのCO2排出量の半減、「カーボンハーフの実現」を標ぼう、知事を自縄自縛し、都民を犠牲にした拙速・杜撰な環境政策が展開されることとなったのです。
昨年の第4回定例会では、新築物件の屋根に太陽光パネル・充電設備の設置を義務付ける条例改正は、政府としては断熱化義務付けるにとどまっているにも関わらず、都議会自民党・自由を守る会が反対する中で功名を急ぎ強行可決されたことは、都民の自由を奪い財産権を侵害する天下の愚策、都政の汚点であると断言いたします。
海外よりも東京に目をむけるべし
「アフターコロナ」の首都東京を考えるときに、前述したように「都民生活の向上」を最優先すべきと考えます。目新しい事業に次々と手を出すのではなく、手堅い都政事業の点検見直しを講じるべきであるのに、相も変わらず小池都政は足元の東京ではなく、海外にばかり目が向いていることは大きな問題です。
実際に昨年は無担保無保証で1500万円を融資する「外国人起業家資金調達支援事業」は物議を醸し、全国民の批判が集まりました。現時点では事業計画認定と融資が出来ぬ状況に陥りながら「Tokyo Innovation Baseの整備」「海外ベンチャーキャピタル・アクセラレータの誘致」「創エネ・蓄エネファンド」…日々慎ましく生きる都民の何の助けになるのかサッパリわからない「世界経済をけん引する都市の実現」のために、性懲りもなく4,815億円も計上しています。
「世界」よりも先にまずは、「東京」の都民一人一人の経済・暮らしをけん引すべきです。
場当たり子育て政策に警鐘
子育て支援策の強化は一定評価しますが、18歳未満の子どもへの所得制限なし5000円給付(018サポート)については、福祉保健局・財務局、政府与党会派も関知しないまま、政府に先んじようと突如報道発表したことは、小池知事と都民ファーストの独断専行と言わざるを得ません。
対象者は約200万人、年間1,261億円の支出となり現状は一般財源で支出可能なものの今後、不安定な法人二税に依存している都財政において不安材料もあり、まずは児童手当所得制限を国に求めるべきであったと強く指摘しておきます。
お姐総括!
いみじくも小池知事は初当選直後、所信表明で歴代知事の財政運営を「溢れんばかりの贅肉を付けた予算」と激しく批判してから7年。
「都民ファースト」は過去の遺物となり、「ワイズ・スペンディング」が無駄な事業満載の贅肉・バラマキだらけの空前絶後の都財政史上最大の「ワイド・スペンディング」となり果てた令和5年度予算案については、地域政党自由を守る会は強い疑義を呈し、徹底的な是正を求めるものです。
●岸田・菅・茂木氏、代表質問で浮かぶ関係 1/29
自民党の茂木敏充幹事長は1月25日の衆院代表質問の最後で、国難打破に向けた岸田文雄首相の指導力に期待を示した上で「『意志あるところに道は開ける』エブラハム・リンカーン」の言葉です」と述べ、締めくくった。実は、「意志…」は、新年を迎えて政権批判を始めた菅義偉前首相の「座右の銘」。なぜ茂木氏は国会のスタートに当たり、菅氏を連想させたのか? 首相への激励、皮肉、あるいは菅氏への配慮。真意を巡り、政界で憶測を呼びそうだ。
座右の銘「意志あれば道在り」
代表質問で茂木氏は、5月に広島で開催される先進7カ国(G7)首脳会議、昨年末に決定した防衛力強化と防衛費増のための財源、原発・エネルギー、少子化、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)、憲法改正などについて質すと、締めに入り「いずれも国難とも言えるわが国の現状を打破し、明るい未来を切り拓くために必要不可欠な政策方針だ」「就任以来、強調してきた『信頼と共感の政治』がいま求められています」などと指摘。「岸田首相には『日本には、どんな困難も乗り越えていく人材力、さらに意志と底力』があることを、力強く国民に語り、その実現の先頭に立っていただくことを期待して、私の代表質問とします」と述べた。
これで質問終了と思いきや、茂木氏は「『意志あるところに…』と付け加えて、降壇した。首相の答弁中、テレビ中継中のNHKのカメラは、自席の茂木氏を何回か映したが、終始険しい表情で聞き入っていた。
米国第16代大統領のリンカーンが残したこの言葉は、一般に「どんな困難な道でも、成し遂げようとの意志があれば、必ず道は開ける」との意味に解される。茂木氏の発言を素直に解釈すれば、難題に取り組む「意志」を持ち続ける覚悟を首相に迫った「激励」と言えよう。
しかし、「意志…」が菅氏の「座右の銘」だとすると、単純には受け取れない。菅氏のブログのタイトルは「意志あれば道あり」。色紙に揮毫(きごう)する時は、この言葉を用いる。菅氏の旧友が生家(秋田県湯沢市秋ノ宮)近くで経営するラーメン店「藤」には、「意志あれば道在り 内閣官房長官菅義偉」と書かれた大きな色紙が飾られている。
元は同根、第2次安倍政権で再接近
茂木氏は茂木派を率い、麻生派領袖の麻生太郎副総裁とともに、岸田政権をど真ん中で支える主流派。無派閥の菅氏は、政権と距離を置く非主流派の重鎮で、無派閥を中心に自身に近い議員が30人程度いるとされる。現在は政治的な立ち位置が大きく異なる二人だが、若手時代に梶山静六元官房長官に共に目を掛けられた「同根」だ。
梶山氏は官房長官時代、当選1回で地盤が固まっていない菅氏の、当選2回ながら日本新党出身で県連との関係がしっくりいっていなかった茂木氏の、それぞれの地元を訪れている。また、梶山氏が自身に近い議員に声を掛けたゴルフツアーにも、二人は参加している。しかし、梶山氏が1998年7月の総裁選に、所属する小渕派を離脱して出馬すると、菅氏は梶山氏と行動を共にしたが、茂木氏は小渕恵三元首相を支持。二人はたもとを分かった。
そして、14年超の時を経て、両氏の距離は縮まる。2012年9月の総裁選で、菅氏は安倍晋三元首相を担ぎ出して勝利。対する茂木氏は、所属する額賀派(現茂木派)の方針に従い、石原伸晃幹事長(当時)を支持して敗北したが、同年12月の衆院選勝利を受けて発足した第2次安倍政権で経産相に起用された。
当時を知る自民党関係者によれば、菅氏が「能力が高く、仕事ができる」と茂木氏の処遇を進言。安倍氏が受け入れ、政調会長に充てたという。その後、選対委員長、政調会長、経済再生相、外相を歴任し、現在に至っている。7年8カ月続いた第二次安倍政権で一貫して要職を務めることになったきっかけは、菅氏の進言に他ならない。
一方、茂木氏と首相の関係は微妙とされる。茂木氏は次の総裁を目指しているとみられるが、現在67歳で、首相より2歳年長。首相が24年9月の総裁選で再選を果たせば、年齢的に「その次」は厳しくなる。
かといって、幹事長のまま来年の総裁選に出馬すれば、谷垣禎一総裁(当時)を不出馬に追い込んで立候補した石原氏のように、党内から「明智光秀」との批判は免れそうにない。茂木氏が来年の総裁選への出馬を目指すなら、幹事長職から離れ、首相と一定の距離を取る必要があるだろう。
今年9月ごろには、内閣改造・自民党役員人事が想定される。総裁選までに衆院を解散、勝利して再選を確実にするのが基本戦略と思われる首相が、茂木氏を続投させるのか。その場合、同氏は受け入れるのか。茂木氏の処遇が、人事の最大焦点だ。
首相の胸中は?
このように、政治的には微妙な関係にあると思える首相と茂木氏。演説の最後に茂木氏から、リンカーンの名言ではあるにせよ、菅氏の「座右の銘」で「激励」されても、首相の胸中は複雑だろう。「リンカーンとともに、菅氏にも学んでほしい」とのメッセージなら、首相への「皮肉」と読めなくもないし、首相が「皮肉」と受け取るかもしれない。
一方、菅氏にとっては、自身の「座右の銘」を用いて、茂木氏が首相を「激励」しても、悪い気持ちはしないだろう。菅氏に近い中堅議員は「菅さんに配慮しつつ、首相としての『意志』を示せとのメッセージではないか」との見方を示す。公明党幹部は「(岸田、菅、茂木3氏の)今後の行動を注視したい」と感想を漏らした。
その菅氏は退陣後「政策に専念する」と周囲に語り、政権へのコメントを控えていたが、年が明けると、批判を解禁した。1月10日に外遊先のハノイで、これまでの慣例に反して、首相が派閥会長を続けていることを取り上げ「国民の声が政治に届きにくくなっている」と指摘。18日のラジオ日本の番組では、首相主導で決めた防衛費増額のための増税に触れ「突然だった」「特に増税については丁寧な説明が必要だ」と述べ、説明不足を批判した。
実は、菅氏が用いた「声が届きにくい」「説明不足」は、自身が不出馬に追い込まれた21年9月の総裁選時、首相から向けられた言葉そのものだ。首相は総裁選で、感染拡大を抑えられなかった菅政権の新型コロナウイルス対策について「国民への丁寧な説明で課題があった」「自民党に声が届いていないと国民が感じている」などと痛烈に批判。当時の状況を「民主主義の危機」とまで断じた。
総裁選の意趣返し
菅氏は、首相在任時に向けられた言葉をそのまま岸田首相に返して批判した形。総裁選の「意趣返し」だろう。ある閣僚経験者は「首相と菅氏の対立は、相当根が深い」と指摘する。
茂木氏は、総裁選時の首相の菅政権批判の発言を覚えているだろうし、菅氏が同じ言葉でやり返したことも分かっているだろう。その上で、代表質問で「意志…」と首相に迫ったことになる。
想定される今後の政治日程を見ると、3月下旬まで23年度予算案の審議が続き、4月に衆院3補選と統一地方選。5月のサミットを経て、6月21日が国会会期末。その後、内閣改造・自民党役員人事、秋の臨時国会と続き、年末の24年度予算編成と税制改正で、防衛予算確保のための増税の詳細と、異次元の少子化対策の内容と財源を決めることになる。
この間、内閣支持率がどう推移し、首相は求心力を維持できるのか。サミット後の政局は、解散含みだ。党内では、こうしたさまざまな日程、要素を考慮しながら、実力者間で激しい神経戦、駆け引きが展開されるだろう。
●国会論戦 緊張感ある議論欠かせぬ 1/29
答弁を丹念に読み上げたところで、質疑にかみ合い、理解が深まる内容でなくては、丁寧に説明したことにはならない。
首相は「正々堂々と議論をする」としたが、その中身を国民の胸に届けるには表面的ではない踏み込んだ議論が不可欠なのに、それが見られなかった。
岸田文雄首相の施政方針演説に対する衆参両院の代表質問が終わった。歴史的な転換点となる防衛力強化やエネルギー政策、岸田政権が最重要課題に位置付ける少子化対策が議論の中心だった。
防衛力強化の柱となる反撃能力(敵基地攻撃能力)が専守防衛に逸脱するとの懸念に対し、首相は「ミサイルなどによる攻撃を防ぐのにやむを得ない、必要最小限度の防衛措置として行使する」とし、逸脱しないと重ねて述べた。
想定されるケースは語られず、説明は従来の域を出なかった。
増額する防衛費の財源についても「足りない部分は税制措置での協力をお願いしたい」とするにとどまり、施政方針演説に引き続いて答弁で「増税」の言葉を使うことを避けた。
税制措置では「家計や中小企業に十分な配慮をする」としたが、具体的ではなかった。
気になったのは、首相が防衛力強化やエネルギー政策の転換方針について、「国会での議論などを通じ、国民に丁寧に説明する」と繰り返していたことだ。
政府は、国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定や、原発の運転期間延長や新増設といった国の根幹に関わる方針を、国会で詳しく説明することなく転換した。
首相は、「慎重の上にも慎重を期して検討し、それに基づいて決断した政府の方針や、予算案・法律案を、国会の場で議論し、実行に移す」と述べたが、国会は、政府が一方的に決めた方針を事後に議論するだけの場ではない。
首相の政治姿勢に対し、代表質問で野党から「閣議決定を先行させ、国会での議論をないがしろにしている」「政府と与党で検討したから問題ないというのは、議会制民主主義を無視した暴論だ」などと批判が出たのは当然だ。
一方、政府が「待ったなしの先送りの許されない課題」とする少子化対策は、6月の「骨太方針」までに予算倍増に向けた大枠を示すとして詳細は提示せず、具体策の検討もこれからだとした。
驚いたのは、検討に当たって首相が自ら、子ども・子育ての当事者である親をはじめ、若い世代の意見を徹底的に聞くことから始めると、施政方針演説で述べたことだ。あまりに悠長で「聞く力」のパフォーマンスにしか映らない。
国会論戦は、内閣の一方的な説明の場ではない。国民第一の政策を実現するには、与野党が緊張感を持って論戦を交わし、政策に反映させていくことが欠かせない。
●少子化対策や子育て支援を巡る議論が遅まきながら… 1/29
少子化対策や子育て支援を巡る議論が遅まきながら、国会論戦の主要テーマとなっている。だが、地方にはすでに国に先んじて挑戦を続けている町がある。岡山県の山地にある人口約5700人の奈義(なぎ)町だ、「平成の大合併」に加わらなかった同町は、子育て重視を看板にしようと2012年に「子育て応援宣言」をした。年間1億円超の予算を優先して確保し、高校生までの医療無償化や保育料の軽減などの施策を展開した、その結果、出生率は19年に2・95を記録するなど、全国平均をかなり上回るようになった。若者向け住宅の整備や、お墓そうじなど有償の軽作業を通じて住民が交流する仕組みづくりなど、移住者を増やす手立ても講じている、岸田文雄首相は施政方針演説で「こども・子育て政策」は最重要だと強調した。年頭の記者会見で用いた「異次元の少子化対策」という表現は「次元の異なる」に言い換えた。どう違うのかは不明だが、奈義町の取り組みは決して異次元ではない。地道な施策の積み重ねだ、代表質問では児童手当の所得制限や「子育て減税」の是非などがポイントとなった。確かに重要だが、少子化の問題はそれだけにとどまらない、少子化対策を「最重要」としつつ、取り上げたのは5番目の項目だった首相演説だ。奈義町の宣言は子どもを「お年寄りとともに、町の大切な宝物」とうたう文言から始まる。問われるのは、子どもを大切にする幅広い合意をつくり、社会のあり方を変えていく理念と決意であろう。
●反撃能力(反撃武器)保有「威嚇」にならないか 1/29
岸田文雄総理は我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変わりつつあることを理由に「反撃能力」の必要を強調。「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力として、今後不可欠」と国会答弁や記者会見で「正当化」している。
また国是とする「専守防衛」を「逸脱するものではない」とも強調するが、憲法の趣旨を逸脱するものでもないのか。歴代政府答弁との整合性を含め、論理的に、分かり易く、危機感をあおり、感情論に訴えるのではなく、納得のいく冷静な説明を国会で行ってほしい。
反撃能力という「敵基地攻撃能力」保有は憲法違反にならないのか。週明けからの衆参予算委員会では憲法に照らしてどうなのか、憲法条項と憲法の精神に照らした「国家の安全保障の在り方」を徹底議論し、誤った方向に走らないよう国民に分かり易い熟議を求めたい。
政府・与党のいう「反撃能力」つまりは、相手国の誘導弾などの基地を破壊する能力の保有に関して、総理は「武力行使3要件に基づき、攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の防衛措置として行使するもので、攻撃目標の対象は厳格に限定する。やむを得ない必要最小限の措置の対象を個別具体的状況に照らし判断していく」と答弁した。その言葉に説得力を欠くのはなぜなのか。
そもそも、1959年の政府答弁で、当時の伊能繁次郎防衛庁長官は同年3月19日の衆院内閣委員会で敵基地攻撃と自衛権の範囲に関して「法理的には自衛の範囲であり、可能と考えるが、その危険があるからと言って、平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは憲法の趣旨とするところではない」と明快に答えている。
1967年の参院予算委員会でもノーベル平和賞授賞者の佐藤栄作総理が「わが国が持ち得る自衛力は他国に対して侵略的脅威を与えない、侵略的脅威を与えるようなものであってはならない。これは自衛隊の自衛力の限界であり、はっきり限度がおわかりいただけるだろう」と答弁している。
2015年9月4日には大塚耕平参院議員(現・国民民主)の要求に応じて平和安全法制特別委理事会に提出された資料で、内閣官房は「わが国は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、個別的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことは想定していない」ときっぱり答弁してきた。
岸田総理は現実的とか、感情論を織り込んで「正当化」しようとしているが、これまでの政府答弁や憲法の趣旨をきっちり踏まえているのか。やたら「抑止力のために不可欠」などという。「反撃能力」を抑止力にする考えの行き着く先は「核保有」「米国との核共有」まで。岸田政権の後の政権がより抑止力のための反撃力(防衛装備という武器装備)を訴え『非核三原則』の変更を行えば、歯止めが効かなくなりそこまで行きつくだろう。
そもそもが、防衛装備(武器)を持って「抑止力」につなげる考えは「脅威を与える」外交姿勢でないのか。河野洋平元衆院議長は7日のテレビ番組で「反撃能力というのは威嚇だ」と断じた。
岸田総理の発想には武器装備を背景にした外交姿勢が見え隠れし、とても平和憲法を有する国家の総理として合格者なのか、危うさを感じる。ある種、故安倍晋三元総理以上に質が悪い。それだけに国会論戦での野党の健闘を祈りたい。問題点をより鮮明にあぶり出し、修正すべきは修正することを実現してほしい。
日本共産党の志位和夫委員長は「今自衛隊が持とうとしている『敵基地攻撃能力』は米軍が地球的規模で構築している『統合防空ミサイル防衛』(IAMD=敵基地攻撃能力とミサイル防衛を一体化したシステム)に溶け合うように一体化して(自衛隊が米軍に)組み込まれることになる。米軍のIAMDは先制攻撃を公然と方針に掲げている。恐るべき危険はここにある」と国会での26日の衆院本会議代表質問で問題提起した。予算委員会でこの点も議論を深めることが必要だ。  
●政府、無駄削減へ新手法 防衛費増の財源捻出急ぐ 1/29
政府は、中央省庁の予算執行の無駄を外部有識者がチェックする行政事業レビューの実施要領を3月に改定する。統計データなどに基づき政策を立案する「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メーキング)」という新たな手法を浸透させるのが柱。防衛費増額に伴い不足する財源のさらなる捻出につなげたい考えだ。
レビューは約5千に上る国の全事業について、各府省庁が自己点検し、外部有識者による検証などを経て結果を来年度予算案に反映させる仕組み。内閣官房によると、第2次安倍内閣以降で、概算要求からの削減幅が最も大きかったのは2014年度予算案で4789億円。
●増税前に衆院解散必要77% コロナ5類62%賛成、共同調査 1/29
共同通信社は28、29両日、全国電話世論調査を実施した。防衛費増額に伴う増税前に衆院選を行い、増税の是非を問う必要があるとの回答が77.9%、必要はないは19.3%だった。政府が5月の大型連休明けから新型コロナウイルスの感染症対策を季節性インフルエンザと同じ「5類」に緩める方針に賛成は62.0%、反対34.0%。岸田内閣の支持率は33.4%で、昨年12月の前回調査から0.3ポイント増と低迷が続いた。不支持率は1.6ポイント減の49.9%。

 

●日本は「土足で入ってくる国」タイメディアが我が国防衛政策に“痛烈報道”… 1/30
日本の防衛政策について、東南アジアの頭首タイのメディアが報じた、少々耳の痛い内容。タイの政治・経済・金融に関する情報を中心に取り扱う現地メディア『Bangkok Post』より翻訳・編集してお伝えする。
日本に忍び寄る“タリスマン”たち…。
日本の防衛政策に大きな変化が起きている。“政治的津波”がもたらしたものだと言う人もいるし、長い間待たされていた警鐘であると主張する人もいるだろう。
戦後憲法の制限を守り、「軍事費をGDPの1%に抑える」という自主的な支出基準を何年も守ってきた東京政府だが、今回の防衛費の倍増を容認し、国際舞台でより積極的な政治姿勢をとりはじめた。
「防衛費を5年以内に1%から2%に倍増させるなんて、たいしたことではないじゃないか」と笑う人もいるかもしれないが、この増加によって日本の軍事予算は、米国と中国に次いで「世界第3位」となるのだ!
北朝鮮からのミサイルの脅威、台湾や南シナ海に広がる“中国の軍事的影”など、東京の政策に変化をもたらす要因となった“タリスマン”たち…。またロシアがウクライナに対して仕掛けた戦争は、日本政府が「仮定として話していた政策上の脅威」から、「同国が実際に直面する明確な危機」へと再フォーカスさせたのである。
日本は「土足で入ってくる経済大国」
そして今回、新たな国家安全保障戦略が登場した。日本の岸田文雄首相がワシントンを訪れ、ジョー・バイデン大統領と会談し、「我々の同盟、インド太平洋、そして世界にとってまさに歴史的な瞬間」と共同声明で表現された。また「我々の安全保障同盟はかつてないほど強固になった 」と断言している。
この声明は、「台湾海峡の平和と安定を維持することは、国際社会の安全と繁栄に欠くことのできない要素である」と主張していることが重要である。「我々は、両岸の問題の平和的解決を奨励する」 と述べた。
さらに、バイデン大統領は、「防衛力の抜本的強化と外交努力の強化における日本の大胆なリーダーシップを称賛した」とも述べている。日本の国連での姿勢、安保理の非常任理事国としての姿勢、そして北朝鮮に対する明確な発言は、その明確な例である。
半世紀にわたり多くの経済政策アナリストは日本を「土足で入ってくる経済大国」と断言していた。また、安定的に繁栄し続けている日本を、相互防衛条約によってアメリカに「ただ乗り」していると考える人もいた。米軍は日本を防衛する一方で、日本の工場はあらゆる製品において優れた良品を生産し、しばしばアメリカ企業に壊滅的な打撃を与えた。
1980年代にも、日米関係の焦点は米国の貿易赤字と、日本が自国の防衛責任をより多く担うことをいかに説得するかにあったと記憶している。
冷戦時、日本が与えられていた“言い訳”
まず、歴史を少し。1945年、第二次世界大戦末期における軍国主義・日本の敗戦後、ダグラス・マッカーサー元帥率いる米国占領軍は、自由な政党、土地改革、女性参政権、自由な報道、労働組合を謳った民主憲法を制定するという先見性を持っていた。
最も議論を呼んだのは、この憲法が、機能する議会制度を創設しながらも、天皇をフィギュアヘッド、国家の象徴、伝統の連続性として保持したことである。
同様に、憲法第9条は「不戦条項」と呼ばれ、日本が正式な軍隊を持つことを禁じ、政策の選択肢として戦争することを禁じていた。このように日本は、冷戦が激化する中、コストのかかる防衛費を避けるための法的な理由(※言い訳)を与えられていたのである。
1952年、アメリカの占領が正式に終わった後、「吉田ドクトリン」は東京の対米政策の合意テンプレートとなった。日本の民主的首相であった吉田茂は、米軍の安全保障に依存する一方で、非公式な軍隊である自衛隊を限定的に維持したのである。
同時に、日本は復興と経済成長のために力を注いだ。その結果、“経済の奇跡”が生まれた。
日本は過去の過ちによって傷つけてきた東アジアと連携を!
近年においては安倍晋三首相の時代、政治の潮流は地政学的な主張の強化へと向かっていった。北朝鮮のミサイルの脅威が高まり、中国の南シナ海や台湾への不吉な動きが公然と議論されるようになった。
さらに、安倍氏とドナルド・トランプ大統領との親密な関係は、中国に対抗する強い日本の価値で一致し、日米友好拡大の土台となった。安倍氏は昨年、惜しまれつつも暗殺された。
しかし、日本の防衛力強化は本来、一方的なものではなく、東アジアの広い文脈、特に韓国、フィリピン、インドネシアなど、第二次世界大戦中に日本の軍国主義者の手によって傷を受けた国々と連携して行う必要がある。今回の岸田首相ワシントン訪問時における日米共同声明では、「我々は、安全保障及びその他の分野での日本、また韓国及び米国の間における重要な3国間協力を強化することを約束する」と強調した。
しかし、ワシントンでの声明が日本の防衛関係の礎となっている一方で、東京都庁は中国を軍事的に抑止するための取り組みに注力するため、EUとの外交パートナーシップを拡大しつつある。そして近年、岸田総理はイギリス、フランス、イタリアを訪問した。同様に、日本は民主主義国家であるインドを中国の対抗勢力として期待している。岸田氏は、“すべてのボールをバイデンのバスケットに入れている”わけではない。
●防衛費増額・GXで様変わりした財政の中長期試算 1/30
1月24日に開催された経済財政諮問会議で、内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」(以下、中長期試算)の更新版が公表された。昨年末の2023年度予算編成で、防衛費の大幅増額やGX(グリーントランスフォーメーション)への先行投資のためのGX経済移行債(仮称)の新規発行などが決まり、これらがどの程度財政収支を悪化させるのかが、1つの焦点であった。
当連載「岐路に立つ日本の財政」でも、中長期試算については「どうなるのか?『東京五輪後』の日本の財政収支」など、過去に定期的に取り上げてきた。その中で、中長期試算の注目点の1つが、2025年度の基礎的財政収支(PB)黒字化目標が達成できるか否かである。
2025年度のPB黒字化目標は、2021年6月に閣議決定された「骨太方針2021」でも堅持されているが、翌2022年6月に閣議決定された「骨太方針2022」では明記されなかったことに表れているように、目標自体の位置づけについて、与党内で考え方に大きな違いがある。
政権を賭した財政収支改善努力をしなければ目標達成ができないものなら、その目標自体の位置づけをめぐり、ある種の路線対立に発展するだろう。しかし、少しの政策努力で目標が達成できるならば、わざわざ目標自体を凍結したり先送りしたりするほどのものではない。
「2025年度PB黒字化」と岸田首相は言うが…
今般の1月の中長期試算の結果はどうだったのか。1月24日の経済財政諮問会議で、岸田文雄首相はこう発言した。「今回の中長期試算では、成長実現ケースで示された成長率が実現し、これまでの歳出改革努力を継続した場合には、足下の税収増にも支えられ、引き続き、国と地方を合わせた基礎的財政収支は2025年度に黒字化する姿が示されました」。
この発言の解釈は、実は複雑である。素直に受け止めれば、それなりに経済成長率が高く、歳出改革努力を継続すれば、2025年度のPB黒字化目標は達成できる、という認識を岸田首相が示した、といえる。
しかし、実際はどうなのか。中長期試算で、防衛費やGX経済移行債はどのように盛り込まれたのかを見てみよう。
まず、GX経済移行債については、中長期試算でどう取り扱われたのか。GX経済移行債は、エネルギー対策特別会計において2023年度から10年間で20兆円規模の経費を賄うべく発行されることを想定している。そのうちすでに、2022年度と2023年度に1.6兆円分のGX経済移行債が発行されることが決まっている。その残りを2024年度以降に毎年均等に発行されるものと想定している。
エネルギー対策特別会計も、政府が目標としているPBの対象となる会計である。このままいけば、GX経済移行債が発行される分だけPBは悪化する。それだけ、2025年度の目標達成は困難になると思われる。
GXの支出と財源はPB試算の対象外に
しかし、今般の1月の中長期試算では、GX経済移行債を含め、GX対策の経費と財源は、PB試算の対象外とされた。その理由として、GX経済移行債は、カーボンプライシングで得られる将来の財源によって2050年度までに償還を終えることが想定されており、多年度で収支を完結させる枠組みを設定していることを挙げている。だから、いくらGX経済移行債を発行しても、PB目標の達成には関係ない、というわけだ。
確かに、これまでの中長期試算でも、多年度で収支を完結させる枠組みがあることを理由に、東日本大震災の復旧・復興対策の経費と財源は、PB試算の対象外としてきた。つまり、復興債を多く出しても、PB目標の達成には関係ないものとしてきた。GX対策も、それに倣った形だ。
次に、防衛費について見てみよう。防衛費は、2022年12月に閣議決定された「防衛力整備計画」に沿って、2023年度から2027年度まで増額されることを、今般の中長期試算では織り込んでいる。だから、その分だけ歳出が増えることが試算に反映されている。これだけだと、その分だけPBは悪化することになる。
しかし、「防衛力整備計画」や2022年12月に閣議決定された「令和5年度税制改正大綱」で示された、国債増発に頼らない財源が、予定どおり確保できるものとして中長期試算には反映されている。つまり、防衛費が増えるのに連動して国債以外の財源が確保されるという前提で試算されているのである。
そのため、防衛費の大幅増は、大きく財政収支を悪化させる要因にはならない、という結果となっている。
ここまでみると、防衛費の大幅増もGX経済移行債も、PB目標の達成とは切り離した形で、今般の中長期試算が公表されていることがわかる。苦肉の策が、試算にもにじみ出ている。
GX経済移行債は、多年度で収支を完結させる枠組みであることから、復興債と同じ扱いとしたことまではいいとしても、防衛財源は、実際にはまだ政治的決着がついていない。特に、中長期試算との関係では、厄介な問題が残されている。それは、歳出改革によって防衛財源を捻出することになっている点だ。
確かに、歳出改革によって財源が確保できれば、防衛費の増加を国債に依存せずに賄える。その歳出改革の効果は、中長期試算に織り込まれているとみられる。
防衛費増額を受け、歳出改革も若干追加されたようだ
例えば、2027年度で見てみよう。「防衛力整備計画」などに沿うと、2027年度には、防衛関係費を約8.9兆円に増やすこととしている。これは、「防衛力整備計画」策定前の防衛関係費(中期防衛力整備計画対象経費)が2022年度に5.2兆円だったのと比べると、3.7兆円増えることとなる。
そこで、国の一般会計における非社会保障費(地方交付税等や国債費は含まず防衛関係費を含む)について、中長期試算でどうなっているか検証しよう。「防衛力整備計画」策定前の2022年7月の中長期試算(以下、7月試算)と、今般の中長期試算(以下、1月試算)を比較すると、2027年度の非社会保障費は、7月試算では28.1兆円だったが、1月試算では31.3兆円と3.2兆円しか増えていない。
これは、2020年代の名目成長率を3.5%前後と想定する成長実現ケースの数字だが、2020年代の名目成長率を1%前後と想定するベースラインケースでも、7月試算の非社会保障費は26.8兆円だったが、1月試算では30.3兆円と3.5兆円しか増えていない。
7月試算でも、防衛関係費は、個別に試算していないものの非社会保障費の中に含まれ、一定の仮定を置いて成長率や物価の影響を受けて緩やかに増加する想定としているのだが、それでも両試算の差額は、「防衛力整備計画」に沿った増加額3.7兆円よりも少ない。ということは、それだけ非社会保障費で防衛関係費以外の支出を抑制していることが、1月試算に織り込まれていると推測される。
しかし、こうした歳出削減は、詳細が決まっていない。今後は、防衛財源として捻出できるような歳出削減を実現する決断が求められる。
加えて、前述の岸田首相の発言には、「これまでの歳出改革努力を継続した場合」とある。別の言い方をすれば、「これまでの歳出改革努力」を継続しなかったら、2025年度のPB黒字化は達成できない。それは、1月試算でも明らかにされている。これまでの歳出改革努力を継続しない場合は、成長実現ケースで2025年度の国と地方のPBは、1.5兆円の赤字である。
岸田首相が言及した「これまでの歳出改革努力」を継続すると、1年当たり1.3兆円程度のPB改善効果があることが検証されており、2024年度と2025年度の2年にわたり合計2.6兆円程度のPB改善効果が出ると考えられる。だから、これまでの歳出改革努力を継続した場合、2025年度のPBは1.1兆円の黒字になって、目標が達成できるというわけだ。
これまでどおりの歳出改革努力で足りるのか
確かに、これまで歳出改革努力を行ってきて、それが本当に国民が欲する支出だったかは別として、行政サービスが致命的に滞ったということはなかったわけだから、この歳出改革努力は政権を賭して実行しなければ実現できないというほど大げさなものではない。
ただし、「これまでの歳出改革努力」と、防衛財源捻出のための歳出改革の位置づけはどうなるのか。まさか重複計上はできまい。それぞれが別々の歳出削減を行わなければならない。岸田内閣では、子ども予算倍増も目指しているだけに、社会保障費と防衛費以外の支出において、どれだけ歳出改革を本気で実行できるのか。今後の取り組みが大いに問われている。
●「国債償還見直し」財政の信認低下を危惧する 1/30
自民党は、特命委員会で防衛費増額を賄う財源の議論を始め、焦点に国債償還ルールの見直しが浮上している。だが償還期間の延長やルール廃止は財源につながらず、国債発行による借金が減ることもない。かえって債務償還への規律が緩み、金融市場で財政への信認を低下させる恐れがある。慎重に扱うべきだ。
政府は昨年末、防衛力の抜本強化のため2027年度までの5年間の防衛費を43兆円へ大幅に増やす計画を決定。27年度に必要となる4兆円の追加財源のうち1兆円強を増税で、残りを歳出改革や決算剰余金の活用で賄う枠組みとした。
ただ、国債発行による積極財政を主張する自民党内勢力の強い反発などで、増税の実施時期は「24年以降の適切な時期」とするにとどまり、結論を先送りした。
特命委は財源確保策を再検討することで、国民に不人気な増税の回避や圧縮につなげたい思惑とみられる。そこで議論に上っているのが国債の「60年償還ルール」の見直しである。
国債による借金を60年かけて返済する仕組みで、建設国債の発行が始まったのを機に、道路や建物の平均的な耐用年数を参考として1960年代半ばに定められた。
具体的には毎年度、国債残高の約60分の1に当たる金額を一般会計から国債を管理する特別会計へ繰り入れ、特会で新たに国債を発行して得た資金と合わせて、満期国債の償還に充てている。国債残高が1千兆円規模に増大した影響で、一般会計からの繰り入れは2023年度予算案で約16兆7千億円に上る。
特命委では、国債の償還期間を60年から延長して毎年度の繰り入れを減らしたり、繰り入れをやめたりすることの是非が議論される見通しだ。
しかし、いずれも一般会計での国債発行は減るものの、その分、特会での発行が増えるだけだ。防衛費の財源になり得ないのは自明だろう。
積極財政派の中には海外に同様の償還規定がない点を挙げて、ルールの撤廃を求める声がある。だが米欧は、法律や条約で国の債務残高を縛るなど、日本より厳しい財政規律を設けている。
赤字国債は当初、60年ルールの適用外だったが発行・償還増につれて1980年代半ばから対象となり、それが国債発行への抵抗感を希薄にしたと指摘される。
60年ルールは最低限の財政規律であり、むしろ厳格化を求めていいくらいだ。仮に期間を80年へ延ばした場合、公共資産の耐用年数が過ぎ、恩恵を受けられない将来世代にツケを回すことになる点を忘れてはならない。
内閣府による最新の中長期財政試算は、防衛支出の大幅増が日本の財政に重荷としてのしかかる姿を明らかにしている。
財政の健全度を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、高めの成長を仮定しても政府の黒字化目標である2025年度に1兆5千億円の赤字となり、昨年夏の試算から悪化。大きな要因は防衛費増にある。
低成長では赤字が慢性化し、国・地方の債務残高が30年度に1300兆円を超えると予測した。長期金利が上昇すればさらに悪化の恐れがある。
わが国の危機的な財政状態を理解するならば、償還ルールの見直しではなく、防衛費を適正水準に収めるなど歳出の規律づけを議論する時だ。
●12月20日の日銀ショックにより、先行き不透明感が強まった金融市場 1/30
12月の日銀の政策決定により、国債利回りは上昇し、市場の歪みは拡大した。
これまで日銀はタブーとも言われていた中央銀行による長期金利のコントロール(YCC)を政策の柱としてきたが、その持続性に大きな疑問符が付くことになった。しかし、仮にYCCが続けられたとしても、今後輸入インフレの影響が剥落して行く中で、国債市場の機能が麻痺するほどの金融緩和政策を10年間続けて達成できなかった、「2%物価目標」到達の有効な政策であるのかは更に大きな疑問である。
金融政策の出口の議論は時期尚早かもしれないが、「2%物価目標」を今後も続けることの妥当性と目標達成へのアプローチの適格性については早急に再検討する事が必要である。
日本は一度決めたことを自ら軌道修正をすることが苦手で、当初の目的を忘れ、ルールを守ることが目的化してしまう傾向が強いが、一方、ワールドカップでのドイツ戦・スペイン戦でのハーフタイムの戦術変更や選手交代が大きな成果に繋がったように、一度方向性が決まると、ゴールに向かって突き進む強さを持っている。
異次元緩和10年の節目が、わが国の政策運営を変える機会となることに期待したい。
昨年の金融市場は米国の金融政策の行方を巡って一喜一憂する展開が続いたが、12月20日の日銀ショックが加わったことで金融市場の先行き不透明感は一層強まった。
米国の物価上昇率は鈍化しているが、これはエネルギー価格と自動車などでコロナ禍の供給制約の影響が一巡したことの影響で、国内景気の強さを反映した家賃などのサービス物価はジリジリと上昇している。金融引き締めの打ち止めや、利下げへの転換を期待するのはやや楽観的な状況にあり、FRBは金融市場の利下げ観測をけん制している。
日銀の声明文や黒田総裁の会見を素直に受け止めると、12月の決定は金融政策の変更ではなく、イールドカーブコントロール(以降、YCC)のオペレーション変更による金利コントロールの強化で、金融引き締めではなかった。しかし、日銀が「YCCのレンジ拡大は実質的金融引き締めにあたる」との見解を示していたことから、金融市場はレンジ幅拡大を日銀の政策転向と受け止め、更なるレンジの拡大やマイナス金利政策の修正に対する警戒感を強めた。
過去の発言との整合性以外でも、下記のように12月の日銀の決定には金融市場とのコミュニケーション不全が多く指摘されている。
• 「市場機能の低下」に対して懸念を表明している一方で、全年限でYCCを実施するという市場のプライシング機能を否定するかの様な施策を打ち出していること。
• 引き締め政策でないのであれば、10年債のレンジを拡大せずに、他の年限を適正イールドカーブ水準まで引き下げればよいのではないか。
• 10年国債をゼロ%程度で推移するという政策目標を変えずに、変動幅を±0.5%まで拡大したが、日銀が意図している「ゼロ%程度」の「程度」はいったいどこまでなのか。±1.0%や±2.0%でもゼロ%程度とみなされるのか。
日銀が伝えたかった意図を正確に把握することは出来ないが、日銀の発したメッセージが市場に正しく伝わらなかったことは事実で、結果として国債利回りは上昇し、市場の歪みは拡大した。
これまで日銀はタブーとも言われていた中央銀行による長期金利のコントロールを政策の柱としてきたが、その持続性にも大きな疑問符が付くことになった。しかし、仮にYCCが続けられるとしても、これから輸入インフレの影響が剥落して行く中で、国債市場の機能が麻痺するほどの金融緩和政策を10年間続けて来ても達成できなかった、「2%物価目標」に到達するための有効な政策であるのかは更に大きな疑問である。
2018年に雨宮副総裁が京都で行った講演の中で、2%の物価目標について説明をされているが、要約すると、物価統計には上方バイアスがあるので物価の目標は若干のプラスが適当、加えて、利下げのための「のりしろ」を確保するためにも、プラスの物価上昇とプラスの金利が必要。諸外国の物価目標は概ね2%程度がグローバルスタンダードとなっているので、為替の安定のためには日本も他国同様に2%に設定することが重要と説明されている。
最新の物価展望レポートにおける、日銀の物価見通しは2022年度3.0%、2023年度1.6%、2024年度1.8%となっており、輸入インフレ効果もあり2%物価目標の「のりしろ」の範疇には入ると見ているようである。10年国債の±0.5%が「ゼロ%程度」であるならば、「2%程度」の物価上昇は達成していると言えそうな気もするが、この先も、2%目標未達として異次元金融緩和を続けていく事になるのであろうか。
金融政策の出口の議論は時期尚早かもしれないが、「2%物価目標」を今後も続けて行くことの妥当性と目標達成へのアプローチの適格性については早急に再検討する事が必要である。
金融政策に限らないが、日本人は一度決めたことを自らで軌道修正することが苦手なのではないかと感じる事が多い。
財政法では「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と定められており、国債の発行は公共事業や災害復興などを除き原則的に禁止されており、「特例」として赤字国債の発行が認められている。しかし、現時点で赤字国債は特例どころか財源の柱として常態化しており、国会の議決も形骸化している。
財政法が有名無実化していることもあり、国債の発行額は膨張を続けており、一部では財源確保策として国債の償還ルールを見直すという議論も出ているようである。しかし、財政赤字が拡大しているものの、将来の成長に向けた支出を増やせていない中で必要となるのは、安易な償還ルールの見直しではなく、財政の入り口から出口へのアプローチを整理することである。
過去債務の問題もあるので、単純に仕分けすることは難しいが、インフラ整備に限らず、教育、安全保障など将来世代にも恩恵がある歳出は償還計画を明らかにしたうえで国債発行を可能とし、一方で社会保障費など現在の世代に限定的に支出される歳出は税収と社会保険料で対応するというような世代間の負担と受益を踏まえた区分けをするというのは一案と思われる。また、特例国債の発行は、経済危機や災害、パンデミックなど文字通りの特例時に限定し、基本的に中央銀行が引き受ける永久債的なものとすれば、危機時に機動的な財政運営が可能となるのではないかと思う。
繰り返しになるが日本人は一度決めたことを自ら軌道修正をすることが苦手で、当初の目的を忘れて既存のルールを守ることが目的化してしまう傾向が強い。
金融政策における「2%程度の安定的な物価上昇」や財政政策における「ワイズスペンディングの徹底や、プライマリーバランス黒字化」は理想的な目標ではあるが、残念ながらそのゴールは現在の延長線上には見えていない。
先の、サッカーワールドカップでのドイツ戦やスペイン戦ではハーフタイムでの戦術変更や選手交代が大きな成果に繋がった。日本人は軌道修正をすることは苦手でも一度方向性が決まると、ゴールに向かって突き進む強さを持っている。
異次元緩和10年の節目が、わが国の政策運営を変える機会となることを期待したい。​
●「異次元の少子化対策」も期待薄? 出生率アップに避けては通れない大問題 1/30
岸田政権が子育て関連予算の倍増など、子育て支援策の強化に乗り出した。だが具体策は後回しとなっており、今のところ財源の裏付けもない。内容は今後、関係省庁と詰めていくことになるが、絶対に見逃してはならない点がある。
岸田政権「子育て支援」を拡充
岸田文雄首相は年頭の記者会見において、「異次元の少子化対策」という言葉を使い、子育て支援策を大幅に拡充する方針を明らかにした。通常国会(1月23日召集)冒頭に行われた施政方針演説においても、子育て支援を最重要政策と位置付け、あらためて予算を倍増する方針を示した。「異次元」という言葉の評判が悪かったせいか、施政方針演説では「従来とは次元の異なる少子化対策」と言い方をあらためたものの、目玉政策であるとの位置付けは変わっていない。
現在、子育て支援関連予算は5兆から6兆円程度とされるが、倍増された場合、予算規模は10兆円規模を超える。岸田政権は防衛費の倍増も決定しており、両者を合計すると総額で10兆円以上の追加支出が必要となる。
支援策の内容については、3月をめどに大枠を固め、6月にも策定される経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)に盛り込みたい意向だ。この支援策が本当に効果を発揮するのかは、今後、議論が進められる具体的な施策の中身に依存する。特に重要なのは子育て世帯に対する経済的支援である。
少子化の背景となっているのは「経済的事情」
よく知られているように、先進諸外国と比較して、日本の子育て環境は著しく劣悪となっている。
保育施設の拡充などハード面での改革が必要なのは言うまでもないことだが、一連のインフラを整備すれば多くの人が積極的に子供を産むのかというとそうはならないだろう。現在、日本における出生率が著しく低下している最大の原因は、経済的事情である可能性が高いからである。
65歳以上の高齢者人口は3600万人を超えており、2025年には高齢者1人を1.9人で支える計算となる。状況は今後、さらに悪化することが確実視されており、2065年には高齢者1人を1.3人で支えなければならない。ここに出産と育児が加わると、現役世代は高齢者に加えて、子供の生活費も負担することになる。ただでさえ、高齢者を支えるための負担が増しているところに、単純に出生率だけを上げてしまうと、現役世代には想像を超える経済的負担が生じてしまうのだ。
高校までの学費負担は、私立の場合、1,800万円を超えるとの調査結果もあり、大学に進学するとなると、さらに支出は増える。世帯の経済的状況はさまざまだろうが、平均的な所得の世帯では、年老いた親の面倒と子供の大学進学の両方に対処するのは極めて困難である。
多くの国民はこの現実について実感として理解しており、出産を躊躇している。過去20年で、国民の未婚率が急上昇しているのは、一連の状況を反映した結果であり、経済的不安が払拭されない限り、多くの国民が今後も出産をためらう可能性が高い。
検討されている財源は? 誰が負担することになる?
子育て世帯に対する直接的な給付や、学費、その他費用の免除といった措置を行うことについては、一部から批判の声が出る可能性がある。だが、本気で日本の出生率を上げたいと考えるのなら、現役世代が直面する経済的負担の問題を避けて通ることはできない。もし、この視点を欠いたまま、子育て支援策を策定しても、肝心の子育て世代が子供を作らないという不本意な結果に終わってしまうだろう。
そして、子育て世帯に対する経済支援を強化する場合、どうしても避けて通れないのが財源の問題である。
今のところ政府は財源についてほとんど何の説明も行っていないものの、岸田氏は「雇用保険、医療保険をはじめ、さまざまな保険がある」と発言している。公明党の山口代表も「保険も含めて幅広くさまざまな財源を確保していく議論が必要」と述べており、政府与党内で公的保険の活用が検討されているのは間違いない。
政府予算には一般会計と特別会計の2種類があり、多くの人が目にするのは一般会計の方である。よく「政府の予算規模は約110兆円」などと説明されるが、これは一般会計のことを指している。だが年金や医療、雇用保険といった政府が実施する各種事業については、特別会計という別枠で処理されており、多くの国民はこの実態について十分に把握していない。
現在、年金(厚生年金)については月額給与の約18%(半分は企業が負担)、医療については約10%(半分を企業が負担)、雇用保険(一般事業)については約1.35%(一般事業:一定割合を企業が負担)が月額給与から徴収されている。これらはすべて特別会計で処理されているが、政府・与党内では、一連の枠組みを活用し、保険料率を上げることで予算を確保することが検討されている。
一連の事業費の徴収は「税」という形にはなっていないものの、給与から強制的に差し引かれるので、事実上の税として機能している。また多くの保険料が労使折半となっており、法人税としての意味合いもある。
加えて言うと、一般的な法人税は、企業の利益に対して課税されるので、赤字法人からは税金を徴収できないが、保険料は賃金に対応して徴収されるので、赤字・黒字に関係なく徴収できるという特徴がある。
特別会計は国民から見えにくい
国民や企業に負担が生じるという点では、税方式であっても保険などを活用した方式であっても実質的に変化はないが、財政上は一般会計と特別会計という別枠での処理になるため、国民に対してどのように見えるかという点に大きな違いが生じる。
政府の予算については一般会計に関してはメディアでもよく報道され、どのような財源と使い道があるのか、多くの国民が理解しているが、特別会計については、中身が複雑であることや、あまり報道されないということもあり、内容を把握している国民はごくわずかと言って良いだろう。
実際、毎月の給料の中から、いくらの保険料が徴収されており、会社側がいくら負担してくれているのか、正確に把握している人はほとんどいないのではないだろうか。
仮に、保険制度が活用され、特別会計で当該予算が処理された場合、一般会計での扱いと比べて、国民から見えにくくなる可能性は十分にある。
保険制度を活用した新しい制度が検討されているのであれば、その枠組みについてできるだけ早く国民に示し、税による徴収とそうでない徴収のどちらが確実で公平性が高いのか、国民的な議論を行う必要があるだろう。防衛費と同様を、財源や徴収方法について十分な議論がないまま制度が構築される事態は避けるべきであり、国民やメディアもこのあたりについてしっかりとしたチェックを行う必要がある。
●衆院予算委“防衛費”や“派閥”で岸田総理に注文も 1/30
国会では、30日から衆議院の予算委員会で与野党の本格論戦が始まります。防衛費を巡る増税や派閥からの離脱について、自民党内からも注文が付きました。
トップバッターに立った萩生田政調会長は、防衛費の財源を巡って増税の前に歳出改革などの努力を徹底すべきだと迫りました。
自民党・萩生田政調会長「(税以外の財源について)あらゆる選択肢を排除せず、聖域なく徹底的に議論していく。努力なしに国民の皆さんの理解を頂くことは難しいのではないかと。このことをしっかり国民に分かって頂く努力を」
岸田総理大臣「自民党における行財政改革を含めた財源調達の見通し、また景気や賃金などの動向及び、それに対する政府の対応を踏まえて閣議決定した枠組みのもとで税制措置の実施時期等を柔軟に判断する」
また、岸田総理が総理就任後も派閥の会長を続けていることについても菅前総理の指摘に続いて、党内から疑問の声が上がりました。
これに対して岸田総理は「疑念や批判を浴びることがないよう派閥との関係においても適切に対応しなくてはならない」と述べるにとどめています。  
●予算審議が白熱する“子育て支援” 1/30
現在国会ではお金の使い方について、いろいろな議論がされています。その中で、岸田総理が掲げる「異次元の少子化対策」「子ども予算倍増」について、推進すべき政策なのか、予算を倍増するにしてもどこにお金をあてるべきなのか、これらの点についてみていきます。
少子化について経済学の観点から研究されている、東京大学大学院経済学研究科・山口慎太郎教授に伺っていきます。「児童手当の所得制限撤廃」については、各政党賛成の方向ですが、これについても山口教授に伺います。
子育て支援は社会全体にとって利益
まず大前提として、山口教授は「子育て支援は、社会全体にとって利益」になることだと言います。「社会保障財源確保」や「労働所得増加」につながるとのことです。
【山口慎太郎教授】「子育て支援には大きく2つの役割があると思います。一つはよく言われる少子化解消、出生率の引き上げです。これは長期的に、社会保障財政の改善につながっていくわけです」「同時にもう一つ、子供たちの健全な発達に寄与するという大事な役割もあります。子供が発達するというのは素晴らしいことです。そこにとどまらず、長期的に子供が大人になってから、いい仕事に就ける。例えば非正規ではなく、正規で仕事に就けることになるとか。子育て支援によって、高校卒業率が上がる、大学進学率が上がるといった形で、本人の労働所得の増加につながるということが分かっています。労働所得が上がると、将来的に政府の税収が増えるわけですし、社会福祉への依存も低下する。ですので国家の財政にプラスの影響を及ぼすと長期的に期待できます」
お金がかかる政策ではありますが、「子育て支援」をすることによって、子供たちが将来たくさん収入を得られるようになり、貧困対策になる。そして成長した子供たちが税金を納めれば国も潤う。社会保障もうまくまわるというのです。日本の子育て支援にかけるお金ですが、GDPに対して1.79%となっています。先進国の中でかなり低い水準。トップクラスのフランスの約半分です。これを倍増することができれば、「いい投資」となるのでしょうか。
【山口慎太郎教授】「その通り(いい投資)です。子育て支援にかけるお金はすごい金額ではあるのですけれど、消えて無くなってしまうものではなくて、将来の日本を豊かにするための投資だと捉えるべきです」
現金給付はコスパが悪い ただ
観点を“少子化対策”に絞ったときに、現金給付はコストパフォーマンスが悪いと山口教授はみていて、「女性の負担軽減を狙い撃ちすべし!」と主張します。現金給付は児童手当を含むものとなりますが、現金給付はコスパが悪いということは、お金を配ってもそんなに子供は増えないということなのでしょうか?
【山口慎太郎教授】「そうです。増えるには増えるのですが、そんなに大きくは増えない。児童手当のような現金給付は世界中の先進国で行われていまして、いろいろな研究結果が出ていて、大体どれくらい増えるのか、先進国に共通した数字がある程度分かっています。それによると、現金給付を10%増やすと、出生率が1〜2%上がるということが分かっています。日本の場合で言うと、国全体で10%増やすとすると、1300億円くらいの財政支出になります。その結果、今1.3である出生率が、1.31〜1.32に上がるという規模感になります」
1千億円以上かけて、現在の出生率1.3が1〜2%上昇する、つまり0.013〜0.026増えることになるといいます。政策としてはあまり筋が良くないことになるのでしょうか?
【山口慎太郎教授】「そうです。支援自体はいいことだと思いますが、他のお金の使い道のほうがいいかもしれません」
日本の児童手当の現状をあらためて整理すると、年齢ごとに金額が違っていて、さらに所得制限があります。この所得制限をなくしていこうと議論がされていますが、ある程度高い収入がある人の児童手当を増やしても、効果はないとみられるのでしょうか?
【山口慎太郎教授】「そうですね。出生率ということで考えると、あまり効果は期待しない方がいいと思います。ですが、子育て支援を国がしっかり応援していくのだというメッセージになるでしょう。あるいは低所得の世帯に対して、今お金がなくて困っている家庭を支える意味はあると思います」
福祉の観点や、「子供は社会全体で育てるのだ」というメッセージ性については一定の評価がされますが、少子化対策としてこのお金の使い方は、根拠がないというのです。
ジャーナリストの柳澤秀夫さんは「手当や現金給付というとき、たいがいそのあとに選挙が控えている。今年4月には統一地方選挙がある。お金は誰でももらってうれしいもの。本当に少子化対策を意識したものなのかどうか。目先の人気を集めるための手段に使われているのではないかと勘繰りたくなる」と言います。
「もう一人子供を」とはならない理屈
理屈として、手元のお金が増えても、「もう一人子供を産もうか」とはならないのはなぜなのでしょうか。
【山口慎太郎教授】「日本も含めて、多くの先進国で共通しているのですが、お金が増えた場合にどういうふうに使うかというと、子供一人当たりの教育費をかける方向に使ってしまうのです。習い事ですとか、塾ですとか。そういったことにお金を使って、一人の子供を育てるのにかかるお金がどんどん増えるのだけれど、増えたお金で子供を増やそうということにはなかなかなっていないですね」
現在の日本の児童手当は世界的に見て少ないのでしょうか?子供を希望通りに産めない人にアンケートを取ったときに、一番多い理由は「お金が足りない」ということなので、十分なお金があったら子供を産む人がいるのではないかと思われます。広く薄く配っても、あまり少子化対策の意味はないというイメージになるのでしょうか?
【山口慎太郎教授】「お金を配るという方法以外にも、必要なサービスを無償で提供する。例えば給食費を無償化するとか、そういうやり方もあると思います」
山口教授は「女性の負担軽減を狙い撃ちすべし」と言い、具体的には保育環境の整備などが女性の負担軽減になり、児童手当よりも有効だとみています。保育園の無償化、利用資格を緩和して保育園に子供を預けやすくするとか、待機児童を解消するといったことですね。この辺が効果的だというのはどういうことなのでしょう。
【山口慎太郎教授】「児童手当よりも、女性の負担を減らすことが有効だと最近の経済学の研究で分かってきました。夫婦間で子供を持つことについて、例えば夫は子供を持ちたいと思っていても、妻が反対する場合が少なくないことが分かってきています。なぜ妻が反対するのかというと、子供を持ったら楽しいことがいっぱいあるかもしれないけれど、その後の育ての負担は私に来るじゃない。ということでなかなか子供を持つことに前向きにならない女性が増えているということが、日本も含めて先進国であるのですね。となると女性の子育て負担を狙い撃ちする形で減らすことが重要ではないかとしきりに言われています。その目的を達成するためには、待機児童が残っている地域では待機児童を解消していく。待機児童がいなくても、保育園の使い勝手が悪い場合には使い勝手を上げる。共働き家庭でなくても、例えば専業主婦でも週1日〜半日は保育園を使えるようにするいったことで、子育て負担を下げていくのが非常に重要だと考えています」
男性の家事・育児負担率と出生率には相関関係がみられる
「男性の育休」の推進もそこにつながっていくということです。男性の家事・育児負担率と出生率の関係について、山口教授からデータを提供していただきました。男性の家事・育児負担率が高い国ほど、出生率が高くなっていると。日本は男性の家事・育児負担率がとても低く、驚くほどです。
【山口慎太郎教授】「相関関係ははっきりしています。いろいろな細かい調査もしていまして、子供が生まれないご家庭でどんなことが起こっているのかみていくと、やはり夫が家事・育児をしていないということが分かっています。因果関係がある可能性が高いです」
岸田総理から「リスキリング(学び直し)」発言があったが…
そんな中で岸田総理から「育児中でも『リスキリング(学び直し)』をしっかり後押しする」という発言がありました。ですが我々の取材では、それは現実的ではないといった声が聞こえてきました。
男性が家事・育児をどんどんやっていくのが大事な出発点
山口教授は「育児に余裕がある人はいいが、余裕がない人には無理」、なので「女性の負担軽減を狙い撃ちすべし」と言います。
【山口慎太郎教授】「日本は先進国の中でも、男女の間で役割分担がかなり強く出ている国です。女性が社会で力を発揮するうえでも、少子化を解消するうえでも、男性がもっと家に入って、家事・育児をどんどんやっていくのが大事な出発点になると思います」
●防衛増税・少子化対策等で論戦 衆院予算委 実質審議始まる  1/30
国会は、30日から衆議院の予算委員会で、2023年度予算案の実質審議が始まり、いわゆる「防衛増税」や少子化対策などをめぐって論戦が繰り広げられた。
自民党・萩生田政調会長「どこまで税以外でしっかり積み上げできるのか、わたしは将来的な増税は否定しませんが、しかし、いま申し上げた努力なしに、国民の皆さんに理解いただくことは難しいのではないか」
岸田首相「自民党における行財政改革を含めた財源調達の見通し、また景気や賃金などの動向、およびそれに対する政府の対応を踏まえて閣議決定した枠組みのもとで、税制措置の実施時期等を柔軟に判断する」
自民党の萩生田政調会長は、防衛費の増額をめぐり、税以外の財源確保について議論する必要性を強調した。
一方、増税の実施時期について岸田首相は、「景気動向などを踏まえ柔軟に判断する」と述べた。
また、新たな「国家安全保障戦略」に明記された「反撃能力」の保有をめぐっては、公明党が、日本と密接な関係にある国に対して武力攻撃が行われるなどした「存立危機事態」に際しての反撃能力の行使について問うたが、岸田首相は、「個別具体的なものについては、手の内を明かすことになりかねない」と述べるにとどめた。
一方、野党側は、児童手当の所得制限などについてただした。
立憲民主党・岡田幹事長「(児童手当の)所得制限について、(自民)茂木幹事長が『過去に所得制限を入れたことについて反省』と。総理に聞きたいのは、所得制限を入れたことについてどう考えるのか」
岸田首相「今、この児童手当をめぐって、さまざまな議論が行われている。その中で、一つの意見であると認識をしています」
立憲民主党・岡田幹事長「与党第1党の幹事長と総裁の意見が食い違っているのは非常に誤解を招く」
立憲民主党は、岸田首相が、先週の代表質問で「育児中の学びなおし」に言及したことについても追及し、岸田首相は、「育休、産後を甘く見ることではない」と述べたうえで、「指摘は謙虚に受け止め、より丁寧に誤解のないように発信をしていきたい」と釈明した。
さらに、岸田首相は、海外訪問中の長男・翔太郎秘書官の行動への追及に対し、「身内であろうがなかろうが、秘書官として行動が適切だったか考えなければならない」と応じたが、疑惑が報じられている公用車での訪問先について、「具体的な場所は特定しないということだ」とした。
●岸田総理、メタバースなどデジタル技術用いた地方活性化に意欲 1/30
自民党の神田潤一議員は30日、衆議院予算委員会にて、デジタル田園都市国家構想および日本政府の「Web3政策」について質問を行なった。
青森県出身の神田議員は、日銀の金融機構局を経て金融庁の総務企画局やマネーフォワード執行役員を歴任するなど金融およびIT業界に精通するほか、地方創生の取り組みにも力を入れている。
質疑内容
神田議員は、「NISA(少額投資非課税制度)拡充などの影響で“成長分野”へ資金流入していくことが期待される。岸田総理の施政方針演説では、スタートアップなどが成長分野として挙げられているが、日本の成長のフロンティアである“地方”も加えて頂きたい。」と言及。
その上で「地方では近年、スタートアップ企業が主体となり、自治体とも連携しながらWeb3技術やNFT(非代替性トークン)、DAO(自律分散型組織)を活用して地方の課題を解決し、活力を高めようとしている。」と訴えた。
背景には、デジタル庁が主導し、「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを」を実現することを目指すデジタル田園都市国家構想を政府が表明していることがある。
少子高齢化や人口減に伴う産業の空洞化などの社会課題に直面する地方自治体は少なくない。
神田議員はこのような状況を念頭に、「政府主導による国際会議や国際イベントの開催、税制や規制の大胆な見直しによって、デジタル化の動きを力強く推進すべきではないか?」と提案した。
岸田総理の答弁
これに対し、岸田総理は「デジタル技術は劇的に進化し、便利さにおいては地方であっても首都圏と遜色ない時代になりつつある」と言及。
「デジタルの力は、地域社会の生産性や利便性を飛躍的に高め、産業や生活の質を大きく向上させ、地域の魅力を高めるチャンスだと認識している。」「最先端のデジタル技術を取り込んでいくことで、地域活性化の加速に期待したい。」と意欲を示した。
その上で、「メタバース(仮想空間)は地理的な制約を超えた活動や交流を可能とする技術のひとつ。新たな人的交流が生まれ、地域の暮らしやすさが向上する影響が考えられる。」と評し、「新興技術の普及・発展を日本がリードするとともに、国民のリテラシーを高めるために(Web3に関する)国際イベントの検討を含め、政策を前に進めていくことが重要だ。」とした。
●弾薬供給、支援のカギ…米シカゴ・グローバル評議会長 1/30
ロシアのウクライナ侵略は2月24日に1年となる。国家主権を侵害し、多数の民間人を犠牲にした歴史的暴挙は、国際秩序に重大な影響を与えている。世界はどう対抗すべきか、見解を聞いた。

侵略による戦争状態は何年も続くはずだ。両国は当分、和平合意に至らないという前提で、今後のウクライナへの支援を考える必要がある。
ロシアは訓練された兵力や武器が不足しており、戦況に大きな変化は起こせない。一方、ウクライナは米国などの戦車供与や訓練の支援を受け、より攻撃的な能力を備えることになる。ただ、年内に侵略開始の状態まで領土を奪還し、軍事的に勝利するのは難しいだろう。
戦争は大量の弾薬を消費し、事前の備蓄が重要だという教訓が今回得られた。支援継続に向け、弾薬の生産拡大と予算が必要となる。予算のあり方を巡って米共和党内で意見が割れているのは懸念材料だが、超党派による十分な予算確保を望んでいる。
日本も対露制裁に加わり、侵略に反対の立場を明確にしてきた。今後はG7(先進7か国)議長国として、経済面以外の支援に向けて議論を加速させるべきだ。
米国の選択肢は、軍事介入して米露間で戦争をするか、ウクライナを全面支援するかの二択だった。軍事介入しない姿勢は、ロシアが核兵器を使わない限り変わらないだろう。
米国は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国と非加盟国を明確に区別するメッセージを送った。「NATOの領土の隅々まで守る」と言ったのは、加盟国以外は守らないという意味でもある。それにより、「集団防衛組織」というNATOの中核的役割が再確認された。だからこそ(侵略開始後に)フィンランドとスウェーデンが加盟申請をすることになった。
長期的にウクライナの安全をどう維持していくか、真剣な議論が必要だ。NATOが担おうという答えになるだろう。ウクライナがNATOの一員になる可能性が高まったのは、プーチン(露大統領)の侵略がもたらした皮肉な結果だ。
●岸田政権批判を続けてきた大前研一氏も評価する「安保関連3文書改定」 1/30
日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えている。昨年末には「安保関連3文書」を閣議決定し、防衛力強化の施策は従来以上のスピード感で進んでいくとみられる。「敵基地への攻撃手段を保持しない」という従来の政府方針を転換し、相手から攻撃される可能性が明らかな場合に敵のミサイル発射地点などを叩く「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記したのだ。この安保関連3文書改定について、経営コンサルタントの大前研一氏は「岸田政権最大のレガシー(遺産)なるのではないか」と評価する。大前氏がそのポイントについて解説する。
安保関連3文書は、外交や防衛の指針である「国家安全保障戦略(NSS)」、防衛の目標や達成方法を示した「国家防衛戦略」、自衛隊の体制や5年間の経費総額などをまとめた「防衛力整備計画」で構成される。
その内容のポイントは、まず「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」とした上で、周辺国の軍事動向について、中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアを「安全保障上の強い懸念」と位置付けた。
そうした安全保障環境を踏まえ、日本への侵攻を抑止するため国産スタンド・オフ・ミサイル(相手の射程圏外から攻撃可能な長射程のミサイル)の長射程化やアメリカ製巡航ミサイル「トマホーク」の導入などにより、「必要最小限度の自衛措置」としての反撃能力を保有する。
それに伴い、防衛費は2023年度から2027年度までの5年間で総額43兆円程度(現行の中期防衛力整備計画の1.5倍超)に増やし、2027年度の予算水準を現在のGDP(国内総生産)の2%にする──というものだ。
専守防衛が通用しない“暴君”たち
安保関連3文書改定の焦点は何か? 最も大きいのは、左派勢力の朝日新聞的戦後民主主義の建前論を吹き飛ばし、「戦争・武力行使放棄」「戦力不保持」「交戦権否認」を謳う憲法第9条の呪縛を解いたことだ。
日本はアメリカ(GHQ/連合国最高司令官総司令部)が急ごしらえした現行憲法を戦後77年、一度も改正せず後生大事に護ってきた。しかし、同じ敗戦国のドイツやイタリアは、何度も改憲しているし、NATO(北大西洋条約機構)の核兵器シェアリング(アメリカ軍の核兵器が使用される場合、その国の軍隊が核兵器の運搬に関与することを定めた協定)にも加わっている。
本連載(『週刊ポスト』2022年12月23日号)でも書いたように、もともと私は新たに自主憲法を制定すべきと考える「創憲」論者だが、安保関連3文書に「反撃能力」の保有を明記したことで、ようやく憲法第9条の軛から離れて本来あるべき姿に近づく歴史的な一歩を踏み出したことは間違いない。
もう1つの焦点は財源である。岸田首相は、歳出改革などの努力で賄い切れない1兆円強については「将来世代に先送りすることなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべき」と述べ、借金(国債)ではなく安定的な財源として法人税、所得税、たばこ税を段階的に増税する方針を示した。それに対して、自民党内から反対が相次ぎ、開始時期などの決定については先送りとなった。
だが私は、防衛費に関しては財源の議論をすべきでないと思う。国防は国の根幹であり、国と国民を守るための費用は一般歳出の基本項目だからである。
そもそも、この国はマイナポイントや全国旅行支援、ガソリン・電気・ガス料金の補助金といった無駄な出費が山ほどある。実際、2021年度決算では年度内に使い切れず2022年度に繰り越した経費が22.4兆円に達し、新型コロナウイルスの感染拡大で中止した「GoToトラベル」だけでも7743億円だった。そういう無駄遣いをやめれば、防衛費の財源はいくらでも捻出できるはずだ。
安保関連3文書が指摘しているように、いま日本は中国、北朝鮮、ロシアという3大リスクに直面している。その3か国の共通点は、習近平国家主席、金正恩総書記、プーチン大統領という“暴君”が存在していることだ。
プーチンは「暴君が暴走したら何が起きるか」という実例を示した。もし、台湾統一に向けて「武力行使の放棄を決して約束しない」と宣言した習近平、日本近辺へのミサイル発射を繰り返している金正恩が、プーチン化したらどうなるか? そのリスクが目の前にあるのに、ただ念仏のように「専守防衛」を唱え続けるだけでよいわけがない。
しかも、防衛力増強は「待ったなし」だ。兵器や防空システムも(実戦経験のない)国産にこだわらず、アメリカ、EU、韓国、イスラエルなどから購入して、可及的速やかに必要十分な装備を整えるべきである。
とにもかくにも、岸田首相は安保関連3文書に「反撃能力」の保有を明記し、「専守防衛(という空念仏)」と半世紀以上も続いていた「防衛費のGDP比1%枠」を撤廃した。これらの“功績”だけで、在任期間の長短にかかわらず、歴史に残る宰相となるだろう。
●約40年運転の高浜原発で自動停止 1/30
福井県高浜町にある関西電力高浜原発4号機が30日、自動停止しました。地元・福井県が会見を開いています。
福井県と関西電力によると、高浜原発4号機で午後3時21分、4つの検出器のうち少なくとも2つで中性子の値が低下したことを示す警報が鳴り、原子炉が自動停止しました。
原子炉内の冷却機能は正常で、周辺で放射線量を測定するモニタリングポストの値に異常はなく、放射性物質が漏れるなど周辺への影響は観測されていないということです。関西電力が原因を調査しています。
高浜原発の自動停止を受けて、地元・福井県の原子力安全対策課が会見を開き、「(通常は)運転中には中性子はもっと出る。検出器4つのうち2つ以上が反応すると自動停止する。復旧の見込みは現状では分からないが、原因調査をするので、明日立ち上がるとかの話ではない」と話しました。
高浜原発は去年11月に運転を再開していて、2025年で運転開始から40年となりますが、関西電力はさらに20年延長することを国に申請する方針です。
福井県原子力安全対策課は、会見で高浜原発の運転が約40年続いていることと今回のトラブルについて問われると、「経年劣化事象ではないと考えているが、関西電力には、しっかりした深掘り調査で原因究明をしてほしい」と述べました。
●「50代社員は新たな価値を生まない」 日本で起こる”大リストラ嵐” 1/30
世界で大規模なリストラが報じられている。日本の正社員は「解雇しにくい」ことで知られているが、本当に大丈夫なのだろうか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が「これからクビになる社員」を3種類解説するーー。
今、日本企業では「構造改革」という名のリストラが静かに進行中
世界的な資源価格の高騰が落ち着き、春には物価上昇が一巡すると予測する向きも少なくない。しかし、日本では日本銀行の異次元緩和がどうなるかで財政運営に不安が生じれば、第二の危機が始まると予測する経済学者も少なくない。
そうなると、国債が売られて金利が上がり、住宅ローンなどの金利も上がる。国債の借り換えも困難になり、資金が海外に流出し、激しい通貨安とインフレに見舞われかねない。金融引き締めによる物価高騰に直面しているアメリカでは、メタなどの大手IT企業の人員削減に続いて、金融大手のモルガン・スタンレーが1600人規模の削減を実施。ゴールドマン・サックスも3200人の人員削減が報じられている。
日本でもいつ大幅なリストラが実施される事態になるかわからない。これまでの歴史を振り返ると、経済不況になる前に第1弾の「構造改革」という名のリストラが実施されている。そのターゲットは言うまでもなく、45歳以上の中高年社員だ。
今の日本では、とくに1988年から92年にかけて入社したバブル期入社世代を大量に抱える企業が多い。88年入社組は今年57歳。4年後には定年を迎え再雇用に入る。もちろん会社にとって有用な人材であれば残って働いてもらうが、近年の急速なデジタル経済の進展の影響で、培ったスキルが陳腐化している人、あるいは新しいスキルの修得に意欲的ではない人もいる。
どういう中高年がリストラのターゲットになるのか
そうした人を真っ先にリストラしようという企業も多い。2018年に45歳以上を対象に300人のリストラを実施した医療機器メーカーの人事担当役員はこう語っていた。
「40代以上の社員が半数を占めるが、4年後には50代以上が30%を占める。会社は新規事業を含めた新しい分野に挑戦していく方針を掲げているが、50歳を過ぎた社員が新しい価値を生み出すとは思えない。今のうちに人口構成を正し、後輩世代に活躍の場を与えるなど新陳代謝を促すことが一つの目的だ。加えてこれまで長く年功型賃金が続いてきたことで、50歳以上は非管理職でも残業代込みで年収900万円を超える社員も多くいる。この状態を続けていけば会社の体力が耐えられなくなるという不安もあった」
要約すれば 1中高年社員は概して仕事への意欲が足りない、2社員の人口構成の修正、3コスト削減効果――の3つが45歳以上をターゲットにした理由だ。もちろん人件費が高ければ賃金制度を変更し、中高年を再活性化して戦力化する方法もある。しかし、役員は「すでに実力主義の賃金制度改革を実施しているが、既得権があり、50代の給与を急激に減らすのは困難だ。また、50代の意識改革のための研修も何度かやったが、従来の自分たちのやり方を変えたくない人も多い。会社が変わるというときに、その人たちが逆に抵抗勢力になる可能性もある。それもリストラに踏み切った理由の一つ」と語る。
最後の発言は本音だろう。やる気のない中高年社員が増えると抵抗勢力に変わり、会社の舵取りも難しくなる。
では中高年の中でもどういう人がリストラのターゲットになるのか。もちろん会社にとっては「貢献度が低く、将来的に成長が見込めない人」ということになる。しかし、具体的にどういう人かとなると曖昧だ。この点、外資系企業の場合は、職務に必要なスキルがない人、求められるパフォーマンスを出せない人であり、具体的には人事評価の下位から20%ないしは30%を切るというのが一般的な基準となっている。ただし、日本企業の人事評価は極めて曖昧であり、それだけで対象者を選別することはない。
出向先企業の「返品」が急増中…リストラ最有力候補、3つのタイプとは
ではどんな基準で選別するのか。真っ先に対象となるのが非管理職だ。さらに技術系と事務系の2つでやや異なる。技術系について建設関連会社の人事課長は「会社が必要とする技術やスキルを持ち、若手に指導できる人は残ってもらい、そうでない人が対象になる。また、必要とするスキルの持ち主であっても、他人に教えようとしない一匹狼タイプは対象になりやすい」と語る。
また、事務系では以下の3つのタイプは要注意だ。
   ・同期入社の中で、自分よりも2階層上の役職者がいる。
   ・同じ仕事を今の立場で10年続けている。
   ・関連会社に出向している。
40代後半になれば同期のトップは部長に昇進している人もおり、2番手グループの中でも課長になっている。もし2段階下の係長、あるいは課長補佐であれば明らかに出世が遅れている。しかも今後、先頭を走る同期を追い抜くことはできない。課長になる可能性があっても55歳の役職定年制を設けていれば課長止まりで、56歳で一兵卒に転落する。つまり会社に期待されていない人ということになる。
同様に2番目の同じ仕事を10年も続けているという人も、職場や会社が何も期待していないことを意味する。もし期待していれば、新規事業部署などに配置し、会社の成長の一翼を担ってほしいと考えるだろう。3番目の出向者も厳しい。重電メーカーの人事課長はこう語る。
「親会社の人員調整弁として、これまで関連会社に出向させる慣例が長く続いてきた。しかし本体の事業そのものが国内では伸びない中で、関連会社に出向している社員については、使える社員と使えない社員を線引きし、パフォーマンスの悪い社員がどんどん戻されているのが実状だ。ある会社の社長は『3月末でお返しします』と言ってくる。こちらは『社長、そんなこと言わないでなんとかあと一年はお願いします』と言っても “返品” が増えている。すでに同業他社では希望退職募集でリストラしたところもあるが、うちも時間の問題だ」
「リストラは自分たちの世代には関係ない」と思っている30代は甘過ぎる
不況が本格化すると、バブル期入社世代のリストラだけで終わらないだろう。かつてのIT不況や、リーマン・ショック時の金融不況では30代以上もターゲットになった。
30代と言えば、入社から10年以上経過し、会社の中では第一線での活躍が期待される世代である。しかしそれだけに将来に期待が持てない不要人材も存在する。具体的にはどういう人か。人事担当者に共通する30代の不要人材候補は、以下の人たちである。
   ・指示された仕事の内容を忘れやすい。仕事に対する意識が低い。
   ・行き当たりばったりで計画性がない。最後までやり遂げることが少ない。
   ・指示された仕事の提出期限や時間を守れないルーズな人。
   ・同じ仕事でも他の人よりも遅く、しかもケアレスミスが多い。
    無意味に業務に時間をかける効率の悪い人。
   ・何年もルーチンワーク(定型的な仕事)をしている人。
   ・自分から進んで何かをやろうとしない。簡単な仕事だからといって後回しにする。
思い当たる人がいないだろうか。仕事の能力の問題というよりも、仕事に対する姿勢の問題でもある。しかもこうした人たちが管理職に昇進するのは、ポスト不足もあり、かなり難しいだろう。会社としては早く芽を摘み取ってしまいたいリストラ要員でもある。30代でこんな仕事の仕方をしていては、クビを洗って待っているようなものだ。「リストラは自分たちの世代には関係ない」と思っているなら甘い。会社の業績しだいでは、いつターゲットになってもおかしくない。
●令和臨調、政府・日銀に政策見直しを提言 物価2%は「長期的な目標」に  1/30
産学の有識者でつくる「令和国民会議(令和臨調)」は30日、都内で会見を開き、2%の物価上昇の目標を明記した政府と日銀の共同声明について、新たな声明の作成を求める緊急提言を発表した。
提言では、長期にわたる日銀の異次元金融緩和で国債を買い支えてきたため、政府の利払い費が抑えられ、ばらまき的な財政支出が誘発されるという悪循環を招いてきたと指摘。さらに経済の新陳代謝や産業構造の変化が進まない「ぬるま湯」的な環境にもつながったと主張した。
令和臨調の新しい共同声明案は、これまで「できるだけ早期に実現」としていた2%の物価上昇を「長期的な目標」と改め、「金利機能の回復と国債市場の正常化を図ること」を求めた。
提言をまとめた「財政・社会保障」部会の平野信行共同座長(三菱UFJ銀行特別顧問)は「2%の目標が短期に達成できることはない。一定の時間軸の中でさまざまな政策を組み合わせてようやく実現できる」と説明。一方で「日銀の異次元緩和は持続可能なのか。(国債購入による)ひずみをより柔軟な政策によって正していかなければならない」と話した。
政府と日銀の共同声明は2013年1月に共同で公表した物価上昇率の目標などを掲げた文書。金融緩和の推進なども明記されている。(寺本康弘)
異次元緩和10年、副作用でいま物価高騰に拍車
政府と日銀はこの10年、二人三脚で「異次元緩和」に突き進んできた。その原点が両者の連携強化をうたい、2%の物価上昇目標を明記した共同声明だ。急激な円安や金利のゆがみなど金融政策の弊害が強まる中、日銀の次期総裁人事とともに、声明の見直しの是非も今後の焦点となる。
2013年1月に発表された共同声明は、経済政策「アベノミクス」を掲げて発足したばかりの第2次安倍晋三政権が取りまとめを主導。背景には日銀の金融緩和が不十分なためデフレを抜け出せないとの不満があった。政府は日銀の独立性を定めた日銀法改正もちらつかせ、目標導入に後ろ向きだった白川方明総裁(当時)を押し切った。
安倍氏の強い意向を受け、声明発表の2カ月後に白川氏の後任に就いた黒田東彦総裁は「2%は2年程度で達成できる」と主張。「できるだけ早期に実現する」と表現した声明から踏み込み、国債などの大量買い入れで市場への資金供給を拡充した。
この「黒田バズーカ」は当初こそ円高是正や株高をもたらした。しかし物価は上向かず、目標はかえって自縄自縛になった。歴史的な伸びとなった昨年来のインフレは円安進行や原油高が一因だが、日銀の頑かたくなな緩和維持が円安や物価上昇に拍車をかけ、安倍氏亡き後にアベノミクスの副作用としてより鮮明になったのは皮肉な結果だ。
岸田文雄首相は2月にも黒田氏の後任案を国会に提示する。共同声明の見直しについては「新総裁が決まってからの話だ」と言及を避けるが、金融緩和の出口を探る上で声明のあり方も問われることになる。
日銀理事として声明の策定に携わったみずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫氏は「アベノミクス推進の御旗となった共同声明の見直しは、政権の格好のパフォーマンスになる。そもそも数値表現を伴う物価目標が適切なのかどうか初心に返って検討すべきだ」と指摘する。

 

●国の負担となる大量購入したワクチンの廃棄問題 「7000万回分」廃棄か 1/31
コロナ対策が国家財政を圧迫している現実がある。2021年2月に医療従事者への先行接種が始まって以来、隠れた社会問題となっていたのがワクチンの「廃棄」だ。都内の大学病院に勤務する医師が打ち明ける。
「ファイザー製ワクチンは1バイアル(瓶)で6回の接種を前提としましたが、当初日本はこれに対応できる注射器の調達が間に合わず、1瓶で5回しか接種できなかった。そのため余った分を相当数、廃棄していました」
2022年1月から高齢者を対象に3回目接種が始まると、需要を見越して大量のワクチンを確保した各自治体は、思わぬ事態に直面した。
「それが、若者を中心とした接種控えです」
そう話すのは、都内で個人クリニックを経営する医師。
「政府が“打て、打て”と号令を出したので高齢者の3回目以降のワクチン接種率は高いですが、20〜30代は感染と副反応のリスクを天秤にかけ、2回目まで接種しても3回目のワクチン接種率はまったく伸びなかった。そのため大量のワクチンが使われないまま有効期限切れし、廃棄せざるを得ませんでした。未使用で期限切れのワクチンは感染性廃棄物として感染対策用の箱に詰めて処分施設に運び、温度850℃の焼却炉で焼却処分します」
日を追うごとにワクチンの効果を疑問視する人が増え、若い世代を中心に「ワクチン離れ」が進んだのだ。これに慌てたのが、2.4兆円の予算を投じて8億8200万回分のワクチンを確保した政府だ。政府は追加接種の回数とともに有効期限を延ばし、当初6か月だったファイザー製ワクチンの有効期限は9か月、12か月、15か月と3度も延長した。モデルナ製も6か月の有効期限が7か月、9か月と延びた。
しかし、それも焼け石に水で接種率は伸びず、昨年末のTBSの報道によると、2022年に関東の1都6県で合計約314万回分のワクチンが廃棄されたという。
現実に廃棄するワクチンは公式の統計より多くなる
今後もワクチン廃棄の流れは続きそうだ。名古屋大学名誉教授で医師の小島勢二さんはこう話す。
「特に不要とされそうなのが、オミクロン株対応ではないノババックスワクチン。政府は1億5000万回分を購入しましたが追加接種の需要は見込めず、大半が廃棄される可能性があります」
過去には副反応として血栓が生じるケースが海外で報じられたアストラゼネカ製ワクチンの接種率が国内でまったく伸びず、調達した5770万回分のうち12万回の接種にとどまった。政府は5770万回分のうち約4400万回分を海外に無償で提供し、残る1350万回分を廃棄した。ノババックス製はアストラゼネカ製に次ぐ「不遇のワクチン」となりそうだ。
ファイザー製、モデルナ製を含めると全国的にかなりの量が廃棄されることになる。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
「東京23区で100万回分のワクチンが余っているとされ、人口比率で単純計算すると全国で1000万回分が余っていると考えられます。接種対象の国民をざっと1億人とすると、接種率が10%下がると1000万回分のワクチンが不要になる。3回目接種の接種率が7割、4回目接種が6割と仮定すると、7000万回分のワクチンを廃棄することになります。捨てるにも費用がかかるので国の負担が膨らみます」
ワクチンを廃棄する場合は自治体に報告が必要だが、“抜け道”もある。前出の個人クリニックの医師が語る。
「報告が必要なワクチンは未使用のものだけです。いまのファイザー製は1バイアルから6回分もしくは7回分接種できますが、接種者が1人しかいなかったら残りの5回分、もしくは6回分のワクチンは廃棄します。こうした“開封済み”のワクチンは報告する必要がなく、現実に廃棄するワクチンは公式の統計より多くなるはずです」
政府がコロナの感染症法上の分類を5類にする方針を固める中、ワクチンの無駄遣いはいつまで続くのか。厚労省の予防接種担当者に尋ねるも、「5回目接種については情報収集中で、今後のワクチン接種がどうなるかは何も決まっていません」と答えるのみ。一方でワクチン廃棄は各国の悩みの種だという。
「アメリカは8200万回分、カナダは1300万回分、ニュージーランドは1000万回分のワクチンを廃棄したと報じられています。製薬会社は、売った後に廃棄されても損をしませんが、各国の国民が納めた血税をドブに捨てることになります」(室井さん)
ワクチンをどれだけ捨てて、いくら無駄になったか。政府は明らかにする責任がある。
●国会議論の前にアメリカと「決定」? 安保「説明なき大転換」で首相を追及 1/31
2023年度予算案の実質審議が始まった30日の衆院予算委員会で、立憲民主党は国会論戦を素通りして昨年末に決まった防衛力強化と原発活用への政策大転換を巡り、政府を追及した。岸田文雄首相はロシアのウクライナ侵攻などを踏まえた安全保障環境の悪化やエネルギー安定供給の必要性を強調し、決定プロセスに問題はないという認識を繰り返し示した。
「順番が逆じゃないか」
立民の岡田克也幹事長が問題視したのは、通常国会の開会に先立つ今月11日、日米の外務・防衛担当閣僚による安保協議委員会(2プラス2)が「日本の反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間の協力を深化させることを決定した」と共同発表したことだった。
政府は昨年12月、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有や防衛費の「倍増」を明記した安保関連3文書の改定を閣議決定したものの、まだ国会で予算や法律の裏付けが得られていない段階。岡田氏は「私たちは予算審議もしていない、説明もしっかり聞いていない。米国と決定したというのはおかしい」と語気を強めた。
これに対し、首相は「日本の現状を説明し、それを前提に今後どういった協力が考えられるかを確認した」と指摘。日本を取り巻く安保環境の厳しさに触れ、「迅速に対応しなければいけないという問題意識の中で、取り組みを一歩一歩進めていく姿勢は重要だ」と主張した。
防衛力強化に関しては、具体的な説明を避けることが多かった。敵基地攻撃時の使用が見込まれる米国製長射程ミサイル「トマホーク」について、浜田靖一防衛相は今後5年間の購入数や支出予定額を示さず、「抑止のための必要数を整備する」と曖昧な答弁に終始。首相は「できるだけ手の内を明らかにしない防衛・安保上の配慮をした上で最大限の説明努力をする」と強弁した。
政府が原発の60年超運転や次世代型への建て替え(リプレース)容認にかじを切ったことに対しても、岡田氏は「説明がほとんどない」と指摘。政府が21年にまとめたエネルギー基本計画で「可能な限り原発依存度を低減する」と打ち出したことや、原発の新増設を一貫して否定してきたことに言及し「政策を大転換した。どうしてなのか」と迫った。
首相は「(エネ基は)原子力について、必要な規模を持続的に活用していくといった記載もあわせて行っている」と反論し、矛盾しない対応だと強調。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに「先進国はエネルギーの安定確保と気候変動対応の両立が国家的な課題という認識のもと、取り組みを続けている」とも述べ、日本の対応は「世界標準」だと訴えた。
●23年の世界成長率2・9%に上方修正、物価上昇率は高止まりか IMF 1/31
国際通貨基金(IMF)は30日公表した世界経済見通しで、2023年の世界全体の実質成長率を2・9%とし、22年10月時点から0・2ポイント上方修正した。
物価上昇率が縮小したことなどを評価。世界的な「マイナス成長は想定していない」と強調した。日本の23年成長率は1・8%と予測し、0・2ポイント引き上げた。
IMFは「多くの国で予想を上回る回復力がみられた」と指摘した。ただ各国の中央銀行はインフレを抑えるため、景気を冷やす利上げを続けている。新型コロナウイルス流行による中国経済の失速もあり、24年の世界の成長率は0・1ポイント下方修正の3・1%とした。
物価上昇率は「大半の国でピークに達しておらず、米国やユーロ圏では金利が予想より長い間、高止まりする」可能性があると分析した。
日本の23年は政府の財政出動などが支えとなる。ただ24年は景気刺激策の効果がなくなると指摘し、0・4ポイント下方修正の0・9%とした。
米国は連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げが足かせとなり、23年が1・4%、24年は1・0%に減速すると予測。ユーロ圏は23年に0・7%で底を打ち、24年は1・6%に持ち直すと見込んだ。
中国は厳格な「ゼロコロナ」政策の転換を評価し、23年は5・2%と0・8ポイント引き上げた。24年は4・5%に据え置いたものの、不振が続く不動産部門や、高齢者へのコロナワクチンの普及が課題になるという。
ウクライナ侵攻で日米欧から制裁を受けるロシアの23年は2・6ポイント引き上げ、0・3%のプラス成長に転じると見込んだ。先進7カ国(G7)が主導したロシア産原油価格の上限措置は「現在の水準では、ロシアの輸出に大きな影響はない」との見方を示した。
●世界経済見通し (WEO) 2023年1月 改訂見通し 1/31
緩慢な経済成長 インフレ、ピークに達する
世界経済成長率は、2022年の3.4%(推定値)から、2023年に2.9%へ鈍化した後、2024年には3.1%へと加速する見込みだ。2023年の予測は、2022年10月の世界経済見通し時点から0.2%ポイント上方修正されたものの、歴史的(2000―2019年)な平均である3.8%を下回っている。物価上昇に対処するための中央銀行による利上げと、ロシアのウクライナでの戦争が引き続き、経済活動の重しとなっている。中国では2022年に新型コロナウイルスの急速な感染拡大が成長の妨げとなったが、最近国境を再び開放したことで当初の予想よりも速い回復の道筋がついた。世界のインフレ率は、2022年の8.8%から、2023年に6.6%、2024年に4.3%と鈍化していく見込みだが、両年とも依然としてパンデミック前(2017―2019年)の水準である約3.5%は上回っている。
リスクのバランスは依然、下振れ方向に傾いているが、2022年10月のWEO以降、下振れリスクは和らいだ。上振れリスクとしては、各国で見られる繰延需要によって景気が押し上げられることや、インフレが予想よりも速く落ち着くことが挙げられる。下振れリスクとしては、中国で健康衛生の状況が深刻化し回復が抑制されたり、ロシアのウクライナでの戦争が激化したり、世界的な金融環境のタイト化により過剰債務が悪化したりすることがあり得る。また、悪材料となるようなインフレ関連のニュースに金融市場が反応し急激な価格調整が起きたり、地政学的分断が一段と進み経済成長を抑制したりすることも考えられる。
生活費高騰の危機が続く中、大半の国において優先課題は引き続き、持続的なディスインフレーションを達成することだ。金融環境のタイト化と成長の低下が金融と債務の安定性に影響し得ることを踏まえ、マクロプルーデンスツールを活かし、債務再編枠組みを強化することが重要だ。中国で新型コロナウイルスのワクチン接種を加速させることは、経済回復を守り、国境を越えたプラスの波及効果につながるだろう。財政支援は、食品とエネルギー価格の高止まりの影響を最も受けた層に的を絞り、一般を対象とした財政支援措置は廃止すべきだ。ルールに基づく多国間体制から得られる利益を維持し、排出量の抑制とグリーン投資の拡大によって気候変動を緩和するためには、多国間協力の強化が不可欠である。
●イギリス経済、G7で唯一のマイナス成長見通し=IMF 1/31
国際通貨基金(IMF)は31日に発表した世界経済の改訂見通しの中で、イギリス経済が先進国の中で唯一、マイナス成長となるとの見方を示した。生活費危機が引き続き家計を圧迫するとみている。
IMFによると、イギリスの国内総生産(GDP)は今年、0.6%縮小する見込み。前回見通しで示していた、0.3%のプラス成長からマイナスに転じた。
IMFはその他の主要7カ国(G7)については、今年の経済成長見通しは、アメリカは1.4%、ドイツは0.1%、フランスは0.7%、イタリアは0.6%、日本は1.8%、カナダは1.5%だとしている。
IMFのピエール・オリヴィエ・グランシャ調査局長はBBCの取材に対し、イギリスは2022年に4.1%という「欧州でも高水準」の「かなり力強い」成長を見せたと指摘。
しかし、今回の見通しはエネルギー価格の高騰や「液化天然ガスへの依存度が高い」ことなどから、「イギリスが非常に厳しい環境にある」ことが反映されていると説明した。
さらに、インフレ高騰や、それを受けた利上げによる住宅ローンへの影響、雇用がパンデミック以前の水準に戻っていないことなどを理由に挙げた。
その上で、英財務省が秋季財政報告書の発表以降、数カ月間でまとめた財政計画は、イギリスが「さまざまな課題を慎重に乗り越えようとしていることを示しており、正しい方向に向かっていると、IMFとしては考えている」と述べた。
IMFは2024年について、イギリスは前回見通しより0.3パーセントポイント高い0.9%の成長となるとみている。
予想上回る成長=英財務相
イギリスのジェレミー・ハント財務相は、イギリス経済は昨年、多くの予想を上回る成長を見せたと指摘している。
ハント財務相は先に、春季予算案では「大きな」減税を行う余地が「ない可能性がある」と警告していた。
ハント氏はかねて、経済刺激策として減税を行うよう、与党・保守党内から圧力をかけられている。そうした中で同氏は、インフレ率を半減させるという公約が、「現時点で最高の減税」だと語っていた。
イギリスでは、昨年12月までの12カ月間のインフレ率が10.5%となり、過去40年間で最高水準となっている。
リシ・スーナク首相は、年末までにインフレを半減させると公約しているが、商品価格や輸送コストの低下により、政府の政策がなくても物価上昇は鈍化するだろうと指摘するエコノミストもいる。
イングランド銀行(中央銀行)のアンドリュー・ベイリー総裁も、インフレ率は今年、エネルギー価格の低下に伴って急激に落ちる可能性が高いとしているが、なおイギリスの景気後退入りもあり得ると警告している。
イングランド銀は今週中にも経済見通しとともに、さらなる利上げを発表するとみられている。
「ドイツや日本よりも大きな成長」
ハント財務相は、ベイリー総裁がイギリスの景気後退について「これまでの予測より浅くなる可能性が高い」と述べたことを強調。また、IMFの見通しは「イギリスが、ほぼすべての先進国経済を襲う圧力と無縁ではないことの証拠だ」と付け加えた。
「短期の困難によって長期見通しが暗くなってはいけない。イギリスは昨年、多くの予想を上回る成長を見せた。インフレ率を半減するという計画を続ければ、向こう数年でドイツや日本よりも大きな成長を遂げられるとみている」
英財務省によると、イギリス経済は2010年以降、フランスと日本、イタリアよりも早く成長しているという。また、欧州連合(EU)離脱を決めた2016年の国民投票以降は、「ドイツと同等」の成長を見せていると述べている。
「2022年から2024年にかけての累積成長は、ドイツや日本より大きくなり、アメリカと同等になると予測されている」と、財務省の報道官は説明した。
利上げやウクライナでの戦争、コロナ対策が影響
31日は、ブレグジット(イギリスのEU離脱)から3周年に当たる。IMFは今回、イギリス経済の不調の要因としてブレグジットを挙げなかった。
一方で、各国中銀がインフレ抑制のために金利を引き上げていることや、ウクライナでの戦争が引き続き「経済活動の重荷」になっていると述べた。
また、中国が新型コロナウイルス対策の制限を解除し、経済を解放したことが、世界的に「予想よりも早い経済回復への道」につながったとした。
IMFは、世界のインフレ率は今年にピークを迎え、昨年の8.8%から今年は6.6%に、2024年は4.3%まで下がるとみている。
●IMFは生産性向上と実質賃金上昇、金融・財政政策の正常化の必要性を説く 1/31
IMFも日本銀行も3%の賃上げに期待するが
国際通貨基金(IMF)は1月26日に、日本経済に関する年次の調査終了に伴う声明を発表し、記者会見を行った。声明では、2%の物価目標を持続的に達成するためには、金融政策以外の「生産性と実質賃金を改善する政策」が必要、との主旨の見解を示した。
この見解から読み取れるIMFの考えは、第1に、労働生産性の向上がない限り、物価と賃金が相乗的に高まることで物価上昇率が安定的に2%に達することは難しい、第2に、仮に物価と賃金の上昇率は同じ幅で高まっても、実質賃金が高まらなければ労働者の生活は向上せず、経済は改善しない、第3に、金融政策以外の手段も活用して、実質賃金を高める労働生産性向上を図るべき、ということではないかと推察される。
また、対日経済審査団長を務めたアジア太平洋局長補のラニル・サルガド氏は、3%の賃上げ率が実現され、労働生産性の上昇率が1%のもとで2%の物価目標が達成されれば、日本銀行が金融緩和策を修正する条件になる、との見方を示した。
日本銀行も、1%の労働生産性上昇率を念頭に、3%の賃金上昇率が2%の物価目標達成の条件になる、との説明をしている。労働生産性上昇率が高まり、経済が安定して成長する状況下でないと、2%の物価上昇率を安定的に実現するのは難しい、との考えだろう。
今年の春闘のベアは上振れも一時的
ところで、今年の春闘では、1990年代半ば以来の高い賃上げ率が実現する可能性が高い。しかしそれは、足元の歴史的な物価高を賃金に転嫁するという、一時的側面が強いのである。消費者物価上昇率は2023年1月の4.4%程度をピークに緩やかな低下傾向に転じることが予想される。そのため、賃金上昇率は来年以降低下傾向に転じ、今年の上振れは一時的に終わりやすい。
さらに、今年の賃金上昇率は上振れる見通しであるが、それでもベアは+1%強程度と予想され、IMF、あるいは日本銀行が2%の物価目標達成の条件と示唆する+3%にはかなり遠いのである。
他方、足元(2022年度下期)の労働生産性上昇率のトレンドは、日本銀行の推計による潜在成長率と就業者数のトレンドから計算して前年比+0.2%、一人当たり労働時間の変化を考慮しても同+0.6%と、IMFあるいは日本銀行が+2%の物価目標達成の条件と示唆する+1%には達していない(図表)。2%の物価目標達成の条件は満たされておらず、その実現は依然として見通せないのである。
筆者は、労働生産性上昇率及び実質賃金上昇率が+1%でもなお、2%の物価目標達成には十分でなく、+2%以上の労働生産性上昇率及び実質賃金上昇率が必要ではないかと考える。
IMFは岸田政権の「構造的賃上げ」など成長戦略を評価
このように、2%の物価目標達成のハードルは極めて高いが、国民生活の改善につながる労働生産性向上と実質賃金上昇について、IMFは声明の中で2つの提言を行っている。第1は、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の人材を強化することにより、イノベーションを促進し、デジタル化を容易にすることだ。労働生産性を高めるためには、各種政策によって、STEM分野の既存労働者向けに訓練や技能再教育を強化し、女性を中心により多くの学生がSTEMキャリアを追求するよう奨励すべきだ、としている。これはまさに岸田政権が打ち出している「リスキリング」、「人への投資」である。
第2は、労働市場改革を通じて賃金上昇を促す政策だ。労働市場の二重構造を解消し、移動性を高めることは、労働者の交渉力を強化し、賃金の伸びを加速し得る。ジョブ型雇用と能力給への移行は、賃金の伸びを支えるだろう、としている。これは、岸田政権が掲げる労働移動の促進、日本型職務型給与(ジョブ型)の確立を通じた「構造的賃上げ」実現の議論を踏まえての提言であることは明らかだ。
実質賃金上昇率を高めるには労働生産性の向上が必要であり、それは、金融政策では実現できないと考えられる。重要なのは政府の構造改革であり、成長戦略である。IMFは岸田政権の「構造的賃上げ」など成長戦略を評価しているのだろう。
日本の財政健全化の重要性を説く
他方で声明の中でIMFは、日本の財政健全化の重要性を多くの紙面を割いて説いている。中期的な優先課題は、財政の脆弱性を低減させ、より動的かつ強靭で包摂的な経済に移行することだ、として、財政再建の重要性を主張している。
そのうえで、「財政バッファーを再構築し債務の持続可能性を確保するために、財政再建が必要である。基礎的財政赤字を減らし公的債務の対GDP比を下降軌道に乗せるために、財政再建は、信頼性のある財政枠組みに裏打ちされるべきである」としている。
またIMFはより具体的に、2022年秋に政府が決定した物価高対策を柱とする経済対策について、「財政負担を抑え、脆弱層を守り、省エネを促すために、エネルギー関連の補助金は、より的を絞った政策にする」ことができたはず、と苦言を呈している。そのうえで、今後も政府支出の圧力が高まり続ける中、「いかなる追加的支出策も的を絞り、また、歳入を増やす手段を伴うべきだ」、している。
財政拡張的な政策については、金融市場を不安定にするばかりでなく、物価を押し上げることを通じて「金融政策のさらに強力な引き締めが必要となる」として、慎重な対応を日本政府に求めている。
長期金利の柔軟化を評価もコミュニケーションに課題を残したとの考え
日本銀行の金融政策については、冒頭でも見たように、「緩和的な金融政策スタンスが引き続き適切であるが、2%の物価目標を持続的に達成するために、生産性と実質賃金を改善する政策を含むその他の政策によってそれを支える必要がある」として、金融政策の限界も説いている。
日本銀行が昨年12月に実施した長期金利の一層の柔軟化は、「将来の急激な金融政策の変更を回避するのに役立つ」、「長期化する金融緩和の副作用に対処することにも資する」と評価している。ただし同時に、「金融政策の設定の変更について十分なコミュニケーションを行うことで、円滑な移行の促進と金融安定の維持がもたらされるであろう」として、市場に混乱を生じさせた点に苦言を呈している。
さらに、日本銀行は長期金利の更なる柔軟性と上昇を許容することを視野に、10年物金利の変動幅の拡大、10年物金利の目標水準の引き上げ、金利目標の年限の短期化、国債金利目標から国債買入れの量的目標への移行、といった具体的な選択肢を指し示している。
日本の経済再生には、様々な副作用を生じさせた日本銀行の異例の金融緩和と政府債務の累積につながった財政政策を正常化することが必要だろう。それを、生産性向上、経済の潜在力向上につながる政府の成長戦略と同時に推進していくことが求められる。IMFの今回の提言は、それらを直接的に指摘したものといえる。
●アベノミクス10年 舞台裏と「日銀新総裁」の課題 山本幸三 1/31
・東日本大震災後、金融緩和を求める議連の会長に就任してほしいと安倍氏に要請したことが、アベノミクスの始まりとなった。
・安倍氏は、消費増税のタイミングをさらに遅らせれば日本経済はデフレを脱却できるが、政治状況により許されないと考えていた。
・黒田日銀総裁の政策は、総じて高く評価できる。新体制でも、デフレ脱却までは黒田路線を踏襲せざるを得ない。新総裁には政策実行の「胆力」が求められる。
・岸田首相には「マクロ経済政策を間違えることなく、経済を回復させるべきだ」と訴えている。首相は、一般に言われるほど「財政緊縮派」ではない。
安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の旗の下、黒田東彦総裁が率いる日銀が「異次元金融緩和」に乗り出してから、10年の節目を迎えた。今春スタートする日銀新体制が、金融政策を正常化させる「出口戦略」を進めるかどうかも注目されている。アベノミクスの「仕掛け人」「生みの親」と呼ばれる山本幸三・元地方創生相に、アベノミクス誕生の秘話と安倍氏の思い出を交えながら、これまでの経済政策の評価と今後の課題を聞いた。
大震災が生んだアベノミクス
――山本さんと安倍さんは、それぞれ自民党宏池会(岸田派)と清和研(安倍派)の所属で、派閥も違いました。接点はいつ頃からですか。
2011年3月11日の東日本大震災の後です。安倍さんとは1993年の衆院選当選同期ですが、あまり会うことはありませんでした。私は当選後、「デフレは日銀の金融政策がおかしいから起きた」と言い続け、党内主流派からは異端児扱いされてきました。耳を貸してくれたのは、渡辺喜美さんや中川秀直さんぐらいで、厳しい約20年を過ごしたと思っています。
そんな時、東日本大震災が起きます。本当にこれで日本は終わると、大変な危機感を覚えました。当時は民主党政権でしたが、私は3月17日に最初のアピール文を書いて「20兆円規模の国債を発行して、日銀引き受けや買い取りで財源を作って復興せよ」と訴え、すべての国会議員に配布しました。アピール文は計7回におよびます。
「そんなことできるか」と、有力議員の方々からかなり批判されましたが、当時参院議長だった西岡武夫さんが「面白い」といってくださり、超党派の有志で集まって勉強会をやることになった。そして自民党でも議連を作ろうじゃないかと。ただ、会長にふさわしい人物が見当たらない。そこで相談相手となってくれた田村憲久さんに尋ねると「安倍晋三がいいのではないか」と言ってくれたのです。
私もピンと来ました。安倍さんが講演で「私(安倍氏)が官房副長官や長官の際に、日銀が金融政策を早く引き締めすぎたのは問題だった」と話したのを記憶していて、おそらく同じ問題意識を持っているのではないか、と予感したからです。そこで、5月19日に、安倍さんの門をたたくと、会長就任をOKしてくれた。議連の名前は「増税によらない復興財源を求める会」としました。これがアベノミクスの始まりです。
当時、安倍さんは政権1期目で挫折し、不遇をかこっていました。私が「もし復権をお考えなら、憲法や教育ばかりでなく、『経済の安倍』と言われなければだめです」と話すと、「その通りですね」と。野党時代に経済政策を勉強していて、私の訴えが響いたようでした。
安倍さんが議連会長となったのが6月30日です。そこで、米エール大名誉教授の浜田宏一さんや、学習院大名誉教授の岩田規久男さんといった、リフレ派の経済学者を呼んで勉強会を開いた。安倍さんは、浜田さんや岩田さんの本を熟読して完璧に理論を身につけ、経済の論客となります。
約1年後、自民党総裁選が行われました。安倍さんは最初、ちょっと出馬を 躊躇ちゅうちょ していましたが、私は「やったらいいじゃないですか」と求め、安倍さんは総裁選で、金融政策の抜本的な転換を掲げます。そして総裁選に勝利し、2012年12月の衆院選で自民党が政権に復帰すると、日経平均株価は1万円を超え、ドル円レートは1ドル=80円台から90円台、100円と上昇していった。翌13年の春には黒田さんを日銀総裁に任命して異次元緩和政策が始まりました。
私は、アベノミクスが沈没寸前の日本経済を救い出したと思っています。みな、会社がいつ潰れるか、いつ失業するか、給料は下がるのかという、どんよりとした空気に包まれていた。自民党政権の時からそれは生じていたけれど、民主党政権でさらにひどくなった。安倍さんは救世主だったのです。その思いは、今も変わりません。
底流にあった「小宮理論」
――旧大蔵省・宏池会という「保守本流」を歩んできた山本さんが、伝統的な日銀の金融政策を批判して金融緩和を訴えた、そもそものきっかけは何ですか。
経済学者の小宮隆太郎先生ですね。私は東大経済学部で小宮ゼミに所属し、小宮さんは、日銀の金融政策に批判的でした。高度成長期の当時は今と状況が逆で、日銀が緩和をしすぎて日本経済はインフレ気味。その後、オイルショックを経て「狂乱物価」と呼ばれる異常な物価上昇に見舞われるわけですが、小宮さんは「物価上昇は石油が理由でない。その前から、日銀が量の面でお金を出しすぎていた。それが元々の原因だ」と言っていた。当時、日銀は「自分たちが自由にお金の量を動かせるわけではない。できるのは、民間の資金繰りの帳尻合わせだけ。インフレの原因は民間にある」と議論していたのに対し、小宮さんは異を唱えたのです。
私は71年に大蔵省に入省し、米国留学から帰国した75年頃、小宮先生が書いた論文があると知って読み、大変な感銘を受けました。それから、ありとあらゆる金融政策に関する論文を、英語文献も含めて読みまくりました。そこで、どうも欧米の金融政策の常識と日銀のやっていることは違うと思い、日銀の政策を批判するようになったのです。
ただ、小宮先生はその後、考えを改められます。1989年に東大から青山学院大に移られた頃から、体制擁護派になってしまった。理由は明確に分かりませんが、やはり、ご自身が批判を受け続けるのが嫌になってしまったのかも知れません。残念なことでした。先生は昨年10月、93歳で亡くなられますが、晩年は白川方明・前日銀総裁の金融政策を支持していました。
ところで、その白川さんも、実は小宮ゼミで私の一年後輩です。彼も元は、為替レートはお金の量で決まるという、マネタリー・アプローチの考え方を取っていたと記憶しています。その後、「お金の量ではありません、成長期待です」と言うようになったので、よく「お前、出世のために考えを変えるのか」などと冷やかしたものです(笑い)。
岩田さんは昔からの小宮理論を引き継いでいる方です。要するに、僕らはもともと小宮先生が言っていたことをデフレ時に当てはめているだけ。お金の量が多かったのでインフレになったとするなら、逆にデフレ時はお金を増やせばいい、というわけです。
早過ぎた消費税引き上げ
――そのアベノミクスも、はや10年。今から振り返ると、「三本の矢」のうち、金融政策、財政政策は効いたが、成長戦略が進めきれなかったとも指摘されます。
いや、その分析はちょっと違うのではないでしょうか。1本目の金融政策はうまくいき、今もやっていますよね。ところが2本目の財政政策がだめになった。2014年に消費税引き上げをやりましたよね。あれを、あともう少し遅らせていれば、消費者物価上昇率は2年ほどで、2%になっていたと思います。消費税率の引き上げは、安倍政権が誕生する前に決められてしまっていたし、麻生太郎財務相と安倍さんとの関係もあったと思います。また黒田さんも、金融緩和の「バズーカ」を放ったのは良かったけれど、消費税率引き上げを後押ししましたよね。だから第1の矢は飛んだが、第2の矢は途中からUターン。それが失敗の最大の原因ですね。
ちなみに、昨年の英トラス政権の失敗は、逆でしたね。つまり米国以上のインフレが発生したタイミングで減税を持ち出したから金利が上昇し、市場が混乱してしまった。
アベノミクス3本目の成長戦略は、やらなくてはならないけれど、供給を拡大してしまうわけだから、デフレで需要不足の時期には望ましくないのです。需要が拡大して、供給も少し足りない状況になれば、成長戦略で経済成長が見込めます。要はタイミングということです。
とはいえ安倍さんは、戦後日本の歴代首相の中で、経済・金融政策を深く理解して実行した数少ない人物でした。特に金融政策について、従来の自民党の政治家の多くは「自分たちには分からないし、口出しすべきではない」と考えていた。政策通として知られた宏池会の加藤紘一さんですら、そうでした。
だからこそ、安倍さんの急逝は、本当にショックでした。いよいよこれから経済に力を入れていかなければならない、という時期だったのに……。こんな悲劇に見舞われなければ、安倍さんは今頃、積極財政を強く主張されただろうと思いますね。
今も、私の携帯電話には安倍さんとやり取りしたメールが残っています。2回目の消費増税で10%に引き上げるかどうかという時には、私は「もう少し延ばしてほしい」とお願いしたのですが、安倍さんは「政治的に上げざるを得ない」ということでした。税率引き上げが2019年10月ですから、その1年前、18年の骨太の方針を決める前のことでしたね。
財政再建どうする
―― 一方、財政再建の必要性も無視できません。今後の社会保障費、さらに安全保障費を考えれば、その必要性は高まっていると言われます。将来世代の不安にも答えなければなりません。
私も、そのことの大切さは十分に理解しています。そして、消費増税も大事だと思いますが、だからこそ、タイミングがきわめて重要なのです。金融政策一本だけでは、「流動性の 罠わな 」(註・市場金利がゼロ%近くになると、それ以上の中央銀行による金融緩和策が効果を発揮できず、財政政策に依存せざるを得なくなる状態を指すマクロ経済理論)に陥ることもあります。消費増税は、総需要から供給力を差し引いた「GDPギャップ」のマイナスが解消されてデフレを脱却してから実施しても、決して遅くない。米国や英国はGDPギャップがプラスにもかかわらずお金を配りまくり、インフレにしたぐらいです。日本はそこに遠く至っていないのですから。
経済が良ければ、当然、選挙にも有利に働きますよね。第2次安倍政権は選挙で連戦連勝でしたが、アベノミクスが効いていたのは間違いない。米国でも、昨年11月の中間選挙で、バイデン政権与党の民主党が善戦しましたが、これは雇用をはじめ米国経済が良かったからにほかなりません。有権者にとって一番大事なのは生活です。特に若者は、雇用が良くて給料が上がれば、政権を支持します。米国でアルバイトして来た人に話を聞くと、現地のディズニーランドでは、時給が20ドルにもなるという。日本では考えられないですよね。
確かに、日本でも資源価格の高騰などを背景に、インフレ率は徐々に高まっています。でも、消費者物価指数(CPI)はプラスでも、総合的な物価の動向を示す指標である「GDPデフレーター」で見ると、まだまだ弱い。GDPギャップのマイナスを埋めるため、補正予算、当初予算で積極的に財政出動することはやはり必要だと、私は考えています。
――賃金がなかなか上がらないことが、日本経済の大きな問題となっています。黒田さんは、賃金が上がりにくい日本の状況を「上方硬直性」と表現したこともありました。日本の企業文化の問題もあるのでしょうか。
賃金は「遅行指標」ですから、経済対策を実施してインフレになっても、最初はどの国も実質賃金の伸び率ではマイナスになるものです。米国もインフレ率が高いことで、消費の足が引っ張られています。ただ、そうなると企業は雇用確保のため、賃金を上げようと考える。だから、遅れるのは仕方ないけれど、物価が上がる雰囲気が出はじめれば、企業も賃金を上げざるを得なくなるわけです。
企業文化ということでいえば、経団連に所属しているような大企業の中には、そういうところがありますね。ベアをやるとずっと賃金が上がってしまうから、ということで及び腰になっている。やはり企業経営者の能力、統率力といったものは必要です。アメリカの経営者に話を聞くと、「賃金が低いと人を雇えないから、給料を上げるために価格を上げる。そうして給料をアップした途端に、バッと人が来るし、みんなよく働くようになる。するとさらに価格も上げられ、また払える給料が賄える」ということを話します。そういう決断をこそ、経営者はしなくてはならない。日本では、企業物価から消費者物価への価格転嫁がなかなかしづらいと言いますが、ものを高く売り、高い給料を払う努力こそが、経営者に求められている。経済界に頑張ってもらわなければ、どんなに政府が頑張っても、日本は終わります。
「新しい資本主義」の評価は
――金融政策は転換点を迎えつつある、との声があります。低金利政策が市場メカニズムを歪めているとの見方を受け、日銀は長期金利の変動幅の上限を0・25%から0・5%に引き上げました。日銀が国債を大量購入している現状は、通貨発行権を持つ国の財政赤字を問題視しない「現代通貨理論」(MMT)に共通する部分があるとの指摘もありますが。
日銀と政府は一体なわけで、日銀が国債を買い続けることには問題がありません。一方、MMTに私は批判的です。なぜなら、MMTには金融政策がないからです。MMTの議論を聞いていると、「金融は財政についてくる」という前提で、議論をしています。彼らは財務諸表を見ているだけで、金利が上がるとどうなるか、については何も考えていないと言わざるを得ない。だからMMTには限界があるのです。財政を拡大して問題のない時期もあるという点では私と一致しますが、繰り返しますが、それによって金利が上がってはいけないのです。私は金融政策を議論の中心に据えていますが、MMTはそうではありません。
――財政規律については、リフレ派も軽んじているわけではないと思います。この点は、どうお考えですか。
そうですね。重要なのは、対国内総生産(GDP)比で、債務比率が拡散していかない、ということです。「利子率」と「経済成長率」を比較して、前者が後者よりも小さければ良いが、大きくなると財政が不安定化してしまうという考え方を「ドーマーの条件」といい、これは大事です。一般によく言われる基礎的財政収支(プライマリー・バランス=PB)よりも、こちらの考え方の方が重要ですので、日本経済の成長率をできるだけ高めるとともに、名目金利を低いままにしておく努力が欠かせません。単にPB重視でGDPギャップを悪化させることのないよう、財政当局には強く求めたいですね。
経済が良くなって、インフレになるならば、増税すれば良い。昔、大蔵大臣も務めた渡辺美智雄さんは、税収増のためには「豚は太らせてから食え」と言っていました。これほど財政当局にとっても分かりやすい言葉はないでしょう。
――岸田首相が訴える「新しい資本主義」は、どう評価しますか。
中身においてはミクロ政策が主体で、基本的なマクロ経済政策が不足している点には不満があります。やはり、マクロ政策としてはアベノミクス路線を引き継ぐしかないのではないでしょうか。岸田首相には「(岸田政権は)財政緊縮派と言われてしまっていますが、それは良くない。しっかりと、予算をつけなければいけません」と言っています。まだ決して十分ではないものの、岸田さん本人は、他人が言うほどの緊縮派ではないと思っています。金融緩和と円安で、経済への期待感は生まれつつあります。米国のように景気を良くして失業率を下げ給料が上がるようにすれば、選挙にも負けません。首相には、そう言っているのです。
日銀新総裁に求められること
――いよいよ、「黒田日銀」の10年間が終わります。黒田総裁の評価と、次の 舵かじ 取りを担う新総裁に求められることを教えてください。
黒田さんの政策には、お話した通り失点もありましたが、総じて大変よくやってこられたと評価しています。
日本と米国などの金融政策の違いから、一時急激に円安が進みましたが、今、日本は原油高で交易条件が悪化しています。国際競争力の観点からは、円安になって良かった面があるのです。日銀の金融政策は、あくまでデフレ脱却を目指したものであって、円安を目標にしていたわけではないけれど、結果的にかなり円安になりましたよね。
次期総裁も、デフレ脱却までの間は、「黒田路線」を継承せざるを得ないでしょう。しっかりとした金融理論を身に着けていて、これまでのアベノミクスの意義と、それが停滞してきたのはなぜかを理解していることが求められます。総裁となれば、様々な「雑音」も外から寄せられるでしょう。そうしたものに動じない胆力がなければいけません。
●地方債も償還方式を見直せば…数兆円の取り崩しが可能 1/31
国債の「60年償還ルール」について見直し論が浮上しているが、地方債の償還はどのようなルールなのか。
国債の償還方法は満期一括償還方式とシンプルだが、地方債は複雑だ。もっとも、地方債の償還方法は引受資金と不可分であるので、まず引受資金を説明しよう。
引受資金は公的と民間に分けられる。公的資金は「財政融資資金」や「地方公共団体金融機構資金」など、民間資金は「市場公募債」「銀行等引受債」などに大別される。
公的資金では、すべて定額償還など定時償還方式だ。定時償還では償還の平準化が図られるので償還ルールは必要ない。
民間資金のうち市場公募債については、ほとんどが満期一括償還方式である。また、銀行等引受債における償還方法は、ケース・バイ・ケースだが、証書方式ではおおむね定時償還方式、証券方式では満期一括償還方式が多いようだ。
地方債総残高における満期一括償還方式と定時償還方式の内訳についてのデータは公表されていないが、全地方債残高約180兆円のうち3分の1の60兆円程度が満期一括償還方式であるといわれている。
国は、市場公募債発行団体に対して、計画的な償還準備として償還ルール(減債基金への積立)を強く勧奨している。国で60年償還ルールがあるためだ。
ここで、国際標準を紹介しよう。満期一括償還方式・償還ルールなしだ。満期一括償還方式と定時償還方式を比較すると、後者の方が発行者コストが大きくなる。その理由は、長期金利なのに満期前に償還するからだ。ただし、満期一括償還方式でも償還ルールがあると、発行者コストが大きくなる。償還ルールのために無用な発行をするからだ。
以上をまとめると、発行者コストは、数兆円満期一括償還方式・償還ルールなし2満期一括償還方式・償還ルールあり3定時償還方式―の順で前者ほど低くなる。このため、国際標準は1になっているのだ。
こうした実情から、わが国の債務管理の後進性が浮き彫りになる。国は2、地方は3分の1が2で、3分の2が3だ。
筆者がこの実情に気付いたのが約30年前であるが、いまだに60年償還ルールに固執する財務省と、その要請を無批判に受け入れる総務省は、ともに金融知識が欠けていて国際標準からかけ離れている。
今回の国債の償還ルール見直しの背景にあるのは国の防衛費の捻出であるが、地方財政でも減債基金や積立金は数兆円以上取り崩しが可能となり、地方財政が楽になる。
なお、地方では不必要な積立金を持つのでその運用に苦しみ、しばしば金融機関の餌食になることも少なくない。ぜひとも、4月の統一地方選でも見直しを争点にしてもらいたい。
今回の国債の償還ルールの見直しが、そうした不合理をなくすとともに、発行者コストの低減に向けて国と地方を国際標準に近づけるなら、国民として大いに歓迎である。もちろん、そのためには債務管理のプロを国も地方も用意する必要がある。
●日銀が平成24年下期の議事録公開 政権奪還の自民党 1/31
日本銀行は31日、平成24年7〜12月の金融政策決定会合の議事録を公開した。同年12月に自民党が政権を奪還し、日銀へ追加的な金融緩和を要請したことで、会合では25年1月に発表されることになる政府との共同声明や2%の物価上昇目標に関する議論が交わされた。一方、政府からの要求が増し日銀の独立性が揺らぐ中、白川方明(まさあき)総裁が「物価の安定は政府自身に振り返ってくる非常に重たい話だ」とくぎを刺す場面もあった。
日銀は24年2月の会合で「中長期的な物価安定の目途」として「当面は1%」を掲げることを決定したが、その後も政府からのデフレ脱却へ向けた要求は加速した。10月30日の会合には、当時与党だった民主党の前原誠司経済財政担当相が出席し「デフレ脱却が確実となるまで強力な金融緩和を継続されるよう期待する」と要望を述べた。
12月16日の衆院選で自民党が政権の奪還を確定させると、日銀への追加緩和の要望はさらに強まった。安倍晋三総裁(当時)は12月18日、白川総裁と会談し、現在まで続く2%の物価上昇目標の導入と、政策協定の締結を検討するよう要請した。
翌19日からの会合で、各委員からは目標の見直しが必要との声が相次いだ。白川総裁は「中長期的な物価安定の目途について議論を深めていくことは非常に大事なことだ」と述べ、翌1月会合で具体的な議論を行うことを決めた。
一方で白川総裁は「(大量の国債買い入れにより)財政規律が失われることになってくると、長い目でみて物価の安定に対してかえって逆効果だ」とも指摘。「このことについて、政府においても認識されていることが大事だと思っている」と牽制(けんせい)しており、政府の要求と日銀の独立性のはざまで揺れ動いていた心情が浮かび上がった。
●令和の埋蔵金30兆円 財源となりうる「国債整理基金」の存在 1/31
岸田文雄・首相の増税策は、とどのつまり“財源が足りないから国民は我慢してくれ”ということだ。本当に財源はないのか。
実は、国の会計には国民に知らされていない“隠し財源”がある。特別会計の剰余金や積立金など、役所がこっそり貯め込んでいる資金で、「霞が関の埋蔵金」とも呼ばれる。金額は30兆円にのぼるという。
それを指摘したのは元内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大学教授だ。元財務官僚で理財局の国債課課長補佐や資金企画室長などを歴任した財政のプロである。高橋氏によると、“令和の埋蔵金”の1つは、国の「国債整理基金」の仕組みに隠されている。
小泉政権では13.8兆円を活用
“国債の企業版”である社債を企業が発行すれば、毎年利払いをし、期限を迎えた時に余裕があれば償還し、余裕がなければ借り換える。国債も基本的にその仕組みだ。
だが、日本政府は国債の利払いの他に、一般会計から毎年16兆円ほどの国債の償還費用(債務償還費)をいったん「国債整理基金」に積み立てるややこしい仕組みをとっている。その1年分の16兆円は他の財源に回せるのだという。高橋氏が語る。
「これは国の会計上、右の財布から左の財布に移し替えているだけだから、1回繰り入れなくても他の財源に使えます。実際に、債務償還費を計上しなかった年が過去11回もある。
地方にも地方債の債務償還費の基金と、満期一括償還に備えた積立金が10兆円程度ある。償還ルールを変更すれば地方にも財政余裕が出る。国と地方を合わせると30兆円ぐらいの財源になります。
岸田内閣は昨年末に防衛費を5年間で43兆円にほぼ倍増する方針を決め、財源が足りない分は増税すると言っているが、私は国の埋蔵金を防衛強化資金の財源にあてることを提唱しています。カネに色はついていないので、様々な工夫ができる」
高橋氏は国の会計から財源を見つけ出す“埋蔵金ハンター”として知られ、小泉政権時代に政府の巨額の埋蔵金を発掘した実績がある。
当時、年金財源などをめぐって増税案が浮上する中、内閣参事官だった高橋氏は国の特別会計に巨額の埋蔵金があることを指摘。
「消費税は上げない」と表明した小泉純一郎・首相(当時)は各省庁に特別会計ごとの財源調査を指示して特会全体で約46兆円の資産超過、つまり埋蔵金が眠っていることが判明したのだ。そのうち13.8兆円を活用して2006年度予算に組み込んだ。
現在、自民党には防衛財源をめぐって「増税以外の財源確保策を検討する特命委員会」が設置され、増税反対派が高橋理論をもとに国債償還ルールの見直しを主張しているが、政府は「財政に対する市場の信認を損ねかねない」(松野博一・官房長官)と埋蔵金を使うことに消極的だ。
岸田首相が小泉政権の時のように政府をあげて埋蔵金発掘に乗り出せば、防衛増税だけではなく、少子化増税も必要はなくなる。
岸田文雄・首相の増税策は、とどのつまり“財源が足りないから国民は我慢してくれ”ということだ。本当に財源はないのか。
実は、国の会計には国民に知らされていない“隠し財源”がある。特別会計の剰余金や積立金など、役所がこっそり貯め込んでいる資金で、「霞が関の埋蔵金」とも呼ばれる。金額は30兆円にのぼるという。
それを指摘したのは元内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大学教授だ。元財務官僚で理財局の国債課課長補佐や資金企画室長などを歴任した財政のプロである。
高橋氏によると、“令和の埋蔵金”の1つは、国の「国債整理基金」の仕組みに隠されている。“国債の企業版”である社債を企業が発行すれば、毎年利払いをし、期限を迎えた時に余裕があれば償還し、余裕がなければ借り換える。国債も基本的にその仕組みだ。
だが、日本政府は国債の利払いの他に、一般会計から毎年16兆円ほどの国債の償還費用(債務償還費)をいったん「国債整理基金」に積み立てるややこしい仕組みをとっている。その1年分の16兆円は他の財源に回せるのだといい、「国と地方を合わせると30兆円ぐらいの財源になります」(高橋氏)という。
税収は10兆円増
国債整理基金以外にも、国の会計にはまだ発掘されていない第2、第3の「埋蔵金」がある。高橋氏は、埋蔵金は国の外国為替資金特別会計にもあるという。
政府が「ドル売り」などの為替介入などを行なう時の資金になる外国為替資金特別会計の資産残高は約158兆円(2022年3月末)。
財務省は資金を米国債など主にドル建てで保有しており、運用益(剰余金)とは別に、円安で30兆円以上の含み益があると見られている。
岸田首相はこの埋蔵金について、「外貨資産は将来の為替介入に備えて保有している」と吐き出すことを否定しているが、東日本大震災が起きた2011年には、一部を取り崩して予算に充てた経緯がある。使おうと思えば使えるカネなのだ。
政府がコロナ対策で地方自治体に大盤振る舞いしてきたカネも余っている。
この間、政府は数次にわたる経済対策で、総額100兆円以上の補正予算を組んで自治体などに補助金を配ってきた。
会計検査院は2020年度のコロナ補助金を調査し、執行額が100億円以上の事業のうち16件(概算払い額計3兆4460億円)、計4788億円分が使われていなかったと指摘して返還を求めたが、それは氷山の一角にすぎない。
使い切れなかった予算の多くは今も自治体の基金に積み上げられており、自治体全体の基金残高は平成以降最高の8.6兆円(2022年3月末)にのぼっている。これも埋蔵金だ。無駄使いされる前に取り戻して少子化対策の財源に使える。
さらに政府が隠しているのが、「コロナ不況」と言われた中で、国の税収が大幅に増えていることだ。
コロナの感染拡大が始まった2020年度はロックダウンなどで経済活動が縮小、日本のGDPはマイナス成長となったにもかかわらず、国の税収は60兆8216億円(前年度より2兆3801億円増)と過去最高を記録した。2021年度はそれを大きく上回る約67兆379億円で政府の税収見積もりを10兆円も上回った。
これは一時的な現象ではなく、2022年度の税収も68兆3500億円程度で過去最高を更新すると予測され、2023年度はさらに増え、税収を辛く見積もる財務省さえ来年度予算案では税収を約69.4兆円と想定している。
最近まで年間60兆円に届かなかった税収の水準が、一気に70兆円へと膨れあがっているのだ。
税収が年10兆円も増えているのだから、その一部を少子化対策や防衛予算の増額の財源にあてることもできるはずだが、岸田政権は国民が気づかないうちにバラマキに使っている。高橋氏が言う。
「令和になって税収が10兆円も増えている。本来なら、この増収分を何に使うかもちゃんと議論すべきなのです」
これらの埋蔵金を使えば、国民は増税を免れる。だが、岸田首相が「聞く耳」を持たなければ増税ラッシュは止まらず、大増収の中でまんまと増税までせしめる財務省が高笑いすることになる。
●「異次元の少子化対策」 裏付けとなる「子ども予算倍増」は実現できる?  1/31
昨年1年間の出生数が初めて80万人を割り込むことが確実視されるなど、日本の少子化に歯止めがかからない状況です。こうした中、岸田首相は2023年の年頭会見で「異次元の少子化対策」に挑戦する、と述べました。その裏付けとなるのが、自民党総裁選当時から言及している「子ども関連予算の倍増」ですが、今のところ規模や実施時期について、明確なものは示されていません。政府は6月の「骨太方針」に具体策を盛り込むとしていますが、本当に実現できるのでしょうか? 子ども関連予算をめぐる現状を中心に解説します。
加速する日本の少子化
   出生数は80万人割れ
厚生労働省が1月に発表した速報値によると、2022年1月から11月までに国内で生まれた子どもの数は、外国人も含めて73万5,572人でした。一昨年の同じ時期と比べると、3万8,522人、率にして5%あまりの減少です。出生数は、21年2月から10カ月連続で前年の同じ月を下回っていて、過去10年間の平均減少率2.5%の倍のスピードで少子化が進んでいるのです。なお、今後発表される確定値は、日本人のみで集計されるため、これよりもさらに数値は低くなります。
21年1年間の日本人の子どもの出生数は81万1,622人で、1899年の調査開始以来、過去最低でした。22年にはそれを下回ることが確実で、出生数は初めて80万人を下回る見通しです。大手シンクタンクの日本総合研究所は、22年1年間の出生数は、およそ77万人にとどまる、と推計しています。
実際に80万人を下回れば、国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した予測よりも、8年も速いペースで少子化が進んでいることになります。こうした出生減の加速には、新型コロナの拡大も影響したようです。
   このまま子どもが減るとどうなる?
少子化と同時進行する高齢化、人口減少が続けば、国の衰退は避けられません。
年金や医療・介護などの社会保障は、現役世代が上を支える仕組みになっており、人口構造が逆ピラミッドになると、制度の維持自体が徐々に困難になります。働き手が少なくなれば、人手不足はさらに深刻化し、一方で消費活動も縮小しますから、日本経済は停滞の道を歩むしかないでしょう。すでに始まっている「地方消滅」にも拍車がかかることになります。文字通りの「縮小スパイラル」です。
   子育て支援で先行する欧州
実は少子化は、先進国が共通に抱える問題でもあります。有効な対策を打つことで、歯止めをかけた国もあります。有名なのはフランスで、一時、合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに産む子どもの数)を、1.5近くから2を超えるところまで回復させることに成功しました(現在は2を割り込んでいます)。
少子化対策に、子ども予算の増額が有効なことは明らかです。20年度の合計特殊出生率と、〈子育て支援額の対GDP比=日本は19年度、他国は17〜18年度〉を比較すると、
   •日本:1.33〈1.73%〉
   •ドイツ:1.53〈2.39%〉
   •フランス:1.82〈2.85%〉
   •スウェーデン:1.66〈3.40%〉
などとなっており、相関性が見て取れるのです。ちなみに日本よりも深刻な韓国は、出生率0.84、支援額の対GDP比は、やはり日本より低い1.3%という状況です。
政府の少子化対策は?
   「子ども予算倍増」を掲げた首相
もちろん、国も少子高齢化に対する危機感は以前から持っていて、様々な対策が講じられてきました。しかし、それらが実効性に乏しいものであったことは、現状が証明しているといっていいでしょう。
それだけに、21年9月の自民党総裁選以降、「子ども関連予算の倍増」を目標に掲げ、年頭には「異次元の少子化対策」への挑戦を訴えた岸田首相の手腕には、期待も集まっています。ただし、どんなことをいつやるのかといった中身については、今のところ明らかにはなっていません。
そもそも、何をベースに「倍増」とするのかも、現状では不明瞭です。今年4月には、少子化対策も担当する「こども家庭庁」が発足します。同庁の23年度予算は、約4兆8,000億円。省庁横断の枠組みでみると、22年度で6兆1,000億円という区分もあります。
なお、こども家庭庁に移管される事業の22年度分は4兆6,871億円で、23年度の増加分は1,233億円。率にすると2.6%の増加にとどまっています。
   10万円の「出産給付金」がスタート
ところで、「異次元の対策」に先立ち、今年1月1日から、妊娠・出産した女性を対象に、合計10万円のクーポンを支給する「出産・子育て応援給付金」がスタートしました。4月からは、「出産育児一時金」が原則42万円から50万円に増額されます。これ以外に、有効な子育て支援として、どんな施策が考えられるのでしょうか?
「懸案事項」となっているのが、児童手当の拡充です。現在は、子ども1人当たり原則、月1万円〜1万5,000円(高所得世帯は原則5,000円)が中学卒業まで支給されています。これを高校まで延長したり、所得制限をなくしたり、あるいは第2子、第3子には増額して支給したり、といった様々な検討が行われているのです。
ただし、これには兆円単位のお金が必要だとされます。さきほどの出産給付金の財源についても、23年度分については補正予算で捻出する方針ですが、24年度以降に関しては「白紙」の状態です。
   財源をどうする?
このように、首相の掲げる方針が実現できるかどうかは、一にも二にもその財源確保の成否にかかっています。今までの少子化対策が「不発」に終わったのは、それができなかったため、といってもいいでしょう。では、今回はそのネックを超えられるかというと、前途は多難とみなくてはなりません。
昨年、岸田首相は、「27年度に防衛費をGDP比2%に倍増する」という方針を突然表明し、1兆円の増税にも言及しました。先行していた子ども予算を追い越して、数値目標や財源について明示した形です。
それを受けて、「子ども予算も増税で賄うべきだ」という声が、与党内などから上がりました。しかし、国民が物価高に苦しむ中で、重ねて増税の方針を打ち出すのは、かなりハードルが高い作業になります。また、赤字国債(国の借金)でまかなうというのも、国債発行残高が1,000兆円を超えた現状を考えれば、切りにくいカードといえるでしょう。これ以上、次世代につけを回すことになれば、かえって少子化を促進する、と指摘する声もあります。
   6月までに「当面の道筋」を提示
厳しい状況ではありますが、首相は6月にまとめる骨太の方針には、具体的な施策や財源などを盛り込む意向を明らかにしています。今度こそ出生率を目に見えて回復させられるような対策が示されるのか、注目したいと思います。
まとめ
岸田首相が、子ども関連予算の倍増方針を打ち出しています。子育て支援が出生率のアップに結びつくのは、海外の例を見ても明らかですが、問題は予算を増やすための財源をどう手当てするかです。骨太の方針に示される具体策が注目されます。
●少子化対策の好機を潰した自民党…旧民主党政権の「子ども手当」 1/31
岸田文雄首相(65)と全閣僚が出席して行われた31日の衆院予算員会。立憲民主党の長妻昭政調会長(62)は、岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」を念頭に、旧民主党政権の看板政策だった「所得制限なしの子ども手当」を当時の自民党が激しく批判していたことを取り上げた。
長妻氏は、茂木敏充幹事長(67)がこれまでの自民党の主張とは異なる「児童手当の所得制限なし」を訴えていることについて、「(当時)自民党議員から『愚か者めが、ばか者ども』などと罵詈雑言をかけられた」とただした。
これに対し、岸田首相は「反省すべきは反省しないといけない」と応じるのが精一杯だったが、まるで反省していないのが茂木氏だろう。茂木氏は30日に主演した党のネット番組でも、児童手当の所得制限に触れ、「経済的支援の要になる。撤廃する方向で議論をまとめたい」と改めて強調。「少子化対策はおそらく日本のこれから10年で一番大切な政策だ」と声を張り上げていたのだが、そうじゃない。
2004年版少子化白書「これからの5年間が重要」と記述
内閣府が毎年公表している「少子化社会対策白書」。いまから約20年前の2004年版の「第3節 少子化対策の好機」には<これからの5年間が人口構成上重要な時期>と題し、こう書いてある。
<2005(平成17)年からの5年間は総人口が減少に転じるなどわが国の人口が転換期を迎えるが、一方で、わが国の人口構成上、出生率や出生数の回復にとって重要な時期でもある。この好機(チャンス)は、2010(平成22)年頃までであるので、これから5年間程度の期間を逃すことなく、少子化対策にとって効果的と考えられる種々の施策を講じて、少子化の流れを変えていく必要がある>
そして<少子化の流れを変えるチャンス>とし、こう続けている。
<わが国の人口構成上、出生数または出生率の回復のチャンスもそう長くは続かない。したがって、少子化の流れを変えるためには、これから2010年頃までの数年間に、この第2次ベビーブームの世代(第2次ベビーブーマー)を対象の中心として、安心して子どもを生み育て、子育てに喜びを感じることができるように、あるいは子どもの出生や子育てにメリットがあると認識できる施策を積極的に展開することが重要であると考えられる>
この時の白書では、ほかに<働く女性の増大を踏まえ、出産・育児と仕事の両立が可能となるように、子育て期において育児や仕事の負担軽減を図るため、保育所の拡充等の保育支援や育児休業の取得促進、勤務時間の短縮、再就職促進等の雇用のシステムをつくりあげていく必要がある>とも記されているのだが、今、指摘されている課題と何も変わっていないのだ。
2009年に政権奪取した旧民主党政権は「好機(チャンス)は、2010年頃まで」と考えたからこそ、重点政策として「所得制限なしの子ども手当」を打ち出したわけで、そのチャンスを潰したのは他ならぬ自民党なのだ。それなのに「これから10年で一番大切な政策」とはよくぞ言えたものだ。
岸田首相が本気で「異次元の対策」に踏み込むのであれば、自民党が潰したことによって逃した少子化対策のための予算を十分確保するのが先だろう。もちろん、防衛費拡大など、とんでもない話だ。
●衆院予算委 コロナ影響で取りやめの地方公聴会 3年ぶり開催へ  1/31
新年度予算案を審議している衆議院予算委員会の理事会で、与野党は、新型コロナの感染拡大の影響で去年とおととしは取りやめていた地方公聴会を3年ぶりに開催する方針を確認しました。
衆議院予算委員会の地方公聴会は、当初予算案を審議する際、例年2か所程度の地方都市で開かれていて、理事会では今後、開催場所や日程について調整を進めることにしています。
●衆院予算委 立民「子ども手当」導入時の自民議員のヤジ批判  1/31
衆議院予算委員会では、立憲民主党の長妻政務調査会長が、かつての民主党政権で所得制限のない「子ども手当」を導入した際、自民党議員が国会で「愚か者」などとヤジを飛ばしたことを改めて批判し、岸田総理大臣は「反省すべきものは反省しなければならない」と述べたうえで、今の政権で若い世代への住宅政策も含めて子育て支援の充実を図る考えを示しました。
国会は、衆議院予算委員会で2日目の基本的質疑が行われました。
立憲民主党の長妻政務調査会長は、子育て支援をめぐり「2010年、民主党政権では一律1万3000円の子ども手当を所得制限なしで中学生まで支給することを決めた。しかし、自民党からは『愚か者めが、くだらん選択をした馬鹿者どもを絶対に許しません』などと、ヤジが飛ばされた。10年たって自民党が変わったと言うが、反省と総括がなければ信じられない」と指摘しました。
これに対し岸田総理大臣は「子ども手当をめぐり、大変激しいやり取りが行われたのはそのとおりだ。議論は大事だったと思うが、議論を行う際の態度、発言などにおいて、節度を超えていたのではないかという指摘については謙虚に受け止め、反省すべきものは反省しなければならないと思う」と述べました。
また、岸田総理大臣は少子化対策に関連し「若い人の賃金を上げ、住宅の充実を図る取り組みは、希望する人が結婚し、子どもを持つという希望をかなえられるうえで大変重要な要素だ。思い切ったさらなる支援が必要だという認識を持ち、広い意味での子ども・子育て政策の1つとして住宅ということも考えていくことは重要な視点だ」と述べました。
加藤厚生労働大臣は、自営業者などが任意で加入する国民年金基金の支部長の多くを、厚生労働省や厚生労働省が所管する日本年金機構のOBが占めていることについて「事実上の天下りだ」と指摘され「全国国民年金基金において、募集要項の30年という勤務期間要件や年金に関する業務経験が必須であるかのように見受けられる記載内容を見直すなどの取り組みを行っていくと承知している」と述べました。
また、岸田総理大臣は「天下りについては、適材適所で人材を活用する観点などから、絶えずありようについて見直していかなければいけない。内閣としても具体的なそれぞれの所管の団体のありようについて、いま一度点検をし、確認をしていきたい」と述べました。
首相 長男秘書官の土産購入「本来業務に含まれうる」
立憲民主党の後藤祐一氏は、岸田総理大臣の欧米歴訪に同行した長男の翔太郎秘書官が公用車で土産などを購入していたことについて「各大臣は記者会見で『総理からお土産をもらった』と答え、2人の大臣は、中身について『プライベートなことなので控える』と答えた。プライベートのお土産を買うことは公務なのか。公私混同ではないか」とただしました。
これに対し岸田総理大臣は「私自身のポケットマネーで買ったということは間違いない。お土産を買うということについても、誰がやるかということを考えた場合に、政務秘書官が対応するというのは現実ある。これも政務秘書官の本来業務に含まれうると考えており、すなわち公務だ」と述べました。
●「子ども手当」採決時の自民党議員「愚か者めが」ヤジに「反省すべきは反省」 1/31
岸田総理は、2010年に当時の民主党政権が創設した、「子ども手当」に関する法律の参議院厚生労働委員会での採決時に自民党議員が「愚か者めが」などのヤジを飛ばした件について、「議論を行う際の態度、発言等において、節度を超えていたのではないか。こういった御指摘については、謙虚に受け止め、反省すべきものは反省しなければならない」と述べました。
衆議院予算委員会で立憲民主党の長妻昭衆院議員の質問に答えました。
旧民主党政権は、中学生以下の子どもを持つ世帯に1人あたり月額1万3000円を支給する「子ども手当」の創設を主張しましたが、当時野党の自民党は「所得制限がなく、ばらまきにつながる」などとして強く反発していました。
その後、「子ども手当」は「児童手当」へと姿を変えましたが、岸田総理は、「児童手当が最後に見直されてから10年経つが、その間、少子化をめぐる社会経済の環境は随分と変化をしている」「より経済的支援を重視してもらいたいという声が強まっている」などと答弁し、手当の対象や支給額の拡充を検討していく考えを示しました。
●「児童手当」所得制限“撤廃”過去の自民主張との整合性を追及 野党側 1/31
衆議院の予算委員会で31日、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」について野党側が追及しています。
自民党が検討している「児童手当」の所得制限の撤廃について、立憲民主党の長妻政調会長は、過去の自民党の主張との整合性を追及しました。
立憲民主党の長妻政調会長は、2010年の国会で、当時の民主党政権が所得制限の撤廃を盛り込んだ「子ども手当法案」に自民党が強く反対していたことを取り上げました。
当時は法案採決の際、自民党議員が「愚か者めが」などとヤジを飛ばしてまで反対したのに、なぜ今になって所得制限を撤廃しようとするのか岸田首相を問いただしました。
長妻政調会長「自民党から採決の時もそうなんですけれども、罵詈雑言といいますか、相当な批判があって『バラまきだ』『やれ、この所得制限をかけろ』総理、一言反省の弁を述べていただきたい」
岸田首相「その行動を節度あるものであったかどうかということについては、我々改めて振り返らなければならないと思います」
長妻政調会長「反省はないんでしょうか」
岸田首相「謙虚に受け止め、反省すべきものは反省しなければならないと思います」
野党側は今後も、過去との整合性について追及していく方針です。
●育休中の“学び直し”「後押し」から「本人希望すれば」…岸田首相の発言変更 1/31
岸田首相が27日、国会で、育児休業中の学び直し、いわゆる「リスキリング」について問われ「育児中でも後押しする」と答弁したことに批判が集中しています。ネット上では「育休中に学び直しなんてできない」「育休は休暇じゃなく、24時間働いているのにどうやって学び直すんだ」など批判が――。
30日に行われた衆議院予算委員会で首相は釈明に追われ「本人が希望すれば環境整備を強化していく」などと説明しました。そもそも、岸田首相は最初にどのような答弁をし、どのように釈明したのでしょうか。育休中の「リスキリング」をめぐる首相の国会答弁を全文公開します。
育児中の学び直しを「後押し」
きっかけは、27日(金)の参議院本会議での自民党の大家敏志議員の質問でした。大家議員は「産休・育休中の親にリスキリング支援を行う企業に国が一定の支援を行う」などの政策を提案。それを受け、首相はこう答弁しています。
岸田首相 「子育て世代に対するリスキリング支援と女性の就労の壁を取り除く取り組みについてお尋ねがありました。政府としては、人への投資の支援パッケージを5年で1兆円に拡大し、リスキリングへの支援を抜本的に強化していく中で、育児中など、様々な状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししてまいります。」
首相が釈明「本人が希望したならば」
岸田首相のこの発言に対しては、子育て世代の当事者を中心に「育休は休暇でなく、24時間子育てに追われているのにいつ学び直すのか」などと批判が相次ぎました。
これを受け、翌週の30日(月)午前の衆議院予算委員会で、首相は自民党の鈴木貴子議員の質問にこう答弁しました。
岸田首相「リスキリングに関する(参議院)本会議での発言の趣旨ですが、私自身も3人の子供の親です。子育てというものが、経済的、時間的、さらには精神的に大変だということは目の当たりにしましたし、経験もいたしました。そうした中で、産後育休時の大切さ、例えば私自身、政調会長のときには、産後8週間以内に取得できる、産後パパ育休など育休制度の拡充に取り組み、そして今、次元の異なる少子化対策に取り組んでいます。本会議の発言で申し上げたのは、リスキリングに関してライフステージのあらゆる場面において、学び直しに取り組もうとする際に『本人が希望した場合』にはしっかりと後押しできる、そうした環境整備を強化していくことが大事であると。あらゆるステージにおいて『本人が希望したならば』、そうしたリスキリングに取り組める環境整備を強化していくことが重要だという趣旨で申し上げたわけでありません。」
「今後は誤解のないように発信を」
この問題に対する質問はやみません。午後の予算委員会でも、立憲民主党の山井和則議員から「認識がずれているのでは」と厳しい質問がありました。それに対する首相の答弁です。
岸田首相「私自身、3人の子供を持つ親であり、まず子育て自体が経済的にも精神的にも、また時間的にも大きな負担があるということは経験しておりますし目の当たりにしているところです。そしてその中でも産後、そして育休時の大変さを認識しているからこそ、私自身政調会長時代に育休制度の拡充に取り組んだことでもありました。ぜひ答弁、いま1度よく確認していただきたいと思いますが、私の答弁の部分はリスキリングに関して、ライフステージのあらゆる場面において、学び直しを取り組もうとする際に『本人が希望した場合』にはしっかり応援できる後押しできる、こうした環境整備を強化していくことが重要だということを申し上げました。ご指摘の点はしっかりと受け止めなければいけません。ただ育休・産後ですね、決して甘く見るという趣旨ではないということはご理解いただきたいと思います。ご指摘は謙虚に受け止め、今後、発言については、より丁寧に、誤解のないように発信をしていきたいと考えます。」
立憲民主党・山井議員「この質問自体が産休中・育休中のリスキリングの後押しということですから、全ての年代にという話とは違うと思うので確認します。やはり育休中の学び直しは事実上困難だと、そういう認識でよろしいですか。」
岸田首相「今、申し上げたように、産後産休の状況の中で、さらに様々な取り組みを行うということは、大変難しい状況にある、大変な負担であるということは十分認識しております。いずれにせよ申し上げたのは、本人が希望した場合にはしっかり後押しできる環境は大事だと、あらゆるこのライフステージにおいてそういった考え方をしっかりと徹底していきたい、こういったことを申し上げた次第であります。」
産休・育休中の“学び直し”…首相「大変難しい、大変な負担」
育休中の「学びなおし」について首相は「3人の子どもの子育てで、経済的・時間的・精神的に大変だということは目の当たりにした」と述べた上で「大変難しい、負担だ」と強調しました。
その上で「『本人が希望した場合』にはしっかり応援できる、後押しできる環境整備を強化していくことが重要」と説明しました。
なぜ27日時点では、「言葉足らず」の答弁になったのか。ある首相周辺は「学び直しの機会を求めている人を後押しするというだけで、育休中に資格を取れ、ということを意味しているわけではなかった」と説明。別の政府関係者も「用意した答弁が稚拙だった。育休の改革に取り組んでいるので、しっかり総理には誤解ないように説明してほしい」などと指摘しています。
岸田政権は「異次元の少子化対策」に取り組むと表明しています。今後も誤解を招かないような説明が求められます。  
●国会の論戦 質問に正面から答えよ 1/31
大きな政策転換に対し、広く国民の理解を得ようとする姿勢が感じられない。
先週開会した国会は、岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党代表質問が衆参院で終わり、予算委員会に舞台を移した。
防衛費の急拡大と反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、それに伴う増税。子育て支援と財源。原発の推進。国の進路を左右する重大な論点が浮かび上がっているが、岸田氏の答弁はあいまいさが目立つ。質問に正面から向き合い、誠実に応えるべきだ。
昨年末に閣議決定した国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定について、岸田氏は「進め方に問題があったとは考えていない」とし、「極めて現実的なシミュレーションを行い、必要な装備、数量を積み上げてきた」とした。
だが、閣僚同士や自衛隊OBらを集めた内輪の会議を根拠とするのは説得力に乏しい。
相手国のミサイル拠点などを破壊する反撃能力を持つことが、本当に日本の抑止力強化につながるのか。「専守防衛を逸脱しない」「米軍の指揮下で自衛隊が参戦することはない」としたが、その担保はどこにあるのか。あまりに表面的な説明に終始している。
防衛費拡大は法人税や所得税などの増税と、剰余金や積立金など一時的な財源に頼る面が大きい。特に東日本大震災の復興特別所得税を転用する方針には批判が集まった。野党はそろって、増税前の衆院解散・総選挙を求めた。
「倍増ありき」で進んだ防衛費の危うさが浮き彫りになっている。岸田氏は国会論議を踏まえ、増額と増税の規模を一体で再検討するべきではないか。
児童手当の拡充を巡り、与党から所得制限の撤廃を求める声が上がり、岸田氏は検討する考えを示した。では、民主党政権で始まった一律給付の子ども手当はなぜ廃止したのか。効果の検証や財源の議論を尽くす必要があろう。
原発推進への転換は、政府が近く提出する運転期間の延長に関わる改正法案も含め、野党はもっと問題点に切り込んでほしい。
共同通信が週末に行った世論調査では、岸田政権の支持率は3割余りと低迷が続く。
国会より閣議決定や対米「公約」を優先する岸田氏の姿勢に加え、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党や細田博之衆院議長の関係解明が手つかずであることが大きく影響しているとみられる。岸田氏の猛省を求めたい。
●サイバー安全保障で準備室新設「喫緊の課題」 官房長官会見 1/31
松野官房長官は31日午後、「サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させることは喫緊の課題」として、きょう、サイバー安全保障体制準備室を設置したと述べました。
松野官房長官「冒頭発言はございません。」
――外遊時の土産の購入関係で伺います。先日の総理の外遊中、翔太郎秘書官が公用車を使って総理のお土産を購入したことを巡り、国民民主党の玉木代表は会見で、「首相や閣僚が外遊時に関係者に土産を購入する慣習そのものをやめるべきだ」と主張しました。そういった慣習はあるのか?またその必要性についての見解をお願いします。
松野官房長官「総理、閣僚や国会議員の外国訪問時に限らず、出張や旅行の機会に関係者に土産を購入することは儀礼上、一般的に行われているものと承知しています。それぞれの方々のお気持ちの問題であり、個々人が判断すべきものと考えます。」
――関連。旧民主党政権時代の2009年に当時の鳩山首相が日米首脳会談などで訪米した際、土産を購入して同僚議員に配っていたことを土産を受け取った議員がブログで紹介していました。当時、誰が首相の土産を購入し、その際に公用車を使ったのかどうか記録は残ってるのでしょうか。残っているとすれば実態はどうだったのかお聞きします。
松野官房長官「ご指摘のようなブログの投稿記事があることは承知していますが、お尋ねの記録の有無と、詳細については外務省にお尋ねをいただきたいと思います。」
――関連、本日の閣議後会見で、土産物についてプライベートに関わることなのでと明らかにしませんでした。プライベートの土産購入に公用車を使用することのぜひについて政府の見解を伺います。先ほどの質問と絡むが今回を受けて、慣習を見直す考えはないんでしょうか。
松野官房長官「外国訪問中の政務秘書官の役割は、多岐にわたりまた、その範囲は他の事務所間との業務調整度合い等に応じ個別のケースによりまちまちでありますが、政治家としての総理の土産物等の購入も政務秘書官の本来業務に含まれうると考えています。総理の外国訪問に際しては総理秘書官を含む随員全員について、各々の業務が円滑に遂行できるようまた不測の事態等にも適切に対処できるよう必要に応じて官用車を配車することとしていると承知しており、政務秘書官が必要な業務遂行目的で官用車を使用することは問題がないと考えています。」
――政府のサイバー体制強化について伺います。政府は本日内閣官房サイバー安全保障体制整備準備室を設置しました。サイバー体制強化は国家安保戦略にも明記されていますが、準備室を設置した狙いについて伺います。今後、能動的なサイバー防御可能とする制度設計を進めると思いますが、いつまでに体制や法制度を整える考えでしょうか。また準備室のトップを誰が担うのかについても決まっていればあわせて教えてください。
松野官房長官「政府としては、国家安全保障戦略を踏まえ、サイバー安全保障分野での対応能力の向上のため、内閣サイバーセキュリティセンターの発展的改組とサイバー安全保障分野の政策を一元的に総合調整する新たな組織の設置およびサイバー安全保障分野における新たな取り組みの実現のための法制度の整備等の体制整備を行うこととしています。こうした検討を着実に行うため、本日付で、内閣官房に小柳内閣審議官を室長とするサイバー安全保障体制整備準備室を設置しました。近年のサイバー空間における厳しい情勢を踏まえ、我が国のサイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させることは喫緊の課題であり、サイバー安全保障分野における情報収集、分析能力の強化や、能動的サイバー防御の実施のための体制整備等についてしっかりと検討を進めてまいりたいと考えております。」
――広域強盗事件に関連して伺います。フィリピンの司法省は6つの携帯電話を所持していた者がいるなど、国内の収容施設内で犯罪が行われていた可能性を指摘した上で、2人の身柄を週内に日本に引き渡すことが可能だとしました。受け止めと日本政府の今後の対応をお聞きします。
松野官房長官「お尋ねについては捜査中の事案に関わる事柄であり、お答えは差し控えさせていただきます。いずれにせよ、警察において、事件の全容解明に向け、フィリピン側と必要な連携を行っていくものと承知しています。」
――電気料金対策について。国会質疑では与野党か電気料金の更なる負担軽減を求める声が相次いでいます。総理は必要な対応なら躊躇なくというふうに答弁されていますが、追加的な負担軽減策について政府の検討状況を伺います。
松野官房長官「先週、東京電力と北海道電力が規制料金の値上げ認可申請を行い、7社が値上げ認可申請中となりました。値上げ幅も電力会社によって差はありますが、3、4割の値上げ申請となっている中で、ご心配の声をお聞きしています。他方で12月に成立した補正予算で措置した電気料金の激変緩和策による値引きが、2月に請求される電気料金から開始します。まずは電気料金の約2割に相当するこの支援をしっかりと国民の皆様にお届けできるよう取り組んでまいります。その上で今後については総理から発言があった通り、必要に応じて適切に対応してまいります。」
●「FRBの一定利上げ、継続見込み」モルヒネが切れた米国経済… 1/31
2022年の日本の相場はFRBに翻弄された。それでは2023年はどうなるのだろうか。国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は「一定の利上げは継続する見込み」と語る一方、「FRBが利上げペースを維持 or 鈍化しても、結果はハードランディングになる」と分析する。みんかぶプレミアム特集「投資で爆速3000万&魅惑の銘柄28」の第4回では、世界経済を左右するFRBとバイデン政権の行方を語る――。
米国経済はハードランディング待ったなし
インフレ動向に関わる主要な経済指標が落ち着きを取り戻してきたこともあり、米連邦準備理事会(FRB)の過激な利上げ路線が一段落つきそうな情勢となりつつある。ただし、依然としてFRBは一定の利上げは継続する見込みであり、米国経済にとって利上げの影響は、今後も深刻な足枷(あしかせ)となり続けるだろう。
ただし、現在、米国の経済見通しに関する統一的な見解はない。発表される経済指標についても、好材料と悪材料が入り交じっており、米国の経済展望は極めて不透明な状況なる。そのため楽観論ではなく、悲観論に立って今後の情勢を判断することは、必ずしも間違っていないだろう。
筆者は、FRBが利上げペースを維持 or 鈍化しても、その結果はハードランディングになるものと考える。なぜなら、現在の米国の政治環境は、直近に迫っている景気悪化に対して、適切な対応ができるガバナンスが機能していないからだ。
アメリカ「巨額の財政支出」のモルヒネが切れた
米国経済がコロナ禍であったにもかかわらず、底堅い強さを見せてきた理由は2つある。それはトランプ減税及び規制改革の効果が発揮されていたこと、そしてバイデン政権で積極的な財政支出が行われたことだ。これらがインフレを引き起こす要因の一つともなったが、米国経済を支える役割を果たしてきたことも疑い得ないことだ。
しかしバイデン政権は、トランプ減税に対してナーバスであり、政権発足直後に規制改革を完全に反故にしてしまった。税制や規制改革に関する政策は、数年後になってようやく効果が出始めるものだ。つまり、バイデン政権のアンチビジネスの政策姿勢のツケの支払いは、これから始まることになる。さらに、それに気が付いたバイデン政権が政策の方向を修正しようとしても、民主党内の最大勢力となった過激な左派がそれを許さないだろう。民主党内のアンチビジネスの色彩は日増しに強くなっている。
また、政権発足当初から繰り返されてきた、巨額の財政支出による経済的なモルヒネの効果も薄らぎつつある。たしかに、インフラ投資は継続的に米国経済を下支えすることになるだろうが、今後、景気後退期においては、更なる追加の経済刺激策が求められることは必然だ。ただし、その際、昨年の中間選挙で下院多数を奪った共和党は、バイデン政権の財政支出に対して No を突きつけることになるだろう。唯一、共和党がのめる景気刺激策&政府支出増加は、減税&軍拡であるが、それに対してバイデン政権及び民主党左派が、共和党予算案に従って諸手を挙げて Yes と言えるはずがない。
景気刺激策の発動など、ほぼ不可能
さらに、2023年の最大の難関として、第3四半期には「債務上限引き上げ」問題が発生する。現在、連邦下院共和党で影響力を拡大している保守強硬派は、原理主義的な財政均衡派であり、バイデン政権の拡張的財政政策は全てブロックされることになる。政権にとっては極めて厳しい議会交渉を強いられるため、景気後退に対する景気刺激策の発動など、ほぼ不可能と言ってよいだろう。
したがって、FRBが利上げを継続 or 鈍化するどちらのケースであったとしても、景気後退のシグナルが発されることは間違いなく、それにもかかわらずバイデン政権は連邦議会との兼ね合いから有効な対応策を取ることができないのだ。
バイデン大統領が単独で米国経済を下支えるために実行できることは、外交政策であるが、景気動向を左右するロシア、イラン、中国との関係改善は容易ではない。
●自民 萩生田氏 “国債償還延長 市場の信認毀損も”指摘に疑問  1/31
防衛費増額の財源を確保するため、国債の償還期間を延長する案について、自民党の萩生田政務調査会長は「市場の信認を損ねかねない」という政府側の指摘に疑問を呈しました。
防衛費増額の財源をめぐって、自民党の萩生田政務調査会長などが、国債の償還期間を延長して確保する案も検討するとしているのに対し、政府側は「財政に対する市場の信認を損ねかねない」などと指摘しています。
萩生田氏は、31日午後出演した動画配信サイト「ニコニコ生放送」で「日本の国債は半分以上を日銀が持っているので、『市場の信認』ということばはあまり必要ない。安倍政権時代に消費増税を先延ばしした際、財務省が『信認を失い、金利が上がる』などと言っていたが、そうはなっていない。今後、外部の意見も聞いて方向性を見つけたい」と述べました。
また、萩生田氏は、自身が所属する安倍派の体制について「派閥の会長席をいつまでも空席にしておくわけにいかないので、ことし7月の安倍氏の一周忌くらいまでをめどに収れんしてリーダーを立て、皆で足らざるところを支え合う体制でやっていきたい。私で役に立つことがあると言ってくれるのであれば、どういう立場でも頑張るつもりでいる」と述べました。
 
 

 

●米、コロナ非常事態を解除へ 無料のワクチン接種が130ドルに? 2/1
バイデン米政権は1月30日、新型コロナウイルスの感染拡大に対処するために出している公衆衛生上の緊急事態宣言と国家非常事態宣言を5月11日で解除する予定だと発表した。今は無料で受けられるワクチンや検査などに費用が発生するケースが増え、特に医療保険に入っていない人には大きな影響が出そうだ。
ホワイトハウスは1月30日の声明で、3〜4月に二つの宣言の期間を延長するものの、いずれも5月11日までとし、それ以降は延長しない方針を示した。米国で感染者が確認されてから3年がたち、社会の正常化が進んでいると判断した。
トランプ前政権は2020年1月、公衆衛生上の緊急事態宣言を出してワクチンや検査などを連邦政府の資金で確保できるようにし、同3月には国家非常事態宣言を出して政府予算を地方のコロナ対策に使いやすくした。21年にバイデン大統領が就任した後も宣言の延長を繰り返してきた。
これまで連邦政府はワクチンや治療薬などを一括で買い上げ、各地に配ってきた。約8割の米国人がワクチンを少なくとも1回接種している。
これに対し、多額の財政支出を懸念する野党共和党は、宣言をすぐに解除するための法案を提出していた。ホワイトハウスは「突然解除されると医療現場などに混乱が生じる」として、前もって解除の方針を決めた理由を説明した。
医療情報などを提供する非営利組織カイザー・ファミリー財団によると、ワクチンや検査キット、治療薬は現在、医療保険がない人でも無料だが、今後は自己負担になるケースが出てくるとみられる。
医療保険の種類によって異なる点は多いが、医療保険があれば多くは保険でまかなわれることになる。AP通信によると、政府による購入が終了した後、ファイザー社は自社のワクチン接種は1回当たり130ドル(約1万7千円)になるとしている。
●児童手当「所得制限撤廃」はベーシックインカムへの大きな一歩 2/1
自民党が、児童手当の所得制限撤廃へ方針転換しようとしているのは大いに歓迎すべきことだ。所得制限がなぜダメなのかを説明するとともに、この一件が「ベーシックインカム」の実現に向かう道への扉を一つ開く重要な転換点となり得る理由を説明したい。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
茂木幹事長「反省する」発言の 大きな意義
自由民主党の茂木敏充幹事長は、1月29日にNHK番組「日曜討論」で、岸田文雄首相が進めようとする「異次元の少子化対策」に関連して、児童手当に付されている所得制限を撤廃する方向で党内をまとめるとの意見を披露した。
自民党には、かつて旧民主党政権が所得制限のない「子ども手当」を創設した際、これをバラマキと批判して所得制限付きの児童手当を復活させた経緯がある。番組でこの点との整合性を立憲民主党の岡田克也幹事長に問われると、茂木氏は「反省する。必要な政策の見直しはちゅうちょなく行う」と答えた。
政治家の公の発言で「反省する」は珍しいが、これが国民に好感を持たれるとすると、茂木氏は巧まずして新しい有望な答弁のパターンを開発したことになるのかもしれない。
ただ、現行の児童手当が所得制限付きであることからも分かるとおり、自民党内には「所得制限付き」を支持する声もあり、党内のとりまとめはこれからだ。ただし、政策論として児童手当のような給付金に対しては、「所得制限」を付けないことのメリットは圧倒的だ。コンサルティング会社の出身で「頭のいい」との定評がある茂木氏のことだ。「厳しい財政状況がうんぬん…」といった官僚のレクチャーを聞きかじった程度の意見を軽く蹴散らして、党内を取りまとめてくれるのではないか。
今年の統一地方選挙に向かって、「野党との争点を曖昧にすることができれば、自民党に不測の追加的スキャンダル以外の負け目は考えにくい」という選挙情勢上の追い風もある。
過去の経緯はともかくとして、「所得制限なし」の給付金の考え方は正しい。今回の児童手当の問題を機に、政策の背景にある「考え方」が一歩前に進むのだとすると画期的だ。この考え方はぜひ大切にしたい。
なお、討論のツッコミ役となった岡田氏は、政策の財源について防衛費や社会保障費など他の財源に関しても一体で議論をすべきで、「個別に財源を議論するのは『非常に問題』」と指摘したが、この指摘も重要だ。この点が修正されるとすると、これも同様に画期的だ。
「所得制限」「個別財源」など、日本の財政の問題点が集中的に表れた番組だった。
所得制限はなぜダメなのか なぜ「所得制限なし」がいいのか
所得制限がなぜダメなのか、つまり「所得制限なし」がなぜいいのか。
まず、所得制限は、制限所得付近の所得の対象に対して「行動選択のゆがみ」をもたらす。「少し稼ぎを減らして、給付金をもらう方が得だ」という状況は健全でない。これは、社会保険や扶養所得控除などを巡るいわゆる「壁」の存在にも言える問題だ。諸制度を横断して、そろそろ根本的な解決を図る方がいい。
また、そもそも所得制限が、個々の家族の経済状態や成員の健康状態などの諸々の事実を捨象して所得だけで制限を行う点で、公平性に問題がある。
公平性に関しては、税金と社会保険料を適切に設計することで調整が可能だ。かつてあったような「お金持ちの子どもにも子ども手当を払うのはおかしい」という批判には、お金持ちから子ども手当分以上の税金を取っていること、あるいは必要があれば追加的に取ることを説明するといい。一律に給付する給付金の公平性は、税(社会保険料も広義の税だ)の負担との「差し引き」で考えたらいいのだ。この点が分かると、次の論点の価値がクリアになる。
まず、所得制限を付けて給付金を支払うことにすると、個々の家計の所得のチェック等に手間が掛かる。行政にあって手間とは同時にコストでもある。また、この判断のプロセスを持つことで、自治体などが余計な権限を握ることがある(生活保護を巡る「水際対策」のような事態は避けるべきだ)。
加えて、「一律に支払って、公平と思われる形で税金を取る」という運用なら、個人のデータ管理が効率的ではないわが国のようなDX(デジタルトランスフォーメーション)後進国でも、公平な富の再分配を行うことが可能だ。
では、その仕組みはどの程度公平なのか? 税制が公平であると判断される程度に準じて公平だというのが答えだ。財務省も文句はあるまい。
ちなみに、仮に財務省の中にひたすら増税を実現したいと思う人物がいたとしよう。彼・彼女にとって、所得制限なしで一律に給付金を支払って、後に財源を手当てする形は、増税を「所得の再分配」の文脈で訴えることができるので単なる増税のごり押しよりも好印象なはずだ。もちろん、それ自体が再分配政策として適切に機能し、評価される可能性もある。
一定額の現金を 一律給付するメリット
ちなみに、児童手当と呼ぶにせよ、子ども手当と呼ぶにせよ、毎月単位の継続的で一定額の現金給付には次のようなメリットがある。
まず、使途が自由だ。同額の支援を受けられるなら、「教育費」などと使途が限定されるよりも、食費にも娯楽費にも使える方がいい(経済学的には効用が高い)。
また、「毎月幾ら」という継続的な定額給付が見込めるなら、家計にとって生活設計がしやすい。コロナで配った10万円の一時金の給付は、先の収入の見通しが立たないので貯蓄に回りやすい。
加えて、一律に定額給付されるなら、生活保護の申請のような「恥」の感覚を伴わない点も優れている。低所得者を努力不足だと見下すような価値観が世間に漂わない点でも、所得制限なしで、一定額が一律に給付される仕組みはいい。
「財源」は概ねある 財源論の罠にはまるな
さらに付け加えると、現金給付型の政策の場合、同額の課税を追加的に行うとした場合に、財源となる負担能力は社会全体にあるはずだ。社会全体として「財源がない」という話にはならない。それだけの現金を追加的に配っているのだから、マクロ的に財源はある。
ただ、再分配の大きさが適切かという問題はあるし、支給額を無限に大きくすると、その過程でひどいインフレが起こるだろう。
児童手当のような形で現金を一律に給付する政策はさまざまに考えられていいし、それらを統合した先にはベーシックインカムがある。ベーシックインカムとそのための追加的負担として時々の社会に可能な、いわば実力相応の上限額はあり得る。
ザックリ計算して、日本国民一人に一月1万円の現金を配ると年間15兆円のお金が動く。一人7万円のベーシックインカムを税金で賄うならなら105兆円の給付と税収が追加的に生じるが、この程度なら十分に可能だろう。
例えば、同じように7万円もらって、10万円追加的に課税される人と、4万円しか追加課税されない人とがいたら、前者から後者に3万円再分配されたという計算になる。
しかし、一人に毎月20万円となると、給付と追加的税金の額は共に300兆円となって、これはたぶん現実的ではない。
なお、冒頭に討論番組のやりとりとして紹介したが、立憲民主党の岡田氏が指摘する、支出と財源を一対一対応で議論することも大きな問題だ。報道に見られる多くの「財源論」がこの罠にはまっている。財務的管理としてバカげた非効率性である。
また、「財源」なるものは、時々のマクロ経済環境で適切なものの選択が変わることにも注意が必要だ。例えば、「年間○兆円の支出が追加的に必要だが、今はインフレ率の期待値が低いので国債でファイナンスすることが適切だ。一方、インフレ率が継続的に2%を上回る見通しになれば、(例えば)所得税と固定資産税を必要額だけ増税する…」といった形で、個別政策の財源に関して議論したらいい。
「どのような基準で、いつから、いつまで?」という条件を抜きに、財源を国債にするか、特定の税金にするかを論じるのは不適切だ。
長期的な目標は 「ベーシックインカム」
今回、児童手当の議論で明らかになったように、「一律給付と公平な追加的税負担」の組み合わせは、再分配政策として合理的かつ効率的だ。範囲を広げていくと、そう非現実的ではない程度の先に、広範なベーシックインカムがあるはずだ。
ベーシックインカムは、給付したお金の使い道を個々の国民に委ねるので、単純に財政支出額の点では「大きな政府」だ。しかし、政府が資源配分を差配するスケールから見ると必ずしも「大きな政府」ではない。むしろ財政支出の中のベーシックインカム比率を上げていくと、実質的には「小さな政府」が実現する。
すなわち、セーフティーネットは大きいけれども、政府が使い道を決めるお金のサイズは小さい。標語にするなら、「大きな安心、小さな政府」か(昨今では「小さな政府」が魅力的に響かないのかもしれないが)。
自分たちが稼いだお金の使い道を自分で決めたい人と、政府のような「お上」に決めてほしい人と、国民には大きな個人差があるかもしれない。ただ、前者のように思う人が多いなら、政府のベーシックインカム化を進めていくことには大いに合理性があろう。
自民党の茂木幹事長が進めてくれるかもしれない児童手当の所得制限廃止の議論は、その中身が広く正しく理解されるなら、ベーシックインカムの実現に向かう道への扉を一つ開く重要テーマだ。政治家が、過去を「反省する」とまで口にしたのだ。ぜひスッキリと進めてもらいたい。大いに期待している。
●日本の「貿易収支」が大幅な赤字に 赤字の原因は? 経済への影響は?  2/1
日本の「貿易赤字」が拡大し、ニュースになっています。財務省が発表した2022年の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた1年間の貿易収支は、およそ20兆円の赤字になりました。赤字額は前年より18兆円あまりも増えていますから、異常事態といっていいでしょう。なぜこのような状況を招いたのか、経済や暮らしにはどんな影響が考えられるのか、解説します。
「過去最大」の赤字額
国際収支とは、ある国の一定期間におけるあらゆる対外経済取引についての経済指標を「国際収支」といい、「貿易収支」は、この国際収支の一部を構成します。国際収支の説明から始めましょう。それは、次の3つに大別されます。
[1] 経常収支:海外とのモノやサービスの取引、投資収益のやり取りなどの経済取引で生じた収支
[2] 資本移転等収支:生産資産(モノ・サービス)、金融資産以外の取引や資本移転で生じた収支
[3] 金融収支・・・対外金融資産・負債の増減に関する取引で生じた収支
さらに、[1] の経常収支には次のような項目があり、貿易収支はその1つです。
貿易・サービス収支:貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す。
•貿易収支:財貨(モノ)の輸出入の収支を示す。国内居住者と外国人(非居住者)との間のモノ(財貨)の取引(輸出入)を計上する。
•サービス収支:サービス取引の収支を示す。
〈サービス収支の主な項目〉
輸送:国際貨物、旅客運賃の受取・支払
旅行:訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
金融:証券売買等に係る手数料等の受取・支払
知的財産権等使用料:特許権、著作権等の使用料の受取・支払
第一次所得収支:対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す。
〈第一次所得収支の主な項目〉
直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払
第二次所得収支:居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を示す。官民の無償資金協力(例えばODA=政府開発援助)、寄付、贈与の受払等を計上する。
貿易収支の状況は、国の経常収支、国際収支に少なからぬ影響を及ぼすことになります。
   輸出入とも過去最高だったが
22年は、この貿易収支が19兆9,713億円の赤字を計上しました。輸出入とも過去最高だったものの、大幅な輸入超過となったためです。赤字額は、前年の21年より約18兆円増えていて、比較可能な1979年以降で過去最高となりました。
内訳をみると、輸入額は前年比39.2%増の118兆1,573億円で、史上初めて100億円を突破しました。品目別では、原油粗油13兆2,701億円(91.5%増)、液化天然ガス8兆4,493億円(97.5%増)などの伸びが目立ちました。原油価格は、円建てで前年比76.5%上昇し、円建て単価は1キロリットル当たり8万4,728円と過去最高を記録しました。
一方、輸出は、自動車5兆636億円(21.4%増)、鉄鋼4兆7,388億円(24.2%増)などが好調で、前年比18.2%増の98兆1,860億円となりましたが、輸入の増加をカバーすることはできませんでした。
国・地域別では、対米国は6兆5,356億円の黒字、対中国は5兆8,270億円の赤字でした。エネルギー価格の上昇で、対中東は12兆6,450億円の赤字となっています。
貿易赤字をもたらした原因
   資源高と円安
こうした貿易赤字の原因としてメディアで報じられているのが、石油や天然ガスなどのエネルギー資源価格の高騰による輸入額の増加と、為替の円安です。
資源価格は、「新型コロナ後」の世界的な景気回復に伴う需要増に、ウクライナ戦争の影響が重なって、高止まりとなっています。原発の再稼働が思うに任せない状況で、依然として発電の7割程度を火力に依存せざるをえない日本にとっては、非常に厳しい環境といえるでしょう。
22年は、10月に一時1ドル=150円を突破するなど、歴史的ともいえる円安に見舞われました。円が安くなるというのは、円の価値が下がることを意味します。そのため、輸入額も輸出額も「自動的に」増加します。22年の輸出入額が史上最高になったのには、そのことも関係しているわけです。ただ、輸入が輸出を上回る場合には、金額の大きな輸入のほうが、より円安の影響を多く受ける、すなわち赤字額が増幅されることになります。
   日本経済の「弱体化」も一因?
これらに加え、日本経済の構造的な変化を指摘する声もあります。一般的に、為替が円安に振れるというのは、輸出に有利な環境です。海外から見れば、日本のものが安く買えることになるからです。大幅な円安になれば、輸出が急増してもおかしくはないのですが、そうはなっていません。
その原因の1つとして考えられているのが、製造業の海外生産シフトです。かつて日本は、高性能・低価格の工業製品を中心に、「輸出大国」の名をほしいままにしていました。ところが、電気機械などのメーカーが製造コストの安い海外に生産拠点を移した結果、輸出するにも「モノがない」状況になっているのです。
経済への影響は?
   貿易赤字は続くのか
少なくとも、こうした日本の貿易赤字が早期に解消される可能性は低いようです。
輸入額を押し上げているエネルギー価格の動向は、当面、ウクライナ情勢の動向がカギを握っています。西側は武器の支援などを強化しているものの、アメリカの高官(制服組トップ、マーク・ミリー統合参謀本部議長)が「今年(23年)中にロシア軍を追い出すのは困難」と述べるなど、さらに長期化の様相をみせています。
為替の先行きも不透明です。ただ、日銀のゼロ金利政策の修正観測を背景に、円高が進むのではないか、という見方もあります。そうなれば、輸入価格の引き下げにつながり、貿易赤字の幅は縮小に向かうでしょう。ただ、それも、黒字に転換するほどのインパクトは期待できないものと思われます。
   日本にとって悪いシナリオ
貿易収支は、必ずしも黒字になればいいというものではありません。日本には、アメリカなどから「集中豪雨的輸出」を批判され、貿易に関する様々な規制を受け入れざるを得なくなった歴史もあります。赤字についても、輸入が増えれば国内経済などに寄与しますから、それ自体が必ずしも「悪」というわけではないのです。
ただし、大幅な赤字が常態化するようなことになれば、話は別です。冒頭で国際収支の説明をしましたが、21年は、経常収支のうち第一次所得収支が21兆5,883億円の黒字、第二次所得収支が2兆4,973億円の赤字で、所得収支全体では19兆910億円の黒字でした。一方、22年の貿易赤字は20兆円弱でしたから、この黒字を帳消しにする水準です。
22年暦年の所得収支についてはまだ発表されていませんが、貿易赤字の大幅拡大により、国の経常収支が“プラマイゼロ”に近づいているのは確かです。ちなみに、22年10月には、単月で経常収支が赤字となりました(11月には黒字に転換)。
仮に、今後、暦年ベースでの経常収支の赤字が発生した場合、どんなことが起こるのでしょうか? 心配されるのは日本の「信用力」の低下です。赤字になっても、日本は21年3月末で410兆円を超える対外純資産残高がありますから、すぐに大きなリアクションが起きるようなことはないでしょう。ただし、財政で1,000兆円を超える債務を抱える日本が、同時に「経常赤字が普通の国」になると、為替市場での円売りが加速し、一気に円安が進む、といった可能性を否定できません。そうなったら、輸入価格はさらに上昇し、厳しいインフレに苛まれることになります。
エネルギー資源の相場を主体的にコントロールすることは不可能です。国の貿易収支を建て直すためには、生産拠点の国内回帰を促すなど、長期的視点に立った手立てが必要かもしれません。
まとめ
「貿易立国」の看板を掲げていたはずの日本の貿易収支が、大幅な赤字を記録しました。輸入に依存する資源価格の高騰、為替の円安に加えて、製造業の海外生産シフトという日本経済の構造的な問題などが原因とされ、しばらくは赤字基調が続きそうです。国の信用力低下に結びつかないよう、政府には抜本的な対策を望みたいと思います。
●「子育て世帯」は全世帯の2割しかない超少数派…日本の少子化対策 2/1
都知事が打ち出した少子化対策や岸田政権の異次元の少子化対策が話題になっている。それらは本当に効果があるのか。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「少子化の原因の芯を捉えた政策にはなっておらず効果は限定的だ。日本の少子化対策が理想から大きくズレているのには2つの理由がある」という――。
相次いで発表される少子化対策
2023年に入り、少子化対策が注目を集めています。
東京都の小池知事から、都内に住む18歳以下の子ども一人につき、所得制限なしで月5000円を給付すると発表されました。さらに、都内の0〜2歳の第2子の保育料を無償化する方針だと公表されています。
これらの政策は、子育て世帯の経済的負担を緩和するものであり、テレビやネット等で好意的に報道されました。
また、岸田首相も都知事と同日に行われた会見で「異次元の少子化対策」に挑戦していくと発表し、大きなインパクトをもたらしました。
政策内容や公表のタイミングから、小池都知事の非凡な政治手腕を感じさせます。ただ、冷静になって考えると、今回のことで、日本の少子化対策の問題点が浮き彫りになりました。
1 現金支給は効果があるのか
1つ目は、「今回の都知事の政策にどの程度の効果が期待できるのか」という点です。
もし現在の少子化の原因が「夫婦の持つ子どもの数の減少」であるならば、今回の政策の効果は大きいでしょう。
しかし、日本総合研究所の藤波匠上席研究員の分析によれば、日本の出生数の低下を(A)女性人口、(B)婚姻率、(C)有配偶出生率の3つに分解した場合、直近で最も大きな低下要因となっているのは、(A)女性人口であることがわかっています(*1)。
もし出産可能な年齢の女性の数が多ければ、それだけ潜在的に生まれてくる子どもの数も増えるわけですが、今の日本ではその女性の数が少なくなってきているわけです。
また、東京大学の山口慎太郎教授によれば、欧米諸国の過去の政策に関する分析結果を見ると、現金給付による出生率への影響はあるが、その効果は大きくないと指摘されています(*2)。
以上の点を考えると、小池都知事の政策は子育て世帯にはありがたい反面、少子化対策としての効果は限定的だと予想されます。
本気で少子化対策に取り組むのであれば、(A)女性人口、(B)婚姻率、(C)有配偶出生率の3つを刺激する施策が求められることになるでしょう。ただ、これは東京都だけでなく、日本全体で取り組むべき課題です。
2 自治体の少子化対策は格差拡大につながる
2つ目の問題は、「都知事の政策が自治体間の少子化対策の格差を拡大させる呼び水になるのではないか」という点です。
小池都知事の政策は多くのメディアに取り上げられたこともあり、インパクトも大きく、他の自治体も参考にすると予想されます。
ただ、今回の少子化対策は東京都が豊かな財政状況にあるために実施できるものであり、同様の政策を実施できる自治体は限られてくるでしょう。この結果、財政に余裕のある自治体とそうでない自治体との間で、少子化対策の格差がさらに拡大してしまう恐れがあります。
また、お金のある自治体がインパクトのある少子化対策を行い、それが若い夫婦を引きつけ、そこに人が集まってくる可能性があります。これが特定の都市部に人を集めてしまい、自治体間の格差をさらに拡大させる恐れがあります。
人口減少に悩む多くの自治体にとって、これは無視できない問題です。
このような自治体間の格差を改善するには、国による支援策が重要となってきます。しかし、実際のところ国の少子化対策は必ずしも十分とは言えません。多くの人々が求める少子化対策と実際の対策の間にはギャップが存在しています。これが3つ目の問題です。
3 国の少子化対策の理想と現実のギャップ
国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」が示すように、既婚者が子どもを持つことを控える最も大きな理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」です。このため、素直に考えれば、子育て世帯の経済的な負担の軽減が望ましい政策の1つです。
子育ては長期にわたるため、一時的な経済支援ではなく、長期にわたる支援が求められます。この点に関する最適な政策は、義務教育以降の教育費の無償化であり、2020年4月から「私立高校授業料実質無償化」および「高等教育(大学・短大・高等専門学校、専門学校等)の無償化」が実施されています。
しかし、これらの教育費無償化政策には所得制限が設けられており、すべての人々が利用できる制度とはなっていません。高等教育の無償化に関しては、住民税非課税世帯またはそれに準ずる世帯で利用可能となっており、対象は限定的です。
「子どもにかかる教育費がもっと少なければ、もう一人子どもが持てるのに……」と考える夫婦がいることは想像に難くありません。しかし、現在の政策はその望みを叶える形になっていません。
このように、人々が求める政策と実際の政策の間にはギャップがあります。このギャップが生まれる背景には、次の2つの理由があると考えられます。
財源不足と少数派となりつつある子育て世帯
1つ目は、「財源」です。
日本の財政事情は非常に厳しく、国の歳出のうち、税収で5割程度、国債で4割強をまかなっています。借金の比率が高く、新たな政策を実施する際に慎重にならざるを得ません。特に子育て支援策には巨額の財源が必要となるため、「重要性はわかっているけど、できない」という状況にあると予想されます。
また、日本は高齢化の一途を辿っており、来年の2024年には65歳以上の高齢者人口比率が3割を超え、再来年の2025年には団塊の世代の全員が75歳以上の後期高齢者となります。これによって医療・介護の社会保障費のさらなる膨張が見込まれており、日本の財政を悪化させる恐れがあります。
このような状況下で巨額の財源が必要となる思い切った少子化対策を実施するのは難しいでしょう。
2つ目の障害となるのは、「有権者に占める子育て世帯の減少」です。
出生数の持続的な低下を受け、児童のいる世帯割合は低下し続けています。1986年には全世帯の46.2%に子どもがいましたが、2021年には20.7%にまで落ち込んでいます(図表1)。
この数字は、子育て世帯が今では「少数派」になりつつあることを意味します。代わりに、高齢者世帯や未婚世帯の比率が伸び続けています。
この世帯構成の変化は、政策の方向性にも影響を及ぼすと考えられます。多くの政治家は日本のことを懸命に考え、さまざまな政策を検討しているはずですが、政治家として地位を選挙で維持する必要もあります。
このため、どうしても有権者比率の多い層を重視した政策を実施せざるをえないところがあるのではないでしょうか。
今こそ少子化対策を拡充する政治的決断が必要
今回の小池都知事の政策は、日本の少子化対策の3つの課題を炙り出したと言えます。いずれも国としての少子化対策の在り方を問うものです。
現在、少子化が進む背景には、(A)女性人口、(B)婚姻率、(C)有配偶出生率の減少が影響しています。このため、「異次元の少子化対策」で検討されている内容では必ずしも十分ではなく、少なくとも婚姻率の低下にも対処した政策が必要でしょう。
日本の場合、一定の経済的な条件が整わなければ結婚に踏み切らない人が多いため、所得の安定・向上を促す政策を強化する必要があります。このためにも経済成長を促進し、将来にわたって経済的に不安にならない環境を整備することが重要です。これは経済・雇用政策であり、子育て支援策とセットで実施されるべきです。
このような政策を実施するには財源問題が付きまといます。しかし、ここまで少子化が進んでしまった現状を考慮すると、今こそ政治的決断によって少子化対策を拡充すべきではないでしょうか。

(*1)藤波匠(2022)「『子どもをもう1人ほしい』という希望が打ち砕かれている…日本の少子化が加速する根本原因 『若者が結婚しないから』が理由ではない」プレジデントオンライン
(*2)山口慎太郎(2021)「少子化対策のエビデンス」財務総合政策研究所「『人口動態と経済・社会の変化に関する研究会』報告書」第4章
●日銀の大規模金融緩和10年で経済はどう変わった? 「アベノミクス」の成否  2/1
日銀の黒田東彦はるひこ総裁が就任直後から実施してきた大規模な金融緩和は、任期満了の4月で10年になる。金融市場に大量にお金を流し込む異例の政策を長期にわたり行ってきたが、当初日銀が目指した経済の好転はいまだ実現できていない。副作用による市場のひずみも見過ごせないものとなっている。日本経済の10年の変化を、物価、GDP、国債残高、為替の4つのデータで振り返る。
物価 「2%」達成は消費税上げた14年とウクライナ侵攻の22年だけ
2012年12月に前年同月比0.2%の下落となるなど全国消費者物価指数はバブル崩壊後、低迷を続け「慢性デフレ」の様相を呈する中、13年4月に黒田総裁は2年程度で物価上昇率を年平均2%に引き上げるとの目標を掲げ大規模緩和に乗り出した。
しかし、直近10年間で2%を超えたのは、消費税率を引き上げた14年以外では22年だけだった。22年12月の全国消費者物価指数は前年同月比4.0%上昇で、1981年以来41年ぶりの高水準。年平均でも2.3%の上昇で、過去10年の上昇率は10.6%に達した。
ただ、現在の急激な物価上昇はロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰や円安などで高騰した原材料を価格に転嫁していることが主な要因。日銀が目指す賃金の上昇と活発な消費に支えられた「好循環」に伴う物価上昇とはなお遠い状況だ。
GDP 「600兆円」はおろか、1人当たりでは国際順位大きく下げる
日銀の大規模な金融緩和を柱としていた安倍政権の経済政策「アベノミクス」では2020年ごろまでに、名目の国内総生産(GDP)を600兆円に引き上げる目標を掲げていた。だが22年7〜9月期の名目GDPは554兆円(実質で546兆円)と目標には遠く及ばない。
大規模緩和が始まった13年から21年の実質GDPの平均成長率は0.5%。成長率が最も高かったのは13年の2.0%で、急速な円安進行による企業収益の改善が功を奏した。その後、新型コロナウイルス禍の20年にマイナス4.6%となるなど想定外の事態もあったが、全体として伸び悩んだ。
日本はGDP(米ドル換算)の規模で米国、中国に次ぎいまだ世界3位は維持している。だが、1人当たりのGDP(同)では、経済協力開発機構(OECD)加盟の38カ国中、12年の10位から21年に20位と順位を下げている。
経済成長が伸び悩んだのは、GDPの5割超を占める個人消費が伸びなかったことが響いた。背景には年金支給などの将来不安や賃上げの弱さがあり、金融政策のみで成長を実現する難しさが鮮明となった。
日銀の大規模金融緩和 / 2012年12月に発足した第2次安倍政権が掲げた経済政策「アベノミクス」3本の矢のうちの「第1の矢」と位置づけられた。黒田東彦氏が13年3月に日銀総裁に就くと、国債や上場投資信託(ETF)を大量に買い入れ、市場に資金を供給する金融緩和を主導。16年には金融機関が日銀に預ける当座預金へのマイナス金利の導入や長期金利の誘導水準を定める長短金利操作などの枠組みも追加した。
国債残高 23年度末1068兆円の見込み 先進国で最悪の水準続く
政府の借金である国債の残高は、日銀の「異次元緩和」が始まる直前の2012年度末の705兆円から増え続け、21年度末には1.4倍の991兆円に達した。
国債発行の残高が増え続ける一因に、日銀の大量の国債購入によって、国債の金利が低く抑えられ、政府が借金しやすい状況になっていることがある。この状況を示すかのように、債務残高の伸びに比べ、国債の利払い費は7兆強〜8兆円強のほぼ横ばいで推移した。この低金利環境に、20年度以降の新型コロナウイルス対策が重なり、さらに財政規律は緩んでいる。
「コロナ禍から感覚がまひしている。永田町からの圧力がすごい」と財務省幹部。コロナ以外にも、物価高騰対策などの名目で大規模な経済対策はいまや常態化している。日銀が政府の財政を支援する構図の中で、日銀の国債保有額は22年末で564兆円。発行残高の5割超と見込まれる。
財務省は23年度末には国債残高が1068兆円に膨らむと見込む。国と地方を合わせた残高は、日本の経済規模を示す国内総生産(GDP)の2倍を超えており、先進国で最悪の水準が続いている。
為替 22年に各国は利上げ、日銀は緩和継続…大きく円安 
外国為替相場ではこの10年で大きく円安が進んだ。
東京外国為替市場の円相場はリーマン・ショックや東日本大震災などの影響もあり、円高が続いていた2012年12月は月平均で1ドル=83.64円だったが、同年末に「大胆な金融緩和」を公約に掲げた第2次安倍政権が発足。13年3月に就任した黒田総裁が大規模緩和に踏み切ると、円安が進んだ。14〜21年はおおむね100〜120円台で推移した。
流れが変わったのは22年。ロシアのウクライナ侵攻やコロナ禍の収束などを受け世界的に物価が急激に上昇する中、米連邦準備制度理事会(FRB)など各国中央銀行が相次ぎ利上げ。対する日銀は緩和を継続したため、金利が低い円を売ってドルを買う動きが強まり、円安が加速。9月には24年ぶりに政府・日銀が円買い介入に踏み切る事態となった。10月には一時1ドル=150円を突破したが、米国の利上げペースの減速からやや落ち着き、22年12月は月平均で1ドル=134.93円だった。
●防衛費増額による真の代償が「増税」ではない理由  2/1
1月上旬に実施されたJNN世論調査によれば、来年度から5年間の防衛費を43兆円に増額する政府方針については、「賛成」が39%、「反対」が48%であり、防衛費増額の財源として、2027年度には1兆円あまりを増税で確保するという方針については「賛成」が22%、「反対」が71%となった。
有識者「防衛費の財源は増税で確保する」
だが、政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」(以下「有識者会議」)は、その報告書の中で、次のように述べている。
防衛力の抜本的強化に当たっては、自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識を多くの国民に共有していただくことが大切である。そのうえで、将来にわたって継続して安定して取り組む必要がある以上、安定した財源の確保が基本である。これらの観点からは、防衛力の抜本的強化の財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである。
これを、もっと率直な表現で言い換えれば、次のようになる。
1 防衛力の強化に必要な財源を確保するためには、増税が必要である
2 国債の発行による財源確保は、将来の世代に増税という負担をかけるので、今を生きる世代に増税の負担を課すべきである
3 国民全体が自らの国は自ら守るという当事者意識をもち、増税を受け入れるべきである
しかし、世論調査は、国民のおよそ7割がその増税に反対していることを示している。それは、約7割の国民が、自らの国は自ら守るという当事者意識を欠いているということを意味するのだろうか? あるいは、「今を生きる世代」は防衛力の強化の負担を将来世代へと先送りしようとしているのだろうか?
検討してみよう。
有識者たちの「根本的誤解」
まず指摘しなければならないのは、「有識者会議」の論理の大前提となっている「1防衛力の強化に必要な財源を確保するためには、増税が必要である」が間違っているということである。
資本主義における政府は、その支出の財源を確保するために徴税を必要とはしないことは、すでに論じたので参照されたいが、改めて結論をまとめるならば、こうなる。
資本主義においては、政府の需要に対して、中央銀行が貸し出しを行うことで、貨幣が無から創造される。言い換えれば、政府が債務を負い、支出を行うことで、貨幣が供給されるのが、資本主義における国家財政の仕組みである。
要するに、貨幣(財源)を生み出すのは、政府(と中央銀行)である。したがって、政府は、支出にあたって、税収という財源を必要としない。
もちろん、政府は、発行した国債をいずれ償還しなければならず、そのために徴税は必要となる。しかし、税収は、その償還の財源を確保するために必要なのであって、支出の財源を確保するためではないのである。
しかも、政府は、国債の償還の財源を確保するために、新たに国債(借換債)を発行することもできるのであって、必ずしも徴税による必要はない。借換債を発行するか、増税するかは、その時々の経済状況に応じて判断すればよい。
例えば不況時であれば、増税ではなく、借換債の発行を選択すべきである。逆に、景気が過熱して、冷却する必要があるならば、増税によって償還財源を確保すればよい(もっとも、景気が過熱しているときは、税収も自動的に増加しているため、増税が必要ではない場合も多いだろう)。
そもそも、政府が債務を負って支出することで貨幣が民間経済に供給されるのであるから、政府債務は、完済しなければならないようなものではない。民間経済で貨幣が循環するためには、政府債務はむしろ必要である。
このように、資本主義における政府は、貨幣をいくらでも創造できる。政府の支出に資金的な制約はない。よって、政府は、防衛力を強化するにあたって、増税を行う必要はない。政府が債務を負って貨幣を創造し、財源とすればよい。そして、政府債務を増やすことは、将来世代への負担の先送りにはならない。政府債務の償還のために、将来の増税は必要ないからである。
このように、「有識者会議」が前提とする「1防衛力の強化に必要な財源を確保するためには、増税が必要である」という主張は誤りである。
したがって、増税に反対したからといって、「自らの国は自ら守るという当事者意識がない」とか、「将来世代にツケを回している」とかいった非難を受けるいわれはないのである。
防衛力強化が国民に強いる「真の負担」
それでは、防衛力の強化にあたって、今を生きる世代は、何ら負担を共有しないでよいのだろうか? 自らの国は自ら守るという当事者意識など、なくてもよいのだろうか?
答えは、否である。
確かに、政府は、防衛財源を確保するために、増税をする必要はない。資本主義における政府はいくらでも「カネ」を創造できるのだから、「カネ」の制約は受けないのである。しかし、「カネ」の制約は受けなくとも、「ヒト」や「モノ」といった実物資源の制約は受ける。
言うまでもなく、防衛力を強化するために必要な実物資源、例えば自衛隊員などの「ヒト」、あるいは兵器や基地などの「モノ」の供給量には、限界があるからだ。「カネ」は無限だが、「ヒト」と「モノ」は有限なのである。
したがって、政府が債務を増やして貨幣を創造し、それを使って防衛力を強化していくと、いずれ「ヒト」や「モノ」の供給の限界にぶつかる。要するに、防衛需要が過大になって、供給が不足するのである。それは、高インフレという経済現象となって現れる。
例えば、戦時下の国民が高インフレで苦しむのは、軍事需要が供給能力をはるかに上回ってしまうからである。
したがって、われわれ国民は、防衛力の強化が始まったら、増税されなくとも、自動的にインフレという負担を課せられることになる。
もし防衛力を急激に増加させれば、その代償として、国民は高インフレによって生活を圧迫されることになるだろう。しかも、その高インフレという代償を払うのは、「今を生きる世代」である。要するに、国を守るために、今を生きる世代が共有しなければならない真の負担とは、税ではなく、高インフレなのである。
その意味において、「有識者会議」が、防衛力の強化には「自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識」が必要であり、その負担は「今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである」と言ったのは、正しかった。ただ、資本主義における政府の財源についての理解が間違っていたのである。
●財政への信認低下を懸念/国債償還ルール見直し  2/1
自民党は、特命委員会で防衛費増額を賄う財源の議論を始め、焦点に国債償還ルールの見直しが浮上している。だが償還期間の延長やルール廃止は財源につながらず、国債発行による借金が減ることもない。かえって債務償還への規律が緩み、金融市場で財政への信認を低下させる恐れがある。慎重に扱うべきだ。
政府は昨年末、防衛力の抜本強化のため2027年度までの5年間の防衛費を43兆円へ大幅に増やす計画を決定。27年度に必要となる4兆円の追加財源のうち1兆円強を増税で、残りを歳出改革や決算剰余金の活用で賄う枠組みとした。ただ、国債発行による積極財政を主張する自民党内勢力の強い反発などで、増税の実施時期は「24年以降の適切な時期」とするにとどまり、結論を先送りした。
特命委は財源確保策を再検討することで、国民に不人気な増税の回避や圧縮につなげたい思惑とみられる。そこで議論に上っているのが国債の「60年償還ルール」の見直しである。
国債による借金を60年かけて返済する仕組みで、建設国債の発行が始まったのを機に、道路や建物の平均的な耐用年数を参考として1960年代半ばに定められた。
具体的には毎年度、国債残高の約60分の1に当たる金額を一般会計から国債を管理する特別会計へ繰り入れ、特会で新たに国債を発行して得た資金と合わせて、満期国債の償還に充てている。国債残高が1千兆円規模に増大した影響で、一般会計からの繰り入れは2023年度予算案で約16兆7千億円に上る。
特命委では、国債の償還期間を60年から延長して毎年度の繰り入れを減らしたり、繰り入れをやめたりすることの是非が議論される見通しだ。
しかし、いずれも一般会計での国債発行は減るものの、その分、特会での発行が増えるだけだ。防衛費の財源になり得ないのは自明だろう。
積極財政派の中には海外に同様の償還規定がない点を挙げて、ルールの撤廃を求める声がある。だが米欧は、法律や条約で国の債務残高を縛るなど、日本より厳しい財政規律を設けている。
赤字国債は当初、60年ルールの適用外だったが発行・償還増につれて1980年代半ばから対象となり、それが国債発行への抵抗感を希薄にしたと指摘される。
60年ルールは最低限の財政規律であり、むしろ厳格化を求めていいくらいだ。仮に期間を80年へ延ばした場合、公共資産の耐用年数が過ぎ、恩恵を受けられない将来世代にツケを回すことになる点を忘れてはならない。
内閣府による最新の中長期財政試算は、防衛支出の大幅増が日本の財政に重荷としてのしかかる姿を明らかにしている。
財政の健全度を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、高めの成長を仮定しても政府の黒字化目標である2025年度に1兆5千億円の赤字となり、昨年夏の試算から悪化。大きな要因は防衛費増にある。低成長では赤字が慢性化し、国・地方の債務残高が30年度に1300兆円を超えると予測した。長期金利が上昇すればさらに悪化の恐れがある。
わが国の危機的な財政状態を理解するならば、償還ルールの見直しではなく、防衛費を適正水準に収めるなど歳出の規律づけを議論する時だ。
●旧統一教会と地方議員関係調査 首相“統一選までに対応検討”  2/1
岸田総理大臣は衆議院予算委員会で、旧統一教会と自民党の地方議員との関係を調査するよう野党側から求められたのに対し、4月の統一地方選挙までに具体的な対応を検討する考えを示しました。
この中で、立憲民主党の西村代表代行は、旧統一教会と地方議員との関係をめぐり「自治体の議員で旧統一教会との関わりがどのくらいあったのか、われわれは調査を行った。自民党でもしっかりと調査を行うべきではないか」とただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「大事なことは、未来に向かって関係を断つことであり、全国の都道府県連などに通知し、徹底を図っているところだ。どういった形で課題を明らかにし、国民の信頼を取り戻すのか、統一地方選挙を前に具体化するべく努力している」と述べました。
「年収の壁」について
また岸田総理大臣は、一定の年収を超えると配偶者の扶養を外れるいわゆる「年収の壁」について「扶養から外れて被保険者に転換すると社会保険料が生ずるために就労調整を行うことがあるという指摘はそのとおりだ。パートタイム労働者などが本人の希望に応じて収入を増やしていけることが重要であり、いわゆる『壁』の問題への対応のみならず、待遇面の差の改善や、非正規労働者の正規化など、政府として幅広く検討していきたい」と述べました。
少子化対策について
一方、小倉少子化担当大臣は、少子化対策をめぐり「未婚化が低出生率の背景にあり、若い男女の多くが結婚を希望しながら、適当な相手にめぐりあわないことや、資金が足りないなどの理由でかなえられていない状況がある。若い世代の経済的基盤の安定を図るほか、出会いの場の提供、結婚資金や住居に関する支援など希望をかなえるための環境整備に取り組んでいきたい」と述べました。
●岸田家にとって「政治家は家業」…外遊先で“観光三昧”の「翔太郎秘書官」 2/1
《岸田総理は政治家に高額な手土産を配って、国民には恒久な増税を強いる》──ネット上には、こんな痛烈な批判も投稿された。週刊新潮は2月2日号に、「親バカ子バカ! 『岸田総理』あの『長男秘書官』が外遊で観光三昧」の特集記事を掲載した。
岸田文雄首相(65)の長男、翔太郎氏(32)は首相秘書官を務めている。ところが1月9日から行われた首相の欧米5カ国訪問の際、様々な“問題行動”を起こしていたという記事だ。担当記者が言う。
「記事では、公用車でパリやロンドンを観光していたことや、カナダでジャスティン・トルドー首相(51)に記念撮影を申し込み、周囲を呆れさせたことなどを報じました。外務省は1月30日、『観光動機による行動は一切ない』などと反論しました」
翔太郎氏は1991年広島生まれの32歳。地元の名門・修道中学・高校から慶應義塾大学に進み、卒業後は三井物産に就職したエリートだ。6年間勤務した後、2020年に岸田事務所で公設第二秘書となった。
そもそも昨年10月、翔太郎氏が首相秘書官に“抜擢”された時点で、少なからぬ有権者が「身内びいきでは?」と疑問視した。なにしろ、何の実績もないのだ。
親の七光りというイメージが強い首相秘書官が、父親の外遊を利用して脳天気な日々を過ごしていた。有権者の批判が集中するのも当然だ。
週刊新潮の報道について、30日の衆議院予算委員会で立憲民主党の山井和則氏(61)が質問を行った。YAHOO! ニュースのトピックスに転載された関連記事を紹介しよう。
土産物の購入は公務
・岸田総理、翔太郎氏の観光報道に事実関係明言せず 今後は「緊張感持って」(TBS NEWS DIG:1月30日)
・首相、全閣僚に土産購入 「長男秘書官の公務」(共同通信:1月31日)
「山井氏は岸田首相に、翔太郎氏の行動は観光だったのか、事実関係の説明を求めました。しかし首相は『肯定も否定もしないということだと認識をしております』と明言を避けたのです。一方、翔太郎氏がロンドンの老舗百貨店『ハロッズ』を訪れたことなどは、『首相の政治家としての土産購入が目的の一つ』と釈明しました」(同・記者)
ちなみに翌31日の衆議院予算委員会では、土産を「全閣僚に買ったと承知している」と説明、土産を購入することも秘書官の「公務だと思う」との認識を示した。また一部のメディアが土産物はアルマーニのネクタイだとも報じた。
30日の予算委に戻ると、岸田首相は息子の行動について「緊張感を持って行動を考えていかなければならない。改めて徹底させたい」とも発言した。
とはいえ、父親のために土産物を買うという時点で、緊張感は全く感じられない。かつて首相秘書官を経験した人物は、週刊新潮の取材に「自分は現地で業務に追われ、とても観光に行く暇などなかった」と答えている(註)。
岸田家の家業は政治
岸田首相も翔太郎氏も、共に緊張感が欠如していたのだとすれば、《改めて徹底》させても無意味だろう。なぜなら、まずは緊張することから始めなければならないからだ。
山井氏は「大臣へ向けた土産購入ではなく、国民へ向けた仕事をさせるべきだ」と皮肉交じりにアドバイスしたが、同感という有権者は多いに違いない。
「岸田首相や翔太郎さんに緊張感が欠けているのは、岸田家が3代にわたって続く政治家一家ということも大きいのではないでしょうか。政治が家業同然になっており、地元の有権者は黙っていても票を入れてくれます。選挙で落選する心配がないことが、批判に対する感度の鈍さの理由でしょう」(同・記者)
広島県西志和村(現・東広島市志和町)に生まれた岸田正記(1895〜1961)は、岸田首相にとっては祖父にあたる。
正記は京都帝国大学法学部に進み、在学中に高等文官試験(現・国家公務員採用総合職試験)に合格した。筋金入りの秀才という印象だが、官僚の世界には進まなかった。
家業の不動産業を継ぎ、地元の広島でデパート経営に乗り出す。旧満州でもデパートや不動産会社を経営していた。
2年間の浪人生活
そして1928(昭和3)年に衆議院議員選挙に出馬して初当選。以後、6期連続当選を果たした。
「戦時中に海軍政務次官など内閣の要職を歴任したため、戦後は公職追放となりました。サンフランシスコ平和条約が発効され公職追放が解除されると、1952年の総選挙に立候補し当選しましたが、1期で引退しています」(同・記者)
岸田文武(1926〜1992)は戦時中、東京帝国大学法学部に進み、父と同じく在学中に高等文官試験に合格。1949年、商工省(現・経済産業省)に入省し、資源エネルギー庁公益事業部長、貿易局長、中小企業庁長官などを歴任した。
「1979年の総選挙で初当選し、総務政務次官や文部政務次官などを経て、1988年から自民党の経理局長を務めました。入閣を果たしたことは一度もありませんでしたが、いわゆる“縁の下の力持ち”として自民党や政権を支えました」(同・記者)
そして1957年に、岸田首相が生まれた。父親の方針で広島ではなく東京で育てられた。
開成高校を卒業し、東京大学を目指して2年間の浪人生活を経験。最終的には早稲田大学法学部に進んだ。
当選後は苦難の日々!?
早大卒業後は日本長期信用銀行に入行し、1987年に退行。衆議院議員だった父親の秘書となった。
「岸田家の歴史を振り返ると、岸田首相は30代で父親の秘書を務め、同じことを翔太郎さんにもさせていることが分かります。ただ、岸田首相は父親の秘書でしたが、翔太郎さんは特別職国家公務員である公設第二秘書から国家公務員である首相秘書官に“ステップアップ”してしまいました。当然ながら、有権者の見る目は厳しいものになります。それが今回、多くの批判を集めている理由でしょう」(同・記者)
岸田首相が旧広島1区から出馬し、初当選を果たしたのは1993年の総選挙だった。
「同じように翔太郎さんも、いつか父親の後継者として立候補するわけです。何しろ“政治は家業”ですから、難なく当選するのでしょう。しかし、当選したからといってバラ色の議員人生が待ち構えているはずもありません。秘書官の時とは比べものにならないほど有権者は翔太郎さんの行動をチェックするはずです」(同・記者)
現職の衆議院議員で政治家一家の4代目といえば、元環境大臣の小泉進次郎氏(41)がいる。翔太郎氏の未来を占う上で、小泉氏の“政治家人生”は参考になるという。
“雑巾がけ”の日々
「全身に入れ墨を入れていたことで知られる又次郎(1865〜1951)、防衛庁長官を務めた純也(1904〜1969)、首相を務めた純一郎(81)、その地盤を受け継いだ進次郎氏は小泉家としては4代目の国会議員です。当初は“自民党の若きホープ”として高い人気を誇っていましたが、失言などが相次ぎ、かつてほどの勢いはありません。今は国対副委員長で、いわば“雑巾がけからやり直している”状態です」(同・記者)
進次郎氏のケースを見れば明らかなように、有権者の目は厳しい。正直言って、国会議員を目指すのは諦めたほうがいいだろう。
註 : 岸田総理の長男・翔太郎氏が父の外遊先パリ、ロンドンで“観光三昧” 異例の親バカに元首相秘書官は「観光に行く暇などない」と一喝(デイリー新潮:1月31日)
●岸田首相“年収の壁”見直す考え 共働き女性の労働にブレーキ 2/1
衆議院の予算委員会で、岸田首相は、共働きの女性などが働く時間を抑える原因の1つとされる、いわゆる「年収の壁」をめぐり、見直しを図る考えを示した。
与党側の質疑では、世帯の収入アップや子育て支援の拡充といった、暮らしに関わる政策などをめぐって、議論が交わされた。
「年収の壁」とは、パート労働者らの収入が一定の額を超えると配偶者控除を受け取れなくなったり、社会保険料の負担が生じたりするもので、働く時間を抑えてしまう一因と指摘されている。
岸田首相「被扶養者でない単身世帯の方々との間の公平という問題はある。(しかし)どんな対応ができるのか、幅広く対応策を検討していく」
また、少子化対策では、地方自治体との連携を問われ、岸田首相は「自治体の取り組みを横展開し、必要に応じて制度化も考えていく」と述べた。
●「異次元」の少子化対策、問われる本気度 働き方改革、今度こそ? 2/1
年明け早々、岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に乗り出すと表明した。1月下旬に始まった国会論戦では「児童手当」を巡る所得制限が注目を集めているが、育児休業制度の見直しといった働き方改革推進も重要な柱の一つだ。男女が子育てをしながらキャリアを築くのに不可欠な働き方改革は、議論が繰り返されてきたが、大きな成果を生んだとは言い難い。首相の異次元対策は少子化の歯止めとなり得るのか。子育て世代は、対策の具体策と首相の本気度を切実な思いで見極めようとしている。
「これ以上放置できない」
「少子化の問題は、これ以上放置できない、待ったなしの課題だ」。首相は1月上旬、年頭記者会見や経済関係者らが集まる新年互例会のあいさつで繰り返し強調した。
1971〜74年の第2次ベビーブーム以降、出生数は減少基調をたどっているのは周知の通りだ。73年、209万1983人だった出生数は、48年後の2021年には約4割の81万1622人まで落ち込み、過去最少。22年もこの傾向は続き、80万人を初めて下回ると予想されている。首相は1月23日の施政方針演説で「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況」と強い口調で危機感をあらわにした。
政府は昨年12月、少子化対策や医療制度を支えることを目的とする提言を盛り込んだ「全世代型社会保障構築会議報告書」をまとめた。少子化対策では子育て世帯への経済的支援や、仕事との両立を後押しする仕組みの構築を強く要請。残業免除などの長時間労働の是正、時短勤務やテレワークなどを組み合わせた柔軟な働き方や育児休業の取得促進などに関して「(2023年中に)早急に具体化を進めるべき項目」と位置付けた。
関連する制度改正の動きは加速するとみられ、首相が「異次元対策」と打ち出したことでこれを後押しするとの期待が高まっている。
アフターコロナ、募る不安
都内の企業に勤める30代の女性は今春、2人目の子どもの育休から職場復帰する予定だ。当面は短時間勤務で仕事と子育てを両立させようと考えているが、「時短勤務の対象でなくなった途端に、夜遅くまで残業させられそうだと不安を募らせている。
育児・介護休業法は、子どもが3歳になるまで、従業員が申し出れば企業は残業させてはならないと規定し、1日原則6時間の短時間勤務制度を設けることも企業に義務付けている。
この女性の勤務先は国が示す基準よりも長期の時短勤務を認めているが、慢性的な人手不足が続く。新型コロナウイルス感染症で一時停止した社会機能が徐々に回復し、経済活動が再開に向かって動く中、職場では忙しさが増しているとの情報も耳に届く。
「職場復帰しても周囲が仕事をしている中、自分だけが定時で帰れるのだろうか」と、復帰後の不安は膨らむ。
男性の育休、14%
育児休業は、育児・介護休業法で定められた制度であり、子どもが1歳になるまで、男女ともに仕事を休むことができるよう定められている。保育所に入所できないといった事情があれば、2歳になるまで期間を延長できる仕組みもある。
しかし、取得率は今なお男女間で大きな差がある。女性の取得率はここ数年、80%台で推移しているが、男性の取得率は上昇傾向を示しているとはいえ、21年度は13.97%。女性の水準とはかけ離れており、そのギャップは長年の社会課題だ。
関西地方の企業に勤める30代の男性は、5〜8歳の4人の子を持つが、育休を取得することはなかった。理由は「長期間の育休取得には会社側が難色を示しかねない上、経済的に苦しくなると懸念した」から。また、「数日くらいしか休めないのあれば、あまり意味はない」とも考えた。国の少子化対策については「夫婦が共働きしすくなる制度にしてほしい」と語った。
ハレーション生むほどの政策を
育児休業の仕組みの整備が進む一方で、企業や職場の意識はそれほど変わっていない。政府関係者は「男女ともに正社員として働きながら、子育てと両立できるようにしないといけない。育休は女性だけの制度だと勘違いしている企業もある」と、意識改革の難しさにため息をつく。
首相は1月下旬に始まった通常国会で、児童手当の拡充に加え、結婚するカップルへの住宅支援策や教育負担の軽減策にも前向きな姿勢を表明した。だが、働き方改革の具体策は依然見えない。
少子化対策を話し合う与党の会合でも、働き方を巡る具体的な議論は乏しかったという。ただ、会合に出席した議員は、取材に対し「企業に行動変容を促す仕組みが必要だ。ハレーションを生むくらいのことをしなければならない」と、今後の政策に注文を付けた。
政府は1月中旬、「異次元の少子化対策」の実現に向けた会合をスタート。議論の内容は6月にも閣議決定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に反映させる予定だ。政府関係者からは「出てくるメニューは、そんなにすごいものではないかもしれない」と早くも予防線を張る声が聞かれるが、既に「異次元」の表現は独り歩きを始めている。先行する期待にどう応えるのか、時間はそれほど残されていない。  
●子ども予算倍増、財源確保に全力 抑止強化へ「日米同盟深める」 首相 2/1
岸田文雄首相は1日午後の衆院予算委員会で、最重要政策と位置付ける少子化対策について、関連予算倍増のための財源確保に全力で取り組む考えを示した。
防衛力の抜本的強化に向け、「日米同盟をより深めることが、わが国への武力行使を抑制する大きな力となる」と主張した。
子ども・子育て政策を巡り、首相は「この10年の社会の変化で、求められる政策も、経済的支援の重視に変わってきた」と説明。「政策を具体化し、予算倍増の大枠を示す」と強調した。立憲民主党の大西健介氏への答弁。
防衛力強化に関しては、日米関係の重要性を指摘。その上で「それぞれの国家安全保障戦略に基づき、同盟強化に向けて協力していきたい」と述べた。日本維新の会の阿部司氏への答弁。
維新の漆間譲司氏は、防衛費増額に伴う増税の是非を問うため、衆院解散・総選挙に踏み切るよう求めた。首相は「防衛力だけでなく、原子力・エネルギー、子ども・子育て、賃上げをはじめ、多くの課題を抱えている。状況を踏まえて適切に判断しなければならない」と述べるにとどめた。 
●子ども予算倍増、財源確保に全力=抑止強化へ「日米同盟深める」―首相 2/1
岸田文雄首相は1日午後の衆院予算委員会で、最重要政策と位置付ける少子化対策について、関連予算倍増のための財源確保に全力で取り組む考えを示した。防衛力の抜本的強化に向け、「日米同盟をより深めることが、わが国への武力行使を抑制する大きな力となる」と主張した。
子ども・子育て政策を巡り、首相は「この10年の社会の変化で、求められる政策も、経済的支援の重視に変わってきた」と説明。「政策を具体化し、予算倍増の大枠を示す」と強調した。立憲民主党の大西健介氏への答弁。
防衛力強化に関しては、日米関係の重要性を指摘。その上で「それぞれの国家安全保障戦略に基づき、同盟強化に向けて協力していきたい」と述べた。日本維新の会の阿部司氏への答弁。
維新の漆間譲司氏は、防衛費増額に伴う増税の是非を問うため、衆院解散・総選挙に踏み切るよう求めた。首相は「防衛力だけでなく、原子力・エネルギー、子ども・子育て、賃上げをはじめ、多くの課題を抱えている。状況を踏まえて適切に判断しなければならない」と述べるにとどめた。
建設国債を自衛隊の施設整備などに充てる政府方針について、共産党の宮本徹氏は財政法の趣旨に反すると批判。首相は「海上保安庁の船舶、公共インフラ整備が建設国債の発行対象であり、自衛隊の施設整備費、艦船建造費も対象に整理した」と理解を求めた。
加藤勝信厚生労働相は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付け変更に関連し、入国時のワクチン3回接種証明などの対応を問われ、「水際措置そのものが変わる。それを踏まえて見直したい」と述べた。無所属の仁木博文氏への答弁。
●「60年償還ルール」変更のまやかし 山崎拓元衆院議員「先に憲法改正が筋」 2/1
防衛政策の大転換が図られようとしている。山崎拓・元衆院議員は“筋を通すべき”と語る。
防衛費増額で避けられないのが財源の問題だ。
計画では2023年度から5年間で防衛費をこれまでの約1.5倍にあたる総額43兆円に増やす。財源の4分の3は歳出改革等で確保し、残りを法人税等の増税による税収で賄う方針だが、ここにきて浮上しているのが、「60年償還ルール」の廃止や延長だ。
政府が発行する国債は満期に全額返済するのではなく、借金を返済するための国債を新規に発行して少しずつ返済している。「60年償還ルール」は国債を全額返済するまでの期間を60年とし、毎年度の予算で60分の1に相当する1.6%の国債を返済することで、60年後に債務の完済を義務付けるルールだ。
見直し論では60年という期間を延長することで、毎年の返済に充てる費用を減らし、浮いた分を防衛費の財源にするという。例えば60年の償還ルールを延長して80年償還とした場合、毎年の返済は80分の1に相当する1.25%となり、60年償還での1.6%との差額である0.35%分の債務償還費を防衛費に回せるという主張だ。
しかし、この案には専門家から疑問の声も上がっている。元財務官僚で法政大学の小黒一正教授は問題点をこう指摘する。
「『60年償還ルール』の延長で新たな財源を生み出せるというのは錯覚です。毎年国債の返済に充てている債務償還費が減ることは確かですが、日本財政はすでに膨大な借金を抱えており、国債の返済は新たな国債の発行によって行われている。国債残高の増加分が財政赤字であり、80年償還にして債務償還費が減った場合、財政赤字を増やさないためには、その分、新規の国債発行額も同額を減らす必要がある。そうしないと、財政赤字が拡大してしまう。つまり、新しい財源は1円も生まれないのです」
防衛力整備計画の別表にはイージス・システム搭載艦2隻、早期警戒機5機、護衛艦12隻など、今後5年間で導入が計画される防衛装備の数々が列挙されているが、本当に必要なのか。
「各装備の有効性を本当に吟味して内容を決めたのか。予算規模ありきだとしたら、戦前の臨時軍事費特別会計を彷彿とさせます。自衛隊には人員不足の問題もあり、装備だけを増強すればいいわけではない。日米同盟は絶対に堅持しつつも、対立する米中両大国が突然手を握った場合でも対応可能な対中国外交や、東アジア諸国との関係強化など、さまざまな戦略を検討していく必要があります」(小黒氏)
「60年償還ルール」の見直し案については、松野博一官房長官が「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と問題を指摘。安倍派を中心に、増税反対を主張する議員たちからは反発も起きている。国民の理解どころか自民党内でも議論が紛糾しているこの体たらくに、防衛庁長官を務めた山崎拓自民党元幹事長はこう苦言を呈する。
「43兆円という防衛予算の中身の議論が伴っていない。反撃能力と表現しているが実際は敵基地攻撃能力で、それを持つということは軍事大国にならず専守防衛に徹するというこれまでの防衛政策を大転換することになる。これは憲法9条の解釈を超えた問題で立憲主義に反します。大幅な防衛費の増額をするのであれば、まずはきちんと国民的議論をしたうえで、憲法改正を実現してから行うのが筋です」
なし崩しは許されない。
●衆院予算委員会 論戦3日目 「児童手当」 「統一教会」で応酬 2/1
衆議院の予算委員会では、野党が、児童手当の所得制限について、自民党内からも撤廃を求める意見が出ているとして、あらためて撤廃を求めた。
岸田首相は検討する考えを示したが、西村経済産業相は、撤廃に否定的な考えを示した。
立憲民主党・大西健介議員「(衆院本会議で)自民党の茂木幹事長が(児童手当の)所得制限を撤廃するべきと質問した時には、野党席からも、そうだという賛同の声が上がった。所得制限なしの手厚い支援をずっと続けていたら、ここまでひどい状態にならなかったんじゃないか」
岸田首相「茂木幹事長の意見をはじめ、さまざまな意見がある。これをしっかりふまえて、今政府として、内容の具体化を進めている」
一方、西村経産相は、児童手当の所得制限の撤廃に否定的な考えを示した。
西村経産相「今(児童手当の)所得制限1,200万円だと思いますが、これ以上の所得のある方、日本全体で1割にも満たない。わたしは限られた財源の中で、その方々に配るよりか、より厳しい状況がある方に上乗せをするなり、別の形で子育て支援、厳しい状況にある方への子育て支援をすべきという考え方を今でも持っています」
また、岸田首相は、旧統一教会と自民党の地方議会議員との接点について、4月の統一地方選挙の前に具体的な対応を示す考えを示した。
立憲民主党・西村代表代行「(旧統一教会との接点について)自治体議員の調査を行ってください、行うべきではないですか」
岸田首相「どういった形で課題を明らかにし、そして国民の信頼を取り戻すのか。統一地方選挙を前にそれを今、具体化するべく努力をしている」
岸田首相は、「都道府県連と意思疎通を図りながら、具体的にどう徹底するか検討を続けたい」と述べた。
●児童手当「政策が失敗し自民党少子化つくった」立民 安住氏 2/1
児童手当をめぐって、与野党双方から所得制限の撤廃を求める声が出ていることについて、立憲民主党の安住国会対策委員長は、過去に所得制限の導入を主張した自民党の政策は失敗だったと批判し、検証する考えを示しました。
立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し、児童手当の所得制限をめぐって、過去に導入を主張した自民党からも撤廃を求める声が出ていることについて「政策が失敗したということだ。自民党が少子化をつくった」と批判しました。
そのうえで、かつての民主党政権で所得制限のない子ども手当を創設したことを念頭に「われわれのほうが正しかったのではないか。失われた10年を取り戻す時だ」と述べ、党内に政策を検証するためのチームを立ち上げる考えを示しました。
首相 児童手当拡充に向け具体化進める考え示す
衆議院予算委員会で、岸田総理大臣は、児童手当をめぐって自民党が民主党政権時代に所得制限の導入を主張したことについて「この10年の間に子ども・子育て政策のニーズ自体も大きく変化し、より経済的な支援を重視してもらいたいと、求められる政策も変わってきた」と述べました。
そのうえで、与野党双方から所得制限の撤廃に加え18歳までの支給対象の拡大などを求める声が出ていることを踏まえ、政府として内容の具体化を進める考えを改めて示しました。
一方、質疑の中で西村経済産業大臣は「限られた財源の中で、所得のある人に配るより、より厳しい状況にある人に上乗せするなどの支援をすべきだ」と述べ、所得制限の撤廃に否定的な考えを示しました。
維新 藤田幹事長「この先どうしていくかが非常に重要」
日本維新の会の藤田幹事長は、記者会見で「民主党だった方々からすると、『自民党が政策を遅らせてきた』という思いがあると思うので、検証はやればいい。私は未来志向なので、この先どうしていくかが非常に重要で、そこに注力していくことが優先だ」と述べました。
共産 穀田国対委員長「教育などに関わる所得制限を撤廃すべき」
共産党の穀田国会対策委員長は、記者会見で「子育てや教育、障害者福祉に関わる所得制限を撤廃すべきだ。岸田総理大臣は『撤廃する』と言っておらず、はっきりさせないといけない」と述べました。
国民 古川国対委員長「与野党が協力し所得制限撤廃実現を」
国民民主党の古川国会対策委員長は、記者会見で「今やらなくてはいけないのは一日も早く所得制限を撤廃することだ。与野党が協力して政府に撤廃の実現を求めていきたい」と述べました。
公明 高木政調会長「過去あげつらうより いま必要なもの議論を」
公明党の高木政務調査会長は、記者会見で「所得制限だけを撤廃すれば、少子化が止まるという話ではなく、支給対象の18歳までの拡大や給付額の増額も含めた3点セットを党として提示し、できれば同時に実施したい。子育てしている人だけでなく、国民的な理解を得ていかないといけないので、どういう形が望ましいか、政府も検討してもらいたい」と述べました。
その上で「民主党政権はかつて所得制限のない『子ども手当』を創設したが、『ムダを削れば財源を確保できる』と主張しながら財源は出なかった。過去の発言をあげつらうよりも、いま必要なものは何かを前向きに議論することが重要だ」と指摘しました。
●岸田首相 夫婦別姓や同性婚「改正で家族観 価値観 社会が変わってしまう」 2/1
岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを示しました。
岸田総理大臣は、2月1日の衆議院予算委員会で、児童手当をめぐって自民党が民主党政権時代に所得制限の導入を主張したことについて「この10年の間に子ども・子育て政策のニーズ自体も大きく変化し、より経済的な支援を重視してもらいたいと、求められる政策も変わってきた」と述べました。
そのうえで、与野党双方から所得制限の撤廃に加え18歳までの支給対象の拡大などを求める声が出ていることを踏まえ、政府として内容の具体化を進める考えを改めて示しました。
一方、西村経済産業大臣は「限られた財源の中で、所得のある人に配るより、より厳しい状況にある人に上乗せするなどの支援をすべきだ」と述べ、所得制限の撤廃に否定的な考えを示しました。
また岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正するということになると、家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題なので、社会全体の雰囲気のありようにしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを重ねて示しました。
●日銀国債購入、過去最高23兆円 1月、金利抑制狙う 2/1
日銀は1日、政府が借金のために発行した国債を1月は過去最高の23兆6902億円購入したと発表した。国債を保有する金融機関から市場を通じて無制限に買い、金利上昇を抑え込んだためだ。国内外の投資家は大規模な金融緩和策の修正と利上げを見越し、金利が上がって国債の価格が下がる前に手放そうと売り攻勢を仕掛けている。放置すれば金利が上昇してしまう。日銀の国債購入は2月以降も高水準で推移する可能性がある。
日銀が購入したのは、発行から償還(返済)までの期間が1年超の長期国債。これまでの最高額は2022年6月の16兆2038億円だった。22年12月も16兆1809億円に膨らんだ。  
●岸田総理 長男・翔太郎氏の任命について答える 2/1
岸田総理は衆議院・予算委員会で、自身の長男の翔太郎氏を政務秘書官に任命した人事について、「政治家としての活動をより知る人物を採用することは意味がある」と答えました。
立憲民主党 落合貴之 衆院議員「ご長男をですね、わざわざ国の重要な役職である総理秘書官につけた人事、これは今でも適切だというふうにお考えでしょうか」
岸田総理「政治家としての活動をよりよく知る人間を政務秘書官に位置づける、採用する、このことは大変、大きな意味があると思っています。チームとして機能させるために、その1人として、政治家としての総理大臣を支えるという立場で貢献をしてもらいたいと思っております」
岸田総理はこのように述べたうえで、将来、自分の選挙区を譲るつもりかと野党議員から問われると、「私はもうしばらく政治家として最善を尽くしたい。そこまで思いをめぐらすには至っていない」と答えました。
また、午前中の質疑では、いわゆる「年収130万円の壁」の問題が取り上げられました。パートで働く労働者などは年収が130万円を超えると扶養家族の対象外となり、社会保険料の負担が生じるため、働き控え、さらには人手不足に繋がっているとの指摘が出ています。
自民党 平将明 衆院議員「負のスパイラルを何とかしなきゃいけないと思います。いま現場、すごく人手不足です。こういうことも踏まえて対応されたらいかがかと思いますけど、いかがでしょうか」
岸田総理「問題意識を受け止めて、これは政府としてどんな対応ができるのか、これ幅広く対応策、検討してまいりたいと思います」
岸田総理は単身世帯との公平性などの問題があるとしつつ、政府として検討を進めていく考えを示しました。

 

●反撃能力の発動 専守防衛、逸脱しないか 2/2
日本が直接攻撃される場合に相手国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)を、日本が攻撃されなくても集団的自衛権行使が可能となる「存立危機事態」の際にも発動できる―。岸田文雄首相は衆院予算委員会で、こんな認識を示した。どんな状況を想定しているのか、専守防衛を逸脱しないかなど疑問は山積している。岸田首相には分かりやすく説明を尽くす責任がある。
反撃能力は、相手国がミサイル発射に着手した段階でも発動可能とされる。このため国際法が禁じる先制攻撃となる恐れがあると指摘されている。憲法9条に基づく専守防衛が形骸化する懸念は拭えない。
反撃能力の保有は、岸田内閣が昨年12月に閣議決定した国家安全保障戦略に明記された。防衛費増額などと併せて安全保障政策の大転換であり、政府は米国製巡航ミサイル「トマホーク」などを配備する方針だ。
「存立危機事態」は米国をはじめ密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合を指す。安倍政権時代に成立した安全保障関連法に盛り込まれた。
それまでは自衛権行使は日本への直接的な攻撃があった場合に限定していたが、憲法解釈を変更。存立危機事態での集団的自衛権を一部容認した。ただ、事態の認定基準は曖昧で、米国支援のため政府が都合良く判断することを懸念する声もある。
反撃能力を存立危機事態に発動することは相手国だけでなく、国際社会からも先制攻撃と見なされるのではないか。岸田首相は立憲民主党の質問に「細かく説明するのは手の内を明かすことになる」などとして説明を拒んだ。国会軽視であり、国民の不安や疑問に向き合わない無責任な姿勢と言える。
国会は政府方針や法案、予算案などを議論し、必要があれば修正するなどした上で議決する「国権の最高機関」。今国会には過去最大の防衛費約6兆8千億円を含む2023年度当初予算案が提出された。うちトマホーク取得費は2113億円だ。
反撃能力保有をはじめとする防衛力強化と防衛費増額の是非を巡り国会は議論を徹底し、日本が再び戦火に巻き込まれることがないよう最善の判断を下す必要がある。政府の説明が不足していては議論は深まらない。
防衛力に関して「手の内を明かす」のを避けるためとして説明を拒むのは、国民はもちろん国際社会の不信を招く恐れもあるだろう。岸田首相はその後、「分かりやすい例を示すことは考えられる」と態度を変化させた。今後の国会論戦が充実したものになることが期待される。
政府や与党の裁量で一方的に防衛力増強が進められるようなことでは、民主主義の根幹が揺らぐ。岸田首相はどんな問題であれ、国民が政府に白紙委任しているわけではないことを肝に銘じるべきだ。
●政府の財政試算 黒字化への具体策を明示せよ  2/2
コロナ禍で一段と悪化した日本の財政をどう立て直すのか。政府は、甘い見通しに基づく試算よりも、黒字化を実現する具体策を示すべきだ。
内閣府は、年2回改定している中長期の財政試算を発表した。国と地方の基礎的財政収支(PB)は、日本経済が高成長を続けた場合、税収が伸びて、2026年度に黒字化するという。
PBは、借金に頼らずに政策に使う経費をどれだけ税収などで賄えているかを表す指標だ。
新型コロナウイルス対策で国の財政支出は膨らみ、PBの赤字は18年度の約10兆円から22年度に約50兆円まで増えた。
しかし、政府はPBを25年度に黒字化するというコロナ禍前からの目標を変えていない。試算は、歳出の効率化を進めれば、目標の達成が可能だとしている。
だが、その根拠は乏しいと言わざるを得ない。試算は、名目成長率が3%以上で推移するとの予測を前提としているが、実際に名目成長率が3%を超えたのは過去20年間で1度しかない。
デジタル化の推進など、政府の経済対策の効果が表れ、生産性が上昇して高成長を実現できるという想定自体が、楽観的すぎる。達成が可能というなら、その条件となる歳出削減や経済再生の道筋を明確に提示せねばならない。
日本の経済の実力を示す潜在成長率は、0%台だという。内閣府は、それに近い低成長率が続く場合、32年度でも黒字化は達成できないとの試算も出している。現実を直視し、より厳しい見通しを基に財政を運営する必要がある。
試算は、岸田首相が掲げる「子ども予算の倍増」の影響についても考慮していない。兆円単位に上るとされる財源は決まっていない。これを国債で賄うとすれば、黒字化はさらに難しくなる。
海外でも、コロナ対策で巨額の財政支出を行った国は多いが、最近は、財政の立て直しを図る動きが広がっている。
米国は、中小企業や困窮した世帯の救済のための予算を減らし、年間の歳出を70兆円程度、圧縮させたという。英国は、エネルギー企業や富裕層への課税強化を含む財政再建策を発表している。
主要国で最悪の財政状況にある日本も、歳出改革が急務だ。
日本銀行が今後、大規模な金融緩和策を修正するとの見方が出ている。長期金利が上昇して、国債の利払い負担が膨らむ恐れもある。政府・与党は、財政規律を取り戻すことが不可欠だ。
●政府と日銀 共同声明に縛られるな 2/2
歴史的転換をした日本の金融政策を問い直す時だろう。
第2次安倍政権の経済政策、アベノミクスを後方支援するために結ばれた、政府と日銀の共同声明から10年が過ぎた。物価上昇2%の目標が継続して掲げられ、それに沿って日銀の異次元の金融緩和策がこれまで続けられてきた。株高など一定の効果はあったことは認める。だが、長期の低金利政策で最近は負の側面ばかりが目立つ。とても放置できるような状況でなくなっている。
けん引役の黒田東彦(はるひこ)総裁は今春で退任する。その直前に、政策提言組織の令和国民会議(令和臨調)が、緩和策見直しを求める緊急提言を発表したことには驚いた。強い危機感が背景にあるのだろう。政府と日銀は、異次元緩和策の功罪を検証した上で、今後の政策を模索する責任を自覚してもらいたい。
共同声明発表直後に就任した黒田総裁は、株の大量購入やマイナス金利導入、国債の無制限買い取りによる長期金利調整などを次々に発動させた。当初は効果を上げたが長続きせず、成長が伴う目標を達成できないままに弾が尽きた感がある。黒田総裁は今も「緩和策をやめるような状況ではない」と強調しているが、政策が行き詰まっていることは否めない。
日銀は国債を大量に引き受け続けて財務体質が劣化し、金融政策が硬直化している。政府は低利の国債発行で財源を調達することに慣れ、財政の膨張に歯止めをかけられていない。
「日銀は政府の子会社」と言い放った安倍晋三首相に引きずられ、日銀は政府からの独立性を次第に失っていく。金融政策が政治に左右される流れが強まり、後戻りできないところまで来てしまった。政府と日銀が典型的な負の相関関係に陥っている事態は極めて深刻と言わざるを得ない。
日銀がおととい公開した2012年7〜12月の金融政策決定会合の議事録にもその懸念がはっきり残されていた。共同声明を結んだ白川方明(まさあき)総裁(当時)は国債買い入れを「政府の財政規律が失われると、物価の安定にはかえって逆効果になる」と危惧していた。無制限の買い入れを続ける今の状況はまさにその懸念を表している。
「2年をめど」とした物価上昇2%の目標が未達成であることは黒田総裁も認めている。日本の潜在成長力は1%にも満たないのに、物価上昇に2%という高い数字を掲げたのは無理な話だったのかもしれない。
未達成が日銀の信認低下につながり、経済にも悪影響を及ぼしている。10年間たってなお継続をうたうのは、黒田総裁が失敗を認めたくないからだろう。
ただ見直しを指摘するのはたやすいが実現は極めて難しい。
金融政策を引き締めれば経済は減速する。財政支出を抑え過ぎれば景気を冷え込ませてしまう。財政規律や金融政策の柔軟性を取り戻し、潜在成長力の引き上げや財政健全化を成し遂げる「出口戦略」の処方箋が示されているわけではない。
問われるのは金利を無理やり抑え込もうとせず、長期的視野に立って市場に誠実に向き合うことができるかどうかだろう。共同声明に縛られ、数値目標を掲げ続けることに大した意味はない。
●国債償還見直し 財政への信認低下招く 2/2
自民党は特命委員会で防衛費増額を賄う財源の議論を始め、焦点に国債償還ルールの見直しが浮上している。だが償還期間の延長やルール廃止は財源につながらず、国債発行による借金が減ることもない。かえって債務償還への規律が緩み金融市場で財政への信認を低下させる恐れがある。慎重に扱うべきだ。
政府は昨年末、防衛力の抜本強化のため2027年度までの5年間の防衛費を43兆円へ大幅に増やす計画を決定。27年度に必要となる4兆円の追加財源のうち1兆円強を増税で、残りを歳出改革や決算剰余金の活用で賄う枠組みとした。
ただ、国債発行による積極財政を主張する自民党内勢力の強い反発などで、増税の実施時期は「24年以降の適切な時期」とするにとどまり、結論を先送りした。
特命委は財源確保策を再検討することで、国民に不人気な増税の回避や圧縮につなげたい思惑とみられる。そこで議論に上っているのが国債の「60年償還ルール」の見直しである。
国債による借金を60年かけて返済する仕組みで、建設国債の発行が始まったのを機に、道路や建物の平均的な耐用年数を参考として1960年代半ばに定められた。
具体的には毎年度、国債残高の約60分の1に当たる金額を一般会計から国債を管理する特別会計へ繰り入れ、特会で新たに国債を発行して得た資金と合わせて、満期国債の償還に充てている。国債残高が1千兆円規模に増大した影響で、一般会計からの繰り入れは2023年度予算案で約16兆7千億円に上る。
特命委では、国債の償還期間を60年から延長して毎年度の繰り入れを減らしたり、繰り入れをやめたりすることの是非が議論される見通し。しかし、いずれも一般会計の国債発行は減るものの、その分、特会での発行が増えるだけだ。防衛費の財源になり得ないのは自明だろう。
積極財政派の中には海外に同様の償還規定がない点を挙げてルールの撤廃を求める声がある。だが米欧は法律や条約で国の債務残高を縛るなど日本より厳しい財政規律を設けている。
赤字国債は当初、60年ルールの適用外だったが発行・償還増につれて1980年代半ばから対象となり、それが国債発行への抵抗感を希薄にしたと指摘される。
60年ルールは最低限の財政規律であり、むしろ厳格化を求めていいくらいだ。仮に期間を80年へ延ばした場合、公共資産の耐用年数が過ぎ、恩恵を受けられない将来世代にツケを回すことになる点を忘れてはならない。
内閣府による最新の中長期財政試算は、防衛支出の大幅増が日本の財政に重荷としてのしかかる姿を明らかにしている。
財政の健全度を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、高めの成長を仮定しても政府の黒字化目標である2025年度に1兆5千億円の赤字となり、昨年夏の試算から悪化。大きな要因は防衛費増にある。
低成長では赤字が慢性化し、国・地方の債務残高が30年度に1300兆円を超えると予測した。長期金利が上昇すればさらに悪化の恐れがある。
わが国の危機的な財政状態を理解するならば、償還ルールの見直しではなく、防衛費を適正水準に収めるなど歳出の規律づけを議論する時だ。
●政府“年収の壁”対応検討へ 所得税「N分N乗方式」とは何? 2/2
国会では、一定の年収を超えると配偶者の扶養を外れるいわゆる「年収の壁」も論点の1つです。政府は、働く時間を抑える理由にもなっているとして、対応策の検討を進める方針です。
いわゆる「年収の壁」は、年間の給与収入が「130万円」や「106万円」を超えると配偶者の扶養を外れ、社会保険の負担が生じることなどから働く時間を抑える理由にもなっていると指摘されているものです。
与野党双方からは、こうした制度を改めるよう求める意見が出ていて、今の国会で論点の1つになっています。
岸田総理大臣は2月1日の衆議院予算委員会で「パートタイム労働者などが本人の希望に応じて収入を増やしていけることが重要で、幅広く検討していきたい」と述べました。
政府は与野党の意見も踏まえながら、女性の登用促進の観点からも「年収の壁」の対応策について検討を進める方針です。
一方、国会では、少子化対策をめぐって、日本維新の会や国民民主党が、フランスで採用されている制度で、子どもなど扶養家族が多いほど世帯の所得税の負担が軽減されるいわゆる「N分N乗方式」の導入を主張していて、今後、議論になることも予想されます。
所得税「N分N乗方式」とは
日本の所得税は、個人単位で課税していますが「N分N乗方式」の場合、世帯単位で課税します。
この方式では、1世帯分の所得を合算したうえで、子どもなど扶養家族も含めた人数で総所得を割り、その数字を元に所得税の納税額が決まる仕組みです。
例えば、この方式を採用しているフランスでは、子どもは2人目までは0.5人、3人目からは1人として計算します。このため、共働き夫婦と子ども2人の4人家族の場合「N」にあたる数字は3となります。
夫婦の合算した所得をこの「3」で割った金額に税率をかけて、仮の所得税額を決めたあと、再び「3」をかけて、納税額が決まります。
フランスでも、所得が多いほど税率が高い累進課税が導入されていますが、この方式だと、所得が多い世帯でも子どもの数が多ければ課税の基準となる所得が少なくなるため、結果として税の負担が軽くなります。
政府の税制調査会では過去のリポートで、世帯単位の課税の導入の是非について、共働き世帯よりも夫婦のどちらか1人が働くいわゆる「片働き世帯」が有利になることや、高所得者に大きな利益を与えることになるなどとして否定的な見解をまとめています。
鈴木財務大臣も1月31日の衆議院予算委員会で、N分N乗方式の導入の是非を問われたのに対して「いろいろと課題があると承知している」と述べ、慎重な考えを示しています。
●岸田総理と新型コロナの感染症法上の位置付けの見直しなどで会談 松本会長 2/2
松本吉郎会長は1月19日に総理官邸を訪れ、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染症法上の位置付けに関して現在の「2類相当」から「5類」への変更が検討されていることなどについて、岸田文雄内閣総理大臣と会談を行った。
会談の冒頭、松本会長は、「社会経済活動と感染拡大防止、コロナ医療とコロナ以外の医療の両立を図りつつ、感染状況に見合った対策を講じていくことは必要と考えている」とする一方、新型コロナへの対応を急激に変更するのではなく、徐々に緩和していくことで、ソフトランディングさせていくことが重要との考えを説明。
更に、5類へ見直すことによって懸念される事項として、(1)新型コロナに係る医療費・医薬品費に対する国の支援が縮小される、(2)位置付けが見直されたとしても、医療・介護施設等においてはこれまでと同様に感染防御対策を取る必要がある、(3)現在、保健所が行っている入院調整がなくなってしまうことにより、患者及び医療現場の負担が増加する、(4)臨時発熱外来・検査施設等の位置付け―を挙げ、引き続き、国・行政による支援が必要であることを強調。位置付けを見直すとしても、患者の負担とならず、医療現場に混乱を招くことがないよう、段階的に行っていくよう要望した。
これらの要望に対して岸田総理は、段階的に見直す必要があるとの認識を示すとともに、懸念事項については関係各所とも検討の上、対応していきたいと応じた。
その他、当日の会談で松本会長は、「医療DX」「医師の働き方改革」についても言及した。
「医療DX」に関しては、健康保険証とマイナンバーカードの一体化の方向性には賛意を示した上で、「マイナンバーカードを取得していない方、高齢者や認知症患者など、カードを持っていても使いこなせない方々が、保険料を支払っているにもかかわらず、保険診療が受けられないような事態が起こることは絶対にあってはならない」と強調。昨年10月の衆議院予算委員会の中で岸田総理が同様の趣旨の発言をしていたことにも触れながら、国の対応を求めた。
また、医師の働き方改革については、「2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が適用されることになっているが、各大学病院から各地域の医療機関に派遣されていた医師が引き上げられることによって、地域医療、特に産科・救急に影響を及ぼすことが懸念される」と説明。「日本医師会としても、そうした事態が起こらぬよう大学病院とも話し合いを重ねていくが、大きな社会問題に発展する可能性もある。医師の働き方改革を進めていくには、『地域医療の継続性』と『医師の健康への配慮』を両立できるようにしていく必要がある」と述べ、国からの支援を求めた。これに対して、岸田総理は一定の理解を示し、この問題に関しても、関係者と協議を進めていくとした。
なお、新型コロナの感染症法上の位置付けの見直しに関しては、岸田総理が1月20日に加藤勝信厚生労働大臣、後藤茂之内閣府特命担当大臣と会談し、新型コロナを新型インフルエンザ等感染症から外す方向で作業を進めるように指示。今後は、日本医師会から釜萢敏常任理事も出席している厚労省の厚生科学審議会感染症部会で検討が進められることになっている。
●政治を通じて見える広報・PR雑感 : 「空疎さ」と「重要さ」 2/2
早くも1か月が経ってしまったが、2023年がスタートした。
年初からフル回転で、相変わらずの貧乏暇なし生活送っている。このメルマガのエッセイもアドバイザーを務める出張先の那須塩原市で書いているが(ちなみに、明日から、別途アドバイザーを務める浜松市)、本年最初のメールマガジンが何とか無事に発出できて、ホッとしている。
さて、政治・行政の世界と言えば、ちょうど通常国会が開幕したところである。議論の中心は防衛費や“異次元”の少子化対策を巡る増税の是非、或いは、その対策の中身についての議論、なかんずく対策のための増税の是非などとなっているが、国会での論戦を聞いていても、どうも要領を得ない。議論の中身が深まらない。
聞いている人はほぼそう感じると思うが、国防についても少子化対策についても、国会での議論から良い政策案が出てくる気が全くせず、国会ではなく、政府内、或いは政府・与党の会議で、中身の実質的議論はよろしくお願いします、という気分になってしまう。
日本の国会では、予算案や法律案の修正が、委員会や本会議などでの議論を経て施されることがほぼ皆無で(米国などでは、議論を経て修正されるケース多数)、「通す(守り通して賛成多数で可決)」か「通さない(審議未了→廃案などを目指す)」かの2択になる。そして、与党が両院で多数を占めている現状では、国会に案が上程された時点で勝負あり(通るに決まっている)、となる。
厳密には、附帯決議などをつけるケースなどもあるが、いずれにせよ、原案そのものを国会での議論を経て修正することはほぼ無い。(その構造的問題・要因については、紙幅の関係もあって省略する。)
したがって、昔から国会での議論とは、政府側を論難して見せ場を作る、いわば「ショー」のようなごとき性質を、はなから内包してしまっていることが、国会での議論が深まらない最大の要因ではある。が、私見では、加えて現代社会の宿痾、とも言うべき状況がこれに拍車をかけているように思う。
端的に書けば、最近の言葉で言うと、「バズる」とか「映(ば)える」と言った「広報・PR至上主義」である。もちろん、PRの原義(publicとrelationを構築して、しっかり伝える)を紐解くまでもなく、しっかりと政府の動きを国民に伝えて理解を求めることそのものに罪はない。むしろ重要だ。ただ、中身より先に「異次元の少子化対策」とか「新しい資本主義」とか、少し前の安倍政権で言えば「一億総活躍」とか、言葉だけが「バズ」って、そこから議論、というのはどうも頂けない。
青山社中では、一度、抜本的少子化対策のための10兆円プランを策定したことがあるが(子育て・教育費の実質無料化や卵子凍結支援などに加え、婚外子が少ない日本の実情を踏まえた出会いの場の創設などの包括案。コンソル債発行や一定額以上の資産を有する者への資産課税などの財源案も提示。)、いずれにせよ、中身あっての広報・PRである。
昨年の出生数はどうも80万人を切る水準にまで低下したとみられており、コロナが落ち着いて、東京への流入超過が加速化しているが(正確には、私見では、むしろ「コロナを踏まえて」。私は、少し前から、都心集中と風光明媚な田舎への分散という二極化がおこると預言し、論文も書いている学会誌に論考も寄稿している)、人口・内需の消滅危機に際して、しっかりとした中身の議論を期待したい。
中身での議論が深まらないと、空疎な「ショー」を求めて、議員もメディアもスキャンダル暴き・攻撃に走るというのが、これまでの経験則だ。現に、岸田総理の長男(総理秘書官)の外遊時の「物見遊山」の有無が問われたりしており、今朝の国会(衆議院予算委員会)では、長妻昭議員が、いつか見た景色・いつか来た道よろしく、年金に絡む天下り問題を叩いている。
プチ炎上的には、岸田総理が、リスキリングに関する国会での答弁で、育休中の男女への理解が全く足りないことを露呈したとの攻撃を受けている。確かに質問のセンスはイマイチではあるが、答弁した総理の罪ではないであろう。中身のない「ショー」としての議論だ。
2023年が、主に政治家たちやメディアによる更なる不毛な広報・PR合戦の幕開けとならないことを切に願うばかりだ。

さて、2023年を考えるにあたり、かつての役人時代の同期の仲間や同僚たちと年末年始などに食事をしながら意見交換を重ねた。浮かび上がってくるのは、今年は日本とASEAN50周年記念だったり、言うまでもなくG7広島サミットがあったりと、日本外交にとってとても重要な年である、ということだ(まあ、毎年重要ではあるわけだが)。
まずは、5月のサミットにどう対応するか、ということが鍵になる。もちろん、広島で開催されることの意義を想えば、核なき世に向けた努力を訴えることは一つの選択肢であり、重要な視点ではあろう。
あまり目立っていないし、地味に評価されているに過ぎないが、岸田総理は日本の総理として初めて、昨年の夏、NPT(核不拡散条約)の運用検討会議に出席して演説するなど、被爆地広島出身の政治家・総理として、並々ならぬ気合で核のない世の重要性・必要性を訴えては来ている。
ただ、ロシアがウクライナ侵略をして核使用をチラつかせたり、北朝鮮が一体どこから資金を調達しているのかと不思議になるほどのペースでミサイルをぶっ放し続けたり、中国が習一強体制を確立して台湾侵攻を企てていたりする中、すなわち、日米同盟の強化や核の傘の中にいることの必要性が増している現状では、単に「核なき世」を訴えても、まさにポエムで空疎な響きとなりかねない。
その点に関して、先日、外務省の高官に直接疑問をぶつけてG7への臨み方について返答を得る機会を得たが、書いて良い範囲で言えば、1 G7の結束と力をどう示すか、2 影響力を持ち始めているグローバル・サウス(ASEANや中東・アフリカの新興国など)の取り込み、3 上目線の教条主義ではないメッセージの発信(例えば「人権」「正義」を振りかざすと、却って嫌われて結果を出せないのでそれに変わる現実的メッセージ)、が鍵になるという見解であった。
1に関して言えば、今後、サミット議長国としての日本が、いつ招請を受けているウクライナに行くか(行かないか)、行くとしてどういう「お土産」を持参するのかが一つのカギになるし(極めて困難)、2や3も言うのは簡単だが、実現することは容易ではない。だが、極めて冷静に限界と可能性を見据えている、と感じたことだけは明記しておきたい。
詳述は避けるが、長時間にわたる高官の説明の中で、1〜3のそれぞれについて、さすが日本の頭脳集団たる外務省、と思わせるような考え抜かれた戦略と文言、具体的アプローチを感じたわけだが、とはいえ、それを具体的に表現するとなると、玄人向けには良いにせよ、市井の方々からみると、ほぼ何のことやらわからない首脳間の合意や共同声明の発出となりかねない。その点はやや残念で、懸念をしているところである。

さて、話はここで、再び広報・PRに戻る。
先ほど、中身のない広報・PRほど空疎なものはない、と述べた。しかし、日本には、歴史的に培われた、そして、世界がうらやむほどのクリエイティビティ・文化力がある。中身がある。中身があるなら、それ相応にしっかりと広報・PRすべきだ。
来るべきG7サミットでは、例えば、善悪を同じ地平線に並べて争いを水に流し、共生や共存を旨とする、遥か昔から現在のアニメなどに至るまで連綿と続く日本文化を、ビジブル・タンジブルな(見える/手に取れる)形でうまく示す努力をしてはどうか。首脳たちにとっても、日本人にとっても、そしてもちろん、世界から見ても、記憶に残るサミットとすべきではないか。
こうした中身をしっかりと外に示して「見せる」作業は、一般論的には、官僚には出来ない(苦手な)作業であり、政治のリーダーシップが求められる。
現在のイギリスの苦境は、見ていて忍びないものがあるが、かつて、世界の陸地の1/4とも言われる広大な領土を有したイギリスは、第二次大戦後、世界帝国としての地位、軍事・経済大国から転落した後も、文化力をうまく示して、しばし世界を席巻し続けた。具体的に言えば、エリザベス女王の外遊で威信を示し、ビートルズの音楽で世界をつなげ、サッカーワールドカップの優勝で熱狂を生んだ。
思えば、日本全体の活性化は、日本の各地域の活性化と状況が似ている。世界の中で凋落する日本と、日本の中で凋落していく各地は、パラレルに、相似形として捉えることもできる。言うまでもなく、各地には、祭り・食文化・名産品の伝統など、「中身」がたっぷりある。日本の地域の苦境の大きな要因の一つは、中身・魅力のPR・広報不足である。
皮肉交じりに言えば、政治家たちは、自らのショーアップ・政権の炎上を狙うという意味での広報・PRに関する知見を、総力を挙げて、日本外交や地域活性に役立ててはどうか。そんなことを、極寒の中でつらつら感じる今日この頃である。  
●岸田首相「飛んでくる戦闘機にも反撃する」…NATOとも密着 2/2
日本が新たな国家安全保障戦略に明示したいわゆる「反撃能力」の範囲に関連し、岸田文雄首相が「ミサイルの他に飛んでくる戦闘機も排除しない」と明らかにしたと日本メディアが1日、報じた。
毎日新聞や読売新聞などによると、先月31日に衆議院予算委員会に出席した岸田首相は、昨年末に日本政府が改正した国家安全保障戦略に関連した質問を野党から受けてこのように答えた。
日本政府はこれまで反撃能力に対して米国のような同盟国に対してミサイル攻撃が加えられる場合に限り、武力を集団的自衛権の一環として行使すると説明してきた。だが、今回の岸田首相の発言でミサイルの他にも攻撃可能性がある場合、反撃能力行使の対象になるという政府見解が明らかになった。該当の発言の直後、岸田首相は「本当に反撃能力しか手段がないのかどうか、厳密に考えた上で現実に対応しなければならない」と述べて拡大解釈を警戒した。岸田首相は先制攻撃論争が起きかねない日本の反撃能力行使とその範囲について「わかりやすい例を示すことは考えられる」と説明した。
NATOともさらに一歩近づく日本
反撃能力の確保を前面に出した新たな国家安全保障戦略の樹立を契機に日本は北大西洋条約機構(NATO)との関係強化にも出た。岸田首相は同日、日本を訪問したイェンス・ストルテンベルグ事務総長と共同声明を通じて中国とロシアの軍事的連携に対する懸念を示し、日本・NATO間の連携強化を明らかにした。宇宙や新技術など新たに浮上している主要安保領域での協力も強調した。ロイター通信は日本が防衛費を引き上げて反撃能力を確保するなど新たな国家安全保障戦略を採択したことに対してNATOが歓迎の立場を明らかにしたと伝えた。日本メディアはNATOとの共同声明に中国の軍備拡大に対する記述が含まれたのは今回が初めてだと伝えた。
岸田首相はこの日の記者会見でNATO理事会会議への参加を検討するという立場も明らかにした。1日、林芳正外相と会談したストルテンベルグ事務総長も「我々の安全保障環境は互いに関連していて協力強化の重要性が高まっている」と呼応した。
●平議員「なぜ日本の政策にweb3が必要なのか」 岸田総理は前向きな答弁  2/2
自民党の平将明議員は1日、衆議院予算委員会にて、デジタル分野における国家の課題(政府のweb3政策)について岸田総理に質問を行なった。平議員は、自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチームで座長を務める。
平議員は本題に入る前に、web1とweb2についても概要を解説。
web1はインターネットが普及した世界で、web2.0はプラットフォーマーの世界という技術の進化を紹介した。
web2では、スマートフォンやSNSが発達した情報化社会で個人の発信力や利便性が飛躍的に高まった一方、いわゆるGAFA(Google、Apple、Facebook:Meta、Amazon)といった巨大なプラットフォーマーに資本や付加価値が集中しやすいデメリットもある。
そこで出てきたのが、ブロックチェーンおよび自律分散型のweb3だ。
なぜ国の政策にweb3が必要なのか?
平議員は、世界に通じる日本の強みとしてコンテンツ産業のIP(知的財産権)レイヤーを指摘。マンガやアニメなどのポップカルチャー(大衆文化)のほか、グルメや地方の観光体験などを挙げた。
web3分野は、日本全体の活力を上げることを目的とした「地方創生政策」やアニメ、マンガ、ゲーム等のコンテンツを商品・サービスの海外需要開拓につなげる国の「クールジャパン戦略」とも親和性が高いことでも知られる。
平議員はこれらを念頭に「web3をどんどん活用することこそが、今の日本の勝ち筋だ。まずは環境を整えていくことが大事。」と力説。「だからこそ、昨年末の内閣府の税調(税制調査会)などでさまざまな提案を行い、(まだ不十分であるものの)一部対応いただいた。」と言及した。
来年度税制改正では、暗号資産(仮想通貨)法人税のルールに関する一部見直しが行われた。これにより、実態に見合わぬ酷税では事業そのものが成り立たないと海外流出せざるを得なかったスタートアップ企業にとって大幅な状況改善が図られる。
日本は、暗号資産(仮想通貨)取引所マウントゴックスやコインチェックで発生した大規模ハッキング事件が社会問題になったが、金融庁および業界団体JVCEAの規制・監督強化や利用者保護の仕組み確立により、今や暗号資産(仮想通貨)取引においては、“世界一安全な国”とも言える状況となった。
このような背景について平議員は、「一周回って(新しい産業分野で)日本が世界の先頭に立つチャンスが生じている。日本が抱えるさまざまな課題を解決するにあたり、ブロックチェーン技術やweb3を利用した技術が有効だと考えている。」として、総理に見解を問いかけた。
岸田総理の答弁
これに対し岸田総理は、「web3の活用は、さまざまな可能性が考えられる。例えばDAO(自律分散型組織)に関しても、同じ社会課題に関心を持つ人々が新しいコミュニティを組成することができる。」と言及。
「NFT(非代替性トークン)もクリエイターの収益を多元化する、ロイヤリティの高いファンの維持などの取り組みも可能になる。」「平議員のおっしゃる通り、クールジャパンや地方創生に向けても強力なツールとなり得るだろう。」などと、積極的にweb3関連用語を交えながら前向きな答弁に終始した。
一方、現状の課題点として、デジタル庁で昨年行ったweb3研究会での議論では、「新しい技術であるがゆえに、既存制度との適合性への懸念などから自治体や事業者が活用を躊躇する場合が想定される。」と指摘。
「技術活用に向けた課題集約を進めることが大事だ。自民党での議論を踏まえつつ、どのような支援をしていくべきなのか検討する必要がある。」とした。
平議員は、他国との競争力などの観点から「新しい技術が出てくると(規制など)レギュレーションを迅速に整備する必要があり、同時に税制面のデザインもしっかり調整しなければならない。」との認識を示し、「ぜひ国家戦略としてweb3分野に取り組んでいただきたい。」と総括した。
●ホーチミン:メトロ1号線の運営・保守オフィスを着工 2/2
ホーチミン市都市鉄道(メトロ)管理委員会(MAUR)は1月31日、同市直轄トゥードゥック市ロンビン街区にあるデポで、メトロ1号線(ベンタイン〜スオイティエン間)の運営・保守(O&M)オフィスを着工した。
建物は2階建てで、面積は3104m2。ホーチミン市メトロ1号線有限会社(HURC1)の本社となり、メトロ1号線の開業後は全線の運営・保守を担うことになる。投資総額は460億VND(約2億5400万円)。
これに先立ち、メトロ1号線は、2022年12月に高架区間での試運転を開始した。1月18日には、自動列車防護装置(ATP)を組み合わせた試運転を行った。
メトロ1号線は全長19.7kmで、14駅(うち高架11駅、地下3駅)を設置する。投資総額は43兆7000億VND(約2400億円)超で、日本政府の政府開発援助(ODA)や国家予算で賄う。現在の進捗度は93.7%となっている。
●次期総裁にはプレッシャーが...日銀「逃げ切り」黒田総裁の大きすぎる置き土産 2/2
通常国会が1月23日からスタートした。政府は黒田東彦・日銀総裁の後任人事案について2月上旬に国会に提示する方針を示しており、市場は人事の行方を固唾をのんで見守っている。黒田氏の任期は4月8日までだが、雨宮正佳、若田部昌澄の両副総裁については一足早く3月19日に任期満了を迎える。このため黒田氏は副総裁交代のタイミングに合わせ、4月を待たずに退任することで新体制への移行をスムーズにするとの見方も出ている。
前回(1月17〜18日)の金融政策決定会合では大きな変化はなく、大規模緩和策の維持を決めた。前々回(2022年12月19〜20日)の会合において日銀は長期金利の上限を拡大し、政策修正に踏み切ったことから、市場では日銀が再度、金利を引き上げるのではないかとの観測が高まっている。海外投機筋を中心に日本国債には大量の売りが仕掛けられ、日銀は国債価格を維持するため、連日5兆円近くの大規模な国債買い入れを余儀なくされた。
現状維持を決めた前回の会合では、一連の売り圧力を跳ね返した格好だが、逆に問題を先送りにしたとも言える。それは今後のスケジュールを見るとより鮮明になってくる。
新総裁が受けるプレッシャーは高まった
2月に金融政策決定会合は行われず、次回の会合は3月9〜10日の予定である。この時には新総裁人事が決まっているはずなので、黒田氏が大きな決断をするとは考えにくいし、決断すべきでもないだろう。
そうなると、今回の会合で再修正を見送ったことで、必然的に市場の関心は新総裁誕生後の4月下旬の会合に向けられることになる。黒田氏は日程をうまく駆使して逃げ切ったとみることができるし、その分だけ新総裁が受けるプレッシャーはさらに高まったといってよいだろう。
市場の予想どおり、雨宮氏や前副総裁の中曽宏氏が総裁に就任した場合には、大胆な政策変更は打ち出さないものの、着実に大規模緩和路線の修正を進めていく可能性が高い。市場では現時点での適正金利について1%程度とみており、新体制の日銀はどこかのタイミングで金利の上限を1%程度まで引き上げるか、長期金利そのものを操作するイールドカーブ・コントロールと呼ばれる施策を撤廃することが予想される。
金利が1%になれば利払いは10兆円
経済動向に反して意図的に金利を低く抑え続けたことの弊害は大きく、金利の引き上げは現実に即した判断と言える。一方、金利が上昇すると、政府や民間企業には相応の影響が及ぶ。政府は1000兆円の借金を抱えており、平均金利が1%に上昇すると、最終的な利払いは10兆円に達するので、その財源を手当てしなければならない。
もし日銀の新体制が金融正常化に向けて大きく舵を切れば、市場の関心は日銀から政府にシフトする可能性が高い。ここで政府が中長期的な財政目標をしっかりと提示できれば、ソフトランディングの道筋が見えてくるが、逆にこうした見通しを示せない場合、政府の財政問題が市場で取り沙汰されることになり、日本国債に対する売り圧力が一段と激しくなるかもしれない。
今回の日銀総裁人事は、今後の日本の金融政策や財政政策に極めて大きな影響を与える。政府と日銀が緊密に連携し、あらゆる方向に対してバランスの取れた説明をしなければ、難局を乗り切るのは難しいだろう。
●今回の米デフォルト危機が「空騒ぎ」とは言い切れない訳 2/2
外部の変動要因に左右されない米ドルの強さは、米政府がデフォルト(債務不履行)に陥ることはないという揺るぎない信念が前提となっている。では、なぜデフォルト危機が繰り返し騒がれるのか。
アメリカは建国以来、ほぼ毎年財政赤字を出しているので、借金によって政策を進めるしかない。だがアメリカの法律では、政府が抱える債務の限度額が決められている。従って政府の機能停止とデフォルトを回避するためには、ほぼ毎年の通過儀礼として限度額を引き上げなければならない。
債務上限を引き上げるたびに議会の採決が必要な国は、アメリカ以外では世界中でデンマークだけだ。10年ほど前に米政治の党派対立がピークに達し、共和党が責任を放棄する以前は、債務上限の引き上げが真剣に議論されることはなく、議会は自動的に引き上げを認めていた。
だが、その後の2つの顕著な例(2011年と13年)で、共和党は債務上限を人質にして重要政策への支出を削れば、民主党大統領の政策目標に打撃を与えられることを理解した。米国債のデフォルトはアメリカと世界の経済に甚大な影響を与え、米ドルの信用力も破壊することになる。
今回の危機がいつもと違う訳
私は今、中東でこのコラムを書いている。今夜、空港でタクシーを拾ったときにクレジットカードが使えないことが分かっても、私は慌てなかった。運転手は喜んでドルを受け取るだろうと確信していたからだ。
空港を出てから最初の30分、賢明そうな運転手は世界のエネルギー市場、ウクライナのドンバス地方の軍事戦略、バイデン大統領の機密文書持ち出し、中国の差し迫った人口減少問題について自説を語った。私は「米国債への絶対的信頼と信用」という裏付けを持つ米ドルの覇権はこれからも続くだろうかと尋ねた。
すると、彼はこう断言した。「米ドル紙幣に『われわれは神を信じる』と書いてあるだろう? ドルは神より強いんだよ」
私は運転手に言った。米政府は2週間ほど前に債務上限に達し、財務省は支払いを続けるために「特別措置」を発動した。債務上限をめぐる対立は本来不要であり、本当にデフォルトが心配なら議会は歳出制限法案を通過させればいい。この対立劇は共和党の強硬派の無謀なスタンドプレーであり、米国債の信用を人質に取るくらいなら、議会の採決で増税に賛成して歳入を増やし、赤字を減らすほうが簡単なはずだ、と。
運転手には心配しすぎだと言われたが、私は「今回は今までと違う気がする」と話を続けた。共和党の強硬派は下院議長選出に南北戦争以降で最も長い時間をかけさせ、まんまと新議長に恥をかかせた連中なのだ。
心配ない、アメリカは必ず何とかすると、運転手は言った。その自信は現状分析や将来の予測というより、信念や過去の実績に基づいているようだった。
1兆ドル以上の米国債を保有する日本の読者は、米議会を無条件に信頼する気になれないかもしれないと、私は言った。中国やイラン、ロシアといった世界秩序を破壊しようとする勢力は、国際金融の「脱ドル化」を何より望んでいる。
運転手は不安を吐露する私の話を途中で遮り、こう言った。「いいかい、金の使い道と予算について激論を交わすのはいいことだ。家計のやり繰りをめぐる夫婦げんかみたいなものさ。ピンチになればなるほど、将来を真剣に考えるようになる」
結局、運転手の自信が私の不安を上回った。私たちは名刺を交換し、彼は私が生きている限り、今夜払ったのと同じ為替レートの米ドルでいつでも乗せてやると約束した。これが彼にとって良い取引、つまりドル高が続くことになればいいのだが。
●バイデン米大統領がマッカーシー下院議長と会談、債務上限引き上げ協議 2/2
米国のジョー・バイデン大統領は2月1日、連邦議会下院のケビン・マッカーシー議長(共和、カリフォルニア州)とホワイトハウスで、懸案となっている債務上限問題への対応に関する協議を行った。具体的な進展はなかったもようだが、ホワイトハウスの発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、両者は協議の継続に合意した。
連邦政府の国債の発行上限額は、議会による歳出関連法によって定められており、これを超えた資金調達を政府が行うことはできない。現在の上限額は31兆4,000億ドルだが、発行残高は既にこの上限に達しているため、財務省は公務員退職・障害基金(CSRDF)などへの投資を一時停止するなどで手元資金を工面している(2023年1月16日記事、1月20日記事参照)。一方で、下院多数派の共和党はバイデン政権に歳出削減を求め、債務上限対応を留保していることから、下院共和党のリーダーのマッカーシー議長との会談が今回行われた。
報道によると、バイデン大統領はマッカーシー議長に、3月9日に発表予定とされる2024年度予算案を提示してデフォルトを回避する確約を求めるとともに、共和党予算案の提示・説明を求めたとされているが(ロイター1月31日)、会談の詳細は公表されていない。会談を終え、マッカーシー議長は「共通点は見いだせる」と語ったが、具体的な成果への言及はなかった(ロイター2月1日)。
無党派シンクタンクの「責任ある連邦予算委員会」によると、2032年までに財政収支を均衡させるには14兆6,000億ドルの赤字削減が必要と試算しており、歳入を増やすことなくこの削減を達成するには、全ての支出を現状から約26%削減する必要があるとしている。共和党による歳出削減案では、防衛関係費と社会保障関係費を削減の対象から除外するとされているが、これらを除外する場合には、他の支出は現状から85%削減する必要があるとしている。報道では、難航する協議を見こして、9月末までの資金需要に対応するだけ小幅に債務上限を引き上げる案や(ブルームバーグ1月26日)、政府が1兆ドルの高額コインを発行し、中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)がこれを預けて政府に資金を支払うことで、国債を発行せずに政府が資金を調達するといった案も取り沙汰されている(「ガーディアン」1月31日)。いずれにしろ、今回の議会による債務上限引き上げへの対応状況は、債務上限引き上げ後に民間格付け会社が米国債を格下げした2011年よりも危機的との声が大きく、引き続きその動向に注目が集まる。
●防衛装備品の輸出、浜田靖一防衛相「官民連携で推進」 2/2
浜田靖一防衛相は2日の衆院予算委員会で、防衛装備品の輸出について「政府が主導し、官民連携の下に推進する」と述べた。輸出ルールを定める防衛装備移転三原則の運用指針の改定に向けて検討を進める考えを強調した。
装備移転は力による一方的な現状変更を抑止し、日本にとって望ましい安全保障環境をつくりだすうえで「重要な政策手段だ」と語った。国際法に違反する侵略などを受けている国への支援にも有用だと説明した。
浜田氏は装備品の輸出促進の狙いについて「防衛力そのものである防衛産業の維持・強化にも効果的だ」と主張した。販路がほぼ自衛隊に限られて利益率も低いため、防衛産業から撤退する国内企業が相次いでいる。
政府は2022年末に決定した国家安全保障戦略など安保関連3文書で、防衛装備移転三原則の運用指針を緩めるなどの方針を記していた。浜田氏は指針緩和に向けて「与党と調整を丁寧に進める」と話した。
政府・与党内には殺傷能力を持つ武器も条件付きで輸出の道を開く案などがある。現状では戦闘機などの装備品は共同開発した国にしか移転できない規定がある。ロシアから侵攻されたウクライナへの支援も防弾チョッキなどの提供にとどまっている。
浜田氏は2日の衆院予算委で「防衛生産基盤の維持・強化のための政策を23年度から実施するため、必要な法整備をしたい」とも答弁した。
政府は輸出に伴う仕様変更などの費用を国が出すための基金を創設するといった防衛産業への支援策を盛った法案を今国会に提出する予定だ。
自民党の小野寺五典元防衛相らは2日、国会内で防衛装備品の海外輸出の促進策を議論する議員連盟の発起人会を開いた。小野寺氏は「装備移転を通じて地域の安定に資するように対応したい」と訴えた。
●小倉大臣、子ども関連予算に国債は「慎重に検討する必要」 2/2
小倉こども政策担当大臣は衆議院の予算委員会で、岸田総理が倍増すると宣言している子ども関連予算の財源に国債をあてることは「慎重に検討する必要がある」との考えを示しました。
無所属 緒方林太郎衆院議員「今後、少子化対策にいろいろ取り組んでいかれると思うんですが、そこで用意される財源というのは、真の意味で国債に頼らない財源でやっていくという、そういうおつもりでよろしいでしょうか」
小倉大臣「国債につきましては、その返済に将来世代の税収等が充てられますことから、負担の先送りとなり、安定財源の確保、あるいは財政の信認確保の観点から慎重に検討する必要があるというふうに考えております」
また、緒方議員が、いわゆるN分N乗方式にとらわれず、「子供が増えれば税が下がりますという仕組みを導入するつもりはないか」と問いただしたのに対し、鈴木財務大臣は「今までの税制の組み立て、構成というものがある。そういうことを踏まえた上での議論が必要」と述べるにとどめました。
●N分N乗方式 財務相“高額所得者恩恵大きい 慎重に検討すべき”  2/2
少子化対策として導入を求める声が出ている、いわゆる「N分N乗方式」について、鈴木財務大臣は衆議院予算委員会で、高額所得者への恩恵が大きいことなどを指摘し、慎重に検討すべきだという考えを示しました。
「N分N乗方式」は、フランスで採用されている税の制度で、子どもなど扶養家族が多いほど世帯の所得税の負担が軽減されるとして、少子化対策の1つとして日本維新の会や国民民主党が導入を主張しています。
鈴木財務大臣は2日の衆議院予算委員会で、導入の是非を問われたのに対し、「現在の個人単位の課税を、世帯単位の課税に改めるものであることに加え、共働き世帯に比べて片働き世帯が有利になることや、高額所得者に大きな利益を与えることになるなど、さまざまな課題がある」と指摘し、慎重に検討すべきだという考えを示しました。
一方、小倉少子化担当大臣は、子ども・子育て政策の財源として国債を発行することについて、「返済に将来世代の税収などが充てられるため、負担の先送りとなり、安定財源や財政の信認の確保の観点から、慎重に検討する必要がある」と述べ、否定的な考えを示しました。
立民 長妻政調会長“格差拡大につながる可能性”
いわゆる「N分N乗方式」について、立憲民主党の長妻政務調査会長は、記者会見で、共働き世帯よりも夫婦のどちらか1人が働く世帯が有利になったり、高所得者ほど負担が軽減されて格差の拡大につながったりする可能性があるなどと懸念を示しました。
その上で「財源が同じであれば、どういう使い方が必要なのかを、格差を是正するという立場から総合的に見ていかないといけない。メリットとデメリットを冷静に考えていく必要がある」と述べました。
共産 志位委員長「いろいろな検討すべき問題点」
共産党の志位委員長は、記者会見で「今の税体系のあり方を根本から変えるので、いろいろな検討すべき問題点がある。所得が少なくて税金を払っていない人には恩恵がないという問題があり、女性が働く上でプラスになるのかという疑問点も提起されているので、よく検討していきたい」と述べました。
●「年収の壁」解消に向け議論 衆院予算委 加藤厚労相  2/2
共働きの女性などが働く時間を抑える理由の1つとされる、いわゆる「年収の壁」について、加藤厚労相が、解消に向け検討を進める考えを示した。
加藤厚労相「『130万円の壁』について意識せずに働くことが可能になるよう、どういう対応が可能なのかさらに議論は深めたい」
衆議院予算委員会で加藤厚労相は、社会保険の「短時間労働者への適用拡大を進めている」などと説明した。
そして、制度見直しの議論については、独り身で働いている人とのバランスなど「公平性が非常に大事ということも念頭に置く」との姿勢を示した。
●野党の国対委員長が会談 児童手当の所得制限撤廃を要求で一致  2/2
少子化対策をめぐる国会論戦が続く中、野党の国会対策委員長が会談し、児童手当の所得制限を撤廃するよう政府に求めていく方針で一致しました。
立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組などの国会対策委員長は、2日午後国会内で会談し、今後の国会対応をめぐって意見を交わしました。
この中では、児童手当に設けられている所得制限について、与野党から撤廃を求める意見が相次いでいることを踏まえ、政府に撤廃を求めていく方針で一致しました。
また、政府が提出を予定している防衛費増額の財源を確保するために「防衛力強化資金」を創設する法案について、十分な審議が必要だとして、本会議や委員会で岸田総理大臣に対する質疑を求めていく方針も確認しました。
会談のあと、立憲民主党の安住国会対策委員長は「児童手当の所得制限の撤廃は議論がかったつになっている。自民党や公明党の考えも聞かせてもらうが、ここまできたら政府には撤廃を決断してもらいたいし、実現を迫っていきたい」と述べました。

 

●「台湾に一番近い島」で今起きている驚くべき事態  2/3
1月26日、衆議院の本会議場。日本維新の会・馬場伸幸代表の声が響き渡った。「台湾に近い先島諸島の住民およそ10万人の避難対策は最優先の課題だ。地下シェルターは国民保護の重要な手段だが、先島諸島には1つもない。いつまでに整備する方針か」。
1月23日の通常国会召集以降、国会では衆参の本会議や予算委員会などを舞台に、政府が昨年末に決定した防衛費の増額問題で与野党の論戦が続いている。
全国紙や在京メディアの多くは、2027年度以降、増額分の財源を確保するため増税が想定されている点に焦点を当てている。それは当然としても、台湾に近い沖縄県下の島を取材すれば、馬場氏が指摘したとおり、いち早く解決すべき課題が見えてくる。
反撃能力保持で揺れる与那国島
「政府が昨年末に決定した防衛3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)で反撃能力の保持を盛り込んだことは、これからの安全保障を考えるうえで大きなステップになったと思います」
こう語るのは、元自衛隊統合幕僚長の河野克俊氏である。河野氏はさらに続けた。
「これまで日本には、守るという『盾』の役割しかなかったわけですが、『矛』という攻撃の役割も担うことになりました。こちらも反撃しますよ、ということになれば、相手国はひるみ、何よりの抑止力になります。良い方向に進んだと思います」
筆者もこの考え方に異論はない。ただ、敵基地を攻撃できる中長距離ミサイルが配備される可能性がある自治体にとっては、「はい、そうですか」とはならない。
その代表格が沖縄県与那国町だ。
一般的に与那国島として知られる与那国町は、馬場代表が懸念を示した先島諸島(沖縄県の宮古列島と八重山列島の総称)の1つだ。人口は約1700人で日本の最西端に位置する。台湾とは110キロ程度しか離れておらず、時折、台湾軍による演習の砲撃音も聞こえてくる「台湾に一番近い島」である。
政府が防衛3文書の改定と防衛費増額を決めたのを受け、筆者は住民への取材を始めた。そこで聞かれたのは困惑の声ばかりであった。
「2016年に陸上自衛隊の駐屯地ができたときは、反対ではありませんでした。しかし、敵基地を攻撃できるミサイル部隊まで設けるとなると、話は別です」(50代男性)
「中国の動きを見ていますと、やむをえないことかもしれません。でも、中長距離ミサイルを配備する前に納得がいく説明がほしいです」(30代女性)
与那国島にミサイル部隊などの配備計画が伝達されたのは、1月10日のことだ。説明に訪れたのは、沖縄防衛局の小野功雄局長らだ。
これに対応したのは糸数健一町長と町議8人で、そのうちの1人によれば、町側からはミサイル部隊の配備に懸念の声が相次ぎ、住民に説明する機会を設けるよう求める声も上がったという。
「反撃能力は相手国領土にあるミサイル基地を叩くためのものですよね? だとすれば、同盟関係にあるアメリカ軍が標的にするものと同じになります。台湾をめぐって中国とアメリカが軍事衝突した場合、日本もそのお先棒を担ぐことになれば、中国側は当然、日本にあるミサイル基地、つまり与那国島も攻撃の対象にしますよね?」(ある町議)
沖縄県石垣市が所管する尖閣諸島も、「台湾の一部」と見なしてきた中国である。台湾統一に動けば、尖閣諸島も侵攻の対象に含み、その近くに位置する与那国島の自衛隊基地を叩くことは容易に想像できる。
与那国島で主力産業である漁業を営み、与那国町漁業協同組合の組合長を務めてきた町議会議員、嵩西(たけにし)茂則氏に話を聞いた。
「新たに基地が設けられる場所は、今の自衛隊駐屯地の近くの私有地なんです。そうなると町側は手が出せません。まず、沖縄防衛局と糸数町長には住民説明会を開いてもらいたいと思います。町民の意見は真っ二つに割れてますよ。賛否を問う住民投票を実施したところで、有権者の15%が自衛隊員ですから止められません。反対しても意味がない気がします」
地域振興を名目に自衛隊を誘致
歴史をひもとけば、与那国島に自衛隊基地誘致の話が浮上したのは、2005年の町長選挙で保守系の外間守吉(ほかま・しゅきち)が当選して以降である。
その背景には、1978年以降、中国が当時の最高指導者、ケ小平によって進められた改革開放路線によって経済成長し、資源の確保が急務となり、海洋進出に活路を見出そうとしたことがある。
資源を海洋に求めた中国は、1994年にフィリピンの海域であるミスチーフ礁に建造物を設けて占拠。翌年の1995年には台湾をミサイル発射で威嚇し、アメリカとの間で緊張が高まる事態も引き起こしている。
こうした動きを受け、与那国島では与那国防衛協会を設置し、2008年9月の町議会で自衛隊基地の誘致を次のように決議した。
「過疎化が進み、国や県から見放される前に、私たち町民は心を1つにして、諸課題を早期に一挙に解決する必要がある。周辺に忍び寄る国際紛争にも国家の防衛力で身を守りながら国家予算を獲得する方策は、自衛隊誘致しかない」(要約)
外間はその後3回、町長選挙で再選を果たしたが、自衛隊基地ができれば隊員とその家族で人口が増え、過疎化に歯止めがかかるとの論法を用いた。つまり、国に向けては安全保障、町内の有権者に向けては地域振興と、その理由を使い分けることで自衛隊基地を誘致したのである。
その結果、与那国島の人口は基地誘致前の1500人から1700人に増えた。ミサイル部隊が配備されれば、さらに40人から50人程度増加することになる。とはいえ、そのことが「中国のエスカレーションを招き、島全体が標的にされるかもしれない」というツケとなって回ってきている点も無視できない。
「いつ攻撃されるかわからない島で生活しようと考えたり投資しようと思ったりする人がいますか? いませんよね。今はまったく将来像が描けない状態です」
住民説明会すら開かれていない与那国島。前述した嵩西氏の言葉は、島に暮らす人々の率直な思いを代弁しているかのようである。
この思いは、今年春、大規模な自衛隊駐屯施設が完成し、地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル部隊が配備される石垣島(沖縄県石垣市)の住民にも共通するものであろう。
防衛体制の強化前に急がれる住民避難対策
与那国島など先島諸島をめぐるもう1つの懸念は、馬場氏が指摘した住民避難の問題である。
与那国島では昨年11月30日、弾道ミサイルを想定した初めての避難訓練が実施された。ただ、避難先が特に防衛設備もない公民館であったこと、島外へ避難させるには4日から5日もかかる試算が示されたことなど、多くの課題を残した。
何せ、町役場で住民避難を取り仕切っているのは防災担当の課長1人である。町が主体では多くのことは望めない。糸数町長は、筆者の問いにこのような懸念を口にする。
「ロシアに対するウクライナとは違い、与那国島の場合、避難ルートは海路と空路しかありません。海路は石垣島までフェリーで4時間かかり、空路も飛行機が小さくて1つの便に50人しか乗せられません。国には大型船が入れる港湾と大型旅客機が離発着できる空港の整備をお願いしたいです」
ウクライナでは、地下シェルターが多くの市民の命を守った。中国の侵攻に備える台湾も、シェルターを全土で10万カ所以上設置している。
町側は台湾有事に備え、町民に「島内避難と島外避難のどちらを希望するか」を聞き、政府に対してはシェルターの設置を求める方針だ。政府も、先島諸島の自治体で有事を想定した図上訓練を行う予定だが、ミサイル部隊を配備するのであれば、何よりも早く、与那国島をはじめとする先島諸島の人々に、どのようなミサイルを配備するのか(沖縄防衛局は反撃能力を持つミサイルではないと説明)を正確に説明することが必要だ。
そして住民の避難対策、さらには台湾から避難してくるであろう人々(約2万人いる在留邦人も含む)の退避ルートや、避難場所を確保することも急務になる。
防衛装備産業衰退も深刻な課題
先頃、アメリカが、地上発射型中距離ミサイルの在日アメリカ軍への配備を見送ったと報道された。これは、日本が、アメリカ製のトマホークを約500発購入してくれるのに加え、現在は約200キロという「12式地対艦ミサイル」を改良し、射程距離を1000キロ程度まで伸ばして1000発保有することを踏まえたものだ。日本はそれらを沖縄本島を始め、先島諸島に配備すると踏んでのことである。
与那国島では町民の意見が2つに割れ、石垣島では市議会が「長距離ミサイル配備は認めない」とする意見書を可決しているが、数年先には配備される可能性がある。
仮に配備されるとすれば、巨額の税金を投入したり住民を不安に駆り立てたりする犠牲に見合うものを配備する必要があるが、想定される「12式地対艦ミサイル」1つとっても、性能向上は容易ではない。
日本には、紛争地域への武器輸出などを禁じた「武器輸出禁止三原則」という縛りがあるため、防衛産業の衰退が深刻化している。過去5年間で完成品を輸出できたのは、三菱電機の管制警戒レーダー1件(フィリピンへ技術移転)のみで、自衛隊しか顧客がいない防衛産業は、アメリカなどの最新鋭の装備品との過酷な性能競争や価格競争にさらされているのだ。
元自衛隊陸将、渡部悦和氏はこう嘆く。
「例えば、隣の韓国は国を挙げて防衛産業を後押しし、巨額の補助金も出しています。しかし、日本には国を挙げての成長戦略がまったくないのです。企業にとっては、技術開発費がかさみ利益率が低いので、撤退するのは仕方がないことです」
事実、コマツや住友重機械工業といった大手メーカーが、近年、相次いで防衛装備品の製造を打ち切っている。政府は財政支援に乗り出す方針だが、復活は簡単ではない。
反撃能力保持のため、アメリカ製のトマホークを大量購入するのはいいが、潤うのはアメリカだけで、日本の防衛装備品メーカーには何のプラスにもならない。ウクライナがロシアの侵攻を食い止めるため、アメリカやドイツなどから戦車をはじめ武器の供与を受けるのとは訳が違うのだ。
こうして考えると、防衛費増額については2027年度以降の増税の是非を問う前に、もっと早く議論し解決すべき課題があると言わざるをえない。
幸い、中国の習近平指導部は「ゼロコロナ政策」への不満解消や経済成長率の鈍化といった国内問題を優先させなければならない事態に直面している。ウクライナ戦争の成り行きや、来年に迫った台湾総統選挙、アメリカ大統領選挙の行方も見極める必要があるため、ここ1年から2年は台湾統一には動き出せない。この間に、政府は増税以外の課題にできる限り改善を加えておく必要があるだろう。
●「政策は力が作るのであって正しさが作るのではない」 2/3
  権丈善一・慶應義塾大学商学部教授
制度が動くのは為政者が「身と地位の危険」感じる時
――『もっと気になる社会保障』では、第7章「日本の医療政策、そのベクトルをパンデミックの渦中に考える」、第15章「制度、政策はどのように動いているのか」など、医療を含む社会保障の政策形成過程にも随所で言及しています。
「政策は、所詮、力が作るのであって、正しさが作るのではない」
では、ここから本題に入りましょうか(笑)。これは約20年前から僕が言っていることです。別に個性的な観点ではなく、当たり前のことと言えば当たり前のこと。みんなそうした考え方をしないだけ。例えば被用者保険の適用拡大は、国民の生活を守る意味では正しい政策です。ところが、それを試みようとすると、いつも反対する人たちに負ける。彼らには力があるからです。
政策の動向や実現する見込みのある政策を考える際には、「正しさ」だけではなく「力」についても目を配っておく必要があります。
話は少しずれますが、池上彰さんと佐藤優さんの、日本左翼史三部作があります。読むと、日本の左翼は、一度も再分配をしっかりと組み込んだ福祉国家を作ろうとした形跡がないですね。では誰が日本の社会保障を作ったのかは、なかなか答えるのに難しい問だと思います。
事実として言えば、自民党は1955年に経済界が作った政党です。だから普通は経済界の方を向いているのもムリはない。ところが、ときどき、そうでない動きをする。
第15章「制度、政策はどのように動いているのか」にも書いていますが、1961年に国民皆保険・皆年金がスタートしたのは、ある面、与党から見ると致し方なしの側面がある。育児休業制度(1992年度開始)、介護保険制度(2000年度開始)が動いたのも、政治の大動乱期。2008年から社会保障・税の一体改革が打ち出されていくのも、そうです。
――カウンターパートが打ち出している施策を逆手に取り、実現しようとする。
「社会保障政策のような、所得の分配面で大きな変革を伴う政策は、為政者に身と地位の危険を感じさせるくらいの動きが起こらないとなかなか先には進まない」
世界の歴史を見ると、そうした傾向を読み取ることができます。僕は、「為政者の保身」という言葉を昔から使っています。
政策というのは強い権力さえ持っていれば何でもできるんですね。政策の実行を抑止する力というのはどこから生まれてくるのか――。そのときにキーワードとなるのは「為政者の保身」――「為政者の保身」が重要なキーワードになると、歴史的な事例をいろいろと考えてみますと、為政者が自分を守るために、これはできるかできないかを判断していく。そしてその時に結構な善政がなされる。
[社会保障国民会議第4回雇用年金分科会(2008年5月19日)議事録から権丈氏発言を抜粋]
――では今の政治情勢を踏まえ、今後の社会保障政策はどんな展開を見せるとお考えですか。
今、いろいろなことが重なっています。社会保障が、起死回生の一手とみなされもおかしくないでしょうね。
――第10回全世代型社会保障構築会議で、そう発言されていますね。
この国の社会保障は、やらなければならないことはとうの昔から分かっているのですが、政治面での高い障害があって実行できないままでずっときたという、ストレスフルな状態にありました。だから、わたくしは、年金と医療におけるこのふたつの障壁をこの政権が突破できれば、起死回生の一手となりうるのではないかとも期待していました。しかし残念なことに、後者のかかりつけ医に関しては、メディアをはじめとした彼らの期待には応えていないようです。
記者クラブの動画をみればわかるように、記者たちの落胆は大きい。普通は、記者達の間では意見が別れるものですが、今回の件に関しては、みんなが揃って驚いて落胆している。医政局は、かなり重要なポジションにいるわけでして、このままでいくと記者達は批判を強めるでしょうから、かかりつけ医の話は、起死回生の一手どころか、かなり厳しい状況に追い込まれ、勤労者皆保険までもが、実現困難になるのではないかと心配しています。
[第10回全世代社会保障構築会議(12月7日)議事録から権丈氏発言を抜粋]
おっとっと、明るい会議ですね(笑)。
岸田総理が打ち出している一つが、厚生年金や健康保険の加入者を拡大する「勤労者皆保険」。被用者保険の適用を可能な限り拡大していくのは絶対正義。
そして、日本の医療にプライマリ・ケアを根付かせるのも長く言われてきた政策課題。社会保障改革は、起死回生の一手になり得ると思うんだけどね。
少子化、高齢期の社会保障の充実が一端
――それは「子育て」、少子化対策関連の予算もそうですね。
その通りです。本書の16章「今後の子育て・両立支援に要する財源確保の在り方について」で、2021年4月27日に自民政調「少子化対策特別委員会」の僕の講演録を掲載していますので、ぜひ読んでください。
ここでは僕が6年くらい前から言っている「子育て支援連帯基金」の話をしています。年金・医療・介護保険という、主に人生の高齢期の支出は社会保険で賄っています。これらの制度の持続可能性、将来の給付水準を維持・向上させるためにも、各保険から「子育て支援連帯基金」に拠出、この基金で子育て支援制度を支えるという話です。
構築会議の報告書には、「恒久的な施策には恒久的な財源が必要であり、「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(「骨太の方針 2022」)の方針に沿って」と書かれています。これから、介護保険創設時以来の、大きな議論が起こるのかもしれないですね。
「これは我々の支持基盤と闘えということですよね」
――子育て関連の改革に比べれば、医療関連の改革はハードルが低いように映ります。
どうだろうかね。
――12月16日、構築会議の報告書を総理に報告する会議で、次の発言をされていましたね。
2月に自民党のある会議で、勤労者皆保険、かかりつけ医の話をしますと、終わった後に1人の先生が、おっしゃることはそのとおりなのですが、それって我々に支持基盤と戦えという話ですよねということになって、今のようにみんな大笑いになったわけですけれども、そこにいた長老の先生が、我々も変わらなくてはいけないということだよとおっしゃられて、非常に面白い会議でした。
今回は、総理が、勤労者皆保険をやる、かかりつけ医機能が発揮できる制度整備をやると、錦の御旗をしっかりと掲げてくださったので、善と悪、正と邪がはっきりしました。我々の世代は、先日亡くなった水木一郎さんの歌で育ったようなものなのですが、マジンガーZの「Zのテーマ」にある、幸せ求めて悪を討つという議論を存分に行うことができました。これは本当に総理が旗幟鮮明であったおかげで、お礼を申し上げます。ありがとうございました。
[第12回全世代社会保障構築会議(12月16日)議事録から権丈氏発言を抜粋]
「人の命は尽きるとも、無敵の力、マジンガーZ」を作詞した小池一夫さんは、子づれ狼の原作者なんだけど、彼は最初は、「Zのテーマ」を主題歌用に作詞したのに、プロデューサーから、パンチが弱いと言われて、即興で「空にそびえる黒金の城」を新しく作ったんですよね。
●金融市場のゆがみや放漫財政が招く「日本の壁」=持続的発展を阻害 2/3
国連が主導する国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)が世界に浸透してきている。SDGsは17の目標と169のターゲットにより構成される極めて多面的な目標であるが、その中核となる概念は、地球、国家、企業、個人が短期的な持続ばかりではなく、中長期的に見てもサスティナブル(持続的)に発展し続けられるよう求めるものである。
まずは、それぞれの国家のサスティナビリティ(持続的発展)が不可欠である。ウクライナ戦争にみられるような国家間の消耗戦は、関係諸国の経済力や政治的安定性を損なうばかりである。戦争による人命、財力、資源の費消やこれに伴って起こる国家間の体力の不均衡拡大、そして石油、ガス、食料をはじめとするさまざまな物資の交易へ及ぼす悪影響が、国際社会のさらなる不安定を招いている。
これに加えて、新型コロナに代表されるパンデミックとそれへの対応が不安定に追い打ちをかけており、その克服がサスティナビリティ確保の見地からも求められている。
英国の国力を大きく棄損した歴史的事実
日本についてみると、長期にわたる経済不振やインフレ昂進などのためとはいえ、短期的な視野に立って財政支出の拡大をいたずらに進めるのは危険である。目先の人気取りのために不要不急な案件も含まれるとみられるばらまきが財政の規律を緩めかねない。すでに普通国債の発行残高が1000兆円を上回り、債務残高がGDPの2倍を超える中で、国債発行残高のさらなる累増をもたらし将来の世代の負担を加重させているのには強い警戒を要する。金融市場のゆがみや円安が招くインフレ、さらに資産の海外逃避、外資による国内資源の買い占めなど多くの「壁」に直面している。
それに勝るとも劣らず、少子高齢化の進行はさらに大きな問題である。将来の税収減に加え、公的年金など高齢者向け社会保障支出や子育て支援支出の増加から、財政収支のさらなる悪化が懸念される中で、医療関係者、自衛官、警察官、教員、介護職員など社会のキーとなる人員の確保もおぼつかなくなりかねない。外国人労働者も円安化に伴う実質手取り減からわが国を忌避しかねない。入管政策の弾力化や外国人労働者のスキリングの充実などの対策に注力すべきである。
それらを可能にするためにも、無駄な財政支出の圧縮が肝要であり、そのためにも一段の行財政改革や会計検査院検査の機能の強化が必要であろう。東アジア情勢の緊迫化を背景とした防衛費の増加分を国民負担なしで実施すべきなどという虫のよい議論は戦前の歴史の教訓に学んでいないといわざるをえない。そもそも財政破綻の危機に見舞われたら、安全保障上も危うい。正しい理解を深めるうえでは、ジャーナリズムの毅然とした姿勢と分かりやすく、説得力ある説明を強く求めたい。
必要な「幅広いセンス」と「目配り」
SDGsの重要要素につながるものとして、コーポレートガバナンスの充実が叫ばれているが、あまりにも欧米からの受け売りで、わが国の企業経営の実相から離れた論議がみられるのは残念である。従業員、顧客や株主を抱えるわが国企業の経営は、極めて責任が重く、経営者は全知、全能、気力、体力を込めて、短期的な売上・利益の拡大や資本・キャッシュの蓄積はもとより、中長期的なビジネスの発展に血眼になって取り組んでいるのである。そのうえでは、経験や過去の苦労に裏付けられた広範な見識のほか、時代を先取りしたニーズの把握、社員の適切な管理、財務状況の的確な把握、リスクの許容範囲内への抑制、不祥事の防止、といった幅広いセンスと目配りが求められる。
会社経営のアクセルともいうべき事業の執行が会社運営の中核であることは間違いないが、過大なリスクの抑制など暴走を防ぐブレーキ役であり、かつ経営常識に支えられたモニタリングを果たす存在が重要である。これを担うのが社外取締役や監査役であるが、それが十全に機能するうえでは、経営者の耳を傾かせるだけの経営経験や知見、論理展開の蓄積(さらには人間性)が必要である。
近年、女性や外国人の取締役などへの登用が求められているが、日本では欧米と違って、多くの会社において女性の管理職、役員は残念ながらまだ少ないのが実情である。各企業において女性幹部さらには女性経営者を増やしていくことが何よりも肝要であるが、現状では株主の期待に真に応えられるような女性人材は、その人数も含めてまだ十分に育成されていないのが実情である。
形を整えるだけのガバナンス体制よりも、真にエクセレントでサスティナビリティな企業の育成につながる対応(会社の実相をよくみたうえでの取締役会議論の活性化)こそが重要である。こうした対応は、単に取締役会の場でのみなされるのではなく、企業にとって最も大切な現場および経営者やその予備軍をできるかぎりの機会を設けてよく観察していくとの絶え間ない努力があってこそ築かれるものである。
前途に立ちはだかる「日本の壁」を乗り越え、持続的発展を図るためには、官民が総力を挙げた改革が必要不可欠である。
●政府、防衛財源法案を閣議決定 2/3
政府は3日、防衛費増額の財源を確保するための特別措置法案を閣議決定した。2023年度予算案で4兆5919億円の税外収入を確保。これを複数年度にわたって防衛費に充てる枠組みとして「防衛力強化資金」を創設する。同日中に国会へ提出し、3月末までの成立を目指す。
防衛費は23〜27年度の5年間で総額43兆円程度を投じる方針を昨年末に決めている。現行水準からの増額分となる17兆円程度の財源は、税外収入で4兆6千億円程度〜5兆円強、決算剰余金で3兆5千億円程度、歳出改革で3兆円強を捻出し、残りを増税や建設国債などで賄う計画だ。
●維新が喧伝する「大阪は高等教育無償化」の大嘘! 実態はドケチ 2/3
日本維新の会のウソが止まらない。
今週始まった衆院予算委員会で維新の会の岩谷良平氏は、教育の無償化について「大阪では不完全ながらも、0歳から大学院まで無償で教育が受けられる道が開かれようとしている。これぐらいやって初めて異次元の少子化対策だ。国でも取り入れて国全体で一緒にやろうという考えはないか」と発言。看板政策「異次元の少子化対策」をめぐり、右往左往している岸田首相を攻め立てた。
菅前首相らしからぬメディア行脚で政権批判 維新と連携し「岸田降ろし」を周到に準備か
もっとヒドイのが藤田文武幹事長。与野党幹部が顔をそろえた先日のNHK「日曜討論」で、「児童手当に限らず給付における所得制限はなくすべきだと一貫して言ってきた。大阪では行財政改革を徹底的にやって高等教育までの無償化が実現しており、全国でやりたい。出生数の減少に歯止めをかけるために大きな手を打つべきだ」と言ってのけた。
だったら何で人口増えへんねん
維新は何かと「大阪では高等教育まで無償化」と主張し、タダで学校に通えるかのように主張するが、真っ赤なウソだ。
大阪で無償なのは授業料のみで、入学金などは必要だ。所得制限があるため、授業料が無償なのは府在住の約半数にすぎない。大阪公立大の授業料補助制度も所得制限がある。学生と保護者ともに府内に3年以上住んでいなければならず、成績が上位2分の1以上でないと打ち切り。補助を受けているのは全学生の3割もおらず、授業料全額無償の学生はひと握りだ。
子育て家庭に優しい行政を展開していれば、府内の住民はグングン増えそうなものだが、実際はこの10年あまり人口は減少傾向。育児支援を充実させたお隣の兵庫県明石市には子育て世帯がどんどん転入し、10年連続人口増となっているのとは対照的だ。
大阪維新の会のHPではパンチパーマをかけたおばちゃんのイラストに「松井さん、私立高校授業料無償化のおかげで、うちの息子を私立の○○高校に入れることが出来ました。本当にありがとうございます!」と言わせているが「いい加減にせいや!」ちゅう話。
新型コロナウイルス対策の一環で、大阪市は2020年度から22年度まで小中学校給食費を無償にしたが、23年度以降は未定だ。
実態はむしろドケチなのだ。
●卒業式や入学式でのマスク着用「5類」見据え推奨せず検討 政府 2/3
新型コロナ対策としてのマスク着用をめぐり、政府は卒業式や入学式では感染リスクは高くないとして、着用を推奨しないことなどを検討していて、専門家の意見も聞いたうえで、2月中のできるだけ早い時期に結論を得たい考えです。
政府は、新型コロナの感染症法上の位置づけを5月8日に、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行するのを見据え、マスクの着用を個人の判断に委ねることを基本とするよう見直す方針で、与野党双方からは、卒業シーズンを控え、学校現場では先行してルールを緩和するよう求める意見が出ています。
こうした中、政府は卒業式や入学式では式典中に継続的に会話が行われる状況が想定されず、体育館などは換気をしやすいことなどから、感染リスクは高くはないとして、一定の感染対策を講じることを条件に、マスクの着用を推奨しないことを検討しています。
この場合でも、着脱を無理強いすることがないよう求める考えです。
また、1月からイベントの人数制限の措置が緩和されたことも踏まえ、卒業式や入学式でも参加人数を抑える呼びかけをとりやめる案も出ています。
政府は、卒業シーズンが迫っていることを踏まえ、専門家の意見も聞いたうえで、マスク着用に関する社会全体の見直し時期にかかわらず、2月中のできるだけ早い時期に結論を得たい考えです。
卒業式でのマスク 文科相 緩和に向け検討「速やかに決めたい」
卒業式でのマスク着用をめぐって、永岡文部科学大臣は、現時点で政府としての方針は決めていないとしたうえで、緩和に向けて具体的な検討を進めていく考えを示しました。
永岡文部科学大臣は、2日午前開かれた衆議院予算委員会で、学校の卒業式でのマスクの着用について「今の指針では『マスクをしなければ出席したくない』という子どもはマスクをつけ、マスクは外すと家庭で決めた子どもは外しての参加となろうかと思う」などと答弁しました。
これについて永岡大臣は委員会の終了後、記者団に対し「政府の新型コロナ対策本部の決定では、マスクの取り扱いに関して今後早期に見直し、時期も含めてその結果を示すとされており、現時点で卒業式のマスクの取り扱いを決めたという事実はない」と強調しました。
そのうえで「政府全体での検討を踏まえて、卒業式などを含めた学校におけるマスクの着用に関して、今後どのようにするか速やかに決めていきたい」と述べ、マスク着用の緩和に向けて具体的な検討を進めていく考えを示しました。
●安保政策の論戦 専守防衛が空疎に響く  2/3
安全保障政策の転換を巡り、岸田文雄首相ら政府側が具体的な説明を避ける場面が目立つ。防衛予算倍増の方針を示しながら「中身は秘密」では議論にならない。詳細な説明が国会審議の大前提だ。
主要論点である敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は憲法九条に基づく専守防衛を逸脱し、軍拡競争に拍車をかけかねない。台湾を巡り米中が軍事衝突すれば、自衛隊が集団的自衛権を行使し、中国を攻撃する事態も想定される。
国際法違反の先制攻撃とならぬよう、どのような状況なら長射程ミサイルを相手国に撃つのか。立憲民主党の岡田克也幹事長は集団的自衛権を行使する敵基地攻撃の例示を求めたが、首相は「手の内を明かすことになる」と拒んだ。
集団的自衛権の行使を巡る安保関連法の審議では当時の安倍晋三内閣が、邦人を乗せた船舶を守る米軍の警護や中東・ホルムズ海峡での戦時の機雷除去などの例を不十分ながら示した経緯がある。
それと比べても岸田首相の今国会での説明は具体性を欠く。敵基地攻撃を巡る判断を白紙委任するよう国民に求めるに等しい。
政府は二〇二三年度予算案に、敵基地攻撃に使える米国製巡航ミサイル「トマホーク」導入関連費三千二百億円余を計上しながら、その購入数は「防衛能力を明らかにすることになる」(浜田靖一防衛相)として明示していない。
防衛費を五年間で計四十三兆円に増やす方針に関し、首相は「必要な内容を積み上げた」としているが、積算根拠を示さず国民に税負担を求めるというのか。「金額ありき」と指摘されて当然だ。
共産党の志位和夫委員長は敵基地攻撃能力の保有と、攻撃的兵器を平素から持つことは「憲法の趣旨ではない」とする歴代内閣の憲法解釈との整合性をただした。
首相は安保環境の変化に対応する必要性を強調しつつも、憲法解釈の変更を否定したが、敵基地攻撃能力の保有が憲法の趣旨に合致するとは到底考えられない。
不誠実な答弁や不十分な説明を続けても、首相は「国民の前で正々堂々議論」(施政方針演説)していると胸を張れるのか。
岸田内閣が進める防衛力の抜本的強化は集団的自衛権の行使容認に続く安保政策の大転換だ。首相がいくら「専守防衛を堅持する」と強弁しても空疎に響く。野党には国会での徹底追及を求めたい。  
●月面を歩ける保証はないのに2400億円を"約束"… 2/3
アメリカの言いなりになるJAXAは本当に必要なのか
岸田首相は始終ニコニコ顔だったが…
日本と米国が、「日・米宇宙協力に関する枠組協定」を結んだ。協定には、米国が主導する有人月探査「アルテミス計画」など、日本と米国の宇宙協力をスムーズに進めるためのさまざまな取り決めが盛り込まれた。
宇宙での覇権を目指す中国への牽制になるとの期待が込められているが、これで一件落着ではない。むしろこれから厳しい競争や交渉にさらされると、日本政府やJAXA(宇宙航空研究開発機構)は覚悟すべきだろう。
日本時間の1月14日、米ワシントンのNASA(米航空宇宙局)本部で行われた日米協定の署名式は、実に賑やかだった。
署名を交わすのは林芳正外相とブリンケン米国務長官だが、訪米中の岸田文雄首相、NASAとJAXAのトップ、日米大使、日米の宇宙飛行士と、総勢9人がずらっと並んだ。
9人の真ん中に座った岸田首相は「宇宙協力が力強く推進され、日米の協力分野がいっそう広がることを期待する」とあいさつ。
エマニュエル駐日米大使も「宇宙探査だけでなく、米国と日本のパートナーシップと友情を象徴している。新たな始まりだ」と力を込めた。
始終ニコニコ顔の首相に、SNSでは「岸田さんって、そんなに月探査をやりたくて仕方がなかったの?」などと、驚く声が投稿された。これまで宇宙に関して岸田首相のめぼしい発言はほとんどなかったからだ。
背景に猛スピードで力をつける中国の存在
NASAのホームページには、林外相とブリンケン長官が署名後に握手を交わす写真が大きく掲載された。日本のメディアも大々的に報じた。
ただ、この協定によって何か新しいプロジェクトが始まるわけではない。
「枠組み協定」という名が示す通り、日米の協力をスムーズに進めるためのさまざまな取り決めを定めた、いわば包括的な下地作りだからだ。
協定の対象は、月探査だけでなく、宇宙科学、地球科学、航空科学技術、宇宙技術、宇宙輸送、安全確保など、幅広い分野にわたり、宇宙で事故が起きた時の対応、知的財産権の扱い、輸出入にかかわる税の免除などのルールを定めている。
これまでは一つひとつ協定を結んでいたため、手間と時間がかかった。今回の協定によっていちいち結ばなくてもよくなる。これまでよりもスピーディーに日米間の協力が可能になるという。
背景には、ここ20年にわたって世界各国が想像もしなかったような速さで宇宙開発の力をつけている中国への危機意識がある。対抗するためにも、日米協力をスムーズに行えるようにしておかないとならない。
だが、これで日本は安泰、ということにはならない。日本にとっては諸刃の剣になりうるリスクもはらんでいる。アルテミス計画もそこから免れない。
ISS延長の見返りに、日本人飛行士を滞在させる
アルテミス計画は、壮大なプロジェクトだ。
2025年頃に月面に宇宙飛行士2人を送り、その後、月面に人間が滞在できる基地を建設、さらに火星への有人飛行を目指す。
当然、巨額の費用がかかる。米国だけでは賄えないため、国際協力の形で行う。
日本もアルテミス計画の一部である「ゲートウェイ」に参加している。月の近くに、人間が滞在できる宇宙ステーション「ゲートウェイ」を作る計画だ。日本はここに、システムや機器を提供する。
昨年11月、NASAと永岡桂子文部科学相が、その実施取り決めを結んだ。同時に、それぞれが注目を集める発表をした。
NASAはこの「ゲートウェイ」に、日本人宇宙飛行士の滞在機会を1回提供する、と決めた。日本は、国際宇宙ステーション(ISS)の運用期間の2030年までの延長に参加すると表明した。
「ゲートウェイ」への日本人飛行士の滞在は、ずっと日本が切望してきたことだ。欧州がNASAへの協力の見返りに、飛行士の「搭乗券」を3回分獲得していることも、日本政府やJAXAにとってプレッシャーになっていた。
一方、NASAは2024年までで運用終了予定のISSを、30年まで延長することを希望していた。
ISS延長という米国の要望に日本がこたえ、その見返りに、NASAが日本人飛行士のゲートウェイへの切符を提供した格好だ。
「日本人を月周辺に送る」だけで2400億円の追加費用
岸田首相をはじめとする日本政府、JAXAはさらに前のめりになっている。それは日本人飛行士を月面に立たせることだ。
バイデン米大統領もNASA長官も、事あるごとに、その実現可能性をにおわせている。
予算面や技術面などでの日本の貢献を期待してのことだろう。
米国はもちろん欧州も、自分たちの飛行士が月面を歩くことを強く希望しており、競争は激しい。長年、宇宙開発に携わってきた専門家は心配を募らせる。
「米国に頼んで日本人飛行士を月へ連れていってもらうことができたとしても、その『請求書』が怖い」
月面を日本人飛行士が歩くことができるようになるかどうかにかかわらず、ISSの延長と「ゲートウェイ」の同時進行は、これから日本にとってかなり重荷になる。
日本はISSに毎年400億円前後を投じている。日本政府やJAXAは、民間企業に運営を移管し、費用負担を減らそうとしている。だが、先行きははっきりしない。現在の費用のまま6年延長すれば、単純計算で2400億円、余計に費用がかかる。
その上、「ゲートウェイ」もとなると、宇宙予算はどんどん膨れ上がる。
安全保障予算の拡大、少子化対策、物価高対策……。喫緊の課題が山積する中、日本はどれだけ宇宙予算を増やすことが可能なのか。
日本人飛行士に月面を歩行させるために、米国からさらにどんな見返りを求められるのか。日本は何ができるのか。日本政府やJAXAは、国民にも説明する必要があるだろう。
米国に気に入られた者が勝ち
アルテミス計画は、国際協力の形はとっているが、米国の計画だ。
参加国、参加条件は、NASAが決める。その判断基準は公開されていない。米国以外の国々にとっては、米国に気に入られた者が勝ち、ということになる。
当然、アルテミス計画の基本は米国ファーストだ。米国の技術育成や産業振興に力点が置かれている。NASAは、日本が参加を表明する前から、米企業とともに、その青写真を描いている。
ロケット、宇宙船、月面基地建設などの技術的、産業的に魅力のあるところをどんどん押さえている。
NASAのホームページには、アルテミス計画の「パートナー」を紹介するグーグルマップの世界地図が掲載されている。地図上には、マーカーがたくさんつけられており、クリックすると、米国や欧州の企業名、担当分野、所在地などが表示される。
アルテミス計画には日本の民間企業も意欲を示している。例えば、トヨタ自動車が月面有人探査車をJAXAとともに開発を進めている。NASAのグーグルマップに加わるためには、日本の宇宙開発の実績や強みをアピールし、NASAから認められる必要がある。
中国、スペースXは60回成功も日本はゼロ
だが宇宙開発での日本の存在感は薄れている。
2022年のJAXAはトラブル続きで、世界に注目される成果が出せなかった。中国や米スペースX社は、22年にそれぞれ約60回ロケットの打ち上げに成功した。
しかし、日本の成功回数はゼロ。小型ロケット「イプシロン」の打ち上げに失敗し、新型ロケット「H3」の開発が遅れたためだ。さらに、超小型月探査機「おもてなし」の失敗、宇宙飛行士の古川聡さんが責任者を務めた実験での不正発覚など、マイナスの出来事が続いた。
今年になって1月26日にロケット「H2A」の打ち上げに成功し、ようやく一矢報いたが、欧米と競いながら、日本に有利な場所を獲得し、次の世代に向けて発展させていくには、日本政府にもJAXAにも相当な力量が求められる。
日本政府やJAXAにその力はあるのだろうか。
政治家や企業からは、JAXAは、お勉強が得意な「理工系秀才集団」だが、政治、経済、安全保障など世の中の動きに無頓着なまま、自分たちの好きな技術開発や研究ばかりしている、と見られてきた。
このため、2008年に議員立法で「宇宙基本法」を作り、「国家戦略に基づいた宇宙開発」を行うことを決めた。
米国についていくだけの現状に“不要論”も
だが、最近顕著になってきたのは、むしろ現在の日本の宇宙戦略が、不明瞭になっていることだ。安全保障での宇宙利用も含めて、いかに米国と協調して進めていくかが突出して強調されているからだ。
かつては「夢物語」と日本政府が一蹴した月有人探査や、無駄遣いの象徴のように言われてきたISSも、「米国が望んでいるから」と、重要視されるようになった。だが、そう判断した理念や、日本自身として今後どうしたいかは見えないままだ。
米国次第、という色合いが強まっている。
日米枠組み協定ができたことで、どんどん米国のペースで研究や技術開発が進む一方で、日本独自の強みとして守るべきものが検討されないまま、おろそかにされないかも心配だ。
実は2000年代に入ってから、政治家や企業などの間で、JAXA不要論が唱えられたことがある。多大な予算を使っているわりに、安全保障や産業に生かせるような成果が出ていない、という理由だ。
JAXAの注文を受けて、実際にロケットや衛星などを製造するのは企業だ。ならば、企業に権限を移してしまえばもっと産業が発展する、という意見が強まった。
JAXAが開発したロケット「H2A」の技術と打ち上げサービスを、2003年に製造企業の三菱重工業に移管したのもその一環と見られる。
政治家の中には、「ロケットは民間に任せ、これからJAXAは鹿児島県種子島の打ち上げ施設の管理人になるんだ」と言ってのける人までいた。
民間企業が主役の時代にJAXAはどうする
「宇宙基本法」ができて以来、JAXAは技術集団として国の政策実現を支えたり、産業振興のために技術協力をしたりするようになった。ベンチャー企業支援にも乗り出した。
こうした動きは、米NASAをまねたものだ。NASAは今では研究開発組織というよりも、スペースXなどの民間企業に研究資金などを提供する「予算配分組織」のようになっている。
JAXAのベンチャー企業支援も、当初は技術助言に限っていたが、2年前からJAXAの技術成果を使ったベンチャー企業に出資することも可能になった。
「金は出さないが、技術助言のために口を出す」から、「金も出すし、口も出す」へ移りつつある。ベンチャー企業が力をつければ、JAXAは「金は出しても、口は出せない」時代になるかもしれない。その時、JAXAはどうするのか。予算配分組織への道を歩むのか。
「理工系秀才集団」が直面する試練
このままだとその恐れがある。国の宇宙機関として活躍するためには、民間と同じようなことをするのではなく、リスクが大きく民間だけではできない日本独自の魅力的なプロジェクトを考え出し、実現させることが必要だ。その視点が現在の日本政府の戦略には不足している。
独自の魅力あるプロジェクトを進めるためには、一般の人々の理解を求めることが欠かせない。コミュニケーション力やリスクマネジメント力を磨く必要がある。だが、「理工系秀才集団」はそれが苦手のように見える。
米国頼りのリスクも念頭に置いておく必要がある。
米国はよく宇宙政策を変更する。冷戦時代に宇宙開発でソ連と対抗した米国だが、ソ連が崩壊すると、米国の判断で、西側陣営の宇宙ステーション計画に招き入れ、世界を驚かせた。
その後もISSで日本が米国の判断に振り回されることも多く、政府の間では「米国頼り一辺倒ではいけない」という反省の弁が漏れた。
そうした体験をどう生かしていくのか。日米関係の強化、アルテミス計画、という大きな変化の時代だからこそ、将来を見据えた日本の戦略を考え、実行することが必要だ。
●国家を守る防衛財源を確保 防衛力財源確保特措法案を了承 自民党 2/3
今国会に提出する防衛力財源確保特別措置法案が1月31日の総務会で了承されました。政府与党は、わが国の防衛力を抜本的に強化するため、今後5年間で43兆円程度の防衛予算を確保する方針であり、強化される防衛力を安定的に支えるため、毎年度約4兆円の財源が必要です。そのうち4分の3は歳出改革や税外収入等によって確保します。不安定な国際情勢の中で、平和国家として日本の平和と独立を守るため、わが党は防衛力の強化に全力を尽くします。
特別会計繰入金を活用
防衛力を強化するために必要な財源を確保するため、政府では税外収入を当面、4.6兆円程度確保します。
そのうち、令和5年度の外国為替資金特別会計繰入金(1.2兆円程度)、財政投融資特別会計財政融資資金勘定の繰入金(0.2兆円程度)、国立病院機構・地域医療機能推進機構の国庫納付金(0.1兆円程度)については、立法措置が必要なため、特別措置法案を国会に提出します。
これ以外にも、特別会計の繰入金や、新型コロナウイルス感染症基金の国庫返納や、国有財産である「大手町プレイス」の売却収入等、3.1兆円程度の税外収入を確保します。
確保した税外収入の一部は、特別措置法案により設置される「防衛力強化資金」に繰り入れられ、今後の防衛力強化のために活用されます。
●防衛費増額、安定財源遠く 政府が確保法案を閣議決定 2/3
政府は3日、防衛費増額に向けた財源確保法案を閣議決定した。財源に充てる税外収入をためる「防衛力強化資金」の設置を盛った。特別会計の剰余金など約1.5兆円の税外収入を特例的に確保する規定も明記した。これらを防衛費の増額に充てれば、他の経費の財源は減る。政府の債務が膨らむ恐れもある。
病院を運営する2つの独立行政法人の積立金から、計746億円を本来より前倒しで国庫に返納させる。政府の投融資を管理する「財政投融資特別会計」から2000億円、為替介入に備える「外国為替資金特別会計」から1.2兆円を一般会計に繰り入れる。
これらを防衛力強化資金にため、複数年度かけて使う。法案で手当てする1.5兆円とは別に、政府は国有財産売却などで3.1兆円ほどの税外収入の確保も見込む。計4.6兆円のうち2023年度に1.2兆円を使い、残りは24年度以降の防衛費の増額分に充てる。
政府は今後5年間の防衛費の総額を43兆円とした。40.5兆円は毎年度の当初予算で手当てする。22年度当初の5.2兆円の5年分(25.9兆円)から14.6兆円程度の上積みとなる。税外収入で4.6兆〜5兆円強、決算剰余金の活用で3.5兆円程度、歳出改革で3兆円強をまかなう。残りを24年以降の増税で確保する。具体的な実施時期は決まっていない。
税外収入は本来、一般会計全体で使えるはずのお金だ。他の経費に充てる財源は減り、税収が増えなければ新規国債で穴埋めすることになる。決算剰余金も年度途中の補正予算の財源に充てるケースが目立つ。これまで通りの補正編成を続ければ、新たな国債発行が必要となる。
自民党は増税以外の財源確保策を検討する特命委員会を1月に立ち上げた。国債の「60年償還ルール」の見直しを求める意見がある。歳出改革で他の政策経費が削られることへの懸念も出ている。
●日銀が利上げしても国債発行への影響は当面限定的=ムーディーズ 2/3
格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスのシニア・バイス・プレジデント、クリスチャン・デグズマン氏は3日、日銀が将来利上げしたとしても穏やかなペースとみられ、当面の国債発行への影響は限定的なものにとどまるとの見方を示した。
ロイターのインタビューで、日本の多額の公的債務は信用力にとってマイナスだが、この弱点は日本の膨大な貯蓄と国内投資家の強いホームバイアスに相殺されると述べた。
また、金利に関する見解として「金利が正常化した場合、日銀は徐々にしか金利を上げないだろうから、日本のデットファイナンスへの短期的な影響は限定的だろう」と発言。
「重要なのは、政府が非常に有利な金利で資金を調達できることだ。これは必ずしも変わっておらず、政府の資金調達環境はまだ極めて心地よい状況だ」と語った。
同氏は一方で、日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の持続可能性への市場の懸念は高まっていると指摘。「日銀がどのように移行を管理するかで、われわれは金融政策とマクロ政策の有効性を評価することができる。現在は非常にリスクの高い時期だ」と述べた。
インフレ率の上昇が債券利回りに上昇圧力をかけているため、ハト派的な黒田東彦総裁の任期が4月に終了した時点で、日銀がYCCを段階的に廃止するとの憶測が市場で飛び交っている。
利回りが少しでも上昇すれば、日本の経済規模の2倍という世界最大級の巨額の公的債務の調達コストが増大し、既に悪化している日本の財政にさらに負担をかけることになる。
デグズマン氏は、基礎的財政収支の黒字化に向けた日本政府の公約を歓迎すると発言。ただ、岸田文雄首相の経済・財政政策は「あまり明確化されていない」とし、歳出計画の財源についての詳細が欠けていると述べた。
同氏は日本のソブリン債格付けを決定する際に、ムーディーズは巨額の債務と有利な資金調達条件のバランスに注目するとし、「バランスが崩れた場合、格付けが見直される可能性がある」と述べ、日本のソブリン債格付けが引き下げられる可能性に言及した。
ムーディーズは現在、日本のソブリン債に「A1」格付けを付与。21段階中で5番目に高い格付けとなっている。
●日銀、進む「ポスト黒田」への地ならし 令和臨調が緩和副作用の検証提言 2/3
1月30日、企業経営者や学識者などが参加する令和国民会議(令和臨調)は異次元緩和の起点の1つになった10年前の政府・日銀の共同声明について、見直しに向けた提言を公表した。「できるだけ早期に実現」としていた安定的な物価上昇率2%の達成目標を「長期の物価安定の目標として新たに位置づける」ほか、現状では不透明な政策検証の機会について「制度的な仕組みを早急に整備」し、政府・日銀の共通目標として「生産性向上、賃金上昇」を盛り込むといったことがポイントだ。
「日本経済の停滞の原因は、必要な投資、構造改革をしてこなかった民間にあることは自戒しないといけない。だが、財政政策と金融政策にも課題はあるのではないか」――。令和臨調の「財政・社会保障」部会で共同座長を務める平野信行三菱UFJ銀行特別顧問は緊急提言の背景についてこう述べた。大規模金融緩和がバラマキ的な財政支出を促し、経済の新陳代謝や産業構造の変化が進まず、生産性は低下して賃金が伸び悩んだのではないかとの問題意識だという。共同座長の翁百合日本総合研究所理事長も「新たな連携の枠組みを考えるべきではないか」と話した。
令和臨調は今回の提言を手始めに、年度内にも3つの部会(「統治構造」「財政・社会保障」「国土構想」)で順次提言を出す方針だ。春ごろには与野党の国会議員による話し合いの場も立ち上げ、政界、経済界、有識者などによる本格的な論議を行う方向で準備を進めているという。令和臨調の活動のキーワードは「日本社会と民主主義の持続可能性」。平成の政治改革論議のように、世論を喚起し、改革を前進させることができるか注目されている。
日銀ウオッチャーにとって「主張自体に違和感はなく、共感する」(外資系証券エコノミスト)内容だ。2022年に急激に進んだ円安や、債券市場の機能低下、年金基金や金融機関の運用難など、異次元緩和の副作用を間近で見てきたマーケット関係者の間で、金融政策の柔軟化につながる今回の提言を評価する声は多い。
では果たして実現性はいかほどか。令和臨調は民間の有識者会議なので強制力があるわけではないが、「単なる『紙づくり』ではなく、改革を一歩でも前に進めるために汗をかき、合意形成活動や世論喚起に尽力する」(令和臨調)としており、影響力は侮れない。ある日銀OBは緊急提言について「常識的に考えれば、日銀や政府など関係各所への前触れは済んでいるはず。黒田東彦総裁の任期満了後の新体制が動きやすくなる『地ならし』の効果はある」と読む。
そもそもこれまで約10年間の日銀は「粘り強く緩和を続ける」「(物価目標達成のために)ちゅうちょなく追加緩和を行う」との立場を堅持してきた。市場とのコミュニケーションは滞り、22年12月の政策修正や23年1月の緩和手法の拡充など、政策の変化は多くがサプライズ的に実施されてきた。サプライズは、市場の疑心暗鬼を呼び、相場変動を増幅させやすい。今回の「地ならし」によって、新体制による柔軟で機動的な政策運営の自由度を高めておくことができれば、マーケットにとっても大きな意味がある。
実際、マーケットはいち早く提言内容を「織り込んだ」。公表直後、外国為替市場では円相場が1ドル=130円台から129円台まで1円あまり円高が進行。仮に提言が実現するなら、2%目標の達成時期が「できる限り早期」から将来に先延ばしされることで強力な緩和を維持する根拠が弱まるとの解釈だ。
加えて、23年3月、4月に任期満了を迎える日銀の正副総裁の候補のうちの一人と目されている翁氏が緊急提言の発表者に加わっていたことも、「提言内容が実現される可能性がある」との思惑に拍車をかけた。
もちろん、今回の緊急提言が「地ならし」だとしても、「ポスト黒田」体制がすぐに大規模緩和を辞めてしまうと考えるのは早計だ。実際には、インフレ退治のための利上げがもたらす米国の景気後退懸念などを考慮にいれながら、国内経済の復調や日本企業の賃上げ機運をそがないよう、緩和維持と正常化を両にらみで進める公算が大きい。記者会見で質疑に答えた翁氏も共同声明見直しの意義について「(政策が)柔軟に動きやすくなる。引き続き物価の安定を通じた持続的な成長を目指してもらいたい」と述べた。
振り返れば、日銀は10年前、世論の批判を受けて異次元緩和に事実上「追い込まれた」経緯がある。過度な円高への対応や、低成長の原因をデフレに求める見方に対し、金融政策で対応するという、ある種の実験が行われた格好だ。10年間の壮大な実験を経て「金融政策に経済の構造そのものを変える力があるというのは思い過ごしだった」(平野氏)との見方は強まりつつある。副作用も看過できなくなってきた。10年の節目に、改めて建設的な政策運営の循環を生めるか。今回の緊急提言は、ひとつのターニングポイントになるかもしれない。
●YCCの追加修正なら長期金利は0.9%程度まで上昇も 2/3
1月24日に日本銀行が発表した国債の銘柄別保有残高(1月20日時点、受け渡しベース)によると、指値オペの対象銘柄である10年物国債の358回債と367〜369回債の計4銘柄の保有額は前回公表時の1月10日時点から大きく増加し、当社の推計ではいずれの銘柄も日銀の保有残高が発行額を上回る結果となった。
現行の日銀オペの運営上、買い戻し条件を付さないアウトライトの国債売りオペは存在せず、現時点ではその規定が設けられる可能性も低いだろう。もしアウトライトの国債売りオペの規定が設けられると、日銀保有国債の会計区分は現行の「満期保有目的」から期中の売却を想定した「その他有価証券」に変更され、時価評価の対象となる可能性が高く、特に金利上昇局面で日銀財務に深刻な影響を与えかねないためだ。
そのため、いびつな需給環境を解消させるには、国債補完供給制度(SLF)の「減額措置」(注:SLFを通じて金融機関に貸し出された国債の日銀への引き渡しについて、金融機関が一定の手数料を支払う代わりに日銀が国債の返還を免除する制度)が行われるか、財務省による追加の国債発行を待つしかない。いずれにせよ、解消には時間がかかる可能性が高く、裏を返せば、極めて異例な国債の需給環境をつくり出している現行政策は持続可能とは言い難い。
日銀は1月17、18日に開かれた金融政策決定会合で、共通担保資金供給オペ(共担オペ)を拡充し、会合後の会見で黒田東彦総裁は「これによりイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の持続性が高まり、債券市場の機能度改善が後押しされる」と主張した。しかし、共担オペの拡充は、日銀に代わって金融機関に国債買入れを促す方法にかじを切らざるを得なかったという点で、現行政策の限界を露呈していると思われる。実際、発表直後に中長期金利はスワップ金利主導で低下基調を強めたが、すでに底打ちしている。
現行政策が抱える本質的な問題に日銀が対処するには、金融緩和バイアスを維持しつつ、市場機能や流動性の改善を促すための追加的な政策対応が不可欠だ。当社は4月27、28日に開催予定の金融政策決定会合で、日銀が長期金利操作目標の年限短期化に動くと予想している。この場合、各種定量モデルに基づくと、長期金利は0.8〜0.9%を上限に上昇圧力を強める展開が見込まれる。
一方、本稿執筆(1月26日)時点で3カ月先10年国債利回りは0.5%台にとどまる(図表)。これは、新総裁の下で行われる4月会合までは、長期金利の変動幅上限を0.5%とする現行のYCCが続く可能性が高いという見方を長期金利が反映していることを示唆する。しかし前述のとおり、現行政策が持続可能とは考えにくく、長期金利がこうした低い水準で推移することは正当化しづらい。春先にかけてリスクは金利上昇に傾いているとみている。
●12月20日の日銀ショックにより、先行き不透明感が強まった金融市場  2/3
12月の日銀の政策決定により、国債利回りは上昇し、市場の歪みは拡大した。
これまで日銀はタブーとも言われていた中央銀行による長期金利のコントロール(YCC)を政策の柱としてきたが、その持続性に大きな疑問符が付くことになった。しかし、仮にYCCが続けられたとしても、今後輸入インフレの影響が剥落して行く中で、国債市場の機能が麻痺するほどの金融緩和政策を10年間続けて達成できなかった、「2%物価目標」到達の有効な政策であるのかは更に大きな疑問である。
金融政策の出口の議論は時期尚早かもしれないが、「2%物価目標」を今後も続けることの妥当性と目標達成へのアプローチの適格性については早急に再検討する事が必要である。
日本は一度決めたことを自ら軌道修正をすることが苦手で、当初の目的を忘れ、ルールを守ることが目的化してしまう傾向が強いが、一方、ワールドカップでのドイツ戦・スペイン戦でのハーフタイムの戦術変更や選手交代が大きな成果に繋がったように、一度方向性が決まると、ゴールに向かって突き進む強さを持っている。
異次元緩和10年の節目が、わが国の政策運営を変える機会となることに期待したい。
昨年の金融市場は米国の金融政策の行方を巡って一喜一憂する展開が続いたが、12月20日の日銀ショックが加わったことで金融市場の先行き不透明感は一層強まった。
米国の物価上昇率は鈍化しているが、これはエネルギー価格と自動車などでコロナ禍の供給制約の影響が一巡したことの影響で、国内景気の強さを反映した家賃などのサービス物価はジリジリと上昇している。金融引き締めの打ち止めや、利下げへの転換を期待するのはやや楽観的な状況にあり、FRBは金融市場の利下げ観測をけん制している。
日銀の声明文や黒田総裁の会見を素直に受け止めると、12月の決定は金融政策の変更ではなく、イールドカーブコントロール(以降、YCC)のオペレーション変更による金利コントロールの強化で、金融引き締めではなかった。しかし、日銀が「YCCのレンジ拡大は実質的金融引き締めにあたる」との見解を示していたことから、金融市場はレンジ幅拡大を日銀の政策転向と受け止め、更なるレンジの拡大やマイナス金利政策の修正に対する警戒感を強めた。
過去の発言との整合性以外でも、下記のように12月の日銀の決定には金融市場とのコミュニケーション不全が多く指摘されている。
「市場機能の低下」に対して懸念を表明している一方で、全年限でYCCを実施するという市場のプライシング機能を否定するかの様な施策を打ち出していること。
引き締め政策でないのであれば、10年債のレンジを拡大せずに、他の年限を適正イールドカーブ水準まで引き下げればよいのではないか。
10年国債をゼロ%程度で推移するという政策目標を変えずに、変動幅を±0.5%まで拡大したが、日銀が意図している「ゼロ%程度」の「程度」はいったいどこまでなのか。±1.0%や±2.0%でもゼロ%程度とみなされるのか。
日銀が伝えたかった意図を正確に把握することは出来ないが、日銀の発したメッセージが市場に正しく伝わらなかったことは事実で、結果として国債利回りは上昇し、市場の歪みは拡大した。
これまで日銀はタブーとも言われていた中央銀行による長期金利のコントロールを政策の柱としてきたが、その持続性にも大きな疑問符が付くことになった。しかし、仮にYCCが続けられるとしても、これから輸入インフレの影響が剥落して行く中で、国債市場の機能が麻痺するほどの金融緩和政策を10年間続けて来ても達成できなかった、「2%物価目標」に到達するための有効な政策であるのかは更に大きな疑問である。
2018年に雨宮副総裁が京都で行った講演の中で、2%の物価目標について説明をされているが、要約すると、物価統計には上方バイアスがあるので物価の目標は若干のプラスが適当、加えて、利下げのための「のりしろ」を確保するためにも、プラスの物価上昇とプラスの金利が必要。諸外国の物価目標は概ね2%程度がグローバルスタンダードとなっているので、為替の安定のためには日本も他国同様に2%に設定することが重要と説明されている。
最新の物価展望レポートにおける、日銀の物価見通しは2022年度3.0%、2023年度1.6%、2024年度1.8%となっており、輸入インフレ効果もあり2%物価目標の「のりしろ」の範疇には入ると見ているようである。10年国債の±0.5%が「ゼロ%程度」であるならば、「2%程度」の物価上昇は達成していると言えそうな気もするが、この先も、2%目標未達として異次元金融緩和を続けていく事になるのであろうか。
金融政策の出口の議論は時期尚早かもしれないが、「2%物価目標」を今後も続けて行くことの妥当性と目標達成へのアプローチの適格性については早急に再検討する事が必要である。
金融政策に限らないが、日本人は一度決めたことを自らで軌道修正することが苦手なのではないかと感じる事が多い。
財政法では「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と定められており、国債の発行は公共事業や災害復興などを除き原則的に禁止されており、「特例」として赤字国債の発行が認められている。しかし、現時点で赤字国債は特例どころか財源の柱として常態化しており、国会の議決も形骸化している。
財政法が有名無実化していることもあり、国債の発行額は膨張を続けており、一部では財源確保策として国債の償還ルールを見直すという議論も出ているようである。しかし、財政赤字が拡大しているものの、将来の成長に向けた支出を増やせていない中で必要となるのは、安易な償還ルールの見直しではなく、財政の入り口から出口へのアプローチを整理することである。
過去債務の問題もあるので、単純に仕分けすることは難しいが、インフラ整備に限らず、教育、安全保障など将来世代にも恩恵がある歳出は償還計画を明らかにしたうえで国債発行を可能とし、一方で社会保障費など現在の世代に限定的に支出される歳出は税収と社会保険料で対応するというような世代間の負担と受益を踏まえた区分けをするというのは一案と思われる。また、特例国債の発行は、経済危機や災害、パンデミックなど文字通りの特例時に限定し、基本的に中央銀行が引き受ける永久債的なものとすれば、危機時に機動的な財政運営が可能となるのではないかと思う。
繰り返しになるが日本人は一度決めたことを自ら軌道修正をすることが苦手で、当初の目的を忘れて既存のルールを守ることが目的化してしまう傾向が強い。
金融政策における「2%程度の安定的な物価上昇」や財政政策における「ワイズスペンディングの徹底や、プライマリーバランス黒字化」は理想的な目標ではあるが、残念ながらそのゴールは現在の延長線上には見えていない。
先の、サッカーワールドカップでのドイツ戦やスペイン戦ではハーフタイムでの戦術変更や選手交代が大きな成果に繋がった。日本人は軌道修正をすることは苦手でも一度方向性が決まると、ゴールに向かって突き進む強さを持っている。
異次元緩和10年の節目が、わが国の政策運営を変える機会となることを期待したい。
●相手の武力攻撃への「着手」は個別具体的状況で判断 防衛相  2/3
敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」をめぐり、浜田防衛大臣は衆議院予算委員会で、反撃の前提となる、相手による武力攻撃への「着手」について、個別具体的な状況によって判断するものだとして、一概に答えるのは難しいという認識を重ねて示しました。
この中で浜田大臣は、「反撃」の前提となる相手による武力攻撃への「着手」をどう判断するのか問われ「その時点の国際情勢や攻撃国の意図、攻撃の手段や対応などによるものであり、個別具体的な状況に即して判断すべきだ」と述べ、一概に答えるのは難しいという認識を重ねて示しました。
また、「現実の問題として、相手側のミサイルの発射、特に第一撃を事前に察知し、攻撃を阻止することは難しくなってきている。こうした状況も踏まえ、ミサイル防衛網で飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からのさらなる攻撃を防ぐために、有効な反撃を相手に加える能力を保有する」と述べ、ミサイル防衛に加えて、反撃能力を保有する必要性を重ねて強調しました。
●防衛財源、国会で論戦へ 政府、強化資金法案を提出  2/3
政府は3日、防衛力の抜本的強化に必要な一部財源を確保する特別措置法案を閣議決定し、国会に提出した。2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円程度に増やすため「防衛力強化資金」を創設するのが柱。野党は国家安全保障戦略など安保関連3文書と絡めた徹底した審議を要求。財源の不足分を増税で賄う政府方針には、野党に加え与党内からも異論が上がる。今国会の重要テーマである防衛財源を巡る攻防が本格化する。
自民党は特措法案の早期成立を目指すものの、増税方針に対しては一枚岩ではない。萩生田政調会長がトップを務める特命委員会で、歳出改革や国有財産の利活用など、増税以外の財源確保策を議論する。
●少子化対策 中身深める国会論戦を 2/3
衆院予算委員会で少子化対策が焦点の一つとなっている。岸田政権が重点政策に据えたことに異論はない。とはいえ児童手当の拡充が突出した与野党の論戦を聞くと懸念が増す。
岸田文雄首相の意気込みなのだろう。年頭会見で少子化対策の一番手として言及し、火が付いた。政府の全世代型社会保障構築本部が昨年末にまとめた報告書では、数ある検討項目に過ぎなかった。優先度を上げたのは、春の統一地方選や衆院補選を控え、有権者の歓心を買いたいからではないか。
出生数は、もはや急な回復が難しい。昨年は80万人を割る見込みで、推計より8年も早い。政府が少子化対策を始めて30年以上になる。歴代政権による政策では効果が薄かったとの反省に立てば、政局にとらわれた手だてを打ち出している場合ではない。政府は報告書を踏まえた政策の全体像を明確に示し、実情に照らして効果や優先順位を吟味する国会論戦が要る。
児童手当は現在、所得制限を設けた上で、中学校を卒業するまで月1万円または1万5千円を支給している。拡充方法として、所得制限の撤廃、高校生までの引き上げ、第2子以降の増額が考えられる。しかし首相は「あらゆる選択肢を検討する」と答弁するだけで、具体的にどうするかは語らなかった。
あいまいな答弁に加え、所得制限の撤廃を巡る政権内の混乱ぶりはあきれる。
自民党は子育てを「第一義的に家族、保護者の責任」とした姿勢で政策を立案してきた。わずか3カ月前、夫婦どちらかが年収1200万円以上の場合、支給対象から外したのも、その路線だ。社会全体で支えるという考え方とは隔たりがある。
にもかかわらず、茂木敏充幹事長は代表質問で手のひらを返すように所得制限の撤廃を提唱。一方で西村康稔経済産業相は撤廃に否定的な見解を示していた。政府はきのうになって撤廃の方向で調整に入ったが、政権内で擦り合わせをしないまま国会に臨んだとしか思えない。
立憲民主党の追及はどうか。2010年に当時の民主党政権が所得制限のない「子ども手当」を創設した際、自民党議員から委員会審議で「愚か者めが」とやじを飛ばされたと首相に反省を求めた。場当たり的な政策変更を検証するのは必要だが、政争の具にするのは避けたい。肝心なのは、国民に選択肢を示すことではないのか。
岸田政権は少子化対策の内容を関係府省会議で3月末までにまとめる考えだ。その裏付けとなる財源は6月の「骨太の方針」で決めるとしている。
これも統一選を意識しての先送りだろうが、危惧されるのは国会で中身や財源の論戦が深まらないまま、生煮えで政権が決定してしまうことだ。
多角的な観点での政策を体系立てて組み合わせなければ、効果は見込めない。現金給付は対象や効果を見極めなければ単なるばらまきに陥る。
非正規労働者への経済的な支援、家事や育児負担が女性に偏る現状、結婚や出産に踏み切れない若い世代の意識への対応も必要だ。
まして財源論を抜きに政策の具体化と実行は図れまい。倍増を打ち出した防衛費の後回しにせず、熟議してもらいたい。
●立民 児童手当の拡充 ひとり親世帯の支援手厚くなど意見相次ぐ  2/3
児童手当の拡充をめぐり、立憲民主党が会合を開き、出席した議員からは、所得制限の撤廃とともに、所得の低いひとり親世帯などへの支援も手厚くすべきだなどの意見が相次ぎました。
児童手当をめぐっては、与野党双方から所得制限の撤廃など拡充を求める意見が出て、国会論戦の1つのテーマとなっています。
立憲民主党の会合で、出席した議員からは、児童手当の所得制限の撤廃で恩恵を受けるのは所得の高い一部の世帯に限られるため、撤廃とともに、所得の低いひとり親世帯などへの支援も手厚くすべきだとか、子どもが高校を卒業する年まで支給期間を延長すべきだなどの意見が相次ぎました。
また、会合には、ひとり親世帯の支援にあたっている団体の代表も出席し「食べ物や衣類にかけるお金を削って生活している子どももいる。こうした世帯にも支援が行き渡るよう議論を進めてもらいたい」と訴えました。

 

●「日本の財政破綻で資産が吹き飛ぶ」…45歳の会社員男性が絶句 2/4
中川洋一さん(45歳仮名)はWEBマーケティング全般を手掛けるのベンチャー企業の役員を務めています。8年前に仲間達と会社を立ち上げ、スタートアップの企業や小規模事業者のマーケティングを得意歳、業績も好調です。中川さんは異業種交流会にも積極的に参加し、小規模企業の経営者らの人脈をつくっています。
中川さんは異業種交流会にて知り合ったFPから将来の資産形成の話を聴くことになり、ちょうどその時には経営も軌道に乗り、安定して収入を得られるようになってきていたために興味を持ち話を聴くことにしました。
そこでFPからオフショア投資を勧められ、契約したことで中川さんはその後に後悔することになったのでした。
オフショア投資とは?
「オフショア投資」とは、マン島やケイマン諸島やバミューダ諸島などの「タックスヘイブン」と呼ばれる租税回避地においての金融商品を購入することを言います。
通常、資産運用で得られた利益(配当や売却益など)には税金が掛かり、日本で株式や投資信託を購入した場合では利益に対して約20%(源泉分離課税口座を選択した場合)の税金が掛かります。
それに対し、「タックスヘイブン」と呼ばれる地域では運用益に対して税金が掛からない、税金の負担が少ない地域で投資することができますので、日本国内で投資するよりも大きな運用益を得ることができると言われています。(資産を日本円に戻した場合にはその時点で課税される。)
また、オフショア投資でよく言われているメリットは、先進国や新興国の株式や債券、商品先物などを投資対象とした投資信託の商品を選ぶことができ、日本では購入できない高い利回りの商品も選ぶことができるということを謳っていることもよくあります。
そして、こういった金融商品を日本人が契約することはできますが、国内での営業活動することは禁止されており、FPなどが仲介業者となり「営業」ではなく「紹介」などといった形で事実上の営業活動が行われていることがあります。
国内で営業活動が禁止されていることも「国内では買えない優秀な金融商品を買うことができる」というようなポジティブな情報に変換されて紹介されているようで、中川さんもこれらの話を聴いてメリットを感じオフショア投資で将来のための資産形成を始めることにしたのでした。
財政破綻から資産を守るために契約した中川さん
中川さんが契約したのはマン島にある会社の商品で、ロンドンの証券取引所にも上場する一流企業のものです。そのため、詐欺のようなものではなく、イギリス人が何十年も前から資産形成のために利用してきた会社の商品です。
契約の決め手となったのは、FPから聞いた日本が財政破綻した場合のリスクでした。中川さんが契約した当時は、民主党から自民党に政権が移って間もない2013年のことでした。
FPの説明は「日本には借金が1000兆円あり、そんな中で自民党政権はアベノミクスでお金を大量に刷って、そのお金で国債を買い取って景気の拡大を狙う政策を行おうとしている。このままでは日本は財政破綻し、急激なインフレが起き、1万円札が紙くずのようになってしまう。」というように日本の財政破綻、そしてハイパーインフレのリスクを話していたのでした。
そして、オフショア投資を行うことで海外に資産を逃がすことができ、尚且つ高い利回りで運用することができるため、もし財政破綻しなかったとしても日本で運用するよりも資産を増やすことができ、本当に日本が財政破綻、ハイパーインフレといった状態になった場合には資産を守ることができ、どちらに転んでもメリットがあると伝えていたのでした。
特に「日本の投資信託は手数料が高いのに利益が出ていない商品ばかり。海外の商品は高い利回りを実現している。」というように、海外の金融商品で投資した方が日本の商品を使うよりも有利であるように説明しました。
以前より「日本の借金」に対し不安に思っていた中川さんは、この話でより危機感を覚え、そして「年利10%で運用しながら積立できれば25年後には1億円になる」という言葉にメリットを感じ、老後の資産形成のために当時の為替レートで毎月約10万円分の掛金を支払い、老後のためにオフショア投資を始めることにしたのでした。(掛金はドル建てのため為替レートで変動する)
複雑で高額な手数料体系
オフショア投資をはじめてから4年後の2017年、中川さんは保険会社の営業マンから資産形成の商品を勧められたことで改めて自身の契約内容を改めて興味を持ち、そこでこの商品に対し不安を覚えたのでした。
契約した当時、中川さんは日本の財政破綻に危機感を覚え、高い利回りで25年後に1億円以上になるという夢を見てしまっていたがために商品の仕組みや手数料体系に気が付かずに契約してしまっていたのですが、中川さんは下記の手数料形態をようやく知る事になりました。
(1)契約から18カ月間の間発生する手数料
契約してから18カ月間の間は、積立金の約1.5%が差し引かれるというものです。仮に毎月10万円を3ヶ月支払った場合、3か月後には30万円になり、その1.5%の4,500円が差し引かれることになります。また、3ヶ月毎に積立金額の1.5%が差し引かれますので、6カ月後には60万円の1.5%で9,000円、1年後には120万円の1.5%の18,000円と、差し引かれる手数料が増えていきます。
(2)毎月掛け金から差し引かれる手数料
掛金額に関わらずに毎月6$が差し引かれます。日本円にすると、1ドル=90円のときには540円、1ドル=100円のときは600円、110円の時は660円、120円のときは720円と差し引かれます。
(3)クレジットカードの手数料
毎月の積立金の1%が手数料として差し引かれます。中川さんの場合だと、約10万円の1%ですから毎月1,000円が引かれていることになります。
(4)積立資産にずっと掛かり続ける手数料
年率1.2%が積立されている資産から月割した金額を毎月差し引きます。日本の投資信託でいう信託報酬に近いものです。
(5)18か月経過後に発生する手数料
契約から18カ月を経過すると、(1)の手数料が無くなった後に発生する手数料が年率1%が差し引かれるようになります。
つまり、毎月の積立金から1600円〜2,000円程度の手数料が引かれ、そして積み立てられた資産からは18か月の間は2.5%、その後は毎年2%が差し引かれるという内容です。
そして、中川さんにとって最も大きなショックになったのが、途中解約した場合には解約手数料が発生し、中川さんがチェックした際には積立金の約85%が引かれるため、積立金がほとんど無くなってしまう契約内容でした。
この事実を知らされた中川さんは、契約したFPとも疎遠になっていたために自分の選択肢について不安に思うようになってきたのでした。
結果、保険会社の営業マンのアドバイスを受け、その時点での解約は大きな損失になるため、掛け金を停止して運用は継続、中川さんは生命保険会社の資産形成商品で資産形成を行うことにしたのでした。
中川さんの選択は失敗だったのか…?
中川さんが選んだ海外の商品や、その仕組みが決して悪いわけではありません。
高い手数料体系も、しっかりプロのアドバイスを受けて運用できるために十分に価値のあるものですし、途中解約した際のデメリットはとても大きなものですが、それに気を付けて利用する分には将来の資産形成のためには適した手段と言えるでしょう。
しかし、これらの手数料体系や仕組みを理解していないと中川さんのように不安になることもよくあることです。そして、「やっぱり顔の見えるよく知ってる人から契約したい」と、親しくなった保険の営業さんから中川さんのように更に高い手数料が必要となる商品に変えたり、「そのままオフショア投資を続けていた方が良かったのではないか?」と思われるような保険商品を契約されていることもあります。
契約時には日本の財政破綻から資産を守ること、そして将来1億円以上になるという言葉であまり気にしていなかったのですが、これらの手数料を理解せずに契約していなかったことが最大の問題です。
また、「非課税」「高いリターン」といった言葉が売りになっているオフショア投資ですが、これらのメリットは特にオフショア投資でなくとも得ることができます。
それが「NISA」や「iDeCo」だったり、日本の生命保険会社の商品の中でも高い運用実績を誇る商品をラインナップした商品もあります。
オフショア投資は国内で円に変える際に税金が発生しますが、NISA口座を使えば現金化した場合でも非課税ですし、iDeCoや企業型確定拠出年金といった制度であれば退職金や公的年金と同じ税制を利用して受け取ることができるため、オフショア投資よりも税制面で有利になる場合は多くあります。また、生命保険商品も、受け取り時まで課税が繰り延べされ、保険特有の税制を利用することで税負担を抑え運用することも可能です。
当然、NISAならば今回のような「解約手数料」で、短期解約で積立資産のほとんどを失ってしまうようなルールもありません。iDeCoや企業型確定拠出年金ならば掛け金を支払うだけで所得税、住民税までも安くなるという、オフショア投資では得られないお得な税制を利用できますね。
これらの制度で運用実績の良い投資信託の商品を選ぶことができれば中には年率10%以上にもなるものもありますので、「国内では買えない優秀な商品」と同様の利益を得られる商品は国内でも買うことができるのです。
投資信託の基本を知ることが大切
まず前提として知っていただきたいことは、NISAもiDeCoも、生命保険会社の投資性商品も、オフショア投資も、全て自分達で投資信託、もしくは投資信託と同じ仕組みを選んで運用するということで、投資信託の特徴や運用の基本を知ることがまず大切なのです。そして、それが理解できると「わざわざ海外の商品買う必要無い」という結論に至る人も多いものです。
勿論、中には国内の商品のみでは得られないメリットのある商品もありますので、そういった商品をご自身で選び活用できるならばご自身の責任において選んでいただくのも良いでしょう。
また、日本の財政破綻の可能性については、そもそも日本やアメリカのような先進国が財政破綻することなど考えられないというのが財務省の公式見解としてあります。
国債残高が増え続けている現状においても、逆に日本国債の金利はほぼ一貫して下がっており、最近になりアメリカの金融政策の転換、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などにより円安になっていますが、それまでは日本はどちらかと言えば円高傾向に為替は推移してきました。
通常、財政破綻が懸念される状況になると、国債金利が上昇し、通貨安に向かっていくはずですが、全くそのような兆候は見られていません。
そのため、少なくともそういった兆候が無い時期において、慌てて海外に資産を逃がす必要など無かったですし、現状においてもそのような状況ではありません。むしろ、それならば世界一の経常赤字であり世界一の対外純負債国であるアメリカの通貨である米ドルで資産を保有することのリスクも当然に意識すべきことでしょう。
「アベノミクスで円を大量に刷って…」と過度なインフレを懸念される声もありましたが、安倍政権で行われた量的緩和はアメリカがリーマンショック後に行ってきた金融政策を4年遅れで行っただけであり、現実にアベノミクスの金融政策が原因となる悪性のインフレなど起きていません。
仮に本当に財政破綻してしまい、悪性のインフレが起きた場合にも、日本国内の商品であっても海外の企業に投資できる商品を買うことができるため、そういった商品に投資しておくことで資産を守ることも可能です。
このような状況であるため、国内とはルールの違う国の、そして国内で営業活動が禁止されている商品を選ぶ価値があるのかどうかを熟慮した上で判断されることが大切です。
まとめ
今回はオフショア投資で後悔してしまった中川さんの事例をご紹介しました。
中川さんのように、異業種交流会やコミュニティにおいてオフショア投資を勧める仲介業者と出会い、勧められるケースが多々あります。
中には高い利回りを約束するような詐欺のようなもありますので注意が必要なのですが、今回中川さんが選んだ商品のように真っ当な会社の商品であっても中身をよくわからないまま契約してしまうとこのように不安になってしまいがちです。
現代の日本ではネット系証券会社も一般的になり、誰もが良い投資信託を安い手数料で買うことができるようになりました。また、iDeCoやNISAといったオフショア投資以上に税制のメリットが大きい制度もありますので、こういった制度の活用をまず検討されてみると良いでしょう。
そして、いかに良い商品があったとしても、手数料や商品の仕組みが理解できないと今回の中川さんのように途中で不安になってしまいますし、誤った判断をしてしまうこともあります。国内の商品、海外の商品問わずに言えることですが、しっかり理解できないうちは契約せず、投資の基本や商品を理解してから契約するようにしましょう。
●なぜ、節税すると景気がよくなるのか? 2/4
「このまま」今の仕事を続けても大丈夫なのか? あるいは「副業」をしたほうがいいのか? それとも「起業」か、「転職」をすべきなのか? このように感じたとしたら、それは皆さんの考えが正しい。なぜなら、今感じているお金に対する不安は、現実のものとして近づいているからです。無収入となる65歳から70歳、もしくは75歳までの空白期間を、自己責任で穴埋めしなければならなくなる未来が、相次ぐ法改正でほぼ確定しました。
そんな人生最大の危機がいずれ訪れますが、解決策が1つだけあります。それはいますぐ、「稼ぎ口」を2つにすること。稼ぎ口を2つにすれば、年収が増えて、節税もでき、お金が貯まるからです。『40代からは「稼ぎ口」を2つにしなさい 年収アップと自由が手に入る働き方』では、余すことなく珠玉のメソッドを公開しています。受講者は6000人に及び、その9割が成功。さぁ、新しい働き方を手に入れましょう!
なぜ、節税すると景気がよくなるのか?
「節税」すると景気が良くなる
節約をしてお金を貯め込むよりも、お金を経費として使って豊かな生活を送るほうが、圧倒的に早く裕福になれます。なぜなら、お金を経費として使うと、社会貢献活動とみなされて、税金がかからなくなるからです。
私たち日本人は、実質的に約6割もの莫大な税金を支払っています(財務省発表の潜在的国民負担率)。ところが、お金を経費として使えば、その分だけ税金が免除されるのですから、かなり大きいですよね。
なぜ、そんなことができるのか。それは日本の税金が、「景気に貢献した人に対してご褒美を与える仕組み」になっているからです。
景気に貢献するのは簡単です。経費というお金を使えば、誰でも景気に貢献できます。
なぜ、経費というお金を使うと、景気がよくなるのか。それは、お金を使えば使うほど、日本のGDPが増えるからです。
GDPの計算式は単純で「GDP=消費+投資+政府支出+(輸出−輸入)」です。経費としてお金を使うことを投資といいます。だから、会社や個人事業主が経費を使うほどに、GDPが増える仕組みになっているのです。
経費としてお金を使うことを、専門用語で「節税」と言います。つまり、国民が一斉に「節税」に取り組めば、日本のGDPはすぐに拡大するのです。
GDPが増えることを、俗に「景気がよくなる」といいます。「金は天下の回りもの」といいますが、貯め込むよりも使ったほうが、GDPが拡大して、日本の景気はよくなるのです。
お金を貯め込むと罰金がかけられる
では逆に、経費を使わずに、お金を貯め込むとどうなるでしょうか?
皆が「節約」をして、お金を使わずに貯め込むと、消費も投資も少なくなります。その結果、GDPが減り始めます。GDPが減るということは、景気が悪くなります。
私たちは、平成の失われた30年間で、身をもってその悪夢を体験してきました。この間ずっと、日本の企業は投資を控えて経費を節約し、お金(内部留保)を貯め込んできました。投資(経費)が減るのですから、当然GDPが減ります。だから平成の30年はずっと、景気が悪かったのです。
景気が落ち込むと、給料も減りますし、国の税収も減ります。その結果、国の財政赤字が膨らみます。国の借金は平成の30年間で5倍にも膨らみましたが、景気悪化で税収が減ったのですから当然です。
日本人はもっと「節税」という社会貢献をすべき
税法は、お金を貯め込むと税金をかけて、お金を使って投資をすると税金を免除する仕組みになっています。貯めるか投資するかによって、日本の景気が左右されるのですから、理にかなった仕組みです。
そうであるなら、私たち日本人は、もっともっと「節税」という社会貢献を行うべきです。「節税」は社会貢献になるだけでなく、私たちの生活を豊かにしてくれます。
しかし残念なことに、サラリーマンという身分には、「節税」がほとんど認められていません。節税できないので、どんなに一所懸命頑張って収入を増やしても、税金という名の罰金をかけられてしまいます。
そこで、サラリーマンを続けつつも、サラリーマンとは別の身分を獲得して、「節税」という名の社会貢献をしてみてはいかがでしょうか。
方法はいたってシンプルです。「稼ぎ口二刀流」を使えば、サラリーマンとは別の身分を獲得できます。「稼ぎ口二刀流」とは、給料以外に、2つ目の稼ぎ口を作る生き方です。
平成は「節約の時代」、令和は「節税の時代」
なぜ2つ目の稼ぎ口を作る必要があるのか。それは、雇われる稼ぎ方では、どんなに逆立ちしても、永遠に「節税」できないからです。
でも、雇われない稼ぎ方であれば、好きなだけ「節税」ができます。だからこそ給料とは別に、雇われない「2つ目の稼ぎ口」を作るのです。
平成は「節約の時代」でした。だから、失われた30年を引き起こしてしまいました。
でも、令和は違います。令和は「節税の時代」です。失われた30年を取り戻すためにも、がんがん節税して、日本の景気を盛り上げていきましょう。
●「半歩遅れの緩和にはそれなりの理由がある」―尾身茂・新型コロナウイルス 2/4
政府は1月27日の新型コロナウイルス感染症対策本部において、新型コロナの感染症法上の位置付けを5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針を決定した。医療費自己負担の公費負担のあり方などについても、今後検討が進む見通しだ。
新型コロナの感染拡大が始まってから丸3年間が経過した今、これまでの日本のコロナ対策を率いてきた新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は何を思うのか。感染症法上の位置付けをめぐる議論や、マスク着用のあり方、新型コロナ対応で見えた課題などについて話を聞いた。
「法律と現実にギャップ」5類移行に理解
――政府は5月8日に新型コロナを「5類感染症」と位置付けることを決定しました。
我々、専門家もこれまでオミクロン株の特徴に合わせるため、対策を弾力的に移行する取り組みを進めてきた。新型コロナを「5類」へと位置付けるための議論は当然進めていくべきだと考えている。ただし、既に多くの方々が気づいているように、感染症法上の位置付けを「5類」に変えるだけで、自動的に感染者や死亡者数が急に減ったり、多くの医療機関が急にコロナ患者を受け入れたりするということはない。
データを見れば、新型コロナの致死率は以前に比べ低下したことは間違いない。しかし、伝播力は高く、しかもまだ上昇しているのも事実だ。相対的な感染者数はオミクロン株になってから増加しており、死亡者数も超過死亡も季節性インフルエンザに比べてだいぶ多い。しかも、この新型コロナウイルスというウイルスはいまだ変化の途上だ。今後どのように変化していくのかは、誰も予想できない。
仮に5類に移行するのであれば、より多くの医療機関が新型コロナ対応に参入するためには準備が必要となる。感染防御をどうするか、これまでの財政的な支援もなくなる可能性もある中でどうするか。こうした点についても前もって医療機関などに準備をしてもらうためにも、段階的に移行していく必要がある。新型コロナを「5類」に位置付けること自体は、目的ではないことを理解する必要がある。
幸い致死率は下がり、多くの人は感染したとしてもほとんど重症化しない。ワクチンは万能ではないものの、接種率も向上している。法律と現実とのギャップも生まれている。こうした条件を踏まえ、そろそろ元の社会へ戻していこうということが背景にあると思う。
社会・経済・教育を回しつつ、必要な医療提供を維持していくことが求められる
――「5類」移行などの緩和策をめぐっては、欧米など諸外国と比べて遅かったのではないかと指摘する声も上がっています。このタイミングでの移行をどのように捉えていますか。
このタイミングでの移行が良いかどうか、正解は誰にも分からない。ただし、日本が欧米など諸外国に比べて半歩遅れる形で新型コロナ対策を見直しているのには、それなりの理由がある。
例えば、マスク着用についても欧米はもう外しているのだから、日本でも外すべきだという声がある。こうした声について考える際に確認しておかなければいけないのは、日本と諸外国では感染した人の割合が異なり、免疫の状況が異なるということだ。
そもそも新型コロナへの対応が始まった当初から、我々は長期戦になることを想定していた。
専門家集団はかなり早い時期に、この感染症には無症状の感染者がいること、そして無症状の感染者もウイルスを排出しており、こうした無症状者からも感染することを突き止めていた。だからこそ、当初から我々は「このウイルスの感染者をゼロにすることはできない、ただし死亡者数はできる限り減らしたい」と考えていた。
中国のようなゼロコロナ路線でもなければ、当初のスウェーデンのような感染拡大を許容する路線でもない。その時の感染状況などに応じて、対策の強弱を調整してきた。
当然、専門家も海外の論文を毎日のように確認している。諸外国ではどのような対策が実施されており、緩和がどのように行われているのかという情報も集めている。ただし、海外で行われていることを、そのまま日本においても真似するかどうかは別の話だ。
例えばイギリスでは、人口の8割程度が既に新型コロナに感染したことがあることが分かっている。しかも多くの人はワクチン接種も受けているが、いまだに毎日多くの感染者が発生し続けている。では、日本はどうか。日本の新型コロナによる累積死亡者数は諸外国と比べて少ない。これまでに新型コロナに感染したことがある人は、人口の3割程度だと見られている。
したがって、これからも感染する可能性がある人々がたくさんいるということだ。
マスク着用「我々が指示する時代はもう過ぎた」
――「5類」への変更と併せて、政府は改めてマスクが効果的な場面を示した上で、屋内外を問わず個人の判断に委ねる方針です。こうした感染対策の緩和については、どのように受け止めていますか。
政府の姿勢について何かを語る前に、大事なのは新型コロナという病気がどのようなものであるのか認識することだ。この病気について、しっかり認識しなければ、2類だ、5類だ、と言っても本末転倒になってしまう。
この病気そのものの性質は先ほど紹介した通り、致死率は低下したけれども、まだまだ伝播力が高い。こうした状況の中で、急にウイルスの毒性が強まるといった変化がない限りは、政府が少しずつ社会経済を回していく方向へ舵を切ることに私も賛成だ。これまで日本は、新型コロナの累積死亡者数を世界各国に比べてかなり少なく抑えてきた。その反面、特に若者たちの中には「自分たちの青春が奪われた」という感覚を持つ方もいるだろう。こうした感染対策と社会経済活動のバランスを、そろそろ是正する時が来ている。
マスク着用については、これからは一律に感染対策を要請していくのではなく、個人や組織が自主的に工夫をして、何をやるか、何をやらないかを選択していくことになる。ただし、このような対応には、全てを個人の責任に委ねてしまっていいのか、という課題も存在する。自分で選択してください、と言われても、何か参考になる情報はないのかと考える人もいるだろう。
マスクの感染拡大防止に果たす役割含め、個人が感染対策として何をやり、何をやらないかを判断をする上での参考材料を提示していくのが、これからの専門家の仕事だ。我々が「これをしなさい」「あれをしなさい」と指示をする時代は、もう過ぎた。政府や政治家も自分たちの考えを伝えていく中で、専門家も市民の人々の声も聞きながら上手く協力して一緒にやっていけると良いと考えている。
●国債償還見直し 「歳出適正化」の議論が先だ 2/4
自民党は、防衛費増額を巡って財源確保策を検討する特命委員会で議論を始めた。焦点に上がるのは、国債の「60年償還ルール」の見直しだ。しかし、償還期間の延長やルール廃止は財源につながらず、国債発行による借金が減ることもない。かえって債務償還への規律が緩み、財政への信認を低下させる恐れがある。慎重に扱うべきだ。
政府は昨年末、2027年度までの5年間の防衛費を43兆円へ大幅に増やす計画を決定。27年度に必要となる4兆円の追加財源のうち1兆円強を増税で、残りを歳出改革や決算剰余金の活用で賄う枠組みとした。特命委の検討には、国民に不人気な増税の回避や圧縮につなげたい思惑とみられる。
60年償還ルールは、国債による借金を60年かけて返済する仕組みで、建設国債の発行が始まったのを機に、道路や建物の平均的な耐用年数を参考として1960年代半ばに定められた。
具体的には毎年度、国債残高の約60分の1に当たる金額を一般会計から国債を管理する特別会計へ繰り入れ、特会で新たに国債を発行して得た資金と合わせて、満期国債の償還に充てている。国債残高が1千兆円規模に増大した影響で、一般会計からの繰り入れは2023年度予算案で約16兆7千億円に上る。
特命委では、国債の償還期間を60年から延長して毎年度の繰り入れを減らしたり、繰り入れをやめたりすることの是非が議論される。しかし、いずれも一般会計での国債発行は減るものの、その分、特会での発行が増えるだけで防衛費の財源にはなり得ない。
防衛費を実質的に借金に頼ることへの懸念も根強い。60年ルールは最低限の財政規律であり、むしろ厳格化を求めていいくらいだ。仮に期間を80年へ延ばした場合、公共資産の耐用年数が過ぎ、恩恵を受けられない将来世代にツケを回すことになる点を忘れてはならない。
内閣府による最新の中長期財政試算は、防衛支出の大幅増が日本の財政に重荷としてのしかかる姿を明らかにしている。
財政の健全度を表す基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、高めの成長を仮定しても政府の黒字化目標である2025年度に1兆5千億円の赤字となり、昨年夏の試算から悪化。大きな要因は防衛費増にある。低成長では赤字が慢性化し、国・地方の債務残高が30年度に1300兆円を超えると予測した。長期金利が上昇すればさらに悪化の恐れがある。
わが国の危機的な財政状態を理解するならば、償還ルールの見直しではなく、防衛費を適正水準に収めるなど歳出の規律づけを議論する時だ。
●岸田首相、差別的発言の秘書官を更迭へ 「進退考えざるを得ない」 2/4
岸田文雄首相は4日午前、同性婚をめぐり差別的な発言をした荒井勝喜首相秘書官(経済産業省出身)を更迭する考えを示した。首相は荒井氏の発言について「政権の方針とは全く相いれないものであり、言語道断だ。進退を考えざるを得ない」と述べた。首相公邸で記者団の質問に答えた。
荒井氏は3日夜、同性婚に関し「嫌と思う人はたくさんいると思う。僕だって(同性婚カップルが)隣に住んでいても嫌だ。秘書官たちに聞いたらみんな嫌と言う」などと官邸で記者団に述べた。その後、「誤解を与える表現があった。差別的な意識は持っていない」と発言を撤回した。自身の発言内容は首相の考えではないと説明し、「首相に申し訳ない」とも語った。
荒井氏は、首相が1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化について「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と慎重な姿勢を示したことをめぐるやりとりの中で、問題となった発言をした。公開が前提でない非公式の取材だったが、官邸内では直後から、不適切な発言だとして更迭論が浮上していた。
野党は荒井氏の発言を一斉に批判している。立憲民主党の泉健太代表は4日、ツイッターに「ひどい発言だ。当然更迭すべき。官邸内の人権感覚も問われる」などと投稿した。週明けの国会論戦で野党が首相の任命責任を追及するのは必至の情勢だ。  
●秘書官発言に欧米メディア「岸田氏、困惑の種」 一方、ロシアでは 2/4
性的少数者や同性婚をめぐって差別的な発言をした荒井勝喜・首相秘書官の更迭は、海外メディアでも報じられた。5月に広島市で主要7カ国首脳会議(G7サミット)を控えるなか、先進国のなかで同性婚を認めていない日本の異質性と合わせて取り上げられた。
ロイター通信は、日本は過去70年間のほとんどで保守的な自民党の政権が続いてきたとしたうえで、日本以外のG7の国では、同性の結婚もしくは結婚に準じるパートナーシップが認められていると説明。荒井氏の発言は「5月にG7の首脳を迎える準備をしている岸田氏にとって、困惑の種だ」と報じた。
AP通信は、日本では性的少数者らへの偏見が根強く残ると指摘。同性婚を認めていないとしつつ、認めようとする動きは高まっているとも報じた。岸田政権で閣僚らの辞任が相次いでいることに触れ「人気が揺らいでいる」と報じた。
一方、性的少数者(LGBTなど)の情報発信を事実上、禁止したロシアの国営タス通信は、荒井氏の発言を紹介し、「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」と伝えた。
国営ノーボスチ通信も昨年11月、東京地裁が同性婚を認めないのは違憲だとの訴えを退けたとし、「裁判所は、判断は国会の裁量に委ねられると考えている」と伝えた。ただ、東京地裁が「同性愛者がパートナーと家族になる制度が存在しないのは、憲法24条2項に違反する状態にある」との見解を示したことは報じなかった。
ロシアでは昨年12月、「同性愛宣伝禁止法」にプーチン大統領が署名して成立した。性的少数者を小児性愛などとまとめて「非伝統的な性的関係」だとし、メディアや書籍を含めて情報発信をほぼ禁止する。すでに違法とみなされる恐れのある本の公開を取りやめたほか、大手書店で販売を取りやめた。
●石川県及び福井県訪問等についての会見 2/4
石川県と福井県の子育て支援を行っている企業の視察や子育ての現場の声を聞いた感想と今後の少子化対策に対する取組について
まず、本日は、子育て世代、子育てに、今、正に取り組んでおられる方々、また、これから結婚して子育てについて考えておられる方々、また、三世代で同居して子育てに取り組んでおられる方々など、様々な立場の方からこども・子育て政策についてお話を伺いました。そして、まずお伺いしたのは、石川県の株式会社コマツですが、仕事と子育ての両立に向けた福利厚生の充実の取組を伺い、地域の企業の積極的な子育て支援を応援することの重要性を感じました。地域のサポートと、そして企業の取組、この好循環を実現することの大切さ、大変印象的な話を聞かせていただきました。また、福井県は、日本一幸福な子育て県として、全員参加の子育て支援に取り組んでいるということでありますが、これから目指すべき一つのモデルケースでもあるということを感じました。福井県、女性の就業率、また、共働き世帯率、これ大変高いということで知られていますが、男性の家事や育児の参加の促進、あるいは、子育てを終えた方も含めて、地域全体で子育てを応援していく機運を作っていくことの大切さ、さらには、結婚支援における住宅政策の重要性などという発言もありました。こうした様々な貴重な御示唆を頂いたと思っています。御指摘のように、小倉大臣の下、3月をめどに政策のたたき台を作るべく作業を進めてもらっているということですが、こうした子育て最前線の切実な声、これからもできるだけ多くの声を聴かせていただきながら、小倉大臣には作業を進めてもらいたいと思います。できるだけ現場の声をしっかり受け止めて、そうした声に応えられるようなたたき台を作ってもらい、そして6月の骨太の方針につなげていくよう努力をしていきたい、このように思っています。
そして、今日、子育てと合わせて、自動運転車両に乗らせていただきました。地域における高齢化ですとか、あるいは、過疎化といった社会的な課題をデジタルの力で解決する一つの好事例として、福井県永平寺町で、今年レベル4で運用を目指す自動運転車両に試乗させていただきました。こうした社会的な課題を乗り越えて、地方から日本全体に活力を広げていく、デジタル田園都市国家構想、この取組を進めていく上で、こうしたデジタルの力を感じさせていただくことができた。そうした貴重な経験でもあったと思っています。取りあえず全体としては以上です。
「N分のN乗方式」導入に関する総理の見解と児童手当の所得制限撤廃や対象年齢の引上げについて
おっしゃるように、今、たたき台の具体化を進めている最中ですので、結論的なことを申し上げることは控えなければなりませんが、様々な貴重な御提案を頂いています。その御提案の一つが、御指摘の「N分のN乗方式」でもあると思っています。いわゆる、この「N分のN乗方式」については、これは予算委員会等でも答弁させていただいたと思いますが、幾つか留意点があります。共働き世帯に比べて、片働き世帯の方が有利になってしまうというケースがある、さらには高所得者に税制上大きな利益を与えることになる、こうした点をどのように考えるか、こうした留意すべき点はあるということは申し上げています。今ありました、児童手当のありようについても様々な意見があります。こういった様々な意見を、これからも政府としては、それぞれ丁寧に検討をさせていただきながら、政府のたたき台を作っていかなければならないと思っています。そして、何よりも大事なのは、そういった個々の政策はもちろん大事です。しっかり検討を進めます。しかし、企業や地域社会など、社会全体の意識を変えて子供を応援する、こういった環境を作っていくことが重要であると思っています。要は、様々な政策、これを組み合わせて、全体として包括的に支えていく。こうした体制をどう作っていくのか、こういった視点が大事なのではないか。ですから、個々の政策についてもしっかり詰めていきますが、その政策を、どのように全体として取りまとめるのか、包括的なパッケージを示すところが大事なのではないか、そうしたことが社会の意識を変えて、そして結果につなげていく点で重要ではないか、このように感じています。そうした考え方の下に、全体を動かす中で、今、御指摘になった点についても、政府として判断をしていきたいと思います。
総理秘書官発言の対応について
御指摘の点については、朝、申し上げたとおり、大変深刻に受け止めており、総理秘書官としての職務を解くという判断をいたしました。そして、荒井秘書官本人からも辞意があったところです。そして、後任については、本日付けで経済産業省から、大臣官房秘書課長・伊藤禎則氏を充てることといたしました。既に決定し、様々な手続を進めているところであります。
任命責任について、またLGBTQ(性的少数者)の方々へのメッセージについて
朝も申し上げましたが、今回の発言については、多様性を尊重し包括的な社会を実現していく、こういった今の内閣の考え方には全くそぐわない、言語道断の発言であると思っております。そもそも、こうしたLGBTという問題については、性的志向ですとか、性自認、これを理由とする不当な差別、偏見、これはあってはならないことであります。政府として、今申し上げた多様性が尊重され、全ての方々の人権、あるいは尊厳、これを大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現に向けて、引き続き、様々な声を受け止め、取り組んでいく、これが基本的な考え方です。こうしたことを改めて国の内外に対して、政府として丁寧に説明をしていく努力を続けていかなければならないということを強く感じております。
任命責任について
任命責任については、もちろん私(総理)が任命したわけですから、当然、その任命責任を感じているからこそ、今申し上げましたような対応をしております。
●異次元の少子化対策は、異次元の歳出改革とセットで 2/4
子育て世帯への公的支援拡充
国会では連日、『異次元の少子化対策』についての議論が行われています。「児童手当の所得制限をなくすべき」とか、「児童手当より教育無償化の方が有効」とか、それぞれ一理ある議論です。去年1年間の出生数は、80万人を切る水準にまで落ち込みました。少子化が危機的に加速する状況で、出産や育児への「お金の心配」を少しでも軽減できるのであれば、子育て世帯への公的支援の大幅な拡充に踏み込むべきだというのが、コンセンサスになりつつあるようです。
財源論は4月の統一地方選挙の後に
問題は財源をどうするかです。児童手当拡充も、教育費の無償化も、毎年、兆円単位の予算が必要になります。これも「全額赤字国債で」というわけにいかないでしょう。4月の統一地方選挙の後には、財源探し、ひいては負担増の議論が始まることになりそうです。
でも、ちょっと待って欲しい。子育て世帯を支援するために、増税や社会保険料の引き上げをして、子育て世帯にも負担を求めるのはおかしな話です。富裕層にまで児童手当を支給するのに、低所得者の負担が増えるというのも、腑に落ちません。
生活者への直接支援の必要性増す日本
日本社会全体が貧しくなり、格差が拡大する中で、財政が「生活者」「消費者」に直接支援の手を差し伸べなければならないケースが増えてきています。少子化対策はその典型例です。世代を問わずに顕在化している貧困対策も、コロナの生活支援金も、消費を刺激するための旅行支援などのクーポン配布なども、皆、そうした「生活者」への支援です。今後もこうした政策の必要性は増すものと思われます。
そもそも日本の行政は、「生活者」「消費者」よりは、「生産者」や「供給者」に焦点を当てて、産業などの振興を図るために財政を使う、という建付けになっています。その証拠に、中央省庁は基本的には「生産者」「供給者」ごとの縦割りになっており、「生活者」に向き合う消費者庁やこども家庭庁ができたのは、ごくごく最近のことです。
政府が供給側(サプライサイド)に焦点をあて、その競争力強化に取り組むことは、もちろん重要な役割ですが、問題は、この「供給側縦割り方式」によって、補助金を含めた膨大な財政措置が延々と執られ続けていることです。一度始めた助成措置は、そう簡単にはなくならないのです。族議員などの「政」、縄張りをもつ「官」、そして恩恵を受ける「財」の、いわゆるトライアングルです。
供給側と需要側、両方の支援は無理
しかし、需要側(デマンドサイド)への公的支援が必要になれば、これまでと同じように供給側(サプライサイド)への財政措置をそのまま続けるわけにいかないのは、当たり前の話です。まして、日本はこの20年間、名目GDPがほとんど増えていません。そんな国で子育て支援を異次元にするとか、防衛費を倍にするとか、簡単にできるわけはないのです。
「生活者」「消費者」という需要サイドへの財政支出を増やすなら、「生産者」など供給サイドへの財政支出を減らすしか、道がないのは明白です。
異次元の歳出改革が必要
日本が成長期にある時には、供給サイドへの働きかけによって、供給力不足を解消し、さらには生産性を上げていくための強力な支援は、極めて重要でした。しかし、成熟国になった今は、むしろ、市場機能を通じて、需要の変化に応じた効率化や構造転換を進めることこそが求められおり、供給サイドへの財政支援の重要性は低下してるはずです。
『異次元の少子化対策』のための議論は、財政支出のあり方を抜本的に変える『異次元の歳出改革』につながることが必要不可欠です。『異次元』などという言葉を軽々しく使う時に、そうした覚悟はあるでしょうか。
●岸田首相、国有財産を売っぱらって防衛力強化に非難轟々 2/4
2月3日、政府は、防衛費増額の財源を確保するため、国有財産の売却など、税金以外の収入を積み立てる「防衛力強化資金」の創設を盛り込んだ法案を閣議決定した。
2023年度予算案で4兆5919億円の税外収入を確保し、これを複数年度にわたって防衛費にあてる枠組み。同日中に国会へ提出し、3月末までの成立を目指す。
防衛費は、2023〜2027年度の5年間で総額約43兆円にすることが2022年末に決まっている。現行水準からの増額となる17兆円程度は、4分の1を増税や建設国債でまかない、残り4分の3は歳出改革や剰余金を活用する。歳出改革で3兆円強、決算剰余金で3兆5000億円程度、税外収入で5兆円程度を捻出する計画だ。
特措法案では、このうち税外収入の確保と使途を定める。税外収入は、
   ・特別会計(外国為替資金・財政投融資)の繰入金(約3兆7000億円)
   ・国有財産「大手町プレイス」の売却益(約4000億円)
   ・新型コロナウイルス関連予算の返納金(746億円)
を流用する予定だ。
「大手町プレイス」は東京駅近くにある商業施設で、2022年11月、財務省が政府保有分を4364億円で売却している。当時、国内の不動産取引で過去最大の金額として話題になった。
新型コロナウイルス関連予算の返納金は、国立病院機構の積立金(422億円)、社会保険病院などを運営する地域医療機能推進機構の積立金(324億円)の合計額。つまり、病院予算を軍事費に回す形だ。
両者の残余金は「年金特別会計」に返すことが現行法で決められている。この問題を1日の予算委員会で取り上げた日本共産党の宮本徹議員は、「わざわざ年金特別会計に入れると(法律に)書いてあるものまで大軍拡の財源に流用するのは大問題」と撤回を求めたが、岸田文雄首相は「特例的にご協力をいただく」と理解を求めた。
国有財産に加え、年金に返納されるはずだった剰余金までなりふり構わず防衛費の財源をかき集める岸田政権に、SNSでは批判の声が多くあがっている。
《これはヤバイ》《どこまで戦争ボケしてるねん》《仮に剰余金が出ていたとしても、本来受け取るはずの年金には回らないので、年金の財源にも穴があくことになります。岸田政権が医療や年金を犠牲にしてなりふり構わぬ軍拡を進めようとしていることが公然となったのではないか》
これで、少子化対策の財源も足りないとなったら、目も当てられない。

 

●岸田首相、性的少数者蔑視の発言した秘書官を更迭 2/5
岸田文雄首相は4日、性的少数者(LGBTQ)のカップルを侮辱する差別発言をしたことを理由に、荒井勝喜首相秘書官を更迭した。
岸田首相は1日の衆議院予算委員会で、同性婚をめぐる問題について言及。「制度を改正するとなると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べていた。
荒井氏は3日夜、この答弁を受けた形で、記者団にオフレコで「僕だって(同性婚の人を)見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と話した。
また、「同性婚を導入したら国を捨てる人もいると思う」と述べた。
これについて岸田首相は4日、「多様性を尊重し包摂的な社会を実現していく内閣の考え方には、まったくそぐわない。言語道断だ」と、荒井氏の発言内容を批判した。
荒井氏も、「誤解を与えるような表現をして大変申し訳なかった」として、発言を撤回。個人の意見であっても言うべきではなかったと述べたほか、首相が同じ考えなわけでないとして、「首相には申し訳ない」と語った。
日本ではなお、伝統的な男女の役割や家族観が根強く、主要7カ国(G7)で唯一、同性婚を認めていない。
しかし最近の世論調査では、日本人の大半が同性婚を支持しているという結果が出ている。
近年では多くの同性カップルが、同性婚が認められていないのは違憲かつ差別的だとして、裁判を起こしている。
岸田政権はここ数カ月の間にさまざまなスキャンダルで多くの閣僚が辞任し、政権の支持率が急落している。そうした中で、荒井氏の更迭は政権にとって、またひとつ新たな打撃となった。
日本は今年、G7議長国。5月には岸田首相の地元・広島で、G7サミットが開かれる。
●国も地方も政治劣化が止まらない 地方創生を考える 2/5
日銀の異次元緩和が始まってもうすぐ10年になる。異次元緩和の最大の問題は、いくら政府が借金を増やしても日銀が国債を引き受けてくれるので、放漫財政が常態化してしまうということだ。
政府債務は恐ろしく膨らんだ
実際に、一般会計の総額は10年連続で過去最高を更新し、近年は補正予算の規模が数十兆円に膨らむ事態となっている。
その結果、過去10年間で政府債務は恐ろしく膨張した。税収で返す必要がある普通国債の発行残高は、2023年度末に1068兆円になる見通しだ。政府債務はGDPの2.5倍超にまで拡大し、持続的な金利上昇に脆弱(ぜいじゃく)な財政になってしまったといえるだろう。
日本の成長率は大幅に低下した
それに加えて、異次元緩和は経済効率を高める金利本来の機能を損ない続けてきた。その典型的な事例は、金融機関の融資に占める不採算企業の割合が一貫して増加基調で推移してきたということだ。その帰結として、2022年末までの10年で実質GDPは4%程度しか増えず、その前の10年とほぼ変わらない低成長から抜け出せなかったのだ。
この間の日本の潜在成長率は0.8%から0.2%まで大幅に低下した。この点においても、日本は金利上昇への耐久力が著しく弱まったといえる。金利が上がっても成長率が高まっていれば、債務が膨らんでも何とかやりくりもできるだろう。しかし、逆に低くなってしまったのでは、金利が上がると利払い費に窮する局面が訪れるかもしれない。
問題は日銀よりも政治の劣化
この重大な責任は、日銀だけが負うものではない。選挙向けの安易なばらまきに終始し、構造改革を実行してこなかった政府にも大きな問題があるからだ。日銀が大規模緩和をする間、政府は構造改革を進めて経済成長率を高めていくという約束をしたはずだ。その約束を果たさなかった政府の怠慢には、非常に残念でならない。
特に2010年代以降の日本を見ていて不安に思うのは、政治の劣化が深刻だということだ。「政府がいくら赤字国債を出しても、日銀が無制限に引き受ければ問題ない」というジョークを本気で信じる政治家が意外に多いことを、皆さんはご存知だろうか。
これは国政に限らず、地方でもよく見られる現象だ。構造改革を伴わない財政拡大では、その甚大なツケを支払うのは市井の人々だということを忘れないでほしい。
●コロナ貸し付け、返済「長期戦」 1.4兆円、10年で回収 厚労省 2/5
新型コロナウイルスの影響で経済的に困窮する世帯に、国が最大200万円の生活資金を貸し付けた特例貸付制度の返済が1月から始まっている。
貸付総額は約335万件の1兆4268億円超と、過去の類似制度と比べても最大規模。各地の社会福祉協議会は今後10年かけて返済を求めるが、回収見通しは不透明で、厚生労働省幹部は「長期戦になる」と話す。
特例貸し付けは2020年3月〜22年9月、各地の社協が窓口となり実施。スピードを重視し、収入を証明する書類の提出は求めず、コロナ禍前後の収入額と減った理由を申告すれば、借りられるようにした。
今回の制度では低所得者に対して実質的な給付となるよう、住民税非課税世帯などの返済を免除する仕組みを導入。同省によると、昨年11月末時点で免除に関する案内を発送した255万4571件のうち、約4割の98万4309件が申請した。
一方、免除対象ではなくても経済的に苦しく、返済が難しいケースもある。こうした人の生活立て直しに向け、就労など自立に向けた長期的なサポートも必要となる。
ただ、過去の事例を見ると厳しい現実も。1995年の阪神淡路大震災では、災害援護資金として被災者に約1300億円が貸し付けられたが、30年近くたった昨年、神戸市や兵庫県などは返済が滞っている住民への債権を放棄。計約18億円の肩代わりを決めた。神戸市は回収経費が返済見込み額を上回ることなどを理由に挙げた。
2011年の東日本大震災でも最大20万円の特例貸し付けを行ったが、岩手、宮城、福島3県の社協によると、総額96億2894万円のうち21年度末時点で約26億3000万円が未返済。住所不明者の追跡に苦慮している。
ある県社協の担当者は、震災とコロナの特例貸し付けは「本人の生活や借金の状況を確認できないまま実施した」と指摘。「被災地だけの問題とされていたが、コロナで全国共通となった。国は制度設計の見直しを議論すべきだ」とも話す。
今後の回収について、別の県社協の担当者は「社協だけでなく自治体の自立相談支援を含めた体制整備が必要だ」と強調。返済に向けたバックアップを訴える。
●「フロッピーディスクをなくす」…アナログ規制を見直す岸田首相 2/5
岸田文雄首相が1月23日、通常国会の施政方針演説で「フロッピーディスクを指定して(政府への)情報提出を求めていた規制を見直す」と語った。遺物のごとき「3.5インチ・フロッピーディスク(FD)」を、日本社会からなくしたいという意味だ。1枚当たりおよそ1.44メガバイトの情報を保存する3.5インチFDは、1990年代初めの時点で、パソコンに差してゲームもできるし資料も保存できるメディアだった。だが2000年代前後、超高速インターネット時代の登場とともに姿を消した。ところが日本の官僚社会や市中銀行では、依然としてFDを使っていたのだ。
日本の現行法令には、FDのような物理的メディアを使用せよという強制条項がおよそ2100件ある。印鑑やファクスがなければ回らない日本のデジタル後進性をからかう材料が、また一つ増えた。FDより容量が18万倍も多いUSBメモリーを、韓国では4000ウォン(現在のレートで約420円。以下同じ)で売っているのに、日本では10年前に途絶えたソニーの3.5インチFDが3150円で売られている。日本の銀行が「犯罪捜査に協力する」として金融情報をFDに収めて警察署を訪れ、提出する光景は、クラウド時代においてはひたすら奇異に映る。
だが岸田首相の演説の全文を見ると、「デジタル大国・大韓民国」という自画自賛で済ませてはいられなかった。岸田首相は演説で、GX・DX・オープンイノベーションといった専門用語に次々と言及した。GX(グリーン・トランスフォーメーション)には10年間で官民合わせて150兆円を投資して省エネ・脱炭素技術を研究・開発し、水素・アンモニア社会インフラを整備する大革命に挑戦するという。FDのような事態を防ぐため、岸田首相は「法令4万件を検討し、来年までに一挙に変える」とした。5年間でスタートアップ(ベンチャー企業)投資額を10倍に増やし、税制を改めて大企業とスタートアップ間のオープンイノベーションを支援する、とも語った。「今年4月には、レベル4、完全自動運転を可能にする新たな制度が動き始めます」として「全都道府県で自動運転の社会実験の実施を目指します」とも述べた。1万2156字の演説中、3861字が技術革新についての話だった。外交・安全保障・新型コロナ・物価といった大きな話題を全て合わせたのとほぼ同じ分量だった。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の今年の新年演説において、技術革新への言及は2段落にとどまり、しかもそれすら自慢混じりで「スタートアップ・コリア時代を開きたい」という宣言でしかなかった。スタートアップ投資に韓国政府が支援を行う肝心の母体ファンドの予算は、今年は3100億ウォン(約326億円)にとどまり、2年前(1兆ウォン=約1050億円)の半分にも満たない。一時はにぎやかだった第4次産業革命委員会のホームページを訪れてみると、「サイトにアクセスできません」と出た。「尹政権は前政権よりも技術革新に関心が薄いらしい」という、東京で会ったある起業家の愚痴が思い浮かび、岸田首相が怖くなった。
●洋上風力の入札ルールを変えた秋本真利議員は洋上風力会社の株主だった  2/5
洋上風力の入札ルールを公示後に変更させた
2月2日の衆議院予算委員会では、秋本議員が洋上風力の入札ルールを公示後に変更させた問題を立憲民主党の源馬謙太郎議員が追及した。
最大の焦点は、秋本議員が保有していた洋上風力会社「レノバ」の株式である。彼は株を売買した時期を答えなかったが、2017年に国交省政務官になる前に400株取得し、その後2200株買い増した。つまり彼は洋上風力の入札ルールを決める時期にレノバの株主だったわけだ。
レノバの株価は、200円前後から2021年には6000円まで上がった。これは12月の第1ラウンドの入札で、レノバが落札するとみられていたためだ。ところがこの入札では三菱商事グループがすべて落札し、レノバの株価は1200円まで暴落した。
これに怒ったのが、レノバの株主だった秋本議員である。彼はすでに公示された入札ルールを変更させようと、昨年2月17日の衆議院予算委員会で萩生田経産相に質問した。
「より早く、より安易に、政府の目標を確実に達成するためには、第二ラウンドから私はルールの変更をしていくべきだろうと。第二ラウンドは、やはり運転開始時期については、少なくともそこだけでも見直して、開示するぜというルールに私は変えるべきだろう、それこそが国民の利益だというふうに思っておりますので、是非、萩生田大臣にはお力添えを賜りたくお願いを申し上げたいというふうに思います。」
このときすでに第2ラウンドは2022年5月に入札を行うことが公示されていたが、異例のルール変更が行われ、今年3月に延期された。この新ルールは明らかにレノバに有利で、業界ではレノバ方式と呼ばれている。
レノバの株主だった秋本議員が「レノバ方式」に変更させた
おかげでレノバ株は2100円台まで値を戻し、秋本議員はレノバ株を全株売却したが、いくら売却益を得たかは国会で答えなかった。源馬議員も指摘するように、これはレノバの株主だった秋本議員が、レノバに有利になるように入札ルールを変更させた利益誘導の疑いがある。
「500万円もその新興企業から献金を受け、レノバの株も買い、落札しにくいようなルールを公示後に変えてくれと、声高に国会の場で訴え、結果的に変わって、その後レノバの株を売ってということがあると思いますね。」
政治資金規正法では、政治資金を株式で運用することを禁じているが、政治家が株式を保有することは禁じていない。第1ラウンド入札の時期には、秋本議員は国土交通省の政務官を離れていたが、国会でルール変更を求めたことは、国会議員の職務権限にあたる。
問題は彼が洋上風力業者から金を受け取ったかどうかである。秋本議員は「レノバから政治献金は受け取っていない」と答弁したが、週刊新潮の取材に対して、風力発電業者などから1800万円の政治献金を受け取ったことを認めた。
「政府は2040年までに原発45基分の電力を洋上風力で賄うとぶち上げた。再エネ会社が一斉に市場参入を目論む一方、あるルールの“改悪”が密かに進行中だ。」
「洋上風力で国民は高額電力を負担することに 小泉進次郎と国会議員たちの“工作”とは ・・・」
再エネ議連ぐるみの利益誘導
これについて再エネ議連の顧問である河野太郎氏は「萩生田氏が個人的にいろいろな仕組みを見てみたかった」からルールを変更したと書いているが、これは嘘である。上のように国会で秋本議員が執拗にルール変更を求め、再エネ議連が毎週エネ庁の役人を呼びつけて、レノバ方式に変更させたのだ。
そもそも萩生田経産大臣が「私個人的にはいろいろな仕組みを見てみたかったなという気持ちがありますので、他のプロジェクトの人たちにも今後参加しやすいような仕組みというのは、是非今回の結果を踏まえていろいろ検討してみようかなと思っているところです」と自らルール変更を指示。
これは秋本議員の個人的な疑惑にはとどまらない。自分が株を保有する企業に有利になるように入札ルールを事後的に変更するなどということは、法治国家ではあってはならない。これ以上、秋本議員の不正行為を弁護すると、再エネ議連が利益誘導団体とみられるだろう。
東京地検特捜部は再エネ詐欺の捜査を続けているが、この洋上風力問題は、政府の成長戦略会議で自分の会社に利益誘導した三浦瑠麗氏と同じ露骨な利益誘導であり、株価操縦や贈収賄の疑いもある。これも捜査の対象になるだろう。
●国会改革 「言論の府」への再生目指せ  2/5
政治資金の見直しに限らず、国会を政策本位の論戦の場とするための改革に取り組むべきだ。
与野党が、国会改革の議論に着手した。
歳費とは別に支給されている、月100万円の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の透明性を高めることや、衆参両院の常任・特別委員長が受け取っている手当の廃止が浮上している。
与野党は昨年、旧文通費を日割り計算に改めた。目的も「文書の発送や通信費」から、「調査研究、広報」などに事実上拡大したが、使途の公開は先送りした。
旧文通費は、秘書給与への流用や物品購入といった使い道が問題視されてきた。目的を広げておいて、使途を公開しないのは筋が通らない。領収書の提出を含め、公開制度を導入すべきだろう。
委員長手当は、国会開会中、土日も含めて1日あたり6000円を支給する制度だ。使途は限定されておらず、海外出張時の土産代に利用している委員長もいる。
「政治とカネ」に対する国民の目線は厳しい。時代に合った見直しを進めることは大切だ。
改革に取り組む与野党の姿勢は評価できるが、いずれも事務的な見直しであり、物足りない。
国会審議の活性化のために導入された党首討論が、最後に開かれたのは1年半前だ。野党は党首討論より、首相を長時間拘束し、一方的に追及しやすい予算委員会での質疑を重視しているという。
だが、国政の課題について、各党党首が大所高所から議論する意義は大きい。党首討論の積極的な活用を検討する必要がある。
近年、参院先議が減少しているのも見過ごせない問題だ。
与党は昨秋の臨時国会で、障害者総合支援法案など3案を参院先議にする方針だったが、立憲民主党などが反対した結果、参院先議は一本もなかった。
衆参で法案を分け、同時並行で審議すれば、国会は円滑に運ぶ。野党が参院先議に消極的なのは、日程闘争を仕掛けにくくなるためだとされる。法案を政争の具のように扱うことは許されない。
国会の権威も揺らいでいる。
国会を欠席し続けているNHK党のガーシー(本名・東谷義和)参院議員に対し、尾辻参院議長は出席を求める招状を出した。ガーシー氏が応じなければ、今週にも懲罰委員会に付託される。
国会議員は、全国民の代表として国政を担う責務を負っている。その役割を放棄している議員を、与野党は放置してはならない。  

 

●女性の働き方別の出生率から浮上した「日本の現在地」 在宅育児支援が必要 2/6
2022年の出生数80万人割れが見込まれる中、年明けから、少子化対策・子育て支援をめぐる政治の動きが続いている。
小池都知事が18歳以下の全ての子どもに対し月5000円の東京都独自の手当の支給や、第2子の3歳未満の保育料の無償化などの方針を打ち出すと、岸田首相も「次元の異なる少子化対策」の実現に向けて、新たな対策会議を設置。児童手当の所得制限撤廃する方向で調整に入ったと報じられている。
少子化対策として子育て支援を継続的に実施するためには、財源の裏付けが必要だが、国民負担への理解はあまり広まっていない。共同通信が1月28、29日に実施した全国電話世論調査によると、少子化対策のため、消費税増税など国民の負担を増やすことについて反対が63.6%、賛成は32.6%だった。
少子化を止めたり、そのスピードを遅らせることができれば、高齢化率の上昇幅や労働供給の減少幅が抑えられ、将来の経済成長率の維持・向上、社会保障負担の軽減が期待され、そのメリットは子どもを持つ世帯だけでなく国民全体に広く波及する。にもかかわらず、国民負担への理解が広まっていないのは、これまで行われてきた少子化対策の効果が見えず、実効性が疑問視されていることも一つの要因ではないか。
正社員女性と被扶養女性とで「出生率の変化」に大差
まず、政府統計から日本全体の合計特殊出生率(以下、単に「出生率」)の推移を振り返ってみよう。
1989年に当時として過去最低の1.57まで下がった「1.57ショック」を契機に、政府は出生率の低下を問題として認識し、1994年の「エンゼルプラン」策定を端緒に少子化対策を行うようになった。しかし、その後も出生率は2005年に1.26に至るまで低下を続けた。2015年にかけて1.45まで回復したものの、その後は再び低下傾向に転じ、直近の2021年では1.30となっている。数々の少子化対策が実施されたにもかかわらず、出生率は本格的な回復に至っていない(図表1)。
   【図表1】日本全体の出生数と出生率の推移
日本全体の出生率の推移を見ると少子化対策に効果がなかったように見える。しかし、大和総研にて、医療保険の属性別の出生率を推計すると、正社員女性と被扶養女性とで出生率の変化に大きな差があることが分かった。
図表2が、医療保険属性別の出生率の推移だ。「被保険者」とは自ら働き健康保険に加入する女性のことであり、主に大企業の正社員は健保組合(組合)、中小企業の正社員が協会けんぽ(協会)、公務員は共済組合(共済)に加入する。これに対し、専業主婦や非正規雇用で働く女性の多くは「被扶養者」となる。
   【図表2】医療保険属性別の出生率の推移。
図表2を見ると、民間(組合・協会)の被保険者の出生率は2001年度〜2010年度にかけて0.7前後と推計される。正社員として働く女性は出産がしづらく、女性に仕事を取るか子どもを取るかの選択を迫るような状況であったことを端的に表している。
しかし、2010年度頃からは上昇を続け、足元では1.0を上回ってきた。
この要因としては、第2次安倍政権下で女性活躍を意識した施策が進められてきたことは大きいだろう。2012年度から2021年度にかけて、消費税率引き上げによって得られた財源も利用しつつ、保育所は78万人分増設された。出生数が減ったこともあるが、6歳未満児に対する保育所定員の割合はこの間、35%から56%まで上昇した。
出産した女性に占める育児休業取得者の割合は、23%(2012年度)から46%(2020年度)へ2倍となった※。「待機児童ゼロ」は実現できていないが、男女問わず子どもを持っても育児休業や保育所を利用しつつ働き続けることができるようになってきた。
この10年間、仕事と育児の両立支援を進めることで、女性正社員の出生率は上昇してきたのだ。
[ ※厚生労働省の雇用均等基本調査では、出産前に退職した人などがカウントされていないため数字が異なる。]
働き方改革で正社員女性の出生率1.8は達成し得る
もっとも、同じ「被保険者」の中でも出生率には官民の差がある。図表3は被保険者の出生率について比較したもので、共済組合については3制度(国共済、地方共済、私学共済)別に示した。
   【図表3】医療保険属性別の出生率。
被保険者のうち出生率の推計値が最も高いのは地方公務員共済(地方共済)だ。
2015年度から2019年度にかけて、政府目標の「希望出生率」に相当する1.8前後に達している。2020年度は前年度から0.09低下して1.69となったが、これは地方自治体における会計年度任用職員(いわゆる非正規公務員)が地方共済に加入した一時的な影響と考えられる。
正規と非正規の出生率の差は、両者の処遇格差によってもたらされたとみられるが、これを是正すれば、現在の非正規公務員も含め、1.8前後の出生率を目指すことは可能だろう。
国家公務員共済(国共済)の出生率は地方共済よりもやや低く、2020年度で1.52だ。国家公務員も地方公務員も、ともに雇用の安定性は高いが、国家公務員は全国転勤の可能性があることや、残業時間がより長いことなどの要因により、地方公務員より出生率が低くなっていると考えられる。
私学共済は私立の幼稚園や小中高校、大学の教職員などが加入するもので、出生率の推計値は民間(組合・共済)と同程度で推移している。私立学校の教職員は、民間会社員と同様に仕事と子育ての両立に課題を抱えているといえそうだ。
民間企業においても、独自に出生率を算出して仕事と子育ての両立につき課題解決を図っている企業がある。
例えば、伊藤忠商事の女性社員の出生率は、2005年度は民間被保険者(組合0.65、協会0.74)に近い0.60という水準だった。しかし、同社は、社内託児所の設置や、朝型勤務(勤務時間の前倒し)や在宅勤務制度の導入などの働き方改革を進めた結果、2020年度の出生率は1.87、2021年度は1.97と、地方共済の推計値を上回るまでに上昇している。
被保険者別の出生率の推計の水準の推移や、民間企業の改善事例などから考えれば、働き方改革を進めることで、地方公務員並みの1.8程度の出生率は実現し得るだろう。
「非正規・専業主婦」の出生率低下が、日本全体に影響している
前掲図表2に戻り、被扶養者(前出のとおり、非正規雇用や専業主婦が多い)の出生率の推移をたどると、2005〜2015年度頃にかけては、民間(組合・協会)の被扶養者の推計出生率は2.2〜2.3程度で維持されていたが、2010年度頃から被保険者の出生率の推計値が上昇したのとは対照的に、2015年度頃からは低下に転じている。
これは、日本全体の出生率の動きとちょうど重なる。
・2005年から2015年にかけて
被扶養者の出生率が維持される中で被保険者の出生率が上昇→日本全体の出生率が上昇
・2015年以後
被保険者の出生率の上昇は続いているものの被扶養者の出生率が低下→日本全体の出生率が低下
という構造なのだ。日本全体の出生率を上昇させるためには、被保険者(正規雇用)だけでなく被扶養者(非正規・専業主婦)の出生率も上昇させるか、少なくとも現状を維持する必要がある。
3歳未満の在宅育児への支援拡充が急務だ
国立社会保障・人口問題研究所が実施したアンケート調査によると、結婚し子どもを持つことを望む未婚女性が理想とするライフコースは、直近の2021年では仕事も続ける「両立コース」が46%、結婚あるいは出産の機会に(少なくとも一旦は)退職する「再就職コース」(35%)と「専業主婦コース」(19%)が計54%と、ほぼ半々だ。
しかし、近年の子育て支援は保育所の増設や育休制度の整備など「両立コース」向けの支援に偏り、「再就職コース」や「専業主婦コース」への支援が手薄になっていた。
図表4は、女性のライフコース別に、子どもが3歳の4月になるまでに受けられる子育て支援の現物・現金給付額を比較したものだ。
「両立コース」で、社会保険に加入し産休・育休を経て認可保育所等に入れて職場復帰できた場合は1人あたり601〜929万円の支援があるのに対し、「再就職コース」や「専業主婦コース」で出産前までに退職し3歳までに再就職をしていない場合は児童手当のみの69万円と支援額に大きな差がある。
   【図表4】子どもが3歳になるまでの家族関連給付額。
少子化対策として、子育てに対する経済的支援の拡充が議論されている。
が、まず優先されるべきは、近年の出生率低下の主因となっており、かつ、これまで支援が手薄だった「再就職コース」や「専業主婦コース」の世帯の在宅育児への支援ではないだろうか。
エビデンスに基づき少子化対策としての政策の精査を
岸田首相は、今年3月末に少子化対策の政策のたたき台を示す方針だ。6月の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)までに将来的な予算倍増に向けた大枠を提示するという。その際には、エビデンスに基づきこれまでの少子化対策の効果を検証し、どのような政策を行えば出生率の改善につながるのか、全体像を示す必要があるだろう。
若い世代が自らの希望通りに子どもを持てる社会となり、出生率が上昇すれば、そのメリットは国民全体に広く波及する。そのための財政負担の理解を得られるかは、納得感のあるシナリオを国民に提示できるか否かにかかっている。
●予算委員会審議:議論が深まらないのは一体何故なのか  2/6
石破茂です。
今週は連日予算委員会の審議で終わりました。予算委員会の在籍も随分と長くなりましたが、白熱した議論も、心が揺さぶられるような質問や答弁も、審議が中断することもなく、審議が淡々と進んでいくのが最近の際立った特徴です。政府・与党としては誠に有り難いことですが、経済政策、安全保障、少子化対策、コロナ対策等々、議論が深まらないのは一体何故なのでしょう。
野党が相変わらず顔見世興行的に多くの質疑者を立て、議論が深まらないままに「時間がないので次の質問に移ります」「持ち時間が終了しましたので、次の質疑者に代わります」などということを繰り返しているのでこのようなことになるのではないでしょうか。
野党第一党である立憲民主党の支持率が僅か2.5%(時事通信1月世論調査)というのは極めて異様なことですが、彼らの質疑からはその危機感が全く感じられません。

党首討論も全く行われていないのですから(そのために衆参両院に設けられた国家基本政策委員会だったはずですが)、予算委員会で野党党首、特に立憲民主党代表は同党の持ち時間のすべてを使ってでも総理と議論すべきだったのではないでしょうか。政権を担う気概のない野党は鼠を捕らない猫のようなもので、野党がしっかりしなければ与党は現状に安住し、民主主義も機能しないことを知るべきです。
共産党など一部を除く野党も、質問の冒頭に「防衛費の増額には基本的に賛成」などと言うものだから、迫力が全くなく、議論も深まらない。防衛費増額の内容について言及する質疑者も皆無でした。我が国を取り巻く安全保障環境がかつてないほどに悪化している、とするのはどういう分析に基づくものなのか、その精緻な議論を期待していただけに残念でなりません。
日米安全保障体制の抑止力を強化するにあたって、日米合同司令部の設置と核シェアリングの議論は不可欠です。どちらも我が国ではずっと忌避されてきたテーマですが、「安全保障政策の大転換」を謳う以上、避けて通るべきではありません。合同司令部なくしてどうして同盟が迅速的確に機能するのか、核シェアリングは核兵器そのものをシェアするのではなく、意思決定のプロセスと核攻撃のリスクをシェアすることがその本質ではないのか。その議論がない安保論争にはいい加減に終止符を打たねばなりません。

いわゆる「反撃能力」はいかなる抑止力なのか、ということも明確にしておく必要があります。報復的・懲罰的抑止力を保持しないことは依然として変わらないのでしょうが、さりとて相手に「日本を攻撃しても所期の成果が得られないのでやめておこう」と思わせる、ミサイル防衛やシェルター整備などの拒否的抑止力とも性質が違うように思われます。
また、「台湾有事は日本有事」と当然のごとくに語る向きもありますが、事態の推移につき、条約や地位協定を精緻に検証しながら考えていく作業も必要です。仮に中国が日本に対する攻撃を一切伴わず、台湾のみを攻撃した場合、安保条約第6条の極東有事となり、在日米軍の日本からの出撃が日米事前協議の対象となることが考えられます。
その際にこれを拒否する選択はまず無さそうですが、中国からの強い恫喝を加えられてもこれが貫けるのかどうか。また、朝鮮半島有事の際には、朝鮮国連軍地位協定が機能して米軍は国連軍として事前協議を経ることなく出撃が可能となるのではないか。それはそのまま日本有事に移行するのではないか。等々、防衛力の強化は台湾有事や朝鮮半島有事の際の実際のオペレーションを念頭に置いて論じるべきものです。
少子化対策に突如として登場した感のあるフランスのN分N乗方式も、税額控除方式に比べて効果があるかどうかはいくつもの前提を置かなければ計算式そのものが成り立ちませんし、フランスが出生率の向上のために実施している政策は極めて多岐にわたるのであって、税制だけで解決するものでは勿論ありません。
この点に言及したのは「有志の会」の緒方林太郎議員だけでしたが、私も「フランスはどう少子化を克服したか」(高崎順子著・新潮新書・2016)をもう一度きちんと読み返してみたいと思っております。

総理の外遊に同行した政務秘書官たるご長男の行動が問題視されていますが、これを週刊誌的スキャンダルとして扱うことには違和感を覚えます。
予算委員会の議論でも世襲の是非が問われていましたが、30年前の自民党の政治改革の議論では、我々二世・三世の若手議員が、世襲でなくても議員になれる制度の実現を政治改革の大きな目標としていました。能力と志のある人であれば、「地盤(後援会組織)・看板(知名度)・鞄(資金力)」が無くても政党の力で議員になれる、政党中心の小選挙区制の導入が必要だと信じていたのですが、結果は真逆となってしまいました。
あの頃「二世や三世は先代と同じ選挙区から立候補してはならない」という自民党内規約の導入を大真面目に訴えたのですが、党内ではほとんど政治改革狂信者扱いで、顧みられることはありませんでした。
私自身、昭和59年に衆議院出馬を決意して鳥取に帰るとき、田中角栄先生から「お前のような若造が自民党から出馬出来るのは、親父さんのおかげで名前と信用の売り賃がタダだからだ。普通の人ならどんなに優秀でもお前の立場になるのに2億円はかかるのだ。そういわれて悔しかったら毎日何百件と自分の足で歩き、街頭演説を何万回とこなせ」と厳しく教えられたことを今も決して忘れることはありません。
三井銀行在職中も、同僚、先輩で自分よりも遥かに優れた人を多く見てきましたが、彼らは三井銀行の重職に就くことはあっても政治家になることはおそらくないであろうと思ったものでした。大仰な表現かもしれませんが、自分が政治家でいることに原罪に近いものを常に感じており、そうであるが故に己の研鑽に可能な限り努めねばならないと思っています。

予算委員会が続く中、統一地方選挙も間近となり、鳥取県内や他県での応援の機会が多くなりましたが、落ち着いて物事を考えなくなってしまい、思考や言動が場当たり的になってしまうことを恐れております。
明日は立春とはいえ、まだまだ寒い日が続きます。皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。
●「金利上昇で日本銀行は破綻」という、メディアが騒ぐ「トンデモ論」を斬る 2/6
時価評価でないので日銀の信用失墜はありえない
日本の消費者物価指数(総合指数、2022年12月)は前年同月比で4.0%、生鮮食品とエネルギーを除くベースでも同3.0%になった。全国ベースよりも先行して公表される東京都区部の1月分は、前者が4.4%、後者が3.0%であり、物価のじり高が続いている。
日本の企業物価指数は前年同月比で10.2%(12月)と既に米国並みに上がっている。企業のコスト転嫁が比較的スムーズに進む米国と異なり、日本では企業物価指数が示すコスト上昇を企業が最終消費価格に転嫁するのが数か月も遅れる傾向が見られる。そのため消費者物価のじり高は少なくとも今後数か月は継続すると筆者は予想している。またその後に低下する場合も、デフレ懸念が再燃するほどには下がらないだろう。
物価上昇率がデフレに悩まされた水準から底上げされれば、最終的には名目金利(ここでは国債利回り)もそれに応じて上がる。例えばインフレ率2%が長期にわたって定着すれば、0.5%の利回りの国債を保有し続けることは、毎年1.5%の購買力が減少する金融資産を持っていることになる。投資家が合理的である限り、そんな低利回りの国債を保有しようとは思わないからだ。ここまでは経済学的にも常識の議論だ。
ところがそこから飛躍して、次のような俗説が出回っている。1. 長期国債利回りが上昇する(債券価格が下落する)と長期国債を大規模に保有している日銀に巨額の債券評価損が生じる。2. その評価損で日銀が債務超過になる。3. 日銀の信用が失墜する。4. 日本国債も円相場も暴落し、インフレも加速する。
このシナリオのうち、1は正しい。2も「日銀が仮に保有国債を時価評価すれば、債務超過になり得る」という条件付きで正しい。しかし3、4へと繋がる必然性は全くない。前編ではこの点を取り上げよう。
中央銀行に自国通貨支払い不能はありえない
まず長期国債価格と市場の利回りの関係、並びに日銀の現在のバランスシートが孕む金利上昇リスクについては、昨年「日本は大丈夫? 世界の長期債券が空前の下落、これがいま起きている本当の金融激震」(2022年11月3日公開)で述べた。
その趣旨を手短に要約すると、現在日銀の金融政策であるイールド・カーブ・コントロール(YCC)として10年物国債利回りの上限は0.5%に設定されている。現時点では日銀は物価上昇率が2024年にかけて再び2%割れまで低下するとの見方を維持しているので、上限引き上げの必要性を否定している。しかし日銀の予想に反して、物価上昇率が3〜4%で今後も持続すれば、上限の引き上げが必要になる。
その場合、国債の利回りは上がり、価格は下がる。既発の国債利回りは償還まで1年の債券ならば、1%の利回り上昇に対応する価格の下落は約1%だが、償還まで残存10年ある長期債ならば価格は約9%も下落する。
日銀が保有する短期から長期までの国債残高は564兆円(2022年12月末時点)だ。日銀の雨宮正佳副総裁が国会で2月2日に明らかにした試算によると、市場利回りが1%上昇した場合の含み損は28.6兆円、2%で52.7兆円になるという(この試算から逆算できる日銀の保有国債の平均残存期間は5年強)。つまり利回り1%の上昇で、日銀の自己資本(4.7兆円)、株式等の含み益(14.7兆円、2022年3月時点)の合計を越える含み損が生じる。
したがって、1. 長期国債利回りが上昇する(債券価格が下落する)と、日銀に巨額の債券評価損が生じるというのは正しい。ただし日銀はそうしたリスクは元より承知であり、償還期日まで保有する長期国債は時価評価をしない、したがって評価損も計上しない経理方法を以前から採用済みだ。従って「2. 日銀が債務超過になる」は「もし時価評価すれば」という条件付きでは正しい。
通貨発行機関だから負債はどこまでも支払える
ところが「たとえ決算経理上時価評価しなくても、『時価評価すれば日銀は債務超過だ』ということになれば、日銀の信用が失墜して、信用不安から円相場も国債も暴落するのではないか?」と考えてしまう人が少なくないようだ。
しかし「信用失墜」とは何か、きちんと考えてみて欲しい。信用失墜とは、債務者が債務の返済をできなくなる、あるいは「できなくなるのではないか」と懸念されることだ。
民間の企業や銀行では、負債が資産を上回る状態(負債超過、あるいは債務超過)になると、誰もそのままでは追加の融資や出資に応じなくなる。その結果、資金繰りに行き詰まり、債務の支払いもできなくなり、ゲームオーバーとなる。これは市場経済の中で歴史的に形成されてきた強い慣行だ。
しかし一国の中央銀行は「自国通貨の発行機関」であり、原理的にいくらでも自国通貨の供給(支払い)が可能だ。これは昨年「ヘッジファンドがいくら仕掛けても『日本国債売り』が失敗する理由」(2022年9月10日公開)で強調したことだ。
具体的に言うと、現在の日銀のバランスシートの負債サイドで最も大きな債務は、民間銀行が日銀に保有する日銀当座預金だ。これまでの量的金融緩和政策で民間銀行から日銀が国債を買い続けた結果、その代金が日銀当座預金に振り込まれ、その残高は525兆円(2023年1月末)に膨れ上がっている。この残高は発行されている日銀券残高との合計で「ベースマネー」と呼ばれている。
日銀が債務超過だろうとなかろうと、民間銀行はその残高を自由に他行への支払いに当てることができる。例えばA銀行からB銀行への支払いは、A銀行の日銀当座預金残高が減り、同額だけB銀行の同残高が増えるだけだ。
中央銀行と民間の決定的な差が理解できていない
また民間銀行は日銀当座預金を取り崩して、無条件で日銀券にして引き出すこともできる。もっとも数兆円も引き出せば、銀行の金庫に収まらない程の物理的な規模になるので、銀行は必要以上に引き出すことはしない。要するに中央銀行としての日銀の負債サイドは「マネー」そのものであり、その支払い不能を案じること自体ナンセンスだ。
それでも「日銀の債務超過」に不安を感じる方がいるのなら、そもそも日本政府自体既に莫大な債務超過であることを思い出して頂きたい。にもかかわらず、国民は税金を納め、各種の給付の受取りを日々平気で行っているではないか。
要するに「日銀の債務超過で信用崩壊」と唱える筋は、民間の経済主体と一国のマネーの発行機関(中央銀行)の決定的な違いが分かっていないトンデモ論者だと言える。
ただし「国債をどんなに発行しても中央銀行が国債を買ってマネーを供給できるから何の問題もない」と筆者が考えているわけではない。それは別のリスクが生じるのだが、長くなるので本稿では語らないでおきたい。
●「国債利回り上昇に日本の財政は耐えられない」の短絡、嘘を暴く 2/6
極めて一面的な財政議論
関連して最近気になるもうひとつの議論についても述べておこう。「日本政府の債務としての国債発行残高は1026兆円(2022年度末見込み)に膨張し、国債の平均利回りが1%上がっただけで、年間約10兆円も利払いが増加し、債務が雪だるま式に増えて行く」という主張だ。
これは全くのトンデモ論とまでは言わないが、考慮すべき複数の要因を見落としている非常に一面的な議論だ。この問題をきちんと理解するためには財政の「プライマリーバランス」(以下、PBバランスと記す)という概念について理解する必要がある。
図表1は財務省サイト「財政を考える〜参考資料3、プライマリーバランスとは何か〜」から切り取った説明図である。この図が示す通り、PBバランスとは、歳入面からは新規の国債発行による分を除き、歳出面からは期日の到来した国債の償還元本と年間の利払いを除いた歳入歳出の収支のことだ。双方を除いて収支が均衡する状態を「PBバランス均衡」と言う。一方、PBバランスに利払い分を歳出に加えた収支は「財政収支」と呼ばれている。
PBバランスは日本の財政が、利払いが増加して雪だるま式に膨張するかどうかを考える上で重要な概念である。
政府債務の大小は、その国の経済の規模との比較で議論する必要がある。通常これは政府債務と名目GDPの比率で議論できる。利払いの増加で政府債務が雪だるま式に膨張するかどうかは、政府債務がGDPとの比率で大きくなり続けるかどうかで判断することができる。
試算・3つの要素に注目する必要が
簡単な例で考えてみよう。今ある国の財政のPBバランスが均衡しており、政府債務残高(=国債発行残高)が100兆円、名目GDPが100兆円で、政府債務の対名目GDP比率は100%としよう。
想定として将来にわたる国債の利回りは2%、名目GDP成長率も2%としよう。国債発行残高は利払いを含めて年率2%複利で増加するので10年後には121.9兆円(=100×1.02の10乗)となる。名目GDPも年率2%で成長するので、10年後には121.9兆円となる。つまり10年後も政府債務のGDP比率は一定で変わらない。
次に想定を変えて国債利回りが3%、名目GDP成長率が2%で、国債利回りが成長率より高いとどうなるか。全く同様の計算で10年後の国債残高は134.4兆円(=100×1.03の10乗)、名目GDPは121.9兆円のままだから、10年後の政府債務の対GDP比率は110.2%(=134.4/121.9)と現在より約10%も上がってしまう。
逆に国債利回りが2%、名目GDP成長率が3%と成長率の方が高いと、同様の計算で10年後の政府債務の対GDP比率は90.7%(=121.9/134.4)と9%ポイントも低下する。これは財政学では「ドーマーの条件」として良く知られた論理だ。
ちなみに実際の日本の名目GDPは549兆円(2021年)、政府債務残高(対GDP比)はグロスでは252%だ。ただし日本政府は金融資産も多額に保有しており、債権債務差し引きした純債務ベースでは169%である(2022年見込み、財務省「日本の財政関係資料(令和4年4月版)」)。
要するに日本国債の平均利回りが仮に1%ポイントほど上昇した時に、日本政府の債務残高が名目GDP比率で増えるか、減るか、それとも横ばいであるかは、1. PBバランス、2. 名目成長率、3. 平均国債利回りの3つの要因に依存するわけだ。したがって冒頭に指摘したような「利払いが雪だるま式に膨張する」という議論は、3の国債利回りしか見ていないのであまりにも一面的な主張だと言える。
低金利・マイルドインフレ率の効用を考える
では実際の日本の財政のPBバランスと名目成長率の関係はどうなっているだろうか。それを示したのが図表2だ。オレンジ線が日本政府純債務の対名目GDP比率(以下「政府債務比率」と記す)の前年比の差であり、プラスは債務比率が上がっていること、マイナスは債務比率が下がっていることを示している。青線は10年物国債利回りから名目GDP成長率(以下「名目金利-成長率格差」と記す)を引いたものだ(2022〜23年は見込み値)。
名目金利-成長率格差(青線)と政府債務比率の変化(オレンジ線)が概ね連動して上下動しているのが分かるだろう。双方の関係を単回帰すると最大で1.0になる正の相関係数は0.73とかなり高い。
図表2を見ると、政府債務比率が下がった、あるいは横ばいになった時期が2回あることが分かる。ひとつは1980年代後半の好景気局面だ。この時期、国債利回りは高かったが名目成長率がそれ以上に高く、PMバランスも僅かながら黒字だったからだ。
2000年以降ではアベノミクス期の2013〜17年に政府債務比率はほぼ横ばいに近い推移となった。この時期はPMバランスの赤字は継続したものの、その赤字幅は比較的小さくなり(GDP比率で2〜3%)、デフレ脱却で名目成長率が回復し、同時に日銀の長期国債の大規模購入で国債利回りが低下した。その結果、政府債務比率は、下がりはしなかったものの横ばいに近い推移となったのだ。
リフレ政策の主効果と副効果による「良い変化」とは
第2次安倍内閣以降行われて来たリフレ政策とは、財政・金融政策で名目成長率を高めに誘導しながら、日銀の長期国債の購入で長期名目金利を低めに誘導するものだ。これをある程度の期間にわたって実現できれば、実体経済面では企業や個人が借入れを増やして設備投資や住宅建設、耐久財消費を増やす効果が期待できる。自国通貨の金利が下がることによる内外金利格差の変化は、円安を通じて輸出を増やす効果もある。
さらには預貯金や債券の実質利回り(=名目利回り-インフレ率)がマイナスになり、その結果、株式や不動産に資金シフトが起これば、これら資産価格の上昇で消費が増加するプラスの資産効果も期待できる。これがリフレ政策に期待される主たる効果だ。
同時にその「副効果」として、「名目GDP成長率>国債利回り」を維持することで、政府債務の対GDP成長率を安定化、あるいは低下させる効果が生じていると言えるだろう。
現下のインフレは、日本にとっては国際資源価格の高騰と輸入インフレという外的な要因によって始まったものであるが、過去20余年にわたって、賃金と物価が伸び率ゼロで凍り付いた状態から、ようやく日本経済が解凍される兆しが出ている。価格も賃金も変動してこそ市場メカニズムは機能するのだから、これは良い変化だ。
今の日銀に期待されるのは、YCCの現行の上限0.5%に固執することなく、ポストデフレ、ポストコロナ時代における、インフレ率と長期金利のバランスの良い落ち着きどころを探り、そこに軟着陸させることだろう。
●生産性上昇に資する対日直接投資・国内投資回帰、政府の財政膨張が妨げ 2/6
日本の1人当たり労働生産性は、2021年にOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中29位となるなど、低迷している。
背景には、1980年代半ば以降の大幅な円高、貿易摩擦、内外賃金格差などから対外直接投資が活発化し、生産の海外移転が進んだことがある。企業は生産技術の進歩と人的資本の蓄積を、国内ではなく海外で実現させた。
他方、国内の生産性上昇に寄与する対日直接投資は非常に少ない。昨年9月末の残高は44.8兆円、GDP比8%程度で、1桁なのはG20で日本だけだ。政府は20年に対日直接投資残高を10年後の2030年に80兆円へ倍増、GDP比12%の目標を決め、さまざまな促進策を講じているが、目標以上の投資の呼び込みが望まれる。
政府は昨年10月の総合経済対策で、企業の国内投資回帰もうたっている。最近は円安基調や日本の賃金の相対的な低下、経済安全保障問題、サプライチェーンの再構築など、海外生産移転時とは逆の風が吹いており、ある程度回帰が進み、国内投資を増やすだろう。
これらの要因は国内で資金需要を増加させるが、それが満たされるかどうかは資金調達環境による。インフレが高まる中グローバルに金融緩和政策が転換され、今後は金融機関による低金利での潤沢な資金供給は望み難い。異次元緩和を継続中の日本でもその影響は免れなくなっている。また、主要な資金供給主体である家計の貯蓄率は、少子高齢化が進み低下基調だ。しかも家計は運用益の内外格差から外国資産保有比率を高める可能性がある。
国内の資金調達環境が引き締め方向に変化する中、財政による資金需要にはさらに注意が必要だ。社会保障関連支出の増大に加え、防衛力強化、少子化対策など、増加要因がめじろ押しだからだ。
潜在成長率や実質賃金を高めるためにも生産性上昇が必須だが、そのための投資が円滑に実施されるには、政府による資金需要が民間の資金調達を圧迫するようなことがあってはならない。財政の健全性確保なしには日本経済の再興はおぼつかない。
●岸田内閣支持率 過去最低23% 浮上の兆しうかがえず  2/6
社会調査研究センターは2023年2月5日(日)、NTTドコモと共同開発したインターネット調査「dサーベイ」による全国世論調査を実施し、岸田内閣の支持率は1月の前回調査から2㌽減の23%で過去最低となりました。政府が新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同等の「5類」に5月8日から引き下げることについては「妥当だ」(36%)と「時期尚早だ」(37%)が拮抗しました。
新型コロナ5類「妥当」36%・「時期尚早」37%で拮抗
岸田内閣の支持率は23%で、1月8日に実施した前回調査の25%から2ポイント減り、昨年10月に調査を開始して以降、最低となった。不支持率は65%(前回63%)でこちらも過去最悪を記録した。性的マイノリティーや同性婚に対する首相秘書官の差別発言(2月3日)は調査で取り上げることができなかったが、政権中枢の不祥事が続く中、支持率浮上の兆しはうかがえない。
政府が新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同等の「5類」に5月8日から引き下げることについては「妥当だ」の36%と「時期尚早だ」の37%が拮抗。「引き下げを早めるべきだ」が10%だった。
マスク着用「続けたい」52%、イベントで大声「マスク条件に賛成」62%
新型コロナ対策のマスク着用について、政府が「屋内、屋外を問わず個人の判断に委ねる」との方針を示しているのを受け、今後どうしたいかを尋ねたところ、「これからもマスク着用を続けたい」との回答が過半数の52%を占め、「外す機会を増やしたい」の42%を上回った。男女別では、女性の61%が「これからもマスク着用を続けたい」と答えたのに対し、男性では51%が「外す機会を増やしたい」と回答し、女性の方がマスクを外すのに慎重な傾向が示された。
スポーツやイベントの会場で大声を出す行為の解禁については「マスク着用を条件に賛成」が62%で、「マスクなしの解禁に賛成」の18%を大きく上回った。「反対」は10%にとどまった。
政府が感染防止策の緩和に動き始めたのに対し、世論の方は慎重に感染状況を見極める意識が根強いようだ。岸田政権の新型コロナ対策を「評価する」との回答は23%(前回21%)と依然低く、「評価しない」が40%(同43%)、「どちらとも言えない」が37%(同36%)だった。
児童手当の所得制限撤廃に賛否拮抗、30代以下は賛成多数
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に取り組むことを表明し、自民党と公明党が児童手当の所得制限を撤廃する方針を示したことについても質問した。岸田政権の少子化対策に「期待する」との回答は20%で、「期待しない」の59%を大きく下回った。
児童手当の所得制限撤廃について、回答者全体では「賛成」の39%と「反対」の41%が拮抗したが、世代間で賛否の傾向が異なった。18〜29歳が賛成60%・反対20%、30代が賛成50%・反対27%だったのに対し、40代で賛否が拮抗し、50歳以上では反対が5割前後に達して賛成を上回った。子育て現役世代と、既に子育ての一段落した世代の意識差と言えそうだ。
物価高に歯止めがかからない中、岸田政権の物価対策を「評価する」との回答はわずか8%にとどまり、「評価しない」が72%に上った。物価対策を「評価しない」と答えた層の内閣支持率は12%に落ち込み、「評価する」と答えた層では75%に及ぶ。岸田政権の少子化対策に「期待する」と答えた層の内閣支持率も57%と高く、物価高の行方に加えて、これから検討される少子化対策への評価が政権の浮沈を左右しそうだ。
地方選挙で旧統一教会の問題「考慮する」70%
開会中の通常国会では、少子化対策などのほか、岸田政権の打ち出した防衛費の大幅増額方針も主要な論点になっている。防衛費を増やす財源に増税と国債のどちらを充てるべきだと思うかを尋ねたところ、40%が「増税にも国債にも頼らず、ほかの予算を削るべきだ」と答えた。岸田政権は5年後までに年間1兆円規模の増税を行う方針を示しているが、「増税」と答えたのはわずか5%で、「国債」が14%、「増税と国債の両方」が11%だった。23%が「そもそも防衛費を増やすことに反対」と答えた。
4月には4年に1度の統一地方選挙が行われる。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治の関係は地方の首長や議員についても問題になったが、地方選挙で投票する際に旧統一教会の問題を「考慮する」との回答が70%を占め、「考慮しない」は16%だった。
ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、欧米諸国がウクライナに戦闘機を「供与すべきだ」36%、「供与する必要はない」37%、「わからない」26%と回答が割れた。年代別でみると、40代以下で「供与する必要はない」が「供与すべきだ」を上回ったのに対し、50代以上では「供与すべきだ」の方が多かった。国際情勢に対する関心度の違いだろうか。
●安保戦略総点検 文書で終わらせない、実行を 2/6
昨年末に閣議決定された安保3文書は今後、着実に実行に移さねばならない。岩田清文元陸上幕僚長と島田和久前防衛事務次官は、安保3文書で、何から何を守るのかが明確にされ、日本のみならず周辺地域の国際秩序維持にも当たる決意が示された点を評価する。日本が「反撃能力」を保有することについて左派勢力は「専守防衛を逸脱するおそれがある」と批判するが岩田氏は「そもそも独立国として、反撃能力を持つことは当然の権利」と、島田氏も「日本の防衛に反撃能力は過去一貫して必要不可欠だった」と強調。反撃能力の保有には課題も多い。評論家の潮匡人氏は「そもそも国際法上『反撃』など許されない」と指摘し「やられる前に、阻止(ないし抑止)する」のが法の要請であると解説する。
慶應義塾大学の森聡教授は、3文書の最上位にあたる国家安全保障戦略について、今回の新戦略は「外交と防衛に限らず」「政府全体で国家安全保障を推進するための総合的な取り組み」を示したものだと読み解く。それだけに台湾有事に伴って沖縄の離島にも戦火が及んだ場合は、地方自治体が先頭に立って住民避難にあたらねばならず、国の所管官庁は内閣官房や総務省であるはずだとジャーナリストの仲村覚氏が問題提起した。
安保3文書で防衛費は大幅に増額されることが決まったが、自衛官の定数は増やさないことも明記されている。拓殖大学大学院の濱口和久特任教授は「人員確保なくして自衛隊は戦えない」として、自衛官の若年定年制や任期制、さらには志願制のままでいいのかも見直しが必要だと主張する。前日銀副総裁の岩田規久男氏は、防衛費の確保にあたって「『防衛国債は将来世代の負担になる』という財務省と岸田首相の考えは誤っている」とバッサリ斬る。
●日銀総裁、それ以外にいい方法ない−10年間の量的・質的緩和 2/6
日本銀行の黒田東彦総裁は6日、過去10年間にわたり実施してきた大規模な量的・質的金融緩和(QQE)について「金融政策として、それ以外にいい方法があるとは思えない」との認識を示した。衆院予算委員会での答弁。
黒田総裁は就任直後の2013年4月に2%の物価安定目標を2年程度で実現すると宣言してQQEを導入したにもかかわらず、10年間も持続的・安定的な2%が実現できないのは「大変残念」と指摘。時間はかかるが、金融緩和の継続で実現可能とし、「引き続き経済をしっかり支え、企業が賃上げを行う下で2%の物価安定目標が安定的に達成されるよう努める」と語った。
日銀は12月会合で長期金利(10年国債利回り)の許容変動幅を従来の上下0.25%から0.5%に拡大する金融緩和策の修正を決めた。1月18日の会合では金融政策を維持したものの、物価上昇や4月の黒田総裁の任期満了を控えて市場には一段の政策修正への思惑が根強い。
総裁は2%目標が実現できていない理由について、デフレの長期化によって醸成されたデフレマインドの根強さなどを挙げた。金融緩和で経済を刺激し、労働市場をタイトにして物価や賃金が上がりやすい状況をつくることが必要だとし、「どこの中央銀行も同じように考えている。私どもが非常に特殊な考えを持ってやっていることではない」と述べた。
足元の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比上昇率は、日銀の目標を大きく上回る4%程度に伸び率を高めているが、ほとんどが輸入物価の上昇が消費者物価に転嫁されたものと説明。今年半ばにかけて物価上昇率は低下していき、2023年度の平均では「2%を割り込む見通しだ」との見方を示した。
黒田総裁は4月8日に任期満了を迎える。日本経済新聞は6日、複数の政府・与党幹部からの情報として、政府が黒田総裁の後任人事について、雨宮正佳副総裁に就任を打診したと報じた。雨宮氏はブルームバーグのエコノミスト調査で、次期日銀総裁の最有力候補とみられていた。報道を受けて、金融政策の大きな修正はないとの見方から市場は円安・株高で反応した。
●性的少数者差別発言を謝罪 松野官房長官「傷つけた」 2/6
松野博一官房長官は6日の衆院予算委員会で、首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏による差別発言を巡り、国民やLGBTなど性的少数者に謝罪した。「国民の皆さんに誤解を生じさせたことは遺憾であり、おわび申し上げる」と強調。「発言によって傷つかれた方、不快な思いをされた方がいると思う」と陳謝した。これに先立ち、岸田文雄首相は官邸で記者団に「丁寧に内閣としての姿勢を説明していく」と語った。
松野氏は予算委で、任命責任について問われ「首相も申し上げている通り、任命責任を感じている」と説明。荒井氏が首相秘書官全員が同性婚に反対していると述べたことには、事実に反するとの認識を示した。
同性婚制度導入を巡る首相の「社会が変わってしまう」との答弁は「国民一人一人の家族観に密接に関わるものであり、慎重な議論が必要との趣旨だ」と説明した。性的少数者差別の解消を図る法律の必要性について、与野党が議員立法を目指した経緯に触れ「国会でお決めいただくということかと思う」と述べるにとどめた。立憲民主党の奥野総一郎氏への答弁。
●岸田首相「不快な思い、おわびする」=野党反発、予算委を一時退席  2/6
岸田文雄首相は6日の政府・与党連絡会議で、荒井勝喜前首相秘書官の性的少数者(LGBTなど)や同性婚を巡る差別発言について、「国民に誤解を生じさせたことは遺憾だ。不快な思いをさせてしまった方々におわびを申し上げる」と謝罪した。
松野博一官房長官も衆院予算委員会で、「岸田政権は多様性のある包摂的社会を一貫して目指しており、国民に誤解を生じさせたことは遺憾であり、おわび申し上げる」と述べた。立憲民主党の奥野総一郎氏への答弁。
立民などは衆院予算委の質疑に先立ち、松野氏が予算委冒頭に秘書官更迭の経緯を説明し、謝罪するよう要求したが、与党側は拒否。このため、野党各党は委員会室から一時退席した。
この後、自民、立民両党の国対委員長が会談し善後策を協議。野党議員が委員会室に戻り、松野氏が差別発言について謝罪した。 
●荒井前秘書官の差別発言めぐり衆院予算委が一時混乱 松野官房長官が謝罪 2/6
LGBTなど性的少数者や同性婚のあり方について差別発言をして、首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏の問題が6日、さっそく国会審議に影響を及ぼした。
6日午前9時から開催予定だった衆院予算委員会で、野党側は、差別発言に対する松野博一官房長官による謝罪を求めたが、与党側が拒否。委員長が職権で質疑に入ったため、野党側は反発して退席した。
委員会の開始時間が約20分遅れた上に、自民党議員の質疑が約1時間行われた後は、退席した立憲民主党の質問時間になっていたため質疑が行われず、大臣や与党側が着席したまま時間が過ぎる展開になった。
審議は一時中断されたが、その後、野党側は席に戻った。松野氏は、立民の奥野総一郎氏の質問に対し「国民の皆さんに誤解を生じさせたことは遺憾であり。おわび申し上げる」と述べ、謝罪の意を示した。当事者に対しても「(発言で)傷つかれた方、不快な思いをされた方がいると思う。おわびを申し上げる」と、謝罪した。
奥野氏は「(最初から)答弁があれば、こんなことにならなかった」と指摘。質疑は約1時間遅れで再開された。
松野氏はこれに先立ち、自民党議員の質問に、荒井氏の発言について「不当な差別と受け取られても仕方がない。政府の方針と全く相いれず、言語道断。遺憾だ」と述べた。
岸田文雄首相は、6日の衆院予算委員会に出席する予定はない。
●前首相秘書官 同性婚発言 官房長官「当事者に不快な思い」陳謝  2/6
同性婚をめぐる差別的な発言で総理大臣秘書官が更迭されたことについて、松野官房長官は衆議院予算委員会で「発言は不当な差別と受け取られてもしかたなく、言語道断で遺憾だ」と述べ、当事者に不快な思いをさせたうえ政府の方針にも誤解を生じさせたとして陳謝しました。
6日午前に開かれた衆議院予算委員会では、同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言し、更迭された荒井勝喜 前総理大臣秘書官をめぐって、与野党双方の議員が経緯などを質問しました。
この中で松野官房長官は「発言は不当な差別と受け取られてもしかたがないものであり、政府の方針と全く相いれない。言語道断で遺憾であり、岸田総理大臣が総理秘書官の職務を解くという判断を行った」と説明しました。
そのうえで「岸田政権は性的指向や性自認を理由とする不当な差別や偏見はあってはならないと考えており、多様性が尊重され、すべての人が互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できる共生社会の実現に向け、引き続きさまざまな国民の声を受け止めしっかりと取り組んでいく」と述べました。
そして、松野官房長官は「今回の発言で傷ついた方や不快な思いをした方もいると思う。そういった皆さまにおわびを申し上げるし、内閣の方針に誤解を生じさせてしまったことは遺憾であり、これもおわび申し上げる」と陳謝しました。
また、同性婚をめぐる岸田総理大臣の「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」などとした答弁については、荒井秘書官は作成に関わっていないとしたうえで「同性婚制度の導入は、親族の範囲や、権利義務関係など、国民生活の基本に関わる問題で、国民一人一人の家族観と密接に関わるものであるから、慎重な議論が必要だという趣旨だ」と述べました。
衆院予算委 野党側は反発 約40分退席
6日の衆議院予算委員会では、冒頭、野党側が、新年度予算案の審議に先立って、荒井 前総理大臣秘書官が更迭された経緯について政府に説明させるよう求めたのに対し、自民党の根本委員長が応じず、与党側の質疑が始まりました。
野党側はこれに反発して退席し、委員会は与党側の質疑が終わったあと中断となりました。
そして、自民党の高木国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が会談して協議した結果、審議はおよそ40分後に再開されました。
再開後の委員会で根本委員長は「委員会がこのような形で開会されることになったのは遺憾だ。しっかり与野党間で協議しながら、委員会を進めていきたい」と述べました。
自民 高木国対委員長 「官房長官が真摯に答える」
自民党の高木国会対策委員長は、記者団に対し「さきほど、自民党の質問者に対する答弁が松野官房長官からあったが、少し不足している部分がある。それを補う意味でも、野党からの質問に真摯(しんし)に官房長官が答えることになる」と述べました。
立民 安住国対委員長 「恥ずかしい状態を世界に示した」
立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「荒井 前総理大臣秘書官の発言は、単なる役人の不祥事以上に深刻な話だ。G7=主要7か国の議長国の日本だけがLGBTや同性婚の問題で全く時代遅れの話をしていて、恥ずかしい状態を世界に示してしまった。更迭に至った経緯を政府は率先して説明すべきだ」と述べました。
磯崎官房副長官「政府としての立場 丁寧に説明」
磯崎官房副長官は、記者会見で「発言は政府の方針と全く相いれず、言語道断で遺憾だ。国会の場でしっかりと政府としての立場を丁寧に説明していきたい」と述べました。
また、性的指向や性自認をめぐる差別を禁止する法律の必要性については「議員立法として議論があると承知している。国会で議論されるものと考えており、政府としてはその動きを注視していきたい」と述べました。
一方、岸田総理大臣が先の衆議院予算委員会で夫婦別姓や同性婚に慎重な検討が必要だという考えを示したことについては「答弁案は法務省が作成し、それをベースに質疑のやり取りの中で岸田総理大臣が答弁した」と述べました。  
●インフレ税は願い下げだ  2/6
世界的にインフレが広がるにつれて、「インフレ税」という言葉を見聞きすることが増えた。日本でも食品や電気料金などの値上げが続く。同じモノやサービスに以前より多くのお金を払いながら、まるで消費税が増税されたみたいだ、と感じる人もいるだろう。ただし、インフレ税はそういう意味では使われない。なぜインフレが税金のように見なされるのか、順を追って説明しよう。
すさまじいインフレで物価が100倍に跳ね上がったとしたら、10万円で買えたテレビや冷蔵庫の価格は1000万円になる。
一方、1000万円の住宅ローンを借りている人の場合は、インフレ後に1000万円を返済すると、実質的にはかつての10万円程度、つまりテレビや冷蔵庫を買う程度の負担で済むことになる。インフレでローンの99%が事実上チャラになるわけだ。
これを国家財政に当てはめると、インフレが税と呼ばれる理由が見えてくる。国の借金である国債の発行残高はおよそ1000兆円に上る。国内総生産(GDP)の約2倍と巨額で、返済は容易ではない。そこに突然、ハイパー・インフレーション(超インフレ)が起きて物価が100倍になると、政府の負債は実質的に10兆円に激減する。政府が大増税して返済したのと同じように、債務の大半が消える。
もちろん、国債の保有者は資産価値の99%を失い、大損害をこうむる。国債は投資信託や生命保険、年金基金などの運用対象に組み込まれている。これらの資産の最終的な所有者である国民が損をするわけだ。つまり、インフレは国民から資産を奪い、政府の借金を軽くする役割を果たす。実質的に民間から政府に「所得移転」させることから、課税になぞらえてインフレ税と呼ばれるわけだ。
たった2%のインフレ目標さえ長年達成できなかった日本で100倍(9900%)のインフレを想定するのは荒唐無稽だと感じるかもしれない。だが、日本の物価は日中戦争前から大戦後にかけて100倍を大きく超えて上昇したという前例もある。
昭和20年(1945年)、悲惨な戦争は終わったが、国民の苦難は続いた。戦時中、政府が発行した国債を日本銀行が大量の紙幣を刷って引き受け、市中にあふれたマネーが激しいインフレを起こしたからだ。東京の物価指数は昭和10年前後に比べて昭和22年が110倍、23年は190倍、24年は240倍に達した。戦時国債は紙くずと化し、巨額な戦費の負債は大半がインフレ税によって「返済」された。
戦費を巡る日本の財政・金融政策を分析した「日本 戦争経済史」(小野圭司著、日本経済新聞出版)にこんな一節がある。
「課税はもとより通貨発行もインフレという形で国民各層に広く戦費の負担を求めるものである」
インフレも税金のように戦費を国民に負担させる手段として使われた。歴史の教訓はこうだ。放漫財政によって通貨の信認が失墜すれば、激しいインフレが起きる。政府の借金は事実上、棒引きになり、国民は塗炭の苦しみを味わうことになる。
コロナ禍以降、我が国の財政支出は急速に膨らんだ。政府の総合経済対策は、ガソリンや電気代の上昇分を補助金などで穴埋めするインフレ対策が柱の一つである。この経済対策を審議した衆院予算委員会の質疑を読み返した。インフレ対策の強化を求める声が相次ぐ一方で、国債を大量増発してインフレの痛みを将来世代にツケ回す政策の是非を、正面から論じる場面は見つからなかった。
インフレ対策の大盤振る舞いで財政危機が高じて超インフレを招き、財政規律を軽んじた政府は大助かり。ツケのインフレ税は国民が払う羽目に……。そんな悲惨な結末は、願い下げにしたい。
●防衛費増額と財政〜60年償還ルールの見直しって何? 2/6
防衛費強化の財源を増税で賄うことについて、国会で激しい論戦が繰り広げられています。こうした中、自民党内では、増税ではなく、国債の償還ルール、つまり政府の借金の返済の仕方を変えることで、財源をねん出しようという案が持ち上がっています。しかし、この案をめぐっては、財政のさらなる悪化につながると慎重な意見も出ています。この問題について考えていきたいと思います。
解説のポイントは三つです。
1)防衛費増額 財源をめぐる議論
2)国債償還ルール見直し 問題点は
3)つけは後からまわってくるか
1) 防衛費増額 財源をめぐる議論
まず、防衛費をめぐる経緯についてみてみます。
政府は去年、東アジアをめぐる安全保障情勢が厳しさを増しているとして、防衛費の大幅な増額を打ち出しました。今後5年間で43兆円程度が必要だとしていて、2027年度の防衛費は8兆9000億円にのぼる見通しです。一方で、2027年度以降、年におよそ4兆円もの追加の財源が必要となり、政府は、このうち、ほかの予算を削る歳出削減や、予算が年度内に使われなかったときに生じる決算剰余金、それに国有財産の売却など税金以外の収入でおよそ3兆円をまかない、残りの1兆円あまりについては、所得税、法人税、それにたばこ税の増税でまかなう方針を打ち出しました。
これに対し、野党各党からは、「そもそも防衛費の増額は、総額ありきで国民に見える形で中身の議論が全く行われていない」とか、「物価高などで国民の生活が厳しくなっている中で、なぜいま防衛増税なのか」と一斉に反発しています。こうした中自民党内でも、政府が言う歳出改革や税金以外の収入で4分の3にあたる財源を、本当に安定的に確保できるのか。それ以外にも財源を見つけて積み増すことで、増税額を少なくすることはできないのかといった声が上がり、先月19日には、防衛費増額の財源について議論する特命委員会での検討が始まりました。
2) 60年ルール問題点は
あらたな政策に必要な歳出をめぐって、財源を見つけ出す努力をすることは大切なことだと思いますが、気になるのは、財源として、国債をめぐる60年償還ルールを見直す案が出ていることです。
国債の60年償還ルールとは、次のようなものです。政府が発行する国債=政府の借金は、満期が来た時に一度に全額を償還=つまり返済することが難しいことから、60年かけて返すというルールを決めています。なぜ、60年かというと、国債で調達した資金が建設費にあてられる道路などのインフラの耐用年数が60年程度と考えられているからです。政府は、このルールに基づいて、毎年度の予算でおよそ60分の1を返済し、残り60分の59は、「借換債」と呼ばれる国債発行、つまり新たな借金をしてそのお金で返済する、要は借り換えを行うのです。このうち年度ごとの返済額は、新年度=令和5年度の予算案では16兆7561億円にのぼります。
これについて自民党内で出ている意見は、60年という返済期間を延ばすことで、毎年度ごとの返済額を減らそうというものです。例えば、償還期間を20年延長して80年とすれば、年度当たりの返済額は80分の1に減ります。令和5年度を例にとれば、必要な予算は12兆円余りに減り、16兆円あまりと比べるとおよそ4兆円のお金が浮く計算になります。その分を、防衛費をはじめ、必要な予算の財源にあてることができるというのです。
ただ、この場合財源ができたといっても、政府の収入自体が増加して使えるお金が増えたのとは違います。さらに、手持ちの資金で返済する額が4兆円減るということは、その分、返済のための新たな借金のほうを4兆円増やすということになる、そのうえ、その分の利子の支払いも余計に増えますから、財政は一段と悪化することになります。借金のつけは、後になって払わなければならない。果たしてこれをもって、安定した財源を確保することになるのかと、疑問の声が出ているのです。
もとより政府の財政は、コロナ禍対策の歳出が膨らみ悪化が加速し、来年度末の国債発行残高は、1068兆円と過去最大に達する見通しです。こうした中で、政府は、償還ルールを見なおせば、日本の財政に対する市場の信認を損ないかねないといった論点がある」。具体的には、国債の信用力が低下し、金利があがるおそれがあるなどとして慎重な構えを見せています。
3) つけは後からまわってくるか
必要な財源をしっかりと確保せずに、会計上の操作のようなことで乗り切ろうとしても、結局は、後でツケを払うことになる。過去にもそういった例がありました。ここでちょっと防衛費と財源の問題からはなれますが、そのいきさつを具体的にみてみます。
政府の予算には、一般的な政策に使う予算のお財布「一般会計」と、特別な目的に使う予算のお財布である「特別会計」があり、二つのお財布は別々に管理されています。かつて、平成6年度から平成7年度にかけて、一般会計のお財布のお金が足りなかったときに、特別会計のお財布の中の「自動車安全特別会計積立金」という資金の中から、1兆1000億円あまりを繰り入れ=つまり借り入れたことがありました。いわば別のお財布からの流用です。それがきちんと繰り戻し=つまり返済されていたらよかったのですが、財政難が続く中思うように返済できず、いまでも5900億円あまりが未返済。
この結果、本来7000億円以上あったはずの積立金の残高は、1411億円となっています。実は、この積立金は、ユーザーが支払う自賠責保険の保険料などをもとにしたもので、この資金の中から、事故で重い障害が残った被害者の支援のためなどの費用が年間150億円ほど使われています。このままでは10年ももたずに底をつきそうだということで、今年4月から自動車ユーザーに、年間100円から150円の賦課金の支払いを求め新たな財源を確保することになりました。しかし一般会計への繰り入れがなければ、また繰り入れられてもきちんと返済されていれば、自動車ユーザーが新たな負担を負うこともなかったかもしれません。この問題につい鈴木財務大臣は、去年11月の記者会見で「一回ですべてお返しするのが無理な状況で、申し訳ないと思っている」と陳謝しています。
当時、進めたい政策に必要な財源が不足するなら、ほかの予算を削るか、それができないなら、なぜその予算が必要なのか国民に十分説明し、理解を得たうえで増税によって財源を確保するという取り組みに、正面からむきあったのでしょうか。いまご紹介した事例は、会計上の操作のようなことでその年度をやり過ごせたとしても、後になってツケはまわってくることを示していると思います。
そこで私は「朝三暮四」という言葉を思い出しました。
中国の春秋時代、宋の狙公が飼っていたサルに与える栃の実の数を減らすことにした際に、最初、サルたちに「朝に3個、暮れに4個与えるが、どうか」とたずねると、サルは、少ない!と怒りだします。そこで、「朝に4個、暮れに3個与える」と言うと、サルは大いに喜んだといいます。目先の違いにとらわれて、結局は同じ結果になるのに気付かないことを表す表現です。
国債償還ルール、借金の返済の仕方を変えて、いま借金を返す額が減っても、その分は後で返すことになる。結局トータルでみた返済額が減ることはないのです。私たちは、そのお金を将来誰が返すことになるのかにも思いを巡らせながら、防衛費と財源の問題を考えていく必要があるようです。
●秘書官の差別発言 波紋広がる 衆院予算委 審議一時中断  2/6
岸田首相の秘書官が同性婚や性的マイノリティーについて、「見るのも嫌だ」などと発言し、更迭されたことが大きな波紋を広げている。
6日の衆議院予算委員会は、審議が一時中断するなど紛糾した。
岸田首相「(Q:荒井前秘書官について野党が国会で追及する構えだが、どう説明するのか)丁寧に内閣の姿勢を説明していく」
国会では、予算委員会の冒頭で、松野官房長官が経緯を説明するよう野党が求めたが、認められなかった。
野党側の議員が退席する中、松野長官は、与党の質問に答える形で陳謝した。
松野官房長官「(発言は)不当な差別と受け取られても仕方がないものであり、また、政府の方針と全く相いれず言語道断であり、遺憾であると認識をしております」
委員会は、野党側の質疑時間に入り、一時中断したが、自民・立憲民主両党の国対委員長が会談するなどして、その後、正常化した。
立憲民主党・山岸一生議員「ぜひ当事者の声を聞いていただきたい」
松野官房長官「積極的に、さまざまな立場の方のご意見をお聴きをしたいと思いますが、どういった方法、どういった場を通してそれを実現するかに関して検討をしたい」
松野長官は、性的マイノリティーなど当事者から直接意見を聞く方針を明らかにした。
また、質疑の中で、岸田首相が1日に同性婚に関して「社会が変わってしまう課題だ」と答弁したことをめぐり、法務省が事前に作成した原案には含まれていなかったことが明らかになり、野党側は「総理自身の言葉として、発せられたということだ」と問題視している。
一方、公明党の山口代表は、今回の問題を契機に、「LGBT理解増進法案を成立させることが重要」と述べているが、自民党関係者によると、6日午後、茂木幹事長や萩生田政調会長らが協議し、法整備に向け議論を進める方針で一致した。
「LGBT理解増進法案」は2021年、超党派でまとめたが、自民党の一部の反対で国会提出が見送られている。
●クールジャパン機構「廃止も検討」 西村経産相、経営改革困難なら 2/6
西村康稔経済産業相は6日の衆院予算委員会で、多額の累積赤字を抱える官民ファンド「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」について、経営改革が困難になれば廃止も検討する考えを示した。
同機構は2021年度末時点で309億円の累積赤字を抱え、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で早急な体質改善を求める意見が出た。西村氏は「ラストチャンスと思い、経営改革を進めたい。その上でどうしようもないときは統合・廃止を含め検討したい」と語った。 
●教員不足「年度後半に深刻化する傾向」 永岡文科相 2/6
永岡桂子文科相は2月6日の衆議院予算委員会で、年度途中の教員不足について、「文科省が各教育委員会から聞き取ったところ、年度後半の方が深刻化する傾向もあると聞いている」と述べ、文科省が2021年に年度初めを対象に行った初の教員不足の調査結果よりも、年度途中には教員不足が深刻になっているとの認識を示した。背景として教職員の産育休や病欠を代替する臨時的任用教員などの人員確保が十分にできないことを挙げた。
永岡文科相は「全国的な教師不足の実態については、大変憂慮する状況であると危機感を持って受け止めている」と指摘。今年度後半の教師不足の状況について、「具体的な数の調査は行っていないものの、文科省が各教育委員会から聞き取ったところ、年度後半の方が深刻化する傾向もあると聞いている。各教育委員会からも現状をうかがいながら、引き続き必要な対策を講じていく」と答弁した。大石あきこ議員(れいわ新選組)の質問に答えた。
年度途中の教員の未配置が起きている背景について、永岡文科相は「年度初めの4月1日に、『これで大丈夫』ということでスタートした学年ではあっても、教職員が途中で妊娠などがあったり、体調不良になったりして、欠席になる可能性もあるかと思う。その場合、以前ならば、正規の教員ではないが(臨時的任用教員や非常勤講師といった教員が)いた。そこのところが今は人員の確保が大変困難となっているということだと思っている」と説明した。
文科省は昨年1月、教員不足の実態を各教委などからの聞き取りで初めて調べた調査結果を公表した。調査では教員不足を「臨時的任用教員等の講師の確保ができず、実際に学校に配置されている教師の数が、各都道府県・指定都市などの教育委員会において学校に配置することとしている教師の数(配当数)を満たしておらず欠員が生じる状態を指す」と定義。結果によると、21年度始業日時点の小・中学校の教員不足は合計2086人、5月1日時点では1701人だった。高校では始業日に217人、5月1日時点で159人。特別支援学校で同じく255人、205人だった。
こうした年度当初の状況よりも、年度途中に教員不足が深刻化することは、今年2月2日、全日本教職員組合(全教)がまとめた実態調査の結果からも示唆されている。全教調査によると、昨年10月時点で教職員の未配置が24道府県4政令市で1642人。5月時点と10月時点の調査結果を比較可能な16道府県4政令市で比べると、教職員の未配置は5月時点から450人増えて10月時点で1184人に膨らんでいた。途中退職による欠員に加え、20代、30代の教職員が増えたことによる産育休やメンタルヘルス上の問題による病休が増加している一方、代替となる臨時的任用教員や非常勤講師が不足し、代替の教職員を確保できない現状が、一部の自治体に対する調査とはいえ、浮かび上がる結果となっていた。
また、永岡文科相は、正規教員の計画的な採用を自治体に求める一方、計画的な教職員定数改善計画の策定が小泉政権下で行財政改革が進められた06年度予算編成以降、見送られていることについて、「義務標準法の制定以降、これまで中期的な定数改善を行ってきており、直近では定数改善計画と名付けられた計画は、05年度までの第7次定数改善計画となっているが、現在も法律改正を行うなどにより、計画的な改善は行っている」と理解を求めた。
具体的には、基礎定数の計画的な改善として、「障害のある児童生徒に対する通級による指導等のための教職員定数」を17年度から26年度までの10年計画で基礎定数化を進めていることや、小学校の35人学級について21年度から25年度までの5年間で整備を図っていることを挙げた。また、加配定数についても、小学校高学年の教科担任制に対応して22年度から4年程度で改善を図っていることを例示しながら、「できる限り見通しを持った改善を図ることが望ましいと考えている」と説明。「今後とも中期的な見通しを持った教職員定数の改善に努めていく」と述べた。
大石議員は「異次元の教員未配置が起こっている。教員が体調を崩したり、産休などで休みを取ったりしても代わりの先生が来ない。これが常態化している。学校内で待機児童、待機生徒が続々と生まれている」などと述べ、永岡文科相に対応をただした。
●自民 少子化対策強化へ議論開始 結婚など幅広い支援の指摘も  2/6
少子化対策の強化に向けて、自民党は6日から議論を始め、少子化を止めるためには、子育て支援に偏らず、結婚など幅広い支援に力を入れる必要があるなどの指摘が出されました。
自民党は、政府が、来月末をめどにまとめる少子化対策のたたき台に党の意見を反映させるため、6日から党の会合で議論を始めました。
冒頭、座長を務める木原稔氏は「政府とは違う角度から、現場の声や要望をしっかりと聞き、足らざる部分を埋めて、論点整理を行っていきたい」と述べました。
6日は、全国知事会など地方自治の関係者からヒアリングを行い、自治体の人口や財政力によって格差が生じないよう、国が少子化対策を一律に行うよう要望が出されました。
そして、出席した議員からは、現在の少子化対策は、子育て支援の比重が大きいとして、結婚など、幅広い支援に力を入れる必要があるなどの指摘が出されました。

 

●自民 少子化対策の強化など運動方針案を発表 2/7
自民党は2023年の党運動方針案を取りまとめました。少子化対策について「国民共通の重大な危機に真正面から立ち向かう」とし、抜本的に強化する方針を盛り込みました。
重点政策では岸田総理が打ち出した次元の異なる少子化対策を進めるほか、物価高騰対策や防衛力の抜本的強化などを掲げています。
また、今年4月に行われる統一地方選挙を今後の党の浮き沈みをかけた一大決戦と位置付け、勝利に向けて全党一丸となって取り組む姿勢を示しました。
そのうえで、幅広い支持層を獲得するため「連合や友好的な労働組合との連携を強化する」としています。
また、構造的な賃上げや人への投資など、「働く人々の側に立った雇用労働政策の充実を目指す」方針です。
2月26日の党大会で正式に決定します。
●「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎない 2/7
岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」が波紋を呼んでいる。筆者もこの施策は少子化の抜本的な解決にはつながらず、「対症療法」にすぎないと考えている。そう言い切れる理由と、少子化脱却に向けて日本政府が本当に解決すべき問題について解説する。
「異次元の少子化対策」はアベノミクスに似ている
今年1月、通常国会が開幕した。その中で岸田文雄首相が最重要課題の一つとして位置付けているのが「異次元の少子化対策」だ。
日本の合計特殊出生率は下落を続け、2021年は1.30人である。22年の日本の出生数は80万人を割り込んだとみられる。国家として危機的な状況といえる。岸田首相は、こうした状況を「異次元」の施策で一挙に解決するという。
「異次元」と聞いて想起されるのは、安倍晋三元首相が展開した「アベノミクス」の「異次元の金融緩和」だ。
だが、私はアベノミクスを評価していない。金額が異次元だっただけで、中身は旧来型のバラマキ政策だったからだ。この政策は、輸出産業など斜陽産業を延命させる「対症療法」だった。
経済を本格的に復活させる新しい産業を生み出す本質的な改革、いわば「原因療法」と呼べる規制緩和や構造改革は十分に行われなかった(本連載第305回・p2)。
「異次元の少子化対策」もアベノミクスに似ている。まず形式的な話をすると、主要な施策が「三本柱(三本の矢)」にまとめられる点が同じだ。
次に中身を見ていくと、(1)児童手当を中心とする経済的支援強化、(2)幼児教育や保育サービスの支援拡充、(3)働き方改革の推進――の三本柱は既存政策の拡充にすぎない。これもアベノミクスと同じだ。
さらに、「異次元」の予算規模で実行される点も同じだ。特に(1)(2)は本質的な課題を解消する「原因療法」ではなく、目の前に見えている問題を解決するためにバラマキを行う「対症療法」である点も似通っている。
こうした支援の充実は、既に子どもがいて、子育てにお金がかかる親にとっては助かる話だろう。だが、子どもがいない夫婦も含めて、国民が「もう1人子どもを産み、育てる」ことにつながるかというと、必ずしもそうではない印象だ。
「子どもがいる夫婦」だけの支援では少子化対策につながらない理由
2022年11月18日付の日本経済新聞電子版に掲載された調査結果によれば、「子どもが減っている理由は何だと思いますか」との問いに対する答えは「家計に余裕がない」「出産・育児の負担」「仕事と育児の両立難」が上位を占めた。
また、「結婚はした方がよいと思いますか」との問いに対し、30代女性のわずか9%が「そう思う」と回答した。結婚が減っている理由は「若年層の低賃金」「将来の賃上げ期待がない」などが上位を占めていた。
要するに、経済的な理由で、結婚したいのにできないでいる人たちや、結婚しても子どもを持てない人たちが多くいる。これが日本の「少子化問題」の本質だ。
だが前述の三本柱では、「既に結婚して子どもがいる人たち」だけを支援の対象とし、未婚や子どもがいない人たちは支援の対象外としている。
つまり、三本柱は本当の意味での「少子化対策」ではなく、子どものいる家庭の生活をサポートする「子育て支援策」にすぎない。
日本で少子化問題が深刻な一因は「日本型雇用システム」だ
日本で少子化問題が深刻なのは、日本特有の問題がある。今でこそ女性の社会進出が進んでいるが、かつての日本では結婚して子どもができると、妻は離職して専業主婦になるか、正規雇用の職を失い、パートなどの非正規雇用になっていくしかなかった。いわゆる「日本型雇用システム」だ(第269回・p3 )。
その実態は、データで見るとよく分かる。「女性の年齢別労働力率」をグラフ化すると、学校を卒業した20代でピークに達し、その後30代の出産・育児期に落ち込み、子育てが一段落した40代で再上昇する。いわば「M字」に似た曲線となるのだ(参考:男女共同参画局の「年齢階級別労働力率」のグラフ)。
30代女性の労働力率が低下する「M字の谷」現象は、日本や韓国に特徴的な現象だ。欧米諸国などでは、一定の年齢層で労働力率が下がらず、女性の働き方に対して柔軟性が高いので「M字の谷」はない(参考:男女共同参画局の「主要国における女性の年齢階級別労働力率」のグラフ)。
確かに、日本でも安倍政権以降に打ち出された女性の社会進出を促進する政策によって、「M字の谷」が緩やかになった。今では「台形」に近づきつつある。だが、それは「未婚」のまま働き続ける女性や、出産などを機に非正規雇用として働く女性が増えた結果だ。正規雇用の女性が爆発的に増えたわけではない。
女性が正社員になれない日本の「あしき風習」
男女共同参画局がまとめた「男女共同参画白書」によると、2021年の時点で専業主婦世帯数は458万世帯(28.0%)、共働き世帯数は1177万世帯(72.0%)と、後者が圧倒的に多い(いずれも妻が64歳以下の場合)。
だが、21年時点の労働力の内訳を見てみると、正規雇用は男性が2334万人に対し、女性は1221万人。非正規雇用は男性が652万人に対し、女性は1413万人となっており、本当の意味での「女性活躍」には程遠いことが分かる。
こうした現象が起きる要因も、先述した「日本型雇用システム」によるものだと考えられる。
年功序列・終身雇用を前提としたこのシステムでは、一度離職した女性が幹部になるのは難しい。日本における離職は、組織内における同世代の「出世争い」からの離脱を意味し、一度離れると二度と争いに復帰できない。
ゆえに、数年のブランクのある女性は正規雇用での職場復帰は難しく、正規雇用での中途採用枠も極めて狭い。
一方、欧米諸国の企業や官僚組織は、基本的に年功序列・終身雇用ではない。新卒の一括採用は少なく、組織が必要とする業務について人材を募集する。
マネジャーや幹部職も公募で決まる。内部昇格が行われるのは、外部から応募してきた人材と公平に比較・検討され、内部の人材が優秀と判断された場合のみである。
欧米でも、女性が結婚・出産で離職することはもちろんあるが、キャリアアップのハンディにはならない。離職前の経歴をアピールすれば、それに適したさまざまなポジションを獲得できる。
世界的に見れば、女性の政治家や企業経営者・幹部、学者には、パートナーを持ち、出産・子育てを経験している人が多い。企業の管理職における女性の割合が、わずか14.9%の日本とは大きな違いがある(参考:男女共同参画局がまとめた「就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)」)。
表面上は、日本企業でも産休・育休制度が普及し、一度現場を離れた女性(育休の場合は男性も)が正社員として復帰できる体制が整っている。
だが、日本型雇用システムの名残なのか、復帰した人が周囲になじめなかったり、子どもの送り迎えなどで仕事を中抜けする人が白い目で見られたりといった「あしき風習」は今も企業に色濃く残っているようだ。
政府は「対症療法」に終始するのではなく、少子化問題の根本原因である雇用慣行の是正にこそ、「異次元」の投資をするべきではないか。
そこで本稿では、本質的な少子化対策として「ファミリーの所得倍増計画」を提起したい。あえて「倍増」とした理由は、妻が正社員として働き、夫と同程度の給料を得られるようになれば、単純計算で世帯年収が倍増するからだ。
実現はそう簡単にできることではなく、さまざまな課題を乗り越えなければならないのは確かだが、その第一歩となる案を示していきたい。
本質的な少子化対策にはどんな取り組みが必要なのか
まず、「103万円の壁」をはじめとするボーダーラインの改革だ。妻が夫の扶養に入っている世帯では、妻の収入が103万円を超えると、所得税の支払い義務が発生して負担が重くなる。
他にも、年収が130万円を超えると扶養から外れる「130万円の壁」など、配偶者控除や社会保険の仕組みにはさまざまな“壁”が存在する。
だが、これらの制度は女性の労働意欲を阻害している側面がある。女性の社会進出が進む時代に適した制度だともいえない。これらのボーダーラインを見直し、“壁”のあり方を変えれば、夫婦の経済的な余裕につながり、有効な少子化対策になるのではないか。
次は、「日本型雇用システム」の改革だ。厚生労働省は現在、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった認定制度を設け、女性活躍や育児支援に力を入れている企業に助成金を給付するなどの優遇措置を実施している。
だが繰り返しになるが、日本では女性の非正規雇用者が多く、少子化が進んでいるのが現状であり、両制度が飛躍的な効果を生んでいるとはいえない。効果をさらに高める上では、助成金給付の対象となる企業を広げたり、給付金額を手厚くしたりといったテコ入れが必要ではないだろうか。
最後は、共働き世帯を支援する体制の改革だ。その上で最も重要になるのは、「保育園の待機児童問題」の完全な解消だろう(第128回)。保育園の建設増、保育士の人数増、その待遇の改善などの政策に、最優先に予算を付ける必要がある。
その上では、現在の「出入国管理法」のスキームを超えて移民を拡大し、保育・家事に携わる人材を確保するという選択肢も検討すべきだ(第200回)。
具体的には、共働き夫婦をサポートし、子育て・家事を行うベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れる。上海など中国本土の大都市や、香港、台湾、シンガポールなどで行われている、共働き夫婦のキャリア形成を支援するモデルを日本に導入するのだ。
移民の受け入れには批判が根強い。だが、リスク防止策も含めて政府は従来の発想を変える政策を打ち出す必要がある。
私が挙げた「ファミリーの所得倍増計画」は一例にすぎないが、日本政府はこれらに匹敵するような抜本的な改革がなければ、少子化の改善は見込めず、衰退の一途をたどることになるだろう。
今の日本には何が必要なのか、歴史、伝統、文化、そして思想信条の違いを超えて、国民全体で議論していくべきではないだろうか。
●「過剰開発」は「官から民へ」が招いた? 「稼ぐ公園」にひそむ問題 2/7
民間事業者が高層ビルなどを建てる明治神宮外苑地区の再開発は、歴史的な景観を守る立場の東京都自らが建築規制を緩めたことで可能になった。公共投資が中心だった都市開発は、行政の財政難などを背景に、民間の資金やノウハウに頼るようになっている。だが行政がうまく監督できずに過剰開発になるケースがあり、外苑も同様の構図を指摘する声が識者から上がる。
「コントロールする役割を行政が果たしていない」
東京、大阪、名古屋など都市部で高層ビルが急増したのは2000年代に入ってからだ。公共的な施設を造るといった条件を満たせば、行政は容積率を緩和するなどのアメを与えて民間の開発を促してきた。
東洋大の大澤昭彦准教授(都市計画)によると、こうした規制緩和の流れの原点は「官から民へ」の民活路線を掲げた1980年代の中曽根政権にさかのぼる。バブル崩壊後、景気浮揚策として民間の力による都心再生を掲げた小泉政権で本格化。東京では石原慎太郎都知事が呼応した。
日本で高層建築が可能になった1960年代以降、2020年までに東京23区で建設された100メートル以上のビルは480棟で、75%は00年以降に完成した。大阪のあべのハルカスを抜き、今年日本一の高さになる麻布台ヒルズ(330メートル)や、27年に東京駅前で日本一を更新するトーチタワー(390メートル)も容積緩和で実現する。
民間の力を生かして行政の負担を減らそうという動きは、公営公園でも広がっている。公園整備の予算不足が各地の自治体で課題となる中、国は公園管理を民間が担えるよう条件整備を進める。17年には、公園内で商業施設を建てられる面積を増やすなどした「パークPFI」という制度を創設した。昨年度末現在、東京・新宿中央公園など全国102カ所で導入されている。収益の一部を自治体に還元することもでき、関係者は「稼ぐ公園は、キーワードの一つ」と言う。
こうした民間開発が進むほど、重要になるのが監督する自治体の役割だ。だが「行政は開発促進が念頭にあり、負の影響のチェックがおろそかになりがちだ」と大澤氏は指摘する。たとえば、タワーマンションの集中エリアで鉄道駅の激しい混雑や学校の不足が起きるのは「インフラを考えて開発をコントロールする役割を行政が果たしていない」からだ。外苑についても「都は再開発で失われるものへの目配りが欠けているように見える」と述べる。
大阪市が運営を民間委託している大阪城公園では劇場施設「クールジャパンパーク大阪」や商業施設などの建設のために15年度から3年で約1200本の樹木が伐採された。市は情報を把握していたが公表せず、散歩などで日常的に利用していた甲南大の谷口るり子教授(教育工学)が「木がどんどん切られている」と気づき、同市に情報公開請求して初めて発覚した。
谷口氏は「市は大阪城公園を観光資源と見ているようだが公園はテーマパークではない。公の役割とは何なのか」と問題提起する。
規制緩和が呼び込んだカネで施設建て替え…犠牲になったのは?
明治神宮外苑地区の再開発は、東京都が2022年に「高さ」と「用途」、二つの建築制限を緩和したことで進むことになった。
外苑地区は都の風致地区条例などで高さ15メートルを超える建築物を禁じてきた。東京五輪の主会場として国立競技場を建て替えるため、都はこの高さ制限を13年に初めて緩和。周辺で再開発が始まる契機になった。
同じ13年には、都は公園まちづくり制度も創設した。都市計画公園内では建築物の用途に制限があった。都は22年、この制度を適用し、一部の敷地で公園指定そのものを解除することで用途制限を取り払った。
二つの規制緩和の結果、建設が可能になったのが三井不動産の185メートルのビルだ。公園エリア外に予定する伊藤忠商事の190メートルのビルとともに周辺の敷地から未利用の容積をかき集めて高層化する「容積移転」という手法を用いる。
容積移転は都市開発では一般的な手法だが、より巨大サイズの建築を生むため、景観など周辺への影響も大きくなる。だが、都は規制緩和を決めた昨年の都市計画審議会で、計画に批判的な委員が終盤に質問するまで容積移転の利用について明らかにしなかった。
都などによると、明治神宮や日本スポーツ振興センター(JSC)は事業者に容積を差し出す代わりに、所有する神宮球場や秩父宮ラグビー場の建設費を圧縮できる見通しだ。このため「ビルは再開発のカギを握る」と言われる。
JSC関係者は「建設費の捻出のため、この仕組みでなければ建て替えは絶対に無理だ」と述べた。同じくJSCが管理運営する国立競技場の建て替えでは当初建設費が高騰して政治問題化した。オープン後も赤字運営が批判されており「国の財政支援はありえない」という。明治神宮もこれまでの取材で再開発に参加して神宮球場を建て替える理由として財政問題を挙げている。
明治大の大方潤一郎特任教授(都市計画)は「事業者側には都合が良いかもしれないが、この仕組みは100年守られてきた外苑の緑やオープンスペース、景観を劣化させ、その犠牲の上に成り立っている」と警鐘を鳴らす。
●深刻な財政難の京都市、新年度予算案は「禁じ手」の財源対策なしで編成… 2/7
深刻な財政難に直面している京都市は6日、2023年度当初予算案について、借金返済のための基金取り崩しなど財源確保のための「禁じ手」を22年ぶりに使わずに編成したと発表した。人件費の削減や市民サービスの見直しで支出を抑える一方、市税収入は過去最高となる見込みで、収支均衡のめどがたったという。
市は従来、福祉や子育て分野で国基準や他の政令市を上回る水準の市民サービスを展開。財源不足を補うため、02年度以降、資金手当てのための市債「行政改革推進債」の発行や、将来の借金返済に充てる公債償還基金(減債基金)の取り崩しを続けてきた。
いずれも負担を将来に先送りすることになり、本来は手をつけるべきものではないが、市は「特別の財源対策」と呼んで毎年169億〜27億円を活用してきた。
23年度一般会計当初予算案では、市税収入が3128億円と過去最高で、前年度比99億円増の見込み。このうち固定資産税がマンションの新築ラッシュで43億円増、個人市民税が賃金上昇で35億円増。国からの地方交付税も算定基準の見直しで107億円増の641億円と大きく伸びるとした。
歳入は前年度より計100億円以上伸びたが、歳出は前年度並みに抑えた。社会福祉関連経費は30億円増となったが、職員数の削減などで人件費を前年度より39億円減らしたほか、市営地下鉄・バスに割安で乗れる「敬老乗車証(敬老パス)」の自己負担増など市民サービスの見直しを継続した。
この結果、収支は均衡し、特別の財源対策の活用を回避できたという。一般会計総額は前年度比1・2%増の9315億円となった。
市は24年度以降も健全な財政運営を続けるため、「持続可能な行財政運営推進条例案」を2月議会に提案する。特別の財源対策をゼロにするなどの目標を定めた計画を作り、実施状況を検証して公表することを市に義務づけるという。
借金体質脱却改革は道半ば
京都市は、財源確保のための「禁じ手」を回避したといっても、国からの地方交付税の増加もあってようやく他市並みのスタートラインに立ったに過ぎない。借金体質から脱却するための改革は道半ばだ。
公債償還基金は計画外の取り崩しを繰り返したことで、2021年度末時点で1698億円しかなく、本来の額を505億円も下回っている。市立芸術大の移転や市庁舎整備など投資的経費を賄うための市債は22、23年度の2年間で計841億円を発行し、現在の行財政改革計画(21〜25年度)で定めた年間400億円の枠を超えるペースだ。
気を緩めれば借金は再び膨らみ、そのツケは、市民サービスの削減という形で市民に跳ね返る。財政健全化に向け、後戻りはさせないという覚悟で取り組むべきだ。
●有事には沖縄が攻撃されるのでは…県民の懸念を「認識」 防衛相 2/7
浜田靖一防衛相は6日の衆院予算委員会で、本紙などが先月行った世論調査で、政府が進める南西諸島の防衛強化で、周辺国との緊張が高まることへの懸念を示す県民が多い結果となったことに対し「有事において沖縄が攻撃されるとの懸念もあることは認識している」と述べた。穀田恵二氏(共産)への答弁。
浜田氏は、本紙などの世論調査で安全保障関連3文書の閣議決定などで打ち出された防衛強化に伴い、県民の55%が反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に反対し、周辺国との緊張が高まるとする回答が61%に達した点について問われて答えた。
沖縄戦については「県民は筆舌に尽くしがたい苦難を経験した」との認識を示した上で、安全保障環境の悪化を理由に「南西地域の防衛体制を目に見える形で強化し抑止を高めていきたい」とした。
●3人産んだらローンが帳消し、4人産むと所得税免除…ハンガリーの少子化対策 2/7
年明け早々に、岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を行うと表明。先月下旬に始まった国会では、児童手当などの少子化対策が議論の焦点の一つになっている。ジャーナリストの大門小百合さんは「ハンガリーは、GDPの5〜6%を少子化対策に充て、ローンの返済免除や所得税免除などの大胆な施策を実施。約10年かけて、人口減少に歯止めをかけた。日本も“異次元”と言うからには、これくらい大胆な施策を行うべきではないか」という――。
議論すべきはそこなのか? 
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出してから、国会では少子化対策の議論が活発だ。
それは歓迎すべきことなのだが、各党の政策議論が、所得制限の撤廃や児童手当の拡充、「産休・育休中のリスキリング(学び直し)支援」などに集中していて、「議論すべきはそこだけじゃない!」と感じている人は多いのではないだろうか。
私も子育て経験者だ。わが家はすでに、子育ての一番大変な時期は通り越したが、思い返してみると娘が生まれたばかりの頃は、2時間おきの授乳で超睡眠不足。娘の睡眠リズムが乱れて夜になっても寝てくれない日が何日も続いた時は、私も連日1〜2時間しか眠れず、ついに全身にじんましんが出た。顔まで腫れて、精神的にも不安定になった。
仕事に復帰してからは、子どもが熱を出すたびに病児保育施設を必死に探し、仕事を休めないときは、昼間のシフトを代わってもらって娘の世話をし、夕方に夫とバトンタッチして出勤して夜勤をこなしたこともある。すでに責任ある仕事を任されていた身としては、仕事を続けるために精神的、肉体的な限界までやり続けるしかなかったのだ。
それでも私は、夫の助けもありなんとか乗りきれたが、あの時、「私が見ていてあげるから、少しゆっくりしなさい」と言ってくれるベテランベビーシッターさんや、頻繁に家を訪問してくれる保健師さんがいたら、どんなに楽だったろうかと思う。
子どもが学校に行き始めると、教育にもお金がかかる。塾代や習い事など、子どもが1人でも大変なのに、2人、3人といればその分だけお金が出ていく。ローンが半分になるわけでもなく、学費が免除になるわけでもなく、月に5000円や1万円の児童手当をもらったところで、それだけで子どもを産もうと思う若い人たちがどれだけ出てくるのだろうか。
「異次元の少子化対策」というなら、もっと当事者の声に耳を傾け、大胆で意味のある支援策を出すべきだと思う。
フランスや北欧の子育て支援策はよく話題になるが、「大胆な少子化対策」で最近注目されているのがハンガリーだ。調べてみるとまさに「異次元」と言えるにふさわしい、ユニークな政策を実施していた。
GDPの5〜6%を少子化対策に
ハンガリーでは1981年以降、人口減少に歯止めがかからず、2011年までの30年で人口の1割にあたる100万人減った。出生率も1.23で、当時のEUで最低となった。
これに対し、現在のオルバーン政権は、所得税免除や無利子ローンなど、大胆な少子化対策を次々と打ち出し、今ではGDPの5%から6%を家族政策のために使っているという。
その結果、2021年には出生率が1.59まで上がった。2022年の最新の統計では1.52に下がったが、それでも10年前に比べると高い水準だ。また、20歳から39歳の女性人口が過去10年で20%(28万3000人)減少したにもかかわらず、2021年の出生数は2010年より約3%増えているという。
政策の背景や具体的な中身について聞こうと、パラノビチ・ノルバート駐日ハンガリー大使に取材した。
「ハンガリーでは、子ども支援は未来への投資と考えています。出生率が低く、これが解決しないと、ハンガリー国家も守ることができない。家族を守ることは、国家を守ることだと理解することが大事だと思います」とパラノビチ大使は語る。
ツイッターを買収したイーロン・マスク氏が昨年ツイッター上に、「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう」と投稿し話題を集めたが、やはり少子化対策は国の存続を左右する重要な政策なのだ。
3人産めば返済不用のローン、450万円の住宅資金補助
ハンガリー政府が特に重要視しているのは、「子どもを産んだことによって家計の安定・安全が悪影響を受けないようにする」(パラノビチ大使)ことだ。
手厚い支援の一つとしてまず挙げられるのは、使途の縛りがなく、何に使ってもよい無利子ローンだ。妻の年齢が18歳から40歳までの夫婦は、国から1000万Ft(フォリント、日本円で約350万円)を無利子で借りられる。返済期間は最大20年で、最初の5年間に少なくとも1人の子どもが生まれた場合、返済が3年間猶予される。第2子を出産すると、さらに3年間の返済が猶予されるうえ、元本の3割が帳消しにされる。第3子を出産するとローン残高のすべてが返済免除となる。理論上は、3年ごとに子どもを3人産むと借金がゼロになる。
ただし、最低3年間は正規就労(医療社会保険料を納付)しなくてはならない。また、5年以内に出産しなければ、利子付きで返済する必要がある。
マイホームを買うための補助金もあり、こちらも子どもが増えるたびに得をするシステムだ。1人の子どもを持つ家庭が面積40平方メートルの共同住宅か面積70平方メートル以上の一戸建てを購入する場合、1930ユーロ(約27万円)の補助金が現金支給される。子どもの数が増えると補助金額も上がり、3人以上の子どもがいる家庭が60平方メートル以上の新築の共同住宅か90平方メートル以上の一戸建てを購入する場合は3万2260ユーロ(約450万円)が支給されるという。
所得税、学生ローンも優遇
子どもがいる母親は、所得税も優遇される。もともと、ハンガリーの所得税は一律15%と、EU諸国の中でもかなり低く、代わりに消費税が27%と世界最高レベルの高さだ。とはいえ、4人の子どもを持つ母親は、生涯所得税を払わなくてよいというのは、かなり斬新といえるだろう。
免除の対象はそれだけにとどまらない。若者の経済的負担を軽減しようと、2022年から、25歳未満の若者は男女関係なく、また、子どもの有無にかかわらず、所得税が免除されるようになった。
さらに、今年からは、満30歳の誕生日を迎える前に子どもを持った母親は、30歳になった年の12月31日まで所得税が免除になるという。これは、12週目以降の胎児より大きい子を持つ女性が対象で、既婚、未婚、ひとり親にかかわらず、出産前でも免税になる。また、養子縁組をした母親も免除になる。
また、大学の学費に充てる学生ローンを借りている女性が第1子を妊娠した場合、出産後3年間はローンの返済を休止することができる。そしてその後第2子を出産した場合は、返済額の半額、第3子を出産した場合は全額が免除される。また今年からは、30歳未満の女性が大学在学中、または終了後2年以内に第1子を出産した場合、それ以降の学生ローン返済が全額免除されることになった。
とにかく若いうちに子どもを産んでほしいという政府のメッセージが、これでもかというほど、伝わってくるようだ。
祖父母にも育児手当
もう一つユニークなのは、孫の面倒を見る祖父や祖母にも、孫が2歳になるまで育児手当が支給されるという制度だ。ハンガリーでは子どもが生まれると、母親か父親に「育児手当」が給付されるが、親が仕事に復帰した後は、家庭で孫の面倒を見る祖父母に手当が出るのだ。
「例えば、子どもが1歳になって母親が仕事に復帰した場合、その母親は育児手当がもらえなくなります。でもその後は、子どもの世話をしているおじいちゃんかおばあちゃんが、育児手当をもらえるのです」と語るのは、ハンガリーに25年在住し、ニュースレター「ハンガリー経済情報」を発行している日本人ジャーナリスト鷲尾亜子さんだ。この政策は、大家族政策を進めるハンガリーらしいものだといえる。
ただしこれは、子ども一人に対して給付される額が増えるわけではなく、あくまで両親の代わりに祖父母が受け取るというもの。受給条件の1つは、母親が正規労働者で医療社会保険料を納付していること。支給額は出産前の給与の70%で、上限は最低賃金の2倍の70%となる。そこから所得税などを引いて、実際にもらえる額は、日本円でひと月約8万5000円までになる。
少子化対策が政権の看板政策に
「どこにお金を配分すべきかについては、さまざまな意見がありますが、ハンガリーの政策は結構クリエーティブです。よくある所得控除だけでなく、マイホームの補助金や所得税の免除など、『そんなことまで? 』とびっくりするような要素が入っています。やはり、小手先の政策くらいでは『はい、産みます』とはならないですから」と鷲尾さんは言う。
2013年から2019年のハンガリーのGDP成長率は4.1%で、EUの平均成長率の2.1%を上回る。ただ近年は、エネルギーが高騰し、インフレ率も上がっており、財政状況も厳しくなっている。昨年は、一部の公共事業を棚上げしたほか、エネルギー産業、航空業界、金融などの大企業の利益に対する超過利潤税を導入している。
「オルバーン政権は2010年に政権を握って以来、ずっと家族政策に力を入れてきました。政権としてもこれを象徴的な政策としてアピールしてきたので、たとえ財政が苦しくなっても何とか財源を捻出していて『家族政策は絶対に縮小しない』という意地を感じます」と鷲尾さんは分析する。
若者に手厚い経済支援をする理由
少子化対策の一環として、若者に手厚い経済的支援を行っているハンガリーの例は、日本にも参考になるのではないだろうか。
早く結婚して若いうちに第1子を生むと、第2子、第3子と生む可能性が高まる傾向があり、少子化対策に効果があるといわれている。ハンガリーの家族政策担当のホルヌング・アーグネシュ次官も、政府のホームページのインタビューで次のように語っている。「最も重要なのは、子どもが欲しい人誰もが安心して子どもを産めるようにすることですが、できるだけ早く、できれば母親が30歳になる前に出産してもらい、さらに弟や妹も迎えられるとなお良いと思います。母親が30歳までに第1子を出産すると、2人目、3人目を出産する可能性が高まることが、複数の研究からわかっています」。ちなみに日本の国立社会保障・人口問題研究所が2022年に行った調査によると、初婚年齢が低いほど子どもの数は多くなる傾向がみられた。
また、ハンガリーのオルバーン政権は、多くのEU諸国と違い、移民をなるべく受け入れないという方針を貫いている。多くのヨーロッパの国で見られるように、移民の増加は労働力が増える反面、その国の人口動態を変えてしまう可能性があるからだ。そのため、政府としては、ハンガリー人には、海外に移民するのではなく、国内に残って子どもを産んでほしいという意向が強く、子育て支援もその一環であるともいえる。
日本の外務省の海外在留邦人数調査統計によると、日本から海外に生活の拠点を移した永住者は20年連続で増加しており、2022年は前年比で2万人増加した。10年前と比べると14万人以上増えている。日本では少子高齢化が急速に進んでいる上、海外にも人が流出しているのだ。もちろん、日本とハンガリーの事情は異なるが、日本でも外国人の移住者が少ないということを考えると、ハンガリーのように若者支援にフォーカスした、かなり大胆な政策シフトが必要なのではないだろうか。
働き方改革は欠かせない
パラノビチ大使に、日本の少子化対策について聞いたところ「日本は高齢者に重点を置いた経済活動(シルバーエコノミー)をうまく進めてきていると思いますが、同時並行して、若年層や子どもたちのための『幸せな家庭』(ハッピーファミリー)経済活動も行われたらと願っています」という答えが返ってきた。
ハンガリーのブダペストでは、2年に1度、デモグラフィック・サミット(人口問題について議論する会議)が開催されているという。「今年9月にも開催されるこのサミットに、岸田総理にもいらしていただき、日本の家族政策や人口問題についてお話いただければ光栄です」
岸田首相が今年3月までに取りまとめると言われている少子化対策。海外に披露しても恥ずかしくないものを作り上げてほしいものだ。
ただし、政府の対策だけで少子化に歯止めがかかるわけではないと鷲尾さんは指摘する。
「日本はやはり、就労時間が長すぎます。ハンガリーでは、夕方5時を過ぎて働いている人は、一部のエグゼクティブを除けばごく少数です。夜9時や10時まで働いている人なんてほとんどいませんし、土日は家族と過ごすのが当たり前。幼稚園の送り迎えはもちろん、子どもを病院に連れてくるお父さんの割合も多いです。日本は、女性も男性も働く時間が長すぎて、まず仕事でエネルギーを使い果たしてしまっているのではないでしょうか」
少子化対策は、働き方改革でもあるのだ。
国からのメッセージが伝わるか
ハンガリーの政策は、かなり極端な部分もあるし、お金もかかる。しかし、国として「少子化を防ぐためにあらゆることをやる」という強いメッセージが伝わってくる。
近くに頼れる両親がおらず、夫は夜遅くまで仕事。たった1人で子育てをしている女性はまだまだ多い。「子育ては女性の仕事。育休は奥さんがとれば十分じゃないか」と、心のどこかで思いながら部下に接している昭和の化石のような上司は会社にいないだろうか?  子どもは2人の子どもなのだから、2人で育てるのは当たり前。女性は妊娠してから1年近くもお腹の中で赤ちゃんを育み、出産も命がけだ。せめて育児は、「男性にもがんばってもらいたい」と言いたくなる。
今や日本の共働き世帯は専業主婦世帯の倍以上で、多くの夫婦が共働きだ。育休から仕事に復帰してからも、仕事と子育ての両立に苦しむ夫婦もたくさんいる。シングルマザー、シングルファーザーの家庭なら、なおさら厳しい状況に置かれているだろう。
岸田政権も異次元の少子化対策というのなら、所得制限の撤廃や児童手当の拡充だけではなく、あらゆる大胆な政策を打ち出し、社会全体で子育てを支える仕組みを作るべきだ。大がかりな働き方改革の断行、父親の育児休業をさらに促進するなど、子育てする人を孤立させないためにどのような支援が求められているのかを真剣に探ってほしい。効果のある政策を今、打ち出さない限り、少子化を止めることは難しいだろう。
●「異次元の少子化対策」が逆に少子化を進める理由、フィンランドの失敗に学べ 2/7
岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」について、世論はおおむね歓迎しているようだ。しかし実は、この政策は逆に少子化が進めかねない巨大なリスクを抱えている。その根拠について、「子育て支援先進国」とされるフィンランドの失敗と、日本のデータに基づいて解説する。
「異次元の少子化対策」への賛意の中に本質からずれた論点が散見される
岸田文雄首相が、年頭に「異次元の少子化対策」を打ち出したことを受け、政府内では少子化対策の積み増しが進められている。
具体的には、児童手当の所得制限撤廃と多子世帯への加算にはじまり、保育人材の処遇改善、子育て家庭の相談や一時預かりのサービス拡充。さらには医療費の高校3年生までの無償化、給付型奨学金の対象を年収600万円まで拡大、育児休業給付の対象外の人への給付など、豊富な内容になっている。
この「異次元の少子化対策」について、世論はおおむね歓迎しているようだ。しかし、少子化対策とは出生率を上げる対策のはずだ。これまで人類、特に先進国が直面してきた少子化を止める手立てについて、子育て世代にいくら手厚い支援をしたところで、少子化を止めるどころか、進んでしまっている現実がある。
そのメカニズムは後段で説明をするとして、まずは「異次元の少子化対策」に賛成する根拠として挙げられているのに、実は本質からずれてしまっている議論の整理から行っていきたい。
本質からずれた論点(1) 「高齢者が優遇されすぎている」
一つ目の論点は、「高齢者があまりにも優遇されすぎている」という訴えだ。
確かに、筆者もそう思う。貧困は高齢者だけの問題ではないにもかかわらず、医療費や公共施設の入場料、公共交通の運賃など、なぜか高齢者というだけで無料であったり、価格が異常に安かったりする。東京都中央区では、高齢者というだけで毎年、歌舞伎座の一等席で観劇し、豪華幕の内弁当が食べられる。高齢者は、税金によって無料だ。
戦争を経験した世代については、ウクライナ戦争を見ても、やはり国家のために理不尽な思いをした人が多いので、多少の優遇を受けるのは理解できる。しかし、これから後期高齢者となる団塊の世代は高度経済成長やバブルなど、ありとあらゆる恩恵を受けてきた世代である。高齢者というだけで、なぜサービスの対価を支払わなくていいのか。
しかし、この論点は正直、少子化対策とは何の関係もないはずだ。一連の子育て世代へのバラマキによって、政府による高齢者から若い世代への所得移転が行われるのは間違いないが、そもそも政策の本来の目的とは違うということだ。
本質からずれた論点(2) 子どもに「教育機会の平等」を
二つ目の論点として、教育における「機会の平等」を子どもたちに与えようという意見が挙げられる。子育て支援を手厚くすることで「親ガチャ」を無くし、貧困を理由に進学の機会を失うことがないようにしようというものだ。
個人的にはこの論点については完全には同意しかねる。中卒でも高卒でも立派に働いている人はいるし、そもそも大学に通っていることに何の意味も見いだせていない若者は多い。私立学校に税金を投入することで、国家からの指導が強くなり、各学校の個性を殺してしまいかねないのも心配だ。同質性の高い社会ほどもろく弱い社会はない。学校教育は自由が一番だ。
そんな筆者の意見は横に置いておくとしても、やはりこれも一つ目の論点と同様に、少子化対策とは関係のない話だ。
なぜこの話を先にしたのかというと、この一つ目、二つ目の論点に基づいて「岸田首相の異次元の少子化対策」を称賛する識者がたくさんいるのが確認できるからだ。
「異次元」の予算規模となれば大増税が待つのは必然
そして、もう一つ押さえておきたい点が、当然ながら、税金で大盤振る舞いをした後に待つのは大増税であるという事実だ。岸田政権が打ち出した少子化対策の「異次元」というのは、予算規模のことを必ずしも指さないのではないかと淡い期待をしていたが、ダメだった。予算規模が異次元に拡大するのは間違いがないようだ。
日本銀行の分析(「国民負担率と経済成長」2000年)によれば、国民負担率(税負担+社会保障負担の対名目国内総生産〈GDP〉比)が1%上昇すると経済成長率は0.30%低下するという相関関係が見られる。
また、第一生命経済研究所「国民負担率の上昇がマクロ経済に及ぼす影響(続編)」(05年)によれば、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が0.28%ポイント低下する負の相関関係にあるという。
そして、日本人の潜在的国民負担率(将来世代の負担である財政赤字を含む)は22年度(見通し)で56.9%(対国民所得比)になっている。これは、福祉国家として知られる北欧のスウェーデンをも上回る値だ。政策目的と違う上記二つの論点のような効果を期待したバラマキについては、国益の観点から拒否しておいた方がよさそうだ。
出生率を分解すると見えてくる少子化対策「真のポイント」とは
さて、ここまできてようやく本題に移ろう。
内閣府子ども・子育て本部がまとめた「我が国のこれまでの少子化対策について」に、注目したいデータがある。そして、同じデータが、内閣官房のこども政策の推進に係る有識者会議の資料「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会 における議論の状況について」(21年9月16日)が内閣府に提出されている。
その二つの資料には、こう書いてある。
(1) 合計特殊出生率は、有配偶率と有配偶者出生率に分解できる。
(2) 50歳時の未婚割合は、1980年に男性2.60%、女性4.45%であったが、直近の2015年には男性23.37%、女性14.06%に上昇している。この傾向が続けば、いずれ、男性で3割近く、女性で2割近くになると推計されている。
(3) 夫婦の完結出生児数は、1970年代から2002年まで2.2人前後で安定的に推移していたが、2005年から減少傾向となり、直近の2015年には過去最低である1.94人になった。
そして、図が二つ提示してある。
ちょっと難しい言葉が続いたが、これらが何を意味しているのかを簡単に言うと、ざっとこのようなイメージだ。
出生率の算定式は、(1)女性が結婚したかどうかと、(2)女性が結婚した後に、子どもを何人産んでいるかということに分解できる。前述した、資料内に提示してある「二つの図」で数字の推移を見ると、日本では未婚率がどんどん高まっていく一方で、結婚した後で何人子どもを産むかについては(微減しているが)ほとんど変わっていない。
このデータから導き出される結論は、少子化対策で最大の効果を狙うなら、子育て世帯を支援するよりも未婚者にもっと結婚をしてもらうしかないということだ。
少子化対策の手本だったフィンランド 出生率が急落していた
このデータを理解していれば、赤川学・東京大学大学院教授の「少子化の原因を分解すると、結婚しない人が増えていることの効果が9割を占めている」(日経ビジネス電子版、22年10月23日)という指摘も非常に納得できるはずだ。
欧米でも日本と同じように、「子育ての障害」となるようなお金の問題、休暇の問題、女性の待遇ばかりが議題として噴出し、効果のない少子化対策が繰り返された。とりわけ、そんな子育て支援先進国であるフィンランドの出生率は、10年には1.87だったがこの10年余りで急落。19年には過去最低の1.35にまで落ち込んだ。20年には微増したが1.37と、日本の1.34と大して変わらない状況だ。
子育て支援をすればするほど税金や社会保障による国民負担が増し、家計に打撃を与える。お金の問題で少子化が進むというのであれば、子育て支援に投じる税金の財源は高齢者のみに求めるしかないが、そんなことを自公政権がするはずもない。結局、現役世代への増税となって返ってくるだけであろう。であれば、岸田政権による意味のない少子化対策は、未婚率を下げ止めることなく、国民負担をただ増やすだけだ。金銭的事情で結婚をためらう人は増えてしまう。故に、コロナ禍で極端に減った出生数は短期的には多少の回復を見込めるかもしれないが、少子化はさらに進むことになる。
統一地方選挙を前にして、「異次元」なる言葉の下、与野党がバラマキ合戦を始めた――そんな現状は、国の経済成長にとっても私たちの家計にとっても悪夢でしかない(バラマキを勝ち誇る公明党の選挙ポスターが町中に張り出されるのが目に浮かぶ)。
「異次元の子育て支援」の恩恵を受けることになる子育て中の親からすれば、以上のことは受け入れ難い話だろう。しかし、自分たちが受け取った恩恵のツケは、今あなたの下で育っている子どもが払うことになる。果たして、それで本当にいいのだろうか。
国会議員、そして国民は、もう少し冷静になって考えてほしいところだ。
●少子化対策としての所得税「N分N乗方式」導入には大きな課題 2/7
自民党が「N分N乗方式」導入を主張
少子化対策の一環として、所得税に「N分N乗方式」を導入することの議論が国会で高まっている。「N分N乗方式」は、戦後の少子化対策として1946年にフランスで導入され、出生率引き上げに一定の効果を持つとされる制度だ。
ただしその導入には、所得税制の大掛かりな改正が必要となる。また、出生率を引き上げる効果が仮に一定程度生じるとしても、中低所得層と比べて高額所得層に有利となる、片働きより共働き世帯に不利になるなど、格差拡大につながるというデメリットもあることから、実現に向けたハードルは高い。
「N分N乗方式」とは、課税ベースを個人ではなく世帯とするものだ。世帯の合算所得を世帯構成人数(N)で割って税額を計算し、それに再び世帯人数(N)をかけることで納税額を算出する方法である。累進課税方式のもとでは、世帯人数が多いほどより低い税率が適用されることになるため、減税効果が生まれる。それは、子どもを多く持つインセンティブとなるのである。さらにフランスでは、世帯人数として、大人は1人分、子どもは2人目までは0.5人分、3人目以降は1人分として計算されるため、子どもを多く持つインセンティブがさらに高められる。
N分N乗方式の議論が国会でにわかに高まるきっかけとなったのは、「第2次世界大戦後のフランスでは、家族の人数が増えれば増えるほど減税につながるN分N乗方式という画期的な税制を導入した」という1月25日の衆院本会議での自民党・茂木幹事長の発言だった。同じ少子化対策では、与党自民党は児童手当の所得税撤廃を主張して、政府に対して議論を主導する姿勢を見せているが、N分N乗方式の議論についても同様である。さらに、与党自民党と政府の意見の相違をついて、日本維新の会と国民民主党が「N分N乗」方式の導入を主張し、政府に揺さぶりをかけている。
高額所得者に有利となり税制の所得再配分機能が損なわれるおそれ
ただし、政府はN分N乗方式の導入に慎重だ。同制度の問題点として政府が指摘するのは2点ある。第1は、N分N乗方式のもとで税率が大きく下がる可能性があるのは、高額所得者であることだ。財務省によると、納税者のうち過半数である6割は最低税率の5%の税率が適用されている。N分N乗方式が導入されても、過半数の最低税率の5%の税率の人にとっては減税効果は生じない。他方、高額所得者に有利な税制変更となり、所得格差を縮小させる税制の所得再配分機能が損なわれる可能性がある。
共働き世帯には不利に
第2に、片働き世帯の場合、N分N乗方式のもとでは所得が平均化され、適用税率が下がることで大きな減税効果が生じる可能性があるのに対して、共働き世帯では減税効果が小さくなりやすく、不公平感がある。そのことが、パートタイム労働者である主婦が労働時間を減らして収入を抑える、新たなインセンティブになる可能性もあるかもしれない。それは「年収の壁」問題への政府の対応に逆行してしまうだろう(コラム「「年収の壁」をどう乗り越えるのか」、2023年2月3日)。
さらに、N分N乗方式を導入すれば、所得税収全体が減ってしまう。税収を減らさないためには、累進課税制度を大きく見直すなど、抜本的な改正が必要となる。当然、時間も相当かかるだろう。また、フランスで導入された「N分N乗方式」が出生率の引き上げにどの程度効果があるかについては意見が分かれるところであり、慎重な検証が必要だ。
N分N乗方式導入の可能性は低く、政府の少子化対策は、既存の税制に基づいて、児童手当の拡充、子育て支援の新たな給付制度の創設を軸に進められるとみられる。3月末までにはその概要が決定される見込みだ。  
●軍拡路線を突き進む日本 2/7
日本防衛省はこのほど、日本の南西方面の島嶼上に130棟余りの弾薬庫を新設する計画を発表した。また、海上自衛隊はイージス艦を現在の8隻から10隻へと増やす計画だ。この新たな軍拡の動きは、人々の警戒を招いている。(文:賈平凡。人民日報海外版掲載)
実は日本は昨年から軍拡路線を突き進み、アジア太平洋地域の平和と安定を深刻に脅かしてきた。
軍事費を絶えず増大
日本政府が2022年にまとめた国防予算の概算要求によると、2023年度の軍事費は初めて6兆円(1元は約19.5円)を突破し、GDP比は1%を超えるうえ、5年以内に2%にまで高めることになっている。世界各国の軍事力レベルを分析・発表している「GFP」の2022年版ランキングなど国際機関によるランキングでは、日本の自衛隊は総合的実力で世界5位となっている。今後5年間で防衛費が倍増するのに伴い、日本は軍事費でも現在の世界9位から世界3位へと上昇する。日本の軍事力の新たな変化に、外部は日本の将来の行方に対する懸念を抱かざるを得ない。
「専守防衛」原則を放棄
昨年12月、日本は新版の「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という安保関連3文書を正式に閣議決定し、「対敵攻撃能力の保有」に尽力するといった政策主張を打ち出した。3文書の概要を見ると、日本の今後5〜10年間の安保理念と防衛政策には、第2次大戦終結以来の重大な転換が起き、中でも戦後日本の核心的防衛理念であった「専守防衛」原則が完全に放棄されることとなる。これは「平和憲法」に背く危険な動きだ。
徒党を組んで陣営対立
今年1月9日から14日にかけて、日本の岸田文雄首相はG7構成国のうちフランス、イタリア、英国、カナダ、米国の5ヶ国を相次いで訪問した。岸田首相は訪問中、各国との安保・防衛協力の推進に一段と力を入れた。G7各国との協力強化以外に、日本は近年、米国の「インド太平洋戦略」の急先鋒を務め、さらにはNATOのパワーをアジア太平洋に引き入れようと企てている。
日本のこうした様々な危険な動きは、第2次大戦後のその「軽武装・経済重視」という発展構想と相反するものだ。日本が自らの侵略の歴史を深く反省せず、アジア近隣諸国の安全保障上の懸念を尊重せず、地域諸国の発展環境を顧みないままに、近隣諸国や国際社会の信頼を勝ち取ることは不可能であり、最終的に傷つくのも必然的に日本自身になるだろう。
●岸田首相に日本を任せていていいのか…菅義偉前首相が沈黙を破ったワケ 2/7
支持率低下が止まらない岸田文雄首相について、菅義偉前首相は月刊誌『文藝春秋』(2023年2月号)のインタビューで「派閥政治を引きずっている」と苦言を呈した。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「菅氏が『岸田降ろし』を始めたとみていい。その狙いは首相再登板だろう」という――。
「理念や政策よりも派閥の意向を優先すべきでない」
岸田文雄首相が最も恐れる政敵・菅義偉前首相が「岸田降ろし」の狼煙(のろし)を上げたのは1月10日、訪問先のベトナムからだった。「理念や政策よりも派閥の意向を優先すべきでない。今は国民の声が政治に届きにくくなっている。歴代総理の多くは派閥を出て務めていた」と記者団に述べ、岸田派会長にとどまる首相をあけすけに批判したのである。
菅氏は同日発売の月刊誌『文藝春秋』のインタビューでも岸田政権について「派閥政治を引きずっているというメッセージになって、国民の見る目は厳しくなる」と指摘。国内外から同時に「岸田降ろし」の号砲を鳴らしたのだ。
岸田首相が欧米5カ国訪問に飛び立ち、国内を留守にした直後を見計らった奇襲だった。この日(日本時間)、岸田首相はパリでマクロン大統領と首脳会談・夕食会に臨んだ。そのころ、岸田首相が首相秘書官(政務)に抜擢した長男翔太郎氏は公用車でパリ市内の観光地を巡り、ビストロで気心の知れたスタッフと夕食を楽しんでいた(週刊新潮報道)。
岸田首相は就任1年を迎えた昨年10月4日、当時31歳だった翔太郎氏を首相秘書官(政務)に抜擢した。小泉純一郎内閣の飯島勲氏、安倍晋三内閣の今井尚哉氏ら政財官界に名を轟(とどろ)かせた大物秘書官が務めたポストである。
世論からは「縁故人事」「公私混同」と批判が沸騰。翔太郎氏が親しい民放女性記者に機密情報をリークしているとの報道が続き、岸田首相の「身内びいき」には政府内にも不信感が充満していた。
絶妙なタイミングだった「岸田降ろし」の狼煙
そのような悪評もどこ吹く風、翔太郎氏は父親に同行した欧米5カ国訪問でパリに続きロンドンでも公用車でビッグベンやバッキンガム宮殿を巡り、高級デパートハロッズでショッピング。ここで閣僚への土産としてアルマーニのネクタイなどを購入し、大西洋を渡った後はカナダでトルドー首相との記念撮影を執拗(しつよう)に求め、岸田父子と3人でカメラに収まったという。脇が甘いとしかいいようがない。
翔太郎氏の「漫遊」は帰国後、週刊新潮の報道で発覚し、世論の批判が噴出。岸田首相が長男の行動を「公務」としてかばったことでヒートアップした。さらに経産省出身の首相秘書官をLGBTQをめぐる差別発言で一発更迭しながら首相の長男はお咎(とが)めなしというダブルスタンダードを目の当たりにして霞が関の官僚たちにもしらけムードが漂い、岸田首相の求心力は急落した。
「こうして振り返ると菅氏が『岸田降ろし』の狼煙を上げたタイミングは絶妙でした。さすがは策士。官邸は翔太郎氏のパリ・ロンドンでの行動をリークした『犯人探し』に躍起です。首相秘書官の外遊先日程が漏れることはめったになく、ロジを担う外務省を疑っている。外務省は菅氏と極めて近く、菅氏の『岸田降ろし』と連動した波状攻撃を仕掛けてきたと疑心暗鬼になっています」と岸田派関係者は指摘する。
菅氏の再登板を望む外務省
外務省は安倍政権で冷遇された。安倍首相の最側近である経産省出身の今井氏や警察庁出身の北村滋氏ら「官邸官僚」が内政ばかりか外交まで牛耳り、外交安保政策の司令塔である国家安全保障局長のポストも警察庁出身の北村氏に奪われた。外務省は蚊帳の外に置かれたのである。
窮地を救ったのが菅氏だった。菅氏は安倍氏を受け継いで首相になると外務省主導の外交政策に戻し、国家安全保障局長も外務事務次官だった秋葉剛男氏に差し替えた。外務省は息を吹き返した。
外交経験が乏しい菅氏を外務省シンパに引きずり込んだのは、菅官房長官の秘書官を務めた市川恵一氏である。市川氏はその後、米国公使、北米局長とトントン拍子に出世し、今は筆頭局長の総合外交政策局長だ。大物外交官が歴任した事務次官コースである。
「菅氏の首相復帰をどこよりも望んでいるのは外務省です。市川氏は順当なら事務次官に昇進するでしょう。最大のリスクは菅色が強いこと。岸田首相が菅氏の影に怯(おび)え、人事に介入してくることを外務省は懸念しています」(外務省関係者)
本人は再登板を否定したが…
岸田首相は5月に地元広島で開催する先進7カ国(G7)サミットでホスト役を務めることに強い意欲を示している。それを取り仕切る外務省に「菅シンパ」が潜んでいて足元をすくわれることがあれば大打撃だ。翔太郎氏の情報流出元に神経を尖らせるのはそうした事情がある。たしかに「岸田降ろし」が一気に加速する気配が政界を覆っていた。
ところが、狼煙を上げた菅氏当人が一転して動きを緩めたのだ。2月1日のインターネット番組で、自らの首相再登板について「私はもうパスだ」と否定したのである。
菅氏はポスト岸田に河野太郎デジタル担当相や萩生田光一政調会長らを押し立てる――そんな分析が相次いで報じられている。本当だろうか。
私の見立ては違う。菅氏はあくまでも自分自身の首相再登板を狙っている。自民党内の無派閥議員らの間でも「菅氏待望論」は盛り上がりつつある。河野氏は国民人気は高くても党内人気は低く、岸田首相が任期途中で辞任した場合の総裁選(党員投票はなく、国会議員と都道府県連代表のみが投票)に勝つのは容易でない。
萩生田氏は安倍派会長の後継レースで一歩リードしているものの、旧統一教会問題のマイナスイメージが残り、いきなり総裁選出馬は難しい。「河野氏や萩生田氏では勝てない」という見方が広がって「菅氏待望論」が醸成させていく機運をつくり出そうとしているのではないのか。
山場は広島サミット後
岸田首相は5月の広島サミットに並々ならぬ意欲を燃やしている。4月の統一地方選や衆院補選に向けて「岸田首相では戦えない」という不満が噴出しても首相の座を手放さないだろう。「岸田降ろし」の山場は広島サミットが終わった後、防衛増税の実施時期をめぐる党内論議が始まる今年夏以降だ。まだ半年以上ある。今の時点で「菅氏待望論」が広がるのは早すぎる。逆に「菅政権つぶし」の動きを誘発しかねない――そんな老獪な政局判断から「首相再登板」をいったん否定して沈静化させる狙いがあったと私はみている。
実際に「菅政権阻止」の動きは表面化しつつある。その急先鋒とみられるのが検察だ。
菅氏が安倍政権の官房長官として検察人事へ介入したのは周知の事実だ。検察捜査を次々に封じたとして「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務氏を引き立て、法務省官房長→法務事務次官→東京高検検事長と検事総長コースを歩ませる一方、検察庁が検事総長に推していた同期の林真琴氏を冷遇。黒川氏の定年を延長してまで検事総長に据えようとした。
「菅vs検察」の対立が激化した土壇場で、黒川氏が新聞記者と賭け麻雀していたことが週刊誌報道で発覚し、黒川氏は辞職に追い込まれて林氏が検事総長へ就任したのだった。検察ほど菅氏の首相再登板を恐れている役所はない。
菅氏の復権を阻止したい検察の思惑
安倍氏が急逝した昨年7月以降、東京地検特捜部は東京五輪汚職事件に着手して電通出身の東京五輪組織委員会元理事らを逮捕・起訴した。民間人の立件だけで捜査は終結したが、「東京五輪の招致・開催に官房長官や首相として深く関わった菅氏には大きなプレッシャーになった」(岸田派関係者)のは間違いない。
特捜部は今なお電通が絡んだ東京五輪談合事件の捜査を続けている。岸田首相は東京五輪の招致・開催には関与しておらず、検察捜査は「岸田降ろし」を主導する菅氏への牽制であるという見方は根強い。
さらに東京地検特捜部が菅氏に追い打ちをかけるような事件が発覚した。安倍氏や菅氏と親しく、安倍・菅政権下で「マスコミの寵児」となった国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫の投資会社への家宅捜索である。
三浦氏の夫の投資会社は、建設見込みのない太陽光発電事業への出資をもちかけ約10億円の出資金をだまし取ったとして刑事告訴されていた。三浦氏は自らが代表を務める「山猫総合研究所」のホームページで夫の会社が家宅捜索を受けたことを認め、「私としてはまったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ないこと」と説明した。
その後、1夫の投資会社と山猫総合研究所は同じビルのフロアにある、2三浦氏自身が対談本で夫の経営する会社の株を半分持っていると明かしていた、3テレビ番組に出演して太陽光発電を推す発言をしていた――ことが次々に報道され、「夫の会社経営には関与していない」という根拠が揺らいだ。
主戦場は、岸田首相が打ち上げた防衛増税
最大の焦点は、三浦氏が菅政権の成長戦略会議に有識者委員として起用され、太陽光発電をめぐり「規制の総点検に関する具体的な業界の要望」を提出していたことだ。
夫の事業を後押しする「利益誘導」との批判は免れず、菅政権の任命責任が浮上するのは避けられない。三浦氏は21年、神奈川県横須賀市であった防衛大学校の卒業式に菅首相と並んで登壇し祝辞を述べている。菅氏との親密な関係は隠しがたい。
岸田派関係者は「今後、特捜捜査の進展にともなって、菅氏と三浦氏の関係はますます注目されていく。東京五輪談合事件と併せて、検察が菅氏への牽制を強めているという構図です。菅氏が自らの首相再登板について『私はもうパスだ』と否定してみせたのは、検察をはじめとする風当たりをいったん弱める狙いがあるのではないでしょうか」と読み解く。
菅氏が「岸田降ろし」の山場とみる今年夏以降、政局はどう動くのか。主戦場となるのは、岸田首相が打ち上げた「防衛増税」だ。
米国が求める防衛力強化とミサイル購入に応じるため、岸田首相は昨年末、防衛費増額の財源を確保するための法人税・所得税・たばこ税の増税を表明した。しかし最大派閥・安倍派などが強く反発したため、増税実施は「24年以降の適切な時期」として23年の税制改正論議に先送りしたのである。
岸田派重鎮の宮沢洋一氏が会長を務める自民党税制調査会で議論を主導し、今年末の税制大綱で決定する――というのが岸田官邸と財務省が描いたシナリオだった。
復権シナリオの鍵を握る公明党
これに待ったをかけたのが、菅氏に気脈を通じる萩生田政調会長である。萩生田氏は増税以外の財源を検討する党特命委員会を設置して自らトップに就き、今年夏には一定の方向性を打ち出すと表明した。党税調に先駆けて増税以外の財源を示すことで、増税撤回に追い込む算段だ。菅氏も歩調を合わせて増税への慎重姿勢を示している。
萩生田氏は幹事長ポストに意欲を示してきた。安倍派会長の座を西村康稔経産相や世耕弘成参院幹事長らと競い合っている。ここで菅氏に加担して「岸田降ろし」を成就させ、その功績で幹事長に就任すれば、安倍派会長の座も転がり込んでくるだろう。岸田首相さえ引きずり降ろせば、その後の総裁選は最大派閥・安倍派を中心とした「派閥の数」で制することができる。
鍵を握るのは公明党だと私はみている。昨年末は防衛増税に理解を示したものの今年はどう出るか。公明党はもともと岸田首相や麻生太郎副総裁ら主流派より、菅氏や二階俊博元幹事長ら反主流派とソリが合う。今年夏時点で「経済状況が悪化した」として増税慎重論に寝返り、菅氏や二階氏らと水面下で歩調を合わせて「岸田降ろし」を側面支援する展開は十分にあり得る。
延命したい岸田氏、主流派を切り崩す菅氏
増税包囲網ができつつあることを察したのか、岸田首相は1月30日の予算審議で萩生田氏の質問に対し「(防衛増税の)実施時期を柔軟に判断する」と弱含みに転じた。今年の税制改正での決着にこだわらず、来年以降にさらに先送りして「岸田降ろし」を封じる思惑がにじむ。いざとなれば「増税実施」より「政権延命」を優先させるつもりだろう。
今年夏以降の防衛増税政局を「岸田降ろし」の山場とみて、首相再登板を視野に主流派切り崩しを狙う菅氏。内閣支持率の下落もどこ吹く風、衆院解散権を封印し防衛増税を先送りしてでも24年秋の自民党総裁選まで政権に居座ることをもくろむ岸田首相。前首相と現首相の攻防が今年の政局の中心である。
安倍氏というキングメーカーが去った今、岸田首相の後ろ盾で財務省の後見人でもある麻生氏、ポスト岸田への野心を隠さない茂木敏充幹事長、菅氏と気脈を通じて安倍派会長の座を狙う萩生田氏、麻生派ながら菅氏と連携してポスト岸田を狙う河野氏ら、それぞれの思惑が複雑に交錯して視界不良の権力闘争が続く。
●「デフレ病」日銀の新総裁がだれになろうとも… 治すつもりない? 2/7
黒田東彦日銀総裁の後任人事についてメディアが騒ぐが、だれになろうと日本国民を全般的に貧しくさせているデフレ病を治せそうにない。元凶は10年前の「政府・日本銀行共同声明」(2013年1月22日発表)にある。
声明は、内閣府・財務省・日本銀行トップの3者連名で、「デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け(中略)政府及び日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組む」とあるが、「一体」とは名ばかりだ。日銀は消費者物価の前年比上昇率2%を物価安定の目標を公約したが、政府のほうは「持続可能な財政構造を確立する」とした。緊縮財政と増税の路線を堅持すると表明したのも同然だ。こうして金融緩和の「一本足打法」が黒田日銀によって始められた。
いや、そうじゃない、政府財政規模は増えていると、新聞はいつも報じているではないか、との疑問があるだろう。だが、それは財務官僚の言いなりになった無知なメディアのミスリードである。
積極財政か緊縮財政かの区別は、まず私たちの所得や生産に直接結びつく社会保障、教育、防衛、公共事業など政策経費の合計額の前年度比でみるのが常識というものだ。そればかりではない。政府が民間から吸い上げる税および印紙収入の増減も勘案する必要がある。政府は消費税増税によって税収を増やしているのに、支出をカットする。すると民間の所得がダブルで政府に吸い上げられる。私たちに還元されないカネは国債償還費として金融機関に振り込まれる。金融機関は増える手元資金を国内ではなく、海外向け投融資の原資に回すのだから、国内需要が萎縮する。それが財務省が固執するゴリゴリの緊縮財政の正体だ。たまに政策支出が多少増えても、税収などの増収分より少ない場合、やはり緊縮効果が生じる。
グラフは、一般会計の政策支出の前年度比増減額から税収などの増減額を差し引いたものと日銀資金供給の増減額を対比させている。ざくっといえば、プラス領域にあれば拡張型財政、マイナスは緊縮財政、ゼロは中立とみなせる。アベノミクスの2013年度以降、19年度までをみると、財政データは16年度と19年度を除けばすべてマイナス、つまり緊縮である。対照的に日銀は巨額の資金供給を続けた。その結果、国内総生産(GDP)全体の物価指数であるデフレーターは消費税増税によって押し上げられたたあとはゼロ%前後に落ち込んでいる。アベノミクスはかくして脱デフレに失敗した。
新型コロナウイルス・ショックの20年度は超拡張型財政支出になったが、21年度以降は大幅な緊縮に舞い戻っている。日銀資金も22年度はマイナスになりそうだから、デフレが続くはずだ。岸田文雄首相はといえば財政は増税と緊縮路線堅持である。日銀の新総裁選びも新味を印象付けたいだけで、デフレ病を治すつもりはないのか、と問いたいところだ。
●財政状況で円安再燃も 円買い介入、22年10月に2日間 2/7
財務省は7日、2022年10月21日と24日に円買い・ドル売りの為替介入を実施したと発表した。いずれも直後には公表しない「覆面介入」だった。21日の介入額は5兆6202億円で、1日あたりの円買い介入で過去最大だった。介入による円安抑制は一時しのぎの面もあり、財政状況の悪化などで円の信認が揺らげば、円安が再燃する可能性はある。
22年10~12月の為替介入の日次実績を公表した。政府・日銀は急速な円安を受けて24年ぶりに踏み切った9月22日に続き、10月に立て続けに介入していた。10月24日の介入額は7296億円だった。9月22日と合わせた9~10月の介入額は9兆1880億円となった。11~12月は介入していない。
10月21日は円相場が一時1ドル=151円90銭台と32年ぶりの安値を更新した。その後、円買い介入を受けて一時1ドル=144円台まで円高が進んだ。週末を挟んだ24日も一時1ドル=149円台後半まで下げた後、介入によって145円台まで急騰した。
鈴木俊一財務相は7日の記者会見で「投機による過度な変動に適切に対応する観点でおこなった。一定の効果があったと考えている」と述べた。
10月21日は日本時間の深夜、24日は早朝と為替介入への警戒が薄い時間帯だった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は「市場が油断している時間を狙った『奇襲』で、投機筋によるその後の円売りをちゅうちょさせる点では効果はあった」と説明する。
10月下旬以降は米国のインフレ鈍化や景気減速懸念が浮上し、大幅な利上げ観測が後退した。外国為替市場で日米金利差の拡大を見込んだ円売り・ドル買いが減少したことも円高・ドル安を促した。
市場をゆがめる介入は本来、望ましいことではない。為替の短期的かつ急激な変動抑制を目的とした介入が為替の変動をかえって高めたとの指摘もある。介入の有無に市場の注目が集中し、市場参加者が取引を手控えるなど流動性も低下した。
国内証券の市場関係者は「当局が投機筋との攻防に終始し、円安で苦しむ輸入企業などへのサポートにつながらなかった」と指摘する。
円相場は足元で1ドル=130円台前半と10月21日につけた151円台からは20円程度の円高水準で推移しているが、中長期的な円安リスクの再燃への警戒は根強い。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「エネルギーの対外依存度の高さや持続的な賃金上昇が見込めない状況は変わっておらず、課題に向き合い続ける必要がある」と訴える。
先進国で最悪の財政状況や長引く低成長も円が売られやすい要因となる。介入に頼らなくてすむような改革が求められる。
●三菱重工「スペースジェット」から撤退発表 累計開発費1兆円投じるも...  2/7
三菱重工業は、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット」の事業からの撤退を発表した。
三菱重工・泉澤社長「多くの皆さまから、ご期待、ご支援をいただいておりましたが、今般、開発中止の判断に至りましたこと、大変残念であります」
「三菱スペースジェット」の開発は2008年からスタートし、累計でおよそ1兆円の開発費を投じてきたが、国が安全性を認める「型式証明」の取得のために、さらに数千億円がかかり、「事業性が見通せない」ことなどを撤退の理由としている。
また、官民挙げてのプロジェクトとして、経済産業省も、およそ500億円を支援していた。
西村経産相「国産旅客機の商業運航という当初の目的を達成できなかったことは極めて残念であり、重く受け止めている」
今後、「三菱スペースジェット」を開発する中で培われた技術や人材は、次期戦闘機の開発などに生かしていくとしている。

 

●軍事力を高める日本…韓日米安保分業構造を議論すべき 2/8
日本は第2次世界大戦で敗戦して以降70年以上にわたり防御的目的の防衛政策を追求した。敵を攻撃する「矛」の役割は米国に一任し、より大きくて丈夫な盾を築くことに注力した。しかし岸田文雄首相は昨年12月、こうした防衛政策の大転換を図る決定をした。閣議で安全保障関連3文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)を改定したが、ミサイル発射拠点など敵の基地を攻撃できる「反撃能力」保有を明記した。
6日の韓日ビジョンフォーラムでは外交・安保分野の専門家12人が集まり、日本の安保文書改定が韓半島安保秩序に及ぼす影響を議論した。出席者は日本が反撃能力の保有を宣言した背景に、北朝鮮の核・ミサイル高度化など周辺国の軍事的脅威の増大、米中競争の中での新冷戦加速化、中国による台湾武力統一の脅威−−など、厳重な国際安保環境などを挙げた。そして「日本の安保文書改定が韓半島(朝鮮半島)の安保に及ぼす否定的な影響を最小化し、韓日安保協力を強化すべきだ」と提言した。
●“海外バラマキ” 岸田総理はなぜフィリピンに年間2000億円も支援するのか? 2/8
岸田文雄首相は、2月8日に来日するフィリピンのマルコス大統領との会談で、年間2000億円を超える支援を表明する予定だという。だが、これに対しSNSでは「外国を豊かにするために働いてるんじゃねえんだよ」と大ブーイングが上がっている。
自国民は見捨てて、外国に奉仕?
岸田総理は、2月8日に来日予定のフィリピンのマルコス大統領との会談の席上、フィリピンに対する年間2000億円を超える支援を表明する方向である旨報じられた(本稿が公開されている頃には会談も行われ、既に表明されているかもしれない)。
これを受けて、ネットを中心に激しい批判の嵐が巻き起こった。それもそのはず、国内ではエネルギーや食糧原料の国際的な価格高騰を受けた輸入価格の上昇により、電気料金にガス料金、そして多くの物資が値上がりして多くの国民が困窮しているのに対して、岸田政権はなんら有効な対策をするつもりがないようだからだ。
のみならず、防衛費増額や子ども政策関連予算の倍増を大義名分にして増税に踏み切ろうとしているし、社会保険料も引き上げられる。これではまるで自国民は見捨てて、外国に奉仕しますと言っているようにしか見えない。しかもこの支援、5年間が想定されているようであるから、総額1兆円以上である。
岸田政権の支持率も多少の微動があるにせよ、基本的に下落傾向は続いたまま。どう考えても政権基盤を危うくするとしか考えられないような外交政策を、なぜ進めようとしているのか? そもそもこのフィリピンに対する支援、どこから出てきたのか? 以下、解説してみたい。
まず、フィリピンへの支援であるが、総論としては今に始まった話ではなく、50年以上も続けられている。だが一方で、金額ベースで見ると、円借款(低利かつ長期間の融資)、無償資金協力及び技術協力の合計で、年間で総額2000億円を超えるというのは稀である。
安倍政権時代の支援策をまるっと踏襲
ではなぜ年間2000億円以上などという話になったのかというと、安倍政権下の2017年1月、安倍総理とドゥテルテ大統領(いずれも当時)による首脳会談がマニラで行われ、「ODA及び民間投資を含め、今後5年間で1兆円規模の支援を行う、この支援のため、『経済協力インフラ合同委員会』を設置し、国造りに対する官民を挙げた協力を着実に実施していく」ことが表明されたことに端を発しているようだ。
その対象は、交通インフラの整備支援を中心とした「国家建設支援」である(日本国内では鉄道の廃止や「バス転換」と称した事実上の廃止が相次ぎ、高速道路も「暫定二車線」と称するなんちゃって高速道路、発展途上国でも高速道路とは呼ばないような道路をそのまま放置し、老朽化するインフラの修繕や施設更新も不十分な状態にあるにも関わらず、である)。
5年間で1兆円規模、まさに今回の報道の内容とほぼ同じである。無論、この中には無償資金協力のみならず円借款や技術協力も含まれるし、読んで字のごとく、民間投資も含まれている。
今回の報道にある2000億円もこうしたものによって構成された総額であると考えられ、日本政府が国費で2000億円をポーンとフィリピン政府に支援するという話ではないと考えられる。本稿執筆の段階では外務省からの報道発表等がないため推測の域を出ないが、岸田総理によるフィリピンへの年間2000億円以上の支援とは、安倍政権によるフィリピン支援策の延長線上にあるということなのだろう。
問題はここからである。確かに安倍政権時代に表明したフィリピン支援は5年間であり、2022年までと考えれば本年からのものは次の5年間と考えることも可能である。しかし、この間に何が起きたのか? 新型コロナショックである。そしてウクライナ紛争である。
日本を取り巻く状況、そして日本が直面する状況は大きく変わったのである。そうした状況を踏まえれば、日本政府としては、岸田政権としては、状況の変化に応じて政策を変更して然るべきであるし、政策を柔軟に使い分けることこそ政治家の役割、政権の役割のはずである。
官僚からはすこぶる評判のいいパペット総理
程度の差こそあれ、世界各国でエネルギー高、食糧高等による生活費の高騰、パンデミック中に抑えられてきた需要が一気に噴出したことによるインフレ、急激な需要増に人の確保が追いつかない人手不足等に喘ぎ、高インフレ傾向にある諸国では金利の引上げの結果として住宅の賃料も値上がりして多くの国民は四苦八苦している。
例えば英国では、賃金上昇がインフレに追いつかない公的労働者によるストライキが続いている。こうした状況に対して、各国政府は様々な政策手段を用いて対応してきた。無論、全てが上手くいっているわけではないが、少なくとも状況の変化を踏まえた対応をしようとしている。
翻って日本はどうか、岸田政権はどうか。柔軟性に欠け、状況の変化を言うのは口ばかりで、政策的対応を伴っていない。「検討使」と揶揄されたように、人の話は一応聞いて検討はするものの、決めることはしない。それが増税だけは「毅然として」決断する。なぜかと言えば岸田総理は財務省の言いなりだから。ある意味、財務省のパペットだから。
そもそも岸田総理はこれといってやりたいことがない。やりたいことは総理になること、そして総理の地位に居続けること。
そんな総理は時として外務省の言いなりにもなる。彼は外務大臣だった当時、外務官僚からはすこぶる評判が良かったそうだ。なぜかと言えば、外務官僚の言うとおりに動いてくれるから。この時は外務省のパペットだったのだ。
外務官僚からすれば、安倍政権の時に決められて進められてきたことを主体的に変更するようなリスクのあることを積極的にやろうとは思わないだろう。無論、政権が、官邸が変更せよと指示してくるのならば別であるが、特段なければこれまでの経緯を説明して、継続してもらった方が楽である。
中身が空っぽで、パペットになってくれる岸田総理には状況の変化に応じてより良い政策を検討し、決定し、実行する能力、決断力に欠けているとしか言いようがない。
これまでやってきたからと言って、それがこれから先もずっと妥当な選択肢であるとは限らない。しかしそうしたことが岸田総理には分からないのだろう。それが今回のフィリピンに年間2000億円という話につながっていったということだろう。
これだけ危機的状況にあり、その状況も変化している中で、中身が空虚でパペットのような政治家という、最悪と言っていいような人材が総理に胡座をかいている。
●差別発言 岸田首相「不快な思いを」 衆院予算委 野党側は追及へ  2/8
岸田首相は、差別発言をした秘書官の更迭後、初めて国会に出席し、「不快な思いをさせた」と陳謝したが、野党側は徹底追及の構え。
国会記者会館から、フジテレビ政治部・阿部桃子記者が中継でお伝えする。
性的マイノリティーをめぐる議論が国会論戦に急浮上したことで、ある政府関係者は、「野党は相当勢いづく。支持率低下は免れない」と警戒感を示している。
岸田首相「国民の皆さんに誤解を生じさせたこと、これは誠に遺憾なことであり、不快な思いをさせてしまった方々におわびを申し上げる次第だ」
衆議院の予算委員会で、自民党からの質問に、岸田首相は「小学校時代、ニューヨークでマイノリティーとして過ごした」と、自身の経験も交えて多様性を尊重する方針を強調した。
ただ、性的マイノリティーへの理解を増進するための法整備の必要性などには触れていない。
このあとの質疑では、野党側が、同性婚の導入について岸田首相が先週、「社会が変わってしまう」と答弁した真意などについて厳しく追及する見通し。
●野田元首相「どうする岸田」「二枚舌外交」硬軟表現おりまぜ岸田首相と対決 2/8
昨年9月に営まれた安倍晋三元首相の国葬で読んだ弔辞が話題になった立憲民主党の野田佳彦元首相は8日、衆院予算委員会で質問に立ち、日ロ関係や広島サミットなどのテーマで50分、岸田文雄首相と質疑を行った。
「演説の名手」として知られるだけに、「二枚舌外交だ」など厳しく問いただす一方で、ロシアのウクライナ侵攻を受けた日本の対応について「どうする家康ではないが、どうする岸田で、2つの選択肢が迫られた」など、NHK大河ドラマを引用した柔らかい表現も使いながら質問を行った。
野田氏は、日本がロシアへの経済協力を凍結する中でも「ロシア経済分野協力担当大臣」を置いていることについて「分かりにくいんですよ。サミット議長国で(国際社会との)結束が大事な時に、経済協力担当大臣を置いているのは二枚舌外交でおかしいんですよ」と迫った。首相は日本企業への支援などを理由にあげたが、野田氏は「聞けば聞くほど分からない。変な誤解を残す」と断じた。
一方、ロシアがウクライナ侵攻した時の日本の制裁内容をめぐり「やってるふり制裁か厳しい措置を選ぶか。どうする家康、ではないが、どうする岸田だったが、力による現状変更は許さないという立場を示したやり方は、支持します」と述べた。
また、岸田首相が進める防衛費総額をめぐる「防衛増税」に関しては、自身が首相時代に自民、公明両党と合意した議員定数削減が、不十分な内容であることに不満を示し「議員定数削減の魂は守られないままできた。国民に(増税を)お願いするなららせめて、議員定数削減をするくらい言ったらどうですか」と迫った。岸田首相は、2016年に衆議院の定数を10削減したなどと主張し「引き続き、民主主義の根幹にかかわることなので議論を続けていくという姿勢は重要」と塩対応の答弁で、野党席からやじが飛んだ。
●岸田政権が児童手当の所得制限撤廃も…「少子化対策」 2/8
岸田文雄首相は、「こども・子育て政策」を最重要政策として位置付け、社会全体の意識を変えて「次元の異なる少子化対策」を実現したいと意気込んでいる。
これまでの国会論戦を通じて、与野党の足並みがそろいつつあるのが、「児童手当の所得制限撤廃」である。所得制限にこだわってきた自民党の茂木敏充幹事長が撤廃に理解を示したことから、岸田政権もその方向で調整に入ったとの報道もあった。
6日の政府与党連絡会議で、岸田首相は「こども・子育て政策として充実する内容を具体化し、与党の協力を得ながら、6月の骨太方針までに予算倍増にむけた大枠をまとめる」と語った。実現は視野に入っているものと思われる。
コロナ禍のもと、出生数は予想を上回る減少傾向にあり、2022年は80万人を割り込み、すでに「静かな国家存亡の危機」ともいえそうだ。年金・医療・介護などの社会システムや、活力ある地域社会の持続性を確保するためには、次世代育成がカギとなる。
子育てを望みながら、ためらう最大の理由は「子育てにお金がかかる」ことにある。児童手当の拡充や、教育費の負担軽減が柱だ。公明党は昨年11月、「子育て応援トータルプラン」を発表した。その中で児童手当は、(1)18歳まで対象拡大(2)所得制限撤廃(3)第2子以降の支給額増などを掲げている。
所得制限撤廃は、親の所得で子どもを分断せず、社会全体で子どもを育てる「次元の異なる少子化対策」の一環といえるが、拡充策全体からみれば、対象者は少なく財源も小さいため、難易度は低い。これだけで「次元の異なる少子化対策を進めました」と胸を張れないので、拡充策をセットで実現することが望ましい。
経済支援の充実に加え、多様な保育サービスの提供、働き方改革で男性の家事・育児参加の促進などを進め、社会全体の流れを変えていくことが大切である。
先日、日韓関係の懸案となっている、いわゆる「元徴用工」問題について、韓国政府は、韓国の原告側が求める日本企業による賠償を韓国の財団が支払う解決案を検討していると報じられた。
これに呼応するように、貿易上の優遇措置を受けられる「グループA(ホワイト国から改称)への韓国復帰」や、「おわび談話の再表明」といった日本側の報道もある。
一方で、日韓の請求権問題は、1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」されているので、筋違いの見返りを与えることは今後の日韓関係に禍根を残すとの意見もある。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、日韓請求権協定と韓国の最高裁判決を尊重する前提で、財団が支払う案を考え出した。韓国前政権の取り組みと日本政府の対応を振り返ったうえで、日韓間の懸案を解決し、関係改善のための最善の努力を日本政府はすべきである。  
●政府、フィリピンに「非ODA」活用へ 中国にらみ安保能力強化 2/8
政府は昨年末に閣議決定した国家安全保障戦略など「安保3文書」で新たに設けた同志国の軍に対する支援として、フィリピン政府に政府開発援助(ODA)とは別枠の「安全保障能力強化支援」を行う方向で検討に入った。9日の日比首脳会談後に発表する成果文書に盛り込みたい考え。実現すれば「非ODA」の枠組みを活用した初めての案件となる。複数の政府関係者が8日、明らかにした。
政府は昨年12月に改定した国家安保戦略で「軍などが裨益者となる新たな協力の枠組みを設ける」と明記した。同志国の安保能力・抑止力を向上させるため、非軍事分野に限定されているODAとは別に装備品や資機材を供与する取り組みで、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の範囲内で行う。
政府が今国会に提出した令和5年度予算案に同志国の安保能力強化を支援するための「非ODA予算」を初めて盛り込み、20億円を計上。フィリピン政府への具体的な支援内容や支援額については、予算成立後に決定する方針だ。政府関係者は「ODAのように相手の要望を受けるだけではなく、日本の安全保障環境を強化する観点で支援内容を決めたい」と話す。
岸田文雄首相は初来日したマルコス大統領との会談で、幅広い分野で二国間協力を強化しつつ、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携を確認する。フィリピン外務省の発表によれば、両政府はインフラ開発、防衛、農業、情報通信技術など7つの分野で協定に署名する予定だ。
日比両政府の安保協力は近年、加速している。背景には東・南シナ海で海洋進出を強める中国を牽制(けんせい)する狙いがある。
昨年4月には、初の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を東京都内で開き、防衛協力を強化する方針を盛り込んだ共同声明を発表。自衛隊とフィリピン軍が相互訪問する際の手続きを簡素化する「円滑化協定(RAA)」や、物資を融通し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」の締結に向けた検討を開始することで一致した。
●「5類」移行後の診療体制確保へ医師会と知事会が国に支援要請 2/8
日本医師会と全国知事会は、新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行されたあと、多くの医療機関で診療体制を整えるため、感染防止策への支援などを継続するよう国に要望することになりました。
政府は新型コロナの感染症法上の位置づけを5月8日に、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方針で、日本医師会と全国知事会は2月8日夕方、オンラインで意見を交わしました。
日本医師会の松本会長は「『5類』になってもコロナウイルスが変わるわけではない。医療提供体制をできるかぎり崩さないようにすることが大事だ」と指摘しました。
また、全国知事会の会長を務める鳥取県の平井知事は、「一番重要なのは、最後の砦ともいえる医療提供体制を確保するための環境作りだ」と述べました。
そして、国に対し、医療機関の感染防止策に必要な支援や、患者を受け入れた際の診療報酬の加算などを一定期間継続することに加え、自治体の財政状況によって対策に支障が出ないよう、国による財政措置の継続などを要望することになりました。
●「5類になってもコロナは変わらない」全国知事会と日本医師会 2/8
全国知事会と日本医師会は、新型コロナの分類が「5類」に変更された場合でも、当面の間は医療機関に対する財政的な支援などを続けるべきだとする要望書をとりまとめました。
日本医師会 松本吉郎会長「決して類型が5類に変わったからと言いましても、コロナウイルス自体が変わるわけではありません。これまでの医療提供体制をできる限り崩さないように、しっかりと対応ができることがとにかく大事」
全国知事会 平井伸治鳥取県知事「国としての支援措置、感染防御の支援・応援ということもやっていただく必要も当然ある」
政府は今年5月8日に、コロナの感染症法上の位置づけを現在の「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に変更する方針を決めています。
全国知事会と日本医師会はきょう、5類に変更した場合でも、当面の間はコロナの流行の継続が見込まれるとして、医療機関に対する財政的な支援などを続けるべきだとする要望書をとりまとめました。
また、医療費が発生することでコロナ患者の「受診控え」が生じないよう、患者の医療費についても当面は一定の公費負担を続けるべきだとしています。全国知事会と日本医師会は近く、政府に対して要望書を提出する予定です。
●日銀の政策修正を読み解く 2/8
10年に及ぼうとする異次元緩和から日銀は、どのように「出口」に向かっていくのか。有力日銀ウオッチャーがひもとく。
「サプライズ」となった、昨年12月の日銀の金融政策決定会合における政策変更(「長短金利操作〈YCC〉」の対象となる10年国債利回りの許容変動幅を、従来の0%プラスマイナス0.25%から0%同0.50%まで拡大)以降も、追加的な金融政策修正に対する市場の思惑は沈静化していない。前回の修正後も国債市場の流動性は停滞の域を出ず、イールドカーブ(利回り曲線)のゆがみも修正されるには至っていない。この間市場は、早くも2023年末にかけての利上げまで織り込む展開となっている(図1)。
筆者は先行きの金融政策運営につき、以下のように段階的な修正が行われる展開を予想している。
すなわち日銀は、1新総裁・副総裁下での初会合となる4月会合(27・28日開催)においてYCCの段階的な修正に着手、その対象を現行の10年から5年(0%プラスマイナス0.25%)へと移行するなど漸次短期化し、最終的には短期金利(翌日物コールレート)を唯一の操作対象とする伝統的な金融政策へと回帰、223年央にかけ、「マイナス金利政策(NIRP)」を解消、「ゼロ金利政策(ZIRP)」へと復帰したあと同政策を24年まで維持、その後、3米国を中心とした世界景気の軟着陸を確認したうえで、政策金利を緩やかなペースで引き上げる見通しだ。
賃金・物価上昇の「粘着性」
日銀が23〜24年にかけ、金融政策「正常化」に向け本格的なYCC修正に着手する背景としては、主に以下の3点が挙げられる。
第一に、賃金・物価上昇の「粘着性」が高まりつつある点だ。消費者物価指数(CPI)上昇率の動向をみると、なおエネルギー・食品価格上昇の寄与度が突出しているとはいえ、価格上昇の裾野は着実に拡大、基調的なトレンドも加速度的に上昇している(図2)。一方、持続的な物価上昇の前提となる賃金上昇に関しても、加速の兆しがみられ始めている。現在進行中の「春闘」賃上げ交渉においては、大企業・中小企業間の格差が拡大することが予想されるものの、政府目標となる3%以上の賃上げ率(定昇+ベア)が実現する可能性も高まっている。
すでに利上げが最終局面に入りつつある欧米主要国においても、初期局面では物価上昇は「コストプッシュ型」で「一過性」にとどまるとの主張が大勢を占めていた。ただし実際には、新型コロナ感染収束に伴う需要回復に加え、サプライチェーンの毀損(きそん)による供給制約、さらには労働参加率の停滞など人々の行動変容が重なった結果、物価上昇は強い「粘着性」を示す結果となった。この間、米連邦準備制度理事会(FRB)を中心とした主要国中銀は初動の遅れを取り戻すべく、当初想定を大きく上回るペースでの利上げを余儀なくされている。日本ではなお、長期にわたる「デフレ慣性」もあって、物価上昇は「一過性」との議論が主流だが、期待インフレ率が加速度的に上昇するなど「粘着性」は着実に高まっている。
第二に、新総裁・副総裁人事に伴い日銀執行部の布陣、及び審議委員の分布も政策修正を促す方向へと変化することが見込まれる点だ。仮に総裁、及び副総裁の一人が日銀出身者から選出され、かつ現状金融緩和に積極的な「リフレ派」が占めている今一人の副総裁ポストも、より「中立」に近い委員により継承される場合、審議委員の分布は一段と「中立」〜「タカ派」へと傾斜する。
日銀総裁・副総裁人事に関しては、衆参両院の同意を基に内閣が決定するが、与党内の勢力分布がその帰趨(きすう)に影響する状況も考えられる。例えば、岸田派を含む「リベラル派」の退潮とともに、「リフレ派」との親和性が強い自民党「保守派」の影響力が顕著となる場合、「リフレ派」の復権とともに政策修正が困難化する状況も想定される。政府・日銀間の物価安定目標を含む「アコード」(13年1月)から、「量的・質的緩和(QQE)」(同4月)の導入を嚆矢(こうし)とする異次元緩和への一連の流れは、政治主導による側面が強く、その収束にあたっても政治情勢に大きく影響される点は想像に難くない。
第三に、FRBを中心とした主要国中銀による金融政策が、日銀の政策修正のタイミングに大きく影響する点だ。FRBによる金融政策に関しては、今次米連邦公開市場委員会(FOMC)における追加利上げ後、3、5月に同じ幅の利上げが実施される結果、フェデラルファンド金利(FFレート)は今次利上げ局面におけるピーク水準(ターミナル金利)となる5%台に上昇する見通しだ。
ただし23年10〜12月期以降、FRBは景気後退リスクが強まり利下げへと転換、24年末にかけ3%水準までFFレートを引き下げることが予想される。FRBによる金融政策転換を前提とする限り、日米金融政策「格差」の縮小による円高が進行、日銀のYCC修正に対する「機会の窓」も、23年後半にかけ徐々に狭まると考えるのが自然だろう。特に景気後退が深刻化する場合、FRBの利下げペースが加速するなかで、「機会の窓」は一気に消失する。
財政規律の弛緩
YCC修正を先行する形で、日銀が「正常化」へと着手する場合、景気・物価動向、及び金融市場にはどのような影響が及ぶだろうか。日銀の分析によると、需給ギャップの金利感応度は短中期セクターにおいて突出して高く、長期・超長期セクターでは急速に低減する。従ってYCC修正に伴いイールドカーブが急傾斜化するなかで、短中期金利が低位で安定する場合、景気・物価への影響は、限定的にとどまる。
この点は、日本株に関しても同様だ。政策修正がデフレ脱却に裏付けられている限り、長短金利差拡大で恩恵を受ける銀行株の上昇もあって株価は景気の軟着陸を前提に堅調に推移する見通しだ。
YCCの段階的な修正に伴い、10、20年国債利回りはそれぞれ0.9%、1.45%をめどに上昇、為替市場では日米金利差縮小により、ドル・円レートは23年末段階で1ドル=125円まで円高が進むことが予想される。一方、可能性は乏しいものの、NIRP解消がYCC修正に先行する場合、イールドカーブは平坦(へいたん)化、短中期金利の上昇が顕著となるなかで、景気に対する抑制効果も強まるだろう。
日銀があえて隘路(あいろ)を選択し、上記の通り23年中にYCC修正を実施するか否かは、その効果・副作用間のトレードオフをいかに評価するかに依存する。YCCの副作用に関しては、国債市場の機能不全から、防衛費増額の財源問題、「国債償還60年ルール」の延期・撤廃論に象徴される財政規律の弛緩(しかん)、さらには不採算企業の延命による非効率性の温存に至るまで枚挙にいとまがない。
一方その限界的な効果が、賃金・物価上昇の定着とともに逓減しつつあるとの判断に立つ限り、日銀が政策修正に対する「機会の窓」が開いているタイミングを捉え、「正常化」への一歩を踏み出す蓋然(がいぜん)性は、決して低くはないと考えるべきだろう。
●2023年一般教書演説 バイデン大統領とねじれ議会 2/8
アメリカのバイデン大統領が、向こう1年の内政と外交の施政方針を示す一般教書演説を行いました。4年の任期を折り返し、来年の大統領選挙に向けて、近く立候補を表明するかが注目されているバイデン氏。ねじれ議会での演説に込められた大統領の思惑を考えます。
去年の中間選挙で議会下院の多数派を共和党に奪われてから初めて臨む上下両院合同会議。バイデン大統領による一般教書演説は、超党派の協力によって政策の実現を訴えて、結束を呼びかける場面が目立ちました。
バイデン大統領の発言「国民からのメッセージは明確だ/戦いのための戦い、権力のための権力、対立のための対立では何も得られない/私のビジョンはアメリカの魂をよみがえらせ、屋台骨の中間層を立て直し、国を団結させることだ/国民から負託された仕事を成し遂げなければならない」
70分を超えた演説時間の大半は内政に割かれました。記録的な雇用創出で、先月(1月)の失業率も3.4%と53年ぶりの低い水準に抑えられ、インフレ率も鈍化、アメリカ経済はコロナ禍の落ち込みから回復しつつあるとして、この2年間の実績をアピールして見せました。就任前のトランプ前大統領の支持者らによる議会乱入事件について、「南北戦争以来の最大の脅威で傷ついたが、われわれの民主主義は不屈で壊れなかった」と述べました。終始、前向きで楽観的なトーンを貫いて、自らが直面している機密文書をめぐる問題には無論まったく触れませんでした。
一方、外交に割かれた時間は僅かでした。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は「アメリカと世界にとっての試練だ」として、同盟諸国と結束してロシアに対抗する姿勢を改めて示し、ウクライナ支援の継続と連帯を呼びかけました。バイデン大統領が「最も重大な競争相手」と位置づける中国に対しては、習近平国家主席との会談で「われわれが望んでいるのは衝突ではなく競争だと明確に伝えている」と説明。「中国と協力できる分野は協力する」としながらも、アメリカ上空を飛行した中国の気球を撃墜したことを念頭に、「中国がアメリカの主権を脅かすなら、われわれはアメリカを守るために行動する」と述べました。
この中国の気球問題は、米中関係に何をもたらすでしょうか? これまでの経緯をまとめます。アメリカ国防総省の高官によりますと、先月末アラスカ上空で探知された中国のものとみられる気球は、形状や推進機能があることなどから「偵察目的」と断定し、飛行ルートを追跡してきました。気球がカナダ上空を通過して、ふたたびアメリカ上空に侵入したことで緊張は高まります。西部モンタナ州の空軍基地の周辺にはICBM=大陸間弾道ミサイルのサイロがあることから、アメリカ側は警戒態勢を強化しました。中国が「気象観測用の民間の気球が迷い込んだことを遺憾に思う」という見解を示したのに対し、アメリカ側は、バイデン政権の発足以来、初めてとなるはずだったブリンケン国務長官による中国訪問は延期すると発表。過去数年間で複数回こうした中国の気球をアメリカ上空で探知していたことも明らかにし、「落下物による被害を最小限にするため」として、気球が南部サウスカロライナ沖の大西洋上空に達したところで、F22戦闘機の空対空ミサイルで撃墜したのです。
アメリカ側は、偵察気球による領空への侵入は、「主権の侵害で明白な国際法違反だ」として、落下物を回収し、詳しい分析を急ぐとしています。実は、東西冷戦下の1960年、似たようなケースがありました。アメリカ軍のU2偵察機がソビエト上空で撃墜され、アメリカ側は当初「気象観測機だ」と主張しましたが、脱出したパイロットがソビエト側に拘束され、いわば“動かぬ証拠”を突きつけられたことで、軍事目的の偵察飛行だったことを認めざるを得ませんでした。
今回の気球問題で、アメリカは今のところ、中国との全面対決に発展することは避けたいという意図がうかがえます。米中が互いに関係改善を模索していたさなかの出来事だったからです。ただ、中国は、気球の撃墜で態度を硬化させて、落下物の返還を求め、アメリカによる電話での国防相会談の呼びかけも拒絶したということです。この気球問題にとどまらず、偶発的な衝突を避けるためにも、対話のチャンネルを確保できるのか?米中関係は、なお課題が残ります。
さて、バイデン大統領は、演説を通して、超党派での協力を訴えましたが、ねじれ議会への対応の中で、ほぼ唯一、債務上限の問題だけは、攻撃的な口調もためらいませんでした。
アメリカは、政府が国債発行などで借金をする上限を予め議会が定めています。共和党の保守強硬派は、財政規律を重視してバイデン政権による巨額の財政支出を批判し、歳出削減を強く求めています。このため、マッカーシー下院議長は、バイデン大統領に対し、債務上限を引き上げに応じるためには、歳出削減が条件になるとしています。もし債務上限の引き上げに議会が応じなければ、アメリカの国債はデフォルト=債務不履行となり、最悪の場合、政府機能は閉鎖を余儀なくされ、経済は大混乱に陥るおそれもあるのです。この問題について、バイデン大統領は、演説の中で「一部の共和党議員は経済を人質に取ろうとしている」と批判し、歳出削減と債務上限の引き上げは、それぞれ切り離して話しあうべきだという考えを示しました。双方の立場はかみあわず、調整の行方が心配です。
この歳出削減と債務上限の引き上げを乗り切ることが、バイデン大統領にとって、当面の課題です。これまで民主党は、共和党が求める社会福祉費などの削減には応じない代わりに、共和党が重視する国防支出の増額を受け入れることで、ひとまず債務上限の引き上げに同意を取り付けてきました。ところが、共和党は、もはや懐柔策には乗ってこないかも知れません。
いま共和党で来年の大統領選挙に立候補を正式に表明しているのはトランプ前大統領ただひとりです。トランプ氏は、かつて国防支出の大幅な増額を求めたこともありますが、いまはライバルとの違いを際立たせるため、自分は大統領在任中、新たな戦争を一つも起こさなかったとして、いわばタカ派の中の唯一のハト派だと主張しています。
共和党に影響力を持つ保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」も、これまで国防支出は削減対象にはならない、いわば“聖域”と位置づけてきましたが、累積債務の拡大に伴って、最近は無駄をなくすことで削減も検討するよう提言しています。
共和党の一部には、ウクライナへの武器供与でも、いわゆる“支援疲れ”の兆候がみられ、アメリカの世論はますます内向きになる傾向もあります。国際秩序の維持にアメリカはどこまでリーダーシップを発揮できるのか?国防支出のあり方は、来年の大統領選挙に向けた焦点のひとつになりそうです。
では、バイデン大統領は今後、議会とどう向き合うでしょうか?いまのバイデン氏と同様に、民主党の近年2人の大統領も、就任当初は上下両院で民主党が多数派を握っていましたが、1期目の中間選挙で共和党に敗北を喫し“ねじれ議会”に直面しました。就任2年目の平均支持率は、3人とも40%台で、あまり大きな差はありません。ただ、クリントン氏もオバマ氏も、一般教書演説では、敢えて中道寄りの政策を訴えて、共和党に歩みよる姿勢を打ち出しました。これに対して、バイデン大統領は、今回の演説で、超党派での協力を呼びかけながらも、自ら歩み寄る姿勢は限定的でした。このため、大統領の思わくとは裏腹に、党派対立は、むしろ先鋭化するかも知れません。
一般教書演説を終えたバイデン大統領は、激戦州の中西部ウィスコンシンや南部フロリダを遊説し、支持固めに着手することにしています。ねじれ議会に直面し、内政でも外交でもそれぞれ難題を抱えるバイデン大統領。就任3年目の政権運営は、ますます厳しい前途が待ち構えているようです。
●岸田首相、LGBT法案に前向き 立民の自公批判に反論―衆院予算委 2/8
岸田文雄首相は8日午後の衆院予算委員会で、LGBTなど性的少数者に対する理解増進法案の早期成立を図ることに前向きな考えを示した。「自民党でも提出に向けた準備を進めることを確認している。議論が進むことを見守り、対応を考えていかなければならない」と述べた。立憲民主党の岡本章子氏への答弁。
法案は国民の理解促進に向けて基本計画策定を政府に義務付ける内容。超党派の議員連盟が2021年5月にまとめたが、自民党保守系議員の反発で国会提出に至らなかった。
首相は選択的夫婦別姓制度については「議論が広がることで、国民の理解や議論も進む。それをしっかり受け止め、政府として判断したい」と語った。
自民、公明両党が政権に復帰した12年末以降の政策を立民が「失われた10年」と批判していることに対し、首相は「全て失われてしまった、というのはミスリードではないか」と反論した。立民の大西健介氏への答弁。立民は旧民主党政権が掲げた所得制限のない「子ども手当」などの政策を継続・導入していた場合の効果を検証している。
●岸田首相、同性婚で「社会が変わってしまう」発言 衆院・予算委 2/8
国会では2月8日、衆院予算委員会の集中審議が開かれた。審議では性的マイノリティや同性婚に関する差別発言で荒井勝喜・前首相秘書官を更迭されたことをめぐり、野党側が岸田文雄首相に同性婚制度に対する見解をただした。
岸田首相は1日の衆院予算委員会における、同性婚の法制化をめぐる答弁の中で「極めて慎重に検討すべき課題」「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせた上で判断することが大事」などと発言した。
それから2日後の2月3日夜、毎日新聞によると荒井氏は首相官邸のオフレコ前提の取材で「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」などと発言。「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」との趣旨の言及もあったという。
発言が報じられると、荒井氏は発言を撤回・謝罪。岸田首相は荒井氏を更迭した。
署名サイト「change.org」では岸田政権に対し、LGBTQの人権を守る法整備を求めるオンライ署名活動が5日夜から始まり、8日午後6時過ぎの時点で4万4000人以上が賛同している。
こうした経緯から、野党側は国会で岸田首相の性的マイノリティや同性婚に対する人権意識を問うている。
岸田首相「ネガティブな発言を申し上げたつもりはない」
2月8日の衆院予算委員会の集中審議では、岡本章子氏(立憲)が1日の衆院予算委での首相発言について質問した。
岡本氏は「当事者からは非常にネガティブな表現として受け止められている。この点も謝罪と撤回を求めたい」と、首相を追及した。
これに対し岸田首相は、まず荒井前秘書官の発言について「不当な差別と受け取られても仕方ないものであり、政府の方針とは全く相容れず、言語道断であり、不快な思いをさせてしまった方々にお詫びを申し上げなければならない」と謝罪した。
その上で、同性婚制度の導入をめぐる「(同性婚を認めると)社会が変わってしまう」との自身の発言は「国民に幅広く関わる問題であるという認識のもとに“社会が変わる”ということを申し上げた」「議論まで否定しているとか、決してネガティブなことを言っているのではない」と釈明した。
該当する岡本氏の質問と岸田首相の答弁の概要は以下の通り。

岸田首相: 同性婚制度の導入については国民生活の基本に関わる問題であり、国民一人ひとりの家族観とも密接に関わるものであり、その意味で全ての国民に幅広く関わる問題であるという認識のもとに「社会が変わる」ということを申し上げた。これは決してネガティブなことを言っているのではなくして、もとより議論を否定しているものではない。こうした問題であるからして、議論が必要だと申し上げている。国民各層の意見、国会における議論、あるいは同性婚に関する訴訟の動向、また地方自治体におけるパートナーシップ制度の導入、こうした運用の状況を注視していく必要がある。こうした慎重な検討が必要、議論が必要であるという意味で申し上げた。いま言った意味で社会が変わると申し上げたものであり、議論まで否定しているとか、ネガティブな発言を申し上げたつもりはない。
岡本氏: G7の中でLGBT(の差別禁止法)と同性婚の法制化を認めていないのは日本だけ。先日のやりとりの中で「変わってしまう」という言葉は岸田首相ご自身の言葉。あえて重ねておっしゃった真意を聞いている。
岸田首相: 国民生活の基本に関わる問題であり、国民一人ひとりの家族観とも密接に関わるものですから、こうした制度を導入することになると全ての国民に幅広く関わる問題であるということで「社会が変わる」ということを申し上げた。変わってしまう、変わることになる、だから議論が必要であるとことを申し上げたのであり、私自身がこうした議論を否定しているとか、そういった意味ではないということはご理解いただきたい。こうした同性婚ということについて、ぜひ幅広く議論をしていくことが重要だということは国民の皆さんにしっかりとご理解をいただき、この問題についてどのように考えるか、国民全体で考えていきたいと強く思っている。
岡本氏: 「変わってしまう」と言い直した点は当事者の方々からは重く受け止められている。総理自身はそういう意味はなかったとのこと。議論を前に進めていく決意を示されているということでよろしいか。
岸田首相: 私の表現については、家族間とも密接に関わる、国民に幅広く関わる課題であるということを申し上げたかったということ。この問題について、国民各層の意見、もちろん大事です。国会における議論、もちろん大事です。そして今現在、同性婚に関する訴訟がおこなわれている。こういった動向。さらには地方自治体においてパートナーシップ制度の導入、こういったものが行われている。こうした状況も注視した上で国民幅広く考えていくことが重要である。このように認識している。
岡本氏: 自治体でパートナーシップ制度を導入しているところは増えている。岸田総理の地元・広島市、ここ東京都でも入っている。人口カバー率は65%になっている。当事者の方で喜ぶ声は聞いているが、社会が変わってしまって混乱、困っているという発言は聞こえておりません。G7では日本だけが同性婚、LGBTQの差別禁止法、夫婦別姓、何一つ法制化されていない。LGBT理解増進法案は超党派議連でやってきたが、残念ながら自民党さんの総務会預かりになっていた。LGBT理解増進法は前に進める法律を作っていく覚悟はおありか。
( 編注・解説:LGBT理解増進法案は2021年に超党派議連が成立を目指していたが、自民党内の保守系議員の反対で国会提出を断念していた。一転、今回の荒井前秘書官による差別発言を受けて、自民党の茂木敏充幹事長、萩生田光一政調会長、遠藤利明総務会長は法案提出を前向きに検討することで一致。茂木幹事長は2月6日の会見で、LGBT理解増進法案の提出に向けて準備を進めていく方針を明らかにした。)
岸田首相: 自民党においても政調の性的マイノリティーに関する特命委員会が中心となって法案を検討してきたと承知している。議員立法の法案であり、自民党においても引き続き提出に向けた準備を進めていくことを確認している。政府としては議員立法の動きを尊重しつつ、見守っていきたい。
岡本氏: G7(G7広島サミット)が開かれる際にはLGBTQの当事者の閣僚、当事者やアライも当然いる。差別があってはならない。LGBTQの方々に対して法律をつくることで日本の態度を示すことになる。改めて決意を。
岸田首相: 各国を取り巻く環境はさまざまで、単純に比較することは難しいと思うが、日本以外のG7諸国は何らかの形の同性婚制度またはパートナーシップ制度を有していると承知している。この課題についての整備は、先程申し上げたように議員立法として議論が進んでいる。自民党においても議論を進めていくことを確認している。ぜひこうした議論が進むことを政府として見守り、対応を考えていかなければならない。
岡本氏: スケジュール的にはG7開催前に実効があがる判断はあるか。各国あるというが、先進国に置いては世界標準だと思う。日本は周回遅れ。議長国としてスケジュールを示して判断を。
岸田首相: この議論については、さまざまな議論の結果、議員立法で法律について考える。こうしたことで議論が続けられている。こうした取り組みは尊重されなければならないし、自民党も議論を引き続き法律の提出に向けて準備を進めてもらっている。
●宗教法人法を問う 反社支配なら解散命令も 衆院予算委 2/8
宗教法人法に暴力団排除規定がなく、福岡や兵庫など9県が国に規定の追加を要望している問題に絡み、永岡桂子文部科学相は8日の衆院予算委員会で、暴力団といった反社会的勢力が宗教法人を売買などを通じて支配する恐れがある場合、宗教法人法81条に基づき解散命令の請求を検討することを明らかにした。
立憲民主党の渡辺創議員の質問に答えた。
同法81条1項5号は、設立や合併の認証から1年以上が経過後、宗教団体の要件を欠いていると判明した法人に対し、国や都道府県などの請求に基づき裁判所が解散を命令できると規定している。ただ、この規定への抵触を理由に解散命令が出された例はない。
渡辺氏は、暴力団などのメンバーが宗教法人の役員に就いたケースへの対応について質問。これに対し、永岡氏は「(反社会勢力などに)宗教法人格が悪用される場合には、法人の宗教団体性に疑義が生じるため、(81条1項5号に定める)解散命令の請求も視野に入れる」と述べた。
また、1日の衆院予算委では、宗教法人が毎年提出すべき報告書類を巡り、文化庁が令和元年と2年分の未提出法人に対し、新型コロナウイルス禍を理由に、提出の督促や罰則である過料の手続きをしていなかったことが判明していた。改めて見解を問われた岸田文雄首相は「そしりを招いたことは、重く受け止めなければならない。督促や過料は法律に基づき、徹底して行うことが重要と認識している」と述べた。
●安倍元首相回顧録で森友問題は「財務省の策略の可能性ゼロではない」 2/8
8日の衆院予算委員会で、昨年死去した安倍晋三元首相の回顧録がこの日発売されたことを受け、財務省との関係に関する記載について野党側が取り上げるひと幕があった。
立憲民主党の大西健介衆院議員は、第2次安倍政権を大きく揺るがすスキャンダルとなった森友学園問題を振り返ったくだりで、安倍氏が「私はひそかに疑っているのですが、森友学園の国有地売却問題は私の足もとをすくうための財務省の策略の可能性がゼロではない」「財務省は当初から森友との取引が深刻な問題と分かっていたはずです。でも私のもとには土地取引の交渉記録など資料は届けられなかった」などと振り返っていると指摘。財務省に事実関係をただした。
鈴木俊一財務相は「故意か故意ではないか別として、資料は届けていなかったようだ」と、資料を届けなかったことを認めた。また、この背景に「安倍おろし」の意図があったのか問われると、「安倍総理が、何をもって『ひそかに疑っている』のか、私が臆測で申し上げるのは適当ではない。コメントのしようがありません」と、述べるしかなかった。
第2次安倍政権で外相を務めた岸田文雄首相は、自身の在任中に財務省による「安倍おろし」を感じたことはあったか問われ「感じたことはない」と述べた。 その上で、財務省との関係については「内閣として、財務大臣のもと、財務省をコントロールして内閣の政策目標を達成するために努力するのがあるべき姿。財務省にも、内閣の一部として責任をはたしてもらうべく、政治としてコントロール、リードしていく責任があると考えている」と述べた。
●選択的夫婦別姓について「G7主催国としてグローバルスタンダートへ」 2/8
衆院予算委員会で2月8日、集中審議が行われ、大西健介衆院議員が(1)選択的夫婦別姓、(2)児童手当等の所得制限、(3)子育て支援――等を質問しました。
(1)選択的夫婦別姓
2002年「諸君」に掲載された「くたばれ夫婦別姓―猫なで声の男女平等にだまされるなー」高市早苗内閣府大臣、山谷えり子参院議員等の鼎談記の中の、高市大臣の「(選択的夫婦別姓の)狙いは社会の秩序や家族の絆を破壊する政策」との一文を取り上げ、岸田総理の見解を求めました。
岸田総理は、「さまざまな議論が今日まで行われてきた。党内にも前向きな議連もある。その一つ一つについて判断することは控える。議論は国民の理解につながり重要」と答えました。
大西議員が「G7主催の我が国と世界標準との比較」を求めると、岸田総理は、「G7は日本以外は選択的夫婦別別制度を採用している」と答えました。
(2)児童手当等の所得制限
大西議員は、過去の後藤内閣府特命担当大臣の発信に関連し、「所得制限なしの子ども手当はばらまきで社会主義と考えているか」と問いました。後藤大臣は「財源の問題や待機児童対策、喫緊の子育て対策がある。より必要性の高い方に支援を集中すべきと考えて発言をした」と述べました。
(3)子育て支援等
大西議員は、子育て支援に関して、「所得制限の撤廃と同時により経済的に厳しい世帯への増額等両方やるべきだ」と提案しました。
岸田総理は「まさに子ども政策担当大臣のもとで、現在の状況の中で求められる政策は何か。整理し、具体化の作業を行っている。ご指摘についてもどうするか、政府として考えを整理し明らかにしていく」と述べました。
大西議員は、時期的に子どもたちの卒業や入学を控えていることを踏まえ「低所得の子育て世帯に対して、予備費を活用し特別給付金をもう一度支給できないか」と提案しました。
岸田総理は「既に様々な支援を行っている。特にさらにお困りの世帯があれば政治として焦点を当てていく」と述べ、具体的な話はありませんでした。

 

●「岸田総理がこの国を社会主義国家にする」 日本を襲う過酷な現実… 2/9
空疎なキャッチフレーズだけを並べ、中身が分からない “後出し政権” と揶揄(やゆ)される岸田文雄政権。年頭に打ち出した「異次元の少子化対策」も、具体的な政策は後回しで財源も不明とあって非難囂々(ごうごう)だ。はたして、岸田首相は一体、何をどうやってやろうとしているのか。
「メニューは出したが料理が分からない」と伊吹文明元衆院議長
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に挑戦すると聞き、いまさら何を言うのかと首をかしげた人は多いだろう。耳目を集めるフレーズを唱えるものの、机に並べるメニューは経済的支援の強化やサービス拡充、働き方改革という従来の3本柱に過ぎないからだ。例にならって子ども関連予算も「倍増」するというが、その財源すら示さない新たなリーダーシップ像を見せている。だが、首相が繰り返す「新しい資本主義」とは結局のところ「社会主義」であるのだと考えれば合点がいくというものだ。新自由主義からの脱却を掲げる岸田政権の “護送船団方式” によって、むしろ日本の少子化は進行するように見える。
「『岸田レストラン』はメニューを出したんだけど、どういう料理なのかよく分からない」
1月26日、自民党の二階派会合でこう苦言を呈した伊吹文明元衆院議長に共感する人は少なくないだろう。岸田首相は昨年末、防衛費を今後5年間でGDP(国内総生産)比2%に倍増させることに伴い「将来世代に先送りすることなく、今を生きる我々の責任で対応すべきものだ」として、法人税や所得税、たばこ税の3税を増税する方針を示した。これに伊吹氏は「何をどう積み上げたら2倍になるのかという話をメニューとして教えてもらわないと」「それをせずに『料金はこういう形でいただきます』というのは理解が難しいのではないか」と指摘している。
伊吹流の独特な言い回しと言えるが、要するに岸田政権はスローガンやフレーズと「数字」は掲げるものの、メニューの「中身」は後にならない限り分からない “後出し政権” であるということだ。首相による育児休業中のリスキリング(学び直し)支援発言や、長男で首相秘書官を務める翔太郎氏の “公用車観光” 報道などを見ても、コロナ禍と物価高で苦しむ国民の生活や思いを理解しているようには見えない。
消費増税回避なら年金や医療、介護の保険料を子ども関連予算に転用か
だが、首相が唱える「新しい資本主義」の真髄は、言葉を換えた「社会主義」にあると考えれば胸にストンと落ちる。伝統的にリベラル色が濃い派閥「宏池会」を率いているとはいえ、さすがに「社会主義とまでは…」と見る向きもあるだろう。ただ、物価高に対抗する手段として「官製賃上げ」に頼り、金融所得課税の強化などを打ち出す姿勢などを見ても、歴代の自民党政権とは違う “異質性” を感じざるを得ないのだ。経済を成長させる道筋を明確に描かず「分配」を声高に訴えてきた岸田首相の真髄は、そこにあるのではないか。
では、どのように首相は「異次元の少子化対策」に挑戦するつもりなのか。いつものように「中身」は後にならなければ分からないのだが、首相は 1児童手当など経済的支援の強化 2幼児・保育サービスなどの拡充 3働き方改革の推進――の3つが柱になるとしている。新たな会議を設置して小倉将信少子化担当相に3月末までに「たたき台」を練らせ、6月末までに子ども関連予算の倍増に向けた「大枠」を示すという。
首相が好む「倍増」とするためには、最低5兆円規模の財源が必要だ。4月発足の「こども家庭庁」の来年度予算案は4兆8000億円であり、「倍増」のための安定財源を容易に見つけられる規模とは言えない。この点、首相に近い自民党の甘利明前幹事長は、将来的に消費税率の引き上げが検討対象になると受け取られる発言をしたが、首相側近の木原誠二官房副長官は1月22日のフジテレビ番組で消費税増税の可能性を否定した上で「まず中身を決める。財源論はあとだ」と語っている。
安定財源の役割を果たすのは法人税、所得税、消費税の基幹3税となるが、防衛費大幅増に伴い法人税と所得税は増税方針が決まっている。残っているのは消費税だけであり、将来的な消費税率の引き上げを否定した政府高官発言を信じることはできないのだが、仮に消費税増税を回避したとしても、残念ながら国民負担は高まる可能性が高いと言える。
その理由は、首相が1月23日の施政方針演説で「各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など様々な工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくのか考えていく」と述べているからだ。念頭にあるのは年金や医療、介護といった社会保険から拠出する基金方式であり、「社会全体」という言葉に見られるように、本来は保険給付事業に充てられるはずの保険料を子ども関連予算に “転用” する形となる。
地方自治体の創意工夫を台無しにする全国一律「金太郎飴」政策
国民への増税を回避できたとしても、上昇が止まらない保険料負担がさらに増加することになれば負担増は同じだ。「増税」が「保険料負担増」に置き換わっただけになる。1月30日の衆院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也幹事長から次元の異なる少子化対策の意味を問われた首相は、「日本全体として子ども・子育て政策はそれぞれの国民が自分たちの未来に関わるものだという意識を持って取り組む」と答えている。噛み合わなかった議論から見えるのは、やはり歳出改革や国債発行による財源確保ではなく「社会全体」に広く負担してもらおうというものだ。
極めつけは、財源として地方自治体に負担を強いることを念頭に入れていることにある。それは何を意味するのか。例えば、東京都の小池百合子知事は、18歳まで毎月5000円の支給や、保育料の第2子以降の無償化(所得制限なし)など、国に先駆けた独自策を打ち出している。大阪府の吉村洋文知事は、0歳から大学院卒業までの世代で教育の無償化を実現すると唱え、福岡市は来年度から0〜2歳の第2子以降の保育料を完全無償化し、三重県桑名市でも18歳まで児童手当を拡充する方針だ。
だが、岸田政権はこうした自治体の独自色を嫌い、子育て財源の地方負担を検討しているのだ。つまり、東京都や大阪府などから独自政策のための財源を奪い、全国一律の「金太郎飴」方式を採ろうとしている。それぞれの自治体は増税することなく、無駄の削減などによって財源を捻出し、新たな施策を打ち出しているわけだが、岸田政権は「そんなに財源に余裕があるなら国によこせ」と言わんばかりなのである。
財源を奪われる結果、何が起こるかと言えば自治体の創意工夫や活力は失われ、独自政策を打ち出すことはできなくなる。企業や人口が集中する大都市は財源を大きく奪われ、「受益と負担」の話どころではなくなるだろう。まさに新たな「護送船団方式」が生じることになるのだ。
「異次元の少子化対策」によって少子化はますます加速していく
自民党は野党時代に「旧民主党政権の『子ども手当』(児童手当)に所得制限を導入すべきだ」と主張していたが、今や「反省した」として所得制限撤廃を訴える。児童手当の大幅拡充などによって「異次元」を達成したという実績を掲げたい思惑が透けて見えるが、このままいけば自治体から財源を奪うという、従来にはなかった意味での「異次元」に過ぎず、社会主義型の対策が生まれるだけだ。自助、共助、公助の流れに重きを置く本来の自民党政権ともスタンスが異なる。
自治体から国に財源を移して対策を実行するのは、国民からすれば単に予算上の “付け替え” であり、独自政策を打ち出している自治体の住民にとっては、国の「全国一律・金太郎飴」方式によってサービスが低下する可能性もある。こうした点を踏まえれば、岸田首相が唱える「異次元の少子化対策」は不発に終わるように見える。
仮に児童手当が大幅に拡充されたとしても、自治体から奪取した財源では賄い切れずに、保険料が将来上昇していけば、国民負担は増していく。すでに首相は増税プランや物価上昇で企業や人々の負担増を招いており、転用や “付け替え” によって何も変わらないどころか、さらなる負担率上昇で経済的な理由から結婚や出産を控える向きが増えるだろう。そうなれば、「異次元の少子化対策」は絵に描いた餅に終わる。
企業や個人が努力した結果、所得が増えれば税や保険料負担がさらに上がり、自治体が創意工夫で独自色を発揮すれば財源を奪う。昔から「出る杭は打たれる」と言われるが、成長によって新たな富を生み出さず、国内にある「パイ」を奪うだけの一時しのぎでは、国力が衰退するのは自明だ。
岸田首相による「社会主義」が実現すれば、日本から飛び出す人々が増加していくのではないか。首相による「異次元の少子化対策」によって、むしろ我が国の少子化は加速し、国力を取り戻せない危機に向かうように思えてならない。
●岸田政権の正念場 経済再生、安全保障、そして財政難をどう解決するか? 2/9
首相の岸田文雄のもと日本は戦後の安全保障政策の大転換に踏み出す。相手国のミサイル発射拠点をたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有をはじめ、自分の国は自らの手で守るという姿勢への転換である。ただ、防衛費増額の財源を巡っては自民党に増税反対の大合唱が起こり、岸田の政権基盤の弱さが露呈した。将来の国力を左右する少子化対策など2023年に先送りした重要課題も少なくない。岸田にとって正念場の連続となりそうだ。
狂ったシナリオ
政府が外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定し閣議決定した昨年12月16日、首相官邸で記者会見に臨んだ岸田に高揚感はなかった。
「防衛力の抜本強化に向けては1年以上にわたる丁寧なプロセス(で検討)を行ってきた。問題があったとは思っていないが、国民にさまざまな意見や指摘があることをしっかり受け止めなければならない」
1年前の12月6日、岸田は国会での所信表明演説で「国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していく」と訴えていた。
台湾への軍事的圧力を強める中国、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に加え、昨年2月にはロシアがウクライナに侵攻。日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中、防衛力強化に着手した岸田の判断は間違っていなかった。
ただ、予想していなかったことが起きる。昨年夏の参院選に影響が及ぶのを懸念した岸田は「内容、予算、財源を年末に一体的に決める」と具体策への言及を避けていたが、参院選の最中に安倍が銃撃され死去。それをきっかけに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との長年の関係に批判が高まり、岸田政権は夏以降、対応に忙殺された。内閣支持率は低迷し、防衛力強化を落ち着いて検討する余裕はなかったのが実情だ。
そのツケは確実に回ってきた。防衛費と関連経費を合わせた27年度の予算水準を22年度の国内総生産(GDP)比で2%に増額する方針を岸田が決断したのは昨年11月末。さらに12月5日には、23〜27年度の防衛費の総額を43兆円規模にするよう防衛相の浜田靖一と財務相の鈴木俊一に指示した。
約48兆円を見込んだ防衛省と30兆円台半ばに抑えようとした財務省の間を取った形で、確たる根拠があるわけではなかった。
極めつきは岸田が12月8日の政府与党政策懇談会で提起した1兆円の増税方針だ。安倍が生前、防衛費増額に国債を活用すべきだと主張していたこともあって、自民党安倍派は大反発し、一時は政権の存続が危ぶまれる事態にまで発展した。
「5年間は国債も」
自民党政調会長の萩生田光一は政調全体会議を緊急招集。出席議員の7割は増税に反対し、萩生田が「増税するぐらいなら軽減税率をやめればいい」と発言すると大きな拍手が起こった。
消費税の軽減税率による減収額は1兆円程度とされており、これを廃止すれば増税の必要はないというわけだ。消費税率10%への引き上げに伴って導入した経緯から公明党が容認する可能性はなく、「際どい冗談」という受け止めが大半だったが、自民党内で増税への拒否反応はそれほど強かった。
閣僚からも異論が出た。岸田が「所得税について個人の負担が増加するような措置を取らない」との考えを示したことで法人税に注目が集まったが、経済産業相の西村康稔は記者会見で「経済界が投資と賃上げに意欲を示している。このタイミングでの増税には慎重であるべきだ」と表明。
経済安全保障担当相の高市早苗も自身のツイッターで「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信された総理の真意が理解できない」とかみついた。萩生田、西村、高市はいずれも安倍に近い。
岸田の周辺は「党内で騒いでいるのは安倍派ばかり。それに押されて国債発行を認めたら岸田政権は終わる」と警戒を強め、岸田は昨年12月10日の会見でも、将来にわたって防衛力を維持、強化するには安定した財源が不可欠だとして「国債で(賄う)というのは未来の世代に対する責任として取り得ない」と断言した。
国債を否定されたら増税反対派は後に引けなくなる。台湾を訪問中だった萩生田は慌てて岸田に電話で真意を確認した。岸田の答えは明快だった。「27年度以降は国債を使わないという意味だ」
納得した萩生田は同行記者団に「首相はGDP比2%(の防衛費)を確保した後のことをおっしゃったと思う。この5年間はあらゆる選択肢を排除しないで、例えば国債も排除しないで、1日も早く防衛力を高める」と説明した。何のことはない。落としどころはすでに用意されていたのだ。
23年度から5年間で43兆円程度を確保するには、新たに約16兆円が必要になる。このうち約11兆円は歳出改革や決算剰余金など増税以外で確保し、残りの大半は段階的な増税で賄う。それでも不足する約2.5兆円は建設国債などで工面する─。自民党のお家芸のような玉虫色の決着だった。
政府はこれまで建設国債を防衛費には使わないという立場を堅持してきた。今後、自衛隊の施設整備などに約1.6兆円の建設国債を充てるのは大きな方針転換だ。しかし、その是非が政府内で十分に検討された形跡はない。
「負担増」否定に躍起
防衛費増額のための増税対象は法人税、所得税、たばこ税だ。法人税は税率を変えず、本来の税額に4〜4.5%を上乗せする。所得2400万円程度以下の中小企業は対象外。当初は控除額1000万円で調整していたが、自民党が押し返した。政府筋は「いろいろな意見を踏まえて中小企業に配慮した」と語る。
実際に増税になるのは全法人の6%弱とされる。それでも経団連会長の十倉雅和は「企業が社会の一員として負担するのはやぶさかではないが、広く薄くというところでちょっと法人に偏ったかなという感じは正直ある」と記者団に本音を漏らした。
より議論が紛糾したのは所得税だ。岸田は「個人の負担を増加させない」と縛りをかけたにもかかわらず、狙い撃ちしたのは東日本大震災の復興財源として37年末まで所得税に上乗せされている復興特別所得税。
税率を現行の2.1%から1%引き下げ、その1%分で防衛費に充てる付加税を新たに設ける。トータルの税率は変わらないものの被災地では不満が渦巻いた。
復興相の秋葉賢也は岸田に「復興財源を削って防衛費に回すのではないというメッセージを発してほしい」と直訴。岸田も「復興財源の総額は確保する」と応じた。ところが、総額を維持するために出した答えは課税期間の延長だった。
首相官邸幹部は「負担をどう定義するかだ。単年度の所得税の負担は変わらないのだから、首相はうそをついていない」と解説したが、どう言い繕おうとも、延長した分だけ所得税の負担は増え、岸田の当初の方針からは外れる。そのうえ、23年度与党税制改正大綱では延長幅を「復興財源を確保するために必要な長さ」とあいまいにした。
与党大綱では3税の増税時期も「24年以降の適切な時期」と記述し、結論を先送りした。安倍派の閣僚経験者は「ここで政局にするわけにはいかない。いい落としどころだ。安倍さんも生きていたら、防衛費の増額分を全部、国債で賄えなんて言わなかったはずだよ」と胸をなで下ろした。
同派は安倍の後任会長選びを棚上げして分裂を回避するのに精いっぱいで、派閥の総裁候補を一本化できる状況にはない。本気で「岸田降ろし」をするつもりは最初からなかったのだ。
政府が安保関連3文書を改定した直後の昨年12月17、18日の毎日新聞の世論調査で、内閣支持率は発足以降最低の25%に落ち込み、不支持率は69%に上った。防衛費を大幅に増やす政府の方針には「賛成」48%、「反対」41%だったが、財源として増税することに関しては反対(69%)が賛成(23%)を大きく上回った。
両日の共同通信の調査でも、防衛力強化のための増税を「支持する」は30.0%にとどまり、「支持しない」は64.9%だった。
早ければ23年末に増税の是非が政治課題として再浮上する。増税のスケジュールが決まっていない今ですら世論の反発がこれほど強いのだから、24年9月に党総裁選を控えた岸田が、その前に増税に踏み切るのは党内力学的にかなり難しい。増税方針は岸田の衆院解散戦略にも確実に影響する。
子育て支援は後回し
岸田政権が進める「全世代型社会保障」の構築は道半ばだ。出産家庭に計10万円相当を支給し、妊産婦を伴走型で支援する「出産・子育て応援交付金」は、22年度第2次補正予算で23年9月末までの予算を確保した。岸田は24年度以降も交付金を恒久化する方針だが、毎年度1000億円程度を要する財源のめどは立っていない。
これに対し、自民、公明両党から昨年末、防衛費増額を巡る議論の中で、交付金の予算も増税で確保すべきだという案が出たが、岸田は受け入れなかった。政府筋は「防衛費と子育ての両方をさばくエネルギーはなかった」と認めた。子ども政策に関する予算の倍増を掲げる岸田は、6月ごろにまとめる「骨太の方針」で道筋をつけることができるかが問われる。
岸田が一昨年の党総裁選で提起した金融所得課税強化はどうだったか。年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が低下する「1億円の壁」を今回の税制改正で是正するかが注目されたが、年間30億円を超える超富裕層への課税を強化するにとどまった。対象者は国内で約200〜300人。自民党税制調査会長の宮沢洋一は「1億円の壁の問題は認識しているが、マーケットに不測の影響を与えるわけにはいかない」と語った。
4月8日に任期が満了する日銀総裁の黒田東彦の後任人事も焦点になる。これに伴い、政府と日銀が13年1月に結んだ政策協定(アコード)を見直すとの観測が出ている。アコードに盛り込まれた2%の物価上昇目標の扱い次第では、自民党内のアベノミクス推進派が黙っていないだろう。
首相就任から1年余、岸田はなかなか独自カラーを出せていない。岸田派は党内第5派閥に過ぎず、政権運営に大きな制約があるのは事実だが、それに甘んじていたら低空飛行が続く。覚悟の日々が続く。
●武器は戦争を生み出さない 2/9
この記事のタイトルは、戦略研究者として高名なコリン・グレイ氏の1冊の著作から借用しました。
私たちは、戦争で兵器が使われるので、それらを原因と結果で関連づけがちです。武器があるから戦争が起こる、だから武器をなくせば平和に近づくという論法です。残念ながら、これは間違っています。軍事力は国家の安全保障を強化することもあれば、損なうこともあります。軍備は国家を戦争へと導くこともあれば、戦争から守ることもあります。いずれにせよ、武器は戦争の根本原因ではないということです。
『武器は戦争を生み出さない』において、グレイ氏は、軍事力と政策や戦略、戦争との関係について示唆に富む重要な指摘をしています。
第1に、軍備は政策によって形成される戦略により意味が与えられるということです。第2に、武器の調達プロセスには、明確な政策指針で支えられなければなりません。第3に、軍事技術は防衛政策に仕える1つの要因に過ぎないことです。
グレイ氏は軍事テクノロジーが戦争を変えるという見方に批判的です。この点について、私は、軍事技術とくに攻撃・防御バランスが、国家の軍備増強の決定や戦争と平和において重要な役割を果たすと考えています。その理由は後ほど説明します。
第4に、「軍拡競争」の概念は国際安全保障の研究に混乱をもたらすという少し挑発的な指摘です。これは的を射ていると思います。
政策の手段としての武器
グレイ氏の兵器のとらえ方は、カール・フォン・クラウゼビッツに由来する戦略の伝統的ロジックを基本的に受け継いでいます。クラウゼビッツは、戦争と政治の関係について、以下の有名な定義を披露しました。
「戦争は、政治的行為であるばかりでなく、政治の道具であり、彼我両国のあいだの政治交渉の継続であり、政治におけるとは異なる手段を用いてこの政治的交渉を遂行する行為である(『戦争論(上)』1968年)。」
つまり、戦争で行使される軍事力は、あくまでも政治や政策の手段であるということです。逆ではありません。国家がどのような武器を製造・購入して運用するかは、政治によって決まるのです。
グレイは時に「新クラウゼビッツ主義者」と呼ばれます。それは彼が兵器を政策に奉仕するものと位置づけているからでしょう。
蛇足ですが、コリン・グレイ氏がお亡くなりになった時に、ロバート・ジャーヴィス氏が追悼文を書いています。
グレイ氏とジャーヴィス氏は、核戦略について正反対の考え方を持っていました。グレイ氏は核戦争における勝利の追求を説く一方、ジャーヴィス氏は核兵器を実践で使用できるものとして位置づけることに批判的でした。
閑話休題
日本では、武器や兵器というとネガティヴなイメージで捉えられがちです。「軍備拡張競争」という言葉に、肯定的な印象を持つ人はほとんどいないのでしょう。
軍拡を嫌悪した代表的な学者としては坂本義和氏(東京大学)が有名です。彼は軍事力の負の側面をこう強調しています。
「世界の多くの国々が『国家の安全』の名に下に軍備増強を続けてきた。しかし、こうした軍備増強がかえって国家の安全を脅かすという、逆効果を生んできたことは明らかである(『核時代の国際政治』1982年)。」
同じような主張は現在でも繰り返されています。石田淳氏(東京大学)は、日本が反撃能力を保有することで「周辺国との緊張が激化して、さらに軍備競争が加速する『安全保障のジレンマ』から抜け出せなくなる」と発言しています。
遠藤乾氏(東京大学)も似たようなことを言っています。日本が「攻撃力を持てば、相手はそれを上回る攻撃力を持つエスカレーション(事態の深刻化)の階段を上り、際限のない軍拡を誘発する。相手を脅して抑止するというのは幻想だ」ということです。
ここにクラウゼビッツやグレイ氏のような戦略的着想はほとんどありません。坂本氏や石田氏、遠藤氏の発想は、政治指導者が武器を政策の手段としてコントロールするのではなく、軍備が政治をハイジャックして、国家の安全を脅かすという、伝統的な戦略論とは真逆なものです。どうやら、軍備拡張競争は危ないという主張は、東大の「学者」のお家芸のようです。
こうした軍備を徹頭徹尾否定する議論からは、国家の安全保障のために武力を効率的かつ有効的に用いるための研究や教育などは生まれないでしょう。世界から武器がなくなるのであれば、坂本氏や石田氏、遠藤氏のような主張によって、クラウゼビッツの戦略論を葬り去れるのかもしれませんが、国家に公的な安全を提供できないアナーキー(無政府状態)が世界で続く限り、国家は軍事力を保持して、自分の安全を自分で確保しなければなりません。
リアリストのケネス・ウォルツ氏が言うように、「軍事力の脅威によって軍事力の使用を阻止すること、軍事力で軍事力に対抗すること、軍事力の脅威もしくは使用によって国家の政策に影響を与えること、これらが安全保障問題においてこれまでもっとも重要な支配的手段だったのであり、これからもそうあり続ける」ということです(『国際政治の理論』2010年)。
国家が安全保障のために軍備を上手く利用するという考えは、「軍事科学(Military Science)」の発展を促しました。戦争や軍事に対して科学的にアプローチすることは、アメリカでは盛んであり、その結果、目覚ましい学術的成果が生み出されています。
たとえば、マイケル・オハンロン氏(ブルッキングス研究所)による著書『戦争の科学(The Science of War)』2009年)があります。本書は、大学の学部生や大学院生向けに書かれた教科書です。ここで彼は、巨大で複雑なアメリカの軍事組織をどのように扱えばよいかを解説しています。国防の専門家は、いかに軍事予算を使い、優れた戦術を選び、資源を効率よく軍事組織に投入すれば、アメリカの安全保障を確かなものにできるのかを知らなければならないのです。
このような内容の書籍が、日本の大手の大学出版会から刊行されるなど、われわれは全く想像できません。軍事研究における日米の差は太平洋より開いています。
軍備競争と安全保障
複数の国家が安全保障を求めて軍事力を増強すれば、軍備拡張競争が必然的に起こります。軍拡は国家の安全保障ひいては戦争と平和を促進する場合と、阻害する場合があります。それでは、どのような条件の時に、軍備拡張は国家の安全保障に寄与するのでしょうか。どのような条件では、国家の安全保障を損ない、ひいては戦争の可能性を高めてしまうのでしょうか。
この難問に挑んで1つの回答を提出したのが、防御的リアリストのチャールズ・グレーザー氏(ジョージ・ワシントン大学)です。
彼の主張は、ザックリ言うと次の通りです。防御が攻撃より優位性を持つ場合、軍拡は危険ではありません。アメリカが核兵器による確証破壊能力を持ったことは、その安全保障を高めると共に、米ソ関係に「長い平和」をもたらしました。逆に、攻撃が防御より優位性を持つ場合、軍拡は危険です。
アメリカは核弾頭の複数個別誘導弾(MIRV)化を進めて、ソ連の核兵器庫を攻撃できる対兵力戦略を構築しようとしました。アメリカがこの軍事技術を完全に習得できれば、ソ連の多くの核兵器を先制攻撃で破壊できてしまいます。つまり、アメリカはソ連に対して核攻撃で優位に立てるということです。これは核危機において、ソ連が自らの核兵器をアメリカからの先制攻撃で失う前に使用するインセンティヴを高めることにつながります。
その結果、アメリカは避けようとしている核戦争をかえって招いてしまうことになりかねず、そうなると自国の安全保障を決定的に損なうことになります。ですので、攻撃を有利にする軍備拡張は避けるべきなのです。
攻撃優位の安全保障環境では、軍備管理や軍縮が国家安全保障や戦争防止に有効です。例えば、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の弾頭のMIRV化を禁止したSTARTU(第二戦略兵器削減条約)や、相手の核ミサイルを破壊する迎撃ミサイルの配備を原則として禁止して、相互確証破壊(MAD: Mutual Assured Destruction)の状態を安定化させるABM条約で軍拡を止めることが、アメリカにとってもソ連にとっても最適解となります。
なぜならば、米ソともに先制核攻撃から生き残った第二撃能力で、相手に耐え難い損害を与えられるので、報復を招く攻撃のインセンティヴを持たないからです。その結果、米ソは全面戦争を避けるようになり、国家安全保障のみならず平和が達成されるのです。
要するに、攻撃・防御バランスといった要因から構成される国際安全保障環境が、国家にとっての軍備拡張競争の危険性を左右するということです。
防御を有利にした核兵器
核兵器は安全保障環境を防御有利にしました。こうした評価は、ジャーヴィス氏といったアメリカの多くの政治学者が共有しています。ところが、我が国では「核兵器がある世界は平和ではない」というフレーズが広く浸透しているので、核兵器が国家を安全にしたり平和に貢献したりするという考えには、にわかに同意できない人が多いでしょう。
直感的には、地球全体を破壊できる核兵器は恐ろしいものであり、平和に反する不必要で有害な武器だから廃絶しなければならいと思いがちです。しかしながら、熟慮を働かせれば、違う見方ができるでしょう。
核兵器が戦争のコストを極大化したことは、核武装国間での武力による相手への攻撃をあまりに高くつくものにしたのです。
この点について、グレーザー氏は以下のように主張しています。
「核兵器は、防御上の優位性を高める革命を起こしたのである。核の文脈では、報復による抑止が防衛の機能的等価物である。冷戦時代、米ソ両国は、大規模な報復的損害を与えることができる核戦力を、それを弱体化させるために必要な戦力のコストよりも大幅に安く構築することができた。したがって、報復能力が有効な抑止力であると仮定すれば、核兵器は防御に大きな利点をもたらす(Rational Theory of International Politics)。」
これが国際関係研究で有名な「核革命論」の基本的な概念です。核兵器は防御を有利にした結果、それを保有する国家に究極の安全保障を与えたのです。
ところが、軍拡の批判派は、これを拒否します。坂本義和氏は「『核抑止』といった方法を選択することの結果、本来『安全』のためであったはずの政策が、かえって安全を脅かすことになる…この『抑止』の悪循環から激しい核軍拡競争が惹起・加速される」と言うのです。
他方、核革命論を擁護するグレイザー氏は「防御の明確な優位性を考えれば、核軍拡競争は、超大国が一度強力な確証破壊能力を配備すれば尽き果てるのだ」と述べています。
はたして、どちらが正しいのでしょうか。
引用したグラフは、世界の核兵器数を時系列で示したものです。
このデータから分かることは、第1に、核軍拡競争は核武装国間の大規模な戦争を引き起こさなかったということです。戦争の軍拡競争説によれば、複数の国家による軍備の強化は平和や安全を破壊するはずです。しかしながら、米ソは、これだけ激しい核軍拡競争に従事したにもかかわらず、結局、相手を軍事力で攻撃しませんでした。
第2に、核軍拡競争は「へばる」ということです。確かに、アメリカとソ連は、より確実な安全保障を求めて核兵器の増強を行いましたが、核革命は第二撃能力(確証報復能力)を維持できれば、それ以上の核戦力が不要であることを核武装国の指導者に教えたのです。その結果、冷戦の終焉を境にして、米ロは大幅な核軍縮を実行しました。
国家が一度適切な防御体制を構築できれば軍拡は不要です。それでも軍事力の強化を続けてしまうと、自国が攻撃的であるというシグナルを関係国に送ることになり、不要な対抗措置を招きかねません。その結果、自らの安全保障のためには逆効果になります。
軍拡が必要な時
グレーザー氏の軍備拡張の「戦略的選択理論」が優れているのは、国家が軍備を増強すべき条件を明確にしていることです。こうした発想は、軍拡絶対悪説からはでてきません。
第1の条件は、安全保障環境が攻撃の優位性に傾いている場合です。このような環境では、あらゆる国家が軍備拡張競争に参加せざるを得ません。なぜならば、軍備を強化しない国家は、敵国からの攻撃により脆くなるからです。このことを彼は次のように説明しています。
「攻撃と防御のバランスが攻撃に転じると、すべての国が軍備増強に踏み切らざるを得なくなる一方で、攻撃を阻止する能力は低下し、(戦争の)危険な窓ができる確率が高まる。軍拡競争に参加しないことは、競争することより安全保障を低下させ、多くの場合、高い確率で戦争を引き起こすことになる。」
これは国際政治の最も悲劇的な状況です。
第一次世界大戦が勃発する頃、ヨーロッパ主要国は「攻撃崇拝」でした。フランスとロシアに挟まれたドイツは、陸軍力の強化と攻撃的な「シュリーフェン計画」を採用しました。この計画では、ドイツ軍はフランスを迅速に撃破してロシアを迎え撃つことになっており、かなり無理な軍事戦略でした。
グレーザー氏によれば、これはドイツにとって最適の選択ではありませんでした。もしドイツが「防御的ドクトリンをとれば、より大規模な軍隊はフランス攻撃からの防御には不要であり、ドイツ軍のより多くの割合を東方の防御に回すことができ、ロシア軍の継続的な改善はそれほど危険ではなかったであろう」ということです。
ドイツは、第一次大戦の攻撃有利の安全保障環境に軍拡で適応したのですが、肝心な軍事戦略で失敗してしまったということです。
第2の条件は、収奪的な現状打破国が軍備拡張を行いそうな場合です。こうした状況において軍事力の増強を自制することは、国家の安全保障を損ないます。
「もし敵国が軍備を増強することが事実上確実であれば、国家は軍拡競争に一歩遅れをとる危険性を受け入れる理由はほとんどない。敵国の動機は重要な変数である。貪欲な国家は軍事的優位に大きな価値を置くため、それを獲得するために大きなリスクを冒すことを厭わないであろう」ということです。
1930年代に日本は帝国海軍を大幅に強化しました。アメリカの政策立案者は、日本の目指すところが東アジアの支配という野心的なものであることに気づいていましたが、本格的な海軍力の強化に乗り出したのは1940年になってからでした。これは遅すぎる軍拡でした。
日本は、太平洋における圧倒的な海軍力の劣勢に直面する前に、米国を攻撃しなければならないという圧力にさらされて、機会の窓が閉ざされる事態に直面した結果、対米開戦に踏み切ったのです。要するに、アメリカは海軍力の拡張をすべき時にしなかったので、この選択は最適以下の失敗ということです。
政治学者のアレキサンダー・ジョージ氏と外交史化のゴードン・クレイグ氏は、軍事力と外交について、次のように述べています。
「歴史を通じてそうであったように、特定の状況下である種の敵に対しては、軍事力は必要な政策手段であり続けている。とりわけ、外交努力が適当でないかうまくいかない時にはそうである」(『軍事力と現代外交』2009年)。
その通りでしょう。国家は安全保障環境が軍拡を不必要としているときに軍事力を強化すれば、かえって自らの生存を危険にします。逆に、危険な安全保障環境が国家に軍拡を促しているときに自制してしまうと、生き残りを危うくすると共に、避けられた戦争を招きかねません。軍拡競争は戦争と相関していますが、戦争を引き起こすものではありません。むしろ、国家の行動を方向づける安全保障環境こそが軍拡競争を引き起こし、ひいては戦争を引き起こすのです。
現在の日本は、貪欲的な現状打破国である中国と対峙しています。中国は急激な経済成長で獲得した資源を軍事力に投じて、アメリカと対等な競争ができる大国になりました。中国の国防費は、今や日本の防衛費の約6倍です。日本が、太平洋方面に勢力を拡張しようとしている中国との軍拡競争に一歩遅れをとる危険性を受け入れる理由はありません。東アジアの危険な安全保障環境は、日本に防衛力を強化する選択を求めているのです。
武器は戦争を引き起こすから、軍備拡張は絶対悪であるという識者の一面的な偏見は、日本が必要とする軍事力の強化を妨げる結果、その安全保障を低下させるだけでなく、避けられる戦争さえ招きかねません。軍備競争に関する政治研究の成果は、そうした愚かな選択をしないよう、われわれを戒めています。
●「政府・日銀はアベノミクス時代の指針を見直せ」 2/9
2013年3月の就任以来、2年で物価上昇率2.0%実現の目標を掲げ、「異次元緩和」を続けてきた黒田東彦日銀総裁。その背景には、就任直前に第二次安倍政権と日銀との間で取り決められた「共同声明」の存在がある。
デフレからの早期脱却と物価安定下での持続的な経済成長を目指したアベノミクスを実現するため、政府と日銀が果たすべき役割が明記された共同声明だが、 来たる日銀総裁人事を前にその見直しをすべきか否か、議論が活発化している。
令和国民会議(通称:令和臨調)運営幹事を務める平野信行氏(三菱UFJ銀行特別顧問)と翁百合氏((株)日本総合研究所理事長)は、『文藝春秋』3月号に寄稿し、「新たな共同声明」作成の必要性を説きつつ、民間企業の責任を指摘した。
日銀の「独り相撲」で2%は無理
積年の構造改革課題の解決に向け、経済界・労働界・学識者などの有志で発足した令和臨調の共同座長も務める二人は、共同声明の意図には賛同しつつ、異次元緩和についてはこう評価する。
〈この10年というスパンで振り返ってみると、2年という短期間で2.0%の物価上昇率を達成することはそもそも難しかったと思われます。政府は、経済の競争力と成長力の強化、持続的な財政構造の確立を掲げましたが、現在に至るまで実現できていません。安定的な物価上昇は、日銀が独り相撲で達成できるものではないのです〉
一方で、民間企業の問題を無視することはできないという。2012年から16年まで三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)の頭取を務めた平野氏は「自戒しつつ」と述べながら、その問題点を指摘する。
〈日本経済の低迷の責任を政府と日銀だけに押し付けるのは間違っています。根本的な原因は、民間企業が新しいビジネスモデルの構築やイノベーションへの挑戦、そして何よりも投資を怠ってきたことにある。長く銀行の経営に携わってきた平野も自戒しつつ、日本の経営者が過去30年に亘りとってきた事業経営戦略には大きな問題があったと考えています。端的に言えば、日本の経営者は守りに入ってしまったのです〉
政府と日銀は「新たな共同声明」を打ち出すべき
民間企業の新たな投資先の多くが国内ではなく海外に向けられている点についても、率直にこう書いている。
〈平野も国内での事業成長に対して十分な展望を持つことができず、アメリカ、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアの銀行への出資や買収など、グローバル化の流れの中で海外への投資を続けました。もちろんビジネスですから成果が見込める市場へ投資を行ったこと自体、判断は間違ってはいなかったと考えています。しかし、海外と比べると国内で新たなビジネスを創造するための投資は十分だったとはいえません。この傾向は三菱UFJフィナンシャル・グループだけではなく、メーカーも含めた日本の多くのグローバル企業に共通することです。ですから日本の経営者は国内経済の低迷を止める努力を怠ったと自戒を込めて指摘しておきたいと思います〉
その上で平野、翁の両氏は、〈政策連携の開始から既に10年経ち、元々企図していた成果は必ずしも出ていないのですから、民間の提案も参考にして、政府と日銀は新総裁の下で集中的に議論を行い、「新たな共同声明」を打ち出すべき〉と主張する。
今こそ「政府日銀共同声明」の見直しを
2013年に就任した日銀の黒田東彦総裁は、デフレからの早期脱却と持続的な経済成長の実現に向け、異次元の金融緩和を続けてきました。その背景となったのは、総裁就任直前に政府と日銀の間で取り決められた「共同声明(いわゆるアコード)」です。
この共同声明は、政府は構造改革などの成長戦略によって経済の再生を図るとともに、持続可能な財政構造を確立すること、日銀は金融緩和によって物価上昇率2.0%の早期実現を目指すことなどが明記され、アベノミクスの三本の矢を掲げた第二次安倍政権と日銀の連携強化を示す、異例のものでした。
それから約10年。現状はというと、潜在成長率は上がらず、賃金も伸び悩んでいる。日本の社会には相変わらず閉塞感が漂い、若い世代も含め、多くの人が将来に希望を持てない状態が続いています。
平野と翁が運営幹事を務める「令和国民会議(通称:令和臨調)」は、世代や党派を超えて取り組むべき積年の構造改革課題の解決に向け、経済界・労働界・学識者などの有志で発足しました。私たち二人は、令和臨調の第二部会「財政・社会保障」で共同座長も務めています。
過去には民間政治臨調(1992年)、21世紀臨調(1999年)が組織され、政治改革、地方分権改革、行政改革、司法制度改革などを後押しした歴史がありますが、令和臨調も民間組織であることの特性を生かし、政界・官界をはじめ国民各界や若い世代に働きかけを始めようとしています。
共同声明公表から10年が経った今、令和臨調は、そこで謳われた政策連携の総点検と、政府・日銀の「新たな共同声明」作成の必要性を感じています。 ・・・
●予算審議が白熱する“子育て支援” 「児童手当はコスパ悪い ・・・」 2/9
現在国会ではお金の使い方について、いろいろな議論がされている。その中で、岸田総理が掲げる「異次元の少子化対策」「子ども予算倍増」について、推進すべき政策なのか、予算を倍増するにしてもどこにお金をあてるべきなのか、これらの点についてみていく。
「児童手当」の拡充 それで出産しやすくなる?
――少子化について経済学の観点から研究している、東京大学大学院経済学研究科・山口慎太郎教授に伺った。
「児童手当の所得制限撤廃」については各政党賛成の方向だが、これについても山口教授に伺った。まず大前提として、山口教授は「子育て支援は、社会全体にとって利益」になることだと言うす。「会保障財源確保や労働所得増加につながるから、とのことだ。
山口慎太郎教授: 子育て支援には大きく2つの役割があると思います。一つはよく言われる少子化解消、出生率の引き上げです。これは長期的に、社会保障財政の改善につながっていくわけです。同時にもう一つ、子供たちの健全な発達に寄与するという大事な役割もあります。子供が発達するというのは素晴らしいことです。そこにとどまらず、長期的に子供が大人になってから、いい仕事に就ける。例えば非正規ではなく、正規で仕事に就けることになるとか。子育て支援によって、高校卒業率が上がる、大学進学率が上がるといった形で、本人の労働所得の増加につながるということが分かっています。労働所得が上がると、将来的に政府の税収が増えるわけですし、社会福祉への依存も低下する。ですので国家の財政にプラスの影響を及ぼすと長期的に期待できます。
――お金がかかる政策ではあるが、「子育て支援」をすることによって、子供たちが将来たくさん収入を得られるようになり、貧困対策になる。そして成長した子供たちが税金を納めれば国も潤う。社会保障もうまくまわるという。日本の子育て支援にかけるお金だが、GDPに対して1.79%となっている。先進国の中でかなり低い水準。トップクラスのフランスの約半分だ。これを倍増することができれば「いい投資」となるのか。
山口慎太郎教授: その通り(いい投資)です。子育て支援にかけるお金はすごい金額ではあるのですけれど、消えて無くなってしまうものではなくて、将来の日本を豊かにするための投資だと捉えるべきです
「現金給付」はコスパが悪い
――ただ観点を“少子化対策”に絞ったときに、現金給付はコストパフォーマンスが悪いと山口教授はみていて「女性の負担軽減を狙い撃ちすべし!」と主張する。現金給付は児童手当を含むものとなるが、現金給付はコスパが悪いということは、お金を配ってもそんなに子供は増えないということなのか?
山口慎太郎教授: 増えるには増えるのですが、そんなに大きくは増えない。児童手当のような現金給付は世界中の先進国で行われていまして、いろいろな研究結果が出ていて、大体どれくらい増えるのか、先進国に共通した数字がある程度分かっています。それによると、現金給付を10%増やすと、出生率が1〜2%上がるということが分かっています。日本の場合で言うと、国全体で10%増やすとすると、1300億円くらいの財政支出になります。その結果、今1.3である出生率が、1.31〜1.32に上がるという規模感になります
――1千億円以上かけて現在の出生率1.3が1〜2%上昇する、つまり0.013〜0.026増えることになるという。政策としてはあまり筋が良くないことになるのか?
山口慎太郎教授: そうです。支援自体はいいことだと思いますが、他のお金の使い道のほうがいいかもしれません
――日本の児童手当の現状をあらためて整理すると、年齢ごとに金額が違っていて、さらに所得制限があります。この所得制限をなくしていこうと議論がされているが、ある程度高い収入がある人の児童手当を増やしても、効果はないとみられるか?
山口慎太郎教授: そうですね。出生率ということで考えると、あまり効果は期待しない方がいいと思います。ですが、子育て支援を国がしっかり応援していくのだというメッセージになるでしょう。あるいは低所得の世帯に対して、今お金がなくて困っている家庭を支える意味はあると思います
――福祉の観点や、「子供は社会全体で育てるのだ」というメッセージ性については一定の評価がされるが、少子化対策としてこのお金の使い方は根拠がないという。ジャーナリストの柳澤秀夫さんは「手当や現金給付というとき、たいがいそのあとに選挙が控えている。今年4月には統一地方選挙がある。お金は誰でももらってうれしいもの。本当に少子化対策を意識したものなのかどうか。目先の人気を集めるための手段に使われているのではないかと勘繰りたくなる」と言う。
「もう一人子供を」とはならない理屈
――理屈として、手元のお金が増えても、「もう一人子供を産もうか」とはならないのはなぜなのか。
山口慎太郎教授: 日本も含めて、多くの先進国で共通しているのですが、お金が増えた場合にどういうふうに使うかというと、子供一人当たりの教育費をかける方向に使ってしまうのです。習い事ですとか、塾ですとか。そういったことにお金を使って、一人の子供を育てるのにかかるお金がどんどん増えるのだけれど、増えたお金で子供を増やそうということにはなかなかなっていないですね
――現在の日本の児童手当は世界的に見て少ないのか?子供を希望通りに産めない人にアンケートを取ったときに、一番多い理由は「お金が足りない」ということなので、十分なお金があったら子供を産む人がいるのではないかと思われる。広く薄く配っても、あまり少子化対策の意味はないというイメージになるのか?
山口慎太郎教授: お金を配るという方法以外にも、必要なサービスを無償で提供する。例えば給食費を無償化するとか、そういうやり方もあると思います
――山口教授は「女性の負担軽減を狙い撃ちすべし」と言い、具体的には保育環境の整備などが女性の負担軽減になり、児童手当よりも有効だとみています。保育園の無償化、利用資格を緩和して保育園に子供を預けやすくするとか、待機児童を解消するといったことですね。この辺が効果的だというのはどういうことなのでしょう。
山口慎太郎教授: 児童手当よりも、女性の負担を減らすことが有効だと最近の経済学の研究で分かってきました。夫婦間で子供を持つことについて、例えば夫は子供を持ちたいと思っていても、妻が反対する場合が少なくないことが分かってきています。なぜ妻が反対するのかというと、子供を持ったら楽しいことがいっぱいあるかもしれないけれど、その後の育ての負担は私に来るじゃない。ということでなかなか子供を持つことに前向きにならない女性が増えているということが、日本も含めて先進国であるのですね。となると女性の子育て負担を狙い撃ちする形で減らすことが重要ではないかとしきりに言われています。その目的を達成するためには、待機児童が残っている地域では待機児童を解消していく。待機児童がいなくても、保育園の使い勝手が悪い場合には使い勝手を上げる。共働き家庭でなくても、例えば専業主婦でも週1日〜半日は保育園を使えるようにするいったことで、子育て負担を下げていくのが非常に重要だと考えています。
男性の家事・育児負担率と出生率には相関関係が…
――「男性の育休」の推進もそこにつながっていくということだ。男性の家事・育児負担率と出生率の関係について、山口教授からデータを提供していただいた。男性の家事・育児負担率が高い国ほど、出生率が高くなっていると。日本は男性の家事・育児負担率がとても低く驚くほどだ。
山口慎太郎教授: 相関関係ははっきりしています。いろいろな細かい調査もしていまして、子供が生まれないご家庭でどんなことが起こっているのかみていくと、やはり夫が家事・育児をしていないということが分かっています。因果関係がある可能性が高いです
岸田総理から「リスキリング(学び直し)」発言があったが…
――そんな中で岸田総理から「育児中でもリスキリング(学び直し)をしっかり後押しする」という発言があった。ですが我々の取材では、それは現実的ではないといった声が聞こえてきた。
男性が家事・育児をどんどんやっていくのが大事な出発点
――山口教授は「育児に余裕がある人はいいが、余裕がない人には無理」、なので「女性の負担軽減を狙い撃ちすべし」と言う
山口慎太郎教授: 日本は先進国の中でも、男女の間で役割分担がかなり強く出ている国です。女性が社会で力を発揮するうえでも、少子化を解消するうえでも、男性がもっと家に入って、家事・育児をどんどんやっていくのが大事な出発点になると思います。
●国債60年償還ルール 防衛費財源巡り見直し議論 2/9
防衛費増額に必要な財源確保に向けた議論が活発だ。焦点となっているのは、不足するとされる年1兆円強をどう捻出するか。岸田文雄政権は増税による国民負担を念頭に置く。一方、与党の自民党内部からは乱暴な増税議論だと反発する声があがり、財政運営の見直しでやりくりが可能だとする代案も示された。国が発行する債券である国債の償還ルールを変更することで不足額をひねり出せるというが、会計方式の変更だけで安全保障の根幹をなす防衛費が生み出せるのか。
政府は令和5年度以降5年間の防衛力整備の総経費として約43兆円を確保するために、9年度以降は年1兆円強を増税で賄う方針。これに自民党の萩生田光一政調会長が、増税なき防衛費増額の実現を模索するため特命委員会を設置して議論を始めたのが、国債の60年償還ルールの見直しだ。
税収などだけでは足りない財源を工面するため、国は国債を発行して国民から資金を集め活用している。国による「借金」にあたるため、国債が満期を迎えたら返済することになる。何年かけて返すかという期間が償還期間だ。
ただ、実際は元本の大部分にあたる金額を新たな国債発行で借り換えている。国債を発行する財務省は、60年かけて元本の全てを返済すると決め償還期間を設定しており、これを「60年償還ルール」と呼ぶ。
道路や橋の平均的な耐久年数が約60年
満期までの期間が10年の国債を600億円発行したとすると、10年後にいったんは全額を返済するが、うち500億円は再び国債を発行して借り換えるので、実際の返済額は100億円で済む。これを6回繰り返せば、60年後に元本はゼロになる。
仮に返済期間を60年から80年に延ばせば、10年ごとに返済する金額は100億円から75億円に減少し、25億円を他の用途に回すことが帳簿上は可能になる。
もともと60年という期間設定は、政府が公共事業で造った道路や橋の平均的な耐久年数が約60年であることを参考に昭和42年、日本独自の取り組みとして導入された。防衛装備品を含めた他の国有財産へ一律に60年の減価償却期間を設けることに科学的な根拠はない。自己設定した日本独特のルールなので、見直しは十分に可能だ。
現在、毎年の予算編成では、国債残高の60分の1の額を一般会計から「債務償還費」として国債整理基金特別会計に繰り入れている。同特会は借金を返済するための貯金箱の役割を果たす。令和5年度予算案での債務償還費は16兆7561億円だった。
仮に償還期間を80年に延長した場合、年間の償還費が減り、年約4兆円を捻出できるというのが、ルール見直しを訴える立場の人たちの論拠だ。自民党の若手議員らが中心の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」で共同代表を務める谷川とむ衆院議員は「増税しなくても防衛力の抜本的強化は可能だ」と訴える。
否定的な意見も
とはいえ、償還ルールの見直しによって新たな財源が生まれるわけではない。自民党内からも、「国民の負担が魔法のように消えてなくなるわけでは全くない」(石破茂元幹事長)と否定的な意見があがる。理由は、債務償還費が圧縮されれば、一般会計の赤字国債は表面的には減るものの、「全体の国債発行額に変わりはない」(財務省関係者)からだ。債務償還費を防衛費などの追加的な政策的経費に充てれば、国債発行額全体は膨らむ。
東京大公共政策大学院の服部孝洋特任講師は、もっとシンプルな観点でルール変更が財源になり得ない理由を説明する。「歳入項目にも債務償還費相当額が計上されている。ルールを見直しても歳入と歳出が同額減ることになるだけだ」
一方、岸田首相は1月25日の衆院本会議の代表質問で「国債発行額が増加することや、市場の信認への影響に留意する必要がある」と述べ、償還ルールの見直しに慎重な姿勢を鮮明にした。財政規律が緩んだとみなされると、金利が急騰する恐れがあるとの意見だ。
償還ルール自体が規律の維持に関わるとの首相の主張に関しては、服部氏は懐疑的な立場だ。「(かつては)国債保有者に安心感を与える側面もあったが、現在は実効的な財政ルールとして機能していると思っている人は少ないのではないか。日本の予算・国債制度を難しくしてしまっている面もあり、維持にこだわる必要はない」と指摘する。
防衛費の捻出と、償還ルールの見直しは、分けて議論する必要がありそうだ。

60年償還ルールのように、国債の償還に充てるために必要な資金を積み立てる制度は「減債制度」と呼ばれるが、日本以外で実際に運用している国はないという。他国では財政規律を維持するための基準を法律などで規定している。
米国では財政悪化に歯止めをかけるため、連邦政府が借金できる上限額が定められている。債務が上限に達した場合には、議会の承認によって上限を引き上げるといった措置が必要だ。承認を得られなければ国債は発行できず、政府資金が枯渇し、公共サービスなどが停止してしまう恐れがある。
ドイツでは、債務にブレーキをかけるため、財政赤字を国内総生産(GDP)の0・35%以内に抑えるルールが導入されている。
●日銀新体制、正常な経済への軟着陸で必要な「4つの変更」 2/9
株式市場は緩和路線を望んでいるが… 超低利状態脱却こそが重要
政府が日本銀行の次期総裁への就任を雨宮正佳副総裁に打診したとの一部の報道を受けて、円安が進み、株価が上昇した。
打診の事実を政府は否定するが、株式市場は、黒田総裁の路線を支えてきた雨宮氏なら日銀の金融緩和路線に大きな変更は生じないと判断し、それが望ましいと反応したわけだ。
しかし株式市場の評価だけで金融政策を決めてよいわけではあるまい。日本経済全体の立場からの政策が必要だ。
金融緩和政策の限界はますます明らかになっている。特に国債市場では、放置し得ない深刻な機能不全が起きている。
これを何とか解決し、これまでの超低金利状態からノーマルな経済への軟着陸を実現することが日銀新体制に課された最重要の課題だ。
金利という経済の基本的変数を大きく変えることには、さまざまな利害が絡む。その実現に向けては大きな困難が予想されるが、多くの障害はあるにしても、日銀新体制は「4つの変更」に取り組むべきだ。
政策の目標を変える必要 物価ではなく、賃金に
第一は、政策目標の変更だ。
現在の日銀の金融政策は、消費者物価の対前年上昇率を2%にすることを目的としているが、この目標を取り下げるべきだ。
このため2013年の政府と日銀のアコードを廃棄する。
このように考える理由は、まず何年経っても、金融政策では物価上昇を実現できないことが分かったからだ。
しかし外生的な要因によっては、22年に起きたように物価上昇率は簡単に目標の2%を超え、4%になってしまった。
日本の消費者物価はこれまでも原油と円安で左右されてきたのであり、金融政策が影響を与えることはなかった。その通りのことが起きたのだ。
より重要なことは、2%の物価上昇という目的が外形的には達成されたにもかかわらず、それによって日本人が豊かになったわけではないことだ。
物価が上昇する半面で賃金が上昇しないために人々の暮らしは困窮することになった。つまり、物価は適切な目的ではないことが分かった。
もし数値目標が必要なのであれば、実質賃金の上昇率を目標にすべきだろう。
ただし、これは日銀の政策だけで達成できるものではない。政府も賃金を自由に操作できるわけではない。
賃金上昇率を決めるのは、企業の生産性(一人当たり付加価値)の動向であり、それを決めるのは技術進歩とビジネスモデルだ。
したがって賃金を目標にするにしても、努力目標として抽象的なものにせざるを得ない。
円安でも貿易赤字は拡大 通貨価値の維持、目標の一つに
これまで円安は日本経済にとって望ましいことだと考えられていた。それに異議を呈する向きは少なかった。しかし、2022年にはこの状況に大きな変化が起きた。
円安になっても、貿易収支は改善せず、むしろ赤字が拡大した。また企業の利益は増えたが、賃金は上がらない。
こうして、円安が日本にとって望ましいものではないことを多くの人が理解するようになった。
円安とは、基本的には日本人の労働の価値が国際的に見て低く評価されることを意味するのだ。
そんなことを喜ぶ国民はおかしい。これまで、日本ではおかしいことがまかり通っていたのだが、やっとこの状態に区切りがついた。
この意識の変化は大変重要だ。円安に対する正しい見方が定着しようとしている今、日銀は、この機会を活用すべきだ。
そして、通貨価値の維持を政策目標の一つとすべきだ。
具体的には、OECDなどが計算する購買力平価に近づけるよう努力する。
ただし、OECDの計算では、2020年、21年に1ドル=105円となっているので、この段階までにするのは容易なことではないが目標として維持する。
これによって日本の国際的な地位が低下することを防ぐのだ。日本の賃金を国際的に高めることで、人材の流出、特に高度専門人材の流出を防ぐ必要がある。
YCC撤廃など政策手段変更を 長期金利を市場の実勢に任せる
政策手段についても変更が必要だ。
異次元金融緩和は、2013年の導入時には国債の購入を政策手段とした。
しかし、16年からこれを転換し、長期金利を直接にコントロールする「イールドカーブコントロール」(YCC)政策を導入した。
だが23年には、YCCの問題点が顕在化した。
日銀が長期金利の上限を頑なに抑えたため、急激な円安が進行し国内物価を高騰させた。またイールドカーブが大きく歪み、国債市場が機能不全に陥って、地方債や社債での資金調達に支障が生じることになった。
こうした事態を踏まえ、YCCを停止する必要がある。
日銀が直接にコントロールするのは、政策金利である短期金利のみとし、それ以外は、マーケットの実勢に任せるべきだ。
政策金利の適切な水準を判断するために、自然利子率の概念を用いることが考えられる。
このためには、経済の潜在成長率の推計が必要だ。これは、政府の経済見通しと整合的なものにする必要がある。
金利が上昇すると、国債費の増加、住宅ローンの金利上昇などの問題が起きるといわれる。しかし、これまでの異常な低金利がおかしかったのだ。
金利引き上げとは、それを正常な状態に戻すことなのだ。
長期金利を不自然に低い水準に抑えることは、経済の生産性を高めることに寄与しない。逆に生産性が低い投資が行われることとなる。
ゾンビ企業の生き残りを助け、マンション価格に見られるようなバブルが起きる。
また日銀は、ETF(指数連動型上場投資信託受益権)の購入を行なっているが、株式市場への中央銀行の直接介入は、株式市場の正常な機能を損ねるものであり、以前からOECDなどによる批判の対象になっていた。これも停止する必要がある。
日銀は財政放漫化に 加担してはならない
財政政策と金融政策の現状のような関係も変える必要がある。
日銀は、異次元金融緩和を通じて財政放漫化に加担してきた。
2013年から大量の国債を市中から購入し、長期金利を押し下げた。さらに16年からはYCCによって、長期金利を直接に抑制した。
これらによって、国債による財政資金の調達コストが低下した。それは少なくとも結果的には、安易な人気取り的財政支出が増加することに寄与したと考えられる。
20年度補正予算では、巨額の財政支出が追加され、そのほとんどが国債によって賄われた。21年度、22年度でも同様のことが行なわれた。
いま日本の財政は、増大する防衛費をどう賄うかという重要な問題に直面している。政府は昨年末に、防衛費増額を国債増発に頼らないという方針を示した。
しかし、一般会計で防衛費は勘定区別されているわけではないので、赤字国債発行額が増えた場合、それが防衛費の増によるのではないと証明することはできない。
日銀が今後も長期金利を抑制し続けるなら、間接的には防衛費の拡大や財政の膨張に加担することになる。
これに関連して、異次元金融緩和で、財政法第5条(日銀による国債の直接引受けの禁止)を骨抜きにするようなことが行われていることに注意が必要だ。
従来は、日銀が民間金融機関から購入する国債は残存期間が短いものに限られていたが、異次元金融緩和で、残存機関が長い国債も購入することになった。
銀行が、購入した国債を右から左へと日銀に売却できるなら、日銀引き受けと大差がない。
22年12月1日には、金利上昇を抑えるということで発行された国債の半分以上を日銀が買い取るという異常な事態が起きた。新発10年物国債の発行額2.8兆円のうち1.5兆円を日銀が買い取ったのだ。
こうしたことが続けば、財政法第5条は有名無実になってしまう。
日銀新体制が、こうした方向から転換することを切に望みたい。
●萩生田政調会長「岸田総理とは防衛力強化のアプローチが違う」 2/9
昨年12月の安保3文書改定後、岸田文雄首相は防衛費増額のための増税方針を発表。自民党税制調査会での議論を経た結果、毎年1兆円の増額分については法人税・所得税・たばこ税の3税で賄う案がまとまった。この防衛増税は自民党内からも反発を招き、財源確保策を巡っては「増税か、国債発行による新たな借金か」と大きな議論が巻き起り、今も党内では烈しい論争が続いている。
岸田総理と意見の一致は最後まで見られず
文藝春秋3月号(2月10日発売)では、自民党政調会長の萩生田光一氏、京大名誉教授で外交安保の歴史に詳しい中西輝政氏、元陸将で沖縄での勤務経験もある山下裕貴氏、財務省OBで法政大学教授の小黒一正氏の4名による座談会「防衛費大論争」を開催。
座談会では、萩生田氏が岸田首相とどの点で意見が食い違ったのかについて明かす場面もあった。
〈私としては国民の理解を得るためには、GDP比2%並みの防衛力とはどれほどのものなのか、具体的な中身の説明をすることが先決だと考えていました。2%はすぐに達成されるものではなく、徐々に上げて行って2027年度までに実現することになっている。それまでは堂々と国債を使って財源をつなぎつつ、まずは必要となる装備品などの中身を国民の皆様に示して納得が得られてから、最終的に財源の議論に入るべきだと。
他方、岸田総理の判断は、財源の裏打ちがないなかで防衛費増額を発表しては、国民にかえって不安を与えてしまうというものでした。先に財源確保策を示すべきであり、そのうちの一つである増税も年内に国民に知らしめる必要があるのではないかと。私も岸田総理も出口は同じものを描いていたのですが、そこに至るまでのアプローチに違いがあり、なかなか最後まで意見の一致は見られませんでした〉(萩生田氏)
決して無尽蔵な国債発行を進めるものではない
国債発行については座談会参加者から慎重な意見が相次ぐなか、萩生田氏は次のように語った。
〈昨年12月に私が、「日本を守るために、借金をしてでもやるべきことはやる」と申し上げた経緯もあり、「萩生田は国債発行を押し進めようとしている」と誤解されている方も多いかもしれません。改めて申し上げると、あの発言は「どんな手段を講じてでも、防衛力強化を成し遂げる」と、決意の固さを表明したものでした。財源確保の選択肢の一つに入ってはいますが、決して無尽蔵な国債発行を進めるものではないことを、ご理解いただきたいと思います〉
他にも話題は、GDP比2%への増額の是非、アメリカから購入する長距離ミサイル・トマホークの性能など多岐にわたり、座談会は約2時間にわたって続いた。  ・・・
●全額税方式の年金制度の創設で130万円の壁も解消できる  2/9
女性の働き方に中立的ではない税制・社会保障制度
1961年に確立された日本の社会保障制度は、多くの女性が結婚後は専業主婦となって家庭外の収入源を持たなかった当時の社会情勢を反映して、立場の弱い女性を守るため個人単位ではなく世帯単位で設計された。所得税制も同様であった。社会保険料を負担しなくても済む第3号被保険者制度や、所得がゼロか低い妻を持つ夫に所得控除を認める配偶者控除が代表的だ。
当然、こうした「お得な」制度の適用を受けるようと、収入をその範囲内に抑えるため労働時間を調整するインセンティブが働く。これが最近国会でも議論されているいわゆる「130万円の壁」問題の背景である。
いわゆる「130万円の壁」問題とは、具体的には、会社員らの配偶者に扶養されている人がパートなどの家庭外労働で年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れてしまい、手取りが減ってしまうので、パートで働く時間を短く調整するなどして対応するのである。実際には、130万円の壁以外にも多くの「壁」が存在してる。
   図 様々な「壁」「女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討」
こうした「壁」の存在は、少子化、高齢化が進行し、労働力不足が懸念されるなか、女性の就業意欲を妨げる制度が存在する現状は日本経済にとって大きなマイナスだ。
こうした状況に対して、報道「『年収130万円の壁』問題 “穴埋め給付”案が浮上」(2023年2月3日テレ朝News)によれば、政府は年収130万円を超えた人にかかる社会保険料を一定期間、国が給付する形で穴埋めする案などを検討しているとのことだ。
この案では結局、130万円の壁を考慮して配偶者が労働時間を調整しながらパートしている世帯を、配偶者がいなかったり、配偶者がパートをしていない世帯の税金を使って優遇するのと同じだ。
例えば、年収130万円以下でも独身者は年金保険料を負担している現状がある。つまり、例えば独身者が払った所得税や年金受給世帯が支払った消費税が、130万円の壁を取っ払った世帯に補填されるわけであり、しかも、将来貰える年金額も増えることになるので、二重取りとも言える。パート労働者の「130万円の壁」を取り払うのに自分たちの税金が使われる者の不公平感や、政府、年金制度への不信感が高まり、分断が生じるだろう。
「130万円の壁」への2つの対処策
こうした「130万円の壁」に対しては2つの対策が考えられる。
1つは壁を引き上げる方法。例えば130万円から150万円にするやり方だ。しかし、これでは130万円の壁が150万円の壁に置き変わるだけで根本的な解決にはならない。
2つはパートに対しても企業が社会保険料の半分を負担する厚生年金の適用を拡大するやり方だ。政府の「130万円の壁」に対する現在の対処の仕方である。この場合には、例えば月10万円弱の収入で大体国民年金の保険料と同じ水準になる。
ただし、将来もらえる年金額は、同じ負担であるはずの国民年金加入者より有利になってしまうため公平性の問題が生じる。さらには、社会保険料は労使折半なので、負担が増える企業の抵抗も大きい。
全額税方式の公的年金制度の創設
政府はこれまで保障が手厚くなる社会保険の適用を拡大させることで、年収の壁を意識せずに長く働くよう働きかけてきたにもかかわらず、労働時間の調整は根強く残った。
内閣府男女共同参画局「女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討」(2022年12月22日)によると、パート従業員の時給は最低賃金の引き上げで1997年から2021年までの25年間で約30%上昇したが、月間の総実労働時間が約19%減少したため、年収は約5%の上昇にとどまっている。これは「壁」の存在を強く意識した働き方の結果だろう。
つまり、配偶者の扶養から外れることで社会保険料負担が高まり労働時間調整につながるのを、社会保障給付の充実で埋め合わせようという政府の目論見は失敗している。この事実は、現在の社会保障制度を前提にした解決策は解決策にならないということを雄弁に物語っている。
筆者は、全額税方式の公的年金制度の導入と専業主婦(夫)の国民健康保険への加入義務化、配偶者控除の廃止で、働き方に中立的な税制や社会保障制度が実現でき、「130万円の壁」問題も解決できると考えいている。
そもそも、全額税方式とする「基本年金」構想自体は、適用漏れの者、短期加入者や無年金者も多く存在し、国民皆年金が形骸化しつつあった1977年12月に当時の福田赳夫総理大臣に社会保障制度審議会から出された「皆年金下の新年金体系」という建議で議論されていた。
しかし、あくまでも社会保険方式にこだわる厚生省(当時)と族議員が換骨奪胎し、1986年に、保険料と税により運営される現在の基礎年金制度へと変更された。この結果、当時から懸案だった無年金者や低年金者が増加し、いまや生活保護の半数以上が高齢世帯となっているのは周知の通り。
筆者の提案する「基本年金」では、まず、高齢者の定義を変更し、高齢者を75歳以上とする。したがって、75歳を迎えるまでは、労働所得か、貯蓄の取り崩しで生活を営むか、場合によっては、ミーンズテストを経たうえで生活保護を受給する。
「基本年金」は75歳から支給することとし、現在の報酬比例部分は私的年金に置き換える。これにより就業形態による公的年金制度の「格差」が解消される。基本年金は全額国費=税金で賄うので、75歳以上の高齢者への生活保護支給は不要となる。
次に、医療・介護は社会保険方式を堅持する。ただし、現在のような税金の投入は一切廃止し、全額保険料と自己負担とで給付を賄うことにする。所得のない専業主婦(夫)も国民健康保険に加入する。自己負担は原則3割。こうして受益と負担を一致させることで、無駄な支出への監視が行き届くし、コロナ禍でも見られたように、専門家・医療機関・製薬会社が国民皆保険を食い物にするのを防ぐことができる。
ただし、原則3割の自己負担は健康寿命に相当する75歳までとし、それ以降は段階的に自己負担割合を上げていき、平均寿命に相当する85歳では10割担、つまり全額自己負担とする。健康寿命を超えたあとは、病気ではなく老化だとの判断からだ。必要に応じて民間の保険会社が提供する私的保険に加入すればよい。また、現在多くの自治体で採用されている「子ども医療費助成制度」も、過剰な医療需要の発生源なので当然廃止する。
厚生年金と国民年金であわせて現在160兆円にも及ぶ積立金は、政府債務の返済に充てる。そもそも、赤字国債で社会保障の財源を補填しているのに、一方で多額の金融資産を保有しているのは余りにもバランスを欠いている。
財務省の資料によれば、1990年度末から2022年度末にかけての普通国債残高増加額857兆円のうち48%にも相当する414兆円は社会保障に起因する「借金」であり、積立金をその「返済」に充てるのは理にかなっている。
こうすれば、社会保障制度が就業インセンティブに悪影響を与えることはなくなり中立的な制度となるし、年金や医療等の社会保障制度の再生とスリム化も同時に達成できる。社会保障制度のスリム化が実現できれば、若者世代の手取りも増え、少子化対策としても有効に機能するだろう。
●高市氏「同性婚、難しい問題」 LGBT法案、慎重検討を―衆院予算委 2/9
高市早苗経済安全保障担当相は9日午前の衆院予算委員会で、同性婚の法制化について「憲法24条の解釈も含めて難しい問題だ。地方自治体のパートナーシップ条例の動向なども見ながら、論点整理が進んでいくだろう」と述べた。立憲民主党の西村智奈美代表代行への答弁。
憲法24条は婚姻について「両性」の合意のみに基づいて成立すると規定している。
高市氏はLGBTなど性的少数者に対する理解増進法案が自民党保守系の反対でたなざらし状態になっていることを巡り、「性的指向、性自認に関して偏見があってはならない。理解増進については賛成だ」と表明。同時に「文言については十分な調整が必要だろう」と指摘し、慎重な検討を要するとの認識を示した。
●LGBT・別姓で岸田首相「板挟み」 立民攻勢、自民保守系に配慮 2/9
前首相秘書官による性的少数者への差別発言を受け、立憲民主党は8日の衆院予算委員会で岸田文雄首相への攻勢を強めた。LGBT政策の遅れは自民、公明政権下での「失われた10年」の氷山の一角にすぎないと印象付ける作戦。選択的夫婦別姓制度も含め、自民党内の保守系に配慮せざるを得ない首相は「板挟み」の苦しい立場だ。
「日本は人権意識で周回遅れの国となった。背景に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の動きがあったのではないか」。立民の岡本章子氏は、伝統的な家族観を重視する旧統一教会と絡めて揺さぶった。岡本氏は差別発言だけでなく、首相が同性婚で「家族観や価値観、社会が変わってしまう」と先に発言したことも問題視し、謝罪と撤回を迫った。
首相は同性婚法制化に関し「慎重な検討が必要」と重ねて答弁。同時に「ネガティブなことを言っているのではない。議論を否定するものではない」と釈明に追われた。午前の質疑が終わると、岡本氏に歩み寄って、再び「ネガティブな意味ではない」と理解を求めた。
首相は5月に広島市で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)を控え、日本が人権意識に乏しいとの批判が広がることを警戒する。「私自身もニューヨークでは小学校時代、マイノリティーとして過ごした」と力説。「多様な個性を持った人が役割や能力を発揮することで経済や社会を元気にする」とアピールに努めた。
岡本氏は選択的夫婦別姓制度を巡り、首相が早期実現を目指す議員連盟の呼び掛け人に加わっていたことを取り上げ、早期導入を図るよう求めた。首相は「議論を注視したい」と応じるにとどめた。
LGBTや別姓など家族に関する政策は自民党内で意見が割れる難題。差別発言による汚名を返上しようと前向きな姿勢を示さざるを得ない一方で、党内保守派への配慮も必要だ。同党の閣僚経験者は「難しいテーマに踏み込んでしまった」と頭を悩ませた。
少子化対策で立民は児童手当の所得制限撤廃も重ねて訴える。大西健介氏は児童手当や高校授業料の無償化では自民主導で所得制限が課せられたため、子育てに関連して2兆円が不支給となったと批判。「(自公政権下の)この10年、進んでないことがたくさんある」と責め立てた。
立民の「失われた10年」キャンペーンに対し、首相は「全て失われてしまったというのはミスリードだ」と気色ばみ、自公政権は待機児童解消などに取り組んだと強調した。旧民主党政権下で「残念ながら財源が難しいということで所得制限も設けられた」と当てこすった。
●政策転換の波紋 最多15基 県へ配慮  2/9
政府は昨年12月、原則40年、最長60年としてきた原子力発電所の運転期間を60年超に延長し、建て替えや新増設を検討する基本方針を決めた。2011年の東京電力福島第一原発事故をきっかけに、建て替えなどの方向性を抑制していた原子力政策を転換。開会中の通常国会に関連法の改正案を提出する予定だ。国会での論戦を前に、全国最多の15基の原発(廃炉含む)を擁する福井で関係者の動向や思いに迫った。
相次ぐ訪問
今年1月18日、経済産業省資源エネルギー庁の山田仁・政策統括調整官が県庁を訪れた。
政府方針を説明すると、桜本宏副知事から「原子力政策の明確化に向けて前進したと受け止めている」と評価された。
県議会全員協議会にも出席。県議の「再稼働や建て替えは重要だ」「化石燃料を使う火力発電と比べ、どの程度燃料代などで貢献するか数値化して国民に示してほしい」といった意見に耳を傾けた。
政府は政策転換に際し、福井に配慮してきた。
基本方針を決める約1か月前の昨年11月中旬。同庁の別の幹部が嶺南地域を訪問した。「立地地域の率直な意見が聞きたい」。地元県議らが開いた非公開の住民との意見交換会に参加した。
この幹部は、検討中の基本方針の概要を説明しただけではなかった。原子力の平和利用に限った研究・開発などを定めた原子力基本法を改正し、原発利用の意義として電力の安定供給の確立と脱炭素社会の実現を目指すことを明確に盛り込む考えも伝えた。
同法改正案を通常国会に提出する方針が明らかになる今年1月より2か月も前に、福井で説明したことになる。出席者の一人は「時々の政権に左右されない法律に、原子力活用の方針が明記されることは意義深い」と喜んだ。
60年超の運転期間についても県側の意向が反映された。
経産省は昨年11月8日の有識者会議「原子力小委員会」で、原発の運転期間について〈1〉運転期間に上限を設けない〈2〉一定の上限は設けつつ停止期間を運転期間に算入しない――との2案を提示した。
〈1〉案を支持する委員が相次ぐ中、委員を務める杉本知事は「古い原子炉をいつまでも動かすのは誰しも漠然と不安を持つ」と述べた。
経産省が最終的に〈2〉案を選択したのは、杉本知事らの意見を考慮した結果だった。
関与求められ
原発推進にかじを切った政府。一方で、原子力政策の重要拠点・福井で基本方針を軌道に乗せるためには、解決すべき課題がある。原発の発電で生じた使用済み核燃料の「行き先」だ。
関西電力は今年末までに、使用済み核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」の県外候補地を確定させねばならない。使用済み核燃料の県外搬出を長年求めてきた県と交わした、重い約束だ。関電を監督する経産省も無関係ではなく、県は積極的な関与を求めてきた。
山田氏は県庁を訪ねた1月18日、複数の県議から「地点の選定は進んでいるのか」「国として意気込みを示してほしい」と詰め寄られた。西村経産相も昨年12月、敦賀市内で面談した杉本知事から「(県外候補地確定の期限まで)残り1年。国が主体的に計画地点確定を進めてほしい」と注文され、「国も前面に立って主体的に対応する」と強調した。
ある県幹部は指摘する。「使用済み核燃料の問題が解決しなければ、政府の基本方針は『絵に描いた餅』になる。国は覚悟を持って課題を解決してほしい」
プルサーマルに交付金
原発活用を推進する上で重要となるのが、発電後の使用済み核燃料を再処理して既存の原発で再利用する「プルサーマル発電」だ。経済産業省は昨年12月に、プルサーマル発電を受け入れる自治体向けの交付金制度を創設する方針を正式に示した。
国の原子力政策では、使用済み核燃料を冷やした後、日本原燃の再処理工場(青森県六ヶ所村)に運搬。プルトニウムとウランを取り出し、別の工場でウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工し、原発で活用する。
電力会社はこれに沿って、プルトニウムなどの取り出しを進めている。
核物質の供給や保管に関する日米間のルール「日米原子力協定」で、日本は非核保有国ながら例外的にプルトニウムの平和利用が認められている。核兵器にも転用できるプルトニウムの保有量は増えるおそれがあり、主にプルサーマル発電で消費する必要がある。
電力大手10社でつくる電気事業連合会は、2030年度までに少なくとも12基でプルサーマル発電を実施するとの目標を掲げる。
現在は関西電力高浜原発3、4号機(高浜町)など4基で導入。関電大飯原発(おおい町)でも導入計画はあるが、現時点で表立った動きはない。
●秋本外務政務官 “虚偽答弁報道” 法的に問題ない献金と釈明  2/9
秋本外務政務官は、推進してきた再生エネルギーの関連企業の関係者からの献金は受け取っていないとした国会答弁が、虚偽ではないかと報道されたことについて、9日の衆議院予算委員会で、関係者からの献金だったという認識はなかったとしたうえで、法的には問題ないものだと釈明しました。
秋本外務政務官は、先週の衆議院予算委員会で、自身が推進してきた再生エネルギーの関連企業の関係者から献金を受け取ったことがあるか問われたのに対し、「答えはノーだ」と否定しました。
これについて「文春オンライン」は8日、この企業の創業メンバーで、特別顧問を務めていた人物が代表取締役となっている会社から献金を受け取っていたことが明らかになったとして、答弁は虚偽の疑いがあると報じました。
そして、9日の衆議院予算委員会で、秋本政務官は2020年までの3年間に、指摘された会社から180万円の献金があったことを認めました。
そのうえで「再エネ関連企業に問い合わせ、指摘されている人物や会社も含め、関係性がないとの回答を得て、先日の答弁をした。報道があるまで、指摘された人物が特別顧問や大株主だという事実は承知していなかった」と述べました。
一方で、「献金を受けた際に、政治資金規正法に基づき違反をしていないという誓約書の提出を求めており、法的には何ら問題ないものだと認識している」と述べました。
●林外相「岸田首相の安定した答弁」で予算委員会進行と評価… 2/9
林芳正外相は2月9日、衆議院の予算委員会について「淡々と進んでいる」と評価した上で、理由について「岸田首相の安定した答弁だ」と述べた。
9日に行われた自民党岸田派の定例会で派閥のナンバー2で、座長を務める林芳正外相は、国会で連日行われている衆議院の予算委員会について「淡々と進んでいる」と述べた。
その上で林外相は「最も大きな原因は岸田首相の安定した答弁と言っていいと思う。決して怒らず、説明を丁寧にするという姿勢を崩さずに答弁をしている」と評価した。
国会で野党からの厳しい追及を受けている首相にエールを送った形だ。
一方、野党側は、更迭した元首相秘書官の性的少数者に対する差別発言や同性婚の導入について「社会が変わってしまう」と岸田首相が答弁したことなどについて追及を強めており、今後も激しいやり取りが予想される。
●自民 茂木幹事長 立民の衆院憲法審査会への対応を批判  2/9
衆議院憲法審査会の開催に、立憲民主党が予算案の審議中は応じられないと主張していることについて、自民党の茂木幹事長は「審議拒否の姿勢が明確だ」と批判しました。
衆議院憲法審査会について、立憲民主党は、新年度予算案の審議中は関連法案を審議する委員会以外は開かないのが原則だとして、予算案の審議中は応じられないと主張しています。
これについて自民党の茂木幹事長は、派閥の会合で「立憲民主党などは、先祖返りと言うか、審議拒否の姿勢が明確になっている。新しい時代にふさわしい憲法の在り方の選択肢を国民に示すことは国会議員の務めであり、話し合いの場に出ないことはあってはならず、国民から大きな非難を受ける」と批判しました。
そのうえで「憲法審査会の開催に前向きな政党は多い。そういった政党と連携をとりながら、しっかり対応してほしい」と述べました。  
●旧統一教会との関係が国会に! 昭和の未解決連続テロ「赤報隊事件」 2/9
2月2日、谷光一国家公安委員長に対し「異例の質問」がなされた。35年前に発生し、未解決のまま2003年に時効となった「赤報隊事件」と、旧統一教会との関連について答弁が求められたのだ。昭和犯罪史に残るコールドケースの真相は......。
第211回通常国会が先月23日に召集されてから、連日の国会論戦に臨んでいる岸田文雄首相は、支持率が低空飛行を続けるなど、難しい政権運営を強いられている。
原油高に伴う物価・エネルギー価格の高騰で国民の不満は高まるばかり。長男で政務秘書官を務める翔太郎氏の外遊中の行動に批判が集まっているほか、経産省出身の荒井勝喜元首相秘書官が、性的少数者(LGBT)や同性婚カップルへの差別発言で更迭に追い込まれるなど身内≠フ不祥事も続発し、まさに「内憂外患」の状況だ。
そんななか、野党による厳しい質問が集中しているのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題だ。安倍晋三元首相の銃撃事件に端を発して露呈した、自民党と同教団との蜜月の背景にはさまざまな疑惑が持ち上がっているが、2月2日の衆議院予算委員会で、とりわけ闇深い問題が取り上げられた。
「今から35年前に発生し、いまだに未解決となっている『赤報隊事件』と旧統一教会との関連について質問があったのです。共産党の宮本岳志衆院議員からの質問を受け、警察行政を統べる谷公一国家公安委員長、さらには警察庁の幹部が答弁に立ちました。
旧統一教会と昭和の事件史に残る大事件との接点≠ノついては、事件当時からささやかれており、一部のメディアが取り上げてきたことはありましたが、公の場で語られることはなかった。警察幹部が国会で事件についてコメントを発すること自体も異例で、その内容に注目が集まりました」(全国紙政治部記者)
言論封殺テロ「赤報隊事件」とは?
ここでいう「赤報隊事件」とは、1987年から90年にかけて「赤報隊」を名乗る何者かが朝日新聞社や政治家らを標的に起こした一連のテロ事件を指す。
「赤報隊」を名乗る一連の犯行では、朝日新聞社の支社や支局への銃撃や爆破未遂のほか、江副浩正リクルート会長の自宅銃撃や中曽根康弘元首相らへの脅迫など、政財界の要人も標的になった。とりわけ世間に衝撃を与えたのが、87年5月3日に兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局が散弾銃を持った目出し帽の男に襲われ、記者ふたりが殺傷された事件である。
当時の報道などによると、襲撃があったのは午後8時15分。目出し帽の男は、支局の無施錠のドアから侵入。支局2階にいた記者ふたりに銃口を向け、ひとりに右手の小指と薬指を失い重傷を負わせた。そして、銃撃をまともに受けた当時29歳の小尻知博記者は救急搬送され、翌日未明に出血多量で息を引き取った。
犯人は現場から逃走したが、事件から3日後に共同、時事両通信社の東京本社に「赤報隊」を名乗る犯行声明文が届いた。声明文には「天罰をくわえる」と記されており、事件の9カ月前の87年1月に発生した朝日の東京本社への銃撃に続いての犯行であることを示唆していたという。
幕末期に実在した勤皇を掲げる志士集団「赤報隊」を名乗る犯行声明と脅迫文は、朝日の阪神支局襲撃を含めて8件。一連の事件は、警察庁の「広域指定116号事件」に指定され、全国的な捜査が行なわれた。
警察庁は98年に「重点捜査の対象者」として9人をリストアップした。しかし、いずれも事件との関係は確認されず、2003年に全事件が公訴時効を迎え、事件は闇に葬られた。
この未解決事件を巡っては、2009年に週刊新潮が「実行犯」を名乗る男の手記を掲載し、その後、手記の内容が虚報と判明する派生事件も起きた。そんないわくつきの事件について宮本議員は、旧統一教会問題を追及するジャーナリスト、鈴木エイト氏の著書も引きながら興味深い指摘を行なった。
「宮本氏が示したのは、阪神支局襲撃事件での捜査で兵庫県警捜査1課が作成したとされる資料です。鈴木氏が入手し、著書でも言及したものと同じ資料とみられ、そこに書いている内容をもとに旧統一教会と、同教団の関連団体である『国際勝共連合』について『捜査や調査は行ったことは認められるか』とただしたのです」(同)
赤報隊事件の発生当時、リベラルな論調で知られる朝日を主要な攻撃対象としている点などから、思想的な背景を持つ組織的な犯行も疑われた。とりわけ、朝日や系列の雑誌が統一教会による霊感商法を厳しく批判していたことから、事件への関与の可能性を考慮したとしても不思議ではない。
ちなみに、朝日新聞阪神支局銃撃事件の直後には、「とういつきょうかいの わるくちをいうやつは みなごろしだ」という脅迫状が、使用済みの薬きょう2個が同封された状態で朝日新聞東京本社に届けられている。同封の薬きょうは事件で使われたものと同じ米国レミントン製で口径と散弾のサイズも同一だったという。もちろん、犯人が騙っている可能性も否定できないが......。
国会で追及された再捜査の必要性
宮本氏は、資料中のある記述についても言及した。
「宮本氏が取り上げたのは、『政界工作』と題された部分についての記述です。そこには、『日韓親善協会の中に勝共連合のメンバーを送り込み、自民、民社、商工会議所のメンバーを引き込んでいる』と書かれているとし、『自民党本部の職員20人前後の勝共連合のメンバーがいる』とも明かしました。
鈴木エイト氏の著書でも資料のこの記述部分を取り上げていますが、自民党との教団の蜜月を裏付ける参考資料として取り上げたのみで、赤報隊事件との関連についてはさらに突っ込んではいなかった。宮本氏の質問は資料の記述をもとに警察幹部と公安委員長に回答を求めており、より踏み込んだ質問だったといえるでしょう」(前出の政治部記者)
筑紫哲也にも届いていた脅迫文
宮本氏の国会質問では、さらに赤報隊事件の発生直前の85年5月、朝日新聞社が発行していた雑誌「朝日ジャーナル」に掲載された故筑紫哲也氏のコラムも参考資料として示された。旧統一教会の問題を取り上げた「戦争を知らない子どもたち」と題されたコラムで、《最近、えたいの知れない手紙がよく来る》として、その《手紙》の内容を事細かに著している。
ここにその一部を抜粋して紹介する。
《これ以上おれたちの悪口をいうときさまの子供と女房をブチ殺すぞ。おれは韓国製M16ライフルを持っているし韓国で軍事訓練をうけてきた。おれたちの仲間もみんなきさまを殺したがっている。いいか、これは決しておどしではない。文鮮明様のためだったら命の一つや二つ捨てたっておしくない奴がおれたちの仲間には百人以上いるんだ。(中略)いっておくが警察はおれたちの味方だ。おれたちの操り人形だ。おれたちには岸元首相がついている。まず筑紫哲也のガキとその女房(中略)から殺してやる。それがいやなら次の週の朝日ジャーナルに謝罪記事を出せ》
手紙の末尾は、《アカサタンを殺すことだけが生きがいの文鮮明様の使徒より》と結ばれている。
教祖である《文鮮明》の名前を持ち出していることから、《手紙》の差出人と旧統一教会との関係を疑わせる。読む者に明白な生命の危険を感じさせる内容であり、行間の節々から脅迫の意図がにじんでいる。
もちろん、この手紙が実際に筑紫氏に届いたものなのか、真相は定かではない。すでに物故者である筑紫氏に事の真偽を確かめる術もないが、生前のジャーナリストとしての実績を顧みれば、《手紙》がまったくの創作とも断じることはできないはずだ。
警察当局が作成したという捜査資料、銃弾によるテロが実行された赤報隊事件を連想させる物騒な手紙...。宮本氏はこれらの資料をもとに、谷・国家公安委員長に「もう一度調べるべきではないのか」と迫り、「赤報隊事件」の再捜査を求めたのだ。
谷氏は「公訴時効成立後に捜査を行わないというのが原則」としながらも、「犯人が自ら名乗り出た場合など特段の事情がある場合には、警察として事実確認などを行うことはあり得る」とも述べ、真相解明にわずかな期待を抱かせた。
35年の時を経て、昭和の闇に葬られた連続テロ事件が白日の下に晒される時は来るのだろうか......。

 

●市場規模はもはや「国家予算」レベル…世界が狙う「半導体市場」の覇権 2/10
2021年から2022年にかけて、多くの産業が半導体不足によって混乱しました。とりわけ自動車産業は、減産を余儀なくされて納車が大幅に遅れるなど、需要が戻るなかで深刻な供給不足に陥りました。足元はやや落ち着きを取り戻しつつありますが、半導体市場は今後どうなっていくのか。現況と見通しについて、アライアンス・バーンスタイン株式会社のシニア・インベストメント・ストラテジスト、穂谷 栄一郎氏が解説します。
液晶テレビからAIへ…成長が止まらない半導体市場
――まずは半導体市場全体について教えてください。
穂谷「[図表1]は種別ごとの世界の半導体市場規模の推移です。
   [図表1]半導体各種の市場推移
2000年代には「PC、液晶テレビ時代」を迎え、2010年代には「スマホ時代」へと移行しました。そして現代では「DX・GX・QX時代」などといわれ、市場規模全体としては6,000億ドルになっています。
ところが2025年以降、自動運転やAI、ロボット、グリーン革命、スマートインフラなど使用用途の拡大が予想され、現在の6,000億米ドルの市場規模が2025年には7,000億米ドルへ。そして2030年には9,000億米ドルに成長すると予想されています」
――この数年で市場が徐々に拡大してきていることがわかります。では、なぜこれまでと比較してより一層伸びるのでしょうか?
穂谷「これまでの半導体の多くは、PCやスマホ、家電、自動車などへの用途が主でしたが、今後は[図表2]の通り、多くの産業、そしてあらゆる社会インフラへの実装がなされ、「ビッグデータの計算マネジャー」としての使用用途が拡大します。
   [図表2]半導体が産業としてより重要なポジションへ
このような流れから、向こう5年〜10年、市場の伸びもグンと上がると予想されているのです」
“人間の脳まで”の制約解除…半導体が「主役」の時代に
穂谷「半導体機能そのものも進化し、いわば“増殖”することが予想されます。[図表3]は、横軸にデータ量、縦軸にデータ処理速度を置いた、「半導体に求められる機能」についての位置づけです。
   [図表3]半導体に求められる機能
これまで多くの電子機器などに内蔵された半導体の機能は、人間の脳で処理する速度までしか求められていませんでした。半導体の性能には、ある意味「制約」がかけられていたのです。
また、当然そうした電子機器の需要に左右され、その1部品である半導体はそれ以上の波にさらされてきました。
   [図表4]制約が解除され、半導体の機能はますます拡大してきた
ところがAIや量子コンピューティング、それらを活用したスマートインフラなどが拡大していくと制約が解除され、さまざまな使用用途に応じて大量に・迅速にデータを処理する機能が求められ、半導体こそが主役になってきます」
――これまでは電子部品の1部品として、いわば「下請け業者」のような存在だった半導体が、徐々に今後さまざまな社会インフラに実装されることによって、その半導体の性能こそが社会全体に影響をおよぼす。いわば「主役に踊り出る」可能性があるということですね。
需要が高まるなか…「寡占市場」の半導体業界
――半導体は分野によって細かく複雑に分かれていると思いますが、市場がさらに拡大するなか、実際にいまどのようなプレーヤーがいるのでしょうか?
穂谷「半導体市場は、ネット企業やソフトウェア企業と違い、非常に限られたプレーヤーで占められています。
   [図表5]半導体は限られたプレーヤーによる「寡占市場」
たとえば、半導体の演算処理のロジック。こちらは『インテル』や『エヌビディア』をはじめ、半導体の設計をする会社です。そして、半導体を実際に作るファウンドリ、こちらは『TSMC(台湾セミコンダクター)』などが挙げられます。
また、記憶を司るメモリ。こちらは韓国の『サムスン』や日本の『KIOXIA』などが代表的です。さらに省力化に欠かせないパワー半導体やイメージセンサー、アナログ半導体なども重要な領域です。
設計・製造全体で53兆円の市場規模がありますが、ロジックで21兆円、メモリで18兆円、その他15兆円となっています。さらに今後自動運転やAIなどが増えると、演算処理をするロジック部門がより拡大する見込みであるといわれています。
さらに、設計支援や製造装置、素材といった周辺産業も、数少ないプレーヤーに限定されているのです。
半導体は世界中の「国家戦略物資」になっている
――市場の拡大が加速する一方でプレーヤーが限られていると、各国で取合いにならないのでしょうか?
穂谷「はい。いまやさまざまな国において『国家戦略の一部』として、半導体が国家戦略物資へと変貌を遂げようとしています。
   [図表6]半導体の地政学リスク
[図表6]の左図のように、20世紀においては日米が独占しており、半導体は電子部品の一部としての位置づけでした。ところが、経済安全保障やアフターコロナのデジタル化促進、エネルギー・環境制約、セキュリティ強化など、こういった構造的な変化によって半導体が変貌を遂げようとしています。
――このような構造変化で大きく変わろうとしているわけですね。
穂谷「こうした時代、半導体は台湾や韓国、そして中国をも巻き込んだ戦略物資となり、デジタル化やグリーン化に欠かせない存在となっています。
問題は先述したように、こうした時代の要請に応じた半導体を製造できる企業が世界的にも数限られているということです」
日米、中国、韓国…世界が本気で打ち出す半導体政策
穂谷「各国がどれだけ力を入れているかみていきましょう。[図表7]は、経済安全保障の観点から各主要国が展開する、重要な生産基盤を囲い込む新次元の産業政策です。
   [図表7]各国の産業政策
米国では1件あたり最大3,000億円の補助金や、多国間半導体セキュリティ基金の設置等を含む国防授権法(NDAA2021)が可決されています。
さらにバイデン政権では、約6兆円の半導体産業投資を含む半導体法(CHIPS法案)が2022年8月に可決されました」
“日の丸半導体”復権なるか
――米国以外にも、さまざまな国が各国で政策を打ち出していますね。
穂谷「我が国日本でも、“日の丸半導体”の復権に向けた取り組みを打ち出しております」
――日本政府もiPhoneの半導体を製造しているTSMC(台湾セミコンダクター)の工場を熊本に誘致するというニュースを見ましたが、それもこの一連の流れなのですね。
穂谷「そうですね。こうした民間だけではなく、国家戦略としての動きに注目することが大切です」
――半導体は単に「今後も成長する投資先」ということだけではなく、国家戦略の要となる「国家戦略物資」として多くの国と国とのあいだで取り合いになる可能性があるということですね。
今後の社会インフラの変化などによって半導体業界に将来性があること、そして国家戦略として動いていることがわかりました。今後のキーとなるプレーヤーなどにも注目していきたいものです。
●財政力は抑止力、台湾有事が迫る増税・国債増発・年金削減?!  2/10
抑止が効かず、米国と中国が戦争に及べば、日本も関与の度合いが高まる。そのときに重要になるのは資金の調達能力だ。果たして、国債の増発で賄うのか、それとも増税をするのか。場合によっては、社会保障費に影響することも。この議論を今からきちんと積み重ねることが抑止力の向上につながる。
さらに事態が進めば、日本は「存立危機事態」もしくは「武力攻撃事態」を覚悟せざるを得なくなる。いずれも自衛権を発動し、武力を行使することが可能となる。つまり戦争だ。
存立危機事態は「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態をいう。航空自衛隊で北部航空方面隊司令官などを歴任した尾上定正氏は2021年6月、日経ビジネスの取材に「米国と中国が台湾をめぐって武力衝突した場合に認定されると考えられる」と応じた。日本は、集団的自衛権を限定行使することが可能になる。
武力攻撃事態は「わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は当該武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」だ。中国が台湾着上陸戦を始めれば沖縄県・与那国島をはじめとする先島諸島が戦域に入る可能性が高い。「軍事の世界では常識」(渡部悦和元陸将)とされる。これは中国による日本攻撃であるから、日本は当然、自衛権を発動することになる。
どちらの事態を認定するにせよ、日本は戦闘状態に陥る。このときに必要となるのは防衛装備品にとどまらない。先立つものは資金だ。言い換えれば、資金を調達する能力を事前に示すことも抑止力の柱となる。日本は資金を調達することができるのか。
先進国でダントツの国債残高
資金の調達方法は国債の発行と増税の2通りが考えられる。まずは国債について考えよう。日本の普通国債の発行残高は22年度末時点で約1029兆円と見込まれる。政府債務残高のGDP(国内総生産)比は、20年の一般政府ベースで259%。先進国の中でダントツの高さだ。発行余力が高いとは決して言えない。
さらに、中国と戦争する国に資金を提供する投資家がいるだろうか。この点は、存立危機事態の認定に至るまでの過程で、国際世論を味方に付けることができるかどうかが重要になる。「民主主義を守るため日本が立ち上がった」「台湾海峡は国際公共財。この平和と安定を守る必要がある。それに日本が貢献する」というイメージをつくることができれば資金は相対的に集めやすいだろう。他方、大国・中国を相手に日本が無謀な動きを始めた、と捉えられれば資金は集まりづらい。
「民主主義」に集金力はあるか?
ただし国際世論は、民主主義や国際公共財などの価値に対し、日本が考えているほど好意的なわけではない。ロシアがウクライナに侵攻した直後の3月2日、ロシアを非難し、即時撤退を求める決議案が国連総会で採択された。141カ国が賛成する一方で5カ国が反対、35カ国が棄権、12カ国が無投票を選択した。反対、棄権、無投票が50カ国を超えたことに多くの専門家が注目した。
懸念材料は国際世論の動向だけではない。国内にも伏兵が存在する。仮に、高い資金力を持つ富裕層が大挙して国外へ退避する事態が発生すれば、国債の国内消化に暗雲が垂れこめる。日本に対する海外投資家の評価も低下するだろう。ロシアでは、ウクライナ侵攻を始めた前後の22年1〜3月に約388万人が同国を後にしたと伝えられる。人口の約3%に当たる数だ。日本でも同様のことが起こる可能性は否定できない。
さらに、そのとき日本政府は、国民の海外退避を禁止することができるだろうか。「民主主義を守り、基本的人権を尊重する」との大義を掲げて台湾有事に臨む場合、禁止措置を講じることは難しい。日本国憲法は第22条で「居住」「移転」の自由を保障している。日本政府は資金調達と基本的人権の尊重の板挟みにあい、やせ我慢を強いられる。
インフレ、金利上昇、国債費負担の増大
国債の引き受け手が十分に確保できず、日本銀行が大量に引き受けることになれば、インフレが高じ、先の大戦の戦前・戦中の二の舞いとなることが懸念される。日本は、満州事変の後に高橋(是清)財政を始めて以降、終戦まで、日銀を引き受け手とする国債発行を続けた。
日銀が保有する国債が増えるのと軌を一にして日銀券の発行高も増えていった。1931年12月に約13億円だった発行残高は41年12月には約60億円に、45年3月には約205億円に達した。消費者物価指数(34〜36年の平均=1.0)は31年の0.937から41年の2.098、45年の13.000へと上昇した。
日銀はこの間、売りオペを実行し、手元の国債保有残高を減らす努力をしていた。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは日経新聞への寄稿の中で、日銀が保有する国債残高は44年の段階でも名目GDP比12.8%に抑えられていたと指摘している。この値は現在約90%に及ぶ。先の大戦中以上のインフレが懸念される。
日銀は2001年、通称「日銀券ルール」を導入した。日銀が保有する長期国債の残高を日銀券の流通残高より少ない額に収めるというものだ。量的緩和を始めるに当たって、日銀が国債を無制限に引き受けることがないようたがをはめた。しかしこのルールは13年のアベノミクスの発動以来、一時停止を続けている。たがは既に緩んでいる。
国債の引き受け手を確保できたとしても、日本経済にひずみが生じるのは避けられない。国債を大量に発行すれば、需給が緩み国債価格は低下、利回りは上昇する。すなわち長期金利が上昇する。民間企業の投資意欲をそぐ事態や、政府の利払い費の増加が懸念される。
財務省は22年1月、「令和4年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」を公表した。この試算の前提において、仮に23年以降金利が1%上昇すると、25年度の国債費は現行の想定より約3.7兆円増えるとの見方を示している。2%上昇なら想定より約7.5兆円増える。これは、消費税率をそれぞれ約1.4%、同2.8%引き上げないと賄えない金額である。
防衛費増のための税を誰が負担するのか
次に増税について考える。新型コロナ禍が世界を襲う直前の19年度、日本の潜在的国民負担率はGDP比で35.8%だった。潜在的国民負担とは租税負担と社会保障負担に財政赤字の負担分を加えたものだ。ドイツ(41.2%)やフランス(49.9%)など西欧諸国より低く、スウェーデン(37.1%)とほぼ同等だった。よって、さらなる負担が非常に難しいわけではない。
ただし、誰が負担するのかが問題となる。税はペナルティーの性格を持ち、負担する主体の逃避をうながす。みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「例えば消費税を増税すれば、家計による消費にペナルティーを科すことになる。所得税率を上げれば、国民の労働意欲をそぐ。法人税を増税すれば企業が、資産課税を強めれば富裕層が、日本から海外へ逃避してしまう恐れが生じる」と指摘する。
先進国政府が、グローバル化を背景に法人税率の引き下げを競う「底辺への競争」を繰り広げる中で、消費税を増税してきたのはこうした事情があるからだ。海外へ逃避する可能性が小さい国内の中間層を課税のターゲットにしてきた。
また、増税は経済成長にネガティブな影響をもたらす。小林氏は増税がGDPに及ぼす影響をマクロ計量モデルを使って試算した。これによると、個人所得税でGDP比1%相当の額を増税した場合、GDPを0.37%押し下げる効果があるという。法人所得税を同額増税すればGDPは同1.01%減、消費税収を同額増やせばGDPは0.72%減となる。ちなみにこの場合、消費税率を約2%引き上げることになる。
年金受給者にも求められる? 「自国は自分で守る」意識
国債の増発と増税は歳入を増やす方法だ。他方、歳出を減らし台湾有事に資金を回すことを考えるならば、社会保障費を候補に含めざるを得ないケースも考えておく必要があるのではないだろうか。
国家安全保障戦略を改定するに当たって内閣官房に設置された「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は22年11月22日に提出した報告書の中で、防衛費を拡大するのに社会保障費に手を付けることはないと書き込んだ。
「財源確保の検討に際しては、まずは歳出改革により財源を捻出していくことを優先的に検討すべき」とした上で「防衛関係予算は非社会保障関係費に属することから、政府の継続的な歳出改革の取組としては非社会保障関係費が対象となる」
他方、同報告書は「防衛力の抜本的強化に当たっては、自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識を多くの国民に共有して頂くことが大切である」とも言う。「負担」を強いることになるからだ。
ならば、現在4040万人、日本の総人口約1億2500万人の約30%を占める年金受給者にも、「多くの国民」として当事者意識を持ち、負担を分担してもらうことが考えられるのではないだろうか。社会保障費は金額においても、一般会計歳出の中で最も大きな割合(33.7%)を占める。
ただし、社会保障費に手を付けた場合、時の政権の命運を左右することになりかねない。日本の総人口の約30%にペナルティーを科すに等しいからだ。
国民の信頼を得る政府の力が抑止力に
以上に見てきたように、国債の増発も増税も、防衛費以外の歳出の削減も容易なものではない。いずれも、時の政府が国民の信頼を得ていなければ実行できない。であるならば、逆説的ではあるが、「国民の信頼を得る政府の力」を示すことが、抑止力を高める重要な要素となる。
防衛費の増額をめぐって、国会での議論が始まる。これは、台湾有事への備えを固める上で試金石となるだろう。政府が今国会での論戦でその覚悟と明確なロジックを示し、乗り切ることができれば、それが抑止力の強化につながる。台湾有事への対応となれば年に4兆円程度の負担増ではすまないかもしれない。しかし、年4兆円の負担について国民を説得でき、信頼を得ることができれば、その先の展望も開ける。
他方、国民の側も現実を直視する必要があるのではないだろうか。読売新聞が22年11月に実施した世論調査によると、回答者の81%が中国を日本の安全保障上の脅威と認識している。脅威に対しては備えを固めなければならない。同じく70%が「防衛力の強化」に賛成したのは、ロジカルな反応である。
だが、23年1月の調査では、防衛費増額の財源に所得税などを充てる政府方針に63%が「反対」した。「賛成」は28%にとどまった。すなわち、脅威は認識しているし、備えを固める必要も感じているが、資金の負担はしたくない、が民意ということになる。
その気持ちは十分に理解できる。日本経済の現状は勢いを欠いている。まず内需について、日本銀行が昨年12月に発表した日銀短観を見ると、非製造業の業況判断DIは 20年上半期を底に回復してきたが、「先行き」は大企業で11、中小企業で-1と「最近」の値(大企業は19、中小企業は6)を下回る。物価の上昇や人手不足が懸念事項だ。
外需も力がない。内閣府が2月7日に発表した昨年12月の景気動向指数を見ると、現在の経済状況を示す一致指数は98.9で、4カ月連続で前の月を下回った。足を引っ張ったのは輸出の落ち込みだった。基調判断は「足踏みをしている」。21年9月以来の下方修正となった。
とはいえ、先立つものがなければ、備えを固めることはできない。
米中関係に詳しい日本総合研究所の呉軍華・上席理事は22年9月、「日中国交正常化から50年を経る間に大きく変身した中国と、日本はいかに付き合っていくべきか」という日経ビジネスの質問に次のように答えた。
「醜いかもしれないが、平和は実力でしか守れない。いくら融和を唱えても実力を伴わない融和は『宥和』にしかならない」「日本は、難しくても成長の軸足を国内に据え付け、その成果を確実に分配し民を富ませ、国を強くすることによって、戦争への抑止力を強化しなければ生き残れない。今こそ、『富民強国』に突き進むときだ」(呉軍華氏)
台湾有事が現実となれば現状を維持することさえおぼつかなくなる。厳しい話になるが、私たちは現実解を探し、実行することに、意識を向けなければならない時期に立っているのではないだろうか。・・・
●国会内外で力を合わせ “平和の大攻勢”を 志位委員長 2/10
日本共産党の志位和夫委員長は9日、国会内で記者会見し、岸田政権による大軍拡を許さないたたかいについて、「今国会最大の課題です。反戦平和の党としての日本共産党の存在意義をかけて国会論戦にのぞんできました」と述べました。
衆参の代表質問、衆院予算委員会での志位氏の基本的質疑に続いて、この間の予算委員会では、宮本徹議員(1日)が、大軍拡の財源として年金や医療の積立金が流用されようとしている問題を追及。志位氏は「世論に大きなインパクトを与えた追及となりました」と紹介。穀田恵二議員(6日)の質問では、浜田靖一防衛相は、日本が武力攻撃を受けていないもとで、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行い、相手国から報復攻撃を受けた場合、「日本に大規模な被害が生じる可能性も完全に否定できない」と認めました。志位氏は、「敵基地攻撃能力保有の危険性が浮き彫りになりました」と強調しました。
志位氏はさらに、赤嶺政賢議員(8日)が「相手国に届く長射程ミサイル配備により、相手国からの報復によって沖縄が戦場になる危険を生々しく訴えた」と指摘。「一連の追及は、大軍拡の核心部分を突く日本共産党ならではの論戦であり、さらに徹底的に追及します」と語りました。
その上で、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)から政策課題の要請書を受け取ったことや、「平和、いのち、くらしを壊す戦争準備の大軍拡・大増税NO!連絡会」の新宿駅前の街頭宣伝で訴えたことに触れ、「岸田政権による大軍拡を許さないという一点で、広大な国民的共同をつくり、市民と野党の共闘でもこの一点での再構築を図っていきたい。国会内外での共同のたたかいによって“平和の大攻勢”をかけていく決意でがんばり抜きたい」と語りました。  
●NHKの制作費「報道・防災・教育などに集中を」…新聞協会が見解 2/10
NHKの2023年度予算や受信料値下げを盛り込んだ経営計画の修正などが国会へ提出されたことを受け、日本新聞協会メディア開発委員会は10日、「民間と競合する事業も多い子会社の業務範囲を再定義して適正なガバナンス(組織統治)を確保し、それに見合った受信料体系や水準を示すことが改革の出発点だ」などとする見解を公表した。
NHKの23年度予算は、過去最大の受信料1割値下げの影響で、事業収入が前年度比450億円減の6440億円を見込む。事業支出も6720億円と同170億円減としているが、「放送の補完」に位置付けられるインターネット事業の経費は過去最大の197億円で高止まりしている。
この点、同委員会は、「巨額の受信料を背景にネット業務を拡大すれば、新聞をはじめ民間メディアとの公正競争が阻害され、言論の多様性やメディアの多元性が損なわれかねない」として、ネット事業の抑制的な運用などを要請した。
本来業務である放送については、「制作費を公共放送としてふさわしい報道・防災・教育・福祉・伝統芸能といったジャンルに集中すべきではないか」と指摘。民間企業では取り組みにくい番組の制作に注力し、該当しない分野は撤退・縮小するよう求めた。
●新潟市で衆院予算委が地方公聴会 賃上げや少子化めぐり意見 2/10
新年度予算案を審議している衆議院予算委員会は、10日3年ぶりの地方公聴会を開催し、このうち新潟市では、賃上げや少子化対策などをめぐって意見や要望が出されました。
衆議院予算委員会は、例年2か所程度の地方都市で公聴会を開いていますが、去年とおととしは新型コロナの影響で開催されず、10日3年ぶりに新潟市と福岡市で開かれました。
このうち新潟市では、自民党が推薦した、新潟県商工会議所連合会の福田勝之会頭が「中小・小規模事業者が値上げする勇気が持てる方向性の打ち出しと、賃上げにつなげるための取引価格適正化を強力に進めて頂きたい。新型コロナを5月に確実に『5類』に移行することが最大の社会経済対策になる」と述べました。
また立憲民主党が推薦した、連合新潟の小林俊夫事務局長は「奨学金返済のために結婚や出産をためらう若者が多数いる。政府は異次元の少子化対策と言っているが、幼少期に限らず、これらの支援についても議論して頂きたい」と述べました。
公明党が推薦した、十日町市の関口芳史市長は、「2年連続で大雪に見舞われ、一昨年度は災害救助法が適用されたが、昨年度は県条例の適用にとどまった。豪雪地帯でも安心して暮らせるように、地元市町村の判断ができるような柔軟な制度運用をお願いしたい」と述べました。
共産党が推薦した、新潟大学の立石雅昭名誉教授は「福島県民本位の福島の復興なくして、原発回帰や新増設などはありえない。事故の収束や廃炉に全力を挙げるべきで、GX=グリーントランスフォーメーションに関わる予算の再考をお願いしたい」と述べました。
●「卵が聞いたことがない値段に」鳥インフルの影響で生産者の窮状訴える 2/10
国の新年度予算案について意見を聞く衆議院予算委員会の地方公聴会が10日、福岡市で開かれました。出席した養鶏業者は鳥インフルエンザの影響を受ける生産現場の窮状を訴えました。
生産者「非常に悲痛な声を上げている」
10日午後、福岡市博多区のホテルで衆議院予算委員会の地方公聴会が開かれ、服部知事など関係者約30人が出席しました。
トリゼンフーズ 河津善博会長「生産者が非常に悲痛な声を上げているということをご存知いただきたい」
意見陳述人として出席したトリゼンフーズの河津会長は、「卵が聞いたことがない値段になっている」「殺処分はここまで一気にやらなくちゃいけないのか」など、鳥インフルエンザの影響を受けた県内の生産者の窮状を訴えました。
福岡での開催は初めて
一方、福岡県の服部知事は教育や半導体分野での人材育成に力を入れていることを紹介しました。国の新年度予算案の地方公聴会が、福岡県で開催されたのは今回が初めてです。

 

●NHK「安倍政権」以降さらに強まる官邸の意向  2/11
徴税権に準ずるほどの強力な受信料徴収権。なぜ放送局で唯一NHKだけに与えられているのか。国家権力や資本家、いかなる団体からの影響も受けず、独立した編集権をNHKに持たせるためにほかならない。
それは国営放送局だった戦前の日本放送協会が、大本営発表の虚偽の戦況と軍部礼賛の報道によって、国民を欺き続けたことへの反省から生まれた知恵といえる。
だがはたしてNHKは国家権力からの独立性を確保しているといえるのだろうか。
国が金も人事も掌握
放送法はまだ日本がGHQ(連合国軍総司令部)の支配下にあった1950年、電波法、電波監理委員会設置法とともに、いわゆる電波3法として施行された。
一般事業会社の取締役に当たる経営委員は衆参両院の承認を経て内閣総理大臣が任命。会長はその経営委員が指名し、一般事業会社の執行役員に当たる理事も経営委員の同意を得て会長が指名する。
予算・事業計画も国会の承認を必要とする。国会での審議というと一見、民主的なようだが、結局は金も人事権も政権与党に握られ、人事権を通じて番組内容に関与できる組織とみることができる。
つまり戦後のNHKは最初から「政権与党にとって金(=税金)は出さなくても口を出して人事を左右できる利便性の高い“報道装置”」(NHKに関する多数の著書があるジャーナリストの小田桐誠氏)なのだ。
GHQは民主化政策を推し進め、一度は言論の自由を日本国民に与えた。だが、東西冷戦の深刻化とともに、早くも1948年には占領政策を百八十度転換、言論統制を強めた。朝鮮戦争勃発は電波3法施行からわずか24日後である。
そんな世界情勢の真っただ中で、日本国政府も日本の世論もコントロールしたい米国政府が、NHKに国家権力からの独立性など許す気は毛頭なかったとすれば、NHKの金も人事権も国に握らせたことは、いわば必然である。
戦後のNHKの歴史の中で政権与党との結び付きがあからさまになったのは、1960年代のことだ。NHKの会長選考は、自民党人事抗争の代理戦争の様相を帯びた。
1964年、NHK会長選は、首相4選を阻止された池田勇人氏と、阻止した佐藤栄作氏の代理戦争となり、佐藤氏の強い推しによって前田義徳氏が会長の座を射止めた。
前田氏が、国会での予算審議前に自民党通信部会、政務調査会、総務会に会長自ら事前説明に回る仕組みを導入したのは、自身の就任経緯からすれば当然のことだった。
ただし自民党自体が、多様な価値観を持つ傑物たちが群雄割拠し、よくも悪くもバランスが取れていたために、1990年代半ばごろまではさほど深刻な事態は起きなかった。
小選挙区制で自民党内の勢力図が一変
だが1996年の衆院選から小選挙区制が導入されると、自民党内の勢力図が一変。森喜朗政権末期の2001年には、政治介入によって番組内容が大きく改変されたとされる、いわゆる「NHK番組改編問題」が発生した。その後、2度の安倍晋三政権で、官邸によるNHKへの介入はより先鋭化していく。
2006年、第1次安倍政権が発足すると、菅義偉総務相はNHKの受信料支払い義務化と、支払い義務化による増収分を原資とする受信料の2割引き下げを政治課題として掲げた。受信料引き下げは実現すれば票につながる。放送法に受信料の支払い義務を盛り込めば、未払い世帯への強制執行が格段にたやすくなるから、財源確保もセットにした改革である。
この案に内部昇格で会長に就いていた橋本元一氏が抵抗すると、古森重驕E富士フイルムホールディングス社長を経営委員長として送り込み、受信料の1割値下げを実現させ、会長には福地茂雄・アサヒビール元会長を就かせた。
菅氏は自身の著書で、官邸主導のNHK経営改革に向け、官邸が人事権を行使したことを明言している。NHKの経営委員長は、複数年、委員を経験したのちに就任する慣例も、このとき破られた。
第2次安倍政権下では、これまた慣例を破って野党の反対を無視、安倍氏に近い人材で経営委員会が固められ、その経営委員会の指名で誕生した籾井勝人会長(三井物産元副社長)が、就任会見で「政府が右と言っているのに、われわれが左と言うわけにはいかない」と発言、受信料制度の根幹たる国家からの独立性を否定した。
2014年、報道番組「クローズアップ現代」で、国谷裕子キャスターが菅氏に厳しい質問をしたことが菅氏の怒りを買い、それが2016年3月の国谷氏の番組降板につながったとの見方は今も根強くある(菅氏は影響力行使を否定)。
2016年には高市早苗総務相が、放送内容が政治的公平に抵触しているかどうかを判断するのは、行政当局であることを前提とした発言を行った。
巨額の貯め込みを加速させた
前田晃伸会長まで5代続いた経済界出身の会長たちは、受信料の引き下げとコストカットには積極的だったが、巨額の貯め込みは問題視しないばかりかむしろ加速させた。菅氏も貯め込みを問題視したことがない。
税金を投入することなくNHKをコントロールできる官邸にとって、NHKは「国家権力から独立した報道機関」という仮面を着けてくれている今の状態が最も望ましいのではないか。NHKの貯め込み加速は、NHKの体力強化を狙った官邸の意向そのものなのではないのか。
NHKを国家権力から解放するには、放送法を改正し、予算・事業計画の審議権と人事権を国から取り上げ、視聴者による組織を立ち上げて移管するしかない。だが受信料制度に不満を抱く国民の大勢の意見は「見ないのに対価を払いたくない」という次元にとどまる。
NHKに権力の監視を期待しない、それどころかその必要性すら認識しない国民が増えているのだとしたら、日本は本当に危うい。
●日銀総裁の交代時期に考える、金融政策・財政政策で何ができるのか 2/11
4月8日に任期満了となる黒田東彦・日本銀行総裁の後任として、植田和男氏(経済学者、元日銀審議委員)の起用が報じられた。足元では消費者物価の上昇率が4%台に達するなど、黒田執行部が目標としてきた2%を超えているが、逆に異次元緩和によるインフレ懸念や債券市場のゆがみといった側面も強く意識されるようになった。本来、我々は金融政策という手段にどこまで期待すべきだったのか。日銀で要職を歴任し、現在は日本証券アナリスト協会の専務理事を務める神津多可思氏の論考をお届けする。
1つの政策目標には1つの政策手段が必要だが・・・
日本銀行の正副総裁が変わる時期ということもあってか、過去10年間の金融政策を振り返る評論がたくさん出ている。
いまさらながらだが、できないことを金融政策に期待したのではないかという見方もある。一方、財政政策についても、本当に生産性の改善に資するような支出内容となっているのかという問題提起がある。
そもそも理屈の世界では、金融政策、財政政策に何を期待することができるのか。そして、その理屈は実践の世界ではどう活かせば良いのだろうか。
ティンバーゲンという20世紀のオランダの経済学者がいる。第1回のノーベル経済学賞を受賞した人だ。彼の名を冠した「ティンバーゲンの定理」というのがあるが、これは、独立した政策目標を達成するためには、同じ数だけ独立した政策手段が必要というものだ。
例えば、消費者物価でみたインフレ率を安定させるというのは、1つの独立した政策目標だ。そして、伝統的な金融政策である短期金利の操作は、1つの独立した政策手段だ。
この2つを対応させると、金融政策はインフレ率の安定以外の政策目標の達成に割り当てることができないというのがティンバーゲンの定理の言っていることである。
賃金の変化とインフレ率、連関あるが別の事象
賃金が上がらないインフレは本来目指したインフレでないというのは、それはそれで分かる。しかし、賃金の変化とインフレ率は、一定の連関をもった経済指標ではあるが、全く同じ事象ではない。
したがって、ティンバーゲンの定理によれば、1つの政策手段、例えば金融政策で両方を同時に望ましい状態に持っていくことは、元来できないことになる。
もう一つ「マンデルの定理」というのもある。マンデルは2021年に亡くなったカナダの経済学者で、彼もまたノーベル経済学賞を受賞している。
この定理は、ある政策目標を達成する政策手段が複数ある場合、最も強い影響を与える手段をその目標と組み合わせることが望ましいということを言っている。
賃金上昇、とりわけ実質賃金の上昇に対しては、金融政策が最も強い影響を与える手段かどうか、定説があるとは言えない。さらに、実質賃金の改善のためには生産性の上昇が不可欠だという議論になると、それに対して金融政策がどう影響を与えるのかということは、ますますはっきりしない。
マンデルの定理からは、金融政策をそういう政策目標に割り当てることにも疑義が生じる。
「脱デフレ」とは何を意味していたのか?
ところで、過去10年間の果敢な金融緩和が、「脱デフレ」を目指したものだという点はあまり異論ないだろう。脱デフレという政策目標の達成に金融政策を割り当てたのだとして、その脱デフレとは本質的に何であったか。
日本経済は、1990年代後半以降、マイルドなデフレに繰り返し陥ってきた。そうした状況から脱することが脱デフレであるとすると、本来的には、まずマクロ経済の需給ギャップが需要不足/供給超過の方向に振れた場合でも、消費者物価でみたインフレ率がマイナスにならないようにすることが目指されたはずだ。
そして、インフレ目標が2%であるとすると、少なくとも、景気循環を通した平均インフレ率がそうならないと、政策目標を達成したことにはならないだろう。
そういう脱デフレの議論に、賃金や生産性の議論までが入ってきているのが現状だが、そうなってくると、本当であれば金融政策によってそれらの経済指標がどこまで制御できるのかの整理をもっとちゃんとすべきであったことになる。
金融政策のあり方とインフレ率の関係は、理屈の上ではある種の共有された整理がある。例えばフィリップス曲線がそれだ。しかし、金融政策と賃金あるいは生産性の関係となると、インフレ率ほど確立された関係があるとは言えない。
大学で教鞭をとってきた身として、こうした脱デフレの本質にまで分け入って議論をしてこなかったことを反省している。若い人々に考える材料を中立的に与えるという意味で、インフレ目標が何故2%なのかといった技術論ばかりではなく、根源的な問題提起をもっと早い段階ですべきであった。
脱デフレが、結局のところ実質賃金や生産性にまで及ぶ議論であったならば、理屈上は、金融政策にその改善の主たる責任を負わせるのは行き過ぎということにならざるを得ないように思う。
そもそも実質賃金については、具体的にどう定義するかも難しい。
賃金の決定要因は多岐にわたる
高齢化・人口減少が速いスピードで進んでいるのだから、合計値や平均で考えたのでは、その人口動態の面からのバイアスがかなり強くかかる。
さらに、これまでのグローバル化は、特に2000年代以降、典型的には中国経済との競争というかたちで、日本国内の賃金に大きな下押し圧力を加えてきた。その影響は、そもそも金融政策でどこまで中立化できるのか。
また、賃金の決定には労働分配率も重要な要素となる。そこでは組合の交渉力も問題になるが、それは金融政策からはかなり距離がある。
そうしたことを勘案した上で実質賃金の定義を明確にしても、さらにそれがどの程度改善していれば日本経済の実力が発揮されたことになるのかを考えなくてはならない。
このように今、改めて整理をしてみると、賃金が上昇しないインフレでは不十分だという議論や、さらには生産性の改善を背景とした実質賃金の上昇こそが求められているという話になると、少なくとも理屈の面からは、金融政策だけでは政策目標が実現できないように思われる。
「これからは財政政策」とはならない
一方、財政政策になると、賃金や生産性に影響を及ぼす政策の波及経路を、金融政策よりは直截に思い浮かべることができる。しかし、財政政策という括りでは、政策目的を1つには特定できない。需給ギャップへの影響という面からみれば、財政支出の規模を拡大すれば、金融緩和と同様に総需要の刺激になるが、財政政策に期待されているのはそれだけではない。
そもそも、これまでの財政赤字の主因は、年金、健康保険、介護保険といった社会保障制度において、歳入と歳出が制度的に見合っていないため、国費を投入せざるを得なかったところにある。赤字を賄うための国債発行に関係する費用がさらに赤字を拡大させてきた。
これまでの財政政策は、必ずしも日本経済の生産性を改善させ、成長率を底上げすることを主眼に運営されてきた訳ではないのである。
このように、金融政策では駄目だからこれからは財政政策でという話にはすぐはならない。生産性の改善があり、その成果が応分に労働に配分されて初めて実質賃金も上昇するのであろうから、そのプロセス全体に1つの政策手段を割り当てるということ自体、なかなか難しいのであろう。
それでは、繰り返しマイルドなデフレに陥り、なかなか将来展望が拓けない経済において、少なくとも働く者1人当たりの1時間当たり賃金が実質でみて持続的に上昇するような経済にするためには何をすれば良かったのだろうか。
理屈の世界の議論を整理すれば、以上で考えてきたように、金融政策や財政政策を1つ選んでそれを割り当てるという結論にはならなそうだ。
生活者の立場からすれば、マクロ経済が不振に陥っている時、政府が何の政策も打ち出さないというのはおかしい。しかし、だからといって主たる政策手段を金融政策として、2%のインフレが傾向的に実現すれば、生産性が改善し、それが実質賃金の上昇に結び付くと言われても、それはどういうロジックでのことなのかという疑問が残る。
以上のように、実践的にどうすれば良かったかということになると、結局、金融政策、財政政策のあり方を変えて、もっと生産性改善に結び付くようなパターンにすべきだったということになるが、それはどのようなものだろうか。
金融政策は本来、景気の山谷を均すためのもの
まず金融政策に関しては、緩和を強化すればするほど生産性の改善が実現するということではないようだという雰囲気も最近では出てきている。これは予想に過ぎないが、低金利が一定以上の長期にわたると、経済活動全般におけるリスクテイクが抑制され、その結果、将来の成長に繋がるような経済活動も不十分となり、生産性も改善しないということがあるのではないだろうか。
金融政策は、本来、景気循環の山と谷を均(なら)す機能を持つものであり、その景気循環のサイクルを超えて、極めて緩和的な金融環境を維持し続けると、結局、デメリットの方が大きくなるというような仮説である。
もちろん、これから検証されるべきことだが、低金利がゾンビ企業を増やし、経済成長を阻害するというようなストーリーは、こうしたダイナミズムの中で考える必要があるように思われる。
政府がリスクをとらなければ成果はない
一方、財政政策については、赤字は問題ないといった主張もあり、かつ未来のことは本当のところは分からないのだが、どんどんこれまで以上のスピードで財政赤字が拡大するのは不安だという実感を持つ人が多いのではないか。
そうだとすれば、社会保障制度から生まれる赤字を食い止め、その分、生産性の改善に結び付くような歳出を増やしていくというアイディアもある。
どういう分野でお金を使うかという判断にはリスクがあるが、それは会社経営と同じで、政府がリスクをとらなければいつまで経っても成果は得られない。そのリスクテイクの責任は、議員内閣制の下では、結局のところ政権与党の国会議員が負うことになる。
要するに、金融政策にしろ、財政政策にしろ、生産性の改善を最終的に目指すのであれば、ある種のバランス論が考えられるということである。それが崩れていると、いくら政策を強化しても、どこからか先は逆効果になってしまうということを、日本経済の現状が教えてくれているのではないだろうか。
●米財政収支、1月は390億ドルの赤字 年金基金救済が重し  2/11
米財務省が10日発表した1月の財政収支は390億ドルの赤字となった。歳入が減少する一方、年金基金の救済を含む一時費用で歳出が急増した。前年同月は1190億ドルの黒字だった。
歳入は前年同月比4%減の4470億ドル。
歳出は4%増の4860億ドル。360億ドルの年金基金救済が響いた。
財務省は、議会が法定債務上限を引き上げない限り、政府の債務支払う能力は6月初めに枯渇するとの見方を示している。
2022年10月─23年1月の財政赤字は4600億ドル。歳入は3%減の1兆4730億ドル、歳出は9%増の1兆9330億ドルだった。
●「期待できる閣僚」ランキング 3位岸田首相、2位高市早苗を抑えた1位は? 2/11
世論調査によっては、政権を維持する上で“危険水域”といわれる支持率3割を切るなど厳しい政権運営を余儀なくされている岸田政権。支持率が上がる気配もないなか、果たして岸田内閣の中に、政権を立て直すことのできる閣僚はいるのか?
そこで、本誌はアンケートサービスとTwitterで「岸田政権で最も期待できる閣僚」についてのアンケートを実施。ランキングを作成した。回答したのは男女581人。
第3位は、閣僚のトップである岸田文雄首相(65)だ。
1月27日の参議院本会議では、「育児中など、さまざまな状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししてまいります」と、育児中の女性に対する”学び直し”を推奨した岸田首相。
しかし、ネットでは《子育て中に勉強なんて無理!》《育児をしていない人の発想》などといった批判が相次ぎ、1月30日の衆議院予算委員会で真意を問われた岸田首相は「本人の希望が前提の話だった」と釈明。
度々失言や失策が注目される岸田首相だが、いっぽうで昨年12月に中国で新型コロナの感染が急拡大していることを受けて、中国本土からの渡航者と中国本土に7日以内の渡航歴のある人すべてに対し入国時の検査を行うなど、緊急の水際対策を行った。安倍政権下で、外務大臣を長らく務めた経験からも、期待できる理由として、外交政策を支持する声が寄せられていた。
《不正や悪い噂が無い。外務大臣の経験があるから、外交に強そう。他国とうまく付き合う為には岸田総理だと思う》(30代男性・会社員)
《期待が持てると言えるか分からないが、なんだかんだ内閣の顔でもあるし、安倍総理の元で外務大臣を務め日米の和解や広島訪問の成果、日韓合意の成果があるため。彼がダメであればもう内閣は持たない》(20代女性・会社員)
続いて第2位に入ったのは、高市早苗経済安全保障担当大臣(61)だ。
昨年12月、岸田首相が打ち出した「1兆円の防衛費増税」に対して高市氏は自身のTwitterで「総理の真意が理解できません」などとツイートし、猛抵抗。入閣直後の昨年8月にもTwitterで《辛い気持ちで一杯》と綴り、“人事への不満?”と波紋を広げていた。
アンケートでも、身内でありながら公然と「増税反対」の意を示す高市氏の姿勢を賞賛の声が多く上がっていた。
《高市早苗 内部の人が今の政権に批判するのは覚悟がいると思うが、ズバズバ言ってくれるから》(10代男性・学生)
《国益を考えてそうに見えるし、良いものはいい、駄目なものはダメとはっきりしてるところに好感が持てる》(40代女性・専業主婦)
《他の人物よりは。という程度ではありますが、増税反対派ということで》(30代女性・医療関係者)
そして、栄えある第1位に選ばれたのは河野太郎デジタル大臣(60)だ。
菅前政権時代に新型コロナワクチン接種推進担当大臣として、日本国内のワクチン供給体制を整えた手腕は国内外で高く評価された。また、デジタル大臣就任以降は、マイナンバーカード普及を促進し、今年1月31日に年齢確認が必要な酒とたばこの購入に、マイナンバーカード等を利用して、セルフレジで購入可能にする取り組みを視察。都内のコンビニエンスストア3店舗が対応し、今後順次全国へ広がっていくという。
そんな河野氏を「期待できる」とした理由には、”デジタル化政策“やスピード感を高く評価する声が多数上がっていた。
《コロナワクチン確保や、ハンコレス化など、決断力、実行力は評価出来ると考える。あとは、他に適任者が浮かばない》(40代男性・会社員)
《コロナ政策など動きが早く、民間の考え方を理解した上で世界と戦っていけると思うから》(20代女性・正社員)
《お役所の事務作業のペーパーレス化、デジタル化を、掲げているので》(70代男性・無職)
《デジタルが進んでいく中どういう政策をするのか期待しているから》(10代女性・学生)
《現在のややこしい制度に対して、抜本的な見直しや改善の要求を積み込むように進め、リスク覚悟で臨んでいることです》(20代男性・福祉関連業)
上記のほかに、フォロワー267万人を誇る自身のTwitterを頻繁に更新し、リプライを交わすなど気さくな”SNSの活用術”にも賞賛の声が多数上がっていた。
《SNS発信が頻繁で、国民との距離が近く、行動力に長けていると思う為。従来の消極的な姿勢から積極的政治に転換できるのではないかと期待している》(20代女性・無職)
《SNSで一般人とやり取りする姿を見て国民に目を向けてくれてはいそうだから》(20代女性・パート)
支持率が低迷している岸田政権。国民が「期待できる」とする閣僚がひとりでも増えてほしいものだーー。
岸田政権で最も期待できる閣僚は?
1位:河野太郎 252票
2位:高市早苗 117票
3位:岸田文雄 97票
4位:若宮健嗣 31票
5位:林芳正 18票
次点:西村康稔 13票  

 

●カネの循環創出をー日銀新総裁の使命 2/12
「経済とは貨幣を消費する意味でもなければ、これを節約する意義でもない。それは一国一家の経営と処理の義である」
19世紀英国の評論家ジョン・ラスキン(1819〜1900)の言葉である。
ニュース番組で国家予算の説明に国を一つの家計に例える例もあるが、いかに使うべきところにカネを使って蓄えを最大限にできるか、家庭でも皆が日々頭を悩ませていよう。国家だけでなく家庭でも経済というのはそうした営みを表しているということなのかもしれない。
空前の円安が続いた日本経済に少なからぬ激震が走った。
2/10に政府は10年間総裁の職にあたり4月で退任する黒田東彦日本銀行総裁(78)の後任に、元審議委員で経済学者の植田和男氏(71)をあてるとした。財務省や同銀出身者でもない総裁職への学者の起用は戦後初という。
東大理学部・経済学部、マサチューセッツ工科大学で学んだ同氏は長きにわたり東大で教鞭をとったが、1998年には同銀政策委員会審議委員に就任。バブル崩壊後の平成不況において、ゼロ金利政策や量的金融緩和政策導入を経済学者として理論面で支えた。2000年の金融政策決定会合では、ゼロ金利政策の解除に反対票を投じたことでも知られる。
この起用が報じられると、思わぬ起用ということで超低金利政策転換への期待感から円が多く買われた。同氏が「緩和政策の維持が適切」と発言したことで落ち着きを取り戻したが、長期金利の指標10年債利回りも3週間ぶりに0.5%に達している。
副総裁には内田真一理事と氷見野良三前金融庁長官を起用し、三頭体制とする方針だ。
同氏の発言からすると、今までの超低金利政策を維持するかそれとも転換するかは不透明だ。
しかし、一国の金融の番人を務めるには、国家経済の成長発展へ向けて最大限の努力をしていただきたいというのが我々市民の願いだ。
12月に同銀が発表した四半期ごとの日銀短観によると、大企業(製造業+7、非製造業+19)や中堅企業(製造業+1、非製造業+11)では業況判断について「良い」が「悪い」を上回っていたものの、製造業の中小企業については-2と「悪い」が上回っている。今後の先行きについても大企業(製造業+6、非製造業+11)は好感的に見ているのに対し、製造業の中堅企業(-2)や中小企業(製造業-5、非製造業-1)で厳しい見方がある。
一方昨年9月の財務省発表によると、2021年度の大企業の内部留保額は前年度比17.5兆円増の484.3兆円だったという。中小企業も含めた利益剰余金は516.5兆円ということで、大企業以外の中堅・中小企業にはわずか6%程度の内部留保しかないということになる。
言わずもがな、我が国の企業の大多数は中小企業である。
2016年の統計でも全企業の99.7%たる約358万社は中小企業で、そこに従事する従業員数も3220万人と全従業員の2/3を占める。
それだけに経済の中心を占める中小企業にしっかりカネが行き渡らないと経済も回らないはずなのだ。上記の事実を見るに大企業にばかりカネが回っているように見える。確かにコロナや原油高などでマイナス材料も多いが、大企業は潤沢な内部留保で苦境を乗り越えられたとしてもカネがない中堅・中小企業は厳しいかもしれない。だからこそ先行きも厳しいと見ているのかもしれない。
経済を一つの体とするなら、カネは体を流れる血液となる。もしその血液が体の一箇所だけに滞留していたらどうなるか、皆想像もつくはずだ。今の状況というのはそういうことなのだろう。
カネ余りが叫ばれて久しいが、実質賃金も上がらないなど我々市民の生活も一層苦しくなるばかりである。7人に1人が貧困とされているが、やはり行き渡るべきところにカネが行き渡っていないからなのではないのか。
同銀だけで全てを司るのは難しいのかもしれない。しかし、金融の番人として同氏には「心筋梗塞」を避けるべく、政府はじめ財務省や経済産業省など関係省庁の尻を叩く役割を担っていただきたい。
兎にも角にもそうした中小企業にカネが行き渡らない限り、国際競争力ある日本など成立し得ない。眠っている活力を引き出し魅力ある金融市場を創り出し、外貨を呼び込む。そしてカネを循環させて市民の生活福祉向上を実現し、再生産を促進する。これこそが金融の番人たる日銀総裁が目指すべき姿だ。
どう転ぶかわからないからこそ、先に目指すべき姿を示した。さて、卓越した審美眼と叡智を持ってそこへどう向かうか、同氏の手腕に注目したい。
●米一般教書演説 対中抑止は行動が必要だ 2/12
バイデン米大統領が連邦議会で、政権の運営方針や政策を説明する一般教書演説を行った。
外交安全保障政策をめぐっては、世界のあらゆる場所で「一層の自由、尊厳、平和のために取り組んでいる」と強調し、専制主義を強める中国やロシアを念頭に「私たちは世界中で深刻な困難に直面している」と強い危機感を表明した。
そのうえで「中国との競争に打ち勝つには結束しなければならない」と呼びかけた。バイデン氏の認識は正しい。とくに数年後にも予想される台湾有事をめぐる備えは、喫緊の懸案である。
日米などの民主主義国は、中国と安全保障分野で対立する一方、経済分野では密接な関係にある。このため、バイデン政権は軍事面に加え、外交や経済でも同盟諸国と連携して中国を封じ込める「統合抑止」を打ち出した。
とくに半導体や電気自動車用電池といった戦略物資の「脱中国依存」を図るため、世界的なサプライチェーン(供給網)の再編を進め、ハイテク分野を軸に中国を押さえ込む構えだ。日本をはじめとする同盟諸国も米国の取り組みを積極的に支えるべきである。
さらにバイデン氏は「米軍を近代化させる」と言明した。中国のスパイ気球を米上空で撃墜したことを例に「中国が米国の主権を脅かせば、国を守るために行動する」と警告したのは当然だ。
世界の平和と安定に向け、ウクライナ侵略を続けるロシアを撃退するため、「必要な限りウクライナを支える」と重ねて強調した。また、中国の台湾侵攻を抑止するためにも、米軍事力の裏付けが不可欠である。
2023会計年度(22年10月〜23年9月)の米国防予算は、議会の超党派による後押しで過去最大規模の8580億ドル(約113兆円)を計上した。
ウクライナに対する支援や軍備増強を続ける中国への抑止力を確保するには、米軍事力の整備はまだ途上にあると認識すべきだ。
演説の中でバイデン氏は「この2年間で、民主主義国家は弱くなるどころか強くなっている」と誇示してみせた。中国やロシアなどの専制国家に対峙(たいじ)するには、何より具体的な行動が必要だ。バイデン氏には、民主主義の価値観を共有する同盟諸国による力強い連帯を主導する責務がある。
●「岸田首相は決断できないんじゃなく『本気じゃない』」泉房穂明石市長が喝破 2/12
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を最重要項目として掲げたことで関心が高まっている子育て世代への支援。東京都の小池百合子都知事や、大阪府の吉村洋文知事らが次々と独自の支援策を表明する中で、12年前から明石市長としていち早くこの問題に取り組んできた泉房穂市長の発言に、注目が集まっている。
泉市長といえば4年前、雑居ビルの立ち退きを巡って「火つけて捕まってこい」と発言したことが問題視され、一度は市長を辞任。その後、再出馬して三選を果たしたものの2022年に自身に対する問責決議案を巡って「選挙落としたる」と発言。謝罪し、任期の切れる今期限りで政界を引退することを表明したばかりでもある。
しかしそんな泉市長に対する、明石市民の信頼は厚く、「辞めないで」という声があがっているのも事実――。「暴言市長」は一体どんな人物なのか。
「こうやって取材して、話を聞いて貰えるのがうれしいねん」
よく通る大きな声と、満面の笑みで取材場所に現れた泉市長。差し出された名刺には「明石市長 泉房穂」の文字と点字が印刷されていた。
「なんでも聞いてください。口は悪いけど、そこは堪忍な」
そう前置きすると、2時間半ノンストップで話し続けた泉市長。“変わり者市長”が「ひとりも取り残さない政治」を目指すきっかけとなったある出来事とは。
国は子ども予算をいち早く倍増すべき
――岸田文雄首相が子ども・子育て政策を最重要課題と位置づけ、「異次元の少子化対策」を掲げたことが話題になっています。泉市長はTwitterでいち早くこれに反応していましたね。
泉 私からしたら、これまでの日本は「異次元に子どもに冷たい国」なんだから、まずは普通の少子化対策をしましょうと。少子化対策や子育て支援策の必要性については、20年以上も前から言われ続けているのに、いまだに日本は諸外国に比べて国が子育てに支出する額が約半分と少なすぎる。「検討」ばかりしていないで、子ども予算を早急に倍増すべきというのが私の考えです。
夜間授乳担当し、子育ての大変さを実感
――1月27日の参院本会議で岸田首相が産休育休中の「学び直し」支援を発表したことに、国民から批判が相次ぎました。
泉 いかに総理や官邸が出産育児に関係のない人生を歩んできたかがわかります。私は自分の子どもが乳児だった頃、妻に替わって夜間授乳を担当する日を作っていましたが、たった週に1、2日でもしんどかった。でもあの日々があるから子育ての大変さがわかるわけですから、妻に感謝しなあきませんね。
学び直しというのなら、まずは総理が子育て支援の本質を学び直すべきやと思います。
「異次元に子どもに冷たい日本」のワケ
――そもそも、なぜ日本は「異次元に子どもに冷たい国」になってしまったんでしょう。
泉 日本は「法は家庭に入らず」「子どもは親のもの」という考えがいまだに根強いからでしょう。フランスもかつてはそういう考えが強かったのですが、少子化が進んだことを受けて1990年代に一気に子育て政策に舵を切り、「社会で子どもを育てる」国に生まれ変わった。
少子化問題に直面したフランス以外のヨーロッパの国々も足並みをそろえるようになり、今や子どもや家族の問題について、政治行政が責任を果たすのがグローバルスタンダードとなっています。
――今年4月に設置される「こども家庭庁」のネーミングも、「こども=家庭の問題」という認識を広げてしまうのではないかと物議を醸しましたね。
泉 こども家庭庁は方針も不明確で、財源も不十分だし、これでは「子どもの面倒は家庭がやるべき庁」になってしまうのではと危惧しています。「社会で子どもを育てる」という“先進国の常識”が国の中枢には浸透していないようにみえますね。
「財源がない」は思い込み 600万円世帯の月8500円程度
――日本では明石市の支援が際立って分厚いですが、諸外国と比べてどうなのでしょうか?
泉 明石市は諸外国の政策を参考に「5つの無料化」を実行して子育て支援を進めてきました。日本ではすごいすごいと言っていただけますが、実はまだグローバルスタンダードの手前ぐらい。だから胸を張れる話じゃないし、子ども達に遅くなってごめんなさいという気持ちかな。
――明石市独自の子育てに関わる「5つの無料化」ですね。高校3年生までの医療費、第二子以降の保育料、満一歳までのおむつ、中学生の給食費や公共施設をすべて所得制限なし、自己負担なしで市民に提供しています。
泉 「5つの無料化」が整備された当初は「変わり者の市長からできた」とか、「うちにはそんな財源はない」とよう言われました。
――子育ての支援の話題で必ず論点に挙げられるのが財源の確保です。日本の経済は上向きとは決して言えませんし、なぜ新たな財源を用意できたのでしょう。
泉 そもそも、新たに子育て支援をするんだったら「増税する」か、「新たな保険を作る」しかないというのは、国やマスコミの思い込み。
明石市の「5つの無料化」でかかった財源ってたかだか35億円なんですよ。これは明石市の1年間の予算2000億円のうちのたった1.7%。1.7%というのは、例えば共働き600万円世帯の1カ月の収入のうちの8500円。子どもの習い事の月謝8500円を親が出すかどうかの論点と同じなわけです。自分の子どもが塾に行って勉強したい、サッカーやピアノを習いたいと言ったら、家計がひっ迫していても8500円をなんとか捻出しようとするんちゃいますか? 
岸田首相は「決断できない」ではなく「本気じゃない」
――確かに、家計ならばやりくりできる額かもしれません。
泉 スナック通い減らしたり、新しい冬のコートをあきらめたりして、夫婦でやりくりすれば1カ月8500円は出せますよ。それと同じことで1.7%の財源くらい、惰性で税金が使われているところを見直すだけで確保できるはずなんです。
――決断すればできる、と。
泉 『裸の王様』という寓話、ご存じですか? 「王様は裸」という真実がそこにあるのに、誰もが「王様は立派な服を着ている」と信じ切っている。「財源は確保できる」という事実を明石市が示しているのに、みんな「財源はない」と言い張っている。私は「王様は裸や!」という少年であらねばと思っていますが、いま政治にかかわる人の多くはそうではない。
――「異次元の少子化対策」の財源に関する具体的な案もいまだ出ていません。
泉 岸田首相は安倍元首相の国葬や防衛費の予算を即断していますよね。彼は「決断できない人」じゃないんです。目的が違えば財源を確保しているんです。でも子ども予算だけ「検討」と言うばかりで具体的な施策を打ち出さないのは、私から言わせれば「本気じゃないから」やろね。
子育て支援の“壁”「産業復興が先」「年寄りを大切にしろ」
――泉市長は2011年に市長選に初当選して以降、一貫して子育て政策に重点を置いてこられました。 
泉 よく「明石は子どもばっかり」みたいに思われてるけど、目指しているのは「みんながハッピーなまち」やねん。なので、まずは子どもから始めたにすぎない。でも子育て支援を打ち出した当初は誤解されてましたね。
議員や職員は「産業復興が先だ」、市民は「年寄りを大切にしろ」で周りは敵ばかり。でも私にはこれをやり遂げる使命があると思っていたから、どんなに石を投げられてでも進める覚悟でした。
――その原動力はどこにあるのでしょう?
泉 弟が社会から受けた理不尽への怒りと復讐心、やね。4つ下の弟は脳性小児まひで生まれ、「一生起立不能」の診断を受けました。当時は優生保護法があって、兵庫県では「不幸な子どもの生まれない運動」をしていたので、障害のある子に世間が冷たくてね。
――当時は今以上に障害者の方への支援も整備されていませんよね。
泉 だから両親は必死になって弟が歩けるように訓練しました。努力が実ったのか、たまたまなのか、小学校入学前になんとか歩けるようになったんですけどね、明石市はわざわざ電車とバスを乗り継いで養護学校に行けと言う。
交渉の結果、何があっても行政を訴えないことと家族が送迎することを条件に近くの小学校への入学を認めてもらったけど、あの時に私はこんな社会で死にたくない、せめて少しはやさしい社会にしてから死んでいきたいと思ったんです。
幼少期に気が付いた「社会構造の間違い」
――弟への理不尽な仕打ちに許せない気持ちが芽生えた。
泉 でもね、幸いなことに私の周りはやさしい人ばかりやったんで、怒りや復讐心が人には向かなかった。本来はやさしい人たちなのに、こんな理不尽がまかり通っているのは、社会の構造が間違っているんやろうと。これは変えなあかんと、幼心に強く感じたんです。
あと原動力になったのが母からの言葉やね。自慢じゃないけど、私は子どもの頃から勉強もスポーツも何やっても一番。そんな私に母は「普通でよかったのに、あんたが2人分の能力を持って生まれてきた。弟に返しなさい」と言ったんです。
――強烈な言葉ですね……。
泉 弟が幼い頃には心中も考えたそうですから、母も相当しんどかったんやと思います。でもその言葉が心に突き刺さって、いつも“自分が一番になること”に引け目を感じていました。弟や障害者の人たちには血の滲む努力をしてもできないことがあるのに、私はちょっと頑張ったら100点を取れてしまう。なんか申し訳なくて。
だから能力を返すことはできないけど、少なくとも人のため、社会のために使おうと。小学校5年生の時には、市長になって明石市をやさしいまちに変えるんだと腹を括っていました。そのために必死で勉強したよ。
まあ、変わり者やな(笑)。
東大進学で衝撃「周りは坊ちゃんばかり」
――市長は現役で東大に入学。卒業後はNHKに入局し、弁護士を経て国会議員になり政治の道へ進まれました。東大での生活はいかがでしたか?
泉 正直、がっかりしました。私は日本を変えてやろうと熱い気持ちで入ったけど、いざ東大に入ってみたら、そんな学生はほとんどいなかった。周りは親が裕福で家庭教師つけてもらって、参考書買ってもらってという坊ちゃんばかり。彼らは自分の成功を努力の結果と思っていたけど、私から言わせれば半分以上は環境ですよ、と。残り半分の努力だって、必ずしも報われるものと限らないことを、私は弟や障害者の人々を見てきたから知っている。
日本の最高学府にいて、将来政治家や官僚になって社会を引っ張っていくであろう人間が、そのことに無関心なままでいいのかとまた心に火が付いた。それで学生運動もはじめて、両親には心配をかけました。父親からは「いい加減闘いをやめろ」「うちもなんとか食えるようになったし、弟も大過なく生きとる」と言われたけど、うちだけがよくなればいいんとちゃうやろ、ひとりも取り残さない社会を作るまではやめるものか、と。
――なぜ、闘いをやめようと思わなかったのでしょう。
「排除される側になってもおかしくない」実感
泉 弟のような障害を持つ人同様、自分がいつ排除される側の人間になってもおかしくないと思っていたから、ということもあるのかもしれませんね。
――東京大学に入学されて、あの時代であれば“エリートの道”は確約されたようなものですが……。
泉 でも私は見ての通り、こんなキャラやから(笑)。就職活動なんかで「一人採用」という時に個性的という理由で選ばれやすいんだけど、逆に「一人除ける」となった時にも選ばれやすいっていう自覚があるんです。誰かを犠牲にして排除する社会において、自分がその「誰か」になる可能性をリアルに感じているんです。
――そしてついに市長になられた。
泉 小学生の頃からの目標やから、47歳で市長になったんは遅すぎるくらいの気持ちやったね。
――国会議員ではなく、市長を選んだのはなぜなのでしょうか?
泉 市長の方が自分には向いていると思ったからです。でも、その前には衆議院議員もやってましたよ。犯罪被害者基本法や高齢者虐待防止法、無年金障害者救済法の成立、介護保険法の改正などにも取り組みました。でも社会を大きく変える、ということは国会議員の1人ではできないなという限界もあらためて感じました。
こんなん言うと危ない奴って思われそうやけど、20代の頃は革命家になって社会を変えてやろうと思ってたんよ(笑)。
明石市から“革命”を起こす
――革命家ですか。
泉 東大でも駒場寮の寮委員長として学生運動や市民運動に身を投じていたしね。それであやうく退学騒動になったこともありました(笑)。
日本が大統領制だったら、私が国のトップになって国民目線の思い切った政策を打ち出すこともできたかもしれませんが、日本は議員内閣制。総理大臣は国民が選ぶのではなく、与党の有力者が選んでいる。それでは本当の意味で国民のための政治はできないと思っていた。
だったら明石市長になって、明石に独立国家を樹立してやろうと。そしてブータンのような、小さいけれど国民の幸福度の高い国家を目指そういう意気込みでね(笑)。実際に市長になって、独立国家は樹立しませんでしたが、市長の持ってる「予算編成権」「人事権」、この2つの権限を使って、できるところまでやってみようと考えたわけです。
●「われわれ日銀は、これ以上国債を買わないことにした」…日本経済 2/12
銀行間で国債が売買されるときの価格は額面通りとは限らず、情勢によって常に変化しています。また、長期金利が上がれば債券の売買価格は下がり、長期金利が下がれば売買価格は上がります。なぜそのような現象が起きるのか、シミュレーションしながら見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
銀行間の長期資金貸借は、国債売買でおこなわれる
長期資金の貸借が固定金利でおこなわれる場合、その金利(長期金利)は将来の短期金利に関する人々の予想の平均が基本で、それより少し高い所に決まるのが普通です。
そして銀行間の長期金利による資金貸借は、長期国債の売買によるのが最近では普通です。長期資金を貸したい銀行は長期国債を購入し、借りたい銀行は長期国債を売却するのです。以上が前回の記事『10年債利回り0.5%へ…日銀「もう、長期金利の押し下げを頑張らない」発言の背景にある〈最近の奇妙な現象〉』の要点です。
銀行間で国債が売買されるとき、価格は額面とは限りません。その時の情勢によって時々刻々と変化します。長期金利が上がれば売買価格は下がり、長期金利が下がれば売買価格は上がります。それを以下で説明していきます。
ちなみに「額面」というのは、国債が発行された時に国債購入代金として払い込まれた額であり、満期に国債が償還されるときに国債所有者に支払われる金額のことです。
長期金利が上昇すると、昨日発行された国債が不人気に
人々が将来の短期金利に関する予想を変えて、将来の短期金利は上昇すると考えているとします。長期金利は上昇するので、新しく政府が発行する国債の金利は高くなります。そうでないと誰も国債を買ってくれませんから。
昨日発行された国債は額面100円、金利1%、期間10年だとすると、100円で買った人は金利10円と償還金100円の合計110円を手にします。今日発行された国債は金利2%だとすると、100円で買った人は金利20円と償還金100円の合計120円を手にします。それならば、昨日発行した国債を買いたい人はいないでしょう。
では、昨日国債を買った人が、今日になって資金が必要になったらどうすればよいのでしょうか。それは、昨日買った国債を90円で売りに出せばいいのです。それならば、買った人は20円の利益ですから、今日売り出された国債を買うのと同じことなので、喜んで買ってくれるでしょう。
実際にはプロたちはもう少し複雑な計算をしていますが、基本的な考え方は上記のようなものであり、したがって長期金利が上がると国債の価格は下がるのです。
もし日銀が国債を買わなかったら、なにが起きる?
上記を反対側から見ると、債券価格が下がると長期金利が上がる、ということになります。それを理解するために、日銀が国債を買わなかったら何が起きるかを考えてみましょう。
日本政府は巨額の財政赤字を大量の国債発行で穴埋めしています。銀行が長期国債を買いたいと思っている金額よりも多く国債が発行されると、国債は値下がりします。そうなると、長期金利が上がるので、政府が新しく国債を発行する時には高い金利を払わなくてはならないのです。
場合によっては、政府の借金が膨らむと日本政府の破産を心配して国債を買いたくないという銀行が出てくるかもしれません。そうなれば、長期金利は一層上がるでしょう。日本の場合には、あまり起こりそうもありませんが、外国人投資家に国債を買ってもらわないといけない途上国などでは、そうしたことも起きているようです。
日銀の買いオペで「長期資金の需給」が歪む
実際には日銀が巨額の国債を買っているので、反対に長期金利が大きく下がり、人々の予想する短期金利の平均よりも長期金利が低くなっています。
日銀が国債を大量に買うので、国債の値段が上がり、長期金利が下がった、と考えるのが自然ですが、日銀が巨額の長期資金を供給したので、長期資金の需給が歪んだ、と考えることもできます。
日銀が銀行から長期国債を買い入れると、銀行は長期国債の保有のために拘束されていた資金を自由に使えるようになりますが、これは「長期国債を持ち続ける一方で、日銀から長期資金を借り入れた」と考えることもできます。
つまり、日銀は長期国債を買い入れることで、直接的には「日本政府に資金を供給している」わけですが、金融市場への影響としては「長期資金を市場に供給している」ということになるわけです。
そうなると、日銀の資金供給が巨額になり、市場で長期資金の需要と供給の関係が歪み、長期金利が低下した、と考えてもいいわけですね。
投機家も国債の売買に参戦している
さて、国債を売買しているのは銀行と日銀だけではありません。投機家たちも売買しているのです。
長期的に資金を運用する意図はまったくなくても、長期金利が下がりそうだと考える投機家は、銀行から借金をして長期国債を買います。予想どおりに長期金利が下がれば、長期国債が値上がりするので売却して銀行への借金を返します。もちろん、予想が外れて長期金利が上がれば損をしますが、それは投機をする以上当然のことですね。
そして、投機をしているのはバクチ打ちだけではないのです。銀行も「長期金利が下がりそうだ」と思えば、長期運用を考えていない資金も投入して長期国債を購入し、「長期金利が下がった時点でその部分の長期国債を売却して、利益を稼ごう」と考えているのです。
「日銀が長期国債を大量に購入しているから長期金利が下がっている」というのは間違いありませんが、もしかすると「日銀が大量に買うだろうから長期金利は下がるだろう。自分も買っておこう」と考えた投機家たちも大量に買っていて、それも長期金利の低下に大いに貢献しているのかもしれませんね。
●日本国民は猿ではない、無から有は生み出せない、国債償還のトリック 2/12
防衛費増の財源調達手段として、国債償還期間の延長案が浮上している。無から有を生み出せるアイディアのように見えるが、どこにトリックがあるのか? 
防衛費増額の財源を国債償還期間延長で生み出す?
政府は2022年末に、27年度の防衛費を現状から3.7兆円増加させる方針を決めた。このうち2.6兆円以上は歳出改革や税外収入、決算剰余金で捻出する。そして、残り約1兆円を法人・所得・たばこの3税の増税で確保する。ただし、増税時期の具体的な議論は23年に先送りした。
こうした情勢の下で、防衛費の増額を賄う財源として、国債の償還を現行の60年から80年に延長するというアイディアが浮上している。自民党の萩生田光一政調会長は、「80年に延ばすことで生み出されるお金を防衛費に回すことも選択肢として検討に値する」と語った。世耕弘成参院幹事長も、このアイディアについて「議論する機会と場所をつくることが重要だ」としている。
償還期間を長くすれば、1年度あたりの債務償還費は圧縮することができる。したがって、その分だけ一般会計予算に余裕が生じる。
こうして、歳出削減をしたり、増税や国債発行増額によって民 間に対する負担を増やしたりすることなしに、防衛費を増やすことができると考えられているようだ。
しかし、そんな手品のようなことができるのだろうか? 
もしできるとすれば、この手法によっていくらでも歳出を増やせるという誠に不思議なことになってしまう。
債務償還費と借換債で償還する
そのような不思議なことは、ありえないはずだ。防衛費を増やすのであれば、どんな手段によるにせよ、どこかで民間に対する負担が増えているはずだ。
では、どこで増えるのか? それを突き止めるには、国債償還の仕組みを知る必要がある。
現在の制度では、発行残高の60分の1に相当する額を、国の一般会計で債務償還費として計上し、これを国債整理基金特別会計(国債の償還、借り換えを行う特別会計)に繰り入れる。23年度予算案での償還費は16.3兆円だ。
60分の1ずつ毎年償還財源を積むことによって、60年間かけて全額を償還するというわけだ。
なぜ60年なのか? 建設国債の場合には、調達した資金が公共事業に充てられる。そして、道路や橋などの社会資本の平均的な耐用年数が60年程度と見積もられることから、このルールになっている。
赤字国債については、当初は、現金での償還が原則とされていたが、1985年度から建設国債と同じルールが適用されるようになった。
ただ、債務償還費だけでは、国債を償還することはできない。残りの金額は、国債整理基金特別会計が借換債を発行して調達する。
償還期間延長は国債増発で防衛費増を賄うのと同じ
償還期間を伸ばせば、一般会計から国債整理特別会計に対する繰り入れは確かに減る。
しかし、ここで、当然のことを思い出さなければならない。
それは、「ある年度において償還すべき国債の額は、国がどのような償還ルールを採用しようが、過去の国債発行額によって決まっている」ということだ。
例えば、ある年に発行された10年債は、10年たてば、国債償還ルールにかかわりなく、償還されなければならない。つまり、その国債の所有者に、額面金額だけの現金を支払わなければならない。
国が償還ルールを60年から80年に延長したところで、国と国債保有者との関係は、何も変わらない。
いま仮に、国債償還ルールを変更し、債務償還費以外の一般会計歳出は変えないとしよう。それによって、一般会計の債務償還費は減る。したがって、歳出総額も減る。したがって、赤字国債の発行額も減る。
しかし、国債整理特別会計の借換債発行額は同額だけ増えるから、国債発行の総額は不変に留まる。
仮に、一般会計の債務償還費の減少分だけ防衛費を増加するとすれば、国債発行の総額は防衛費の増額分だけ増えることになる。つまり、防衛費の増額を借換債の増発で賄ったのと同じことになる。
政府と民間との関係でいえば、一般会計で赤字国債を増発して防衛費増を賄おうが、特別会計の借換債増発で賄おうが、何も違いはない。
赤字国債とか建設国債とか借換債というのは、国債発行の根拠規定による区別である。しかし、国と民間との関係で言えば、これによる違いは何もない。国と民間との間で問題になるのは、償還期間(2年なのか、10年なのかなどの違い)と、発行条件(表面利回りや発行価格)だけだ。
例えば、10年債で発行条件が同じなら、赤字国債だろうが借換債だろうが、何の違いもない。
償還期間を延長すれば、国債の償還をさらに遠い将来に先送りすることができるような錯覚に陥りがちなのだが、償還期間を延長しても、国債の償還を先送りすることはできないのだ。
つまり、国と国債保有者との関係は何も変わっていない。ここで議論されているのは、10年債として発行した国債を10年たっても償還せず、20年目に償還するというようなことではない。
ある年度において償還すべき総額は、過去に発行された国債の額とその条件によって完全に決まってしまうのであり、これを変えることはできない。償還ルールの変更は徳政令ではないのだから、当たり前のことだ。
問題を見えなくする「朝三暮四」
つまり、「償還ルールの変更で防衛費増を賄う」というのは、実際には国債の増発で賄うのを分かりにくくするだけの方策であり、「朝三暮四」なのだ。
朝三暮四とは、宋の狙公が、飼っている猿に与えていたトチの実を減らそうとして編み出した方法だ。それまで「朝に4個、夕方に4個」だったのを「朝に3個、夕方に4個」と提案したところ、猿たちが激怒したので、「では、朝に4個、夕方に3個」と提案し直したという故事だ。猿たちは大喜びで新提案を受け入れたという。
しかし、日本国民は、こうしたことで騙された猿ほど愚かではない。
予算案を通すのは楽になる
ただし、実を言うと、償還期間延長案は、狙公の朝三暮四より巧みである。
その理由を説明しよう。
償還期間延長方式にすれば、国会で予算案を通すのは、ずっと楽になるのだ。
仮に、防衛費の増額を一般会計の赤字国債増額で賄おうとしたとしよう。その案件は、直接に国会での議論にさらされる。審議が難航することは、当然予想される。
ところが、償還期間延長策の場合には、そのための法律を1度通しておけば、後は自動的に借り換え債が発行されて、財源が調達される。
償還期間延長策がどのような問題を含むかは分かりにくいので、本質的な問題点が理解されないままに、可決されてしまう可能性が強い。
一度、償還期間延長法案を通しておけば、後は楽だ。
仮に借換債の発行が増えたことが国会で問題になっても、「すでに決定されたことから自動的にこうなる」と説明すればそれで済んでしまう。過去に決定したことを覆すわけには行かないのだ。
だから、いま償還期間長案を承認すれば、国会の予算審議権は、未来永劫にわたって削られてしまうことになる。
つまり、この方策は、仕掛けを複雑にし、分かりにくくすることによって、予算の国会審議を簡単に済ませるための方策だ。その意味で、財政民主主義の精神に反するものと言わざるをえない。
●世界情勢を憂う「株式市場の悲観論者」が見当外れといえるワケ 2/12
ウクライナ戦争や米中の対立、約40年ぶりのインフレなど、悲観のなかで始まった2023年の株式市場。しかし、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は「強気相場が育っている可能性」を指摘します。その根拠とは……詳しくみていきましょう。
悲観のさなかの「ポジティブ」サプライズ
   IMFの上方修正
2023年は悲観のなかで始まった。ウクライナ戦争と米中対立、40年ぶりのインフレと急速な金融引き締めなどの懸念山積により、身構えて迎えた2023年であった。
しかし、1月の展開はうれしい驚きとなっている。
まずIMFが2023年世界経済見通しを上方修正し、リセッションに陥らないと表明した。2023年は2.9%と2022年の3.4%より減速するが、昨年10月時点での予想比0.2%ポイントの上方修正となった。
修正をけん引したのは2大国、米国と中国の見通しの改善である。
中国は厳格なコロナ政策の解除により、経済が正常化するとみられ4.4%から5.2%へと上方修正された。米国はインフレのピークアウトによる金融環境の好転等により1.0%から1.4%へと修正された。
深刻であったユーロ圏の成長率も暖冬などによる天然ガス急落にけん引されて物価上昇がピークアウト、政府によるエネルギー価格上昇補填政策も寄与し0.5%から0.7%へと引き上げられた。
円安効果と財政政策の寄与が期待できる日本も、1.6%から1.8%へと修正された。
   [図表1]IMFの世界経済見通し
   [図表2]MSCIインデックスの2022・2023年初来株価推移
   新興国・欧州主導の1月の株急騰
世界株式も市場を覆っていた悲観論を覆し、急上昇の発進となった。1月の株価上昇率(2月3日時点)は、世界をカバーしているMSCI指数(各国通貨ベース)でみると、全世界指数で8.2%、欧州先進国指数10.4%、新興国指数8.6%、日本4.8%、米国8.1%と軒並み大幅高となった。
昨年20%以上の大きな落ち込みとなった中国、韓国、台湾、ドイツ、オランダなどは1か月間で10%以上の上昇となり、昨年1年間の落ち込みのほぼ半分を取り戻した形となっている。
   警戒を解くのは時期尚早なのか
この突然訪れた好変化をどこまで信じていいものだろうか、と人々は訝しく思っている。大多数は昨年からの厳しい見方を堅持し、今の回復は冬に向かうなかでの小春日和(インディアンサマー)と警戒心を解いていない。
確かに金融引き締めが実体経済に本格的に影響するのはこれからである。インフレもピークアウトしたとはいえ、2%の各国のターゲットには程遠く、安心するには尚早である。
パウエルFRB議長も年内数回の利上げを示唆し、利下げは依然視野には入っていないとしている。
また米国景気が底堅く1月失業率は3.4%と53年ぶりの過去最低水準まで低下しており、賃金上昇を通したインフレ圧力が弱まっていないことを示唆している。
インフレと利上げは一巡したとはしゃぐのは早すぎる、という警戒心を否定することは難しい。
懐疑のなかでも「強気相場」が育っている可能性
しかし「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、幸福感とともに消えていく」という有名なジョン・テンプルトンの格言にあるように、悲観論と警戒論の蔓延は、大相場の波が始まる前に必ず起きることでもある。
   強力な金融引き締め下での潤沢な投資資金は何故なのか
懐疑論が見過ごしている要素があるとすれば、それはどのようなものだろうか。
第1にグローバルに潤沢な投資資金、流動性の存在がある。米国での1年間で8回、累計4.25%の利上げにもかかわらず、これほどの潤沢な投資資金が健在であることは多くの人々にとってまったくの想定外であった。
余剰資金は新興国株式や米国の低格付けクレジット市場に流れリスクプレミアムは低下し始めている。なにより4.5%まで短期金利が引き上げられたのに、米国10年債利回りは3.5%前後まで低下している。
これはCPIや名目経済成長率の半分であり、テーラールールに基づけば依然として緩和的水準にあるといもえる。金融引き締めの効果を金余りがしり抜けにさせているともいえるのだ。
まさにグリーンスパン元FRB議長が謎(conundrum)といった事態が再現されているかのようである。
この長期金利の低下を先行きの景気不安の予兆とする見方もあるが、そうであればよりリスクの高い新興国株式やジャンク債の値上がり、さらには米国銀行貸し出し増加や、世界景気との連動性が高い銅市況の上昇などをどう考えたらよいのだろうか。
   [図表3]米国長期金利推移(名目GDPの半分以下の水準でピークアウト)
   [図表4]米国BBB社債リスクプレミアム
   [図表5]米国銀行貸し出し前年差
   イノベーションと企業部門の資本生産性の向上
1980年以降、長期金利の低下が景気悪化の前兆ではなかったように、今の長期金利の低下も別の要因によるものである可能性が考えられる。
それはなにかといえば、企業部門の生み出す価値が、企業部門が必要とする投資より大きく「恒常的資金余剰」が起こっていると考えられるのではないか。
その背景には資本生産性の恒常的上昇がある。設備、機械、知的資産などの価格が大きく低下し、設備などの再取得価格が低下し、必要な投資額が減少するということが起きている。
またGAFAMではリストラが進行しているが、そこではAI、ロボットによる労働力代替が起きており、大きな生産性上昇ゲインが、企業部門の金余りを引き起こしている可能性がある。
図表6、7に見る米国企業の大幅なフリーキャッシュフローの存在は、企業部門に潤沢な資金余剰が存在していることを示している。
   [図表6]米国企業部門(非金融)のフリーキャッシュフロー推移
   [図表7]GAFAMのフリーキャッシュフローとその使途(投資と配当・自社株買い)推移
米国当局の「真の敵」はデフレ…インフレではない
第2に見過ごされている要素があるとすれば、米国政策当局の「真の敵」はなにかの見極めである。
詳述は別の機会に譲るが、FRBの最大の脅威は「インフレ」ではなく「デフレ化」であり、Japanification(日本化)であることははっきりしている。オーバーキルに結び付くような利上げは起きないと安心して見ていてよい。このことが明らかになれば、株価は急騰するだろう。
FRBは本質的にデフレと戦っている。デフレとは潜在的に存在している成長可能性未達の結果であり、それは政策のサボタージュを意味し、必然では決してない、というものが米国の経済学者と政策当局にとってコンセンサスである。
日本ではあいまいにされているが、米国の経済政策の最終ゴールは生活水準の向上であり、FRBの2大任務(dual mandate)とされている最大雇用と物価の安定はそのための手段に過ぎない。
FRBは無理かつ不必要な引き締めは早晩転換させるであろう。
過度の賃金上昇を抑制している米国労働市場の効率性
第3に見過ごされていることは、景気減速の下でも好労働需給が続き、かつ賃金上昇率がピークアウトしていることである。明らかに労働市場が弾力的に動き、資源配分をさい配しているといえる。
   [図表8]ひっ迫している労総受給
コロナ禍の下での異常な労働需給ひっ迫が引き起こした、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなど接客業での人手不足は緩和に向かい、賃金上昇率は鈍り始めている。また高給セクターの金融や情報部門での雇用の伸びが低いことも全体の賃金水準の伸びを待引き下げている。
   [図表9]ピークアウトした平均時給(前年比推移)
しかし企業の求人意欲は強く、すべてのセクターで雇用が増加している。
   [図表10]米国セクター別雇用者数の推移…全産業分野で雇用増加続く
       (ITバブル崩壊時、リーマンショック時との大きな相違)
旺盛な消費が広範な雇用機会をもたらすという好循環は、まったく損なわれていない。
1990年代前半の情報化革命、BPR(ビジネスプロセスリ・エンジニアリング)革命の時は、機械に置き換えられたホワイトカラーが失業し、労働市場が不振のままのジョブブレス・リカバリーが続いた局面があった。当時と比較すれば、現在がいかに新規雇用機会の創造が旺盛であるかがわかる。
以上のように底流にある要素を考慮に入れるならば、2023年1月の意外な世界株高は大きな上昇サイクルの初期場面である可能性が十分にあることを、念頭に置きたい。
米国株の「バリュエーション調整」は終わっている
株式バリュエーションから見て米国株式の割高感はまったくなくなっている。
ピークでは40倍弱まで高まったGAFAMのPERは25倍まで低下し、S&P500のPERも23倍から昨年10月に16倍弱まで低下した後、現在は18倍弱と過去平均のレンジに戻った。
図表11に見るFEDモデル(株式益回り=10年債利回り)に基づけば、4%の米国長期金利は25倍のPERが正当化できることを考えると、バリュエーション調整はほぼ完了したと言えるのではないか。
   [図表11]米国株式PER等の割高感は完全になくなっている
また市場心理は極端に悲観に振れている。世界株式市場は、心理、バリュエーション、需給から見て過度のネガティブバイアスを持っていることは否めないだろう。
米国株式バブル崩壊説を強く主張してきた多くの悲観論者の根拠は崩れているといえる。詳細は図表11〜15を参照されたい。
   [図表12]日米の株式時価総額の対名目GFP比
   [図表13]米国株式信用債務(margin debt)対S&P500時価総額比
   [図表14]S&P500指数は200日移動平均線を1年ぶりで上回った→テクニカル反騰開始の条件
   [図表15]米国家計と企業の債務→調整され危機水準には程遠い
●次世代原子炉「高温ガス炉」実証見据え、経産省が燃料工場を支援 2/12
経済産業省は2023年度にも高温ガス炉の燃料加工工場の刷新支援に乗り出す。高温ガス炉の実証炉を29年から製作・建設し、30年代に運転する構想を掲げており、燃料加工工場を現在の実験炉向けから実証炉向けに刷新する計画。燃料部品の生産投資も支援する方針で、高温ガス炉の実証段階を見据えてサプライチェーン(供給網)を立て直す。
燃料加工工場の刷新に伴う設計や建設、新規制基準の対応にかかる費用を補助する方向。現在、日本原子力研究開発機構の高温ガス炉実験炉「HTTR」(茨城県大洗町)向けとして、原子燃料工業(横浜市鶴見区)東海事業所(茨城県東海村)が燃料加工工場を持つ。
実証炉向けに刷新するにあたり、既存工場を更新するか、新設するかは未定。支援先も今後決定する。総投資額は300億―500億円を見込む。
経産省は23年度予算案で高温ガス炉実証炉開発事業として48億円を計上した。25年までの3年間で431億円を充てる計画だ。このうち大半を、高温ガス炉の実証炉設計やHTTRの水素製造実証などの支援に充て、一部を燃料加工工場の設計支援にも振り向ける考え。
HTTRは21年、原子力規制委員会による新基準規制への対応を経て10年ぶりに再稼働した。原子燃料工業の東海事業所も規制対応で現在稼働していない。原子力発電所の再稼働が進まないこともあり、HTTRや軽水炉向けの燃料に使う燃料被覆管のサプライヤーが撤退しており、同部品の生産体制構築も支援する方針だ。
高温ガス炉は、冷却材にヘリウムガスを使い、従来の軽水炉より高い温度の熱を取り出せる。発電だけでなく水素製造にも利用できるほか、安全性も高く、次世代原子炉の一つとして実用化が期待されている。
次世代原子炉に限らず、原子力をめぐるサプライチェーンの弱体化が懸念されている。政府はサプライチェーンの維持・強化に向けて、部品の供給途絶対策や事業承継を支援する方針を打ち出している。
●あっという間に「所得制限なしの子育て支援」があたり前の空気に… 2/12
東京都は2023年度から0〜18歳の子ども全員に月5000円を支給する案を固めた。教育行政学研究者の末冨芳さんは「国の改革を待たずして先んじた少子化対策を打ち出したかたちです。2023年4月の統一地方選挙に向け、政治家たちは所得制限なしの子育て支援にレジームチェンジした」という――。
小池都知事の勝負勘には舌を巻いた
1月4日に小池百合子都知事が公表した、0〜18歳以下の子どもへの所得制限のない月5000円給付が、日本に与えた衝撃は大きかった。
「所得制限ありき」の日本のこども政策を、子どもへの支援に「所得制限なしがあたり前」へと一気に政治の流れを変えたのである。
そして、所得制限のない18歳以下への月5000円給付(いわば“チルドレンファースト給付”)を、今年度に実現する見通しも明らかにされた。
同じ1月4日に、岸田総理が年頭会見で「『異次元』の少子化対策に挑戦する」と述べたが、児童手当の所得制限が国会での論点になっていても、その実現の時期はまだわからない。
小池氏は、東京都知事というポストのアドバンテージを活かし「東京都では、今年から、所得制限のないチルドレンファースト給付を実現」という方針を明確にすることで、「自民党つぶし」「岸田つぶし」を図ったのである。
その政治家としての勝負勘には、舌を巻くほかはない。
政治が「ふつうのママやパパ」のロビー活動に反応
ところでなぜ、このタイミングで、所得制限なしのチルドレンファースト給付を小池知事は仕掛けたのか。
もちろん、超少子化が進み出生数80万人割れという、わが国の衰亡をいっそう加速させるショッキングな現状に対し、統一地方選挙に向け自民党の少子化対策のダメさを際立たせ、小池都知事率いる都民ファーストが優位に立とうとする意図は明確である。
しかし、児童手当や高校教育の無償化の所得制限に対し、子育て当事者として強く疑問を持ち、ロビイングに動いた「ふつうのママやパパ」の存在を忘れてはならない。
私自身は、子育て支援拡充を目指す会のみなさんから相談を受けて、都民ファーストや国政主要政党へのロビイングが必要である状況を説明した。
その他にも多くの「ふつうのママやパパ」が、SNSや地域の政治家に声をあげてくださったはずである。
高所得ゆえに給付が受けられない「子育て罰」
都民ファーストの都議会議員には、昨年の参議院選挙前から、子育て支援拡充を目指す会とともに、児童手当や高校無償化などの所得制限撤廃を実現してほしいと要望し、面会をしてきた。
拙著『子育て罰』(桜井啓太氏との共著・光文社新書)での批判についても、都民ファーストの都議会議員は、熟知しており、そのことは小池都知事にも伝えられた可能性は高い。
小池都知事の「所得制限が子育てに対しての罰」という子育て罰発言は偶然ではないのではないか。
「所得制限があることによって、夫婦で一生懸命働いて納税をしているがゆえに、逆に、そういった給付が受けられないというのは、ある意味で子育てに対しての罰、罰ゲームのようになってしまう」(2023年1月5日、テレビ朝日のインタビューで小池都知事)
研究者である私が訴えただけでは、小池都知事は東京都における所得制限のないチルドレンファースト給付を決断しなかったかもしれない。
「ふつうのママやパパ」たちが、所得制限という子育て罰をなくしてほしいと訴えたからこそ、このタイミングでの決断となったのだと、推測している。
このことは、少なくとも地方政治レベルにおいて、「ふつうのママやパパ」のロビイングに政治の反応性(レスポンシビリティ)が高まっている証拠でもあると言える。
「子育て罰」をなくすレジームチェンジは地方から
小池都知事の決断を読み解くもう1つの視点は、明石市と、維新(大阪維新の会・日本維新の会)の動きである。
すでに広く知られているが、明石市の泉房穂市長が実現してきた子育て支援の「5つの無料化」は、「所得制限なしがあたり前」である。所得制限ありき(しかもより厳しい所得制限を導入しようとしていた)自民党政治への、地方政治からの対抗軸を形成してきた。(「18歳まで所得制限なしで医療費無料」「中学校の給食無償」「第2子以降の保育料完全無料」「公共施設の入場料無料」「0歳児の見守り訪問・おむつ定期便」。)
また、2022年の参議院選挙の当時から、「教育の完全無償化」を掲げてきた維新(大阪維新の会・日本維新の会)も大阪府民である子どもたちへの、塾代助成、小中学校の給食の完全無償化、高校無償化での所得制限撤廃に加え、第1子からの保育料無償化、幼児教育無償化、大阪公立大学・大学院の無償化なども追加するという大胆な政策を1月20日に打ち出してきた。
統一地方選挙をひかえ、小池都知事、都民ファーストの所得制限のないチルドレンファースト給付に、吉村府知事率いる維新が対抗する意図は明確である。
地方の政治家が少子化対策で自民党を挑発
保育、教育、医療や児童手当など、自治体によって違いがあるものの「所得制限なしがあたり前」を、地方政治の有力政治家が公約に掲げたり実現することで、自民党を挑発する状況となっている。
統一地方選挙に向け、「子育て罰」をなくすための、政治のレジームチェンジは地方から、という流れが強まっている状況である。
少子化の要因の1つとされている、大学教育費についても、すでに連立与党が給付型奨学金の所得制限を緩和する動きを見せている。
統一地方選挙の結果や今後の国政の動向次第ではあるが、高校無償化や大学無償化も、所得制限撤廃に向かう可能性が、これまでになく高まっていると言える状況にあるだろう。
所得制限なしの支援を掲げる野党の動き
すでに公明党は、昨年11月に「子育て応援トータルプラン」を公表し、所得制限のない出産・子育て応援給付金、18歳以下の所得制限のない児童手当、医療の無償化などの実現の政策ビジョンを明確にしている。
国民民主党は、所得制限撤廃法案を国会に提出した実績があり、SNSを中心に「ふつうのママやパパ」の支持を拡大していることが確認できる。
従来、所得制限のない教育無償化、児童手当等を重視してきた立憲民主党や、共産党の動きも、統一地方選挙に向けて目が離せない。
小池都知事が仕掛けたことにより、こども政策や子育て支援は、「子育て罰」をなくす、「所得制限なしがあたり前」という新しい政治のレジームに突入したのである。
この新しい政治レジームに、いままで「子育て罰」を親子に課し、超少子化を加速させ、日本を衰亡に導いてきた自民党が、どのように反応性を高めていくのだろうか。
児童手当や保育無償化が「異次元の対策」なのか
研究者だけでなく、自民党内部からも、児童手当や保育の無償化では少子化は改善されないという指摘がある。
エビデンスに基づけば、その指摘は正しい。
所得制限のない児童手当や教育の無償化は、これまでの政治が崩した子育て世代の負担と受益のバランスを正常化させるにすぎない。
保育の無償化は、家計負担の軽減という意味では重要であるが、少子化対策に対しては、いまだに充分ではない都市部における0〜2歳の保育機会を十分に拡大すること、保育の質を向上することが至上命題となる。
山口慎太郎東京大学教授をはじめ、経済学や社会学分野の研究者が異口同音に指摘しているのは、十分な保育機会の確保(待機児童解消だけでなく、第1子と第2子以降が別々の保育所に通わなくて済むこと、育休退園を強制されない、就労していなくても保育にアクセスできる等)である。
それとともに、保育士の劣悪な待遇を改善し、保育士配置基準も改善し、保護者が就労していても、そうでなくとも、子どもたちが安全安心な環境で育つことが重要である。
子どもが安心できる保育を受けられることが、とくに女性の出産を促進するからである。
総理と都知事は若者の非婚化・貧困化にどう向き合うのか
また、岸田総理、小池都知事ともに少子化対策として見逃しているのが若者の非婚化、貧困化である。
日本の出生動向を分析した上田・坂元・野村(2022)によれば、深刻な少子化の原因は「子供を持たない人の割合の増加、及び子供を複数持つ人の割合が減っていることの双方」である。その要因は、若者の雇用の不安定化による貧困化、非婚化である。
「近年の特に若年層での雇用の不安定化が(そして結果として生じる低収入が)異性との交際、婚姻、そして子供の有無に影響を及ぼしていると考えられる」という分析結果が示されている。
岸田政権の「異次元の少子化対策」は、児童手当の所得制限に国会論戦のポイントが矮小(わいしょう)化されているが、そんなことでは、少子化対策は不発に終わるだろう。
若者の非婚化・貧困化こそ、少子化の最大要因であり、その視点は岸田総理肝いりの全世代型社会保障会議にも希薄である。
『子育て罰』というタイトルの本を世に送り出した研究者として指摘するならば、国内外のエビデンスに基づき、若者や子育てするママやパパに必要な投資を切れ目なく充分に行う、その財源と具体的な工程表が示されてこそ、はじめて「異次元の少子化対策」が現実になると言える。
そして、その先送りはもはや許されない状況にまで、日本の超少子化は進行している。  
●国債60年償還ルール 防衛費財源巡り見直し議論 2/12
防衛費増額に必要な財源確保に向けた議論が活発だ。焦点となっているのは、不足するとされる年1兆円強をどう捻出するか。岸田文雄政権は増税による国民負担を念頭に置く。一方、与党の自民党内部からは乱暴な増税議論だと反発する声があがり、財政運営の見直しでやりくりが可能だとする代案も示された。国が発行する債券である国債の償還ルールを変更することで不足額をひねり出せるというが、会計方式の変更だけで安全保障の根幹をなす防衛費が生み出せるのか。
政府は令和5年度以降5年間の防衛力整備の総経費として約43兆円を確保するために、9年度以降は年1兆円強を増税で賄う方針。これに自民党の萩生田光一政調会長が、増税なき防衛費増額の実現を模索するため特命委員会を設置して議論を始めたのが、国債の60年償還ルールの見直しだ。
税収などだけでは足りない財源を工面するため、国は国債を発行して国民から資金を集め活用している。国による「借金」にあたるため、国債が満期を迎えたら返済することになる。何年かけて返すかという期間が償還期間だ。
ただ、実際は元本の大部分にあたる金額を新たな国債発行で借り換えている。国債を発行する財務省は、60年かけて元本の全てを返済すると決め償還期間を設定しており、これを「60年償還ルール」と呼ぶ。
道路や橋の平均的な耐久年数が約60年
満期までの期間が10年の国債を600億円発行したとすると、10年後にいったんは全額を返済するが、うち500億円は再び国債を発行して借り換えるので、実際の返済額は100億円で済む。これを6回繰り返せば、60年後に元本はゼロになる。
仮に返済期間を60年から80年に延ばせば、10年ごとに返済する金額は100億円から75億円に減少し、25億円を他の用途に回すことが帳簿上は可能になる。
もともと60年という期間設定は、政府が公共事業で造った道路や橋の平均的な耐久年数が約60年であることを参考に昭和42年、日本独自の取り組みとして導入された。防衛装備品を含めた他の国有財産へ一律に60年の減価償却期間を設けることに科学的な根拠はない。自己設定した日本独特のルールなので、見直しは十分に可能だ。
現在、毎年の予算編成では、国債残高の60分の1の額を一般会計から「債務償還費」として国債整理基金特別会計に繰り入れている。同特会は借金を返済するための貯金箱の役割を果たす。令和5年度予算案での債務償還費は16兆7561億円だった。
仮に償還期間を80年に延長した場合、年間の償還費が減り、年約4兆円を捻出できるというのが、ルール見直しを訴える立場の人たちの論拠だ。自民党の若手議員らが中心の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」で共同代表を務める谷川とむ衆院議員は「増税しなくても防衛力の抜本的強化は可能だ」と訴える。
否定的な意見も
とはいえ、償還ルールの見直しによって新たな財源が生まれるわけではない。自民党内からも、「国民の負担が魔法のように消えてなくなるわけでは全くない」(石破茂元幹事長)と否定的な意見があがる。理由は、債務償還費が圧縮されれば、一般会計の赤字国債は表面的には減るものの、「全体の国債発行額に変わりはない」(財務省関係者)からだ。債務償還費を防衛費などの追加的な政策的経費に充てれば、国債発行額全体は膨らむ。
東京大公共政策大学院の服部孝洋特任講師は、もっとシンプルな観点でルール変更が財源になり得ない理由を説明する。「歳入項目にも債務償還費相当額が計上されている。ルールを見直しても歳入と歳出が同額減ることになるだけだ」
一方、岸田首相は1月25日の衆院本会議の代表質問で「国債発行額が増加することや、市場の信認への影響に留意する必要がある」と述べ、償還ルールの見直しに慎重な姿勢を鮮明にした。財政規律が緩んだとみなされると、金利が急騰する恐れがあるとの意見だ。
償還ルール自体が規律の維持に関わるとの首相の主張に関しては、服部氏は懐疑的な立場だ。「(かつては)国債保有者に安心感を与える側面もあったが、現在は実効的な財政ルールとして機能していると思っている人は少ないのではないか。日本の予算・国債制度を難しくしてしまっている面もあり、維持にこだわる必要はない」と指摘する。
防衛費の捻出と、償還ルールの見直しは、分けて議論する必要がありそうだ。
60年償還ルールのように、国債の償還に充てるために必要な資金を積み立てる制度は「減債制度」と呼ばれるが、日本以外で実際に運用している国はないという。他国では財政規律を維持するための基準を法律などで規定している。
米国では財政悪化に歯止めをかけるため、連邦政府が借金できる上限額が定められている。債務が上限に達した場合には、議会の承認によって上限を引き上げるといった措置が必要だ。承認を得られなければ国債は発行できず、政府資金が枯渇し、公共サービスなどが停止してしまう恐れがある。
ドイツでは、債務にブレーキをかけるため、財政赤字を国内総生産(GDP)の0・35%以内に抑えるルールが導入されている。
 

 

●安倍政治を振り返る挑戦者としての安倍晋三 2/13
安倍晋三元首相の業績を振り返ると、彼が既存の政策、政策立案の枠組みに挑戦し、新しい枠組みを構築してきた政治家だったことが浮き彫りになる。
「遺産」が安保戦略の中心に
2022年12月16日、岸田内閣は国家安全保障戦略を閣議決定した。この戦略の中で「反撃能力」を保有することや、27年度に防衛予算をGDPの2%に拡大することを打ち出したことが注目された。
あまり報じられていないが、同戦略ではインド太平洋を日本が重視する地域とし、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを追求することを合わせて打ち出した。このために日米豪印4カ国の協力枠組み=クワッドを活用することも明記した。
「自由で開かれたインド太平洋」構想やクワッドは安倍晋三元首相が考案した。その着想は国家安全保障戦略として日本の安全保障政策を規定する政策に取り込まれた。安倍氏の残したレガシーである。
安保政策で指導力発揮できる官邸へ
安倍元首相は昨年7月8日に奈良県で参議院議員選挙の応援演説中に銃撃され、亡くなってしまう。
「自由で開かれたインド太平洋」構想やクワッド以外にも数々の政策を立案し、その多くが菅、岸田両内閣に継承されている。ここでは安倍氏がどのような政策を手掛けたのか改めて振り返りたい。その際、特に、安倍氏が挑戦者だったという観点に立ちたい。つまり、これまでの政策、政策立案の枠組みにしばしば挑戦し、新しい枠組みを構築しようとしたということである。安全保障政策の分野から、兼原信克氏の論考も参考にしながら論じたい。
まず、新たな政策立案の仕組み導入について述べる。1994年の政治改革や2001年の省庁再編により、日本の政治過程における首相の指導力は高まった。01年以降、首相は内閣官房や内閣府を活用して複数の省庁が関係する政策を自らの考えを反映させる形でより効率的に立案できるようになった。しかし、安全保障政策の立案は主要官庁である外務省や防衛省の調整を含め、十分指導力を発揮できる体制が整っていなかった。
そこで安倍氏は、13年に安全保障会議を国家安全保障会議に改変し、14年には内閣官房に国家安全保障局を設置。首相がより指導力を発揮できる仕組みを導入した。
集団的自衛権解禁
兼原氏が外交・安全保障政策面で「安倍元首相の遺産」として指摘するものは、やはり既存の枠組みに対する挑戦として手がけたものである。
具体的な政策で重要な意味を持つのは従来の憲法解釈を見直し、一定の条件のもとで集団的自衛権行使を可能にしたことである。首相は2006年に発足した一次政権の時にこの試みを開始し、この結果、日本の安全保障政策の幅は大きく広がった。
また「自由で開かれたインド太平洋」構想について説明すると、この戦略的概念が出てくるまで、東南アジアを含む東アジアおよび太平洋周辺地域は「アジア太平洋」として、一体的に扱われることが多かった。安倍氏はこれに代えて「アジア太平洋」とインド洋周辺地域も一体的に考えるべきだと提唱。これも、従来の考えにとらわれない新たな視角であった。
そして安倍氏は、「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現を推進するためのクワッド=日米豪インド4カ国の協力枠組み=創設を呼びかけた。日本が、主要国が参加する協力枠組みを主唱することはあまり例がなく、これも日本外交としての挑戦と言えるものだった。
貿易の自由化や投資のルール化の推進
安倍氏は経済連携協定の締結などを通じて貿易の自由化や投資のルール化も推進した。この中で重要なものは13年にTPP交渉に参加したことと、17年に米国がTPP協定を離脱したのちに、残りの11カ国間の再交渉を主導し、18年3月にCPTPP協定の署名にこぎ着けたことであろう。
安倍氏はTPP交渉の事務局を内閣官房に担わせた。このことにより、関係省庁をまとめる形で交渉を進めることや国内調整を同時に進めることが可能になった。日本が国際経済交渉を主導することはこれまでに稀であり、CPTPP交渉を主導したことは画期的である。
金融緩和でデフレ解消に挑戦
次に内政を見ていきたい。
最大の挑戦として記憶されるのはアベノミクスを掲げ、日本銀行に大幅な金融緩和政策を促したことであろう。日本は1990年代以降デフレに悩まされてきた。安倍氏は2012年の総選挙で、政府と日銀が連携した「大胆な金融緩和」を行うと公約した。13年1月に両者は共同声明を発表し、日銀が消費者物価の上昇率を2%とすることを目標として盛り込む。3月には黒田東彦アジア開発銀行総裁を日銀総裁に任命する。日本銀行は4月に「量的・質的金融緩和」を開始し、以後、金融緩和政策を継続する。
安倍首相は「民間投資を喚起する成長戦略」の名の下にコーポレートガバナンス改革や農政改革などにも取り組んだ。コーポレートガバナンス改革では上場会社などに社外取締役の導入を強く促し、最終的には2019年に会社法を改正し、社外取締役の必置義務を課した。経団連や一部の有力企業は社外取締役の導入義務化には元々は消極的であり、この改革も従来の企業のあり方への挑戦であった。
農政改革としては減反制度を18年に廃止し、農協法を改正し、全国農業協同組合中央会(全中)の農協への監査権を廃止した。減反制度の廃止は農業政策の大きな転換点であり、全中の権限を弱くすることは農協制度の大きな見直しであった。
企業・労働慣行にもメス
15年秋以降、安倍首相は労働政策や社会保障の改革に力を注ぐようになる。16年秋には「働き方改革実現会議」を発足させ、日本における労働のあり方を抜本的に改める議論を本格化させる。この改革の柱の一つは残業時間の規制であった。日本の労働法のもとでは残業時間規制はあった。しかしながら、労働法36条に基づき労使が協定(通称36協定)を結べば事実上青天井で雇用者に残業させることが可能だった。安倍首相はこの状態を見直し、労働基準法などを改正し、例外なく一月の残業時間の上限を100時間未満としなくてはならないよう残業時間に対する規制を強化した。これは「昭和」の時代から長らく続いてきた労働慣行への挑戦であった。
働き方改革と並んで安倍首相が挑んだのは日本の社会保障のあり方であった。日本の社会保障は高齢者を重視してきた。民主党政権は子ども手当を導入することで現役世代向け社会保障支出を増やした。安倍首相はこの試みをさらに進めた。具体的には19年10月に消費税を8%から10%に引き上げることで得られる税収を利用して、2兆円を新たに現役世代のための社会保障を拡充させた。具体的には3歳から5歳までの幼児教育を無償化した。また低所得世帯を対象に、高等教育や0歳から2歳までの幼児教育の無償化を実施した。これもわが国の社会保障のあり方を変えようとする試みであった。
懸念されるアベノミクスの「影」
このように、首相在任時の安倍氏は常に「挑戦者」として行動した。その中で今後影響が最も注目されるのは、やはり金融緩和の影響であろう。2017年以降、生鮮食品を除く消費者物価指数はプラスで推移しており、17年頃から日本はデフレ状態を脱していたとはいえ、最大の目的であったデフレの解消には効果があったことは確かである。
しかし、副作用も大きい。日本銀行は金利を引き下げるために国債を大量に買い入れ、その保有額は膨張した。2012年末の保有量は115兆円、国債発行残高の12.0%だったが、22年9月末は545兆円と、実に残高の44.9%にまで達している。12年度末の国債発行残高は705兆円だったが、22年度末には1042兆円にまで増えた。この間、金利が低く抑えられたため、発行残高の増大にもかかわらず利払い費は伸びずに済み、深刻な財政状況が顕在化することはなかった。
安倍氏が当時、財政状況に配慮したことは確かである。在任中、消費税の税率を二度も引き上げた。プライマリーバランスもかなり改善した。
しかし、今後、金利が上昇すればアベノミクスがもたらした低い金利のために隠れていた深刻な財政状況があらわになる恐れがある。つまり、利払い費も増加し、歳出の中の国債費が膨大になる可能性があるということである。この場合、必要な政策に予算を十分措置することができず、財政政策の硬直化が今以上に進むことも十分考えられる。
民主党政権で首相を務めた野田佳彦氏は国会での追悼演説で「あなたが放った強烈な光も、その先に伸びた影も」「問い続けたい」と呼びかけた。大胆な金融緩和という「挑戦」の効果は、今後の金利動向と財政状況の展開を踏まえて問われることになる。
●借金はなんとGDPの2.6倍…国債発行は是か非か? 2/13
日本政府は多様なコロナ給付金を支給したり、防衛費の増強を決めたりしたが、これらの一部は国債発行で賄われている。2022年度末には普通国債の残高がGDPの2.6倍の規模となり、赤字大国でもとどまることなく国債発行額が膨張している。それを可能にした理由の1つに、日銀が行った異次元緩和やある制度が関係してくる。そもそも国債発行自体に問題はあるのか。日本の将来を左右するこの大きな問題について考える。
財政収支の超重要な「2つのシナリオ」
内閣府がまとめた財政収支試算「中長期の経済財政に関する試算」が、1月24日に公表された。これは、2032年までの国および地方公共団体の財政収支とマクロ経済の推移を示すものだ。
一般的にあまり注目を集めることはないのだが、金融政策の転換が問題になっている今、重要な意味を持つ。ここには、「成長実現ケース」と「ベースラインケース」の2つのシナリオが示されている。
政策経費を債務に頼らずに賄えるか否かを示す「基礎的財政収支」は、成長実現ケースでは2026年度から黒字化する。しかしそこでは、実質経済成長率(実質GDP成長率)が2024、2025年度で2%、その後も2%近い値が続くという高成長を仮定している。
より現実的な成長率想定(2025年度まで1%を超えるが1.5%未満。それ以降は1%未満)であるベースラインケースの場合には、2032年度になっても基礎的財政収支が黒字化することはない。
「財政状況は改善しない」と言えるワケ
普通国債の残高は2022年度末で1,000兆円を超え、GDPの2.6倍になった。これは、諸外国に比べて極めて高い水準だ。
財政収支試算によると、名目GDPに対する公債等残高の比率は成長実現ケースの場合、2022年度の217%から徐々に低下し、2026年度以降は200%を下回ることになっている。しかしベースラインケースの場合、この比率は今後、2021年度の212.3%より低くなることはない。そして、2032年度には216.8%になる。
このように、現実的な成長率想定の場合には財政状況が今後改善することはなく、むしろ悪化するのだ。
「ドーマーの法則」というものがある。利子率が経済成長率より高ければ、国債残高の対GDP比は上昇し続けるというものだ。ベースラインケースでは、2029年度以降、名目利子率(名目長期金利)が名目GDP成長率以上になっている。だから、上記の結果は、まさにドーマーの法則のとおりだ。
公債残高の累増は、もちろん問題だ。だが本当に問題なのは、残高の大きさや対GDP比率の高さそのものではなく、その残高に見合う価値の財政支出がなされたかどうかだ。
財政支出に価値はあったのか?
1月2日の本連載で述べたように、国内債であれば国全体で見たとき、貸し借りが相殺される。したがって、外債のように国全体としての債務が将来に持ち越されるわけではない。「国債は負担の先送りだ」と言われることが多いのだが、その考えは間違っている。
しかし、そうであっても「国債の負担」という問題は発生する。国債の発行によってムダな支出が行われれば、将来の経済成長が阻害されるからだ。
したがって、国債発行による財政資金の調達に歯止めをかける必要がある。このために、さまざまな制度が作られている。
「赤字国債が多すぎる」という大問題
日本では第2次世界大戦直後のインフレーションによって、戦時国債の価値がほとんどゼロになってしまったという苦い経験がある。この経験を踏まえ、1947年に制定された「財政法」の第4条において、国債の発行を原則的として禁止した。そして、「建設国債」だけが認められることとした。
これは、公共事業等の財源に限って国債の発行を認めるというものだ。公共事業は社会資本になる。そして社会資本は、将来の生産力を増強する。だから、その財源を国債の発行によって調達しても、国全体の生産力が落ちることはない。つまり、上で述べた意味での「国債の負担」は発生することはない、との考えに基づくものだ。
ところが、この原則は赤字国債の発行を認めたことによって大きく修正された。赤字国債とは、公共事業以外の支出の財源として発行される国債だ。これは消費的支出に用いられるので、将来の生産力増強には寄与しない。だから、上で述べた意味での「国債の負担」が発生する可能性が強い。
1965年度に初めて発行され、1975年にも石油危機への対処で発行された。そして、1994年度以降は、毎年度発行されている。
現在の国債残高の比率を見ると、建設国債が約3割であるのに対して、赤字国債が約7割と圧倒的に多い。こうした事態は、将来の生産力を阻害するという意味で大きな問題を持っているのだ。
ムダな支出抑制に“超重要な”財政法第5条とは
国債の乱発による財政規律の喪失を防止するため、財政法の第5条では日本銀行による国債の引き受けを禁止している。これも極めて重要な規定だ。国債の市中消化の原則の下では、金利がムダな財政を阻止するように働く。
なぜなら、経済的効果の疑わしい支出で国債発行額が増えれば、国債市場で金利が上昇するからだ。つまり、財政資金のコストが上がる。これによって、国債の利払いが将来増えることとなるので、支出を引き締める力が働くのだ。
財務省の試算では、金利が1%上昇すると、3年後の国債費は3.7兆円増加する。2%なら7.5兆円。これはかなりの負担増だ。今後も金利が上がれば、さらに負担が増えることになる。
ところが、仮に日銀が市場を経由せずに政府から国債を直接引き受けるとなると、上記のメカニズムは働かない。マーケットの洗礼を受けることなく、国債を発行することができるからだ。日銀はいくらでも政府から国債を引き受けることができるので、財政支出を抑制する効果が働かなくなってしまう。
日銀が行った財政法第5条における「脱法」行為
2013年から始まった異次元金融緩和は、財政資金調達の条件を大きく変えた。大量の国債を市場から買い上げることによって、金利を引き下げたのである。これによって財政資金のコストは大きく下がった。このため財政規律が弛緩し、必要性の疑わしい人気取り施策が行われたことは否定できない。
異次元緩和が行ったのは、国債の大量購入だけではない。
仮に、銀行が購入したものを直ちに日銀に売却することができれば、財政法第5条の規定は形式上のものに過ぎなくなってしまう。これを防止するために、銀行が政府から購入した国債は、一定期間保有していないと日銀に売却できないという規制を日銀が設けていたのである。
ところが異次元金融緩和において、この制約が緩和されてしまった。すると、上記のメカニズムが効かなくなる。銀行が政府から購入した国債を右から左に売ってしまうのでは、日銀引き受けとあまり変わらない状態になってしまうからだ。
2022年12月には新規に発行された国債の大部分が、その日のうちに日銀によって購入されるという事態が起きた。このニュースはあまり注目されることがなかったのだが、財政法第5条の脱法的な行為と考えられるので、実は非常に大きな問題だ。
さらに日銀は今年の1月4日に、銀行が国債を買いやすくするように、銀行に特別の融資を行う制度(共通担保資金供給オペ)を実施した。この制度は以前からあったのだが、その条件を緩和したのだ。財政法第5条の脱法化がさらに進んだと考えることができる。
コロナ給付に防衛費…頼りすぎた「国債発行」は是か非か
2020年には新型コロナに対応するため、さまざまな給付金が給付された。まさに、大盤振る舞いが行われたのだ。その財源の大部分を国債に頼った。こうした事態は、2022年には収まってきた。
しかし2022年に、防衛費の財源に国債を用いて良いかという問題が発生した。防衛費は、公共事業とは違って将来の生産力増強に寄与することがないので、その財源に国債を用いれば、上で述べた意味での「国債の負担」が発生する。
そして国債発行額は、従来よりも増加することになる。そうなれば、長期金利に上昇圧力が加わる。だからこれは、日銀も関連する問題だ。
こうした事態を是とするか否か。2023年4月に発足する日銀の新体制は、これに対する態度をはっきりさせる必要がある。これは、日本の将来を左右する重要な問題だ。
●経済成長のない日本の将来は深刻だ  2/13
日本は衰退にむかっている
日本はGDPで世界3位という評価はもういい加減に捨て去るべきだ。現在の日本はもう豊かな国ではなくなっている。GDPが3位というのは単に人口が多いからである。そして確実に衰退に向かっている。
   労働生産性の国際比較2020概要
それを裏付ける国民一人当たりの2020年度のGDPで、日本は27位にランキングされている。
また時間当たりの労働生産性を見ると、2021年度でOECD38ヶ国の中で日本は27位。1970年から日本はこれまでG7の中で最下位を続けている。
この2つの順位が現在の日本の本当の姿を現しているのだ。残念ながら、日本のメディアでも日本はGDPで3位というのを強調するだけで、日本の本当の姿を語らない。
更に深刻なのは、以下の記事のグラフから観察できるように、G7の中でGDPが1990年移行成長が止まっているのは唯一日本だけである。
それがこれまで日本の社会で問題視されないでいたというのは、日本人の平和ボケを表すひとつであろう。
   1980年を1.0とした場合のGDP成長率推移 名目値
日本が抱えている問題
将来の日本を見た時に問題となるのがGDP成長の停滞、少子化と高齢化、慢性的な赤字財政、年々増加する負債総額といったことである。ところが、長期の自民党政権はこれまでこれらの問題を解決させるための政策は打ち出していない。自民党は何もしない政党ということだ。それを許して来た国民にも大いに責任がある。
これら種々問題の中で今回は少子化ついて触れることにする。日本は確実に少子化に向かっている。1970年代の第二次ベビーブームで年間で200万人以上の赤ん坊が誕生していたのが、それ以後の出生率は下降を辿っている。2019年には87万人の赤ん坊が誕生しただけで、2040年での推計では74万人とされている。
   出生数、合計特殊出生率の推移
少子化を加速させるかのように子供を持たないと決めている女性が増えているということだ。例えば、第二次ベビーブームで誕生した赤ん坊は現在50歳になっているが、その中の女性で無子率は27%と先進国で最も高い率になっているそうだ。そこから発展して2000年生まれの女性の無子率は40%にまで到達する可能性があると予測されているという。
また生産年齢人口(15―64歳)を見ると、2015年以後減少している。2015年に7728万人いたのが、2029年には7000万人、2040年に6000万人、2065年には4529万人と予測されている。その一方で65歳以上の高齢者は2040年には4000万人となる。
   「日本の将来推計人口(平成29年推計)」
即ち、これから20年先には1.5人の生産労働者が1人の高齢者の福祉なども負担するようになるというのは現在の日本の労働生産性では全くの不可能である。このように見ると、この先20年後の日本経済は深刻な状況に陥ることは必至である。
その前に、2025年から2035年の間に70%の確率で発生すると予測されている関東直下型地震と南海トラフの巨大地震、それに伴って富士山の噴火という事態が襲うようになると、これから20年後の日本は財政破綻している可能性が高い。
日本の国民はもう悠長に将来の発展を期待するような時代ではないのである。
●日銀総裁人事 経済学者 植田氏提示で与野党論戦へ  2/13
政府は14日、新たな日銀総裁に経済学者の植田和男氏を起用する案を示します。これを受けて、国会では、植田氏の起用のねらいや今後の金融政策の方向性をめぐっても活発な論戦が交わされる見通しです。
政府は、日銀の黒田総裁の後任に、日銀の元審議委員で経済学者の植田和男氏を、新たな副総裁に前金融庁長官の氷見野良三氏と日銀理事の内田眞一氏を起用する人事案について、14日、衆参両院の議院運営委員会の理事会に示し、できるだけ早期に国会の同意を得たい考えです。
この人事案に対し、与党側からは「バランスの取れた人事だ」などと評価する意見がある一方で、野党側からは「『異次元の金融緩和』をどう修正するのかは難しく、引き受け手がいない中での人事だったのではないか」という指摘も出ています。
15日には衆議院予算委員会で岸田総理大臣も出席して安全保障や少子化対策などをテーマに集中審議が行われ、この中では、植田氏らの起用のねらいやアベノミクスの評価、今後の金融政策の方向性をめぐっても活発な論戦が交わされる見通しです。
一方、新年度予算案は、16日に採決の前提となる中央公聴会が開かれることになっていて、採決に向けた日程の調整が本格化することになります。  
●継戦能力確保のためにも財政余力の維持強化が不可欠=鈴木財務相 2/13
鈴木俊一財務相は13日の衆院予算委員会で、有事は外交努力で回避する必要があるものの「有事であっても日本の信用や国民生活が損なわれることがないようにし、継戦能力(組織的な戦闘を継続する能力)を確保するためにも平時から財政余力を維持・強化しておくことが不可欠だ」との見解を示した。継戦能力と国債発行余力に関する緒方林太郎委員(有志の会)の質問に答えた。
現在の日本は金利を人為的に低く抑制して国債発行などを容易にする「金融抑圧」の状況にあるのではとの質問に対しては、日銀の金融緩和政策は経済を下支えし、賃金上昇を伴う形で持続的・安定的な物価安定目標の実現を目指すもので「国の債務負担を軽減するなどの国債管理上の目的から金融緩和が行われているとの指摘は当たらない」と語った。
鈴木財務相は、歴史的な低金利の継続で国債発行残高が累増する中でも利払い費が増えないという状況が続いてきたのは事実だが、「金利上昇による利払い費の急増リスクが大きくなっているという認識もしている」と説明。市場や国際社会における中長期の財政の持続可能性に対する信認が失われないよう、経済再生と財政健全化の両立に努めるとした。
●EU財政ルールの一時停止、今年末で終了へ=欧州委員  2/13
欧州連合(EU)欧州委員会のジェンティローニ委員(経済担当)は13日の会見で、EUの財政ルールである「安定・成長協定」の一時停止が今年末で終了する可能性が高いと述べた。
同協定は、新型コロナウイルスの流行を受けた政府の経済対策を支援するため、2020年に一時停止された。
その後、22年2月のロシアのウクライナ侵攻やそれに伴うエネルギー・食品の高騰を受けて、停止期間が23年末まで延長された。
ただ、財政ルールの修正を巡る作業が遅れていることから、停止期間がさらに延長されるのではないかとの観測が浮上している。
同委員はこれについて「(協定からの一時的な逸脱を認める)一般免責条項は今年末で終了するのが妥当だと考えている」と述べた。
●河野デジタル相 衆院予算委で「所管外」答弁12回 野党側は反発  2/13
河野デジタル大臣は、13日の衆議院予算委員会で、ロシアとの北方領土交渉や原子力政策などをめぐる野党側の質問に対して「所管外だ」という答弁を合わせて12回繰り返し、野党側は「説明責任を果たしていない」と反発しています。
13日の衆議院予算委員会で、立憲民主党は、安倍政権で行われたロシアとの北方領土交渉について、当時、外務大臣を務めていた河野デジタル大臣に対し、交渉の経緯などを質問しました。
これに対し、河野大臣は「所管外だ」と答弁しました。
また、父親の河野洋平氏が官房長官だった際に、慰安婦問題の謝罪と反省を示したいわゆる「河野談話」の取り扱いや、原子力政策の考え方などをただす質問に対しても「所管外だ」と合わせて12回、答弁しました。
野党側は「説明責任を果たしていない」と反発していて、今後、理事会などの場で抗議する方針です。
●「安倍晋三回顧録」をもとに国会論戦…立民3議員、衆院予算委で質問 2/13
立憲民主党は13日の衆院予算委員会で、安倍晋三・元首相が長期政権の舞台裏を語った「安倍晋三 回顧録」(中央公論新社)をもとに3議員が相次いで論戦に挑んだ。岸田政権の方針と安倍路線の矛盾を浮かび上がらせようとしたが、議論は深まらなかった。
米山隆一氏は、安倍氏の「(財務省は)『国の財政をあずかっている自分たちが、一番偉い』という考え方だ」などの証言について、財務省の認識をただした。これに対し、鈴木財務相は「時の内閣の方針の中でしっかりと政策目標を達成するために努力することが基本だ」とかわした。
歴史認識については、本庄知史氏が安倍氏の「(過去の植民地支配と侵略への謝罪を表明した)村山談話の誤りを正す」との発言を挙げ、政府の認識を追及した。松野官房長官は「岸田政権としても歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と語った。
本庄氏は、ロシアとの北方領土交渉を巡り、2018年12月の日露首脳会談で、翌年に2島返還の合意を目指す方向性が確認されたとする安倍氏の証言について、質問した。当時外相だった河野デジタル相は「所管外だ」と述べ、他のテーマも含めて同様の答弁を計12回繰り返した。

 

●景気緩やかに持ち直し、必要な対応躊躇せず=後藤経済財政相 2/14
後藤茂之経済財政相は14日、2022年10−12月期国内総生産(GDP)1次速報を受けて談話を発表した。その中で、日本経済について、「個人消費が増加し、インバウンドで外需がプラス寄与するなど、ウィズコロナの下で景気が緩やかに持ち直していることが示される結果となった」と指摘した。
また、経済・物価動向を注視し、必要な政策対応に躊躇(ちゅうちょ)なく取り組んでいく、とした。物価高に対する最大の処方箋は物価上昇に負けない継続的な賃上げ、とも強調した。
さらに、価格転嫁強化に取り組むとともに構造的賃上げ実現に向けた労働市場改革を進めるとした。
後藤経済財政相はその後の会見で「物価上昇と世界経済の減速は下振れリスクと十分認識している」と述べた。そのうえで、政府の対応としては既存の経済対策の進捗管理と早期実行を優先し、必要と判断すれば追加対策を検討するとの姿勢を繰り返した。
●日銀新総裁が直面する「国債大量保有」問題 政策転換が難しい理由 2/14
政府は14日、日銀の新総裁に経済学者の植田和男氏を起用する人事案を国会に提示する。黒田東彦総裁が進めた大規模緩和策で日銀が保有する国債は膨張。発行残高に占める保有割合(短期を除く)は5割を超え、さらに伸びるのは確実だ。中央銀行による国債の大量購入は国の財政規律を緩ませ、金融政策の方向転換を難しくするリスクも伴う。新総裁は就任から重い課題に直面することになる。
欧米の利上げに伴い日本の金利にも上昇圧力が強まる中、日銀は上限金利を設けて市場で国債を大量購入し、金利を抑え込んできた。2022年9月末時点の短期を除く国債発行残高は1065兆6139億円で、うち日銀の保有は50・3%を占めた。
その後も日銀が昨年12月に長期金利の上限を0・5%程度に引き上げ、国内外の投資家がさらなる利上げを見越して売り攻勢を仕掛けるなどして、今年1月の購入額は23兆6902億円と過去最高になった。
日銀が国債を国から直接引き受けることは、財政法で原則禁じられている。国債を買うため日銀が通貨を増発すれば、国はいくらでも借金することが可能になる。「財政ファイナンス」と呼ばれ、国内外から通貨に対する信認を失い、超インフレにつながりかねない禁じ手とされる。
日銀は、国からの直接引き受けではなく市場を通じて国債を購入するため、財政ファイナンスではないと主張する。だが、日銀による国債大量購入が財政規律の緩みにつながっているとの批判は根強い。政策提言機関「令和国民会議」(令和臨調)メンバーの平野信行氏(三菱UFJ銀行特別顧問)は「ばらまき的な財政支出に歯止めを欠けられない要因ではないか」と指摘する。
円安に伴う物価高など大規模緩和の副作用が目立つ中、日銀は新体制で政策の見直しを探るとみられる。植田氏は10日、記者団の取材に「当面は金融緩和を続ける必要がある」としたものの、昨年の経済紙への寄稿では、黒田氏による大規模緩和の検証が必要との認識を示していた。
ただ、仮に大規模緩和を見直し、利上げを進めた場合の“副作用”も大きい。財務省の試算では、向こう3年間で10年物国債の金利が毎年0・2%上昇した場合、利払い費の増加などで26年度の国債費は23年度より4兆5千億円増加する。金利を1%上乗せした前提では、さらに3兆6千億円増える。財政負担の“足かせ”が、日銀の政策運営の難度を高める。
日本総合研究所の河村小百合主席研究員は「日銀は保有国債の規模縮小と金利抑制策の見直しを計画的に進め、政府は利払い費の増大に対する財源確保が求められる。手遅れになる前に連携して早急に取り組むべきだ」と出口戦略を描く重要性を説く。
●立民「失われた10年検証」の不思議 …自己満足に終わる懸念 2/14
立憲民主党は、自民党が政権を奪還した2012年以降の政策を検証する「失われた10年政策検証プロジェクトチーム(PT)」を立ち上げた。
安住淳国対委員長は、1日の党会合で「反転攻勢のときだ。私たちのやってきたことは決して間違いでなかったということを各委員会で証明していきたい」と述べた。PTは今後、少子化対策、選択的夫婦別姓制度・LGBT(性的少数者)、農家の戸別所得補償制度、地方分権、社会保障、原発・エネルギー政策の6分野で検証を進める予定だという。
大西健介議員は衆院予算委員会で、児童手当の所得制限、高校無償化の所得制限、保育士配置基準の引き上げ、農業者戸別所得補償制度、選択的夫婦別姓制度、同性婚、衆議院議員の定数削減を挙げていた。
旧民主党政権の3年間で失われたものと、どちらが大きいのか検証してみよう。
立憲のPTでは、なぜ結果がすぐに出やすい経済政策を取り上げないのか。経済政策では雇用の確保が一番重要な課題だ。民主党政権の3年間で、正規雇用は50万人程度減少し、非正規雇用は100万人程度増加した。安倍晋三政権では正規雇用は200万人増加し、非正規雇用も220万人程度増加した。どちらが雇用を確保したか、誰の目にも明らかだ。
本来労働者のためにある民主党がその金看板の雇用で安倍政権にまったく勝てず、完敗だった。
経済以外の件、例えば選択的夫婦別姓制度、同性婚については、自民党は公約にしていなかったので、検証するといっても見解の相違にすぎない。そうしたものは、選挙でどちらが国民の支持があるのかを競うので、結果としてこの10年間では自民党が選挙で選ばれたのは国民の支持があっただけだ。まさか選ばなかった国民が悪いとは言えないだろう。
もっとも、時代とともに国民の意見も変わる。価値判断に基づくものを検証するのは、よほど慎重に行う必要がある。
この10年ではなく、民主党時代の公約などを検証したら、かなり面白い。消費税は議論しない、埋蔵金を発掘する、高速道路無料化、米軍基地は最低でも県外―などがあったが、いずれも実現できなかった。
特に、埋蔵金については、その当時、筆者は「埋蔵金男」と呼ばれていたが、民主党から何かを聞かれた記憶はない。自分たちでできると勘違いしたのだろう。民主党議員の中には筆者にだまされたという人もいたが、そもそも話を聞かれていないのだ。なお、民主党政権直後の安倍政権ではスタート時に10兆円程度を捻出した。
安住氏は、「旧民主党政権の政策は実は先端を行っていたことを証明する」というが、公約してもできなかったのでは意味がない。埋蔵金前提で政策を組み立て、埋蔵金が見つけられずあきらめたというのが実情だろう。
党内からも、自己満足に終わるなどと、議論の行方を懸念する声もあるようだ。
●「子育て後『ちょっと働く』では…」貧困専業主婦′、究者の危機感  2/14
「働きたい人が働ける環境を作ることが大切」。税や社会保険料の負担が増えないように時間を抑えて働く「130万円の壁」などが国会で議論になっています。女性の働き方の研究を続ける日本女子大学人間社会学部の周燕飛教授(労働経済学・社会保障論)に、ライフステージによって就業形態が変化しやすい女性のキャリアについて聞きました。
夫の収入と妻の無業率、「簡単な関係ではない」
――周さんは以前、専業主婦世帯の貧困率(世帯所得が全世帯の所得の中央値の半分に達していない貧困世帯の割合)が12%であるという調査結果を発表しています(2011年実施の「子育て世帯全国調査」に基づく)。
「1990年代ごろまでは、「裕福さの象徴」としての専業主婦像は定着していました。『ダグラス・有沢の法則』という法則があるほどで、日本だけでなく、様々な国の調査でも、主婦の無業率と夫の収入に相関関係があることはわかっていて、夫の収入が高ければ高いほど、妻の無業率も高くなるというのは、統計データにも支えられていました」
「しかしバブル崩壊後、夫の収入が低くても妻が就業していなかったり、逆に、夫の収入が高くても妻も働き続けていたりするなど、夫の収入と妻の無業率は簡単な関係ではなくなりつつあるという指摘が増えています。私が「貧困専業主婦」についての調査結果を発表したところ、意外性をもって関心を持たれました」
専業主婦と「準専業主婦」を行き来する3分の2
――2019年に出版された「貧困専業主婦」(新潮社)では、パートとして働く女性を《主に仕事をしているわけではない妻を「準専業主婦」と定義》し、2015年の国勢調査の結果について《準専業主婦を加えて広義の「専業主婦」とすると、その数は全体(16〜64歳)の63%を占めており、共働き世帯の数を上回ります》としています。
「1990年代以降は、共働き世帯が専業主婦世帯よりはるかに大きくなっています。しかし、共働きの中身をみると、働く女性のほとんどは、パートで、年収も低い。夫の扶養範囲内で働いている人が依然として多く、私はそういう人たちを『準専業主婦』と呼んでいます」
「準専業主婦と専業主婦のステータスや就業状態には、流動性があります。つまり、専業主婦から準専業主婦になったり、準専業主婦から専業主婦になったりするということです。一方、フルタイムで働いている人は、ステータスはそんなに変化していていません」
「国勢調査で、子どものいる女性に限定して見てみると、だいたい3分の1くらいがフルタイムで働く女性。残りの3分の2は、専業主婦と準専業主婦を行き来しています」
「子育て後、ちょっと働く」、現代は…
――最近では、L字カーブ(女性の正規雇用率が20代後半のピーク後、出産期以降に低下する)が課題とされています。
「戦後、経済が大きく発展した日本では、無制限で働く男性の収入が増え、そのサイレントパートナーとして、家庭を支える無償労働者である専業主婦が生まれる社会的環境ができあがりました」
「ただ、当時から、『一生涯専業主婦』という人は少なかったです。『子育てが一段落したら、パートとしてちょっと働く』というライフスタイルを考えている人が多かった。しかし現代を生きる専業主婦は、昔と同じ考えではダメだと思っています」
――その認識がダメだというのは、なぜでしょうか。
「理由は二つあります」
「一つは夫の生涯賃金がバブル期から減少傾向にあること。妻にも家計への貢献が求められています。それは、家庭レベルのニーズの変化です」
「もう一つは、少子高齢化。労働力不足に陥っています。働く意欲と能力が高い、ポテンシャルある女性が、(正規・非正規問わず)納得できない働き方、例えば安い賃金で単純作業の仕事に従事して終わるのは非常にもったいないです」
「少子高齢化の日本社会は、その人材浪費に耐えうる体力は、もう持っていません。社会の要請としても、女性が復帰するときには、自分の能力やスキルを最大限に発揮できるキャリアの職場に戻ってくることが期待されています」
「働け」の大合唱いかがなものか…「中立的な政策を」
――そこに応えるためには、個人としてできることと、社会側がすべきことがあるように思います。まず個人としてできることは。
「ライフスタイルにあわせて一時期専業主婦になったとしても、キャリアを取り戻せるように、その期間中、社会とのつながりを断ち切らないことが大事だと思います。子育てがある程度落ち着いたら、リスキリング(学び直し)を行い、いつでも社会復帰できるように準備するとよいでしょう」
――復帰の際の働き方を考えたときに、スキルを更新し続けられた方が良いというのは確かにそうですよね。一方、そもそも働き方や生き方は、本来自由であるべきです。
「そうですね。労働力確保の面で見ると、働きたい人が働ける環境を作ってあげることが大切だと思いますが、専業主婦に『働け』という国を挙げての大合唱になるのはいかがなものかと思っています」
「『専業主婦になりたい人はなればいい』という選択肢を残しながらも、中立的な政策を取るべきです。『働き損』または『専業主婦損』のどちらも望ましくありません」
「社会の壁、大きい」
――育児しながら働くことの大変さが理解されていなかったり、女性に家事や育児の負担が偏ってしまったりしている現状もあります。再就職したい女性に、企業や社会側に受け皿が用意されていないようにも思います。
「社会の壁も大きいですね。とくに雇用慣行の壁が女性にとって乗り越えにくいところがあります。本人のモチベーションが高くても、中途採用がなければ働き口はありません。そのためにも雇用の流動性を高め、正社員と非正社員雇用慣行の「壁」を打ち破る必要があります」
「家庭の事情で一度辞めた女性を企業が再雇用し、活躍するようなケースがどんどん増えるといいのですが」
――専業主婦の期間はケア労働に従事した期間でもあると思っています。それを評価できない企業だとなかなか難しそうです。
「古い考えを持った企業の人事だと、なかなか変わらないかもしれません。自身が育児の経験や専業主婦の経験がある人たちが管理職を占めるようになれば、それは少しずつ変わっていくと思います」
「専業主婦は無駄な期間ではないし、そこには貴重な人材が眠っているのだと、企業も認識する必要があります」
――パートナーとの分担も欠かせません。
「家事育児に関わらない男性が多い社会は、持続不可能だと思います。男性にも家事育児への参加を促していき、同時に男性のしんどい働き方も変えないといけなません」
「長時間労働や頻繁な転勤は、男性が家事育児やりたくてもやれない状況を生んでいます」
「正社員のしんどい働き方を改革して、男性も女性も家事育児を公平に負担する社会に移行しないといけないと思います」
――103万、130万の「壁」がまた国会で議論になっています。壁があることで女性の働き方に制限をかけてしまっているという意見もあります。女性の働き方の今後についてはどう思われますか。
「それぞれの生き方を尊重しながらも、眠れる人材の宝庫を最大限に生かすような政策は必要になってきます。その波に乗りたい人、乗りたくない人、乗れない人など様々いますが、全ての人をサポートできる社会制度を整えるべきだと思います」  
●世界の街角から消えた日本人 いよいよ日本は本当に没落するのか? 2/14
やがて歯止めが利かなくなる金利上昇
海外でこれほどまでに日本のプレゼンスが落ちているというのに、日本政府は相変わらず、経済を本気で再興する気がない。しかも、いままで通りのバラマキを続けて行こうとしている。
防衛費増強は仕方ないとしても、「スタートアップ支援」だの「異次元の少子化対策」だの、中身が見えないまま税金をつぎ込もうとしている。国債もどんどん発行して、借金による財政運用を続けていこうとしている。
そんな状況を海外から見ながら、私が思うのは、どうやら本当に日本は完全に没落してしまうのではないかということだ。これまで、私は絶望的な言説を書き綴ってきたが、それがあと、2、3年で本当になってしまうのではないかと、本気で危惧するようになった。
昨年暮れ、ついに日銀は政策転換をせざるをえないところまで追い詰められ、金利を上げた。そして、今月5日、財務省が実施した10年物国債の入札で、最高落札利回りが0.5%と7年半ぶりの水準になった。たった2週間ほどで長期金利は上限に到達したのだ。
これは、日銀がいずれ金利を抑えきれなくなると、関係者が見ている証拠だ。こうなると、この先インフレはさらに進み、いつか金利上昇の歯止めが利かなくなる。
金利上昇は、即、財政負担の拡大を招く。そうなれば、この国はさらに国債を発行して赤字を穴埋めするだろう。
国債の格下げによって国は信用を失う
昨年暮れ以来、日本国債の格下げが検討されている。S&P、ムーディーズ、フィッチの大手3社は、いずれも、日本国債の格付けを現行の「シングルAマイナス」からダウングレードする可能性があるという。
日本国債は、アベノミクスが始まった直後、2014年11月に消費増税の延期が決まった時点で格下げされたのが最後の格下げで、これによりG7国のなかで最低の格付けになった。
では、2014年11月からの約8年間で、日本の財政状況はどうなったか? アベノミクスが金融緩和を続けたため、政府債務は774兆円から1026兆円まで膨張した。これは、GDP比で264%。こんなひどい財政状況の国は破綻国家以外ではありえない。
では、国債が「シングルAマイナス」から「「トリプルBプラス」にダウングレードされるとどうなるのか?
これは信用力の低下を意味するから、まずは社債やコマーシャルペーパー(CP)の発行、銀行間取引でのコストが上がる。さらに金融機関によっては日本国債を担保として認めなくなり、ドルを調達できなくなる可能性がある。
日本国債は、日本という国の信用そのものだから、信用がなくなれば、最終的にハイパーインフレを招くだろう。 ・・・
●「低位安定」の岸田内閣 〜支える自民党支持者の動向は〜 2/14
1月23日に通常国会が召集され、6月21日までの150日間にわたる与野党論戦に入りました。ただ、ことしは4月に統一地方選挙があるため、4月中の会期を十分に活用できるとは限りません。それだけに濃密な議論と時間の使い方が政府にも与野党双方にも求められます。
初日の施政方針演説で、岸田総理大臣は12の章立てをして、自らの内閣の向こう1年の基本方針を国民に訴えました。防衛力の整備強化、新しい資本主義の進展、子ども・子育て政策の推進などを並べましたが、具体策は後で示すというものが目立ちました。
例えば、新しい資本主義の部分では、年功序列型賃金を見直し、構造的な賃上げを実現するために日本企業に合った「職務給」導入のモデルを6月までに示す。また、子ども・子育ての部分では、今の社会で必要とされる政策を取りまとめ、6月の骨太方針までに予算倍増に向けた大枠を提示する。
一見すると締め切りの時期を示した誠実な姿勢に見えますが、裏を返せば結論の先送りです。見方を変えれば、5月のG7広島サミットまでは外交に専念し、内政課題については霞が関官僚の年間スケジュールに合わせて時間稼ぎをしているとも言えます。スピード感に欠けています。
施政方針演説をもとに衆参両院での代表質問、そして衆議院予算委員会での質疑へと進んでいますが、答弁で具体的な政策内容が浮上している気配はありません。
こうした中で、2月のNHK電話世論調査は10日(金)から12日(日)にかけて行われました。
あなたは岸田内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。
   支持する  36%(対前月+3ポイント)
   支持しない  41%(対前月−4ポイント)
   わからない、無回答  23%(対前月±0ポイント)
NHK世論調査での岸田内閣の支持率は、去年7月に発足以来最も高い59%を記録した後、下降局面に入りました。去年12月と今月は、前の月より若干支持率がアップしましたが30%台のままです。「低位安定」が継続していると見ることができます。
この「低位安定」を支えているものはと言えば、やはり自民党支持者です。2月調査でも自民党支持者のうち61%が岸田内閣を支持すると答えていて、支持するが17%の野党支持者、18%の無党派とは大きな差があります。
ただ、自民党支持者の中にもテーマによってさまざまな考え方が存在し、岸田総理にとってもとらえどころに苦慮する面がありそうです。今月の調査から2つの項目を見てみます。
政府は増額する防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針です。あなたはこれに賛成ですか。反対ですか。
   賛成 23% < 反対 64%
これを詳しく見ると次のようになります。
   自民党支持者 → 賛成 33% < 反対 58%
   野党支持者 → 賛成 17% < 反対 76%
   無党派 → 賛成 18% < 反対 71%
野党支持者、無党派ほどではありませんが、防衛費増額のための増税に対しては、自民党支持者でも否定的な考えが多いことが分かります。
いつの時代でも国民は増税に警戒感を持ちます。それが何に使われ、どれだけ自分の暮らしの安定に役立つのかが明確にならなければ、簡単には賛成しません。
岸田総理は、日本を取り巻く安全保障環境の悪化に対応する防衛費増額なので、今を生きる我々が負担すべきものとして、国債発行で将来につけを回す方法はとらないと明言しています。財政健全化を目指す観点から妥当な判断と言えます。
しかしながら、この基本的な方針を最後まで貫くことができず、議論を続ける中で国債発行で賄うという結論に至ったならば腰砕けのそしりを免れません。まず、足元の自民党支持者に理解を得るための努力、とりわけ反撃能力を保有することが国民の命と日本の社会システムを守るうえでなぜ必要か、どこまで有効かの説明を尽くす必要がありそうです。
あなたは、男性どうし、女性どうしの結婚を法律で認めることに賛成ですか。反対ですか。
   賛成 54% > 反対 29%
こちらも詳しく見ると次のようになります。
   自民党支持者 → 賛成 51% > 反対 38%
   野党支持者 → 賛成 57% > 反対 33%
   無党派 → 賛成 62% > 反対 20%
この数字を見て、私は少々驚きました。自民党の国会議員などと話していると伝統的な家制度を継承すべきという主張が多いのですが、自民党支持者の数字からは野党支持者、無党派層と大きな傾向の違いを感じません。より多角的に調査してみる必要があるとは思いますが、自民党支持者の中にも時代の変化に身を添わせるべきという考え方が広がっているように感じます。
今回の調査の1週間前に、総理秘書官が記者団に内閣の基本姿勢を解説する中で「同性婚は嫌だ」と発言して更迭される出来事がありました。本人が何を守ろうとしてこうした発言をしたのかは定かではありません。ただ、岸田内閣を支える自民党支持者に寄り添おうと考えて発言したとしたならば、これは少々現状を見誤っていたということなのかもしれません。
「低位安定」の岸田内閣について見てきました。こういう状況の下で行われる4月の統一地方選挙。とりわけ41の道府県議会議員選挙が注目点になりますが、与野党の勢力図にどういう変化が現れるのかは流動的です。
国会論戦の中で、岸田総理が先頭に立って具体的な中身に踏み込んだ発信を積み重ねることができるかが、政権を担う自民党にとって欠かせない要素になりそうです。

 

●自民党こそが「平和ボケ」岸田政権では有事の対応などできぬ“証拠” 2/15
今国会での激しい論戦が予想される、防衛費増税を巡る議論。政府は今月3日に「防衛力財源確保特措法案」を閣議決定し国会に提出するなど、前のめりの姿勢を崩そうとしません。このような動きに大きな疑問を投げかけるのは、毎日新聞で政治部副部長などを務めた経験を持つジャーナリストの尾中 香尚里さん。尾中さんは今回の記事中、自民党政権に「有事への対応能力」などないとしてそう判断せざるを得ない理由を詳述するとともに、岸田政権に対して抱いている「恐れ」を具体的に記しています。
防衛費増額とコロナ禍
通常国会が1月23日に召集された。昨年の臨時国会から引き続き、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が大きな焦点となることは疑いもないが、今国会ではさらに、政府が新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザと同等の扱いにする(感染症法上の「5類」への移行)問題、そして「敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有」をはじめとする防衛政策の大転換が、論戦の大きな焦点に浮上しそうだ。
コロナ禍と防衛政策。一見全く関係ない問題のように見える。コロナ禍は医療問題の専門家が、防衛政策は安全保障や憲法の専門家が「その道のプロ」として議論している。
それはそれで大事だが、どうも筆者は両者の「共通項」が気に掛かる。なぜなら、コロナ禍も安全保障上の危機も、ともに「日本の非常事態にどう対処するか」という点では、同じ枠組みで語れる話だと思うからだ。
結論から先に言いたい。「コロナ禍でまともな対応ができなかった歴代自民党政権が、防衛政策などまともに取り組めるはずがない」と。
岸田文雄首相は23日の施政方針演説で、防衛力の「抜本的強化」について「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、いざという時に国民の命を守り抜けるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していく」と語った。ロシアによるウクライナ侵攻というあり得ない事態が起きている状況で、安全保障環境の変化に対する国民の不安に政治が一定程度寄り添う必要性を、筆者も全否定するつもりはない。
問題はこの政権に「国民の命を守り抜く」覚悟が、全く感じられないことだ。
他国からの軍事攻撃は確かに非常事態だが、現時点でその切迫感は薄い。それ以上に国民にとってはるかに分かりやすい直近の非常事態がコロナ禍だ。そしてその時に歴代の自民党政権が「国民の命を守り抜く」姿勢で臨んだとは、筆者にはとても思えない。
例えばコロナ禍初期の安倍政権の対応だ。安倍晋三首相(当時)は、法的根拠を伴う緊急事態宣言の発令を、国内で初めて感染者が発見されてから、3カ月近くも渋り続けた。緊急事態宣言に基づき政府が飲食店などへの営業自粛などを要請した際、その結果生じる損害に対し補償を求められるのを嫌がったのだ。実際に安倍氏は「民間事業者や個人の個別の損失を直接補償することは現実的ではない」と国会で答弁している。
「国民の命を守り抜く」姿勢を見せなかった安倍氏。その結果、多くの飲食店が壊滅的な打撃を被り、一方で感染拡大を防ぐこともできなかった。
続く菅義偉政権では、感染者が保健所の調査にうその申告をしたり、宿泊療養(これ自体が感染者に十分な医療へのアクセスを与えられないという、政府の怠慢である)などの要請に応じなかったりした場合に、罰則を課す規定が設けられた。一時は懲役刑の導入まで検討された。感染対策が後手に回り、国民の生命も経済も痛めつけた自らの責任を棚に上げて「国民の責任だ」と言わんばかりの施策だった。
そして岸田政権の「5類」移行問題だ。要するに、コロナ禍が事実上終わり「平時」に戻ったことを高らかに訴えるための、露払いのようなものである。
確かに、オミクロン株への置き換わりが進む中、かつてのような「緊急事態宣言を発令して国民に大規模な行動自粛を求める」施策は、もはや意味をなさないだろう。しかし、今は第8波のさなかだ。政府が国民に危機を訴える姿勢を失っている間に、全国の死者数は今年になって過去最高を記録している。
コロナ禍関連の経営破たんも、昨年から勢いを増している。コロナ禍で売り上げが減った中小企業の資金繰り支援策だった実質無利子・無担保での融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格的に始まったことが影響しているのは間違いないだろう。
多くの国民が今なお社会的にも経済的にも苦しみ、生命と暮らしの危機に脅かされている中での「2類から5類は」は、その是非以上に「ここから先は『平時』。後は国民の自己責任で」というアナウンスに等しい。
「5類移行後も政府は国民の命を守り抜くために全力を尽くす」という力強い決意は、岸田首相から全く感じられない。それどころか、首相は前述したように、この「国民の命を守り抜く」という言葉を、国会で防衛費増額の文脈で使ってみせたのだ。
その言葉を使うべき場面は、そこじゃないだろう。そんな思いしか持てなかった。
思うに自民党政権は、本当の意味で「有事」に対応できる政権ではない。
高度経済成長期で税収は増える一方、冷戦構造が世界秩序に奇妙な安定感を与え、米国の機嫌を損ねさえしなければ、経済でも安全保障でも、自分の頭で難しい判断をする必要がない状態で、自民党は政権交代のない「万年与党」の座に安住していた(それを許した責任は、当時の野党勢力にもあるが)。
55年体制が崩壊した後、日本は敗戦以来の「国難」とも言える状況をいくつも経験した。だが、阪神・淡路大震災(1995年)の時は、自民党は与党だったとは言え、首相は社会党の村山富市氏。東日本大震災(2011年)の時は民主党の菅直人政権で、自民党は野党だった。
自民党は「有事への対応能力」を試されることなく、社会党や民主党を批判して「危機管理に強いのは自民党」イメージを振りまいていればよかった。ありていに言えば「平和ぼけ」していたのだ。
そんな自民党が、民主党から政権を奪還して初めて遭遇した「国難」的危機がコロナ禍だった。そして、安倍政権以降三つの政権の対応のお粗末さは、ここで繰り返すまでもない。正直、筆者にさえ「政権担当経験の長い自民党は、野党よりは危機対応に長けているのかも」という幻想があったが、その幻想はこの3年でもろくも崩れ去った。
彼らは何かにつけて「現行憲法では危機管理に対応できない」と言う。しかし、コロナ禍のような感染症でも、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故のような大災害でも、政府が現行憲法の範囲内で、国民の生命を守るために強権を発動できる仕組みは、当たり前に存在する。
コロナ禍で自民党政権は、こうした仕組みを「使い倒す」ことができなかった。現行法にある「武器」を使い切って「もうこれ以上の手はない」ところまで頑張りきることをしなかった。分かりやすい例が「予算の使い残し」。コロナ対応を中心として政府が積み上げた多額の予算は、現在「不用額」として積み残され、その額は2020年度、21年度と2年連続で過去最大になっている。
「あらゆる手を尽くして国民の命を守る」ことをサボっておきながら、事態が自分の手に負えなくなると、今度は「政府の指示に従わない国民のせい」にしたり「危機はなかった(終わった)こと」にして「平時」の対応に戻ろうとしたりする。しまいには自分らの無策を棚に上げて「政府に権限がないから何もできない」と制度に責任を転嫁し「憲法を改正して緊急事態条項がほしい」などと言い出す。
こんな政権が防衛費を増強したとして、それで「国民を守る力」が強まるなんてことを信じろという方が無理だ。
岸田首相は昨年12月、「安保関連3文書」の閣議決定を受けた記者会見の冒頭発言で、防衛力の抜本的強化について「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということ」と述べた。
買ってどうするのか。おそらくこの政権は、多額のお金で買った兵器の数々をまともに使うこともできず、無駄にするだけなのではないか。
思えば、北朝鮮からミサイルが飛んでくるたびに、そのミサイルが通り過ぎた後に全国「瞬時」警報システム(Jアラート)なるものを高らかに鳴らし、子供たちを学校の机の下に潜らせていた段階で、私たちは自民党政権の危機管理能力を、もっと真剣に疑っておくべきだったと思う。
筆者が恐れるのは「戦闘」行為そのものより、むしろ「その後」である。
岸田政権は例の「敵基地攻撃能力」(反撃能力)について「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使」することを強調している。野党の「先制攻撃」批判をかわすのに必死なのだろう。とりあえずそれはよしとしよう。
しかし、この言葉を信じるなら、日本政府が敵基地攻撃能力を発動する時は、すなわち「敵」からの攻撃によって日本国内に甚大な被害が生じた時だということになる。ミサイルが原発に命中し、福島原発事故を上回る被害が出ているかもしれない。
その時にこの政権は、被害を受けた国民を本当に救えるのか。コロナ禍で苦しむ国民に十分な手を差し伸べられない政権が、「戦闘」で被害を受けた国民を見捨てないと、どうして言い切れるのか。
左派やリベラル系の人々が「新しい戦前が来る」と危機感を抱く気持ちはよく分かるし、間違いではないとも思う。しかし、あえて言うなら、本当にこの政権に危機感を持つべきなのは、防衛費増額を高く支持する保守系の人々の方ではないのか。
この国会で問われるべきは「安全保障政策はどうあるべきか」ではない。「この政権に危機管理を任せて本当に大丈夫なのか」ということだ。少なくとも筆者は、コロナ禍で苦しむ国民を放置して「対応はもうお手上げ」と言わんばかりに「平時」を装うような岸田政権に、国防など議論してほしくない。
●「執行官」は去るが、アベノミクスはひとまず維持か…世界経済見通し 2/15
世界3位の経済大国、日本の通貨政策を率いる新たな司令官が姿を表わした。日本銀行の新総裁に指名された71歳の植田和男東京大学名誉教授だ。日本の政治構図から見て岸田文雄首相が選択した植田氏の国会承認は無難と予想される。これで4月8日に退任する黒田東彦総裁の10年天下は幕を下ろすことになる。
植田新総裁に対する世界的エコノミストの関心は結局ひとつだ。「アベノミクス」の象徴だった大規模金融緩和が持続するのか否かだ。黒田氏は名実ともにアベノミクスの執行官だった。2013年に日銀総裁に就任してから執拗に無制限の金融緩和を押し進めた。「日銀の印刷機をフル回転してお金を印刷する」という安倍晋三首相の約束を誠実に履行した。イールドカーブコントロール(YCC)政策、マイナス金利など世界の経済史に記録される「超緩和政策」が彼の指揮下で導入された。
当初アベノミクスは3本の矢を放った。財政拡大を通じた景気浮揚と構造改革、そして無制限の量的緩和だった。しかし財政拡大と構造改革の2本の矢はすぐ折れた。黒田氏が担当する金融緩和だけが生き残り、それがアベノミクスの象徴であり同義語のようになった。アベノミクスは日本経済がデフレの泥沼にさらに深くはまらないようにする成果を上げた。だがデフレからまともに救い出すこともできなかった。無制限の通貨注入で市場はゆがめられた。功もあり過もある。世界経済にも大きな影響を及ぼした。日本のゼロ金利を基に円キャリー資金が世界を駆けめぐった。日銀の量的・質的緩和政策はコロナ禍に踏みにじられた各国中央銀行の研究モデルでもあった。
植田氏の第一声「現在の通貨政策は適切」
現時点では日銀の現在の金融緩和政策が当分維持されるとみるのが合理的だ。まず政治的な事情がある。岸田首相は与党である自民党の多数派である安倍派の牽制を受けている。安倍氏の政治的遺産であるアベノミクスを中途半端に廃棄できない境遇だ。それでも岸田氏は安倍氏の遺産と距離を置きたい。「日本はこの30年間想定されたトリクルダウン効果は起きなかった」という岸田氏の評価の中に本音が込められた。
総裁指名後、現在の通貨政策に対する植田氏の第一声は「適切だ」というものだった。「金融政策は現状と先行きに基づいて運営しなくてはならない」としながらだ。「現状では金融緩和の継続が必要であると考えている」とも話した。これは市場に衝撃を与えないための計算された発言とみるべきだ。岸田氏が安倍氏ではないように植田氏も黒田氏とは違う人物だ。黒田氏のようにアベノミクスに束縛されることもない。昨年7月の植田氏の日本経済新聞への寄稿にヒントがある。彼は性急な金利引き上げを警告しながらも「異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要だろう」と書いた。「非正常の正常化」が彼の指向するところだ。
大規模金融緩和が呼んだジレンマ
植田氏がすぐに超緩和金融政策に終止符を打つことができないのは日本経済と日銀のジレンマが深刻なためだ。日銀は日本国債を無制限で買い入れる方式で市場に資金を放出してきた。その結果日本国債の50%以上を日銀が保有する奇形的状態になった。国の債務は膨らみ昨年末基準で国内総生産(GDP)比263.9%を記録した。経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち断トツの1位だ。
量的緩和終了で金利が上がる瞬間に財政の利子負担は急増することになり、国債価格下落が国債投げ売りを触発しかねない。これに伴う市中金利引き上げと消費・投資の不振は景気に毒だ。デフレの泥沼への復帰は日本国民が最も嫌がることだ。
「円安」で消費者物価41年ぶり高水準
それでも現在の金融緩和を継続するのも限界にきた。各国が金利引き上げでコロナ禍の時期に発生したバブルを除去しているのに、日本だけ1人「ゼロ金利」を守り副作用が大きくなっている。何より円安により輸入価格が上がり物価への圧力が深刻になった。昨年12月の消費者物価(生鮮食品除く)は4.0%上昇した。1981年から41年ぶりの上層率だ。アベノミクスの目標が停滞した物価を2%に引き上げることだった点を考慮すれば見た目は超過達成だ。だが実状はそうでない。
現在のインフレはアベノミクスが意図した消費と投資拡大の結果ではなく円安によるところが大きい。日本と海外の金利差にともなう資金離脱が招いた「悪い円安」が「悪いインフレ」を引き起こすものだ。黒田氏が望んだ賃金上昇は依然として展開されていない。むしろ実質賃金は8カ月連続下落した。経団連が会員企業に賃金を引き上げるよう促しているが効き目は出ていない。YCCを通じた長期金利抑制がもたらす市場歪曲も日増しに深刻化している。
植田氏は「日本のバーナンキ」
複雑に絡まるジレンマを植田氏が解くことができるだろうか。植田氏個人の能力はけちのつけようがなさそうだ。彼は日本の量的緩和政策の最高手の1人だ。1998年〜2005年に日銀の最高意志決定機関である政策委員会の審議委員を務め、ゼロ金利と量的緩和導入に関与した。現在日銀のシンクタンクである通貨経済研究所の首席顧問を務めており、最近の金融緩和政策も見抜いている。
学問的バックグラウンドも世界最高水準だ。特に世界の中央銀行を牛耳っている「スタンレー・フィッシャー軍団」の一員だ。フィッシャー氏はMITで経済学教授を務めた後イスラエル中央銀行総裁、米連邦準備制度理事会(FRB)副議長を務めた。植田氏のMIT博士課程の指導教授がフィッシャー氏だ。ブルームバーグによると、バーナンキ元FRB議長、ドラギ前欧州中央銀行総裁、サマーズ元米財務長官もフィッシャー氏の教え子だった。ドルばらまきで米国を金融危機から救った「ヘリコプター・ベン」(バーナンキ氏)と積極的通貨政策でユーロ圏危機から欧州を救った「スーパー・マリオ」(マリオ氏)が植田氏とほぼ同じ時期にフィッシャー氏の下で経済学を学んだ。サマーズ元長官はブルームバーグテレビで「われわれは彼を日本のバーナンキと考えることができる」と話した。世界の中央銀行関係者との親密な関係は今後の日銀の政策に対する国際社会の信頼と支持を高めるのに寄与するものとみられる。
当分円相場急変イベントはなさそう
市場専門家らは植田氏の最初の手術対象にYCC政策を挙げる。10年物長期国債利回りを0%にし上下0.5%の変動だけ許容する制度だ。ここには日銀の国債過多保有、日本政府の財政不良、債券価格機能喪失などの代償が伴う。その上に長期金利固定は米国との金利格差を拡大し円急落など多くの副作用を生んだ。サマーズ元長官は「利回り統制を無制限持続することはできない」と話した。国際通貨基金(IMF)もより柔軟な利回り統制を要求している。カギはYCCの手術方向とタイミングだ。過激な手術は途轍もない後遺症を引き起こす。昨年12月に変動幅を上下0.25%から0.5%に拡大しただけでもすぐ長期金利上昇を呼んだ。
対外経済政策研究院のチョン・ソンチュン副院長は「ひとまずYCCの効果と副作用を検討した後、長期金利変動幅を少しずつ慎重に拡大していく可能性がある。短期金利引き上げは来年以降にでも検討すると予想される」と話した。
植田氏の登場と黒田氏の退場はアベノミクスの閉幕を既定事実にする。しかしすぐではない。現在の金融緩和フレームは当分ドラマチックな変化なく維持されるだろう。それならば短期的に円相場急変の可能性は小さいとみられる。
延世(ヨンセ)大学経済学部の成太胤(ソン・テユン)教授は「日本の金融市場の正常化は韓国経済に肯定的に作用するだろう。現時点では円キャリー資金の急激な還流の可能性は大きくない」と話した。
韓国経済に垂れ込める日本経済の影
日本経済がくしゃみをすれば韓国経済が風邪をひくという言葉がある。1997年の通貨危機が代表的事例だ。同年外国短期資金375億ドルが抜け出たのが危機の導火線だった。日本は韓国に貸し付けた短期資金218億ドルのうち60%の130億ドルを回収した。それがウォン暴落の最大要因だった(カン・マンス、『現場で見た経済危機対応実録』)。2013年に本格化したアベノミクスは発足したばかりの朴槿恵(パク・クネ)政権の経済運用に大きな負担を抱かせた。円が続落し韓国の輸出戦線が脅威を受けた。当時IMFのラガルド総裁がアベノミクスの無制限通貨放出を「近隣窮乏化政策」と批判したが、米国の擁護の下で問題なくやり過ごした。昨年も韓国の輸出企業は円急落に悩んだ。対ドル円相場が150円台を超えて下がったりもした。過去には対円ウォン相場が1対10より上がれば韓国経済が影響を受けたりした。通貨危機直前の1996年にウォン相場は100円=727ウォン、金融危機直前の2007年には829ウォンだった。13日の相場は100円=962ウォンだった。
●岸田首相は「改革後退」ばかりやっている…「規制改革マフィア」が抱く危機感 2/15
岸田政権の経済政策にいら立ちがつのっている
岸田文雄内閣の「改革後退」にいら立った経済学者らが集まり、「制度・規制改革学会」という新しい学会が立ち上がった。
2月7日に東京・六本木ヒルズで開かれた設立総会では、これまで政府の規制改革に携わってきた八田達夫・大阪大学名誉教授と八代尚宏・昭和大学特命教授、竹中平蔵・慶應義塾大学名誉教授が理事に就任、八代教授が初代会長に選ばれた。
来賓としてあいさつした宮内義彦・元オリックス会長は「改革が動かない中で、学会を作るというのは複雑な気分だ。なぜ物事が動かないかという研究をするのでは意味がない。動かすための研究をしてほしい」と注文を付け、改革提言などを積極的に行う「行動する学会」になるよう求めた。
宮内氏は政府の規制改革関連会議の議長などを長年務めた日本の規制改革を主導した経営者の重鎮で、ソフトな語り口ながら、現状の改革停滞へのいら立ちを見せていた。
「規制改革が経済格差を拡大」は的外れ
学会の設立にあたっては理事3氏のほか、岩田規久男、岸博幸、久保利英明、小林慶一郎、鈴木亘、高橋洋一、永久寿夫、夏野剛、野村修也、原英史、福井秀夫、藤原豊、矢嶋康次、柳川範之(敬称略)ら約40人が発起人に名前を連ねた。総会会場には川本裕子人事院総裁や国会議員も多数顔を見せた。また、河野太郎デジタル改革担当相、小倉将信・少子化対策担当相がビデオメッセージを寄せた。
シンポジウムでは八代会長と八田達夫教授が規制改革の現状についてプレゼンテーションを行い、その後、竹中教授と、政府の規制改革会議議長を務める大槻奈那氏がパネラーとして議論に参加。イェール大学の成田悠輔氏がオンラインでコメンテーターとして加わった。
八田氏らは市場主義に基づく改革が「新自由主義」のレッテルを貼られて批判されることを「的外れ」であると強調、「規制改革が経済格差を拡大した」というのも当たらない、とした。八代氏も岸田内閣が行っている「数々の社会主義的政策」では問題は解決しないとし、物価上昇などに対して補助金を出すことで価格を抑制しようとしていることなどを批判していた。
なぜ日本は「魅力的な可能性」を眠らせているのか
「規制改革が格差を拡大させた」という批判について、八田氏は「競争と再分配は両立できる」強調。新古典派経済学の政策理念としての「現代市場主義」は既得権の保護よりも効率化を追求する点では立場が同じだが、より「平等」を求めるか「不平等」を容認するかは立場が分かれると解説。一般に「新自由主義」として批判されるのは米国のレーガン時代やトランプ時代のような「格差拡大容認主義」であるとした。
本来、「現代市場主義」と「格差拡大容認主義」は同一ではないにもかかわらず、「新自由主義」のレッテルの下に同一視されたのが日本の現状だとした。まだまだ規制を改革することで経済を効率化し成長路線に乗せていくことは可能だというわけだ。
竹中氏からは1月に行われたダボス会議で「日本はスリーピング・ビューティー(眠れる森の美女)だと評された」という紹介があり、「ビューティーかどうかは分からないが、眠っているのは確かだ」と答えたと話していた。
成田悠輔氏「規制改革マフィアのど真ん中に迷い込んだ」
海外からは、日本には魅力的な可能性があるにもかかわらず、改革を行わずにいると見られているということだ。「日本は政策的失敗だ」という声も多く聞いたと話していた。
その上で、「ベーシック・インカム」的な制度の導入によって規制改革と弱者支援は両立できるとした。
大槻氏からは現在、規制改革会議で行っている改革の中身などについて説明があったが、会場からは「規制改革会議は役割を終えたのではないか、何も改革できていない」と言った厳しい声も出ていた。
成田氏からは「今回のメンバーを見て、規制改革マフィアのど真ん中に迷い込んでしまった」というジョークが浴びせられたが、竹中氏は「(権益を持つ)マフィアではなく、(既得権と闘う)十字軍だ」と切り返して笑いを誘っていた。
「新しい資本主義」は社会主義ではないのか
パネラーのほか、多くの参加者から挙がっていたのが、「世代交代」。日本の経済成長が止まった1990年代以降、経済構造改革や規制改革の動きが強まっていたが、それを担ってきた学者、経営者は高齢化し、一線を退こうとしている。八代氏は「長年、規制改革を主導してこられた宮内義彦さんのような人たちの規制改革に向けた思いや知見を次世代につないでいきたい。次の若い世代の人たちに、私たちの経験から得た知恵を伝えていく、それがこの学会の大きな役割だ」と語っていた。
岸田首相は就任時に分配政策を中心とする「新しい資本主義」を掲げ、「新自由主義的政策は取らない」と明言した。さらに、安倍晋三元首相が推し進めた「アベノミクス」によって格差が拡大したと主張している。一部の経営者からは「新しい資本主義は社会主義だ」といった批判を浴び修正する気配を見せたが、その後、打ち出されている数々の政策は、補助金などによって市場をコントロールしようとするものになっている。
結局は「補助金支給」などの財政拡大が止まらない
市中でのガソリン価格の上昇を抑えるために、一定価格以上にならないよう石油元売会社に補助金を出す制度を2022年1月以来続けているが、これには巨額の財政支出を必要としている。さらに、小麦の小売り価格を抑えるための製粉会社への売り渡し価格の抑制や、電力・ガス料金を抑えるための電力会社などへの補助金の支給など財政拡大が止まらない。今年年頭に「最大の重要課題」として打ち出した少子化対策も、結局は児童手当の所得制限撤廃や拡充などが焦点になっている。
安倍首相(当時)は「規制改革がアベノミクスの一丁目一番地」だとし、農協改革や医療改革、労働規制改革といった「岩盤」に切り込む姿勢を強調していたが、岸田内閣では「規制改革」はほとんど姿を消した。ここへきて、八田氏や竹中氏らは長年務めていた政府の規制改革会議などから外れていて、政権が従来の規制改革路線を大きく転換した象徴だと捉えられている。
「岸田政権になって規制改革はむしろ逆行し、何でも国に頼る、社会主義的な政策になっている」と八代氏が言うように、今回の学会設立は、そうした「改革後退」への危機感が背景にある。
必要なのはバラマキではなく旧制度の見直し
「学会」という形を取ったことについて会長の八代氏は、学者の役割に対する反省があるとしている。
日本では、立法は霞が関の省庁が事実上担ってきたことで、行政が強い権限を持って、裁量的に運用していける形になっている。学者は法解釈が主流で、立法論に重きが置かれてこなかった。八代氏は「経済学は、本来、現実の社会問題解決のための道具だ」と言う。にもかかわらず、新しい時代に合わせて経済合理的なルールに変えていく役割を学者が担ってこなかった、というわけだ。
新学会では、「具体的な生産性向上につながる規制改革の提案を最優先する」(八代氏)という。例えば、「少子化対策が今年の最重点課題だと岸田首相は言っているが、カネをばらまくだけでなく、古い制度の見直しが必要だ」(八代氏)として、制度面の改革の必要性などを早い段階で提言していく方針だという。
岸田内閣の「新しい資本主義」では、リスキリングを通じた労働移動の促進による賃上げの実現を掲げている。一方で、雇用調整助成金の特例を延長し続けて企業に余剰人員を抱えさせる政策を取り続けてきた。企業を守ることを通じて個人を守るという伝統的な日本の政策が、持続不可能になってきた今、企業ではなく個人を守るための制度や規制の改革が重要というわけだ。
●米国市況 国債利回り上昇、6月利上げの観測−円は133円台に下落 2/15
14日の米株式市場ではS&P500種株価指数がほぼ変わらずで終了。1月の米消費者物価指数(CPI)が大幅に上昇し、インフレ圧力の継続を示唆した後、米金融当局者2人から従来予想より長期間の利上げ継続が必要になる可能性があるとの見解が示された。一方、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は引き締めの終了が近い可能性を示唆した。
   株式 終値 前営業日比 変化率
   S&P500種株価指数 4136.13 -1.16 -0.03%
   ダウ工業株30種平均 34089.27 -156.66 -0.46%
   ナスダック総合指数 11960.15 68.36 0.57%
株式相場は午前中は総じて軟調に推移し、S&P500種は1%安となる場面もあった。
リッチモンド連銀のバーキン総裁はインフレ抑制に向け、さらなる行動が必要になるかもしれないと発言。ダラス連銀のローガン総裁は、政策金利を従来想定よりも高い水準に引き上げる必要があるかもしれないと述べた。一方、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は、金利は景気抑制的な金利に近づきつつあるとし、「私の考えでは、まだ終わっていないが、もう一息と思われる」と話した。これを受けて、株価は下げ幅を縮小した。
インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は株価が下げ渋った要因は「恐らくハーカー氏の発言によるものだ」と指摘。「引き締めに関してもう一息というのは曖昧だが、タカ派的なトーンでないのは間違いない」と述べた。
アバディーンの投資ディレクター、ジェームズ・アシー氏はCPIについて、「こうした数字で何かが変わるということはまずない。米金融当局は一段のデータやこれまでに実施した引き締めの十分な影響を待つ中、依然として慎重な利上げモードにある。そのため、株式市場を脅かすものはあまりない。緩やかなディスインフレと力強い雇用は『ゴルディロックス』を意味すると市場は見なすだろう」とコメントした。
米国債
米国債は下落。利回りは上昇し、金融政策に敏感な2年債利回りは一時12ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上げ、4.6%台となった。
米連邦公開市場委員会(FOMC)が3月と5月に0.25ポイントずつ政策金利を引き上げた場合、6月にも同幅引き上げる確率はほぼ五分五分と金利スワップ市場では織り込んでいる。
   国債 直近値 前営業日比(BP) 変化率
   米30年債利回り 3.77% 0.2 0.05%
   米10年債利回り 3.75% 4.6 1.23%
   米2年債利回り 4.62% 10.0 2.21%
BTIGの世界金利トレーディング共同責任者、トーマス・ディガロマ氏は「CPIの数字でディスインフレのストーリーが変わってしまった。エネルギー価格が予想を上回る伸びとなった」と指摘。「米金融当局のタカ派的な発言は続く見込みだ」と話した。
リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズの債券ディレクター、マイケル・コントプロス氏は「インフレが当面続くと考えるなら、それは米金融当局が実際に需要を破壊するまで利上げを続ける必要があることも意味する。これは労働市場に亀裂を入れる必要があることを意味する。労働市場に亀裂を入れれば、長期的な成長とインフレの期待が低下せざるを得ない。『ハードランディング』シナリオの可能性が高まる」と述べた。
外為
外国為替市場ではドル指数がほぼ変わらず。CPI発表後に一時0.6%下落した後は、0.3%値上がりする場面もあるなど、もみ合いの展開だった。
主要10通貨では円やニュージーランド・ドルの下げが目立った。円は対ドルで1ドル=133円台に下落。一時は133円32銭を付けた。米CPIの発表直後に上下に振れた後は、ドル買い・円売りが優勢になった。
   為替 直近値 前営業日比 変化率
   ブルームバーグ・ドル指数 1234.75 -0.71 -0.06%
   ドル/円 ¥133.08 ¥0.66 0.50%
   ユーロ/ドル $1.0737 $0.14 0.13%
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略グローバル責任者、ウィン・シン氏はCPIを受けて、米金融当局が0.25ポイント利上げを3回実施する可能性が高いようだと述べた。
ブラックロックのグローバル最高投資責任者(CIO)、リック・リーダー氏は「今後数カ月もインフレでのさらなる進展が見られるだろう。しかし、ここからは緩やかで忍耐を要するプロセスとなる可能性がある」と指摘。「米金融当局にも影響を及ぼす気掛かりなことは、サービス部門のインフレが高止まりしていることで、過去数カ月にほとんど進展していない。居住費がその筆頭だ」と述べた。
原油
ニューヨーク原油相場は反落。バイデン米政権が戦略原油備蓄からさらに2600万バレルを売却する計画だとの前日夕に伝わった報道が引き続き売り材料となった。
ベタフィのエネルギー調査責任者、ステイシー・モリス氏は「戦略原油備蓄からの売却を巡る報道に市場は驚かされた」と指摘。米政権が追加売却をやめようとしていたことを考えると、地合いを悪化させた可能性があるとの見方を示した。
ニューヨーク商品取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物3月限は、前日比1.08ドル(1.4%)安の1バレル=79.06ドルで終了。一時は3.3%安となったが、下げ渋った。ロンドンICEの北海ブレント4月限は1.03ドル安の85.58ドル。

ニューヨーク金先物相場は小反発。CPIが前年同月比で予想を上回り、利上げが続くとの見方が強まる中、前日終値をはさんでもみ合う場面が目立った。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物4月限は、前日比1.90ドル(0.1%)高の1オンス=1865.40ドルで終了した。
●日本株のカギ握る植田次期総裁のスタンス、海外勢は正常化視野 2/15
米長期金利動向は、「経済統計次第」の不安定な状況が続いている。2月米連邦公開市場委員会(FOMC)直後の記者会見で、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は「ディスインフレのプロセスが始まった」と、インフレ率の鈍化に一歩前向きな評価を与えていた。
雇用に関しても「極めてタイトな状況」との従来見解を述べながらも「雇用の増加ペースと名目賃金の鈍化」にも触れていた。そして、結論的には継続的な利上げが必要としながらも「利上げ停止となるまでに2回ほどの利上げを協議中である。利上げ停止後に再び引き締め策を採る選択肢は検討していない」と利上げ停止の可能性を示唆していた。
想定以上に「ハト派的文言」が多く、12月FOMCまでの「タカ派的トーン」に身構えていた市場は好感したようだ。2月FOMCの結果発表を受けて、2月2日には米10年国債利回りが3.331%まで低下する局面があった。
流れ変えた1月雇用統計と米CPI
ところが、2月3日に発表された1月米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比51.7万人増、失業率は1969年5月以来の3.4%へ低下という衝撃的な内容だった。週平均労働時間は34.7時間に増加して昨年3月の水準に回帰し、労働参加率も62.4%に上昇しており、どこから見ても「雇用逼迫」を改めて裏付けることになった。
しかも、12月米労働省雇用動態調査(JOLTS)の求人件数は1101万人で、失業者1人に対して約1.9件の求人件数という逼迫ぶりである。
こうした雇用関係指標を受けて、パウエル議長の発言が「ややハト派的に過ぎる」と見たせいか、FOMCタカ派の論客が相次いで発言し始めた。ウォラーFRB理事は「金利が一部で想定されているよりも、より高い水準で、より長く維持される可能性がある。力強い労働市場は物価にとってリスクになる」と述べた。
ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁も「これまでの利上げが労働市場に大きな効果を及ぼしている証拠は、まだそれほどない。政策金利のピークは5.4%との見解を維持している」と利上げ継続を主張している。
両者は「タカ派」として著名だが、「中間派」と目されるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁までが「十分に景気抑制的な政策スタンスを達成しなければならない。インフレを確実に2%に回帰させるため、そうしたスタンスを数年間維持する必要があるだろう」と述べた点には注意を要する。景気抑制的な政策スタンスが「数年間」というのは、従来にない時間軸の延長である。
また、1月の米消費者物価指数(CPI)は、前年比で総合が6.4%上昇、コアが5.6%上昇と若干鈍化したものの、前月比では総合が0.5%、コアが0.4%の伸びで、12月までのインフレに対する楽観的なトーンとは異なっている。
特に住居費の伸びは依然高水準で、ガソリンをはじめとするエネルギー価格の反騰や、食品の高止まりも寄与している。住居費は下方硬直性の高い性質を持っており、高水準のサービス価格全般と相まって、FRBの目標とする物価2%には、なお相当な時間を要する見込みだ。
こうした状況変化を受けて、米10年国債利回りは2月14日に3.795%まで上昇する局面があった。同日のフェデラルファンド・レート(短期の政策金利)先物を見ると、「3月0.25%利上げ確実」、「5月0.25%利上げ確率84.1%」、「6月0.25%利上げ確率58.7%」となっている。
異常に強い雇用統計と高止まりするCPIを受けて、「年央まで利上げ継続」が市場のメインシナリオになった。政策金利のピークは7月の5.262%であり、かなりの上振れ予想になっている。12月のインプライド翌日物金利も5.066%と、「年内利下げ」期待は減衰している。それだけに、FRBの金融政策も「今後の統計次第」という不安定な様相が強まることになろう。
中国経済復活にも不透明感
一方、年明け以降に世界の景況感を改善させたのが、中国の回復期待である。やはり、「ゼロコロナ政策解除」による中国経済ノーマル化への期待は強く、国際通貨基金(IMF)も今年1月の世界経済見通しで、中国の成長率を昨年10月見通しの4.4%から5.2%に上方修正した。
中国国家統計局発表の1月購買担当者景気指数(PMI)では、総合指数が52.9と12月の42.6から急上昇しており、センチメント改善は間違いないようだ。1月の中国新規融資は4.9兆元で過去最高を更新し、1月総合CPI(前年比)も2.1%上昇と12月の1.8%から上がっているのも、やはり「ゼロコロナ政策解除」による需要増が背景にあると推測されている。
しかし、景気の実態を表す統計では、依然として停滞感を示すものが少なくない。海上運賃は、経済回復が実現すれば荷動きが活発化して上昇するはずだが、暴落したままである。香港−ロサンゼルス間のコンテナ船価格(40フィートボックス)は、昨年3月高値8585ドルから今年2月8日時点で1200ドルと約7分の1の急落だ。
1月新車販売台数(中国汽車工業会・速報値)も、昨年末で自動車取得税の減税・EV補助金が打ち切られたこともあるが、前年比マイナス35.0%の急減である。
また、昨年の中国不動産投資は前年比10.0%のマイナスになったが、不動産バブル崩壊による「ストック調整」の影響は長期化する傾向が強い。2015年の「チャイナショック」(株式・不動産バブル崩壊)の際にも、不動産投資増加率は2013年の前年比19.8%から2015年には1.0%まで急低下し、再び2桁の伸びに回復したのは2018年になってからである。つまり、実際の中国回復モメンタムがどの程度になるのかは、現時点では手探りの状況だ。
世界的に株式の「新春相場」は好調だったが、その2大要因になったのが「米長期金利低下」と「中国の回復期待」だった。ところが、想定外の強い雇用や、鈍化ながらもなお高止まりする物価によって米長期金利は反騰し、中国回復期待もやや先走りの感を否定できない状況だ。春節明けの中国・香港株式相場は、期待に反して利益確定売りが目立ち始めている。
ロンドン金属取引所(LME)の銅先物価格も、1月18日高値1トロイオンス=9550ドルから2月6日安値8808ドルまで反落し、アルミ、ニッケル等も同様な動きだ。どうも、春節を挟んで投資家が冷静になり、期待先行から現実を直視し始めたような印象を受ける。
米国株市場でも、ハイテク株の構成銘柄が多いナスダック総合指数は、2月FOMCを受けた2月2日が高値1万2269ポイントになり、戻り一巡感が台頭している。やはり、今後も世界の株式市場は、「経済統計次第」の様相が濃くなり、必然的にボラタイルな展開が続くものと思われる。
足元で上値重い日本株
日本株も世界株に連動する形で、日経平均は2月6日に2万7821円まで戻る局面があった。しかし、2万7000円台後半になると、上値の重さが意識される展開となっている。背景には、国内機関投資家の利益確定売りがあるようだ。東証の投資主体者別売買動向では、年金基金等の売買が反映される信託銀行の売り越しが目立っている。
1月第2週─2月第1週の4週間に、信託銀行は計9506億円(現物株式と株式先物の合計)の大幅売り越しである。3月年度末決算が接近していることもあるが、バリュエーション的に割高感が否定できない点に注意を要する。
今年1月4日の大発会時点では、日経平均の予想PERは12.01倍(日経予想・以下同)だったが、2月14日時点では13.10倍に上昇している。プライムに至っては13.97倍で、バリュエーションを重視する年金基金は売り先行のようだ。個人投資家(現金)も高値圏では戻り売り意向が強く、日本株のこの水準から上は機械的な売りが株価を抑圧することになろう。
結局、株式需給的には外国人が買いの主役だったが、彼らも母国市場が変調となれば、海外投資にも慎重になる傾向がある。
植田日銀の政策に不透明感
植田和男次期日銀総裁候補に関して、市場は過去の言動や論文によって、「ハト派」との見解に傾斜しつつある。一番面白いのは、植田氏が留学時代の指導教官がスタンレー・フィッシャー元FRB副議長であり、フィッシャー氏がバーナンキ元FRB議長やドラギ前欧州中銀(ECB)総裁も指導したことから、「ハト派色が濃い」との見解が出ていることだ。
シャーロック・ホームズ並みの推理力だが、経済・金融情勢が全く異なる時の言行や論文を持ち出しても、あまり意味はないように思える。もし、正式就任になれば、日銀初の「学者総裁」となるわけだが、実際の政策アプローチをどうするかは「全てこれから」のことである。
したがって、過去の実績や言動から想定しやすかった雨宮正佳副総裁と比べて、どうしても「不透明感」の強くなることが想定されよう。投資家は、「不透明感」を嫌う傾向があることを留意しておきたい。
海外投資家は、誰が日銀総裁になったとしても「日銀の金融政策ノーマル化は不可避」と見ているようだ。足元のオーバーナイト・インデックス・スワップは「年央にマイナス金利政策脱却」を読んでおり、12月会合時点までに「約2回の利上げ」(0.1%刻み)を織り込んでいる。
平成バブル期の「澄田智総裁─三重野康総裁」の継承事例を考えれば、次期日銀総裁にかかる負担は膨大なものにならざるを得ない。歴史に残る役割となる可能性は高く、市場の安易な「ハト派」解釈は、参考程度に留めておくべきだろう。
●大阪府23年度予算案、脱炭素・スタートアップ支援重点 2/15
大阪府は15日、一般会計で3兆6421億円の2023年度当初予算案を発表した。府の経済成長を後押しする施策が多く、脱炭素の推進やスタートアップを支援する新規事業を盛り込んだ。将来の府債返還のために積み立てる「減債基金」の復元は23年度末に終える見通しとなり、財政健全化に一区切りがついた。
府は来年度の当初予算として、22年度当初比3.6%減の3兆6421億円を計上した。企業業績の改善などから23年度の府税収入は前年度比5.8%増の1兆4569億円を見込んだ。新型コロナウイルス対策に重点配分した前年度に対し、23年度は今後成長が見込まれるSDGs(持続可能な開発目標)関連や、潜在力のある企業の発掘に力を入れた。
予算案では、主に民間事業者に脱炭素関連の技術を導入することなどを促す施策に、2560万円を充てた。事業者が最新の太陽光パネルや消費電力を最適化するエネルギーマネジメントシステムを、所有する施設に設置する際にかかるコストの半分を補助する。上限は1000万円。
二酸化炭素(CO2)といった温暖化ガスの排出が少ない有機農業を主に促進する事業にも1220万円を支出する。有機農業を始めたい府内の農家を対象に、講習会も開く。
スタートアップの育成では新技術を持つ府内のスタートアップの海外事業展開を支援する事業に3050万円を支出する。同事業では、府が委託した事業者が23年9月頃までにスタートアップを5社程度選出。委託業者は選出した企業にコンサルタントを配置し、事業計画の作成やサプライチェーン構築などを援助する。
01〜07年度に財源不足を理由に、計約5200億円取り崩した減債基金の復元は23年度末に完了する見込み。当初想定より府税収入が多く、復元に使える原資が増えたため従来の見通しより1年前倒しとなる。
同基金は将来の府債償還に備えて積み立て、予算編成のために使うことは本来「禁じ手」とされる。税収入の上振れ分の一部を基金に回して復元するが、23年度はその費用に159億円を充てた。
一方、医療や介護などの社会保障関係費は一般財源ベースで22年度当初比5.5%増の6468億円となった。今後の高齢化社会を見据え、財源対策が引き続き課題になる。
●「日銀総裁」「中国気球」で論戦 衆院・予算委の集中審議  2/15
衆議院予算委員会では、岸田首相出席の集中審議が行われていて、次の日銀総裁の人事や中国の偵察型気球をめぐって、議論が交わされている。
新たな日銀総裁の人事案をめぐって、岸田首相は、経済学者の植田和男氏の起用を決めた理由を初めて説明した。
岸田首相「国際的にも著名な経済学者であり、理論・実務両面で、金融分野に高い見識を有する植田和男氏を最適任と判断し、日銀総裁の候補者として、選任した次第であります」
また岸田首相は、起用を決めるにあたって、「構造的な賃上げをともなう経済成長と、物価安定目標の持続安定的な実現に向けて取り組まれる方を念頭に、金融市場に与える影響なども十分に注意を払いつつ、検討を行った」と説明した。
これに先立ち、自民党の石破元幹事長が、およそ10年ぶりに質問に立った。
石破氏は、中国の無人偵察気球など、日本が直面する安全保障上の課題について尋ね、岸田首相は「防衛力を強化することは、今の時代に生きるわれわれにとって、大きな責任だ」と強調した。
先ほどからは、立憲民主党の枝野前代表が、退任後初めて首相と対峙(たいじ)し、原発やエネルギーの問題などをただしている。
●石破元幹事長、10年ぶり予算委質問 30分間のうち25分持論展開 2/15
自民党の石破茂元幹事長が15日午前、約10年ぶりに衆院予算委員会で質問に立った。自民党幹事長だった2013年10月以来で、自ら「ライフワーク」と述べる安全保障政策をテーマに質問したが、岸田文雄首相の答弁機会はわずか1回だけ。議論を深めるというよりも、さながら石破氏の「演説」の様相となった。
石破氏は冒頭、手術したばかりの首相の体調を気遣ったうえでこう切り出した。「本会議形式になって恐縮だが、冒頭、私から思いを申し述べさせていただいて、総理にご答弁をまとめてお願いしたい」
一問一答の形式ではなく、代表質問のようにまとめて首相に聞くスタイルで行うことを「宣言」し、安全保障政策の質問を始めた。
石破氏は「台湾有事は日本有事というような思考をあまり簡単にすべきものではない」「軍事専門家たる自衛官が、国会においてきちんと証言ないしは答弁することが正しい立法府による文民統制のあり方だ」などと持論を展開。割り当てられた30分間のうち冒頭から約25分間話し続けた。
質問の最後、石破氏が「以上申し述べました。総理のご見解を承りたいと存じます」と締めくくると、第1委員会室には笑い声が広がり、傍聴席からは「すごいな」との声が漏れるほどだった。
首相は「今、東アジアにおいても急速なミサイル技術の進歩において、不透明な状況が指摘をされている」などと敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めた経緯などを説明した。石破氏の質問時間が長く、首相の答弁時間は限られたこともあり、議論が深まったとは言いがたい内容だった。
石破氏は質問終了後、記者団の取材に応じ、持ち時間の多くを自身の質問に充てた理由について「論破するためではなく、多くの人が気付いていない問題について、提起しなきゃいけないと思った」と説明した。16年に地方創生相を退任して以来、一貫して衆院予算委員を務めていたが質問に立っていなかったことについては「誰をどの場面にあてるべきかというのは現場の理事、あるいは国会対策委員会、あるいは政務調査会で判断をすること。私がとやかくいうことではありません」と語り、自身は常に質問に立つことを希望していたと述べた。
●首相「理論、実務に見識」 植田氏起用、発信力も考慮 2/15
岸田文雄首相は15日の衆院予算委員会で、次期日銀総裁人事案を巡り、植田和男氏の起用を決めた理由について「国際的にも著名な経済学者であり、理論、実務両面で金融分野に高い見識を有する。最適任と判断した」と説明した。人選に当たり「主要国中央銀行のトップとの緊密な連携や、内外の市場関係者に対する質の高い発信力、受信力が重要となっている。十分考慮して進めた」とした。
人選を巡っては、構造的な賃上げを伴う経済成長と、物価安定目標の持続安定的な実現に取り組むことを重視したと強調。「金融市場に与える影響に注意を払いつつ検討を行った」とした。日銀に対し「政府との連携の下、経済、物価や金融情勢を踏まえて適切な金融政策運営を行うことを期待している」と語った。
安全保障政策を巡り、反撃能力(敵基地攻撃能力)用の装備として用いるために取得を計画する米国製巡航ミサイル「トマホーク」に関し「最新型で迎撃を回避する飛翔も可能だ」と主張。防衛力強化方針について「今の時代を生きるわれわれに大きな責任がある」と意義を強調した。  
●金利上昇が財政圧迫=緩和修正、待ち受ける難路―政府・日銀 2/15
政府は日銀の黒田東彦総裁の後任に経済学者の植田和男氏を起用する人事案を国会に提示した。日銀の新体制を待ち受ける最大の難題は、約10年間の「異次元緩和」がもたらした財政や金融のゆがみの修正だ。日銀による巨額の国債購入に支えられ政府債務は膨張した。今後日銀が金利の上昇容認に転じれば、国債利払い費が増加し、先進国で最悪の水準にある財政をさらに圧迫するのは必至だ。
「日銀の国債購入に支えられ、費用対効果の検証が十分になされないまま財政支出が拡大し、構造改革や規制改革は先送りされた」。1月下旬、産学の有識者で構成する「令和国民会議(令和臨調)」は、緊急提言で異次元緩和の長期化がもたらした財政規律の緩みを厳しく批判した。
普通国債発行残高は、黒田総裁就任直後の2012年度末は約705兆円だったが、22年度末には約1043兆円と1.5倍に膨らむ見通しだ。社会保障費の増加に加え、新型コロナウイルス禍や物価高への対応で急拡大した。
毎年度の国債利払い費は、日銀が超低金利を実現した結果、8兆円台から7兆円台前半に減少。ただ、足元の市場での金利上昇を受けて23年度には8.5兆円と13年4月の異次元緩和導入後で最高となる見通し。名目成長率3%を前提とした財務省の試算では、26年度に11.5兆円に膨らむ。
大和総研の末吉孝行シニアエコノミストは、日銀が利上げにかじを切れば、「国債の借り換えが進むにつれて影響が広がり、将来的には利払い費が急増する恐れがある」と指摘。31年度以降に30兆円程度(年度ベース)に達する可能性があると試算している。
財政支出拡大が経済成長につながれば、税収が増えるので財政への悪影響は軽減される。だが、10年前と比較して名目GDP(国内総生産)は1割程度しか伸びていない。
岸田文雄首相は15日の衆院予算委員会で、「専門的、中立的な知見を有する学識経験者なども参加する形で、絶えず政策の検証を行っている」と強調した。だが、財政が悪化すれば金利が上昇するという正常な市場機能が回復してきたときに、政府の財政運営が市場の信認を保てるのかどうかは不透明だ。 

 

●1月貿易赤字、3兆4966億円 単月で過去最大―資源高、円安で・財務省 2/16
財務省が16日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3兆4966億円の赤字となった。資源価格の高騰や円安によって輸入額が大きく膨らんだことが主因。月間の赤字幅は昨年8月(2兆8248億円)を上回り、比較可能な1979年以降で過去最大だった。赤字は18カ月連続。
輸出総額は前年同月比3.5%増の6兆5512億円、輸入総額は17.8%増の10兆478億円。いずれも1月として過去最高だったが、輸出の伸びが鈍化した。特に中国向けの輸出が大きく減少。春節(旧正月)休暇で企業の活動が停滞したことが影響した。
輸入額を品目別に見ると、石炭が93.3%増、液化天然ガスが57.0%増、原油が35.3%増。ロシアのウクライナ侵攻によって資源高に拍車が掛かったほか、円安の進行が響いた。輸出額の伸びには米国向けの自動車、メキシコ向けの軽油などが寄与した。
●新年度予算の都議会開会 小池知事「少子化対策、東京がリーダーシップを」 2/16
東京都の2023年度予算を審議する都議会の定例会が2月15日に始まりました。少子化対策に取り組む小池知事は所信表明で「東京がリーダーシップを取る」と意気込みを示しました。
今回の都議会本会議に提出された新年度一般会計の予算案は8兆410億円で、過去最大となりました。中でも重点政策に挙げる少子化対策におよそ1兆6000億円を計上しました。所信表明で小池知事は「少子化は紛れもなく国の存亡に関わる国家的課題。だからこそ日本の首都である東京がリーダーシップを取り、発想の転換に導いていかないとならない」と力を込めました。予算案には少子化対策として18歳までの子どもに1カ月当たり5000円を給付することや、第2子の0歳から2歳までの保育料無償化などが盛り込まれています。
また、今回の本会議では東京都の新体制についても審議されます。これまでコロナ対策や子どもの福祉政策などを担っていた「福祉保健局」を廃止して、「福祉局」と「保健医療局」を新設します。そして、多摩地域に新たに3カ所の児童相談所を設けることも検討されています。そのほか、補正予算案の審議も行い、新型コロナの法的位置付けの引き下げに伴う医療提供体制の継続などに1775億円が計上されています。
5類移行で東京都のサポートに変化は?
今回の都議会では2023年度予算案の一般会計のほかに、コロナの感染症法上の「5類」への引き下げに対応するための補正予算案も審議されます。5類移行で都民の不安や医療現場の混乱を招かないために必要な政策に1775億円の補正予算を組んでいます。
この補正予算は5類に移行する5月8日の前後で急激な変化が起こらないようにするための経費です。重症化リスクの高い人に重点を置いて対応していく方針で、無料検査は5類移行でやめる一方、高齢者や妊婦への医療支援は継続されます。他にも、ワクチン接種の費用や病床確保の補助金、医療費の公費負担については国が決定する全国一律の方針を踏まえて対応するとしています。
現行のサポート体制がどのようになっていくのか具体的に見てみます。
5類移行後に終了となるものには、自宅に届く食料支援、医療従事者への特殊勤務手当などがあります。インフルエンザと同様に「定点報告」となるため、陽性者登録センターも終了します。自宅療養者の経過観察を行っていたフォローアップセンターは終了しますが、その一方で、発熱相談センターと機能を一本化して、感染者の相談窓口は残ります。他にも、オンラインの診療センターや将来に向けてのレガシーとして、保健所のデジタル化の推進などが継続されます。
●「子ども予算倍増」の中身は10兆円 岸田首相が「GDP比2%を倍増」と答弁 2/16
岸田文雄首相は15日の衆院予算委員会で、子ども関連予算を巡り、児童手当や保育サービスを含む家族関係社会支出を2020年度の国内総生産(GDP)比2%から倍増を目指す考えを示した。20年度の家族関係社会支出は約10兆7536億円。GDP比2%から倍増して4%になれば、約10兆円増の計20兆円の規模となる。
首相は「子ども関連予算の将来的な倍増」を掲げているが、倍増する予算の基準を示してこなかった。子ども関連予算倍増の規模が明らかになるのは初めて。財源や実施時期への言及はなかった。
首相は、子ども関連予算倍増の内容を問われ「家族関係社会支出は20年度の段階でGDP比2%を実現している。それをさらに倍増しようではないかということを申し上げている」と強調した。家族関係社会支出は、現金給付や現物給付(サービス)に当たり、国や地方自治体などが負担している。
日本の家族関係社会支出は増加傾向ではあるものの、出生率を引き上げたフランス(18年度で2.85%)やスウェーデン(17年度で3.40%)など欧州諸国とは開きがある。
●ガーシー氏に「必ず懲罰下る」鈴木宗男懲罰委員長が明言、議員除名へ  2/16
NHK党のガーシー氏は、「除名」となるのか、もしくは「戒告」などの事実上の無罪を勝ち取るのか。その鍵を握るのが、参議院懲罰委員会の委員長、鈴木宗男氏(日本維新の会)だ。ガーシー氏はこれまで「オレも何回もゆうてる オレをやめさせれるのは、ハゲ散らかしたムネオハウスやなく、オレに票入れてくれて有権者だけやと! こんなしょぼくれたジジイに参議院議員にしてもろたんちゃうわー 勘違いすな」などと自身のインスタで徹底的に鈴木氏を揶揄してきた。果たして、ガーシー氏の処分はどうなるのか。イトモス研究所所長の小倉健一氏が、鈴木宗男氏へ直撃インタビューした。
ガーシー氏にはどんな処分が下るのか
昨年の参議院選挙での当選から、一度も国会へと登院していない、NHK党のガーシー(東谷義和)参議院議員に対する処分の検討が、2月10日、参議院懲罰委員会で始まった。懲罰委員会理事会は、2月16日正午までに、弁明希望の有無を文書で回答するようNHK党に求めた。
ガーシー氏は、現在、アラブ首長国連邦(UAE)に滞在していて、NHK党はオンラインでの弁明を求めているが、認められない公算だ。懲罰委員会は、3月に参院予算委員会が始まることを念頭に、2月中の結論を急いでいて、ガーシー氏に対する第2回懲罰委員会(鈴木宗男委員長)が2月21日に開会し、処分が下される見込みとなっている。
今後、懲罰委員会は、下記のいずれかの処分を下すことになる。
   1.議場での戒告
   2.議場での陳謝
   3.一定期間の登院停止
   4.除名
国会議員の懲罰に関しては、日本国憲法58条第2項に「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする」とある。過去の懲罰例を見てみると、そのほとんどが「登院停止」処分となっている。
実際に、出席議員の3分の2以上の多数を得て、除名処分、つまり国会議員が辞めさせられたという事例は2回しかないが、除名処分が3分の2の賛成を得て可決されれば、ガーシー氏は議員の身分を失うことになる。
登院しないガーシー氏に「登院停止」処分は失笑を買う恐れ
国会議員が国会欠席を理由に懲罰委員会に付される憲政史上初の事例となったことで「即刻、除名」とする強硬意見もある一方で、議場での陳謝または参院議長による戒告が有力視されている。
少なくとも、そもそも登院していないガーシー氏に、登院停止を命じることは、国民から失笑を買う恐れがあるため、「それだけは避けたい」とするのが専らの情勢だ。なんらかの処分が下りることになれば、参議院では2013年に無許可で北朝鮮に訪問したアントニオ猪木氏が30日間の登院停止となって以来の出来事となる。
ガーシー氏が日本に帰らない理由
暴露系ユーチューバーとして知られるガーシー氏は、議員の身分を与えられてから2月14日時点で204日となり、200日を突破した。1月末までに、歳費や期末手当など、少なくとも計1600万円が支給されている。
内訳は、毎月129万4000円の歳費、調査研究広報滞在費が毎月100万円、期末手当として188万円などだ。他にも政党助成金の議員配当分もある。昨年夏の参議院選挙では、選挙運動のすべてをUAEからのオンラインでのみ行い、選挙中には「国会へは行かない」と明言、28万7714票を獲得して当選した。
それにしても、ここまで多くの批判を受けても、ガーシー氏が国会へ出席しない、日本へ帰国しない理由はなんであろうか。
ガーシー氏は、これまで、インスタの生配信などで、担当弁護士から刑事告発している人物を聞いたとして、被害届が11件提出され、そのうち3件が受理されたとしている。1件は名誉毀損として俳優の綾野剛で、1件は威力業務妨害で楽天(三木谷浩史会長)だという。
FRIDAYデジタル(2月13日)によれば、「警察がNHK党の“ガーシー“議員こと東谷義和氏の逮捕に向け本格的に動きを見せているようだ」として、全国記者が「常習的脅迫の疑いで警察が関係先を家宅捜索している中、警察も怒り心頭でしょうね。さらに三木谷会長と親交のある木原官房副長官にも散々ケンカを売ってきたので、政治家や警察など、国家権力を敵に回した」と深い憂慮を表明している。
実際に、ガーシー氏を巡っては、動画投稿サイトで著名人を中傷、脅迫した疑いで、警視庁が関係先を家宅捜索している。
公約で「登院しない」と掲げて当選した人が 登院しないことを、どう考えるか
ここで整理しないといけないことが2つある。ガーシー氏の素行不良の問題と、選挙の公約で登院しないとしていたことだ。
多くの国民は、ガーシー氏が登院しないこと、そして、関係先が家宅捜査され、また被害届が受理されたことについて、やはりきちんと帰国して説明するなり、捜査機関に協力をすべきだと考えている。私もその意見に賛成するし、私は昨年夏の参院選挙において、ガーシー氏が掲げた政策に共感できず、NHK党には投票をしていない。
しかし、選挙で「国会へ行かないこと」を公約として掲げ、そして、当選した人物がその公約を守っていることは、民主主義において、正しい振る舞いであると信じている。自民党総裁選、衆院選、参院選と増税議論を一切せず、公約にも触れなかった、自民党、公明党の両党が、防衛費や少子化対策を突然打ち出し、大幅な増税に進んでいることの方が民主主義の危機と感じている。
過去に除名処分されたのは どんなケースか
国会では、過去に除名処分をしたのは、1950年、1951年のことだ。内容については、JーCASTニュース(2019年06月07日)で工藤博司氏が詳細に述べているので引用する。
「現行憲法下での除名の事例は2つ。1950年の小川友三参院議員(無所属)と51年の川上貫一衆院議員(共産)だ。小川氏は、予算委員会、本会議では反対討論をしたが、本会議では賛成票を投じたことが問題視された。委員会での表決と本会議での表決との間に「極めてまじめさを欠く発言」もあったとされた。当時の議事録によると、小川氏が本会議で弁明する際、社会党の議員から「エレベーター前で以て背負い投げを食いました」と発言。議場からは失笑の声があがった」
川上氏の場合は、連合国軍総司令部(GHQ)による占領政策を批判する代表質問の内容が「虚構と捏造(ねつぞう)」だとして懲罰動議が出された。一度は陳謝処分が決まったが、川上氏は従わなかったため、除名になった。除名の原因になった代表質問について、吉田茂首相(当時)は「ただいまの議論は、要するに共産主義の宣伝演説であると考えますから、一々答弁しない」と答弁を拒否している。
民主主義国家である日本において、選挙で民意を得た議員の身分は重い。政治に明るくなく、国会議員になりたいのは不逮捕特権が欲しかったからだという批判もあったガーシー候補に対してどれほどの思いで有権者が票を入れたのかは不明だが、当選した以上、一定の敬意を払う必要がある。国会議員の身分を、3分の2の多数派が勝手に剥奪するようなことを許しては権力に対して声を上げることが困難になってしまうのではないだろうか。
今、ガーシー氏の処分を決める懲罰委員会の委員長である、鈴木宗男参議院議員の決断は重いものとなる。鈴木氏がガーシー氏の処分を決める委員長だと知ったガーシー氏は、自身のインスタグラム(2月13日)で、「オレも何回もゆうてる オレをやめさせれるのは、ハゲ散らかしたムネオハウスやなく、オレに票入れてくれて有権者だけやと! こんなしょぼくれたジジイに参議院議員にしてもろたんちゃうわー 勘違いすな」として、鈴木氏を徹底的に揶揄して、警戒感を隠していない。
そこで、私は、鈴木宗男氏に直撃インタビューした。
国会を改革したいのなら 国会へ出てきてモノを言うべき
――ガーシー氏が、「ハゲ散らかしたムネオハウス」などと鈴木議員を揶揄する発言を繰り返しています。受け止めを教えてください。
私個人が何を言われても、私はまったく気にしない。同じ土俵には乗らない。国民から選ばれた国会議員は特別な地位を付与されている。あわせて、当選した議員は国会が開会されると登院するという義務がある。当選してから3回目の国会にもかかわらず出てこない。これはやはり由々しき事態だ。民主主義は規則を守ってはじめて成り立つ。
――「国会へ行かないと公約していた」と主張するガーシー氏の処分はどうなりますか。
国会には国会のルールがある。国会法124条に基づいて、粛々と進める。懲罰委員会に付託された以上はなにがしかの懲罰は受けざるを得ない。問題があるから懲罰委員会が開かれているので、懲罰なしということにはならない。
懲罰には4段階(議場での戒告、議場での陳謝、一定期間の登院停止、除名)ある。議場での戒告も、議場での陳謝も、本人がいないから意味がない。陳謝は、本人がつくったものではなく、懲罰委員会がつくったものを読み上げる屈辱的なものだ。委員会で弁明の機会があるが、NHK党は浜田聡参議院議員に代読させるつもりらしい。3つ目は、登院停止。これも本人が外国にいるので、意味がない。
戒告も、陳謝も、登院停止も、本人が議場にいれば意味があるけれども、いないと意味がない。本人がどう出るかで、その時は次の処分に移ることになる。
――次の処分とは、除名ということですか。
有権者から選ばれた議員の身分は重いのでここは丁寧に、慎重の上にも慎重に行うべきだ。2段階で処分が進むことになる。国会を改革したいのなら、国会へ出てきてモノを言うべきだ。

ガーシー氏にとって審判の日が近づく。
●「日本で経済破綻の可能性は十分にある」…財務省と“真逆の見解” 2/16
日本の「財政のコントロール」に対し、政治家は…
コロナ禍に至っても、財政均衡を強引に図るため、30兆円近くの予算がいまだに使われていないにもかかわらず、1円のお金も景気対策のために使わなかった……。
このため、かえってGDPがマイナス成長してしまい、更に財政が悪化してしまう……、近年の出来事で、コロナ禍の真っただ中において当時の菅義偉内閣が行ったこの間違った施策は、その典型的な例ではないでしょうか?
しかし、菅内閣だけでなくこのような事は、苦しい経営を強いられている企業の経営者ならば、ついついやりがちな事です。全ての経営者は、本当は間違っているとわかっていても、苦しい経営を強いられているため、どうしても目先の借金返済に追われてしまい、たびたび正しい決断が下せない事は、本当によくある事なのです。
市場が日本政府の借金問題で一番関心があるのは、実は日本の借金の額ではなく、この借金自体を政府がきちんとコントロールできているのかどうかという事です。
残念ながら財政再建計画の詳しい中身を政府が公表していない以上、今の岸田政権や財務省からは、今後どのようにしてこの多すぎる日本の借金をコントロールしていくのかという計画の全容が全く見えてはきません。
反対に私の目からは、彼らがいかに選挙に影響しないようにしながら目先の国債発行額を減らす事に必死で、財政再建に必要なもっと大きな視点で国の借金を捉え、今後この借金とどう向き合っていくのかといった一番大切なところが、彼ら自身にも見えていないように感じます。
むしろ、今の政治家の先生達は、多重債務者が陥るような思考、あくまで国民に対してはさも調子の良い事をいいながら、陰で増税や社会保障費の削減などにより、目先の増え続ける借金を少しでも減らす事にしか、もう頭が回らなくなっているのではないでしょうか。
2021年11月号の『文芸春秋』にて、現役の財務事務次官による、当時、加熱していた衆議院総選挙における各党のいわゆる「ばらまき政策」を批判する投稿が寄せられ、世間ではこの問題が大きな話題になりました。
政府の公庫には無尽蔵にお金があるわけではないのでこのようなばらまき政策は、その後の深刻な財政悪化を引き起こしかねないという懸念から、彼はこのような投稿をしたそうですが、これを発表したと同時にたくさんの有名な知識人や経済学者から、彼の投稿に対して数多くの反発が巻き起こりました。
日本で「経済破綻の可能性はある」と言えるワケ
その主な理由は、日本の国債は自国通貨で返済しているので、返済に困ったら日本銀行がお札を刷ればいいだけで、絶対に財政は破綻しないという意見から、2021年12月時点で日本の家計の金融資産は、約2023兆円(日銀の発表データ)にものぼるのだから、いざという時は政府はこれを国民から取り上げて返済すれば良いだけの話で、政府債務がこの数値を超えない限りは大丈夫だ、というものまで様々な意見が持ち上がりました。
そしてこのような意見により、たとえ新型コロナウイルス対策のために今回莫大な財政出動を行ったとしても、日本の財政悪化を心配する必要は全くないという意見が、その当時の世論の大勢を占めていたように私は感じました。
財務省のホームページを見ても、日本の国債はデフォルトしないとハッキリ書かれているので、今回の財務事務次官の主張は財務省の公式見解とも真っ向から対立している事になります。
ですが、本当に日本の財政はこのような理由から、破綻(デフォルト)する事はないといい切れるのでしょうか?
私の見解は全く反対で、このまま行けばデフォルトの可能性は十分あると思っています。なぜなら、お隣の韓国のように実際に破綻した国があるからです(正確にはデフォルトを起こす前にIMFが救済しました)。
そもそも、韓国経済がデフォルトしてしまった理由には、外貨建ての国債を発行していたのが原因の一つに挙げられます。それではなぜ韓国は、日本のように自国通貨建てで国債を発行しなかったのでしょう。
それは、韓国のような自国通貨の弱い国では、自国通貨建ての国債では誰も買い手が見つからなかったためです。
財政破綻に対する最大の疑問は、将来日本も韓国同様、円建ての国債では誰も引き取り手がいなくなる日が、いつかそのうち訪れるんじゃないのか?という点です。私はそれが政府債務が家計の金融資産を上回った時だと考えています。
財務省のホームページには、ハッキリと日本国債はデフォルトしないと書かれていますが、それはあくまで現在発行している円建ての国債に限った話で、いずれ発行せざるを得なくなるであろう外貨建ての国債については、話が全く変わってきます。
●年金は「マクロ経済スライド」で実質目減りする  2/16
公的年金は本当に大丈夫なのか――。
2023年度の年金額は、前年度と比べ、68歳以上は1.9%増、67歳以下は2.2%増となることが決まった。物価の上昇が続く中、3年ぶりの増額は受給者にとってうれしい知らせ。だが、賃金や物価より低い伸び率にとどまるため、実質的には0.6%の目減りとなる。
つまり、本来であれば、68歳以上は2.5%増、67歳以下は2.8%増になるはずだった。
年金額は年度ごとに改定されている。2000年度の制度改正以前は、毎年度の年金額を「物価の変動」に連動させつつ、5年ごとに「賃金の変動」を反映する仕組みだった。物価に連動することで年金の実質価値を維持し、5年ごとに年金生活者の生活水準を現役世代の生活水準の変化、つまり賃金の変化に合わせる仕組みだった。
2004年度に決まったマクロ経済スライド
年金財政の主な収入は保険料であり、賃金に連動して変化する。このため、年金財政の支出である給付を賃金に連動させることで、年金財政のバランスを維持する仕組みでもあった。
しかし、この理屈は、現役世代と引退世代のバランスが変わらない場合しか、成り立たない。少子化や長寿化が進む日本では、財政バランスの悪化が進む。そこで2000年度の制度改正では、受給開始後の年金額を物価だけに連動させることになった。当時は賃金の伸びよりも物価の伸びが低かったため、見直しで給付の伸びを抑えることが期待された。
それ以前は、少子化などに合わせ将来の保険料を引き上げ、年金の実質的な水準を維持する仕組みだった。しかし2002年に公表された試算では、当時の給付水準を維持するには将来の保険料を当時の倍近い水準に引き上げる必要がある、という厳しい見通しになった。
結果として2004年度改正で導入が決まったのが、「マクロ経済スライド」だ。将来の現役世代の負担を考慮し保険料の引き上げを2017年度にやめ、代わりに、年金財政が健全化するまで、“給付を段階的に目減りさせる”仕組みである。
マクロ経済スライドでは、毎年度の年金額の改定によって、本来の改定率である物価や賃金の伸びから、調整率が差し引かれる。
調整率は公的年金の加入者数の減少率と高齢世代の平均余命の伸び率との合計だ。これを使って、年金収入減の要因である負担者の減少と、支出増の要因である受給者の増加を見直す。少子化などに対し、毎年度の年金額の見直し、言い換えれば単価の見直しで、全体を調整することになる。
年金財政の健全化だけでなく、世代間の不公平の改善も期待される。改正前だと保険料を引き上げるため、すでに保険料を払い終わった受給者には、追加負担がない。現在の受給者は勝ち逃げになり、将来世代に負担が集中する。ところが改正後では、すべての受給者が年金額の目減りという形で、少子化などの影響を負担。世代間の不公平が縮小する。
物価や賃金がマイナスなら調整率は適用されない
ただし、これには、特例が設けられた。物価や賃金の伸びが小さい場合、調整後の年金額が前年度と同額になる水準までしか、調整率が適用されない。また、物価や賃金の伸びがマイナスの場合は、調整率がまったく適用されない。つまり、物価や賃金の伸びがプラスで年金が増額されうる状況でのみ、調整率による年金額が目減りするようになっている。
適用されなかった調整率は、2017年度までは繰り越されなかった。が、多くの年度が特例に該当する経済状況だったため、2018年度からは未調整分が繰り越しに。当年度の調整率を適用しても調整余地が残る年度に、繰り越し分も加えて調整することになった。
特例は残っているものの、未調整分が繰り越されることで、以前と比べ年金財政の健全化は進みやすい。それでも、デフレが継続した場合、未調整分であるマイナスの繰り越しが続く。経済界は物価や賃金の伸びが小さい場合、あるいはデフレの際にも、調整率を完全適用するよう求めている。
焦点は2023年度だ。2023年度の年金額の改定は、前年の高い物価上昇率を反映しつつ、当年度の調整率に加え、前年度からの繰り越し分もすべて消化する形になった。
68歳以上の年金額は、前年の物価上昇率の2.5%から、2023年度分の調整率の0.3%と2022年度から繰り越された調整率の0.3%との合計0.6%が差し引かれ、1.9%の増額となる。67歳以下は、64歳時点までの賃金上昇率が年金額に反映されるよう、前年の物価上昇率に2〜4年前の実質賃金上昇率の平均が加算された2.8%から、68歳以上と同様に合計0.6%の調整率が差し引かれ、2.2%の増額になっている。
全員に共通する基礎年金は、40年間保険料を払った場合、68歳以上は月1234円増の6万6050円、67歳以下は1434円増の6万6250円だ。平均的な収入で厚生年金に40年間加入した場合、夫婦2人分の基礎年金と上乗せされる厚生年金の合計で、68歳以上は月4200円増の22万3793円、67歳以上は4889円増の22万4482円となる。
将来世代へのツケの先送りを抑えよ
昨春には、物価が上昇する中で2022年度の年金額が0.4%の減額になったため、与党から年金生活者などを対象にした臨時特別給付金が提言されたが、最終的には支給が見送られた。約1年遅れにはなるが、その際の物価上昇が年金額の見直しに織り込まれて3年ぶりの増額となったのは、受給者にとってはやや朗報といえよう。
その一方、年金額の実質的な価値が3年ぶりに目減りする点には、注意が必要だ。とくに2023年度の改定では、2023年度分の調整率に加え、2021年度と2022年度から繰り越された2年度分の調整率を一気に消化する形になるため、近年では比較的大きめの調整となった。
受給者には厳しい内容だが、調整率という形で少子化や長寿化の影響を吸収し、年金財政を健全化させることは正しい。将来世代へのツケの先送りを抑えて世代間の不公平を改善する、というマクロ経済スライドの意義を理解し、受け入れる必要があろう。
●政府が高速道路の「永久有料化」と言わず「2115年に無料開放」と強弁する訳 2/16
「二分された世論」にニンマリの国交省と財務省
政府は2月10日、高速道路の償還期限、すなわち「無料開放」の時期をこれまでの2065年から最大2115年まで延長するため、道路整備特別措置法など関連法改正案を閣議決定した。
この方針について世論は「償還後に無料開放するという当初の約束を事実上反故にするのは許されない」という反発派と、「受益者負担は当然。改修費もかかるのだから受け入れるべき」という肯定派に二分されている。メディアはおおむね「無料化棚上げ」「半永久的な有料化」と報じている。
国民のそんな議論を見て、国土交通省や財務省は今頃ニンマリとしていることだろう。“事実上”という部分についてはほとんど焦点が当たっていないからだ。
2115年といえば22世紀。20世紀生まれの筆者もとっくにこの世を去っている。財務省や国土交通省の官僚ももちろんそうだ。そんなものは360度、どこから見ても「永久有料化」以外の何物でもない。
にもかかわらず、なぜ2115年などという非現実的な期限を区切るのか。それは建設だけでなく維持や改修も含めた高速道路の費用を全額、通行料金でまかなう「償還主義」を堅持するためだ。
「期限を設けない本物の永久有料化をやってしまうと、公共の社会資本である道路の費用を一部の人だけが負担することの正当性が問われてしまう。他国のように高速道路にも一般財源を投入しろという話になるかもしれない。財務省も国交省もそれだけは絶対に避けたかったはず」(元東日本高速道路幹部)
行政にとって幸いなのは、日本の国民は通行車両のみを受益者とすることに慣らされており、永久有料も償還期限を22世紀にするのも似たようなものだと認識していること。この償還期限見直しの法案が通れば、高速道路のあり方そのものを見直すべきという議論を22世紀まで、それこそ半永久的に封じることができるのだ。
それをやるのは災害が多発して道路や鉄道などの維持費がかさんでいることが財政を圧迫しているとPRしやすく、かつ物価高を仕方がないものと受け入れる機運が醸成されている今はまたとない好機。それを逃さない目端の利きっぷりはさすが霞が関と感心するばかりである。
高速道路の通行料を引き下げる手はあるのか
日本の高速道路は世界でもぶっちぎりに通行料が高い。その理由としてよく挙げられるのが、「日本は山がちで橋梁やトンネルなどを多用する必要があるから建設費用がかさむ」「耐震設計などを考慮する必要があるためコストが高い」「自然災害が多く維持の費用がかかる」等々。もちろんそれらも理由のひとつではあるが、それだけで乗用車の場合で1kmにつき27円もの料金になるわけではない。
通行料が圧倒的に高額になる最大の原因は償還主義にほかならない。
他国の高速道路はおおむね一般財源で建設されており、有料の場合も通行料金は維持管理費の一部負担という性格が強い。建設費用や改修費用を全部通行料金でまかなうというやり方を変えない限り高速道路の料金は高いまま。下手をすると資材費高騰などを理由にそこからさらに引き上げられる可能性も十分にある。
通行料金を引き下げる唯一の手は、高速道路の永久有料化を正式に決めたうえで償還主義を放棄し、道路公団から衣替えした高速道路各社は維持・管理のみを担うというやり方に変更することだ。
実際、建設費は公的資金でまかない、高速道路会社は舗装の修復や料金徴収のみを担うというケースはすでに存在する。高速道路丸ごとではなく舗装から上を手掛けることから、道路業界で“薄皮管理”などと呼ばれているやり方である。
一般財源からの道路への出費を減らしたい財務省は薄皮管理には絶対にしたくない。その財務省から道路の修復やかけ替えなどの予算をなるべく多く取りたい国交省は当然財務省に協力する。そのタッグが償還期限を現在の2065年から2115年へと50年延長するという案である。ユーザーとしては議論をもっと尽くしてほしいところであるが、法制化が先行してどうにも手出しできないという状況が生まれている。
なぜ今ごろ新直轄道路の有料化が俎上に載っているのか
道路について重要な議論がもうひとつ進んでいる。それは2003年に道路公団の民営化が決まったのを機に進められてきた、地方部の無料自動車専用道の有料化である。
無料自動車専用道は全国津々浦々に存在する。最も長いものは青森県八戸市から宮城県松島市までの300km以上にわたって無料区間が続く「三陸道」。現在建設が急ピッチで進められている「山陰道」も、途中で有料区間を挟みながらも長大な無料区間を擁する。ほか、「鳥取道」「東北中央道」「南九州道」など、例は枚挙にいとまがない。
それらの自動車道が通行無料なのは、償還主義を取らず、国と自治体で建設費を負担しているからである。
元々は日本道路公団時代の高速道路整備計画路線だったのだが、建設しても通行料で償還費用をまかなえる見通しが立たない路線が大半で、民営化後に建設を強行すれば批判に晒されることは明らかだった。そこで考えたのが、税金を投入して建設を行う「新直轄」と言われる手法。これならば整備を続行しても収支が問題にならない。
では、なぜ今になって新直轄道路の有料化が俎上に載っているのか。火元は2018年に行われた財務省の財政制度審議会である。
名目は、新直轄道路と有料道路が切り替わるインターチェンジで通行料金の支払いを避けるクルマが一般道に回ることで発生している市街地の渋滞を解消するというもの。全線有料化すればそういう行動が起きなくなり、市中の渋滞が緩和されるというのだ。誰がどう見ても屁理屈でしかない論法を出してきたのは、ひとえに新直轄道路への国の財政投入を少しでも抑制したいという考えによるものだ。
2021年、国交省の有識者会議はそれに加えてさらなる理由付けを繰り出してきた。それは維持費である。新直轄道路は整備費のみを考えており、維持費のことまでは考えていなかったため、道路維持のために有料化の必要があるというのだ。
ここについては道路公団民営化のときに新直轄道路の維持をどうするかスキームをあえてはっきり決めなかった財務省、国交省が巧みだったと言うほかない。高速道路の整備を進めたいがために通行料無料で住民を釣っておいて今さら維持費を持ち出すというのは完全な後出しじゃんけんであるが、規定をぼやかしたまま法律を通してしまったのは国民の側の失態である。
モータリゼーションの根幹にメスを入れようとしている
だが、そのことを勘案しても、新直轄道路の有料化は認めるべきではない。なぜなら新直轄道路の多くは、災害に脆弱だったり路線が峻険だったりといった一般国道の区間を改良するより新線を建設したほうがいいということを大義名分に整備が進められた経緯があるからである。有料化するくらいなら新線建設ではなく、一般国道をきちんと改良整備することを望む自治体は少なくないはずだ。
そもそも国交省はこれらの新直轄道路について“高規格幹線道路”などという恩着せがましい呼称をつけているが、幹線道路というものは一般道であっても最初から高規格で作るのが当然だ。
国道1号線、2号線、3号線・・・といった交通の動脈であるはずの上級国道ですら、片側1車線区間が至る所に存在し、都市を縦貫する構造のため平均車速も非常に遅い。荷主から十分な高速料金を払ってもらえない中小運送会社のトラックがその粗末な道路を多数、長距離走行しているのが実態である。
先進国では一般国道でも遅いケースで最高速度80km/h、速いところでは110km/h。田舎道は別だが幹線道は片側2車線以上で作るのが当たり前。片側1車線で制限速度も遅い日本の新直轄道路などよりはるかに高規格であることは言うまでもない。現在の新直轄道路は国道として整備されて当然のもので、無駄でも何でもない。それなのに、そこから金を取って国土強靭化を進めようというのだから笑止千万だ。
ともあれ、政府は今、クルマ側については走行税方式への転換による実質増税、道路については高速道路への税金投入論議の封じ込めや新直轄方式によって作られた自動車専用道路への新たな課金など、モータリゼーションの根幹部分に大きくメスを入れようとしていることは間違いない。そしてそれはすでに最終仕上げに近い段階に差しかかっている。
今からそこにどれだけ民意を反映させられるかは甚だ心もとないものがあるが、少なくとも好き放題に“ちゃぶ台返し”をやらせてはいけない。
そして行政サイドもこれ以上ヒト、モノの流れに関して阻害要因を増やすのは国の衰退に拍車をかけるようなものだという認識くらいは持ってプランを立ててほしい。金が大事なのはわかるが、現状ではとても国家のグランドデザインや長期ビジョンを描いてやっているとは思えない。霞が関の意地は国を良くすることで見せるべきだ。
●アベノミクス継続、言葉濁す岸田首相 立民「転換」を要求―衆院予算委 2/16
15日の衆院予算委員会では、異次元の金融緩和を柱の一つに10年間続いた「アベノミクス」の評価を巡り、論戦が展開された。岸田文雄首相は国内総生産(GDP)の拡大など「成果があった」と強調したが、今後も継続するかどうかについては言葉を濁した。一方、立憲民主党は「抜本的な政策転換が必要だ」(枝野幸男前代表)として、決別を迫った。
この日の予算委は、大規模金融緩和を主導してきた黒田東彦総裁の後任に植田和男氏を起用する人事案が国会提示された後、初めて首相が出席する国会質疑となった。
枝野氏は、首相が「物価上昇を超える賃上げ」を掲げていることに関し、富裕層が豊かになれば中低所得者層にも行き渡るという「トリクルダウン」は起こらなかったとの見方を示し、「アベノミクスの誤り」を認識したものだと指摘。「幅広く賃金を上げて消費を伸ばさなければ、景気は良くならない」と訴えた。
これに対し、首相は「(安倍政権下で)デフレではない状況をつくり出した」と反論。「アベノミクスの上に立ち、構造的賃上げを実現したい」と語った。
続いて立民の藤岡隆雄氏は次期日銀総裁人事に絡め、「(新体制下でも)異次元緩和は継承されるか」とただした。首相は「具体的な手法は日銀に判断いただく」とかわす答弁に終始。藤岡氏が「アベノミクス継承を念頭に置いた人事なのか」と詰めても、首相は「継承するかどうかは市場と対話しながら日銀として判断する」と繰り返した。
首相の歯切れが悪いのは、債券市場の「ゆがみ」など大規模緩和策の「副作用」を問題視する声と、アベノミクス継承を求める党内最大派閥の安倍派との間で板挟みとなっているためだ。
自民党幹部は「緩和路線はいずれ修正しなければならないが、金利を急に上げると大変なことになる」と指摘。同党若手も「首相が『異次元緩和を見直す』と言っても『見直さない』と言っても、マーケットは激しく反応する」と述べ、首相の心中を推し量る。
ここが首相の「急所」とみる立民は引き続き攻勢を掛ける構え。質疑後、枝野氏は記者団に「首相がアベノミクスの何が問題だったのか率直に認めなければ、(経済は)何も変わらない」と語った。
●枝野氏「安全神話に戻った」 約2年ぶり質問、原発回帰を追及―衆院予算委 2/16
「安全神話に戻ってしまった」。立憲民主党の枝野幸男前代表は15日、約1年9カ月ぶりに衆院予算委員会で質問に立ち、原発を「最大限活用」する新たな政府方針を徹底追及した。旧民主党政権時代、官房長官として東京電力福島第1原発事故の対応に追われた経験から、岸田文雄首相に「原発回帰」の撤回を訴えた。
枝野氏は冒頭、「間もなく東日本大震災と東電事故から12年。二度と同じことをしてはいけないとの固い決意の下に質問する」と宣言。政府が決めた原発の運転期間延長について「原発は時間がたてばもろくなる。新しい科学的知見があったのか」と判断の根拠をただした。
首相は「新たな技術的知見の存在を踏まえて改正するものではない。エネルギー需給の逼迫(ひっぱく)への対応という観点から議論している」と説明。枝野氏が「安全性より利用を優先した」と批判すると、首相は「指摘は当たらない。世界最高水準の安全基準を適用していく」と反論した。
枝野氏は、首相が「わが国は再生可能エネルギー適地が限られている」と指摘したことも取り上げ、「どういう根拠か」と質問。「国土の7割が森林で、海底地形が急峻(きゅうしゅん)だ」と主張する首相に、枝野氏は「建物の屋根、耕作放棄地の活用は全く進んでいない。適地はあまたある」と再考を迫った。
枝野氏は「逆に原発に適した場所があるのか」と追い打ちを掛けた。首相が「地域の協力の下に立地を進めてきた」と言葉を濁すと、枝野氏は「狭い国土にたくさんの人が住む日本に適地はない」と断言。「12年前の教訓を全く無視している」とこき下ろした。
●衆院予算委中央公聴会 安全保障や賃上げなど専門家が意見  2/16
衆議院予算委員会は、新年度予算案について、専門家から意見を聞く中央公聴会を開き、午前中は各党が推薦した4人の専門家が、安全保障や賃上げなどについて意見を述べました。
拓殖大 川上教授 安全保障関連3文書について
このうち、自民党が推薦した拓殖大学の教授で、安全保障政策が専門の川上高司氏は、政府が閣議決定した安全保障関連の3文書について、「国益に基づいた日本独自の戦略で、非常によくできていると思うが、本当に日本の戦略に基づいて実行できるかということが非常に問題だ。アメリカの国防戦略があって、その次に日本の3文書があるということではいけない」と述べました。
連合 清水事務局長 ことしの春闘について
国民民主党が推薦した連合の事務局長、清水秀行氏はことしの春闘について、「賃上げの流れを労働組合がない企業も含めて、多くの中小企業に波及させることが肝要であり、政労使によるメッセージの発信も検討すべきだ。中小企業の賃上げの実現は、労務費を含む価格転嫁ができるかにかかっている。政府には、価格転嫁の実効性を高める取り組みの早急な実施を求めたい」と述べました。
福岡県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長 地域経済支援について
公明党が推薦した福岡県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長の井上善博氏は、地域経済の支援策について、「去年10月から政府の水際対策の緩和や、全国旅行支援の開始もあり、インバウンドについてはまだまだ回復途上にあるものの、国内需要は回復してきている。しかし、地域によっては濃淡があり、当面の資金繰りに苦労している旅館も多いのが事実で、地域を守るためにも政府には細かい金融措置を講じていただきたい」と述べました。
沖縄国際大 前泊教授 沖縄が抱える課題について
共産党が推薦した沖縄国際大学の教授で、沖縄の経済や安全保障が専門の前泊博盛氏は、沖縄県が抱える問題について、「沖縄県では国会だけに任せていただけでは沖縄は戦場にされかねないということで、自治体外交の取り組みも含めて展開せざるをえないという議論も始まっている。沖縄が犠牲になる時は、日本全体が犠牲になる時だ。沖縄の危機について、傍観者でなく当事者として注目してほしい」と述べました。
●予算案審議 「丁寧な説明」口だけか 2/16
衆院予算委員会で、2023年度予算案の審議が進んでいる。防衛費増額をはじめ、一般会計で114兆円を超す中身の議論が一向に深まらないのが気がかりだ。
不誠実な答弁を重ねる岸田文雄首相の姿勢が原因だ。「丁寧な説明」とは口ばかりで、国民がわが身に引き寄せて考えるための材料をあえて示さないようにしているのではないか。政府・与党は今月下旬の衆院通過を目指す構えだが、国民の理解が深まるとは到底思えない。
何より見えないのが、防衛費増額の中身だ。首相は、昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書を踏まえ、27年度までに国内総生産(GDP)比を1%から2%に倍増させる方針だ。5年間で総額43兆円を想定し、23年度は6兆8219億円を計上した。施政方針演説では「安全保障政策の大転換」と言い切っておきながら、予算委での答弁は歯切れが悪い。
歴代政権の対応を覆して保有を打ち出した敵基地攻撃能力(反撃能力)の発動については、「細かく説明するのは手の内を明かすことになる」と口をつぐむ。敵基地攻撃能力そのものである米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入数も「安全保障上、適切ではない」と言及を避けた。最大で500発程度とも報じられている。なぜ示さないのか。
一方で、集団的自衛権の行使が可能となる「存立危機事態」で、相手国にミサイルを撃ち込む可能性を否定しなかった。米艦船が攻撃を受けた時など日本に直接被害が及ばない場合も含まれる。これは、首相が「堅持する」と主張する「専守防衛」から逸脱するのではないか。その点、野党側の追及に対し、「具体的な事態に即して考える」と述べるにとどまった。
米国側への配慮かと勘繰りたくもなる。防衛力強化はそもそも、政府・与党内の議論だけで決定し、先月の日米首脳会談で国会の議論を経ぬまま米側に伝え、称賛された経緯もある。
財源確保に向けて表明済みの増税については「税制措置の実施時期を柔軟に判断する」などと明言を避けている。4月の統一地方選を控え、「増税」を口にしない魂胆だろうか。あいまいな説明を繰り返し、手の内を明かさず「白紙委任」を求めるようなやり方は許しがたい。
予算委で首相の答弁に首をひねる場面は他にいくつもある。
原発政策を巡っては、東京電力福島第1原発事故後、依存度を低減するとしてきた政府方針を転換。次世代型への建て替えや、60年超の運転期間容認を、これまた国会審議を通さずに閣議決定した。きのうの予算委で野党の「原発利用優先だ」との批判に対し、「安全性大前提は全く変わらない」と語ったが、根拠は示さぬままだった。
「異次元の少子化対策」では子ども・子育て関連予算の倍増を目指す考えを首相が年明けに表明。政府は政策の骨格を3月に示し、財源は6月に「骨太方針」で示す予定で、国会「素通り」で決めようとしている。
ともに予算案と直接関係ないが、政府は今後、関連法案の提出を予定する。こんな調子で、肝心な情報を示さないまま審議を進められてはかなわない。首相は姿勢を改め、国民を向いて論戦に臨んでもらいたい。
●子ども予算「GDP比2%から倍増」総理答弁を官房副長官が修正 2/16
磯崎官房副長官は、岸田総理大臣が15日、現在GDP=国内総生産比2%規模の「家族関係社会支出」を今後、倍増するとした国会での答弁を修正しました。
磯崎官房副長官:「(岸田総理は)将来的な倍増を考える上でのベースとして、この家族関係社会支出このGDP比に言及したわけではありません」
児童手当などの子育て政策を含む家族関係社会支出は、2020年度で10兆7536億円に上ります。
岸田総理は15日の衆議院予算委員会で「家族関係社会支出は2020年度の段階でGDP比2%を実現していて、それをさらに倍増しようと申し上げている」と述べていましたが、磯崎副長官はこの答弁を修正した形です。
磯崎副長官はまた、11兆円近くに膨らんだ家族関係社会支出について、「新型コロナに関係する一時的な給付金の影響がある」と説明しました。
●鈴木英敬議員の自民党支部、衆院選直前に国の工事受注会社から寄付 2/16
内閣府政務官で前の三重県知事、鈴木英敬議員が代表を務める自民党支部が、国の公共事業を受注した企業からおととしの衆議院選挙の直前に、寄付を受けていたことがわかりました。
「国の公共事業ですね、受注していた企業というのを全く知らなかったわけでありますが、ひとえに我が事務所の確認不足でありまして、大変深く反省をしております」(鈴木英敬・内閣府政務官)
鈴木議員が代表を務める自民党三重県第4選挙区支部によりますと、おととし10月の衆議院解散から投票日までの間に、国の公共事業を受注した建設会社13社から、合わせて1060万円の寄付を受けました。
公職選挙法は国と契約を結ぶ業者が国政選挙に関して寄付することを禁じています。
鈴木氏は、「今日中に全額返金する、今後は、事務所内の再発防止を徹底していく」としています。
これに対して野党側は明日の衆議院予算委員会で鈴木議員を追及する予定です。  
●立憲民主党、同性婚の議論を提案 衆議院憲法審査会 2/16
立憲民主党は16日の衆院憲法審査会の幹事懇談会で、同性婚についても憲法審で議論するよう提案した。更迭された前首相秘書官、荒井勝喜氏の同性婚を巡る差別発言を踏まえた対応だ。与野党は今国会で初の審査会を3月2日に開くことでは合意した。
憲法審で扱うテーマについては緊急時の国会議員の任期延長などを取り上げるべきだとの意見もあり、与野党が引き続き協議する。
自民党は当初、2月中に審査会の議論を始めるよう野党に働きかけた。立民が衆院予算委員会での2023年度予算案の審議中の実施に難色を示していた。3月には衆院での予算案を巡る質疑が終わっているとの見通しから開会に合意した。
●茂木幹事長 「罠の戦争」の幹事長は「かなり老獪。現実の幹事長と違う」  2/16
自民党の茂木幹事長は16日、党の会合で、現在放送中の永田町を舞台にしたドラマ「罠の戦争」に登場する幹事長について、「かなり老獪」で「ちょっと現実の幹事長と違うと思う」と述べ、笑いを誘った。
茂木氏が言及した「罠の戦争」(フジテレビ系・関西テレビ制作)は、草g剛さんが演じる政治秘書が政治家らに復讐するというストーリーで、首相や党の幹事長などが登場する。
「大のドラマ好き」(幹事長周辺)として知られている茂木氏は、女性候補を育成するための党の会合で挨拶し、このドラマを観ていることを明かした上で、「なかなかいいストーリーだと思っているが、時々『おやっ』と思うことがある」と述べた。
そして、岸部一徳さんが演じる与党・民政党の幹事長について、「かなり老獪で、ちょっと現実の幹事長と違うなと思う」と述べた。
さらに茂木氏は、「幹事長室の会議で、集まっている20人くらいが、ドラマでは全員が男性だ」とした上で、「自民党(の幹事長室)は、5名の女性議員がいる」と述べ、女性の登用をアピールした。
一方で、「女性国会議員の割合は、日本はまだ1割台半ばだ」とも述べ、女性や若者などの活躍に尽力していくと強調した。

 

●「徴用工」判決問題解決の意義  2/17
みなさま、こんにちは。2月5日の日曜プライムに出演させて頂いたところ、直後に多くの好意的な反応をいただきました。ありがとうございました。一方で暫く時間が経ったところでツイッターに批判コメントも多く寄せられました。
もう放置しておこうか随分迷ったのですけれど・・・。日本の未来に関わる外交政策の問題でもありますし、また批判の原因には誤解も多いため、今回は「徴用工」判決の解決についての私の考えについて、誤解等への説明も含めて書いておこうと思います。
正直、外務官僚の時も政治家になってからも歴史戦の最前線で戦ってきたのに曲解されて叩かれて悲しかったのです。おかげで正月太りが1キロ減ったのは喜ぶべきなのかもしれませんが(まだ、あと2キロ減量したいところ)。
一問一答形式にしてみたので、是非、ここ自分の疑問、という部分だけでも良いので読んで下さいね!(4. 以下)長い文章を読む暇はない皆様が多いと思うので太字だけでも大丈夫です。同時に、長い文章を読める方々には全部読み通して正確な理解をしてもらえたらな、と思います。一問一答に入る前に基礎的事項も含めて情報共有及び私の考えについて書いておきます。
1. 韓国政府の解決策と「徴用工」判決問題を解決する意義
   (1)韓国政府案:将来にわたり「徴用工」対日訴訟を封じる第三者弁済
1月12日の公聴会(フルオープン)で、韓国政府が原告に提示した案は、韓国政府が作った既存の財団(名前が凄いのですが、2014年設立の「日帝強制動員被害者支援財団」)が、大法院判決履行を肩代わり(第三者弁済)することにより、韓国の大法院判決による三菱重工業と日本製鉄(旧新日鉄住金)に賠償金支払い命令を法的に止めるものです。
原告は、この「財団」の「基金」からお金をもらうことができるようになることにより判決履行が済むこととなるので、その結果、日本企業に対する現金化は法的に阻止されるのです。
それだけでなく、韓国政府は、「財団基金」の定款も変更し、今後生じうる将来の対日本企業賠償請求についても「財団基金」が支出して法的に解決できることとしています。無論、日本政府が今後追加で支払うということもありません。
この案の優れている点は、1 原告の同意が不要、かつ2既存の財団を活用するので、国会を関与させる必要がない、そして、3 ポスコはじめ韓国企業は既に数億規模の資金投入の準備ができている、つまり、韓国政府の一存で実現しようと思えばできるという点にあります。
2015年の慰安婦合意は、多くの慰安婦が受け取ったものの、拒否した人たちも一部いました。結局、慰安婦「財団」はムンジェイン政権下で事実上瓦解してしまったわけです。今回も、原告の中には、「徴用工」判決問題解決策の「財団」からの支払い受け取りを拒否する人もいるでしょう。
ある専門家によれば、今回の解決策が優れているのは、それでも、本件財団が判決の現金化履行をする主体となった以上、原告が「財団」からお金を受け取るか受け取らないかは全く関係なく、日本企業に対する現金化執行はもはやできなくなっているということです。つまり、日本企業に対する支払命令は法的に終了するのです(やや技術的な補足をすれば、政権が変わった時に蒸し返されないように、「財団」が求償権を放棄しておいた方が良いでしょう)。
まだ、解決策の詳細は決まっていないところもありますが、それでも、この解決策の根幹を見れば、韓国政府が、「徴用工」について、本件判決のみならず将来起きうる訴訟が日本企業に対して害悪をなすことを韓国政府の責任によって法的に不可能とすることを決意していることは明らかです。
   (2)韓国が日本に求めているもの
他方、原告は本案に対し、「屈辱外交」と非難轟轟であり、日本側の謝罪と日本企業の基金参加を求めています。しかし、韓国政府(外交部)は、1月12日の公聴会において、原告に対し、「被告企業からの謝罪も被告企業からの支払いも得ることも難しい」と明確に述べています。ある意味ここまではっきり言うのも凄いなと思います。
少なくともユン政権は、ムンジェイン政権と異なり、本件「判決」問題は、韓国政府が責任をもって解決しなければならないということはわかっているということです。ただ、その解決策を貫徹するためには、原告が過激な行動に出たり韓国世論が反対するといった事態となっては政治的にもたなくなり、結局解決できなくなってしまうので、日本に何とか「誠意ある呼応」をしてもらって、上手く納めたいということであろうと思います。
というわけで、韓国からは、何等かの形の「謝罪」(過去のステートメントをリピるのでも良い)と自発的でも後からでもいいので、何等かの形の日本企業の寄付参加はできないのかということを懇願されているというのが現状です。
2. 「解決」の日本にとっての意義
まず、「徴用工」問題自体は、65年協定で解決済の問題です。にも拘わらず、極左のムンジェイン政権の下で、韓国国内裁判が勝手にリオープンしたのです。ですから、韓国が国内で解決すべき問題であり、日本政府は安倍政権時代から、一貫して韓国政府が韓国国内で解決せよ、と要求してきました。そして、まさにそれを、現在、ユン・ソニョル政権がやろうとしているのです。
韓国と言う国は、左派だろうが保守派だろうが、程度の差がありますが「反日」というか何等かの日本に対するわだかまりを持っているのが多数派です。その中で、一貫して対日関係改善にコミットし、過去より未来に目を向けたいと思う指導者(ユン・ソニョル大統領)の存在がどれだけ稀有なことか、かるからこそ、モメンタムを失うべきでないと考えています。
韓国にも世論があります(多分日本以上に強硬な)。原告から「屈辱外交」と言われながら韓国政府は頑張っています。まだ世論一般に広がっていませんし、それは、私の見るところ、韓国人も「反日疲れ」で、内心、そろそろ対日関係を改善した方がいいと思っているからではないかと思います。しかし、日本が「生体反応」を返さず放置していると、韓国世論というのはあるところで突然沸騰しかねません。
無論、そもそも65年協定で解決済の案件をリオープンして韓国が作り出した問題ですから、韓国政府が頑張るのは当然のことです。しかし、放置すれば「時限爆弾」のごとく日本企業に被害が生じ、日韓の基本的関係を規定している65年協定と日韓基本条約に亀裂が入ることになるわけですから、「韓国政府が本件問題を解決する」ことは日本にとっても重要なはずです。
実際、安倍政権の時から、一貫して、我々は「韓国自身で問題を解決せよ」と要求してきましたし、岸田内閣も「65年協定に基づき懸案を解決して日韓関係を正常化したい」と述べています。
ユン大統領は、日本に対して悪い感情は持っていない、むしろ良い感情を持っていると思いますが、対日関係を改善したい理由は、別に日本が好きだからではなくて、むしろ1 悪化する安保環境を考えると日米韓連携が重要だと考えているからであり、2 既に立派な国になった韓国として、100年前の話をいちいち持ち出して日本に毎回謝罪せよと迫るというのがカッコ悪い、と思っているからであろうと思います。
本件「徴用工」判決問題を韓国が解決して日韓関係が正常化されれば、日米韓連携をより信頼できる有意義なものとすることが可能となります。ムンジェイン政権と異なり、ユン政権は、対北朝鮮、対中国についての安全保障上の脅威認識を日米と共有しているからです。GSOMIAも 正常化するといったことも含め意味のある連携とすることも可能でしょう。
韓国は、60万人の軍隊(自衛隊は25万人)を要する軍事力を持ち、在韓米軍のある米国の同盟国です。現時点では日本より防衛予算も多い。韓国が向こうではなく日米側にいた方が日本にとって有益であることは明白です。韓国自身はまだ気づいていないかもしれませんが、台湾海峡の平和と安定には日本と同じく(又はそれ以上に)死活的利益があるはずです。全ての物資は台湾海峡、対馬海峡をとおって韓国に到達するのですから。
そして、台湾有事が仮に起きるとすれば、その際に、中ロ連携、北朝鮮の陽動作戦も想定されるわけで、その際に韓国が北朝鮮対策をやってくれるだけでも日本にとっては勢力分散をせずに済むという意味でも助かります。
また、既に訴訟提起されている企業だけで15社、徴用工リストに載せられている企業は299社、一人1000万円の賠償額としたら、日本企業にとっては、巨額な損失を被るか回避するかの話ともいえるのです。日本企業にとっても、何とかユン政権が本件「判決」問題を解決し、その経済的リスクを封じた方が良いということです。
ですから、65年協定の根幹を揺るがすことなく、日本として譲るべきでないことについては一切妥協することなく、しかし、伊政権が本件「判決」問題の解決を貫徹できるように、日本自身も外交的努力をしていくことについて温かく見守るべきだと思います。
3. 外交というもの
韓国について、「また政権が変わったらひっくり返される」とか「放置せよ」とか「断交せよ」とおっしゃる方がいます。韓国について前向きなことに取り組むことに全力で反対する方々です。日本の置かれた安全保障環境についてもう少し思いを致してもらいたいし、また政権が変わったら後退することはありうると思いますが、それは、現在のチャンスを活かさない理由にならないと思います。
韓国は軍事大国で台湾と並び半導体を大量生産する能力のある国です。そして、日本と韓国はフェリーで数時間しか離れていない。日本の長らくの安全保障政策は、白村江の戦い、日清・日露戦争、日韓併合とも、朝鮮半島の南側に敵対勢力を作らせないことでありました。譲るべきでない根幹について日本は何一つ譲ってはなりませんが、それ以外でもできることはいくらもあるのです。
外交は、「好き嫌い」でやるべきものではありません。時に、気に入らない国との間でも、一定の関係を維持して国家・国民の利益を守り抜く「したたかさ」「老獪さ」が外交には不可欠です。例えば、インドはQUADに参加するとともに武器供与を受けているロシアとの関係を維持しています。
高まっている解決気運を冷やしてチャンスを逃すべきでないというモメンタムの問題だけではなく、現実のスケジュールを考えても、本件「徴用工」判決問題を韓国政府が国内解決貫徹できるタイミングはかなり限られているように思います。
韓国の大統領制は1期5年です。後半はレームダックに入りますから、難しい課題は任期前半に解決に取り組むのが上策です。韓国は来年4月に総選挙があります。本年9月以降は「政治の季節」に入り、難しい問題は何も手が付けられなくなるでしょう。そして、日本は本年4月に統一地方選挙、5月にサミットがあります。
こうした政治スケジュールを考えれば、この2,3月、またはせいぜいが夏までのどこかが有望だろうと思うところです。
4. 発言を誤解等しているものに対する一問一答
   (1)「『徴用工』問題を解決することは日本の国益」
典型的な「切り取り」批判です。ちゃんと前後の私の発言も聞けば、「既に65年協定で解決済の「徴用工」の問題を韓国が国内判決で一方的に蒸し返したという韓国の国内問題を韓国政府自身が解決することにより、日韓関係が正常化されて、現下の次元の異なる悪化した安保環境の下で、まともな日米韓安保協力ができるようになることは、日本の国益に資する」という意味であることは明白だと思います。
   (2)姿勢が問題系の話。「今までと同じ失敗を繰り返して日韓関係が本当によくなるとお思いか」「既に解決済みで韓国の国内問題。その姿勢を揺るがす意味がわかりません。」
私は、番組中で、「韓国との関係で新たに『謝罪する』というのはあり得ない話。そもそも“徴用工問題”について日本政府は謝罪すべきことはないとの立場。『岸田ユン時代を開いていきましょうね』といった未来に向けたメッセージを送るのを主にして、過去の立場は維持していく、というのを認識(acknowledge)するのがせいぜいではないか。」と明確に述べています。
第二次安倍政権時代に日韓関係はリセットしたのです(私自身が外務官僚としても政治家になってからもそれに携わりました)。65年協定に係る根幹問題については何一つ譲るべきではないと考えていますし、そのような発言はしていません。「揺るがすつもりか」系の批判、正直、意味がわかりませんし、ご心配なくと申し上げておきます。
   (3)「土台から間違っている」系の批判(「65年協定で解決済のことを知らないのか」等)
基礎的な知識は十分私は分かった上でそれを前提に話しています。これまで、ずっと前線で戦ってきたのですから当然です。
外務省にいたときに、当時の外務省の「雰囲気」に真っ向反して慰安婦問題についての最も詳細な踏み込んだ反論文書(2015年女子差別撤廃条約対日審査における杉山審議官発言)を安倍総理官邸の指導の下、作成したのは私です。
政治家になった後も、安倍総理の指導の下、世界の慰安婦像撤去のための活動もやってきました(安倍総理が語る松川るい)。
輸出管理厳格化の件も含め「徴用工」問題についても日本の立場を防御すべく外国人特派員協会といった場を通じ世界に発信してきました。
「歴史戦」については自分の能力も時間もかなり使ってきたわけで、申し訳ありませんが、そういう初歩的レベルの御心配は全く御無用です。ムンジェイン時代ほどではありませんが、日本大使館前に慰安婦像が建てられた「『反日』プラス『歴史改ざん』」満載の3年間を韓国で駐在したのです。
韓国という国に何の幻想ももっていません。しかし、隣国という地理的条件は永遠のものであるという現実は直視するべきですし、また、韓国自身のポジティブな変化に鈍感であってもいけないと思っています。
   (4) 「安倍総理だったら」系
私は、安倍総理とは何度か意見交換をさせて頂きましたが、対中戦略、韓国との歴史戦、ウクライナ戦争など、ほぼ自分の考えと同じでした。少なくとも外交安全保障に関する限り、私の思考回路は、安倍総理のそれと似ていると感じます(もちろん、勝手な思い込みではありますが・・・)。
総理になって一番大変だったのは、自分を応援してくれている「保守」派の方々が超強硬に反対してきた「慰安婦合意」(2015)だったとおっしゃっておられました。
安倍総理は希代の現実主義の戦略家であり外交官でした。安倍総理がご存命であれば、ユン政権の間に「徴用工」判決問題を永遠に解決し、日本にとってよりよい環境を作りだす意義について十分理解し行動されたことと思います。
   (5)「輸出管理手続きの厳格化は「徴用工」とは別問題であり、「徴用工」問題解決のためにホワイト国に戻してやろうとはけしからん!」
もちろん、輸出管理手続きの厳格化は、「徴用工」判決の制裁措置ではなく、別ものです。私は、番組中でも「別問題である」と明言しております(大体、外国人特派員協会で輸出管理手続きの厳格化について日本の立場を発信したのは私ですから、そのような基礎的なことは当然承知しています。)。
その上で、しかし、「徴用工」判決の問題を韓国が解決した場合には、私は、韓国の管理手続きがホワイト国に足る水準を満たしていれば、ホワイト国に戻せば良いと考えます。
もともと、日本が韓国に対する輸出管理手続きを厳格化したのは2つの理由によるものです。1つは、
1 実際に、韓国の輸出管理手続きが杜撰だったから(例えば、日本が110人体制で臨んでいるのに韓国は10数人)
もう一つは、
2 日韓関係の悪化を背景に、日韓間の輸出管理担当局長協議が開かれない状況が続き、日韓当局間の信頼関係が失われたからです。
1つ目の問題(1)の方は、韓国側は日本から指摘された問題について体制改善を行ったとしています(無論、日本として局長協議で確認する必要はありましょう)。
2つ目の問題(2)は、もともと「徴用工」判決問題やその前の慰安婦財団の実質解散や旭日旗やレーダー照射などありとあらゆる問題で日韓関係が悪化し、局長級協議が行われなくなったことに起因しています。
そして、日本側の厳格化措置を「徴用工」判決の「対抗措置」と捉えた韓国は、WTOに日本の措置を提訴しています。
したがって、「徴用工」判決問題が解決され、日韓関係が正常化すれば、事の順序はさまざまなバリエーションがあり得ますが、韓国のWTO提訴取り下げと局長級協議再開により韓国の管理体制強化の確認が可能となり、ホワイト国の基準を満たしていると日本側が認定できるのであれば、韓国をホワイト国に戻すことは可能ですし、その場合、日本として何も韓国だからという特段の譲歩をするわけでもありません。
ちなみに、WTOの紛争解決手続きは、日本が拒否しても自動的に進行し判決が出ます。その判決が日本に不利なものとなる可能性は十分あります。日本にとっても、韓国の輸出管理手続きが改善され、韓国がWTO提訴を取り下げるのであれば悪い話ではありません。
大体、半導体分野は日韓は補完関係にあるのです、日本企業にとってもいちいち個別手続きでなく包括手続きができることは円滑なビジネスを進める上でも利益なのです。なお、韓国側の措置がホワイト国足るに不十分な場合にまで、ホワイト国に認定すべきでないことは当然のことです。
   (6)「『徴用工』問題が日韓の信頼関係を損ねている最大の問題」
日韓間には様々な問題があります。竹島、レーダー照射、慰安婦、などなど。でも、『徴用工』判決問題は、その他の問題と明確な違いがあります。
それは、放置しておくと、日本企業に実害が生じるという「時限爆弾」であるという問題であり、同時に、それは判決が日本の朝鮮半島統治が違法であったことを前提としているが故に65年協定及び日韓基本条約という日韓関係の根本を棄損する問題だということです。
既に現金化命令は裁判所から出ていますから、仮に三菱重工と新日鉄について「現金化」で実害を生じさせれば、日本政府はただちに何等かの対抗措置を打つこととなります。日韓関係はせっかく関係改善を目指す伊政権になったのに、また、最悪の状態に戻るでしょう。そして、それを歓迎するのは、中国と北朝鮮です。
しかも、「現金化」が実現するのであれば、一応期限は切ったものの、係争中の訴訟及び今後の訴訟含め、日本企業に対する請求は巨額に上ります。韓国政府に『徴用工』判決の問題を韓国自身で解決させることは、日本企業に対する巨額の被害を防止する意味でも重要なのです。
   (7)「ユン政権がもつようにするべき」
これも典型的な切り取りコメントですね。前後の発言を聞けば、「ユン政権が韓国政府の責任で国内で「徴用工」解決策の実現を目指しているのだから、ユン政権が解決を貫徹できるように、日本としてもできることはするべきだ。無論、日本の根本的立場について譲ことはできないのでできる範囲で。」という意味であることは明らかかと。
原告からは、日本に対する屈辱外交と非難轟轟ですから、これが韓国世論になってしまうと、伊政権も動かせなくなります。
韓国世論を抑えるためには、たとえば、「日本もユン政権の解決の取り組みを評価している」とか、「関係が正常化されたら、日韓間で様々な協力ができるようになるだろう」といった前向きな「生体反応」を返したら良いと思うのです。別に日本の基本的立場を何ら揺るがせるものではありません。
5. 最後に:触れられなかった部分
実は、批判用に切り取りされている部分は番組のごく一部です。ここではツイッター等で触れられなかった部分をご紹介します。
番組内において橋下さんから、中国の西松建設の例同様、示談でも日本企業が支払った例もあるのだから日本企業も妥協することがあっても良いのではないかという意見には全力反論致しました。
韓国(在韓国資産放棄と合わせれば、当時の韓国国家予算の8倍にあたる金額を拠出・放棄)と中国(1972年日中共同声明時に賠償金放棄)は全然違うので、「徴用工」のために日本側としてさらに資金提供する理由はないと明言しました。番組側がWEBに出している映像が番組全体の一部なのでしかたない所はあるかもしれませんが・・・。
●東京市場 2/17
「ドル・円は主に134円を挟んだ水準で推移か、米長期金利の高止まりを意識してドル買い継続の可能性」
16日のドル・円は、東京市場では134円19銭から133円64銭まで下落。欧米市場では133円61銭まで下落した後、134円46銭まで上昇したが、133円90銭で取引終了。本日17日のドル・円は主に134円を挟んだ水準で推移か。米長期金利の上昇を意識してドルは底堅い動きを維持する可能性がある。
報道によると、米セントルイス地区連銀のブラード総裁は16日、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを継続すれば、経済成長が続いてもインフレ抑制につながるとの見方を示した。ブラード総裁は、「利上げによって経済成長は鈍化し、失業率は長期的に自然な水準に向かって上昇する可能性が高い」と指摘したが、ディスインフレのプロセスは始まっていると考えているようだ。16日の米国債市場では10年債と30年債の利回りが主に上昇しており、市場参加者の間からは「インフレ抑制のためには一段の金利引き上げが必要」との声が聞かれている。米インフレ率のすみやかな低下は期待できないため、米国金利の先高観は後退せず、ドルは当面底堅い動きを維持することになりそうだ。
《午前8時現在》 
ドル・円: 133.50円-134.70円 133円台半ば近辺でドル買い興味
ユーロ・円: 142.50円-143.80円 142円台半ば近辺でユーロ買い興味
豪ドル・円: 91.50円-92.80円 91円台半ば近辺で豪ドル買い興味
●「財源確保法案」に透けて見える財務省の思惑と重大な問題点 2/17
いわゆる「財源確保法案」を立案し、今国会に提出することとされた。正式名称は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」というこの法案は大いに問題があると言わざるを得ない。何がどう問題なのか、問題となり得るのか、について解説していく。
「財源確保法案」に透けて見える 財務省の思惑
去る1月23日、第211回国会(常会)が開会した。6月21日の会期末まで、来年度予算案やさまざまな法案の審議が行われる。今国会における岸田政権の懸案事項の一つといえば、昨年末より議論が続いている防衛費増額のための財源問題である。
この件については、財源は増税によることで決着がついた、と一般には認識されていることが多いようであるが、実際にはその一部を税によることとする方向性が決まっただけであって、具体的な時期等まで決まったわけではない。税以外の部分については、特別会計の剰余金等の一部の繰り入れや独立行政法人の積立金等の一部の国庫返納、そして歳出改革によることとされ、防衛関係経費をプールしておくために防衛力強化資金を設置することとしている。それらを実施するための法的根拠として、財源確保法案なるものを立案し、今国会に提出することとされた。その法案、正式名称は「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」である。
そしてこの法案、大いに問題ある法案であるのだが、全くと言っていいほど詳しく報じられたり、解説されたりすることがない。そこで、本稿において、筆者として気づいた点を中心に、何がどう問題なのか、問題となり得るのかについて解説することとしたい。
第1条から早速問題だらけ
まず、本法案は、「令和五年度以降における我が国の防衛力の抜本的な強化及び抜本的に強化された防衛力の安定的な維持に必要な財源を確保するための特別措置」を講ずることを目的として、令和5年度以降の各年度の防衛力整備計画対象経費のうち、令和4年度当初予算に計上された防衛力整備計画対象経費の額を上回る部分について、(1)財政投融資特別会計財政融資資金勘定および外国為替資金特別会計からの一般会計への繰入金、(2)独立行政法人国立病院機構および独立行政法人地域医療機能推進機構の国庫納付金、(3)国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入(「防衛力強化税外収入」)を充当し、(4)必要な経費をプールするための防衛力強化資金を設けるために立案されたものである。
しかし、第1条から問題がある。以下条文を追って解説していく。
その第1条、第3項において防衛力整備計画対象経費の定義が規定されているのだが、我が国の防衛力の強化のための防衛費増額のはずなのに、在日米軍関係経費や沖縄の米軍基地等再編経費までその対象に含まれている。これは極めておかしな話であり、それらの経費は別物として切り分けて処理すべきはずである。予算を増やしたくない、できれば減らしたいと考える財務省がシレッと潜り込ませたのだろう。
第2条および第3条は先に挙げた特別会計からの繰り入れについて規定しているが、これはそれに続く第4条および第5条の独法の積立金の一部の国庫納付についての規定との比較で解説するが、前者は「一般会計の歳入に繰り入れることができる」とされているのに対し、後者は「納付しなければならない」とされている。
つまり、特別会計からの繰り入れはやらないことも可能であるが、後者は絶対にやらなければならないこととされている、ということである。これは以前から財務省が独立行政法人の積立金や基金を「無駄」と難癖をつけて返納させようともくろんでいたところ、防衛費増額を大義名分として穴を空けようという魂胆に見える。その先に懸念されるのは、独立行政法人の積立金等の国庫返納の対象の拡大である。そうなれば多くの独法が政策的機能を十全に果たせなくなってしまいかねない。
そもそも、なぜこれら二つの独法がこの段階で対象になっているのかも不可思議である。おそらく、これら独法の新型コロナ対応の予算が余っていたことが明らかになり、批判の的となったことがあったところ、格好の人身御供とされたといったところだろう。両独法ともいざというときの対応のために存在するわけであり、今回のようなパンデミックが再び起きたときに、予算がないので、予算がなかったから準備ができなかったので対応できないでは済まされない。そうした事態に陥らないように普段から十分な予算を配分して体制を整えておくべきところ、単年度思考、短期思考の財務省がそうさせないようにしているとしか言いようがない。
なぜ、防衛省ではなく 財務省の管理なのか
さて、先述の通り、本法案により防衛力強化資金が設置されるが、この資金は一般会計に置くので財務省管理とされている。防衛力強化のためのものなのだから、特別会計的に防衛省の管理とすべきではないかと思われるが、なぜそうなっているのかについては、本則の後ろに規定されている附則を見ると分かる。
なんと附則の第4条において、財務省の所掌事務として「防衛力強化資金の管理に関すること」が追加されているのである。理解しづらいかもしれないが、各府省の所掌事務を新たに追加するというのは非常に重たい話、かつ他の府省からの反発もあり得る話であり、かつ、一度規定してしまうとそれをなくすことは、新たな行政機関の設置や、省庁再編のようなものでもなければあり得ない。したがって、既存の所掌事務の範囲内で「読む」ということがよく行われるのであるが、今回新たに所掌事務を追加するというのは、財務省がコントロールできる新たな「財布」を財務省のために設けるため、そして、財務省の手を離れてしまう特別会計的なものは是が非でも設けたくないという財務省の姑息な魂胆によるものなのではないか。
さらに、第10条において、防衛力強化資金のお金を財政融資資金に預託することができることとされている。財政投融資資金とは、財投債の発行等により調達された資金を財源として、大規模・超長期プロジェクト等に融資を行う政策金融機関、官民ファンド等に融資を行うために設置されているもの。直近の防衛力強化のため、本法案によって新たな資金まで設置して特別会計や独法の積立金からお金を集めてきているというのに、超長期プロジェクトへの資金供給のための原資に充当するというのに等しく、本来の目的を逸脱しているとしか言いようがない。
別の見方をすれば、要するに「余裕金を長期的に運用します」ということになるので、そもそも防衛力強化資金はおろか、本法案が不要ということまでいえてしまうのではないか。
また、第12条において、防衛力強化資金の受け払いは歳出歳入外とされている。歳出歳入外とは、要するにすぐに出し入れできるお金ということであり、具体的には選挙の供託金や入札の保証金等がこれに当たるが、なぜ防衛力強化資金をそうしたものと同じ扱いにするのか。防衛費ではなく何か別の目的に使用しようとしているのではないかと思われてならない。
そして、第14条、第2項に「令和五年度以降の各年度において、国有財産の処分による収入その他の租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するものは、防衛力整備計画対象経費の財源又は資金への繰入れの財源に充てるものとする」との規定があるが、これは端的に、本法案に規定された特別会計からの繰り入れや独法の積立金の一部の国庫返納のみならず、歳出改革と称した緊縮・予算削減によっても防衛費増額の財源を捻出するためのものである。しかも、防衛力強化資金の運用についてこれまで指摘してきたような問題があるところ、単なる予算削減の根拠ともなりかねない、極めて危険な規定となる可能性がある。
なお、「租税収入以外の収入であって国会の議決を経た範囲に属するもの」については、これは国債発行による収入を指すとする見解もあるが、確かにこの表現は財務省が国債について使用するものではあるが、法的に意味が確定したものではなく、その前に「国有財産の処分による〜」と付いていることも考えると、国債のみを指すと考えるのは少々お人よしすぎるように思われる。
時限立法ではないと考えるべき
一方で、本法案の原案には、附則の第2条として、歳出改革を継続するよう努めること等を内容とする規定が置かれていたが、まさに歳出改革と称して各府省の予算の一律削減につながりかねないものであった。それが、責任ある積極財政推進議連の会員議員の尽力により、自民党内議論の段階で、最終案からは削除されるに至った。これは非常に大きな成果であるといえる。
本法案は特別措置法案と称しながら、時限立法ではなく、財務省が新たな所掌事務を追加したことからも分かるように、特段の事情のない限り、ずっと存続させるものであることは明らかである。加えて、「防衛費が足りなくなった」と称して、累次の改正により積立金の国庫返納の対象が際限なく拡大されていく可能性もある。
今後の国会審議において本稿において解説した問題点等をしっかりと指摘し、不明な点は明らかにし、少なくともこのまま可決・成立するようなことはないように、関係議員諸氏には尽力願いたいし、国民各位におかれても問題ありとして声を上げるなり、少なくとも問題意識は持っていただきたいところである。
●衆院予算委、不祥事少なく野党難渋 政府・与党ペース 2/17
衆院予算委員会で、令和5年度予算案審議が政府・与党ペースで進んでいる。16日には採決の前提となる中央公聴会を終え、与党内では28日に衆院を通過させる案も浮上した。昨秋の臨時国会では立憲民主党など野党が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や閣僚の不祥事で岸田文雄政権への追及を強めたが、今国会はスキャンダルが減って政策論争が中心となっており、野党が攻めあぐねる展開となっている。
「事前報道は遺憾だ。再発防止を徹底する」
松野博一官房長官は16日の衆院議院運営委員会理事会に出席し、次期日銀総裁に植田和男氏を充てる人事案が14日の国会提示前に報道された経緯を巡る調査結果を報告し、こう陳謝した。立民などは人事案の事前報道を問題視したが、予算委の審議を止めるような事態には至っていない。
岸田首相は先の国会の閉会後、政治資金をめぐる問題が指摘されていた秋葉賢也前復興相を更迭し、政権を立て直して今国会に臨んだ。今月3日に荒井勝喜元首相秘書官の同性婚を巡る差別発言があったが、首相は翌4日に更迭して傷口を広げなかったため、予算委は6日の審議が一時中断した程度にとどまった。
この結果、予算委の審議時間は15日までで63時間と順調に積み上がり、採決の目安となる70時間も視野に入ってきた。自民の国会対策関係者は、27日の集中審議を挟んで28日の衆院本会議で採決し、憲法の規定で年度内成立を確実にするスケジュールを描く。
予算委のテーマも、現在は防衛力強化や少子化対策などの政策論争が中心だ。自民党政調会長などを経験した首相は政策論争を得意とするだけに、党幹部は「答弁が安定している」と安堵(あんど)の表情をみせる。
立民は自民が政権を奪還した平成24年以降の少子化対策などを「失われた10年」と検証する取り組みを始めたが、今月8日の予算委では首相が「幼児教育の無償化なども前進し、2万6千人いた待機児童も3千人に減少した。『失われた10年』と片付けるのはミスリードだ」と反撃する一幕もあった。
答弁を閣僚任せにせず、自ら手を挙げて根本匠予算委員長に指名を求める場面も目立っている。
ただ、今後も閣僚や首相周辺の新たな失態が明らかになれば、野党が一気に攻勢に転じる可能性もある。昨年は、2カ月間に閣僚4人が次々更迭される「辞任ドミノ」が一気に襲い、内閣支持率が急落した。政府・与党にとっては予算案成立まで気を抜けない国会運営が続く。
●岸田首相の「子ども予算倍増」発言を松野官房長官が「修正」衆院予算委 2/17
岸田文雄首相が15日の衆院予算委員会で、子ども関連予算倍増について答弁した内容を、政府側が16日に「修正」した問題が、17日の衆院予算委員会でも問題となった。
岸田首相は、家族関係社会支出を「国内総生産(GDP)比2%から倍増する」と述べたが、松野博一官房長官は16日の会見で「将来的な倍増を考えるベースとして、GDP比に言及したわけではない」「子ども予算をしっかり拡充してきたことを説明する1つの例」などと釈明した。
この日も、松野氏は「どこをベースとして将来的に倍増していくかは、まだ整理中」と分かりにくい答弁をしたため、野党側は反発した。立憲民主党の梅谷守衆院議員の質問に答えた。
首相は15日、「家族関係社会支出は2020年度の段階でGDP比2%を実現した。それをさらに倍増しようではないかと申し上げている」などと答弁していた。この発言だと、巨額となるGDP比4%を目指すと受け取ることができる内容だった。
●“首相答弁 子ども予算倍増基準 示したわけではない”官房長官  2/17
子ども予算の将来的な倍増をめぐり、国際比較ができる「家族関係社会支出」の枠組みを基準とするともとれる岸田総理大臣の国会答弁について、松野官房長官は衆議院予算委員会で、倍増の基準を示したわけではないと、重ねて説明しました。
子ども予算の将来的な倍増をめぐり、岸田総理大臣は15日、衆議院予算委員会で「『家族関係社会支出』は2020年度の段階でGDP=国内総生産比で2%を実現している。それをさらに倍増しようではないかと申し上げている」と答弁しましたが、松野官房長官は、16日の記者会見で「家族関係社会支出」を倍増する考えを示したものではないと説明しました。
これについて、17日の衆議院予算委員会で、立憲民主党が閣内不一致でないのであれば答弁を修正すべきだと追及したのに対し、松野官房長官は「防衛費との関係においても、決して取り組みが見劣りするわけではないとの趣旨で申し上げたものだ」と重ねて説明しました。
そのうえで「私が申し上げた内容は、総理の答弁の趣旨について説明をしたもので、修正ではない。いずれにせよ、まずは今の社会で必要とされる子ども・子育て政策の内容を具体化し、6月の骨太方針までに将来的な予算倍増に向けた大枠を提示する」と強調しました。
公明党の石井幹事長は、記者会見で「倍増ということばが先行しているが、何をベースにするか定まっていなかったという状況だ。政府には、なるべく早めに考え方を整理して、誤解が生じることがないように取り組んでもらいたい」と述べました。
●「戦時体制へ一歩」「国会にだけ任せていたら沖縄が戦場に・・・」国会 2/17
沖縄国際大の前泊博盛教授が16日、衆院予算委員会公聴会の予算質疑に公述人として出席し、政府が「台湾有事」を見越して米国と連携して進める防衛予算の増強について「戦時体制の予算編成が第一歩を踏み出している」と指摘した。沖縄を含む南西諸島の防衛力強化について「沖縄での局地戦を展開する準備を進めるかのような印象を受ける」と警戒感を示した。
衆院予算委は、防衛予算の増大が顕著となっている2023年度の予算編成で影響を受ける沖縄の代表として前泊氏に公聴会への出席を求めた。
前泊氏は、政府の防衛強化方針の根幹となる安全保障関連3文書が閣議決定された点を「国会にだけ任せていたら沖縄が戦場にされかねない」と問題視した。米中対立に巻き込まれるリスクが増大している点を踏まえ、公述人の川上高司拓殖大教授が「日本と中国の独自の話し合いも必要」とした点に賛意を示し、外交力向上の必要性を訴えた。
復帰50年の節目となる22年度予算で沖縄関係予算が軍事費の増大と反比例して急落した点も指摘。インフラ整備のための予算が本土企業に環流する「ザル経済」の問題も挙げ、「政策に反映される額についても検証が必要だ」と述べた。
●処理水「大きな影響ない」 韓国研究機関  2/17
東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出をめぐり、韓国の政府系研究機関が、「大きな影響がない」とするシミュレーション結果を発表した。
韓国の海洋科学技術院などは、福島第1原発の処理水を太平洋に放出した場合に、放射性物質「トリチウム」がどのように拡散するかシミュレーションした。
その結果、トリチウムは10年以内に北太平洋全体に拡散するものの、濃度は韓国海域の水準の10万分の1と極めて低い濃度になると推定されると発表した。
担当者は、「この程度の濃度は、実際に海洋に存在するトリチウムに比べてかなり少ない量」だとして、「数値だけ見れば大きな影響がない」と説明した。
日本政府は、福島第1原発の処理水を、2023年の春から夏ごろに海洋放出する方針で、韓国政府はこれまで懸念を示している。
●テント村設置も 数が不足 トルコ地震 死者4万3000人超  2/17
トルコ南部の地震による死者は、4万3,000人を超えている。
被害を受けた都市では、テント村が設置されたが、その数が不足している。
カフラマンマラシュ県 ビュレント・カラジャン知事「わたしたちはテントが欲しい。食料品は自分たちで調達できるが、可能なら、市民から要望が多いテントが欲しい」
1万1,000人以上が亡くなり、300棟以上が倒壊したカフラマンマラシュ郊外のサッカースタジアムには、テント村が設置され、3,000人以上の被災者に対し、生活用品の配給などが行われている。
一方、中心部には市民の姿はなく、がれきの撤去作業が進められていた。
 
●敵基地攻撃能力・原発回帰 2/17
日本共産党の志位和夫委員長は16日、国会内で記者会見し、大軍拡や原発回帰をめぐる国会論戦の現状について問われ、「大軍拡も原発回帰も、従来の方針の大転換なのに、国会と国民に一切の説明がないまま強行しようとしているのは、民主主義の国では許されない。引き続き徹底的に追及していく」と表明しました。
志位氏は、敵基地攻撃能力にかかわる二つの動きに言及。長距離巡航ミサイル・トマホークを米国から一括購入する政府方針と、大分県や青森県などの自衛隊施設で、長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」を保管する大型弾薬庫10棟の整備に着手するとの報道をあげました。
「非常に深刻なのは、どちらも国会で中身を明らかにしようとしていないことだ」と指摘。トマホークの一括購入に関しては購入数や単価が明らかにされず、大型弾薬庫をどこに置くかも示されていないとして、「長射程のミサイルの弾薬庫をどこに置くかは、地域のみなさんからすれば標的にされる危険もあり、非常に深刻な問題だ。国会で全く中身を明らかにしないまま、予算案を衆院で通過させることは絶対に認められない」と強調しました。
さらに、長射程ミサイルについては12式地対艦誘導弾能力向上型や極超音速の誘導弾なども含めた開発を進めているが、その内容(取得数、射程、配備先)などを全く明らかにしようとしていないと指摘。「肝心な中身は全部ブラックボックスだ。国民に白紙委任状を求めるやり方で、敵基地攻撃能力の保有に走っている。中身も問題だが、やり方の面でも民主主義の国では許されない」と批判しました。
志位氏は、原子力規制委員会が13日、原発の運転期間延長の新制度案を決めた問題について、「5人の規制委員のうち1人が反対し、1人が疑問を呈した。これは重大な問題だ」と指摘しました。
志位氏は規制委の議事録で、石渡明委員から「この改変は科学的・技術的な新知見に基づくものではない。安全側への改変とも言えない」「審査を厳格に行えば行うほど、将来、より高経年化した炉を運転することになる。私はこの案に反対します」と繰り返し反対が表明されたことに言及。賛成した杉山智之委員からも「外から定められた締め切りを守らなければいけないという感じで急(せ)かされて議論してきた」と疑問が出されたことも紹介しました。
その上で、「政府が任命した委員からこうした発言が出されたもとで決められた政府方針には非常に問題がある。国会審議を通じて『原発回帰』の危険性を徹底的に明らかにし、止めていきたい」と主張しました。  
●「軍事力増強」日韓はどこへ 2/17
ウクライナの戦争は引き続き大々的に報道されているが、東アジアでも新たなホットスポットが生まれつつある。日本政府は防衛費を5年間で倍増する方針を決め、アメリカ製長距離巡航ミサイル「トマホーク」の導入を目指すなど、反軍事の伝統から大きく舵を切っている。韓国では大統領が、核兵器を生産できる能力に言及した。
こうした動きの背景には、中国と北朝鮮が好戦的な態度を強めていることもあるが、主な原動力はロシアのウクライナ侵攻だ。日本と韓国ではタカ派が長年、不満を募らせてきたが、ここにきて大胆な発言と積極的な政策に転じつつある。
スタンフォード大学講師で現在、日本で取材をしている東アジア研究者のダニエル・スナイダーは「ウクライナ戦争が全ての変化の枠組みになっている」と語る。「攻撃的な武力行使はまた起こり得る、自分のところでも起こり得るという考え方に関心が高まっている」
昨年12月、日本政府は9年ぶりに「国家安全保障戦略」を改定し、防衛費と関係費を合わせた安全保障関連費を5年間でGDP比1%から2%に倍増する方針も決めた。
さらに、中国や北朝鮮のミサイル発射拠点を標的にできるトマホークの購入費として、約2100億円を2023年度予算に計上。これにより、日本は初めて敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することになる。また、沖縄に駐留する米海兵隊を改編して機動力の高い「海兵沿岸連隊」を配備する計画を、日米の閣僚協議で確認している。
日本は14年に憲法9条の「解釈を変更」して、自衛隊が同盟国の防衛に協力することを可能にした。自衛隊は約25万人の現役隊員を擁する大規模な軍隊だが、1945年の終戦以降、日本の「軍隊」が怒りに任せて発砲したことは一度もない。武器の輸出も認めていない。
国防に関して日本が新しい姿勢を示し始めたのは、安倍晋三が首相だったおよそ10年前からだ。拡大する中国と北朝鮮の脅威を抑止して、必要になれば対抗しなければならないという認識が徐々に高まっていた。
ロシアがウクライナ侵攻に向けて国境付近の兵力を増強するなか、21年10月に就任した岸田文雄首相の下でこうした変化が加速し、政策として固まりつつある。岸田は今年1月に訪米してジョー・バイデン米大統領と会談した際も、日本の安全保障戦略の転換を強調した。
アメリカは守ってくれるのか
新しい国家安全保障戦略で日本は、「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた」と非難。「同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」とする。
その結果、日本は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中に」あり、「自分の国は自分で守り抜ける防衛力を持つ」ことが安全保障外交を支えると主張している。さらに、基本的な原則の1つとして、「拡大抑止の提供を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸であり続ける」ことを挙げている。
ただ、日本はアメリカの核抑止力に依存しているにもかかわらず、自らの核兵器保有は明確に否定している。第2次大戦で核爆弾の攻撃を受けた唯一の国である歴史を考えれば、断固たる態度になるだろう。
一方、韓国にとって、核の誘惑に対するブレーキはそこまで固くはない。昨年5月に就任した尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、北朝鮮との緊張緩和という前任者の希望を捨てただけでなく、今年1月末には、北からの核ミサイル攻撃を阻止するために核兵器保有の可能性に言及した。
アメリカなどの反応を受けて尹は発言を後退させたが、国内に賛同者はいる。昨秋にはソウルの有力シンクタンク、世宗研究所のアナリストを中心に数十人の科学者と実務家が「韓国核戦略フォーラム」を結成し、韓国独自の核武装の必要性を主張している。
その背景として、中国と北朝鮮が軍事力を増強していることだけでなく、韓国が攻撃されたらアメリカは本当に戦ってくれるのかという懸念の高まりがある。
「アメリカに見捨てられるかもしれないという不安を、日本と韓国はずっと抱えている」と、スナイダーは言う。米下院の一部の孤立主義者と、在韓米軍の完全撤退を考えていたドナルド・トランプ前米大統領が復活する可能性は、これまで以上に無防備さを痛感させられる。
2国とも安全保障をアメリカに完全に依存しており、日本はアメリカの庇護にさらに寄りかかるしかないだろう。韓国も同じだが、必要になれば単独で行動するつもりがあると公言するようにもなった。
中国は圧力をかけ続けるのか
このように自己主張を強める日韓の政策が安全保障に及ぼす影響は、まだ分からない。ロシアはアメリカに敵意をむき出しにしているが、ロシアの軍隊は目下、アジア側の国境に真の脅威を与えるには忙しすぎる。
習近平(シー・チンピン)国家主席がアジア全域で圧力を強めることは想像に難くないが、一方で、中国は事態を沈静化させる道を探っているとも考えられる。少なくとも米中の高官は両方の道を模索している。
昨年11月にバイデンはインドネシアのバリ島で習と初めて対面による首脳会談を行い、米中の定期的な対話の再開に意欲を見せた。近くアントニー・ブリンケン米国務長官が中国を訪問する(編集部注:2月3日、延期を発表)。習が昨年末に新しい外相に任命した秦剛(チン・カン)元駐米大使は、米中関係の改善について友好的な口調で語っている。
もっとも、中国の「方向転換は世界に対してより好感度の高いイメージを見せるため」にすぎず、「アメリカとさまざまな同盟国の間にくさびを打ち込む」ために熱量を抑えているだけだと、中国の軍事に詳しいマサチューセッツ工科大学のM・テイラー・フラベル教授はみる。
この1年、東アジアでも東欧と同じように地政学的な変化が起こり、両者は互いに影響を及ぼしている。だが、これを世界的な新冷戦と呼ぶには時期尚早で、第3次世界大戦の前触れと考えるのはあまりに早計だ。
アメリカと中国には協力の道筋を見いだす時間がある。ウクライナの戦争は決着が見えたとは言い難い。日本と韓国が軍事態勢を強化することが中国と北朝鮮を抑止するのか、あるいは反撃のスパイラルを引き起こすのか、それはまだ分からない。
世界の緊張と危険が高まっていることは確かだが、あらゆる方向に転ぶ可能性が残されている。
●先進国で自給率最低。ニッポンの食料安保を脆弱にした主犯は? 2/17
世界最大の食料輸入国であり、カロリーベースの自給率が38%と先進国最低水準の日本。当然ながら国としての食料安全保障は脆弱と言わざるを得ない状況となっています。何がこの惨状を招いたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新恭さんが、二人の専門家の言を引きつつその原因を分析。さらにここまで日本の食料安保を危ういものにした「主犯」のあぶり出しを試みています。
高い飢餓リスク。世界で最も食料安全保障が脆弱な国家ニッポン
2月6日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の野間健議員は岸田首相の施政方針演説について、このように指摘した。
「岸田総理が施政方針演説で農業に言及した箇所は、1万1,494字のうち121文字しかなく、過去20年間の施政方針演説で最も少ない」
輸入肥料や飼料の高騰などで農家・酪農家が悲鳴をあげているというのに、岸田総理は農業に関心がないのではないか、というのが野間議員の疑念であろう。
カロリーベースの食料自給率が38%にすぎず、食べ物はおろか種や肥料、牛や豚のエサさえも他国からの輸入に依存するこの国で、アベノミクスの末路ともいえる円安が進み、高値で爆買いする中国に買い負ける傾向が強くなっている。
ただでさえ、世界はしばしば異常気象に見舞われているうえ、新型コロナウイルスの蔓延もあって、食料の生産、流通が打撃を受けている。そこに、世界の小麦輸出の30%を占めるロシアとウクライナの戦争が起こり、穀物相場を押し上げたため、他の食料生産国に輸出を渋る動きが出始めた。まさに、世界で食料の争奪戦が起きているのだ。
岸田首相は巨額の防衛費を用意して米国から兵器を輸入する安全保障政策には熱心だが、人間の生命の源である食料をどんな国際状況においても確保する防衛手段の構築については、ほとんど何のビジョンもないように見える。
施政方針演説では「肥料・飼料・主要穀物の国産化推進など、食料安全保障の強化を図りつつ…」とほんの一瞬、この問題に言及はしたものの、具体的方策は示されず、熱量は全く感じられなかった。
能天気な岸田首相の姿勢とは裏腹に、日本の食料安全保障の現況は、かなり危ういようである。二人の専門家の意見を聞こう。
元農水官僚ながら現在は経産省所管の独立行政法人「経済産業研究所」の上席研究員をつとめる山下一仁氏は、ウクライナ侵攻や中国の爆食などで、国際的な食料品価格が上昇しても、所得が高い日本では、買えなくなって食料危機が起こることはないと指摘する。ただし、台湾有事が起きたときは別だといい、その深刻度について、こう述べる。
「台湾有事などで日本周辺のシーレーンが破壊されると、小麦も牛肉も輸入できない。輸入穀物に依存する畜産も壊滅する。この時は、国内にある食料しか食べられないので、ほとんど米とイモだけの終戦時の生活に戻るしかない。しかし、終戦時の1人1日当たり米配給量(成人で2合3勺、年間126キロ)を今の国民に供給するだけで1,400万トン以上必要なのに、農林水産省が示した今年の米生産上限値は675万トンである。これでは半分以上の国民が餓死する」(経済産業研究所のサイトより、以下同じ)
同じく元農水官僚の鈴木宣弘・東大大学院農学生命科学研究科教授は、食料輸出国が輸出をストップし、お金を出しても買えない事態が懸念されるとし「日本は世界で最も食料安全保障が脆弱な国であり、それゆえ最も飢餓のリスクが高い国」と断言する。
その根拠として、現在でも先進国で最低レベルの食料自給率が、今後も低下し続けると予測されることをあげる。
「日本のカロリーベースの食料自給率は、2020年の時点で、約37%という低水準だ。(中略)しかし、37%というのは、あくまで楽観的な数字に過ぎない。農産物の中には、種やヒナなどを、ほぼ輸入に頼っているものもある。それらを計算に入れた『真の自給率』はもっと低くなる。農林水産省のデータに基づいた筆者の試算では、2035年の日本の『実質的な食料自給率』は、コメ11%、野菜4%など、壊滅的な状況が見込まれるのである」(鈴木宣弘著『世界で最初に飢えるのは日本』2022年12月発行、以下同じ)
国内で食べる食料が、国内で生産されたものでどれほど賄えているかを示す割合が食料自給率だ。カロリーで表す方法(カロリーベース)と、生産額で表す方法(生産額ベース)があるが、飢餓を問題にするならカロリーベースで考えるべきだろう。
日本におけるカロリーベースの食料自給率は2021年時点で38%だ。今の調査方法になった1965年は73%だったが、2010年以降は40%を割り込んでいる。
戦後、主食としてコメだけでなく、小麦を原料とするパンなども多く食べられるようになり、肉、卵、油を使う料理も広がった。家畜のエサにするトウモロコシなどの穀物や、油のもとになる大豆、菜種などは、山が多く平地が少ない日本で大量につくるのは難しいため、どうしても海外からの輸入に頼らざるを得ない。
農林水産省の試算では、輸入が止まった場合、イモ類を中心に栽培すればなんとかカロリーの面では日本人の食をまかなえるが、いつも食卓はイモが中心となり、卵は7日に1個、肉は9日に1食といった食事風景になるという。
山下氏は、台湾有事のようなことがないかぎり日本では食料危機の心配はないと言い、鈴木氏は世界的な不作や国同士の対立による輸出停止・規制によって、お金を出しても買えない事態に陥る可能性があると言う。両者にやや危機意識の違いは見られるが、いったんコトが起きれば日本人の餓死するリスクが格段に高くなるとする点では共通している。
しかし、日本の食料安保をこれほど脆弱にした“主犯”は誰かとなると、両者の間には大きな違いがあるようだ。
山下氏は農水省・JA農協・農林族議員の、いわゆる農政トライアングルによる減反政策の弊害を指摘する。
「終戦後、日本は大変な飢餓に苦しんだ。このため、食糧増産を目的として、終戦時の900万トンから20年をかけて1,445万トン(1967年)まで米生産を拡大した。しかし、その後、農政トライアングルが主導した減反政策によって、逆に50年間で半減され、とうとう700万トンを切ってしまった」
米価を高く維持するための減反政策で耕作面積は減り続けた。農地の造成により、720万ヘクタールの農地があるはずなのに、実際には440万ヘクタールしかない。その差280万ヘクタールを、半分は転用、半分は耕作放棄で喪失したと山下氏は指摘する。
現下のように穀物の国際価格が上昇すると、農政トライアングルが必ずといっていいほど持ち出すのが「関税や補助金などで国内の農業保護を高めるべきだ」という主張だが、国はこれまでJA農協という利益団体の声を聞き入れて農業予算を投じ、そのため逆に国内生産が減少してしまったのが実態だという。
一方、鈴木氏は、日本の農業が過保護でその結果として競争力が低下したというのは間違いだと主張し、米国の強い競争力の源泉について次のように指摘する。
「アメリカは穀物輸出補助金だけで多い年には1兆円近くも使う。補助金で安くした農産物で世界の人々の胃袋をコントロールするという、徹底した食料作戦を実行している」
輸入されている主要農畜産物のうち、米国産が占める割合は小麦73%、トウモロコシ64%、大豆73%、牛肉42%というありさまだ。
貿易自由化で食料の米国依存が進み、国内の農業が疲弊していってもなお、政府が食料自給率を上げようとしなかったことについて、鈴木氏は「食料自給率を上げて、国民の命を守るということは、アメリカからの輸入を減らすことを意味する。そのため、政治家も官僚も、そうした方向性の政策はやろうとはしない」と述べ、貿易自由化を推進した経産省、経産省官僚に牛耳られた第二次安倍政権、そして農業予算の削減に熱心な財務省をやり玉に挙げる。
「日本の『食』を、安全保障の基礎として位置付けるどころか、むしろ、貿易自由化を推し進め、相手国に差し出す『生け贄』のように扱ってきたのが、いまの政府だ。その結果、自動車などは、輸出先の関税が下がったので、大きな利益を享受している。いまの政府で力を持っているのは、経済産業省や、財務省だ。(中略)第二次安倍政権では、今井尚哉秘書官を始め、経産省出身者が官邸を牛耳った。(中略)日本の農政を台無しにしている、もう一つの犯人は、財務省だ。(中略)彼らは予算を削ることしか頭にない」
たしかに今の岸田政権も、政務担当の首席秘書官が元経産省事務次官、嶋田隆氏であり、経産省主導が続いている。
両氏の問題意識は新自由主義的な規制改革をめぐって真っ向から対立しているようにみえるが、多分、どちらの見方も正しいのだろう。農政トライアングルが既得権死守にやっきになってきたことも事実だし、経産省主導の安倍政権が自由貿易の名のもとに、米国の言いなりになったのも事実である。
人手不足、低所得、後継者難により農家の減少は続いている。耕作放棄地は増える一方だし、農業に参入した大企業はほとんどが撤退している。コロナ禍による牛乳の余剰や、エサ代・電気代の高騰で、酪農家が悲鳴をあげ、倒産・廃業が相次いでいる。農家や酪農家への支援予算が中抜きされ、効果的に使われていないという問題もある。
この国の農業をどうやって立て直すのか。政府は昨年12月27日、食料安全保障強化政策大綱を決定した。食料を過度に輸入に依存する構造を改めるため、自給率の低い小麦や大豆などの国内生産拡大へ向けて水田の畑地への転換を推進するなどという内容だが、山下氏や鈴木氏が示す課題を解決できるかとなると、甚だ心もとない。そもそも、これまで農業政策は計画倒れを繰り返してきた。
農業界の既得権益や経産省の省益が幅を利かせている限り、食料安全保障が強化されていくとは思えない。いい加減に政府は、日本を蝕むムラ社会の呪縛から抜け出すべきである。
ただし、岸田首相にそのリーダーシップを期待するのは所詮ムリかもしれないのだが…。
●「子ども関連予算」“GDP比倍増”20兆円強が一夜でパァ  2/17
「将来的な倍増を考える上でのベースとしてGDP比に言及したわけではない」──一夜にしてGDP比4%の「子ども関連予算」が雲散霧消だ。冒頭の発言の主は磯崎仁彦官房副長官。16日の記者会見で、前日の岸田首相の国会答弁を修正したものだ。
岸田首相は15日の衆院予算委員会で「家族関係社会支出は2020年度の段階でGDP比2%を実現した。それをさらに倍増しようと申し上げている」と堂々と明言。GDP比2%を目指す防衛予算に対しても「決して見劣りするものではない」と強調した。
家族関係社会支出には、児童手当や保育サービスなど国と地方自治体が負担する現金・現物給付が含まれる。20年度は10兆7536億円でGDP比2.01%となった。岸田首相の答弁通り「さらに倍増」すれば、世界屈指の予算を充てるハンガリーのGDP比4.7%に匹敵する。同国のオルバン政権は反移民政策の一環で人口増加に執念を燃やし、子ども4人産んだ女性は所得税ゼロなど大胆な少子化対策を実施。出生率を改善させている。
「数字のひとり歩き」を恐れ
この覚悟が岸田首相にもあれば少子化に歯止めがかかりそうだが、GDP比4%は総額20兆円強。10兆円以上の追加予算を捻出する必要がある。
「倍増のベースとなる子ども関連予算は、政府内にさまざまな区分けがある。4月発足の『こども家庭庁』の2023年度予算案は約4.8兆円、省庁横断の『少子化対策関連予算』は22年度に約6.1兆円。これらと比べても10兆円は巨額で、どうやっても消費税率アップなど増税を連想させます。数字のひとり歩きを恐れ、官邸内も慌てて火消しに動いたのでしょう」(政界関係者)
たった1日で「マズイ答弁」を修正するのは、岸田首相の常套手段だ。昨年秋の臨時国会でも、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)問題を巡り宗教法人法に基づく解散命令の要件に関する答弁を一夜で修正。「民法における不法行為は含まれない」との認識で批判を浴びると「不法行為も入り得る」と百八十度方針を転換し、「朝令暮改にも程がある」と質問した野党議員をあきれさせた。
「行政のトップである首相の国会答弁は法令と同等に扱われます。その重みを岸田首相はまるで自覚していない。答弁内容がコロコロ変われば行政の信頼性を大きく損なう。国会答弁が不安定な人物は首相を務めてはいけません」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
もっと言えば、20年度に家族関係社会支出がGDP比2%に達したのは、新型コロナ対策の「子育て世帯臨時特別給付金」などの一時金でゲタを履かせた結果だ。19年度は1.74%でOECD平均(2.1%)を下回っていた。適当な数字でごまかす半可通に少子化対策を語る資格はない。  
●防衛費財源めぐり国有財産を有効活用へ 自民党 2/17
防衛費増額のための財源を議論する自民党の特命委員会は、国有財産を有効活用していくことで安定的な財源を確保する必要があるとの方針を確認しました。
自民党・萩生田政調会長:「昨年暮れ、財務省から示されたスキームのなかには国有財産の売却という項目がありましたので来年度以降も、さぞ売却をする予定の財産もあるんだろうと思っているので、今後の方向を決めていきたいす」
自民党は歳出改革など増税以外で見込んでいる財源について検証を行っていて、17日の特命委員会では国有財産の現状や活用策を巡って議論しました。
政府は東京駅近くにある商業施設「大手町プレイス」の売却により、来年度は約4000億円を確保しています。
一方で、出席者からは、国有財産の売却収入では「恒久的な財源にはならない」といった意見も出ました。
政府・自民党としては霞が関の庁舎を高層化して民間に貸し出すなど、有効活用することで財源を捻出したい考えです。
今後は国債の償還ルールの見直しや歳出削減など、税以外の財源確保策に向けた議論が本格化します。

 

●共同声明検証を 金融正常化、市場との対話重要―翁日本総研理事長 2/18
産学の有識者で構成する「令和国民会議(令和臨調)」は、政府・日銀の共同声明について、現在の2%物価上昇目標を「長期的な目標」と位置付ける新たな声明を作成するよう提言した。臨調で運営幹事を務める日本総合研究所の翁百合理事長はインタビューで、声明の効果を検証する必要性や、金融政策を正常化する際の市場との対話の重要性を強調した。主なやりとりは次の通り。
――提言の狙いは。
政府の財政支出が増え、(財源の多くが)国債で調達されているが、金利をほぼゼロに固定してきたことの影響があることに問題意識を持つべきだ。この10年間、(経済政策は)金融政策に偏重していた。財政は「ワイズスペンディング(賢い支出)」となるように見直すべきだ。現在の共同声明の効果を検証して、やるべきことをやらなければ、金融政策の正常化も難しくなる。
――2%物価目標を長期目標にするよう求めた。
日銀のマイナス金利政策や長短金利操作による副作用などを考えると、少し長期的な目標とすることで、金融政策に機動性を持たせることが大事だ。生産性向上による賃金・物価の上昇を通じた持続的成長が実現していない今の局面では、政府・日銀の連携は必要だ。物価目標を掲げることは説明責任の上でも必要だ。
――昨年12月に日銀は政策を修正した。
日銀が国債の過半を購入しているため、市場の流動性が低下していることは大きな問題だ。黒田東彦日銀総裁は否定したが、市場は「利上げ」と受け止めた。国債を特定の利回りで日銀が無制限に購入する「指し値オペ」などが増え、かえって日銀の支配度が高まっている印象だ。
――日銀と市場との対話をどう考えるか。
いずれ金融正常化を考える必要があり、その際に金融システムの安定性が重要になる。海外を見ても、(中央銀行の)メッセージが政策に効果的になることも、そうでなくなることもある。市場とのコミュニケーションを強化することが大事だ。
●米国債、デフォルトに陥る可能性―デッドラインは6月中旬 2/18
米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まっている。米国債のデフォルトが現実味を帯びれば、株式市場は暴落、国債価格は急落し、急激なドル売りによるドル安・円高が進行するなど、世界の株式、債券、為替市場は大混乱に陥るだろう。
1月19日、米財務省のイエレン長官は2021年末に設定された政府の債務上限額約31兆4000億ドル(約4100兆円)の上限に達したことを公表した。
債務上限に達すると原則として新規の国債発行が禁止されるが現在、米財務省は公務員退職・障害基金の国債購入停止や為替安定化基金への投資停止などの特別措置を発動し、緊急避難的に米国債のデフォルトを回避している。
イエレン長官はこれらの特別措置と財務省の手元資金、4月15日に予定される連邦税収を合わせれば、6月中旬までは債務返済や歳出を継続することができるとしている。つまり、米国債がデフォルトに陥るデッドラインは6月中旬ということだ。
「債務上限」は米連邦政府が借金できる上限額を指す。米国では議会が政府の借入額を決定する権限を持っており、議会が決めた債務上限額の範囲内で財務省が国債などを発行して、資金調達(借り入れ)を行う。
米国では債務上限の変更は毎年のように行われており、いわば“年中行事”のようなものだ。第2次世界大戦後から現在までに債務上限は102 回変更されている。ところが、稀に議会での債務上限引き上げ協議が“暗礁に乗り上げ”、米国債のデフォルト危機が現実味を帯びることがある。
直近では、オバマ政権下の11年がそうだった。米国では法案成立には上下両院での可決が必要だが、当時、与党民主党が上院で過半数、野党共和党が下院で過半数を占める“ねじれ議会”となり、オバマ政権と野党共和党が債務削減案を巡って対立、議会での債務上限引き上げ法案の交渉が難航した。交渉が合意して債務上限が引き上げられたのは、財政資金が枯渇する当日で、米国債はデフォルト寸前の危機的状況に陥った。
22年11月の中間選挙で、共和党が下院の多数派を獲得、上院ではわずか1議席差で与党民主党が過半数を守ったが、上下院で“ねじれ議会”となっている。このねじれ議会は11年よりも議会の対立が激しく、米国債がデフォルトする可能性は11年よりも高いと見られている。
新議会招集後の下院議長の選出が共和党保守強硬派議員の反対で難航し、15回もの投票が行われたことは日本でも大きなニュースとして取り上げられたが、下院議長に就任したケビン・マッカーシー議員は、債務上限の引上げを政治問題化している。
米国では24年の大統領選挙を控え、共和党が新型コロナウイルス対策を含め、大きく膨れ上がった歳出に対して、債務上限の引き上げと引き換えに社会保障費やメディケア給付などを含めた歳出削減を求めており、ねじれ議会とともに債務上限の引上げの大きな障害となっている。
2月7日、バイデン大統領は一般教書演説の中で、債務上限引き上げ問題で米国がデフォルトに陥る事態は招かないと強調し、議会に上限引き上げを呼び掛けたが、交渉が進展する気配すら見られないのが現状だ。
これまで米国債がデフォルトに陥ったことはない。デフォルトが引き起こす影響の大きさを考えれば、最終的には両者が歩み寄り、債務上限の引き上げが行われると楽観視する向きは多い。だが、米国債がデフォルト直前まで債務上限の引き上げ交渉が難航すれば、世界中の各市場は大きく動揺するだろう。
前述の財政資金が枯渇する当日まで債務上限引き上げ交渉が難航した11年には、米格付け機関のスタンダート&プアーズが米国の長期発行体 格付けを最上位のAAAからAA+に格下げた。債務上限の引き上げ交渉がデッドラインに近づくとともに、投資家の警戒感が高まり、米国株式市場は15%以上も下落した。米国債は一時的に急激な売りにより、価格が大幅に下落し、利回り(長期金利)は急上昇し、為替相場ではドル安・円高が進行した。
同様の事態は今回の債務上限引き上げでも発生する可能性が高い。最終的には米国債のデフォルトが回避されるとしても、米国の財政資金が枯渇するデッドラインが迫れば、それを引き金に、世界の市場が混乱に陥る可能性があるのだ。
一部では、6月15日に米国の連邦税収が予定されることで、デッドラインは秋口まで引き延ばせるとの見方もあるようだが、現時点では米財務省のイエレン長官は6月中旬がデッドラインになるとの見方を変えておらず、今後、米国債のデフォルト危機に対する警戒感は一層高まるものと思われる。
国内で植田和男氏が日本銀行の新総裁に就任予定となったことで、今後の日銀の金融政策に注目が集まっているが、世界の市場に与えるマグニチュードでは米国債のデフォルト危機の方がはるかに大きい。今後の米国議会の動向を注視していく必要がある。
●予算案、月内衆院通過の公算 与党ペース、立民抵抗封印 2/18
2023年度予算案は月内に衆院を通過する公算が大きくなった。
採決の前提となる中央公聴会を16日に終え、審議時間が採決の目安となる70時間台に達しつつあるためだ。立憲民主党が共闘する日本維新の会に配慮し、日程闘争を封印していることが「順調な審議」(自民党幹部)の背景にある。
「衆院の予算審議が大詰めを迎えている。衆院からの予算案送付に備え、国対を中心に万全の態勢を取りたい」。自民党の世耕弘成参院幹事長は17日の記者会見で、年度内成立に全力を挙げる考えを示した。
予算案は1月30日の衆院予算委員会で実質審議入り。中央公聴会の開催は過去10年で昨年(15日)に次ぎ2番目に早く、審議時間も17日時点で66時間まで積み上がった。予算案は憲法の規定で参院送付から30日で自然成立するため、月内に衆院で可決されれば年度内の成立が確定する。
週明けの20、21両日に分科会、22日には集中審議が予定される。与党は27日に4回目の集中審議を行った上で、28日に衆院を通過させる日程を軸に調整しており、立民も抵抗しない構えだ。
立民が審議拒否を控えるのは、国会共闘を進める維新が遅延戦術を嫌っていることが大きい。立民が8日の衆院憲法審査会の幹事懇談会を欠席した際、維新は「審議を拒否するなら協調は全部ご破算」(藤田文武幹事長)とけん制し、立民は次の16日の幹事懇に出席せざるを得なかった。
維新の馬場伸幸代表は同日の会見で「立民の目が(審議充実という)本丸に向いたのはわが党との協調路線の産物だ」と語った。
昨秋の臨時国会で閣僚3人の「ドミノ辞任」に苦しんだ首相が、「政治とカネ」の疑惑を抱えた秋葉賢也前復興相を昨年末に辞任させ、国会の火種をあらかじめ消したことも影響している。
首相は2月に入り、LGBTなど性的少数者を巡る差別発言をした前首相秘書官も間髪入れず更迭。立民はこれに関する政府の対応を不服として予算委から退席したが、維新に審議復帰を促され、審議拒否はわずか40分間だった。  
●日・ウクライナ外相会談 2/18
現地時間2月18日午後0時10分(日本時間同日午後8時10分)から約20分間、ミュンヘン安全保障会議に出席するため、ドイツを訪問中の林芳正外務大臣は、ドミトロ・クレーバ・ウクライナ外務大臣と会談を行ったところ、概要は以下のとおりです。
1 林大臣から、日本は、G7議長国及び国連安保理非常任理事国として、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示していくと述べた上で、同日のG7外相会合における議論に言及し、G7を始めとする国際社会が引き続き結束して厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続できるよう、日本は G7議長国として役割を果たしていく旨述べました。
2 さらに、林大臣から、日本は、ウクライナ及び周辺国等に対し、人道、財政、復旧・復興の分野で総額約15億ドルの支援を順次実施してきていると述べた上で、エネルギー支援・越冬支援、地雷・不発弾対策及び放送機材の供与等の支援の進捗状況を紹介しました。
3 これに対し、クレーバ外相から、日本のこれまでの支援に対して深い謝意が表明されました。
4 両大臣は、二国間及び国際場裡での協力を一層強化することの重要性を確認し、緊密に連携していくことで一致しました。
●くすぶる再編の火種、地銀「一県一行」時代は目前か  2/18
2023年2月、コンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の「横浜銀行」が、非上場の「神奈川銀行」と経営統合すると発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化する。この結果、神奈川県の地銀は1グループのみとなる。
横浜銀行と神奈川銀行がともに営業地盤とする神奈川県は、人口が全国2位、民間事業所数も上位と、国内屈指の高い優位性・成長性を持つ魅力的なマーケットだ。それにも関わらず、経営統合により地銀が1グループだけとなる衝撃は大きい。
他の都道府県の地銀は、「神奈川県に比べて人口も経済規模も劣るのに、なぜ地銀が2行、3行とあるのか」について、投資家などステークホルダーに説明する必要に迫られるだろう。最終的には、合従連衡を選ぶことになるはずだ。
地銀「一県一行」時代へ加速
横浜銀行・神奈川銀行の経営統合の前から、すでに全国各地で同一県内の地銀同士による合従連衡が相次いでいる。
例えば2020年10月には、福井県の「福井銀行」が「福邦銀行」を完全子会社化している。2023年6月には、「八十二銀行」が「長野銀行」を完全子会社化し、さらにその2年後の2025年を目途に合併する予定である。
また2023年10月には、「福岡銀行」などを擁するふくおかフィナンシャルグループが「福岡中央銀行」を完全子会社化する予定だ。2024年4月には、プロクレアホールディングス傘下の「青森銀行」と「みちのく銀行」が合併予定であり、あいちフィナンシャルグループ傘下の「愛知銀行」と「中京銀行」は、2024年内に合併予定だ。
現在、地銀・第二地銀あわせて99行が存在するが、すでに都道府県内に地銀が1行または1グループしかないところもある。埼玉県、山梨県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、鳥取県の9府県である。この先、上述した青森県や長野県、神奈川県が加わることで、12府県となる。
一方で、福岡県は県内に5行、静岡県は4行、岩手県、山形県、福島県、東京都、千葉県、愛知県、富山県、沖縄県の8都県では地銀が3行ある。
地銀同士の統合・合併などを独占禁止法の適用除外とする特例法や、日銀の支援制度、政府からの補助金支給などもあり、地銀「一県一行」に向けての動きはこの先も続くことになろう。 
「金利上昇」も地銀再編を後押しする
政府や金融当局の後押しに加え、日銀による利上げ観測も地銀再編を後押ししそうだ。
2022年12月、「日銀ショック」がマーケットを襲った。日本銀行が予想に反して金融緩和政策の「修正」(長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%程度から同0.5%程度に拡大)を決定したことで、長期金利が急騰する一方、日経平均は暴落し円高が急速に進んだ。一方、大手地銀などの株価は、金利上昇により利ざやが改善するとの期待から、軒並み上昇した。
概して金利上昇局面では、預金金利は据え置かれ、貸出金利が先行して上昇する傾向にある。
実際に現時点で、新規住宅ローンの固定ローンなどを引き上げる銀行はあっても、期間限定のキャンペーンを除き、預金金利を引き上げたという話は聞かない。多くの銀行の定期預金金利は期間を問わず、0.002%程度のままだ。
本業である貸出金から得られる利息収入は、地銀の収益の大部分を占める。利息収入を伸ばすには、「貸出金利回りを上げるなどで利ざやを増やす」、「貸出金残高自体を伸ばす」しかない。まさに、日銀の利上げにより利ざやが拡大し、合従連衡による規模の拡大で貸出残高を伸ばすという、質量の両面から成長戦略を追える環境が地銀にとって到来しようとしているのだ。
もっとも、金利上昇は地銀にとっていい話ばかりではない。貸出金利の上昇は、取引先企業にとっては、利払い負担の増加を意味する。コロナ対策の無利子・無担保融資である「ゼロゼロ融資」の返済滞りや倒産の増加とあわせ、地銀の不良債権が増えていく可能性もある。
さらに問題なのは、地銀が保有する大量の国債だ。長期金利が上昇すれば、国債価格は下落し、その分含み損を抱えることになる。地銀はすでに、米国の利上げにより、米国債など外国有価証券で含み損を抱えている。日本の国債まで含み損を抱えることは、経営の重荷となる。
問題となっている「仕組債」など、個人向け金融商品販売の減少により手数料収入も期待できない状況だ。
人口減少や過疎化による地元市場の縮小、異業種の進出やデジタル化の進展による顧客の地銀離れといったより根本的な問題は解決しておらず、地銀の3大ビジネスである貸出・有価証券運用・手数料の見通しは決して明るいものではない。
単独での生き残りは楽な道ではない
こうした厳しい環境下、地銀が今までと同じビジネスモデル、同じ商品・サービスラインナップで生き残れる可能性は低くなってきている。規模の経済が働かない資産規模1兆円以下の地銀や、コア業務純益が10億円未満の地銀はなおさらだ。まさに今回、合従連衡を選択した長野銀行、福岡中央銀行、そして神奈川銀行がこれに該当する。
他の同規模の地銀も、単独での生き残りは事実上困難であり、店舗や人員のリストラを実施したうえで、規模の経済を得るための合従連衡を選択するはずである。
それにも関わらず、「合従連衡は選択肢の1つにすぎない」「経営統合にメリットがない」「単独で生き残れる」といった地銀トップや専門家の発言がいまだに散見される。確かに、再編でも単独でも、収益向上により企業価値が向上し、顧客や地元経済にとって恩恵があるならば、どちらでもいい話だ。
もっとも、「なぜ単独で生き残れるのか」「どのように持続的に収益を増やし、株式価値を向上させるのか」を具体的に示している地銀トップや専門家は、見当たらない。
「規模の経済」が地銀の優劣を分ける
銀行は、システム費用など多額の固定費が発生するため、規模の経済性(スケールメリット)が働きやすい。
例えば、貸出の規模が2倍となっても、システム費用が2倍かかるわけではなく、合従連衡による業績拡大と経費削減余地が大きい業種なのだ。商品やサービス内容、金利水準ではほとんど差がつかない貸出を含む普通銀行業務において、規模の拡大で勝負することは定石だ。
しかも、金利上昇により利ざやが拡大することで、貸出規模が業績の優劣を分ける規模の経済が効く世界が戻ろうとしている。人口減少と低金利環境、デジタル化による3重苦に加え、政府・金融当局による地銀再編を後押しする動きがあるなか、金利上昇による利ざや拡大のメリットを享受する思惑もあり、地銀の合従連衡はこの先も進むことになろう。
再編により資産規模が拡大し、自己資本が分厚くなることで、経営そのものが安定すれば、その分、積極的にリスクを取って貸出を行うこともできるようになるだろう。
●遅い質問通告、官僚残業が問題に 働き方改革進展は不透明 2/18
岸田文雄首相や閣僚の答弁作成に関わる官僚の長時間労働が問題視されている。議員の質問通告の遅れが一因との見方もあり、政府の調査によれば、昨年秋召集の臨時国会では答弁作成終了の平均時刻は委員会当日の午前2時56分だった。与野党は「速やかな通告に努める」と申し合わせているが、改善が進むのかは不透明。子ども政策や防衛費増額などを巡る国会論戦が始まり2月下旬で1カ月。働き方改革の課題は残ったままだ。
与野党は1999年に国対委員長会談で「質問通告は委員会2日前の正午まで」と申し合わせた。その後、審議日程が前日まで決まらないことが多い状況を踏まえ、2014年に「速やかな通告に努める」と曖昧な表現になり、後退した。
内閣人事局が昨年の臨時国会会期中の11月14日〜12月10日を対象に調査したところ、委員会2日前の正午までに通告されたのは全体の19%。多くは前日の午後6時までに届き、前日午後6時より後にずれ込むケースも6%あった。答弁作成には平均で約7時間かかった。

 

●年金だけで生活できなくなるんですか?  2/19
年金だけでは生活できなくなります。
60歳から69歳までの平均消費金額は夫婦あわせて月24万円程度です(家計調査報告書・平成29年)。一方で国民年金と厚生年金の平均月額は19万円程度です。つまり、毎月5万円の赤字が発生します。
仮に65歳で引退して1,000万円の貯蓄があった場合は83歳、2,000万円貯蓄があった場合は100歳には貯蓄が尽きてしまいます。これがいわゆる2019年に問題となった「老後2,000万円問題」です。
年金だけでは生活できないのでしっかり2,000万円は貯蓄していきましょう、というだけの内容です。しかし、「国は国民の生活を守ってくれないのか?」という雰囲気になり、当時はかなり話題になりました。
ここではっきり言いますが、国は国民の生活を守ってくれません。正確に表現すると、守っている余裕など日本の財政にはもうないのです。考えてみたら当たり前です。
2018年の年金、医療、介護などの社会保障給付費は合計で121兆円です。財務省の予想では2025年は140兆円、2040年は190兆円です。そして、日本は人口が減っていくので、収入である歳入が増えることはおそらくありません。
売上は増えなくて費用は確実に増えていく。そんな会社は必ず倒産します。日本はそういう状態なのです。そんな日本に国民一人ひとりの生活の面倒を見ている余裕などないのです。
だから、老後生活資金は自ら蓄える必要があるのです。老後2,000万円問題は日本人がその事実を見つめ直す良い機会だったのですが、政治的な批判を避けるために政府は蓋をしてしまいました。
日本は財政に余裕がないどころか、最終的には年金の金額を減らさなければなりません。現在の平均年金額月19万円が30年後は15万円になっていることもあり得ます。
もう1つの問題は寿命が延びることです。2020年の日本人男性の平均寿命は81歳、女性は87歳です。医療の発達により2045年には平均寿命は100歳になるとのことです。長生きは素晴らしいことですが、間違いなく言えることは現在よりも生活費をたくさん蓄えておかなければ今のような老後の生活は送れないということです。
年金だけでは豊かな老後生活は送れない。2,000万円の貯蓄でも十分ではない。100歳まで生きる場合の毎月の赤字を想定して資産形成しよう。
●日本政府、いよいよ借金取り立て開始…コロナ禍の〈ゼロゼロ融資〉の返済 2/19
新型コロナの蔓延で、多くの企業が窮地に陥りましたが、日本政府は実質無担保のゼロ金利融資を行い、救いました。しかし、今度はその返済が始まったことで、倒産の危機に陥る企業が増えると予想されます。「再び救う」という選択肢はあるのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
「ゼロゼロ融資」返済本格化で、企業の倒産も増加?
新型コロナの影響で多くの飲食店等が苦境に立たされた際、政府は、実質的に無担保のゼロ金利融資「ゼロゼロ融資」をおこなって彼らの窮地を救いました。
それにより多くの企業が救われ、経営者や従業員が助かったのみならず、コロナ収束後に我々が美味しい食事等を楽しめることになったのですから、ありがたいことです。
もっとも、これから返済が本格化するようなので、倒産する企業も多いだろうといわれています。その中には、新型コロナ前から経営が傾いていて再建の見込みが乏しかった企業(ゾンビ企業)もあるでしょう。それを見て、「ゼロゼロ融資はゾンビ企業を延命させただけだ」と批判する人も出てきそうです。
しかし、筆者はそうした批判はしません。その理由のひとつは、急いで判断する必要があったため、ゾンビ企業か否かをしっかり見定めるのが困難だったこと、もうひとつは、不況期にはゾンビ企業も貴重な雇用の受け皿となるからです。
判断ミスで「健全な企業」を倒産させるぐらいなら…
ゾンビ企業か否かをじっくり見定める時間がない場合、判断ミスが生じます。そのミスには「ゾンビを延命させてしまうミス」と「健全な企業を倒産させてしまうミス」があります。
ゾンビ企業を延命させてしまっても、永遠に延命させるわけではないので、失うものは多くありませんが、一方で健全な企業への融資をせずにコロナ倒産を招いてしまうと、その損失は大きなものとなりかねません。経営者や従業員の悲劇というのみならず、店のノウハウや信用等々といった見えない資産が雲散霧消してしまうからです。
日本人は、ミスを嫌う人が多いので、「どうせミスをするならどちらのミスがマシか」という話をすると「ミスをしないように慎重に判断しろ」という人も多いのですね。しかし、慎重に判断してもミスをする場合もありますし、慎重に判断する時間が無い場合もありますから、「まだマシなミス」という考え方は重要だと思います。
不況期はゾンビ企業にも存在意義あり
ゾンビ企業は立ち直る見込みが小さいわけですが、それでも不況期には雇用の受け皿として経済に貢献しているわけですから、大いに存在意義があるのです。彼らが倒産してしまえば失業者が増え、失業者は消費が少ないので景気も一層悪くなります。
失業対策として公共投資をおこなって無駄な道路を作るよりは、未だ使える設備を使ってゾンビ企業に営業を続けてもらうほうが、国民経済的にも望ましいでしょう。財政負担も「今後生じるであろう貸し倒れ損失」のほうが「失業対策に必要な公共投資予算」より少ないかもしれません。
「ゾンビ企業が倒れずに労働力を抱え込んでいると、成長産業に労働力が移動しない」という批判を耳にすることがありますが、そんなことはありません。不況期には失業者が大勢いるのですから、ゾンビ企業を潰さなくても成長産業は好きなだけ労働力を確保できるのです。
むしろ、ゾンビ企業が倒産して景気が悪化すれば、成長企業になるはずだった「成長企業の赤ちゃん」が育たなくなったり、起業を考えている人が景気悪化を理由に起業を諦めたりする可能性のほうを、筆者は心配しています。
筆者も、好況期にゾンビ企業が労働力を抱え込むことは好ましくないと考えています。その意味では、景気がある程度回復して労働力不足が問題となり始めた時点でゼロゼロ融資の返済が始まる、というのは幸運なことだと思います。余談ですが、労働力不足ならば雇用調整助成金も打ち切るべきでしょうね。
もっとも、そもそも好況期にゾンビ企業が労働力を囲い込む可能性は大きくなさそうです。好況期に労働力が不足してくれば、賃金が上がりますから、ゾンビ企業は高い賃金が払えず、従業員が効率的な企業に移っていくでしょうから。
「ゾンビ企業も助けてやれ」は無理な話
上記の囲い込み懸念とは反対に、「ゾンビ企業だって倒産すれば経営者が悲惨なのだから、助けてやれ」という意見もあるでしょう。しかし、景気が回復して労働力不足になった段階では、ゾンビ企業を助けるべきではないと思います。
労働力不足ということは、だれかが我慢をしなければならないわけですから、すべての企業が生き延びるというのは無理なのです。それならば、高い賃金の払える効率的な企業に我慢してもらうより、高い給料の払えない非効率な企業に諦めてもらうべきでしょう。
労働力不足のときであれば、ゾンビ企業が倒産しても労働者は路頭に迷うことがありません。むしろ、いままでより条件のいい仕事にありつける可能性も高いでしょう。経営者は悲惨でしょうが、彼らは事業を営むためにリスクを覚悟する必要があることを認識した上でビジネスをしているのでしょうから、それは仕方のないことだというしかありませんね。
●「ポスト岸田」萩生田氏が存在感 政府と党の調整役、首相との距離感に腐心 2/19
自民党の萩生田光一政調会長が、岸田文雄首相との距離感に腐心している。防衛費増額に伴う首相の増税方針に否定的な党内保守派の意向を代弁し、税以外の財源確保を模索。一方、「ポスト岸田」に色気を見せ、最近は首相への配慮をにじませる発言も多い。首相と距離を置く菅義偉前首相との関係も良好で、政府と党の調整役を果たし、存在感を高めようとしている。
「国民に負担をお願いする前に、できる限りの方策を尽くさなければならない」。萩生田氏は17日、防衛費の財源を検討するため自らが主導して立ち上げた党の特命委員会で、首相の増税方針をけん制した。
防衛費増額を巡り、党内保守派をけん引した故安倍晋三元首相が生前に国債発行による財源確保を主張したこともあり、萩生田氏らは首相の増税方針に反発。萩生田氏は昨年末の民放番組で「(増税の)明確な方向性が出た時は国民に判断いただく必要がある」と述べ、首相の解散権にまで踏み込んだ。
所属する党内最大派閥、安倍派は会長不在が続く。萩生田氏は1月末のネット番組で「(安倍氏の)一周忌をめどにリーダーを立てるべきだ」「私で役に立つことがあると言ってくれるなら、どういう立場でも頑張る」と発言し、会長就任に含みを残した。
そうした中、萩生田氏は同30日の衆院予算委員会で「将来世代に負担を先送りしないという首相の強い責任感を共有する」と首相を持ち上げた。自民の閣僚経験者は「首相が言えば保守派は反発するが、萩生田氏が言えば反対できない」と解説。首相にも配慮を示しつつ、保守派のまとめ役を務め、「ポスト岸田」の座を狙う姿勢がうかがえる。
●立憲民主党、維新と共産を両にらみ 党大会で活動計画 2/19
立憲民主党は19日、都内で党大会を開いた。国会で「共闘」する日本維新の会を念頭に各党と政策別に連携する方針を示す。選挙面で組んできた共産党と維新との協力を両にらみで深め中道層の取り込みを狙う。安全保障や憲法を巡る維新との隔たりは大きく支持拡大の戦略は描けていない。
党大会で決める2023年度の活動計画は国会対策で「各党との『政策別連携』を深化する」と明記する。立民は22年秋の臨時国会から維新と国会運営で共闘した。与野党協議のうえで成立した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済新法を「国会の歴史に残る快挙」と強調する。
通常国会は維新との間で行政改革や電気代の高騰対策などのテーマごとに合同で勉強会を開いたり視察したりして協議を重ねる。20日には児童手当の所得制限を撤廃する法案を共同提出する。
立民は21年衆院選と22年参院選で、与野党が接戦の選挙区を中心に共産党などと候補者を一本化したものの党勢を拡大できなかった。維新との協力を深める背景には支持層をリベラル寄りだけでなく、自民党や維新を支える保守層の一部にも広げない限り政権交代できないとの危機感がある。
立民の野田佳彦元首相は13日の講演で、共産党などとの連携を重視しすぎると「政権からどんどん遠ざかってしまう」と指摘した。
岡田克也幹事長ら党執行部は維新との選挙協力を視野に入れるものの両党の溝は小さくない。典型が安保と憲法だ。敵のミサイル基地などをたたく「反撃能力」を巡って維新は保有を容認する一方、立民は相手の攻撃着手段階の行使などを認める政府方針に反対する。
憲法改正は立民が消極的、維新は積極的だ。維新は自民党などと衆院憲法審査会を早期に開くよう求めたのに対し、立民は23年度予算案の審議に専念すべきだと主張して反対した。立民の意向が通り衆院憲法審の今国会の初開催は3月まで先延ばしとなった。
維新の馬場伸幸代表は2月16日の記者会見で「改憲議論が妨害されるなら協調も見直さざるを得ない」と批判した。藤田文武幹事長も15日に「あまりひどいようだったら(立民との関係を)ご破算にしたらどうかと代表らに提案している」と話した。
立民内にも維新との接近への慎重論が根強い。たとえば共産党が候補者擁立を見送る「野党共闘」の恩恵を受けて当選した議員らだ。「次期衆院選も都市部を中心に共産党との協力が必要だ」との意見がある。
共産党の志位和夫委員長は他の野党に「岸田政権の大軍拡を許さない、この一点で協力を呼びかけたい」と表明した。維新について「自民党以上に強硬なタカ派だ」と述べ、立民との接近を警戒する。
立民が共産党との選挙協力を意識して憲法や安保でリベラル寄りの立場をとれば維新との共闘が揺らぎかねない。中道層の支持を広げられるかどうかも左右する。
●「異次元の少子化対策」に期待する保育従事者の割合は?  2/19
キッズラインは2月9日、「子育て政策を支える保育従事者に緊急調査」の結果を発表した。同調査は1月6日〜13日、保育士158名を含む保育従事者234人を対象に、インターネットで実施した。
政府は「異次元の少子化対策」を打ち出すと発表したが、この発表に対して期待しているか尋ねたところ、53.8%が「あまり期待していない」「まったく期待していない」と答えた。46.2%は「大いに期待」「少しは期待している」と回答している。
保育士の資格を持つ人に、保育士の待遇改善で「ぜひ実行してほしい」ものを尋ねると、94.9%が「給与のアップ」と答えた。注いで「保育以外の仕事の削減」(79.1%)、「休みが取りやすい、希望の時間に働けること」(67.7%)、「時間外手当の拡充」(59.5%)となっている。
保育士に、国が定めている現在の保育士の人員配置基準についてどう思うか聞くと、85.5%が「全体的に子どもの数に対して保育士が少なすぎる」と回答した。「適正な人員配置だと思う」は、6.3%にとどまっている。
保育施設で壁面制作を毎月手作りする作業についてどう思うか尋ねたところ、69.6%が「季節ごとに変えることには賛成だが、昨年のものを使うなど作業量を減らすべきだ」と回答した。「壁面制作自体をなくして保育の仕事に集中するべき」は12.7%、「子どもに季節の変化を教えるために、毎月作ることに意味があると思う」は8.2%だった。
保育士という職業にやりがいを感じたことがあるか尋ねると、98.7%が「感じたことが多々ある」「少し感じたことがある」と答えた。  
●大学進学率は韓国以下 日本の教育が先進国でも最低レベルなワケ 2/19
さまざまなデータにおいて先進国からの転落を感じさせるわが国ニッポン。もう一度本当に豊かな国を目指すには、子どもたちへの教育が欠かせないはずですが、子育て支援に関する話も高等教育支援まではなかなか到達しません。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では、元国税調査官の大村大次郎さんが、先進国の大学進学率と高等教育費の財政負担率のデータを紹介。国が高等教育への支出を惜しみ、親世代の賃金は上がらないのに授業料は高騰、有利子の奨学金で多くの学生が借金を抱える状況に「日本の終焉」を見ています。
高等教育への国の支出は最低レベル。大学生を借金漬けにする日本
今回から数回に分けて「国際データで見る日本の終焉」と題しまして、データを用いて日本のヤバい部分を追究していきたいと思っています。
まず最初は教育です。教育というのは、国のカナメです。教育が行き届いている国、教育が進んでいる国の方が、産業は栄えているし、国力は充実しています。それは古今東西の国々の状況を見れば明らかです。
特に高等教育というのは、国の行く末を左右するともいえます。国民が充実した高等教育を受けられているかどうかが、その国の未来を表しているのです。
その高等教育の充実度をはかる基本的な指標「大学進学率」を見てみましょう。下はOECD加盟国の大学進学率です。
   OECDの大学進学率(30カ国データ中)
    1位  オーストラリア    91%
    2位  アイスランド     80%
    3位  スロベニア      79%
    4位  ニュージーランド   74%
    5位  ポーランド      73%
    6位  デンマーク      71%
     ・・・・・
    14位  イギリス       34%
    18位  韓国         55%
    21位  日本         48%
    22位  ドイツ        48%
       OECD平均        57%
これを見ればわかるように、日本の大学進学率は先進国の中ではかなり低くなっています。日本はOECDの調査対象30カ国の中でワースト10位で48%なのです。
これはOECDの平均よりも約10ポイントも低く、隣国の韓国よりも低くなっています。日本人は、いろんな面において「韓国よりは上だ」考えているようですが、国の根幹である教育分野においても、日本は韓国に劣り始めているのです。
このデータにはフランス、アメリカが含まれていませんが、フランスもアメリカも大学進学率は60%を超えており、日本よりは高いのです。
またこのデータではドイツは日本より低くなっていますが、ドイツには、伝統的に大学と同等の専門学校が多いためです。統計によっては、この専門学校も大学に含まれることがあり、ユネスコの統計ではドイツの大学進学率の方が日本より高くなっています。
しかも正確な比較はできませんが、中国にも大学進学率で日本は抜かれていると推測されています。
ご存じのように日本は急速に少子高齢化が進んでおり、子供は少なくなっているのです。にもかかわらず、その少ないはずの子供たちにまともに教育を受けさせることさえしていないのです。
高等教育への財政支出は先進国最低レベル
なぜ日本の大学進学率が低いか、その要因の一つとして国が高等教育費をケチっているということがあります。下は、高等教育費(義務教育以上の教育費)に国や自治体がどれだけ費用の負担をしているのかの割合です。
   OECD諸国の高等教育費の財政負担率(33カ国中)
    1位  ノルウェー     96%
    2位  オーストリア    94%
    3位  フィンランド    93%
    4位  ルクセンブルグ   92%
    5位  アイスランド    89%
     ・・・・・
    24位  イタリア      62%
    27位  カナダ       49%
    29位  韓国        36%
    30位  アメリカ      35%
    32位  日本        32%(ワースト2位)
    33位  イギリス      25%
       OECD平均        66%
これを見ると日本はOECDの中でワースト2位であり、高等教育費の32%しか財政による支出はされていないのです。OECDの平均が66%なので、なんと半分以下です。
イギリスやアメリカもかなり少ないですが、欧米の場合は、寄付の文化があり、大学などの高等教育機関に寄せられる寄付金も多いのです。しかも、キリスト教など宗教団体が、大学などを運営しているケースも非常に多くなっています。そのため高等教育費の家計による支出というのは、かなり抑えられているのです。
日本の場合は、寄付の文化もなく、宗教団体運営の大学なども少ないので、国が負担しなければそれはすぐざま家計による支出の増大に結びつきます。日本が大学進学率が低いことを前述しましたが、その要因の一つにこの公的負担の少なさが挙げられるのです。
高等教育への公的負担の少なさは、日本の大学教育に大きな影響を与えています。というのも近年、日本の大学の授業料は高騰しているのです。国立大学の授業料は、昭和50年には年間3万6千円でした。
しかし、平成元年には33万9600円となり、平成17年からは53万5800円にまで高騰しています。40年の間に、12倍に膨れ上がったのです。バブル期の大学生と比較しても、現在は約2倍です。この授業料の高騰のため、大学に行けない若者が激増しているのです。
また大学に行くために、多額の借金をする若者も増えています。現在、50万人以上の大学生が「有利子の奨学金」を受けて大学に通っているのです。
この「有利子の奨学金」というのは、奨学金とは名ばかりで、実際はローンと変わりません。厳しい返済の義務があり、もし返済を怠れば、法的処置さえ講じられます。
この「有利子の奨学金」を受けている50万人以上という数字は、大学生全体の約の5分の1です。彼らは大学卒業時には、数百万円の借金を抱えていることになります。

 

●防衛費増額で沸騰する増税論議、もはや「資産課税」を避けるべきではない 2/20
岸田政権が発足してまもなく一年半になろうとしています。
昨年後半には閣僚の辞任ドミノがあって政権の危機が脳裏をかすめた時期もあり、つい先日も荒井勝喜首相秘書官の更迭を余儀なくされましたが、岸田文雄総理自身の、まるで上司に忠実なサラリーマンのごとく目の前のことを淡々とこなす仕事ぶりによって、その危機を乗り越えたようです。日本人はもしかしたら、「これをやりたいんだ」という強い意欲を漲らせるリーダーより、着々と無難に目の前の課題を捌いていく岸田総理のようなタイプのほうが好きなのかもしれません。
岸田総理だから可能だった?安保3文書の決定
職務に忠実なサラリーマンとして見れば、最近の岸田総理の仕事ぶりはなかなかのものです。114兆円という今までにない巨額予算の政府原案を決定したこと、資産所得倍増を目指し、NISAの拡充を盛り込んだ税制大綱をまとめたこと、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議をスタートさせ、2月に基本方針をまとめたこと、「新しい資本主義実現会議」においてスタートアップ育成5か年計画、資産所得倍増計画などをまとめたこと、子ども家庭庁を4月に発足させるめどをつけたこと――。
それらの中でも特筆すべきなのは、安保3文書の閣議決定ではないでしょうか。まずその名称からして分かりやすくなりました。従来、防衛大綱と呼ばれていたものを「国家防衛戦略」に、中期防(中期防衛力整備計画)と呼ばれていたものを「防衛力整備計画」としました。これらに加え最上位に位置する「国家安全保障戦略」とで安保3文書と呼ばれています。
経済安保も含め外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」を定め、それに基づき、「国家防衛戦略」を練り、さらにそれに従って「防衛力整備計画」があるというすっきりして分かりやすい形になりました。
また中身のほうも、中国の存在をはっきりと脅威として受け止めています。意図を忖度するとかではなく、「中国がこんなに軍備を増強しているんだから我が国にとっては脅威です」という具合にファクトやデータに基づいて論じつつ、専守防衛ではもう国土と国民を守れない現実を受け入れ、反撃能力・敵基地攻撃能力にも言及しています。また相手の攻撃に対抗する抗堪性(こうたんせい)や継戦能力も考慮して、5年後、10年後を意識して防衛力を整備しようというものになっています。
これは従来の「アメリカに守ってもらいます」というスタンスから、明らかに「自分たちの国は、まず自分たちで守るんだ」という立場への転換です。ウクライナ情勢などを見ながら、ようやく世界の常識を受け入れたということかも知れませんが、これまでのアメリカ頼み一辺倒から一歩前に進んだと評価していいでしょう。
この防衛に関する大きな転換は、実直そうな岸田総理だからこそできたと言えるかもしれません。もしも総理大臣が安倍晋三さんだったら、同じことをやろうとしても、野党や左派世論が猛攻撃してなかなか進まなかったはずです。しかし、同じことを岸田総理が粛々と進めると「いまの国際情勢をみたらしょうがないよね」という感じで野党も世論も認めてしまいます。ある政治家の方は、「岸田総理は、安倍さんと違って、相手の『戦意』を喪失させる能力が凄い」と言っていましたが、これはある種の、岸田総理の強みと言っていいでしょう。
それはさておき、ただ、これから先、その防衛戦略や防衛力整備計画を進めようとすると別の大きな問題が出てきます。財政の問題です。
異例の寄稿、現役財務次官が雑誌に「日本はこのままでは財政破綻」
世界の歴史を俯瞰してみて、私は国家が衰退するきっかけには3つのパターンがあると考えています。
ひとつは、外敵の登場です。ローマ帝国はゲルマン人やイスラーム勢力、大英帝国はナチスドイツという強力な外敵との争いの中で衰退していきました。
ふたつ目は、士気(morale)の低下と道徳(moral)の崩壊です(カタカナで書くと、どちらも「モラル」)。人々がやる気を失い、怠惰になってしまうと、統治機構の中枢で腐敗が広がり、国家としての体をなさなくなってしまいます。
3つ目が財政の悪化です。国家財政が破綻すると(もしくは破綻に瀕すると)、否応なく外国勢力・もしくは国際機関の支配下に組み込まれてしまいかねず(上記の外敵の干渉にも)、また「モラル」も低下します。日本の財政はいま急速に悪化しています。ここから国家衰退の坂道を転がり落ちていく可能性もなくはないのです。
日本の財政は今、ある意味、末期症状に近いのかもしれません。2021年の文藝春秋11月号で、財務省の矢野康治財務事務次官が「このままでは国家財政は破綻する」という趣旨の論文を発表しました。
普通に考えれば、現役の財務事務次官(一国の財政担当の事務方のトップ)が一般の雑誌に「我が国は財政破綻の危機にある」などという論考を出すのも大問題・驚愕の事態なのですが、これまた普通に考えるとさらに驚くべきことに、この論考に対してマーケットはほとんど反応しませんでした。「そんなことすでに織り込み済みだ」などと思われているのだとしたら、これまた大問題です。
いずれにしても、それくらい日本は財政的に厳しいところに立っているのです。
日本国債を売り浴びせる外国人投資家
岸田内閣は2023年度の予算案として、114兆円の大型予算を組みました。私が経産省(当時は通産省)に入省した97年当時、予算は補正を入れて78.5兆円でした。それが25年後には、当初予算だけで(補正を除き)1.7倍の114兆円になったのです。歳入が同じようなペースで増えたわけではありません。そのため、一般会計の歳出と税収の差が年を追うごとに広がる「ワニの口」状態になってしまっています。
もちろん財政状況を改善しようという試みは続けられています。特に「いきなり財政黒字にするのは難しいので、まずは、せめてこれ以上、国の借金を増やさないように、歳入と国債の利払い費を除いた支出を均衡させよう」という挑戦が続けられてきています。「プライマリーバランス」という考え方です。
ところがその目標がどうにか達成できそうになってくると、予期せぬ大きな“ショック”――東日本大震災や新型コロナウイルスによるパンデミック等――によって、大規模な財政支出に迫られるということが繰り返されてきました。その過程で歳入不足を補ってきたのは、大量の国債発行です。
そういう中、いま日本国債が海外の投資家から売られまくっています。国債が大幅に売られまくると債券価格が下落し、金利が上昇することになります。日銀は現在、長期金利の上限を0.5%と定めていますが(先般、0.25%からの引き上げを余儀なくされた)、これを超えないよう必死に国債を買い支えています。それを見越して、海外勢がさらに日銀に国債を売り浴びせるという状況が、昨年後半からずっと続いています。これは国の財政が破綻に向かうひとつのパターンです。
かつてはグローバルマーケットにおける日本の財政力・日銀の資金力が強大だったので、少々の売り浴びせがあっても飲み込むことができたのですが、日本のパワーが相対的に小さくなる中で、いつまで日本は耐えられるのかと瀬踏みされ始めていると言えます。今年1月の日銀の国債購入額はおよそ23.7兆円に達しました。おりしも、新たな日銀総裁として経済学者の植田和男氏の就任がほぼ確実になりましたが、マーケットはさらなる利上げを見越して、引き続き日本国債売りのポジションのようです。
細かいやり繰りはそろそろ限界
「日本の国債の引き受け手はほとんどが国内の投資家なので、海外勢が売り浴びせても、日本の財政は揺るがない」と主張するMMT論者やリフレ派のエコノミストもいますが、果たしてその理論が現実に通用するものなのかどうか、誰にも証明はできません。すでに海外勢の売買に占めるシェアは約4割に達していると言われています。
イギリスでは昨年9月に発足したトラス政権が、翌月にはあっけなく崩壊してしまいました。崩壊の原因はマーケットからの攻撃でした。財政的な裏付けのない政策を訴えて保守党の党首に就任、ジョンソン前首相の後任として政権に就いたのですが、マーケットの攻撃(アタック)に遭い一瞬にして政権運営に行き詰まってしまい退陣に追い込まれたのです。
日本にとってこのイギリスの事例は他人事ではありません。大量の国債発行に頼る財政構造をこのまま放置しておくわけにはいきません。
一方でいま政局の焦点の一つとなっているのが、岸田政権が打ち出している防衛予算の増額です。
防衛3文書でも示したように、日本を取り巻く国際状況を考えれば、防衛力の整備は避けられない道です。問題は、国全体の財政事情が厳しい中で、防衛費増加分の財源をどうするか、です。
防衛費はこれまでGDPの1%程度が目安とされてきました。2022年度の名目GDPは564.6兆円と見込まれています。2022年度の防衛関係費は当初予算ベースで5.4兆円です。「GDPのおおよそ1%」という基準を見事に踏襲しています。
それが2023年度の予算案で防衛関係費は6.8兆円とされています。段階的にこれが逓増し続けて、「GDPのおおよそ2%」に拡大されるのです。
ではこの財源はどこから持ってくるのでしょう。
岸田政権は、歳出改革や決算剰余金の活用、税外収入、そして増税で賄うと説明しています。その中の増税については、法人税、所得税、たばこ税を増税して充てる方針です。ただし、その実施時期については、党内からの反発もあり、ぼかした言い方しかできていません。
財務省も一生懸命、防衛関係費に充てる財源を積み上げて予算案を組んだのだと思いますが、正直に言わせてもらえば、もはやそんな細かい議論をしていてもしょうがないのではないでしょうか。わずか25年前は70数兆円だった国家予算がもはや当初予算ベースで114兆円にまで膨らんでいます。コロナ下での臨時支出があったとはいえ、ここ数年は、補正まで含めれば140〜150兆円程度が当たり前になっています。そういう中で、わずか数兆円のやりくりをどうするのかと議論しようというのは、木を見て森を見ずというか、もはやばかばかしいのではないでしょうか。
「異次元の少子化対策」にも巨額の財政支出が
さらに、岸田政権は「異次元の少子化対策をする」と言っています。異次元というからには「財政支出なし」ということは考えられません(財政支出を伴わない少子化対策であれば、それはそれで、逆の意味で「異次元」となってしまいます)。
以前このコラムで書いた<少子化のペースが速すぎる。「日本消滅」を回避せよ>という論考の中でも触れていますが、思い切って少子化対策をしようと思ったら私の試算では、10兆円規模の対策が必要になると思います。岸田政権の「異次元の少子化対策」の中身はまだ固まっていませんが、私は第一子、第二子の出産時に100万円、第三子には300万円を支給するとか、出生から中学卒業までの子どもの医療費・保育費・教育費をすべて無償にするとかするくらいの思い切った対策をするべきだと考えています。これを実施するとなると、私の試算ではおよそ10兆円の予算が必要になります。
防衛関係予算も5兆円増やす、異次元の少子化対策にも例えば10兆円かかる、という事態ですから、「所得税や法人税を増税して積み上げて……」という規模感ではないのです。
今後、これらの財源を賄うために、政府は何をするべきなのでしょうか。
第一に、国家として「稼ぐ」ことを真剣に検討すべきです。すでに検討はされていますが「電波オークション」などはその筆頭として検討されるべきでしょう。またソブリン・ウエルス・ファンドのように、国家の資金をファンドとして運用することに挑戦してもいい。年金積立金を運用している年金積立金管理運用独立法人(GPIF)は、20年間でおよそ100兆円の収益を上げていますが、そうしたものの「流用」も真剣に検討すべき時期に来ています。
また特別会計の収入を利用することも可能だと思います。たとえば特許特別会計などは、特許を申請した人が支払う出願料・審査請求料などをもとにした財源を、特許に関わる事務費やシステム改善などに充てているわけですが、言ってみればその出願料・審査請求料だって、こうした非常事態ですから、他の事業にだって使えるようにした方がいいのです。特別会計が各役所の利権になっている側面もあるので、それを排して、稼いだお金はもっと柔軟に使う必要があります。
避けられない金融資産課税
第二に考えなければならないことは、私は金融資産への課税だと思います。もはやそれくらい抜本的な手段を使わないと日本の財政は早晩、もたなくなると思います。
家計の現預金・証券その他の残高は現在およそ2000兆円です。この2000兆円の金融資産にわずか1%課税しただけで年間20兆円の税収が生じます。預金残高が数十万円という人にまで課税するのは酷ですから、一定基準以上の金融資産を保有している人が対象になるでしょうが、もうそういう手段を本気で考えるべきタイミングにきています。金融資産以外にも不動産など、資産は多様な形で存在しますが、居住用を除いて不動産を複数持っている人に対しては、2軒目以降に1%課税するようなことも考えられます。実現すれば財政事情は劇的に改善されるはずですし、これくらいの大胆な手を打たないと、日本国債はマーケットからの信認も得られなくなってしまいます。
第三に、財政を担う財務省主計局の主査や主計官には、徹底的にコストを切りにいける人をつけなければなりません。各省庁が概算要求をまとめる際には、各省の担当者と財務省主計局の担当主査や主計官と相談しながら決めていきます。そして主計局の主査は、さまざまな仕事を経験した後、主計官としてまた同じ省庁の担当になって、そこでかつての担当者と再会したり……、ということがままあります。要するにそこに濃い人間関係が生じることが珍しくないのです。これだと、落としどころを見つける、みたいな行為が中心となり、各省庁の要求をバッサリ切ることがなかなか難しくなってしまいます。基本的には厳しく査定する人をずらっと並べることが大事になります。付言すると、そうした「切りに行く査定担当」の人たちとは別に、全体を見渡してある程度「付けにいく担当」もいた方がよいというのが私の持論ですが(主計局の“特任”主計官)、話が逸れるのでこの件はこのあたりにしておきたいと思います。
財政が潤沢な時代ならばそんな必要はないのかもしれませんが、現在は非常事態に極めて近い状態です。切れるところは徹底的に切れる人材を主計局に置くべきです。
このように、資産課税も含め、打てる手を総動員して財政立て直しに動かなければ、防衛力増強も少子化対策もままならないところまで日本は来ています。猶予時間はもうほとんどないと心得るべきでしょう。
●今後も上昇が見込まれる日本のエネルギー価格 2/20
わが国におけるエネルギー価格が上昇している。総務省「消費者物価指数」によると、2022年12月のエネルギー価格は電気・ガス代を中心に前年同月比15.2%上昇し、15カ月連続で2桁の伸びとなっている(図表1)。この背景には、22年秋口にかけて進行した資源高や円安がある。
最近では資源高や円安は一服している。だが、次の2点を背景に、今後もエネルギー価格の上昇が続く公算が大きい。
第一に、大手電力各社による電気代(規制料金)の値上げが予定されていることである。大手電力10社のうち5社(東北・北陸・中国・四国・沖縄)は4月以降、2社(東京・北海道)は6月以降の値上げ(30〜45%程度の規制料金の引き上げ)を国に申請している。
わが国の電気・都市ガス代は、「燃料費調整制度」の下で決定されている。具体的には、3〜5カ月前の資源価格の変動を踏まえて平均燃料価格を算出し、これをもとに決まる燃料費調整額が毎月の料金に反映される仕組みだ。電力会社が独自にプランを決められる「自由料金」とは異なり、電力自由化前からの「規制料金」では、燃料費調整額に上限が設定されている。近時の資源高においては調整額が上限に抵触し、電力会社は電気代を十分に引き上げることができなかった。国の審査を経て申請が認められれば、春以降に電気代は大幅に値上がりする可能性がある。
第二に、政府による激変緩和措置が、23年秋口にかけて段階的に縮小する予定となっていることである。政府は22年1月、ガソリン価格の抑制を目的に激変緩和措置を導入し、ガソリン価格(全国平均)が一定額を超えた場合に、1リットル当たり31円を上限として燃料油の元売りに補助金を支給している。この結果、原油価格が高騰した割にはガソリン価格が低位に抑えられている(図表2)。
ガソリンに加えて、23年1月からは電気・都市ガス代にも同様の措置が適用され、本来の水準から平均2割程度低い価格が設定されている。これらの激変緩和措置が予定どおりに終了する場合、エネルギー価格が今秋にかけて大きく上昇する要因となり得る。
日本のエネルギー価格は、これまでこうした料金制度や激変緩和措置によって抑えられてきた。今後、強まる価格上昇圧力に注意が必要だ。
●拝啓植田日銀新総裁殿、財政への遠慮はご無用  2/20
政府は2月14日、日本銀行の次期総裁に元日銀審議委員の植田和男氏を、副総裁に前金融庁長官の氷見野良三氏と日銀理事の内田真一氏を充てる人事案を国会に提示した。これまで約10年にわたり「異次元緩和」を主導してきた黒田東彦総裁が退任し、新体制下で日銀の金融政策はどう変わるのか注目が集まる。
金利上昇の影響を受けるのは財政より民間
金融政策の行方は、わが国の財政運営にも影響を及ぼす。現体制でとられている「長短金利操作」(イールドカーブコントロール=YCC)では、日銀が直接的にコントロールしようとしている国債金利は、今後どうなるか。
国債金利が上昇すれば、利払い費が増加する。利払いが滞れば、債権者の信用を失い、新規に借り入れることが困難となる。だから、利払い費は、ほかの政策的経費よりも優先して支出しなければならないものである。それだけ、財政運営は選択肢が狭まることになる。
国債金利が上昇すれば、民間の社債や借り入れの金利も連動して上昇する。現に、日銀が2022年12月の金融政策決定会合で、長期金利の変動許容幅を0.25%から0.5%に拡大した後、住宅ローンの長期固定金利が上昇するなど、民間金融に影響が波及した。
確かに、国債金利の上昇は、財政運営上、ほかの政策経費を圧迫する要因となるが、それよりも民間の資金繰りのほうが先に影響が及ぶ。そう考えれば、日銀の新体制がYCCをどうするかは、財政運営に忖度するよりも、国債市場の実勢を見極めつつ、民間金融への影響を注視して決めてゆくことになるだろう。
その意味で、日銀の金融政策も市況に合わせて対応していくことが望まれる。
日銀の金融政策は、財政運営に影響を与えるから、財政当局におもねるという見方はあるが、財政運営から見て、日銀に遠慮してもらう必要は基本的にないし、あってはならない。
なぜ遠慮してもらう必要がないのか。
コロナ禍以降、歳出膨張が著しい。コロナ対応でやむをえない時期はあったが、コロナ対応が一山超えたかと思いきや、今度は防衛費やGX(グリーントランスフォーメーション)投資、そして子ども予算と巨額の財源を必要とする財政運営となっている。
必要な予算は財源をしっかり確保して支出すべきだが、そこに無駄遣いが紛れ込んでいては、いくら財源があっても足りない。
国債金利の上昇が現実を突きつける
加えて、「国債金利がほとんどゼロだから、今のうちに国債を増発して、こうした歳出をどしどし増やすべき」という意見は根強くある。しかし、欧米でインフレが起き、インフレ阻止のために金利が上昇し、わが国でも欧米よりは緩やかではあるが物価は上昇基調となっている今、もはや「国債金利がほとんどゼロ」ではなくなっている。
「国債金利がほとんどゼロは幻想だ」と言っても、「金利が上がるというのはオオカミ少年」と言って話を聞かない。ならば、国債金利は上がるという現実を突きつけるしかないーー。目下のわが国における財政運営をめぐっては、そんな雰囲気すらある。
国債金利が市況に合わせて上昇して、利払い費が増えても、直ちに財政破綻するわけではない。しかも、たかだか1〜2%の金利上昇では、市場でさえそれを財政破綻の兆しとは捉えないだろう。
とはいえ、数年後には利払い費は数兆円というオーダーで増える。
財務省「令和5年度(2023年度)予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、国債金利が想定よりも1%上昇すると、1年後には0.7兆円、2年度には2.0兆円、3年後には3.6兆円も利払い費が増加するという。
3.6兆円といえば、昨年末に決定した防衛費の増額で、2027年度における防衛費を2022年度比で増やすこととしている3.7兆円に匹敵する規模である。金利が想定より1%上がるだけで、一生懸命かき集めた防衛財源が利払い費の増加で吹き飛ぶほどのインパクトである。
利払い費が増えると、確かに他の政策的経費を圧迫する。しかし、財政健全化にはむしろ好都合かもしれない。
予算(政府の予算制約式)では、歳入総額と歳出総額が等しくなるように編成される。歳入面では、税収等と国債発行で賄われ、歳出面では、政策的経費と国債費(利払い費と元本償還費)に分けられる。
すると以下が成り立つ。
   税収等+国債発行=政策的経費+国債費
財政健全化目標として掲げられる基礎的財政収支(プライマリー・バランス=PB)は「税収等―政策的経費」なので、上の式をそのように表し直すと、以下のように表せる。
   税収等―政策的経費=国債費―国債発行
そこで、国債金利が上がり、利払い費が増えたとする。利払い費は国債費の一部だから、国債費も増える。利払い費が増えた分、国債発行を増やせば、右辺の「国債費―国債発行」の値は変わらない。
しかし、利払い費が増えた分、国債発行を増やすということは何を意味するか。それは、増えた利払いに必要なお金を国債増発で賄ったこと、つまり借金の元利返済を借金で賄うことを意味する。それは、借金が雪だるま式に増えることに通じる。
また、金利が上昇している局面で、利払い費を国債増発で賄えば、火に油を注ぐが如く金利上昇を助長する。だから、利払い費の増加に対して、国債増発で臨むことはできない。
政策的経費を抑制して、増える利払い費を賄う
国債発行を増やさないようにして、国債費の増加に対処するにはどうすればよいか。それは、前掲の式において、右辺の「国債費―国債発行」の値が増えることにどう対処するかを意味する。
   税収等―政策的経費=国債費―国債発行
この式は、左辺と右辺は等しいという関係を表しているから、右辺の「国債費―国債発行」の値が増えたら、左辺の値も増える。つまり、「税収等―政策的経費」の値を増やすように対処する必要があることを意味する。
そうするには、税収が増えることもあり得るが、政策的経費を抑制することでも実現する。これこそ、まさに、増える利払い費を、政策的経費を抑制することで賄うという財政運営である。
税収が変わらないとして、政策的経費を抑制すれば、PBは改善する。こうして、国債金利の上昇に起因して増える利払い費に対し、政策的経費を抑制することで、プライマリーバランスの改善が実現する。国債金利の上昇は、財政運営に規律を与える点でも、決して悪いことではない。
だから、日銀は財政運営に遠慮してもらう必要はないのである。新体制の日銀が財政におもねることなく、日本経済が自律的な成長経路に向かう中で、市況に合わせて柔軟に金融政策を講じることが望まれる。
●水素があれば「ロシア依存」から抜け出せる…次世代エネルギー戦略 2/20
脱炭素化と水素利用で世界をリードしようと腐心するEU
次世代エネルギーの一つとして、水素の利用に世界的な注目が集まって久しい。
水素を燃料として使う場合、その最大のメリットは、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を排出しないことにある。水素を燃やしても、生じるのは水である。そのため、いわゆる脱炭素化の観点から、水素は極めて有望なエネルギーとなるわけだ。
したがって、脱炭素化で世界をリードしようと腐心するEUにとっては、水素の利用の推進もまた重要な政策的課題となっている。
水素は「二次エネルギー」(利用のために加工の過程が必要なエネルギー)であり、基本的に水を電気で分解することで生産される。そのための電気を再エネで賄えば、実にグリーンな水素が出来上がる。
周知のとおりEUは、脱炭素化の観点から再エネによる発電を重視している。再エネによって発電を行い、その電力で水を分解して水素を生産できるなら、脱炭素化という観点からは極めて理想的な電力の発電から消費への流れが構築される。
天然ガスに代わる打ってつけの次世代エネルギー
そのためEUは、あくまで再エネによって発電した電力による水素の生産を、普及の基本に据えている。
加えてEUの場合、ロシア産の化石燃料に対する依存の軽減、つまり「脱ロシア化」を図ろうとしていることも、水素の利用に向けた動きに弾みをつけたといっていいだろう。
金融・経済制裁に反発するロシアがヨーロッパ向けの天然ガスの供給を絞り込んだことは、かえってEUの脱ロシア化に向けた意思を強固なものにしたと考えられる。
特にロシアに対する依存度が高かった天然ガスに関しては、米国などからの液化天然ガス(LNG)輸入の増加に加えて、地中海・西アフリカでのガス田開発といった試みが進む模様である。
また天然ガスに代わるエネルギー源も必要となるが、脱炭素化の理念にも適う水素は、EUにとってはまさに打ってつけの次世代エネルギーということになる。
アドリア海で大規模な実証実験が始まった
EUの執行部局である欧州委員会が、化石燃料の「脱ロシア化」を掲げて2022年5月に公表した行動計画である「リパワーEU」の中でも、再エネ発電によって生産した水素の利用を広めていく方針が強調されている。
脱炭素化と脱ロシア化の両立を図りたいEUにとって、水素の利用は確かに有効な戦術になりえるのかもしれない。
その水素の利用に向けた実証実験が、アドリア海の沿岸で始まることになった。
中心となるのは、アドリア海に面する人口210万の小国スロベニアの国営電力会社HSEである。このHSE社は2月1日に、自社が主導する水素利用の実証実験を開始するに当たって、EUから2500万ユーロ(約35億円)の補助金を獲得したと発表した。
水素の生産から利用までの一貫したバリューチェーンを構築
この実証実験の正式名称は「北アドリア海水素バレープロジェクト」という。いわゆる官民連携のかたちで、水素の利用に向けた研究・開発を後押しすることがその目的である。先導役のHSE社に加えて、スロベニアとクロアチア、そしてイタリア北東部フリウリベネチア・ジュリア州の政府が参加し、さらに34の事業体が参加する。
このプロジェクトの下で、各事業体は水素の生産から利用までの一貫したバリューチェーンを構築し、今後の水素の利用に向けた可能性を探ることになる。
将来的に再エネ由来の水素を年間5000トン生産するとともに、製造業や交通網で用いることが最終目標となる。プロジェクトの期間は6年間が想定され、2023年後半の稼働を目指す。
EUには「ホライズン・ヨーロッパ」という、EU加盟各国の研究・開発投資を支援するための補助金支援プログラムが設けられている。このプログラムの予算は、EUの中期予算(多年次財政枠組み)から拠出されるが、今回、HSEが主導する水素利用の実証実験は、このホライズン・ヨーロッパによる補助金支援を得ることになる。
日本と欧州が技術覇権を争う構図に
「北アドリア海水素バレープロジェクト」の全容はまだ明らかではないが、HSE社のプレスリリースによると、このプロジェクトでは鉄鋼やセメントといった素材産業での水素利用の実現を視野に入れている模様だ。素材産業では多くの化石燃料が利用されるため、ここで水素の利用が広がれば、脱炭素化が大いに進むと世界的に期待されている。
特に、鉄鋼業で水素の利用が進むことは、脱炭素化の象徴的な観点からも歓迎される動きとなる。製鉄の過程で、コークス(石炭を蒸し焼きして炭素部分だけを残したもの)は欠かせない材料である。
一方、高炉にコークスを投入して鉄鉱石を溶かす際に、コークスに含まれる炭素と鉄鉱石に含まれる酸素が結合し、大量のCO2が生まれる。その過程で、コークスの代わりに水素を使えば、水が生まれることになる。
この高炉水素還元技術を確立することができれば、脱炭素化に大きく資するとともに、この分野における技術覇権を制することができるだろう。なお日本でも、2030年ごろまでに1号機を実機化し、以降の普及・実用化を目指そうと実証実験が進められている。
現時点では日本も負けていない
そもそも、水素の利用に向けた技術では、日本も勝る点が多い。
その中心である兵庫県の神戸市は、「水素スマートシティ神戸構想」を掲げ、産官学の連携の下で様々な実証実験を行っている。例えば神戸港内の人工島「ポートアイランド」では、2018年に水素燃料によるガスタービン発電の実証実験が行われ、成功している。
それに2022年2月には、オーストラリアより液化水素を積載した運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が帰港、話題となった。同年6月に神戸市内で2カ所目となる商用水素ステーションがポートアイランドに整備されることが決定、2023年春の稼働が目指されている。日本がヨーロッパ勢に後れを取っているというわけでは必ずしもない。
脱炭素化は世界的なメガトレンドであり、その点において水素は期待されるエネルギーである。加えてこの動きは、脱ロシア化という観点からも、ヨーロッパで加速することになった。
水素の利用に向けた技術に関しては、日本が先行している分野も多く、日本の事業者にとっても、ヨーロッパ向けに輸出の機会が増える可能性は高いだろう。
一気に水素シフトを進める欧州に日本は勝てるのか
そもそも水素の実用化にあたっては、インフラの整備を含めて、様々なハードルを越える必要がある。そのためには政府による巨額の支援が不可欠であるが、この点に関しては財政に余力があるヨーロッパの方が優位だろう。すでに歳出の2割強が国債費となっている日本の場合、産業政策に費やすことができる財源はそれほど多くない。
他方で、水素の調達という観点からすれば、日本とヨーロッパはライバル関係にある。再エネ発電による水素の生産を目指すEUだが、実際はその生産に限界があると考えており、海外からの輸入を視野に入れている。水素の輸入に関しては、天然ガスと同様に、各国単位ではなくEU27カ国として輸入を行うスキームも念頭に入れている。
日本もまた、国内での生産だけではなく、海外からの水素の輸入を志向している。水素を輸入するうえで、日本とEUはライバル関係にある。
需要家としての経済規模は、日本よりもEUのほうがはるかに大きい。主な輸入先としてはオーストラリアや中東が想定されているが、そうした国々との間で戦略的な友好関係を構築する必要がある。
●国会の慣例を打破 立憲の“若手起用”戦略一方、衝撃の自民党“くら替え”も 2/20
今国会で、当選一回の若手議員の活躍が目立つ、野党第一党の立憲民主党。統一地方選に向け、「若い世代の議員を増やす」目標を掲げる狙いとは?一方、“ホープ”と呼ばれた若手が、自民党に“くら替え”も。立憲の「若手起用戦略」は、功を奏すのか。
政権交代に向け「若手議員を増やす」
19日、都内で開かれた立憲民主党の党大会。泉代表は春の統一地方選で、『45歳以下の議員を50人増加』させる目標をかかげた。一方、岡田幹事長は「このままでは政権交代は実現できない」と強い危機感を口にした。
総理への代表質問 一回生“異例”の起用
政権交代をかかげ、若い世代の取り込みを目指す立憲民主党だが、国会では、当選一回の若手議員の起用が話題になっている。
「岸田政権は、防衛増税ファーストの『子ども政策後回し政権』です!」1月25日、通常国会の代表質問。党のトップ・泉代表とともに岸田首相を追及したのは、2021年の衆議院選挙で初当選した大築紅葉(おおつき・くれは)議員(39)。
「代表質問」とは、総理大臣の施政方針演説に対し、党を代表して質問する場だ。テレビ中継が入り、約30分間の質問は党幹部クラスが担当することが多く、一回生の抜擢は、党内外で話題となった。
ある党幹部は、大築議員について「『岸田増税内閣』を完全に印象付けた。本当は代表がやらないといけないんだけど。代表を食った」と評価した。
また安住国対委員長は起用の狙いについて、「堂々と総理に、新しい感覚で論戦を挑んでもらいたい。こうして頑張っている人もいるんだと、その多様性をどんどん示していきたい」と語る。また、ある議員は、起用の狙いについて「若手議員を前面に出して、若い世代との対話を強化したい」と解説する。
総理を追い詰め、「子ども予算倍増」答弁引き出す
さらに予算委員会では“平成生まれ”の議員が初めて岸田総理と対峙した。馬場雄基(ばば・ゆうき)議員は、現在、国会議員の中で最年少の30歳。予算委員会の場で、30歳以下の議員が総理に質問を行うのは、小泉進次郎議員以来、12年ぶりだという。
馬場議員は子ども関連予算について、「どの予算を倍増させるのか」と岸田首相に迫り、新たな答弁を引き出した。国会の花形・予算委員会でも若手議員が存在感を発揮することに成功した形となった。
一方…若手の不安 自民への“くら替え”に激震走る
一方で、昨年末、手塩にかけて育ててきた“若手のホープ”が、自民党への“くら替え”する事態も起こった。次期衆院選でも公認候補予定者となる総支部長をつとめていた女性が、党を離れて自民党の推薦を受け、県議選に立候補すると表明したのだ。突然の自民への転身に対し党はこの女性を「除籍処分」に。
岡田幹事長は「政治の世界で活動する者としては大きな裏切り。これまで支えてくださった方々に対する、背信行為」と強く批判した。しかし、こうした執行部の姿勢に、ある20代の地方議員はこう疑問を口にする。
「もちろん“くら替え”は許されるものではないが、党の執行部は批判するだけではなく、なぜ“党を離れる”という究極の選択をせざるを得なかったのか、原因に向き合うのが先ではないか」。
さらに、党の地方組織の現状についても「総支部長がいない選挙区が発生している。地方議員が宙ぶらりん状態。どこをよすがにして活動の基盤にしたらいいかわからない状況になってしまう。せっかくやる気があるのに、活動が硬直化してしまう」と不満をあらわにした。
若手議員を増やすには…地方組織の強化が課題
立憲民主党が掲げる「若手議員を増やす」目標を達成するには、自らの足元を見つめ直し、地方組織を中心に党の基盤を強化することが不可欠となる。
来たるべき次の衆院選で若手の国会議員を増やし“政権交代”の足がかりを作ることができるのか。党全体の本気度が問われている。
●立憲民主党は反転攻勢できるのか…「信頼回復と党再生に全力」 2/20
立憲民主党は19日、東京都内で定期党大会を開き、政権奪還に向けて「信頼回復と党再生に全力で取り組む」と宣言した。源流の民主党時代から推進してきた少子化対策の拡充や性的少数者(LGBTQ)の権利を守る法整備などが主要課題に浮上する中、政権担当能力をアピールしたい考えだが、政党支持率は伸び悩む。5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後の衆院解散の可能性も否定できず、統一地方選などを通して党への期待感を高めて反転攻勢につなげられるかが問われる。(曽田晋太郎)
野党の主張を取り入れた法整備につなげる
「安倍政権に戻ってからの10年間、国民の豊かさと幸せ、平和と未来が失われた。われわれこそがそれを取り戻さなければならない」。泉健太代表は2012年に民主党が下野して以降、自公政権の子ども・子育て政策や若者支援が不十分で、少子化の加速や経済低迷を招いたと批判した。
立民は国会論戦で岸田政権の問題点をあぶり出し、野党の主張を取り入れた法整備につなげるなど実績を残している。昨年の臨時国会では、安倍晋三元首相の銃撃事件を受けて注目された自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の親密な関係を追及。日本維新の会と足並みをそろえ、信者の献金規制に後ろ向きな政府・与党への圧力を強めることで、被害者救済新法の制定を後押しした。
岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」の児童手当の拡充に関しては、自民党は民主党政権が所得制限をなくしたことに反対していたにもかかわらず、最近になって所得制限の撤廃を検討し始めた。泉氏は「この10年、なぜ子どもの数が毎年減っていくのかと言えば、子ども・子育て支援に消極的だったからだ」と、民主党時代からの政策の正しさを強調した。
政党支持率は低迷したまま
これまで掲げてきた政策が再評価されつつある一方で、政党支持率は低迷から抜け出せていない。共同通信社の2月の世論調査では維新を下回る8.5%にとどまり、前回の1月から1.1ポイント下落した。
岡田克也幹事長は党大会で、21年衆院選と22年参院選で連敗したことを踏まえ、政権交代に向けて「もう後がない。強い危機感を共有して踏ん張ろう。今年1年が大きな分岐点になる」と主張。政権交代可能な政治の実現に向け、国民民主党との合流や野党共闘を重ねて呼びかけた。
立民にとって今後を占う試金石となるのは4月の統一地方選と衆院補欠選挙だ。補選では、自民党前職が「政治とカネ」の問題で辞職した衆院千葉5区を最重要選挙区に位置付けるが、維新と共産、国民民主の各党も候補者を擁立して「共倒れ」が懸念されている。
和歌山1区と山口2区、4区は今のところ、独自候補を擁立できず、出遅れ感は否めない。統一地方選と補選で党勢を拡大できなければ、党大会で掲げた「政権交代可能な政治の実現」は遠のきかねない正念場を迎えている。
●少子化対策“奇跡の町”を視察 「意識変えること重要」岸田首相 2/20
子ども子育て政策を最重要課題とする岸田首相は19日、少子化対策で“奇跡の町”とも呼ばれる岡山・奈義町を訪れた。
奈義町は、1人の女性が一生のうちに産む子どもの平均数を表す「合計特殊出生率」が2.95と、全国トップクラス。
岸田首相は、住民による子どもの一時預かりなど、地域ぐるみの取り組みを視察し、親たちから話を聞いた。
3児の母親「人とつながれたことが心の支えとなり、のびのび子育てできた」
視察後、岸田首相は、「施策の拡充だけでなく、社会全体の意識を変えていくことが重要だ」と述べた。
●保育サービス充実・負担軽減「最優先」 政府少子化対策で自治体 2/20
岸田政権が目指す「次元の異なる少子化対策」を巡り、本県の多くの自治体は保育サービスの充実・負担軽減を最優先に望んでいることが、福島民友新聞社の調査で判明した。物価高や燃料費高騰などで各家庭の経済的負担が増す中、仕事と子育ての両立や安心の担保を求めた形だ。政府が議論を先行させる児童手当の見直しについては、支出がかさむ時期の拡充を求める声が多い一方、財源は地方負担とせず国費で賄ってほしいとの意見も目立った。
1月末に各自治体に質問票を送り、今月19日までに全59市町村から回答を得た。
政府は対策の3本柱として〈1〉児童手当の拡充〈2〉保育サービスの充実・負担軽減〈3〉育児休業制度強化・働き方改革―を掲げる。このうち県内では、最も優先的に実現を望む政策について、24市町村(41%)が〈2〉を選択した。
主な理由は「支援が手薄な0〜2歳児も保育料無償化が必要」(鏡石町)「現在は市町村ごとに保育料が定められ、居住地で負担に差がある」(北塩原村)など。「保育士の配置基準見直しや処遇改善を図り、人手不足を解消する必要がある」(会津美里町)といった声も複数あった。
政府は、20市町村(34%)が拡充を望んだ「児童手当」を軸に議論を進めている。調査では、見直しが検討される▽所得制限撤廃▽第2子以降の支給額引き上げ▽支給対象年齢の拡大▽その他―の中から最優先してほしい項目も聞いた。
約6割に当たる34市町村が支給対象年齢の拡大を選択した。現在の「中学生まで」から「18歳まで」に引き上げを検討する政府の姿勢を歓迎しているようだ。
理由は「年代が上がると学費や習い事などの負担が増える」(田村市)「所得制限撤廃や第2子以降の支給額引き上げで影響がある世帯は限定的」(玉川村)などだった。
支援策とともに、財源も焦点となる。児童手当の見直しだけでも数兆円規模に及ぶ可能性があり、岸田文雄首相は先月31日の衆院予算委員会で「社会保険、国と地方、給付と負担などさまざまな関係を検討し財源を考えていかなければならない」と説明した。
地方負担の可能性を示唆する政権に対し、自由記述で「自治体の財政によって格差が生まれないよう、国の制度として実施してほしい」(福島市)などと訴える自治体も複数あった。
政府は、年度内に少子化対策のたたき台をまとめる。
人口流出、悩み浮き彫り
政府が見直しの議論を進める少子化対策について、福島民友新聞社が実施した県内59市町村アンケートではさまざまな意見が寄せられた。検討されている案だけでは不十分との指摘も多く、人口流出が続く本県自治体の悩みが浮き彫りになった。
児童手当は与野党とも「所得制限の撤廃」「高校生までの支給延長」を主張している。一方、県内自治体からは「第2子以降の子育てに対する金銭負担が大きい」(飯舘村)など多子世帯への加算を求める声も少なくない。
多子加算について、自民党内には「第2子に3万円、第3子に6万円」の案があるが、人口減が進む町村部からは「第1子からの児童手当額引き上げ」を望む声も目立った。
児童手当は所得制限の範囲や金額、対象となる年齢が時の政権によって何度も変更されてきた。会津若松市は「頻繁に制度や解釈を変更することがないよう、しっかり制度設計してほしい」と要望した。
児童手当の議論が先行する一方、育児休業制度の強化や働き方の是正こそ必要との見方も多い。湯川村は「仕事と子育てを両立しやすい環境を整えることが少子化対策と人手不足解消の第一歩」と回答し、桑折町も「母親に偏りがちな負担を軽減する必要がある」と指摘。手厚い独自支援を行う西会津町は「社会の構造的な部分の改革が必要」と提言した。
奨学金制度の充実や、東京電力福島第1原発事故に伴う避難者にも柔軟に適用できる制度設計を求める声もあった。
0〜2歳児、独自支援も
アンケートでは、自治体独自の子育て支援制度についても聞いた。国が原則、無償化の対象外としている0〜2歳児の保育料の無償化や給付金の支給など内容はさまざまで、国の動向を踏まえ、新年度から新たな支援策を検討している自治体もあった。
0〜2歳児の保育料無償化に取り組んでいるのは大玉村や只見町、古殿町などで、おやつが無料の自治体もあった。南相馬市は認可保育施設の0〜2歳児の保育料が無料で、認可外保育施設の利用者には月額3万7000円を上限に助成している。浅川町は、あさかわこども園の保育料(0〜2歳児)の負担額を現在の2分の1から3分の1に軽減する方針で、新年度当初予算案に関連経費を盛り込んでいる。
給付金については複数の自治体が取り組む。矢祭町は第3子以降の2〜11歳に健全育成奨励金として年間5万円を支給している。通学費の助成や在宅育児に対する支援金、子育て用品の購入に使える商品券の配布に取り組む自治体もあった。金山町、飯舘村、棚倉町などは導入を検討しており、金山町は0〜3歳児におむつ代として毎月5000円程度、棚倉町は高校生を対象に年額6万円の支給を見込んでいる。  

 

●御社の技術が未来の兵器に? 急接近 防衛と民間企業 2/21
ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経ち、戦場では、ドローンや人工衛星通信など民間の先端技術が戦況を左右する実態が浮き彫りになった。
実は、こうした動き、日本も無縁ではない。今回、私たちは、民間の先端技術を自衛隊の未来の防衛装備品に取り込もうと駆け回る防衛官僚に密着。“軍”と“民”の区別が見えにくくなる中、両者の関係はどうあるべきかを考える。
未来の装備 種はどこだ
2月上旬に東京で開かれた、AIや半導体、量子、新素材などの最先端技術を紹介する世界最大級の展示会。国内外からおよそ360の企業や大学が出展した。
「防衛装備庁の藤井です」
会場に、ひときわ熱心な営業活動を仕掛ける一団がいた。リーダーは、自衛隊の装備品の調達や研究開発を担う防衛装備庁の技術戦略課長、藤井圭介。工学の博士号を持つ「技官」であり、防衛官僚の中でも先端技術を専門とする。
藤井「御社の技術、簡単に説明していただけますか?」
企業の担当者「パワー半導体は新幹線や電気自動車にどんどん使われていますが、さらにその先をいく新しい材料のデバイスということで開発しています」
訪問したのは「パワー半導体」の研究を手がける京都のベンチャー企業。「パワー半導体」は、大きな電圧や電流を扱えるのが特徴だ。この企業は、独自の新素材を用いて、より電力の損失が少なく効率的な半導体部品を作り出すことに成功したという。
私たちの身近なところで使われる技術を例に説明した担当者に対して、藤井は、こう切り出した。
藤井「その技術、すごくわが国の強みのひとつですね。私たちが考えているのが『レールガン』でして、これ、未来の装備として期待されているんです。コンデンサーが大きいのが現状で、御社の技術がまさしく小型化に通じると期待しているんです」
「レールガン」は、防衛装備庁が研究を続けている未来の装備品だ。火薬を使わず、電気のエネルギーで弾丸を高速連射する「電磁砲」で、防衛装備庁はなるべく早く自衛隊に配備したいと考えている。パワー半導体は瞬間的に巨大なエネルギーを発生させるために必要不可欠な技術なのだ。
藤井は重ねて協力を呼びかけた。
「基礎研究も大事だが、最終的に社会実装に持っていくことを考えていただいて。われわれとしては“装備品にしてなんぼ”なんです。ぜひこういった素晴らしい技術を装備品に取り込んでいきたいと思うのでよろしくお願いします」
「装備品に最先端の技術を取り込んでいくというのは国の流れです。堂々と説明して、我々としても『必要だ』とちゃんとアピールしたい」
変わる国家戦略
防衛装備庁はいま、こうした動きを急加速している。背景にあるのが、2022年12月に政府が決めた新たな「国家安全保障戦略」だ。
新たな戦略では、AIや量子などの民生技術が急速に進展しているとして、これまで防衛装備庁と取り引きのなかった企業や学術界が持つ先端技術を、防衛目的で取り込む動きを強めることが明確に打ち出された。さらに、防衛費増額が明記され予算も大幅に増える。
防衛装備庁がこれまで主に取り組んできたのは、企業や大学の基礎研究の支援だ。ただ、基礎研究だけでは、なかなか装備品の実用化につながらない。
このため、新たな戦略を踏まえ「装備品の実用化」につなげる「橋渡し研究」と呼ばれる取り組みを抜本的に強化することになった。2023年度予算案では、前の年度のおよそ20倍となる188億円が盛り込まれた。
浜田防衛大臣「先端技術を防衛目的に活用するにあたり、この強化した『橋渡し研究』が非常に有効だ。強力に推進したい」
悩む“軍”と“民”の距離
防衛装備庁は、この「橋渡し研究」への参加を積極的に企業に働きかけている。アプローチを受けた企業のひとつが、私たちの取材に応じた。
「GSIクレオス」社 執行役員で川崎市にある研究部門のトップを務める柳澤隆さん。扱うのは、髪の毛よりも極めて細い物質、「カーボンナノチューブ」だ。
「カーボンナノチューブ」は、「夢の材料」とも言われる注目の新素材だ。アルミより軽いにもかかわらず、鋼の数十倍ともいわれる強度を持ち衝撃に強い。摩擦を低減する効果もある。
この会社独自の技術を強みに、テニスラケットや、自転車のフレーム、さらには風力発電の風車やガスプラントのボルトなど、さまざまな分野で活用されている。
柳澤さんは、冒頭で紹介した2月の展示会で、防衛装備庁から、「橋渡し研究」への応募を勧められた。会社では、以前、防衛装備庁が「基礎研究」の研究費を支援する制度を利用していたため、その次のステップに進んだらどうかと提案されたのだ。
防衛装備庁は、この会社のカーボンナノチューブについて、「低摩擦」で「衝撃に強い」という2つの性質に注目していた。撃ち出しの速い砲弾を発射する火器の開発や、宇宙空間で、オイルなどの潤滑剤が使えない中でも長持ちする部品の開発などにつながることを期待しているという。
一方、柳澤さんは、どういう装備品に使うかはまだ装備庁側から聞いていないとした上で、仮に「橋渡し研究」に移行することになれば、これまでの「基礎研究」とは大きくフェーズが変わるとして、どう対応すべきか、若手の研究員らとともに議論を重ねている。
若手研究者の意見「技術者としては、開発した技術が世の中に出ることにはやりがいを感じるので積極的に進めたい」「橋渡し研究で資金が得られれば、研究開発は加速する」「実用目的、どういったところに使われるのかを知っておくことが重要だ。個人の感覚だが、装備品と民生品はちょっと違うかなと感じる」
柳澤さんは、適正な利益が得られるかなども考慮した上で、会社として「橋渡し研究」に移行すべきか判断したいと考えているが、まだ答えは出せずにいる。
「非常に難しい案件だと感じる。正解がなかなか無い。大きく言えば、科学技術と国の関係、科学技術は誰のものかということになる。会社として考えたときに、ステークホルダー(利害関係者)の中には一般の人もいる。いろんな考え方がある中で、技術者だけに重荷を背負わせるには、あまりにヘビーな問題だ」
ウクライナでは波紋も
民間技術の取り込みを急ぐ防衛当局と、先端技術を有する民間企業の難しい関係。ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、最近、こんな動きがあった。
イーロン・マスク氏が率いるアメリカの宇宙開発企業は、ウクライナを支援するため、人工衛星を使ったインターネットサービス「スターリンク」を提供してきたが、ここに来て、会社側が軍事利用を制限する方針を示して波紋が広がっているという。
イーロン・マスク氏「『スターリンク』が長距離ドローン攻撃に使用されるのは認められない」
ウクライナ軍は、ロシア軍の大規模攻撃に備えて本格的なドローン部隊を創設し『スターリンク』も配備すると発表していただけに、反発を強めている。
“軍”と“民”の関係は?
こうした“軍”と“民”の関係をどう考えればよいのか。そもそも軍事と非軍事に境界線をひくことはできるのか。2人の専門家に見解を聞いた。
先端技術と安全保障に詳しい慶應義塾大学の古谷知之教授は、ウクライナ情勢も踏まえ、民間技術が安全保障に果たす役割が大きくなっており、軍事や民間を分けない形で研究開発を進めることが重要だと指摘する。
「日本はこれまで民生技術と軍事技術を分けて開発してきた経緯があるが、それはおそらく日本くらいだ。アメリカや中国は、『デュアルユース』といって、民生技術を軍事転用する可能性を含めて技術開発を進めてきた。技術の優位性を確保することは、日本の安全保障上の優位を確保する上で不可欠だ」
一方、現代技術文化史が専門の京都大学の喜多千草教授は、第2次世界大戦後の日本の安全保障と科学技術の関係を、軍事大国であるアメリカ式の制度に大きく転換する岐路にあり、まだまだ議論が足りていないと指摘する。
「『自国軍のために科学技術力を使うことが国力を高める』というアメリカ型の考え方に変わることでいいのかどうか。研究開発が軍備になるべく関わりを持たないようにしてきた国のあり方を一度変えてしまうと、なかなか元には戻らない。政府は大きな政策転換であるとはっきり示し国民的な議論の場をつくるべきだ」
国民の生命・財産を守るために
日本の置かれたかつてなく厳しい安全保障環境と、技術革新のスピードを踏まえれば、民間の先端技術を活用して、すぐれた防衛装備品を作ることは、安全保障上、重要かもしれない。しかし、いったん完成した自衛隊の装備品を「どう使うか」は政府や、時として現場の自衛隊部隊の判断による。技術の作り手はそれをコントロールすることができない。日本には、旧日本軍によるかつての戦争の歴史の教訓も重く残されている。だからこそ、政府には、国の安全保障への貢献を一方的に求めるのではなく、なぜその装備品が必要なのか、本当に国民の生命・財産を守るために役立つ使い方をするのか、丁寧な説明が求められる。
●キヤノンとニコンがASMLに半導体露光装置で破れた政治的な理由 2/21
NYタイムズが「映画『チャイナ・シンドローム』や『ミッション:インポッシブル』並のノンフィクション・スリラーだ」と絶賛! エコノミストが「半導体産業を理解したい人にとって本書は素晴らしい出発点になる」と激賞!! フィナンシャル・タイムズ ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー2022を受賞した超話題作、Chip War
がついに日本に上陸する。
にわかに不足が叫ばれているように、半導体はもはや汎用品ではない。著者のクリス・ミラーが指摘しているように、「半導体の数は限られており、その製造過程は目が回るほど複雑で、恐ろしいほどコストがかかる」のだ。「生産はいくつかの決定的な急所にまるまるかかって」おり、たとえばiPhoneで使われているあるプロセッサは、世界中を見回しても、「たったひとつの企業のたったひとつの建物」でしか生産できない。
もはや石油を超える世界最重要資源である半導体をめぐって、世界各国はどのような思惑を持っているのか? 今回上梓される翻訳書、『半導体戦争――世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』にて、半導体をめぐる地政学的力学、発展の歴史、技術の本質が明かされている。発売を記念し、本書の一部を特別に公開する。
オランダという「中立地帯」での立地が ASMLのひとつの強みだった
キヤノンとニコンにとっての真のライバルは、小さな企業ながら急成長を遂げていたオランダのリソグラフィ装置メーカー、ASMLだった。1984年に、オランダの電機メーカーのフィリップスが、社内のリソグラフィ(露光装置)部門をスピンオフして誕生した企業である。
GCA〔かつてのリソグラフィ世界最大手〕の事業を衰退させた半導体価格の崩壊と同時期に行なわれたそのスピンオフは、タイミングとしては最悪だったといっていい。おまけに、ベルギーとの国境に程近い町、フェルトホーフェンは、半導体産業における世界的企業に似つかわしい立地とは思えなかった。ヨーロッパはそれなりの数の半導体を生産していたが、シリコンバレーや日本に後れを取っていることは明白だった。
オランダ人技術者のフリッツ・ファン・ハウトは、物理学の修士号を取得した直後の1984年にASMLへと入社したとき、自分から入社したのか、それとも入社させられたのか、と同僚に訊かれたことがあった。
当時のASMLには、フィリップスとの関係以外に、「工場もなければ資金もなかった」と彼は振り返る。それでは、社内にリソグラフィ装置の本格的な製造工程を築くのは不可能だっただろう。
代わりに、ASMLは世界中の供給業者から入念に調達した部品を用いてシステムを組み立てることにした。主要な部品を他社に頼るのは、明らかにリスクがあったが、ASMLはそのリスクを抑えるすべを学んだ。
おかげで、日本の競合企業がすべてを自社でつくろうとしたのに対し、ASMLは市場から最良の部品を仕入れることができた。EUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の開発に注力し始めるころには、さまざまな供給源から調達した部品をひとつにまとめる能力が、同社の最大の強みになっていた。
ASMLのもうひとつの強みは、想定外ではあるが、オランダという立地にあった。1980年代から1990年代にかけて、同社は日米貿易摩擦において中立的な存在とみなされ、アメリカ企業はASMLをニコンやキヤノンに代わる信頼できる取引先として扱った。
たとえば、アメリカの新興DRAMメーカーのマイクロンは、リソグラフィ装置を購入する際、日本の主要メーカー2社のいずれかに頼る代わりに、ASMLに頼った。日本の2社は、日本におけるマイクロンの競合DRAMメーカーとの関係が深かったからだ。
フィリップスとの縁が TSMCとASMLの協力体制を生んだ
フィリップスからスピンアウトしたというASMLの歴史もまた、意外な形で奏功した。台湾のTSMCと深い関係を築くのがスムーズになったからだ。フィリップスはTSMCに大規模な投資を行ない、自社の製造工程技術や知的財産をその若きファウンドリへと移転していた。TSMCの工場はフィリップスの製造工程に基づいて設計されていたので、ASMLはお抱えの市場を手にしたも同然だった。
1989年にTSMCの工場で起きた火災事故も思わぬ追い風となった。TSMCが火災保険の給付金で、19台の新型リソグラフィ装置を追加購入する形となったからだ。
ASMLとTSMCはもともと、半導体産業の片隅で小さな会社として産声を上げたが、両社はパートナーシップを築き、二人三脚で成長を遂げていった。その協力体制がなければ、今日のコンピューティング分野の進歩はぴたりと止まっていただろう。
ASMLとTSMCのパートナーシップは、1990年代の第三次「リソグラフィ戦争」の到来を予感させた。産業界や政界のほとんどの人は認めようとしなかったが、それは政治的な闘争にちがいなかった。
当時のアメリカは、冷戦の終結を祝福し、平和の配当を享受している真っ最中だった。技術力、軍事力、経済力、どの基準で見ても、アメリカは同盟国も敵国も含めた世界の頂点に君臨していた。
ある有力な評論家は、1990年代のことを、アメリカの優位が確立した「一極時代」と表現した。実際、湾岸戦争はアメリカの驚異的な技術力と軍事力を証明する形となった。
1992年、アンディ・グローブ[インテル元CEO]がEUVリソグラフィ研究へのインテル初の本格投資を承認しようとしていたころ、冷戦中の軍産複合体から生まれた半導体産業でさえ、もはや政治など関係ない、と結論づけたのは無理もなかった。
経営の第一人者たちは、権力ではなく利益が世界のビジネス風景を形づくる、未来の「国境なき世界」を約束した。経済学者たちは加速するグローバル化について口々に語った。CEOや政治家たちもまた、こうした新たな知的流行を受け入れた。
そのころ、インテルは再び半導体事業の頂点に返り咲いていた。日本のライバルたちをはねのけ、PCを動かすチップの世界市場をほぼ独占し、1986年から毎年利益を上げ続けていた。政治について心配する理由がどこにあるだろう?
アメリカ政府がEUVリソグラフィ研究から キヤノンとニコンを締め出した理由とは
1996年、インテルはアメリカのエネルギー省が運営するいくつかの研究所とパートナーシップを結ぶ。光学をはじめ、EUVリソグラフィを機能させるのに必要な分野の専門知識を共有するためだ。
インテルはほかに数社の半導体メーカーをそのコンソーシアムに迎え入れたが、ある参加者の記憶によれば、予算の大半を拠出したインテルが、会議を「95%牛耳っていた」という。
インテルは、ローレンス・リバモア国立研究所やサンディア国立研究所がEUVシステムを試作するための専門知識を持つと知っていたが、両研究所の主眼は量産ではなく科学的な側面のほうにあった。
しかし、カラザースの説明によれば、インテルの目標は「何かを測定するだけでなく、つくること」にあった。そこで、インテルはEUVリソグラフィ装置を市販化し、量産できる企業を探し始めた。アメリカにそんな企業は存在しない、というのが同社の出した結論だった。
GCAはもうない。現存するアメリカ最大のリソグラフィ装置メーカーであるシリコンバレー・グループは、技術的に後れを取っていた。しかし、1980年代の貿易戦争の苦い記憶がいまだ抜けきらないアメリカ政府は、日本のニコンやキヤノンに国立研究所と手を組ませることだけは避けたかった(ニコン自身は、EUV技術がうまくいくとは考えていなかったが)。となれば、残るリソグラフィ装置メーカーはASMLのみだった。
外国の企業に、アメリカの国立研究所で行なわれている最先端の研究へのアクセスを認めるという考えに、アメリカ政府内では疑問の声が上がった。EUVリソグラフィ技術に直接の軍事的応用はなかったし、この技術がうまく機能するのかどうかもまだ定かではなかった。それでも、もし機能すれば、アメリカはあらゆる計算に不可欠な装置を、ASMLに依存することになる。
だが、国防総省(ペンタゴン)の何人かの当局者を除いて、懸念を抱く者は政府内にほとんどいなかった。大半の人々はASMLやオランダ政府を信頼できるパートナーとみなしていたし、政治のリーダーたちにとって重要なのは、地政学よりも仕事への影響のほうだった。
アメリカ政府は、リソグラフィ装置用の部品の製造工場をアメリカ国内に建て、アメリカの顧客に商品を供給し、アメリカ人を職員として雇用するようASMLに要求したが、ASMLの核となる研究開発活動は本国オランダで行なわれた。
商務省、国立研究所、関係企業の主な意思決定者たちの記憶によれば、この協力関係を前進させるという政府の決断において、政治的配慮は仮にあったとしてもたいして大きな役割を果たしていなかったという。
長期にわたる遅れと巨大な予算超過に見舞われながらも、EUVリソグラフィ技術に関するパートナーシップはゆっくりと進展を遂げていった。アメリカの国立研究所における研究から締め出されたニコンとキヤノンは、独自のEUVリソグラフィ装置を開発しないことを決めたため、ASMLが世界で唯一のメーカーとなった。
●子供関連予算の増額、少子化対策に有効か 2/21
日本では、今が少子化の傾向を反転させる最後のチャンスだと言われている。
少子高齢化社会の典型である日本は、年間出生数を押し上げるための支出なら「何でもする」領域に近づきつつある。岸田文雄首相は従来とは「次元の異なる」少子化対策を打ち出しており、児童手当など子育て政策も含む家族関係社会支出は国内総生産(GDP)比2%を実現しているとした上で、「それを倍増させる」と表明した。家族手当拡充などの措置は歓迎すべきことだが、支出を増やすことが本当に少子化対策になるのだろうか。
先行きに宿命論的になるのは簡単だが、日本で高齢化が進み、社会の規模が小さくなる運命だとしても、それは日本だけでの話ではないだろう。東京都の小池百合子知事は先週、「少子化は国家的課題」だと発言。都だけの問題ではないという意味だが、それどころかこれは世界的な課題だ。
この数十年にわたり、日本の少子化に関する報道はオフィスでの働き過ぎや時代後れのジェンダーステレオタイプといった短絡的な議論にとどまってきた。こうした姿勢が最もよく表れていたのが2013年のドキュメンタリー番組「ノー・セックス・プリーズ、ウイ・アー・ジャパニーズ」で、その中ではセックスレスが人口減少の主因だとされた。それから10年後に突然、欧米で同じことが起きている。
政策担当者はもっと冷静にこの問題に向き合う必要がある。他の国・地域と同じく、日本の当局者は二つの厳しいトレンドの克服に苦労することになるだろう。一つ目は、女性の平均結婚年齢が21年には29歳と、1987年の25歳から上昇し、初産の時期が遅れ、妊娠可能な時期が短くなっていることだ。体外受精や婚外で子供をもうけやすくするための支出は助けになるかもしれないが、こうしたトレンドを変える可能性は低い。
もう一つは、「子供の数を少なめに抑えたい」夫婦が増えていることだ。2021年の出生動向基本調査で、夫婦が実際に予定している子供の数は平均2.01人と、理想とする子供数の2.25人をやや下回った。いずれも年々減少しており、双方の差も縮小している。1977年はそれぞれ2.17人と2.61人だった。
大半の夫婦が2人の子供しか予定しない場合、子供を望まないか授からない、結局持たなかった人々を加えれば、全国平均が急速に減ることは容易に想像できる。現代的ライフスタイルに加え、世界における教育や雇用、勝ち組の仲間入りを巡る競争激化で、家族を養うのがかつてないほど難しくなっている。
親はピアノの発表会や塾、体操教室への子供の送り迎えなど、次世代のあらゆる成功のチャンスを確実にしようと一層努めるようになった。親がより少ない子供により多くのカネと時間をかけることを選ぶこの状況は学者の間で「質と量のトレードオフ」と呼ばれている。
これはカネの問題だけではない。2014年の内閣府の調査では、学歴・雇用形態・夫婦の年収のほぼ全ての分類上の区分で、大多数が2人の子供を持つことを選好。ほぼ唯一の例外は夫の両親と同居している場合で、子供3人を望んでいる。子供3人を予定する可能性が最も高いのは最も所得の低い層で、富と生殖の逆相関が示されている。
岸田首相は予算を準備することはできるだろうが、時間を生み出すことはできない。保育サービスを利用できれば過労気味の親にとっては一安心だが、アウトソーシングが解決策になるとは思えない。シンガポールでは、6世帯に1世帯が家政婦を雇っているが、それでも出生率は日本をも下回っている。
国際通貨基金(IMF)は報告書で、保育サービスを利用できるにもかかわらず低いシンガポールの出生率について、「公的措置は親が子供と過ごすクオリティータイムの代わりにはなり得ないことを示唆している」と指摘した。
男女間の不均衡が解消されたとしたらどうだろう。台湾はアジアで最も男女平等が進んだ社会だと自負しているが、出生率は日本を下回る。経済がもっと良好で、家計にもっと金銭的な余裕があればどうか。韓国の1人当たりGDPは既に日本を抜いたが、出生率は現時点で0.81と世界最低にとどまってる。
これは世界的な現象で、女性の富と機会拡大と強い関係がある。欧州連合(EU)諸国や米国の出生率は既に人口置換水準(人口が長期的に増えも減りもせずに一定となる出生の水準)をかなり下回っており、つまり移民を積極的に受け入れる国も同じということだ。中国など権威主義的な政権は政策を通じて出生率を抑制してきたが、民主主義国で政府の行動がトレンドを反転させることはできるだろうか。
ハンガリーの例を挙げる人もいる。同国の家族支援予算はGDP比5.5%と、日本の計画を既に上回っている。ハンガリーは過去10年間に出生率が上昇したまれな国だが、政策がどの程度寄与したかは全く分かっていない。同国は人工妊娠中絶に対するルール強化など、出生率改善につながり得る逆行的な措置を講じる一方で、もはや欧州議会から完全な民主主義国と見なされていないことも注目に値する。
日本など出生率低下が避けられない国々は、出生率をベビーブーム世代の水準まで回復させる、あり得ない特効薬のような政策に期待するだけではだめだ。労働力人口の減少を和らげるために移民を受け入れるか、あるいは子供を望む家庭がほしいだけ子供を持てるようにする政策に注力するかにかかわらず、避けられない変化に向けた社会の備えに支出を集中させるべきだ。出生主義か宿命論の二者択一である必要はない。
●防衛費1兆円増税の一方でフィリピン6000億円、ウクライナ7300億円の支援 2/21
2月20日、岸田文雄首相は、東京都内で開かれた国際シンポジウムであいさつし、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、新たに55億ドル(約7370億円)の財政支援を実施すると表明した。侵攻開始から1年となる24日に、主要7カ国(G7)首脳によるオンライン会議を議長国として開催することも発表した。ウクライナのゼレンスキー大統領も招待する。
首相はシンポジウムで「今年の日本はG7議長国として、ウクライナ支援と国際秩序堅持へ世界の取り組みを主導する立場にある」と指摘。新たな財政支援について「戦争により生活の基盤を奪われた人々への支援や破壊されたインフラ復旧」が目的だと説明した。
G7首脳オンライン会議の開催は2022年12月13日以来。岸田首相は初めて議長を務める。
だが、ウクライナに対して7300億円の新たな財政支援を岸田首相が表明したことに、SNSでは批判の声が上がっている。
《ウクライナへの支援自体は必要だと思うが、簡単に7300億円が都合できるんだから、足りない国防費1兆円も増税する必要はないよね》
《日本は、防衛費増額するのに、国民に1兆円の増税を課すほどお金ないのに、なんで他国へ支援として、約7300億円もポンってあげれるの??そのお金1兆円近くなるじゃん。増税しなくても、あるじゃん。お金》
《フィリピンと合わせて軽く1兆円超えます。ポンとそれだけ出せるなら、日本の国防増税要らないんじゃないかと思います》
2月9日、岸田首相はフィリピンのマルコス大統領と首相官邸で会談し、2024年3月までに政府開発援助(ODA)と民間投資を合わせ、6000億円の支援を実施すると表明。共同声明でマルコス氏は、日本が新たに設けた、友好国の軍に無償支援する制度を歓迎していた。
フィリピンに関しては、台湾有事をにらみ、米国も安保協力を重視。米フィリピン両政府は2月、フィリピン国内で米軍が使用できる拠点を増やすことで合意している。
「キール世界経済研究所(ドイツ)のまとめでは、2022年1〜11月の軍事、財政、人道分野を含むウクライナ支援額は、日本がG7各国で最少の6億ユーロ(約858億円)。新たな財政支援で、4位のドイツの54億ユーロ(7722億円)に匹敵する規模となります。
一方、2月20日には、バイデン米大統領が、ウクライナの首都キーウを電撃訪問。ウクライナに新たに5億ドル(約670億円)規模の軍事支援を実施すると表明しました。電撃訪問の前に、ロシアに事前に通告していたことも米国は明かしています。
ロシアによるウクライナ侵攻後、G7では、フランスやドイツ、英国、イタリア、カナダの各首脳がキーウを訪問しました。バイデン大統領の電撃訪問により、G7で首脳がキーウを訪問していないのは、日本だけとなります」(政治担当記者)
2月21日、松野博一官房長官は記者会見で、バイデン米大統領がキーウを電撃訪問したことについて、「(ロシアの)侵略から1年を前に、ウクライナへの連帯を示す動きとして敬意を表する」と歓迎した。一方、岸田首相のキーウ訪問については「現地の安全対策など諸般の情勢を踏まえて検討をおこなっているが、現時点では何も決まっていない」と説明した。
日本ができるのは財政支援だけということか。だが、2月だけで、防衛費増税分の1兆円を超える支援を表明されては、国民の堪忍袋の緒が切れかねない。
●なぜ「高速道路を無料にする」とウソをついていたのか… 2/21
「高速道路無料化」は事実上消滅した
国土交通省は今通常国会に、高速道路料金の無料化開始時期を50年延長し、2115年からとする道路整備特別措置法を提出する方針だ。全国の高速道路は建設費などの借金を料金収入によって返済することになっており、現在、2065年まで料金を徴収すれば借金を完済して、以降、無料化できると定めている。
しかし、国交省の有識者会議では、高速道路の老朽化が進み、その維持・更新に伴う費用が確保されていないとの理由から、料金徴収期間を半永久的に延長することを求めていた。「高度成長期に急ごしらえで整備された全国の高速道路は老朽化が進み、数兆円規模の追加補修費が必要と見られている」(与党中堅幹部)とされ、今回一挙に、50年間延長することが決まった。今の現役世代が無料になった高速道路を走ることはほぼ不可能になる。
そもそも高速道路料金無料化は、民主党が2009年の衆議院選挙のマニフェストに「12年度までに原則無料化」を掲げて圧勝。鳩山政権誕生とともに予算措置に動いたが、財源問題で暗礁に乗り上げたいわくつきの施策だ。その後、自民党の政権復帰で無料化はさらに遠のき、2014年には、それまでの有料期限を15年間延長し、2065年までとした。そして、今回の50年の延長である。
5社合計の補修費は1兆5000億円に上る
高速道路各社は昨年以降、老朽化した道路の更新計画を公表したが、この中で東日本、中日本、西日本のNEXCO3社は計1兆円、首都高速道路は3000億円、阪神高速道路は2000億円の補修費用が必要となるとの試算を明示した。5社合計の補修費用は1兆5000億円にも上るため、その財源確保のために有料化をさらに延長しなければならないというロジックだ。
そもそも高速道路は1956年に国の全額出資で設立された特殊法人「日本道路公団」が建設、管理を行っていたが、天下りや談合、族議員の跋扈(ばっこ)など利権の温床との批判が絶えず、負債が雪だるま式に増え「第二の国鉄」と言われた。その解消を目的に打ち出されたのが民営化で、2005年に施設の管理運営や建設を行う東日本、中日本、西日本のNEXCO3社、首都、阪神、本四の各高速度道路会社と、保有施設および債務返済を行う独立行政法人「日本高速道路保有・債務返済機構」に分割・譲渡された。
いわゆる「上下分離方式」と呼ばれるもので、機構は保有施設を高速道路各社に貸し付け、その賃貸収益によって債務を返済する仕組みだ。そして機構は当初、2050年までに承継した債務を政府に返還し、解散することになっていた。返済しなければならない債務残高は約40兆円であった。
しかし、先述したように2014年に高速道路の老朽化に伴う修繕のための追加費用が必要として、返済期間が最長60年に見直され、2065年まで存続することになった。
「永遠に有料」と言わないのは、課税を避けるため
言うまでもなく道路は公共財であり、誰もが無料で利用できることが原則である。高速道路も例外ではなく、建設費を返還した後は無料となる。もっと言えば返済後に無料となることを前提に課税も免除されている。
今回、返済期限を65年まで延長したことは事実上、永遠に有料化が続くと見られているにもかかわらず、国土交通省は「無料化の旗」を降ろしていないのは、この課税を回避するためである。高速道路は未来永劫「有料」と言った瞬間に課税されるのだ。その額は年間5000億円規模となると試算される。
繰り返しになるが高速道路は14年に法改正され、有料期間が15年間延長された。背景には12年に中央自動車道笹子トンネル崩落事故が起こり、老朽化したトンネル、橋、道路といった公共財の老朽化がクローズアップしたことがある。この事故を境に、高速道路は有料期限の延長を繰り返すことになる。
「高速道路各社は延長で生じた財源をもとに更新事業を積極的に進めている。今回の50年延長は一里塚に過ぎない。各社は第2・第3弾の更新計画と債務返済計画を作り、さらなる有料期間の延長を目指している」(野党幹部)という。
有料期間の延長は、国費投入を避けながら高速道路の老朽化対策を講じる「打ち出の小槌」であり、同時に「日本高速道路保有・債務返済機構」という国土交通省の天領を残す、願ったりかなったりの施策と言っていい。日本の財政難を回避する有効な手段というわけだ。
防衛費の財源をめぐっても「返済延長」の動きが
債務返済を先延ばしにする動きは、高速道路だけにとどまらない。岸田政権が打ち出した防衛費増額をめぐっては、財源として国債の償還期間を延長し、毎年の返済額を減らして財源に充てる案が自民党内で浮上している。政府の借金である国債の「60年償還ルール」を見直そうというのだ。
「60年償還ルール」とは、端的に言えば「国債を60年かけて返す」という仕組みだ。例えば償還期間10年の国債を600億円発行した場合、10年後に一般会計から国債返済のため100億円を特別会計へ繰り入れて返済し、残り500億円は借換債(借金を返すために発行する国債)を発行する。そして次の10年でまた100億円を一般会計から特別会計に繰り入れて返済し、残る400億円分の借換債を発行する。これを繰り返して60年後に完済する仕組みだ。
その際、毎年度、一般会計から繰り入れられる金額は、国債発行残高の約60分の1(1.6%)に相当する額と法律で定められている。
60年で完済すると決められた理由は、当初「60年ルール」は公共事業に投資する建設国債のみに適用されていたためだ。道路や橋などの平均耐用年数が50〜60年程度ということから「60年で完済」となった経緯がある。まさに今回、50年延長された高速道路の無料化と重なるルールである。
ゆくゆくは「100年延長」も視野に
昭和の高度成長に矢継ぎ早に建設された高速道路は、耐久年数である50〜60年程度をもって借金を返済し、「無料公開」されるはずだったのだ。しかし、それは老朽化という名目でなし崩し的に延長を繰り返している。
建設国債であれば公共財という資産が残ることになり、財政の健全性に問題はない。しかし、1985年度から財源不足を補う赤字国債の返済にもこの「60年ルール」が適用されるようになり、借金は雪だるま式に膨張していった。そして、今回の防衛費増額の財源捻出の一環として「60年ルール」の延長案が持ち上がった。一般会計からの返済繰入額を減らす代わりに、借換債の発行を増やし、繰入額を減らした分、防衛費に使える一般会計のお金を増やそうというのが狙いだ。
だが、単年度では一般会計からの返済費は少なくなるものの、返済総額が減るわけではない。借換債を余計に発行することになり、将来世代の負担はさらに増すことになる。
この構図は、高速道路の50年延長と同じだ。いずれも現状のルールを変更し、財源を捻出する「裏技」と言っていい。かつ、高速道路の有料化期限は、道路の耐久年数に準拠している。同様に国債の「60年ルール」は公共事業の建設国債が原点であり、公共施設の耐久年数がベースになっている。
そして、その見直しの背景には危機的な日本の財政状況がある。高速道路各社は、高速道路の耐久年数は100年まで延長可能ともみており、有料化をさらに延長し続けることは確実だ。
国の借金は膨れ上がるばかり
財務省は、税収で返済する必要のある普通国債(建設国債、赤字国債、借換債)の発行残高が2022年12月末に1005兆7772億円になったと発表した。1000兆円超えは初めて。22年9月末から11兆9807億円増えた。日銀が大規模金融緩和のさらなる修正に踏み込めば、金利上昇で利払い費が急増する恐れがある。
貸し付けの回収金で返済する財投債や借入金、政府短期証券なども合計したいわゆる「国の借金」は1256兆9992億円となった。
一方、日銀が22年末に10年物国債利回りの許容変動幅をプラスマイナス0.5%に拡大し、長期金利は上昇傾向にある。財務省は利払い費の見積もりに使う金利を26年度に1.6%に置いた場合、同年度の国債費は29兆8000億円と23年度から4兆5000億円増えると試算されている。
こうした危機的な日本の財政状態については、海外からも懸念する声が上がっている。国際通貨基金(IMF)が昨年1月26日に公表した対日経済審査の結果はその筆頭だろう。審査は10年に及んだ異次元緩和の効果を検証し、修正案を提言しているもので、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化を求めているのが特徴だ。その中で財政政策についてつぎのように指摘している。
「債務の借り換えと発行のリスクは、豊富な国内貯蓄とホームバイアス、外貨建て債務を含まない債務構成を背景として、短期的には抑えられている。しかし、中長期的には人口動態のトレンドが重くのしかかり、債務持続可能性のリスクが高まる」
議論が浮上している「永久国債」とは
では、日本の財政を立て直すための手立てが一切ないかと言われると、そうでもない。国民民主党は、財政健全策として日銀保有国債の「永久国債化」を提案している。これはどういうものか。
永久国債は世界的には「コンソル公債」と呼ばれる。コンソル公債とは、永久に償還しない代わりに、利子のみを払い続ける「永久債」の一種で、1752年に英国で発行されたのが始まり。当時、英国では長年にわたる戦争で財政赤字が累増し、その償還問題が大きな課題となっていた。
その処方箋として発行されたのが、コンソル公債で、それまで発行されていた各種国債をコンソル公債に一本化。これにより財政負担は利払いのみに限定され、根雪となった元本部分は永久に償還しないで済むことになった。
「ウルトラC」が検討されるほど追い込まれている
日本がおかれた現在の財政状況はまさに、この当時の英国と同じ。GDPの2倍に及ぶ財政赤字をソフトランディングする手段として、コンソル公債の発行が現実味をおびることになる。その際、ネックとなるのが、普通国債は最長60年以内で償還するという「60年償還ルール」であるが、先述のように同ルールの変更が俎上(そじょう)に載っている。
鈴木俊一財務相は「政府が日銀の機能を利用して財政調達を行うことになり、財政に対する信認や金融政策の独立性が損なわれる恐れがある」と危惧する。永久国債は禁じ手の類いで、発行しないで済むならそれに越したことはない。
だが、日本の財政赤字は、終戦直後の英国を抜き、先進国史上、最悪の事態に陥ろうとしている。その先にみえてくるのは、かつての英国の知恵であった「コンソル公債」の発行と言えなくもない。まさにウルトラCの展開だ。
●食料安全保障、日本のもろさ ウクライナ侵攻で見えた危機的状況 2/21
1年前のロシアによるウクライナ侵攻により、世界の小麦輸出の3割を占めるロシアとウクライナからの輸出が減少した。これにより、小麦など穀物価格は上昇し、中東やアフリカの所得の低い国で大きな影響が出た。日本の食料安全保障は有事に耐え得るのか。軍事紛争から見えた現状と、問題点、対策についてまとめた。(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、経済産業研究所上席研究員 山下一仁)
二つの食料危機
食料危機には二つのケースがある。このうち一つは、価格が上がり買えなくなって飢餓が生じるケースだ。ウクライナ侵攻を契機に小麦価格が高騰し、アフリカなどで食料危機が生じている。
物価変動を除いた穀物の実質価格は、過去1世紀低下傾向にある。名目価格では史上最高値と言われる現在の穀物価格も、実質価格では1960年代の平均価格と同程度である。
1961年に比べ人口は2.5倍だが、米、小麦とも生産量は技術進歩によって3.4〜3.5倍となり、供給が需要を上回っている。しかし、突発的な理由で需給のバランスが崩れ、価格が急騰するときがある。途上国の人たちは、支出額の半分以上を食料費に充てている場合が多い。穀物価格が倍以上になると、パンや米を買うことができなくなり、飢餓が生じる。
   穀物国際価格指数と国内CPI(消費者物価指数)の推移
日本でこの種の危機が起きることはない。2008年、穀物価格が3倍程度に高騰したときでも、日本の食料品の消費者物価指数は2.6%しか上昇しなかった。日本の消費者が飲食料品に支払っているお金のうち87%は、加工・流通・外食への支出だ。輸入農水産物に払っているお金は2%に過ぎず、その一部の輸入穀物の価格が3倍に跳ね上がっても、全体の支出に影響することはほとんどない。小麦輸入の上位3カ国、インドネシア、トルコ、エジプトに、日本が買い負けることはないのだ。
深刻なシーレーン破壊
食料危機のもう一つのケースは、食料が届かなくて飢餓が生じるという危機である。日本が懸念すべきはこれで、例えば台湾有事のように日本周辺で軍事的な紛争が生じ、シーレーン(海上交通路)が破壊されて輸入が途絶すると、深刻な食料危機が起きる。
小麦も牛肉もチーズも輸入できない。輸入穀物に依存する畜産はほぼ壊滅する。生き延びるために、最低限のカロリーを摂取できる食生活、つまり米とイモ主体の終戦後の食生活に戻るしかない。
当時の米の一人1日当たりの配給は2合3勺だった。今は1日にこれだけの米を食べる人はいない。肉、牛乳、卵などの副食がほとんどなく、米しか食べるものがなかったので、現代よりも量が多いとはいえ当時の国民は飢えた。
現在、1億2550万人に2合3勺の米を配給するためには、玄米で1600万トンの供給が必要となる。しかし、農水省とJA農協は、減反で米生産を減少させてきた。米価を高く維持し零細で非効率な兼業農家を滞留させることで、その兼業(サラリーマン)収入をJAバンクの預金として活用できるからである。2022年の生産量は、ピーク時(1967年1445万トン)の半分以下の670万トンである。
今、輸入が途絶すれば、国民の半分以上が餓死する。
これが、食料自給率向上や食料安全保障を叫ぶ農水産やJA農協が行っている政策がもたらす悲惨な結末だ。1960年から比べて、世界の米生産は3.5倍に増加したのに、日本は4割の減少である。しかも、補助金を出してまで主食の米の生産を減少させてきた。
   コメ生産量推移(1961年=100)
コメ輸出国となれば
農水省は今回のウクライナ危機に便乗し、小麦や大豆の国内生産を拡大するとしている。しかし、2300億円の財政負担により生産を振興しているが、130万トンの麦・大豆しか生産できていない。
一方、同じ2300億円を拠出するなら、計700万トンほどの小麦を輸入・備蓄ですることができる。危機が起きたとき、130万トンと700万トンの差は大きな違いとなる。
米農業を農水省やJA農協から救う方法はある。減反を止めてカリフォルニア米と同程度の面積当たりの収穫量(単収)の米を全水田に作付けすれば、1700万トン生産できるのだ。平時は700万トンを国内で消費し、1000万トンを輸出に回せばよい。
そして、危機のときには輸出していた米を食べるのだ。平時の米輸出は、危機時のための米備蓄の役割を果たす。しかも、倉庫料や金利などの負担を必要としない無償の備蓄である。自由貿易が食料安全保障の確保につながるのだ。
米の貿易量は、小麦2億トンに対し5000万トンと4分の1に過ぎない。また、世界全体の生産に占める輸出の割合は、小麦26%、大豆43%に対し、米は6%と極めて低い。わずかな不作であっても輸出量は大きく減少する。さらに、3大輸出国のインド、タイ、ベトナムは途上国であり、国際価格が高騰すると、国内から米が輸出され、国内価格も高騰して飢餓が生じるので、輸出を制限しがちである。つまり米の国際市場は極めて不安定なのだ。
日本が1000万トンを輸出すれば、世界の貿易量は2割上昇し、日本はインドに次ぐ世界第2位の米輸出国になる。生産量に対する輸出比率が高いので、不作でも輸出はインドのように減少しない。信頼できる安定した輸出国である。世界の食料安全保障の最も弱い部分である米貿易に対して、日本は大きな貢献を行える。日本の食料安全保障が世界の食料安全保障となるのだ。
減反政策は、国民が納税者として補助金を負担しつつ、米価上昇を消費者としても負担するという異常な政策だ。減反が廃止されれば3500億円の補助金は不要になり、消費者は米価下落の恩恵も受ける。価格低下の影響を受ける主業農家に補償するとしてもその費用は1500億円で済む。
なぜキーウは落ちなかったのか
有事によってシーレーンが破壊されると、石油も輸入できなくなる。石油がなければ、肥料や農薬も供給できず、農業機械も動かせないので、一定の面積当たりの収量は大幅に低下する。戦前はある程度、化学肥料も普及していたが、農薬や農業機械はなかった。石油がなければこの状態に戻る。
終戦時の人口は7200万人、農地は600万ヘクタールあった。仮に、この時と同じ生産方法を用いた場合、現在の人口は1億2550万人に増加しているため、農地面積は、1050万ヘクタール必要になる計算だ。しかし、農地は宅地への転用が進んだ結果、440万ヘクタールしか残っていない。
ゴルフ場や公園、小学校の運動場などを農地に転換しなければならないが、九州と四国を合わせた面積に相当する600万ヘクタールの農地を追加することは不可能だ。
真に国民への食料供給を考えるなら、大量の穀物を輸入・備蓄して危機に備える必要がある。原資には、減反廃止で余った金を活用すればよい。
ロシア軍がウクライナの首都キーウを陥落できなかったのは、食料や武器などを輸送する兵站に問題があったからだ。食料がなければ戦争はできない。戦前、農林省の減反提案を潰したのは陸軍省だった。減反は安全保障に反する。
日本の食料安全保障は、農水省やJA農協に農政を任せてしまった結果、危機的な状況に陥っている。いったん有事となれば、日本は戦闘行為を行う前に食料から崩壊するだろう。国民は彼らから食料政策を自らの手に取り戻すべきだ。
●財政の見通し 有害な現実離れの試算 2/21
政府が財政の中長期試算を示した。財政の健全度を示す「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)が、黒字化を目指す2025年度は1兆5千億円の赤字になるものの、高い経済成長で税収が増えるなどして26年度には黒字になるという。
非現実的で、無責任な見積もりにあぜんとする。国民の信頼や市場の信認を損ないかねない。政府は現実を直視して、放漫な財政運営に歯止めをかけるべきだ。
財政の基礎的収支は、歳出のうち、社会保障や公共事業などの政策に必要な経費を、国債(借金)に頼らず税収など基本的な収入でどれだけ賄えるかを示す。政府は25年度に政策経費を税収の範囲内にとどめる目標を掲げている。
だが、新型コロナウイルス禍に加え、ウクライナ危機や円安に伴う物価高への対応で、政府予算は膨張を続けている。大型補正予算の連発、内閣の裁量だけで使える「予備費」の増大などで22年度の基礎的収支は50兆円近くの赤字になるとみられる。これが本当に3年で1・5兆円の赤字に改善し、4年で黒字になるのか。
税収の前提となる国内総生産(GDP)の成長率は名目3%、実質2%を想定する。過去20年で1度しか実現していない好況である。米国や欧州の利上げで世界景気の後退が危ぶまれる中、あまりにも楽観的に過ぎよう。
一方、歳出はコロナ対策などがなくなるとして減少を見込むが、岸田文雄首相は防衛費や子育て予算の「倍増」を打ち出している。
23〜27年度までの5年間で総額43兆円を投じる防衛費は、一部を試算に考慮したが、増税決定の先送りなどで膨張する恐れがある。子育て財源はまったく加味されていない。大型補正予算も組まない前提になっている。信じがたい仮定を重ねた末の黒字化である。
政府は、現状程度の低成長が続くなら、25年度の赤字は5兆円を超えるとの試算も示す。せめて、こちらを軸に予算を組み立ててはどうか。
自民党では60年で全額を返済する国債のルールを見直し、防衛費増額の財源にする案が持ち上がっている。借金返済の先延ばしにすぎず、将来世代に一層のツケを回す弥縫(びほう)策というほかない。
政府の債務残高はGDP比2倍を超え、先進国で突出して悪い。政府与党は「今さえしのげれば」の発想を排し、持続可能で安定した財政を目指さねばならない。
●東京市場 2/21
「ドル・円は主に134円台で推移か、米利上げ長期化予想でドルは底堅い動きを維持する可能性」
20日のドル・円は、東京市場では134円54銭から133円96銭まで下落。欧米市場では134円37銭まで買われた後、133円93銭まで反落したが、134円24銭で取引終了。本日21日のドル・円は主に134円台で推移か。米利上げ長期化の見方は後退していないため、ドルは底堅い動きを維持する可能性がある。
市場参加者の間では良好な米国経済指標を受けて米政策金利見通しを引き上げる動きが出ているようだ。一部の市場参加者は米政策金利が最終的に5.50−5.75%程度まで上昇すると想定している。そのため、新興国市場への投資資金の一部を米国債市場に移すことも検討されているようだ。今後発表される雇用、インフレ、個人消費などに関連する経済指標の多くが市場予想を上回る内容だった場合、米政策金利見通しを引き上げる動きは一段と拡大する可能性がある。22日に公表される連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨に対する市場参加者の関心はまずまず高いようだ。金融引き締めの継続を支持する意見が大半を占めていた場合、米長期金利は上昇し、米国株式はさえない動きとなりそうだが、ドルは強含みとなる可能性がある。また、24日に発表される1月米PCEコア価格指数に対する関心も引き続き高い。市場予想を上回った場合、インフレ緩和の思惑は後退し、ユーロや日本円に対するリスク選好的なドル買いが優勢となりそうだ。
●マイナカード一体化に 紙の保険証なくすな 2/21
日本共産党の田村貴昭議員は20日の衆院予算委員会分科会で、保険証と一体化したマイナンバーカードと、オンライン上での資格確認システムについて質問しました。インターネットが使えないなど、ネットワークの未整備でカード確認ができないことや、確認システムが導入できずに閉院する医療機関が出かねない問題を指摘し、従来の保険証を残すよう訴えました。
17日に公表されたマイナンバーカードと健康保険証一体化に関する中間とりまとめでは、カードのオンライン資格確認ができない場合、個人情報を記載した資格確認書で被保険者資格を確認するとしています。
田村氏は、同確認書が従来の保険証と同じ機能だと指摘。「紙の保険証も発行し続けるべきだ」と主張しました。加藤勝信厚生労働相は「来年秋にすべての被保険者を対象に発行してきた保険証は廃止を目指すが、カードを取得しない人々などに必要な措置は確保していく」と述べました。
田村氏は、ネットが使えない状況では本人確認ができずカードが使えないことや、高額な費用で新しい確認システムを導入することが医療機関に大きな負担になることを指摘。「医療機関がシステム導入が引き金で閉院することがあってはならない。地域医療を守るために、医療機関個別の事情に配慮した対応が必要だ」と迫りました。
加藤厚労相は「一つひとつの事情を聞いて対応したい」と答えました。
●アメリカ軍の凄すぎる「気球撃墜大作戦」 炭疽菌積んでたら日本は終わり 2/21
2020年6月、宮城県や福島県で「白い球体」が目撃された。当時の防衛相は河野太郎氏(60)。彼は記者会見で「安全保障に影響はない」と述べた。しかし残念なことに、その見解は完全に間違っていた。今、中国の軍事用気球が世界の安全保障を揺るがしている──。
国会でも論戦が続いているが、そもそも軍事問題に精通した有権者となると、極めて少ない。気球が軍事利用されているというだけで驚く人もいるだろう。だが関係者にとっては“常識中の常識”だという。軍事ジャーナリストが解説する。
「気球の軍事利用はアメリカがトップを走り、中国が猛追しています。例えばアメリカ軍は軍需産業と協力し、高高度に係留した気球を使って南部国境からメキシコ湾およびカリブ海に至るまでの麻薬密売ルートを監視していることが明らかになっています。中国は2015年に宇宙戦を担当する戦略支援部隊を新設し、超高高度を飛ぶ気球、飛行船、ドローンの研究をしています」
2021年9月に開催された第13回中国国際航空宇宙博覧会(広東省珠海市)には、中国の国営軍事産業が偵察用気球を出品した。
「博覧会が開催されたのは宮城県などで気球が目撃されてから、およそ1年3カ月後という時期でした。中国は軍事利用を目的とする気球を、第三国に輸出することも視野に入れて博覧会に出品したのです」(同・軍事ジャーナリスト)
「スパイ衛星」より「スパイ気球」のほうが優れている点として一番に挙げられるのは、コストの安さだ。ロケットで人工衛星を打ち上げるためには、膨大な資金と高い技術力が必要であり、発展途上国には不可能と言っていい。
軍事用気球のメリット
だが、国家予算の乏しい国でも気球なら飛ばせる。特定の地域を長時間偵察することは人工衛星より得意だ。一方、スパイ衛星に関しては、宇宙空間で攻撃して破壊する兵器の研究も進んでいる。そのため軍事用気球への期待は高まる一方なのだ。
「軍事用気球のメリットは他にもあります。主要なものとして3点を挙げておきましょう。第1点は『目的は気象観測』とか『民間企業が飛ばした』といった言い逃れが容易なことです。2020年6月に日本で発見された気球の場合、アメリカ空軍の三沢基地が近くにありました。2月4日にアメリカ軍が南部サウスカロライナ州の沖合上空で撃墜した気球は、グアムやハワイの米軍基地を監視する目的で飛んでいたと16日付のニューヨーク・タイムズ紙が報じました。状況として“クロ”であることは言うまでもありません」(同・軍事ジャーナリスト)
どちらの気球もレーダー波やミサイル誘導電波の傍受(エリント)が目的だった可能性がある。とはいえ、現状では「偵察を目的とする軍事用気球だった」という確たる証拠はない。
アメリカは撃墜した気球を回収し、「民間企業による気象観測用の気球」という中国側の主張がウソだと証明するため、調査を続けている。
大国のアメリカだからこそ、これほどの手間やコストに耐えられる。発展途上国なら“泣き寝入り”するしかないだろう。日本も無為無策だったため、真相の解明は永遠に不可能だ。
難易度の高い作戦
「第2点は国際法の強引な解釈が可能だということです。民間航空機の国際的なルールを定めたシカゴ条約(国際民間航空条約)では、民間航空機を撃墜することは原則禁止と謳っています。中国は気球が民間のものだったと繰り返し主張し、アメリカを批判していますが、その理論的根拠をシカゴ条約に求めているのでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
そして第3点として「撃墜が極めて難しい」ことが挙げられる。
テレビのニュースでは、ミサイルが気球に命中し、人々が歓声を上げる様子が何度も映し出された。素人には「簡単に撃ち落とした」という印象が強いかもしれない。
「実はアメリカ軍にとって極めて難易度の高い作戦でした。そもそも高度2万メートルを飛べる戦闘機がありません。F22戦闘機が2機出撃し、高度1万8000メートルからミサイルを1発射って撃墜しました。高度はF22の行動限界に近く、この点だけでも容易な作戦ではなかったはずです」(同・軍事ジャーナリスト)
気球が何を搭載しているのか分からないという点も、アメリカ軍は憂慮しただろう。撃墜した気球から有害な物質が領海に飛散するようなことがあっては目も当てられない。
徹底した偵察
そこでアメリカ軍はまず、U2偵察機を投入した。1955年に導入されたU2は、冷戦期に東側諸国の偵察で大活躍したというエピソードから、“遺物”という印象を持つ人も多いだろう。
「U2は高度2万メートル以上を飛ぶことができます。アメリカ軍の軍用機の中では最高度を誇り、それが今も現役で活躍している理由です。今回の作戦では気球に接近し、領海上で撃墜しても問題が生じないか、写真撮影など極めて丁寧な調査を実施したと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)
さらにアメリカ軍はRC135偵察機も飛ばした。こちらは大型の機体で、電子偵察を得意とする。気球がどんな情報を集めているのか分析したと考えられている。
「空中でU2とRC135が綿密な調査を行い、『気球は間違いなく軍事用の偵察兵器であり、気象用ではない』ことを確認したのでしょう。この結果、『第三国の兵器が領空を侵犯したため撃墜した』という国際法上の根拠を固めたわけです」(同・軍事ジャーナリスト)
次に問題になったのが撃墜するミサイルだ。気球にはエンジンが搭載されていないので、熱源を感知する赤外線誘導ミサイルは役に立たない。ステルス性も高く、レーダーで誘導するミサイルも意味がない。
空中給油機や哨戒機、巡洋艦も展開
「F22が積んだのは『AIM-9Xサイドワインダーミサイル』でした。このミサイルは赤外線画像を認識することができます。気球の形を記憶、認識し、それに向かって飛んでいくわけです。F22が選ばれたのは、機内にミサイルを格納できるからでしょう。主翼に搭載するより空気抵抗が少なく、超高高度での安全性が高まります」(同・軍事ジャーナリスト)
ちなみに2機のF22には「フランク01」「フランク02」というコールサインが与えられた。これは第一次世界大戦でドイツ軍の気球14機と航空機4機を撃墜したアメリカ軍のエースパイロット、フランク・ルーク(1897〜1918)に由来する。
F22が失敗した時に備え、2機のF15戦闘機がバックアップとして空中で待機。F15は作戦の記録や撃墜ポイントの確認なども担当したという。さらに、燃料が少なくなった時のためにKC135空中給油機も近くを飛んだ。
「領海上にはP8ポセイドン哨戒機が投入され、気球の残骸が着水した場所を確認しました。その回収に巡洋艦と駆逐艦、強襲揚陸艦が駆り出されています。空軍と海軍が連携し、領海上に出たタイミングを見定めて超高高度でミサイルを発射、落下地点を確認して回収する。極めて大がかりで難易度の高い作戦だったことは明らかで、アメリカ軍にとっても相当な負担だったはずです」(同・軍事ジャーナリスト)
自衛隊に撃墜は不可能!?
別の作戦では、ミサイルが命中しなかったことも判明している。AFP時事は2月15日、「未確認物体、一発必中ならず 米軍機」の記事を配信した。
「12日に行われた気球の撃墜作戦では、アメリカとカナダの国境に近いヒューロン湖の上空で、F16戦闘機がサイドワインダーミサイルを1発射ちました。ところが外れてしまい、ミサイルは湖に落ちました。2発目が命中して撃墜に成功しましたが、このことからも難易度の高い作戦ということがよく分かります」(同・軍事ジャーナリスト)
浜田靖一防衛相(67)は14日の記者会見で、気球が日本に飛来した場合は武器が使用できるとの見解を示した。
さらに毎日新聞(電子版)は15日、「政府、気球への武器使用の運用拡大を検討 正当防衛・緊急避難以外も」の記事を配信、YAHOO! ニュースのトピックスにも転載された。
「日本の航空自衛隊も海上自衛隊も練度の高さは世界トップクラスです。とはいえ、実際に撃墜するとなると大変でしょう。特に日本はU2偵察機を所有していないので、気球を撃墜しても大丈夫かどうか判断するのは苦労するはずです」(同・軍事ジャーナリスト)
「気球に聞いてください」
中国が気球を輸出用の兵器として売り出そうと考えていることは前に触れた。理論上は、それを北朝鮮が購入し、細菌・化学兵器を積んで日本に飛ばすことも可能だ。
気球に何が積まれているのか分からない──充分な調査が難しいとなると、日本政府は撃墜の決定を迅速には下せないかもしれない。
ちなみに、防衛相だった河野氏が「安全保障に影響はございません」と断言した記者会見は2020年6月23日に開かれた。記者が気球について「また日本に戻ってくるという可能性はないんでしょうか」と質問すると、河野氏は「気球に聞いてください」と、ほんの少し笑いながら答えた。このような態度では、気球の撃墜は無理だと付け加えておこう。
●保育士の配置基準どうなる?「次元の異なる少子化対策」議論は 2/21
少子化対策の具体化に向けた政府の会議は17日、幼児教育の充実などをテーマに有識者からヒアリングを行い、全ての子どもが保育を受けられる権利を保障する制度の導入を求める意見などが出されました。
次元の異なる少子化対策
岸田総理大臣が目指す「次元の異なる少子化対策」の具体化に向けて、政府は20日、内閣府や厚生労働省などによる3回目の会議を開きました。
岸田首相「年齢・性別を問わず皆が参加する次元が異なる子ども・子育て政策を進め、日本の少子化トレンドを何とか反転させたい。率直な意見を伺い、子ども・子育て政策の強化につなげていきたい」
このあと、幼児教育や保育サービスの充実、それに家庭での子育て支援の拡充などをテーマに有識者からヒアリングが行われました。
このうち、待機児童問題などに取り組んできた市民団体「みらい子育て全国ネットワーク」の天野妙代表は、幼児から高等教育までの全ての教育費を無償化することや、全ての子どもたちが保育を受けられる権利を保障する「国民皆保育」の制度を速やかに導入するよう求めました。
政府は次回の会合で、働き方改革などをテーマに有識者からヒアリングを行った上で、3月末をめどに少子化対策の具体策のたたき台をまとめることにしています。
保育士の配置基準見直しを
少子化対策として、保育サービスをどう充実させるのか。現場からは保育士の配置基準の見直しを求める声が上がっています。
国による保育士の配置基準は、子どもの人数に対して、必要な保育士の人数を定めたものです。戦後まもない1948年に定められ一部の年齢では、見直しが行われましたが、4歳児以上は70年以上も、当時の基準のままとなっています。
現在の基準は、0歳児は、保育士1人に対して3人、1歳児と2歳児は1人に6人、3歳児が1人に20人、4,5歳児が1人に30人となっています。
保育現場では
保育現場からは今の配置基準では、園児に対して十分な対応ができないとして見直しを求める声が上がっています。
埼玉県鴻巣市にある認可保育園です。2歳児のクラスでは、国の配置基準と同じく、2人の保育士が12人の園児をみています。
午前中は、2歳児クラス全員でピアノの音にあわせて体を動かすリズム活動をしていました。しかし、活動に飽きた数人の子どもが部屋の隅で遊び始めると、1人の保育士が、子どもたちに駆け寄って声をかけます。
この園では、子どもの「やりたいという気持ち」を尊重する保育を実践していますが「イヤイヤ期」の子どもどうしはトラブルもあり、安全面に配慮するため、保育士は息つく間もありません。
担当の保育士「もう1人保育士がいたら、子どもにもっと寄り添った保育ができるのにと思います」
「どんぐりっこ保育園」 久保田泰雄園長「最後に配置基準が見直されたおよそ20年前と比べても、子どもたちは多様化しています。それに対応するためには今の配置基準では難しく、ぜひ見直しを考えてほしい。保育園のサポートが、しっかりあれば、安心して子どもを産み育てることができると思います」
政府は次回の会合で、働き方改革などをテーマに有識者からヒアリングを行ったうえで、3月末をめどに少子化対策の具体策のたたき台をまとめることにしています。
●足利市長「大変ショッキング」 2022年出生数、最少の644人 2/21
栃木県足利市の早川尚秀市長は二十日、昨年一年間の出生数が過去最少の六百四十四人だったことを公表し、「大変ショッキングな数字」と語った。同日発表の新年度予算案に少子化、人口減少対策として新規、拡充の九事業、計一億六千六百万円を盛り込み、危機的状況の改善をめざす。
記録が残る一九六三年以降の同市出生数の推移は、団塊ジュニア世代が生まれた七二年の三千九十人をピークにほぼ減少が続き、二〇一五年に初めて千人を割り込んだ。一八年に八百人台、二〇年に七百人台になり、コロナ禍も痛手だった。
かつては十七万人に迫り、宇都宮市に次いで県内二位の規模だった人口も小山市、栃木市に抜かれて四位に転落。二月一日現在で十四万七百十三人。十三万人台が目前に迫っている。
早川市長は「子育て世代に選ばれる足利をめざす」と話した。新年度の主な新規事業は、出産祝い金給付(第三子以降の出産に十万円)、放課後児童クラブ利用料減免(低所得世帯のクラブ利用料月二千円補助)、ヤングケアラー支援体制強化(支援コーディネーター配置)など。
●少子化はこの世の終わりなのか? 2/21
岸田文雄首相が少子化対策に力こぶを見せている。地域エコノミストの藻谷浩介氏が2010年、著書『デフレの正体』で、労働力人口の減少が日本経済不振の根本的原因だと指摘して以来、少子化への諦めが日本社会に染み付いてしまった。実際には高齢者と女性の就労増加で、日本の就労者数は底だった2012年以来7.3%増えたし、実質GDPも5.3%増加しているのだが。
「人口増=善」という考え方は、近代の産業革命以降のものだ。それまでの、GDPがほとんど伸びない農業社会では、英経済学者のトマス・ロバート・マルサスが言ったように、人口が増えすぎればみんな貧しくなるから、「間引き」もまれではなかった。中世の西欧は14世紀中頃、人口の約3分の1をペストで失う大悲劇に見舞われている。それで経済は一時停滞したが、労働力の減少は賃金の上昇、次いで消費の増加と15世紀以降の経済活性化を招いている。
「人は消費者だ。人が多い国では市場が大きく、国力も大きくなる」ということに気が付いたのは、17世紀のイギリスだ。この国で産業革命が真っ先に成立したのは、人口ではるかにオランダに勝り、フランスのように国内市場を貴族に分断されていなかったからだと言われる。
このことは、(輸出競争力を脅かさない範囲で)賃上げをすれば、人口が減ったからといって経済が必ず縮小するものでもない、と教えてくれる。人口が少なくても高い生活水準を享受している例は、北欧やベネルクス3国にある。これらの国では人口が少ないからといって、通勤電車の経営が成り立たなくなっているわけでもない。
旧世代の政治家には手に負えない
しかし、日本は大人口の国。日本より大きな領土に1000万しか人口がいないスウェーデンに一足飛びになれるわけではない。今の日本の課題は、少子化をできるだけ食い止め、微減していくであろう労働人口でどうやって社会保障システムと経済を回していくか、ということになる。
現役層の人口が減ると、年金・健康保険のシステムを維持できなくなると言われる。確かに国民年金では、現役人口が小さいと、引退者の年金を負担するのはきつくなる。一方企業を通じて払い込む厚生年金は、基本的には自分の将来の年金を自分が現役のうちに払い込んでおくシステムになっているので、人口構成が逆ピラミッド型になってもやっていける。健康保険は、現在高齢者の負担分が引き上げられている。
教育などの費用がかかることが、子供を産みたくても産めない最大の理由とされる。では大学の無料化で、出生数は増えるのか? 増えないだろう。一流校に入るには、塾やら何やらで多大な費用がかかるからだ。
これらを移民増や、人工知能(AI)・ロボットで補うことはある程度できるが、限界がある。移民はアメリカや西欧でのっぴきならない社会問題を起こしており、これは簡単には解決できない。
最近では保育園不足もかなり解消された。父親の育児休暇制度も以前よりは広がっている。しかし、筆者(元公務員)の経験からすると、育児のために早めに帰宅することは「不可能」で、夫、妻、祖父母のいずれかに容赦ないしわ寄せがいって初めて育児は成り立った。そのあたりが、団塊世代の子供たち前後から、「子供を産まない」傾向が目立つ背景だろう。
旧世代の政治家たちに、この問題は手に負えまい。児童手当を一律に増やそうとしているが、マイナンバーカードの情報も使ってもっと精査し、本当に困っている世帯に手厚い手当が行くようにすべきだ。「カネをつけたから終わり」では困る。
●岸田首相の「異次元の少子化対策」は国民民主・玉木代表の”丸パクリ” 2/21
岸田文雄首相(65)が新年早々に掲げた「異次元の少子化対策」。“異次元”という言葉のチョイスに各所からツッコミが飛んだためか、1月23日の施政方針演説で首相は、「次元の異なる少子化対策」とさっそく表現を微修正した。
だが、この「異次元の少子化対策」、実は5年前にすでに提言されていたという。政策提言を行っていたのは、国民民主党の玉木雄一郎代表(53)だ。玉木代表によると、“異次元”という言葉だけでなく、その中身も自身の提言と酷似しているとのこと。「著作権料くらいはもらいたいものです」と笑う玉木代表に、岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」への評価と課題を聞いた。
――岸田首相の「異次元の少子化対策」という政策を聞いた時は、どう思いましたか。
玉木雄一郎(以下、玉木)「率直に、私が’18年に提案した発言と完全に被っているな、と(笑)。一緒なのは言葉だけでなく、内容もでした。『児童手当などの経済的支援の強化』、『すべての子育て家庭へのサービス拡充』、『働き方改革の推進』、この3つの軸も我々が考えていたものとほぼ同じだった。というより、まったく同じと言っても大袈裟ではありません。政策提案型のウチの党からすれば、ありがたいことではありますが(笑)」
――岸田首相をはじめとした現閣僚から、政策に関しての相談はありましたか。
玉木「この5年間、ずっと党として与党に伝えてきたことです。ただし、ここに至るまでずいぶん時間がかかってしまった。昨年の出生数が80万人を切り、ようやく危機感を持ったんだと思いますが、遅すぎる。結果論ですが、もし5年前に動いていたら、ここまでの数字にはなっていなかった可能性もある」
――“異次元”という言葉の着想はどこから生まれたのか。
玉木「当時、『異次元の金融緩和』という言葉が使われていたことがあり、そこからです。“異次元”と聞くと突飛な政策を連想するかもしれませんが、私は特別目新しいことは必要ないと考えています。国会でできることは、新しい当たり前の基準をつくること。“異次元”でやる必要があるのは、法案化までのスピード感でしょう。高齢化のスピードが国の予想よりも6年も早まっており、少子化対策も6年早めてやるべきだった。あとは財源調達の方法。お金がないからできないではなくて、こども国債を発行してでも速やかにやるべき。もう我が国の少子化問題はその段階に来ている」
――玉木代表はかつて、第3子を生んだ家庭に1000万円を給付する、という政策も提唱していました。
玉木「1000万円というと大きな額に感じますが、18歳までの月々で換算すると4万6000円ほど。現在の子ども手当の給付額を考慮しても、決して非現実的な数字ではない。実際にいろいろリサーチすると、経済的な理由で第3子を諦める、という例がすごく多いんです」
――4月に発足するこども家庭庁の予算総額は4兆8104億円。政府は倍増することを検討しているとの報道も出ていますが、この予算額についてはどうお考えですか。
玉木「この予算規模は妥当な数字だと思いますね」
――仮にこども国債を発行したとして、将来的な財源を税収で賄えるのか。
玉木「たとえば25〜65歳まで40年間、年収500万円で働くと生涯賃金は2億円となる。2億円稼ぐサラリーマンは、所得税でおよそ5000万円、社会保険料などで5000万円支払う計算となります。単純計算ではありますが、税金を1億円納める人を1人産み出すのに、1000万円を使うのは非常に効率的な発想ではないでしょうか」
――代表質問では、「まずはこれまでの子育て政策の検証が必要だ」と強調されていました。
玉木「何十年も前から少子化対策が必要だと言われてきて、国や地方自治体でいろいろやってきた。その中で、そろそろエビデンスが伴う客観的な検証が必要だと考えています。特に今は、『自治体ガチャ』のような状態になってしまっている。『医療費』、『第2子以降の保育料』、『中学校の給食費』、『公共施設の遊び場』、『おむつ』など5つの無料化を実施した明石市は人口を増やし続け、鳥取県でも出生率が増加した。海外に目を向けても、先進国の中でフランスが出生率1.83という数字を記録している。そういった地方自治体や海外の成功した例を全部集めてくることは、必要不可欠。それを参考にして検証、取り入れるということが安全で確実です」
――岸田首相の施策の軸は現在の子育て世代を対象としたもので、低所得者層などの出生率増加に繋がるのか、という疑問の声もあがっています。
玉木「批判はあるかもしれませんが、少子化対策を考える際、夫婦から2人以上の子供が生まれることがもっとも大切だと考えています。厚生労働省の『人口問題研究所』の調査によると、複数の子供を諦めるのは圧倒的に経済的な理由が多いんです。もちろん低所得者の方の支援も重要ですが、こちらは福祉政策としてやるべき。少子化対策とは異なります。今の出生率を考えると、まじめに働き、ちゃんと税金を払っている中間層の方へ向けた経済的支援のほうが重要度は高いとみている。そして、そのほうが効果も高い、と。教育や子育ての問題を考えると、まず国が一番に取り組むべきは経済的支援だと思います」
――児童手当の所得制限撤廃も、少子化対策のためには優先度が高い、と。
玉木「それは間違いないです。賃上げと所得制限撤廃は、異次元の少子化対策の中でセットで考えるべき問題です。所得制限撤廃も、我が党で去年の6月、10月に2度法案を出し、ようやく議論となる段階に来た。賃上げ、所得制限撤廃を実現しないことには、いくら少子化対策を練ったところで劇的な効果は考えづらい」
――野党の代表として、今後どのようなスタンスで異次元の少子化対策に関わっていくのか。
玉木「政策実現のために、野党だけでなく与党も巻き込み協力できるところはしていきたい。政府や担当大臣、与野党の幹部の方にも直接働きかけ、法案化を目指していくつもりです」
――岸田首相は「異次元」を「次元の異なる」と修正しましたが、それについてはいかがでしょうか。
玉木「おそらく岸田総理は、いろんな人から言われて発言を修正したんでしょう。少なくとも現段階では我々の提唱と、総理の言う『異次元の少子化対策』の内容はほぼ同じ。むしろ、だんだん近づいてきた感じです(笑)。あとは、財源調達の方法とスピード感までパクってくれたらいいな、というのが私の願いです」
●児童手当の所得制限撤廃 自民・世耕氏 “実施の見直し”を示唆 2/21
少子化対策として政府が検討している「児童手当の所得制限の撤廃」について、自民党の世耕参院幹事長は国民の反対意見が多いとして、政策の修正が必要との見解を示しました。
自民 世耕弘成 参院幹事長「高級マンションに住んで、高級車を乗り回してる人にまでこういった支援をするのかというのが、世論調査で出てきてるんだろうというふうに思います」
児童手当の所得制限の撤廃については、複数の世論調査で反対が上回っています。
世耕氏はこの結果を「意外だった」とした上で、「適宜、政策も修正しながら対応していけばいい」と撤廃の見直しを示唆しました。
この政策を打ち出した茂木幹事長もきのう、「全体の政策パッケージの中で優先順位を検討すべきだ」と述べるなど、政府・与党内で世論を踏まえた慎重な検討が行われています。  
●マルコス大統領、ジェトロ記念フォーラムに登壇、日本企業に投資呼びかけ 2/21
2022年6月の就任後初来日したフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は2月10日、東京都内で開催されたフィリピン投資誘致フォーラム「PHILIPPINE Business Opportunities Forum」に登壇し、日本の企業に同国への投資を直接訴えかけた。フォーラムはフィリピン政府とジェトロ、日比経済委員会、日本アセアンセンター、フィリピン協会が主催、約640人の日本とフィリピンのビジネス関係者らが参加した。
マルコス大統領は基調講演で日本とフィリピンについて、「日本はフィリピンにとって最大の貿易相手、投資国の1つだ。一方、フィリピンは日本の投資家に対して質の高い労働力、成長の原動力となる安定したマクロ経済環境を提供することができる。互恵的で強固な関係をさらに高めていきたい」と述べ、両国の経済関係の発展に期待を込めた。
その上で大統領は、フィリピンでビジネス展開を検討すべき理由を3つ挙げた。1つ目は安定したマクロ経済環境。積極的な政府支出と旺盛な民間需要に支えられ、2022年の実質GDP成長率が前年比7.6%の高さを記録、新型コロナウイルス禍による影響からの回復を見せていることを強調した。2つ目は投資環境の改善。フィリピン政府が近年、外国投資法や公共サービス法の改正などを通じた外資規制の緩和(2022年3月22日記事、2022年3月25日記事参照)、戦略的投資優先計画(SIPP)に基づく投資インセンティブの付与(2022年6月10日記事参照)などを実現していることを紹介した。3つ目は積極的なインフラ投資政策。過去の政権の政策をさらに発展させるかたちで「ビルド・ベター・モア」を掲げ、GDPの5〜6%をインフラ関連支出に充てるとした。「官民連携(PPP)によるインフラ案件が200件以上進行しており、民間からの投資を歓迎する」と呼びかけた。
また、フィリピンでの批准が待たれる地域的な包括的経済連携(RCEP)協定については、「現政権はRCEP協定の議会での批准承認を進めており、間もなく実現するだろう」と述べた。
今回のフォーラムには、マルコス大統領のほか、ベンジャミン・ディオクノ財務相、マヌエル・ボノアン公共事業道路相、アルフレド・パスクアル貿易産業相、クリスティーナ・フラスコ観光相、ハイメ・バウティスタ運輸相、アミーナ・パンガンダーマン予算管理相、アルセニオ・バリサカン国家経済開発長官、フェリーペ・メダーリャ中央銀行総裁ら、主要な経済関係閣僚や政府関係者がそろって参加。フィリピンの経済動向やインフラなどの産業動向について講演、パネルディスカッションを行った。

 

●安保3文書の改定閣議決定に反対する会長声明 2/22
広島弁護士会会長 久笠信雄
第1 声明の趣旨
当会は、国が安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛整備計画)の改定により、反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有すること、及びそのために多額の財政負担を負うことを閣議決定したことに対して、強く反対する。
第2 理由
   1 閣議決定
政府は、2022年12月16日、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛整備計画」(以下「3文書」という)の改定を閣議決定した。これにより政府は、「敵基地攻撃能力」に代えて「反撃能力」という用語を用いて、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃する敵基地攻撃能力よりさらに幅を持たせた表現で武力の保有を決定し、それに伴い、防衛費の大幅な増額を決定した。
   2 憲法9条との関係(専守防衛に反すること)
従来、政府は、憲法9条の下での自衛権の発動は、平和主義を基本原則とする日本国憲法においては、自衛の措置といえども無制限ではなく、あくまで外国の我が国に対する武力攻撃が発生した場合で、他にこれに対処する措置が無い場合に初めて容認されること、それはその事態を排除するためにとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものであることを示してきた(自衛権発動の3要件・専守防衛)。
しかし、政府は上記3文書の閣議決定によって「反撃能力」の保有を決定した。これにより、相手国がミサイル攻撃等の発射する前の段階では日本に対する攻撃がなされるのかを正確に判断できないのにも関わらず、相手国が「攻撃に着手」したとみなして反撃することになり、実質的に国際法上も違法な先制攻撃となりうる事態が想定される。また、安保法制の下、日本に対する武力攻撃や、「攻撃に着手」したとみなされる事態がなくとも、「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した場合に集団的自衛権の行使ができる。これにより、日本に一切攻撃を行っていない、行おうともしていない他国に日本から先制攻撃を行う事態が想定されることとなる。
「反撃能力」は、一旦これを行使すれば、当然相手国からの反撃が想定され、結局際限のないミサイル戦争になるため、必要最小限度にとどめておくことは不可能である。さらに「反撃能力」は日米の共同行使が前提であるため(国家防衛戦略)、我が国の反撃能力だけが必要最小限度にとどまることはない。その結果、相手国もこれを上回る攻撃能力を備えて際限のない軍拡競争を引き起こし、偶発的な戦争や、ひいては核兵器の使用のおそれさえ生じさせる。
このように、今回の閣議決定による3文書の改定は、集団的自衛権の行使等を容認した安保法制をさらに進めたものであり、国家防衛戦略の大転換と言える。従来の専守防衛に反して、相手国の領域に直接「武力攻撃」を行う「戦力」の保有を決定したものであり、当然に憲法9条に違反する。
   3 手続きと民主主義との関係
3文書の改定の閣議決定は、先の国会が終了した後になされたものである。
しかし、先に述べたとおり、この防衛戦略の変更は、従来の政府の防衛戦略を大きく変更し憲法9条にも反するものである。さらに、防衛力の抜本的強化のためにGDP2%の予算措置をとる必要があるとされている。そのため、多額の財政負担、具体的には現在の2倍もの巨費を防衛費に投入する必要があり、国民の経済的負担増は避けられない。
それにも関わらず、国民的議論は言うまでもなく、国民の代表者による国会ですら、具体的議論はなされていない。
このような国家防衛戦略の大転換が国会審議もなく、閣議により決定されたことは、憲法原理の一つである立憲主義、民主主義、国民主権の原理にも反するものである。
   4 結論
当会は、2014年以降、長年にわたり確立された政府の憲法解釈を閣議決定により変更して、集団的自衛権の行使等を容認し、またそれを法制化した安保法制に対し、強く反対してきた。これらは憲法9条に違反するほか、立憲主義、国民主権の基本原則に反するものである。この度の政府の安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛整備計画)の閣議決定による反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も、安保法制と同様、憲法9条に反する。さらに、手続的にも、これらを閣議決定することは、憲法原理である立憲主義、国民主権、民主主義に反することから、これに強く反対する。
●防衛費と国債 戦後の不文律捨てる危うさ 2/22
来年度予算案の衆議院での審議が大詰めを迎えている。戦後初めて、防衛費の調達を目的にする建設国債の発行を盛り込んだ予算案であり、このまま認めれば、「借金で防衛費をまかなわない」という不文律が破られる。悲惨な戦禍から学んだ重要な教訓を投げ捨ててよいのか。熟議もないままに、憲法の平和主義を支える重要な規律を破ることは許されない。
矛盾あらわな答弁
政府が提出した予算案は、自衛隊の隊舎の整備や護衛艦の建造費など計4343億円を、公共事業費に充てる建設国債でまかなう。従来政府は、防衛費は公共事業とみなしておらず、重大な方針変更にあたる。
政府は、昨年末の国家安全保障戦略で海上保安庁と防衛省の連携強化をうたった。そこで、海保の船艇などと同様に「防衛費を建設国債の発行対象経費として整理した」(岸田首相)のだという。
だが、海保は法律で軍事機能が否定されている。連携するからといって、予算を同列に扱う理由にはならない。
加えて看過できないのは、首相が「(これまで)赤字国債であったものが建設国債になる」と答弁していることだ。
財源不足を穴埋めする赤字国債は、使途が明示されない。だから、その一部は、結果的に防衛費にも利用されていたと言いたいのだろう。
しかし、1965年度に戦後初の赤字国債を発行したとき、政府自身が「公債を軍事目的に活用することは絶対に致しません」(当時の福田赳夫蔵相)と断言している。岸田首相は、この説明が虚偽だったと主張するのだろうか。
予算全体の帳尻合わせの赤字国債と防衛費目的と明示した国債発行は、次元が異なる。「戦後レジームからの脱却」を唱えた安倍元首相は生前、防衛費を国債でまかなえばいいと述べていた。首相はそうした主張を漫然と受け入れ、矛盾に満ちた強弁を続けているのではないか。
風化する歴史の教訓
防衛費と国債の関係は、憲法と財政法の根幹にかかわる。
1947年に施行された財政法の4条は、赤字国債の発行を禁じた。それは、健全財政のためだけではなかった。
当時立法に深く関わった旧大蔵省の平井平治氏は、『財政法逐条解説』に「公債のないところに戦争はないと断言し得る。本条は憲法の戦争放棄の規定を裏書保証するものであるともいい得る」と記した。
大蔵省の正史『昭和財政史』も、平和主義のもとに、戦争財政の苦い経験にかんがみ「公債発行の歯止めを財政法の中にもとめた」と結論づけている。
一方で、4条に反して赤字国債を発行するに際し、政府は4条と平和主義との関係を否定した。その論理や背景は定かでないが、林健久東大名誉教授(財政学)は「社会の反発が強かった国債を景気対策のために発行するにあたり、少しでも抵抗を減らすために、4条と平和主義の結び付きを認めなかったのではないか」と推測する。
その後の政府も、赤字国債発行を繰り返しながら、同様の説明を踏襲してきた。今国会でも鈴木俊一財務相は、「あくまで健全財政のための規定であって、戦争危険の防止そのものが立法趣旨であるとは考えていない」と述べている。
歴史は、その時々の社会経済情勢を背景に解釈される宿命にあるのは事実だ。だがそこには、歴史の重要な教訓が風化する危うさがある。
これまで政府は、4条と平和主義の関係を否定しつつも、国債を防衛費に充てないという一線は守ってきた。だが、半世紀にわたる風化の積み重ねが、いよいよその不文律にも及んできたのが現実ではないか。
徹底した議論を
辛うじて守られてきた不文律が破られれば、防衛費が青天井で膨張し、平和主義が骨抜きにならないか。周辺国との際限なき軍拡競争を起こさないか。危惧せずにいられない。
岸田首相は、「建設国債に依存して防衛費を増やすことはない」と強調する。だが、いったん開けた穴は、新しい歯止めがない限り、時が経つにつれ広がる。それがこれまでの歴史だ。
戦前の日本銀行による国債引き受けは、「一時の便法」との構想が宙に浮き、野放図な借金と泥沼の戦争拡大を招いた。戦後の国債発行も、一時的な不況対策というもくろみは外れた。最近では、コロナ対策だったはずの巨額予備費の使途が物価高対策にも広がり、財政民主主義が空文化しつつある。
防衛力強化をめぐっては、「専守防衛」の理念を揺るがす敵基地攻撃能力の保有も盛り込まれた。憲法が掲げる平和主義を担保してきた様々なルールが、一挙に失われつつある。
内外の膨大な犠牲の上に築かれた戦後の蓄積を顧みずに、耳目を引きやすい「普通の国」への転換を急いではならない。与野党に徹底した議論を求める。
●「グローバルコモンズ」を守る、他業界との共創 【Green Innovator Forum】 2/22
年々危機感が増している気候変動。2022年は、6月から8月にかけてパキスタンで起こった大洪水をはじめ、欧州での熱波、気温の上昇による干ばつなど、異常気象による災害が次々と報告される年となった。こういった深刻な事態に対し、同年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで行われたCOP27では、気候変動により「損失と損害」を受けた主に南半球の途上国への支援を目的とする基金を創設することが合意される流れとなった。
この危機の時代に、地球そのものを私たち人間の“共有財産”——「グローバルコモンズ」と捉え、企業や国家といった枠を超えてそれを守っていこうとする動きが、必要とされている。
2022年12月、学生や若手社会人を対象としたグリーンイノベーター育成プログラム「Green Innovator Academy」の第二期を締めくくるイベント「Green Innovator Forum 2050年の未来をえがく〜脱炭素社会へ、世代・セクターを超えて共創する〜」が開催された。
今回のフォーラムでは、この「グローバルコモンズ」を守るために大転換が必要とされる4つの社会・経済システム——「サーキュラーエコノミー」「都市」「エネルギー」「食と農」、そしてそれらを進めていくために必須となる「セクターを超えた共創」をテーマにセッションが行われ、各テーマの有識者やプログラム参加者の社会人や学生による幅広い議論が繰り広げられた。
本記事では、各セッションの概要をつかみながら、これからの時代、私たちがどのように気候変動を乗り越えていけば良いのかを考えていきたい。
未来に必要な“グリーンイノベーター”を育てる「Green Innovator Academy」
2030年に向けて、社会に今必要とされている変革を起こす1,000人のグリーンイノベーターを育てることを目標に2021年に始まった「Green Innovator Academy(以下、GIA)」。第二期目となる2022年度は、8月から12月の4か月間、選抜された学生と若手社会人総勢約100名がオンライン講座やフィールドワークを通してイノベーターに必要な知識やスキルを学んだ。そして、最終イベントとなる本フォーラムの2日目には事業提案や政策提言の発表を行った。
このプログラムにおいて特に大切にしていることのひとつが、気候変動や脱炭素における「大局を捉える」ことである。これは、グローバル規模の課題を本気で解決しようと思ったとき、どこか一部分や偏った視点で物事を見ていても正しい答えには辿り着けず、未来のイノベーターとなる人材には特にその部分を大事にして欲しいとの考えからだ。
そこで本フォーラム1日目では、人間と地球の関係を科学的に評価した「プラネタリーバウンダリー」を礎に4つの社会・経済システムをセッションのテーマに据え、気候変動に立ち向かうための包括的な対策を考える議論が行われた。
オープニングで登壇した、エネルギーアナリストでプログラム実行委員のひとりである前田雄大氏は、大局を捉えるときに重要となるのは「時間軸」「地政学」「空気」の3つだと話す。
「脱炭素やGX(グリーントランスフォーメーション)について考える際、2050年という遠い目標に向かうまでの道のりを、短期、中期、長期できちんと捉え、何をしていくべきなのかを考えることが非常に大事です。さらに、今の経済・社会システムの延長線上で物事を考えるのではなく、目標からバックキャストしてはじめの一歩をどうするかを考えなければなりません。
また、2022年はロシアによるウクライナ侵攻があったことで、地政学的なニュースがかなり増えた年でした。世界の国々がグローバル協調から自国第一主義の方向に向かう動きもある今、ロシアに対するスタンスも全ての国で一致しているわけではなく、むしろ分断の傾向は強まっているように感じています。エネルギー資源国であるロシアとの各国の付き合い方は、脱炭素政策にも大きな影響を及ぼすでしょう。
そんななか、世界の潮流——『空気』をしっかりつかむ、そして作ることも大事です。現在多くの国がカーボンニュートラルを政策として掲げているのは、『どうやら世界は脱炭素の方向に進むらしい』という空気があったからこそだと思います。
化石燃料をベースとして回っている今の経済・社会のスタイルを脱却するためには、小さな変化を積み重ねていくことが必要です。しかし、人間にとって変化することはそう簡単ではない。そこで必要となるのが、変化を生み出す個人の中の“熱エネルギー”です。そしてそれは、誰かが着火してくれることで、連鎖的に広がっていくもの。
ですからぜひ、グリーンイノベーターを目指すみなさん自身がそういう“着火剤”になっていくことも必要だと思います」
それでは、さっそく各セッションの概要を見ていこう。
サーキュラーエコノミーを加速させるのは、「意識改革」と「仕組みづくり」
最初に行われたセッションは、「サーキュラー・エコノミーへの転換を加速するには」。株式会社東芝CEOの島田太郎氏、データやIoTを用いて循環型社会を支えるインフラづくりを行う株式会社ecommit CEOの川野輝之氏、オールインクルーシブな社会の実現を目指し多様な人が楽しめるアパレルブランドを展開するSOLIT株式会社に勤め、GIA二期生でもある和田菜摘氏がパネリストとして登壇した。モデレーターは、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事として自治体と共に循環経済への移行に携わってきた坂野晶氏が務めた。
ここでは、循環型社会への移行のボトルネックになっていることや課題について整理したうえで、それを乗り越えるためにはどうすれば良いのかが議論された。
東芝の島田氏は私たち個人がもっと自分の排出しているCO2について意識的になることがまず必要だとし、東芝が開発したCO2排出量等の環境データを可視化できる「スマートレシート」のようなサービスを用いて、消費者側の意識改革を進めていく必要があると話した。
またecommitの川野氏は、ものを流通させる仕組みと比較して循環のインフラが圧倒的に足りていないとし、場所・コスト・時間など、あらゆる面で誰もが参加できる、アクセシビリティの高い循環の仕組みを構築していく必要があると述べた。
筆者としては「循環の仕組みは新しいものづくりそのものの仕組みである」という川野氏の発言が印象的で、循環経済の構築のためには、今後はものづくりの概念に、そのものの循環の部分までを組み込んで考えることが当たり前になっていく必要があるのだと痛感した。
都市の転換に必要なのは、そこに住む人が作るコミュニティ
2番目のセッション「新しい都市のあり方」では、一般財団法人森記念財団の大和則夫氏、株式会社ウェルカム 虎ノ門蒸留所の一場鉄平氏、慶應義塾大学総合政策学部2年でGIA二期生の上野萌々花氏がパネリストとして、モデレーターとして森ビル株式会社の中裕樹氏が登壇。ここでは、私たちにとって魅力的な都市の姿や、東京が今後都市としてどうあるべきかといったことについて議論された。
世界人口が増加し、2050年には全人口の7割近くが都市に住むようになる(※1)と予想されている今、都市のあり方は気候変動に対して大きな課題であると同時に、その解決のために大きな可能性を秘めているとも言える。
森記念財団の大和氏が言及した同財団の「世界の都市総合力ランキング 2022」によると、東京はロンドン、ニューヨークに続いて第3位にランクインしており、世界の主要都市の中でも「研究・開発」や「文化・交流」といった面で評価されているようだ。
一方で東京の課題として挙げられたのは、上記ランキングの環境分野の指標にもある「緑地の充実度」だという。
これに対し大和氏は、森ビルで開発している欅坂の街路樹や六本木ヒルズ屋上の田んぼなどを例に挙げ、「単純に衛星写真に映る緑地面積を増やしていくのではなく、人々が緑ある空間でいかに質の高い時間を過ごすかを重視して開発を進めていきたい」と話した。
都市の緑地を充実させることは、そこに住む人の暮らしの質向上、また地球環境にとってもプラスに働く。住む人が多い都市では公園のように面で緑地を広げていくことは難しいかもしれないが、住宅の壁面やビルの屋上といった未活用の場所に少しずつ緑を増やしていくなど、できることは色々とありそうだと感じた。
また今後都市のあり方を変えていくには、そこに住む人たちが、自分たちの暮らしについてその場所のローカリティを大切にしながら主体的に作っていく姿勢が必要になってくると一場氏は語る。同氏がプロデュースする「虎ノ門横丁」で作っている飲食店事業者のコミュニティや、人が集まる都心の特性を活かして多様な人と共創したクラフトジン作りを行う姿勢などは、その良い事例だと感じた。
化石燃料と新技術を用いて少しずつ進めるエネルギー転換
3番目の「エネルギー転換の舵取り」と題したセッションでは、株式会社INPEXに勤めGIA二期生である御手洗誠氏、ダイキン工業株式会社の神岡勇気氏、東京大学 大学院生でGIA二期生の柴真緒氏が登壇し、モデレーターを東京大学名誉教授の伊藤元重氏が務めた。
2023年現在、日本も含め120を超える国々が2050年までのカーボンニュートラル実現を表明している。ロシアによるウクライナ侵攻に付随して起こっているエネルギー危機や経済的混乱のなか、エネルギーの転換をどう進めていくべきなのかが議論の中心となった。
石油ガス(以下、LNG)の上流開発を手がけるINPEXに勤める御手洗氏は、LNGは脱炭素の観点に絞って見ると必要のないものだと認めたうえで、エネルギーの安定供給や物価の安定といった要素まで考慮すると、システムの根幹で化石燃料に依存している現在の文明からそれらを急激に排除してしまうことは現実的ではないと述べた。この課題に対しINPEXでは、原油からLNG、LNGから水素やアンモニア……というように、化石燃料を用いながら徐々に脱炭素を実現していくことを目指しているという。また、今後は国際間でLNGの調整システムを構築する必要があるとし、LNGの豊富な知見を持つ日本がルールメイキングに入っていくことの重要性を述べた。
一方ダイキン工業では、自社で販売するエネルギー効率と環境性の高いエアコンを海外に普及させていくことで、省エネやCO2の削減に貢献しようとしている。日本では一般的となっているエアコンだが、欧米ではその認知度の低さや高コストなイメージから未だ普及率が低いとのことで、この部分に脱炭素への貢献だけではなく、日本にとっての経済的なチャンスもあることがわかった。また、同社では限られた自然資源である冷媒の回収と再生にも取り組もうとしているとのことだった。
環境配慮と安定供給を両立させ、日本の農業技術で世界に貢献する
4番目のセッション「気候変動と“食と農”」には、農林水産省の久保牧衣子氏、GIA二期生でヤンマーホールディングス株式会社の山崎麻衣子氏、京都大学農学部でGIA二期生の沖原慶爾氏が登壇。モデレーターは世界銀行の金平直人氏が務めた。
現在、気候変動による異常気象や気温上昇により、世界中の農作物が甚大な影響を受けている。一方で農薬や化学肥料を多用する現在の農業のあり方は、気候変動や環境汚染を引き起こす大きな原因にもなっており、一刻も早いシステムの転換が求められている。
そこで今回は、2021年5月に農林水産省によって策定された「みどりの食料戦略」を軸に、今後日本の農業がどのように安定供給(生産力)を保ちながら持続可能なものに転換していくのか、またそれによっていかに世界に貢献できるかといった点について議論された。
みどりの食料戦略は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するために策定され、2050年までに農林水産業のCO2排出量をゼロにすることや、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%減らすこと、有機農業の拡大といった14の目標を掲げている(※2)。
議論の中では、GIA二期生の沖原氏が自身の経験を元に、省農薬農法と生産量維持の難しさを指摘した。これに対し農林水産省の久保氏は、「農業の変革に生産者だけが取り組んでも持続的ではなく、これからは消費者まで含めて食料システムに関わる人みんなで環境負荷を減らしていく社会にしたい」と語り、生産者や国の予算任せにしない農業のあり方について強調した。
また、ヤンマーホールディングスが展開するスマート農業や化学肥料の使用料を6割削減して生産できるとされる『BNI小麦』など、持続可能で生産力をも保つ日本の農業技術を日本と気候の近いアジアモンスーン地域に伝えていくことで、世界に貢献すると共に経済的にも大きなチャンスがあるとの話が語られた。
共創の成功に必要なのは、明確なビジョンの共有
さて、ここまでは、各分野で今後必要とされる変化やその可能性について議論されてきた。それらの実現においてどの分野でも必要となってくるのが、業界や分野といったセクターを超えた、マルチステークホルダーとの「共創」である。
最後となるセッションは、「Green Innovationの未来」と題し、東京大学理事でグローバル・コモンズ・センターの石井菜穂子氏、トヨタ自動車株式会社執行役員の大塚友美氏、慶應義塾大学経済学部3年でGIA二期生の森口太樹氏が登壇し、セクターを超えた共創を成功させる秘訣や、若者の活躍の必要性などについて議論された。モデレーターは、 株式会社博展の執行役員でサステナブル・ブランド ジャパン代表の鈴木紳介氏が務めた。
共創の必要性は近年話題になることが非常に多く、日本国内でもすでに多様な企業が所属する活動団体や協定などは数えきれないほど存在する。しかし、そのうちのどれほどが、実際に社会に変化を生み出す活動を起こせているのだろうか。これに対しグローバル・コモンズ・センターの石井氏は、「単なる仲良しごっこではなく、“一緒に問題解決に向けて戦うグループである”という認識を持つことが必要」としたうえで、成功する共創の秘訣についてこう語った。
「成功する共創に共通しているのは、みんながビジョンを共有し、自分たちはなんのためにそれをやっているのかということがきちんと理解されている点です。また、そのうえで科学的な事実を元に中長期的な目標がきちんと確立していて、誰がいつまでに何をやるのかがしっかり決まっていること。さらに、その活動をバックアップするリソース(資金)を誰が出していくのかが明確になっていることも重要です」
また、同氏はグリーンイノベーションのためには若者の活躍も非常に重要だとし、「GIAのプログラムに参加する学生たちのような若者世代は、気候変動の事実を知り、危機感を持ち、その影響を受けるのは自分たちだと認識してもっと怒るべきではないでしょうか。そして、それをアクションにつなげていくべきです」と述べた。
一方でトヨタの大塚氏は、「社内では若い世代の方が地球環境やサステナビリティについて強い想いを持っていると感じる」と述べ、若手への期待を示した。同社の若い世代は、トヨタの「YOUの視点」——「自分以外の誰かのために頑張る」には世界の現状や物事の現場を自ら摂取しにいく必要がある、との考えから、積極的に工場などの現場に配属されるという。こういった企業の姿勢も、共創を生み出すための第一歩になるのではないかと感じた。また、筆者としては大塚氏が最後に述べた「企業人としてではなく、一人の人間としてビジョンを持つべき」という言葉が印象に残った。
どんな立場の人も疎外しない。「Green Innovator Academy」に見る共創のきっかけづくり
全セッションを聞いて感じたのは、どの分野においても理想に向けてやるべきことは明確になってきており、次はそこに向かうための移行期間をどうデザインしていくかが議論の中心になってきているということだ。
そんななかこのフォーラムには、企業、政府、アカデミア、若者……というように、多様なセクターにおいて第一線で活躍する人材が集まっていること、また例えばエネルギーについての議論には石油関連企業も招くことで、誰かを悪者にするのではない包括的で現実的な議論を行っていることが、非常に大きな価値であると改めて感じた。
また全体を通して、欧米のあり方や方法を模倣するのではく、日本は日本なりの持続可能なあり方や技術を確立していく必要があることや、それを世界に向けて積極的に輸出していくことの重要性についても強調されていた。それにより、グローバルレベルでの脱炭素への貢献、さらには経済成長のきっかけをも作れる可能性が大いにあるということが感じられた。
●キーウ未訪問、G7で岸田首相のみ サミット控え、財政支援で「姿勢」 2/22
バイデン米大統領がウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れたことで、先進7カ国(G7)の首脳の中で訪問を実現できていないのは日本のみとなった。
5月に広島市で開催するG7首脳会議(サミット)を控え、岸田文雄首相はウクライナ支援で指導力を発揮したい考え。ゼレンスキー大統領からの招待を受け、首相は検討を進めるが安全確保などハードルは高い。
松野博一官房長官は21日の記者会見で、バイデン氏の電撃訪問について、「ウクライナへの連帯を示す動きで敬意を表する」と歓迎した。ただ、首相のキーウ入りは「諸般の事情も踏まえながら検討を行っている。現時点では何も決まっていない」と述べるにとどめた。
サミットで首相は議長を務めることから、現地で自らウクライナの現状を把握することは重要との意見もある。外務省幹部は「首相のウクライナ訪問への思いは強い」と語る。
ただ、首相が外国を訪問する場合、国会開会中は国会による事前の承認が必要となる。首相の動静は原則、報道各社に公表され、バイデン氏のように安全面に配慮した「隠密行動」は容易ではない。官邸幹部は「検討を続けているが、バイデン氏と同様の形は難しい」と指摘する。
政府内からは「ウクライナを訪れていない首脳が首相のみという中、G7サミットを迎えるのは避けたい」(外務省幹部)との焦りの声も漏れる。さらに、欧米各国が最新鋭戦車の供与など軍事支援を強化する中、日本は武器供与に制約があり、できる支援は限られている。
このため、議長国としてのリーダーシップをアピールするかのように、首相はウクライナ侵攻1年となる24日に、ゼレンスキー氏を招き、G7首脳によるテレビ会議の開催を表明。生活支援やインフラ復旧のため、新たに55億ドル(約7300億円)の財政支援を打ち出した。 
●日本政治の未来 維新・馬場代表「改革保守の再編は起こりうる」 2/22
2021年10月の衆議院総選挙、それに続く2022年7月の参議院選挙で議席を伸ばし、改革保守勢力の中核となった日本維新の会。
2022年8月、新代表に就任した馬場伸幸氏は、自ら党の憲法調査会長をつとめ、立憲民主党との国会共闘を始めるなど、憲法改正や行財政改革、地方創生の実現に強い意欲を見せている。
今後、政権獲得に向けてどのような「ビジョンとシナリオ」を描いているのか。野党再編や自民党を巻き込んだ政界再編は起こりうるのか。今回、『大阪政治攻防50年』を上梓し、大阪政治や維新の動向に詳しいノンフィクション作家の塩田潮氏が、馬場代表に単独ロングインタビューを行った。
自分は「8番・キャッチャー」タイプ
塩田潮(以下、塩田): 日本維新の会は松井一郎前代表(大阪市長。元大阪府知事)の下で戦った2021年10月の衆議院議員総選挙で41議席獲得という躍進を遂げ、8カ月後の2022年7月の参議院議員選挙でも、比例代表選挙の得票で立憲民主党を抜いて野党1位を記録しました。
馬場伸幸(日本維新の会代表、以下、馬場): 参院選の数値目標は「改選の6議席の倍増」でしたが、12議席をいただき、クリアできました。比例票の結果も含め、徐々に維新の考え方、維新の政治が国民の間に広がっていると感じています。ですが、党の勢力の全国的な広がりはまだまだだと思います。
塩田: 参院選後の昨年8月、松井氏の後継代表に選出されました。1993年に大阪府の堺市議になって約20年、2012年の衆院選初当選から約10年で党トップの座を担いました。
馬場: 野球にたとえると、橋下徹さん(元党代表。元大阪府知事、元大阪市長)や松井さんは4番打者でエースの花形選手ですけど、私は8番・キャッチャーというタイプで、自分自身、トップを張る性格ではないと思っているんです(笑)。
塩田: 党首としての使命、役割は。
馬場: 結党から13年、原点は「身を切る改革」を中心とした行財政改革です。わが党は「改革保守政党」と自負しています。その路線を継承しながら、「地方から国を変える」「日本大改革につなげる」という新しい政治のレールを私が敷き、新しい人材を登用して、若い「吉村世代」といわれる皆さんにバトンタッチしていきたい。
塩田: 馬場代表自ら党の憲法調査会長に就任しました。狙いは何ですか。
馬場: わが党が憲法改正に懸ける本気度を見せているとご理解いただけたらと思います。定例日に憲法審査会を開くことがやっと定着してきましたが、さらに深化させていく。もう1点、重要なのは、憲法改正の国民投票をいつやるか、期限目標の議論を同時並行的にやっていくべきです。「いつやるかわかりません」では国民の関心も高まりません。
塩田: 就任から1年半が過ぎた現在の岸田文雄首相の政権運営をどう見ていますか。
馬場: 何度か直接お会いしています。人柄は非常にいいし、聞く力もお持ちですが、安倍晋三元首相や菅義偉前首相と比べると、アクションを起こすときのタイミングが悪いのではとか、説明の仕方が少し弱いのでは、と思いますね。
防衛費増額問題で、われわれは昨年12月7日に総理に直接、防衛3文書に対する考え方をお届けした。その際、「防衛費増額では安直なやり方はやめたほうがいいと思います」と申し上げました。
借金や増税は誰でもできる
馬場: 財源について、もっと知恵を使うべきです。お金がないとき、借金や増税は誰でもできます。「いろいろな方法を積み重ねたうえで、最後に国民に負担をお願いすべきでしょう」と申し上げた。総理もそのときはうなずいていましたけど、当日、3時間後ぐらいに記者会見されて、「防衛費を増額します。増額するために増税します」といきなりおっしゃった。それはちょっと残念だなと思いますね。いろいろな物が猛烈に値上がりしているときに、「増税します」という対応が国民に受け入れられるかどうか。
国民の身の回りの問題をもう少し表に出せば、「なるほど。だから防衛費増額が必要なんだ」とわかってもらえます。ミサイルを何発買わなければとか、防衛の装備費のことを言っても、国民はピンと来ないと思いますね。
子どもに対する投資も「異次元でやる。倍増させる」とおっしゃった。金額ベースで5兆円です。増税して投資してもらう話だと、国民はありがたみを感じないと思います。
岸田首相は、どちらかといえば財務省側に立った考え方ではと感じます。われわれが目指す「小さな統治機構」ではなく、大きな統治機構を構えて一極集中を強化していく感じがします。総理の話の中に行財政改革や地方創生という言葉がほとんど出てこないのは残念です。
塩田: 岸田首相は昨年暮れ、防衛政策で「歴史的大転換」と呼ばれる道を選択しました。
馬場: われわれは基本的に防衛政策の転換には反対ではありません。12月7日にお届けした考え方では、さらに反撃能力の問題や原子力潜水艦の調達などまで踏み込んでいます。
塩田: 岸田内閣は原子力発電所の稼働の問題でも新しい方針を出しました。
馬場: 原発問題では、わが党も最初、「フェードアウト」と言っていましたが、今のエネルギー基本計画に基づいて「20%程度」は堅持していけばいいと考えています。新しい安全基準をパスして太鼓判をもらった原発は再稼働すべきです。運転期間の延長も、一律に何年と決めるのではなく、車検のようにきちんと1つずつ検査して、OKということなら延長する。耐用年数が来ているなら廃炉にしていく。そういう仕分けも要りますね。
福島の例からも明らかなように、事故が起これば完全に復興するのは無理で、そういう恐ろしさはありますが、原子力という科学技術を継承していくことは必要だと思います。原発モジュール(小型モジュール炉式原子炉の導入)も言われていますが、新しい原子力の開発に力を入れ、安全性を高めながらやっていくのは認められると思いますね。
塩田: もう1つ、去年7月の安倍元首相の銃撃暗殺事件を契機に噴き出した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題については、政治はどんな取り組みが必要ですか。
馬場: ありとあらゆる団体、企業と太いパイプをつないでいくのが自民党式のやり方ですから、こういう問題は必ず出てきます。きちっと関係を整理し、救済法のような再発防止策を徹底的に打つことができなければ、自民党に対する大きなダメージは残ります。
去年の臨時国会で、わが党の発案によって法律を作ることになり、他党との協調もあって会期末の12月10日に成立しました。できあがった法律の中身が何点かとよく言われますけど、法律がない状態と比べれば、絶対にプラスになっていると思います。宗教2世の方の問題とか、課題は残っていますので、議論は間断なく継続してやっていきます。
「立民嫌い」から一転、共闘へ
塩田: 野党間の共闘の問題ですが、馬場さんはかつて野党第1党の立憲民主党について「不要な党」と明言していました。松井前代表も「立民嫌い」を明確にしてきました。
馬場: 私が「日本に要らない政党」と発言したのは、好き嫌いではなく、憲法審査会もまったく開かせないという状況のときでした。憲法改正の議論をやらない、放棄するというような、立法府の人間として根幹的な部分を否定する政党は要らないと言ったのです。
塩田: 昨秋の臨時国会からその立民と国会共闘を始めました。臨時国会開会前の8月26日に立民の泉健太代表が党執行部を一新して岡田克也幹事長(元外相)・安住淳国会対策委員長(元財務相)という新布陣をスタートさせ、翌27日に馬場さんが維新の後継代表に選出されました。両代表は5日後の9月1日、BSフジの番組「プライムニュース」に同時出演して同趣旨の発言を行ったのが両党の共闘の始まりと言われています。
馬場: そうです。これまでの国会は、行政監視がお題目の立憲民主党が、実際にはきちっと行政監視をせず、スキャンダルの追及とか審議の妨害とか、昔の社会党のようなことをやり続けて、いろいろな政治課題があるのに、まったく動かない状況が続きました。それで「プライムニュース」に出演したとき、私が「国会法の改正をやればいいんじゃないですか」と泉さんに申し上げたら、泉さんも「そうですね」と応じました。
塩田: 憲法第53条は「総議員の4分の1以上の要求で臨時国会召集を決定する場合」に、召集期限の規定がありません。「20日以内」と明記する国会法の改正を唱えたのですね。
馬場: そうです。番組の中で「立憲民主党がそれをやると言うのであれば、われわれも協力しますよ。どうしますか」と聞いたら、泉代表は「やりましょう」とおっしゃった。
塩田: 事前に打ち合わせなしに、番組の中でいきなり飛び出した話ですか。
馬場: いきなりですね。僕は当初、「憲法改正で」と言っていたけど、憲法改正は物理的に時間がかかります。国会法に同じ文言があり、さらに自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年策定)にも同じく「要求があった日から20日以内に臨時国会が召集されなければならない」と書いてあることがわかりました。
それで国会法を改正して「20日以内」を入れるという方法に行き着いたわけです。そのテレビ出演がきっかけで、国会法改正も含む8項目の政策協定を結んで、その部分に限定して協調していくことで立憲民主党と合意しました。この8項目のすべてについて、実際にその後、結果を出しています。
立憲民主党との3つの約束
塩田: 一転して立民との関係を見直すことにしたきっかけと理由は。
馬場: 立憲民主党は態度が変わってきています。とくに岡田幹事長や安住国対委員長は、国会を開くことに否定的ではありません。政治を前へ動かしていけると思いました。「維新と立憲の協力はまやかし」という声があるのは認識していますけど、国家・国民のためにこれをやり続けて結果を出していけば、国民の理解を得られると思います。
塩田: 立民との連携は、去年8月の維新の代表交代の直後に急展開で実現しました。実は松井代表の存在が両党連携の壁になっていたということはありませんか。
馬場: いや、そんなことはないですね。われわれも国政進出から10年、ようやく地に足を着けた国会活動ができるようになってきて、活動のフェーズが変わった。それと立憲民主党の事情があります。党勢は頭打ちで、現状では支持率も上がらない。とくに党内で保守と思われる皆さんは、維新と組んで生産性のある政治をやりたいと思っています。
塩田: 今年の通常国会でも、立民と国会共闘を進めることで合意しましたね。
馬場: 今国会では立憲民主党と3つの約束をしています。第1は提出される60本前後の法案への対応を協議する。第2は憲法、エネルギー、安全保障・外交など国の根幹に関わる部分について勉強会を始める。第3は国をどちらの方向に持っていくかという国家像と基本理念についてです。
出発点は2021年から前原誠司さん(現国民民主党代表代行。元外相)や松原仁さん(立憲民主党の衆議院議員。元内閣府特命担当相)や僕なんかが中心となってやっている「新しい国のかたち(分権2.0)協議会」です。2年余り議論し、昨秋の臨時国会のときに法案まで行き着いています。
塩田: 前原氏の名前が出ましたが、国民民主党とは連携・共闘を組まないのですか。
馬場: 先述の3点を進める過程で、国民民主党にも声を掛けようということで、やっていると思いますが、向こう側の反応はイマイチですね。
塩田: 自民党とは、維新は今、どういう姿勢と方針で対応していくお考えですか。
馬場: 自民党とも立憲民主党とも是々非々です。1月17日、自民党の茂木敏充幹事長(元外相)はじめ、幹部の皆さんとも協議しました。自民党とは、エネルギー、憲法、安全保障について議論し、前に進めていくことで完全合意しています。
われわれが強く唱えているのは国会改革です。これはわが党のお家芸のようなもので、いろいろなことを言い続けていますが、自民党が本気になって覚悟を決めないとできません。1つはペーパーレス。もう1つは9つある特別委員会のスクラップ・アンド・ビルド。
1回も議論しないような特別委員会がある。自民党にすれば野党対策で、野党に委員長ポストを渡すために存続しているようなものです。わが党はスクラップ・アンド・ビルドが必要と5年ぐらい言い続けてきました。やっと今年の通常国会で1減となりましたが。
3つ目は常任委員長と特別委員長に対する手当の廃止ですね。国会開会中は1日6000円の手当が、土曜も日曜も付いています。それから懸案の文通費(現在は調査研究広報滞在費。2022年までは文書通信交通滞在費)の改革です。
政界再編はあくまで保守を前提に
塩田: 立民との共闘では、国政選挙での選挙共闘まで視野に入れているのですか。
馬場: 国会活動も一緒にやり、選挙も一緒にやるとなると、同じ政党ということになります。したがって、選挙協力は無理やと思いますね。
塩田: それでは野党各党がそれぞれ勢力を伸ばして、選挙の結果、政権を獲得できるという政治状況になったとき、連立政権樹立に進む「政権共闘」の構想はいかがですか。
馬場: それはケース・バイ・ケースです。ただ、わが党は大阪では単独で政権を取っていますから、中央政治での目標もあくまで単独政権ということですね。
塩田: 自民党には、連立の組み手として現在の公明党よりも維新を、と望む人たちもいるようです。連立参加を企図して、自民党側から維新に秋波を送る動きはありませんか。
馬場: ないですね。自民党も内実は改革派の方と現状追認の方に分かれていると思いますが、われわれはエッジの立ったラジカルなことをやりますから、そんなやつらが来たらかなわんな、というのが自民党の中の大多数じゃないですか。
塩田: そうすると、将来、立民の内部で路線の違いによって遠心力が高まり、維新も含めた野党再編成の動きが現実となるという流れも想定できますか。
馬場: 日本のためには、政党を問わず、改革マインドの強い政治家と、現状を守っていく現状追認派のグループが、どちらも保守という基盤の上に立った形で、相互に牽制し合いながら政治を動かしていく。この構図が理想的だと思いますね。
塩田: 自民党も含めて保守を前提とする政界再編という展開も視界に入れているように映ります。それには自民党内で路線対立による2極化が現実となるのが必須条件と思われます。起爆剤は安全保障政策、防衛費の財源問題、憲法改正といったテーマですか。
馬場: 今の政治のやり方ですね。改革なしに増税したり、借金でやっていくことには自ずと限界が来ます。それは許せないという怒りをいつ国民が持つか、まだわかりませんが、必ずそういうときが来る。そこが日本の大きな分岐点になると思います。
●「給食無償化」自治体3割で実施 物価高受け生活支援 継続へ財源課題 3/22
ロシアのウクライナ侵攻や円安に伴う物価高騰を受け、小・中学校の給食を実施する全国約1600市区町村の3割が、2022年度に給食費を無償化したことが日本農業新聞の調査で分かった。子育て世帯の生活支援などが狙い。うち6割が物価高対策にも活用できる政府の臨時交付金を活用。交付金が切れる23年度から自主財源で無償化する自治体もあり、給食費助成の動きが加速している。
都道府県や市区町村への取材、内閣府の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の自治体別事業一覧を基に調べた。
小・中校とも複数月や通年で無償化した市町村は全都道府県で計451に上った。人口は数千から5万前後が大半だが、20万規模の市もある。6割近い263が物価高騰が始まった22年度から臨時交付金を活用して無償化し、食材費の価格高騰分も補填(ほてん)している。一方、21年度以前から無償化している自治体は自主財源が多い。
同交付金を巡ってはウクライナ後の物価高騰を受け、内閣府が22年度から学校給食の食材調達費などにも使えると通達している。
無償化した市町村数の多い順では、北海道51、埼玉県27、福島県23、大阪府19、山梨県と奈良県18、群馬県17など。給食実施自治体数に占める無償率が高いのは、山梨県7割、群馬県5割強、埼玉県5割、奈良県4割強。
一方、無償化していない自治体でも、臨時交付金活用で半額程度を補助、第2、3子以降分や中学校だけを無料にするなど、軽減策を用意している。
「費用負担の在り方を考え直すべき」
どの自治体も財源が最大の課題で、臨時交付金を財源にする自治体の大半は交付期限後の4月以降の継続を「未定」「徴収再開予定」とする。一方「自主財源から捻出する」自治体も東京や千葉など首都圏を中心に複数あり、財政事情を背景に判断が割れそうだ。
学校給食法は食材費を保護者負担と規定しており、各自治体は給食費を1食200円台〜300円台に抑えている。国による最新の給食無償化調査(17年度)では、当時の無償化は76市町村だった。
千葉工業大学の福嶋尚子准教授(教育学)は「無償化した自治体だけで3割とは驚きだ。ただ、財政事情による自治体間格差が広がれば、住む場所を選べない子どもの食べる平等が損われかねない。費用負担の在り方を考え直すべき時が来ている」と指摘する。
●全国民にカード強制 マイナンバー政策 2/22
日本共産党の宮本岳志議員は21日の衆院総務委員会で、マイナンバーカードを多く普及した自治体に地方交付税を多く配分する国の政策が、カードを持たない人を公共サービスから排除することにつながると批判しました。
政府は、地方に配る地方交付税の「マイナンバー利活用特別分」を、カードの普及率が高い上位3分の1の自治体に割り増して配分します。その理由について政府は、コンビニエンスストアでカードを使って各種証明書を交付する際の手数料の割引策など「交付率が高いところほど、財政需要が大きくなる」傾向があるためだと説明しています。
宮本氏は、住民の利便性のためではなく、カードの利活用を促すためのものだとして「財政需要が際限なく膨れ上がる」と批判しました。
宮本氏は、マイナポイント事業に総額2・1兆円もの予算を使って取得をあおったものの、交付率はようやく63%だと指摘。世帯全員のカード取得を保育料無償化などの条件にする自治体まで出てきているとして「任意のカードを全国民に強要する政策が根本にある。ただちにやめるべきだ」と求めました。
松本剛明総務相は「全くそう思わない」と強弁。宮本氏は、持ちたくない国民にもカードを強制することは許されないと重ねて主張しました。
●植田日銀、経済順調なら夏場にも正常化へ一歩 桜井元審議委員 2/22
元日本銀行審議委員の桜井真氏は、次期総裁に指名された植田和男元審議委員が率いる日銀新体制では、金融緩和策の修正をゆっくり進めることになるとの見解を示した。景気回復が順調に進めば、今年の夏場ごろから長期金利の上昇を段階的に進める正常化への一歩を踏み出す可能性があるとみている。
桜井氏は21日のインタビューで、金融政策運営上の焦点は「もはや円安ではなく、今後の金利上昇ペースになっている」との見方を示した。植田日銀は、実体経済と物価の動向を慎重に見極めながら、保有債券価格の下落など金利上昇が金融機関の経営に与える悪影響にも配慮しつつ、政策運営は「緩やかな金利上昇が基本になる」と語った。
黒田体制下で最後の金融政策決定会合は3月9、10日に開かれる。市場の一部には政策修正を見込む声もあり、債券市場では再び金利上昇圧力が強まっている。桜井氏は昨年12月にすでに実施したこともあり、市場機能は現在の日銀の最優先課題ではなくなっているとし、次回会合で動くことはないとみている。
政府が14日、黒田東彦総裁の後任に植田氏を指名するなど次期正副総裁の人事案を国会に提示したことを受け、新体制の金融政策運営に注目が集まっている。ブルームバーグがエコノミスト40人を対象に14、15日に実施した調査では、70%が7月までに日銀が金融引き締め方向に動くとみており、次の一手はイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策の撤廃と過半が予想した。
桜井氏は、現在のYCCにおける長期金利目標の段階的な引き上げや許容変動幅の再拡大のほかに、YCC自体を撤廃して国債買い入れで上昇を抑制するなど、長期金利を徐々に引き上げていく方法はいろいろあると指摘。実体経済が順調に回復しているのであれば、その際にマイナス金利を撤廃してもいいと語った。
長期金利の上昇のめどについては、日本の財政事情を踏まえれば「1.5%を超えてくると、国債の利払い負担がさすがにきつくなる」とし、現在の長期金利の上限である0.5%からあと1ポイント程度とみている。「それを1年でやるのか2年かけてやるかは、実体経済や金融機関の経営状況を見ながらということになるだろう」と述べた。
共同声明
政府との共同声明の見直しに関しては、政権が代わる度に修正する形になるのは良くないとしながらも、「もうデフレではないということを明確にすることは必要」とみる。10年間に及んだ大規模緩和の推進で金融政策自体が複雑化しており、政策の検証を「年内にはやってもいい」と指摘。ただ、日本経済は焦って何か対応すべき状況にはなく、新総裁の就任直後などに急いでやる必要もないという。 
植田氏とは東京大学大学院に進学する際に相談を受けるなど旧知の仲で、桜井氏の審議委員時代には日銀金融研究所で特別顧問を務める植田氏と昼食を共にするなど会話の機会が多かったという。金融政策の実務にも精通している植田氏は、政治との間合いも心得ており、拙速に物事を決めるようなことはしないと信頼を寄せている。
●『安倍晋三回顧録』で明かされた安倍政権と財務省の戦い 2/22
官僚の「倒閣運動」
回顧録は、故・安倍元首相が橋本五郎・読売新聞特別編集委員のインタビューに答えて第1次政権から再登板、コロナ禍で退陣するまでの憲政史上最長にわたる政権の内政、外交の舞台裏を赤裸々に証言したものだ。
〈一国のトップとしての判断や行動の有り様を学べました〉
高市早苗・経済安保相は発売当日、ツイッターにそう書き込んだが、回顧録を読んだ岸田首相は内心、穏やかではいられないはずだ。安倍氏の証言には、岸田首相が進めようとする政治に対する強烈な批判が込められているからである。
安倍回顧録を貫いているのは、足かけ10年にわたる長期政権の間、不断に続いてきた財務省との戦いだ。時の政権に増税させることを最優先の行動原理とする「霞が関のチャンピオン」(安倍氏)である財務省と、その応援団である自民党の財政再建派議員たち。歴代政権はその力に屈してきたと安倍氏は証言する。回顧録から辿っていこう。
〈小泉内閣も財務省主導の政権でした。消費税は増税しないと公約しましたが、代わりに、歳出カットを大幅に進めることにしたわけです。私も、第1次内閣の時は、財務官僚の言うことを結構尊重していました。でも、第2次内閣になって、彼らの言う通りにやる必要はないと考えるようになりました。だって、デフレ下における増税は、政策として間違っている〉(以下、〈 〉内はすべて『安倍晋三回顧録』からの引用)
安倍氏を財務省との戦いに向かわせたのは、第1次内閣時代の苦い経験だ。小泉内閣の後を継ぎ、52歳で首相に就任した安倍氏は、憲法改正手続きに必要な国民投票法制定や防衛庁の省昇格など思いきった政策を推進したが、官僚の天下りを規制する公務員改革に取り組んだことで、霞が関の“虎の尾”を踏み、官僚の倒閣運動で追い詰められていった。
安倍ブレーンの1人で、財務官僚出身ながら公務員改革に取り組んだ高橋洋一・嘉悦大学教授がこう振り返る。
「第1次安倍内閣の公務員改革の担当大臣は渡辺喜美さんで、私は政策スタッフとして官邸にいました。改革を進めると財務省をリーダーとして霞が関全体が反発し、もの凄い監視を受けた。事務次官のヒアリングを行なう予定なのに、約束の時間に来ないとか、いろいろと邪魔をしてくる。渡辺さんは『倒閣運動』と言っていた。
難儀したのが国会答弁の差し替えです。官邸には財務省などの秘書官がいるでしょう。これが答弁書の細かいところを書き換えてしまう。一般の人だとわからないような仕掛け、いわゆる官庁文学の文言を入れ替えたり、語尾を変えたりすることで改革を骨抜きにしようとする。私は『こういう質問が来た時の答弁はこれです』とそれをいちいち直すんです。私が国会に行けない時には渡辺大臣に正しい答弁書を託して安倍総理に伝えたこともありました」
第1次安倍内閣はわずか1年で退陣、その2年後に自民党は下野し、民主党に政権交代した。安倍氏が財務省との対決方針を固めたのは、この民主党政権時代だった。
財務省の「注射」
きっかけは東日本大震災の際、時の菅直人内閣が真っ先に復興増税を決めたことだ。
〈民主党政権の間違いは数多いが、決定的なのは、東日本大震災後の増税だと思います。震災のダメージがあるのに、増税するというのは、明らかに間違っている〉
安倍氏はそういう思いから、浜田宏一・イェール大名誉教授、本田悦朗・静岡県立大教授、高橋氏らのブレーンと何度も議論したと語り、〈日銀の金融政策や財務省の増税路線が間違っていると確信していく。そこでアベノミクスの骨格が固まってくる〉と証言している。
そうしたなか、民主党政権は復興増税に続いて、「社会保障と税の一体改革」を掲げて消費税増税を推進した。
〈時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってしまう。菅直人首相は、消費増税をして景気を良くする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです〉
民主党政権は増税を批判されて、2012年の総選挙で大敗。自民党が政権を奪還し、安倍氏は首相に返り咲いた。
だが、第2次安倍内閣は民主党政権時代に民主・自民・公明の3党合意で決定した消費増税の実行役を担わされることになった。
財務省との再戦は避けられない。前出の高橋氏が語る。
「財務省を中心とする霞が関による倒閣運動、妨害については安倍さんもその後、いろいろ自覚されることがあって、第2次内閣の時には、『こんなことでエネルギーを取られたらたまらない』とおっしゃっていました。『政権の中でこれをやられたらチームにならない』とも。そこで財務省を弱体化させるために、菅(義偉)官房長官と杉田(和博)官房副長官が内閣人事局で人事を司り、財務省を牽制しました」
●『安倍晋三回顧録』でわかった消費税10%引き上げ延期の舞台裏 2/22
解散で増税論者を黙らせた
戦いの第1のヤマ場は、2014年秋にやってきた。安倍氏は消費税率10%への引き上げ延期を表明し、解散・総選挙を打った。
その時の心境を安倍氏はこう証言している。
〈デフレをまだ脱却できていないのに、消費税を上げたら一気に景気が冷え込んでしまう。だから何とか増税を回避したかった。しかし、予算編成を担う財務省の力は強力です。彼らは、自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。財務省は外局に、国会議員の脱税などを強制調査することができる国税庁という組織も持っている。さらに、自民党内にも、野田毅・税制調査会長を中心とした財政再建派が一定程度いました。野田さんは講演で、「断固として予定通り(増税を)やらなければいけない」と言っていました。
増税論者を黙らせるためには、解散に打って出るしかないと思ったわけです。これは奇襲でやらないと、党内の反発を受ける〉(以下、〈 〉内はすべて『安倍晋三回顧録』からの引用)
この年12月の総選挙で自民党は大勝し、財務省の攻勢をしのいだ。
安倍氏は2016年にも、「世界経済のリスク」を理由に消費税率10%への引き上げを再延期し、その年の参院選に勝利した。安倍氏は財務省との攻防を振り返ってこう語っている。
〈財務省と、党の財政再建派がタッグを組んで、「安倍おろし」を仕掛けることを警戒していたから、増税先送りの判断は、必ず選挙とセットだったのです。そうでなければ、倒されていたかもしれません〉
こうした安倍氏の証言について、回顧録で財政再建派の筆頭に名指しされた野田毅・元自民党税調会長の話を聞いた。
「財務省の手先のように言われているが、私が財務省を指導しているんだよ。消費税に反対する人たちは、『経済』を重視すると主張しています。経済あっての財政だと。
しかし財政は経済立て直しのツールです。景気立て直しのために財政出動をドーンと行なって景気を刺激する。それなりに効くが、せいぜい2、3年。10年以上の成長を目指すにはそれでは駄目です。財政出動ばかりでは財政が破綻する。経済が破綻するということです。これでは逆効果であり、国を良くするという目的に反している。
必要なのは、バランスの取れた税体系。これが国家財政のために必要であり、それが経済成長にもつながるという考えです。菅直人さんなど民主党の方たちは、財政について全くわかっていなかったが、財務大臣になって勉強され、総理になってさらに財政への理解を深めた。その過程で財務省は注射をしたわけではなく、レクを行なったということでしょう。
安倍元首相はそもそも敵・味方の発想が強いのではないでしょうか。日本は役人に踊らされていると。その役人の中心が財務省であると。果たしてそうでしょうか。財務省にそこまでの力はありません。ましてや政権を潰すなどできるわけがないし、財務省はそんなことをしようと考えていないでしょう。
もちろん財務省もあるべき姿というものを想定しており、そのために総理、政府に理解いただくため、ご説明を果たしてはいると思います」
●安倍元首相とは正反対 増税狙う財務省に取り込まれた岸田首相の本質  2/22
天下り指定席が復活
回顧録を通じて見えてくるのは、現在の岸田首相の政治が、安倍氏とは正反対の道を進んでいることだ。
防衛費倍増の財源問題では、岸田首相は宮沢洋一・自民党税調会長をはじめ自民党内の財政再建派の振り付けで「所得税」「法人税」「たばこ税」の増税を決め、異次元の少子化対策でも、中身の議論をする前に消費税増税論が先行した。
安倍氏のように増税を迫る財務省と戦うのではなく、逆に取り込まれている。
「岸田内閣は菅直人内閣とそっくりだ」
そう指摘するのはジャーナリストの長谷川幸洋氏(元東京・中日新聞論説副主幹)だ。
「民主党政権は、財務省に言われるまま震災復興財源を名目にバカな復興増税をやり、社会保障を名目に消費増税を進めた。このことを安倍さんは回顧録で批判していますが、今の岸田総理は、財務省の政策に寄り添って、防衛財源を名目に防衛増税を打ち出し、少子化対策という社会保障を名分に消費増税をやろうとしている。そっくりでしょう。岸田総理も当時の菅直人総理と同じように、財務省に注射されているのでしょう。経済政策についてわかっていない総理ほど、注射はよく効く」
安倍ブレーンの1人で、財務官僚出身ながら公務員改革に取り組んだ高橋洋一・嘉悦大学教授は、岸田首相と安倍氏の「戦う姿勢」の違いをこう指摘する。
「安倍内閣と菅内閣はコロナ対策で100兆円規模の予算を組みましたが、増税は一切しなかった。財務省に対して『文句を言うな』と増税は一切認めないとの姿勢を貫いて黙らせたのです。しかし、岸田首相は43兆円の防衛費増額くらいで増税するといっている。
以前、岸田さんが政調会長の頃、安倍さんの要請でレクチャーしたことがあるが、意味がないと感じた。私が説明した後に財務省が岸田さんに、『高橋の言ったのは間違いです』と説明する。人は後から聞いたことのほうを信じるでしょう。
でも安倍さんは違った。財務省が上書きしてくると、上書きしてきたことを私に教えてくれる。その上で、財務省の説明が本当なのかを私がさらに上書きする。私は財務省の“洗脳”を解くいわば解毒薬の役割でした。岸田さんにはそうした解毒薬、セカンドオピニオンがないから財務省の言いなりになってしまう」
官僚OBの人事でも、安倍氏が官僚の天下り規制に取り組んだのとは対照的に、岸田首相は政府系の国際協力銀行の総裁に林信光・元国税庁長官を就任させ、同省大物OBの「天下り指定席」を復活させた。
安倍氏は回顧録で、増税を食い止めるため政治生命を懸けて財務省と戦ってきたと語った。安倍氏が不幸な死を遂げた今、それは残された政治家たちへの“遺言”でもある。
だが、「安倍元総理の思いを受け継ぐ」と語った岸田首相にその思いは伝わっていない。首相の「聞く力」は増税を求める財務官僚の言葉だけに向けられ、増税に苦しむ国民の声は聞こえないのだ。
●ウクライナ侵攻1年 日本の政策転換に影響 防衛費増大、武器輸出緩和も 2/22
24日で1年となるロシアのウクライナ侵攻は、日本の防衛政策に多大な影響を与えた。岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジアだ」と繰り返し、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有など防衛力の抜本強化や、防衛費を5年間で従来の約1・5倍の43兆円とする大幅増額を推進。さらに今後は、ウクライナなど紛争当事国への輸出もにらみ、武器輸出のさらなる緩和に踏み切る考えで、侵攻を「てこ」とした戦後政策の大転換は続く。
「ロシアの侵略を抑止できなかったという意味で、ウクライナの防衛能力は十分でなかった」。首相は15日の衆院予算委員会でこう分析し「わが国の防衛力を過小評価させないことが侵攻を抑止する」と訴えた。
首相は侵攻前の2021年12月の所信表明演説で、防衛力強化に向け国家安保戦略など安保関連3文書を改定する意向を表明。ただ防衛省幹部は「当初は誰も、防衛予算の規模なんて言ってなかった」と明かす。
それが昨年2月のウクライナ侵攻後、5年間の防衛予算規模に関する政府・自民内の発言は「30兆円台後半」「40兆円超」と急速に膨らんだ。「ウクライナ侵攻で、日本人の安保リテラシー(知識・能力)が高まった」と防衛省幹部は断言する。
報道各社の世論調査では防衛力強化への賛成が多数を占め、敵基地攻撃能力の保有も防衛費増額も「国民がやむを得ないと思ってくれるようになった」。首相は台湾有事を念頭に、国会審議で「東アジアでもウクライナと同じことが起こりうる」と繰り返した。
昨年12月に改定した安保関連3文書で「ウクライナ」の記述は計20カ所近く。中でも、攻撃型ドローンなど無人機やサイバー攻撃への対応は注目を集めた。ウクライナ侵攻では、無人機が戦場で多用され、さらにロシアによる政府機関や民間インフラを狙ったサイバー攻撃が相次いだからだ。
浜田靖一防衛相は昨年10月の政府有識者会議で、サイバー攻撃やミサイル攻撃、海上封鎖など「現実に起きたロシアの行動」を段階ごとに解説した資料を示し、「核抑止以外のあらゆる行動で、防衛力を抜本的に強化したい」と主張。無人機とサイバー関連に、それぞれ5年間で約1兆円ずつ計上されることになった。「敵基地攻撃能力やサイバー対処力など前から必要だと言ってきた。われわれの主張が正しかったと裏付けられた」。同省幹部はウクライナ侵攻をこう論じる。
今春には、殺傷能力を持つ武器の輸出解禁に道を開く「防衛装備移転3原則」の見直し作業に入る方針で、政府はここでも「ウクライナ効果」に期待する。官邸関係者は、この1年間のウクライナ支援を巡り、武器供与を進めた米欧と日本の違いを強調。「日本は資金などわずかな部分でしか支援できなかった。ウクライナがミサイルを欲しいと言っているのに出せない。そんな国で良いのか」と述べた。
●岸田首相、少子化対策「安定財源を整理して提示」 2/22
岸田文雄首相は22日の衆院予算委員会で、少子化対策について「しっかりした安定財源を整理した上で示したい」と述べた。6月に決める経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に向け「政策をパッケージで示すことが大事だ」と語った。
政府が掲げる子ども予算「倍増」の基準は明言を避けた。「政策の内容を具体化した上で必要な財源を考える。中身はまだ整理している段階でベースを先に申し上げることは矛盾する」と話した。
15日の衆院予算委で首相は家族関係支出の国内総生産(GDP)比2%から倍増すると言及していた。立憲民主党の泉健太代表が「いいかげんな話だ。何を基準に2倍にするかで金額が全く違う」と答弁の修正を求めた。
首相は倍増の趣旨について「防衛力強化と比較しても子ども・子育て政策への取り組みは、決して見劣りしないという議論だ」と答えた。
経済政策を巡っては構造的賃上げや国内産業基盤の強化に取り組む考えを示した。「優秀な人材が国内に残り、活躍する日本経済の実現も考えていかなければならない」と強調した。
適用期限が2022年度内の観光需要喚起策「全国旅行支援」も議題となった。斉藤鉄夫国土交通相は都道府県に配分した予算が年度末時点で残る場合などに「4月以降も実施することは十分可能だ」と言明した。
「国の需要喚起策に頼らず自律的な経営を目指すべきだとの声もある。こうした様々な声も聞きながら、予算の執行状況、旅行需要の動向も踏まえて対応したい」とも発言した。
衆院予算委は22日、首相と関係閣僚が出席して23年度予算案に関する集中審議を開いた。
●少子化対策「安定財源を提示」 岸田首相、1億円の壁見直し慎重 2/22
衆院予算委員会は22日、岸田文雄首相と関係閣僚が出席して集中審議を行った。首相は少子化対策について「安定財源もしっかり整理した上で示したい」と述べ、6月に策定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で、持続可能な財源の裏付けのある対策を提示する考えを示した。
子ども関連予算を巡り、首相は先に国内総生産(GDP)比4%確保を目指すと受け取れる答弁をした。その後、政府関係者が記者会見で軌道修正したことを追及され、首相は「中身をまだ整理している段階で(予算額)ベースを先に申し上げることは矛盾する」と踏み込んだ説明を避けた。
年間所得額が1億円を超えると税負担率が下がる「1億円の壁」見直しについては、「市場への影響も勘案した丁寧な議論が必要だ」と述べ、慎重な姿勢を示した。いずれも立憲民主党の泉健太代表への答弁。
首相はLGBTなど性的少数者に対する理解増進法案への今国会での対応を問われ、「自民党も準備を進める。(検討の)期限を区切ってはいない」と述べるにとどめた。立民の吉田晴美氏に答えた。
●首相、子供予算倍増基準明示せず「政策整理中」 衆院予算委 2/22
岸田文雄首相は22日の衆院予算委員会で、政府が掲げる子供予算倍増のベースとなる基準の明示を避けた。「政策の内容を具体化した上で必要な財源を考える。中身はまだ整理している段階だ」などと述べるにとどめた。家族関係社会支出を国内総生産(GDP)比2%から倍増するとした自身の国会答弁に関しては「防衛力強化と比較しても子供・子育て政策への取り組みは、決して見劣りしないという議論を行った」と説明した。
首相は、自身が提唱する「異次元の少子化対策」実現に向け「関与が薄いとされてきた企業や男性、独身も含めた社会全体の意識を変えることが重要だ」と訴えた。
子供予算を巡り、6月の経済財政運営の指針「骨太方針」までに将来的な予算倍増に向けた大枠を示すとの政府方針も重ねて強調。「少子化対策関係予算や、こども家庭庁関連予算も念頭に置き、必要な予算を整理して倍増に向けた道筋を示す」とした。
●衆院予算委 少子化対策 首相“政策財源合わせ6月までに提示”  2/22
国会では、衆議院予算委員会で集中審議が行われています。立憲民主党の泉代表が、少子化対策をめぐり、児童手当の所得制限の撤廃を求めたのに対し、岸田総理大臣は、児童手当の見直しを含めた政策と財源を合わせて6月までに提示したいという考えを示しました。
自民 盛山氏 少子化対策めぐり
午前の審議で、自民党の盛山正仁氏は、少子化対策をめぐり「経済的な理由だけではなく、子育てに対する職場や社会の理解などが進まなければ、出生数の改善は難しい。これまでにない少子化対策に取り組むということだが、どのような施策を進めるのか」と質問しました。
岸田総理大臣は「これまで関与が薄いと指摘されてきた企業や男性、高齢者や独身の人も含めて、社会全体の意識を変えることが重要であり、子ども・子育てを応援する次元の異なる少子化対策を実現したい。充実する内容を具体化し、6月の骨太方針までに、将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示したい」と述べました。
立民 泉代表 子ども・子育て予算をめぐり
立憲民主党の泉代表は、子ども・子育て予算をめぐり、「『子ども国会』とか『子育て国会』と言うが、間違いだ。新年度予算案の防衛関係費は前年度比でプラス26.3%だが、『こども家庭庁予算』はプラス2.6%しかない。立憲民主党は、日本維新の会と児童手当の所得制限を撤廃する法案を提出した。与党にも賛同してほしい」と求めました。
岸田総理大臣は「児童手当については、そのありようをしっかりと見直していく方針だが、1つの政策だけで子ども・子育て政策全体を論ずることはできない。政策をパッケージで示すことこそ大事で、安定財源も、どう考えるかをしっかり整理したうえで示したいと申し上げている。骨太の方針に向けて取り組みを進めている」と述べました。
●統一選、教団との関係断絶徹底=衆院予算委で岸田首相 2/22
岸田文雄首相は22日の衆院予算委員会で、4月の統一地方選に出馬する自民党の公認・推薦予定者に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係断絶を徹底するよう求める考えを重ねて示した。
首相は「候補者の選定プロセスで旧統一教会との関係を持たないことを条件に加える。すでに候補を選定していても、改めて候補者から宣誓書を提出させる」と述べた。立憲民主党の吉田晴美氏への答弁。
●もし「先制攻撃」になれば「日本は侵略者」 敵基地攻撃能力 2/22
相手国のミサイル発射拠点などをたたく敵基地攻撃能力(反撃能力)を巡り、岸田政権は具体的な説明を避け続けている。相手国が武力行使に「着手」した時点で日本が反撃する可能性を否定していないため、野党は国際法違反の先制攻撃とみなされるリスクや回避策を繰り返し質問。だが、政府は通常国会が始まって約1カ月が経過しても「ゼロ回答」に終始しており、専門家は説明責任を果たさない姿勢を問題視する。
立民・枝野氏は基準を提案したが、首相は取り合わず
「先制攻撃の恐れが飛躍的に高くなる」。立憲民主党の枝野幸男前代表は15日の衆院予算委員会で、政府が安全保障政策の大転換で保有を決めた長射程ミサイルの危うさを強調。相手がミサイル発射に着手したと判断し、日本が撃つ場合のリスクに関して「実は相手ミサイル(の狙い)は日本の領海外だったなんて間違いを起こしたら、大変なことになる」と指摘した。
枝野氏は国際法違反の回避策として、基準を定めることを提案。相手国のミサイルが日本に着弾することが「外形的に明確になった時」などの例を挙げ、政府の考えをただした。だが岸田文雄首相は「どういった場合に対応するか事前に明らかにすることは、安全保障の観点から控えるべきだ」と取り合わなかった。
立民の泉健太代表も衆院代表質問などで「着手段階における日本の敵基地攻撃は先制攻撃にならざるを得ず反対だ」と追及したが、首相は「国際法の順守は当然」と答えるにとどめた。
国連憲章は敵の「武力攻撃が発生した場合」に自衛権行使を認め、発生の定義は相手の「着手があった時点」と解釈するのが国際法上の主流。このため、泉氏の質問はネット上で「国際法の解釈に誤解がある」などと批判を浴びた。
焦点は武力攻撃の「着手」の見極め
問題は相手国のミサイルが飛び立つ前の「着手」をどう見極めるかだ。例えば発射ボタンが押され、攻撃が後戻りしなくなれば着手といえるが、押されたことをどう把握するのか。泉氏はツイッターで批判に反論し、現代はミサイル技術の進歩で着手の把握が難しくなったと指摘。先に撃てば「国際法違反とみなされる可能性が高い」と訴えた。
だが、首相らは国会で議論に乗ろうとしない。敵基地攻撃能力の保有などを盛り込んだ文書を昨年末に閣議決定してから初の国会を迎え、首相がどう説明し、国民の理解を得るかが焦点だったが、正面から答える姿勢は見えない。
名古屋大の松井芳郎名誉教授(国際法)は本紙の取材に「着手段階の攻撃は国際法上、違法とは言えないが、危うい選択になる。着手の認定を誤れば日本が逆に侵略者になる」と警鐘を鳴らした。政府の姿勢に関しては「敵基地攻撃能力をどういう場合なら使うのかを具体化していくことは、国際社会で日本の立場を説明する際の下支えになる。政府は国会で説明責任を果たすべきだ」と話した。
ようやく説明 11.5兆円の使い道
浜田靖一防衛相は21日の衆院予算委員会分科会で、昨年12月に決定した2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円程度とする防衛力整備計画のうち、公表してこなかった11兆5000億円分の内訳を明らかにした。決定から既に2カ月経過しており、立憲民主党の長妻昭氏は「中身が分からないとチェックしようがない。何兆円か節約できるのではとの強い疑念がある」と批判した。
防衛省が提出した資料によると、これまで未公表で新たに内訳が分かったのは、敵の動向を探る「情報収集・分析機能の強化」(3000億円)や、ミサイル防衛(MD)システムに関連した「迎撃アセット(装備品)の強化」(2000億円)など。項目数は25に上った。
政府は昨年12月、防衛力整備計画の支出内容の説明として、敵基地攻撃能力(反撃能力)として使うことができる長射程ミサイル購入など約30兆円分にとどめていた。
浜田氏は未公表だった項目は「主な事業に該当しないもの」と説明。今回の公表で支出予定額の96%超を公表したと強調したが、残る約1兆4000億円分は「かなり細かな部分」だとしてなお説明を避けた。  

 

●国民民主、予算賛否が焦点 統一選控え反対論続出 2/23
衆院予算委員会で審議が大詰めを迎える2023年度予算案を巡っては、国民民主党の賛否が焦点の一つだ。
玉木雄一郎代表は昨年に続き今回も賛成したいとみられるが、現時点で態度を明らかにしていない。党内には4月の統一地方選への影響を懸念して反対論が続出。執行部は、賃上げ実現への政府の対応を見極めて慎重に判断する考えだ。
玉木氏は22日の衆院予算委で、賃上げ実現に向けて政府、労働界、経済界の代表による「政労使会議」開催を岸田文雄首相に重ねて要求。首相は「前向きに考えていきたい」と述べたが、時期は明らかにしなかった。
国民は「準与党化」路線を突き進む。昨年は政府予算に賛成し、見返りにガソリン高騰対策を巡る与党協議を実現させた。国民幹部は「賛成は政策を飲ませるための手段だ」と説明。「成果」を積み重ねて党の存在感を高めたい思惑だ。
ただ、国民党内には「今回は賛成できない」との見方が広がる。賛成すれば事実上の「与党」と映り、統一地方選に悪影響が出かねないとの懸念からだ。15日の党会合では、出席者から予算案への反対意見が相次いだ。若手は「地元から、賛成したら地方選は応援できないという声がある」と明かした。党関係者は「賛成すれば党が持たない」と分裂を恐れる。
玉木氏はこの日の予算委後、予算案の賛否について、記者団に対し「きょうの(首相)答弁だけでは賃上げにつながるかどうか確信が持てなかった」と明言を避けた。
自民党は野党分断を狙い、国民との政策協議に応じるなど、国民賛成への環境整備に余念がない。自民関係者は「与党が歩み寄っている。国民賛成が自然の流れだ」と指摘した。 
●首相 終始あいまい答弁 防衛力強化、子ども予算 衆院予算委 2/23
2023年度予算案の衆院審議が最終盤を迎える中、岸田文雄首相は「目玉」である防衛力強化や防衛費増額の具体的内容のほか、予算倍増を掲げる少子化対策の詳細も示さないままだ。22日の予算委員会でも「検討」「調整」と曖昧な答弁を重ね、予算の合理性などの検証は進まなかった。野党は「論戦の意味がない」と反発するが、政府・与党ペースを崩せていない。
「衆院の予算審議がヤマ場を超えた段階で、調整だとか検討だということはやめてほしい」。22日の予算委で、立憲民主党の本庄知史氏が声を荒らげた。敵基地攻撃能力(反撃能力)行使の想定について、首相は1月末に「図式で説明することはありうる」と答えたにもかかわらず、3週間たったこの日も「調整を進めている」と述べたからだ。
23年度予算案で防衛費は、22年度当初比26・3%増と過去に例がない大幅増額をする。重点配分したのが、敵基地攻撃能力のための長射程ミサイルの取得だ。
敵基地攻撃の要件を巡り、政府は「安全保障の観点から具体的に説明できない」(首相)と押し通してきた。本庄氏から、米国など密接な他国が攻撃される「存立危機事態」で敵基地攻撃能力を行使するかを問われても、首相は「武力行使3要件を満たすことが必須だ」と論点をすり替えた。
敵基地攻撃用の装備として2113億円の購入費を計上する米国製巡航ミサイル・トマホークについて、政府は「手の内を明かす」として購入数を公表していない。立憲の泉健太代表が「米国防総省は公開している」などと追及し、首相はようやく公表を検討する考えに言及。ただ公表時期などには一切触れなかった。
首相が子ども関連予算を国内総生産(GDP)比で倍増すると発言し、政府が翌日修正した問題でも、首相は政策の内容を今後具体化すると繰り返し、「中身を具体化しなければ予算もはっきりしない。当然のことだ」と開き直り。泉氏は「何を倍増するのか。意味不明だ」「(答弁を)修正させてくれと言えばいい」と迫ったが、首相は「政策をしっかり整理し、倍増を目指す」とかわし続けた。
●子ども予算「倍増」で攻防 泉氏が訂正要求、岸田首相拒む 衆院予算委 2/23
22日の衆院予算委員会では、岸田文雄首相と立憲民主党の泉健太代表が、子ども・子育て予算「倍増」を目指すとした先の首相答弁を巡って攻防を繰り広げた。
泉氏は、国内総生産(GDP)比4%、20兆円超規模に増やすと受け取れるとして答弁訂正を迫ったが、首相は応じなかった。
首相は15日の衆院予算委で、児童手当などを含む「家族関係社会支出」に触れて「2020年度でGDP比2%(10兆円超)。それをさらに倍増しようと言っている」と発言した。翌日に磯崎仁彦官房副長官が「将来的な(予算)倍増を考えるベースとして言及したわけではない」と軌道修正し、首相答弁の「軽さ」が問題となっていた。
この日は「倍増」答弁後、初めて首相が予算委審議に出席。泉氏は「副長官が訂正したからといって、許されるものではない」と追及したが、首相は「(政策の)中身を整理している段階で、予算(規模)だけ先に申し上げることは今までの答弁と比べても矛盾する」と苦しい釈明に追われた。
誤解した聞き手が悪いと言わんばかりの開き直った答弁に、泉氏は「何を倍増するのか。意味不明だ」「『言い過ぎた。修正させてくれ』と言えばいい」と攻勢を強めたが、首相は「求められる政策をしっかり整理した上で、倍増を目指すと申し上げた」とかわし続けた。倍増の起点となる予算額や実現時期も明らかにしなかった。
倍増実現のめどについて、首相側近の木原誠二官房副長官も21日のBS番組で「子どもが増えれば予算は増える。出生率がV字回復すれば早いタイミングで倍増する」と期限を示さなかった。
首相はこれまでも「令和版所得倍増」や「資産所得倍増」といったスローガンを打ち出し、「倍増」の表現を好んできた。曖昧な答弁に終始する首相に対し、質疑を終えた泉氏は記者団に「いつまでにやるのかも分からない。何を基準にするかも分からない」と不満を表明。「中身も決まっていないのに倍増という言葉だけを言っている」と切り捨てた。 
●国民負担率47.5%! あなたの稼ぎの約5割が公的負担… 2/23
岸田文雄首相が掲げた「令和版所得倍増」なるスローガンはどこに消えたのか。
財務省が、国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合を示す「国民負担率」について、今年度(2022年度)は47.5%となる見込みだと発表した。
「国民負担率」は国際的に比較する指標の一つで、「47.5%」とは所得の半分近くが公的負担を占めているということ。大雑把に言えば、稼いだ収入の半分程度が公的負担となる。
歴史の教科書では、江戸時代などの農民が領主などに納める年貢の割合が3割を示す「三公七民」でも生活はカツカツで、それが4割の「四公六民」や5割の「五公五民」となると一揆が起きたされる。現代の日本で「五公五民」に近い数値になっていることで、ネット上でも怒りの声が上がる。
《これじゃあ生活が苦しいのは当然だよ》
《国会議員の皆さん、国家公務員や天下りの皆さん、我々の負担を真剣に考えてください》
《霞が関の役所は会計検査院から毎年度、しょっちゅう無駄遣いを指摘されているが、いい加減にしろ》
欧州では「国民負担率」が6割近くの国もあるものの、その分、社会保障や福祉政策が手厚く、日本のように負担率が高い傾向にありながら、必要以上に「自助」を強調する国は少ないようだが、江戸時代や戦国時代なら一揆が起きてもおかしくないレベルだ。
●「殺傷能力ある武器輸出を」政府・自民に高まる解禁論 ゆらぐ禁輸三原則 2/23
ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎え、政府・自民党内ではウクライナ支援や友好国との関係強化を旗印に、殺傷能力のある武器の輸出解禁を目指す声が高まっている。安倍政権が「武器輸出三原則」の禁輸政策を転換し、輸出を認めた「防衛装備移転三原則」の運用指針の規制緩和を検討する。殺傷能力を持つ武器輸出を認めれば、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に続く安保関連政策の大転換となり、識者は「平和国家像の支えを失い、東アジアの軍拡につながる」と危ぶむ。(川田篤志)
不満を漏らす自民党議員
「不法な侵略を受けるウクライナの防衛目的でも、現行では殺傷力のある装備品を移転(輸出)できない。殺傷性ではなく、安保上、日本と関係を深めていく国かで考えては」。自民党の熊田裕通氏は今月の衆院予算委員会で、欧米が戦車や弾薬を供与する中、日本は防弾チョッキや民生車両などの支援にとどまる現状に不満を漏らした。
浜田靖一防衛相は「装備移転は日本にとって望ましい安保環境の創出や、国際法違反の侵略などを受けている国への支援のため重要な政策手段だ」と答弁。原則として殺傷能力のある武器輸出を認めていない運用指針の変更に前向きな姿勢を示した。
岸田政権は昨年12月に閣議決定した国家安全保障戦略で、装備品輸出は防衛協力の「重要な手段」と位置付けた。殺傷能力のある武器の輸出解禁の圧力は「ウクライナ支援」を名目に自民党内で強まっており、有志議員は21日、国内の防衛産業強化や防衛装備品の輸出拡大を目指す議員連盟を設立し、国会内で初の総会を開いた。
国内防衛産業の収益強化ねらう
政府・自民党にはウクライナへの軍事支援で欧米各国と足並みをそろえたい思惑がある。対中国を念頭に東南アジアへ武器輸出して安保協力を強化し、国内防衛産業の収益強化につなげる狙いもある。
一方、「平和の党」を掲げる公明党は、統一地方選挙への影響を懸念し、大幅な規制緩和に慎重姿勢を示す。政府・与党は4月以降に運用指針の見直しの議論を本格化させる構えだ。
武器輸出を巡っては、政府は1960〜70年代以降、憲法9条の平和主義に基づき、国際紛争を助長しないとの理念のもと、武器輸出三原則で事実上の禁輸政策を続けてきた。
安倍政権では2014年、全面禁輸を見直して「防衛装備移転三原則」として国際平和への貢献や日本の安全保障に資する場合、紛争当事国などを除き輸出を解禁。ただ、運用指針で、共同開発国を除き、戦車や戦闘機などの武器の輸出は認めてこなかった。
学習院大の青井未帆教授(憲法学)は、殺傷力のある武器の輸出を解禁すれば「紛争を助長せず、武器で利益を得る国ではないことで保っていた平和国家像が崩れてしまう」と指摘。「武器を送ることだけがウクライナ支援ではない。国家像を180度転換し、軍事力を背景に外交をする国になるのか、国会も含め国民的議論が必要だ」と語る。
●防衛費43兆円は必要な増額? 石破茂が「日本の防衛」を徹底分析!  2/23
日本の安全保障の歴史的な大転換とも言われる昨今。北朝鮮のミサイル問題やロシアによるウクライナ侵攻などを背景に、防衛費増額や敵基地攻撃能力の必要性が問われています。番組では、2021年に「防衛省の研究 歴代幹部でたどる戦後日本の国防史」を出版した辻田真佐憲が、過去に防衛大臣をつとめた経験を持つ石破茂衆議院議員に、日本の安全と平和、反撃能力、岸田政権の対応など、防衛ついてお聞きしました。
防衛費増額に至った説明責任を果たすべき
2月3日(金)、政府は防衛費増額の財源を確保するための特別措置法案を閣議決定しました。2023年度予算案で、4兆5,919億円の税外収入を確保。防衛費は23年度から27年度の5年間で総額43兆円程度を投じる方針です。現在の水準からの増額分となる17兆円程度の財源は、税外収入、決算余剰金、歳出改革で11兆円ほどを捻出し、残りは増税や建設国債などで賄う計画を示しています。
税外収入では、「防衛力強化資金」と呼ばれる新たな枠組みを設立。一般の経費に使う税外収入と区別し、複数の年度にわけて防衛費に充てる方針です。
防衛費増額については賛成の意見を示した石破さんですが、一方で、「性急な決定のあまり、具体的な内容説明に欠けているのではないか」と疑問を呈し「納税者のお金をどう使って、いわゆる抑止力、戦争をやらない力がどれぐらい高まったのかがわからないのは具合が悪い。岸田さんの言葉を借りれば『丁寧に説明する』ことが必要なんでしょうね」と述べます。
ロシアによるウクライナへの侵略を背景に、NATO(北大西洋条約機構)加盟国は、一定の防衛努力をするために国防費のGDP比2%という基準を打ち出しました。NATOの目標を引き合いに、自民党も追随する形でGDP比1%目安から倍の2%まで上げる方針を示しています。
自民党の動きに対し、石破さんは「NATOは集団的自衛権をベースにした、集団安全保障の組織。日本は日米同盟しかない。これは全然違うわけですよ。NATOも2%引き上げるから日本も2%というのは相当に乱暴なお話ですよね」と一石を投じます。「中身の議論が進まないまま防衛費増額に踏み切ったのではないか」と所感を述べました。
「台湾有事」は起こり得るのか?
税負担に否定的な意見が集まるなか、防衛費増額に関しては賛成意見が過去に比べて増加傾向にある昨今。その背景には、中国による台湾侵攻、すなわち「台湾有事」が起こり得るのではないかと考えられていることがあります。
石破さんはロシアによるウクライナへの侵略が1年経った今でも続いていることを挙げ、地続きの国家間であっても侵略には膨大なリソースを割く必要性があるとコメント。まして台湾有事の際には、海路の攻略に加えて精強な台湾軍に対抗する必要があり、米韓同盟も発動される可能性が高いと石破さんは分析します。
半導体の受託生産で世界最大手の台湾には、アメリカの巨大な軍用レーダーも設置されており、軍事的にも非常に重大な役割を担っています。このように台湾がアメリカにとって重要なポジションにあることを踏まえて、中国の侵攻の可能性と態様を想定する必要があると石破さんは語りました。
反撃能力はどの「抑止力」に該当するのか
岸田総理は反撃能力、敵基地攻撃能力保有で強化される日本の抑止力について、決して他国に対する脅威にならないと表明しています。岸田総理は脅威にならないとする理由について、不当な武力攻撃をする国々の行動を抑止するために重要であり、平和と安定に貢献する日本の外交力の裏付けになると説明しました。
抑止力とは、相手に攻撃が無意味だと思わせる軍事力の役割です。日本の防衛政策では、戦後「懲罰的抑止力」「報復的抑止力」は持たず、「拒否的抑止力」に主眼が置かれています。
「『やれるものならやってみなさい。日本国民は1人も死なないし、やるだけ無駄だ』っていうのが拒否的抑止力」と説明する石破さんは、反撃能力がどの抑止力に該当するのか議論を進める必要性があると意見を示しました。
総理大臣なら何に注力したい?
もし石破さんが総理大臣と仮定するならば、安保外交でまず実行したいことは「自衛隊の存在意義の見直し」だそう。
「日本国憲法第9条を読めば、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』と書いてあるわけです。じゃあ、自衛隊って何なのよ(という話)。陸軍じゃない、海軍じゃない、空軍じゃない。自衛隊は軍隊じゃないんです、なぜなら憲法で禁止されている「戦力」じゃないからです。どうして「戦力」じゃないんですか? それは必要最小限の自衛力だからです、ってことを、私も大臣だったときには言ってきました」と述べる石破さん。
仮に台湾有事や朝鮮半島有事が起こった際は、自衛隊の作戦内容が複雑化するため、日本国民への説明が困難であると指摘しました。
発言を受け、辻田は石破さんに「最初にされるのは自衛隊の説明になるのでしょうか? もっと言えば、すべての原因が憲法にある気がします。今の憲法なのに、あれだけ自衛隊が大きな規模としてある。この矛盾を解消するため、やはり憲法を改正するところに行き着くのでしょうか?」と疑問を投げかけます。
「本当はそうあるべき」と同調を示した石破さんは「こういう風に安全保障環境が悪くなる前に、そういう議論をきちんとしておくべきだったと思います」と発言しました。
「統合司令部」新設に至った理由
政府は陸・海・空の3つの自衛隊を一元的に指揮する、常設の「統合司令部」を防衛省のある東京都・市ヶ谷に新設する方針を固め、早ければ2024年度の発足となります。
現在の制度では「統合幕僚長」が、部隊の運用と防衛大臣の補佐を担っています。東日本大震災の際、部隊の運用に十分な時間を割けなかったという指摘を受け、「統合幕僚長」とは別に「統合司令官」が置かれ、指揮を担うことになりました。指示系統が複雑化せず、効率的に運用できるかが課題となります。
「統合司令官」が発足した経緯について、石破さんは「幕僚長というのはスタッフで、指揮官ではないんです。総理大臣や防衛大臣に対してアドバイスをするのが幕僚。それとは別に統合で指揮をとれる、指揮官としての役職がなかったわけです」と解説します。
辻田からの「統合幕僚長と統合司令官の仕事が重なってしまうことはないんでしょうか?」という質問に対して、石破さんは「ありません。重ならないようにします。大臣や総理に幕僚として述べながら、自分が指揮するなんて超人でもできないですよ」と即答しました。
「対等な対米関係」を築くために必要なこと
今後の日本について、石破さんは「アメリカの意思ですべてが決定されるという、一種の隷属関係みたいな国家であってほしいとは思いません」と自身の考えを述べます。
現在は、日本が他国から武力攻撃を受けた場合、アメリカは日本を防衛する義務を負います。しかし、アメリカが武力攻撃を受けた場合、日本は防衛する義務を負いません。
「その代わりに日本の領域に米軍を置くことができるっていう、こういう関係は決して長続きしないと思っているんです」と、日米の条約上の義務が非対称であることで持続可能性を疑問視する石破さん。価値観を共有する重要な同盟国であると認識しているからこそ、対等な関係性を築くべきだと主張しました。
続けて石破さんは、日本が自立的な防衛に進んだ場合、核武装の必要性について「選択肢として論理的にはありえること」と発言。一方で、広島・長崎が負った甚大な被害に触れ、国民の同意を得ることは極めて難しいと見解を示しました。
日本には米国の「核の傘」が保障されていますが、アメリカが核使用に至る意思形成のプロセスを共有することは可能だと考える石破さん。「日本が核を持つという選択をしないのなら、『少しでも核抑止力を高める努力って何だろう』って話を、私はしないといけないなと思っています」と発言しました。
●外務省の国際協力支援策 大部分が軍事用途 2/23
外務省が政府開発援助(ODA)とは別に国際協力の枠組みを新設し、他国への武器供与を可能とする支援策を進めようとしている問題で、同省の担当者が「大部分が軍事的用途の支援になる」ことを明らかにしました。21日に行われた日本国際ボランティアセンター(JVC、今井高樹代表理事)主催の院内集会での発言。
新たな支援の枠組みは政府が昨年末閣議決定した「国家安全保障戦略」で、「同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上を目的」とし、「軍等が裨益(ひえき)者(受益者)となる新たな協力の枠組みを設ける」などと明記したもの。2023年度予算案に20億円が計上されています。
集会では、JVCの今井氏が、日本の開発協力の指針に掲げられた「非軍事原則」と矛盾すると指摘。外務省の担当者は「今回の新しい枠組みはそもそもODAの外にあるものだ」として、「非軍事原則」の変更にはあたらないと強弁しました。
さらに、野党議員が国際協力の新たな枠組みについて、省内で議論した議事録の提出を求めると、同省の担当者は「すべての議論について、議事録をとることは通常ない」「いろいろな会議があるので、議事録があるもの、ないものがある」などと述べ、拒否する姿勢を示しました。
海外で人道・開発支援活動を行う非政府組織(NGO)などの関係者は、「国際協力に名を借りた『他国軍支援』は、自国のみならず他国を戦争に巻き込む軍事支援策だ」と述べ、危険性を指摘しました。
●かつて日本政府は借金帳消しのために円を紙くずに変えた…借金大国・日本 2/23
日本政府は対GDP比で世界最悪の借金(債務)を抱えている。この借金は本当に返せるのか。金融アナリストの土屋剛俊さんは「戦後の日本は、戦費で膨らんだ借金を帳消しにするため、急激なインフレで円を紙くずに変えたことがある。そして現在の日本の借金は、当時よりも多くなっている」という――。
日本円が紙くずになるタイミングはあるのか
第1章で触れましたが、基本的に紙切れでしかないお金の価値を支えているのは、「その紙切れには価値があるとみんなが信用すること」です。つまり、みんなが信用し続けている限りでは、紙切れの価値は維持できることになります。
では、少子高齢化が決定的な、日本円という紙切れに対する国民の信頼はいつまで続くのでしょうか。
本章では日本が破綻し、円というお金が紙くずになってしまう可能性について考えてみます。
日本は経済大国です。GDPは世界第3位(2021年)で、治安もよく、日米安保条約でアメリカが守ってくれるはずなので、他国に侵略されて滅ぼされてしまう可能性も低いと思われます。したがって、今すぐに日本円が紙くずになる可能性は低そうです。
では今の日本で、何が起きると日本円が紙くずになってしまうのでしょうか。
「借金をいくらしても大丈夫」は本当か? 
可能性がいちばん高いのは政府が借金をしすぎて、破綻してしまう場合です。
実はこの問題については世界中の経済学者やエコノミスト、政治家、投資家、アナリスト、ジャーナリストなどが長い間ずっと議論しています。
この議論で怖いのは、自分の意見と違うことを主張する人を、経済学の基本すらまるでわかっていない最悪の人間として、人格否定をするような発言が多くみられることです。
物事にはいろいろな考え方があり、自分とは違う意見も尊重したらいいと思うのですが、一向に収まりません。
主な論点は、次のふたつです。
「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」
「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」
この真逆のふたつの意見が対立しています。
前者の代表はMMT(現代貨幣理論)推進派の人達で、後者の代表は財務省です。
MMTとは、とてもざっくりいうと、「政府は自国通貨、つまり日本なら円での借金ならいくらしても大丈夫、なぜなら政府はお金を刷れるから」、という考え方です(注)。
このテーマは選挙のときもいつも話題になります。
政治家はMMTの「借金はいくらしても大丈夫」という理屈が大好きです。それはそうですよね。「増税しません。必要な財源は借金でまかないます。だっていくら借金したって平気だから」と選挙で言えるからです。
[ (注)MMT理論について / 本文中の説明はかなり乱暴なものです。もう少し説明すると「財政支出は中央銀行のファイナンスによって貨幣化される限りにおいては債務ではない」という考え方です。さらに推し進んだ意見を聞くと、神学論争というか哲学の領域にまで行ってしまっていると私は感じます。]
「日本人が日本を信用しなくなるかどうかはわからない」
それにしても、どうしてこんなに両極端な議論を延々と続けているのでしょうか。
「こっちが正しい」という結論はでないのでしょうか。
私はこの問題を20年以上考えていて、さまざまな意見や論文を読んでもみましたが、この論争に決着がつかないのは、最終的には「日本人がこの国を信用しなくなって見捨てるかどうかがわからないから」ではないかと思っています。
会社が倒産するときを考えてみましょう。
ある会社が、業績が悪くなり赤字が続いて、現金がどんどん会社から出ていったとします。しかし、そんな会社でも、誰かが無尽蔵にお金を貸してくれている限りは絶対に倒産しません。
会社が倒産するのは、誰もお金を貸してくれなくなるときです。とてもシンプルです。
日本という国についても、このように「誰かがお金を貸してくれる」=「日本人は何があっても日本を見捨てないから大丈夫」ということでしたら破綻しません。しかし「こんな国は、もうお金を貸してもだめだ」と思われればそれまでです。ちなみに、ここでの「お金を貸してくれる」とはざっくりと「国債が売れる」という理解で大丈夫です(細かくはいろいろあります)。
日本に対する信用は感情的で読みづらい
日本人が将来的に日本を信じなくなるかどうかは、なってみないとわかりません。
だからこそ、日本が破綻するリスクについての論争も、いつまでたっても決着がつかないのでしょう。
「あの人がどんなに借金しても、愛し続けてくれる。あの人は私を見捨てない」
「いや、さすがにそこまで借金まみれだと、もう離婚されるだろう」
このふたりの意見のどちらが正しいかは、相手に聞いてみなければわかりません。
相手の気持ちを想像していくら論理的に議論しようとしても決着はつかないでしょう。
しかし、この相手が追い込まれているのは事実です。
「日本を見捨てるかどうか日本人が迷うくらい」追い込まれるとは具体的にどういうことかについては、このあと紙面を割きます。ここでは、日本人が日本を信用しなくなるかどうかは、感情的な問題なのでほぼ読めない、ということをお伝えしておきたいと思います。
こういう状況であると理解した上で、では、自分なりに考えるとしたら、あなたはどうしますか? 
たとえば、自分なりに「日本円はそのうち日本人の信頼を失い、紙くずになってしまうだろう」と思われた人は、ご自身の現金をドルなどの外貨に替えておかれるといいでしょう。
中国人は自国の元を信用していない
ちなみに自国の通貨を信用していない国民として有名(? )なのは、中国人です。
中国人は基本的に自国の通貨を信用していないところがあり、お金がたまると外貨に替え、財産の保全を図ろうとします。
国もそのことはよく知っているので、中国の元はドルなどの外貨に替えることが強く規制されています。何もしないでいると、どんどん元を売ってドルに替えてしまうからです。
現在、中国政府は仮想通貨(暗号資産)を全面禁止にしています。これは中国政府が仮想通貨の危険性に気がついたからではなく、国民が元以外の通貨に財産を替えようとするのを防ぐのがいちばんの目的だと私は思っています。
これまでは世界中の国で、蓄積方法として米ドルを一定量持つのが当然でしたし、グローバルな貿易に関しても決済通貨に米ドルを使うというのが一般的でした。
ところが、ウクライナ戦争によりロシアのドル資産がアメリカに凍結されるなどの動きがあり、ロシアが中国に原油を売るときの決済通貨がロシアルーブルになったり、アジア諸国間での決済が元で行われるようになるなどしています。
つまり、元に対して基軸通貨としての役割が高まってきていて、米ドル一強の状況が少し変わってきています。
会社や個人の破綻と国家の破綻は意味合いが異なる
「国レベルでの破綻」とはどういうことかを考えるときに非常に重要なポイントがあります。
それは、会社や個人の破綻と国ではまったく事情が異なるということです。ここを一緒にしてしまうと、議論が混乱するのでぜひ次に説明することを覚えておいてください。
普通の会社や個人であれば、決められた期日に約束したお金を用意できなければアウトです。
ところが国であればお金を刷ることができるので、自国通貨で借金をしている限り、どんな金額だろうと必ず返せます。民間企業が印刷機でお金を刷って借金返済したら大変な犯罪です。無期懲役になるかもしれません(注)。
[ (注)刑法 第148条 1.行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。2.偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。]
「なんだ、じゃあ国は絶対に破綻しないじゃないか。安心した」と思うかもしれません。確かにこの説明で納得する人はたくさんいます。
しかし、このロジックには穴があります。
国の破綻リスクというのは会社や個人のように「決められた日にお金を用意できるかできないか」で議論してはいけません。
「日本円はいつでも刷れる」は論点がずれている
これまで何度も説明してきたように、日本の破綻とは「国民から日本円という紙の価値を信用してもらえなくなること」だからです。
もし国の借金が自国通貨ではない場合は、国の破綻リスクも一気に事情が変わってきます。たとえば、新興国がドルで借金をしてしまったために返せなくなって国家が破綻してしまうという話はよく聞きます。それは外貨で借金をしてしまうからです。
外貨で借金をするというのは、ある国の政府が、自分の国の通貨以外の通貨でお金を借りることです。つまり、印刷機でお札を刷るという必殺技があるかどうかは確かに大切で、それが使えなくなる状況では、個人や普通の会社と同じ状態になります。
日本の場合も「日本は外貨で借金をしていないから大丈夫だ。米ドル建ての日本国債なんかないじゃないか」という意見もよく聞きます。それは一理あります。外貨で借金をしていない国は、相対的に破綻しにくいことは間違いありません。
しかし、この議論で気をつけないといけないのは、
「日本という国が国民から信頼されなくなってしまうのではないか」
という心配に対して、
「外貨で借りてないからいいんだよ。円で借りてるから印刷機で刷れるでしょ」
と説明するのは論点がずれているということです。
では、具体的に、「日本という国が国民から信頼されなくなってしまう」状況とはどういう状況でしょうか。
第二次世界大戦後に日本政府が取った「禁じ手」
「日本という国が国民から信頼されなくなる」ときはどういう状況なのでしょうか。
それは、「国民が貯めたお金の価値がなんらかの形で失われること」です。
国債が満期日に償還されない(元本が返ってこない)ことがストレートでわかりやすいですが、それ以外にももちろん起こります。
戦後の日本政府が取った動きが参考になりますので見ていきましょう。
第二次世界大戦の戦費が膨大で、借金が多かった日本は、禁じ手を使い、日銀に国債の引受けをさせました。自由にお金を刷ったわけです。そして、お札が急増したこともあってとてつもないインフレになりました。
このインフレは、月に100%上昇するという驚異的なレベルでした。1カ月で持っている現金資産の価値が半分になったのです。この事態をなんとかしようとして、政府は「今持っているお金は使えないことにします。新しいお金に換えないと紙くずになります。交換して欲しければまず、持っているお金を全部銀行に持ってきてください」としました。第1章でお話をした、新円切り替えです。
多くの日本国民がほとんどの財産を失った
それまで、国民は自分のお金を守る(隠す)ために、結構な量の日本円を自宅のタンスの中にしまって保管していました。もちろん、銀行に預けているといくら持っているか国にわかられてしまうため、国家に取り上げられてしまうリスクがあったからです。
しかし、「そのまま持っていると紙くずになるぞ」と脅されたのではしょうがなく現金を銀行に持っていきます。
そしてそのまま政府は、無理に預金させたお金を封鎖しました。
お金はほとんど下ろせなくなり、その上、持っている資産に対して強烈な比率で没収していきました。たとえば、当時のお金で1500万円以上持っている人は、9割も国に持っていかれるということにしてしまったのです。
このプロセスはすべて国家が国会で法律をつくって行いました。つまり正しい手順を踏んで実行されたのです。ですので、国のデフォルトでも不履行(いずれも約束通りに期日にお金を返せないこと)でもなんでもありません。
正しい手順ではありましたが、この結果、日本国民はほとんどの財産を失いました。この新円切り替えに比べると、国債がデフォルトをして、国債を買った人だけが損する方が余程ましです(もちろん、国債がデフォルトするようなことがあれば波及効果がすごいでしょうから、それだけですむはずはありませんが)。
現在の日本の台所事情は戦後よりもひどい
このように、国民の財産を大変な勢いで没収し、大惨事を引き起こした「国の借金」は当時いくらだったのでしょうか。
どれくらいの規模だったのかというと、GDP745億円に対して国債は1175億円でした。GDPの1.6倍弱くらいです。
では、現在の借金の状況を見ていきましょう。
国と地方で合計1300兆円、対GDP比は2.5倍となっています。つまり、戦後の新円切り替え時よりひどいのです。しかも、世界でくらべてもかなり多いことがわかります。
もちろん、リーマン・ショックをはじめ、さまざまな不況の要因があったので、景気を支えるために仕方なく借金したこともあります。しかし、日本の借金はハイペースでずっと増え続けています。ざっくりと毎年約30兆円くらい増えていっているのです。
毎月2.5兆円だと、1週間で5800億円、1日で820億円、1時間で34億円というすさまじいスピードです。
国が借りたお金を返さず残っている国債を、国債の残高といいますが、現在約1000兆円くらいです。もしここで、平均借入金利が1%上がると利払いだけで10兆円が増加することになります。
もし新規に国債発行するのをやめて増税で賄おうとすると、消費税を25%にしてようやく借金が増えない状態になります。しかし、現在より15%も消費税を値上げするのは現実的ではありません。
現在では新型コロナの影響もあってさらに借金が増えました。営業自粛したお店への補塡(ほてん)や人件費の補塡、ワクチン代などでどんどんお金をかけています。いかに日本が借金が多いかわかっていただけたでしょうか。
●見えた日本経済V字回復!ありがとう安倍晋三 …  2/23
経済評論家の上念司氏は、「インフレとデフレは40年周期でやってきている。2020年からの40年間はインフレの時代」と分析する。「すぐにデフレがやって来る」と考える経営者らの思考が「甘い」と斬って捨てられる理由を、バブル崩壊後の日本の状況と照らし合わせて紹介する――。
23%→7%のインフレは耐えられても、3%→−1%のデフレは耐えられない
世界的なインフレが始まる中、いよいよ日本もデフレを脱却し、インフレ時代に入る。これはコロナ禍における財政のバラマキ効果やロシア・ウクライナ戦争の影響もあるが、より大きな流れとして見ることもできる。
まず考えたいのが時代のトレンドだ。歴史的に見るとインフレとデフレは、一定の周期で交互に訪れている。まとめると1900年からデフレ時代が始まり、1940年以降はインフレ時代に入る。そして1980年をピークにインフレ率が下がりだし、そのままデフレの時代に入る。
いずれも40年周期で変わり、2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界はいっきにインフレモードになった。この40年周期は、現象面から見ただけで何の根拠もない。しかし、私のみならず多くのエコノミストがこの不思議な周期説に一定の説得力を感じている。
デフレからインフレへの転換は、冬から春になる時の三寒四温に似ているかもしれない。1940年から50年にかけての日本はまさに「寒の戻り」だった。1949年にドッジデフレを経験し、翌年朝鮮戦争勃発で株価が暴落したのが最後の冬日だった。
朝鮮戦争が終わるころには、株価は3倍以上に上がっていた。再び冬(デフレ)が来ると信じて現金を貯めこんだ人は大損し、リスクを取った人が報われた。
逆に、秋から冬に向かっていたのが1980年代だ。1980年代後半から始まったバブル景気は残暑のようなものだ。秋の夏日はあくまでも夏日であって、夏そのものではない。バブル景気を抑えるため、日銀は1989年に金融引き締めを始める。これはまるで、第1次オイルショック時のときと同じ手法で、それによって日本のインフレ率が下がっていく。
だがここで日銀は間違えた。第1次オイルショックのようなインフレ率23%の状態から7%まで下げるのと、1989年当時の3%からマイナス1%まで下げるのでは、経済に与える影響がまったく違うのだ。
人間の体にたとえると、わかりやすい。たとえば室温85度のサウナの中でも健康な人なら裸で15分程度は耐えられる。しかし、裸でマイナス5度の冷凍庫に置き去りにされたら15分も持たずに低体温症の症状が出るだろう。最悪の場合、死ぬかもしれない。
例えば、外気温が25度だった場合、85度のサウナは気温差60度、マイナス5度の冷凍庫は気温差30度だ。サウナの方が冷凍庫より2倍も気温差がある。しかし、サウナでは死なない人間が、冷凍庫では死ぬ可能性が高い。経済も全くこれと同じだ。
年率23%の狂乱物価が7%に収まった場合、その差は15%である。しかし、これはなぜか耐えられる。むしろ23%のインフレより7%のインフレの方が心地よい。ところが3%のインフレからマイナス1%のデフレになった場合、その差がわずか4%だが人間は耐えられないのだ。
「もう政府の言うことは聞かない」日銀の暴走
ここで日銀の罪をあらためて指摘したい。デフレ下において中央銀行には、物価目標を達成するための金融緩和が求められる。手段として一般的なのは民間銀行が保有する国債を大量に買うことだ。必要なら政府から直接買っても良い。
要は2013年以降、黒田東彦総裁が行ってきたことをやればよかったのだ。ところが、黒田総裁以前の日銀には「金融政策の目標を政府と共有する」という概念がなかった。これは1998年の日銀法改正が大きい。
それまで大蔵省の完全な子会社だった日銀は、改正で金融政策の独立性を持てるようになる。改正のきっかけは当時の大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ」をはじめとする接待スキャンダルだ。大蔵省の役人に対する大手銀行や証券会社による過剰な接待ぶりがマスコミで報じられ、汚職事件にまで発展した。
大蔵大臣と日銀総裁は辞任、大蔵省は解体されて財務省と金融庁に分かれた。これに伴い日銀も、中央銀行としての独立性を持てるようになった。このとき日銀は「独立性」を錯覚する。「もう政府の言うことは聞かなくていい」と考えるようになったのだ。結果として「インフレ率2%を維持するのに必要な貨幣量を供給する」という、本来の役割を無視するようになる。
日銀は独特の理論を持ち、インフレ退治には積極的だが、デフレを抑えることには消極的だ。そのため、すべてが後手に回った。それを14年間やり続け、「これはおかしい」と気づいた当時の安倍晋三氏が第2次安倍政権において日銀に黒田東彦氏を総裁として送り込み、ようやくデフレ退治に乗り出すのだ。
それぐらい役所というのは、一度決めたことを修正したがらない。いまでも日銀は根っこの部分では変わっていない。
確かに日銀法には「日本銀行の金融政策の目的は、物価の安定を図ること」としか書いていない。「インフレ率何%」などと具体的な数字は掲げられておらず、当時の白川方明総裁も「マイナス1%でも安定していれば『物価の安定』」などとうそぶいていた。
業を煮やした当時の安倍首相が次の総裁を黒田氏に決めると、任期満了を待たずに白川氏は辞めてしまった。まさに責任逃れである。
それでも2012年に第2次安倍内閣が誕生し、アベノミクスを始めたことで日本経済は何とか水面まで浮上する。インフレはギリギリプラス。水準的にはデフレではない状態を安倍首相と黒田総裁がつくった。
アベノミクスで採った金融政策は、欧米がリーマンショックの際に行ったことと同じだ。貨幣量を増やし、金融のエンジンを全開にふかす。これによりインフレ率がマイナスになるのを食い止め、デフレを回避した。
日銀が目標とするインフレ率は2%で、「アベノミクスは達成できなかった」という声もあるが、水面下から水面に浮上したことは非常に大きい。実際、500万人以上の雇用も新たに創出し、日本経済はどん底からV字回復したのだ。
そうした中で2020年にコロナショックが起こり、全世界がインフレモードに突入しだす。すでにアベノミクスによって、物価がマイナス圏を脱していた日本には追い風だ。もちろん、それはインフレ方向に吹いている。その風は40年止むことはないだろう。
バブル崩壊後にヒットした『ロマンスの神様』
日本の経営者には、いまのインフレは短期で終わり、またデフレに戻ると思っている人が多いが、その考えは甘すぎる。すでに述べたように過去のデフレ、インフレのサイクルもいっきに転換するのではなく、「三寒四温」のように行きつ戻りつを繰り返しながら変わっていった。
バブルの崩壊過程を思い出していただきたい。1990年1月には3万8000円台だった日経平均株価が、年末には2万3000円台にまで落ちた。91年には地価も頭打ちになり、本格的な下落が始まった。それでも多くの人が2、3年もすれば景気は回復すると思っていた。
広瀬香美さんの大ヒットソング『ロマンスの神様』の発売はいつだったか。CDが175万枚売れたこの曲の発売日は、1993年3月なのだ。
93年は私が社会人一年生だった年で、一部上場企業が、翌年の新卒内定者を軒並み半減させた年でもある。社会人一年生の私はリクルーターをしていたので、よく覚えている。私が内定を受けた前年の92年は内定者が90人いたが、93年は45人しかいなかった。
これは、私が勤めていた日本長期信用銀行だけの話だけではない。大学の弁論部時代の仲間の勤める伊藤忠商事も同様だった。当時の金融機関と商社を代表する2社が、内定者を半減したのだ。他の多くの企業も似たようなものだっただろう。いわゆる就職氷河期の始まりである。
つまり『ロマンスの神様』が大ヒットしたとき、日本はすでにバブルが崩壊していた。それなのに「リゾートで素敵な男性と出会いたい」といった、バブル全盛期のようなノリノリの歌がウケた。世の中の空気は、まだまだバブルだったのだ。
インフレ率も下がっていたのに、「来年は戻るよ」と誰もが楽観的だった。多くの人が現実に気づくのはいつかというと、日本長期信用銀行が経営破綻した1998年だ。バブル崩壊を1991年とすると、7年かけてようやく気づいたのだ。
今回のインフレも、2020年を始まりとすると、2027年頃まで気づかない人が多いのではないか?感度の鈍い人はようやくここで、「もうデフレには戻らない」と気づくのかもしれない。
●「天声人語」―敵基地攻撃能力の憲法論戦に注目 2/23
「朝日」22日付「天声人語」が、岸田文雄首相の国会答弁について「野党」の追及にも触れて「腑(ふ)に落ちない」と批判しています。敵基地攻撃能力と従来の政府の憲法解釈をめぐり岸田首相が「憲法の範囲内」と繰り返していることについてです。
政府は1956年の答弁で、法理上は敵基地攻撃できるとしつつ、それを実行できるのは「他に手段がない」時だとしてきました。「天声人語」では、現在は国連が存在し、「何より5万人超の在日米軍がでんと駐留している。世界各国の中で最も多い」とし、「築きあげてきた見解と違うじゃないか、と野党が先日の国会で問うた」としました。
日本共産党の志位和夫委員長が1月31日の衆院予算委員会でこの問題を追及していました。
志位氏が59年の政府答弁も引きつつ、安保体制など「他の手段がある」ではないかとただしたのに対し岸田首相は、「安全保障環境が変化した」「米軍の打撃力に完全に依存するのではなく自ら守る努力が不可欠」などと答弁しました。
「天声人語」は「ならば、政府は憲法解釈を変えた、と考えるのがふつうだろう」と指摘。「だが、首相は『変更しておりません』。出来の良くないロボットの不条理な応答を聞くようで、まったく理解に苦しむ」とし、憲法解釈を時の政権が勝手に曲げながら、曲げたことすら認めないと批判しました。  
●「今や日本は『衰退途上国』」 2/23
岩上安身によるインタビュー ゲスト エコノミスト・田代秀敏氏
2023年2月17日、午後6時半から、「日銀の金融政策は破綻し、アベノミクスも終焉! 物価は上昇し、実質賃金は低下! 今や日本は『衰退途上国』!? せめて破滅的な『増税軍拡』をやめて、米中『代理戦争』の罠から抜けよ!!」と題して、岩上安身によるエコノミスト・田代秀敏氏インタビューをIWJ事務所から生中継した。
田代秀敏氏は、2023年2月14日の『エコノミスト』に、「『ガラパゴス』日銀 市場機能をマヒさせた『看守』低金利慣れの財政に大打撃」という記事を発表され、「『現代貨幣理論(MMT)』が跋扈するのは、主要国では日本でだけ見られるガラパゴス現象」だと指摘、日本は今や「衰退途上国」であると述べている。

岩上「まず、『日本は衰退途上国となった』ということなんですけれども、ここからお話を願えればなと思います」
田代氏「日本の経済官僚のOBの方にお会いした時に『日本は衰退途上国だね』とおっしゃったのが、非常に印象的でした。そういう立場にあった人がそういうのだから、間違いはないですよね。つまり、国のお金の管理をずっとやってきた人が言うんですから。(中略)どうして(衰退途上国なの)かというと、『中央銀行は政府の子会社だ』と、安倍晋三氏がはっきり言いましたよね。これはもう驚天動地の話で」
岩上「日銀の独立性を否定した」
田代氏「中央銀行の独立性というものが、先進国であるための条件なんですよね。そういう中央銀行の独立性がない国の通貨など、恐ろしくて使いようがないわけです。これがひとつ。次に政府が財政規律を喪失。もう明らかですよね」
岩上「もう、やる気がなくなってしまった?」
田代氏「財政規律という言葉がいつ失われてしまったのか。もう、危機的な状況を通り越して、存在しているのが不思議なような状態の財政状態なんですよ。ものすごい大盤振る舞いをすると。その仕方は、アメリカでもドイツでもどこでも増税をセットにするか、借金の返済計画を明らかにした上でやるわけですよ。企業もそうですよね。銀行からお金を借りる時、返済計画をきちんと出さないとだめです。そうでないと銀行はお金を出さないですよ、そんな会社には。日本政府がやったのは、『とにかくそんなことは全部後回しだ』と言って、とにかくお金をばらまいてみる、と。どうしようかという時点で、今度は『もっと金を使う』と。ヨーロッパの国でさえ、10年かけて軍事予算をGDPの1パーセント水準から2パーセントにすると、口で約束したのに」
岩上「ウクライナ紛争が起こって、アメリカがNATOの諸国に対して『自分たちでやれ』、『もっと軍事費を上げろ』という圧力をかけたことに対するアンサーとして出てきたものが1%から2%にあげると」
田代氏「でも、10年かけてるんですよね。ところが、日本はそれを5年でやるというから、ビックリして。そんなに日本の財政は余裕があったんですかと。しかも、それが、財源どうするかというと恐ろしくて、『これはファイナンスですか』というようなもの。あんなもの、もし企業が銀行に提示したら、もう2度と付き合ってくれないですよね。いつ電話しても『忙しいです』って言われて、おしまいになっちゃいますよ。ほとんど予算の手当も何もないですよね」
岩上「『増税する』ことだけ分かってて。それも、選挙の後に出すからと、今から自民党は言ってるわけですよ。今年は政権選択の選挙はないわけです。来年なんだけれども、それまでに固めてしまって。どんどん調達は始まっていって、来年の選挙の前には、『増税の話はしない』。こういうことを公言しちゃうんですからね。そして、選挙後に大増税をやって、この防衛費の軍拡を、ヨーロッパの水準から見ても、2倍(のスピードで2%に)到達させる」
田代氏「期間が2分の1ですから、スピードは2倍になるわけですよね。恐ろしいことに、何もわからない人が言うならばともかく、政権与党の中でさえ、国会議員の中にこんなもの(現代貨幣理論、MMT)を支持する人がいるわけですよ。現代貨幣理論、モダン・マネタリー・セオリー。こんなものが跋扈しているのは日本だけです。こんなもの、誰も相手にしません。実際、英語で出版されている経済学の雑誌をいくら検索しても、これを取りあげた論文は一本もないわけです。つまりもう、学問的に批判する価値もない、口にする価値もないと」
岩上「一時期、アメリカでブームになり、アメリカでのオカシオ・コルテスさんが飛びついたこともあって、注目を集めて。日本でも『れいわ』が、このMMTを掲げると。そして、極右も。自民党の極右派も、実はMMTが大好きで、軍拡をするにはこれ便利ですから。それから、ひたすら、『公共事業』という財政出動をするためにも便利。この人たちは、何も考えてないですから、『れいわ』がそっちに行ってくれたことに大喜びしちゃってる。そういう場面が数年前ありましたけれども。そういうことが、一時期ブームみたいになって、ステファニー・ケルトンみたいな、ブロンドの美しい女性学者が日本に来た時に、NHKをはじめ大騒ぎして、日本の大メディアが取り上げたんですけど。あれはもう、アメリカですら相手にされていない、ということですね」
田代氏「誰も知らない人でしょう? おそらく。アカデミズムの世界では、誰も彼女の名前も知らないので。こういうの(日本でだけMMTが跋扈しているのは)本当に『ガラパゴス』ですよね。日本でしか見たことないです、こんなこと。先進国では」
田代氏は、日本が「衰退途上国」である理由を、中央銀行の独立性がないこと、政府の財政規律が失われていること、MMTのような異端の経済理論が跋扈していること、という3点を上げて説明した。
田代氏は、与党をはじめとする国会議員の間にMMTがはびこり、「政権内部でこんなことを大声で言う人がいるというのが、びっくり仰天」だと付け加え、これだけを見ても「衰退途上国のリトマス試験紙があったら真っ赤になっている」と述べた。
岩上は、実は、MMTは「大増税でインフレを収束させる」と述べているが、日本のMMT支持者たちは、増税のことは言わない、と批判した。
田代秀敏氏は、2023年2月14日の『エコノミスト』に発表した記事で、1974年にインフレ対策として初めて本格的に赤字国債を発行して以来、日本は40年間以上、日本国債の金利はずっと下落基調にあり、例外はバブルの時だけだった、と指摘している。
田代氏は、「金利2%はまともな金利の下限」だと指摘、その2%を日本は1994年以来ずっと下回ってきたが、ついに昨年上昇に転じたことにふれ、もはや市場が日銀のコントロールできない状況に至ったと評した。
田代氏「実はポイントはここなんです。これは日本の国債の利回り、金利を時系列に沿って並べたものです。一番古い国債は、この1年物、5年物というのは、1974年から。
1974年というのは、赤字国債を本格的に発行始めたのがこの年なんですよ。
その前は、1965年。第1次東京オリンピックの次の年に発行して、これはさすがに『危ない』と思って、いったん封印したんだけど、第1次石油危機の時に起きたインフレーションの対策で、赤字国債を(1974年に)発行してから、財務省・大蔵省は国債の利回りを開示しています。(中略) それを見ると、ずっと40年間、基本的には金利は下落基調なんですね。例外は80年代の終わりのバブル期です。バブル抑制のために、金利をどんどん引き上げていったんだけど、やっぱりバブル崩壊したあと、ものすごい勢いで引き下げてます。
御覧の通り、2000年になると、10年国債の利回りが2パーセントを下回っています。通常は、この2パーセントというのは、まともな金利の下限なんですよね。
サー・ウォルター・バジェットは、『ロンバート・ストリート』、イギリス、世界の金融の古典中の古典の本の中で、『ジョンブル、イギリスの男達は、大抵のことは我慢できるけど、2パーセントを下回る金利は絶対に耐えられない』と。なんと、その2パーセントを下回る金利を、日本男児は20年以上、耐え忍んでいる。すごい。
ところが、ついに、2021年の8月から押さえきれなくなった。ついにこれが上昇に転じました。
市場がついに、日本銀行がコントロールできない状態になっているわけですよね。日本銀行が突然、金利上昇を認めたのではなくて、市場に押し切られているわけです。
これは大変なことで、日本はほぼ40年間に渡って『金利は来年はもっと下がる』ということを前提に、企業も家計も、日本政府も運営されてるわけですよ。40年間だから1世代を超えてるわけですよね。一人の人間が仕事をやって引退するまでの期間をはるかに超えてやっているから、働いている人は誰も知らない、金利が上がる局面を」
岩上安身は、これを受けて、今の働き盛りの世代は、ずっとデフレの中で働いてきているから、インフレをまったくわからない、アベノミクスを含め、30年で組んだいろんな計画がこれから大きく狂い、負の遺産になってしまうのではないかと、述べた。
田代氏「アベノミクスと言われるものは、2013年に始まったので、ここでまた一段と金利が下がっています。裏返しで言うと、金利が下がっているということは、国債の価格は上昇しているわけです。いや、こんなに財政状態が悪い国の国債価格が上昇するんだろうかと」
岩上「おかしいですね」
田代氏「それは要するに、無理やり日本銀行が無制限に国債を購入していくっていうことをやってるからですよね。これは何もドキュメントはないけれど、合理的に考えて、黒田総裁がやったことっていうのは、実質的には日本国債の暴落を止めたんですよ。本来、その暴落を止めてる間に、財政を再建して。だから、かつては、プライマリーバランスを黒字化するということが明確な政治目標になってましたよね。いつの間にかそれも消えてしまった」
岩上「自民党が、それを言ってました」
田代氏「自民党でさえ言ってたのが、言わなくなってしまった。達成できる見込みがなくなったから。そういうことを受けて、マーケットは、『それじゃあ』と、国債を買わないで、売っているわけですね。そうすれば国債価格は下落しますから、自動的に国債金利が上昇していくというのがここに出てるわけです」
田代氏は、もはや「国債市場で本当の買い手が、日本銀行だけという状況になってきた」、法律上普通の銀行が国債を買ってそれを日銀が買うのだが、「普通の銀行がもう国債を買わないという事態が発生してしまった」、そのため国債の「取引不成立」が頻発していると指摘した。
田代氏「財務省も考えに考えて、『この価格でどうですか』と、モニタリングというか、意見を聴取して値段つけているんだけど、結局、オークションの日になると手が上がらない。午前中、手が上がらないから、金利をすこし上げる。つまり、国債の売り出し価格を下げるわけですね。『これはどうですか』と多くの場合はそれで買ってくれるけど、それでも買わない事態が発生するんですね。で、それがもう今頻発してると。実は植田和男先生が、日本銀行次期総裁に政府が指名するという報道が出た日、金曜日、あの日も10年国債、12年国債の取引は成立していないのです。あれを見たら、それはちょっともう、日本銀行プロパーの方も財務省プロパーの方も、『俺が総裁になる』という方はいらっしゃらないですよね、怖くて」
岩上安身は、雨宮副総裁など、次期総裁に名前の上がった人もいたが、辞退したようですね、「実際は内部で誰もなり手がなかったんじゃないか、という報道もあります」と述べた。
田代氏「『火を噴いている船の船長になってください』と言われてるんですよね」
岩上「その火を噴いている船に、我々は乗っているわけですからね。たまらないですよね」
田代氏は、植田和男先生が日本銀行総裁になるということは画期的だが、特に画期的なのは、「おそらく戦前戦後を通じて日本銀行総裁に博士号をもった人が就任するのは初めて」だと指摘した。
田代氏は、世界標準では、中央銀行総裁というような極めて高度な仕事に就任するためには、その分野の博士号を持った人間が当たるというのは当たり前だが、日本では学部卒の人が順繰りに日本銀行総裁になっているから、世界から見れば「ワーカー」という認識しかなく、「相手にされていない」と述べた。
田代氏は、植田和男氏が次期日銀総裁に指名された日、『ニューヨーク・タイムズ』は、まったく一行も記事を出さず、代わりにイエール大学助教授とされる日本人男性(成田悠輔氏)が「高齢者に集団自死を求める」発言をしたことをすっぱ抜いた、と指摘した。
『ニューヨーク・タイムズ』は「彼(成田氏)は米国の学界でほとんど知られていない」と報じているが、日本ではここ数年、SNSなどで論客として持て囃されている「時代の寵児」といっても良い存在である。
『ニューヨーク・タイムズ』は、成田氏のツイッターの自己紹介「言ってはいけないと言われていることは、通常は真実です」を引用し、「彼は、社会的タブーを喜んで破ることに熱心な聴衆を見つけた、数少ない日本の挑発者のひとりである」と締め括っている。
•A Yale Professor Suggested Mass Suicide for Old People in Japan. What Did He Mean?(イエール大学教授が日本の老人に集団自殺を勧めた。彼は何を言いたかったのだろうか?)(The New York Times、2023年2月12日)
岩上安身は、成田氏の発言について、「ルフィ」を名乗る指示役が支配する強盗殺人グループと本質的には同じだと述べた。
岩上は、「ルフィ」らがその手段をエスカレートさせ、高齢者を標的にしたオレオレ詐欺から、ターゲットとした高齢者の家へ直接押し入り、強盗、殺人まで犯すようになった背景には、「我々若者は金がなくて苦しい思いをしている、老人達が金を持ってるから日本は良くないんだ。だから虐殺してその金を奪おう」という考えがあり、成田氏の思想は、「ルフィ」らと同じだと指摘した。
インタビューは休憩を挟んで続き、田代氏にアベノミクスと黒田日銀の政策が招いた現状、植田氏のキャリアと人脈について詳細に説明していただいた。
日本経済は「火を噴いている船」ともいうべき状況にありますが、さらに防衛費の倍増を急ぐ日本政府は進めようとしている。しかし、米国に隷属し、このまま米中対立に加担していくことになれば、まさに日本は「ウクライナ」化し、戦場となる。
シーモア・ハーシュ氏が「独露をつなぐ天然ガスパイプライン・ノルドストリームの破壊を計画したのは米国・バイデン政権で、ノルウェー海軍が協力した」というスクープは、それ自体が衝撃である。
それだけではない。米国・バイデン政権が爆破したノルドストリームは、米国の「同盟国」であるはずのドイツ経済を支える大きな力であった。ハーシュ氏のスクープが事実であれば、米国は自国の覇権、そして目先の中間選挙・大統領選挙のためには、同盟国をすら裏切るのも平気だということになる。
田代氏は、ハーシュ氏のスクープに米国がきちんとした反論をできないとすれば、「ドイツにとっては一番痛いところを突かれた」ことになる、同盟国にこのような破壊工作をするとなれば、「NATO加盟国にとっての最大の敵は米国ということになりますね」と述べた。
日本は米国に要請されるがままに、国内経済をさらに痛める増税をして防衛費を倍増し、自滅の道を進むのであろうか。米国がドイツに対して行ったのと同じように、マラッカ海峡やホルムズ海峡を封鎖し、同盟国である日本を締め上げたらどうなるのだろうか。
●元モルガン銀行東京支店長「増税しなければハイパーインフレの可能性」… 2/23
バラマキを散々やってきた日本で増税は不可避
――1月にBSテレ東の番組にて、自民党の甘利明前幹事長が消費増税の可能性について言及し、話題になりました。消費増税は避けられないのでしょうか?
(藤巻氏) 増税しないと財源を確保できませんよね。防衛費を増やすという話も出ていますが、このまま増税せずに財政赤字を続けていると、マーケットから売りを浴びせられてしまう可能性もあります。どうしようもない状況でやむを得ず、消費増税についても考えざるを得ないのだと思います。
――国債発行が難しくなっている状況なのでしょうか?
(藤巻氏) そうだと思います。日銀が国債を引き受けてくれなくなったら、国債を発行できなくなります。そのため、増税して財源を確保するしか選択肢がない状況なのでしょう。
現状、日銀は毎年、年間発行額の大部分の国債を買っています。一時は80%〜90%近くまで買っていました。今は60%くらいになりましたが、日銀が「国債を買いません」となったら、長期金利が暴騰してしまいます。そのため、日銀から「もう買えない」との話があり、増税の議論が今になって出てきたのだと私は考えています。
増税しなければ、ハイパーインフレ
日本は今まで散々お金を刷ってばらまいてきたのだから、増税するしかありません。増税せずにこれ以上ばらまきを続けるのであれば、踏み倒し、もしくはハイパーインフレになるしかないでしょうね。
だから「増税反対」と言っている人は、バラマキ、金融緩和を始めた最初の段階、あるいはその前の段階で反対しなくてはいけなかったのです。まさに「アリとキリギリス」の話で、キリギリスが良い時だけは何にも言わないで、辛くなったから文句を言っている、今の日本はそういう状態ですよ。

 

●日本の喫緊の課題「少子化対策」東京都&政府が予算増額…Z世代は? 2/24
東京都が少子化対策に約1兆6,000億円を計上
都議会での所信表明で小池知事は少子化対策について「少子化はまぎれもなく国の存亡に関わる国家的課題です。だからこそ、日本の首都である東京がリーダーシップを取り、発想の転換に導いていかなければならない」と発言。新年度の一般会計の予算案8兆410億円のうち、重点政策に挙げる少子化対策に、約1兆6,000億円を計上しました。
都は、これまで18歳までの子どもに、月5,000円の給付、そして第二子の0〜2歳までの保育料の無償化などの少子化対策を打ち出しています。
都の少子化対策を、Z世代はどう見る?
多くの予算を少子化対策に投じる都の姿勢に対し、株式会社ゲムトレ代表の小幡和輝さんは「アピール的な部分もあるかなと思いつつ、一番やらないといけないお金の使い方だと思う」と評します。さらに、「(小池知事は)こういうことにリーダーシップを発揮するのが上手い人だと思うので、東京がリーダーになり、それが全国に普及していけば」と期待を寄せます。
食文化研究家で株式会社食の会 代表取締役の長内あや愛さんは、都は今回過去最大の予算を費やしていることについて触れ、「前例を作ってほしい」と熱望。「東京都で新たな対策ができれば、それが全国で応用できるかもしれないし、東京都でやるからこそ国が動くかもしれない。『(給付の)5,000円が安い』などと賛否あるが、これは取り組んでいかないといけないことなので、ぜひ前例を作ってほしい」と訴えます。
先日、キャスターの堀潤はある小学校に赴いた際、動画を用いた授業をするため、インターネットの回線状況を予め確認したところ、全面的に高速Wi-Fiが整備されていて、当日は先生や子どもたちとのコミュニケーションがとても円滑に進んだと言い、「やはり必要なものを必要なところに投資することはすごく重要だと思った」と感心。
教育分野を生業としている小幡さんからみると、東京は先進的と感じるそうで「僕は地方のほうが気になっているところではある」と案じます。
一方、番組Twitterには「東京がリーダー? 明石市がずっと先を行っています!」とのツイートが。これには堀も頷きつつ「明石市は市長が変わるので、その後、政策の継続性がどうなるのかは気になるところ」と話します。
政府は子どもの意見を政策に取り入れるべくヒアリングを検討
政府の少子化対策を見てみると、これまで家族関係社会支出を倍増するとしていた岸田首相ですが、子ども関連予算について2月15日に2020年のGDP比2%、約10 兆円だったものを倍増し、約20兆円にすると明言。また、小倉こども政策担当大臣は、子どもの意見を政策に反映するべく、小学生から20代の1万人規模の子ども・若者からヒアリングを行い、「声のあげにくい」子どもの意見を反映していくとしています。
小倉こども政策担当大臣の案に、小幡さんは「(ヒアリングが)“子どもに直接できれば”すごくいいと思う」と条件付きで賛同。というのも、学校や親を介してしまうと大人の意見が入ってしまうことがあるとし、「子どもに直接聞いてほしい。例えば、YouTubeなど子どもたちが見ている媒体など、子どもが声を上げられるようなところで聞いてほしい」と意見を述べます。
渋谷肥料メンバーの清水虹希さんは「政治の場と子どもたちの生活の場は接点がないので、当事者の声をしっかりと拾い上げていくのはすごく有効」とその取り組みを支持し「子どもにしっかりと向き合い、政策に反映していくことを期待している」とも。
また、堀から清水さんならどんな声を上げるかと聞かれると「今の教育の悩みなどは、当事者しか見えてこないところだと思うので、そうした課題感をぶつけたい」と答えます。
さらに、昨今は留学機会が減少し、体験格差の問題も叫ばれているなか、そうしたことについての思いを問われ、「(体験機会は減っているものの)その分、オンラインでの接点が増えている。実際、私もオンラインで海外にいる人に直接インタビューできたので、そうした現状に合わせた選択肢もまだまだあると思う」と実感を語る清水さん。
そんな清水さんの姿勢に長内さんは「学校のデジタル化、学びの機会のデジタル化はもっとできるんだろうなと思った。海外に行ったからわかることもあるが、行かなくても学べるし、話も聞ける」と感心。加えて、「自分から行動できない、行動する意志を持たずに育っている子どもたちもいる。そういう子が学校でアンケートを取ったからといって、絶対に自分の意見は書けない」と留意し「どうやってヒアリングしていくかは注目してみていかないといけないし、そこまで大人が踏み込んでもらわないといけない」と指摘していました。
●中国の核戦力能力向上で何が起きる? 核軍拡競争・偶発的エスカレーション 2/24
米空軍高官が2025年の台湾有事の可能性を指摘したメモが流出するなど、米中対立は日々深刻化している。
日本においても2023〜27年度の防衛予算の目安を43兆円とすることが昨年12月に閣議決定( 国家安全保障会議「防衛力整備計画」記載)され、対中抑止力の強化が急がれている。
台湾有事の可能性が叫ばれる中で、見落としてはならない1つの大きなポイントが、中国の核戦力の強化だ。
昨年11月に米国防総省が発表した中国の軍事能力についての報告書「2022 Report on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China」では、人民解放軍が2030年までに1,000発、2035年までに約1,500発の核弾頭を配備することが予測されている。
国防総省は2021年時点の人民解放軍による核弾頭配備数を約400発と分析していることから、約10年で倍以上に膨らむと見込んでいる。
一方、核大国である米国・ロシアの2022年時点の戦略核弾頭の配備数は1,644発・1,588発と分析されている。このことから、2035年に中国は米ロと同水準の核戦力を有するようになると考えられる。
これまで、米ロは2011年に発効した新戦略兵器削減条約(New Strategic Arms Reduction Treaty:New START)を通じて戦略核弾頭の配備数などを相互に制限してきた。
同条約は2021年2月に失効予定であったが、バイデン大統領とプーチン大統領の電話会談の結果、2026年2月まで延長されることが大筋合意された。一方、昨年11〜12月に予定されていた米ロ二国間協議はロシア側から延期が通告 された。
また、今年2月21日には同条約の履行を停止するとの通告がロシア側から行われた。 プーチン大統領は履行停止の撤回はありうるとしているものの、2つの核大国の今後の方向性は不透明である。
中国の核戦力強化が引き起こすもの
核戦略を構築する理論の1つとして相互確証破壊(Mutual Assured Destruction:MAD)があげられる。
MADは、いわゆる「恐怖の均衡」を裏付ける考え方であり、核兵器を保有する国家のどちらかが先制核攻撃を行う場合、相手国の残存核戦力により確実に報復を受けることで、核使用を相互に抑止するものである。
その意味では、相手国よりも多くの核弾頭を保有・配備することは恐怖の均衡を崩すこととなり、相手国も均衡を得るための核弾頭の配備数を増加させることとなる。
実際、冷戦時代には米ソがお互いの核戦力の均衡を得るために核軍拡競争につながった歴史がある。
以上をふまえると、米ロは中国が同程度あるいはより多くの戦略核弾頭を配備することに懸念を示す可能性が強い。
また、中国の戦略核弾頭の配備数が米ロより優位となる場合、均衡を得るために米ロが同様に配備数を増加させ、米中ロの間で核軍拡競争が進む危険性がありうる。
同様に、中国の戦略核弾頭の配備数が米ロと同程度になる場合においても、均衡した核戦力を背景により通常戦力の活用をより積極的に行う可能性がある。
いずれの場合においても、均衡した核戦力を盾に中国は台湾有事などにおける対米抑止力を向上させるとみられる。その場合に危惧されるのは、通常戦力による衝突可能性の増大や偶発的な核エスカレーションの発生だ。
核保有国に挟まれた日本が取るべき対応は...
仮に中国の核戦力が米ロと均衡し、同国が通常戦力の積極的な活用を行う場合、わが国はさらに厳しい安全保障環境にさらされることになる。
こうした状況に対応するためには、外交・防衛・産業基盤を含む全方位からの対応が必要となる。
まず、米国との同盟関係をさらに深化させるとともに、アジア諸国との連携の強化が求められる。
具体的には韓国・フィリピン・オーストラリア・インドなどの国との安保協力を促進することが必要である。これにより、わが国一国だけでなく総体としての対中抑止力を向上させることができる。
大統領制かつ二大政党制の韓国は政権交代に伴う大幅な政策変更のリスクもありうるが、米国と連携しながら同国との安保協力を促進することは中長期的に対中抑止力向上に貢献すると考えられる。
次に、昨年12月に閣議決定された安全保障関連3文書にも含めれているとおり、反撃能力を含めた通常戦力や継戦能力、サイバー分野などの新領域の能力強化が求められる。
防衛産業・技術基盤の育成が急務
とりわけ、こうした能力の要となる防衛産業・技術基盤の育成・促進が重要である。防衛産業・技術基盤は、継戦能力に不可欠なサプライチェーンの安定性に必須なだけでなく、先端技術開発を通じてわが国の優位性を高めるためである。
そのため、防衛装備品とともに、軍民両者に活用可能なデュアルユース品への研究開発投資もさらに推進する必要がある。そうすることで、民生品を防衛装備に取り入れ、逆に防衛用の技術を民生品に活用するという正のスパイラルを生み出すことができる。
こうした点では、防衛装備庁が2024年に設置を検討している、いわゆる日本版DARPAとされる研究機関が推進役となると考えられる。
また、装備品の海外輸出を一層進めることも産業育成やパートナー国との連携深化のために効果的である。
こうした点に加え、米国の核の傘による拡大抑止が機能していることをしっかりと中国などに示していくことも重要である。
以上の要素を促進することで、総合的な抑止力の向上につながり、中国が一歩踏み出すことへの歯止めを強めることができると言える。
一方、抑止力の強化は相手国にも同様の行動を促進させ、結果的に緊張が高まるという安全保障のジレンマを引き起こす可能性もある。
それでは、地域の安定を確保するためには、抑止力強化以外にどのようなツールがありうるのだろうか。その1つが軍備管理である。
●水素燃料電池自動車の市場規模は2028年に54億米ドルに達すると予想 2/24
水素燃料電池電車の世界市場は、2021年に約6億8682万米ドルと評価され、予測期間2022-2028年には28.1%以上の健全な成長率で成長すると予測されています。
市場の概要
水素燃料電池電車とは、水素を動力源として推進力と補機に使用する電車を指す。水素燃料電池は、副生成物が熱と水であるため、環境負荷の少ないクリーンなエネルギー源である。また、バイオ燃料や水力発電とは異なり、水素の製造に広大な土地を必要としない。鉄道インフラの整備に向けた投資の増加や環境悪化への懸念の高まり、また、大手市場関係者による最近の戦略的な取り組みが、世界市場の需要を加速させている要因となっています。例えば、2022年1月、カナディアン・パシフィック鉄道と水素燃料電池メーカーのバラード・パワー・システムズは、CPの水素機関車プログラムの拡大に向けて提携し、当初の発注に200kWの燃料電池モジュール8台を追加した。カナディアン・パシフィック社は、Emissions Reduction Alberta (ERA)から1,500万米ドルの資金提供を受けた。さらに、2022年2月、インドは国家予算において、鉄道車両開発を目的とした鉄道への327億米ドルの設備投資を発表した。さらに、主要な市場プレーヤーは、実質的な市場シェアを獲得するために、戦略的パートナーシップに向けて取り組んでいる。例えば、2022年4月、アルストムとENGIEは、欧州の鉄道貨物で使用する再生可能な水素を用いた燃料電池システムを供給するパートナーシップ契約を締結した。また、水素燃料電池技術における研究開発活動の増加と、物流・運輸部門の台頭は、予測期間中の市場需要の触媒として作用すると予想されます。しかし、水素燃料電池トレイン開発の高い資本集約的な性質が、2022-2028年の予測期間における市場の成長を阻害しています。
地域別のカバー率。
水素燃料電池電車の世界市場調査において考慮した主要地域は、アジア太平洋地域、北米、欧州、中南米、その他の地域です。北米は、成長する鉄道インフラと大手企業の存在により、市場シェアの面で世界の主要地域となっています。一方、アジア太平洋地域は、予測期間2022-2028年にかけて著しい成長率を示すと予想されています。鉄道の盛んな成長や持続可能な鉄道インフラへの投資活動の増加などの要因が、アジア太平洋地域における世界の水素燃料電池列車市場に有利な成長見通しを生み出すと考えられます。
競争力のある分析。
本レポートに含まれる主な市場関係者は以下の通りです。
アルストム / バラード・パワー・システムズ / BNSF / CAFグループ / CRRCコーポレーションリミテッド / エンギーサ / 日立製作所 / 株式会社日立製作所 / 株式会社IHI / 川崎重工業株式会社
研究目的
本調査の目的は、近年における様々なセグメント&国の市場規模を定義し、今後8年間の値を予測することである。本レポートは、調査対象となる地域や国ごとに、業界の質的・量的な側面を取り入れるよう設計されています。さらに、市場の将来的な成長を規定する駆動因子や課題などの重要な側面に関する詳細な情報も提供しています。さらに、主要企業の競争環境と製品提供の詳細な分析とともに、利害関係者が投資するためのミクロ市場での利用可能な機会も盛り込むものとします。
レポートの範囲
アプリケーション別:(旅客列車、貨物列車) / 技術別:(固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池) / コンポーネント別:(水素燃料電池パック、バッテリー、電動モーター) / 鉄道タイプ別:(旅客鉄道、通勤鉄道、ライトレール、路面電車、貨物列車)
地域別
北米(アメリカ、カナダ、メキシコ) / 欧州(英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポーランド、ロシア、オランダ、ベルギー、トルコ、北欧諸国、その他の欧州諸国) / アジア太平洋地域(中国、インド、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国、その他アジア太平洋地域) / 中東・アフリカ(UAE、サウジアラビア、南アフリカ、イスラエル、クウェート、カタール、オマーン、MEA諸国、その他の地域) / 南米(アルゼンチン、ブラジル、南米のその他地域)
●アベノミクスで激増した利益剰余金215兆円増の現実 2/24
設備投資9.9兆円増、賃金4.1兆円増を圧倒!
「脱デフレ」を掲げたアベノミクスはそれまでの超円高を是正し、輸出を増やし、企業収益を好転させました。しかし、GDP、設備投資、賃金を圧倒し、突出して増えてきたのが利益剰余金でした。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』で解説します。
円安を追い風に国内設備投資を拡大
円安を日本再生の好機に変える
円安で狼狽え、「日銀は金利を引き上げよ、量的緩和をやめよ」と言うのもおかしな話です。
まず、消費者物価が2パーセント以上上がっているからといって、デフレから脱したわけではありません。米欧のインフレ率が8パーセント以上なのに、日本だけが2パーセント台というのは、エネルギーや穀物価格の上昇分を企業が販売価格に転嫁できない、即ち、需要が萎縮していることの証拠です。実質的にはデフレ圧力が大きいことを意味します。
また、消費者物価上昇に対する円安の影響度は2割程度だとされています。
繰り返します。円安は輸入コストを余計に押し上げ、家計や中小零細企業を苦しめます。そこでメディアには「悪い円安」論が横行し、鈴木俊一財務相までもが同調する始末です。
経済評論家の一部も日銀はただちに超金融緩和政策を打ち切り、金利を引き上げろと言い出していますが、需要拡大のためにインフレが昂進する米欧と日本を混同しています。需要が不足する慢性デフレの日本は、利上げすれば経済の収縮が一層進みます。それを無視した暴論です。
必要なのは、円安を日本経済再生の好機に変える政策です。
現下の急激な円安は投機の産物です。FRBの追加利上げが連続し、国際金融市場では投資ファンドが日米金利差拡大を見込んで円を売り浴びせます。だからといって、日銀がマイナス金利と量的緩和を慌てて打ち切ったとしても、投機勢力に付け込まれ、翻弄されるだけでしょう。
日銀の異次元金融緩和は0パーセント以下の短期金利(政策金利)と、市場で出回る国債の大量買い上げ、つまり量的緩和による長期金利0パーセントの二本柱で構成されています。
景気の停滞が深刻である以上、日銀は利上げできません。高インフレ率の米国はさらなる大幅利上げが確実なので、日米金利差拡大は防げません。
量的緩和の打ち切りとは、国債の買い上げを大幅に縮小して国債金利の上昇を放置することですが、そのときは政府が新規に発行する国債の金利が上がり、財政面での金利負担を大幅に増やします。財務省の試算では18パーセントの金利上昇で3.7兆円の負担増となります。だからこそ緊縮財政が財務省の路線となるのですが、そうなると国内需要の萎縮は加速し、国民全般の貧困化がさらに進みます。
さらに投機勢力の日本売りは国債にとどまらず株式にも広がる一方、中国資本は安い日本の企業や国土をますます買い上げ、我が物にするでしょう。
したがって、異次元緩和政策を堅持するしかありませんが、より重要なのは財政政策のほうです。円安を日本再生手段として活かすうえで、財政がカギを握るからです。
円安は日本企業の輸出競争力を高め、国内での設備投資を後押しします。同時に日本企業が海外で稼ぐ所得をかさ上げします。資本主義経済の活力の源泉は国内での設備投資です。それは雇用を増やし、人材を育て、技術革新を促すからです。
2012年末に始まったアベノミクスは超円高を是正し、企業の設備投資を増勢に転じさせましたが、力強さと持続性に欠けました。消費税増税と歳出削減による緊縮財政のために、デフレから脱出できず、内需が抑えられたためです。
企業は円安になると海外収益を大きく増やします。ところが、これまではデフレのために萎縮する国内市場では投資収益が上がらないと見て、海外収益の大半を現地での再投資に回してきたのです。
政府は緊縮財政をやめ、成長分野への財政資金投入をすすめて内需を押し上げ、円安を追い風にして国内設備投資を拡大させるべきです。
他方で、円安を享受できるのは主に輸出企業であり、内需依存の中小零細企業やサービス業は輸入原材料コスト負担増というマイナスが大きいとの反論があります。
しかし、日本の経済構造は輸出主導型に変じています。GDP(国内総生産)に占める輸出の比率は2021年には18.4パーセントで、2001年の10パーセントから大きく増えました。
岩田規久男前日銀副総裁によれば、円安のためにコスト高になっても、日本経済全体としてはそのマイナス効果を相殺してなおプラス効果が生まれるという計算が成り立つと言います。
内需型業種自体、輸出増による波及効果を享受できます。そこに財政支出の拡大が加われば、産業界全体で設備投資が活気づくでしょう。
突出して増えてきたのは利益剰余金
急激な円安も投機の産物
日米金利差拡大が円売り・ドル買いの投機を招きます。グラフ3―4は、ロシア軍のウクライナ侵攻開始後、間もなく米国の利上げが始まり、それとともに急激な円安が始まったことを示しています。
金利とはその国の通貨の価格を示します。ゼロコストの円資金を市場で調達し、それを売ってドル資産を買えばだれだって儲かります。それを巨額規模で繰り返すのがヘッジファンドによる「キャリートレード」と呼ばれる投機手法です。
では、どこのだれが投機売買用の円資金を提供するのでしょうか。答えは邦銀、つまり日本の銀行です。
前に説明したように、日本の大手の金融機関には異次元緩和の日銀から巨額の円資金が振り込まれます。その主な運用先のひとつが東京オフショア市場です。
グラフ3―5は、東京オフショア市場での邦銀の外国の金融機関向けの貸付残高と円ドル相場の推移です。
オフショアとは「沖合い」という意味ですが、銀行の帳簿上だけ国外市場での取引という扱いにして、手元の円資金を超低金利で外国銀行などに貸し付けます。投機ファンドはその資金を調達し、円ドル取引を行うのです。
外国為替市場はグローバルなのでオフショアに流れでた円資金はドルに替えられて安くなり、逆にドルが売られて円が買われて円高になるのです。グラフはこの貸付残高が膨らめば円安となり、縮小すれば円高となる様子を浮き彫りにしています。
円資金が膨張してもGDPが増えないわけ
1日当たりの外国為替取引規模は日本の年間GDPをはるかに上回ります。日銀がその巨大な流れを変えるためには、米国並みの高金利にするしかありませんが、日本経済の衰弱は一層激しくなり、むしろ円売り投機の口実にされるでしょう。
また、日銀が国債購入をやめると、住宅ローン金利をふくむ長期金利の急騰を招いてしまいます。国民は収入をさらに減らし、マイホームもあきらめ、野心に満ちた経営者でも設備投資どころではなくなります。
「悪い円安だ、利上げせよ。量的緩和をやめよ」と騒ぐテレビの解説者や人気ブロガー、全国紙の論説委員たちはせめて企業の財務状況を調べてみてほしい。
先述しましたが、企業財務で唯一V字型回復を果たしている項目があります。企業が税や配当などを払って残った利益の一部を貯め込んだ利益剰余金(内部留保)です。
市場経済とは貨幣経済であり、カネが蓄積されるだけで動かないと、生産も所得も増えません。財務省が実施する法人企業統計中の金融・保険業を除く全業種をチェックしてみましょう。
利益剰余金、従業員への給与、賞与および福利厚生費の年間合計額と名目GDPの推移を追うと、ほぼ一貫して、ほかの項目を圧倒する形で利益剰余金だけが躍動しています。
慢性デフレが始まった1997年度と2021年度を比較すると、利益剰余金は142兆円から499兆円へと357兆円も増えたのに、GDPは542.5兆円から541.8兆円と微減です。
2012年12月からアベノミクスが始まり、GDPは増加に転じましたが、2021年度は2012年度に比べて42兆円増にとどまりました。従業員給与等は4.1兆円増、設備投資は9.9兆円増です。これらは2020年度の新型コロナ不況の影響はあるとしても、利益剰余金は215兆円も増えています。「脱デフレ」を掲げたアベノミクスはそれまでの超円高を是正し、輸出を増やし、企業収益を好転させたのです。
しかし、GDP、設備投資、賃金を圧し、突出して増えてきたのが利益剰余金です(グラフ3―6参照)。
設備投資をする中小企業と半導体産業
GDPの大半は家計消費、設備投資、住宅投資、公共投資など固定資産投資と輸出によって構成されます。企業がいくら収益を稼いでも、賃上げをせず、設備投資もケチるようでは、GDPは増えません。
内部留保である利益剰余金の膨張は経済成長低迷とセットになっています。この傾向は、1997年度の橋本龍太郎政権による消費税増税と厳しい緊縮財政が引き起こした慢性デフレがきっかけでしょうが、日本経済にぴったり固定させた枠組みで株主資本主義と呼ばれます。
市場原理主義の米国型への構造転換をめざした小泉純一郎政権時代、2002年施行の改正商法、2006年施行の会社法は「会社は株主のもの」という株主資本主義への転換を産業界に促しました。
「株主資本」と言えば、資本金を思い浮かべるでしょうが、その大半は利益剰余金が占めます。2022年3月末では資本金の5.7倍に達し、10年前の2.8倍から大きく膨張しました。凡庸な経営者は、株主総会で、成長分野を伸ばすための企業買収の準備金をこれだけ増やしたと胸を張るでしょう。
それは個々の企業にとってみれば最善の選択かもしれませんが、国内がカネを貯め込む企業だらけになってしまうと、国家全体の経済が成り立たなくなります。カネが余ることで株式など金融資産市場がにぎやかになりますが、前述したように実体経済に回らないかぎり、私たち全体の所得は増えません。
カネが国内での設備投資や技術開発に回らないから日本の成長力が失われる。賃金が増えないとGDPの6割を占める家計消費が停滞し、内需不振に陥るのです。
さりとて企業の利益剰余金を一概に否定するわけにはいきません。剰余金が翌年度以降に国内での設備投資に振り向けられるなら大いに結構だし、それにより企業が母国経済の発展と国民の豊かさに貢献すると評価されてしかるべきでしょう。
しかし、多くの大企業は剰余金を海外での生産や企業買収など対外投資に回してきました。加えて政府は二度にわたる消費税の大型増税をふくめ、吸い上げた税金の一部しか民間に返さない緊縮財政を続けたのです。
GDPは消費税増税による消費の低迷のために2018年度から失速した挙げ句、コロナ禍で深く沈みました。2021年度はGDPが前年度を6.3兆円上回りましたが、大きくリバウンドしたのは例によって利益剰余金であり、23.3兆円も増えたのです。
円安をどう活かすか。カギとなるのは賃上げと設備投資です。2022年央の経済同友会の調査では、経営者の7割以上が円安の悪影響を心配しています。そのくせ、多くの経営者が持続的な経済成長に欠かせないとして、環境(E:Environment)、社会(S:Social)、ガバナンス(G:Governance)の頭文字を合わせた「ESG」経営を説くのですが、その前に大幅賃上げに踏み切る気もちがあるのかと、問いただしたくなります。
設備投資のほうはその点、円安が追い風になります。岩手県北上市では旧東芝メモリのキオクシアが1兆円の資金を投じて、世界屈指の半導体拠点を築こうとしています。キオクシアと同じく、かつての超円高のために、韓国や台湾勢に圧倒されて、外資受け入れによる再生の道をとらざるを得なくなったエルピーダメモリ、ルネサスも国内向け超大型投資に動いています。
法人企業統計では2021年度の設備投資が前年度に比べて1.5兆円増えましたが、その大半は中堅中小企業です。
グラフ3―7は、資本金10億円以上と10億円未満に分けて、各四半期までの設備投資の年間合計の前年比増減額と円・ドル相場の推移を追っています。
2022年3月までの1年間については資本金10億円以上が前年比で5700億円減ですが、10億円未満は2兆1200億円増です。このうち円資本金1億円未満の企業だけとってみると、1.3兆円増です。
さらに2014年以来の期間に広げると、10億円以上は円安時でも設備投資を抑制し、2020年度以降は大幅に減らしつづけているのです。対照的に10億円未満は円安とともに設備投資を増やしています(資本金10億円以上の大企業は5700億円も減っています)。
日本を担うのは雇用の7割を引き受け、円安をチャンスと考える中小企業、さらに、息を吹き返しつつある半導体など先端技術産業なのです。
●火中の栗を拾う。他人の利益のために… 2/24
火中の栗を拾う。他人の利益のために危険をおかす行為を表すことわざは、17世紀フランスの寓話(ぐうわ)に由来する。猿にそそのかされた猫が、大やけどしながら火の中から拾った栗を横取りされるストーリーだ。「他人に利用されるな」という戒めとされる日本では、ややニュアンスが異なる。自分の利益にならない行為である点は同じだが、「誰もやりたがらない難事にあえて挑む」といった敬意も含まれる、約10年に及ぶ異次元の金融緩和の幕引き役となる次期日銀総裁ポストもそう捉えられているのだろうか。経済学者の植田和男氏の起用は想定外だったにもかかわらず、市場の受けは悪くない1998年から7年間、日銀審議委員として金融政策決定に関わった実務経験も評価され、総裁としての手腕が期待されている。ただし、先行きは険しそうだ、国債市場の機能不全、不安定な為替相場、財政規律の緩みなど、長過ぎた異次元緩和の矛盾があちこちで噴出する中での就任となる。家計を苦しめるエネルギーや食品価格の高騰に対応するには、緩和の修正が必須だ。半面、やり方を誤れば、長期金利の急騰や円相場の乱高下を招き、景気や財政に打撃を及ぼすアベノミクスの一翼を担った黒田東彦総裁体制の下、近づき過ぎた政治との距離を見直す必要もある。難局を乗り切るカギは学者ならではの論理に基づいた対話力だろう。国会同意に向けた衆院での所信聴取がきょう行われる。「火中の総裁」としての力量が早速試される。
●1月消費者物価、4.2%上昇 41年4カ月ぶり伸び―総務省 2/24
総務省が24日発表した1月の全国消費者物価指数(2020年=100)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.3と、前年同月比4.2%上昇した。1981年9月(4.2%)に並ぶ41年4カ月ぶりの高い伸びとなった。上昇は17カ月連続となる。
食料品とエネルギーの値上がりが物価全体を押し上げる構図が続いた。具体的には生鮮食品を除く食料が7.4%上昇した。食料の調査対象品目の9割が高くなった。電気代は20.2%、都市ガス代は35.2%上昇した。
観光需要喚起策「全国旅行支援」の割引率が1月から縮小された影響で、宿泊料の値下がり幅が小さくなったことも物価の押し上げ要因になった。
●「次の日銀総裁は大変な目に遭う」 惨事は早い方がいい 2/24
政府は日銀の次期総裁に東京大学名誉教授の植田和男氏を充てる人事案を国会に提示した。どのような手を打ってくるだろうか。世界3大投資家と呼ばれるジム・ロジャーズ氏は「政策金利を引き上げると私は見ている。わずかな引き締めでは不十分で、アメリカのFRBのように何度も利上げをしなければならなくなる可能性も高い」という――。
日銀の大失策
最近の為替の動きを見ていると、恐ろしいほどの速さで日本経済が崩れ落ちているようで、「一体、円安はいつ落ち着くのだろう」と不安に感じる人は多いだろう。
このような状況下においてはたいていの場合、中央銀行が策を講じないかぎり、経済が低迷し続ける。
急速な円安の進行によって、日銀の黒田東彦総裁の金融政策に対する批判が強まっている。彼の政策により、少しの間は景気が回復したかもしれない。しかし、長期的な視点に立てば、日本の負債をふくらませ景気の悪化を導いた。今日本は、そのツケを払っているのである。
政治家や経済評論家のなかには、「世界の債務残高は増大しているものの、それに比例して純資産も増大しているので問題ない」と言う人もいる。
では、資産が暴落した時にはどうなるだろうか?  資産価値が下がっても、負債の評価は変わらない。バブル時はとくにそうで、借入を増やすために負債が増える場合もある。歴史を見ると、その可能性は比較的高い。
国民の資産を国の負債返却にあてる非常識
また、「日本には大きな債務残高があるが、国民は巨額の資産を持っているので、国としての債務は少ない」という話もよく耳にする。
国民の資産を国の負債返却にあてるのは正気の沙汰ではない。しかし、現にそれが行われている。国民の資産を税金として集め、国の債務返済にあてているのだ。こうした状況下で、「緊急事態であり、国を守るためだ」と言い訳するのが政府の常套手段だ。
国の長期債務は1000兆円を超え、地方を含めると1200兆円を超えている。国の債務が増えれば、国の問題が増える。そうしたなかで、たとえ地方自治体が独自で稼いだとしても、国が負債を持っていれば本来のスピードで国が成長することはできない。多額の借金を抱えながら速く走るのは難しいことなのである。
日本人は勤勉で有能だから借金がなければ非常に速く走れるだろうが、今は借金に追いかけられ、足を引っ張られている。国が常に借金の心配をしているようでは、プラスの経済成長に転じることは不可能だ。
次の日銀総裁は大変な目に遭う
通貨の流通量を増やせば増やすほど、その価値は下落する。たしかに、一時はバブル景気となり、不動産価格や株価が上昇するかもしれない。しかし、その先には大きなクラッシュが待ち受ける。そして、そのツケは次世代を担う若者たちが払うことになる。
黒田総裁が、残りわずかな在任期間で正しい政策転換を行わないかぎり、日本が抱える問題は先送りされるだけで、次の日銀総裁は大変な目に遭う。
今、大半の相場参加者が「日銀は信頼できない」と感じているだろう。彼らはどんどん円を売り込んでいる。このまま相場参加者たちが不信感を募らせれば、日銀の言葉や行動を信用しなくなるはずだ。いくら日銀が株や債券を操作しても、焼け石に水となる。
こうした状況に対し、日銀の次期総裁はどのような手を打つだろうか。政策金利(中央銀行が金融政策に用いる短期金利。金融機関の預金金利、貸出金利などに対して影響を与える)を引き上げると私は見ている。その場合、円も日本の株式市場も一時的に上昇するかもしれない。日本は最もひどい時期を脱するからだ。しかし、わずかな引き締めでは不十分で、アメリカのFRBのように何度も利上げをしなければならなくなる可能性も高い。
多額の債務を抱える日本にとって、利上げは大きな試練となる。そのため、日本は現状の金融緩和をなかなかやめることができないのだ。実際、アメリカやヨーロッパが利上げに動いているにもかかわらず、黒田総裁はこれまで通りの金融緩和を続けるといっている。
日本の市場が崩壊する時
そして、もし市場参加者が日本の金利市場を支配したら、金利は急上昇し、円は一気に売られるはずだ。
この時、日本の市場は崩壊するが、これで一旦リセットされてゼロからのスタートができるだろう。もし私が日銀総裁になったら、相場を支配しようとすることはやめると思う。
遅かれ早かれ、ツケはできるだけ早く払ったほうが身のためだ。対応が遅れれば遅れるほど、後始末は大変になる。
日本経済はさらに弱体化し、いずれは国際収支と為替相場を安定させるため、政府が法に則って外国為替に直接規制を加える為替管理のほか、あらゆる規制が導入されるだろう。歴史上、スペイン、ポルトガル、イタリア、オランダなどといった、かつての覇権国も同じ道のりを経て力を失っていった。
イタリアはローマ帝国の栄光を早々に失ったし、スペインやポルトガル、オランダも大航海時代には世界に打って出ることで栄華を極めたが、その後に台頭してきたイギリスに追われるかたちで栄光の座を譲った。
金利が上がったとき、日本は大惨事に見舞われる
現在、日本の金利は実質的にはゼロ、あるいはマイナスである。しかし、私はいつか金利が上昇すると考えている。先進国において、金利はそれほど上がることはないという説も存在するが、必ず上がる。金利が上がったとき、債務が多い日本は大惨事に見舞われるだろう。
積み重なった巨額の債務によって、金利負担が大きくなる。国の財政は悪化し、日銀が抱え込んだ国債なども大きな負担となる。これは国家の破綻にもつながりうる危機だ。
また、金利が上昇すると、金融機関は以前より高い金利で資金調達しなければならない。そのような状況下においては、企業や個人も金融機関からの借入に際して高い金利を支払うことが求められる。それゆえに、企業や個人は資金を借りにくくなり、経済活動がさらに停滞することになる。
日本経済は、第二次安倍政権のアベノミクス「第一の矢」である金融緩和により、円の価値を切り下げた(円安へと誘導した)ことで恩恵を受けた、と見なす人もいる。しかし私はそうは思わない。
金融緩和によって株価は上昇し、恩恵を受けた会社もたしかにあった。しかし、日本国民全体の暮らしがよくなったかというと、必ずしもそうではない。
金利上昇と通貨切り下げは、いずれも日本経済に打撃を与える。歴史上、通貨の切り下げによって経済が成長した国は存在しないが、金利上昇に比べれば容易な解決策に見えるためか、通貨切り下げという手法は選ばれることが多い傾向にある。
さらに恐れるべき事態は…
さらに恐れるべき事態は、国債支出と為替相場の安定維持のため、政府が外国為替取引に法に則った直接規制を加え、為替管理を行うことだ。この手段が選ばれた場合、円を他通貨に替えることは困難になるし、中国のように海外への送金限度額が設けられる可能性もある。中国では個人の海外送金に対して「1年間で5万ドルまで」という決まりがある。
このような規制が生まれれば、外国人は日本への投資をより敬遠するだろうし、日本からの資本流出も加速する。結果として、あらゆる業界が打撃を被るだろう。
このように、為替管理は国の経済に大きな打撃を与える選択肢だが、他方では為替管理を行わずして国際収支の均衡を維持することは難しいので、政治家はこの手っ取り早い解決策に飛びつき、「これが最善策だ」と主張することが多い。そして、期待したような結果が出ない場合、為替管理はより一層厳しいものになる。
●首相、電気代抑制策を指示 3月中に取りまとめへ 2/24
岸田文雄首相は24日、官邸で開いた物価高対策を話し合う「物価・賃金・生活総合対策本部」の会合で、電気料金の抑制に向けた検討結果を3月中に取りまとめるよう西村康稔経済産業相に指示した。
大手電力会社が目指す電気料金の値上げについては、あらゆる経営効率化を織り込むよう求め「4月という日程ありきではなく、厳格かつ丁寧な査定による審査」を行うよう指示した。
また、野村哲郎農相に対しては、小麦と飼料の価格高騰対策として、それぞれ激変緩和措置を講じるよう指示した。野村氏は24日の閣議後記者会見で、輸入小麦の激変緩和措置を「3月上旬をめどに決定したい」と述べた。
ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、政府が4月以降に製粉会社に売り渡す輸入小麦は、対策を取らなければ大幅な値上がりが避けられない。政府はこれを抑制し、家計負担に直結するパンや麺類の価格上昇を抑える方針だ。
物価高対策や賃上げの実現を巡り、与野党が今国会で論戦を交わしており、統一地方選を視野に入れた対策拡充を求める声が強まっている。
●“統一選重点政策実現へ 国会論戦から”  現場の声から政治動かす 2/24
物価高
値上がりする電気代に世論の関心が集まる中、「必要ならば、ちゅうちょなく取り組む」との岸田首相の答弁をきっかけに、さらなる負担軽減に向けた追加策の検討が進んでいます。この答弁を引き出したのが公明党です。1月30日の衆院予算委員会で高木陽介政務調査会長は、大手電力7社が家庭向け規制料金の値上げを国に申請したことに触れ、「状況に応じて予備費を投入して国民生活を守るべきだ」と追加の負担軽減策を検討するよう要請しました。この質疑は、31日付読売新聞1面に「電気代 追加支援を検討 首相」との見出しで報じられるなど注目を集めました。
子育て
公明党が重点政策の大きな柱に掲げているのが「子育て支援」です。1月26日の衆院代表質問では、石井啓一幹事長が児童手当の拡充など少子化対策を具体化するよう迫ったのに対し、岸田首相は「公明党の『子育て応援トータルプラン』も参考にする」と明言しました。この首相答弁について、日本大学の末冨芳教授は「意義は大きい。子どもと子育て世帯に対する公明党の温かく丁寧な政治がついに花開く場面にきた」(1月30日付本紙)と期待を寄せています。一方で、0〜2歳児への支援充実に向けた妊娠・出産時の計10万円相当の給付や伴走型相談支援について、岸田首相は「今後も継続して実施していくことが重要であり、安定財源を確保しつつ、着実な実施に努める」と表明。これも山口那津男代表が「恒久的な実施を」と訴え、引き出したものです(1月27日の参院代表質問)。
教育
公明党は日本の未来を担う若者への支援にも全力を注いでいます。2月8日の衆院予算委で鰐淵洋子氏は、給付型奨学金など高等教育無償化の対象拡大について「年収目安を早期に示すべきだ」と力説。奨学金の減額返還制度の見直しでは、返還期間が長引いても利息が増えない仕組みづくりを求めました。岸田首相は「年収目安を早急に明らかにすべく作業を進めている。減額返還制度も利息負担を含めて具体的な枠組みをつくりたい」と意欲を示しました。
子ども医療費
各地で取り組みが広がる子ども医療費助成制度。2月15日の衆院予算委で中野洋昌氏が「高校3年生まで全国一律で無償化を実現すべきだ」と対象拡大を訴えたのに対し、岸田首相も地域間格差に留意し、「子育て政策充実の具体化を進めたい」と応じました。
中小企業
中小企業の賃上げを実現するためには、寄り添った支援が欠かせません。1月30日の衆院予算委で岸田首相から「種々の政策を有効活用してもらえるよう伴走型支援の充実を図る」との答弁を引き出したのは公明党です。高木政調会長が、原材料価格が高騰する中で多くの企業が価格転嫁できていない現状を指摘し、支援強化を訴えていました。
書かない窓口
公明党は行政業務の効率化に向け、自治体の窓口で申請書類を記入せず簡単に手続きができる「書かない窓口」を推進しています。2月3日の衆院予算委で中川康洋氏が全国で推進すべきだと主張したのに対し、河野太郎デジタル相が「全国でメリットを享受できるよう頑張りたい」と答え、全国展開に弾みがつきました。
●国民民主党、23年度予算案反対へ 「賃上げ対策不十分」 2/24
国民民主党は24日の党会合で、衆院で審議中の2023年度予算案の採決に反対すると確認した。玉木雄一郎代表が会合後、記者団に「物価上昇を上回る賃上げに資する内容として不十分だと意見が一致した」と語った。22年度予算には賛成にまわっていた。
政府が電気代などの追加の抑制策を明確に打ち出していないことを反対の理由に挙げた。子ども政策に関する予算倍増を巡っても「予算案の中身や政権与党の幹部(の発言)から感じられなかった」と指摘した。
政府が掲げる防衛費増額に伴う増税方針が23年春季労使交渉に悪影響を与えるとの認識も示した。エネルギー価格の抑制や児童手当などの所得制限撤廃を盛り込んだ組み替え動議を提出すると説明した。
同党は今国会で自民、公明両党と賃上げや子育て・少子化対策に関する協議を開いてきた。玉木氏は「相手のある話だが3党の枠組みはできるだけ維持したい」と述べた。
●小麦の国産転換へ動き続々 ウクライナ侵攻から1年、輸入環境依然厳しく 2/24
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で1年となる。海外産穀物の高値傾向や輸入環境の不安定化が続く中で、実需者からは国産転換を目指す動きが出てきた。国内の製粉やパン業界などは国産小麦の利用を強化し、大手で具体的な目標を掲げる例もある。産地の動きはこれからだが、増産や課題となる品質の向上に向けた支援策を設ける自治体も相次いでいる。
国内有数のパンメーカー・敷島製パン(名古屋市)は、原料小麦の国産割合を現状の14%から、2030年までに20%に高める目標を掲げる。
同社は以前から食料自給率向上への貢献を掲げる。22日には、3月から国産小麦を100%使った「国産小麦」シリーズを全面刷新すると発表。「輸入食料の高騰や供給不安という情勢変化で、国産の価値が見直されつつある」とし、商品パッケージにも食料自給率向上をうたう。生産者の声を掲載する特設サイトも用意した。
国産は、輸入原料に比べ割高になるため、消費者に付加価値を認めてもらえる商品作りに力を入れていく。
商品化には品質の担保も
国産小麦の商品化には量だけではなく、品質も必要になる。大手製パン業者でつくる日本パン工業会も国産小麦の利用拡大を探る。日本パン技術研究所が、国産小麦をパンに使うための科学的根拠に基づく見解をまとめる計画で、工業会はこれを基に国産化を目指す。
佐賀市で製粉事業などを手がける理研農産化工は、取り扱う原料小麦の国産比率を現状の3、4割から、5割に引き上げる方針。21年に稼働した製粉工場では、国産の単一品種100%の製粉をしやすくした。学校給食などで販路拡大を狙う。同社は「生産者と連携した商品を作っていきたい」と呼びかける。
増産に向け産地支援
小麦の主産地では、ウクライナ危機を受けた増産の動きは出ていない。北海道や埼玉、佐賀などで面積が微増するが、水田転作などが主な要因という。
一方、増産に向けた支援事業を設ける県が増えている。熊本県は22年度2月補正予算案で、麦の安定生産を支援する事業に約1億円を計上。品質向上のための排水対策支援や面積拡大のための機械導入費補助などを用意する。県は「国際情勢を受け、小麦の価格が不安定な動きをしており、食料安全保障の観点から安定供給体制の構築が必要」(農産園芸課)としている。
この他、北海道や福島県も、23年度予算案で麦や大豆の国産化を支援する事業の拡大・新設を盛り込んでいる。
●「見切り発車」では国は守れぬ 岸田政権の「防衛費増」に元海将が物申す 2/24
防衛費増を打ち出す岸田政権。しかし、衆参予算委員会での首相の答弁は明確さを欠いている。元海将の香田洋二さんが、専門家の立場からその理由を解説する。
岸田首相が防衛費を大幅に増額し、2027年度からGDP(国内総生産)比2%にする方針を決めたことは率直に評価できます。けれども、お金さえ付ければ防衛力が向上するかといえば、そうとは限りません。
国産の12式地対艦誘導弾(能力向上型)と島嶼防衛用高速滑空弾の26年度の実戦配備に加え、極超音速誘導弾の研究開発も進める。米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得に23年度予算案で2113億円を計上しています。しかし、ミサイルがなぜ4種類も必要なのか、増税までお願いする国民に十分な説明がなされていません。
私は10年ほど予算を担当し、イージス艦一番艦の導入に関わりましたが、米政府の内諾を得てから足掛け6年を費やしました。時間がかかってもきちんと精査すれば、今回も所要の防衛力を満たすミサイルは2種類くらいに落ち着くはずです。なりふり構わず予算をつぎ込んで“背伸び”しています。
しかも、トマホークをイージス艦に搭載して運用するなど、海上作戦を無視したド素人ぶりを暴露しています。日本の場合、打撃を主任務とする米軍と異なり、イージス艦は対潜水艦戦のときに艦隊を守ることが第一義です。その任務を捨ててトマホークを撃ちに行くことなど外道です。こんな矛盾が生じるのは、最近の防衛計画策足に制服組の自衛官が排除され、現場の意向が反映されてこなかったからです。
ミサイルは最新電子機器の塊です。定期的なメンテナンスが必要で、不具合があれば原因を探求して部品を替えなければならない。その手間が非常にかかるし、整備部隊の新設や弾薬庫の整備も欠かせません。ところが、防衛省は1月23日に「新たな重要装備品等の選定結果について」という文書を出していますが、ミサイルのライフサイクルコストについて全く算定していません。すべて見切り発車です。価格や利点などを精査したうえで最適なものを選定したので、みなさんの税金を使わせてください、というのが本来あるべき姿なのに、「追って沙汰する」という態度です。
1%枠の中で、例えばF15戦闘機を年間に15機買いたかったのを10機に落としたり、燃料費を節約するために1カ月の飛行訓練を3分の2に減らしたりしてきました。2%防衛費は総花的なものばかりではなく、自衛隊の本来の機能を回復させることに優先的に使われなければなりません。
ウクライナのゼレンスキー大統領の平時の行政能力はわかりませんが、ロシアの侵攻に対して戦おうと呼びかけて国民の強い支持を得ました。本当に必要なのは、真摯に国民に説明することによって国民の信頼を得ることです。そうしない限り、わが国の防衛も成り立たないということなのです。  
●ロシアが日本に侵攻する可能性は? サイバー攻撃に妨害行為、高まる緊張 2/24
ウクライナ侵攻の開始から1年。日ロの緊張はエスカレートしている。日本政府は対ロシア制裁に参加する一方、ウクライナに780億円を融資するなど、これまでにない積極的な姿勢を見せている。日本は今後、どのように関わるのか。そして日本が侵攻される可能性はあるのだろうか。
日本周辺での軍事的緊張
日本で周辺での軍事的緊張が高まっている。これまでにすでにロシアは力を誇示し、日本に威嚇するアクションをみせている。
昨年6月、ロシア軍機4機が北海道西部で日本の領空に接近し、自衛隊機がスクランブル(緊急発進)した直後にコースを変更した。翌7月には、ロシア艦隊が中国海軍の艦船とともに尖閣諸島近海を通過した。
防衛省によると、こうしたロシア軍や中国軍による日本周辺での軍事行動は2022年2月24日以降、それ以前と比べて2.5倍に増えたという。
さらに、年末にロシア軍は北方領土の千島列島にミサイル防衛システムを配備した。
古典的な戦争イメージそのままのウクライナ侵攻だけでなく、日本周辺での軍事行動がさらに危機感を募らせたことは不思議でない。
この背景のもと、岸田政権は2023年度から5年間の防衛予算の総額を現状の1.6倍に当たる約43兆円にまで増やしただけでなく、これまで議論が進められてきた敵基地攻撃を可能にする、いわゆるスタンド・オフ・ミサイル配備にも踏み切った。
こうした反応に対して、ロシア政府は「これまでの平和主義を捨てて歯止めのない軍国化に踏み切った」「日本がアジア・太平洋の緊張を高めている」と主張している。ウクライナをめぐる対立が長期化すれば、日本周辺での緊張がさらに高まる可能性は高い。
これまでにない積極的関与
日本政府は昨年2月24日以降、アメリカなど欧米各国とともに天然ガス取引の制限、ロシア政府およびベラルーシ政府の責任者らの資産凍結、金融取引の規制といった制裁に参加する一方、ウクライナに対しては融資780億円を含む資金協力、発電機の供与をはじめとする越冬支援、難民受け入れなどの民生分野の協力を提供してきた。
従来、日本政府は「内政不干渉」を重視し、紛争や人道危機、民主化など外国の政治問題に深く関わることを避けてきた。2014年のクリミア危機ではアメリカ主導の制裁に参加したものの、当時の安倍政権は北方領土問題の解決とプーチン大統領との良好な関係を重視した結果、総じて控え目の協力にとどまった。
これと比べて、今回の取り組みはかなり積極的といえる。岸田政権のこの方針を慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は、以下の4点から説明する。
   ・侵攻に対する幅広い拒絶反応
   ・ウクライナ侵攻が中国による台湾侵攻を誘発することへの懸念
   ・安倍元首相との差別化を図る目的
   ・制裁を支持する国内世論
いずれも概ね支持できるものだ。
「第三次世界大戦の回避」での一致
とはいえ、ウクライナでの戦闘に日本が直接タッチする公算は限りなく低い。憲法上の制約があるからだけではない。欧米各国もその意志を示していないからだ。
今年1月、ドイツが主力戦車レオパルト2の提供を決めたように、欧米各国はこれまで多くの兵器や物資を提供してきた。
しかし、どの国も戦闘部隊をウクライナに派遣してこなかった。それはいわば当然で、ロシアを刺激しすぎればかえって情勢を悪化させ、第三次世界大戦の引き金を引くことになるからだ。
逆にプーチン政権は「欧米が直接介入できないこと」を織り込み済みで侵攻に踏み切ったとみられるが、直接衝突を避けたい点で米ロは一致する。これは冷戦時代から変わらない構図だ。
こうしたデリケートな状況があるからこそ、欧米各国はロシア本土の攻撃につながる兵器をウクライナに提供してこなかった。
こうした情勢で、日本が率先して戦闘に関与することはない。
むしろ、今後の日本のウクライナ支援の一つの焦点になるとみられるのは防衛装備品の提供だ。
これまで日本は防弾チョッキなどをウクライナに提供してきたが、かなり限定的だった。その一因は、国産の防衛装備品の多くが自衛隊の使用を前提に開発・生産されてきたため、仕様や規格がほとんどの外国軍隊に当てはまらないことにある。
これを克服するため、日本政府は昨年末の国家安全保障戦略で「防衛装備移転の推進」を打ち出した。これまで基本的に企業任せだった防衛装備品の生産・輸出を、国主導で加速させることを目指している。
「日本侵攻」のコスト
もっとも、ロシアが日本を実際に侵攻する公算は限りなく低い。
ウクライナでの戦闘が長期化し、経済的負担が増すなか、これ以上の戦線拡大はロシアにとっても現実的ではない。それだけでなく、いくら外交的に敵対しても、「日本侵攻」はロシアにとって、ウクライナの場合以上にコストが高いものになる。
その第一の理由は、日本がアメリカの正式の同盟国であることだ。
ウクライナはNATOに加盟していない。だから、アメリカをはじめ欧米各国はウクライナを支援しても、戦闘部隊を派遣しなければならない法的義務を負わない。
これに対して、日米安全保障条約を結ぶ日本を攻撃する国は、アメリカとの全面衝突を覚悟しなければならない。この点で日本とウクライナでは立場が違う。
第二に、「日本侵攻」はプーチン政権にとって国内政治的なコストも高い。
よく誤解されやすいことだが、どんな「独裁者」も一人で権力を握っているわけではない。その周囲には利益に群がる支持者がおり、支持者によって成り立つ点では「独裁者」と民主的な国の政治家は変わらない。
そして、支持者に向かって正当化できなければ、膨大なリソースを動員する戦争を行うのは難しい。
ウクライナの場合、プーチン政権は歴史的領有権や「ロシア系人への迫害」を主張し、ナショナリズムに傾いた支持者を鼓舞して「特別軍事作戦」を正当化してきた。ウクライナに向けられたこうした論理を日本に当てはめることは、ほぼ不可能だ。
サイバー攻撃の脅威
といって、日ロ間の緊張は当面解消されないだろう。そのなかで現実味が大きいのは、正規の戦争とは認定されないグレーな敵対行為の増加であり、とりわけ懸念されるのがサイバー攻撃の脅威だ。
対立する国へのロシアのサイバー攻撃は、北朝鮮や中国によるとみられるものと同じく、以前から報告されてきた。
アメリカでは2021年にフロリダ州の水道施設がハッキングされ、人体に有害なレベルで水酸化ナトリウムが上水道に混入されかねない状態になった。この事件ではロシアの関与が疑われている。
さらに昨年3月、アメリカ政府は各国で原発を含むインフラへのハッキングを行ったと4人のロシア人を告発したが、そのいずれもがロシアの情報機関職員だった。
砲弾や空襲でなくても、サイバー攻撃によってでも社会・経済活動を麻痺させたり、人間の生命を脅かしたりすることは可能なのだが、その脅威と日本も無縁ではない。昨年2月28日、日本を代表する自動車メーカーであるトヨタはサイバー攻撃を受けて一時的に操業を停止すると発表した。攻撃者は特定されていないが、これは日本政府が対ロシア制裁とウクライナ支援を打ち出した直後のことだった。
さらに9月にはデジタル庁を含む中央省庁や、東京、大阪の地下鉄への攻撃が相次ぎ、その直後にロシア政府支持のハッカー集団Killnetが日本に「宣戦布告」した。
こうした脅威を受けて、日本政府の国家安全保障戦略でも、重要インフラへの攻撃、選挙への干渉、センシティブな情報の窃取などに対するサイバーセキュリティの強化は、優先的に取り組むべき課題としてあげられている。
サイバー攻撃以外で懸念が大きいのが、領海を接する北海道周辺での漁業関係者に対するロシア当局の取り締まりや妨害だ。
北海道近海では冷戦時代、日本の漁船が「領海侵犯」を理由にソ連によって頻繁に拿捕された。帰還できたものも含めてその数は、北海道庁によると1946〜1988年に年間平均のべ約30隻、乗組員はのべ約200人にのぼった。 
冷戦終結後、日ロの緊張が和らぐにつれその数は急減し、1998年には北方領土周辺での日本漁船の操業に関する協定が両国間で結ばれた。しかし、プーチン政権の強権化がそれまでより目立ち始めた2010年代後半から、日本漁船の拿捕が再び増えるようになっていた。
それは北方領土周辺に限らず、2021年5月には稚内沖で漁船がロシア国境警備局に拿捕され、14名が拘束された。
こうした背景のもと、ウクライナ侵攻後の昨年6月、ロシアは協定凍結を宣言したのである。その結果、この海産資源が豊富な海域での漁業がすでに規制されているだけでなく、周辺を航行する日本船の安全も脅かされるに至っている。
ウクライナ侵攻をめぐる日ロ対立が長期化すれば、こうした戦争とはいえない圧力が今後、さらにエスカレートする懸念は大きい。その意味で、戦時でも平時でもない緊張が日ロ関係に定着するとみられるのである。
●アジア太平洋の平和・安定を脅かす日本の軍拡 2/24
中日安全保障対話が先日、4年ぶりに開催された。その最も重要な議題の1つが日本の安全保障・軍事面の動向であり、中国側はこれに重大な懸念を表明し、国際社会も強く注視している。(文:楊伯江、孟暁旭/中国社会科学院「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」研究センター研究員)
日本の安保・軍事政策は第2次世界大戦での敗戦以降、最も重大な変化の最中にある。岸田政権は最近、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の「安保3文書」を改定し、「専守防衛」原則を放棄し、いわゆる「反撃能力」を解禁するとともにNATOの基準と合わせ、防衛予算を国内総生産(GDP)の2%にまで大幅に増額した。この動向は「日本国憲法」の平和主義理念に背くものであり、軍事大国への道を再び歩むという危険なシグナルを発した。
安保・軍事戦略における攻撃性、外向型への転換の推進を踏まえ、日本は日米の軍事的一体化の推進に拍車をかけている。日米同盟の強化及び軍事大国化への欲望に駆られる形で、日本は積極的にNATOをアジア太平洋地域に引き込み、NATOと米日同盟の戦略的連携の実現を後押ししている。日本が軍事力を強化すると同時に、米欧との結託とブロック政治の強化に拍車をかけていることで、アジア太平洋地域には必然的に分断と対立が引き起こされるだろう。米国及び米国をリーダーとするNATOは、いずれも力に基づき競争相手国と対抗を繰り広げるという極端な現実主義戦略理念を奉じており、中国を「最大の競争相手」または「体制上の挑戦」と見なしている。日本が積極的に連携作りをする中、現在「NATOのアジア太平洋化」と「アジア太平洋のNATO化」というネガティブな趨勢が双方向的に高まり、地域情勢をさらに複雑で厳しいものにしている。
長期的に見ると、日本にとって、再び軍事大国への道を歩み、徒党を組んで陣営対立を図ることは、自らの利益にもならない。日米同盟に頼り、NATOの助けを借りて、近隣諸国に対して多国間抑止を行うことは、地域の軍拡競争を刺激するだけでなく、日本にも戦略・安保面のリスクをもたらすだろう。
アジア諸国は互いに引っ越すことのできない隣人であり、各国が共になって安全・発展上の運命共同体を構成している。アジアの国である日本の安全と繁栄は、地域の平和・安定の維持という前提があって初めて実現可能となる。アジア太平洋地域は大国間の闘技場ではなく、ブロック政治と陣営対立は日本自身も利益を得ている自由貿易体制を破壊するだけだ。日本は直ちに現実を正視し、長期的観点に立ち、戦後の平和主義理念を堅守し、交流と対話を通じてアジア近隣諸国との相互信頼と協力を強化するよう努め、地域の平和・安定維持に積極的な役割を果たす必要がある。
●我が国の安全保障の強化には、外交力の拡充を 2/24
防衛と外交のバランスを欠く安保関連3文書
今後5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる43兆円とすることなどを盛り込んだ安全保障関連3文書は、戦後の日本の防衛政策を大きく転換するものとして、通常国会において論戦が交わされているが、安全保障の「車の両輪」の片側とも言うべき外交力については、国会においても、メディアにおいても殆ど議論が行われていない。そこで、外交は具体的にいかなる形で安全保障に役立っているかを見つつ、外交力強化の方策について考えてみたい。
改めて「国家安全保障戦略」を読むと、我が国の安全保障の確保に関して圧倒的な重点が防衛力の整備に充てられていることが分かる。その反面、戦争が起きないように抑止力を充実させるためにも、また不幸にして戦争が起きた場合にはその拡大を防止するためにも、外交的な努力が不可欠であるのに、外交機能の強化についての言及がほとんどない。これでは防衛と外交の両側面のバランスを著しく欠くものと言わざるを得ない。長年にわたりGDPの1%枠に縛られて十分な整備が行われなかった防衛費の拡充は必要であるが、その陰に隠れて、外交の実施体制が遅れを取ることとなれば、防衛費の拡充のみが目立ってしまい、周辺諸国をはじめとする諸外国の不安を惹起することにもなりかねない。
最も強力な抑止力は日米同盟の強化
問題の核心は、日本の安全保障に役立つ抑止力とは何かを的確に判断することである。日本にとって最も重要な抑止力は、当然のことながら、強力な日米同盟の存在である。これは1月初めの岸田総理の訪米においても、バイデン大統領と十分に話し合われ、共同声明にも反映されている。しかし注意すべきは、米国の日本防衛のコミットメントは、集団的自衛権が明記されているNATOの場合とは異なり、「自国の憲法上の規定及び手続に従って、共通の危機に対処する」(日米安全保障条約第5条)とされていることである。将来、もし中国が台湾進攻に合わせて尖閣を攻撃した場合に、米国が日本防衛のためにいかなる対応を取るかは、最終的に米国議会が決定するのであり、その役割が極めて重要である。現在の米議会下院は、議長選挙をめぐるゴタゴタを見ても明らかなように、アメリカ・ファーストのトランプ前大統領の影響が強く、対外的な実力行動には極めて慎重である。この米議会を前にして我が国としては、いざという時に日本を守ることは単なる日米安保条約上の規定ではなく、それが米国の国益にかなうものであることについて、個々の議員の理解を得ることが重要である。
そのためにはきめの細かい議員対策が必須であるが、現在の日本外交は、人員的にも予算的にもそれを十分に実施するための体制が整備されているとは言えない。例えば、米側の倫理規定の問題もあり、ここ10年余りの間に日本を訪問した米国の連邦議員の数は、数えるほどしかない。民間の国際交流機関とも連携してこの壁を乗り越え、米国議員の対日理解が増進するような工夫が望まれる。
在米の総領事館数が減少したのは遺憾
米国には、現在14の日本総領事館がある。以前には16あったものが、他地域の総領事館を新設するに当たり、査定当局の主張する「スクラップ アンド ビルド」の原則により、10年以上も前に、カンサスシティ総領事館が閉鎖、ポートランド総領事館が領事事務所に格下げされてしまった。連邦議員はワシントン滞在中は多忙で、各国大使館との接触も限られているが、地元に帰った時には、当該州の支援者や支援企業と多くの接触を持つ。そこで、日本の総領事は、日本企業の地元への進出を紹介することなどを通じて会食、会合を重ね、個々の議員との人脈を深めることが大切である。現在までのところ、総領事の活動のプライオリティのおき方や資金的な余裕の不足から、このような努力が十分行われているとは言えない。
多角的な国際支援の確保が必要(特にアフリカ対策)
将来、中国による尖閣攻撃を想定した場合にも、安保理の機能は拒否権により期待できないので、各国の態度表明の場は国連総会になる。これに関して想起すべきことは、ロシアのウクライナ侵略に対して安保理が機能しないことを受けて開催された国連特別総会が、141か国の賛成(反対5か国)を得てロシア非難の決議を採決した際に、35か国が棄権したことであり、このうち約半数の17か国がアフリカ諸国であったということである。これは、ある意味ではロシア外交の大きな「勝利」といえる。近年ロシアのアフリカ対策は、大きく進展しており、多くのアフリカ諸国に大使館を設置しているほか、アフリカ諸国を狙って軍事攻撃をかけてくるイスラム過激派勢力からの防衛に協力するため、軍事組織のワグネルが中心となって派兵として活動し、これら諸国から高い評価を得ている。
日本としては、将来ありうる中国による尖閣攻撃の際の国連などでの議論において、アフリカ諸国の理解と支持を得ることの重要性も念頭に入れて、以下のような措置をあらかじめ取ることが重要と考える。
1 中国は国交あるすべてのアフリカ諸国53カ国に大使館を設けている。日本はそのうちの18カ国に未だ大使館を設置していないが、この数年内にほぼすべてのアフリカ諸国に大使館を設置する。
2 アフリカ諸国との関係強化に重要な役割を果たすのはODAであるが、日本の全途上国に対するODA総額は25年間で実に半減しており、対アフリカも大幅な減少を示している。今後数年間で、少なくとも25年前のレベルまで戻す。
3 ここ20年間、日本政府は、世界各国との人的交流に力を入れ、ビジット・ジャパン・キャンペーンを展開した結果、コロナ以前に、訪日外国人数は3000万人を超えた。しかしアフリカ諸国に対する訪日キャンペーンは薄弱であり、アフリカからの来訪者数は全体の0.2%にも満たない5.5万人であり、また日本人のアフリカ訪問者数も伸び悩んでいる。要するに日本人のアフリカに対する認識が薄すぎることが問題であり、国を挙げてアフリカに対する関心を高めるよう、政府がイニシアティブをとる。
過去17年間ほとんど伸びていない外交関連予算
ここに注目すべき統計がある。2022年度の外務省予算は7074億円であったが、この数字は小泉内閣終盤の2005年の同省予算7072億円とほぼ等しい。即ち、外務省予算は過去17年間殆ど伸びていないのである。その間、北朝鮮の核開発が進展し、中国の海洋への進出も著しいなど、日本をめぐる安全保障環境は一段と厳しさを増す中で、外交機能の強化はなおざりにされてきたと言わざるを得ない。また来年度の外務省予算案の伸びは3.7%増であり、政府全体の予算案の対前年比増である8%を大きく下回るものである。
このような状況の中で、防衛予算案は前年比26%増と突出しており、安全保障の両輪とも言うべき防衛と外交の落差が際立っている。ロシアのウクライナ侵略の終結のめどが全く立たず、また台湾海峡をめぐる状況も一層の緊迫が予想される今後においては、我が国を巡る国際環境は一段と厳しくなることが必至である。このような状況に直面する中で、それに的確に対応すべき外交機能の抜本的な強化のためには、外交関連予算についても防衛費並みの伸びとは言わなくとも、例えば毎年7%づつ伸ばして5年後に1兆円程度とする目標を設置するなど、格別の努力が望まれる。
「外交の要諦は人」であり、主要国に劣らぬ体制が必要
1952年に我が国が主権を回復して外交活動を再開した際に、当時の吉田茂首相兼外相は、「少数精鋭主義」を標榜して外交要員数(定員)の増大に慎重であった。その伝統を尊重したためか、その後の日本経済の飛躍的な成長期において、ほとんどの省庁が定員の大幅な拡大に努めたのに比して、外務省の定員は伸び悩み、他の主要国との格差は拡大の一途をたどった。「外交の要諦は人」といわれるように、外交の成果を挙げるためには一人一人の職員が、足で歩いて人脈を築くことから始まる。主要国の外務省職員数を見ると、米国の約3万名は別格としても、ロシア、中国、フランスは8000名以上、英国とドイツも7000名以上である。この関連で昨年春に自民党の部会が、外務省定員を今後10年間で8000名に増加すべしと提言したことは画期的であり、外務省当局は是非その実現を目指して、大幅な中途採用を含めた具体的な要員の採用計画を準備してほしい。
「安全保障のための外交力強化に関する有識者会議」の設立を
振り返ってみれば、安全保障の強化のためには、防衛力と外交力の双方を拡充する必要があるにもかかわらず、「防衛力に関する有識者会議」においても、また「国家安全保障戦略」において、外交力の強化に関する具体的な勧告がなかったために、外交面は一歩遅れを取ったと言わざるを得ない。これからでも遅くはない。外交の事務当局は、首相官邸の国家安全保障局とも連携して、速やかに「安全保障のための外交力強化に関する有識者会議」を設立することを提案したい。
この会議は、今後ますます厳しさを増す国際環境において、我が国の外交力が安全保障確保のために果たす役割を深掘りし、その上に立って、1今後数年間にわたる外交実施体制強化のための予算の抜本的増加(特にODA予算)、2在外公館数の拡充(特に兼轄大使館の実館への格上げ及び在米総領事館の拡充)、並びに3外交要員の質量両面における充実、を中心とする具体的提言を取りまとめて、総理または外相などの政府首脳に提出し、今後の外交実施体制拡充に筋道をつけることが期待される。
●日銀と財政「共同声明」から読み解くその関係 2/24
日銀の黒田総裁の後任候補として政府が提示した経済学者の植田和男氏に対し、衆議院は24日、所信を聴き、質疑を行いました。今回のコラムは、この所信聴取の中でも質問が相次いだ政府と日銀の「共同声明」に注目します。「共同声明」には、「2%の物価安定目標」と合わせて「持続可能な財政構造の確立」という文言も盛り込まれています。しかしこの10年で日本の財政状況は厳しさを増し、財政規律が緩んだという声もあがっています。「共同声明」は日本の財政運営にどのような役割を果たしたのか、検証しました。
共同声明に盛り込まれた持続的な財政
「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進する」
共同声明の主眼は、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現することを目指す、この点にありますが、これに加えてなぜ共同声明の柱の1つに「財政」の問題が盛り込まれたのか。
当時、日銀の理事として政府との調整に当たった門間一夫さんは、この一文を盛り込むよう求めたのは日銀側だったと明かします。
元日銀理事 門間一夫さん「政府は日銀単独で2%を目指せと最後まで言っていたし、言い訳になるような文章はいらないとも言われた。ただ日銀は、財政規律の確保など政府の取り組みなしに目標の達成はできないし、条件付きの目標であるという解釈で押し返した。2%の物価目標の導入は避けられない状況だったが、大規模な金融緩和が財政規律の緩みにつながっては困るという意識があった。必要以上に財政が膨らめば悪性のインフレにつながって結果的には物価の安定が損なわれるリスクを恐れていた」
財政ファイナンス疑念との戦い
日銀が政府の財政規律にこだわった背景には過去の苦い経験があります。戦時中、政府が発行した大量の国債を日銀が直接引き受けたことで、戦後の強烈なインフレを引き起こしたという反省です。
2%の物価目標を目指す以上、金融緩和をさらに強化し、国債の買い入れ額が急増する事態は避けられない。しかしそこには何らかの歯止めが必要だ。
「共同声明」に盛り込まれた「財政」の文言は、歯止めを求める日銀の思いが反映されたものだといいます。
実は日銀には「歯止め」となる自主的なルールがありました。2001年に「量的緩和政策」の導入の際に設けられた「銀行券ルール」です。日銀が保有する長期国債の残高を、市場に出回るお札の量(銀行券)以下に抑えるというものです。
日銀としては、財政ファイナンスを行わないということを対外的に示し、みずからを律するねらいがありました。
これについて当時の速水総裁は、「(量的緩和政策が)国債の買い支えや財政ファイナンスを目的とするものでないことは当然だが、誤解をされないためにも明確な歯止めを用意しておくことが不可欠だ」と説明していました。
しかし、2010年に導入された「包括緩和政策」によって、このルールは事実上破られることになります。
この政策は、従来の金融政策とは別枠で国債などの資産を買い入れる「基金」を設置し、この「基金」のもとで購入した長期国債については、「銀行券ルール」の適用除外とするというものです。
当時の白川総裁は、包括緩和策はあくまで臨時・異例の措置だと説明しましたが、「銀行券ルールとの関係で少し抜け穴をつくると、そこから拡大していくおそれや誤解を生んでしまう面もあると思う」とも発言しています。ルールの「例外」を設けて運用することを危惧していたことがうかがえます。
一時停止された”銀行券ルール”
そして2013年4月、黒田総裁が就任早々に異次元緩和を打ち出し、大量に国債を買い入れる方針を示したことで、「銀行券ルール」は完全に有名無実化しました。
それでは「銀行券ルール」は廃止されたのかというと、そうではなく、あくまで「一時停止」ということになりました。
「銀行券ルール」はなぜ残ったのか。日銀関係者によると、金融緩和の目的を離れて野放図に国債を買うわけではないという銀行券ルールの基本的な考え方を残すべきだという意見が多かったからだとしています。
日銀が新たなよりどころとしたのは、政府との「共同声明」でした。政府の役割として、「持続可能な財政構造を確立する」となっていることを頼みに、みずからは国債を大量に買い続けました。
その結果、どうなったのか。国債の発行残高は今年度・2022年度末には1042兆円と、10年間で330兆円余り増えると見込まれています。
発行残高が急増した背景には日銀が大量に国債を買い入れる大規模な金融緩和を続けたことがあると指摘されています。そして、日銀が保有する国債は去年9月末時点で500兆を超え、発行された国債残高の半分を占める異常事態です。
日銀は、国債を直接引き受けているのではなく、市場から買っているので財政ファイナンスではないと説明していますが、国債を落札した金融機関がすぐに日銀に売却する形になっているという指摘があり、財政法5条で禁じられている日銀の直接引き受けに近づいているのではないかという懸念も出ています。
日銀が2%の物価安定目標を目指し、政府が財政健全化と成長戦略に取り組むという今の共同声明の“役割の2分体制”では、それぞれが“タコツボ化”し、お互いをけん制し、チェック・検証するということがかえってできなくなっているのではないか、そんな声もあがっています。
日銀は2016年に黒田総裁のもとでの異次元緩和が経済や物価に及ぼした効果や課題について「総括的検証」を行いましたが、その際も財政規律や成長戦略について検証は行っていませんでした。
元日銀理事の門間一夫さんは、日銀は、大規模緩和が財政に及ぼした影響についても対外的に説明すべきだと指摘します。
「最終的に財政政策は政府、金融政策は日銀が独立して決めることになってはいるが、両者は互いに影響を与え合っていて物価や経済に作用している。この10年で政府は2度消費税率の引き上げに踏み切るなど取り組みは進めているので、日銀の政策によって実際に財政規律が緩んだという指摘には議論の余地があると思う。だが日銀は財政政策のことは政府に聞いてくれという姿勢を続けていて答えていない。日銀としてどう考えているのか対外的に説明する責任はあり、理解を求めていく必要がある」
一方で元日銀副総裁の岩田規久男さんは、財政健全化より2%の物価安定目標を達成することを優先すべきで、そのためにも共同声明から財政規律を促す部分を削除したほうがよいと主張します。
「政府と中央銀行の政策協定を結ぶ場合は、どの国も金融政策について行っているのであって、財政政策も含めているのは日本ぐらいだ。共同声明から財政は外したほうがいい。大規模緩和でデフレでない状態となり雇用も改善したが、完全にデフレマインドを払拭(ふっしょく)する前に消費税率を引き上げたことで消費が落ち込み目標は達成できなかった。マクロ政策には順番があり、共同声明からは財政規律の内容は外すべきだ。まずは経済の力強さを取り戻し、それによって税収増加を目指すべきだ」
植田氏は何を語ったか
それでは日銀の新たな総裁候補として24日に衆議院の所信聴取に臨んだ植田和男氏は、この問題について何を語ったのか。
植田氏「現在、大量の国債を金融緩和政策のもとで購入しているが、これは財政ファイナンスのためにやっているものではないし、市場から購入している。最大の目的は持続的、安定的な2%の物価目標を達成することだ。したがって当然の帰結として、それが達成された暁にはこうした大量の国債の購入はやめるという風に考えている」
そのうえで植田氏は直ちに共同声明を見直す必要はないという考えを示しました。
「2013年以降、政府と日銀が共同声明に沿って必要な政策を実施し、わが国経済は着実に改善し、その中で賃金も上昇、物価も持続的に下落するという意味でのデフレではなくなってきている。こういう意味で、政府と日銀の政策連携が着実に成果をあげてきたものと見ている。したがって直ちに(共同声明を)見直すという必要があるというふうには今のところ考えていない」
持続的な財政の確立をどう実現するか
経済関係者や大学教授などの有識者が参加する「令和国民会議」、通称「令和臨調」は、ことし1月、財政の拡大を日銀の国債購入が事実上支えるということが「負の相互作用」を及ぼしているとして政府と日銀の「共同声明」を見直すべきだという緊急提言を発表しました。
果たして「共同声明」の見直しはあるのか。金融市場も注目しています。
持続的な財政の確立をどう実現するのか、政府の姿勢だけでなく、新体制の日銀が金融政策の運営にどう臨むのかという点も焦点となります。
注目予定
来週27日には日銀の新しい総裁候補の植田和男氏が衆議院に続いて参議院で所信を述べる予定です。
また3日には東京都23区の2月の消費者物価指数が公表されます。前回・1月の生鮮食品を除いた指数は4.3%とおよそ41年ぶりの高い水準でしたが、記録的な物価上昇は続くのか。全国のデータに先だって公表される先行指標として注目されます。
●どうする日銀、金利操作見直し 2/24
植田和男氏など日銀新体制の所信表明が国会で行われた。改めて感じるのは、多くの人が新体制でイールドカーブ・コントロールの見直しを予想していることだ。筆者はいずれはそうなるだろうが、それほど単純なものではないとみている。これは、その先の出口戦略の展望を示していくこともでもあるからだ。そこで、本稿ではYCC撤廃の実務的課題を説明しておきたい。
難しいYCC撤廃
2月24日は、植田和男氏が新しい日銀総裁の候補として国会承認を得るための所信表明を行った。そこでは、質問する国会議員も、この人事によって、金融政策が大きな見直しを迎えるという認識を持っていた。まず注目されるのがYCC撤廃=イールドカーブ・コントロールの停止である。YCC撤廃とは、長期金利の操作を止めて、短期金利の▲0.1%だけに一本化することを指すのことなのだろう。一部には、10年の長期金利操作を、5年など短い年限に変えることを予想する向きもある。長期金利の上限の見直しは、早ければ3月、もしくは新体制の4月末の決定会合で下されるという見通しである。ピンポイントの変更はともかく、近々だと多くの人が予想している。
その先にはYCC撤廃が、2023年4〜6月もしくは、2023年内に控えているという見方だ。しかし、筆者自身は、YCC見直しがそう簡単ではないと考えている。実務的に多くの課題があるからだ。
金利コントロールは段階的に外す
2022年12月に黒田総裁は、長期金利の上限を0.50%に引き上げた。これは、唐突だったために混乱をもたらした。植田氏はこの修正に関しては、市場機能の低下を配慮して見直しと理解を示している。
長期金利上昇の弊害としては、長期国債の含み損を発生させることが挙げられる。金融機関の長期国債保有には満期保有のものが多いと思うが、それ以外の運用部分の含み損を発生させて、金融機関に大きな損害を与える。もしも、YCC撤廃を何の予告もなく実施すれば、弊害として金融機関の含み損が膨らむだろう。金融システムにも有害だ。
その弊害を意識すると、YCC撤廃の前に、日銀は激変緩和措置を打つだろう。それは、段階的に長期金利上限を引き上げることだ。日銀は、0.75%、1.00%と上限を引き上げて、長期金利の上昇を容認し、指値オペで長期国債を吸収する。そこで金融機関には段階的な損切りの機会が与えられる。もしかすると、決定会合前の総裁・副総裁の発言に政策修正について示唆することで、より積極的に予見可能性を提示する可能性もある。 日銀の指値オペは、目先、必要になるが、長期金利の上限を引き上げていく中で、いずれ少なくなるだろう。それは、下落する長期国債の価格を買い支える動きが現れるからだ。日銀は指値オペの多用で、バランスシートに潜在損失を抱えることになるが、植田氏は、その場合には引当金を積むと説明していた。
そうやって、上限引き上げを行っていき、長期金利の実勢がその上限よりも低くなる水準を発見する。例えば、長期金利の実勢が0.80%だったとすると、長期金利の上限を1.00%まで上げたときは、それ以上に長期金利は上がらなくなるだろう。すると、もはや指値オペは必要なくなる。
金融機関にとっては、損切りをして換金した売却資金で、大幅に利回りが高くなった国債を買えば(安くなった国債を買えば)、インカムゲインの増加が期待できる。預金として流入したニューマネーで、高い金利水準の長期国債を買うような動きも広がっていくだろう。
手順として、1上限を0.75%、1.00%などと刻んで引き上げる。2どこかで指値オペを打つ必要がなくなることが確認できる。3その後で金利上昇リスクが大幅に減圧したのを確認してYCCを撤廃する、という手順になると考えられる。大混乱を避けるための手法でもある。
長期金利の跳ね上がり
上記の手法では、まだ残された課題がある。一旦、長期金利が安定しても、その後、何かのショックで長期金利が急上昇するリスクが残される。
例えば、長期金利が一旦は0.80%で落ち着いたとして、その後で米長期金利が4.5%まで跳ね上がって、日本の長期金利も1.5%へと上がっていくような事態が起こると、YCCなき後の日銀はそれを静観できないはずだ。長期金利が予想外に跳ね上がると、金融機関に追加損失が生じる。政府の国債消化も行いにくくなる。財政当局も、利払コストの増加に苦しむことになる。
筆者の予想では、日銀はYCC廃止後には長期金利ターゲットを復活させないとみる。むしろ、長期国債の買い切りを期間限定で実施する手法を採るだろう。長期金利が1.2%に上昇したのをみて、日銀は平衡操作として、例えば2023年10〜12月にかけて30兆円の長期国債の追加買い入れをアナウンスする。そのオペレーションが冷やし水になって、長期国債の価格を押し上げて、長期金利は一時的に低下する。長期金利の跳ね上がりは時限的に抑えられるということだ。金融機関にはその間に損切りのチャンスを得ることになる。
そこでは、長期金利コントロールではないが、「長期金利上昇は必ず日銀が抑え込む」という安心感を与える。金融市場では、よくプット・オプションを売ると言われる。長期国債の価格が下がったとき、価格をやや高く売るチャンスを日銀が与えるという意味だ。長期国債の保有者は、日銀に救われる。
これは、出口戦略において、日銀がセーフティネットを提供し、損失を吸収するという意味もある。ただし、その役割は期間限定の救済となる。
2022年には、イングランド銀行が国債売りを一時的に止めて、時限的な買い戻しを行った。これは、損失を受けた年金基金の救済が目的だったとされる。日銀も出口で同じような意味合いのオペレーションを実施するだろう。
長期金利の正常化
日銀は、YCC撤廃という出口戦略の第一弾を実施するとき、どんな対応をしそうなのかを、少しテクニカルに説明してきた。
今度は視野を広げて、なぜ、日銀は長期金利コントロールを止めていくのかを考えてみよう。ひとつは、長期金利水準を低位に釘づけにすることを止めることで、為替レートに働く人為的な円安圧力を弱めようとするものだ。
2023年2月のドル円レートは、1ドル128円から135円へと円安に振れている。理由は、米長期金利が上昇して、日米金利が再拡大しているからだ。
米国経済は予想以上に底堅い。もしも、日銀が長期金利コントロールを止めていけば、円安は起こりにくい。米長期金利に連動して、日本の長期金利も上昇するから、日米金利差は広がりにくい。これは、日本の輸入物価上昇圧力を弱めることにもなる。もはや、日本政府はそうした物価上昇圧力を歓迎しないから、日銀の長期金利を低位に釘づけにすることをしないことにするのだと理解できる。
もう一つの意味は、市場価格の尊重である。黒田緩和では、長期金利コントロールを無理に行い過ぎた。イールドカーブに歪みが生じていることは、市場関係者が広く知るところだ。長期金利が上昇する局面では、人為的に金利を抑え続けると、市場実勢から離れていく。それを続けるほどに、長期金利上昇の反動のマグマは溜まっていく。だから、なるべく人為的コントロールは長期化させないことが原則になる。「平衡操作」という意味は、アップダウンを均すということを原則と考えて、相場を管理する発想とは異なる。黒田総裁の時代が終わることは、長期国債の管理相場から決別するという意味を持つ。
仮に、長期金利が上がっても、国内の投資家がいずれ買いに回るので、時間が経過すると金利変動は落ち着くことになる。そうした自然治癒力を尊重する発想に日銀は回帰していくのだろう。金利という価格指標は、マーケットの需給に任せて決まった方がよいという考え方だ。故事に倣うと、カエサルのものはカエサルに、という原則になる。本来、マーケットで決めるべき長期金利は、マーケットが決めるという原則に戻すべきだという市場重視の発想とも言える。
裏返しの問題として、指値オペのような手法は、日銀が市場の国債を買い尽くして、民間同士の取引を阻害する。流動性の極端な低下とも表現できる。日銀は、10年金利よりも年限の短い8・9年金利の上昇圧力に神経を尖らせてきた。黒田総裁の解釈では、投機筋が売りを仕掛けているとしている。しかし、10年金利の市場実勢が上限0.50%よりも高いのであれば、決して投機的とは言えない。黒田緩和の10年間を経て、債券市場の金利上昇圧力を強引に抑え込むことの弊害を強く実感しているという理解もできる。
市場金利をいつまでの制御することはできないし、それが望ましいことでもない。新体制はそのことに気が付くから、過剰な市場コントロールからも足抜けしていくと多くの人が予想するのだろう。
●「所管外」12連発の河野太郎氏ブーメラン!野党時代に同じ言葉使った 2/24
「所管外でございます」
総理候補に度々、名前が取りざたされる河野太郎デジタル相が、13日の衆院予算委員会で繰り返したのがこの言葉だった。
野党議員はこの日、発売された故安倍晋三元首相の回顧録を基に質問。外相として当時の日ロ交渉に関わった河野氏の認識について問いただすと、「所管外」を連発。原発の60年超運転に関する閣議決定に署名した理由などについて問われた際も、河野氏は「エネルギー政策は所管外でございます」とにべもなかった。
この「所管外発言12連発」を取り上げた民放記者がツイッターに、<答えられない、あるいは、今の所管から外れる質問内容でも、もう少し丁寧な言い方があるだろう。総理を目指す政治家ならば、尚更。>と投稿すると、河野氏はすぐに自身のツイッターで反論。
<閣僚は所管外のことに答弁できないという基本的なこと>などに触れていないとして、<こういう印象操作するんだ>などと応じていた。
野党時代には原子力委員会に対して…
野党側は「(河野氏)本人に関する案件を事前通告もした上で聞いている」「予算委では国政全般を議論しており、認められない答弁拒否だ」「いい加減だ」などと指摘し、河野氏の「所管外」答弁を批判する声は今も続いているのだが、過去の国会質疑を振り返ると、野党時代の河野氏もこの「所管外」という言葉を問題視していたのだ。
2012年8月の衆議院決算行政監視委員会行政監視に関する小委員会。河野氏は福島原発の事故に絡む原子力委員会(当時)の天下り問題などを取り上げ、こう迫っていた。
「この天下りの構造について申し上げますと、驚いたことに、内閣府原子力委員会からの、『政府において講じた措置』という中で、原子力関連事業の実施が特定の独立行政法人及び公益法人に集中し、天下りや利権を生み出す構造については厳しく検証をしろという委員会の項目に対して、『所管外』と答えているんですが、なぜ原子力委員会が所管外なんでしょうか」
「原子力委員会が秘密会を開いて、そこで推進側の意見を取りまとめて結論をどがちゃがしたというのは、もはや白日のもとにさらされているではありませんか。先日、細野担当大臣がみずから、自分が所掌する原子力委員会が問題を起こして検証をしているということを述べていらっしゃるじゃありませんか、この決算委員会で。そういうことがありながら、こういう指摘をされたときに『所管外』だということを答えるこの原子力委員会及び事務局のいいかげんさというのが事故の引き金を引いた遠因の一つになっているんだと思います」
問題点などを問われているにもかかわらず、「所管外」と答えるのはいい加減ではないか──。この時の河野氏の政治姿勢は「その通り」と評されていたはずだが、今は忘れてしまったのだろうか。
●LGBT理解増進法案議論に 「国会議員に対して理解増進を図らないと…」 2/24
TOKYO MX 朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」。「GENERATION」のコーナーでは、“LGBT理解増進法”について、視聴者を交えて議論しました。
多様性を認める社会を目指すはずが…
Twitterを活用して幅広い世代の視聴者に参加してもらい、Z世代・XY世代のコメンテーターと議論する「GENERATION」。この日のテーマは、“LGBT理解増進法”です。
2月1日、岸田首相は同性婚の法制化について「極めて慎重に検討すべき課題」、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」と否定的な考えを示しました。そして、3日には荒井勝喜総理秘書官が性的少数者などに対し「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」と述べ、更迭。これらの問題を受け、性的マイノリティの当事者らが人権保障に向けた法整備を急ぐよう、政府に訴える動きもあります。
LGBT理解増進法を巡っては、2021年5月に超党派の議員連盟で合意するも「差別は許されない」という表現に、自民党の一部保守派が反発。国会への提出は見送りとなりました。その後、前述の岸田首相、荒井前総理秘書官の発言があり、自民党の萩生田光一政調会長はテレビ番組で「不当な差別や偏見はあってはならない。党内のコンセンサスを得て議論を前に進めたい」と話し、党内の意見を整理する考えを示しています。
このLGBT理解増進法案のポイントとしては、まずは「性的指向・性自認の多様性に寛容な社会の実現を目指す」、「国・自治体・企業・学校による知識普及・相談体制の整備」があり、さらには「性的指向・性自認を理由とする差別は許されない」との認識の下に施策を講じるとしていますが、この“差別は許されない”という表現に、自民党保守派から反対の声が上がっています。
まず行うべきは法整備、そうすることで社会も変わる!?
この問題に対し、モデルでタレントの藤井サチさんは、若い世代は周囲にLGBTQの方々がいるケースがあるため理解が進んでいるものの、「(前総理秘書官の)荒井さんのような一部の上の世代の方たちは、なんとなく嫌だという方が多いと思う」と考えを述べ、「そうした人たちに対して、その感情は間違っていると言うのは簡単だけど、価値観まではなかなか変えられない。だからこそ、まずは法整備が大事。法整備することで、そういう人たちも“社会は変わっている”(という気づきが)後からついてくると思う」と話します。
さらに、「ぜひ自民党の一部の保守派の方たちには、まずLGBTQの方々についてもっと知ってもらいたい。もっと話してもらいたい」と切望。加えて、岸田首相に対しても「選択的夫婦別姓を推進していたので、この問題に関しても岸田さん自身のカラーをもっと出して、舵を切ってほしい」と主張します。
キャスターの堀潤によると、かつてイギリスでは同性愛を公言しただけで逮捕されることがあったものの、制度を変え、社会も変化。「社会は誰が変えるのかといえば、一人ひとりの意識」と言い「アメリカでも依然としてさまざまな議論が続いている」と現状を語ります。
藤井さんは「台湾でも伝統的な家族観が壊れてしまうという議論があったけど、そこを乗り越えて、同性婚も認められた」と台湾を例に挙げつつ「同性婚を認めている国は、どこの国も与党が支持しているのが大きなポイント。日本は、そこに大きな差がある」と指摘します。
なお、自民党保守派の反対意見としては「行き過ぎた差別禁止運動につながる」、さらには「法制化されれば、性的少数者を支援する団体や野党が勢いづき、こちらが守勢に回る」といった声があります。そんななか、高市経済安全保障担当大臣は先の衆議院予算委員会で「文言について十分な調整が必要。厳格なルールを作れば、企業は性的少数者の雇用に及び腰になる」と話しています。
LGBT理解増進法の裏に思惑がある?!
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは、LGBT理解増進法は必要としつつも、「同性婚はハードルが高いから、とりあえずはLGBT理解増進法を出そうと。これを通せば、同性婚の議論はしばらくしなくていいだろうという思惑が一部あるのでは」と裏読みし、「この法律も必要だが、やはり最終的には同性婚」と主張。
そして、もうひとつの問題点として“差別と区別の違い”を挙げます。「社会的に合理的ではない区別はダメだが、区別そのものは悪いわけではない。差別と区別の違いは、もう少し冷静に議論してほしい」と訴えます。
株式会社トーチリレー代表取締役の神保拓也さんは、岸田首相が発した「社会が変わってしまう」という言葉に対し「そもそも社会はもう変わっていて、なおかつ“変わる・変わらない”ということ自体が論点としておかしい」と異を唱えます。なぜなら、性的マイノリティの方々は以前から社会に存在していたからで「元々いた同じ人間の人権を尊重しましょうという話」と語った上で、LGBT理解増進法の推進は「確実に必要なこと」と明言。
そしてもうひとつ、自民党の一部保守派から「法制化されれば性的少数者を支援する団体や野党が勢いづき、こちらが守勢に回る」という声がいまだ残る状況であれば、LGBT理解増進法とともに、「国内に人権機関を設立する必要性がある」と主張します。
というのも、国連は1993年に政府から独立した国内人権機関の必要性を示していますが、日本は遅々として進んでいません。「(自民党の一部保守派のような方が)法律を決める側にいて、彼らの感情を全否定することができないとしたら、藤井さんが言う通り、仕組み・制度でどのように担保するかが重要。国内人権機関の設立も同時に議論を進めてほしい」と望みます。
また、キャスターの田中陽南は、高市氏の発言に違和感を覚えたようで「性的少数者の意見として述べたことだったと思うが『企業が雇用に及び腰になることはありますか?』と思う。企業面接時に自分の性自認や性的指向を話すことはないんじゃないかなと思うし、これを理由にするのは疑問に思う」と感想を述べます。
国民に理解を促す前に国会議員の理解促進を!
LGBT理解増進法を望む声も上がっています。公明党の山口代表はLGBTなどの情報発信施設を訪問し、G7広島サミット前の法案成立を目指す考えを表明しています。また、国民民主党の玉木代表は、党大会で多様性社会の実現、LGBT支援団体との交流促進を明示。立憲民主党の泉代表は「(LGBT理解増進法の)成立は最低限やるべきことでゴールではない」と強調しています。
番組Twitterには「認める・認めないとかの関係ではない」、「同性婚に異様に腰が重たいのは憲法にどうしても関係してくるからだと思う」といった意見が寄せられ、堀は「そもそも性自認と性的指向の話は似て非なるもので、LGBTQという言葉だけでそれぞれの人たちが規定されるものではない。LGBTQというものに押し込めてしまうのも乱暴な意見」と主張します。
では、この問題に対してまず行うべきことは何か。神保さんは「国民に対しての理解増進を図る以前に、国会議員に対しての理解増進を図らないと、結果的に目先の細かい利益の調整のなかで法律が揺れてしまうことが起こる」と案じます。さらには「最終的にはやはり同性婚に対し、国としてどう判断していくのか。そこを切り崩す上での最初の一手として、まずはこのファーストステップは必ず進めていきたい」とも。
大空さんは「おそらく自民党の国会議員はどちらでもないという人は多いと思う。だから、この問題と夫婦別姓の問題は党議拘束を外して、個人で投票とするとすれば、今、この状況でも法律が通る可能性は非常に高いと思う」と話していました。
●萩生田政調会長、少子化対策で新婚さんに住居支援を主張…異次元すぎる 2/24
2月23日、自民党の萩生田光一政調会長は、さいたま市で開かれた党会合であいさつ。少子化対策として、児童手当の所得制限の撤廃より、新婚家庭への住居支援を優先する考えを示した。
萩生田氏は「新婚で最初に困るのは新居だ。全国の公営住宅に20万戸の空きがある。若い人たちに貸してあげたらいい」と述べる一方、児童手当の所得制限撤廃に関して「検討の価値はあるが、1500億円の財源が必要になる。1500億円あるなら(新婚家庭が入居する公営住宅の)畳やお風呂、トイレを新しくしてあげたい」と語った。
萩生田氏が、所得制限撤廃より、新婚家庭の住居支援を優先する考えを示したことに、SNSでは批判の声が多くあがった。
《異次元の少子化対策すぎて、もはや理解できません。『子どもへの予算を意地でもケチってやろう』という政府の方針を痛感します》
《今時公営住宅に住みたい若者おるんかな? 自民党が思う政策ってどれも え、そこなの?って感じなのばっかり。ズレてるというかね…》
《年少扶養控除 が廃止されて子供だけ扶養控除がない状態が10年以上も続いているので、その代わりとされる児童手当の所得制限撤廃なのです。1500億あるからとか、何を言っているんですか。それ私たちが不当に負担させられている税金ですよ。まずそれを返すのが筋です》
児童手当は、中学卒業まで、子供1人あたり月に1万〜1万5000円が給付される。ただし所得制限があり、子供2人の家庭では、夫婦どちらかの年収が目安として960万円以上だと、月5000円の「特例給付」となり、年収1200万円以上は支給の対象外となる。
岸田文雄首相は年頭に「異次元の少子化対策」を掲げた。それを受け、1月25日の衆院本会議で、自民党の茂木敏充幹事長が「すべての子供の育ちを支えるという観点から、所得制限は撤廃すべき」と主張したことから、所得制限の撤廃が大きな課題となっていた。
だが、その後は自民党内から、所得制限撤廃に否定的な声が続々と出てきている。
2月1日、西村康稔経済産業相は、自身のTwitterにこう書きこんだ。
《年収1200万円以上の給与所得者は全体の5%に満たない割合で、高額所得者です。児童手当てについては、拡充を行うならば、所得制限を撤廃して1200万円以上の富裕層に支給を行うよりも、所得の低い方に対して上乗せするなどより手厚い支援を行っていくことを優先すべきというのが私の考え方です》
2月21日、自民党の世耕弘成参院幹事長は、記者会見で「所得制限を継続すべき」という意見が「廃止すべき」を大きく上回った世論調査の結果について言及。
「意外だった。高級マンションに住んで高級車を乗り回している人にまで支援をするのか、というのが世論調査で出てきているのだろう」と発言し、所得制限撤廃に否定的な立場をとった。
同日、木原誠二官房副長官は、『深層NEWS』(BS日テレ)に出演。岸田首相が掲げる「子ども予算倍増」について、こう述べた。
「子ども予算は、子供が増えればそれに応じて増えていく。もしV字回復して出生率が本当に上がっていけば、わりと早いタイミングで倍増が実現される。効果がなければ、倍増といってもいつまでたってもできない。効果のない予算をずっと使い続けることになりかねない」
そして今回の萩生田氏の発言。もはや岸田首相が掲げた「子ども予算倍増」どころか、児童手当の所得制限撤廃さえも風前の灯だ。SNSではこんな声もあがっている。
《さすがに総理大臣が異次元の少子化対策とかぶち上げたんだから何か動くやろとちょっと期待したのに、自民党の中堅有力議員から出てくる話が、子どもが増えたら予算が増えるだの高級マンションと高級車ガーだの畳変えようだのバカにするのも程があって、少子化問題に関しては自民党マジ無能だなと思う》
このままでは、自民党に期待したのがバカだったということになりかねない。

 

●G7首脳テレビ会議 2/25
ロシアによるウクライナ侵略の開始から1年となる2月24日、午後11時(日本時間)から約90分間、本年のG7議長国である我が国の呼びかけにより、G7首脳テレビ会議が行われ、岸田文雄内閣総理大臣が議長を務めたところ、概要は以下のとおりです。今回の会議では、冒頭に議長である岸田総理大臣に続いて、ヴォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領(H.E. Mr. Volodymyr ZELENSKYY, President of Ukraine)が発言し、その後G7首脳間で議論が行われました。会合後、G7首脳声明が発出されました。
1 冒頭
(1)岸田総理大臣は、ロシアによる決して正当化できない侵略や、国際法に反する市民や民間施設を狙った攻撃が続いている旨述べ、自国防衛のために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐とその強さに心からの敬意を表しました。その上で、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援といった具体的な取組を通じ、ロシアに侵略をやめさせ、法の支配に基づく国際秩序を堅持するというG7の確固たる決意を示していく旨強調しました。
(2)岸田総理大臣は、より幅広い国際社会との連携も重要である旨指摘するとともに、2月23日にウクライナにおける包括的、公正かつ永続的な平和を求める国連総会決議案が141票の賛成を得て採択されたことは、国際社会の大多数が、ロシアに即時、完全、かつ無条件の撤退を求める強い意思を改めて表明したものであり、これを歓迎したい旨述べました。
(3)ウクライナとの連帯 岸田総理大臣は、ゼレンスキー大統領が「平和フォーミュラ」において和平に向けた基本原則を示し、平和の実現に向けて真摯な努力を続けていることを支持する旨述べました。また、先般の欧州各国訪問を始めとするゼレンスキー大統領の献身的な外交努力についても、敬意を表しました。その上で、昨年のドイツのリーダーシップを引き継ぎ、本年の自身の議長下でも、G7として、引き続きウクライナを全力で支えていくとの決意を示しました。
2 制裁
(1)岸田総理大臣は、G7を始めとする同志国が連携して対露制裁を科すことで、一定の効果を収めてきた旨述べ、その上で、G7として引き続き連携してロシアに対しコストをかけ続ける必要があると強調しました。
(2)岸田総理大臣は、今回の首脳声明では、軍事・製造部門を支える物品・技術に関する追加制裁を発表し、G7として明確なメッセージを示したいと述べました。また、岸田総理大臣は、現在、特に制裁回避・迂回対策が重要であり、今般合意した制裁の調整実施メカニズムの下でしっかり議論させたい旨述べました。
(3)岸田総理大臣は、日本としても、新たな対露制裁として、(ア)ロシアの個人・団体への資産凍結、(イ)輸出禁止団体の追加、(ウ)ドローン関連物品等ロシアの産業基盤強化に資する物品への輸出禁止の拡大、(エ)ロシアの金融機関への資産凍結を内容とする措置を講じることを決定したことを表明しました。
(4)岸田総理大臣は、ロシアの侵略を一日も早く止めさせる上では、第三者からロシアへの軍事的な支援を防ぐことも重要であり、関係国と緊密に連携して対応していきたい旨述べました。
3 ウクライナや周辺国への支援
(1)岸田総理大臣は、ロシアが攻撃を継続し、重要インフラを破壊している中、ウクライナは祖国の独立と民主主義を守るために敢然と戦っており、これを支援するG7の努力を誇りに思う旨述べました。また、G7メンバーが、ウクライナに対する軍事支援を迅速に進めていることに敬意を表しました。
(2)岸田総理大臣は、今回の首脳声明では、人道支援、エネルギー部門への支援、またウクライナの経済的・財政的安定の維持に向けた支援の継続に関してもG7のコミットメントを確認した旨述べました。また、G7として、2023年のウクライナ財政・経済支援を390億ドルに増額したこと、また、日本としても、これまでに発表した総額約16億ドルの人道・財政支援に加え、今般新たに55億ドルの追加財政支援を行うことを決定し、今後、関連する法改正等の国会承認を得るべく取り組んでいくことを表明しました。
(3)岸田総理大臣は、日本としても、日本の強みを活かし、人道支援、財政支援、エネルギー部門での支援等、ウクライナの人々に寄り添った支援をきめ細かく実施してきている旨説明しました。また、本年1月、日本が20年にわたり支援してきたカンボジアの参加を得て、地雷除去分野での支援を実施したほか、公平・公正な報道と民主主義の強化に貢献する放送分野での支援も実施したことを紹介しました。
(4)岸田総理大臣は、ウクライナの周辺国に対する支援の重要性を指摘しつつ、今般、日本がモルドバに対し1億ドル相当の円借款を供与する方針を決定したことを紹介しました。
(5)岸田総理大臣は、復興支援に関し、「ウクライナ復興ドナー調整プラットフォーム」の立ち上げを歓迎しました。また、日本は、地雷対策、電力等の基礎インフラ整備を含む生活再建、農業・産業振興、教育やガバナンス強化、文化財保護等の分野でこれまでの経験や知見を活用し、ウクライナの復興に貢献していく旨表明しました。
4 ロシアによる核の威嚇への対応
(1)岸田総理大臣は、先日プーチン露大統領が新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止や核戦力の強化に引き続き取り組む旨述べたことに言及し、「核兵器のない世界」の実現及び安全保障の確保の両面から、日本としてロシアのこうした対応を深刻に懸念している旨述べました。
(2)岸田総理大臣は、ロシアによる核の威嚇は国際社会の平和と安全に対する深刻な脅威であり、断じて受け入れられず、ましてや、ロシアが77年間にわたる核兵器不使用の記録を破るようなことはあってはならない旨述べた上で、5月の広島サミットにおいても、この点を強く発信していきたいとの考えを説明しました。
(3)岸田総理大臣は、G7のみならず、幅広い国際社会からこの点について明確なメッセージが発出されることも重要であり、G20等のマルチの場においても、G7で緊密に連携していきたい旨述べました。
5 グローバル・サウスへの関与・支援
岸田総理大臣は、いわゆるグローバル・サウスへの関与や支援の重要性を強調しました。岸田総理大臣は、グローバル・サウスを含む大多数の国が2月23日に採択された国連総会決議に賛成したことに触れた上で、G7として、法の支配に基づく国際秩序の堅持の重要性を訴えつつ、EUの連帯レーンや黒海穀物イニシアティブ等の食料分野における取組に加え、脆弱国に寄り添った支援を行い、G7としての貢献をグローバル・サウスに示していくことが重要である旨述べました。また、岸田総理大臣は、この観点からG20議長国であるインドとの連携は特に重要である旨指摘しました。
6 総括
(1)岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナ侵略が続く中、昨年に続き、本年もG7として結束して取り組んでいくことを確認することができた旨総括し、力による一方的な現状変更の試みは、世界のどこにおいても決して許してはならないとの決意の下、引き続きG7首脳と議論を重ねていきたい旨述べました。
(2)岸田総理大臣は、5月の広島サミットでは、国際社会が直面する幅広い課題やインド太平洋を含む地域情勢についても、G7首脳との間で率直な議論を行うことを楽しみにしている旨述べました。
(3)議論の結果、ウクライナに寄り添い、支援を必要とする国や人々を支援し、法の支配に基づく国際秩序を堅持することについて、G7の連帯は決して揺らぐことはないことで一致しました。
●一揆寸前?令和の時代の「五公五民」は本当か 「国民負担率47.5%」  2/25
財務省は2022年度の「国民負担率」が47.5%になる見込みだと発表した。国民や企業が所得の中からどれだけ税金や社会保険料を払っているかを示すという率で、防衛増税も取りざたされる中、世間では「江戸時代の五公五民と同じ」などと嘆きの声も。だが、この国民負担率という概念や言葉、実は世界的には使われていない日本独自のものだという。いったいこの数字、どう受け取ればいいのか。改めて考えてみる。(中山岳、岸本拓也)
税金・社会保障負担/個人や企業のもうけ
国民負担率とは何か。財務省のホームページには、「租税負担率と社会保障負担率の合計」とある。租税負担は、個人が納める住民税や所得税、企業が納める法人税などを指す。社会保障負担は、労使で分けあって払う年金、雇用保険、介護保険などの保険料だ。
国民負担率を計算するには、こうした租税・社会保障負担の合計を、個人や企業が稼いだ「国民所得」で割る。ざっくり言うと、個人や企業のもうけ(分母)に対し税金・社会保障の負担(分子)が占める割合を表している。
国民負担率は1967年の財政制度等審議会で政府側が出した資料に初めて登場した。財務省の西川昌孝調査課課長補佐は「昭和40年代(1965年〜)から算出していたようだ」と話す。公表が始まった1970年度は24.3%で、年ごとの増減はあるもの、79年度(30.2%)に3割を超え、2013年度(40.1%)に4割を突破。21年度は48.1%で過去最高になるなど、近年は5割近い。負担部分の推移では、少子高齢化にともない社会保障の増加傾向が続いてきた。
ツイッターでは、江戸時代に領民が領主に納める年貢割合を引き合いにして「令和の時代に”五公五民” 江戸時代とどっちがマシなのか」と嘆く声も出ている。ただ、「財務省として国民負担率が高いと悪い、低いと良いといった評価はしていない」と西川氏。例えば社会保障負担の増加は、裏を返せば年金、介護などの公的サービスの受益部分を支えており、「給付と負担のバランスを考えるための一つの材料として提示している」と説明する。
歴史的には抑制を目指してきたはず
とはいえ、歴史的には、日本は負担率抑制を目指す方向で議論が進んできた。
1980年代前半に行政改革の方向性を示した「第2次臨時行政調査会」(第2臨調)委員だった瀬島龍三・元伊藤忠会長は、83年の参院特別委員会で「受益と負担という観点で、租税負担率よりも社会保障負担はある程度上がることはやむを得ない」としつつ、国民負担率を巡る臨調内の議論を紹介。「できれば40(%)で抑えたい、真にやむを得なくても45(%)以下にすべきである、そしてヨーロッパの水準より低くしておかにゃいかぬ」などと述べた。
第2臨調解散後、中曽根康弘政権下で発足し瀬島氏が委員を務めた「臨時行政改革推進審議会」(行革審)も、こうした方針を堅持。90年の第2次行革審最終答申は、21世紀初頭の目標として「高齢化のピーク時でも国民負担率が50%を下回る簡素で効率的な政府」を目指すとした。
こうした方針からは、5割近い国民負担率なら高齢化が進むなかで許容すべき水準のようにも取れる。だが、元財務官僚で明治大の田中秀明教授(公共政策)は「借金でまかなう財政赤字を考慮していない」と語り、国民の負担を測る指標にふさわしいのか疑問を呈する。近年の財政は赤字が続いて国債発行も膨らみ、将来に負担を先送りしている面があると指摘。財務省が毎年公表するのも「途中でやめると批判されると考え、続けているにすぎないのではないか」と本気度を疑う。
国際的には低い方に見えるが…
では、世界はどうなっているのか。たとえば財務省が作成した資料によると、ルクセンブルクの国民負担率は84.6%(2020年)と突出している。ただ、ルクセンブルクは、隣国のフランスやドイツなどから通勤する越境労働者の割合が約半分に上り、これらの労働者の所得は、国民所得に入らない。このため国民負担率の分母が小さくなり、実態より負担率が高くなっているとみられる。
これは例外としても、同資料では、経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国のうち、日本の国民負担率は欧州諸国より低く、米韓などよりは高い22位。一見して負担率が小さい部類のように思える。
しかし、本当にそうなのか。そもそも、国民負担率という用語は日本独特だという。ニッセイ基礎研究所の篠原拓也主席研究員は「諸外国には国民負担率に該当する言葉はない。海外では国民所得ではなく、国内総生産(GDP)比でみた租税や社会保障負担の指標を用いることが一般的だ」と指摘する。
負担は重いのに高福祉は受けられない
国民所得とGDPの違いで大きいのが消費税などの間接税の扱いだ。GDPを基に算出される国民所得は、間接税が省かれるため、間接税率の高い欧州諸国は、国民負担率が高めに出やすい傾向がある。GDP比で負担率をみると、日本と欧州諸国の差は縮まる。
さらに、日本は社会保障などを借金(国債)に依存しており、財政赤字分も加味したGDP比の「潜在的国民負担率」はコロナ禍前の19年度で35.8%と、福祉が充実したスウェーデンの37.1%に迫る。コロナ禍で財政支出が増えた20年度には、日本が上回った。単純比較ではあるが、日本は、スウェーデンほどの高福祉は受けられない一方、同等以上の負担を強いられていることになる。
受益と負担のバランスはどうあるべきか。負担率を下げるには、分子となる税金と社会保険料を減らすか、分母の国民所得を増やすかだ。理想は両方を追求することだろうが、篠原氏は「租税や社会保険料は、高齢者福祉に使わざるを得ない。伸びを抑制するのが精いっぱいで、そうそう削れない」と指摘する。年金や医療、介護などに国が支払う社会保障給付費は22年度で約131兆円。高齢化がさらに進み、25年度には約140兆円、40年度に約190兆円になると政府は試算する。
「負担が重いから成長できない」
経済をもっと活性化して分母を増やす方向を目指すにしても、「日本は長年ずっと経済を発展させようと取り組んできて、なかなか形にならなかった。少子高齢化で労働人口が減る中、リスキリングで既存労働者の生産性と賃金を上げないといけないが、どれも道半ば。これをやったらうまくいくという明確な解決策は見当たらない」と話す。
一方、「日本が経済成長できていないのは国民負担が重すぎることが要因の可能性が高い」と指摘するのは、イトモス研究所の小倉健一所長。国民負担率が1%上昇すれば、成長率が0.3%低下する「負の相関関係」があるとする、日銀の分析を踏まえて、こう訴える。「国民負担が増えて経済成長に良い影響を与えるわけがない。大盤振る舞いのガソリン補助金などバラマキ政策を見直す一方、減税で国民負担を減らせば、長い目で見て経済成長につながっていく」
前出の田中教授は、年金などの社会保険料に、所得の高い人ほど負担割合の少ない「逆進性」があることを問題視する。「国民の負担を議論するならば、逆進性のある保険料負担をどう改めるかを、まず考えるべきだ」と現行の枠組みの見直し、あるべき受益と負担のバランスを議論する必要があると説く。

実は北欧並みの国民負担率だという。では、なぜ日本は北欧並み高福祉社会になっていないのか。われわれが負担したものがどこかに行って目詰まりし、還元されていないとしか考えられない。早急にこの構造を変えるべきだ。今や庶民の負担感は、むしろ旗を掲げる寸前なのだから。
●“脱中国化”進む?日本企業が直面する地政学リスク  2/25
ウクライナ情勢や台湾情勢など、企業を取り巻く世界情勢はいっそう厳しさを増している。それによって、企業が持つ国際的なサプライチェーンは混乱し、サプライチェーンの変革、国内回帰など企業は大きな変化を余儀なくされている。
大手自動車メーカーのホンダは昨年8月、国際的な部品のサプライチェーンを再編し、中国とその他地域のデカップリング(切り離し)を進める方針を示した。マツダも同月、部品の対中依存度を下げると発表した。また、トヨタも昨年5月、上海からの部品調達が滞ったとして、国内の一部の工場の稼働を停止した。
こういった決断を押し進めた直接的な原因はゼロコロナ政策にあろうが、今後、国際政治や安全保障に由来する地政学リスクの動向により、完全な中国撤退は現実論あり得ないものの、日本企業の部分的な脱中国化がいっそう進む可能性がある。ここでは、正に今、日本企業が把握しておくべき地政学的ポイントを2つほど提示したい。
紛争領域としての経済・貿易
国家と国家の対立、紛争というと、どうしても軍事や防衛、安全保障のイメージが先行するが、今日、その認識は正しくない。冷戦後、経済のグローバル化が進み、対立国同士でも経済では密接に相互依存の関係である場合が多い。そして、経済の相互依存によって戦争発生のリスクが抑えられているという認識も決して間違いではなく、そういう意味でロシアによるウクライナ侵攻は今日の世界に衝撃を与えた。言い換えれば、今日、国家間の紛争において当事国は軍事オプションをなるべく避け、その分、経済や貿易という手段で攻撃を加えようと考える。経済の相互依存が進めば進むほど、経済攻撃の有効性は高まる。
周知のとおり、米中という2大国は経済や貿易の領域を主戦場とし、トランプ政権以降の米中貿易摩擦のように、両国間では輸出入の禁止や制限、関税の引き上げなど様々な摩擦が生じている。この背景にも、米中双方に、「軍事的衝突となれば自国の経済が大打撃を受ける、その分、経済や貿易という手段で攻撃を続けるしかない」という思惑がある。今後も、経済や貿易という領域は国家間の主戦場となり続けることは間違いない。
米中関係の行方と日本
今日、多くの企業関係者が米中関係の行方を懸念している。しかし、安全保障上、今後米中関係が良い方向に向かう可能性は限りなくゼロに近く、対立の長期化は避けられない。最近も米国のブリンケン国務長官が訪中すると報じられるなど、米中は今後も対話を重ねるだろうが、その対話は関係を改善させるためというより、高まるリスクを如何に抑えていくかというものだ。
バイデン政権は昨年10月、先端半導体の製造装置や技術などが中国によって軍事転用される恐れを警戒し、対中半導体輸出規制を発表した。そして、バイデン政権は製造装置で世界シェアを持つ日本やオランダに対して今年1月、同規制に加わる要請し、両国はYesの回答を示した。先端半導体はハイテク兵器の開発・生産に必要不可欠で、軍の近代化を目指す中国にとってどうしても獲得しなければならないものだが、軍事バランスが中国優勢になることを避けたい米国は輸出規制を徹底し、友好国や同盟国にさらに厳しい要請をする可能性もある。
ここで日本企業が懸念しなければならないのは、長期化する米中対立の標的になるのは何も半導体だけではなく、他の品目にも影響が及ぶということだ。上述のとおり、今日の米中対立が直接軍事衝突に発展する可能性は低いものの、対立の激化はそのまま経済や貿易の領域で繰り広げられる。今後どの分野で貿易摩擦が激しくなるかは分からないが、農産物や海産物などより、工業製品や工業部品などの分野で発生する可能性が高いだろう。
そして、米中対立との関係で心配されるのが、日中経済関係の冷え込みだ。バイデン政権による対中半導体輸出規制のように、日本は米国の軍事同盟国上、国際政治や安全保障など高度な政治性を有するケースについては米国と歩調を合わせることになるが、そうなれば自然に日中関係は冷え込むことになろう。日米を政治的、経済的に切り離したい中国は、米国と足並みを揃える日本に対しては強い不満を抱いており、対中国で日本が米国と協調すればするほど、中国が日本に対して輸出入規制や関税引き上げなど経済的な制裁措置をとる可能性は高まる。
中国は2021年6月、外国が中国に経済制裁などを発動した際に報復することを可能にする反外国制裁法を施行した。反外国制裁法はその外国による制裁に第三国も加担すればその第三国も制裁対象になると定めている。米中対立が激しくなり、日本が米国と協調姿勢をとれば、日本が反外国制裁法の定める第三国になる可能性がある。
日本企業にとって、中国からの撤退や第三国へのシフト、国内回帰という決断は決して簡単ではない。しかし、国際政治や安全保障を考え、中国を取り巻く世界情勢の不透明や不確実は今後も長期的に続く。安全保障と経営の狭間で難しい問題ではあるが、今日できる範囲内で脱中国を図ることは日本企業にとって重要な選択肢と言えるだろう。
●“ベッドタウン”でも人口減傾向に 長与、時津 一部団地の高齢化が顕著 2/25
県都長崎市に接する西彼長与、時津両町。「平成の大合併」には賛同せず、ともに単独路線を歩んでいる。ベッドタウンとして住宅地を増やし発展してきたが、両町とも人口の伸びはストップ。高度経済成長期ごろに造成された一部の団地では、高齢化も顕著になっている。
両町とも面積は県内自治体で屈指の狭さながら、人口は長与が4万311人、時津が2万9476人(ともに1月末現在)。人口密度は時津、長与が県内1、2位を占める。
両町は財政面も“豊か”だ。財源の余裕度を示す財政力指数は県内で時津が1位、長与が2位。両町内では、区画整理事業による宅地や道路整備のほか、家族向けマンション建設なども進む。長崎市へのアクセスの良さや優れた子育て・教育環境などを掲げ、転入者の受け入れを待つ。
ただそんな両町でも、ここ数年で人口は減少傾向に転じた。特に長与町は、総務省が公表した2022年の日本人の人口移動報告によると、転出超過が428人。県内では長崎、佐世保両市に続き3位だった。町は「分析はこれから」とするが、10代後半から20代の若い世代の町外流出は既に進んでいる。

「独居のお年寄りも増え、買い物に困るという相談もよく受ける」。そうこぼすのは長与町最大の団地、長与ニュータウンの西区自治会長、古谷東明さん(75)。同区の65歳以上の割合(高齢化率)は21年度末現在51・9%で、町内自治会別でもっとも高い。町平均27・8%の倍ほどだ。
長与ニュータウンは1970年代前半に開発され、町外から移り住んできた住民も多い。古谷さんも長崎市内から来た一人で、約40年この地区の推移を見てきた。往時と比べると「子どもたちが減り地域に活気がなくなった」。住む人が居なくなり庭木が生い茂る家も増え「防犯面でも気になる」と不安を口にする。
長与ニュータウン内には現在、大きな商店はなく最寄りのスーパーまでは徒歩約20分。急な坂道が続くため、車を使わない住民は買い物にも苦労する。以前は地元漁協の移動販売もあったが、収益につながらなかったのか撤退した。スーパーの買い物送迎車なども運行しているが「使える回数に限りがあり、これもいつなくなるか分からない」(80代女性)との声も聞かれる。
「活気は取り戻したいがもう昔のようににぎやかになるわけではない。いかに減退させず維持していくかが課題」と古谷さんは語る。自治会としても住民向けの「スマホ講習会」などのほか、春には数年ぶりの花見を予定するなど、活気作りに腐心。高齢化した団地の問題は山積みだが「町にお願いしても実現が難しいことも多い。まずは住民同士できるところから始めたい」と前を見据える。
●“野党”国民民主党のゆく先は 2/25
衆院では予算委員会が来年度予算の審議の大詰めを迎えている。そこで問われるのが“野党”国民民主党の政府予算案への賛否だ。今回は反対する方針を表明したが、昨年の2月21日の衆議院予算委員会での採決当日、党代表・玉木雄一郎は予算案に賛成すると表明。大義はガソリン価格の高騰を抑えるための減税政策「トリガー条項」の解除だった。それを政府が受け入れるならば予算案に賛成するというものだった。
党内では衆院の代表代行・前原誠司と党参議院幹事長・足立信也が本会議を欠席して党に反旗を翻した。参院議員を3期務めた足立は先の参院選挙で落選、国民民主党を離党し4月の統一地方選挙で大分市長選挙を目指しているが、先ごろ自民党が推薦を決定した。結果トリガー条項解除は実現せず、物価高騰対策でお茶を濁された。ガソリンの価格は相変わらず高く、国民民主党のおかげで安くなったと考えている国民は皆無だ。それから1年。野党を装う国民民主党は立憲民主党から秋波を送られる。19日の立憲民主党大会で幹事長・岡田克也は「どうしても言っておきたいのは野党間協力、とりわけ国民民主党です。働く人々を代表する政党は、ひとつで十分じゃないですか」と再合流を訴えた。これは予算案賛成を模索する玉木に対して党内が揺れていることをにらんでの発言だ。
「また自民党の顔色を見て予算案に賛成したら、統一地方選挙で国民民主党は野党としては戦えない。自民党の腹は野党分断だ。それでも玉木や一部の大臣病にかられた幹部が自民党に寄り添うというなら党は分裂する」(国民民主党関係者)との強い危機感があったからで、連合幹部からも岡田にその悲鳴が届いていたからだ。11日の国民民主党大会で幹事長・榛葉賀津也は「国民民主党は野党なのか与党なのか。はっきり言います。野党です」と宣言したが、国民民主党のゆく先は不透明だ。
●本気で少子化対策する気はないんじゃ...? 岸田政権のズレた感覚 2/25
小咄をひとつ。何もかもが値上げラッシュのこのご時世、大手企業で働いている人たちはそれなりにお給金アップなんてこともあると思いますが、ただでさえ貧乏暮らしのライターAさんは、こんなんじゃ干上がっちまうってんで、意を決して得意先の社長キシダさんにギャラアップの交渉をすることに。意外なことにキシダさんはあっさりと「わかりました、そうしたら倍増していきましょう!」と応えてくれ、おおおすごい! 言ってみるもんだ! と一安心。
だが、いやまて。あの社長、社内調整も全然せずに適当なこと言うし、言い方曖昧だから、後になって「誤解を与えるような言い方だった」とか言い出すことめっちゃ多いんだよな……と思っていたら、案の定、社長のスポークスマン的存在の副部長キハラが出てきてこう言いました。「うちの社長は『わりと丁寧に相手の文脈にあわせてお答えになるので』。中には『質問者がどういう相手でも、まったく同じ答弁を繰り返す方もいるじゃないですか。そうすると誤解とか齟齬はないけど』、社長は丁寧に説明するから、ちょっとした言葉の違いでそういう誤解がでてきちゃうんですよ」。長い前振りの末、キハラはさらにこう続けます。「いや、社長は「倍増にしていきましょう」って言っただけで、いつまでにとはいってないんですよ。まあじゃあいつまでに? って聞かれたら答えられないんですけど。もし“あなたが書く原稿の数”が倍増すれば、すぐにギャラは倍増できますよ」。
Aさんはこうした理屈がまったく通らない、説得力のかけらもないことを言う人を、通常は「アホ」と表現しています。でも今回は「表現としてちょっと強すぎるかな」と感じていつもは使用をはばかる「バ〇」という言葉を使っていいんじゃないか。というか、さも「私が言ってることはまっとうですから」みたいな表情で、いけしゃあしゃあとタワゴト抜かすキハラを、今こそ「あんたバ〇なの?」と罵るべき時じゃないか。そんな葛藤の中で、はたと思い至ります。キハラが(そしてキシダが)、最初っから「倍増する気なんてサラサラなかったんだ」ということに。
国会とか内閣官房とか政権とか与党の中の理屈は、まったくもって完全に時空と常識が歪んでいる、一般社会じゃありえないことをお伝えしたいばかりに、一般社会のギャラ交渉風に書いていました。ええそうです、これはカタカナの名前(そのまんまですが)を漢字に、「ギャラ」を「子ども予算」に、「あなたが書く原稿の数」を「出生率」に変えれば、そのまんまこの1週間で起きたこと(衆議院予算委員会→2月21日の報道番組)の再現です。ちなみに『』内の発言は、木原官房副長官が出演した報道番組からの文字起こしです。「同じ答弁繰り返す」ってのは河野太郎さんのことでしょうか。「岸田さんは河野さんより誠実」と言いたいのかもしれませんが、相手の文脈に合わせて適当なこと言う政治家(それも首相)も、誠実どころかそうとうアレだと気づいてほしいものです。
さてそんな中で今回の「キング・オブ・たわごと」は、木原さんの「出生率がV字回復したら、子供予算は早く倍増する」というものです。ここにこれまでなぜかマスコミが全然突っ込まない事実が集約されていると思うのですが、結局のところ政府が言う「少子化対策」は、すでに子供を育てている人に向けた「子育て支援」でしかないということです。働き方改革(おそらく男性の育休取得と子育てへの参加を促すもの)とばら撒き式の子育て支援だけすれば、出生率が異次元的に「V字回復」すると思ってるような口ぶりには開いた口がふさがりません。
そもそも、たとえ今の出生率がかろうじてやや上向きになったとしても、問題は全くもって解決しないとわかっているのでしょうか。というのも出生率(合計特殊出生率)というのは、出産年齢の女性(15歳〜49歳)を対象に「一人の女性が生涯で産む子供の人数」を示す統計学上の指標ですが、出生数自体が70年代からずーっと減り続けている、つまり出産年齢の女性の数が減っていってるわけで、出産年齢の女性全員が2人ずつ(男性=人口の半分は出産ができないので)産むくらいでようやく人口は横ばい。出生率はこれで「V字回復」でしょうが、人口減少は女性全員が3人とか4人ずつ産まない限りは「V字回復」なんてしません。つまり何が言いたいかというと、日本の現状では「いろいろ考えたら二人目は無理(既婚)」という人だけでなく、「産みたいけど、いろいろ考えたら無理」とか「産む気ぜんぜんナシ」と考えている人が「産みたい」「産める」「産んでもいい」と思い、実際に産む社会にしなければ、少子化対策にならないということです。
じゃあ「産むのは無理&産む気なし」と考える女性たちはどんな状況にいる人なのか。おそらくキーワードは「未婚/非婚」と「仕事優先」です。「未婚/非婚」で子供を産まない理由で大きいものは、「金銭的余裕がない」「婚外出産、婚外子への法律上の差別」「婚外出産、婚外子への社会的な偏見」、だけど「相手がいない」もしくは「(性別的役割分担や夫婦同姓などを強いられる)結婚に魅力を感じない」といったところでしょうか。「仕事優先」な人が子供を産まない理由は、「キャリアの断絶」「周囲の協力が得にくい」「(結婚や子育てにおける)性別的役割分担がイヤ」「経済的自立が困難になる」といったあたりでしょうか。もちろんこれらの問題は、ある部分では「二人目は無理」と言う人にも共通しているように思います。もはやお気づきの方も多いと思いますが、その根本に横たわっているのは、父権主義的社会の価値観、家族観。つまるところ性差別に起因する不安です。
こうした女性の主張を、特に政治を動かしている世代の男性たち、「壺」を含む宗教関連の支持母体を持つ政治家たちは「女がわがまま言いやがって」と思うんでしょう。「女が自分勝手」とか「女は社会のために子供を産むべき」とか「女の社会進出が悪い」とか言うんでしょう。あまりにミミタコで最近では反抗するのもアホらしい。でも言っておきますが、そうやって言えばいうほど、そこにある差別をかぎ取った女性たちは出産からも、さらには結婚からも遠のいていくばかりです。「結婚」という枠組みの中では、妊娠・出産・中絶にまつわる決定権(昨今言われるリプロダクティブ・ヘルス&ライツ)を奪われかねないからです。
出産と子育ては「お金で支援するよ!」「オッケー!じゃあ産むぜ!」と安請け合いできるものではないし、その問題に取り組んですぐに「V字回復」するような類のものではありません。本当に、本気で、少子化対策に本腰を入れるなら、そうした女性たちが安心して出産にできるよう、今の社会を激変させるしかありません。これこそ政治にしかなしえないこと。社会が変わってしまう、とか言ってる場合じゃありません。
●野党の国会対応 踏み込んだ共闘態勢必要だ 2/25
立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の野党3党が今月、それぞれ党大会を開いた。
各党が統一地方選をにらみ党勢拡大を訴えたのは当然だが、「多弱」のままでは、政府、与党の独善的な政策決定を許しかねない。野党は主張を異にしても国会審議の徹底を図るため、共闘に重きを置くべきだ。
立民は党大会で採択した2023年度活動計画で、昨年の臨時国会を振り返り、成果として世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済法の成立を挙げた。
政府に先立ち法案を共同提出した立民と維新が主導した結果だとし、今後も「『政策別連携』を深化させ、国民のための国会を目指す」と明記した。
活動計画が「共闘」でなく「連携」と表記したのは、野党同士も競う統一地方選や衆院補欠選挙を控えた立民内の抵抗感に配慮したためかもしれない。ただ、国会軽視の傾向が見える岸田政権に対(たい)峙(じ)するには、より踏み込んだ共闘が必要だろう。
岸田政権は、前国会閉会後、国民の命と暮らしに関わる安全保障や原子力政策の転換を相次いで打ち出した。
今の通常国会で論戦のテーマになったが、専守防衛政策からの逸脱が懸念される反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を巡る質疑では、岸田首相らが「手の内は明かせない」との答弁を連発。原発の運転期間の延長や新増設についても、東京電力福島第1原発事故で悲惨な経験をした国民が納得する説明をしているとは思えない。
首相が最重要課題に据える少子化対策の予算規模に関する答弁は、官邸が翌日に修正して済まそうとしている。
野党第1党とはいえ、立民の衆院議席数は自民の4割弱。野党各党の合計でも自民を下回る。その上、安保など重要政策で足並みはそろっていない。首相らに真摯な対応が欠けるのは、迫力不足の野党の状況を見透かしているからではないか。
一方、安保や憲法改正では自民と考え方が近い維新の馬場伸幸代表は党大会で、「是々非々主義」の政党であることを改めて強調した。正論に聞こえるが、立民同様に政権交代を目指す以上、まずは野党共闘を先行させるべきだ。その観点で言うと、児童手当の所得制限を撤廃する児童手当法改正案を立民と今国会に共同提出したのは評価したい。
残念なのは、立民と維新の枠組みに国民民主が入っていないことだ。党大会でも確認した「対決より解決」の路線は、野党より与党との協議を優先させるということか。そうであっても、丁寧な国会審議への責務はあるはずだ。
●野党の責任 多様な声、政治に反映を 2/25
統一地方選は、先発の島根、鳥取など9道府県知事選の告示まで1カ月を切った。4月下旬まで続き、全国でそれぞれの地域課題の論戦が繰り広げられる。その間、山口2区、4区など四つの衆院補選もある。
折しも政府・与党が敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費倍増、原発推進など、政策の大転換を相次ぎ決定した。国民の命と暮らしは無論、自治体に影響が大きい。それなのに国会審議を十分に尽くさないままに進めている。今こそ、野党の存在感が問われる局面である。
10月に衆院議員の任期折り返しを控え、解散・総選挙を見据えた闘いになる。野党は党大会などで宣言した通り、党勢拡大に向け地方での基盤の強化にまず注力したい。その上で、有権者の多様な声をしっかりと政策づくりに反映させてほしい。
統一選に向けて、野党第1党の立憲民主党は若手や女性議員を増やすと掲げた。昨年の参院選で最も議席を伸ばした日本維新の会は地方議員を現在の1・5倍にし、全国政党への足掛かりとしたい考えだ。野党で最多の地方議員2500人超を擁する共産党は上積みを期す。北海道知事選など首長選での与野党対決もある。
維新が地盤とする関西を除けば、地方の多くで数に勝る自民党系議員が主導する政治が長年続いている。東京一極集中や少子化を背景にした人口減少に対し、自公政権の手だてが追いついているとは言えまい。物価高や電気料金高騰で暮らしは打撃を受け、地方経済は疲弊している。政治と世論のずれを問う役割を果たしてもらいたい。
昨年12月の茨城県議選は自民党現職10人が落選した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や閣僚の更迭で、有権者に政治不信が高まった結果だろう。元法相夫妻による大規模買収事件のあった広島では「政治とカネ」問題が争点になる。各地でジェンダーや性的少数者を巡る差別的な発言も絶えない。
通常国会の審議を振り返ると首相の答弁は本質論を避ける傾向にあり、安易に修正もする。少子化対策では「家族関係社会支出を将来的に国内総生産(GDP)比2%から倍増を目指す」と衆院予算委員会で述べたが、翌日には「倍増の基準として言及したわけではない」と官邸が釈明した。「1強多弱」が政権の国会軽視を招いている。
ならば野党は国会審議での共闘を徹底するべきだ。昨年の臨時国会では、旧統一教会問題で立民と維新が政府に先立って被害者救済法案を共同提出。消極的な首相を動かし、会期内に成立させた。今国会でも煮え切らない少子化対策を前進させるため、児童手当の所得制限を撤廃する法案を共同提出した。実績を重ね、国民目線を重んじる審議へと変えていく必要がある。
きのう国民民主党が2023年度政府予算案に反対する方針を決めたのは、共闘の追い風になる。22年度は異例の賛成に回ったが、賃上げや子育て支援策の不十分さが理由という。共闘は主義主張の違う「野合」との批判もあるが、政治に緊張を取り戻し、政策論争を活性化するという意味は大きい。
現政権を厳しくチェックし、有権者に有効な選択肢を示すのは、何より野党の責任である。覚悟を見せてほしい。
●萩生田氏の「お風呂やトイレを新しく」少子化対策めぐる発言に批判殺到 2/25
自民党・萩生田光一政調会長の少子化対策をめぐる発言に批判が殺到している。2月23日にさいたま市で開かれた自民党の会合(自民党埼玉県連の統一地方選挙出陣式)で、萩生田氏は「児童手当の所得制限撤廃よりも、新婚世帯への住居支援が必要だ」との考えを示した。
会合で挨拶した萩生田氏は、新婚世代に全国の公営住宅の空き家を貸し出しやすくする制度を提案し、「明日からでも(公営住宅の空き家)20万戸を新しい家庭の皆さんに提供することもできる」と主張した。さらに「1500億円あるんだったら、そのときに(公営住宅の)畳やお風呂やトイレを新しくしてあげたいな」と続けた。
1500億円というのは、児童手当の所得制限を撤廃する場合に必要とされている追加の財源の金額だ。別途検討されている、支給対象年齢を18歳まで引き上げとなるとさらに財源がかかる。ネット上では、萩生田氏の発言の“新婚世帯への住居支援”という部分については〈経済的不安を抱える夫婦には多少なりとも効果があるかもしれない〉と理解を示す声があるものの、「1500億円あるんだったら、畳やお風呂やトイレを新しくしてあげたい」発言には非難轟々だ。
〈(岸田総理が掲げた)異次元の少子化対策とは程遠い〉
〈畳やお風呂やトイレが新しくなったところで、少子化対策になるとは思えない〉
〈昭和建築の団地に住みたくない人だっているだろうし、そもそも公営住宅がない地域の人ははなから対象外〉
〈公営住宅が古いなら、普通に予算かけて新しくしなさいよ〉
〈素直に所得制限を撤廃しろ〉
現金給付では特定の業界を優遇できない!?
こうした厳しい批判が噴出しており、〈リフォーム業者を挟んで中抜きする気か?〉と疑う声まで寄せられている。
なかには、〈お肉券を思い出した〉という声もあった。2020年春、新型コロナウイルス感染拡大の経済対策として、「お肉券」や「お魚券」といった商品券を発行する構想が自民党農林部会や水産部会から打ち出され、やはり〈素直に金を配れ〉と批判が続出。日本維新の会・松井一郎氏(当時、大阪市長)も「特定の業界が良い思いをするだけだ」と指摘していた。
こういった事例が続き、“自民党は現金給付を嫌う”のような印象を抱いている国民も少なくなさそうだ。なぜ自民党は現金を配りたがらないのか。菅直人元首相は、「子ども手当と高校教育無償化・・・なぜ『バラマキ』が必要か」と題したコラムの中で、〈自民党が「バラマキ」を嫌う理由〉として〈既得権を失いたくない〉と推察している。
〈自民党の政治家にとっての権力の源泉とは「公的な支出の対象を選択する」ことです。平たく言えば「あなたには私の裁量で給付金が出ることになりました」と言うことです。それが票や献金につながるというわけです。
しかし「子ども手当」のように、全員に一律に給付を行うと、政治や行政は誰も「特別扱い」することができなくなります。税金を誰にどれだけ配るかという裁量権が小さくなるわけです。これは、彼らにとっては面白くないことなのです〉(「子ども手当と高校教育無償化・・・なぜ『バラマキ』が必要か」より)
ただし、自民党が現金給付を“忌避”する理由の一つには「現金の給付は消費でなく貯蓄に回ってしまい、景気の浮揚効果が少ない」という考え方もある。
お肉券やお魚券ではなく結局現金で実施された2020年の定額給付金だが、当時の財務大臣だった麻生太郎氏はその後10月の講演で「(個人の)現金がなくなって大変だというのでこの夏、1人10万(円給付)というのがコロナ対策の一環としてなされた」と説明。しかし、給付金の効果について「当然、貯金が減るのかと思ったらとんでもない。その分だけ貯金が増えました」と主張している。
また、児童手当の所得制限については報道各社の世論調査では「撤廃すべき」と回答した人が「撤廃しなくてよい」と回答した人を上回っているという結果もある。
なんにせよ、今回の萩生田氏の発言に批判が殺到しているのは事実。子育て世代への給付は一時的に貯蓄に回ったとしてもゆくゆくは教育費などで取り崩されていくもの。元々「高齢者の医療費を子育て支援に回して」という声は多いし、現金給付で子育てを支えていくという政府の気概こそ安心して子どもを産み育むことにつながるという声は多いのである。  
●コロナ禍で医療体制に莫大な予算が投じられる一方、「別の命」失われ続けた 2/25
新型コロナをめぐるニュースには、その扱いに明らかな格差がある。日本で2020年2月に集団感染が確認された大型客船ダイヤモンド・プリンセス号をめぐるニュースは、今年で3年という節目もあり新聞やテレビで大きく報じられた。
さらに今春には新型コロナの感染症法の分類は2類相当から、季節性インフルエンザと同じ5類へと変わることが既定路線となった(編集部注:1月27日、政府は5月8日から5類へ移行する方針を正式決定)。5類移行をめぐって、SNSやインターネットで盛んに医師らが意見を発信したことも再び注目された。どうすれば現場が、インフルエンザと同様の医療体制を構築できるかを実務的に考えるフェーズに移っていると言える。
だが医療関係者で目立ったのは「どうせ、感染状況は悪化する」と言わんばかりのネガティブな反応だった。考えは人それぞれだが、重要なのは現行の体制下では医療現場に巨額の補助金が投じられ続けているという事実だ。これは医療関係者の声がメディアにも、政治にも届いてきたことの証左である。
その裏で昨年、さしたる注目も集めないままひっそりと流れていったニュースがあった。政府が取りまとめた「自殺対策白書」で明らかになったのは、働く女性の自殺がコロナ禍以前の5年間の平均に比べて約3割増えたことだ。
「職を持つ女性の自殺者は、コロナ禍前の過去5年平均(1320人)比で28%増えていたことが判明した。年代別では20歳代が64%増、50歳代で28%増えていた」(昨年10月14日付)という。
財政緊縮は死者を増やす
この増加の一因になっているのは、明らかに新型コロナ対策の余波である。人の移動や接触を前提とする産業はひどく打撃を受けた。その結果、経済苦から命を絶つという選択をする人が増えたことは想像に難くない。
公衆衛生、疫学の専門家が経済政策と人の健康について分析した『経済政策で人は死ぬか? 公衆衛生学から見た不況対策』(草思社)などを引けば明らかである。本書の著者、デビッド・スタックラー(公衆衛生の専門家)、サンジェイ・バス(医師、疫学者)の結論は極めてシンプルだ。それは経済政策の失敗もまた人の命に直結するということだ。
特に、不況下で財政緊縮策を取った場合、財政刺激策を取るよりも死者が増大する。自殺のリスクも当然ながら高まる。それだけではない。スタックラーらの分析では、失業そのものだけでなく、失業への不安、家を失いそうになる不安があるだけで健康に影響を及ぼす。自粛と補償をセットにするだけでは、経済活動そのものが停滞することに不安を抱える層は常に残り続けるのだ。
医療にはある程度の補助金が投じられたが、他の産業はどうだったか。もっと経済活動の再開を促し、強い景気の刺激策を講じることで不安は軽減できたはずだが、その動きは弱いままだった。問われなければいけないのは、なぜ彼女たちのSOSは社会に届かなかったのか、である。
彼女たちはインフルエンサーでもなければ、社会的な地位も、政治活動をする圧力団体も持っていない。政治の想像力は、声なき現場にこそ向けられなければいけない。そう強く思うのだ。
●「岸田降ろし」機運なく 消極支持背景に安定飛行 2/25
4月の統一地方選や衆参の補欠選挙を前に岸田文雄内閣の支持率は伸び悩んでいるが、25日の自民党全国幹事長会議が不満の声で大荒れになることはなかった。一因となっているのが安定した党内政局だ。「ポスト岸田」候補は現れず、逆に首相は有力者に配慮を重ねて取り込んでいる。首相への消極的支持が政権の低空安定飛行につながっている。
茂木、麻生両氏に配慮
「次の世代に希望あふれる明るい日本を引き継いでいくためには安定政権の維持、強化が不可欠だ」
茂木敏充幹事長は25日、党青年局、女性局などの合同会議でこう述べ、同席した首相が看板政策に掲げる少子化対策や経済再生に注力する考えを示した。
政調会長や外相を歴任した茂木氏は有力なポスト岸田候補だが、今は麻生太郎副総裁とともに首相を支える姿勢を鮮明にする。
「あと何日か待ってください。必ず2人には最初に伝えます」
8日夜、東京・四谷の日本料理店。首相は夕食をともにした茂木、麻生両氏に、日銀総裁人事についてこう伝えた。意中の元日銀審議委員、植田和男氏の名前こそ明かさなかったが、党運営の中枢を担う2人に配慮した形だ。
首相は党内第5派閥の岸田派(宏池会、43人)のトップに過ぎない。それぞれ54人を擁する麻生派(志公会)、茂木派(平成研究会)を率いる麻生、茂木両氏との連携は政権の安定に不可欠といえる。茂木氏は麻生氏と良好な関係を築き、支持者には「いずれかのタイミングで期待に応える」と頂点への意欲を隠さない。
ただ、茂木氏が政権を支える幹事長職にとどまる限り、総裁選に挑戦して首相に弓を引くことは難しい。焦点の一つとなるのが9月までに行われる党役員人事だ。茂木派議員は「首相が幹事長続投を打診するのか。打診されたとして茂木氏が受けるのか」と語る。
知名度も課題だ。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の1月の合同世論調査で「次の首相にふさわしい人」を尋ねたところ、河野太郎デジタル相が19・7%でトップだったのに対し、茂木氏は1・1%だった。ある自民議員は「茂木氏の能力に疑問の余地はないが、選挙の顔としては…」と言いよどむ。
一長一短
その河野氏も不安要素が多い。突破力や発信力に定評があるが、令和3年の総裁選では国会議員票が伸びず首相に敗れ、仲間づくりが課題となっている。総裁選で河野氏を支えた菅義偉前首相は、最近は河野氏らと共闘するそぶりを見せず、党内の非主流派がまとまる気配もない。
首相は昨年8月の内閣改造で河野氏を入閣させ活躍の場を与えた。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済法制定を主導するなど、河野氏が首相を救うような場面も目立つ。
党最大派閥の安倍派(清和政策研究会、96人)では、「安倍派との交渉窓口」(首相周辺)として重用される萩生田光一政調会長に注目が集まっている。
ポスト岸田を目指す上で関門となるのは、安倍晋三元首相の死去後、空席となっている安倍派の後継会長問題だ。最近の萩生田氏は「私で役に立つことがあるなら、どういう立場でも頑張るつもりだ」と新会長への意欲を否定しない。ただ、昨年の臨時国会では旧統一教会との関係を追及され「猛省」(萩生田氏)を口にする場面もあった。
茂木氏と河野氏、萩生田氏はいずれも一長一短で「岸田降ろし」の機運はない。党内には「政局で体力を削るよりも、手堅い首相に頑張ってもらうのが一番いい」との声も多い。

 

●秋篠宮殿下の「身の丈にあった大嘗祭」の真意 2/26
2月23日、天皇陛下が即位後に初めての誕生日の一般参賀が行われた。前日の記者会見では「皇室のSNS」についても、適切なタイミングでお知らせすることも大事、といった考えを示されたが、秋篠宮殿下も昨年に皇室の情報発信について話されており、時代に合った皇室情報の発信に注目が集まっている。
皇族にも言論の自由はある。振り返れば、平成29年から始まった秋篠宮家にまつわる報道の数々。歴史学者の倉山満氏が、秋篠宮家へのバッシングが強まった経緯を紐解き、殿下の真意を解説します。
秋篠宮家バッシングの本質を探ってみる
秋篠宮家に対する世間のバッシングは、小室圭さんと眞子さんの結婚問題で生じたと一般的には思われていますが、これは誤った認識です。
眞子内親王殿下(当時)のいわゆる横浜デートが雑誌『週刊女性』の平成28年11月1日号で報じられ、NHKがスクープとして「眞子さま、婚約へ」とまずは速報テロップで報じたのが平成29年5月16日、同年9月3日に婚約内定会見が行われ、日本中が祝福ムードに包まれました。眞子内親王のご結婚、そしてそのフィアンセへの歓迎ぶりは当時、“小室フィーバー”などと称されました。
雲行きが怪しくなってきたのは、同年12月26日号の『週刊女性』で「眞子さま嫁ぎ先の“義母”が抱える400万円超の“借金トラブル”」とタイトルされた記事が報じられてからのことで、平成30年2月6日に宮内庁が結婚延期を発表し、同年8月7日、小室圭さんはアメリカのフォーダム大学へ留学するためにニューヨークに居を移します。とはいえ、この時点ではまだロイヤルウェディングにまつわるスキャンダルの一つでした。
これが厳しいバッシングに変わるきっかけは、平成30年11月30日に公表された秋篠宮殿下の53歳の誕生日記者会見でした(記者会見自体は11月22日に収録)。秋篠宮家バッシングの理由の本質は、この記者会見にあります。
記者会見において、次の質疑応答がありました。宮内庁ウェブサイト「文仁親王殿下お誕生日に際し(平成30年)」にアーカイブされています。
要点は、以下の通りです。
大嘗祭(だいじょうさい)は宗教色が強いので、国費で行うのは適切かどうかという疑問を呈したうえで、憲法の政教分離とも考えると内廷会計で行われるべきではなかったかと述べられていること。大嘗祭自体は絶対にすべきものという前提で、身の丈にあった儀式にすればと言ったけれども、宮内庁長官が聞く耳を持たなかったと述べられていることです。
当時の宮内庁長官は山本信一郎氏で、山本長官は「大嘗祭はさまざまな議論を経て内廷費ではなく、宮廷費を充てることが決まったと、秋篠宮さまには説明してきた。つらいが、聞く耳を持たないと受け止められたのであれば申し訳ない」と述べ、同庁の西村泰彦次長は定例会見で「しっかりした返答をしなかったことへの宮内庁に対するご叱責と受け止めている」との見解を示しました。
ずいぶん殊勝な態度ですが、誠が伝わってきません。これは私の主観ですが。
この秋篠宮殿下のご発言があって、秋篠宮家バッシングが本格化します。女性週刊誌が御結婚問題で叩き始めたのは影響が大きく、Yahooニュースのコメント欄を筆頭にバッシングが連続して今に至る流れができました。
秋篠宮殿下の発言を正確に読み取ることができている人は、ほとんどいませんでした。
「身の丈にあったところで行おう」という発言だった
天皇の行為は、国事行為・公的行為・私的行為の3つに分けて考えられています。国事行為は日本国憲法第七条に明らかにされていますが、第七条に書かれたもの以外の公人としての行為が公的行為です。その他はすべて私的行為で、つまり皇室伝統の儀式は、たとえば趣味で皇居の中をドライブすることと同じ、私的行為となります。生物の研究も大嘗祭も、私的行為の中に入ってしまう法体系となっています。
秋篠宮殿下がおっしゃった「宗教行事と憲法との関係はどうなのかというときに、それは、私はやはり内廷会計で行うべきだと思っています」というのは、政府の関与から宮中行事を守るための発言です。
国の行事ということであれば、何十億というお金が政府から出るわけですが、その代わりに政教分離の原則に従って指図を受けることになります。昭和64年に昭和天皇の崩御があり、同年(平成元年)2月24日に葬儀が営まれました。午前中は皇室の私的行事として葬場殿の儀が行われました。このときは鳥居をはじめ、神具が備えられています。
午後は、国家儀礼である大喪の礼となります。国家儀礼ですので、憲法二十条の政教分離原則に従わねばならないということになります。神具は取り払われます。鳥居も最初から車輪を付けており、取り払われました。世にも恥ずかしい「移動式鳥居」です。移動式鳥居は衆人環視の下で登場しました。政府に任せておけば、こういう世にも恥ずかしいことをやらされるのです。
大嘗祭で何が起きたか知りえませんが、容易に想像できます。
秋篠宮殿下は、内廷費という皇室のポケットマネーでつつましやかにやればいい、その方法は自分で研究している、とおっしゃられたわけです。
これに対し、いついかなるときも保守業界の、時の権力者の意向に歩調を合わせる、保守のなかでも知識と情報に著しく欠けて、思いだけが極端に強い方々は「大嘗祭という皇室にとって、ものすごく大事なことをつつましくやろうなどと言う秋篠宮は、皇室のなんたるかをわかっているのか」などと叩きまくりました。
「国の予算と公的行事のあり方に異議を唱える極めて政治的発言、政府の決定に記者会見という公の場で異論を唱えたことは不適切」などと盛んに批判されました。彼らはいったい何様のつもりでしょうか。
皇族には言論の自由がある、ということをまず理解したほうがいいでしょう。公開の場では自己抑制するけれども、よくよく考えたうえでのことを絶対に言ってはならないかというと、それを否定する法はどこにもありません。
そもそも大嘗祭は、農作物の豊穣を祈る、最も重視される祭祀の一つです。神道の儀式によって行われるので当然、宗教色が強くなります。平成への御世代わりのときには、国家としても大事な儀式であるという理屈で国費が投じられました。20億円強が投じられたそうです。内廷費という皇室の予算は3億円ぐらいですから、国費で賄ってもらったほうが助かる関係者は多いわけです。
だからこそ、もう身の丈にあったところで行おう、というのが秋篠宮殿下の発言だったわけです。
●「少子化は恋愛力の低下?」恋愛力を高めても、むしろ出生率は下がる 2/26
恋愛力の低下などない
昨日、ツイッターのトレンドに突如として「恋愛力の低下」という言葉が登場した。その元になったのは、”少子化の要因は「恋愛力の低下」”という見出しの毎日新聞の記事である。以下、引用する。
24日に開かれた三重県議会一般質問で、県が2023年度当初予算案で少子化対策として掲げる「結婚支援」を巡り、自民会派の石田成生議員(四日市市選出)が「結婚を望む人が少なくなった原因は恋愛力が落ちてきているからではないか」と持論を展開し、県に「恋愛力」という視点からの調査・検証を求めた。
しかし、そもそも、「恋愛力の低下」などはこの日本において存在などしていない。「最近の若者は草食化」や「若者の恋愛離れ」と同様、エビデンスに基づかない思い込みによる完全なる間違いなのである。より正確にいえば、「そもそも低下といえるほどもともと日本人の恋愛力は高くない」のだ。
恋愛強者は3割だけ
私は、常々「恋愛強者3割の法則」と言っているが、恋愛強者はせいぜい3割程度のもので、残りの7割は恋愛弱者である(中間層4割、最弱者層3割)。少なくとも、出生動向基本調査において、統計の残る1982年からの「恋人がいる割合」の長期推移を見ても、大きくみれば男女とも大体3割前後でしかない。
よくメディアが「若者の恋愛離れ」と言いたいがために、切り取り報道する場合がある。その際には、もっとも割合の高かった2000-2005年を始点としたグラフを使用している。そこから見れば、右肩下がりに見えるが、もっと引いてみれば、40年前の水準に戻っただけの話でしかない。
以前も、「デート未経験が4割」という、俯瞰的視点を欠いた切り取り報道の間違いを指摘している。
思い出してほしいのは、1980年代は日本中が恋愛至上主義に浮かれていた時代である。クリスマスデート文化が生まれたのもこの頃であり、恋愛物のトレンディドラマが流行り、ホイチョイ・プロダクションの「私をスキーに連れてって」の時代設定もこの時代だ。今、20代前半の若者の母親世代が麻布十番のディスコ「マハラジャ」のお立ち台で踊っていた時代でもある。
そんな恋愛至上主義時代の若者も2021年の若者も、恋人がいる割合がほぼ変わらない。それがファクトである。
皆婚実現できたのは環境のおかげ
これも繰り返し言い続けてきているので、本人的にも読者的にも飽きがきているかもしれないが、まだ浸透していない層も多いのでご容赦いただきたいのだが、1980年代まで日本が皆婚だったのは、決してその頃までの若者に恋愛力があったからではない。お見合いや職場結婚という社会的な結婚のお膳立てシステムによるものであり、だからこそ7割の恋愛弱者もなんだかんだ結婚相手を見つけることができたのだ。
昨今、婚姻数が激減しているというが、減った分とは「お見合いと職場結婚の減少数」と完全に一致するのであり、いわばお膳立てなき後の恋愛弱者の成れの果てにすぎない。
現在還暦あたりのおじさんが「俺の若い頃はモテたもんだ」などというのは大体大嘘で、今の若者とかわらず「彼女、できねえかなあ」などとぼやいていたに違いない。そうしたおじさんが結婚できたのは、決して彼の恋愛力ではなく、環境のおかげである。
その環境には、結婚のお膳立てシステムに加えて、当時は「未来は明るい」という経済的希望もあった。
恋愛力をあげても出生率はあがらない
少子化は婚姻減なのだから、こういう視点で若者の結婚支援をしようとする考えには賛同する。それは課題抽出としては間違っていない。しかし、結婚数や出生数を増やすことと、若者の恋愛力を高めることとは必ずしも相関しないのである。
前掲した1982年からの「恋人がいる割合」と合計特殊出生率との相関をみると、男で0.4812、女では0.6297という負の相関がある。特に、女性では「恋愛力が高まれば高まるほど出生率は下がる」という強い負の相関すら見られる。
ちなみに、「恋愛即出生にはならない」というご指摘もあるだろう。
恋愛中のカップルが結婚に至るまで平均4年の交際期間を経るというデータもある。出産までプラス1年として、対比する出生率を5年ずらしにしてみたところで、むしろ女性の相関係数は0.8081となり、より限りなく1に近づく強い相関となることを追記しておく。
要するに、恋愛力などいくら高めたところで出生率はあがらないのである。
できないことはできない
そもそも、よくある詐欺的な恋愛セミナーでもあるまいし、恋愛力を高めるなんてこと自体が土台無理な話なのである。人にはそれぞれ向き不向きがある。どんなに練習したからといって、100mを誰もが10秒台で走れるようにはならない。
少子化対策に関しても「できもしないことをさもできるかのように誤認させて」煽る政治家もいるが、それと同じだ。
「できもしないことを頑張ればできるようになる」というのは一見ポジティブな言葉に見えるが、それは「頑張ってもできないのはお前の問題だから」という自己責任化に帰結するだけである。政治家としては都合がいいかもしれないが、それでは結局何も変わらない。
勉強や筋トレと違って、頑張ったところで恋愛力などあがらない。上手なLINEの返し方とか、デートの場所の選び方とか、そんなものは恋愛力ではない。そんなものを知識として習得すればモテるのであれば、1980年代以降の恋愛弱者男たちが「ホットドッグプレス」などを愛読したりしない。そして、そのことごとくが、そこに書かれていたマニュアル通りのデートをした上でフラれている。
政治がやることはそこじゃない
恋愛力などは、どうでもいいのだ。そんなものは、3割の恋愛強者に任せておけばよいのである。政治が口出しする話ではない。
大事なのは、恋愛できない人間は、恋愛力云々の前に自分に自信を持てないという点を見ることだ。自信がないから、失敗する未来を想像してしまいがち。勝手に想像した失敗の未来を避けるためにそもそも行動をしない。行動しないから何も現実は変わらない、変わらない未来に希望も持てないという悪循環に陥る。
では、若者が自信も持てない、未来に希望も持てないのはなぜか?
そこを政治は考えてもらいたいのだ。
恋愛以前の問題なのである。若者が置かれているのは、そんな浮わついた感情以前の過酷な現実の環境なのだ。20代の半数以上が可処分所得で300万に達しない社会とは、どんな貧困国家なのだろう。
恋愛に関しても、別に昭和のお膳立てに戻れと言いたいのではないし、そんなことは無理である。しかし、だからこそ、今大人たちが若者に用意してあげられる「令和のお膳立て」とは何か?を真剣に考えていってほしいものである。
「俺が若い時にはな…」の話も、的外れな思い付きはもういいから。
●現代の「五公五民」 2/26
五公五民という単語がトレンド入りしたと話題になっています。
五公五民とは、教科書で習っているでしょうからご記憶の方は多いと思いますが、江戸時代の年貢収取率を表現した言葉です。全収穫量の 50%を領主が取り、残り 50%が農民の手元に残される場合を五公五民と呼びます。
なぜ五公五民というワードがトレンド入りしたかと言えば、財務省が2022年度の「国民負担率」が47.5%と所得の半分近くを占める見込みだと発表したからです。
この発表を受けて、Twitter等では江戸時代等の農民にとって3割をお上に召し上げられる「三公七民」でも生活はカツカツで、4割の「四公六民」や5割の「五公五民」となると一揆が起きていたと指摘され、話題となりました。
今回は、国民負担率とは何か、そしてこの五公五民の状態は諸外国と比べて過大な負担なのか等について確認していきたいと思います。
国民負担率とは
「国民負担率」は、租税負担及び社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率です(財務省Webサイト)。
言い方を換えると、「国民負担率」とは、個人や企業の所得といった「国民所得」に対する税負担と社会保険料負担の割合を指しています。税負担には、所得税・住民税・法人税・法人住民税・消費税・固定資産税等が含まれ、社会保険料負担には、年金や健康保険、介護保険等の保険料が含まれます。
尚、国民所得の定義は、「ある国の労働者と企業が生産活動に参加したことによって一定期間(四半期、1年など)に受け取った所得の総額を示すもの。賃金総額(雇用者報酬)、企業の利益(営業余剰・混合所得)の合計額」(日本大百科全書)です。
国民負担率の計算式は「(税負担+社会保険料負担)÷国民所得」となっています。国民負担率が上昇しているならば、「税負担+社会保険料負担」が増加しているか、国民所得が減少していることが原因と考えられます。
国民負担率の推移
では、この国民負担率はどのようになっているのでしょうか。以下は財務省が公表している長期的な国民負担率の推移です。
尚、財政赤字を含む国民負担率が掲載されています。この理由は、政府が国債発行の増加を通じて財源を調達すれば、その時点での国民負担とはみなされず、見かけ上の国民負担率を低く抑えることが可能になっているからです。ご承知の通り、日本は財政赤字ですので、世代間の公平の考え方に鑑み、国民負担率に財政赤字対国民所得比を加算した「潜在的国民負担率」も併記する形で用いられることが多いのです。
このグラフを見れば分かるように、日本の「国民負担率」は、20年前の2002年度は35%でしたが、高齢化に伴う社会保険料の負担増加等で2013年度以降は40%を超えています。当該グラフの左端にある昭和50年(1975年)は25.7%です。国民負担率がどんどんと重くなってきたことがよく分かるでしょう。
次のグラフは国民負担率の内訳についてです。
少しグラフが見にくいかもしれませんが、国民負担率の内訳としては、租税負担率の増加以上に社会保障負担率の上昇が影響してきたことが、当該グラフでは分かります。生活実感としては、消費税増税の影響を強く意識することもあるかもしれませんが、それ以上に社会保険料の負担が重くなってきているのが日本の現状です。この社会保険料関連のコスト負担は個人のみならず企業も大きな影響を受けています。
国民負担率の国際比較
次に国民負担率の国際比較を見てみましょう。
日本は五公五民に近くなり、他国と比べて国民負担が圧倒的に重いのでしょうか。
このデータを見ると、日本が圧倒的に負担率が高い訳ではないことに気づかされます。フランスは国民負担率も、そして財政赤字を加味した潜在的国民負担率においても、圧倒的な負担率です。そして、米国は、公的医療保険制度がないため、社会保険料負担が各国に比較して少ないことには留意が必要です。
日本は、英国並みであり、ドイツ、スウェーデンよりは負担率が少ないことが分かります。但し、財政赤字によって潜在的な国民負担率はドイツ、スウェーデンよりは高くなっています。これは何を示唆しているかと言えば、単純化すれば日本は財政赤字で社会保障等を賄っており、将来世代に先送りしているとも言えます。
更に他国との比較を見てみましょう。以下はOECD加盟国における日本の国民負担率の相対的位置付けです。
主に欧州諸国が国民負担率が高いことが分かるでしょう。
日本の社会保障は、「中福祉・低負担」だと言われていることをお聞きになった方は多いでしょう。国際的にみて中程度の福祉を、低い国民負担で実施しているのが日本です。
今後の方向性
五公五民がトレンド入りした日本ですが、他国の負担率の動向や日本の潜在的国民負担率を鑑みると六公四民となっても少しも不思議はありません。
五公五民の江戸時代では一揆が起きていたこと自体は事実ですが、今の日本は民意を反映することが可能な民主主義国家であり、当時とは状況が異なります。
日本は少子高齢化が今後も進みます。社会保障費用の抑制は日本の財政という観点では喫緊の課題です。但し、その方向性は年金や医療水準の切り下げといったものよりは、国民が長く働く結果として年金受給開始年齢が後ずれする、病気予防に力点を入れ国民が健康寿命を延ばし医療費が結果として抑制される、といったものにしていくべきでしょう。
また、財政赤字で様々な国の支出を賄うことについては、本来的にはストップすべきです。筆者も、景気や民意に配慮しながら検討しなければならないというのは理解出来ます。しかし、財政赤字が重すぎて、今の日本は政策の優先順位や配分にも影響を与えています。本来は日本の将来のために必要なはずの支出が捻出出来なくなっています(少子化対策がその最たる例かもしれませんし、教育も同様ではないでしょうか)。将来のことを考えるならば、(支出を抑制しながらも)国民負担は増加させていくしかないのではないかと筆者は考えます。金利が上昇していく中では、日本の財政の持続性も問われます。我々は、早急に議論・合意形成を行い、実行すべき時なのではないでしょうか。
●「空き家率が高い市町村」ランキング! 1位は「北海道夕張市」 2/26
ナビットが運営する空き家情報サイト「空き家なう」は、総務省が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」の結果をもとにした「市町村別空き家率ランキング」を発表しました。今回は2018年の統計データから、各地の住宅総数に占める空き家の比率(空き家率)が高い都道府県をランキング形式で紹介します。
日本の空き家率は13.6%と過去最高で、全国的に深刻化している空き家問題。はたして、空き家率が高かったのはどの市町村だったのでしょうか。
第2位:山口県周防大島町
第2位は「山口県周防大島町」です。山口県東南部に位置する、島々からなる町で、本土と橋で結ばれている屋代島(周防大島)は、瀬戸内海で淡路島、小豆島に次いで3番目に大きな島です。
島の大半を山地が占め、スカイスポーツが盛ん。海水浴場などのレジャースポットも豊富で、「みかん鍋」やいりこ出汁の中華そばなどの名物料理も人気です。
町では、空き家対策として宅建業協会と連携し「空家情報有効活用システム」を構築。人口定住を促進する目的で、周防大島への定住希望者を対象に、空き家情報などを提供しています。
第1位:北海道夕張市
第1位は、「北海道夕張市」でした。北海道のほぼ中央に位置する、かつては炭鉱の街として栄えた夕張市。全国的には「夕張メロン」の産地としても有名です。2007年3月に「財政再建団体」に認定され、事実上の財政破綻となった自治体としても知られ、人口減少問題から空き家も多くなっている現状です。
夕張市では、空き家問題に関連して「夕張市空家等対策計画」を策定し、対策を進めています。市内の空き家を改修した「くるみ食堂」は、「空き家リノベ」の成功例としてニュースにも取り上げられました。
●GIGAスクール、鹿児島では構想倒れ? 自己負担 保護者「家計に響く」 2/26
2022年度から実施された新学習指導要領に基づき、高校で新たな必修科目「情報T」が加わった。国は情報活用能力の育成を重視しており、「GIGAスクール構想」で小中学生へデジタル端末1人1台を配備したのに加え、高校でも1人1台の配備を推奨する。
鹿児島県の県立高1年生は全員、県費で配備した学校の端末を授業で使う。ただ、23年度から2年生となる子を持つ鹿児島市の40代母親は、新年度以降の端末を自前で用意するよう学校から求められ困惑した。引き続き学校端末が使えると思っていたからだ。
手持ちの機種は県教委が示した要件に合わず、新たに約9万円の出費を余儀なくされた。「子どものためとはいえ家計に響く。負担を求めるなら、事前に意見を聞いて決めてほしかった」と納得できない様子だ。

県教育委員会によると、県立高校で配備されている生徒用端末は、公費で21年度までに用意したタブレット型が1万2776台。22年度生徒総数の約54%に当たる。パソコン室の据え置き型4967台(22年2月現在)を合わせると約75%をカバーする。
ただ、県教委はこれ以上の公費配備に及び腰だ。これまでの県議会で「高校生が自分に合った端末を自分で選択し、利用することが望ましい」などと答弁。23年度当初予算案では、プログラミングに関する教員研修や授業をサポートするICT支援員を派遣する事業に4633万円、情報化推進へ市町村教委や学校を支援する事業として1915万円を計上したが、新規の端末配備経費は2年連続計上しなかった。南日本新聞社の取材に対し、財政上の負担を懸念したわけではない、としている。
不足する端末は保護者の負担となる。機種や仕様にもよるが、現1年生の保護者が端末購入にかかった出費は3万円台〜10万円台とみられる。経済的理由などで購入が難しい場合は学校から貸し出されるが、対象は限定的だ。
1年生の子を持つ薩摩川内市の50代父親は「なぜ公費で全生徒分をそろえられないのか。将来的にそろえる考えがあるのか。県教委はきちんと説明するべきだ」と語気を強める。

九州7県のうち鹿児島と宮崎を除く5県は、22年度までに公費で県立高校の全生徒にタブレット端末を配備した。このうち福岡県は、20年度からの3カ年でそろえた約6万5000台のうち約4万台を22年度に調達した。22年の年頭会見で服部誠太郎知事が県立高校の端末配備を「積極的に進めたい」と意思表示し実現させた。宮崎県は22年度から原則保護者へ購入を要請。貸与用のみ公費負担とした。
鹿児島を中心に活動し、教育の情報化を支援するICT活用教育アドバイザーの星野尉治(じょうじ)さん(東京)は「負担について疑問を持つ保護者がいるということは、説明の不十分な学校があるのかもしれない。保護者へより丁寧な説明が求められる」と指摘する。
●「子ども予算倍増」相次ぐ無責任発言に不信募る 2/26
岸田文雄政権が打ち出した「子ども予算倍増」について、木原誠二官房副長官が「子どもが増えれば実現できる」などと述べ、批判を浴びています。予算倍増とは、安心して出産・子育てできる社会を実現するために政府がとるべき手段のはずです。木原氏の発言は、子どもが増えれば予算が増額になるという結果を語っただけであり、本末が転倒しています。結局、まともに取り組まず、成り行き任せにするのが本音ではないのか。岸田政権の姿勢に国民の不信は募る一方です。
首相答弁もすぐ修正され
木原氏の発言は21日放送されたテレビ番組の中でのものです。「子ども予算は子どもが増えれば、それに応じて増えていくことになる」「もしV字回復して出生率が本当に上がってくれば、割と早いタイミングで倍増が実現される」などと話しました。子ども予算を倍増する期限を区切っていないことも強調しました。
この発言には、政府が若者や子育て世代を積極的に応援し、出産・育児の環境を急いで整備していこうという立場がありません。2022年の出生数が統計開始以来初めて80万人を割り込むことが見込まれる深刻な状況への危機感もうかがえません。それどころか、子ども予算の倍増が必要というなら出生率を上げろと国民に迫ることに等しい発想です。
松野博一官房長官は24日、「発言全体としては、政府の説明と齟齬(そご)があるとは考えてない」と木原氏を擁護しました。岸田政権が掲げる「次元の異なる少子化対策」の内実が根本から問われる事態となっています。
そもそも首相が打ち出した倍増の根拠がはっきりしません。15日の衆院予算委員会で首相は「家族関係社会支出は20年度でGDP(国内総生産)比2%を実現している。それをさらに倍増しようではないかと申し上げている」と述べました。家族関係社会支出を基準に2倍化すると初めて表明した答弁に注目が集まりました。ところが16日、磯崎仁彦官房副長官が基準への言及ではないと修正しました。首相も22日の衆院予算委で「倍増の意味が何かは、内容をまず具体化、整理した上で財源を考える」とごまかし、15日の答弁を事実上打ち消しました。
倍増の基準は、政策・予算の基本にかかわる問題です。それをめぐる首相答弁がすぐに覆されては、議論は成り立ちません。家族関係社会支出は経済協力開発機構(OECD)の基準によるもので、20年度で日本は約10兆7500億円(GDP比2・01%)です。ここには地方負担も含みます。一方、首相は4月に発足する「こども家庭庁」の23年度予算案(約4兆8000億円)を基準にする可能性も示唆しています。拡充させる政策の中身の具体化を置き去りにし、「倍増」の言葉だけ先行させる無責任さが混乱を招いています。
教育無償化の実現は切実
若者世代が最も切実に願う教育の無償化を、子ども・子育て支援の柱に据えるべきです。衆院予算委の公聴会(16日)でも、子育て支援に詳しい専門家は、教育費の負担軽減が重要な対策だと意見を述べました。岸田政権は直ちに具体化すべきです。同時に教育・子育て予算の圧迫・削減につながる大軍拡の中止が不可欠です。
●岸田首相「民主党政権によって誇り、自信、活力失った」 2/26
岸田文雄首相(自民党総裁)は26日、東京都内で開かれた党大会で演説し、安倍晋三元首相の死去について「失われたものの大きさを実感せざるを得ない」と述べた。
首相は、平成24年の政権奪還から10年が経過したことに触れ「民主党政権によって失われた日本の誇り、自信、活力を取り戻すために力を合わせ大きくこの国を前進させた『前進の10年』でもあった」と強調。「安倍氏、菅義偉前首相が築いてきた前進の10年の成果の礎の上に、次の10年を作るため、新たな一歩踏み出すときだ。ともにさらなる挑戦を続けていこう」と訴えた。  
●自民は懸案処理へ説明尽くせ 2/26
自民党が26日、都内で党大会を開いた。日本周辺の安全保障環境は厳しさを増し、少子化対策やエネルギー問題など重要な課題が山積している。与党として政府の政策実行を後押しし、国会審議などを通じて有権者の理解を広げていく役割が求められている。
岸田文雄首相(党総裁)はあいさつで、「この10年で日本が置かれている状況は大きく変化した。新型コロナ後の日本経済再生、エネルギー安定供給と脱炭素の両立、外交・安全保障、子ども・子育て政策。いずれも先送りできない課題ばかりだ」と語った。
ロシアはウクライナ侵攻から1年を経ても、国連憲章や国際法の順守を求める世界各国の声を無視し続けている。北朝鮮が核・ミサイル開発を加速し、中国は周辺国への軍事圧力を強めている。
自民党は昨年4月、防衛力の抜本的強化に向けた提言をまとめ、1北大西洋条約機構(NATO)諸国の国防予算の国内総生産(GDP)比目標(2%以上)も念頭に防衛費を増額2反撃能力の保有――といった戦略を打ち出した。
7月の参院選で党公約の柱とし、昨年末の国家安全保障戦略など関連3文書の改定につなげた。政府は防衛費を大幅に増やす狙いや中身を丁寧に説明し、野党の声にも耳を傾けていく必要がある。
首相が最重要政策と位置付ける子ども・子育て政策は、議論が迷走気味だ。茂木敏充幹事長が国会質疑で児童手当の所得制限撤廃に言及し、子どもの多い世帯ほど所得税が軽減される「N分N乗方式」への意見も割れている。
関連支出の倍増をめざすとした首相の国会答弁は「基準や考え方が不明確」と指摘された。国会審議のさなかに、与党内で調整不足が露呈するようでは困る。
4月には統一地方選や国政の補欠選挙が予定されている。与党は物価高やエネルギー、賃上げ、子育て支援、投資促進など国民の関心が高い政策テーマで具体策を明示し、野党と様々な選択肢を積極的に競い合ってもらいたい。
●党大会を開く 岸田総理は統一地方選などの勝利に向け結束を呼びかけ 2/26
自民党が党大会を開き、岸田総理大臣は、4月に行われる統一地方選挙や衆議院の補欠選挙での勝利に向けて結束を呼びかけました。
「今後の国政にも影響を与えるかもしれない、大変重要な選挙です。何としても自民党の議席を皆で力を合わせて、守り抜いていこうではありませんか」(岸田総理)
岸田総理は次元の異なる子ども子育て政策や、賃上げの実現を訴えたほか、憲法改正の議論を積極的に進める考えを示しました。
党大会には公明党の山口代表も出席し自公の連携強化を呼びかけました。
これに対して岸田総理も「積み重ねてきた絆が揺らぐことは決してない。自公連立の枠組みこそが政治の安定の基盤だ」と強調しました。
今年4月は4年に1度の統一地方選に加えて、山口や千葉などで衆議院の補欠選挙が行われます。
昨日行われた地方議員らが集まる会合では、物価高騰対策の不十分さや、衆議院小選挙区の10増10減をめぐる公明党との選挙区調整について注文がつけられました。
「低空安定飛行」とも言われる岸田政権ですが、防衛費の増額やLGBTの理解増進にむけた法整備など難しい課題を抱えていて、重鎮議員からは「政治の一寸先は闇」という声も出ています。
選挙結果は岸田総理の求心力に影響を与えるほか、衆議院の解散総選挙の判断にもつながり、今後の政局を左右することとなります。
●岸田首相、少子化・皇位継承策などに注力 自民党大会 2/26
岸田文雄首相(自民党総裁)は26日、東京都内で開いた自民党大会で演説し、4月の統一地方選と衆参の補欠選挙の必勝に向けて団結を訴えた。首相は物価高に対応するための賃上げや少子化対策に注力する考えを示した。国会で議論が停滞している安定的な皇位継承策の検討を進める考えも明らかにした。
首相は統一選について「一丸となり、まなじりを決して必ず勝ち抜こう」と強調した。補選については「国政に影響を与えるかもしれない重要な選挙だ。何としても議席を守り抜こう」と呼び掛けた。
連立政権を組む公明党に関しては「積み重ねてきた絆が揺らぐことはない」と述べた。選挙協力への期待もあるとみられる。
首相は、物価高に対応するため「構造的な賃上げを実現していく」と言及した。少子化対策に関しては「従来と次元の異なる子供・子育て政策を実現し、社会全体の意識を変える」と述べた。
党是である憲法改正に向けては「時代は憲法の早期改正を求めていると感じている。野党の力も借りながら、国会での議論を積極的に行う」と意欲を示した。
首相は安定的な皇位継承策にも言及し、「先送りの許されない課題で、国会での検討を進めていく」と表明した。皇位継承策を巡っては、政府の有識者会議が検討したものの、令和3年12月にまとめた報告書では提言を先送りしている。
首相は、ロシアによるウクライナ侵略を踏まえ、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を成功させ、「世界の平和と繁栄の新しい秩序を主導する」と話した。防衛力強化への理解も求めた。
演説では、昨年7月に死去した安倍晋三元首相の功績に多くの時間を割き、「失ったものの大きさを実感する」と悼んだ。また、平成24年の政権奪還後に企業収益の拡大、安全保障法制などを実現させたとして、「民主党政権によって失われた日本の誇り、自信、活力を取り戻す『前進の10年』だった」と評価した。
党大会では連合や友好的な労組との連携強化などを明記した令和5年運動方針を採択した。公明党の山口那津男代表、経団連の十倉雅和会長が来賓としてあいさつした。

 

●増税予想なのに「国民負担率は下がる」? 財務省の論理 「五公五民」国家 2/27
本当だろうか
今年も恒例の「国民負担率」の発表が財務省から行われた。
毎年2月に、前年度の実績と、今年度の実績見込み、そして来年度の見通し数字が発表される。「国民所得」に対して「租税負担」と「社会保障負担」がどれぐらいになるかを示すものだ。「実績」の最新数値である2021年度は48.1%で過去最高である。2011年度が38.9%だったので、わずか10年で9ポイントも上昇した。消費税率の引き上げなどが重くのしかかった結果である。
国税と地方税を合わせた「租税負担」は28.9%、年金や健康保険の保険料など「社会保障負担」は19.3%に達する。年金の保険料率は2004年度の13.93%(労使折半)から2017年度の18.3%まで毎年引き上げが行われてきたが、その引き上げが終わり頭打ちになっている。一方で「租税負担」は上昇を続けている。地方税の上昇率は緩やかだが、「国税」は2011年度の12.6%から2021年度には18.2%へと大きく増加した。
岸田文雄首相は昨年末以来、防衛費の大幅な増額を打ち出しており、近い将来、1兆円規模の国民負担増が必要になると明言している。今後も国民負担が大きく増えそうな感じなのだが、なぜか財務省は国民負担率は今後低下する見通しだと発表している。
この3月で終わる2022年度の「実績見込み」は47.5%と0.6ポイント下がるというのだ。さらに、2023年度の「見通し」では46.8%にまで低下するという。本当だろうか。
経済成長が思うように行かなければ負担増
実は、この財務省の発表、毎回、見通し数値を低く出して結局は外れるということを繰り返してきた“前科”がある。2年前、2021年2月の発表では、2021年度は前の年度よりも負担率が下がり44.3%になるという「見通し」を出していた。ところが前述のように実績は48.1%の過去最高になった。ちなみに2年前に46.1%になるとしていた2020年度の「実績見込み」も、翌年発表された時の「実績」では47.9%になった。つまり、予想どころか実績見込みですら、大きく外れているのである。
しかも、こうした過少見積もりは毎年繰り返されており、一度として実績が見通しよりも低かったことはない。まさに常習犯なのである。ところが、記者向けブリーフィングで見通しを中心に説明するのだろう。大手の新聞記事は軒並み、見通し数字を報じてしまう。1年後には「誤報」だったことが明らかになってしまうので、さすがに近年は財務省の思惑通りに「低下する」と書くメディアは減ってきた。
なぜ、増税が予定されているこのタイミングで「負担が減る」という見通しを出せるのだろうか。もちろん、財務省にも言い分がある。政府の経済見通しを機械的に当てはめて計算している、というのだ。つまり、そもそも計算の分母になる「国民所得」の政府見通しが過大なため、分子の「租税負担」が若干増えても、負担率は下がるという見通しになる、というわけだ。
今回の発表の場合、「実績見込み」の前提になる2022年度の国民所得は409.9兆円で前の年度に比べて3.5%増えるとしている。2023年度に至っては2.8%増の421.4兆円を前提にしている。高い経済成長が続くというわけだ。
ただし、負担率は下がると言っているものの、税金や社会保障などの負担額が減るとは言っていない。発表された負担率から逆算すると、税と社会保障を足した国民負担の実額は2021年度の実績ベースで190.4兆円。2020年度比5.9%も増えた。これが2022年度は194.7兆円、2023年度は197.2兆円に増えるとしている。負担額が減るわけではまったくなく、7兆円近く増え続けるというのだ。つまり、経済成長が思うようにゆかず国民所得が増えなければ、当然、負担率は上昇する。
それでも財務省は「日本の国民負担率は低い」と言いたいのだろう。毎年、発表する時には「資料」として「国民負担率の国際比較」という図が添付されている。かつては日本の「低さ」を示す資料だったが、最近は様子が変わってきた。かねて日本の負担率は米国より高い。2020年では日本の47.9%に対して、米国は32.3%だ。それでも欧州諸国よりは日本は低いと言われ続けてきたが、2020年では英国の46.0%をも上回った。さらに、ドイツの54.0%やスウェーデンの54.5%といった国の背中が見えてきた。これらの国で国民が高負担に耐えているのは、一方で様々な公費助成が充実している「高福祉」の社会だからだ。
高福祉はないのに高負担
江戸時代の重税の代名詞として「四公六民」あるいは「五公五民」という言葉を教科書で習った人も多いだろう。年貢の取り立てが公5に対して民5、つまり半分を租税として取られるという意味だ。5割に近づいている日本の国民負担率はまさに「五公五民」ということになる。
今年の発表を受けて、東京新聞WEBに良い記事が載っていた。「一揆寸前?令和の時代の『五公五民』は本当か 『国民負担率47.5%』の意味を考える」というタイトルで、国民負担率は高いのか低いのか、を検証している。
その上で、国民所得対比で考えるのは欧米では一般的ではなく、GDP(国内総生産)対比で考えるべきだとし、こう書いている。
「日本は社会保障などを借金(国債)に依存しており、財政赤字分も加味したGDP比の『潜在的国民負担率』はコロナ禍前の19年度で35.8%と、福祉が充実したスウェーデンの37.1%に迫る。コロナ禍で財政支出が増えた20年度には、日本が上回った。単純比較ではあるが、日本は、スウェーデンほどの高福祉は受けられない一方、同等以上の負担を強いられていることになる」
決して、日本の国民負担率はまだまだ低いので、消費税率を引き上げても大丈夫だ、という話ではない。それだけの「担税力」が日本国民に残っているのか、という問題でもある。また、この10年で国民負担率がこれだけ上昇したことが、民間の消費や投資を失わせ、経済成長の足を引っ張っている、という見方もある。
国民負担率は、国にどこまでの機能を期待するかという「国家のあり方」と密接に関係する。予算審議が行われている最中の2月に、国民負担率が「見通し」を中心に発表されるのは、決して偶然ではないだろう。大盤振る舞いの予算を通しても、国民の負担は増えませんよ、という魅惑の発表なのだ。だが、そんな甘い見通しのツケはいつか国民に回ってくる。
●日本でも強まる賃金上昇によるインフレ圧力 2/27
日本では、円安や資源高による輸入コストの上昇を企業が価格に転嫁する動きが続いている。もっとも、これは物価が持続的に上昇する局面への転換を意味しているわけではない。コスト高による物価の上昇は、家計の購買力を低下させ消費の減退を招く。そうすると企業は価格を上げにくくなり、遠からず物価は下落に転じることになる。
物価の持続的な上昇のためには、賃金の上昇が不可欠だ。賃金の上昇は消費を喚起し、企業は人件費を含めたコスト上昇分を継続的に価格転嫁しやすくなる。
長期間にわたって日本の物価が上がらなかったのは、こうした賃金と物価の同時上昇メカニズムが失われていたためだ。日本では1990年代半ばごろまで賃金と物価がともに上昇したが、その後、賃金の動きは弱くなり、その影響を強く受けるサービス価格の伸びも低位で推移した。総務省「消費者物価指数」によると、2022年12月のサービス価格は前年同月比0.8%上昇と、財価格に比べて緩やかな伸びにとどまっている(図表1)。
日本の賃金が伸び悩んだ背景については、多くの要因が指摘できる。バブル崩壊以降、景気低迷が長期化する中で、労使ともに雇用維持を優先し、賃上げを抑制してきた。また、企業が正規雇用よりも相対的に賃金水準が低い非正規雇用を増やしたことも、経済全体の平均賃金を押し下げた。さらに10年代以降、政府や企業が多様な働き方を支援する施策を進めたことで、女性や高齢者の労働供給が増加し、賃金上昇圧力を吸収したとみられる。
ただ足元では、こうしたトレンドが転換しつつある。厚生労働省「毎月勤労統計」によると、人手不足感が強まる運輸・郵便業や飲食サービスといった対面型サービス業で賃金の伸びが高まっている(図表2)。
今後は幅広い業種で人手不足が深刻化し、賃上げ圧力が一段と強まる可能性が高い。経済活動の正常化に伴い労働需要の増加が見込まれることに加え、労働供給の面では女性や高齢者の労働参加によるさらなる供給増が期待しにくくなっているからだ。これに伴い、企業が賃上げ分を価格に転嫁する動きが広がり、サービス価格も緩やかに上昇していくことが予想される。
●自民党大会で岸田首相が示した保守派への配慮 改憲や皇位継承 2/27
岸田文雄首相(自民党総裁)は26日の党大会で、4月の統一地方選と、衆院に加えて参院でも見込まれる補欠選挙について、今後の政局を左右する「重要な選挙だ」として一致団結を求めた。内閣支持率が低迷する中、首相は保守派の支持をつなぎ留めるため、改憲への決意に加え、安定的な皇位継承の確保策にも言及。一方で、元首相秘書官の差別発言で重要課題に浮上した性的少数者(LGBTQ)の人権保障法制には触れなかった。(佐藤裕介、曽田晋太郎)
支持率低迷でも政権は盤石に?
総裁として臨んだ2回目の党大会で色濃くにじんだのは、岩盤支持層とされる保守派への配慮だ。首相は改憲に関し、自衛隊明記をはじめとする党の改憲4項目を挙げた上で「時代は憲法の早期改正を求めている」と踏み込んだ。昨年の党大会で言及していなかった皇位継承の安定化については、政府・与党内で目立った議論がないにもかかわらず「先送りの許されない課題だ」と強調した。
ハト派とされる宏池会を率いる首相がタカ派寄りの姿勢を一層強めているのは、自身への「中間審判」となる統一地方選と補選を間近に控えているからだ。あるベテラン議員は、各種世論調査で内閣支持率が30〜40%程度に落ち込んでいることから、保守派の関心を引く狙いで「改憲だけでなく、皇位継承の問題も持ち出した」と指摘する。
党内では「統一地方選や補選を勝ち抜けば、首相の座を引きずり降ろそうという動きは起きない。支持率が低いのに政権運営は盤石という『奇妙な安定』と言える状況が訪れる」(安倍派の若手議員)とささやかれるが、対立を招きかねない火種はくすぶっている。
理解増進法案も議論再開めど立たず
その一つが性的少数者に関する法整備だ。保守派は、与野党で合意したはずの理解増進法案ですら「差別は許されない」という条文の一節に異を唱え、議論再開のめどが立っていない。首相は元首相秘書官の差別発言を受け、超党派議員連盟がまとめた理解増進法案の国会提出に向けた準備を指示しているが、党大会では一切触れなかった。
昨年12月に決めた防衛費増額分の財源を捻出する増税方針にも、安倍派を中心に国債発行などで賄うべきだという意見が根強い。首相は、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を含む防衛力強化の必要性を主張したが、財源論は素通りした。
「聞く力」が意味するものとは
首相は演説の終盤で「おごりを捨て、虚心坦懐きょしんたんかいに徹底的に国民の声に向き合う」と述べ、標榜ひょうぼうする「聞く力」をアピールした。だが、国民の政権不信を招いた昨年の4閣僚辞任や、自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との親密な関係の問題などの説明はなかった。
むしろ目立ったのは、第4派閥の領袖りょうしゅうにすぎないという立場を踏まえ、保守派を中心に党内基盤を固めたいという内向きな論理で、2012年の政権奪還からの歩みを「前進の10年」と評価した。首相と距離がある石破茂元幹事長はそんな姿勢にこう苦言を呈した。
「停滞したものも、後退したものもある。今まで至らなかったところがないかや、取り残された人がいないか常に目配りしないといけない」
●「平和ボケ」と戦争の記憶 2/27
昨年末、岸田文雄政権は、安全保障政策の大転換を決定した。敵基地攻撃能力の保有、防衛費を5年間で2倍にすることなどが、その柱である。中国の防衛力増強、北朝鮮による度重なるミサイル発射など、日本を取り巻く環境は不穏の度合いを高めていることは確かである。防衛力を強化することについては、国民的合意があるといってよい。
しかし、第2次世界大戦で敗北した後、日本は戦争をしない、他国を攻撃しない平和国家として生きてきた。この路線には、今でも多くの日本人は強い支持を続けている。日本で人気のあるタモリというタレントが、昨年末のテレビのトーク番組で来年(2023年)はどんな年になると思いますかと問われて、「新しい戦前になるんじゃないでしょうか」と答えたことが大きな話題となっている。タモリは政治的発言をすることはなかった。しかし、防衛力増強、さらにはいわゆる台湾有事の際にアメリカと一緒になって中国と戦うといわんばかりの政府の姿勢に対して、さすがに危惧を覚えたのではないかと思われる。
戦前とは何か。ほとんどの日本人が戦後生まれとなった今、戦争、まして戦前を知る人はごくわずかである。あの時代に生きていた独立心を持った知識人、文学者の文章を通して想像するしかない。戦争には前兆がある。もっとも重要な変化は、言論の自由が次第に制約され、とりわけ政府に対する批判的な議論がしにくくなるという現象である。また、自分の国や民族の優越性を誇る議論が広がり、逆に、他国や他民族を蔑視する言説がまかり通るようになる。これらは日本が中国大陸に侵出した1930年代に実際に起こったことである。
今の日本が90年前と同じとは言わない。基本的人権を保障した憲法は健在であり、野党も自由に活動している。しかし、自由と民主主義は形式化していることを感じざるを得ない。例えば、私たち学者に保障されているはずの学問の自由についても、危険な兆候がある。戦前に学問が弾圧されて全体主義への道を開いたことに対する反省から、戦後憲法は学問の自由を保障し、学者の自由で自立したコミュニティとしての日本学術会議が政府に対して提言するという仕組みが整備された。最近、学術会議は、軍事研究に対して一定の歯止めをかけるガイドラインを定めた。今、岸田政権は、会員の人選を学者の互選ではなく、外部の委員会による選考に変えるという学術会議法改正案を実現しようとしている。学者の集まりが政府の政策に対して口出しするのがうっとうしいので、会員選考の所から政府の気に入った人間を入れやすくするというのがそのねらいである。こうした一つひとつの動きについて目を光らせ、抗議するというのは疲れることだが、黙るわけにはいかない。
教育の世界でも、戦争の愚かさ、悲惨さを伝えることは重要なテーマであった。広島出身の中沢啓二氏が描いた「はだしのゲン」は、広島の原爆の悲劇を伝える名作である。多くの言語に翻訳されているので、韓国にも読者がいるかもしれない。広島市は、公立学校の児童、生徒に対する平和教育の教材に、このマンガを使ってきた。しかし、最近、広島市教育委員会は「はだしのゲン」を教材から外すことを決定した。被爆の実相が伝わらない、小学生だった主人公が飢えをしのぐために他人の飼っていた鯉を盗む場面が不適切だというのが、その理由である。
飢え死に寸前まで追い詰められれば他人の物を奪ってでも生き延びようとするのが戦争の実態である。そのことを子どものうちに学ぶことには意味があると思う。日本では、戦争や武力行使に反対する議論が「平和ボケ」と呼ばれることもあった。しかし、日本が戦争に巻き込まれることを具体的に想像することもなしに、自分の身は安全だと信じ込んで、台湾有事の際に武力行使に参加する必要性を説くことこそ、平和ボケである。安全保障政策の転換を推進する政治家や官僚こそ、「はだしのゲン」を読むべきである。
●宮城県内14市の新年度予算案 注目の事業 「子育て」 2/27
県内14の市の新年度予算案が出そろいました。シリーズで注目の事業をテーマ別にお伝えしていきます。 1回目は「子育て」です。
国が少子化対策を最重要政策と位置づけるなか、県内の自治体も独自に子育て支援の事業を行う方針で、新年度から紙おむつを配る際に子育ての相談に乗ったり、保育料の無償化で所得制限を撤廃したりする事業を始める自治体もあります。
このうち富谷市は、今年度から始めた0歳児がいる世帯に1回あたり3000円相当の紙おむつかお尻ふきを年4回にわたって無料で届けるサービスを拡充します。
新年度からは、配達員を務める子育て経験のある女性が悩みや困りごとの相談にも乗るということで、子育て政策を強化している兵庫県明石市の事業を参考にしたということです。
一方、気仙沼市と角田市では、新年度に18歳になるかそれ以下の兄や姉がいる0歳から2歳までの子どもについて、保育料の無償化で所得制限を撤廃します。
ただ、気仙沼市はすべての保育施設を対象としているのに対し、角田市は認可保育施設のみを対象としていて、自治体によって違いもあります。
少子化対策は全国的な課題ですが、財政規模や年齢別の人口比率などによってどのような事業が効果的なのかはさまざまなため、県も、市町村とともに情報共有や意見交換を進め、地域のニーズにあった事業の展開を後押しすることにしています。  
●長妻議員、岸田政権の政策決定プロセスを追及 2/27
衆院予算委員会で2月27日、「外交・防衛及び少子化対策など内外の諸情勢」に関する集中審議が開かれ、長妻昭政調会長が岸田政権の政策決定プロセスについて追及しました。
長妻議員は冒頭、テレビ入りの集中審議で、「今までの答弁をチェックする」ためのパネルの掲示が拒絶されたことについて、「質問権の侵害」「言論統制」として政府・与党に抗議。その上で、岸田政権の防衛予算や少子化対策予算の政策決定プロセスについて、「全体が確定するまで『検討中』と国会で示さず、そして閣議決定をする。修正せずに賛成を求める」ものだとして批判しました。
失われた10年の少子化対策
長妻議員は、民主党政権時代に高校無償化や中学生までの児童手当が実現したが、自公政権になり「後退した」と強調。さらに、2012年の民主・自民・公明による「3党合意」で確認した保育士の配置基準の見直しが実現していないとして、岸田総理に速やかな実施を求めました。岸田総理が「包括的なパッケージの中でこれから示す」と答弁したことについて長妻議員は、「まさに失われた10年」だと述べ、「包括的と言うが11年前の合意」であり「保育事故につながりかねない安全の問題」だとして最優先で実施すべきと迫りました。
子育て予算「倍増」
木原誠二官房副長官がテレビ番組で、「子ども予算は、子どもが増えればそれに応じて予算が増えていく」と発言したことを踏まえ長妻議員は、「こういう根拠に基づいて(少子化対策予算)倍増」と標ぼうしているのか岸田総理の認識をただしました。
さらに長妻議員は、「GDP比で倍増にするのか、絶対金額で倍増にするのか」として、何を基準に「倍増」するのか追及しましたが、岸田総理は長々と答弁を繰り返すだけで、明確な回答を避けました。

 

●重武装軍拡最優先という国の形 古賀茂明 2/28
岸田文雄総理は、防衛費倍増に続いて子ども予算も倍増するという。防衛費を倍増するのだから、子ども予算も倍増しないと国民の評判が下がると考えたのだろう。
だが、この「倍増」という言葉が曲者だ。同じ倍増だから、防衛費も子ども予算も同等の扱いだと勘違いする人もいるかもしれない。しかし、実態は全く違う。
防衛費の場合は、増税を極力少なくするため、病院を運営する独立行政法人の積立金から約750億円、政府による投資や融資の管理を行うための財政投融資特別会計にある資金から2000億円、為替介入のために貯めてある外国為替資金特別会計から1.2兆円などを防衛費のために流用することになった。いずれの資金も国民の財産だ。どうしてこれを本来の目的ではない防衛費に使うのかという説明は一切ない。
この他にも国有財産の売却などで3兆円強を捻出するというが、これも国民の財産であり、なぜ防衛費に充てなければならないのか全く不明。わからないことだらけである。
ただ、一つだけわかることがある。それは、財源を探して何か見つかったらまず防衛費に充てるということだ。
今、国会や報道では、防衛増税に焦点が当たっているが、問題の本質は、そこにあるのではない。では、何が本質なのか。
日本は太平洋戦争に負けて廃墟の中から立ち上がらなければならなかった。国家には無駄なことに資金を割く余裕はない。そこで、軍備は軽武装にとどめ、あらゆる資源を国民経済向上のために振り向けることを「国家の哲学」とした。
「戦争は金輪際行わない」、したがって自衛隊の規模は必要最小限のものとし、防衛費は概ねGDP比1%を上限とするという歯止めを設けた。こうした考え方が、「軽武装・国民経済最優先」という「国の形」として定着した。それが我が国経済の驚異的発展につながったのだ。
戦後70年間、この「国家の哲学=国の形」を否定する指導者は出てこなかったが、安倍晋三元総理の時代になって、これを事実上否定する政策転換が始まった。しかし、声高に唱えるよりも、国民に警戒されないように少しずつそれを推し進めた感がある。
一方、岸田総理は、あえて声高に「戦後の安全保障政策の大転換」を宣言した。しかし、岸田氏が大転換しようとしているのは、安保政策にとどまるものではない。
国民から集めたおカネを「国家の哲学」に沿って分配するのが予算案である。すなわち、予算案は、「国家の哲学=国の形」を表わす鏡である。
岸田予算案の根底にある哲学とは何か。あらゆる資金を防衛費優先で配分せよということだ。その前提として、日本は「戦争ができる国になるのだ」という考え方がある。だからこそ、軍備は、戦争を遂行するのに足るものでなければならない。日本が対峙する中国と戦うに足る装備となれば、当然重武装を目指すことになる。
つまり、「非戦国家」を前提とする「軽武装・国民経済最優先」から「戦争遂行国家」を前提とした「重武装軍拡最優先」という国の形への大転換なのだ。憲法大改正に匹敵すると言っても良い「国の形」の大転換。
岸田総理が、その意味を理解して独走したのだとすれば、それはクーデターと呼ぶべき暴挙だと思うが、いかがだろうか。
●「ウクライナ復興」特需に日本も狙いを 韓国企業は商談会にすでに参加 2/28
過日、一時帰国中の宮島昭夫駐ポーランド大使と長時間話す機会を得た。
隣国ウクライナは今、ロシアの侵略に対し徹底抗戦の真っただ中にいる。昨年2月の軍事侵攻以降、国外に逃れたウクライナ避難民は807万人に達する(2月15日時点)。
ポーランドは最大の156万人を受け入れている。侵攻後1年間に累計で929万人が国境を越え、その後出国した総数は745万人(ポーランド国境警備隊調査)。
ポーランド政府は開戦後わずか2週間でウクライナ避難民支援の法案を成立させた。18カ月間滞在できるほか、ポーランド人と同等の居住・就労・教育・医療など社会保障サービスを提供、保証する個人番号の取得も認める。と同時に、避難民を受け入れる家庭には1人当たり一日約1200円を120日間支給、公共料金無償化などの支援も実施しているのだ。
インフレ率20%の経済危機に直面する同国は国家予算約1割に相当する90億ユーロ(約1兆2500億円)の財政的負担を強いられながら避難民支援を行っている。
「第2次世界大戦のナチス・ドイツや旧ソ連をはじめ大国による侵略・支配を経験しているポーランドは避難民の受け入れだけではなく、同国への軍事支援にも全力で取り組んでいる」(宮島氏)
数字がそれを示している。ポーランドは対ウクライナ軍事支援輸送の戦略的拠点の役割以外に、同国軍の旧ソ連製戦車など正面装備や弾薬の提供をしており、その総額は2600億円。3・3兆円の米国、英、独に続く(独キール世界経済研究所)。
では、日本はどうなのか。軍事・人道・財政の支援総額で875億円の日本は13番目であり、スウェーデン、イタリア、デンマークより下回る。
日本の対ウクライナ軍事支援物資は「防衛装備移転三原則」の縛りがあり限られる。そうした中、20日のバイデン米大統領の電撃ウクライナ訪問が現状を変えた。岸田文雄首相がその直後に7370億円の追加財政支援を発表、日本はドイツに並び支援国第4位にランクを上げたのである。
欧州の中心に位置するポーランドは道路・鉄道・港・空港の全ての物流拠点を有し、アジアと欧州を陸路で結ぶ際の物流の玄関口なのだ。折しも2月15日、首都ワルシャワで同国自治体と支援国企業がウクライナ復興に向けた国際商談会を開催した。
実は同国の防衛装備には韓国製が多い。そして商談会に参加した韓国企業は早くも約100兆円とされる復興特需に狙いを定めているのだ。この現実を知る必要がある。
●日本人は低い食料自給率の深刻さをわかってない 2/28
日本の食料自給率が依然として4割以下の低い水準にとどまっている。ロシア・ウクライナ戦争が始まって以来、世界的に食料自給に対する危機感が高まっている中で、政府や自民党は防衛費と少子化対策に躍起になっている。国民の命を守る食料の確保は十分なのか。日本政府の「食品安全保障」を検証する。
食料国産率も半分に届かない
農林水産省の「知ってる? 日本の食料事情2022」によれば、日本の食料自給率にまつわる数字は次の通りだ。 
   食料自給率……38%(カロリーベース、生産額ベースでは63%)
   食料国産率……47%(カロリーベース、生産額ベースでは69%)
   飼料自給率……25%
食料自給率が輸入畜産物の生産分を除いているのに対して、食料国産率は畜産の飼料が国産か輸入かを問わずに計算した数字となる。そこで「飼料自給率」という指標も参考にする必要が出てくるのだが、こちらはさらに低くて25%しかない。
ロシア・ウクライナ戦争が始まって以降、飼料の国際的な逼迫がニュースになるが、飼料の輸入が止まれば、日本の家畜は単純計算で4分の3が飢えることになる。先進国のなかでも低い数値と言っていいだろう。
コメや小麦、トウモロコシなどの穀物だけに絞った「穀物自給率」も日本は28%しかない。農林水産省の「諸外国の穀物自給率(2019年 試算)」(2022年6月1日、現在、日本は年度、日本以外は暦年)によると、179カ国・地域中127番目、OECD加盟国38カ国中32番目となっている。韓国やハイチと並ぶ低水準だ。
世界的に最も穀物自給率の高い国は、ウクライナで440%。ロシアがウクライナを狙うのも納得のいくところだ。品目別自給率というデータもある。同じく農林水産省の食糧需給表2021年度版によると、日本の品目別食料自給率は次のような数字になる。
   卵類…… 97%
   野菜類…… 79%
   いも類…… 72%
   牛乳・乳製品…… 63%
   魚介類…… 59%
   肉類…… 53%
   果実類…… 39%
   砂糖類…… 36%
   油脂類…… 14%
   豆類…… 8%
要するに100%に達しているもの、超えているものはほとんどないと考えていい。これでは食料自給率が100%に達するもの=自給できているものはほとんどないと言っていいだろう。
そこで心配なのが、戦争や紛争など「有事」の際の対応法だ。ドイツは石油の34%、天然ガス55%、石炭45%をロシアに頼っていたために、厳しい状況に陥った。ただ、ドイツの食料自給率は84%(2018年、カロリーベース)。対して日本のエネルギー自給率は11.8%(2018年度)しかない。
岸田政権は、盛んにロシア・ウクライナ戦争から学んだこととして防衛費増強の必要性を叫んでいるが、日本がもっと先に手を付けなければいけないのは、食料自給率の向上ではないのかと思う。
例えば「台湾有事」が起きて、中国が世界的な経済制裁を受けたとしたら、日本は工業製品の面でも食料品においても大きな打撃を受ける可能性が高い。最近になって、アメリカのCIA =中央情報局のバーンズ長官が、中国の習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻の準備を行うように指示した、と述べたとする報道が流れた。
これが本当にそうなるかはわからない。ただ、2027年と言えば4年後だ。中国からの食料品輸入が全面的にストップする事態を日本政府は想定しているのだろうか。
日本の主要農産物の国別輸入割合を見てみると、農産物の輸入額は7兆0388億円(2021年、農林水産省「農林水産物輸出入概況」より)。そのうちの23%(同)がアメリカ、第2位が中国の10%(同)となっている。つまり輸入する農産物全体の10%が完全に止まってしまう可能性があるということだ。
さらに中国との貿易がストップした場合、最も被害が大きいのは「肥料」だ。日本は食糧生産に不可欠な肥料の多くを中国から輸入しており、食料生産の生命線となる。たとえば、「尿素」は37%(農林水産省「肥料をめぐる情勢」、2022年4月より)、「リン酸」(同)に至っては90%を中国から輸入している。肥料の3大要素のうちの2つを中国に依存しているのが実態だ。
農地や農業従事者が減っている
日本の食料自給率はなぜ一向に上昇しないのか。背景には何があるのだろうか。さまざまな情報をまとめると、次のような理由が考えられる。
   1 農業生産基盤の衰退
少子高齢化の推進や、地方の過疎化などの原因によって、日本の農地面積は減少する一方だ。2021年の「農林水産省 耕地及び作付面積統計」によると、日本の農地面積はこの55年の間に大きく減少している。
<農地面積>
・1965年……600.4万ヘクタール(畑:261.4万ヘクタール、水田:339.1万ヘクタール)
・2021年……434.9万ヘクタール(畑:198.3万ヘクタール、水田:236.6万ヘクタール)
<農業従事者>
・1965年……894万人
・2021年……130万人
注目したいのは、やはり6分の1に減少した農業従事者の数だろう。ちなみに、その平均年齢も2021年現在67.9歳と高齢化が進んでいる。要するに、農業生産体制を支える農業生産基盤の衰退が、現在のような低い食料自給率をもたらしている。
国際的に見ても、日本の農業の衰退がわかる。日本の1人当たりの農地と比べると、ドイツやイタリアは6倍、イギリスは8倍、フランス13倍、アメリカ35倍、カナダ46倍、オーストラリアに至っては438倍もある。日本は国土の7割を森林に覆われているが、農業政策を大きく変更させずに森林を大きく破壊するような大規模な農地開発を避けてきた。日本国民は食料自給率の向上よりも森林などの豊かな自然を守ることを選択してきたともいえる。
   2 貿易立国の維持のため製造業を優先し農業を犠牲にした? 
日本の食料自給率が上昇しないもう1つの原因が、日本とアメリカの関係にあることもよく知られた事実だ。岸信介政権が1960年に結んだ「新日米安全保障条約」で結ばれた経済協力条項によって、日本は自動車や電化製品などの製造業に特化した貿易立国へと経済成長を遂げていく。しかし、その反面でアメリカを中心とする海外からの食料品輸入に頼る構造へと変革していく。
1990年代に入ると、牛肉やミカンの輸入を段階的に自由化し、その見返りとして日米貿易摩擦などを解消して貿易立国としての地位を確たるものにしていく。
日本はアメリカの「食の傘」の下にいる? 
こうした状態を、日本はアメリカの「食の傘」の下にいると表現され、日本はアメリカの「食料植民地」と指摘する報道もある(東洋経済オンライン、「日本の食料自給率向上を『米国が絶対許許さない』訳」、2022年5月31日より)。
最近になって注目されている「生乳廃棄」の原因も、「カレントアクセス(現行輸入機会)」と呼ばれるガット・ウルグアイラウンドの農業合意に基づいて、輸入する必要がないのに大量の乳製品を輸入し続けているからだと指摘されている。
日本は海外のバターや脱脂粉乳を一定額輸入するように国際的に約束しており、国内の生産者を犠牲にして生乳換算で13.7万トンの乳製品を輸入し続けている。一方で、この約束を厳格に守っているのは日本だけだという指摘もある。日本の農業行政は国内の産業保護よりも、国際的な世間体を優先しているわけだ。
   3 後手に回わる政府の農業政策
こうしたケースに代表されるように、日本の農業政策はこれまで後手に回ってきた。日本の農業政策の最大の特徴は、コメを守るために減反政策などさまざまな補助金を出し続けてきたことだ。とりわけ、減反政策は日本の農業の近代化を著しく阻んでしまった。
日本の農業政策を一言で言えば、「零細兼業農家維持政策」と呼ばれる。その結果、1960年にはGDPの9%あった農業が、現在では0.97%(2016年国民経済計算、内閣府より)しか残っていない。2018年に終了した減反政策に代表されるようにコメの価格を守るために、政府はありとあらゆる補助金をばらまいて、他の産業であれば独禁法違反となるカルテルを組んで、「JA農協」の意思に沿った政策を繰り返してきたと指摘されている。
例えば、現在でもコメを守るために、年間約3500億円の補助金が使われており、これまで総額9兆円のお金をばらまいて日本の農業を守ってきたと報道されている。「(農業)政策の二転、三転が不必要な過剰予算を招いた」とも指摘されている(「コメ『必要ない予算』温存」日本経済新聞2022年7月2日朝刊)。
有事にはコメを食えと言うけれども…
さて、実際に台湾有事のような状態になり、世界中で食料品の争奪戦が起こったら、どうなるのだろうか。前出の「知ってる? 日本の食料事情2022」のなかでも、「輸出国もいざという時は自国内の供給を優先」と指摘している。
とりわけ、小麦、トウモロコシ、大豆は主要生産国が世界全体の8〜9割を独占しており、リスクが高いことを指摘している。なかでも、大豆はアメリカとブラジルの2カ国で90%以上を占めており、この両国を巻き込んだ有事の際には、世界的に大豆不足になることが予想されている。
日本が世界中を巻き込んだ食料争奪戦に巻き込まれたとき、日本国民は何を食べればいいのか。農水省のシミュレーションによると、カロリーの高い焼き芋や粉吹き芋などのイモ類を主食にするように推奨しているが、太平洋戦争の戦中戦後の飢餓状態の時には、イモを主食にしてもなお国民は飢えていた。
日本は、長い間、食糧安保という意味もあるとして、稲作農家を守り続けてきた。政府の備蓄米は、現在でも100万トン程度を維持している。民間在庫約270万トンと合わせて370万トンある勘定になる(農林水産省、2020年発表)。同様に、食料用小麦は外国産食料用小麦として2〜3カ月程度、家畜のえさとなる飼料用トウモロコシも100万トン程度備蓄している。
余っているとさんざん言われてきたコメを食べればいいのではないか……、と思いがちだが、実はそう簡単なことではないようだ。たとえば終戦時、コメの1人1日あたりの配給米は2合3勺だった。1億2500万人に2合3勺を配るとすれば1400万〜1500万トン(15歳未満は半分と仮定)が必要になる。
しかし、減反政策によって今の生産量700万トンでは、国民の半分以上が餓死する計算だ。(キャノングローバル戦略研究所 研究主幹・山下一仁「食糧危機から見る日本農業の現状と課題〜ウクライナ・マリウポリの教訓〜」(グローバルエコノミー2022.08.15)より)
政府は、これまで食料安全保障とは言いながらも、実際には、有事に対する備えは皆無に等しい。太平洋戦争では、国民総出で小学校の土壌を耕して芋を植えたが、現在はアスファルトで覆われており、ゴルフ場ぐらいしか役立ちそうなものはない。
深刻なのが、シーレーンが破壊されて石油や肥料、農薬が一切輸入できなくなった場合だ。紛争が長引いた場合、農業機械すらない中で国民に提供できる食料が一体どの程度あるのか……。有事の際には、国民に「配給通帳」が配られて、配給制度をスタートさせるのが常套手段だが、マイナンバー制度ひとつ義務化できない現在の自民党政権に、その意思があるのか疑問になる。
農産物輸出国への転換が結果的に国民を飢えから救う? 
いずれにしても、これからできる対策としては、次のようなものが専門家によって指摘されている。筆者や関係者の意見も混ざってくるが、代表的なものピックアップしておこう。
   1 コメの輸出国になり、有事には国民に配給する
コメに対する補助制度などを廃止して、農家がジャポニカ米を自由に輸出できる体制にする方法だ。万一のときには、輸出分を国内に回すことができる。円安が進むこれからは、ジャポニカ米が世界中で売れるはずだ。誰でも気軽に農地を貸し借りできるように、農地という目的は限定したうえで通常の不動産同様に自由化することが求められる。
   2 専業農家への直接補助に切り替える
日本の農業政策の最大の特徴は、ほとんど農業をしない兼業農家への補助が多いことだ。兼業農家への補助を打ち切って、専業農家に対して重点的、直接的な支援を行うことで、日本の農業の生産効率を上げられる。
   3 スマート農業を取り入れて、生産性を向上する
オランダは、九州とほぼ同じ面積ながら、アメリカに次ぐ世界第2位の農産物を輸出している。付加価値の高い農産品を作るために、様々なミッションが行われている。衛星による監視やドローンなどの最先端技術を駆使して、「スマート農法」の充実を目指すべきだ。
日本の製造業は、IT化やデジタル化で後れを取り苦境に立たされているが、実は農業でも日本は大きく先進国のグローバルスタンダードから後れを取っている。農業生産で先端技術を使うためには、大規模農法にするしかないのだが、休耕地を簡単に貸し借りできる制度に転換することが求められている。しかし、ここでもJA農協などが立ちはだかっていると指摘されている。
農地の売買や賃貸をするのに、農業委員会の許可が必要になっている現行制度を廃止して、自由に農地を貸し借りできるようにすれば大企業が参加できて、大きな資本を投下できるはずだ。台湾有事が起きてからでは遅すぎる。
●インフレと金利上昇で「日本財政が破綻する」は本当か? 2/28
20余年にわたって続いた日本経済の物価と賃金の「凍結」状態が、ようやく解ける可能性が見えてきた。もともとはエネルギー・食料資源の国際価格上昇という外性的要因で始まった物価上昇だが、企業は以前より価格転嫁に積極的になり、経営者や労働組合も賃上げに前向きな姿勢を強めているからだ。
ただし脱デフレの時代となれば国債利回りも上がり、1000兆円を超える日本政府債務が利払いで雪だるまのように膨張すると語る意見がある。また政府の財政赤字と債務の積み上がりは、民間の投資(有形・無形の資本形成)をクラウディングアウト(締め出し)するため日本経済の低成長の要因だと語る経済学者の声も強い。
今回はこの2点を考えてみよう。結論から言うと、前者の意見は非常に一面的、短絡的であり、後者の意見は因果関係を読み違えている。
国債利回り、経済成長率、政府債務の関係
日本政府のグロス債務残高は2022年度末の見込みで1026兆円である。従って1%ポイントの国債利回り上昇で約10兆円も政府の利払い費は増える。これは現在の政府一般予算規模の約9%に相当する額であり、そのような利払い費の増額を賄えるはずがないので、政府債務は雪だるま式に増えるという議論がある。
しかしこの議論は重要な複数の要因を見落としている。政府債務の規模の大小は経済の規模との比率で語るのが常識だ。通常、経済の規模としては名目国内総生産(GDP)が使われる。政府債務残高が増加しても、名目GDPがそれ以上に増加すれば、政府債務の対名目GDP比率(以下「政府債務比率」)は低下する。その場合、政府債務は持続可能であると言える。逆に政府債務比率が上がり続けるならば、それはどこかで限界にぶつかるので、持続可能ではない。
この政府債務比率の変化は次の3つの要因で決まる。(1)財政のプライマリーバランス、(2)名目GDP成長率、(3)国債平均利回り、である。プライマリーバランス(以下「PMバランス」)とは、歳入面からは新規の国債発行による分を除き、歳出面からは期日の到来した国債の償還元本と年間の利払いを除いた歳入歳出の収支のことだ。通常「財政収支」という場合には、歳出に利払いを加えるので、PMバランスと財政収支はこの利払い分だけ違うことになる。
政府債務比率と3つの要因の関係は、次のように考えれば簡単に分かる。ある国の名目GDPが100兆円、政府債務残高が100兆円(政府債務比率100%)、PMバランスは収支均衡、政府の税収は名目GDPの伸びと同じだけ増加するとしよう(実際は所得税が累進税率なので、税収は名目GDP以上に増加する)。
名目GDP成長率が2%、国債平均利回りも2%ならば、10年後の名目GDP成長率は121.9兆円(=100×1.02の10乗)、政府債務も利払いが2%で増え10年後には121.9兆円になる。つまり政府債務比率は100%で変わらない。
次に名目GDP成長率が3%、国債平均利回りが2%ならば、名目GDPは10年後に134.4兆円(=100×1.03の10乗)になるが、政府債務は121.9兆円なので、政府債務比率は90.7%(=121.9/134.4)に約9%も下がる。逆に名目成長率が2%で、国債平均利回りが3%ならば、10年後の政府債務比率は110.2%(=134.4/121.9)に約10%も上がってしまう。
つまり、名目GDP成長率が国債平均利回りよりも高ければ、その分だけ政府債務比率は上昇させずに抑え込むことが容易になる。これは財政学で「ドーマーの条件」として知られている原理だ。
名目GDP成長率と金利(国債平均利回り)のどちらが高くなるのかについては、小泉政権時代の経済財政諮問会議で、当時の竹中平蔵氏(総務相)と与謝野馨氏(金融・経済財政政策担当相)、吉川洋氏(東京大学教授)との間でちょっとした論争があった。
竹中氏は、名目GDP成長率と国債平均利回りは、緩和的な金融政策の効果も加えれば、長期的には同じ水準になることを前提に、PMバランスが黒字化すれば政府債務比率は低下し、財政は改善すると説いた。一方、与謝野氏と吉川氏は、長期国債利回りは名目GDP成長率よりも高いのが常態であり、財政改善のためにより厳しい条件が必要だと説いて、議論になった(「経済財政諮問会議、議事録、2005年12月26日」)。
「名目成長率>国債利回り」で政府債務比率は改善する
では実際のデータで見ると日本の過去と現状はどうなっているのだろうか。「名目GDP成長率−10年物国債利回り」で見ると、2000〜10年は−1.8%で金利の方が高かった。この時期はデフレ基調で名目成長率が押し下げられたからだと言える。
一方、2011〜22年は+0.5%で名目成長率の方が高かった。これは2013年以降、デフレ脱却で名目成長率がある程度回復し、かつ日銀の長期国債大規模購入で長期利回りが押し下げられたからだ。
さらに政府債務比率との関係を示したのが図表1である。1986年から2022年を対象に年次データで、横軸を「名目GDP成長率−10年物国債利回り」(以下「成長率−金利格差」)とし、縦軸を政府債務比率(%)の前年比の変化(差分)にしてある。
青の分布が1986〜2010年、赤の分布が2011〜22年と分けてあるが、双方の時期ともに成長率−金利格差がプラス(成長率>金利)になると、政府債務比率の伸びが低下、あるいはマイナスに転じる負の相関関係がある。最大で絶対値1.0になる相関係数は両時期ともマイナス0.71〜0.76と高い関係性がある。
また過去、政府債務比率が低下した時期が2つあることが分かる。1つは1980年代後半で、この時期は国債利回りも高かったが、名目GDP成長率はそれ以上に高く、かつPMバランスは若干ながら黒字だったため、政府債務比率が低下した。
もう1つは2013〜17年のアベノミクスの時期だ。この時期は、PMバランスは若干の赤字だったが(GDP比率で2〜3%)、デフレ脱却で名目成長率がある程度回復すると同時に、日銀の長期国債大規模購入が利回りを低下させたので、政府債務比率の推移はほぼ横ばいになった。
今後の脱デフレ後の日本経済が、例えば名目成長率3%(=実質GDP成長率1%+インフレ率2%)を長期平均で実現できれば、平均国債利回りが1%程度になっても、PMバランスがゼロ(収支均衡)になれば、政府債務比率は毎年2%低下する。PMバランスの対名目GDPが赤字の2%でも、政府債務比率は上昇・発散せずに、一定水準を維持できる。これは政治的な意思さえあれば、十分に実現可能なコースだろう。
財政赤字が民間投資を圧迫?
しかし名目GDP成長率が国債平均利回りより高いという、財政にとって好都合な状況が今後長期に持続するだろうか。この点は最後に考えるとして、その前に対GDP比で膨張した政府債務に関する次のような議論についても考えておこう。
「実証分析でも、巨額な政府債務を抱える国では経済成長が低迷する傾向があることは確認されている。(中略)政府債務が増大すれば、民間投資に向かう資金はおのずと減少する。その削減は、持続的な成長を実現するために不可欠といえる。」(福田慎一東京大学教授、日本経済新聞「経済教室」2023年2月6日)。
経済全体では「総貯蓄=総投資」になる。政府の財政赤字が大きすぎると民間部門の貯蓄を財政赤字が吸収してしまう。その結果、その分だけ有形・無形の民間の投資が減少し、経済成長率が低下する。これがいわゆる「クラウディングアウト論」だ。経済学者の間では、少なくとも一般論としては、多数派の意見だろう。
しかし筆者は日本については因果関係が逆ではないかと思う。そもそも日本政府の債務増加が民間投資の資金調達と競合するクラウディングアウトを起こしているのならば、国債利回りの上昇が起こるはずだ。ところが10年物国債利回りは2013年のアベノミクス始動以前から1%を割り込む低利回りが常態化していた。
むしろ企業の投資意欲の減退こそが日本経済の成長率低下の主因だろう。これを示唆するのが図表2だ。これは日銀の資金循環表データに基づいて、日本の家計部門、企業部門(図表では「非金融法人企業」)、一般政府部門、海外部門、金融部門等の毎年度の資金収支を示したものだ。
黄色の家計部門は貯蓄超過であり、その規模は1990年代後半以降、やや縮小しているが貯蓄超過が継続している。一方、緑色の企業部門は90年代前半までは貯蓄不足(投資超過)だったが、90年代後半以降、貯蓄超過(投資不足)に転じた。その結果、民間部門全体では90年代後半以降、貯蓄超過幅が拡大し、それに対応するように赤色の政府部門の貯蓄不足(財政赤字)が拡大しているのが分かる。これが趨(すう)勢的な変化である。
次に循環的な変化を見ると、企業と政府の資金収支について、名目GDP成長率との関係で興味深い非対称性が浮かび上がる。
企業の資金収支は名目GDP成長率の変化に対して有意な負の相関関係がある(決定係数0.551、相関係数−0.742、期間1980〜2021年度)。特に企業が貯蓄超過、政府が貯蓄不足に目立って変化した時期は、1998年、2002年、2009年と深刻な景気後退期、あるいはその直後の時期だ。これを政府の財政赤字が企業の貯蓄を締め出した(クラウドアウトした)と考える人はいないだろう。
つまり景気が悪くなると(名目成長率が下がると)企業は投資支出を減らし、貯蓄超過方向(図表上プラス)に動く。一方、政府は景気が悪くなると税収が減ると同時に景気対策の支出増加で財政赤字を広げる(貯蓄不足拡大、図表上マイナス)。その結果、政府の資金収支と名目成長率は正の相関となるのだ(決定係数0.516、相関係数0.718)。
1990年代以降の政府の財政赤字の趨勢的な拡大には、構造的な要因として年金や医療を主にした社会保障関係費の増加がかなりの比重を占めている。ただしそれだけではなく、(1)図表2が示す企業部門の貯蓄不足(投資超過)から貯蓄超過(投資不足)へという趨勢的な変化、(2)年次データの単回帰が示す循環的な変化の双方から、企業の貯蓄超過(投資不足)が経済全体の需要の減少と民間の資金余剰基調を生み出してきた。
困ったことにこれを放置すると経済全体が縮小再生産に陥ってしまう。そうなることをかろうじて回避しているのが、政府の財政赤字による需要の押し上げという構図になっている。こうした事情が政府債務の膨張にもかかわらず、国債の低利回り基調を生み出していると考えられる。
念のために言い添えると、筆者は「だから政府債務の積み上がりは問題がない」と言っているのではない。反対である。経済的に現在より将来豊かになるためには、広義の投資活動が欠かせない。これは単に設備投資や住宅建設のみならず、教育、科学・技術開発、新しいビジネスモデルによる新規事業など将来の経済的なアウトプットを豊かにする広義の投資活動だ。
現在生まれる総所得の中から、こうした広義の投資活動に割かれる比率が高いほど、経済成長率は高まる。その活動は、政府が補完・支援しながら、民間企業部門の投資が主軸になるはずだ。こうした投資の活性化はアベノミクスの「3本の矢」のうち「成長戦略」が担う課題だった。ところが成長戦略が不発・不十分のまま、現状を維持するためだけに莫大な政府予算が投じられ、政府債務が累積してきた。このことに筆者は閉塞感を感じている。
リフレ政策で生まれた順風を生かせるか
こうした民間の資金余剰による長期国債利回りの相対的な低位安定は、今後脱デフレが続いても継続するだろうか。それを判断するポイントは、家計の金融資産が脱デフレ後も、ほぼゼロ金利の預貯金にとどまるかどうかがカギになると思う。
というのは、2000兆円余の家計金融資産うち1000兆円余りがほぼゼロ金利の預貯金だ。銀行はこの預貯金(銀行の負債)を見合いにローンと国債などの資産を保有しているが、ローンが伸びないので余剰分は国債に投じてきた。
過去10年の日銀の大規模国債購入で、銀行の国債保有残高は大きく減少したが、銀行の国債保有は日銀に置かれた当座預金残高に振り替わっただけだ。要するに「家計預貯金→(銀行の国債保有+日銀当座預金)→日銀の国債保有」という債権債務の構図が続いている。
日本の家計が合理的でもう少しリスク性資産の保有に前向きであれば、インフレ下で実質価値が減少する一方のゼロ金利預貯金に愛想を尽かし、長期でより高いリターンが期待できる内外の株式などリスク性資産に大規模なシフトが起こるはずだ。
ところが、内外の株式投信などが増える動きは見られるものの、家計資産全体の規模から見るとまだ限定的な規模にとどまっている。貨幣の価値をインフレ率調整後の実質ではなく名目価値で考えてしまう「貨幣錯覚」と強いリスク回避志向の結果であろう。国内の機関投資家ですら10年物国債利回りが1%前後になれば、国債買いに殺到するだろうと言われている。
こうした状況を考えると、日銀が現行の金融政策を柔軟に修正すれば、あまり無理しなくても、脱デフレで名目経済成長率が高まる一方、国債平均利回りは相対的に低位に安定するだろう。つまり「名目GDP成長率>国債平均利回り」の状況が、今後数年程度は継続する可能性が高いと思う。問題はそうした順風が吹いている間に、将来の成長のための経済資源配分の変更に政治が舵を切ることができるか、企業部門が投資活動を活発化させるかどうかである。
●政治主導の財政膨張を警告する独立機関の設立を望む  2/28
異次元金融緩和の修正と両輪に
植田和男日銀総裁の就任によって、異常な金融政策は徐々に修正されていくだろうと期待します。そこに立ちはだかるのが政治サイドで、財政膨張しか念頭にないらしく、金融正常化をストップさせようとする圧力をかけてくるに違いない。
日本の23年度の一般会計は総額114兆円で、11年連続で最大を更新しています。普通国債残高は1005兆円、政府短期証券や借入金を合わせると、1256兆円です。異常な規模の金融緩和とセットになった財政膨張はとどまるところを知りません。こんなに財政常態が悪い主要国は日本だけです。
主要国では例をみない日本の財政膨張は、政治的な動機、時代的な背景、金融政策からの支援がセットになっています。植田新総裁に期待がかかるにしても、政治サイドが財政正常化に目覚めないと、金融正常化も進まない。
異次元金融緩和に対しては、軌道修正を迫る声、マネー市場からの警告(国債の空売り)が激しくなっています。
日銀の金融政策に対しては、やっと市場の監視、警告が作動し始めているのに、財政政策を動かす政治には危機意識がありません。「選挙の洗礼を受けた政治家が政策を決める。官僚は選挙で選ばれていない」が決まり文句で、財政膨張路線を暴走してきました。
財政膨張の「政治的動機」というのは、野党潰しを含めた選挙対策、ポピュリズム(大衆迎合のばらまき)、支持層、支持団体、支持基盤への配慮などです。財源調達は二の次で、歳出増しか考えない。
税収69兆円のうち、消費税が23兆円、所得税21兆円、法人税14兆円などで、今や消費税が最大の税収を生む。消費税率を上げてこなければ、財政構造はとっくに崩壊していたのに、とにかく消費税を目の敵にように扱ってきました。今後も主要な財源は消費税しかありません。
「時代的な背景」というのは、国際情勢の緊迫化に対応するための安全保障費、防衛予算の増大、少子高齢化に伴う社会保障費の拡充、子育て支援、環境対策費です。切るに切れない項目が並んでいます。
自民党筋には、MMT(現代貨幣理論)を担ぎだし、財政膨張の理論的な根拠に据える人たちがいます。「インフレが起きたら財政にブレーキをかける」というのがこの理論です。そう考えても、切るに切れない歳出項目ばかりです。増税にも時間がかかり、簡単にはいかない。
財政論は経済理論でなく政治論であることを忘れているのが、MMT理論という机上、架空の理論なのです。消費者物価4%というインフレが起きているのに、財政支出(ガソリン代や電気代の補助)を増やしている。逆のことをやっている。この理論の発案者は日本を視察するとよい。
「金融政策からの支援」というのは、日銀のゼロ金利政策(YCC・長短金利操作)で、超低利による国債が安易に発行される。金利引き上げで国債発行に伴うコスト意識を回復させることは有用でも、政治に財政の正常化の意識が回復しないと、植田氏の試みはなかなか進まない。
このところ「はやり独立財政機関が必要だ」という声が高まっています。「客観的な財政の将来展望を示す」(政府の黒字化目標は机上の空論)、「次々に浮上する政策提言・提案、スローガンを効果と費用・財源の両面から正しく評価する」、「将来つけが回ってくる若い世代に強く呼びかける」など、課題はいくらでもあります。
政府、政治から切り離した独立財政機関を設け、財政政策の客観的な検証(アベノミクスの検証は存在しない)を定期的に行うことです。G7やOECDといった主要国で、こうした機関がないのは日本だけです。
国会に超党派の財政健全化議員連盟が作られたはずなのに、名ばかりで何の動きもありません。関西経済連合会が昨年8月に独立機関設立の提言を発表しました。これなどは経団連が率先して動くべきでしょう。
デフレ脱却に向けた政府・日銀共同声明(安倍政権)は、結局、日銀に負担を押し付けただけに終わり、政府は財政正常化でも規制緩和でも努力しなかった。植田総裁が正式に就任したら、独立財政機関を設立し、日本は金融財政政策を正常化に向うとのメッセージにすべきです。
●マクロ経済とその変化が理解できない財務省 2/28
先週、自治労関係の団体に呼ばれてインボイスについての講演に行ってきました。自治労のみならず、様々な関係団体がインボイス問題についてしっかり勉強して反対の声を挙げていこう、反対の声を更に強めていことしています。
一方で当の財務省はと言えば、様々意見に聞く耳を持たず、タラタラとわかりにくい説明をした上で、「いずれにいたしましても」と、それまで話したことを「ゼロ」にして、壊れた蓄音機のように「周知徹底に努める」を繰り返すばかり。とにかくインボイスが導入できればそれでよく、どんな悪影響があるのか考えるつもりもなければ、今の日本の社会経済の状況を踏まえれば尚更インボイスの導入などしてはいけないのですが、そんなことにも全く興味関心がないようです。与党の関係会議でも導入反対や延期等の意見が多数出たにもかかわらず、事実上無視。日本では財政民主主義は完全に崩壊してしまっているようです。(ということは、財務省の活動は完全に憲法違反なのですから、普段護憲を唱える勢力は今こそ違憲の財務省を糾弾すべきだと思いますが、憲法第9条を「護る」ことにしか興味がないのでしょう。まさにその憲法第9条こそが、財政法第4条と相まって、日本に緊縮財政を強いている元凶ですから。)
加えて、ネットを中心にインボイスや消費税を巡ってインチキな、はっきり言えば嘘の言説が流布されるようになっています。その典型例が、消費税は間接税であり、消費者から預かった消費税を小規模事業者は本来支払わなければいけないのに、これまで特例的に免除されてきたが、それをちゃんと払えという話になっただけだといった、いわゆる益税論。(論にもなっていないですが。)
こうした嘘話をしたり顔でする人たちというのは、消費税やインボイスをイメージ、しかも間違ったイメージでしか捉えておらず、消費税法も読んだことがないのでしょう。同法を読めば、消費税が間接税ではなく事業者を納税者とする直接税であることは一目瞭然です。仮に消費者が納税者であるとすれば、その旨規定されているはずですが、そんな規定はありません。
また、インボイスについても、これが導入されればこれまでの免税事業者も半ば強制的に消費税課税事業者されてしまうということはなんとなく認識していても、事業者にとっても税理士にとっても事務負担が増大するという問題について、理解はしていなくとも認識している人は、そうした嘘を流布させる人達の中にはいないのではないでしょうか。消費税導入時に、大蔵省がインボイスを導入しなかった最大の理由が、まさにこの事務負担を考慮してのことでした。そのことは、消費税が預かり金でも間接税でも益税でもないことをはっきりさせた、有名な大阪地裁判決の中でも述べられています。
こうした嘘は財務省を利することはあっても、日本社会経済にとっては百害あって一利なしです。しかし、財務省はそれを放置し、「預かり金的」といった意味不明な言葉まで使って、あの手この手で、是が非でもインボイスを導入しようとしています。大蔵省時代にはまだ残っていた良識が、財務省と看板を掛け替えて以降は失われてしまったということなのでしょう。
税というものはあくまでも政策調整の手段ですから、その時のマクロ経済の状況に応じて上手に使い分けなければいけません。例えば、今の日本の状況であれば消費税減税や復興所得税の徴収停止、ガソリン税のトリガー条項の凍結解除といったように、減税が必須です。しかし、財務省の「省教」であるザイム真理教の教義には「減税」という文字は存在せず、「増税」という文字しかないようで、マクロ経済の状況にかかわらず増税しか考えないということのようです。このことは裏を返せば、財務省はマクロ経済の変化のみならず、マクロ経済自体が理解できないということ。
こんな狂信的なカルト集団のような財務省に、これ以上我が国財政運営、マクロ経済運営を任せておくわけにはいきません。
本年4月には全国で統一地方選が行われます。一義的には地方政治・行政に関する選挙ですが、その結果は今後の国政選挙に大きく影響してきます。是非、各候補の財政観や経済についての理解といったことしっかり見極めて、必ず投票に行ってください。既に前哨戦は始まっており、各地で街頭演説やビラの配布等が行われています。そうした情報も参考にしながら、より良い選択をしてください。
あなたの一票は、この国をより良い方向に転換させる、緊縮・増税から反転させる力を持っているのですから。
●23年度予算案が衆院通過=年度内成立確定、1日参院審議入り 2/28
2023年度予算案は28日の衆院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。憲法の衆院優越規定により、参院への送付から30日で自然成立するため、今年度内の成立が確定した。参院予算委員会は3月1日から予算案の実質審議に入る。
予算案の一般会計総額は114兆3812億円に達し、11年連続で過去最大を更新。歳出のうち、社会保障費は高齢化に伴う膨張に歯止めがかからず、36兆8889億円で全体の3割超を占める。防衛費は米国製巡航ミサイル「トマホーク」購入費2113億円を含む6兆8219億円で、過去最大となった。
歳入では国の借金である国債の新規発行額が35兆6230億円。歳出の約3分の1を借金で賄う構図だ。
立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの野党各党は予算案に反対した。
参院予算委は1、2両日、岸田文雄首相と全閣僚が出席する基本的質疑を行う。
●新年度予算案 衆院通過 年度内に成立へ 過去最大の114兆円余り  2/28
一般会計の総額が過去最大の114兆円余りとなる新年度予算案は衆議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党などの賛成多数で可決され、参議院に送られました。予算案は、憲法の規定により、年度内に成立することになりました。
一般会計の総額が、初めて110兆円を超え114兆円余りと過去最大となった新年度=令和5年度予算案は、衆議院予算委員会で可決されたあと、衆議院本会議で採決が行われました。
採決に先立つ討論で、自民党の牧原秀樹氏は「予算案には、5年間で43兆円の新たな防衛力整備計画の初年度として必要な防衛予算を計上している。『自分の国は自分で守る』という意思と能力を有することを世界に示す極めて大切なものだ」と述べました。
一方、立憲民主党の野間健氏は「防衛関連予算の中身は兆単位のどんぶり勘定で、そこには合理性や必然性がない。国民にさらなる負担を強いる増税をはじめ、認めることができない数多くの問題が存在しており、断固として反対する」と述べました。
このあと、記名投票による採決が行われ、自民・公明両党などの賛成多数で可決され、予算案は参議院に送られました。
去年、令和4年度予算案に賛成する異例の対応をとった国民民主党は反対しました。
新年度予算案は、憲法の規定により、衆議院を通過して30日たてば、参議院で採決が行われなくても自然成立するため、年度内に成立することになりました。
予算案は、3月1日から舞台を参議院に移して審議が行われます。
●“子ども増えれば予算倍増”? 目玉政策…木原官房副長官の発言が波紋 2/28
岸田政権は目玉政策として、子ども予算の“倍増”を掲げている。そうしたなか、木原誠二官房副長官のある発言が波紋を広げている。
野党が追及…“子が増えれば予算倍増”?
立憲民主党・長妻昭政調会長「私、テレビを見てびっくりしたんですが、木原官房副長官がこういうことをおっしゃった。子ども予算というのは、子どもが増えれば、それに応じて予算が増えていく」
国会では、テレビの報道番組に出演した木原官房副長官の発言が波紋を広げている。
総理が目指すとしている“子ども・子育て予算の倍増”について…。
木原官房副長官(21日「深層NEWS」(BS日テレ)で発言)「子ども予算というのは、子どもが増えれば、それに応じて予算が増えていくということになります。従って今、出生率が下がっている。これがもしV字回復をして、出生率が本当に上がってくれば、割と早いタイミングで倍増が実現される」
予算を倍増して、子どもを増やすのではなく、子どもが増えた結果、予算が倍増するということなのか。
子ども支援“中身” まだ固まっておらず…
また、木原官房副長官は、政策の効果がなければ「倍増はいつまで経ってもできない」とも発言した。
長妻政調会長「これ総理、こういう根拠に基づいて“倍増”とおっしゃっていたんですか」
岸田文雄総理大臣「ご指摘のテレビ番組における木原副長官の発言ですが、子どもが増えれば予算が倍増するとは、申し上げていないと認識しています。倍増の期限を問われた際に、子どもが増えれば、それに応じて予算が増える面もあるという社会保障予算の特性を紹介したうえで、出生率のトレンドによって倍増が実現するタイミングが変わり得る。それ故に、効果的な予算の中身を考えることが重要であると」
さらに…。
木原官房副長官「何が効果的な予算かというのを皆で議論して。そして、まず効果的な使い方を決めたいと重ねて申し上げたところであります」
政府は、子ども支援の中身はまだ固まっていない、との説明を繰り返している。
●立民・長妻氏「詐欺に近い」 木原氏「倍増」発言で激論―衆院予算委 2/28 
衆院予算委員会の27日の集中審議で、木原誠二官房副長官の「子どもが増えれば予算は増える」との発言を巡り、議論が白熱した。立憲民主党の長妻昭政調会長は「詐欺に近いような話だ」と追及。岸田文雄首相は「社会保障予算の特性を紹介した」などと苦しい釈明に追われた。
発端は21日のBS番組で、首相側近の木原氏が「出生率がV字回復すれば、割と早いタイミングで倍増が実現する」などと発言したことだ。目的と手段をはき違えたかのような内容に、立民は「へんてこな倍増論」(泉健太代表)と問題視している。
長妻氏から発言の意味を説明するよう求められた首相は「これまでの政府の説明と齟齬(そご)があるとは考えていない。子どもが増えれば、それに応じて予算が増える面もある」と釈明。予算委に呼ばれた木原氏も同じ説明を繰り返した。
これに対し、長妻氏は「完全にごまかしだ」とした上で、「(木原氏の)レトリックなら、社会保障費は(高齢者増により)毎年5000億円ずつ増える。増やしたとも言えるが、サービスは同じだ」と指摘。「この考え方でいくと、倍増どころか(子ども)予算は減りかねない」とも語った。
続いて質問に立った立民の山岸一生氏は、LGBTなど性的少数者を巡る前首相秘書官の差別発言に触れ、「そもそも首相にも責任の一端がある。首相の説明が不十分だから、周辺が真意を説明し、次から次へと失言につながってる」と批判。首相は「説明は一貫している」と防戦一方だった。
2023年度予算案は28日に衆院を通過する見通しだが、参院でも「倍増」を巡る論戦が激しさを増しそうだ。
●西村代表代行が保育士の配置基準について岸田総理に質問 2/28
2月28日の衆院予算委員会での2023年度予算締めくくり質疑で、西村智奈美代表代行が質問しました。西村代表代行は、(1)原発政策(2)子育て予算倍増(3)旧統一教会被害救済(名称変更問題)――等について質疑しました。
西村代表代行は、2012年に当時の民主党と自民・公明党の3党で合意した社会保障と税の一体改革で保育士の配置基準を変えるために3000億円の予算措置を速やかに行うことを確認していたにも関わらず、いまだに職員配置の改善が行われておらず保育事故が多いことを取り上げました。そのうえで岸田総理に対し「子どもの安全や命に関わる予算の優先順位を総理は低くしたということか」と問いました。岸田総理は、「これから政策のパッケージを示す中で政府としてもしっかり考えていく」と答弁。西村代表代行は、「安全は待ったなしなんですよ。3000億でやると10年前の約束ですよ。これを相変わらず置き去りにして、防衛の方を極めて突出させた予算編成とすることは大変おかしいことだ」と強調しました。
旧統一教会が名称を変更した件で、昨年11月に西村代表代行が下村元文部科学大臣の関与があったか聞いた際に永岡文科大臣が「無かったと認識している」と答弁したことについて、何を根拠に答弁したのかただしました。永岡文科大臣は「担当の総務課においても当時の資料の内容の確認を行うとともに、当時の担当者から聞き取りを実施したところ当時の文科大臣の指示はなかったということです」と答え、直接当時の担当者と話をしておらず資料も確認していないことを明かしました。「大変無責任だ」と述べる西村代表代行はさらに、全国弁護士連絡会が旧統一教会の名称変更をやめることを求めた申し入れが、下村元文部科学大臣に届いたのかを質問しました。「確認できない」と永岡文科大臣が答弁するため、西村代行は「こういったことすらも確認できなくて、どうして下村元大臣の関与が無かったと答弁できるのか、はなはだ疑問だ」と指摘しました。
●藤岡議員、2023年度政府予算案に反対討論 2/28
衆院予算委員会で2月28日、2023年度(令和5年度)予算案の質疑が終局し、「立憲民主・無所属」を代表し、藤岡隆雄衆院議員は反対討論に立ちました。討論の末採決が行われ、与党などの賛成多数で可決しました。
藤岡議員は、この間の予算審議を通じて明確になったことは「2012年政権交代以降の失われた10年の姿だ」と指摘し、「総理が言う大きく間違った方向に進んだ10年」と述べました。具体的には、政府与党の所得制限なしの子ども手当に反対した重大な間違への反省がないこと、子ども予算倍増と言いながら、そのベースを最後まで示すことができなかったこと等を指摘し、「異次元の覚悟のなさ」と岸田総理を批判し、立憲等が提出した児童手当所得制限撤廃法案への賛成を強く求めました。
LGBTQに対する総理秘書官の言語道断の差別発言、岸田総理のネガティブな発言も撤回をしないままだと指摘し、「先進国に大きく遅れをとっている差別禁止法、同性婚の法制婚を決断すべき」と総理に訴えました。
政府予算案においては額ありきのトマホークの弾数をめぐって、泉代表が米国同様の情報開示を求め、答弁するも「400発の予定」「最大400発」と政府答弁が食い違っていたこと、存立危機事態での反撃能力の行使については、具体的な事例が最後まで示されなかった等を指摘した上で、「防衛増税」「復興財源や年金財源の流用」「巨額予備費」等「看過できない問題が多くある」として、反対の立場を表明しました。
●岸田首相 “衆院解散は適切に判断していく” 衆院予算委  2/28
岸田総理大臣は、防衛費増額に伴う増税などをめぐって、野党側から衆議院を解散するよう求められ「時の総理大臣の専権事項だ」と述べ、適切に判断する考えを示しました。
衆議院予算委員会で、日本維新の会は防衛力の抜本的な強化や、少子化対策の充実に伴って、増税が必要だと判断するのであれば、国民に信を問うべきだとして衆議院を解散するよう求めました。
これに対し岸田総理大臣は「防衛力の抜本的強化や子ども・子育て政策、エネルギー政策や賃上げをはじめとする経済政策をしっかりと進めていく。大きな歴史の転換点にあたって先送りできない課題に取り組み、国会にも議論をお願いしている」と述べました。
そのうえで「どのタイミングで国民に信を問うことが適切なのか考えていかなければならないが、何についてどのように問うかは、時の総理大臣の専権事項で、適切に判断していきたい」と述べました。
●同性婚認めないこと「国による不当な差別とは考えていない」 岸田首相 2/28
岸田首相は、28日の衆院予算委で、「少なくとも同性カップルに公的な結婚を認めないことは、国による不当な差別であるとは考えていない」と述べた。
これについて岸田首相は、「憲法第24条第1項は、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立すると規定しており、当事者双方の性別が同一である婚姻の成立、すなわち同性婚制度を認めることは想定していない。これが政府の考え方だ」と説明した。
その一方で岸田首相は、「様々な関係者から話を聞いた。丁寧な議論が必要だということを強く感じた」と述べた。
そして、「今後とも、国民の様々な声、国会における議論、同性婚に関する様々な裁判の結果、地方自治体におけるパートナー制度の実施の状況、そういった点もしっかり念頭に置きながら議論を行っていきたい」と強調した。  
●斎藤アレックス議員が令和5年度予算案に対する反対討論 2/28
斎藤アレックス政務調査副会長(衆議院議員/滋賀1区)は28日、国民民主党を代表し、衆議院本会議で議題となった令和5年度予算案に対する反対討論を行った。

国民民主党の斎藤アレックスです。私は会派を代表して、ただいま議題となりました令和5年度総予算三案に反対の立場から討論を行います。
我が国は「長期にわたり停滞する経済」「止まらない少子化傾向」という深刻な問題に直面しています。これらを改善、解決し、日本に希望と未来を取り戻すためには、これまでの凋落の30年間を招いた政策体系から大きく転換し、「給料が上がる経済」に資する予算、「人づくり」に資する子ども・子育て政策関連の予算を編成しなければなりません。
しかし、岸田政権が編成した令和5年度総予算には、そのような日本の根本的な問題への解決策が欠落しており、これまでと同様、問題解決を先送りし、そしてこれまでと同様にさらに問題を大きくする結果を招くことは火を見るよりも明らかです。
岸田総理が兼ねてから主張し、そして年頭会見で表明した「異次元の少子化対策」に必要不可欠な「子育て関連予算の将来的な倍増」については、増額の規模や時期など詳細は全く示されませんでした。防衛力強化は一定の評価をするものの、過度な秘密主義で中身を確認できない予算、そして防衛増税は、これまでの政府からの不十分な説明では、とても国民の理解を得られるとは思えません。賃上げに関連する政策も過去の延長線上のものにすぎず、より大胆な賃上げ税制が盛り込まれることはなく、最低賃金の大幅な引き上げの意思も、総理の予算委員会での答弁では感じられませんでした。賃上げを妨げると同時に人手不足を招いている「年収の壁」問題を突破するための給付、そして根本的な社会保険制度の改革に関しても、検討するとの受け答えに終始し、働く人たちの声も、経営者の声も全く聴いていないのではないかと疑わざるを得ません。
国民民主党は「対決よりも解決」の理念のもと、批判は常に対案を示しながら行っています。限られた時間ですが、以下、具体的な対案を申し述べることで、反対討論に代えさせて頂きます。
まず、賃上げ税制は、赤字企業・事業者が賃上げ原資を確保できるようにするため、法人税に加え法人事業税や固定資産税もその対象に含む内容に修正するべきです。
つぎに、子育て予算に関しては、児童手当をはじめとした子ども・子育て支援における公的給付の所得制限を撤廃するとともに、岸田総理も就任時に公言した「子ども予算倍増」の内容に修正し、とりわけ、障害児福祉に関する公的給付の所得制限は即刻撤廃すべきです。
そして、ガソリン減税と電気、LPガス代値下げを実現するため、ガソリン・軽油のトリガー条項の凍結を解除するとともに、電気料金に上乗せされている再生可能エネルギー発電促進賦課金の徴収を停止すべきです。加えて、地方において重要なインフラとなっているLPガスについても所要の対策を講じることが必要です。
また、我が国の構造的な問題を解決するために次の5点の対策を講じることを求めます。
1点目は、労働力不足、女性の社会進出の障害となっている「年収の壁」問題について、抜本的な社会保険改革を早急に行うとの約束のもと、当面の対策として「年収の壁」を超えて労働する場合の収入減少分を穴埋めする『「年収の壁」突破給付』を導入すること。
2点目に、金融所得の総合課税を含む所要の措置を講じ、「1億円の壁」に代表される税負担の不公平の問題を改善すること。
3点目は、教育国債発行により財源を確保し、教育など人づくりのための予算及びデジタル化・カーボンニュートラルを柱として科学技術関係予算を倍増し、日本の科学技術と産業の国際競争力を取り戻すこと。
4点目に、少なくとも、「持続的な賃上げが定着する経済社会状況」が実現するまでの間、増税はしない方針を盛り込んだ内容に防衛予算を見直すこと。
5点目に、日銀保有国債の一部永久国債化、外為特会の一般会計への繰り入れ等により、財源を多様化するとともに、予備費縮減・決算剰余金の透明化等により、財政規律を強化すること。
国民民主党はこのほかにも、インフレ手当の支給、消費税減税とインボイス制度導入延期などを提案しています。残念ながら、これらを盛り込んだ予算組み替え動議は予算委員会で否決されてしまいましたが、国民民主党は一つずつでも国民生活を支える政策を実現できるよう、引き続き真摯な議論を他党に働きかけてまいります。
戦後、目覚ましい復興と発展を遂げた日本ですが、1990年代以降の日本は経済の長期低迷が続き、国際競争力も科学技術力も凋落の一途をたどり、一人当たりGDPは先進国で最低水準。全体のGDPでも、人口が日本より大分少ないドイツにもまもなく抜かれて、かつて世界第2位の経済大国であったのが、4位にまで日本は順位を落とすと見込まれています。少子化傾向は止まらず、今後30年間で労働人口が3割も減ると推計されており、そもそも社会を維持することができるのかさえ危ぶまれる状態です。何よりも問題なのは、そのような環境下で、あらゆる年代の人たちが将来不安を膨らませ、若い人たちさえも明日に希望を持てていないことです。総理は先日、第二次安倍政権以降の自公政権は「前進の10年」であったと胸をはっておられましたが、本気でそう思っているのでしょうか。問題から目をそらしたり、間違いを認めず機能していない政策体系に固執したりして、問題解決ができるはずがありません。岸田政権には、改めて現実に目を向け、真摯に日本の課題に取り組むことを求めます。
国民民主党は困難な問題から目をそらさず、対決よりも解決の理念で、日本を再生する仕事に全力で取り組むことをお約束して、会派を代表しての討論といたします。
ご清聴ありがとうございました。
●出生数初「80万人割れ」の衝撃…ミサイル購入に「人の命を奪う予算先行か」 2/28
やはり衝撃的な数値だ。
厚生労働省が28日に公表した2022年の人口動態統計の速報値によると、年間出生数は79万9728人で、前年と比べ4万3169人(5.1%)減少し、1899年の統計開始以来、初めて80万人を割り込み、過去最少となった。
国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した将来推計人口では、出生数が80万人を下回るのは30年と見込んでいたから、予想を大幅に上回る「異次元のペース」で少子化が進んでいるとみられる。
人口は国力に直結するだけに「待ったなし」の対策が必要。「異次元の少子化対策」を打ち出した岸田文雄首相のリーダーシップに期待したいところだが、最近の国会答弁を聞いていると、「異次元」どころか取り組む姿勢がどんどん後退しているかのようだ。
例えば27日の衆議院予算委員会。立憲民主党の長妻昭政調会長は、岸田首相が国会で子ども予算を「倍増する」という趣旨の発言の真意について質問。「予算の倍増に期待している人は多く、祈るような気持ちで国会審議を聞いている人もいる。倍増というのはGDP=国内総生産比で倍にするのか、絶対金額を倍にするのか、どちらなのか」とただすと、岸田首相は「最初からGDP比いくらだとか今の予算と比較でどうかとか、数字ありきではない」などと答弁したことから議場は紛糾。「意味不明だ」「支離滅裂だ」などとヤジが飛び交った。
本当に「数字ありきではない」なのか
岸田首相といえば、昨年「数字ありきではない」末に防衛費の大幅増を打ち出した際、「内容、予算、財源を一体で決める」「必要なものを積み上げる」と繰り返していたにもかかわらず、唐突に2027年度にGDP(国内総生産)比で2%まで増やすよう指示するなど、「結局は数字ありきではないか」などと批判の声が上がった。
このため、SNSなどでも、岸田首相が子ども予算の倍増について「数字ありきではない」と答弁したことに怒りの投稿が相次いだ。
《防衛費はパッと決めて、少子化予算はグダグダっておかしくない》
《少子化対策よりミサイルが大事なのね。でも、人口が減って撃つ人がいなくなったら意味なくない》
《なぜ人の命のための予算ではなく、人の命を奪う予算を先行させるのか》
岸田政権は米国製巡航ミサイル「トマホーク」を400発購入することを公表したが、その分の予算があれば一体、どれだけの少子化対策に使えるのだろうか。
 
 

 

●岸田首相に「庶民の声が届かない」理由 3/1
岸田文雄内閣の支持率は下げ止まり感が出ているものの、相変わらず低迷している。 理由として「庶民の声が届いていない」との指摘がある。それはなぜか。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。
元福島県知事の佐藤雄平氏(75)が言うように、岸田首相に「庶民の声が届かず」「土の匂いがしない」のはなぜか。岸田首相の周りには、中央官庁の事務次官級の経験者がそろっている。外交・安全保障を統括する国家安全保障局長は秋葉剛男元外務事務次官、官邸事務方トップの官房副長官(事務)は栗生俊一元警察庁長官、首相の首席秘書官は嶋田隆元経産事務次官、防衛担当の官房副長官補は高橋憲一元防衛事務次官という顔ぶれだ。
霞が関の官僚たちは、この次官OBらを通じて政策を進めようとする。岸田首相の元には、役所の「やらなければならない政策リスト」が次々と届けられる。法人税や所得税の増税、防衛費の増額、原発再稼働──。昨年の参院選前までは、岸田首相の側近から役所に対して「国政選挙で自民党が勝つまで、難しい案件は持ち込むな」という指示が出ていた。参院選後は、場合によっては3年間、衆参両院の選挙がなくて済む「黄金の3年」になるので、難しい案件はその3年間に処理しようという意味でもあった。その結果、防衛費増額や原発再稼働などの案件が首相に届けられた。
パイプが欠けている
歴代政権では、官房長官が首相の「盾」となって官僚からの要求をさばいた。小渕恵三政権の野中広務官房長官、小泉純一郎政権の福田康夫官房長官といったベテラン政治家は「政治判断」をして各省庁に要求を突き返したが、岸田政権の松野博一官房長官には荷が重い。役所の要求が官邸にいる事務次官OBの手を借りて、そのまま通っている。原発事故の被災者やミサイルが配備される沖縄県の住民、子育てに苦労する人たちという庶民の声は高級官僚には届きにくい。それが岸田政権の「弱点」になっていることは明らかだ。
岸田氏が会長を務める宏池会は官僚出身者が多く、「お公家集団」といわれてきた。それでも、歴代会長は庶民派の政治家と組むことで弱点をカバーした。ともに大蔵官僚出身の大平正芳、宮澤喜一両氏はそれぞれ、「今太閤」の田中角栄氏、武闘派の梶山静六氏を頼りにした。外務官僚出身の加藤紘一氏は、幹事長時代に町長出身の野中広務幹事長代理から助言を聞いた。岸田政権には、そんな「庶民の声」とのパイプが欠けている。
冒頭の佐藤氏は「岸田政権に代わる政権をつくらないと日本がおかしくなる。安定感のあるのは野田佳彦元首相。野党と自民党の一部が結集して野田氏を擁立し、自民党に対抗する勢力ができないかと期待しているのだが……」という。だが、その展望はなかなか見えてこない。
●つじつま合わない財政規律派・岸田首相の理屈 3/1
それが少し国民の考えとは違っても元首相・安倍晋三には政治家として、長期的な視野や目標と覚悟があった。憲法改正を唱え幾つかの改正案を国民に提示、国民が乗ってこなければ「機が熟していない」とひっこめ、改めて懲りずに新たな改正案を示した。当初から長期政権を持つ覚悟の中での安倍の政治手法だったといえる。無論それが暴走したこともあったから権力をひとつにくくることはできないが、今の首相・岸田文雄のように、安倍・菅政権の積み残しの後始末が必要だといっても、展望なくいきなり案件を持ち出し、まとめようとする手法は政権が1つの仕事をまとめるということより、政権がある間に片づけてしまいたいというビジョンのない政権の焦りだ。
首相は7日の衆院予算委員会で政府が掲げる子ども予算倍増のベースとなる基準について重ねて明示を避けた。だが15日の予算委で家族関係社会支出が20年度に「GDP比2%を実現している」とし「それをさらに倍増しようではないか」と答弁。「中身を決めずして最初から国内総生産(GDP)比いくらだとか今の予算との比較でとか、数字ありきではない」と言うが、倍増を掲げたのは首相だし、その理屈は防衛費議論では数字ありきの議論だった。
23日、自民党政調会長・萩生田光一は党会合で、少子化対策をめぐり「新婚で最初に困るのは新居だ。全国の公営住宅に20万戸の空きがある。貸してあげたらいい」。児童手当の所得制限撤廃に関しては「検討の価値はあるが、1500億円の財源が必要になる。1500億円あるなら(新婚家庭が入居する公営住宅の)畳やお風呂、トイレを新しくしてあげたい」と述べた。政府与党の幹部が勝手なことを言っていても、首相は気にならないようだ。元々つじつまなど合わせる気もないのだろう。それでも財政規律派というのだからあきれる。
●時代遅れにも程がある。石破茂が岸田首相トマホーク爆買いに「猛反対」 3/1
2月27日の衆院予算委員会で、米国製ミサイル「トマホーク」400発の購入予定を明言した岸田首相。既に2,000億円以上の予算が計上されていますが、はたしてこの決定は日本にとって「正答」と言えるのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、防衛政策通として知られる石破茂衆院議員の言を引きつつ、その選択が誤りであることを証明。さらに岸田首相の大軍拡路線について、元自衛艦隊司令官が言葉を荒げなければならないほど危ういものであると結論づけています。
時代遅れのおんぼろミサイル。トマホークに2,000億円超つぎ込む岸田首相「亡国の大軍拡」
本誌は先週、石破茂=元防衛相の2月15日衆院予算委での質問を詳しく取り上げたが、彼は今週の「サンデー毎日」3月5日号に登場してさらに細かいニュアンスまで含めて語っているので、その中からいくいつかの論点を追加的に紹介する。
第2次世界大戦敗戦と同じ道を辿る岸田政権の軍拡
石破は要旨次のように言う。
・中国の軍拡は確かに懸念事項ではあるが、我が国もまた軍事大国であってはならないし、防衛力は節度を持って整備されるべきだ。軍の組織維持が自己目的化して痛い目に遭ったことが我が国にはある。ここは歴史に学ばなければならない。
・米国と戦って日本は勝てるのか、「総力戦研究所」がシミュレーションした結果、総力戦になると必ず負けるという結果が出た。にもかかわらず戦争に突入してその予測通りになった。〔その裏には〕陸海軍それぞれの組織防衛があった。
・海軍からすれば戦艦「大和」は完成寸前だったし、「武蔵」は長崎で建造中だった。米国と戦争できないならそんな海軍には予算をやれない、陸軍もソ連と戦争できないならそんな陸軍に予算はいらない、となった。予算確保という個々のセクションの部分最適が、総力戦では勝てるわけがないという全体最適を大きく歪める結果となった。政治もメディアも止めなかった……。
これは全くもって今日的な問題で、冷戦が終わってソ連の脅威が事実上消滅し、それ以外に日本に向かって大規模上陸侵攻して来るような国は存在しないことが誰の目にも明らかになったことで、陸上自衛隊の存在意義は著しく減退した。当時、自民党中枢の金丸信=自民党副総裁から「陸自大幅削減、海空中心のハイテク部隊によるハリネズミ防衛論」が出たり、その金丸と親しかった社会党の田邊誠委員長から陸自を「国境守備隊、内外災害派遣部隊、国連平和部隊に3分割すべきだ」との案が打ち上げられたりした。
それで困った陸自が、本誌がしばしば指摘してきたように、北朝鮮崩壊で武装難民が離島に押し寄せるとか、中国の漁民に偽装した海上民兵が尖閣諸島を盗みに来るとか、台湾有事になれば即座に日本有事だとか、あれこれ空想を膨らませてマンガ的な架空話をデッチ上げ、組織の温存と予算の獲得に狂奔してきた。が、政治もメディアもそれを止めることが出来ないというのが、昔も今も変わらぬ光景である。このようにしてこの国は道を誤って行くのである。
石破茂が二階元幹事長につけた注文
石破は「サンデー毎日」でこうも語る。
・共産党を除き野党も質問の冒頭に「防衛費の増額には基本的に賛成」などと言うものだから、迫力がなく、議論も深まらない。防衛費増額の内容について言及する質疑者も皆無だ。日本を取り巻く安全保障環境がかつてないほどに悪化している、という評価には同意するが、それがどういう分析に基づくものなのか、精緻な議論を期待していただけに残念でならない。
・安保環境は確かに変わった。……ロシアがウクライナを侵略した。北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、……中国の軍拡は留まるところを知らない。ただ、今日のウクライナは明日の日本だとか、台湾有事が急迫しているとか簡単に言うべきではない。その前に外交がどこまで尽くされているかを徹底議論、検証すべきだ。
・日中関係も今回の安保政策の大転換の背景として台湾有事を念頭に置くのであれば、それを意識した外交をむしろ積極的に行い、日中関係を前進させるべきだ。訪中の意向を示された二階俊博先生には、中国から信頼される数少ない政治家として、かつ、自民党の派閥の領袖であり、幹事長を長らく務めた実力者として、日中の関係改善に向けた道筋をつけてもらいたい。
・この期に及んでも、親中派とか媚中派とかレッテルを張って、異端視する雰囲気が自民党内にあるのだとすれば、極めて憂慮すべきだ……。
立憲民主党が、防衛費増額や敵基地先制攻撃力の取得について「条件付き賛成」のようなことを言っているのは全く無責任極まりない逃げの姿勢で、その流れを作り出したのは枝野幸男=前代表の著書『枝野ビジョン』の誤謬にあることは、2月2日付日刊ゲンダイのコラムで指摘した。
これでは石破に「だから、迫力がなく議論も深まらない」と言われても仕方がない。
ただただ「怖い」という感情を煽る稚拙な脅威論
しかし私は、石破も含めてほとんど誰もが自明の理であるかに繰り返す「日本をめぐる安保環境がかつてなく悪化」とか「ますます厳しくなっている」とかの言い方には賛成しない。
あれもこれも一緒にして「怖い」という感情を煽るようなことは“脅威”を論じる場合に絶対にしてはならないことで、中国の軍拡や北朝鮮のミサイル開発やロシアのウクライナ侵攻が、それぞれにどういう戦略的な意図の交錯の下に仕組まれているのか、そのそれぞれの場合にどういう戦術的選択の可能性があってそのどれがどう実行された場合に日本にいかなる危険をもたらしうるのかは、理性に従って、声高にではなく、それこそ「精緻な議論」を通じて、積み上げる必要がある。国会で行わなれなければならないのは、まさにそういう論戦である。
その上で、あくまで外交を重視すべきだとの石破の意見には賛成である。
「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」とはクラウゼビッツの有名な定義だが、これは間違いで「戦争とは政治の失敗を取り繕おうとする破れかぶれの手段である」と言うべきだという人もいるくらいで、戦争に訴えるなど愚の骨頂、何事も外交による話し合いで解決できればそれに越したことはないという常識が罷り通る世界にしなければならない。
遅い上に乏しい破壊力。石破がトマホーク購入に疑問を呈する訳
石破はさらに、岸田が計画するトマホーク500発を2,000億円超で米国から購入する馬鹿げた案についてこう言っている。
・20年前に防衛庁長官として、敵基地(当時は策源地)攻撃能力を持つとすれば、トマホークが考えられるが、速度が遅いので疑問なしとしない、という答弁をしている。……要は飛行機と同じだ。翼による揚力で飛ぶので、時速は850キロまでしか出ない。遠くまで飛ばそうと思ったら燃料を多く積むので弾丸の量が限られる。遅いし、破壊力も乏しいし、高高度を飛ぶわけではないから撃墜される危険性も相当ある。
・〔岸田が高性能だと言うのは〕精密誘導で確実に〔目標に〕当たると言うことだろうが、そこに行くまでに落とされる可能性も低くない。
・ここは白紙的に議論して、弾道ミサイルの保有についても真剣に検討すべきだ……。
石破が主に問題にしているのは、速度の問題。まさしく「飛行機と同じ」でジェットターボファン・エンジンで推進し「翼による揚力で飛ぶ」ので、「時速850キロまで」(最新のもので880キロ)。ボーイング474旅客機の1,000キロ/時強より遅いくらいだから、確かに撃ち落とされても仕方がない。だから、やるなら「弾道ミサイルの保有」しかないと石破は言う。ミサイルだとロケットモーター推進で飛ぶので射程1,000キロ程度の短距離ミサイルでもマッハ9=時速1万キロ/時ほどで、しかも高高度を飛ぶので、撃ち落とされる可能性は10分の1以下になるのだろう。
とはいえ、私はトマホークにせよ短距離ミサイルにせよ、敵基地先制攻撃能力など保有すべきでないという立場なのでこの比較に意味を見出さない。
もっと言えば、私は「核抑止力」を含む「抑止力」という観念そのものに反対で、なぜならそれは、相手の能力と意図を邪推し合う疑心暗鬼の心理ゲームであるが故に、際限のない軍拡競争を駆動せざるを得ないという本質的な一般論に加えて、とりわけ日本の場合は憲法9条において「武力の行使」のみならずそれに直結しかねない「武力による威嚇」さえも禁じていて、抑止力はまさに武力による威嚇で相手に攻撃を思い止まらせようという心理作戦のことであるから、他国ではともかく日本では、違憲であるというローカルな特殊論が加わるためである。
元自衛艦隊司令官も声を荒らげ反対する岸田首相の大軍拡
ちなみに、この「トマホーク500発購入」という途方もない計画は、日経新聞22年11月3日付の解説によれば26年度に運用開始が予定されている国産ミサイル「12式地対艦誘導弾・能力向上型」陸上発射型、27年度の同艦上発射型及び空中発射型の配備までの繋ぎと位置付けられているらしい。そしてさらにその先の「30年目処」には「国産の極超音速ミサイル」も展望されている。
が、これらについては香田洋二=元自衛艦隊司令官が著書『防衛省に告ぐ/元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態』(中公新書ラクレ、23年1月刊)とそれについての毎日新聞2月19日付のほぼ1面を費やしたインタビューで詳しく論じられているので、是非お読み頂きたい。
彼はトマホークについては何も言っていないが、その後に来るべき「12式地対艦誘導弾」については、「全長、直径ともトマホークの2倍程度の大きさになり、これでは世界一簡単に撃ち落とされるミサイルになってしまう」、こんなものをこれから開発するのは「あえていうなら、それはばくちです」と吐き捨てている。
香田のような第一級の軍人OBがここまで言葉を荒げなければならないほど、岸田大軍拡は日本を誤らせようとしているのである。
●根幹部分でまともな説明なし 大軍拡予算案強行に抗議 3/1
日本共産党の志位和夫委員長は28日、国会内で記者会見し、2023年度予算案が衆院本会議で可決されたことについて問われ「(岸田政権は)ことごとく根幹部分でまともな説明をできないまま、大軍拡予算を強行した」「まともな説明をやること抜きに数の力で採決を強行したことに強く抗議する」と述べました。
志位氏は、「今度の予算案は敵基地攻撃能力の保有と空前の大軍拡という、かつてない危険な道を具体化しようという戦後最悪の予算案だ」と指摘。日本共産党としてはその危険性に切り込み、平和の対案を示しておおいに論戦したが、岸田政権はまともな説明が一切できなかったと述べました。
敵基地攻撃能力保有と憲法との関係や「専守防衛」との関係、自衛隊と米軍が「融合」する形で先制攻撃を行う危険性などを追及してきたが、答えがなかったと述べ、「根幹部分でまともな説明がないまま大軍拡予算を強行した」と強く抗議しました。
さらに、「軍拡の圧力によって、社会保障関係費は自然増1500億円が圧縮され、文教費は実質マイナス、中小企業費、農林水産費はマイナスだ」と強調。「暮らしの予算をすべて踏みつぶし、軍事だけは突出している」と批判し、引き続き参院予算委員会の質疑で問題点をただしていくと述べました。
また、岸田文雄首相が掲げた「子ども予算倍増」について「何を倍にするのかという基本のところがあいまいになり、スローガンだけに終わっている」と批判。一番求められている教育費負担軽減の提起には全く答えがなかったとして「『異次元の子育て支援』というが、羊頭狗肉(ようとうくにく)の最たるものだ」と述べました。
●賃金の下方硬直性が物価・賃金の相乗的上昇の妨げに 3/1
トヨタは2年連続で早期の満額回答
トヨタ自動車(トヨタ)と本田技研工業(ホンダ)は2月22日、2023年春闘での賃上げや年間一時金(ボーナス)について労働組合の要求に満額回答した。トヨタの労働組合は、1人平均の賃上げ要求額は過去20年で最高水準だ、と説明していた。トヨタの満額回答は3年連続のことであり、また、3月の集中回答日を待たずに決着したのは2年連続となる。
トヨタの賃上げは、自動車業界のみならず産業界全体の事実上のベンチマーク(基準)になっていることから、中小企業を含む業界全体や他産業の賃上げを促す効果が期待されるところだ。
政府は3月に「政労使会議」を開催
岸田政権は、物価上昇を上回る賃上げを目標に掲げている。その実現に向けて政府は、経済界、労働団体の代表らと協議する「政労使会議」を3月に開く方針だ。大企業の集中回答日は3月15日であるが、その前の3月上旬にも政労使会議を開き、大企業に賃上げを促す。さらにその後予定される中小企業の春闘にも賃上げを波及させたい考えだ。
また政府は、首相と連合会長による「政労会見」の開催にも前向きな姿勢を示している。連合によると、「政労会見」は2009年の麻生政権以降、開催されていないということだ。
「政労使会議」、「政労会見」の開催は、物価上昇を上回る賃上げの実現に向けた岸田政権の強い意志を裏付けるものである。ただし、賃金は、労使の交渉で決まるのが原則であり、政府が過剰に関与すれば、経済に歪みを生じさせるリスクもあることに、政府は配慮しなければならないだろう。例えば、労働分配率を大幅に引き上げるような高い賃上げは、企業収益の悪化を通じて、企業の設備投資を慎重にさせ経済に逆風となる。また、収益悪化は雇用や先行きの賃金の抑制につながる可能性もあり、やや長い目で見れば、労働者の利益にならないことが考えられる。
春闘でのベアは+1%強と2022年の物価上昇率+2.3%に遠く及ばない
いよいよ大詰めを迎える大企業の春闘では、賃金上昇率はかなり上振れる見通しだ。筆者は、今年の春闘でのベア(ベースアップ)は+1%強、定期昇給分を含む賃金上昇率は+3%弱と予想してきたが、この見通しよりも上振れる可能性が出てきている。
政府は、物価を上回る賃上げを求めている。ただし、その実現は簡単ではない。1月の消費者物価(除く生鮮食品)は前年同月比+4.2%と、2か月連続で4%台に乗せたが、春闘で参照される前年、つまり2022年の平均消費者物価(除く生鮮食品)上昇率は+2.3%である。今年の春闘で、定期昇給分を含む賃金上昇率でみれば、この水準を上回る可能性が高い。
しかし、個人消費への影響や企業の人件費増加率を推し量る観点から注目すべきなのは、定期昇給分を含む賃金上昇率ではなくベアである。個人ベースでみれば、定期昇給も所得を増加させるが、家計全体の所得あるいは企業の人件費の増加率は、定期昇給を除く賃金上昇率で決まる。新卒の採用数と定年退職者数とが等しい場合には、定期昇給分は家計全体の所得の増加、あるいは企業の人件費の増加につながらないためである。
そして今年の春闘のベアは+1%強と2022年平均の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率+2.3%の半分程度にとどまる見通しである。
ベアには明確な下方硬直性
物価上昇率が上振れる局面で、それを上回るベアが全体として実現する可能性はかなり低い、と言えるだろう。その最大の理由は、ベアには慣例的に強い下方硬直性があるためだ。ベア率はほぼ下がらないのである(図表)。
   図表 ベアと消費者物価上昇率
一時的な物価上昇率の上振れに合わせて大幅なベアを実施した翌年に、仮に物価が下落に転じても、企業はベア率をマイナスにして基本給を引き下げることができない。その場合、企業の人件費負担が大きく高まってしまう。
こうしたリスクを踏まえれば、物価上昇率が上振れる局面で企業がその物価上昇分を上回るベアを実施しないことは、経済合理性の観点に照らせば自然なことである。
ベアの強い下方硬直性に基づくこのような企業の賃金決定方針は、物価上昇率が上振れる局面では、家計の実質所得を減少させ、個人消費には逆風となってしまう。この点は問題ではあるが、一方で、ベアの強い下方硬直性のもとでは、物価が下落する局面においてもマイナスのベアは生じないことから、家計の実質所得を増加させ、個人消費を支えることになる。そのため、一概に問題であるとは言えないだろう。
過去20年程度の春闘でのベアと前年の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率を比較すると、物価上昇率が0%〜+0.5%程度が、分岐ゾーンであることが分かる。分岐ゾーンとは、ベア率が物価上昇率と概ね一致する水準だ。物価上昇率がそれ以上の水準であれば、物価上昇率がベア率を上回り、それ以下であれば物価上昇率がベア率を下回る傾向がみられる。
物価と賃金のスパイラルは生じない
物価上昇率が上振れ、賃金上昇率も高まる見通しの中、賃金上昇率と物価上昇率が相乗的に高まっていく姿を、賃金と物価の好循環として期待する向きも少なくない。しかし、ベアの強い下方硬直性のもとでは、それは生じないだろう。
物価上昇率が上振れても、賃金上昇率はそれ以下の水準に留まり、実質賃金の下落が個人消費に逆風となる。賃金上昇率が高まると、その影響で物価上昇率が一定程度押し上げられ、一定程度、相乗効果が生じる可能性はある。しかし、賃金上昇率の上振れ分が物価上昇率の上振れ分を下回るため、両者間で加速的な相乗効果は生じずに、早晩、一定水準の物価上昇率、賃金上昇率へと収れんすることになりやすい。実質賃金の下落が個人消費に逆風となることも、企業の価格引き上げを慎重にさせるだろう。
過去30年近くを振り返ってみても、エネルギー価格の上昇、円安といった海外要因、そして消費税率引き上げによって消費者物価上昇率が一時的に上振れた局面でも、それを起点に物価上昇率と賃金上昇率の相乗的な高まりが生じたことは、確認されたことはない(図表)。
●林外相、G20欠席へ…参院予算委が審議出席要求  3/1
林外相はインドで3月1、2日に開催される主要20か国・地域(G20)の外相会合について、出席を見送る方向となった。参院予算委員会が2月28日の理事懇談会で、2023年度予算案の審議に出席を求めることを決めた。
理事懇談会では、23年度予算案の審議を巡り、岸田首相と全閣僚が出席する「基本的質疑」を3月1、2日に行うことで一致した。3日には、首相と鈴木財務相、要求された閣僚が出席する「一般質疑」を行うことでも大筋合意した。
3日は、インドで日米豪印4か国の協力枠組み「クアッド」の外相会談の開催が調整されている。野党がその日の予算委で林氏の答弁を要求すれば、クアッド外相会談も出席できない。
自民党の世耕弘成参院幹事長は記者会見で、「基本的質疑は非常に重要度が高い」と述べ、外交日程よりも優先せざるを得ないと説明。クアッド外相会談については、「(3日は)通告した閣僚に対する質疑なので、ぎりぎり間に合う可能性もある」と語り、野党と調整して出席を模索する考えを示した。
国会優先 国益損ねる
インドでのG20外相会合への林外相の出席を阻む形となる参院予算委員会の決定は、自由で開かれた国際秩序の堅持に向けた日本外交の決意と覚悟を疑われる事態を招きかねない。
G20は、国際秩序を揺さぶり、独自の主張を展開するロシアや中国もメンバーだ。対露政策で様子見を続ける国も含まれる。法の支配の重要性を掲げ、中露に対抗する結束を呼びかける日本の外交トップが不在では、その説得力は低下する。
先進7か国(G7)の議長国を務める日本は、対露制裁とウクライナ支援の議論を主導する役割を期待されている。広範な対露包囲網の形成には、G20議長国のインドとの緊密な連携が欠かせないが、そうした取り組みにも水を差しかねない。インドの現地メディアは「国内事情での外相欠席は、議長国インドをいら立たせるだろう」といった論評を報じている。
国会での予算審議の重要性は言うまでもない。とはいえ、予算委への閣僚出席を慣例で求めた与野党双方は「国会優先」と唱えるばかりで、外相の責務、優先課題を真剣に検討した形跡はうかがえない。予算委での答弁は副大臣や政務官でも対応可能だ。
首相や閣僚が過度に国会に拘束され、外交活動が制約される問題はかねて指摘されてきた。外務省幹部は「外交上、重大な損失になる」と危惧する。外交上の損失は、国益を損ねることを意味する。与野党と政府は今一度、国会審議のあり方を見つめ直す必要がある。
●林外相、G20欠席 予算審議優先、省内ため息 3/1
林芳正外相は、3月1、2両日にインドで開かれる20カ国・地域(G20)外相会合を欠席する。
2023年度予算案の参院審議と重なったためだ。日本は先進7カ国(G7)の今年の議長国で、政府内では外交への影響を懸念する声が出ている。
参院予算委員会は、岸田文雄首相と全閣僚が出席し1、2両日に予算案の基本的質疑を行う。17年から定例化したG20外相会合を日本の外相が欠席するのは初めて。林氏は28日の記者会見で「G7議長国としてしっかり発信したい」と強調した。政府は山田賢司副大臣を代理で派遣する方針だ。
G20には中ロなども参加。ロシアのウクライナ侵攻を巡り、G7と異なる立場の国もあり、日本政府は今年のG20議長国インドとの連携を重視している。首相は「5月のG7広島サミットの成果を9月のG20サミットにつなげる」と訴えていることから、外務省幹部は「外相の欠席は痛い」とため息交じりに指摘。政府関係者も「インドとの間でしこりが残らなければいいが」と漏らした。
印政府がG20外相会合の日程を発表したのは1月17日。外務省関係者によると、早くから関係者への根回しを始めたが理解を得られなかった。自民党の世耕弘成参院幹事長は28日の記者会見で「基本的質疑は参院質疑の中でも非常に重要度が高い」と語り、出席見送りはやむを得ないとの認識を示した。立憲民主党の参院幹部も予算審議を優先するよう求めた。
インドではG20に続き、3日には日米豪印4カ国の連携枠組み「クアッド」外相会合が開かれ、外務省幹部は「せめてクアッドには行きたい」と語る。3日には参院予算委で要求された閣僚が出席する一般質疑が行われる方向のため、与野党の調整が続きそうだ。
●岸田首相「攻撃の事前察知は困難」 反撃能力巡り―参院予算委 3/1
参院予算委員会は1日午前、岸田文雄首相と全閣僚が出席して2023年度予算案に関する基本的質疑を行い、実質審議に入った。反撃能力(敵基地攻撃能力)の行使を巡り、首相は「現実として、相手のミサイル発射の第一撃を事前に察知し、攻撃を阻止することは難しい」との認識を示した。
反撃能力について、政府は相手国が攻撃に着手したと認められれば、ミサイル発射前でも行使可能との立場を取る。首相の発言はこの政府見解を前提としながらも、相手の攻撃前に反撃能力を使う事例はまれだと指摘した形だ。
自衛隊の戦闘機による相手国への攻撃も反撃能力に含まれるかについては「(武力行使の新)3要件に当てはまるかどうかを考えなければいけない」と述べるにとどめた。
首相は非核三原則の維持を改めて強調。米国の核兵器を共同運用する「核共有」について「考えることはない」と述べた。立憲民主党の杉尾秀哉氏への答弁。
●新年度予算案 きょうから参院予算委で実質審議  3/1
新年度予算案は28日に衆議院を通過し、1日から参議院で実質的な審議が始まります。1年間に生まれた子どもの数が初めて80万人を下回ったことを受けた今後の少子化対策や、防衛力の抜本的な強化などをめぐり、与野党の論戦が続く見通しです。
一般会計の総額が過去最大の114兆円余りの新年度予算案は、28日に衆議院本会議で、与党などの賛成多数で可決され、憲法の規定により年度内に成立することになりました。
岸田総理大臣は参議院での予算審議について「引き続き緊張感を持って政府一丸で審議に臨み、丁寧な説明を心がけていきたい」と述べました。
一方、野党側は去年、令和4年度予算に賛成した国民民主党を含め、子育て支援が不十分だなどとして反対しました。立憲民主党の泉代表は「国民の不安が倍増するような予算だ。さらなる子ども・子育て予算の確保と上積みを主張していく」と述べました。
参議院では1日と2日、岸田総理大臣とすべての閣僚が出席して予算委員会で基本的質疑が行われ、実質的な審議が始まります。
この中では、去年生まれた子どもの数が速報値で79万9000人余りと初めて80万人を下回ったことを受け、今後の少子化対策について議論が行われます。また、物価高騰対策と賃上げの取り組みのほか、防衛力の抜本的な強化に向けた防衛費の増額や、「反撃能力」の行使の在り方などをめぐって与野党の論戦が続く見通しです。
●首相、LGBTへの差別意識否定 参院予算委論戦スタート  3/1
岸田文雄首相は1日の参院予算委員会で、LGBTを含む性的少数者への差別意識があるのではないかと問われ「私は差別という感覚を持っているとは思っていない」と述べ、否定した。同性婚を巡っては「国民に幅広く関わるという意味で、社会が変わっていく問題だ。だからこそ議論することが大切だ」と重ねて強調した。2023年度予算案を巡る参院での本格論戦がスタートした。
首相は、同性カップルに公的な結婚を認めないことを「不当な差別であるとは考えていない」とした2月28日の自身の答弁に関し「同性婚に関する規定を設けないことは、憲法に違反するものではないという考えに基づいて発言した」と説明した。立憲民主党の杉尾秀哉氏への答弁。
杉尾氏は、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)行使の要件や、反撃能力保有に伴う日米の役割分担の変化などについて質問した。
辻元清美氏は、岸田政権が推進に転じた原発政策を取り上げる。防衛費増額や子ども予算倍増を巡り、首相の認識をただす。
●安保転換の論戦 首相の説明全く足りぬ 3/1
政府の2023年度予算案が衆院を通過した。過去最大の予算案は年度内の成立が確実となった。
大きな論点は安全保障政策だ。予算案で防衛費は大幅に増額され、岸田文雄首相は5年間で計43兆円に増やす方針を掲げている。
また昨年末に国家安全保障戦略など3文書を閣議決定し、歴代政権が否定してきた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を認めて戦後の安保政策を大きく転換した。
敵基地攻撃能力の保有は専守防衛の原則を逸脱する。今国会はこうした問題点について初めて議論する場であり、国民への丁寧な説明が欠かせない。
ところが首相は「手の内を明かせない」と述べるばかりで、具体的な答弁を避けている。白紙委任を求めるような態度では国民が判断するための論戦にならない。
そのうえ問題なのは、なし崩し的に攻撃能力を拡大する姿勢さえ見せていることだ。このまま大転換することは認められない。
敵基地への攻撃を巡り、首相は日本が直接攻撃を受けなくても他国が攻撃されて「存立危機事態」と認めれば行使できるとした。ただ、それがどのような状況かについては説明を拒んでいる。
2015年の安保関連法を巡る審議では説明が不十分ながら、安倍晋三首相は邦人輸送中の米艦防護や中東ホルムズ海峡での機雷掃海といった具体例を示した。
岸田首相の態度はあまりにも不誠実だと言うほかない。
さらに懸念されるのは、政府が保有する敵基地攻撃能力の範囲をあいまいにしていることだ。
敵基地攻撃の手段として、政府はこれまで相手国の領域外から発射する長射程ミサイルを挙げてきた。だが首相はおととい、相手領域内での自衛隊機による爆撃や上陸作戦も「あり得る」とした。
空爆や上陸作戦については、安倍元首相が15年の国会審議で、憲法9条に基づく必要最小限度を超えており「禁止される海外派兵に当たる」と答弁している。
岸田首相の発言は明らかに矛盾している。憲法違反ではないか。恣意(しい)的な判断は容認できない。
今回の予算案は防衛費の調達のために、公共事業費に充てる建設国債の発行を盛り込んでいる。
軍事費を巨額の国債発行で膨張させた戦前の反省から、戦後は防衛費への国債発行を「禁じ手」としてきた。重大な方針変更であるにもかかわらず、議論が乏しい。
今日から始まる参院の論戦で、徹底的に審議する必要がある。
●FRBの金融政策から考える米ドル円相場の行方 3/1
米インフレは減速ながらも長期化へ
米インフレは財やエネルギー中心に減速も、サービス部門によって長期化へ
図表1は、米CPI(消費者物価指数、前年同月比)の推移です。財やエネルギー価格の伸びが大きく減速していることで、全体のCPI総合や食品・エネルギーを除いたコアCPIも減速しています。しかし、水準を見ると、コアCPIでも1月時点で前年同月比+5.6%と高く、FRB(米連邦準備制度理事会)が目途としている+2%からはほど遠い状況です。
全体のインフレ率を高止まりさせているのは、全体の6割以上を占めるサービス(除く食品・エネルギー)が未だに上昇ピッチを緩めていないためで、1月は前年同月比で+7.2%に達しています。そのサービスを押し上げているのが住居費(家賃)や旅行などの一般サービスで、特に、旅行などの一般サービスは、経済活動再開のど真ん中業種であるためか、人手不足を理由に価格高騰に減速の兆しが見られないようです。このような状況下、米インフレ動向は減速しつつあるものの、その水準は高止まりが続き、長期化が予想されています。
   [図表1] 米CPIの推移(全体と分野別)
米景気の減速懸念は根強いものの現状は底堅く推移
米消費者のセンチメントは堅調な雇用が支える形で底堅く推移
図表2は、米民間調査会社コンファレンスボードによる消費者信頼感指数と雇用センチメントです。消費者信頼感指数とは、景気・雇用情勢・所得などの見通しを家計に聞くアンケート調査の結果を指数化したものです。消費者信頼感指数は、コロナショックから鋭角的に回復した後、2021年央からインフレ加速や2022年に入ってからの急ピッチかつ大幅な米利上げを受けて急反落していましたが、昨夏を底に再び回復基調にあります。
また、消費者信頼感指数の構成要素である雇用センチメントは、コロナショックからの回復後に消費者信頼感指数のような大きな減速を見せず、かなりの高水準を維持しています。米国の家計は雇用に関してはほとんど心配していないようで、米雇用統計に表れるような雇用の堅調さを裏付ける内容と言えます。
このような良好な雇用環境が続けば、米景気が大きく悪化するリスクは低く、メディア等で報道されている年後半の景気後退の可能性は高くないと考えられます。米景気が大きく悪化しないのであれば、FRBが慌てて利下げに転じる必要もないため、米金融政策は現状の緩やかな利上げが継続し、その高い政策金利水準がしばらく維持されるのではないかという見方が次第に増えていくでしょう。
   [図表2] 米消費者センチメントの推移
米ドル円レートはレンジ相場か?
米ドル円レートは様々な要素で決定されるが、金利差動向などからはレンジ相場が予想される
図表3は、米ドル円レートと日米金利差(10年国債、2年国債)の推移です。米ドル円レートは、購買力平価(PPP)、国際収支(貿易収支など)、そして、金利差(国債利回り格差)など、様々な要因で動きますが、購買力平価や国際収支は指標特性から長期的な動きや水準に影響を及ぼす一方、金利差は短期的な動きへ影響を及ぼしやすい傾向があります。表記のグラフ期間を見ても、日米金利差が動く方向と米ドル円レートが動く方向が似ている様子が確認でき、特に2021年頃以降の動きは顕著です。
前述の通り、昨秋頃から米インフレにピークアウト感が見られ始めたことで、米政策金利の引き上げが続く中でも、米国債利回りが急低下し(特に10年国債などの長期金利)、それ以前は拡大の一途だった日米金利差が縮小に転じ、一時は米10年国債利回りの日米金利差が3.0%を割り込んだ影響で、米ドル円レートも一気に円高米ドル安に動きました。
但し、今後に米政策金利が5%超に引き上げられそうな状況を考えると、米長短金利差(米10年国債利回りー米政策金利)が▲1%前後の大幅なマイナスとなっている現状では(2月20日時点)、これ以上の更なる米10年国債利回りの低下を期待することは難しそうです。米債券利回りの低下に制限がかかり、日米金利差の縮小も限定的となれば、円高米ドル安の流れも一旦は止まり、日米金利差が現状程度(10年国債の金利差で3%程度)である間は米ドル円レートはレンジ相場になると見ています。
   [図表3] 米ドル円レートと日米金利差の推移
●日本銀行が直面する金融政策のトレードオフ 3/1
次期日本銀行総裁候補である植田和男氏への所信聴取が2月下旬に衆参両院で行われた。今後の金融政策運営を占ううえで発言内容が大いに注目されたが、植田氏は現在の金融政策が適切であると評価しつつ、将来的に金融政策の検証を行う可能性を否定しなかった。
検証が行われる場合、とりわけ長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の効果と弊害をどう評価するかが注目される。すでに金融市場の機能低下が指摘されているが、低金利環境の長期化が経済全体の成長力を低下させたり、財政規律を弛緩させたりするという弊害にも目配りする必要がある。
金利が低下すると企業の借入コストの減少を通じて設備投資が増加するなど、短期的には好影響が期待できる。しかし、低金利環境が長期化すると、生産性の低い企業が温存されて産業の新陳代謝が低下し、経済成長に悪影響をもたらす可能性がある。結果として、低成長から抜け出せず、低金利が続くという悪循環が発生する。
また、低金利下では国債の利払い負担が軽くなるため、政府の財政運営は拡張的になりやすい。拡張的な財政政策は短期的には景気を下支えする一方、その結果として積み上がる政府債務は長期的には経済成長率を低下させ得る。
これら2つの課題は、金融政策による短期的な景気拡張と中長期的な経済成長の間にトレードオフの関係がある可能性を示唆している。金融緩和が短期的に景気を下支えしても、長期間継続すると経済成長を停滞させかねない。他国とは異なり日本では、過去四半世紀の大半の期間が緩和的な金融環境であったことを踏まえると、中長期的な経済成長の停滞というメカニズムはとりわけ日本で働きやすいだろう。
新執行部の下で今後想定されるシナリオの1つとして、日銀が中長期的な経済成長にも配慮した政策運営に転換することが考えられる。具体的には、2%の物価安定目標の達成が視野に入る前にイールドカーブ・コントロールから短期金利操作へと段階的に移行し、緩和的な金融環境を維持しつつ長期金利の正常化を目指すものである。短期的な景気への悪影響に配慮しつつ、中長期的な経済成長の両立を図るという考えだ。
しかし、このシナリオを実現するのは容易ではない。長期金利の緩やかな上昇を混乱なく市場に織り込ませることのできる高いコミュニケーション能力が新総裁には求められる。新総裁は綻びが見られる大規模緩和策の立て直しを図りつつ、物価安定目標の達成と金融政策の正常化を目指すという難しい舵取りを迫られるだろう。
●日本経済 把握し難い景気動向 3/1
概要
・日本経済は、緩やかに回復している。2022年第4四半期(Q4)の実質GDP成長率は前期比年率+0.6%と2四半期ぶりのプラス成長だった。しかし、サービス輸入や在庫の影響を強く受けており、それらを考慮すると、2022年後半の成長率は潜在成長率並みだった。
・輸出が弱含む一方で、個人消費や設備投資が持ち直しつつある。雇用環境も堅調であるものの、約41年ぶりの物価上昇に賃金上昇が追い付かず、実質購買力が低下している。そのため、今春の賃上げへの期待が大きい。
・先行きについて、緩やかに成長すると期待される。しかし、国内の経済・物価動向は不確実性が高く、それに対応して財政・金融政策が変更されるため、国際機関が見通しのように緩やかに成長できるかは不透明だ。
1. GDPが分かりにくい
日本経済は、緩やかに回復している。『月例経済報告』(内閣府)では、2月に「このところ一部に弱さがみられるものの」という枕詞が付いたものの、1月と同じように「緩やかに持ち直している」という基調判断は維持された。
図表1のように、2022年第4四半期(Q4)の実質GDP成長率は前期比+0.2%、前期比年率+0.6%と、2四半期ぶりのプラス成長だった。2022年を振り返ると、Q1に前期比▲0.4%、Q2に+1.1%、Q3に▲0.3%とプラス・マイナスを交互に繰り返してきた。サービス輸入と民間在庫変動による影響が大きく、足元の実質GDP成長率から実体経済の動きを読み取ることが難しくなっている。
Q3の実質GDP成長率(▲0.3%)の内訳をみると、サービス輸入の寄与度は▲0.8ptと大きかった。『国際収支統計』(財務省、日本銀行)によると、サービス収支の内訳である「その他サービス収支」のうち、「その他業務サービス」に分類される「専門・経営コンサルティングサービス」の支払が8月に拡大したことによって、Q3のサービス輸入が前期から急増した。サービス輸入の寄与度が過去平均並み(5年平均0.0pt、10年平均▲0.0pt)であれば、GDPへの影響はほぼない。そのため、Q3のサービス輸入が過去平均並みであったと仮定すれば、実質GDP成長率は+0.5%程度(=▲0.3−▲0.8)だった計算になる。前期の反動で、Q4のサービス輸入の寄与度は+0.3ptであり、過去平均に比べて大きい。これも過去平均並みであったならば、Q4の実質GDP成長率は▲0.1%程度(=+0.2−0.3)になる計算だ。
Q4の民間在庫変動の寄与度は▲0.5ptと、実質GDP成長率を押し下げたものの、これは在庫の取り崩しなので、必ずしも悪いものではない。内訳をみると、原材料(▲0.3pt)や製品(▲0.1pt)がマイナス寄与であり、物価上昇に直面して、在庫を抱えたくない企業が在庫調整を行っている可能性もある。
これらの影響を除く実質GDP成長率は、Q4に+0.4%(=+0.2−0.3−▲0.5)となる。同じくQ3の実質GDP成長率も民間在庫変動(+0.1pt)とサービス輸入変動の影響を除くと、+0.4%(=▲0.3−▲0.8−0.1)となる。同様に2022年を振りかえると、Q1は▲1.0%、Q2+1.3%、Q3+0.4%、Q4+0.4%となり、2022年後半にかけて潜在成長率(内閣府+0.5%、日銀+0.3%)並みの成長だったと言える。
米国も実質GDP成長率の見た目と、実体経済の動きにかい離があったようだ。米国の実質GDP成長率も2022年Q3に前期比年率+3.2%、Q4に+2.9%と2四半期連続プラス成長になった。しかし、個人消費と民間設備投資に限ってみれば、それぞれ+0.9%、+0.2%と減速している。マイナス成長だったQ1とQ2の個人消費と民間設備投資の寄与度の合計はそれぞれ+1.7%、+0.5%であり、2022年下半期にかけて米国の民需が減速してきた様子がうかがえる。
約40年ぶりの物価上昇に直面する中で、日米の景気の減速も否定しがたい。一方で、IMFやOECDなど国際機関の経済見通しでは、これまでの回復の遅れを取り戻す意味もあって、日本経済は堅調に成長すると予想されている。実際に日本経済が成長できるのかが注目される中で、まず足元の状況を整理した上で、日本経済の先行きを考えてみる。
   図表1 GDP成長率
   図表2 個人消費
   図表3 増減が目立った消費品目
2. 経済指標からみた日本経済の現状
ここでは、まず足元の状況について、個別の経済指標から確認しておく。
・個人消費:持ち直している。図表2のように、12月の総消費動向指数(実質)は前月比+0.1%と、4か月連続のプラスだった。2022年後半では7〜8月にマイナスとやや弱い動きとなったものの、それ以降増加している。12月の総消費動向指数は104.3となり、2021年12月の103.0を上回った。しかし、新型コロナウイルス感染拡大前の2020年2月(106.0)や消費税引き上げ前の2019年7〜9月(平均107)には到達しておらず、回復は道半ばである。こうした中で、図表3のように、感染拡大後の巣ごもり消費にも変化が見られている。経済活動が正常化に向かい、全国旅行支援もある中で人々が動き始め、消費も変わりつつある。5月の感染症法の分類見直しなど、今後の見通しが立つようになったことも大きい。図表4のように、消費者マインド(消費者態度指数)には持ち直しの兆しもみられる。一方で、企業側からみた消費者マインド(現状判断DI)から、物価上昇を背景とした財布の紐の引き締まりなどを企業が敏感に感じ取っていることもうかがえる。
・個人消費の先行きについて、緩やかな回復が続くと期待される。今年の春闘では、賃上げに前向きな企業が増えている印象である。実際にどの程度賃上げが広がるか、またその流れが今年だけではなく、来年以降にも継続するのかが注目される。
   図表4 消費者マインド
   図表5 設備投資
   図表6 公共投資
・設備投資:持ち直しつつあるものの、やや弱さがみられる。図表5のように、1月の資本財(除く輸送機械)出荷は前月比▲5.9%と2か月ぶりに減少した。Q4には前期比▲6.9%と4四半期ぶりに減少したものの、Q3の+13.1%の反動減という一面もある。GDP統計の民間企業設備投資は、前期比▲0.5%と3四半期ぶりに減少した。これには、Q2に+2.1%、Q3に+1.5%と、堅調だった反動もありそうだ。なお、図表7のように、公共投資は底打ちの兆しもみえている。
・先行きについて、設備投資は緩やかに持ち直すと期待されるものの、下振れリスクは大きくなっている。設備投資の先行指標となる機械受注(船舶・電力を除く民需)は12月に2か月ぶりのプラスとなる前月比+1.6%だった。Q4の機械受注は前期比▲5.0%と、2四半期連続で減少したものの、2023年Q1に+4.3%と増加に転じる見通しだ。日銀『短観』(2022年12月調査)の2022年度の設備投資計画は前年度比+15.1%と高い伸び率が見込まれている。もちろん、資材価格の上昇に加えて、金利も上昇しつつあり、投資コストが増加している。その一方で、景気減速などから目先の期待収益率が低下しているため、設備投資には下振れリスクが強まっている。
・輸出:弱含んでいる。図表7のように、1月の実質輸出(日本銀行『実質輸出入の動向』)は前月比▲2.9%と、2か月連続で減少した。輸出先別にみると、中国向け輸出が▲9.3%と、4か月連続で減少した。NIEs・ASEAN等向け(▲0.7%)と米国向け(▲4.5%)が3か月ぶりに減少した。EU向け(▲1.9%)は、2か月連続の減少だった。財別にみると、情報関連(+0.4%)が3か月ぶりに増加したものの、中間財(▲3.3%)や自動車関連(▲7.3%)、資本財(▲5.4%)が2か月連続で減少しており、全体として勢いを欠いた。また、『貿易統計』によると、1月の輸出数量は前年同月比▲11.5%となり、4か月連続で前年の水準を下回った。特に、中国向けが11か月連続マイナスの▲30.7%だった影響が大きい。これには春節の影響があるものの、ここ4か月連続で2桁減と減少幅が大きく、勢いが欠けている。図表8のように、1月の貿易赤字は18か月連続の約3.5兆円と、単月として比較可能な1979年以降で最大の赤字になった。
・先行きについて、輸出は引き続き伸び悩むとみられる。中国経済の正常化が期待される一方で、欧米経済の減速が輸出の重荷になる。また、メモリーなど一部半導体で供給過剰感が高まっているのに対して、車載用半導体では依然として不足感が払しょくできていない。日本の主要輸出財の自動車の生産に下押し圧力が残ると予想されている。
   図表7 輸出関連
   図表8 貿易収支
   図表9 経常収支
・経常収支:経常黒字は縮小している。図表9のように、12月の経常収支は334億円の黒字だった。その内訳では、貿易収支が▲1兆2,256億円、サービス収支が▲3,547億円と、それぞれ赤字だった。サービス収支の内訳をみると、水際対策の緩和を背景とした中国を除く訪日旅行客数の増加によって、旅行収支が1,597億円の黒字だった。その他サービス収支は▲4,442億円の赤字となり、再保険料の支払いなどの保険・年金サービス、SNSやWeb連動型の広告サービスが含まれる「その他業務サービス」などの支払額が膨らんだ。また、海外経済の回復や円安効果によって、第一次所得収支が1兆7,592億円の黒字となり、経常収支をけん引した。この内訳では、直接投資収益(2兆413億円)が伸びた一方で、証券投資収益(▲5,955億円)は配当の支払いなどがかさんだ。
・先行きについて、資源価格の上昇や円安・ドル高の一服などから、貿易赤字が緩やかに縮小し、経常黒字も拡大に転じると期待される。また、海外から観光客が増加することにより旅行収支の黒字額が拡大する一方で、経済活動の再開が進むことで、「その他サービス収支」の赤字拡大も想定されるため、サービス収支全体で黒字に転じるかは分からない。海外景気の減速や円安効果の剥落などから、第一次所得収支の黒字額が縮小する可能性も否定できない。
・雇用:回復している。図表Iのように、12月の失業率は2.5%であり、3月以降2.5〜2.6%で推移している。12月の休業者数は232万人、前年同月比+42万人と3か月連続で増加した。これは、新型コロナウイルス感染者数の増加を反映しているのだろう。12月の有効求人倍率は1.35倍と、2か月連続で横ばいになった。都道府県別にみると、全都道府県が6か月連続で1倍超だった。ただし、神奈川県と沖縄県の1.08倍から福井県の1.94倍まで都道府県によって差がみられる。産業別に新規求人数をみると、「建設業」(▲6.2%)や「製造業」(▲0.1%)で前年の水準を下回る一方で、「宿泊業、飲食サービス業」(+6.9%)や「生活関連サービス業、娯楽業」(+18.5%)では前年以上に増加しており、産業によっても回復具合に濃淡がある。
・図表Jのように、12月の名目賃金は前年同月比+4.8%となり、年初からプラスが継続している。通年の伸び率は前年比+2.1%と、2年連続で増加した。12月の内訳をみると、所定内給与(基本給)が+1.8%、所定外給与(残業代)が+3.0%と増加した。2021年12月(▲1.1%)にマイナスだった反動から、特別に支払われた給与(ボーナスなど)が+7.6%と大きく増えた。また、実質賃金は+0.1%と、9か月ぶりのプラスになった。消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は+4.8%まで上昇しており、実質的な購買力が損なわれている。
・先行きについて、雇用環境は堅調に推移するとみられるため、焦点は賃上げだろう。物価高騰に直面して、家計の購買力は損なわれている。経済活動が本格化することで、人手不足も強まる。企業も販売価格に原材料コスト増を転嫁させている一方、賃上げにも前向きになっている。今春の賃金上昇がある程度期待されるものの、今後の焦点は2024年にも賃金上げが継続するかだろう。
・生産:弱含んでいる。図表Kのように、1月の鉱工業生産は前月比▲4.6%と3か月ぶりの減産だった。10月の▲3.2%の影響が大きく、Q4では前期比▲3.0%と2四半期ぶりのマイナスになった。1月には15業種中、自動車や生産用機械、電子部品・デバイスなど12業種が減産だった。また、1月の在庫は▲0.9%と2か月連続で減少した。しかし、生産者在庫指数は102.3となり、7月以降100を超えており、在庫も積み上がりつつある。
・12月の第3次産業活動指数は前月比▲0.4%となり、3か月ぶりに低下した。ただし、Q4を通してみると、前期比+0.3%となり、3四半期連続で活動は上向いた。コロナ禍で打撃が大きかった対個人サービスや観光関連産業が持ち直しつつある。ただし、これらの指数は依然として感染拡大前の水準を下回っており、回復には時間がかかっている。また、観光関連産業では、人手不足もあり、需要が回復しても対応しきれない恐れも指摘されている。
・先行きについて、製造工業生産予測調査では1月+0.0%、2月+4.1%と見込まれている。当面、生産活動が弱含む公算が大きい。2022年末までの想定に比べて、海外需要の落ち込みは小さいものの、決して景気が良いわけではない。また、半導体不足などの供給網のボトルネックの影響も残っており、生産には下押し圧力がかかりやすい。
   図表10 雇用
   図表11 賃金
   図表12 生産
・物価:上昇ペースを加速させている。図表Lのように、1月の消費者物価指数は前年同月比+4.3%となり、1981年12月以来、41年1か月ぶりの高水準になった。生鮮食品を除く総合も+4.2%と上昇、1981年9月以来、41年4か月ぶりの物価上昇になった。実感に近いとされる、持ち家の帰属家賃を除く総合は+5.1%だった。内訳をみると、食料(+7.3%)や光熱・水道(+14.9%)の上昇が目立つものの、家具・家事用品(+7.7%)や被服及び履物(+3.1%)など、物価上昇のすそ野の広がりもみられる。なお、全国旅行支援は物価上昇率を▲0.12ptほど押し下げたと、総務省は試算している。財とサービスに分けてみると、財価格は+7.2%と上昇した一方で、サービス価格は+1.2%にとどまっている。コストプッシュ型の物価上昇であり、サービス価格の上昇率が小さいことを踏まえると、デフレからの脱却への道のりはまだ遠い。
・『企業物価指数』(日本銀行)によると、国内企業物価指数は1月に前年比+9.5%となり、12月の+10.5%から小幅縮小した。前月比も0.0%と横ばいになった。『企業向けサービス価格』(日本銀行)の企業向けサービス価格指数(総平均)は12月に前年比+1.6%となった一方で、前月比は▲0.3%と5か月ぶりのマイナスだった。川上の財、サービスともに1月に勢いが鈍化する動きがみられた。今後も、こうした動きが続けば、川下の消費者物価指数は鈍化することになるだろう。
・先行きについて、物価上昇は、政府の電気代支援などによって一旦鈍化するものの、4月以降に電気代などが引き上げられることで、再び上昇ペースが加速する可能性がある。もちろん、これまでデフレ脱却を目指してきたため、物価が適度に上昇することは望ましいことだが、物価上昇の痛みが先行しがちである。海外の物価上昇を踏まえれば、輸入価格が上昇するため、国内だけ物価を抑えておくことは難しいことも事実だ。
   図表13 消費者物価
   図表14 中銀資産
   図表15 円相場
   図表16 景気動向指数
3. 2023年:緩やかな成長
欧米では、物価抑制のために金融引き締めが実施されている。図表Mのように、利上げに続いて、量的引き締めもFRBはすでに実施しており、ECBも3月から実施する。こうした金融引き締めが、実体経済にどの程度影響を及ぼすのかがなかなか見えてこない。2月に発表された経済指標では、欧米経済がこれまでの想定に比べて底堅く推移しており、金融引き締めの長期化観測が市場では広がった。図表Nのように、対ドルの円相場も2023年初めに比べて、円安・ドル高方向で推移している。日本でも、日銀の正副総裁が交代するため、金融緩和政策の修正観測がくすぶっている。
もちろん、金融政策は、経済において「主」ではなく「従」である。経済・物価動向によって金融政策が決定されるため、米欧の利上げ打ち止め、日本の緩和修正も十分ありうる。また、財政政策も、エネルギー補助金などのような家計・企業支援策をいつまでも実施できるわけでもない。実体経済と物価がどのように動くのかがますます注目される局面になっている。
こうした中、日本の景気は当面緩やかに回復すると期待される。図表Oのように、製造業の経済指標が多い一致指数や先行指数(景気動向指数)は足元で弱含む一方で、サービス業などの比重を高めた「景気を把握する新しい指数(一致指数)」は横ばい圏を推移している。これらは、製造業が弱含む一方でサービス業が底堅く推移し、日本経済が緩やかに回復していることを示唆しているようだ。IMFやOECDなどの経済見通しでも、2023年の日本経済は底堅く推移すると予想されている。しかし、国内の経済・物価動向は不確実性が高く、それに対応して財政・金融政策が変化するため、国際機関が見通しのように緩やかに成長できるかは不透明だ。
●2022年出生数、初の80万人割れ 想定より10年早く…「賃金が低いから無理」 3/1
2022年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は前年比5.1%減の79万9728人で、1899年の統計開始以来初めて80万人を下回ったことが28日、厚生労働省の人口動態統計(速報値)で分かった。国内の外国人などを除き、日本在住の日本人だけに限れば77万人前後になるとみられる。政府機関の推計より10年ほど早いペースで少子化が進んでおり、この傾向が続けば、社会保障制度や国家財政の維持が厳しさを増すのは避けられない。(井上峻輔)
出生数は7年連続で過去最少を更新した。16年に初めて100万人割れとなったが、それから6年でさらに2割程度落ち込んだことになる。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は17年に示した将来推計で、日本人の出生数が77万人台になるのは33年としていた。
婚姻数は3年ぶりに前年を上回ったが、新型コロナウイルス禍で20〜21年は急減しており、今回の出生数減に影響した可能性がある。厚労省の担当者は「個々人の結婚や出産、子育ての希望実現を阻む要因が複雑に絡み合っているのではないか」と指摘した。
急速な少子化の進展を受け、岸田文雄首相は「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」と強調し、「異次元」と銘打った子ども・子育て政策の拡充を検討。政府は3月末をめどに具体策のたたき台をまとめ、6月にも策定する経済財政運営の指針「骨太方針」で将来的な関連予算の倍増に向けた道筋を示する方向だ。
ただ、既に1971〜74年生まれの第2次ベビーブーム世代が出産可能な年齢層を抜けた一方、新たに出産期を迎える女性の人口が少ない。そのため、出生数を増やすのは難しく、減少の速度をどれだけ緩やかにできるかが焦点だ。
日本在住の日本人のみを対象にした出生数は6月に公表される。速報値では、昨年1年間の死亡数が過去最多の158万2033人、死亡数から出生数を引いた人口の自然減が78万2305人で過去最大の減少幅になった。 
賃金上昇、教育費の負担軽減カギ
統計開始以来、初の80万人割れとなった2022年の出生数。16年ごろから減少が加速し、回復の兆しは見えていない。専門家は婚姻数の減少に加え、結婚した人が子どもを産まなくなってきていることを要因に挙げ、経済的理由による出産意欲の低下が背景にあると分析。賃上げなどとともに、子どもにかかる教育費の負担軽減が重要だと指摘する。
出生数の下落率は、15年までの10年間は毎年平均1%ほどだったが、16年以降は3%超に加速。同年に出生数が100万人を割ってから、わずか6年で2割減の80万人を下回り、底が抜けたようになっている。
最近の出生数低下はコロナ禍による婚姻数減少の影響もあるとされるが、それ以前に加速は始まった。人口問題に詳しい日本総研の藤波匠氏は「15年までは非婚化が進む一方で、結婚した人は子を産むことが多かった。16年以降は結婚した人も子を産まなくなってきている」と分析する。
藤波氏によると、20年の既婚女性の出生率を表す「有配偶出生率」は15年と比べ、35〜39歳は横ばいだったが、34歳以下の世代は軒並み低下。特に20〜29歳は顕著だった。
浮かび上がるのは、今の生活や将来に不安を感じ、子どもを持つことをためらう若い夫婦が増えている実態。藤波氏は「女性は賃金の低い非正規雇用が多く、男性も賃金が下がっている。女性は働くことも家事や子育ても求められてきたが、頑張りも限界を超え『子どもを育てながら生活するのは自分には無理』『3人ほしかったけど1人だよね』と悲観的になっている」と指摘する。
根本的な打開策は経済成長と賃金上昇としつつ、大学無償化や返済の必要がない奨学金の拡充など、高等教育の負担軽減の重要性に言及。「賃金が上がらない中で、子ども3人を大学に行かせるのは不可能という感じになっている。こんな社会をつくったのは政治の貧困だ」と強調する。
元厚生官僚の大泉博子氏も教育費の負担軽減を求める。
1989年に合計特殊出生率が過去最低になり「1.57ショック」と呼ばれた事態を受け、政府が94年に初の少子化対策としてまとめたのが「エンゼルプラン」。大泉氏は課長として作成に携わり「ほとんどが保育について書かれていて、人口政策ではなく児童政策に矮小わいしょう化された」と問題があったと振り返る。
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」で掲げた保育サービス拡充などの三本柱は、30年前のプランと同じ発想だと批判。「全く進歩していない。(政府などの)調査では、教育費がかかるから産めない、1人にとどめるとの答えが最も多い。教育費ゼロの方が効果が大きい」と主張する。
専門家や与野党の議員は、出産期を迎える女性が減っていくため「今後10年が少子化にブレーキをかけるラストチャンス」と口をそろえる。首相は28日、80万人割れを踏まえて官邸で記者団に「危機的な状況だ。今の時代に求められる子ども・子育て政策を具体化し、進めていく」と強調したが、政府が3月末をめどにまとめる対策のたたき台が試金石になる。
●新型コロナ5類移行で今後の「波」を乗り越えられるか 3/1
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザと同等の「5類」に移行する。1日当たりの新規感染者数が1万人を超える日が多い中、5類引き下げで今後の流行の波に対応することができるのか。国立国際医療研究センターの大曲貴夫(のりお)・国際感染症センター長に聞いた。
「国家危機」への準備足りなかった日本
――新型コロナ感染者の国内初確認から3年が経過しました。日本の対策をどう評価しますか。
今のところ、人口当たりの感染者数と死者数は世界でも低い国の一つで、うまくいったと考えられます。ただし、日本は感染症を地震など災害のような「国家危機」として位置づけてこなかったため、準備が足りなかった側面は否めません。
当初、新型コロナ対応をする医療機関を増やさなければならない場面で、必要な体制を作る上での課題がありました。感染者の隔離や緊急事態宣言など、公衆衛生の対策は厳しく行われたのですが、流行の波に応じて対応する医療機関や医師を増やすことが困難だったのです。この反省から、2022年の感染症法改正で国や都道府県の権限が強化されました。
――それでも死者が比較的少なかったのはなぜでしょうか。
無症状や軽症であっても、重症化リスクのある患者をできる限り医療につなげていたということが大きいと思います。急変する病気なので、悪化の兆候が見られた早い段階で治療する必要があります。海外では悪化してから入院措置を取ったケースが多いようですが、そのタイミングでは救命することが難しくなります。
医療逼迫、これまで以上に起こりえる
――感染症法では、症状や病原体の感染力などから感染症を1〜5類などに分類し対策を定めています。新型コロナは入院勧告など強い措置が可能な「新型インフルエンザ等感染症」(2類相当)に分類されていました。5類になればどんな影響が想定されますか。
5類になったからといって、ウイルスがなくなるわけでも、流行の波がなくなるわけでもありません。もし季節性インフルエンザと同じような対応にすると、新型コロナの流行の波が来た時に、軽症の人も含めて多くの人が検査希望などで外来に押し寄せ、医療が逼迫(ひっぱく)して救急患者の受け入れ先が見つからないということがこれまで以上に起こりえます。新型コロナに関して今後、どういう仕組みを作っていくかにかかっています。
――多くの人は5類に移行しても、いつでも医療機関で診てもらえると考えているのではないでしょうか。
日本の医療現場は、全体で見れば人員、施設いずれの面でも十分なキャパシティーがあり、あふれんばかりのニーズを受け入れていました。そこに新型コロナが加わり、能力を超えてしまったというのが現実です。
何とか回っているように見えたのは、国の予算措置や、各都道府県の対策本部の取り組みがあったからです。病院外での検査体制を充実させて外来に来る人を減らし、重点医療機関を定めて病床を確保してきました。都道府県は救急搬送できる臨時の医療機関を擁しました。
5類になってこうした対策がなくなれば、混乱して状況が悪化する可能性があります。これまでの対策を全て続けることはできず、取捨選択していくことになると思いますが、都道府県による調整機能や臨時の医療機関などは当面は維持すべきでしょう。また、重症化リスクのある軽症から中等症の患者向けの米ファイザー製治療薬「パキロビッド」などの薬を医療機関で処方しやすくすることも必要です。
続く変異、強い措置が必要になることも
――市民は今後どう構えるべきでしょうか。
多くの場合は休むことで症状が改善します。軽度の症状があれば病院外で検査を受け、仕事は休むという環境を維持することが必要です。
また、体調が突然悪化するケースはあるので、急変したときに電話する窓口や、受診できる病院をリストアップしておくなど、いざというときの準備をしておいた方がいいでしょう。
マスクは社会ぐるみで重症化リスクの高い人を守るために必要です。病院や混雑している交通機関などの場面では、引き続き着用してほしいと思います。
――新型コロナは変異が続いていて、病原性が高まる可能性も指摘されています。
医療サイドはこの3年で多くのことを学び、今後の変異にも対応できると思います。一方、公衆衛生の面ではどれほど規制を強化するか、議論になるでしょう。
もし、社会活動を制限しなければ医療も守れない、人も守れないということになれば、5類移行後であっても強い措置が必要になると思います。
●米政府用デバイスからの「TikTok」削除、3月下旬が期限に 3/1
国家安全保障上の懸念が高まる中、米大統領府は政府職員らに向けて、連邦政府用のデバイスからソーシャルネットワーキングアプリ「TikTok」を削除する期限を指示した。行政管理予算局からの覚え書きによると、連邦政府機関は米国時間2月27日の時点で、30日以内にデバイスとシステムからTikTokを削除し、インターネット経由でTikTokにアクセスすることを禁止するという。
この30日間の期限については、Reutersが先に報じていた。
中国企業の字節跳動(バイトダンス)が所有するTikTokには、厳しい目が向けられている。同社が保有する米国ユーザーのデータに中国政府がアクセスできるようにする恐れがあるなど、同サービスが国家安全保障上の脅威になると懸念されているからだ。米連邦捜査局(FBI)のChristopher Wray長官は2022年11月、このアプリが 「大勢のユーザーのデータ収集や推奨アルゴリズムを操作して、その気になれば影響力工作に利用したり、多数のデバイスのソフトウェアを操作するために利用される可能性がある」と述べた。米連邦通信委員会(FCC)のBrendan Carr委員は同年、TikTokを「高度な監視ツール」と呼んだ。
12月には、米国議会議員らがTikTokを政府のデバイスから禁止し、カナダ、欧州連合(EU)、台湾といった他の国や地域、米国の多くの州も同様の措置をとってきた。
TikTokはコメントの要請にすぐには応じなかったが、以前には中国政府とデータを共有することはないと述べていた。
●「スパイ気球の撃墜」にも確認が必要だった…中国のやりたい放題 3/1
台湾侵攻を狙う中国に、日本はどのように対抗するのか。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「岸田首相は軍事力強化を打ち出しているが、有事に至る前に自衛隊を現地に展開させる法整備が課題となる。アメリカのように中国の偵察気球を撃墜できる能力が自衛隊にあるかも疑問だ」という――。
日本政府が掲げる「抑止力」とは何なのか
「日本の防衛政策では抑止と防衛(対処)の区別が明確でなく、抑止の概念や用法に曖昧さがあることが問題点」
これは、2001年から防衛大学校の教授を務めた岩田修一郎氏が、2017年12月に発表した論文「日本の防衛政策と抑止―韓国及びオーストラリアとの比較考察―」(グローバルセキュリティ研究叢書第1号)の一節である。
岩田氏は、この中で、北朝鮮について「弾道ミサイルの完璧な迎撃は困難」と記し、中国に関しても「日本独自の拒否的抑止は限定的」と結んでいる。
岩田氏の指摘から5年余り。国会では、連日、岸田政権が掲げた防衛力強化をめぐる論戦が繰り広げられている。
ただ、「抑止」とは、やられたらやり返す「報復的抑止」なのか、それとも「専守防衛」の名の下に迎撃に徹し、国民の命はシェルターなどを設けて守り抜くという「拒否的抑止」なのか釈然としない。
相手が思いとどまらなければ効果はない
台湾有事や朝鮮半島有事の勃発に備えた防衛策に関しても、防衛費を大幅に積み増しすることで「ようやく1歩を踏み出した」という状態にすぎない。
2月15日、衆議院予算委員会で、持ち時間30分のうち実に25分もの間、防衛に関する持論を展開した自民党の石破茂元幹事長も、その1カ月ほど前、外国特派員協会での記者会見で、次のように語っている。
「日本がどういう力を持てば相手が攻撃を思いとどまるかを考えることが重要。相手が思いとどまらなければ抑止力の効果はありません」
「たとえば100発もミサイルが飛んで来たら、何発か落ちてしまうので、日本の防衛は万全ではありません」
これらの見方は、前述した岩田氏の指摘に共通するものだ。逆を言えば、日本の防衛にはさまざまな面で「大きな穴」がいくつもあるということになる。その事例を3つ紹介する。
台湾有事の最前線、沖縄住民の不安
1つは、政府の説明不足による住民不安という「穴」だ。
沖縄県の先島諸島では、2016年の与那国島を皮切りに、宮古島などにも陸上自衛隊の駐屯地が設置されてきた。そして石垣島にも、3月16日頃、初めて陸上自衛隊の駐屯地が開設され、地対艦ミサイル部隊など570人が駐留することになる。
台湾有事を思えば、台湾や中国に近い島々に駐屯地が置かれるのはやむを得ない。とはいえ、住民の理解が進んでいないという点は大きなネックになりかねない。
「新たに基地が増設される場所は、今の自衛隊駐屯地の近くの私有地です。町側は手が出せません。政府から説明してもらいたいと思っています。住民避難のため大型船が停泊できる港の整備、そして、先日、政府に陳情しましたが、シェルターは不可欠です」(与那国島・嵩西茂則町議会議員)
「住民の関心は、外資系ホテルができるので観光振興に向いていますね。自衛隊が増強されるというのは仕方がないことですが、弾薬庫が住宅地の近くというのは不安です。もちろんシェルターだってほしいです」(宮古島・黒澤秀男エフエムみやこ社長)
「住民投票を求めてきましたが、条例から住民投票に関する項目が削除されてしまいました。これでは声を上げることができません。反撃能力を持ったミサイルが配備されるかどうかはわかりませんが、『どうせ配備されるんだろ? 』と半ばあきらめています」(石垣島・金城龍太郎「石垣市住民投票を求める会」代表)
自衛隊駐屯地を強化すれば相手国から標的にされるという「防衛パラドックス」が生じる。それにもかかわらず、住民への詳細な説明がない、相手国から攻撃された場合、空路と海路しか住民の避難ルートがない、などといった現状は、真っ先に改善すべきである。
相手が攻撃に動くまで自衛隊は応戦できない
2つ目は法整備の「穴」だ。
毎年夏、東京・市ヶ谷のホテルでは、防衛相経験者や元自衛隊幹部らが集まり、台湾有事を想定したシミュレーションが実施される。
筆者が取材した2022年8月のシミュレーションでは、安全保障関連法で定めた「事態認定」をめぐり、「これが重要影響事態なのか存立危機事態なのか、それとも武力行使事態なのか」の認定に時間を要し、あくまで机上の話だが、自衛隊が沖縄の海域に展開する前に、海上保安庁や沖縄県警に犠牲者が出た。
現行法では、たとえば尖閣諸島への上陸や先島諸島の島々への攻撃が始まるまで、自衛隊は応戦できないためだ。
偵察気球すら撃ち落とせない残念な状況
この点で言えば、侵略とまでは言えない主権の一部侵害、つまり不法に領域に進入するといったグレーゾーン事態に対応するための法律(領域警備法など)の制定を急ぎ、事態が深刻化する前に自衛隊を現地に展開させることができる法整備が急務になる。
また、住民避難の面から言えば、現在の国民保護法制が、有事になってからでないと適用できない点も課題になる。グレーゾーン事態の間に、国民保護法を適用し、住民を円滑に避難させる仕組みも必要になる。
加えて言えば、アメリカ軍が撃墜したことを契機に話題となっている気球への対処だ。自民党は、仙台市など日本の上空でも確認された中国のものと推定される気球について、武器使用基準を改め、再び飛来した場合には撃墜できるよう方針転換した。
自衛隊法84条では、外国の戦闘機など有人機が領空を侵犯した場合、必要な措置を講じることができると規定している。ただ、撃墜は正当防衛と緊急避難の場合に限られてきた。これが見直されれば防衛にはプラスになるが、日本上空には、観測用の気球が数多く飛んでいることも忘れてはならない。
「自衛隊機に乗る際は気を付けながら飛んでいます。怪しい気球と気象観測等の気球を見分けるのは難しく、高度1万5000メートル以上の高さを飛ぶ気球を戦闘機で撃ち落とすには相当なテクニックが必要になります」(防衛省航空幕僚監部の一等空佐)
気球撃墜の難しさは、航空自衛隊トップの井筒俊司航空幕僚長も2月16日の定例記者会見で認めている。事実、アメリカは2月12日、ミシガン州の上空で、F22戦闘機が飛翔物体を撃墜したが、その際、1発目を外している。
ツインエンジンを持つ高出力のF22戦闘機ですら高い高度での撃墜は難しいのだ。自衛隊にはF22戦闘機がないため、F15戦闘機で代替するほかない。
ニッポンの防衛産業は簡単には復活できない
3つ目は、日本の防衛産業が極めて「お寒い」状況にあるという「穴」である。
近年、自衛隊向けに砲弾や装甲車両を提供してきたコマツや、機関銃などの製造を手がけてきた住友重機械工業など大手メーカーが相次いで防衛装備品の製造を打ち切った。
コマツで言えば、もともと防衛装備品の売り上げは280億円程度と、全体の売り上げの1%にすぎなかったところに、装甲車両にも排ガス規制を適用しなければならなくなり、技術開発費がかさむようになったためだ。
どうにか新型の装甲車両を開発したとしても、三菱重工業など他社や外国のメーカーに防弾性能などで見劣りすれば採用されない。これではコストを回収できない。
住友重機械工業の場合も、国産の機関銃は少数生産で外国製の5倍近い価格になってきた。それも多くがライセンス生産のため利益率が2%程度と低いのに加え、日本には、紛争地域への武器輸出などを禁じた「武器輸出禁止3原則」という縛りがあるため、顧客は自衛隊に限定される。「これではやってられない」と判断するのも道理である。
日本の防衛力強化で潤うのはアメリカだけ
そんな中、岸田首相は、国会での論戦で、反撃能力(敵基地攻撃能力)保持のために、今後5年間で、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を大量購入(最大400発)すると繰り返し述べてきた。
これで儲かるのはアメリカだけだ。日本の防衛産業には何のプラスにもならない。最新型であるため、使用訓練もアメリカに一任し儲けさせることになる。
政府は、日本の防衛産業に対し研究開発を支援する方針だが、今の状況で、「12式ミサイル」の射程を長くするとか「極超音速誘導弾」の開発を急ぐとか、政府が目指しているような技術開発が容易にできるとは到底思えない。
ちなみに韓国は、国を挙げて防衛産業の発展を後押ししている。2022年9月、ソウル近郊で開かれた防衛産業展を目の当たりにしたが、世界約50カ国からバイヤーが押し寄せ、活況を呈していた。
展示品の大半はアメリカの兵器のジェネリック版だが、高性能で価格は安い。しかも韓国側は、メーカーに補助金を出すだけでなく、防衛装備品を売る相手国の財政状況や地域事情を調査する支援までしている。至れり尽くせりのサービスで、「さすが、西側の兵器工場と言われるだけある」と感嘆したものだ。
すでに台湾侵攻の予行演習は終わっている
こうして見ると、日本の防衛力強化は「牛歩」のようなものだ。ただ、台湾統一を目指す中国の習近平総書記も、今後1〜2年は「牛歩」戦術をとらざるをえない。
台湾侵攻を想定したミサイル発射実験は、2022年8月、アメリカのペロシ下院議長(当時)が訪台した直後、台湾東北部海域(つまり与那国島などに近い海域)を含め、11発の「東風」ミサイルを発射することですでに予行演習を終えた。
当面は、ロシアとウクライナの戦争の行方、2024年1月の台湾総統選挙、同年11月のアメリカ大統領選挙の結果をじっくりと分析しながら、国内経済の建て直しに傾注すると考えられる。
また、最近で言えば、習近平総書記自ら、イランのライシ大統領と会談したり、外交トップの王毅政治局員をロシアのプーチン大統領と会談させたように、北朝鮮も含めた専制主義国家との関係をより強固なものにする期間にするだろう。
虎視眈々と軍事力強化を進める習近平
仮に、アメリカのマッカーシー下院議長が訪台するようなことがあったとしても、台湾総統選挙が終わるまでは前回のような派手な演習は自制し、水面下で軍事力の増強を進めると筆者は見る。図表1を見ていただきたい。
これを見れば、過去20年余りの間、中国がアメリカに比べどれだけ軍事力を増強させてきたかが一目でわかる。
KGB(ロシアの情報機関)出身のプーチン大統領とは異なり、習近平総書記は太子党(共産党幹部の子弟から成る派閥)出身のお坊ちゃんだ。負けられない戦いを前に無理はせず、図表1で示した戦力に、3隻目の空母「福建」や強襲揚陸艦などが加わり、北朝鮮も連動して動く環境が整ったとき、動き出すのではないだろうか。
当然のことながら、日本としてはそのときまでに「大きな穴」をできる限り小さくし、アメリカはもとより、韓国との連携も強化しておくことが不可欠になる。  
●『NPOの支援も限界』貧困家庭の子どもの困窮に"待ったなし" 国に要望書  3/1
3月1日午前、こどもの貧困対策を行っている5団体の代表らが、厚生労働省内で合同記者会見を行いました。今国会では異次元の少子化対策や子ども子育て予算倍増が議論されていますが、新学期の負担などで貧困家庭がより苦しくなる年度末に、今一度困窮する子どもたちの現状を訴えたいというものです。会見の後には、政府や与野党に対し子どもの貧困対策について合同要望書を提出しました。
要望の内容は、
「低所得子育て世帯生活支援特別給付金の再給付」
「児童手当の18歳まで支給延長、低所得者には上乗せ給付を」
「児童扶養手当の増額と所得施減の緩和」
「高等教育無償化の所得制限緩和と非進学者への支援強化」です。
今回、5団体が合同で要望することになった背景には、それぞれの団体の活動から浮かび上がる貧困家庭の困窮が『待ったなし』の状況だということがあります。
公益財団法人「あすのば」では、入学や卒業に向けた子どもたちへの給付金制度を設けていますが、代表理事の小河光治さんは、申請してきた家庭の数がこの3年間に過去最高を更新し続けており、その中で住民税非課税世帯や生活保護過程を除いた家庭のデータを分析した結果、2022年の世帯の平均勤労年収は139万円、貯蓄が50万円以下の家庭は75%に上ることを発表しました。
認定NPO法人「キッズドア」理事長の渡辺由美子さんは、困窮家庭への食糧支援の際に行った昨年11月の調査から、困窮家庭の子どもも親もコロナ禍と物価高に追い詰められており、調査をした家庭の子どもの70%が必要な栄養が足りておらず、25%が身長や体重が増えていない窮状を訴えました。
若者への支援をしている認定NPO法人「D×P」理事長今井紀明さんは、支援を希望する15〜25歳の高校生や大学生のうち58%が借金や滞納を抱えており、カードローンや電子マネーの後払い、消費者金融や知人などから生活費を借り入れている現状を報告しました。
コロナ禍経た『物価高』支援求める子どもや若者らが倍増
5団体のすべての調査で、コロナ禍を経た物価高により、支援を求める親や子ども、若者が倍増している結果が出ています。公益財団法人「あすのば」理事で日本大学教授の末富芳さんは「もはや民間のNPOによる支援は限界を迎えている」と言います。どの団体も想定を上回る支援の申し込みがあり民間団体の資金力や食料の調達能力をはるかに超えているとし、「困窮する子どもがこの社会には何万人といるという実態から目を背けて、子ども子育て予算の倍増のみを語ることというのは国家のありようとして許されることなのだろうか」と強く訴えました。
「キッズドア」渡辺さんは、新しいランドセルの話や、入学式のファッションの話など世の中が明るい雰囲気にあふれる3月から4月は、より困窮家庭の精神的な辛さが増す上に、2022年以降は給付金なども無くなって、困窮家庭は今が一番苦しい時期だと言います。「この先に給付金があると思えれば(今を耐える)心の支えにもなる」として、少しでも早く政府が困窮家庭に給付金を支給することを求めました。
「すべての子どもの権利が守られ幸せに成長できる社会をつくる」というのが4月1日に施行される子ども基本法の理念です。今この瞬間にも「生きる権利」「育つ権利」「学ぶ権利」が脅かされている困窮家庭の子どもたちに手を差し伸べ守ることができるのは誰なのかが、今突きつけられています。
●三木内閣の「間違い」 評価すべき戦後の安保政策の「失敗」認めた岸田首相 3/1
いまの防衛力では日本を守り抜くことはできない。
長年の安全保障政策の「失敗」を率直に認めた岸田文雄首相の態度は、ある意味、大いに評価されるべきだろう。
何しろ、官僚、霞が関というところは、自分たちの「失敗」を断固として認めない文化がある。先進国で日本だけが30年近く経済成長をしてこなかったのに、財務省も経産省も自分たちの「失敗」を断固として認めようとしない。
しかし、政治家はそうはいかない。うまくいかなければ、選挙で当選しなくなるからだ。だが、下手に「失敗」を認めるとかえって批判を浴びるので、「事なかれ」でごまかそうとする政治家が大半だ。
ところが、岸田首相は昨年12月16日、国家安全保障戦略など「安保3文書」と、5年間の防衛関連経費の総額を43兆円程度とすることを閣議決定した際に、こう述べたのだ。
「今回、防衛力強化を検討する際には、各種事態を想定し、相手の能力や新しい戦い方を踏まえて、現在の自衛隊の能力でわが国に対する脅威を抑止できるか。脅威が現実となったときにこの国を守り抜くことができるのか。極めて現実的なシミュレーションを行いました。率直に申し上げて、現状は十分ではありません」
毎年5兆円もの予算をつぎ込んできながら、「脅威が現実となった」ときに、現状の防衛力では「この国を守り抜くことが」できないと言ったのだ。
その正直さはある意味、称賛に値する。と同時に、先進国のGDP(国内総生産)比では確かに少ないが、それでも国際社会ではトップクラスの防衛費をつぎ込んでおきながら、このざまだ。日本の政治家、官僚たちの無能さにはあきれるしかない。
しかも、岸田首相はこう言っているのだ。
「各種事態を想定し、相手の能力や新しい戦い方を踏まえて、現在の自衛隊の能力でわが国に対する脅威を抑止できるか(中略)極めて現実的なシミュレーションを行いました」
いやいや、今まで「現実的なシミュレーション」も行っていなかったのか。
脅威に対抗して防衛力を整備する。この当たり前のことを否定する安全保障政策をつくった首相がいる。
三木武夫首相だ。彼は1976年、戦後初めて「防衛計画の大綱」を策定したのだが、このとき基盤的防衛力整備力構想を掲げた。要はGDP(国内総生産)比1%内でできる範囲の防衛力を整備する。言い換えれば、「脅威」「相手の能力」に対応した防衛力整備は不要だとしたのだ。
半世紀近く前の、この三木内閣の「間違い」を是正して、普通の独立国家が行っているような、脅威に対抗した防衛力整備を目指そうと岸田政権は訴えたのだ。その意気込みは素晴らしい。
問題は、今回の「安保3文書」で日本を守り抜くことができるのか、ということだ。
●辻元清美議員「総理の口癖は“様々”」「“様々”という言葉封印して」 3/1
国会では、きょうから論戦の舞台が参議院に移り、野党の論客が質問に立ちました。
立憲民主党 辻元清美参院議員「総理の口癖は、『様々』なんですよ。『様々な』議論とか、『様々な』意見と総理がおっしゃるとき、大体ごまかすときなんですね。私との質疑では『様々な』議論、『様々な』意見という言葉は封印していただきたい。これをまず申し上げておきます」
審議の冒頭で総理の“口癖”に注文がつきましたが…
岸田総理「『様々な』…失礼。『様々』と言っちゃいけなかったですね、ごめんなさい。この10年間を見ましても、子ども・子育て政策については、社会の変化の中で『様々な』議論が行われてきました」
少子化対策をめぐって、きょうも様々な議論が行われました。
立憲民主党 小沢雅仁参院議員「ぜひとも学校給食法を改正をして、小中学校の給食費の無償化に積極的に取り組んでいただきたい」
少子化対策をめぐり、野党側は給食費の無償化を実現するよう岸田総理に迫りました。
岸田総理「学校給食費の無償化については、既に地域の実情に応じて実施している自治体もあり、自治体間・学校間での給食の実施状況に差があります」
岸田総理は「まずは、学校給食法における国としての責任をしっかり果たし、給食費の負担軽減に努めていきたい」と述べるにとどめました。
次に質問に立ったのは、かつて所得制限のない「子ども手当」に強硬に反対したこの人です。
自民党 丸川珠代参院議員「(岸田総理は)平成21年当時の子ども手当をめぐる国会での論戦や、わが党の対応について、『反省すべきものは反省しなければならない』とお答えになりました。私もまったくその通りだと思います」
丸川議員はこう述べつつも、当時の自民党の判断は間違っていなかったと強調し、岸田総理も「当時の政策判断について、反省すべき点があるという趣旨で申し上げたのではない」と応じました。

 

●予算案衆院通過 誠実な首相答弁、必要だ 3/2
岸田文雄首相は国民に向いて、もっと誠実に説明を尽くさなければならない。
2023年度予算案が衆院本会議で可決され、参院に送られた。一般会計の歳出総額は114兆3千億円に上り、うち防衛費は前年度当初比1・26倍の6兆8千億円といずれも過去最大である。
岸田氏は昨年末、安全保障や原発の政策転換にあたり、「丁寧な説明を心がけていきたい」と強調したはずだ。しかし、約1カ月にわたる衆院の論戦では具体的な答弁を避ける場面が目立った。
参院では、政権の踏み込んだ答弁と、野党の連携による審議の活性化を強く求めたい。
政府は昨年12月に閣議決定した安保関連3文書に、相手のミサイル発射拠点などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記。防衛費を5年間で43兆円とし、27年度までに国内総生産(GDP)比2%に「倍増」する方針を示した。
増税が必要になるため、国会審議で国民の理解を広げるとしたが、衆院では野党の質問にほとんど正面から答えなかった。なぜ倍増なのかは依然根拠が不明で、疑問は募るばかりだ。
反撃能力の行使例も「手の内を明かすことになる」と繰り返し、保有の必要性や発動の要件などはあいまいなままである。「専守防衛を逸脱しない」との答弁は空虚というほかない。
予算案の採決前になって、米国から購入する巡航ミサイル「トマホーク」は「400発」と明かしたものの、米政府が議会で報告する予定があるからのようだ。日本の主体性はどこにあるのか。
子ども関連予算を巡って、岸田氏は「家族関係社会支出は20年度に国内総生産(GDP)比2%を実現した。さらに倍増しようと言っている」と答えた。だが、翌日には事実上撤回した。野党から追及されると、「数字をまず挙げろというのは無理な話」と気色ばんで反論した。
本気で少子化対策に挑む覚悟があるか。来月に控える統一地方選や衆院4補欠選向けのアピールではないのかと怪しむ。
元首相秘書官の差別発言を招いた同性婚の法制化を巡っては、物議を醸した「社会が変わってしまう課題だ」との答弁について、苦しい釈明に追われた。
岸田氏は、その場しのぎの言葉でごまかす姿勢を改め、可能な限りのデータと率直な認識を示してもらいたい。
●少子化対策、子ども予算倍増を巡る国会審議と教育国債の妥当性 3/2
出生数大幅減少で待ったなしの少子化対策
厚生労働省が2月28日に公表した人口動態統計(速報値)によると、2022年に生まれた子供の数は前年から5.1%減少し79万9,728人と80万人台を割り込んだ。1899年の統計開始以来、出生数が80万人を割り込むのは初めてのことである。
1970年代以来、出生数は減少傾向を辿ってきているが、減少ペースは足元で加速している。その大きなきっかけとなったのは、2020年以降のコロナ問題だ。コロナ問題とそれに伴う経済見通しの悪化から、結婚や出産を先延ばしする人が増えたことが、大幅減の要因と考えられる。
しかし、出生数の大幅減少をコロナ問題による一時的な現象、と片付けることは適切でない。コロナ問題によって日本の少子化問題が増幅された、という側面が強いのではないか。
急速に進む少子化は、経済の潜在力を低下させるとともに、社会保障制度の持続性を揺るがすなどの多くの問題を生じさせる。この点から、政府の少子化対策は待ったなしの状況にある。
岸田首相は「次元の異なる少子化対策」の実施を表明している(コラム「異次元の少子化対策とはいったい何か」、2023年1月11日)。3月末までに具体策を取りまとめ、6月の「骨太の方針」で財源も含めて全体像を示す予定だ。
少子化対策は成長戦略と一体で
少子化対策として与党内で議論の中心となっているのは、児童手当の拡充である。中学生以下に月1万〜1万5,000円を支給している現在の児童手当について、所得制限を撤廃することや、対象を高校生まで拡大する案が議論されている。
野党からも所得制限の撤廃を支持する声が高まっているが、年収960万円以上(子ども2人のモデル世帯)の高額所得世帯に新たに児童手当が給付されることから、富裕者層優遇の政策になってしまう、あるいは、高額所得世帯への児童手当給付は、出生率を押し上げる効果が小さい、などの問題点もある(コラム「異次元の少子化対策で児童手当の所得制限撤廃が焦点に」、2023年1月30日)。さらに、撤廃によって必要となる年間1,500億円程度の財源確保の問題も残る。
児童手当の拡充策は、従来型の施策の延長線上にあると言える。それらで果たして出生率が向上するかは不確実だ。婚姻件数の減少も、少子化を加速している要因との指摘も多い。2022年の婚姻件数は51万9,800組で、30年前の3分の2の水準だという。経済面から婚姻の障害となる要因を取り除く取り組みも必要だろう。
先行きの実質賃金への不安が、既婚者の出生率、および婚姻率を押し下げている面があるとすれば、生産性向上、潜在成長率向上を促す成長戦略と少子化対策とを一体で進めることも必要だろう。
少子化は潜在成長率を低下させ、潜在成長率の低下は先行きの経済悪化懸念を通じて、既婚者の出生率、および婚姻率を押し下げ少子化を加速させる、といった悪循環を生じさせてしまう恐れがあるためだ。
子ども予算倍増を巡る混乱
岸田首相は2月27日の衆院予算委員会で、子ども予算倍増を巡る野党の追及を受け、「最初から国内総生産(GDP)比いくらだとか、今の予算と比較してどうかといった数字ありきではない」と声を荒らげた。防衛費増額の議論の時と同様に、少子化対策など子ども関連施策においても、「数字ありき」が好ましくないことは明らかだ。政策効果が大きい具体策、予算規模、財源を一体で決めることが望ましい。
しかし、子ども予算を倍増すると最初に宣言したのは、岸田首相自身である。これは「数字ありき」の姿勢であったと言える。そうなれば、子ども予算倍増の定義、基準などを野党が問いただすのは自然な流れだ。
岸田首相は2月15日の衆院予算委員会で、GDP比2%の約10兆円規模の「家族関係社会支出」を倍増する、と受け取れるような答弁をした。しかし政府はその後、「何を倍増するのかについては調整中だ」として、この発言を軌道修正したのである。こうした答弁が、混乱に拍車をかけてしまった。
倍増の3つの定義と適切な政策決定プロセス
倍増の基準となる数字として考えられるものは3つある。第1は、岸田首相が一度言及した、経済協力開発機構(OECD)基準の「家族関係社会支出」である。これは、2020年度の実績で約10兆円、名目GDP比約2%だった。これを2倍にするのであれば、予算規模は約10兆円増加し、名目GDP比で約4%に達することになる。防衛費の約4兆円増額(2027年度)と比べて、その約2.5倍にも達するのである。その財源を確保するのは、かなり大変なことだ。
第2は、少子化対策関係予算である。その規模は2022年度で約6兆1千億円だ。
第3は、4月に発足する「こども家庭庁」の予算規模である。2023年度予算案には約4兆8千億円が計上されている。
どの予算規模を2倍にするのかが決まっていないということは、そもそも少子化対策、子ども政策の狙いが定まっていないことの現れと言えるだろう。まずは、政策の狙いを定め、それを達成するのに最も有効な施策を考えていく中で、予算規模が決まっていく。ただし、予算増加は、他の歳出削減、歳入増加、国債発行など、いずれも現在あるいは将来の国民の負担となる。その負担に見合って必要な施策であるかを慎重に再検討したうえで、最終的に、具体的な政策、予算規模、財源の3つを一体で決めていくプロセスが必要である。
浮上する教育国債発行の議論
自民党の遠藤総務会長は2月28日の記者会見で、子ども関連予算倍増の財源について、国債を発行する「教育国債」の議論を党内で進めるべき、との考えを示した。教員の待遇改善や学校施設の整備が進んでいないとして、「何らかの形で教育予算を増やさないといけない」と主張し、その財源の選択肢の一つとして教育国債の発行を挙げたのである。
教育国債の創設は、国民民主党が昨年の参院選で公約に掲げている。その後、教育国債法案を国会に提出したが、廃案となった。今年2月には同法案を参院に再提出している。
国民民主党は、子育て支援の充実に必要な財源を確保するため、教育や科学技術に使い道を限定した教育国債の発行を主張している。大塚政務調査会長は、「人材を育てることは未来への投資にほかならず、国債で財源を調達することの整合性は十分にある」と述べている。
公共投資のように将来世代もその便益を得られる歳出については、将来世代もその負担をするように国債発行で財源を賄うことが正当化される。これが、建設国債である。しかし、教育関連支出について、そうした考え方が成り立つかどうかは疑問である。
拡大解釈による国債発行は問題
政府の教育関連支出の便益を直接得ているのは、現在の子供であり、その親たちだ。その観点から、現役世代がその予算を賄うのが適切だろう。教育関連支出が将来の労働生産性向上につながれば、それによる経済環境の改善の恩恵を将来世代が受ける可能性がある。しかし、それは不確実だ。やはり、教育関連支出はその便益を直接受ける現役世代の負担で賄われるのが適当だろう。
現在の政府の政策、支出は、すべて将来の経済、社会の発展につながる可能性を秘めている。だからと言って、それらを将来世代の負担となる国債で賄うのが適切である訳ではない。こうした拡大解釈が進めば、多くの政府の歳出は国債発行で賄うのが適切である、との極端な議論にも発展しかねないのではないか。防衛費増額分の一部については、既に建設国債で賄う方向だ。最終的には、増税による防衛費増額の財源確保の政府方針が撤回され、国債で賄われるようになってしまう可能性もある。
そうした議論とならないように、子ども関連予算倍増の財源については、国債発行以外の財源をしっかりと確保するように努めなければならないだろう。仮に、歳出削減、歳入増加による財源確保は、短期的な経済に悪影響を与えるために難しいということであれば、子ども関連予算の倍増という方針自体を見直すべきだろう。国民も、政策の効果とコストの両面から、子ども関連予算の適切な在り方を真摯に考えていく必要がある。
●日本型雇用制度は少子化の原因か…国会で論戦に 3/2
年功序列・終身雇用など日本企業の特徴といわれる雇用システムは少子化問題の一因と指摘する有識者もいるなかで、参議院予算委員会では岸田総理大臣が認識を問われました。
日本維新の会・音喜多参院議員「終身雇用や年功序列・年功賃金といった、いわゆる日本型雇用システムは男性に有利だと思いますか。女性に有利だと思いますか。それとも性別には関係なく中立だと認識されていますか」
岸田総理大臣「少なくとも長時間労働あるいは全国転勤などを前提とする雇用慣行、これはこの女性活躍を阻む要因になっていたとの指摘があることは認識しております」
また、日本維新の会の音喜多議員は「新たな雇用ルールの策定が必要だ」と主張し、雇用の流動化を後押しする政策が少子化対策にもつながるとして、総理に見解をただしました。
岸田総理は今の雇用制度は人材育成や組織の一体感などプラス面もあると指摘した一方で「時代の変化を踏まえ見直しを進めることが重要」だとして、リスキリング=学び直しなどを含めた労働市場の改革を加速させると強調しました。
●長射程ミサイル、配備地未定=岸田首相、金融資産拡大に重点―参院予算委 3/2
岸田文雄首相は2日午後の参院予算委員会で、反撃能力(敵基地攻撃能力)の手段として相手の射程圏外から攻撃するスタンド・オフ・ミサイルについて、「具体的な配備先は決まっていない」と述べた。中間層の金融資産所得拡大に向けた取り組みに重点を置く考えも示した。
反撃能力に活用するため、防衛省は国産の「12式地対艦誘導弾」の長射程化を進める方針。これに関し、共産党の小池晃書記局長は沖縄県・石垣島への配備を検討する考えがあるのかをただした。浜田靖一防衛相は「(地元に)配備しないとお話ししたが、いろいろ考えれば今後どのようになるかは分からない」と答えた。
反撃能力について、首相は「問題はどう運用するかだ。間違っても憲法の範囲を超えることはなく、専守防衛は守る」と重ねて強調した。
国民民主党の舟山康江氏は、政府が掲げる「資産所得倍増」の説明を求めた。首相は「特に中間層の可処分所得を拡大するため、賃上げと併せ、家計の金融資産所得の拡大も行うことが大事ではないか」との認識を示した。
●原発安全性、かわす岸田首相 「60年超」立民が撤回要求―参院予算委 3/2
2023年度予算案に関する論戦の舞台が1日、参院予算委員会に移った。立憲民主党は60年を超えて原発を運転できるようにする政府方針を取り上げ、「非科学的だ」と批判して撤回を要求した。岸田文雄首相はロシアのウクライナ侵攻などに起因する「エネルギー危機」を強調。安全性については正面からの答弁を避け、議論は平行線をたどった。
政府は2月28日、「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」を閣議決定した。既存原発は「原則40年、最長60年」とする従来の運転期間ルールを緩和し、安全審査などに伴う停止期間をカウントしないことで「60年超」の稼働を事実上可能にする内容だ。1日の予算委は、野党が閣議決定後初めて本格的にこの問題をただす場となった。
首相は昨年末、原発を「最大限活用」する方針に踏み切った。国会での説明を後回しにする形となったこともあり、今国会で野党側は政権を追及する主要テーマの一つと位置付ける。
立民の辻元清美氏は「国民には心配が多い。どうして(60年から)延長したいのか」と質問。首相は「エネルギー危機に直面する中、あらゆる選択肢を確保する必要がある」と訴えた。
ただ、停止期間分を上乗せして運転延長しても安全性が科学的に担保されるかどうかについては、首相は「原子力規制委員会に安全性を確認されたものでなければ運転できないという仕組みが大前提だ」と答えるにとどまった。
辻元氏は、規制委の山中伸介委員長から「運転停止期間中も(原発の)劣化は進む」との答弁を引き出した上で、首相に再三「見解は同じか」「合理的な説明を」と迫った。だが、首相は運転開始後30年を超える場合、その後10年を超えない期間ごとに規制委が検査をするため問題はないなどの説明に終始。審議が一時止まった。
再開後も辻元氏は、運転開始から40年を超えた国内の原発で経年劣化によるトラブルが生じた事例を列挙。停止期間分の上乗せを「裏口入学だ」と厳しく批判したが、首相は「安全確認をしっかり行うことで原発の運用も追求する。世界的なエネルギー危機の中で重要だ」と繰り返した。
立民などはGX法案の審議でも引き続き追及する構え。辻元氏は質疑後、法案について記者団に「矛盾だらけだ」と断じた。
●岸田首相、物価高に機動的対応 コロナ検証、明言避ける―参院予算委 3/2
参院予算委員会は2日午前、岸田文雄首相と全閣僚が出席して、2023年度予算案に関する2日目の基本的質疑を行った。物価高騰への対策について、首相は「不透明な状況をしっかり見据え、必要な対策はちゅうちょなく機動的に対応したい」との考えを示した。新型コロナウイルス対策の検証実施に関しては明言を避けた。
電力大手の料金値上げ申請を厳格に審査することや、輸入小麦売り渡し価格の激変緩和措置を講じることも強調した。
扶養家族の対象から外れ社会保険料負担が生じる130万円の「壁」への対応については、「単身者との公平性に留意しつつ対応策を検討したい」と述べた。公明党の西田実仁参院会長への答弁。
5月に新型コロナの感染症法上の位置付けを見直すことを巡り、日本維新の会の猪瀬直樹氏は、多額の国費を投入した各種コロナ対策を第三者で検証するかをただした。首相は「まだ新型コロナとの戦いは終わっていない。節目節目での検証は大事だとは思う」と述べるにとどめた。
1、2両日にインドで開かれている20カ国・地域(G20)外相会合を林芳正外相が欠席した理由について、首相は「外相の出席を追求したが、国会を含む国内日程を総合的に判断した」と説明。3日に同国で開かれる日米豪印4カ国の連携枠組み「クアッド」外相会合への対応は「林外相が出席する方向で最終調整中だ」と述べた。維新の音喜多駿政調会長への答弁。
●G20外相欠席は「総合判断」 3/2
岸田文雄首相は2日の参院予算委員会で、林芳正外相の20カ国・地域(G20)外相会合欠席を巡り、国会日程などを総合的に勘案して決めたと説明した。「林氏出席の可能性を追求したが、国会を含む国内日程などを総合的に勘案し、山田賢司外務副大臣の出席が適切と判断した」と述べた。「今後も国会、国民の理解を得られる対応に努めていきたい」とも語った。日本維新の会の音喜多駿氏への答弁。
予算委は、首相と全閣僚が出席する2023年度予算案の基本的質疑を1、2日の日程で実施。林氏は日本の外相として初めてG20会合を欠席した。音喜多氏は予算委で「国益を損なう判断だ」と指摘した。
●日本人はなぜ米国に騙され続けてきたのか 3/2
厚生労働省は2月28日、2022年に生まれた子供の数が前年比5.1%減の79万9728人であると発表した。この数字には日本国内の外国人も含まれるので、日本人だけに限れば昨年生まれたのは77万人前後とみられる。
日本の子供の出生数は7年連続で過去最少を更新し続けており、国立社会保障・人口問題研究所が2017年に行った将来推計では、日本人の出生数が77万人台になるのは2033年とされていた。それが11年も前倒しになった。
岸田総理は「異次元の少子化対策」を政権の最優先課題だと宣言した。しかしその政策の中心は児童手当の拡充など金のばらまきである。これには少子化対策と思わせて選挙対策に利用したい思惑が透けて見える。
2009年に自民党が初めて総選挙に敗れ、民主党が政権交代を果たした時の原動力は「子ども手当」だった。民主党は少子化対策のように見せて、実はリーマンショック後の不景気に対応する金のばらまきを公約に掲げ、選挙で国民から圧倒的な支持を得た。
岸田政権は同じことを狙っている。だから自民党の茂木幹事長が急に民主党の主張であった「所得制限撤廃」を言い出す。選挙が念頭にあるとしか思えない。すると野党も所得制限の撤廃を本当にやらせようとして追及が手当の拡充に終始する。
国民の経済的困窮が少子化の原因だとする考えは一般に受け入れられやすい。しかし経済的に困窮する国の出生率は豊かな国より高いのが現実である。経済的困窮だけが少子化の原因とは思えず、金を支給すれば出生率が上がる保証もない。
勿論、経済的に豊かになれば子供を持ちたいと思う人はいる。しかし子供を持つより自由な時間が欲しい、あるいは趣味に生きたい、豊かになれば多様な生き方を求めるのが人間だ。繫栄した国家が少子化となり、出生率の高い野蛮国に敗れるのが、古代からの歴史の教えである。
従って少子化対策は手当を拡充するだけでは駄目で、少子化が止まるように社会の仕組みを変えることが必要だ。先進国の中でどうにか少子化を免れているフランスやスウェーデンなどに共通するのは、女性の社会的地位が高いことである。
1人の女性が生涯に産む子供の数を合計特殊出生率と言うが、それが2に近い国々は高等教育修了者が男性より女性に多く、母親が育児にかかりきりにならないよう国が支援する仕組みがある。そして先進国は教育レベルが高いので、何よりも教育費を無償化するのが少子化対策の特効薬になる。
フランスは3歳から義務教育にして子供の面倒を学校が見ることにした。3人以上子供のいる家庭は減税の対象になり、3人以上の子供を育てた親は年金が加算される。少子化対策とはそうした政策のことを言う。
またそれらの国々に共通するのは同性婚やLGBTに対する寛容度が高い。岸田総理は同性婚を認めると「社会が変わってしまう」と言ったが、そのように社会が変わってしまわないと「異次元の少子化対策」にならない。
実は日本の政治は30年以上も前から、少子化によって日本は社会機能を維持できなくなると分かっていた。ところが分かっていながら本気で少子化対策に取り組まず、児童手当の拡充という少子化対策というより社会保障政策に終始してきた。
なぜなのか。その疑問を追及していくと、敗戦後の日本を統治したGHQの「日本弱体化計画」に行きつく。戦前の日本は「産めよ殖やせよ」で、海外への膨張政策を採り、それが日本の侵略戦争を生んだという歴史観で、GHQは秘かに日本の国力を削ぐ少子化を推進した。
GHQは日本が二度と米国に歯向かえなくするため、1軍隊を持たないことが平和への道だと思い込ませる憲法を作成し、2食料を米国に依存せざるを得なくする目的でパンと脱脂粉乳の学校給食を日本の子供たちに食べさせ、3海外への膨張を阻止する目的で「産児制限」を奨励した。
憲法9条2項(戦力不保持、交戦権否定)があるため、日本は日米安保条約で米国に防衛を委ね、防衛してもらう代わり日本の領土のどこにでも米軍基地を作ることを認めた。安保条約は一方的に破棄できるので、日本は米国から見捨てられることを恐れて言いなりになる。そして言いなりになれば米国の戦争にまき込まれるリスクが高まる。
そのジレンマをメディアも政治家も国民に教えず、9条2項は平和のためだと国民を騙してきた。9条2項によって日本は永遠に米国に従属することになる。そのことは以前のブログに書いた。
1981年に私は米国の元農務次官を取材し「戦後に米国が日本の学校給食にパンと脱脂粉乳を提供したのは、食料難を救うより、子供にパンの味を覚えさせ、将来にわたって米国の小麦を輸入させる目的だった」ことを聞き出した。日本の食料自給率が低いのは裏に米国の意図がある。食料を押さえられた日本は米国に反抗できない。それもブログに書いた。
そこで次に少子化の裏にある米国の意図について書くことにする。その事情は河合雅司元産経新聞記者が書いた『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)に詳しい。同書によれば、明治維新で日本の工業化が始まり、貿易で豊かになると急速な人口増加が始まった。
増え続ける人口は国内の農業だけで養いきれない。明治政府は海外移住を奨励した。米国は日本が日露戦争でロシアを破ったことを喜び、ポーツマス講和条約を仲介するが、その直後から日本に対する警戒を強め、日本攻撃の戦争計画「オレンジプラン」を作成し、カリフォルニアでは日本人移民に対する排撃運動が勃発した。
日本国内の人口過剰と海外の排日運動で、日本の有識者の中から「産児制限」の議論が始まる。1922年に雑誌『改造』は、米国の産児制限運動の指導者マーガレット・サンガー夫人を日本に招き、「産児制限」が国民の注目を集めた。
しかし29年の世界恐慌で世界中に失業者があふれ、日本の過剰人口は行き場を失う。その2年後に起きた満州事変で満州国が誕生すると、満州への移民事業が本格化する。27万人もの日本人が満州にわたり、そこで悲惨な敗戦を迎えることになった。
ドイツがフランスを占領して第二次大戦が本格化すると、フランスの敗因は産児制限と個人主義が生んだ少子化にあると分析された。近衛内閣は人口増加政策に転じ「産めよ殖やせよ」をスローガンに産児制限運動を弾圧した。
日本が敗戦を迎え、出征した兵隊たちが帰国するとベビーブームが始まる。日本を占領支配したGHQは、人口の急増と食料危機を日本政府に対応させる一方、人口問題には強い関心を示した。日本が再び軍事侵略を繰り返すことを恐れたからである。
GHQは日本の人口膨張を抑える協力者として、戦前サンガー夫人に感銘を受け産児制限運動に関わり軍部から弾圧された加藤シズエ氏をピックアップする。表では日本の人口問題に不干渉の姿勢を見せながら、日本人の手による産児制限導入をGHQは狙った。
加藤シズエ氏の自伝によれば、終戦直後にGHQの係官が自宅を訪れ、日本の民主化への協力を求められた。さらに戦後初の総選挙に立候補することを勧められ、加藤氏は婦人参政権の付与を条件に申し出に応ずる。こうして加藤氏は夫の勘十氏と共に社会党の女性議員になった。
GHQの狙いは米国の押し付けと見られずに、議員立法での優生保護法の成立を図ることだ。それは母体を保護する目的での人工妊娠中絶を認めさせることだった。日本政府内には米国の隠された意図を感じ、将来的に国家の滅亡につながるという反対論もあった。
しかし当時は闇の堕胎が頻発し、母体の保護を無視できない状況が生まれていた。こうして1948年に優生保護法が成立し、日本は世界でも例を見ない人工妊娠中絶を合法化した国となった。
すると日本に米国の人口学者たちが次々訪れ、人口調節の必要性を訴える。その結果、吉田茂総理は49年に米国の要求通り「産児制限」の受け入れを決めた。その年に日本のベビーブームはピタリと止まる。他国では10年ほど続いたベビーブームが日本ではわずか3年で終わった。
49年に10万件だった人工妊娠中絶件数が50年には3倍の32万件に増加する。さらに日本が主権を回復した52年には二度目の優生保護法改正が行われ、法律の適用が政府を離れ、個々の医師に委ねられ、日本は「中絶天国」になった。
「中絶ブーム」が到来し、57年に人工妊娠中絶は156万6713件、出生数が112万2316人になる。足せば268万9029人になり、ベビーブーム期と同水準だ。しかし中絶ブームで出生数はどんどん減少していった。
そして高度経済成長期を迎えると、今度は企業が家族計画を主導し始めた。子供の多い従業員は家庭での負担が増え、職場での事故や生産性の減少につながるという理屈だ。子供が少なければ企業にとって家族手当や医療費は軽減される。「子どもは2人まで」の受胎調節を企業が指導するようになった。
そしてベビーブーム世代が結婚適齢期を迎えた1970年代は、結婚ラッシュと出産ラッシュによって少子化から脱する機会であった。ところがどういう訳か74年に日本人口会議は「子どもは2人まで」のスローガンを世界に向かって宣言する。少なく産んで大事に育てるというのだ。日本は自らの手で少子化を脱する機会を潰した。
こう見てくると、日本は占領時代に米国から刷り込まれた意識に引きずられ、問題の本質を考えられなくなったという気がする。日本の平和主義のいい加減さも、食料自給率の低さも、少子化という国家の存亡にかかわる問題も、本質と離れたところでしか議論がなされていない。
日本人は「戦前・戦後」という言い方をして、前者は軍国主義で暗く悪い時代、後者は民主主義で明るく正しい時代をイメージするが、その間に7年間の「占領時代」がある。その「占領時代」を解き明かさないと、日本の問題は見えてこないのではないか。
●「立憲はこのままでは沈んでしまう」 いま野田元総理“代表待望論”出る理由 3/2
総理も酒が好きだから言うけど――。2月8日、衆院予算委の集中審議で岸田文雄総理に“ため口”で語りかけたのは、立憲民主党の野田佳彦元総理(65)だ。
こんな話しぶりが許されるのは、1993年の初当選同期、同い年で酒豪同士だからこそ。野田氏はアベノミクスを「大衆酒場でいつも頼むコップ酒」と評し、「なみなみと(コップに)入れようとしてきたと思うが、下の受け皿には届かなかった」と指摘した。富裕層が潤えば低所得者層に富が浸透するという「トリクルダウン」は起きなかったと断じたのだ。アベノミクス路線を転換させるであろう総理はこの「コップ酒」論にうなずきながら耳を傾けた。
政治部記者は言う。
「総理経験者の予算委での質問は珍しいが、野田さんは第2次安倍政権と菅政権でも質問に立った。話力には定評があり、堅い話から趣味のプロレスネタまで引き出しも豊富。昨年の安倍追悼演説が評価されたほか、父が自衛官で“自衛隊愛”も隠さず、保守層の支持もある。安定感は独特です」
「このままでは党が沈んでしまう」
とはいえ野田氏は、安倍氏が「悪夢」と呼んだ民主党政権最後の総理だ。自民党が野党だった時の安倍氏との党首討論で衆院の早期解散を約束するも、総選挙で惨敗。政権を手放した戦犯との評は今もくすぶる。
ただ政権陥落から10年過ぎてなお立憲の支持率は低迷。泉健太代表は頼りなく何より重みがない。最近は、共闘方針を掲げる日本維新の会の馬場伸幸代表に対し「『重馬場(おもばば)』であってほしい」とイジって維新側の怒りを買った。
「駄じゃれが売りだがセンスがない」(立憲議員)
そんな事情もあって党内には「野田氏再登板」を期待する声が絶えない。
「野田さんを押し出せば、自民党のわが党への向き合い方も変わるはずだ。泉代表の任期は来年9月末で、それまでに必ずや総選挙がある。このままでは党が沈んでしまう」(党関係者)
立憲は昨年の参院選で議席を減らし、泉氏を除いた首脳級の顔ぶれを刷新。岡田克也氏や安住淳氏ら野田政権の幹部が要職に就いた。「先祖返り」批判も出たが、国会では自民党を翻弄する場面も多い。そもそも泉氏の続投は、一昨年の衆院選敗北時に代表の座を降りた枝野幸男氏に続く「引責定例化」回避のためだ。泉氏の党内支持基盤は弱い。
ピカピカの経歴
野田氏は総理就任前、財務相を1年余り務めたが、先の記者いわく、
「かつては大蔵(財務)大臣から総理にのぼりつめるのが王道コースでしたが、近年、その両方を歴任した政治家は橋本龍太郎氏や麻生太郎氏、菅直人氏くらい。野田氏の経歴はその点、ピカピカ。人材難の立憲で待望論が出るのは“泉代表よりマシ”といった消極的な面も否定はできませんが、野田氏に近い蓮舫参院議員が泉氏の発信力に苦言を呈するなど、折に触れて“泉氏に代えて野田氏を”という声は出てくるでしょう」
冒頭の質問後、野田氏は定期的に発行する国会報告パンフにこうつづった。
〈野党は重箱の隅をつついたり揚げ足取りばかりしないこと、政府は答弁をはぐらかさないことが建設的な政策論争の条件〉
これは刺々しい批判を弁じて悪目立ちする議員が多い自党への苦言とも読める。
●「難民貴族」発言に波紋 ウクライナ避難民らが語るリアル 3/2
「はっきり言って『難民貴族』ですよ」。日本語学校などを運営する学校法人の理事長が、学費を巡ってトラブルになっているウクライナ避難民の学生をこう表現したことに対し、SNS(ネット交流サービス)を中心に波紋が広がっている。こうした中、ロシアの侵攻を逃れて日本にたどり着いた人々や支援者の目に、この発言はどう映るのか――。
記者会見で「難民貴族」
この学校法人は「ニッポンアカデミー」。前橋市内で運営する日本語学校などで、ウクライナからの学生約40人を受け入れ、身元保証人となっている。
学費を巡っては、一部の学生が「『一定期間、学費は無料』と事前に説明されていたのに期間内に支払いを求められた」「約束を果たしてほしい」と主張している。
これに対し、ニッポンアカデミーの清水澄理事長は、群馬県庁で2月24日に開いた記者会見で「(学費を求めない期間は)『学生が自立するまで』と説明していた」「契約自体がない。文書や取り決め書はない」などと反論し、双方の主張は食い違っている。
そして、この会見の中で清水理事長は「ウクライナの人たちの今の支援状況、皆さんご存じですか。はっきり言って『難民貴族』ですよ」と言った。
ウクライナ駐日大使「許されない発言」
この発言に対し、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使は「絶対に許されない、恥ずべき発言である。謝罪しなければならない。ウクライナからの留学生には、この不適切な教育機関から離れることを勧める」とツイッターに日本語で投稿した。
このツイートには「いいね」が約1800件(1日午後5時時点)。「同じ日本人として恥ずかしい」「ウクライナ人の名誉を傷つけて申し訳ない」といった反応も見られた。
一方、ツイッター上では「学費払わない騒ぎになっている。キエフ(ウクライナの首都キーウ)は全然壊れていないから、(母国に)帰ったらいいのに」などとする投稿も見られた。
また、ウクライナ避難民への財政支援に対する批判なのか、この発言を報じるニュースサイトのコメント欄には「そんなお金があるなら自国の若者をもっと支援してください」といった意見が寄せられ、この意見に2万件以上の肯定的評価(同)がついた。
自立意欲旺盛なウクライナ避難者
こうした中、ウクライナから日本に逃れてきた人々は「難民貴族」と言われたことをどう受け止めているのか。
2022年11月に日本に来たテティアナ・シュプチェクさん(33)は「日本の受け入れ、支援には心から感謝していますが、この発言は侮辱で、残念です」とオンライン取材に語った。
日本の人材会社で働いているテティアナさんだが、「仕事はパートタイムで生活するには十分ではありません。日本の経済的支援は本当にありがたいのです」と感謝する。
来年夏までに、日本語能力試験で2番目に難しい「N2」の取得を目指す。「他のウクライナの避難者もできるだけ早く日本語を学び、仕事をして税金を払い、日本社会に貢献したいと思っています」
それだけに、日本語を学ぶ学生たちへの学費補助についてはこんな思いを吐露した。「彼らは将来、日本社会で貢献し、国外で親日派として日本に協力してくれるかもしれない。そのための投資として考えてもらえないでしょうか」
22年3月に夫と離れて日本に逃れてきたオリナ・クシュナロワさん(51)は、「難民貴族」発言について「意見は人によって違うので、そう考える人もいるのかもしれない」と話し、同胞同士で助け合いながら避難生活をしのいでいる実情を語った。
「日本にいるウクライナ人のコミュニティーの中で、お互いを支援する動きが進んでいます。私の場合は、知人の10代のめいが適切な教育を受けられるよう、彼女を助けています」
「半数が母子家庭 強い自立意識」
ウクライナからの避難者800人以上と面談し、生活や教育、心理などさまざまな分野で支援してきた公益財団法人「日本YMCA同盟」の横山由利亜さん(53)は「貴族というような状態ではありません」と説明する。
避難者の多くは自立心が強く、日本語を早く学んで仕事をしたい人がほとんど。母国で医師や弁護士、研究者など専門職に就いていた人も少なくないが、資格上の制限から専門分野での就業が難しい人もいるという。
「それでも、日本に頼り過ぎず、自分で暮らしを立て家族を支えていきたいと、業種を選ばずに働いている人が目立ちます」
国や自治体、民間からさまざまな生活支援などを受けているのは事実だが、それだけで生活できるわけではない。母国にいる配偶者や高齢の家族を支えたり、残してきた家屋などのローンを返したりする必要がある人もいる。
「いわば避難先で経済的に二重生活をしている状態です。(避難者の)半数が配偶者を母国に残した母子家庭で、子供のストレスに心を砕きながら仕事と子育てに努めています。『日本の支援を受けているから楽』ということでは全くないと思います」と強調した。
「外国人は害悪」という意識はないか
外国からの難民や避難民の受け入れに詳しい専門家は、発言の背景やネット上の反応をどう見るか。
アフガニスタンやミャンマーからの避難民を支援する渡辺彰悟弁護士は「ウクライナ避難民への支援が相対的にいいので出てくる意見かもしれませんが、本来目を向けるべきは他の紛争地からの避難者への支援がなきに等しいということです。彼らの支援を充実させるべきです」と指摘する。
難民や避難民ではなく「日本人を助けるべきだ」といったネット上の意見に対しては「外国人避難者を支援しているから日本人困窮者の支援ができないわけではありません。本来関係のない問題が結び付けられています」と話した。
高橋済弁護士は「外国人を経済や治安の面から『害悪』と捉える考え方が、今回の問題の背景にあるのではないでしょうか」と述べ、日本に逃れてきた人々への支援のあり方を語った。
「母国がウクライナにせよ、アフガニスタンにせよ、ミャンマーにせよ、避難者らは自らの意思に反して逃れざるを得なかった『強制移住』をさせられた人たちです。日本も加盟する難民条約の規定からしても支援を行うのは当然です」
そのうえで「日本人であっても、いつか強制移住をさせられ、異国で言葉を学び、支援を受けながら自立の道を探ることがあるかもしれません。その可能性を我がこととして考えられない想像力の欠如があるとすれば問題です」と話した。
●社会保険適用拡大とは? 日本の社会保険制度について考える 3/2
社会保険適用拡大とは、年金法の改正により短時間労働者を対象とする社会保険制度の適用基準を拡大することをいう。2022年10月より従業員数100名を超える事業所では、原則としてすべての短時間労働者が社会保険の加入対象となった。今回は社会保険制度をテーマとした過去記事を紹介していく。
短時間労働者への保障を手厚くする「社会保険適用拡大」
社会保険適用拡大とは、年金法の改正により2022年10月から社会保険の適用対象が広がったことをいう。
従来の制度では「従業員数500名を超える事業所」で「雇用期間が1年以上見込まれる短時間労働者(パートやアルバイト)」に社会保険への加入を義務づけられていたが、22年10月からは「従業員数100名を超える事業所」で「週の所定労働時間が20時間以上であること」「雇用期間が2か月を超えて見込まれる短時間労働者」などの条件をみたす場合も社会保険への加入が義務づけられることになった。
社会保険適用拡大は労働者全体の4分の1を占める短時間労働者に社会保障を行き渡らせる狙いがある。一方で社会保険の対象となる労働者自身はもちろん、短時間労働者を雇用する企業にとっても金銭的負担の増加が課題となっている。
社会保険制度は今回の社会保険適用拡大のように時代とともに変化し、既存の制度に対しては様々な議論がされてきた。この記事では社会保険制度をめぐるこれまでの動きや議論について過去記事から紹介していく。
健保の破綻回避には「外国人」受け入れが必須
「国民皆保険」を採用する日本では、健康保険制度の維持が課題となっている。18年時点では加入者本人に扶養される3親等内の親族にも健康保険が適用される仕組みになっており、家族の居住地について特に制限されていなかった。このため「外国人労働者の母国にいる親族らが日本の健康保険でカバーされる」事例が相次ぐ事態となり、法改正を求める声が上がっている。
製薬業界団体トップ「保険給付の見直しを」 踏み込んだ発言の理由
新薬メーカーなどからなる日本製薬工業協会(製薬協)が「健康保険の給付範囲の見直し」や「支払い能力に応じた負担構造の見直し」と訴えている。「全ての医薬品を公的保険でカバーするのを見直す必要も出てくる」と言及するなど、医薬品メーカーにとって不利ともいえる内容にも踏み込んでいる。異例ともいえる発言の背後にあるのは、「このままでは社会保障制度が立ちゆかなくなる」という危機感だという。
日経ビジネスが見た50年 遅れ続けた年金改革
「100年安心」と豪語していた日本の年金制度が、2000年代に入ってから揺らいでいる。年金改革はなぜ狙い通りに進まないのか。歴史を振り返ると、経済の見通しに対する甘さや給付抑制をマイルドに進めようとする政治の思惑の影響を受けていることが大きい。創価大学准教授(19年当時、現独立行政法人経済産業研究所上席研究員)の中田大悟らが、物価・賃金上昇率を13〜17年平均の0.44%とするなど、現実的な前提にして試算し直したところ、100年先はおろか50年も持たないという結果になった。
非正規・氷河期世代が直面する危機 ギグワーカーにも低年金リスク
非正規社員や働きたい時間だけ労働力を提供する「ギグワーカー」の中には年金保険の保険料を支払いたくても収入に余裕がなく、納付できない人が少なくない。就職氷河期世代でも一定期間保険料の未納が続き、将来の年金額に不安を抱える人が多いという。一方、給付側でも賃金デフレの影響を特に受けた基礎年金が、将来大きく下がりかねない状況になってきている。
年金財政の破綻を回避する4つの選択肢
少子高齢化が急速に進む日本では、年金制度そのものの存続が危ぶまれている。年金財政の破綻を防ぐ手段としては、1保険料率を引き上げる、2毎月の1人当たりの支給額を減らす、3支給開始年齢を引き上げる、4年金支給に収入制限を導入する、という4つの選択肢が挙げられている。
負担を分担する以外にない改革は誰にとっても耳の痛い話だ。だが制度をそのままにすれば財政は悪化し改革にかかるコストは雪だるま式に増える。制度の破綻を回避するために問題を明確に認識し、必要な改革をできるだけ早くスタートさせることが大切だ。
「高齢者は弱者」ではない、フェアな社会保障のあり方とは?
現在の年金制度では、65歳以上の人は年金と給与の総額が月47万円を超えると、年金の一部または全額が支給停止になる。しかし一橋大学の佐藤主光教授は、「現役時代、きちんと保険料を払ってきた見返りとしてもらえるはずの年金が『たくさん働いた』という理由でペナルティーを受けるのはおかしい」と指摘する。もらえるはずの年金を減額するのではなく、年金はきちんと満額給付し、代わりに収入に応じて税負担を求めていくのが筋だというのだ。
生命保険には入らない。フリーランスの「老後不安」対処法
金融庁による「公的年金だけでは2000万円不足する」という試算が波紋を呼んだのは記憶に新しい。だが、重要なのは「自分以外の人たちの平均値」を気にすることではなく「自分の年金受給額」をしっかり確認することだ。その上でいつまで働くのか、年金受給をいつから始めるのか、資金の運用をどうするかなど各種制度を学びながら考えることが大事だ。
最後に
年金制度をはじめとする各種社会保険制度が抱える課題は長い間指摘されてきた。特に年金制度は制度そのものの維持も危ういという懸念を持つ人が多い一方、抜本的な改革は先延ばしされてきた。社会保険制度のあり方は企業活動にも影響するだけに議論の深まりが求められている。一方、個人は社会保険制度の中で自分がどのような立場にあるかを把握して、どう行動すべきかを考える必要がある。それだけに、今後の制度の行方について、注視し続けることが大事だ。
●日本企業の新首都投資を誘致、運輸相が訪日 3/2
インドネシアのブディ運輸相は2月28日、訪問先の日本で経団連のイベントに出席し、東カリマンタン州に整備する新首都「ヌサンタラ」の交通インフラ開発事業への投資を参加者に呼びかけた。イベントには企業関係者や投資家ら約90人が参加した。
ブディ氏は、新首都の開発には低炭素技術を取り入れる方針だと説明。バス高速輸送システム(BRT)や自動運転の交通機関、鉄道、空港、コンテナターミナルなどの交通や物流インフラが2045年までに建設される予定だと述べた。
一方で開発費用の大部分を国家予算以外から拠出する予定であることから、外国企業との官民連携(PPP)事業が最も重要になると指摘。日本の企業関係者らに、協業の機会を探るために新首都の建設予定地を実際に視察するよう求めた。
●岸田に安倍が乗り移る! 極右政策強行、ごまかし答弁、責任転嫁、逆ギレ 3/2
岸田政権の暴走が止まらない。2月28日、衆院を通過し年度内の成立が決まった2023年度予算案では、防衛力強化のために前年より1.3倍増、過去最大の6兆8219億円もの防衛費を計上。さらに同日には、最長60年とされている原発運転期間の延長を可能にする「電気事業法改正案」を含むエネルギー関連の5つの法案を「束ね法案」としてまとめて閣議決定、国会に提出した。
防衛費倍増に敵基地攻撃能力の保有、次世代原発の新設など、安倍政権でもやれなかった重大政策を次々に推し進めようとする岸田政権──。しかも、問題は政策だけではない。最近の岸田文雄首相による発言は、もはや安倍晋三・元首相が乗り移ったかのような酷い発言が目立っているからだ。
わかりやすい例が、一連の同性婚をめぐる答弁だ。
岸田首相は、2月28日に同性カップルに公的な結婚を認めないことについて「不当な差別であるとは考えていない」と答弁。さらに、3月1日の参院予算委員会で、性的少数者への差別意識があるのではないかと問われると、「私は差別という感覚を持っているとは思っていない」と答弁した。
まったく何を言うか。性的少数者の権利を無視し、暗に差別を煽ってきた安倍元首相とは積極性の度合いが違うものの、岸田首相も総理大臣という立場では考えられないような差別肯定発言、差別を助長する言動をとってきたではないか。
あらためて指摘しておきたいが、更迭された荒井勝喜・前首相秘書官の「(同性愛者を)見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」発言で霞んでしまったものの、そもそも岸田首相による「(同性婚を認めると)社会が変わってしまう」という答弁自体、同性婚を認めることに負の問題があると考えているとしか受け取れない、差別を温存、肯定する発言だった。しかも、その後は「ネガティブな発言をしたつもりはない」などと安倍元首相を彷彿とさせる道理に合わない言い訳を繰り返し、答弁を撤回しようともしていない。
それどころか、「LGBTには生産性はない」発言の杉田水脈・衆院議員を総務政務官に据えるという安倍元首相でさえやらなかった信じられない人事をおこなったのは岸田首相だ。その上、杉田議員にきちんと謝罪させることもなく更迭することでお茶を濁したが、岸田首相は自民党の部会で「生物学上、LGBTは種の保存に背くもの」と発言したとされる簗和生・衆院議員をいまなお文科副大臣に据えたままで、辞任させていない。差別発言をおこなった人物を重用したばかりか問題を指摘されても辞任させないという態度は、差別を肯定・温存させる行為にほかならないではないか。
さらに言えば、岸田首相は、「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症です」などと書かれた冊子を自民党内の会合で配布したことで問題となった「神道政治連盟国会議員懇談会」の参加メンバーだ。実際、冊子の記述が問題となったあとの昨年11月30日時点のリストでも岸田首相は同懇談会の会員として記載されており、「神道政治連盟」のHPでは、「神道政治連盟」が応援する議員のひとりとして岸田首相の名前が記されている。
このような直球の差別団体から応援を受けておいて、よくもまあ岸田首相は「差別という感覚を持っていない」と言えたものだ。そしてこの厚顔無恥ぶり、安倍元首相にそっくりではないか。
お前は安倍か! もはや10年以上前の民主党政権ディスを繰り出す岸田首相
しかし、さらに岸田首相が、安倍元首相が乗り移ったかのような発言を連発したのが、2月26日におこなわれた自民党の党大会における演説だ。この演説で岸田首相は「安倍元総理の強力なリーダーシップ」を褒め称えたあと、こんなことを言い出したのだ。
「この10年は、民主党政権によって失われた『日本の誇り、自信、活力を取り戻す』ために、皆で力を合わせ、大きくこの国を前進させた『前進の10年』でありました」
ようするに岸田首相は、安倍元首相のお気に入りフレーズだった「悪夢の民主党政権」と同様の民主党政権の批判を繰り出したのだ。
この期に及んで言うか、という話だろう。事実、いまごろになって岸田首相は「異次元の少子化対策」などとぶち上げ、党内からは児童手当の所得制限撤廃案などが出てきているが、2010年に民主党政権が進めた所得制限のない「子ども手当」法案に対し、「子ども手当によって民主党が目指しているのは子育てを家族から奪い取る子育ての国家化・社会化。これはポル・ポトやスターリンが行おうとしたことです」などと批判を展開したのは安倍元首相であり、「愚か者めが!」などとヤジを飛ばして猛反対したのは当時の野党・自民党だった。しかも、政権奪還後は少子化に歯止めをかけるどころか、安倍政権が掲げた「希望出生率1.8」は達成されることもなく、2020年の合計特殊出生率は1.34にまで下がった。「悪夢」と言うべきは、この国を後退させた自民党政権にほかならない。
ところが、こうした児童手当をめぐる「ブーメラン騒動」もなかったかのように、岸田首相は安倍元首相と自民党政権をただただ称揚。挙げ句、「時代は憲法の早期改正を求めている」などと言い出す始末で、まるで安倍元首相が憑依したかのような発言を繰り返したのだ。
岸田首相、衝撃の無知・無責任! 子どもの貧困めぐる実態に「え、そんな子どもたちがいるんですか」
だが、岸田首相の最近の発言でもっとも「安倍感」がむき出しになったのは、子どもの貧困をめぐる発言だろう。
というのも、2月28日付の朝日新聞に自民党と連合の接近について書かれた記事が掲載されたのだが、そのなかで、あ然とするほかない岸田首相の発言が記述されていたのだ。
記事によると、2月6日に首相官邸で岸田首相が連合の芳野友子会長と面談した際、芳野会長が「夏休みや冬休みは給食がなく、体重が減る子もいる」と言及。すると、この話を聞いた岸田首相は〈ソファから身を乗り出し〉て、こう言い放ったというのだ。
「え、そんな子どもたちがいるんですか」
あらためて指摘するまでもなく、「3食のうちしっかり食べられるのは給食だけで、給食のない夏休みに体重が減る子どもがいる」というのは、子どもの貧困が社会問題となった安倍政権下から指摘されつづけてきた問題だ。実際、大手メディアでも取り上げられてきた問題であり、国会でもたびたびこの問題が俎上に載せられ、質疑がおこなわれてきた。その質疑の場に岸田氏が大臣として出席していたこともある。
さらに、岸田首相は総理就任直後から「聞く力」アピールのため、「車座対話」と称して現場視察などの活動を開始。2021年10月12日には東京・大田区のこども食堂を訪問し、「想像以上に切実な、そして厳しい現実を感じさせてもらった」などと語っていた。また、2022年10月11日にも困窮家庭の子どもたちの支援者たちと「車座対話」をおこない、「切実な現実、さらなる取り組みの必要性を痛感した」などと所感を口にしていた。このように、子どもの貧困問題に取り組む当事者たちと「対話」をおこなってきたのだから、当然、岸田首相は子どもたちが置かれている現状について関心を寄せているのだと、普通は思うだろう。
にもかかわらず、岸田首相はメディアでも国会でもさんざん取り上げられてきた「夏休みや冬休みは給食がなく、体重が減る子もいる」という話題に対し、ソファから身を乗り出し「え、そんな子どもたちがいるんですか」と驚いて見せたというのである。もはや絶句するほかないだろう。
「異次元の少子化対策」などと口にしながら、いかにも世襲の“お坊ちゃん”政治家らしい無知・無関心ぶり……。格差を拡大させた上、“庶民の困窮など知ったことではない”という態度を取りつづけた安倍元首相と瓜二つとしか言いようがないだろう。
そもそも、岸田首相は2月15日、衆院予算委員会で「家族関係社会支出は2020年度でGDP比2%を実現している。それをさらに倍増しようと言っている」と発言し、自ら「子ども関連予算の倍増」を打ち出したが、すぐさま岸田官邸および自民党は答弁の修正に躍起となり、最近では倍増について追及を受けると、岸田首相は「数字ありきではない」などと逆ギレ。この醜態も安倍元首相にそっくりだ。
安保関連3文書の改定や防衛予算増額に「全部やったのは俺」と吹聴する岸田首相
しかし、問題なのは、これだけ醜態を晒したり暴言を連発していながら、岸田首相に対する批判の声が高まらないことだ。
冒頭で触れたように、防衛費倍増や敵基地攻撃能力の保有、次世代原発の新設など、岸田首相がやろうとしていることは安倍元首相すら実行に移せなかった政策ばかり。自民党の閣僚経験者も「安倍・菅政権時にこれほど重大な政策をこんなに短期間で決めていたら、首相官邸はデモ隊で囲まれていただろう」と述べているほどだ(毎日新聞2月27日付)。逆に言えば、岸田首相は自身への批判が安倍・菅政権時のようには高まらず、デモ隊に囲まれることもないと高を括り、付け上がっているとも言えるだろう。
しかも、もっとも怖いのは、岸田首相に「安倍元首相が乗り移っている」のではなく、岸田首相自身、「安倍元首相でもやれなかったことを達成させ、歴史に名を残したい」と考えているフシがあることだ。
実際、防衛力の抜本強化を決めたときには、岸田首相は「安倍さんなら大反発を受けていたところだ。自分はやりきった」と周囲に語り、昨年末に安保関連3文書の改定や防衛予算の増額などを決定したあとも、岸田首相は自身に近い自民党幹部と会食し、「結局、全部やったのは俺だよ」と述べたという(朝日新聞1月26日付)。
「自分はやりきった」「全部やったのは俺」……これらの発言からは岸田首相の驕りや虚栄心の強さがよくわかるが、このように“安倍超え”を岸田首相が目指しているとすれば、当然、手をつけるのは、憲法改正だろう。毎日新聞2月27日付の記事によると、岸田首相は以前、自民党「憲法改正実現本部」の会合に出席した際、こう語ったという。
「私はリベラルな政治家と言われるが、先人が挑戦して達成し得なかった憲法改正を必ずや実現したい」
生前、安倍元首相は岸田首相について「リベラルな印象の岸田さんが同じことを言っても、私ほどは反発を受けないはず」(「WiLL」2021年12月号/ワック)と言及したほか、岸田首相が自分の意志のままに操られるだけの存在であることを平然と語っていた。だが、その安倍氏が亡くなったことにより、岸田首相は“自分こそが安倍を超える”という闘争心を燃やしているのではないか。そして、安倍氏以上の功名を立てるには「憲法改正の実現」しかない。
「リベラル」のイメージとは裏腹に、安倍元首相となんら変わらない黒い欲望をもつ岸田首相──。そのイメージに騙されることなく「安倍・菅以上に警戒すべき人物」であるという危機感を高めなければならない。
●春闘本格化、インフレ率上回る賃上げが焦点−実現に向け政策総動員 3/2
物価高騰が続く中で今月半ばにヤマ場を迎える春闘は、岸田文雄首相が求める「インフレ率を上回る賃上げ」を実現できるかが焦点となっている。物価変動の影響を除く実質賃金は前年割れが続いており、岸田政権は政策を総動員して賃上げを後押しする構えだ。
岸田政権は、成長の果実を分配し、消費を喚起することで、次の成長につなげる「成長と分配の好循環」による新しい資本主義の実現を目指してきた。日本銀行も物価安定目標の持続的・安定的な達成には賃上げが必要との認識を繰り返し示している。
任天堂や「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングなどの大手企業は大幅な給与引き上げを表明しているものの、持続的な賃金上昇をもたらすには十分ではない。経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2021年の日本の平均賃金は3万9711ドル(約540万円)と、主要7カ国(G7)の中で最下位となっている。
原材料高や円安の影響で食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりし、インフレ率が約41年ぶりの高水準に達する中、賃上げの必要性は高まっている。毎月勤労統計調査(確報)によると、昨年12月の実質賃金は前年比0.6%減と、9カ月連続のマイナスだった。
読売新聞が2月17−19日に行った全国世論調査では、物価高による家計の負担を「感じている」と答えた人の割合は91%で、内訳をみると60%が「大いに感じている」と回答している。
岸田首相は先週官邸で開いた「物価・賃金・生活総合対策本部」で、電気料金の抑制に向けた方策を検討し、3月中にまとめるよう西村康稔経済産業相に指示。電力各社による電気料金の値上げ申請に対して、「日程ありきではなく、厳格かつ丁寧な査定による審査」を行うことも求めた。
多くの労働者にとって問題は実質ベースで見た場合の暮らし向きが向上するかどうかだ。政府は民間部門の大幅な賃上げを引き出すためさまざまな措置を講じている。
1.「価格交渉促進月間」の実施
経済産業省は21年9月から、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と定め、発注側と受注側の企業間での交渉や価格転嫁を促進する取り組みを実施している。原材料価格やエネルギー価格、労務費等の上昇が取引価格に適切に反映されることで、中小企業が賃上げを実現しやすくなる環境を整えることが狙いだ。
中小企業を対象とした価格交渉や転嫁に関する調査結果を公表し、取り組みが進んでいない親事業者に対する指導や助言を行っていく方針だ。
2.賃上げ促進税制
従業員の給与等支給額を前年度より増加させた企業などを対象に一定の税額控除を行う制度で、同様の制度は既に導入されていたが、22年度税制改正で内容が拡充された。
新制度の適用期間は22年4月1日から24年3月31日までの間に開始する各事業年度。大企業は、継続雇用者の給与等支給額が前年度比4%以上増加かつ教育訓練費が前年度比で20%以上増加した場合、最大30%の税額控除を受けることが可能。中小企業向けは、雇用者給与等支給額と教育訓練費の適用要件を満たせば、税額控除率は最大40%と、旧制度の25%から大幅に拡大された。
3.赤字法人への支援
日本企業の約3分の2は赤字法人で、賃上げ促進税制の恩恵を十分に受けることができない。赤字企業でも賃上げに取り組む中小企業は補助金が受けられる。革新的な製品・サービスの開発を支援する「ものづくり補助金」が一例だ。
赤字法人の賃上げに向けたさらなる支援策は2日の参院予算委員会でも取り上げられ、岸田首相は課題を整理した上で「どのような政策的な工夫があり得るのか、与党と連携しつつ検討したい」と語った。
4.リスキリング(学び直し)
岸田首相は昨年10月、リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる方針を表明。新しい資本主義の第1の柱である人への投資を抜本強化し、成長分野に移動するための学び直しを支援する。
5.経済界への要請
岸田首相は1月に経団連など経済3団体の新年祝賀会であいさつし、23年春闘に関し「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と要請。2月27日の衆院予算委員会では、政府と経済界、労働団体による「政労使会議」を含め、労使と意思疎通を図りながら「賃上げの動きを経済全体に広げるべく具体的に調整」する考えを示した。
連合は今年の春闘で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を3%程度、定期昇給分を含めて5%程度の賃上げを求めている。日本経済研究センターが1月に公表したESPフォーキャストによると、春闘の賃上げ率の予測値総平均は2.85%だった。
6.金融緩和政策の継続
日銀の黒田東彦総裁の後任候補に指名された経済学者の植田和男元審議委員は2月24日に行われた衆院議院運営委員会での所信聴取で、金融緩和を継続することが適切との考えを示した。2%の物価目標の持続的・安定的な達成までにはなお時間を要するとし、緩和継続によって経済をしっかりと支え、「企業が賃上げをできるような経済環境を整える必要がある」と述べた。
●岸田首相は薬価で耳タコの塩答弁…隙を突いて製薬業界に「急接近」 3/2
最近の岸田文雄首相は「聞く力」どころか「空気を読む力」も欠如しているらしい。
「日本初、世界初のイノベーションが、国境を越えて認知症の方とそのご家族に希望の光をもたらすことは、大変嬉しいこと」
通常国会が開会した1月23日の施政方針演説。岸田首相は、まっすぐな瞳でエーザイの抗認知症薬「レケンビ」が米国で迅速承認を受けたことを讃えた。
4月にも、▲3100億円に及ぶ中間年改定の大打撃が待ち受けている製薬業界にとっては「どの口が言うのか」(業界関係者)と呆れるほかない。しかもレケンビは日本ではまだ申請を出したばかりの段階だ。身内である自民党議員でさえ「こんなに薬価を下げられる日本では、エーザイも発売しないんじゃないのか」と、岸田首相の無邪気な発言に冷ややかな目を向けている。
もっとも、こうした岸田首相の空気が読めない振る舞いも、不祥事が続く状況で必死の“空元気”だったのかもしれない。
昨年末から、どうにも岸田政権の雲行きが怪しい。旧統一教会との関係が問題視された山際大志郎経済再生担当相を皮切りに、「死刑のハンコを押す地味な役職」発言の葉梨康弘法務相、政治資金問題が取り沙汰された寺田稔総務相、秋葉賢也復興相と、わずか2カ月余りで立て続けに4人の閣僚が辞任した。
これらの「辞任ドミノ」と並行して持ち上がってきたのが、満を持して首相秘書官に起用した長男・翔太郎氏問題だ。フジテレビの女性記者にネタを漏らしたと報じられれば、酒癖の悪さや女子アナとの合コン三昧まで曝露された。年が明けても、翔太郎氏問題の炎上はとどまるところを知らない。目下、海外出張時の公用車での「観光」と「全閣僚へのお土産購入」を主な燃料に、延焼を続けている。
問題はまだある。経済産業省出身の荒井勝喜首相秘書官の差別発言だ。オフレコの場ではあるものの、荒井氏は同性婚カップルに対して「見るのも嫌」などと放言。一応は荒井氏の更迭で落とし前をつけたかたちになっているが、差別発言から1週間経った今でも、国会の内外で非難の声は止んでいない状況だ。いったい次はどんなトラブルが巻き起こるのだろうか。
“格落ち”有識者検討会は期待薄
こんな不安定な足元で、製薬企業のイノベーションを「うれしい」と持ち上げた岸田首相。すわ厳しい薬価改定からの方針転換かと思いきや、レケンビ絶賛演説から3日後には「イノベーションの推進と国民皆保険の持続性が両立するように、バランスを取りながら取り組む」と、耳にタコができるほど聞いた従来の“塩答弁”に逆戻りしてしまった。
まったく同じ趣旨の答弁は、岸田首相が就任後初めて薬価に言及した22年2月の予算委員会から、実に7回に上る。「国会会議録検索システム」で岸田首相の薬価に関する発言を調べると、どれも判で押したように「イノベーションの推進と国民皆保険の持続性」の文字が並んでいるのだ。
政権運営の焦りからか、突然「異次元の少子化対策」などと景気のいい政策を打ち出し始めた一方で、やっぱり薬価に関してはブレのない姿勢を貫いていると言えそうだ。空元気だったのか、単なる能天気だったのか、岸田首相の真意ははかりしれないが、結局、レケンビ絶賛演説は薬価改定に苦しむ業界関係者らの神経を逆撫でしただけだった。いずれにせよ、空気は読めていない。
さて、いかにグラグラと不安定でも、ブレずに「バランス」を取ろうとし続ける岸田首相を動かす力はないのか。
これまで業界が期待を懸けてきたのは、昨年に厚労省が立ち上げた「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」だろう。22年8月末に開かれた名称変更前の「第1回」も含めれば、これまで9回の会合が開催されている。検討会では、薬価差のあり方や後発品業界の再編にも踏み込んだ政策提言が4月にも取りまとめられる見通しだ。
だが、サワイグループホールディングスの澤井光郎会長が、厚労省による業界再編の促進は「少し違うという感じ」と疑問視するなど、検討会の方向性に対する業界の反応は鈍い。
業界のみならず厚労省内でも、有識者検討会に「大したことはできないだろう」と見る向きもある。いくら検討会で結論を出したとしても、最終的には中央社会保険医療協議会を通さなければならないからだ。そういう意味では、専用の設置法まで用意されている「審議会」である中医協と比べると、厚労省医政局の「審議官が構成員を参集」しただけの有識者検討会では、会議の“格”が違い過ぎる。
立ち上げ時こそ、周囲が異常な盛り上がりを見せた有識者検討会だが、厚労省幹部の言うとおり「たかが会議ができたくらいで、そんなに期待しないほうがいい」のかもしれない。
労組と国民民主の存在感
そんななか、急速に業界へ接近しているのが国民民主党だ。
もともと国民民主党はUAゼンセンやJEC連合といった労働組合連合会を支援母体としており、傘下の製薬企業や医薬品卸の労組も選挙協力をしてきた背景事情もある。だが、とくに最近は業界の労組が「ヘルスケア産業プラットフォーム」として一枚岩で陳情活動を展開。毎年改定と供給問題で疲弊する卸の組合員を中心に、悪化の一途を辿る業界の労働環境を訴えている。
小売大手のイオン労組出身ながら、こうした製薬関係労組の陳情の受け皿となってきた田村麻美参院議員をはじめ、昨年末頃からは玉木雄一郎代表まで関係労組との会合に登場。玉木代表は1月の代表質問でも、岸田政権が求める賃上げは現状の製薬業界では「厳しい」と切り捨て、「薬価の毎年改定は見直すべき」と迫った。
自民党の薬系議員が目立った活躍を見せないだけに、国民民主党議員が積極的に国会質問で現場の苦労や薬価の問題を取り上げるたび、SNSではMRやMSなどの業界関係者と見られるアカウントが「ありがとう」「次は国民民主党に投票します」と投稿するなど、絶賛している場合ではない人気を集めている様子が伺える。
元大蔵官僚の玉木代表は、本誌取材のなかで「要求なくして査定なし」と、財務省の“格言”を引き合いに業界のロビー活動に発破をかける。とにかく大きな声を上げて訴えることが肝要との提言だ。それすら満足にできていない業界の現状もあるが、これからは「要求を実現できたか」という評価が国民民主党にも向けられる事になるだろう。
24年度改定は、診療報酬のみならず介護報酬、障害福祉サービスに薬価も含め、四つ巴の厳しい財源争いが見込まれる。製薬業界が戦いを有利に進めるには、まず6月の骨太方針へいかに要望を捩じ込めるかが正念場となる。
選挙前という格好のタイミングだったにもかかわらず、業界の要望を何も盛り込めなかった昨年の骨太方針が、どんな結果をもたらしたかは火を見るより明らかだ。「既定路線」(厚労幹部議員)に終わった23年度中間年改定から巻き返しを図るためにも、呑気な岸田首相に業界の声を「聞かせる力」が求められそうだ。
●岸田政権の少子化対策は付け焼き刃? 「『子育て支援策』と混同するな」 3/2
内閣支持率はようやく底を打った感がある岸田文雄政権だが、衆参予算委員会での少子化対策や防衛費増などを巡る首相の答弁は明確さを欠き、質疑は極めて低調だ。現状を憂う専門家に、政権が抱える課題について直言してもらった。今回はジャーナリストの河合雅司さん。

岸田文雄首相が年頭の記者会見で、突如として「異次元の少子化対策」を打ち出したことには驚きましたが、財源のあてはなく、“意気込み先行”の印象を受けます。
残念ながら、いまから異次元の政策を講じても日本人の出生数の減少に歯止めをかけることは困難です。これまでの少子化で、子どもを産める年齢の女性数が激減していく「少母化」が進んでいるからです。20歳の日本人女性は今後20年間で3割減ります。こんなペースで減ったのでは、出生率が多少改善しても出生数は減り続けるでしょう。
現在の日本においては、出生数の減少スピードを多少遅くすることぐらいしかできません。岸田首相が「異次元の少子化対策」を人口減少の解決策として位置付けているならば間違いです。日本はもはや出生数が減り、総人口も減ることを前提として社会を考えざるを得ない状況に追い込まれています。
少子化対策の財源の捻出には制約もあります。若い世代の経済負担の大きさが子どもを持たない大きな理由となっているからです。若い世代も負担する消費税増税に頼れば、児童手当を増額できても効果は薄れます。政府は高齢者の負担増による捻出も検討してますが、これも度を越せば若者の将来不安となります。
少子化の最大の弊害は、若者が減って社会の勢いが削(そ)がれていくことです。子どもの数が減れば人材の裾野は細っていきます。それは若い人材が切磋琢磨しながら成長していく機会が減り、イノベーションを起こす力がだんだん弱っていくということです。
政治家や官僚はもとより、われわれも「この先かなり長期にわたって人口減少は避けられない」という不都合な現実に正面から向き合う必要があります。本来、首相には人口が減っても日本経済を成長させ続け、社会が混乱しないようにするにはどうしたらよいかを考えてもらいたいところです。
もちろん、出生数の減少スピードを多少なりとも遅くすることだって、いまの日本には重要なことです。
「少子化対策など無駄である」と切り捨てるつもりはありません。
ところが、岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」の基本的な方向性は、所得制限の撤廃などによる児童手当の拡充を中心とした経済的支援の強化など、「異次元」とは程遠い既存政策の拡充でした。国会論戦に耳を傾けても相変わらず子育て支援策が議論の中心です。これには大きなズレを感じます。
子育て支援も重要な政策であり手厚くするに越したことはありませんが、子どもが生まれた後のサポートである子育て支援策と、子どもが生まれない社会を打開する少子化対策とはそもそも似て非なる政策なのです。子育て支援策では、結婚を希望しながらできないでいる人や、希望する子ども数を持てないでいる人たちに政策が届きません。とりわけ結婚したいのにできないでいる人が抱える課題を解消しなければ、出生数の減少対策にはつながらないでしょう。
「異次元の少子化対策」と言うのならば、従来の子育て支援策の強化で終わらせるのでなく、これまであまり力を入れてこなかった、結婚したいのにできないでいる人や希望する子ども数を持てずに困っている人への支援を強化することです。
早急に取り組むべきは、若い世代の雇用の安定化です。収入に不安があり、将来が展望できなければ結婚や子どもを持つことを考える余裕など出てきません。出会いに恵まれない人への支援も大きく不足しています。
子育て支援策と少子化対策を混同したまま、政治家たちの“選挙向けパフォーマンス”に振り回されて、付け焼き刃の子育て支援策の強化だけに終わったのでは日本は沈んでしまうでしょう。
●「岸田政権のままでは日本人の給料は確実に下がり続ける根本原因」  3/2
優秀な人材の日本離れが加速する
ファーストリテイリングが本社や「ユニクロ」などで働く国内約8400人を対象に、2023年3月から、年収を数%から最大で約40%引き上げると発表した。具体的には、新入社員の初任給は現行の25万5000円から30万円に(年収で約18%増)、入社1〜2年目で就任する新人店長は月収29万円を39万円に引き上げる(年収で約36%増)。
同社はリリースで、賃上げの背景として日本が「海外に比べて報酬水準が低位に留まっている」ことをあげ、「企業として世界水準での競争力と成長力を強化するため」の改定だと説明した。
日本の賃金は、たしかに安い。2017年に中国の通信機器大手、華為ファーウェイの日本法人が日本で「初任給40万円」の条件で採用活動を行った。日本人エンジニアが殺到したが、本社がある深圳しんせんでは初任給が約80万円だ。初任給40万円は日本人には高給に見えても、世界のトップ企業と比べると半分でしかない。中国企業が「日本の人材は安い」と高笑いしているのが実態だ。
日本の賃金の安さは、データにも表れている。OECD(経済協力開発機構)の平均賃金調査(21年)によると、日本の平均賃金は3万9711ドル(1ドル=130円換算で約516万円)で、OECD加盟国38カ国中24位。OECD平均の5万1607ドル(約670万円)を大きく下回っている。1位アメリカ7万4738ドル(約971万円)と比べると、ほぼ半分だ。
こうした状況を踏まえ、ファーストリテイリングが賃上げに踏み切ったのは正しい。ただ、最大40%の引き上げ程度では、まだ安いと言わざるをえない。さらに世界標準に近づけないと、日本企業は優秀な人材を高待遇の外国企業に吸い取られて、残るのは世界で通用しない“ローエンド”の人材ばかりになる。
問題は、賃上げをしたくても、その原資がないことだろう。ファーストリテイリングはSPAで収益率が高いこと、そもそもアパレル業界が薄給であることから最大40%の賃上げが可能だった。しかし収益率の低い一般の日本企業に同じマネはできない。賃上げしたければ、何とかしてその原資をひねり出す必要がある。
日本人が越えられない3つの壁とは
賃上げの原資を確保するために欠かせないのが「生産性の向上」である。単純な話で、今まで10人でやっていた仕事を半分の5人で処理できれば、人件費の総額を増やすことなく1人当たりの給料を倍にできる。
特に生産性向上の余地が大きいのは間接業務だ。日本企業はこれまで製造現場の効率化を得意としてきた。おかげで20世紀の工業化社会ではチャンピオンになれたが、ホワイトカラーの仕事に関しては依然としてムダが多い。さまざまな入力を手作業でやり、結論の出ない会議のためにぞろぞろと集まり、果ては課長が外回りの社員の代わりに社内で電話を受けて「誰々さん、お客様から電話があったよ」と伝言をする。給与の高いマネジャーが誰でもできる電話番をしている国は、世界広しといえど日本だけ。この問題を解決しないかぎり、賃上げは困難だ。
では、どうすれば間接業務を省人化できるのか。
答えの1つはDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。間接業務のうち頭を使わないものはRPAで自動化できるし、頭が多少必要なものも、今はAIにやらせたほうが正確で速い。ところが、日本企業の多くはこうしたツールを使いこなせていない。生産現場では積極的にロボットを導入するのに、デスクワークになると途端に及び腰になってしまうのだ。
その根本原因は、多くの企業において、直接工ではうまくいった作業標準化(SOP〔作業標準書〕の整備)が間接業務ではできていないからだ。さらに掘り下げて考えてみると、業務が属人的で、もっといえば英語圏では20年ほど前から進んでいたIT化に日本語がなじまなかったことがある。
さらに社内にDX要員が足りないということで外部の助けを求める。そうすると、システムをつくるベンダーにいいように牛耳られてしまう、という問題がある。
社員の多くは、プログラムすら書けない文系出身者
ベンダーは、エンジニアに発想力がないことが問題だ。外国ではエンジニアは高給取りの職業だが、それはシステム全体を構想する力を持っている人材がいるからである。一方、日本の大学の工学部やプログラミングの専門学校はそこまで教えない。就職してOJTで学ぼうにも上司は古い知識しか持たず、まともに教えることができない。その結果、多くが単なる“プログラミング・コード屋さん”になってしまう。つまり、今話題になっているChatGPTなら簡単に処理する程度のプログラムを人海戦術で処理しているのだ。
しかし、それだけではない。指示されたプログラムを書くだけのエンジニアを多く抱えたベンダーは何をするか。顧客の生産性向上は二の次で、他のベンダーに仕事を奪われないように汎用性のないシステムにつくりこむ。発注側が「他のシステムに替えたい」と気づいても後の祭りだ。汎用性がないので全面刷新は難しく、一部改修でお茶を濁しているうちにますます泥沼にハマりこみ、効率の悪いシステムがゾンビのように生き続けるのだ。
発想力がないのは、発注側も同じである。そもそも情報システム部門に配属される社員の多くは、プログラムすら書けない文系出身者だ。発注の仕方もわかっておらず、「大手で実績があるから」とベンダーに丸投げする。これではDXが進まず、賃上げの原資をねん出できないのも当然だ。
間接業務を省人化する方法は、もう1つある。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用だ。
アメリカ企業の賃金が高いのは、間接業務のみならず、さまざまな業務を海外にアウトソーシングして省人化しているからである。たとえばGAFAMのような巨大IT企業は、ソフトウエア開発まで外に出している。高度なものは東欧を含めて旧ロシア地域へ。定型的なものはインドだ。
ある通信会社のコールセンターもインドにある。アメリカの消費者が「通信障害が起きた」と電話をすると、インドにつながってインド人オペレーターが対応する。受電した内容の9割はシステム上で遠隔対処が可能。1割は現場で修理が必要で、巡回中のトラックに衛星回線で連絡して直行・対処してもらう。
このように海外にアウトソーシングすれば、人件費はアメリカ本国よりずっと安い。給料が10分の1の人に業務をやってもらえば、残りの9割が賃上げの原資になる。アメリカ人の高給は、海をまたいだBPOによって支えられているのである。
日本企業も同じことをやればいいのだが、英語の壁が立ちはだかる。日本人消費者と直接会話するコールセンター業務はもちろんだが、そもそも発注者の日本人社員が英語を話せないので他の業務も海外に出しづらい。企業は業務と同時に人を中に抱えざるをえず、省人化を進められない。
さらに、企業努力でDXの壁と英語の壁を乗り越えることができても、省人化は容易ではない。解雇規制という最大の壁が立ちはだかっているからだ。
解雇規制の改革なき賃上げで国力は低下する
社内で仕事がなくなった人は労働市場に出てもらうことが資本主義のルールである。しかし、日本は業務で省人化しても簡単に社外に出せない。要らない人にも給料を払い続けなければならないので、賃上げの原資もできないし、そもそも企業に省人化を図るインセンティブが働かない。
解雇規制が企業の競争力を削ぐことをよくわかっていたのが、1998年から2005年までドイツの首相を務めたゲアハルト・シュレーダー氏だった。シュレーダー氏は「アジェンダ2010」を掲げて、「要らない人は外に出していい。国が責任を持ってリスキリング(再教育)して労働市場に戻す」と人材の流動化を進めたのだ。
シュレーダー改革で企業の生産性は高まり、浮いた人件費をデジタルに投資した。いったん外に出た労働者は再教育機関でITなどのスキルを身につけ、デジタル産業に再就職。それが「インダストリー4.0」(第4次産業革命)につながり、収益性を高めた企業が賃上げするという流れができた。
岸田文雄首相は、経団連など経済3団体の新年祝賀会で、企業にインフレ率を超える賃上げを要請した。企業に不要な人を抱えさせたまま賃上げ要請するのは、企業に「潰れろ」と言っているのに等しい。しかも呼びかけている政府自身の仕事ぶりは、人海戦術そのものだ。
実際、かつて北欧では人件費高騰を税金で補おうとして、国も企業も競争力を失った。無い袖は振れないのだから、岸田首相の掲げる「新しい資本主義」のもとで、日本人は確実に貧しくなっていく。
企業が賃上げできない根本原因が政府自身にあることを理解せず、結論だけ求めるのは、一国の首相として怠慢である。岸田首相は戦後長年にわたって日本と経済成長では併走してきたドイツの成功例から学ぶべきなのだ。
●なぜ最大4万頭の乳牛の殺処分が必要? 「農政の失敗、それを国民が負担」 3/2
いま、日本の酪農家が経営の危機にあるのをご存知でしょうか。
北海道の酪農家では、牛乳などの原料となる生乳が余り、廃棄処分をせざるを得ない事態が起きているんです。そのため、国は1日から生乳の生産抑制のため、乳牛の殺処分に対し1頭あたり15万円の助成金を出します。なぜ、こうした事態に陥ってしまったのでしょうか。
日本で最も酪農が盛んな北海道。中でも代表的な酪農地帯が十勝地方です。酪農家からは悲痛な声が上がります。「今後が心配だよ。かわいい牛を殺してお金をもらうなんて」。カメラなしを条件に取材に応じた酪農家は悔しさをにじませました。
新型コロナの影響で生乳の需要減少が長期化。収入は得られず、生乳を廃棄しなくてはいけない事態となりました。さらにウクライナ危機による飼料価格などの高騰でコストは膨らみ、経営危機に陥っているのです。
1月30日の衆院予算委で立憲民主党の逢坂誠二議員は「乳を搾らないでくださいと言われている。加えて乳をまだ搾れる牛を減らしてくださいと言われている」と発言。岸田総理は「どういったことが可能なのか。農水省に検討させる」と答えました。
しかし、国は、生産を抑制するために3月以降、乳牛を処分すれば1頭当たり15万円の助成金を出す政策をスタート。22年度の補正予算に50億円分を計上し、年間で最大4万頭の処分を見込んでいます。
なぜこうした事態に陥ったのでしょうか。元農林水産省の官僚であるキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏によれば、問題の発端は10年ほど前にさかのぼると言います。
「酪農業界、政府も含めて乳製品の需給調整に失敗した。2014年にバター不足が起きた。足りなければ自由に輸入するのが普通だが、政府は輸入を制限した」
2014年ごろから起きたバター不足。輸入ではなく国産のバターを作るよう、政府は生乳の生産量を増やすための設備投資などに補助金を出し、後押し。多くの酪農家がこれに応える形で生乳の増産に踏み切ったのです。
山下さんはこの判断が間違いだったと指摘します。
「酪農団体は乳製品の輸入に反対。輸入しすぎると牛乳の供給が増えて価格が下がる。そうすると酪農家が大変となり、農水省は批判を受ける。その批判を受けないようにするために十分なバターを輸入しなかった。(国産バターを増やす政策の結果)生乳が余った、したがって牛を淘汰する、税金を使えばいい、ではない。国民が税金を払って需給調整の失敗を国民が負担している。本当はやってはいけないことだ」
山下さんは酪農業界の変革の必要性を訴えます。
「根本的な政策は酪農業界の体質を強化して、価格やコストを下げて世界と張り合うことができるように競争力ある農業、酪農をつくることだ。今の農政はそんなこと全く頭にない」
●対策の具体論 早期に示せ / 全国出生数80万人割れ  3/2
2022年の出生数が過去最少を更新し80万人を割り込んだ。本県の出生数は6348人で21年から526人減少した。国内人口は1年で過去最大の78万人も減少した。
岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」の号令を掛けるが、上滑りしていると言わざるを得ない。首相は「家族関係社会支出は20年度で国内総生産(GDP)比2%を実現した。それをさらに倍増しよう」と国会で述べた。
GDP比4%へ10兆円程度積み増す表明と報じられたが、自ら答弁を修正し「防衛力強化と比較しても決して見劣りしないという議論をした。中身はまだ整理中」とあいまいにしてしまった。
では倍増の基準は何か。首相は「内容を具体化した上で必要な財源を考える。ベースを先に言うのは従来答弁と矛盾する」と強弁した。
首相側近の木原誠二官房副長官に至っては「倍増は出生率がV字回復すれば実現する」と言った。予算倍増は少子化抑制という目的に向けた手段のはずだ。目的と手段が逆転し、政策論の体をなしていない。政府は3月末にも概要をまとめるとしているが、出生率回復を実現する少子化対策の具体論を早く示すことこそ政治の責任のはずだ。
1989年、女性1人が生涯に産む子どもの人数を示す合計特殊出生率が1.57まで落ち込んだ。それ以降、政府は保育所整備、幼児教育・保育の無償化、不妊治療への公的医療保険の適用拡大などを進めた。問題は30年間の施策が少子化を止める決定打にならなかったことだ。徹底的に検証して有効策を見いだしたい。そのためにも政府と野党は国会で建設的な議論を尽くしてほしい。
ポイントは何点かある。少子化対策で成果があったフランス、スウェーデンの家族関係社会支出がGDP比3%前後あるのに比べ日本は劣る。のみならず、家族関係の政府支出の内容は6割超が現金給付だ。欧州2国は、多様な保育サービスの提供など現物給付が半分以上を占めている。今回も児童手当の給付対象拡大が議論されているが、日本はもっと現物給付に力を入れる余地があろう。
若い世代が結婚、出産をためらう最大の理由は経済的不安であり、社会を挙げて支えたい。幼保無償化の拡大、高等教育まで見渡した教育費負担の軽減など、やる気になればできる政策はまだある。例えばドイツの国公立校は、小学校から大学院まで原則無料だ。
具体策を積み上げれば、全体でどのくらい予算が必要になるかの議論に行き着くはずだ。まず倍増ありきでは中身を欠く「空砲」と言われても仕方あるまい。
日本の少子化進行の背景には、若者を厳しい経済状態に追い込んだ格差問題がある。2017年の総務省データでは、45〜49歳男性の有配偶率は正社員で80.0%だが、低賃金で不安定な非正規雇用では42.7%と約半分だ。女性に出産かキャリアかの二者択一を迫る旧態依然とした経済、社会環境の改革も課題だ。
現金給付、現物給付に加え、子育て世代の働き方改革、雇用・所得安定、住宅確保などの政策や予算を充実させたい。政策概要の発表は3月末より早めるべきだ。23年度予算案を巡る国会論戦を回避するためのスケジュール設定だとしたら、姑息の批判を逃れまい。
●国産への転換 実需と連携して着実に  3/2
ウクライナ危機が長期化し、実需者が国産への転換に動き始めた。製粉やパン業界は国産小麦の利用を強化するが、増産に動く産地はまだ少ない。需要を踏まえない増産は過剰在庫や価格下落を招くことから、実需と産地が連携し、着実な国産転換につなげたい。
ウクライナ危機で、小麦など穀物の国際相場は不安定化が続いている。いったん価格が高騰したものの、品目によっては元に戻りつつある。ただ、不安定な国際情勢下で、輸入品を将来にわたって安定的に確保するのは、常に不安が付きまとう。
国内有数のパンメーカー・敷島製パン(名古屋市)は、原料小麦の国産割合を現状の14%から、2030年までに20%に高める目標を掲げた。以前から「食料自給率向上への貢献」を掲げる同社だが、3月から「国産小麦」シリーズを全面刷新。商品パッケージにも食料自給率向上を記載し、日本農業を応援する姿勢を打ち出す。大手製パン業者でつくる日本パン工業会も国産小麦の利用拡大を探る。
一方で、小麦の主産道県では、ウクライナ危機を受けた増産の動きは今のところ出ていない。主産県からは「輸入小麦の値段が上がっても国産も連動して上がるため、それほど需要は増えない」「作れる地域では、ほぼ作っている」など課題を指摘する。小麦の作付けが微増している県も、ウクライナ危機を踏まえた増産ではなく主に水田転作のためという。
これまで国産小麦は、収量や品質にぶれがあるのが課題だった。22年産は、供給量が需要を大きく上回った。実需と結び付かないやみくもな増産は、かえって国産転換の流れを止めてしまう可能性がある。とはいえ、実需側の国産への転換機運をうまく捉えなければ、チャンスを逃すことにもなりかねない。
食料安全保障の観点から、増産に向けた支援事業を設ける県も増えてきた。熊本県は22年度の補正予算案で、麦の安定生産支援事業を盛り込んだ。品質向上や面積拡大を支援。23年度予算案でも麦や大豆の生産支援として、試験圃場(ほじょう)や実需者との話し合いの場づくりを後押しする。
福島県も海外依存からの脱却へ、23年度予算案に「ふくしまならではの畑作物産地づくり推進事業」を設けた。麦・大豆を生産する農家グループなどに、営農技術の導入経費を支援する。
こうした行政の支援も活用しながら、実需と連携した生産拡大につなげていくべきだ。国やJAグループも、両者が意思疎通をする場づくりを、さまざまな機会を通じて積極的に設けていく必要があるだろう。
●少子化「25年がラストチャンス…どんどん若者減っていく」「社会回らなくなる」 3/2
社会学者の古市憲寿氏(38)が2日、フジテレビの情報番組「めざまし8(エイト)」(月〜金曜前8・00)に出演。岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」について言及した。
1日の参院予算委員会では、立憲民主党の辻元清美氏が子ども予算について「子ども関連予算の倍増の財源は?」と質問。岸田首相は「きめ細かな財源を考えていくのが重要。6月の経済財政運営の指針『骨太方針』に向け、子ども予算倍増に向けた大枠を示したい」と答弁し、「国債発行の考えは?」には「政府として具体的な予算の在りようについて申し上げていない」とした。また、辻元氏が「増税はしないと断言してほしい」と言うと、「内容が決まっていない。具体的に申し上げる段階ではない」とした。
古市氏は「本当は少子化っていうのも、国防というか有事というか、日本の人口が減っていくわけですから、日本がまさに貧乏になってしまう。特に2025年がラストチャンスじゃないかなって最近言われていて。なんでかっていうと、今後どんどん若者が減っていくわけですよね。だから母数が減っちゃうから、例えば2040年とかにいくら少子化対策とかやっても、もう若者がそもそもいないから遅いんですよね。本当にこの5年くらいが凄い勝負で、このタイミングでやってかないと間に合わない」と指摘。
そのうえで「でも、ここで凄い大事だなと思うのは、もちろん国の仕組みも大事なんですけど、社会全体でもっと子どもに対してもフレンドリーであるべきだし、もしくは子どもをうっかり産んでもいいような社会って大事だと思うんですね」と言い、「やっぱり今って教育費のこととか未来の日本のこと考えちゃうと、なかなか産みにくいと思うんですよ。でもそうじゃなくて、うっかり産んじゃっても何とかなるようにサポートを社会がしていかないといけないし、その機運みたいなものも盛り上がらないと本当に日本って終わっちゃうというか、少子高齢化って本当に日本の根幹の問題。だって貧乏になってしまう、消費者も労働者も減ってしまう。さらにそのうえで何が起こるかっていうと、労働者が減っていくと介護とか医療ってロボットとかAIになかなかできにくいので、社会が回らなくなってしまう。その危機的な状況が今後数十年後に訪れる、しかも確実に訪れるってことをちゃんとすべての政治家が認識すべきかなって思います」と自身の考えを述べた。
●中小企業を年金事務所が倒産に追い込む…「社保倒産」知られざる驚愕の実態 3/2
新型コロナウイルス禍の中で社会保険料の納付を猶予してもらってきた中小企業が今、倒産の危機に瀕している。背景には、年金事務所による滞納金の取り立て強化がある。年金事務所に資産を差し押さえられた中小企業の資金繰りが破綻する、「社保倒産」が日本経済の爆弾となりつつある実態について、取材を基に克明に描く。
「破産しろってことか…」 迫られる社会保険料の返済
「これ以上の猶予はできません。もし期限内に払えないのなら、銀行から借りてでも払ってください」
年金事務所のフロアに冷ややかな声が響き渡った。事務的に説明を続ける職員、その目線の先にはA社の財務担当者X氏がいた。
(それって破産しろってことか……)
X氏は天を仰いだ。年金事務所では経営に関わるセンシティブな話であっても個室は用意されない。全ては平場で行われることが常だ。職員は紋切り型の説明を言うばかり。机の上には彼が徹夜して作成したA社の再建計画書が無造作に散乱していた――。
新型コロナウイルス禍からの経済立て直しのため、政府は潤沢な財政出動や公的なバックアップによる融資(ゼロゼロ融資など)を続けて経済活動を下支えしてきた。これから多くの企業がゼロゼロ融資等の返済期限を迎えるという中で、資金繰りに行き詰まり倒産する企業が増えていくのではないかとの予測もある。だが、実際にはより危険なリスクとしてささやかれ続けてきた爆弾がある。それが「社保倒産」という問題だ。
社保倒産とは何か?
前述のA社のケースからその実態を見ていこう。
A社のプロフィールは次のようなものとなる。業種はサービス業、年間売上高は20億円弱、従業員数は約200人の中堅企業だ。小売業やサービス業のように人件費にコストがかかる業種は、同時に社会保険料金(以下・社保)の負担も大きくなる。
社保には次のような種類がある。
「健康保険・介護保険」「厚生年金保険」「雇用保険・労災保険」の主に三つである。事業者はこれらを納付することが義務付けられているのである。社保の中でも最もコスト負担が大きいのが「厚生年金保険」といわれている。人件費のうちのおよそ2割が厚生年金保険料といわれており、社保の中でも最も比重が大きいコストとなっている。
A社の命運を一変させたのが2020年2月ごろから感染拡大した新型コロナウイルスだった。サービス業、小売業、アパレル業などの業種は労働集約型産業である。労働集約型産業はコロナの影響をまともに受けたところが多く、業績はより一層苦しくなった事業者が多い。A社も20年4月に政府より発令された緊急事態宣言により店舗休業を余儀なくされ、一気に資金繰りが苦しくなったのだ。
前述のように人件費比率が高いということは社保負担も大きいということを意味する。経営難に陥ったA社は20年5月末より社保の支払い繰延を年金事務所に申請し、「換価の猶予」を受けることになった。
厚生年金保険料の納付猶予 申請に必要な5条件とは
日本年金機構によると「換価の猶予」とは、厚生年金保険料等の納付が一時的に困難となった場合に、申請要件の全てに該当するとき認められる制度のことを指す。その申請要件とは次の五つとなる。
(1)厚生年金保険料等を一時的に納付することにより、事業の継続等を困難にするおそれがあると認められること
(2)厚生年金保険料等の納付について誠実な意思を有すると認められること
(3)納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6カ月以内に申請されていること
(4)換価の猶予を受けようとする厚生年金保険料等より以前の滞納または延滞金がないこと
(5)原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保提供があること
A社が換価の猶予を受けられた期間は2年。換価の猶予を受けていた期間に積み上がった社保の支払繰延残高(滞納金)は約3億円にも上ることになった。
「当社は、キャッシュフローは出ていて収益は徐々に上がっていたのですが、過去の赤字でバランスシートが傷んでいた。換価の猶予期間が終わっても、財務的には余裕がなかったのが実情でした」(X氏)
22年から社会保険料納付を再開することになったA社。そんなA社に対して年金事務所側は滞納金の厳しい取り立てを始める。昨年秋頃から今年にかけて、「早期の支払い繰延解消をしてください」と繰り返しプレッシャーをかけてきたのだ。
年金事務所が突き付けた 「非情な通告」の内容
年金事務所側の条件は次のようなものであった。
「基本的には1年での解消。最長でも2年で完済してください」
これは非情な通告だった。
A社の財務状況的には2年間滞納してきた3億円を、マックス2年の間に完済せよ、という督促は厳しすぎる。毎月の社保を支払いながら、滞納分の返済も行うことになるので、実際には社保料金の2倍強に相当する金額を毎月負担しなければならないことを意味していたからだ。A社の資金繰りはますます厳しくなり、目の前に「社保倒産」という言葉がちらつくほどの苦境に陥ることになったのだ。
改めて倒産の定義について振り返ると、「倒産」とは企業が債務の返済不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になったりする状態のことを指す。社保倒産とは、年金事務所などにより資産の差し押さえを受け、資金がショートして倒産に追い込まれることを指す。社保倒産の厳しいところは、企業の存続の道すら断たれてしまうことが多いところにある。
倒産問題に詳しい森・濱田松本法律事務所の藤原総一郎弁護士が語る。
「社保滞納の難しいところは私的整理を実行することが難しいところにあります。そのときには事業者は法的整理、つまり倒産となる。いざというときに最も厳しいのが社保で、国税、自治体よりも取り立ては激しく厳しいと私は捉えています」
法的倒産には再建型の「会社更生法」と「民事再生法」、そして清算型の「破産」と「特別清算」の四つに分類される。年金事務所は滞納分が回収できないと判断すると、差し押さえ、換価手続きに入る。税金や社保のような公租公課の場合は「優先債務」と呼ばれ、真っ先に差し押さえが実行される。差し押さえによりキャッシュフローを止められてしまえば、企業はお手上げだ。
「過去に、ある社長が保険に入っていて、その保険金で債務を解消して会社を存続させようとしたという例がありました。非常に責任感ある社長は、自ら命を絶たれて債務をきれいに清算してほしいという遺書を残した。ところが、真っ先に差し押さえて回収していったのが年金事務所だった。結局、取引先や従業員には微々たるお金しか残らず会社は存続できなかった。社長さんの思いは果たせなかった、みたいなことがありました。
金融債権はカットすることが可能なので、債務超過になっても債権カットをお願いして企業存続の可能性を探ることができます。一方で社保滞納は絶対カットできない債権です。ですから社保倒産となった事業者は破産、解散、つまり『清算型倒産』に追い込まれ、事業が存続できないケースがほとんど。社保倒産というのは極めて厳しい倒産なのです」(藤原弁護士)
年金事務所の一言で 「わが社はジ・エンドです」
前出のX氏はため息をつく。
「もちろん当社に納付の意思はありますし、返済計画や経営計画も提出しましたが、いくら説明しても年金事務所は理解しようとしてくれないのです。担当者は『金融機関から借り入れしてでも返済を』と冷たい物言いに終始する。現在、わが社は金融機関からの追加融資も不可能な状態となっており、年金事務所から換価手続きに入ると言われてしまえば、ジ・エンドです。事業停止・破綻するしかありません……」
換価の猶予後に待っていたのは厳しすぎる現実だった。A社が存続できるのか否か、年金事務所との交渉は今春に山場を迎えることになるという。
事業者の声を拾っていくと、コロナ禍が徐々に落ち着いてくる中で、年金事務所は“平時”に戻ったと考えている節がうかがえるという。
「事業者側としてはコロナも完全に収束してない上に円安、物価高騰などのマイナス要因ばかり。それなのに年金事務所側は、不景気なんて知らぬとばかりに『完済してください』の一辺倒。上から徴収強化の指令が出ているのではないかと思われる物言いが多い。昨年秋以降、事業継続に対する配慮よりも、滞納金徴収の方が優先されてきている、という印象があります」(中小企業経営者)
実際に年金事務所によって倒産に追い込まれたケースも存在する。
売上高数億円、従業員50人という中堅アパレル関連企業のB社は、今月1月に「破産」した。同社の息の根を止めることになったのが“社保”であった。
「B社はコロナの影響もあり資金繰りが急激に悪くなり、社保については20年から換価の猶予を受けていました。今年に入って年金事務所から『滞納分について何カ月も待つことはできない。4500万円を1月中に一括で払ってください』と通告されており、資金繰り破綻により企業存続を諦め、破産の道を選ぶことになったのです」(B社関係者)
食品会社のC社も3月頭に「破産」した。同社も年金の滞納をしていたという。引き金を引いたのは同じく年金事務所の督促だった。社保滞納から資金破綻に至り、破産するというプロセスはB社と同じだ。今年になって経営に苦しむ中小企業に対して、年金事務所が「死に神」となって“大鎌”を振るうケースが続発しているのである。 不景気の荒波に苦しむ中小企業を襲う“社保倒産”という悪夢。今後その数は急増していく可能性がある――。
●「明治憲法」―改憲論議の機運高まる中、東アジア初の近代憲法 3/2
   ●「明治憲法」1
日本国憲法の公布から70年以上が過ぎ、改憲(憲法改正)の動きが活発になってきた。昨年5月にNHKが行った世論調査では、「憲法を改正する必要があるか」との質問に対し、35%が「ある」と答え、「ない」の19%を大きく上回った。ただし、「どちらともいえない」が42%を占めており、改憲の賛否を判断できない人も多い。日本国憲法を語る際、比較対象としてよく挙げられるのが明治(大日本帝国)憲法だ。東アジア初の近代憲法がどのような過程・意図で作られ、どんな特徴を持っていたのかを知ることは、日本国憲法のあり方を考える上でも有意義といえる。
坂本龍馬も抱いていた近代憲法の構想
すでに江戸末期の段階で、西周(にし・あまね)ら幕府派遣の留学生や洋書によって欧米の立憲体制や憲法に関する知識は国内に流入し始めていた。坂本龍馬が新政府構想としてまとめた「新政府綱領八策」にも、上下両院を設けることに加え、「律令ヲ撰シ新タニ無窮ノ大典ヲ定ム」べきだと記されている。「無窮ノ大典」とはすなわち、憲法のことだろう。
王政復古の大号令によって成立した新政府は、戊辰戦争の最中の1868年閏(うるう)4月、政体書を公布して太政官制(七官制)という政治組織を整えた。太政官と呼ばれる政府機構に権力を集中させ、行政事務を分掌する7つの官(行政官、刑法官、議政官など)を置き、アメリカ合衆国憲法を参考に三権分立(司法・行政・立法)の形をとったものだ。
1871年、廃藩置県を断行し唯一の政権となった新政府は、太政官を正院・左院・右院とし、その下に省庁を置いた(三院制)。正院は政府の最高機関で、太政大臣・左大臣・右大臣(3大臣)と参議で構成された。現在の内閣にあたる。左院は官選の議員から成る正院の立法諮問機関。正院が重要な法律を定める際、専門的な見解を左院に尋ねた。右院は各省庁の卿(長官)と大輔(次官)が会合し、政務を協議する機関である。
73年、征韓論争に敗れて下野した参議8人(板垣退助、後藤象二郎、副島種臣、江藤新平ら)が愛国公党をつくり、左院に「民撰議院(国会)を開いて我々を政治に参加させよ」との建白書を提出した。
その後、板垣は故郷の高知県(土佐)で政治団体・立志社を設立。国会の必要性を主張し、自由民権思想を広めていった。やがて同じような政社が各地に生まれると、75年、板垣らはその勢力を結集して大阪に愛国社を結成した。
こうした民権運動の盛り上がりに焦った内務卿(太政官制における事実上の首相)の大久保利通は、大阪で板垣、木戸孝允と三者会談を行った(大阪会議)。実はこの時期、長州藩のリーダー・木戸も台湾出兵に反発して政界を去っていたのだ。
会談の結果、大久保は板垣や木戸の意見を受け入れ、次第に憲法に基づく議会政治を導入することに同意。75年4月、立憲政体樹立の詔(みことのり)が出され、元老院、大審院、地方官会議が設置された。
元老院は立法審議機関で、立憲政体の実現に向け翌76年、日本最初の官選憲法草案「日本国憲按」の作成を始めた。
大審院は司法権の最高機関、今でいう最高裁判所である。地方官会議は、全国の県令・府知事の会議のこと。第1回会議では木戸孝允を議長に、民会(地方議会)議員を公選にするか官選にするかで白熱した議論が展開され、結局、官選民会にすることが決まった。
“英国型”立憲主義を求めた大隈重信
1876年から不平士族の乱が続発するが、政府はこれを鎮圧。翌77年には西郷隆盛を首領とする西南戦争を平定した。これにより政府を武力で倒すことは困難になり、言論による政府の打倒や国会の開設を目指す自由民権運動が再び盛り上がる。
78年には、大久保利通が士族らに暗殺され(紀尾井坂の変)、代わって肥前(佐賀県)出身の大隈重信と長州(山口県)出身の伊藤博文が政府内で台頭。そうした中、民権運動に理解を示し、すぐに国会を開くべきと主張したのが大隈だった。
大隈は1881年3月、左大臣の有栖川宮熾仁(ありすがわのみや・たるひと)親王に「今年中に憲法を制定し、来年公布したあと国会を開き、イギリス流の議会制民主主義を進めていくべきだ」との意見書を提出する。
保守的な右大臣・岩倉具視がこれに嫌悪を示すと、伊藤博文は岩倉と結び、薩摩(鹿児島県)出身の開拓使(北海道の開拓のため設置した行政機関)長官・黒田清隆に接近する。この時、黒田は窮地に立っていた。開拓使の官有物や諸事業を同郷の政商・五代友厚へ不当な廉価で売却しようとしたとして、民権派の激しい攻撃にさらされていたのだ。
伊藤は、大隈が裏で民権派と結んで黒田への攻撃をあおっているのだと語り、黒田と提携したのである。
こうして薩長閥は81年10月11日、突然、御前会議(天皇臨席の会議)を開き、世論の政府攻撃に大隈が関与しているとして参議の職を罷免。同時に、国会開設の勅諭を出して90年に国会を開くと国民に約束した。
この薩長閥によるクーデターを「明治十四年の政変」と呼び、政府内から大隈派は消え、薩長による専制体制が確立され、伊藤博文が主導権を握るようになった。
福沢諭吉ら民間人も続々“私案”を作成
この時期、民権運動は空前の盛り上がりを見せ、民権家たちは国会の開設を強く求めるとともに、自分たちで憲法案を作って新聞や雑誌を通じて世間に公表していった。
このように民間で作成した憲法案を私擬憲法と呼ぶ。代表的なものとして、福沢諭吉らが組織した交詢(こうじゅん)社の「私擬憲法案」、立志社の「日本憲法見込案」、植木枝盛の「東洋大日本国国憲案」、千葉卓三郎の「五日市憲法」などがある。
特に植木枝盛(えもり)の案はフランス流を採用し、一院制議会を唱え、抵抗権や革命権が含まれていた。悪い君主や国家なら国民はこれに抵抗し、場合によっては政権を倒しても構わないという権利だ。しかし、他の私擬憲法の多くは、立憲君主制・二院制を規定するイギリス流のものが大半だった。
こうした動きに連動し、先に述べたように元老院でも1880年に「日本国憲按」を完成させたが、岩倉具視ら保守派や宮中勢力の反対によって廃案となった。政府内には、憲法は時期尚早と考えたり、日本は天皇親政(専制)の道を進むべきだとする人々が強い力を握っていた。ただ伊藤博文は、ライバルの大隈と同じ立憲君主制・二院制を構想していたようだ。
渡欧調査の末「ドイツ型」を選んだ伊藤博文
すでに政府は、1890年までに国会(議会)を開くと国民に約束してしまった。それまでに立憲制度を整えておかなくてはならず、当然、その柱となる憲法の制定も不可欠となった。
このため政府は、憲法調査のために伊藤博文をヨーロッパへ派遣した。伊藤は82年から1年以上かけてドイツ、オーストリア、イギリス、ロシア、フランス、イタリアなど多くの国を巡り、グナイスト、モッセ、シュタインなど高名な学者の話に耳を傾け、ドイツのビスマルクやイギリスのグランビルなどの政治家とも会談を行った。
その結果、日本に最も適合するのは、皇帝の権限が強大なドイツ(プロシア)の憲法だと確信し、これを模範とした憲法を作ることを決意したのである。
伊藤は憲法調査から帰国すると、84年、宮中に制度取締局を設置する。立憲体制を確立するため、法律や諸制度を研究・制定する機関で、長官は伊藤博文、主なメンバーは井上毅(こわし)、伊東巳代治、金子堅太郎。ここでは官吏任用制度、地方制度、内閣制度、華族令が審議・制定されていった。
華族令ではこれまでの華族(旧大名や公卿)に加え、明治維新で活躍した人物や政府の高官も組み入れた。というのは、衆議院と並ぶ貴族院を華族で構成しようと考えたからだ。
あわや一大事!盗まれた「草案」入りかばん
こうして立憲体制を整えた伊藤博文は、1886年から憲法草案作成のため、井上毅、伊東巳代治、金子堅太郎ととともに金沢(神奈川県金沢区)の東屋旅館に詰め、複数の案をたたき台に話し合いを重ねた。御意見番としてドイツ人顧問で法学者のヘルマン・ロエスレルにも来てもらった。
ところがある日、草案の入ったかばんが部屋から消え失せたのだ。一同は驚嘆した。事前に民権派に知られたら一大事である。だが、単なる金目当ての泥棒だったようで、金品は抜き取られていたものの、かばんは草案が入ったまま畑に捨てられてあった。
ただ、ここで憲法案を作るのは危険だとして、伊藤の夏島別荘に場所を移した。今では埋め立てにより陸続きになってしまっているが、もともと夏島は金沢沖に浮かぶ孤島。この別荘で4人は遠慮なく議論することを決め、激しい論争に発展することもあったという。こうした真摯(しんし)な話し合いの末、87年8月、ついに草案(夏島草案)が出来上がった。
憲法草案は、新たに設置された枢密院という審議機関で、明治天皇の臨席のもと何度も審議が重ねられ、89年2月11日、「大日本帝国憲法」として発布された。
この憲法は、天皇が国民に授ける「欽定」という形式をとったことから分かるように、天皇の権限が非常に大きいものであった。
この大きな権限を「天皇大権」と言い、主権は天皇にあり、宣戦・講和・条約の締結や役人の任免などの権限を持ち、陸海軍の統帥権も握っていた。そもそも第1条からいって「大日本帝国は万世一系の天皇これを統治す」であり、第3条も「天皇は神聖にして侵すべからず」なのだ。
こうしたことから、一般的に明治憲法は、天皇独裁を肯定する非民主的な憲法と思われがちだ。しかし、それは正しい認識ではない。
   ●「明治憲法」2
日本国憲法を語る際、比較対象としてよく挙げられるのが明治(大日本帝国)憲法だ。東アジア初の近代憲法がいかなる意図のもと作られたのかを知ることは、日本国憲法のあり方を考える上でも有意義といえる。前編では、明治政府が憲法を完成させるまでの流れを見てきたが、後編では欽定憲法の特徴や当時の国民の受け止め方、さらに軍国主義に及ぼした影響について考察する。
憲法を熱狂的に歓迎した国民
近代憲法の策定にあたって政府が参考にしたのは、皇帝の権限の強いドイツ(プロシア)の憲法だった。
明治憲法では、主権は天皇にあり、天皇が宣戦・講和・条約の締結や役人(文武官)の任免などの権限(天皇大権)を持ち、陸海軍の統帥(指揮監督)権も握っていた。憲法第1条では「大日本帝国は万世一系の天皇これを統治す」、第3条には「天皇は神聖にして侵すべからず」と明記された。しかも、天皇が憲法を定めて国民に与えるという「欽定憲法」だった。
ところが1889年2月11日に明治憲法が発布されると知るや、国民は熱狂的に歓迎した。
数日前から東京では山車や踊り屋台があふれ、国旗や提灯や花が飾られ、人々がまるでお祭りのように路上に群がり、「万歳」と叫ぶ声があちこちに響いた。特に国旗は品切れになる店も多く、提灯も飛ぶように売れ、職人が徹夜で作るありさまだった。しかも、それらの値段は日に日につり上がっていく。料理屋や芸者屋も大繁盛だったと伝えられている。
お雇い外国人の一人、ドイツ人医学者のエルヴィン・フォン・ベルツは、こうした様子を見て、「人々はバカ騒ぎを演じているが、だれも憲法の内容を知らないのは滑稽なことだ」との皮肉を日記に記している。
実際、憲法の発布を「絹布(けんぷ)の法被(はっぴ)」、つまり政府が国民に上等な絹服をくれると勘違いした人々もいたという。
内閣に行政権を集中しようと努めた伊藤博文
ただ、不思議なのは、一般国民だけではなく、それまで政府を激しく攻撃してきた自由民権家の多くが、ほとんど文句を言わなかったことである。
それは、発布された憲法が自分たちの思った以上に民主的なものだったからだろう。
確かに天皇の権限は強いものの、法律の範囲内において国民は、居住・移転や信教の自由、言論・出版・集会・結社の自由、信書の秘密、私有財産の保護などが認められていた。
また、司法権は行政権から独立し、三権分立も明確に定められており、帝国議会が設けられ、法律案・予算案の審議権が与えられた。特に衆議院(選挙で選ばれた議員で構成)に対して法案提出権を認め、予算審議については先議権を付与した。国民が政治に関与する道が開かれたのである。
やはりこれには、憲法制定の中心人物となった伊藤博文の考え方が大きく影響していると思われる。
伊藤は、天皇の力を抑えて内閣に行政権を集中しようと動いているし、枢密院での憲法審議においても「立憲政治は、君主の権力を制限し、国民の権利を保護することが大切だ」と語っている。日本は近い将来、議会制民主主義に基づく政党政治を行うべきだと認識していたのだろう。事実伊藤は、1900年に政党(立憲政友会)を組織して総裁に就き、第4次伊藤内閣を組織している。
ともあれ、明治憲法は天皇独裁を肯定する非民主的な憲法だと思われがちだが、それは正しい認識ではない。解釈の仕方によっては、かなり民主的なものに変貌するのである。きっと伊藤も、その性質は認識していたはずだ。
天皇「機関」説VS天皇「主権」説
そうした見方は、大正時代、東京帝国大学の美濃部達吉教授が唱えた「天皇機関説(国家法人説)」にもうかがえる。
天皇機関説とは、「国家は法人(人間以外で、人格を持つとして法律上で権利や義務が与えられた団体)であり、主権(統治権)は国家が持ち、天皇は国家の最高機関として、憲法のもとで統治権を行使する」という理論だ。
分かりづらいので、もう少し補足すると、美濃部は国家を、同じ目的を持つ多数の人間の集合体だと考える。そして、天皇も議員も一般国民も共通の目的で結合している組織なのだから、国家の最高機関である天皇は、組織全体の目的のために政治を行うべきだとする。
ゆえに美濃部は、天皇が国民の権利を抑えて絶対服従を要求する専制政治に反対し、政党内閣制こそ正しいあり方だと説いた。
これに対して、同じ帝大の法学者・上杉慎吉は、天皇は絶対無限と考える立場から天皇主権説(国家の主権は天皇自身にあるとする説)を唱え、美濃部と論争を展開した。
しかし結果的に天皇機関説が主流となり、政党内閣制の理論的根拠となって、大正末期から昭和初期にかけての政党内閣の継続に大きく寄与したのである。
艦隊派 VS 条約派―総帥権を巡る政争
1930年、憲法に明記された天皇の統帥権を巡って大きな政争が勃発する。
同年1月、イギリスが海軍大国に呼び掛けてロンドンで海軍軍縮会議を開催。4月には日本・アメリカ・イギリス・フランス・イタリアにより、補助艦(巡洋艦・駆逐艦・潜水艦)の保有量(総トン数)の制限を定めた軍縮条約が締結された。
その際、補助艦全体の保有率で日本は対米英の6.975割と決まった。これは、主力艦(戦艦・空母)の保有比率を定めた1922年のワシントン海軍軍縮条約での6割を上回るもので、目標としていた7割をほぼ達成できた。ところが、大型巡洋艦の保有比率では、またも対米英の約6割で妥協せざるを得なかった。
巡洋艦とは、「戦艦と駆逐艦との中間に位し、速力は戦艦に優り、攻防力・耐波性は駆逐艦を凌駕する」(広辞苑)艦船のこと。その大型のものが大型巡洋艦である。つまり、戦艦に匹敵するような軍鑑といえる。だから海軍内では不満の声も強かったが、日本政府は調印に踏み切ったのである。このときの日本全権は、元首相の若槻礼次郎と海軍大臣の財部彪らであった。
調印の可否を巡り海軍内では2つに分裂して争った。調印に反対する一派を「艦隊派」、容認する一派を「条約派」と言う。
特に軍令部が反対派(艦隊派)の急先鋒だった。軍令部は、戦争での海軍の作戦や用兵などに関する統帥事務を担当する天皇の直属機関である。陸軍では、参謀本部がその役目を果たしていた。
倒閣を狙った野党の立憲政友会や保守的な枢密院は、艦隊派に味方した。これに民間右翼も同調。こうして反対派は、浜口内閣を「統帥権の干犯だ」と攻撃し始めたのである。
統帥権というのは、陸海軍を指揮する権限のこと。干犯とは、自らの権限を逸脱し、他の領域まで犯すことをいう。大日本帝国憲法では天皇が統帥権を持ち、憲法11条では、天皇が海軍を指揮する際は軍令部が天皇を補弼(補佐)することになっていた。
その一方で、天皇が陸海軍の規模を決定する際には、内閣が天皇を補弼して決めることになっていた。
つまり、戦争では内閣は軍隊に命令できず、軍令部や参謀本部が、天皇の承認を受けながら作戦を展開する。一方、兵力の規模は内閣に実質的な決定権があった。その意味では、ロンドン海軍軍縮条約の調印には何ら問題はない。
ところがややこしいことに、軍令部条例の規定には「兵量を決定する際には、軍令部の同意が必要である」と明記されていたのである。
調印反対派はこれを楯にとって、「内閣が軍令部の同意を得ないで、勝手に軍縮条約に調印したのは、天皇の統帥権を干犯するものだ」と浜口内閣を攻撃したのである。
右翼の凶弾に倒れた浜口首相
しかし浜口雄幸(おさち)首相は、そうした攻撃に屈しなかった。米英との協調を最優先に考え、反対派と徹底的に対決したのである。
浜口が強気になれたのは、与党の民政党が同年2月の総選挙で100議席を増やす大勝利をあげ、議会で過半数を制していたからだった。議会で多数派に転じたので、野党の立憲政友会を押し切れると踏んだのである。しかもマスコミや世論も軍縮に賛成し、内閣を支持していた。
この追い風に乗って、浜口内閣は美濃部達吉の天皇機関説などを根拠に、枢密院に対しても枢密院議長と副議長をクビにするという脅しをちらつかせ、反対派を押さえつけたのである。だが、1930年11月14日、浜口は東京駅で右翼に狙撃されて重傷を負い、翌年、それがもとで亡くなってしまう。
それから2年後、満州事変が勃発すると国民は軍部を支持。急速に軍国主義が台頭し、犬養毅首相が海軍青年将校らによって暗殺(五・一五事件)されると、政党内閣の時代は終焉を迎える。
天皇機関説の敗北
こうして軍国主義的な風潮が高まる中、1935年、美濃部達吉の天皇機関説もやり玉にあがった。先述の通り、大正時代には学界の主流となり、政党内閣制度を後押しした学説である。
まずは、軍部出身の貴族院議員である菊池武雄が天皇機関説を「反国体的だ」と猛攻撃。これに右翼が同調していく。
美濃部は当時、東京帝国大学名誉教授で貴族院議員だったが、「美濃部から議員の職を奪え、著書を発禁にせよ、天皇機関説を支持する教授・官僚を免職せよ」といった天皇機関説排撃キャンペーンが展開されていった。
時の岡田啓介内閣は当初、天皇機関説を容認する発言をしていたが、攻撃の矛先が内閣に向かうと軍部の圧力に屈し、『憲法撮要』など美濃部の著書を発禁処分とし、美濃部を辞職に追い込んだ(天皇機関説事件)。
同時に「天皇機関説は天皇制に反するから取り除く。統治権の主体は天皇にある」とする国体明徴声明を出したのである。
それ以後、明治憲法は天皇主権説が主流となっていき、さらに軍部の都合の良いように解釈され、軍国主義を助長していく。
翌1936年には、陸軍内の皇道派(天皇中心主義をもとに、より直接行動的で過激な考え方を持つグループ)と統制派(より穏健的なグループ)の派閥争いが高じて、皇道派の青年将校らが2月26日に約1400人の兵士を動かして永田町・霞ヶ関周辺を占拠。首相官邸や各大臣邸、警視庁などに乱入し、元首相で内大臣の斉藤実、元首相の大蔵大臣・高橋是清、陸軍教育の総監・渡辺錠太郎などを殺害した(二・二六事件)。
その皇道派に思想的な影響を与えたのが、新潟県佐渡島の出身、民間右翼の北一輝だった。北は、天皇は憲法を超越した存在であるとし、その著書『日本改造法案大綱』で「日本を改造するため、天皇が大権を発動して憲法を停止し、戒厳令を出したうえで国家を改造すべきだ」と主張した。
以後、軍国主義の道を突き進んだ日本は、日中戦争、さらに太平洋戦争に突入し、結局、敗北してしまった。そして戦後、日本を占領統治したGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は、1945年10月、憲法を民主的な内容にせよと、抜本的な憲法改正を幣原喜重郎(しではら・きじゅうろう)内閣に指示するのである。  
●G20外相会合 3/2
3月2日、インド・ニューデリーにてG20外相会合が開催され、山田賢司外務副大臣が出席したところ、会合概要は以下のとおりです。 なお、同会合では、セッション1として「多国間主義の強化及び改革の必要性、食料・エネルギー安全保障、開発協力」が、セッション2として「テロ対策(新たな脅威)、グローバルな技能マッピング及び人材プール、人道支援及び災害救援」が、テーマとして取り上げられ、議論されました。
1 セッション1:「多国間主義の強化及び改革の必要性、食料・エネルギー安全保障、開発協力」
本セッションでは、ロシアによるウクライナ侵略を始めとする現下の国際情勢を踏まえた多国間主義の強化及び改革の必要性、食料とエネルギーの価格高騰への対処や安定供給の確保に向けた国際的な連携の重要性、グローバルな課題やSDGs達成に向けた開発協力の重要性、これら諸課題におけるG20の役割等について、議論が行われました。
本セッションでは、日本を始めとする多くの国がロシアによるウクライナ侵略を強く非難し、ロシアの侵略行為が国際秩序及び多国間主義の基盤を揺るがしていることを指摘したほか、世界の食料やエネルギーをめぐる状況の悪化はロシアの侵略行為によって引き起こされている旨を指摘しました。
   (1)冒頭
山田副大臣から、2月に発生した大規模地震により、トルコ及びシリアにおいて犠牲となった方々に心からの哀悼の意を表しました。また、山田副大臣から、日本はG7議長国として、国際社会が直面する様々な課題の解決に向けてリーダーシップを発揮していく所存であるとし、G20とも連携していきたい旨述べました。
   (2)多国間主義の強化及び改革の必要性
山田副大臣から、前世紀に二度の世界大戦を経験した国際社会は、このような惨禍を繰り返すことのないよう、法の支配に基づく国際秩序を築き上げてきた、また、多国間主義の強化を進め、その取組の一つとしてG20も立ち上げられた旨述べました。その上で、ロシアによるウクライナ侵略は、そうした国際秩序や多国間主義の基盤を揺るがしており、ウクライナの市民や重要インフラに対する攻撃も断じて容認できず、日本は最も強い言葉でこうした暴挙を非難する、また、ロシアが行っているような核兵器による威嚇、ましてや、その使用はあってはならない旨述べました。さらに、多国間主義を強化していくためには、国連憲章の理念と原則に立ち戻り、国連の機能を強化する必要があり、特に安保理改革はその重要な一環である旨述べました。
   (3)食料・エネルギー安全保障
山田副大臣から、ロシアによるウクライナ侵略は、世界の食料やエネルギーをめぐる状況を悪化させている旨指摘しました。
食料について、山田副大臣は、全ての人々の廉価で安全な栄養のある食料へのアクセスと、世界の食料システムの脆弱性克服は急務であり、G20と連携して対処したい旨述べました。また、日本としても、アジアや中東、アフリカ諸国に対する緊急食料支援を含め、グローバルな食料安全保障への支援として、近々、5000万ドルの貢献を決定する予定である旨述べました。さらに、更なる危機に備えるため、中立・公正な統計情報や調査データは重要であり、このため、G20で生み出された農業市場情報システム(AMIS)の強化を支援していきたいと述べました。このほか、黒海穀物イニシアティブの延長と拡充についての支持を表明しました。
エネルギーについて、山田副大臣は、エネルギー安全保障を確保しつつ脱炭素化を進めるには、各国・地域にとって最適化された様々なクリーンエネルギー移行の道筋があることを認識しなければならない旨指摘しました。また、クリーンエネルギー機器に不可欠な重要鉱物資源の強靭なサプライチェーンの構築が必要であり、これらについてもG20の場で議論を深めていきたい旨述べました。
   (4)開発協力
山田副大臣から、現下の危機の中で、多くの開発途上国の財政状況が悪化し、そのインフラ需要を満たすことができていないことを指摘しました。その上で、かかる状況に対応しつつ、開発協力が真に途上国の持続的な発展に寄与するためには、国際ルール・スタンダードに沿った形で開発金融の透明性や公正性を確保することが重要であり、開発金融のあるべき姿について、G20の場でも議論を深めていきたい旨述べました。
2 セッション2:「テロ対策(新たな脅威)、グローバルな技能マッピング及び人材プール、人道支援及び災害救援」
本セッションでは、新興技術がもたらす影響を踏まえたテロ対策、グローバルな人材育成、人道支援及び災害救援に関する国際的な連携の重要性、及びG20の役割等について、議論が行われました。
   (1)テロ対策(新たな脅威)
山田副大臣から、日本は、G20を始めとする国際社会と共に、テロ・暴力的過激主義、国際組織犯罪対策を通じて、法の支配に基づく国際秩序の堅持に貢献していく旨を述べました。また、近年、オンラインでの過激化思想の拡散や新興技術の悪用への懸念が増大しているとしつつ、途上国の法執行機関等への能力構築支援や、これらの国が多様性を尊重できる寛容な社会を構築することへの支援を通じ、過激主義思想の拡散防止等に取り組んでいくことが重要である旨述べました。さらに、国際的な違法薬物取引でもIT化・スマート化が広がり、摘発がさらに困難となっており、国際的な協力は従来にも増して重要であるとしつつ、このような中、薬物対策について議論をすることは有益であり、そのような取組を歓迎したい旨述べました。その上で、日本は人材育成等を通じて各国の腐敗対策を支援するとともに、G20腐敗対策作業部会等を通じて、腐敗対策の国際的取組にも積極的に貢献していくとの考えを表明しました。
   (2)グローバルな技能マッピング及び人材プール
山田副大臣から、SDGs達成のためには、途上国においてデジタル分野等のスキルを身に着け、技術革新の中でも活躍できる人材を育成することが重要である旨述べました。その上で、日本は、例えばASEANやアフリカ各国に対してデジタル分野を含む幅広い分野での人材育成を実施していることを紹介しつつ、引き続き途上国における能力構築を通じて途上国の持続可能な発展に貢献していく旨述べました。
   (3)人道支援・災害救援
山田副大臣から、日本は、多くの災害を経験してきた経験を活かし、途上国の自然災害に対する脆弱性克服のための支援を積極的に実施していることを紹介しつつ、現在、自然災害が激甚化している中で、インドがG20議長国として、防災分野を重視していることを歓迎する旨述べました。また、今般トルコ南東部において発生した大規模地震に対して、日本は国際緊急援助隊をトルコに迅速に派遣し、加えて、トルコ・シリア両国向けに、テント、毛布等の緊急援助物資の供与を行ったほか、国際機関などを通じて、先週正式決定した合計約2,700万米ドルの緊急人道支援を順次実施していくことを紹介した上で、被災地の方々が、この困難を乗り越えるのに必要な支援を今後も迅速に提供したい旨述べました。さらに、日本が議長国を務める本年のG7においても、人道支援及び防災を開発課題の一つとして扱うこととしている、G7とG20との間で連携し、脆弱国への人道支援の必要性と防災の重要性を世界に力強く発信していきたい旨述べました。
   (4)アフリカ連合(AU)との関係
山田副大臣から、近年の国際社会におけるアフリカ諸国の役割の増大を踏まえ、日本はアフリカとの関係を更に強化していく考えである旨述べつつ、こうした観点から、昨年12月に岸田総理が表明したとおり、日本はAUのG20加盟を支持している、G20でもAUとよく連携していきたい旨述べました。

 

●「130万円の壁」で首相「単身者との公平性に留意しつつ検討」… 3/3
岸田首相は2日の参院予算委員会で、物価高騰対策について、「必要な対策はちゅうちょなく、機動的に対応していきたい」と述べ、ウクライナ情勢などを踏まえて追加対策を検討する考えを示した。
電気料金は2月請求分から負担軽減策が導入されているが、今後も上昇する可能性が指摘されている。首相は「電力会社の値上げ申請を厳格に審査し、抑制に取り組む」とも強調した。
扶養家族の対象から外れ、社会保険料の負担が生じる「130万円の壁」への対応については、「単身者との公平性に留意しつつ、幅広く検討する」と述べた。
首相は昨年の出生数が80万人を割り込んだことを受け、「社会経済が持続可能かどうか問われている」と改めて危機感を示し、「政策と予算を用意し、それを倍増する大枠を示すことで少子化のトレンドを変える」と語った。
●「ドミノ倒しのように…」巨大地震で日本経済を襲う危機 3/3
「日本の経済全体が、ストップしてしまうかもしれません」 専門家は、南海トラフ地震後の経済シミュレーションの結果から、危機感を訴えました。分析では、地震や津波による経済へのダメージは太平洋側だけでなく、全国に「ドミノ倒し」のように波及します。そして、日本経済が長期にわたって停滞する「国難」ともされる事態に陥るおそれがあるというのです。
経済被害は220兆円と想定
南海トラフ巨大地震が日本を襲った場合、地震や津波による直接的な被害に加え、深刻になると懸念されているのが、日本経済へのダメージです。
その原因のひとつが、巨大地震によって被害が出る地域にあります。
関東から九州にかけての「太平洋ベルト地帯」と呼ばれる工業地帯が襲われるのです。
自動車などの製造業や鉄鋼業の被害に加え、高速道路や新幹線といった日本の大動脈の寸断も想定され、被害はより深刻になります。
国は、この地震による経済の被害額について、被災地での建物被害を中心に、最悪の場合220兆円に上ると推計しています。東日本大震災の被害額16.9兆円の10倍以上にあたります。
「日本経済全体に影響も」
一方、経済への被害が、さらに深刻になるおそれもあると指摘する専門家がいます。
そのひとりが、兵庫県立大学の井上寛康教授です。スーパーコンピューターの計算で、経済の分析を行っています。
経済の被害は、なぜより深刻になるのでしょうか。
井上教授は、国の経済被害の想定の多くが、地震や津波による直接的な被害を計算していることにとどまっているためだといいます。
一方、工業への直接的な被害がひとたび連鎖すると、その影響は日本経済全体に「まるでドミノ倒しのように」波及するおそれがあると言うのです。
井上教授が巨大地震による日本経済への間接的な影響として重視しているのが、「サプライチェーン」=「製品の供給網」の問題です。
兵庫県立大学 井上寛康教授「被災地における建物の損失などの直接的な被害はある意味閉じたものであり、そこから広がっていくものではありません。しかし経済はよく『まわる』という言葉が使われますが、人の体内の『血流』のようにあらゆる企業が無数の『サプライチェーン』で、全国とつながっています。そのため、一度大きなショックがあると『血流』が止まってしまい、日本経済全体が止まることにつながるのです。この間接的な被害は無視できない重大な問題です」
「サプライチェーン」の影響が…
「サプライチェーン」が問題となったケースは、2011年の東日本大震災でも起きています。
ケースのひとつが、半導体メーカーの茨城県にある工場が受けた被害です。数か月にわたって製品を供給できなくなりました。
これによって、自動車業界全体に大きな影響が出たと言います。この工場が、自動車のエンジンの制御には欠かせない「マイコン」を製造し、世界的にも高いシェアを占めていたためです。
この半導体を使用していた国内外の自動車メーカーの生産に、影響が広がったというのです。
経済損失は北海道から沖縄まで
井上教授は、こうした「サプライチェーン」の影響は、南海トラフ地震ではより深刻になると考えています。
そこで、スーパーコンピューター「富岳」を使い、経済被害のシミュレーションを行いました。
分析したのは、企業の生産額です。
100万社の企業情報や500万を超える膨大な取引データ、それに南海トラフ地震の国の被害想定などを使い、被害の「連鎖」を明らかにしようとしました。
以下が、その結果を表した地図です。左が南海トラフ地震、右が東日本大震災のときの経済被害を表します。
「赤」や「オレンジ」のところは生産額が減少した企業があることを示しています。
東日本大震災では、損失が大きい企業は、東北の太平洋側を中心に、各地の大都市で一部に見られます。
一方、南海トラフ地震では、損失の大きい企業は全国に広がります。北海道から沖縄まで、あらゆる企業に影響が及ぶという結果が出たのです。
井上教授は、南海トラフ地震の被害が「太平洋ベルト地帯」を直撃することなどで、多くの企業が無縁ではいられなくなると分析します。
GDPの損失 1年で134兆円に
井上教授が分析すると、経済被害が深刻になる「最悪のシナリオ」も見えました。
南海トラフ地震が、時間差で2回発生するケースです。
歴史的に南海トラフでは、震源域の東側と西側で、時間差で発生するケースが相次いでいます。
井上教授は、1回目の巨大地震が起きた後、180日後に2回目の巨大地震が起きるケースを仮定し、経済の被害をGDP(国内総生産)に換算して、分析しました。
その結果が、以下のグラフです。
最初の地震で落ち込んだ企業の生産額は、時間がたつにつれて回復していきます。
しかし、そこに2度目の地震が起きると生産額はさらに落ち込みます。経済は、元の水準まで回復しなくなるのです。
シミュレーションでは、最初の地震の発生から1年間で失われるGDPの総額は134兆円にのぼりました。
東日本大震災の10倍にあたり、日本の国家予算に匹敵します。
井上寛康教授「シミュレーションを行って驚いたのは、日本経済がもしかしたら元の水準まで回復しきらないかもしれないということです。被災地から遠く離れた場所でも、注文した商品が手元に届かないなど私たちの身近な生活にも影響が生じると思います」
対策のカギは「代替先」
それでは、被害を減らすにはどうすればいいのでしょうか。
井上教授が有効な対策として指摘するひとつが、企業の「代替先の確保」です。
企業の材料の仕入れ先など取引先を複数確保することを指します。
井上教授が行ったシミュレーションでは、全国の企業が代替先の確保を徹底した場合、GDPの損失を大きく抑えられるという結果になりました。
オレンジ色が「何も対策をとらなかった場合」、青が「代替先を増やした場合」です。
2度の地震でも、GDPの落ち込みは小さくなり、1年後には元の水準近くにまで回復します。
年間の損失額は、代替先を増やした場合はおよそ35兆円に。最悪のケースの4分の1まで抑えることができるという結果が出たのです。
経済被害を減らすには
深刻になることが想定される、南海トラフ地震の経済被害。
井上教授の今回の試算のほかにも、専門家で作る土木学会は、南海トラフ地震が起きた場合に、道路の寸断や工場の損害などから波及する間接的な影響も含めた経済被害の推計を出しています。この中では、20年間の被害額は1410兆円にのぼるとされています
そして、国民生活の水準を低迷させる「国難」になると警告します。
こうした経済被害に対し、私たちに何ができるのでしょうか。
最後に、井上教授に聞きました。
井上寛康教授「南海トラフ地震は避けることはできません。しかし、事前に備えるということは十分可能であり、経済的な被害を軽減するための手立ては確かにあります。たとえ小さな企業1社の対策であっても、その効果は単にその企業だけでなく日本経済全体の底上げにつながります。対策を1つ1つ進めることで、サプライチェーンの破綻を未然に防ぎ、より明るいシナリオを作ることはできるはずです」
●林外相大失態≠f20欠席、日本は存在感すら示せず 3/3
林芳正外相は2日夜、インドに向けてチャーター機で羽田空港を出発した。3日に開催される日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の外相会合に出席するためだ。ただ、同地で開かれたG20(20カ国・地域)外相会合(1、2日)を、国会日程を優先して欠席した「外交的損失」「国益の棄損」は甚大かつ深刻だ。ロシアによるウクライナ侵略から1年、米国中心の「自由主義国家」と、ロシアと中国を中核とする「専制主義国家」が火花を散らすなか、日本は存在感すら示せなかった。岸田文雄首相や林氏に「いまは有事」という意識はあるのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、岸田政権の異常な思考停止状態に迫った。
林外相が2023年度予算案の参院審議を理由に、インドで開かれたG20外相会合を欠席した。ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアによるウクライナ侵略戦争が大きな転機を迎えているなか、欠席を決めた判断は「林氏と岸田政権のピンぼけぶり」を物語って余りある。
予算委員会での基本的質疑は、首相以下、全閣僚の出席が慣例化している。重要なのは理解できるが、わずか2日程度、外相が欠席したところで、不都合があるわけがない。その間は、副大臣なり外務省幹部が対応すればいいだけだ。
あくまで外相出席にこだわった自民党や立憲民主党など与野党も問題だが、それに唯々諾々と従った外相も外相だ。世界情勢に対する危機感の乏しさが、見事に露呈したかたちである。
ウクライナをめぐる現状は、どうなっているのか。
フランスやドイツは支援を続けているが、一方で「徹底抗戦より、外交交渉の道を探れ」と働きかけている。米国のジョー・バイデン政権も表向き、「ウクライナが必要とする限り、支援する」と唱えているが、昨年秋には、水面下でウクライナに停戦交渉を打診していた。
ここへきて、米国の野党、共和党内では「バイデン政権はウクライナより、台湾防衛に全力を挙げよ」という声が急速に高まっている。
例えば、「将来の大統領候補の1人」と目される若手のホープ、ジョシュ・ホーリー上院議員は2月16日、有力シンクタンク「ヘリテージ財団」で講演し、「中国による台湾侵攻の抑止が、米国の最優先事項だ。米国はアジアと欧州で戦って勝つことはできない。限られた米軍の資源をアジアに投入するためには、欧州のプレゼンスを下げるべきだ」と訴えた。
ホーリー氏だけではない。
同じく共和党の若手有望株であるトム・コットン上院議員も、ワシントン・ポストの取材に答えて、「米国が直面している最大の脅威は中国だ。彼らはロシアのソ連バージョンよりも、ずっと強い」と語っている。
中東の緊張激化中露促す可能性
バイデン政権は、ウクライナ戦争を「自由・民主主義勢力」vs「独裁・専制主義勢力」の戦いと位置付けている。だが、彼らは「米国の国益」を最優先に掲げたうえで、より具体的に「主要な敵はロシアでなく、中国」と見据えているのだ。
ウクライナだけが戦場ともかぎらない。
中東では、核開発を進めるイランの脅威が増している。もしも、イスラエルがイランに対して先制攻撃を仕掛ければ、戦火は一挙に中東に広がる。米国の集中力を削ぎたいロシアは、イスラエルの攻撃を誘発する狙いで、イランに戦闘態勢を促す可能性もある。中東の緊張激化は米国の力を分散させるので、中国に有利になる。
その中国は、と言えば、米国が制裁対象にした衛星企業が、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」にウクライナの衛星画像を提供していたことが明らかになった。世界は日一日と、きな臭くなっている。
岸田政権は、外相会合に副大臣を派遣して、「法の支配に基づく国際秩序維持を訴える」という。だが、先のホーリー氏は「守るべきは米国であって、ルールに基づく国際秩序ではない」と断言した。「紙に書いた念仏」を唱えていればすむ局面は、とっくに過ぎた。
思考停止状態の政権に任せていて、日本は大丈夫か。
●禅問答のような国会論戦:反撃能力も盾ですか?  3/3
今月1日に開かれた参議院予算委員会で、新年度予算案の実質的な審議が始まった。ここでは、以下の一点に絞ろう。
立憲民主党の杉尾秀哉・参議院議員が、いわゆる「反撃能力」の保有をめぐり、こう質した。
「これまでは、日本が『盾』で、アメリカが『矛』の役割分担だったが、今回の安全保障関連の3文書で明らかに変わるんですよ。(中略)アメリカと共同で対処するために、これまで持たないとされてきた『矛』の一部を日本が担う。(安保3文書には「変更はない」と書いてあるが)基本的な役割が変わるじゃないですか。」
これに対して、岸田文雄総理大臣がこう答弁した。
「今後は、アメリカの打撃力に完全に依存するということではなくなり、反撃能力の運用についても、他の個別の作戦分野と同様に、日米が協力して対処していく。このようになることは想定されます。反撃能力は、あくまでも国民の命や暮らしを守るためのものであり、あえて申し上げれば、『盾』のための能力であると認識しております。」
上記引用部分で、読者の理解に供するため、「(安保3文書には「変わらない」と書いてあるが)」と補ったが、正確を期すべく、いわゆる安保3文書の一つである「国家安全保障戦略」の該当部分を引こう。
「日米の基本的な役割分担は今後も変更はないが、我が国が反撃能力を保有することに伴い、弾道ミサイル等の対処と同様に、日米が協力して対処していくこととする」
このとおり、岸田総理の答弁は、「国家安全保障戦略」の記述と、なんら矛盾しない。矛盾はしないが、同時に、素朴な疑問も禁じ得ない。矛と盾という「基本的な役割分担は今後も変更はない」が、今後は反撃能力の運用について「日米が協力して対処していく」…。
悪い意味での禅問答〞のようにも聞こえる。政府としては、どこまでを「基本的な役割分担」とするか、という線引きの問題なのかもしれないが、本当にそれでよいのか。
日米が協力して(「弾道ミサイル等の対処」や)「反撃能力の運用」に当たることを、言わば例外〞扱いし、「日米の基本的な役割分担は今後も変更はない」と言い張る姿は、どう見ても美しくない。いっそ正直に「今後は自衛隊が『矛』の役割を担う場面もあり得る」とでも答弁しては、どうか。
さらなる問題は後段の部分である。「反撃能力は、あくまでも国民の命や暮らしを守るためのものであり、あえて申し上げれば、『盾』のための能力」ときた。
ただの戯言なら、「座布団一枚」とでも言いたいところだが、この場は大喜利の舞台ではない。国権の最高機関たる国会、それも予算委員会での質疑である。
その場にふさわしく、真面目に議論すれば、どう贔屓目に聞いても、詭弁の類ではないか。いくら何でも、これはあるまい。これでは、「矛盾」という言葉を生んだ「韓非子」の故事も成立しない。
少なくとも、私はそう感じたが、どうやら私は少数派らしい。翌日の朝刊をみても、主要メディアが以上の発言を咎めた形跡がない。
質疑の中で、杉尾議員が「(敵基地攻撃能力に積極的になったのは)総裁選に勝つためか」などの邪推を重ねたから、さすがに進歩派メディアも引いたということなのだろうか。
もはや事情を詮索する気も起きないが、こうは言えよう。こんな答弁で許されるなら、ICBM(大陸間弾道ミサイル)も、長距離戦略爆撃機も、攻撃型空母も、みな「国民の命や暮らしを守るための盾」である。
こうも言えよう。こんな質疑で許されるなら、G20外相会合を抱えた多忙な外務大臣が出席する必要など、どこにもあるまい。げんに、この日はたった53秒しか答弁しなかった。
この日の予算委員会で、日本国は計り知れないものを失った。責任は与野党ともにある。
●コロナ対策、国費102兆円で論戦 岸田首相は効果力説、再検証に否定的 3/3
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けの「5類」引き下げを5月に控え、2日の参院予算委員会では過去3年間に投じられた総額102兆円の国費の効果を巡り論戦が交わされた。日本維新の会の猪瀬直樹氏は「無駄だったのではないか」と追及。岸田文雄首相は「必要だった」と力説したが、再検証には否定的な考えを示した。
「年間の国家予算に匹敵する。どんな効果があったのか」。猪瀬氏が巨額予算に疑問を投げ掛けると、首相は「人口当たりの感染者数は他のG7(先進7カ国)諸国と比べて低い水準で抑えられ、国内総生産(GDP)や企業業績は既にコロナ前の水準を回復した」と説明した。
猪瀬氏が最初に矛先を向けたのは地方創生臨時交付金だ。「配られた15兆円は竹下内閣の交付金(ふるさと創生事業)の50倍以上。イカのモニュメントを作った自治体もあった。無駄遣いの動機を与えたのではないか」と批判。首相は「(竹下内閣とは)性格が全く異なる。何でも使えるものでなく、メニューが定められている」と反論した。
猪瀬氏は医療機関向けの補助金も「巨額さが際立つ」とやり玉に挙げた。1日1床当たり7万4000〜43万6000円の病床確保料を得ながら、医師や看護師が確保できないとして患者受け入れを断っていた医療機関もあったと指摘。「幽霊病床は詐欺みたいだ」と問題視した。
加藤勝信厚生労働相は「不適切な交付があれば返還を求めていきたい」と応じた。
政府はコロナワクチンに関し、米モデルナ製で約4610万回分、英アストラゼネカ製で1350万回分が廃棄されたことも明らかにした。首相は「世界各国で獲得競争が継続する中、先手先手の取り組みは必要だった」と理解を求めた。
コロナ対策検証を巡っては、政府の有識者会議が昨年6月に報告書をまとめた。しかし、活動期間はわずか1カ月余り。安倍晋三元首相や菅義偉前首相への聞き取りも行わなかった。報告書は「今後とも多面的な検証が行われることを求めたい」と記した。
猪瀬氏は「史上空前のコストを費やした対策の検証が後世のために重要だ」と述べ、第三者機関を設けて再検証するよう要求。首相は検証は実施済みだとした上で、「まだコロナとの戦いは終わっていない。不断の検証を行いながら取り組みを次に進める」と明言を避けた。
●2日の参院予算委論戦のポイント 3/3
2日の参院予算委員会論戦のポイントは次の通り。
【防衛力強化】
小池晃氏(共産)全国に弾薬庫をいつまでに、どれだけつくるのか。
浜田靖一防衛相 2027年度までに約70棟、10年後までに約60棟の整備を目標としている。
小池氏 真っ先に他国の攻撃対象になる。
岸田文雄首相 関係法令に基づいて周辺施設と十分な距離を確保するなど安全面に配慮する。自衛隊の抑止力、対処力を向上させ、武力攻撃の可能性を低下させる。
小池氏 反撃能力(敵基地攻撃能力)を持てば専守防衛から逸脱する。
首相 平和国家としての歩みは変わらない。間違っても憲法や国際法、国内法の範囲を超えることはない。装備を用意するのは大事だが、問題はどう運用するかだ。
小池氏 長射程ミサイルを沖縄県・石垣島に配備するか。
浜田防衛相 具体的な配備先は現時点では決まっていない。
山本太郎氏(れいわ)日本と中国が戦争になった場合の経済的打撃についてシミュレーションしているか。
首相 外交を通じて東アジアやインド太平洋地域の平和や安定に努力するのが基本だ。努力にもかかわらず関係が破綻した場合の仮定の話について、申し上げる材料はない。
【物価高対策】
西田実仁氏(公明)追加対策を。
首相 ロシアによるウクライナ侵略など不透明な条件がある。状況をしっかり見据え、ちゅうちょなく機動的に対応していきたい。
西田氏 下請け業者の価格転嫁への取り組みは。
首相 中小企業における賃上げ実現へ向け、3月は正念場だ。政府全体で価格転嫁の促進に向けて全力で取り組む。
【所得倍増】
舟山康江氏(国民)資産所得倍増を強調するが、所得倍増は。
首相 中間層の所得拡大のため、賃上げと併せた「資産所得倍増プラン」によって家計の金融資産所得を拡大することが大事だ。
【G20外相会合】
音喜多駿氏(維新)林芳正外相が20カ国・地域(G20)外相会合を欠席した。国益を損なう。
首相 林氏出席の可能性を追求したが、国会を含む国内日程などを総合的に勘案し、山田賢司外務副大臣の出席が適切と判断した。
音喜多氏 1日の参院予算委で林外相の答弁は1回、時間は53秒だった。与野党とも考え方を変える必要がある。
林氏 国会対応と海外出張を含めた外交活動はともに重要だ。国会の理解を得つつ、積極的な外交活動を展開したい。
【性的少数者】
竹内真二氏(公明)自殺防止対策が急務だ。
加藤勝信厚生労働相 自治体で地域自殺対策計画の見直しを進めてもらい、しっかりと対処していただく。誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現に向け、総合的な対策を進めたい。
【行政指導】
浜田聡氏(N党)NHKが郵便法に違反し、国の許可を得ていない事業者に信書の送付を委託した問題で、総務省は行政指導だけで済ませていいのか。
松本剛明総務相 NHKに対して行政指導し、法令順守の徹底も求めた。やるべきことを適切に行っている。
●半導体「国策しくじり物語」から学ぶ4つの教訓  3/3
国策としての半導体産業支援が本格化する今だからこそ知っておくべき過去がある。国家プロジェクトの「失敗の歴史」だ。
半導体という民間主体の一産業に、巨額の補助金を付ける動きが続いている。日本政府が誘致した台湾・TSMCの熊本工場には最大4760億円、最先端半導体の国産化を目指す新会社・Rapidus(ラピダス)には700億円が政府から支給される。
過去を振り返れば、国会の予算承認を得た事業である国家プロジェクトなどの形で、2000年代も半導体産業復興のために国費が投入されてきた。2001〜2003年度の「HALCA(はるか)」には約17億円、2001〜2010年度の「MIRAI(みらい)」には約465億円、2002〜2005年度の「AS☆PLA(アスプラ)」には315億円が費やされた。
だが、日本の半導体産業の凋落を止めることはできなかった。この20年の日本の半導体支援政策は失敗に終わったといってもいい。その原因は何にあったのか。関係者の証言から探ってみた。
1 顧客が求めるものを見出せなかった
「事業が成功するには、『いかにうまく作るか』の『How to make』と市場のニーズをつかんで『何を作るか』の『What to make』の2つが大事。ところが日本はハウトゥー志向で、市場が何を求めているのかという用途を見出せていなかった」
そう指摘するのは『日本半導体 復権への道』などの著書がある牧本次生氏だ。1990年代に日立製作所で半導体事業部長や専務などを歴任。「日米半導体協定」の終結交渉にも携わった。
日本が半導体のシェアを大きく伸ばした1980年代。半導体の需要の中心にあった最終製品は家電やAV機器であり、その世界シェアを握っていたのは日本の総合電機メーカーだった。総合電機メーカーの一部門であることが多かった半導体事業部も、歩みを合わせるように成長してきた。勢いに乗った日本の半導体は、世界市場で5割近くのシェアを握った。
ところが、日米の貿易摩擦を受けて1986年に日米半導体協定が締結。世界での存在感は徐々に低下した。協定は1996年に終結するが、半導体産業の成長を牽引する最終製品は家電などからパソコン、さらにはスマートフォンといった情報機器に移る。
1990年代に入ると、パソコン向けの半導体の需要が急増。1996年のパソコンショップ内では、インターネット体験コーナーが設けられていた(撮影:梅谷秀司)
この過程で日本の電機メーカーはこれら最終製品のシェアを落とし、主導権はアメリカに移った。変わりゆく最終製品に合わせた半導体の開発も行えなくなった。
「出身企業の協議や利益から発想が始まっていたが、本当はその先にいる『顧客が何を求めているか』から発想を始めないといけなかった」。半導体材料大手のJSRで社長を務めた経験があり、現在は経済同友会の副代表幹事である小柴満信氏も、牧本氏と同様の考えだ。
国の支援を得つつ研究開発や製造ライン構築を目指すプロジェクトでは、複数の半導体メーカーが集まってコンソーシアム(共同事業体)を形成するケースが少なくない。だがコンソーシアムは、「参加企業出身者の寄せ集め」(小柴氏)にどうしてもなる。そのため、当事者間の利害調整に力が割かれ、顧客視点の発想には至らないというわけだ。
2 各社が一枚岩になれなかった
経済産業省の外郭団体である機械振興協会経済研究所で、半導体業界を長年見てきたのは首席研究員の井上弘基氏。井上氏は競合同士が手を組むことの難しさを述べる。
「当時の日本の半導体大手は競い合っていたので、全体で最も効率的なものを研究しようという気はなかった」(井上氏)。トランジスタの構成要素のうちほんの一部の要素を突き詰めるといった研究が行われ、半ば意図的に全体で最適な開発が行われてこなかったという。
2002〜2005年度に行われた国家プロジェクトの「AS☆PLA(アスプラ)」。神奈川県の相模原にあるNECの事業所内に、日本のメーカーを集めたファウンドリー(製造受託専業)を建てる構想だった。
ただ、このファウンドリーで生産を目指した品目は、すでに各社で量産されていた。当時は各社自前で事業がそれなりに成り立っていたこともあり、プロジェクトへの参加は経済産業省とのお付き合いレベルでしかなかった。315億円の国費が投じられたアスプラはその後、空中分解に終わった。
3 十分に生かせなかった研究成果
「セリートは一定の成果を上げたが、知的財産の管理がうまくなかった」
東京工業大学工学院教授の若林整氏が指摘するのは、研究開発における問題点だ。1993年にNECに入社。その後、ソニーでの勤務を経て大学教授に転身した。
セリートとは、国家プロジェクトなどの共同研究時に重要な役割を果たした企業で、正式名称は「半導体先端テクノロジーズ(Selete)」。業界のシンクタンクが日本の半導体戦略を検討した結果、1996年に事業会社の出資を募って生まれた組織だ。2011年にすでに解散している。
セリートは会社という形態を取ったが、利益を得るための組織ではなかった。製造時に必須の技術を共同開発することで、激増する半導体の開発費の負担を軽減することが目的だった。それにもかかわらず、技術開発で生まれた知的財産の使用料などで、研究に参加した各企業が研究成果を使いやすい環境ではなかったという。
そもそも研究内容自体が、事業会社としての方針と直接結びついてはいなかった。「いろんな技術を開発しても、企業が作りたい製品と、外でやっている共同開発がばらばらだった。研究成果がどこかの会社で大きく寄与したという話を聞いたことはない」。とある半導体メーカーのベテラン社員は語る。
「どのやり方が成功か失敗か、一部でもわかれば研究開発の時間短縮につながるため、研究成果そのものはあった。だが、各社がどんどん半導体関連事業をやめていく中では、『次の世代』『次の次の世代』のことをやっても投資対効果がなかった」
そう振り返るのは、あるセリート元社員だ。2000年代以降の国家プロジェクトは、日本の半導体メーカーがどんどん凋落していく中で行われてきた。それゆえの難しさはあっただろう。
事業会社が進めたい製品の方向性に研究開発の成果が直接結びつかず、成果も事業会社であまり活用されないまま研究開発は進む――。その状況を変えることはできなかったのだろうか。
4 方針転換できずにずるずる続く
「国家プロジェクトでは、目標達成のためにいつまでに何をやるといった計画に縛られる。新しい発想が出ても、当初の計画からはみ出すと軌道修正しづらい」
そう語るのは、半導体メーカーでの勤務経験があり、今も自身の研究で国家プロジェクトにかかわりがある大学教授の一人だ。先述した牧本氏も、「政府はアカウンタビリティ(説明責任)を気にするので、用途や方針を変えづらい」と述べる。
予算を変更するハードルも高く、税金を使うので当初定めたゴールに対しての成果を報告しないといけない。ゴールポストを動かすのは難しい。
方針を転換するインセンティブも働きづらかった。各社の戦略と共同開発の内容が直接つながらない中では、研究開発方針を変えようというインセンティブが参加企業には生じにくい。結果、ずるずると研究開発を続け、国家プロジェクトの終了時に記念パーティーを開いておしまい、というのが実情だった。
もちろん、日本の半導体産業が凋落を止められなかった原因は、国家プロジェクトの抱えていた課題だけにあるのではない。だが、半導体産業への支援はもはや国家間競争となっており、日本も改めて支援に踏み込む。そのような今だからこそ、過去の反省を踏まえる必要がある。
●植田・日銀:異次元緩和の修正は必至、金利急上昇リスクも隣り合わせ 3/3
日本銀行の正副総裁の交代で、植田和男氏を総裁とする新体制がスタートする。正直、今回の人事には驚いたが、同じ理学部出身の経済学者の一人として応援したい。植田・日銀に対する市場の関心は「アベノミクス以降、現在まで継続してきた日本の異次元金融緩和がどこに向かうのか」に集まっている。
金融緩和による物価上昇は困難な日本
新体制の動向は日本だけではなく、世界の市場関係者も注目している。関心が集まる最大の理由は、資源価格の高騰などにより、日本でも物価上昇の圧力が高まっており、日銀が異次元金融緩和を転換せざるを得ない状況に追い込まれているためだ。
では、なぜ日銀はこうした状況に陥ったのか。それは、アベノミクスが目指した2%の物価目標が当初から間違っていたからだ。むしろ財政規律を弛緩(しかん)させた悪影響の方が大きいが、そもそも、日本の物価低迷は構造的な要因によるものであり、金融政策のみで2%の物価目標を達成することは不可能に近かった。
これは、過去のインフレ率(消費者物価指数=CPI)を見れば、確認できる。例えば、1989年には消費税の導入で物価が1.4%ポイントも押し上げられているものの、日本中の景気が過熱したバブル期(1986〜89年)においても、年平均インフレ率は0.6%に過ぎなかった。また、90、91年は湾岸戦争、97年は消費税増税、2008年は原油価格高騰の影響があり、これらの要因を除くと、異次元緩和を開始した2013年までにおいて、平時にインフレ率が2%を超えたのは1985年が最後であった。
では、日本の物価で何が構造的な違いなのか。それは、米国と日本の物価上昇率の違いを比較すると理解できる。例えば、「財(モノ)全体」と「サービス全体」を区別して、2019年8月の日米の物価上昇率の中身を比較してみると、財(モノ)全体の上昇率は、日本0.3%、米国0.2%と大差がない。
だが、財(モノ)全体とサービス全体を考慮した物価上昇率(CPI総合)になると様相は変わり、米国の1.7%に対し、日本は0.3%に過ぎない。さらに「CPI総合」から、食品やエネルギーの影響を除いた、「総合(除く食品・エネルギー)」の上昇率でも、米国(2.4%)の方が日本(0.6%)よりも高い。
このような格差が発生するのは、サービス全体の物価上昇率では、米国の方が日本よりも高いためだ。実際、米国は2.7%もあるが、日本は0.2%にとどまる。特に日米差が大きい分野は「上下水道」「保育所保育料」「介護料」「大学授業料」「病院サービス」などであり、米国と異なって日本ではこれらの領域は政府の価格統制が強い。
この事実から分かることは、わが国の物価低迷は金融政策の問題というよりも、政府の価格統制に伴う構造的な要因によるものということだ。
ウクライナ戦争で一変
だが、2022年4月以降、日銀の金融政策を取り巻く環境は一変した。この理由は2つある。第1にロシアによるウクライナ侵攻の影響が挙げられる。20年初頭から世界的な流行となった新型コロナウイルスの感染拡大もワクチン接種が進み、世界経済が再び動き始めていた22年初頭、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。
ウクライナ侵攻は、「冷戦終結以降、このような戦争はない」と思い込んでいた世界に大きな衝撃を与え、資源価格や小麦・大豆等の穀物価格が高騰した。これが、欧米などのほか、日本も直撃した。米国ほどではないが、急激な円安や資源高の影響で日本もそれなりの物価上昇になってきた。
実際、22年12月のCPI総合は前年同月比4.0%の伸びとなり、コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)も16カ月連続の上昇、前年同月比4.0%の高い伸びとなった。このような高い伸びは、第2次石油危機の影響で高い伸びが継続していた1981年12月の4.0%以来だ。
利回り曲線の歪み
金融政策を巡る環境激変の第2の要因が、日銀が長期金利(10年物国債利回り)と短期金利を一定水準に誘導する「イールドカーブ(利回り曲線)・コントロール」(YCC)のほころびだ。2016年9月、日銀は「量的・質的金融緩和」(異次元緩和)を軌道修正し、YCCを導入した。いわゆる「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の始まりだが、アベノミクスの目標の一つであるデフレ脱却を実現するため、インフレ率が安定的に2%を超えるまで拡張的な金融政策を継続する姿勢を崩さなかった。
だが、既にインフレ率は2%を超え、急激な円安や国内物価の上昇圧力が増すなか、利回り曲線の歪み(ゆがみ)が顕著になってきた。金利は通常、年限が長くなるほど高くなるので、右肩上がりの曲線となる。物価上昇で全般に金利上昇の圧力が増すなか、日銀は金利誘導対象の10年物国債を大量に買い取り、その利回りを上限の0.25%以下にとどめようとした。その結果、利回り曲線が歪み、残存期間8、9年の国債利回りが10年債を上回る状況となっていた。
   イールドカーブ(利回り曲線)の形状
これは異常な状況であり、このような歪みが継続すれば、市場機能が壊れていき、適正な金利水準が分からなくなる。このため、2022年末の金融政策決定会合(12月19、20日)で突如、日銀は金融政策の微修正を行い、従来は0.25%程度に誘導してきた長期金利(10年物国債利回り)の変動許容幅を0.5%に拡大する方針を示した。
これは実質的な利上げで、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げたことを意味するが、現在も利回り曲線は歪んだままだ(図参照)。物価上昇に伴う金利の上昇圧力は収まっていないためだが、むしろ深刻なのは、長期金利を上限の0.5%以下に抑制するため、現在も日銀が国債を大量に買い取る状況に追い込まれていることだ。
その結果、22年12月末時点で日銀の国債保有額は過去最高を更新し、564兆円に拡大している。日銀の保有国債額が引き続き増加していけば、それは金融緩和の継続シグナルになり、物価上昇や円安の圧力を一層高める。物価が上昇すると、長期金利にも上昇圧力が掛かるが、これをYCCで抑制しようとすると、利回り曲線の歪みは増す。
また、長期金利の抑制には、日銀がさらに長期国債を買い取る必要があるが、それは日銀の国債保有額を一層増加させる。この「負のメカニズム」を遮断するためには、金融政策を正常化し、長期金利水準の決定を徐々に市場メカニズムに委ねるしかないが、日本財政との関係では大きなリスクも抱えている。
国庫の利払い費増のリスクも
1000兆円を超える巨額の国債発行残高が存在するなか、政府が大規模な国債発行を行っても、現在のところ、国債金利は大幅に上昇せず、財政問題は顕在化していない。この理由は、YCCにより、日銀が長期金利を低位に誘導しているためだ。
だが、長期金利の決定メカニズムを徐々に市場に委ね、国債金利も上昇していくと、国債の利払い費も増加していく。利払い費も数兆円程度の増加なら財政的に対応できようが、税収が伸び悩むなか、利払い費の増加分が10兆円を超えてくると話が違ってくる。
金融政策の正常化が成功し、長期金利が1%程度で収束すればよい。他方、日銀が金利の正常化を試みたものの、予想よりも金利上昇の圧力が高く、正常化の制御に失敗してしまい、長期金利が3%超に跳ね上がると、財政は危機的な状態に陥る可能性もある。
それならば、「今後も日銀が長期金利を抑制し続ければよい」という意見もあるかもしれないが、未来永劫(えいごう)、それができるとは限らない。政治は一時的に経済(市場メカニズム)を歪めることができるが、最後は経済が政治を打ち負かす可能性が高い。必ずほころびが出てくる。
また、政府と日銀を一体で考えたとき、日銀が国債を保有していても、日銀と政府の統合債務のコストは基本的に変わらない。現在は金利がおおむねゼロのため負債コストが顕在化していないが、デフレを脱却したとき、財政赤字をコストゼロでファイナンス可能な状況は完全に終了し、巨額な債務コストが再び顕在化するという視点も重要だろう。物価上昇の圧力が高まるなか、重責だが、金融政策の転換という舵取りの成否は日銀新体制の手腕に掛かっている。
●新日銀執行部の下で円安は止まるのか?  3/3
衆参両院における所信聴聞が終わり、岸田内閣が提示した次期日銀総裁、副総裁の人事案は近く国会の同意を得る見込みとなった。新執行部の下、日銀が直ぐに金融政策の変更を行わない可能性が高まったことで、為替市場では円安・ドル高が進みつつある。米国においてFRBによる早期の利下げの観測が後退したこともあり、日米金利差から円安の流れが続くと考える。
日銀次期執行部:大規模緩和維持の方針を示す
衆参両院の所信聴聞において、次期総裁候補の植田和男共立女子大学教授は、当面、歴史的な金融緩和を継続する方針を示した。イールドカーブ・コントロール(YCC)に関しては負の側面を指摘したものの、実際に見直す場合、長期国債市況へのインパクトが大きいと見込まれる上、利払い費の急増を通じて財政への影響も無視できない。任命権者である岸田文雄首相が6月にも衆議院解散を検討しているとすれば、日銀の新執行部に対して、急速な政策変更による市場激変のリスクを避けることを望むだろう。
一方、1月の消費者物価統計によると、総合指数は前年同月比4.3%、生鮮食品を除くコア指数が同4.2%、生鮮食品とエネルギーを除くベースだと同3.2%上昇した。注目されるのは、特殊要因の影響を強く受けてきたエネルギー、通信を除く項目が、コア消費者物価を2.8%ポイント押し上げたことだ(図表1)。
1月の企業物価は前年同月比9.5%上昇しており、消費者物価上昇率とのギャップは依然として小さくない。これは最終製品への価格転嫁の余地が大きいことを示すため、今後も企業による値上げの動きが続くのではないか。
黒田東彦総裁の下、日銀は、コア消費者物価上昇率が2%を大きく超えても、「我々が目指す物価上昇とは異なっている」(2022年6月17日の記者会見)と説明、イールドカーブ・コントロール付き量的質的緩和を継続してきた。もっとも、FRBが積極的な利上げを行ってきたなか、大きく開いた日米金利差が為替を円安に導き、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力をさらに強めてきた感は否めない。新執行部が政策の変更を見送る場合、日本経済は今後も同様のリスクを抱える可能性が強いのではないか。
日米短期金利差:円からドルへの資金の流れが続く可能性
米国においては、インフレの主役がエネルギーから賃金へシフトした。構造的な人手不足に直面していることから、賃上げ圧力は依然として強い。FRBの利上げは既に峠を越えたとしても、当面、利下げが行われる可能性は小さいだろう。
円/ドル相場は日米の実質短期金利差に連動する傾向がある(図表2)。
両国の物価上昇率が接近する反面、名目短期金利差は拡大したことから、円からドルへのマネーの流れが続く見込みだ。結果として円安局面が継続、日銀が目指す物価上昇とは異なるタイプのインフレが続くのではないか。
仮に新日銀執行部の下で出口戦略が採られるとしても、まずはYCCの見直しが軸であり、無担保コール翌日物金利の引き上げには相当の時間を要するだろう。つまり、日本の実質短期金利が米国を大きく下回る状態が相当期間に亘って継続するものと見られる。そうしたなか、ドルの1か月定期預金に関し年利5%の利率を提示する邦銀も見られるようになった。為替手数料を差し引いても4%程度の利回りとなるため、Ms. Watanabeにとっては魅力的と言える。結局、円安の流れは止まらない可能性が強まっているのではないか。
●5類感染症へ円滑に移行するための経過措置を求める共同声明がまとまる 3/3
政府が新型コロナウイルス感染症の位置付けを本年5月8日より、現在の2類相当から5類に変更する方針を決定したことを受けて、「新型コロナウイルス感染症等に関する全国知事会と日本医師会との意見交換会」が2月8日、WEB会議で開催され、医療費の公費負担や医療機関への財政措置の継続などの経過措置を求める共同声明を取りまとめた。
冒頭のあいさつで平井伸治全国知事会長(鳥取県知事/新型コロナウイルス緊急対策本部長)は、「オミクロン株に置き換わったことで感染状況や病状が変化しており、その特性に応じた対策に切り替えていくための出口戦略を示すよう政府に求めてきた」と強調。今回の5類への変更を評価した上で、自治体の財政能力に差があることを憂慮(ゆうりょ)し、病床確保や院内感染防御対策等に資する財政措置の堅持が必要であるとした。
松本吉郎会長は、岸田文雄内閣総理大臣が新型コロナを5類感染症とする方向で検討を進めるよう指示する前日に岸田総理と面会し、感染症法上の類型の見直しは、医療提供体制の状況を慎重に踏まえつつ、段階的な対応を経て、ソフトランディングとなるよう求めたことを説明。
更に、(1)高額な治療薬も含め、できるだけ患者に負担の掛からない形にすること、(2)類型変更後も、これまでと同様の対応を取らなければならない医療・介護の現場への支援の継続、(3)入院調整において、医療現場と患者に負担が掛からないようにするための行政の支援、(4)感染拡大した場合に備え、臨時の検査センターや医療施設の継続の検討―も要望したとし、「ウィズコロナ時代の医療提供体制を全国知事会と共に築いていきたい」と述べた。
意見交換
意見交換では、まず、内堀雅雄福島県知事(同本部長代行/同副本部長/社会保障常任委員会委員長)が、共同声明案「新型コロナウイルス感染症の5類感染症への変更について」を読み上げた。
同案では、1段階的な措置の具体的な内容及び完全移行までのロードマップを早期に示す2入院患者の受け入れ体制が整うまでは、急激に減らすことなく、病床確保料等の支援を継続する3受診控えにつながらないよう、医療費について一定の公費負担を継続する4地方自治体の財政状況によって、医療機関の感染防御対策や病床確保等に支障が生じないよう、現在の財政措置を継続する―ことなど、激変を緩和するための適切な経過措置を求めている。
茂松茂人副会長は、コロナ禍で7万人もの死者が生じたことは重く受け止めるべきだとし、感染防御対策と共に救急搬送の困難事例を減らす取り組みも重要であると強調。入院調整における行政の力は非常に大きいとして、引き続きの協力を求めた。
角田徹副会長は、インフルエンザの抗原定性検査の迅速キットの使用状況のデータから、既にコロナ禍以前にインフルエンザに対応していた医療機関はコロナ患者も受け入れているとして、5類になることでそれらの医療機関が更に疲弊することを懸念。
釜萢敏常任理事は、新たにコロナに対応する医療機関を増やす努力をしていくとする一方、既に外来や入院でコロナ診療に携わっている医療機関が離脱してしまわないよう、各知事に連携を強めることを要請した。
総括を行った松本会長は、これまでの医療提供体制を崩さないよう、政府に本共同声明を届けるとし、医療現場と行政が連携して医療を守っていくべきだと強調。平井全国知事会長も「これからソフトランディングしていく上で一番重要なのは、最後の砦(とりで)とも言える医療提供体制を確保していくための環境づくりだ」と述べ、健康や命が守られながら移行が進み、経済や社会の活力が回復する道筋を共につくっていきたいとした。
●出産したら奨学金の返済減免…自民党 少子化対策に異論噴出 3/3
出産を条件に奨学金の返済を減免するとした、自民党の「教育・人材力強化調査会」が固めた提言に、嫌悪を示す声が噴出している。
報道によれば、その柱となるのは、学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子どもをもうけた場合、返済額を減免するというプラン。20〜30代前半の子育て時期に返済時期が重なる奨学金の返済額を減らすことで、子どもの教育にお金を掛けられるようにするのが狙いだという。
この提言だが、政府が3月末をめどにまとめる「異次元の少子化対策」の「たたき台」への反映を目指しているという。
奨学金返済に窮する若者の実態を逆手に取る卑劣ぶり
“異次元の少子化対策”を発表した今年の年頭会見では、「若い世代から『ようやく政府が本気になった』と、思って頂ける構造を実現すべく、大胆に検討を進めてもらいます」と、ドヤ顔で話していた岸田首相。
今回取沙汰されているプランは、その具体案として浮上してきたものなのだが、あたかも奨学金返済減免をエサに女性に生殖を促すといったその発想に、SNS上からは「キモイ」「グロテスク」といった、生理的な嫌悪感を示す反応が噴出する事態となっているところだ。
「グロテスクにも程がある。奨学金という借金を背負わせた若い女性に出産を強いるのか。しかも免除ではなく減免?どこまでみみっちくなれるか何かと競ってるの?」
「学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子どもをもうけた場合、返済額を減免することなどが柱。キッッッッッッッモ!!!!!数々の地獄ニュースの中でも群を抜く気持ち悪さ!!他の追随を許さないグロさ!!!出産したら奨学金「減免」してやるよってさ("免除"じゃなく"減免"!)グロい上にケチ!外道!」
「あのさぁ……「奨学金」が「学生ローン」の言い換えに過ぎないこと自体大問題なのに、その減免に生殖を絡めるの本当にグロテスクの極みだよ。」
そもそも奨学金といえば、最近では日本の大学生の約半数が受給しているという話もあるが、アメリカなど海外では返済不要の“給付型”が多いのに対し、日本では卒業後に返済しなければならない“貸付型”が主流となっているのはご存知の通り。
結果、そんな学生の大半は数百万の借金を背負った形で社会に出ることになるのだが、近年は経済の低迷で収入が不安定化していることもあり、返済に窮するケースが増加。昨年には、400万円という奨学金の“負債”を抱えていた新社会人の20代女性が、窮した末にいわゆる投資詐欺に引っかかり、150万円もの借金をさらに抱えたことを苦に、自殺してしまったという痛ましい話もあった。
教育機会の均等には寄与しているとの評価もある反面で、文科省官僚たちの天下り先確保が目的で、各地に増殖させた大学を維持させるためにあるとも指摘される日本の貸付型奨学金は、一部からは“官製学生ローン”と呼ばれることも。
国はそんな奨学金が抱える問題をほぼ放置しているどころか、多くの若者が返済に窮する状況を逆手に取って出生率上昇に利用しようとしているわけで、それだけに「卑劣なマッチポンプ」などとの批判の声が殺到するのも当然といったところだろう。
ラストチャンス迫る日本の少子化問題
つい先日には、2022年における国内の出生数が前年比5.1%減の79万9,728人と、統計を取り始めた1899年以来、初めて80万人割れとなったと報じられるなど、少子化問題はすでに危険水域に達しているといった状況。
さらに、このところ大いに話題になっているのが、少子化対策は“2025年頃までがラストチャンス”であるという見方。というのも、先述のように出生数が長きに渡って減り続けているなかで、2025年頃からは20代の人口が急激に少なくなることがわかっており、それらの世代が低い出生率のままだと、今後さらに急激に人口減少が進むと見込まれているのだ。
ちなみに2021年の日本における出生率は1.3だが、日本の人口を9,000万人弱で維持するためには、出生率を2030年に1.8、2040年には2.07まであげる必要があるとの試算が。
ただ、最近BIGLOBEが行った「子育てに関するZ世代の意識調査」によれば、いわゆるZ世代男女の45.7%が「将来、子どもがほしくない」と答えたとのこと。その理由はお金の問題ばかりではなく、子育てに自信がない、自分の自由が無くなるといったものもあるようだが、ともかくこの状況では出生率アップなど到底望めないというのは明白だろう。
そんな危機的状況なだけに、岸田首相がぶち上げた“異次元の少子化対策”に関しては、その具体的な内容が少なからず注目されていたのだが、その想像のはるか上を行く悪い意味での異次元ぶりに、怒りとともに失望感も広がっているといった状況のようだ。
ツイッターの反応
「自民党はよくもまあ次々と悍ましい政策を思いつくものだな。奨学金という名の借金が無いと学べないような環境を作っておきながら借金がイヤなら子どもを産めと。卑劣なマッチポンプなんだよ。」
「なぜ素直に教育費軽減できないのか。奨学金人質にして子ども産めは流石に酷い。返済の為にとりあえず出産ってなりませんか?不妊症の人は?赤ちゃん増やせばそれで良しではない。そこから育てないと。そこを援助しないと。順序が変 出産条件に奨学金の返済減免提言へ」
「「出産条件に奨学金の返済減免」、6秒黙って深呼吸しても怒りが収まらない。借金しなきゃ受けられない高等教育の金まわり制度そのものをなんとかするべきではないですか。」
「「子どもを産んだら奨学金返済額を減免」というのけぞるような提言が自民党調査会で固められたようなので、またシェアしておく。学ぶ権利を「産め」という圧と結びつけるのか。「子どもがいなければ負担はそのまま」なんて、「産まないペナルティー」のよう。」
「「子どもを作ったら奨学金減免」のやつ、よく考えなくてもキモイけど、進学した人しか対象にならないので「進学する能力あった人が子どもを作ったら奨学金減免」という意味もあるんだろうな、と思う。」
「「でも実際、子どもがいたらお金がかかるのは事実なんだから奨学金減免になるのは助かることじゃないか」と言う方もチラチラいらっしゃるが、違うんだ、それなら『親の奨学金』じゃなくて『世帯関係なく産まれた子にかかる費用』全体にやるべきなんよ やってることが政策でなく明確な差別になってまう」
●「マンションを買えば貴族になれる」はウソだった…韓国社会の末路 3/3
韓国で民間の債務問題が深刻化している。韓国生まれの作家シンシアリーさんは「韓国では『借金は資産である』という考えが浸透しており、無理なローンを組んでまでマンションを購入する人が多い。当然、借金額は膨れ上がり、年収の大部分を借金返済に回さなければいけない世帯が増えている」という――。
借金で支えられてきた“勘違い経済”が限界に
韓国で、各種「債務」問題が、国家そのもののリスクとして警告されています。いえ、詳しくは、「10年以上前から警告されてきたけど、特に強く警告されるようになった」という、笑えない状態です。結論から先に書きましょうか。韓国の、「借金は資産である」とする勘違い経済が、限界を迎えつつあります。政府債務はまださほど問題になるレベルではありませんが、民間、すなわち経済3大主体である政府・法人・個人のうち、政府以外の「家計(個人)」と「企業(法人)」の借金で支えられてきた経済構造が、悲鳴を上げています。国家の財政が破綻するという意味ではありません。本書は、○月○日に韓国はモラトリウムを宣言するであろう、懺悔せよ、そんな予言書ではありません。サムスン電子など世界的な企業がすぐに潰れるという意味でもないし、数億円の金融資産を持っている人たちがいますぐホームレスになるという意味でもありません。
「マンションを買えば貴族に」を信じた若者たち
ただ、ここで述べたいのは、借金経済はもう限界に来ていること、そして、これからそれが表向きに回復するように見えても、あまりにも多くの副作用を深く、そして長く残すことになるだろう、という趣旨です。「深く」と思うのは、青年層、20代、30代の人たちが、いまから崩れていくであろう借金経済の「悪い意味での主役」になってしまったからです。一部の青年たちは「マンションを買えば貴族になれる」という儚い夢に捉えられ、数十年かけても返せるかどうかわからない借金を背負いました。おまけにマンション価格は絶賛下落中です。それすらかなわない青年たちは、単に住むところ、家を借りることすらできなくなりました。そのためのお金もローンを組んで銀行から借りなければならない、妙な借金システムのためです。20代の借金は1年間で40%以上増加し、自殺率は大幅に跳ね上がり、合計出生率は0.7人台に入りました。韓国の20代の40%は生活を親に依存しています。2021年基準で15歳〜29歳の約21%はニート(職業無し、求職もせず)です。
年収の40%が飛んでいくだけでも大変だが…
全般的に見て、韓国の人たちは年収のどれぐらいを返済に使っているのでしょうか。それは、DSR(Debt Service Ratio)、「総負債元利金償還率」についてのデータから垣間見ることができます。この場合のDSRとは、1年間返済しなければならない元金と利子が、年収において占める割合のことです。年収1億ウォン(1ウォン=約0.1円)の人が、元利金の返済に1年間5000万ウォンを使うなら、DSRは50%になります。税金などを考えると、給料の半分以上が元利金の返済で「飛んでいく」という意味ですから、普通は40%超えるだけでも生活にかなり響くことになります。2022年11月9日、韓国で金融機関の監査や金融消費者保護などを担当する「金融監督院」が、ユン・チャンヒョン「国民の力」(韓国の与党)議員室に提出した資料によると、「平均金利が7%になった場合」、このDSRが70%を超える人が、190万人になります。韓国の経済活動人口は約2800万人、総家口(世帯)数は約2100万世帯です。
ローン金利が5.5%→7%に上がる予測
韓国の家計ローンの平均金利は、2022年末時点で、集計が可能なところだけですが(一部の貸付業者、違法金融業者の分は含まれません)、約5.5%とされています。当時、住宅担保ローンの最大金利が、一部で、最大で、すなわちローンの金利が高く設定される場合に7%を超えるところが多くなっていたので(2022年12月15日に一部銀行の住宅担保ローン金利は最大で7.7%まで上がり、年末には8%台の予想もいろいろ出てくるようになりました)、複数のメディアが「このまま金利引き上げが続くと、2023年に平均金利も7%になるのではないか」との予測を出していました。そこで、金融監督院の資料をもとに、「もし、家計債務の平均金利が7%になったら、どうなるのか」を調べてみましたが、その結果、「年収から、債務を返済する分と、税金など必須的に使う分を除けば、最低限の生活費も残らない」人が、190万人になることが分かりました。
354万世帯が年収の98%を借金返済に充てている
統計データは違いますが、もう少し分かりやすくまとめてある記事(「ハンギョレ新聞」/2022年5月9日)もあります。韓国金融研究院という機関が、韓国の赤字世帯354万世帯について調べた結果についての記事です。ここでいう「赤字世帯」というのは、実際の生活で赤字になるという意味ではなく、「本当に必要な消費だけをしても、所得が足りない」という意味になります。総世帯数が2050万世帯ですから、数で見ても結構多いですが、さらに気になるのは、彼ら354万世帯の平均年間所得が、4600万ウォンであることです。繰り返しになりますが、これは生活において使わなければならないもの、たとえば税金とか、最低限の生活費とか、そして借金の返済を考えての「赤字」ですので、年4600万ウォンだと、赤字生活は十分回避できるはずなのに、どうしてなのか。それは、家計債務の返済に苦しんでいるからです。彼ら354万世帯の年間平均元利金返済額は4500万ウォン。先の平均4600万ウォンで考えると、年間所得の98%が借金の返済で飛んでいくわけです。記事は、「借金が、赤字の最大の原因になっている」「金融負債の規模が所得に比べ大きすぎることが、家計の赤字に影響を及ぼしている」と述べています。実際、金融負債が所得の5倍を超える世帯も68万世帯確認された、とも。
米国の「サブプライムローン事態」前夜
まだ私が韓国で歯科医師だった頃、米国で「サブプライムローン事態」が問題視されるようになって、それでもまだ目に見えるほどの被害が起きる前の頃だと記憶しています。米国の「一般人」たちが住宅関連で大騒ぎだという趣旨のテレビ番組で、米国のある人が、30代ぐらいに見えましたが、自宅の壁を自分で増築しながら、こんな趣旨を話しました。「こちらの壁を○ぐらい増築すると、ぼくの家の評価価格は○ドル上がるんだ。あと、あそこの車庫を○だけ増築すると、○ドル上がるんだよ」 その人は、満面の笑みを浮かべていました。家の○○を○○にすれば、○ぐらい価格が上がる、まるで「規格化された通貨システム」もどきのようになった、そんな感じでした。家の構造などで価格上昇の原因になる何かの要素があるという側面まで否定するつもりはありませんが、さすがにこれはどうかな、と。言い方は悪いけど、素人さ丸出しの人がいじりまくった家を、高い価格で買いたいとは思えませんでした。本当は何の知識も腕もない人たちが、適当な情報に踊らされているだけではないのか、そんな気もしました。
ケネディ大統領の父親が投資に成功したワケ
1920年代、ジョセフ・P・ケネディさんは、ウォール・ストリートで投資に成功、相応の富と名誉を手に入れました。のちに政界に進出し、息子のジョンさんがアメリカの大統領になります。そのケネディさんがある日、ウォール・ストリートで、靴磨きの少年に靴を磨いてもらっていたときのことです。どうみても株や金融と関係なさそうなその靴磨き少年が、「ウォール・ストリート・ジャーナル」を愛読していて、ケネディ氏に「○社の株は絶対買ったほうがいいよ」と勧めました。さすがにケネディ氏がどんな人かは知らなかったでしょうけど、少年のこのような話に、ケネディ氏は直感しました。「ああ、株の大暴落が近い」と。そして、持っていた株を処分し、それから起きた経済大恐慌による被害を最小化できました。私が見た番組の人も、ケネディ氏に株を勧めた靴磨き少年と似たような境遇だったかもしれません。その番組の数年後、サブプライムローン事態が起き、多くの人たちの人生が、次々と台無しにされていきました。あのとき家の壁を増築していた人も、この靴磨き少年のような人たちではなかっただろうか、と私は思っています。
借金地獄に苦しんでいる「サントゥ組」
そして、何か「事態」が起きたとき、真っ先に被害を受け、崩壊していくのが、彼らです。韓国では、彼らのことを「サントゥ(ちょんまげのようなもの)を掴んでしまった」とも言います。何かの価値が上がると話題になって、その市場にあとから入ってきて、その価値が頂点に達したときに買ってしまう人たち。先にその市場に入ってきた人たちが、価格が下がる前に「処分」する条件を盛り上げる人たち。バブルが弾けると、真っ先に倒れるのは彼らです。
このDSRで苦しんでいる人たちも、全員ではないにせよ、そんな「サントゥ組」が大勢含まれていることでしょう。これでも、まだデータが記事に載ったのが11月である点を考えると、2022年10月12日の0.5%ポイント引き上げと、11月24日の0.25%ポイント分の引き上げは反映されていません。これから数年の間、このDSRの動きを見れば、サブプライムローン事態へ直行するのか、奇跡的に回避できるのか、大まかには予想できるでしょう。
ちなみに、いまは直行コースです。サブプライムローンのとき、アメリカの可処分所得対比家計債務が130%台でした。韓国の家計債務の場合、すでに2008年に138%を超え、2020年時点で200%を超えました。
●「コオロギ事業に6兆円」 昆虫食めぐり“血税が使われている”と情報拡散 3/3
食料問題の将来的な解決策のひとつとして世界的に広がりを見せている昆虫食をめぐり、「コオロギ事業に6兆円」の予算が税金から投じられているとする情報が拡散している。
これは誤った情報だ。元になっているのは「SDGs関連予算」とされ、「SDGsアクションプラン2021」(予算総額6.5兆円)の数字が一人歩きしているとみられるが、そもそもこのプランに「コオロギ事業」「昆虫食」と明示されているものはない。
また、農林水産省で実際に昆虫食などに関わっている事業の予算規模も6兆円からはほど遠く、同省の担当者は拡散している情報を否定した。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。【BuzzFeed Japan / 籏智広太】
「コオロギ食に6兆円」という情報は、2月15日ごろからSNS上に広がっているもの。数十万インプレッションを集めているツイートも少なくない。
「コオロギ事業に補助金が出ていた。予算に6兆円以上の血税が使われていました」という2月23日のツイートは数千いいねを集めるなど広く拡散したが、その後アカウントごと削除されている。
また、「コオロギに関わるSDGs関連予算6.3兆円」と記された画像もあわせて広がっている(下記)。
「コオロギやめて防衛費にまわせよ」「アホかよこの国」などと広がりを見せているが、前述の通り、これは誤った情報だ。
そもそも農林水産関係予算は2兆2千億円ほど(2022年度)であり、拡散している金額は荒唐無稽なものと言える。
また、「SDGs予算6.3兆円」という数字は、SNS上で「減らせるものがかなりありそう」「ムダを精査してみた」などという文脈で昨年12月末から広がっているもの。
しかし、元となる数値のソースは示されていない。
存在しない「コオロギ事業」
では、この数字はどこから来たものなのか。
国がまとめている「SDGsアクションプラン2021」にある予算総額は6.5兆円。広がっている額面に近い数字であることがわかる。
「SDGs」は、持続可能な開発目標の略語。気候変動のみならず、貧困、健康・福祉、ジェンダー平等、エネルギーなど17の目標と169のターゲットがある。
国の「アクションプラン」は、このSDGsの重点事項とした項目に関わる各省庁のさまざまな事業を取りまとめ、「日本政府としてこれくらいの規模感で取り組んでいる」と提示したものであり、単一の予算として計上されているものではない。
プラン内のもので500億円以上、計上されているものをまとめると以下の通り(掲載順)で、総額の83%を占める。
教育費関連だけでも2兆5千億円近くを占めており、エネルギー資源や農業、災害対策、治山や森林整備などに充てられていることがわかる。農業農村整備事業のように、国際的にSDGsが注目されるようになる前から政府が支出してきた費目も珍しくない。
なお、「アクションプラン2021」の予算一覧のなかに、「昆虫食」「コオロギ事業」を明示した項目は見当たらない。これは、「アクションプラン2020」(総額1.7兆円)「アクションプラン2022」(総額7.2兆円)でも同様だ。
低所得者向けの大学無償化など(4804億円、文部科学省)
高校無償化など(4355.4億円、文部科学省)
義務教育費国庫負担金(1兆5163.8億円、文部科学省)
GIGAスクール構想(2500.7億円、文部科学省)
新型コロナウイルスに関する国際資金協力など(941億円、外務省)
水田をフル活用した戦略作物の生産(3050億円、農林水産省)
農業農村整備事業の推進(R3当初4445.3億円、R2補正1855.2億円、農林水産省)
経営所得安定対策(作物の直接支払交付金の支給など、2640.8億円、農林水産省)
治山対策の推進(R3当初619.5億円、R2補正461億円、農林水産省)
災害等に強いエネルギー供給網(1733 億円、経済産業省)
再エネ主力電源化・省エネの推進(2310 億円、経済産業省)
水素社会実現の加速(848 億円、経済産業省)
安全最優先の再稼働と原子力イノベーションの推進(1371 億円、経済産業省)
自立可能な電力系統網の実装支援など(1316億円、経済産業省)
一般廃棄物処理施設の整備、脱炭素化・先導的廃棄物処理システム実証事業(R3当初581.3億円、R2補正489.3億円、環境省)
ポストコロナの資源確保(1256億円、経済産業省)
CCUS/カーボンリサイクルの推進(530億円、経済産業省)
森林整備事業(R3当初1248億円、R2補正496 億円、農林水産省)
児童入所施設措置費等(1,356億円、厚生労働省)
実際の予算規模は…?
一方、「アクションプラン2022」にも記載されている農水省の「新事業創出・食品産業課題解決調査・実証等事業」(2億300万円)の予算関連の資料では、昆虫活用について触れている部分がある。
担当課によると、技術による新事業創出を支援する「フードテックビジネス実証事業」に関わる部分で、予算は22、23年度ともに3千万円。
「アクションプラン」には含まれていないが、21年度補正予算では昆虫食ビジネスの実証が支援対象になったケースが1社あるという。ただし、これも「コオロギ事業」ではない。
また、こちらも「アクションプラン」には含まれていないが、農水省の「ムーンショット型農林水産研究開発事業」では、「食品残渣等を利用した昆虫の食料化と飼料化」についてのプロジェクトに取り組んでいる。
この開発事業ではそのほかにも作物デザインや土壌微生物、細胞培養、牛からのメタン製造などさまざまなプロジェクトに取り組んでおり、事業の予算は22、23年度ともに1億6千万円。ただし、研究費総額は2019年から5年で80億円となってている。
農水省の担当者によると、昆虫食や昆虫ビジネスは主に農水省が管轄となっており、そのなかでも上記の2つの事業が中心になっている。いずれも、「6兆円」という金額からは程遠い規模で、担当者も拡散している情報を「事実ではない」と否定した。
こうしたことから「コオロギ事業に6兆円」「コオロギに関わるSDGs関連予算6.3兆円」という言説はいずれも誤りであると言えるだろう。
昆虫食をめぐっては最近、さまざまな陰謀論や誤情報が拡散している。注意が必要だ。
●自分の首を絞める岸田首相 「自爆増税」で好景気スパイラルを壊す自民政権 3/3
一時は支持率が危険水域とされる3割を切ったものの、現在は持ち直しの傾向にある岸田政権。景気対策や外交防衛等の問題解決に向けては政権の安定化が不可欠ですが、岸田首相が長期に渡り政権を握るカギはどこにあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、「岸田内閣が安倍内閣並の長期政権になる唯一の条件」を考察。「ただ一つ避けるべき政策」を挙げています。
景気がよくなりつつあるときに増税でぶっ潰す歴代総理の問題点
今日は、「岸田内閣が安倍内閣並の長期政権になる唯一の条件」についてお話しします。
緊急事態宣言での驚き
私がモスクワから完全帰国して、はや5年目になります。私が日本にいたのは19歳まで。その後28年間モスクワに住んでいました。人生の半分以上外国にいたので、「外国人の視点」も理解できます。
「日本人のユニークなところだな」と思ったことがあります。それは、「お上のいうことに従う」こと。
たとえば、新型コロナパンデミックについて。安倍総理は2020年4月、「緊急事態宣言」を出しました。これは、いろいろな国で実施された「ロックダウン」(都市封鎖)と比べると、かなり緩いものです。
日本の「緊急事態宣言」は、「ロックダウン」と違って「強制力」がない。世界のジャーナリストたちは、「ハハハ。こんなもん何の役にも立たない」と笑いました。
ところがしばらくすると、日本国民のほとんどが「政府のお願い」に従っていることがわかり、仰天したのです。
「非人道的働き方改革」でも、労働時間は減少
実をいうと、日本に帰ってきて驚いたのは、緊急事態宣言が最初ではありませんでした。
私が完全帰国した2018年は、どこにいっても「働き方改革、働き方改革」と言われていました。この年に成立した「働き方改革関連法」は、かなり非人道的内容になっています。
たとえば、繁忙期の単月の時間外労働上限は100時間。月100時間の残業が合法!月20日働くとしたら、100時間 ÷ 20日=1日5時間の残業は合法である。つまり、定時午後6時の人を、夜11時まで働かせるのは合法!
これでは、「国がブラック企業を合法化した」といわれても仕方ありません。
ちなみに「過労死認定ライン」は、「月80時間の時間外労働」とされています。つまり政府は、「過労死認定ライン」の残業を「合法化」しているのです。
電通社員だった娘さんが過労死自殺した高橋幸美さんは、「働き方関連法」の内容を知って嘆きました。毎日新聞2018年7月19日。
娘に報告できる内容ではなかった……。働き方改革関連法が成立した瞬間、母親は国会の傍聴席にいた。広告大手「電通」の社員で2015年末に過労自殺した高橋まつりさん(当時24歳)の母幸美(ゆきみ)さん(55)。
ところがその後、面白い現象が見られました。悪法にも関わらず、日本人の労働時間が短くなってきたのです。「リクルートワークス研究所」2021年11月1日から。
2017年発表の「働き方改革実行計画」で挙げられた課題の一つに「長時間労働」がある。
総務省統計局「労働力調査」によると、日本の労働時間は年々短くなり、2020年の年間就業時間は1811時間となった。
週60時間以上働いている長時間労働者の割合も、就業者で5.6%、雇用者では5.1%まで減少している。
では、長時間労働であった人の労働時間はどれだけ減ったのだろうか。2016年に25〜44歳であった正社員を対象に、2020年にどれだけ労働時間が変わったのかをみてみよう。
2016年の週労働時間別に、2016年と2020年の差分の分布状況をみると、2016年に週労働時間が40時間以上であった正社員の半数以上は、2020年に労働時間が減っている(図2)。
特に月80時間以上の時間外労働に相当する週60時間以上の人では、53.1%もの人が2020年に労働時間が11時間以上減少している。
かつての長時間労働者を中心に、労働時間の縮減が着実に進んでいることがわかる。
なぜ法律は「悪法」なのに、労働時間が減ったのでしょうか?
私は、「緊急事態宣言」と同じ現象だと思います。つまり、お上が「働き方改革、働き方改革」と繰り返した。その結果、経営者さんたちが、「お上がいうなら、労働時間を下げなければ」と考え、実行し始めた。
証拠はありませんが、私はそう考えています。
「鶴の一声」で賃金上昇トレンドを作った岸田さん
「国民はお上のいうことに従う」もう一つの例を。
昨年は、ウクライナ戦争で食糧、エネルギー価格が暴騰しました。それで、インフレになった。日本のインフレ率は昨年12月、4%に達しました。日本国民は、相対的に貧しくなった。
そこで、岸田さんは年初、「インフレ率を超える賃上げをお願いしたい!」と要請しました。
他の国であれば、何の意味もない発言でしょう。しかし、日本国の場合、「働き方改革」「緊急事態宣言」がそうだったように、「とても意味がある」のです。
「ITmediaビジネスオンライン」2月28日を見てみましょう。
「岸田文雄首相が1月の経済3団体の新年祝賀会で「インフレ率を超える賃上げをお願いしたい」と要請したことを受け、日本の賃上げ機運が一気に高まりました。
「日本の賃上げの機運が一気に高まりました」だそうです。なんというすごいことでしょう。
そして、大企業が続々と「賃上げ」を発表し始めたのです。
イオングループが自社のパート40万人の時給を7%引き上げると発表しました。今年の春闘では5%が一つのラインといわれている中で、7%という数値は大きなインパクトがありました。(同上)
インフレ率4%で賃上げ7%なら、だいぶ楽になるでしょう。
実は、イオンに先立ってパート・アルバイトの時給を2割引き上げたのはユニクロを展開するファーストリテイリングでした。その後、イオンやオリエンタルランド(7%増)、任天堂(約10%増)など、大手企業が続々とパートやアルバイトの時給引き上げを発表しました。
最初の頃は「ユニクロだから時給を引き上げられるのだろう」程度に見ていた企業も、イオンやオリエンタルランドといったように身近で影響力のある企業が続々と賃上げを発表したことで、いよいよ本格的に賃上げに踏み切る必要に迫られています。
賃上げトレンドが形成されつつあるようです。
するとどうなるのでしょうか?インフレ率を超えて、実質収入が増える人たちが激増します。つまり所得が上がる。
所得があがれば消費が増えるでしょう。消費が増えれば、生産を増やす必要が出てきます。それがさらに所得増につながっていく。
図にすると、
•賃上げトレンドによる所得増→ 消費増→ 生産増→また所得増→ また消費増→ また生産増→またまた所得増→ またまた消費増→ またまた生産増→ 以下同じプロセスの繰り返し
つまり「好景気スパイラル」に入っていく。
岸田さんは、「インフレ率を超える賃上げをお願いしたい」といった。その一言で、賃上げトレンドが形成された。賃上げトレンドが形成されれば、後は勝手に好景気スパイラルに突入します。
景気がよくなれば、岸田内閣が長期政権になる道が開かれるでしょう。
自爆増税をしないことが必須条件
ただ、日本の総理は、好景気になりかけるとそれをぶち壊す行動をとりがちです。
なんでしょうか?
そう、【 増税 】です。
バブルが崩壊したのは1990年。その後、経済成長率は、どんどん下がっていきました。90年4.89%、91年3.42%、92年0.85%、93年−0.52%。バブル崩壊の影響がはっきり見えます。
しかし、93年を底に、日本経済は復活しはじめていました。
93年−0.52%、94年0.88%、95年2.63%、96年3.13%。
どうですか?どう見ても、「日本経済復活軌道だよな」と思えるでしょう。しかし…。
96年3.13%、97年0.98%、98年−1.27%、99年−0.33%
復活軌道だった日本経済が、また沈んでしまいました。何が起こったのでしょうか?
そう、1997年に消費税率が3%から5%に引き上げられた。これが「暗黒の10年」の原因だったのです。
そして2013年、日本経済は「アベノミクス」への期待に満ちていました。この年は、2.01%の成長を果たし、株も爆上げしていたのです。しかし、翌2014年は0.3%の成長で、がっかりでした。何が起こったのでしょうか?
そう消費税率が5%から8%に引き上げられたのです。
というわけで、日本の総理大臣は「景気がよくなりつつあるときに、増税してぶっ潰す」ことを繰り返しています。
今、「賃上げトレンド」が形成されつつあり、日本経済は「好景気スパイラル」に入る可能性が高まっています。
一方、岸田さんは、橋本総理、安倍総理と同じ過ちをして、日本を【 暗黒の40年 】に突入させる可能性もあります。
そう岸田さんは、「防衛増税」「異次元の少子化対策増税」「消費税率引き上げ」などをして、日本経済をぶち壊すかもしれない。
というわけで、「岸田内閣が安倍内閣並の長期政権になる唯一の条件とは」は、【 増税をしないこと 】。
これだけです。
皆さん、自分のために、日本のために、岸田さんにこの事実を教えてあげてください。「賃上げトレンドが形成されつつあるので、増税さえしなければ、安倍内閣に匹敵する長期政権になれる可能性がありますよ。絶対に増税しないでください!」と。
●植田日銀の金融政策、構造的賃上げに向けた「黒子役」に 3/3
経済学者の植田和男氏をトップとする日銀の新体制が国会の同意を経てスタートする。岸田文雄政権が期待するのは「異次元緩和」の副作用への対応や経済・物価情勢を分析、見通したうえでの政策運営だ。デフレ脱却・経済再生の「主役」として金融政策を強力に組み込んだ第2次安倍晋三政権とは大きくスタンスが異なる。政権が優先課題として掲げる構造的賃上げに関しても日銀に求めるのは物価安定を通じて環境を整備する「黒子」の役回り、との指摘が出ている。
官邸と日銀、信頼関係
ある政府関係者は「岸田政権が植田日銀に求めているのは、金融政策のパラダイムシフトではない」と言い切る。白川方明総裁から黒田東彦総裁に移行した10年前の交代は「白い日銀」から「黒い日銀」へ転換したと形容されるほどのドラスティックな変化だった。
一方、今回の日銀首脳の交代にあたって政権側が求めたのは、データ分析とリアルな状況認識をベースにした政策判断だ。
植田氏は先月24日の所信聴取で、「基調的な物価見通しが一段と改善していく姿になっていけば、正常化方向での見直しを考えざるを得ない」とし、将来的な正常化の可能性に言及した。同時に、2013年に策定した政府・日銀の共同声明について「ただちに見直す必要があるとは考えていない」とも述べた。
植田氏の一連の発言に対し、岸田首相は同日夜の会見で「政府として、特段違和感のある内容はなかった」とコメントした。
首相はこれまで共同声明の修正の是非について具体的な言及を避けてきただけに、首相周辺では「総理として相当踏み込んだ発言をした」との声が上がった。
植田氏はまた、新しい情報をもとに将来の見通しを変化させて政策判断していくため、場合によってはサプライズが避けられない可能性があるとした。ただ、そうなった場合でも、考え方を平時から平易に説明しておくことによって「サプライズは最小限に食い止めることができる」と述べた。
今後、市場機能の低下など副作用が指摘されるイールドカーブ・コントロール(YCC)の修正だけでなく、経済・物価情勢の展開次第では金融正常化への思惑から金融市場や経済自体への影響を懸念する声が広がりかねない事態も想定される。
この点について、ある政府高官は、具体的に日銀に何か要求することになるのかどうか、仮定の話には答えられないとして言葉を濁すが、「植田氏の手腕や判断力に信頼を置いている」と話し、混乱の回避に期待感を示す。
岸田首相は、植田氏が総裁に着任後できるだけ早期に面会し、今後の政府と日銀の連携のあり方について改めて確認する方針だ。
バイプレーヤー
こうした姿勢の変化には、金融政策では効果が未知数な政策課題に政権が直面している事情も関係している。
物価高騰による家計への影響が強まる中、岸田政権の看板政策「新しい資本主義」では、企業の賃上げ加速が焦点になってきた。
有力なグローバル企業が賃金上昇をけん引すると同時に、最低賃金の引き上げや中間層の労働移動の円滑化などを進め、雇用者全体に持続的な賃上げの流れを作り出すことが、岸田政権の目指す「構造的な賃上げ」の姿だ。
足元、コストプッシュ型とはいえ日本でもインフレが高進しており、首相側近は「短期的に物価上昇をカバーするだけの賃上げも促すし、中長期でも政府の責任や権限でできることはやる」と話す。
植田氏も「経済・物価情勢に応じて適切な政策を行い、経済界の取り組みや、政府の諸政策とも相まって、構造的に賃金が上がる状況を作り上げる」と発言。一方で、賃金上昇を政府・日銀の共同声明に日銀の目標として盛り込むことには慎重な姿勢を示した。賃金を引き上げる主体はあくまで個別企業であり、金融政策は「構造的賃上げ」のメーンプレーヤーにはならない。
植田氏は物価の安定が「経済にとって極めて重要なインフラだ」とする。インフラが整えば、国民や企業が無駄な心配を起こさずに経済活動を行い、能力を十分発揮することができ、その果実として「実質賃金や生産性の上昇が生まれてくる」と説いた。
日本の労働市場改革という、地道で時間のかかる政策を進める上で、物価や金融システムの安定は欠かせない。ある経済官庁の幹部は「学者出身の植田氏は黒いアカデミックガウンも似合う。国民や企業を『主役』とするなら、植田日銀は役者を手助けする『黒子』とも言えるのではないか」と話す。
●ロシアへの制裁は「闇の政府」の仕業 元大臣が驚きの発言 3/3
かつて政権を担った民主党関係者のツイートで、注目度が高いのは鳩山由紀夫元総理のものだろう。
鳩山氏はどういうわけか、中国やロシアなど日本にとっては脅威と見られる国に対して強い友愛精神を発揮して、その度に物議を醸している。
この民主党の遺伝子を受け継いでいる一人が立憲民主党の原口一博代議士かもしれない。民主党政権時代には総務大臣を務めた人物である。
原口氏は2月19日、次のようにツイートした。
「DSの言われるままにロシア制裁を続けてきた日本の岸田政権。その愚かさにより第二次世界大戦敗戦後の日本が築き上げてきた外交的成果も国民の安全と利益も大きく傷つけていた事が判明するだろう。アメリカは変われるし生き残れる。しかし日本は、どうか。全く別の政権を作らなければならない。」
このツイートに対しては、「陰謀論なのでは」といった反応が複数寄せられている。というのも、冒頭にある「DS」とはDeep Stateの略で、「闇の政府」などと訳されることもある言葉。
ネット上の陰謀論について論じた『デマ・陰謀論・カルト―スマホ教という宗教―』(物江潤・著)では次のように解説されている。
「DSとはDeep State(闇の政府)のことで、要するに表に見えているアメリカ政府とは別に、より強大な政府が存在しているということです。
アメリカ政府だけでなく、DSは実に様々な世界を牛耳っているとされます。政財界の有力者、マスコミ、ハリウッド等、権力を持っていると思しき組織や人物は、あっという間にDS扱いされることもあります。ネットユーザーたちがQ(注:ここでは極秘情報を発信する謎の人物)やDSについて様々な解釈・推測を繰り広げるため、野放図的にどんどん追加されていくわけです。
また、ドナルド・トランプ自身が、敵対する相手や組織に対し、DSの仲間や一部だと非難するように、DSという言葉は一種のレッテルとしても機能しています。
反論が難しい批判や追及がきても相手はDSだとすることで、少なくとも同志たちの納得が得られるわけです。DSは巨大な力を持つ卑劣な組織なので、いくら本当らしい証拠があったとしても、どうせ捏造であるとか、マスメディアとグルになっていると言いさえすれば、ドナルド・トランプは正義であり続けます。
一方、DSの存在を信じている人々からすれば、陰謀論という言葉がまさしくDSの悪事に蓋(ふた)をするレッテルであり、真実を暴こうとする自分たちへの攻撃に他なりません。大量の証拠をもとにどれほど説得しても、陰謀論のレッテルを貼られ次第、聞く価値のない戯言(たわごと)として扱われることに、彼らは怒りを覚えています。
そんなDSに属する悪者たちは、小児性愛者・悪魔崇拝・人身売買といった行為に関与していると説明されることが多く、完全なる悪として抽象化・先鋭化しています。彼らはグローバリストでもあり、新世界秩序(NWO)の構築に向け、世界の裏で暗躍してきたとされます。(略)
このような構図はエンターテインメントの世界ではおなじみです。ショッカー対仮面ライダー、スペクター対007等々。多くの常識的な現代人は、表に出ていない巨大な闇の組織なんてものを信じていません」
こうしたことから、多くの政治家はあまりDSなどという言葉を不用意には使わない。
陰謀論者だと思われるからだ。
たしかにトランプ大統領やその周辺はDSの存在を強く主張していたし、今もしている。トランプ氏が再選に失敗したのもDSの仕業だと彼らは見ている。またかなりの割合のアメリカ人がその存在を信じているという。
原口氏自身は、「陰謀論では」といった批判に対して、次のように答えている。
「このDSの使い方については、過去何度も説明して断っています。かつて軍産複合体と言われたものに金融、情報などグローバリズム大企業も含めたかたちで形成される「いわゆるDS」と。」(2月20日)
つまり、「闇の政府」のことではなく、軍事産業を含めたアメリカのグローバル企業と政治とが結びついたかたまりのようなものを指しているということだろうか。原口氏は「ネオコン」と似たような概念だと考えていると見られる。
問題は、定義も明確ではないままに「DSのせい」と言えば何でも便利に説明できてしまう点だろう。原口氏によれば、軍産複合体に金融や情報関係の大企業を含めたかたちで「形成される」とのことだが、どこでどのように「形成」されて、どのように意思が決定され、そして政府に働きかけているのかといった肝心なところは不明なのである。
原口氏が考えるところのDSは冒頭のツイートから見ると、単にバイデン政権のことを指しているようにも読めてしまうのだが、その場合、「闇の政府」ではなくて単なるアメリカ政府である。
もちろんどの国にも支配層は存在しており、また財閥や学閥のようなものも存在している。アメリカでいえば軍産複合体の影響力の大きさはかねてよりよく伝えられてきた。
しかし、ロシアへの制裁は岸田総理が誰かに操られてやっているわけではなく、G7の一致した方向性のはずなのだが、イギリスやフランス、ドイツもDSの支配下にあるという世界観なのだろうか。
さらにいえば、原口氏の所属する立憲民主党は、ロシアに対する「(国連の)厳格な制裁を全面的に支持」(同党国会レポート2022年)という立場のはずなのだが……。ここにもDSの力が及んでいるとすれば、その影響力は計り知れないということか。
●元参院議員の「ワタミ」会長は政界をどう見るか 政治・財政改革で持論 3/3
新型コロナウイルス禍で人々の生活様式は大きく変わった。居酒屋チェーン大手の「ワタミ」もそのあおりを受け、大幅な業態転換を余儀なくされたという。自民党所属の参院議員だった渡辺美樹会長兼社長は、政界の現状をどう見るのか。自身の政治経験も含め、政治・財政改革への思いを聞くと、第3子への1000万円給付や移民の受け入れなど、少子化対策や労働力確保に向けた大胆な持論が飛び出した。そして、岸田文雄首相に対する評価は…。
居酒屋事業、コロナ前には戻らず
――コロナ前後で業界はどう変わったか。
ライフスタイルが大きく変わり、居酒屋のニーズが明らかに減った。大きな収益を上げていた3、12月の宴会需要もなくなり、ワタミも居酒屋から焼き肉店や唐揚げ店といった専門店に中身を大きく変えた。居酒屋チェーンは頑張ってもコロナ前の8割ぐらいまでしか(売り上げが)戻らないと考えている。
――政府のコロナ対策の評価は。
早い段階で大規模な専用病院を作らなかったのは明らかな間違いだ。政府は医師の確保が難しいと言っていたが、法律を変えればできたはずだ。
飲食店への対応も間違っていた。午後9時以降、いきなりコロナ感染が増えるわけではないのに、営業時間を規制した。むしろ、密な状況を起こさないことを優先すべきだった。
「要請」という非常に曖昧な規制も間違いだった。「ルールを守らないところは営業できない」と強制力を持たせるべきだった。
労働力確保、目先は移民で
――岸田政権が目指す「物価高を超える賃上げ」は可能か。
現状、中小企業の7割は赤字で賃上げはできない。(1)商品の付加価値を上げて値上げする(2)生産性を向上させて利益を増やす―ことに向け、抜本的な対策を打って初めて賃上げが可能になる。商工会議所などの組織が、売り上げや利益を増やす方向に企業を指導する役割を担うべきだ。
――労働力減少にどう対応すべきか。
目先のことで言うなら、年間20万人の移民を受け入れるべきだ。中長期的には、子育て支援などで労働人口を守っていくことも必要だ。
――働き方改革に向けた考えは。
有給休暇の取得促進や時間外労働の制限、同一労働・同一賃金、最低賃金引き上げなどは全部正しい。ただ、そちらにばかりかじを切ると、財政は大丈夫か、となる。働き方改革を進めると同時に、働く中身、密度を上げるという方向性を持つべきだ。
第3子に1000万円を
――女性活躍に関する考えは。
女性のリーダーは必要不可欠だ。力のある女性を認めることが大事で、その結果、女性が9割になってもいいし、3割かもしれない。本当の意味での男女平等はそういうことだと思う。
――産休・育休を長く取ると元の職場に戻りづらい雰囲気があるとも言われる。
ポジションが空いている時間が長ければ長いほど、会社としても(別の人で)埋めるしかなく、戻ってきても働けなくなってしまう。海外では産休・育休を2〜3カ月だけ取って戻ってくる女性が多いと聞く。短期間で戻れるような保育施設の整備などを国に求めたい。社会、会社全体で子どもを育てるという考え方が必要だ。
――政府は子ども・子育て予算の倍増を掲げている。
仮に国内総生産(GDP)比2%をベースに考えると、10兆円増やすことになるが、できるわけがない。分かりやすい直接的な対策が必要だ。私は第3子への1000万円給付を主張している。
――財源確保策は。
子ども予算でも防衛費でも同じことが言えるが、全部借金に頼るべきではない。国に必要なお金は何かを考え、切り詰める発想が必要だ。歳入は増えず、歳出ばかりが増えていく状態が一番良くない。
歳出削減、自民で理解得られず
――政治家を目指した理由は。
アベノミクスで実体経済を成長させるためだ。経営が分かる立場から、この役割を果たしたいと思った。ただ、経済成長と同時に、政府も徹底した歳出削減を行うべきだと訴えたが、自民党内で理解を得られなかった。
――歳出面の無駄は何か。
社会保障だ。分かりやすく言えば「高齢者でも、自分で自分のことができる人は、自分で生活してほしい」ということだ。生きる権利を保障するセーフティーネットは必要だが、医療費も現在の3割負担から、経済状況に応じてもっと増やすべきだ。
岸田首相、評価せず
――政治改革について思うことは。
参院はいらない。衆院と同じことをやっている。さらに、参院は業界団体の意見を聞く場、陳情の受け皿になってしまっている。それより、かつての貴族院のように、衆院で決めたことを考え直させるような存在が必要だ。選挙で選ばれるのではない「第三者」性を持った機関が必要ではないか。
――退任を表明した際、理由として「原発ゼロに力を発揮できなかった」と述べていた。
東日本大震災の直後は、みんな原発をやめようと言っていた。今、原発を全部なくせば国民が苦しむ。しかし、政府の向かっている方向は、未来永劫(えいごう)ずっと原発を使うというスタンスだ。
今も東京電力福島第1原発事故からの復興は全くなされていない。中小企業改革を被災3県で行い、地域経済を元気にすべきだ。例えば、被災地の法人税を半分にして企業を呼び込むなどの大きな枠組みをつくり、復興を進めるべきだ。
――岸田首相の評価は。
著しく低い。何もやっていないと感じる。防衛力強化にしても、財源をどうするのか問われると、いきなり腰砕けだ。子ども・子育て予算の倍増も思い付き、行き当たりばったりに感じる。
菅義偉前首相は、コロナ禍で政策金融公庫を動かして企業を助けた。あれこそ政治だ。菅氏は言って、やる。そういう方が首相になるべきだ。
●止まらぬ日本の人口減少 貧困国に転落しないための「戦略的縮小」とは 3/3
すでに80億人を突破したとされる世界の人口は今後も増え続け、2058年に100億人に到達する。一方、日本は人口縮小が止まらず、経済活動の維持が困難に……生き延びるにはどうすればいいのか。ジャーナリスト・河合雅司さんが綴る。
政府の予想を上回る勢いで人口減少が進んでいる。大きな話題とならなかったが、出生数は2019年に前年比5.8%ものマイナスを記録するなど、コロナ禍前から急落傾向を示していた。感染拡大の影響でさらに落ち込み22年は80万人割れが確実だ。出生数の先行指標とも言える婚姻件数も下落しており、急落傾向は23年以降も続きそうである。国立社会保障・人口問題研究所は総人口1億人割れを53年と推計しているが、かなりの前倒しが予想される。
こうした事態を受けて岸田政権は子育て支援策の強化を打ち出した。だが、これまでの出生数減によって子供を産める年齢の女性数が激減していくという「不都合な未来」は変えようがない。
厚生労働省によれば、21年に誕生した子供の母親の年齢の85.8%が25〜39歳である。総務省の人口推計(同年10月1日現在)でこの年齢の女性数を確認すると943万6千人だ。これに対し25年後にこの年齢となる「0〜14歳」は710万5千人で24.7%も少ない。
短期間にここまで「少母化」が進んだのでは、出生率が多少上昇しても出生数は減り続ける。これから対策を講じても、出生数が減るスピードを多少遅くすることぐらいしかできないのだ。もちろん、いまの日本にとってはそれだけでも大きな意味はある。
人口減少が社会経済に及ぼす影響は大きい。国内マーケットの縮小と勤労世代(20〜64歳)の減少が同時に進む。しかも、マーケットの縮小は実人口の減少にとどまらない。高齢化率は伸び続けるため、30年代半ばまでに消費者の3人に1人は高齢者となるためだ。
高齢になると多くの人は現役時代のようには収入が得られず節約に走りがちとなり、若い頃のように消費しなくなる。今後の国内マーケットは一人あたりの消費量が減りながら消費者数も少なくなるという“ダブルの縮小”に見舞われるのだ。
マーケットの高齢化は若い消費者の減少でもある。自動車や住宅といった「大きな買い物」をし始める30代前半の人口は今後30年で3割ほど減少する。倒産や廃業する企業が続出するだろう。
すでに“ダブルの縮小”に備える動きは始まっている。ファミリーレストランやコンビニエンスストアの24時間営業の見直しや、鉄道会社の終電時間の繰り上げや運行本数の削減などだ。これらはコロナ禍による一時的な需要減少への対応ではなく、かねて進められてきたことだ。
だが、これらの取り組みはほんの一部であり、大半の企業はいまだに売上高の拡大にまい進している。目の前の顧客ニーズに応えざるを得ない事情もあるだろうが、拡大路線を続ければその分だけ行き詰まりは早くなる。
影響は行政も例外ではない。市役所や町村役場は45年には必要とする職員数の8割程度しか確保できなくなるとの民間シンクタンクの推計もある。警察官や自衛官、消防士といった「若い力」を必要とする職種で必要な体制が維持できなくなれば日本が誇る安全神話は崩壊する。
勤労世代は20年から40年までに約1400万人少なくなる。すべての業種で人手不足が拡大するだろう。「20歳人口」は20年後には約3割少なくなる。これでは新規学卒者の採用も困難となり、大企業でも求める人材を十分獲得できないところが出てこよう。
さらには年功序列による人事制度を崩壊に向かわせる。退職する人と同規模かそれ以上の新人が入ってくることを前提としているためだ。人手不足を定年延長や再雇用の拡大で補う企業が増えてきたが、年功序列の人事制度を残したままでは賃金の上昇カーブを全体として抑え込まざるを得ない。ポストがなかなか空かず昇給ペースも遅くては、若い世代に閉塞感が広がる。結果として転職者が増えれば、終身雇用も終わりを迎える。
すべての分野で人手が足りなくなる人口減少社会では、必然的に雇用の流動化が進む。そうでなくともデジタル技術が急速に進歩・普及し、かつてのように「勤務年数の長さ=職能の高さ」とは言えなくなった。勤務年数を過度に重視する人事制度は続きようがない。
●高市氏、放送法文書は「捏造」 事実なら議員辞職―参院予算委 3/3
高市早苗経済安全保障担当相(衆院議員)は3日の参院予算委員会で、番組の政治的公平性などを定めた放送法の解釈を巡り、安倍政権で首相官邸側から圧力がかかったことを示す総務省内部文書とされる資料について、「信ぴょう性に大いに疑問を持っている。全く捏造(ねつぞう)文書だ」と述べた。高市氏は当時、総務相を務めていた。立憲民主党の小西洋之氏への答弁。
小西氏が「捏造でなければ閣僚、議員を辞職するということでよいか」と尋ねたのに対し、高市氏は「結構だ」と応じた。
政治的公平性の解釈については、個別番組ではなく放送局の番組全体で判断するとされてきたが、2016年に総務省が一つの番組でも判断し得るケースがあるとの解釈を補充した。
文書は小西氏が2日の記者会見で公表。放送法の解釈に関し、安倍政権当時の礒崎陽輔首相補佐官と総務省とのやりとりが記され、高市氏も登場する。15年2月には礒崎氏が「この件は俺と総理が2人で決める話」「ただじゃあ済まない。首が飛ぶぞ」などと発言したとされる。
●放送法の「政治的公平」 解釈“変更”めぐり議論 参院予算委  3/3
立憲民主党は参議院予算委員会で、放送法が定める「政治的公平」の解釈をめぐる総務省の内部文書を入手したとして、当時の安倍政権の圧力で法解釈が変更されたことが示されていると指摘しました。
これに対して松本総務大臣は、文書は作成者などの精査が必要だとしたうえで、法解釈は変更されていないと説明しました。
放送法が定める「政治的公平」について、政府は、安倍政権当時の平成28年に、放送局の番組全体を見て判断するとしつつ、1つの番組のみでも、不偏不党の立場から明らかに逸脱している場合などは、政治的公平を確保しているとは認められないとした統一見解をまとめました。
3日の参議院予算委員会で、立憲民主党の小西洋之氏は、当時の総務省の内部文書を入手したとしたうえで、その時の総理大臣補佐官が、特定の民放番組が政治的に偏っているとして法解釈の変更を発案し、安倍元総理大臣がそれを認めたことが示されていると指摘しました。
そして、「総務省は抵抗したが政治的な圧力によって、解釈をつくったことが見て取れる」とただしました。
これに対して松本総務大臣は、「文書は、正確性を期すための手順もとられておらず、作成者の確認など精査が必要だ。統一見解は、これまでの解釈を補充的に説明し、より明確にしたもので、従来の解釈を変更したものではない」と説明しました。
一方、当時、総務大臣だった高市経済安全保障担当大臣は、安倍氏と電話で解釈変更を協議したのではないかと指摘されたのに対し、「放送法について安倍氏と打ち合わせをしたことはない。全くのねつ造文書だ」と述べました。そして、「もし、ねつ造でなければ大臣や議員を辞職するということでいいのか」と問われたのに対し、「結構だ」と応じました。
●PTA「入退会については保護者の自由」参院予算委、岸田首相が答弁 3/3
岸田文雄首相は3日の参院予算委員会で、強制的な入会の仕組みなどが問題視されているPTAのあり方に関し「入退会については保護者の自由」との認識を示した。入退会を巡る保護者や児童生徒間のトラブルに触れ、「子どもが嫌な思いをしないように、それぞれのPTAと学校がよく話し合い、連携しながらお決めいただくことが適切」とも述べた。NHK党の浜田聡議員=京都市出身=への答弁。  
●自民党大会で「挑戦」表明の岸田首相 実行力が党の強みだったはず… 3/3
自民党が2月26日、党大会を開いた。岸田文雄首相(自民党総裁、顔写真)は「われわれは新たな歴史の転換点にいる」「ともにさらなる挑戦を続けていこう」と呼びかけた。
確かに、日本は激動のさなかだ。中国は覇権主義を強め、北朝鮮は核・ミサイル開発を加速し、ロシアのウクライナ侵略は終結が見えない。そして日本に隣接する露・中・北の3国は連携を強めている。では、風雲急を告げる国内外情勢を受けて、岸田首相はどのような針路≠示すのか。
2月14日、岸田政権はウクライナへの約55億ドル(約7500億円)の追加支援を閣議決定したが、ゼレンスキー大統領のオンライン参加が見込まれるG7(先進7カ国)広島サミットへの下地づくりとの観測がある。これまでの日本の支援は計約1511億円で世界10位だ。追加支援でカナダを抜き、G7議長国の面目を保つ算段か。
だが、他国へのサポートとともに、国民生活にも目を向けるべきだ。国民は大増税§H線や、電気・ガス代などの物価高騰に戦々恐々だ。IMF(国際通貨基金)は、世界3位の経済大国の地位は危ういと指摘する。
岸田首相は、党大会で「民主党政権によって失われた日本の誇り、自信、活力を取り戻すために力を合わせ、大きくこの国を前進させた『前進の10年』でもあった」と述べた。安倍晋三元首相、菅義偉前首相の成果をたたえ「次の10年を作るため、新たな一歩を踏み出すとき」と訴えた。
自民党こそが政権を担える、との意思表明だ。
岸田首相は「今年は、『55年体制』が終わりを告げてから、ちょうど30年だ」とも語った。
1993年、宮沢喜一政権の不信任決議案が可決された。直後の衆院選で自民党の議席占有率は43・6%と55年の結党以来、最低に沈み政権与党の座を奪われた。「55年体制」の崩壊だ。
より悲惨だったのが、2009年の政権交代選挙だ。民主党に大敗し、衆院議席占有率は24・8%にまで沈み込んだ。
だが、自民党は一敗地に塗れるたび復活した。
1993年の下野後は当時の新進党を率いる小沢一郎氏が主導権を握る政局を嫌気する社会党、新党さきがけと組み政権を奪還。一本釣りで新進党議員らを引き抜いた。
2009年は、国政選挙の大敗北で政党活動を支える交付金や立法事務費も激減したが、政権奪還の固い決意があった。
北朝鮮がミサイルを発射し、中国の公船が沖縄県・尖閣諸島周辺に姿を現せば、即座に部会を開き、関係省庁からヒアリングした。そのスピード感たるや、当時の民主党政権を凌駕(りょうが)していた。
政権を担う強固な意思と、実行力が自民党の強みだったのではないか。
「歴史の転換点」は日本の没落であってはならない。驚異の復活力≠ナ国民を支え、10年後には100回目の自民党大会を盛大に開催する。その気迫がいま、求められているのではないか。
●「子どもを持つ障害は学費・奨学金」出産条件に奨学金減免? 批判 3/3
今月末をめどに新たな少子化対策のたたき台をまとめようとしている岸田政権。様々な検討が進むなか、自民党で浮上したのが、子育て世代の奨学金を“減額や免除する”という案です。
少子化対策として、どのようにみていけば良いのでしょうか。
立憲民主党・石垣参院議員「自民党の『教育・人材力強化調査会』の提言として、学生時代に奨学金の貸与を受けた人が子どもをもうけた場合、返済額を減免することなどが柱になっている。こういう提言をまとめたとご存じでしょうか」
岸田総理「ご指摘のような報道があることは承知しています」
石垣参院議員「奨学金の返済減免と個人の出産、全く関係ない問題ですよね」
岸田総理「様々な議論、自由闊達(かったつ)な議論、これは尊重すべきだ」
自民党内で議論されているという「子育て世代の奨学金の返済を軽くする」という案。事実上「出産を減免の条件にしているのではないか」という批判が出ています。
批判されている案は、自民党の文教族が中心に集まる『教育・人材力強化調査会』で出たものでした。
調査会の出席議員「『出産したら返済を遅らせるとか、免除みたいな制度があっていいじゃないか』という意見が出た。“産む機械”発言と同じに見えるかもしれないけど、奨学金が障害になってるなら、それを取り除いてあげましょうということ」
調査会の会長は、柴山元文科大臣です。
柴山調査会長「(Q.奨学金の減免は誰を対象に想定している?)実際に奨学金の債務を負担している、子育てで苦労されている方々が対象。子どもをもつ親御さん、男女問わず対象になろうかと。出産に伴うというよりも『子育て支援に対する拡充』で、我々は議論していますので“子どもを産まなければ恩典与えない”というような文脈で捉えられてしまった。大変残念」
奨学金は、平均的に325万円を15年払いで借ります。
その返済期間がちょうど結婚・出産という時期に重なることから、このような案が浮上したといいます。
柴山調査会長「多くの若い人の子どもを持つうえでの障害は、やはり『学費』、また『奨学金』であるというアンケート結果が厳然と出ている」
確かに子育てにはお金がかかりすぎるために、出産をためらう人は少なくありません。
ただ、昨今の奨学金返済の負担が重すぎるという問題と、少子化対策は別の問題で、一緒にすべきではないという指摘もあります。
2児の母親(奨学金なし)「欲しいと願ってもできない方もいる。不妊治療で何年もかかって子どもができたので、子どもができるできないで差をつけられるのはつらい、苦しい所」
大学3年生(奨学金有り)「出産するのって20代後半。今は遅くなって30代になっているので、その時に減免されても。若いうちは給料稼げないから減免されたいのに、後になって減免されるのもどうかなと」
大学4年生(奨学金なし)「いいんじゃないですか、減免される側としては。子ども産む予定なければ、どうでもいいと思うかもしれないが、自分は子ども欲しいので、返済不要になればいい」
若者の貧困や奨学金問題に取り組んでいる、学生中心のNPO法人『POSSE』にも聞きました。
『POSSE』岩本菜々さん「(Q.奨学金によって出産ができなくて困っている人がいるということだが?)出産するしないにかかわらず、奨学金によって一人でも暮らしていけないし、家族も持てないような生活になっている状況自体を変えていくべき」
新たな分断を生むことも危惧の1つとしています。
『POSSE』岩本菜々さん「結婚しないと選択した人や、LGBTQのカップルだったりとか、子どもを作らない、作れない人だったりとか、そういった人を置き去り、排除してしまう政策といえる」
詳細はこれからということですが、今後この案はどうなっていくのでしょうか。
柴山調査会長「子育て世帯に対する負担の軽減をさらにしていくことが、今回の岸田総理の指示である、子育て世帯に対する経済的な支援の抜本的評価につながってくる。(Q.提言が通ったとして、少子化対策への効果はどのくらい?)教育費をいかに負担を抑えていくかが、大きな政策の柱になっていく」
●「ドミノ倒しのように…」巨大地震で日本経済を襲う危機 3/3
「日本の経済全体が、ストップしてしまうかもしれません」
専門家は、南海トラフ地震後の経済シミュレーションの結果から、危機感を訴えました。分析では、地震や津波による経済へのダメージは太平洋側だけでなく、全国に「ドミノ倒し」のように波及します。そして、日本経済が長期にわたって停滞する「国難」ともされる事態に陥るおそれがあるというのです。
経済被害は220兆円と想定
南海トラフ巨大地震が日本を襲った場合、地震や津波による直接的な被害に加え、深刻になると懸念されているのが、日本経済へのダメージです。その原因のひとつが、巨大地震によって被害が出る地域にあります。関東から九州にかけての「太平洋ベルト地帯」と呼ばれる工業地帯が襲われるのです。自動車などの製造業や鉄鋼業の被害に加え、高速道路や新幹線といった日本の大動脈の寸断も想定され、被害はより深刻になります。国は、この地震による経済の被害額について、被災地での建物被害を中心に、最悪の場合220兆円に上ると推計しています。東日本大震災の被害額16.9兆円の10倍以上にあたります。
「日本経済全体に影響も」
一方、経済への被害が、さらに深刻になるおそれもあると指摘する専門家がいます。そのひとりが、兵庫県立大学の井上寛康教授です。スーパーコンピューターの計算で、経済の分析を行っています。経済の被害は、なぜより深刻になるのでしょうか。井上教授は、国の経済被害の想定の多くが、地震や津波による直接的な被害を計算していることにとどまっているためだといいます。一方、工業への直接的な被害がひとたび連鎖すると、その影響は日本経済全体に「まるでドミノ倒しのように」波及するおそれがあると言うのです。井上教授が巨大地震による日本経済への間接的な影響として重視しているのが、「サプライチェーン」=「製品の供給網」の問題です。
兵庫県立大学 井上寛康教授「被災地における建物の損失などの直接的な被害はある意味閉じたものであり、そこから広がっていくものではありません。しかし経済はよく『まわる』という言葉が使われますが、人の体内の『血流』のようにあらゆる企業が無数の『サプライチェーン』で、全国とつながっています。そのため、一度大きなショックがあると『血流』が止まってしまい、日本経済全体が止まることにつながるのです。この間接的な被害は無視できない重大な問題です」
「サプライチェーン」の影響が…
「サプライチェーン」が問題となったケースは、2011年の東日本大震災でも起きています。ケースのひとつが、半導体メーカーの茨城県にある工場が受けた被害です。数か月にわたって製品を供給できなくなりました。これによって、自動車業界全体に大きな影響が出たと言います。この工場が、自動車のエンジンの制御には欠かせない「マイコン」を製造し、世界的にも高いシェアを占めていたためです。この半導体を使用していた国内外の自動車メーカーの生産に、影響が広がったというのです。
経済損失は北海道から沖縄まで
井上教授は、こうした「サプライチェーン」の影響は、南海トラフ地震ではより深刻になると考えています。そこで、スーパーコンピューター「富岳」を使い、経済被害のシミュレーションを行いました。分析したのは、企業の生産額です。100万社の企業情報や500万を超える膨大な取引データ、それに南海トラフ地震の国の被害想定などを使い、被害の「連鎖」を明らかにしようとしました。以下が、その結果を表した地図です。左が南海トラフ地震、右が東日本大震災のときの経済被害を表します。「赤」や「オレンジ」のところは生産額が減少した企業があることを示しています。東日本大震災では、損失が大きい企業は、東北の太平洋側を中心に、各地の大都市で一部に見られます。一方、南海トラフ地震では、損失の大きい企業は全国に広がります。北海道から沖縄まで、あらゆる企業に影響が及ぶという結果が出たのです。井上教授は、南海トラフ地震の被害が「太平洋ベルト地帯」を直撃することなどで、多くの企業が無縁ではいられなくなると分析します。
GDPの損失 1年で134兆円に
井上教授が分析すると、経済被害が深刻になる「最悪のシナリオ」も見えました。南海トラフ地震が、時間差で2回発生するケースです。歴史的に南海トラフでは、震源域の東側と西側で、時間差で発生するケースが相次いでいます。井上教授は、1回目の巨大地震が起きた後、180日後に2回目の巨大地震が起きるケースを仮定し、経済の被害をGDP(国内総生産)に換算して、分析しました。その結果が、以下のグラフです。最初の地震で落ち込んだ企業の生産額は、時間がたつにつれて回復していきます。しかし、そこに2度目の地震が起きると生産額はさらに落ち込みます。経済は、元の水準まで回復しなくなるのです。シミュレーションでは、最初の地震の発生から1年間で失われるGDPの総額は134兆円にのぼりました。東日本大震災の10倍にあたり、日本の国家予算に匹敵します。
井上寛康教授「シミュレーションを行って驚いたのは、日本経済がもしかしたら元の水準まで回復しきらないかもしれないということです。被災地から遠く離れた場所でも、注文した商品が手元に届かないなど私たちの身近な生活にも影響が生じると思います」
対策のカギは「代替先」
それでは、被害を減らすにはどうすればいいのでしょうか。井上教授が有効な対策として指摘するひとつが、企業の「代替先の確保」です。企業の材料の仕入れ先など取引先を複数確保することを指します。井上教授が行ったシミュレーションでは、全国の企業が代替先の確保を徹底した場合、GDPの損失を大きく抑えられるという結果になりました。オレンジ色が「何も対策をとらなかった場合」、青が「代替先を増やした場合」です。2度の地震でも、GDPの落ち込みは小さくなり、1年後には元の水準近くにまで回復します。年間の損失額は、代替先を増やした場合はおよそ35兆円に。最悪のケースの4分の1まで抑えることができるという結果が出たのです。
経済被害を減らすには
深刻になることが想定される、南海トラフ地震の経済被害。井上教授の今回の試算のほかにも、専門家で作る土木学会は、南海トラフ地震が起きた場合に、道路の寸断や工場の損害などから波及する間接的な影響も含めた経済被害の推計を出しています。この中では、20年間の被害額は1410兆円にのぼるとされています。そして、国民生活の水準を低迷させる「国難」になると警告します。こうした経済被害に対し、私たちに何ができるのでしょうか。最後に、井上教授に聞きました。
井上寛康教授「南海トラフ地震は避けることはできません。しかし、事前に備えるということは十分可能であり、経済的な被害を軽減するための手立ては確かにあります。たとえ小さな企業1社の対策であっても、その効果は単にその企業だけでなく日本経済全体の底上げにつながります。対策を1つ1つ進めることで、サプライチェーンの破綻を未然に防ぎ、より明るいシナリオを作ることはできるはずです」
●少子化解消せず「無駄遣いに」 子ども予算増で伊吹元衆院議長  3/3
伊吹文明元衆院議長は3日夜のBSフジ番組で、子ども予算を増やすだけでは少子化問題の解決は困難との認識を示した。女性の価値観が多様化し、社会的立場の確立を求める人も増えたと分析。「単に予算を倍増すると言って、お金をばらまいて、そういう気持ちの人に子どもを産んでくれと言うのは、かえって無駄遣いだ」と述べた。
子育て対策と少子化対策を切り分け、価値観や雇用の在り方を含めた議論の重要性を指摘。「お金だけをあげますと言っていては(国民は)信用できない」と語った。

 

●「圧力」文書、政権の火種に 野党追及、岸田首相は信頼性に疑義 3/4
放送法の解釈を巡り、安倍政権が総務省に圧力をかけた記録とされる文書が、国会審議の新たな火種に浮上した。野党の追及に対し、当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は、内容を全面的に否定。岸田文雄首相も「信ぴょう性」を盾に論評を避けた。
「全くの捏造(ねつぞう)文書だ」。高市氏は3日の参院予算委員会で、文書を入手した立憲民主党の小西洋之氏にこう反論。小西氏が「捏造でなければ閣僚・議員を辞職するか」と迫ると、「結構だ」と言い切った。
小西氏によると、文書は総務省の内部文書。同省は安倍政権下で、放送法が定める政治的公平性に関し、「放送局の番組全体を見て判断する」との従来の解釈に、「一つの番組でも判断できる」との新たな解釈を加えた。文書には、当時の首相官邸が解釈「補充」を同省に迫った経緯が詳述されている。
この中には、安倍晋三首相(当時)が高市氏との電話で「今までの放送法の解釈はおかしい」と主張する場面もあった。小西氏から事実関係を問われ、高市氏は会話自体を否定。「信ぴょう性に大いに疑問を持っている。非常に悪意を持って作られた文書だ」と断じた。
文書によると、官邸内で解釈「補充」を強く求めたのは礒崎陽輔首相補佐官(当時)だ。総務省幹部に「この件は俺と総理が2人で決める話」と宣言。「俺の顔をつぶすなら、首が飛ぶぞ」「無駄な抵抗はしない方がいい」などの発言も記されていた。
首相秘書官の中には「言論弾圧ではないか」と難色を示す声もあったが、礒崎氏は特定のテレビ番組を名指しし、「あんなのが成り立つのはおかしい」と語ったという。
小西氏はこうした内容を紹介しつつ、首相に「時の権力者が特定番組を狙い撃ちにして解釈を改変していいのか」と迫った。しかし、首相は「発言が本当か確認できない」「正確性や正当性が定かでない」とかわし続けた。
質疑に先立ち、小西氏は委員会での文書配布を認めるよう要請したが、与党は「総務省の文書か精査中だ」と拒否した。
立民は「安倍政権の負の遺産」(幹部)と位置付け、国会審議で引き続き追及する構え。ただ、旧民主党時代の偽メール問題で痛手を負った経験があるため、深追いをためらう声もある。
「総務省が文書の真贋を認めるか、認めないか。こうしたことをわれわれも精査したい」。泉健太代表は3日の記者会見で、慎重な姿勢を崩さなかった。
●なにがなんでも「大増税」、「財務省のポチ」岸田文雄の“暴走”は止まらない 3/4
国の予算を司り、全ての政策をとりまとめる「最強官庁」財務省。安倍・菅両政権で10年、頭を押さえつけられてきたその怪物が復活しつつある。国民に見放された宰相には、魂を売る他に道はない。
机をドンドン叩いて…
岸田さんのことを「財務省のポチ」と呼ぶ人もいるが—。
本誌記者が問うと、岸田文雄総理は顔を上気させ、机をドンドンと叩き、色をなして反論した。
「私は政調会長として1回にわたり、100兆円規模の経済対策を取りまとめました。それなのに、なぜ私が『財務省のポチ』なのか。まずは経済(ドン!)、経済成長(ドン!)のエンジンを回す。増税(ドン!)は経済を殺してしまいます。順番を間違えると、元も子もなくなってしまいますから」
'21年9月中旬、自民党総裁選直前に行ったインタビューでの一幕だ。
それから1年半が経過した。いまの岸田総理はやっぱり「ポチ」そのものだと断じられても、文句は言えないだろう。
内閣支持率が3割を切った'22年の秋以降、総理は吹っ切れたのか、あるいは開き直ったのか、続けざまに「大増税」プランを繰り出している。
まずは、向こう5年間の防衛費を過去5年間の27兆5000億円から、その1.6倍にあたる43兆円まで一気に増額する。ついてはその財源として、所得税・法人税・たばこ税を'24年から引き上げてゆく。
「増税する俺」に酔っている
さらにぶち上げたのが「異次元の少子化対策」だ。児童手当や子育て支援の予算およそ6兆円を倍増させる。呼応するかのように、前自民党税調会長の甘利明氏が「(財源には)将来の消費税も含めて議論しなければならない」と述べて、世間を震撼させた。
第二次安倍晋三政権を除き、消費増税を実行した政権はすべて倒れている。'88年12月に消費税法を成立させた竹下登政権は、支持率が13%に落ち込み、翌'89年6月に総辞職した。'97年4月に消費税率を5%に引き上げた橋本龍太郎政権も、そこから支持率が急降下し、翌年夏の参院選で大敗、政権の座を逐われた。
もちろん岸田総理も、こうした歴史を知らないはずはない。だが総理官邸にも出入りする、学識経験者のひとりは言う。
「いまの岸田総理は、目が据わっている。『皆は批判するだろうが、俺はやる。たとえ国民が嫌がっても、必要な政策は実行する宰相になるんだ』という美学というか、一種の自己陶酔を感じます。
その自己陶酔は、財務省の官僚たちから滲み出ているものと同質です」
岸田総理はもはや、自らが「ポチ」であることを隠そうとさえしなくなった。それは総理が骨の髄まで、財務省に「調教」されきっていることの証にほかならない。
薄っすら笑みが浮かぶ
「岸田総理もしっかりご確認され、了承されていますので……」
ある自民党ベテラン議員は、財政に関する党内会議で、財務省の現事務次官・茶谷栄治氏にそう言葉を遮られて歯噛みした。この議員は安倍氏に近く、財務省の鉄の掟「緊縮」と「増税」に異を唱えてきた代議士である。
エビスさまにも似た茶谷氏の福々しい顔には、いつも薄っすら笑みが浮かんでいる。口調は柔らかく、慇懃な関西弁だ。
それは岸田政権発足直後の'21年12月のこと。当時、自民党内で金融緩和、つまりアベノミクスの継続を支持する議員の集まり「財政政策検討本部」が安倍氏を中心として設けられた。アベノミクスの見直しを仄めかしていた岸田総理に対して、安倍氏はプレッシャーをかけようとしたのだ。
すると翌週、岸田総理直轄の会議体「財政健全化推進本部」が発足、党に激震が走った。アベノミクスを批判し、「財政再建」つまり緊縮や増税に親和的な議員の集まりである。背後には茶谷氏がいた。先の議員が言う。
「当時、茶谷は財務省の主計局長。まだ安倍さんがお元気で、岸田総理にあれこれ注文をつけていた。そうした中で茶谷は自ら動き回り、この会議のお膳立てをしたのです。
かつて自分が秘書官を務めた元財務大臣の額賀福志郎さんを本部長に担ぎ、最高顧問には岸田総理の後見人で前財務大臣の麻生太郎さんを迎えた」
人たらしの事務次次官
つまり茶谷氏は岸田総理の側について「対アベ組織」を瞬く間に作りあげ、貸しを作ったのだ。
財務省では「東大法学部卒・主計局畑」こそ本流である。茶谷氏も東大法学部在学中に司法試験と国家公務員1種試験をパス、入省後は、課長補佐時代から主計局一筋の「王道」を歩んできた。
「『財務省の天皇』と言われた勝栄二郎元次官の薫陶を受けた茶谷は、政局勘に長けた人たらし。安倍さんの元側近で主張が正反対のはずの高市早苗元総務相にも、同じ奈良出身ということで近づき、篤い信頼を得ている。
その茶谷が、御しやすい岸田政権で次官になったのは、安倍・菅(義偉)政権で『失われた10年』を過ごしてきた財務省にとってまたとない逆襲のチャンス。事実、茶谷は昨夏の次官就任前から『参院選が終われば財源論争だな』と公言していたし、その言葉通り、総理は'22年秋から増税をしきりに言い始めた」(茶谷氏を知る財務省OB)
天敵であった安倍氏も、不慮の死によって消えた。いまや、リベンジに燃える財務省を止められる者は誰もいない。
岸田の首根っこを摑む
岸田官邸を表向き仕切る筆頭総理秘書官の嶋田隆氏は元経産事務次官で、財政には一切、口を出さない。政策立案は事実上、財務省から出向する秘書官・宇波弘貴氏の仕事だ。年次は茶谷氏の3年下、同じ主計局畑を歩んできた右腕である。ある自民党ベテラン議員が語る。
「いま総理の周りを固めるのは、政治家も大蔵省出身者やその縁戚ばかり。特に宮沢喜一元総理の甥で、30代まで大蔵省で過ごした党税調会長の宮沢洋一さんには、茶谷と宇波が連日、足しげく通って報告を入れています。
官房副長官の木原誠二も元大蔵省だが、大先輩の宮沢さんには頭が上がらないから無視していい、と財務省は判断している。加えて岸田総理自体、宮沢さんからすれば年下のいとこで弟のようなもの」
つまり茶谷氏らは、「宮沢さえしっかり押さえれば、岸田政権の首根っこを摑める」と踏み、それを実践しているのだ。
最初から完全な「財務族」である宮沢氏には必要のないことだが、財務官僚が政治家を籠絡する手口として有名なのが、「ご説明」と称する洗脳兼諜報活動である。
省の中枢、主計局と主税局の課長以上の幹部が永田町の議員事務所を訪れ、「日本は借金まみれで危機的状況です」「少しでも改善するには、増税しかない」「賢明な先生なら、わかっていただけるはずだ」と説く。議員が反論してきたら、即退散。「なるほど、それは大変だ」と頷いたら「リスト」に入れる。前出と別の財務省OBが言う。
「大臣官房長と文書課長が中心となり、将来性や頭のデキも加味して『脈アリ議員』をリストアップし、重点的にご説明に回ります。一番狙われやすいのは『世襲で、党や政府ではそこそこのポジションだけど、あまり選挙に強くない』議員。
たとえば自民党の越智隆雄衆院議員は、選挙に弱いが、父親の通雄さんが元大蔵官僚の財務族で、将来は税調会長や財務大臣を狙っている。まさに理想的な『ポチ候補』というわけです」
コンプレックスを突かれて
「有望」な議員のもとには何度も通い、資料を駆使して増税と財政再建がいかに大切か説き続ける。その過程で、議員の思想、知能指数、人脈、弱みや台所事情、喜怒哀楽のポイントまで把握していく。そうして得た情報を別の議員へ流すこともある。
「元防衛大臣の稲田朋美さんも、あれだけ安倍さんと親しかったのに、前事務次官の矢野康治さんがロックオンして重要情報を流したり、主計局の幹部総出でおだてたりして、財政規律派に宗旨替えさせてしまった」(同前)
岸田総理の場合は選挙には強いが、財務官僚につけ込まれる弱点が別にある。それは学歴を背景とした「権威」である。
岸田総理の精神安定剤となっているのが、自ら会長を務める母校の開成高校政官OB会「永霞会」だ。会には小泉純一郎政権で筆頭総理秘書官を務めた丹呉泰健氏、東京五輪の組織委員会事務総長を務めた武藤敏郎氏ら、超のつく大物元財務事務次官も姿を見せる。
「安倍政権時代から、財務省には『岸田さんを次の総理に』と推す声が多かった。霞が関で最も開成OBが多いですからね。
ただ、彼らと岸田さんの違いは、財務官僚は全員東大卒だが、岸田さんは東大に3回落ちて早稲田大学に入ったこと。本人も『人生最大の挫折』と言っているほどで、縁戚のほとんどが東大に入っていることもあり、コンプレックスを抱いている」(財務省OB)
たぎる「歪んだ使命感」
財務官僚の最大の特徴は、増税を心の底から「正義」と信じてやまないことだ。税の徴収と再分配こそ、国家権力の礎。日本一優秀な我々が、規律を守ってカネを回すことこそが、日本の繁栄につながる―彼らは本気でそう信じているのである。
岸田総理は宮沢税調会長を筆頭に、そんな「正義」を熱く語る秀才たちに青年時代から取り囲まれてきた。だが一方で、そうしたエリートたちの輪に入ることに失敗し、屈折を抱えてもいる。
そんな総理が今、東大受験の失敗以来、最大の「人生逆転のチャンス」を迎えている。ずっと「俺なんて足下にも及ばない」と思ってきた天下の秀才たちが、「あなたにしかできない大仕事がある」と、こぞって頭を下げに来るのだ。
内閣支持率が危険水域に入る極限状況の中、こうした「歪んだ使命感」に岸田総理が目覚めてしまっているのだとしても、不思議ではないだろう。
だがそもそも、財務官僚たちの「増税理論」に真っ向から異を唱える専門家も、今では珍しくなくなった。大蔵省と財務省に34年在籍し、安倍元総理のブレーンとしても知られた、経済学者の本田悦朗氏は言う。
「財務官僚は皆『借金はよくない』『このままでは破綻する』と言うばかりで、要は『道徳』を説いているだけ。しかし国というのは家庭と違って永続するものであり、通貨の発行権も持っているのですから、国家財政を単純化して『家計』に見立てること自体が、根本的に間違っている。誤った前提の上でいくら議論しても、意味がありません」
増税が経済学的に正しいか否かは、なかなか結論の出ない問いだ。だが岸田総理をこのまま放っておけば、ますます暴走し、国民からカネを搾り取るのに邁進してしまうことだけは間違いない。
●人工授精で三つ子出産したモデル 未婚シングルマザーを選択  中国 3/4
中国で5日から始まる全人代(=全国人民代表大会)では、少子化対策も話し合われる見通しです。中国国内で禁止されている未婚女性への人工授精で出産した母親は、生き方の選択肢が増えることを望んでいます。
浙江省・杭州市に住むモデルの李雪珂さん(33)は、中国のSNSで200万のフォロワーを持つインフルエンサーです。
李さんは、2018年にタイで精子提供を受けて三つ子を出産しました。いま、李さんの元には未婚のまま子どもを持ちたいという相談が増えているといいます。
「どんな方法を使っても30歳までに子どもを産みたかった。政策が緩和されれば多くの女性がこの道を選ぶと思います」(李雪珂さん)
李さんは「体が許せば、人工授精で4人目を産みたい」と話しています。
●子ども予算倍増 整合性ある政策論示せ 3/4
岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」「子ども予算倍増」を巡り、首相らの説明が迷走している。2022年の出生数は過去最少を更新し、初めて80万人を割り込んだ。少子化に歯止めをかけることは待ったなしの課題といえる。首相は改めて整合性のある説明をして国会論戦をかみ合ったものにすべきだ。
岸田首相は国会で「(児童手当や保育サービスを含む)家族関係社会支出は20年度で国内総生産(GDP)比2%を実現した。さらに倍増しようと言っている」と答弁。首相が言及したのは経済協力開発機構(OECD)基準で計上される支出で、20年度は10兆円程度だった。
少子化対策で成果を挙げているとされるスウェーデン、フランスなどがGDP比3%前後なのに比べ見劣りする。首相発言はこの支出を倍増させる意味と受け止めるのが当然だろう。
だが松野博一官房長官は倍増の土台をGDP比2%とする考えはないとして、首相の答弁を修正。首相はその後の国会で「政策を整理せずに数字を挙げろというのは無理」などと述べている。それでも倍増と言う以上、何を倍増するのか答えるべきではないか。
自民党内には4月の統一地方選を控え、財源や負担に論点が広がるのは避けたいとの声がある。そんな理由から重大な政策を巡る議論でかみ合わない説明を続けるとしたら無責任だ。
首相側近の木原誠二官房副長官は予算倍増に期限はないと強調。「子どもが増えれば、それに応じて予算は増える」などと述べた。子どもが増加すれば児童手当などの予算が自然に増えるということか。出生率を向上させるための予算倍増の議論に、出生率向上の結果の予算倍増を持ち出すのは筋違いだ。
防衛費については、従来GDP比1%程度だった予算規模を27年度に2%とするための取り組みが進む。だが、税外収入を集めたり歳出改革を行ったりしても財源は不足し、増税などで補う方針。子ども予算も財源論は避けて通れないだろう。
少子化の大きな要因は未婚者の増加であり、背景には若年層の雇用の不安定さがあると指摘される。非正規で働く多くの若者にとっては処遇改善や所得向上が不可欠だ。
少子化対策を検討する関係府省会議では有識者らから、女性に偏っている育児の負担を軽減するため、保育の質向上や、誰でも常に保育サービスを受けられるようにすることを求める声があった。男性が育児や家事を負担するための環境づくりが必要とする指摘もあった。
今月末をめどに少子化対策のたたき台がまとめられ、経済財政運営の指針「骨太方針」が6月に策定されるまでには子ども予算倍増に向けた大枠が示される。だが、それを待つのではなく、岸田首相は自らの言葉で政策の方向性を語るべきだ。
●資産形成で公務員にセミナー 新NISA、企業にも協力依頼―金融庁 3/4
金融庁は、岸田政権の「資産所得倍増プラン」の実現に向け、資産形成や金融知識を学んでもらう国家公務員向けのセミナーを4月以降、順次開く。2024年1月に少額投資非課税制度(NISA)が抜本的に拡充されることから、希望する職員に制度の詳細を紹介する。企業や自治体に対しても、社員や職員が資産形成への理解を深める機会を設けるよう協力を依頼。同庁は必要に応じて講師を派遣する方針だ。
セミナーは、個々人のライフプランを踏まえた資産形成の必要性や、さまざまな金融商品の特徴、投資のリスクとリターンなどを学べる内容とする。同庁が全国の国家公務員を対象とした大規模なセミナーを開くほか、省庁別でも行う方向で調整。NISAは、新旧制度の違いを中心に解説し、早期に投資を始めた場合のメリットなども紹介する意向だ。
同庁によると、近年は老後の備えなどを理由にNISAを利用し始める若者が多く、インターネット交流サイト(SNS)を通じて活発に情報交換が行われている。このため、今春に新社会人となる人など、これから資産形成を検討する人を中心に、セミナーを通じて正しい知識を身に付けてもらいたい考えだ。
企業や自治体がセミナーを開催する場合、講師を派遣することも検討している。金融庁や各地の財務局職員のほか、外部講師に依頼する可能性もあるという。
●公文書をないがしろにしてきたツケ 3/4
岸田政権の批判が出ているが、批判する党の幹部も相当お粗末と言わざるを得ない。それでも「野党に任せるよりはまし」と考える人たちが多くいるが、どこかでその体たらくを反省させなければいつまでたっても自民党自体が進歩しない。自民党支持者は党が相当の人材難であることを承知すべきだ。元首相・安倍晋三の長期政権が主要閣僚や党幹部を側近で固め人材育成を怠ったからだが、ここまで劣化するともう過誤できない。
自民党参院幹事長・世耕弘成は外相・林芳正のG20出席に際し参院予算委員会出席を優先すべきと野党張りの筋論を展開し、国際会議を断念させた。本来自民・自由連立政権の時に当時の自由党党首・小沢一郎が副大臣の設置を要求、公務での閣僚の外遊時に副大臣などが答弁できるようにした。世耕はそれを承知で「基本的質疑は参院の質疑の中でも非常に重要度が高い」と外相の委員会出席を強要していた。ところが3日の会見では外務省から「通常の海外出張のルーティンと同じように紙が回ってきた」と弁明。これでは外務省が強く言わなかったからと言わんばかりだ。その判断ができないのなら、安倍派の領袖(りょうしゅう)になるとか、衆院に鞍替えして首相になりたいなどと寝言を言う前に重要度や優先度を学んでほしい。
3日の参院予算委員会では立憲民主党・小西洋之が総務省の内部文書を元に質問したが、資料配布に理事会で与党側から「どういう文書か明確でない」と待ったがかかる。メディアは当時の総務相・現経済安保相・高市早苗の「捏造(ねつぞう)」発言ばかりだが、首相・岸田文雄も答弁で「文書の正確性などが不明であるものについて申し上げることはない」とした。文書に登場する当時の首相補佐官・礒崎陽輔はツイッターで「総務省と意見交換をしたのは事実」と認めた。週明けまでの時間稼ぎのつもりか、まずは公文書をないがしろにしてきた歴代政権のツケと記しておきたい。
●日本の財政政策、債務残高比率の上昇に「懸念」 WTO貿易政策審査 3/4
世界貿易機関(WTO)で3日、日本の貿易政策に関する審査会合が開かれた。議長が最後に総括を発表し、国内総生産(GDP)に占める債務残高比率の上昇について複数の参加国から「財政政策の持続可能性に懸念が寄せられた」と指摘した。
総括では、日本の特に農業分野の関税制度が複雑になっていると指摘し、簡素化することなどを求めた。2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政策については、一部の参加国から歓迎されたと紹介した。
貿易政策審査は加盟国・地域を対象に行っており、日本については3年に1度実施している。今回は今月1、3両日に開催された。
●ボストン連銀総裁 FRBはまだやるべきことがある 3/4
コリンズ・ボストン連銀総裁の週初に行われた講演内容が伝わっており、「消費者物価と生産者物価の予想を上回り、労働指標も引き続き好調。これらはすべて、インフレを目標の2%に戻すためにFRBがやるべきことがまだあるという私の考えを補強している」と述べた。
同総裁は今週初めにバーモント州銀行協会で行われた講演で、「インフレを目標に戻すには、十分に制限的な水準まで金利を引き上げるために、追加引き上げと、それをある程度長期に渡って維持する必要があると予想している」と述べていた。ボストン連銀はきょう、講演のビデオを公開した。
「住居費を除くサービスインフレは依然としてかなり高い水準にあり、そのためには、依然として非常にタイトな労働市場を冷やす必要がありそうだ」とも述べている。また、「大幅な景気後退なしにインフレ率を引き下げる道があると楽観視している」とも語った。
●非正規、貧困…婚姻に大きな差 想定以上のペースで進む少子化 3/4
モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜〜金曜6:00〜9:00)。3月2日(木)の放送コーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「少子化、予想以上のペース 出生数80万人を下回る」。情報社会学が専門の学習院大学 非常勤講師・塚越健司さんに解説していただきました。
厚生労働省が2月28日(火)に公表した、2022年の「人口動態統計」の速報値によると、去年1年間に国内で生まれた子どもの数は、統計開始以来、初めて80万人を下回りました。国が2017年に公表した予測では、出生数が80万人を下回るのは2033年となっており、想定を上回るペースで少子化が進んでいます。
「異次元の少子化対策」 具体的には?
ユージ:少子化問題がますます深刻になっていますね。
塚越:少子化は将来の働き手の減少を意味しますので、経済成長の低下をもたらします。そして、年金や医療といった社会保障制度の安定を揺るがすので、高齢層の方々にとっても他人事ではありません。
日本の平均寿命は、2021年のデータで男性は81歳、女性は87歳で、今後も伸びると予想されています。子どもたちは将来、税金を納めてくれますので、年金を支える働き手という意味でも社会全体の問題ですよね。
ユージ:岸田文雄首相は「『異次元の少子化対策』に取り組む」と発言しましたが、現在、どのような対策が話し合われているのでしょうか?
塚越:政府は、3月末までに少子化対策のたたき台をまとめる方針です。いろいろな柱があるのですが、やはり注目されているのは、児童手当などの「経済支援の強化」ですね。これまでも中学生までの子どもに月額5,000円〜最大15,000円の支給といった支援はあったのですが、これをさらに強化しようというものです。自民党では所得に応じて第2子には月額最大3万円、第3子には月額最大6万円の支援を検討しており、公明党ですと、支給対象を高校生にまで拡大する案もあります。
特に大きな話題になったのが、所得の高い世帯には児童手当を制限する「所得制限」を撤廃するという案です。1月下旬の国会で、これまで所得制限を支持していた自民党の茂木敏充幹事長が、従来の主張を翻して“児童手当の所得制限の撤廃”を主張しました。
この発言は自民党内での調整前の発言だったこともあって、非常に驚かされました。茂木さんの政治的なアピールの側面もあるかと思いますが、現在も非常に関心を集めておりまして、若い世代では「所得制限の撤廃」を支持する人が多いんですね。
ユージ:どのあたりが「異次元」の対策と言えるのでしょうか?
塚越:「異次元、異次元……」とは言っているのですが、基本的にはこれまでの支援策の額を増やす延長線上で、あまり目新しいものはなく、“どこまで本気なのか?”と少し疑問に思うところがあります。
例えば、2月15日(水)の衆院予算委員会で岸田首相は「家族関係社会支出は、令和2年度でGDP比2%を実現。それを倍増しよう」と発言しました。普通に考えると2%から4%への倍増というのは、約11兆円の財源が必要になるのですが、その後、野党から国会で追求されると「何をベースに倍増とするかは検討中」と述べました。
何をおっしゃっているのかわからなかったのですが、要するに“数字ありきではない”と言ったわけです。しかし、防衛費に関しては、わりと“数字ありき”で「増額する」と言っていたんですよね。こういうところを比較してみると、どこまで政府が少子化対策に本腰を入れているのかは不透明だと現段階では言えますし、当然、財源問題も大きな課題ですよね。
「簡単な支援」だけでなく、労働環境改善に踏み込んだ対策を
ユージ:現状の案でどこまで効果があるのか、塚越さんはどうお考えですか?
塚越:国会の議論は子どもを産んだ後の支援の話が多いのですが、子どもを産む前、例えば、結婚することも難しくなっていますよね。昨年末に「三菱総合研究所」がまとめた資料によると、雇用形態が「正規」なのか「非正規」なのかで婚姻数に大きな差があり、特に30代の男性では、雇用形態が正規・非正規で未婚率におよそ2倍の開きがあります。つまり、非正規雇用だと婚姻数が低くなるというデータがあって、そこには経済的な要因があるのかなと思います。
また「国立社会保障・人口問題研究所」の統計データや、さまざまなデータを見てみると、20代〜30代の人では「いずれは結婚しよう」という意思がある人は減ってきているものの、(調査に回答した未婚者の)7割〜8割の人は「いずれ結婚したい」と考えているんです。「結婚=子どもを産む」というわけではないので、その点には注意が必要ですが、やはり「結婚することによって子どもを産もう」という選択肢を考える人は増えると考えられます。
そうしてみると経済の問題が非常に大きく、例えば「育児休業」などを非正規の方や自営業の方がもっと簡単に取れるようにしたり、正規と非正規の労働の格差を是正したりするなど、労働環境全体を変えていく必要があると思います。つまり(児童手当のような)簡単な支援、わかりやすい支援だけではなく、社会全体の労働環境改善にまで踏み込まない限り、多少の支援額を増やすだけでは大きな変化はありません。
意味がないとまでは申し上げませんが、「本当にヤバいんでしょ!」と、少子化対策に本気になっている感じがあまりしないんですよね。少子化はこれまでずっと課題でしたし、日本経済もバブル後からずっと課題でしたので、我々も抜本的な改革を望んでいますし、政府もそれに本気で考えて応えないといけないのではないかなと思います。  
●総務省働き掛け認める 「放送法文書」一部裏付け―礒崎元首相補佐官 3/4
自民党の礒崎陽輔元参院議員は4日までに、放送法が定める政治的公平性の解釈を巡り、安倍政権の首相補佐官時代に総務省に働き掛けたことをツイッターで認めた。立憲民主党の小西洋之参院議員が入手した総務省の内部文書とされる資料に書かれた内容の一部が裏付けられた形だ。
総務省は安倍政権時代、政治的公平性について「一つの番組ではなく番組全体を見て判断する」との解釈に「一つの番組でも判断できる」との解釈を加えた。資料には当時の首相官邸が総務省に圧力をかけた経過が記録されている。
礒崎氏は3日の投稿で「首相補佐官在任中に、政治的公平性の解釈について、総務省と意見交換したのは事実だ。政府解釈では分かりにくいので、補充的説明をしてはどうかと意見した」と指摘。「数回にわたって意見交換し、それらの経緯も踏まえ、総務相が適切に判断した」と記した。
資料には「この件は俺と総理が2人で決める話」との礒崎氏の発言も記されている。この点について礒崎氏は「総務省が『官房長官にも話をすべきだ』と言ってきたから『それは私の仕事ではない。総務省の仕事だ』と伝えたものだ」と説明。資料が実際の内部文書かどうかの評価は避けつつ、文書漏えいなら「公務員の懲罰の対象となる可能性がある行為だ」と記した。
資料について岸田文雄首相は3日の参院予算委員会で「正確性が定かでない」と答弁。当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は「全くの捏造(ねつぞう)文書だ」と指摘し、捏造でなければ衆院議員を辞職する考えを示した。
●危機下の国際会議で国益損ねた閣僚不在 3/4
20カ国・地域(G20)外相会合が1、2両日にインドで開かれ、ロシアのウクライナ侵攻や食料・エネルギー高騰などの課題を協議した。緊迫した情勢下での国際会議の重要性を私たちは指摘してきたが、林芳正外相は国会審議を理由にG20会合を欠席した。貴重な外交機会を自ら放棄する対応は国益を損ない、極めて残念だ。
G20議長国のインドは会合後、「ほとんどのメンバーがウクライナ戦争を強く非難した」とする議長総括をまとめた。中国とロシアがウクライナ情勢を巡る文言に同意せず、当初めざした共同声明の採択には至らなかった。
世界はロシアのウクライナ侵攻をはじめとする複合的な危機に直面している。国際社会の分断が改めて浮き彫りになった面があるとはいえ、新興国も交えて様々な課題への処方箋を話し合うG20の役割は大きい。
現地ではウクライナ侵攻後で初めて、ブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相が対面で言葉を交わした。ブリンケン氏と中国の秦剛外相の会談は見送られたが、不測の衝突を避けるためにも積極的な対話が望ましい。
他の各国もG20の機会を生かし、2国間の外相会談を活発に繰り広げた。日本は主要7カ国(G7)の議長国で、ウクライナ侵攻などを巡って議論を主導すべき立場だ。政府は山田賢司外務副大臣を派遣したものの、代理ではこうした協議の輪に加わりにくい。
今回のG20はグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)の代表格でロシアとも友好関係にあるインドが主催し、ブラジル、南アフリカなども参加した。閣僚の不在は、こうした国々との関係を軽視したと受け取られかねない。
林外相は3日にインドで開かれた米国、オーストラリア、インドとの4カ国の「Quad(クアッド)」外相会合には参加した。対中抑止を念頭におく枠組みへの出席は当然だが、G20も含めた総合調整が可能だったはずである。
今回、外交よりも国会日程を優先した林外相は、参院予算委員会の基本的質疑に2日間で約14時間出席し、実際に答弁したのは合計しても数分だった。
衆参両院の予算委の基本的質疑は全閣僚出席が原則で、与野党が求めれば閣僚には出席義務がある。とはいえ硬直的な国会の慣例にとらわれて国益を損なう事態を二度と起こしてはならない。

 

●中国、成長目標「5%前後」に下げ 全人代開幕 3/5
中国の第14期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の第1回会議が5日午前、北京の人民大会堂で開幕した。李克強(リー・クォーチャン)首相は、2023年の経済成長率目標を「5%前後」とし、22年の「5.5%前後」から下げた。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で痛んだ経済の正常化へ財政支出を拡充する。
全人代は13日に閉幕する。閉幕日には国家主席として3期目入りする中国共産党の習近平(シー・ジンピン)総書記が演説する見通し。新たに首相に就任する李強(リー・チャン)氏の記者会見もある。
会期は前年より2日長い。任期5年の国家主席など主要人事を決めるためだ。ただ18年の会期は約2週間だった。「ゼロコロナ」政策は今年1月に終わったが、全人代の短期開催は続く。
経済成長率の目標を引き下げるのは2年連続だ。22年の中国経済は「ゼロコロナ」政策などで3%成長にとどまり、同年の政府目標「5.5%前後」を大幅に下回った。李氏は所信表明にあたる政府活動報告で、消費の回復・拡大を優先課題とし内需拡大に注力する方針を示した。
政府活動報告で李克強氏は積極的な財政政策は「いっそう強化して効率を高める」と強調した。国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率は3.0%に設定し、昨年目標の2.8%から引き上げた。地方政府のインフラ投資を促すため、専項債と呼ぶ関連債券の発行額は3兆8000億元(約75兆円)とし、22年から1500億元増やした。
消費回復のカギを握る雇用の目標をめぐり、失業率は5.5%前後とする。22年の「5.5%以下」からわずかに目標を緩めた。都市部の新規雇用は1200万人前後とし、前年の1100万人以上から引き上げた。
産業政策では、習指導部の下で企業や研究機関が総力を挙げて半導体産業などを育成する「新型挙国体制」を整えると強調した。「重要な核心技術を巡る難関を乗り越えるうえで政府主導を徹底する」とした。米国の先端半導体をめぐる対中輸出規制への危機感がみてとれる。
全人代では国務院(政府)の体制を正式に決定する。李強氏のほか、マクロ経済政策の司令塔を務めた劉鶴(リュウ・ハァ)副首相の後任に、国家発展改革委員会の何立峰(ハァ・リーファン)主任が就くとみられる。
政府活動報告では台湾についても触れた。「新時代の党の台湾問題解決の基本方策を貫徹し、『独立』反対・祖国統一促進を貫き、祖国の平和的統一への道を歩む」と明記した。2024年の台湾総統選を念頭に、統一へ圧力を強める姿勢を示したとみられる。
●中国、23年の国防予算は7.2%増、伸びが加速 日本の4.5倍に 3/5
5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で2023年の国防予算案が公表され、前年比7・2%増の1兆5537億元(約30兆5542億円)と過去最大規模となった。予算額は23年度の日本の防衛予算案の4・5倍で、米国の国防予算の約4分の1となっている。
国防予算案の伸び率は3年連続で加速した。経済成長率目標が前年を下回るなか、国防予算の伸び率は高い水準が維持されている。
全人代の王超報道官は4日の会見で、「中国の国防費がGDPに占める割合は世界の平均水準を下回っており、増加率も合理的だ」と主張。「中国の軍事力の近代化は、いかなる国家に対する脅威でもなく、むしろ地域の安定と世界の平和を維持するためのものだ」と語った。
●日銀と同友会のトップ人事は日本を変えるか?  3/5
本年4月、日本銀行総裁と経済同友会代表幹事の任期切れに伴い、それぞれに新総裁と新代表幹事が就任する運びとなっている。
日銀総裁についてはまだ衆参両院の同意を取り付けるなど諸々の手続きが残っているが、経済学者・植田和男氏の就任で決まりのようだ。2月24日付の日経社説は「植田氏は金融政策の明快な説明と対話を」と早すぎる注文を付け、その上で、黒田東彦総裁が主導した「異次元緩和」はほころびが目立つとし、植田氏の最初の大仕事はその修正になるとしている。
新総裁の任期は5年。大仕事だけに、就任早々の進路変更はないだろう。しばらくは前任者の敷いた路線をたどり、不確実な世界情勢や国内政治の動きを見ながら、徐々に日本丸の舵(かじ)を切っていくのだろう。長い目で見て、この国の危機を救う人事となることを祈りたい。
経済同友会については、現職の桜田謙梧代表幹事(SOMPOホールディングス会長兼CEO)が4月末に任期満了を迎える。後任には、サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏の就任がすでに発表されている。任期は2期4年。同友会は経済3団体の一つで、経団連は大企業トップの集まり、日本商工会議所は中小企業の立場で政府にもの申してきた。
同友会は一風変わっていて、経営者が個人の資格で参加することもあって、個性派集団であり、時には正面から政府を批判したりもする。新浪氏も改革志向が強い人で、同友会でも副代表幹事として積極的に発言してきた。昨年12月の就任披露の記者会見で「日本は良いものをもっているのに自信を失っている。新しい社会をつくるために変えるべきところを変えていきたい」と語っている。
桜田現代表幹事も、新浪氏について「日本を変える情熱の塊」と評価している。停滞が続く日本経済を活性化するには民間主導の構造改革が不可欠であり、同友会にはその先駆けとなることを期待したい。
民主主義のインフラ、独立財政機関
さて、新浪氏には独自のアイデアもあるだろうが、桜田氏が残した実績のなかで特に継承してほしいものがある。それは同友会による「2019年11月提言」である。提言は「財政健全化や社会保障改革が遅れており、これを改めるには国民が必要とするデータを長期的かつ客観的な視点から提示する機関が不可欠である」として、民主主義のインフラとして「独立財政機関の設置」を提唱している。
2000年代以降、経済危機を契機とし、政府から独立して長期推計の作成などを行う独立財政機関の設立がOECD加盟国を中心に相次いだ。しかるに、この国の長期債務残高のGDP比は最悪の水準にありながら、独立機関の設置には政府与党を中心に反対が強く、提言は顧みられることなく今に至る。
新浪氏には、複眼的に将来を展望する社会の構築を目指し、独立財政機関の設立を広く国民に向けて主張してほしい。
●「国民負担率」47.5%の「日本」…税負担がさらに増える可能性も?  3/5
モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜〜金曜6:00〜9:00)。3月1日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「『国民負担率』今年度は 47.5% 他の国と比べて高いのか?」。情報社会学が専門の学習院大学 非常勤講師・塚越健司さんに解説していただきました。
個人や企業の所得等を合わせた、国民全体の所得に対する税金・社会保険料負担の割合を意味する「国民負担率」。財務省は今年度の国民負担率が47.5%になる見込みだと発表しました。
過去最高水準が続く「国民負担率」
吉田:塚越さん、「国民負担率」とは何なのか改めて教えてください。
塚越:国民負担率とは、個人や企業の所得等を合わせた国民全体の所得に対する、税金や社会保険料負担の割合を意味するもので、公的負担の重さを比較する指標の1つとされています。財務省によれば、2022年度の国民負担率は47.5%になる見込みです。
これは、これまで一番高かった2021年度の48.1%からは少し下がりました。原因としては、高齢化によって社会保険料の負担は増えたものの、企業の業績回復や雇用者の報酬が増えたことで、昨年度よりも負担率は減ったと考えられます。また、来年度の2023年度はさらに下がって46.8%を見込んでいます。
とはいえ、この国民負担率は統計を最初に公表した1970年度で24.3%。1979年度から30%を超えますが、1980年代〜2010年代前半までは30%台でした。それが2013年度から40%を突破しました。特に2020年度からは、さらに高くなっている状況です。
吉田:「47.5%」というのは、他の国と比べると高いのでしょうか?
塚越:ヨーロッパ諸国は国民負担率が相対的に高いです。2019年度のデータですが、フランスが67.1%、福祉国家と言われるスウェーデンで56.4%、ドイツで54.9%などです。それらと比較すると(日本は)低いですが、同じく2019年度のデータで韓国は40.1%、アメリカは32.4%と、日本はこれらの国よりは高いです。
OECD(経済協力開発機構)加盟の36ヵ国ですと、2020年のデータで日本は22番目です。つまり、全体としては、いまだ低い水準です。また、金額以外にも政策のあり方も外国と異なるので、簡単な比較はできませんが、やはり、国民負担はどんどん増えてヨーロッパ並になってきています。
さらに、日本は社会保障などを借金、国債に依存しており、国民負担率にこれらの財政赤字分も加えた「潜在的国民負担率」というものもあります。この潜在的国民負担率は、2022年度はコロナの影響もあり61.1%とかなり高い数字になります。国債による借金は将来世代への負担にもなるので、やはり負担は大きいです。
ユージ:日本の国民負担率、どのように受け止めればいいのでしょうか?
塚越:コロナがあったとはいえ、かなり早いスピードで増えていると感じます。90年代以降の経済の停滞も大きいですが、社会保障費でいえば少子高齢化が大きい要素になり、それは仕方ない部分もあります。ただし、考えるべきポイントは負担が多くなることで、それだけ福祉などのサービスが充実するかどうか。こう考えたとき、負担が多いのに見返りが少ないという批判もあります。
兵庫県明石市の泉房穂(いずみ・ふさほ)市長はTwitterで、「すでに諸外国並みに負担しているにもかかわらず、子育て支援も介護負担の軽減も進まない」と、不満を述べています。Twitterでは、江戸時代に領民が領主に納める年貢割合の「五公五民」という言葉がトレンドになりました。五公五民とは、領主が5割で領民5割の取り分ということです。
江戸時代の初期は「四公六民」。つまり領主が4割で領民が6割だと言われていて、その後、半々になったことなどが原因で一揆、要するに反乱が起きたとされています。つまり、国が(税金・社会保険料などを)取り過ぎているのに、自分たちに還元されていない、といった反発の声が強いということです。
ユージ:負担率そのものよりも、「果たして自分たちに還元がどれくらいあるのか」という部分で、負担率に対する納得感も大きく変わると思いますね。
塚越:いわゆる福祉国家のスウェーデンなどでは学費がすべて無料ですが、日本はまだそのような状態になっていないにもかかわらず、かなり(国民負担率の)水準が高くなっています。
岸田政権は防衛費増額などの政策をいろいろと打ち出していますが、これによって、さらに税負担が増える可能性のほうが高いです。税負担が増えるのであれば、どれだけ我々に還元しているのか不満に思う気持ちも多いと思います。そのため、この議論はきっちりしてほしいと思いますね。
●経営者の75%が「売上成長見通しに自信なし」の悲惨…日本経済の停滞理由 3/5
日本においては、物価高にも関わらず賃金がほとんど上がりません。この状況が作り出された原因とは一体何なのでしょうか。本連載では、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏が、著書『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』(PHP研究所)から日本経済の問題点について解説します。
「デジタル化の遅れ」が経済停滞を招いている
労働生産性低迷の原因のひとつに「物的資本の停滞」があります。
経済理論は、労働投入1人当たりの資本ストックが多くなると、労働生産性が高くなることを示しています。データを確認しましょう。
[図表1]は資本装備率の推移を示したものです。
   [図表1]資本装備率の推移
資本装備率は、資本ストックを従業者数で割ったもので、従業員1人当たりの設備等の保有状況を示したものです。一般に、この指標が高いと、生産現場において機械化が進んでいるとされます。
日本の全産業の資本装備率は、2000年代初頭までは大きく上昇していましたが、その後は伸びておらず、これが労働生産性を停滞させたと考えられます。
産業別に資本装備率の推移をみると、製造業では2000年代以降も伸びている一方で、サービス業では停滞していることがわかります。サービス業は、全産業に占める割合が大きいため、サービス業での資本装備率の低迷が経済全体の資本装備率の低迷につながっています。
製造業とサービス業で資本装備率が異なるのは、サービス業では労働を資本で代替するのが難しいことを反映しています。
労働を資本で代替することの難易を示す尺度である「代替の弾力性」をみると、かつては製造業に比べてサービス業では代替の弾力性は低く、労働を資本で代替するのは容易ではありませんでしたが、2010年代には製造業とサービス業で代替の弾力性はほぼ等しくなっているとの報告もあります。
この背景には情報通信技術(ICT)の発達があります。これまでサービス業で人間が行っていた仕事が、最近では機械に代替されるようになってきました。たとえば、スーパーマーケットやコンビニなどでは、セルフレジを導入する店舗が増えています。
また、事務作業を担うホワイトカラーがパソコン等で行っている一連の作業を自動化できるソフトウェア「ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)」を導入する企業が増加するなど、ソフトウェアを利用した省力化投資も活発に行われています。
とはいえ、他の先進諸外国に比べると、日本のICT導入は大きく遅れています。総務省の調査研究([図表2])によると、日本企業のICT導入率はアメリカ、イギリス、ドイツの企業よりも低く、労働生産性を抑制しています。
また、ICTを導入しても、ICTの利活用に向けた環境整備を実施している企業の割合が低いという現実があります。
   [図表2]企業のICT導入状況の国際比較
日本のIT(情報技術)化、デジタル化の遅れは他のデータからも明白です。
スイスのビジネススクールIMDが毎年公表する「世界デジタル競争力ランキング」によると、2021年の日本のデジタル競争力の総合順位は64か国中28位となっています。そのうち、デジタル・技術スキルの領域では62位となっています。
コロナ禍で明るみに出たデジタル化の遅れ
また、コロナ禍では、デジタル化の遅れが明るみに出ました。たとえば、東京都では当初、各保健所がファックスで新型コロナウイルス感染者の数を報告しており、データによる迅速・正確な集計や情報共有がなされていないことが問題になりました。
また、新型コロナウイルス対策として、政府が2020年に実施した1人一律10万円の特別定額給付金では、オンラインで申請されたデータと受給権者リストの自動照合ができず、職員は目視による照合作業に追われ、多くの自治体がオンライン申請の受付を停止しました。その結果、「オンラインよりも郵送のほうが早い」というありえない状況が多くの自治体で発生しました。
民間でも、テレワークの導入は進んだものの、在宅では処理できないプロセスも多く、また、ハンコ承認や紙の書類処理のための出社を余儀なくされた人が多く出ました。
日本企業は「守りの姿勢」に入りすぎている
生産要素以外で、「TFP(全要素生産性)」の低下も労働生産性の低迷を招いています。経済学の教科書によると、TFPは技術進歩やイノベーションなどにより、経済が資源を利用する際の効率性を反映しているとされます。
企業経営のあり方、経営の質、さらには働き方や雇用制度などもTFPに影響を与えます。ここでは、企業経営のあり方に焦点をあててみましょう。
近年の日本企業の行動をみると、「守りの姿勢」となっていることが目を引きます。デジタル化の遅れや従業員への教育・訓練費の低下などに代表されるように、企業による資本や人への投資が低迷しています。
他方、企業は内部留保を積み上げています。内部留保とは、売上高から原材料費や人件費などの費用を引き、さらに法人税や配当を支払った後に残った利益を積み上げたものです。なお、会計用語としては、内部留保という言葉はなく、利益余剰金と呼ばれます。
「内部留保」が経済成長に悪影響を及ぼすワケ
[図表3]は企業の内部留保(金融・保険業を除く)の推移を示したものです。
   [図表3]企業の内部留保の推移
内部留保は2000年代に入ってから増え続けていることがわかります。2021年度には約516兆円と初めて500兆円を超え、2000年度の内部留保(約194兆円)の約2.7倍となっています。2021年度の名目GDPは542兆円なので、内部留保額はGDPの約95%に匹敵する大きさです。
このように企業がお金を社内にため込むというのは、実は異様な姿です。というのも、本来、企業は貯蓄よりも投資が多くなる投資超過主体だからです。
企業は、金融機関から借り入れたり、株式や債券を発行したりして資金を調達し、それを元手として事業を行い、収益をあげることを目的としています。
将来の糧を生み出すために、リスクをとって新しいことにチャレンジし、積極的に投資をするはずの企業がお金をため込んでしまっているということは、企業行動が保身的になっている証拠です。
なぜ、企業はお金をため込むようになったのでしょうか?
企業が内部留保を積み上げるようになったのは、バブル経済崩壊後のバランスシート不況のなかで、借金返済を最優先として、企業活動を縮小せざるをえなかったことがきっかけだと考えられています。
その後も、企業は、100年に一度の大不況と言われたリーマン・ショックを契機とする世界金融危機を経験します。大きな経済ショックを経験した企業は、いざというときに備えて、借り入れの依存度を下げ、財政基盤を強化するようになったのです。
また、高齢化を伴う人口減少を背景として、将来にかけて低成長が持続する懸念があるなかで、設備投資や人件費などの増加を抑え、有事に備えて、自己資本の積み増しを優先するという行動をとるようになったとも考えられます。
このように、日本企業が保守的で消極的な行動をとるようになった大きな要因に、経営者のあり方や質があると考えられます。
企業経営者の本来の役割は、リスクをとって新しいことにチャレンジし、企業を成長させ、収益を上げ、従業員に賃金を支払い、株主に収益を還元することです。
しかしながら、経済環境が厳しいなかで、特に大企業で、経営者が保身化しているように見受けられます。
積極的な経営を行い、果敢に投資を進めた際に、失敗して責任問題になることを恐れ、むしろ、経費削減やリストラなどで数字を安定させ、評価を得ようとするようになっていると言えます。
もちろん、経費節減やリストラなどにより経営を改善し、再生した企業もありますが、そうでない消極的な経営を行う企業が多くなれば、経済全体で投資は低迷、経済成長にはよくない影響を及ぼします。
「第25回世界CEO意識調査」の興味深い調査結果
興味深いデータがあります。世界的なコンサルティングファームであるPwC(プライスウォーターハウスクーパース)が世界89カ国・地域の4446名のCEO(うち日本のCEOは195名)を対象に2021年10月〜11月にかけて実施した「第25回世界CEO意識調査」です。
この調査では「今後12カ月間の貴社の売上成長見通しについてどの程度自信をお持ちですか」という質問があるのですが、それに対して自信がある(「非常に自信がある」および「極めて強い自信がある」)と回答したCEOの割合は、世界全体で56%、アメリカで67%、中国で45%であったのに対して、日本では25%と非常に低い数字になっています([図表4])。
   [図表4]CEOの売上成長見通しについて
経営者には、いかなる環境にあっても勝ち抜く経営判断が求められます。程度に差はあるものの、コロナ禍から経済が回復しつつあるという似たような経済環境のなかで、将来の売り上げ成長見通しに自信がある経営者が世界と比べて日本で少ないことは、日本の企業経営者の経営判断や経営戦略に問題があることを表していると考えられます。
日本経済は1990年代半ばに、現在では「失われた20年あるいは30年」と呼ばれる長期停滞に入りました。日本が敗戦という大きな構造変化に直面した1945年から約50年を経た後のことです。
これは、ちょうど、戦後日本の成長を牽引した松下幸之助や本田宗一郎のような起業家精神に溢あふれる第一世代のリーダーたちが去った後のタイミングです。
バブル崩壊後のバランスシート不況を乗り切るために、企業活動を縮小し、借金返済に注力せざるをえなかった時代の経営者たちの守りの姿勢が今も続き、企業行動が積極的でなくなっていることは否めないでしょう。
●トマホーク大量購入 野党から疑問の声 速度遅く米国では「飽和攻撃」用 3/5
敵基地攻撃能力(反撃能力)として購入予定の米国製巡航ミサイル「トマホーク」を巡り、国会で野党から活用に疑問の声が出ている。トマホークは速度が遅く、迎撃されやすいため、米軍は大量に一斉発射して迎撃を難しくする「飽和攻撃」に用いるが、自衛隊には対応する装備がない。岸田文雄首相は400発の購入を表明。湾岸戦争開戦時に米軍が使った弾数より多く、導入時期も国産長距離ミサイルと重なるため「多すぎる」との批判も挙がる。2023年度予算で2113億円を計上した妥当性が問われそうだ。
「(相手の射程圏外から攻撃する)スタンドオフ防衛能力向上のためだ」。首相は1日の参院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美氏から大量購入するトマホークを「どう使うのか」と問われたのに対し、同じ答弁を繰り返した。
政府は23年度に購入契約を締結し、26、27両年度に海上自衛隊のイージス艦へ配備を目指す。射程は1600キロあるものの、時速920キロとミサイルの中では遅く、迎撃されやすいとされる。そのため米軍はトマホークを飽和攻撃に使用しており、1991年の湾岸戦争では最初の攻撃で122発を発射した。
辻元氏が米軍と同様に飽和攻撃で使用するのかとただしたのに対し、浜田靖一防衛相は「日本にはそぐわないかもしれない。飽和攻撃の装備を日本は持っていない」と明かした。一方で大量購入の理由は説明せず、具体的な活用は「侵攻してくる艦艇や上陸部隊への対処」を挙げたのみ。辻元氏は「トマホークを現実に使えば必要最小限度では収まらない」と述べ、専守防衛を逸脱すると批判した。
26年度には射程千キロ程度に長射程化した国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」などの配備も計画する。だが開発は途上で、自衛隊幹部は「長射程化が順調に進むかは分からず、信頼と実績があるトマホークが必要」と強調し、開発が失敗したときの「保険」との考えを示した。その上で「有事の際は米軍と一緒に敵を攻撃できればいい」と述べ、米軍と一体となって飽和攻撃に使う可能性を示唆する。
野党も国会審議で、米国など密接な他国が攻撃される「存立危機事態」を想定し、集団的自衛権としてトマホークを使うよう米国から要請された場合に断れるのかと追及。しかし、首相は「米国の要請があれば攻撃するものではない。憲法をはじめとするルールの中で武力行使を厳正に行使する」と述べるにとどめた。
首相はトマホーク1発当たりの単価も公表していない。米国が同盟国などに装備品を有償で提供する「対外有償軍事援助(FMS)」に基づき購入するが、米国のほぼ「言い値」で、野党は不透明さを指摘。立憲の後藤祐一氏は2月末の衆院予算委で「全部買うのは買いすぎだ。節約して防衛増税を防ぐべきではないか」と指摘した。
●松原耕二氏が岸田首相の倍増発言連発に苦言「総理の言葉としては軽い」 3/5
キャスターの松原耕二氏が5日、「サンデーモーニング」(TBS)に出演した。
番組では過去最大となる総額114兆3812億円の来年度予算案が衆院を通過したことを取り上げた。増加の主な要因が防衛関係で1・4兆円の増加。2113億円でトマホーク400発の取得を明らかにしている。
一方で岸田文雄首相が倍増を訴えた子ども関係予算はわずか0・1兆円の増加で「6月の骨太方針で予算倍増の大枠を示す」と言っているが何を倍増するのか基準を示していないと報じた。
松原氏は「岸田総理はよっぽど倍増という言葉が好きなんでしょうね。思い起こしても所得倍増、資産所得倍増、防衛費倍増、子供予算倍増。打ち上げては、迷走していくように見える」と指摘。
「子供予算も最初は威勢がよかったけど期限はないんだと。どこまで本気なのか見えてこない。倍増という言葉がキャッチフレーズとして使ってるとしたら総理の言葉としては軽いと言わざるを得ない」と苦言を呈した。
最後に「どこまで本気なのか国民は分からなくなってると思う。どこまでやる覚悟があるのか、きちんと説明をしてほしいと思う」とコメントした。 
●出生数80万人割れの衝撃 「児童手当の年収1200万円所得制限は引き上げ」 3/5
日本の少子化が急激に進むなか、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を巡る議論が国会で熱を帯びている。その背景の一つが、昨年の「出生数80万人割れ」の衝撃だ。80万人割れは2033年と推定されていたが、実際は11年も早かった。少子化が進めば、内需中心の日本経済に深刻な影響を与えるだけでなく、社会保障制度を維持するのも困難になる。少子化問題への取り組みについて、昨年10月に施行された「産後パパ育休」(出生時育児休業)制度の創設に深くかかわった自民党女性局長・松川るい参院議員に聞いた。
「異次元の少子化対策」の柱は、(1)児童手当などの経済的支援(2)幼児・保育サービスの拡充(3)育児休業制度の強化や働き方改革――の三つである。
一つ目の柱である児童手当などの経済的支援について尋ねると、財源の問題はひとまず脇に置き、松川局長はこう語った。
「もともと児童手当は、経緯からいえば、経済的に苦しい家庭であっても子どもを健全に育成できるようにサポートする、という発想で設けられました。ある意味、貧困対策の色彩が強かったわけですが、出生数が80万人を割り込む急激な少子化に直面する現在、これからは少子化対策として有効に機能することを目指さなくてはなりません。そのためには、これから結婚する人や家庭が『子どもを産んでも、児童手当があるから安心して育てられる』と感じられるように、支給額を大きく増やすべきだと思います」
現在、児童手当には所得制限が設けられている。世帯で最も収入が高い人の年収額が1200万円以上であれば支給されない。
「児童手当の所得制限については、今、自民党の中でも議論している最中ですが、私は所得制限撤廃に基本的に賛成です。少子化傾向を反転させていくためにも、制限を撤廃して、『子育てを国は全面的にサポートしていきます』という力強い明確なメッセージを打ち出すべきだと思います。ただし、財源が課題ですから、撤廃するなら、支給書類に『辞退します』というチェックボックスを設けて、児童手当を必要としない、例えば何億円も稼ぐような人には辞退を促す仕組みもつくるべきだと思います」
「1200万円」制限は見直すべき
いずれにせよ、現状の1200万円の線引きは「ちょっと低すぎる」と、松川局長は言う。
「年収が1200万円あったとしても、税金や社会保険料を引かれたら、手取り額は800万円ほどですから。それで、子どもが2人以上いて物価の高い都心に住んでいたら、生活に余裕がありあまるというわけではありません。仮に所得制限撤廃に至らなかったとしても、所得制限額は大幅に見直すべきだと考えます」
また、障害児に対する児童手当も忘れられてはならないと指摘する。
「障害児は、車椅子や義肢などの器具を成長に合わせて買い替えていかねばならないので、障害のない子ども以上に多くの費用が恒常的にかかります。それにもかかわらず、所得制限の線引きは790万円と低くおさえられており、障害児を持つ親たちや障害児は大きな困難に直面しています。でも、少数派なのでその声がなかなか届かない。『お母さん、大きくなってごめんね』などとお子さんに言わせるような状況は何としても変えていかねばなりません。児童手当見直しが政治の中心の議論の一つとなっている今、せめて所得制限上限を引き上げるなど障害児に対する児童手当の所得制限の見直しにも取り組んでいきたいと考えます」
結局、財源が課題となるが、「所得制限撤廃には1500億円程度の財源が必要とされています。所得制限撤廃のプラスのインパクトは大きいと思いますが、所得制限撤廃よりも、上限を大幅引き上げをしたうえで、異なる少子化対策施策を講じるほうがよりよいポリシーミックスだという考えもありましょう。いずれにせよ、児童手当の拡充については財源も含めて、子どもの幸福を実現するために何がベストかを真ん中にしたきめ細かな議論をしていきたいと思います」。
家庭第一はブレていない
二つ目の柱は、幼児・保育サービスの拡充だ。自民党女性局のパンフレットには「すべての子どもの健やかな成長を社会全体で支える『こどもまんなか』社会を実現します」とある。
しかしそれは、これまで自民党が大事にすべきだと言ってきた“伝統的な家族観”と矛盾しないのかと聞くと、「まったく矛盾しないと思います」ときっぱり言い、こう続けた。
「まず、家庭が子どもをしっかりと育てましょう、というのは当然のことだと思います。親がわが子の子育てを放棄してはいけません。ただ、昔と比べて『家庭力』が落ちていますから、そのぶんを社会が支えないと子どもが不幸になってしまいます。家庭力には差がありますが、子どもは家庭を選べません。どんな家庭に生まれた子もちゃんと育つことができる社会をつくる必要がありますし、それは国の責務だと思います」
現在、日本の世帯の72%が共働きである(21年、妻が64歳以下の場合)。厚生労働省の調査によると、この10年で、一部の富める子育て世帯はますます富み、そうでない大多数の世帯との二極分化が著しくなっている。結婚したカップルも“3組に1組が離婚する”状況が続いている。
「要するに、家族の受容力が昔とはぜんぜん違うわけです。余裕を持って子どもをみることができない家庭が大半になってきている。私のうちも共働きです。夫婦で非常に忙しい仕事をしている。子どもに対する愛情はたくさんあるつもりですけれど、時間的にはなかなか見てあげられないのが実情です。幼いころ、子どもたちは昼間の大半の時間を保育園で過ごしました。となれば、やはり、保育の質がよくなければ困るわけです」
日本の家庭の現状に対処するためには、もっと国や社会が子育てや教育を全面的に支援していく制度に整えていかなければならないと、松川局長は訴える。
「総合的に子どもにとってよりよい環境をつくり出す、ということを国や社会が責任を持ってやるべきだと思います。それは家庭が第一という考え方と何も矛盾しないと思います。時代の変化に合わせて、『家庭か社会か』ではなく、『家庭も社会も』で、総力を挙げて子どもを育てるという発想が必要です」
●「日本人消滅」のカウントダウンがいよいよ始まった…出生数激減 3/5
出生数激減を前提とした社会構想を
2022年の出生数の速報値(外国人を含む)が79万9728人と初めて80万人を下回ったことを受けて、日本中が大騒動状態である。いずれこうなることは分かっていたのに、突如として問題が降りかかってきたかのような慌てぶりだ。
子どもを出産し得る年齢の女性人口が激減していくという「少母化」が、日本の出生数を激減させる最大の要因である以上、「異次元の少子化対策」をいくら講じようと出生数減の流れを反転させることは極めて困難だ。
国立社会保障・人口減少研究所は2115年までの将来人口推計を行っているが、出生数は一貫して減り続けると予測している。
政府はいまだ子育て支援策に熱心だが、周回遅れも甚だしいということだ。いまの日本は出生数の減少が進むことを前提とし、社会経済活動をどう維持・機能させていくか考えなければならないところまで追いつめられているのである。
「出生数の減少を前提とした対策」を講じるには、人数が減ることで子どもたちの身の回りにどのような影響が及ぶのかといった視点も欠かせない。さらには、永続的に若い労働力が減り続けていくことで起きることを踏まえた議論も不可欠である。
だが、国会論戦を聞くと子育て中の当事者たる「大人」への支援策ばかりが目立つ。子どもの数が減ることに伴って将来的に社会に何が起き、それにどう備え解決していくのかといった議論はほとんど聞こえてこない。
学校の統廃合がもたらす子どもへの影響
出生数が減っていけば、子どもが学ぶ場での変化は大きくなる。
すでに人口減少が進む自治体を中心に小中学校の統合が進んでいる。文部科学省の調査(2021年度)によれば、統合によって通学時間が60分超、通学距離が20キロ以上となった小学生は少なくない。小さな子どもにとって心理的負担が大きいだろう。
スクールバスや借り上げタクシーの導入も進んでいるが、親がマイカーで送迎せざるを得ないケースも珍しくはない。ここまで通学距離が長くなると、放課後のクラブ活動への参加も制約される。小学校の在り方を根本から見直す時期に来ているということだ。
地方の高校においては、一学年あたりの生徒数が20人前後という超小規模校が珍しくなくなってきている。こうした規模の高校では入学試験での学力選考が難しくなっている。「地域に高校が1つしかなく、よほどのことがなければ不合格にしづらい」(小規模校の校長)というのだ。
学校とは学力を身につける場だけでなく、知らない人とのコミュニケーションの取り方など社会に出る前の“練習の場”としての役割も担っている。生徒数が少なくクラス替えも出来ないと、こうした能力もはぐくむことに支障が出かねない。
多くの人数でプレーするスポーツの種目が制約されたり、クラブ活動においても複数校によるチーム編成を余儀なくされ練習時間が思うように取れなかったりするケースも相次いでいる。
超小規模でなくとも一学年あたりの人数が少なくなれば、生徒同士が切磋琢磨しながら成長していく力はその分だけ弱まる。もちろん、どんな時代にあっても「天才」と呼ばれるような才能豊かな人材は誕生するが、一学年の絶対数が減れば才能豊かな人材の絶対数もそれに比例して少なくなるだろう。それは日本全体の人材不足へとつながっていく。
日本発のイノベーションが起こりづらくなる
出生数の減少が社会に及ぼす影響は学校教育にとどまらない。最大の弊害は若者が減ることで社会が硬直化することである。
出生数の減少は人材の裾野が狭くなるということだ。各分野とも年々、新卒者の採用が難しくなる。それは自衛隊や警察といった「若い力」を必要とする職種も例外ではない。このままでは日本が誇ってきた「安全な国」神話は過去のものとなるだろう。
ただでさえ急減する若者が、社会人となってそれぞれの道に進むと、配属先の組織ではさらに小人数となる。一方で必要な人数の新卒者が採用できない職場ほどベテラン従業員の雇用延長が進みがちだ。
こうした組織では世代交代はスムーズに進まず、若者の占める割合も小さくなるので新風も吹き込みづらくなる。こうしてマンネリズムが支配する職場が多くなれば日本社会全体が「勢い」を失ってしまう。
そうなればイノベーションも起こりづらくなり、画期的な新製品の開発や消費マーケットにブームを起こす力も無くなっていく。これらは出生数の激減がもたらす弊害の一端に過ぎない。
日本人が消滅していく過程に入ってしまった
こうした未来図が容易に予想されるのに、「異次元の少子化対策」を講じれば出生数減少の流れを変えられるかのように語る政治家たちの姿勢はもはや無責任であろう。
今後も「やってる感」だけの子育て支援策の充実に終始するならば、日本は沈む一方である。
そうではく、これからの政治家には、人口減少に歯止めはかけられず、しかも年齢が若いほどその減り方は激しいという「不都合な現実」をしっかり受け止め、それでも日本が豊かな国であり続けられるよう考え、実行に移すことが求められる。
わずかながらも日本経済に余力が残っているうちに人口減少時代にあった社会の在り方や経済成長を続ける方策を見出せないならば、日本の建て直しは絶望的に厳しくなる。日本人が消滅していく過程に入ってしまったという国難なのである。
国民の英知を結集することなしには乗り切れない。真の政治リーダーの登場が待たれる。
●関西 少子化と人口減少に拍車 3/5
関西2府4県で、去年、生まれた子どもの数は、速報値で13万2792人と前の年より4.9%減った一方、死亡した人の数は25万人4619人と9.1%増え、少子化と人口減少に拍車がかかっています。
厚生労働省が公表した人口動態統計によりますと、関西2府4県で去年生まれた子どもの数は速報値で13万2792人でした。
前の年より4.9%減っていて、府県別に減少の幅を見ますと、兵庫が6.0%、和歌山が5.4%、奈良が5.1%、京都が4.5%、滋賀が4.4%、大阪が4.3%となっています。
減少の幅は関西全体で2年連続で拡大していて、新型コロナの感染が拡大した2020年に結婚する人の数が1万組以上減り9万組を割り込んで推移していることも影響を与えているとみられます。
一方、死亡した人の数は25万4619人と、前の年に比べて2万1199人、率にして9.1%増えました。
死亡した人の数は新型コロナの感染が拡大した時期に増える傾向があり新型コロナを背景に少子化と人口減少に拍車がかかった形です。
出生数の減少について、少子化対策に詳しい京都大学の柴田悠准教授は「コロナによる結婚控えの余波もあるが、根本的な問題は出生数の減少が毎年続いていることだ。これから若い人が減り特に2025年以降20代が急激に減っていくので今こそ制度を改善し結婚しやすく子育てしやすい社会を作っていく必要がある」と話しています。
また、対策の方向性として「根本的には雇用の安定化・賃金の上昇が必要だが時間がかかる。すぐにやるべき対策として子育て世帯への経済的支援、学費の免除、保育の拡充、育休の利用のしやすさ、住宅支援などを進める必要があり現在6.1兆円となっている少子化対策予算の規模がどの程度拡充されるか注目したい」と話しています。
●自民・甘利明前幹事長、少子化対策の消費税増税に慎重 3/5
自民党の甘利明前幹事長は5日のフジテレビ番組で、少子化対策の財源確保に向けた消費税率の引き上げに慎重な姿勢をみせた。「よほど景気が良くならないと相当景気に影響する」と指摘した。「当面は経済成長から効果的に予算配分する仕組みで(少子化対策の)予算を拡大すべきだ」と唱えた。
甘利氏は1月、少子化対策の財源を巡り「将来の消費税も含め地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、党内で反発を招いていた。岸田文雄首相は1月の衆院本会議で「消費税に当面触れることは考えていない」と答弁した。  
●半導体製造装置の対中輸出規制強化で日米蘭「歩調合せている」と、甘利氏 3/5
自民党の甘利明前幹事長は5日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』に出演し、岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」の財源確保について、消費増税に慎重な姿勢を見せた。
甘利氏は、「消費税はよほど景気がよくならないと、引き上げると景気に相当影響するというのが経験値だ。経済成長と効果的な予算配分で(少子化対策の)予算拡大に取り組むべきだ」と強調した。
甘利氏は少子化対策の財源について、1月のBS番組で将来的な消費増税に言及したと報じられたが、「誤解報道があった」と主張した。
一方、甘利氏は、先端半導体製造技術の対中輸出規制強化をめぐり、日本とオランダが米国からの要請を受け入れ、3国が合意に達しているとの認識を示した。「(政府は)外に向けてリリースはしていないが、恐らく日本とオランダはアメリカと歩調を合わせている」と述べた。
中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用をめぐり、甘利氏は、中国の国内外の中国人と中国企業に中国政府への情報提供義務を定めた国家情報法に触れ、「情報が全部(中国政府に)渡されるということを前提に使わなければいけない」と述べ、日本として何らかの対策が必要だとの見解を表明した。
国民民主党の玉木雄一郎代表も「国家情報法とセットで考えていく必要がある。(中国の)国家に直結して利用される可能性があり、(他国の)ほかのアプリとは別に考えていかなければいけない」と指摘した。
玉木氏は「国民民主党所属の国会議員や党職員にも(TikTokアプリを)入れるなということを徹底したい」とも述べた。
TikTokをめぐっては、米下院外交委員会が米国内での一般利用を禁止する法案を可決。米国やEUなどが公務用端末から排除し、日本も政府職員の公用端末での使用を禁止している。
インドでは、情報が中国に渡っている疑いがあるとして、TikTokを含む中国系アプリのインド国内での使用を全面的に禁止している。
以下、番組での主なやりとり。
松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長、解説委員): 中国系動画投稿アプリTikTokについて、米下院外交委員会が一般も含めた使用禁止法案を可決するなど、米国内で使用禁止の動きが拡大している。日本国内のTikTokユーザー数は約2070万人に及ぶ。日本も政府端末などでの使用は禁止されているが、地方自治体や企業などは対象外だ。日本も米国同様何らかの対策をとるべきか。
甘利明氏(自民党前幹事長): そう思う。中国は国家情報法で国内外どこにいようとも中国人と中国系企業は中国政府の要請があれば持っているデータを政府に提供しなければならない法律がある。(情報の)全部が(中国政府に)渡されることを前提として(アプリを)使わなければならない。
玉木雄一郎氏(国民民主党代表): 中国のソフト、アプリだということで国家情報法とセットで考える必要がある。情報を取るような話はほかのアプリでもあるが、国家に直結して利用される恐れがあるかどうかという点がほかのアプリとは違う。日本政府も機密情報を扱うような端末での使用はだめということになっているが、何が機密情報かもよく分からないから、米国のように政府機関、地方自治体、公的な端末等での使用は基本的に禁止するということ、早急に米国、EU、カナダと歩調を取る対応をやるべきだ。わが党でも所属国会議員や党職員にも、(TikTokアプリは)入れるなと徹底したい。
梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー): 米国が日本に喫緊の対応を迫っているのが、中国に対する輸出規制だ。半導体製造装置では、日本、米国、オランダの企業が世界シェアの8割を占めている。この半導体製造装置について、米国は日本とオランダに対して中国への輸出禁止強化への協力を要請している。半導体製造装置は日本にとって中国への最も主要な輸出品だ。
松山キャスター: 日本経済の核がこの半導体製造装置だ。日本が米国の要請を受け入れて輸出規制強化に踏み切れば、日本経済にはある程度打撃がある。半導体輸出規制強化については米国との間ですでに合意しているという一部報道もある。
甘利氏: 外に向けてはリリースしていないが、おそらく日米蘭、半導体製造装置を作っている主要メーカーは米国と歩調を合わせていると思う。すべての半導体という仕切りではなく、ハイエンド(最先端)の半導体、14ナノ以下の最先端半導体製造装置を輸出をしないようにと。中国が最先端半導体を作り、武器に転用されれば、こちらの脅威になる。輸出規制強化は極めて妥当なことだ。中国は「中国製造2025」で主要なものは全部自国で賄えるようにして、対外諸国への影響力を確保するとの経済戦略を打ち出している。それを踏まえて対応しなくてはならない。
松山キャスター: この問題については安全保障を重視するのか、経済を重視するのかという側面もある。
橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事): 経済と経済安全保障はある意味相反するものだ。必要なところは規制をかけていくべきだが、米国がすごいのは、経済安全保障で中国に様々な規制をかけても中国との貿易額をどんどん増やしているところだ。日本も経済安全保障という形で様々経済行為に規制をかけるにしても、日本の経済が失速しないようにバランスを取らなければいけない。なんといっても米国はとにかくイノベーション、イノベーションで、様々ものが生み出される、その国力がある。経済のエンジンのアクセルが全開になっている国だから、経済安全保障で多少ブレーキを踏んでもバランスが取れる。日本はまだそこまでイノベーションが生まれるような経済のエンジンが噴かされていない。そんな状況の中でブレーキばかり踏むのには危険性を感じる。特に半導体製造装置は、米国にとってはあまり自分たちの強みではないから、規制をかけても自国にあまりデメリットはない。日本にとってはものすごい主要な輸出品だ。これにブレーキをかけるということは、日本にとってのダメージもすごく大きい。バランスをとるのは非常に重要だ。
玉木氏: 私は橋下さんの意見に近い。もちろん軍事転用できるようなAI用の半導体、あるいはそれを作る半導体装置を中国に提供するのは一定の規制が必要だ。ただ、例えば、2019年も半導体輸出規制を強化して、それに合わせて日本は対中輸出を抑えたが、実は米国はそれを尻目にシェアを伸ばし、2021年は日米の対中シェアが逆転した。米国が巧みにやっているところもある。だから、対象をきちんと絞り込んでいくことが必要だ。例えば、16ナノ、14ナノ以下のところに限定的にやる。曖昧な規制だと、日本企業は自粛するので結果としてシェアが縮む。半導体の世界シェアを失って、もう哀れな姿になっているので半導体製造機器まで世界シェアを縮めてしまったら、(日本は)もう生きていけない。ここは巧みにやるべきだ。そのための外交交渉を経産省と外務省にはきちんとやってもらいたい。
松山キャスター: 国会では賃上げと少子化対策が大きな課題だ。少子化対策では財源をどうするか。消費税も含めてやるのかどうかという意見もあるが、どう考えているか。
甘利氏: 消費税は安倍政権下で2回税率を上げた。野党との取り決めを実行したのだが、当初、財務省の説明は、EU(欧州連合)では消費増税の消費に対する影響はすぐ回収される、少し落ちるがすぐに元に戻るというものだった。日本は消費税率を引き上げることで消費が落ちて回復するのにものすごく時間がかかる、引きずる国だということを痛感した。だから消費税はよほど景気が良くならないと大丈夫ということにならない。引き上げると景気に相当影響するというのが経験値だ。そういうことをかつて言ったのだが、誤解報道があった。当面は経済成長の力で、それから効果的にどこに予算を配分するかということを精査して、その仕組みで予算を拡大していくことに取り組むべきだ。消費税は消費に対する影響がかなりある。経済成長により重点部分に投下するメリハリをつけていく。そのことで当面は少子化対策をやっていくことになるだろう。
●G20外相・対立が先鋭化 侵攻巡り米ロ接触“対話と停戦”の実現は 3/5
インドの首都ニューデリーで開催されたG20外相会合で、ブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相が応酬を繰り広げた。ブリンケン米国務長官が「ロシアが戦争を終わらせ撤収するようG20が求め続けるべきだ」と発言、ラブロフ外相は「制裁や脅迫、恐喝といった新たな植民地主義に反対する」と反発し、米ロ対立が先鋭化した。G20外相会談は共同声明を出さずに閉幕、それに代わり、参加国の合意部分をまとめた議長総括を出した。一方、ラブロフ外相は侵略を巡り、インド、トルコ、ブラジル、中国など対ロシア制裁を実施していない国の外相と会談し、取り込む動きを活発化させた。ブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相は2日、G20外相会合の合間に立ち話で10分ほど言葉を交わした。ブリンケン長官は、新戦略兵器削減条約、「新START」の履行を停止する決定を撤回するよう伝え、米ロ核軍縮への復帰を求めた。
各国の外相が集うG20会合に世界中の注目が集まる中、林外務大臣は国会日程を優先し、参加を見送った。外務副大臣を代理出席させた。林外務大臣は1日の予算委に7時間以上出席したが、答弁は53秒、2日の審議は1分54秒と、2日間で3分弱だった。国会対応を優先したことに、野党から厳しい批判が向けられた。国会で予算案を審議する際、最初の基本的質疑は全閣僚が出席するという慣例を、林外務大臣が遵守したためと見られる。ウクライナ侵攻が長期化する危機下の国際会議に欠席した林外務大臣の決定に疑問視する声が挙がった。自民党の閣僚経験者は「日本はG7議長国だから極めて問題だ優先順位を間違っている自分のことしか考えていないという発信になってしまった」などと今回の事案に懐疑的な見解を述べた。
習近平国家主席は1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談した。ウクライナ情勢に関する意見交換も行わた。習近平国家主席は、「中国の立場の核心は和平交渉の促進だ」と発言、これに対し、ルカシェンコ大統領は「ベラルーシはウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場と主張に完全に賛成する」と述べた。ルカシェンコは大統領、在任29年、習近平国家主席、在任10年で直接会ったのは、今回の首脳会談で13回目となる。今回の会談目的について、習近平国家主席は、2022年9月にベラルーシと結んだ「全天候型で包括的な戦略的パートナーシップ」のさらなる発展のためだと会談冒頭で説明した。習近平国家主席は、2月24日に「各国の主権尊重」「和平交渉の開始」「一方的制裁の停止」など12項目を記した「対話と停戦」を呼掛ける文書「政治的解決に関する中国の立場」を発表していることに触れ、「中国の立場の核心は、和平交渉の促進だ」としている。
米国務省当局者は2月28日、米国が制裁対象としている中国企業が、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」に衛星画像を提供していたと公聴会で発言した。中国企業側は「契約や資金の流れを調査した結果、ワグネルとの業務上の関係は存在しなかった」と関与を否定した。ブリンケン米国務長官は「中国は、ロシアへの重大な軍事支援を検討しているという情報がある」と指摘を繰り返しているが、中国は全面的に否定している。G20外相会合に先立ち、ブリンケン米国務長官は、中央アジアのカザフスタンを初めて訪問した。旧ソ連構成国だった中央アジア5カ国の外相らと会談、今後の関係強化を進める考えを表明した。米国には、ウクライナ侵攻でロシアの影響力が低下する旧ソ連圏への関与を強める狙いがあると見られる。
●日本維新の会馬場代表 「新しい政治を」 富山市で講演 3/5
日本維新の会の馬場伸幸代表が富山市を訪れ、地域の活性化、地方創生のため「新しい政治を進めたい」と訴えました。
富山市で行われた維新の党員大会で講演した馬場代表は、国が打ち出した防衛費増額に伴う増税について「方向性が間違っている」と、身を切る改革や行財政改革の必要性を主張しました。
日本維新の会 馬場伸幸代表「政治家の仕事というのは、どんどん増えていく税金をどこに使うかということを考えるのが仕事だったんですね。今はその逆です、どうやれば、使えるお金が生み出せるかということを考えなければならない」
馬場代表はこのように述べ、大阪で維新が進めてきた教育費の無償化などの政策を、富山など全国に広げたいと訴えていました。

 

●日本のイノベーションが低調な一因 3/6
日本の活性化に日本発のイノベーションをもっと増やす必要があるとは、よく言われているところです。しかし実際は思惑通りに進展しているとは考えにくい状況です。なぜそうなってしまったのか?今日は、この問題について考えてみたいと思います。
日本発イノベーションの隆興と衰退
日本はイノベーションが不得意なのか?そうではないと思います。以前には日本発のイノベーションで一世を風靡した時代がありました。中でもSonyのウオークマンは誰でも知っているイノベーションでしょう。発光ダイオードも日本のイノベーションで、青色ダイオードの開発で白色の発光が可能になり、利用が格段に進みました。
以前には存在感のあった日本のイノベーションが低調になってしまったのはなぜか?「世界の技術進歩についていけなくなってしまったからだろう。」その指摘は、正しいと思われます。例えば汎用コンピューター(職場や家庭用のコンピューターではなく金融機関の口座・決済システムや大企業の業務・経理統合システムなどを運用するための大型コンピューター)の数十倍の計算速度を持つ科学技術計算を主目的として開発されたスーパーコンピューターはかつて、日本が席巻していました。1990年代ではスーパーコンピューターの性能評価プログラムTOP500において「NWT」や「SR2201」、「CP-PACS」「地球シミュレータ」がトップを占めていたいのです。2011年にも「京」がトップだったことを覚えておられる方もおられるでしょう。しかしその後はトップを占める国産スーパーコンピューターは出ていません。世界を舞台にした開発競争で後塵を拝しているのです。
技術力低下の「なぜ」を問う
スーパーコンピューターで見えた「技術力が後塵を拝するようになったのでイノベーションが生まれなくなった」という構図は分かりやすく、「これで答えが出た。イノベーションを生むためには技術力を高めればよい」と思考が停止しそうですが、もう少し考えてみましょう。
なぜ、日本の技術力は後れを取ってしまったのか?「大学の技術力が低下したから。」もしそうなら、なぜ、大学の技術力が低下したのか?「文部科学省が十分な予算をつけないから。」その理由はなぜ?「国家予算に余裕がないから。」その理由は?「税収が少ないから。企業が儲からないから。」このような指摘になると思われます。逆に言えば、企業が儲かれば今指摘したロジックが拡大方向に働き、大学が貢献できるでしょう。
一方で企業が儲かるなら、税収〜大学という迂回路を通らずとも、企業そのものが開発に向けて積極的に投資できるでしょう。結局、企業の収益体質がこの問題のカギになりそうです。
イノベーションへの誤解が原因か?
このように言うと「日本発のイノベーションが振るわない理由として企業の低収益性が挙げられると分かった。一方で企業なぜ低収益なのか考えると、日本発のイノベーションが振るわないからという答えが出るだろう。これは『ニワトリ=タマゴ』問題で、答えは出ない」との指摘があるかもしれません。しかしこの構図は『ニワトリ=タマゴ』問題ではなく、企業の収益体質の改善を先に考えることがソリューションとなります。
「企業の収益体質は、確かに、イノベーションだけの問題ではない。改善活動などによるコスト削減などもあり得る。それを言っているのか?」いいえ、高付加価値商品を実現するアプローチを考えています。「高付加価値商品の開発は多くの場合、イノベーションで実現する。しかしそのイノベーションが困難だとの話をしているのだ。」
もしかすると「イノベーション」について、今までない技術を開発・利用する、スーパーコンピューターのような大規模かつ先進的(今までない、格段に優れている製品を創造)「技術革新」をイメージしていないでしょうか?もちろんイノベーションにその姿もありますが、それが全てではありません。Apple社が開発したiPhoneはイノベーションの実例として取り上げられていますが、それは技術革新や大規模・先進的製品ではありません。携帯電話にカメラや音楽再生、メール、インタネットブラウザなど、既存のものを結び付けた「新結合」です。
イノベーションについて「技術革新に限る」と考えるのは、ある意味で危険な誤解です。イノベーションをより柔軟に捉えて高付加価値製品を数多く生み出していき、その収益を原資に技術革新の投資を積極的に行うサイクルを回すことで、多様なイノベーションを多数実現することが日本の活性化を可能にすると考えられます。
●ひとり親世帯の進学率が1.5倍に 奨学金が拓く未来 3/6
卒業式シーズンも近づいた。大学に進学する学生の2人に1人が奨学金を利用する時代、親世代の常識では対応できない多様化が進んでいる。今回の記事では、新制度の最新動向を踏まえ、奨学金の意義を検証する。
奨学金改革、何が変わったのか
奨学金といえば、借金と変わらない。そう考える親世代が多いのではないだろうか。親世代に当たる団塊ジュニア世代では、奨学金は有利子、無利子の違いはあるにしろ、返済しなければならないという点では変わらなかった。
しかし、ここ数年の改革で、奨学金はその姿を大きく変えている。
2017年度に、経済的困難により進学を断念することがないよう、給付型奨学金制度が創設された。同時期に、無利子奨学金は「所得連動型返還方式」という新たな返済方法を選択できるようになった。この方式のメリット、デメリットは改めて解説する。
20年度からは、授業料、入学金の免除・減額と、給付型奨学金(正式名称を高等教育就学支援新制度に変更)の大幅拡充が行われた。
更に23年度からは、大学院生を対象とした授業料後払い制度の新設、給付型奨学金の対象を中間層の多子世帯や理工農系学部に広げる動きがある(朝日新聞デジタル、2023年2月5日)。
少し古い資料となるが、図1は、大学等に進学する学生に対する経済的支援のイメージを示したものとなる。所得と成績に連動する形で、給付型、貸付型(無利子・有利子)、国立大学、私立大学等での授業料減免と、それぞれのカテゴリーで異なる給付・減免が並行して動いている。
たとえば、親が年収約270万円未満の学生が自宅外(下宿)から大学に通う場合は、国公立では約80万円、私立は約91万円の返済不要の°虚t型奨学金を受け取ることができる。これとは別に、大学等に申し込むことで最大で年間約70万円の授業料の免除・減額を受けることができる。
最も有利なのが年収約270万円以下の第1区分となるが、第2区分(年収約300万円未満)、第3区分(年収約380万円未満)の場合も、世帯収入に応じた基準で支給を受けられる。
導入された「所得連動型返還方式」
給付型奨学金の対象とならない場合も、成績基準によって無利子奨学金を利用できる。無利子奨学金では、従来の「定額返還方式」に加えて、「所得連動型返還方式」を選択できる。
所得連動型返還方式とは、毎月一定額を返還する定額返還方式に対して、前年の所得に応じて返還月額を決定する。大学卒業後に就職がうまくいかず、所得が低い状況でも無理なく返還することができ、奨学金の返還負担を減らすことができる(図2)。
ただし、所得連動型返還方式にはいくつかの注意点がある。第1に、奨学金を借りるにあたって機関保証料として月額2000〜3000円がかかる。これは奨学金から差し引かれる。第2に、所得把握のためにマイナンバーへの加入が要件となる。第3に、これが最も大きな問題だが、月々の返還額は少額になったとしても、奨学金の返済自体がなくなるわけではない。返済期間は長期化するため、ずっと奨学金に縛られる人生を送ることになる。
学生は将来のリスクや収入をどのように確保するかという予測困難な将来を見据えて、選択をしていく必要がある。
奨学金の運用を担う独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)では、「進学資金シミュレーター」を用意している。設問に答えていけば、自分がどの奨学金が対象になるかを確認することができる。
また、各大学では入学前のオープンキャンパスや合格者対象説明会で個別相談会を用意したり、入学式前後に説明会を設けたりするなどして周知を図っている。これらも積極的に活用していきたい。
民間奨学金情報まとめサイトも登場
これまでの説明は、JASSOが運営する奨学金である。実はJASSOのほかにも、大学、財団、地方自治体や民間企業などの奨学金を運営する団体が3000以上ある。これまで、こうした奨学金の情報は分散しており、その情報を収集するのは簡単なことではなかった。
こうした問題の解決策として、日本のほぼすべての奨学金情報を集約したサイトが「ガクシー」である。ウェブサイトをみると、「もらえる奨学金」「所得制限なし」「成績制限なし」「授業料減免」といった各カテゴリから奨学金を探すことができる。また、奨学金ランキングも用意され、返済不要、海外留学、海外進学などの目的別にランキング形式で応募できる奨学金も確認できる。
JASSOの給付型奨学金が所得制限で受けられない場合には、こうした民間奨学金の利用を検討することも考えられるだろう。
学業成績不良の場合は返還、打ち切りも
親世代がもう一つ注意しておきたいのは、成績不良による奨学金の返還や打ち切りである。親世代が大学に通ったころは、よくも悪くも厳格に授業の出席を取る大学教員は少なかった。とりわけ文系大学では、授業にほとんど出席しなくても、期末テストやレポートを提出すれば単位を取得できるケースが少なくなかった。
しかし、現在の大学では文部科学省の指導や奨学金の認定要件として、授業への出席確認が求められるようになっている。授業に出席しなかったり、あまりにも成績が悪かったりすれば、学業不振や学ぶ意識の欠如があると判断され、奨学金が打ち切られることがある。
打ち切られる際には、まず大学から「警告」という処置通知が交付される。これは、「修得単位数の合計数が標準単位数の6割以下の場合」「GPA(平均成績)等が下位4分の1の場合」「出席率8割以下など、学習意欲が低いと学校が判断した場合」のいずれかに該当した場合となる。警告に従わないと、奨学金が停止、廃止される場合がある。更に廃止になれば、奨学金の返還もありうる。
民間奨学金も、大半は成績要件を課している。
大学生活を満喫した親世代の中には、「そんなに授業ばかり出ていないで、もっと大学生活を楽しんだらどうだ」と考える向きもあるかもしれない。しかし、現在の奨学金は甘くない。万が一、「警告」通知を受け取ったら、すぐにでも対策を取らなければならない。
ひとり親家庭の進学率が1.5倍に
最後に、マクロな視点から奨学金改革の政策効果を見ておこう。
奨学金に詳しい桜美林大学の小林雅之教授らは、新しい給付型奨学金の効果を検証している。調査では、給付型奨学金対象世帯の大学、専門学校などへの進学率(大学等進学率)は、制度導入前の16年の53.0%に対し、導入後の20年は61.5%と8.5%増加した。中でも進学率の増加が大きいのは私立学校と専門学校で、低所得層にとっては国公立大学のハードルは高く、私立大学や専門学校が有力な選択肢となっている(小林雅之・濱中義隆「修学支援新制度の効果検証」『桜美林大学研究紀要』2021.)。
更に特筆すべきは、ひとり親家庭の大学等進学率の向上である(図3)。2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」と「生活困窮者自立支援法」が成立し、経済的に厳しい世帯の進学支援の機運が高まった。奨学金改革との相乗効果もあり、この10年間で大学等進学率は約24ポイント向上している。実に、進学率が1.5倍となったのである。
逆にいえば、支援がなかった時代には、ひとり親世帯の子どものうち、4人に1人は経済的な理由で大学や専門学校への進学を諦めていたともいえる。一連の政策は自公政権の着実な努力で実を結んでいる。このことはもっと評価されてよいと思う。
このように、給付型奨学金の対象となる低所得者層には政策効果を認めることができる。一方で、給付型奨学金の対象とならない中間層は、奨学金がもつ「ひずみ」の影響がでてきている。次回は、現行の奨学金制度がもつ負の側面を伝えていきたい。
●韓国「元徴用工」解決策、岸田政権の呼応措置に懸念の声 3/6
韓国政府は6日午前、いわゆる「元徴用工」訴訟問題の解決策を正式発表する。韓国最高裁が2018年秋に命じた日本企業2社の賠償支払いを、韓国政府傘下の財団が肩代わりする内容が柱。岸田文雄政権はこれに応じて元徴用工らへの「おわびの気持ち」を示すなど、呼応措置を取る見通しだが、国民の理解を得られるのか。
日韓間の請求権問題は、1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決」している。
このため、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の解決策は、賠償は韓国の「日帝強制動員被害者支援財団」が日本企業に代わって実施する。2社が会員の経団連と韓国の経済団体が、若者の交流を後押しする基金を創設する計画が盛り込まれる方向という。
一方、岸田政権は、過去の政府談話や日韓共同宣言の継承を表明し、元徴用工らへの「おわびの気持ち」を示すうえ、韓国を輸出管理で優遇する「ホワイト国(優遇対象国)」に再指定することを検討している。
ただ、日本政府内には「すでに終わった問題に妥協して謝罪した≠謔、に受け止められる」と懸念する声がある。
韓国を「ホワイト国」から除外したのも、大量破壊兵器に転用可能な戦略物資について、韓国側の輸出管理に疑わしい事案が続出したためで、徴用工問題とは無関係だ。
林芳正外相のG20(20カ国・地域)外相会合欠席に続く、岸田政権の「外交的失態」にならなければいいが。
●最高裁判決・被害者の苦痛は無視…「日本完勝」もたらした尹政権 3/6
強制動員被害に対する「第三者弁済案」の波紋 加害者は高みの見物…「植民地支配は合法だったという主張に口実与える」
尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が6日に発表する日帝強占期の強制動員被害者問題の「解決策」の骨子は、「第三者による併存的債務引受」▽韓日の財界団体である全経連-経団連による「未来青年基金(仮称)」造成などだ。
これには強制動員に対する日本政府の直接の謝罪も、戦犯企業の謝罪と賠償も含まれていない。三菱重工業などの日本の戦犯企業の「損害賠償(慰謝料支払い)責任」を認めた大韓民国最高裁の最終確定判決(2018年10月30日、11月29日)とは接点が全くない。韓国最高裁の判決を「国際法違反」だとして頑強に拒否してきた日本政府の「完勝」だ。
これは「金大中(キム・デジュン)-小渕共同宣言を継承する」と公言した尹大統領の昨年8・15光復節祝辞に照らしても、大きく後退した「自己否定的解決策」だ。1998年10月8日に当時の金大中大統領と日本の小渕恵三首相が東京で共同で発表した「韓日共同宣言-21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」の2大軸は「過去の直視」と「未来志向」だ。ところが尹錫悦政権は今回の解決策で、「未来志向」を口実として「過去の直視」という絶対的課題を投げ捨てた格好だ。
政府の発表に続き、日本は岸田文雄首相が「過去の談話を継承する」という表現で歴史に対する反省・謝罪を示すものと考えられているだろうが、これは侵略戦争に対する包括的な反省であって、強制動員問題に直接的に言及するものではない。また、日本の歴代政権は「談話の継承」の意思を表明してきたため、今回の問題に対する追加措置だともみなしがたい。
尹錫悦政権が1月12日に初めて公にした「第三者併存的債務引受」案とは、最高裁判決によって賠償責任を負った日本の加害戦犯企業の「債務」を第三者である韓国の日帝強制動員被害者支援財団が引き受け、1965年の韓日請求権協定で恩恵を受けたポスコなどの韓国企業から寄付金を集めて被害者に支給するというもの。加害者は高みの見物をしていてもよいという奇異な解決策だ。
「未来青年基金」は、全経連と経団連が共同で基金を造成し、韓国の留学生などに対する奨学金の支給などの事業を行うというもの。しかし、これは強制動員被害者問題と直接関係のない別個の事案だ。世論の逆風を意識した「希釈」や、「粉飾」(強制動員被害訴訟代理人団のイム・ジェソン弁護士)だとの批判の声が一斉にあがっているのはこのためだ。
何よりもこのような尹錫悦政権の解決策は「未来志向の韓日関係を切り開く」という美辞麗句だけでは覆い隠せない、政権のレベルにとどまらない根本的な問題を抱えている。
第1に、国際人権法の大原則である「被害者中心主義」と真正面から衝突する。被害者が中心に立っていない「外交的解決」はさらに深い泥沼への道だということは、2015年12月28日の朴槿恵(パク・クネ)政権と日本の安倍晋三政権によるいわゆる「慰安婦合意」で確認されている。韓日関係に長く関与してきたある人物は「尹錫悦政権は『みの着て火事場に飛び込む』(非常に危険な状況で自ら災いを招く)ようなもの」だとし、「『慰安婦合意』より深刻な対立が生じうる」と指摘した。
第2に、日本の戦犯企業の参加なき「第三者併存的債務引受」策は、三菱重工などの「国際法違反と違法行為による損害賠償」責任を認めた最高裁判決を無力化するという問題を抱えている。2018年の最高裁判決は、1965年の韓日請求権協定だけでは「大韓民国国民個人の請求権は消滅していない」ということを明示した、「大韓民国司法の国際裁判管轄権」を前提とした最高憲法解釈機関の判断だ。尹錫悦政権の解決策は「違法な植民地支配と侵略戦争による被害の救済」を試みたこのような最高裁判決の根本精神を無視している。
第3に、このようなことから尹錫悦政権の解決策は、日本による植民地支配は「合法」だと主張する日本と「違法」だとする大韓民国の長年の意見の相違について、事実上日本政府の主張を認めた外交・行政行為として解釈・悪用される危険性がある。大韓民国憲法は「3・1独立運動で建設された大韓民国臨時政府の法統を継承する」と前文に明示しており、2018年の最高裁判決は「大韓民国憲法の規定に照らせば、日帝強占期の日本による朝鮮半島支配は違法な占領」だとの憲法解釈を前提としている。尹錫悦政権の「第三者併存的債務引受」策について、ソウル大学のナム・ギジョン教授ら多くの韓日関係の専門家が「植民地支配は合法だったと主張する日本が、これを自国に有利に解釈する可能性は濃い」と懸念する理由はここにある。
しかも、尹錫悦政権と岸田政権の合意によって強制動員被害者問題が解消される可能性もほとんどない。日本の戦犯企業を相手取った裁判で韓国最高裁で勝訴した被害者(4件15人)は、大韓民国政府が公式に認めた強制動員被害者(21万8639人)の0.0069%に過ぎない。すでに係争中の訴訟だけでも66件、原告の数は1124人にのぼる。最高裁が2018年の判決を覆さない限り、ほとんどは勝訴の可能性が高い訴訟だ。尹錫悦政権の一方的な「解決」宣言で済む問題ではない。
●元徴用工問題 韓国政府「解決策」発表か…岸田総理 「反省とおわび」継承 3/6
第2次世界大戦中、日本の統治下で動員された「元徴用工」への賠償を巡る問題。
日本側は、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」とする立場ですが、2018年、韓国最高裁が日本企業に賠償を命じる判決を出し、その後、日本企業が持つ韓国内の資産売却命令も出されました。
去年5月、日韓関係改善を掲げる尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の発足後、日韓両政府は解決に向け、協議を重ねてきましたが、複数の韓国メディアによりますと、韓国政府は6日にも解決策を発表する予定だということです。
この案は、韓国の財団が寄付を集め、賠償を肩代わりするというもので、焦点だった日本側の資金拠出はないとしています。
しかし、韓国政府は同時に、解決策発表後も日本企業の財団への寄付を呼び掛けていく見通しです。
岸田文雄総理大臣は、韓国政府が解決策を発表すれば、歴代政権が示してきた「反省とおわび」を継承していると表明する方向で調整しています。
●岸田首相、日韓めぐる歴史認識「引き継ぐ」 輸出規制は「別の議論」 3/6
岸田文雄首相は6日午前の参院予算委員会で、日韓関係をめぐる歴史認識について「岸田政権としても、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいるし、今後も引き継いでいく」と述べた。韓国政府が徴用工問題の「解決策」を発表する前の質疑だったが、歴代内閣などが示してきた植民地支配への「反省とおわび」の継承を表明した形だ。
自民党の佐藤正久氏が、日韓関係に関する質問として、「安倍(晋三)元首相は、村山談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体的に引き継ぐと述べていた」と指摘し、岸田首相の考えを尋ねたのに答えた。
また、首相は「政府として歴代内閣の立場、歴史認識に関して全体として引き継いでいると、今後とも適切に表現し、発信する。これはこれからも大事なことではないか」とも述べた。
一方、韓国側に徴用工問題での「報復」と受け止められた対韓輸出規制について、首相は「安全保障上の観点から輸出管理を適切に実施するために行ったものであり、労働者問題とは別の議論だ」と述べた。
日本は19年7月、半導体材料3品目の対韓輸出規制強化を発動。8月には、輸出手続きを簡略化する「ホワイト国」から韓国を除外する方針を決めた。韓国の要請により、世界貿易機関(WTO)が20年7月に紛争処理小委員会(パネル)を設置した経緯がある。
●岸田首相「意思疎通を緊密にはかり、日韓関係発展させたい」… 3/6
岸田首相は6日午後の参院予算委員会で、元徴用工訴訟問題を巡って韓国政府が発表した解決策について、「日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価する」と述べた。
首相はさらに、「韓国は国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国だ」と指摘したうえで、「今後とも 尹錫悦ユンソンニョル 大統領と意思疎通を緊密にはかりながら、日韓関係を発展させていきたい」と語った。
林外相は6日午後、韓国側の解決策について、1998年に当時の小渕首相が「痛切な反省と心からのおわび」を表明した日韓共同宣言に言及し、「共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認する」と言明した。
首相も解決策の発表に先立つ6日午前の参院予算委で、「岸田内閣としても、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく」と述べていた。
首相と外相の発言は、日本の歴史認識に変わりがないと明言することで、韓国の解決策を後押しする「呼応措置」の一環とみられる。
●政権評価懸け、岸田首相本腰 衆参5補選、野党は態勢構築急ぐ 3/6
岸田文雄首相(自民党総裁)は5日、4月の衆参両院補欠選挙応援の第1弾として山口県を訪れた。補選の投開票まで1カ月半以上ある時点での首相現地入りは異例。政権の「中間評価」を懸け、準備に本腰を入れた。野党は態勢づくりを急ぐ。
補選は4月23日に投開票される。衆院の千葉5区、和歌山1区、山口2、4区の四つで確定。参院大分選挙区も同日選となる見通しだ。
首相は5日午後、安倍晋三元首相が議席を得ていた山口4区に入り、自民党新人の集会で演説。「先送りできない課題に結果を出せるのは自公政権しかない」と訴えた。
夕方には、岸信夫前防衛相の辞職に伴い同氏の長男が出馬する山口2区で集会に参加。関係者によると、首相は他の3県にも行くことにしている。有権者の関心が高い追加物価対策を早期にまとめ、アピールする構えだ。
早めの準備は、2021年10月の内閣発足から1年半の評価を下される今回の補選が、その後の政権安定の試金石になるためだ。菅義偉首相時代の21年4月に実施された三つの衆参補選・再選挙で自民党は全敗。菅氏に大きな打撃となり、退陣につながった。
自民党は千葉5区に新人、和歌山1区に元職の擁立を決め、参院大分で候補選定に着手。全勝を目標に掲げる。
一方、保守地盤の山口2、4区で野党は出遅れ気味。立憲民主党は4区で元参院議員の擁立を調整している。
「政治とカネ」の問題で自民党議員が辞職した千葉5区は、立民と日本維新の会、国民民主、共産各党が候補を擁立し、乱戦気味。野党陣営の調整はめどが立っていない。
国民議員が知事に転じた和歌山1区では、隣の大阪を地盤とする維新が女性和歌山市議を立てた。
参院大分は野党系無所属の現職が知事選出馬を表明し、近く議員辞職する方向。19年参院選でこの現職が野党共闘により自民党候補を破った経緯があり、野党側はその再現を狙う。
立民の泉健太代表は野党陣営の一本化について「選択肢が(与党と野党で)明確になった方が良い」と前向き。自民党は野党議席の和歌山1区と参院大分を「リスクが高まっている」(幹部)と警戒し、浮動票の多い千葉5区も野党の動きを注視している。
●きょう参院予算委で集中審議 反撃能力・少子化対策で論戦へ  3/6
国会は、6日参議院予算委員会で集中審議が行われ、敵のミサイル基地などをたたく「反撃能力」の保有の是非や少子化対策などをめぐり、与野党の論戦が行われます。
新年度予算案を審議している参議院予算委員会では、6日、岸田総理大臣と関係閣僚が出席して、外交・安全保障などをテーマに集中審議が行われます。
この中では、「反撃能力」を保有するとした政府の方針の是非や、去年1年間に生まれた子どもの数が初めて80万人を下回ったことを受けた少子化対策などをめぐり、与野党の論戦が行われます。
また、放送法が定める「政治的公平」の解釈をめぐり、立憲民主党が、当時の安倍政権の圧力で法解釈が変更された経緯を示しているとした総務省作成とされる文書についても議論が行われる見通しです。
一方、国会への欠席を続けるNHK党のガーシー参議院議員が懲罰処分として「議場での陳謝」を求められている本会議は8日開かれ、ガーシー議員が帰国して陳謝に応じるかどうかが焦点です。
また、政府が日銀の黒田総裁の後任として提示した経済学者の植田和男氏を起用する人事案は、今週中にも衆参両院の本会議で採決される見通しです。
●少子化対策“失敗の本質”「最大の原因は未婚化。低収入の男性」 3/6
「異次元の少子化対策に挑戦する」──岸田首相がそう宣言してから2カ月。昨年の出生数が政府予測より8年早く80万人を切るのが確実となり、慌てて対策に乗り出したものの、具体策は先送り。予算倍増の財源もごまかす無責任だ。そもそも従来の対策に何が足りなかったのか。「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」の著書がある社会学者に、団塊ジュニア世代の未婚記者が「失敗の本質」を聞いた。
──岸田首相は「次元の異なる少子化対策」として、児童手当などの経済支援の強化、幼児教育・幼保サービスの拡充、育児休暇制度の強化や働き方改革の推進の3本柱を掲げました。
これまでの延長線上で「次元」は同じ。対象の想定は全体の約4分の1に過ぎない「正社員同士の共働き世帯」にとどまる。共働き女性の大半はパートなど非正規雇用で、専業主婦世帯も含めると約4分の3の世帯に対策が行き渡らない。フリーランスの女性に育休制度の恩恵は届かず、「育休中のリスキリング」なんて雲の上の話という人もいました。
──ピント外れですよね。
想定する働く女性像も、大企業、大卒、大都市限定で、中小企業、地方、非正規は抜け落ちています。対策を練る政治家や官僚も恵まれていますから、蚊帳の外の人々が周りにいないか、あまり目に入らないのでしょう。また、岸田首相は肝心の高等教育の学資支援にも言及しない。子育てにかかる最大の出費は大学や専門学校の学費で、将来の出費への不安から出産を控える人は多い。それこそが日本特有の重要な課題なのです。
意識の異なる欧米モデルで空回り
──日本特有とは?
日本を含む東アジアと欧米諸国では子育てに関する意識が大きく異なります。欧米では18歳まで育てればお役御免。子どもは自立を求められます。一方、東アジアでは「子どもに惨めな思いをさせたくない」との意識が強い。親が高等教育費を出すのは当然で、負担が重くなる。それどころか、卒業した後の面倒まで見ている親も多い。
──確かに。
社会学者の宮台真司さん襲撃事件の容疑者である41歳の無職男は、老親に年金保険料を払ってもらっていた。年金を受け取る親が息子の掛け金を納めるなんて欧米では考えられません。米国では家賃を払わず実家に同居する30代の息子を親が提訴し、裁判所が退去を命じたケースもあるほど。「ドラえもん」も中国など東アジアでは大人気ですが、欧米での人気は低いです。
──なぜですか。
理由のひとつは主人公・のび太の自立志向の弱さ。困ったことがあると、すぐドラえもんに頼り、自立を奨励する欧米社会では非難の対象にもなる。これだけ意識が異なるのに、日本政府はスウェーデンやフランスの少子化対策を真似してきた。出産や子育ては、その国固有の文化や家族観に強く影響されます。いつまで経っても「西洋に追いつけ、追い越せ」では空回りするだけです。
──そもそも対象は結婚した人が前提で、「子育て支援」どまり。未婚で子どものいない僕には、ちっとも響きません。
より重要な未婚対策にも岸田首相は言及しない。日本が少子化に陥った最大の要因は、結婚しない人が増えていることです。
──身の縮む思いです。未婚化が進んでいる理由はどう考えていますか。
極めて単純です。収入の低い、あるいは不安定な男性は子育てパートナーとして選ばれにくい。それに尽きます。
──政府関係の研究会で、そう指摘すると、政府のある高官から「私の立場で同じことを言ったら、クビが飛んでしまう」と言われたそうですね。
1990年代後半のことです。その逸話を昨年、経団連で披露すると、講演概要がHPにアップされた途端、クレームが来たそうです。皆、実感しているのに、公で発表したり論じたりするのは、ずっとタブー視されてきました。誰もが「格差」を認めたがらない。
──現実を直視した対策を打ち出せないわけです。
若年男性の収入低下と格差拡大は、ここ数年で顕著になったわけではない。バブル崩壊以降、30年も続いています。
──50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合である「生涯未婚率」は、80年の男性2.60%、女性4.45%から、2020年は男性28.25%、女性17.81%。男性の増加率の方が圧倒的に高い。
それは、収入のある男性が2度3度と初婚の女性と結婚するから。女性の場合は離婚後の再婚率は男性に比べ低い。50歳で独身、配偶者のいない人の数は男女で大差ありません。
親元を離れると生活水準が下がる
──選ばれる男性は何度も……。ますます格差を実感します。
結婚相手に平均収入を求めるのは普通の望みでしょう。ただ「平均」とは、それ以下の人が半分はいるということ。となると、決して高望みではなくとも半分しか結婚できなくなる。ましてや、日本の未婚者は親との同居率が非常に高い。未婚女性の8割近くが親と住んでいます。自分の収入が低くても親に面倒を見てもらえれば、それなりの生活水準を保てる。だから、今の暮らしを手放しにくい。
──日本は“嫁入り前の娘が親元で暮らすのを肯定する”文化ですものね。
収入の低い男性との結婚を親が潰すケースもあります。
──「少子化の最大の理由は晩婚化」「出産時の女性の年齢が高齢化している」と言った政治家もいました。今や「晩婚」ならまだマシ。現実を直視していない発言です。
人口学者でも90年代の主流は「独身を楽しみたいから結婚を遅らせており、いずれ結婚するはず」との判断でした。つまり、結婚は「しようと思えば誰でもできる」と。そんな楽観ムードが今も政府内に残っているのかもしれません。結婚したら経済的に苦しくなるのが未婚化の理由なのに。
──恋愛自体を「コスパが悪い」と面倒くさがる若者も増えているようです。草食化を通り越して、絶食化する中、政府はもっと縁結びの世話を焼くべきなのでしょうか。
少なくとも、結婚後に親元を離れても生活水準が下がらないようにする支援は必要でしょう。ただ、予算「倍増」では経済格差の解消には不十分。ハンガリーみたいにGDPの5%くらいを少子化対策に費やさないと子どもは増えないでしょうね。
みんな少しずつ貧しくなっていく
──日本でいえばGDP5%は約25兆円です。
岸田首相もたぶん「異次元」と言ったのを後悔していますよ。「次元が異なる」と言い換えましたが、よほどのことをやらないと若い世代をガッカリさせるだけ。でも、増税は政治家や官僚は誰も言いたがらないし、国民も反発する。このままだと、だんだん社会保障の水準が低下し、みんな一緒に少しずつ貧しくなっていく社会になります。
──少子化対策は効果が出るまで20〜30年かかるといわれています。
だから政治家も官僚も今まで本気にならなかった。政治家にすれば票にもカネにもならないし、官僚は得点にならない。国民も「今が何とかなっていれば」で問題を先送りしてきた。そのツケが今、回ってきたのです。
──30年後には団塊ジュニア世代も後期高齢者。少子化対策に加え、孤立化社会への備えも僕たちには切実な問題です。
4分の1の人たちが結婚できない状況が続けば、孤立する高齢者も増える。かなり裕福でなければ現行水準の介護は受けられなくなる。これは確実に予測できます。移民だって来てくれるかどうか。今も正看護師の資格を持って豪州の介護施設で働くと、日本の3倍以上の収入を得られます。日本で働くのはバカらしいという人が、どんどん増えていきますよ。
──「過ぎた時間は戻らない」を痛感します。
結婚できず、十分な介護も受けられず死んでいく。そうした人が何百万とあふれる社会になりますね。それも自己責任だと言う人も増えているんじゃないですか。私にすれば「寂しい未来」ですけど、国民が選択した結果であれば仕方ないでしょう。
──達観されていますね。
30年前からほとんど同じ提言を訴えてきましたけどさすがに疲れました。もう、私も65歳。自分の予言が30年後に的中するかどうかは見届けられないでしょう。ただ、今も「結婚したい、子どもを産み育てたい」と望む若者の方が圧倒的に多い。彼らの希望をかなえる社会をつくらなければ日本社会は根本から崩れます。
●ひろゆき氏 「自公が少子化対策をしないのは有権者が望んでないから…」 3/6
実業家の西村博之(ひろゆき)氏(46)が6日までに自身のツイッターを更新。政府の少子化対策への取り組みについて言及した。
岸田文雄首相は、出生数減は危機的な状況だとの認識を示し「少子化のトレンドを反転させるために子ども子育て政策を具体化し、政策を進めていくことが重要だ」と強調。「子ども関連予算の倍増」を唱えているが、裏付けとなる財源の議論が今春の統一地方選後に先送りの見通しとなったため具体像が見えてこない。2022年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は、前年比5・1%減の79万9728人となり、統計開始以来、初の80万人割れとなったことが2月28日に厚生労働省の人口動態統計(速報値)で判明。外国人を除いた「概数」は77万人前後になる見通し。国が17年に公表した推計は、速報値の80万人割れを33年と見込んでおり、10年超速いペースで少子化が進んでいる。
ひろゆき氏は、テレビの「子育て支援に怒る高齢者も」というニュース動画の中の80代女性の「『子育てに重点的』それ大事かもしれないけど、私はあんまり好きじゃ無い」、70代女性の「子どものために使うかわかんないでしょ。母親がだけど」というインタビューを貼り付けた上で、「自民党・公明党が少子化対策をしないのは、有権者が少子化対策を望んでないからです。日本人の3割は年金受給者」と私見をつづった。  
●日本企業賠償支払い 韓国が肩代わり “徴用工”韓国政府が解決策 3/6
日本と韓国の懸案となっている、いわゆる元徴用工をめぐる問題で、韓国政府は、日本企業の賠償支払いを韓国側が肩代わりする解決策を正式に発表した。
韓国・朴振(パク・チン)外相「硬直した(日韓)関係を放置せず、悪循環の輪を断ち切るべきだと思う。これが最後のチャンスだ」
韓国の朴振外相が発表した解決策は、日本企業に代わって韓国政府傘下の財団が、賠償の支払いを肩代わりする内容が柱。
財源は、当面韓国企業の寄付金で賄うが、韓国側は、日本企業への自発的な寄付の呼び掛けを続けるとしている。
ただ、原告の一部は政府の解決案に強く反発し、「日本企業の財政的負担がなく屈辱的だ」などと批判した。
原告側代理人「(政府が)多数の人が早い解決策を望んでいるとだけ伝えているのは、正確な事実ではない」
一方、日韓両政府は、もう1つの懸案である日本による輸出管理の強化措置について、正常化に向けた政策対話を近く開催することで合意したと発表した。
日本政府は、2019年7月、韓国に対し半導体を製造する際に必要な「フッ化水素」など3品目の輸出管理を強化し、関係が悪化していた。
解決策について大統領府は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「未来志向の日韓関係に進むための決断だ」と強調したと発表した。
今後、韓国側が今回示した解決策を、実際に履行できるかが焦点となる。
●中国全人代〜弱まる成長力 経済政策の行方 3/6
中国では今週、政府の重要政策を決める全人代・全国人民代表大会が開かれています。共産党のトップとして異例の3期目を迎えた習近平国家主席は中国経済をどのような方向へ導こうとしているのか。この問題について考えていきたいと思います。
1)今年は成長回復も 来年以降に課題
最初にきのう行われた政府活動報告が示す当面の経済運営についてみていきます。
まず今年の経済成長率の目標について5%前後としました。これは、去年の実績を2ポイント上回る数字ですが、ゼロコロナ政策が終了した今年は、飲食や旅行などのサービス分野を中心にいわゆるリベンジ消費が見込まれるほか、去年見られたような物流の混乱や生産の落ち込みもないとみられることから、成長目標の達成は可能だとする見方が一般的です。ただ、これまで中国経済を支えてきた不動産市場が「数多くのリスクを抱えている」とされることや、人口が減少に転じたことなどから、成長力が弱まり、来年以降は4%台の成長にとどまるという見方が出始めています。
一方、経済を支える当局の姿勢にも変化が見られます。
政府活動報告では、今後の政策について、「財政は力を入れ、効果を高める」とし、財政支出による景気のテコ入れを続けながらも、効率性を重視する姿勢を示しました。この背景には地方政府の財政状況への懸念があります。地方政府は、不動産開発業者が国有の土地にマンションを開発する際に、土地の使用権料を徴収することで財政収入の多くを確保しています。ところが不動産市場の低迷でそうした収入が減っており、公共投資に大盤振る舞いすることができなくなったと指摘されます。
また金融政策については、「精準」=ターゲットを絞ったものにするとしています。一律に金融を緩和すれば不動産バブルを招きかねないので、ハイテク産業など国家戦略として強化したい分野に効率的に資金が回るような政策を行おうとしているようです。
2)頼みは民間と外資か
このように中国政府が経済への公的な後押しを弱める一方で、成長の動力として、期待を強めているのが、イノベーションを通じて新たなビジネスを起こす民間企業の存在です。
今回の活動報告では、「ふたつの「いささかも揺るがない」を着実に実施するという文言が盛り込まれました。「二つのいささかも揺るがない」とは、一つは公有経済を強固に発展させること、そしてもう一つが民間企業の発展を支援することです。去年秋の党大会以降共産党幹部が改めて強調していて、民間企業の支援に重きが置かれているとみられます。
中国ではここ数年、ネット販売最大手のアリババグループに対し、独占禁止法違反を理由に巨額の制裁金を課したり、配車サービス大手「滴滴」に対し、個人情報の収集をめぐって違法性が疑われるとして提供するアプリのダウンロードを禁止するなど、民間企業の監督や活動の制限を強めてきました。その背景には、社会主義の国で、アメリカのような格差が生まれるのは望ましくないという思いがあったのではないでしょうか。習国家主席が党のトップとして異例の3期目を目指すうえで、保守派からの支持を固めるためにも、すべての国民が豊かになる共同富裕の実現を重視する姿勢を示す必要があったようです。
ところがこうした当局の姿勢が、民間企業の事業意欲や活力をそぎ、中国経済の成長が弱まったという反省が、政権内にも生まれているようで、民間企業を重視する姿勢を改めて強調することになったものと見られます。  
実際に、活動報告からは「共同富裕」の文字が消え、監督強化の対象となっていたIT大手が主導するプラットフォーム経済については、「健全で持続的な成長を促進し、雇用創出・起業・消費市場開拓をもたらした。今後も発展を後押しする」、企業家の権利や利益に対しては「法に基づいて守る」とされるなど、民間企業への配慮がうかがえる表現が盛り込まれました。
習氏が望み通り党のトップとして3期目の座を手にした一方で、経済が思いのほか落ち込んだのを見て、いまは、「共同富裕」という政治的なスローガンよりも、体制の維持に向けて発展を優先しなければならないという現実的な判断も働いているものと見られます。
ただ、問題は、肝心の民間企業の側が、こうした政府の方針転換を信用できるかどうかです。中国共産党は、2013年の3中全会という重要会議で「市場に資源配分で決定的な役割を果たさせる」として、民間企業の経済活動を重視する方針を示しましたが、その後2017年の党大会では、民間企業も含め共産党がすべての活動を指導する方針を強調。あわせて国有企業の強大化を打ち出すなど、国有企業をより重視する姿勢を色濃く打ち出してきました。こうした経緯があるだけに、企業の側には、今回の民間重視の姿勢が果たして本物なのか、冷ややかな見方があるといいます。
3)日本経済は 中国とどう向き合うか
もうひとつ、今回注目されたのは、経済に大きな混乱を生んだゼロコロナ政策などをきっかけに中国から離れかけている外国企業にむけられたメッセージです。
中国は、これまで国内に外国企業が進出する際に、進出分野が限られるとか、合弁相手の中国企業に最新技術を強制的に移転させられたりするなどの問題が指摘されてきました。今回の報告では、サービス業分野を一段と開放することや、外国企業と国内の企業を公正に競争させること、外資企業をしっかりサポートする事などがうたわれています。
いわゆる改革開放路線を改めて前面に出すことで、外資の中国進出を促そうとしているのです。背景には、さらなる経済の発展に向けて、自力で賄えない先端技術を外国企業から吸収したいという思惑が透けて見えます。ただアメリカをはじめ、先進各国との関係が悪化する中では先端技術の導入もままなりません。そのために、外交面でも、強硬一色だった戦狼外交を見直し、日本とも関係の改善をはかろうとしているようです。
こうした中で日本は中国とどう向き合えばよいでしょうか。まずはじっくりと成り行きを窺うことが必要です。中国に対し国際ルールの順守を求めてきた日本としては、改善がはかられるのは望むところですが、中国国内では、外国企業の進出によって権益を奪われる国有企業などの既得権益層が改革に抵抗するという見方もあります。また民間企業によるイノベーションを重視した李克強首相や、国有企業改革を担ってきた劉鶴副首相それに国際経験が豊富な易綱人民銀行総裁ら市場原理を理解し、経済通と呼ばれた政府の幹部は一斉に交代します。首相に就くことが確実視される李強氏や新たな経済閣僚が改革路線にどこまで力を注ぐかその行方は未知数です。
さらに、日本の同盟国であるアメリカは、中国の経済や軍事力の強化につながるハイテク製品の対中輸出を禁止し、日本に対しても、半導体の製造装置を中国に輸出しないなど、経済安全保障上の協調を求めてきています。日本企業としては、中国の内情に加え、国際情勢の変化がもたらす事業のリスクも考慮にいれたうえで、投資先としての中国にどれだけの比重を置くのか、慎重な判断が求められます。
経済の成長力が弱まる中で、改革開放路線を再び前面に出し、民間企業や外資の活力をよびもどそうという習近平指導部。幹部の顔ぶれががらりと変わるなかで、安定した経済の運営をどう担っていくのか。時間をかけて見極めていくことが必要なようです。

 

●なぜ日本政府は「Web3政策」を推進し始めたのか? 3/7
Web3.0とは
Web3.0(ウェブスリー)はパブリック・ブロックチェーン(非許可型分散ネットワーク)を活用した、非中央集権型のインターネット。NFT(非代替性トークン)や暗号資産(仮想通貨)を用いた金融・資産取引、組織の自律的な運営(DAO)といったユースケースが次々と誕生しており、ユーザーは中央管理者なしでアプリケーションにアクセスできる。
Wen2.0では情報発信者と閲覧者の双方向的なやりとりが可能となったが、GAFAM(米国のIT巨人Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの総称)を始めとするプラットフォーマーに資本や付加価値が集中しやすい性質があった。
一方、経済力・競争力低下が長年の課題となる日本にとってWeb3.0は、グローバルにビジネスを展開しやすい点でチャンスでもある。アニメ、マンガ、ゲーム等のポップカルチャー(大衆文化)のほか、グルメや地方の観光体験などコンテンツ産業のIP(知的財産権)レイヤーが強力な日本にとって親和性が高い側面がある。
新たな価値創造やイノベーションの加速に向けて、課題となるのは企業や個人のWeb3.0進出に適した法制度などの環境整備。イノベーションの主体となる人材を日本で育成、また海外から呼び込むべく、関係府省庁で施策検討が進められている。
長期的な日本のGDPの低迷
1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本経済は総じて低成長を続けていることから「失われた30年」とも称される。
この30年に世界経済は情報革命の本格化を迎え、米国、中国、インド、シンガポールなど主要各国が飛躍を遂げた。IMFのWorld Economic Outlook Databasesに基づいて九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦氏がまとめた報告書によると、1980年には日本のわずか4分の1に過ぎなかった中国は40年間でGDPを46倍に拡大、今では日本の2.7倍の規模に達し、米国に次ぐ世界第2位に躍り出た。
一方、1980年代に「Japan as No.1」と称されるほど成功を遂げていた日本経済は、成功体験にとらわれ、産業構造を変化できないでいる。
その結果、1990年代まで世界第2の経済規模を誇っていた日本のGDPは1990年代半ば以降ほぼ横ばいとなり、中国・インドに追い越され、現在では世界第4位に後退。
所得水準や豊かさを示す指標「1人当たりGDP(ドルベース)」でも同様だ。篠崎教授によれば、日本は1995年には3位、2000年には2位にまで上り詰めたが、今では上位20位圏外となっている。
日本の所得水準低下の内的要因としては、高齢化、労働力の低下や人口減少などの問題があり、国の一般会計歳出に占める社会保障の割合が増加。外的要因としては、海外由来のエネルギーショックや不確実性の高まりが円安方向へ為替変動を引き起こした結果、40年ぶりの高い物価上昇を経験、サービス輸出拡大が課題となっている。
日本企業のビジネス環境がますます厳しくなる中、全世界のデジタル企業との競争に打ち勝つには、産業構造の抜本的な改革が求められる状況にある。
貿易や投資関係強化による海外需要取り込み、越境ECの活用拡大に向けて、日本政府は成長分野への重点的な投資喚起、生産性向上に向けた人的資本投資の強化を表明。政府が主導となって本格的に日本のIT化を図る「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の取り組みを進める中で、「Web3.0サービスの利用拡大」にも焦点を当てている。
   欧米諸国や中国のWeb3.0政策
Web3.0関連市場は急激に拡大しており、今後数年間で技術的なフォーマットや規制の枠組み等のスタンダードや、各市場の勝者が決しかねない。そのような状況をふまえ欧米諸国や中国政府がWeb3.0時代を見据えた戦略の検討を急いでいる。 米国では、22年3月にバイデン大統領が「デジタル資産の責任ある発展を保証するための大統領令」に署名し、Web3.0時代においてもデジタル経済圏のイノベーションをリードし続ける決意と覚悟を示し、国家戦略のとりまとめを命じた。
これに併せて、資産運用最大手ブラックロックが仮想通貨交換業大手のコインベース・グローバルと提携、ナイキ社によるNFT・メタバース(仮想空間)事業への参入等、主要な米国企業がWeb3.0事業に参入している。
中国では2021年に策定された「第14次5ヵ年計画」において、デジタル経済の発展が重要な国家目標として位置づけられており、人工知能、5G、ビッグデータ等と並びブロックチェーンもDXの重点技術として組み込まれている。
中国の「特別行政区(SpecialAdministrativeRegion)」と位置付けられる香港は、仮想通貨の中心地(ハブ)を目指す構想を掲げており、認可されればチャイナマネー(中華圏の資金)流入も見込まれる。
香港証券先物委員会(SFC)は2月20日、23年6月を目処に仮想通貨取引所のライセンス要件と個人投資家の仮想通貨取引を認可する草案を公開した。
足元では、中国で唯一の規制準拠パブリックチェーンとされるConflux Network(CFX)が中国SNS大手Little Red Bookと23年1月に提携したほか、China TelecomとブロックチェーンSIMカードを開発していることが2月にわかった。
中国大手テック企業テンセントやアリババ等は国外でクラウド事業を強化、中国国内ではNFTへ参入している。21年から仮想通貨の取引やマイニングなど関連活動は全面的に禁止されているため、仮想通貨を使用しないNFTプラットフォームが開発されている。
また中国では大規模なメタバースの開発支援も計画されており、上海市は7月、メタバース開発に特化した約2,000億円(100億元)規模のファンド設立を含む、技術産業支援の強化を発表。
23年2月末にはファーウェイクラウドが「メタバース&Web3.0同盟」を立ち上げ、ポリゴン ( MATIC )、Deepbrain Chain ( DBC )、Morpheus Labs ( MITX )、BlockChain Solutions との協力を発表した。
日本政府のWeb3.0政策推進
日本では自由民主党デジタル社会推進本部が22年1月に「web3プロジェクトチーム(旧:NFT 政策検討プロジェクトチーム)」(web3PT)を設置。web3PTは22年3月に発行した提言書「NFTホワイトペーパー」の中で、Web3.0を「デジタル経済圏の新たなフロンティア」と位置付けて、その起爆剤であるNFTを含む経済圏の育成を国家戦略として定めるべきと提言した。
これがきっかけとなって、自由民主党のデジタル社会推進本部はデジタル施策に対する具体的な提言「デジタル・ニッポン 2022」を発表。人材の流出につながる、日本の抱える税制課題などを明確にした。
こうした提言を受けて日本政府は22年6月、成長戦略にWeb3.0の環境整備を盛り込むことを閣議決定。NFTやDAO(自律分散型組織)利用等のWeb3.0推進に向けた、環境整備の検討を進める方針を明言した。
岸田政権は2021年の発足当初より、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした「新しい資本主義」を掲げてきた経緯がある。
岸田総理は22年5月に英国金融街シティの講演で「資産所得倍増計画」を打ち出し、日本への投資を呼びかける中で「ブロックチェーンやNFT、メタバースなどWeb3.0の推進のための環境整備も含め、新たなサービスが生まれやすい社会を実現する」と言及していた。
同年11月に岸田政権が掲げた「スタートアップ育成5か年計画」では「ブロックチェーン技術とWeb3.0(分散型ウェブ)の税制を含む環境整備を進める」と明記された。
岸田政権の号令を受けて、22年下半期に金融庁や経産省を含む関係省庁がWeb3.0事業環境整備に向けて本格的に動き出した。23年度税制改正では、仮想通貨の法人税のルールに関する一部見直しが行われた。海外流出せざるを得なかったスタートアップ企業にとって、大幅な状況改善に向けて重要なステップとなっている。
   デジタル庁の発足
22年9月30日にデジタル庁は、これら各省庁の環境整備を統括し、法改正を含む環境整備を検討する「Web3.0研究会」を設立。民間企業、経済学者、研究機関を背景に持つ様々な経歴の有識者が参画している。
Web3.0研究会は、Web3.0のユースケースの便益やリスクを評価し、経済成長につなげるために必要な環境整備に関するレポートを22年12月に提出。ブロックチェーンを活用したサービス・ツールについて現行法や規制ではコントロールが困難な領域を明示し、関係府省庁と連携してグローバルな議論や知見にタイムリーに接する環境整備を図る。
デジタル庁とは / デジタル社会実現の司令塔として2021年9月に設立した組織。施策の推進や関係省庁との調整を図りつつ未来志向のDXを推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で作り上げることを目指している
   Web3.0と国内IPの親和性
Web3.0分野は、内閣府が推奨してきたクールジャパン戦略や、日本全体の活力を上げることを目的とした「地方創生政策」とも親和性が高いとして注目を集めている。
日本はアニメやゲーム等の国際的競争力を有する豊富かつ上質な知的財産(IP)を保有しており、商品・サービスの海外需要開拓につなげることで経済価値を生む可能性があると指摘されている。
アーティストや組織が発行するNFTやファントークン等の活用により、IPホルダーやクリエイター等の更なる収益源の確保、ロイヤリティの高いファンの維持、ひいては文化経済領域の産業振興につながる等の期待がある。このような日本の強みを伸ばしていけるような環境を近い将来に創出していくことも重要となる。
また地方では、スタートアップ企業が主体となり、自治体とも連携しながらWeb3.0技術やNFT(非代替性トークン)、DAO(自律分散型組織)を活用して地方の課題を解決し、活力を高めようとしている。
1月30日の衆議院予算委員会で岸田総理は、「メタバースは地理的な制約を超えた活動や交流を可能とする技術のひとつ。新たな人的交流が生まれ、地域の暮らしやすさが向上する影響が考えられる。」と評し、「新興技術の普及・発展を日本がリードするとともに、国民のリテラシーを高めるために(Web3.0に関する)国際イベントの検討を含め、政策を前に進めていくことが重要だ。」と言及した。
主な国内発web3.0関連プロジェクトの紹介
   Astar Network(ASTR)
Astar Networkは、ポルカドット(DOT)に史上3番目に接続されたパラチェーン。渡辺創太氏が代表取締役CEOを務めるStake Technologies社が開発を主導する、日本発のパブリックブロックチェーン。
その特徴はマルチチェーン時代のスマートコントラクトハブとなるように設計されていること。イーサリアム互換のアプリだけでなく次世代開発環境WebAssemblyにも対応。ベーシックインカムを提供する「dApp staking」で開発者から支持を集め、PolychainやBinance、Coinbaseなど世界トップの投資家に支援されている。
渡辺氏は与党のWeb3プロジェクトチームに積極的に関与しており、日本政府のWeb3.0戦略策定において重要な役割を担う。22年4月には、自民党の河野太郎(当時:広報本部長)、平将明ネットメディア局長と、web3.0について対談した。
2022年以降、国内行政や大手企業との提携を進めており、Astar Networkは国内での存在感を急速に高めている。
   Astar Network(ASTR)の主なトピック
株式会社NTTドコモは22年10月、Stake Technologiesと、Web3.0普及を目的とした基本合意を締結した。両社は、分散型自律組織(DAO)の考え方を活用した社会課題解決プロジェクトを始動。Web3.0技術を活用した、地方創生や環境問題への対応策の立案などに取り組む。
広告大手の博報堂は22年12月、Stake Technologiesとのジョイントベンチャー「博報堂キースリー」の設立を発表した。新会社では、企業のWeb3.0参入と普及を目指すための取り組みが実施される。
株式会社博報堂キースリーは、web3.0グローバルハッカソン第一弾を2023年2月14日〜 3月25日に開催。キースリーのハッカソンはスポンサー企業と共に開催する企業タイアップ形式であることが特徴。初回はトヨタ自動車株式会社の協賛で「企業内プロジェクト向けDAO支援ツールの開発」をテーマとする。
渡辺創太氏は23年1月、新会社Startale Labsを設立した。Startale Labsが目指すのは、イーサリアム(ETH)やポルカドット(DOT)のエコシステムにおいて開発を支援する北米企業ConsenSysや欧州Parityのような立ち位置をアジアで確立すること。
Astar FoundationやWeb3 Foundation、プロジェクトや大企業などAstarNetworkを通じて培ったコネクションを積極的に活用する。マルチチェーン対応dApps(分散型アプリ)やインフラ開発、web3.0事業コンサルティング、研究開発やインキュベーションも行っていく。
   Oasys(OAS)
Oasysは、「Blockchain for The Games」をコンセプトにゲーム系IP(知的財産)ホルダーとゲーマー向けに構築されたゲーム特化型ブロックチェーン。
Oasysの初期バリデーター(承認者)には、スクウェア・エニックス、セガ、バンダイナムコ研究所、GREEなど国内最大手のゲーム企業やbitFlyerやAsterなどWeb3.0関連企業を中心に21社が提携・参画。
Oasysプロジェクトの「Founding Team(創設チーム)」は、以下のメンバー構成となった。
•中谷 始氏(バンダイナムコ研究所 代表取締役社長)
•上野 広伸氏(double jump.tokyo 代表取締役CEO)
•國光 宏尚氏(gumi創業者/Thirdverse 代表取締役CEO)
•内海 州史氏(セガ 取締役副社長)
•Gabby Dizon氏(Yield Guild Games 共同創業者)
初期バリデーターは、ブロックチェーンのネットワークに接続し、チェーン上の取引が正しいかどうかを検証するノードのひとつとして機能するほか、次世代型Web3.0ゲームの研究・開発を模索する。
合意形成アルゴリズムPoS(プルーフオブステーク)を採用し、これまで大きな課題となっていたゲームプレイヤーの取引手数料(Gas代)無料化や取引処理の高速化を掲げる。
メインネットのローンチは3つのフェーズすべてで順調に進捗しており、イーサリアム仮想マシン(EVM)互換のL1「ハブレイヤー(Hub-Layer)」とL2「バースレイヤー(Verse-Layer)」が無事統合され、Oasysのエコシステムが完全稼働している。
   Oasys(OAS)の主なトピック
Oasysは23年1月、分散型意思決定プロセスとしてガバナンスを立ち上げた。プロジェクトの分散化を図るとともに、ゲームやメタバースに特化したNFT(非代替性トークン)の相互運用目的の標準規格などブロックチェーンゲームの業界発展に向けて議論していく。
Oasysが公式にIPを提供するゲーマーのためのNFTプロジェクト“OASYX”が22年12月に始動。シリーズ毎にレジェンドゲームクリエイターが世界観の監修役で登場するほか、国内外のさまざまなNFTプロジェクトとのコラボレーションも企画している。
NFT/ブロックチェーンゲーム専業開発会社double jump.tokyoが発行するシリーズ第一弾は、セガで格闘ゲームの「バーチャファイターシリーズ」や「シェンムーシリーズ」を手がけた鈴木裕氏が世界観を監修。アーティストGODTAIL氏がキャラクターデザインを担当したPFP型のNFTとなる。
22年11月30日に開始したOASトークンのパブリックトークンセールでは、半日で目標額を超えるコミットメントを達成。5日間で計60ヶ国の投資家が参加した。
また、「エコシステムの強化」を目的とした戦略的投資ラウンドには、ZOZOの創業者である前澤友作氏が設立したMZ Web3ファンドやゲーム大手のNexonなど以下の企業やファンドが参加。なお、具体的な資金調達額は非公開となっている。
Oasysは22年11月、世界最大級のブロックチェーンゲームギルドであるYield Guild Games(YGG)の日本進出に伴い設立された「YGG Japan」と戦略的パートナーシップを締結した。
28カ国10万人以上のプレイヤーと3万人以上のスカラーを抱えるYGGの知見と、Oasysの国内外ゲーム開発者とのコネクションでシナジーを生み、日本ブロックチェーンゲーム市場の拡大に起用することが期待される。
CoinPost主催のWeb3大型カンファレンス「WebX」
国内最大手の仮想通貨・ブロックチェーンメディア「CoinPost」を運営する株式会社CoinPostは、2023年7月25日(火)26日(水)の2日間、東京国際フォーラムにてアジア最大級の国際Web3カンファレンス「WebX」を開催します。
国内最大手の仮想通貨・ブロックチェーンメディア「CoinPost」を運営する株式会社CoinPost(本社:東京千代田区、代表取締役CEO:各務貴仁)は2023年7月25日(火)・26日(水)の2日間、東京国際フォーラムにてアジア最大級のWeb3カンファレンスを開催することをお知らせいたします。
WebXは、世界各国からWeb2・Web3の有望プロジェクトや企業、起業家、投資家、開発者等を集めたアジア最大級のWeb3カンファレンスです。
来場者は、Web3分野のトッププロジェクトや創業者らを招いた公演(日本語同時通訳対応)、ネットワーキング機会、主要プロジェクトによる技術ワークショップ、Web3ビジネスに関するピッチイベント、様々な企業やプロジェクトの展示会、GameFiゲームイベントにご参加いただけます。
●日本が直面する食品輸入に関する4つの危機 「世界で最初に飢える」 3/7
かつてキューバの革命家ホセ・マルティは「食料を自給できない人たちは奴隷である」と述べ、高村光太郎は「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」と言った。果たしていま、日本は独立国といえるのだろうか──。
スーパーに行けば新鮮な肉や野菜が手に入り、コンビニにはすぐに食べられるような弁当や総菜が所狭しと並ぶ。外食ひとつとっても、高級フレンチから、チェーンのラーメン店まで多様な選択肢の中から選べるうえに、それらの一つひとつはさらに細分化している。たとえば「お肉が食べたい」と思ったら、神戸牛でも比内鶏でもアンガス牛でも部位や産地を選び放題だ。
昨今、多少値段は上がっているものの、いつでもどこでも食料が手に入る「飽食の時代」であることは間違いない。そんな日本から食べ物が消えて、日本人が飢える日が来るなど考えられない──ほとんどの人はそう思うだろう。
しかしその陰で、現実には、食料を輸入も自給もできずに飢えていく「食料危機」が始まりつつある。『農業消滅』(平凡社)、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社)などで繰り返し危機を訴えてきた東京大学教授・農業経済学者の鈴木宣弘さんが、食料危機のリアルをお伝えする。
現在の日本の食料自給率は、37%。裏を返せば、いま私たちが口にしている食品の半分以上は、海外から来たものだ。つまり、もし食品の輸出がストップすれば、現在流通している食品の半分以上が消えることになる。
そうなった場合、私たちの食卓は一体どうなるのか。2022年4月に放送された『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)では、農林水産省の資料をもとに「国内生産だけで成人1日分の必要カロリーを供給する場合のメニュー例」が再現され、大きな衝撃を与えた。その内容はりんご4分の1個と焼き魚ひと切れ、米以外は、ほとんどすべてのカロリーを芋でまかなう「3食、芋だけ生活」だったのだ。
実際にいま、さまざまな要素が絡み合って日本の食品輸入は危機に瀕しており、「芋だけ生活」は目前まで迫ってきている。筆者はそれを「クワトロ・ショック」と呼び、日本に訪れた4つの危機に警鐘を鳴らしている。
中国のトウモロコシ輸入量は10倍に
1つ目は、コロナ禍で起きた物流停止がまだ回復していないこと。2つ目は、中国の食料輸入量の激増に伴う食料価格の高騰だ。
実際、2022年の中国のトウモロコシの輸入量は2016年の10倍に増えており、その驚異的な伸びはコロナ禍からの経済回復による需要増だけではとても説明できない。戦争の勃発など、有事を見越した備蓄増加も考えられる。
大豆輸入量も年間約1億トン。一方の日本は300万トンの輸入量に過ぎず、中国の「端数」にもならない。
もし中国が「もう少し大豆を買いたい」と言えば、輸出国は中国への輸出分を確保するために、日本に大豆を売らなくなる可能性すらある。
さらに脅威を感じるのは、海上運賃においても中国と日本の間に大きな格差が生じていることだ。いまや中国の方が高い価格で大量に買う力があるので、コンテナ船も相対的に取扱量の少ない日本経由を敬遠しつつある。そもそも大型コンテナ船は中国の港に寄港できても日本の小さな港には寄港できない。
そのため、まず中国に着港して小さな船に食料を小分けして積み直してから日本に向かうことになるが、当然その分の海上運賃は高騰する。
3つ目は、慢性化した異常気象によって世界各地で農作物の不作が頻発したこと。
そして最後は、ウクライナ紛争の勃発による物流の停止だ。「世界の穀倉」と呼ばれ、ロシアとともに世界で3割の小麦輸出量を占めるウクライナは耕地を破壊され、農業に大きなダメージを負った。
深刻なのは、そうした紛争の影響を危険視した国々が「国外に売っている場合ではない」と自国民の食料確保のため、防衛的に輸出を規制し始めていることだ。その数は現時点で小麦生産世界2位のインドをはじめとして30か国に及ぶ。現在日本は小麦をアメリカ・カナダ・オーストラリアから買っているが、それらの代替国に世界の需要が集中し、食料争奪戦が激化しているのだ。しかも現在、そこに歴史的な円安も加わり、日本は“買い負けて”いる。もしいまの状況があと数年も続けば、私たちの食卓からあっという間に小麦やトウモロコシは消えていく。当然、それらを加工したパンやケーキ、スパゲティといった食品も手に入らなくなるだろう。
将来の自給率は肉も野菜も5%以下
日本が世界に買い負け、入ってこなくなる恐れがあるのは、食料そのものに留まらない。例えばかつては日本が買い付けの主導権を握っていた、牧草や魚粉などの家畜や養殖魚のエサは、いまや中国が大量に高値で買い付けており、日本は高くて買えないどころか、ものが調達できない。
その最たるものが化学肥料原料だ。日本はリンとカリウムを100%、尿素も96%を輸入に依存しているのに、最大調達先の中国は国内需要が高まったため輸出を抑制しだした。カリウムはロシアとベラルーシに大きく依存していたが、ウクライナ紛争によって日本は“敵国”認定され、輸出がストップ。現在、それらの値段は平常時の2倍に高騰しており、原料が入らないために製造中止となった配合肥料も出てきている。
飼料や肥料に加え、現在深刻な問題となっているのが、野菜の「種」も海外に依存しているという事実だ。
日本で流通している野菜の80%は国産だといわれているものの、もととなる種は9割が海外の畑で採集されている。そうした状況下でも国内で奮闘している種苗業者によると、いまや「三浦大根」や「ごせき晩生小松菜」などの在来種ですら、多くはイタリアや中国など海外に依存しているという。そのため、いかに種を国内で確保するかが重要になるにもかかわらず、日本政府はそれに逆行し、国が予算を出して米や麦、大豆の種を県の試験場で作って農家に供給する事業をやめさせるような政策を取っているのだ。
現状の「37%」という食料自給率も諸外国と比較すればとんでもない低さだが、飼料や肥料、種を取り巻く事態を鑑みれば実質はもっと低い。
飼料や種の海外依存度を考慮すると、2035年には牛肉・豚肉・鶏肉の自給率は4%・1%・2%、野菜の自給率は4%と、信じがたい低水準に陥る可能性さえある。いまは国産率97%の米ですらも、国産の「種」を守ろうとしない政策によって、いずれ野菜と同様になってしまう可能性は決して否定できない。
「牛乳搾るな牛殺せ」
このままでは日本は世界で最初に飢えることになる──食料安全保障の危機は、すでに何年も前から予測され、筆者も警鐘を鳴らしてきた。しかし、日本の政治家たちはそれをまったく認識していない。実際、昨年1月に発表された岸田文雄首相の施政方針演説では「経済安全保障」だけが語られ、「食料安全保障」「食料自給率」についての言及は皆無だった。農業政策の目玉は「輸出5兆円」「デジタル農業」など、ほとんど夢のような話に終始している。
日本人には、「食料やそのもととなる種や飼料を過度に海外依存していては国民の命は守れない」という現実が突きつけられており、国産の食料を少しでも増やし、自給率を上げることが何よりの急務。つまり日本各地で頑張っている農家を国を挙げて支えることこそが、自分たちの命を守ることにつながるはずだ。
にもかかわらず、政府は真逆の政策を取っている。
その最たるものは、国内生産の命綱ともいえる米だ。国内の米の価格はどんどん下がっており2022年はコロナ禍の消費減も加わって、1俵60kg=9000円まで下がった。生産コストは1俵当たり平均1万5000円かかるため、作るほどに赤字になるのは明白だ。しかし政府が取った対応は、支援や補填ではなく「余っているから米はこれ以上作る必要はない」と苦境に立つ農家を切り捨てるものだった。
同様の危機は、酪農家にも起きている。2020〜2021年にかけて、コロナ禍による一斉休校に伴う給食需要や外食産業、観光地の土産菓子などの需要が蒸発したことによって、深刻な「牛乳余り」が発生した。しかしこのときも政府は「余っている牛を殺せ。殺せば1頭当たり15万円払う」という政策を打ち出した。だが、乳牛は種付けから搾乳できるまで最低3年はかかる。近いうちに乳製品が足りなくなったとしても牛は淘汰されていて、また大騒ぎになることが目に見えている。
食料は「武器よりも安い武器」
そもそも米も牛乳も“余っている”のではなく、買いたくても買えない人が続出しているというのが真実だ。わが国は先進国で唯一、20年以上も実質賃金が下がり続けており、新型コロナに伴う深刻な不況がそれに追い打ちをかけたことで日本の貧困化が顕在化したに過ぎない。だからいま必要なのは、政府が農家から米や乳製品を買って、フードバンクや子ども食堂など、食べられなくなった人たちに届ける人道支援だろう。
アメリカでは、コロナ禍における農家の所得減に対して総額3.3兆円の直接給付を行ったうえ、3300億円で農家から食料を買い上げて困窮者に届けている。
そもそもアメリカやカナダ、EU諸国では緊急支援以前から最低限の価格で政府が穀物や乳製品を買い上げ、国内外の援助に回す仕組みを維持している。例えばアメリカでは、米を1俵につき4000円ほどの低価格で売るように農家に求めるが、「最低限コストである1万2000円との差額は100%国家が補填するので安心して作ってほしい」とセーフティーネットも張り、それをほかの穀物や乳製品にも適用している。
そのうえで、食料を「武器よりも安い武器」と位置づけて、世界で安く売っているのだ。アメリカが輸出大国なのは競争力があるからではなく、食料を安全保障の要、武器とする国家戦略があるからだ。
しかもアメリカは、年間1000億ドル近い農業予算の6割以上を「SNAP」と呼ばれる消費者支援として使っている。これは低所得者にプリペイドカードのように使える「EBTカード」を配り、所得に応じて最大月額7万円まで食品の購入費に充てることができるという制度だ。これは消費者はもちろん、農家にとっても経済効果がある。
一方、日本は農業予算を削り、防衛費を強化するという方針だ。実際、2022年末の閣議決定では今後5年の防衛費を前回の1.5倍の額である43兆円と計上している。しかし、世界で唯一、エネルギーも食料もほとんど自給できていない国である日本が経済封鎖されて兵糧攻めに遭ったとき、助けてくれる国はあるだろうか? その答えは、いまのウクライナを見れば一目瞭然だ。
実際、私たちが命を守るのにどれだけ脆弱な砂上の楼閣にいるのかということを裏付ける衝撃的な試算が2022年8月、アメリカで発表された。米ラトガース大学などの研究チームが学術誌『Nature Food』に発表したもので、局地的な核戦争で15キロトン級の核兵器100発が使用され、500万トンの粉塵が発生するという恐ろしい事態を想定した場合だが、直接的な被爆による死者は2700万人。さらにもっと深刻なのは「核の冬」による食料生産の減少と物流停止によって、その2年後には世界で2億5500万人の餓死者が出るが、そのうち日本が7200万人で世界の餓死者の3割を占めるというものだ。ショッキングな事実だが、冒頭から説明している現実から考えれば当たり前のことだ。
このままでは、芋どころか、いざとなれば昆虫しか食べられないような事態になりかねない。 ・・・
●「竹槍歌と反日ばかり叫ぶことはできない」…尹大統領、強制徴用決断まで 3/7
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が6日に韓国外交部が正式発表した韓日強制徴用解決策と関連し、「未来志向的韓日関係に進むための決断」と話した。尹大統領はこの日韓悳洙(ハン・ドクス)首相との定例会合で「韓日関係が新しい時代に入り込むには未来世代が中枢的役割をできるよう両国政府が努力しなければならない」としてこのように話したと大統領室の李度運(イ・ドウン)報道官が会見で伝えた。尹大統領の要請に韓首相は「文化・外交・安保・経済世界的課題など両国の分野別協力事業をスピーディに推進したい」と答えた。
これと関連し大統領室高位関係者は中央日報との通話で「『竹槍歌と反日ばかり叫んで未来青年世代を担保にしてはならない』というのが尹大統領が交渉過程で明らかにした一貫した立場。政治的に有利か不利かを離れ、国益と未来世代に向けゴルディアスの結び目をほどいたもの」と強調した。
当初大統領室内では強制徴用交渉と関連し「時間がもう少し必要だ」という慎重論が多かったという。40%前後にとどまる尹大統領支持率の中で、「親日フレーム」に引っかかれば国政運営に支障が出ると懸念する声が少なくなかった。だが尹大統領は「支持率が落ちてもこれ以上両国関係を放置できない」としてためらう参謀陣を直接説得したという。2018年の強制徴用判決と2019年の日本の貿易報復措置の後に竹槍歌を歌い両国関係回復から事実上手を離した文在寅(ムン・ジェイン)政権を踏襲することはできないという意志が大きかったということだ。
実際に文在寅政権発足直後から両国関係が最悪に突き進んだというのが共通した評価だ。文前大統領は2017年5月の就任直後、当時の安倍晋三日本首相との電話で「韓国国民の大多数が情操的に慰安婦合意を受容できないのが現実」としながら朴槿恵(パク・クネ)政権で両国が合意した韓日慰安婦合意を無力化した。日本側からは「政権が変わったからと過去の合意をひっくり返すというのは前例のないこと」という批判が出てきた。文前大統領は三一節記念演説と光復節祝辞などで日本を加害者だと指弾した。
2018年の大法院の強制徴用判決後に日本が反発した時も、解決策を模索するよりは「反日感情」を国内政治に活用しているという指摘を受けた。2019年の日本の半導体輸出規制措置の後に当時のチョ・グク民情首席秘書官がフェイスブックに上げた竹槍歌が代表的だ。文前大統領も日本の貿易報復に対し「われわれは二度と日本に負けないだろう」と反発した。
だが対北朝鮮関係と関連しては日本に低姿勢を見せたりもした。東京五輪を控え北朝鮮の参加を誘導するため止まっていた対日外交チャンネルを稼動したいわゆる「東京構想」が代表的だ。だが新型コロナウイルスと北朝鮮の不参加で水の泡となった。その後文前大統領は任期最後の年の三一節記念演説では「韓日両国の協力は未来世代に向けた現世代の責務」としながら日本に手を差し出した。韓日両国首脳は2019年の韓日中首脳会議を契機に会ってから尹錫悦政権が発足するまで一切の首脳会談も行わなかった。大統領室核心関係者は「文在寅政権は対北朝鮮関係に集中し韓日関係が破綻するまで事実上放置した。北朝鮮の核脅威が高度化し供給網が再編される過程で韓日関係の回復と韓米日の協力強化は韓国の生き残りがかかった問題になった」と話した。
大統領室は今月下旬に尹大統領が東京を訪問し、岸田首相と韓日首脳会談を行うことを検討中だ。大統領室高位関係者は「韓日首脳が両国を行き来したのが中断されて12年目。今後これを深く議論する予定」と話した。
6日に発表された強制徴用解決策の核心は2018年に大法院から賠償確定判決を受けた強制徴用被害者に日本の被告企業(三菱重工業・日本製鉄)の代わりに韓国政府が判決金を支払うという内容だ。行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団がポスコなど1965年の韓日請求権協定恩恵企業から出資金を集めて被害を賠償することになる。1965年の韓日請求権協定で強制徴用賠償問題が解消されたという日本政府の要求を韓国政府が受け入れた形だ。
代わりに日本の林芳正外相が6日の韓国政府発表の後、「日本政府は1998年10月に発表された日韓共同宣言を含め歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と明らかにした。林外相が言及した共同宣言には日本の植民地統治に対する痛烈な反省とおわびが盛り込まれている。岸田文雄首相も同日の参議院予算委員会に出席し「歴史認識に関しては歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく」と話した。
これと関連し金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長はこの日午後の会見で「日本政府がこれまで表明してきた過去に対する反省と謝罪の立場を再確認し、未来志向的な両国関係発展に向け多角的に努力するという立場を表明したことを評価する。尹錫悦政権は自由民主主義と法治・市場経済価値を共有する日本と共同利益を追求しながら地域と世界平和に向けともに努力していくだろう」と話した。
シン・ガクス元駐日大使は「交渉結果に物足りなさがないわけではない」としながらも、「中国の域内影響力が拡大し、北朝鮮が事実上核武装国に進入した状況で韓日協力の重要性はいつになく大きくなった状況であることを否定するのは難しい」と話した。
●「国債償還ルール」見直しは悪いのか、日本の財政運営は“世界で異端” 3/7
防衛費増額の財源確保で60年国債償還ルール見直しの議論
昨年末の予算編成で増税が先送りとなった防衛費増額の財源を巡る自民党の特命委員会が開かれている。
その中では、国債の「60年償還ルール」を見直すべきだという案も議論されているという。
見直しの議論に対して財政学者などの一部からは、償還ルールの見直しは財政規律が緩む懸念があるとの批判も出ている。
だが、すでに日本では財政法4条によって米国やドイツと同じくらいの財政規律確保の枠組みが設けられている。
そもそも、償還ルールに基づき、政府債務を「完全に返済する」という考え方をとっているのは、主要国では日本だけだ。
それどころか予算編成でも、日本は国際標準より過大に財政赤字が計上されている。
償還ルール見直しの議論の是非は、こういった日本の財政運営の特異性も含めて考える必要がある。
政府債務、「完全に返済」は先進国では日本だけ
国債の「60年償還ルール」とは、新規に発行した国債は60年で完全に償還(つまり1年に60分の1ずつ償還)するというルールのことだ。
このため、日本政府は、毎年度の予算に国債の利払い費だけではなく、償還費も計上している。ちなみに、2022年度一般会計歳出(107.6兆円)のうち、国債償還費は17.5%を占めている。
だが実は、このような償還ルールに基づき政府債務を「完全に返済する」という考え方を持っているのは、先進国では日本だけだ。
日本以外の先進国では、このように償還の期限を定めるルールはない。予算には償還費は計上されず、利払い費だけが含まれる。
というのも、他国では、政府債務を完済しなければならないという発想はないからだ。償還時には償還額と同額の借換債が発行され、経済状況などを配慮しながら、債務残高は基本的には維持されている。
確かに、OECD(経済協力開発機構)の対日経済審査報告書を見ても、日本政府の歳出項目には利払い費は含まれているが、償還費は計上されていない。
政府の歳出には償還費を計上しないのが、国際標準なのだ。
ところが、財務省の「日本の財政関係資料」を見ると、歳出項目に国債償還費を計上している。
歳入に社会保険料は含まず国際標準に比べ歳出は過大、歳入は過小
国際標準とずれているのは、歳出だけではない。
歳入の項目を見ると、OECDの対日経済審査報告書では、社会保険料収入が含まれている。
社会保険料は、社会保障給付費を賄うために国民に課せられた負担だ。したがって税収と同様に、歳入に含める方が適切だろう。
ところが、日本の財務省の財政関係資料では、歳入に社会保険料は含まれていない(ちなみに、2022年度での社会保険料は74.1兆円)。
このように、歳出項目だけでなく、歳入項目も、国際標準とは異なっている。しかも、国際標準に比べて、歳出は過大に、歳入は過小なのだ。
興味深いことに、朝日新聞によれば、財務省は、2019年に60年償還ルールの廃止を一時検討していたものの、「省内にも財政規律が緩むとの慎重論があり、お蔵入りとなった」という。
財政規律を厳しくするために、財政赤字を国際標準による計上よりも大きく見せておこうという魂胆のようだ。
だが、その一方で、日本政府は事あるごとに、財政の信認を維持しなければならないと主張してきたはずだ。
それなら、どうして、政府はわざわざ国際標準に反してまで、財政赤字を大きく見せようとしているのだろうか。
財政赤字を過大に見せることは、財政の信認を自ら傷つける行為だ。財政の信認が大事だというなら、財政赤字を大きく見せることになっている償還費を前提にした60年償還ルールは廃止すべきだろう。
加えて、歳入に、社会保険料収入を計上すべきだ。
財政法4条の枠組みは米独並みの財政規律を法定
ところが、政府の財政制度等審議会の委員でもある慶應義塾大学の土居丈朗教授は、「米国は議会が政府債務に上限を設け、ドイツは国債発行を例外とするなど日本より厳しい財政規律のルールがある。日本では60年償還ルールがそれにあたり、見直す場合には他の規律を考える必要がある」と指摘している。
だが、土居教授の指摘は間違っている。
確かにアメリカでは、政府債務の上限が法定されている。ただし、議会の承認が得られれば、上限を超えて国債を発行することができる。
また、ドイツは、憲法(基本法)によって、連邦政府は、対GDP比財政収支を原則▲0.35%以内にしなければならないと定めている。ただし、不況時には新規国債発行の増加が認められ、好況時にはその減少(または財政収支の黒字化)が求められるといったように、景気の好不況に配慮している。
加えて、「自然災害または国家の統制が及ばず、国家財政に甚大な影響を与える緊急非常事態の場合」には、財政ルールの適用を停止できることとされている。
実際、2020年とその翌年には、コロナ禍に対応するため、この一時停止措置が発動された。
そして認識すべきは、日本でも、財政法第4条によってアメリカやドイツと同様に財政規律が法定されていることだ。
財政法第4条では、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」
とされている。
つまり財政法第4条は、均衡財政を原則、国債発行を例外とし、国債を発行する場合には国会の議決を経ることを規定しているのだ。
これは、国債の発行には議会の承認を必要とするという意味ではアメリカと遜色なく、また、国債発行が例外であるという意味で、ドイツと同様の財政規律だ。
PB黒字化目標は独より厳しく硬直的
さらに日本の場合には、財政法第4条に加えて、閣議決定によりプライマリーバランス黒字化目標という財政収支ルールが課せられている。
これは、ドイツの財政収支のルールよりも厳しい財政規律だ。
第一に、ドイツのルールは、財政収支の対GDP比を目標として設定している。したがって例えば、財政支出を拡大してもGDPが成長した場合には、数値は改善するという余地がある。
これに対して、日本のプライマリーバランス黒字化目標は、対GDP比ではないため、GDPが成長することで数値が改善するという余地がない。
ちなみに、国際的に見ると、財政収支のルールを財政規律にする場合は、対GDP比の財政収支を目標とするのが一般的だ。
第二に、ドイツの財政収支ルールは、不況の際は新規国債の発行が許容される。しかし日本は、長期のデフレ不況の中でも、かたくなにPB黒字化目標を維持してきた。
第三に、ドイツの財政収支ルールは、緊急事態では停止することが許容されており、実際にコロナ禍では停止された。しかし、日本は、コロナ禍でもプライマリーバランス黒字化目標も、国債の60年償還ルールも堅持したのだ。
このように日本では、アメリカやドイツにおける財政規律に対応するのは財政法第4条であり、60年償還ルールではない。
それどころか、日本の「プライマリーバランス黒字化目標」という財政規律は、アメリカやドイツの財政規律よりも厳しく、しかも硬直的なのだ。
●出生数80万人割れの投資戦略  3/7
2月28日、厚労省は昨年12月の人口動態速報を発表、2022年の出生数は79万9,728人だったことが明らかになった。1899年の統計開始以来、初の80万人割れである。結果として、合計特殊出生率は1.27程度へ低下する可能性が強い。新型コロナ禍の影響はあるものの、日本の人口減少は構造的な問題と言えるだろう。人口動態は労働投入量を決める基盤であり、潜在成長率の一段の低下は避けられそうにない。また、来年に予定される5年に1度の年金財政再検証は、公的年金の持続可能性に関し厳しい結果となる可能性もある。もっとも、出生率の低下は主要先進国に共通の問題だ。米国や欧州諸国では、移民・難民を受け入れることでこの課題に対応してきた。その結果、ドイツなどにおいて出生率の反転が見られたものの、深刻な社会問題が起こり、極右勢力の台頭を招いている。今後、主要先進国は、人口が増加基調にあり、教育水準の高い新興国への投資を強化せざるを得ないだろう。人材は最も貴重・希少な資源と位置付けられそうだ。
人口は新型コロナ禍以前から構造的な減少トレンド
日本の出生数は1975年に200万人を下回って以降、長期的な減少期に入った。第1次石油危機を契機に高度経済成長が終了、日本経済が成熟期に入ったことが背景だろう。また、医療の飛躍的な進歩により、乳児、新生児死亡数が劇的に減少したことも少子化の理由の1つではないか。昨年は死亡数が158万2,033人であり、総人口は前年に比べ78万2,305人、率にして0.6%減少した。
出生率は将来人口推計の「低位推計」に近い
2022年の合計特殊出生率は、2021年の実績である1.30から1.27〜1.28程度へ低下する見込みだ。2017年に国立社会保障人口問題研究所が公表した将来人口推計との比較では、国の政策の前提とされる中位推計ではなく、限りなく低位推計に近い推移となった。来年予定される5年に1度の年金財政再検証が、相当に楽観的な脚色を加えない限り、かなり厳しい数字となる可能性は否定できない。
潜在成長率は縮小を継続
国の潜在成長率を生産面から見ると、労働投入量、資本投入量、全要素生産性(TFP)の伸び率の足し算で算出される。人口減少は構造的に労働投入量に影響し、潜在成長率を低下させる要因だ。人口動態を短期的に変化させることは困難なので、日本の成長率はTFPに大きく依存するだろう。もっとも、生産性の伸びを押し上げるには雇用制度改革など難しい課題があり、これも実現のハードルは低くない。
出生率低下は先進国共通の課題
人口問題は主要先進国に共通の課題だ。医療サービスの充実した先進国の場合、人口維持に必要な合計特殊出生率は2.06〜2.07とされる。「先進国クラブ」と呼ばれるOECD全体で見ると、2000年に1.83だった合計特殊出生率は2020年に1.59へと低下しており、人口維持の基準を満たしていない。2020年は新型コロナの影響を受けたと見られるものの、それ以前から趨勢的な低下基調にあった。
ドイツの出生率上昇は難民の受け入れが背景
ドイツでは、アンゲラ・メルケル首相(当時)が積極的な移民・難民の受け入れ策を採り、それに伴って一時1.2台に落ち込んでいた出生率は1.6へと回復した。しかしながら、元々のドイツ国民と難民との間で軋轢が生じて社会問題化、極右政治勢力の台頭を招いている。他の欧州諸国や米国でも共通の現象が見られ、米欧諸国においての移民・難民による人口問題への対応は岐路を迎えているようだ。
子育て支援は効果が不透明、移民は政治的に困難
移民の受け入れ拡大が難しい日本の場合、当面、採り得る人口減少への対策としては、岸田政権が注力する「子育て支援」の他、婚姻・育児に関する法体系・制度設計の見直しが考えられる。ただし、いずれも即効性はなく、政治的な抵抗も小さくない。そこで、教育水準が高く、人口が増加基調にある新興国への積極的な投資により、所得収支の黒字拡大で経済を支えるのが現実的な対応と言えよう。
政府債務の大きな国に生産性の高い国はない
日本の歴代政権は、財政政策の拡大により、人口減少下において経済規模の維持を図ろうとしてきた。もっとも、政府債務対GDP比率が高い先進国の場合、生産性の高い国はない。短期的な経済対策の積み重ねが、長期的には潜在成長力のマイナス要因となる可能性が強いわけだ。政府の財政支出を日銀が金融政策で支える手法は、あくまで緊急避難策として有効なのではないか。
貿易収支の赤字を第1次所得収支の黒字で埋める
人口動態により労働投入量の減少は避けられない。それは、生産力の低下を通じて貿易収支を恒常的に赤字化させるのではないか。加えて経常収支も赤字になれば、市場による円や国債の信認に大きく影響するだろう。そうしたなか、蓄積された国民金融資産を人口が増加しつつある新興国への投資に活用することは、第1次所得収支の黒字維持で貿易収支の赤字をオフセットする有力な選択肢と言える。
出生数80万人割れの投資戦略:まとめ
人口減少への対策として有力なのは、アジア、中南米、アフリカ諸国のうち、人口が増加し、教育水準の高い新興国へ積極的に投資、国際収支における第一次所得の黒字を拡大し、経常収支の赤字化を避けることだ。人口増加策は一朝一夕にはならず、移民・難民の受け入れも難しい以上、蓄積された国民金融資産を海外へ出稼ぎに行かせるのが最も現実的と言えよう。これは、主要先進国に共通の課題に他ならない。国内外の分断により移民・難民による人の移動が抑制されている以上、人材と言う有力な資源を抱えた新興国を取り込み、経済を一体化する動きは、今後、一段と加速することが予想される。
●賃上げ、金融環境の激変下をどう生き抜く─ 問われる経営者の覚悟 3/7
30年間、給与は横ばいだった
「このコロナ禍で、事業構造改革を進めてきて、成果が出始めた。従業員には長い間、我慢してもらってきたし、賃上げを実行していきたい」と東京・丸の内の大企業トップは語る。
日本経済は長らくデフレか、それに近い状態が続き、先行き不透明感がある中で、「まず雇用を」と雇用を守ることに注力し、賃上げによる経営コスト増を避けてきた。
そうした、我慢の空気≠変えようと、今、産業界に賃上げの機運が高まる。
しかし、全企業数の9割を占める中小企業の大半は「現状で賃上げは難しい」という所も少なくない。この二極分化をどう克服していくか─。
21世紀が始まって21年余、バブル経済崩壊から30年余が経つ今、「このままでは日本は停滞が続くというか、没落する」という危機感が強まっている。
失われた30年≠ェ続いているのはなぜか。2010年代にアベノミクスが登場し、安倍晋三政権の経済政策の背景の中で黒田東彦・日本銀行総裁の「異次元金融緩和」が打ち出されて10年。
アベノミクスに対する評価は分かれるが、円安・株価上昇は実現したものの、肝心の成長がまだ得られないままできている。いわゆる「3本の矢」の中で第1の矢の金融、第2の矢の財政は放たれてきたが、第3の矢の成長がまだ不十分なままだ。
今、産業界には賃上げで物価上昇の痛みを少しでもカバーし、消費刺激等による経済再生につなごうという動きが高まっている。この動きをどう見るか?
この30年を振り返ると、日本はなかなかデフレから脱却できず、したがって従業員に対する賃金、つまり人件費を上げられなかった。この間、経営のグローバル化が進み、株主への配当、そして役員報酬は上昇したものの、肝心の従業員の賃金上昇は伴わなかった。それはなぜなのか?
一言でいえば、日本の産業界が進取の気性を失ったからではないのか。経営の方程式でいえば、労働生産性を上げるのは重要なキーポイント。その労働生産性は、分子に付加価値、分母に労働投入量で求められる。
「これまでの日本は労働投入をいかに低くするかということに熱心に取り組んできて、労働に対する報酬、つまり賃金を上げない状況で推移してきた」と語るのは、長らく産業政策づくりに関わってきた福川伸次氏(元通産事務次官、現地球産業文化研究所顧問)である。
労働生産性を引き上げるためには分子の付加価値を高めなければいけない。つまりは「価値の高いものをつくれば、高い値段で売れる」(福川氏)という努力を怠ってきた面がある。
とにかく日本は他者との競争を生き抜くために、とにかく安くつくって安く売るということに腐心してきた。
これを付加価値の高いものをつくり、消費者が認めるならば、それに見合う高い価格で売るということへの転換である。
今は資源・エネルギー価格の上昇に見られるように、原材料価格上昇に伴う製品価格の引き上げが進む。期せずして物価上昇が続くが、本来生産性の伴う商品価格の改定でなければならない。
福川氏は「日本は未だに薄利多売。これまでとは違う売り方ができる企業体質にしていく必要がある」と訴える。
企業の『空気』を変えるという命題である。
日本の存在感低下の今…
先の大戦で敗戦国となった日本。焼け跡の中から立ち上がり、政治、経済、社会のリーダーと国民が一体となって頑張り、努力し、敗戦から23年後の1968年(昭和43年)、日本は当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜いて、GDP(国内総生産、当時はGNP=国民総生産)で2位に成長。
以後、米国に次ぐ経済大国としての道を歩き続けた。それからほどなく、1971年(昭和46年)に「ニクソン・ショック」、1973年(昭和48年)の第1次石油危機、続けて79年の第2次石油危機が起き、日本も翻弄された。しかし、この危機も踏ん張り、円高、資源・エネルギー危機を乗り切った。
高度成長に慣れ切った日本に、米国から矢継ぎ早の注文が飛んでくる。1985年(昭和60年)のプラザ合意で為替調整に追い込まれ、円高基調に転ずる。そして80年代後半はバブル経済への突入である。
その数年後の1990年代始め、バブル経済が崩壊、続けて90年代末には金融危機に見舞われ、日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)、山一證券など大手金融機関が倒産に追い込まれる。以来、日本の停滞が続く。
停滞の原因は何か。先述の福川氏は1980年代の経済人の「驕り」が停滞の大きな一因だと語り、経済人の奮闘を促す。
このコロナ禍、ウクライナ危機の中で経済人の間で緊張感が高まる。その中で増収増益、史上最高益を上げる経営者もいる。そうした経営トップには、危機の中を乗り切るという覚悟を持つ人が少なくない。
「会社はいつでも潰れるもの。潰れないために経営者がいる」と語るのは、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏。「品質のいいものを世界の消費者に届ける」という経営理念で世界にユニクロ≠提供し続ける柳井氏。
『正しい経営』を志向してきた柳井氏は語る。「社会の公器だと思ってやった企業だけが永続しています。そこに自己中心みたいな人が入ると駄目になる」と危機下を生き抜く企業の共通性を語り、何事も「できない」と考えるのではなく、「こうやったらできる」という方向で行動していく時と強調する。
経営者の覚悟が問われる時である。
●トヨタ自動車元社長・豊田章一郎さんを偲ぶ 3/7
トヨタ自動車を世界一の自動車メーカーに育て上げた人、そして生産現場を含む現場で働く人を労う経営者であった。
その人生は環境が激変する中をいかに生き抜くかというテーマをもってのものであった。創業家の3代目としての重責と緊張感を持ちながらも、ご本人は人と接する度に、常に謙虚な姿勢で、時にユーモアを交えて問題意識を共有するというコミュニケーションの仕方。
日本の自動車メーカーとしてトヨタが飛躍する1980年代には日米貿易摩擦の象徴として自動車が取り上げられた。米ゼネラル・モーターズとの合弁設立、そしてケンタッキー州での自前の工場建設を決断。徹底した技術開発と原価低減で、当時の世界最大市場だった米国での現地生産を進めた。
常に前向きで低姿勢な姿は、後に続く経営者、張富士夫氏、そして息子の豊田章男氏らに受け継がれていった。
トヨタが日本の企業を代表する存在になっても「常に危機感を持って」と社員に訴えてきた。「トヨタもいつ沈没するかもしれない」という刺激的な表現を伴っての叱咤激励である。
本誌『財界』誌で豊田さんに、かつて英国の紡績機の名門メーカーの跡地を尋ねたときのことを話していただいた。マンチェスター近くの街・オールダムには、かつて紡績機で世界を制覇したプラット・ブラザーズ社があった。祖父・豊田佐吉翁が憧れた織機メーカーである。しかし、プラット社は産業構造の変化に伴い、衰退の道を辿り、産業の歴史から消えていった。
「なぜ名門企業がおかしくなるのか」という問いかけである。その現実を直視するため、豊田さんはわざわざ自家用機を飛ばして英国の現地に飛んだ。
「オールダムの跡地には草むらが広がっていました」と語るご本人には「トヨタがこうなってはいけない」という想いがあった。トヨタは佐吉翁の織機会社から始まり、その息子・喜一郎(豊田さんの父)が自動車事業を興し、今日に至る。企業に栄枯盛衰は付き物。「トヨタも100年後、200年後はどうなるかわからんと言っているんです」と社内を引き締めておられた。
緊張感を持ちながらも常に前向きの人生。豊田さんは1994年から98年までの4年間、経団連会長を務める。バブル崩壊後、日本は経済が低迷。97年には北海道拓殖銀行、三洋証券、山一證券が経営破綻。翌98年には日本長期信用銀行が経営破綻に追い込まれるという大変な時期。そういう混乱期に経団連会長として産業界をまとめ、「日本には潜在成長力がある」と全産業を励まし続け、政府には法人税減税、そして所得税減税などの実行を訴え続けた。
バブル経済崩壊後、企業批判が社会的に広がる時代的空気の中で「企業が儲けることを悪いという風潮がありますが、企業は大いに儲けて、その代わりしっかり税金を払う方が大事です。企業が一生懸命やって儲ければ、企業数は多いのだから国の財政は良くなります」と経営者を励まし続けた。
そして本業の自動車について「このような時代でも売れる車があります。前向きにやっていくとき」と研究開発を激励。
強さと優しさを兼ね備えたトップリーダーであった。
●習近平は李克強に「冷淡な態度」…全人代で見えた中国指導者たちの素顔 3/7
2023年度の経済成長率は5.0%前後に下方修正
3月5日、日曜日、午前9時(北京時間)、北京の人民大会堂で全国人民代表大会(全人代)が開幕した。
昨年10月に行われた第20回共産党大会を経て、習近平総書記は3選、「チャイナセブン」とも称される新たな中央政治局常務委員が選出された。これらは党の要職であり、国、政府、軍を含めた各種キーマンが出そろい、習近平第3次政権が本格的に発足、始動するのは、今回の全人代の後である。全人代は毎年行われる政治イベントであるが、5年に1度の党大会直後の全人代は、5年に1度という意味で、とりわけ重要になるのだ。
全人代最大の見どころは、国務院総理が中央政府を代表して発表する「政府活動報告」(日本の内閣総理大臣による施政演説に相当)である。
2022年3.0%増と、目標の5.5%前後に届かなかったGDP実質成長率は、2023年5.0%前後と下方修正された。財政赤字のGDP比を3.0%と、前年より0.2ポイント引き上げて財政出動の拡大を通じた経済成長路線を打ち出した。一方、国防予算は7.2%増と、前年の7.1%増から上方修正。軍事力の増強を重視する習近平政治を象徴していた。
昨年末の「ゼロコロナ」策解除を受けて、今年一年間は、ポストコロナという新段階、新常態下での政権運営と政策実行が注目される。
全人代で注目すべき国家指導者たちの“素顔”
全人代において、「政府活動報告」同様、ある意味それ以上に筆者が毎年注目するのが、参加者、特に国家指導者たちの表情やしぐさである。
というのも、本連載が焦点を当てる核心的テーマである中国共産党政治というのは、往々にしてブラックボックスの中に包まれており、内部で一体何が起こっているのか、どのように、どんな議論がなされた上で、各種政策が打ち出されているのか、などがなかなか見えてこない。政治の透明性や説明責任に欠けるともいえるし、日本を含めた多くの先進国では当たり前に行われているような、記者による政治指導者へのぶら下がりや追っかけ取材なども許されていない。
要するに、生の為政者を見る場が極端に少ないのである。その意味で、全人代という政治のお祭りイベントは、習近平総書記を含めた国家指導者たちの素顔に迫る限られた場面という意味で、注目に値するということである。
習近平の余裕と李克強の矜持
ここからは、筆者が全人代開幕日の現場で着目した、習近平総書記、李克強首相、その他の新旧指導者を巡るいくつかの場面を描写することで、中国共産党の現在地と展望を考えていきたい。
まず、今回の全人代で国家主席、中央軍事委員会主席の再選が決まる習近平の表情やしぐさからは、一定程度の余裕が見られた。ほほ笑みながら会場入りし、終始リラックスしていた。この期間、米中関係、台湾問題、ゼロコロナ撤廃、「白紙革命」、経済減速などさまざまな問題に見舞われてきたが、何はともあれそれらを乗り切り現時点にたどり着いたことで、心にそれなりの余白が生まれているのかもしれない。
李克強が国務院総理として最後の「政府活動報告」を1時間弱読み上げたが、その間、習近平は、他の大多数の参加者よりも小さめに拍手を送り、李克強が報告を終えて習近平の隣の席に着く際には、声をかけることも、肩をたたいて、歳月を共にしてきた同志の“勇退”をねぎらおうともしなかった。
開幕式が終了し、席を立つと、さりげなく李の元に身を寄せ、一瞬だけ右手で握手をし、形式的にねぎらった程度。言葉を交わし合うこともなかった。習近平政治に漂う「冷淡さ」を感じさせる光景だった。
李克強も長年の経験から、習近平政治とはそういうものなのだという実情を理解していただろうし、功労者として称えてほしいとかいう期待も抱かなかったに違いない。
一方、開会式が終了し、国家指導者たちが会場を後にする際、その先頭を歩いていた習近平が、香港特別行政区長官の李家超(ジョン・リー)を見つけると、「おお、君も来たか」のような感じで、左手に資料を持ちつつ、右手を前方に掲げ、笑顔で声をかけていた。恐縮した李家超は、両手の掌を目の前にある机に付けて深く一礼、両手をグーで合掌し、習近平に敬意を表していた。
習近平政治の最大の特徴は、自分の側近たちに、能力よりも忠誠心を求める点にあるが、香港をつかさどる李家超も当然、例外ではない。香港政府が、名実ともに北京政府の“かいらい政権”と化した瞬間を垣間見た思いだ。
次に、「政府活動報告」を行った李克強である。前述の通り、今回が国務院総理としての最後の報告になる。壇上に上がった李の表情からは、例年にないほどの精悍(せいかん)さ、そして晴れやかさすら感じられた。過去数年の李克強は、顔色が悪かったり、喉がかれていて、頻繁に手元にあるお茶を口にしたりと、見る側に体調の異変さを思わせていた。
少なくとも筆者から見る限り、今回は顔色がすこぶる良く、声にも力が込められていた。時折お茶は口にしていたが、声がうまく出ないといったこともなかったようだ。会場から頻繁に起こる、儀式としての拍手は意に介さず、「そんな拍手はいらないから、報告に集中させてくれ」といった雰囲気を醸し出す、実務重視の李克強らしい仕事ぶりであった。
1時間たたずに報告を読み上げた李克強だが、最終部分を、「習近平思想」や「中国の夢」に倣う形で、「我が国を、富強、民主、文明、調和の取れた、美しい社会主義現代化強国に建設していくために、たゆまない奮闘をしていくのだ」というお決まりのスローガンで締めくくった。
筆者が注目したのは、「たゆまない奮闘」という最後の4文字(不懈奮闘)の直前、「強国」という言葉を放ちながら、左下に視線を落とした場面である。視線の先にあったのは、真下に置いてあった原稿ではなかっただろう。
可能性として考えられるのは二つ。一つは、大会主催者側から何かメモ紙が差し出され、それに目を通した。もう一つが、時間を確認した。どちらであるにせよ、報告の最終場面、しかも、4文字を読むことに5秒と要さない。あのタイミングでなぜ視線を落とし、あえて確認する必要があったのか。
この二つどちらかだったのか。筆者に確認するすべはない。もしかすると、そのどちらでもなく、単に魔が差しただけなのかもしれない。
ただ推察するに、あのタイミングで視線を落としたのは、「最後の政府活動報告で、大会側が設定したアジェンダ通りに任務を遂行できているか」を確認するためのしぐさだったのではないか。あの違和感を禁じ得ないタイミングでの“慌てぶり”は、生真面目で、仕事一筋でここまで歩んできた李克強なりの矜持だったのではないか。
それぞれの全人代 汪洋、劉鶴、韓正、丁薛祥
最後に、習近平率いる中国共産党政治を支えてきた、あるいはこれから支えていく指導部構成員たちの様子を、筆者が捉えた場面を基につづっていきたい。
   汪洋
最も興味深かったのが汪洋・全国政治協商会議主席だ。
昨秋の党大会前は党内序列4位だった。年齢的には、同主席の座を明け渡す王滬寧(党大会で序列5位から4位に昇格)のように政治局常務委員に残留することもできた。李克強の後を継いで国務院総理就任という可能性もささやかれていたほどだったが、結果は、今回で完全引退である。
その汪洋だが、李克強が政府活動報告のために壇上に向かう間、報告の最中、終了後を含め、ほとんど拍手をしていなかった。手元にある報告の草案にもほとんど目をくれず、時折手に取ったとしても、パラパラと飛ばし読みする感じで、真剣さがまるで感じられなかった。一方で、椅子を座り直したり、ネクタイを締め直したりと落ち着きがない様子だった。
引退を目前にして、もはやどうでもいいという心境だったのか、他に考えることがあったのか。汪洋の身に漂う、さばさば感を垣間見た思いである。
   劉鶴
今回の全人代で同じく完全引退する見込みの劉鶴・国務院副総理にも注目した。習近平政権のマクロ経済、産業政策などを統括してきた人物で、米国との通商交渉なども担当したキーマンである。
その劉鶴は、開会中、隣に座った参加者と笑顔で雑談するような様相も見られたが、李克強の報告に対しては、誰よりもしっかり拍手をし、総理を支える立場にいる人間として、最後の最後まで責任を果たし、今期政府が終わりに向かうのを見届けようという気概を感じた。李克強へ敬意を示そうとしていた。
温和で謙虚な学者型の高級官僚の劉鶴は、最後まで劉鶴だった。
   韓正
昨秋の党大会で、予想通り常務委員の座から退いた韓正・国務院筆頭副総理。大会6日目、3月10日に選出される国家副主席の候補に挙がっている。会場でも、次を見据える引き締まった表情が印象的だった。
端正な顔立ちで、2017年の第19回党大会で中央政治局常務委員になるまで、上海一筋で歩んできた。党でも政府でもなく、国の代表として、国際会議などに出ることになった場合、上海という国際経済都市で培った経験をどう生かすのかが注目される。
   丁薛祥
党中央弁公庁主任、党総書記弁公室主任、国家主席弁公室主任といった立場で習近平を支えてきた側近中の側近。昨秋の党大会で政治局常務委員に昇格(序列6位)している。大会8日目の3月12日に、韓正の後を継いで国務院筆頭副総理に選出される見込みである。
この丁であるが、筆者自身、習近平の後継者候補の一人として注目してきた。昨秋の党大会から今回の全人代にかけて、丁が習近平の後継者であることを示唆する状況証拠はない。丁の競争相手を含め、後継者は可視化されてこなかった。習近平として、意に留める部下はいるにしても、現時点で、決定することも、公開することもしないということであろう。
丁は春節(1月22日)前、一定期間公の場に姿を現さなかったことから、健康に問題があるのではないか、場合によっては、政治局常務委員の座から退くのではないかといううわさが広まった。全人代初日の様子から、丁は元気そうで、国務院総理就任予定の李強(序列2位)、同5位の蔡奇らのぶっきらぼうな表情とは異なり、スマイリーな愛嬌(あいきょう)さを見せていた。
●大都市圏で上昇の兆しが見られる日本の家賃 3/7
日本のサービス価格が弱い背景には、賃金だけではなく、家賃が上がらなかったことも挙げられる。総務省「消費者物価指数」によると、家賃のウェイトはサービス全体の4割弱を占める。米国では住宅価格の高騰が家賃を押し上げ、サービス価格上昇の一因になっている。それに対して、日本ではここ数年、住宅価格が上昇しているにもかかわらず家賃はほぼ横ばいの状況が続く。
日本の家賃は、住宅市場や土地市場の需給動向を柔軟に反映しにくいことが知られている。借り手の入れ替わりが少ない上に、契約期間が2年程度と長く設定されることが多く、家賃を更新する機会が限定されているためだ。
さらに、近年の家賃の伸び悩みには、賃金の弱さが影響している可能性もある。実際に、日本の家賃は住宅価格よりも賃金の動きと連動する傾向が見られる(図表1)。
2010年代以降、住宅価格が上昇に転じた一方で、賃金が伸び悩む状況の下で、多くの家計は家賃の値上げを受け入れられなかったと考えられる。この結果、借り手の入れ替えや賃貸契約の更新といった家賃改定の機会が訪れても、多くの家賃が据え置かれている。日本では、1年間の家賃の改定率が米国の14分の1にとどまるという研究結果もあるほどだ。
ただし最近では、経済活動の正常化に伴って強まる人手不足感を背景に、賃金上昇圧力が高まっている。その結果として所得環境が改善していけば、家計は家賃の値上げを受け入れやすくなる可能性がある。すでに住宅価格の上昇が家賃に反映される兆しが見られるのが、家計の所得が増加している大都市圏だ。22年12月の大都市の家賃の伸びは、前年同月比0.3%と小幅ながら上昇に転じた(図表2)。
日本でも賃金の上昇を背景に、住宅価格や維持・管理コストの上昇が家賃に反映されるようになれば、サービス価格の上昇も期待できる。サービス価格には、いったん上昇すると下落しにくい粘着性があるだけに、消費者物価の基調的な伸びが高まるかどうかが注目される。
●中国地方政府の巨額債務、経済に重荷  3/7
1970年代以来の低成長局面を乗り越えようとする中国経済に、地方政府の財政悪化が暗い影を落としている。新型コロナウイルス禍で地方政府の債務は急速に膨れあがり、その影響がいよいよ表面化してきた。
習近平国家主席が旗振り役となった「ゼロコロナ」政策により、中国各地の都市は大量検査とロックダウン(都市封鎖)で予定外の巨額支出を余儀なくされた。さらに指導部による不動産市場の過剰なレバレッジ(借り入れによるテコ)に対する締め付けは土地売却の急激な落ち込みを招き、自治体から重要な収入源を奪った。
地方政府の約3分の2は債務残高が昨年の歳入の120%を超え、中国当局が非公式に定めた深刻な財政危機を示す債務基準を突破しかねない状況にある。 S&Pグローバルが分析した。
調査会社ロジウム・グループの調査によると、中国主要都市のうち約3分の1は利払いすらままならない。極端なケースとして、甘粛省の省都・蘭州の利払いは2021年歳入の74%相当に達している。
債務の大半は近く支払期限を迎える。中国格付け大手の子会社、聯合評級国際では、地方政府傘下の投資会社(融資平台)が抱えるオフショア債務842億ドル(約11兆4400億円)のうち、約84%が今年から2025年に期限を迎えると分析している。
自治体がデフォルト(債務不履行)に陥り、金融危機を招くリスク自体は大きな懸念ではないが、可能性を排除することはできないとエコノミストは指摘する。ただ、こうして借金を抱えた都市は今後数年にわたり支出を減らし、投資を先送りするなどして債務返済を優先せざるを得ず、成長を下押ししそうだ。
アップルの主要サプライヤー、鴻海精密工業(フォックスコン)がiPhone(アイフォーン)製造拠点を構える河南省・鄭州では昨年、公共バス運転手が減給となり、その後も給与水準は戻っていない。市内清掃員の中には数カ月賃金が未払いになっている人もいるが、出勤を続けている。
鄭州市内の道路を清掃していた67歳の女性は「私たちの給料は高くない。国はなぜこれほどの金額すら払えないのか」と語った。市の請負業者である雇用主は、月給およそ320ドルを7カ月間も支払っていないという。「それでも自分は持ち場の清掃を続けている」
大都市の広東省深セン市では、教師がソーシャルメディアでボーナス急減への不満をぶちまけている。ラストベルト(さびた工業地帯)である黒竜江省の鶴崗市では1月、公益企業が地方政府から補助金を受け取ることができなかったとして、住民に暖房カットに備えるよう通知した。
武漢、大連、広州といった都市ではここ最近、医療システム改革を巡り抗議デモが発生。地方財政の悪化を背景とする医療給付の削減などに市民が不満の声を上げている。
5日から開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では、地方政府に対してわずかな支援しか発表されず、財政規律を優先する姿勢を示唆した。
中央政府から地方政府への財政移転は今年、前年比3.6%増の約1兆5000億ドルにとどまる見通しで、18%増だった昨年から急ブレーキがかかる。地方自治体に割り当てられた特別債発行枠は約5500億ドル相当と、前年実績の5800億ドルを割り込んだ。
中国の劉昆財政相は1日、地方政府の財政はそれほど悪化していないとの見方を表明。昨年はおおむね安定した状態にあり、今年は景気回復に伴い、さらに改善するだろうと述べた。
メディアの問い合わせ窓口である国務院新聞弁公室は現時点でコメントの要請に応じていない。
中国政府には大規模なデフォルト回避のために必要なら個別に介入する十分な財政余地がある、と指摘するエコノミストは多い。地方政府は、買い手を確保できれば資産を売却することも可能だ。
もっとも、中央政府のバランスシートはすべての偶発債務について支援できるほど盤石ではない。投資会社シーフェアラー・キャピタル・パートナーズの中国分析責任者ニコラス・ボースト氏は、今月公表した地方債務に関する研究論文でこう指摘している。
同氏は「それどころか、1回限りの救済が相次げばモラルハザード(倫理観の欠如)を悪化させ、そもそも問題を招いた根本原因に対処することにはならない」としている。
これは地元市民、とりわけ公務員にとって、さらなる減給や行政サービスの削減、経済成長や雇用を生み出すインフラ投資の落ち込みを意味する。
公式データによると、中国31省の政府債務残高は、国内外の投資家が保有する債券を含め約5兆1000億ドル相当に上る。
ただ、これには地方政府系の投資会社が通常、資金調達の手段として使うさまざまな簿外債務は含まれていない。これらの簿外債務は近年、インフラなどの支出を手当てする手段として広く普及しており、国際通貨基金(IMF)では、今年10兆ドルに迫ると予想している。
その規模は、2022年第3四半期時点のドイツ、フランス、イタリアの政府債務合計を上回る(欧州連合データ)。
利払い負担は他の支出を圧迫する。ロジウム・グループの分析では、中国25都市では2021年の財政資源のうち、利払い額が少なくとも2割を占めた。10%を超える(100都市以上が該当)と「本格的な制約」へとつながると同社は指摘している。
アナリストの間では、中国政府が不動産税導入を通じた資金調達など、地方財政の改善に向けた改革に動く可能性は低いとの意見も出ている。政治的に不人気な措置であり、地方政府に対する中央政府の支配を損なうことにもなりかねないためだ。
また国家資産の売却を増やせば、国有企業を通じて重要なテクノロジー分野で自給自足の実現を目指すという習氏の戦略目標に反する恐れもある。
●「歴史認識の立場を継承」 岸田文雄首相の発言 3/7
韓国政府による元徴用工問題の解決策の発表を受けた岸田文雄首相の6日の発言は次の通り。
――元徴用工問題を巡り韓国側が解決策を発表しました。
今回の韓国政府の措置は日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との間においてはニューヨークにおける懇談、カンボジアにおける首脳会談をはじめ、様々な場で意思疎通を図ってきた。日本と韓国、国際社会における様々な課題に向き合う上で重要な隣国関係であると思っている。
現下の国際情勢を考えたときに、戦略環境を考えた際に日韓あるいは日米韓の連携は重要であると認識している。「自由で開かれたインド太平洋」の取り組みを進めていく上においても韓国と連携していくことが重要であると認識する。今後とも尹大統領との間においては緊密に意思疎通を図っていきたい。
今後の日韓関係において具体的な外交日程はまだ何も決まっていない。歴史認識については1998年10月に発表された日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる。これが政府の立場だ。
――元徴用工問題をめぐっては65年の請求権協定で「完全かつ最終的に解決」とされたものの、2018年に韓国大法院(最高裁)が原告の賠償権を認めました。今回の措置で不可逆性の担保についてどのように考えますか。
韓国政府側も様々な努力をしている。これを契機として、措置の実施とともに日韓関係を強化し力強く進めていくことにつながることを期待している。そのためにも尹大統領との間に緊密な意思疎通を図っていくことは大事にしていきたい。
――韓国の政権が今後変わるなどして再び覆される懸念は完全に払拭されたと考えますか。
仮定に基づいたご質問には答えない。こうした措置を評価するとともに日韓関係が前に進んでいくことを期待する。そのために意思疎通を引き続き続けていく。それに尽きる。
――政府は韓国向けの半導体材料などの輸出管理の厳格化措置の解除に向けて協議を行うと発表しました。
韓国向け輸出管理の運用の見直しは安全保障の観点から輸出管理を適切に実施するためにしたものであり、労働者問題とは別の議論だ。
その上で本日、輸出管理に関する日韓の懸案事項について、双方が19年7月以前の状態に戻すべく韓国が世界貿易機関(WTO)の紛争解決プロセスの停止を表明したことを踏まえて、関連の2国間協議を日韓当局間で速やかに行っていくこととした。こうしたことについて報告を受けている。ぜひしっかり進めてもらいたい。
●なぜ国民の怒り買う?岸田政権の子育て政策でネット“炎上” 3/7
今年1月、岸田首相は年頭の施政方針演説で、「児童手当など経済支援の強化」「幼児教育・保育など子育てサービス拡充」「働き方改革の推進と制度充実」の3つを軸とする「異次元の少子化対策」を掲げた。「異次元」という言葉からは、今まで見たことのないような施策や想像を超える角度からのアプローチの登場を期待させる。具体的な内容は6月に決定されるとのことだが、それに先立ち国会で話題にあがった「育休中の学び直し」など頻繁にこれらの事象がツイッターなどでトレンド入りし毎回「炎上」といえるほど議論されている。岸田政権が繰り出す少子化対策はことごとく“世間の怒り”を招いている。いったいなぜなのか、摂南大・堀田裕子教授(現代社会学部就任予定)に語ってもらった。
2005年の合計特殊出生率が過去最低を記録した「1.26ショック」から15年以上が経った現在、出生数は着実に減少傾向にある。人びとの価値観と生き方が多様化し、出産可能な人口数が減少するなかで子どもを増やすということの難しさを政府はどれだけ認識してきたのか。いやそもそも、人口減少時代における少子化対策のあり方を立ち止まって考えるべきなのかもしれない。
怒りの要因(1):国民の分断と場当たり的な政策
たとえば、第三号被保険者や児童手当をめぐる議論に明らかであるように、とくに女性のライフコースが多様化・複雑化した現代、誰かに恩恵をもたらす政策が、別の誰かを損した気持ちにさせることが頻繁に起こりうるようになった。損すると思う人々は、得するであろう人々を妬みつつその政策を批判し、SNSがこれを顕在化させる。“世間の怒り”が生じる最大の要因はここにあると思う。
しかも、ここ最近は場当たり的な政策が目につく。政府は新たな政策の登場をにおわせて、国民のSNS上の反応を見て判断しているような節もある。こうした場当たり的な政策が、国民の分断をさらに深めているように思われる。
最近の例を見てみる。育児・介護休業法はこの1年で2度改正された。2022年4月から、雇用主に雇用環境整備の義務が課せられ、有期雇用労働者の取得要件が緩和された。同年10月からは、「出生児育児休業(産後パパ育休)」が創設され、育児休業を分割して取得することができるようになった。改正前に出産し、有期雇用で育休が取れなかった女性や配偶者の育児休業が取得できなかった世帯は、今の状況を羨んでいるであろう。また、出産育児一時金は2006年以降、徐々に増額され、児童手当(子ども手当)は2010年以降、年によって金額が異なるだけでなく、所得制限があったりなかったりした。いつ出産したかで受けられる恩恵は異なる。これが損得勘定をもたらし、恩恵を受けた子育て世帯/受けられなかった世帯、という分断を深めているのではないだろうか。分断は、専業主婦/兼業主婦、正規雇用/非正規雇用、さらには子どもの数という軸でも進んでいる。
また、恩恵を受けられなかった世代は、子どもがすでに成人となりサービスの対象外となれば、子育て支援政策に反対する立場に転じる可能性が高い。なぜなら「自分の時にはそんな恩恵は受けられなかった」からであり、自身が収めている税金が使われることになるからだ。だが、こうした分断によって国民は統一した意思を持ちづらくなり、場当たり的な政策がますます登場しやすくなる。
分断解消のために何が必要か
こうした分断を少しでも解消していくために、まずは、日本の将来設計を示し、矛盾や齟齬(そご)のないよう進めていくという当たり前のことが必要である。たとえば、子育てを巡る議論のなかでおそらく最も根深い分断が生じている、フルタイム共働き子育て世帯とそうでない世帯について。
そもそもフルタイム共働き子育て世帯は、高所得とは限らない(タワマンに住み高級外車を乗り回しているような人はかなり稀である)。仮に高所得であっても、それに応じた税金を納めていることも忘れてはなるまい。また、保育料や高等教育費は応能負担になっていることに加え、時間に余裕のない世帯は食費などもかさみがちで、総じて結構な支出を強いられている。これらを踏まえると、少なくとも子どものための現金給付・現物給付に関しては所得制限を設けるべきではないだろう。
そして、「〜万円の壁」を意識しながら働く人びとや専業主婦(夫)の世帯については、岸田政権が提言している、仕事に復帰したい人や新たに仕事を始めたい人のための環境整備を、子育て支援と並行して早急に実施することが必要だろう。現状では、仮にリスキリングで知識と技能を身につけたとしても長年、無職やパート・アルバイトだった人や一定の年齢を超えた人が、正規雇用されるなり安定した職に就くなりすることは難しい。分断された向こう側とこちら側とを行き来できる、リスキリングに意義のある社会を構想していかねばならない。
怒りの要因(2):政府と国民との感覚のズレ
次々と繰り出される少子化対策に対して“世間の怒り”が生じるもうひとつの大きな要因は、少子化対策をめぐる政権内部の人々と一般の人々との感覚のズレだと思う。
たとえば、国の政策方針と人々の生活感覚とのズレ。少子化対策や女性活躍推進といった形で、子育てを応援し共働きを推奨する方針とは裏腹に、実際にそれを実現している人々は「子育て罰」「働き損」といった実感を持っている。女性に限らず、どんな立場の人にも、産まなければよかった、働かなければよかったなどと決して思わせない社会をつねに構想していかなければならない。
また、子を産むことをめぐる時間感覚もズレている。人々にとって、子を産むことは年単位どころか月単位、週単位で考えなければならない重大なライフイベントだが、国家にとっては中長期的な目標にすぎない。1.26ショックからすでに15年以上が経過し、政府がのらりくらりと対策を考え場当たり的な政策を繰り出している間に、個々の置かれている状況は刻々と変わっている。今の状況だったら産みたかった、もう少し後になってから産めばよかった、などというタイミングの問題とともに損得勘定ももたらしうる。
そして、日本の未来予想図についてもズレがあるように思う。若者が高齢者を支える図に象徴的であるように、「少子高齢化社会」という枠組のなかで考えれば、少子化対策は超高齢社会を支えるための、いわば国を支える頭数を揃えるための政策である。ところが、将来的にはAIやロボットが台頭し、人間の仕事の大半がなくなるのではないかと言われており、我が子が大人になった時に仕事に就くことができるのかと不安に思っている親も少なくない。
男女共同参画が遅れている国、日本
こうしたズレが起こる背景には、以前もコメントした、他者の生に対する想像力の欠如がある。政治家も同じ、あるいはそれ以上だ。想像できないのならせめて経験者に聞けばいいのだが、そもそも日本では政策立案の場に女性が非常に少ない。
世界の女性国会議員比率(IPU、2022年1月1日時点、下院ベース)は26.1%であるのに対し、日本はその平均をはるかに下回る9.7%で、G7中最下位、188か国中165位である。もちろん、ただ一定数いればいいということではないが、一定数いなければ優秀な議員も現れにくいだろう。ちなみに、世界の女性管理職比率(ILO,2018年)は27.1%であるのに対し、こちらも日本は平均をはるかに下回る12%で、やはりG7中最下位、189か国中173位である(2019年推計値では、14.7%、167位)。2015年に「女性活躍推進法」が成立してから7年が過ぎたが、女性は人口の半数以上を占めているにもかかわらず、そのほとんどが国や会社を動かす立場にないのだ。
加えて、“一般人”の感覚を持った女性の存在が重要である。2016年に話題になった「保育園落ちた日本死ね」という匿名の声は、女性議員が”一般人"の感覚に耳を傾け国会で取り上げたことで問題解決の道を拓いた好例である。
一般の人々の生活感覚、時間感覚、そして金銭感覚を踏まえた政策が繰り出されなければ、この不満と怒りのループはSNSによって増幅されていくだろう。
「少子化対策」よりも「子育て支援」や「子ども応援」を
どんな親も、「少子化対策」として子どもを産むわけではない。そして、将来的に人口が減少し人間の仕事も減少するのではないかと言われているなか、“一般的な”親は、自分の子どもが将来、生活に困らないか、仕事に就くことができるかを案じている。子どもを安心して産むためには、手当などによる目先の対策以上に、雇用・労働問題への対策が為されており、年金制度や税制などに関する具体的で安定的な制度設計がされた、明るい未来予想図が必要なのである。
また、「子育て支援」というと、どうしても子育てする親および世帯を支援するという意味合いになるが、支援されるべきはまず子どもであるはずだ。ましてや「子育ての社会化」を目指すのであれば、支援は親や世帯に対してではなく、子どもに対して行うんだという意識を持つべきであろう。
たとえば、愛知県の豊山町は「子ども応援課」という名称を用い、まさに社会で子どもを育てるという理念に基づいて事業を進めている。為政者は、こうした子育てについての強く明確な理念と信念を持つべきだと思う。
政府には「少子化対策」に含まれるさまざまなズレに目を瞑らないでほしい。そして、産もうと決めたタイミングで産めるわけではないということ、また、誰でも希望する子ども数を産めるわけではないという当たり前のことにも。
●菅前首相の「岸田批判」トーンダウンの理由は? 3/7
「岸田嫌い」だった
年明け早々、岸田文雄首相に舌鋒鋭い批判を展開した菅義偉前首相。ここ最近はそれがトーンダウンしたとの指摘もあるようだが、それが事実だとしたら理由はどういったものなのか? 
菅前首相はかねて、岸田首相に対する評価が極めて低いとされてきた。
「“岸田だけは首相にしてはいけない”と言っていたことがあるとの報道もありました。アンチ岸田という意味ではスタンスは今もなお変わっていないと思われます」と、政治部デスク。だからこそ前首相は年明け早々、防衛増税や首相が岸田派(宏池会)の会長を続けていることについて批判を展開していた。
「いずれも真っ当な指摘でありつつ、準備していなければ発表されるような中身ではないため、菅さんがいよいよ反岸田の旗幟を鮮明にしたとの評価がありました」(同)
反主流派に甘んじていた菅氏がようやく重い腰を上げたということで、その動向は菅氏の思惑を離れて、永田町のみならず広く注目されることになった。
選挙に弱い議員の受け皿
「菅氏としては倒閣運動というほどの大仰な姿勢は取っていなかったとは思います。自分が再登板する気持ちもないようですし。ただ、時の政権に影響力を及ぼせるか否かについてはものすごく意識しているようで、そのための布石ということだったのでしょう」(同)
具体的にはどういうことか? 
「岸田政権が打ち出している内容は増税路線であり、国民に負担を強いるものが少なくない。仮に解散総選挙になれば支持を受けづらい政策です。選挙にそれほど強くない候補者にとって、その種の政策を訴えるのは死活問題。そういった議員の受け皿となれるならその準備をしておきたいというのが菅氏の行動原理だったと映ります」(同)
実は、菅氏は最近もダンマリを決め込んでいたわけではない。
2月1日のインターネット番組では、岸田首相の増税表明について「短期間で出てきてちょっと荒っぽかった。丁寧に説明しながら進めるべきだ」などと訴えた。
さらに首相が岸田派(宏池会)の会長を続けていることについて、「自民党総裁と首相は国民の先頭に立って進む人。派閥を出るべきだとまでは言わないが、派閥会合にまで出席するのはいかがかと思う」と持論を述べていた。
盟友関係をおもんぱかって
それでも、そこまで大きなムーブメントに発展しないのには理由があるという。
「菅氏本人がそれを望んでいないということなのでしょう。盟友関係にある森山裕選挙対策委員長の立場を踏まえてということもあるようです」(同)
どういうことなのか? 
「4月には統一地方選や衆院補選が予定され、その勝敗の責任を選挙対策委員長が取る必要が出てくる可能性がある。菅氏が政権の足を引っ張ることで選挙に負け、森山氏の立場が危うくなることは菅氏の本意ではないので、そのあたりの発言を控えめにしているということはあると思います」(同)
仮に岸田首相がそのあたりの「打算の関係」を見越して森山氏を配置していたのだとしたら、なかなかの策士ということになるだろうか。
「何かと“人事下手”と揶揄される首相ですが、森山氏のことは確かにそうかもしれませんね」(同)
もっとも、菅氏による岸田批判は、それによって議員がなびいてくることを狙っていたことは疑いない。政権の弱体化が進めばそういった批判が改めて噴き上がることは間違いなさそうだ。
●最高裁 事件記録廃棄を参院予算委で謝罪 調査報告書公表へ  3/7
少年事件の記録が各地の裁判所で廃棄されていた問題をめぐり、最高裁判所の担当者は参議院予算委員会で、適切な運用がなされていなかったと謝罪し、原因の調査を踏まえた報告書を来月をめどに公表したいという考えを示しました。
1997年の神戸児童連続殺傷事件や、2004年に長崎県佐世保市の小学校で6年生の女子児童が同級生に刺されて死亡した事件など、少年事件の記録が各地の裁判所で廃棄されていた問題を受け、最高裁判所は記録が廃棄された経緯などについて調査しています。
参議院予算委員会で、最高裁判所の小野寺総務局長は「適切な運用がされていたとは言い難い状況にあったことについて、率直に反省し、事件の関係者を含む国民に対し申し訳なく思っている」と謝罪しました。
そのうえで、原因の分析や今後の保存の在り方などについての報告書を来月をめどに公表するとともに、有識者の意見も踏まえ、事件の関係者への説明を行っていく考えを示しました。
齋藤法務大臣は「事件記録の中には、保存期間が経過してもなお歴史的な価値が高い資料や調査研究のための重要な参考資料として保存されるべきものがある。適切な運用が確保されるよう、裁判所の取り組みを見守っていきたい」と述べました。
●6日の参院予算委論戦のポイント 3/7
6日の参院予算委員会集中審議の論戦のポイントは次の通り。
【元徴用工問題】
石川大我氏(立民)韓国政府が元徴用工訴訟問題の解決策を発表した。
岸田文雄首相 日韓関係を健全な関係に戻すためのもので評価する。
佐藤正久氏(自民)歴史認識に関する立場は。
首相 歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく。
片山大介氏(維新)尹錫悦大統領との会談は。
首相 今後の外交日程は何も決まっていない。
【反撃能力】
石橋通宏氏(立民)存立危機事態で他国防衛のために使えば、先制攻撃になるのではないか。
首相 わが国の存立のために行使するものだ。
石橋氏 米国に言われても拒否できるのか。
首相 イエスかノーかは日本が判断する。当然のことだ。
石橋氏 台湾有事で在日米軍基地から米軍が飛び立つのを、日本側に反対する権利はあるか。
首相 国益確保の見地からわが国が自主的に判断し、諾否を決定する。
山本香苗氏(公明)先制攻撃はあり得ないか。
首相 先制攻撃になることはあり得ない。
山添拓氏(共産)ミサイルは事前入力した情報で目標に向かう。日本は情報を持っているのか。
浜田靖一防衛相 情報収集も含めて作戦のさまざまな場面において日米が協力していくことは当然だ。
【物価高・少子化】
山本氏 低所得の子育て世帯に特別給付金を支給してほしい。
首相 自民、公明両党と相談し新たな対策を速やかに取りまとめたい。
川合孝典氏(国民)少子化対策の目標設定は。
首相 結婚や出産は個人の選択に関わる問題だ。特定の価値観の押し付けやプレッシャーを与えることにならないよう慎重な検討を要する。
【放送法文書問題】
福島瑞穂氏(社民)総務省と首相官邸でどんなやりとりがあったのか。
首相 従来の解釈を変えることなく、補充的な説明を行ったものだ。報道の自由への介入といった指摘は当たらない。総務省において精査することが必要だ。
石橋氏 総務省に同じ文書が保管されているのは事実か。
松本剛明総務相 2015年ごろ礒崎陽輔元首相補佐官から放送法の解釈について問い合わせを受け、これを契機として補充的な説明が示されたことは確認している。文書を精査、確認する事態となったことは甚だ遺憾であり、申し訳ない。
石橋氏 公文書改ざんが行われてはいけない。
首相 公文書の改ざん、隠蔽、廃棄はあってはならない。
【同性婚】
石川氏 同性婚の早期実現を。
首相 しっかり議論を進めなければならない。
浜田聡氏(NHK党)憲法改正は必要か。
斎藤健法相 憲法が同性婚導入を許容しているか否かは見解が分かれており、改憲が必要かについて答えるのは困難だ。
【入管難民法】
石川氏 改正案に反対運動が起きている。
首相 喫緊の課題に対応するため、必要性は変わっていない。
【旧優生保護法】
天畠大輔氏(れいわ)強制不妊手術の被害者と面会してほしい。
首相 優生手術を受けた人の声は大切だ。
【自衛隊員の処遇】
佐藤氏 自衛隊員の給与や処遇の改善を。
首相 給与面の処遇向上や宿舎の整備といった生活勤務環境の改善を通じ、必要な人材を確保していくことが重要だ。
●予算委員長がNHK党を注意 参院、共産党巡る質問に 3/7
末松信介参院予算委員長(自民)は6日の参院予算委で、共産党を取り上げて持論を展開したNHK党の浜田聡氏を口頭注意した。「予算委は政府に対する質疑の場だ。特定の政党を批判する場ではない」と指摘した。
浜田氏は「共産党から国会を守るのが自由主義陣営の基本的な考え方とされる」などと主張した。斎藤健法相は「外国の制度を網羅的に承知しているわけではないがフランスでは共産党が存在している」と強調した。
共産党の小池晃書記局長は記者会見で「根拠のかけらもない誹謗(ひぼう)中傷を繰り返した。撤回を求めたい」と抗議した。
●森友事件を想起、放送法「内部文書」公開で蠢く思惑  3/7
論戦の激しさとは裏腹に日程消化は順調だった2023年度予算案の審議に、突然、新たな火種がうまれ、統一地方選を前に政局絡みの思惑が複雑に交錯する事態となっている。
安倍政権時代に政治問題化した、放送法の「政治的公平」の解釈変更をめぐる総務省の内部告発文書を立憲民主党の小西洋之参院議員が入手、当時の総務相だった高市早苗経済安保担当相との間で、互いの議員生命をかけた論戦を仕掛けたからだ。
小西氏は3月3日の参院予算委で「この文書には当時の安倍首相、高市早苗総務相、礒崎陽輔首相補佐官らのものとされる発言が記載されており、特定の番組名を挙げ問題視するやり取りもある」と追及。
これに対し高市氏は、文書の中にある安倍、高市両氏の電話会話の内容を記載した部分などを「まったくの捏造だ」と断言。小西氏が「仮に捏造でなければ、議員辞職するか」と迫ると、高市氏は「けっこうだ」と即答。予算委員会室に居並ぶ閣僚や与野党議員も、この激しいやり取りに興味津々で見守った。
小西氏は「超一級の内部文書」と力説
小西氏が入手した文書はA4で約80枚にわたるもので、同氏が2日の記者会見で、「総務省職員から提供された」として公表。その中には、礒崎氏が総務省に新解釈の追加を求める過程などが詳しく記載されており、小西氏は「超一級の内部文書」と力説した。
そもそも、安倍政権当時に政府が進めた「放送法の解釈変更」をめぐっては、野党だけでなくメディアも「大問題」と騒ぎ立てた経緯がある。しかも、小西氏は総務省キャリア官僚時代に放送法担当だった人物だけに「追及内容はかなり真実味がある」(共産党幹部)との見方も少なくない。
もちろん、最大の焦点は「文書の真贋」(自民国対)だ。小西氏は「当時の安倍内閣の強引な解釈変更について、当事者の総務省官僚が決死の思いで告発したもので、総務省の電子データとして保存されている立派な行政文書」と主張。
これに対し、当時、総務相として「解釈変更」を決断、公表した立場だった高市氏は「この問題で安倍総理と電話で打ち合わせたことはない。そもそも携帯電話などでの会話内容が文書に記載されているが、盗聴できるはずがないのでまったくの捏造」と語気を強めて反論した。
岸田首相らの対応は「総じて逃げ腰」
そうした中、岸田文雄首相や松本剛明総務相の対応が「総じて逃げ腰」(立憲民主幹部)なのも事態を複雑にしている。岸田首相は「正確性、正当性が定かでない文書について私から申し上げることはない」などと対応を総務省に丸投げ。松本総務相も「精査をすればするほどさらに精査しなければならない事項がある」と信憑性に疑問を呈する一方、総務省の内部文書であることについては認めざるをえなかった。
その背景には、当時、総務省に解釈変更を強く働きかけたとされる磯崎氏(当時参院議員、現在は落選中)が、一部メディアの取材に対し「安倍首相の意向も踏まえて自らが総務省に働きかけた」ことを認めていることがある。
礒崎氏は3月3日の自身のツイッターへの投稿で「首相補佐官在任中に、政治的公平性の解釈について、総務省と意見交換したのは事実だ。政府解釈ではわかりにくいので、補充的説明をしてはどうかと意見した」「数回にわたって意見交換し、それらの経緯も踏まえ、総務相(高市氏)が適切に判断した」などと明記。
さらに、小西氏が暴露した総務省資料に「この件は俺と総理が2人で決める話」との礒崎氏の発言が記載されていることについても、礒崎氏は「総務省が『官房長官にも話をすべきだ』と言ってきたから『それは私の仕事ではない。総務省の仕事だ』と伝えたものだ」と説明している。
当然、立憲民主は6日の参院予算委集中審議でも高市経済安保担当相や松本総務相を攻めたてた。これに対し松本総務相も解釈変更について「当時、補佐官(磯崎氏)から問い合わせを受け、これを契機として解釈の補充的な説明が示された」と認めざるをえなかった。
この集中審議を踏まえ、松本総務相は7日午前の閣議後記者会見で「総務省に保存されている文書と同一で、すべて総務省の行政文書だと確認できた」と言明。ただ、文書の内容については「正確性が確認できない部分があり、引き続き精査を進める」と述べた。これを踏まえ総務省は7日午後、文書を公表した。
これに関連して、安住淳立憲民主国対委員長は同日午前、捏造と主張する高市氏について「(文書の存在が)事実だとわかった以上、責任を取るべきだ」と指弾し、今後も追及を強める考えを示した。
立憲民主は「内閣総辞職にもつながる重大問題」(幹部)として、当時の総務省担当者だった現幹部の証人喚問も要求するなど、攻勢を強める構え。ただ立憲民主内部にも「『安倍・高市電話会談』などの記述内容は想像の域を出ず、その部分の証明は不可能」(若手)との声も少なくない。
加えて、2023年度予算案での主要テーマとなる防衛増税や少子化対策での追及を棚上げして、真贋論争ばかりに血道を上げれば「国民の反発や批判が、ブーメランのように立憲民主を襲う」(同)との不安もにじむ。
自民内の“高市つぶし”の一環との見方も
その一方で、自民党内では、今回の騒動と政府側の及び腰の対応について「岸田首相や自民執行部による、巧妙な“高市つぶし”の一環では」(自民国対)とのうがった見方も広がる。
高市氏は、文書にある自身のものとされるほかの発言についても「悪意を持って捏造されたもの」などと否定。総務省官僚有志の“高市攻撃”についても「受信料引き下げなどでNHKに対して厳しい姿勢をとっていた私の態度が気にくわなかったんだろう」などと口を尖らす。
これに対し、松野博一官房長官は3日の会見で「放送法の解釈やその経緯などに関しては、所管する総務省において説明すると聞いている」と他人事のように発言。与党幹部の石井啓一公明党幹事長も「政府に丁寧に説明していただきたい」と述べただけだ。
そもそも、安倍政権と放送局との関係をめぐっては、2014年12月のいわゆる「アベノミクス解散」の際に、安倍氏が出演したTBS系の情報番組で流された街頭インタビューがアベノミクス批判ばかりだったことに安倍氏が激高し、大騒動となった。
これを受け、自民党がその後にNHKや在京民放テレビ5局に、選挙報道の公平中立を求める文書を送付した経緯がある。小西氏が入手・公表した文書も、その直後の11月28日の日付が入った官邸側と総務省側のやり取りから始まっている。
森友問題での安倍氏を想起させる高市氏の発言
「真実なら議員辞職」という高市氏の言動は、森友問題での安倍氏の「私や妻が関係していたら、総理大臣も国会議員も辞める」との発言を想起させる。だからこそ、自民党内では「真贋論争はなかなか決着がつかない。下手をすると安倍さんのように迷路に入りかねない」(自民国対)との声も広がる。
高市氏は地元奈良県知事選での自民分裂で、県連会長として窮地に立たされている(『奈良県知事選で大ピンチ、高市氏に吹く逆風の正体』参照)。さらに、政治資金収支報告書の記載を巡っても一部団体から政治資金規正法違反で告発されている。
このため、今回の騒動の結末次第では「高市氏が初の女性首相候補から追放される可能性もある」(自民長老)だけに、当分の間、国会での真贋論争が政局絡みで注目され続けることになりそうだ。
●「原発銀座」の福井で電気料金値上げ 「おかしな状況だ」と国会質疑  3/7
県内で関西電力の原発4基を動かしている一方で、多くの福井県民が、契約している北陸電力の値上げの影響を受けそうだ。そんな状況について、6日の参院予算委員会で質疑が交わされた。
関電の原発が集中立地する福井県だが、県内で市民が関電の電気を使っているのは敦賀市を除く県南部の1市4町に限られ、県北部の福井市など残る市町では富山市に本社を置く北陸電と契約している。
北陸電は4月以降の家庭向け規制料金について、平均45・84%の値上げで経済産業省に申請した。同社は石川県に抱える志賀原発で敷地内外の断層をめぐる審査が難航したため、東京電力福島第一原発事故以来、再稼働できていない。一方、4基を稼働させている関電は値上げを申請していない。
こうした状況を受けて、6日の予算委では、自民党の滝波宏文参院議員(福井選挙区)が、「原子力最大立地の福井県における電気代の高騰というおかしな状況への政府の対応は」と質問。西村康稔経済産業相は、「為替や燃料価格がかなり変動している。燃料費をどう見積もるのが適正なのか、しっかり見ていく」と述べ、「負担軽減につながるよう取り組む」と答弁した。
西村経産相は、4月とされる料金改定の時期についても、「日程ありきではない」との考えを示した。
電気料金の値上げ審査をめぐっては、岸田文雄首相も2月に経産相に「厳格かつ丁寧な査定による審査」を指示していた。
●入管法改正案、国会論戦へ 送還停止2回まで、審議紛糾も  3/7
政府は7日、外国人の収容・送還に関するルールを見直す入管難民法改正案を閣議決定した。2021年に野党の反対で廃案となった旧案を大筋で維持し、難民申請中の場合に本国への送還が停止される回数を原則2回に制限するなどの内容。今国会での成立を目指すが、外国人支援団体などが反発しており、野党の対応によっては国会審議が紛糾する可能性がある。
不法滞在などで強制退去を命じられても、本国送還を拒む人の長期収容を解消する狙い。現在は難民認定申請中には強制送還が停止されるが、入管当局は、送還逃れの意図で申請を繰り返すケースが多いとみており、申請による送還停止を制限する。3回目の申請以降は「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ送還する。支援者らは「本国での迫害などにより、命の危機にさらされる」と強く批判している。
一方、難民に準じる人を「補完的保護対象者」として在留を認める制度を設ける。
不法滞在者らの入管施設収容に代わり「監理措置」を新設。支援者の下で、一時的に社会内での生活を認める。  
●高市早苗氏は総務省の内部文書を「捏造」と断言 その根拠は? 3/7
高市早苗経済安全保障担当相は7日の記者会見で、総務省の行政文書と確認された放送法解釈を巡る資料について、自身にかかわる記述の内容が不正確で捏造ねつぞうと繰り返し、辞任を否定した。「捏造文書」との主張が誤りだった場合に辞職するかに関しては「閣僚や議員の辞職を迫るのなら、文書が完全に正確だと相手も立証しなければならない」と強調。政治家としての説明責任を疑惑を追及する側に転嫁するような発言で、有識者は「ナンセンスで筋違いだ」と批判した。
放送法解釈を巡る行政文書は約80ページあり、安倍政権下の2014〜15年にかけて、当時の礒崎陽輔首相補佐官が総務省に放送法4条の「政治的公平」の新たな解釈を示すよう働きかけた経緯が時系列に示されている。そのうち4ページには、総務相だった高市氏の発言や、安倍晋三首相との電話会談の内容とされるやりとりが記されている。
立憲民主党の小西洋之参院議員が総務省職員から提供を受けたとして2日に公表したが、高市氏は3日の参院予算委員会で「信ぴょう性に大いに疑問を持っている。放送法について、安倍氏と打ち合わせやレク(説明)をしたことはない」と反論。自身にかかわる部分しか読んでいないとした上で「捏造文書だと考えている」と述べ、内容が事実なら閣僚や国会議員を辞めるかと問われて「結構ですよ」と言い切った。
総務省は行政文書の内容について、正確性が一部確認できていないと説明する。高市氏は会見で「できる範囲のことはきっちりと調べ、4枚については内容が不正確だと確信を持っている」と語ったが、客観的な根拠は示していない。
積極的に疑念を晴らそうとせず、文書の真偽の証明を追及側に求めるのは、自らの説明責任を棚に上げているように映る。高市氏の後ろ盾だった安倍氏がかつて森友・加計学園問題などで「悪魔の証明」という表現を多用し、野党議員の追及に「本当のことかどうかと分からないものを立証する責任はそちらにある」と反論していた姿に重なる。
駒沢大の山崎望教授(政治理論)は、高市氏の対応について「捏造文書と言うなら、小西氏ではなく、自ら真実を明らかにする義務がある。国会答弁に対する責任感がなく、議会軽視にほかならない」と苦言を呈した。
 

 

●強制動員賠償案は「3回目の歴史封印」…最も恥辱的な選択 3/8
2018年10月の最高裁(大法院)判決後、4年半にかけて続いた強制動員被害者の賠償問題をめぐる韓日の対立は、6日の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の「白旗投降」で終わった。日本に植民地支配の不法性を認めさせ、正当な謝罪と賠償を受けるという韓国市民社会の激しい戦後補償闘争もまた、「巨大な失敗」で幕を下ろされる危機に置かれている。1965年の韓日協定、2015年末の「慰安婦」合意に続き、韓日歴史問題を正当に解決しようとする韓国の人々の熱望に冷水を浴びせた「3回目の封印」と言える。
大韓民国は解放後、日本と国交を再開する過程で、植民地支配に対する不法性を認めさせるため、13年8カ月にわたる凄絶な交渉を続けた。その結果は、1965年6月22日に東京で正式に署名された「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」第2条に書き込まれた。韓日は「1910年8月22日(併合条約)以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約(乙巳條約など)及び協定は、もはや無効であることが確認される」という結論に達した。
これといった特色がなさそうなこの文章は、きわどい緊張の中でバランスを保っている。韓国は「(以前の条約が)無効であることが確認される」という文言を「併合条約などは最初から不法・無効」と解釈したのに対し、日本は「もはや」という副詞を通じて「本来は合法・有効だったが、日本の降伏と韓国の建国により1965年現在は無効になった」と解釈した。解決不可能な歴史問題を封じ込めた苦肉の策だった。その見返りに、韓国は日本から無償3億ドル、有償2億ドルの請求権資金を受け、後に「漢江の奇跡」と呼ばれる経済開発の枠組みを整えた。
2回目の封印は、2015年12月になされた。1回目の封印の厚い壁を破ったのは、1991年8月、自身が慰安婦だったことを初めて明らかにした金学順(キム・ハクスン)さん(1924〜1997)の孤独な叫びだった。その後、慰安婦被害者の苦痛に共感し、彼女たちの名誉を回復し、日本政府から正しい謝罪を引き出すことは、韓国社会が必ず成し遂げなければならない「時代的課題」となった。
しかし、韓日請求権問題が「完全にそして最終的に解決された」と宣言した1回目の封印の壁は高く、分厚かった。日本政府は1995年7月、「女性のためのアジア平和国民基金」(女性基金)を設けたが、「65年体制」を理由に「政府予算は投入できない」と粘った。韓国社会は慰安婦問題が国家犯罪であることを認めないまま「道義的責任」だけを認めた「女性基金」を拒否した。韓国の市民社会は激しい法的闘争の末、2011年8月に日本政府と交渉しない韓国政府の「不作為」は違憲という歴史的な憲法裁判所の決定を勝ち取ることになる。
その後、韓日両国は4年にわたる殺伐とした外交交渉の末、2015年末に「12・28合意」に至った。安倍晋三元首相はこれまで認めてきた「道義的責任」から一歩進んで、日本の「責任を痛感する」と宣言し、10億円(約108億ウォン)の政府予算を基金に拠出した。韓国はその代償として、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決」するという文言を受け入れなければならなかった。この合意は韓国の立場としては残念極まりない妥協だったが、成果があったのも事実だ。合意が公開された後、日本の極右ジャーナリスト、櫻井よしこ氏は悔しさを露わにした。
尹錫悦政権は、最善の外交努力を傾けて最小限の「利益のバランス」を合わせるべく努める代わりに、強制動員被害者の30年余りにわたる闘争の成果である最高裁判決を自ら貶めた。6日のブリーフィングに出席した大統領室の当局者は、この判決について「国際法的に、そして1965年の韓日両国政府の約束に照らし、日本は韓国が合意を破ったという結論を下した」と述べた。大統領室の当局者が、公式ブリーフィングで最高裁判決を擁護する代わりに日本の立場をかばったのだ。その結果、昨年7〜9月に官民委員会の結論だった日本企業の「謝罪」と「賠償参加」という目標の実現を目指した外交部の実務者たちの反対を押し切り、最高裁判決の趣旨を葬る安易で屈辱的な道を選んだ。自民党のある中堅議員は産経新聞に、「日本の完勝だ。何も譲っていない」と述べた。尹錫悦政権が選んだ3回目の封印の虚しい帰結だった。
●名を捨てて実を取る岸田・林外交か G20欠席に「外交的失態」 3/8
ロシアのウクライナ侵略から1年が過ぎ、世界情勢が激変するなか、林芳正外相は国会日程を優先してインドでのG20(20カ国・地域)外相会合への出席を見送った。
ちょうど、参院予算委員会での基本的質疑の日程とぶつかっており、与野党とも全閣僚出席で質疑する慣例に従って国会出席を求めたうえ、岸田文雄首相も林外相も強い働きかけをしなかったようだ。
米国中心の自由主義国家と、ロシアや中国などの権威主義国家がつばぜり合いを展開するなか、日本は存在感を示せなかった。
これについては、「外交的大失態」とか「日本外交は10年後退した」という厳しい指摘もある。G20の議長国であるインドは、日本の「戦略的パートナー」であり、「グローバルサウス」の代表格でもある。日本が出席してインドの顔を立て″総ロ秩序回復への結束を促すべきではなかったかと不満や不安をいだく国民も多い。
参院の与党は、新年度予算を一日も早く成立させる責任がある。これまでも国会日程と国益に関わる閣僚の海外出張が衝突するなかで、慣例が確立した。
これを破って、与野党が自らの駆け引きに利用することは「両刃の剣」でもある。今回は国益優先で与党が押し切っても、今後、予算案の送付が遅れて自然成立が見込めないとき、「国益優先」を逆手にとられて年度内成立が危ぶまれる事態に追い詰められる懸念もある。
長く参院自民党の幹部を務めた林外相はこのことを熟知している。岸田首相も参院の責任を尊重したのであろう。
参院自民党の世耕弘成幹事長は、海外出張させず慣例に従ったことに対し、「外務省から一切働きかけがなかった」と述べた。外務省が予想していたように、今回のG20外相会合では、「共同声明」をまとめる成果を出せなかった。
林外相は、予算委員会の基本的質疑を終えて、G20外相会合に続いて行われた、日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の外相会合に出席し、「ルールに基づく国際秩序に対する挑戦に対抗する」との共同声明をまとめた。
岸田首相は、今月下旬にインドを訪問して首脳会談を行い、G7(先進7カ国)広島サミットに、ナレンドラ・モディ首相を招待する意向を伝えるべく日程調整に入った。名を捨てて実を取るようにも見える。
週が替わって6日、韓国政府は、いわゆる「元徴用工」をめぐる問題で、裁判で賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国政府傘下にある財団が原告らに支払うとの解決策を発表した。
岸田首相や林外相は、「日韓関係を健全な関係に戻すものとして評価する」と述べ、日韓関係に関する歴史認識について、「歴代内閣の立場を引き継ぐ」と説明した。
これを機に、両国政府は緊密に意思疎通を図りながら関係を発展させていくことが大切だ。昨年末の訪韓時に感じたふくらみかけた蕾(つぼ)み≠ェ、やっと花開き始めたようだ。これからが正念場である。
●TikTok一般利用禁止法案、バイデン政権支持 実現度増す 3/8
米ホワイトハウスは7日、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の国内利用を禁じる超党派法案を支持すると表明した。上院情報委員会のマーク・ワーナー委員長(民主党)が同日、法案を提出した。ホワイトハウスが賛意を示したことで、成立の実現度は増す。欧州や日本にも規制論が拡大する可能性がある。
ワーナー氏と野党・共和党のジョン・スーン上院議員らが法案を策定した。バイデン大統領にティックトックの禁止を強制する権限を与える。ホワイトハウスが同法案への賛否を明らかにするのは初めてで、規制に慎重な与党・民主党の議員に影響を与えそうだ。
ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が声明をだし「議会が法案を(成立させ)大統領に送付するために迅速に行動するよう強く望む」と述べた。「今日、直面している脅威に対処し、将来リスクが発生するのを防ぐのに役立つ」と法案の意義を強調した。
同法案は外国企業が所有するアプリやソフトウエア、電子商取引を巡り「米国の利用者に国家安全保障上の脅威を与える」と認められた場合に禁止を可能にする。商務長官と国家情報長官が拒否するサービスのリスクについて国民や産業界に情報を開示する。
ワーナー氏は7日「今日の脅威はティックトックだ」と述べ、法案の対象がティックトックになると明言した。「中国共産党による監視を可能にしたり、米国における悪質なキャンペーンの拡散を促進したりする可能性がある」と語った。
下院外交委は1日に同様の法案を、共和主導で可決した。法案の成立には、委員会に加えて上院・下院の本会議の審議・可決と大統領の署名が必要になる。民主内には「言論の自由」との兼ね合いなどから規制に慎重論があるが、バイデン大統領の要請で流れが変わる可能性がある。
米国ではおよそ1億人が利用しており、10歳代では3分の2を占める。若者を中心に人気が根強いものの、ティックトックへの懸念は高まっている。米CNBCのネット調査によると禁止に賛成した割合が6割を超えた。
予算や移民問題、気候変動などで激しく対立する与野党だが、対中強硬路線は一致できる数少ないテーマだ。サリバン氏は「民主党と共和党の双方と引き続き協力する」と明言した。
議会の法案審議の流れは与野党の幹部が決める。民主の上院トップ、シューマー院内総務らが党内の意見を集約できるかが今後の焦点となる。
欧州や日本では政府や議会の関係者を対象にティックトック利用を取りやめる動きが広がっている。一般利用を止める法規制が実現すれば、米国が先行する。
●国民負担率「五公五民」の天引き地獄… 欧米より23%も低い"年金支給額" 3/8
「異次元の少子化対策」を打ち出した政府だが、高齢社会対策も待ったなしだ。昭和女子大特命教授の八代尚宏さんは「岸田政権は抜本的な年金制度改革から逃げている。現在、マクロ経済スライドを働かせて年金の給付水準を引き下げる対処をしているが、年金支給開始年齢をアメリカやドイツ並みの67歳か、それ以上に引き上げねば年金財政は安定化しないのではないか」という――。
年金制度改革から逃げ続けている低支持率の岸田首相
岸田文雄総理は、出生数の急速な減少への危機感から、「異次元の少子化対策」を打ち出した。しかし、今後の人口減少問題は、同時に高齢化問題を抱えていることでいっそう深刻なものになる。
2000年からの20年間で、日本の総人口の減少は80万人にとどまった。しかし、その内訳をみると、15〜60歳の働き手人口が1100万人もの減少となった一方で、65歳以上の高齢人口は逆に1400万人も増加した。
こうした少子高齢化の進展にもかかわらず、社会保障などの基本的な改革は放置されたままである。間もなく公表予定の新しい「将来人口推計」ではもっと厳しい将来の少子高齢化の実像が明らかになる。
借金に依存した日本の社会保障
高齢者の生活を支える社会保障費の財源は、現役世代の賃金に比例した社会保険料と税金である。2月には財務省が国民負担率(国民所得に占める税金や社会保険料=年金・医療保険などの割合)が47.5%となる見込みと発表し、これではまるで「五公五民ではないか」と江戸時代の厳しい年貢率を引き合いに出して批判する声が国民から上がった。
「五公五民」の天引きにもかかわらず財政事情は苦しい。
なぜなら会社員がもらっている賃金は長らく横ばいで推移しており、税収の伸びも高くないからだ。このため高齢化で一直線に増える社会保障給付との差は、もっぱら国債発行で賄われている。この「借金に支えられた社会保障」の現状に対する岸田政権の危機感は驚くほど乏しい。
国が支出している社会保障費の半分を占める公的年金について、2024年には5年に1度の財政検証が予定されている。前回の2019年の財政検証では年金改革を先送りし、単に給付の選択肢を75歳まで延長という、ほとんど意味のない改正にとどまった。
今回の財政検証に対応するため、社会保障審議会の最初の年金部会が2022年10月に、また専門家による委員会も2023年2月に開催された。ここで示された審議内容としては、基礎年金の保険料納付期間の延長、厚生年金との財政調整、および厚生年金の適用範囲の拡大など、もっぱら技術的な内容にとどまった。今後、年金受給者が急増するなかで、その生活の柱となる公的年金が本当に維持可能なものかについての実質的な検証はまたも先送りされるのだろうか。
その大きなカギとなるのが、「厚生年金などの支給開始年齢の引き上げ」である。これは過去3年ごとに1歳引き上げられており、2025年には、男性について65歳の上限に到達する。年金部会ではこの支給開始年齢の65歳以上への引き上げについての言及はなく、事実上、行わないという重要な決定がなされたようだ。
しかし、先進国では米国やドイツなどが実施する「67歳」が、支給開始年齢の標準となっている。ここで、米国より平均寿命が5歳も長く、かつ延び続けている日本で本当に65歳のままの低い水準にとどめてよいのだろうか。
既定路線の年金給付抑制
年金保険の基本的な目的は、長寿化により個人の貯蓄が枯渇する「長生きのリスク」への対応だ。この終身年金を、日本のように平均寿命の長い国で維持するためのリスクは高まっている。
しかし、年金保険料を高齢者が増加するごとに今後も持続的に引き上げ続けることは、国民(特に現役世代の社会保険料や税金など)や経済に大きな負担を課すことになる。このため2004年度の年金改正時に、保険料率の上限を18.3%に固定する決定がなされた。その保険料の範囲内での財源で今後、持続的に増える年金給付額を賄わなければならない。
ここで給付抑制のために、「毎年の給付額の自動的な減額(マクロ経済スライド)」という厳しい手段が採用された。2023年度にも毎月の年金額が0.6%減額されるが、これは平均寿命が延び続ける限り、今後の給付額を際限なく減額しなければならない。
しかし、日本の公的年金の給付額は決して高い水準ではない。
現役世代の平均賃金との比率でみた厚生年金と基礎年金の合計額(所得代替率)は、OECDの「Pension at a glance」(男性、2021年)によれば38.7%に過ぎず、米国(50.5%)、ドイツ(52.9%)、およびOECD平均(62.4%)を大きく下回っている。
日本人がもらう年金は欧米より12〜23%も少ないのだ。それにもかかわらず、前出の所得代替率38.7%を見かけ上は50%超にして数字を“盛って”いる。カラクリはこうだ。
所得代替率は通常、「個人単位」でみるのが一般的だ。ところが、日本ではあえて専業主婦の基礎年金も加えた「世帯単位」で示している。また、分母の平均賃金から税・社会保険料を控除する一方で、分子の年金は実額のままとするといった操作で数字を引き上げているのである。
国際的に低い日本の年金水準を、今後、マクロ経済スライドを働かせることで、さらに引き下げれば、老後の所得保障の手段としての公的年金の機能を果たすことはいっそう困難となる。国民の老後生活は明らかに苦しくなり、老後破綻のリスクを高めるに違いない。
支給開始年齢引き上げの利点
なぜ年金給付を抑制しなければならないかといえば、「長生きのリスク」が高まるためだ。
それなら、平均寿命の延びに比例して年金支給開始年齢を引き上げ、「生涯に受給できる年金給付額」を増やさないことの方が、はるかに合理的である。この方式を採用(支給開始開始年齢を上げれば)すれば、年金財政が確実に安定化するだけでなく、被保険者には、年金支給年齢の引き上げに応じて就業を続けるか、65歳時点で、一定率で減額された年金を受給するかどうかの選択肢がある。
そのためには、高齢者の就業機会の確保が必要だが、すでに70歳までの雇用確保措置はとられている。また、米国やドイツでは、法定の年金支給年齢より以前に引退し、減額された年金で生活を維持している場合が多い。なぜ、日本もこうした先進国共通の手法を採用しなかったのだろうか。
それは、支給開始年齢の引き上げに対する国民の反発を恐れて、毎年の年金給付から少しずつ差し引く方式の方が抵抗感を受けないという政治的配慮によるとみられる。しかし、この年金の減額は、インフレスライドの範囲内に限定され、デフレ下では働かないという欠陥がある。また、とくに基礎年金だけの高齢者の生活が困窮するため、厚生年金からの財政支援という、姑息な手段も検討されている。
「100年安心年金」の現実性
しかし、マクロ経済スライドだけで年金財政は本当に安定するのだろうか。年金部会の大きな役割として、100年先までの年金財政の予測がある。これは正確には「予測」ではなく、複数の経済変数や人口予測値を組み合わせたシナリオ方式である。
ここでは、年金財政の安定を、「1年分の年金給付額に等しい積立金の維持」と定義されている。前回の2019年の財政検証では、厚生年金の積立金についての6例のケースが設定されたが、そのうちの5例では、積立金がいずれも2030年ごろからなぜか大きく膨れ上がる(図表2参照)。その後、受給者の増加などで取り崩されるものの、最終目標の2115年まで積立金の水準が維持される。つまり年金財政破綻を心配する国民にとっては安全安心なシナリオになっている。
なぜ、積立金が大きく膨れ上がるのか。これは「年金制度は今後100年間でも盤石」という“政治的”な結論があらかじめ設定されており、それを満たすような経済・人口変数の組み合わせだからに他ならない。例えば、年金給付額を決める賃金上昇率を、積立金の運用利回りが少なくとも1%以上も上回るという、積立額を増やすために極めて都合のいい状況が100年間も持続するという条件の下での計算なのだ。
もっとも、図表2の6番目のケースだけが例外になっている。これは積立金の水準は持続的に低下し、今後、50年ほどで枯渇するという国民にとって悪夢のようなシナリオだ。ところが、足元の経済状況を踏まえれば、このシナリオでも楽観的な前提に基づいている。本来は、この6番目の悲観的なケースを中心に、さらに検討を深める必要があった。
一般に、長期予測の標準的な手法としては、まず現状の経済状況を所与とした標準的なケースによる予測値と、その前提を変えた場合の政策ケースのものとを比較する。そこで望ましい状況を達成するために、必要な政策や制度改正を明確にすることが一般的である。
これに対して、過去の年金部会のように、最初から積立金が目標年次まで維持されるような高い運用利回りを前提とした、予定調和のシナリオを用いれば、年金支給開始年齢の引き上げなどの抜本的な改革は不用になる。
日本と基本的に同じ構造の公的年金制度をもつ米国では、政府から独立した第三者機関が年金財政の健全性をチェックする仕組みとなっている。日本でも、本来は会計検査院が、そうした機能を果たすことが必要である。
●中国は5%前後に政府成長率目標を引き下げ:成長率の低下傾向が進む 3/8
かなり保守的な2023年「5.0%前後」の政府成長率見通し
中国の第14期全国人民代表大会(全人代)第1回会議が、3月5日に北京で開幕した。李克強首相は政府活動報告で、2023年の実質GDP成長率の政府目標を「5.0%前後」と発表した。これは昨年の目標よりも0.5ポイント低い水準だ。コロナ禍の影響で発表を見合わせた2020年を除き、中国政府が成長率目標を発表し始めた1991年以降で最も低い水準でもある。事前にブルームバーグが調査した見通し中間値は5.3%であったが、これを下回る、いわば予測の下限でもあった。
この数字については、現実的であり、積極的な財政・金融政策で無理に景気刺激を図らないことから、安定成長への期待を高めるもの、と前向きに評価する声も聞かれる。他方で、日本、韓国など周辺国では、中国の成長率の低下が自国の経済に与える打撃を懸念する声もある。株式市場では、やや失望を持って受け止められた。
実際、5%前後というのはかなり保守的な目標水準と言えるが、そのように設定された理由の一つは、2022年は5.5%という政府目標に対して、実績値は3%とそれを大幅に下回ってしまったことだろう。ゼロコロナ政策の影響が大きかったのである。そのため、2年連続で政府目標を下回ることで政府が信頼を失うことを回避したい、との狙いがあったのではないか。
昨年末にゼロコロナ政策を撤回し、経済の再開(リオープン)が年末から年初にかけて進んでいるのであれば、2023年の成長率はかなりプラスの下駄を履く形となるはず(ベース効果)である。この点から、今年の政府目標を達成することはかなり容易であるようにも見える。
ゼロコロナ政策撤回による景気のV字型回復は過大な期待か
ただし、当面の中国経済に不確実性が高いことは確かであり、ゼロコロナ政策の撤回で中国経済がV字型回復すると考えるのは楽観的過ぎるだろう。中国経済の下振れリスクの一つは、輸出環境の悪化である。中国の輸出(ドルベース)は、1−2月も前年同期比6.8%減と減少を続けている。
輸出入統計でそれ以上に注目されたのは、輸入の弱さである。1−2月の輸入は前年同期比10.2%減の2桁減少となった。事前予想の平均値は5.5%減程度であった。この予想外の輸入の大幅減は、内需の弱さを反映しているのだろう。ゼロコロナ政策は撤回されたとはいえ、その傷跡はなお深く残っているのではないか。
李克強首相の政府活動報告では、新型コロナ感染症対策では決定的な大勝利を収めたと自画自賛する一方、直面する課題として、貿易の成長率が弱まっていること、一部の地方政府の財政難が深刻になっていること、不動産市場が数多くのリスクを抱えており、一部の中小金融機関のリスクが顕在化していること、科学技術のイノベーションの能力が伸び悩んでいること、などを列挙している。
5年後には3%程度と先進国並みの成長ペースまで低下も
2023年の実質GDP成長率を5年移動平均で見ると、5%を下回る可能性が高そうだ。習近平体制が始まった10年前の5年移動平均の成長率は9.0%だった。この10年間で、5年移動平均で測った中期成長率は、4%ポイントも低下したのである(図表)。仮にこのペースで中期成長率が下がっていけば、5年後には3%程度と、もはや先進国並みの成熟経済の成長ペースにまで落ちてしまう。
人口減少、ゼロコロナ政策、不動産不況、民間企業への統制強化など過去数年間で集中して生じた中国経済の強い逆風は、中国経済の中長期の成長期待を大きく低下させ、政府による民間企業への統制強化の影響と相まって、企業の設備投資意欲を慎重にさせた可能性があるのではないか。その場合、成長率のトレンドの低下は従来よりも加速してしまう可能性もあるだろう。
中国経済の中期的な成長率の下振れは、日本を含む周辺国の経済にかなりの逆風となるだろう。また、海外から中国への直接投資や現地ビジネスのリスクともなるのではないか。また、世界全体では商品市況を押し下げる方向に働くだろう。
成長率低下で中国は外に目を向ける
成長率トレンドの下振れ傾向が続くと、中国政府は、国内で安定した雇用を維持することが難しくなり、それは社会、政治の不安定化につながるリスクを持つのではないか。長らく中国の政治・社会の安定に貢献してきた高成長という前提が、崩れていくのである。
そうした下で、中国政府が国内の社会、政治の安定を維持しようとすれば、新たな市場、成長の源泉を海外に求める他なくなり、それは、先進国との間での地政学リスクを高めることになるのではないか。またそれこそが、中国がロシアに接近していく大きな原動力となるのかもしれない。
●「混迷の世界経済」G20財務相会議、めぼしい成果なし.. 3/8
日米欧やロシア、中国など20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が2023年2月24、25日、インド南部ベンガルールで開催された。ロシアのウクライナ侵攻に加え、米欧の利上げの影響で深刻化する途上国の債務問題への対応が大きな焦点だったが、めぼしい成果は上げられなかった。
ロシアと中国の反対で共同声明が4会合連続で採択できなかったことが大きなニュースになったが、国家の経済的破綻の危機に直面する途上国もあるなかで、その救済にも満足に動けない今の国際環境の厳しさを改めて印象付けた。
今回も「共同声明」に代わる「議長総括」に 中露の反対を注記
会議では欧米や日本は共同声明の採択に向け、「ウクライナでの戦争を非難する」と記した22年11月のG20首脳会議の宣言と同等の内容を盛り込むよう要求した。これに対し、ロシアと中国は「昨年の状況とは違っている」と主張して反対した。「戦争」という文言が前面に出るのを嫌ったとみられている。
結局、議長国のインドは共同声明に代わる「議長総括」を発表。そのなかで、首脳宣言と同じく、「ほとんどのメンバーはウクライナでの戦争を強く非難」と書いた。そのうえで、この表現が「ロシアと中国を除く全てのメンバーによって合意された」とわざわざ注記した。一方で、ウクライナ問題の状況と対ロシア制裁について「他の見解、異なる評価があった」とも記し、「両論併記」のかたちになった。
IMFに金融支援を要請するスリランカ、パキスタン、バングラデッシュ 他の低所得国も過剰債務リスク抱える
ここまでは、ロシアのウクライナ侵攻後の1年間、繰り返し見てきた場面ともいえるが、財務相会議だけに、世界経済、深刻な途上国の債務問題への対応も重要な議題だった。
とりわけ、「グローバルサウス」(新興国・途上国)のリーダーを標榜するインドが23年のG20議長国で、秋のG20首脳会議に向けた一連の各大臣会合の第1弾という意味でも注目された。
「多くの国々で持続不可能な債務水準によって、財政的な存続も脅かされている」
インドのモディ首相は24日に開幕した財務相会議冒頭に寄せたビデオメッセージで、そう訴えた。
新興国や途上国の債務問題が深刻化したのは、世界的な経済環境の激変が絡み合ったためだ。
背景として、新型コロナウイルスの感染拡大による景気低迷で財政状況が悪化していたところに、2022年春から始まった米国の利上げやウクライナ侵攻が重なった。
米利上げによりドル高・新興国の通貨安が進み、途上国のドル建て債務の返済負担が増加。ウクライナ侵攻で資源や食料の価格が高騰し、外貨不足に拍車をかけている。
真っ先に危機が顕在化したのがスリランカだ。22年4月、事実上の対外債務のデフォルト(債務不履行)に陥り、国内物価は高騰、政情不安で政権交代したが、混乱が続いている。
パキスタンもインフラ整備で借り入れた債務が膨らむなか、資源高などで外貨不足となり返済が困難になりつつある。22年秋には国土の3分の1が水没するという大災害にも見舞われた。格付け大手フィッチは2月14日、「デフォルトまたは債務再編の可能性がますます高まっている」として、パキスタンの格付けを「CCCマイナス」に2段階引き下げた。
両国にバングラデッシュを加えた南アジア3か国は、国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請している。
こうした動きがあるなか、世界の主要な金融機関が加盟する国際金融協会(IIF)は2月22日、22年10〜12月期の新興国の債務残高が98兆2000億ドル(1京3200兆円)に達したと発表した。IMFはG20財務相会議に向けた報告を2月22日におこない、低所得国の約15%が過剰債務に陥り、45%が過剰債務に陥る高いリスクを抱えていると指摘。さらに、「新興市場国でも約25%の国々が高いリスクにさらされている」と警鐘を鳴らしている。
コロナ禍で景気低迷・財政悪化、ドル高で債務拡大が追い打ち
従来、こうした債務問題は先進国を中心に作る「パリクラブ(主要債権国会議)」という枠組みで対応してきたが、近年は状況が大きく変わっている。そのカギを握るプレーヤーが中国だ。
中国はいろいろな「顔」を使い分け、たとえば地球温暖化問題では「途上国代表」として、地球に負荷を与えて先に経済成長を遂げた米欧を中心とする先進国と対峙している。
ところが途上国の債務問題では、中国はいまや二国間融資で世界最大の債権国として、債権カット(借金の棒引き)を求められる立場だ。
この間、G20は2020年に「共通枠組み」と呼ばれる仕組みを導入した。IMFを中心に個別の国について、債務の一部免除を含む支援を協議する場で、チャドに対する債務再編が妥結し、ザンビアとエチオピアに対する協議が進んでいる。
今回のG20でインドはこの枠組みの拡大を提案したとされるが、議長総括は、チャドなどへの対応を「歓迎」し、スリランカなど他国の債務の解決への「期待」を表明するにとどまり、具体策の進展はなかった。
議論の進展の壁になっているのが中国だ。
そもそも、インフラ整備などに巨額の融資をし、返済に窮すると港湾の使用権を手に入れるといったことをスリランカなどで行って、米国などから批判されている。
その中国が持つ途上国向け債権について、カットの話し合いに応じる以前に、どのような条件の債権をどの程度持っているかという、話し合いの前提になる情報も十分に開示していない。
G20でも基本姿勢に変化はなかったようで、議長総括も、債権者に「自発的にデータを提供するよう引き続き奨励する」と記すにとどまった。
ウクライナ危機に直接かかわる議論では、当面、国際社会の対立の終息は望めないが、途上国債務問題は、協力可能なテーマだ。一致して取り組まなければ世界経済の混乱を招きかねないという意味でも、先進国と新興国・途上国をつなぐG20の役割が重要というのは、衆目が一致するところ。
今回は2023年の議論のスタート。4月に毎年恒例のIMF・世界銀行の一連の国際会議があり、最終的には9月のG20首脳会議に向け、途上国の盟主を標榜するインドがどのようなリーダーシップを発揮して議論をまとめていくか、今後の推移に注目する必要がある。
●ドル高で減少…韓国の国民所得、台湾に逆転される 3/8
強いドルの威力で韓国人のふところも軽くなった。昨年の韓国の1人当たり国民総所得(GNI)は3万2661ドルで台湾よりも少なかったことがわかった。台湾を下回ったのは20年ぶりだ。昨年対ドルでウォン相場が主要国通貨に比べ大きく落ちたのが主要原因と分析される。
韓国銀行が7日に発表した「2022年10−12月期と年間国民所得」(速報値)によると、昨年の韓国の1人当たり国民所得は3万2661ドルで2021年の3万5373ドルより7.7%減った。ウォン建ての名目国内総生産(GDP)は2150兆6000億ウォンで3.8%増えたが、ドル建てでは8.1%急減したためだ。昨年の平均為替相場は1ドル=1292.20ウォンで、前年の1145ウォンより12.9%のウォン安となった。
韓国銀行のチェ・ジョンテ国民経済計算部長は「昨年の1人当たりGNI減少幅2712ドルのうち、経済成長(実質GDP)が896ドル、物価(GDPデフレーター)上昇が437ドル、海外要素所得受取(国民が海外で稼いだ金)が88ドル、人口減少が74ドル増加に寄与したのに対し、ウォン安は4207ドル減少する影響を与えた」と説明した。ウォン安がすべての上昇要因を相殺してしまったという話だ。
1人当たり国民所得は国民の生活水準を把握する指標で、年間名目国民総所得(GNI、名目GDP+海外要素所得受取)を国内に居住する総人口数で割って計算する。例えば英プレミアリーグで活躍するサッカー選手の孫興ミン(ソン・フンミン)の年俸はGDPに含まれないがGNIには含まれる。
実質的な購買力を見せる実質GNI増加率は前年比マイナス1.0%で、実質GDP成長率の2.6%を大きく下回った。韓国銀行は「実質海外要素所得受取が増加したが国際原油価格上昇で貿易条件が悪化し実質貿易損失が大きくなった影響」と説明した。現代経済研究院のチュ・ウォン経済研究室長は「実質GNIが落ちるというのは国民が過去にパン1個を買えたお金でいまは一部しか買えなくなったという意味。今年民間消費が減れば結局経済成長率も落ちる悪循環が繰り返されかねない」と話した。
各国の中央銀行と政府が集計した統計で見ると、昨年の台湾の1人当たり国民所得は3万3565ドルで韓国の3万2661ドルより904ドル多かった。台湾に抜かれたのは2002年から20年ぶりだ。2021年の国連集計順位では台湾の1人当たり国民所得は3万4756ドルで韓国の3万5373ドルより少なかった。チェ部長は「台湾の名目GNIが4.6%増えて韓国の4.0%と同水準だが、ウォンが対ドルで12.9%下落する時に台湾ドルは6.8%の下落にとどまったのが主要逆転要因」と説明した。
ただ韓国銀行は1人当たり国民所得4万ドル達成の可能性に対しては比較的楽観的な見通しをした。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は任期最後の年となる2027年に1人当たり国民所得4万ドル時代を開くことに傍点を置いて経済政策を運用するという立場だ。韓国銀行は韓国経済が今年1.6%、来年2.4%成長すると予想している。チェ部長は「今後2〜3年間の年平均実質GDPは2%前後で、物価(GDPデフレーター)も2%前後上昇すると予想される。正確な予測は難しいが為替相場が過去10年の平均の1ドル=1145ウォン水準を維持すると仮定すれば、成長と物価を考慮した時1人当たり国民所得4万ドルはそれほど遠くない時期に達成できそうだ」と話した。
国民所得指標悪化で通貨政策を運用する韓国銀行の悩みも大きくなるものとみられる。チュ室長は「国民の購買力はすでに大きく落ちたがここで金利がさらに上がれば借金返済のため消費はさらに減る。下半期には基準金利引き下げのシグナルを与えてでも市場金利を少し下げるべきではないかと思う」と話した。
●「評価すべき岸田政権の実行力」 3/8
歴史的転換を推進する岸田政権
聞く力をモットーにした岸田首相だが、その出だしはちぐはぐさが目立ち、「検討使」と揶揄されるなど実行力も疑われた。アベノミクスを継承した菅元首相の成長重視政策に対抗し、新しい資本主義を掲げ、分配重視へと舵を切り、就任早々に金融資産所得課税強化を打ち出した。これに対し、株式市場は直前の高値からほぼ3000ポイント、1割の急落となるなど、容赦ない洗礼を浴びせた。
しかし、ここ1年半の岸田政権の展開は、良い意味で予想を裏切り、当然とはいえ数々の懸案を片付けている。閣僚不祥事による辞任、統一教会問題の紛糾、支持率低下など、表面的にはぱっとしないが、時代を画する政策を次々に打ち出していることも正当に評価するべきであろう。
最も大きいものは、安全保障3文書の策定であろう。長らく日本の平和主義の根幹にあった専守防衛を打ち切り、敵基地攻撃能力に踏み込む歴史的転換を果たした。
また、防衛費のGDP比2%への目途をつけ、防衛装備品、武器輸出解禁に対して第一歩を踏み出した。さらに、エネルギー自給の向上を目指して、多くの反対を押し切り、原発の再稼働促進と新規増設の検討、耐用年数の60年への延長、新たな原発技術の開発なども打ち出した。
経済安全保障の柱である半導体産業育成にも一段と注力、菅政権時に打ち出された半導体産業推進は加速し、1兆円プロジェクトのTSMC熊本工場第一期に次いで第二期工場が具体化している。また、最先端半導体国策企業「ラピタス」の創生と5兆円と言われる巨額投資プラン始動(日本経済新聞報道)など、目を見張る変化が引き起こされている。
首相は憲法改正に向けた意欲を強調、「時代は憲法の早期改正を求めていると感じている。野党の力も借り、国会の議論を一層積極的に行う」と主張している。出身母体の宏池会の持説であった平和主義の根本的転換に舵を切った。
岸田政権の「不思議な強さ」
この岸田首相の転換を、櫻井よしこ氏は以下のように評論している「岸田氏の安保3文書の決定は、安倍元総理が主張してきたこと。だが、安倍氏の主張がどれだけ正しくても、朝日新聞を筆頭にメディアは安倍氏の正論を叩きに叩いた。岸田氏にはメディアによる非難がない。この点こそ岸田氏の強さである。不思議な強さだ。岸田氏はそれを政策推進の力に転化できるだろう。」(週刊新潮2022年12月29日)。
ロシアによるウクライナ侵略、中国習近平政権の独裁化と米中対立などの現実は、戦後の空想的平和主義の限界を否応なく見せつけた。ソフトな岸田氏は頑迷な空想的平和主義者のスタンス転換を促し、挙国一致で国策を推進できる幸運な立場にある、と言えるだろう。
株高政策にシフトした、岸田政権最初の苦い薬効く
経済政策においても岸田氏は安倍政権の大枠を踏襲している。当初の主張であるアベノミクス批判と見える分配重視の「新しい資本主義」の内容を換骨奪胎し、「成長と分配の好循環」というアベノミクス路線に回帰していった。端的に言えば、株価を軽視・無視していたスタンスから株価重視スタンスへの大転換を、何のてらいもなく実行したのである。
安倍元首相は2013年にニューヨークで外国人投資家を前に「Buy my Abenomics(アベノミクスは『買い』だ)と宣言し日本株高を謳ったが、岸田首相も2022年5月、それを真似て「Invest in Kishida(岸田に投資を)」とロンドンの投資家に日本株式への投資を呼びかけた。
内閣官房による「新しい資本主義実現会議」資料では、「新しい資本主義においても、徹底して成長を追求していく。しかし、成長の果実が適切に分配され、それが次の成長への投資に回らなければ、更なる成長は生まれない。分配はコストではなく、持続可能な成長への投資である。我が国においては、成長の果実が、地方や取引先に適切に分配されていない。さらには、次なる研究開発や設備投資、そして従業員給料に十分に回されていないといった、『目詰まり』が存在する。その『目詰まり』が次なる成長を阻害している。待っていても、トリクルダウンは起きない。積極的な政策関与によって、『目詰まり』を解消していくことが必要である。」と指摘。
そして、1賃金アップ、2スキルアップによる労働移動の円滑化、副業・兼業の推進、3貯蓄から投資への「資産所得倍増プラン」策定、などの具体策を提示した。これらはアベノミクスの第三の矢「規制緩和によって民間投資を喚起する成長戦略」とほぼ重なっている。
個人の株式投資、企業の自社株買いが加速
ここから始まる一連の変化が、日本の株式需給を変化させるだろう。まず個人投資家を対象にした優遇税制「NISA(少額投資非課税制度)」の改革(非課税限度額1800万円への引き上げ、非課税保有期間の無期限化など)は、預金から株式への大きな資金の流れを作るだろう。積み立てNISA口座における買い付け額は5割増ペースの伸びを続けており、2022年は1.3兆円弱に上った。一般NISAにおける買い付け額3.9兆円を合算すると、個人の昨年の株式投資はすでに年間5.2兆円に達している。
日本の家計の金融資産(年金保険準備金を除く)の保有内訳は、利息が限りなくゼロに近い現預金に74%、配当率ほぼ2.5%の株式・投信に20%と非合理的であり、その是正が奔流になっていくだろう。数年のうちに家計の株式投資が年間10兆円を超え、一大投資主体になるかもしれない。今のところ、この株式投資の過半は米国など海外株式が主体であるが、日本株の相対パフォーマンスが好転する2023年にはこの比率は改善されていくだろう。
また、企業が儲けを貯め込み過ぎ、過剰貯蓄による資本効率の悪さが日本株安の原因となってきたが、東証による「PBR1倍割れ是正要請」により、余剰資金を自社株買いに振り向ける機運が高まっている。自社株買いは2021年度8兆円と過去最高になったが、2022年度は10兆円ベースに上ると見られている。米国では自社株買いが最大の株式投資主体であるが、日本でもそうなる可能性は濃厚である。長らく続いた国内投資家不在の状態は、家計と企業部門の参入により、急速に改善されていくだろう。
異次元金融緩和を踏襲する植田新日銀体制、国民的支持が強みに
櫻井よしこ氏が語る岸田氏の「不思議な強さ」は、黒田氏後継の日銀総裁に植田氏を指名したことにも端的に表れている。植田氏は柔軟な現実主義者で、異次元の金融緩和を墨守するリフレ派でも反リフレ派でもなく、中庸を行く人物で、黒田氏とは異なり広範な支持を得ている。
黒田氏の異次元の金融緩和政策は、日銀OB、学者、エコノミストとメディアから総批判を浴びた。彼らは(A)日本のデフレは甘受できるもの、(B)伝統的金融政策は堅持するべきもの、との凝り固まった信念を持っていた。これに日銀にデフレ脱却の圧力をかけた安倍政権の強圧的手法に対する反発が加わり、異次元緩和派と反異次元緩和派との間に修復不能の溝ができてしまった。
この強烈な政策批判が「異次元金融緩和は失敗する、デフレ脱却は無理で安易なリスクテイクをするべきではない」という国民世論を作り出し、自己実現的に政策目的の実現を困難にしてきたのである。しかし、植田氏にはそうした困難はなく、政策運営はスムーズに進むだろう。
そもそも政労使一体となった賃上げ機運が高まり、1%程度のインフレ定着が見え、今は持続的な2%インフレという目標に向かう途上にある。これこそ黒田氏による異次元金融緩和の成果なのであるが、今では2%の持続的インフレの実現という大方針に異を唱える人はいない。現在、求められるものは技術論、戦術論であり、もはやデフレが敵か否かの戦略論は必要ない。
黒田総裁を支持してきたリフレ派はインフレ2%の定着が確認できるまで現在の金融緩和政策に手を付けるべきでないと考え、反リフレ派はYCC(イールドカーブ・コントロール)などの異例な政策はできるだけ早くやめるべきだと考えるが、どちらも最終ゴールが「2%のインフレの定着」であることに変わりはない。
違いはどちらが適切なのかの技術論にすぎず、当面の緩和環境維持の考えに相違はない。その際に決定的なのは、国民的支持を集める力であり、植田氏と補佐する副総裁候補の氷見野氏、内田氏は国民と市場の支持を得られる理想的布陣と言える。
評価基準は株価と為替
その国民的支持のメルクマールはと言えば、株価にほかならない。株式市場が懸念する金融政策を岸田氏は望まず、植田氏も採る余地はないのである。また、持続的賃上げを定着させるとの観点から、1ドル=120円台の円高を容認することもあり得ないはずである。植田日銀体制は最初から株高基調の促進と円安維持に向けて政策手段を動員すべく運命づけられている、と言える。
それにしても、安倍・菅政権の下で日本企業の稼ぐ力は倍増した。法人企業の経常利益は2000〜2012年度まで40兆円台で推移していたが、2021年度は86.7兆円へと上昇した。この稼ぐ力の大幅な向上が、岸田政権の「不思議な強さ」の背景にあることは、特筆されるべきだろう。
●「美人事務秘書官」を地元にまで連れまわす斎藤健法務大臣 3/8
デキる男として評判
岸田政権にとって法務大臣ポストは、鬼門なのかもしれない。昨年11月、“法相は死刑のハンコを押すだけの地味な役職”などと発言し批判を受け辞任した葉梨康弘氏の後任として抜てきされた、斎藤健法務大臣の“腹心の部下”の働かせ方に今、周囲から疑問の声が上がっているのだ。
東京生まれの斎藤氏は、東京大学経済学部を卒業後、通産省(現・経済産業省)に入省。2006年に千葉7区の補欠選挙に自民党公認で出馬するも、落選。09年の衆院解散総選挙で同区から再び出馬、政界入りを果たした。
政治部記者が言う。「09年の選挙は、民主党に政権を譲ることになるほど、自民党が歴史的大敗を喫しました。そんな逆風が吹き荒れる中、斎藤氏も小選挙区では敗れたものの、比例復活で這い上がりました。この時、自民党の新人で当選したのは、斎藤氏を含めわずか4人。彼らは今でも、党内で尊敬の対象となっていますよ」
その後も当選を重ね、現在5回生。
「3回生時にはすでに農水相を務めており、今回、前任者の更迭による“代打”とはいえ、早くも2度目の入閣となりました。単なるお飾り大臣ではなく、バリバリと仕事をこなす“デキる男”として、党内でも評判です」(同)
“霞が関の北川景子”の異名
選挙も強く、実務もこなす――そんな斎藤氏だが、デキる男であるがゆえの、“ある特徴”があった。自民党関係者が言う。
「自分が頑張っている分、部下たちにもとても厳しいのです。仕事にはかなり高いハードルを設定し、できないと、“何で?”“何で?”と、容赦無く言葉責めをする。下で働く者たちは大変ですよ」
法務大臣就任後、その“厳しさ”の矛先は当然のように直属の部下である、大臣秘書官に向かった。自民党関係者が続ける。
「大臣秘書官とは、文字通り大臣の仕事を補佐する秘書のことです。大臣秘書官には2種類あって、それぞれ、政務秘書官、事務秘書官と呼ばれています。政務秘書官には、自身の事務所の秘書が着任し、大臣の所管する省庁の仕事以外の案件をこなす。そして、事務秘書官は、各省庁の官僚が付き、まさに大臣が行う省庁の仕事の補佐をするのが慣例となっているのです」
そして、斎藤法務大臣に付いた事務秘書官こそが、法務省官僚・中村明日香氏(43)だった。中村氏は07年に司法試験に合格。横浜や青森、大阪の地検などに赴任し、昨年8月から各省のエースが付く秘書官に抜てきされた。
「仕事熱心で、“霞が関の北川景子”の異名を持つほどルックスも目立つ。酒席が好きでノリも良いですから上司の覚えもめでたく、本省でキャリアを重ねる『赤レンガ派』のホープとして期待されています」(中村氏の知人)
斎藤氏に聞くと…
斎藤氏も、そんな彼女のやる気と能力を高評価。そこまではよかったのだが、勢い余ったのか、本来、彼女の仕事ではない、斎藤氏の選挙区内での“地元回り”にまで彼女を帯同させるようになったというのだ。
「土日に行われる、選挙区内の行事への参加や、元県会議員の葬儀など、法務省の仕事ではないものにまで、中村氏を連れて行くのです。これでは休みもなく、さすがに働かせすぎでは、と地元でも心配の声が上がっているようですよ。そもそも、そうした仕事の補佐のために、政務秘書官が付いているわけで。おそらく、“勉強になるから”とでも思っているのでしょうが、いくら仕事に厳しいとはいえ、さすがにやらせすぎでしょう」(自民党関係者)
たしかに選挙区内の行事や葬儀などは、事務秘書官の仕事ではない。勉強すべきは選挙区の事情や人間関係ではなく、法務に関わることなのは間違いない。厳しくするところを間違っているのではないか。
編集部も、2月末の日曜、彼女が斎藤氏と共に、数時間にわたって地元回りをする姿を目撃。斎藤氏ご本人に見解を伺うと、
「あれ(中村秘書官の地元回りへの帯同)は、公務(事務秘書官としての仕事)ですよ。出先で大きな事故が起きたときとかの、緊急の連絡要員として同行させているんです」
しかし、この日曜日の二人の動きを見る限りでは、この言い分にはいささか無理が――3月9日発売の「週刊新潮」では、中村秘書官と斎藤法務大臣のハードな地元回りの詳細や、法務省が示した見解、そして専門家が示した斎藤大臣の主張の問題点などについて詳報する。
●8年ぶりの「政労使会議」15日開催へ 政府、賃上げ機運の上昇狙う 3/8
政府は、労働組合の中央組織の連合と、経団連の代表者らが集まる「政労使会議」を15日に開く方向で調整している。第2次安倍政権以来、8年ぶりの開催。中小企業の労使交渉が本格化するタイミングに合わせることで、賃上げの機運を高める狙いがある。岸田文雄首相、連合の芳野友子会長、経団連の十倉雅和会長らが出席する見通しだ。
岸田政権は「物価上昇を上回る賃上げの実現」を目標に掲げており、政労使の代表がそろって賃上げの重要性を共有する姿勢をアピールすることで、企業側に対応を促したい考えだ。
松野博一官房長官は8日午前の記者会見で、政労使会議を15日に開催する方向で調整していると述べたうえで、「目下の物価高に対する最大の処方箋(せん)は物価上昇に負けない継続的な賃上げの実現だ」と強調した。価格転嫁対策や中小企業支援を講じるほか、リスキリング(学び直し)や職務給の確立、労働移動の円滑化に一体的に取り組む姿勢を示し、「構造的な賃上げを実現したい」と語った。
厚生労働省が7日発表した1月分の毎月勤労統計調査(速報)では、物価の影響を考慮した「実質賃金」が前年同月より4・1%減少。物価上昇率が「名目賃金」の伸びを上回る状態が続いており、今年の春闘では、賃上げ率が物価上昇を上回るかが焦点となっている。
15日は大手企業の賃上げ要求の集中回答日。中小企業の交渉はその後に本格化する。官邸幹部は「中小企業の賃上げの機運を高めたい」と説明。高騰する生産コストの価格転嫁を政府として後押ししたい考えも示している。
●ムラ社会の都合で林外相G20欠席も…あきれる低レベル″痩 3/8
国会のレベルが低すぎる。林芳正外相が国会審議を優先して、20カ国・地域(G20)外相会合の出席を見送った問題は世論から痛烈な批判を浴びている。
G20外相会合ではロシアのウクライナ侵攻や中国が関わる安全保障上の問題が討議された。特に米欧とロシアが、出席した外相らが批難の声を強め、対立をいっそう鮮明にした。さらにはグローバルサウス(南半球の途上国)をいかに取り込めるかが、米欧、そして日本の課題でもある。グローバルサウスは、中国の影響も強く、ロシアに対する制裁では欧米とは一線を画す傾向がある。
こんな緊迫する国際情勢にもかかわらず、国会の慣例に縛られて、林外相は出席することができなかった。しかも参院予算委員会の基本的質疑とはいえ、林外相の答弁は1回だけ、53秒でしかなかった。副大臣でも対応できた。与党である自民・公明両党の見識が問われるべきだ。実に情けない。立憲民主党からは、「会合がバッティングしないようにすべきだった」という意見が出ているが、G20外相会合を日本のムラ社会の都合で思う通りにできると考える外交センスがダメすぎる。
その立憲民主党では、野田佳彦元首相(同党最高顧問)が防衛費について国会質問に立った。宇宙やサイバー部隊の人員不足について指摘し、自衛隊員の給与など待遇面の貧弱さを指摘した。生活の安定がなければ、自衛隊の拡充など絵に描いた餅である、とした。これは正論だ。
だが、野田氏が同時に、財政再建論者であることを忘れてはいけない。財政再建論者の特徴は、景気を無視した増税志向にある。いわゆる緊縮主義だ。
実際に野田氏が首相だった民主党政権で、東日本大震災やデフレ不況の影響から脱していないタイミングで、消費税10%への引き上げが決まった。今回の質疑でも野田氏は増税の選択肢をあえて持ち出してもいた。自衛隊員の生活面での改善は必要だが、その財源でまた増税を目指すならば、またもや日本は停滞し、その結果、防衛費も伸びなくなる。
防衛増税を前提にする点では、岸田文雄政権も同じだ。コロナ禍から脱するタイミングで、与党と野党第1党が増税を意識した国会質疑を続けるのは、経済政策のセンスとしては最低レベルである。経済成長による税収増で防衛費拡充に対応すべきだ。当面は、長期国債を発行して、防衛費に充てることも行うべきだ。防衛費拡充基金を創設するのも手だ。外交、経済政策ともに国会論戦のレベルを上げるべきだ。
●「電気代抑制」盾に原発回帰 統一選懸念、安全論議置き去り 3/8
東京電力福島第1原発事故後に「依存度を低減する」としてきた原発について、岸田政権は「最大限活用」するとの方針に180度転換した。
原油などエネルギー価格の高騰と国際的な脱炭素社会への動きが背景にある。ただ、4月の統一地方選を控え、岸田文雄首相は「電気代の抑制」を盾に、原発の安全性に対する疑問の声に正面から答えていない。
「国民生活を守るため、エネルギーの安定確保に取り組まなければならない。原子力も選択肢の一つとしてしっかり向き合う」。首相は3日の参院予算委員会で、原発推進にかじを切った理由をこう説明した。
東日本大震災以降、政府のエネルギー政策は国民の原発への不安感を踏まえ、火力発電に大きく依存してきた。ただ、老朽化して採算が悪化した火力発電所は脱炭素の流れの中で、休止や廃止に追い込まれた。こうした中、ロシアによるウクライナ侵攻や円安により電力価格が高騰。原発回帰への大きな要因となった。
政府関係者は、再稼働中の原発を抱える電力会社管内では他地域よりも電気代が抑えられていると指摘。「電気代高騰を実感すれば、消費者の理解は得られる」と原発推進に自信を示す。
政府は2月、原発建て替えの推進や運転期間を最大「60年超」に延ばすことを明記した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。首相周辺は「資源のない日本にとって大事なことは、電力供給のカードをたくさん持つことだ」と語る。
この間、原発の安全性を巡り国会などでかみ合った議論が行われたとは言い難い。首相は昨年7月の参院選まで建て替えなどについて「現時点で想定していない」と答弁。今国会も統一選への影響を考慮してか、かわす答弁に終始している。
「安全確認をしっかり行うことで原発の運用も追求する。世界的なエネルギー危機の中で重要だ」。今月1日の参院予算委。運転開始から40年を超えた原発で経年劣化によるトラブルが生じた事例を列挙した立憲民主党の辻元清美氏に対し、首相はこう繰り返した。
海洋放出秒読み
第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出を巡っても、前提となる地元の理解は得られていない。政府と東電は2015年、福島県漁業協同組合連合会と「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を交わした経緯があるが、首相は3日の参院予算委で「海洋放出の時期は本年春から夏。変更はない」と明言した。
政府が期限を区切るのは、これ以上の処理水の貯蔵は困難で、復興にも悪影響を与えかねないと判断しているためだ。政府は引き続き、関係者の理解が得られるよう風評被害対策などに取り組むと強調するが、放出時期は刻々と迫っている。 
●岸田政権の「国家安全保障戦略」に足りないもの 3/8
昨年、2022年末に岸田内閣が閣議決定した「国家安全保障戦略」と、同じく閣議決定した「国家防衛戦略」については、タカ派イメージのあった安倍内閣では「何故だか」できなかった「踏み込んだ内容」が決定されているとして、保守政界や財界では評判がいいようです。
確かに、ロシアの軍国化、中国の権威主義への傾斜、北朝鮮の核武装強化といった現状に対して、厳しい認識がされているのは事実です。その認識の上で、防衛費の増加、日米の連携、技術開発などの「現状の延長で可能な施策」を積み重ねるという政策が示されているわけで、現実主義の立場から理解されるというのはわかります。
ですが、この2つの「戦略」の全体は日本という国の国家戦略としては、重要な点が足りず、中長期的には不安を禁じ得ません。3点、議論したいと思います。
1点目は、あまりにも米軍に依存しているという点です。防衛費を倍増させるといっても、あくまでトランプのような孤立主義者から「安保ただ乗り批判」を受けないように負担を増額しているだけであり、有事の際の実際の指揮命令系統は米軍と一体化がされています。
行き過ぎた米軍依存
これでは独立国の防衛戦略としては十分ではありません。万が一、アメリカが本格的な孤立主義を選択して、米軍が東アジアの安全保障へのコミットを大きく減らした場合への備えがないからです。そうした場合に備えて、国家のあり方の「代替案」を持っておくことは必要です。
具体的には、まず「国のかたち」の問題があります。在日米軍という「ビンのふた」が外れた場合に、「枢軸日本の名誉回復を望む軍備肯定論」と「あらゆる軍事的なことを否定し蔑視する一国平和主義」という「国際社会から全く理解されない異質なイデオロギー」だけがビンの中から出てくるようでは困るわけです。
自由と民主主義のイデオロギー、第二次大戦後の国連中心主義との整合性を中心に、周辺国との必要な信頼関係の確保も含め、仮に日本が相当程度の「自主防衛体制」に移行した場合に、国の基本的な理念を国際社会に理解されるような現実的なアピールができるようにしておくことが必要です。同時に、自衛隊もドイツ国軍のような「国際貢献により戦前の汚名とは無縁の存在」となるような実力の涵養と、国際的なイメージ確保の戦略を持つべきと思います。
2点目は、中国とロシアとの関係です。この国家安全保障戦略にしても、現在の岸田政権のスタンスにしても、対米追従がやや過剰であり、自主性が感じられません。アメリカと違って、地理的にも経済的にも日本は中国とも、またロシアとも「切っても切れない関係」があります。ですから、全面的に両国を敵視し、軍事バランスの最前線に出てしまうと、経済的な国益を大きく損なって国の成り立ちが揺らいでしまいます。
中国やロシアの行動を50%以上支持するということは考えられないにしても、最適解は、岸田版の「戦略」からは、もう少しズラしたところにあると考えられます。その代わりに、日本として中国とロシアを離反させることで、相対的に安全度を高めるという深謀遠慮も持っておくべきでしょう。
3点目は、朝鮮半島問題です。今回の安全保障戦略には、北朝鮮の核ミサイル開発に関する脅威については、かなりハッキリと指摘されています。ですが、これに対する備えとして韓国との関係改善については強調されていません。「同志国(聞き慣れない言葉です)」との連携という項目で、日米以外では「豪州、印、英・仏・独・伊等」の後に「韓国」とあるだけで、日韓関係の重要性の認識は表現されていません。
日韓関係に関しては、今回の和解の動きは非常に重要ですが、これに対しては「いつも韓国はゴールポストを動かす」「ちゃぶ台返しをする国だ」「レーダー照射問題をどうする」などの声があり、岸田政権が、そうした「保守票」に配慮しているのであれば、それは弱気に過ぎます。
ゴールポストの移動や、ちゃぶ台返しについては、「そうさせない」戦略が必要ですし、「レーダー照射」などという行為と、それを悪いと思わない先方の世論に関しては、これを放置していては北朝鮮を利するだけです。いずれにしても、野党がロクな反論をしない中で、今回の「戦略」が国策となっていく流れの中で、足りない部分の議論は続けていかねばなりません。
●国益をかなぐり捨ててまで「アメリカ第一主義」を貫く岸田外交の不思議 3/8
インドでのG20を欠席し、その直後のクアッドには参加した林外相。国会で批判された岸田政権の選択はアジア各国でも不思議がられ、とりわけ中国の外交関係者たちは日本への不信感を強めているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、岸田外交は国益を無視して、中国の嫌がることをアメリカの代理でやっていると批判。政権交代によって中国との関係改善に動いたオーストラリアとは対象的で、岸田-バイデンラインが世界の不安定化を加速していると警告し、安倍-トランプ時代を懐かしむ声が出るのも無理はないと分析しています。
G20で見えた各国の自国第一主義の裏側で、岸田外交だけが「アメリカ第一主義」の不思議
おそらく昨秋くらいからの現象だ。中国の外交関係者たちの間で「安倍総理の時代」を懐かしむ声が広がったのは。外交の安倍と言われるほどの実績があったと筆者は思えないのだが、中国側の評価は案外高い。少なくとも岸田外交と比べれば「はるかに良かった」との評価らしい。
それは中国にとって「御しやすい交渉相手だった」という意味ではない。むしろ激しい火花を散らした難敵である。しかし、プロとして勘所をつかんで対峙する安倍と、基本スペックを備えていない岸田とでは、安定度が違ってくる。また国益に対する強いこだわりのあった安倍とは違い、岸田は何をしたいのかわからないというのが中国の印象のようだ。
より具体的に言えば、自国の利益がいかに傷つこうが、危険度を増そうが、徹底して中国の嫌がることをアメリカの代理としてやっていると、中国の目には映るのだ。直近では、G20(主要20カ国)外相会合(=G20)だ。G20には欠席したのに、クアッド(日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国の枠組み)の外相会合には駆け付けた林芳正外相の行動が典型的だ。
そもそもG20への不参加について、国内の政治日程を優先させたことを不思議がる報道がアジアで目に付いた。それでいて「中国を包囲する枠組み」にだけ参加しようというのだから、意図を疑問視する声が聞こえるのも当然だろう。
G20では、新興国や発展途上国など「グローバルサウス」との連携の重要性が共有されたのだが、それは日本の未来の利益にとっても重要なテーマだったはずだ。グローバルサウスとの接点という意味では、貴重な機会であったG20を放り出し、中国をけん制するが明白なクアッドだけに出席した林は、日本にどんな大きなメリットを持ち帰ってきたのだろうか。
クアッドによって日本の安全保障環境を強化することが喫緊の課題とは思えない。それ以前に、インドやオーストラリアが有事の際、遠く日本まで援軍を差し向けてくれるとは考えにくいのだ。
しかもクアッドの強化は中国を刺激し、逆に習近平政権の軍事部門への投資拡大を促すことになる可能性が高いのだ。本来、経済発展を強く熱望する中国国民は経済分野へ予算を振り向けることを求めるが、これだけ包囲網が強まれば、政権が国防予算を積み増すことにも理解を示すだろう。そうなれば皮肉にも日本が中国の軍拡を裏から支援することになりかねないのだ。
安倍時代にも中国包囲網形成の動きは活発だった。しかし、その一方で二階俊博幹事長に親書を持たせて訪中させたり、日中韓の枠組みに取り組むなど、多面的であった。日本とアジアの利益に立脚した動きもあった。危機の高まりをきちんと管理しようとする意志も示していた。
これはトランプ外交にもあてはまることだが、ドナルド・トランプ大統領の言動は過激でも、危機を激化させることについて極めて慎重であった。ジョー・バイデン大統領は平和や安定を頻繁に口にしながらも、実際の行動はむしろ対立を煽ることに熱心で、危機管理は後回しにされている。
ロシアのウクライナ侵攻後に、「トランプが大統領であったらロシアのウクライナ侵攻が起きなかった」との見立てが巷にあふれたが、一考に値する見解だ。2020年の大統領選挙では、「中国がバイデン大統領の誕生を熱望している」との観測があった。しかし、その見立てには何の根拠もなかったようである。
事実、岸田・バイデンは日中や米中関係に限らず世界の不安定化を加速している。中国が安倍、トランプ時代を懐かしむのも無理のないところだ。
G20とクアッドに話を戻せば、日本がクアッドに肩入れする反面、インドとオーストラリアは、かえって距離を置いているようにも見えたのが、今度のG20の特徴であった。
オーストラリアはG20において中国の外交を統括する王毅中国共産党中央政治局委員と会談を行っている。双方は、中豪貿易関係をコロナ前の状態に戻そうと努めていることを世界に印象付けた。モリソン政権時代とは一線を画した外交だ。
G20での外相会談を報じたオーストラリアのテレビ局は、これを「関係改善の象徴」と報じたほどだ。そうであればクアッドに対するオーストラリアの態度にも変化が訪れたと考えるべきだろう。モリソン時代にはアメリカよりも積極的に中国を攻撃していたことを考えれば、隔世の感と言わざるを得ない。
積極性を欠いたのはオーストラリアだけではない。インドもまた同じである──
●高市氏「安倍氏と電話で話したことはない」 参院予算委 3/8
高市早苗経済安全保障担当相は8日の参院予算委員会で、放送法の解釈に関する総務省の行政文書を巡り、「放送法の解釈について安倍晋三元首相と電話で話したことはない」と述べた。
●放送法文書、事実なら責任を取ると高市氏 3/8
高市経済安全保障担当相は参院予算委で、放送法の「政治的公平」に関する総務省の行政文書を巡り「事実であれば私が責任を取る。しかし事実ではない」と述べた。
●高市氏、総務省行政文書「正しい情報ではない」 3/8
高市早苗経済安全保障担当相は8日の参院予算委員会で、放送法の「政治的公平」の解釈に関する総務省の行政文書の内容について「私自身が申し上げたものではなく、正しい情報ではない」と否定した。
●元補佐官の関与は今月知ったと高市氏 3/8
高市早苗経済安全保障担当相は8日の参院予算委員会で、礒崎陽輔元首相補佐官が放送行政に関心を持っていたと知ったのは「今年3月になってからだ」と述べた。
●放送法文書、事実なら議員辞職 高市氏「元補佐官動向知らず」 3/8
高市早苗経済安全保障担当相(元総務相)は8日の参院予算委員会で、放送法の政治的公平性の解釈を巡る総務省の内部文書の自身に関する記述が事実であれば、議員辞職する意向を示した。安倍政権下で総務省とやりとりしていた礒崎陽輔元首相補佐官の動向については、今月に初めて知ったと述べた。
高市氏は3日の参院予算委で内部文書について「全く捏造(ねつぞう)」と述べた。8日の質疑では立憲民主党の小西洋之氏が「捏造との発言が虚偽であることを認め、議員辞職を求める」とただしたのに対し、高市氏は「少し強い言葉を使ったかもしれないが、事実であれば責任を取る」と言明した。
また礒崎元首相補佐官の動向について、高市氏は「放送行政に興味をお持ちだと知ったのは、今年の3月になってからだ」と説明した。
●高市氏、議員辞職を否定 総務省文書「正しくない」 3/8
高市早苗経済安全保障担当相は8日の参院本会議で、放送法の「政治的公平」に関する総務省の行政文書を巡り「捏造された行政文書によって閣僚や議員を辞職すべきだとは考えていない」と述べた。文書の内容については「私に確認が取られていないものであり、発言したことのない記述がなされているなど正しい情報ではない」と指摘した。野党は政権側が法解釈を事実上変更させ、番組に圧力をかける狙いがあったとみて追及した。
高市氏は、文書で自身の発言とされる記載などは「捏造だ」と反論。捏造でなかった場合には、閣僚辞任や議員辞職を明言していた。
松本剛明総務相は参院本会議で、2016年の放送法を巡る政府見解に関し「従来の解釈を変更したものとは考えておらず、放送行政を変えたとも認識していない。放送関係者にもご理解を頂いている」と強調。文書は、17年の行政文書管理ガイドライン改正前に作られたものだとして「記載内容が正確であることを前提に議論するのは難しい面もある」と語った。  
●放送法めぐる文書 「ねつ造」めぐり応酬 参院予算委  3/8
放送法の解釈に関する総務省の文書をめぐり、高市経済安保相は、自身の記述のある部分は「ねつ造」だと主張している。
高市大臣は、国会で野党の追及を受け、「事実であれば責任を取るが、事実ではない」と述べ、ねつ造の認識は変わらないことを強調した。
立憲民主党・小西洋之参院議員「高市大臣が早く『ねつ造』という発言が虚偽であることを認めて、この委員会での発言の通り大臣を辞職し、議員を辞職することを求めます」
高市経済安保相「ありもしないことをあったかのように作ることを、『ねつ造』というんじゃないでしょうか。わたしは『ねつ造』と少し強い言葉を使ったかもしれないが、これが事実であれば私は責任を取りますよ。でも、事実じゃないですから」
放送法の解釈に関する文書は、立憲民主党の小西参院議員が公表し、総務省が7日、行政文書と認めた。
高市大臣は、安倍政権で総務相だった当時に関する記述について、「放送法に関して法解釈などについて、安倍元首相と電話で話したことはない」と述べ、あらためてねつ造だと主張した。
小西議員が、一般論として、行政文書を作成する際にねつ造はあるのかと質問したのに対し、総務省の担当者は、「ねつ造のようなものは、行政文書の中にあるとは考えにくい」と説明した。
一方、松本総務相は、「作成者や作成経緯が不明な文書にある日付と作成日が符合しないものがあり、精査を進めている」としたうえで、「正確性が確保されているとは言い難い」と述べた。
●大臣と官僚「どちらかがうそ」 高市氏あらためて「捏造」  3/8
高市早苗経済安全保障担当相は8日の参院本会議で、総務相当時に「放送法の政治的公平の解釈変更を進めた」とする行政文書を巡り「捏造(ねつぞう)されたものだ」とあらためて断言した。立憲民主党など野党は「大臣か文書を作成した官僚のどちらかがうそをついている」と指摘し、追及を強めている。文書の存在を明らかにした同党の小西洋之氏は同日の参院予算委員会で「国家の崩壊」と批判した。
政府予算案の成立に向けこの日、13日に参院予算委集中審議を実施する日程が固まった。岸田文雄首相が一問一答形式で論戦に臨むが、「それまでに鎮火しなければ火だるまになるのは必至」(自民の閣僚経験者)の情勢だ。
政府関係者によると、文書の信憑性については「8年以上も前で『記載発言者に確認をとる』といった公文書新ガイドラインの適用外だった」(松本剛明総務相の答弁)として「現時点で正確性が確保されているとは言い難い」(同)との見解でかわす方向だった。
しかし、本会議で共産党の岩渕友氏から「大臣も議員も辞めよ」と迫られた高市氏は「閣僚や議員を辞職すべきだとは考えていない」と突っぱねるにあたって、「私が発言したことのない記述がなされている」と「捏造」を強調。この後の予算委でも小西氏からの追及に反論を重ね、文書にある話し合い自体の存在も「知らない」と否定した。

 

●避難計画「協議が不十分」=台湾有事で沖縄知事 3/9
沖縄県の玉城デニー知事は8日、台湾有事の際の住民の避難計画に関して「国と十分な協議ができていない」と指摘した。「国の責任と役割を明確にしてもらう必要がある」とも述べ、日本政府に対応を求めた。訪問先のワシントンで記者団に語った。
台湾有事を巡っては、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が「2027年までに台湾に侵攻する準備を整えるよう、中国の習近平国家主席が人民解放軍に指示を出した」と語っており、緊張が高まっている。
玉城氏は特に避難計画に関わる予算について、「どれくらいの規模で沖縄県が使えるのか、市町村が使えるのかの細かい点を協議できてない」と明らかにした。有事が起きる前に住民を避難させるため、民間の交通事業者と連携していく考えも示した。 
●李克強総理さようなら:全人代政府報告を聴いて 3/9
5日、既に退任が決まっている李克強総理が最後の政府活動報告を行った。報告内容に目新しいものは無かったが、李克強総理の扱いがあまりに「過去の人」すぎて、ちょっとショックだった。
李克強総理、あからさまな「過去の人」扱い
全人代の報告は、前段で過去1年の政府の仕事を振り返り、後段で今年1年の目標を打ち出す習わしだ。過去の例では、前段の分量が全体の1/4、後段の今年の目標が3/4くらいの配分だったが、昨5日の報告は過去5年間の回顧に8割近くを当て、今年の目標については2割ちょっと、かいつまんで紹介する程度だったのだ。
「今月を最後に退任する人は、自分の業績を振り返れば良いのであって、 今後の施政方針を詳しく説明するのは適当ではない」ということだろうか。しかし、10年前に退任した温家宝総理は、任期最後の報告で、例年どおり今後1年の目標に3/4を当てた報告をしていた。
李総理本人の意向でスタイルが変わったのか、上や周りの意向なのかは分からないが、李総理が早々と「過去の人」になってしまったようで、寂しい印象を遺した。
経済面のポイント
経済については、昨年12月に開催された中央経済工作会議の発表内容とほぼ同じだったが、内容はずっと簡略化された。経済工作会議が触れない国防、外交、農業などが入っているが、これも例年の報告に比べると簡単だった。
12月の経済工作会議は数字が入っていなかったが、5日の報告には幾つか数字が入っていたので、去年と対比してご紹介すると、以下のとおり。
• 長率の目標:5%前後。去年の目標5.5%より低いが、去年の実績3.0%は上回っている
• 用増加の目標は1200万人で前年より100万人上乗せ
• 業率5.5%前後:前年と変わらず
• 費者物価上昇率3%前後:前年と変わらず
• 政赤字:3.0%、前年のGDP比2.8%より増やした
• (インフラ建設用)専項地方債発行枠:3.8兆元、前年より1500億元上乗せ
成長率5%達成は達成できるか? 目標達成に向けて心強い材料が二つある。
一つは、去年の経済が大きく落ち込んだので、前年比で測る成長率は高めに出ること(←見かけの話)。もう一つは、昨年暮れには「今年の1〜3月期はコロナ感染の急拡大で景気が落ち込むことが避けられない」と覚悟していたが、思ったよりも軽く済んで、1月から経済の回復が始まっていることだ。
ただ、12月の経済工作会議でも感じたことだが、安定成長や雇用や物価の安定を最重点にすると謳う割には、具体策の踏み込みが足りない。
例えば、去年は景気下支えのために、大がかりな減税を実施した。日本の消費税に相当する増値税だけでも、円換算で約52兆円分の還付を行った。ところが、5日の報告は「現行の減税措置については、延長すべきものは延長し、改善すべきものは改善する」としか言っていない。
財政政策については12月中央経済工作会議でも「必要な財政支出の強度を保持する」と曖昧な物言いだった。また、李克強総理報告の後に配付された23年度予算案の説明を見ても、今年この減税を維持するのか、どのように修正するのかは触れられていない。
全体として、財政政策については、説明不足、不透明感が否めない。また、「国民の収入を引き上げて消費の回復と拡大を図る」と言うが、具体策が乏しい。
「退任間近の李克強総理の口からは、この程度に説明してもらえればじゅうぶん」という判断なのかも知れないが、世界中が注目する中国経済の見通しなのだから、もっと踏み込んだ説明が聴きたかった。
改革開放は再起動されるのか?
なお、5日の報告は12月の経済工作会議でも発表されたとおり、「外資誘致やサービス業開放にさらに力を入れる、CPTPPなどハイレベルな通商協定の加盟を積極的に進める」など、改革開放政策を再加速するかのような表現が見られる。
しかし、路線の転換と言えるほどの変化が起きる見込みはなさそうだ。改革開放路線のエッセンスは市場メカニズムの尊重・重視だと言って良いが、「全てを習近平主席の指導と共産党の統制の下に置くべき」という習主席の基本哲学は何も変わっていないどころか、昨年の党大会以降さらに強化された印象で、これでは矛盾衝突が避けられない気がする。
地方財政はこのままで大丈夫なのか
なお、地方財政の行く末については、12月中央経済工作会議で「中央から地方への移転支出(※日本の地方交付税に類似)にさらに力を入れる」とされていたが、李克強総理報告の後に配付された23年度予算案では1兆62億元、前年予算より2650億元の積み増しだった。しかし、こんな小手先では「焼け石に水」ではないのか。
最近IMFがした推計によれば、中国地方政府の債務残高(※隠れ債務を含む)は、2016年には36兆元だったのが、5年後の昨22年には92兆元と、ほぼ3倍増、さらに4年後の2026年には140兆元(円換算すると2800兆円)と、現状からさらに5割増える見通しだ。これでは地方債務だけでGDPの200%に近付くことになり、何だか1990年代の日本の財政赤字急増を彷彿とさせる。
一方、中央財政は債務残高が日本の1/10の20%前後と抜群に健全だが、明らかに地方に皺寄せが行きすぎている。中央と地方の財源や負担の調整を急がないと、経済や国民生活を支える地方財政に大きな支障が出かねないが、これは言うは易くても、実行はたいへんな難事業だ。
いまの3期目習近平政権の常務委員は、総理に就任予定の李強からして中央・国務院の経験が無い。 李克強ら2期目の幹部を「過去の人」にしてお引き取りいただくのはけっこうだが、後を継ぐ新幹部たちは待ち受ける難題をほんとうにこなせるのだろうか・・・。
●マネーストックM3、2月は1565兆円で前月下回る 原材料高が圧迫 3/9
日銀が9日に発表した2月のマネーストック速報によると、M3の平均残高は前年比2.2%増の1565兆1000億円となった。残高は2003年4月以降で最高だった前月の1569兆7000億円は下回ったが、引き続き高水準で推移している。
M3の平残が前月を下回るのは昨年10月以来。原材料費など海外向けの支出増や、利回りの高い投資商品への一部資金シフトが減少の一因になったとみられる。
内訳は、預金通貨が前年比4.6%増の926兆1000億円で前月の927兆9000億円を下回った。現金通貨は2.3%増の115兆9000億円。CDは10.5%減の30兆7000億円で、17年2月以来の減少率。
M2は2.6%増の1209兆1000億円で、こちらも残高は前月を下回った。広義流動性は3.9%増の2085兆7000億円。広義流動性のうち、外債は21.8%増の36兆3000億円、国債は6.2%増の23兆5000億円だった。
●パウエル議長「利上げペース上げる準備」、再びビッグステップ示唆 3/9
米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長がタカ派的な発言をし、再び「ビッグステップ」(0.5%の利上げ)に乗り出す可能性を強く示唆したことを受け、世界の金融市場がパニックに陥った。ニューヨーク株式市場の3大指数が一斉に急落したのに続き、米国の長短期金利差の逆転幅が42年ぶりに高最大に広がった。総合株価指数(コスピ)も1%以上下落し、対ドルウォン相場は1320ウォン台に急騰(ウォン高ドル安)した。
7日(現地時間)、米上院銀行委員会の公聴会に出席したパウエル議長は、「最近の米経済指標は予想より強く、これはFRBが予想した最終金利水準より高くなる可能性が高いということを示唆する」とし、「もし経済指標全体がより速く緊縮する必要があると見られるならば、我々は利上げペースをさらに上げる準備ができている」と話した。エネルギーと食品、住居費を除いた「コアサービス価格」に対して「ディスインフレ(物価上昇率下落)が全く見えない」と話した。
今回のパウエル議長の発言で、2月のベビーステップ(0.25%の利上げ)で緊縮ペースを緩めてきたFRBが、近く利上げにブレーキをかけるだろうという市場の期待は崩れた。むしろFRBが21日と22日に予定された連邦公開市場委員会(FOMC)で「ビッグステップ」で緊縮の手綱を引き締めるだろうと懸念する見方が強まった。米国の急激な利上げは、グローバル景気の萎縮につながる可能性が高い。
この日、FRBの金利に敏感な債券市場では、10年物と2年物の米国債金利の逆転幅が1ポイントまで広がり、景気低迷のシグナルが強まった。ニューヨーク株式市場が1%以上下落した影響で、同日のコスピは前取引日より1.28%(31.44ポイント)下がった2431.91で取引を終えた。投資心理が萎縮した外国人(マイナス1620億ウォン)と機関(マイナス8189億ウォン)が1兆ウォン近く売り越し、指数を引き下げた。ウォン相場は前日より22.0ウォン安ドル高の1ドル=1321.4ウォンで取引を終えた。
●バイデン氏の24年度予算案、育児教育予算を大幅拡大 3/9
バイデン米大統領が9日に公表する2024年度の予算教書には、育児教育関連の連邦予算を数十億ドル拡大することや、国内400万人の4歳児全てに就学前教育を無償提供することが盛り込まれた。ホワイトハウスが8日に発表した。
予算教書には政権側が以前提出したのの、議会との交渉がまとまらなかったものも含まれている。野党共和党が議会下院で多数派を握る中、今回も実現への道のりは厳しい。
ホワイトハウスは、手頃な価格で保育サービスを受けられないことが女性の労働参加の阻害要因になっていると指摘。ボストン・コンサルティングの予測に言及し、保育所不足に対処しなければ30年以降米国の経済生産が年間2900億ドル減少する可能性があると説明している。
政府関係者によると、バイデン氏の予算案には児童税額控除の拡大など、働く世帯を支援する他の措置も盛り込まれる見通し。
既存の早期育児教育プログラムの予算は23年度の水準から10.5%増やした221億ドルを充てる。
質の高い就学前教育を無償提供する連邦政府と州政府のパートナーシップに資金を拠出し、対象を国内全ての4歳児に拡大する。それに伴い、現在就学前教育プログラムに参加する推定160万人の子どもの数が大幅に増加する。
●「安倍官邸の圧力」鮮明 野党、解釈撤回求め攻勢―放送法文書 3/9
放送法の政治的公平性を巡る総務省文書は、安倍政権時代の首相官邸が解釈見直しを求めて圧力を強めていった経過を鮮明に浮かび上がらせた。野党は8日、攻勢を本格化。岸田政権は「過去の話」として打撃を回避しようとしている。
改憲「反対ばかりは困る」
「放送法の私物化。(新たな)解釈は撤回すべきだ」。立憲民主党の小西洋之氏は8日の参院予算委員会で追及を強めた。松野博一官房長官は「精査中」とかわした。
問題となったのは番組編集の政治的公平性を政府がどう判断するかだ。総務省は長年「一つの番組ではなく番組全体を見て判断する」と解釈してきた。2015年5月、総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が国会答弁で「一つの番組のみでも極端な場合は公平性を確保しているとは認められない」との解釈を加えた。
文書によると、背景にあったのが安倍官邸の意向。14年11月、礒崎陽輔首相補佐官(当時、以下同)が総務省に「一つの番組でもおかしい場合があるのではないか」と解釈見直しを指示した。
同省が難色を示すと、礒崎氏は「抵抗しても何のためにもならない」と発言。安倍政権が目指した憲法改正に触れ「賛成、反対ばかりの放送でも困る」と主張した。
言論弾圧
総務省は15年2月、高市総務相に状況を報告。高市氏は「官邸には『準備をしておきます』と伝えてください」と語ったという。
当時、集団的自衛権を限定容認する安全保障関連法制を巡り世論の賛否が割れていた。総務省出身の山田真貴子首相秘書官は、解釈追加に「安保法制を議論する前に民放にジャブを入れる趣旨だろうが、視野の狭い話。言論弾圧ではないか」と懸念を示した。「礒崎氏は官邸内で影響力はない」と慎重な対応を求めたとされる。
総務省の局長が菅義偉官房長官に話を通すよう礒崎氏に促すと、同氏は「局長ごときが言う話ではない。俺と総理が2人で決める話」「首が飛ぶぞ」と憤った。
安倍晋三首相が報告を受けたのは3月。山田氏らが「官邸と報道機関の関係に影響が及ぶ」と主張したのに対し、礒崎氏は「(TBSの)サンデーモーニングはおかしい」と反論。安倍氏は「番組にはおかしいものもあり、現状は正すべき」と判断したという。
高市氏は15年5月、官邸と総務省の調整を踏まえた新解釈を国会で答弁したのに続き、16年2月には違反を繰り返した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。
捏造
今国会の焦点に浮上した総務省文書だが、岸田政権は「内容が事実かどうか分からない」との論法で乗り切る構え。高市氏は8日の参院予算委で、少なくとも自身が登場する文書は「捏造(ねつぞう)だ」と明言。首相周辺は「安倍政権の話だ」と語った。
だが、「一つの番組を理由に停波できる解釈」(立民関係者)は現政権も継承する。立民の安住淳国対委員長は8日の党会合で、「報道の自由に関わる重大な問題だ」と徹底追及する方針を表明。この後、日本維新の会の遠藤敬国対委員長と会い、高市氏ら当時の関係者に説明責任を果たすよう求めていくことを確認した。
●岸田政権、「原発活用」にかじ 新旧閣僚に聞く―東電福島事故12年 3/9
岸田文雄政権は、原発の建て替えや運転期間延長を盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を2月に閣議決定し、2011年の東京電力福島第1原発事故からの原発政策を大きく転換した。原子力の「最大限活用」へかじを切った判断の是非について、GX基本方針の取りまとめを主導した西村康稔経済産業相と、旧民主党政権で経産相として「30年代の原発稼働ゼロ」戦略をまとめた立憲民主党の枝野幸男前代表に話を聞いた。
安定供給・脱炭素へ原発推進=処理水放出「理解得たい」―西村経産相
――東京電力福島第1原発事故から12年になるが、福島復興は道半ばだ。
事故の反省と教訓は一時たりとも忘れずに取り組む。(今国会提出の)原子力基本法改正案には「安全神話」に陥らないと初めて明記した。福島復興には廃炉を着実に進めることが大前提だ。廃炉作業には、第1原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出は避けて通れない。地元漁業者との車座集会では厳しい声もあったが、しっかりと受け止め、政府として責任を持ち理解を得られるようにしたい。
――原子力の「最大限活用」にかじを切った。
世界的にエネルギー危機が進行する中、エネルギーの安定供給と脱炭素化、経済成長の三つの課題に取り組む。省エネを進め、再生可能エネルギー導入を加速する。その上で原発の再稼働や次世代型原発の開発、そして廃炉が決まった原発の建て替えを進めたい。
――原発の「60年超」運転を認める法案も提出した。
安全審査を担う原子力規制委員会は運転期間について「利用政策の問題」との見解を示しており、われわれは利用側の立場から議論をした。米国では80年の運転が認められた原発があり、英仏には上限の定めはない。規制委の安全審査などの要因で止まっている期間は、(その分を追加の)運転期間として認めてはどうかというのが利用側の判断だ。
ただ、運転開始から30年以降は規制委が10年以内ごとに審査・認可する。劣化が進んでいれば40年の運転すらできない。安全基準はむしろ厳しくなると考えている。
――原発の建て替えはどう進めるのか。
福島第1、第2原発を含めて24基で廃炉が決定しているが、全てを次世代型原発に建て替えるのではない。地元の理解が得られるところで、いくつかできるかどうかだ。(炉心溶融時に核燃料を受け止めて冷やす)コアキャッチャーなど安全性の高い装置を組み込んだ「革新軽水炉」は2020年代後半から30年代の実現が期待される。
――高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分問題は。
これまで十分に取り組んでこなかった大きな宿題だ。処分地選定の第1段階に当たる文献調査の実施は、北海道の寿都町と神恵内村にとどまる。先行するフィンランドなどは処分地を10程度の地域から絞り込んで決めた。国と原子力発電環境整備機構(NUMO)、電力会社で100以上の自治体を訪問し、候補地の掘り起こしに努める。問題意識を持っている首長との協議の場も設けたい。
原発回帰「安全神話そのもの」=エネルギー危機に悪乗り―立憲・枝野氏
――岸田政権の「原発回帰」方針の評価は。
エネルギー価格の高騰に悪乗りしている。電力は供給されないと困るので適切な情報提供が必要だが、イメージだけで国民を意図的にミスリードしている。今回の方針転換で足元の電気料金が下がるという因果関係は全くない。原子力に頼らずに、中長期的には再生可能エネルギー導入で脱炭素化は可能だという世界の流れに逆らっている。
――政府は電力逼迫(ひっぱく)を訴えている。
東京電力福島第1原発事故後、民主党政権で私が経済産業相だった2011年冬や12年夏の厳しい状況と比べると逼迫度合いが全然違う。あの時は、停止していた関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を決断せざるを得なかったが、今の政府は実態以上に不安をあおっている。
――原発の「60年超」運転を認める政府方針は。
原子炉内は実際に見られないし、触れられないし、近づけない。見てチェックできた中央自動車道笹子トンネルでさえ、経年劣化で12年に天井板崩落事故を起こした。原子炉は安全サイドに最大限寄せないといけない。根拠もなく安全基準を緩めるのはあり得ない。現行ルールの「原則40年、最長60年」でも危ないのだから、できるだけ早く運転を止めるべきだ。もう世界最高水準の安全規制などと言わないでもらいたい。
――原発の建て替え推進は。
(原発事故後の安全対策などで)原発の建設コストは50年前と比較にならないほど高くなっている。高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分コストも分かっていない。政府は「革新軽水炉」を導入するというが、原発は水と外部電力が止まったら終わりだ。何が起きても原子炉を冷やし続けることができるのか。一番のリスクは北朝鮮のテロ攻撃だ。科学的根拠もなく安全基準を緩め、事故リスクを抱えながら新しい原発を建てるなんて安全神話そのものだ。
――「脱原発」をどう進めるべきか。
原発推進は、大規模集約型の発電所を保有する大手電力会社を守ることにつながる。小規模分散型の再エネの拡大を進めるべきだ。人口20万人くらいで、住宅の一軒一軒の屋根が太陽光発電となり、それが一つの完結型のネットワークとなって全国につなげればいい。電力大手におもねることで再エネ導入が遅れ、失われた10年となった。  
●医療費増大、「税金が重すぎる」と嘆く現役世代…医療保険制度の行く末 3/9
世界に誇るべき日本の「国民皆保険制度」だが…
わが国の医療については、国民の誰もが加入している医療保険によってかかる費用の軽減がなされている。
もしこの制度がなかったとするならば、誰もが安心して診療を受けられなくなるだろう。病院に行って診察してもらうのに多額の費用を支払わねばならなくなる。これらのことに対応している日本の国民皆保険制度というものは世界に誇っていい制度なのである。
それでは国民1人あたりの医療費はどれほどの額になるのだろう。まず75歳以上の1人あたりの平均は、2017年度というやや古いデータであるが92万2000円と驚くほど高額である。75歳以上の国民1人あたりに92万2000円かかっていることになる。
ちなみに、65〜74歳までには73万8000円、45〜64歳までは28万2000円、15〜44歳が12万3000円、0〜14歳が16万3000円となる(厚生労働省「統計情報・白書」による)。総額で43兆円を超えるのだ。日本の国家予算が100兆円を少し超えるくらいであるから、4割を超えるのである。
医療費の増大は国民に重税感をもたらしている。43兆円を超える額を国民が負担しているのである。
それらは公的医療保険として大きく分けて国民健康保険税と社会保険の中の健康保険料の2つにより徴収される。なお、規模は小さくなるが船員保険、共済組合なども公的医療保険に含まれる。
特にここ30年、40年の間で問題になっているのは少子高齢化がますます深刻化して高齢者の医療費が増大し、税金を納める現役世代、要するに実際に働いている人たちで支えきれなくなるのではないかという危惧が現実のものとなってきているのだ。若い方々が沢山子供を産んでくれれば問題ないのであろうが、出生率は下がる一方である。
2020年の出生数は前年より2万人以上減少し84万832人となり1899年の調査開始以来最も少なくなってしまった。子供にお金がかかるようになった今、若いお父さん、お母さんが出産を控えてしまうのであろう。
高齢者を支えなければならない若者が減る一方で、医療保険制度の行く末は不透明さを増している。
それでは、国民皆保険制度を今後も維持していくにはどうしたらいいのか。
「国民皆保険制度を今後も維持していく」ための策
一つは子供を産み、育てやすい世の中に変えていくことであるが、今までも国は政策をいろいろと行ってきたが改善が見られず子供の数は減る一方だ。ある野党の政治家が子供が生まれたら1人につき1000万円支給するべきだと提言したが、そのくらいのことをしていかなければ改善の方向にいかないのではないかとさえ思ってしまう。
そういうことで、出生率を上げる政策は今後も常に取っていくべきだ。国の浮沈にかかわってくる。
出生率を上げて若者を増加させるという時間を要するプロセスよりも手っ取り早く、働く若者を増やしていくとしたら、外国人を労働者として雇い入れることである。
2019年4月1日施行の改正出入国管理法により、外国人の労働者雇用に対する規制が大幅に緩和された。これにより令和2年10月時点の外国人労働者は172.4万人ということである(厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめより)。
労働者については、治安維持のため試験を行って人物のチェックを行い、特定の技術を有する者に限ると規制を行っている。
また、特定技能1号と2号に分けて、1号は最大5年の滞在、2号については決められた期間を更新して期限を設けないとしている。172万人というのは増加が著しいが、私はその10倍でもいいから外国人の労働者を増やして医療保険制度に組み込んでいくべきだと思っている。
試験を厳しく行い治安を乱すような人物は入国させずに若者の労働人口を増やし健康保険制度を維持していくのである。これは年金制度についても同様である。
ただ、雇い入れる会社は必ず医療保険をその労働者に掛けねばならないという法律を作らねばならない。それらを行った上での制度である。
また日本の医療制度は大変優秀であるので、発展途上の新興国に日本の医療制度に加わってもらうという方法もあるだろう。そこには若者も大勢いるに違いない。
新興国の国民、あるいは特定の大きな会社に日本の健康保険制度に加入してもらう。その代わりに先進の医療を受けることができるとすれば新興国にとっても利点があるのではないか。
また、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定など経済的な国際連携が盛んに行われているが、医療制度のTPP版などもあり得るのではないか。例えば、日本の保険制度のもとに各国が一つになる。そうすれば若者がさらに少なくなっていっても日本は医療について心配することがなくなる。
夢物語のように感じるかもしれないが、考えてみる価値はある。発想の転換は必要である。
●中国全人代 国防費増に懸念強まる 3/9
「ゼロコロナ」政策や米国との対立で傷んだ経済を、早急に立て直したいようだ。
中国の国会とされる第14期全国人民代表大会(全人代)が、今週から開かれている。
政府活動報告で李克強首相は2023年の国内総生産(GDP)の成長率目標を「5%前後」に設定する、と表明した。
昨年は「5・5%前後」としていたが、実際は3%に低迷した。目標を0・5ポイント引き下げ、達成しやすくする狙いとみられる。
財政赤字の対GDP比率を、昨年より0・2ポイント増の3%に引き上げた。この積極財政で、内需拡大と雇用改善を図るのだろう。
半導体分野では、米国が対中輸出を規制したことを受けて、政府中心に先端技術の開発に取り組む方針を打ち出した。
13日までの会期中には、習近平国家主席の3選が確定する見通しである。異例の長期政権を正当化できるような成果を求めている、といえる。
見逃してならないのは、23年予算案に前年比7・2%増となる約30兆5千億円に上る国防費を計上したことである。
13年からの10年間で、ほぼ倍に増えた。日本の防衛費(23年度予算案)の約4・5倍にも及ぶ。台湾が米国との連携を深める情勢を念頭に、軍備拡張を継続する姿勢を鮮明にしている。
中国の予算案は、訓練の内容や装備の調達予定など具体的な取り組みには一切触れていない。
日本の防衛省関係者によると、中国は台湾有事を想定し、米国の艦船などが近海に入ってこないように、日本も射程内に収める中距離ミサイルの配備を加速させているとされる。
これでは、日本のみならず、周辺国の懸念が、強まる一方となろう。ウクライナに侵攻するロシアへの支援が、どうなるのかも気掛かりだ。
政府活動報告の中には、祖国の平和的統一、中台の交流促進などの文言が掲げられている。
しかしこれは、来年に予定される台湾の総統選をにらみ、友好的なムードを醸成するため、とも指摘されている。
就任したばかりの秦剛外相は7日の会見で、日米同盟の強化に警戒感を示し、米国による中国気球の撃墜には「武力の乱用」と反発してみせた。
ならば、率先して国防費の膨張に歯止めをかけてはどうか。傷んだ経済にも効き目がありそうだ。
●朝日新聞社説にみる安保議論に立ちはだかる前時代の亡霊たち 3/9
先日拙稿で、ロシアによるウクライナ侵略1年で、日本の安全保障議論は現実的なものに変わったと書きました。しかし、まだまだ前時代の亡霊たちは手を替え品を替え、執拗に立ちはだかります。
例えば、先月22日付の朝日新聞社説。見出しは、「防衛費と国債 戦後の不文律捨てる危うさ」でした。
審議が進む2023年度予算案について、《戦後初めて、防衛費の調達を目的にする建設国債の発行を盛り込んだ予算案であり、このまま認めれば、「借金で防衛費をまかなわない」という不文律が破られる》とし、《熟議もないままに、憲法の平和主義を支える重要な規律を破ることは許されない》と批判しました。
そもそも、財政の話であるのに「憲法の平和主義を支える」とは飛躍し過ぎではないか? と思い読み進めると、現行憲法や財政法の制定当時に遡って論じています。
財政法4条「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」を引き合いに、《当時立法に深く関わった旧大蔵省の平井平治氏は、『財政法逐条解説』に「公債のないところに戦争はないと断言し得る。本条は憲法の戦争放棄の規定を裏書保証するものであるともいい得る」と記した》と解説します。
ただ、その後、1965年に特例公債が発行され、75年以降は毎年発行されているので、政府はこうした説明を否定し、あくまで健全財政のための条文であるとしています。
ところが、朝日社説は制定直後の解釈にこだわり、《辛うじて守られてきた不文律が破られれば、防衛費が青天井で膨張し、平和主義が骨抜きにならないか。周辺国との際限なき軍拡競争を起こさないか》と危惧します。
なぜ、自国の防衛費を増やすことが平和主義の骨抜きに直結し、即座に軍拡競争になるのでしょうか?
それは裏返せば、日本という国は防衛費を増やすと即座に周辺国に攻め入ることのできる強国だという認識なのでしょうか。大した自信じゃありませんか。かつて米ソ冷戦の時代、日本はアジアで唯一の大国でしたから、そうした夜郎自大な認識も説得力を持ち得たのかもしれません。
しかし、時代は変わりました。むしろ周辺国の中には、わが国を圧迫して余りある国があります。「際限なき軍拡競争」と言いますが、中国はこの30年で軍事費を39倍に、この50年で90倍に増やしました。指摘する相手は日本ではなく中国でしょう。
ねじれた夜郎自大な認識から抜け出し、現実的な議論をすべきです。仮に70年以上前の「不文律」にこだわるのであれば、必要な防衛力を備えずリスクの高い現状維持を目指すのか、大増税によって防衛費を賄うのかのどちらかのはず。
どちらも示さず批判だけするのは、まさに前時代的と言わざるを得ません。
●パウエルFRB議長が反対した米財務省が1兆ドルのプラチナコイン発行 3/9
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は8日の下院金融サービス委員会の公聴会で行った証言で、債務上限が引き上げられなかった場合に米国の債務不履行(デフォルト)を回避するために、財務省が1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行しFRBに預けるという案について、手品で「帽子からウサギが出てくる」ようなものとし、否定的な考えを鮮明にした(9日付ロイター)。
米議会は2021年12月に、政府の法定債務上限を約31兆4,000億ドルに引き上げた。それから2年が経過し、政府債務がこの上限にまで達した。イエレン財務長官は今年1月19日に議会下院のマッカーシー議長宛ての書簡で、政府債務が法定上限に到達したことを明らかにした。米議会予算局(CBO)は連邦政府債務の法定上限31兆4000億ドルを引き上げまたは停止しない限り、7〜9月に財務省の全ての支払い手段が枯渇することになると発表した。
米国債の発行根拠法は、合衆国憲法(第1条第8項)に基づいて連邦議会が定めた第二自由公債法。同法において国債残高に制限額を課して、その範囲内であれば自由に国債を発行し資金調達できる格好となっている。
債務上限が引き上げられなかった場合に米国の債務不履行(デフォルト)を回避するために、財務省が1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行したらどうかという案はいったいどこから出てきたのか。
実はこれは最近出てきたものではない。1996年に米議会で、財務省は任意の額面、大きさのプラチナコインを法定通貨として鋳造することができるという法律が可決され、本来これは記念貨幣発行を意識した動きだったようだ。
しかし、米国財務省が額面1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行することで公的債務上限を実質的に1兆ドル引き上げることが可能ではないかという解釈がなされ、これをノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン・プリンストン大学教授などが賛同したことで、実現可能ではないかという勘違いが横行してしまったのである。
過去にも政府債務上限問題が浮上するたびに、プラチナコインの発行案が出てきたのである。イエレン財務長官も以前、「FRBが受け入れることを前提にすべきではない」として、このプランを一蹴している。「真剣に検討すべきとは考えない。巧みなからくりに過ぎない」とし、「議会が国債発行によって埋めることを望まない赤字をカバーするために、FRBにお金の発行を求めるのと同じだ」とも語っていた。
日本でも以前に10万円金貨の発行時例もあり、巨額額面のプラチナコインの発行をすれば財政問題は解決するといった安易な発想が出てきたこともある。むろん、これは中央銀行による国債の直接引き受けと同様のリスクを伴うものでもあり、「帽子からウサギが出てくる」どころか、中央銀行が打ち出の小槌化ともいうべきものとなる。
債務上限が引き上げの議論が出てくるたびに、このような安易な、しかし非常に危険な発想が出てくることになり、それにFRB議長が答えるといったことが繰り返されているのである。
●少子化対策は固有財源で 来年度予算案で公聴会 参院 3/9
参院予算委員会は9日、2023年度予算案の採決の前提となる公聴会を開き、有識者から意見を聴取した。
昭和女子大の八代尚宏特命教授は、少子化対策の財源について「固有の財源が必要だ」と強調。介護保険のように社会全体で負担する仕組みの導入を求めた。予算案は月内に成立する見通し。
恵泉女学園大の大日向雅美学長は「子育てを社会全体で支えるとはどういうことか徹底した議論が必要だ」と指摘。PwCコンサルティングの片岡剛士チーフエコノミストは、自民党内で浮上している国債の「60年償還ルール」見直し論に関し、「(ルールにより)必要があっても歳出を増やせない事態に陥る」と述べ、見直しを支持した。 
●防衛費増額の財源“政府保有の株式売却は難しい” 3/9
防衛費増額のための財源を議論する自民党の特命委員会は、政府保有の株式を売却することで財源を生み出すことは難しいとの認識を確認しました。
自民党は歳出改革など増税以外で見込んでいる財源について検証を行っています。
9日の特命委員会では、国が保有する株式の現状や活用策を巡って議論しました。
政府は現在、約33兆円の株を保有していますが、企業や機関によっては政府による保有義務があるため、直ちに売却して防衛費の財源とすることは難しいとの認識が示されました。
また、出席者からは「株を保有する企業の価値を高めることで配当を増やせる」といった意見も出ました。
今後は国の借金である国債を一部借り換えながら返済する国債償還ルールを見直し、返済期間を延ばすことなど、税以外の財源確保策に向けて引き続き検討を行っていく方針です。

 

●「台湾有事切迫」論のウソ〜危機感を煽り大軍拡目論む岸田政権  3/10
「有事切迫」論の怪
高野さんは、日本でも喧伝(けんでん)されるようになった「台湾有事切迫」論(メモ)について、「中国に関して無知であり、予算欲しさに危機感をあおり立てているだけ」と批判した。
高野さんは、「台湾有事切迫」論の火付け役となった米インド太平洋軍のフィリップ=デービットソン司令官(当時)が退官後の今年1月に来日し、自民党の外交部会・国防部会などの合同会議で講演し、その前後にもさまざまなメディアのインタビューに応じ、以前と同様の見解を語っていることを指摘。
特に今年1月26日付『日本経済新聞』(朝刊)にデービットソン氏の見解として掲載された次のような記述を取り上げた。
「(デービットソン氏は)中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が3期目の任期満了を迎える2027年までに、中国が台湾に侵攻する可能性があるとの見方を示した」
「『決して武力行使の放棄を約束しない』とした習氏の発言からも、台湾統一への野心を強めていることが分かると指摘。台湾侵攻の可能性が現実味を帯び始めているとの懸念を示した」
高野氏はこの記事で取り上げられたデービットソン氏の見解について「あまりにも幼稚」と切り捨てた上で、次のように語った。
「中国や台湾の兵士だけでなく、何万人・何十万人と市民が死ぬかもしれない戦争を仕掛け、しかも米国や日本が介入するのが分かっていながら、『戦争をやらないと4選できない』との判断が、どこから出てくるのか。中国の内戦は正式には終結していない。仮に『台湾が独立を宣言する』ということになれば、武力をもってでも阻止するというのは、中国の国是のようなもの。習近平はその基本姿勢を述べているだけだ」
中国の変わらぬ姿勢
またロシアのウクライナ侵略開始以降、日本のマスコミの一部から「プーチンがウクライナに武力侵攻したのだから、習近平も台湾をやるだろう」といった類いの話が流れ始めたことについても言及。
 「なぜ紛争が起きて、どれが内戦で、どこからが侵略なのかという、初歩的な理解を欠いた言説だ。毎日のようにそうした情報がシャワーのように降り注ぎ、人々は洗脳されて『そうなのかな。共産党政権はやはり怖いよな』という話になっていく」と懸念を表した。
危機を煽る日本の輩
高野さんは、米国ではデービッドソン氏の「お騒がせ言説」に対し批判の声が上がり始めているが、日本ではまだ「乗り乗り」の状態だと指摘した。
デービットソン発言が報道されてすぐ、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理(いずれも当時)は「台湾有事は日本有事」との認識を確認し、たちまち政府・自民党の基調となったと高野さんは指摘する。これが現在の防衛費倍増路線につながったということだ。
また、ウクライナ危機を台湾危機に重ね合わせて危機感をあおり、「台湾有事は直ちに日本有事」などと騒ぎ立てているのが、自民党の佐藤正久氏(前外交部会長・参院議員)だという。あの「ヒゲの隊長」だ。
高野さんは、佐藤氏がその著書『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』(幻冬舎新書・2022年8月)の中で、「もし、私が習近平国家主席だったら、台湾を獲りに行く時に、同盟国の北朝鮮に動いてもらう」とともに、ロシアにも極東方面やウクライナの正面で動いてもらうことによって、「台湾への守りを薄くしておいて、スーッと獲ってしまう」と書いていることを指摘した。
その上で、「それは世界大戦ということ。中国の内政問題なのに、中国がどうしてそんなことをできるのか。こうした妄想に従って、今の防衛費大増額路線が進行している」と痛烈に批判。「仮に中国が台湾に侵攻したとしても、それはあくまでも『中国の内戦』だ。もし日本が介入すれば、現在のプーチンと同じ過ちを犯すことになる」と警鐘を鳴らした。
高野さんは最後に、次のように訴えた。
「『台湾有事は日本有事。だから防衛費倍増』という、うその連鎖を断ち切っていくことが必要だ。岸田首相は安倍元首相(故人)の背後霊に抱き付かれて、この路線から逃れられないでいる。だから、『台湾有事切迫』論を打ち破り、今の軍拡路線を打ち砕いていかなければならない」
●習氏、きょう中国国家主席3選 新指導部が本格始動へ 3/10
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は10日、全体会議を開く。習近平国家主席(69)の3選を代表の投票で決める。昨年の共産党大会で党総書記として異例の3期目続投を決めた習氏は政府要職を側近で固め、新指導部を本格始動させる構え。新型コロナウイルス対策で打撃を受けた経済の回復や対立する米国との関係安定化が喫緊の課題だ。
全人代は同日、中央軍事委員会主席や国家副主席、国会議長に当たる全人代常務委員長も選出。政府の機構改革案の採決を行う。首相や副首相、閣僚ら国務院(政府)の主要人事は11〜12日に決まる予定。
国家主席の任期は連続2期10年までとされていたが、2018年の憲法改正で任期規定が撤廃され、習氏の3選に道を開いた。
機構改革案にはデジタル分野の発展を推進する「国家データ局」の新設や科学技術省の機能強化が盛り込まれた。
●米 バイデン政権「予算教書」発表 400兆円余の財政赤字削減へ  3/10
アメリカのバイデン政権は新年度の「予算教書」を発表し、国防予算を増額する一方、高所得者層の税率の引き上げなどによって400兆円余りの財政赤字の削減を目指す方針を示しました。
バイデン政権は9日、ことし10月から始まる新たな会計年度の予算について政府の考え方を議会に示す「予算教書」を発表しました。
この中では中国に打ち勝つための重要な投資を行うとして中国への対抗姿勢を改めて鮮明にしています。
歳出の要求総額は6兆8830億ドル、日本円にして940兆円余りで前の年度から8%増加しました。
このうち国防費はウクライナへの支援などを含めて8864億ドル3.3%の増加となっています。
一方、▽高所得者層への税率引き上げや▽法人税率の引き上げなどを盛り込み今後10年間で合わせて3兆ドル、日本円にして400兆円余りの財政赤字の削減を目指すとしています。
ただ、野党・共和党が求める社会保障の給付削減は拒否する方針を打ち出しています。
アメリカ政府は借金できる金額が上限に達し、国債の債務不履行を避けるために臨時の措置で当面の資金を確保しています。
上限をさらに引き上げるためには下院で過半数を握る共和党の協力が不可欠で、今後、歳出削減などをめぐって与野党の駆け引きが激しさを増しそうです。
バイデン大統領「国民に負担かけることないようできること反映」
バイデン大統領は9日、東部ペンシルベニア州で演説し議会に提出する予算教書について「勤勉に働くアメリカ国民に負担をかけることがないよう私たちができることを反映させたものだ」と述べました。
そのうえで「就任した2021年以降の2年間で多くの進歩を遂げ、人々の暮らしがよくなり始めているがさらに前進しなければならない」と述べ、政策課題に取り組む考えを強調しました。
●広告塔は党首、野党PR合戦 食堂で政治談議、ネットで政策解説 3/10
野党各党は党首自らが「広告塔」となり、党勢拡大を目指した広報戦略に試行錯誤を重ねている。4月の統一地方選が迫り、年内の衆院解散・総選挙の可能性も取り沙汰される中、岸田文雄首相(自民党総裁)の一挙一動が連日ニュースに取り上げられるのと比べて野党の動きはかすみがち。アピール合戦の手応えはどうなのだろうか。
元コック、料理店主に
「粗塩持ってきて!(傷に)こすり込む用の粗塩!」。日本料理店の「大将」に扮(ふん)した日本維新の会の馬場伸幸代表(58)。客として訪れた維新議員が過去に県知事選で落選した経験を明かすと、こういじった。
2022年11月、維新は独自のネット動画「こちら赤坂 馬場食堂」を始めた。馬場氏が、維新議員と酒を飲みながらカウンター越しに対談。「わし、維新のファンやねん」などと大阪弁で政治談議に花を咲かせる。
同年8月、第3代の代表に就任した馬場氏は統一地方選で600議席獲得を目標に掲げ、進退を懸ける。課題は知名度向上だ。前身の政党を創設した橋下徹元大阪市長、前代表の松井一郎大阪市長と比べると全国的な認知度はまだ低い。
馬場氏は政界入り前、現在のロイヤルホールディングス(福岡市)が展開するレストラン「ロイヤルホスト」のコックとして働いていた。料理好きで庶民的な人柄を知ってもらうことが広報戦略の狙いだ。
「馬場食堂」では馬場氏の地元・堺市の名物料理という「草鍋」も提供。本人が調理したものの、食材は「お取り寄せ」とあけすけに語った。
維新幹部は馬場氏を「いい意味で『普通のおっさん』。地べたで生きてきた政治家であることを伝えたい」と話す。別の幹部は「何かして目立たないといけない」と意気込むが、政党支持率は伸び悩む。統一地方選後に向け、新たな企画も検討中だ。
目指すは「政界の池上彰」
政界屈指のネット発信力を自負するのが国民民主党の玉木雄一郎代表(53)。動画投稿サイトのユーチューブ「たまきチャンネル」の登録者数は約15万人。10万人を突破した投稿者に贈られる「銀の盾」を持つ本格的ユーチューバーだ。
チャンネル開設は18年7月。「これからはテキスト(文章)よりも動画での発信」と狙いを定めた。「話題の政治用語解説」と「街に出て国民の声に耳を傾けること」が番組の二本柱だ。
動画投稿は週2〜3回。最近は、政府の23年度予算案に反対した理由や、首相のウクライナ訪問の可能性を説明した。30秒から1分程度と、通常よりも短い「ショート動画」も多用する。
情報発信で重視するのは「分かりやすさ」。「(政権への)対決も提案も大切だが、その前提として『解説』がなければいけない」。周辺は「政界の池上彰を目指す」と語る。党関係者は「街頭演説の聴衆が増えた」と手応えを感じるが、40代以上の支持率低迷が悩みという。
硬派か軟派か
「批判を受けそうで…」。立憲民主党の泉健太代表(48)は自身の冠ネット番組「泉健太トークセッション」で、ツイッターでの「軟らかいネタ」発信を求められると、苦笑いで答えた。
番組は隔週で配信され、泉氏と司会者が国会での論戦テーマを深掘りする真面目な内容。防衛費増額を巡る首相と自身の国会論戦を振り返った配信では視聴者数が3000人に達した。
ツイッターも岸田政権の少子化対策を厳しく批判するなど硬派な投稿が中心だ。
一方、記者団とのやりとりは、駄じゃれも交えた発信が目立つ。首相の答弁姿勢を「からっきしだ」と酷評。政権の看板政策である新しい資本主義を、ふわふわした軽い食感のケーキを連想させる「シフォン主義」と表現。会見場に微妙な空気が流れることが多い。党関係者は「ギャグは泉氏が一人で考えている」と明かした。
国会での憲法改正議論に積極的な維新の馬場代表に対し、泉氏が競馬用語になぞらえて「(走りにくい)重馬場であってほしい」と注文を付けると、維新側の猛反発を浴びた。
立民中堅は「いまはリスクを恐れず、前に出て行く」と攻めの発信を求める。だが、泉氏本人は「重馬場」発言で懲りたのか、その後、駄じゃれの活用は控え気味だ。
記者会見でバトル
野党党首が開く定例記者会見は重要な情報発信の場だ。記者クラブに所属しないフリージャーナリストなども幅広く参加できることが多く、与党幹部の会見に比べて門戸が広い。時に激しい発言が飛び出すこともある。
共産党で党首公選制を訴えた元党職員の除名処分を巡り、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞が批判的な社説を掲載すると、志位和夫委員長(68)は会見で「党運営に対する乱暴な攻撃だ」と強く反論した。統一地方選を前に、地方議員などからは党のイメージダウンを懸念する声が漏れた。
NHK党の党首だった立花孝志氏も週1回、定例会見を開いていた。党首辞任と「政治家女子48党」への党名変更を発表した8日の会見が最後となった。
●続く沖縄への交付金減 公営住宅や下水道…遅れるインフラ整備 3/10
沖縄県議会予算特別委員会(比嘉瑞己委員長)は9日、沖縄の日本復帰から51年となる2023年度県一般会計当初予算案を審議した。新垣雅寛土木総務課長は09年度以降、沖縄振興公共投資交付金(ハード交付金)の減額が続いていることから、道路や港湾、公営住宅、下水道などさまざま公共インフラの整備に遅れが生じているとして、今後事業計画の見直しに着手する方針を示した。
新垣課長は「進捗(しんちょく)が滞っている事業が増加傾向にある」と説明した。照屋大河氏(てぃーだ平和ネット)への答弁。
予算特別委は、県独自の支援として23年度予算案に組まれた「特別高圧」の事業者支援に対する意見聴取として、20日の予算特別委員会に県工業連合会の古波津昇会長、我謝育則専務理事を参考人招致することも決定した。
23年度当初予算案の総事業数は2172事業で総額は前年度比0.1%(8億円)増の8614億円に上る。そのうち新規事業は113事業で予算額は105億円だ。
一方、同日は県議会本会議も開かれ、総額195億8234万円の22年度第7次一般会計補正予算案など13件の議案を、いずれも全会一致で可決した。
●岸田首相が何度も電話で「どうすれば支持率が上がりますか?」 3/10
「信なくば立たず」。1年半前、総裁選に出馬した岸田はそう語った。だが今や、官邸にも自民党にも「信」などカケラも見当たらない。疑心暗鬼に陥った「芯」なき宰相に、難局を乗り切る力はない。
前編記事『衝撃の「林外相G20会合欠席」が起きたのは「松野・高木・木原・磯崎がわざと調整をサボったから」だった…「岸田《人間不信》政権」のヤバすぎる実態』より続く。
支持率アップにご執心
口を開いたと思えば、自分の支持率アップ策の話ばかりだ。
「サミットまでに! 何としても行けるように!」
机を何度も叩いて怒鳴る岸田。呼び出されたのは外務省から出向する秘書官、大鶴哲也である。
G7首脳でウクライナを訪れていないのは、自分だけ。5月のG7広島サミット前にキーウ入りを果たさねば、肩身の狭い思いをする―。この数ヵ月、岸田はキーウ訪問に固執し、外務省に無理筋の調整を強いてきた。
「最初は1月の通常国会前の訪問を計画していましたが、日本の法律では銃器を所持しての身辺警固が難しく、アメリカに警備を要請したものの、断られてしまった。
すると2月20日にバイデン大統領がキーウを電撃訪問し、総理は怒り狂った。『ハリス副大統領も直前まで知らなかったそうです』と宥めても聞く耳を持たず、そこから外務省は次官・局長が連日会議を開くハメになりました」(外務省キャリア)
「これ以上、下がらねえよ」
結局のところ、岸田は「空っぽ」な宰相だ。安倍や菅には、良くも悪くも「やりたいこと」があり、それを支える腹心がいたが、岸田には何もない。総理大臣として何をなすべきか、それすらも分かっていないのだ。
政治生命を懸けて、国民に訴えたい信念も政策もない。「少子化をなんとかする」「LGBT問題に取り組む」などと、ただその時々で聞こえのいいことを言って、支持率の浮揚を図るだけ。あれほどアピールした「岸田ノート」に、いったい何を書いていたというのか。
あまりにも空虚な政治家であることが、国民にも身内にもバレている。それは政権を支える後見人であるはずの、自民党重鎮たちも同様だ。
ある閣僚経験者によれば、自民党副総裁の麻生太郎は最近、こうボヤいていたという。
「岸田から電話がかかってきたと思ったら、毎回毎回『どうしたら支持率が上がりますか? 』と聞いてくる。『これ以上は下がりようがねえよ』と答えているんだ」
スタンドプレーばかりが目立つ重鎮たち
だがその麻生とて、選挙を通して自派閥を拡大することしか頭にない。自分の都合ばかり考えているという点では、岸田と五十歩百歩である。次期衆院選に向けた候補者調整で、各地に手下を次々とねじ込んでいるのだ。
「麻生さんは千葉5区、神奈川19区と、県連や地元支部の意向を無視して立て続けに自分が選んだ候補者を下ろしている。愛知16区でも麻生派若手の山本左近を押し込もうと、自ら関係先を回っているが、県連からは『山本の地元は16区じゃないだろう。よそ者で勝てるのか』と不満が噴出し、収拾がつかなくなっている」(自民党選対関係者)
岸田、麻生との「三頭政治」の一角を自負する党幹事長の茂木敏充も、国民の間の知名度はゼロに等しいにもかかわらず「岸田の次の総理は俺だ」という顔をして、相変わらずスタンドプレーを続けている。前出と別の自民党中堅議員が言う。
「根回しナシで発言して総理を激怒させた『児童手当の所得制限撤廃』も、あれだけ批判されても『考えは変わらない』と言い切ったし、岸田総理との関係はますます険悪になっている。
総理の側も、麻生さんや茂木さんが『岸田後』を意識した言動を隠さないのを見て、意固地になるばかり。2月8日には5ヵ月ぶりに3人で会食をもったが、そこで日銀総裁人事について麻生さんと茂木さんが聞いても、総理は何も答えなかった」
非主流派も動きを強める
この政権は、ドン詰まりだ―それを見越して動いているのは、岸田派・麻生派・茂木派を除いた「非主流派」の面々も同様である。
主を失って長らく混乱の中にあった安倍派では、政調会長の萩生田光一が「児童手当を増やすくらいなら、公営住宅の風呂とトイレをキレイにしよう」などと的外れの発言で、茂木さながらの自己アピールを始めた。安倍派議員が言う。
「萩生田さんが突然独走を始めたのは、安倍さんの一周忌を前に、いよいよ跡目争いが激化してきたから。世耕(弘成・党参院幹事長)さんは塩谷(立・元文科相)さんを担いだクーデターに失敗し、レースから脱落。萩生田・西村(康稔・経産相)・松野の3人が決戦することになるが、閣内にいる西村さんと松野さんは自由な発信ができないからキツい。世耕さんが萩生田さんにつくか否かで、情勢が決まりそうだ」
年明けから、岸田が総理になっても派閥から出ないことを異様なほど批判してきた前総理の菅も、5月のサミットをめがけて「次の弾」を込め始めているという。
「菅さんは1月には訪問先のベトナムにわざわざ記者を呼んで、岸田批判をする姿を報じさせた。実は菅さんは、次は5月にインドを訪問する予定を立てている。まさにG20の件で岸田政権がインドを怒らせた直後に、その現地で菅さんが頭を下げたり、政権批判を口にしたりすれば、インパクトは絶大です」(菅氏に近い自民党ベテラン議員)
延命しか頭にない
コロナ禍後の日本をどう建て直すのか。戦争にインフレ、激動する世界の中で、国家の舵をいかに取っていくべきか。今は重大な岐路であるにもかかわらず、トップたる総理大臣は空虚そのものだ。周囲を固める政治家たちも、自分の都合ばかり考え、異常事態に注意を払おうともしない。
このままでは、また日本は「空白の時代」を過ごすことになってしまう。
岸田はこの期に及んで、保身の策に動き始めた。前出と別の自民党閣僚経験者が言う。
「総理は今、選対委員長の森山裕さんに急速に接近している。2月16日に立ち上げた再生エネルギー関連議連では発起人に岸田・麻生・森山が名を連ねたが、この3人が再エネに関心があるなんて聞いたことがない。また27日には銀座で岸田派・森山派の幹部をそれぞれ同伴して会食した。選挙区調整について話したというが、それは表向きで、これもしっかり森山派を取り込むということ。総理は、政局巧者の森山さんを押さえておけば、いかに菅さんや二階(俊博・元幹事長)さんでも身動きが取れないだろうと踏んでいる。茂木潰しのために、次の人事では森山さんを幹事長につけることまで考えているという話だ」
岸田政権はもはや、生きる目的を見失い、ただ自らの延命しか頭にないゾンビと成り果てた。この惨状に国民が「否」を突きつけないかぎり、日本の迷走は止まらない。
●「世界は広島から新しい出発を」 歴史的な転換点に立つ日本の選択 3/10
ロシアのウクライナ侵攻、米中の対立―。世界は従来の枠組みや価値観が崩れていく混迷と激動の時代に入った。恐怖と憎しみが広がり、各国は軍事力増強に傾く。日本は反撃能力を可能にする防衛力の強化に踏み出し、安全保障政策を転換した。国のあり様が変わるこの歴史的な転換には、日米同盟を積極的に活用しようとするアメリカの意図がにじむ。
アメリカとの関係は日本にとって重要だ。しかし、アメリカの“素の姿”を見極めなければ、根源的な選択を誤る。世界情勢は日本に、もはや受け身ではなく、自立して重要課題に対峙することを迫る。
緊張が張り詰める中、5月に被爆地、広島で開かれるG7サミットで議長国日本の存在意義が試される。
「攻めの日米同盟に」と駐日大使  岸田政権は米国が支えている?
「日米は過去40年、50年は基本的に守りの同盟だった。しかし、今は攻めの同盟に移っている」。2月15日、アメリカのエマニュエル駐日大使は、日本着任から1年となる節目に日本記者クラブで会見し、こう強調した。
「攻めの同盟」について大使は「防衛、経済などの分野で日米の共通利益を広げるべきだ」と説明した。
岸田政権は去年12月に「安保3文書」を閣議決定。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有と防衛費の大幅増を明記し、安保政策の転換へ大きくかじを切った。ANNの1月の世論調査では、防衛費増額や反撃能力など防衛政策の見直しについて岸田総理の説明が「不十分だ」と答えた人が8割を超えた。
「説明があいまいなのはアメリカの要求だったからだろう」。永田町関係者はこう見る。確かに急ごしらえの政策転換だった印象は拭えない。日米外交筋は、安保政策転換にバイデン政権が介在した可能性を示唆した。当初の説明が不十分だったのは、日本が土台から積み上げ切った政策ではなかったからだろう。
関係筋によれば、エマニュエル大使は岸田総理に近い政権幹部と頻繁にコミュニケーションを取っている。「支持率が低い岸田政権がもっているのはアメリカが支えている側面も大きい」(金融当局関係者)。
「アメリカは日本に安保政策の転換を強く要求したのか」。先述の会見でエマニュエル大使に私がこう質問すると、大使は「ノー。日本は主権国家であり、国益を考えて必要な決断をした」と答え、岸田政権を評価した。
アメリカに引きずられたロシア制裁 「戦争をする国になるのか…」
「ロシア制裁をするようアメリカがプレッシャーをかけてきた」(日系企業元幹部)。去年2月24日のウクライナ侵攻後、ロシア制裁を決めたアメリカ政府は当初、すぐに歩調を合わせない日本にいら立っていたという。日本はロシアとの間で北方領土問題やサハリンの油田・ガス開発プロジェクトなど重要案件を抱え、制裁には検討の時間が必要だった。しかし、アメリカに引きずられる形でロシア制裁の流れに加わった。
「新しい戦前になるんじゃないですかね」。タレントのタモリさんは、去年末に放送された「徹子の部屋」で今年がどんな年になるかと聞かれ、こう言った。「アメリカに引っ張られて戦争をする国になるのか」。そんな不安もよぎる。外務審議官などを務めた田中均氏は指摘する。「戦後、戦闘行動に一切関わって来なかった日本で力には力の論理が流行る。今こそ外交を語るべき時なのに、その気配は感じられないのは何故なのだろう」。
対中輸出規制でも…アメリカが日蘭に追随要求
そのアメリカは、中国との対立の分野を広げている。気球問題、ロシアとの関係、貿易、台湾、コロナの起源−。アメリカは余裕を失っているようにも見える。日本に問われているのは、アメリカにどこまで同調するのかという選択だ。
去年10月、バイデン政権は中国に対する先端半導体技術の輸出規制を発表した。バイデン大統領は1月に訪米した岸田総理やオランダのルッテ首相と会談した際、この対中輸出規制に追随するよう求めた。そして1月下旬、日米蘭が製造装置の一部の対中輸出に規制を加えることで合意したとアメリカメディアが伝えた。
「経済安全保障の名の下、日蘭の対中輸出制限の要求。これが結局は半導体製造装置の対米投資を求めるアメリカファーストの要求でないのか見極める必要。米国に従うのが日本外交に非ず」(田中均・元外務審議官のツイート)。
米中対立の“表と裏” 「ハグしたいほどの相互依存」
中国の劉鶴副首相とアメリカのイエレン財務長官(イエレン米財務長官のツイッターから)米中の対立は激化しているという。しかし、違う方向から見てみると全く別の実相が浮かび上がる。「アメリカは中国を脅威と言うけど、経済ではハグをしたいほど相互依存関係にある」。中国に展開する日系企業の元幹部は米中関係の本質をこう表現する。
1月、スイスで会談したアメリカのイエレン財務長官と中国の劉鶴副首相が笑顔で握手する画像がある。よく見ると、イエレン氏の後ろに中国の国旗が、劉鶴副首相の後ろにアメリカの国旗が重なって撮影されている。対立を緩和するイメージを演出しようとしたのか。2人は「経済や金融の問題などをめぐって対話を深めていくことが世界経済に重要だ」という考えで一致した。
2018年以降、米中は制裁関税の応酬や半導体制裁などで貿易戦争を繰り広げている。トランプ前政権は2019年、半導体の対中輸出の管理を強化した。日本企業はアメリカの輸出管理法に触れることを恐れて追随し、対中輸出を減らし、この間、日本は半導体のシェアを落とす。ところが、米中の貿易総額は2022年に6905億ドルと過去最高になった。貿易戦争の一方で米中は相互依存を深めていたのだ。対立の空気に惑わされていては日本の国益を損ねる。
「相手を責めず まず相手の話を聞く」 憎しみの乗り越え方
世界は多極化の時代に入り、アメリカを筆頭にした先進国の論理だけで押し通せる状況ではもはやなくなった。例えばウクライナ侵攻をめぐり、米欧にもロシア・中国にもつかない「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や途上国が存在感を増している。アジアの一員である日本には、米欧と異なる役回りがあるのではないだろうか。
「相手が悪いと責めるよりも、相手がその考えに至るバックグラウンドを知る必要があります。相手がどういう気持ちで、どう考えているのか。まず相手の話を聞くことです」。8歳の時に広島で被爆した通訳者の小倉桂子さん(85)はこう語る。小倉さんは通訳者として核なき世界の実現を世界に訴え続けてきた。「被爆者はアメリカを憎まず、報復も考えなかった。その憎しみの乗り越え方を学んでほしい」。
去年、アメリカで開かれたシンポジウムに招かれた小倉さんの目の前で、広島の原爆投下の正当論が展開された。「原爆投下はさらなる犠牲者が出ることを防いだ」と考えるアメリカ人はいまも少なくない。その後に講演に立った小倉さんは、アメリカを責めず、ただ、辛かった自分の被爆体験を訥々と語った。そして、こう呼びかけた。「(原爆投下後の)きのこ雲の下にいたかどうかは関係ありません。いま、何ができるのか、私たちと一緒に考えて下さい」。
対立する国、脅威と言われる国に対して、私たちは、腹を割って、とことん言い分を聞き、理解しようとしてきたのだろうか。そんな思いにも突き当たる。
「人の悲しみを聞き 人を許す広島から新しい出発を」
小倉さんが伝えてきたのは、アメリカが落とした原爆で亡くなった日本人のことだけではない。「広島なら苦しみや悲しみを聞き入れ、世界に伝えてくれる」。こんな思いで、核実験で被爆した海外の人たちなども広島にやってくる。小倉さんはそうした人の悲しみや苦悩を世界に伝える橋渡しもしてきた。広島は世界にとっても特別な場所だ。
広島でのG7サミットに小倉さんの思いは向く。「戦争をしない。核兵器を持たない。このことをすべての国が人間性を下敷きにして話し合ってほしい。核を持たない日本には毅然たる態度でその橋渡しになってほしいです」。
広島サミットは世界史に深く刻まれる可能性を持っている。小倉さんは言う。「広島は人の悲しみを聞く場所。広島は人を許す場所。世界は、広島から新しい出発をすることができるのではないでしょうか」。
●橋下徹「出生率アップに成功した諸外国に学んで日本が今すぐやるべきこと」 3/10
Question / 岸田首相が「骨太方針」に盛り込むべきことは?
岸田文雄首相は、2023年1月の施政方針演説で「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と表明しました。中身としては1児童手当など経済支援の拡大、2幼児・保育サービスの充実、3育児休業制度強化や働き方改革の3本柱を掲げましたが、詳細は6月の「骨太方針」が待たれます。防衛力強化と同時に、「少子化対策」を最重要課題に掲げる姿勢を、橋下さんはどう評価されますか。
Answer / まず「子供を持ちたいのに持てない」理由を探れ
防衛費の増額については、僕は賛成の立場です。もちろん賛否両論ありますが、中国・北朝鮮・ロシアと地理的に近い日本として、軍事力の均衡によって抑止力を高める防衛力の強化は必須だと考えるからです。
ただ、こうした「わかりやすい脅威」以上に急速に日本を蝕みつつあるのは、「一見わかりにくい脅威」、つまり少子高齢化です。統計を取り始めた1899年以来、出生数が最多だったのは1949年の269万人、いわゆる「団塊世代」でしたが、そのジュニア世代が出産時期をピークアウトしつつある現在、1年間の出生数は往時の3分の1以下にすぎず、先日の加藤勝信厚生労働大臣の発言によると、2022年はついに80万人を割り込む予想です。一方で、一年間に亡くなる日本人は約140万人います。単純計算しても、島根県の人口とほぼ同じ60万人強が毎年減少していることになるのです。
もし今、僕が若者だったら……、戦闘機やミサイル、戦車ばかり立派で、しかしそれを操るのは高齢者ばかりの「老いた国家」など、まっぴらです。
では、どうすればいいか。1つの方法は移民の受け入れを増やすこと。もう1つは生まれてくる子供を増やすこと。とはいえ、女性に向かい「産めよ・増やせよ」の大号令は時代錯誤です。子供を持つ・持たないは完全に夫婦間、あるいは個人の自己決定事項であり、国家が口を挟むようなことではありません。
ただし、希望はあります。理由は、日本人の大多数が「子供を持ちたくない」と考えているわけではなく、むしろ「様々な状況が改善すれば」「本当はもう1人か2人持ちたい」と思っているからです。ゆえに、この様々な状況を改善することが、まさに政治の使命なのです。
では、どのような状況改善が必要なのか。
それは「子供を持ちたいのに、持てない」主たる理由を探るところから始まります。種々の世論調査などによれば、経済的に余裕がないことを筆頭に、子育てに費やす人的・時間的コストの不足、社会(世間)の無理解という理由が並びます。この改善こそが少子化対策の柱です。
また、少子化現象を表す数字として、1人の日本女性が一生涯で産む子供の数である「合計特殊出生率」がよく引用されますが(現在は約1.3人)、この数字はあくまでも15〜49歳の全女性を対象にしたものであることにも注目すべきです。実は法律婚をしている夫婦に限定して「合計結婚出生率」を調べてみると、その数は限りなく2.0に近づくのです。夫婦世帯は昔も今も2人に近い子供を持っているのですね。
そうであれば、日本の少子化現象は結婚しない男女の増加が要因だとも言えます。
そうなると、若者たちが結婚しやすい環境を整える政策も少子化対策の柱になりますが、ここでもう1つ、結婚しなくても子供を産み育てやすい環境を整える政策も少子化対策の柱になると思います。
実は海外で出生率アップに成功した国々は、押しなべて「婚外子」の割合が高い。特に欧米諸国においては「法律婚ではない男女間に生まれた子供」の割合は、全子供の3〜5割に達することに驚かされます(日本は2%)。未婚の母、未婚の父、同性婚、代理母出産……、新しい形の〈家族〉のもとに生まれてくる子供たちの存在こそが、「少子化」対策のカギなのです。
これはもう最悪の言葉
振り返って日本は、法律婚絶対主義国家です。「未婚の母(父)」「同性婚」「婚外子」といった“いわゆる伝統的でない家族”の存在を忌み嫌い、「日本古来の価値観を崩す」「社会が変わってしまう」と本気で憂う政治家たちが率いる国。
その象徴が「非嫡出子」という言葉ではないでしょうか。僕も弁護士として裁判書面を書く際は、「非嫡出子」と書かざるをえませんが、これはもう最悪の言葉ですよ。どんな環境に生まれようとも子供は子供。かけがえのない大切な命で、社会の宝なのに、その「子供」の前に「非」の一字をつける無自覚の差別意識。こうした偏見がなくならない限り、日本の少子化は今後も進んでいくはずです。
現在、国会では「少子化対策」の中心として子育て世帯への経済支援が主に論じられていますが、こちらも「何のため・誰のための政策・予算か」という根本原理や思想がなければ、単なる五月雨式の思い付き、一時のバラマキで終始してしまうでしょう。そう、これまでの日本の「少子化対策」の多くが実を結ばなかったように。
今回、野党はもちろん、自民党の茂木敏充幹事長も「子育て支援への所得制限撤廃」を口にしていますよね。しかし、支援する対象の設定はやはり必要ですよ。極端な話、年収が1億円、2億円の世帯に毎月5000円支給してもたいした少子化対策の効果は生まれません。
もちろん僕だって高額所得者いじめをしたいわけではありません。現状の「夫婦のうち高いほうの年収が1200万円を上回る世帯には、子育て特例給付金0円」が妥当とは思っていません。「年収1300万円世帯」でも子供が4人いれば、給付金がもらえる「950万円世帯」で子供1人の家庭よりも、生活は圧迫されているはずです。
N分N乗方式
そこは昨今注目を集める「N分N乗方式」で、1世帯の所得合算を家族人数分で割り、納税額を決める税制とのミックスを考えるべきです。このN分N乗方式は高額所得者に有利になる! という批判の声がありますが、有利になるのではありません。子供を多く持っている世帯の税額を「適正化」するだけです。これまで子供の多い世帯に対してあまりにも多額の税を負担させていたのを合理的な額にするだけです。
そのうえで、恩恵をあまり受けない中低所得世帯には現金給付で支援する。ですからN分N乗方式で恩恵を受ける高額所得世帯には現金を出さないように所得制限をかける必要があるのです。現金給付のところだけを見ていてはダメなのです。
いずれにせよ、あらゆる政策の根底には、「データ・分析・思想」が欠かせません。「そもそも現在の日本社会で、『年収1200万円超=高所得者』は妥当なのか」「日本で子育てをしたら、総額いくらかかるのか」「国としてどの部分にいくら支援したら、国民はもう1人子供を持てるのか」といった詳細なファクトデータを集めたうえでの政策構築をしなければ効果を発揮しません。まさに「EBPM(Evidence-Based Policy Making)」(エビデンスに基づく政策立案)というやつです。
それなくして、とにかく所得制限撤廃!!なんていう耳に心地いい掛け声を発する「少子化対策」を進めても、これまで同様、少子化は改善しないでしょう。
これまでどれだけ少子化対策が叫ばれ、政治家が何度となく政策立案してきても、一向に効果を発揮しないのは、データ・分析・思想のない政策立案だったからです。企業の戦略立案でもEBPMは重要ですね。  
●国家公務員9%が超過勤務上限超え 21年度、人事院公表 3/10
人事院は10日、2021年度に超過勤務の上限を超えて働いた国家公務員の割合が9.1%で前年度より0.4ポイント増えたと公表した。調査は3回目で過去最高。新型コロナウイルス関連の業務は減ったが国際関連などが増えた。
人事院は「状況は引き続き厳しい。残業を最小限にするよう取り組みを進めたい」としている。
地方出先機関も含めた一般職国家公務員約28万人を対象に「月の残業100時間未満」「年間で720時間以下」などの基準を一つでも超えた職員の割合を調べた。
国会関係や予算折衝、国際関係など業務量を自分で決めることが難しい「他律部署」の職員約7万4千人に限ると15.6%に跳ね上がった。
他律部署の職員が上限を超えた要因は、国会対応が前年度比1.5ポイント減の18.7%で最大。新型コロナ関連は7.6ポイント減の11.2%、他国や国際機関との交渉が0.6ポイント増の9.4%だった。
人事院担当者は増加の背景として「コロナ関連の業務も残る一方、国際会議などが再開し業務が増えた」と説明した。
●日本経済:気になる身近な賃金 3/10
概要
日本経済は緩やかに持ち直している。感染状況が落ち着き、日常生活が戻りつつある中で、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類変更が決まるなど、今後の景気回復を想像しやすくなっている。
足元では、輸出や生産が弱含む一方で、物価上昇に賃金上昇が追い付かず、個人消費に下押し圧力がかかりやすく、減速感も見られる。こうした状況で、賃上げに前向きな企業の姿が多くなっており、実際にどこまで広がるかが注目される。春以降の景気回復において重要なことは、自分の給料が増えたと多くの人が実感できるようになるかだろう。
1. 概観:緩やかな持ち直し
日本経済は緩やかに持ち直している。内閣府『四半期別GDP速報』(2022年10-12月期・2次速報)によると、2022年Q4の実質GDP成長率は前期比年率+0.1%となり、2四半期ぶりのプラス成長になった。Q3のサービス輸入の急増からの反動減や在庫の減少などの影響が出ており、景気の基調が見えづらくなっている。これらのサービス輸入と在庫の影響を除くと、2022年Q3の成長率は前期比+0.4%、Q4は+0.2%程度になる計算であり、巡航速度といわれる年間の潜在成長率(日銀推計+0.3%〜内閣府推計+0.5%)を上回る成長だったといえる。
先行きについて、感染状況の落ち着きにより日常生活が戻りつつある中、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を5月8日に引き下げる方針が決まるなど、経済活動が一段と活発化する見通しだ。水際対策の緩和に伴う訪日観光客の回復によって、サービス輸出が実質GDP成長率を押し上げるかもしれない一方で、その需要増に供給力が対応しきれない恐れもある。
2. 足元の状況
ここでは、個別の経済指標から、日本経済の現状をまとめておく。
   個人消費
持ち直している。1月の総消費動向指数(実質)は前月比+0.1%となり、2か月連続で増加した(総務省『消費動向指数』)。足元の消費水準は2021年末を上回っており、個人消費は復調しつつある。また、2023年2月の消費者態度指数は3か月連続で上昇して31.1になった(内閣府『消費動向調査』)。前月から+0.1ptと小幅増だった上、水準自体はまだ低いものの、消費者マインドも上向きつつある。先行きについて、感染状況の落ち着きもあって、緩やかな回復が期待される。ただし、物価上昇に賃金上昇が追い付かず、実質購買力が損なわれているため、個人消費には下押し圧力がかかりやすいことも事実だ。
•設備投資 / 持ち直しつつあるものの、やや弱さが見られる。1月の資本財(除く輸送機械)出荷は2か月ぶりのマイナスで前月比▲5.9%だった(経済産業省『鉱工業指数』)。2022年Q4には前期比▲6.9%となり、Q3の+13.1%の反動が出ていたようだ。2022年12月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は2か月ぶりのプラスとなる前月比+1.6%だった(内閣府『機械受注統計調査』)。また2023年Q1の見通しは前期比+4.3%と、3四半期ぶりに増加するとみられている。先行きについて、緩やかな回復が期待されるものの、資材価格や資金調達などのコスト上昇や、世界経済の不透明感など収益性の低下が設備投資の下押し圧力になるだろう。
   輸出
弱含んでいる。1月の実質輸出(日本銀行『実質輸出入の動向』)は前月比▲2.9%と、2か月連続のマイナスだった。輸出先別にみると、中国向け(▲9.3%)が4か月連続で減少したように、米国向け(▲4.5%)、EU向け(▲1.9%)、NIEs・ASEAN等向け(▲0.7%)など、総じて輸出は弱かった。財別では、情報関連(+0.4%)が3か月ぶりに増加した一方で、中間財や自動車関連、資本財が減少した。また、1月の貿易収支は▲3兆4,966億円の赤字だった(財務省『貿易統計』)。比較可能な1979年以降で最大の赤字額になった。中国の春節の影響などから、輸出(前年同月比+3.5%)以上に輸入(同+17.8%)が伸びたため、2022年8月以降、2兆円規模の貿易赤字が継続している。先行きについて、ゼロコロナ政策を事実上終了した中国経済の回復などもあって、輸出が持ち直しに転じると期待される。ただし、緩和してきたとはいえ、車載用半導体など供給網のボトルネックも残っており、引き続き輸出の重石になりそうだ。
   生産
弱含んでいる。1月の鉱工業生産は前月比▲4.6%となり、3か月ぶりの減産だった(経済産業省『鉱工業指数』)。15業種中、自動車や生産用機械など12業種の生産が減少した。生産水準は新型コロナウイルス感染症拡大前に戻っておらず、回復途中で供給網のボトルネックや海外景気の減速などの影響を受けてきた。今後、半導体など米国の対中規制などの影響も懸念される。先行きについて、経済産業省『製造工業生産予測調査』では、製造工業の生産は2月に+8.0%(補正値+1.3%)、3月に+0.7%と見込まれており、当面生産が弱含む可能性を否定できない。
   物価
上昇ペースを加速させている。1月の消費者物価指数は前年同月比+4.3%と、1981年12月以来、41年4か月ぶりの上昇率になった(総務省『消費者物価指数』)。生鮮食品を除く総合(コア指数)も+4.2%と、1981年9月以来40年9か月ぶりの伸びだった。食料が+7.3%、光熱・水道が+14.9%と上昇、それぞれ寄与度は+1.96pt、+1.12ptであり、合わせると消費者物価+4.3%のうち約3%分がこれらの要因によるという計算だ。財とサービスに分けると、財が+7.2%だった一方で、サービスは+1.2%だった。サービス価格上昇は力強さを欠いており、物価の基調は必ずしも強いものではない。東京都区部の2月中旬速報が+3.4%と、1月の+4.4%から伸び率が縮小したように、先行きについて、補正予算の電気代・ガス代補助によって一旦上昇ペースが減速するものの、それ以降の電気代引き上げによって当面高めで推移するだろう。
   雇用
回復している。1月の失業率は2.4%と前月から▲0.1pt、2022年3月以降2.5〜2.6%で推移していた(総務省『労働力調査』)。1月の名目賃金は前年同月比+0.8%と、2022年1月以降、プラスが継続している(厚生労働省『毎月勤労統計調査』)。一方で、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が+5.1%と上昇したことに加えて、ボーナス時期のズレや前年の反動などが影響した中で、実質賃金は▲4.1%と大幅なマイナスになった。2022年4月以降マイナスが継続しており、実質購買力が低下している。このため、消費者マインドもさえず、個人消費に下押し圧力をかけやすくなっている。先行きについて、雇用環境が底堅く推移するとみられる半面、物価高騰を背景に実質賃金には下押し圧力がかかりやすい。春闘の結果、4月以降の賃上げや夏季ボーナスなどがどこまで増えるのかが注目される。
   金融政策
日本銀行が新体制になってから、金融緩和政策が修正される可能性がある。運営上の微調整は行いやすい一方で、本質的な修正には時間がかかるかもしれない。これまでの金融政策の検証などを踏まえて、その効果と副作用を整理した上で、何をすべきか検討する必要があるからだ。経済成長のためには短期的に、金融政策、財政政策ともに必要になる。これまでの金融緩和政策に賛否両論があるとしても、都合のよいところだけ取り上げた議論では意味がない。足元の状況を確認すると、消費者物価指数の他、図表3のように、足元のGDPギャップ・需給ギャップやGDPデフレータ、単位労働費用は、新型コロナウイルス感染症拡大前に到達した「デフレではない状況」まで回復していない。それらが安定的に上昇しつづけることが必要であり、デフレ脱却といえるまで時間がかかる。
   図表1 需給の経済指標
   図表2 物価・賃金
3. 先行き:気になる身近な賃金
歴史的な物価高騰の中、企業は生産コストを販売価格に転嫁している。その一方で、これまで以上に賃上げに前向きな企業の姿も多く報道されるようになった。しかし重要なことは、実際に賃金が増えたと自分ごととして実感できるかどうかだろう。つまり、「物価上昇に伴い実質購買力が低下、消費者マインドがさえず、個人消費が伸び悩む」という自分から遠いところの話ではなく、「物の値段が上がり、懐具合が寂しくなった結果気が滅入り、節約へ気持ちが向かう」という自分の身近なところが、今春以降改善に向かうか否かだ。自分の賃金上昇が実感できなれば、結果として消費は腰折れしてしまう恐れがある。
図表4のように、幸いにして、日本経済はこれから回復すると見込まれている。経済活動は再開しており、一層活発化することが予想される。世界経済の減速が懸念されるものの、日本経済は底堅く推移するとIMFなどは予想している。その通りになれば、賃上げの機運ではなく、実際に賃上げが広がるかもしれない。また、今春のみではなく、その先の将来での賃上げも重要だ。
こうした中で、賃上げをより確実にする取り組みも重要になる。賃金上昇には、少なくとも2つの側面がある。1つは、物価上昇を反映したものであり、もう1つは実質賃金自体の上昇だ。前者は、日本経済全体の需給バランスが重要である。その一方で、後者はそれぞれの働き方の影響もまた大きい。もちろんこの部分も、景気の良し悪しに左右されることは事実であるものの、それぞれの仕事上のスキルなどにも影響される。コロナ禍の先で、世界が大きく変わりつつある。グリーン化やデジタル化など、課題とともに新たな成長分野も見えている。こうした中で、身近な自分の賃金を引き上げる取り組みもさらに重要になっている。
   図表3 デフレ脱却の条件
   図表4 景気動向指数
●ドイツ首相が18日に来日 首相「サミット見据え、じっくりと議論」 3/10
岸田文雄首相は10日の政府与党連絡会議で、ドイツのショルツ首相が18日に来日することを明らかにした。ショルツ氏は閣僚6人と来日し、日独の関係閣僚が参加する初の政府間協議を行う予定。首相は「(5月の)G7(主要7カ国)広島サミットを見据え、4時間超にわたりじっくりと議論を深める」と話した。
ショルツ氏の来日は昨年4月以来。この時の日独首脳会談で、政府間協議を立ち上げることで一致していた。ドイツは2022年のG7議長国で、首相はロシアによるウクライナ侵攻問題や、中国を念頭にした「法の支配に基づく国際秩序」などを主要課題とする広島サミットに向け、ドイツとの連携を確認したい考えだ。
松野博一官房長官は10日午後の記者会見でショルツ氏の来日を発表し、首脳会談のほか日独経済関係者との意見交換も行うと説明した。同時に岸田首相が19日から22日未明にかけてインドを訪問すると発表した。
●岸田政権の大軍拡許さない一点で団結を 山宣墓前祭 3/10
治安維持法に反対し、右翼の凶刃に倒れた労農党代議士・山本宣治(1889―1929)の没後94年にあたり、命日の3月5日、宇治市の善法墓地で、山宣墓前祭(同実行委員会主催)が行われ、岸田政権による大軍拡、戦争国家づくり、大増税を許さない、とする特別決議が採択されました。
黙とう、山宣追悼歌の披露のあと、薮田秀雄・副実行委員長があいさつ。岸田政権による「安保3文書」の閣議決定をはじめ、日本共産党の小池晃参院議員が国会で暴露した全国の自衛隊基地の地下化・強靭化計画を厳しく批判し、「戦争してはいけない、大軍拡・大増税反対、政府は憲法9条にしたがえ」の一点での統一・団結を訴えました。
治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟京都府本部、民青同盟京都府委員会、年金者組合京都府本部、国民救援会京都本部、日本共産党京都府委員会の代表がそれぞれ弔辞・追悼の言葉を寄せました。
日本共産党府委員会を代表して水谷修府議があいさつ。水谷氏は、「統一地方選挙において、宇治市議7議席、久御山町議2議席、府会1議席、宇治久世地域で10議席をなんとしても獲得し、京都での第1党を獲得し、あなたの伝統を受け継ぐ」と墓前に誓いました。
最後に山本家を代表して山宣の孫で京都民医連九条診療所所長を務める山本勇治氏がマイクを握り、「統一地方選挙で志を同じくする人の当選のために、ともにがんばりたい」とあいさつしました。
●岸田さんは謝るな 日韓関係はそう簡単に改善しない 3/10
韓国政府は6日、最高裁で確定した日本企業の賠償について、韓国政府傘下の財界が事実上肩代わりするとの解決案を発表した。
韓国では日本企業からの資金拠出や、岸田文雄首相の謝罪などを求める声が上がっていたが、日本政府は一貫して、「1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決された」との立場を崩さなかった。
日本の毅然(きぜん)とした姿勢は、左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権下で、司法が国際法と明らかに矛盾する判決を出したことによる。さらに、もう一つの懸案である慰安婦問題について、日韓の政府間合意を一方的に破棄した韓国政府への強い不信感も根底にはあるだろう。
韓国政府の発表を受けて、林芳正外相は「日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と記者団に語った。
6日の参院予算委員会では、自民党の佐藤正久議員が「談話を引き継ぐのはいいが、『反省』とか『お詫び』という言葉を読み上げてはいけない」と述べたのに対し、岸田首相は「適切に表現する」と答えるにとどめた。
安倍晋三元首相は2015年の慰安婦合意の際、「戦後70年の首相談話でお詫びの気持ちを表明した。そのうえで、私たちの子や孫の世代に謝罪し続ける宿命を負わせるわけにはいかない」と述べている。
安倍氏が決着をつけた日韓問題を、岸田氏は蒸し返してはならない。だから謝ってはいけない。
もう一つ、6日付の産経新聞は、この賠償問題とは別に日韓の財界が資金を出して留学生の奨学金の基金をつくることで合意したとの韓国報道を伝えた。
産経によると、韓国の原告の一部は「日本ではない韓国のお金が混ざっていれば絶対受け取らない」と主張している。韓国政府はこの基金を通じて、「日本企業による事実上の資金拠出が実現した」として韓国世論の説得を図る考えらしいのだが、これは韓国側に利用されてしまうということだ。だからお金を払ってもいけない。
日本のメディアは一様に、「戦後最悪の日韓関係が改善か」と伝えているが、筆者はこれに違和感を覚える。これではまるで、日韓が対等にケンカしているみたいではないか。
われわれはケンカしているのではない。徴用工も慰安婦も日韓の政府間では国際法に基づいて解決している。ただ、韓国内に納得していない人がいる。つまり韓国の国内問題なのだ。われわれ日本側にできることはない。できるとしたらすべてが終わった後のことだ。
●徴用工問題で打開策 韓国・ユン政権の“歩み寄り”を、日本はどう捉える 3/10
昨年5月に就任したユン政権が、日韓関係改善にとって最大の懸念事項だった元徴用工の問題で大きな打開策を発表した。朴振外相は3月上旬、元徴用工の訴訟問題で、韓国大法院による判決で確定した日本企業による被害者への賠償を韓国側が肩代わりする解決策を発表した。事実上、これは韓国側が日本へ歩み寄った形で、既に韓国野党など国内からは強い反発が出ている。
ユン政権は発足当初から、ムン前政権の外交姿勢からの転換を図り、対北では融和政策から日米韓3カ国の結束を強める政策に舵を切った。ユン政権は米韓合同軍事演習を再び活発化させ、2月下旬には北朝鮮による核兵器使用を想定した合同の机上演習「拡大抑止手段運営演習(TTX)」を米国で実施し、3月13日から23日にかけても大規模な合同軍事演習を予定している。
また、ユン大統領は就任してから、岸田総理にアプローチを取り続けてきた。ユン大統領は昨年6月にスペイン・マドリードで開かれたNATO首脳会合に参加し、その際、岸田総理にアプローチし短時間ながらも言葉を交わし、岸田総理は「厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力してほしい」と伝えたという。また、9月下旬、国連総会出席のためニューヨークを訪れていた両者が30分ほど懇談し、日韓関係改善のため双方が努力していくことで一致した。日韓の首脳が対面で一定の時間をかけて協議するのは2年9カ月ぶりのことだった。さらには、11月中旬、ASEAN関連首脳会議に出席するためカンボジアを訪問した両者はここでも会談を行った。
この間、ユン政権は早期に日韓関係の改善を図るため率先的に行動した一方、日本側はユン政権をどこまで信頼していいか深く注視していた。しかし、時間が経つにつれ、日本側にはユン政権の関係改善に向けての気持ちや行動は本物だとの認識が徐々に強くなっていったと思われる。そして、その延長線上に今回の韓国側からの打開策があり、岸田政権も早速韓国との関係改善に動き出した。3月半ばには、ユン大統領が東京を訪問して岸田総理と日韓首脳会談を開催し、両国首脳が互いの国を定期的に行き来するシャトル外交も再開されるとみられる。また、ユン大統領の訪日に合わせて韓国の財界人たちも日本を訪れ、経済面でもさらなる関係強化が見込まれている。
最後に、日本側はユン政権の韓国を今日どう捉えるべきか。日韓の関係改善は米国も強く望んでいることでもあり、中国や北朝鮮、ロシアといった専制主義的国家に直面する日本としては、民主主義パートナーとして韓国と関係を強化することは戦略的に重要だろう。今後は韓国との関係を密にし、経済や安全保障、テクノロジーなど様々な分野で重層的な関係を構築していく必要がある。
一方、構えも必要だ。韓国の大統領任期は1期5年であり、ユン政権の残りは4年あまりである。それ以降は新たな大統領が就任するが、ユン政権の方向性を継承する政権か、ムン前政権を継承する政権かは分からない。要は、今日のスタンスが根本的に転換されるリスクが日本にはあるのだ。また、イミョンバク政権時、当初は実利を重視する日本との関係は比較的良好だったが、2012年8月にイ大統領が竹島を訪問したことで日韓関係は急速に悪化した。支持率の低下などが影響し、ユン政権が突如方向性を転換させるリスクは排除できない。日本はその可能性も視野に入れ、韓国との関係を強化していくべきだろう。
●「大砲もバターも」の無謀、大事なのは何か見極めたい 3/10
防衛費倍増の路線を盛り込んだ2023年度政府予算案を衆院で可決させた岸田政権は、子育て予算の倍増については具体的な展望を持っていないことが国会の質疑などで明らかになった。
「大砲もバターも」とでも言いたげな岸田流だが、実際には「バターより大砲」の道を突き進む姿勢に見える。日本という国のかたちも人々の生活も大きく変えてしまう危うい状況を前に、私たちはいったん立ち止まり、考えるべき時ではないだろうか。
トマホークは400発、子ども予算具体策は「?」
「防衛力強化と比較しても、子ども・子育て政策への取り組みが決して見劣りしない」
2023年2月22日の衆院予算委員会で立憲民主党の泉健太代表の質問に対し、岸田文雄首相の答弁は、「大砲もバターも」という大風呂敷を広げるものだった。
だが、実態は看板とは異なる。防衛費は国内総生産(GDP)比で1%程度としてきた平和国家の目安をうち捨てて2%台とする倍増方針を決めた。数年後には米中に続く世界第三位の防衛支出額になるとみられる。
2023年度政府予算案には、前年度比26・3%増の防衛費6兆8219億円を盛り込んでいる。その象徴は、「反撃力」の名目でこれまで禁じ手としてきた「敵基地攻撃」用のミサイルを大量に保有することである。米国製巡航ミサイル「トマホーク」を「400発」も購入する予定であることを国会答弁でようやく明らかにするとともに「今後は米国の打撃力に完全に依存することはなくなる」と述べたのは、専守防衛からの逸脱だろう。
それに比べ、子育て予算の方は「倍増する」という方針を首相答弁で繰り返しているだけで、何をどのように倍増するのか、説明すらできていない。
首相は「まず中身を具体化しないと、それに伴う予算がどれだけ必要なのか、ベースがはっきりしないのは当然のことだ」と答弁。首相の知恵袋と目される木原誠二官房副長官ですら2月21日のテレビ番組で「子ども予算は、子どもが増えればそれに応じて増えていく」と述べるありさまで、政権の「本気度」すら疑わしい。
首相は「ミサイルも福祉も」と言いたいのだろうが、政府予算案の内実は「福祉よりミサイル」とでも言うべきものになっている。
経済学にみる「大砲とバター」
「大砲かバターか」という言葉を歴史に刻んだのはナチス・ドイツだったようだ。
ヒトラーの右腕ヘルマン・ゲーリングが1936年にハンブルクで演説し「諸君はバターと大砲のどちらを欲するか。有事の備えこそ大切だ。バターなど太るだけである」と述べた話が知られている。
大砲とは軍備のことであり、バターとは生活物資の象徴であるが、結局のところナチス・ドイツは大砲にカネも資源も人材もつぎ込んで、人類に甚大な被害を及ぼし滅亡の道を歩んだのだった。
経済学を学んだ人なら、生産可能曲線とか機会費用といった基礎知識のくだりで「大砲か、バターか」について読んだ記憶があるかもしれない。
1970年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者ポール・サミュエルソンの著書『経済学』は大学教科書として広く使われ、長期間にわたって世界的ベストセラーとなったが、その初めのほうに「大砲とバター」が登場する。
ここでは大砲は軍需、バターは民需をそれぞれ象徴するものとされ、軍需品の生産と民需品の生産が選択の問題であるということをわかりやすく考えるための素材になっている(都留重人訳では、guns and butterを「鉄砲とバター」と訳している)。
サミュエルソンが説いているのは、資源や技術に制約がある状況で経済社会が供給できる物資には限度があり、「ひとつの財を生産するにあたり、他の財のいくらかを常に犠牲にしなければならない」ということである。
要するに経済の資源配分の選択においては多くの場合、「あれもこれも」と欲張るには限度があり、トレードオフ(あちら立てればこちら立たず)が基本であり、軍需は民需を犠牲にして成り立っていることを知らねばならない、という話が分かりやすく書かれているのである。
興味深いことに、筆者がニューヨークで買い求めた『経済学』第14版のこのくだりでは、「すべての大砲も戦艦もロケットも結局のところ、空腹を十分に満たすことができない人々からの盗みを意味するものである」というアイゼンハワー元米大統領の言葉が「経済組織の基本問題」という見出しの下に掲げられている。
ウクライナ、北朝鮮、米中……世論に変化が
振り返れば日本こそ、「大砲よりバター」のお手本であった。
平和憲法と日米安保という組み合わせの上で、防衛費はGDPの1%以内に収めるという軽武装路線をとり、人材と資源、財源を経済の復興・発展に注ぎ込んで「経済大国」を築いたのだった。そのような路線を推進したのが池田勇人とそれに続いた自民党主流派であり、岸田首相の先輩たちであったことを考えれば、今の政府は戦後日本の誇るべき「大砲よりバター」路線からの悲しい転落ではないか。それは将来の日本経済にも暗い影を落とす。
2022年6月21日の日本記者クラブ主催の党首討論会で、記者から「ハト派と言われる岸田さんが意外と憲法改正に積極的でびっくりした」と質問されたとき、岸田首相はあっさりと「国民生活にとって極めて現代的な課題で、ハト派かタカ派かは関係ない」と答えた。
首相が改憲路線を鮮明にし、防衛力の抜本的強化に踏み切って大量のミサイルを買い込むようになった背景にあるのは、北朝鮮の核・ミサイル開発や強大化する中国と米国の対立、そしてロシアによるウクライナ侵略戦争に象徴される世界の安全保障の環境変化だ。日本の政治も民意もそのような変化に押し流されつつあるようだ。
朝日新聞が2022年4月に実施した全国世論調査では、「中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発など、最近の日本周辺の安全保障をめぐる環境について、どの程度不安を感じますか」という問いに「大いに感じる」は60%、「ある程度感じる」36%、「あまり感じない」2%「まったく感じない」0%だった。
さらに「2月、ロシアがウクライナに侵攻しました。この侵攻を受けて、日本と日本周辺にある国との間で戦争が起こるかもしれない不安を以前より感じるようになりましたか。とくに変わりませんか」の問いに対しては、「感じるようになった」80%、「とくに変わらない」19%だった。「それぞれの国に軍事的な脅威をどの程度感じますか」の問いには、「中国」について「大いに感じる」50%、「ある程度感じる」40%、「あまり感じない」8%、「まったく感じない」1%だった。
「北朝鮮」に対しては「大いに感じる」53%、「ある程度感じる」34%、「あまり感じない」10%、「まったく感じない」1%。「ロシア」に対しては「大いに感じる」58%、「ある程度感じる」34%、「あまり感じない」7%、「まったく感じない」1%だった。
「日本と密接な関係にある国が他国から攻撃を受けた場合、日本が攻撃されていなくても、日本の存立が脅かされる危険があると政府が判断した場合に限り、自衛隊は一緒に戦うことができます。これを、集団的自衛権の限定的な行使といいます。万が一、アメリカと、日本周辺にある国との間で戦争が起きた場合、この集団的自衛権の行使について、どうするべきだと思いますか」の問いに「行使するべきだ」は21%、「どちらかと言えば行使するべきだ」37%、「どちらかと言えば行使するべきではない」30%、「行使するべきではない」9%だった。そして「いまの憲法を変える必要があると思いますか。変える必要はないと思いますか」の問いに「変える必要がある」56%、「変える必要はない」37%だった。
「平和主義からの逃走」が起きつつあるのか
2022年7月の朝日新聞世論調査では、憲法9条を改正し、自衛隊を明記することに「賛成」が51%で、「反対」の33%を大きく上回るに至った。北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないウクライナと、日米安保条約で安全を保障されている日本とは比べようもないのだが、中国が台湾に武力侵攻する可能性があり、そのさいは「台湾有事は日本有事」になるという不安が広がりつつあるのだろうか。
危ういのは、台湾有事がもし起これば、日本が米国と中国の戦争に参戦するかのように考えてしまうことだ。しかも、トマホークが中国主要部をも射程に収めることを知りながら大量に買い込むのは、中国を仮想敵国扱いする考えに立つことにならないか。
それは、武力による威嚇をも禁じた日本国憲法の精神はもちろん、日中平和友好条約や、かつて安倍元首相が訪中して確認した中国との「戦略的互恵関係」に背を向け、長期的な対立関係に陥ることにもなりかねない。長い目で見て、日本の安全保障を損なうし、軍事への傾斜が経済をゆがめ、福祉や教育、環境に使うべき財源を制約してしまうことなども、よく考えるべきではないか。繁栄の基礎となるアジア経済も分断されかねない。
台湾有事を起こさせないために日本が何をするべきか、何ができるか。アジア諸国とともに必死で考え、米中の橋渡しをすることこそ日本の使命であるはずだ。にもかかわらず、軍備を強化して戦争も辞さない構えこそ抑止力だと考える傾向がうかがえる。ナチス・ドイツを逃れて米国の大学で教えた社会学者エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』に倣って言えば、「平和主義からの逃走」とでも言うべき事態が日本に起きつつあるように見えるのは残念だ。
「二兎」を追って経済を壊す危険、選ぶべきは外交の重視
「防衛力も、子育ても」と国会で述べた岸田首相は、統一地方選挙でもそれを繰り返すだろう。目先の損得を考えれば有利だし、大砲とバターの二兎を追えると思っているのかもしれない。
大砲とバターの二兎を追った例としては、米国のジョンソン政権がある。北ベトナム爆撃を開始してベトナム戦争を拡大する一方で、「偉大な社会」を掲げて差別撤廃や福祉にも力を入れたが、世界的なドルの垂れ流しによるインフレと、米国の経済力・信用低下を招いたのだった。
岸田政権が本気で二兎を追えば、やがて財源確保のために大増税で長期不況を招くか、あるいは無謀な赤字国債増発に頼って金融緩和の出口戦略に失敗し、金利急騰・国債暴落など市場の大混乱を招いて日本経済を壊してしまう危険がある。そうなれば防衛力も土台から揺らぐことになる。
ロシアによるウクライナ侵略戦争が象徴する安全保障環境の悪化を考えると、拡大抑止や安心の支えとしてミサイルを大量に買いたくなる為政者やそれを支持する人の気持ちもわかる。それでもなお、軍拡競争のリスクや経済と福祉への悪影響などを考えると、防衛費倍増は政治的にも経済的にも日本とアジアの未来を危うくする選択だと思えてならない。
無謀な路線を突っ走るのではなく、福祉や災害対策、再生可能エネルギー対策などに予算を振り向け、かつて自民党が伝統としていた「大砲よりバター」の道に戻ってほしい。そのうえで日米安保の抑止力は頼りにしつつも米国の言いなりにはならず、核戦争の引き金を引きかねない米中軍事衝突を回避するための外交に韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)などと共に力を注ぐことが日本の選ぶべき針路ではないだろうか。
たとえ米政府や中国政府が渋い顔をしても、米国や中国の国民の安全と利益にもつながる平和外交こそ展開すべきである。参院での予算審議ではこうした側面からの論争を期待したい。メディア・ジャーナリズムは予算案の論点を掘り起こし、国民に「立ち止まり、広い視野で冷静に考える」ための判断材料を十分に提供することを目指して粘り強く取材と報道に取り組んでもらいたい。
●“滝山病院事件”で国会論戦 野党は“国の立ち入り調査”求める 3/10
東京都八王子市の「滝山病院」の入院患者に対する暴行事件が、国会でも取り上げられました。
立憲民主党・小川淳也衆院議員「ちょっと考えられない悲惨な状況が起き、そして内部で暴力が行われている」
加藤厚生労働大臣「精神科病院において、報道されている事案が起きていること。これは甚だ遺憾」
野党からは、虐待に気付くことができなかった東京都の検査について、指摘が相次ぎました。
共産党・宮本徹衆院議員「国の通知に『法律上、極めて適正を欠く等の疑いのある精神科病院に対しては、国が直接、実地指導を実施することもあり得ること』と。国は立ち入り検査をすべきではないか」
加藤厚生労働大臣「現時点においては、まず東京都と連携を図りながら、実態の把握を行いたいと考えています」

 

●「日本の借金」は1,000兆円超(世界2位)・GDP比256.9%(G7トップ)… 3/11
気になる日本の借金事情
日本は世界でもトップクラスの借金大国だという報道を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
実は、日本政府は1,000兆円を超える借金を抱えています。「これほど多額の借金を背負ったら国が破綻してしまうのでは?」と心配する人もいるかもしれませんが、その心配はありません。
なぜ日本は多額の借金があっても財政破綻しないのか。日本の借金事情について説明していきましょう。
   どんどん増えていく日本の借金
国の借金である政府の債務は、2022年3月末時点で1,241兆円3,074億円と過去最大を更新しました。2021年3月末と比べると、24兆8,441億円増加。債務総額は、6年連続で“過去最大”を更新しました。
日本の借金の裏側にある「少子高齢化問題」
国が借り入れをするために発行する借用証書ともいえる、国債。
日本国債の発行残高は、現在約1,000兆円。日本のGDPがおよそ500〜550兆円ですので、日本全体で2年間かけて稼ぎ出す金額の借り入れがあることがわかります。
また、下の[図表1]を見るとわかるように、GDP比で見た債務残高の割合は世界トップです。
   [図表1]主な国の債務残高(対GDP比)
   [図表2]日本の普通国債残高の推移
さらに、債務残高は年々増加しています。
なぜここまで日本の借金が膨れ上がったかというと、社会保障費の増加が大きく関係しています。社会保障費とは、年金や医療、介護、子ども・子育てなどの分野に給付されているお金のことです。
日本の社会保障費は、この30年ほどで10兆円から30兆円台後半まで膨れ上がっています。1960年代までさかのぼると、社会保障費は歳出の10%ほどでした。それがいまでは、全体の約34%にまで増加。
なんと国家予算の3分の1が、年金や介護、医療といった社会保障の分野にあてられているのです。
ここまで社会保障費が増加した背景にあるのは、少子高齢化。1960年代といまでは、人口構成が大きく異なります。当時は若い世代が多く、歳出の多くは教育費や医療費に費やされていました。
しかし、現在は高齢層の割合が増え、それに伴って年金や医療費に社会保障費を費やす割合が増加しています。年金制度や医療費制度の改定は度々行われてきていますが、福祉を支えるはずの現役世代の減少が想定以上のスピードで進んでいると言えます。
   [図表3]日本の人口ピラミッド
日本の歳出、約2割が国債費!?
国の歳出のうち、国債費が占める割合は約24兆円。1990年と比べると、約1.5倍になっています。
1960年は、歳出のうち国債費にかける割合は1.5%ほどでした。それが現在は22.3%にまで膨らんでいます。社会保障費と国債費を合わせて実に歳出の半分を超えているのです。
さらにこの状況で金利が上がると国債費もどんどん膨らみ、国の財政が締め付けられることになります。
内閣府の試算では、経済成長に伴う金利上昇であれば国債費の増加以上に税収が増え、それによって財政赤字が縮小するとされています。ただ、現在起こっていることは経済成長に伴う金利上昇ではなく、現実は厳しいと言えそうです。
   [図表4]歳出総額の内訳(割合)
世界借金ランキングから見る日本
GDPに対する比率で見た世界の借金ランキングを見ると、日本は第2位。先進国ではアメリカにおよそ2倍の差をつけて圧倒的第1位となります。
借金の少ない国には2種類あります。1つは明確な基幹産業がある国。豊富な資源などの安定した収入要因があったり、基幹産業が金融業であったりと、産業構成に偏りのある国ほど借金が少ない傾向があります。もう1つは、国の規模が小さくあまり経済発展していないこと。そもそも借金ができないのです。
   [図表5]世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング
   日本の危機的状況は、財務省公認?
借金ができるということは、信頼されているということでもあります。国債残高が1,000兆円もあるということは、ある意味“日本には1,000兆円の借金を支える国民がいる”ということ。それだけ、国民がちゃんとお金を持っているのです。
ただこのまま国債発行が増え続けると、どうしても「税金が上がる」という方向に行ってしまいます。
財務省が作っている「これからの日本のために財政を考える」というHPには、どれだけ日本が危機的状況かということが詳しく記載されています。おそらくIMF(国際通貨基金)からの圧力もあり、とにかく債務を圧縮したいのでしょう。
一方で日本の金利は未だに過去最低水準に抑えられています。金利が低いということはそれだけ信用力があるということですが、どこまでこの状態を保てるかは未知数です。このまま無尽蔵に国債を刷り続けることには大きなリスクが伴うことを理解すべきです。
国家の経済破綻! 日本がデフォルトする可能性は?
2009年10月、ギリシャ危機が起きました。ギリシャ政府が借金を返せない「デフォルト」という状態に陥ってしまったのです。2000年以降だと、ギリシャ以外にもドミニカやエクアドル、コートジボワールなどもデフォルトを起こしています。
理由や状況は国によって異なりますが、デフォルトが起きる一番の原因は「見通しの甘さ」。経済成長率を甘く見積もってしまったために経済成長による税収増が果たせず、借り過ぎたお金を返せなくなってしまったのです。
ここで気になるのが「日本もいつか借金を返せない状態になり、デフォルトに陥るのでは?」ということ。
日本の国債発行残高は、現在1,000兆円ほど。ギリシャがデフォルトを起こしたときの債務が43兆円ほどなので、日本のほうが桁違いに多いことになります。
またGDP比も、ギリシャは170%ほどだったのに対し、日本は200%超え。明らかに日本の状況のほうが悪そうです。
ですが結論から言うと、理論上日本がデフォルトに陥ることはありません。なぜなら、これまでにデフォルトを起こした国と日本とは大きな違いがあるからです。ここではギリシャと比較しながら考えてみましょう。
   日本は自国の通貨を持っている
ギリシャはユーロ圏のため、ユーロ建てで債券を発行しています。そのため、“お金が足りない分、自国で勝手にユーロを刷る”ということができません。対して日本は日本円という通貨を持っているので、借り入れが日本円で行われている限り、日本銀行がお金を刷ることができるのです。
   日本の国債を買っているのは日本人
ギリシャの国債を買っていたのは、多くが海外投資家や海外の政府・金融機関でした。対して日本国債は、国内勢がその約96%を買っています。日本政府の借り入れは、ほぼ国内で完結しているのです。
   日本人は間接的に国債を買っている
皆さんは「国債なんて買った覚えないよ!」と思うでしょう。多くの方は銀行に預金をしていますよね。その預金をもとに銀行が国債を買っているので、私たちは“間接的に”国債を買っていることになるのです。
今後さらに借金が膨れ上がり、日本政府が破綻危機に陥ることはあるかもしれません。でも日本の国債発行残高1,000兆円に対し、国民の総家計資産は2,000兆円を超えています。そう考えると、プライマリーバランス(歳出と歳入のバランス)の改善は必要ですが、いますぐデフォルトに陥るという状態ではないと言えます。
●岸田首相に教えてあげたい「真の少子化対策」とは何か 3/11
岸田首相に「黒田節」は似合わない
ただ、言葉の響きは少しちがって聞こえる。今回は、首相が「子供関連予算倍増」と二言目を続けた。「異次元」と「倍増」の組み合わせは、10年前の日銀総裁デビュー時の黒田東彦氏を思い出させる。
金融緩和に「異次元」というよく考えると説明しにくい突飛な形容を与えるいっぽう、マネタリーベースを「倍増」するというこの上なく具体的な手段を組み合わせるプレゼンテーションは鮮烈だった。岸田氏はこの「黒田節」を真似たのだろう。
だが、倍増の対象が「予算」であったために、「財源はあるのか?」、「何に使うのか?」、「内訳は何だ?」というツッコミを受けてしまった。「子供が増えたら倍増もありうる」(木原誠二官房副長官の答弁)と答えるようでは、格好が悪かった。
推察するに、今時点での少子化対策の強調は、少子化対策支出が社会保障的支出につながることを見越し、そのためなら消費税の増税もありうる、と消費増税に誘導したい筋の振り付けだろう。
だが、この目的のためには、「予算」に言及するのが少々早すぎた。黒田節に感化されて口調だけを真似したがるような二流の役者(岸田首相のことだ)には、もう少し丁寧な、「噛んで含めるような台本」が必要だった。
フランスの歴史人類学者エマニュエル・トッド氏は、出生率を含む人口動向を見て「日本は国力の維持を諦めた国」に見えるという。その通りかも知れない。だが、社会機能の維持と経済の活性化を考えるなら「なるべくなら少子化が進まないほうがいい」とも、多くの国民は思っている。筆者も同意見だ。
しかし、「直接的な少子化対策」は、多分やっても大した意味はないと考えている。
非婚化率は上昇、結婚のインセンティブも存在せず
まず、そのことを確認しよう。少子化の根はあまりに深いし、それはすでにわれわれが幸福について考えるうえでは進行しすぎてしまった。
少子化に影響を与える大きな要因の1つが非婚化だ。麻生太郎自民党副総裁が指摘した女性の晩婚化よりもこの問題のほうが大きいはずだ。生涯未婚率(50歳時点までに未婚の割合)で見ると、1980年に男性2.60%、女性4.45%だったものが、2020年には男性28.25%、女性17.81%と大きく増えた。
この原因について、最近話題になった日刊現代の記事で、中央大学の山田昌弘教授は、「収入が低い男性はパートナーとして選ばれにくいからだ」と指摘している。その通りだと筆者も思うが、結婚適齢期の男性の収入を「パートナーとして魅力的だ」と思えるところまであまねく引き上げるのは無理だ。
共働きで夫婦合わせて十分な収入があればいいと思うかもしれないが、十分に稼いでいる2人が「是非結婚したい」と思うようなインセンティブが存在しない。
結婚が必要だと思うのは、現在の日本の世間を考えると子供を持つときだが、子供には大きな教育費がかかるし、育児に時間や手間をかけることは仕事の側での機会費用の発生と自由時間の減少を意味する。付け加えると、配偶者の親の介護の責任を一部負担する可能性なども無視できない「コスト」だろう。
「金に物を言わせる」解決策の1つは、子供を産み・育てると、働く以上の報酬が得られるような金銭を給付する「スーパー子ども手当」のようなものの支給だが、将来の子による親の援助の可能性や親の介護など、子供を持つことのメリット面の多くが親に帰属するいっぽうで、子供を持たない人が支払った税金が多額に投入されることの納得を広く得ることは容易ではない。
かつて民主党政権の子ども手当がつぶされ、今また児童手当の所得制限の有無を議論しているようなケチな感覚では、少子化の対策として有効性を発揮するような現金支給政策は実現が難しかろう。
全面的な解決にはならないだろうが、税金を投入せずに済む少子化対策として、一夫一婦制の緩和を考えることができる。原理的には妻がでもいいが、経済力のある夫が複数の配偶者を持つことを許容すると、経済的な負担にかかわらず子供をたくさん持ってもいいと考える富裕な夫(妻)と妻(夫)達の組み合わせが、追加的な子供を社会に供給してくれそうだ。
日本では「一夫一婦制」の緩和や婚外子権利拡大は困難
そうしたい当人同士がそうするなら反対する理由が筆者にはないので、大いに子供を増やしてもらうといいと思う。繰り返すが、追加予算を要さない少子化対策だ。
しかし、人々が相互に嫉妬深い昨今では、経済力を含めた異性に対する魅力の格差が家族の形で露骨に可視化されるような制度は許容されないのだろう。かの渋澤栄一翁が活躍したような時代を羨んでも仕方がない。
フランスや北欧の国で出生率が向上した実績があることから、婚外子(結婚していない男女による子供)の権利を、結婚している家庭の子供とまったく同等に認めるとともに、金銭的・物的(保育施設の充実など)な子育て支援を大いに拡大することが、考えうるベストな少子化対策だという意見もある。
大きな反対点の見当たらない相対的に良い意見だと思うのだが、夫婦別姓が認められず、同性同士の結婚も認められないような、独特に不寛容な家族観を持つ保守層が大きな政治的力を持つわが国では、予算措置以前に、安心して婚外子として生まれてくることができる社会を作ることが難しそうだ。
また、仮に「婚外子ウェルカム!」の社会を制度上作ることができても、人々がこれに慣れて、実際に出生率が上昇し、さらにそれが国力の維持(「増強」よりも「維持」が適切な言葉だろう)に結びつくにはこの先何十年もかかりそうだ。
そもそも、少子化対策自体が「何十年もかかる」ものなのだろうが、今のわれわれが張り切って取り組むには気の長すぎる話だ。
さて、デフレ対策の目的が経済の活性化にあったように、少子化対策の目的は、少子化それ自体の解決にあるのではなく、個々の国民が快適に暮らすことができて、加えて経済がより活性化するようになることにあるはずだ。
少子化が進むと、これらは絶対に達成できないのだろうか。快適な暮らしと、経済の活性化が達成できるなら、人口は減ってもいいのではないだろうか。
例えば、「現役世代2人で高齢者1人の面倒を見る」というといかにも大変に聞こえるが、仮に現役世代1人当たりの生産性が2倍になっているなら、現在の負担に換算して「4人で1人の面倒を見る」という実質なので、負担はぐっと楽になる。
1人当たりの「生産性」を上げる「2つの方法」
問題は1人当たりの「生産性」にある。労働者1人当たりの生産性を上げる方法は2つある。
1つは、資本をより潤沢に投入することだ。例えば、介護の分野なら、高齢者をより元気にするための医学に投資すべきだし、介護ロボットをはじめとする道具的なものの進歩がありうる。オンラインと、いわゆるAIを併用した介護サービスにも進歩の余地があるだろう。
もう1つは、流行の言葉で言うなら「人的資本」に投資することだ。一人一人がもっと稼げるようになる「人間への投資」を考えるべきだ。端的に言って、教育投資を「極端に」増やすべきだろう。
OECD(経済開発協力機構)のホームページで、公的教育支出(対GDP比)を見ると、その余地が大いにあることがわかる。
例えば、2020年で高等教育まで含む公的教育費支出のOECD平均はGDPの4.1%だが、日本は2.8%にすぎない。家庭が教育熱心であることがその差を少し埋めているかもしれないが、それは家庭にとって、より重い負担が回っているということでもある。少子化の1つの原因でもあるだろう。
OECDのデータで、より衝撃的なのは、大学以上の公的教育費支出で、日本はたったの0.45%で、OECD平均0.93%の半分にも満たない。ちなみに第2次世界大戦を日本と一緒に戦ったドイツは1.04%だ。
大学の数や、私立・公立の別など個々の国の事情による差はあるとしても、高等教育に対する日本の公的な投資の乏しさには愕然とする。日本人がよく気にする大学の国際ランキングも下がるのも仕方があるまい。
まるで「先端的な学問は外国に行って学んでくれ」と言わんばかりの「頭脳と技術のアウトソーシング」ぶりだ。日本は、「難しくない下請け仕事に徹する愛想のいい元経済大国」といった国家像を目指しているのだろうか。
仮に、日本人が教育に対して、お金と時間と努力とを徹底的に投資して、少なくとも学力が世界一の国民になるとどうだろうか。「生産性」はもちろん上がるだろうし、生活はより便利になるだろう。周囲の人々が賢いことがもたらす快適さも見落とすことのできない外部経済効果だ。
予算を倍増すべきは「公的教育費支出」
この場合、手始めに動かすべきはお金だ。お金を動かすと、人がついてくるし、例えば教師の質が上がると、生徒の質も上がるし、国民1人当たりの生産性向上の効果が10年目くらいから表れはじめるのではないか。
生産性が上がるということは、1人1人がより稼げるようになるということだから、結婚したい人はより結婚しやすくなるだろう。また、教育費は大きなコスト要因として子供を持つことを阻害してきたから、教育費負担が国に移るなら子供は増える理屈だ。
加えて何よりも、日本の企業と人が競争力を回復すると、社会が明るくなる。明るい社会でこそ「子供を持ってもいい」と思う人は増えるのではないか。
もちろん、子供が増えることに依存しない暮らしを作るのだから、そうならなくても構わない。だが、少子化が進んでも成長して快適に暮らせる世の中になると、子供はまた増え始めるのではないだろうか。
本記事が配信される日(3月11日)は、大学の合格発表と高校別の合格者ランキングなどが話題になる頃合いだ。わかりやすい目安として、日本の大学が国際ランキングの上位を独占するような状況を目指すべきではないだろうか。
蛇足だが、将来の国会議員の質問に対する政府の答えを1つ用意しておこう。「大学は(「教育は」でもよい)1位じゃないとダメなんですか?」と聞く議員がいたら、大臣は「もちろん、そうです」と自信を持って答えるといい。経済的な競争力は、「1位」と「2位以下」とでは大差になるのが通例だ。競争するならこの点は甘く見ないほういい。だが、1位を目指すのは、張り合いのある競争ではないだろうか。
教育に裏付けられた高い生産性は個々の国民の生きる力(≒稼ぐ力)にも直結するので、国民個人の安全保障にとっても好ましい。
予算を「倍増」するなら、子供予算よりも、防衛費よりも、公的教育費支出だ。
●これが復興の目玉? 謎だらけの「福島国際研究機構」 3/11
東京電力福島第一原発事故で被災した福島県の沿岸部、いわゆる浜通り。新産業創出の中核として、政府が同県浪江町に開設するのが「福島国際研究教育機構」だ。モデルにされたのは米国の核施設の周辺地域。原子力や核兵器を礼賛する地だ。「こちら特報部」はかねて問題視してきたが、四月の開設に向けて準備が進み、誘致合戦も起きた。こんな形の「復興」でいいのか。
開設目前でもサイトは準備中、事務所は間借り
「準備中」—。福島国際研究教育機構のウェブサイトは開設3週間を切った今も、その画面だけ。原発事故からの復興の目玉とされるが、何が始まるのかよく見えない。
機構は、福島復興再生特措法に基づく特別な法人として、国が設立する研究教育機関だ。福島復興の柱となる「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)」構想の一環で整備される。構想は産業集積に加え、人材育成や交流人口拡大などに、国と県市町村が連携して取り組むことを盛り込んでいる。
構想において、機構が担う役割は重い。廃炉や放射線関連、ロボット、農林水産業、エネルギーの5つを重要分野に、研究開発や産業化を進めるという。約50の研究グループに計数100人が参加する予定だ。
「震災前の状態に戻す復興ではなく、国の産業技術力の強化に資するものにしていきたい」と、復興庁の機構準備室の安藤輝行・参事官補佐は力強く語る。「新産業創出の司令塔として機能していく」
2023〜29年度の7年間の事業規模は計1000億円ほど。23年度は研究開発費や人件費など146億円を計上している。
意気込みはなかなかのものだが、事務所は当面、浪江町の施設を間借りするという。パンフレットで「世界に冠たる創造的復興の中核拠点」と銘打つ国家事業にしては、心もとない印象が残る。
米国の「放射能汚染から復興」を参考
この機構は20年6月、復興庁の有識者会議がまとめた原発事故の被災地復興に関する報告書がベースになっている。
報告書が機構のモデルにしたのが、米国ワシントン州のハンフォード核施設周辺だった。「こちら特報部」は当時から、この地域の特殊性を指摘していた。
ハンフォードについて、報告書は「軍事用のプルトニウムが精製され、放射能汚染に見舞われたが、環境浄化のために多くの研究機関や企業が集積し、廃炉や除染以外の産業発展に結び付いた」と復興の成功例のように位置付けた。1940年には1万8000人ほどの人口が、2020年には30万人近くに達したとし、「全米でも有数の繁栄都市」と絶賛した。ただ、ハンフォードは原爆の開発拠点の一つで、原子力が礼賛される地域という事実には触れなかった。
以後も政府は準備を進め、沿岸部の9市町が誘致合戦を繰り広げた。核礼賛の地をモデルにした点について、地元自治体はどう捉えているのか。
機構が設置される浪江町の磯貝智也・企画財政課課長補佐は「ゼロから復興していったという意味でのモデル。ハンフォードと福島の事情は別物だ」と距離を取り「それよりも、五つの重要分野は決まったが、具体的な内容は決まっていない。スピード感を持ってほしい」と国や県に注文する。
誘致を目指した広野町復興企画課の小松和真課長も「構想の具現化にはまだまだといった様相だ。早く復興を進めたい」と、地元に寄与する中身を求めた。
機構での研究は特定秘密に?住民警戒
核を礼賛する地域を手本とした拠点づくりに、警戒の動きが出ている。
福島県内の住民グループ「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」の和田央子さんらは昨年10月、「福島イノベーション・コースト構想を監視する会」を結成。大学教授らを招いて月1回の勉強会を開き、その内容をインターネットで公開している。
和田さんは「原発事故というマイナスをプラスに変えようとしているのだろうが、負の側面を厚化粧して覆い隠そうとしている」と厳しい目を向ける。機構が司令塔として新産業を創出していく構想についても「原発で利益を出した企業が、また利益を出す構図になっていないか」と問題提起する。
監視する会は、機構の下で研究が進められる先端技術が軍事転用されることも危ぶんでいる。機構の重要分野「ロボット」には水素ドローンの開発も一例に挙げられている。
会の勉強会で講義をした東北大の井原聡名誉教授(科学技術史)は「福島の復興を語りながら、福島の生業の復興ではなく、外部からの新産業移植、国家的イノベーション都市建設のテストケースだ」とみる。「廃炉研究が第一のはずが、いろんな柱ができて影が薄くなってしまった。どこに力点があるのか。しかも、それに復興の予算を使うという。何重にも問題があると感じている」と機構の意義そのものを疑問視する。
機構は人材育成の場でもあることをうたうが、軍事転用可能な国家プロジェクトが研究内容になれば、特定秘密に指定される可能性もある。京都大の駒込武教授(教育史)は「研究者は公表する研究成果が業績となり、地位を築いていく。公にできない研究をしても機構の外で仕事はできない。若い研究者は集まらないのではないか」と予測する。さらに、「研究というのは自由があってこそ成功する。内容は別にしても、国が期限や予算を決めた研究では、おそらくうまくいかないだろう」と付け加える。
かつての特攻隊訓練施設で
機構は福島第一原発に近い浪江町につくられる。その原発は軍と浅からぬ縁がある。
既に日中戦争が始まり、太平洋戦争の開戦が近づいていた1940(昭和15)年、旧日本陸軍が現在の福島第一原発所在地に「磐城飛行場」の建設を決めた。飛行場は終戦間際、特攻隊の訓練施設として使われ、米軍の空襲を受けた。跡地には碑が建てられ、今も当時を伝えている。
特攻隊が訓練していた場所の近くで、軍事転用が可能とみられる研究が行われる施設をつくることは、地元に複雑な感情を与えかねない。
被災地につくられる機構について、福島県の取材を続けるフリーライターの吉田千亜さんは「福島から事故後、避難してしまった人は関われない。原発事故と復興が利用されているのではないか」といぶかる。
復興庁は昨年8月に発表した「新産業創出等研究開発基本計画」で、機構を中心に産学連携による日本の科学技術力の向上を前面に出した。こうしたことからも、吉田さんは機構が復興のためになるのかという疑念がぬぐえないでいる。
「産・官・学の連携や科学技術力の向上が重点になっている。集う研究者の中には『復興のために』と思っている人もたくさんいると信じたい。しかし、機構が地元に与える影響は限定的だろう」と冷ややかな見方を示した上で、こう強調する。「そもそも、地元の人がどれだけ望んでいるのか、という議論も見えない。上から降ってくる復興が地元の人たちのためになるのか」
デスクメモ
東京大空襲が起きたのは78年前の3月10日。5カ月後、広島と長崎に原爆が投下され、終戦を迎える。そうした経緯と関係が深いハンフォードを手本にした施設を原発事故の被災地につくるのは、すっきりしない。新産業創出という美名のもと、負の歴史にふたをしていないか。
●黒田日銀、最後の金融政策決定会合を現状維持で幕引き 3/11
日本銀行の黒田東彦総裁は最後の議長を務めた3月の金融政策決定会合を現状維持で締めくくり、これまで繰り返された「黒田サプライズ」はなかった。歴代最長の10年間に残したレガシー(遺産)への評価は功罪相半ばする形となっている。
日銀は10日の会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策を軸とした現行の金融緩和策の据え置きを決めた。昨年12月の長期金利の変動幅拡大後も市場機能に目立った改善が見られない中、追加の政策修正観測も一部でくすぶっていた。 
黒田総裁は就任直後に、安倍晋三首相が掲げたアベノミクスの3本の矢の一つとなる異次元緩和を導入。日本経済をデフレ状態から浮揚させたが、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現は果たせなかった。さまざまな副作用とともに4月発足の新体制に引き継がれる。国会は10日、次期総裁に経済学者の植田和男元審議委員、副総裁に内田真一日銀理事と氷見野良三前金融庁長官を起用する人事案に同意した。
黒田総裁は10日の会合後の会見で、過去10年間の大規模金融緩和の成果について、日本経済の潜在的な力が十分発揮されたという意味で「成功だった」と総括。金融政策に過度の負担がかかったとは思わないとした上で、「3本の矢ということでアベノミクスを進めたこと自体は正しかった」と振り返った。
ブルームバーグがエコノミスト45人に黒田氏の日銀総裁としての評価を尋ねたところ、「成功」との回答が56%となり、「失敗」は44%だった。60点を及第点とした100点満点での採点(回答者46人)では、中央値がちょうど及第点と同じ60点となった。
この二分された評価こそが黒田日銀の10年間を物語っている。多摩大学特別招へい教授の真壁昭夫氏は「一時、経済の先行き期待を高めた。それは重要な成果と言える」とする一方で、2016年1月のマイナス金利政策の導入以降は「国債市場の流動性枯渇など経済、金融市場への弊害は増えた」とみている。
黒田総裁が13年4月に2%物価目標を2年程度で実現すると高らかに宣言して打ち出した量的・質的金融緩和政策(QQE)は、金融政策のレジームチェンジ(枠組みの変更)を国内外に印象付け、市場心理の好転に大きな成果を挙げた。
日本経済を覆っていた閉塞(へいそく)感の象徴とも言える過度な円高と株安が是正され、企業収益の増加と雇用の拡大を実現した。安倍首相の後ろ盾を得た大胆な金融緩和政策は順調な滑り出しもあり、黒田総裁の就任前に強まっていた政権による金融緩和圧力は大きく後退した。
ナットウエスト・マーケッツ証券の高橋祥夫チーフ・ジャパン・エコノミストは、黒田総裁の政策について「最大限の緩和によって『デフレでない状況』を創出する一方で、金融政策の限界を示して構造改革の必要性を明らかにした点で、日本経済の回復にとって必要なステップだった」と評価している。
財政規律
一方、大規模緩和の推進と長期化による副作用も浮き彫りになっている。発行済み国債の半分以上を日銀が買い入れている国債市場では、長期金利も誘導する異例のYCC政策の下で市場機能の低下が深刻化した。超低金利環境の長期化は金融機関の経営を圧迫し続けている。
エコノミストらは政府の財政規律への影響も強く憂慮している。2年程度での物価目標実現に失敗した黒田日銀の金融緩和は、16年9月のYCC政策の導入とともに持久戦に入り、超低金利が財政政策にも組み込まれる形となった。新型コロナウイルス感染症の拡大を機に100兆円を超える予算編成が続き、大型の補正予算も常態化している。
黒田総裁は、財政政策は政府と国会が決めるものだとし、日銀の国債買い入れは財政赤字を直接補てんする「財政ファイナンスではない」と繰り返す。ただ、ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明チーフエコノミストは「日銀もYCCで低金利環境を継続した点で責任がある」とみている。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、10年に及んだ黒田緩和は「痛み止め策」としては機能したとしつつ、「それにより本来必要だった構造改革は進まず、時間の浪費になってしまった」と指摘する。「財政規律の激しい弛緩(しかん)、市場機能まひ、過度な円安による購買力低下など弊害も多々招いてしまった」との見方を示す。
円安を誘発
ぶれない姿勢に定評のあった黒田総裁だが、任期終盤にはそれが裏目に出ることも目立った。ロシアのウクライナ侵攻の影響から世界的にインフレが高進し、米欧の中央銀行が積極的な利上げを進める中、黒田氏が金融引き締めを強く否定する態度は市場にはかたくなに映ったようだ。
外国為替市場では、黒田氏の発言を受けて円安が進む局面が増え、昨年後半には3カ月間で約20円もドル安・円高が進み、一時1ドル=152円寸前に達した。6月の講演での値上げ許容度発言の記憶も残る中で、物価上昇の一因として批判を受けた。政府は昨年9月以降、24年ぶりの円買い介入を余儀なくされた。
T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフストラテジストは、昨年に物価のモメンタム(勢い)が上向きつつある中で緩和にこだわり続け、円安を招いたことは黒田総裁の「晩節を汚したとも言える」と指摘。この結果、多くの国民から反発を買ってしまい、「もう少し国民の声に耳を傾けるべきだった」としている。
金融緩和の限界 
大規模緩和の長期化は、金融政策の限界も露呈させている。日銀のバランスシート(貸借対照表)が国内総生産の30%から120%に拡大した「壮大な金融実験」は、物価上昇と経済成長のいずれの面でも「効果は控えめだった」と白川方明前日銀総裁は国際通貨基金(IMF)の季刊誌への寄稿で論じている。
白川氏が13年1月に政府と合意した共同声明では、デフレ脱却に向けた政府と日銀の役割分担が明記されている。しかし、日銀の対応に比べて政府による構造改革や規制改革への取り組みが不十分だったとの指摘が少なくない。
みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは、大規模緩和によって「金融政策だけで経済・物価情勢が劇的に変わることはないのだという当たり前の事実をしっかり白日の下に晒(さら)すことができた」との見方を示した。
国際舞台で活躍
2月にインドのベンガルールで開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議。議長が終了間際に今回が黒田総裁にとって最後の参加となることを紹介すると、出席者はスタンディングオベーションで貢献をたたえたという。黒田氏が長年にわたり国際舞台で築いてきた豊富な人脈と信頼関係を示す出来事と言える。
黒田氏はG20会議終了後の記者会見で、1999年のG20発足時に財務官、その後はアジア開発銀行総裁、日銀総裁として会議に参加してきたことを自ら説明。「その時々の重要な世界経済、金融の問題について、大変有意義な議論が行われ、それに対して何がしかの貢献ができたのではないか」と振り返った。
●米財政収支、2月は2620億ドルの赤字 税還付金が増加  3/11
米財務省が10日発表した2月の財政収支は2620億ドルの赤字となった。歳入が減少した一方、主に内国歳入庁(IRS)の税還付金の増加を反映し歳出が増加した。
2月の財政赤字は前年同月から21%増加した。
歳入は10%減の2620億ドル。歳出は4%増の5250億ドル。
2022年10月─23年2月の財政赤字は7230億ドルと、前年同期比52%増加した。歳入は4%減の1兆7350億ドル、歳出は8%増の2兆4580億ドルだった。
●「異次元の少子化対策」を失敗させない大切なこと 3/11
2022年の出生数は79万9728人と、内務省・内閣統計局『国勢調査以前日本人口統計集成』によれば、1872年の出生数が56万9034人、翌1873年が80万9487人だったので、1873年以降、初めて80万人下回った。なお、現在に至る人口動態統計制度が確立したのが1899年なので、巷では1899年以来最低の出生数と報じられている。いずれにしても、少子化対策が待ったなしの喫緊の課題であることは国民の共通認識と言えるだろう。
明治32年以来最悪の出生数にどう対処するのか
こうした国難ともいえる「危機的な」少子化に対して、岸田文雄首相が子育て予算を倍増する「異次元の少子化対策」を打ち出したことは、本連載でも再三取り上げている。
この「異次元の少子化対策」の財源として、権丈善一慶應義塾大学教授が提唱する「子育て支援連帯基金」構想が有力となっている。「基金」構想では、年金・医療・介護保険などの公的保険財源から一定額ずつ拠出して、少子化対策の財源とする。
こうした「基金」構想と似た案として、2017年に自民党「2020年以降の経済財政構想小委員会」が提案した「こども保険」がある。社会保険料に0.1〜0.5%程度上乗せする「こども保険」を導入することで、所得制限なしで現行の児童手当に一律月額5000〜2万5000円を上乗せして幼児教育・保育の負担軽減や実質無償化を図ろうとするものだった。
通常、社会保険は、何らかの社会的なリスクに対応するものとして設計される。
例えば、年金保険であれば長生きリスク、医療保険であれば病気になるリスク、介護保険であれば要介護状態に陥るリスクだ。どうやら「基金」構想が念頭に置く「リスク」は、このまま少子化が進行すれば社会保障の持続可能性が失われるという「リスク」に対応するもののようだ。
専門家の間では、子育てが社会保険の対象とする「リスク」であるか否かさまざまな議論はあるが、そもそも社会保障は、国民の合意形成に基づいて特定の「リスク」を選択し、それに対応した制度を導入してきた。例えば、家族が増えるということは家計支出の増加を意味し、そうでない場合に比べて家計が苦しくなることをリスクとみなし、社会で支えるのも十分可能である。したがって、子育てが「リスク」であるかを問うことは、神学論争に陥ってしまい、あまり意味がない。
「基金」構想の落とし穴
2020年度現在、社会保障の規模は給付面では132.2兆円、負担面では184.8兆円となっている。「異次元の少子化対策」とそれを支える「基金」構想では、給付も負担もさらに上乗せされることになる。
実は、この「基金」構想には落とし穴がある。統計で見える事実から明らかにしていきたい。
関係性1:社会保障の規模の拡大は、負担で見ても給付で見ても、出生率を低下させる。
図1は、経済協力開発機構(OECD)38カ国の社会保障への国民負担および社会支出と出生率の関係を示している。それによれば、国民負担(租税及び社会保障負担)が増えれば出生率は低下し、社会支出が充実すれば出生率が低下する。このことから、社会保障の規模が拡大すれば、出生率が低下する関係の存在が示唆される。
関係性2:社会保障負担の拡大は、経済成長率を低下させ、経済成長率の低下は出生率を低下させる。
図2からは、OECD38カ国の経験によれば、国民負担を増せば経済成長率が低下し、経済成長率が低下すれば少子化が進む関係の存在が示唆される。
したがって、「異次元の少子化対策」が新たな財源を社会保険に求め、社会保障の規模を今以上に拡大させるならば、その意図とは反対に、かえって少子化を加速化させる可能性が高い。つまり、「異次元の少子化対策」は確実に失敗し、日本の没落を加速させるだろう。
社会保障のスリム化こそ必要
「異次元の少子化対策」の失敗を避けるには、社会保障を負担面でも、給付面でも拡大させずに、つまり、少なくとも現状の範囲内に抑える必要がある。
OECD諸国で比較すると、高齢世代向け支出対名目国内総生産(GDP)比は日本9.4%、OECD平均7.7%、子育て世代向け支出対名目GDP比は日本1.7%、OECD平均2.1%となっている。
図3からは、日本の高齢世代向け支出はOECD平均で見て1.7ポイント上回り、日本の子育て支出は0.4ポイントOECD平均を下回っていることが分かる。したがって、高齢世代向け支出を削減し、子育て対策に回せば、現状の社会保障の大きさの範囲内で子育て施策に最大で9兆円捻出できる。「異次元の少子化対策」もしくは子育て予算の倍増は、新たな財源を措置しなくても十分実現可能なのだ。
また、子育て支出の内訳をみると、保育サービスなどの現物給付は0.1ポイントOECD平均を上回り、児童手当などの現金給付はOECD平均を0.5ポイント下回っている。したがって、子育て支出内の振り替えも考えるべきだ。
そもそも、社会保険料は主に子育て前・中の世代を含む現役世代によって担われている。社会保障制度の持続可能性が高まれば高齢世代も等しく恩恵を受けるのだから、高齢世代も負担を負うのが筋のはず 。さもなければ、ただでさえ世界でも深刻な日本の世代間の不公平性をいっそう拡大してしまうだろう。
亡国を防ぐためには
さらに、事態を深刻にさせるのは、負担が重くなればなるほど、海外へ脱出する国民が増えるという関係性の存在である。
関係性3:国民負担率が大きいほど、海外永住者が増える。
このように、「異次元の少子化対策」が失敗すれば日本の衰退はおろか亡国への流れは決定的になってしまうだろう。日本を衰退させないためにも、新たな負担ではなく社会保障給付の付け替えや効率化で財源を捻出し、子育て政策を充実すべきだ。
くれぐれも、「異次元の少子化対策」をこれまでの社会保障政策・制度改革の失敗を覆い隠すための方便とさせてはならない。
●親族に仕事発注…労基が是正勧告した山梨学院大理事長 3/11
山梨県甲府市に広大なキャンパスを構える山梨学院大。「徳を樹つることを理想とする」といった高尚な建学精神をルーツとするこの大学でいま、教職員らの退職が相次いでいる。ジャーナリストの田中圭太郎氏によると、その原因は2018年に就任した理事長の暴走にあるという。「質の高い教育」よりも「金」を求める、山梨学院大のいまを問う――。
「質の高い教育よりも収入」を求める理事長
「古屋光司理事長兼学長は2018年4月に就任して以来、まるでベンチャー企業の経営者にでもなったかのような気分で大学を弄んできました。不透明な財政支出も少なくありません。税金を原資とした公的資金が投入されている学校法人を、自らの個人経営の商店であるかのように勘違いしているのではないでしょうか」
憤りながら打ち明けたのは、山梨学院大学に長年勤務する教授だ。この教授以外にも学校法人山梨学院に勤務する多くの教職員が、古屋光司理事長兼学長による経営方針に大きな疑念を抱いていた。
古屋氏は司法試験に合格して弁護士登録をしたのち、2006年4月から法人本部で勤務していた。副学長などを歴任し、父親の後を継いで理事長兼学長になったのは39歳のときだった。
大学の学長としては全国最年少で、若い経営者への期待もあったかもしれない。ところが、就任後すぐに自分に近い人物を要職に登用し、腹心と言われる准教授を副学長に据え、2019年には同じく准教授だった自分の妹を副学長にした。
さらに、民間企業からの転職者を2019年から各事務部門の管理職として任用する一方、自分の意に沿わない教職員には左遷とも言える強硬な人事を行った。
教職員の不信感が決定的なものになったのは、2019年4月1日に行われたキックオフセレモニーだった。古屋氏は教職員に対し、人事政策について次のように書かれた資料を示す。
   質の高い教育サービスの提供≠給料が上がる
   収入が増える=給料が上がる
主張しているのは、質の高い教育サービスを提供しても給料が上がることにはつながらず、学校法人の収入が増えることだけが給料が上がる要因になる、ということだった。つまり、質の高い教育よりも利益を追求し、利益が増えない場合は教職員の給料を下げることを意味している。
ただ、大学は定員も決まっており、大きく利益を伸ばせる事業ではない。大学はそもそも赤字で、山梨学院で黒字の部門は高校と短大しかなかった。さらに、教授会で示した資料では「本学は、あくまで教育に特化する」として、「従来の日本の大学に見られる典型的な『研究者教員』を望む人は、今後、本学とのマッチングはない」と説明した。
研究者はいらないと言っているに等しいが、大学は「研究」と「教育」を両輪としているのは言うまでもないはずだ。
理事長の独断で「定年切り下げ」「雇い止め」「人件費削減」
古屋氏が就任後すぐに取りかかったのは、従来から働く教職員の人件費を削減することだった。最初に非常勤講師の定年切り下げや雇い止めが実施されたものの、行政機関からその違法性が指摘されることになる。
2019年1月28日、甲府労働基準監督署は学校法人山梨学院に対して立ち入り調査を実施して、指導と是正勧告を行った。理由は、労働基準法に定められた手続きをとることなく、非常勤講師の定年を70歳から65歳に切り下げることや、65歳以上の講師を3月末で退職させることなどを定めた就業規則を作成していたためだ。
労基署は山梨学院に対し、就業規則に盛り込まれた非常勤講師にとって不利益な変更内容の取り扱いを再度検討するとともに、法律に沿った手続きをやり直すことを求めた。労基署がこれだけ明確に指導し、是正を勧告するケースは学校法人では全国的にも珍しい。それほど悪質だったと言えるだろう。
しかし、山梨学院はこの是正勧告を無視するに等しい態度を取っている。勧告を受けた2カ月後の3月、就業規則変更のための過半数代表者選挙は実施した。ただ、就業規則の改定案は、前回とまったく同じ内容だった。非常勤講師にとって不利益な変更は再度検討するようにという指導を聞き入れていない。
しかも、選挙は大学が春休み中の3月末に実施することになった。立候補期間は土曜、日曜を除くと3日間しかなく、投票期間も2日間だけ。多くの人が選挙を知らないまま終わってしまうと危機感を抱いた教員らが立候補して、山梨学院側が擁立した候補ではない教員が当選した。
この教員は就業規則改定に対する意見書を書いたが、「定年の引き下げなどの不利益変更をしないように」と書いた部分を削除させられた。この書き直し要求は、労働基準法の施行規則に抵触する。
だが山梨学院側は「(過半数代表者の)意見が(就業規則に)反映されるものではないから」と、そのまま就業規則を労基署に届け出て「法的に有効」と主張した。その結果、少なくとも20人以上の非常勤講師が不当に雇い止めされたとも見られている。
山梨学院は専任の教職員に対しても、事前に説明をしないまま給与の大幅な引き下げを断行した。2019年4月から、期末手当をそれまでの年間5.1カ月分から、評価によって3.0〜4.6カ月分に変更している。平均的な評価を受けた場合は3.8カ月分なので大幅ダウンになる。
さらに、赤字の部門は期末手当を年間2.0カ月分にすると一方的に通告してきた。黒字の部門は一部に限られるので、大半の教職員が2020年度には期末手当を年間2.0カ月に下げられることになった。
古屋氏による経営方針や人件費削減などを受けて、退職者も続出する。正式な数字は明らかになっていないが、関係者によると職員だけで2018年度と2019年度の2年間で50人以上が退職したと見られている。
山梨学院が経営難の状態にあり、人件費削減をしなければ存続できないというのであれば、教職員も納得するだろう。しかし、法人の資産総額から負債総額を引いた正味財産は400億円以上あった。
しかも、人件費を削減する一方で、古屋氏による私利私欲とも言える支出が明らかになった。妻が経営する会社に、法人から様々な事業が発注されていたのだ。その一つは、2018年に変更された大学のロゴマークをめぐる支出だった。ロゴのデザインなど関連事業が妻の会社に発注されていた。
もう一つは、大学広報のウェブマガジンの制作だ。以前は広報誌の形態で法人が発行していたものを、妻の会社が受注していた。もっと不可解なものもある。前述のキックオフセレモニーで、民間から転職してきた管理職を紹介する動画が会場に映し出された。この動画を受注していたのも、妻の会社だった。これらの発注金額を法人は明らかにしていない。
個人経営の私立大学では、どこでもワンマン経営は起こりうるかもしれない。しかし、学校法人は税制優遇を受けているうえ、毎年私学助成金を受け入れている。つまり、税金が投入されているにもかかわらず、親族への発注は問題ないと法人は主張しているのだ。
新会社の設立は「上層部に利益を集めるため」か
新たな疑惑も持ち上がっている。2019年7月から8月にかけて、古屋氏や法人幹部らの自宅などに、複数の新会社が設立されていたのだ。しかも、そのうちの一つの会社に法人から4億5000万円が出資されていた。
この会社は2019年12月に設立された「C2C Global Education Group」。C2Cは古屋氏が掲げる経営理念を表すものだ。大学の総務課長が代表取締役を務める。所在地も総務課長の自宅住所だ。
会社の目的には、教育から不動産管理、広告・宣伝まで、法人が行ってきた事業や業務のほぼすべてが記載されている。法人としての事業を、この会社を通じて実施するのだろうか。
その他の会社も不可解なものが多い。古屋理事長兼学長の自宅を所在地にしている「C2C Holdings」は、2019年7月に設立され、2020年4月に「DiDi Holdings」に名称を変更している。代表取締役は古屋氏と学校法人専務理事の成瀬善康氏で、コンサルティングや人材育成などを業務にしている。
山梨学院大学の住所には「C2C Global Education Japan Holdings」「C2C Global Sports Academy」「C2C GlobaL Language Academy」が設立されたほか、別の住所には「C2C Global Education」もある。それぞれ古屋氏や学校法人の幹部が代表を務める。
なぜ2019年7月から12月にかけて、「C2C」名を冠した会社が次々と設立されたのか。可能性として疑われるのが、2020年4月に施行された私立学校法の改正だ。
この法改正では、私学に対して「役員の職務及び責任の明確化等に関する規定の整備」や「情報公開の充実」、「中期的な計画の作成」などが定められた。学校法人の運営の透明化が求められると同時に、理事や理事の親族などに特別の利益を与えてはならないことや、利益相反取引を制限することも定めている。
「C2C」グループの企業が学校法人とどのような契約を結んでいるのかは不明だが、改正法の施行を前に、理事長兼学長をはじめ、上層部それぞれが利益を得られるような体制を「駆け込み」で作ろうとしたと受け止められても、仕方がないのではないだろうか。
これだけの問題が噴出しているにもかかわらず、古屋理事長兼学長の「暴走」に歯止めはかかっていない。学校法人は「5000億円の売上を目指す」と目標を掲げ、学費の値上げも行っている。
山梨学院大学の学長は2022年4月、古屋光司氏に代わって青山貴子氏が就任した。青山氏は古屋氏の妹だ。理事長は引き続き古屋氏が務めている。
●史跡は保護するだけじゃない 総面積の16%を占める太宰府市の稼ぎ方 3/11
元号「令和」発祥の地として知られる福岡県太宰府市は、その歴史にふさわしく市全域の16・4%にあたる485ヘクタールが史跡に指定されている。長い歴史のあるまちの証明でもあるが、開発が困難になるうえ、年間数千万円に上る維持管理費の負担が市の財政を圧迫するという課題も浮上する。そんななか、これまで国に補助金増額を要請してきた市は、発想を転換し「史跡地で稼ぐ」事業に力を入れ始めた。税収を上げる手法とその成果は−。
観光客でごったがえす太宰府天満宮から2キロ余り離れた「大宰府跡」。7世紀後半から12世紀後半にかけて九州を統括した行政機関「大宰府政庁」が置かれた場所で、東京ドーム7個分に当たる約32ヘクタールもの空間に古い建築基礎などが残り、国の特別史跡に指定されている。芝生や雑草は定期的に刈られ、景観は美しく保たれており、飲食店などの店舗や視界を遮る建物はなく、天満宮の参道のにぎわいが別世界のように落ち着いている。
滋賀県における琵琶湖と同じ割合が史跡
太宰府市には特別史跡が大宰府跡を含め3件、史跡も5件あり、総面積は485ヘクタール。全国でも有数の規模で、史跡の面積が市の面積の16・4%という割合は、滋賀県における琵琶湖が占める割合とほぼ同じだからその広さがわかる。
史跡全体の7割を市が公有化し管理しているが、草刈りや樹木の伐採、清掃などで年間4千万〜5千万円が費やされている。台風による倒木やイノシシなどによる被害で管理費は増加傾向だが、市有地であるなどの理由で国からの補助金は約3%にとどまるという。
公有化している史跡は入場無料で、文化財保護法や都市計画法で現状変更に制限が課されるため、商業施設などの建設は難しい。令和ゆかりの地として同市に観光客が殺到した令和元年でも観光収入は限定的で、市の問題意識は強まった。
保存と負担のはざまで
太宰府市の楠田大蔵市長は「史跡が多いために開発ができず、一方で維持管理のお金が出ていく。周辺市のように開発ができれば収入も増えるが、そういうと太宰府愛が足りないと批判される。保存と負担という点で対応が難しい」と苦しい胸の内を語る。
大宰府跡など3件が特別史跡に指定されたのは昭和28年。その直後の30〜40年代には高度成長期時代に入ったが「史跡指定地が広すぎて宅地の発展を妨げる」との批判もあり、同市では史跡の保存と開発が大きな論争となった。
史跡面積はその後も増え続け、同時に市は維持管理の負担に直面することになった。企業や住宅用の土地開発が難しいことから法人税や固定資産税などの税収が伸びず、人口面でも高層マンションの建設が進まず、周辺市が10万人を超える中で、同市の今年2月現在の人口は7万1千人にとどまっている。
逆転の発想 史跡で稼ぐ
「市民からは要望や批判も多い。なんとか財源確保を」と考えていた市長がたどり着いたのが「史跡で稼ぐ=vこと。楠田市長から「規制緩和などができないか、何か(アイデアを)出して」と指示を受けた市文化財課から一つの提案が上がった。史跡地で伐採した樹木や落ちた梅の実などは、商業利用が可能か不明確のため廃棄していたが、これを薪材に転用したり、産品を開発したりして収益を得ることはできないか−。
令和2年、内閣府に史跡管理の財源確保を目的に伐採木などの資源化を訴えたところ、規制緩和として認可が下りた。そこで翌年、この梅の実を使って産品を開発する「梅プロジェクト」を発足。この地の梅は万葉集にも歌われるが、目玉となる産品が少ないことが観光消費が伸びない要因でもあった。
事業には県内の企業や県立福岡農業高校(同市)などが参加し、菓子や酒などの商品を開発。ふるさと納税の返礼品にも活用したところ注目を集め、3年度のふるさと納税受け入れ額は2年度の4・2億円から9億円に倍増した。
財政状況好転 中学生の給食事業に
続いて常設店の設置が難しい史跡地に移動販売車を招くフードトラックの実証実験もスタート。史跡地の先進的多用途活用と銘打ち、税収を得る仕組みの検討を進めている。文化財課の中島恒次郎課長は「史跡があるから何もできないといわれてきたが、発想を転換すれば価値を生み出す場所に変えていける」と胸を張る。
ふるさと納税以外ではまだ税収効果は計測できないが、楠田市長は財政状況が好転したとして、市民の悲願だった市立中の「完全給食」を決定、6年1月から実施予定だ。楠田市長は「開発が難しい以上、史跡地を生かして価値を生み、市民ニーズに応えたい。子育て支援や高齢者向け施策、観光面の魅力向上も稼ぎがないとできない」と強調する。
国指定の史跡数は年々増え続けており、国の補助金に頼らず自ら稼ぐ太宰府市の取り組みは、他の自治体からも注目されている。(一居真由子)

特別史跡と史跡 / 文化財保護法では日本にとって歴史的、学術的に価値が高い都城跡や遺跡などのうち重要なものが史跡に指定され、このうち「学術上の価値が特に高く、わが国文化の象徴たるもの」が特別史跡となる。特別史跡は史跡の国宝ともいわれ、高松塚古墳(奈良県明日香村)や吉野ケ里遺跡(佐賀県吉野ケ里町)などが該当する。2月1日現在、全国に史跡は1881件、特別史跡は63件ある。都道府県別史跡数のトップは奈良県の126件で、福岡県の95件、京都府の93件と続く。
●原発事故の教訓はどこへ…原発回帰を強める岸田政権 3/11
東京電力福島第一原発事故から12年が経過し、岸田政権が原発回帰を強めている。政府が封印してきたリプレース(建て替え)や60年超の運転容認を決定。岸田文雄首相は、ロシアのウクライナ侵攻などを受けたエネルギー価格の高騰などを理由に挙げるが、国会で十分な議論をせず、昨年の参院選でも国民に説明していない独断による大転換だ。事故を教訓に推進してきた再生可能エネルギー普及の姿勢にも疑問符が付いている。
「リプレース」「60年超」独断で決定
首相は今月3日の参院予算委員会で、原発の必要性に関し「エネルギーの安定確保と脱炭素は世界的な課題だ。選択肢の1つとして、原子力に向き合うことを決断した」と強調した。
政府は昨年12月、原発のリプレースや運転期間の延長容認を盛り込んだ新方針を決め、今年2月に閣議決定した。運転延長を巡っては、政府の原子力規制委員会で地質学者の石渡明委員が安全性への懸念から反対を表明。最終的に多数決で了承という異例の経過をたどった。
野党は「拙速だ」と批判したが、首相は「専門家と100回以上議論した。会議のありようにも不備はなかった」と取り合わなかった。
原発事故後の政府方針からは、原発依存からの脱却と再エネ普及を進める意思が読み取れる。2014年の国の第4次エネルギー基本計画(エネ基)では、事故前の3次計画(10年)で示された新増設の推進が消え「可能な限り原発依存度を低減する」と明記。「再エネの導入加速」も記し、18年の5次計画は「再エネの主力電源化」を掲げた。
前提としていたのは、新規制基準に適合した原発の再稼働は認めても、運転期間が「原則40年、最長60年」に達した原発は廃止するという姿勢だ。新増設やリプレースについても政府は「想定していない」という立場を貫いてきた。
ひっくり返したのは首相。参院選を終えた直後の昨年8月、唐突にリプレースの検討を表明した。それから約7カ月。エネ基の方針は骨抜きになっている。
再エネ「政府の本気度足りない」
立憲民主党は18年、他の野党とともに原発の再稼働禁止や再エネへの抜本的転換を明記した「原発ゼロ基本法案」を国会に提出した。与党の反対で審議されず、衆院解散に伴い廃案になったが、泉健太代表は「再エネを伸ばしていくのが本筋」と主張する。
政府が21年に改定したエネ基の6次計画でも、原発のリプレースや運転延長は盛り込まず、再エネは主力電源化へ倍増という目標を掲げている。21年度の全電源に占める再エネ比率は約2割で、倍増なら4割台が目立つ欧州諸国に迫る。しかし、首相は「日本は山と深い海に囲まれ、再エネ適地が少ない」との考えを示すなど、原発に比べて消極的な発言が目立つ。
自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は、原発新設コストの高騰や建設期間の長期化を挙げ「原発推進が脱炭素に貢献し、電力価格が安定するという政府の説明は、根拠に乏しい」と指摘。原発・火力依存の体制を温存しようとする姿勢が再エネの普及を遅らせているとして「足りないのは再エネ適地ではなく、政府の本気度だ」と語った。
●ドイツ首相、18日に岸田首相と会談 初の政府協議で来日 3/11
ドイツ政府は10日、ショルツ首相が17日から日本を訪問すると発表した。18日に岸田文雄首相と会談し、主要閣僚を交えて初の政府間協議に臨む。中国を念頭に置いた経済安全保障やロシアの侵攻が続くウクライナ情勢を話し合う見通しだ。ドイツ経済界から企業幹部らも同行し、日本との関係強化をめざす。
ショルツ氏の来日は2022年4月以来で、首相に就任してから2回目。政府間協議には外務・防衛や財務などの主要閣僚が参加する。従来の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を大幅に拡充するもので、新しい定期協議の枠組みに位置付ける。
ショルツ政権が脱炭素社会の実現へ関心を示す水素エネルギーなど、気候変動問題も話し合うもようだ。協議後に共同記者会見を予定し、両首脳とドイツ企業団の意見交換の場も設ける。
ドイツはメルケル前政権が中国に対する融和路線を続けてきた。最大の貿易相手国として経済の結びつきが強まる一方、ショルツ政権内では台湾問題や人権侵害をめぐり警戒も高まっている。アジア外交の戦略見直しを迫られるなか、幅広い分野で日本との連携強化に期待を寄せる。
●政治部記者座談会 3/11
放送法内部文書は「亡くなった総務省職員」から託されたものか
安倍政権時代の放送法に関する内部文書の流出で大紛糾している今国会。それは岸田文雄・首相にとっても“地雷”となり得るものだった。国外に目を転じても、いまだ実現できていないウクライナ訪問や、国内外から大批判を浴びた林芳正・外相のG20欠席問題など多くの課題を抱える。番記者たちが見た裏側とは──。
党内の保守派に配慮
5月の広島サミットで議長を務める岸田首相は、G7首脳の中で1人だけ、まだ戦火のウクライナを訪問していない。
ウクライナ問題はサミットの最大テーマとなるだけに、岸田首相は議長の面子にかけても訪問したいと前のめりだが、極秘訪問の計画がしばしば外部に漏れ、官邸も外務省も「安全確保ができない」と尻込みしている。
しかも、国会では、野党議員が、テレビに対する報道規制強化のために放送法の解釈変更をしようとした安倍政権時代の官邸と抵抗する総務省側の具体的やりとりなどが記された80ページに及ぶ総務省の内部文書を暴露。その中には、当時の安倍晋三・首相と総務大臣だった高市早苗・現経済安保担当相の電話会談の内容まで書かれており、高市氏は国会で「捏造だ」と反論したが、総務省が文書は本物だと認めたことで政権を揺るがす大問題に発展している。ベテラン政治記者が言う。
「第2の森友事件の様相だ。あの時も安倍首相が国会で『私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める』と発言したことで財務省が文書改竄に走り、板挟みになった近畿財務局職員の自殺という悲劇を招いた。この問題の対応に岸田首相の命運がかかっている」
週刊ポストでは、政治部記者覆面座談会を開催。今回は外交では戦火のウクライナ訪問、内政では“第2の森友問題”で火だるまになっている岸田政権の内憂外患がテーマになった。メンバーは前回同様、官邸詰めや自民党担当の政治記者4人、記者AとBはキャップクラスのベテラン、記者CとDは第一線で取材している若手だ。
政治部記者座談会
司会(編集部): 文書は総務官僚OBでもある立憲民主党の小西洋之・参院議員が「総務省の職員から提供された」と出所を明言して公表した。総務省も文書は内部で作成したものだと認めざるを得なくなり、全ページを公表することになった。高市大臣は絶体絶命か。
記者C: 高市さんが「文書は捏造」と議員辞職まで言及したのは踏み込みすぎでした。総務省はあれだけ詳細な資料を偽物だと言い逃れできないから、すぐ内部文書だと発表するつもりだったが、あの発言で認めるまで時間がかかった。岸田総理は総務省が方針を決めるまで、国会で本物かどうか曖昧な答弁をするしかなかったわけです。
記者B: それでも岸田さんは高市さんを切れないんじゃないか。防衛費増税について高市さんがツイッターで「理解できない」と批判し、会見で「覚悟を持って申し上げている」と解任されても構わない姿勢を見せた時も、岸田さんは党内の保守派に配慮してクビにできなかった。今回総務省が内部文書と認めたのに、高市さんは「議員辞職を迫るなら、内容が真実だと野党が立証せよ」と開き直っている。
記者A: 文書が作成された当時の総務大臣は高市さん自身だ。大臣が役所から刺されたわけだよ。
記者D: これだけの重大文書の情報源は限られています。官邸や総務省は何としても情報漏洩させた犯人を突き止めるでしょう。悲劇が起きないといいんですが。
記者A: それはないんじゃないか。この文書は、亡くなった総務省の職員から、小西議員が託されたと言われている。あの当時、私も官邸詰めだったが、メディアへの圧力が厳しくなったと感じていた。当時、官邸で放送法の解釈変更に反対して圧力と戦っていたのが総務省出身の首相秘書官だった山田真貴子さん(後に総務審議官を経て内閣広報官を務めた)。文書にも、山田さんが礒崎陽輔・首相補佐官(当時)に「これはメディアへの圧力ととらえかねない」と反論している部分がある。総務省の職員も、亡くなる前に、このことを明らかにして歴史に教訓を残すべきだという思いが強かったのでは。
安倍政権より圧倒的に取材しやすくても“情報漏れすぎ”な岸田政権
記者B: 岸田政権は安倍政権より圧倒的に取材はしやすい。安倍政権時代は自民党幹部も官邸官僚も口が堅く、安倍さんを裏切れないというムードだったが、今は情報が漏れてくる。
司会(編集部): 情報が漏れすぎではないか。岸田首相のキーウ極秘訪問計画も、読売のスクープで幻となったと言われている。【 読売新聞が1月22日付の朝刊で、岸田首相が2月中にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行なう方向で本格的な検討に入ったと報じた件 】
記者B: 官邸は「外務省から漏れた」と言い、外務省は「行かせたくない官邸のリーク」と、責任のなすりあいをしている。
記者C: 読売が最初ではないんです。そもそも岸田総理はこの間ずっとキーウに行きたいと言っていて、昨年末に一度計画が立てられたが、この時は民放が報じて、岸田総理が「なぜ漏れたんだ」と怒った。次は国会が始まる前の今年1月の欧米歴訪のタイミング。しかし、総理がバイデン大統領との首脳会談を優先させたから日程が取れなかった。その次が、読売が報じた今年2月22〜24日の日程です。総理はロシアのウクライナ侵攻1周年(2月24日)までに絶対行きたいと考えていて、外務省、官邸がこの日程で調整していたことは官邸の記者は誰でも知っていましたが、読売が書いてポシャりました。
記者B: 官邸詰めの若い記者が皆知ってる極秘日程なんて、政権の情報管理の杜撰さを象徴してる。
記者D: 総理側近は「ほら(情報が)出るじゃん。だから日本の総理が行くのは無理なんだよ」と行けない口実にしてました。
記者C: 外務省も似たようなものです。バイデン大統領がキーウを極秘訪問した時、外務省の幹部は「あそこまで機密扱いでやりきったのはすごい」と感動していました。感動している場合じゃないだろうと思いましたね。
記者A: イタリアのメローニ首相がキーウを訪問した時は事前にメディアに報じられていた。事前に情報が漏れるから行けないというのは言い訳だろう。むしろ、日本のほうがメディアと組んで訪問を実現させるのは容易だと思う。報道解禁日を指定して事前の報道はしないとの報道協定を結び、新聞テレビの全社の記者を連れて行く。国会への事前報告も、野党は首相がウクライナに行くなら事後報告でいいと言っている。結局は岸田さんの周囲がビビっているだけ。
記者D: でも総理は5月のサミット前に何としても行くつもりのようです。
記者B: 岸田さんが最も恐れているのは習近平に先にキーウを訪問されること。中国は一応、和平案なるものを提案しているし、ウクライナのゼレンスキー大統領も習主席と会いたいと言っている。先を越されたら面目丸つぶれになる。
G20外相会合欠席で大恥の岸田政権、林外相と世耕氏との確執が国益に影響か
司会(編集部): 「外交の岸田」というが、実際は失点続き。林外相が「国会日程」を理由にインドで開かれたG20外相会合を欠席したことはインドをはじめ海外メディアから批判され、国際的に大恥をかいた。麻生太郎・自民党副総裁も、「ウクライナ情勢の話をする会合に、国会論議が理由で出られないことの反響を考えろ」と政府の対応を批判した。
記者D: あれは世耕弘成さん(参院自民党幹事長)の失態でしょう。外務省が林外相のG20案件を報告した時に、参院予算委員会の基本的質疑の日程に重なっていたので、「それは厳しいな」と言ったそうです。会見でも、「基本的質疑は重要度が高い」と林外相の国会出席の必要性を強調していた。それが、麻生さんに批判されてからは、G20の翌日にインドで開かれたクアッド(日米豪印4か国外相会談)には行かせると言い出しました。
記者C: 世耕さんは、「外務省から、どうしても出なければいけないという説明や要望は一切なかった」と責任は外務省にあると言っています。外務省が強く出席を主張しなかったのはそうかもしれないが、だったら党側が行くように促せば良かった。説得力に欠けますね。
記者B: 林外相と世耕さんは関係が良くない。林さんは参院から衆院に鞍替えして総裁候補とみられている。世耕さんはまだ鞍替えできておらず、林外相に後れを取っているから、ここで自分の力をアピールしたかったんじゃないか。政治家の嫉妬は怖い(笑)。しかし、2人のくだらない確執で国益に問題が出ているとしたらとんでもない。
記者D: 自民党内には、参院の国会日程を調整する磯崎仁彦・官房副長官の責任を問う声もあります。「人付き合いしないから大事な時に根回しができない」と。
記者B: いいや、そもそも岸田総理が本当にG20への外相出席が重要と考えていたら、官邸が参院側を説得して林外相を行かせるべきなのに、そうした認識がなかった。安倍政権では国会中に野党を説得して甘利明・経済再生相をTPP交渉のために海外に派遣した。安倍さんが生きていたら、この体たらくを見てボロクソに言うだろう。
記者A: そうなると麻生さんはピエロ。副総理時代から、予算審議で閣僚が一日中国会の答弁席に縛り付けられる慣行に不満を漏らしていた麻生さんとしては、G20発言は「野党が行かせなかった」という批判のつもりだったのだろうが、フタを開けると自分が支えている岸田政権、自民党が原因だったのだから、振り上げた拳の下ろしどころに困っている。

ロシアのウクライナ侵攻から1年が過ぎ、世界でエネルギー問題や食糧危機が深刻化、日本でもその煽りで物価高騰が止まらず、国民生活を苦しめている。そうしたウクライナ問題が協議される5月の広島サミットは世界から注目されているが、議長の岸田首相はこのありさまだ。これで日本は、世界は、広島サミットは大丈夫なのか。
●少子化対策「税も選択肢」に 経団連が財源確保で提言案 3/11
岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」を巡り、経団連がまとめた提言案が10日、明らかになった。財源について「税と社会保険料、国債を選択肢に、歳出改革などと合わせてベストミックス(最適な組み合わせ)を実現すべきだ」と主張。政府内で社会保険料の上乗せ徴収で賄う案が浮上していることを念頭に、財源確保が企業の負担増につながる社会保険料に集中しないよう求める内容だ。
経団連は来週の幹事会で提言を正式決定し、小倉将信こども政策担当相に提出する。政府が3月末までにまとめる少子化対策のたたき台と6月までに示す政策パッケージへの反映を目指す。
提言案は、少子化対策の新たな財源について「少なくとも数兆円規模の増額が見込まれる」と想定。「現役世代や企業の社会保険料率の引き上げのみでは、可処分所得が抑制され、賃上げ効果や生活設計の安心感を低下させかねない」と懸念を示している。
その上で、少子化対策の方向性について、質の高い雇用や構造的賃上げ、有期雇用労働者の正社員化、男性の家事・育児の促進に向けた環境整備などを優先すべきだと求めている。
●マスクと応募工への対応にみる、存外小狡い岸田政権  3/11
沈む豪華客船から海に飛び込ませるため、船長が乗客に次のように呼びかけるジョークは、主要各国の国民性を的確に表現していて思わずにんまりしてしまう。
   「飛び込めばあなたは英雄ですよ」:対米国人
   「飛び込めばあなたは紳士ですよ」:対英国人
   「飛び込むのが船の規則ですよ」:対ドイツ人
   「飛び込むと女性にもてますよ」:対イタリア人
   「飛び込まないでください」:対フランス人
   「みんな飛び込んでいますよ」:対日本人
   早坂隆『世界の日本人ジョーク集』より
冒頭に、主体性の乏しい日本人を揶揄するこのジョークを持ち出したのは、岸田政権が最近打ち出した二つの方針に関係がある。一つは、韓国が6日に公表した「旧朝鮮半島出身労働者問題」(以下、応募工問題)への対応の評価、他はこの13日から変更される「マスク着用の考え方」だ。
林外相は6日の臨時記者会見で、同日に尹政権が発表した応募工問題の対応を、「2018年の大法院判決により、非常に厳しい状態にあった日韓関係を、健全な関係に戻すためのものとして、評価します」とし、政府としては「一般に、民間人又は民間企業による国内外での自発的な寄付活動等について、特段の立場をとることは」なく、本件についても「特段の立場をとることはありません」と述べた。
翌7日の記者会見で中央日報の記者から、「自発的な寄付活動について、特段の立場をとることはない」とは「被告企業、三菱重工業と日本製鉄、二つの企業にも当てはまる話なのか」と念を押された外相は、「一般論として、全ての企業に、それは当てはまるということで申し上げました」と応じた。が、『日経』は「韓国財団への自発的寄付、日本の被告企業も容認 林外相」と見出しを付けた。
面白みはないが安定感のある答弁と思う。対照的に、いつも正攻法の高市早苗氏は、辞任を口にした小西議員の挑発に乗り「結構ですよ」と直球勝負。が、豪速球のダルビッシュも大谷も、変化球を織り交ぜてこそのMLBでの活躍だ。高市氏も「当事者が否定している内容を正確だというなら、委員にもその覚悟がおありでしょうね」と笑顔で切り返せなかったか。
応募工問題を韓国内で解決する今般の案は、政権発足直前に朴槿恵を訪ねて謝罪した時から尹氏に期待していた筆者としては、4年前に本欄に寄せた案とは異なるものの、評価する。改めてお詫びもせずに「歴史認識に関する歴代内閣の立場を引き継いでいることを確認する」に留めたし、日本にとってほぼ合格の内容だ。
そこで日本人の国民性に関するジョークのことになる。政府は「マスク着用の考え方」につき、これまで「屋外では原則不要、屋内では原則着用」としていたものを、13日からは「個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねることに」する(厚生省サイト)。
この文言に、筆者は岸田政権の「責任逃れ体質」や「小狡さ」といったものを感じる。つまり、なぜ「屋外も屋内も原則不要」にしないのかということ。これまでも「屋外では原則不要」だったとはいえ、外を歩く者のほとんどはマスク姿だ。「みんながしている」のに自分だけノーマスクという訳にいかないのが日本人の性(さが)。
さらに「本人の意思に反してマスクの着脱を強いることがないよう、個人の主体的な判断が尊重されるよう、ご配慮をお願いします」とも付言してある。これでは今後、何か大きなきっかけでもない限り、多くの国民がマスクをしたままという状況が続くのではあるまいか。
これではこの先不都合が起きたとしても、政府は適時方針を変更しているのに従わない国民のせい、とのアリバイ作りにも思える。そんな小狡いことをせずとも、新種のウイルスが現れて事態が変わったら元に戻せば良いのだから、真に国民の不自由を慮るなら「屋外も屋内も原則不要」とすべきと思う。
応募工への民間の自発的寄付についても同様に、「65年に解決済み」の問題であり「大法院判決が不当であることに変わりはない」として、「それらを踏まえた対応をなさると思う」と釘を刺すことくらいは出来たろう。が、政府は民間に判断を押し付けた。
深読みすればそれは、『日経』の見出しもそうだが、「ある種の日本側の歩み寄り」と韓国民に感じさせるためかも知れぬ。事実、野党「共に民主党」内でも、指導部は尹政権の「強制徴用解決法」を激しく批判するし、韓国民の理解が得られる保証もない。が、野党の一部に「『親日対反日』は季節外れのフレーム」という声があがっているとも報じられる(9日の『中央日報』)。
とはいえ、これを契機に基金への自発的寄付に応じる民間企業が出てくかどうかといえば「NO」だろう。応募工判決や慰安婦合意破棄にとどまらず、GSOMIAやレーダー照射など我国の国防に関わる事件をも頻発させた北の代理人文在寅政権の5年間で、日本人の韓国に対する信頼は徹底的に地に落ちたからだ。右派の一部には断交論すらある。
こうした極めて厳しい対韓世論の中では、中朝の核の脅威を強く認識する尹政権が、日(米)韓の関係改善に腐心した今般の対応を個人として評価するにも勇気が要る。まして消費者の動向に敏感な民間企業が韓国の基金の寄付でもしようものなら、ネットに上げられて炎上し、不買運動を起こされるリスクすらある。
「みんな飛び込んでいますよ」といわれて飛び込む国民性とは、裏を返せば「誰も飛び込まなければ動かない」ということ。もしかすると岸田総理と林外相の宏池会コンビは、「誰も寄付しない」との計算づくで、「自発的な寄付活動」に「特段の立場をとることはない」と述べたのかも知れぬ。
とすれば岸田政権は存外小狡い。防衛三文書や防衛費増額、原発の新増設・運転期間延長などで成果を上げつつあるし、新日銀総裁の下で経済が上向き、税収が増えて増税が回避されでもすれば、加えて九条改正を果たしでもするなら、立派な長期政権になるかも知れぬ、などとの予感も頭を過ぎる。
総理は昨年6月、NATO首脳会合に参加し、豪州、NZ、韓国のアジア太平洋パートナー(AP4)と共に西側諸国における安全保障上の存在感を高めた。防衛三文書の閣議決定もその一環だ。ロシアや中朝の核の脅威は日米同盟のものでもある。韓国を其方に追いやるか、此方に付けるかは、応募工問題で国内右派の留飲を下げる対応をすることより、よほど重要ではなかろうか。
●東日本大震災から12年を迎えるにあたって 志位和夫 3/11
一、東日本大震災から12年を迎えるにあたり、犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災者のみなさんにお見舞いを申し上げます。日本共産党は、被災者の暮らしと生業(なりわい)の再建、被災地の復興のために、国民のみなさんとともに、これからも力を尽くす決意です。
一、岸田政権が、原発回帰と大軍拡への復興財源流用という、東日本大震災復興に二つの逆流を持ち込んでいることに強く抗議し、撤回を求めます。
東京電力福島第1原発の大事故による甚大な被害、福島県民の苦難をなかったことのようにする原発回帰を断じて許すことはできません。原発事故はいまだに収束しておらず、溶け落ちた核燃料を取り出すメドもたたないまま、大量の放射能汚染水が発生し続けています。ところが岸田政権は「安全神話」を復活させて危険な老朽原発を60年以上も稼働させ、原発の新増設に踏み出そうとしています。政府と東京電力は汚染水の海洋放出を福島はもとより三陸沿岸の自治体や漁業者の強い懸念と反対の声を無視して強行しようとしています。汚染水の発生を食い止めるために全力をあげ、海洋放出の方針を撤回するべきです。原発ゼロ、省エネと再生可能エネルギーの抜本的強化で気候危機打開とエネルギー自給率の向上を同時に追求することこそ、東日本大震災、原発大事故を経験した日本が進むべき道です。
岸田政権は、東日本大震災の復興特別所得税の約半分を大軍拡の財源に充て、国民への増税期間を延長するとしています。敵基地攻撃能力=反撃能力の保有と称して、相手国領土の奥深くまで攻撃する長射程ミサイルの大量配備や敵基地攻撃に対する報復攻撃を想定した司令部の地下化など自衛隊基地「強じん化」などのために5年間に43兆円にも軍事費を増やす、その財源の一部です。岸田大軍拡は、東日本大震災の復興にも障害となっているのです。「専守防衛」を完全に投げ捨て、憲法に違反する岸田大軍拡こそ中止すべきです。
一、国に求められているのは、東日本大震災からの復興に最後まで責任を果たすことです。
被災者の暮らしと生業の再建、被災地の復興は、長い時間を経過したことによる新たな困難が生じています。被災地の暮らしと生業の再建、地域経済の復興は、コロナ危機の打撃が回復しないもとでの物価・原材料費高騰に加えて、歴史的な不漁が三陸の主要産業である水産業・水産加工業に大打撃となるなど、大きな困難に直面しています。被災者の心と体の健康や高齢化による孤立化も深刻です。被災者の心のケアやコミュニティー形成などの被災者支援や暮らしと生業の再建に必要な支援を強化することをはじめ、国が最後まで責任を果たすことを強く求めます。
一、住宅再建支援金の大幅な引き上げと対象の拡大、大型開発・新規事業から防災・老朽化対策への公共事業の転換など、東日本大震災の痛苦の教訓を生かす政治への転換が求められます。
東日本大震災での被災者、被災自治体のみなさんの大変な苦労に向き合い、その教訓を生かす政治、災害から国民の命と財産を守る政治に変えるために、日本共産党は力を尽くしていきます。
●“困窮子育て世帯”への「5万円給付」 自民・公明・立憲が検討も…実現性? 3/11
岸田首相が追加の物価高対策を与党に指示する中、与党内では生活困窮世帯へ子ども1人あたり5万円を給付する案が浮上している。一方、立憲民主党も低所得世帯に対して、子ども1人あたり5万円を4月末までに給付する法案を提出した。果たしてその実現性は?
自民党:参議院「5万円給付」を緊急提言 全体の提言に反映は?
「物価高騰下における、困窮子育て世帯等の支援に関する緊急提言について、取りまとめたところであります」(自民党・世耕参院幹事長/10日の記者会見)
10日午後、自民党の世耕参院幹事長が発表した「物価高騰下における困窮子育て世帯等への支援に関する緊急提言」は、以下の3つを柱としている。
(1)困窮子育て世帯への子ども1人あたり5万円の現金給付
(2)困窮子育て世帯への食料品等支援を行う自治体・NPO等の支援
(3)地方創生臨時交付金の追加配分
世耕参院幹事長は、「参議院自民党ほど、苦しい現場の声を直接聞いているところはないという自負を持っている」と強調し、自民党が来週取りまとめる予定の追加の物価高対策や、政府の対策に反映させたいという意欲を見せた。
岸田首相は今月3日、自民・公明両党の政調会長に対し、エネルギーや食料品などの高騰を踏まえ、追加の物価高対策を指示。それぞれの党が議論を行っており、来週17日までに提言をまとめ、政府に提出することになっている。
自民党内では、エネルギーや食料品対策として、これまで直接的な支援の対象外となっていた、プロパンなどのLPガス利用者の負担を軽減するための支援策や、卵や肉などの食料品価格を抑えるための飼料価格対策などを盛りこむ方向で検討が進められている。
一方、困窮子育て世帯への現金給付について、ある自民党幹部は「対策に盛りこまれるかはわからない。すでに給付は一度行われていて、対象外となった人もいる。全体のバランスを見ないといけない」と慎重な姿勢を示す。
また、別の自民党幹部も「現金給付など、バラマキ政策ばかりでいいのか」と指摘していて、参議院自民党としての5万円給付案が、実際に党全体としてまとめる提言に盛りこまれるのか、詰めの調整が行われることになる。
公明党:低所得子育て世帯に再度5万円を「支援が急務」
公明党もLPガス利用者の負担軽減策などができるよう、地方創生臨時交付金の積み増しや、食料品の高騰対策として、輸入小麦の激変緩和措置や飼料の高騰対策などを提言に盛りこむよう検討が行われている。
さらに、高木政調会長は8日の会見で、「相次ぐ食料品の値上げなど、物価高騰が国民の生活を直撃している中で、特に大きな影響を受けているのが低所得世帯であり、中でも生活に困窮する子育て家庭への支援が急務だ」と述べ、去年の緊急対策に続き、今回も所得が少ないひとり親世帯や住民税非課税の子育て世帯を対象に、子ども1人あたり5万円を「特別給付金」として、再び支給すべきとの考えを示した。
ある公明党関係者は、「統一地方選を前に、しっかりと物価高対策、困窮世帯への対策を打ち出したい」と強調するが、公明党の支援者からは「給付ばかりでかえって無策な感じがする」と懸念する声も出ている。
果たして、5万円給付は実現するのか。
ある官邸関係者は「総理の指示とは違う」と懐疑的な見方を示す一方、別の政権幹部は、「今までも物価高対策として、給付をやっているから、できないことはない」と話す。
立憲民主党:低所得世帯 子ども1人に5万円…代表が“勘違い”も
一方、立憲民主党は10日、低所得世帯に対して子ども1人あたり5万円を4月末までに給付する議員立法を衆議院に提出した。しかし、この前日の泉代表の発言が混乱を招くこととなった。
「物価高対策は、政府与党の側から低所得の子育て世帯への5万円給付という話が出てきている。またかと。また線引きをし、分断をし、一部の方々への給付かと。二重に三重に残念な思いをしている。(中略)本日のNC(次の内閣)でも、我々なりの子供子育て世帯の給付策、給付案というものを皆様にご提示をしていきたいと思っている。子育て世帯への、全子育て世帯への5万円給付ということであるので、ぜひこれまた皆さんと議論してまいりたい」
ところが、立憲民主党が提出を予定していた法案は、所得制限を行うものだったのだ。
泉代表は、その後、「事務方から渡された紙が間違っていたので撤回したい」と述べたが、立憲民主党の幹部からは「事前に泉代表への説明が足りなかったのでは」「連携が取れていない」などの声が相次いだ。
統一地方選挙の直前になって各党から相次ぐ低所得者層への現金給付案。支給対象に当たらない人たちからは、「ばらまきだ」「不平等だ」などといった批判があがる中、岸田政権はどのような判断をくだすのか。
●政府の原発回帰 「事故の教訓を置き去りにしている」 3/11
現職最年少の国会議員、立憲民主党の馬場雄基衆院議員(30)=比例東北ブロック=は福島県出身で、東京電力福島第一原発事故が県民にもたらした境遇への思いが、政治家を志したきっかけだった。原発回帰を鮮明にする岸田政権の姿勢を「事故の教訓を置き去りにしている」と指摘。廃炉や除染などの難題を「未来に先送りしないことが自分の仕事だ」と語る。
――事故当時は18歳の高校3年生だった。
「福島市の自宅は電気も水も止まり、県外の知人から『原発が危険だから逃げて』という電話が相次いだ。両親は地元に残り、大学進学が決まっていた私は上京したが、後輩からは『逃げるのですね』というメールが届き、福島出身と知った大学の同級生には(偏見から)後ずさりされた。当時は自己紹介が怖かった」
――なぜ政治家を目指したのか。
「銀行員時代、ボランティアとして島根県の小学校で植樹祭を手伝った時、福島から避難中の男の子に懐かれた。後で担任教師に『彼の笑顔を初めて見た』と聞いた。同じ経験をする子をもう出したくないと思ったのがきっかけだ」
――2月の衆院予算委員会で「福島を思い、将来を担う者たちの思いを背負って質問する」と切り出した。
「福島の人々は葛藤の中にいる。廃炉作業は本当に成功するのか。処理水への対応は必要だが、風評被害は起きないか。中間貯蔵施設の除去土壌(除染土)は県外への搬出期限が2045年と法定されているが、受け入れ先が見つかるのか。それぞれが簡単には答えが出ない問いを抱え、苦しみ続けている」
――政府に求めることは。
「復興方針の説明で政府は『地元の強い要望だから』との言葉をよく使う。政府が自らの責任で除去土壌の処理などを成し遂げるという意志を行動で示さないと、県外から『被災者がまた何か言っている』と思われ、真の復興は実現できない」
――岸田政権は最近、原発の建て替えや運転期間延長を認める方針に転換した。
「国が14年に定めた第4次エネルギー基本計画には『可能な限り原発依存度を低減する』と明記され、再生可能エネルギー大国を目指す方針が決まった。光を見た思いだった。努力の余地が多くあるからこそ、そこに注力するべきだ」
――自身の役割は。
「除去土壌の県外搬出期限を迎える45年には、震災を経験していない子どもたちも社会の中核を担っている。事故を経験した私たちに、これ以上の課題の先送りは許されない。政治家として避けたくなるような厳しい判断をしなければならないこともあるかもしれないが、私は逃げない」
●少子化対策、自民調査会の提言判明 年少扶養控除を復活 3/11
政府が進める少子化対策の策定に向け、自民党の少子化対策調査会(衛藤晟一委員長)が提出する提言の最終案が11日、判明した。子育て世帯の税制優遇を図るため、民主党政権が廃止した年少扶養控除を復活することなどが柱。経済界や有識者らによる「少子化対策国民会議」の創設も求めた。13日に党「『こども・若者』輝く未来創造本部」(本部長・茂木敏充幹事長)に提言する。
最終案は11項目で構成する。2月下旬にまとめた「概要」の8項目から、デジタル化の推進など3項目を新たに加えた。
最終案では、16歳未満の扶養家族がいる世帯に所得税と住民税を減税する年少扶養控除の復活を明記した。子供の数が多いほど控除額も増えることから、多子世帯への支援として効果があるとされる。
また、祖父母や親が結婚資金や子育て資金を一括して贈与する場合に、子供や孫1人当たり1千万円までを非課税とする制度の恒久化も掲げた。
自治体ごとにばらつきのある子供の医療費補助について、小学生までは全国で例外なく支援対象となるよう制度化することも提案した。新婚世帯の住宅費支援として、20代に100万円、30代には60万円を支給する方針も打ち出した。
提言を受け、未来創造本部が3月中旬にも党全体の提言をまとめ、政府は月内に新たな少子化対策案の「たたき台」を策定する方針だ。  
●菅元首相「小泉さんと政権を」 小泉元首相「原発はふるさとなくす代物」 3/11
小泉純一郎元首相(81)と菅直人元首相(76)は11日、東京・日比谷公園で行われた東日本大震災の追悼の集い「311未来へのつどい ピースオンアース」に出席し、共通の持論である「原発ゼロ」の必要性を、強く訴えた。
2人は、建て替えや再稼働延長など「原発回帰」にかじを切った岸田文雄首相の原発政策を厳しく批判。菅氏が「もう1度、小泉さんといっしょに政権を取りたいですよね」と、原発ゼロの“同志”と、国のエネルギー政策転換に踏み出したいという願いを打ち明ける場面もあった。
小泉氏は、東京電力福島第1原発事故が最悪のケースをたどった場合、東京や地元の神奈川を含む半径250キロ圏内の住民約5000万人が、避難対象となるシナリオがあったことに触れ「原発はふるさとをなくしてしまう代物だ。ゼロにしなければならない」と主張。「日本には太陽光、風力。水力、地熱がある。こういうものを活用していけば必ず日本は原発ゼロでも停電なく、国民に電気を供給できる。やればできることを今、どうしてやらないのか不思議だ」と述べた。
岸田首相の対応を念頭に「もし時の日本の総理が、原発をゼロにしようといえば、ほとんどの国民は賛成してくれると思う。原発は事故を起こせば、そこに住めなくなる。それを政府が認めているのは、どうかしている。今また、原発を増やそうとしている。どうかしてるんじゃないか」と、厳しく批判。「原発問題に与野党も右も左もない。あきらめないで、与野党共同でやっていきたい。原発をゼロにして自然エネルギーを活用する社会をつくりましょう」と訴えた。
事故当時の総理大臣だった菅氏は「事故が起きてヘリで現地に飛び、吉田(昌郎)所長に会っていろいろな話を聞いた。頭に浮かんだのは『日本沈没』だ。最悪のシナリオを専門家に聞くと(対象地域の)全員が逃げ出さないといけない、と。日本が沈没する寸前だったことを、経験した」とも告白した。
その上で、ウクライナの原発がロシアの攻撃対象になっていることを念頭に「自分の国に原発を持っていることは、自分の国の中で原発事故が起きれば核爆弾を落とされたことと同じだ。こんなに危険なものを、なぜ今の政府はやめようとしないのか」と述べ、小泉氏と同様に岸田政権を批判。「もう1度、小泉さんと2人で政権を取りたいですよね」と小泉氏に語りかけると、小泉氏は苦笑いし、会場はどよめいた。
●岸田首相「社会の空気変える必要」 福島でこども政策対話― 3/11
岸田文雄首相は東日本大震災から12年となった11日、被災地の福島県相馬市を訪れた。「こども政策対話」の第3弾として、子育て中の親や独身女性らと意見交換。少子化対策には社会の意識変革が必要と訴え、3月末をめどにまとめる対策のたたき台策定に全力を挙げる考えを示した。
政策対話では、子育て中の母親が夜間の医療体制や行政の支援が不足していると指摘。独身女性は数年以内に結婚したいとしつつ、「相馬市内に出産できる病院がない。市内にあったらいい」と語った。首相は「育児と仕事の両立は、周囲の理解と協力がないとできない。社会の空気が変わらないと政策も生かされない」と応じた。

 

●岸田総理よ!!「政治の師」が緊急直言 3/12
国会は「ガーシー議員」「放送法文書をめぐる高市元総務大臣」と大混乱。その中、岸田総理、政権発足1年半。旧統一教会問題などを経て、支持率は低水準に。米中対立は深刻化し、中国の「台湾攻撃」に備えての「反撃能力」、「防衛費増税」。一方では、「異次元の少子化対策」などと様々な難題に直面。どうすればいいのか。保守本流たる「宏池会」会長として、後継に岸田総理を指名し、今日の岸田政権の道筋をつけた「政治の師」の古賀元自民党幹事長が、満を持して熱く直言。「岸田総理よ!!」
岸田政権発足から1年半「国会議員の重さ、責任を今一度自覚して」
――今国会の様子はどうご覧になっていますか。
古賀誠元自民党幹事長: 僕らの時代もいろんな反省はありますが、今の国会を国民がどう見てるか。国会議員という責任、これは一人ひとりしっかり持って国会に参画してるか。ちょっと厳しい言葉で言えば、国会議員の重さや責任、そういったものを今一度みんなが自覚してもらいたいと、そう思いますね。
――今話題になっているのはガーシー議員ですよね。去年7月に当選してから一度も登院してないと。
古賀誠元自民党幹事長: もうコメントのしようがないですね。何でこんな人が当選するのか、どういう経過で当選したかということすら私はよく存じ上げませんが、本当に国会という重責の議席、バッジの重さっていうね。この国や有権者のみなさん方に何をやりたくて、どういう使命を持って実行されたか全然わからない。
――それに比例で若者を中心に28万票投票する人もいると。
古賀誠元自民党幹事長: それが政治への国民の無関心といえばそれまでかもわかりませんけど、有権者も、また立候補する人もしっかり反省しなきゃいけませんね。
1年で終わった菅政権「自民党というか、日本の政治にとっても残念なこと」
――清和会的なものが安倍政権でずっと続いて、その後の菅政権はコロナで1年で終わってしまいましたが、このことの影響はどうなんですか。
古賀誠元自民党幹事長: そこは非常に残念で、また自民党というか、日本の政治にとっても残念なことだなと、私の考えですよ。個人的な考えは、早く宏池会の政権を取りたいと(いうのはあったが)、しかし、20年続いた清和会の手法と、安全保障をはじめとする考え方、これは大きな違いがあると思うので、これを一気に宏池会の方程式に自民党の政治を変えられるのかというのは、なかなか僕は容易なことではないだろうと。それだけのエネルギーを持ってる宏池会というのは、僕はまだ程遠いんじゃないかというのが一つある。菅さんはそこに座布団を置くと言ったら変だけど、清和会の今まで見ている手法と、宏池会が検証して日本の政治に取り戻さなければいけない良いものと、これをどうバトンタッチしていくか、繋いでいくかということを、僕は菅さんに期待したというのが私の本音なんですが、僕は何も岸田さんが嫌いだとかそういうのではなくて、そうしないと、せっかくできる宏池会の政権もまた国民のみなさんに理解されないままにということになると、大きな損失だなという基本がずっとありました。別に言い訳だとかそういうことではありません。
――宏池会なるものの政治を誰がどうやって継承していくかっていう意味合いの中で伺っておきたいのは、宏池会は人材豊富ですが、今取り沙汰されているのは、林外務大臣ですね。
古賀誠元自民党幹事長: 今の宏池会は人材豊富だし、若い人たちもどんどん伸びてきている。非常に楽しみですけど、やっぱりそのリーダーは林さんに託すべきだろうなと思っています。
――ポスト岸田の有力候補ということになるわけですか?
古賀誠元自民党幹事長: そうです。
本当の安全保障は「少子化対策」
――反撃能力は(政府見解では)相手のミサイル発射前でも、相手の攻撃着手を確認すれば、入って領土を攻撃できるということですよね。岸田総理はこれに関して「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力」なんだということですが。抑止でとどまるのかというのはどうご覧になりますか?
古賀誠元自民党幹事長: そこはなかなか難しい問題で、だからこそ歴史認識が大事ですよと。それと実際に敵地の領域に撃つわけですから、それに対してのシビリアンコントロールというのはしっかりしておかないと、それだけでは説明ができなくなる。リスクがある、危険性はある、ということだと。
特に財源問題はやっぱり防衛手段・・・5年間で43兆円。今でさえ防衛費というのは我が国は世界9番目ぐらい。それなりの予算を使ってですよ。だからこの43兆円を全部、我が国の安全保障といったときに、軍事力の装備・兵器、そういったものだけで「日本の抑止力」と言うのがいいのかどうかというところが、僕がいろんなところでお話しているときのひとつ焦点にしていまして、むしろ他の分野でも、大切な抑止力という分野があるんじゃないか。何も装備・兵器、俗に言う軍事力。これだけではないと、特に大平先生は「諸力」・・・外交防衛はもちろんだけれども、政治・経済の全ての分野の中で抑止力というのは総合的に備えるべきだと。それは今、問題になってる食料の安全保障だとか、いろんな分野があるだろうと思います。その中でも少子化対策。これは日本の防衛上も非常に大きな問題だと思うのです。80万を切る出生率っていうのは、この日本の国そのものが脅かされるというぐらい僕は危機感を持っている。少子化対策は抑止力の最たる議論の問題点だと思っています。
対中政策 岸田総理は「命がけの政治をやっていただきたい」
――防衛力、安全保障に関して我々にとって深刻なのは、安保3文書の中の国家安全保障戦略ですが、そのなかに「中国の対外的な姿勢や軍事動向は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的挑戦」とあります。アメリカの方からも出てきますけど、2027年までに中国が台湾を攻撃するのではないかと。これをどうご覧になりますか。
古賀誠元自民党幹事長: その懸念があるということは否定できないと思います。だからこそ、私は日中というのは、非常に大切な外交上の問題だというふうに思うんです。僕はアメリカと日本とは、中国という国に対する立ち位置は全然違うという認識を持ってます。それは一つは地政学的に隣の国が中国だし、経済についてもアメリカ以上の「両国にとってなくてはならない国」になっている。何よりもですね。もう半世紀前ですけれども、日中共同声明で、日本は中国の主張する、台湾は中国の一部ということを理解し、尊重するということをきちんとうたっているんです。ということは、やはり「中米」と「日中」っていうものの関係は、立ち位置が違うんじゃないかなと僕は思う。だから、日本は外交上そうした懸念があるからこそ、命がけで中国に対して「絶対に武力による会話は許せませんよ」と、何としても話し合いで解決すべきなんです。これを主張し、もし日本でできることは何があるかということをしっかり中国と共同歩調をとるべきだと。何としても武力行使に至る、そういう結果にならないように日本がどう働くかと。これは日本の最大の抑止力。ある意味ではね。だからそこに岸田外交は全てをかけるぐらいの、命がけの政治をやっていただきたいと願っていますね。
●日銀人事同意 政府は緩和依存脱却を 3/12
衆参両院は日銀次期総裁に経済学者の植田和男氏を起用する人事案に同意した。植田氏は内閣の任命を経て来月9日に就任する。
日銀は黒田東彦総裁の下で最後となるおとといの金融政策決定会合で、大規模な金融緩和を維持した。黒田氏は2%の物価安定目標の未達成を「残念だ」と述べ、緩和継続の姿勢を改めて示した。
日銀が金融政策を正常化しようとすれば、金利が上昇して円高となり、株安や倒産増につながると指摘する専門家は少なくない。
政府も日銀の国債大量買い入れや超低金利政策を当てにした借金頼みの財政運営は厳しくなる。
だが金融緩和なくして立ちゆかない日本経済や財政はとても持続可能とは言えまい。将来大きな経済ショックに見舞われた際、破綻の危機に直面する恐れがある。
こうした状況を招いた責任は、黒田氏だけでなく安倍晋三首相以降の政権にもある。金融緩和への依存から脱却し、賃上げを通じた経済の好循環を実現する取り組みを急がなくてはならない。
日本では低成長と財政悪化が進むにつれ、日銀に過剰な期待と批判が寄せられてきた。
植田氏は国会の所信聴取で「私の使命は魔法のような特別な金融緩和を考えて実行することではない」と述べた。
黒田氏が就任当初に2年でデフレ脱却という幻想を振りまき、達成できないと市場機能をゆがめる奇策を打ち出してきたことへの批判をにじませたと言える。
金融緩和だけでは日本経済の底上げは困難なことについて、政府・日銀だけでなく経済界も含め強く認識する必要がある。
現在の日銀の金利抑制策は、国債の大量発行が欠かせない政府の経済財政政策に事実上組み込まれている。そのため日銀は、物価安定のためだけに金融政策を決められない状態だ。
デフレ脱却へ日銀と安倍政権は2013年に共同声明を出した。
日銀は金融緩和を、政府は財政健全化と経済の成長力強化への取り組みを、それぞれ推進すると明記した。政府がこれらの約束を守れなかったのは明らかだろう。
この10年間、日本経済の実力とされる潜在成長率を高められなかった責任は、政府の側に多大にあると言わざるを得ない。
与野党や経済界には共同声明の見直しを求める声があるが、拙速は避け、まずは政府に現在の声明に記された責務を果たさせなくてはなるまい。
●「政府・日銀 『共同声明』に関する議論で押さえておくべき点 」 3/12
民間の経営者・有識者らをメンバーとする「令和国民会議」(令和臨調)が1月30日、初めての緊急提言を公表した。財政と金融政策の一体改革に焦点をあてたものであり、政府・日銀による新たな共同声明を作成した上でそれを公表すべきだという主張である。
上記の提言は「消費者物価上昇率2%を長期的な物価安定の目標として新たに位置付ける」としており、仮に実現すれば、物価目標の拘束力が弱まる結果、日銀の金融政策運営では柔軟性がある程度増すとみられる。
また、今回の提言は「政府と日銀の共通目標」の関連で、持続的な経済成長の前提になるものとして、「生産性向上」「賃金上昇」「安定的な物価上昇」の3つを列挙した。
異次元緩和には金融市場で行き詰まり感があり、同時に、財政規律の弛緩、企業の新陳代謝といった異次元緩和の弊害・副作用が目立っている状況下、日銀の金融政策運営を中心にマクロ経済政策全般を一度見直す必要があることは論をまたない。
金融市場では、植田和男氏が4月に次の日銀総裁に就任した後、政府との共同声明の修正問題がどのように展開するのかに、強い関心を抱いている。
ただし、政府・日銀による共同声明の修正・刷新を議論する際に留意すべき、上記の緊急提言では十分意識されていると思えない点も2つあるというのが、筆者の考えである。
1つは、「共同声明を修正・刷新すること」自体が目的化すべきでないという点。
日本の政治や官僚組織には、法律や政省令の制定、関連予算の計上、組織改正や新組織設立など、形として「何かを作る」ことが事実上のゴールと化してしまい、それが終わった時点で達成感が漂う結果、フォローアップがおろそかになりやすい傾向がある。
共同声明の記述内容を修正して、どんなに美辞麗句や理想論を並べるとしても、世の中が良い方向へとすぐに変わるわけでは全くないだろう。政府・日銀が「実際に何をやるか」あるいは「現実問題として何ができるか」の方が、はるかに重要だと考える。
13年1月の共同声明で直接の当事者だった白川方明前日銀総裁は、最近のインタビューで、この共同声明の早期修正は不要という主張を一貫して展開している。「(共同声明見直しには)あまり実利がないと思います。共同声明は、柔軟な政策を妨げない書きぶりになっているからです。求められていることは、ささいな表現の修正ではなく、日本経済の根本課題を正しく認識すること」(1月31日 朝日新聞)といった内容である。
白川前総裁は上記のコメントに続けて、その中でも特に、人口減少がどこかで止まるという展望を持てるようにする重要性を認識することです」とした。筆者も全く同じ意見。過少需要・過剰供給の構造を変えていくことがマストである。
●原発事故12年 反省投げ捨てる逆行止めよう 3/12
東京電力福島第1原発事故から12年を迎えました。岸田文雄政権が原発の最大限活用と新規建設などを打ち出したことに対し、全国各地で「福島を忘れるな」「原発ゼロの日本」を掲げた集会などが開催されています。
日本世論調査会の調査(4日公表)では、原発の最大限活用を「評価しない」64%、建設推進に「反対」60%などで政府方針に反対が多数です。国民の世論と運動で、岸田政権に原発回帰を断念させましょう。
岸田政権は、原発に回帰するための法案を国会に提出しました。原則40年・最大60年という運転期間の規定を、原発を規制する法律から電気事業法に移し、経済産業相が電力安定供給等のためと認めれば、原子力規制委員会の審査などで止まっていた期間分は60年を超えて運転できるとします。
運転期間制限は、福島原発事故後に、老朽化による設備の劣化などを考慮して導入されました。運転期間延長が、原発のリスクを高めることは明らかです。
法案では、原子力基本法に、電力安定供給や脱炭素に資するよう原子力を利用する国の責務を書き込みます。気候危機やロシアのウクライナ侵略による「エネルギー危機」に乗じて、新規建設など将来にわたる原発活用のための法的枠組みをつくるものです。
これは、甚大な被害をおよぼし、いまも収束が見通せない福島原発事故の反省も教訓も投げ捨て、国民の生命と財産、日本の経済と社会を危険にさらす道です。原発のリスクを軽視することは許されません。
エネルギーの安定供給にとって重要なのは、自給率の向上です。核燃料は輸入資源であり、自給率向上には何ら貢献しません。国内資源である再生可能エネルギーの利用拡大を進めるべきです。政府の試算では、国内の再エネの潜在能力は、現在の電力使用量の7倍以上もあります。
気候危機打開のためには、省エネルギー対策と再エネの普及・拡大こそ重視されるべきです。ところが、供給力が一時的に需要を上回る時に、太陽光発電などの出力を抑えて原発の運転を維持するという運用が行われています。原発という障害をなくしていくことが、再エネ拡大にとって不可欠となっています。
岸田政権は、福島原発事故に伴う汚染水(ALPS処理水)をこの春か夏にも海洋放出しようとしています。先の日本世論調査会の調査では9割以上が「風評被害が起きる」と答えています。
福島をはじめ全国の漁協が、事故後に積み重ねてきた漁業復興の努力が無になりかねないとして、「断固反対」を表明しています。被害者にさらなる被害を押し付けることがあってはなりません。
福島原発事故では、多くの人が避難を強いられ、暮らしの土台である地域の産業と文化が破壊されました。いまもなお多くの人が苦しんでいます。帰還の見通しが見えない地域もあります。このような危険をはらむ原発は、社会とは共存できません。
目前に迫った統一地方選でも原発は重要な争点です。岸田政権の原発回帰にストップをかけ、「原発ゼロ」の日本をつくりましょう。
●「元徴用工」解決策で際立つ尹大統領のリーダーシップと岸田首相の及び腰 3/12
韓国政府が徴用工問題の解決策を正式に発表した。原告である元徴用工の一部や支援団体は強く反発し、韓国世論の反発は強い。それでも尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「全責任は自分にある」と意気軒高だという。政権内の要人に聞くと「(今回の展開は)尹大統領のキャラクター抜きには考えられない。豪速球を投げる直球勝負の人で、カーブは投げられないから」という言葉が返ってきた。
岸田首相の消極姿勢は意に介さず
韓国メディアの報道によると、韓国外務省は2022年11月に日本側と公式の交渉を始めた時点で、日本政府による明確な謝罪表明と被告企業による資金拠出の2点を最低ラインとして設定した。韓国外務省は「せめて片方は取るべきだ」と交渉継続を主張したが、尹大統領が押し切ったという。
岸田文雄首相は歴代内閣の歴史認識を継承すると表明したが、過去の談話にあった「反省」や「おわび」という言葉を口にしなかった。過去の談話にある言葉を繰り返して失うものはないし、それを避けるにしても説得力のある言葉を自ら紡ぎ出すことはできたはずだ。それだけに岸田首相の姿勢は及び腰という印象を与えた。
それでも前述の要人は「岸田首相が(反省や謝罪という言葉を)口にするかどうかなど、尹大統領は気にしていないようだ」と語った。さらに「尹大統領は4月訪米を調整していて、5月にはG7(主要7カ国)首脳会議が広島である。しかも韓国では来年4月に総選挙があるから、今年後半には動きづらくなる。それならば、ここで徴用工問題を片づけ、日米との首脳外交で堂々と渡り合えおうと考えたのだろう」と続けた。
政権の「反日」「親日」に世論は無関心
検察時代をよく知る韓国メディアの記者は尹氏について「信じられないくらいの楽天家だ。今回の解決策で突っ走ったのも、正しいことをしているのだから最後はなんとかなると信じているのだろう」と話す。
特捜検事というイメージとは裏腹に、尹氏は昔から国際政治や外交に強い関心を持っており、学生時代には国際政治を学ぶために米国への留学を準備した時期もあったという。検事だった時に雑談で北朝鮮の核問題や外交を話題にすることもあり、外交の専門用語を使って記者を驚かせることもあったそうだ。
一方で、今回の解決策発表が政権支持率には大きく影響しないと踏んだ可能性も高そうだ。日本で持たれているイメージとは異なり、韓国では近年、「反日」や「親日」は政権支持率に影響しないからだ。日本に対して厳しい政策を取ろうが、融和的な政策を取ろうが、政権支持率に大きな影響は出ないのである。
むしろ保守派と進歩派という分断の方が深刻で、保守派は何があっても尹政権を支持し、進歩派は非難するという構図が強い。前述の要人は「解決策への賛否を聞けば、反対が多いかもしれない。ただ政権支持率への影響が出るかというと、別の問題だろう」と語った。
この話を聞いたのは発表2日後の8日午後だった。10日に公表された韓国ギャラップの世論調査は、その通りになった。解決策については「賛成」35%、「反対」59%だったが、政権支持率は34%。前週の36%よりは低いが、2ポイントというのは誤差の範囲内だ。今年に入ってからの支持率は32〜37%で、おおむね横ばいである。
同社の調査は支持・不支持の理由を複数回答で挙げてもらう。対日外交を挙げた人は、支持理由として7%、不支持の理由として16%だった。こうした反応は、今後の進展によって変化しうる。日韓両政府がどれだけ丁寧にフォローアップしていけるかが、最終的な成否を分けるのだろう。
日本にプレッシャーかける欧米
そうは言っても、実務を担当する韓国外務省は大変だ。発表翌日の夜に電話で話した外務省高官は「われわれとしては最善を尽くした。あとは日本に誠意ある呼応を期待するしかない」と疲れ切った声で話していた。岸田首相の煮え切らない態度に、いらつきを隠せないようだった。
一方で米国は即座に反応した。バイデン大統領は6日に行われた韓国政府の発表直後、現地では深夜だったにもかかわらず「米国の最も緊密な同盟国同士の協力に向けて画期的な新たな章だ」という声明を発表した。ブリンケン国務長官も歓迎声明を出した。
翌日には、尹大統領が4月下旬に国賓として訪米すると発表された。米韓同盟70周年という記念の年ではあるが、バイデン政権が国賓として招く外国首脳はマクロン仏大統領に次いで2人目となる。
さらに8日には在韓米商工会議所が、元徴用工への賠償を肩代わりする韓国政府系財団への資金拠出を表明した。発表した商議所会長は「日米韓のパートナーシップは地域の平和と繁栄の鍵だ」と指摘し、会員の米企業にも拠出を呼びかけた。米韓両国政府と事前に調整が行われていた模様だ。
韓国政府の発表した解決策では、国交正常化後に日本から受けた経済協力資金の恩恵を受けた韓国企業16社に寄付してもらうことが想定されていた。日本企業にも資金拠出を求めるべきだという意見は強かったが、米企業からの寄付は想定外のものだ。米商議所の動きには、日本にプレッシャーをかけようとする米政府の意向が働いている可能性がある。
欧州連合(EU)も、韓国政府の発表直後に歓迎声明を出した。国連のグテレス事務総長は米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」からコメントを求められ、「日韓間の肯定的な交流と未来志向的な対話を歓迎する」と回答した。
韓国での反発がどれくらい続くのか、それが解決策の成否にどの程度の影響を与えるかは未知数の部分が多い。ただ、今回の措置によって尹大統領の強いリーダーシップが国際社会に印象づけられたことは明らかだ。岸田政権が及び腰の対応を続けたために韓国の取り組みが実を結ばなかったと国際社会に見られるような展開になれば、日本の国際的イメージによい影響は与えなそうだ。
●少子化対策で「国債発行も」 財源について自民・世耕氏  3/12
岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」を巡り、自民党の世耕参院幹事長は、対策の財源について「国債という考え方もあり得る」との考えを示した。
世耕氏は、12日放送のBS番組で、生まれてくる子どもが「20年後、25年後には、立派な担い手となり納税者となってくれる」として、少子化対策の財源について、「国債でカバーするという考え方も十分あり得る」と述べた。
その上で、「国債でやるのか、税で対応するのか、保険制度か、議論をしていかなければいけない」と述べ、財源を巡る党内議論を進めたい考えを示した。
また、世耕氏は、「おそらく今世紀中に日本の人口が5000万人を切る極めて危機的な状況だ」として、「直ちに対策を打って行動しなければいけないぐらい切迫した問題だ」と指摘し、対策を講じる緊急性を強調した。
●クレカ不正、目立つ小口・大量化 被害は過去最悪、背景に何が 3/12
クレジットカード(以下、クレカ)の不正利用が急増している。日本クレジット協会によると、2021年の不正利用額は前年比30.5%増の330億円で、21年ぶりに過去最悪を更新した。月内にも発表される22年の不正利用額はさら拡大し、カード業界からは「年400億円を超えるのは確実」との見方が上がる。不正利用急増の背景は何か。手口はどう変わっているのか。私たちが取れる自衛策とはー。
被害額「500円」
都内の会社に勤める女性はある日、スマートフォンでクレカの利用明細を眺めていて、違和感を覚えた。そこには世界的なECサイトの名前が記載され、利用額は「500円」となっていた。最近買い物をした記憶はない。「何の代金だろう?」。
女性は疑問を感じたが、この時はそのままスマホを閉じた。その後も「500円」について時折思い出したが、金額も大きくないため、確認を先延ばしに。数週間後、もう一度利用明細を眺めたところ、過去5カ月間、同じ「500円」が引き落としされていることに気付いた。やっぱり変だ。
ECサイトとカード会社に問い合わせてみると、「不正利用の可能性が高い」。オペレーターは即座にこう指摘した。その後不正利用が判明し、90日分(3カ月分)の支払いが免除されたものの、残り2カ月分の負担を求められ、クレカの更新も余儀なくされた。「2カ月分だから1000円。金額は大きくないが、思い出すと不快な気持ちになる」。女性はその後、毎月の明細を確認している。だが、何が不正利用のきっかけにだったのか、今も分からないままだ。
20年前は偽造カード全盛
日本にクレカが誕生して60年余。国内での発行枚数は今や3億枚超(22年度末)に及ぶ。日本クレジット協会によると、不正利用はこれまで、2000年の308億7000万円が過去最高だった。当時の手口の大半は偽造カードの作成や複製。クレカを実際に盗んだり、実店舗などで磁気データを抜き取ったりして偽造カードが作られ、高額製品などを購入された。
クレカ業界は、簡単に情報を抜き取ることができないIC チップを埋め込んだカードへの切り替えなどで対抗。これにより不正は減少に転じ、12年には68億1000万円まで低下した。しかし、14年は114億円と5年ぶりに100億円台に戻り、17年に200億円超、21年は再び300億円台と過去最悪を塗り替え、勢いは衰えを見せていない。
一度は低下した不正利用が再び息を吹き返したのは、「番号盗用」の手口が巧妙化・高度化しているためだ。クレカ不正利用のきっかけは、▽盗難紛失▽偽造▽番号盗用−の三つに大別される、20年前のピーク時は、偽造カードの作成・複製が大半だった。それが現在は番号盗用が主流となり、不正利用による被害額の9割を占めている。
番号盗用の手口をさらに見ると、1フィッシング2クレジットマスター3不正アクセス−の三つに分類される。
フィッシングとは、実在するカード会社やインターネットプロバイダーなどを装って、メールや携帯電話番号にショートメッセージサービス(SMS)を送信し、偽サイトに誘導する手口。偽サイトに誘導した後は、クレカのIDやパスワードなどをカード保有者自身に入力させ、盗み取ってしまう。
クレジットマスターとは、10年ほど前からあった手口。コンピュータのプログラムを使って、カード番号や有効期限、セキュリティコードを自動で作成し、取引できるかどうか繰り返しシステムにアタックし、組み合わせを特定してしまう手法。
「不注意と言うのは酷」
ここ数年は特にフィッシングとクレジットマスターの巧妙化・高度化が顕著で、特に被害が多いのがフィッシング。その手口はさまざまで、宅配の不在通知を装ったり、携帯電話の料金を確認するよう促したりするSMSやメール。見慣れたECサイトや銀行名をかたり、支払い方法・お客様情報などを確認するよう求める内容や、物品購入の際、カード番号を入力するサイトだけが偽サイトに飛ぶといった手口もある。
以前は、不自然な日本語が使われていることもあり、偽物と見分けることもできた。しかし、今は流ちょうな日本語が使われるなど、すぐに見分けは付かない。大手カード会社幹部は、「利用者の不注意を指摘するのは酷なほど、手口は悪質で巧妙化している」と語る。
クレジットマスターはかつて、専門的な知識と大掛かりなシステムが必要だったが、今ではパソコンの能力も上がるなど、“参入障壁”が低くなったという。「組み合わせを当てる“打率”だけでなく、専門性がなくても参入できる“打数”も上がった」(大手カード会社幹部)ため、クレジットマスターによる被害も増えたとみられている。
番号盗用の三つ目の手口、不正アクセスは、加盟店や決済代行会社のコンピュータにサイバー攻撃を仕掛け、カード番号やセキュリティコードなどの情報を盗み取るというもの。加盟店が顧客情報を持たない「非保持化」を進めるなど、対策は強化されているが、顧客情報の漏洩被害は続いている。
AI導入でスピード検知
21年のクレカ利用額は10年前のほぼ2倍に相当する81兆円に達した。しかし、不正利用額はこの伸びを大きく上回る約4.2倍で推移しており、番号盗用がいかに横行しているかが分かる。
クレカ業界は対策強化を強化。クレカに記載されていない別のパスワードを使用して決済する方法や、利用者のスマートフォンなどに時間限定のパスワードを送るなど、本人認証の段階を増やす手法の導入が広がっている。
三菱UFJニコスは2月、不正検知システムにAI(人工知能)を導入することを決め、取り扱いを開始した。日々変化する不正利用の手口を迅速に、自動で学習するのが特長。最新の番号盗用の手口を最短26時間程度で学習し、類似の被害を検知するモデルを構築した。「従来は見分けることのできなかった不正利用を高い精度で検知できると期待している」(瀬脇計志理事、オーソリ統括部長)。
JCBも昨年10月、従来カード発行会社や加盟店との間で、判明した不正取引情報をクラウド上で共有・連携するサービスの本格運用をスタート。従来に比べ、迅速な対応が可能になり、被害の広がりを抑える効果を見込んでいる。
偽サイトの見分け方
不正利用の方法も従来と大きく変わり、紹介した女性のような「小口、大量化」の被害が目立つ。カード番号当たりの被害は低額化する半面、広範囲に及ぶのがトレンドだ。クレジットマスターによる不正では1日に数万件単位で取り引きが集中した例もあるという。1件当たりの被害が少額だと、被害に気付きにくく、不正発覚までに時間がかかってしまう。
巧妙化し増加するクレカ不正利用の被害。私たちはどう身を守ればよいのだろう。日本クレジット協会の消費者・広報部、竹内伸介氏は、クレジット会社やネットショッピング等各サイトの会員ページへログインする際、IDやパスワードを使い回ししないなどの基本に加え、1メールやSMS内にあるURLリンクはクリックしない、2あらかじめブラウザーの「お気に入り」に登録した企業の公式サイトや公式アプリを利用するようアドバイスする。
また、偽ECサイトの見分け方についても、商品の金額が異常に安かったり、契約を急がせたりするサイト、人気があり品不足のはずの商品の品ぞろえが異常によいサイトは要注意だと指摘。そして「最終的な防波堤」は、利用明細の確認だとし、「不正利用に早く気付けば、クレカ利用を止めるなどの手を打つことができ、最終的には犯罪組織等に金員がわたることを防ぐことにもなる」と話している。  
●「3.11」における「正義」の不在 3/12
いまも、「3.11」は、終わっていない。あの2011年3月の東京電力福島第一原発事故の「3.11」から、早いもので、もうすでに12年の歳月が経過した。この12年間を、長かったと捉える人も、短かったと捉える人も、人それぞれ、立場や境遇によって、思いは様々であろう。
あの日、事故当事国の日本が、想定外の事態に狼狽しつつ右往左往している中で、地球の裏側のドイツのメルケル首相(当時)の対応は、冷静、的確かつ迅速、明確であった。それは、見事に、日本とは対象的な対応であった。
事故リスク低減のコントロール実施後に残るリスクを残余リスク(Restrisiko)と言うが、メルケル首相は、「3.11」を見て、原子炉事故は絶対に起こらないという確信は持てないと考え、原子炉事故の残余リスクを受け入れることはできないと判断した。
原発事故の被害は空間的・時間的に甚大かつ広範囲に及び、そのリスクは、他の全てのエネルギー源のリスクを大幅に上回ると判断し、福島事故の4日後に3ヶ月の「原子力モラトリアム」を発令し、ドイツ国内で31年以上動いていた7基の原子炉を直ちに停止させた。
同時に、原子炉安全委員会に対し、国内の原子炉が洪水や停電などの異常事態に対して、十分な耐久性があるかどうかについてストレス・テストの緊急検査を行なうよう命じた。物理学者出身の首相らしく、その判断は、冷静沈着で、明確、的確かつ迅速であった。
以降、メルケル首相は、「3.11」を契機に、「原子力は過渡期のエネルギーとして必要だ」という立場から転向し「経済に悪影響を与えない限り、原子力を出来るだけ早く廃止するべきだ」と主張し始め、「脱原発」に踏み切った。
そうした健全かつ迅速な政治判断が、ドイツにはあった。しかし、残念ながら、事故当事国日本には、それがなかった。あの「3.11」直後の国政選挙ですら、原発が議論の争点にもならなかった当事国日本に対して、世界は、唖然とした。その彼我の差は、決定的であった。
その後、12年の間に、世界中で、コロナ禍やウクライナ戦争等、あまりに多くの想定外の深刻な問題が多発続出した。難問山積で何ら明るい見通しがつかないまま、人類は当惑しながら、途方に暮れて、暗中模索状態で、今日に至っている。
こうした混迷する世界情勢の中で、日本には、「3.11」以降、ずっと引きずっている深刻な原罪がある。それは、「3.11」の本質的な原因が、なんら総括も反省も引責もなく風化しつつあり、抜本的解決ないまま放置されているという驚くべき事実である。そして、こともあろうに、その宿痾の再発の危険性がいまや白昼堂々と露呈しつつある。
「喉元すぎれば」ではなかろうが、あのカタストロフな原発事故について誰も引責しないまま、その反省も抜本的改善もないまま、原発廃炉に向けたブレーキではなく、いまや、原発再稼動、新設に向けたアクセルをふかしはじめる始末である。もはや、狂気の沙汰である。
こうした実態をさらに突き詰めれば、そこに通底しているのは、日本のエネルギー政策に本質的に欠落している宿痾とも言うべき「エネルギー正義(Energy justice)の不在」が常態化している事実である。これは、国家の品格の問題であり、恥ずべき事態である。
この健全な「正義」がドイツにはあった。そして、健全に機能している。しかし、事故当事国日本にはなかった。そればかりか、むしろ「正義」がないがしろにされ、悪化しつつある。これでは、第二の福島原発事故が起こってもおかしくない。これは由々しき深刻な事態である。
「エネルギー正義」は、一般に、以下の3つの「正義」から構成されている。(注:ちなみに、ここでいう「正義(justice)」とは、「公正さ」の意味で使う)
1.「分配の正義」=利益と負担の分配が十分公平にされている正義
2.「承認の正義」=社会的弱者や地域住民等のstake holderの利益や価値が、企業や行政に十分承認されている正義
3.「手続の正義」=社会的弱者や地域住民等のstake holderが、意思決定手続に十分参加できている正義
はたして、日本のエネルギー政策は、「3.11」以降、この3つの正義が、十分担保されてきたのであろうか。わが国の実態は、どうなのであろうか。
結論から言うと、わが国での「正義」の実態は、惨憺たるものである。以下、「3.11」およびそれ以降のわが国における「正義」の不在について、幾つか、事例を挙げて検証しておきたい。
周知の通り、エネルギー価格の高騰もあり、手頃な価格でエネルギーにアクセスできないエネルギー貧困の増加が問題となっている。危険で忌避されがちな原発の立地選定も、その実態は、過疎化等で主たる産業もない脆弱な地方の弱みにつけこんで、彼らのかけがえのない価値観や人生や家庭を踏みにじって、お金の力で一方的にねじ伏せながら強行してきた問題の闇は、依然として総括すらされないまま今日に至っている。
また、原発再稼働や新設の議論においても、依然として、官僚が都合よくお膳立てした審議会と閣議決定で半ば強引に決定する手法も、「アリバイ」づくりのための形式的儀礼にとどまるパブリックコメントも、旧態依然で改善が見られないばかりか、むしろ形骸化が加速しているのが実態である。こういった行政の作業は、茶番であり、偽善であり不正義である。
こうした不正義と不公正と偽善が、常態化し、むしろ悪化しつつあり、厚顔無恥にも、白昼堂々と、まかり通っているのが、恥ずかしくも、日本の実態なのである。はたして、誰のための、行政か、誰のための政治か、誰のための国家なのであろうか。そこに国家の品格は微塵もない。そして、国民不在のまま、粛々と皮相的な政策が空虚に展開されてゆく。
その極みが、今年2023年2月10日に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」と「GX推進法案」の一部始終である。
わが国政府も、すでに、2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年のカーボンニュートラル実現という国際公約を掲げ、気候変動問題に対して国家を挙げて対応する強い決意を表明している。だが、しかし、その実態は、恥ずかしいことに「羊頭狗肉」と言わざるを得ない。
多彩な自然を享受できる地理的環境に囲まれている日本は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の豊富な再生可能エネルギー資源に恵まれている。ドイツ等欧州の何倍もの再生可能エネルギー潜在力を内包しており、むしろ、有利な立地にあるはずである。だが、残念なことに、このGXと銘打った政府方針には、肝心のコアコンテンツである再エネを日本のエネルギー政策の中心に据える明確な意思と具体的な戦略が欠落している。皮相的に「再エネの主力電源化」を標ぼうしつつも、意欲的な目標設定の引き上げも具体的推進策もないのが実態である。まさに「換骨奪胎」の極みである。
そこに再エネを軸としたエネルギーシフトやEV(電気自動車)シフトへの強い意欲は微塵も感じられない。炭素賦課金の2028年度導入、排出量取引の2026年度本格稼働等の計画や気候変動情報開示も含めたサステナブルファイナンス全体を推進するための環境整備も議論されてはいるが、能書きだけで、はたして実効性のある結果を出せるかは疑問である。一見、華やかで総花的な政策論は、免罪符的に再エネを標榜しつつも、その実態は、水素・アンモニア等を軸とした旧態依然の既存重工長大産業への利益誘導型の先行投資支援等が軸で、既得権への忖度感が満載である。ただGXを「やってる感」だけ演出しているに過ぎず、その姑息さが実にお粗末で寒々しい。
しかも、その段取りも手順もお粗末であった。形式的なパブリックコメントを実施し、審議会の結論が閣議決定されたが、「最初に結論ありき」の筋書き通りの唖然とするほど中身の薄い性急な粗製乱造であった。そして、基本方針の説明会・意見交換会も、異常に周知期間が短く設定され、しかも、驚くことに、その大半は閣議決定後の開催であった。
普通、常識的に、パブリックコメントも説明会・意見交換会も、じっくり時間をかけて、丁寧に実施し、そこで汲み取った意見や提言を、誠実に斟酌して、それをもとに審議会で公正な議論を行い、その上で、ようやく閣議決定に持ってゆくのが当たり前だ。にもかかわらず、まったく、本末転倒で国民不在の手続なのである。これは、茶番にすぎない。
石油ショック後の価値観をそのまま引きずり、以降、思考停止してしまっている。その後の進化・改善が、まったくみられないまま、依然として「結論先にありき」で、既得権益への忖度感満載の国民不在の日本のエネルギー政策は、末期的でまさにミゼラブルである。GXは、既存大手電力会社救済や大手企業利益誘導のための政策ではないはずである。
東日本大震災の10倍のダメージが想定される「南海トラフ地震」が30年以内に70〜80%の確率で起きるとされる中で、依然として「自国に向けた常設核弾頭」とも揶揄される原発が廃炉もせずにあまた温存されている危機意識の欠落は、あまりに愚鈍すぎる。原発施設への攻撃の危険性はウクライナ戦争での原発攻撃事例でも先刻ご承知であろう。そこにまったく危機感を感じず、「結論先にありき」で、防衛費増額を、一切、原発リスク問題に触れずに、いまそこにある潜在的なリスクを無視して、やっきになって予算増額の必要性を滔々と熱弁する為政者諸氏に、総合的に俯瞰して思考する能力の衰弱とバランス感覚と知的水準の劣化を疑わざるを得ない。
世界の潮流が、再エネとEVがキーコンテンツとなって、デジタル化の波も同期して、すでに大きなパラダイムシフトが稼動しつつあることは自明で常識である。こうした中、その波に乗れず、周回遅れで、狼狽し、できない理由を挙げて、不作為を正当化し責任回避することにだけに汲々としている日本に、明るい未来はない。「日本の常識は、世界の非常識だ」と揶揄されて久しいが、その甚だしい彼我のギャップは、日本にとって大きな機会費用(opportunity cost)であり、カントリーリスクであり、日本国民にとって、百害あって一利なしである。そして、何よりも恥ずかしいことである。
科学技術力や人材にも恵まれている日本には、原子力にも化石燃料にも依存しない再エネを基盤とする社会の実現が、充分可能であるはずである。ただ、残された唯一の障害は、政治の機能不全と不作為の問題にある。わが国の為政者も、かつては優秀だと言われた官僚諸氏も、こうした不作為の罪が、やがては、日本の未来の深刻なリスクになることを想像できる能力と解像度を、もっていないのであろうか。それとも、自己保身と責任回避への異常な執着ほどには、自分の本来の公僕としてのミッションや国民の幸福に対する責任遂行には、関心がないのであろうか。
こうした危機的状況下で、様々な噴飯ものの茶番を観るにつけ、はたして、わが国日本は、気候危機に真摯に取り組んでいるのだろうかと大いに疑問に思う。そして、「正義」の不在を嘆かわしく思う。実は、日本ほど、イナーシャ(Inertia;慣性)、特にinstitutional inertiaが強く、思い切ったパラダイムシフトができない国もないのではなかろうか。
先進国日本には、単にノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)としてでなく、その経済優先の思考行動習慣の結果、いままで散々、地球環境を破壊し、生物多様性を毀損し、気候危機の元凶たる温室効果ガスを出してきた「加害者」としての自覚と責務が求められる。
この美しい地球と言う稀有な惑星に住む79億人の人類とあらゆる生物種が、いま存続の危機に面している。いま必要なことは、犯人さがしでも責任回避でもなく、一刻も早く解決策を具体的な実行に移すことである。人類同士で不毛な戦争なんかしている暇はないのだ。
いまこそ、日本は、忌まわしい悪しき利権忖度の古い思考習慣から脱皮し、毅然と、真の脱炭素社会構築のトップランナーとして、その存在感を世界に示すべきろう。まだゲームは終了していないのだから。いまからでも遅くはないのである。
「この世で一番むずかしいのは、新しい考えを受け入れることではなく、古い考えを忘れることだ」と喝破した、かの英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズの箴言を、世界中でいま一番謙虚に理解すべきなのは、他ならぬ、わが国日本なのかもしれない。
●「プーチン、習氏とどこが違う」 放送法文書で安倍政権批判―安住氏 3/12
立憲民主党の安住淳国対委員長は12日、札幌市内で講演し、放送法の政治的公平性を巡り、安倍政権が解釈見直しを求めたとする総務省の内部文書に関し、「(強権的な)ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席とどこが違うのか」と批判した。
安住氏は、当時の安倍晋三首相について「絶頂期にあった。だから、自分の気に食わない番組をつぶせるという風に解釈を変えた」と指摘。「民主主義で一番やってはいけないことだ」と断じた。

 

●内閣府推計の財政試算、楽観的な3つの前提が将来世代に禍根を残す 3/13
日本財政が大きな転換点を迎えている。従来はGDP比で約1%だったわが国の防衛費が約2%に拡充されるほか、日本銀行の金融政策転換の可能性も高まっているからだ。
この状況下、今年1月、内閣府が「中長期の経済財政に関する試算」(以下試算)の最新版を公表した。この試算は、内閣府が年に2回推計し、今後10年程度の財政の姿を国民に示すもので、今回はインフレ率や長期金利、防衛費増額の影響に専門家の関心が高まっていた。
ふたを開けてみると、低成長ケースと高成長ケースのいずれも、試算が前提とするインフレ率は2023年度で1.7%しかない。インフレ率は既に2%を超えているにもかかわらずだ。
また、インフレ率が上がれば長期金利も上昇するはずだ。イールドカーブ(利回り曲線)を見れば、長期金利(10年物の国債利回り)は23年度に少なくとも0.9%程度の水準でおかしくない。だが、試算の前提は0.4%だ。
一方、防衛費増額の財源は、「歳出改革」「決算剰余金の活用」「防衛力強化資金」で約3兆円、法人税やたばこ税などの増税で約1兆円を賄うのが政府の計画だ。ところが、前者の約3兆円は恒久財源にならない。その前提を置かず、国債発行をせずに財源を賄えると仮定した結果、低成長ケースで32年度の財政赤字は9.6兆円(対GDP比1.6%)に収まるようだ。この前提で問題ないだろうか。
財政の厳しい現実は、「ドーマー命題」でも確認できる。中長期的な財政赤字(対GDP)をq、名目GDP成長率をnとすると、債務残高(同)の収束値は「q÷n」となる。qは、前出の低成長ケースの1.6%とする。また、nは、1995年度から22年度までの平均成長率0.35%を利用する。結果、債務残高(同)の収束値は約457%となる。
つまり、債務残高(同)は現在の約2倍超の水準に膨張する可能性を示唆している。楽観的な推計で改革が先送りになれば、その付けを払うのはわれわれ国民だ。異次元緩和の修正が見込まれる今、試算の前提も見直す必要があろう。
●「すべての増税は不要!」「国民一人あたり借金1000万円」は大ウソ 3/13
「日本は借金大国で、国債残高は1000兆円を超えており、GDPの2倍。これは、国民一人あたり1000万円超の借金をしている計算になる。多くの国民が、こんな話を聞いたことがあるはずですが、これはデタラメ。バカげた話なんです」
こう憤るのは、岸田文雄首相率いる自民党の政務調査会長代理を務める西田昌司参議院議員だ。
西田氏は国会で財務官僚や日銀幹部を相手に、日本財政の"暗部”を糾弾。その舌鋒鋭い指摘が、注目を集めている。
「国債は政府の負債、いわば“借金”です。そう考えると、日本政府は1000兆円を超える借金を抱えていることになります。ただ、国の借金と民間の借金は、まったく意味合いが異なるものなんです」(西田氏=以下発言は同氏)
どういうことなのか?
「一般の家庭が借り入れを行った場合、給与などの収入から借入金を返済していかなければなりません。一方、政府の場合は日銀を通じて自らお金を生み出す“通貨発行権”がありますので、倒産(デフォルト)の心配はないんです」
にもかかわらず、財務省は長年、一般家庭と政府を混同した説明を国民に繰り返しているという。
〈我が国の一般会計を手取り月収30万円の家計にたとえると、毎月給料収入を上回る38万円の生活費を支出し、 過去の借金の利息支払い分を含めて毎月17万円の新しい借金をしている状況です〉 (財務省HP『日本の財政関係資料』平成30年3月より)
西田氏は、こうした財務省の宣伝は「国民を増税やむなしと洗脳するためのもの」だと指摘する。
「もちろん、国債には償還日(額面金額を返済する日)があります。ただ、政府は国債の返済が迫ると、新たに国債を発行してお金を作り、それで支払っているんです。つまり、国債を入れ替えているだけで、税収で賄っているわけではありません」
現在発売中の『週刊大衆』3月27日・4月3日号を読んで、物事の多角的な見方をしよう。
●先週末の米国市場は金融システム不安を警戒した売りが出て大幅続落 3/13(朝)
【米国株式市場】 3/10 ニューヨーク市場
NYダウ: 31,909.64  345.22
NASDAQ: 11,138.89  199.47
1.概況
先週末の米国市場は金融持ち株会社のSVBファイナンシャル・グループ(SIVB)の傘下銀行であるシリコンバレーバンクが経営破綻したことで金融システム不安を警戒した売りが出て大幅続落となりました。69ドル安でスタートしたダウ平均は下げ渋るとまもなくしてプラスに転じ昼前に167ドル高まで上昇しましたが、伸び悩むと再びマイナスとなり取引終盤には471ドル安まで下落しました。その後引けにかけてやや持ち直したダウ平均ですが上値は重く結局345ドル安の31,909ドルで取引を終え4日続落となりました。また、ハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数も199ポイント安の11,138ポイントと続落となっています。
2.経済指標等
2月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数は31万1000人増となり市場予想を上回りました。失業率は3.6%となり1969年5月以来の低水準となった前月から0.2ポイント悪化し、横ばいを見込んでいた市場予想に悪化しました。また、平均時給は前月比0.2%上昇と前月から伸びが鈍化し市場予想も下回りました。さらに2月の米財政収支の赤字額は前年同月比21.2%増の2624億ドルとなっています。
3.業種別動向
業種別S&P500株価指数は11業種全てが下げました。そのなかでも不動産が3%を超える下落となったほか、素材も2%余り下げています。
4.個別銘柄動向
ダウ平均構成銘柄ではキャタピラー(CAT)が6%近く下落したほか、ゴールドマン・サックス(GS)も4%以上下げました。アメリカン・エキスプレス(AXP)とセールスフォース(CRM)も3%を上回る下落となり、ウォルト・ディズニー(DIS)とダウ(DOW)も2%以上下げました。一方でインテル(INTC)が3%近く上昇し、JPモルガン・チェース(JPM)も2%以上上げています。
ダウ平均構成銘柄以外ではシリコンバレーバンクの経営破綻を受けて中堅銀行や地銀の下げが目立ち、中堅銀行のファースト・リパブリック・バンク(FRC)が15%近く下げ、地銀のシグネチャー・バンク(SBNY)も23%近く下落しました。また、オラクル(ORCL)が決算で売上高が市場予想を下回ったことで3%以上下げました。さらに衣料品小売大手のギャップ(GPS)も決算で赤字額が市場予想以上に膨らんだことなどから6%余り下落しています。
5.為替・金利等
先週末の長期金利はシリコンバレーバンクが経営破綻したことで相対的に安全とされる債券が買われ0.20%低い3.70%となりました。こうしたなかドル円は円高に振れ134円台前半で推移しています。
今日の視点
本日の日本市場は米国株安を受けて下落してのスタートが予想されます。こうしたなか日経平均は節目の28,000円を割り込みそうで、25日移動平均線(先週末時点で27,705円)を維持できるかがポイントとなりそうです。
●岸田家後見人が苦言「政権浮揚に広島サミットを利用するのは絶対にやめて」 3/13
岸田文雄・首相は池田勇人氏、宮沢喜一氏に続いて広島県が輩出した戦後3人目の総理大臣だ。ことあるごとに広島をアピールし、5月のサミットもG7の首脳全員を初めて原爆被爆地ヒロシマに招く。
だが、本誌・週刊ポスト記者が現地を取材すると、首相の「広島愛」を疑問視する本音が聞かれた。元中国放送社長で広島市長を務めた地元政界の大長老・平岡敬氏(95)が語ってくれた。岸田首相の父・文武氏が政界入りした時からの支援者で、息子の文雄氏を見守ってきた人物でもある。
「岸田さんは外務大臣を4年8か月も務めたが、その時に、世界と渡り合えるだけの力量をつけることができたのだろうか。私は広島市長時代、世界の外交官たちと交流してその教養の深さにたびたび驚かされた。
広島出身のかつての総理、池田勇人さん、宮沢喜一さんはそうした教養が見えていた。いずれも日米講和条約の交渉を担い、戦後の日本を背負ってきた政治家としての哲学があったし、広島出身の政治家として日本の平和主義を貫いていたと思う。しかし、岸田総理には、そうした哲学が見えない。
彼が『核なき世界』を掲げて総理になった時には、正直、期待していました。しかし、いろんな意味で裏切られることになった。所得倍増は資産所得倍増にすり替えられ、軍事費倍増になってしまった。安保関連三文書に関しては、専守防衛を捨て去って、敵基地攻撃能力保有を明記した。安倍首相よりすごいことを次々とやってのけている。言葉が軽いですよね。思慮が足りない。
安保関連の三文書ですが、国内向けだけで、それを見た海外がどのように反応するのかなどは見ていない。彼の中で歴史と地理という座標軸はないのか。現在、岸田政権は低支持率にあえいでいる。そんな中、政権浮揚のために広島サミットを利用しようとするなら、それは絶対にやめてほしい」
岸田首相は父の恩人の声をどう聞くのか。
●菅前首相 萩生田政調会長らと会談 少子化対策などで意見交換  3/13
自民党の菅前総理大臣は12日夜、萩生田政務調査会長ら、自身の内閣で閣僚を務めた3人と会談し、少子化対策など、岸田政権が取り組んでいる課題をめぐって意見を交わしました。
菅前総理大臣は12日夜、萩生田政務調査会長、加藤厚生労働大臣、武田元総務大臣の3人と、東京都内の和食料理店で食事をとりながら、およそ2時間会談しました。
関係者によりますと、会談では、少子化対策や日韓関係など岸田政権が取り組んでいる課題のほか、衆議院選挙の小選挙区の「10増10減」に伴う候補者調整などをめぐって意見を交わしたということです。
萩生田氏、加藤氏、武田氏の3人は、菅内閣で閣僚として菅氏を支えました。
岸田総理大臣と距離を置く菅氏が今後、3人と連携を強めていくのか注目されそうです。
●高市早苗氏「ブチ切れ答弁」の原点 “不良伝説” ヤンチャ自慢 3/13
「自分が大きな不正に関わった、と書かれていたわけでもないのに“ブチ切れ答弁”をしたことがおかしかった」
自民党中堅議員が嘆くのは、現在「放送法をめぐる文書」で国会を騒がせている、高市早苗経済安保相(62)のことだ。
立憲民主党の小西洋之議員が入手した文書は、「放送法」の新たな解釈を政府側から出せるように、安倍晋三政権下で礒崎陽輔元首相補佐官が各所に根回しする経緯を記したものだった。実際に、当時総務相だった高市氏は、2015年5月の国会で、文書内に示された解釈と同様の答弁をしている。
3月3日の参議院予算委員会で、小西氏がこの文書をもとに質問すると、高市氏は「捏造された」と反論。さらに、小西氏から「仮に捏造でなければ、議員辞職するか」と問われると、高市氏は「けっこうだ」と啖呵を切った。
「結局、7日に松本剛明(たけあき)総務相が、該当文書を『総務省の行政文書』と認めたことで、高市さんの旗色は悪くなりました。日ごろ、高市さんに融和的な松野博一官房長官でさえも『あれはもう、どうにも……』と匙を投げているから、岸田政権に高市さんをかばう閣僚はいないでしょう」(自民党中堅議員)
衝動的な言動で、政治家人生の窮地に追い込まれた高市氏。じつは過去に、このプッツンに繋がりそうな、自らの本性を“自白”していた。
「大学に入るまでは不良してたんです。ギンギンのロックバンドもやってたし、バイクにディスコも大好きだった」
本誌が1991年にインタビューした際に飛び出たのが、この「不良娘伝説」。当時の高市氏はワイドショーに出演し、三浦瑠麗氏さながらの“美人言論人”として注目を集めていた。
ちなみに、別企画で高市氏にバイクに乗り始めた時期を聞くと、「16歳から」と回答を寄せている。しかし、これに首を傾げるのは、高市氏の母校・奈良県立畝傍(うねび)高校の同級生たちだ。
「自分で言うのもなんですが、畝傍高校は当時、奈良のトップ校でした。早苗が高校時代からバイクに乗っていたとかは、聞いたことがないですね。おそらく、神戸大学に入ってからの話では……」
ほかの同級生も「バイク乗り」や「ロックバンド」について、「聞いたこともないし、むしろ真面目な印象だった」と口を揃える。
もしや“捏造”か? と思った矢先、高市氏が小学校の途中から大学入学後まで住んでいた、奈良県橿原(かしはら)市の近隣住民は、こう話した。
「ああ、覚えてますよ。夕飯の支度をしていたら『ドドドッ』と、バイクの低いエンジン音が遠くから聞こえてきて。『あ、早苗ちゃんだ』とすぐわかりました。夜中遅くにバイクで帰ってきたこともありました」
ただ約40年前とあって、バイクにいつから乗り始めたかは記憶が判然としないという。高市氏は、母親に“蝶よ花よ”と育てられた、と前出の近隣住民は続ける。
「(高市氏の)お母様は、口を開けば娘の自慢でした。『うちの早苗が……』って。勉強だけでなく、ロックバンドのことも『ドラムも叩くんや』と言うし、バイクに乗ってることも自慢してはりましたよ」
家族ぐるみのヤンチャ自慢に少しあきれながら、当時のことを思い出す近隣住民。国会議員になった高市氏の姿を見ると、娘を自慢する高市氏の母親のハキハキとしたしゃべり方を思い出すという。
現在、奈良市内の高級住宅街に自宅を構える高市氏だが、自民党県連会長を務める地元でも、厳しい状況に立たされている。
「4月9日投開票の奈良県知事選挙は保守分裂選挙になっており、これは高市氏のグリップ力不足と、総務相時代の自身の秘書官を候補者にねじ込んだ結果です。もともと“漁夫の利”の形で、維新候補が優勢の状況でしたが、今回の文書騒動でさらに差は広がりそうです」(地元紙記者)
3月10日、高市氏は当時の総務相として「責任を感じている」と陳謝した一方で、「正確性が確認できないものがある」と述べて、自身に関する記述をあらためて否定している。官邸関係者はこう話す。
「小西氏は、書き換え記録を確認できる状態で文書を入手したために『文書の改ざんはない』と、相当な自信を持っていたようだ。高市氏が行政文書を全否定するような発言を繰り広げたことについて、政府が対応を放置していることに、総務省内からは不満の声が上がっている。
安倍氏の強権政治が再検証されることを期待している官僚も多く、『このままでは第2、第3の文書も出てくるのでは……』との懸念もあります」
成り上がり続きで来た“バイク乗りのサナエ”。ここで万事休すか。
●総務省側、大臣レク実施の「可能性高い」 高市氏なお文書否定 3/13
総務省の小笠原陽一情報流通行政局長は13日午前の参院予算委員会で、安倍政権下での放送法解釈を巡る総務省行政文書に関し、当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相に対する2015年2月13日の大臣レク(説明)について「行われた可能性が高い」との認識を示した。高市氏はこれまでレクの存在を否定していた。
小笠原氏によると、レクの記録作成者は「確実な仕事を心掛けており、上司の関与を経て文書が残っているのであれば、レクが行われたのではないか」と説明。同席者も同様の認識を示したという。一方で、小笠原氏は「文書に記載された内容が正確か否か、現時点で答えることは困難だ」とも語った。
これに対し、高市氏は「その時期はたくさんレクがあり、何月何日の何時にどのレクがあったか、確認の取りようがない」と釈明。その上で、放送局への感想など「紙に書かれている内容は自信を持って否定する」と述べた。立憲民主党の福山哲郎元幹事長への答弁。
●作成者は確実な仕事を心がけていると総務省 3/13
総務省幹部は参院予算委で、高市担当相が否定する局長の説明を記した行政文書について「作成者は、記憶は定かではないが確実な仕事を心がけている。文書が残っているのであればレクが行われたのではないか」と説明した。
●放送法文書巡り首相「補充的な説明」と強調、報道の自由への介入を否定 3/13
岸田首相は13日午前の参院予算委員会の集中審議で、放送法の解釈に関する総務省の行政文書を巡り、安倍政権下の対応について、「解釈の変更ではなく、補充的な説明を行ったものだ」と改めて強調し、野党が主張する報道の自由への介入には当たらないとの考えを重ねて示した。
政府は従来、放送局の政治的公平性を判断する際には「番組全体で判断する」と解釈してきたが、野党は安倍政権下で当時の礒崎陽輔首相補佐官の働きかけで「一つの番組でも判断できる」との解釈が加えられたなどと主張している。首相は「首相補佐官は、政策を決定したり、行政各部を指揮監督したりする立場ではない」とも強調した。
一方、当時総務相だった高市経済安全保障相は自身に関する記述について「不正確だ」と改めて否定した。総務省幹部は2015年2月13日午後に行われたとされる大臣レクに関して、「行われた可能性が高い」とした上で、内容を精査する考えを示した。
●物価高対策・「政治的公平」文書で論戦へ 参院予算委 集中審議  3/13
国会は13日、参議院予算委員会で、岸田総理大臣も出席して集中審議が行われ、物価高騰対策や、放送法が定める「政治的公平」の解釈に関する行政文書などをめぐり、議論が交わされる見通しです。
新年度予算案を審議している参議院予算委員会は13日、物価高や少子化対策などをテーマに岸田総理大臣も出席して集中審議を行います。
この中では、政府が、今月中に追加の物価高騰対策や少子化対策のたたき台をまとめるとしていることを踏まえ、賃上げの実現に向けた取り組みや子育て世帯への支援策などについて議論が交わされる見通しです。
また、放送法が定める「政治的公平」の解釈に関する行政文書をめぐり、総務省が、集中審議に先立ち、文書の内容の確認作業の状況を与野党に報告することにしていて野党側は、審議でも追及する方針です。
一方、参議院では、国会への欠席を続けるガーシー議員が「議場での陳謝」の懲罰処分に応じなかったことを受けて、与野党は、ガーシー議員を議員資格を失わせる「除名」とする方向で調整を進め、15日の本会議で処分を決定する見通しです。  
●少子化対策、自民内で「要望合戦」 調査会や議連、相次ぎ提出 3/13
岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」をめぐり、自民党内の調査会や議連が13日までに、相次いで要望をまとめた。近く党の提言として集約し、政府が3月末をめどに作成する少子化対策のたたき台に反映させる見通しだ。財源の確保策として「教育国債」まで飛び出し、さながら要望合戦となっている。
月内に集約「相反するものもある」
要望を提言に集約するのは「こども・若者」輝く未来創造本部(本部長・茂木敏充幹事長)の下部組織である実現会議。13日に党本部で会合が開かれ、少子化対策調査会の衛藤晟一会長は、持論である児童手当の大幅拡充のほか、新婚世帯への住宅費補助の引き上げを要望。旧民主党政権時代に廃止された、16歳未満の扶養家族がいる世帯に所得税と住民税を減税する年少扶養控除の復活も求めた。
この日は、成育基本法推進議連(会長・野田聖子前こども政策担当相)も加藤勝信厚生労働相に、医療界や障害児を育てる親からの要望を提出。10日には全国保育関係議連(会長・田村憲久元厚労相)が小倉将信こども政策担当相に対し、保育士の配置基準の改善を求めている。
さらに、大学など高等教育費の負担も重いことから、文部科学省系の教育・人材力強化調査会(会長・柴山昌彦元文科相)も参戦。貸与型奨学金の減免の拡充、所得に応じて返済できる出世払い型奨学金の導入を訴え、財源は教育国債を検討すべきだとした。
もともと児童手当などの所得制限をめぐっては党内でも賛否が入り交じる状況。実現会議の幹部は「相反して両立しないものもある。整理が必要だ」と精査する考えを示した。
●自民・細野豪志氏の呆れた変節…「原発運転40年」から一転、再稼働容認 3/13
《これほどまでに発言が変わってしまうと何を信じていいのやら…》
「2023ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」で快進撃を続ける日本チームの話題で日本中が盛り上がる中、SNSでこんな声が広がっていたのが、12日に放送されたフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した自民党の細野豪志衆院議員の発言についてだ。
番組では、原発再稼働問題や東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出などをテーマに、細野氏や立憲民主党の小川淳也前政調会長らがそれぞれ持論を展開。細野氏は「原発が動いているところは電気料金が低いのは厳然たる事実だ」と指摘した上で、日本には動かせる電源施設があるのに動かしていないことを自覚すべきとして、原発の再稼働は「国際的な責任だ」と発言。岸田政権の原発回帰の動きに理解を示していたのだが、ちょっと待ってほしい。
細野氏と言えば、2011年の福島第1原発事故後に当時の民主党政権で原発事故担当相などを務め、原発の運転期間について「原則40年、最長60年」という改正原子炉等規制法に関わった人物だ。岸田政権は今年、ロシアのウクライナ侵攻などを受けたエネルギー価格の高騰を理由に、運転期間「60年超」原発の運転を容認したが、本来であれば運転期間のルールを決めた当時の担当大臣として異論を唱えても不思議ではないだろう。それなのに平然と「60年超」運転も問題なしかのような姿勢なのだから、ネット上で驚きの声が広がったのも無理はない。
「原発は運転期間が40年を超えると中性子照射による脆化が起きる」
改めて改正原子炉等規制法をめぐる過去の国会審議を振り返ると、原発運転期間の「原則40年」の根拠について、細野氏は2012年2月の参院予算委員会でこう答弁していた。
「40年とした根拠でございますけれども、まず、原子炉の圧力容器の中性子照射脆化、すなわち、中性子がずっと当たりますから、そのことによって圧力容器が弱くなります。それがどれぐらいの弱さになっているかというのを、急激に冷めた場合にどの温度で原子炉が危なくなるかという分析をしておりまして、その数字を見ておりますと、これが40年という辺りで例えば100度ですとか80度まで下がると脆化をするという、そういうデータがございます」
「既に現在設置をされているほとんどの原子炉につきましては、中性子照射の脆化について想定年数を40年として申請をしております。したがいまして、こうしたことから考えると、元々この40年というところが一つの目安としてできてきたということがありますので、そこで一つの区切りを付けるということでございます」
原発は運転期間が40年を超えると、中性子照射による脆化が起きる――。細野氏は明確にそう言っていたのだ。そして、同年6月の参院環境委員会で、委員から「安全を政治的に、恣意的に、エネルギー需給のことが大切だとかという論理で政治的に安全を脅かして緩和するということは、それはあってはいけないけど……」などと問われた細野氏はこう断言。
「この(原子力規制)委員会は、専門的、技術的にしっかりやるという趣旨で独立性をしっかりと確保したものになっています。したがって、緩い方、緩い方に行くということを想定をして作られている法律ではないというふうに考えております」
「40年のところもそうなんですが、ここは法律に書いた意味というのは極めて重いと思うんです。(略)私は、立法者の意思というのは極めて重いというふうに考えています。(略)原発が予定をされている40年というところに線を引いたということ自体は非常に重い」
エネルギー需給のことが大切だとかという論理で政治的に緩和することは想定していない。運転期間「原則40年」は非常に重いーー。当時はこう説明していたはずなのだが、細野氏にとって今の岸田政権の動きは「想定外」とでも言うのだろうか。SNSでもこんな意見が目立った。
《細野さん、どうしようもないね。まっ、自民党入りした時に分かっていたけれど》
《与野党関係なく、政治家として少しぐらいは自分の発言に責任を持ってほしいな》
細野氏は番組で、「政治家が信頼されないことに関しては、私らもしっかり考えなきゃならない」とも言っていたが、本当にしっかり考えてほしいものだ。
●野党 放送法の「補充的解釈」撤回求める 岸田首相“撤回の必要なし” 3/13
放送法の「政治的公平性」が確保されているかどうかをめぐり、野党議員が岸田首相に対し、極端な場合、1つの番組でも判断するとした政府の「補充的解釈」を撤回するよう求めました。中継です。
立憲民主党の福山議員は、「報道の自由という民主政治の根幹となる重要な権利に関わる」として、「補充的解釈」を撤回するよう岸田首相に強く迫りました。
立憲民主党・福山哲郎議員「公権力が放送局を規制するような基準をつくるようなこと想定してない、放送法は。逆ですよ。逆に立憲主義の中で政治側を権力側をどう制限するかということが肝なんですよ。逆なんですよ、方向が。そこを間違ってる。長年、ずっと自民党政権も含めて戦後60年、維持してきたものです。もう一度、撤回をして議論し直しませんか。総理、ちょっとここは決断して、1回立ち止まって考えようと言っていただけませんか」
岸田首相「放送法を所管する立場から、放送法の解釈について、従来の解釈を変更することなく、補充的な説明を行ったものであるという説明をしておるわけですし、こうした考え方を維持しているものであると理解をしています」
政治的公平性の確保をめぐり、政府がこれまで原則、テレビ局が放送する番組全体をみて判断するとした解釈について、岸田首相は「変更はしてない」と強調しました。
その上で、「極端な場合、1つの番組でも判断する」とした補充的解釈を撤回する必要はないとの考えを示しました。

 

●もし台湾有事発生なら、円は上がるのか下がるのか 3/14
将来のどこかで中国が台湾への軍事侵攻を始めた場合、外国為替市場にはどのような影響が及ぶのだろうか。ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた昨年2月以降、国内外のマーケット関係者の間で比較的頻繁に話題になるテーマだ。
少し前までなら「中国の台湾侵攻リスク」については、可能性がゼロとは言い切れないが、実際に起きる可能性は極めて低いとみる市場関係者が多かった。ただ、現実の世界では適切な国家統治の仕組みや軍事力を行使する際の規範について、日米欧英加豪などの西側主要国と同じ価値観を共有していない国々も数多くある。
ロシアのウクライナ侵攻を契機にして「20世紀型の暴力を駆使した領土略奪戦争はもう起きない」との見方は、希望的観測に基づく楽観論に過ぎないことを多くの人々が意識せざるを得なくなっている。
以下、台湾有事が起きた場合の為替インパクトについて、筆者の見解を示しておきたい。
直後は円買い
もしも中国が台湾への軍事侵攻を開始、いわゆる「台湾有事」のテール・リスクが現実になった場合、外国為替市場が示すイニシャル・リアクションとしては、紛争当事国の通貨である人民元と台湾ドルが最も強い売り圧力にさらされる一方、米ドル、ユーロ、円などの西側主要国の通貨が全般的に買われる展開になる可能性が高い。
一方、日本国内の為替関係者にとって最も気になるドル/円相場については、「台湾有事勃発」の第一報が飛び込んできた直後に起きる世界的な株価の崩落に触発されて、急激に進む米国債利回り低下の影響を当初は強く受けることになるだろう。ドル/円相場が示す初期反応は、ドル安・円高方向への下振れになる可能性が非常に高い。
ウクライナ戦争後、買われたルーブルの理由
ただ、その後の外国為替市場で観測される2次反応や3次反応については、様々な要素が複雑に絡んでくるため完璧に読み切るのは難しい。例えば、昨年2月下旬、ロシアがウクライナへの軍事進攻を開始した直後こそ、国際紛争勃発時における為替市場のセオリー通り、ロシア・ルーブルとウクライナ・フリブナは暴落したが、しばらく時間が経つにつれてウクライナ・フリブナは一段安になった。
その一方、ロシア・ルーブルは急激なV字回復に転じて侵攻開始前の水準よりも、ルーブル高の水準で取引されるようになったのは記憶に新しい。
西側諸国による資産凍結などの制裁を恐れるロシアの大富豪や、ロシア企業などによる海外資産のリパトリエーション(本国回帰)の思惑、ロシア産エネルギー資源の価格高騰による交易条件の改善が、ロシア・ルーブルの超V字回復を促す追い風になったのではないか、と言われている。
01年同時多発攻撃、ドルは急落後に急騰
その他の国で過去に起きた類似の事例に目を転じると、2001年9月11日に対米同時多発攻撃が起き、米国が「テロとの戦争」を始めた際も、ドル/円相場は一時的には大きく下振れして122円前後から115円台まで急落した。だが、その後は超V字回復的に切り返し、なぜか約3倍返しのドル高が進行。135円台まで反発したケースもあった。
甚大なテロの被害に遭った米国経済に復興特需の刺激が入ったことや、想定外の国難に直面した米国人マネーの国内回帰が起きたのではないか、とマーケット・トークが盛んに飛び交っていた当時の記憶が蘇る。
初期反応後の円、複雑な要因交錯か
これらの事例から類推すると、「台湾有事」が勃発した際、初期反応で人民元や台湾ドルが売られても、必ずしもその状態が続くとは限らない。
今後、台湾海峡の周辺で何らかの「有事」が起きたとしても、実際に起きた軍事的な摩擦や衝突の程度や、それに対する各国の対応によってその深刻度は大きく違ってくる。当該時点における当事国のマクロ経済、金融・財政政策、国際資金フローへの影響なども踏まえて、個別に判断するしかないだろう。
先述のように、ドル/円相場への影響については「台湾有事」の発生直後こそ、初期反応は恐らく円高サイドに振れそうだが、国際紛争の勃発時には「戦地に近い地域の通貨」が売られるのが一般的な為替市場のセオリーなので、円が一方的に買われ続けるとは思い難い。
「台湾有事」でグローバルに張り巡らされた半導体の供給網が混乱し、西側諸国が中国に対して経済制裁を課した場合、関係各国のマクロ経済や基幹産業にどのような影響が及ぶのか、短い時間で正確に読み切るのは恐らく無理だ。
ドル/円相場への影響を考える上で最も重要な要素である日米両国の金融・財政政策の方向性や速度にどのような違いが出るのか、誰にも即答できないもやもや感が漂うだろう。ドル安・円高の初期反応が一巡した後に引き起こされる2次反応や3次反応には複雑な要素が絡んできそうだ。端的に言って「不透明」としか言いようがない。
あり得るスイスフラン買い/アジア通貨売り
そのような状況下で、最も分かりやすく買い圧力にさらされる疎開先通貨の最有力候補は、スイスフランになるだろう。周知のようにスイスは19世紀の昔から軍事面では永世中立国である上、近年においては巨額の貿易黒字を非常に安定的に稼ぎ出す国になっている。「戦争に巻き込まれる恐れがない恒常的な貿易黒字国」の通貨であるスイスフランは、国際紛争の勃発時に「リスク回避マネーの受け皿」として選好されやすい。
今後、万が一にも台湾海峡の周辺で何らかの「有事」が起きた場合、スイスは地理的にも紛争地域から遠く離れているので安心感がある。日本国憲法9条で戦争放棄を謳っている戦争忌避国の通貨である円も、かつては国際紛争の勃発時に買われやすいというイメージがあった。
だが、近年の日本は貿易収支の赤字体質が定着しているだけでなく「台湾有事」の際には戦地に近過ぎるので安全な疎開先とは見做され難いのではないか。
実際、昨年はロシアのウクライナ侵攻後、スイスフラン/円が1980年1月以来、約42年ぶりの高値圏まで買い進まれる場面が観測された。かつて多くの市場関係者に共有されていた日本円の「安全神話」の衰退を示唆する象徴的な出来事だった。
あくまで仮定の話だが、この先どこかで「台湾有事」が起きた場合、日本を含めた近隣のアジア通貨に対してスイスフランは全面高になる可能性を秘めている。
外国為替市場では、アジア通貨とスイスフランのクロス・マーケットに注目が集まり「アジア通貨売り・スイスフラン買い」が鉄板トレードとしてしばらく流行することになるだろう。
●物価高対策で子ども給付 年収300万円未満世帯対象でGDPを760億押上げ 3/14
自民党参院は困窮子育て世帯への子ども1人あたり5万円の現金給付を提言
自民党は3月17日までに追加の物価高対策の提言をまとめる。これを踏まえて政府は、3月末までに具体策を決定する方向だ。自民党内では、これまで直接的な支援の対象外となっていたプロパンなどのLPガス利用者の負担を軽減するための支援策や、卵や肉などの食料品価格を抑えるための飼料価格対策などを盛りこむ方向で、検討が進められている。
こうした中、与党の一部あるいは野党からも、子育て世帯への給付の実施を求める声がにわかに高まってきた。子育て世帯への給付は今までも繰り返されてきた既視感の強い対策であり、また「ばらまき」的な要素がある施策だ。ただしそれがどの程度ばらまき的な政策になるのかは、所得制限の程度によって決まるだろう。
自民党の参院は10日、困窮子育て世帯への子ども1人あたり5万円の現金給付を行う施策を提言した。提言には、困窮子育て世帯への食料品等支援を行う自治体・NPO等の支援、地方創生臨時交付金の追加配分、も含まれた。
他方、公明党は、所得が少ないひとり親世帯や住民税非課税の子育て世帯を対象に、子ども1人あたり5万円を「特別給付金」として、再び支給すべきとの考えを示している。立憲民主党も、低所得世帯に対して、子ども1人あたり5万円を4月末までに給付する法案を提出した。
年収300万円未満世帯での子ども一人当たり5万円給付でGDP763億円押し上げ
18歳以下の子供への5万円給付で、仮に所得制限がない場合、給付の総額は9,600億円程度になると考えられる。給付の対象とする困窮世帯、低所得世帯を仮に年収300万円未満とすれば、それは全世帯の31.8%に相当する(厚生労働省「2021年国民生活基礎調査の概況」)。その際には、給付の総額は3,053億円程度となる。
さらに一時的な所得のうち消費に回される比率が内閣府の試算に基づいて25%程度とすれば、この給付は個人消費及びGDPを763億円程度押し上げる計算となる。年間GDPの0.01%に相当する規模だ。
物価高対策は的を絞った弱者支援に
これは景気浮揚効果としては小さいと言えるが、そもそも景気浮揚効果を狙って追加の物価高対策を実施することは適切ではないだろう。物価高が個人消費の逆風となっていることは確かであるが、実際の個人消費は比較的安定しており、決して緊急事態などではない。この先は、感染に関わる制限の緩和やインバウンド需要の高まりも、個人消費を相応に押し上げることが期待される。
いたずらに規模を追求して景気刺激を狙う必要はないだろう。それは、財政環境を一段と悪化させるという弊害の方が大きい。ガソリン補助金など、時限措置として導入された今までの物価高対策も、予想外に長期化し出口が見えなくなっている。そのため、財政負担は高まる一方であり、それは将来にわたる国民負担となり、経済活動に逆風となってしまう。
追加の物価高対策を実施するのであれば、物価高による打撃が特に大きい家計、企業に的を絞って支援する施策とすべきだ。この点からも、子育て世帯への給付を仮に実施するのであれば、厳格な所得制限を設け、支援対象を低所得世帯に限定するべきだ。
●「個人判断」後の初閣議は全員マスクなしに 口開けて笑う閣僚も 3/14
新型コロナウイルス対策としてのマスク着用が屋内外を問わず「個人の判断」となってから初めての閣議が14日朝、首相官邸で開かれた。岸田文雄首相をはじめ岸田政権の閣僚全員がマスクを着けずに臨んだ。閣議直前には、加藤勝信厚生労働相や河野太郎デジタル相らが口を開けて笑う姿も見られた。
鉄道や航空会社は13日からマスク着用を求めるアナウンスをやめ、学校も4月1日以降は基本的にマスク着用を求めなくなる。医療機関の受診時や混雑した電車やバスの乗車時などは引き続き着用が推奨される。
岸田首相は13日、マスクを着けずに官邸に出邸し、記者団に「(今後は)マスクを外す場面が増えると考えている」と述べていた。  
●米銀破綻、内外経済・市場動向や国内金融機関への影響注視 3/14
鈴木俊一財務相兼金融担当相は14日午後の参院財政金融委員会で、米銀破綻による「国内外経済や金融市場の動向、日本の金融機関に与える影響を注視する必要がある」と指摘した。浅尾慶一郎委員(自民)への答弁。
米シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行破綻の影響に関し、鈴木担当相は「金融市場ではリスク回避的な動きが指摘されている」ものの、「米当局は預金の全額保護など信用不安が拡大しない措置を迅速に講じている」と評価した。そのうえで「現時点で日本の金融システムの安定に重大な影響を及ぼす可能性は低い」とした。
●「年金よりも投資した方がまし。」若者が年金よりも投資を好む理由とは?  3/14
「年金よりも投資の方がまし」と年金には期待せず、将来のための投資にいそしむ若い方もいらっしゃるようです。年金を追納できるだけの資金を有しながらそうはせず、自身で投資をして老後に備える方もいらっしゃいます。なぜ、彼らがそのような思考に至るのか、その理由について考えてみます。
若者が年金に不信感を抱く理由
若者が、年金よりも投資の方が……と考えてしまうのには理由があります。その理由の一つが年金制度への不信感でしょう。年金制度は近年、受給開始年齢が65歳へ後ろ倒しとなったり、繰下げ受給の上限が75歳まで引き上げられたりするなど、大きな制度変更がありました。雇用の面でも、65歳までの雇用確保が義務付けられ社会的には定年が65歳となった上、70歳までの雇用確保が努力義務となるなど、国は少しでも長く国民を働かせようと画策しているようにも感じられます。そういった国の動きから、自分たちが年金をもらえるのは70歳以降になるのではないか、そもそももらえないのではないか、と若者が年金に不信感を抱いてもおかしくはありません。
年金の財政状況も良好とはいえない
年金について、国はしきりに崩壊していない、今後も維持されていくとはいっているものの、日本は確実に少子高齢化が進んでおり、年金の支え手である若者が減る一方で年金を受ける老人は増え続けています。また、年金の給付額は物価や税などの上昇に追い付いておらず、今や年金だけでは生活できないともいわれています。さらに追い打ちをかけるように、2019年の財政検証では、所得代替率(受け取る年金額が現役世代の手取り収入額に対してどれくらいの割合となるのかを示すもの)が今後50%を切る可能性も示唆されています。年金自体は決して悪い制度ではないものの、若者の目に留まりやすい上記の状況などから、近年における年金財政は良好ではないように感じられます。それゆえ、将来年金をもらえない場合の備えとして、もしくは少ない場合に年金に頼らず生活していくための自助努力として、若者の目は投資に向いているのだと考えられます。
なぜ投資なのか
ここで、なぜ投資を選ぶのかという点について考えてみます。学生時代、学生納付特例制度によって年金保険料の支払い猶予を受けていた方でも、保険料の追納をするのではなく、その分を投資信託などでの資産運用に充てられる方は少なくありません。そのようになる一つの理由として、仕事を早い段階で退職して株や投資信託による配当収入や資産の切り崩しで自由な生活を送るライフスタイル、FIRE(Financial Independence, Retire Early)を目指す方が増えてきていることが挙げられます。年金を追納するくらいなら投資に回して、少しでも早くFIREを目指すという考えです。それに加え、これまでの資本主義社会の成長の歴史を踏まえると、長期的な観点で米国含む全世界へ投資することで、投資信託によって年利3%から5%前後の利益を得られる可能性が十分あることも挙げられます。仮にFIREを実現できずとも、将来が不透明な年金より、ある程度利益を予測できる投資に目がいっているとも考えられます。また、つみたてNISAといった現金化が比較的容易な非課税制度や、iDeCoのように節税効果の高い制度も存在していることから、公的年金よりもそれらの制度を通じた投資を選んでいるというケースもあります。
実際のところ、本当に投資の方が良いのか
若者が投資を好む理由がある程度理解できたところで、本当に年金より投資の方が良いのか、簡単に試算してみます。仮に、平成24年と25年の2年度分、全額免除されていた年金保険料を令和4年度に追納したとすると、支払う保険料は36万4920円となります。
   図表
増える年金額は年間でおおよそ3万8890円です。仮に20年間受け取ったとすると、トータルで増える金額は77万7800円です。一方、36万4920円のお金を30歳から65歳まで35年間、インデックス投資にて平均年利5%で運用すると201万3000円となり、それを20年間にわたって受け取り続けると年間10万650円受け取ることができます。実際の額は、運用しながら受け取りを続けた場合や税の関係などでも変わってくるかと思いますが、シミュレーションし、改めて数値として見てみると投資の方が良いという意見があるのもうなずけます。
若者が見落としている点もある
しかし、年金より投資の方が全てにおいて優れているかというと、そういうわけでもありません。年金より投資を好む若者が見落としがちな点には、下記のようなものがあります。
・年金は生きている限り受け取り続けることができる
・投資による利益は常に上がるとは限らない
・投資には損失を抱えるリスクもある
これらのことを加味して年金よりも投資を優先するのであればともかく、この点を深く考えない、もしくはよく知らないまま選択している若者も少なくないようです。
投資と年金、一概にどちらがいいとは言い切れない
若い方の中には、年金に不信感を抱き、自己責任での投資の方がましだと考える方もいらっしゃいますが、その考えが必ずしも正解とはいえません。年金と投資のどちらにも、それぞれ長所と短所が存在しています。今回ご紹介した年金や投資に対する若者の考えも取り入れて、改めてご自身で考えていくことで、将来のライフプランをより良いものに変えていくことができるのではないでしょうか。
●「言論や報道の自由に対する不当な介入」 長崎市の市民団体が抗議声明 3/14
放送法の政治的公平性について、首相官邸側と総務省側とのやりとりを記した行政文書について長崎市の市民団体が「言論や報道の自由に対する不当な介入」などとする抗議声明を出しました。
言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会・南輝久代表(74)は「放送法は戦争中にラジオ放送が”大本営発表”と化した反省の上に成立したもので、放送による表現の自由は憲法に保障された”国民の知る権利”を実現するためにある。時の政権がメディアをコントロールするために法解釈をねじ曲げるのは憲法無視の言論弾圧にほかならない」と話しました。
抗議声明を出したのは長崎県のマスコミOBらでつくる「言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会」です。市民の会は「言論、取材・報道の自由と国民の知る権利が侵害されるおそれがあり、民主主義を揺るがす大問題。行きつく先は戦争だ」として岸田政権と総務省に対し、「不当な解釈変更の撤回」を求め、与野党には「国会での徹底した解明」を訴えています。
市民の会は、声明文を岸田総理や当時の総務大臣の高市早苗経済安全保障担当大臣、各政党や民放キー局へ14日に送りました。
●副大臣制度の活用不十分 国会の予算委員会で答弁ゼロ 3/14
今国会で閣僚の国会出席のあり方が議論の柱のひとつになった。林芳正外相が国会日程を理由に20カ国・地域(G20)外相会合を欠席し、副大臣が大臣に代わって答弁する役割の活用が不十分だった。衆参両院の予算委員会の基本的質疑は副大臣が答弁する機会はなかった。
副大臣制度は2001年1月の中央省庁の再編とあわせて導入した。政策立案・決定を官僚主導から政治主導に切り替えることをうたった。
国会法は69条で副大臣らが閣僚を補佐するため委員会に出席できると定める。閣僚が海外出張などで不在の際、代わりに対応できる。実際に衆参両院の各委員会で答弁を担うことがある。
閣僚自ら国会に出席しないことには副大臣制度を採り入れる前から「国会軽視」との批判があった。
例えば1967年には当時の水田三喜男蔵相が野党などの「重要な会期末の海外出張は不謹慎だ」といった意見を踏まえ外国訪問を見送った。佐藤栄作首相は衆院予算委で「政府としては望ましいと思ったが出張を取りやめた」と語った。
特に衆参両院の予算委や会期末など与野党の論戦が注目される機会には閣僚本人の出席が重んじられる傾向がある。予算審議の序盤の基本的質疑などは首相と全閣僚が出席するのが慣例だ。
インドで1〜2日に開いた今回のG20外相会合は参院予算委の基本的質疑と日程が重なった。両立は難しく、林氏は国会を優先した。岸田文雄首相は同委で「国会を含む国内での公務の日程、内容などを総合的に勘案した」と答弁した。
欠席は「外交軽視」との指摘を受けた。日本は2023年の主要7カ国(G7)の議長国だ。例年以上にG20外相会合に出席する意義があるとの声もあった。
日本維新の会の音喜多駿政調会長は2日の参院予算委で「3月1日の答弁は1回、時間にして53秒。これは林外相の無駄遣いだった」と訴えた。閣僚の国会答弁の負担を減らすために副大臣が分担すべきだとの主張も与野党などから出た。
日本の首相や閣僚は諸外国と比べて国会に縛られる時間が長いとされる。首相が国会に出席した日数は日本アカデメイアの調査で11年に127日だった。英国の36日、フランスの12日、ドイツの11日など欧州の主要国と比べても突出する。
副大臣はかつての政務次官と違い、閣僚らと並んで天皇の認証が伴う認証官だ。閣議への代理出席はできないものの、各府省庁で担当分野の政策決定にも関わる。これまで国会議員が就任してきた。
副大臣がそのまま閣僚へと昇格した例もある。自民党の菅義偉前首相は総務副大臣から総務相、立憲民主党の野田佳彦元首相は財務副大臣から財務相になった。
閣僚経験者を副大臣に就けた人事もあった。第2次安倍晋三内閣では上川陽子元少子化相を総務副大臣、鈴木俊一元環境相を外務副大臣に任命した。当選回数が多く答弁に不安が少ない人材を起用した。
現状は当選回数や所属政党・派閥に基づく「順送り人事」が色濃くなっているとの見方がある。いまの副大臣のうち衆院議員は当選3〜4回、参院議員は2〜3回に集中する。おおむね派閥勢力に沿ったポスト配分になっている実態もある。
政策研究大学院大の増山幹高教授(政治学)は「政治家を養成するOJT(職場内訓練)のような場にしているのは本末転倒だ」とみる。
「閣僚が全員出席する慣例のせいで国際的に重要な機会を失うのは愚かだ。副大臣で十分対応できる」と話す。
●高市氏、修正含みの答弁 「テレ朝の次はNHK?」の声  3/14
放送法の「政治的公平の解釈変更を進めた」とする行政文書を巡り、高市早苗経済安全保障担当相は14日の衆院本会議で、存在自体を否定していた総務省での大臣レクチャーを巡り「NHK予算に関するレクは受けた可能性はある」などと修正含みの答弁を行った。
立憲民主党の末次精一氏から「当日の動向メモなどレクそのものが存在しなかったという証拠を示せ」と追及されての答弁。高市氏が13日の参院予算委員会で「推しアナ」の名を挙げ民放テレビ局への圧力を否定していたことを踏まえ、野党席からは「テレ朝の次はNHKを巻き込むのか?」との声が上がった。
高市氏は予算委で、自身のものとされる文書内の「テレビ朝日に公平な番組なんてあるの?」との発言を否定する際、同局系情報番組司会の羽鳥慎一アナウンサーのファンであることを明かして「テレビ朝日をディスる(さげすむ)はずもない」と説明していた。

 

●産業振興と出生率がリンクしないまちづくりは成功しない 3/15
産業振興と子育て支援
かねてから地域の産業振興は、雇用の創出や所得の拡大が政策目標となってきた。他方で、地域の少子化対策としては子育てのための補助金支給が中心であり、両者は相互に関連性を意識せず独立に行われていることが多い。所管する部局が異なるので、ある意味仕方ないことかもしれない。人口動態は自然増減と社会増減から成り立っているが、自然増減と社会増減の関係は独立ではない。若い世代の転入が多くなれば自然増減は増加に向かうであろうし、逆に若い世代の転出が増えれば出生数にも負の影響を与えることになろう。社会増減の要因には、雇用機会が大きく関わっている。そのことはとりもなおさず地域の産業振興策とのつながりを意味している。また、子育てのための補助施策が充実していることが周知されれば転入者の増加にもつながり社会増に貢献するであろう。このように自然増減と社会増減にはリンクがあり、地域政策の観点からすれば、産業振興策と少子化対策は連動していることが求められる。岡山県にその事例となる自治体が2つある。いずれも県北の小規模自治体であるが、1つは周囲を山に囲まれた人口が1,500人に満たない西粟倉村(にしあわくらそん)であり、もう1つは先般(2月19日)に少子化対策の先進地事例として岸田総理が訪れた奈義町(なぎちょう)である。
出生率2.95(2019年)の町
この奈義町は県北東部に位置し、面積69.54km2、住民人口5,766人(2022年1月1日)の小規模自治体である。その一方で「陸上自衛隊日本原駐屯地(にほんばらちゅうとんち)」を有し、財政力指数も0.32と同程度の人口規模の自治体に比べて高い方である(注1)。奈義町は1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率が全国トップクラスで、「奇跡のまち」と呼ばれている。2014年に合計特殊出生率が2.81と非常に高くなり注目されたのだが、2005年時点では1.41と低かった。現在も高い水準を維持できているのだが、どうしてここまで高い水準が保てているのであろうか。そこには「子育て支援施策」だけではなしえなかった「町民」を核とした地域活動があって、住民同士の交流と行政の施策がうまく回っている(循環している)ことにある。ハード面で言えばまちのコンパクト化である。町役場は町の中央よりほんの少し西南寄りに位置する。役場の周りには町文化センター、町保健相談センター、奈義町現代美術館、町立図書館、奈義保育園、なぎチャイルドホームなど町の主要施設が集まる。また少し歩けば介護予防施設ウォーキングプールや定住促進施設であるセンタービレッジ奈義もある。コンパクトなまちづくりとなっており、休日には小さな子どもをつれた家族の姿がある。もちろんこれまでもいくつかの子育て支援策はあったが、今の居住者だけでは出生率の維持ができない。維持するには若い世代の転入者を増やさなければならない。それには若者が実際に移住したいと思うくらい独自性の高い思い切った子育て支援が必要だ。現在、奈義町には医療費の高校生までの無料化(高校生は入院費が無料)や在宅育児支援手当、不妊治療手当のような独自性の高い子育て支援策がある。
しごとコンビニ
合計特殊出生率は2014年に2.81になったが、町が「消滅可能性」自治体に含まれてしまっていた。町は2015年の「奈義町まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定時に、町民へのアンケートやインタビューによって、子育て中の女性から日中の仕事の需要をとらえた。そこで生まれた組織が「まちの人事部事業」である。ちょっとした仕事の外注先を求める町内の事業所と、ちょっとした仕事を請け負いたい町民をつなぐ事業である。町民は事前に「しごとコンビニ」に登録しておく。町内の事業所からまちの人事部が受託した仕事情報が、しごとコンビニ登録メンバーへ配信され、受託登録メンバーが作業場所に出向き、作業後、報酬を実施メンバーで分配する。
産業と自然増の好循環の村
もう1つの西粟倉村の例は、まさに産業振興と自然増が連動したものとなっている。西粟倉村では「100年の森」構想の下、民間会社の「共有の森ファンド」を通じて、2018年で4900万円に達しており、その資金は森林組合で使う機材等の購入に充てられており、生産性の向上に貢献している。また、学校統合で廃校となった小学校の校舎を使って設立された官民共同出資の株式会社「西粟倉・森の学校」がある。木材・木製品製造を中心とするここが村の移出産業の基盤をなす組織となっている。この学校は、木材加工品の内装材や住宅部材の販売する「住宅の商社的」な役割だけでなく、エコツーリズムの観光客や研修生の誘致、西粟倉ブランドを売り出す都会でのアンテナショップ展開に取り組む「地域代理店」としての機能も兼ね備えている。森林資源を直接移出するのではなく、それを加工することで付加価値をつけ、また同時に都会からの移住者という雇用も生み出している。つまり、森林という地域に特化した地域資源の活用によって、域外への販売とサービスによって地域にマネーを呼び込み、人材も呼び込んでいるのである。一次産業である村の林業を生かすのに二次産業の木材木製品製造業を創り出し、また、森林を伐採したあとの木くずを利用して2016年からウナギの養殖を始めた。環境だけでなく経済循環でマネーを獲得し雇用も生まれた。若い人たちも転入してきて、小学生の生徒数は増加傾向にある。[一次産業・二次産業・三次産業]という上流から下流まで、ものとお金の流れをつなげた地域経済循環を実践している好例である。
まちづくりの視点
中山間地や離島など環境の厳しい自治体が人口減少を食い止めるために何をすべきか。こういった自治体の多くは人口が1万人以下のところが多い。これは首長が住民の顔を見た行政がやりやすいことも理由の1つかもしれない。しかしその本質は、そのまちならではの比較優位な施策で個性を打ち出し、それを全国発信することで若い移住者を呼び込んでいることである。少し表現を変えれば、まちの資源を生かして外からマネーを稼ぎ、それを子育て支援に代表される住民生活の向上に投資する、まさに出生率向上と産業振興がリンクしたまちづくりなのである。
●オーストラリア原潜配備の意味とは? 3/15
核兵器搭載せず不拡散に配慮も、安保政策の大転換点に
豪米英の首脳が14日に発表した攻撃型原子力潜水艦のオーストラリア配備計画。共同声明は「オーカス(豪米英の安保枠組み)の最初の大規模なイニシアチブとして、オーストラリアが通常型兵器を搭載した原子力潜水艦を調達することを米英が支援する」と述べ、オーストラリア海軍の原潜が核兵器を搭載しないことを強調した。
核不拡散条約(NPT)で核兵器保有が認められている米国、英国など国連安保理常任理事国5カ国と異なり、オーストラリアは日本などと同様に同条約で核兵器の保有が禁じられている。調達する原潜のミサイルや魚雷などの兵装を通常兵器に限定することで、核不拡散体制を遵守する姿勢を強くにじませた。
それでも、オーストラリアの安保政策にとって、原潜保有が歴史的なターニングポイントになることは間違いない。原潜保有国としてオーストラリアは世界7カ国目、核兵器を持たない国家としては唯一の存在となり、強い抑止力を手に入れることができるからだ。
高い技術を必要とし、高価な原潜を保有しているのは現在、米国、ロシア、中国、英国、フランスと、インド(NPT未加盟)の合計6カ国に限られる。いずれも核兵器を保有する「スーパーパワー」(超大国)だ。オーストラリアは核兵器を保有しない「ミドルパワー」(中堅国)で唯一、攻撃型原潜という特別な戦闘能力を持つことになる。
   探知難しい「究極のステルス兵器」
解像度の高い軍事衛星やレーダー技術が発達した現代においても、海中は電波が届かないため、深く潜航しながら敵地に近づく潜水艦を見つけるのは簡単ではない。高性能な対潜哨戒機やソナーを用いても空や海上から完全に補足することは難しい。潜水艦が「究極のステルス(隠密)兵器」と言われるゆえんだ。
とりわけ、原子炉を動力源とする原潜は、酸素補給のために浮上する必要がないため、長期間潜航したまま行動できる。定期的に浮上しなければいけない通常動力型潜水艦と比べ、秘匿性が高く、抑止力ははるかに大きい。
例えば、オーストラリアが導入を決めた米原潜「バージニア級」の原子炉の核燃料棒の寿命は、耐久年数と同じ33年とされる。つまり、現実には食料補給や保守点検のための寄港は必要であるものの、理論的には核燃料が尽きるまで半永久的に潜り続けることができるのだ。
南西太平洋の抑止力強化は期待できるがコストは莫大
豪米英の首脳が14日に発表した攻撃型原子力潜水艦のオーストラリア配備計画。アングロサクソン陣営の主要3カ国としては、インド太平洋の覇権を争う中国に有事の制海権掌握能力を示し、抑止力を高める狙いがある。
米英を中核とする西側陣営にとって、日本列島からオーストラリアに至る南北軸は、太平洋とインド洋をつなぐエネルギーと貿易のルートとして死活的なライフラインとなっている。有事の際は、敵陣営の外洋進出を阻む防衛線としても戦略的に重要だ。日本軍がかつてダーウィンなどオーストラリア北部を繰り返し空爆したり、シドニー湾の海軍基地を潜水艦で雷撃したりしたのも、連合軍の兵站を断つ目的があった。
旧式の通常型潜水艦に代えて、秘匿性が高く長期間の潜水能力を持つ攻撃型原潜をオーストラリアに配備すれば、対中抑止力の大幅な向上が期待でき、「地域の安全保障に資する」(日本の岸田文雄首相)可能性がある。
   国防費のGDP比は2.5%超に
ただ、原潜開発計画の総コストは約30年間で最大3,680億豪ドル(約33兆円)と試算される。約2万人の雇用を創出するとされ、南部アデレードの海軍造船所やパースの潜水艦基地を中心に幅広い関連産業で経済効果が見込めるが、前例のない予算をつぎ込むオーストラリア史上最大の国家プロジェクトとなる。
オーストラリア陸軍のミック・ライアン元少将(米シンクタンク「戦略国際問題研究所」研究員)がABC電子版に書いた寄稿文(14日掲載)によると、32年間のコストを1年で割るとおよそ110億豪ドル(約1兆円)になる。オーストラリアの国防予算は現在、年間486億豪ドルと国内総生産(GDP)の2.11%を占めるが、潜水艦プロジェクトは国防費の対GDP比を0.5ポイント押し上げるという。
独裁国家を除けば、一般的な民主国家の国防費は経済規模にほぼ比例する。オーストラリアの原潜配備は抑止力を強化し、地域安保に資することが期待される一方で、人口約2,600万人のミドルパワーにとって適正な予算規模かどうかは、議論の余地がありそうだ。
   14年迷走、遅すぎた配備決定の代償
また、ライアン元少将は「政府は軍事力が下がるリスクについて説明していない」と述べ、巨額の潜水艦事業によって他の軍事予算が削減される可能性に懸念を示した。
その上で元少将は、日本、フランス、米英と右往左往した潜水艦計画と、オーストラリア政府のこれまでの無策を次のように批判している。
「国防白書が2009年に次世代潜水艦の導入を発表してから14年が経った。その間に6人の首相が交代し、(潜水艦計画が)迷走した後、ようやく解決策を示した。過ぎ去った14年の間に中国共産党は攻撃的になり、台湾奪回を待ちきれなくなった。今後の航海は、順風満帆とはならないだろう」
●全土で抗議デモ、富裕層はシンガポールへ移住…嫌われる中国共産党 3/15
中国の全国人民代表大会(全人代)が3月5日から13日にかけて開催された。
全人代は中国の国会に相当する機関にあたり、年に1度、3月に北京の人民大会堂で開催される。代表は約3000人で、任期は5年。今後1年間の政治・経済を始めとする各分野の政策運営方針を審議し、国防費を含む予算案を承認する。
会議の冒頭、自身として最後の政治活動報告を読み上げた李克強首相は、今年の経済成長目標を昨年の「5.5%前後」を下回る「5%前後」に設定した。
目標の数字が数十年ぶりの低さだったことで、市場関係者の期待(ゼロコロナ政策の解除による中国経済のV字回復)は冷や水を浴びせられた形だ。
課税強化への警戒感
李氏が演説の中で「安定」との言葉を33回述べたことにも注目が集まっている(3月6日付日本経済新聞)。習近平指導部の発足後で最も多かったからだ。
中国経済の回復を妨げる様々な構造的な課題があることが関係している。
(1)不動産市場の不調(2)コロナ禍で冷え込んだ消費(3)地方政府の財政難など一筋縄ではいかない問題が山積みだが、李氏の口からは構造改革についての具体的な言及がなかった。
全人代では今後の経済政策を司る高官が相次いで習近平国家主席に忠誠を誓った。
李克強氏のような専門家に代わって李強氏のような習氏に忠実な人物、いわゆる「イエスマン」が経済政策の舵取りを担うようになれば、痛みを伴う経済改革を断行する可能性はゼロになったと言っても過言ではない。
むしろ「経済分野への介入がさらに強まるのではないか」との懸念も生じている。
習近平国家主席は6日「民間企業は国有企業とともに『共同富裕』の実現を目指して責任を負い、豊かで愛情深くあるべきだ」と述べた。民間企業の間では「共同富裕の名の下に事実上の課税強化が進められるのではないか」との警戒感が生まれている。
中央金融工作委員会(共産党指導部直下に設置)を20年ぶりに復活させ、金融セクターの監視を強化することも既定路線となっている(3月2日付ブルームバーグ)。
心配なのは経済政策だけではない。
地方分権的全体主義の負の側面
中国共産党の統治のあり方そのものにも疑念が生じている。
米スタンフォード大学の許成鋼客員研究員は、中国の統治制度を「地方分権的全体主義」と定義している。
中国共産党は1950年代初期、政治・経済を含むあらゆる分野の支配権を中央に集中させる全体主義の制度をソ連(当時)から導入したが、50年代半ば以降、「郡県制」という伝統的な統治手法を加え、その制度を改めた。
個人崇拝などで最高指導者の絶対的権威を確立する一方、行政の立案・運営の権限のほとんどを最高指導者が任命する地方の指導者に与えるものだ。これにより、中国共産党はソ連より強固な一極集中の体制をつくり上げることに成功した。
この制度の下、地方の指導者は最高指導者の意向に沿った取り組みを競い、切磋琢磨してその実現に邁進した。
大躍進や文化大革命という悲劇の原因になった一方で、改革開放という華々しい成功事例も生まれた。地方政府間の激しい競争が民間セクターの発展を可能にし、政治改革を伴わずに中国は高度成長を長年にわたり享受することができたからだ。
だが、こうした競争は環境破壊や所得格差の拡大、不動産バブルといった問題をもたらし、今や負の側面の方が大きくなっている。
政府に失望する富裕層
半世紀以上にわたり続いた地方分権的全体主義が限界に達しつつある中、習氏はさらに事態を悪化させる方向に舵を切るようだ。
中国政治を長年研究してきたテイー・クォ・ブルネル大学ビジネススクール上級講師 らは「習氏はソ連型の全体主義を復活させようとしており、支配を正当化するための経済発展すら放棄しつつある」と警鐘を鳴らしている(2月16日付ニューズウィーク)。
そのせいだろうか、習氏に対する信頼の失墜が進んでおり、金融と貿易の中心である上海でこの傾向が特に顕著だ。上海市民は匿名を条件にしながらも、習氏と新たな右腕となる李強氏に対して不信感を露わにしている。
米国の人権監視団体フリーダムハウスによれば、昨年第4四半期に中国のほぼ全ての地域で抗議デモがあった。政府への抗議を示す国民の行動が大胆になっていることの表れだ。
政府に失望した富裕層はシンガポールへの移住を加速させている。
「一党支配を強いる代わりに、市民の経済的な繁栄を実現する有能な統治を約束する」という、中国共産党の正当性を支える社会契約が急速に失効しつつあるように思える。
「寝そべり幹部」の増殖
共産党内における習氏の基盤は盤石 に見えるが、「寝そべり幹部が増殖している」との指摘がある(2月8日付ニュースソクラ)。政府の各部門の幹部たちは1960年代の生まれがほとんどで、毛沢東時代の個人崇拝を毛嫌いしている。このため、毛氏のやり方を強引に踏襲しようとしている習氏に対し、幹部の多くは面従腹背に徹し、実質的には何もしない「寝そべり」族になっているわけだ。
香港の各種メデイアによれば、香港特別行政府が深刻な人材不足に陥っている。
中国共産党の統治スタイルが嫌われ、海外に移住する公務員が後を絶たない。香港政府は海外人材の獲得に躍起だが、人材難は当分解消しない見通しだという。
慣れ親しんできた統治制度を抜本的に見直すことは困難だ。だが、そうしない限り、中国の体制の危機が一気に進んでしまうのではないだろうか。
●ばらまき政策?消費税増税?「日本経済がどん底まで落ち込む」 3/15
「緊縮財政は正しくない」とハッキリいい切れるワケ
2021年11月号の『文芸春秋』にて、現役の財務事務次官による、当時、加熱していた衆議院総選挙における各党のいわゆる「ばらまき政策」を批判する投稿が寄せられ、世間ではこの問題が大きな話題になりました。
政府の公庫には無尽蔵にお金があるわけではないのでこのようなばらまき政策は、その後の深刻な財政悪化を引き起こしかねないという懸念から、彼はこのような投稿をしたそうですが、これを発表したと同時にたくさんの有名な知識人や経済学者から、彼の投稿に対して数多くの反発が巻き起こりました。
私もこの財務事務次官と同じく、このまま行けば日本にもデフォルトの可能性は十分あると思っていますが、財務事務次官の意見に全く賛成なのかというとけっしてそうではありません。
日本の国債がデフォルトしないため、今からその予防をしておく事は確かに大事な事なのですが、そのアプローチの仕方が、儲ける力のない彼ら財務省のいう緊縮財政が正解なのかというと、そうではないとハッキリといい切れるからです。
まず、現在の日本のような大不況の状況では、新たな借金をしない事よりもGDPをいかに維持するべきかのほうが、財政にとっては遥かに大事な事です。なぜなら、日本の借金の多さはGDPの大きさによって決まるからです。
日本の借金は2020年12月の段階で約1212兆円になり、これはその年の日本のGDP約525兆9000億円の2.3倍に当たります。
これが、政府による緊縮財政によって、たとえ借金の総額が増えなかったとしても、GDPが仮にコロナ禍によって450兆円まで落ち込んでしまえば、GDP比率が2.7倍近くにもなり、実質日本の借金は増えてしまった事になるのです。
財務省の間違いは、財政再建をするためには「プライマリーバランス(国債発行ゼロ)だけを気にすれば良い」という発想しか、彼らの頭にはない事です。
これは、私も失敗した経験から学んだ事ですが、今の日本のGDPを維持するために、仮に50兆円の景気対策が必要だったとして、その目先のお金をケチってしまったがためにGDPが大幅に落ち込んでしまい、それを元に戻すために、当初予定していたよりも更に多くの予算がかかってしまった……、彼の主張は、そんな事にもつながりかねないのです。
例えば、もし皆さんが今現在、飲食店を経営していたとして、新型コロナウイルスによる不況のせいで経営が苦しくなり、それでも我慢して店を続けるべきか、店を一旦閉めてこれ以上の持ち出しを抑えるべきかに悩んでいたとします。
こんな時に政府の援助がなく、しぶしぶ店をたたまざるを得なくなってしまった場合、まず間違いなくいえる事は、コロナ禍が収まった後、再び新規で店を出し直す事は到底できないだろうという事です。
つまり、それだけ一から商売を始めるという事は、お金と労力がかかってしまうものなのです。しかし、一軒のお店がなくなるという事は日本のGDPの一部であるそのお店の売上が無くなり、そこで働いている人の雇用もなくなってしまいます。
このため、政府は諦めて閉店するような店を一軒でも減らす努力を、今しておかなければなりません。
もしそれを怠り、多くの店舗や企業が無くなる事によって日本経済がどん底まで落ち込むような事にでもなれば、それこそ日本経済を元の状態に戻すためには、更に莫大な予算が追加でかかってしまうのです。
財務省がやり続けてきた「絶対にやってはいけない事」
二つ目は、彼の主張する緊縮財政では、今の深刻な日本の財政状況を改善する事は、絶対にできないという点です。そもそも、この財務事務次官が前々から提唱しているプライマリーバランスの必要性を、わかりやすく説明するための図表として、有名な「ワニの口」というものがあります。
   ワニの口
この図を使って彼は、日本政府の税収と歳出の差が年々広がっているため、日本の財政を立て直すためには、まずこのワニの口を閉じなければならない(年間の国債発行をゼロにする)という事を強く主張しています。
確かに、この話は間違ってはいませんが、しかしながらこのワニの口を閉じる方法として、長年財務省が主張している消費税増税が、そもそもピントがズレているのです。
例えば皆さんが焼肉屋の経営者だったとして、ある時お店の売上が一割落ちてしまった場合、売上を元に戻すため、皆さんなら一体どのような対策を立てるでしょうか?
イベントの日を作り、その日だけ激安でより良いお肉を提供したり、新しくSNSで会員を募るなど、方法としてはいろいろ考えられますが、しかしこれだけは絶対にやってはいけない事があります。それは、お客さんにバレないように黙って肉の質を落とす事です。
もしそんな事をしてしまえば、来なくなったお客さんだけでなく、今来てくれているお客さんの信用まで失ってしまうからです。
今来てくれているお客さんは、あくまでこの値段と、この肉の質に納得してお店に来てくれているのです。しかしこれと同じような事を、実は長年、財務省は財政再建のためにやり続けてきました。
●「少女像撤去」独カッセル大学学生自治会「大学は右翼の政治的圧力に屈服」 3/15
ドイツのカッセル大学の学生自治会は、大学内に設置していた「平和の少女像」を大学が奇襲撤去したことについて「右翼保守政権(日本)の政治的圧力に屈したとみられる」として糾弾した。
カッセル大学学生自治会は13日(現地時間)、公式インスタグラムで立場を発表し、その中で「9日早朝に少女像が大学から撤去された。学生自治会は、大学が(日本の)右翼保守政権の政治的圧力に屈したとみられるという事実に驚きを禁じ得ない」と述べた。彼らはまた、「(学生自治会が)少女像の借り手であるにもかかわらず、当日も撤去されることが伝えられず、少女像作品の行方も伝えられていない」とし、「現在に至るも学生自治会に対する大学の公式の通知や命令はない」と語った。学生自治会はさらに「少女像と(少女像を媒介とした)教育活動に専念した学生たちの努力を大学が支持してくれないことに失望している」と付け加えた。
学生自治会は、自分たちの設置した像に関して「キャンパス内の学生会館のすぐ前にあった平和の少女像は性暴力被害者の追悼碑だ。少女像は抑圧とレッテルに対する闘争を象徴しており、強じんな勇気の象徴でもある」とし「とりわけ第2次世界大戦当時の日本軍による戦争犯罪のひとつである戦時性奴隷制に警鐘を鳴らしている」と強調した。
ドイツ中部ヘッセン州にあるカッセル大学は9日、学生自治会の主導で昨年7月に大学内に設置された平和の少女像を奇襲撤去した。韓国政府が強制動員賠償判決などの敏感な韓日間の歴史懸案に対して一方的な譲歩案を発表してから3日後のことだった。現地団体であるコリア協議会と韓国の正義記憶連帯は、フランクフルトの日本総領事館が大学側に撤去の圧力をかけ続けてきたと主張している。
学生自治会の説明によると、大学は今年初め、学生自治会に少女像の撤去を要求してきた。これに対して学生自治会は、少女像を撤去する組織的、財政的資源がないとしてつっぱねた。すると大学は、学生自治会が少女像を撤去しければ大学当局が自ら撤去するとの方針を伝えてきたことが確認された。学生自治会はまた「大学総長団が一方的に2度にわたって指定した一方的な許可期間制限を(撤去要求の)理由としてあげていた。(しかし)カッセル大学学生自治会とコリア協議会との(少女像)永久設置契約は大学が当初の契約成立時から知っていた」と指摘した。
コリア協議会はカッセル大学の一方的な少女像奇襲撤去を糾弾するため、15日午後に大規模なデモを行う計画だ。
●変われるか、日本の産学連携 3/15
はじめに
日本は、他の先進国と比較してスタートアップ創出が大幅に遅れている。岸田政権は、「スタートアップ育成5か年計画」を立てて、日本からイノベーションを創出するスタートアップの創出とユニコーン創出の加速化を目指した計画を示した。海外でもスタートアップ創出の重要性は認識されており、各国でスタートアップ創出のためのエコシステムの強化や投資が進められている。ヨーロッパでは、ギリシャがスタートアップの伸び率が一位であり国を挙げて力を入れている。フランスでは、2000年以降、3万8000社もの新しいスタートアップが生まれ、2010年にはわずか110億ドルだった評価額も、今では2,760億ドルに達している。このような状況の中で、コロナ禍で露呈したのが、日本におけるバイオ医薬品の開発の貧弱さである。
日本で新型コロナウイルスのワクチンや治療薬を生み出すベンチャーは現れなかった。それどころか、国内でワクチンを製造して国民に提供することができなかったのだ。上市されている革新的な医薬品の80%は、バイオベンチャーが生み出しているにもかかわらず、国内での創薬ベンチャーは海外に比べて希少である。創薬ベンチャーは、約80兆円の市場を生み出しているが、国内ベンチャーは8,000億円足らずで世界市場の100分の1以下である。日本における創薬ベンチャー創出と国内シーズの創薬実現のための課題についても触れたい。
広島大学が進める産学連携の概要
広島大学では、スタートアップを創出するための環境構築に力を入れている。これまで、産学連携の課題は、大学研究者が生み出した研究シーズを実用化するために必要な企業とのマッチングやスタートアップ創出のための支援体制が不十分なことに起因している。大学では、国からの運営費交付金が毎年減額される状況であり、それを支援するリソースが足りていない。それに加えて、新型コロナウイルス感染症により人とのコミュニケーションが難しくなりさらに困難を増している。自ら起業して実用化するスタートアップの創出においても、スタートアップを支援する起業家支援人材が不足しており、十分かつ適切な支援が大学のみでは難しい。そこで考えたのが、「ひろしま好きじゃけんコンソーシアム」(2021年10月21日設立)である。人のリソース不足をDXで解決するために、Slackを活用した産学官金のコミュニケーションツールの導入だ(図1)。好きじゃけんコンソーシアムの基軸をSlackで運用して、会員全員に即時に情報提供できる仕組みである。既に約100社が参加して、アメリカやヨーロッパのエコシステム関連の団体も参加している。AIを用いた10カ国語対応自動翻訳機能もあり、海外とのコミュニケーションも良好である。これで初めて分かったことは、これまで産学連携要員で行ってきたマッチングのイメージと異なり、想像もしていない異分野間の交流が活性化している点である。大学や企業のみならず自治体やベンチャーキャピタルなどともつながっており、これまでの方法ではできなかったコミュニケーションに成功している。
   図1 ひろしま好きじゃけんコンソーシアム概要
好きじゃけんコンソーシアムでは、その他にMoodleを使ったオンライン教育システムを参加企業などの会員に提供している。特徴的なのは、本プラットフォームは、「平和希求する精神」を併せ持つ取り組みを重要視しており、平和に関するオンライン講座を推進して、講座を設けている。その他、会員のニーズに合わせて大学の講師による教材を提供している。これらは、会員企業の社員教育や経営層の教育に生かされている。また、ゴールド会員以上には、特別なインターンシップを実施することができ、すでに株式会社アスカネット(広島市)などの複数の企業が企業課題を解決するためにその企画を進めている。企業課題を素人の学生が解決する? と思われるかもしれないが、それが十分にあるのだ。企業の社内にはない学生ならでは発想が生まれてくる可能性がある。日本の衰退しているものづくり国家やビジネスを救うのは、大学の学生やスタートアップなのだ。
国は、2022年を「スタートアップ創出元年」として、大きな資金を投入しようとしている。大学でも国内に八つのエコシステムが起動しており、それを支えようとしている。もう一つのカギは、産業界の参画と支援だ。事業に直結する投資のみならず、将来の夢に投資あるいは寄附する文化が生まれないと日本における真のイノベーションは成功しない。
創薬ベンチャーが生まれない日本国家の課題の一つは、創薬ベンチャーが生まれる環境が十分にそろっていないことだ。その一つが、創薬における非臨床試験や臨床試験を支えるCMC開発(原薬プロセス研究と製剤開発研究)や治験薬製造の不足である。実際に、良い技術を持っている創薬ベンチャーや研究者が、治験薬製造を行う場所がなく創薬開発が停滞しているのである。それを打破するために、広島大学では、メッセンジャーRNA、核酸、ペプチドを製造して、製剤化する施設を作る決断をした。国際基準である3極対応のGMP製造医薬品を可能にするGMP教育も実施して、国内の3極対応医薬品製造施設も支援する。PSI GMP教育研究センターを2022年の10月から立ち上げて、2026年の操業開始に向けて準備を進めている。これが完成すれば、アカデミアやベンチャーの創薬開発を後押しできるものと信じている(図2)。
   図2 医療クラスター形成を目指したワクチン製造拠点の構築
ベンチャー設立とグローバル展開の具体的内容
2021年1月27日に広島大学初の創薬ベンチャーとして株式会社PURMX Therapeutics(パームエックスセラピューティックス)が始動した。私が基礎研究で実施してきたヒトの老化メカニズムの解明の研究成果を応用して、マイクロRNAを用いた抗がん剤を創薬研究実用化させるためである。自身のモットーである「患者を助ける創薬研究」を実現させるために、ベンチャー設立の中でも困難なディープテック系創薬ベンチャーの設立である(図3)。
   図3 グローバル展開を目指すPURMX Therapeutics の概要
ベンチャー設立は、2011年に起業した株式会社ミルテル(広島市)に次いで2社目である。これまでのベンチャーでの経験を生かして、チームビルトに時間をかけて2019年からの起業準備を重ねての起業であった。創薬直後の2021年3月にINDを迎えて、治験実施のための治験薬製造と治験実施の資金としてシリーズAで8億5000万円の資金調達に成功した。ここまでスムーズに資金調達ができたのは、これまでベンチャー経験で築いてきた人脈が大きく役立った。チームにも、臨床試験に詳しい息ぴったりの人材も参加した。チームビルトと人脈は、ベンチャーの成功には鍵である。
創薬ベンチャーのもう一つのカギは、グローバル事業展開である。創薬では、当たり前のことであるが、グローバル治験実施のみならず、グローバル事業展開活動は、そのノウハウ経験が重要であり、ここでもこれまでの人脈がキーとなってくる。2022年度は、コロナ禍も一段落して、バイオ系の会議にも積極的に参加して、十分にチームをサポートしてもらえる体制を構築してきた。現在、国内でファーストインヒューマン医師主導治験として悪性胸膜中皮腫での治験を実施している。いよいよ2024年は、グローバル治験を実施する計画であり、世界初のマイクロRNA医薬品承認に向けて、前に進んでいる。「まずは患者一人でいいから、われわれの技術で助ける!」を合い言葉にチーム一丸で創薬を邁進(まいしん)している。
2022年には、大学発ベンチャー表彰(国立研究開発法人科学技術振興機構主催)で特別賞、EOY 2022 Japan中国地区 Challenging Spirit部門の大賞(EY Japan主催)を受賞することができたが、これを弾みにより患者さんに医薬品を届ける事業化を加速化してきたい。
産学連携活動における今後の在り方
これまでの大学は、国内の企業との共同研究や共同研究講座などに力を入れた産学連携を進めてきた。今後の産学連携は、国外にも目を向けてより広い視野で産学連携を実施していくことが望まれる。大学内のシーズのみならず、国内外の他のシーズとシナジーを生み出す連携の強化、海外企業からもシーズ・ニーズマッチングが加速化される仕組みが重要である。コロナ禍でDX化が進んだおかげで、そのノウハウを産学連携のDX化にも生かし、世界で遅れを取っている産学連携やスタートアップの創出を加速化させることが必要である。
創薬の分野でも実用化されている医薬品の80%はスタートアップ企業が生み出している事実からも、イノベーションを起こすスタートアップの創出は重要であり、国の財政基盤にも大きく影響すると思われる。今後、真のスタートアップ創出が加速化され、イノベーションを起こす技術を基軸としたもの作り大国を取り戻してほしい。
●岸田首相の支持率、韓国の「強制動員譲歩案」発表以降大幅に上昇 3/15
韓日関係の最大争点である強制動員被害者への賠償問題と関連し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が日本に大きく譲歩する案を発表したことを受け、岸田文雄首相の支持率が大幅に上昇した。尹大統領の支持率が38.9%で、4週間ぶりに30%台に下落したのとは対照を成す。
NHKが10日から12日までの3日間、電話世論調査(回答者1227人)を実施した結果、岸田内閣の支持率は1カ月前より5ポイント上がった41%を記録した。半年ぶりの40%台回復であり、支持が不支持を上回ったのも7カ月ぶり。
同調査では、岸田内閣の様々な政策のうち、強制動員被害者問題だけが世論の高い支持を受けた。韓国政府が6日、日帝強制動員被害者支援財団が日本の被告企業の賠償金を肩代わりする譲歩案を発表したことと関連し、回答者の53%は「評価する」と答えた。「評価しない」は34%で、「評価する」を20%近く下回った。
一方、尹大統領の支持率は低下した。リアルメーターがメディアトリビューンの依頼で6〜10日の5日間、全国18才以上の有権者2508人を対象に調査した結果(信頼水準95%、標本誤差±2.0ポイント)、尹大統領の国政遂行を「評価する」という回答は前の週より4.0ポイント下がった38.9%だった。
韓国の譲歩案を高く評価する日本政府は、16〜17日に訪日する尹大統領を東京で予定された韓日首脳会談などで手厚くもてなす予定だ。読売新聞は16日に両首脳が首脳会談を行った後、繁華街の銀座の老舗2軒で、2次会を含めた夕食会を開く予定だと報じた。
銀座周辺のレストランで食事をしてから、128年の歴史を誇る洋食屋「煉瓦亭」に移り、対話を続けることで日程を調整しているという。1895年創業の煉瓦亭はトンカツとオムライス発祥の地として知られる。オムライス好きの尹大統領の希望を踏まえ、煉瓦亭を2軒目に選んだという。同紙は「異例の2次会を設定」したと強調した。さらに尹大統領は17日、日韓議員連盟会長に就任する菅義偉前首相と面会を行う計画だ。
尹大統領と岸田首相は、今回の会談で強制動員被害者問題についても話し合う予定だ。時事通信は「岸田文雄首相は16日の尹錫悦韓国大統領との会談で、歴史認識に関して新たな『おわび』の言葉は使わず、1998年の日韓共同宣言など歴代内閣が示した立場の継承を表明するにとどめる意向」だと報じた。強制動員被害者が要求する被告企業の謝罪と賠償への参加など更なる呼応は期待するのは難しい見込みだ。岸田首相は韓国政府の譲歩案発表後、すでに日本の国会と記者団に「歴史認識の継承」に言及している。
会談では、被害者と直接的な関連がない日本の対韓国輸出規制や韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)、首脳間の「シャトル外交」の復元など、様々な懸案が協議される。
●徴用工問題の解決策 各紙「日韓改善の契機」評価 産経は警鐘 3/15
いわゆる徴用工訴訟問題について、韓国政府が「解決策」を発表した。
その解決策は、韓国最高裁が日本企業に命じた賠償支払いについて、韓国政府傘下の財団が肩代わりすることなどが柱だ。岸田文雄政権はこれを受け入れたが、産経と各紙の論調は大きく分かれた。
岸田政権の受け入れ判断を「韓国の不当な振る舞いを糊塗(こと)する『解決策』への迎合」(7日付)と厳しく断じたのが産経である。徴用工の史実の解釈が異なったままの解決策では「日韓関係の本当の正常化につながらない。極めて残念だ」と主張した。
これに対し、朝日、毎日、読売など各紙は「安全保障協力を進めるために元徴用工問題の決着を急いだ判断を是としたい」(日経)と指摘し、産経とは対照的に、韓国政府の解決策や岸田政権の姿勢を評価する論考が目立った。
産経は「そもそも日本企業には『賠償金』を支払ういわれがない」と論じ、その根拠を2つ挙げた。
その1つは、徴用には国民徴用令という当時の法令に基づき徴用工には賃金が支払われており、「第二次大戦当時、多くの国で行われていた勤労動員にすぎない」とした。もう1つとして「日韓間の賠償問題は昭和40年の日韓請求権協定で『個人補償を含め、完全かつ最終的に解決』している」と明示した。
そのうえで「日本企業は史実と国際法を無視した韓国司法に言いがかりをつけられた被害者で『肩代わり』という表現も見当違いだ」と強調し、岸田政権は内外に対してこうした主張を訴えるべきだと求めた。
これに対し朝日は「日本政府は大法院(韓国最高裁)判決を国際法違反と批判してきたが、人権の普遍性を重視する潮流は強まっている」と分析し、そのうえで「徴用工らの被害の事実は、日本の裁判所も認めていることを忘れてはなるまい」との見解を提示した。
韓国側への「おわび」についても論調は分かれた。「痛切な反省と心からのおわび」に言及した平成10年の日韓共同宣言をめぐり、岸田首相は「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と表明したが、産経は「政権が交代したり、何か問題が起きたりするたびに、関係もないのに謝罪の表明を繰り返す前例になることを恐れる」と釘を刺した。
しかし、東京は「日本政府は過去と向き合う謙虚な姿勢を忘れず、反省とおわびの気持ちをより明確に表さねばなるまい」と主張した。毎日も「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との会談などで自らの言葉として明確に発信し、今回の解決策の精神を確認すべきである」と踏み込んだ対応を促した。
日本企業の対応をめぐっても賛否が分かれた。産経は、日韓の経済団体が若者の交流拡大の共同基金をつくるとの案を「『徴用工』問題と無関係だというが、そうは受け取れない。基金拠出は望ましくない」と疑問を呈した。
一方、朝日は「日本企業が自由意思で財団に寄付すれば、反発がくすぶる韓国社会の受け止めも和らぐことだろう」とし、東京も「企業責任について何らかの意思を示すべきではないか」と日本企業の責任にも言及した。
一方でこうした徴用工問題が2015年の慰安婦問題をめぐる合意のように、政権交代のたびに蒸し返される事態を懸念する指摘もあった。
読売は「韓国が元徴用工問題を蒸し返すことがないよう、日本は今後の動向を注視する必要がある」と求めた。また、日経も「韓国政府は政権交代後に蒸し返されないよう国民の理解を得てもらいたい」と注文を付けた。
歴史的な事実や対等な外交に基づいた日韓関係を構築するための道のりは、まだ遠いと言わざるを得ない。
「徴用工」の韓国解決策をめぐる主な社説
【産経】・対韓外交「謝罪」で時計の針戻すな(4日付)・安易な迎合は禍根を残す (7日付)
【朝日】・日韓の協調こそ時代の要請 (7日付)
【毎日】・日韓関係立て直す起点に (7日付)
【読売】・日韓関係改善の契機としたい (7日付)
【日経】・尹氏の決断を日韓の正常化につなげよ (7日付)
【東京】・日本の協力が不可欠だ (7日付)
●《奨学金返済の条件が結婚?》衛藤晟一元少子化相のトンデモ発言… 3/15
《岸田首相のいう「異次元の少子化対策」とはこの事だったのか…》
自民党少子化対策調査会長の衛藤晟一元少子化対策担当相が13日に開かれた子ども政策に関する党会合で発した言葉に対し、SNS上で批判と怒りの声が広がっている。
会合で衛藤氏は、奨学金の返済免除制度の導入を主張。「地方に帰って結婚したら減免、子どもを産んだらさらに減免する」と訴えたからだ。
奨学金の返済負担が結婚や出産の足かせになっているのではないか──というわけだが、発言が報じられた直後からSNSは大荒れ状態。翌14日も衛藤氏の発言内容を取り上げた「結婚出産」の言葉がツイッターでトレンド入りした。
《は?なんで奨学金返済の条件が結婚?出産?しかも地方に戻ったらって意味不明》
《あなたは親の奨学金という借金返済のために生まれたと、子どもに言うの?》
《昭和のドラマに出てくる嫌な感じの田舎のオヤジの発想。こっちに戻って結婚するなら金出すぞみたいな》
立憲民主党の蓮舫参院議員も怒りをあらわにし、ツイッターにこう投稿。
《辟易する。こんな人が少子化担当大臣だったことに閉口。産む産まないの判断、生物学的に産めない人で線引きするって、本気で言ってるのだろうか。》
自民党は年明け早々、茂木敏充幹事長が「この10年が日本の少子化を反転できるかどうか、最後のチャンス、最後の期間だ」と言い、党を挙げて少子化対策に取り組む姿勢を示していたが、その“切り札”が「地方に行って結婚、出産したら奨学金は面倒みるよ」だとすれば的外れとしか言いようがない。
●岸田首相、新興国支援を拡充…「自由で開かれたインド太平洋」新計画表明 3/15
岸田首相は19〜21日の日程で訪れる予定のインドで演説を行い、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP(フォイプ))の推進に向け、新たな計画を表明する方向で調整に入った。「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国や新興国への支援拡充を打ち出し、法の支配に基づく国際秩序の強化を目指す方針だ。
複数の政府関係者が明らかにした。首相はインド洋に面し、世界最大の民主主義国家として存在感を高めるインドがFOIP実現のカギを握っているとみており、モディ首相との首脳会談で協力を確認するとともに、現地で計画を公表すべきだと判断した。
新たな計画では、ロシアによるウクライナ侵略や中国の強引な海洋進出などで厳しさを増す国際情勢を踏まえ、紛争の平和的解決や航行の自由の原則を守る国々で連携を強めるための日本の貢献策を盛り込む。
日本からの装備品や訓練の提供を通じ、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の海上警戒・監視能力をさらに向上させたり、日印でアジアやアフリカの港湾などのインフラ(社会基盤)整備に積極関与したりすることを想定している。
演説は20日に実施する見通しで、会場はインド外務省傘下の政策研究機関が有力となっている。
FOIPは2016年に安倍元首相が提唱し、米欧印やオーストラリアなど広範な国が結集する概念に育った。岸田首相は昨年6月、シンガポールでの講演で、FOIPの新計画を今年春までに策定すると表明した。  
●自民党・積極財政議連「日銀は大規模緩和継続を」 3/15
自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(中村裕之共同代表)は15日、国会内で総会を開いた。日銀は2%の物価安定目標を達成して安定的な経済成長を実現するまで大規模な金融緩和を続けるべきだとの提言をまとめた。
政府が6月にも策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、大胆な金融政策の堅持や2%の物価安定目標を記すよう求めた。
政府が検討する物価高の追加対策についての決議も採択した。2022年度分の予備費およそ5兆円を全額使うべきだと説いた。低所得世帯や子育て世帯への定額給付金の支給を提案した。
議連は近く政府や萩生田光一政調会長ら党幹部に提言を申し入れる方針だ。
●高市氏、レク記録「内容違う」 野党に「もう質問しないで」―参院予算委 3/15
高市早苗経済安全保障担当相は15日の参院予算委員会で、放送法の政治的公平性に関する総務省行政文書にある、2015年2月13日当時総務相だった自身への大臣レク(説明)の記録について、「内容が間違っている。放送法の政治的公平に関するレクは受けていない」と主張した。
高市氏はレクの存在をいったんは全面否定したが、14日の衆院本会議ではNHK予算などに関するレクを「受けた可能性はあり得る」と表明、行政文書に関する発言が変遷している。15日の参院予算委で、立憲民主党の杉尾秀哉氏が「ずるずる答弁が変わっている」と追及すると、高市氏は「私が信用できないのであればもう質問しないでほしい」などと反発した。
立民はこの発言を問題視。予算委散会後の理事会で、高市氏の謝罪を要求した。
●アベノミクスは「終わってしまった近代」の幻影を追ったドン・キホーテ〜 3/15
なぜアベノミクスという、あれほど危険でギャンブルじみた社会実験が多くの人の支持をうけて登場したのだろうか。今回の「アベノミクスとは何だったのか」シリーズでは、水野和夫・法政大教授に、長い歴史軸のなかにアベノミクスがどう位置づけられるのかを解説していただく。水野氏は「資本主義の終焉」を早くから看破してきた。深い歴史眼をもった経済学者である。今回も千年レベルの歴史のなかで、今起きている経済現象の意味を読み解いていただこう。
「あらゆるケガを治す成長」はもはや幻影
――「アベノミクス」とは歴史的な視点からはどのように位置づけられる試みだったのでしょうか。
水野 すでに終わってしまった近代を「終わっていない」と勘違いしている人たちが作った支離滅裂のフィクション(幻影)と言えましょうか。いわば16世紀の宗教改革の時代に反宗教改革をリードしたイエズス会のようなもので、騎士の時代が終わっているのに騎士道を説くドン・キホーテのような存在でした。
――ずいぶん時代はずれの試みだったということはわかります。もっと具体的に言うと、どういうことでしょうか。
水野 アベノミクスの「3本の矢」のうち、第一の矢は大胆な金融緩和です。物価を上げ、成長率を上げることをめざす政策でした。実質GDP(国内総生産)が成長すれば、あらゆる問題が解決できるようになります。フランスの歴史家フェルナン・ブローデル(1902-1985)は「成長はあらゆるケガを治す」と言いました。まさに彼の時代はそういう時代です。
成長すれば税収や保険料収入も増えるから、社会保障政策もうまくいく。人手不足になれば賃上げがおこり、生活水準が上がって、中産階級ができる。そうすると政治も安定して不都合なことは何もない。成長さえしていれば、すべてうまくいく、不都合なことはほとんどない。そう考えられてきました。しかし、そういう時代はおそらく1970年代、80年代で終わったのだと思います。
この20〜30年のあいだに起きたのは、資本は成長しているけれど、賃金は下がっている、ということです。いま「成長があらゆる問題を解決する」というのは資本家だけについて言えることだと思います。
その背後で働く人々は踏み台にされ、生活水準を切り詰めることを迫られています。先進国はどこも一緒です。米国ではトランプ現象が生まれ、欧州ではネオナチが移民排斥を唱え、英国は欧州連合(EU)からの離脱を選びました。先進国はどこもガタついている。民主主義国家の数が減って、専制主義や権威主義の国が増えているのは、そのためです。
「資本家のための成長」示した伊藤リポート
――成長で人々は豊かになれなくなったと?
水野 アベノミクスが失敗したのは、そもそも近代の土台となってきた、中間層を生み出す仕組みがなくなってしまっているためです。いままでは成長で中間層が増え、みなの生活水準が上がっていった。そこまでは、成長はいいことだ、ということで良かったのですが、成長しなくなったとき、いったい何をめざしたらいいかわからなくなってしまったのです。安倍晋三元首相も成長の先にどういう社会をつくりたいのか、結局言えませんでした。本当は「成長」は最終目的ではなくて、中間手段のはずなのです。
経済産業省の産業構造審議会の分科会が出した、悪名高き「伊藤リポート」というのがあります。伊藤邦雄・一橋大教授(当時)が2014年に座長となってまとめたものです。ここで日本企業はROE(株主資本利益率)を8%以上にする目標が掲げられました。さらに欧米企業の水準である15〜20%まで上げてほしいということも、明文化こそされなかったけれど報告の行間に漂っていました。
当時、日本企業の平均的なROEは5〜6%でした。つまりアベノミクスというのは「ROEを5%から8%に引き上げよ」という資本の成長戦略だったのです。安倍政権は、成長の主語が資本家だということを隠していたのではないでしょうか。
安倍政権は「新3本の矢」で、「名目GDPを600兆円にする」という目標も掲げました。当時のGDPは500兆円。5%だったROEを15%くらいに引き上げるためには、名目GDPが増えた分100兆円がすべて当期純利益に回らないと、そこまでいきません。これらの目標に賃金はもともと反映されていません。もし賃上げにも反映させたいなら、実質2%、名目3%ていどの成長ではぜんぜん足りません。安倍政権は賃上げを企業に求めましたが、具体的な数値目標は言いませんでした。
――アベノミクス第一の矢(金融緩和)が資本家のための成長戦略だったということですか。ただ、第2の矢(機動的な財政出動)で、労働者らへの分配を念頭に置いていた可能性はないですか。
水野 ちがうと思います。なぜなら安倍政権は社会保障をそれほど充実させてきませんでした。機動的な財政政策というのは、異次元緩和で物価が上昇していけば、さらに機動的な財政で実弾を注ぎ込む、という程度の意味だったと思います。
――あくまで資本家のための戦略だったということですか。
水野 そうです。
何のためのイノベーションなのか
――アベノミクスの第3の矢は文字どおり「成長戦略」です。ただ、それは安倍政権に限らずこの何十年も歴代政権が打ち出してきたことです。経済学はここ数十年、サプライサイド(供給重視)が主流だったので、政治も経営者も「供給側さえ強くすれば景気がよくなり経済が強くなる」という発想になっています。あとはトリクルダウンで生活者も豊かになるという発想ですね。それがまちがっていたのでしょうか。
水野 供給サイド経済学の大本はイノベーションです。技術革新を起こさないといけない。近代社会のイノベーションというのは、より遠く、より速く、でした。ジェームズ・ワット(1736-1819)が開発した蒸気機関がもたらした効果を、当時のジャーナリストは「結合」と言ったそうです。欧州と米国をつなぐ定期航路ができて大陸がつながったのです。何月何日の何時ごろに欧州からの荷が米国の港に届く、ということの確実性が増しました。
産業革命は今、「第4次」と言われていますが、その中心となるITだって(効果は)結合です。蒸気機関と違う発明だと言いたいので第4次と言っているのでしょうが、結合という観点でいえば第1次の延長線上でしかない。人々は今、インターネットやメールでより短く結合している。その結果、より遠く、より速くの限界がいま来ています。
象徴的なのは、マッハ2のコンコルドが技術的な問題なのかコスト的な問題なのかわかりませんが、今世紀初頭に運航停止になりました。さらに太平洋航路のジャンボ機もその後、運航停止になりました。どちらも合理性に合わなくなったのです。情報の流通も同様です。米ウォール街で普及した(コンピューターで自動的に大量に株売買をする)高速高頻度取引は、10億分の1秒で取引をやってしまうそうです。これは国民の幸せとはまったく関係ない速さですよね。
――たしかに本末転倒になっています。何のための技術革新なのか。
水野 ニューヨークでやっているから東京証券取引所でもやるというのも、おかしな競争です。これも限界にきています。たとえば高速取引を10億分の1秒から100億分の1秒にできたからといって、どうなのかということです。これは中間層にはまったく関係ない話です。何十億円、何百億円の投資をする人だけがアクセスできる取引の話であり、ふつうの人にはまったく関係ない。
国民国家体制というのは国民が幸せになる仕組みのはずです。国王や貴族だけが幸せになることでなくて。では国民が豊かになるというのはどういうことか。フランス革命は「自由と平等」を掲げました。「自由というのは所有の関数」と言ったのはカナダの政治学者、C・B・マクファーソン(1911-1987)です。うまいこと言うものです。所有物が多ければ多いほど人間の自由度は高くなる。自由に行動するためには所有権が必要というのです。
たとえば今、ビリオネア(保有資産10億ドル=1300億円以上)と呼ばれる人たちが金融資産をどんどん増やしています。金融資産を保有していない人は日本でも2割強いますが、80年代後半は3%しかいなかった。つまりこの30年で資産をなくした人がいっぱいいたわけです。これは資産をたくさんもっている資本家のための自由はあるが、多くの国民はどんどん自由を失っている、ということになります。
目標は明日のことを心配しなくていい社会
――経済学者アンガス・マディソン(1926-2010)の長期経済推計調査によると、人類は紀元ゼロ年からずっとゼロ成長が続いていて、それが19世紀になると1人当たりGDPが2%成長に急激に上昇したそうです。そのころ所有権などの法整備が整ってきて、産業革命の技術の粋を資本にもっていける基盤が整ったから、とみられます。つまり所有権が成長を生んだことになります。所有権は民主主義、個人主義の基盤でもあるので、多くの人はこれを必要と考えているのではないですか。
水野 17世紀の英国の哲学者ジョン・ロック(1632-1704)は「所有権」の正当化を主張した人ですが、「所有権は正義でもあり悪でもある」と言っています。前後の文脈を読むと、豊かな人は死にそうな人を助けなければいけない、それも豊かな人の所有権に含まれている義務だと言うのです。
――欧州の富裕層には今もそういう思想が残っているのでしょうか。
水野 そうですね。ただ、だんだん社会が大きくなっていくと、倒れている人がどこにいるのかわからなくなる。それで生まれたのが福祉国家です。社会保険、失業保険、介護とか。ロックの思想をもとに、第2次大戦後の英国では社会保障制度の土台となったベバリッジ報告が出てきました。困っている人を助けようにもお金持ちはなかなか目が届きません。そこでその代わり累進課税にして、困っている人を救うための負担を金持ちにさせることにしたのです。その仕組みがいま崩壊しつつあります。
世界のビリオネアの総資産は13兆〜14兆j、日本円にして1600兆円超あります。もし、その半分でもコロナ禍の対策のために寄付していれば、800兆円が捻出できました。だけど、そんなことをビリオネアからは言い出しません。コロナ基金を作って病院を設けましょう、などという動きはなかった。欧州の伝統もなくなり、困っている人がいたら「自助努力が足りないからだ」ということになってしまいました。
――どうしたらいいのですか。
水野 経済学者のJ・M・ケインズ(1883-1946)が言っているのですが、経済学の目的である「豊かにすること」はあくまで中間目標です。その先にあるのは「明日のことを心配しなくていい社会」です。そのためには社会保障を充実しないといけない。困ったときには援助の手がさしのべられる。いまなら国家によってです。
労働問題でいえば、非正規労働者が3年勤務して更新できないなんて問題も最近はあります。非正規労働、派遣制度はすぐやめるべきです。勤めている人の最大の特権は辞める自由です。だけどいまは会社が「辞めさせる自由」をもっている。これはおかしい。働く人は労働力を提供しないと生きていけない。だが資本家はAさんの労働力を買わずともBさんを買う自由がある。非対称的な力関係です。
辞める権利は労働者側にはあるが、辞めさせる権利は会社側にはない、というような仕組みにしないといけない。そうなれば、人事担当は真剣に採用しないといけないし、入ってからの研修制度も充実させないといけないということになる。働いている人も、引退した人も、明日のことを心配しなくていい社会にしないといけない。
労働時間を減らしても日本経済に問題ない
水野 次にやらないといけないのは労働時間の短縮です。ケインズは、将来の労働は週15時間になると予言しましたが、それはちょっと無理にしても、もっと短縮が必要です。ドイツでは派遣・非正規も含め1人当たりの年間労働時間が1300〜1400時間です。日本は1700時間ほど。300時間余分に働いて1人当たりGDPはドイツより劣っています。もし日本人の能力が3割劣っているなら長時間労働もやむを得ないのですが、そうではありません。
――日本人の労働時間の長さは完ぺき性、たとえば、商品をぴかぴかに磨くとか、お辞儀をするとか、そういう追加的な仕事が積み重なった結果ではないのですか。
水野 付加価値につながらない仕事をいっぱいやっているからです。私は内閣府で働いていたとき、たくさんの、しかも内容が重複している白書を多くの人員と多大な労力をかけて作成していることに疑問を抱きました。上司に「誰に向かって作っているのですか?」と聞いたことがある。大臣に説明する会議の分厚い資料だって、大臣はろくに見ていないのに何のために作るのだろうと思っていました。
――でも日本の公務員は先進国で人口当たり職員数が一番少ないです。よく働いているとも言えるのでは?
水野 内閣府でも人手が足りない、足りないと言っていました。それなら不必要な仕事をやめて、必要な仕事にシフトすればいいだけの話です。
――たしかにコロナ対策では公務員の仕事の非効率さが目立ちました。いろんなことが滞り、ワクチンも他国に後れをとりました。人手が足りず、それをカバーするための人員のシフトもできませんでした。
水野 あるとき、内閣府の幹部が経済報告を発表する記者会見で、「1000の経済指標を分析してこうなりました」と言っていた。そんなにたくさん見たら余計わけがわからなくなると思った記憶があります。ふつう30〜40の指標をみれば景気判断ができます。そんな分厚い資料を作っても大臣は見きれないし、細かい指標まで調べるために民間企業を呼びつけてヒアリングもする。民間の人は時間の無駄だと思いながらいやいや話しているのがわかる。
この霞が関流の無駄なやり方が、出向者などを通して民間シンクタンクにも広がり、民間企業のなかでも広がっていくわけです。こうやって欧米より3割ぐらい無駄な仕事をしているんだなあと思っていました。1人当たり300時間くらい時短をしても日本のGDPはぜんぜん減らないと思いますよ。
近代社会ではない社会を作り直すしかない
――社会福祉を充実させるのは賛成ですが、そのためには財源が必要です。国民はその財源を税金や保険料で負担したくないから、みな「成長」という言葉に逃げているのではないですか。アベノミクスは資本家のためでもあるけれど、結局、国民も望んだ結果ではないでしょうか。
水野 そうですね。成長すれば何とかなるという刷り込みが国民に行き渡っています。でもそれが終わっているのは、今世紀のコンコルドとジャンボの引退ではっきりしています。近代でも中世でも一つの時代の中心概念はなかなか動きません。中世は神様であり、天動説でした。神様は決まったところにいて動かない。天球の一番上にいる。それをコペルニクスによって宇宙は無限ですよと言われ、神様の位置がわからなくなった。近代は神様が追放され、すぐに貨幣が中心になりました。貨幣が世の中で回転すると資本になるので、資本が世の中の中心になります。だから資本主義社会になったのです。
最初は英ポンド、次にドルが基軸通貨となりました。ドルは金とリンクして固定相場制だったが、ニクソンショックで金と結びつきがなくなる。その結果、インフレが起きて、貨幣価値が目減りしていく。円安になればドル換算で実質価値が目減りします。ニクソンショックで資本家たちは「俺のもっている資本がいくらか分からない」と不安になり、より資本蓄積に励むようになりました。1円でも資本を増やさないといけないという強迫観念にかられたのです。
米誌フォーブスによると、いまビリオネアは世界に2700人以上います。そのなかの上位10人が持っている資産を毎日100万ドルずつ使ったとしても全部なくなるのに414年かかると、国際NGOオックスファムが計算しました。所有権というのは自由の関数だったはずですが、死んでから400年間も自由が保障されたとしても、もはや関係ありません。超富裕層の所有権はまったく意味をなさないくらい膨張してしまったのです。
その一方で金融資産ゼロの人は自由が制限されています。病気になったときに入院できる自由はありません。その意味で、近代社会は崩壊しているのです。それなのに近代社会の前提である「成長がすべてのケガを治す」という概念が多くの人の頭のなかには依然としてこびりついているのです。
――とはいえ、みな近代社会を放棄しようというつもりはなく、近代社会を再生したいと願っているはずです。
水野 近代社会じゃない社会を作り直すしかないですよ。
――社会主義ではないですよね?
水野 社会主義ではないです。資本主義も社会主義も近代社会から派生してきたものです。資本主義は市場の合理性を信じ、社会主義はテクノクラート(官僚)の合理性を信じた。ソ連のノーメンクラトゥーラ(エリート層・支配階級)の人たちが1年間の生産計画もすべてわかっているという前提の社会主義は、先に崩壊してしまいました。人間に対して合理性を信じた社会主義が崩壊し、いま市場に対して合理性を信じた資本主義がおかしくなっている。いちど崩壊したら、もはやリフォームはできないものです。
時代を画したモデルはリフォームできない
――リフォームができなくとも、それに変わるシステムが見当たりません。
水野 そう、ないことが問題です。
――中国の国家資本主義のようなやり方も登場していますが?
水野 あれは資本主義と社会主義のダメなところを両方あわせたようなシステムです。
――今めざすべきモデルは何もないということなら、このまま行くしかないというのが大方の意見だと思います。それではだめですか。
水野 近代はもうリフォームできないのです。コペルニクスによって天動説が否定されたにもかかわらず、ルターが宗教改革をやった。しかしそれも失敗して近代社会になった。中世も一生懸命、リフォームしようとしたのです。だけど結局、前提の宇宙論が崩れると崩壊してしまう。古代だって西ローマが崩壊して、もういちどカール大帝が西ローマ帝国を復興させましたが、すぐそのあと分裂して暗黒の中世に入っていきました。
近代も同じです。米国ではアルコール中毒や薬物中毒の患者たちによる絶望死が増えているそうです。50代、60代の白人男性が多いとも。近代社会、自由社会のチャンピオンである米国でさえ、そうなっている。トランプ現象を生み、議事堂襲撃事件を起こしているのです。長い間みなが信じていたシステムがいったん崩れたとき、おそらくもう戻れないのだろうなと思います。
――もうダメというだけでは絶望を広げるだけです。なにか新しい希望もご提示いただかないと。
水野 私が言えるのはせいぜい、無理に成長をめざす必要はもうないということだけです。近代社会では、より速く、より遠くへ、合理的に、という行動原理がうまくいきました。13世紀に「東方見聞録」を書いたイタリアの商人マルコ・ポーロ以来、欧州の商人たちはインドまで行って大もうけしました。でもその商人たちには、その行為がキャピタリズム(資本主義)だという認識は誰にもありませんでした。より遠くへ行けばもうかる。それだけのことでした。
キャピタリズムという言葉を初めて生み出したのはドイツの経済学者ヴェルナー・ゾンバルト(1863-1941)です。「資本論」のカール・マルクス(1818-1883)もキャピタリズムという言葉は使っていなかった。「資本論」は「キャピタル」です。それは13世紀からありました。そして16世紀になると、キャピタリスト(資本家)という言葉が出てくる。彼らの行為を一つのシステムとしてとらえる「キャピタリズム」という概念はその何百年も後になってようやく出来たのです。
先進国のなかでも豊かな人と貧しい人に分かれていくのが資本主義なので、ロックは「貧しい人を救え」と言い、ケインズは「ピラミッドを作ってでも公共投資をやって失業から回復させろ」と言って資本の暴走を抑えてきました。でも途中でまたおかしくなってしまう。資本家が我慢できなくなって本性を現すからです。
ケインズは「英国の資本家の第1号は海賊ドレイクだ」と言いました。フランシス・ドレイク(1543-1596)がスペインから略奪した財宝を英国に持ち帰ったことで、英国では物価が高騰して実質賃金が大幅に下落し、資本家は利潤を増やしたといいます。
資本家というのは普通の人がやらないようなことをやる。そうでないと投資の元手が手に入れられないわけです。ふつうに働いていたらなかなか資本家にはなれません。工場を買い取るとか、場合によっては一線を越えた賭けをしないといけない。それで法律にひっかかったら排除されるし、運良くひっかからなければいい。当時、海賊は海の法律がなかったからドレイクは逮捕されませんでした。
――水野さんが「資本主義はコレクション、蒐集(しゅうしゅう)の行為」と言っているのはそのことですね。
水野 資本主義の蒐集には際限がなく、ゴールがないのです。ネオリベ(新自由主義者)が権力を握って、その際限ない仕組みをもういちど整備し修復したとしても、あるいはネオリベを否定して、社会福祉のケインズのようなことをやって、いったんもたせたとしても、またいずれ資本家の本性は出てきます。ならばもうキャピタリズムをやめてもいいだろうと思うのです。
ケインズは「資本が足りないときは資本家が不正なこと、横暴なことをやっても、まあそれは見逃してやろう」と言っていました。ケインズも資本家は横暴だと思っていたのです。それでも食料工場が足りなくなれば、必要な食料が供給できなくなる。だけど現代のように資本がいっぱい行き渡ったら、ダメなものはダメと言わなきゃいけない。ようやくそれが言える時期にきたのだろうと思います。
●ゼロ成長、ゼロ金利は必然。これから世界は「日本化」していく〜 3/15
人類史に精通する経済学者、水野和夫・法政大教授は、アベノミクスについて「資本家のための政策だった」と指摘し、すでに賞味期限の切れた「近代」への幻影を追うドン・キホーティズムだと一刀両断する。資本主義の矛盾が世界中で噴出するなか、「成長」という強迫観念からも脱却すべきだと訴える水野教授に聞く。
利潤を極大化しない交易をすればいい
――アベノミクスはやりすぎでしたが、資本主義で豊かな人口が増え、おかげで寿命が延び、生活水準は上がった面はあります。戦争も減りました。資本主義をやめたら、また暗黒、戦争、貧困の時代になりませんか。
水野 ロシアのプーチン大統領は、国内が貧しいから内政の失敗を国外に目を向けさせてごまかそうとしました。しかし、欧州、米国、日本のような国々はもはや外に領土を取りに行く必要はないし、資本をこれ以上ふやす必要もない。まだ貧しい国は資本主義をやってもいいが、必要なものをどこにいても調達できるようになった日本のような社会では、もはや資本主義は必要ないのではないでしょうか。
――もしかすると米国なら食料とエネルギーが自給できるので可能かもしれません。しかし日本は多くを輸入に頼っています。自由貿易とか、資本主義がない世界では供給能力を満たせなくなってしまうでしょう。日本は資本主義をやめられないのではないですか。
水野 資本主義というのは利潤の極大化のことです。しかし自由貿易は利潤を生まなくたってできる。必要なものを農業国から買ってくることはできます。利潤を増やさなければ単なる交易であり、自由貿易は続ければいい。
――貿易を担うのは誰ですか。
水野 企業です。
――企業が自由貿易を担う段階で、それは資本主義ではないのですか。
水野 要するに必要なものだけを作る企業でいいということです。
――ソ連時代の計画経済に戻ってしまうような感じです。
水野 計画経済だと1年間の生産量を中央官僚が決めます。私が考えているのは、市場は残すけれど、企業がROEを8%にするほど利潤をあげなくても十分という世界です。
――企業が利益を極大化するのでなく、ほどほどで止めておけと?
水野 ケインズも資本の利潤率は土地の利回りより低くていい、と言っていました。つまり、ほどほどでいい、と。
――日本企業は欧米企業に比べてROEが低いのが問題だと言われてきましたが、実は日本企業のその状態の方が良かったということですか。
水野 今となってみれば、そうですね。土地の利回り、たとえば最近のREIT(不動産投資信託)の利回りが3〜4%なので、ケインズ流に言うなら資本の利潤率は3%以下でいいということになります。伊藤レポートが出た当時の日本企業のROEは5〜6%でしたから、むしろそれを減らせという報告書にしなければいけなかった。逆行していました。
ゼロインフレ・ゼロ成長の日本社会がベターだった
――日本企業は利幅が小さく、国内で価格も上げられない。物価も抑制的です。昨今それがよろしくないということになっていました。水野さんが描く世界は、ベストでないにしても相対的には欧米に比べて日本のほうが良かったということでしょうか。
水野 そのほうが良かったと思います。米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)のグリースパン元議長が言っていたのは、「物価を意識しない水準が望ましい物価」ということです。究極はゼロ%インフレです。インフレになると企業は売り惜しみをします。インフレがなければ資源の無駄遣いもなくなる。急いで買う必要も、売り惜しみも必要なくなります。日本ではバブル崩壊後、結果的にそれが実現していました。無理に2%インフレ目標を掲げて、物価を引き上げようとしたのがアベノミクスでした。
――ゼロ金利・ゼロインフレ・ゼロ成長は欧米から「ジャパニフィケーション(日本化)」と言われ、避けるべき状態と言われてきました。むしろそれが望ましい状態だということですか。
水野 そうです。「ジャパニフィケーション」とは、ヨーロッパが発明した「モダニゼーション」(近代化)と資本主義が上手く機能していないということを覆い隠すために使用している言葉です。日本のバブル崩壊後の姿は、より欧米の資本主義を忠実に実行してきた結果ですから。
――19世紀の英国の思想家ジョン・スチュワート・ミル(1806-1873)は、経済成長は最終的に「定常状態」となると考えたそうです。水野さんも同じ考えですか。
水野 そうです。いま起きているのは(成長重視の)新古典派の世界でなく、ミルやリカードら古典派学者が言っていた世界がようやく百数十年たって実現しつつあるということです。
――私も無理に成長率を引き上げるのはどうかと思います。ただ、相対的に他の国より成長率が低いと、国家としての力が相対的に弱くなります。他の国から攻められるような時には不利になるし、いざという時に備えて力を蓄えておかなきゃいけないというのも成長主義にはあると思います。日本だけが成長を諦め、お隣の中国がもっと大きくなってしまったら、日本は安全保障でも脅かされませんか。
水野 日本はたぶん中国の30年くらい先を走っているだけです。この先、どの国も日本を追いかけてゼロ金利の世界になっていくと思います。
――ゼロ金利、ゼロインフレ、ゼロ成長は必然だったのですか。
水野 成長重視の新古典派学者らは、限界生産力を上にシフトさせることがイノベーションだと言っていました。そうしないと限界効用がどんどん下がって、いずれモノを作ったときの効用はゼロになってしまうからです。でも今の日本でいえば、スマホを新しく作っても、2年前に買った消費者はもう買いません。買い替える人がいたとしても、2年間でスマホの機能がどれほど変わったのかと思うでしょう。消費者もだんだん気がついています。
日本は明治維新から先進国のなかで人口増加スピードが一番速かった。3000万人からスタートして1億2000万人を超えた。この百数十年間で日本が一番フルスピードで走ってきました。いま韓国がそれ以上のスピードで走っているから、日本は1人当たりGDPで追い抜かれようとしています。でも、いずれ同じことになります。
どの先進国も出生率は(人口を維持できる水準の)2を割っています。移民を増やさない限り人口は減ることになります。日本は移民を増やしていないから、人口が一番減っている。それだけのことです。結局はどの国も日本を追いかけることになります。
日本人は韓国に抜かれそうになって、くやしいと言っていますが、日本だって戦後、英国やフランスを追い抜いてきたのです。でも英国人がくやしいなんて言わないじゃないですか。
米国の経済学者ウィリアム・ボーモル(1922-2017)の成長収斂仮説というのがあって、1人当たりGDPは最終的にどの国も4万ドルくらいに収斂していくというのです。そこに速くたどり着いた国ほど矛盾点も早く出てくる。いまの日本がそうです。300年400年かけてゆっくり近代化し、そこにたどり着いた欧州などの国では、まだ日本ほどの著しい人口減とか借金残高とかの問題が出ていません。ですが、いずれ同じことになります。
人口大国の1人当たりGDPが低いのは当然
――米国の1人当たりGDPは日本よりはるかに高いですよ。
水野 米国は6万ドルと日本よりずいぶん高いです。それは基軸通貨国という特殊な要因があるからです。あとは、高い国はスウェーデンとかクウェートとか人口がそれほど多くない国ばかりです。統計的には人口が1000万人を下回ると、1人当たりGDPが指数関数的に上に上がっていく傾向があります。
――確かにルクセンブルクとかシンガポールなど人口小国が金持ち国の上位にいます。
水野 それに比べて、中国やインドのように人口10億人超の国はみな貧しい。米国と日本、ドイツだけが人口が多いにもかかわらず1人当たりGDPが比較的高いのです。人口上位20位内で高いのは日米独だけです。スウェーデンの1人当たりGDPが6万ドル強と高いですが、人口はせいぜい1000万人強。それなら日本だって愛知県の人口は500万人ですから、たとえば自動車産業をぜんぶ愛知県に集約して家族合わせて人口1000万人にすれば、同じことができます。自動車産業の従事者500万人の「愛知国」を独立させたら、1人当たりGDPは6万ドルとスウェーデン並みになります。
人口1000万人の国なら得意分野に特化できます。たとえばITや金融、観光などです。韓国も人口4000万人の国だからけっこう電機産業などに特化できたのです。でも日本では人口1億人で特化するのは難しい。ぜんぶ自動車産業に特化したら10倍の生産能力になるので、世界で自動車を作るのが日本だけになってしまう。そんなことは許されないでしょう。
――人口が少ない方が、貿易理論の「比較優位」の法則が働きやすいわけですね。
水野 1億人もいると、段々畑までちゃんと労働者が従事しなければいけなくなります。それだと生産性の面ではどうしても低くなります。どうしても1人当たりGDPで世界一をとりたいなら愛知県を独立させればいいし、東京を金融特区にするとか方法はあります。だがそれは意味のないことです。順位が低くても別にそれほど心配する必要はないです。
――日本はバブル景気のときに米国に勝るほどの金持ち国になったつもりになって、90年代には1人当たりGDPがトップクラスになったときもあったので、それで勘違いしてしまったのでしょうね。日本はこれから何をめざしたらいいでしょうか。
水野 これまでの目標をひっくり返すことです。こんどは、よりゆっくり、より近く、に。
――難しいことですね。資本主義をやめるわけにはいかないでしょうから。
水野 資本主義の定義が「資本の自己増殖」だとすれば、すぐにやめられます。無用な拡大をやめて適正利潤にすればいいだけのことですから。
株式会社はもう上場しなくていい
――株式会社制度も否定されるのですか。
水野 株式会社は、もう上場しなくていいと私は思います。株式上場というのは資本調達をするのに有利です。だけど、いまの企業は内部留保が潤沢となり、資本調達しなくてもいい状態です。
――そういえば、みずから上場廃止をする企業も最近はありますね。
水野 生命保険会社が逆行しているのです。もともと相互会社だったのに、わざわざ株式会社に移行する動きがあります。しかし、株式会社の上場の役目はもう終わりました。資本調達しなくてもいいくらい自己資本が増殖したからです。
――資本主義や株式会社が必要だった時代もあったわけですよね?
水野 はい、70年代くらいまでは企業も資本調達が必要でした。日本でいえば企業が資金余剰になったのは90年代後半です。それまでは常に資金調達セクターでした。
――その時代までは国民がまだ消費に飢えていたのでしょう。モノが不足して、供給力が足りなかった。その供給力が需要を上回る状況になったので、もう資本は必要なくなったということですね。でも今はそうでも、この先もずっとそうだとは限りません。
水野 あとは企業が減価償却(固定資産の価値が劣化・減少すること)分をまかなうだけの資金を確保できればいいのです。日本企業の純投資(粗投資マイナス固定資本減耗)は10兆円程度ですから、ROEは2%もあれば大丈夫です。
――アニマルスピリット(企業家の野心的意欲)はもう要らない、ということですか。
水野 要らないですね。
――私も「ほどほど」がいいとは思うのですが、ほどほどと言った瞬間にイノベーションが生まれなくなりませんか。
水野 イノベーションは基本的に、より遠く、より速く、だから、もう要らないのです。よりゆっくりというイノベーションはあり得ない。要するに筋肉でやっていたものを機械に置き換えてきたわけですから。

――でもケインズが言うように1日3時間労働で、あとは余暇に使う、というイノベーションだってありうるのではないでしょうか。生産はロボットやAIに代替させ、人間は1日の大半を趣味のために使えるようにする、ということはあり得るわけですよね?
水野 でも趣味を、より速くしてもらっても困ります。個々人がそれで生活が充実していると思えるようであればいいのですが。
――ケインズも著作で余暇をもて余すのではないかと心配していました。でも週15時間労働なら週の大半をボーっと過ごす自由も手にできるわけですね。そういう時代になるのだとしても、世の中にアニマルスピリットを維持してイノベーションしてくれる人もいくらかは残るでしょうし、必要ではないでしょうか。
水野 明治維新後のチョンマゲと一緒です。アニマルスピリットもいずれ「いつまでやっているの?」ということになるのではないですか。
●シリコンバレー銀行破綻、FRBの利上げ戦略に難題 迫る判断 3/15
記録的なインフレと格闘する米連邦準備制度理事会(FRB)が予期せぬ難題に直面している。金融引き締めの「副作用」で、中堅行のシリコンバレー銀行(SVB)など金融機関の経営破綻を招いてしまったからだ。FRBはインフレ沈静化に向け追加利上げに踏み切る姿勢だったが、金融システム安定の責任を負うFRBが銀行の破綻リスクを高めるわけにはいかない。SVB破綻が利上げ戦略に影を落とす中、来週に迫った次回の金融政策決定の会合に向け難しい判断を迫られそうだ。
米労働省が14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比6・0%上昇だった。伸び率は前月の6・4%上昇から鈍化したが、依然としてFRBの物価目標(2%)を大幅に上回る高水準だ。原油価格の下落でエネルギー価格の伸びが鈍化する一方、住宅費やサービス価格は高止まりし、インフレ圧力の根強さを印象づけた。 ・・・
●「最低賃金1000円超に」 8年ぶり政労使会議 3/15
岸田首相は、経済界、労働団体の代表者と意見交換する「政労使会議」をおよそ8年ぶりに開催し、最低賃金について、全国平均1,000円も含めて、議論を進める考えを表明した。
岸田首相「賃上げの動きが、中小企業・小規模事業者に広がっていくために、政府としても政策を総動員して、環境整備に取り組みます」
岸田首相は、賃上げの中小企業への波及に向けた強い意欲を表明した。
●岸田首相「23年に最低賃金1000円」 政労使会議で目標 3/15
岸田文雄首相は15日、首相官邸で政府と経済界、労働団体の代表者による「政労使」の会議に出席した。最低賃金の全国加重平均を2022年の961円から23年に1000円へ上げる目標を示した。非正規雇用も含めた幅広い賃上げを訴えた。
「今年は1000円を達成することを含め最低賃金審議会で明確な根拠のもと、しっかり議論いただきたい」と述べた。地域間格差の是正も必要だと強調した。
出席者は中小企業の賃上げへ労務費の取引価格転嫁ができる環境を整えると基本合意した。首相は「業界ごとに実態調査したうえで指針をまとめていく。業界団体にも自主行動計画の改定・徹底を求める」と語った。
最低賃金の前年からの上げ幅は22年に過去最大の31円だった。23年に1000円にするにはこれを上回る必要がある。首相は「この夏以降は1000円達成後の最低賃金引き上げの方針についても議論をしていきたい」とも言及した。
リスキリング(学び直し)や円滑な労働移動といった労働市場改革で「構造的な賃金引き上げ」をめざすと言明した。
官邸で政労使が協議する場を設けたのは8年ぶり。関係閣僚のほか経団連の十倉雅和会長や日本商工会議所の小林健会頭、連合の芳野友子会長らが参加した。春季労使交渉で大企業の集中回答日に開催し、中小企業にも賃上げを波及させる狙いがある。
小林氏は「大企業における賃上げの動きが中小企業や小規模事業者に広がっていくために取引適正化などが不可欠だ」と主張した。首相は「政策を総動員して環境整備に取り組む」と話した。
十倉氏は協議後、首相官邸で記者団に「今年は持続的な賃上げに向けた起点の年となる。これから本格的な交渉を迎える中小企業にも波及していってほしい」と語った。
●賃上げの環境整備へ政策総動員、最低賃金1000円達成へ=岸田首相 3/15
政府は春闘の集中回答日となった15日夕、経済界や労働界の代表者と意見交換する「政労使会議」を開き、岸田文雄首相は中小企業や小規模事業者に賃上げの動きが波及するよう政策を総動員して環境を整備すると語った。
「新しい資本主義」を掲げる岸田首相は、男女間賃金格差の是正や非正規労働者の賃上げは極めて重要だと指摘。最低賃金について「今年は全国加重平均1000円を達成することを含め、公労使3者構成の最低賃金審議会でしっかりと議論をしていただきたい」と述べた。さらにこの夏以降、1000円達成後の最低賃金引き上げの方針も議論していきたいと語った。
政府からは首相のほか、松野博一官房長官、後藤茂之・新しい資本主義担当相、加藤勝信厚労相、西村康稔経産相、古谷一之・公正取引委員長らが出席。経済界からは十倉雅和・経団連会長、小林健・日本商工会議所会頭、森洋・全国中小企業団体中央会会長ら、労働界からは連合の芳野友子会長、清水秀行事務局長がそれぞれ参加した。
連合の芳野会長は会議終了後、記者団の取材に応じ、賃上げは今年で終わるものではなく、このような政労使のコミュニケーションの場を継続して設けていくよう要請したことを明らかにした。
同会議は2013年9月から15年6月まで、第2次安倍晋三政権下で開催されたが、その後は行われていなかった。今年2月、連合の芳野会長が岸田首相と面談した際に開催を要請し、経団連の十倉会長も歓迎する意向を示していた。
15日は2023年の春季労使交渉でヤマ場となる集中回答日を迎えたが、今年は急激な物価高への対応や人材確保の点から満額回答や例年より高水準の回答を示す企業が多かった。
●低所得世帯に一律3万円 子育て家庭は上乗せ―岸田首相意向 3/15
岸田文雄首相は15日、物価高騰を受けた追加対策の低所得世帯支援について、一律3万円の給付とともに、子育て家庭には児童1人当たり5万円の上乗せ支給を検討する意向を与党に示した。首相官邸で会談した公明党の石井啓一幹事長が記者団に明らかにした。
これに先立ち首相と会談した自民党の萩生田光一政調会長は、低所得世帯支援の目安としてこうした金額を伝えた。これに対し、首相は「物価高で特に影響の大きい低所得者、とりわけ子どもの数に応じた支援をしたい」と語った。
●岸田首相、低所得世帯に現金3万円給付検討 子育て世帯には5万円 3/15
岸田文雄首相は15日、月内にまとめる追加の物価高騰対策について、住民税非課税対象などの低所得世帯に一律3万円、子育て中の低所得世帯には子ども1人につき5万円の給付を検討していると明らかにした。4月の統一地方選を控え、与党から要求が相次いでいた。政府は月内にも追加対策をまとめる。
首相は同日、首相官邸で自民党の萩生田光一政調会長、公明党の石井啓一幹事長らと相次いで面会し、両党から物価高騰対策の提言をそれぞれ受け取った。公明の提言では低所得世帯の子ども1人当たり5万円の「特別給付金」再支給を求めており、萩生田氏も口頭で低所得世帯に一律3万円の支給を求めた。
石井氏によると、首相は、暮らしに欠かせない食品や電気料金などの値上げの影響が大きい低所得世帯を重点的に支援する必要性を強調し、国が地方自治体に配る「地方創生臨時交付金」に特別枠を設け、低所得世帯に一律3万円の給付を検討する意向を示した。児童扶養手当を受給するひとり親世帯や住民税非課税世帯については、子どもの数に応じて支援する考えも示した。
萩生田氏は面会後、記者団に「厳しい状況に置かれている低所得者への対応がまず必要だ。電気・ガス代も食費も、子どもが多ければ多いほど負担が大きくなるので、その人数に応じた支援が必要だ」と述べた。
政府は2021、22年にも低所得の子育て世帯を対象に子ども1人当たり5万円の特別給付金を支給した。22年には住民税非課税世帯などに一律5万円も給付している。
両党はほかに、LPガスの料金抑制や電気使用量の多い中小企業向けに電気料金の負担軽減策も提言した。
●岸田首相 「自由で開かれたインド太平洋」推進 インドで講演へ  3/15
岸田総理大臣は、19日から訪れるインドで講演し、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための具体的な計画を示すことになりました。
岸田総理大臣は今月19日から22日の日程でG20=主要20か国の議長国、インドを訪問し、モディ首相と首脳会談を行うことにしています。
これについて外務省の小野外務報道官は、記者会見で、岸田総理大臣が現地で講演し、ことし春までに公表するとしていた「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための具体的な計画を示す予定だと明らかにしました。
インドは、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、中立的な立場をとる国の多い「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国の代表格とされています。
岸田総理大臣としては、中国が覇権主義的な動きを強める中、インド太平洋地域の平和と安定に向けた計画をインドで公表することで、「グローバル・サウス」各国との連携強化につなげたいねらいがあるものとみられます。
●春闘で軒並み満額回答、物価上昇を上回る賃上げ意識…岸田首相  3/15
2023年春闘は15日、集中回答日を迎えた。自動車や電機などの大手企業は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)や賞与(ボーナス)で、労働組合側の要求に軒並み満額で回答した。急激な物価上昇を上回る水準を意識したことに加え、待遇改善で人材を確保する思惑もあり、積極回答に踏み切った。今後本格化する中小企業の春闘にも、勢いが波及するかどうかが焦点となる。
自動車や電機などの労組が加盟する全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)によると、15日午後5時時点で回答を得られた50組合の全てで、ベアに相当する賃金改善の回答を得た。金属労協の金子晃浩議長は15日の記者会見で、「これ以上にない評価をしたい」と述べた。
電機大手では、日立製作所や三菱電機など主要12社全社が、労組側が統一要求した月額7000円のベアについて、満額回答した。労組側によると、満額がそろうのは初めてだという。ベアと定期昇給分を合わせた各社の賃上げ率は4〜5%台となった。
15日に記者会見した日立の田中憲一執行役常務は「例年以上に従業員の期待が高く、モメンタム(勢い)を重視した」と述べた。
春闘の相場形成をリードする自動車各社でも、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など主要12社すべてが、組合のベアを含む賃上げ要求に対し満額で回答した。三菱重工業など機械大手3社もベア1万4000円の要求に、いずれも49年ぶりに満額回答した。
組合側の要求を上回る回答も出た。日本航空は最大労組のベア要求6000円に対し7000円、マルハニチロは9000円の要求に対し1万円で回答した。
集中回答日に合わせ、岸田首相は15日夕、労働界、経済界のトップを招き、賃上げに関して意見交換する「政労使会議」を8年ぶりに開いた。大手の賃上げを中小企業に広げる狙いだ。
首相は、「成長と分配の好循環の実現のための転換点が、この春の賃金交渉だ」と強調した。また、最低賃金の全国加重平均を、22年度の961円から、23年度に1000円へ引き上げる目標を示した。
連合の芳野友子会長は会議後、「来年以降も継続した賃上げが必要だ」と述べた。経団連の十倉雅和会長は、「賃上げが消費に結びつくよう、若い世代が安心できる環境を醸成しようと呼びかけた」と語った。

 

●支持率低すぎ岸田首相を支える増税フレンズ「宏池会」の体たらく… 3/16
岸田政権の支持率低迷が回復の兆しを見せない。岸田文雄首相が率いる派閥「宏池会」の面々は、トップを支えるどころか、「政治とカネ」問題や失言、不祥事で足を引っ張る体たらくだ。
異次元の少子化対策の「予算倍増」発言で国民を愚弄する議論のすり替え
岸田文雄首相は念頭の記者会見で、「今年は『癸卯』(みずのとう)だ。新たな挑戦をする1年にしたい」として、異次元の少子化対策に挑戦すると宣言した。
「癸卯」とは、60年に一度巡ってくる干支の組み合わせだが、60年前の「癸卯」は1963年で、当時の首相は岸田首相の所属派閥「宏池会」の創始者である池田勇人氏だった。池田元首相は、岸田首相と同じく広島県を地元にしていた。
池田元首相は、所得倍増計画を掲げた。「癸卯」の1963年に衆議院を解散し、総選挙を実施している。その池田元首相を強く意識しての「癸卯」発言だったのであろうが、岸田政権の支持率は低空飛行を続け、掲げた政策は次々と雲散霧消の憂き目にあっている。
最も象徴的な例は「異次元の少子化対策」であろう。2月15日の衆院予算委員会で岸田首相は、子育て予算などを含む「家族関係社会支出」の国内総生産(GDP)比について「それをさらに倍増しようではないかと申し上げている」と発言した。岸田首相によると、2020年度に2%を実現した。額にしておよそ10.7兆円だ。倍の4%にするなら、10兆円以上をさらに積み増す必要がある。
財源の当てが「増税」以外にないことが予想されていたが、増税してまで子育て予算を積み増すことを国民が望んでいないことが世論調査で浮き彫りになるや、同じく宏池会所属で、首相を政権で支える木原誠二官房副長官が失笑を買う軌道修正を図ることになった。「子ども予算は子どもが増えればそれに応じて増える。出生率が本当に上がってくれば、割と早い段階で倍増が実現する」と、木原氏は2月21日のBS日テレの番組で発言した。
子どもを増やすための予算であったはずが、子どもが増えれば予算が増えるという、何とも国民を愚弄(ぐろう)した話にすり替えられていた。そもそも、少子化対策を巡っては、世界中の国々で対応に苦慮していて、「これをやれば出生率が上がる」というような有効な政策は存在していない。
最近、オンラインニュースなどで「子どもを4人産むと所得税が免除」「ローンの返済免除」などの「異次元の少子化支援」をしていると評判のハンガリーだが、出生率は1.56と、ご近所のチェコ(1.71)と比較して、大きく見劣りしている。日本の出生率が低いのは「晩婚化と未婚化」が主な原因であり、子育て支援にどれほどの意味があるのかは、研究者を中心に大きな疑問の声が上がっているところである。
「死刑のハンコ」に政治とカネ問題… 頼りなさすぎる宏池会の面々
それにしても頼りないのは、岸田首相を支える宏池会の面々である。ダメなのは、国民が到底納得できない説明しかしない木原官房副長官だけではない。
寺田稔前総務大臣は、政治資金の還流疑惑や脱税疑惑、政治資金収支報告書の不備など相次ぐ「政治とカネ」の問題で22年11月21日に辞任。葉梨康弘前法務大臣は、会合で再三にわたり「法務大臣は、朝、死刑執行のハンコを押す地味な仕事」という発言をスピーチのつかみで使用し続けてひんしゅくを買い、22年11月11日に辞任。吉川赳衆院議員は、18歳の女子学生に飲酒をさせ、現金を渡してホテルへ滞在したと報じられ、自民党を離党した。
さらに木原官房副長官も、21年12月にデイリー新潮で『岸田総理の側近・木原誠二官房副長官の“隠し子“疑惑 直撃に「ちゃんと育てる」』というタイトルの記事で疑惑が報じられている。
足を引っ張り続ける宏池会の面々であるが、危機感を多少とも感じたのか、昨年の11月から「宏池会の強みを取り戻そう」と、派内の若手による政策勉強会を始めている。
池田勇人氏と岸田文雄氏 似た境遇に置かれても大きな格差
宏池会の源流をさかのぼると、不思議なことを発見する。宏池会創始者の池田元首相は、浅沼稲次郎・日本社会党委員長が右翼少年に刺殺されるというテロ事件に直面している。しかも総選挙まであと1カ月という最悪のタイミングで起きた事件だった。自身が率いる参議院選挙の期間中に安倍晋三元首相が凶弾に倒れた、岸田首相と重なるシチュエーションだ。
これに対して池田元首相は、側近の宏池会メンバー(大平正芳、前尾繁三郎、宮澤喜一ら)をすぐに呼び出して協議し、浅沼氏が死んだ数時間後には、治安の最高責任者である山崎巌国家公安委員長を辞任させることに決めた。
安倍元首相銃殺テロ事件の責任を最後まで曖昧なままで終わらせて、支持率を下げた岸田政権とは対照的な動きである。岸田政権は、安倍元首相の追悼演説の人選すら最後まで決められなかった。
前述した政治の大混乱を無事乗り切った池田政権は、岸政権時代の安全保障重視路線から、「軽武装・経済優先」へと政策を大転換させた。安倍・菅政権がつくった方向でしか結果を残せない岸田政権とは正反対の進み方だ。岸田首相本人の思いとは別に、党内で存在がいまだに軽く見られ続けるのも、独自性のなさ故だろう。
岸田首相は、自身の軽さ故に派閥を抜けられないという指摘もある。
「菅義偉前首相は、形式的かもしれないが派閥を抜けて首相を務めてきた小泉純一郎、安倍晋三ら歴代首相を念頭に、岸田首相に対して首相在任中は派閥を抜けるべきだと批判しました。しかし、岸田首相は自分の派閥を安心して任せられる人物がいません。一番適任だとおぼしき望月義夫元環境相が2019年に亡くなった穴が大きいです」(全国紙政治部記者)
「選べる弁当」と同様に バラバラ感が否めない宏池会
毎週木曜日の昼に開かれる自民党の派閥の会合では、「全員が同じものを食べる」ことが伝統とされ、食事が提供されている。しかし、宏池会だけは、お弁当は出るものの、ロースカツ弁当、幕の内弁当、うな重、カレー丼などから選べる方式となっている。宏池会幹部は「選べる弁当同様に自由闊達(かったつ)に議論する」と胸を張るが、「一致結束、箱弁当」の他派閥と比べてバラバラ感は否めない。
リベラルな議員が多いとされる宏池会は、自分たちのことをなぜか「保守本流」と呼んでいる。その理由は、「池田元首相が実現させた『所得倍増計画』に代表されるように、戦後日本を、経済において一流の国家へとつくりあげたのが、宏池会だという自負がある」(前出記者)のだという。
池田元首相は、岸田首相と同じく酒豪であった。しかし、岸田首相は増税以外に持ち合わせる政策がなく、とにかく増税して財政再建を果たせば経済成長を果たすと、安倍政権時代に務めた自民党政調会長のときから盲信してきた。自身の派閥すら安心して任せる人がいない惨状では、まともなブレーンなど寄り付くはずがない。
対する池田元首相は、人に好かれ、多くのブレーンが集まってきた。所得倍増計画を練り上げたとされるエコノミストの下村治氏などはその良い例だろう。次々と、世論をリードするようなアイデアが生まれた安倍・菅政権と比較して、思いつきを出しては引っ込める岸田首相の周りに、良き参謀はいないようだ。
そういえば岸田首相は、池田元首相にならって「資産所得倍増計画」を掲げていた。現状、少額投資非課税制度(NISA)の投資の枠や期間を少し広げただけだが、もしかして、それで終わりなのだろうか。
●全人代後の中国 もろさはらむ軍拡路線  3/16
独裁色がさらに強まらないか、気がかりだ。昨年秋の共産党大会で党総書記三期目に突入し「一強体制」を固めていた習近平氏が、十三日に閉幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で国家主席、国家中央軍事委員会主席に三選され、党、国家、軍の三権を握る最高指導者として、さらに少なくとも五年は中国を率いていくことが正式に決まった。
三期目の習政権の特徴は、国内引き締めを図る強権統治と米国との対立激化を背景にした軍拡路線である。だが、長びいた「ゼロコロナ政策」による経済減速など難問山積で、盤石に見える習政権は特に内政で多くのもろさを抱えていると言わざるをえない。
今年の軍事予算には前年比7・2%増の、日本円で三十兆円余を計上。二〇二三年の経済成長率の目標を二二年目標の「5・5%前後」から「5%前後」に引き下げており、その分、軍事費の伸びが目立つ。日本の二三年度防衛予算案の四・五倍の規模であり、周辺国の不安は募るばかりだ。
軍拡路線は、米国との対立激化を背景に、二四年の台湾総統選を見すえ、独立志向が強いとされる民進党に圧力をかける狙いがあろう。昨年秋の党大会で習氏は「決して武力行使の放棄を約束しない」と表明した。今回の全人代では武力行使への言及はなかったものの、軍事予算の増額は武力による威嚇を意味するともいえる。
一方、貧富の格差や少子高齢化など直面する構造的な社会問題への対応は十分ではない。象徴的なのは昨年、六十一年ぶりに減少に転じた人口だ。豊富な労働力と巨大な市場を背景にした成長は限界点に近づきつつあるが、全人代で有効な処方箋が示されたとはいえない。
不動産市況の低迷や習氏肝いりのゼロコロナ政策による経済悪化で地方政府の財政が悪化。ゼロコロナ政策に公然と抗議するデモが頻発した。高齢者向け医療手当削減に反対する抗議デモも各地で起きた。権力中枢で習氏は無敵となったが、その強権統治に庶民レベルの不満は高まっている。
喫緊の課題である経済政策の司令塔になるべく首相に抜てきされた李強氏は習氏の地方勤務時代の部下だが、中央での勤務経験に乏しく、準備不足の感は否めない。最高幹部を習氏側近で固めた新指導部の手腕には不安がある。
●岸田外相時代に結んだ日本農業”アメリカ奴隷契約”の中身「これは人災だ」 3/16
ロシアによるウクライナ侵攻にコロナショック、異常気象などにより、日本の「食」にまつわる現状は厳しい。政府は現在37パーセント程度の食料自給率を高めていくとしているが、東京大学大学院農学生命科学研究科教授で食料安全保障推進財団理事長の鈴木宣弘氏は、「政府は実現のための政策を進めるつもりはない」と指摘する。鈴木氏が批判する、日本政府の「食」との向き合い方とは――。
経産省と財務省が日本の農業を壊した
世界食料危機が発生すると、食料価格が高騰する。その結果、「高すぎて買えない」ということも起こり得るが、それ以上に、「食料輸出国が輸出をストップ」し、お金を出しても買えない、という事態が懸念される。
その場合、日本国民が飢えることになる。そうした最悪の事態を避けるために、平時から「食料安全保障」の備えが必要だ。
しかし、いまの日本政府に、食料安全保障を重視する考えがないことこそ、ある意味最大のリスクかもしれない。
岸田政権は「経済安全保障」という方針を掲げ、軍事面の安全保障も予算を倍にするとぶち上げているが、どこを探しても、「食料」のことは出てこない。それもそのはずである。日本の「食」を、安全保障の基礎として位置付けるどころか、むしろ、貿易自由化を推し進め、相手国に差し出す「生贄」のように扱ってきたのが、いまの政府だ。
その結果、自動車などは、輸出先の関税が下がったので、大きな利益を享受している。しかし、日本国内の農業は、大きな打撃を受け、食料自給率は過去最低水準まで下がってしまっている。
もし世界食料危機によって、日本国内で飢餓が発生すれば、それは紛れもなく、「人災」と言うべきであろう。
もちろん、政府の中にも、食料自給率を上げようと思っている人はいる。だが、いまの政府で力を持っているのは、経済産業省や、財務省だ。かつては、経済産業省、外務省、農水省、財務省はもっと対等な関係だった。重要問題について官邸で相談する際も、各省庁の秘書官が、対等な立場で、それぞれの意見を主張し、バランスの取れた政策に持っていくことが何とかできた。
しかし、第二次安倍晋三政権以降、その仕組みが崩れてしまった。第二次安倍政権では、今井尚哉秘書官を始め、経産省出身者が官邸を牛耳った。それにより、経産省政権と揶揄されたほど、官邸が経産省の意向で動くようになってしまった。
日本の農政を台無しにしている、もう一つの犯人は、財務省だ。財務省という官庁は、ずっと「亡国の財政政策」を続けている。彼らは予算を削ることしか頭にない。大局的な見地で、必要な政策にはお金を使うべきだ、という発想が欠けている。彼らの頭にあるのは、どうやって農業予算を減らすか、それだけのようにさえ見える。
筆者は、アメリカがやっているように、日本でもコロナ禍で余った農産物を困窮世帯に配布すべきだと主張している。それが日本では実現しない最大の要因は、財務省が農水予算を削っているからだ。
農水予算はシーリング(概算要求基準)で2.2兆円プラス1パーセント、などと決まっている。従って、新たな事業をやるなら、別の事業をやめなければならないというのが、財務省の言い分だ。しかし、コロナ禍で困っている農家がたくさんいる中で、そんな形式論ばかり言っていてもしかたがない。
アメリカの意向に逆らえない日本
日本政府が農業を軽視する背景には、アメリカの意向がある。アメリカ政府は、多国籍企業の意向で動いている。その多国籍企業の中には、農産物を日本に輸出しようとしている企業も含まれている。
2015年にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が大筋合意された後、アメリカはこれに署名せず、離脱してしまった。ただ、TPPには、日米二国間の「サイドレター」が存在するため、アメリカとの間の約束が大きな意味を持ってしまっている。
この「サイドレター」の効力について、2016年12月9日、岸田外務大臣(当時)が、「サイドレターに書いてある内容は日本が『自主的に』決めたことの確認であって、だから『自主的に』実施していく」と答弁している。日本政府の言う「自主的に」とは、「アメリカの意向通りに」という意味である。
ちなみに、この日米間のサイドレターには、「外国投資家その他利害関係者から意見及び提言を求める」とか、「日本国政府は規制改革会議(当時)の提言に従って必要な措置をとる」といったことすら書かれている。実際、規制改革推進会議は、種子関連の政策を含め、このサイドレターの合意に基づいた提言を行っていると思われる。
日本の政治家はアメリカの意向に逆らわない。もし逆らえば、政治生命だけでなく、自身の生命すら危うい、と思っている場合もある。また、政治家だけでなく、霞が関の行政官も、こういった思いを共有しているのが普通だ。
食料自給率を上げて、国民の命を守るということは、アメリカからの輸入を減らすということを意味する。そのため、政治家も官僚も、そうした方向性の政策はやろうとはしない。アメリカ側の嫌がる顔が目に浮かぶからだ。
日本政府は、「食料・農業・農村基本計画」というものを、5年に一度策定している。その中で、食料自給率を45パーセントにするとか、50パーセントくらいには上げましょう、という程度のことは言っている。だが、そんなものはあくまで計画にすぎない。所詮は絵に描いた餅だから、その実現のための政策をやるつもりはない。
農業被害「4兆円」が政権の圧力で「1620億円」に
また、農業を犠牲にして、貿易自由化を推し進めたことで、利益を享受した自動車などの業界へ天下りする連中もいる。アメリカ、財務省、経産省の「三つ巴構造」の外側で、農水省は完全に虐げられており、食料自給率を上げようという意見すら、言うことが許されないのが現状だ。
以前は農水省にもっと力があったので、農政がゆがめられそうになっても、もう少し踏ん張ることができた。TPPにしても、もともと農水省は猛反対していた。2011年ごろにTPPの議論が始まったころ、私のところにも、何とかTPPを止めてほしいと、農水省の人が依頼しにきていた。
彼らと協力して、もしTPPが締結されれば、日本の食料生産自給率は13パーセントまで下がるという試算をつくって、反対の論陣をはった。だが、そのころには、省庁間の力関係で、農水省は劣勢に立たされてしまっていた。
第二次安倍政権になると、もはや白旗を上げるしかなくなっていた。なぜ、農水省が負けてしまったのかといえば、やはり当時の官房長官のもと、人事権を握られてしまったことが大きかった。
内閣人事局が誕生し、各省庁の局長以上の人事権を、官房長官が握ったのである。もし農水省がTPPに反対すれば、官邸は反対派官僚を全員首にすることができるようになったのだ。これでは戦いようがない。
その結果、人事権をたてに、「自給率が13パーセントまで下がり、農業被害は4兆円前後」という農水省の試算を修正せよと迫られた。最終的には、農業被害額を約1620億円まで減らすことになった。
「TPPを締結しても大丈夫」という試算をでっち上げさせられた農水省の担当者は、きっと苦渋の思いを味わったことだろう。
こうした「攻撃」を受けていたのは、農水省だけではない。農協(農業協同組合)にも、TPP賛成派からの攻撃が行われていた。当然ながら、農協はTPPに猛反対していた。そのため、自民党の議員などから逆に「農協を解体するぞ」と脅されることになった。その結果、実際にJA全中が解体されてしまう。2015年の農協法改正によって、全国の農協に対する監査権限を失い、一般社団法人に移行したのだ。
これが、今の日本における農業政策の偽らざる現状なのである。食料危機が警告されていても、政府内で食料自給率を上げる議論を本気でやっているとは思えない。
安倍元総理の退陣にともない、今井元補佐官は官邸を出て、その後三菱重工の顧問に天下りしている。岸田政権になって、一見、経産省の力が弱まったようだが、規制改革推進会議を中心に、政策を決定している顔ぶれや構造はあまり変わっていないのではないか。
改革をすれば、みんなが幸せになると言いながら、規制緩和による利益は、自分たちが「総どり」してきたのである。
一部の「お友達企業」だけが儲かるのでは、いったい、誰のための規制緩和なのか。その「お友達企業」には、アメリカの穀物メジャーや、種子・農薬企業、金融・保険業界も含まれている。彼らにとって、最大の関心事は「自分たちの利益」だ。
「彼らが儲かるかどうか」だけを基準とするなら、日本の食料自給率がいくら下がろうと、どうでもいい。日本の農家が全部潰れてしまおうが、儲かりそうなところだけ、自分たちの会社で持っていければ、それでいいのである。
しかし、そこには「食料安全保障」の観点、国として国民生活をどう守るか、という観点が欠如している。日本の政治が、長らくこうした無責任な施策を続けてきたせいで、日本はいま、食料危機を真剣に危惧しなければならなくなってしまった。 ・・・
●金利上昇しても保有資産がマイナスになる可能性低い=黒田日銀総裁 3/16
日銀の黒田東彦総裁は16日、参院・財政金融委員会で、保有国債を時価評価していないため、金利が上昇しても保有資産がマイナスになる可能性はきわめて低いとの考えを示した。浅田均議員(日本維新の会)の質問に答えた。
将来的に出口戦略を進める際の日銀の財務面への影響について黒田総裁は、米連邦準備理事会(FRB)が出口戦略では金融機関が預けている預金への支払利息が多くなり米連邦政府に剰余金を納付できなくなると公表していることに触れ、「日本のQQE(量的・質的金融緩和)も同様の傾向があることは確かだ」と述べた。
ただ、出口の局面では景気・物価の好転で国債の金利が上昇していくことが想定されると指摘。日銀の保有国債の平均残存期間は7年程度でFRBに比べて短く、国債の償還が進めばそのたびに金利の高い国債に入れ替わるため「(日銀の損益が)赤字になる可能性はあるが、金融情勢によってさまざまなことが起こり得る」との見方を示した。
●「三権分立」に反する尹大統領発言…日本の論理で司法府の最終判断否定 3/16
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が15日付で報じられた読売新聞のインタビューで、1965年の韓日請求権協定と2018年の韓国最高裁(大法廷)の強制動員被害者賠償判決の間に「矛盾したり食い違ったりする部分(があっても、調和するようにするのが政府の役割)」だとし、日本側の論理をそのまま繰り返した。これは司法府の最終判断を否定する発言であるとともに、行政行為で司法府の決定を覆すことができるという論理であり、「三権分立」という憲法価値に正面から反する。
2018年10月30日、最高裁の全員合議体は確定判決で、日帝による朝鮮半島の植民地支配は憲法前文が規定した「3・1独立運動で建設された大韓民国臨時政府の法統」に照らせば不法な強制占領であり▽強制動員は不法強占と侵略戦争遂行に直結した反人道的不法行為であり▽韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係解決のために締結された請求権協定の適用対象ではなく▽したがって加害戦犯企業(三菱重工業、日本製鉄)は被害者に賠償しなければならないと明らかにした。
慶北大学法学専門大学院のキム・チャンノク教授は「条約と法令に対する最終解釈の権限は最高裁にある」として「国会が新しい国民的合意を形成して立法した場合でない限り、行政府が行政行為によってこれを覆すことは明らかに憲法的価値に反する」と述べた。
これまで日本側は、植民地支配は不法ではなく▽強制動員は存在せず▽請求権協定ですべての賠償問題が解消されたため▽韓国最高裁の判決は国際法違反だと主張してきた。韓国政府が日本側の謝罪と賠償参加のない「強制徴用最高裁判決に関する政府の立場」(第三者弁済)を6日に発表した直後、「白旗投降」という批判があふれたのも、このような日本側の主張が全て貫徹されたためだ。
「第三者弁済案」のまた別の問題は、すでに最高裁が確定判決を下した訴訟の他に、現在係争中の訴訟に対しても今後確定判決が出れば同じ方式を適用すると明らかにした点だ。司法府の最終判断が下される前に行政府がこれを覆すと予告したわけで、「司法府の権限侵害」という違憲的行動を繰り返し、継続するという話に他ならない。
尹大統領はまた、「第三者弁済案」に対する日本側の疑念を払拭しようとするかのように、日本の被告企業に対する求償権行使の可能性を排除し、「心配に及ばない」と読売新聞に語った。民法上、求償権行使の時効は10年であり、尹大統領の退任後に再び争点になる可能性があるにもかかわらず、日本をなだめるために強引な論を展開したとみられる。2015年に拙速に推進された「慰安婦合意」当時、問題になった「最終的かつ不可逆的な解決」という文言を思い出させる。
大統領室からは日本側に傾倒した主張が繰り返されてきた。大統領室の高位関係者は6日、「盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が下した結論も、結局は1965年に政府がすべての国民への賠償責任を負うことにしたということ」と述べた。しかし、盧武鉉政権時代の2005年に活動した官民委員会は、最高裁の確定判決と同様に強制動員被害者の損害賠償請求権は消滅していないと判断した。当時委員会に所属していたチョン・ジョンフン神父は、本紙との通話で「当時の議論の基本は日本の謝罪と賠償を受けなければならないということだった」と話した。匿名を求めた別の委員は「日本の賠償責任をこれで完全に終結させるとか、そのような話は一切していない」と話した。
●海外経済減速への日銀の警戒感を高める米国の資金循環統計 3/16
シンカー
•米国の資金循環統計では、米国経済の減速がしっかりと確認できる。
•企業と政府の合わせた支出する力であるネットの資金需要は、長期平均を下回る水準となり、マネーの拡大が大きく鈍り、需要側からのインフレを止める力になっていると考えられる。
•家計に所得が回る力も弱くなり、家計の貯蓄率も長期平均を大きく下回り、消費動向は弱くなっていくとみられる。
•企業貯蓄率も4四半期ぶりにプラスとなり、製造業の投資意欲が徐々に減退していることを示す。マーケットで警戒感が出始めた流動性不安と信用不安の拡大が企業の強いデレバレッジとリストラにつながらないか懸念がある。
•海外経済の減速を懸念する日銀は、金融引き締めのサイクルとして、デフレ構造不況からの脱却を確かなものとするため、グローバルな中央銀行の動きから一サイクル遅れることを覚悟しているとみられる。
米国経済の減速がしっかりと確認できる
企業と政府の合わせた支出する力は、資金循環統計のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP比%、4QMA、マイナスが強い)で表すことができる。マイナスが大きくなると、企業と政府の合わせた支出する力が大きく、家計に所得が回り、マネーが拡大するなど、インフレ圧力がかかることになる。日本のように、ネットの資金需要が消滅すると、家計に所得が回らなくなり、マネーも拡大できず、デフレ圧力がかかることになる。
米国では、新型コロナウィルスに対する政府の対応として、財政支出が急拡大し、2020年10−12月期までにはネットの資金需要は−16.6%へ拡大した。長期平均である―6%程度に対して2.5倍を上回る大きさであり、このネットの資金需要の拡大による企業と政府の合わせた支出する力が極めて大きくなったことが、マネーを拡大し、供給制約とともに、強いインフレ圧力を生んだとみられる。
   図1:米国のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
家計の消費動向は弱くなっていくとみられる
2021年からは財政政策が緊縮となり、企業のコスト削減やデレバレッジの動きもあり、2022年10−12月期にはネットの資金需要は−3.7%まで急激に縮小していている。既に、長期平均を下回る水準となり、マネーの拡大が大きく鈍り、需要側からのインフレを止める力になっていると考えられる。家計に所得が回る力も弱くなり、家計の貯蓄率も+1.7%まで低下し、長期平均である+5%程度を大きく下回っている。リーマンショック前のように家計がレバレッジをかけて、家計の貯蓄率がマイナスとならないのであれば、家計の消費動向は弱くなっていくとみられる。
   図2:米国の家計貯蓄率と国際経常収支
企業部門の動きも鈍り始めている
グローバルに製造業の景気循環は弱くなってきている。金利が上昇しても、企業の設備投資は堅調であった。しかし、2022年10−12月期の企業貯蓄率は+9と、小幅であるが4四半期ぶりにプラスに戻ってしまっている。製造業の投資意欲が徐々に減退していることを示すとみられる。労働不足による生産性向上の必要性が、非製造業の投資を支えるとみられるが、企業部門の動きも鈍り始めている。マーケットで警戒感が出始めた流動性不安と信用不安の拡大が企業の強いデレバレッジとリストラにつながらないか懸念がある。
日銀はできるだけ回避しようとするだろう
米国の資金循環統計では、米国経済の減速がしっかりと確認できる。日銀の景気の先行き判断は、「資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる」と、海外経済減速への警戒感が強い。2000年と2006・7年のように、日銀が利上げの最後のトリガーを引いて、グローバルな景気後退に陥った形を繰り返すことを、日銀はできるだけ回避しようとするだろう。日銀は金融引き締めのサイクルとして、デフレ構造不況からの脱却を確かなものとするため、グローバルな中央銀行の動きから一サイクル遅れることを覚悟しているとみられる。
●日銀の金融政策方針転換で暮らしのお金はどう変わる?  3/16
日銀の金融政策決定会合で、金利変動の容認幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大するサプライズが発表されました。株式市場はマイナスに反応しましたが、行き過ぎた円安が修正されるプラスの側面もあります。本記事では、日銀の金融政策方針転換が私たちの暮らしに与える影響を考えます。
日銀のサプライズ金融政策発表で円が急騰
2022年12月20日に開かれた日本銀行金融政策決定会合において、長期金利の変動幅をそれまでのプラスマイナス0.25%から同0.5%に引き上げる、金融政策方針転換が発表されました。
市場では事実上の利上げとみる向きもありますが、日銀の黒田東彦総裁は「市場機能の改善が目的であり、金融引き締めではない」と利上げを目的とした方針転換を否定しています。
発表があった日のドル/円相場はサプライズに敏感に反応し、午後5時時点で1ドル132円58〜61銭と、前日比3円25銭の大幅な円高ドル安に傾きました。円相場は2022年10月21日に151円94銭まで円安が進み、輸入物価高騰の大きな原因になっていました。
欧米が金融引き締め政策を進めているのに対し、日銀は頑なに金融緩和政策の維持を崩さないため、どこまで円安が進むのか懸念されていました。
しかし、151円台に乗せた後はFRB(米国連邦準備制度理事会)が、インフレが落ち着いてきたことを理由に利上げの幅を0.75%から0.5%に縮小するとの観測が広がり、円高に流れが転換。これに日銀の金融政策方針転換が加わり円高が加速した形です。
住宅ローンは固定金利から引き上げへ
長期金利変動幅の拡大によって最も心配されるのが、住宅ローン金利の上昇です。日銀の金融政策緩和を受けて大手銀行各行は2023年1月1日から10年固定の住宅ローン金利を引き上げることを発表しました。早速影響が出た形です。
日銀が金融緩和策の修正を発表した2022年12月20日以降、住宅ローンの金利比較サイトにはローンに関する問い合わせが増えているといいます。
三菱UFJ銀行は最も優遇する場合の金利を0.18%引き上げて年1.05%にします。その他の大手銀行も三井住友銀行が年1.14%(+0.26%)、みずほ銀行が年1.4%(+0.3%)、三井住友信託銀行が年1.39%(+0.34%)、りそな銀行が年1.18%(+0.1%)と引き上げを発表しています。引き上げ時期は2023年1月1日からです。ただし、既に固定金利で借りている人には影響はありません。
一方で変動金利は短期金利と連動するため、変動金利型の金利は各行とも据え置いています。今後の見通しは、新たな上限に設定された0.5%の長期金利を日銀がコントロールできるかにかかっています。
債券の金利が若干上がる可能性も
長引く超低金利で債券は金利の魅力を失っています。個人向け国債の金利は、変動金利10年債が0.33%、固定金利5年債が0.18%、固定金利3年債が0.05%(税引前利率、2023年1月17日現在)になっています。預金金利より高いとはいえ、債券としては物足りない金利水準といえるでしょう。
日銀のサプライズ発表があったことを受け、発表当日の債券市場は急速な債券安(金利高)が進みました。その後2023年1月17日には、国内債券市場で新発10年物国債の利回りが0.505%をつけ、日銀が新たな金融政策の上限とする0.5%を超えています。この日で3日連続の上限超えとなり、金利上昇圧力が次第に増している展開です。
個人向け国債や各種債券、社債等の金利が上がることは、私たちの資産運用にとってはプラスになります。
普通預金の金利はどうでしょうか。三菱UFJ銀行における普通預金金利は2023年1月17日現在で年0.0010%、スーパー定期預金が年0.0020%と変化は見られません。普通預金金利はすでに無いも同然の水準ですので、多少金利が上がったとしても私たちの暮らしに大きな影響はなさそうです。
輸入物価が低下するメリットもある
金利上昇でこれまでの行き過ぎた円安が是正されることは、私たちの暮らしにとってプラスになる側面もあります。円高によって輸入物価が低下し、消費者物価の上昇率が鈍化するメリットが期待できるからです。
2023年の物価見通しは、エネルギー価格の上昇がピークアウトする見込みであることから、2022年にあったような物価高には歯止めがかかりそうです。
WTI原油先物価格は2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに急騰し、一時1バレル130ドルを突破しましたが、2022年夏以降は下落に転じ、2023年1月には1バレル70ドル台まで下落しています。原油価格の下落に加え円高が進行することで、輸入物価はさらに低下することが予想されます。
これに政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業費補助金」が加わり、一般家庭の電気料金(低圧)は、2023年1〜8月に7円/kWh、2023年9月に3.5円/kWhそれぞれ引き下げられます。電力会社が想定する標準家庭(月間260kWh)で月に1,820円程度の値引きとなる計算です。
法人の電気料金も1〜8月使用分で3.5円/kWh、9月使用分で1.8円/kWh値引きされるので、工場などで大規模な電力使用を行っている企業には、製造コストの低減につながることが期待されます。
株式投資に与える影響は?
金利の上昇は株式市場にとって下落要因になることは確かです。日銀の金融政策方針転換が発表された12月20日の日経平均株価終値は2万6,568円3銭と、前日比で669円61銭急落しています。方針転換は無いとみられていただけに、動揺した投資家の狼狽売りがあったようです。
日銀の金融政策方針転換は全体的にはマイナス要因ですが、一部の円高メリット株には買いが集まっています。金利上昇の恩恵を受ける銀行株や、輸入コストが下がる石油株、電力株、紙パルプ株、円高によって海外旅行が増える旅行株、航空株などもメリットがあるといわれています。
株式投資は米国株をはじめ海外の株式市場や、金融市場の影響を受けやすいので、必ずしも日銀の金融政策だけに左右されるわけではありませんが、日経平均で3万円の大台回復が当面遠のいたのは確かなようです。
NISA(少額投資非課税制度)の大幅拡充を打ち出した岸田政権にとっては、日銀に出鼻をくじかれる皮肉な結果となりました。
不動産投資への影響は軽微の見込み
最後に日銀の金融政策方針転換は不動産投資にどの程度影響を与えるのかを確認しておきましょう。直接影響を与えると思われるのが不動産投資ローンの金利上昇です。不動産は高額な商品ですので、わずかな金利の上昇でも35年ローンであれば総支払利息はかなり増える可能性があります。
半面、東京カンテイの「市況レポート」によると、東京23区の賃料相場は金融政策転換があった2022年12月も影響をあまり受けず、3ヵ月連続プラスと好調に推移していますので、現時点では金利上昇の影響は軽微とみられます。
次に懸念されるのがイールドギャップの縮小による不動産市場への影響です。イールドギャップとは、不動産投資の利回りと市場金利の差を指します。不動産投資の利回りがほぼ一定である場合、市場金利が上昇すると利回りの差が縮小するため、不動産の購入ニーズが減って不動産価格に影響するという考え方です。
これも不動産投資の利回りが3〜5%とすると、長期金利が0.5%になった程度では不動産投資の優位性は変わらないので、不動産市場への影響は軽微と思われます。
2023年1月18日の金融政策決定会合では金融緩和策の維持が決定され、長期金利が一時0.36%まで低下し、金利の上昇に歯止めがかかりました。しかし、市場では今後も日銀が大量の国債を買って金利を抑えられるか疑問視する声もあります。
注意しなければいけないのは、2023年4月8日に異次元の金融緩和を主導してきた日銀の黒田総裁が退任することです。後任に着く総裁によっては、異次元緩和政策の変更があってもおかしくありません。
今後はなるべく日銀の政策変更の影響を受けにくい投資先を選ぶ必要があります。不動産投資ローンの金利が上昇するリスクはありますが、家賃収入という安定したインカムゲインのある不動産は、金融情勢が不透明な局面では最も信頼できる投資先といえるでしょう。
●どこまでズブズブ!岸田首相と大メディア上層部が“談合”会食… 3/16
まさか、放送法の政治的公平をめぐる解釈変更が国会で大炎上しているこのタイミングで──。驚きの会合が14日夜にあった。岸田首相が大手メディア上層部や大手メディア出身のジャーナリストと、東京・日比谷公園のフレンチレストランで約2時間にわたって会食したのだ。
首相動静によれば参加したメンバーは、山田孝男毎日新聞社特別編集委員、小田尚読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員、芹川洋一日本経済新聞社論説フェロー、島田敏男NHK放送文化研究所エグゼクティブ・リード、粕谷賢之日本テレビ取締役常務執行役員、政治ジャーナリストの田崎史郎氏の6人。
朝日新聞官邸クラブのツイッターが、会食終了後にレストランから岸田首相や参加者が出てくる様子を動画で撮影して投稿している。直撃された田崎氏は「中身はいろいろ……だな」と答えていた。
批判殺到、付ける薬ナシ
これには、<放送法解釈が問題になっているときに、これ?? どんな感覚してるんだ?><大手メディアも政府広報の下請けに成り下がった感じですかね>など批判コメントが殺到だった。
岸田首相はこの6人と昨年の参院選直後の7月15日にも会食している。
「安倍元首相時代からのメディアとのメシ食い情報交換を岸田首相も定例化して踏襲している形」(官邸関係者)らしく、日程もずいぶん前から決まっていたのだろう。だが、よりによって、である。
高市大臣が総務省が認めた「行政文書」について「捏造」と言い張ったことで、この問題に対する世論の関心は高まっている。報道の自由への不当な政治介入があったのかどうか、まさに政治とメディアの“距離感”が問われている真っただ中に、首相と複数のメディア上層部が“談合”よろしく親しく会食すれば世間にどう映るのか、子どもでも分かるはずだ。
「政治とメディアが徹底的に癒着していることを見せつけるもので、国民のメディア不信がますます高まる。ジャーナリズムは国民のために権力を監視するという重要な責務があり、単なる民間企業とは違う。どうしてここまで倫理観とケジメがなくなってしまったのか。品性がないし、恥ずかしい」(政治評論家・本澤二郎氏)
メディア懐柔に精を出す首相もホイホイ乗っかるメディアも、もはや付ける薬がない。
●北ミサイル発射、岸田首相「同盟国との連携をいっそう緊密に」  3/16
岸田首相は16日朝、北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けて、「地域の平和と安定は関係国にとって大変重要な課題だ。同盟国、同志国との連携をいっそう緊密にしていかなければならない」と述べた。首相官邸で記者団に語った。
首相はこれに先立ち、ミサイル発射を受け、情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して迅速・的確な情報提供を行うこと、不測の事態に備え、万全の態勢をとることなどを関係省庁に指示した。
●ガーシー除名騒動で泣いた人、笑った人 岸田政権の支持率は謎の急上昇 3/16
政治家女子48党のガーシー(東谷義和)が15日、参院本会議で236票中賛成が235票、反対が1票という圧倒的な差で除名となった。国会議員の除名は72年ぶり。「必要な議員だった」(同党の大津綾香党首)など惜しむ声もあるが、永田町でガーシーが話題になることは少なくなりそうだ。一連のガーシー騒動で、笑った人はだれなのか?
「ガーシー君を除名する」
採決を受け尾辻秀久参院議長がこう宣告したことで、ガーシーは議員の身分を失った。政治家女子48党の浜田聡政調会長は本会議場からの去り際に一度も立ったことのないガーシーの氏名標を立てる行動に出た。しかし、その氏名標はすぐに取り去られた。
ガーシー除名について浜田氏が「連日の報道はガーシー氏への憎しみを増大させるものだった。一方的な報道で世論が形成された」とメディアに不満を述べれば、大津氏は記者会見で「国会の無駄なことをなくしていくのに発信力のあるガーシーは必要な議員だった」と憤った。
思わぬ影響を受けていた人もいる。日本維新の会の音喜多駿政調会長はこの日、本来なら次女の幼稚園卒園式に出ているはずだった。しかし、同日午前の参院本会議にその姿があった。
「先週の時点で陳謝されるということだったので、来ていただいて陳謝していただければ(卒園式出席は)大丈夫だろうと。だから帰って来ていただきたかった。いろんな意味で残念です」とうなだれた。
一方でガーシー騒動に高笑いしている人がいるという。永田町関係者は「岸田文雄首相ですよ。ガーシー氏に連日、注目が集まることで政権のいい風よけになっていた側面はありますからね」と指摘した。
前出の音喜多氏も「『ガーシー』って名前を見ない日がないくらいメディアをジャックしていたのを見ると、本来議論するべきことから外れてしまうことに注目が集まっていたところはある。われわれは本質的な議論をしないといけないのに残念な面もある」と話した。
13日からのマスク自由化や新型コロナウイルスの5類移行問題、岸田氏が訴えた異次元≠フ少子化対策などもっと話題となっていてもよさそうなテーマはあったはずだ。一方、NHKの最新の世論調査では岸田内閣の支持率が41%と前回よりも5ポイントも上昇したという。支持の理由で最も多かったのが「他の内閣よりよさそうだから」だった。岸田政権にプラスポイントがあったというより、マイナスポイントが目立たなかったと考えるのが自然だろう。
ガーシー騒動が終わっても岸田内閣は安泰ムードだ。立憲民主党関係者は「今、国会でやっている総務省の文書問題で高市早苗氏の去就が取り沙汰されています。また、アベノマスクの単価が書かれた行政文書が開示されることになり、国会でも取り上げられるでしょう。同様にこの流れで旧統一教会の名称変更についての文書も開示されるかもしれません。まあ全部、安倍政権時代のことなんですけど」と明かした。
政治に注がれる厳しい視線の多くがガーシーに向かっていたことは、岸田政権にとってプラスだったということだ。
●「大幅賃上げ」は中小企業や非正規労働者でも実現できるか 春闘 3/16
大手企業で大幅な賃上げが相次いで決まり、中小企業や非正規労働者への波及が焦点になっている。失敗すれば機運の盛り上がりが一過性で終わるためだ。政府は労使に呼び掛けて波及の実現に躍起だが、当事者が長年苦しんできた環境を変えるのは容易ではない。
価格転嫁できずに苦しむ構図は今なお
「非正規労働者の賃金引き上げは極めて重要」
岸田文雄首相は15日、労働、経済5団体の代表を集めた「政労使会議」を8年ぶりに開いてこう述べ、今年の最低賃金を現在の平均961円から1000円に引き上げたい考えを示した。人件費の高騰分を製品価格に上乗せして取引先に売る「価格転嫁」が、中小企業の賃上げには重要との認識でも一致したという。
厚生労働省によると、非正規の賃金は正社員より3割以上低く、従業員10〜99人と規模の小さな企業の賃金は、1000人以上の大企業より2割近く低い実態がある。2013年の同会議を機に始まった「官製春闘」の効果が限定的だったのも、非正規や中小に賃上げを広げる難しさが主因だ。
千葉県内の靴販売店で働くパートの女性(47)は物価高の中、1月中旬から時給が20円減の1010円に下がった。勤務先に労働組合はなく、企業の枠を超えて連帯する「非正規春闘」と呼ばれる運動に参加し会社側と交渉。会社側は賃下げを撤回したが、賃上げには応じなかった。「私たちの生活がどれだけ苦しいかを分かっていない。非正規を大事にしていない」と訴える。
非正規春闘は、春闘の枠から漏れている人の賃上げを求める目的で個人加盟の労組が今年初めて企画。非正規約300人が勤務先36社に一律10%の賃上げを求めた。呼びかけ団体の一つの総合サポートユニオンの青木耕太郎氏は「賃上げは大企業で進んでいるが、非正規には全然広がっていない」と実感を口にする。
「中小企業は乾いたぞうきんを絞るように締め付けられる」。そう話すのは中小製造業が多い産業別労組、JAMの安河内賢弘会長だ。大手の取引先と交渉する価格転嫁の難しさが、長年賃上げを妨げてきた。
JAMが昨年11月から今年1月に実施した調査(944社)では、高騰分を転嫁できない実態が浮かぶ。「100%以上」転嫁したと回答した企業はエネルギー価格で3%、労務費は4%。転嫁が必要との機運が高まる中でも厳しい。
賃金に詳しい日本総研の山田久氏は、賃上げを中小企業などに波及させ、持続できる仕組みを提言する。「経済学者らが物価動向を根拠に賃上げ率の目安を示す第三者委員会を設置し、都道府県ごとにも地方版の政労使会議を開くのが望ましい」と説明した。
Q&A「賃上げの環境整備」が重要な理由
春闘で大手企業の大幅な賃上げが相次ぎました。今後はどんな課題があるのでしょうか。(渥美龍太)
Q 賃上げは物価高に追いつきそうですか。
A 春闘は昨年までと状況が一変しましたが、それでも簡単ではありません。「満額回答」でも、要求自体が物価高に追いついていない企業が多くありました。物価との比較は基本給を底上げするベースアップ(ベア)率をみる必要があり、本年度の物価上昇分を取り戻すならベアで3%程度が必要です。賃金に詳しいニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏はベア率を「1%強」と予想しています。
Q 岸田文雄首相は、物価上昇を超える賃上げを呼び掛けていますが。
A あくまで掛け声でして、1年ではほぼ不可能です。数年かけて一定額以上のベアを定着させ、「賃金は毎年上がるのが当たり前」という状況をつくりたい狙いとみられます。
Q 具体策は?
A その検討のために政労使会議を再び設置しました。特に中小企業の価格転嫁や非正規労働者の処遇改善は必須の課題です。京都大の橘木俊詔としあき名誉教授は安倍政権時について「中小や非正規の賃上げ環境整備ができなかった」と指摘しており、今後の仕組みづくりが重要になります。
気になるのは、持続的な賃金上昇のためとして政府が成長産業への労働移動を進める方針も示していることです。効果の検証や転職・失業の際の安全網整備が欠かせず、拙速に進めないかチェックが必要です。
●G7議長国へ各国のいら立ちが形に…LGBTQの差別禁止に動きが鈍い日本 3/16
日本を除く先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、性的少数者(LGBTQ)の権利を守る法整備を促す岸田文雄首相宛ての書簡を取りまとめた。内容からは、人権という民主主義国の共通の価値観を前に、重い腰を上げない日本政府へのいら立ちが読み取れる。日本は5月のG7広島サミットで、議長国として多様性の尊重を世界に発信する旗振り役を務める立場にあるが、各国から厳しい目が注がれている。
「日本はG7で唯一、婚姻の平等を認めていない」
「鉄は熱いうちに打て」
性的少数者について、首相秘書官だった荒井勝喜まさよし氏が2月に「見るのも嫌だ」などと差別発言をして更迭され、批判が拡大した直後。エマニュエル米駐日大使は周辺に力説し、書簡の取りまとめにつながった。
エマニュエル氏はオバマ大統領時代に首席補佐官を務めた後、シカゴ市長に転身し、歴代の米民主党幹部とも親しい人物。シカゴ時代にはLGBTQの権利保護に力を入れ、オバマ氏にも連邦レベルの政策を助言したといい、自負と強い思い入れがある。
昨年12月に名古屋市が同性カップルの権利を認めるパートナーシップ制度を導入した際には「日本はG7で唯一、婚姻の平等を認めていない。政府に声を届けよう」とメッセージを送った。
米国では、同盟関係の基盤は人権や民主主義といった「共通の価値観」の上にあるとの考えが強い。同盟国の日本がG7で唯一、LGBTQの差別禁止法を持たず、同性婚も認めていないことに対する不満は、エマニュエル氏の言動に表れている。
米国務省でLGBTQの人権促進を担当するジェシカ・スターン特使は2月に来日し、与党幹部との面会で「同盟国として、差別禁止を実現するための協力を惜しまない」と強調。同性愛者を公表している日系のマーク・タカノ米下院議員は首相秘書官の発言に反応し「日米は同盟を動機づける共通の価値観を忘れてはならない。LGBTQの権利に敵対的なのは専制主義者だ」とツイッターに書き込んだ。
他のG7諸国も姿勢は同じだ。英国のロングボトム駐日大使は昨年11月の東京都内での講演で、長女が同性婚したことに触れ「LGBTQの権利保護の早期実現で日本に協力したい」と呼びかけた。
だが、岸田政権の動きは鈍い。首相は同性婚を制度化すると「社会が変わってしまう」とした自身の発言を撤回せず、自民党内でも否定的な意見は根強い。首相は、自民党にLGBTQの理解増進法案の国会提出に向けた準備をするよう指示を出したが、1カ月以上も進展はない。
理解増進法案は、差別禁止規定がない理念中心の内容。当事者らは「差別している側に理解させるための法律はおかしい」と禁止規定の法制化を求めているが、その前段階の議論さえ止まっているのが実情だ。
各種世論調査では同性婚への賛成が多数派となっており、公明党や野党はサミット前の理解増進法案の成立を求めている。このままサミットを迎えれば、日本の違いだけが際立つ可能性もある。  
●フランス国民が街を“ゴミだらけ”にしてでも「年金改革」に反対する理由 2/16
国民の4分の3が「年金改革」に反対
これまで62歳だったフランスの年金受給年齢を、同国のエマニュエル・マクロン大統領は64歳に引き上げようとしている。満額受給に必要な資格を得るには「43年間の就労」を義務づける年金改革も、あわせて進める予定だ。これらの計画をめぐる投票は現地時間の16日に国会で行われ、上院は賛成多数で可決した。
だが世論調査によれば、国民の4分の3近くが年齢引き上げに反対しているという。今年の1月からパリなどの大都市だけでなく、地方の小さな町でも数百万人が抗議デモに参加してきた。
国会が間近に迫った今週は、ごみ収集業者によるストライキが起き、パリの街中に7000トンのごみが放置される凄まじい事態となっている。電車や飛行機の運行が乱れ、原子力発電所は発電量を下げた。
なぜ反対を押し切って改革を強行するのか
今回の改革はフランスの年金制度を破綻から救い、財政規律を維持するために必要だと、マクロン大統領は主張している。昨年は国内総生産(GDP)の5%を占めていた国家赤字を、欧州連合(EU)の目標である3%に近づけたい考えだ。
OECD(経済協力開発機構)によると、フランスの年金に対する公的支出は大きく、GDPの約14.5%を費やしているという。これに対して米国は7.5%、ドイツは10.4%だと米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は報じている。
また現在の62歳という定年年齢が、周辺諸国と比べれば低いのも確かだ。米「ニューヨーク・タイムズ」によると、ドイツの定年退職年齢は65歳7ヵ月、イタリアは67歳だ。オランダは来年67歳に引き上げられる。スペインもまた、2027年から67歳になる。
国民が反対の声をあげ続ける理由は
だが英紙「フィナンシャル・タイムズ」によると、こうした年齢基準の変更によって傷つくのは「女性や裕福でない人々、特に大学へ行かずに早くから働きはじめる人々」だ。そのため、同国の労働組合は断固として反対を続けている。
経済学者のトマ・ピケティも仏紙「ル・モンド」への寄稿で、これまでも高学歴層は62歳になっても満額拠出期間の条件が満たされないため年金を受け取ることができなかったことを指摘し、「低学歴層の負担が重くなる逆進税」だと非難している。
さらにピケティは、この10年で資産が膨れ上がっている上位数パーセントの富裕層にこそ税負担を求めるべきだと論じている。
●岸田首相「関係正常化に大きな一歩」、尹大統領「協力しあうパートナー」… 3/16
岸田首相は16日、来日した韓国の 尹錫悦ユンソンニョル 大統領と首相官邸で会談した。両首脳は、日韓関係の発展に向け、両国首脳が互いの国を行き来する「シャトル外交」の再開で一致した。「日韓安保対話」など事務レベルの協議を早期に再開させる方針も確認した。
首相は会談後の共同記者会見で「尹大統領の訪日は日韓関係の正常化にとって大きな一歩となる。信頼と友情が育まれ、日韓関係が大いに飛躍することを期待している」と述べた。元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の解決策については、「日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している」と語った。
尹氏は「韓国と日本は普遍的価値を共有し、共通の利益を追求する最も近しい隣国であり、協力しあうべきパートナーだ」と応じた。
会談では、日韓2国間の経済安全保障対話の枠組みを創設することも申し合わせた。両首脳は、共同記者会見後、首相夫妻主催の夕食会で個人的な信頼関係を深める見通しだ。
尹氏の来日は、就任後初めて。韓国大統領の日本訪問は、国際会議を除けば、2011年12年の 李明博イミョンバク 氏以来、約12年ぶりとなる。
●日韓首脳の会見 岸田首相「訪韓、適切な時期に」 3/16
岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による16日の共同記者会見の要旨は次の通り。
冒頭発言
首相 長い冬の時期を抜けて2国間訪問としてはおよそ12年ぶりに韓国の大統領を日本に迎えた。現下の戦略環境の中で日韓関係の強化は急務であり、1965年の国交正常化以来の友好協力関係の基盤に基づき日韓関係をさらに発展させていくと一致した。
先般、韓国政府は旧朝鮮半島出身労働者問題に関する措置を発表した。非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものと評価している。
日本政府は98年10月に発表した日韓共同宣言を含め歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認した。今後、措置の実施とともに両国間の政治、経済、文化などの分野における交流が力強く拡大していくことを期待する。
日韓関係の新たな章を開く。両国の首脳が形式にとらわれず頻繁に訪問する「シャトル外交」を再開させると一致した。多岐にわたる分野で政府間の意思疎通を活性化していくことで一致した。
具体的には長い期間中断していた日韓安全保障対話、日韓次官戦略対話を早期に再開し、ハイレベルの日韓中プロセスを早期に再起動する重要性で一致した。新たに日韓間で経済安全保障に関する協議を立ち上げる。
輸出管理分野でも進展があった。各政策分野で担当省庁間の対話を幅広く推進していく。
両国の経済団体が未来志向の日韓協力交流のための基金を創設すると表明したことを歓迎する。未来を担う若者の交流を引き続き支援する。
現下の厳しい安全保障環境について認識を共有した。16日朝の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルの発射を含め核・ミサイル活動をさらに進める北朝鮮への対応について、日米同盟・米韓同盟の抑止力・対処力を一層強化し、日韓・日米韓の間でも安保協力を力強く推進していく重要性を確認した。
「自由で開かれたインド太平洋」を実現する重要性について確認し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くため、同志国が力を合わせていく必要性について認識を共有した。
尹大統領の訪日は日韓関係の正常化にとって大きな一歩となる。信頼と友情が育まれ日韓関係が大いに飛躍することを期待する。
尹氏 韓国と日本は自由、人権、法治といった普遍的価値を共有し、安保、経済、グローバルアジェンダで共同の利益を追求する最も近い隣人で、協力すべきパートナーだ。
韓日関係を速やかに回復して発展させていくことで志を同じくした。安保、経済、人的文化交流など多様な分野での協力を増進させる議論を加速する。経済安保と先端科学技術だけではなく金融、為替分野でも頭を寄せ合い共に悩んでいく。
外交、経済当局間の戦略対話をはじめ両国の共同利益について議論できる協議体を早急に復元することで合意した。今後、国家安全保障会議(NSC)の韓日経済安保対話の発足を含め多様な協議体が意思疎通していくことを期待する。
両首脳は韓国政府の強制徴用の解決策の発表を契機に、両国が未来志向的な発展方向を本格的に議論できる土台が設けられたと評価した。
北朝鮮の核・ミサイル開発が朝鮮半島と北東アジア、世界の平和を脅かすといったことで認識を共にした。韓米日・韓日の共助が重要で、今後も積極的に協力していくと一致した。
今年は98年に発表された金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相の共同宣言から25年になる。今回の会談は宣言の精神を発展的に継承し、両国間の不幸な歴史を克服し、韓日間の協力の新しい時代を切り開く第一歩となった。
これから両首脳は形式にこだわらずシャトル外交を通じて積極的に意思疎通し協力していく。
質疑
――韓国の財団が日本企業に相当額の返還を求める求償権についてどう考えますか。シャトル外交の意義と時期もお聞きします。レーダー照射問題など積み残された課題もシャトル外交を通じて解決していきますか。
首相 シャトル外交の再開で一致した。今回はその第1弾と考えてよい。今後適切な時期の訪韓を検討する。具体的な時期は決まってはいない。求償権の行使は想定していないと承知している。
尹氏 もし求償権が行使される場合は再びすべての問題をスタート地点に戻してしまう。韓国政府は全く求償権の行使について想定していない。
――尹大統領は今回の結果で得られる国益についてどう考えますか。
尹氏 解決策の発表で両国関係が正常化され、発展すれば両国の安保危機への対応が力強くなる。首脳会談でも軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の完全な正常化を宣言した。
●日韓首脳が1時間半会談、正常化・さらに発展で一致… 3/16
岸田首相は16日、韓国の 尹錫悦ユンソンニョル 大統領(62)と首相官邸で会談し、「元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)」訴訟問題などで悪化した日韓関係を正常化し、さらに発展させることで一致した。首脳が相互に訪問する「シャトル外交」の再開で合意。首相は会談で「将来に向けて日韓関係の新たな章をともに開く機会が訪れた」と語った。
韓国大統領の来日は、国際会議を除けば、2011年12月以来、約12年ぶり。会談は少人数会合と全体会合を合わせて約1時間半行われた。
尹氏は「自由民主主義の価値が重大な挑戦に直面している今、両国の協力の必要性はますます高まっている」と強調し、「両国の新たな時代に向けてともに協力したい」と応じた。
最大の懸案だった元徴用工問題について、韓国政府は、韓国の財団が被告の日本企業の賠償金相当額を支払う解決策を公表済みだ。首相は会談で、韓国政府による元徴用工問題の解決策を評価した。会談後の記者会見では、植民地支配への「痛切な反省と心からのおわび」を明記した1998年の日韓共同宣言を含め、歴代内閣の歴史認識を引き継ぐことを表明した。
シャトル外交は、2012年の 李明博イミョンバク 大統領(当時)の竹島上陸をきっかけに途絶えていた。首相は記者会見で、「適切な時期の訪韓を検討する」と表明した。
両氏は、2国間の経済安全保障対話の枠組みを創設する方針でも一致した。日韓が高い技術力を持つ半導体のサプライチェーン(供給網)の強化を図ることを念頭に置く。中断していた日韓の「安全保障対話」と「次官戦略対話」を早期に再開させることも確認した。
韓国の前政権が破棄を決めた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、尹氏は記者会見で「会談で完全な正常化を宣言した」と明らかにした。
首相は会談で、北朝鮮による16日の弾道ミサイル発射について、「明白な挑発行為で、到底看過できない」と非難し、両氏は日韓、日米韓の安全保障協力を強力に推進する方針で一致した。
首相は同日夜、夕食会などで尹氏をもてなした。
●岸田首相、放送法の解釈変更を否定 「安倍首相の負の遺産」指摘も 3/16
岸田文雄首相は16日の衆院本会議で、放送法の政治的公平を巡る安倍晋三政権時のやりとりを記した総務省文書問題に関し、放送法の政治的公平の解釈については「一貫して維持されている」との認識を示した。そのうえで「安倍首相の10年の負の遺産との指摘は当たらない」と述べた。立憲民主党の井坂信彦氏への答弁。
今月公表の総務省文書には2014年から15年にかけて、礒崎陽輔首相補佐官(当時)と総務官僚らが政治的公平の解釈を巡り、続けてきた協議の過程とされる内容が記されている。当時の高市早苗総務相(現経済安全保障担当相)は、文書に記された礒崎氏との協議内容に沿う形で15年5月、従来「放送事業者の番組全体」で判断してきた政治的公平について、極端な事例があれば「一つの番組」でも抵触しうるとの答弁を「解釈の補充」として行った。高市氏は16年2月、政治的公平を欠く放送が続けば電波停止(停波)を命じる可能性にも言及した。
井坂氏はこうした一連の経緯について「解釈変更そのものだ」とし、「安倍首相の負の遺産だ」と批判した。これに対し首相は「(解釈は)一貫して維持されている」と強調。「総務省において放送行政を適切に運用している」などと繰り返した。

 

●保育士配置、増員へ法案=立・維が共同提出 3/17
立憲民主党と日本維新の会は17日、保育士配置の充実・増員に向けた法案を衆院に共同提出した。
国の基準よりも多く配置した認定こども園、幼稚園、保育所に対し、追加の財政措置を講じることが柱。賃金引き上げなどの処遇改善も盛り込んだ。
安心・安全で質の高い保育を提供するために増員に取り組む施設を支援する狙い。提出後、立民の大西健介政調会長代理は記者団に「自治体によっては加配した分を持ち出しで財政支援しているところもたくさんある。しっかり手当てをしていく」と強調した。 
●放送法問題 日本もプーチンのロシアやナチスになりかねない 3/17
憲政史上に残りそうな珍答弁が国会で飛び出しました。3月15日、参院予算委員会での出来事です。
「答弁が信用できないなら、質問しないでほしい」
答弁内容が二転三転ふらふらする状況を信用できないと野党に指摘された高市早苗国務大臣の言葉です。
「それなら質問しないでくれ」というのは、もう政治家の発言ではない。というか政治を語る器でもない。
タレントばかり議席につけてきたツケの末期症状としか言いようがありません。
しかしこの一連の問題、その本質は「放送法」の解釈、とりわけ「政治的公平性」の取り扱いが焦点で、個別議員の去就は本来どうでもよい。
ところが、一般向け報道の傾向は本質を見誤っているものが少なくないように懸念されました。
今回は「放送法」問題の本質を、既存の報道とは別の角度、東京大学情報学環・ゲノムAI生命倫理研究コア本来の「情報倫理」の観点から切り取ってみましょう。
「報道」の中立性:眼前の金融破綻を例に
分かりやすく別の具体例でお話しましょう。
3月15日の欧州株式市場、クレディ・スイスの株価が20%の急落と「報じ」られました。
これに先立つ14日、過去の財務報告の内部管理に「重大な弱点があった」との「報道」があり、同銀行の筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクが追加融資を否定する「報道」があった。
折からの米「シルバーゲート銀行」「シリコンバレー銀行」などの破綻と折り重なるようなクレディ・スイスの今回の事態、ドイツ銀行などへの影響の波及も「報じ」られています。
いまあえて上の記載すべてで「報道」「報じ」られるなどの部分を強調してみました。
実際、これらの「情報」は「報道」を通じて広く社会に告知されることで、信用不安も起きれば、取り付け騒ぎも発生する。
「報道」が決定的な役割を果たす「情報化社会」の本質を直視する必要があります。
仮に今「ドイツ銀行」(現地では「ドイッチェバンク」といいます)について、かなりまずい経営実態を示す「情報」があるとして、その公開、非公開に「ドイツ連邦共和国」政府が介入するなどといったことがあれば、どうでしょう?
ドイツの中央銀行は「ドイツ連邦銀行」ブンデスバンクで「ドイッチェバンク」ではありませんし、あくまでたとえの話です。
早晩経営が破綻するのが見えているのに、取り付け騒ぎが起きないようにと、まずい経営情報をあえて政府が流さないようにし、一部のインサイダーだけがさっさと安全に預金を引き揚げるなどの行動があったなら・・・。
許されないことは誰の目にも明らかでしょう。「放送法」の問題は、まさにここに焦点があると言って過言ではありません。
放送が「中立性」を欠くと
放送法の「政治的中立性」などというと、何か政局がらみとか、個別政治家のスキャンダルつぶしといった問題に矮小化した誤解を生み出しかねません。
実際の放送法(昭和25〈1950〉年法律第132号)の条文を確認してみましょう。
第一条:この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一、放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。(以下略)
このように「不偏不党」に「真実」を報道する「自律」が保証されることを謳っています。今回の問題で取り上げられる放送法第四条も現物を見てみると
第四条、放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一、公安及び善良な風俗を害しないこと。
二、政治的に公平であること。
三、報道は事実をまげないですること。
四、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
となっており「事実を曲げない報道」を「政治的な立場に偏りがない形」で行うべきことが記されている。
例えば、政府が思惑をもって「**銀行」に関する特定の情報を伏せておくとか、別の銀行に関するフェイクの情報を流すように、放送局にバイアスを掛けることも、ここで明確に禁じられている。
別段、政局まわりのどうでもよい案件ばかりが問題になっているわけではない。
今回明らかになりかけている問題で、最悪最低のポイントは「国家安全保障+選挙制度」担当の「首相補佐官」が、かつて官僚として勤務した自治省、省庁再編で「総務省」になりましたが、そこで「旧郵政省」所管の放送免許など「電波法」案件に土足で踏み込んだこと、これがまず第一点になります。
そして最終的に各局に対して、官邸の意に沿わない番組を一つでもオンエアしたら、「電波を停止するぞ!」という恫喝を発信した容疑が最大の問題です。
「捏造」があったの、なかったの、という話はメインディッシュではない。
ある意味、本題に飛び火しないよう、身を挺して守っているとすれば、けなげなお話かもしれません。
ところが、ネジが数本飛んでいるのか、元「補佐官」が自慢でもしたいのか、得意げにそれをリークしまくって、完全な逆転現象が起きてしまっている。
いずれにしても、憲政の常道に照らしてあり得ない壊れた政治体制であったことが、改めて暴露されているわけです。
この状況がなぜ本当にマズいかを倫理の観点からチェックしてみましょう。
事なかれ主義徹底の役人仕事は「捏造」無縁
だいたい、少し落ち着いて考えてみてほしいのですが、役人とか公務員という生き物は「瑕疵なき」をもって旨とする、徹頭徹尾「コトナカレ主義」が凝り固まってできているような種族です。
官学教授25年の私が言うのですから、間違いないと思ってください。
ほんの少しでも内容にミスがあれば、そしてそれが変な形で表に出れば、20年我慢しても30年我慢しても、一瞬で自分のキャリアは水の泡。
誰もがありもしない「大臣レク」の公文書を、10年後に明らかになる「かもしれない」とかいう動機で「捏造」なぞするメリットがあるか?
ありません。そんなものがあるわけがない。
表に出ている文書は、不注意による凡ミスがあったとしても、上席が順に確認した跡も残っており、間違いなく「普通の文書」にほかならない。
もし本当に捏造だということになったら、だれか「捏造した犯人」が国家公務員の中にいるわけで「犯人捜し」などに発展すれば、またぞろ犠牲者なども出かねない。
すでにこのパターンの失敗を日本国は犯しているわけだから、2人目の犠牲者を出す必要は絶対にない。
実際、当時の政権は「内閣人事局」で役人を締め上げ、好き放題でしたので、良心的な公務員で怒り心頭という人は一人や二人ではありません。
また、放送法の解釈が変わって以降、テレビ番組は少しでも批判的な発言をしそうなコメンテーターを使わなくなりました。
私自身、テレビには出ていましたが自身では普段テレビを見ません。
古くからの仲間から聞く範囲で、何となく名前を挙げてみるなら、例えば、鳥越俊太郎氏、佐高信氏、あるいは久米宏氏などという人の出番も、ある時期以降急速に減ったのではないかと思います。
一度「解釈」が変わったと周知されれば、テレビ局もプロダクションも「コトナカレ」のカタマリに変身します。
スポンサーの絡みなどもありますから、危なっかしいゲストなどは使わなくなる。
幸いなのか、今回名前の出た「サンデーモーニング」は現在も継続していますが、極端な話、私がコメンテーターをやっていたのは2011年の震災前までで、これももう10年来、およそご無沙汰です。
そうやって、社会の木鐸転じて「御用マスコミ」化を徹底すれば、その先には何が待っているのか?
報道統制はナチス、オウム型破滅への近道
要するに「報道統制」ですね、この状態は。
「内閣総理大臣補佐官」が、憲法に随う内閣制度の枠組みを超えて土足で省庁に踏み込み、政府にとって好ましくない情報を統制するとどうなるか、というとき、今の報道では「大本営発表」という言葉が使われる場合が多いようです。
これは若い人にピンと来ていない。
実のところ「大本営発表」は2022年2月24日以降、リアルタイムで見ることができます。
プーチン体制のロシアがどのように戦争の「大儀」を「捏造」し、連戦連敗を糊塗して国内に伝えていることか・・・。
そしてなぜ、こんなことが可能になってしまうかといえば、「タス通信」がソ連〜ロシアを一貫して「国営放送」だからにほかなりません。
ところが、その「お上のご意向を振りまくだけのメディア」の恐ろしさを、ユーチューバーを憧れの職業だという若い世代は、深く考え理解しているようには、あまり見えない。
そこで日頃、Z世代と接する大学での試行錯誤を経て、この状況がどれくらいマズいかを、2通り例示してみます。
例えばの話その1。
「シリコンバレー銀行」に「オウム真理教」が多額の預金残高を持っていたとしましょう。
それが銀行破綻で凍結されてしまったというようなとき、絶対権力者である「尊師」が、信者全体に不安が広がるような情報を流したくないと思ったら、それを統制するべく「尊師補佐官」のような幹部信者があれこれ、職掌のけじめもへったくれもなく動き回る・・・。
こんな体制が長持ちすると思いますか?
実際、これに近い状況がいろいろあり、当然教団は破綻しかけ、ありもしない「ハルマゲドン」を演出して地下鉄にあらぬガスなど持ち込む誤魔化し戦術ですべてを失った。
権力機構の分散というのは、ワンマン社長のような観点に立てば「やりにくいな〜」となるので、2世3世の無能な跡継ぎはいい加減、ないがしろにしたがるのかもしれません。
しかし、バランスを欠くシステムは、遠からず自壊して終わり、一番割を食うのは常に下々です。
もう一つ、たとえ話2。
ナチス・ドイツが戦争末期、戦費調達に苦慮して、いまのプーチンみたいな状況になっている状況を考えましょう。
ここで「ドイツ銀行」に重要な経営上のマイナス情報があるとして、これを何とか隠蔽したい、ということになった・・・。
アドルフ・ヒトラー総統直属の「SS補佐官」が、本来の職掌など無関係に銀行でも財務省でも乗り込んで、メディア発表や閣僚の国会答弁などをコントロールしていたわけです。
実際に1933〜45年のドイツで起きていたことです。その結果はどうなったのか。
ドイツは、大恐慌からの自前の復帰を、アウトバーンを筆頭に公共事業立国で乗り越えかけますが、風向きが良かったのはベルリンオリンピックまでの3年がせいぜい。
並行して再軍備を宣言、5年でオーストリア併合、6年目に独英開戦、8年で独ソ開戦、13年目の1945年4月には、アドルフ・ヒトラー本人を筆頭にヨーゼフ・ゲッペルス、ハインリヒ・ヒムラ―など主要閣僚が軒並み自殺、生き残った幹部も絞首刑という形で政治体制が崩壊しました。
その背後で600万人と言われるユダヤ人を中心とする人々の「まず基本財産をすべて奪い」「まる裸で強制収容所に送り」「肉体労働に耐えない老人などはガス室」「後から財産請求しそうな子供も分別して劣悪な収容所で大量病死(アンネ・フランク姉妹がたどった運命)」といった、言語道断な結末を迎えた。
そのすべての大本がナチスの「メディア・プロパガンダ」ラジオ放送による国民全体の「メディア・マインドコントロール」にあったわけです。
ナチス・ドイツのホロコーストと同じ反省の観点に立って、いまだ連合軍の占領下にあった昭和25年、GHQも指導しつつ制定されたのが「放送法」にほかなりません。
この根幹をないがしろにするのは、日本を「ナチスドイツ」型の崩壊、あるいは「オウム真理教」型の破滅に導く、最短手筋といって過言ではありません。
オウムについて、本稿では紙幅を取りませんでしたが、ご興味の方は「メディア・マインドコントロール」の実際、私のかつての仕事、「さよなら、サイレント・ネイビー」 や「サウンド・コントロール」などをご参照ください。
「都合が悪い情報」は、いわゆる狭義の政治にとどまらず、公的統計の結果から銀行の経営情報、果ては「戦局」まで、あらゆる可能性が考えられます。
その一つとして「当局」のいいように粉飾してよいものはありません。コンプライアンスとアカウンタビリティを最も徹底すべき局面がここにあります。
グローバルにきな臭い空気になっている2023年であればこそ、こうした動向に注意を払う必要があるはずです。
●国防部「日本は歴史の教訓を汲み取り、軍事・安保分野で言動を慎むべき」 3/17
国防部(国防省)の譚克非報道官は16日、中国の国防費に関する最近の日本側の言論について記者の質問に答えた。新華社が伝えた。
譚報道官は「中国は平和的発展路線を堅持し、終始変わらず防御的な国防政策を遂行している。中国の国防費は公開され、透明性があり、合理的かつ適度な支出水準にある。中国軍は世界の平和と安定を維持し、人類運命共同体の構築に貢献する揺るぎないパワーであり、これらの事実は国際社会の誰の目にも明らかだ。日本側の一部による無責任な言論は、主観的臆断で誤った話を次々に広げているか、魂胆を抱いて事実を無視しているかのいずれかだ」と指摘。
「中国の限定的な国防支出は完全に国家の主権・安全・発展上の利益を守るためであり、世界と地域の平和と安定を守るためものだ。翻って日本を見ると、近年いわゆる『外的脅威』を公然と誇張し、防衛予算を大幅に増額し、先端的な攻撃兵器の購入を続け、地域情勢に緊張をもたらしており、軍事化の道を再び歩むその趨勢は非常に危険であり、国際社会と地域諸国は強く警戒するべきだ。我々は日本側に対して、歴史の教訓をしっかりと汲み取り、軍事・安全保障分野で言動を慎み、地域の平和と安定を損なうことをするのを止めるよう促す」とした。
●外交部「慰安婦合意は有効」 岸田首相が履行を要求 3/17
外交部は、2015年に韓国と日本の間で結ばれた慰安婦問題に関する合意について、「有効であり尊重する」として、今後、履行に向けた動きがあるという見解を示しました。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と岸田総理大臣による韓日首脳会談で、岸田総理大臣は慰安婦合意の着実な履行を要請したと、NHKが16日、報じました。
外交部の当局者は17日、慰安婦合意に対する韓国政府の立場を問う質問に対し、「先の政権も合意を尊重するという立場を明らかにしていた」として、「有効な合意であり、尊重するという立場を引き継ぐものだ。今後、履行に向けた手順が踏まれるものと思われる」と語りました。
日本は2015年12月、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権と結んだ慰安婦合意に基づき、「和解・癒し財団」に10億円、韓国ウォンでおよそ100億ウォンを拠出しました。
財団はこの中から、存命の被害者47人のうち34人、亡くなった被害者199人のうち58人の遺族に対して、合わせて44億ウォンを支給しました。
ところが、次の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、この合意を批判して財団を解散させ、日本からの拠出金10億円相当を全額政府予算で賄うことにして、103億ウォンを予備費として編成し、女性家族部が運用する両性平等基金に拠出しました。
日本から受け取った資金の扱いをめぐっては、文政権時代に韓日間で協議が進められましたが、難航したということです。
しかし、慰安婦合意が国家間の約束である点を考慮して、文政権も、合意の破棄や再交渉の要求はしない姿勢を維持していました。
現在の尹政権に交代したあとも、政府は合意の有効性を認め、「被害者の痛みを癒し名誉を回復するために日本政府と協力する」という立場を示してきました。
韓日間の最大の懸案である徴用被害者への賠償問題の解決策が示され、韓日関係が改善の方向に向かっていることから、今後、慰安婦合意に実効性を持たせるための措置が検討されるかどうかに注目が集まっています。
岸田総理大臣は2015年当時、外相を務めていて、合意を結んだ当事者でした。
●岸田首相、強制動員謝罪はおろか「慰安婦合意」の履行も要求 3/17
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と岸田文雄首相が16日、韓日首脳会談で12年ぶりの「シャトル外交」の復元など両国関係の回復を宣言したが、日帝強占期の強制動員被害者賠償のための韓国政府の「第三者弁済案」と関連した岸田首相の直接的な謝罪や遺憾表明はなかった。むしろ尹大統領は「今後、被告企業に対する求償権請求の可能性」に対する質問に対し、「韓国政府は(被告戦犯企業に対する)求償権の行使は想定していない」と答えた。
尹大統領は同日午後、東京の首相官邸で首脳会談後に開かれた共同記者会見で、「私と岸田首相は、これまで冷え込んだ両国関係によって両国国民が直接・間接的に被害を受けてきたことに共感し、韓日関係を早期に回復させていくことで意見が一致した」と述べた。岸田首相は強制動員被害者賠償問題に関して6日、韓国政府が「第三者弁済」方式の解決策を発表したことについて、「日本政府としてはこの措置を非常に難しい状況にあった両国関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している」と原則的な答弁をした。さらに「日本政府は1998年10月に発表した韓日共同宣言(金大中-小渕宣言)を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認した」と述べた。
岸田首相は直接的な謝罪は示さず、むしろ2015年12月韓日「慰安婦」合意の履行を求めたという。共同通信は岸田首相が会談で韓日慰安婦合意の着実な履行を尹大統領に要請したと、日本政府関係者の話として報じた。岸田首相は共同記者会見で、2018年の海上自衛隊の哨戒機をめぐる対立と日本軍「慰安婦」合意など、残された懸案に関する質問に対し、「指摘した点も含む課題や懸案について率直に話していく計画」だと答えた。
大統領室高官は岸田首相が「慰安婦」合意の履行を求めたという報道が事実かどうかを尋ねる記者団の質問に「今日の議論のテーマは大半において未来志向的に韓日関係を発展させる案を中心としたものだった」とし、即答を避けた。
両首脳は2011年12月以降中断していた両国間の「シャトル外交」を再開することで合意した。ただし、岸田首相は韓国訪問時期に関する記者質問に「適切な時期に今後検討する予定」だとし、具体的な時期は決まっていないと答えた。
同日の首脳会談を機に、日本政府は韓国に対する半導体の主要材料3品目の輸出規制を解除することにした。 もう一つの関心事だった韓国の輸出品目に対するグループA(旧ホワイト国)排除措置に関しては、今後協議を続けていく方針を示した。 韓国政府は日本側の3品目関連措置に対する世界貿易機関(WTO)提訴を取り下げた。尹大統領はまた、文在寅(ムン・ジェイン)政権当時、韓日関係が悪化した状況で行われた韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)終了の「条件付き延期」について、「完全に正常化することにした」と発表した。 民間では全国経済人連合会(全経連)と日本の経済団体連合会(経団連)が留学生支援などのための「韓日・日韓未来パートナーシップ基金」を設立すると発表した。
両国は経済・安全保障をはじめ先端科学、金融・外国為替、文化分野でも協力を強化することにした。尹大統領は「外交、経済当局間の戦略対話をはじめ、両国の共同利益を議論する協議体を早期に復元することで一致した」とし、「今後、NSCレベルの『韓日経済安保対話』の発足を含め、様々な協議体と意思疎通を続けていくことを期待している」と述べた。
●国際情勢を鑑みた中国半導体業界の現状 3/17
概要
半導体サプライチェーン上の企業に甚大な影響を及ぼす事態をクリティカルイベントと定義し、中国の地政学的動向によるクリティカルイベントとして、「中国企業との技術競争激化」「中国生産の素材の調達難」「生産拠点の操業停止」「中国企業への販売制限」を想定する。クリティカルイベントに至るシナリオは「台湾有事」「米中デカップリング」「中国産業振興策」を評価する。
1.はじめに
本稿は2022年11月10日に開催された「MUFGグローバル経営支援セミナー 国際情勢を鑑みた中国半導体業界の現状〜日本企業はどう対応すべきか〜」(以下、「セミナー」)を基に構成している。セミナーに参加した日本企業の意向も併せて確認することとしたい。
セミナー参加企業の3割近くが、半導体関連材料・部品を提供する企業であり、1割が半導体メーカーであった(前・後工程合計)。半導体ユーザー企業の16%と合わせると、半数以上は半導体サプライチェーンに属していた。
また、緊張感が高まる米中対立を背景に、セミナー参加企業の8割が「足元のマクロ経済状況を鑑みた、中国に対するビジネス環境への展望」を問う質問に対して「中立/どちらとも言えない」「悲観的」「非常に悲観的」と答えていた(図表1)。習近平国家主席の3期目続投決定や、台湾海峡における軍備増強・軍事演習、ゼロコロナ政策の転換などさまざまなニュースのほか、現地法人を有する企業であれば現地からのレポートなど、情報が過分にあり、都度惑わされて漠然とした不安から中国事業を積極的に検討できない企業も多いのではないだろうか。
こうした情報を個別にすべて気にするのではなく、自社への影響を正確に評価し、大量の情報の中で優劣を付けて情報収集し、対策を講じることが望ましい。
刻々と変化する国際情勢が中国を中心とした半導体業界にどのような影響を及ぼし日本企業はどのように対応すべきか、半導体サプライチェーンのたどるであろうシナリオを導出しつつ、代表的企業の対策事例を踏まえ明らかにしていく。
   【図表1】足元のマクロ経済状況を鑑みた、中国に対するビジネス環境への展望
2.クリティカルイベントに至るシナリオ
   【図表2】半導体サプライチェーンにおけるクリティカルイベントとシナリオ
   (1) 想定するクリティカルイベント
本稿では半導体サプライチェーン上の企業に、PL(損益計算書)やBS(貸借対照表)に影響が表れ得るような甚大な影響を及ぼす事態をクリティカルイベントと定義する。
中国の地政学的動向によるクリティカルイベントとして、「中国企業との技術競争激化」「中国生産の素材の調達難」「生産拠点の操業停止」「中国企業への販売制限」の4つを想定する。
「中国企業との技術競争激化」とは、中国企業の急速な技術的キャッチアップにより自社の製品の価格・技術的競争性が失われる事態だ。ミドル・ローエンド製品の価格競争激化や、ハイエンド製品など先端技術領域での中国企業との開発スピード競争などが生じ得る。中国は2015年「中国製造2025」を発表し国策として対象国内企業の技術革新の後押しをしていることが、日本企業にとっては脅威となると言える。
「中国生産の素材の調達難」は中国に依存した資源の供給が絶たれサプライチェーンが寸断される事態だ。シリコンやレアメタルなど中国が主産地になっている素材が対象となり得る。
「生産拠点の操業停止」は中国国内の後工程を中心とした生産拠点や、台湾の前工程などの生産機能が止まり、サプライチェーンが寸断される事態だ。
「中国企業への販売制限」は販売の制約によりサプライチェーンが寸断される事態だ。米国のIP(Intellectual Property:知的所有権)規制・技術流出防止措置では、米国IPが含まれる製造装置が米国から中国へ販売できないのみならず、域外適用により例えばオランダASMLが中国へ半導体製造装置を売れないといった事態も生じている。
   (2) 3つのシナリオ
本稿ではクリティカルイベントに至るシナリオとして「台湾有事」「米中デカップリング」「中国産業振興策」の3つを評価する。
「台湾有事」のシナリオでは、各国が軍備増強などに努める侵攻以前の抑止段階が、武力侵攻により台湾制圧または戦線が泥沼化し長期化するような軍事侵攻段階に発展する可能性は低いと評価している。軍事侵攻段階に至るには「偶発的(可能性が低い)」衝突が重なる必要があること、台湾の背後の米国との衝突によるコストが大きいこと、ウクライナ危機を踏まえ西側連合の支援を押し切る難しさが分かったこと等が理由として挙げられる。このため、中国による台湾企業接収による「中国企業との技術競争激化」や戦争による被害で「生産拠点の操業停止」といったクリティカルイベントに発展する可能性は低いと見る。一方で、米中双方の抑止力向上の観点での経済制裁は、次項の「米中デカップリング」に発展し得る。
「米中デカップリング」のシナリオでは、中国主導で「中国生産の素材の調達難」のクリティカルイベントに発展する可能性は低いと見る。例えば中国がレアアースの供給を止めると、米国産製品が生産困難になることで、中国が調達できなくなり、中国の国内経済に大きな影響を与えてしまうからである。米国と同水準の製品を中国国内で生産できる技術を得ない限りはこうしたアクションに踏み切らないとみられる。一方で、米国主導の経済制裁は現在進行形であり、米国IPを含む製造装置の対中輸出規制による中国「生産拠点の操業停止」や、経済制裁による「中国企業への販売制限」等のクリティカルイベントは十分生じ得る。
「中国産業振興策」のシナリオでは、中国が例えば半導体産業を重点産業として指定すると、政府が補助金など予算を用意し、それを狙って中国企業の技術力向上がスピードアップした結果、「中国企業との技術競争激化」や、重点産業の重要資源である戦略的物資を中国企業に優先供給することで、日本および諸外国への「中国生産の素材の調達難」といったクリティカルイベントが生じ得る。
   (3) 半導体サプライチェーン企業の事例
では、半導体サプライチェーンに大きな影響を受ける日本企業はどのように対応をしていくべきだろうか。サプライチェーンにおけるプレイヤー、なかでもリーダー的存在の企業の事例および対策を紹介しながら、示唆を探していく。
サプライチェーン全体で俯瞰してみると、IDM(Integrated Device Manufacturer)・ファウンドリの動きに素材、装置・テスター、ユーザーの半導体サプライチェーン企業は追随する形となっている。これは、生産面ではIDMおよびファウンドリが半導体サプライチェーンのコアとなるためであり、彼らが米中両にらみで継続投資を行っているため、彼らを納品先とする素材メーカーもそれに合わせて米中両国への投資を行わざるを得ないことが背景となる。販売面でいうと、米国が近年力を入れる中国企業への輸出制限に対しては規制を遵守しつつ、中国市場を引き続き重視する動きになっており、こちらもIDM・ファウンドリの動きに追随する形と言えるだろう。総じてIDM・ファウンドリは「台湾有事」リスクや「米中デカップリング」を見据えて、サプライチェーンの維持を第一義として生産拠点の保全に取り組んでおり、これまで一極集中させてきた生産拠点を分散させる傾向にあると言える。TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は本社の所在する台湾以外では中国に工場を構えていたが、近年になり米国や報道のとおり日本にも生産拠点を拡大してきた。分散先の選択にあたっては政府補助などさまざまなファクターがあるが、販売先との近接性も重視されているであろう。
   【図表3】半導体サプライチェーン上の企業対策動向
具体例として、IDMであるサムスン電子の事例を深掘りしていきたい。中国企業との技術競争激化の観点では、高度人材に高額な奨励金を支給している。また、調達面ではコバルト調達の二重化のため、コンゴ民主共和国(コンゴ)と供給契約を交渉しているとの報道もある。生産面でも同様の複線化を図っており、ベトナム北部などに製造工程の他国分散を進めている。一方で、市場としての中国は引き続き有望視しており、ファーウェイ(華為技術)傘下といえども、エンティティリストに記載された企業でなければ取引を継続し、現実的な対応をしている。
   【図表4】IDMの対策事例|サムスン電子
   (4)地政学イベントと企業のサプライチェーンをつなぐシナリオプランニング
ちまたにあふれる地政学リスク情報に接し、自社への影響を正確に評価し、大量の情報の中で優劣を付けて情報収集し、企業の利益に悪影響を及ぼす可能性のあるクリティカルイベントを把握する。そのうえでシナリオ化し対策を講じることを半導体業界の例を取り上げて説明をしてきた。こうした一連の流れ、シナリオプランニングについて説明していく。
シナリオを描く手法としては、企業にとって致命的な影響を及ぼすクリティカルイベントを特定し、クリティカルイベントから遡って地政学的予兆イベントにたどり着くやり方がある。クリティカルイベントと地政学的予兆イベントの間には、いくつかの産業的予兆イベントが挟まることもあるだろう。図表5にあるように、個別のイベントをXXXXに入れて並べ替え、企業にとっての影響シナリオを図式化してみる。こうすることで、「何を見ておくべきか」「何をコントロールすべきか」が、判断できる可能性がある。さらに、シナリオによる自社への影響度を勘案し、クリティカルイベントを起点に対策案を検討し、実装を進めることも可能となる。
   【図表5】シナリオプランニングの図式
シナリオプランニングを実践した日系企業のケースとして、製造と販売のかなりの部分を中国で運営する半導体ユーザー企業の事例を挙げる。中国を中心としたサプライチェーンのリスクを抱えるこのメーカーは、エネルギー・労働力資源不足、国交関係悪化による名指し規制などにより、在中生産拠点の操業ができなくなることを懸念していた。そこでシナリオプランニング(競合企業へのヒアリングも含む)を行った結果、米国由来のIPを使用した製造装置・ソフトウェアの中国国内使用規制によって、致命的な影響をもたらすことが洗い出された。また、同様の使用規制が、中国企業への販売にも影響を与えることが分ったため、モニタリングや対策立案などの手立てを該当シナリオに対して重点的に講じていくことにした。
3.まとめ
中国に限らず、特にアジア地域等において事業展開している企業は、地政学リスクを深刻な問題として認識している。だが、セミナーのアンケート結果やセミナー参加者の話を聞く限りでは、目の前にある現実として捉えられている企業は、まだまだ少ないように感じられた。これらの事象を具体的に企業戦略と結びつけるには、数種類の道筋があるが、経営における論点と組み合わせることで個々の企業に合う経路の検討が可能であろう。
高まる対立に伴う「米中デカップリング」の進展は、半導体サプライチェーン企業の経営に2つの影響を与える。
1つ目は、企業は、米国、中国の両国における経済圏に適合できる体制を整備し、原材料の調達や在庫確保などを円滑にするため、サプライチェーンを複線化する必要がある。経済合理性を後回しにすることから事業コストは増加するが、自社におけるグローバル事業を守るための必要経費として捉えたい。
2つ目は、米国が取引禁止としている企業との取引が継続できなくなる。だが、これを逆手に取れば、禁止されていない中国企業との取引は継続できる。さらに、これまで以上に拡大していくことも可能であり、事業の成長には不可欠な戦略となり得る。国家からの規制については公表される情報を収集しつつも、広く競合他社の見解や運用実態を把握することで、自社事業収益を必要以上に棄損しない判断が可能となる。
緊張感が高まる米中対立を背景に、半導体サプライチェーンに属する企業の事業経営は、不確実性との向き合い方を洗練させることが不可欠となってきている。本稿で論じてきたように、深刻化しそうなリスクに備え、自社の事業に致命的な影響を及ぼすであろうサプライチェーン等におけるリスク要因の洗い出しと、それに対応可能なシナリオプランニングの実践をお勧めする。戦略の立案はもちろん、対策に係るコスト増についても株主や金融機関等のステークホルダーに正しく説明できることが、グローバルに展開する企業に求められる姿勢だと言えよう。
●高市早苗氏「捏造」主張撤回せず 総務省の行政文書 3/17
高市早苗経済安全保障相は17日、放送法の政治的公平に関する総務省の行政文書が「捏造(ねつぞう)」だと断じた主張を「撤回するつもりはない」と述べた。記者会見で自身に関する記載がある4文書は「ありもしないことをあったかのようにつくられている」と改めて強調した。
捏造ならば国家公務員法違反として職員の懲戒処分を求めないのかとの問いには「8年前の文書なので時効は過ぎている」と語った。「弁護士に聞いたら時効は7年だ」と説明した。
総務省が公表した行政文書に2015年2月に担当局長が当時総務相だった高市氏に放送法の政治的公平を巡り説明したとの記載がある。同省幹部は13日の参院予算委員会で高市氏への説明が「あった可能性が高い」との認識を示した。
高市氏は国会や記者会見で文書が「捏造」だと繰り返し発言した。15日の参院予算委員会で「捏造と言うと言葉がきつすぎるので、あえて繰り返しは使わない」と述べていた。文書が不正確だとの主張は変えなかった。
●「物言う医師会長」に与党反発 「あれはいかん」と麻生太郎氏 3/17
新型コロナウイルスの感染拡大防止を政府や国民に訴え続けてきた日本医師会(日医)。日医の2つの政治団体が、自民党の派閥向けでは異例の高額となる計5000万円を麻生派に献金していた。団体のトップは当時、物言う医師会長として知られた中川俊男氏。政府のコロナ対策に厳しい発言が多く、与党議員らの反発を買っていたことが高額献金の背景に浮かび上がる。(杉谷剛、奥村圭吾)
「堂々と物を言える、新しい日本医師会に変えていこうと思っています」
2020年6月、東京・本駒込の日医会館。2年に1度の会長選で、現職の横倉義武氏(現日医名誉会長)を破った中川俊男氏は訴えた。
日医の役員を長く務め、診療報酬を議論する厚生労働省の審議会では舌鋒ぜっぽう鋭い政策通と知られた。前任の横倉時代は政府与党との関係がよかっただけに、物言う新会長に与党議員らの間でも警戒感が広がった。コロナ禍での記者会見でもしばしば政権を批判。反発を買うこともあった。
「Go To トラベル自体から感染者が急増したというエビデンス(根拠)ははっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」。20年11月の会見でそう述べ、自民党の会合で釈明を求められる事態に。
12月には、菅義偉首相が8人でステーキ会食したことが明らかになった。中川氏は翌21年1月、緊急事態宣言が出る前日の会見で「宣言下においては、全国会議員の会食を人数にかかわらず、全面自粛してはどうか」と、政治家に臆せずに呼びかけた。
日医の幹部は「中川さんは官僚や政治家にも強気だったので『今度の会長はいかん』という声が議員らから次第に出てきた。麻生(太郎・自民党副総裁)さんも、懇意にしていた横倉さんを選挙で負かした中川さんに、いい感じは持っていなかった」と話す。
21年10月の衆院選で、派閥の候補者の応援演説に訪れた麻生氏は、会場にいた医師会関係者に中川氏のことを「あれはいかんな」と言ったという。「麻生さんが中川さんを嫌っている」という情報は地方の医師会幹部らにも広まった。
日医の政治団体・日本医師連盟(日医連)の関連団体が麻生派へ4000万円を献金したのはその衆院選の約1カ月前。4日後には日医連も1000万円を献金した。
その後、年末の予算編成時に決まる22年度の診療報酬改定率を巡り、日医や自民党の厚労族議員らと財務省の主張が真っ向から対立する。日医関係者によると、中川氏は前任の横倉氏に麻生氏との会食を相談。改定率が決まる直前の12月、横倉氏が麻生氏に依頼して会食が実現した。
日医幹部は「われわれにとって診療報酬は生命線。財源をどれだけ持ってくるかというのが会長の大きな役割だから、中川さんも必死になって当然」と話す。
一連の事情を知る政界関係者が明かす。「献金の意図はやはり財務大臣との関係を何とか改善したいと、そういうことだ。でも麻生さんはぎりぎりまで、日医の主張に反対した」
焦点の改定率は日医と財務省の双方の主張の中間の0.43%で決着。最後は岸田文雄首相の裁定とされた。「厳しい国家財政の中で、プラス改定になったことは率直に評価させていただきたい」。中川氏は会見でそう総括してみせた。
日医連は都道府県の医師連盟から毎年10億円近い寄付を受け、21年は約5億円を政界に寄付している。
●米銀破綻やクレディ・スイス、日本経済への大きな影響想定せず=経済財政相 3/17
後藤茂之経済財政担当相は17日の閣議後会見で米地銀破綻やクレディ・スイスの資金調達が、「現時点で日本経済に大きな影響を及ぼすとは全く想定していない」 と述べた。
スイス中銀によるクレディ・スイス支援表明が欧州中央銀行(ECB)の利上げに対する懸念を相殺したと指摘した。
●日・アンゴラ投資協定交渉が実質合意、ビジネス関係強化へ 3/17
日本の外務省は3月14日、日・アンゴラ投資協定交渉が実質合意に至ったことを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。外務省は同協定について、投資をめぐる法的安定性の向上を目的とするものであり、日本・アンゴラ間の投資が相互に促進され、両国の経済関係が一層強化されることが期待されるとしている。
岸田文雄首相とアンゴラのジョアン・ロウレンソ大統領は3月13日、官邸において首脳会談を行い、同日に先立ちジェトロが開催した日・アンゴラ・ビジネスフォーラム(2023年3月14日記事参照)などを通じたビジネス関係の強化で一致した。岸田首相はアンゴラについて、豊富な天然資源を有す、将来性の高い国だと評価した上で、今後もロウレンソ大統領の進める経済・金融改革に協力し、エネルギー・経済安全保障の観点からも、日本企業による対アンゴラ投資を促進していくとした。ロウレンソ大統領はあらゆる分野における日本からの投資を歓迎し、両国間の関係をより一層強化していきたいとした。
アンゴラでは近年、ロウレンソ大統領の下で人材育成、インフラ整備、経済多角化が推し進められており、汚職対応や財政健全化、競争法制定や官民連携推進など、外資の誘致に向けた投資環境の整備に力が入れられている。外務省統計によると、2021年10月1日現在、アンゴラに拠点を構える日系企業は9社にとどまるが、今回の投資協定の実質合意を受け、日系企業の進出がより加速することが期待される。
●国債大量購入に「何の反省もない」黒田日銀、戦前・戦中との共通点を考える 3/17
財政規律の弛緩は戦前・戦中以上か
  黒田総裁は最後まで反省なし
「何の反省もありませんし、負の遺産だとも思っておりません」
3月10日、任期中最後の金融政策決定会合を終えた黒田東彦日本銀行総裁は、国債などの保有額がこの10年で激増したことに対する責任を記者会見で問われ、こう答えた。
しかし、果たしてこのような認識でよいのだろうか? 現在の日銀の国債保有額は歴史的にもすさまじいことになっている。
下のグラフは、経済規模に対する日銀国債保有額の比率だ。戦前の高橋是清蔵相によるリフレ政策から戦後までの時期と、最近の様子を表している。
   図表:日銀の保有国債対GNP比の推移
リフレ政策を縮小させようとした高橋是清は、1936年の二・二六事件で暗殺される。以降、日銀の国債引き受けによる財政拡張に歯止めが利かなくなったが、それは単に軍部の圧力のせいだけではなかった。
【リフレ政策】 拡張的な金融政策や財政政策によってデフレ状態からの脱却を目指す政策のこと。日本では1930年代に高橋是清が実施した高橋財政や、2013年以降に安倍晋三元首相が実施したアベノミクスがリフレ政策の事例として挙げられる。
【日銀の国債引き受け】  政府が新規に発行した国債を、民間銀行など市場を介さずに日銀が直接引き受けること。戦後施行された現行の財政法第5条では、この後本文で述べる過度なインフレの発生を教訓に、日銀の国債引き受けは原則として禁止されている。
高橋是清は日銀の国債引き受けを「一時の便法」として始めた。ところが、市場メカニズムを経由しない国債発行に人々が慣れてしまった結果、財政規律に対する感覚に広範囲にまひが生じたのである。
一方、現代の日銀は国債を10年にもわたって“爆買い”し、かつYCC(イールドカーブ・コントロール)政策で市場メカニズムを破壊して国債の発行金利を超低位に固定してきた。これにより、戦前・戦中と同程度、あるいはそれ以上の財政に対する感覚まひが生じてしまっているのではないかと筆者は懸念している。
ここからは戦前の高橋リフレ政策について、当時の経済誌「週刊東洋経済新報」「ダイヤモンド」の論考からひもとく。すると、「国債は国民にとって資産でもあるから、国債の増発を恐れる必要はない」という最近よく耳にする論調は、89年前にも存在したことが分かった。
まずは、高橋是清のリフレ政策を振り返ってみよう。
1931年(昭和6年)の日本経済は、世界大恐慌や国内の農村恐慌などにより消費者物価指数が前年比マイナス12.5%という激しいデフレに見舞われた。
同年に4度目の大蔵大臣に就任した高橋は、金本位制からの再離脱(事実上の大幅円安誘導)を即決定し、翌32年から日銀に金利を大きく引き下げさせつつ国債を直接引き受けさせた。それを原資に、政府は大規模な財政拡張策を実施した。
先ほどのグラフで日銀保有国債のGNP比の上昇が限定的だったのは、インフレが制御不能になるのを警戒した日銀が、引き受けた国債を民間の金融機関に売却して(売りオペ)、マネタリーベースの増加を抑制していたためである。
その国債売りオペは、低利の金利固定式で実施された。当初、金融機関は順調に同オペを通じて国債を購入した。しかし、景気回復にともなって民間の資金需要が高まれば、金融機関は低利回りの国債を日銀から買うよりも、企業などへの貸し出しを増加させる方に魅力を感じるようになる。その場合、日銀の国債売りオペは思うように進まなくなり、日銀保有国債は増加していくことになる。
経済誌では高橋是清の政策論争が活発
  悪性インフレーションへの警鐘も
ここで、当時の経済誌の論考を見ていこう。
1933年2月21日号の「週刊東洋経済新報」は、高橋リフレ政策の今後に関する学者、エコノミスト、ジャーナリスト、政治家など23人の識者の意見を掲載していた。
国債売りオペなどせずに景気刺激策をもっと行うべきだ、という主張も見られたが、「ダイヤモンド」主筆の安田与四郎は、「歳出総額を大に削減しない限り、大インフレーション時代の到来は必死不可避の状勢である。マアケット・オペレーション(注:国債売りオペ)など単なる回り道に過ぎない」と指摘していた。
高橋リフレ政策開始から2年ほど経過した1934年(昭和9年)12月21日号の「ダイヤモンド」では、主筆の野崎龍七が、当時国会で繰り広げられていた赤字公債(国債)の消化力に関する論戦を紹介していた。
同年12月1日の衆議院本会議で高橋蔵相は、公債発行額の限度をはっきり答えられる人はいないため、政府・日銀は「国民の公債を消化する力を測って」いくと説明した。
また、日銀の国債売りオペの状況を観察しながら「日々我々は脈を取って」おり、「まだ今日では飽和力に達したとか、何とか言う事はとても言えるものじゃない、まだまだその心配は今の所ではない」と答え、リフレ政策継続の正当性を主張した。
これについて野崎は、(デフレが適度なインフレになる程度の)合理的インフレーションが悪性インフレに転じ始めるときの政策判断は極めて難しい、といった趣旨で高橋の政策の危険性を憂慮した。
日銀の国債直接引き受けが常態化
  各方面で財政規律の弛緩が鮮明に
実際、高橋リフレ政策からの出口は時間がたつにつれ容易でなくなっていった。「一時の便法」だったはずが、それを”ニューノーマル”と見なす人々が増加したからである。後の大蔵省事務次官、西村淳一郎は回顧録でこう述べている。
・(日銀の国債引き受けを)初め非常に心配して、こんなことをしてえらいことになるのではないかと相当議論の的になっておったのが、これは簡単にできるよい制度だというような空気に変った。
・世間はそれに慣れてしまって引受け制度はあたりまえ、本来かくあるべきものだと考えていた。
・井上(準之助)さんのときには公債は全くいけない。…国家が破滅するとまで言われたものが、高橋さんの時代になると、10億出しても順調にいっている。とすれば、今ここで20億出したところで…やはり順調にいくのではないか。こういう議論が強くなってきて、主計局方面でもそれを抑えるのにずいぶん苦労をした。
各省庁が予算を請求する態度も変わり、無償でお金が政府に入ってくるかのような感覚になっていった。大蔵省で主計畑を歩み、大蔵次官や大蔵大臣などを歴任した賀屋興宣はこう述べている。
「その場限りの便乗主義がはやりまして、なんでもこちらにとらなければ損だ。まずは自分のほうに政府から金をとらなければ損だという考えになり、まじめに基本的に考えることがなく非常にずさんな計画を立てる」ようになった(大蔵省大臣官房調査企画課編「大蔵大臣回顧録:昭和財政史史談会記録」)。
日銀の国債引き受けが「打ち出の小づち」であることを認識した軍部は、国債増発1000億円も可能ではないかと要求するようになった。
89年前の「国債は国民の資産だから問題ない」
  高橋是清も悪性インフレを懸念し全否定
右翼陣営の論客だった久保久治は、1934年8月18日の読売新聞で、「国債の増加は国民間の債権債務の増加であり、信用の増加に外ならず、赤字公債と誰も憂うるに足らない。国民の国債応募力に限度はないのだ」と主張した。
最近よく耳にする「国債は国民にとって資産(債権)でもあるのだから、国債の増発を恐れる必要はない」といった議論は、89年前にもすでに存在していたのだ。
1935年夏頃から、民間の資金需要の強まりとともに、国債の市中消化(日銀の国債売りオペ)が順調に進まなくなってきた。これを見た高橋蔵相は、同年7月26日に出口政策の地ならしを意図する声明を発表する。
「公債が一般金融機関等に消化されず日本銀行背負い込みとなるようなことがあれば、あきらかに公債政策の行き詰まりであって悪性インフレーションの弊害が現れ、国民の生産力も消費力も共に減退し生活不安の状態を現出するであろう」
「世間の一部にはどしどし公債を発行すべしと論ずる者もあるが、是は欧州大戦後の各国の高価なる経験(ドイツなどのハイパーインフレ)を無視するものである」
また高橋は同声明文で、国債は国民にとって債権(資産)だから国債増発は問題ない、という主張を全面否定した。
「国債を通じ債権と債務とが併存するという事実だけはその通りであるが、それだからといって国債増加が差支えなしという結論が簡単に出てくるものではない」
「(利払い費が増えれば)結局印刷機の働きにより財源の調達を計らざるを得ずいわゆる悪性インフレーションの勢を生ずるであろう」
1936年予算で高橋は、日銀の国債引き受けを縮小しつつ軍事費をカットしようとした。ところが軍部は猛反発、高橋との間で激しい論争が起きる。強い怨念を抱いた若手将校らは1936年2月26日に決起し、高橋は非業の死を遂げた。
彼の後を継いだ馬場^一蔵相は、財政支出が膨張しても、それによって税収が増えるなら問題はない、という考えの持ち主だった。
馬場^一蔵相から国債増発は青天井へ
  敗戦後の国債はデフォルト同然に
馬場は蔵相就任前にこう述べた。
「私は実は赤字公債をそんなに恐れていない」
「私は国防費に対して不生産的経費という言葉は使わない」
「国旗の翻る所すなわち我が商権の進出する所、あるいは民族の進出する所だと考えていけば、むしろ(国防費は)生産的だと言った方がよいじゃないか」
さらに、1937年2月に蔵相に就いた結城豊太郎は、「公債発行限度に物差しはない」と公言、馬場蔵相以上の国債増発方針を打ち立てた。また結城蔵相は日銀に対する支配力を高める制度変更も行い、金融政策に対する財政ドミナンスを一層強めた。
結城の指名によって日銀総裁に就任した池田成彬も同年3月に、「公債消化が一時的に不振であっても、国力拡充の見地から見れば何も心配するほどのことはない。それは全く公債消化力を培養することになるから何らの不安懸念を持つべきものではないと考える」との見解を表している。
当時は日銀総裁までもが、今のMMT(現代貨幣理論)をほうふつとさせる主張を行っていたのである。
ここで賃金の動きを見てみよう。現代の黒田緩和下で実質賃金は目減りしてしまったが、当時はどうだっただろうか?
日銀の国債直接引き受け開始前年の1931年から38年にかけて、大半の業種で労働者の名目賃金は緩やかに増加した。しかし同期間に消費者物価は31%も上昇したため、差し引きの実質賃金がマイナスになった業種は、実は当時多かったのである。
例えば、機械・器具は27%減、化学30%減、紡績は33%減、食料品38%減だ。大工と左官は21%減だった。過去も現代もリフレ政策は人々の暮らしを悪化させたといえる。
物価上昇はその後さらにひどくなり、1940年の消費者物価・前年比は30%前後へ跳ね上がった。政府は公定価格制度などの物価統制策を、手を替え品を替え導入し続けるが、それらは弥縫(びほう)策に過ぎず、効果は限られた。
政府、日銀、大蔵省がこのような経済状況を作り上げる中、1941年12月に真珠湾攻撃が実行され、わが国は太平洋戦争に突入する。公定価格と実勢の物価の開きは、ますます拡大した。1944年の実勢物価は、高橋是清が暗殺された1936年と比較すると290%も上昇していた(倍数で言えば4倍弱)。
結局、敗戦後にハイパーインフレという経済崩壊が生じる。1946年に預金封鎖、新円切替、財産税(最高税率は約9割)といった強権発動がなされ、ようやく物価は鎮静化した。
なお、ハーバード大学教授のケネス・ロゴフ氏らは、国債の実質価値がインフレで大幅に縮小したケースもデフォルトに分類している。戦前・戦中に発行された国債は形式上はデフォルトしていないが、インフレによって実質価値は紙くずと大差なく、実態としてはデフォルト同然と言える。
植田新体制に残された「負の遺産」
  緩んだ財政規律が出口の障壁に
話を現代に戻そう。米国シリコンバレー銀行の破綻やクレディ・スイスの経営危機などの影響を見極める必要はあるが、植田和男次期日銀総裁は、基本的には弊害が多いYCCを数か月以内に終了させると筆者は予想している。
とはいえ、10年国債金利が1%辺りを大きく超えて跳ね上がらないように、日銀は国債を年間数十兆円ペースで当面購入し続けるだろう。
また、マイナス金利政策の解除は年内に実施されるか否か微妙だが、仮にあったとしても、ゼロ金利政策に戻ってしばらく様子を見ると思われる。
よって、YCCの終了およびマイナス金利解除までは、異次元緩和の“異次元”の部分を弱める変更でしかない、といえる。その程度の修正は岸田政権の許容範囲と推測され、与党との摩擦も限定的だろう。
だが、植田次期総裁の5年の任期の中頃以降、正常化策がより本格化してくると、政府との間で対立が深刻化する恐れはあるだろう。
これまで黒田総裁の政策の下で、政府は何の心配もなく巨額の国債発行を継続できた。しかし、正常化策が進んでいけば、戦前に見られたように、「出口に行くな」と叫ぶ声が多方面から湧いてくる可能性がある。
黒田総裁が残した「負の遺産」は、日銀新体制に重くのしかかる。さまざまな衝突をくぐり抜けて正常化の道を進むのか、それとも各方面に配慮して「負の遺産」までも継承してしまうのか。植田次期総裁の選択が、日本経済の将来にとって重要な分岐点になるだろう。
●「マイナス金利深掘りすれば利回り全体が低下」は間違い=日銀総裁 3/17
日銀の黒田東彦総裁は17日、参院・財政金融委員会で「マイナス金利をどんどん深掘りしていけば、国債を大量に買い入れなくてもイールドカーブ全体が低下していくということにはならない」と述べた。
浅田均議員(日本維新の会)の質問に答えた。
黒田総裁は「国債を全然買い入れず、マイナス金利の深掘りだけで経済活動に一番影響を与える中長期金利を引き下げることは難しい」とも話した。
イールドカーブ・コントロール(YCC)の下、日銀は短期金利の目標として日銀当預の政策金利残高にマイナス0.1%を適用している。黒田総裁はマイナス金利を深掘りする余地はあるが「どこまでできるかは、その時の金融システムの状況などにもより、事前に言うのは難しい」と述べた。マイナス2%やマイナス3%まで引き下げるのは「どこの国もやっていないし、金融仲介機能に大きな衝撃を与える恐れもあるので難しい」とした。
●アベノミクスで「40歳以上の給料の低下が顕著」消費税アップがもたらした結末 3/17
アベノミクスは次元の違う金融緩和を行った
アベノミクスの登場
消費者物価の前年比上昇率2パーセントの目標を掲げた政府・日銀の共同宣言から約半年後の2013年6月14日、安倍政権は「日本再興戦略」を発表し、そこで「アベノミクス」を明示します。
大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」で経済成長を実現するというものです。ただ、その一部は、安倍氏が政権に返り咲いた2012年12月ごろから動きはじめていました。
バブル経済の後遺症から日本経済が立ち直りつつあった1997年、当時の橋本龍太郎政権が消費税率を引き上げるなど苛烈な緊縮財政をやったために、デフレ状態となってしまいます。「橋本デフレ」と呼ばれましたが、以後、日本は慢性的なデフレの状態から脱出できなくなってしまいます。
慢性デフレが始まった1997年からアベノミクス前の2012年までは、賃金の急減ぶりが目立ちます。物価下落の速度は緩やかで、賃金下落のスピードのほうがはるかに速くなっていました。経済学の教科書的には、デフレは物価の継続的な下落を意味します。しかし、デフレが続くことで激しい賃金下落(賃金デフレ)につながる、そう解釈したほうがより現実的だと思います。
橋本デフレで急激な賃金デフレに陥りますが、2001年以降は円高是正と米国の住宅ブームによる対米輸出増で景気がもち直し、賃金も下げ止まりました。しかし2008年9月のリーマン・ショックで、再び賃金デフレに向かいます。
そのなかでも当時の白川日銀総裁は、金融緩和を拒否します。2011年3月11日には1万8425名もの死者・行方不明者が発生する東日本大震災が起き、巨額の復興資金が必要とされる状況になるのですが、それでも白川総裁は金融緩和拒否の姿勢を変えません。その結果、超円高を招いてしまいます。
この惨状を深刻に受け止めながら、捲土重来を期して経済政策の研鑽を重ねていたのが安倍晋三氏でした。安倍氏は、2007年9月に持病のため首相就任1年足らずで辞任してしまいます。それでも政治家を引退するつもりはなく、復帰を画策していました。その復帰に向けて着目していたのが経済政策でした。
2011年11月に、私は拓殖大学のシンポジウムに講師として招かれました。そのとき同じ壇上に並んだのが、安倍氏でした。彼はエコノミスト顔負けの日銀の金融政策批判を披露し、大胆な金融緩和の必要性を説いていました。アベノミクスで金融の異次元緩和を第一の矢とする構想は、あのとき、すでに固まっていたのだと思います。
アベノミクスの三本の矢が明確に示されたのは、2013年6月でした。しかし第一の矢である金融の異次元緩和は、2013年3月の黒田東彦氏の日銀総裁就任と同時にスタートしています。黒田氏が安倍氏の意を受けていたことは間違いありません。
異次元緩和の呼び方は、2013年4月の会見で黒田総裁が、「量的に見ても、質的に見ても、これまでとはまったく次元の違う金融緩和を行う」と発表したことに由来しています。
日銀の伝統的な金融市場操作目標は金利でしたが、異次元緩和では資金供給量(マネタリーベース)に変更されました。それも、2年間で2倍にもなるペースの大規模なものでした。これを、物価上昇率2パーセントの達成まで継続する、としています。
この第一の矢は、円高の是正をもたらし、輸出の回復に貢献しました。第二の矢である機動的財政出動は初年度だけで終わりましたが、第一の矢が主導するかたちで雇用情勢も上向きます。2013年からは賃金下落トレンドから脱して、正規雇用の賃金は2019年まで、全雇用とパートの賃金も2018年まで徐々に上昇を続けていきます。
雇用改善を端的に表すのが有効求人倍率の上昇です。アベノミクス効果のひとつに違いありません。
ただし、賃金上昇を上回る速度で上昇していったのが物価でした。アベノミクスの前は、賃金の下落幅が物価の下落に追い付かない状況でした。それがアベノミクスの後になると、物価上昇に賃上げが追い付かない状態になります。
正規雇用とパートで濃淡はあるものの、物価を勘案した雇用全体の実質賃金の下落ということでは、アベノミクスの前後で変わりがありません。デフレから脱却できない状態が続いているわけです。
グラフ7-6はアベノミクスを挟んで、求人倍率、賃金、物価を詳細に追っています。
消費税率を引き上げると物価があがる?
未完のアベノミクス
アベノミクスのなかで物価が上昇しつづけた理由は、消費税の増税です。2014年4月、安倍政権は消費税を5パーセントから8パーセントに引き上げます。
繰り返しますが、消費税増税分は消費者にとっては小売価格の値上げと同じなので、当然ながら需要を押し下げます。そして落ちる需要を引き留めるために値下げが行われるので、デフレ傾向を強めていくことになります。
内閣府でこの増税を仕組んだ某エリート官僚は、「消費税率を引き上げると物価が上がりますからねぇ」と私にうそぶいていたものです。手段はなんであれ、物価さえ上がれば脱デフレだという不見識極まる官僚が日本を壊してきたと言えます。
この消費税増税、じつは安倍氏はためらっていました。それでも三党合意に束縛されました。三党合意とは、2012年6月に行われた民主党政権(野田佳彦内閣)のときに民主党、自民党、公明党の三党による社会保障と税の一体化改革に関する合意のことです。
そのなかで社会保障の安定財源を確保するために、消費税を5パーセントから8パーセントにすることが盛り込まれていました。三党合意を反古にするためには、法改正が欠かせません。
そればかりではありません。信頼を置く日銀黒田総裁の進言です。2013年秋は、翌年四月からの増税を実施するか延期するかの最終判断を迫られます。そのとき、黒田総裁が「テールリスク」(発生確率は極めて低いが、起きれば破滅する)論を振りかざし、国債暴落リスクを口にし、安倍氏を脅したのです。
安倍氏は後で周辺に、「ポリティカル・キャピタルがなかった」と語っていたそうです。ポリティカル・キャピタルとは米国の政治用語で、反対勢力に対して自らの意見を押し通せるだけの政治的影響力という意味です。
これで消費税率の引き上げが終わったわけではなく、2019年10月には景気減速の最中にもかかわらず10パーセントに引き上げられます。それも、三党合意のなかにあったからです。安倍氏は、10パーセントへの引き上げを2回にわたって延長して抵抗しますが、ついには上げざるを得なくなりました。
消費税率引き上げは、せっかく労働者が受けとる賃金そのものである名目賃金が上がっていたにもかかわらず、名目賃金から消費者物価指数を除した実質賃金を下げることになりました。これによって、GDPの6割を占める家計消費は萎縮してしまいます。
2021年度の政府の消費税収(一般会計分)は、増税前の2013年度に比べて11兆円以上も増えました。しかし、家計消費は6.4兆円以上も減ってしまっています。それだけ、国内需要が減ったことになります。
国内需要の減退を目の当たりにした企業は、人件費の節約を一層強化します。製品が売れなくなって利益が減る分だけ、コストを抑えなければやっていけないからです。
正規雇用でも、転職が難しくなる40歳以上の給与水準の低下は顕著で、給与を下げても退職されるリスクも少ないので、企業側も安心して下げるわけです。中高年に比べて昇給が優先される傾向にある若手も、先輩たちの低賃金を見て労働意欲を失うことになります。経営側としては工夫したつもりでも、全体の労働効率を下げてしまっているのが現実です。
2021年4月に、安倍氏が会長を務める「ポストコロナの経済政策を考える議員連盟」の勉強会に、私は講師として招かれました。その冒頭で私を紹介する安倍氏は、「田村記者には筆誅を加えられました」と述べました。全国紙がことごとく消費税増税に賛成するなか、私だけがデフレ圧力を強めるとして、安倍政権の消費税増税を批判したからです。
そして安倍氏は『正論』2022年2月号、米エール大学の浜田宏一名誉教授との対談で、「最初の消費税の3パーセント引き上げですが、税収の5分の4は借金を返すために引き上げたことが(中略)デフレ圧力にもなってしまった」と語っています。
さらに、「デフレから脱出するというロケットの推進力が大気圏外にでていく際に少し弱まってしまった」とも述べ、「プライマリーバランス(社会保障などの政策的経費を税収で賄えているかを示す指標)の黒字化をめざしていくという大きな政府与党の方針である程度縛られてしまった。私の反省点です」と無念さをにじませていました。
安倍氏が言及している「プライマリーバランスの黒字化」は、国債償還費を除く財政支出を税収・税外収入の範囲で抑えることを意味しています。防衛、インフラ整備、教育、基礎技術研究など国の安全や成長基盤をつくるための財源は、国債発行で賄うのが国際常識です。現行の税収の範囲にとどめようとすれば、先行投資は限られてしまうからです。
国力を自らの手で衰退させかねないのが、プライマリーバランスの黒字化です。
米国をふくむ先進国で、プライマリーバランスの黒字化を財政目標にしている国は、日本以外にありません。1997年に橋本龍太郎政権が導入して以来、自公政権はもとより民主党政権ですら守ってきました。
それが招いたものは、経済のゼロ成長と需要の萎縮です。即ち、デフレ圧力でしかありません。それは、現在も続いています。
安倍暗殺で日本の脱デフレは遠のいた
続く脱デフレの戦い
2020年8月28日、安倍晋三氏は首相辞任を発表しました。その後の安倍氏は、財政主導による脱デフレに邁進していきます。2021年11月に発足した「自民党財政政策検討本部」や2022年2月発足した自民党若手議員による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の最高顧問として、党内世論を積極財政へと誘導していきます。積極財政を推進する議員連盟の会合には、私も講師として呼ばれて話しました。
そうした脱デフレに奔走する安倍氏の前に立ちはだかったのは、財務省に洗脳されてきた自民党長老などの多数派です。なかでも、財務官僚出身議員の多い宏池会が最大の勢力でした。
その宏池会の通称は岸田派であり、2021年10月に就任した岸田文雄首相の出身派閥です。その岸田氏は、就任以来、「2025年度黒字化目標の変更の必要なし」と明言してきていました。しかし、2022年5月末に発表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」案で、「2025年度プライマリーバランス黒字化達成」を外しています。安倍氏を代表とする積極財政派からの攻勢を受けての結果です。
骨太の方針は翌年度の予算の骨格を意味するもので、財務省主計局の橋頭堡です。そこで「プライマリーバランス黒字化目標達成」の表現が削除されたとしても、プライマリーバランスの黒字化達成目標が消滅したわけではありません。
そこには、「トリック」が隠されています。岸田政権による政府案には、「骨太の方針2021」を来年度予算編成の基準にすると記されてもいます。その骨太2021は、2018年の骨太の方針を堅持しており、そこでは「2025年のプライマリーバランスの黒字化」が目標にされているのです。つまり岸田政権の政府案から言葉は消えても、2018年骨太が堅持される以上、「2025年のプライマリーバランスの黒字化」は生きていると解釈される可能性が高いのです。
安倍氏が固執した防衛費に関しては、上限枠を当てはめず、財政規律の例外扱いにすることを財務省は認めました。岸田首相が2022年5月に来日したバイデン大統領に「防衛費の相当な増額」を約束したのですから、財務省も抗えなかったと思います。
ただし、プライマリーバランスの黒字化を盾にして、防衛費を5年間で倍増したければ、防衛費以外の政策経費を大幅に削るか、さもなければ消費税などの増税による財源確保を岸田首相に迫るはずです。それを、均衡財政主義者である岸田首相が受け入れる可能性は高い。
2022年7月8日、安倍氏は遊説中に旧統一教会に恨みをもつ者に暗殺されました。積極財政派の中心だった安倍氏が亡くなったことで、プライマリーバランス黒字化に向けて財政支出全体の削減と増税による従来の緊縮路線を岸田首相はすすめていくことになるでしょう。日本の脱デフレは遠のいたことになります。
●岸田首相、SDGs達成に危機感 3/17
政府は17日、持続可能な開発目標(SDGs)推進本部(本部長・岸田文雄首相)の会合を首相官邸で開いた。あいさつした首相は国際社会が直面する気候変動や感染症などで「SDGsは2030年までの達成が危ぶまれている」と危機感を表明。「新しい資本主義の下、成長と分配の好循環を実現し、民間の力を活用した社会課題の解決を図る」と述べた。 
●「ねつ造」で高市大臣は崖っぷち…岸田首相批判続出でも上機嫌の理由 3/17
岸田文雄首相は今、たいへん「機嫌がいい」という。
立憲民主党の小西洋之参院議員が公表した「文書」に関し、予算委員会で高市早苗経済安保担当相が「過剰反応」ともみえる答弁を展開。高市氏は小西議員に対し「ねつ造だ」と猛反発。「事実なら、大臣は辞任する。国会議員も辞職する」とまで啖呵を切った。
問題の文書が示すのは、’14年から’15年に「安倍政権下で言論の自由にかかわる議論が官邸を中心に行われていた」という民主主義の根幹に関わる事実。とはいえ、あくまで安倍政権当時の官邸協議だと判断したという。
「総務省が文書を本物だと認めた背景には、岸田首相の意向があった可能性が高い。岸田政権が火の粉をあびる危険はない、と判断したんです」(関係者)
岸田政権にとっては「一切関わりのない過去のこと」であり「放送法の解釈は変更していない」という「他人事」案件なのだ。
つぎつぎに沈む「ポスト岸田」物件
安倍晋三元首相の「後継」とまで言われた高市大臣は、総務省文書でまさかのオウンゴール。統一教会問題でしばし沈黙せざるをえない萩生田光一政調会長。ツイートすれども姿は見えない河野太郎デジタル担当相。失言、妄言続きで、党内はおろか自派さえ統括できない茂木敏充幹事長。岸田首相にとっては、ポスト岸田として名前が挙がるライバルたちが次々と脱落していく光景が愉快でならないらしく、このところ「機嫌がいい」(官邸関係者)のだという。
今回の騒動で岸田首相は、高市大臣を助けるどころか「5人目の閣僚辞任もありえる大ききなリスクを取りにいった」と、岸田首相に近い閣僚経験者が解説した。
「岸田政権が打ち出した、所得税を財源としたNATO並み防衛予算増額案に対し、高市大臣がいち早く噛みついた。大臣のクビを掛けて反対したのです。このことが、岸田首相の逆鱗に触れた。それで、この総務省文書を渡りに船と、”高市切り”を仕掛けたのではないか」
報道の政治的公平性をめぐる重大問題で野党渾身の追及だったが、自民党内の政争に活用された格好だ。国民の生活苦が深刻化するなか岸田政権の支持率は低く、長男・翔太郎氏の秘書起用問題でさらに期待を裏切った。「聞く力」「真面目が取り柄」のイメージはすっかり薄まった岸田首相、支持率はむしろ「低値安定」ともいわれ、党内での地位は堅牢になりつつある。
「岸田政権は低支持率ながら、自民党の政党支持率は高く、政権支持率と政党支持率を合計すると、自民党政権という観点では及第点を維持している」
麻生太郎副総裁はそう言って岸田首相を支える。茂木幹事長は8日、数百人の企業経営者を前にした懇親会で、
「日本の経済成長率は先進国トップ。岸田政権は安定した」と言い切った。
1月、首相の海外歴訪に同行した際「観光三昧・お土産問題」で国民の不興をかった翔太郎秘書官。就任以来「女性の影」が絶えず、情報漏洩疑惑からの「お土産問題」で世論から大きな疑問を呈されている。が、それでも首相が動じなかった理由は「ライバル自滅」の党内事情も大きいのだ。
目指すのは「後継・長男の将来」
「岸田夫人の裕子さんが、翔太郎はメディアに近すぎると叱ったそうです。今は、裕子夫人の厳しい監視下に置かれていて、近況もあまり聞こえてこなくなった」(宏池会議員)
とはいえ、当の翔太郎秘書官は、黒マスク姿で「首相の精神的安定」のための任務を日々こなしている。夫唱婦随でリスクを徹底的に排除し、後継者となる長男と常に行動をともにする岸田首相。その目は、広島サミット後の解散総選挙、さらにその「先」を見据えているのだ。
●「岸田首相、尹大統領に5月のG7首脳会議招待の意思を伝達」 3/17
日本の岸田文雄首相が、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領との首脳会談で5月に広島で行われる主要7カ国(G7)首脳会議に韓国を招待する意思を伝えたと、共同通信が17日、日本政府関係者の話として報じた。
日本の公営放送NHKも、日本政府が両国関係改善のためにG7首脳会議に尹大統領を招待する方向で最終調整していると伝えた。
今年、G7議長国の日本は、核とミサイル挑発を続ける北朝鮮、覇権主義の歩みを強化する中国、ウクライナに侵攻したロシアに対応し、価値観を共有する国家との結束強化を念頭に置いて、韓国の招待を検討してきたという。
尹大統領は15日に出た読売新聞とのインタビューでG7首脳会議参加について「普遍的価値を共有する国々と安保、経済など様々な課題で強力な連帯と協力を構築できる機会になる」と述べた。
日本は2008年、北海道洞爺湖で開かれた主要8カ国(G8)首脳会議にも韓国を招待している。
尹大統領と岸田首相は前日の首脳会談で、安全保障・外交・経済など幅広い分野での関係改善に合意し、両国の協力を強化する協議体を早急に復元することで合意した。
●岸田首相、少子化対策で会見 児童手当拡充や育休促進 3/17
岸田文雄首相は17日記者会見し、政権の最重要課題として少子化対策への見解を表明した。男性育休取得率を2025年度に50%、30年度に85%とする目標を掲げたほか、育休取得家庭の産後の給付率を手取りの10割にすると明言した。
配偶者に扶養されているパート従業員の就労時間抑制につながる「年収106万円の壁」に関しては、手取りの逆転が生じないよう制度見直しに取り組むと語った。
児童手当拡充や若い世帯の住居支援など包括的な支援を講じる、とも述べた。
●萩生田光一・政調会長が政治資金パーティーで無責任発言 3/17
岸田政権が総務省の放送法文書問題の泥沼にはまっているのを横目に、自民党最大派閥の安倍派では水面下の跡目争いが激化している。派の結束を保つには、安倍晋三・元首相の死後、空席のままになっている会長を決め、新体制を構築するのは急務だろう。その「最大派閥の会長」という権力の座に意欲を隠さないのが萩生田光一・自民党政調会長だ。
「安倍元首相の一周忌(7月8日)をめどにしかるべきリーダーを立てたい」と後継会長選びの期限を明示して「私で役立つことがあると皆さんが言ってくれるのであれば、どういう立場でも頑張る」と事実上の出馬を宣言。2月24日には盛大な政治資金パーティーを開いて“軍資金”を集めるなど“安倍の後継者はオレだ”とアピールしまくっている。
萩生田氏がとくにライバル視しているのが、自分と並ぶ有力候補の西村康稔・経産相だ。2人は当選同期で、どちらも安倍内閣の官房副長官を経て、大臣を2回経験するなど政治キャリアはほぼ同じ。昨年8月の内閣改造では、経産相だった萩生田氏が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係を批判されて政調会長に横滑りすると、西村氏が後任の経産相に就任したという因縁がある。2人にとっては、安倍派の跡目争いに勝つか負けるかで今後の政治家人生は明暗を分けることになる。
萩生田氏が地元・東京都八王子市内のホテルで開いた前述の政治資金パーティーは1000人あまりの支持者が詰めかけ、まるで安倍派会長選びの“出陣式”の様相だった。そんな中、萩生田氏はパーティー冒頭の挨拶で政策について語る場面で、次のように話したのだ。ちょうど電力各社が政府に4月からの電力料金大幅値上げを申請したばかりだった。
「今、円安で日本経済すごく喘いでます。そしてエネルギーが暴騰して、『これ電気代どうなっちゃうんですかね? 経産大臣じゃなくて良かったな』と毎日思いながらですね、電気代の暴騰に本当に心を痛めてます。
私の(経産相)時代に補助制度を作っておきましたので、これがしばらくはワークするんですけれど、各電力会社はその電力料金、基本料金の値上げを申請してきました。したがってさらに上がることになるんです。なんとかならないのかと皆さんに言われますが、資源のない日本が海外からの石油やガスを燃やして電気を産んでる以上、この問題を解決はできません」
電力行政を所管する西村経産相の窮状を揶揄?
パーティーの参加者はこう話す。
「参加者の間では、電気代や物価高騰で日常生活が苦しくなっている中、仮にも党を引っ張る立場にある萩生田さんがこのような無責任な発言をするのはどうなのかと疑問の声が上がっていました」
萩生田氏のこの発言はライバルの西村氏の窮状を揶揄して見せた、という見方もある。安倍派関係者はこう言う。
「岸田内閣は経済対策で電気代・ガス代の負担軽減を打ち出し、今年2月分から標準家庭で月約2500円分値下げしました。ところが、電力各社が電気料金大幅値上げを申請したため、せっかくの負担軽減策が帳消しになってしまう。
そこで岸田首相が“待った”をかけて4月からの電気料金値上げはいったん先送りされたものの、電力行政を所管する西村氏は、赤字の電力会社からの値上げ申請と、負担軽減を求める声との板挟みになっています。元経産相の萩生田氏はこの事態を見越して『経産相じゃなくて良かった』と西村氏の窮状を揶揄して見せたのでは」
萩生田事務所にこの発言の意図について聞いたが、締め切りまでに回答は得られなかった。だが、電気代高騰で苦しんでいる国民感情を考えると、あまりに無責任な発言だと思われても、仕方ないだろう。
●なぜ安倍政権は「異次元の金融緩和」を実施できたのか… 3/17
日銀総裁交代での関心は「アベノミクス」だけではない
10年ぶりとなる日銀総裁の交代が近づいている。岸田政権は2月、黒田東彦総裁の後任候補に、元日銀政策委員で経済学者の植田和男氏を充てるなどとした正副総裁の人事案を国会に提示。人事案は3月10日に国会で同意され、植田氏は来月にも就任する見通しだ。
日銀総裁人事の関心は、ほぼ次の1点に集約されている。第2次安倍政権以降の自民党政権が掲げてきた「アベノミクス」の最大の柱であった「異次元の金融緩和」を今後も維持するのか、見直すのか。つまりは「アベノミクスから脱却するのか、しないのか」ということだ。
そのことはもちろん理解する。ただ「アベノミクスからの脱却か否か」という話を、単なる政策論としてのみ語ることには、ある種の違和感を拭えない。
安倍政権は日銀を力でねじ伏せてきた
仮に「異次元の金融緩和」という経済政策が正しかったとする(筆者にはそうは思えないが)。もし正しかったとするならば、そのために安倍政権以降の自民党政権がとってきた対日銀の姿勢、有り体に言えば「日銀を政府のいいように、好き勝手に動かした」ことまで、すべて「正しかった」と言っていいものなのか。
第2次安倍政権以降10年以上にわたり自民党政権の各所でみられる「政府からの独立性を強く求められてきた機関を、政権が力でねじ伏せて異論を封じる政治」を見直すのかどうか。それは「アベノミクスからの脱却か否か」という政策論とは似て非なるものであり、そして筆者としては、そちらの方がはるかに気にかかる。
橋本政権時に日銀への監督権限は弱まった
現在の日本銀行法は、大手金融機関の相次ぐ破綻で日本が金融危機に見舞われていた当時の1998年、戦時中の1942(昭和17)年に制定された旧法を改正して制定された。その時のポイントが「日銀の独立性の担保」だった。
戦時立法として制定された旧日銀法は、政府が日銀総裁を解任する権限を持つなど国家統制色の強い内容だった。政府からの独立性の弱さゆえに、政治の介入を思わせる事態もあった。過去には「日銀総裁解任」に言及した自民党重鎮もいた。
しかし、バブル崩壊という苦い経験を経て、いわゆる「自社さ」(自民党・社民党・新党さきがけ)の橋本政権時代に法改正の動きが始まった。政府から独立した中央銀行としての日銀が、中立的・専門的な見地から金融政策を立案できるようにすることが、法改正の柱。政府が日銀総裁を解任できる規定が削除されるなど、政府による監督権限は大幅に縮小された。
政府の権限を縮小する方向での法改正が可能だったのは、当時の橋本政権が自民党単独政権ではなく、社民党とさきがけという、現在の立憲民主党の源流とも言える政党が政権与党に加わっていたことも、無関係ではなかったかもしれない。
「異次元の金融緩和」の本当の意味
しかし、デフレ不況が長期化するなか、政界では「日銀の独立性が強すぎる」との声が高まった。いったん下野していた自民党が2012年に政権に復帰する前夜から、日銀に対する政府の影響力を強める方向性での法改正が模索され始めた(自民党だけでなく、当時のみんなの党や民主党の一部にも、こうした動きがあった)。
そして自民党が政権に復帰すると、当時の安倍晋三首相が大々的に打ち出したのが、アベノミクス最大の柱と言ってもいい「異次元の金融緩和」である。「異次元」という言葉は、単に「規模の大きさ」という意味で使われたのかもしれないが、筆者には「日銀に求められている次元を超えた、本来あるべきではない」金融緩和だと聞こえた。安倍氏が首相退任後の昨年5月に「日銀は政府の子会社」と発言して物議を醸したことは、まさにそのことをよく表していたと思う。
日銀法が「政府からの独立性を高める」方向で改正されたにもかかわらず、アベノミクスで政府と日銀が一体化してしまうような施策を行うことができてしまったのは、日銀法自身にあらかじめ埋め込まれていた「弱点」のためだったと筆者は考える。
日銀法には「日銀は常に政府との連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」との条文がある。実は法改正当時から、この条文について「独立性の担保は大丈夫か」との懸念が出されていた。
その懸念が現実となったのがアベノミクスだ。
自民党は「ちゃぶ台返し」できる規定を忍ばせた
前述した通り、日銀法が改正された当時の橋本政権は「自社さ連立」政権だった。「非自民」の細川政権発足で野党に転落した自民党が、55年体制下で敵対した社会党などと連立を組む、という驚くべき方法で政権に復帰して、まだ間もない頃。政権内の意思決定にも社会党やさきがけの意思を無視することができず、ある意味自民党が最も「好き勝手がやりにくかった」時代だったわけだ。だからこそ、政府からの独立性を重視した法改正が可能だったと考えられる。
しかしそんな時でも自民党は、こうした法改正の理念を「ちゃぶ台返し」できる規定を、さりげなく忍ばせておいたのだと筆者はみている。いつか党勢がさらに回復した時、自分たちの思うに任せなかった時代に「決めざるを得なかった」政策決定を「なかったこと」にするために。
アベノミクスとは、つまりは自社さ政権時代に「21世紀の金融システムの中核にふさわしい中央銀行を作る」(日銀のウェブサイト)という政治理念を、法に触れない範囲で大きく「ちゃぶ台返し」したものだと言っていい。
日銀は牙を抜かれて「おとなしい番犬」になり下がった
日銀だけではない。民主党から政権を奪還して以降の10年余り、第2次安倍政権以降の自民党政治とは、冒頭に書いたように「政府からの独立性を強く求められてきた機関を、政権が力でねじ伏せて異論を封じる政治」だったのではないか。
その高い独立性から、時に政府の方向性に異を唱えることも役割の一つとされていた機関から、次々に「牙」を抜いて(彼らにとっては少しでも自分たちに異を唱えられることは「政府に牙を向く」行為としか受け取れなかったのだろう)「おとなしい番犬」に変質させていく。そうすることで政権(行政)がフリーハンドを確保し、歯止めの効かない「やりたい放題の政治」を実現する。それが第2次安倍政権以降の自民党政治だ。
岸田政権の日銀への権力行使に注視すべき
内閣法制局の人事に手を突っ込み、集団的自衛権の行使に関する憲法解釈の変更に手を貸すようなまねをさせたことも、検察庁法を改正し、人事を通じて時の権力に都合の良い検察をつくろうとしたことも、みんな同じ文脈で語れるのではないか。政府機関とは異なるが「批判や異論を封じたい」という観点で言えば、現在国会で大きな問題になっている放送法改正問題も「テレビにおける政治報道の牙を抜く」という意味で、同根であるとも思う。
昭和の時代の55年体制当時でさえ少しはあった「権力行使のたしなみ」を、すべて脱ぎ捨てた強権政治。少なくとも筆者は、10年続いた「異次元の金融緩和」に、そのことを強く感じざるを得ない。
「岸田文雄首相はこうした方向から脱却しようとしている」という報道も、一部に散見される。「(量的緩和の)手段は日銀にお任せしたい」など、日銀の独立性に配慮したとみられる発言があるからだろう。だが、一方で岸田首相は「政府・日銀一体となって、物価安定下での持続的な経済成長の実現に取り組んでいきたい」とも語っている。要は前述した日銀法の条文をそのままなぞっているだけであり、現時点で方向性を明らかにしているとは言えない。
日銀総裁の交代について、経済政策の面から注目するのは当然のことだ。だが一方で「政府が権力行使のありようをどう考えているのか」を推し量るための重要な要素としてこの問題を考えることも、同時に必要なことだと思う。この場合、問われているのは新総裁ではない。岸田首相その人の政治姿勢である。
●「史上最悪の屈辱外交…尹大統領、日本の立てた総督のような態度」 3/17
韓日首脳会談が行われた16日、全国各地で政府の強制動員解決策に反対する集会が開催された。集会参加者たちは、今回の韓日首脳会談は強制動員被害者の権利を踏みにじって行われたものだと批判した。
市民団体「キョレハナ」は16日午後、龍山(ヨンサン)の大統領執務室前で「親日売国外交で得た韓日首脳会談反対、強制動員屈辱解決策の廃棄要求、日本の戦犯企業に代わって賠償する経済団体糾弾」と題して記者会見を行った。彼らは記者会見文で「史上最悪の屈辱外交、親日売国、物乞いするようにして得た韓日首脳会談に、いかなる単語を付けても足りないほど屈辱と危機を感じている」とし「大韓民国の大統領ではなく日本の戦犯企業の法律代理人のような、岸田政権が代理として立てた総督のような態度で疾走している」と批判した。
青年諸団体は一斉に、強制動員解決策は「国民の非難を避けるための小細工」だと批判した。全国89の青年学生団体はこの日午後、龍山の大統領執務室前で記者会見を行い、日本の「誠意ある呼応措置」のひとつとして言及されている「未来パートナーシップ基金」について「未来を放棄した売国的決断であり、青年に対する侮辱」だと批判した。全国経済人連合会(全経連)と日本経済団体連合会(経団連)は同日、東京の経団連会館で共同記者会見を行い、政治・経済・文化などの研究・事業に使われる「未来パートナーシップ基金」を造成することを発表した。
大学生の連合団体「平和ナビネットワーク」と30の大学生団体が発足させた「2023韓日首脳会談糾弾大学生行動」もこの日午前、ソウルの龍山駅の強制動員労働者像前で韓日首脳会談糾弾記者会見を行った。50人あまりの大学生たちは「親日首脳会談」、「日本の1号営業社員」、「拙速合意」、「国民無視」、「尹錫悦(ユン・ソクヨル)糾弾」などのプラカードを掲げて「拙速的強制徴用解決策を撤回せよ」、「日本政府は歴史問題に対する責任を認めろ」などのスローガンを叫んだ。
進歩系の56の団体からなる「平和ナビ大田行動」はこの日、大田(テジョン)市庁前で記者会見を行い、「強制動員被害に対する政府の第三者弁済方針は、2018年の最高裁(大法院)判決を無視し、司法主権を放棄する屈辱的解決策であり、戦犯国家と戦犯企業に免罪符を与える親日売国解決策」だとし、「17日まで日本を訪問する尹大統領と岸田文雄首相との首脳会談に反対する」と述べた。
●国立健康危機管理機構は岸田首相の肝いりだが… 3/17
3月13日からマスクの着用に関するルールが「個人の判断」となった。新型コロナウイルスの感染症法上の分類も5月8日に5類に引き下げられることが決まっており、日本でもポストコロナの流れが加速している。
思い起こせば、3年にわたってさまざまなコロナ対策が講じられてきた。本コラムでは岸田政権の対策を中心にその有効性について改めて論じてみたい。
政府は3月7日、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、「国立健康危機管理機構」を新設する法案を閣議決定した。新たな機構は米疾病対策センター(CDC)をモデルとしており、その使命は「感染症の大流行という有事の際に調査・分析から臨床対応までを一体で行う」ことだ。
岸田総理の肝いりの構想だが、筆者は当初から疑問を呈してきた。
米国では最前線で格闘していた医師や行政責任者から「CDCは何もしない。パンデミックの緊急時対応に失敗した」と批判されていたからだ。
CDCは多くの優秀な人材(1万4000人超)を擁しているが、緊急時対応には不向きな組織だったことが災いした形だ。
このため、筆者は「頭でっかちな組織を作るよりも最前線で活躍できる感染症専門医を増やした方が有事対応に適している」と主張してきた。
日本医師会への疑問
感染症専門医はパンデミックの際に地域全体の感染対策を主導できるスペシャリストだが、日本感染症学会が認定する感染症専門医は約1600人に過ぎない 。「その2倍の要員が必要だ」と言われながらも、事態改善に向けた取り組みはまったくなされていない。
国全体の医療体制も脆弱なままだ。パンデミック発生当初から「病床数は世界一多いが、医療人材が分散配置されているため、医療崩壊がすぐに起きてしまう」と揶揄されてきた。
政府は医療体制の充実を図るために、「コロナ病床確保料」や診療報酬に「コロナ特例」を認めるなどの金銭的なインセンティブを設けてきた。だが、運用の際のチェックが甘く、補助金を受け取りながら患者を受け入れない「幽霊病床」が増えるばかりだった。
連日のようにメディアに登場していた日本医師会にも疑問の声が上がっている(2022年3月7日付日本経済新聞)。
同会は医師の代表というイメージが強いが、診療所や病院の経営者の会員率は高いものの、勤務医では3分の1にとどまっており、「パンデミックの最前線で苦闘する医師たちの意見が反映されていない」との声が根強い。
日本医師会に医療現場を動かす権限が与えられていないことも大きな問題だ。コロナ下で需要が高まった往診や遠隔医療などを普及させる務めを果たせたとは言いがたい。
このような状況にもかかわらず、政府は5月8日以降、季節性インフルエンザのように身近な医療機関で対応してもらえる態勢への移行を目指している。コロナ対応の受け皿を現在の4.2万カ所から6.4万カ所に拡充するとしているが、発熱外来を掲げながら診療実績が乏しい「名ばかり」施設が少なからず存在しており、通常医療への移行は政府の期待どおり進まない可能性が高い。
有事に弱い医療体制は一向に改善されていないことから、次のパンデミックの際にも同様の問題が繰り返されるのではないだろうか。
「ワクチン開発大国」は見る影もなく…
今回のパンデミックで幸いだったのは、医療技術の格段の進歩のおかげで、有効なワクチンが極めて短期間で開発されたことだ。
メッセンジャーRNAタイプのワクチンを複数回接種して免疫力を高めたことで、先進国を中心に多くの人々が日常生活を取り戻しつつある。
だが、かつてワクチン開発大国と言われた日本は見る影もなかった。ワクチンの副反応を巡る訴訟の後遺症のせいで国内のワクチンメーカーの能力はがた落ちになっていたからだ。
ワクチンとは異なり、飲み薬では塩野義が1社で気を吐いた。
欧米のメガファームと比べると、塩野義の売上高は10分の1以下に過ぎないが、世界で3番目となる新型コロナの飲み薬「ゾコーバ」を実用化した。
塩野義は承認の過程で2022年5月に鳴り物入りで誕生した「医薬品の緊急承認制度」の適用にトライしたが、「この制度は有効に機能しなかった」との批判が相次いでいる。
審査に時間がかかり、通常の承認制度の運用と大して変わらなかったからだ。
この制度の元になっているのは米食品医薬品局(FDA)の公衆衛生上の非常事態宣言下における緊急使用許可(EUA)だ。米国ではコロナ禍で20近くの薬やワクチンが速やかに承認された(有効性がなかった4製品はその後許可が取り消された)。
「仏を作って魂を入れず」の緊急承認制度の運用が早期に是正されることを期待したい。
塩野義は国際展開にも積極的だ。3月末までに韓国や中国での承認を目指すとともに、米国でも2月から臨床試験を開始しているが、気になるのはゾコーバの原材料の全量を中国に依存していることだ。
塩野義は新たに日本やインドから調達することを検討し始めた(1月6日付日本経済新聞)が、昨年5月に成立した経済安全保障推進法上の「特定重要物資」に指定するなどして、政府も塩野義の取り組みを支援すべきだろう。
パンデミックでは国際協力は欠かせないが、他国からの支援を引き出すために効果的なのは自国の強みだ。多くの課題を抱える日本だが、飲み薬の開発能力に磨きをかけることで次のパンデミックに備えることが最も有効なのではないだろうか。  
●首相記者会見 教育国債「慎重に検討する必要」 3/17
岸田文雄首相は17日の記者会見で、子供・子育て対策の財源に教育国債を発行する案について「財源については、まずは充実する子供・子育て政策の内容を具体化した上で、社会全体でどのように安定的に支えていくか考えていきたい。教育国債については安定財源の確保、財源の信認確保の観点から慎重に検討する必要がある」と述べた。
●岸田首相「楽しいお酒飲んだ」韓国尹大統領とのオムライス外交振り返る 3/17
岸田文雄首相は17日、総理官邸で会見した。
16日に来日した韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と、東京・銀座で行った「すき焼き&オムライス外交」の内容を問われ、「大変楽しいお酒を飲ませていただきました」と明かした。
「夕食会ではどんなお酒を飲み、どんな会話をしたのか。どんな印象を持ったか」と問われ、具体的な中身に触れることはなかったが「個人的なことも含め、信頼関係を深める上で、有意義な会話をしたと感じている。こうしたトップ同士の信頼関係をもとに前に進めることができれば」とも話した。
首相は16日、東京・銀座の日本料理店「吉澤」で、双方の夫人が同席する形でまず、すき焼きに舌鼓を打った。その後、尹氏が以前日本に来た時の「思い出の味」というオムライスを食べるために、同じ銀座の老舗洋食店「煉瓦亭」に場所を移し、通訳だけをまじえて2人で2次会を行った。
内閣広報室は、首相と尹氏が「煉瓦亭」で生ビールを乾杯する様子の写真を公開。両首脳は同店でオムライスだけでなく、トンカツやハヤシライスなども味わったという。
岸田首相はスリムな「筋肉男子」で知られるが、SNS上では「すき焼きとのはしごはない」など、65歳(岸田首相)と62歳(尹大統領)の旺盛な食欲ぶりがSNSでは話題になった。
首相は会見で、首脳会談について「日韓関係で正常化に向け大きな1歩となる、前向きな会談を行うことができた。日韓間にはさまざまな経緯や歴史や経緯もあるが、それを乗り越え、困難な決断をされた大統領には心から敬意を示したい。両国には乗り越えないといけない課題がいくつもある。互いの信頼関係に基づいて1つ1つ乗り越えるべく努力したい」と話した。
●「男女で育休取得」なら給付率“手取り10割“に引き上げ 岸田首相表明 3/17
岸田首相は記者会見で、産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を“手取り10割”に引き上げると表明しました。
岸田首相は記者会見で、産後の一定期間に「男女で育休を取得した場合の給付率を“手取り10割”に引き上げる」と表明しました。また、現在は育児期間中に完全に「休業」した場合に支払われている「育児休業給付」を、休業ではなく時短勤務の場合でも給付できるよう、制度を見直すこともあわせて表明しました。
非正規雇用の人や、フリーランス、自営業者に対しても、育児に伴う収入減少のリスクに対応した「新たな経済的支援を創設する」としています。
男性の育休を巡り、政府は子どもが生まれた直後の男性が取ることができる「産後パパ育休」の拡充を検討しています。「産後パパ育休」は去年10月から始まった制度で、子どもが生まれた後、男性が8週間以内に最大4週間まで、育休とは別に休業できる制度です。「産後パパ育休」を取得している間は、現在は、休業前の賃金の67%の給付金が支給されます。
そうした中、岸田首相が17日の会見で示したのは、この「産後パパ育休」を取得した人が休業前と収入が変わらない、実質手取り10割の収入をもらえるよう、給付率を引き上げるという考えです。
具体的には「産後パパ育休」の給付金を一時的に現在の67%から80%まで引き上げ、社会保険料が免除された手取りで、実質的に休業前と同額の手取りを受け取れるようにするものです。
また政府は、男性だけでなく女性についても休業前の“手取り10割”が確保されるよう、給付率の引き上げを行う考えです。
●岸田首相、放送法解釈は「一貫」 3/17
岸田文雄首相は17日の記者会見で、放送法が定める政治的公平性を巡り、安倍政権時の首相官邸が解釈見直しを求めた経緯を記した総務省文書について「総務省において従来の解釈を変更することなく補充的な説明を行った。この考え方は一貫して維持されている」と強調した。
当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は、文書の一部を「捏造(ねつぞう)」と指摘している。これに関し、首相は「高市氏は当時の知見に基づき説明を続けており、総務省で一連の経緯を精査している」と述べるにとどめた。
●岸田首相 “育休中の手取り収入同程度に 年収の壁に支援策”  3/17
少子化対策として岸田総理大臣は、出産後の一定期間、男女ともに育休を取得した場合、休業前と同じ程度の手取り収入を確保できるよう育児休業給付金の水準を引き上げる意向を表明しました。
また、いわゆる「年収の壁」について、基準の106万円を超えても手取り収入が減らないよう支援策を導入する方針を示しました。
岸田総理大臣は、17日夜、少子化対策について記者会見を行いました。
この中で、岸田総理大臣は、去年の出生数が80万人を下回り過去最少となったことに触れ「このまま推移すると、わが国の経済社会は縮小し、社会保障制度や地域社会の維持が難しくなる。これから6、7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と指摘しました。
その上で「政策の内容・規模はもちろん、社会全体の意識・構造を変えていくという意味で、次元の異なる少子化対策を政権の最重要課題として実現していく」と述べました。
そして、若い世代の所得を増やすことと、社会全体の構造や意識を変えること、それにすべての子育て世帯を切れ目なく支援することの、3つを基本理念に具体的な政策を進めていくと説明しました。
具体的な所得向上策として、一定の年収を超えると配偶者の扶養を外れるいわゆる「年収の壁」について、まずは、基準の106万円を超えると手取り収入が減る逆転現象が起きないようにするための支援策を導入し、その後、制度の見直しに取り組む方針を明らかにしました。
また子どもが多い家庭の負担が大きいことを踏まえ、児童手当の拡充や高等教育費の負担軽減のほか、若い子育て世帯への住居支援など、包括的な支援策を講じていく考えを示しました。
さらに社会構造や意識を変えるため育児休業の取得を推進する必要があるとして、低水準にとどまっている男性の取得率の政府目標を2025年度に50%、2030年度に85%に引き上げることを明らかにし、達成を促すために企業の体制整備の支援を行っていく考えを示しました。
一方、国家公務員については、男性全員の取得を目指し、2025年度には85%以上が1週間以上の育休を取得する計画を策定し、実行に移すとしています。
そして、取得を促す具体策として、育児休業給付について、希望すれば時短勤務でも給付金が支給されるよう見直すほか、出産後の一定期間、男女ともに育休を取得した場合、休業前と同じ程度の手取り収入を確保できるよう給付金の水準を引き上げる意向を表明しました。
さらに、非正規で働く人に加え、フリーランスや自営業の人に対しても、育児によって収入が減った場合に、経済的な支援を行う新たな仕組みを創設する方針を明らかにしました。
また「『こどもファースト社会』の実現をあらゆる政策の共通目標にする」と述べ、国立博物館などの国の施設で、子連れの人が窓口で並ばずに優先的に入場できる「こどもファスト・トラック」を新たに設け、全国に広げていく方針を示しました。
そして、岸田総理大臣は、4月1日にこども家庭庁が発足することに触れ「国民の声をうかがいながら、必要な政策強化の内容、予算、財源についてさらに議論を深め、6月の骨太方針までに、将来的な子ども予算倍増に向けた大枠を示す」と述べました。
その上で「時代の変化、若い方々の意識の変化を的確にとらえつつ『時間との闘い』となっている少子化問題に、先頭に立って全力で取り組んでいく」と強調しました。
“子ども・子育て予算の倍増『骨太の方針』までに具体化”
岸田総理大臣は、子ども・子育て予算の倍増について「政策の中身を詰めなければ、倍増の基準や時期を申し上げることは適当でない。充実する内容を具体化し、その内容に応じて社会全体でどのように安定的に支えていくのか、予算や財源を考えていかなければいけない。『骨太の方針』までに、具体化を進めるとともに、将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示したい」と述べました。
“「教育国債」は慎重に検討”
また、教育支援の財源を「教育国債」で賄う考えはないか問われ「これまでも申し上げているとおり、安定財源の確保、あるいは財源の信認確保の観点から慎重に検討する必要があると考えている」と述べました。
“放送法の解釈は一貫して維持”
放送法が定める「政治的公平」の解釈について「放送法の解釈は、総務省が放送法を所管する立場から責任を持って、従来の解釈を変更することなく、補充的な説明を行ったものであり、この考え方は一貫して維持されている。総務省において、放送法をめぐる一連の経緯に関して、精査を行っていると承知している」と述べました。
“日韓首脳会談 両国間に課題 乗り越えるべく努力”
16日の日韓首脳会談について「正常化に向けて大きな1歩となる前向きな会談を行うことができた。日韓間には、隣国であるだけにさまざまな経緯や歴史もあるがそれを乗り越え、困難な決断と行動をされたユン大統領には心から敬意を表したい」と述べました。その上で「両国間には課題がまだいくつもあり、互いの信頼関係に基づいてひとつひとつ乗り越えるべく、未来に向けて努力していきたい」と述べました。また、ユン大統領と夕食を共にしたことについて「大変楽しいお酒を飲むことができた。個人的なことも含め、互いの信頼関係を深める意味で有意義な会話をさせていただいた。トップ同士の信頼関係をもとに課題を前に進めることができればと期待している」と述べました。
“米銀行相次ぐ経営破綻 引き続き注視”
アメリカの銀行の相次ぐ経営破綻などが日本経済や金融市場に及ぼす影響について「現在、日本の金融機関は総じて充実した流動性あるいは資本を維持していて、金融システムは総体として安定していると評価している。政府としてはさまざまなリスクがありうることを念頭に置き、日本銀行はじめ各国の金融当局とも連携しつつ、内外の経済金融市場の動向が実体経済や金融システムの安定性に与える影響などについて、強い警戒心を持って注視していきたい」と述べました。その上で「本日、財務省と金融庁、そして日本銀行の間で、最近の市場動向について意見交換を実施し、政府と日銀の緊密な連携を確認したところだ。こうした姿勢で、引き続き注視していきたい」と述べました。
“中小企業の賃上げ 原資確保するため生産性向上へ支援”
また、中小企業の賃上げをめぐり「労務費など価格転嫁が十分にできていない状況もあり公正取引委員会の協力のもと、業界ごとに実態調査を行ったうえで、転嫁のあり方の指針をまとめていきたい。最低賃金の引き上げや、同一労働同一賃金の施行の徹底を進めるとともに、賃上げの原資を確保するため生産性向上への支援も進めていきたい」と述べました。
“衆参の補欠選挙 議席を守り抜き拡大していく”
4月行われる衆参の補欠選挙について「今後の国政に影響を与える可能性もある重要な選挙と認識している。自民党の議席をしっかり守り抜き、さらに拡大していくため全力を尽くしていきたい」と述べました。
“マスクを外し息苦しさを感じる場面も少ない”
マスクを外すようになった生活の印象について「息苦しさを感じる場面も少なくなった気がするが、いずれにせよ、マスクはそれぞれの国民の皆さんの判断にお任せするということで政府から何か強制するものではない」と述べました。その上で「できるだけ混乱をきたさないよう、国民の皆さんに適切に判断いただけるような材料を用意しておくことも大切なことではないか」と述べました。
“G7広島サミット 原爆資料館への訪問を検討”
5月のG7広島サミットについて「アジアで開催されるので、『自由で開かれたインド太平洋』に関するG7の連帯を確認をする機会としたい」と述べました。また、「G7首脳を含め世界に被爆の実相をしっかりと伝えていくことは核軍縮に向けたあらゆる取り組みの原点として重要であり、この観点から原爆資料館への訪問をはじめ、検討している」と述べました。一方、招待国や詳細な日程については「まだ決まっていない。検討を続けている」と述べました。
育休取得率の推移・課題
【取得率の推移】厚生労働省によりますと、男性の育休取得率は今の方法で記録を取り始めた1996年度には0.12%でしたが、その後、上昇傾向が続き、2017年度には5%を超えました。2019年度から、2020年度にかけては、7.48%から12.65%へと5ポイント余り増えて過去最大の伸び幅となりました。2021年度の取得率は、13.97%と過去最高となっています。ただ、これまでの政府の目標は2025年までに30%となっていて、まだ開きがある状況です。一方、女性の取得率は2021年度で85.1%と過去最高となっています。
【課題】育休の取得率を高めるためには、収入面の手当てや休みやすい職場環境の整備が課題だとされています。厚生労働省が2020年度にまとめた調査では、男性の正社員が育休を取得しない理由を複数回答で聞いたところ、最も多かったのは、「収入を減らしたくなかったから」で41.4%に上りました。また、「職場が育休を取得しづらい雰囲気だった」または「会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」が27.3%、「自分にしかできない仕事や担当している仕事がある」が21.7%、「残業が多いなど業務が繁忙であった」が20.8%などとなっています。
【財源も】育休をめぐっては、取得率の上昇に伴い給付額も増えています。厚生労働省によりますと、1995年に制度が創設された際には、休業期間中に得られる給付金は休業開始前の賃金の25%でしたが、徐々に引き上げられ、2014年からは67%となりました。給付総額も、2011年度には男女合わせて2631億円余りでしたが、2021年度は6456億円余りと10年間で2倍以上となっています。これらは雇用保険財政などでまかなわれ、保険料は労使が折半で負担していて、育児休業給付が今後さらに拡大すれば、どう財源を確保するのかも課題となりそうです。
専門家“代替要員確保に向けた支援拡大も”
全国の企業などで、育休取得の推進を支援している育Qドットコムの広中秀俊社長は、育児休業給付金の水準の引き上げについて「男性が育休を取得しない理由の一番が収入が減るということだったので、給付が引き上げられれば自分も取ってみようという人は増えるだろう。男性と女性でバトンタッチして育児にあたれれば、女性の職場復帰の機会も増えると考えられる」話しています。一方、企業が育休を取得した人の代替要員を確保できなくては育休の取得は広がりにくいとして、「企業は日々、業務整理をして他の人でも代わりができるという状況にしておくことが必要だ。最近はふだんから別の部署の仕事をあえてしてもらう企業も増えてきている。しかし、中小企業では最小の人数で業務を回しているところがあり属人的な業務が生まれやすい。国は今後、企業の代替要員の確保に向けた支援の拡大を進めていくべきだ」と話していました。
●公営住宅や空き家、子育て支援で活用 岸田首相が表明 3/17
岸田文雄首相は17日の記者会見で、公営住宅や民間の空き家を子育て世帯への支援に活用する考えを示した。経済的な支援の一環として「住宅取得支援の充実、住まいの環境づくりに取り組んでいきたい」と表明した。
「特に都市部を中心に住宅価格が上昇傾向にあることから、課題はますます大きくなっている」と指摘した。「子育て世帯にとって必要な広さ、利便性のある住まいを確保するのは大変大きな負担だ」とも話した。
●「106万円・130万円の壁」制度の見直しへ 岸田首相が記者会見で表明 3/17
岸田首相は記者会見で、配偶者の扶養に入っている人が一定の年収を超えると、社会保険料の負担が発生して逆に収入が減ってしまう、いわゆる「106万円の壁」「130万円の壁」について、制度の見直しに取り組む考えを示しました。
岸田首相は記者会見で、いわゆる「106万円・130万円の壁」について「被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援などをまず導入し、さらに制度の見直しに取り組む」と表明しました。
また、こうした「年収の壁」を意識せずに働くことが可能になるよう「短時間労働者への被用者保険の適用拡大」と「最低賃金の引き上げ」に取り組む考えを示しました。
いわゆる「年収の壁」は、配偶者の扶養に入っている人が、企業の規模によって「106万円」や「130万円」の年収を超えると、社会保険料の負担が発生して逆に収入が減ってしまうことを表す言葉です。
政府は、この制度を見直すことで、働く意欲や時間がある人が「年収の壁」を理由に仕事をセーブすることがないようにして、働く人の世帯収入の増加や、企業の人手不足の解消につなげたい考えです。
●“106万円の壁” で岸田首相「手取り逆転させない取り組みを支援」表明  3/17
岸田首相は、17日、首相官邸で記者会見し、「若い世代の所得を増やす」として、所得が一定の額を超えると手取りが減る「年収の壁」について、政府として、手取りを逆転させないための支援や制度の見直しを行う方針を表明した。
岸田首相は、会見で、このまま少子化が進むと「地域社会の維持が難しくなる」とした上で、「2030年代に入るまでのこれから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」と危機感を示した。
その上で少子化対策の柱の1つとして「若い世代の所得を増やす」ことをあげ、「年収の壁」の見直しに言及した。
いわゆる「106万円の壁」や「130万円の壁」は、配偶者に扶養されている人の所得が、企業の従業員数などによって、106万円や130万円を超えると、配偶者の扶養を外れて自分で社会保険料を負担するため、手取りが減ることをいう。
岸田首相は、「いわゆる106万円、130万円の壁によって、働く時間を希望通り伸ばすことをためらう方がいると、結果として世帯の所得が増えない」と指摘した。
そして、「新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取り組みの支援などをまず導入し、さらに制度の見直しに取り組む」と表明した。
●岸田首相、奨学金の減額返済見直し 「出産で柔軟に」 3/17
岸田文雄首相は17日の記者会見で、奨学金の減額返済に関する制度を見直す考えを示した。「結婚や出産などライフイベントに応じた柔軟な返済が可能になるよう考えている」と語った。
結婚や子育てと奨学金返済の時期が重なり若い世代の負担になっている現状を踏まえた。「2024年度から給付型奨学金で多子世帯や理工農系の学生などの中間層に対象を拡大し、出世払い型の奨学金制度の導入に取り組む」とも述べた。
●岸田首相、衆参5補選は最低3勝示唆「国政に影響与える可能性がある・・・」 3/17
岸田文雄首相は17日の記者会見で、4月に実施される衆参5補欠選挙での勝敗ラインについて、最低3勝との認識を示唆した。「自民党の議席を守り抜き、拡大すべく全力を尽くす」と強調した。5補選のうち自民の議席だったのは衆院千葉5区、山口2、4区の計3選挙区。「今後の国政に影響を与える可能性がある重要な選挙だ」とも述べた。
自身が議長を務める5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、ロシアのウクライナ侵攻に対し、国際秩序の維持に向け「G7の強い意志を力強く世界に示したい」と表明。核軍縮の実現には被爆の実相を世界に伝えることが重要だとし、原爆資料館への訪問を検討していると説明した。
放送法の「政治的公平」に関する行政文書の検証作業に関し「総務省が正確性の精査を行っている」として、同省の調査結果を待つ意向を示した。当時、総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が捏造(ねつぞう)との主張を撤回しないことには「国会や会見で説明を続けている」と語った。
教育予算拡充のため自民党内などに創設を求める声がある「教育国債」については「慎重に検討する必要がある」と述べるにとどめた。
●岸田首相インド訪問 モディ首相、中国にらみ安保連携も 3/17
岸田文雄首相の訪印について、モディ印政権は2国間の連携強化を図る以外にも、20カ国・地域(G20)議長国であるインドと、先進7カ国(G7)議長国である日本の協議の場と位置付けている。ロシアのウクライナ侵略をめぐってG7各国が対露批判を強める中、モディ首相はグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)支援にも目を向けるよう求める考えだ。
インドはグローバルサウスの盟主を自任しており、今年のG20では途上国における貧困や対外債務処理などを重要なテーマとして掲げている。そうした中、インド政府高官はウクライナ侵略をめぐる話題がG20における話題の中心となることに懸念を示している。
モディ氏は岸田氏にG20議長国としてのインドの立場を説明し、物価高騰などで疲弊するグローバルサウスへの支援も求めるもようだ。ウクライナ危機や新型コロナウイルス禍を受けて世界的に混乱するサプライチェーン(供給網)の安定化に向けても話し合いたい考えだ。
また、インドは中国を念頭に安全保障面で日本との連携に期待している。中印両軍が事実上の国境である実効支配線(LAC)付近で対峙(たいじ)を続ける一方、中国はヒマラヤ地域での軍事インフラ整備を急速に進めている。モディ氏は3月に入ってオーストラリアのアルバニージー首相とも安保面の関係強化で一致しており、民主主義国間の連携で中国に対抗する構えだ。
日本の支援で建設が始まり、工事が遅れているインド高速鉄道など日印間で協議すべき議題は多岐に及ぶ。インド外務省は16日の記者会見で「日本は重要なパートナーであり、(首脳会談での)豊かな議論を期待している」と表明した。
●岸田内閣総理大臣記者会見 3/17
岸田総理冒頭発言
本日は、こども・子育て政策について、基本的考え方をお知らせしたいと思います。
総理就任以来、私は、我が国は歴史的転換点にあり、これを乗り越える最良の道は「人への投資」だと申し上げてきました。人口減少時代を迎え、経済社会の活力を維持していくには、構造的賃上げを通じた消費の活性化、一人一人に着目したリスキリングと生産性の向上、そして、男女問わず、全ての人々の可能性の実現など、「人への投資」が何よりも大切です。
その大切な「人」ですが、2022年の出生数は過去最少の79万9,700人となりました。僅か5年間で20万人近くも減少しています。2030年代に入ると、我が国の若年人口は現在の倍の速さで急速に減少することになります。このまま推移すると、我が国の経済社会は縮小し、社会保障制度や地域社会の維持が難しくなります。2030年代に入るまでのこれから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスです。
子供は国の宝です。この国難に当たって、政策の内容・規模はもちろんのこと、社会全体の意識・構造を変えていく、そのような意味で、次元の異なる少子化対策を岸田政権の最重要課題として実現してまいります。
正に効果ある少子化対策が求められており、当事者であるお父さんやお母さん、地域や職場など現場の皆様の声を直接聞くことが何よりも大切です。私自身、こども政策対話を各地で重ね、当事者の方々から様々な意見をお聞きしているところです。
現在、私の指示に基づき、小倉大臣の下で、こども政策の強化について、今月末をめどに具体的なたたき台を取りまとめるべく、検討が進められていますが、本日は、これに先立ち、私が考えております目指す社会像、少子化対策の基本理念と主な課題に対する基本的方向性をお話ししたいと思います。
私が目指すのは、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もが子供を持ち、ストレスを感じることなく子育てができる社会、そして、子供たちがいかなる環境、家庭状況にあっても、分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会です。子供の笑顔あふれる国をつくりたい、これが私の思いです。
20歳代、30歳代は「人生のラッシュアワー」とも言われます。同時期に学びや就職、出産、子育てなど、様々なライフイベントが重なる中で、現在の所得や将来の見通しが立たなければ、結婚、出産を望んでも後回しにならざるを得ません。このような状況を打開し、人生のラッシュアワーに自信を持って向き合えるよう、若い方々の所得を向上させる政策、特に賃上げの実現がまず必要です。
また、男女ともに、子育てに当たって、キャリア形成との両立や多様な働き方を阻む壁をなくしていかなければなりません。また、少子化には、我が国のこれまでの社会構造や人々の意識に根差した要因が関わっています。個々の政策の強化はもちろんですが、個々の政策をいかすためにも、社会を変えることが必要です。
「ワンオペ育児」という言葉があります。家庭内において、育児負担が女性に集中している実態を変え、夫婦が協力しながら子を育て、それを職場が応援し、そして、地域社会全体で支援する社会をつくらなければなりません。
そして、子育て支援策は、誰がどのような形で働いていても、家にいても、学びの中にあっても、また、両親がどのような関係にあっても、分け隔てなく、切れ目なく支援するものでなければなりません。その中で、多子世帯、ひとり親世帯、障害をお持ちのお子さんがいる家庭などには、よりきめ細やかな対応を行います。
こうした社会を目指すための対策の基本理念は、第1に「若い世代の所得を増やす」こと、第2に「社会全体の構造や意識を変える」こと、そして第3に「全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援する」こと、この3つです。順番にお話しいたします。
まず、「若い世代の所得を増やす」ことです。少子化の背景として未婚率の増加があり、その原因の一つとして、若い世代の経済力が挙げられます。結婚した御家庭においても、理想とする子供の数を持てない理由として、子育てや教育にお金がかかることがトップに挙がっています。若い世代の所得向上に、子育て政策の範疇(はんちゅう)を超えて、大きな社会経済政策として取り組みます。
岸田政権の最重要課題は「賃上げ」です。物価高に負けない賃上げに取り組みます。そして、賃上げが持続的、構造的なものとなるよう、L字カーブの解消などを含めた、男女ともに働きやすい環境の整備、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を加速し、若い世代の所得向上を実現します。
その際、いわゆる106万円、130万円の壁によって、働く時間を希望どおり延ばすことをためらう方がおられると、結果として世帯の所得が増えません。こうした壁を意識せず働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに取り組みます。加えて、106万円、130万円の壁について、被用者が新たに106万円の壁を超えても、手取りの逆転を生じさせない取組の支援などをまず導入し、さらに、制度の見直しに取り組みます。
こうした取組と併せて、3月末をめどに取りまとめるたたき台の第1の柱として、子育て世帯に対する経済的支援の強化を行います。これまでも幼児教育・保育の無償化などを進めてきましたが、さらに兄弟姉妹の多い御家庭の負担、高等教育における教育負担なども踏まえて、児童手当の拡充、高等教育費の負担軽減、さらには若い子育て世帯への住居支援などについて、包括的な支援策を講じます。
第2は、「社会全体の構造や意識を変える」ことです。社会的機能の維持が危ぶまれるような少子化が進む今、「こどもファースト社会」の実現は社会全体の課題です。これまで関与が薄いとされてきた企業や男性、さらには地域社会、高齢者や独身者を含めて、皆が参加し、社会構造・意識を変えていくという、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと考えています。
子育て中の方からは、「日本は子育てに冷たい」という指摘を聞くことがあります。例えば欧米では、公共の場に子育て世帯の専用レーンが設けてあったり、子連れの人を見つけると、周囲の人がいろいろと手助けしてくれたりすることが多いと聞きます。ところが、我が国では、「子連れだと混雑しているところで肩身が狭い」、「公園の遊び声が近所迷惑と言われないか心配」といった声を多く聞きます。
他方で、私が訪れた岡山県奈義町は、子育てを終えた方や地域高齢者も参加し、地域ぐるみの住民参加型の子育て支援を展開することにより、出生率2.95という「奇跡のまち」を実現されていました。こうした好事例を横展開し、普及を図ることを目指します。
政府としても、こどもファースト社会の実現をあらゆる政策の共通の目標とします。また、様々な社会運動を展開するため、先行的に国立博物館などの国の施設において、子連れの方が窓口で苦労して並ぶことがないよう、「こどもファスト・トラック」を設けるとともに、この取組を全国展開するなど、子供優先の取組を実施することとします。
企業においても、出産、育児の支援を投資と捉え、職場の文化、雰囲気を抜本的に変えていくことが必要です。「会社に育休制度はあるが、実際には取りづらい」という社員の声が多く寄せられています。「育休で休むと職場の同僚に迷惑がかかる」、「育休について、上司や人事担当者が理解してくれない」などを理由に挙げる人が多いと言われています。こうした職場環境を早急に改め、男性、女性ともに希望どおり、気兼ねなく育休制度を使えるようにしなければなりません。
幸い、新たな取組に挑戦している事例は数多くあります。例えば大手A社は、地方に本社機能を移転し、独自の育休と時短勤務制度で、東京に比べ、女性社員の子供の数が3倍以上になりました。中小企業のB社は、男性社員が育休を取得しない主な理由が「職場に迷惑をかけたくなかった」ということでした。このため、育休取得者の担当業務を引き継ぎ、業務が増加する他の社員に応援手当を支給し、育休取得を推進しています。
こうした取組が幅広く浸透するよう、現状、低水準にとどまっている男性の育休取得率の政府目標を大幅に引き上げて、2025年度に50パーセント、2030年度に85パーセントとします。目標達成を促すため、企業ごとの取組状況の開示を進めます。最大のポイントは中小企業です。中小企業において、職場の負担を気兼ねする声が多いことも踏まえ、応援手当など育休を促進する体制整備を行う企業に対する支援を検討します。国家公務員については、先んじて男性育休の全員取得を目標として定め、2025年度には85パーセント以上が1週間以上の育休を取得するための計画を策定し、実行に移します。地方自治体や企業の皆様にも、先行して意欲的な取組をしていただくよう、様々な機会を捉えて要請してまいります。
こうした育休を取りやすい職場づくりと両輪で、育児休業制度自体も充実させます。利用者の声を踏まえて、キャリア形成との両立を可能にし、多様な働き方に対応した自由度の高い制度へと強化します。例えば現在は、育児期間中に完全に休業した場合に育児休業給付が出ますが、希望する場合には、時短勤務時にも給付が行われるよう見直しします。
また、産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を手取り10割に引き上げます。これらにより、夫婦で育児、家事を分担し、キャリア形成や所得の減少への影響を少なくできるようにします。
育児休業中の所得減少に対する支援は、働いている企業の大きさにかかわらず、そして、正規、非正規を問わず行われなければなりません。そこで、非正規に加え、フリーランス、自営業者の方々にも、育児に伴う収入減少リスクに対応した新たな経済的支援を創設します。
育児休業に加え、職場に復帰した後の子育て期間における働き方も重要な課題です。人生のラッシュアワーに当たる時期に子供と一緒に過ごす時間を確保できるよう、例えば「フレックスタイムで午後5時までに帰宅する」、「テレワークを活用する」など、働き方を変えていかなければなりません。
以上、育休を取りやすい職場づくり、育休制度の強化、働き方改革を通じて、人生のラッシュアワーの中で御家庭に「子供と過ごせる時間を確保する」、このことを初めて本格的に取り上げます。大きな社会構造改革には相応の時間を要します。しかし、少子化問題はもはや一刻の遅れも許されない「時間との闘い」であり、社会全体の意識改革に向けた取組、働き方改革の推進とそれを支える育児休業制度等の強化などに全力で取り組んでいきます。
基本理念の第3は、「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」総合的な制度体系を構築することです。これまでも自公政権において、保育所の整備、幼児教育・保育の無償化など、こども・子育て政策を強化してきました。予算は大きく増加し、その結果、例えば保育所の待機児童はピーク時の2.9万人から、昨年は約3,000人まで減少するなどの成果がありました。
他方、この10年間で社会経済情勢は大きく変わり、今後取り組むべき政策の内容も変化しています。これまで申し上げた経済的支援の拡充、社会全体の構造、意識の改革に加え、子育て支援サービスの内容についても、親が働いていても、家にいても、全ての子育て家庭に必要な支援をすること、幼児教育・保育サービスについて、量・質両面からの強化を図ること、これまで比較的支援が手薄だった妊娠、出産時から0〜2歳の支援を強化し、妊娠、出産、育児を通じて、全ての子育て家庭の様々な困難、悩みに応えられる伴走型支援を強化すること、子供の貧困、障害児や医療ケアが必要なお子さんを持つ御家庭、ひとり親家庭などに対して、より一層の支援を行うことなどが必要になっています。
今月末にまとめるたたき台では、こうした観点から、子育て支援制度全体を見直し、全ての子供・子育て世帯について、親の働き方やライフスタイル、子供の年齢に応じて、切れ目なく必要な支援が包括的に提供される総合的な制度体系を構築すべく、具体的な支援サービス強化のメニューをお示しします。
その際、重要な点は、伴走型支援、プッシュ型支援への移行です。従来、様々な支援メニューは当事者からの申請に基づいて提供されてきましたが、これを行政が切れ目なく伴走する、あるいは支援を要する方々に行政からアプローチする形に、可能な限り転換してまいります。
以上、こども政策の強化について、目指す社会像、基本理念と主な課題に対する基本的方向性についてお話をしました。更に検討を進め、今月末をめどに、小倉大臣に具体的なたたき台をパッケージで取りまとめてもらいます。
そして、4月1日には、日本の省庁の歴史で初めて「こども」を名称に冠する「こども家庭庁」が発足します。その後は、国民の皆様の声を引き続き伺いながら、私が主導する体制の下で、必要な政策強化の内容、予算、財源について更に議論を深め、6月の骨太方針までに将来的なこども予算倍増に向けた大枠をお示しします。
先日、こんな話を一人の若い女性から伺いました。結婚して子供も持ちたいが、将来、離婚することもあり得る、そのとき一人で子供を育てていけるだろうか、養育費はちゃんともらえるだろうか、そんなことを考えると、結婚に踏み切れない。正に時代も若い方々の意識も、大きく変化していることを実感するお話でした。内閣総理大臣として、時代の変化、若い方々の意識の変化を的確に捉えつつ、時間との闘いとなっている少子化問題に、先頭に立って、全力で取り組んでまいります。
我が国は、世代間の助け合いと支え合いを大切にしてきました。今こそ若い世代の未来を切り拓(ひら)き、少子化のトレンドを反転させる。これは、経済活動や社会保障など我が国の社会全体にも寄与します。何とぞ世代を超えた国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。
質疑応答
(内閣広報官) それでは、これからプレスの皆様より御質問いただきます。指名を受けられました方は、お近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問、御質問をお願いいたします。まず、幹事社から御質問いただきます。では、毎日新聞、高橋さん、どうぞ。
(記者) 毎日新聞の高橋です。よろしくお願いします。こども政策についてお伺いいたします。今月末にこども政策のたたき台をまとめられるということでしたが、児童手当の所得制限撤廃や年収の壁の是正などの具体的な制度設計にも踏み込んで提示するお考えはあるのでしょうか。また、先ほど様々な方針が示されましたが、その財源について、6月の骨太の方針という話も今ございましたけれども、どの程度詳細にお示しされるのでしょうか。また、総理は将来的なこども予算の倍増ということを掲げておられますが、何を基準に倍増し、いつまでに倍増するイメージなのか、めどについて教えてください。
(岸田総理) まず、たたき台については、小倉大臣に指示しました3つの基本的方向性に沿って、今必要とされる子育て政策の内容、これをパッケージでお示ししたいと思っています。本日の会見で申し上げたように、若い世帯の所得を増やすことが重要だと考えています。構造的賃上げに向けた取組を大きな社会経済政策として進めるとともに、たたき台の中で、経済的支援の強化に向けて、今、御指摘のありました年収の壁の見直しあるいは児童手当の強化・拡充、また、高等教育費の負担軽減、さらには若い子育て世帯への住居支援、こうしたことについて包括的な支援策を示したいと思っています。そして、財源、あるいは倍増の基準といったことについても御質問がありました。これについては、これまでも申し上げておりますように、まずは政策の中身が重要です。政策の中身を詰めなければ、倍増の基準や時期を申し上げることは適当ではないと思っています。まずは、充実する内容を具体化し、そして、その内容に応じて社会全体でどのように安定的に支えていくのか。こうしたことを考えていかなければいけない。予算や財源について考えていかなければいけない。このように思っています。ですから、こども政策担当大臣の下、3月末をめどに、こども・子育て政策として充実する内容をパッケージとしてお示しし、その上で、骨太方針までに政策内容の更なる具体化を進めるとともに、将来的なこども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示したいと思っています。
(内閣広報官) 続きまして、幹事社の中国新聞、樋口さん、どうぞ。
(記者) 中国新聞の樋口と申します。よろしくお願いします。総務省の放送法をめぐる行政文書に関して伺います。この文書をめぐっては、連日、国会審議が続いておりますけれども、ポイントとなっているのは政治的公平性というところで、この解釈について、当時の官邸が都合のよい解釈をしたのではないかという懸念が持たれております。この点について、現政府として何か検証する考えがないのか。これをまず総理に伺います。あわせて、当時の高市総務大臣が、一部の文書について、捏造(ねつぞう)だと主張しておりまして、この考えは今日の時点でも変わっていないということであります。この点に対しては批判というのもかなり出ているのですけれども、総理としての見解を併せて伺います。
(岸田総理) まず、放送法の解釈についてですが、これは総務省が放送法を所管する立場から、責任を持って、従来の解釈を変更することなく、補充的な説明を行ったものである、このように承知しております。この考え方は一貫して維持されております。あわせて、この行政文書の正確性について、総務省において精査を行っていると承知しております。そして、高市大臣の発言について御質問がありました。高市大臣は、当時の大臣としての知見に基づき、国会や記者会見で説明を続けており、総務省において放送法をめぐる一連の経緯に関して精査を行っている、こうした対応が行われていると承知しております。
(内閣広報官) ここからは、幹事社以外の方から御質問をお受けします。御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。それでは、NHKの清水さん。
(記者) NHKの清水です。お願いします。教育費と国債について伺います。総理も触れられましたが、少子化対策をめぐっては、教育費などの負担軽減が重要だという指摘があり、自民党の調査会は、子育ての時期の奨学金の返済の負担軽減などを盛り込んだ提言をまとめています。少子化対策を進めるに当たって、教育費についてはどのような施策を考えているのか、お考えをお聞かせください。また、一部の財源について、教育国債を検討すべきとの意見もあります。教育費への対応や少子化対策を進める上で、使い道を限定した国債を発行する選択肢はあるのか、総理のお考えをお聞きします。お願いします。
(岸田総理) まず、先ほども申し上げたように、若い世帯の所得の向上が重要であり、人への投資として、大きな社会経済政策として取り組むとともに、これと併せて、今回のこども・子育て政策の第1の柱として、子育て世帯に対する経済的支援の強化を行うこととしています。その中で、御質問の教育の分野ですが、教育の分野においても、子育て世帯に対する経済的支援として、令和6年度から給付型奨学金等について、多子世帯や理工農系の学生等の中間層への対象拡大をするとともに、出世払い型の奨学金制度の導入、こうしたものに取り組むこととしております。さらに、結婚や出産などライフイベントに応じた柔軟な返済が可能となるよう、減額返済制度の見直し、これも行うことを考えています。御質問は財源の部分ですが、財源については、まずは充実するこども・子育て政策の内容、これを具体化した上で、その内容に応じて社会全体でどのように安定的に支えていくか、これを考えていきたいと思います。教育国債については、これまでも申し上げているとおり、安定財源の確保あるいは財源の信認確保の観点から慎重に検討する必要があると考えております。これは従来から申し上げているとおりであります。
(内閣広報官) それでは、次の方。テレビ朝日の千々岩さん。
(記者) テレビ朝日の千々岩です。よろしくお願いします。日韓関係について伺います。昨日、尹(ユン)大統領が来日されて首脳会談、それから夕食会と、関係改善に向けた動きが続いている一方で、韓国国内では特に元徴用工問題で反発の声も出ています。こうした反発の中で尹大統領が解決策を決断されたことについて、岸田総理はどう評価され、どう受け止めていらっしゃるか、これを1点お聞きしたいのと、総理が外務大臣時代に正に取り組まれた慰安婦合意もそうですが、こうした反発の中で韓国側が態度を変えると、姿勢を変えるということもありましたが、今回、そうした懸念、不安みたいなものはお感じにならないかどうか、これもお聞きしたいと思います。それから、すみません、もう一点なのですが、昨日、夜は2軒はしごされたと伺っていますが、どんなお酒を飲んで、どんな会話をされたか、また、尹大統領は一緒にお酒を飲んでどういう印象を持たれたか、これも率直なところをお聞かせいただければと思います。
(岸田総理) まず、昨日は、日韓関係において、正常化に向けて大きな一歩となる前向きな会談を尹大統領と行うことができたと感じています。そして、日韓間には隣国であるだけに、様々な経緯や歴史もありますが、それを乗り越えて困難な決断と行動をされた尹大統領には心から敬意を表したいと思います。私自身も、困難な時期を乗り越えてきた先人たちの努力を引き継ぎ、未来に向かって尹大統領と共に歩んでいきたいと思います。そして、両国の間には乗り越えなければいけない課題、まだ幾つもあると認識しています。これを一つ一つお互いの信頼関係に基づいて乗り越えるべく、努力を未来に向けて行っていきたいと思っています。そして、御質問の昨晩の会食、どんな酒を飲んだか、大変楽しいお酒を飲ませていただきました。それから、会話、中身につきましては、個人的なことも含めてお互いの信頼関係を深める意味で、大変有意義な会話をさせていただいたと感じています。こうしたトップ同士の信頼関係を基に、両国関係を前に進められることができればと期待しています。
(内閣広報官) それでは、次の方。では、ロイター、杉山さん。
(記者) ロイター通信の杉山と申します。よろしくお願いします。国際金融市場に関する質問です。シリコンバレー銀行など米国銀行の破綻に続き、欧州でクレディ・スイスの経営不安が起きました。各国当局の迅速な対応で懸念はやや和らぎましたが、金融市場で不安がくすぶる展開も続きそうです。海外経済が日本の金融機関や実体経済へ与える影響をどのように見ていますでしょうか。世界的な金融の動揺が継続した場合、リーマン・ショック級の危機に発展する可能性はないのか、御見解を伺えればと思います。よろしくお願いします。
(岸田総理) シリコンバレーバンク等の経営破綻を受けて、足元の金融市場ではリスク回避的な動きが見られますが、流動性供給策など、欧米の金融当局が信用不安の影響を拡大させないための迅速な対応を講じていると承知しています。現在、日本の金融機関は総じて充実した流動性あるいは資本を維持しており、金融システムは総体として安定していると評価しています。その上で、政府としては、様々なリスクがあり得ることを念頭に置き、日本銀行を始め、各国の金融当局とも連携しつつ、内外の経済金融市場の動向、また、それが実体経済や金融システムの安定性に与える影響等について、強い警戒心を持って注視してまいりたいと思います。その一環として、本日、財務省、金融庁、そして日本銀行の間で、最近の市場動向について意見交換を実施いたしました。政府と日銀の緊密な連携、これを確認したところです。こうした姿勢を持って引き続き注視していきたいと考えています。
(内閣広報官) それでは、日経新聞、秋山さん。
(記者) 日経新聞の秋山です。総理、先ほど、子育て世帯への住居支援ということも言及されましたが、今、政府・与党で住宅支援というのは主に低所得者層を対象にした議論になっていると思うのですが、都市部の住宅、マンション価格などが高騰していて、住宅費は中間層を含めて幅広い子育て世帯の負担になっています。コロナで地方へ若い世帯が移住する動きも一時期注目されましたが、コロナが落ち着いてきて、再び都市へ回帰するというような傾向が見られます。こういう都市、地方、また住宅の問題、この辺についての総理のお考えをお願いします。
(岸田総理) まず、子育て世帯にとって必要な広さ、あるいは利便性等が確保された住まいを確保すること、これは大変大きな負担であり、特に近年、都市部を中心に住宅価格が上昇傾向にあることから、課題はますます大きくなっていると認識しています。このため、子育て世帯に対する経済支援の一環として、公営住宅や民間空き家等の活用、また、子育て世帯等への住宅取得支援の充実、そして、子育て世帯に関する住まいの環境づくり等に取り組んでいきたいと考えています。また、都市と地方の関係については、デジタル田園都市国家構想に基づいて、デジタルの力を徹底活用するため、光ファイバー、あるいは5Gといったデジタルインフラの整備を行い、地方におけるデジタル実装を推進することで、企業立地、テレワーク、あるいは二地域居住、こうしたものを通じて、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会、こうした社会の実現を図り、大都市圏への過度な集中の是正に取り組んでいく、こうした方策も進めていきたいと考えています。
(内閣広報官) それでは、次に、フジテレビの瀬島さん。
(記者) フジテレビの瀬島です。よろしくお願いします。総理は先ほど子育て支援の中で中小企業の役割を言及されましたけれども、先日、政労使会議の場では、中小企業の賃上げができる環境づくりについて強調されました。中小企業では厳しい現状も指摘されていますけれども、賃上げの波をどのように広げていくのか、また、来年以降どういうふうに継続させていくのか。今後、経済団体や労働組合との連携とをどのようにお考えでしょうか。また、この賃上げと、今おっしゃった子育て政策との両立というのは可能だとお考えでしょうか。
(岸田総理) 最後の質問は、賃上げと子育て政策。
(記者) 中小企業の重要性という意味で、両方。
(岸田総理) この2つを両立できるか。
(記者) はい。
(岸田総理) まず、我が国の雇用の7割を占める中小企業の賃上げを実現する、これは大変重要な課題だと考えています。昨日の春季労使交渉の集中回答日においては、多くの大手企業が高い支給水準の回答を出しました。こうした動きを中小企業、あるいは小規模事業者等に広げていくことが重要であり、そのためには取引適正化、これを進めていく必要があると考えます。これまでも価格転嫁対策をより実効的なものにするため、中小企業庁や公正取引委員会の大幅な増員ですとか、親事業者の交渉と転嫁の状況の公表、指導、助言、こういったものを進めてきたところですが、労務費など価格転嫁が十分できていないといった状況もあります。15日に政労使の意見交換の場を設けたわけですが、中小あるいは小規模企業の賃上げ実現には、労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化が不可欠であるという点において、基本的に合意がなされたことを評価しています。政府としても、公正取引委員会の協力の下、労務費の転嫁状況について業界ごとに実態調査を行った上で、これを踏まえて、労務費の転嫁の在り方について指針をまとめていきたいと思います。また、業界団体にも、これまで政府で実施した各般の価格転嫁に関する調査の結果を踏まえて、自主行動計画の改定あるいは徹底、これを求めてまいります。こうした取組に加えて、最低賃金の引上げ、あるいは同一労働同一賃金の施行の徹底、これを進めるとともに、中小企業の賃上げの原資を確保するため、生産性向上支援、これも進めてまいりたいと考えています。
(内閣広報官) それでは、次の方。文化放送、山本さん。
(記者) 文化放送の山本です。よろしくお願いします。物価高対策について総理にお伺いします。先日、自民党が、総理に低所得世帯に一律3万円、低所得の子育て世帯に一律5万円の給付を求めました。月末にも取りまとめる物価高対策に、この支給、給付というのは盛り込まれるお考えなのかということと、この物価高、一体いつまで続くと総理は想定されていらっしゃるのか。その上で、今回取りまとめる物価高対策というのは、どれぐらいの期間を想定して打たれるのでしょうか。あともう一つ、総理はマスクを外されて今日でまだ5日なのですけれども、マスクを外す生活、5日間体験されて、どのような今、印象を持たれているのかというのもお聞かせください。
(岸田総理) まず、物価高対策については、エネルギー、食料品価格の影響緩和について、15日の与党からの提言を踏まえて、コロナ・物価予備費の使用を含め、追加策を講ずることといたします。御指摘の低所得者世帯への支援について提言を受けておりますので、そうした支援、考えていきたいと思っております。そして、その上で、それ以外にも、エネルギーについて、電力の規制料金の改定申請の厳格かつ丁寧な査定による審査を進める。その上で電力料金の抑制に向けた取組について3月中に検討結果をまとめる。さらには食品について、飼料、あるいは輸入小麦について対策を講じるなど、必要な追加策、早急にまとめて迅速に実行することで、国民生活、あるいは事業活動を守っていきたいと思っています。そして、もう一つ、マスクを外して印象はどうかという御質問を頂きました。私自身の印象は、マスクを外すことによって、息苦しさを感じる場面も少なくなったような気がいたしますが、いずれにせよ、マスクについては、それぞれの国民の皆様の判断にお任せするということであり、政府から何か強制するものではありません。そして、お一人お一人いろいろなお立場の方、持病を持っておられる方など、様々なお立場の方々がおられるわけですから、それぞれの場面において適切にマスクの着脱は御判断いただくべきものであると思っています。ただ、政府として、高齢者施設等へ足を運ぶなど、重症化リスクの高い方々との接触場面についてマスク着用を推奨するというような例を示すなど、できるだけ混乱を来さないよう、国民の皆様にマスク着脱について適切に御判断いただけるような材料を用意しておくことも大切なことではないか、このように思います。
(内閣広報官) それでは、大変恐縮ですが、あと2問とさせていただきます。それでは、西日本の河合さん。
(記者) 西日本新聞の河合です。よろしくお願いいたします。4月23日に投開票される衆参5つの補欠選挙について伺います。岸田政権として、昨年夏の参院選以来の国政選挙となりますが、勝利数の目標を理由とともに教えてください。また、岸田政権への評価も今回の有権者の投票行動に影響すると考えますでしょうか。どう訴えていくかについてもお答えください。お願いします。
(岸田総理) 統一地方選挙とともに行われる今回の衆参5つの補欠選挙ですが、これは党大会でも申し上げたとおり、今後の国政にも影響を与える可能性もある、こうした重要な選挙であると認識しています。勝敗ライン、目標についてお話がありましたが、大切な選挙でありますので、自民党の議席をしつかり守り抜き、更に拡大していくべく全力を尽くしていきたいと思っています。そして、補欠選挙ですので、これは、補欠選挙に至るまでの様々な経緯ですとか、地域の実情が問われる選挙でもありますが、あわせて、国政上の課題、そして、それに対する対応なども総合的に見極めた上で、有権者の方々は投票されるものであると認識しております。
(内閣広報官) それでは、読売新聞、仲川さん。
(記者) 読売新聞の仲川です。明日18日、ドイツのショルツ首相が来日されます。総理は、明日、日独首脳会談に臨まれることになるわけです。総理は今年のG7議長として、年初から欧州、北米を歴訪され、G7メンバーのフランス、イタリア、英国、カナダ、米国の首脳と会談されました。明日のショルツ首相との首脳会談をもってG7全メンバー国の首脳との会談が一通り終わることになります。広島サミットは、5月19日からの日程ですので、あさって3月19日で残り2か月となると思います。準備が進んでいることと思いますけれども、広島サミットでどのような議題を設定して、何を発信したいお考えでしょうか。理由も併せてお答えいただければと思います。また、招待国、広島での日程で固まったものがあれば教えてください。
(岸田総理) まず、G7広島サミットでは、力による一方的な現状変更の試み、あるいはロシアが行っているような核兵器による威嚇、ましてやその使用、これはあってはならないものとして断固として拒否し、そして、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く、こうしたG7の強い意思、これを力強く世界に示したいと思っています。そして、同時にエネルギー、食料安全保障を含む世界経済、そして、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題へのG7としての対応を主導し、また、こうした諸課題への積極的な貢献と協力を通じて、グローバル・サウスへの関与、これも強化したいと思っています。また、広島サミット、これはアジアで開催されるG7サミットですので、自由で開かれたインド太平洋に関するG7の連帯についてもしっかり確認する機会としたいと思っています。それに加えて、G7首脳を含め、世界に被爆の実相をしっかりと伝えていくこと、これは核軍縮に向けたあらゆる取組の原点として重要であり、この観点から広島サミットの日程についても、平和記念資料館への訪問を始め、しっかりと検討しているところです。招待国あるいは詳細な日程については、今現在まだ決まってはおりません。検討を続けているところであります。
(内閣広報官) 以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。御協力ありがとうございました。

 

●人口危機への対応、日本に2つの教訓あり 3/18
日本は戦後のベビーブームの中、1949年に269万人という出生数の記録を作った。この数値は2022年に80万人を割り込み、1949年の3分の1にも届かなかった。80万人を割り込むのは1899年に統計が始まってから初で、予想よりも11年早かった。日本の学者は、今後10年は日本が出生率を高める最後の機会と見ている。日本は「最後の機会」をつかみ人口減少に歯止めをかけられるだろうか。
過去30年に渡る家庭と結婚を支援し出産を奨励する政策により、日本政府は人口減少のペースダウンで一定の効果を手にした。日本は出生率が極めて低い水準(1.3人)より下がるのを回避し、1.3人前後を維持している。
しかし出産を奨励する措置をどれほど掲げても、日本の出生率は極めて低い水準を脱していない。これには2つの理由がある。まずは出産促進を重視しながら、結婚促進を軽視していることだ。出生率を上げるための日本政府の取り組みの重点は常に既婚世帯の出産の促進で、主に育児支援や働き方改革などに集中している。若者の結婚を支持する措置が長期的に無視されている。2013年6月の「少子化危機突破のための緊急対策」がようやく「結婚の支援」(新婚世帯に経済支援を提供し、結婚を望む人が結婚できるようにする)を、育児支援や働き方改革と同列の、出生率向上措置の3本の矢とした。
次に形式の重視と実質の軽視だ。日本政府は出生率向上を促す一連の計画・戦略・緊急措置を発表し、細やかで行き届いた出産促進の政策措置を打ち出した。ところが世帯関連の社会支出の対GDP比を見ると、日本の世帯政策支出の財政規模は小さい。2003年に「少子化社会対策基本法」が施行されてから、児童手当の充実化や保育園などの保育施設の整備などの世帯関連の社会支出の対GDP比が徐々に上がり、2003-17年の十数年で1ポイント弱上がった(0.64%から1.58%に上昇)。1990-2002年(0.35%から0.64%に上昇)と比べると、世帯関連の社会支出が大幅に増加している。
●インボイス登録強制するな 小池議員「個人タクシー トラブル不安」 3/18
日本共産党の小池晃議員は17日の参院財政金融委員会で、個人タクシー業界でインボイス(適格請求書)の登録が押し付けられているとしてインボイス中止を強く求めました。
小池氏は、個人タクシー事業者への研修会では「インボイスへの理解がほとんどないまま登録を促されている」と指摘。星屋和彦国税庁次長は、登録取り下げ書の提出で取り下げ可、取り下げ後も登録申請書の再提出で再登録可―などの対応方法を示しました。
東京では個人タクシー事業者組合ごとに車上のあんどん(表示灯)の形が異なりますが、このうち日個連東京都営業協同組合では免税事業者のままの場合、全額自己負担で緑色のあんどんに換えるよう指示しています。
小池氏は、インボイス実施により東京では組合別、課税・免税事業者別などで個人タクシーのあんどんが5種類になるとして、乗客とのトラブルを不安視する声を紹介。鈴木俊一財務相は「初めてうかがった」と明らかにしました。
また課税事業者にならなければ「チケット事業に参加させない」との組合通知や「スマートフォンの配車アプリに登録させない」との話まであると指摘。公正取引委員会の品川武取引部長は「独占禁止法上問題になる恐れがある」と答弁しました。
小池氏は、インボイス導入国の多くで税率は20%超だとしてインボイス定着の狙いはさらなる増税ではないかと追及。鈴木財務相の「未来永劫(増税しない)ということではない」との答弁に、小池氏は「インボイスなど必要ない消費税減税に進むべきだ」と強調しました。
●岸田首相がドイツのショルツ首相と首相公邸で会談、3/18
岸田首相は18日、ドイツのショルツ首相と首相公邸で会談した。5月に広島市で開かれる先進7か国首脳会議(G7サミット)に向けた連携や、ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援強化などを確認する。
日独は首脳会談に続き、両首脳と関係閣僚が参加する「政府間協議」の初会合を開き、経済安全保障を巡る連携を推進していくことでも一致する見通しだ。
●岸田首相、少子化・外交で反転狙う 3日連続会見、選挙を意識 3/18
岸田文雄首相が、政権の最重要政策に掲げる子ども・子育て対策や外交のアピールに躍起だ。
17日に子育て支援策を発表するための記者会見を実施。その前日と翌日にも外国首脳との共同記者会見を行うなど、国民への発信を強化する。4月の統一地方選や衆参補欠選挙をにらみ、自身が先頭に立って反転攻勢を狙う。
「目指す社会像、少子化対策の基本理念、方向性を話したい」。首相は17日夜の会見で、最低賃金引き上げや男性の育児休業取得率の大幅増を目指す方針を説いた。
政府関係者によると、この日の会見は数日前に急きょ決まり、関係省庁が準備に追われた。ただ、焦点となっている少子化対策の財源や児童手当見直しの具体案は語らずじまい。6月の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の取りまとめへ調整を続ける。
首相会見は、政権運営の節目や重大発表時に行われることが多い。この日は「肩透かし」となった印象が否めないが、それでも各種世論調査で内閣支持率下落に歯止めがかかった結果が相次ぐことから、自民党幹部は「首相は自信を持ち始めている」と指摘する。攻めの姿勢で積極的に政権の政策を国民に訴える作戦だ。
外交にも精力的だ。韓国の尹錫悦大統領と16日に首脳会談を開催。韓国側が元徴用工問題の解決策を発表したことを受け、関係正常化へ踏み出した。18日は来日するドイツのショルツ首相と会談し、ウクライナ危機や対中国での連携を話し合う。ドイツは先進7カ国(G7)メンバー。首相が議長となる5月の広島でのG7首脳会議(サミット)へ協力を確認する。
視線の先にあるのは4月の選挙だ。自民党関係者は「首相は補選や知事選を気にしている」と話した。首相周辺は「外交は首相の得意分野」と強調する。
首相は国会審議では、防衛力強化や原発政策転換などを巡り、野党の追及をかわす「守りの答弁」が目立つ。その首相が会見や外交で露出を増やすことについて、立憲民主党の泉健太代表は17日の会見で「焦りがあるのだろう。防衛予算優先のイメージを払拭(ふっしょく)したいとの思惑があると感じている」と当てこすった。 
●子育て支援策公表へ調整 岸田首相と関係閣僚 3/18
岸田文雄首相は18日、加藤勝信厚生労働相、小倉将信こども政策担当相、後藤茂之経済再生担当相らと首相公邸で約50分間協議した。政府は子ども・子育て支援策のたたき台を3月末に公表する予定で、これに向けて擦り合わせをしたとみられる。
●岸田政権肝いりの「子育て論議」、未婚や子どもいない人はどうすれば… 3/18
岸田文雄首相が声高に叫ぶ子育て政策。17日夕には会見して自らの主張を展開した。ただ、子育て議論に「置いてけぼり感」を抱きがちなのが、未婚を選ぶ人や子どもがいない世帯だ。こうした人たちは議論にどう関わったらいいのだろうか。(木原育子)
産むことだけが「是」なのか、多様な生き方は
「子どもの笑顔あふれる社会をつくりたい」
会見した岸田首相は赤いネクタイが目を引いた一方、代わり映えしない言葉で語りかけた。男性が育休を取得しても手取り収入が下がらないようにする「産後パパ育休」なる制度にも言及した。
子育て論議を巡っては、自民党の議員も力が入るようだ。萩生田光一政調会長は2月下旬、公営住宅の空き室を新婚家庭向けに提供すると言い出した。今月13日には、結婚や出産で奨学金の返済を減免する案を衛藤晟一・元少子化対策担当相が提唱した。
大いに気になるピント外れ感だが、見過ごせない課題は他にもある。一つは産むことが是とされる点だ。
これは世間の感覚とズレている。国立社会保障・人口問題研究所の18〜34歳の未婚者への調査で「結婚したら子どもを持つべきだ」との問いに賛成した女性は2021年で36.6%。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、実際に子どもがいる世帯も20.7%だ。
子どもを持たない女性が生き方を語り合うグループ「マダネ プロジェクト」の主宰者、くどうみやこさんは「子どもがいる人といない人では生き方が大きく変わるのが今の日本。子育て世帯は手広い施策があるが、子どもがいない人たちは…」と漏らす。「どんな立場でも、暮らしやすい社会を願うのは同じ。みなで共通の目標に向かっていけたら」
多様な生き方が尊重される世の中であってほしい一方、これから生まれる子どもの数は、将来の社会構成を左右するため、人ごとで済ますことも難しい。
「子は親の所有物ではなく、社会的な存在」
そんな中で駒沢大の山崎望教授(政治理論)は「昨今の少子化対策は、子どもがいない家庭は非当事者とされ、議論から抜け落ちている」とみる。子育ての担い手を考えていくと当事者の幅は広がるという。「社会全体で育てる精神が大切。しかしそうした施策がない。産む家庭への支援ばかりで、分断を生みかねない」
国民の意識も一考の余地がある。電通総研の昨年末のネット調査によると、少子化問題で「当事者意識を持つべき」は誰かと聞いたところ、「政府」としたのは75.1%で、「個人」は26.9%に過ぎなかった。
改めて考えたいのが、当事者という言葉の意味だ。
障害者福祉の分野でもよく使われており、精神障害者らがともに暮らし、ともに働く拠点「浦河べてるの家」(北海道)の向谷地生良むかいやちいくよし理事長は「精神障害がありながら暮らす中で感じた体験、いわゆる苦労を分かち合い、自分の助け方を見出してきた」と説く。
では「あなたも当事者」と広く感じてもらうにはどうしたらいいか。
「困りごとがあれば、その思いを発信することが大切。必ずどこかで『私と一緒だ、ぼくと一緒だ』と重なる部分がある」。子どもに関しては「親の所有物ではなく、社会的な存在と捉え直す必要がある」。
一般社団法人「精神障害当事者会ポルケ」代表理事の山田悠平さん(38)も「一緒に行動を起こす経験の蓄積が大切だ。繰り返せば、当事者か非当事者かで二分される社会は消えていくだろう」と指摘。「例えば半径100メートル以内に『子ども』『精神障害者』ではなく、具体的に○○ちゃん、○○さんと呼べる人が何人いるか。抽象的な言葉だと人ごとにしがち。地域の顔と顔の感覚の中で分かっていく関係性もある」と強調する。
●岸田首相、慰安婦合意の履行要請報道、大統領室は「議論されたことはない」 3/18
大統領府は17日、岸田文雄首相が前日(16日)の首脳会談で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に2015年の「慰安婦合意」の履行を要請したという日本メディアの報道と関連し、公式に「議論されたことはない」と明らかにした。ただし大統領室は、「まずは(白紙化の当事者である)『共に民主党』がどのような立場なのか明らかにしてほしい」と述べ、今後、両国間で元慰安婦問題に関する政府間合意をめぐる議論が行われる可能性があることを示唆した。
大統領室は同日午後、書面記者会見で、「(会談で)慰安婦問題であれ、独島(ドクト、日本名・竹島)問題であれ、議論されたことはない」と明らかにした。これに先立ち、共同通信など日本メディアは、岸田氏が会談で慰安婦合意の履行と独島領有権問題に言及したと報じた。
大統領室関係者は同日午前、記者団に、慰安婦合意の言及の有無について「議論された内容をすべて公開するのは適切ではなく、公式発表を中心に見るべきだ」と述べた。また、「文在寅(ムン・ジェイン)政権初期、事実上合意破棄に近い措置を取り、任期末には破棄ではないと話した」とし、「民主党がどのような立場を取ったのか明らかにしておくことが状況を理解する上で大きな助けになるだろう」と述べた。
「合意破棄に近い措置」とは、文政権が被害者の意見が十分に反映されなかったという理由で、2015年の慰安婦合意に基づいて日本政府の拠出金10億円(約100億ウォン)で設立された「和解・癒やし財団」を18年に解散したことを意味する。これに先立ち、文政権時の大統領府は17年12月、「この合意で慰安婦問題は解決できない」と事実上の白紙化を宣言した。しかし、文氏は任期末の21年に、「慰安婦合意が公式合意であったことを認める」と立場を変えた。これにより、両国間には被害者及び遺族に支援金を支給し、残った財団の基金などをどのように使うかが問題となっている。
●「先週、韓国与党幹部がひそかに訪日…岸田首相に『謝罪』の言及を要請」 3/18
日本のマスコミは、韓日首脳が16日の会談を通じて「関係正常化」に同意したと肯定的な評価をしながらも、韓国内の否定的な世論のため、日本にとって有利な合意の履行が危ぶまれるのではないかと神経を尖らせている。
読売新聞は17日、「韓国では日本の被告企業の代わりに、自国政府傘下の財団が弁済する案を日本に譲歩したという見方が多い」とし、「(今回の首脳会談の結果で)韓国内の反対世論を抑えられるかは不透明だ」と報じた。韓国では今回の首脳会談を通じて日本の「謝罪」と被告企業の「賠償参加」のような「誠意ある呼応」が出てくると期待する声もあったが、結局実現しなかった。
日本経済新聞も「韓国政府はすでに『元徴用工問題は国交正常化時に解決済み』との日本の立場に配慮した解決策を示している。(これを)最終的な解決策とするには、韓国世論の支持が欠かせない」と報じた。しかし、同紙は韓国の世論状況を説明し、「韓国では尹大統領の決断を肯定的に評価する声が多くない。 日韓関係で支持率を極端に落とせば尹政権の求心力が落ち、懸案の処理を完結させる力を失いかねない」と懸念を示した。それと共に「賠償を求めた多くの原告にも受け入れられるよう尹政権に引き続き国民への丁寧な説明を求めたい」と強調した。
時事通信も「韓日首脳がシャトル外交の再開に合意した。大統領選挙時からの主張を実現させたのは大きな成果。しかし『屈辱外交』という批判は依然強く、思惑通りに世論の反発を抑えられるかは不透明なままだ」と報じた。同通信はさらに、首脳会談の過程で知られていない裏話も伝えた。尹大統領に近い与党(国民の力)幹部が先週、ひそかに日本を訪問し、自民党有力者らと接触したということだ。同通信はその与党幹部が「韓国の世論の雰囲気を伝え、首脳会談で岸田首相の口から直接『痛切な反省と心からのおわび』という過去の談話の文言に言及してほしいと働きかけた」と報じた。しかし、岸田首相は結局それを受け入れなかった。
尹政権が韓国の否定的な世論を静めるため、首脳会談を利用したという主張も出た。朝日新聞は「世論調査で(6日発表した)『解決策』への反対が6割に上る状況の中で今後、世論の支持を高めていくために(韓国が)重視したのは『日本の協力』」だとし、「韓国政府は『早期の単独での訪日』にこだわった」と報じた。韓国政府が譲歩案を出した後(6日)、「異例の速さと言える10日後の訪日(16日)を実現させたのは、早くから関係改善の動きを目に見える形で具体化させ、日本との間に協力関係が築かれていることを国民に見せるためだ」と付け加えた。同紙はさらに「徴用工問題の解決策をめぐっては韓国国内で反対意見も目立つ。韓国政府と(日帝強制動員被害者支援)財団は、ねばり強く説得を続けてもらいたい」としたうえで、「日本側の建設的な関与も欠かせない。被告企業を含む日本企業の柔軟な対応を望む」と提言した。
●永田町騒然!毎日新聞”オフレコ破りの英雄記者”が突然の異動へ… 3/18
オフレコ破りで日本がしびれ、弱者を救った
岸田文雄首相が信頼を寄せていた荒井勝喜首相秘書官(当時)が性的少数者や同性婚をめぐる「差別的発言」で更迭されてから1カ月。取材者側が録音・録画せず公表しないことを約束した「オフレコ」での発言を最初に報じた毎日新聞には、様々な角度から賛否の声が向けられている。“オフレコ破り” の擁護派からは「差別発言をする人物が首相周辺にいることを報じるのは公益性がある」「メディアの使命と役割」と讃えるような意見が見られるが、それを報道した記者がまもなく “異動” することになると知ったら、どう思われるだろうか。
首相のスピーチライターとされた荒井首相秘書官が更迭されたのは2月4日。前日の3日午後11時前に毎日新聞がニュースサイトで配信した記事がきっかけとなった。「首相秘書官、性的少数者や同性婚巡り差別発言」と題する記事は320字程度で、経済産業省出身の荒井首相秘書官が3日夜、記者団の取材に「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと差別的な発言した、と説明。続けて「首相官邸でオフレコを前提にした取材に対し発言したが、進退問題に発展しかねず、国会で岸田文雄首相の任命責任が問われる可能性がある」と記している。文末には「A」という署名が入った記事だ。
その約2時間後には、荒井氏がオンレコ(公表して差し支えないこと。オン・ザ・レコード)で自らの差別的な発言について謝罪・撤回したとの記事を配信。荒井氏が記者団に「先ほどやや誤解を与えるような表現をして大変申し訳なかった。撤回させていただく」と述べた、と伝えている。こちらの記事には署名が入っていないが、2月4日付の朝刊には再び「A」の署名が見られる。そして、4日朝には岸田首相が記者団に荒井氏を更迭する方針を明らかにしたと報じた。
「『良い判断だった』と後輩たちをほめてあげたい」
荒井氏更迭後の2月4日午後9時前、毎日新聞が配信した「オフレコ取材報道の経緯」と題した記事によると、3日夜に首相官邸で行われた荒井氏に対する取材はオフレコを前提に行われ、毎日新聞を含む報道各社の記者約10人が参加。平日はほぼオフレコ取材が定例化しているとした上で、首相が2月1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化に関し「社会が変わっていく問題だ」と答弁したことをめぐり、記者からの質問に荒井氏が首相答弁の意図などを解説する中で差別的な発言を発した経緯が記されている。
その中では、取材現場にいた毎日新聞政治部の記者が一連の発言を首相官邸キャップを通じて東京本社政治部に報告。本社編集編成局で協議した結果、「荒井氏の発言は……性的少数者を傷つける差別的な内容であり、岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断した」と説明。ただ「荒井氏を実名で報じることは、オフレコという取材対象と記者の約束を破ることになるため、毎日新聞は荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、3日午後11時前に記事をニュースサイトに掲載した」とし、これを受けて荒井氏が3日深夜にオンレコで記者団の取材に応じ、発言を謝罪・撤回したという。記事の後段には、過去に政権幹部らのオフレコ発言が問題になったケースも並べられている。
毎日新聞の公式サイトを見ると、最初に荒井氏の発言を記事化して以降、同社は関連記事のほかにも「オフは守るべきだが、問題発言などは総合的な判断で解除もあり得る」などとする大学教授の見解や「『良い判断だった』と後輩たちをほめてあげたい」とする与良正男専門編集委員の記事、「『オフレコ破り』というより、官僚の緩みの問題である」という論説室の野口武則氏の記事などを配信している。最初の記事を出すにあたって、本社編集編成局で協議したのだから当然と言えば当然だが、自社の “オフレコ破り” は問題ではなく、書いた記者にも「よくやった」ということなのだろう。
だが新聞業界は真っ二つ、褒める朝毎と憤る産経・読売
こうしたスタンスへの批判は、主として「信義則」と「知る権利」の観点から向けられる。根底となるのは日本新聞協会の見解だろう。一般社団法人「日本新聞協会」が1996年2月14日に示した「オフレコ問題に関する日本新聞協会編集委員会の見解」によると、オフレコはニュースソース(取材源)側と取材記者側が相互に確認し、納得したうえで、外部に漏らさないことなど、一定の条件のもとに情報の提供を受ける取材方法と説明。取材源を相手の承諾なしに明らかにしない「取材源の秘匿」、取材上知り得た秘密を保持する「記者の証言拒絶権」と同次元のものであり「その約束には破られてはならない道義的責任がある」としている。
その上で、オフレコ取材は「真実や事実の深層、実態に迫り、その背景を正確に把握するための有効な手法で、結果として国民の知る権利にこたえうる重要な手段である」と強調。ただ、「これは乱用されてはならず、ニュースソース側に不当な選択権を与え、国民の知る権利を制約・制限する結果を招く安易なオフレコ取材は厳に慎むべきである」としている。
朝日新聞は2月4日配信の記事で、自社の記者は荒井氏が差別的な発言をしたオフレコ取材の場にはいなかったとした上で「実名で報道する社会的意義が大きいと判断したときは、取材相手と交渉するなどして、オフレコを解除し、発言を報じる」と説明。読売新聞は2月10日配信の「オフレコ取材の意義とは 国民の『知る権利』損なわぬ配慮を」と題した記事で、「オフレコ破りで一時的に国民が受け取る情報量は増大するが、その後長期にわたり情報量は低下しかねない。最終的に損するのは権力でなく、読者・国民である。民主主義に反する由々しき事態といえる」と指摘している。
また、産経新聞も2月17日配信の「オフレコ破りは背信行為である」との記事において、「今回の一件で、取材する側とされる側の微妙なバランスが崩れてしまうのではないか、と還暦記者は憂える。メディアと権力側との『なれ合い』はあってはならないが、取材源の秘匿という最低限の『信頼』関係がなければ、ますます権力側の本音が隠されてしまいかねない、と」などと記している。
そんな中で突然の内示に「え、なんで」の声
こうしたオフレコ発言報道をめぐる賛否はメディア界のみならず、SNS上でも活発に展開されているところだ。ただ「良い判断だった」はずの毎日新聞において、ある人事異動が行われることはあまり知られていない。2月下旬、毎日新聞は大がかりな「内示」を発したのだが、その中に荒井氏の記事で署名が入っていた「A」の名があったのだ。
「Aは政治部の記者で、一昨年から与党担当キャップ。22年4月からは首相官邸キャップを務めています」(毎日新聞関係者)
2月下旬の「内示」でAに示された行き先は、他クラブへの異動でもデスク昇進でもなく「毎日みらい創造ラボ」。公式サイトによれば、ラボは「まだ見ぬ顧客価値の創造と実現に向かって走り出す、あらゆるChallengerを後押しする伴走者(アクセラレーター)であり続けます」とうたい、新規事業開発やオープンイノベーションの推進を目的としている。つまり、経済部や社会部などの他部署でも編集幹部になるわけでもなく「畑」自体が変わるということだ。
毎日新聞関係者によれば、この行き先は「本人の希望」だという。発令は4月の統一地方選挙後の見込み。だが「良い判断」をしたはずの記者がその後まもなく現場を離れることは注目を集めそうだ。
●「捏造だ」「確認できない」高市早苗氏の答弁が迷走中 3/18
放送法上の「政治的公平」をタテに、安倍晋三政権時代、総務相として同政権に批判的な番組に圧力をかけようとした疑いがもたれている高市早苗・経済安全保障担当相。今月上旬に問題発覚以降、「文書は捏造ねつぞう」と叫んでいるが、その答弁の迷走ぶりが目に余る。一部からは擁護論も飛び出したが、それも筋違いで旗色は悪くなるばかり。白熱の好試合が続くWBCの裏で、見苦しさばかりが目立つ高市氏の「死闘」を検証した。
「行政文書」78枚のうち4枚は「事実でない」
「明らかにありもしないことをあったかのように文書が作られた。認識は変わっていない」
高市氏は17日の大臣記者会見でも強調した。文書とは、総務省職員が秘密裏に作成したとされる一連の記録。全78枚のうち、自身に関する記述がある4枚を「事実ではない」と言い続けている。
文書からは、安倍晋三元首相の腹心の礒崎陽輔首相補佐官(当時)が総務省に促し、一部の番組をけん制しようとした道筋が浮かび上がる。総務相だった高市氏は2015年5月の参院総務委員会で、政治的公平性の判断基準を「放送事業者の番組全体」から「一つの番組」に変える新解釈を答弁した。官邸サイドの意をくんだ形だ。
文書によると、高市氏は答弁の3カ月前の15年2月13日、総務省情報流通行政局長と打ち合わせをしている。同局長は「大臣の了解が得られれば、総理に説明し、国会でいつの時期に質問するかの指示を仰ぎたいと、礒崎補佐官から言われている」と高市氏に伝えた。高市氏は「そもそもテレビ朝日に公平な番組なんてある?」と語り、礒崎氏の動きについて「総理も思いがあるでしょうから、ゴーサインが出るのでは」と述べたとされる。
今月3日、参院予算委員会で文書を示しながら高市氏に詰め寄ったのは、立憲民主党の小西洋之議員。情報通信政策を担う郵政省(現総務省)出身で、この文書は「総務省職員に託された」という。高市氏は答弁を求められると「全くの捏造だ」。「捏造でなければ閣僚や議員を辞職するか」と小西氏が問うと、「結構だ」とたんかを切った。
総務省の認定以降は歯切れ悪く…
文書には、15年3月に高市氏が安倍氏に電話し、国会質問の意向を確認したとの記述もある。この点を念頭に「私と総理の電話を盗聴しているのか」と、文書作成の経緯に難癖を付けた。さらに「正確性の立証責任は小西氏にある」(7日)とも。
しかし、総務省が「行政文書」と認定すると、当初の威勢の良さは少しずつ影を潜めていった。高市氏は「正確性や作成者が確認できない。私に関するものは不正確だ」と強弁し、局長の説明も「覚えていない」(同)。さらに、同省が「レク(打ち合わせ)があった可能性が高い」と認めるやいなや、「レクを受けたと確認できない」と一変し、「この時期に放送法の解釈を私が話した事実はない」と言い逃れた(13日)。
不可解な答弁はほかにも。「礒崎さんという名前、もしくは放送行政に興味をお持ちだと知ったのは、今年3月になってから」(8日)との発言は、親密さを語る動画がネットに投稿され、自身のツイッターで「名前が出ているのを知ったのが今年3月という意味。日本語が乱れた」と釈明した(11日)。
さらに13日の参院予算委では「言いたいことを我慢してきた」と居直り。委員長の制止を振り切って「テレビ朝日をディスる(批判する)わけがない。羽鳥慎一アナウンサーのファン。朝の(羽鳥アナが司会を務める)モーニングショーを見るほど」などとわけのわからない弁明をまくしたてた。
公務員の内部告発はOKのはずでは
高市氏への積極的な擁護論は自民党内からもあまり聞かれない。だが、思わぬ援護射撃があった。国民民主党の代表・玉木雄一郎氏が、問題を追及する立憲民主党に対し「争点がずれている。政治的な圧力で解釈がゆがめられ、自由な放送ができなくなったかどうかが本質だ」と疑問視した。
高市氏が当初、自身に関する記述を捏造としたことには「強い言葉で言い過ぎている」とする一方、「文書が安易に外に流出すること自体は、国家のセキュリティー管理として問題」と主張。さらに、「ある政治的意図でリークが行われたのなら問題」と述べた。
しかし、公務員が公益のために内部告発することは認められている。例えば、消費者庁のホームページのQ&Aでは、公務員の公益通報が守秘義務違反にならないのか、という質問項目に「むしろ積極的に法令違反の是正に協力すべきものと考えられる」と記されている。
では、玉木氏は一体、どうして援護射撃をしてみせたのか。政治ジャーナリストの泉宏氏は「将来、与党入りをしたいという思惑の現れ」と看破する。国民民主と言えば、昨年度の政府予算案に賛成し、与党へ秋波を送ったこともある。「党と自身の存在感を示したいという考えもあるだろう。一見正論だが、自らの保身と野望を心内に秘めた発言。彼が考えそうな作戦ではある」と話す。
官邸と自民党一体でテレビ局に圧力を
そもそも、安倍政権が政権に批判的な放送番組へ圧力をかけてきたことはすでに多くの指摘がある。今回の総務省文書は、玉木氏の言う「自由な放送」を妨げる動きを裏付けるものではないのか。
元経済産業官僚でテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」でコメンテーターを務めた古賀茂明氏は「今回の文書が表に出たことで、『裏でこういうことをやっていたのか』ということが分かった」と話す。コメンテーターを降板した時期は礒崎氏が放送法の解釈を巡って、総務省に一連の働き掛けを行った直後の2015年3月下旬のことだ。
古賀氏は「世間では、最後の出演で『I am not ABE』という紙を掲げたせいで降板したと思われているかもしれないが、実際は2月までには決まっていた」と言う。
まさに、礒崎氏が総務省に対してTBSの番組を問題視した14年11月、報道ステーションのプロデューサーや在京キー局に自民党から「公平中立」な放送を求める文書が送られていた。「むしろ、今回の文書では、高市氏は礒崎氏らの動きに受け身だったように読める。この時期、官邸と自民党が一体となって、テレビ局に圧力をかけようとしていたことが分かる」
高市氏は15年5月の参院総務委員会で、一つの番組でも「国論を二分する課題について、他の見解のみを取り上げ、相当な時間繰り返す番組」は放送法4条に定める政治的公平に違反すると答弁。翌年には、公平を欠く放送を繰り返した場合、電波停止を命じる可能性にも言及した。
高市氏が本当に受け身だったかどうかはともかく、結果的に安倍氏を頂点にいただく首相官邸の圧力で放送法の解釈変更が強行された。その高市氏の解釈変更を今も是とする岸田政権の姿勢も問われる。
元テレビ朝日の記者で「放送レポート」編集長の岩崎貞明氏は「自民党、政権による放送局への介入が問題なのは当然だ」としながら、放送局に毅然とした姿勢も求める。「政権批判を期待する視聴者もいる。やるべき批判をしなければ、見るに値しないと判断されてしまう。放送局の独立、自由は自分たちで維持、保障しなければ、表現の自由は狭まってしまう」
デスクメモ
総務省が文書は本物と認めた段階で「勝負あった」。高市氏はむしろ、文書の通り動いて解釈変更したと認めればいい。当時、安倍政権が「報道は不公平だ」と考えていたことは、今回の文書が世に出なくても明らかだから。今さら取り繕ってその考えを否定する方が、真に見苦しい。
●日本メディア「韓国の若者たち、文政権の反日疲れで『イエスジャパン』に」 3/18
韓国の若者たちが、文在寅(ムン・ジェイン)政権で続いた「反日」に疲れ、「ノージャパン(NO JAPAN)」から「イエスジャパン(YES JAPAN)」になりつつある、と日本最大手の日刊紙・読売新聞が報道した。
読売新聞は17日の記事で、「左派の文在寅前政権下で日本製品の不買運動が起きていた韓国で、日本人気が高まっている」「未来志向で日韓関係の改善を望む若者たちがブームをけん引している」と報道した。
そして、「新型コロナ流行の収束で増えた(韓国人の)海外旅行で、行き先の一番人気は日本だ」「韓国メディアによると、日本の植民地支配に抵抗した独立運動を記念する祝日の3月1日(三一節)ですら日本行きの便はにぎわった」と伝えた。
また、日本の人気漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』の劇場版アニメーション『THE FIRST SLAM DUNK(ザ・ファーストスラムダンク)』が韓国で記録的ヒットとなるなど、日本のアニメ映画がヒットしていると紹介した。
同紙は「韓国では、歴史問題で日本を厳しく批判していた文氏が2017年に就任して以降、反日の空気が充満した。19年には、日本政府による韓国向け輸出の規制強化に反発して、日本製品の消費や日本旅行を拒否する『ノージャパン運動』も広まった」「店頭から日本の缶ビールが消え、カジュアル衣料品店『ユニクロ』の店舗数も減った」とかつての様子に触れた。
その上で、「当時から一変した日本人気は『イエスジャパン現象』と騒がれている。(この現象が起こっている背景には)長く続いた『反日疲れ』もあるようだ」「若年層には、歴史問題を長期的な課題としつつも、互いの経済的な発展に向けて協力し合うべきだとの考えが広まっている」と報じた。
●野党「高市氏4文書」追及へ 予算審議終盤戦、攻防が激化 3/18
国会は、2023年度予算案の審議が終盤戦に入る。野党は安倍政権下で放送法の「政治的公平」の解釈が変更されたと批判。総務相だった高市早苗経済安全保障担当相の関与が記された総務省の4枚の行政文書を「高市氏4文書」と呼び、追及の柱に据える。与党は3月下旬の予算成立に向けて審議時間の上積みを図る構えで、与野党の攻防が激しくなりそうだ。
文書によると、当時の礒崎陽輔首相補佐官が特定の民放番組を問題視し、14年11月ごろから放送法の解釈を巡り総務省と協議。15年5月の高市氏の「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」との国会答弁につながった可能性を示唆している。
高市氏は「答弁に礒崎氏の影響はないと証明する」と主張し、答弁前夜の総務省幹部とのメールなどを国会に提出。15年2月に担当局長が高市氏に対し、礒崎氏とのやりとりを説明したとされる文書内容も「あり得ない」と完全否定を続ける。
●共同親権「政争の具にするのは大変悲しい」嘉田参院議員が予算委で訴え 3/18
共同親権導入を巡り、統一地方選を前に政治的に混迷している。法務省側の家族法制見直し中間試案については、昨年12月から2か月間に渡ってパブリックコメントを実施し異例の注目を集めたものの、大手メディアで実相が伝えられることは相変わらず少ないままだ。
2月下旬には東京新聞が法務省の民法改正案の提出見送りと報道するも、関係者が直後に同省に確認した結果として「決まっていない」と否定したことがSNS上で暴露されるなど“情報戦”の様相も濃くなっている。
そうした中、マスコミでは報じられていないが、無所属の嘉田由紀子参院議員が15日の予算委員会で「政府の動きは大変に遅い」と指摘し、選挙を前に懸案先送りの観測ムードを牽制する一幕があった。
嘉田氏はG7で日本だけが単独親権を残している事実を指摘した上で、共同親権反対派が、母親へのDVが続くリスクを懸念していることについて「解決策はある」と主張。
「離婚時、子どもの生活教育、あるいは精神の安定などを守るために、共同養育計画合意書を作り、公正証書化して法的権限を持たせる」
「弁護士などが仲介をして、いわばADR裁判外紛争解決手続きを活用することで、共同養育計画を作ることができる」などの方向性を提言した。
また、共同親権反対派の有識者や同調する一部メディアから「共同親権を導入した国の中には、単独親権に戻す動きがある」などと言説が流されているが、嘉田氏は「離婚後共同親権制を採用している国でも、DVは当然存在している。DV被害が守られないとの理由で単独親権制度に戻そうという国はあるのか?」とただしたのに対し、法務省は金子修民事局長が同省の調査内容を答弁。
「DV被害者が守られないとの理由によるかどうか、わからない」との留保をつけたものの、「離婚後共同親権制度から離婚後単独親権制度への法改正をした国があるということは承知していない」と言明した。さらに離婚後共同親権制を採用している国でのDV事案の対応について「フランスでは家庭内暴力や虐待がある場合は、裁判所が父母の一方の親権を取り替え上げることができるような仕組みがある」などの具体例に言及した。
パブリックコメントは賛成・反対派を問わず、多数の反響があったが、東京新聞が法務省の法案提出見送りをフライングで報道して物議を醸すなど、統一地方選を前に「先送り」したい政治的意向がにじみ始めている。
嘉田氏はこうした動きを牽制。現行民法の834条でもDV事案の親権剥奪の条項があることから、「DV被害者を保護しながら離婚後共同親権制を実現する民法改正法案は今すぐにでも国会に提出できる状態」との認識を示した上で、「政府の動きは大変に遅い」と指摘した。
そして永田町や霞が関で「共同親権制度に賛成すると、DV被害者に冷たいと批判され『選挙に不利になるから』との声が聞こえる」と紹介した上で、4年前に自身が出馬した参院選でも「離婚後共同親権を選挙公約に入れたことで、ネット上で落選運動をされた」と述懐。
「落選運動をされる辛さは当事者として大変よくわかるが、選挙を目の前にする政治家の弱みにつけ込んで、政争の具にするのは大変悲しい。この問題は日本の子どもの命運をかける大問題だ。政争の具にしてはいけない」と熱弁。斎藤法相に対し、「DV被害者を保護しながら、共同親権を心から望む親や子どもたちは、全国にたくさんいる。そういう希望を叶える法制度の整備が今こそ求められている」と訴えた。
これに対し、斎藤法相は「法制審議会において調査審議中であること、委員が今ご指摘されたような特定の見解の是非について、法制審議会に諮問をお願いしている立場である私が、個別にコメントすることは差し控えたい」と慎重な姿勢を示しつつ、法制審の調査審議の状況や外国法制調査の結果などの情報発信をしていることを改めて伝えた。  
●中ロ首脳会談「地域と平和に両国が責任を」 岸田首相 3/18
岸田文雄首相は18日、中国とロシアの首脳会談に関し「地域と平和に両国が責任をもって対応していく姿勢を示してもらいたい」と話した。核兵器のない世界の実現に向け「中国とロシアを含む全ての核兵器国を核軍縮に巻き込んでいくことが不可欠だ」と言及した。
ドイツのショルツ首相との共同記者会見で答えた。5月に広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)で「力強いメッセージを発信したい」と話した。
ウクライナに侵攻したロシアによる核の威嚇などで「道のりが一層厳しくなっている」と語った。「厳しい安全保障環境という現実を核兵器のない世界という理想に結びつけていくための現実的かつ実践的な取り組みを進めていく」と言明した。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は20日からロシアを訪れてプーチン大統領と会う。

 

●手取り14万…小学生が憧れる職業3位だが「稼げない国家資格職」を目指す 3/19
2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、2023年1月1日からは、18歳の成人は一般NISA・つみたてNISAでの投資が始められるようになりました。これを受け、高校生や大学生への金融教育がますます重要視されています。本連載では全国の学校で金融教育の出張授業を実践する盛永裕介氏が実際の授業内容をレポートします。
美容短期大学で金融教育の出張授業――理想の将来を実現するための貯蓄計画とは?
筆者は、東京都の美容短期大学1年生130名を対象に、金融教育の講義を行いました。
美容師の平均給与は、厚生労働省による「令和元年賃金構造基本統計調査」によると年収は311万4,000円、平均月収は25万5,100円です。国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」によると、日本全国の平均年収は443万円、平均月収は単純計算で36万9,000円です。年齢分布や地域分布をそろえた調査ではないため、一概には言えませんが、平均給与で全体を下回っていることが分かります。自分の進路と照らし合わせて将来設計を構築するための、金融リテラシーは必要不可欠です。
また、美容短期大学の学生は、将来的に独立開業して活躍することを目指す人が多いため、社会人として必要な金融知識を習得するだけでなく、経営者として収支の把握や予算作成といった経営に必要な資産管理のスキルを身につける必要があります。
美容師は2022年の「小学生の『将来なりたい職業』ランキングトップ10」(出所:FP協会)の女子児童の部門で第3位にランクインしています。現在の美容短期大生が金融リテラシーを身につけ、美容師という職業のスタイルを拡張することで、彼女たちの将来の働き方やライフスタイルが広がるかもしれません。
今回の講義では、なぜ資産運用が必要であるのかについて理解を深めたうえで、個人の収支管理に関するワークを行いました。また、社会に出る前に知っておくべき金融知識を習得することも目的としています。
その一環として、自分が理想とする将来を実現するには、どの程度の収入が必要で、どの程度の費用がかかるのかをシミュレーションしました。まずは自分が目指している職業・企業の平均月収を調査し、手取りの月収を目安で算出します。次に、将来実現したいことを書き出し、それを実現するためにいくらかかり、何年後に実現したいのか、実現するためには毎月いくら貯金をする必要があるのかを考えます。
考えるヒントとして、「子どもは欲しいか」「住宅を購入したいか」「ゆとりのある老後生活を送りたいか」…などライフイベントに関する質問に回答すると、それを実現するためには平均でいくらかかるのかがわかる補助教材を用いて進行しました。
次に、1ヵ月にかかる生活費を示し、毎月の貯金額面や自由に使えるお金はいくらかを計算します。多くの学生は、収支が赤字のシミュレーションとなり、「将来のやってみたいことを沢山書き込んでみたが、計算してみると莫大なお金になってしまった」「お金の事やこれからの貯金やかかる費用を考えたことがなかったので、実際に計算することができたりしていい経験ができた」との声があがりました。
最後に、自分のお金に関する課題を書き出し、その課題をどのように解決していくべきか考えます。解決策として、「美容師の給料だけではお金が足りなさそうなので、副業や投資を視野に入れる必要がある」「貯金すべきことがわかったので、今からコツコツ貯金する癖を身につけたい」との回答が多く見られました。
お金を増やすための3つの方法
お金を増やすためには、
   (1)副業で本業以外の収入を得ること
   (2)昇進や転職をして年収を上げること
   (3)資産運用・資産形成をすること
などが挙げられます。
今回のテーマは『資産運用・資産形成』ですので、投資の仕組みやギャンブルとの違い、日米欧の家計における金融資産構成、単利と複利の仕組みについて学ぶことで、資産運用・資産形成について理解を深めます。次に、投資や運用への興味を持たせることを目的として、株式投資のシミュレーションを行いました。
調査(1)によると、短期大学における講義で株式の模擬売買を行うシミュレーションゲーム『株式学習ゲーム』を取り入れたことで、89.2%の学生が『以前より株式に関心を持つようになった』という結果が得られたため、今回の取り組みでも資産運用・資産形成への関心を高めることが期待していました。
ラクしてお金を稼ぐ方法はない?美味しい話にご注意
シミュレーション後、なぜ自分が投資した企業の株価が上がったのか、反対に下がったのかを考察し、株価の決まり方、リスクとリターンの関係性について学習しました。
特に、リスクとリターンについて、多くの学生はリスクと聞くと「危険」という意味で捉えていましたが、正しくは「将来に対する不確実性」という意味です。大きな収益を期待するにはリスクは大きくなり、小さな収益を期待するにはリスクは小さくなるため、「リスクが小さく、リターンが大きい」という金融商品は存在せず、一般的に「うまい話、美味しい話」と言われていることを解説しました。
昨今、「うまい話」を持ちかけた投資詐欺に関する相談件数が増えていることから、SNSでよく見かける投資詐欺の実例を交えて、投資詐欺から身を守るための方法、自分で判断できないときはどのように対処すべきかについてお話ししました。最後に、長期的な視点で分散投資を行うこと、そして定期的に積み立てることが投資成功のために重要であることを伝え、講義を終えました。
「講義を理解することができた」と回答した学生は80.3%
講義終了後に事後アンケートを集計したところ、「講義を理解することができた」と回答した学生は80.3%、「講義に満足した」と回答した生徒は85.2%でした。この結果から、講義に対する内容を理解できたことがわかります。
また、「投資の話を聞く機会が今まで無かったので、将来のお金のことと投資について向き合ってみたいと思った」といった感想が多数寄せられました。「お金についてあまり考える機会がなかったので、すごく貴重な経験になった」という感想も多く、資産形成について触れる機会が少ない学生にとって、金融教育の講義は新鮮に感じていることが伺えます。
さらに、「人生でかかるお金やお金の価値がどれくらい変動しているのかなどについて、数値化して捉えることでよく内容を理解できた」「具体的に将来自分はどのくらいお金が必要になって、実際今からどのくらいの貯金が必要になるのかを知ることができた」「自分がどれだけ毎月お金を使っているのか見える化されたため、無駄使いを見直していかなければならないと感じた」との回答から、将来の収支計画を考えることで、資産管理の大切さを実感した様子でした。
金融リテラシーを高めるためにはアンテナを張り続けることが必要
短大生や大学生に限らず、これから若年層が資産形成をするには、お金の正しい知識と適切な判断力、いわゆる金融リテラシーの向上が不可欠です。
金融リテラシーを高めるためには、自らが金融や経済に目を向け、家計管理や生活設計、適切な金融商品の選択をどのように行うのかを自発的に学習することが求められています。これからの時代を生き抜き、充実した人生を送るためには、お金と向き合い続ける必要があると言えます。
●2050年の日本経済に必要なこと、次なる震災・少子高齢化をどう乗り越える 3/19
まもなく日本銀行の総裁が交代になり、異次元緩和から10年を迎える。東日本大震災からは12年が過ぎた。コロナ禍の影響もあり少子高齢化が加速するなかで、日本経済はなお「失われた30年」から抜け出せたとは言えそうにない。次の30年をどうつくっていくのか。日銀で要職を歴任し、現在は日本証券アナリスト協会の専務理事を務める神津多可思氏が2050年に向けて必要なアプローチを考える。
東日本大震災から12年。干支が一回りして、もうそんなに時間が経過してしまったのかと驚く。亡くなられた方々のご冥福を改めてお祈りし、被害に遭われた方々のこの間のご苦労を思う。
他方で、南海トラフ巨大地震などの可能性もしばしば指摘される。それだけに、これまでの振り返りがより良い未来につながることを願わずにはいられない。
時を同じくして、日本銀行総裁の10年ぶりの交代を機に、過去10年の日本経済を振り返る報道もたくさんなされている。
しかし、不振感・閉塞感はなお残存しており、大きく変わる世界経済の様相とも相まって、不透明感も強い。過去の振り返りをより良い未来へと繋げたいのは、日本経済のあり方についても全く同じだ。
「失われた30年」とも言われるが、その長い失われた時を、前向きに未来に活かすために、私たちはどういう含意を引き出すことができるだろうか。
「仮想将来世代」になりきって考える
これまでの経験を未来に活かそうとする時、「フューチャー・デザイン」というアプローチがある。これは、今を生きる世代が「仮想将来世代」になりきることで、より良い未来を実現する道筋を少しでもはっきり描き出そうとする試みである。
筆者も一度ワークショップに参加したことがあるが、将来世代になりきるためには、すっかり身に着いてしまった、足元からの連続で未来を描こうとする、フォーキャスト思考から抜け出さないといけない。
そうではなくて、様々な出来事が起こってしまった後の未来に身を置いて、そこから今を振り返るバックキャストを心掛けなくてはいけないのである。
特に日本経済の未来を考える時、一定年齢以上の人は、無意識にバブル崩壊前の日本経済の雰囲気を取り戻そうとしてしまうところもあるのではないだろうか。
しかし、高齢化と人口減少の影響は、少なくとも次の何十年かは続く。そして、バブル崩壊前の雰囲気を現役として味わったことのない世代が、既に社会の中核として活躍する時代になりつつある。
これからやってくる未来はそういう未来である。フォーキャスト思考だけではうまく描けない。
首都直下地震の復興対策は150兆円規模に
失われた時が30年として、これからの30年を実りあるものとするため、2050年という時点を設定してみよう。
その時の日本経済を総合的に描くのは大変な作業になるので、ここでは論点を2つだけ取り上げる。一つは、それまでの間に起こる可能性がある大きな震災であり、もう一つは人口動態である。
まず、震災に関して言えば、内閣府の中央防災会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループが2014年に首都直下地震被害想定を発表している。
それによると、首都直下地震の発生確率は、今後30年間で約70%。経済被害は95兆円に達するとされている。東日本大震災の経済被害は、推計に幅があるが、約20兆円程度だとして、首都圏直下地震の被害額はその約5倍にも及ぶのである。
東日本大震災の復興対策費は総額で30兆円超なので、もし被害額と比例的に復興対策費が組まれれば、150兆円近くの支出がなされることになる。想定されている震災は首都圏直下だけではないので、金額はさらに膨れるかもしれない。そしてほぼ確実に、それは赤字国債の発行によって賄われる。
震災から復興は本当に大変であろう。
放漫財政で長く栄えた権力・国はない
財政赤字はいくらになっても大丈夫だとするのであれば、150兆円程度の復興予算も恐るるに足らずかもしれないが、果たして本当にそうだろうか。
自分の知る限り、古今東西、放漫財政で長く栄えた権力、国家は存在しない。経済混乱のリスクを避けるためには、そうした大規模な臨時の歳出にも耐えられる財政構造にしておくことが必要だ。
他方、人口動態をみると、2050年の日本では、人口は1億人を切り、65歳以上がその4割を占める。残念ながら、今から手を打ったとしても、これは動かしがたい現実である。
しかし、そうした社会においても、日本に暮らす一人ひとりの幸せ、ウェル・ビーイングを高めていくことはできる。2023年においても、欧州にある日本より小さな国で、日本よりも国民の幸せ度が高い国はいくつもある。
2050年の日本で、4割を占める65歳以上の人口が生活をエンジョイできるためには、社会保障制度の持続可能性についての信認が一層重要になる。
年金・医療・介護の保険制度について、それらが充実したものになっていればなお良いが、まずは、何歳まで生きるか分からない不確実性に直面する世代が、安心できる持続可能な制度が実現していることが大事だろう。
重視すべきは「量の拡大」より「一人当たり」
震災と人口動態という2つの論点だけを取り上げても、2050年の将来世代から今を生きる現代世代に対して、経済政策について次のような助言をすることができるだろう。
まず、震災からの復興のため、100兆円を大きく上回る規模で財政赤字が追加的に拡大し、何らかの負の影響を生む可能性があると考えるのであれば、予めそれをできるだけ小さくするようにしておいた方が良い。
政府の歳入・歳出バランスの持続可能性に対する信認を高めておけば、その分、震災に伴う経済ショックを乗り切りのためのコストは小さくて済むだろう。
他方、人口の高齢化・減少は、次の30年も変わらない。少子化対策は別途考えるべき重要な問題だが、安定した経済運営のためには、その避けられない人口の高齢化・減少を所与として政策設計を行わなくてはならない。
日本経済のボリュームを、これからの人口動態の下にあっても昭和の目線で増やそうとするのは合理的ではない。
一人当たりで考えることがより重要であり、さらにボリュームの拡大によって問題を解決しようとするアプローチではきっとうまくいかいない。
高齢層が持つ失敗の経験をどう生かすか
一人当たりの経済活動を活性化させていくためには、15〜64歳の生産年齢人口がより活発にリスクをとる経済にしなくてはいけない。
2050年までのイノベーションは、2023年時点で想像できるものとは結果的にかなり違うはずだ。若い世代の試行と失敗を通じてしか、イノベーションは実現しない。
失敗を許容し、再挑戦を可能とする仕組みを整備することがイノベーションを促す上で必須であり、そういう社会に意図的に変えなければならない。
一方、65歳以上の高齢人口のウェル・ビーイングと社会貢献なしには、社会は安定しない。若い時の試行と失敗の経験を持つ高齢層でなければできない社会貢献の機会を拡げ、その知恵を広く社会で共有できる仕組みが重要だろう。
上述のように、社会保障制度が持続可能であれば、高齢層の所得の不確実性はより小さくなる。その下で、最後まで元気に、そして最後まで社会から必要とされて生きることができるような制度の設計を加速させるべきだ。
長いコロナ禍を経て訪れる春
現在の年齢のまま2050年を生きる自分を想像して、その将来世代として現代にメッセージを送るとすると、以上のようなことになるだろうか。
「大学に入ったら是非読め」と言われて、とても読めずに今日に至っている本の1つにプルーストの『失われた時を求めて』がある。
この本に由来して、ふとした刺激である記憶が蘇ることは「プルースト効果」と呼ばれる。今月は、このプルースト効果のためか、これまでに起きた様々なことが思い出される。
長いコロナ禍の時期を経て再び訪れようとしているこの春に、そうした記憶をつなげ、新しい気持ちでより良い未来への道筋を考えてみたいものだ。
●道を尋ねてきた人間はスパイ…ロシアや中国が「日本の技術」を狙うワケ 3/19
ロシアや中国の「スパイ」は、どんな情報を狙っているのか。元警視庁公安部捜査官/日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんは「スパイ活動の対象になるのは最先端の技術とは限らない。活動を仕掛ける側の国にとっては、一世代前の技術が思わぬ価値を持つ場合もある」という――。
事件化されたものは氷山の一角
2020年1月、警視庁公安部は、ソフトバンク元社員で統括部長だった男を不正競争防止法違反で逮捕した(朝日新聞デジタル 2020年1月25日)。同社員は、勤務していたソフトバンクの社内サーバーに不正にアクセスし、同社の電話基地局設置に関する作業手順書等、営業秘密にあたる複数の情報などを取得。記録媒体にコピーした上で、在日ロシア通商代表部のアントン・カリニン元代表代理に手渡した。カリニンはロシア対外情報庁(SVR)の、科学技術に関する情報収集を担うチーム「ラインX」の一員であった。
また、2021年6月には、在日ロシア通商代表部の職員に渡す意図を隠して不正に文献を入手したとして、神奈川県警が同県座間市の日本人男性を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕した(朝日新聞デジタル 2021年6月10日)。日本人男性は「約30年にわたって複数のロシア人に軍事、科学技術関係の資料を渡し、対価として1000万円以上を受け取った」と供述しており、長期にわたってスパイに“運営”されていたことがわかっている。
過去にもロシア外交官を主とするわが国内における諜報(ちょうほう)活動は幾度か検挙されているが、何もロシアだけではなく、中国、北朝鮮も含め、現在の経済安全保障における日米側と相いれない陣営側により、過去から現在まで日本でスパイ事件が検挙されているのは周知の事実だろう。
これは、私の民間における不正調査の経験も含め語れることであるが、上記のように事件化されているものは、ほんの氷山の一角であると断言できる。
スパイ行為自体を取り締まる法的根拠がない
わが国にはスパイ防止法がなく、スパイ行為自体を取り締まる法的根拠がない。捜査機関としては、法定刑がさほど重くない窃盗や不正競争防止法等の犯罪の適用を駆使し、さらに構成要件を満たして容疑が固まった上で検挙しなければ広報ができない。特に、外交官相手では任意捜査にも応じてくれず、「怪しかったが違いました」では済まされないといった事情もある。そもそも、スパイ事案の特性上、任意捜査をしていたのでは容易に証拠隠滅されてしまう。
私が民間で経験した事案にこういったものがあった。A社から「防衛関係の船舶の図面が転職先に持ち出された可能性があるので調べてほしい」と言われ、対象者の調査を開始した。もちろん、対象者への貸与品(PCやスマートフォン、メールサーバーなど)はデジタル・フォレンジックという技術で内容を復元・解析した上、さらに対象者の行動について外部ベンダーを利用して交友関係、特に転職先に持ち出した事実等を調査した。
ところが、SNS解析を含む広範な調査を進める上で、さまざまな点で某国政府系の人間=X氏との関係が浮上し、対象者が持ち出した防衛関係の船舶の図面が複数人を経由してX氏に渡った可能性が浮上した。これは、X氏の国で主として使用されているSNS解析や現地法人情報による関連人物の洗い出し、さらに現地の協力者からの情報等のルートをたどった結果であるが、民間では予算も限られ、アクセスできる情報の濃さ・確度も捜査機関とは比較にならない。結局、この事案は“X氏に渡った可能性が相当高い”で結末を迎えた。
「合法的な活動」を用いたスパイ行為も
このように、民間で発覚した事案でさえ、依頼企業が公表しなければ表に出ない上、依頼を受けた側も秘密保持契約が当然あるので公にするわけにはいかないのだ。また、依頼企業の目線に立てば、自社の保有技術・情報が他国に漏れたという点で自ら捜査機関に申告し、仮に事件化された場合には大々的に広報されてしまい、自社のレピュテーションが損なわれるような結果は敬遠したいと考えるだろう。要するに、官民を問わずスパイ事案というものは表に出てきづらいのである。
ちなみに、これまで言及した内容はすべて“法に触れるスパイ活動”の一部であるが、諜報活動・技術流出の問題は何も違法な手法のみではない。中国の千粒の砂戦略(※1)のように、悪意・善意を問わずビジネスパーソンや留学生が日本で知見を蓄え帰国する手法(海亀族といわれる)や、投資活動等の合法的な経済活動によって、日本の技術が浸食されている点は留意しなければならない。
※1 千粒の砂戦略:ロシアのようにスパイによる典型的な諜報活動ではなく、人海戦術のごとく、ビジネスパーソン・留学生・研究者など多種多様なチャネルを使用し、情報を砂浜の砂をかき集めるように、情報が断片的であろうとも広大に収集する戦略。
道を尋ねるふりをして話しかける
2022年7月、在日ロシア通商代表部の男性職員が、国内の複数の半導体関連企業の社員らに接触しているとして、警視庁公安部が企業側に注意喚起を行った。
報道(読売新聞オンライン 2022年7月28日)によれば、通商代表部職員は2020年末頃、半導体関連企業の会社近くの路上で、道を尋ねるふりをして社員らに話しかけ、連絡先を聞き出したり、「飲みに行きませんか」と誘ったりしていたそうだ。
産業のコメとまでいわれる半導体だが、デジタル化社会を見据えれば半導体の需要は明らかであり、さらに米中技術覇権争いの代表的存在でもある。スパイはそういったセンセーショナルな技術・トレンドの情報のみを欲しがるのだろうか。ところが、答えはNoだ。スパイは何も先端技術ばかり欲しがるわけではない。
ありとあらゆる民間企業の技術が狙われている
例えば、中国政府が発表している外商投資奨励産業目録(外国投資家による投資の奨励および誘致に関連する特定の分野、地区等が明記されたリスト)に目を通すと、そこには農産物や文化教育、さらにはキャタピラ式クレーンやセダンのホイールベアリング等といった具体的な部品名まで500以上が詳細に記載されており、これらは中国にとって、投資を奨励したい=関心が高いと見て取れる。
また、中には「直径が2mを超え、深度が30mを超える大口径回旋式掘削機、直径が1.2mを超える管推進機装置、曳引(えいいん)力が300トンを超える非開削地下パイプ敷設プラント設備の製造、地下連続壁工法掘削機の製造」などといった記載も見受けられる。この場合、関連する技術を部分的にまたは間接的にでも持つ日本企業は相当数あるだろう。私がスパイであれば、もちろん狙いに行く。
スパイ活動の対象になるのは最先端の技術とは限らない。活動を仕掛ける側の国にとっては、一世代前の技術が思わぬ価値を持つ場合もあるし、彼らの貿易相手国に売れる技術も最先端のものばかりではない。要するに、どんな技術・情報をターゲットにするかはスパイが決めるのだ。さらに、スパイは“本丸”に近づくため、必要であれば周辺者にも接近する。
日本のファンドに中国共産党関係者指揮下の人物が
技術情報だけではなく、政治工作や情報工作のために、一般人・企業に接近する場合も当然ある。2022年9月には、中国国家安全部の工作員が、米ツイッター社で働いていたことを米連邦捜査局(FBI)が突き止め、FBIが同社に警告していたと報じられている(ロイター 2022年9月14日)。このように、工作を行うためであれば、有名企業への就職も手段として当然である。
私の民間での経験であるが、日本のファンドに中国共産党の人物の指揮命令下にいる人物が役員を務めていた事案も調査している。この事案では、対象者がM&Aを通じて日本企業の技術の獲得を画策していたと想定されたが、恐ろしいのは、その目的を果たすために非常に優秀な人物を日本のファンドに送り込んでいたことだ(ただし、この事案において、違法行為は全くなかった)。
一般人を巻き込んだ工作も
別の例では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の約200近い団体・組織が2016年6月から大規模なサイバー攻撃を受けた件で、その一連のサイバー攻撃に使用された日本国内のレンタルサーバーを偽名で契約・使用していたとして、捜査機関が2021年4月、30代の中国共産党員の男を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で書類送検(読売新聞オンライン 2021年4月20日)。同年12月にもう1人、中国人元留学生について逮捕状を取った。
このうち元留学生「王建彬」は、レンタルサーバーの契約を人民解放軍のサイバー攻撃部隊「61419部隊(第3部技術偵察第4局)」所属の軍人の女から頼まれたという。王が以前勤めていた中国国営企業の元上司が、王と女をつないだとされる。
この事件の恐ろしいところは、サイバー攻撃の偽装・足取りを消すために王という一般人が使用された上、そのきっかけとなったのは、王の元上司という極めて私的な人脈なのだ。これが諜報の世界である。
普通の一般人であっても、それとは気づかぬうちにいつの間にかスパイに使用される側に回ってしまうことはいくらでもありうる。あなたが日本人であっても、それは同じことだ。
スパイ側の視点から工作活動を考えてみる
前回はスパイのターゲットという視点からの解説を行った。今回の記事では、スパイ(=攻撃者)の目線での解説を試みる。サイバーセキュリティーにおけるペネトレーションテスト(侵入テスト)と同様、攻撃者の目線に立つと、攻撃者の思考が理解できるからだ。
前回の記事でも触れた、ロシア通商代表部職員が半導体関連企業の社員らに道を尋ねるふりをして話しかけ、「飲みに行きませんか」などと誘っていた件を改めて振り返ってみよう。恐らく読者の皆さまの大多数が、「道を尋ねられて、なぜ不用意に飲みに行くんだ。普通は行かないだろう」と考えるだろう。しかし現実に、この手法は日本におけるスパイ活動の入り口としては決して少なくないのである。
なぜだまされてしまうのか。そのメカニズムをスパイの目線で解説しよう。
某国のスパイZ氏が、本国より以下の下命を受けたとする。
「日本では、次世代半導体の短TAT(受注から製品供給までの所要時間が短い)量産基盤体制の構築に向け、複数企業で新会社を立ち上げる予定である。同社の設立動向と機微技術情報を広く収集せよ」
数年がかりでターゲットを下調べするケースも
下命を受けたZ氏はこう動く。
   1.ターゲットの選定
ターゲットは、新会社の設立元となる企業の半導体関連部署の従業員(役員を含む)、または従業員の家族や知人、その他新会社設立に向け関与しうる人物(主担当部署ではなく、法務などももちろん視野に入る)。その動向を知る異業界の人物や秘書、その家族なども候補とする。
ターゲットはダイレクトに情報にアクセスできる人物であればよいのは当然だが、そこに行きつくまでに間接的な人脈をたどるルートも考えられる。また、家族から接近してもよい。例えば、妻は夫の知らないコミュニティーで警戒心なく活動しているが、いざとなれば夫の所有する端末にアクセスできる。男女の関係から妻を取り込むのも手段の一つだ。
上記に当たる人物に直接接触を試みずに、その人物の出入りする社屋周辺で釣り針を仕掛けてもよい(単に道を聞いて親切に答えてくれる人物からたどればよい)。現に、スパイによるこのような活動=リクルート活動は多く見られる。
   2.ターゲットの調査/評価
ターゲットが決まったら、その人物を徹底的に調べ上げる。例えば、1年近くあなたの行動がスパイに見られていたとしたらどうだろうか? あなたの買い物や出先での行動から趣味嗜好しこうや健康状態、家族との関係もすべて把握される。恐らく、行きつけの店や友人、異性の好み・性癖も容易に把握されるだろう。
そして、ターゲットとして有益な人物かどうかの評価を行う。情報を保有しうるか、アクセスしうるか、“落としやすい”か、がスパイ側にとっての評価のポイントだ(中国のハニートラップ事例では、数年単位で対象を調査する場合もある)。
   3.接近/接触
いよいよ接近/接触だ。ここでは先の例の通り、道を聞く手法をとり、ターゲットは設立元の半導体開発部門の人間とする。
某日、ターゲットが退社のため、会社を出たところで、Z氏はいかにも人の好さそうでかつ困った顔をして「すみません、○○駅までどのように行けばよいのでしょうか?」と流暢な日本語で話しかけた。
ターゲットは当然、困った人に対して親切に道を教える。ここでの注意点は、Z氏はターゲットを調べ尽くしており、退社後どのように自宅に向かうかを100%把握しているということだ。つまり、Z氏が道案内を依頼するのは、“ターゲットが帰宅時に使用する駅”にほかならない。そうすれば、会社から駅まで一緒に歩きながらターゲットと会話できるからだ。
相手が警戒心を解く魔法のキーワード
駅までの会話では、人当たりのよいZ氏主導で他愛もない世間話が行われる。そのうちZ氏から「実は、一時期C大学で勉強をしていました。」という話が出る。もちろん、C大学はあらかじめ調べ上げたターゲットの母校であり、ターゲットはZ氏から思わぬ共通点を示されたのだ。
なぜZ氏はこのようなことを言ったのか? 理屈は簡単だ。あなたの見知らぬ人物が、同郷だったら? 母校が同じだったら? 皆さんも思わぬ共通点の話題で相手に親近感を持ち、話が盛り上がった経験があるだろう。ターゲットを知り尽くしているZ氏はそれを狙う。
ひとしきり母校の話で盛り上がったところで、Z氏から「日本で半導体関連の研究をしている」と言われたターゲットは、半導体関連の話にも花を咲かせる。ここまでくれば、Z氏にとって、ターゲットへの接近は成功したといっても過言ではない。
これらの状況は、Z氏がターゲットを入念に調査しているからこそ、演出できるのであり、そのタイミングや環境の創作はZ氏の思いのままだ。
そして、Z氏は偽名の名刺、ターゲットがZ氏の国に警戒心がなく、公的な身分に安心感を覚える人物であれば外交官等の身分の名刺を差し出し、ターゲットとの連絡先の交換に成功する。
   4.その後
ターゲットは、後日Z氏から連絡をもらい、「半導体の基礎知識について勉強させてください。一杯いかがですか?」と会食に誘われる。Z氏は当然、半導体の基礎知識は持っているが、ターゲットとの会食の序盤は、リスクの全くない情報の交換から始まり、徐々に要求をエスカレートさせていくのがスパイの常套手段である。
ターゲットは、Z氏から「勉強させてください」という低姿勢を見せられ、教えてあげようという親切心が湧いてしまい、会食に同意してしまう。(Z氏の国における半導体事情を探りたいという心理も幾分含まれるだろう)
初回の会食では半導体の基礎知識の勉強話に花を咲かせ、Z氏は手土産で受け取るに差し支えない名産品や茶菓子をターゲットに贈る。ターゲットを金品の授受に慣れさせるのだ。
以降、会食を重ねるに連れ、手土産は茶菓子→商品券→現金と変容し、Z氏の要求は表に出ていない情報へとレベルアップしていく。
この時点で、仮にターゲットが警戒心を持ったところで既に遅い。なぜなら、ターゲットが金品を受け取ってしまった事実を後ろめたく感じ、Z氏に「これ以上は……」と断りの言葉を発しようものなら、Z氏から「あなたにどれだけお渡ししたか覚えていますか? 今更関係をやめたいと言われては困ります」と言われ、暗に“贈収賄の共犯者”のような関係であることをほのめかされてしまうのだ。ターゲットは、Z氏の鋭いまなざしに恐怖さえ覚え、関係を断つことを躊躇してしまう。
こうして、ターゲットが警戒心を持とうが持つまいが、数年〜数十年にわたってスパイに“貢献”してしまうことになる。スパイに脅されながら高い要求に応えていくか、どこかで捜査機関に検挙され、スパイにボロ布のように捨てられるかだ。もし検挙されれば、職はもちろん家庭をも失いかねない。住居の引っ越しを余儀なくされ、再就職もままならず、悲惨な人生の結末を迎えるかもしれない。
家族が最初のターゲットになったとしたら
以上が、スパイがターゲットを取り込むプロセスの典型的な例である。多少のステップは省略しているが、その身近な手口を実感いただけたのではないだろうか。さらにいえば、あなたに近づくために、あなたの家族が最初のターゲットとなった場合を想像してみていただければ、その恐ろしさが想像できると思う。
スパイへの初期的対応策
さて、今回解説した典型的なスパイ活動への初期的対応策は何であろうか。
スパイというニッチな脅威に対し、防衛関係の大企業のみが意識が高く、その他業種の大企業や中小企業が無関心でいてくれれば、スパイとしてはこれほど攻めやすいことはない。思い返してほしい。スパイが欲する技術・情報は何も特定の大企業のみが持っているわけではなく、そのネットワーク内に入り込めればよいのだ。ターゲットは“本丸”だけではない。
さらに、日本の技術は中小企業が支えているともいわれている。潤沢な資金がある大企業と比して、中小企業においてスパイ対策に大きな予算を割くことができるだろうか。
そこで、まずスパイの手口を知り、防衛意識を高めることが、初期対応として簡易かつ有効なのである。ここで注意すべきは、過度に“国名”に敏感になり、排他的な思想を持たないことだ。今回解説した中で出てきた国は、現在の国際情勢を鑑みても決して日本と素晴らしい関係にあるとはいえず、スパイ活動を国家の意思によって行っている。それでも、日本にいる外国人のほとんどは善良な心の持ち主である。
どうか、読者の皆さまを通じ、日本におけるカウンターインテリジェンス意識の向上がなされ、民間発信のカウンターインテリジェンスコミュニティーの形成の発端となることを願ってやまない。
●維新政治は大阪をどう変えた 松井一郎氏4月政界引退 3/19
大阪維新の会を創設した松井一郎大阪市長が4月6日の任期満了をもって政界を引退する。平成23年11月以降、維新は選挙に勝って大阪府知事と大阪市長のポストを独占し、行政運営を担ってきた。原点は、改革で無駄な支出やコストを削減し、生み出した財源を活用して成長戦略を実行するとの考え方だ。ただ、統治機構改革としての看板政策「大阪都構想」は2度にわたる住民投票の末に実現しておらず、一丁目一番地である「身を切る改革」の評価は分かれる。11年余りにわたる維新政治は大阪をどう変えたのか。
大阪都構想の目的は府と市の「二重行政」解消であり、大阪市を廃止して特別区に再編し、成長戦略の策定などは府に一元化する制度設計だった。
府市は令和3年4月、二重行政解消の理念を継承した条例を施行。共同設置した会議で広域行政などの施策を協議するが、府市が対立すれば意思決定が滞る恐れもある。
維新は「身を切る改革」として、府議会と市議会で2回の定数削減を主導した。4月の統一地方選で、府議選は当選者1人の選挙区が増え「維新有利」との見方が強い。

市は行財政改革の一環で団体への補助金支出を廃止するなどし、平成24〜27年度に累計38億7900万円分の削減効果を生んだ。文楽協会などの文化団体も見直しの例外ではなかった。
既得権政治を打破 総合評価は85点
中央大名誉教授の佐々木信夫氏(行政学)
地域の課題を解決するために政治を動かす仕組みとして、大阪維新の会というローカルパーティーを創設し、首長が党代表を兼ね、政治を牽引(けんいん)する形で自治体行政に取り組んだ。日本で初めて本格的な地方政治のスタイルを確立し、地方分権時代を切り開く政治の形を示した点はパイオニアとして高く評価される。
維新が誕生する前は大阪府と大阪市が対立し、同様の事業を手掛けて無駄を生む「二重行政」が続いた。財政赤字が深刻化して住民サービスが悪化し、大都市の魅力を失っていた。
維新はそうした危機的状況にメスを入れた。増税の前に首長や議員が(報酬や議会定数を削減する)「身を切る改革」で率先垂範した。今では「大阪与党第一党」の地位を確立し、さまざまな分野でトータルとして従来の既得権政治の打破に成功している。
一方、維新の旗印であり統治機構改革の本丸といえる大阪都構想は実現に至っていない。二重行政の問題に着目して地方発で解決しようと住民投票を2度実施したことは、日本の大都市制度に揺さぶりをかけた。東京一極集中の現状で、今後も引き続き制度のあり方を検討することが必要だ。
都構想否決後、条例を制定し、広域の都市計画などは府市一体で進める枠組みができた。しかし都構想で基礎自治を特別区に再編強化するとした、大阪市内の24行政区についての議論は進んでいない。改革が「未完」である点を踏まえ、総合評価は85点だ。
格段の成長はない 総合評価は20点
立命館大教授の村上弘氏(政治学)
大阪維新の会という一つの政党が、10年以上にわたり大阪府市の首長と両議会の最大会派を占める状況は異例だ。強すぎて長すぎる政権≠ノは功罪がある。
維新は都市開発や教育費補助、市営地下鉄民営化などを強力に進めたが、JR大阪駅周辺や天王寺エリアで完了した開発事業の多くは、維新以前の時代に着手したものだ。
府内の名目総生産の全国シェアは過去10年で7・5%前後と横ばいで、衰退はしていないが格段に成長したわけでもない。
2025年大阪・関西万博は人工島・夢洲(ゆめしま)を会場とし、コスト膨張と跡地利用が課題だ。15年ミラノ万博のように内陸で節約型にすべきだった。同じ夢洲への誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)は、採算面に加えてギャンブル依存症など社会的悪影響のリスクがある。
大阪都構想の住民投票に際しては、中立であるべき行政機関が推進派に偏重した情報を宣伝した。(自民党が提出した)IR誘致の賛否を問う住民投票条例案は府市両議会で否決され、反対・慎重論を交えた現実的な議論ができていない。「身を切る改革」のうち、議会定数の削減で生まれる財源は府民1人当たり数十円であり、むしろ少数会派議員を含む多様性の排除につながることを危惧する。
政策面は40点だが、都構想住民投票やIR誘致を巡り、異なる意見を取り入れる民主主義的姿勢に欠けるため、マイナス20点。総合評価は20点だ。
●配偶者の貯蓄額が思いのほか少ない衝撃…「パワーカップル」 3/19
共働き夫婦が増えているものの、「むしろ出費が増えて、全然お金がたまらない……」と悩める家庭は多い。個人の資産形成に詳しいMoney&You代表の頼藤太希さんは「いわゆるパワーカップルには、間違った家計管理をしている人がたくさんいます。しかし、ほんのちょっとの工夫で、散在家計がたまる家計に変わります。その秘密は“財布”にあります」という──。
夫婦での賢い家計管理方法は
夫婦での家計管理方法はさまざまあります。
専業主婦(夫)家庭・パート主婦(夫)家庭に多いのは「全額負担型」です。夫婦共通の財布を作らず、収入の多いほうが固定費や生活費全般をすべて負担し、おこづかいや貯蓄は各自で管理する方法です。
夫婦の収入に差がある場合は有効ですが、収入の多いほうの不満が大きくなりやすいデメリットがあります。
昔は共働き世帯よりも、専業主婦(夫)家庭・パート主婦(夫)家庭のほうが圧倒的に多かったため、この管理法になったのかもしれませんが、いまは前提となる条件がだいぶ変わりました。
多様化する夫婦の家計管理の方法
独立行政法人労働政策研究・研修機構「専業主婦世帯と共働き世帯」によれば、2022年時点では、共働き世帯が全体の7割を占めています。
弊社を訪れるお客様の相談実績では、共働き世帯に多い家計管理方法は「それぞれの財布型」です。
食費・光熱費・通信費など、支出の費目ごとに夫婦の担当を割り振り、それぞれ負担し、貯蓄は各自が行う、という方法です。自由に使えるお金が多いというメリットがありますが、一方で、相手の貯蓄の状況がわかりにくく、ムダ遣いも多くなりがちです。
家計のマネー相談には夫婦で一緒に訪れる方が多いのですが、「パワーカップル(高収入を得ている共働き夫婦)」にありがちなパターンがあります。相談の場で初めてパートナーの貯蓄状況を知り、しかも、互いの貯蓄金額が思った以上に少ないことに驚く、というものです。
お金がたまる夫婦は「共通の財布」
お金がたまるおすすめの方法は、夫婦で共通の財布を作ること。
お互いの収入から、決められた額を出してひとつの財布にまとめ、生活費、固定費、貯蓄の管理を行います。共通の財布に入れなかったお金は、各自が自由に使ってよいルールです。
夫婦の収入を全額共通の財布に入れ、生活費、固定費、こづかい、貯蓄を一元管理する方法もありますが、お互いが自由に使えるお金が減ると不満が出やすいです。
夫婦の収入に差がある場合は、たとえば「夫6:妻4」という具合に配分を変えることで不公平感がなくなります。互いに出し合って残った分については「おこづかいとしてよい」というルールにすれば、自由に使えるお金も多くなり、ストレスも少なくて済みます。
2024年から新NISAがスタート
2024年からはNISAが大きく改正され、「新しいNISA」が始まります。主な変更点は次の通り。
   1 投資可能期間が恒久化
   2 非課税期間が無期限化
   3 年間投資枠が大幅に拡大
   4 生涯投資枠が設定:1人あたり1800万円(うち成長投資枠1200万円)
   5 売却して生涯投資枠に空きが出た場合、翌年以降に再利用可能
改正点に関する詳細はこちらの記事で解説していますので、チェックしてみてください。
使いづらかった「ジュニアNISA」「つみたてNISA」
これまで、子どもの大学にかかる教育費をためるために「ジュニアNISA」や「つみたてNISA」を活用してきた方も多いことでしょう。
まずジュニアNISAですが、2023年末で買付が終了します。現状、原則として18歳になるまで引き出せませんが、2024年以降は、18歳未満であっても引き出せるようになります。
ただ、ジュニアNISAの資産は、少しずつ引き出すといったことができず、引き出す場合は、一度にすべて引き出さなくてはなりません。また、引き出しを行うと、その後ジュニアNISA口座は廃止となります。「一部引き出し」ができないのは不便です。
一方のつみたてNISAですが、いつでも解約できる制度ではあるものの、売却しづらい(したくない)仕組みとなっています。というのも、商品を売却したとき、その分の非課税投資枠が復活することがないからです。
たとえば、つみたてNISAで2020年に投資した40万円は、2039年まで非課税で投資できます。しかし、2023年に売却すると、2024年から2039年まで利用できたはずの非課税期間を放棄することにつながってしまうのです。
夫婦で新NISAの投資枠「3600万円」をフル活用
新しいNISAでは、商品を売却した場合、翌年に売却枠が復活します。そのため、教育資金に取り崩すこともやりやすい仕組みだといえます。新しいNISAを夫婦でフル活用すれば、3600万円まで投資できますので、ジュニアNISAの代替に十分なりうるでしょう。
一方で、NISAを利用した資産形成において、元本割れのリスクを減らしながら堅実に増やすためには、10〜15年という時間は必要です。
1景気サイクルは5年といわれますが、マーケット状況によっては5年間だと「往って来い(相場が同じ幅だけ上がって下がり、同水準に落ち着くこと)」の可能性があり、リスクを取ったのに増えなかった、ということも起こりえます。増えなかった程度で済むならよいですが、元本割れしている可能性もあります。
教育資金、インフレ対策に活用したい個人向け国債「変動10」
そこで、3〜5年と比較的短期間で用意しないといけない教育資金があるのであれば、元本割れの心配がない、「変動10年国債(個人向け国債)」がおすすめです。
個人向け国債には、満期までの期間と金利のタイプによって「固定3年」「固定5年」「変動10年」の3種類が用意されています。
個人向け国債を買うと、6カ月に1度利息が受け取れるうえ、満期になると貸したお金が返ってきます。年12回、毎月発売されており、銀行や証券会社で1万円から購入可能です。最低でも年0.05%の金利が保証されています。
満期になる前でも、発行後1年以上経てば換金できます。その際、直近2回の利息にあたる金額が差し引かれますが、元本割れはしません。
「変動10年」は半年ごとに金利が見直されます。金利の設定方法は<基準金利×0.66>となっていますが、0.05%より下がりません。金利が上がればその分利益も増えるため、変動10年がおすすめです。
実際、変動10年の利率は0.33%まで上昇しています(2023年3月募集分)。通常、インフレを抑制するために、金利は上がっていきますので、比較的インフレ対策にもなります。
昔の常識は、今の非常識…
「昔の常識は、今の非常識」といわれます。時代は変わりますし、常識は変わります。インフレ時代、共働き時代に合わせて、柔軟に資産形成に取り組んでいくことが大切です。
お金の基本は、昔から変わらないものもあれば、廃れてしまうものもあります。YouTubeチャンネル「Money&YouTV」では、お金の基本・常識をアップデートしながら、有益な情報を配信しています。
家計、節約、キャッシュレス決済、保険、資産運用、NISA、iDeCo、ふるさと納税、税金、社会保険、年金、老後のお金など、幅広く、豊富な数値例・図解で解説しています。ご興味のある方はぜひこちらもご高覧ください。
●日本メディア「岸田首相、尹大統領にG7広島サミット招待の意思伝え」 3/19
日本の岸田文雄首相が韓日首脳会談で、5月に広島で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を招待する意思を伝えたという。最終的に確定すれば、韓日の首脳が2カ月ぶりに国際会議を契機に再会することになる。
共同通信は17日、日本政府関係者の話としてこのように報道した。NHKも、日本政府が5月のG7広島サミットに韓国を招請する方案を最終調整するなど関係改善を具体化する計画だと伝えた。
日本政府は公式的にはまだ検討中という立場だ。松野博一官房長官は17日午前の定例記者会見で、5月の広島でのG7サミット首脳会議に尹大統領を招待するかどうかを問う質問に、「招請国については現在検討中で何ら決まってない」と述べた。
今年のG7の議長国である日本は、核・ミサイル挑発を続ける北朝鮮、軍事的脅威を増幅させる中国、ウクライナに侵攻したロシアに対応し、共通の価値観を持つ国家の結束を念頭に置いて尹大統領の招待を検討してきた。特に、今年G7サミットが開かれる広島は、岸田首相の政治的基盤(選挙区)として格別に気を配っている。
岸田首相は最近、G7サミットと関連したビデオメッセージで、「力による一方的な現状変更の試みや核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く」とし、「G7議長として強い意志を力強く世界に示す」と述べた。
尹大統領も今月15日に報道された読売新聞とのインタビューで、G7サミット出席について「普遍的価値を共有する国々と安保、経済など様々な課題で強力な協力を構築する機会になるだろう」と明らかにした。
日本のメディアでは、岸田首相が主要7カ国首脳会議後、今夏にでも韓国を訪問する方向で検討に入ったという報道も出た。日本政府関係者は共同通信に対し(岸田首相の訪韓は)7〜9月頃を想定しているが、具体的な時期は韓国の世論をみきわめる必要があると述べた。
●広島サミットにインド・モディ首相を招待…「グローバル・サウス」への関与強化 3/19
岸田首相は、インドのナレンドラ・モディ首相を5月に広島市で開催する先進7か国首脳会議(G7サミット)に招待する意向を固めた。20日にモディ氏と会談した際に来日を要請する方針だ。
複数の政府関係者が明らかにした。岸田首相は19〜22日の日程で、インドを訪問する。広島サミットでは、ロシアのウクライナ侵略で揺らぐ国際秩序の回復を主要議題とする見通しで、主要20か国・地域(G20)の議長を務めるモディ氏と連携を確認したい考えだ。
インドは、発展途上国や新興国を中心とする「グローバル・サウス」の盟主を自任している。日本としては、インドと協調し、グローバル・サウスへの関与を強化する狙いもある。
広島サミットでは、G7以外の招待国を含めた会合を開く予定で、「元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)」訴訟問題で解決策を示した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領も招く方向で最終調整している。
このほか、中南米を代表してブラジルのルラ・ダシルバ大統領、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務めるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領らも招待する方向だ。
●岸田首相、グローバルサウスと協力探る インド訪問へ 3/19
岸田文雄首相は19日、インドを訪問するため政府専用機で羽田空港を出発する。モディ首相と会談し、グローバルサウスと呼ばれる世界の途上国と安全保障や経済面で協力する方策を協議する。インドを巻き込み途上国への影響力拡大に動く中国やロシアに対処する狙いがある。
岸田首相は同日に広島市で開いた会合で、2023年は20カ国・地域(G20)の議長国がインドだと指摘した。日本は主要7カ国(G7)の議長国を務める。首相は「国際社会の課題について意思疎通する」と述べた。
インドはグローバルサウスの代表格だと触れ「国際秩序をつくるためにインドとの協力は欠かせない」と訴えた。5月の広島でのG7首脳会議(サミット)での「大きな成果に向けて努力する」と強調した。
岸田首相とモディ氏の首脳会談は対面では4回目になる。両首脳は22年3月にインドで初めて会談し、同年5月には日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」首脳会議にあわせて都内で面会した。
同年9月にも安倍晋三元首相の国葬に伴い都内で会った。岸田首相は2年連続でインドを訪れることになる。
インドはロシアから武器を輸入するなど伝統的に友好関係にあり、G7主導の対ロ制裁に同調していない。グローバルサウスにはインドと同様に軍事・経済の結びつきからロシアと一定のパイプを保つ国が目立つ。
インドはクアッドの一員であると同時に、中国やロシアなど新興5カ国のBRICSのメンバーでもある。G7と中ロがウクライナ侵攻などを巡りインドの取り込みを競う。
岸田首相は広島サミットの前にインドを訪ね、ウクライナ情勢やグローバルサウスへの支援の認識を共有する。政府内にはモディ氏を広島サミットの拡大会合に招待する案が浮上する。
日本は民主主義国のインドと関係を深め、軍備増強を進める中国への抑止力の向上もめざす。岸田首相は今回の訪問中に演説し、政府が近く策定する「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の推進計画を説明する。
ウクライナ侵攻に関し、分断や対立ではなく協調を導くFOIPが重要だと提起する。法の支配に基づく国際秩序の強化を改めて掲げる。東南アジアやアフリカ諸国による港湾などのインフラ整備や、海上の監視能力向上に貢献すると訴える。
FOIPの実現にはインドとの連携が不可欠だと指摘し、日印関係の深化を強調する。演説に先立つモディ氏との会談で計画の内容を伝える見通しだ。
●内閣支持率上昇で岸田首相は有頂天 永田町飛び交う不意打ち解散と総選挙 3/19
「4.23総選挙」──。政界で再び「早期解散説」が飛びかっている。4月23日に行われる統一地方選との“ダブル選挙説”である。一部のスポーツ紙は<完全に消えない「4月解散」説>と報じている。
早期解散説が浮上している大きな理由は、内閣支持率が上昇していることだ。なぜか支持率がアップしているのだ。NHKの調査では、支持「41%」、不支持「40%」と7カ月ぶりに支持と不支持が逆転、日経の調査でも支持「43%」と、4カ月ぶりに40%を回復している。岸田首相は自信を深め、ご機嫌だという。
さらに、岸田首相が突然、物価高対策として打ち出した「低所得世帯に一律3万円」「低所得の子育て世帯に子ども1人当たり5万円」の給付は、露骨な選挙対策だと捉えられている。
「永田町をざわつかせたのは、わざわざ岸田首相が15日夜、自民党職員のボス、元宿仁本部事務総長と2時間も会食したことです。安倍首相は解散する前、元宿さんと会って独自の調査を依頼し、選挙情勢を分析していた、とされている。岸田首相も解散を想定して元宿さんに会ったのではないか、と臆測が飛んでいます」(政界関係者)
4.23総選挙は、その日に予定されている「衆院4補選」をなくすメリットもあるという。
4補選で全勝すれば、岸田政権は信任されたことになるが、和歌山1区補選は、維新候補に敗れる可能性を指摘されている。さらに、参院大分補選も苦戦する可能性が高い。「衆参5補選」で2敗したら、岸田首相の責任問題になるのは間違いない。しかし、解散してしまえば衆院補選は行われなくなる。
すでに永田町では“3.24予算成立”“3.29解散”というスケジュールも囁かれている。前回、電撃解散で勝利した岸田首相は、また不意打ち解散を仕掛けてくるのか。
「いくら野党の選挙準備が整っていないとはいえ、4.23選挙となったら、自民党は安倍派を中心に60人近くが落選する恐れがある。60人も落選したら、岸田首相は即日、退任でしょう。どうしても地元で行われる5月の広島サミットに出席したい岸田首相が、そんなリスクを冒すでしょうか。すでに岸田首相は、補欠選挙が行われる衆院山口2区と山口4区の応援のために地元入りしている。あれは“解散はしない。補選を行う”というメッセージではないか。もし岸田首相が“安倍派が壊滅しても構わない”と考え、解散するなら大したものですよ」(自民党事情通)
支持率の上昇に岸田首相は有頂天になっているという。さらに上昇すると、ひょっとするかもしれない。
●“年収の壁”対策に「愚策中の愚策。もしこんなことやってしまったら…」 3/19
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏(53)が19日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」(日曜前7・30)に出演。岸田文雄首相が17日の記者会見で「次元の異なる少子化対策」として少子化対策に関して説明したことに言及した。
一定収入を上回ると社会保険料を支払わなければならないため、被扶養者のパート従業員らが働く時間を抑制する「年収の壁」の解消に向け、国が企業に助成する方針を示した。また、女性の出産から8週の間に最大4週間取得できる「産後パパ育休」で休みを取る男性への給付金を巡り、現在の給付率は休業前収入の67%だが、引き上げにより80%程度とすることを明言。社会保険料の免除と合わせると、手取り収入の実質10割に届く。岸田政権は、児童手当と保育サービスの拡充、働き方改革推進の3本柱を掲げている。3月末をめどに政策のたたき台をまとめ、4月に発足するこども家庭庁の政策に生かす。
橋下氏は、「年収の壁」の解消に向け、国が企業に助成する方針に「この助成金制度、愚策中の愚策です。こんなことやめてもらいたい」と言い、その理由を「もしこんなことをやってしまったら、今働いている人、この人たちには何にも助成がないわけです。パートで働いている主婦世帯のところだけに助成をやる。また、そこで不公平感が出る」と説明。そのうえで「年収の壁って、もともと不公平を解消しようと言っているのに、新たな不公平を生む」と指摘した。
●日韓“徴用工問題”に「また政権が変わって悪化する場合もあるかも…」 3/19
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏(53)が19日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」(日曜前7・30)に出演。元徴用工訴訟の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりする案が日韓首脳会談で確認されたことに言及した。
岸田文雄首相は16日、来日した韓国の尹錫悦大統領と官邸で会談し、関係正常化で合意。徴用工問題に関し、岸田氏は会見で植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを明記した「1998年の日韓共同宣言」に言及し、歴史認識に関する歴代内閣の立場を引き継いでいると述べた。解決策の着実な実施への期待も示した。尹氏は、賠償支払いを肩代わりする韓国の財団が、後に賠償金相当額の返還を日本企業側に求める「求償権」の行使について「想定していない」と語った。岸田氏は事実上白紙化された元慰安婦問題に関する日韓合意の着実な履行を要請した。
橋下氏は、「徴用工問題に関しては、求償権の問題があって、財団が肩代わりで払うんだけれども、その後に財団が日本企業に求償できるという、法的に求償権があるんですが、この部分については政治的にある意味、あいまいにしてしまった」と指摘。「この求償については、韓国の世論では7割くらいが財団が払った後に日本企業に求償すべきだといっている。今の野党政権が、尹大統領の任期はあと4年だから、5年後にまた政権が変われば、この求償権を行使するよというようなニュアンスを言ってるわけです」とし、「僕は法律家ですから、この求償権をちゃんと法的に行使しないということを明確化すべきだと言ったんですが、外交っていい時もあれば悪い時もあるという繰り返しで関係が改善していくので、今ここで、これは譲るな、あれは譲るなっていうことを政治家は言うべきではなくて、いい流れはいい流れで乗って4年後5年後、もしかすると、また政権が変わって悪化する場合もあるかも分からないけど、この波を推し進めていくっていう姿勢で僕は外交やるべきだと思う」と自身の考えを述べた。
●決められない男…“検討使”とイジられても「日本株爆騰」をもたらすワケ 3/19
はじめはその決断力のなさから“検討使”と揶揄され、閣僚の不祥事なども相次ぎ、日本株も1割の急落となるなど、数々の“洗礼”を浴びてきた岸田政権。しかし、表面的にはぱっとしないものの、時代を画する政策を次々に打ち出していると、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏はいいます。岸田政権が2023年の日本株を「爆騰」に導くといえる複数の材料を、詳しくみていきましょう。
“検討使”と揶揄も…「歴史的転換」進める岸田政権
聞く力をモットーにした岸田首相だが、その出だしはちぐはぐさが目立ち、“検討使”と揶揄されるなど実行力も疑われた。
アベノミクスを継承した菅元首相の成長重視政策に対抗し、新しい資本主義を掲げ、分配重視へと舵を切り、就任早々に金融資産所得課税強化を打ち出した。これに対し、株式市場は直前の高値からほぼ3,000ポイント、1割の急落となるなど、容赦ない洗礼を浴びせた。
しかしここ1年半の岸田政権の展開は、いい意味で予想を裏切り、当然とはいえ数々の懸案を片づけている。閣僚不祥事による辞任、統一教会問題の紛糾、支持率低下、など表面的にはぱっとしないが、時代を画する政策を次々に打ち出していることも正当に評価するべきであろう。
最も大きいものは、安全保障3文書の策定であろう。長らく日本の平和主義の根幹にあった専守防衛を打ち切り、敵基地攻撃能力に踏み込む歴史的転換を果たした。
また防衛費のGDP比2%への目途をつけ、防衛装備品、武器輸出解禁に対して第1歩を踏み出した。さらにエネルギー自給の向上を目指して、多くの反対を押し切り原発の再稼働促進と新規増設の検討、耐用年数の60年への延長、新たな原発技術の開発なども打ち出した。
経済安全保障の柱である半導体産業育成にも一段と注力、菅政権時に打ち出された半導体産業推進は加速し1兆円プロジェクトのTSMC熊本工場第1期に次いで第2期工場が具体化している。また最先端半導体国策企業「ラピタス」の創生と5兆円と言われる巨額投資プラン始動(日経報道)など、目を見張る変化が引き起こされている。
首相は憲法改正に向けた意欲を強調、「時代は憲法の早期改正を求めていると感じている。野党の力も借り、国会の議論を一層積極的に行う」と主張している。出身母体の宏池会の持説であった平和主義の根本的転換に舵を切った。
岸田政権の「不思議な強さ」
この岸田首相の転換を、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は以下のように評論している。
「岸田氏の安保3文書の決定は、安倍元総理が主張してきたこと。だが、安倍氏の主張がどれだけ正しくても、朝日新聞を筆頭にメディアは安倍氏の正論を叩きに叩いた。岸田氏にはメディアによる非難がない。この点こそ岸田氏の強さである。不思議な強さだ。岸田氏はそれを政策推進の力に転化できるだろう」(週刊新潮2022年12月29日)
ロシアによるウクライナ侵略、中国習近平政権の独裁化と米中対立などの現実は、戦後の空想的平和主義の限界を否応なく見せつけた。ソフトな岸田氏は頑迷な空想的平和主義者のスタンス転換を促し、挙国一致で国策を推進できる幸運な立場にある、といえるだろう。
「アベノミクス路線への回帰」が功を奏すか
経済政策においても岸田氏は安倍政権の大枠を踏襲している。当初の主張であるアベノミクス批判と見える分配重視の「新しい資本主義」の内容を換骨奪胎し、「成長と分配の好循環」というアベノミクス路線に回帰していった。端的にいえば、株価を軽視・無視していたスタンスから株価重視スタンスへの大転換を、なんのてらいもなく実行したのである。
安倍元首相は2013年ニューヨークで外国人投資家を前に「Buy my Abenomics」と宣言し日本株高を謳ったが、岸田首相も2022年5月、それを真似て「Invest in Kishida」とロンドンの投資家に日本株式への投資を呼びかけた。
内閣官房による新しい資本主義実現会議資料では、
「新しい資本主義においても、徹底して成長を追求していく。しかし、成長の果実が適切に分配され、それが次の成長への投資に回らなければ、さらなる成長は生まれない。分配はコストではなく、持続可能な成長への投資である。我が国においては、成長の果実が、地方や取引先に適切に分配されていない、さらには、次なる研究開発や設備投資、そして従業員給料に十分に回されていないといった「目詰まり」が存在する。その「目詰まり」が次なる成長を阻害している。待っていても、トリクルダウンは起きない。積極的な政策関与によって、「目詰まり」を解消していくことが必要である。」
として、
   1.賃金アップ
   2.スキルアップによる労働移動の円滑化、副業兼業の推進
   3.貯蓄から投資への「資産所得倍増プラン」策定
等の具体策を提示した。これらはアベノミクスの第3の矢「規制緩和によって民間投資を喚起する成長戦略」とほぼ重なっている。
投資家増と自社株買いで「過剰貯蓄」是正へ
ここから始まる一連の変化が日本株式需給を変化させるだろう。まず個人投資家を対象にした優遇税制「NISA」の改革(非課税限度額1,800万円への引き上げ、非課税保有期間の無期限化等)は、預金から株式への大きな資金の流れを作るだろう。
つみたてNISA口座における買い付け額は5割増ペースの伸びを続けており2022年は1.3円弱に上った。一般NISAにおける買い付け額3.9兆円を合算すると、個人の昨年の株式投資はすでに年間5.2兆円に達している。
日本の家計の金融資産(年金保険準備金を除く)の保有内訳は、利息が限りなくゼロに近い現預金に74%、配当率ほぼ2.5%の株式・投信に20%と非合理的であり、その是正が奔流になっていくだろう。数年のうちに家計の株式投資が年間10兆円を超え、一大投資主体になるかもしれない。
いまのところこの株式投資の過半は米国など海外株式が主体であるが、日本株の相対パフォーマンスが好転する2023年にはこの比率は改善されていくだろう。
また企業がもうけをため込み過ぎ、過剰貯蓄による資本効率の悪さが日本株安の原因となってきたが、東証による「PBR1倍割れ是正要請」により、余剰資金を自社株買いに振り向ける機運が高まっている。自社株買いは2021年度8兆円と過去最高になったが、2022年度は10兆円ベースに上るとみられている。
米国では自社株買いが最大の株式投資主体であるが、日本でもそうなる可能性は濃厚である。長らく続いた国内投資家不在の状態は、家計と企業部門の参入により、急速に改善されていくだろう。
植田新日銀体制で日本はどう変わる?
櫻井よしこ氏が語る岸田氏の「不思議な強さ」は黒田氏後継の日銀総裁に植田氏を指名したことにも端的に表れている。
植田氏は柔軟な現実主義者で、異次元の金融緩和を墨守するリフレ派でも反リフレ派でもなく中庸を行く人物で、黒田氏とは異なり広範な支持を得ている。
黒田氏の異次元の金融緩和政策は、日銀OB、学者、エコノミストとメディアから総批判を浴びた。彼らは1日本のデフレは甘受できるもの、2伝統的金融政策は堅持するべきもの、との凝り固まった信念を持っていた。
これに日銀にデフレ脱却の圧力をかけた安倍政権の強圧的手法に対する反発が加わり、異次元緩和派と反異次元緩和派とのあいだに修復不能の溝ができてしまった。
この強烈な政策批判が「異次元金融緩和は失敗する、デフレ脱却は無理で安易なリスクテイクをするべきではない」という国民世論を作り出し、自己実現的に政策目的の実現を困難にしてきたのである。
しかし植田氏にはそうした困難はなく、政策運営はスムーズに進むだろう。
そもそも政労使一体となった賃上げ機運が高まり、1%程度のインフレ定着が見え、いまは持続的な2%インフレという目標に向かう途上にある。これこそ黒田氏による異次元金融緩和の成果なのであるが、いまでは2%の持続的インフレの実現という大方針に異を唱える人はいない。
現在、求められるものは技術論、戦術論であり、もはやデフレが敵か否かの戦略論は必要ない。黒田総裁を支持してきたリフレ派はインフレ2%の定着が確認できるまで現在の金融緩和政策に手をつけるべきでないと考え、反リフレ派はYCCなどの異例な政策はできるだけ早くやめるべきだと考えるが、どちらも最終ゴールが「2%のインフレの定着」であることに変わりはない。
違いはどちらが適切なのかの技術論にすぎず、当面の緩和環境維持の考えに相違はない。その際に決定的なのは、国民的支持を集める力であり、植田氏と補佐する副総裁候補の氷見野氏、内田氏は国民と市場の支持を得られる理想的布陣といえる。
「株高基調」と「円安維持」に期待
その国民的支持のメルクマールはといえば、株価にほかならない。株式市場が懸念する金融政策を岸田氏は望まず、植田氏も採る余地はないのである。また持続的賃上げを定着させるとの観点から、1ドル120円台の円高を容認することもありえないはずである。植田日銀体制は最初から、株高基調の促進と円安維持に向けて政策手段を動員すべく運命づけられている、といえる。
それにしても安倍・菅政権の下で日本企業の稼ぐ力が倍増した。法人企業の経常利益は2000〜2012年度まで40兆円台で推移していたが、2021年度は86.7兆円へと上昇した。この稼ぐ力の大幅な向上が、岸田政権の「不思議な強さ」の背景にあることは、特筆されるべきだろう。
●放送法巡る解釈変更要求、「問題だ」は43% 毎日新聞世論調査 3/19
毎日新聞は18、19の両日、全国世論調査を実施した。安倍政権時代に礒崎陽輔首相補佐官が総務省に対し、放送法の「政治的公平性」の解釈の変更を求めていたことが同省の公文書で明らかになったことについて尋ねたところ、「問題だ」との回答は43%で、「問題とは思わない」の12%を上回った。「公文書が正しいか疑問だ」も24%あった。
日韓問題を巡って、韓国政府が発表した徴用工問題の解決策については、「評価する」が54%で、「評価しない」の26%を上回った。
岸田文雄首相は16日、来日した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と会談したが、日韓関係の改善に期待するかとの問いでは、「期待する」は64%で、「期待しない」は28%だった。
政府は新型コロナウイルス対策のマスクの着用ルールを13日から緩和したが、どうしているかとの質問では、「着用を続けている」は68%、「外す場面を増やした」は30%で、「もともとマスクはしていない」は2%だった。
少子化対策を強化するために、国民の負担を増やすことについては、「賛成」が38%で、「反対」の46%を下回った。
岸田政権の物価対策に関しては、「評価する」が13%、「評価しない」が65%だった。
●韓日会談で独島取り上げた? 「イシューになることない、独島は韓国の地」 3/19
韓国大統領室の金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第1次長が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と岸田文雄首相の韓日首脳会談で、慰安婦と独島(ドクト、日本名・竹島)問題が議論されたという趣旨の日本メディアの報道と関連し、「首脳会談でやりとりした首脳らの対話はすべて公開することはできない」と話した。
金次長は18日、YTNテレビのニュース番組に出演し、「(岸田首相が)慰安婦合意を確実に履行してほしいという要請をしたのか」という質問にこのように答えた。
その上で「2015年の韓日慰安婦合意の当事者のうち1人が当時外相だった岸田首相。痛切な反省と謝罪をそのまま朗読し、きっかり3年後に韓国が和解・癒やし財団を解体してしまった」と批判した。
彼は日本が2015年の慰安婦合意により和解・癒やし財団に出資した100億ウォンのうち56億ウォンが残っており、残りの資金は当時慰安婦生存者47人中35人に支払われたとして当時の合意が現在も有効だという韓国政府の立場を繰り返し強調した。
金次長は、独島関連言及はあったのかと問われると、「ホットイシューになれない。現在韓国が占有している韓国の地。私の記憶では最近日本の当局者が韓国に独島の話をした記憶はない」と答えた。
今回の韓日首脳会談と成果に対しては、「結局最初のボタンははめた。日本政府は昨年5月の尹錫悦政権発足後少しずつ心を開いてきた。それが決定版としてひとつの結果として出てきて新たな始まりを知らせることが今回の首脳会談」と自評した。
金次長は、日本政府が謝罪や反省に具体的に言及しなかったという批判が出ていることに対しては「韓国外交部が集計した日本の韓国に対する公式謝罪は20回を超える。今後(会談内容)履行過程で韓日間の政界と市民社会交流が広がり信頼が積み上がるならば、そして日本側と国内政治でもう少し肯定的な環境が作られるならばまた見守ってみるべきことと考える」と説明した。
また、韓国政府の強制徴用賠償解決策に対する日本の反応を問われると、「事実日本が驚いた。『こうやれば韓国国内政治が大丈夫かわからないが、われわれ(日本)としてはこれが待ち望んだ解決策のようだ(という反応だった)』と伝えた。
一方、大統領室は前日「16日に開かれた韓日首脳会談で慰安婦問題であれ、独島問題であれ議論されたものはない」と明らかにした。
●少子化対策の首相会見 問題解決の覚悟が見えぬ 3/19
政策の優先順位が猫の目のように変わる。これで、安心して子どもを産み育てられる社会の実現につながるのだろうか。
岸田文雄首相が子育て支援と少子化対策について記者会見した。
柱として掲げたのは、若い世代の所得増、社会全体の構造・意識改革、全ての子育て世帯への切れ目のない支援の三つである。
しかし、首相が年頭会見で「異次元の少子化対策」の目玉として打ち出した児童手当の拡充については、具体像を示せなかった。これでは、問題に正面から向き合う覚悟は見えない。
新たな3本柱は、いずれも踏み込み不足が否めない。
若者の所得を増やすため、一定の年収を超えたら社会保険料などの負担が増す「年収の壁」を取り除くという。パートや非正規で働く人が、配偶者の扶養から外れても手取りが減らないよう、国が施策を講じる。
しかし、若い世代の不安に応えているとは言えない。少子化の背景には、非正規労働者の不安定な雇用の問題がある。求められているのは正規との格差是正など、就労のあり方の抜本的な見直しだ。
男性の育児休業取得率については「2025年に30%」だった目標を50%に引き上げる。現状では14%で、8割を超える女性に比べ極端に低い。
取得促進のため、育休中の手取りが現在の約8割から一定期間、10割になるよう給付率を引き上げる。人手に余裕のない中小企業でも取りやすくなるよう支援する。ただ、企業任せにならないような仕組みが必要だ。
自営業者などは育休制度の対象となっていない。これらの人向けに新たな措置を導入するというが、安心して子育てできる環境の整備につながるかは不透明だ。
このほか多子世帯への支援、高等教育費の負担軽減、子育て世帯への住宅支援などメニューを列挙した。いずれも制度設計はあいまいで財源の裏付けも欠いている。
少子化に歯止めをかけるのに残された時間は少ない。「30年代に入るまでがラストチャンス」と首相は力説する。そうであれば、どんな境遇にあっても望む人が子どもを持てるよう、大胆な政策を実行する責任がある。  
●マスク着用、政府緩和後も「続けている」68% 3/19
毎日新聞が18、19の両日に実施した全国世論調査では、新型コロナウイルスの対応についても聞いた。政府はマスク着用ルールを13日から緩和したが、どうしているか質問したところ、「着用を続けている」が68%に上り、「外す場面を増やした」は30%にとどまった。「もともとマスクはしていない」は2%だった。
質問の仕方が異なるが、緩和前の2月18、19日の前回調査では、「そろそろ外す場面を増やしたい」が49%で、「これからも着用を続けたい」の44%を上回っていた。新たなルールでは、屋内外を問わず「個人の判断」に委ねることを基本とするが、マスク着用を続けている人が多いようだ。
岸田政権の新型コロナ対策については「評価する」は34%で、前回調査(28%)から6ポイント増加した。「評価しない」は43%(前回48%)だった。
少子化対策で国民負担「反対」46%
少子化対策を強化するために国民の負担を増やすことに賛成かとの問いでは、「賛成」が38%で、「反対」の46%を下回った。男女別で見ると、男性は「賛成」が45%、「反対」は44%で拮抗(きっこう)したが、女性は「反対」が50%で、「賛成」の27%を上回った。岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げ、「将来的な子ども予算倍増」を表明しているが、財源については明示していない。
岸田政権の物価対策に関しては「評価する」は13%、「評価しない」が65%だった。政府は月内にも物価高騰対策をまとめる方針だ。
原発を巡っては、再稼働を進めることについて「賛成」は49%で、「反対」の37%を上回った。年代別で見ると、50代以下は「賛成」が5割を超えた。60代は「賛成」と「反対」がいずれも4割台で拮抗。70歳以上は「反対」が4割強で、「賛成」の4割弱を上回った。
調査方法が異なるため単純に比較できないが、2011年3月の東京電力福島第1原発事故の発生後、原発再稼働については、「反対」が「賛成」を上回っていたが、22年5月に初めて「賛成」が「反対」を上回った。
原発を新設したり増設したりすることについては、「賛成」が33%で、「反対」の54%を下回った。政府は原発回帰を鮮明にしており、今年2月、既存原発の60年超の運転を認め、原発の新増設を推進する方針を決めている。

 

●今のままの地方議会ならいらない 3/20
地方議会に対する住民(国民)の関心低下に歯止めがかからない。まもなく、4年に1度の統一地方選挙だが、議員のなり手不足の深刻化はそれを象徴している。前回の2019年統一地方選における無投票当選者の割合は、都道府県議会が26・9%、町村議会は23・3%だ。ざっと、4人に1人が無投票当選ということになる。投票率も都道府県議選や市議選、町村議選など、すべてにおいて低下傾向だ。
なり手不足解消に向け、国は昨年12月、地方自治法の一部を改正し、個人事業主の場合、自治体との取引額が年間300万円以下であれば、議員との兼業が可能になった。
だが、これらはなり手不足という「現象」への弥縫策にすぎず、地方議会の存在感を高め、住民(国民)の関心を高めるための抜本策にはならない。
私はかつて、『Wedge』誌06年4月号で「地方議会を改革せずして小さな政府はない」という小論を書いた。地域のために、自ら政策を打ち出す資質がない地方議会を放置して権限と財源を移譲しても、地方自治はよくならない、ゆえに地方議会のあり方についてきちんと議論すべきだ、ということを指摘した。あれから17年経つが、地方議会をとりまく状況は改善されないどころか、もっとひどくなっている。
政治・行政の「他人ごと」は為政者にとって都合が良い?
どうしてこんなことになるのか。
根底にある問題として私が感じるのは、多くの人が地方議会を含む地方自治というものに対して「他人ごと」で、「自分ごと」として受け止めていないことだ。
私たちが採用している「民主主義」とは、大まかに言って次のような仕組みだ。
住民(国民)が平等に投票権を持ち、自分の利害や意思を反映してくれる代議員を選ぶ。議員は政策や予算の使い方を議論し、決め、それを行政機関が執行する。そして行政機関は執行状況や効果に関する情報を公開する。有権者はそれらの情報に関心を持ち、次の投票の機会に生かす。さらに、有権者と政治・行政の間で報道、解説、批判などを行うジャーナリズムやアカデミアの役割も重要だ。
だが、社会が安定し、国民生活が豊かになれば政治や行政は人々の日常の関心事項から遠ざかり、個人の生活に関心が向く。為政者の側にも似たような状況がある。なぜなら、国家や地域の命運がかかっているような問題がなければ、政策の手直しや目の前の予算配分の見直しなどをこなしていれば、政治家としての権力や肩書きを維持してそれなりの生活をしていくことができるからだ。
こうやって政治・行政の「他人ごと化」が進めば進むほど、政治は「民主主義的」制度と手続きに沿って「粛々と」進められるようになる。形式や手続きを整えてさえいれば、肝心の「中身」は重視されないどころか、公正性、透明性も十分に確保されなくなり、「形式」を盾に、政治が私物化されることも多い。
こんな中で国益や住民の利益を振りかざして議会や行政の変革をしようとするインセンティブは働きにくい。たいていは既存の秩序を乱す「厄介者」とみなされるのがオチだ。
地方自治や地方議員の仕事は、本来は住民の身近にあるものだが、日本では国政や国会議員よりも縁遠い感じがする。これは、日本では地方よりも国の政治や政治家の方が重要で「エラい」という感覚が根強く、メディアの報道も国を中心にしているという事情があるのではないか。
こんな状況では、二元代表制(日本の地方自治体では、国の「議院内閣制」と異なり、首長と議員のそれぞれが、住民から直接選挙される「二元代表制」を採用している〈憲法第93条〉、下図)の期待する行政と議会のチェック・アンド・バランスもあまり機能せず、「もたれ合い」か、さもなくば住民そっちのけの感情的対立すらもたらしている。
もちろん、全国にはさまざまな創意工夫をしている議会や奮闘している議員がいる。だが、住民から見て地方議会の中身や議員の普段の活動がよく分からないというのは、さまざまな調査でも明らかにされている。特に、都道府県議会や政令指定都市など、規模の大きな議会になればなるほど、その傾向は顕著なのではないか。
そもそも住民にとっては、都道府県議会と市区町村議会との違いが何なのかも分かりにくいし、極論すれば、それぞれに議会が必要なのかと感じる読者も少なくないだろう。
公共的なこと=行政(官)の意識が強すぎる日本人
「他人ごと」である理由としてもう一つ、底流にあるのは、日本では明治以来、社会的・公共的なことは行政(官)が担うという意識が、官・民双方ともに大変強いということだ。特に、戦後日本は全国一律にインフラ整備や社会保障制度を進めることで、高度経済成長と比較的安定した社会を実現してきた。
半世紀にわたる成功体験が、「公共的なことは行政が担うもの(公=官)」という意識を官・民にすっかり定着させてしまった。
一方、欧米ではパブリックという言葉は「公共=みんなのこと」を意味すると同時に「民衆=自分たち」を意味する。とりわけ米国人は納税者意識が強く、公共分野における税金の使い道を厳しく追及する。パブリック(みんな)のことはパブリック(自分たち)が担うのが原則であり、官には、その一部を納税とともに委託しているという意識だ。つまり、原則が「自分ごと」なのである(下図)。
そして、日本では「他人ごと」であるがゆえに、国民の求める行政ニーズは膨張し続け、政治はそれにどんどん応じる関係が続いてきた。その結果が世界最悪の財政状況だ。
加えて、第一次地方分権改革から20年以上が経過し、この間、国から地方への形式的権限移譲が進んだが、条例制定や財政運営に関する自治体の独立意識や能力が高まったという印象はない。
例えば新型コロナウイルスのワクチンに関して、「臨時接種」は法定受託事務であり、実施主体は自治体(市区町村)だ。しかし、厚生労働省が「予約制」を決めて自治体に一律にやらせようとする。21年に厚労省が出したワクチンに関する「通知」は350回に及ぶといわれている。
一方で、自治体にも「国の指示で」という名目の責任逃れが目立つ。例えば、「ワクチンのロット管理、温度管理、接種記録だけ守ってくれれば、それ以外のことは無視しても構わない」という河野太郎ワクチン担当大臣(当時)の言葉に対して、「厚労省の通知を無視しても良いという通知を出してくれ」といった声が一部の首長から出る始末だ。
地方議会の条例制定能力や予算のチェック機能などの能力を高めるためには、国も自治体を信じて任せ、「育てる」という視点を持って、「国の支配と地方の依存」という構図から脱却しないといけない。
議会、行政を自分ごと化する自治体
では、「他人ごと」を「自分ごと化」するための方策はあるのだろうか。解決策は一つではないだろうが、構想日本が09年から始めた「自分ごと化会議」はその有力な方法の一つだと実感しているので、簡単に紹介したい。
「自分ごと化会議」には、行政が行っている事業を住民がチェックする「事業仕分け(行政事業レビュー)」と、子育て、介護、防災など、身近な問題、地域の未来などを住民自らが議論して考える「住民協議会」の二つの種類がある。ここでは、より住民の意見が反映される後者について説明しよう。
住民協議会は、住民基本台帳から「無作為」に選ばれた住民が参加することが最大の特徴だ。つまり、「くじ引き」によって、いわば「ふつうの人」の幅広い参加が期待できる。
また、住民同士が対話を行うため、シナリオは一切作らない。行政主導の審議会やタウンミーティングでは、多くの場合、行政担当者たちは頭の中で「落とし所」を考えながら、それに向けたシナリオをつくる。だから、いくら住民参加といっても、シナリオ通りに進むことが多く、参加者は意見を表明することはできてもそれが政策に反映されたという実感を得ることはほとんどない。
協議会の当日は、構想日本が派遣するコーディネーターの下で行政職員は説明者、討論者の一人として参加する。協議会は一つのテーマについて数回実施し、最終回で提案書をまとめる。
福岡県久留米市に隣接する大刀洗町では14年から、「自分ごと化会議」を毎年開催し、住民と行政が一体となって議論している。しかも、大刀洗町はこれを町の正式の審議会とすることを全国で初めて条例として制定した。
「くじ引き」で選ばれた住民が条例に基づく公式な審議会を構成するというのは画期的なことであり、これまでに、「ごみ事業」や「健康増進事業」などで住民の提案が町の政策として反映されている。
効果はそれだけではない。「自分ごと化会議」に参加した委員からは、「自分がゴミの始末をきちんとすることでそれだけ町の処理負担が減り、税金を使わないで済むことが分かった」という声が上がったり、「行政への関心が高まり、公務員を目指すことにした」「NPOを作って町のことをやりたい」という人が次々に出てきているのだ。
行政主導で、この町のゴミが何d、処理に何億円と聞かされても住民の多くは「そうなんだ」で終わる。
だが、意見を述べ合う「場」を用意し、考える材料が提供され、考える主体になれば、自然と「なるべくゴミを出さないようにするにはどうすべきか」という、自分たちの生活をどうするかといった方向に関心が向かい「自分ごと化」になる。
これまでに無作為に選び、事業仕分けや住民協議会などの委員募集のために送ったはがきは26万枚を超え、そのうちの約1万人(約4%)が参加している(今年1月末時点)。
こうした「点」の取り組みが全国に「面」として広がることで、地方議員にも緊張感が生まれることは間違いない。事実、大刀洗町はもちろんのこと、その他の地域でも、住民協議会を議員が傍聴し、住民の声に耳を傾けるケースが広がりつつある。
憲法改正しなくても地方議会は変えられる
民主主義は、「手続き」を重視する。その手続きには手間や時間がかかるが、そのプロセスの中で自分とは異なる意見や考えもしなかったような意見に触れ、考え、折り合いをつけるといった術を身につけていくというのが本来の姿だ。
聖徳太子が制定した十七条憲法の一条「和を以て貴しと為し、忤うることなきを宗とせよ」という言葉が象徴するように、日本人の特徴として「協調性」が挙げられる。協調性とは、本来、異なる意見に耳を傾けながら結論を探ることだ。だが、今の日本社会は自分の意見を持たないまま、周囲に自分の考えを合わせる、あるいは合わせさせる「同調性」「同調圧力」が強いだけのように見える。
私はこれまで183回の経験から、「自分ごと化会議」は「同調圧力」を抑え、本来の「協調性」を育む上で大いに有効だと考えている。日本の政治、社会をこれ以上同調圧力の強い危険な状況にしないためにも、多くの国民が社会のことを「自分ごと化」できるような環境や仕組みを整えることが不可欠だと思う。
日本の各地を訪れると分かるように、「地方」とは実に多様であり、それゆえに住民の意見も多様であることは必然だ。
だからこそ、地方議会制度も全国一律である必要はないと思う。大刀洗町の住民協議会のように、憲法や法律を改正しなくても、地域住民の声を行政に反映させることは十分にできる。憲法改正など大上段に構えた制度改革をしたからといって、住民が社会のことに「他人ごと」である限り、事態は好転しない。もっと手前の段階で、われわれにできることはたくさんある。
愛国心は愛郷心の延長線上に育まれる。一体感のある国づくりには、土台となるしっかりした地方が必要だ。まずは住民が地方自治を「自分ごと化」する動きが広がることで、地方議会の改革も始まると思う。そして、日本の政治は地方から変えられるということを、多くの住民(国民)が実感できるようになるはずだ。
●女性は仕事も家庭も「すべてを手に入れる」ことが成功なのか? 3/20
今年2月に辞任したニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相。アーダーンは2017年に、37歳で当時世界最年少の女性首相に就任した。その1年後には長女を出産。キャリアも家庭もすべてを手に入れた彼女の、自らの辞任は何を意味するのか。プリンストン大学教授のアン・マリー・スローターが英紙に寄稿した。
「すべてを手に入れる」は成功か
「すべてを手に入れる」──そんな概念から自由になるべき時代がきた。これは「コスモポリタン」誌の編集長を務めたヘレン・ガーリー・ブラウンが広めたフレーズで、1970年代から80年代の女性たちの理想を表現している。
スーパーウーマンという強い女性像が流行したことも手伝い、母のように家庭生活と仕事の板挟みになることなく、父のように自由にキャリアを追い求めたいというのが、当時の女性たちの望みだった。しかしこの考えは、フェミニズムとしてあまりに狭量ではないか。
そこでわたしは10年前、わたし自身がアメリカ合衆国の国務省でのエリート職を辞めるに至ったジレンマについて、ある記事を書いた。驚いたことに、この記事はバズった。
タイトルは、「なぜ女性たちは未だにすべてを手に入れられないのか」。働く女性のニーズに応えるべく、社会がどう変わるべきかというテーマにフォーカスした記事だ。
以来、作家や映画監督、新聞記者らにより、この大胆なタイトルに賛否両論が巻き起こった。だが、彼らはこのフレーズを使い続けていた。2022年の映画『すべてを手に入れる』(原題 Having It All、日本未公開)は、「キャリアと結婚生活、育児のバランスをとるという夢を実現すべく奮闘する」3人の女性を描いている。
ガーリー・ブラウンの著作の刊行40周年を記念したコスモポリタン誌の特集でも、「2022年の今、すべてを手に入れるとはどういうことか?」と問いかけている。
2023年現在での答えはこうだ。
「すべてを手に入れる」というフレーズ自体が的外れなだけでなく、こちらのやる気をそぐ響きであり、仕事と家族、リーダーシップについて語るうえで、きわめて性差別的な概念である。
ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相辞任の報道に対する世界の反応を見るかぎり、世界中の多くの人々もこの意見に賛成だろう。
アーダーン辞任発表への世間の反応からわかること
世間のアーダーンの扱いをめぐるダブル・スタンダードには、きわめて深い問題が根差している。もし幼い子供を持つ男性の首相が「5年半にわたってさまざまな国家的危機を乗り越え、燃え尽き症候群のため」に辞任すると公表したなら、私たちの論点はパンデミック以降のメンタルヘルス問題になっていただろう。
もしその男性首相が「家族と一緒に過ごすため」に辞任すると公表したなら──それは権威ある地位を失った男性にピッタリな昔ながらの婉曲表現だが──その裏にはスキャンダルが隠されているに違いないと、世間は騒いだはずだ。
ところが、女性首相が「首相を続ける意志がない」と公表したとたん、メディアは、彼女は子供たちと一緒に過ごせなかった罪悪感を和らげるべく、家に戻りたいのだと思いこむ。BBCは「ジャシンダ・アーダーン辞任:女性はほんとうにすべてを手に入れられるか?」という見出しを使ったものの、すぐに撤回した。
もう、うんざり。働かなくてはならず、愛する人のケアもしなければならない人間なら、男であろうが女であろうが、誰でも仕事と家族の板挟みになって悩むのが当然だろう。
社会が女性に妻として、母としての役割を押しつけ、おまえは良妻賢母でないと批判するせいで、女性のほうが強くプレッシャーを感じざるをえないのだ。
アーダーンの功績
在任中、アーダーンはかつてないほど思いやりに満ちた政権を築いた。3ヵ月の我が子を国連総会に連れてくることで、ほとんどの赤ちゃんが母乳で育っているという当たり前の事実を、世界は改めて認識した。
また、彼女のパートナーのクラークが自宅で、そしてリモートワークの合間に見せた子供への献身は、働くパートナーを支えながら育児をする親の鑑(かがみ)として世間の注目を集めた。保育園の先生との話し合いや、子供が耳の感染症にかかったときの通院まで、幅広い育児をクラークはこなしていた。
甚大な被害をもたらした2019年のクライストチャーチのモスク銃撃事件の際、首脳としてのアーダーンの人道的な対応は、深刻な危機に直面した際にあるべきリーダー像を全世界に示した。同じ年、アーダーン政権は健全な経済の指標を見直すべく、ニュージーランド初の「ウェルビーイング予算」を打ち出した。
アーダーンは、GDPや就職率など従来の指標にとらわれない新たな視点を持つことで、社会に深く根ざした問題に取り組んだのだ。ウェルビーイング予算はメンタルヘルス、子供の幸福、マオリやパシフィカなど先住民の人々のサポートを優先しつつ、国家の生産力向上と経済革新をめざす政策だ。
政治評論家たちはニュージーランドの新たな試みの成果を疑問視しているが、ウェルビーイング予算とその誕生の背景は、国家の繁栄には何が必要かということが世界中で議論されるきっかけとなった。
国家のウェルビーイング、そして新型コロナウイルスから国民を守る迅速で的確な対策。アーダーンのこうした英断により、彼女は二度も大統領に選出され、凝り固まった従来のリーダー像を一新した。
彼女の辞任と、家族と過ごしたいという正直な辞任理由の説明は、女性だからではなく、1人の人間であれば当然の選択なのだ。女性だからではなく、1人の人間であればこそ──現在、この新たな認識が社会に広まりつつある。
したがって、同じスタンダードを男性に押しつける勇気がないのであれば、「すべてを手に入れる」というフレーズを私たちのボキャブラリーから消すべきだ。
女性のキャリアを育児と比べてはならない。そんな暇があるなら、次の疑問に向き合うべきだろう。
競争と野心あふれる社会で人々のケアとウェルビーイングを実現させるためには、私たち全員の成功の指標をどう見直せばいいだろうか?
●保育士の賞与減額 「求められるものが増えているのに...」 京都市 3/20
「子育て環境日本一」を目指す一方で、財政難の京都市。今年度、保育所の補助金が13億円削減されました。保育所の経営ひっ迫、保育士の給与カットで現場はどうなっているのか、その声を取材しました。
京都市では国の基準よりも保育士の配置を手厚く設定
京都市山科区にある西野山保育園。午前7時に朝の保育が始まります。乳児のクラスでは抱っこをせがむ園児や泣いてしまう園児など朝から大忙しです。
午前9時半、年齢別のクラスが始まりますが、まだまだ遊び足りない子も。そんな気持ちに保育士は丁寧に寄り添います。
(園児に話す保育士)「だいじ、だいじ、ないない行こう」
西野山保育園には、0歳児から5歳児まで124人の園児が在籍。京都市では国の基準よりも保育士の配置を手厚く設定していますが、この園では保育の充実のため、さらにそれより多く保育士を配置しています。それでも、突然起こる子ども同士のトラブル。保育士の忙しさには変わりはありません。
(園児に話す保育士)「当たったら痛いね。いじわるじゃないってちゃんとわかってはる。だから悲しくて泣いている」
補助金減額「すごく残念」「時代に逆行しているというか…」
その一方で、京都市の保育士はいま複雑な状況に置かれています。今年度、京都市が13億円補助金を削減したことを受けて、この園では800万円ほど補助金が減額となる見通しで、前年度から職員の賞与を0.5か月分減額としました。
この状況に保育士からは次のような声が聞かれました。
(保育士・7年目)「保育士も毎日子どもを守るために一生懸命働いている中での補助金カットや賞与カットというのはすごく残念やなと」
(保育士・37年目)「今までよりも求められるものが増えているのに、処遇というかお給料が減っていくという。時代に逆行しているというか」
賞与カットの一方で、コロナ対策や保護者対応など求められることは増え続けています。
お散歩や給食「もうバタバタな感じです」
午前10時すぎ、1歳児クラスがお散歩にでかけます。園児の人数を数えて出発です。大人の足で徒歩3分ほどの公園に到着。子どもたちは思い思いの方向に散らばっていきます。
(保育士)「いいものあった?」
(園児)「いいものあった!」
かくれんぼをしたり、ブランコに乗ってみたり、好奇心の赴くままにあっちへこっちへ。
その間、保育士さんはというと、子どもたちと遊びながらも保育の事故を防ぐために人数の確認を頻繁に行います。
【保育士たちのやりとり】
「こっちで12。そっち半分で7いたらOK」「7!」「OK!」
(保育士)「この公園は4か所出入り口があるんですよ。ピュッと行ってしまったら車通りなので、しょっちゅうしょっちゅう数えています。けど1歳児ってものすごく好奇心がむくむく育つ時期なので、何でもかんでも『あかん』としてしまうのはやっぱりかわいそうだし、そういうところをぐぐっと伸ばしてあげて、どんどん身体と心が成長してほしい」
正午前、給食の時間。2歳児のクラスをのぞいてみると…。
(園児に話す保育士)「お肉と一緒にお豆1個頑張ろう。よっしゃ!」
1人の園児の食事介助をしていても、あっちからこっちから呼ぶ声が。子どもたちが少し落ち着いてから、保育士もようやくお昼ですが、ゆっくりと食べることはできません。
(保育士)「こんな感じです。子どもたちがだいぶ自分で食べられるようになってきたので、大人も離れて食べながら、子どもたちの食べる様子を見ながら、もうバタバタな感じです」
保育だけでなく『保護者の相談役』も
午後1時すぎ、園児たちはお昼寝の時間。
その間、保育士たちはというと、紙に何かを書いています。
(保育士)「お母さんたちは仕事中で子どもの姿が全然わからないので、『日中はこんなんして過ごしていた』というのをちょっとでも伝えられたら。保護者と保育園の交換ノートみたいな感じです」
保育士が担う仕事は子どもの保育だけではありません。子どもを知るプロとして保護者の相談役も担います。
(1歳児・3歳児の保護者)「子どものこと以外、プライベートとのことでもすごく話しやすくて親身になって対応してくれたりとか、気になったことがあったら面談の日程をすぐ決めていただいて、いろいろお話を聞いていただけるのですごく助かっています」
経験年数に応じた「給与加算」が11年で頭打ちに
多くの役割を求められる保育士。しかし、こうした経験が豊富なベテラン保育士が、制度見直しで複雑な思いを抱いているといいます。今年度、保育士の経験年数に応じて支給される給与の加算が、11年で頭打ちとなったのです。その結果、ベテランを多く抱える園では、経営のひっ迫や変更前の給与水準を保つことが難しくなっているといいます。
(ベテラン保育士・37年目)「11年目以降は変わらないし、そんなお給料もらっているのも申し訳ないのかなという気持ちを同年代はもったというか。高いお金をもらっているあなたたち(ベテラン)はいりませんよと言われている感覚」
こうした状況に、保護者や保育所団体も反対の声を上げています。
(保護者 今年2月の会見)「子どもたちの命と将来に深くかかわる保育士。その仕事はきわめて重要にもかかわらず、あまりにも低くみられていないか、ないがしろにされていないか」
これについて京都市に話を聞きました。
(京都市・子ども若者はぐくみ局 横川勇樹幼保企画課長)「削減のための見直しではなくて、これまで課題のあった制度について各職種ごとに必要な人件費が確実に行き渡るように透明性の高い制度に変更したものですので、我々も丁寧に説明してご理解をいただければそういう結果につながってくるというふうには考えています」
「『日本一子育てしやすい』と掲げるなら、なおそこにお金を入れて」
京都市は削減後も「53億円の市の独自予算を確保している」として「給与水準の維持は可能」としていますが、西野山保育園の吉岡昌博園長は、保育現場に起きたしわ寄せを京都市にはしっかりと把握してほしいと訴えます。
(西野山保育園 吉岡昌博園長)「子どもたちが安心してすくすく育ってくれる環境を整えてほしい。これは親御さんも保育士も、僕たち運営するものも同じ思い。京都市として『日本一子育てしやすい』と掲げるのであれば、なおそこにお金を入れてもらわないと難しいんじゃないかなっていうふうに思いますね」
保育所の一日は閉園の午後7時まで続きます。未来を担う子どもたちと、働く親。両方をサポートする保育所と保育士をどう支えていくべきか。課題に直面しています。
●石油の安定的な確保のための中東外交 人道支援と経済協力  3/20
原油輸入の中東依存率が高まっている。本年1月の中東依存率は94.4%であった[1]。ロシアのウクライナ侵攻やそれに伴う原油の高騰により、中東からの石油輸入の日本のエネルギー確保における重要性は極めて高くなっている。1973年の石油危機以来日本は、原油輸入確保を最優先の課題として、中東政策を立案・実施してきたが、この依存率を見れば、同確保が中東政策の核心にあることは変わっていない。
必要な原油輸入確保の為、今やるべきことは何であろうか。ウクライナ侵攻後のロシアからの天然ガス輸入に頼れず、中南米は遠く、米国のシェールガス・石油は値段が高いことからすれば、中東の石油の重要性は依然変わらない。中東からの石油輸入確保を確実にする中東政策を実施するべきである。現在の中東をめぐる国際情勢や日本と中東諸国との関係を勘案すれば、これまでの中東地域の平和と安定に関わる協力・貢献に加え、悪化した人道状況改善へ向けての支援と脱石油の国づくりを進めている中東諸国への民間企業の進出が最も有効であると考える。
本稿では、これまでの日本の中東外交とその実績を振り返りながら、アメリカの政策の変化に言及しつつ、日本の中東外交に求められる取り組みについて検討する。
原油輸入確保の為のこれまでの日本の中東政策と実績
日本は、20世紀の経済にとって不可欠なエネルギーである原油供給先として第2次世界大戦以前から中東に注目し、原油確保の努力を行ってきた。1930年代の横山正幸在エジプト公使によるサウジアラビアとの交渉から始まり、戦後は、後にアラビア石油会社を設立する山下太郎による、サウジアラビア及びクウェートからのカフジ油田採掘権の獲得、またモサデク政権によるイラン石油事業国有化に際して、英国による海上封鎖の中、出光石油は、日章丸を派遣してイランからの原油輸入の実績がある。さらに、1970年代から80年代にかけてアラブ首長国連邦から数ヶ所の海上油田採掘権を取得したことなどである。
1973年の石油危機以来、日本は、石油の安定的供給には中東地域の平和と安定が欠かせないとして、地域の紛争等の問題に関与し、平和と安定のための努力を行ってきた。
第1は、中東和平問題への貢献である。石油危機の際は、二階堂談話[2]を発出し、パレスチナ人支援を明確にし、アラブ産油国の友好国として原油輸入を確かなものにした。湾岸戦争後は、経済協力を通じて中東和平に貢献するようになった。1991年10月から始まるアメリカ・ソ連(1992年1月以降はロシア)が共同主催する中東和平交渉多国間協議[3]で重要な役割を果たすとともに、パレスチナ自治政府支援を行い、パレスチナ人とアラブ諸国並びにイスラエルに強いインパクトを与えた。それが周辺諸国を巻き込みながらパレスチナ支援を行なう「平和と繁栄の回廊」構想[4]の提案と2006年の構想発表以来現在までの実施に繋がった。
第2は、エジプト、ヨルダンを始めとする中東・北アフリカの発展途上の諸国に対して経済協力を行ってきたことである。有償無償の資金協力、日本の得意とする開発調査及び技術協力をこれら諸国に行ったことにより日本に対する信頼は高まった。さらにアフガニスタン復興支援に大きな貢献を行った。
第3に、日本はイラン・イラク戦争の勃発以来、次のように中東地域の平和と安定そのものに貢献してきた。
•1980年に始まり88年まで続いたイラン・イラク戦争時の「創造的外交」のスローガンの下の両国への紛争緩和の政治的働きかけ[5]及びペルシャ湾安全航行装置のアラブ産油6か国への供与
•1990-91年のイラクのクウェート侵攻・占領に端を発する湾岸危機・戦争における総額130億ドルに上るイラク近隣諸国への経済協力及び多国籍軍に対する財政支援
•湾岸戦争直後のペルシャ湾への自衛隊掃海艇の派遣
•ゴラン高原等への自衛隊の国連PKO派遣
•アフガン戦争時のインド洋後方支援自衛艦の派遣
•イラク復興支援の為の自衛隊部隊サマーワ派遣
•ソマリア沖海賊対策の為の自衛艦の派遣[6]
•シナイ半島の多国籍部隊・監視団(MFO)支援(資金的・人員派遣)
前記の3つの貢献においては、中東地域の平和と安定に向けて、アメリカを始めとする中東の石油に依存する欧米諸国と協力して対処するという外交戦略があった。湾岸危機・戦争時のアメリカを始めとする欧米諸国と足並みを揃えられない苦難の時期から始まり、米ロ主催中東和平プロセス進展への貢献のアメリカからの承認を経て[7]、アフガン戦争時のインド洋後方支援とアフガニスタン復興支援、イラク復興支援自衛隊部隊派遣等で中東における国際協力の重要なパートナーにまでなった。
アメリカ安全保障政策のインド太平洋への重点移行と日本の中東政策
上述したように、中東の平和と安定に向けての日本の支援は、過去50年間で大きな広がりを示した。また同じく上述のように、この支援は、アメリカを始めとする国際協力の中で行われてきたものであった点も確認が必要である。実際に、日本は、この国際協力の中で、2001年の米国同時多発テロ攻撃に端を発するアフガニスタン戦争後の復興支援を主導し、これまで約69億ドルの支援を行ってきた[8]。しかし、2021年にバイデン政権が誕生し、「中東からは退き、インド太平洋に意識を集中させる」[9]という判断の下、アフガニスタンからの軍の完全撤退等がなされている。こうした状況で、中東の平和と安定へ向けての日本の支援の意義を改めて確認する必要がある。
中東の平和と安定へ向けての支援は、経済・技術支援を主としている。技術支援は「人を育てる研修」が基本である。また、自衛隊の派遣も後方支援や復興支援等が主な目的であった。このため、中東諸国やそれぞれの国民は、日本に対する信頼と友好の念を持っており、日本が中東の平和と安定の為に支援や活動を行うことは、歓迎されこそすれ、反対されることはあまりないと見られる。
現在、中東・北アフリカでは、従来からのパレスチナ問題、アフガニスタン問題、イランの核問題に加え、シリアやイエメンでの内戦が継続するとともに、各国社会経済状況も不安がある。このような中、日本がこれまで行ってきた「平和と繁栄の回廊」構想への貢献や各国への経済協力を引き続き行っていくべきである。また、先月のトルコ・シリア大地震災害への緊急支援等人道支援は時宜を逃さず行うべきである。これらのことを着実に行っていくことが、日本の中東の平和と安定への貢献となるし、中東地域の人々の信頼と友好の念を勝ち取ることとなる。
シリア・アフガニスタンに対する民間人道支援
このような支援実績がある中、現在、課題となっている問題は、日本政府が承認していない政府が統治するシリアとアフガニスタンへの支援であり、湾岸産油国の脱石油の国づくりへ協力である。
2月に発生し、5万人以上の死者を生み出したトルコ・シリア大地震災害では、シリア人の被災者支援が十分には行われていない。反政府勢力のいる被災地へはトルコから国境を越えて支援を行う困難があり、シリア政府支配地域の被災地への各国政府からの支援はなされない状況が続いている。
また、タリバーン政権下のアフガニスタンでは農業生産と食料調達能力が衰え、約4000万人の人口のうち2280万人が急性食料不安に陥り、870万人が緊急レベルの食料不安に直面していると言われている[10]。国際機関を通じての支援は行われているが、政府レベルの支援は行われていないか不十分である。10月及び12月の拙著論考[11]で述べたように、アフガニスタンでは、ペシャワール会の人道支援を全国展開できるように「上乗せした」人道支援を実施していくことがタリバーン政権下での人道支援の強化となると考える。
しかし、欧米各国と協調して開発支援を行わないこととしているシリア及びアフガニスタンについては、人の命の危機に関わる人道状況を、手をこまねいて見過ごしておくべきではない。政府が行えないなら日本の民間支援組織NGOが支援に出向くことができるようにすべきではないか。シリア政府支配地域の被災地は戦闘も起こっておらず、一般的な治安は良い。また、シリア政府も人道支援は歓迎している模様である。またタリバーン支配下のアフガニスタンも、イスラミック・ステート・ホラサン州(ISKH)のテロの脅威はあるが、前政権とタリバーンとの内戦時に比較すれば、格段に平穏だと言う。シリアやアフガニスタンへの人道支援は、NGOの支援が鍵だと考えられる。
中東諸国への経済協力:産油国への企業進出
日本は、サウジアラビアとクウェートの国境付近にあるカフジ油田採掘の権利をサウジアラビアとの間では1999年まで、クウェートとの間では2001年まで持っていたが、前者は完全に同権利を失い、後者については技術支援契約のみとなった。また、2021年、日本企業がカタール政府との天然ガス大口長期購入契約を更新できなかった。
サウジアラビアやカタールとの交渉で共通するのが、日本政府や企業が契約更新時の原油や天然ガスの市況を睨み、両国が希望する契約条件や協力要請に合意しなかったことである。サウジアラビアの脱石油の国づくりを支援したり、カタールの契約条件に合意することは、一時的には採算が合わないことであろうが、今次ウクライナ戦争の勃発とエネルギー価格の暴騰などの状況がいつでも起こり得ることを考えれば、日本の長期的国益を常に交渉の検討要素の中に入れておくべきである。
現在、アラブ湾岸産油国は、アラブ首長国連邦(UAE)のマスダールシティ計画[12]、サウジアラビアのスマートシティ計画[13]など、脱石油の国づくりの構想を発表し、実施してきている。これらは世界中の投資と技術を呼び込んで行おうとしている。2008年、筆者がUAEアブダビを訪ね、マスダールシティ計画について話を聞いた時から15年が経過し、UAEはマスダールシティをモデル都市として、クリーンエネルギーを全エネルギーの50%以上とし、発電のCO2排出量の70%を削減する「UAEエネルギー戦略2050」[14]が実施されている。
これに呼応するかのように、昨年ジェトロはサウジアラビアビジネスミッションへの参加を企業・個人に呼びかけ、実施した。また、外務省は本年に入り、日本・中東3か国(UAE、オマーン、バーレーン)外交関係樹立50周年記念シンポジウム・文化イベントを開催し、湾岸産油国へ企業・個人の目を向けさせようとしている。しかし、中東の国の特命全権大使を務め退任した元外交官の述懐は、日本企業の中東理解は、40年前とほぼ変わっていない、と言うものであった。中東地域への進出を慫慂しても、中東は危ないところという意識がまず先に立ち、進出に至ることはなかなかない、と言うことである。日本企業の中東進出を促す政策と工夫が必要である。
日本の中東政策への提言
上述のように、アメリカの政策転換後の日本の中東政策においては、現状で最も必要とされる人道支援及び日本企業の中東進出を促す経済協力が重要であり、次を提案したい。
1)日本のNGOの有志に両国への人道支援の調査と検討を呼びかけるとともに、日本政府に対しては、NGO有志が実際に両国への人道状況調査や支援を行うことになったら側面支援を求めたい。
2)中東地域へのビジネス進出戦略を、政治主導で外務省、JICA、JETRO等関係諸機関並びに経済界等を集めて策定し、それを中東諸国に伝えるとともに、官民双方が実施していくのはどうであろうか。政官民の指導的立場の皆さまにご検討を頂きたい。
●価格転嫁で上昇に転じる日本のサービス価格 3/20
   〔図表1〕消費者物価(前年比)の推移
   〔図表2〕外食と飲食料品の価格(前年比)の推移
わが国の物価上昇は、サービス価格の一部にも及んでいる。総務省「消費者物価指数」によると、サービスのうち、公共サービス価格や家賃は横ばい圏内にとどまっているが、民間サービス価格(携帯電話料金と宿泊料を除く)は前年比3%超の上昇となっている(図表1)。なかでも、外食や住宅修繕などの分野で価格上昇幅が大きい。
サービス価格上昇の背景として、企業が原材料コストの上昇を積極的に価格転嫁していることが挙げられる。昨秋にかけて進んだ円安や資源高の影響で、食料品や住宅資材などの価格が高騰。これらを中間投入するサービス分野で価格転嫁が進み、例えば外食の価格上昇率は、食料品と同水準に達している(図表2)。食料品価格の高騰にもかかわらず外食価格が抑えられた2000年代後半とは対照的だ。外食企業の価格転嫁姿勢は、バブル期以前の強さに戻ったといえる。
企業が価格転嫁に積極的な背景として、現在のコスト高が一時的ではなく持続的と予想している点が挙げられよう。多くの企業は、長期化するコスト高を販売価格に転嫁する姿勢を強めている。日本銀行の「企業短期経済観測調査」によれば、企業が予想する5年後の販売価格見通しは、宿泊・飲食サービス業で6.4%上昇と、コロナ前の平均(17〜19年、3.3%上昇)から大きく高まった。今回のインフレはウクライナ問題に起因する面も強く、家計の値上げに対する理解が得られやすかったことも、企業の価格転嫁を後押しした可能性がある。
今後は、原材料高に加え、人件費の増加が価格を押し上げる可能性がある。コロナ禍からの経済再開で、サービス業では人手不足が深刻化し、賃金が上昇している。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、宿泊・飲食や生活関連などのサービス業では、一般労働者の現金給与総額(共通事業所ベース)の伸びが22年12月に前年比10%前後に達した。今年の春闘で実施されるベースアップも賃金上昇につながると予想される。こうした人件費の増加が、外食や住宅修繕以外の幅広いサービス価格に転嫁されるのかが注目される。
●次期日銀総裁に植田氏 財政立て直しが議論の主眼に 3/20
鈴木俊一財務相は2月21日の記者会見で、インドで23〜25日の日程で開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議にあわせ、主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を開くと発表。鈴木氏が議長を務め、ウクライナに侵攻するロシアへの経済制裁を協議する。
鈴木氏は「ウクライナ支援やロシアへの圧力に関しG7の団結を再確認する」と述べた。G7は欧州連合(EU)などと連携し、ロシア産原油の取引価格上限設置や国際的な金融決済網からの排除など、対露制裁で足並みを揃えてきたが、効果が十分に出ていないとの指摘もある。侵攻が長期化する中、議長国として日本が存在感を示せるか正念場となりそうだ。
一方、4月8日に任期を終える日銀の黒田東彦総裁の後任として、東大名誉教授で元日銀審議委員の植田和男氏が就任する見通しとなった。2月17日の記者会見で、鈴木氏は植田氏について「内外の市場関係者に対する質の高い発信力と受信力が格段に重要になっているが、国際的に著名な経済学者であり、金融分野に高い見識を有する」と評価した。
植田氏の人選を巡っては、岸田文雄首相はごく限られた側近と絞り込みを進め、国会への提示直前に党幹部に根回しするなど情報管理が徹底されたが、鈴木氏には「麻生太郎自民党副総裁を通じて伝えられた」(官邸筋)とされるなど、事実上、蚊帳の外だった。
今後は政府・日銀の共同声明の見直しが焦点になる見通しで、10年に及ぶ大規模な金融緩和策の影響で悪化した財政の立て直しが議論の主眼となるのは避けられない。
●収益還元バブルは金利急騰ではじける危険も 3/20
   〔図表〕積算価格対収益価格比率と不動産価格上昇に対する利回り低下の寄与度
不動産の「収益価格」がオーバーシュートしている問題を、筆者は「収益還元バブル」と呼んでいる。鑑定評価上、不動産の価格は原価法による「積算価格」、取引事例比較法による「比準価格」および収益還元法(DCF法)による「収益価格」という三つの試算価格から求められる。それぞれ「費用性」「市場性」「収益性」という異なる視点からアプローチするが、いずれも同じ物件の同じ権利の価格を算定するものであるため、これらの間には本来、三面等価の原則が成り立つ。
平成バブル時には、比準価格や積算価格を重視し過ぎて収益性を軽視した評価が行われていた。実際に、バブル時には積算価格を100とすると、収益価格は70程度にとどまっていたように記憶している。バブル崩壊過程で不良債権処理を一気に進めた時代的背景も相まって、DCF法による収益価格が表舞台に躍り出て現在に至っている。
ところが近年、バブル時と真逆の状況が発生している。データの制約からJリートの1銘柄のみの平均となるが、収益価格を100とすると積算価格が74程度にとどまっているのだ(図表)。
仮に収益価格が10億円となった場合でも積算価格が7億4,000万円であれば、10億円のものを購入するよりも同じものを作った方が安く済むはずである。鑑定評価上、収益物件の評価は収益価格を標準とするものの、前述のケースで、10億円を鑑定評価額としている現状に鑑みると、平成バブル時の反省が生きていないようにも見える。
この収益還元バブルの一つの特徴は、価格の上昇に還元利回りの低下が大きく寄与していることである。この点、今後の注目点が金利の動向だ。
植田日銀新総裁は市場を重視する「現実路線派」と見る向きが多い。国会での所信表明も無難にこなし、ひとまずマーケットは落ち着いている。ただ、今後、緩和路線は継続しつつも、イールドカーブ・コントロール(YCC)などの政策枠組みの修正を慎重に行うことが予想され、市場では金利の緩やかな上昇が見込まれている。
緩やかな上昇であれば、不動産の還元利回りの上昇も限定的と思われるが、想定を超える金利上昇が発生する場合、不動産のリスクプレミアムの急激な上昇を伴って還元利回りの大幅な上昇が出現する可能性が高い。その場合、積算価格と収益価格のバランス調整が一気に生じ、不動産価格の思わぬ暴落につながる恐れがある。
米国のインフレの高水準での持続、ロシア・ウクライナ情勢に起因する原材料価格等の持続的上昇、賃金上昇も加わったコストプッシュインフレ、財政赤字を嫌気した日本売りなど、金利上昇のトリガーは多い。一方、シリコンバレーバンクなどの経営破綻に伴う金融不安や景気後退リスクもくすぶり、先行きが読みにくくなってきた。今後、金利と不動産価格の動向から目が離せない状況である。
●日本国民65%は「日韓首脳会談を評価」…岸田首相の支持率が上昇 3/20
日本国民のおよそ3人に2人は16日に東京で開かれた韓日首脳会談の結果を肯定的に評価していることが明らかになった。岸田文雄内閣の支持率も上昇の勢いをみせている。
読売新聞が20日に発表した世論調査の結果、回答者の65%が16日に行われた韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と岸田首相の首脳会談を「評価する」と答えた。同日発表された朝日新聞の調査では63%が、毎日新聞の調査では64%が肯定的に評価した。韓国政府が6日に発表した日帝強制徴用問題解決策に関しても、肯定評価の比率が58%(読売)、55%(朝日)、54%(毎日)などとなった。
日本国民は会談結果に肯定的な評価を下しつつも、今後の韓日関係の展望に対してはやや様子見の姿勢だった。読売が今後の韓日関係展望について聞くと「変わらない」が61%で最も多く、続いて「良くなる」(32%)、「悪くなる」(4%)の順だった。朝日の調査でも今後の韓日関係に対して「今と変わらない」(57%)、「よい方向に進む」(37%)、「悪い方向に進む」(3%)となった。
ただ、毎日の調査では「日韓関係の改善に期待するか」の問いには64%が「期待する」と答えた。「期待しない」は28%だった。
岸田内閣の支持率は上昇している。朝日の調査では内閣支持率が40%で、1カ月前の調査に比べて5%ポイント上昇した。「支持しない」は同じ期間53%から50%に3%ポイント下落した。毎日の調査では33%で、先月比7%ポイント上昇した。読売の調査では42%で、1カ月前の調査に比べて1%ポイント上昇した。
「岸田首相、尹大統領に慰安婦合意の履行を要求」
一方、20日、産経新聞は岸田首相が今回の韓日首脳会談で尹大統領に慰安婦合意の履行と福島水産物などに対する輸入規制撤廃を要求したが「進展はなかった」と報じた。また、独島(トクド、日本名・竹島)問題と佐渡金山の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産登録については首脳会談では話し合われなかったと産経は伝えた。
●「総務省文書問題」高市早苗氏を追放したい霞が関 3/20
放送法に関する総務省の行政文書を巡り、高市早苗・経済安保相が連日国会で集中砲火を浴びている。だが、この問題は、高市氏1人で終わらない。岸田政権が吹っ飛ぶ“地雷”がいくつも埋まっているのだ。
官邸と霞が関が仕組んだ
総務省文書問題で高市氏は絶体絶命に見えるが、本当に追い込まれているのは高市氏を切れない岸田文雄・首相のほうだ。
誰が高市追い落としに動いているかを辿ると、その理由が見えてくる。安倍政権時代の放送圧力に絡む総務省内部文書の内容が国会で最初に追及された際、当時総務大臣だった高市氏は「捏造だ」と全否定し、事実なら大臣も議員も辞めると啖呵を切った。ところが、松本剛明・総務相が文書は本物だと認めて公表に踏み切り、そこから高市氏は不利な状況に陥った。官邸官僚の1人が明かす。
「役所が大臣レクの内容を記したメモを含めて行政文書を全部公表するのは異例な対応だった。たとえ国会で取り上げられた文書でも、役所が正式に公表する場合は発言部分に黒塗りを入れるが、今回はそれも一切しなかった。公表を決めたのは松本総務相だけの判断ではなく、官邸がゴーサインを出した。とくに官邸を仕切る木原誠二・官房副長官は防衛増税で公然と政権を批判した高市氏に思うところがあるようで、庇う必要は全くないという姿勢だ」
現職大臣が、官邸から撃たれたのだ。
政権内部には、高市氏を何としても“追放”したい勢力がある。岸田政権は発足以来、安倍路線を徐々に転換し、財政再建・増税路線を進めた。それに反発してきたのが高市氏だ。
岸田首相が麻生太郎・副総裁を最高顧問に据えて自民党内に総裁直属の財政健全化推進本部を設置すると、政調会長だった高市氏は直属の財政政策検討本部を作って対抗。また、昨年7月の参院選前には、経済政策の補正予算編成をめぐって高市氏は麻生氏や茂木敏充・幹事長と大バトルを演じ、与党協議から外された。岸田首相はそんな高市氏を昨年8月の内閣改造で入閣させて閣内に封じ込めたつもりだったが、抑えきれなかった。
昨年末の防衛財源をめぐって、高市氏が「罷免覚悟」で岸田首相の増税方針に公然と反対したことは記憶に新しい。自民党ベテラン議員は、「今国会で高市問題がにわかに浮上したのは仕組まれたからだ」と見る。
「官邸では木原官房副長官をはじめ財務官僚出身の総理の側近たちが、増税に反旗を翻した高市さんを邪魔だと思っている。文書問題で高市さんに不利な材料を出している松本総務相の親分は財務省のドンの麻生さん。松本氏自身も父の十郎氏(元防衛庁長官)が大蔵官僚出身だったから財務省にパイプがある。背後で、財務省と総務省という財政当局が、増税反対派の高市氏を追い落とそうと糸を引いている」
切らねば官僚を敵に回す
政治評論家の有馬晴海氏は、高市更迭は霞が関が岸田首相に突きつけた踏み絵だと見ている。
「岸田政権を支えてきたのは財務省です。財務省は岸田首相に年金生活世帯への5000円上乗せや生活困難世帯に対する物価対策の5万円支給の予算を認めたかわりに、防衛財源として所得税などの増税を決めさせ、少子化対策では消費税増税を進めさせようとした。ところが、ここに来て岸田首相は増税に二の足を踏むようになった。財務省にすれば、話が違う。
そこで、今回の文書問題を口実に首相に高市氏を更迭させ、安倍路線から完全に決別するように迫っている」
踏み絵は財政再建だけではない。
安倍政権時代の森友学園問題では、「私や妻が関係していたら総理も議員も辞める」と発言した当時の安倍晋三・首相を守るため財務省が泥をかぶり、大きな犠牲を払った。
政治ジャーナリスト・野上忠興氏は、高市氏を更迭しなければ、霞が関全体の反発を招くと言う。
「霞が関から見れば、安倍政治の手法は政治主導と言いながら人事で官僚を支配し、政権に不祥事があれば官僚に泥をかぶらせて切り捨てた。霞が関の官僚は、岸田総理はそんな政治を転換すると期待して支持している。しかし、ここで岸田首相がわざわざ安倍氏と同じ言い方で疑惑を否定した高市氏を擁護すれば、首相自身が総務省の文書の内容が間違いだと認めて役人に責任を負わせることになる。そうなれば、官僚は“岸田も安倍と同じだ”と見放して霞が関全体が敵に回るだろう」
霞が関を敵に回せば、政権はもたない。憲政史上最長の長期政権を誇った安倍氏でさえ、『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)の中で、財務省や自民党財政再建派議員たちからの増税圧力をかわすためには、解散・総選挙を打つしかなかったと語っていたほどだ。
安倍政権には岩盤保守層という強固な基盤があったが、岸田政権の基盤は霞が関だけだ。麻生氏や茂木氏、木原氏ら側近も岸田首相に霞が関の支持があることを前提に政権を支えている。野上氏は、官僚の支持を失えば岸田政権は終わりに向かうと予測する。
「岸田首相には霞が関に対抗する力はない。だから官僚を敵に回した途端に政権の屋台骨が揺らぎ、瓦解に向かう。それが見えた段階で、首相を支えている麻生氏や茂木氏、官邸の側近も政権に見切りをつけてポスト岸田に動き出すだろう」
側近からも霞が関からも高市氏を切れと迫られ、追い詰められているのはまさに岸田首相なのだ。
●高市氏、謝罪・撤回応ぜず 「質問しないで」発言、委員長が注意 3/20
参院予算委員会は20日午前、一般質疑を行った。高市早苗経済安全保障担当相は、放送法が定める政治的公平性に関する15日の同委質疑で「私が信用できないなら、もう質問しないでほしい」と発言したことに関し、「答弁拒否と受け止められることは本意ではない」などと釈明。一方で、野党などが求めた謝罪や発言の撤回には応じなかった。
冒頭、末松信介予算委員長(自民)は15日の高市氏の発言について「誠に遺憾で、この場で注意する」と述べ、高市氏は「重く受け止める」と語った。しかし、陳謝の意は示されず、委員会は一時中断した。
その後、質疑に立った自民党の広瀬めぐみ氏に「与党・自民党としても遺憾だ。より一層誠実な答弁をお願いしたい」と促されたものの、高市氏はここでも陳謝しなかった。このため、末松氏は「(15日の)表現は全く適切でない。大きな間違いだ。ぜひ省いてもらいたい」と高市氏の対応を強く批判し、発言の撤回を要請した。
●高市氏の発言「敬愛の精神を忘れている」 参院予算委員長が注意 3/20
末松信介参院予算委員長(自民)は20日午前の同委員会で、放送法の行政文書をめぐる質疑で高市早苗経済安全保障担当相が野党議員に「信用できないならもう質問しないで」などと述べたことに、「表現はまったく適切ではない。敬愛の精神を忘れている」と注意した。予算委員長が閣僚にこのような注意をするのは異例。
高市氏は15日の参院予算委で立憲民主党の杉尾秀哉氏から行政文書を捏造(ねつぞう)とする根拠を説明するよう求められ、「信用できないんだったら、もう質問なさらないでください」などと発言。野党が問題視し、謝罪と撤回を求めていた。
20日の予算委の冒頭、末松氏は高市氏に対し「誠に遺憾。この場で注意させていただきたい」と発言。高市氏は「委員長からのご指導、ご注意については重く受け止める。私が答弁を拒否していると受け止められ、国会の審議に迷惑をかけることは本意ではない。今後も答弁を続ける」と述べたが、謝罪などはしなかった。続いて自民党の広瀬めぐみ氏が「与党・自民党の立場としても遺憾」とし、誠実な答弁を求めた。その後、高市氏が退席しようとしたところ、末松氏が高市氏を呼び止めた。
末松氏は「国会議員が質問する権利を揶揄(やゆ)したり否定したりするのは、本当に大きな間違いだ」と指摘。「私が野党の時代、野田(佳彦)首相に厳しい言葉で攻撃的に言っても、やはり根底には敬愛の精神を持っていた」と振り返った。そのうえで、高市氏に「敬愛の精神を忘れている言葉だと思う。この部分だけはぜひ省いていただきたい。これは私の思いだ」と諭すように伝えた。
●高市氏「質問しないで」発言撤回=委員長異例の注意、謝罪応ぜず  3/20
高市早苗経済安全保障担当相は20日の参院予算委員会で、放送法が定める政治的公平性に関する15日の質疑の際に「もう質問しないでほしい」などと発言したことについて、「(問題となっている)答弁についてのみ撤回する」と述べた。野党が求める陳謝には応じなかった。立憲民主党の小西洋之氏への答弁。
高市氏は15日の参院予算委で、立民の杉尾秀哉氏が「ずるずる答弁が変わっている。全く信用できない」と追及したことに対し、「私が信用できないなら、もう質問しないでほしい」と述べた。
20日の同委では冒頭に末松信介委員長(自民)が高市氏を注意。高市氏は「重く受け止める」と述べるにとどめ、自民党議員が改めて反省の弁を促したものの、陳謝などに応じなかった。審議が一時ストップする場面もあった。
このため、末松氏は「(15日の)表現は全く適切でない。大きな間違いだ。ぜひ省いてもらいたい」と高市氏の対応を強く批判。委員長が自ら発言撤回を要請する異例の展開に、高市氏もようやく折れた形となった。
高市氏は安倍政権下で首相官邸が放送法の解釈見直しを総務省に求めた当時、総務相を務めていた。 
●原発再稼働に舵を切った岸田首相に「覚悟」はあるのか  3/20
今年も3月11日がやってきた。東日本大震災から12年である。命を落とされた方々、ご遺族の方々……。何年経とうと、その無念はいかばかりだろう。あらためてご冥福をお祈りします。
そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故は、大きな恐怖と衝撃国民に与えた。今もなお多くの人々が、以前の生活を取り戻せていない。僕が司会を務める「朝まで生テレビ!」では、大震災以来、毎年2月末の放送回で、震災処理や復興、原発問題などを討論してきた。
今年も原発問題について話し合ったが、これまでの11回とは決定的に違う背景があった。事故以来、日本政府は一貫して、「原発への依存は可能な限り低減する」という姿勢を示してきた。岸田首相が総裁選に出馬した際も、原発に対して慎重姿勢だった。
ところが2022年8月、岸田首相は突然、「原発を最大限活用する」と大きく舵を切ったのだ。「脱炭素」という課題もあるが、大転換の大きな要因は、長引くロシアとウクライナの戦争だろう。
世界的なエネルギー危機によって、電気料は上がり、国民の大きな負担となっている。しかし、だからと言って、国民への丁寧な説明もなく、国会での議論さえもなかった。
なし崩しに原発再稼働を進めることは、断じてあってはらならないと思う。福島の教訓は生かされているのだろうか。「朝生」では、福島第一原発の現状を、テレビ朝日記者の吉野実さんに話してもらった。吉野さんは事故以来、地道に原発取材を続けている方だ。
吉野さんの話に、僕はあらためて衝撃を受けた。使用済み核燃料は1007体がそのまま、融け落ちた核燃料である「デブリ」880トンは、取り出しのメドが立っていない。そして廃棄物780万トンは、処理の見通しさえないのだ。
当初、国は、事故の収束費用を5兆円としていたが、まったく足りず、約2倍の11兆円になり、現在22兆円に膨れ上がっている。ただし、廃棄物処理の費用は、この予算に含まれておらず、22兆円でも足りない可能性が高い。
事故処理が終わるまでに、いったいいくらかかるのか。そして前回も書いたが、そもそも日本には、フィンランドの「オンカロ」のような核廃棄物の処理場さえないのだ。
福島の事故処理は、まったく終わっておらず、多額の費用がかかるうえに困難を極めている。こうした現状があるのに、いったいなぜ政府は「原発推進」へ180度の転換をしようというのか。
原発というのは、一旦事故が起きたら、多くの人々に取り返しのつかない影響を与え、また莫大な費用がかかる。だから、原発事故は、保険会社もカバーしていない。それだけリスキーな発電手段ということだ。
「朝生」で、大塚耕平参議院議員はこう語った。
「アメリカの原子力についての法律は、『原子力は国が責任を持つ』と主語がはっきりしている。しかし日本の原子力基本法は、主語がはっきりしない。」
つまり責任を持つのが、国なのか、事業者なのか明確でないのだ。しかし、福島の事故で明らかになったように、原発の責任は、一事業者が背負いきれるものではない。国が責任を持つべきだ。その覚悟が政府にはあるのか。
●外相のG20欠席:岸田・日本外交の重大な失点 3/20
林芳正外相がニューデリーで開かれた20カ国・地域(G20)外相会合に欠席したことは、地元インドの大きな失望を招いただけでなく、日本の国会でも与野党から判断の誤りを問う声が上がっている
岸田政権は、先進国首脳会議(G7サミット)議長国として、ロシアのウクライナ侵略を許さないため、国際世論の結集に力を注いできた。G20外相会合は「グローバル・サウス」(南半球を中心とする途上国)を説得する絶好の舞台だっただけに、自ら機を逸したことは日本外交の重大な失点と言わざるを得ない。
議長国インドが失望「信じられない」
3月1、2の両日開かれた外相会合には、米ロ中3カ国からブリンケン国務長官、ラブロフ外相、秦剛外相がそろい踏みした。中ロにインド、ブラジル、南アフリカを加えた新興5カ国(BRICS)はもちろん、G20メンバー以外のバングラデシュ、エジプトなど9カ国が議長国インドから招待されており、ざっと40カ国が参加した。ウクライナ侵略が2年目に入ったこともあって、「新興国やグロ−バル・サウスの盟主」を自任するインドの意気込みは大きく、モディ首相は討議の冒頭に「世界の分断は深いが、解決できない問題が解決可能な問題を妨げてはならない」と、協調を呼びかけた。
今年はインドがG20の議長国、日本はG7の議長国をそれぞれ務めるなど、日印両国の関係がきわめて重要な鍵を握る。そもそも安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」のきっかけとなったのも2007年8月、安倍首相(当時)がインドを訪問した際に、同国国会で行った「二つの海の交わり」という演説だ。さらに、安倍氏は米、オーストラリアにも呼びかけて、インド洋と太平洋にまたがる戦略的な対話枠組み「クアッド」(Quad)を構築し、日米豪印4カ国の首脳会議も定期開催されるようになった。
このような日印の親密な協力関係は菅、岸田政権にも受け継がれてきた。それにもかかわらず、日本の外相は初めてG20会合を欠席した。しかも議長国がインドであったことから地元メディアの衝撃は大きく、「信じられない決定」、「日印関係に影を落とすかもしれない」などの批判的な報道が相次いだ。
ウクライナ情勢に関して、岸田首相は侵略開始1年にあたる2月24日、G7首脳によるTV会議を開き、ウクライナ支援の継続と対ロシア制裁強化を確認する首脳声明を発表した。新興国や途上国への働きかけが重要であることもアピールしていた。これを受けて、インド南部ベンガルールで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議も翌25日、「ほとんどのメンバーがウクライナにおける戦争を強く非難した」「ロシアと中国を除く全てのメンバーが合意した」とする議長総括を公表している。
こうした流れの中で開かれたG20外相会合では、米欧も中ロも新興国や途上国の取り込みに全力を傾ける外交が激しく展開された。国際世論の趨勢を定める「グローバル・サウス」諸国の同調を一国でも多く取り付けるための草刈り場と化したといってもよい。そうした情勢を十分に予想できたのに、日本の外相は欠席し、議長国インドと協力して二国間、多国間の直接外交に汗を流す姿も見られなかった。そこに地元メディアの批判が向けられたのである。林外相自身が日本のメディアで「ロシアの暴挙に対処していく上で国際社会の幅広い関与と支持が不可欠。経済的発展を遂げて影響力が増している新興国・途上国との関係を強化していくことが重要だ」と語っているが、行動と言葉の乖離は否めない。
詰め甘い欠席の検証
これほど重要な会合に、なぜ外相は欠席することになったのか。政府・与党、国会を通じて、その検証はいまだに十分とはいえない。林外相の出席見送りが確定したのはG20外相会合前日の2月28日。参院予算委員会の理事懇談会で、2023年度予算案審議に首相と全閣僚の出席を求めることを決めた。参院自民党幹部は同日の会見で「首相と全閣僚出席の基本的質疑は重要度が高い」と、やむを得ない決定であるとの認識を示しており、与党自らの決定であったことが分かっている。
確かに、日本国憲法では首相や閣僚が「(国会に)出席しなければならない」(63条)と定めており、予算委員会の基本的質疑には首相と全閣僚が出席するのが慣例となっている。1999年には国会審議活性化法が成立し、副大臣などが閣僚に代わって答弁できるようになっているにもかかわらず、議場では思慮に欠けた慣例踏襲主義がいまだに幅を利かせていることがうかがえる。
ところが、実際に行われた同委員会の審議で林外相が答弁に立ったのは3月1日がわずか53秒、2日も1分54秒と2日間で計3分足らずだったため、与野党双方から「林外務大臣の無駄遣いだった」、「外務省の調整不足」といった批判が噴出した。国際情勢に鈍感な参院自民党が慣例に埋没した結果ともいえる。岸田首相も「国会日程などを総合的に勘案して決めた」(2日の参院予算委答弁)としか答えておらず、首相官邸も外務当局も事前に身をていしてでも外相のG20出席実現に努力した節は見当たらない。今回のような失態を繰り返さないために、誰も異を唱えない中で国益を損なう決定がなされていったプロセスについて、国会、政府・与党、外務当局は改めて真剣に検証し、猛省する必要がある。
「ガラパゴス」といわれないように
今回のG20外相会合では、盟友ともいえるインドの信頼を損なったばかりか、グローバル・サウスとの関係を深めて日本外交の幅を広げる機会をみすみす失った。国内事情やしゃくし定規な慣例に目を奪われて、国益に関わる問題で柔軟な対応ができない国会運営に対して「ガラパゴス」という批判もある。5月に開かれるG7広島サミットに向けて、外相だけでなく、首相自身の外交行動にも臨機応変の対応と決断が求められている。国会においても、慣例に縛られずにそうした判断を尊重し、支持する姿勢が大切だ。
●「岸田・麻生・茂木」に対抗する「菅・萩生田・加藤・武田」会合の意味 3/20
自民党の菅義偉前首相(無派閥)が3月12日夜、萩生田光一政調会長(安倍派)、加藤勝信厚生労働相(茂木派)、武田良太元総務相(二階派)と会食した。「岸田降ろし」に向けて派閥横断的な連携を強化する狙いとみて間違いない。
萩生田氏は安倍派会長レースの先頭を走る。派閥の実質的オーナーである森喜朗元首相は安倍晋三氏の後継候補として、萩生田氏、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長の5人をあげてきたが、地元・北國新聞のインタビューで萩生田氏を「総合力は最も高い」とベタ褒めする一方、残り4人を切り捨て、次期会長に最適任なのは萩生田氏であるとの姿勢を鮮明にした(こちら参照)。
萩生田氏は安倍政権で菅官房長官ー萩生田官房副長官のコンビを組んで以来、菅氏とも気脈を通じている。政調会長として防衛費増額をめぐり増税以外の財源を検討する党特命委員会を新設してトップに就任し、岸田文雄首相が打ち上げた「防衛増税」を牽制。菅氏とともに「岸田降ろし」の鍵を握るキーパーソンとして存在感を高めている。
西村氏や世耕氏が萩生田氏の会長就任の流れを食い止めたいところだが、萩生田氏は安倍氏の一周忌となる今年夏をめどに自ら後継会長に就任する意欲をにじませている。岸田降ろしが成功して菅政権が復活すれば萩生田氏が幹事長に起用され、そのまま安倍派会長の座を射止める可能性も高い。
加藤氏は茂木派ナンバー2である。安倍氏の父・安倍晋太郎元外相の右腕だった加藤六月元農水相の女婿で、安倍氏と加藤氏の母親同士が親しいことでも知られ、安倍政権では官房副長官、厚労相、自民党総務会長などの要職を歴任。菅政権では官房長官に起用され、首相候補の一角に浮上した(とはいえ、官房長官としての存在感は薄かった)。
岸田政権ではライバルの茂木敏充氏がキングメーカーである麻生太郎氏の推しで幹事長に抜擢され、その勢いで派閥会長の座を手に入れた。加藤氏は派閥会長レースに敗れ、首相候補から一歩後退した格好だ。
ただし、茂木氏は「ポスト岸田」の最有力候補にあげられる一方、派閥の実質的オーナーである青木幹雄元参院議員会長は「茂木嫌い」で知られ、加藤氏や小渕優子・元経産相を推している。茂木氏は派閥内を固めるには至っていないのが現状といってよい。
加藤氏は菅氏にとって、麻生派ー茂木派ー岸田派の主流3派に楔を打ち込む貴重なカードとして重要な存在なのである。
武田氏は菅氏と「岸田降ろし」で連携する二階俊博元幹事長が率いる二階派のホープである。地元・福岡では麻生氏の長年の政敵として有名だ。
安倍氏は首相時代、菅氏の牙城である総務省に腹心の高市早苗氏を大臣として送り込み、菅氏の影響力拡大を牽制した(いま話題の放送法の解釈変更問題はその構図のなかで起きた)。菅氏は首相に就任すると高市氏の後任大臣に武田氏を起用。この人事からも二階派の次期エースの呼び声の高い武田氏を自陣に引き込みたい思惑が見て取れる。
以上の解説から、菅ー萩生田ー加藤ー武田ラインは、岸田ー麻生ー茂木の主流派ラインのアンチであることがわかる。この会合は「岸田降ろし」のタイミングをはかりつつ、麻生氏や茂木氏から主導権を取り戻すことに最大の狙いがあるとみていい。自民党内の権力闘争は各派閥内の主導権争いと絡みながら静かに進行しているのである。
今後予想される展開としては、菅ー萩生田ー加藤ー武田ラインに対抗して、安倍派における萩生田氏のライバルである西村氏や世耕氏が、岸田ー麻生ー茂木ラインに急接近することだろう。西村氏は主要閣僚として、世耕氏は参院幹事長として、ともに主流派ラインに近づきやすい立場である。
とくに世耕氏は地元・和歌山で二階氏と政敵関係にあるだけに、二階氏と連携する菅氏や二階派ホープである武田氏と距離を置きながら萩生田氏を牽制する姿勢を強めるとみられる。
一方、岸田首相は、ポスト岸田を露骨にうかがう茂木氏への警戒感を強めている。執行部の一角にいる萩生田氏が岸田首相と茂木幹事長の間に楔を打ち込む動きをみせる可能性もあろう。
岸田降ろしに伴う自民党内政局は、いったん動き出すと派閥再編の引き金を引く可能性をはらむ。
4月の統一地方選・衆参5補選、5月の広島サミットまでは多数派工作を進める動きが水面下で進行し、夏以降の防衛増税政局で動きが表面化してくるだろう。久しぶりの激しい党内抗争に発展する可能性は十分にある。
●「尹錫悦政権、亡国外交で国民傷つけた」1万人あまりの韓国市民が集会 3/20
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と岸田文雄首相との韓日首脳会談が終わった翌日の18日、広場に集まった市民たちは「尹錫悦政権の亡国外交を審判しよう」と叫んで糾弾集会を行った。
18日昼、610の市民社会団体からなる韓日歴史正義平和行動の主催で、ソウル市庁広場で開催された汎国民大会には、主催者側の推計で約1万人(警察推計1万3千人)の市民が集まった。首都圏、慶尚北道、済州道など各地からやって来た共に民主党の地域委員会、民主労総などの労働・青年団体の旗が翻った。
今回の汎国民大会は、政府が公式発表した「第三者弁済案」という強制動員解決策と、その10日後の16日に開催された韓日首脳会談の結果を批判するためのもの。この日の集会に参加した共に民主党のイ・ジェミョン代表は「尹錫悦政権は(日本に)贈り物を山のように持って行ったが、帰りは手ぶらではなく請求書ばかりを山盛り持って戻ってきた。強制動員の被害者の賠償請求権は何人も侵害できない人権」だとし「(現政権は)朝鮮半島にとって恒久的脅威となる日本の軍事大国化と平和憲法の無力化に同調しているようだ。朝鮮半島を陣営対決の中心へと追い込む屈辱的な野合を主権者の力で阻止しよう」と叫んだ。
正義党のイ・ジョンミ代表も、「日本の望む通りにすべてをささげる外交を、朝貢外交と言えない理由はあるのか」とし、「なぜ韓国大統領は日本の首相に、福島第一原発の放射能汚染水で韓国国民の生存権と安全を踏みにじってはならない、という一言すら言わずに戻ってきたのか。『竹島(独島の日本式名称)の日』、歴史教科書の歪曲、日本の再武装化(の問題が)残っている。このような時に日本に頭を下げ続けておいて、どこの国の大統領になろうとしているのか」と問うた。
日本の謝罪と賠償のいずれもなかった今回の会談結果と尹大統領の歴史認識を批判し、政権に審判を下そうとの声もあがった。韓日歴史正義平和行動は集会決議で、「韓日首脳会談は歴史的な惨事だ。歴史と正義、経済、軍事安保、被害者の人権のすべてを売り渡し、国民を深く傷つけた」とし「果ては2015年の韓日『慰安婦』合意の履行と独島問題の解決という新たな宿題も持たされてきた。謝罪、賠償を拒否し、領土主権すら脅かす日本政府にすべてを与える尹大統領に、もはや資格はない。退陣せよ」と述べた。建国大学のチェ・ベグン教授は「戦争犯罪者によって被った人権じゅうりんを無視し、日本軍国主義の犯罪をほう助する韓国人を、国民は売国奴と呼ぶ」とし、「司法府の最高決定も守れない尹大統領にどうして大統領の資格があろうか」と述べた。
広場で集会を終えた市民たちは、列をなして光化門(クァンファムン)広場のそばにある外交部を経て、日本大使館まで行進した。車道を埋め尽くした参加者たちは、しばらく外交部の前で立ち止まって歓声をあげ、「政府の亡国外交を審判しよう」、「日本に強制動員に対する謝罪と賠償を請求する」などのスローガンを叫んだ。30分以上行進して到着した日本大使館の前では、日の丸に向かって声をあげつつ、「強制動員賠償せよ」と要求した。この日の集会に参加した聖公会大学の学生コ・ウンギョルさんは「国は国民を守るという責任を守らず、日本を代弁した。歴史問題の解決は尹錫悦政権の責任であり、そのような歴史を忘れずに守ることが青年の役割」だと話した。  
●反撃能力の明記は「戦争をしないため」 小野寺元防衛相が講演 3/20
元防衛相で自民党安全保障調査会長の小野寺五典(いつのり)氏が20日、福岡市であった毎日・世論フォーラム(毎日新聞社主催)で「わが国の防衛と安全保障」と題して講演した。小野寺氏は、政府が2022年12月に閣議決定した外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」で、相手への抑止力となる反撃能力を明記したことなどを「戦争をしないため」と強調した。
小野寺氏は、中国の台湾侵攻を想定した米シンクタンクのシミュレーションを基に、米国が台湾を支援すれば同盟国の日本も紛争に巻き込まれる可能性を指摘。「日本が一番被害を受けてしまう。侵攻を食い止めるのは抑止力だ」と述べた。
また、ロシアのウクライナ侵攻や、台湾有事の可能性など日本の安全保障環境が厳しい状況にあるとし、防衛予算の増額による技術開発や装備の国産化の推進などについて「戦後の大きな転換期だ。平和のために理解を」と訴えた。
●瀬戸大橋開通35年 役割効果と未来への課題 3/20
「夢の架け橋」と呼ばれた瀬戸大橋の開通からまもなく35年です。開通した4月10日を前に「瀬戸大橋シリーズ」と題してお伝えします。1回目は、瀬戸大橋の役割や橋ができたことによる効果を振り返りながら、未来への課題について考えます。
瀬戸大橋とは
倉敷市と香川県坂出市を結ぶ「瀬戸大橋」は、35年前の昭和63年4月10日に開通しました。総事業費は1兆円以上にのぼり「世紀の難工事」と呼ばれましたが、当時の最先端技術を駆使し10年近くの歳月をかけて完成しました。海峡部の橋の長さはおよそ10キロで、道路と鉄道が両方通る併用橋です。本州と四国をつなぐのは3つのルートがあります。「瀬戸大橋」の「児島・坂出ルート」のほか「大鳴門橋」と「明石海峡大橋」の「神戸・鳴門ルート」それに「瀬戸内しまなみ街道」の「尾道・今治ルート」で、3つは「本州四国連絡道路」として重要な架け橋となっています。
橋で生活圏域が広がる
瀬戸大橋の開通で、岡山県と四国の結びつきはいっそう強まり、生活も大きく変化しました。瀬戸大橋ができる前は、自動車で岡山市から四国に行く場合、まず玉野市に向かい、宇野港からフェリーで香川県へというのが一般的で3時間かかりました。しかし開通した後は、同じ3時間で岡山市から、愛媛・徳島・高知の各県庁所在地を含む四国のほとんどの場所に行けるようになりました。車のほかにも、瀬戸大橋線の快速マリンライナーを使えば、岡山駅から高松駅に1時間ほどで移動することができるため、瀬戸大橋を使った通勤や通学が拡大しました。国勢調査によりますと、2つの県を行き来する就業者は、橋が開通する前の昭和60年は1045人でしたが、35年後の令和2年には3007人と2.9倍に増加しました。通学者は、昭和60年の320人から令和2年には1445人と4.5倍に増加しています。
通行量は当初の約2倍
本四高速のまとめでは、瀬戸大橋の車の通行量は初年度の昭和63年度は385万台でした。翌年の平成元年度は、331万台に減少したもののそれ以降は年々増加し、平成9年度には588万台を記録します。平成10年4月に淡路島と神戸市をつなぐ「明石海峡大橋」が、また平成11年5月に愛媛県と広島県をつなぐ「瀬戸内しまなみ街道」が開通したことから減少に転じます。こうしたなか平成21年、ETCの利用で休日の通行料金がそれまでのおよそ6分の1の1000円となり、平成21年度の通行量は前の年度の1.4倍の749万台と急増しました。この制度は2年余りで廃止されましたが、その後も休日割引など、通行料金の見直しが行われ、玉野市の宇野港と、高松港を結ぶ宇高航路での唯一のフェリーが運休したことなどで、令和元年度は841万台と過去最高を更新しました。そして令和2年度は、新型コロナの影響で659万台と大きく減少し、昨年度は688万台まで回復しました。
物流量増加 拠点の重要度
瀬戸大橋の開通で、岡山県内の高速道路のネットワークは、東西に加えて南北にも伸び物流拠点としての重要度が増しています。山陽自動車道の岡山総社インターチェンジや、瀬戸中央自動車道の早島インターチェンジの周辺には、倉庫などの物流関連の施設が数多く立地しています。国土交通省のまとめでは、倉庫に限ると岡山県内の倉庫面積は、開通前の昭和60年には31万8000平方メートルでしたが、令和元年には105万2000平方メートルと、およそ3.2倍に増加しています。また四国から発着する自動車貨物の流動量のシェアは、岡山が21%と、全国で最も多い割合となっています。
年間経済効果2.4兆円
瀬戸大橋単体での経済効果の数値はありませんが、本州と四国を結ぶ3つのルート「本州四国連絡道路」としての年間の経済効果額は、平成30年時点でおよそ2.4兆円です。このうち四国地方が最も大きく9000億円、次いで近畿地方・関東地方がそれぞれ4000億円、そして岡山県を含む中国地方が3000億円となっています。また橋が開通した昭和63年から平成30年までの、31年間の累計の全国の経済効果額は41兆円としています。この経済効果額は本四高速が「本州四国連絡道路」の3つのルートが整備された実績である今のGDPから、整備されなかった場合のGDPの推計値を引いて算出しました。
橋は地域医療にも貢献
瀬戸大橋は医療の分野でも大きな役割を果たしてきました。その一つが血液製剤です。血液製剤の検査と製造は、中国・四国地方ではかつてそれぞれの県で行っていたため、必要な量が足りなくなることがありました。瀬戸大橋など本州と四国の3つのルートが整備され安定して搬送ができるようになり、平成24年4月以降、中国・四国地方での献血は広島県に集められそこで検査・製造し、各県の血液センターに供給する体制となりました。また高度な医療を受けられる選択も増えました。岡山市は、高度な医療機関が充実している「医療先進都市」です。本四高速などによると、心臓病を専門とする岡山市の病院のなかには、手術などを受けるため入院する患者のうち、四国からの人が1割を占めるところもあるということです。そして救急搬送にも効果を発揮しています。医師や看護師が同乗するドクターカーが、瀬戸大橋を利用して四国から岡山にやってくるケースは年間50件程度あります。橋がつながった島に住む人たちも、車や救急車ですぐ医療につながることができるようになりました。
課題は巨額の債務
瀬戸大橋を通る「瀬戸中央自動車道」など、本州と四国を3つのルートで結ぶ「本四高速道路」の建設には3兆円近くが投じられ、平成24年度末時点では、1兆4000億円あまりの債務を抱えていました。その後、ほかの高速道路会社の債務と統合され債務の返済が続けられていますが、今も巨額の債務が残されています。この巨大な債務を返済するため、国や岡山県などの地元の自治体は、間接的な“出資”という形で支援してきましたが、厳しい財政事情などから平成25年度をもって打ち切りました。岡山県が昭和45年度から平成25年度までに出資した総額は694億円です。あくまで出資金なので、本来は返ってくるはずのお金ですが、開通から35年たった今でも岡山県に返ってくる見通しがたっていないのが現状です。全国の高速道路は、建設費をまかなうための借り入れを料金収入で返す仕組みで、高速道路を保有する「日本高速道路保有・債務返済機構」が、借金を返済しないと出資金が返ってこないからです。機構は2065年までに借金を返済する計画でしたが、その時期を50年、最大で2115年まで延長できることなどを盛り込んだ法律の改正案が、2月閣議決定され今の国会で審議されています。瀬戸大橋という巨大インフラが誕生して35年という節目の年ですが、建設に費やした巨額債務が今でも残り、その返済を将来に先延ばししている現実にも目を向けなければなりません。
●岸田首相、インド太平洋地域への支援拡充表明 30年までに9.8兆円超 3/20
インドを訪問中の岸田文雄首相は20日、インド外務省で政策スピーチに臨み、法の支配などを重視する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新たな推進計画を発表した。「グローバルサウス」と呼ばれる途上国・新興国が多くを占めるインド太平洋地域のインフラ支援として、2030年までに官民で750億ドル(約9兆8000億円)以上の資金を投入すると表明した。
岸田首相はスピーチで、新型コロナウイルスの流行やロシアのウクライナ侵攻などにより「歴史的な転換期」にある国際社会が「分断と対立に向かいかねない」と指摘。課題が山積する中で「脆弱(ぜいじゃく)な国家ほど大きな犠牲を払い、翻弄(ほんろう)されている」と述べ、インド太平洋地域を力や威圧とは無縁で、自由・法の支配を重んじる場にすべきだと訴えた。
その上で首相は「各国の歴史的・文化的多様性を尊重した対話によるルール作り」などに取り組むべきだと主張。FOIPを巡る新たな協力として1主権・領土の一体性の尊重など「平和の原則と繁栄のルール」の堅持2気候変動や国際保健など幅広い分野の課題への対処3東南アジア、南アジア、太平洋島しょ国を含む地域全体の成長4海から空へ広がる安全保障・安全利用の取り組み――の4本柱を挙げた。
協力の具体策としては、政府開発援助(ODA)の拡充や、国際秩序を重視する国の軍隊に装備品などを提供する新たな仕組みの活用、東南アジア諸国連合(ASEAN)を対象にした「日ASEAN統合基金」への1億ドル(約131億円)の追加拠出などを列挙した。また、ロシアのウクライナ侵攻について「強く非難し、決して認めることはない」とも発言した。
FOIPは07年、当時の安倍晋三首相がインド国会で太平洋とインド洋を結び付けるネットワークの構築を訴えた「二つの海の交わり」と題するスピーチが起点となった。岸田首相は安倍氏の演説に触れて「インドはFOIPの始まりの地だ」とし「日印は『法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序』を維持、強化する大きな責任を負っている」と連携を呼びかけた。
●岸田首相 G7広島サミットに韓国ユン大統領ら8か国の首脳招待  3/20
岸田総理大臣は、5月のG7広島サミットに、韓国のユン・ソンニョル大統領など、8か国の首脳らを招待して拡大会合を開くことを明らかにしました。
G20の議長国を務めるインドを訪れている岸田総理大臣は現地で行った首脳会談で、モディ首相を5月のG7広島サミットに正式に招待し、モディ首相も出席の意向を示しました。
岸田総理大臣は、会談のあと記者団に対し、さらに幅広いパートナーとの議論が不可欠だとして、インドとともに、韓国のユン・ソンニョル大統領やオーストラリアのアルバニージー首相、それに、ASEAN=東南アジア諸国連合の議長国を務めるインドネシアのジョコ大統領など、あわせて8か国の首脳を招待する方針を明らかにしました。
また、国連やIMF=国際通貨基金、それにWHO=世界保健機関など7つの国際機関の代表も招き、拡大会合を開くとしています。
岸田総理大臣は「広島サミットでは、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く強い意思を示すとともに、エネルギーや食料安全保障、気候変動、保健、開発といった課題への対応の議論を主導したい。これらの国々と機関の知見を得て議論をさらに有意義なものにしていきたい」と述べました。
●岸田首相「政府見解は一貫している」 放送法「政治的公平」巡り 3/20
岸田文雄首相は20日、放送法の「政治的公平」に関し「法解釈に対する考え方、政府の見解は一貫している。これからも一貫していくものだ」と述べた。訪問先のインド・ニューデリーで同行記者団に語った。
首相は同法を巡る総務省文書に関し、当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相について「引き続き丁寧な説明を心がけてもらいたい」と述べた。

 

●もう移民に頼るしかない日本 古賀茂明 3/21
「もう手遅れだよね」 最近私が会った様々な専門家との会話で最後に必ず達する結論だ。
日本経済が深刻な危機にあることは誰もが一致する。これまで数えきれないくらいの成長戦略や改革案が提示され、メニューは山ほどあるが、ほぼ手つかずのままである。
それを今一気にやるのは痛みが大き過ぎて不可能。痛みを和らげながらと思うと時間がかかり過ぎて間に合わない。財務省トップだったある官僚OBは、「古賀さん、日本は3年以内に破綻しますよ。絶対に」と力を込めて言った。
財政も深刻だが、最大の問題は少子化だ。子供を産む世代の女性の数が激減しているので、少子化対策が極めてうまく行っても子供の数が増え始めるのは何十年も先。このままでは、生産も需要も先細り、高齢者だけがどんどん増える。
もはや、自力ではどうにもならない。そこで考えるのが移民である。現在の技能実習制度、特定技能制度などではなく、永住前提で働いてくれる人を呼び入れるのだ。彼らは働くだけでなく、税金も払い消費もする。子供も産み育てる。日本の縮小スパイラルに歯止めをかけることができるかもしれない。
日本人は外国人を受け入れられないという人もいるが、高齢者施設では、既に多くの外国人が介護人材として活躍し、入居者の評判も概して良い。
私が、移民が必要だと確信したのは、先月明るみに出た東京都八王子市の滝山病院での虐待事件を見た時だ。高齢者が増えると普通の介護需要が増えるだけではない。重度の認知症患者が増え、徘徊、奇行をはじめ、一般家庭で介護するのが難しい症状の人が増える。さらに滝山病院の患者のように人工透析や特殊な医療サービスが必要という人も増える。
滝山病院での虐待は言語道断だが、こうした難度の高い要介護患者を受け入れる病院を閉鎖したらどうなるのか。しかもこれは氷山の一角という声もある。親しい精神科の友人によれば、民間の精神科病院では、程度の差はあれ、虐待というべき事態は日常茶飯事になっているそうだ。
重度の認知症患者を受け入れる高齢者施設でも似たよう問題が隠れている。2025年に約800万人の「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」。介護への負担はこれから激増するが、対策はないに等しい。
厚生労働省は、40年度には69万人多くの介護人材が必要になると推計している。介護人材以外にも、建設労働者、農業従事者、物流人材、IT人材、教員、保育、自衛官、研究開発人材など、どこもかしこも人材不足が予想され、合計すると百万人を優に超える。労働力人口はどんどん減るのにどうするのか。ロボットに期待したいが、間に合わない。人材破綻は必至だ。
安倍晋三元総理を支持していた岩盤右翼層は外国人受け入れには反対だろう。安倍氏の呪縛に囚われた岸田文雄政権は、すぐには動けそうもない。
一方、今のような中途半端で日本に都合の良い外国人使い捨て政策を続ければ、本当に追い詰められた時にはどこからも移民は来てくれないということになるだろう。
このように説明すれば、本格的な移民受け入れ政策に賛成という人も増えるのではないか。ダメだと言うなら、代替策を示してもらいたい。
●安全確保、国会の承認…ハードルも実行 首相のウクライナ電撃訪問 3/21
岸田文雄首相は昨年以降、ロシアの侵攻が続くウクライナの首都キーウへの訪問を模索し続けてきた。ウクライナ情勢が主要な議題となる5月の広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国を務めるにあたり、現地を訪れてゼレンスキー大統領と直接言葉を交わすことが不可欠だと考えていたからだ。だが、首相の安全確保や国会の事前承認などのハードルが立ちふさがり、実現までの道のりは難航を極めた。
「私自身、ウクライナに招待されてから訪問の時期は検討し続けてきた。今は何も具体的に決まったものはない」
19日夜、インドを訪問する前、首相は公邸で記者団にこう語った。だが、水面下ではインドを訪れてモディ首相との会談などを行った後、ウクライナに電撃訪問する手はずを整えていた。
首相が現地入りする計画を立てたのは今回が初めてではない。昨年6月にはドイツでのG7エルマウサミットに合わせたウクライナ訪問を検討した。隣国のポーランドを経由し、陸路で首都キーウを目指す案だったが、他の外交日程との関係で両立できなかった。
同様の計画は昨年末にも持ち上がった。だが、ロシア軍によるキーウに対するミサイルや自爆型ドローンの攻撃が激しさを増し、実現には至らなかった。
「簡単なことではない」。首相周辺は頭を悩ませた。
訪問が難航したのはNATO(北大西洋条約機構)などに加盟しておらず、安全上の制約があったことが大きい。戦後、日本の首相が戦闘が行われている国や地域を訪れたことはない。
加えて、今年1月の国会召集後は海外出張の慣例となる国会の事前承認がネックとなった。渡航の日程が明らかになれば首相の安全確保が難しくなるからだ。
ただ、2月にバイデン米大統領がキーウへの電撃訪問を果たし、現地を訪れていない首脳が首相だけとなると、与野党から「(事前承認が)当てはまらない場合もある」(自民党の高木毅国対委員長)などとの声が相次いだ。首相は事前承認がなくても国会の理解は得られると見極めた。
それでも首相自身の安全上のリスクが消えたわけではなかったが、電撃訪問の決断を下した。
●高市早苗が「自爆」した…ほくそ笑む岸田首相を次に待ち受ける「落とし穴」 3/21
岸田首相がほくそ笑む…
岸田文雄首相は今、笑いが止まらないかもしれない。キャラクター的にいえば大笑いするのではなく、頬が緩みっぱなしということになるだろうか。
3月13日に公表されたNHKの世論調査では、支持率は前回比5ポイント増加して41%、不支持率は同1ポイント減少して40%となった。支持率が不支持率を上回るのは、昨年8月以来、7か月ぶりとなる。
共同通信の世論調査でも、内閣支持率は前月比4.5ポイント増の38.1%。対面式で行われ、よりリアルな情勢を反映するといわれる時事通信の世論調査でも、支持率は2か月連続で上昇している。政権には厳しめの数字が出る毎日新聞の調査でも、7ポイント上昇の33%となった。
下落傾向だった内閣支持率は、いちおう下げ止まった模様で、中には「反転」の様子すら見える調査もある。マスク着用の“義務”が徐々に解除され、解放感ムードになっているせいかもしれない。4月に統一地方選、衆参補選を控える岸田政権としては、嬉しい兆候だ。
16日には韓国の尹錫悦大統領が来日し、いわゆる“徴用工問題”の解決策について合意した。17日には人口減少を阻止すべく「異次元の少子化政策」を発表した。
そして5月には最大のイベントとなる広島サミットが控えている。そこには尹大統領やウクライナのゼレンスキー大統領、インドのモディ首相も招待し、岸田首相の外交手腕を世界的に宣伝する舞台になるはずだ。「黄金の3年」がいよいよ実現しようとしているのか。
安倍政権の「負の遺産」
東京地検特捜部による逮捕者を出した東京五輪問題や、太陽光発電を巡るトライベイ・キャピタル社三浦清志氏の逮捕なども、岸田政権にとってはノーダメージだ。そもそも東京五輪問題は安倍政権時代の負の遺産であり、原発再稼働を目論む岸田首相にとって、太陽光発電事業の問題点が露わになるのは悪いことではない。
しかも太陽光を巡る人脈は、菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と重なるもので、清志氏の妻の瑠麗氏が政権に深くかかわり出したのは、安倍政権の末期に未来投資会議のメンバーになったことがきっかけだった。
放送法の解釈をめぐる総務省の行政文書の問題にしても、岸田首相にとってはダメージは小さい。あれは安倍政権時に起こったことで、問題の中心は礒崎陽輔元首相補佐官が「政治的公平性」の解釈変更を迫ったことだ。しかし野党は当時総務大臣だった高市早苗経済安全保障担当大臣を厳しく追及。高市氏が思わず口走った「ねつ造だ」との“失言”をたてにとり、大臣辞職や議員辞職に追い込むことに必死になっている。
これも岸田政権には大して影響はないだろう。高市氏は岸田政権の閣僚ではあるが、ライバルでもあった。高市氏は2021年の総裁選に出馬して人気が急上昇し、第1回目の投票で岸田首相に次ぐ114票の議員票を獲得した。
もちろんこれは、高市氏の後見人だった故・安倍晋三元首相が集めた票だった。おひざ元の清和研はすでに岸田支持でまとまっていたが、安倍元首相は清和研のメンバーひとりひとりに電話をかけ、岸田票から高市票へと変えていった。
そういう経緯もあるがゆえ、岸田首相にとって高市氏はけっして油断のならないライバルだったに違いない。総裁に就任してからは高市氏を政調会長に封じ込め、昨年7月8日に安倍元首相が暗殺されて以降は、経済安全保障担当大臣という表向きは重要であるが、実際には軽量級のポストをあてがった。
しかも2023年度予算案は22年度内に自然成立する以上、野党は何も“人質”を持っていない。そのような“茶番”をしり目にして、岸田首相は12年振りに単独来日した韓国大統領を迎え入れ、「異次元の少子化対策」を発表し、ドイツのショルツ首相と日独関係強化を確認した。20日にはインドを訪問し、インド太平洋地域のインフラ支援として2030までに750億ドルの官民投資を表明した。
岸田首相は21日、インド訪問の帰りにウクライナを電撃訪問した。
「落とし穴」も…
だが好事魔多しという通り、落とし穴が潜んでいるかもしれない。まずは岸田首相が得意とする日韓外交だが、果たして尹大統領との合意がどこまで有効性を維持できるのか。外相時代に成立させた「慰安婦合意」の悪夢が蘇る。
いわゆる「慰安婦」問題について日韓両国の外相は2015年12月、韓国政府が財団を設置し、日本が10億円を拠出することで「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と口頭で発表。岸田外相(当時)は、日本政府が責任を痛感していること、安倍首相(当時)が慰安婦に対して「心からのお詫び」と「反省」を示したことを表明した。
しかしこの合意は文在寅政権になると、あっけなく破棄された。そもそもこの合意は文書化されていなかったのだ。にもかかわらず、慰安婦財団への10億円の拠出など、日本は行うべきことをすでに履行していた。だがそれも、韓国側にあっけなく反故にされた。同じことが“徴用工”合意で起こらないとは保障できない。
そもそも共同声明すら出されていないこの“合意”を「韓国側が必ず履行する」という担保はあるのか。そしてそのような両国の関係にくさびを打ち込むかのように、北朝鮮がミサイルを発射し続けている。
世界経済も危うい
それにも増して最大の不安は、世界経済の動向だ。3月10日に米カリフォルニア州はベンチャー向けキャピトルのシリコンバレー銀行の閉鎖を発表。翌々日の12日に米ニューヨーク州はシグネチャー銀行の破綻を公表した。
これらに呼応するように、前年には顧客が大量に流出していたクレディスイスの信用不安が表面化し、3月15日には5年もののCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保証料が過去最高記録を更新。スイス中銀が支援に乗り出さざるをえない状況だ。
日本ではアベノミクスを支えていた黒田東彦日銀総裁が4月に辞任し、植田和男新総裁の下で新たな体制が始まる。植田新総裁は今のところ、前任者のゼロ金利政策を踏襲するとのことだが、物価圧力は強まる一方で、大企業ほど内部留保を抱えていない中小企業の賃上げは思うように進んでいない。
加えて世界経済の変動をいかに乗り切るのか。ウクライナ問題で四面楚歌状態のロシアに中国は接近し、これに中東諸国も近づいている。もし資源を持つ大国が結束して人民元基軸の経済圏を作ってしまえば、欧米主体の経済はどうなってしまうのか。
だがそのような国際的危機は、永田町では感じることはできない。国会ではひたすら高市氏のクビを獲ろうと野党は攻めたて、初当選以来一度も登院しなかったガーシー氏の除名問題で沸いている。これがかつて「貴族院」と呼ばれ、「理の政治」が求められた第二院のなれの果てだ。
こうした国民不在の喧噪の向うに、寒々とした微笑みを浮かべた岸田首相の顔がチラチラ見える。明るい未来や将来の展望は、いくら探しても一向に見えてこないのに。
●岸田首相がウクライナ訪問、大統領と首脳会談 連帯と支援表明へ 3/21
外務省によると、岸田文雄首相がきょうウクライナを訪問し、キーウでゼレンスキー大統領と会談する。岸田首相はその後、ポーランドを訪れ首脳会談を行った後、23日に帰国する。
岸田首相はゼレンスキー大統領との会談で、ウクライナへの連帯と揺るぎない支援を直接伝える。また、ロシアによる侵略と力による一方的な現状変更を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を改めて確認する予定だという。
岸田首相はその後、ポーランドを訪問し、ロシアによるウクライナ侵略への対応を含め協力の強化を確認する。
昨年2月のロシアの侵攻開始後、日本を除く主要7カ国(G7)の首脳はすでにキーウを訪れており、岸田首相も訪問の時期について「検討を続けている」としていた。
首相は20日にインドを訪問、21日に現地を離れ22日に帰国する予定だったが、インドから極秘でウクライナに向かった。
●岸田首相 キーウへ 大統領と会談へ  3/21
インドを訪れていた岸田総理大臣は、すでにインドを離れ、現在ウクライナの首都、キーウに向かっています。21日中に到着し、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うものとみられます。
地元広島からは被爆国として平和へのメッセージ発信期待の声
岸田総理大臣が日本時間の21日夜、ウクライナのゼレンスキー大統領と首脳会談を行うことについて、岸田総理大臣の地元で、2か月後にG7広島サミットを控えている広島市では、唯一の被爆国として平和へのメッセージの発信を期待する声が聞かれました。市内に住む48歳の女性は、「日本としてウクライナに寄り添う姿勢を見せてほしい。サミットも含めて、パフォーマンスにならないようにしてほしい」と話していました。また、73歳の男性は、「行くのが遅かったとは思うが、会談を通じ、唯一の被爆国として平和へのメッセージを広めてほしい。ウクライナに行くかどうかは、サミットも含めたこれからの日本の発信力に影響すると思う。どのような行動や発言をするのか注目している」と話していました。
政府 岸田首相がキーウ訪問し大統領と会談行うと発表
政府は、岸田総理大臣が21日、ウクライナのキーウを訪れて、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うと発表しました。首脳会談では、岸田総理大臣がゼレンスキー大統領のリーダーシップのもとで祖国を守るために立ち上がっているウクライナ国民の勇気と忍耐に敬意を表し、日本と、日本が議長を務めるG7=主要7か国として、ウクライナへの連帯と揺るぎない支援を直接伝える予定だとしています。また、ロシアによるウクライナ侵攻と力による一方的な現状変更を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を改めて確認するとしています。そして、22日、ポーランドを訪問して首脳会談を行い、ウクライナ情勢をめぐる対応を含めた2国間や国際社会での協力強化を確認し、23日朝に帰国するとしています。
自民 茂木幹事長「現地情勢を直接確認することは大きな意義」
自民党の茂木幹事長は、NHKの取材に対し「G7広島サミットでは、ウクライナ情勢やウクライナ支援が大きなテーマになる。そうした中で、岸田総理大臣がキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談を行うなど、現地情勢を直接確認することは大きな意義がある」と述べました。
自民 森山選対委員長「無事にお帰りになるのを祈る」
自民党の森山選挙対策委員長は、福島市で記者団に対し「岸田総理大臣から『ウクライナに入る。こういう状態での訪問のため、事前連絡できなかった』と電話をもらった。事態が1日も早く収束に向かうのが大事で、G7の議長国として岸田総理大臣が立派に責任を果たすと思っている。ただ戦争状態なので、無事にお帰りになるのを祈らなければならないという思いが強い」と述べました。
立民 泉代表「帰国後に国会で報告してもらうことが重要」
立憲民主党の泉代表は、千葉県市川市で記者団に「これでG7全ての首脳がゼレンスキー大統領と会談することになり、G7広島サミットに向けて地ならしができたと思う。G7が一致してウクライナを支援する枠組みの中で、日本からの支援の強化を期待したい」と述べました。その上で、「戦争が行われているウクライナへの訪問なので、当然、情報を一定程度秘匿した中で対応せざるをえないことは、われわれも理解している。帰国後に国会で報告してもらうことが重要だ」と述べました。
立民 岡田幹事長「何が求められているかしっかり話し合って」
立憲民主党の岡田幹事長は、大分市での記者会見で「岸田総理大臣のウクライナ入りを歓迎したい。日本として何が求められているかをゼレンスキー大統領としっかり話し合ってもらいたい」と述べました。その上で「G7広島サミットが行われ、日本が議長国であるという意味でも、直接会って意見交換することは非常に有益で、日本に帰国したら、訪問の意義を国会で話してもらいたい。戦争状態にあるウクライナに行くので、無事を祈りたい」と述べました。
公明 山口代表「ゼレンスキー大統領と率直に話を」
公明党の山口代表は「G7の議長国として、このタイミングで訪問できたことは非常に意義あることだ。法の支配に基づく国際秩序を維持していく姿勢を確認し、連帯の気持ちを届けることが大事だ。復興や人道的な支援など、日本の役割を早く本格的に発揮できるよう、ゼレンスキー大統領と率直に話をしてほしい」というコメントを出しました。
日本時間の21日午前 ポーランドの駅からウクライナに出発
岸田総理大臣を乗せた車は、ウクライナの隣国ポーランドのプシェミシルの駅に日本時間の午前、到着しました。車列は、プシェミシル駅のウクライナ方面に向かう国際列車が利用するプラットホームの手前に直接、乗り入れました。そして、車列の1台目の車から、岸田総理大臣が降り、停車中の列車に乗り込みました。このあと、岸田総理大臣に続き、外務省の山田外務審議官などの外務省関係者や、秋葉国家安全保障局長などの政府関係者が乗り込む姿が確認できました。段ボール箱に入った荷物を積み込む様子も確認できました。その後、列車は、各車両の扉を手動で閉めたあと出発しました。
ポーランドへはチャーター機を利用
岸田総理大臣は訪問先のインドからポーランドに入る際には政府専用機ではなく、チャーター機を利用しました。岸田総理大臣のインド訪問にあわせて政府は、水面下で民間のビジネスジェットをチャーターしていました。大リーグ、エンジェルスの大谷翔平選手が今月1日にアメリカから日本に帰国する際に使ったチャーター機と同じ機種で、10人あまりが搭乗できるということです。チャーター機は、岸田総理大臣を乗せた政府専用機が出発する3時間あまり前、19日午後8時ごろに羽田空港を出発し、インドに向かっていました。岸田総理大臣はインドでの一連の日程を終えたあと、空港に待機させていたチャーター機にひそかに乗り込み、日本時間の21日未明にインドを出発しました。そして、午前7時40分ごろウクライナに近いポーランド南東部の街、ジェシュフに到着しました。政府としては、岸田総理大臣に同行する職員も最小限に絞るなど情報管理を徹底するためにチャーター機を利用したものとみられます。
岸田首相 インドからウクライナへ
岸田総理大臣は19日、日本をたってインドを訪れ、20日はモディ首相と首脳会談を行いました。当初の日程では日本時間の21日午後、インドから帰国の途につく予定でしたが、岸田総理大臣は21日未明にチャーター機でインドを離れ、けさ、ウクライナの隣国、ポーランドのジェシュフに到着しました。その後、国境に近い街、プシェミシルまで車で移動して、列車に乗り込みウクライナの首都、キーウに向かっています。そして日本時間の今夜、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うことにしています。太平洋戦争後、日本の総理大臣が戦闘が続く国や地域を訪れたことはなく、日本の首脳によるウクライナ訪問は、去年2月にロシアが軍事侵攻を開始して以降、初めてとなります。ゼレンスキー大統領との首脳会談で、岸田総理大臣は、G7議長国として、ロシアに対する厳しい制裁などで国際社会の結束を促すとともに、日本としても復興や人道面を中心に最大限のウクライナ支援を継続していく考えを伝えるものとみられます。ウクライナには2月、アメリカのバイデン大統領が訪問するなど、G7各国の首脳が訪れています。岸田総理大臣も1月にゼレンスキー大統領と電話で会談した際に、訪問の要請を受け、5月のG7広島サミット前には実現したいとして検討を続けていました。岸田総理大臣はゼレンスキー大統領との会談を終えたあと、再びポーランドに移動し、首脳会談を行うことにしていて、23日の朝に帰国することにしています。
ウクライナ訪問めぐる経緯
ウクライナには、去年2月の軍事侵攻開始以降、ヨーロッパ各国首脳らが相次いで訪問し、岸田総理大臣も水面下で模索してきました。去年6月には、ドイツでのG7サミット出席にあわせて訪問することが検討されましたが、実現には至りませんでした。最大の課題は安全の確保です。各国の首脳は、軍隊や特殊機関なども動いて訪問したとされていますが、日本の自衛隊には、海外での要人警護などに対応できる明示的な規定がなく、難航しました。去年12月にも訪問の検討が行われ、関係国の協力を得て警護態勢の構築を試みましたが、ウクライナでの戦闘が激しさを増したことなどもあり、見送られました。そして、ことしG7の議長となった岸田総理大臣。1月6日にはゼレンスキー大統領と電話で会談し、現地への訪問を要請され「検討する」と応じました。先月には、アメリカのバイデン大統領、イタリアのメローニ首相が相次いで訪問し、G7の首脳で訪れていないのは岸田総理大臣だけとなっていました。政府内では「G7広島サミットまでに何としても実現すべきだ」という意見が強まり、十分な安全確保に向けて、関係国との調整を加速させていました。
各国首脳の訪問状況
去年2月の軍事侵攻開始以降、各国首脳は、相次いでウクライナを訪問しました。去年3月、ポーランドなど東欧3か国の首脳が訪れ、ゼレンスキー大統領と結束を確認しました。去年4月には、G7=主要7か国のメンバー、イギリスの当時のジョンソン首相、5月にカナダのトルドー首相、6月には、フランス、ドイツ、イタリアの3か国の首脳が夜行列車で一緒に現地入りしました。一方、アメリカは、ブリンケン国務長官ら高官が訪れたものの、バイデン大統領の訪問は実現しておらず、動向が焦点となっていました。そうした中で、侵攻開始から1年になるのを前に、2月、バイデン大統領が電撃訪問し、国際社会を驚かせました。アメリカ政府高官の話として、訪問計画は、ハリス副大統領の周辺にも知らせず、極秘裏に実行されたことが伝えられています。去年就任したイギリスのスナク首相や、イタリアのメローニ首相も、すでにウクライナを訪れています。
ウクライナ 日本に財政支援などで主導的な役割を期待
ウクライナ政府は、ロシアと対抗する上でG7=主要7か国との連携は非常に効果的だと考えています。アジアで唯一のメンバーである日本からの強い連帯の意思の表明は、ウクライナにとって大きな意味を持っています。G7のことしの議長国をつとめる日本には、欧米やアジアの国々の意向をとりまとめ、財政面や人道面の支援で主導的な役割を果たすことを期待しています。ウクライナ側が特に重要視しているのが、「復興支援」です。NHKが先月、ウクライナの調査機関と共同で行った市民1000人に対する意識調査でもその傾向が浮き彫りになりました。この中で日本がウクライナを支援するため国際社会で何ができるか尋ねたところ、「復興支援」が33%ともっとも多くなりました。日本政府はすでにJICA=国際協力機構を通じてウクライナの復旧・復興に向けた224億円余りの無償資金協力を決めていて、破壊された電力施設の修復や地雷や不発弾の処理対策などの支援を進めています。一方、意識調査で、日本がウクライナに対して行っている人道支援について知っているか尋ねたところ、「はじめて聞いた」という答えが61%ともっとも多く、日本が進めている人道支援があまり知られていない実情も明らかになっています。日本がロシアに対する制裁措置に加わっていることもウクライナ側は評価していて、今後も経済的な圧力の強化や、ロシア軍の戦争犯罪の責任追及などを巡り日本の継続的な協力を期待しているものとみられます。
これまでの日本の支援
政府はこれまでに、ウクライナや周辺国などにおよそ15億ドルの支援を順次実施しています。人道支援では、ウクライナや、避難民を受け入れている周辺国に、食料や生活必需品、医薬品などを提供しました。また、ウクライナ国内の発電所などが破壊され、各地で停電が起きたことから、発電機などの供与も進めています。さらに「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正し、防弾チョッキやヘルメット、それに化学兵器に対応した防護マスクや防護服など、自衛隊の装備品も提供しました。一方、ウクライナからの避難民の受け入れも進めてきました。出入国在留管理庁によりますと、これまでに2300人あまりが入国し、就労や教育などの支援を受けながら日本国内で暮らしています。そして、岸田総理大臣は、ロシアの侵攻開始から1年となった先月、ウクライナに55億ドルの追加支援を行うことを表明しました。
●岸田首相の年内訪韓を推進 尹大統領の訪日受け=韓国外交部 3/21
韓国外交部は21日、国会外交統一委員会への報告資料で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領による先の訪日を受け、岸田文雄首相の年内の韓国訪問など韓日首脳の「シャトル外交」の継続と両国の高官級交流・対話の活性化に取り組むと明らかにした。
韓国政府は今月6日、徴用問題を巡り韓国の財団が日本企業の賠償を肩代わりする解決策を発表し、尹大統領はその10日後の16日に東京で岸田首相と首脳会談を行った。
韓日首脳が相手国を相互に訪問するシャトル外交は、2011年10月の野田佳彦首相(当時)の訪韓、同年12月の李明博(イ・ミョンバク)大統領(同)の訪日を最後に途絶えていた。
尹大統領は5月に広島で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)にも招待されている。岸田首相の韓国訪問も今後推進される見通しだ。
外交部は尹大統領の訪日について、「12年ぶりに実現した2国間訪問としての訪日により、韓日関係の修復、未来志向の発展に向けた里程標を築いた」と評価。「関係官庁と協力し、今回の訪日でつくられた両国関係改善のモメンタム(勢い)を外交、経済、文化、人的交流などさまざまな分野へ広げていく」と意欲を示した。
徴用問題の解決策については、「問題解決の『終わり』ではなく真の『始まり』」だという立場を改めて示した。徴用被害者や遺族に政府の解決策を説明し、理解を求めるなど解決策の円滑な実行へ努力を続けるとしたほか、賠償を肩代わりする政府傘下の財団の判決金(賠償金)支払い手続きを整えていくとも伝えた。
●岸田首相、韓日首脳会談で福島原発汚染水放出への協力を要請 3/21
岸田文雄首相が16日の韓日首脳会談で、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に福島原発汚染水の放出に対する協力を要請したことが、20日に確認された。
ある韓国与党の関係者は同日、本紙の取材に対し「岸田首相が韓日首脳会談で尹大統領に『福島原発汚染水の放出施設の工事がまだ終わっていない。施設工事が終われば(汚染水の放出に)協力してほしい』と述べた」とし、これを受け「尹大統領は『汚染水の排出は国際規定を守らなければならず、これを確認する過程で韓国の専門家や機関の参加が必要だ』という趣旨で答えた」と伝えた。このような内容は19日の「国民の力」指導部にも共有されたという。
尹大統領は17日、菅義偉前首相が福島第一原発汚染水の海洋放出について韓国の理解を求める発言をした際も同様の趣旨で答えた。
大統領室は、韓日首脳会談で福島原発汚染水の放出が首脳会談の議題になったかどうかについては言葉を濁した。国家安保室のキム・テヒョ第1次長は18日、「YTN」に出演し、福島原発汚染水関連の話が交わされたかという質問に「首脳会談の対話は公開できない」と答えた。
●高市早苗大臣の放送法文書問題 岸田首相は更迭できず 3/21
放送法に関する総務省の行政文書を巡り、高市早苗・経済安保相が連日国会で集中砲火を浴びている。だが、この問題は、高市氏1人で終わらない。岸田政権が吹っ飛ぶ“地雷”がいくつも埋まっているのだ。
切れば遺産を失う
問題の文書は安倍政権時代、官邸が総務省を通じて政権に批判的なテレビ番組に介入しようとした経緯が書かれている。この問題が浮上した背景には、増税反対派の高市氏を追い落したい、財務省と総務省の思惑があるとも見られている。
文書が書かれた当時、外相だった岸田文雄・首相は直接関わっていない。つまり、高市氏を切れば、政権のダメージは最小限に抑えられるだろうが、それでも岸田首相は「高市更迭」を決断できない。なぜなのか。政治評論家の有馬晴海氏は、「首相は高市氏の背後の勢力を恐れている」と語る。
「高市さんには安倍政権を支えた岩盤保守層の強い支持がある。岸田首相と争った総裁選で健闘できたのも、安倍元首相の支援で岩盤保守層を引き継いだからです。もともと保守層に人気のない岸田首相はその層に配慮せざるを得ない。
昨年末の防衛増税を高市さんが批判した時、私は罷免されるだろうと思っていたが、意外なことに、岸田首相はその素振りも見せなかった。それほど岩盤保守層の反発が怖いわけです。ましてや、4月の統一地方選を控えたこの時期に高市さんを罷免して岩盤保守の支持を失えば自民党は大苦戦に陥り、党内の反発まで招く。だから岸田首相から高市さんを切れないのではないか」
政権を揺るがす総務省文書問題は、いわば安倍政権の“負の遺産”だが、岸田首相は岩盤保守層という安倍政治の“もう一つの遺産”を失うのを恐れて高市氏を切りたくても切れないというのだ。
その岩盤保守層の支持を引き継ぐ安倍派の面々はダンマリを決めこんでいる。文書作成当時の官房副長官で経緯を知りうる立場だったと思われる世耕弘成・参院幹事長は「真実を伝えているかどうかは別問題。関係者で精査してもらいたい」と他人事のような言い方をし、文書のテーマである放送法の解釈変更問題の後、自民党筆頭副幹事長として在京テレビキー局各社に“圧力文書”を送った萩生田光一・現政調会長は“飛び火は困る”と完全沈黙。さらに高市氏の総裁選出馬にあたって「推薦人代表」を務めた“盟友”の西村康稔・経産相も今回は逃げ腰だ。
政治評論家の伊藤達美氏も、高市更迭はないと見ている。
「この内閣はすでに4人の閣僚が辞任している。岸田首相にすれば、高市大臣を解任すれば5人目となって政権の失点になり、任命責任が問われる。また、高市氏の責任が確定しないまま切ってしまうと、保守陣営からの反発が強まる。こういう状況を考えると、解任はしないでしょう。
しかし、そうなれば世論の批判を浴び、支持率がもっと下がる可能性が高いが、支持率の“低空安定”は岸田政権の特徴でもある。首相は、党内にポスト岸田の有力な候補がいないから支持率が下がっても政権は持つと考えているのでしょう」
政権の生みの母を更迭した小泉元首相
かつて似た状況があった。小泉政権の田中真紀子・外相更迭問題だ。田中外相は総裁選での功績で「政権の生みの母」と呼ばれたが、外相就任以来、会談遅刻やドタキャンなど数々の問題を起こして事務方と対立。ついには日本のNGOの国際会議欠席の理由をめぐって田中外相が当時の外務次官と国会で「言った」「言わない」と争う異例の事態となった。
時の小泉純一郎・首相は「喧嘩両成敗」で田中外相と事務次官をともに更迭。一時は支持率が大きく下がったが、公平な対応に外務官僚の信頼を得たうえ、トラブルメーカーだった田中氏を早めに切ったことが長期政権のきっかけとなったという評価が定着している。
果断な決断で切るべき時に大臣を切った小泉首相は政権を安定させ、決断できない岸田首相は危機を迎えている。
高市氏が四面楚歌の中で辞任を否定し続けているのは、首相に対して、“辞めさせられるものならやってみろ。死なばもろともだ”と匕首を突きつけているように思える。
●韓国大統領「日本すでに数十回謝罪」 反日利用に反論 3/21
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は21日の閣議で、元徴用工問題などの歴史問題に対する自らの立場を表明した。「日本はすでに数十回にわたり、私たちに歴史問題について反省と謝罪を表明している」と述べ、反日を政治利用しないよう呼びかけた。
16日の日韓首脳会談で日本から謝罪表明がなかったと国内で反発がある点を意識し「韓国社会には排他的民族主義と反日を叫びながら政治的利益を取ろうとする勢力が厳然と存在する」と言及した。
日本の謝罪表明の具体例として、1998年の日韓共同宣言と、日韓併合から100年にあわせ日本が表明した2010年の菅直人首相(当時)の談話に触れた。16日の会談で岸田政権が1998年の宣言を継承する立場を明確にしたと説明した。
これにあわせ、韓国の歴代政府は元徴用工に対し「痛みを癒やし、適切な補償がされるよう努力してきた」と紹介した。74年に制定した特別法に基づいて92億ウォンを、2007年の特別法で6500億ウォンをそれぞれ政府が補償したと指摘した。
尹政権としても「被害者と遺族の痛みが癒やされるよう最善を尽くす」と表明した。
1965年の日韓請求権協定について「韓国政府が国民の個人請求権を一括して代理し、日本の支援金を受領する」取り決めだとの認識を明言した。そのため、65年の合意と日本企業に賠償を命じた2018年の最高裁判決を同時に満たす折衷案として解決策を決定したと説いた。
1965年の国交正常化は当時の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の決断だったと強調した。「決断のおかげでサムスン、現代、LG、ポスコのような企業が世界的な競争力を備えた企業に成長することができた」と話し、経済成長の原動力になったと主張した。
大統領就任時に「韓日関係の正常化策について悩んだ。まるで出口のない迷路のなかに閉じ込められた気分だった」と明かした。「厳しい国際情勢を前にし、私も敵対的民族主義と反日感情を刺激し国内政治に利用しようとしたら、大統領としての責務を捨てることになると思った」と強調した。
日韓関係を「宿命の隣国関係」と表現し、戦後に関係改善したドイツとフランスのように過去を乗り越えるべきだと主張した。
日韓関係の正常化に向け「韓国が先んじて障害物を取り除けば、きっと日本も呼応してくれる」と期待を示した。
北朝鮮の弾道ミサイル発射に触れ「北朝鮮の核・ミサイルに関する韓日間の完璧な情報共有が急がれる。前提条件をつけず先んじて軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化を宣言した」と語った。韓国外務省は21日、2019年のGSOMIAの終了通知を撤回すると日本に伝えた。
尹氏は日本が輸出管理で優遇する「グループA(旧ホワイト国)」に韓国を再指定するよう対話を続ける意向を示した。韓国がまず、日本を「ホワイトリスト」に戻すための必要な法的手続きに着手するよう関係部局に指示を出すと明かした。
液化天然ガス(LNG)の調達やインフラ建設、スマートシティなどで連携の余地が大きいと指摘した。半導体やバイオ、宇宙など先端分野の協力も「スピード感を持って進める」と話した。
尹氏は閣議の冒頭、約20分にわたって日韓関係について発言した。冒頭発言を韓国内メディアが中継した。
●高市大臣を「公開説教」の末松参院予算委員長 賛否沸騰 3/21
3月20日、末松信介参院予算委員長は予算委員会の冒頭で、高市早苗経済安全保障相に対してこう注意した。
「この際、委員長からひとこと、申し上げます。先日の委員会におきまして、杉尾秀哉くんの質疑中に、高市国務大臣から『答弁を信用できないなら質問をしないでくれ』といったような発言があったことは、まことに遺憾であり、この場で注意させていただきたいと思います。ときとして、質疑者と答弁者との間で議論が白熱することはありますが、高市大臣におかれましては、予算審査をお願いしている政府の立場であることをいま一度、留意していただき、質疑者の質問に真摯にお答えいただくようお願いいたします」
15日の予算委で、立憲民主党の杉尾秀哉参院議員が、放送法の政治的公平に関する行政文書をめぐり「(高市氏の答弁が)ずるずる変わっている」と挑発したのに対し、高市氏は「私の答弁が信用できないなら、もう質問しないでほしい」と反論。この答弁を立憲が問題視し、謝罪と撤回を求めていた。
末松委員長に促され、答弁に立った高市氏は「末松委員長からのご指導・ご注意につきましては、重く受けとめさせていただきます」と語ったものの、立憲は「明確な謝罪がない」と抗議。予算委の審議が中断した。
再開後、最初の質疑に立った自民党の広瀬めぐみ参院議員も、こう高市氏に苦言を呈した。
「与党・自民党の立場としましても、この大臣のご発言は遺憾なものと申し上げざるをえないと思っております。今後、よりいっそう、誠実なご答弁をお願いしたいと、切にお願いを申し上げつつ、大臣のご所見をもう一度お願いいたします」
だが、それでも高市氏から謝罪や撤回はなし。高市氏への質問が終わり、頭を下げて退席しようとする高市氏を、末松委員長が呼び止め、諭すようにこう伝えた。
「高市大臣、ちょっとお待ちください。あの、いま大臣からきちっと答弁をいただきました。(立憲の)石橋(通広)筆頭(理事)がこっちに来られて、いろいろ意見を述べております。『信用できないなら質問なさらないでください』という表現はまったく適切でないと思っております。
閣僚が国会議員の質問する権利について、揶揄したり、あるいは否定したりするというのは本当に大きな間違いだと思うんです。私ども議会人が質問するときにあたっては、政府に入って答弁する側も、質問する側も、基本的には『敬愛の精神』が私は必要だと思っております。
私が野党時代、野田(佳彦)総理に質問したとき、本会議、予算委員会あったけども、厳しい言葉で攻撃的に言っても、根底には『敬愛の精神』を持っていたと、そういう認識であります。(末松氏が)行政監視委員長時代にも、細川(律夫)厚労大臣や仙谷(由人官房)長官にも注意したとき、きちっと従っていただいたことを覚えております。
そういう意味で、私は『信用できないなら、質問なさらないでください』という表現については、ぜひ適切な表現でないので、ある意味で『敬愛の精神』を忘れている言葉だと思っております。この部分だけは、ぜひ省いていただきたいと思っております。これは私の思いであります。それだけ強く述べさせていただきます。ご退席いただいてけっこうでございます」
委員会室に拍手が起きるなか、高市氏は頭を下げ退席。
そして午後、再開した質疑で、立憲の小西洋之参院議員から「謝罪や撤回の考えはないのか」と問われた高市氏は、こう答弁した。
「敬愛の精神が必要という末松委員長からのご注意を重く受け止め、『私が信用できない、答弁が信用できないんだったら、もう質問をなさらないでください』という答弁についてのみは撤回をさせていただきます」
高市氏は、「質問権を否定する発言」と問題視された答弁に限って撤回したわけだ。
だが、予算委員長が閣僚にこのような注意をするのは異例のこと。末松委員長の発言には批判する声が各所で上がった。
作家でジャーナリストの門田隆将氏は同日、自身のTwitterにこう書きこんだ。
《はぁ?あの微塵も“敬愛”がない野党の暴言に一言もなし。つけ上がる立憲。完全にモラル崩壊の国会。まずこの無能委員長の更迭を》
お笑いタレントのほんこんも、自身のTwitterに《注意?いる》と書き込んだ。
タレントのフィフィも同じく、自身のTwitterに《敬愛の精神を忘れてるだっけ?…『万死に値する』には、なんのお咎めもないのかな》と書き込んだ。
3月8日に、小西議員は自身のTwitterに《高市氏は万死に値する》と書き込んでいた。
SNSでは、ほかにも末松委員長の発言を批判する声が多く上がった。
《小西や杉尾の発言ぶりをみると敬愛の念など微塵もない。相手を蔑めようとしかしていない。委員長は小西や杉尾にも同じことを言えよ》
《何が敬愛か!鳩山由紀夫みたいなこと言うな》
一方で、末松委員長の発言に賛同する声も上がった。
《同じ与党自民党でありながら庇うことなくきちんと正す末松委員長は立派です!》
《議会人、かくあるべし》
なかには、《「質問する側も」、と言ってるのがポイントです》と、末松委員長の発言は、野党に対しても向けられている、と解釈する声も。
「公開説教」で思わぬ注目を集めた参院予算委員長。1日の休日をはさみ、3月22日に開かれる予算委では、どんな「仕切り」を見せてくれるだろうか。
●「子を持つ女性の幸福度が低い」 少子化が加速する当然の理由 3/21
2022年の出生数は80万人を下回った。今本当に必要な少子化対策とは何か。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「これまでも子育て支援策が打たれてきたが、この20年間子持ち女性の幸福度は低いままだ。一方で50歳以下の子なし女性の幸福度は上昇傾向にあり、両者の差が開きつつある。子どもを持つことの幸せがより実感できる政策が必要だ」という――。
子持ち女性の幸福度は改善してきたのか
今、国会では子育て支援策に関する議論が交わされています。
その発端となったのは岸田首相の掲げる「異次元の少子化対策」です。この対策では(1)児童手当など経済的支援の強化、(2)学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、(3)働き方改革の推進の3つが主な内容として挙げられています。これらはいずれも過去の少子化対策の延長線上にあるものだと言えるでしょう。
日本の過去の少子化対策を見ていくと、育児・介護休業制度の創設、待機児童解消のための保育所の増設、少子化対策基本法、次世代育成支援対策推進法、子ども・子育て支援法の施行とさまざまな政策が実施されています。これらの政策は、育児や就業環境を改善させたと考えられます。
もしそうであるならば、子どもを持つ女性の幸福度も改善してきたのでしょうか。
過去の記事(「子どものいる女性のほうが、幸福度が低い」少子化が加速するシンプルな理由)でも指摘したように、日本では子どもを持つ女性の幸福度の方が子どもを持たない女性よりも低くなっています。しかし、これまでの少子化対策が機能し、育児・就業環境が改善すれば、子どもを持つことの幸福度の低下幅が小さくなってもおかしくありません。
はたして実態はどうなっているのでしょうか。今回は2000〜2018年までの子持ち既婚女性の幸福度の推移について検証した結果についてご紹介したいと思います。
結論を先取りすれば、「日本の子持ち既婚女性の幸福度は、2000〜2018年において、改善傾向にはない」と言えます。
以下で詳しく説明していきたいと思います。
子どもを持つことが女性の幸せにつながらない
子持ち既婚女性の幸福度の推移について説明する前に、子どもの有無によって既婚女性の幸福度がどう変化し、その背景にはどのような要因が存在するのかについて簡単に見ていきたいと思います。
図表1は、子どもを持つ既婚女性と子どもを持たない既婚女性の幸福度の平均値を見ています。使用しているデータは、社会科学の学術研究で多く利用される日本版総合的社会調査(JGSS)です。分析対象は2000〜2018年までの20〜89歳の既婚女性8331人で、幸福度を1〜5の5段階で計測しています。
この図からも明らかなとおり、子持ち既婚女性の幸福度の方が低くなっています。子育て期にあたる50歳以下の既婚女性に絞ると、幸福度の低下幅はより大きくなります。
この図の意味するところはシンプルで、「子どもを持つことが女性の幸せにつながっていない」ということです。
子どもを持つことのコストが大きすぎる
ただし、子ども自体が幸福度の低下につながるというわけではありません。子どもの存在は、親の幸福度を高めると考えられます。しかし、子どもを持つことによって夫婦関係、お金、働き方、時間の使い方等が変化し、それによって発生する負担の方が大きく、幸福度の低下につながってしまうわけです。
「子どもを持つことのコストの方が大きくなりすぎている」というのが適切な現状認識でしょう。
ちなみにヨーロッパのデータを用いた分析によれば、子どもを持つことによって女性の幸福度が低下する一番の原因は、ズバリお金です。子育ての金銭的負担が過大であり、これが解消されれば、子どもを持つことの幸福度へのプラスの効果が顕在化します。日本のデータを用いた分析では、夫婦関係の悪化とお金が幸福度低下の主な原因であり、やや夫婦関係悪化の影響が強いと指摘されています。
子持ち女性の幸福度は上昇していない
子どもを持つことによって既婚女性の幸福度は低下するわけですが、この傾向は直近の約20年間でどのように変化してきたのでしょうか。
図表2は、2000〜2018年までの子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の平均値を見ています。分析対象の年齢層は20〜89歳です。なお、図表ではトレンドをわかりやすくするために、直線の近似曲線を追加しています。
図表2から、次の2つのポイントが読み取れます。1つ目は、2003年と2017年以外で子どものいない既婚女性の幸福度の方が高くなっているという点です。2つ目は、近似曲線の推移から、子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が緩やかに拡大しているように見える、という点です。
2つ目の結果は非常に気になります。この点をより正確に検証するために、年齢、学歴、健康状態、世帯年収、就業の有無といった要因の影響をすべて統計的手法でコントロールし、再度分析してみました。
その結果、1子持ち既婚女性の幸福度は経年的に上昇していない、2子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差は変化していない、ということがわかりました。
端的に言えば、「子持ち既婚女性の幸福度に改善傾向が見られず、子どものいない既婚女性よりも幸福度が低いという状況は変わっていない」ということです。
50歳以下では子どものいない既婚女性の幸福度が上昇
子育て期にあたる50歳以下の既婚女性に分析対象を絞った場合、やや結果は異なってきます。
子持ち既婚女性の幸福度が経年的に上昇していないという点は変わらないのですが、子どものいない既婚女性の幸福度が上昇傾向にありました。この結果、子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が緩やかに拡大したのです。
なぜ子どものいない既婚女性の幸福度は上昇したのでしょうか。この背景には、「結婚したら子どもを持つべき」という社会的なプレッシャーの低下が影響していると考えられます。国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によれば、「結婚したら子どもを持つべきか」という問に対して「どちらかといえば反対」、「まったく反対」と回答する割合が2002年で22.4%だったのですが、2015年には28.9%へと上昇しています。また、この間、妻が45〜49歳の夫婦で、子どものいない割合が4.2%(2002年)から9.9%(2015年)へと増えています。
子どものいない夫婦が着実に増えており、以前よりも受け入れられやすいライフスタイルになっています。これが子どものいない既婚女性の幸福度の上昇に寄与したと考えられます。
アメリカでは子持ち女性の幸福度が相対的に上昇
日本では子持ち既婚女性と子どものいない既婚女性の幸福度の差が変化していないか、もしくは拡大傾向にありますが、アメリカでは逆に縮小傾向にあることがわかっています。日本とはちょうど真逆です。
この点はアリゾナ州立大学のクリス・ハーブスト准教授らが分析を行っています。彼らの分析によれば、アメリカでは子持ち女性の幸福度が経年的に変化していないものの、子どものいない女性の幸福度が低下傾向にありました。この結果、子持ち女性と子どものいない女性の幸福度の差が縮小したのです。
なぜアメリカでは、子どものいない女性の幸福度が経年的に低下したのでしょうか。この点に関して、ハーブスト准教授は子どもを持つことがコミュニティーとのつながりや政治への関心、友人との交友関係を維持し、幸福度の向上につながる可能性があると指摘しています。子どもがいない場合、社会や人とのつながりが狭くなり、これが幸福度低下の原因となるわけです。
子どもを持つことの幸せを実感できる政策の実施が必要
日本ではこれまでさまざまな少子化対策が実施されており、育児・就業環境は以前より改善してきています。しかし、子どもを持つ女性の幸福度が低下するという傾向は、変わっていません。
少子化対策がまだ不十分であるといえるでしょう。日本やヨーロッパでは子どもを持つことの幸福度低下の大きな原因として、金銭的負担の大きさが挙げられている点を考えれば、子育ての金銭的支援拡充をより真剣に検討すべきでしょう。
子どもを持つことの幸せがより実感できる政策の実現を願ってやみません。
●「異次元」少子化対策の具体策や財源 首相トップの会議体で議論へ 3/21
政府は、岸田文雄首相が「異次元」と位置づける少子化対策を具体化するため、首相がトップの会議体を4月以降に立ち上げる方針を固めた。政府は3月末をめどに少子化対策の政策パッケージのたたき台を示す方針で、新設する会議では有識者もメンバーとなり、具体的な内容や財源を固めていく方針だ。
首相がトップの会議体には、こども政策担当相や厚生労働相のほか、住宅問題に携わる国土交通相が参加。さらに、社会保障の専門家や、財源の議論も念頭に経済界からも加わってもらう方向で調整している。
首相は、政府が6月にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)までに、将来的な子ども予算の倍増に向けた大枠を示す考えを示しており、与党とも調整しながら、4月の早い段階でたたき台に基づく議論に入る方針だ。  
●岸田首相、「グローバルサウス」前面に G7へ不満、拡大懸念 3/21
岸田文雄首相は今回のインド訪問で、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国重視の姿勢をアピールした。
議長を務める5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の成功に向け、こうした国々の支持や理解が欠かせないとの判断からだ。ただ、世界的なインフレ長期化などで西側諸国への不満も根強く、政府内には「しっかり声をくみ取らないと、G7が孤立してしまう」(外務省幹部)との懸念がくすぶる。
「広島サミットで、グローバルサウスと呼ばれる国々との関係の強化について取り上げたい」。岸田氏は20日、インドのモディ首相との会談で、途上国側が優先する課題について意見を聞いた。
日印首脳は、毎年交互に相手国を訪問する「シャトル外交」を続けており、今年はモディ氏が来日する番だった。インドは今年の20カ国・地域(G20)議長国で、日本はサミットに先立つ首脳間の「腹合わせ」を期待。しかし、モディ氏は地方選の対応などで来日のめどが立たず、昨年に続き岸田氏が訪印した。
林芳正外相は、国会日程を理由にインドで今月開催されたG20外相会合を欠席。国内外から疑問の声も上がった。岸田氏による2年連続の訪印は、これを埋め合わせる意味合いもあるとみられる。
ロシアのウクライナ侵攻を巡り、G7はロシア制裁やウクライナ支援で足並みをそろえる。一方、食料・エネルギー不足に悩む新興・途上国はこれを冷めた目で見つめる。
外務省関係者は「『西側はウクライナばかり』と思われている」と指摘。小麦価格の高騰を欧米の責任と主張するロシアへの同調も目立つという。
新興・途上国側は、大国間の対立と距離を置く「バランス外交」の傾向が強い。双方から経済援助を受けるなど利害関係も複雑だ。インドも、日本、米国、オーストラリアと4カ国枠組み「クアッド」で連携する一方、中国、ロシアと経済や軍事で深く結び付く。
モディ氏は1月、G20議長国として「グローバルサウスの声を増幅させる」と表明した。岸田氏はこれに呼応し、首脳会談でモディ氏を広島サミットに招待。食料問題や過剰債務、気候・エネルギーなど新興・途上国側が重きを置くテーマに取り組む考えを伝えた。
「2年連続の訪問自体がメッセージだ」。政府関係者は訪印の意義をこう強調した。

 

●岸田首相の訪問「勇気示した」 ゼレンスキー氏が意義強調 3/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日のビデオ声明で、岸田文雄首相のキーウ(キエフ)電撃訪問について「世界の指導者たちがあらゆるリスクにもかかわらずウクライナを訪問し、勇気や敬意を示すことは非常に重要だ」と意義を強調した。
先進7カ国(G7)議長国である日本の首相との会談は「世界的な成果をもたらす」と指摘し、有意義だったと振り返った。日本がウクライナの復興に加わり、経済やインフラ分野でリードすることへの期待感も示した。
日本側からは国際秩序を尊重し、世界を結集させるために協力する「具体的な意思」も聞いたと振り返り「ありがとう、日本!」と語った。
●尹大統領「悪口恐れるな」 閣僚に「国民向け政策マーケティング」強調 3/22
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は21日の閣議で、国民に政策を説明し、理解を求めていく「政策マーケティング」の重要性を強調した。繁忙期に労働時間を増やせるよう制度を見直す案が世論の厳しい批判を浴びていることを踏まえたものとみられる。閣議出席者が22日、尹大統領の非公開の発言を聯合ニュースに伝えた。
尹大統領は「労働時間は雇用労働部だけの業務ではなく企画財政部、産業通商資源部、中小ベンチャー企業部など全ての業務だ」と強調した。「国民が知らない政策は政策ではない」とも発言し、政策を説明する重要性を説いた。
政策マーケティングの責任者となる閣僚らに対し、「悪口を言われることを恐れてはならない」と語りかけ、「後からきちんとした最終案を作れば、批判していた国民も戻ってくるだろう」と述べた。
労働時間の柔軟化に向けた制度見直し案を確定するのに先立ち、世論調査やフォーカスグループインタビューなどを通じて各界各層の意見を十分に聴取すべきだと重ねて指示した。
韓日関係にも言及した。尹大統領は、先の訪日時に面会した日本の野党第1党、立憲民主党の役員から韓日関係改善のために訪韓して韓国野党を説得すると言われたことを取り上げ、「そうした言葉を聞いて恥ずかしかった」と述べた。
立憲民主党の中川正春憲法調査会会長が尹大統領にこうした意向を伝えたとされる。尹大統領の発言に関し大統領室関係者は「日本は与野党の別なく韓日関係の改善を歓迎しているが、韓国の野党は反対ばかりしている」とし、大統領が韓国の野党の姿を恥じたものだとした。
また、尹大統領は韓日関係を「それまでうまく付き合ってきた隣家が、水路をつくる問題により、互いに塀を築き始めた」と例えたという。「塀を壊さなければ双方にとって損害なのだが、そのまま放っておくべきなのか」と問い掛けた後、「相手が塀を壊すのをただ待つより自分が先に壊せば、隣家もその本気度を見て一緒に塀を崩し、そうすれば再び良い関係に戻ることができる」と述べた。
尹大統領は政府が発表した徴用賠償問題の解決策は韓国に道徳的優位性と正当性を持たせるもので、日本側の呼応を引き出すことが可能と考えているとされる。日本で来月統一地方選が終わり、岸田文雄首相が韓国を訪問する時には「手土産」があるとみているようだ。
●国内キャパシティー増強に大きく舵を切る半導体国家「韓国」  3/22
WBCでの日本チームの大活躍が日本中を沸かしていた先週、国際関係では韓国のユン・ソンニョル大統領が来日し、長らく停滞していた日韓の関係は一気に改善の方向に大きく前進した。
元徴用工問題で日韓が大きく歩み寄った背景には、ロシアによるウクライナ侵攻と米中対立の激化によって緊張の度合いを増す東アジアの現状という喫緊の問題がある。安全保障と経済での日米韓3か国の緊密な連携は、いよいよ覇権圧力を高める中国に対峙する勢力として、東アジアにおける重要なファクターとなっている。
米中の覇権争いの狭間で必然的に緊密化する日米韓の関係
ロシアによるウクライナ侵攻を発端に、ロシア/ウクライナと地続きの欧州と、覇権圧力を高める中国に対峙する日米韓の地政学的な位置関係は緊張度を増している。東アジアでの緊張増加に呼応する今回の日韓関係の進展には、下記のような各国の事情が関係している。一見して独立して起こっているような各国の事情は実は複雑な相関関係にある。
・覇権圧力を高める中国と日米韓が共通して懸念するのは台湾の将来である。「1つの中国」を標榜する中国共産党の動きに台湾を挟んだ「有事」がまことしやかに話題となる今日、有事の際には米軍の前線基地となる可能性を持つ地理関係にある日韓両国は必然的に協力体制を取る必要がある。これまでの日韓の冷え切った関係は米国をはじめとする自由主義陣営にとって大きな懸念材料であった。
・依然として韓国と戦争状態にある北朝鮮は昨年から米国を射程とした大陸間弾道弾ミサイルの実験を盛んと繰り返しその開発を加速させる。核弾頭の搭載を目指すことをあからさまにちらつかせる北朝鮮の脅威の度合いは日々高まっている。
・若い労働力を豊富に含むインドの総人口は、今年中に中国を追い抜く事が予想されていて、インドを確実に陣営に取り込みたい米国にとって、日韓の協力は前提必須条件である。対する中国は他のアジア諸国の取り込みを狙う。
・中国に大きな市場を抱えるオーストラリアは中国に対する政治的スタンスを明らかにし、米国との原子力潜水艦開発に多額の国家予算を決定した。これも台湾有事に対する米国政府の布石と考えられる。
東京での桜の開花が早まる日本にいて、これらの緊張状態が我々を取り巻いているとは俄かに信じがたいが、日本海を挟んですぐそこにある朝鮮半島と中国を取り巻く緊張状態は残念ながら厳しい現実である。この状況にあって、政治課題の中心的分野の1つが半導体であることは、今回のユン大統領の訪日のアジェンダを見れば明らかである。
中国に先端前工程を展開する韓国半導体の苦悩と国内生産キャパシティー増強計画
総人口が日本の半分以下の韓国は、国内市場の規模の小ささから経済活動の多くを輸出に頼る輸出立国である。その輸出品の中でも突出して大きい20%近い割合を占めるのが半導体製品である。韓国半導体はSamsungとSKハイニックスの2大メーカーが世界的なシェアを誇っているが、メモリーに占める割合が高く、在庫調整にある現在では市況が大きく落ち込んでいる。
自動車とともに国全体の経済を支える半導体の市況は韓国にとっては国としての浮沈がかかる一大事だ。米国の安全保障圏内にありながら、中国と地続きである韓国は、その最大の輸出国中国と経済では深く組みながら、安全保障の枠では対峙してゆかなくてはならないという非常に難しい立場にある。そうした複雑な状況と韓国が直面している問題を象徴しているのが現在のSamsungとSKが運営する中国工場の事情だ。
Samsungは中国の西安工場で3次元NAND製品の生産を行っていて、SKも大連工場で3次元NAND、無錫工場でDRAMを生産している。いずれも先端品で、両社の半導体総生産量の多くの部分を占める。これら中国にある工場が米国政府による先端半導体製造装置の輸出規制の影響をもろに受けている。この規制によれば中国にある先端半導体工場へは、米国製の製造装置を一切輸出できなくなる。それどころか稼働中の工場のメンテナンスに必要な部品の輸出もできず、工場に張り付いていた研究者・エンジニアも撤退することになった。中国工場における生産継続に支障が起こる事態に発展している。
Samsungはメモリー事業に加えてロジック半導体のファウンドリービジネスも展開するが、3nm超の先端微細加工技術の量産態勢の構築につまずき、TSMCから水をあけられている。先端ロジックファウンドリーの顧客であるApple、AMD、NVIDIA、Qualcommといった大手ファブレスメーカーのほとんどがTSMCに流れている。こうした厳しい状況に置かれた韓国半導体業界にとっては半導体製造に必要なフッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドなどの材料の多くが日本から自由に調達できない状況は、サプライチェーン確保の面から大きな問題となってきた。今回のユン大統領の訪日を受けて、これまでのこれらの品目についての外為法による日本からの厳しい輸出審査は解除される見通しである。
ユン大統領の訪日に合わせたかのように、Samsungがソウル郊外に新たな大規模半導体拠点を構築することを発表した。総額30兆円を超える大型投資には韓国政府の大規模な支援が含まれている。この大規模な投資によって世界最大の「先端システム半導体クラスタ」を構築し、5棟の新たなファブを建設する予定という。これらをすべて国内に集中させるという決断は、これからの韓国をさらに先端半導体の生産基地として位置づけようという韓国政府と世界最大の半導体企業Samsungの決意の表れととれる。
来年に台湾総統選と米大統領選を控える現在、東アジアでの半導体をめぐる各国の駆け引きはすでに始まっている。
●尹大統領「日本と素材・部品・装備協力···世界最高の半導体革新基地を作る」 3/22
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は21日、韓日経済協力と関連して「両国企業間のサプライチェーン協力が可視化されれば龍仁(ヨンイン)に造成する半導体クラスターに日本の半導体素材(材料)・部品・装備関連会社を大挙誘致し、世界最高の半導体先端革新基地を成すことができる」と自信を示した。
尹大統領はこの日午前、龍山(ヨンサン)大統領室で国務会議を主宰し「韓日関係改善は半導体など先端産業分野で韓国企業の優れた製造技術と日本企業の素材、部品、装備競争力が連係し安定的なサプライチェーンを構築することになるだろう」としてこのように話した。
先立って韓国政府は去る15日、非常経済民生会議で京畿道龍仁市地域に世界最大規模の半導体メガクラスター造成を発表した。サムスン電子も2042年までに300兆ウォンを投資する方針だ。これに日本企業を大挙参加させ、両国間の半導体サプライチェーン協力を強化するという意味と解釈される。
ただ、日本の素材・部品・装備企業との協力拡大が公式化され、今や軌道に乗った国内(韓国)素材・部品・装備業界が再び打撃を受けるのではないかという懸念が出ている。文在寅(ムン・ジェイン)政府は2019年、日本政府の輸出規制を契機にいわゆる「素材・部品・装備の独立運動」を展開し関連業界を育成した。しかし、尹政府に入って、素材・部品・装備の育成予算は大幅に削減されたという。
さらに尹大統領は、韓日両国が △エネルギー安保共同対応 △エコ共同研究開発(R&D)プロジェクト推進 △グローバル受注市場共同進出 △韓国製品の日本市場進出拡大 △内需回復と地域経済活性化などで協力できると期待した。
尹大統領は「(韓国)政府は経済分野の期待成果が可視化し、韓国国民が体感できるよう企業間協力と国民交流を積極的に支援する」とし、国家安保室(NSC)次元の「韓日経済安保対話」出帆、多様な長官級後続会議開催、核心協力分野対話チャンネル新設、多様な共同ファンド造成、産学協力実証拠点構築などの推進に言及した。
また「韓国が先制的に障害物を除去していけば、きっと日本も呼応してくるだろう」とし、日本に対するホワイトリスト(輸出審査優遇国)復元のために必要な法的手続きに着手するよう 李昌洋(イ・チャンヤン)産業通商資源部長官に指示した。輸出入告示改正などの手続きを経て、早ければ5月中にも回復する見通しだ。
尹大統領は「もう韓日関係は過去を越えなければならない」とし「『ゼロサム関係』ではなく、共に努力して共により多く得る『ウィン(win-win)』関係になるようにしなければならない」と強調した。
野党から提起されている「屈辱外交」批判に対しては「日本はすでに数十回も過去史問題に対して反省と謝罪を表わした」とし「韓国社会には排他的民族主義と反日を叫び政治的利益を得ようとする勢力が存在する」と反論した。しかし、尹大統領のこのような発言は普遍的な国民感情とは異なり、今後の議論が予想される。
尹大統領は「昨今の厳重な国際情勢を後にして、私まで敵対的民族主義と反日感情を刺激して国内政治に活用しようとするならば、大統領としての責務を裏切ることになる」と吐露した。
さらに、韓日関係の正常化によって韓国国民や企業に大きなメリットになり、何よりも未来世代に大きな機会になるだろうと強調した。
●インドの政治経済情勢 北東部3州での議会選挙、モディ3期目への道 3/22
1. 政治:北東部3州での議会選挙
インドでは、2023年2月に北東部の3州(トリプラ州、メガラヤ州、ナガランド州)で議会選挙が行われ、3月2日に開票された。連邦与党であるインド人民党(BJP)は、トリプラ州では単独過半数の32議席を獲得し、トリプラ先住民戦線(IPFT)との連立政権を維持した。メガラヤ州では2議席しか獲得できなかったが、最大議席(26議席)を獲得した国家人民党(NPP)と組んで連立政権を維持した。ナガランド州では12議席を獲得し、最大議席(26議席)を獲得した国民民主進歩党(NDPP)との連立政権を維持した。一方、主要連邦野党である国民会議派は3州すべてにおいて惨敗した(トリプラ州で3議席、メガラヤ州で5議席、ナガランド州でゼロ議席)。
これら北東部3州は、バングラデシュとミャンマーの国境近くの山岳地帯にあり、部族民が多く、メガラヤ州とナガランド州ではキリスト教徒が多数を占めるなど、他の地域とは異なる特徴がある。このため、国民会議派や左翼戦線といったリベラル・左派政党と地域の民族政党が主要政党として支持を集め、お互いに争うのが伝統的な政治の構図であり、ヒンドゥー民族主義を掲げる右派政党であるBJPが支持を集めることはなかった。しかし、今回の選挙では、BJPは3州すべてで予想を上回る好成績を収め、州政権を維持した。
BJPの勝利の背景には、近年のインフラ整備などの経済政策、モディ首相の人気(2023年3月16日発表の「モーニング・コンサルト」の世論調査によれば支持率は78%)、ヒンドゥー・ナショナリズムを過度に強調しない姿勢にあったと考えられる。今回の選挙結果により、国民会議派はかつての牙城であった北東部でも支持を失い、またBJPがその地盤地域である北部と西部以外でも勢力を拡張していることが示された。
BJPは2022年2〜3月に行われた5州の選挙でも、最大州のウッタル・プラデシュ州を含む4州で勝利し、同年12月のグジャラート州議会選挙でも圧勝している。なお同年11月のヒマーチャル・プラデシュ州議会選挙では、国民会議派が勝利してBJPから州政権を奪還したが、得票率では0.9ポイントの僅差で、同州の強い反現職の文化からすれば、BJPは健闘したといえる。また同年12月にはデリー市議会選挙も行われ、庶民党(AAP)が大勝してBJPから州政権を奪取したが、BJPは事前予想以上の票を獲得した。
2024年に連邦下院選挙が予定されているが、これらの地方選挙の結果を踏まえると、BJPが2019年の連邦下院選挙に続いて再び勝利し、モディ首相が続投して3期目に入る見通しはさらに強まったといえる。なお、2023年には、北東部3州に続き、カルナータカ、チャッティスガル、ミゾラム、テランガナ、マディヤ・プラデシュ、ラジャスタンの6州で選挙が予定されている。
2. 外交:多極主義・戦略的自律に基づく独自路線
(1)総論(G20含む)
インドは多極主義・戦略的自律を重視し、特定の陣営に属することなく、多くの国々と友好的な関係と一定の距離を置く独自の外交路線を採っている。[*1]2022年11⽉からG20議⻑国に就任した。2023年2月にベンガルールでG20財務相・中銀総裁会議が開催されたが、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻をめぐる加盟国間の不一致により、共同声明は採択されなかった。インドは議長総括で、「加盟国の大半はウクライナでの戦争を強く非難し、戦争が人々に甚大な苦しみを引き起こし、現在の世界経済の脆弱性を悪化させていると強調した」と表明した。同年9⽉にデリーでG20サミットを開催予定。同年1月に「グローバルサウスの声サミット」と題するオンライン会合を主催したように、インドはG20議長国としての立場を念頭に置きながら、途上国・新興国をリードしようとしている。
(2)米国
米国のバイデン政権はトランプ前政権と同様、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略に基づき、中国への対抗を念頭に、インドを重要なパートナーとして位置づけ、同国との関係を強化している。2021年9⽉にワシントンDCで開催された初の対⾯でのクアッド(日米豪印)⾸脳会合では、共同声明において、中国を名指しはしなかったものの、海洋安全保障として東・南シナ海を含む海洋秩序への挑戦に対抗することが掲げられた。
2022年2⽉のロシアのウクライナ侵攻後、⽶国はインドの対応に不満を抱き(下記(3)参照)、4⽉のオンライン⾸脳会談で、インドはロシアからのエネルギー輸入を加速させるべきではないと表明したが、制裁については自主的な判断に委ねるとして、インドへの配慮を示した。2023年5月に東京で開催された2回目の対面のクアッド首脳会合では、共同声明において、ウクライナ危機の平和的解決が掲げられたが、ロシアへの言及は避けられ、東・南シナ海を含む海洋秩序への挑戦への対抗は前回よりも文言が強められたが、中国を名指しすることはなかった。
米国はロシア製の地対空ミサイルシステム「S400」の導⼊にも反発しているが、制裁は⾒送られている。2022年5⽉に開催されたインド太平洋経済枠組み(IPEF)の⽴上げに関するハイブリッドの⾸脳会合には、クアッド⾸脳会合のため訪⽇していたモディ⾸相も参加した。インドはIPEFの発足メンバーになったが、貿易分野への交渉には不参加とした。
(3)ロシア
インドはロシアと歴史的に兵器の供給を中⼼に良好な関係を維持している。2021年11⽉にはS400を納⼊。2022年2⽉のロシアのウクライナ侵攻後、インドは欧⽶等と異なり対ロシア制裁を導入せず、むしろロシア産原油の輸⼊を拡⼤させている(同年10⽉からロシアはイラクとサウジに代わり最⼤の原油の輸⼊元となった)。⼀⽅、同年9⽉のサマルカンドでの上海協⼒機構⾸脳会議の機会に実現した印ロ⾸脳会談では、モディ⾸相はプーチン⼤統領に対し、「今は戦争の時代ではない」と述べ、率直に苦⾔を呈した。毎年12⽉に⾏われてきた⾸脳会談は2022年には実施されなかった。
(4)中国
インドにとって中国は最⼤の輸⼊相⼿国、第3位の輸出相⼿国だが、貿易収⽀はインドの⼤幅な⾚字が続いている。2020年5⽉、ラダック地⽅の係争地で印中両軍がにらみ合いとなり、6⽉にはガルワン渓谷で衝突が発⽣、双⽅に多数の死傷者が発⽣した。その後も緊張が続いたが、2021年2⽉に双⽅が撤退に合意した。インドはガルワン渓谷の衝突後の同年6月以降、安全保障上の理由により多数の中国製アプリの国内での使⽤を禁⽌した。2021年5⽉、インド通信省は通信サービスプロバイダーに5G技術試験実施を許可したが、中国の⼤⼿企業は含まれなかった。2022年12⽉、アルナーチャル・プラデシュ州の中国との国境係争地域であるタワン地区で衝突が発⽣し、双⽅に負傷者が発⽣した。インドは中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)には創設国として参加しているが(出資⽐率は第2位)、⼀帯⼀路には⽀持を拒否し続けている(上海協力機構(SCO)首脳会議での共同声明での支持表明に反対し、2017年と2019年に中国が主催した一帯一路国際協力ハイレベルフォーラムには代表団の派遣を見送っている)。
(5)パキスタン
2019年8月、インドがジャンムー・カシミール州の自治権を廃止し、同州を2つの連邦直轄地域に分割したことで、パキスタンとの間で緊張が高まった。2021年2⽉、インド軍とパキスタン軍は2003年に結ばれたカシミール地⽅での停戦合意を順守するとの共同声明を発表した。同年8⽉、タリバンがアフガンを制圧したことで、インドは従来のアフガンへの関与戦略の転換を迫られ、パキスタンと中国の影響力拡大とカシミール地方の不安定化に直面することになった。
(6)日本
2022年3⽉、岸⽥⾸相がデリーを訪問してモディ⾸相と会談した。両首脳は、⽇印国交樹⽴70周年を迎えて「⽇印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」のさらなる発展で合意し、今後5年間で官民あわせて対印投融資5兆円目標を掲げることで一致した。同年5⽉、モディ⾸相がクアッド⾸脳会合出席のため訪日し、⽇本の経済界の要⼈との会合の席でインドへの投資を呼びかけた。2023年3月20日、岸田首相が訪印し、モディ⾸相と会談した。日本がG7、インドがG20の議長国を務めていることを踏まえ、連携強化を確認し、岸田首相はモディ首相を5月のG7広島サミットに招待し、モディ首相は出席すると述べた。なお、岸田首相は首脳会談後、インドからポーランドに移動し、陸路でウクライナを訪問した。
3. 経済:コロナからの回復とインフレの高進
2021年度(2021年4月〜2022年3月)の実質GDP成長率は前年度比+8.7%と前年度の落ち込み(同6.6%)を上回った。2022年に入ってからも民間消費と投資が拡大し、4〜6月期は前年同期比+13.5%、7〜9月期は同+6.3%と堅調な回復を続けたが、10〜12⽉期は同年前期⽐+4.4%に鈍化した。輸出と投資は堅調に拡大したが(それぞれ同+11.3%、同+8.3%)、民間消費の伸び悩み(同+2.1%)と輸入の拡大(同+10.9%)が足を引っ張った。2022年度の実質GDP成⻑率の⾒通しは政府+7%、IMF+6.8%、2023年度は政府+6.4%、IMF+6.1%である。
   図 インドの実質GDP成長率と1人当たりGDPの推移
経常収⽀は2020年度は輸⼊の減少により⿊字(対GDP比0.9%)となったが、国内経済の回復により輸⼊が伸び、2021年度は⾚字となった(同1.2%)。エネルギー価格の上昇もあり、2022年度も⾚字が拡⼤する⾒通し(同3.5%)。
2023年度の中央政府予算は歳出総額が引き続き⾼⽔準(対GDP⽐14.9%)。2024年度に連邦議会総選挙が予定されていることもあり、インフラ投資が⼤きく拡⼤している。財政⾚字は対GDP⽐5.9%と2022年度修正予算の同6.4%から低下する⾒込み。
消費者物価指数(CPI)上昇率は2022年2⽉からインド準備銀行(RBI)の⽬標(4%±2%)の上限を上回り、9⽉は前年同⽉⽐+7.4%と⼤幅に上昇。10⽉から鈍化し、11⽉と12⽉は⽬標圏内に収まっていたが、2023年1⽉と2月は⾷品や燃料の上昇により、それぞれ同+6.5%、同+6.4%と再び⽬標圏を上回った。
RBIは2022年5⽉から2023年2月にかけて、政策⾦利を6会合連続で計2.5%引き下げ、6.5%とした。
通貨ルピーは2022年に⼊ってから減価を続け、7⽉には1ドル=80ルピーを突破し、1年間で10.14%下落した(下落幅は2013年以降で最⼤)。足元でも減価傾向が続いている。
外貨準備⾼は為替介⼊のため減少傾向にあり、2023年3⽉3⽇時点で5,624億ドル。
2021年度の海外直接投資(FDI)の流⼊額は588億ドル。増加傾向が続いている。
2022年8⽉、政府は2030年までにCO2排出量を45%削減し、⾮化⽯燃料による電⼒供給を50%程度とする目標(2021年のCOP26で表明された目標)を含む新たな気候変動対策を発表し、国が決定する貢献(NDC)を更新した。政府はEVの振興策を進めており、2016年に「2030年までに国内で販売する自動車すべてをEVとする」目標を掲げたが、2018年に「2030年までに国内で販売する乗⽤⾞の30%、商⽤⾞の70%、バスの40%のEV化を⽬指す」とする目標に修正した。
2023年1⽉24⽇に⽶投資会社がアダニ・グループの不正会計や株価操作を指摘する報告書を公開したことをきっかけに、同グループの企業の株価が急落した。もっともインド株式市場全体や政治に与える影響は限定的とみられる。
●「歴史的な円安」が示す、"日本の国力低下"の深刻  3/22
円安の勢いが止まらない。2022年10月時点では32年ぶりとなる、1ドル151円台にまで達した。それから5カ月経った今もなお、1ドル130円ほどと、ここ数年で見ると円安傾向にあるといっていい。
為替の変動が起きる主な原因は、「金利」、そして長期には「国力」が国家の通貨価値を規定していく──ビジネスパーソン向けに「地政学」の教鞭を執る田村耕太郎氏はいいます。
「円安」は日本の「国力低下」を反映している
為替の変動が起きる主な原因は「金利」だ。世界中がインフレ退治のために金利を上げ続ける中、日本銀行だけがその動きに逆行し続けている。
大胆な金融政策で円安を作り出し、株価を引き上げ、輸出企業を振興したアベノミクスの旗振り役だった黒田総裁には方向転換は難しいだろう。
また、コロナ禍を脱するのが遅れて、経済が低迷する中で、金利を上げる選択もしにくい。コロナ対策やオリンピックやインフレ対策で財政を出動し続けている中で金利を上げると、国債市場が混乱しかねない。そこを世界の市場関係者は見越して安心して円を売り続けている。
短期には「金利」で決まる為替だが、長期には「国力」が国家の通貨価値を規定していく。そういう意味でこのままいけば長期的な円安傾向は続いてしまう。
まずは「国力」の基本は人口だ。日本の高度成長は人口増加がもたらしたといっていい。3000万人台だった江戸時代の総人口を100年ほどで4倍にまで増やしてきた。
ところが今のペースでいけば、今世紀末には日本の総人口は今の半分以下になってしまう。
一方で高齢者は増え続ける。15歳から64歳の労働力人口と65歳以上の高齢者の人口は国民皆年金・皆保険が導入された1960年頃は11対1であった。働き手が高齢者の10倍いたのだ。
それから90年後の今世紀半ばにはそれが1.3対1まで均衡してしまう。働き手と高齢者がほぼ1対1になってしまうのだ。もちろん定年の引き上げや健康寿命の延伸やリスキリングが行われていくだろうが、焼け石に水で、わが国の財政も経済も危機に陥る。
一方で、東アジアの地政学リスクは高まっていく。人口を減らし高齢化させ貧困化させてしまうときに、安全保障上のリスクも高まるのだ。それに加えて、東南海トラフ地震、富士山噴火、首都直下地震などの大規模な災害も予想される。そういう国の通貨を誰が使用し保有してくれるだろうか? 日本人も含めてだ。
一方で社会は安定しているが、極度に失敗を恐れ、新しいことにリスクを取ってチャレンジしていかない。貧すれば鈍するで、ますますリスクを取りにくくなってきている。
2019年までは外国人観光客も外国人労働者も順調に増えていたが、コロナ禍で鎖国状態が2年以上続き、もともと鎖国が好きな島国日本が、外国に対してオープンになるのもおっくうになっている。
円安でも日本にいながら外貨が稼げる観光業も、水際対策の緩和が遅れ、海外諸国より復活が遅れている。ただ、世界経済フォーラムも認めたように、日本の観光力は世界一なので外国人観光客の受け入れから外貨を稼ぎ、多様性に慣れていってほしい。
国を開いて外国人を取り入れていくしか日本が国力を取り戻す現実的な手法はない。数学的生物学的に見て、オーガニックな人口増加(純粋な日本人による人口の自然増)は望めないのだ。
「国力低下」の日本に迫る脅威「中国」
そうして、日本の国力が落ちている中で、めきめきと力を強めている近隣国がある。中国だ。
中国は日本にとって最大の貿易相手国でもある。中国への輸出額は17兆9800億円(2021年)で、アメリカへの輸出額よりも大きい。輸入金額も20兆3800億円で、どちらも全体の20%以上。輸入に関しては24%と全体の約4分の1を占め、およそ1割のアメリカの2倍以上の数字だ。
この記事を読んでいる読者の中にも今まさに直接、間接的に、中国を相手にビジネスをしている人たちが大勢いることだろう。中国とのビジネスの関係性がなくなったら経済的な損失は大きいことも、十分理解しているに違いない。
中国との問題は絶えないが、ビジネス上は今すぐお付き合いをやめるわけにはいかない。ほぼ同じタイムゾーンの中にある人口約14億3000万人を捨てるわけにはいかない。
しかも最近はいくつかのテクノロジーでは世界最先端に近くなっている。そして、現在、中国に在留する日本人は家族を含めて13万人を超える。
しかしながら、日本企業や日本のビジネスパーソンに伝えたいのは、シナリオプランニング、最低でもその頭の体操はしておくべきだということだ。「いくらわれわれ日本が望んでも、安全保障上の理由で中国とビジネスがいっさいできなくなる時代が来るかもしれない」ということだ。
加えて、もし台湾有事が中国の武力進出という形で起これば、中国に在留する13万人は人質になってしまう可能性がある。退避計画も企業と政府で練っておく必要がある。
もちろんこれは最悪の事態の想定である。もしそんなことになれば中国経済もそうとうな返り血を浴びるので中国政府として本意ではない。しかし、米中や中台のミスカリキュレーション(計算違い)から最悪の事態が起こってしまうこともあるのだ。
もちろん、日本のすぐお隣の台湾で武力衝突が起これば、日本のシーレーンも無事では済まないので、日本も台湾と並んで兵糧攻めにあってしまう可能性がある。経済的損失だけでは済まないかもしれない。
他国では代替できない中国の市場の大きさ
中国の市場の大きさは、今すぐ他国で代替できるものではない。その証拠に米中対立が深刻化しても、完全に相互のビジネス関係を断ち切ることは行っていない。しかし、武力衝突が東アジアで起こればそうは言っていられないであろう。
もちろん、だからといっていたずらに現在の中国を刺激するのは得策ではない。日本に踏み絵を迫っていたアメリカでさえも、日本に中国とのパイプ役を頼みたいという機運が高まっている。そう私はアメリカで感じた。
米中が緊張すればするほど日本が冷静にならないといけない。だが、最悪の事態は徐々にでも来ている。せめて頭の体操だけでも準備しておいたほうがいいだろう。
では中国市場を失いかねないという最悪の事態にそなえるために、中国市場を代替する国としてどこをさらに開拓すべきか? その候補として参加国を本書に挙げた。それらの国々を頻繁に訪れ自らもそれらの国々でスタートアップや不動産への投資をしている。その経験を踏まえてそれら3カ国の背景も記してあるのでぜひ本書を読んでいただきたい。
●1ドル200円時代「退職金だけで暮らすのはもう不可能」 年金制度…老後 3/22
日本人の老後を支える年金。受給開始年齢は当初の55歳から段階的に引き上げられ、現在は65歳まで上昇した。少子高齢化が進む中で受給金額の増加は望めず、負担ばかりが重くなることが予測される年金に対して、日本人、とくに若者はどのように向き合うべきなのか。プレミアム特集「株投資完全ガイド」の3回は、経営コンサルタントの小宮一慶氏に話を聞いた。「今後、人口減少や財政赤字の増加を考えると、円の価値がさらに下がっていく、200円台も決してありえない話ではないと思います」と語るが、そうなった時日本はどうなる。
政府が示す標準的な年金モデルで本当に暮らしていけない
現在、政府は標準的な年金モデルとして「会社員の夫と専業主婦の妻の世帯で月額24万円弱を支給する」と想定しています。この金額で夫婦二人、死ぬまでゆとりを持って暮らすことができると思いますか。
結論から言えば、暮らせる人もいれば暮らせない人もいます。10年前に亡くなった私の母の話をしましょう。父が亡くなってから、母は17年間ほど公務員だった父の遺族年金で過ごしました。その額は17万円ほど。決して多いとは言えませんが、大阪郊外にある小さな家で花や野菜を育てながら、悠々自適の生活を送っていました。
私に対しては、よく「あんたよりずっと心豊かでいい暮らしをしている」と自慢していたものです。遺族年金から貯金までしていました。
母の場合、自宅を持っていたことも大きいですが、それでも中にはひとりで暮らしていた場合でも「17万円では足りない」という人もいるでしょう。将来に不安を感じたときにはまず、自分の暮らしに必要な支出と老後に入ってくる収入を計算することが重要です。
一般的には、65歳以上の夫婦二人がゆとりある生活を送るためには、36万円程度が必要だと言われています。政府による標準的な年金モデルとの乖離を月13万円として計算すると、年間156万円のマイナスです。これが20年間続くとなると3120万円。少し節約して月10万円の乖離に抑えても2400万円が必要になります。
中小企業勤務者の老後は危ない……。まじで危ない!
一流企業に勤めている親が、子どもを一流企業に勤めさせたがる理由の一つが、「老後が楽になるから」です。たとえばメガバンクでは、数千万円の退職金をもらえる上、公的年金に企業年金を合わせると月額50万円ほどの年金が入ってきます。
日本航空(JAL)が経営破綻したときにも、企業年金だけで25万円支払われていることが明らかになり問題視されました。そのように充実した企業年金を受け取れる人であれば、老後もかなり気楽に暮らせますよね。
でも、大多数の人はそうはいきません。そのような企業は大企業の中でも一握りです。さらに、日本で働く人の約7割を占める中小企業では、企業年金はおろか退職金が出ない企業も少なくありません。たとえ1000万円ほどの退職金をもらったとしても、現在のような低金利では銀行に預けたところでまったく増えない。退職金だけで暮らすのは不可能と言っていいでしょう。
そのため公的年金に頼らざるを得ないのですが、そもそも年金制度がいつまでもつのかについても期待はできません。
●割安感高まる日本株、足元の株価上昇は再評価へののろしか  3/22
2023年2月以降の世界の株式相場を振り返ると、日本株や米国株が伸び悩んだのに対して、欧州株は好調な推移を見せている。例えば、英FTSE100指数は最高値を更新する場面もあった。日本や米国では金融政策への不透明感が高まったが、欧州ではインフレ沈静化への期待から、今後のさらなる金融引き締めへの懸念が和らいだことが背景にあると考えられる。
もう一つの背景として、欧州企業の堅調な業績を挙げることもできよう。日米欧の企業について、12カ月先までの1株当たり利益(EPS)の市場予想を見ると、欧州企業の見通しは底堅さを保っている。それが欧州の株高をサポートしてきたと考えられる。
ここで、日米欧の株式のバリュエーションを比較したい(図表)。企業業績と長期金利の動向を反映したイールドスプレッド(10年国債利回り−株式益回り)に基づき、日米欧の株価の割高・割安度合いを判断した。図表からは、米国株が相対的に割高な推移を続けていることが分かり、そのことが足元の株価一服に関係しているとみられる。一方、欧州株は相対的に割安に推移してきたことで、最近の欧州株買いにつながったと解釈できよう。
では、日本株はどうか。もともと、底堅い企業業績見通しという点では、日本企業も同様だ。為替が円安水準で比較的安定していることもあり、先行きの見通しは欧州とさほど遜色ないように思える。そのことを踏まえると、欧州株以上に割安感が高まっており、今後、再評価の動きが強まってきてもおかしくない状態だ。
日本株の再評価という観点で注目されるポイントは次の3点である。
一つ目は、日銀新体制の下で、金融政策の修正が緩やかに進められることによる極端な円高懸念の後退。二つ目は、コロナ対策の緩和によってインバウンドも含めた国内の経済活動の活発化への期待。三つ目は、今春の賃上げ機運の高まりだ。こうした状況が正しく認識されることで、投資家の関心が欧州株から日本株へとシフトする可能性は十分にある。
3月6日の東京市場では、日経平均株価は2万8,000円台を回復して取引を終えた。これは昨年12月半ば以来、およそ2カ月半ぶりのことだ。まさに、日本株再評価の始まりとなるかもしれない。
●金利が上がると経済はどうなる? 金融政策と生活に及ぼす影響 3/22
そもそも金利とは?
金利が高いか低いかで、多方面に影響が出ます。そもそも金利とは何か、金利が上がると経済はどうなるかを確認しておきましょう。
   金利の仕組み
金利とは、お金の貸し借りをする際に発生する手数料です。金利は常に一定ではありません。物の値段と同様、お金に対する需要と供給のバランスによって変動します。金利はお金の取引をする「金融市場」で決定されます。
金利と株価の関係 / 一般的には、金利と株価はシーソーのような関係です。金利が上がるとお金を借りにくくなるため、企業は設備投資に消極的になります。その結果、売上や利益が減って、株価が下がる傾向があるのです。逆に、金利が下がるとお金を借りやすくなり、企業は設備投資を行い積極的に事業拡大します。売上・利益が増え、株価が上がります。
金利と物価の関係 / 金利は、物価とお金の価値のバランスをとるものです。物価が上がるとお金の価値が下がり、物価が下がるとお金の価値が上がります。物価上昇時には金利が上昇し、お金の価値を上げる方向に働きます。逆に、物価下落時には金利が低下し、お金の価値が下がる方向に向かうのです。
為替と金利の関係 / 円安になった場合、海外から物を購入する際に支払う代金が増えます。輸入物価上昇に伴い国内物価も上昇傾向となり、金利が上がります。逆に、円高になった場合には物価が下落し、金利が下がるのです。
   我が国の金融政策
金融政策とは物価や経済の安定を図るための政策で、中央銀行により実施されるものです。日本の中央銀行である日本銀行(日銀)でも、世の中に出回るお金の量や金利の調整を行っています。
日銀が操作する対象となる金利を「政策金利」といい、政策金利を上げることを「利上げ」下げることを「利下げ」といいます。
長引く超低金利時代 / 日銀は1999年に「ゼロ金利政策」を導入して以降、ほぼ一貫して金融緩和策を取ってきました。金融緩和策とは、政策金利の引き下げや資金供給量の増加により景気を回復させる政策です。これにより、日本では20年以上、超低金利時代が続いています。
日銀は金融緩和策を継続 / 日銀は2022年12月、金融緩和策を一部修正し、長期金利の上限引き上げを行いました。日銀の黒田総裁は「利上げや金融引き締めではない」ことを強調しており、金融緩和策は当面維持されるものと思われます。
   金利が経済活動に与える影響
日本では超低金利の状態が続いていますが、いずれは金利が上がることが予想されます。金利が上がると、我々の生活や企業活動は大きな影響を受けるでしょう。以下、金利上昇による影響について、具体的に説明していきます。
金利が上がると住宅ローンはどうなる?
我々の生活で金利の影響が大きいものといえば、住宅ローンです。金利が上がると、住宅ローンはどうなるかを説明します。
   住宅ローン金利の決まり方
住宅ローンの金利には固定金利と変動金利があり、借入時には次の3つの金利タイプから選択できます。
金利タイプ / 特徴
全期間固定金利型 ――― 借入の金利が返済終了まで全期間にわたり一定
変動金利型 ―――  半年ごとに金利が変化するが、返済額は5年ごとに見直し
固定金利期間選択型 ―――  当初一定期間の金利を固定
変動金利の決まり方 / 住宅ローンの変動金利は、短期プライムレートに連動しています。短期プライムレートとは、金融機関が貸付期間1年以内の融資を行う際の最優遇金利のことです。短期プライムレートは日銀の政策金利に連動します。つまり、変動金利は金融政策の影響を受けやすいのが特徴です。
固定金利の決まり方 / 住宅ローンの固定金利は、代表的な長期金利である「新発10年物国債の利回り」を基準に決まります。国債の利回りに影響を与えるのは、投資家の将来予測です。つまり、住宅ローンの固定金利は、投資家の将来予測の影響を受けます。
   金利上昇でローンの返済額が増える
2022年12月に日銀が長期金利の上限を引き上げたことを受け、2023年1月、大手都市銀行は10年固定型の住宅ローン金利を引き上げました。今後日銀が短期金利を引き上げれば、変動金利も上がることが予想されます。
変動金利型・固定金利期間選択型は注意 / 住宅ローンの金利が上昇すると、トータルの返済額が増えます。既に住宅ローン契約をしている人の場合、全期間固定金利型なら影響はありません。
一方、変動金利型では返済額が増えるため、返済計画の見直しが必要になるでしょう。固定金利期間選択型でも、固定金利期間終了時点の金利水準でその後の金利が決まるため、影響を受けてしまいます。
   住宅ローン利用者が金利上昇に備えるには
変動金利型や固定金利期間選択型の住宅ローン利用者は、金利の動向に注意しておき、金利上昇への備えをしておきましょう。1つの方法として、超低金利の間に全期間固定金利型に借り換えるという選択肢も考えられます。しかし、大手銀行では既に住宅ローン固定金利の引き上げを行っており、全期間固定金利型に借り換えるメリットがなくなりつつあります。
貯蓄や繰り上げ返済を考える / 元金均等返済の場合、金利が上昇すると毎月の返済額が増えてしまいます。返済額が増えても対応できるよう、無駄な固定費を削るなど家計の見直しをしましょう。また、貯蓄を増やすことも大切です。
元利均等返済の場合にも、毎月の返済額のうち利息の割合が増え、返済総額がふくらんでしまいます。利息の負担を減らすには、繰り上げ返済が有効です。
金利が上がると企業活動はどうなる?
金利上昇は企業の活動にも大きな影響を与えます。金利が上がると企業活動がどうなるかをみてみましょう。
   設備投資がしにくくなる
企業は、金融機関などから資金調達して事業を行っています。金利が高いと、資金調達のコストが増えてしまいます。設備投資も難しくなり、積極的な事業拡大がしにくくなるでしょう。金利上昇により、企業の活動は抑制されることになります。
   利益が減少することも
企業が金利上昇後も同じ利益を得るには、コストが増大した分を価格に反映しなければなりません。しかし、実際には値上げが難しいことも多いでしょう。金利上昇コストを価格に転嫁できなければ、利益が減ってしまいます。
   金利上昇に向けた企業の対応策
金利が上昇すれば、借入金の利息負担も増える可能性があります。金利が上がる前に、借入金をできるだけ返済しておきましょう。また、金利が上がっても継続可能なビジネスモデルを構築しておくことも有効な対策です。
まとめ
金利が上がると住宅ローンの返済総額が増えるなど、我々の生活への大きな影響があります。企業においても金利によって事業活動が抑制されかねないため、金利上昇に備えた対策が必要です。金利が上がるとどうなるかを想定し、対応を考えておきましょう。
●「アメリカ人の大半は借金まみれ・だから好景気」 「円宝のもちぐされ」日本人 3/22
様々な要因によって世界的なインフレが起こり、将来の展望が正確に描けない昨今。自身の資産を守り、未来につなげていくためには、どのような行動を取ればいいのでしょうか。複眼経済塾の取締役・塾頭、エミン・ユルマズ氏が、著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から、世界経済の展望と、日本経済に潜むチャンスについて解説します。
マネタリーベース=日銀の総資産金額
マネタリーベースという言葉をご存じだろうか。
日本銀行が金融部門を含めた経済全体に供給する通貨量を集計した統計で、日銀の総資産金額のことを指す。
マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」
では、日銀の総資産はどのように変化しているのだろうか。2012年9月から2021年9月の9年間で日銀の総資産は150兆円から724兆円と4.8倍に膨らんだ。マネタリーベースではそれだけ供給されたわけである。
FRBの総資産はどうかというと、2021年12月中旬で約8兆7,000億ドル(約992兆円)と2012年12月の2兆8,600億ドルから約3倍に膨らんだ。ただしFRBの場合、2008年9月のリーマン・ショック発生時から比べると約10倍になっているので、日本よりアグレッシブに金融緩和をしているのがわかる。
同じようにベースマネーを増やしてきた日米のインフレ率に差が生じるワケ
   (1)「借金」に抵抗がない米国の国民性
みんなが疑問に思っているのは、日米がほぼ揃ってベースマネーを盛大に増やしてきたのに、なぜ、米国のみがこんなにインフレが高まって、日本のインフレ率は少し上がってきてはいるものの2%にすら至らないのか、そこだろう。
端的に示すと、国民性の違いである。ベースマネーとは日銀が銀行に供給するお金のことだ。さらに経済にとり重要なのはトータルマネー(=ブロードマネー)で、現預金通貨に譲渡性預金、信託、国債、外債などを含めた、銀行がつくっていくお金である。日銀がいくらベースマネーを増やしても、トータルマネーが増えなければインフレにはならない。
要は日本国民が優等生すぎて、ベースマネーが増えてもお金を借りなかったのだ。それどころかどんどん借金を返していった。一方、一般的な米国人はベースマネーを増やしたら、すぐに借金に走るわけだ。米国企業も同じで、お金を貯ためずに借金をする。
   (2)「借金」は一刻も早く返済したい日本の国民性
現在の局面においてもそれは変わらず、米国企業の債務は増えている。相変わらず銀行からお金を借りては、自社株買いに勤しんでいる。
かたや日本の民間企業の債務は、どんどん減り続けている。借金を返し続けている。これを経済用語では「デレバレッジ」という。つまり日本企業は1990年代のバブル崩壊以降、ずっとデレバレッジしてきて、いまも依然としてデレバレッジしている。
このような状況ではトータルマネーはさほど増えない。トータルマネーが増えるためには、市中銀行が日本企業や日本人にお金をどんどん貸し出さなければならない。信用創造でお金をつくらなければならないのだ。
この概念は理解しにくいのだが、お金をつくっているのは中央銀行ではなく、誰かの借金によって、信用創造が行われているということだ。
誰かが銀行からお金を借りると市場にお金が増え、誰かが銀行にお金を返すと市場からお金が消える
たとえば私が銀行から1,000万円借りたら、その1,000万円はそのときまで世になかったお金だから、私が1,000万円をつくったことになる。新しく1,000万円が生まれたわけだ。その1,000万円で、私が何か買い物をして消費したとき、その1,000万円は市場経済に入る。これでお金が増えたことになる。逆に私が借りた1,000万円を銀行に返すと、その1,000万円は市場から消えることになる。
つまりお金を返すとお金が死ぬ。お金を借りるとお金が生まれる。お金をつくっているのは中央銀行ではなく、市中の銀行だ。そのために市中銀行は決められた金利で、事業者や一般市民にお金を貸して、経済を回している。
要は日銀はお金を生もうとしているのだが、借金があっても構わないではないか、と性格的に思えない多くの日本国民は、お金を殺している。
いままで日本でインフレが起きなかった背景には、こうした日本人の気質が横たわっているのだ。
こんな比喩はどうだろうか。米国人や米国企業は、少しでも水道の蛇口が緩めば、すぐに口を近づけてガブ飲みしようとする。対して日本人や日本企業はそうはせず、清潔な容器を持ってきて水を入れて、後で飲もうとするわけである。
リーマン・ショックで痛手を負った米国経済の救済任務の終了が引き金となった米インフレ
ただし、ずっと量的緩和を行ってきた米国も、これまでは大したインフレにはならなかった。それがここ1年で、かなりひどくなってきた要因がある。リーマン・ショック直後、米国の銀行は無価値の不動産担保証券を大量に抱えており、稼げる資産が本当に少なかった。
それを助けたのが米連邦準備制度理事会(以下、FRB)だった。FRBが、銀行が持つ不動産担保証券を額面価格で買い上げたのだ。そのプロセスが終わるまでは、米国でインフレは発生しなかった。ところが一連のFRBによる銀行救済プロセスがようやく終わり、銀行が貸し出し攻勢に出たことがインフレに拍車をかけているわけである。
日本の場合、民間銀行が米国の銀行のようなプロセスがなかったにもかかわらず、インフレがまったく発生しなかった。米国人にしてみれば、さぞかし不思議な国に思えたのではないか。そもそも論として、米国人の大半はお金を持っていない。日本人が個人資産を多く持っているのと真逆で、米国の一般人は債務だらけと言っていい。
さまざまなローンやクレジットカード支払いに縛られており、やはりこれは日米の国民性の違いに収斂する。日本ではベースマネーを増やし、もっと消費をするよう促したのだがなかなかうまく乗ってくれなかった。大半の日本人は貯金と借金返済に回すほうを選んだ。ただし、給料は上がらなかった。
日本でなぜいまになってインフレの動きが出てきたのだろうか?
一つには日本人のメンタリティが少し変わってきたこともあるだろう。もう一つ考えられるのは、いまのインフレにはコロナ禍における供給面の問題が大きいので、それが影響している可能性が高い。
生活必需品の値上げの季節の到来
国内物価に関しては、ご存じのとおり、すでに値上げラッシュが始まっている。
企業間取引(BtoB)では、砂糖3%、(3回目)、紙15%、セメント18%、ゴム10%、建材10〜15%の値上げ。消費者向け(BtoC)では、食品のパン7〜9%、ポテトチップス6〜11%、カップ麺10%、練りもの8%の値上げとなった。
要因としては、石炭・石油などの原材料高、物流・輸送コスト高が挙げられよう。値上げで企業の業績が良くなることはない。なぜなら企業側は、これまではコスト高を無理に吸収して価格転嫁せずにいたのだが、もうその我慢も限界に達しての値上げだからである。全体的には価格を上げたことによって、その企業の売上が減るかどうかがポイントだと思う。
なぜならば日本の場合、給料が上がらないからだ。「民間企業の給料を上げろ」と政府が企業に促しているが、自分の国が民主国家であることを忘れているのではないか。私は、政府が公務員の給料を上げればいいと考えている。それがベースとなって、民間企業も賃上げを促されるようになるからだ。人材の確保の競争原理が働いて、間違いなく民間企業は公務員の賃上げレベルに合わせて賃上げをするだろう。
●攻撃続くキーウ、岸田首相の到着1時間前から駅ホームは立ち入り禁止に  3/22
岸田首相が21日に訪問したウクライナの首都キーウは、ロシア軍によるミサイルや自爆型無人機を使った攻撃が断続的に続き、連日のように空襲警報が鳴り響いている。岸田首相が到着したキーウ中心部のターミナル駅一帯は厳戒態勢が敷かれていた。
岸田首相を乗せた青い5両編成の列車は21日正午過ぎ(日本時間午後7時過ぎ)、キーウ中心部のターミナル駅の14番線に到着した。首相はスーツ姿でプラットホームに姿を現し、現地大使館職員らの出迎えを受けた。
その後、ウクライナのエミネ・ジャパロワ第1外務次官の案内で駐車場へ歩き、民間人虐殺があったキーウ近郊ブチャの視察に向かった。首相の車列を通すため、駅周辺は一部で交通規制がかかった。
駅は岸田首相が到着する前から警戒が強化され、14番線は首相到着の約1時間前から立ち入りが禁止された。多数のウクライナ軍兵士や警官が駅構内をパトロールし、岸田首相の到着直前には、プラットホーム上の兵士らが双眼鏡で上方を見上げ、狙撃兵を警戒する様子も見られた。
キーウでは昨年10月以降、ロシア軍がエネルギー施設などを狙った攻撃を展開している。今月9日には露軍がキーウなど全土に80発超のミサイルを発射し、被害を受けた。キーウ市当局によると、20日にも露軍が自爆型無人機による攻撃を仕掛け、1機を撃墜した。
一方、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)では21日も、ロシア軍とウクライナ軍の激しい攻防が続いた。
ウクライナ陸軍の司令官は、最大の激戦地になっているドネツク州の要衝バフムトで、ウクライナ軍と市内中心部に進軍しようとする露軍側が激しい戦闘を展開していることを明らかにした。露軍はドンバス地方の各地で激しい砲撃を加えているという。
●岸田首相のウクライナ訪問 “ロシア側に事前通告“ 政府関係者  3/22
岸田総理大臣のウクライナ訪問について、日本政府がロシア側に対し、事前に通告していたことが政府関係者への取材で分かりました。
岸田総理大臣は事前に日程を公表することなく、訪問先のインドを離れてポーランド経由でウクライナに入り、ゼレンスキー大統領との首脳会談などを行いました。
政府関係者によりますと、今回のウクライナ訪問について、日本政府はロシア側に対し、外交ルートを通じて事前に通告していたということです。
一方、課題となっていた岸田総理大臣の安全確保について、松野官房長官は22日の参議院予算委員会で、「ロシア軍の攻撃についての情報の入手やその情報に基づく避難など含め、ウクライナ政府が全面的に責任を負って実施した」と明らかにしました。
訪問の際の安全確保をめぐり、岸田総理大臣は現地で記者団に、「秘密の保持や危機管理、安全対策に万全を期すべく、慎重にウクライナ側と調整し、実現した。戦時下にあることから安全対策などの観点もあり、事前には厳格な情報管理を行った」と述べていました。
松野官房長官「情報管理を徹底し必要な準備行った」
松野官房長官は午後の記者会見で、「今般の訪問は厳重な保秘を前提に、ウクライナ政府などと慎重に調整を重ねたうえで、秘密保全、安全対策、危機管理面などに遺漏のないよう最適な方法を総合的に検討した。厳に限られた者に限って情報管理を徹底し、必要な準備を行った」と述べました。
ロシア政府 これまで目立った反応なし
岸田総理大臣がウクライナを訪問したことについて、ロシア政府はこれまでのところ目立った反応は示していません。
ロシア国営のタス通信は、「岸田総理大臣は、ロシアに事前に通告したかどうかは記者団に明らかにしなかった。ロシアによる特別軍事作戦の開始以来、日本の総理大臣がウクライナを訪問したのは初めてで、G7では最後の首脳となった」などと伝えています。
一方、ロシアの有力紙コメルサントは、同じ時期に首都モスクワで中国の習近平国家主席とプーチン大統領の首脳会談が行われていたことに言及したうえで、「日本の総理大臣のウクライナ訪問は、日本政府がウクライナを支援する姿勢を示すうえで、部外者でないことに重みや象徴性を持たせようとしたのだろう」と論評しています。
●岸田首相 ポーランド首相と会談 ODA通じてポーランド支援示す  3/22
ウクライナに続き、隣国ポーランドを訪れた岸田総理大臣は、モラウィエツキ首相と会談しました。会談後、岸田総理大臣は人道支援などの拠点となっているポーランドの負担も増しているとして、ODAを通じて支えていく意向を示しました。
ウクライナ訪問を終えた岸田総理大臣は、日本時間の22日午後、隣国ポーランドの首都ワルシャワに移り、モラウィエツキ首相と首脳会談を行いました。
この中で両首脳は、引き続き、ウクライナ支援で両国が緊密に連携していくことを確認しました。
このあと、岸田総理大臣は共同記者発表で、ポーランドが、ウクライナへの人道支援や軍事支援の拠点として、最前線で大きな役割を果たしていることに敬意と感謝の意を示しました。
そして、侵攻の長期化により、ポーランドの負担も増えているとして、ODA=政府開発援助を通じて支えていく意向を示しました。
そのうえで「ロシアのウクライナ侵略を一刻も早く止めるには、厳しい対ロ制裁の継続が重要だ。国際社会が結束してウクライナを支えられるよう、ことしのG7議長国として、ポーランドとも連携しながらリーダーシップを発揮していきたい」と述べました。
岸田総理大臣は、日本時間の22日夜、一連の日程を終えて現地をたち、23日朝、日本に帰国する予定です。
ポーランド首相「岸田首相のキーウ訪問に謝意表したい」
ポーランドのモラウィエツキ首相は、岸田総理大臣との共同記者発表で、「岸田総理大臣のキーウ訪問は、ウクライナの主権と領土の一体性、そして自由と民主主義の防衛に対する明確な支援の証拠であり、謝意を表したい」と述べました。
そして、「新たな地政学的な環境が両国の目の前に生まれつつあり、日本とポーランドのように平和や安定、自由について考えを同じくする国が緊密に連携する必要がある」と述べ、ロシアのウクライナ侵攻への対応などで日本と連携を強化したい考えを示しました。
また、中国の習近平国家主席がロシアを訪問したことについて、「中国の動きを懸念している。両国の連携は危険でありわれわれは中国にロシアを支援しないよう呼びかける」と述べました。
●米政府、岸田首相のウクライナ訪問評価 「支援する世界的リーダー」 3/22
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は21日の記者会見で、岸田文雄首相のウクライナ訪問について「日本が国際社会とともにウクライナを支援するために力強く立ち上がっていることを改めて示した」と評価した。サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)もツイッターで「日本は主要7カ国(G7)の今年の議長国であり、ロシアの残忍で不法な侵略に抵抗するウクライナを支援する世界的なリーダーだ」とたたえた。
米メディアは、中国の習近平国家主席のロシア訪問と同じタイミングで、岸田氏がウクライナを訪問したことに着目し、「東アジアの隣国は、競うように支援の姿勢を表した」(ニューヨーク・タイムズ紙)、「ウクライナでの戦争に関して、北東アジアでの深い分断が強調された」(CNN)などと伝えた。
●総務省担当者「原案作成の認識ある」 放送法文書で追加調査報告 3/22
総務省は22日午前、放送法が定める政治的公平性に関する内部文書を巡り、追加の調査結果を参院予算委員会理事懇談会に提出した。当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が「捏造(ねつぞう)」と主張する2015年2月13日の「大臣レク(説明)」の記録について、担当者が「原案を作成した認識はある」「(部下に)作成してもらった記憶がある」と証言した。
●総務省、文書捏造なかったと結論 放送法「安倍氏に説明」 3/22
総務省は22日、放送法の「政治的公平」の解釈を巡る行政文書について最終的な調査結果を発表し、捏造があったとは「考えていない」との見解を示した。2015年に、担当局長が当時の高市早苗総務相に対し、政治的公平の解釈を説明したとの記載がある文書に関し、放送に絡む何らかの「レクがあった可能性が高い」と指摘した。ただ、高市氏の15年の国会答弁前に解釈に関連する説明をしたかどうかは確認できなかったと結論付けた。
調査結果では、礒崎陽輔元首相補佐官が「(政治的公平の解釈を巡る)この問題について、安倍晋三元首相にレクをした事実はある」と証言したことを明らかにした。
●「信頼に足る文書ではない」と高市氏 3/22
高市経済安全保障担当相は参院予算委理事懇談会に、自身の関与が記された総務省の4枚の行政文書について「内容が正確ではなく、信頼に足る文書ではない」と全面否定する書面を提出した。
●放送法「官邸圧力」かすむ論戦 高市氏発言で論点拡散 3/22
放送法が定める政治的公平性に関する総務省文書を巡り、国会の議論が深まりを欠いている。
高市早苗経済安全保障担当相が文書を「捏造(ねつぞう)」と断言し、自身が誤りなら閣僚・議員を辞職すると表明。首相官邸の圧力の有無ではなく、文書が正確か否かに論戦が集中しているためだ。
「もう潔く辞職すべきだ。いまさら正確性の議論なんかしていてはいけない」。文書を最初に入手した立憲民主党の小西洋之氏は20日の参院予算委員会で、政治的公平性の議論に進めないことにいら立ちを隠さなかった。
総務省は従来、政治的公平性について「番組全体を見て判断する」と解釈してきたが、高市氏は総務相時代の2015年5月の国会答弁で「一つの番組でも判断できる」との解釈を追加。文書には14年11月から礒崎陽輔首相補佐官(当時)が解釈見直しを総務省に働き掛け、安倍晋三首相(同)が了承した経過が記されている。
総務省が行政文書と認めた78枚のうち、高市氏が捏造だと主張するのは4枚。中でも国会の議論は、15年2月13日の「大臣レク(説明)」で高市氏が礒崎氏と総務省のやりとりについて報告を受けたと記された1枚の真偽に集中している。
高市氏は答弁を徐々に後退させている。2月のレクについて当初は「受けたはずもない」と明言していたが、先週には「NHK予算に関するレクは受けた可能性はあり得る」と述べた。
それでも「捏造」の主張は譲らない。調査を進める総務省は20日の予算委で、2月のレクで説明に当たった当時の情報流通行政局長ら職員3人が「捏造の認識はない」と話したと説明。しかし高市氏は閣僚辞任を迫られると、当時の大臣室の職員2人が「レクがあったとは思わない」「記憶がない」と語ったとして、応じなかった。
こうした議論のあおりを受け、立民が本丸と位置付ける官邸の圧力や放送法の解釈に関する議論は進まない。高市氏を巡る論争に決着をつけるため、立民は礒崎氏ら関係者の参考人招致を要求。しかし、要求実現のカードになる審議拒否は控えており、与党は応じていない。
23年度予算案は遅くとも来週成立する。予算委が終われば政府追及の場が少なくなるため、立民は「予算委でどこまで追及できるかが勝負だ」(国対幹部)と焦りを募らせる。立民は20日、総務省に対し、政府内調査の「最終報告」を22日に提示するよう要求した。  
●物価対策、予備費乱用の恐れも 統一地方選控え、ばらまき色 3/22
政府は22日、物価高騰に対する追加策を決定した。2022年度の予備費を活用し、低所得世帯に3万円を給付することが柱。4月には統一地方選や衆参補欠選を控える。ばらまき色を帯びた駆け込み的な「予備費の乱用」とも言え、財政規律の在り方が問われそうだ。
予備費は予算編成段階で想定できない事態に備えるもので、国会の審議を経ずに政府の判断で使用できる。新型コロナウイルス対策や物価高への対応を理由に異例の規模に拡大しており、22年度は当初予算と補正で累計11兆7600億円を予算計上した。
国会で野党は「巨額な予備費(計上)を続けることは国会軽視だ」(日本維新の会)と追及。政府は「事後に国会の承諾を得る必要がある」(岸田文雄首相)として、問題ないと説明している。
政府は今回の追加対策で、地方自治体が地域の実情に応じて使用できる「地方創生臨時交付金」を1兆2000億円積み増した。コロナ対策をきっかけに創設された同交付金を巡っては、会計検査院の調査で、適切に使われていない事例も指摘されている。
20年度に実施された交付金事業では、水道料金などの減免で、対象外の警察署や刑務所など公的機関への減免が計1億1616万円に上ることが判明。一橋大学の佐藤主光教授は「今回措置された交付金がきちんと物価高対策に使われているのか、使途や効果について検証が求められる」と指摘する。
●ITで世界から注目の高崎義一さん 震災きっかけで波乱の転身 3/22
情報通信やデジタル技術の社会応用で、日本は他の先進国に後れをとっているといわれる。そんな中、20を超す国から「情報技術(IT)の活用アイデアを聞かせてほしい」と引っ張りだこのIT企業創業者がいる。日本のほか米英、インド、サウジアラビア、シンガポールの5カ国に現地法人「ドレミング」を構える高崎義一さん(65)だ。高校卒業後、40歳まで建築作業員や板前、ハンバーガーチェーン店の店長といった仕事に就いていた高崎さんが、なぜ、ITの世界で名をなしたのか。そこには波乱に満ちた半生があった。

高崎さんは2022年秋にインド第3位の銀行やインド工科大学と契約し、23年給料をスマートフォンに直接入金する実証実験に乗り出す。
インドや途上国の多くには給料から所得税などを天引きする源泉徴収制度がない。脱税が横行し、政府は常にインフラ投資などの財源に悩んでいる。
現金経済は強盗や汚職といった多くの犯罪の温床にもなっている。インド政府は日本でいえば5000円札や1万円札に当たる高額紙幣の発行を16年にやめ、電子マネー(デジタル通貨)への切り替えを進めようとしている。
そこで、高崎さんらが日本で開発したスマホによる勤怠管理・給料即時払いシステムを普及させる計画なのだ。
インドでは、維持にお金のかかる銀行口座は持っていない人が大勢いる。5年ほど前の世界銀行の調査では世界で17億人もの成人が口座を持っていなかった。途上国で給料の現金払いをやめられない一因だが、そうした人でも仕事探しに欠かせないスマホは持っている。
「ならばスマホに電子マネーで給料を払い込み、所得税や決済時の消費税を自動徴収すればいい。失業対策の財源ができる」と高崎さん。
汗かく人を正当に扱うシステムに
しかし、それでは手取りが減って嫌がられるのではないか。
「給料日まで待たなくても、求めればその日までの分はすぐに振り込まれるようにする。電子化した人は銀行から少額貸し付けも受けられるようにし、真面目に納税して借金を返済すれば、次の借り入れで優遇され、より待遇のいい仕事が紹介されるシステムを作りたい」
「インドでは約60%が非正規労働者だ。シャベルのような道具もろくにない。少額貸し付けで必要な道具を買えばそれだけで生産性が上がる。どんな道具があれば、どのぐらいの所得増につながるかといった貴重なデータも得られる。真面目に働く人たちの生活向上につなげたい」
アイデアは泉のように湧き、尽きることがない。
その原点は意外なところにあった。1995年1月17日未明に起きた阪神・淡路大震災だ。
「ゴーッ」。ものすごい轟音(ごうおん)と揺れで目が覚めた。テレビが窓を突き破って、家の外に飛び出していた。あわてて妻と幼い子ども2人に「逃げるぞ」と声をかけた。
外に出ると、目の前にあった山陽新幹線の高架が崩れかけていた。
「ここも危ない」。倒壊した家々から家族の名前を呼ぶ声が聞こえるなか、歩いて5分の山陽新幹線記念公園まで逃げた。
やがて神戸方面が大火災で赤く染まっていった。大惨事なのにパトカーや救急車のサイレンも聞こえない。現実離れした静寂の世界だった。
阪神大震災、常連客の死で決意
当時、高崎さんはハンバーガーチェーン「モスバーガー」で西宮、芦屋、神戸に3店を構えるオーナー店長だった。西宮店のすぐ裏に住んでいた。「笑顔であいさつしよう」「お客さんの名前を覚えよう」と、10年励んだ板前時代のノウハウを店員に徹底させた。本部の覆面調査で接客が高く評価され、何度も表彰を受けた。
「ご夫婦とおばあさんで来られる常連さんがいた。その家が倒壊し、みなさん亡くなった。たまたま、ご遺体がトラックに積まれる現場に居合わせ、衝撃を受けた」
自分は生かされている。この命は困っている人のため、社会をよくするために使おう。そう心に決めた。
震災の打撃をしのごうと、電機メーカー出身の近隣オーナーと開発して使っていた勤怠管理PCソフトの販売を始めた。
38歳で初めてネクタイを締め、営業に回った。アルバイトのシフト変更が簡単に反映できるなど、かゆいところに手が届くソフトは評判がよく、オーナー店長の仲間たちが買って支援してくれた。立ち上げた販売会社に「キズナジャパン」と名付けた。
震災の緊急融資も受けたが、2年経っても返済どころではなかった。店周辺の人口が激減し、赤字は膨らむ一方だった。店の修繕費で3000万円も借金が増えた。差し押さえとなると、銀行口座を開けなくなり、新たに就職もできなくなる。一家心中も頭をよぎったが、すべての店を手放してキズナジャパンを中心にして出直すことにした。
そこからがすごい。
PCソフト全盛の時代に「OS(基本ソフト)のバージョンアップのたびに対応するのは大変だ。データをネットワークで送って1カ所で処理して結果を返すサービスができないか」。今でいうクラウド型サービスを思いついた。
「無理」と20社以上に断られても「やってみよう」と言ってくれる事業者に行きあうまで探し歩いた。
ソフトの改良も重ねた。プログラミングはできる人に任せたが、「PCが使えない人でも使えるものに」「この画面から給料画面に移れるようにしてほしい」と徹底して使う立場から注文を出したのも、板前でしみついた顧客第一主義からだった。
JR東社長談判で軌道にのるも……
JR東日本がICカード「Suica」を準備していると新聞で読むと、すぐに当時の松田昌士社長に手紙を出した。
「銀行の夜間金庫が減り、売り上げを店内に保管する店が次々に盗難に遭っている。現金に代わり、Suicaによる決済が普及すれば、業界の救世主になる」
紹介されて会ったJR東日本情報システムの社長には「退勤した瞬間にSuicaに今日の給料の手取り額をチャージし、すぐ買い物できるようにしてあげたい」と、現在のシステムのもとになるアイデアを話した。
JR東日本との提携をきっかけに事業は軌道にのり、2001年には開発費だけで2億円以上かけた日本初のクラウド型人事管理サービスが完成した。
その時、米国で同時多発テロが起きた。増資中止で資金繰りに行き詰まり、資金調達にかけずり回る毎日になった。
幸い、サービスが民間の「ソフト化大賞」を受けたことで信頼が戻り窮地を脱したが、その後も波乱は続いた。
労働者から手数料をとらない「給与のいつでも払いシステム」でネットカフェ難民を助けようとすると、前借りした労働者から手数料をとっていた大手銀行から貸しはがしを受けた。
14年に米国であったITベンチャーによる発表会で自らの構想とシステムを披露すると、「難民対策に使える」と、英国をはじめ各国政府からの招きが殺到。各国政府や世界銀行、国連の首脳と会談を重ね、現金離れと金融工学の可能性を話し合ってきた。
19年に12カ国を回ったところで、今度は新型コロナが立ちはだかった。最も話が進んでいたインドは、日本に一時帰国している間に渡航できなくなり、22年に2年ぶりに戻るとアパートはゴキブリのすみかになっていた。
3年間ほとんど棒に振ったにもかかわらず、やる気がみなぎっている。
「日本では構想に賛同する人がいても、いっこうに進展しない。よく聞くと『話が大きすぎて』ということのようだ。海外では『自分も一役買いたい』と人やお金が集まってくるのだが」
「私は多くの日本企業が尻込みする途上国でも実際現地に行って、人々の生活から何が必要とされているか見るようにしている。考えるだけでなく、あきらめずに行動すれば必ず突破できる。高度経済成長期に日本が学んだ経験を生かし、現地の人たちが中心になって事業をすればきっとうまくいく」
●放送法「官邸圧力」かすむ論戦 高市氏発言で論点拡散 3/22
放送法が定める政治的公平性に関する総務省文書を巡り、国会の議論が深まりを欠いている。
高市早苗経済安全保障担当相が文書を「捏造(ねつぞう)」と断言し、自身が誤りなら閣僚・議員を辞職すると表明。首相官邸の圧力の有無ではなく、文書が正確か否かに論戦が集中しているためだ。
「もう潔く辞職すべきだ。いまさら正確性の議論なんかしていてはいけない」。文書を最初に入手した立憲民主党の小西洋之氏は20日の参院予算委員会で、政治的公平性の議論に進めないことにいら立ちを隠さなかった。
総務省は従来、政治的公平性について「番組全体を見て判断する」と解釈してきたが、高市氏は総務相時代の2015年5月の国会答弁で「一つの番組でも判断できる」との解釈を追加。文書には14年11月から礒崎陽輔首相補佐官(当時)が解釈見直しを総務省に働き掛け、安倍晋三首相(同)が了承した経過が記されている。
総務省が行政文書と認めた78枚のうち、高市氏が捏造だと主張するのは4枚。中でも国会の議論は、15年2月13日の「大臣レク(説明)」で高市氏が礒崎氏と総務省のやりとりについて報告を受けたと記された1枚の真偽に集中している。
高市氏は答弁を徐々に後退させている。2月のレクについて当初は「受けたはずもない」と明言していたが、先週には「NHK予算に関するレクは受けた可能性はあり得る」と述べた。
それでも「捏造」の主張は譲らない。調査を進める総務省は20日の予算委で、2月のレクで説明に当たった当時の情報流通行政局長ら職員3人が「捏造の認識はない」と話したと説明。しかし高市氏は閣僚辞任を迫られると、当時の大臣室の職員2人が「レクがあったとは思わない」「記憶がない」と語ったとして、応じなかった。
こうした議論のあおりを受け、立民が本丸と位置付ける官邸の圧力や放送法の解釈に関する議論は進まない。高市氏を巡る論争に決着をつけるため、立民は礒崎氏ら関係者の参考人招致を要求。しかし、要求実現のカードになる審議拒否は控えており、与党は応じていない。
23年度予算案は遅くとも来週成立する。予算委が終われば政府追及の場が少なくなるため、立民は「予算委でどこまで追及できるかが勝負だ」(国対幹部)と焦りを募らせる。立民は20日、総務省に対し、政府内調査の「最終報告」を22日に提示するよう要求した。 

 

●なぜ日本の自動車事故は「アクセルの踏み間違い」が多いのか…本当の理由 3/23
自動車事故が起きると、ドライバーによる運転ミスが認定されるケースが多い。弁護士の郷原信郎さんは「この現状はもっと疑ってかかるべきだ。日本は事故の原因究明に関するシステムがあまりに貧弱で、たとえ車両に不具合があっても立証される可能性は極めて低い」という――。
事故原因の「真相」は正しく解明されているのか
交通事故の原因には、加害者、被害者の不注意・過失という人的要因と、事故車両の不具合という物的要因の両面がある。前者の人的要因に関しては、警察による事故現場の検証と当事者からの聴取などによって事故原因の特定が可能だ。しかし、運転者側の訴えで「自動車の不具合」という要素が加わる場合、事故原因の特定は様相が異なる。
このような事故においても、警察が行う自動車運転過失致死傷罪の刑事事件の捜査によって、事故原因の「真相」が正しく解明されていると言えるのだろうか。
戦前や戦後間もない頃であれば、自動車の性能に問題があり、自動車の不具合によって事故が起きることも珍しくはなかった。その頃は、交通事故が発生したときには、人的原因と車両の側の要因の両面から事故原因の究明が行われていたはずだ。
しかし、車の不具合が原因で事故が起きたとしても、運転者には、運転前の点検が義務付けられているので、そのような不具合のある自動車を運転したことについて運転者の過失は否定できないのが原則だった。
その後、自動車の性能が飛躍的に進歩し、車の不具合によって起きる事故は殆どなくなり、基本的に事故原因は人的要因だけを考えれば足りるようになった。
もし、車載コンピューターにバグが発生したら…
しかし、最近の自動車の多くは、コンピューター制御が導入されており、もし、その制御自体に不具合が発生した場合には、運転者側の点検でその不具合を事前に知ることも、事故を防止することも困難だ(二〇二四年一〇月から、こうした“目に見えない故障”について、車検でOBD〈On Board Diagnostics、車載式故障診断装置〉診断を義務化し、車載の電子制御装置の一定の故障を検出した車の車検を不合格にできるようになる予定であるが、全部の不具合を診断できるわけでも、走行中のリアルタイムでの故障を診断できる訳でもない)。
実際に、コンピューターにバグが発生することを完全に防止することはできないし、いつ問題が起きるかもわからない。運転手が事故直後から「車の不具合」を主張して過失を否定している場合も、日本では、警察が製造メーカーに事故車両に持ち込んでその不具合の有無を検証させるのが通例だ。
仮にコンピューターによるバグが原因の暴走だった場合、その痕跡(こんせき)は事故車両のコンピューターの内部にしか残らない。
製造メーカーに事故車両を検証させていいのか
事故車両を製造したメーカーに持ち込まれて検証が行われた場合、もしバグが原因であれば莫大(ばくだい)な損失を負うことになる製造メーカーが、車のコンピューター上に残されたバグの痕跡を正しく客観的に分析・保存するだろうか。近時、自動車へのEDR(Data Recorder)事故情報記録装置)の普及、義務化などが進んでおり、一定範囲では客観的な記録の保存が進んでいるが、すべての事故原因に関するデータとなると、実際のところ難しいだろう。
警察は製造メーカーの検証結果に基づき、「車には不具合はなかった」とする方向で証拠を固めてしまう。検察も、警察が特定した事故原因に基づいて、自動車運転過失致死傷罪で起訴することになる。
「加害者」とされた運転者は、「車の不具合」を訴えると遺族からの強烈な反発・憎悪に晒(さら)されることになる。尊い肉親を一瞬のうちに事故で失った遺族にとって、加害者は憎んでも憎み足りない存在だ。「車の不具合が原因で自動車メーカーが加害者」ということが証明されれば別だが、そうでない限り、運転者が罪を免れることは社会的には許容される余地はない。
多くが「アクセルの踏み間違い」と認定されている
しかし、現在の日本の交通事故の原因解明のシステムでは、もし、真の事故原因が自動車の不具合だったとしても、それが立証される可能性は極めて低いというのが実情だ。
実際に、自動車の暴走による死傷事故で、運転者が、一貫して「車に電子系統の異常が起き、ブレーキが効かなくなった。アクセルを踏んでいないのに加速した」と、自動車の不具合を主張したが、捜査の結果、暴走原因は「アクセルペダルの踏み間違い」と認定され、有罪判決を受ける、という事例は、これまでにも、相当数発生している。
それらの事故の真の原因がどうであったのか、本当に「車の不具合」であるのか否かはわからない。しかし、一般的に言えば、自動車のコンピューター制御にはバグの可能性はゼロではない。客観的には、車の不具合による事故である可能性も決してないわけではない。問題は、警察の交通事故捜査において、そのようなコンピューターのバグによるものを含め車両の不具合の有無が、客観的に解明されていると言えるかである。
「お上が正しく判断してくれる」という考えが根強い
組織の意思決定や判断において、「当事者間の行為が、一方の立場では利益になるものの、他の立場では不利益になること」という利益相反の排除は、組織のコンプライアンスにおける最重要の要素である。しかし、「お上があらゆることを正しく判断してくれる」という考え方が根強い日本の社会で特に公的機関の判断に関しては、「利益相反の排除」の重要性の認識が乏しい。
そのため、客観的、中立的に行われるべき調査や検証等に、利害関係を有する人、機関が関わり、重要な役割を果たすことも珍しくない。
運転者側が「自動車の不具合」を訴えている場合も、その事故車両を、事故の当事者とも言える製造メーカー側に持ち込んで検証を行うことの利益相反が問題にされることはほとんどなく、むしろ、「当該車両のことを最もよく知る製造メーカーによる検証であること」で、検証結果が信頼される場合が多い。
警察にとっては、予算面の制約もある。製造メーカーであれば、その責任上、警察からの依頼に無償で応じてくれるが、それ以外で自動車の不具合の検証をしようとすれば、相応の費用がかかる。そこでは、車の不具合が事故原因であった場合に重大な責任が生じることになる製造メーカー側による検証の客観性の問題は無視される。
運転者側が「車両が原因」を立証するのは極めて困難
例えば二〇一九年に東京・池袋で起きた旧通産省工業技術院元院長、飯塚(いいづか)幸三(こうぞう)氏のプリウスでの事故、二〇一八年に起きた元名古屋高検検事長の石川(いしかわ)達紘(たつひろ)氏のレクサス暴走による事故は、仮に、運転者側の主張が正しかったとすれば、車のコンピューターの誤作動か何かの原因で、突然アクセルがかかった状態になったことになる。
その場合、運転者側の供述を裏付ける情報があるとすれば自動車のコンピューターの中だ。それを、事故時の状態のまま保存し、運転者側の主張を裏付けるようなデータがあるかどうかの確認をすることをその車両を製造したメーカーによる検証に期待することに問題はないのだろうか。
運転者側が、コンピューターの作動上の問題に関連する「車の不具合」の可能性を主張して過失を否定しても、警察の交通事故捜査は、事故原因が車両の方にあったと結論づける方向で行われることはほとんどない。
運転者側が、自らの過失を否定するための立証を行うためには、弁護側の依頼による専門家の検証を行うしかない。それは、費用面からも、一般的には、極めて困難だ。
警察の事故原因の特定を、運転手側が否定し、車両の不具合を正面から主張する場合、自動車運転過失致死傷罪についての刑事事件の裁判という司法の場で、警察の事故原因の特定を前提とする検察官の主張と過失を否定する運転手側の主張とが正面からぶつかり合うことになる。
加害者がつくり出された「白老バス事故」
では、刑事裁判に「最後の救済」を託すことができるかというと、それも難しい。日本の刑事裁判では、「疑わしきは被告人の利益に」という原則が守られているとは言い難く、検察官の主張どおり有罪判決が出される可能性が高い。
こうして、自動車の不具合による暴走事故の「被害者」であったとしても、自らの運転の誤りによって人を死傷させた犯罪者として裁かれ、刑罰に処せられるということも、現実に起こり得ないわけではないのである。
二〇一三年八月に北海道白老町(しらおいちょう)の高速道路で発生した大型バス事故では、事故直後から、運転手が一貫して「突然ハンドルが操作不能に陥った」として自己の過失を否定し、自動車の不具合が事故原因だと主張していたのに、全く聞き入れられず、運転手が自動車運転過失致死傷罪で起訴された。
警察の事故原因の特定は、事故直後に、事故車両の製造メーカーの「三菱ふそう」の系列ディーラーの整備工場に事故車両を持ち込んで行われた検証の結果に基づくものだった。
「事故原因は車両にはない」から一転、無罪に
刑事裁判では、検察官は、「ハンドルの動力をタイヤに伝える部品に腐食破断が認められるが、走行に与える影響は、全くないか軽微なものに過ぎないから、事故原因は車両にはない」と主張したが、その後、弁護側鑑定など、真の事故原因を明らかにする弁護活動が行われた結果、運転手の主張が正しかったことが明らかになり、「事故原因は車両にある。運転手には過失はない」とする一審無罪判決が言い渡されて確定した。
この件については事故後の車両の検証結果に沿う証言を行った三菱ふそうの従業員の虚偽供述のために不当に起訴されたとして同社に損害賠償を求める民事訴訟、検察官の不当な起訴に対する国家賠償請求訴訟なども提起された。
この事故の刑事裁判の過程で事故原因が車両の側にあることが明らかになったことを受け、二〇一六年七月には、国交省が、事故車両と同型のバスで「車体下部が腐食しハンドル操作ができなくなる恐れがある」として使用者に点検を促し、その結果一万三六三七台中八〇五台で腐食があることが分かった。二〇一七年一月に、八〇五台について「整備完了まで運行を停止」するよう指示が出され、三菱ふそうは、同年二月にリコールを届け出た。
被害者なのに加害者になってしまう恐ろしさ
日本では、重大な交通事故も含め、事故の原因究明に関するシステムが、あまりに貧弱であり、しかも、その原因究明を製造メーカー等の当事者から切り離して行うという原則すら確立されていない。
警察の事故原因の特定に基づき運転手の過失で起訴された後に、刑事裁判で、事故車両の不具合が真の原因であったことが判明した白老バス事故と同様に、二〇一六年一月一五日に発生した軽井沢バス事故でも、運転手の操作ミスを前提にバス運行会社の社長らの刑事責任が問われていることに多くの疑問があり、自動車の不具合の可能性も否定できない。
これらの事故についてこれまで指摘してきたことからすると、日本でのバス事故の原因究明と責任追及の在り方は、制度上大きな問題があると言わざるを得ない。
警察の事故原因の特定が誤っていた場合、自動車運転過失致死傷罪に問われる運転手にとっては、「被害者なのに加害者として非難される冤罪(えんざい)」となる。白老バス事故の場合がまさにそうである。しかし、実際に、その冤罪を晴らすことが容易ではないことはすでに述べた通りだ。
それに加え、もう一つ重要なことは、貸切バス事故のような社会的影響の大きな事故で、真の事故原因が明らかにならなかった場合、それによって同種事故の再発防止に向けての重要な視点が欠落することになるということだ。
規制緩和で、古い車齢のバスが使い放題に
軽井沢バス事故についての再発防止策は、「運転未熟のために操作を誤り、ニュートラルで走行したために、速度が制御できない状況となり、事故に至った」という人的事故原因を前提に、「安全対策装置の導入促進」のほか、運転者の選任、健康診断、適性診断及び運転者への指導監督の徹底など、運転手の運転技能、運転適性の確保を中心とする対策を講じるものだった。
しかし、もし、事故原因が車両の方にもあった場合には、再発防止策は大きく異なり、車両自体の危険性への対策を含むものになっていたはずだ。
車両自体の危険性に関して見過ごすことができないのは、バスの「車齢」の問題である。軽井沢バス事故の事故車両は、二〇〇二年登録で車齢一三年、部品の腐食破断が原因とされた白老バス事故の事故車両は、一九九四年登録で、事故時の車齢は一九年だった。
過去、貸切バス事業が免許制であった時代には、新規許可時の使用車両の車齢は、法定耐用年数(五年)以内とされており、少なくとも最初から古い車齢のバスを使用することは規制されていたが、二〇〇〇年法改正による規制緩和で、車齢の規制は撤廃された。古い車齢のバスも自由に使用できることになった。
車齢が古いバスの事故は相当数ある可能性がある
本件事故を受けて設置された「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」でも、「古い車両を安価で購入し、安全確保を疎(おろそ)かにしている事業者がいる」との指摘を受けて、車齢制限の復活も検討されたが、同委員会に提出された資料によると車齢と事故件数の相関関係が認められないことなどから、車齢の制限は見送られた。
しかし、この時の対策委員会の資料は、「貸切バスの乗務員に起因する重大事故」とバスの車齢の相関関係を見たものであり、車両の不具合や整備不良等による事故と車齢との関係を検討したものではない。
白老バス事故に関連して、同様の部品の腐食破断による事故が多数発生していたことが明らかになり、リコールが行われたことから考えても、表面化していない、車両に起因するバス事故が相当数ある可能性がある。軽井沢バス事故も、一三年という、かつての法定耐用年数を大幅に超える車両で起きた事故だった。
この事故で、仮に、車両の不具合が原因の事故である可能性が指摘されていれば、「車齢の長いバスの車両の不具合による危険」の問題も取り上げられ、車齢と車両の不具合に起因する事故の相関関係についても検討され、そもそも、二〇〇〇年の規制緩和における車齢規制の撤廃が適切だったのか、という議論にもなっていた可能性がある。
旅行需要の増大で事故が増える危険も
コロナ禍での需要の急減によって苦境に喘(あえ)いできた観光・旅行業界にとって、外国人旅行者の受け入れ再開後に、需要が増大すれば、これまでの収入減を取り戻すべく、「背に腹は代えられない」ということで、安全対策を疎かにしても、収益確保を優先する事業者が出てくる可能性も十分にある。
その際、車齢の長いバスも大量に使用され、必然的に、車両の不具合による事故の危険が高まることが懸念される。
重大な被害が発生した事故について、車両の問題も含めた事故原因を客観的に究明することは、単に、運転者に謂(いわ)れのない刑事責任を負わせることを防止することだけにとどまらない。真の事故原因に基づく事故防止、安全対策という面で社会全体にとっても極めて意義が大きいのである。
●日本は個人資産2,000兆円…うち11%が市場に 「ほとんどタンス預金?」 3/23
様々な要因によって世界的なインフレが起こり、将来の展望が正確に描けない昨今。自身の資産を守り、未来につなげていくためには、どのような行動を取ればいいのでしょうか。複眼経済塾の取締役・塾頭、エミン・ユルマズ氏が、著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から、世界経済の展望と、日本経済に潜むチャンスについて解説します。
日本を襲う未曽有のインフレが市場を圧迫
このところ日本株の動きが冴えないし、チャートの形が悪い。経験上、このような場合には、企業業績やコメントには見えない何か悪い要素を市場が検知し、株価に織り込んでいる場合が多い。
前の菅政権による携帯料金の値下げがなければ、日本のインフレ率は1.6%になっていたと、新聞各紙が書き立てている。
企業はそんなにすぐには最終商品の値上げはできないから、いまのように円安で輸入コストが上昇すれば利益が圧迫される。円安で喜んでいる企業もあるにはあるが、今回の円安は多くの日本企業にとって、あまり良い円安ではないと思われる。
その影響が出ていて、結果的に業績悪化、利益圧迫を嫌がって、株価が下がっているのではないか。そしてもう一つは岸田政権がマーケットから好かれていないことが、株価下落をもたらしているということだ。岸田政権発足以来の月足チャートがきわめて悪いのが、その証左といえる。
市場の信頼を損ねた岸田首相の「日和見発言」
岸田政権が自社株買いを制限しようとしたり、金融所得増税をしようとしたのを見て、彼は、あまりマーケットフレンドリーな政治リーダーではないと、市場は判断したのだろう。それが日本株の動きに反映している。
市場が岸田首相を嫌っているのは、日経平均に如実に表れている。前首相の菅氏が退陣を表明、総裁選が行われることが決まったとき、日経平均は高値を付けた。下げ出したのは、総裁選前に最有力候補と見なされた岸田氏が金融所得増税を導入する構想を示してからだった。
市場のあまりに悪い反応に岸田氏は、発言を慌てて撤回、「いま直に金融所得増税をするわけではない」と二枚舌を使ったことから、市場の信頼をおおいに損ねてしまった。以降、菅前首相が辞任発表の日に付けた日経平均の高値には戻らなかった。
「結局、岸田首相は金融所得増税を導入するのではないか」とするマーケットの疑心暗鬼は収まらず、岸田首相はまたも前言を翻した。さらには「自社株買いに制限をかける」と発言し、再び日経平均を下げてしまった。こうした経緯は日経平均を月足で見ると、本当にわかりやすい。
菅前首相のときも大きな下向線は出ていたが、それはデルタ株絡みで、菅氏の発言そのものが下げ要因になったのではない。ところが岸田首相の場合、コロナの状況が良くなっているのに、日経平均が下がっているわけで、本来はおかしな話なのだ。岸田首相は財務省に傾斜しているのではないか。
市場としては、そんな印象を抱いてしまったのだろう。この首相の下では、株式投資を難しくしてしまうリスクがあるのではないかと。そうなるとますます、米国株に比べると日本株の魅力が薄れてしまうわけである。円安にもかかわらず、日経平均が下がっているということは、ドルベースにおいてはさらに大きく下がっている。海外の投資家も岸田首相のことをかなり研究しているようだ。
聞くところでは、岸田政権は財務省のアドバイスをよく聞いているのか、どうも緊縮財政をやりそうな気配だと感じ取っている向きがかなり多い。「子育て世帯への臨時特例給付金」の話もややこしかった。これについても、無駄にややこしくしているとしか思えないフシがあった。18歳以下の子どものいる全世帯に10万円をそのまま配ればよかったのだ。そこに960万円という年収の壁を設けたりした。
私は、子どもに渡すお金なのだから、親の収入は関係ないはずで、矛盾していると思った次第である。このあたりも微妙に、岸田首相はマーケットフレンドリーではないと、市場に捉えられたのではないだろうか。
一時高値を付けた日経平均は10月初旬には2万7,000円台半ばに急落し、「岸田ショック」と呼ばれた。下げ幅は11.3%に及んだ。新首相就任直後にショックを起こしたのだから、これはきわめて不名誉なことだと言わざるを得ないだろう。
岸田政権が掲げる「貯蓄から投資へ」を自ら遠ざけるように見える政策の数々
岸田首相は日本の借金の膨大さを憂い、財政規律を重視している可能性が高い、というのが私の岸田分析だ。菅前首相がアベノミクスを踏襲したのに対し、岸田首相はかなり違う路線を歩むのではないかと思う。
貯蓄から投資へという投資誘導路線を重要視していると言いながら、株取引で得たキャピタルゲインや配当収入に対して課せられる税金の税率を、現在の税率一律20%から25%に上げようとしている。まことに矛盾が多いのだ。
米国にも似たような流れがあるにはある。だが米国の場合、そもそも論として、米国では、総額としては株を一部の人たちが独占的に握っているとしても、株を持っている人の数がかなり多い。
しかし、日本の場合はそうではない。25%の金融所得増税を実施してしまうと、株を買って運用する人のシェアが増えないのは目に見えている。さらに言えば、日本人の投資が日本株に向かわなくなってしまう。個人資産2,000兆円のうちわずか11%しか株に回っていないのは、常々、私が言及していることであるが、あまりにも少ないと言える。
1980年代後半のバブル全盛時には日本人の個人資産のうち株式での運用が30%を超えていたのを考えると、いまは3分の1に縮んでしまったことになる。50%超の米国には届かないにしても、いまの3倍程度には増やしたいものである。そうすれば本当の意味で「貯蓄から投資へ」の世界が実現されるだろうし、日本の株式市場にもお金が回ってきて、活性化されよう。ただし、いまのままでは厳しいだろう。
「金持ちいじめ」をしても日本が豊かにならないワケ
「成長と分配の好循環の実現を目指す新しい資本主義」これが岸田首相が掲げるスローガンなのだが、市場はこういうわかりにくいメッセージを嫌がる。新しい資本主義などと言われると、市場には何か中国式資本主義のように聞こえるからだ。もしくは金持ちを締め付ける資本主義とも聞こえかねない。いままでより格差是正、分配優先、社会福祉に中心を置く資本主義ではないかとの憶測が飛んだ。
これらはイコール金持ちいじめにつながるわけだから。子育て世帯への給付金の話に戻すと、960万円という年収の壁を設けようとしたのだが、この960万円の設定はどういう発想から出てきたのだろうか? おそらく公務員や役人の一番多い年収層がもっとも優遇される設定で線引きしたのだろう。それをちょっとでも超えると、税率がぐんと変わるのが、日本の特徴だからである。
子育て世帯への給付金について親の収入で線引きするのは、基本的にナンセンスだと私は思う。たとえば親の年収が1,000万円でも、子どもが3人いるのと、1人いるのとでは違う。1,000万円の年収の人に子どもが3人いて、700万円の年収の人に子どもが1人いたとすると、どちらが豊かなのか? したがって、そういう線引きをつくろうとすること自体がおかしいわけである。
お金を配るのであれば全員に配ればよい。それは必ず世の中の景気にはプラスとなること請け合いだから、それには賛成の立場である。私見に過ぎないが、岸田政権の路線については、ちょっと行きすぎている気がする。確かに米国の政治は、いま明らかに格差拡大を是正し金持ち優遇を見直そうとする左派に向いている。けれども、日本はまだ米国やヨーロッパと同じ問題を抱えているわけではない。
日本の場合はとんでもない金持ちが多くいるわけではないし、株で儲かっている資産長者がさほど出ているわけでもない。岸田政権が欧米や中国に政策を合わせようとしているのは、あまり意味を見出せないように思う。日本はこれらの国とまったく違う性質でまったく違う問題を抱えているのだ。投資家への増税より投資家を増やすことにこそ重点を置くべきである。
●ブラジル基礎的財政赤字、今年は目標を大幅に下回る見通し  3/22
ブラジル政府は22日、今年の中央政府の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字が公式目標を大幅に下回るとの見通しを示した。税収の増加が予想されるとしている。
今年の赤字は1076億レアル(206億ドル)、国内総生産(GDP)比で1.0%となる見通し。公式目標は2281億レアルだった。
政府高官は会見で、今年の赤字が1000億レアルを下回ることもあり得ると発言。来年は財政均衡を目指すと述べた。
今年の純歳入は1100億レアル増加する見通し。徴税額が増える見込みという。
●なぜ世界一だった日本の半導体は凋落したのか…「日の丸連合」の過ち 3/23
1980年代後半、日本の半導体は世界シェア1位だった。現在、そのシェアは10%程度まで落ち込み、最先端技術といわれる2ナノレベルの半導体を生産する技術もない。なぜ日本の半導体産業は凋落したのか。ここから挽回する方法はあるのか。経済産業省で半導体政策を取り仕切る野原諭・商務情報政策局長に聞いた――。
台湾有事が起きたら世界の産業はどうなるのか
――なぜ今、経産省は半導体に力を入れているのですか。
【野原】現在、半導体は国民生活上、必要不可欠なものになっています。
タブレットやスマートフォン、EVなどの先端技術を駆使した機器はもちろん、家電などほとんどの電子機器に使われています。半導体不足が起きると、途端に日本の経済活動全体に支障が生じます。
そこで半導体を国民生活、国民経済活動を支えるための不可欠な物資、つまり「戦略物資」と捉え、安定供給を図るという観点から日本政府、経済産業省として政策を考えています。
さらに視野を広げると、経済安全保障の観点もあります。
アメリカは以前より、半導体政策を経済的側面からだけでなく、安全保障と密接にかかわるものとしてとらえていました。特にトランプ大統領就任から始まった米中対立の中では、半導体にスポットが当たることになりました。
現在、世界の半導体受託製造分野の65%以上を台湾が占めてしています。台湾有事も指摘される中、自国内に生産拠点を持たない国は、何かあれば半導体を通常通り手に入れることが難しくなります。
国民生活に必要不可欠な半導体の安定供給の維持は、やはり民間ではなく政府の仕事、責任だろうということで、国産での先端半導体製造を目指すラピダスの新設や台湾のTSMCの誘致など、半導体の確保を進めています。
かつて世界一だった日本の半導体産業
――なぜ日本の半導体産業は世界シェアを失ってしまったのでしょうか。
【野原】1980年代、日本の半導体産業は50%を超える世界シェアを持っていましたが、現在は10%程度で、最先端技術といわれる2ナノレベルの半導体を生産する技術はありません。
なぜここまで凋落してしまったか。それにはいくつかの理由があると思っています。
台湾、韓国の後塵を拝している理由
【野原】ひとつは日米半導体協定です。1980年代、日米貿易摩擦が生じ、特に半導体はあまりに日本のシェアが高かったことで、日米半導体協定による貿易規制が強まり、さらには日本国内で海外製半導体のシェア20%を保つよう求められました。
さらには半導体協定によってダンピング防止を理由に、最低価格制度を導入することになりました。当時、日本はメモリ半導体の一種であるDRAMが主力商品でしたが、販売価格の維持を求められている間に、さらに安くDRAMを製造できる韓国、特にサムスンの台頭を許すことになり、日本製半導体は凋落していきました。
2つ目はビジネスモデルの変化です。アメリカを中心に、半導体企業は設計を担当するファブレス企業と、製造を担当するファウンドリ企業とで水平分離する潮流が生まれてきたのですが、日本は電機メーカー各社とも、社内で設計から製造までを行う従来のビジネスモデルを続けたため、新しい潮流への対応が遅れました。
3つ目は顧客の不在です。日本が世界の半導体のシェアトップを走っていた頃は、顧客の大半は日本の電機メーカーでした。日本の家電が世界一といわれていたころですから。
しかし電機製品の主力商品がパソコンやスマホに切り替わっていく過程で、半導体の主な顧客は海外メーカーになりましたが、日本の半導体産業は海外の顧客に食い込むことができませんでした。
国内の電機メーカーによるデジタル市場も発展せず、バブル経済崩壊後の長期不況もあり、半導体事業への投資が滞ったのです。
経産省が失敗と話す「ある政策」
――この間、経産省として半導体事業に対しどのような取り組みがあったのでしょうか。
【野原】半導体の凋落が見え始めた1990年代後半以降、「日本のメーカーの中の半導体部門を複数集めてきて、再編成すればいい」という考えの下、主に日本企業だけで集まったところへ予算を投じる方法でやってきました。
結果としてこの「日の丸連合」は、経済産業省の政策の失敗、と総括できるかもしれません。
――1999年、NECや日立製作所などの半導体部門が合流し「エルピーダメモリ」が生まれました。公的資金活用による300億円の出資を受けましたが、2012年に経営破綻しています。
【野原】当時は投資額、予算額もそれほど多くなく、それゆえに産業界サイドも「本当に重要な研究は自社でやる」といった具合で、互いに牽制し合ったこともあり、なかなかうまくいきませんでした。
「なぜ他にも売るものがあるのに、半導体なんだ」という声もあり、「国を挙げて」という形になりづらかった面があったかもしれません。当時は、半導体を重点的に支援することが必要な理由を説明できる材料を政府側も持ち合わせていなかったのでしょう。
逆に、韓国・台湾・中国は政府がリスクをとって産業投資をしました。補助金を使ってどんどん大規模投資をすること、国内の半導体生産設備の投資や人材育成を行ってきました。
米中対立で業界が大きく変化した
――そうした中でアメリカの政策転換があったと聞きます。
【野原】オバマ大統領までは、自由貿易を促進し、世界中どこでもグローバルに、ビジネス上、最適な環境にある国が半導体を作ればよく、アメリカはその国から安定的に供給を受ければいいじゃないか、という発想でした。
しかし、トランプ政権登場のあたりから米中対立が明確になり、アメリカの政策が「中国を取り込んで変化させるという従来のエンゲージメント政策は効果が十分でなく、別のアプローチを考える必要がある」という方向へ舵を切りました。
アメリカはIBMなど開発、設計に強い企業は複数あるのですが、製造面は台湾などに頼っています。そこでアメリカは同志国、有志国内でのサプライチェーン再構成を目指すようになりました。
こうした事情が大きく影響し、日米間で半導体協力基本原則を結ぶことになったのです。緊密に連携しながら、互いに足りないところを補完しつつ効率的にサプライチェーン上の弱点をなくしていこうとなったのです。
いまが復活の最後のチャンス
――こうした状況を経産省の資料では「復活のラストチャンス」と呼んでいますね。
【野原】日本は半導体の素材や製造装置においては、世界市場で高いシェアを占めています。そうした国際競争力が残っているうちに、その強みを足掛かりに復活を目指さないといけないと思っています。ビジネス上合理性があるうちに政策をテコ入れして、反転させないと、日本と一緒に組むメリットがアメリカなど諸外国の企業になくなってしまうので。
世界一の時代を知っている技術者というのももう引退間際になっています。彼らの知見、経験を生かせる時間はもう少ない。
現在、半導体製造のマーケットの中心は、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器の中核部品であるロジック半導体です。さらに、今後、2050年までに世界のデータ流通量は爆発的に拡大することが見込まれており、大量のデータを日々処理する次世代計算基盤が重要になります。これを支えるのも、高速かつ低消費電力な最先端の半導体です。
こうした先端半導体を作れる技術が国内にないと、素材や製造装置の会社もいずれ顧客のいる海外に出て行ってしまいかねません。
そうなる前に手を打たねばという問題意識が強くあります。ラピダスはそのひとつです。
寄せ集めの集団ではない
――ラピダスは以前の日の丸連合と何が違うのでしょうか。
【野原】ラピダスはトヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が総額73億円を出資し、2020年代後半に2ナノ以下の先端半導体の国内製造を目指しています。
今回のラピダスは、「とにかく各社の部門を寄せ集めた」という作りには、元々なっていません。
ラピダスはIBMから「日本とパートナーシップを組みたい」という話が東京エレクトロン元会長の東哲郎さんに持ち掛けられたところから始まっています。
この話を聞いた東さんが「チャンスだ、何とか実現したい」と言って、ウエスタンデジタル日本法人の当時社長だった小池淳義さんに声をかけて、若手の研究者や半導体メーカーのトップエンジニアを集め、議論し、練り上げてきた。いわばスタートアップ企業です。
これまでの日の丸連合とはまったく違う
【野原】私は2021年10月に現在の職に就き、まずTSMC誘致を担当しました。そしてTSMCの投資決定の発表、支援根拠となる法律の改正、支援を実行できる補正予算の確保が終わるや否や、次はラピダスだ、と2022年1月から、小池さん、東さんはもちろん、IBM側の担当者とも議論を重ねてきました。ラピダス創設と第1弾の政府支援を発表したのは2022年11月ですが、それまでに水面下で様々な準備をしてきました。
今回はこれまでの「船頭多くして……」式の「日の丸半導体」的な集合体ではなく、社長を務める小池さん、会長を務める東さんがグリップを利かせているスタートアップです。
しかもお二人とも、それまでの会社を辞め、退路を断ってラピダスに賭けています。さらにIBMも優秀なスタッフをかなりの数、投入し「ラピダスの立ち上がりまで伴走する」ことになっており、本気度の高さを感じます。
ラピダスを巡る状況というのは、こうしたスタートアップ企業に対し、プロジェクトの趣旨に賛同する企業が出資し、政府も予算をつけて応援しているという格好ですから、かつての「日の丸半導体」企業とはそもそも成り立ちが違います。
半導体で地域を活性化する
――これからの課題をどう見ていますか。
【野原】とにもかくにも、人材確保が大きな課題です。ラピダスに関しては採用が進んでいますが、日本全体でみると、比較的、設計部分の人材育成に課題があります。さらに、グローバルアライアンスは、IBMやIMECとの連携を具体的に進めていくだけでなく、もっと進めていく必要があります。日本国内で人材育成をしつつも、世界の第一線の人材、あるいは企業とどう、連携するか。ここは忘れてはならない視点です。
九州はかつて、「シリコンバレー」になぞらえて「シリコンアイランド」と呼ばれていました。そこから衰退を経験しましたが、反転攻勢する目は残っています。現に、TSMCの進出後、九州地区で新たに半導体関連の会社80社余りが新規投資を行う計画を発表するなど、活況を呈しています。
うまくいけば、これが地域経済の振興モデルにもなり得ます。実際、九州フィナンシャルグループの試算では、支援決定した補助金の上限4760億円に対して、その9倍の4兆2900億円もの経済効果が今後10年間で生じるとされています。目に見える形で経済効果が生まれれば、第2、第3の事例が生まれるかもしれません。
アメリカは10兆円、日本は2兆円
――ラピダスには国からも700億円の補助金が出されるほか、半導体産業全体ではこの2年で2兆円という予算額が計上されています。しかし各国と比べると少ないのではないでしょうか。
【野原】これは予算制度の違いもあります。アメリカなどは複数年度分を一気に計上しますが、日本の場合は予算単年度主義のため、「10年分を一気に積む」ということにはなかなかなりません。そのため、「アメリカは半導体産業に10兆円の財政支援!」といった数字だけ見てしまうと見劣りするという印象を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、日本の場合はその都度、進捗(しんちょく)を点検しながら予算措置を講じますので、むしろ一生懸命成果や進捗を示さないと、翌年の予算がつかない事態にもなりえます。その意味では「サボれない」仕組みになっていますので、プラスの面もあります。
ひとつの産業の盛衰には、少なくとも10年はかかります。その間、政策を継続しないと、途中でやめてしまったら成功しません。そのためには、国民の皆さまに現状を知っていただき、危機感を共有いただいて、中長期的に取り組みを継続していくことが大事です。
――「霞が関のミスター半導体」ともいわれる野原さんに対する期待も大きい。
【野原】いやいや、そんなたいしたものではないですよ。半導体政策は、私が一人で取り組んでいるのではありません。情熱を持って取り組んでいる部下や理解のある上司、多くの関係者の協力と貢献によって支えられています。
国民の皆さまの中には厳しいお声があるのは承知しています。経済産業省としても、皆さんの期待を裏切らないように頑張りたいですね。
●年金積立金200兆円消滅危機…米銀2行破綻でGPIFが巨額損失か? 3/23
年金運用に暗雲だ。国民の虎の子、年金積立金約200兆円を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に巨額損失の懸念が浮上している。ここへきて、米銀2行の経営破綻や金利上昇など、いくつも悪材料が重なっているからだ。大事な老後資金はどうなってしまうのか。
GPIFは昨年3月末時点で経営破綻した米銀2行の株式や債券約550億円分を保有していた。シリコンバレー銀行(SVB)の株式約238億円、債券約199億円、シグネチャー銀の株式約114億円だ(いずれも当時の時価総額)。いつまで保有していたかは現在、明らかにされていないが、「大損を食らった可能性が高い」(市場関係者)という。
GPIFの公開資料によると、2021年3月末時点では両行の株式や債券の保有はなく、21年4月から22年3月末にかけて取得したとみられる。両行の株価は昨年3月以降、右肩下がり。秋には半値以下まで下落した。GPIFが取得期間の最安値で買っていたとしても、昨年4〜5月にはその価格を下回っており、損失なき売り抜けは困難だった可能性が高い。
「長年、世界的に金融緩和が続いたため、足元の経営基盤が脆弱な金融機関は少なくありません。経営状況を不安視した投資家が投げ売りを浴びせ、株価が暴落したり、破綻に追い込まれるケースはさらに出てくるでしょう。米銀2行の株式などを保有していたように、GPIFがヤバい株式や債券に手を出していてもおかしくない。高利回りを求めてリスクの高い株式や債券の購入を拡大させてきたからです」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
悪材料続々で赤字幅みるみる拡大の可能性
金利上昇による債券価格の下落もGPIFの含み損を膨らませる。米国を中心とした世界的な利上げラッシュですでに外国債券の価格は大きく下落。加えて、植田新総裁の下、日銀も4月か6月には利上げに踏み切る可能性が高い。日本国債などの価格も下落必至だ。
「国債の金利が上昇すれば、投資資金は株から安全な国債に向かいます。何より、世界経済の雲行きが怪しくなってきており、世界的な株安に見舞われる懸念もある。GPIFは国内外の株式でも大きなロスを発生させるリスクがあります」(森岡英樹氏)
GPIFの今年度の運用実績を見ると22年4〜12月の9カ月間で累計7.3兆円の赤字を出した。国内株式0.6兆円、外国株式2.7兆円、国内債券1.8兆円、外国債券2.1兆円と“全敗”である。
「これだけ悪材料ばかりが揃えば、赤字幅はみるみる拡大する可能性があります。GPIFの運用実績はこれまでに累計98兆円ありますが、3カ月ほどの短期間で数十兆円が軽く吹っ飛んでも不思議ではない。一般の運用会社なら自己責任ですが、GPIFの損失は年金の将来に影響する。積立金が細れば、年金保険料の引き上げや支給額の縮小など国民にしわ寄せが来る恐れがあります」(森岡英樹氏)
物価高騰が続く中、年金は高齢者の命綱。年金運用にコケられては、困り果ててしまう。
●"日本パッシング"の今がチャンス…「いまこそ日本経済再生の時」 3/23
日本バッシングの歴史が復活のヒントになる
いっこうに上がらない賃金、成長の兆しが見えないGDP……、日本経済の先行きはいまだに希望が持てないままだ。だが、日本経済がこうした不調に陥った原因を振り返ってみれば、いまこそ再生の時かもしれない。
なぜなら、中国が経済的・政治的なパワーを増す中で、日本「パ」ッシング(日本への無関心)が生じていることが、日本にとってかつてない商機にもなりうるためだ。その背景には、これまで日本が受け続けてきた日本「バ」ッシング(日本叩き)の歴史がある。
ただし、今後の日本経済が自動的に復活するわけではない。日本が豊かさを再び取り戻すためには、1我々一人ひとりが取り組む「価値創造の民主化」、2政府にしか取り組めない「価値創造の国造り」、という二段階の意識変換が必要不可欠だ。
ソ連に次ぐ仮想敵国と言われた時代があった
平成元年ごろまでの日本は、アメリカにとって、ソ連に次ぐ仮想敵国とさえ言われていた。もちろん、軍事的には戦後の日本はアメリカと同盟関係にある。だが、戦後の日本企業の大躍進による日米貿易摩擦は、日米「経済戦争」と表現されるまでに高まっていた。しかも、この経済戦争において日本はアメリカに圧勝した。戦後から2000年ごろまで、アメリカにとって最大の貿易赤字相手は日本であった。
こうした状況をアメリカが見過ごすはずはない。アメリカ主導の「国際協調」によって、日本の産業の競争力は何度も叩き潰されてきた。その代表的な例が、1985年のプラザ合意である。プラザ合意では、アメリカの呼びかけによって、イギリス、フランス、西ドイツ、日本は協調して円高・ドル安を目指すことに決まった。
円高・ドル安は日本で生産活動をおこなう企業にとって、(海外部品調達費等以外の)国際的な生産コストの増加を意味し、輸出が不利になる。それにより、当然ながら日本経済には打撃が見込まれる。しかし、日本政府は、アメリカ政府との関係改善や国際協調のために、喜んで円高・ドル安に協力した(岡本勉『1985年の無条件降伏』)。
世界シェア7割の半導体も2割に減らされた
プラザ合意前に1ドル240円ほどだった円相場はわずか1年で1ドル150円を切った。これは、日本企業の製品・サービスが国際的に1.6倍の値段になったに等しい。日本経済はこの急激な円高に耐えられなくなり、日本政府はプラザ合意から1年半ほどで円安への国際協調を呼びかけた(ルーブル合意)。しかし、プラザ合意において日本が歩み寄った国際協調をあざ笑うかのように、ルーブル合意は無視された。
プラザ合意以外にも、日本の産業を直接潰しにかかった取り決めもあった。その一例が日米半導体協定である。
現在のアメリカ経済を支えるのは情報産業・コンピュータ産業であることは誰もが知るところだ。これらの産業に欠かせないのが半導体である。しかし、この半導体生産において、日本がかつて世界シェア7割を誇っていたことは忘れられつつある。日本の半導体産業は、日米半導体協定により世界シェアを2割まで削減するように一方的に求められ、そのシェアを奪って台頭してきたのが日本以外の東アジア諸国の半導体メーカーだった。
このように、日本の産業は全体として、また個別産業として、国際政治の中で何度も成長の芽を摘まれてきた。ただし、日本の経済成長が止まってしまったのには、日本自身の問題もあった。
「ヒトではなくカネ」判断を誤った
経営学的にみた「平成を通じて日本の経済成長が停滞した理由」は、日本で働く人々が「ヒトではなくカネが大事」という雰囲気にのまれて経営の基本を捨てたことにある。
ここでいう経営の基本とは、「価値創造の源泉は人間であり、価値創造のための障害となる様々な対立を取り除くのが経営だ」というある種の信念のことを指す。この信念は、高度経済成長期からバブル崩壊までの日本において信じられていた。こうした信念が普及する土台もあった。それは、戦前戦後の10年間で起こったハイパーインフレである。
終戦時の前後5年の10年間で、日本の卸売物価は200倍ほどになり、それに合わせて賃金も同様に上昇したとされる(岡崎哲二『経済史から考える』)。たとえば、公益財団法人 連合総合生活開発研究所「日本の賃金:歴史と展望 調査報告書」によれば、この時期に賃金は約181.4倍に上昇した。
それに対して、株価や地価は、賃金ほどには上昇しなかった。たとえば、明治大学株価指数研究所「兜日本株価指数」を見ると、1940年から1950年までの10年間で日本企業の平均的な株価はせいぜい10倍程度の上昇にとどまる。また、日本銀行統計局編『明治以降本邦主要経済統計』収録の市街地価格指数では、商業地・住宅地・工業地の地価は1940年から1950年までの10年間でせいぜい数十倍から100倍の間の上昇にとどまっている。
アメリカは“日本式経営”を見習っていた
すなわち、この時期において「ハイパーインフレに際して最も有効な資産は金融資産でも土地でもなく自分自身」という状況が生まれたといえる。ここに「カネではなくヒトが大事」という日本の経営思想の萌芽が見て取れる。ここに、戦前からの温情主義経営、戦時経済体制、共産主義の流行、レッドパージ等々の影響を受けて、企業を経営共同体として捉える日本的経営が誕生した。
過去の日本の経営思想(日本的経営、日本式経営)においては、価値創造の主役はカネではなくヒトだとされた。だからこそ、ヒトにとっての価値創造の障害を取り除くことこそが経営だという意識が浸透していた。経営者は、ヒトという貴重な資源を無駄にしないように、無駄な労力を使わせるだけの仕事を減らし、価値創造に集中できる状況を作り上げていったのである。
こうした日本の経営思想の優位性は、当時のアメリカのレーガン大統領にも認識され、日本の経営思想を取り入れたアメリカ企業を大統領が直々に表彰するマルコム・ボルドリッジ国家品質賞が創設されたほどだ。ちなみに、レーガン大統領はプラザ合意時の大統領、マルコム・ボルドリッジはレーガン大統領の右腕として円高・ドル安を強硬に主張した商務長官だ。
アメリカは片方でプラザ合意や様々な協定で日本企業の成長の芽を摘みつつ、片方で日本企業の強みを冷静に取り入れていたわけだ。
カネでカネを生む「投資思考」を選んでしまった
その一方で、日本はプラザ合意後の円高・ドル安を是正できず、それどころかデフレで国際的に強くなった円で海外に投資したり、円高不況対策の金融緩和に乗じて国内の不動産や株や国債に投資したりした。すなわち、デフレによって、「カネよりもヒトが大事」な経営思想という競争力の源泉を捨て、働かずにカネでカネを生む「ヒトよりカネが大事」な投資思考を選んでしまった。
こうして日本は「投資をするだけで製品・サービスを作らない国」に向けてひた走った。だが、「ヒトよりカネが大事」ならば、それを管理するヒトはコストでしかない。日本の労働者は、価値創造の主役という立場から、投資に付随するただの管理コストという立場に追いやられてしまったのである。
この状況から脱するには、1我々一人ひとりが取り組める「価値創造の民主化」、2政府にしか取り組めない「価値創造の国造り」の2つが必要である。
すべての人を「経営人材」に変える
日本に住むすべての人が豊かになるために、我々一人ひとりが取り組めることは、「カネよりもヒトが大事」という過去の日本経済を支えた経営思想の原点に戻ることだ。そのために、労働者から資本家・経営者まですべての人が名実ともに付加価値創造に貢献する「経営人材」としての意識と知識を共有する必要がある。
もし「すべての人が付加価値創造に貢献できる経営人材だ」という信念が日本中で共有されれば、すべての人が経営人材として尊重される結果として、給料は上がり無駄な労力を消費させる仕事は減るだろう。
ただし、すべての人が経営人材だという信念は、企業の成長に貢献するという実が伴っていなければ共有されえない。そのためには、意識改革と同時並行して日本中のすべての人に有効な経営教育が無償で行き渡る必要がある。
ここで、1経営教育により経営成果が得られやすくなる、2何事も他人の協力を得なければ実現できない、という当たり前の前提から、簡単な算数によって驚くべき結論が得られる。「経営成果は、経営教育が普及している人数乗で、向上していく」という結論だ(図表1)。
「無駄な規制」「名ばかり管理」を排除する
実際に、過去の日本においても、製造業という限られた業界ではあったが、価値創造の民主化が信じられ、日本企業が世界一の経営成績を誇った時期があった。そこでは、QCサークル活動等を通して、中卒・高卒の作業員から大学院卒の技術者まですべての人が品質管理に必要な基礎的な統計学と経営の知識(QC七つ道具)を得ていた。
こうした過去の強みを、製造業を超えて発揮するには、QC七つ道具よりも普遍的な経営知識を普及させていき、実際に我々一人ひとりがそれを吸収していく必要がある。筆者も、微力ながら、そのための教材を著作権放棄・無償で提供している。
すべての人が価値創造の主役であり「カネよりヒトが大事だ」という信念が実をともなって広まれば、ヒトの労力を無駄に奪うだけの名ばかり管理は悪だと認識される。そうすれば、すべての人にとって仕事がもっと楽しいものに変わり、同時に生産性も向上するだろう。
もう一つ、政府にしかできない「価値創造の国造り」という取り組みもありえる。そのために、政府が率先して「日本で働くヒトこそが国の要であり、ヒトを締め付けるのではなく、反対にヒトにとっての価値創造の障害を取り除くことこそが産業政策だ」という価値観に転換する必要がある。
こうして、無駄な規制や名ばかり管理をなくし、代わりに良質な電力を安定供給し、製造部品のやり取りに必要な交通網を整備するなど、モノ(無形のサービス含む)を作りやすくする環境整備が必要だ。将来的には、価値創造を横取りするような税負担を世界一軽くするような努力も必要だろう。
すなわち、国民の中に「働けば働くほど幸せになれる」「一番貴重なのは自分(の労働力)という資産だ」「カネよりもヒトが大事」という価値観が実感を伴って普及するような政策が求められる。
日本パッシングの今を逃してはいけない
市民レベルと政府レベルでのこれらの意識変換が経済成長にいかに有効かは歴史的にも実証済みだし、ここで述べた簡単な算数からも明らかだ。しかも、中国をはじめとする新興国の賃金上昇と日本の賃金の停滞、さらに昨今の円安によって、相対的に生産地としての日本の競争力は高くなっている。
問題は、こうした転換によって日本が経済成長を再開したら、またもアメリカに潰されないかという懸念である。
だが、現在のアメリカの経済安全保障上の最大の懸念は中国に移っている。大統領への影響力も強い新アメリカ安全保障センター(Center for a New American Security)などは、中国に過度に依存した貿易からの脱却を提言しているほどだ。
また、これまでの日本の長期停滞によって、アメリカには日本「パ」ッシング(日本への無関心)思考が蔓延している。そのため、今こそ経営の基本に戻って価値創造に邁進すれば、日本「バ」ッシング(日本叩き)につぶされることなく日本の産業は成長していける可能性は高い。
過去の日本の栄光と挫折の歴史を踏まえれば、日本パッシングの今こそ成長のチャンスだ。そのために、「価値創造の民主化」と「価値創造の国造り」という経営の基本が国民全体と政府関係者の両方に浸透する必要があろう。
●岸田首相“子どもがいる候補者 選挙活動時 保育所の利用可能”  3/23
子どもを持つ人が選挙に立候補する場合、自治体によっては、保育所などに子どもを預けられなくなるケースがあることについて、岸田総理大臣は、選挙活動は求職活動や就労などに該当すると考えられるとして、保育所が利用できることを自治体に周知していく考えを示しました。
子どもがいる候補者の選挙活動について、総務省は今月1日、各都道府県の選挙管理委員会に、候補者が子どもと一緒に移動することは、差し支えないなどとする見解を通知しました。
これについて国民民主党の伊藤孝恵氏は、参議院予算委員会で「画期的な対応だが、本来は、望めば誰もが子どもを預けて、選挙に挑戦できる仕組みであるべきだ。立候補のために退職をしたら、保育園や学童を利用できなくなるといった実態がある」と指摘し、政府の対応をただしました。
これに対し、岸田総理大臣は「入所対象については、市町村が個別に判断する仕組みになっているが、こども家庭庁で制度横断的に対象を整理する中で、選挙活動を行う場合や、議員として政治活動を行う場合が、一般的に保育所を利用できる求職活動や就労などに該当すると考えられることについて、自治体に周知していきたい」と述べました。
●「G7議長国として決意示せた」 岸田首相 電撃訪問を国会報告  3/23
岸田首相は、23日午後の参議院予算委員会に出席し、ウクライナ訪問について「G7(主要7カ国)の議長国として決意を示せた」などと説明した。
岸田首相「G7議長国を務める日本として、ウクライナ侵略への対応を主導する決意を示すことができた。ウクライナの人々に寄り添った、日本らしいきめ細かい支援が重要であると実感した」
また、岸田首相は、「惨劇を繰り返さないために、ロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならない」と強調した。
一方、立憲民主党の田名部参院幹事長は、「安全確保や情報管理に問題があったのではないか」と指摘した。
これに対し、岸田首相は「課題がある中で、さまざまな検討と調整を行ったうえで訪問した」としつつ、「状況について振り返り、検証して今後の参考にしなければならない」と述べた。
●岸田首相、ゼレンスキー大統領に「必勝しゃもじ」と折り鶴ランプ贈呈 3/23
松野博一官房長官は23日午後の記者会見で、岸田文雄首相が21日にウクライナを訪問した際、同国のゼレンスキー大統領に首相の地元・広島の「必勝しゃもじ」と、折り鶴をモチーフとしたランプを贈呈したと明らかにした。
木製のしゃもじに「必勝」の文字が書かれた縁起物で、「敵を飯とる(=召し捕る)」という意味が込められている。高校野球やサッカーなどの広島代表チームの応援の際にも用いられる。政府関係者によると、しゃもじには首相の署名が書かれていた。また、松野氏によると、ランプは広島の焼き物「宮島御砂焼(おすなやき)」で作られたものだという。
贈呈品にこれらを選んだ理由について松野氏は、「ロシアによるウクライナ侵略に立ち向かうゼレンスキー氏への激励と、平和を祈念する思いを伝達するためだ」と説明した。
●ウクライナ電撃訪問終え帰国した岸田首相「支援の重要性を改めて感じた」  3/23
岸田首相は23日朝、ウクライナへの電撃訪問などを終え、チャーター機で羽田空港に到着し、帰国した。
首相はこの後、ロシアによる侵略を受けるウクライナについて、「支援の重要性を改めて感じた。法の支配に基づく国際秩序を堅持しなければならないとの思いを新たにした」と述べた。首相官邸で記者団に語った。
政府は当初、岸田首相が19日から22日の日程でインドを訪問し、モディ首相と会談する予定を公表していた。しかし、モディ氏との会談を終えた20日夜、インドを民間チャーター機で秘密裏に出発。ポーランド経由でウクライナの首都キーウに入り、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。ロシア軍に多くの住民が虐殺されたキーウ近郊のブチャも視察した。
岸田首相は「侵略の現場を自分の目で見て、悲惨な体験をした方から直接話を聞いた。国際秩序を揺るがす暴挙だと痛感した」と語った。
首相は23日午後の参院予算委員会でウクライナ訪問を報告し、与野党の質疑に応じる。
●岸田首相 “広島サミットで国際秩序守り抜く意思 世界に示す”  3/23
ウクライナ訪問をめぐり、岸田総理大臣は参議院予算委員会で、G7議長国としてウクライナ侵攻への対応を主導する決意を示すことができたと成果を強調したうえで、広島サミットで法の支配に基づく国際秩序を守り抜く強い意思を世界に示していく考えを示しました。
参議院予算委員会では冒頭、岸田総理大臣が今回のウクライナ訪問の報告を行いました。
“G7議長国として侵略への対応 主導する決意示した”
この中で岸田総理大臣は、「ゼレンスキー大統領との首脳会談で、侵略は国際秩序の根幹を揺るがす、決して許すことのできない暴挙であり、ロシアに対する厳しい制裁とウクライナへの強力な支援を継続していく旨、伝えた。G7議長国を務める日本として、ウクライナ侵略への対応を主導する決意を示すことができた」と、成果を強調しました。このあと、各党の質疑が行われました。
自民 大野泰正氏「首相としての世界平和への思いは?」
自民党の大野泰正氏は、「岸田総理がキーウを訪問したのと同じ時期に中国の習近平国家主席はロシアを訪問し、世界分断の難しさを感じざるをえない。歴史的転換点の総理としての世界平和への思いを聞きたい」と質問しました。これに対し岸田総理大臣は、「惨劇の現場を直接目の当たりにし、悲惨な経験をした方からも直接話を聞かせていただいた。ロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならない」と述べました。そのうえで、「5月のG7広島サミットでは、力による一方的な現状変更の試みや核兵器による威嚇や使用は断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く強い意思を世界に示したい」と述べました。
立民 勝部賢志氏「制裁の意義や重要性、果たす役割は?」
立憲民主党の勝部賢志氏は、ロシアに対する経済制裁について、「直接的な軍事支援が許されない日本にとって最重要の手段だ。制裁の意義や重要性、果たしていく役割をどのように考えるか」とただしました。これに対し、岸田総理大臣は「力による一方的な現状変更の試みは許すことができない暴挙で、高い代償が伴うことを示していくことが必要だ。G7首脳会合でも制裁の迂回、回避対策のさらなる取り組みを進めることで一致しており、国際社会と連携を続けていかなければならない」と述べました。
岸田首相「安全確保や情報管理に問題ない」
一方、安全確保や情報管理に問題があったのではないかと指摘されたのに対し、岸田総理大臣は、「厳重な保秘を前提にウクライナ政府などと慎重に調整を重ねたうえで、秘密保全、安全対策、危機管理などで遺漏のないよう、最善の方法を総合的に検討した。今回の対応に特段問題があったとは考えていない」と述べました。
●岸田首相、G7で法の支配主導 ウクライナ復興へ建機支援 3/23
岸田文雄首相は23日の参院予算委員会でロシアによる侵攻が続くウクライナへの訪問について報告した。5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)で「法の支配に基づく国際秩序を守り抜く意思を世界に示す」と語り、準備を進めると強調した。
首相はインド、ウクライナ、ポーランドを訪問して同日朝に帰国した。ウクライナのゼレンスキー大統領との会談や現地視察についてG7の議長国として「侵略への対応を主導する決意を示せた」と話した。
ウクライナ侵攻は暴挙だとロシアを非難した。「高い代償を伴うと示す必要がある」と述べ、対ロ制裁を継続する考えを示した。
台湾統一を目標とする中国を念頭に「力による一方的な現状変更の試み、ロシアがしているような核兵器による威嚇や使用は断固拒否する」とも力説した。
国際秩序の維持にはインドや東南アジアなどグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)との協力が欠かせないとの認識も訴えた。
サミットに向けて「グローバルサウスをはじめとする中間国に法の支配で国際秩序を守る重要性を理解してもらい、結束してメッセージを発してもらう」よう働きかけを強める方針だ。
首相は戦闘が続くウクライナを訪れるにあたり、安全確保をウクライナ政府に頼った。「様々な検討をし調整した上で訪問した」と説明し、問題はなかったと主張した。
日本出発前に公表しなかった情報管理も含めた一連の対応に関し「今回の状況を検証し、今後の参考にしなければならない」と述べた。ロシアに訪問を事前通知したことを巡っては「外交上のやりとりなので答えは控える」との回答にとどめた。
ゼレンスキー氏との会談で復興に向けたがれき処理への支援要請を受けたと明らかにした。「車両や建機の支援を考えていきたい。ニーズに的確に応えることこそ日本らしいきめ細かな支援だ」と語った。
自民党の大野泰正氏や公明党の山本博司氏、立憲民主党の田名部匡代氏、日本維新の会の浅田均氏の質問に答えた。
松野博一官房長官は23日の記者会見で、首相がゼレンスキー氏に渡した贈呈品を紹介した。首相の地元である広島の「必勝しゃもじ」や、折り鶴をモチーフにしたランプを贈ったという。
●高市氏が“話を盛る”たび議論は脇道へ… 総務省新証言で終止符を 3/23
いつまで議論をまぜ返すのか。放送法の解釈を巡る総務省の行政文書について、高市経済安保相が相変わらずケチをつけまくる中、総務省から新証言が飛び出した。
22日の参院予算委員会理事懇談会で、総務省が行政文書の調査結果を報告。2015年2月13日付の〈高市大臣レク結果(政治的公平について)〉と題された行政文書を巡り、レクに参加した官僚の1人が「(文書の)原案を作成した認識はある」と説明しているというのだ。
さらに「(放送法の)解釈という重要な案件を大臣に全く報告していないというのはあり得ないと思う」とも証言しているそうだ。レクの存在自体を「なかった」と言い張る高市氏に対し、一歩踏み込んだ格好である。
一方、高市氏は「内容が正確ではなく、信頼に足る文書ではない」と全面否定する書面を提出。両者の主張は真っ向から対立しているが、どうも高市氏側の分が悪い。22日午後に開かれた参院予算委で、話を“盛った”疑いが強まったからだ。
問題は、今月15日の参院予算委の答弁。「大臣レク」文書には、参加者として高市氏の他、大臣室側の総務官僚2人と説明しに来た総務官僚3人の名が記されている。高市氏はこの日の答弁で「大臣室側の2人は『レクは絶対にない』と言ってくれている」と断定していた。
22日の予算委で野党議員が「2人は『絶対にない』と言ったのか」と追及すると、文書を調査中の総務省・山野謙官房総括審議官は「(2人には)『絶対にない』という表現をしたかどうかの記憶はない」と明言。対する高市氏は、2人が「絶対にない」と発言したか否かは明かさず、「私自身の認識としてレクはなかったと確信した」と論点をズラした。話を“盛った”可能性は濃厚だ。
議論は脇道にそれるばかり
高市氏はこれまで「そんな言い方はしない」「言うはずがない」と行政文書の正確性に文句をつけまくってきたが、事の本質は放送法をねじ曲げ、特定の番組への政治的介入を可能としたことだ。高市氏の捏造発言のせいで「言った、言わない」の水掛け論にすり替わり、本質はスッカリかすんでいる。
さらに、高市氏が文書の正確性をおとしめようと話を“盛る”たび、「言った、言わない」が追加。議論は脇道にそれる一方だ。
「大臣の答弁は法の解釈を変え、社会のありようを変え得る重大な責任を持つ。話を“盛る”などあり得ないこと。撤回した『質問しないで』発言が象徴的ですが、国会を軽視しているとしか思えません」(政治評論家・本澤二郎氏)
高市氏の辞書に「降参」の2文字はないのか。
●9知事選が告示=子育て、経済再生で論戦―統一地方選スタート 3/23
9道府県知事選が23日告示され、第20回統一地方選がスタートした。子育て支援策や人口減少対策、新型コロナウイルス感染拡大で落ち込んだ地域経済の再生などを巡り論戦が展開され、結果は岸田政権の行方を占うことにもなりそうだ。奈良と徳島は複数の自民党系候補が争う保守分裂選挙。大阪は大阪市長選との「ダブル選」で、地域政党「大阪維新の会」と非維新勢力が対決する。投開票は4月9日。
告示されたのは、北海道、神奈川、福井、大阪、奈良、鳥取、島根、徳島、大分の各知事選。立候補受け付けは午前8時半から一斉に開始され、午後1時半現在で計32人(うち女性7人)が届け出を済ませ、選挙戦に入った。
奈良は一部自民県議らが支援する現職と自民県連推薦の元総務官僚に、日本維新の会が擁立した元生駒市長を加えた激戦。現職は国民民主党県連の推薦を受ける。徳島は自民県連が推薦する現職と自民の元国会議員2人がぶつかる。大阪は大阪維新の現職に、非維新の政治団体が立てた法学者の女性と、共産党推薦の元参院議員が挑む。
北海道は自民、公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦し、共産、国民、社民各党の地方組織が支持する元衆院議員が争う。大分は与党系の元大分市長と共産、社民の地方組織が支援する元参院議員による新人同士の対決。神奈川、福井、鳥取、島根の4県はいずれも与野党が現職に相乗りした。
●大阪府知事選幕開け IR、新型コロナ…政策訴える候補者たち 3/23
統一地方選が23日にスタート。大阪ではダブル選へ突入した。地域の未来を占う17日間の論戦が展開される。
谷口氏「自己責任の政治もう嫌」
「大阪で生きづらい、しんどいと思っている人。大半はあなたのせいじゃない。しんどさを自己責任だと言う政治はもう嫌なんです。希望を持って生きていける街にしたい」。法学者の谷口真由美氏(48)はJR大阪駅前で第一声を上げた。
「迷った時は、弱い者の側につけ」。近鉄ラグビー部のコーチを務めた父親の言葉を大切に生きてきた。初めての選挙への出馬となる今回も、人工呼吸器をつけて暮らす人の家族やギャンブル依存症患者らの声に耳を傾けて政策を練った。
谷口氏の名を世に広めたのが、女性グループ「全日本おばちゃん党」(解散)の結成だ。「大阪のおばちゃんって、困った人をほっとかれへん性格なんです」。トレードマークのヒョウ柄の服を着て選挙戦に臨む。高校2年の娘と中学3年の息子を育てるシングルマザー。
吉野氏「大阪に負の遺産残すな」
歯科医師の吉野敏明氏(55)はJR大阪駅北側の広場で出陣式に臨み、「歴史ある大阪にカジノのような負の遺産を残してはいけない。選挙を通じて正しいことをどんどん言っていく」と訴えた。
横浜市出身。しんきゅう漢方医の家系に生まれ、自身も医学の道に進んだ。精神科病院の理事長を務めた経験もあり、ギャンブルや酒に溺れる患者が苦しむ姿を見てきた。「一番のギャンブル依存症対策は賭場を作らないことだ」。カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致計画に強く反発するゆえんでもある。
公認を受ける参政党には「投票したい政党がないなら作ればいい」との姿勢に共感して参加。2022年参院選に党共同代表として比例代表に出馬し落選した。医学本の執筆や年50回以上の講演活動をこなし、現在は東京・銀座でクリニック院長を務める。
辰巳氏「命を守る府政取り戻す」
元参院議員の辰巳孝太郎氏(46)はJR天王寺駅前での第一声で、「なぜ大阪でこれだけ多くのコロナ死者が出たのか。維新政治で医療や保健所が脆弱(ぜいじゃく)になった。たくさんの保健所をつくり、府民の命を守る府政を取り戻す」と訴えた。共産党の推薦を受ける。
米ボストンの大学で映画を学び、帰国直後に同時多発テロ(2001年)が発生。イラク戦争などに突き進む米国に「憎しみの連鎖を作っていいのか」と感じ、米国に従う日本の姿も疑問に思い「政治を変えなければ」と決意した。
13年の参院選大阪選挙区に共産公認で出馬し初当選。参院議員を1期6年務めた。国会議員時代を含め、現場の声に耳を傾けることを心掛ける。今回の出馬を決めてからも街頭で市民と対話する活動を重視する。「厳しい質問を受けるが、政治家としての力量も試されている」
吉村氏「二重行政はまっぴら」
「大阪を一地方都市で終わらせない。次世代に責任を持った大阪を作っていく。過去の二重行政はまっぴらごめんだ」。大阪維新の会代表で現職の吉村洋文氏(47)は南海難波駅前の第一声でそう主張した。
大阪市長から知事に転身した翌年の2020年、「未知のウイルス」だった新型コロナウイルスとの闘いが始まった。「コロナ対策に自分のほぼ全てのパワーを向け、何とか乗り越えたいという思いでやってきた」と1期4年の任期を振り返る。
コロナ対応で連日テレビに出演し、全国的な知名度が一気に高まった。党を設立した松井一郎氏(大阪市長)が4月で政界を引退するため、「党の顔」として求められる役割がより大きくなりそうだ。ツイッターのフォロワー(読者)数は120万人を超え、インターネット上でも発信力のある政治家として知られる。
佐藤氏「政治参加の敷居を低く」
「大阪に住んだことがないからこそ、先入観なく見ることができる。女性や若者の政治参加を訴え、行政システムのデジタル化を進めたい」。薬剤師の佐藤さやか氏(34)は大阪府庁前での第一声でそう語った。NHK党から3月に党名変更した政治家女子48党の公認を受ける。
2022年12月、NHK党の党首だった立花孝志氏がプロデュースする政治団体のメンバー募集に申し込んだことが人生の転機になった。立花氏に見いだされ、政治経験もないのに3カ月後には府知事選の立候補予定者に。しかも国政政党の公認候補。めまぐるしく変化する環境に「こんな世界があるのか」と驚くことばかりだ。
それでも政治の素人だからできることがあると信じている。「私が立候補することで、政治に参加する敷居を低くし、政治にもっと興味を持ってもらいたい」
●少子化対策で補助金優遇 中小企業、採択で有利に  3/23
経済産業省は23日、補助金の支給先を決める審査で、子育て支援などの少子化対策や女性活躍に積極的に取り組む中小企業を優遇すると発表した。対策を講じている企業は評価点が上乗せされ、採択されやすくなる。
優遇制度の対象は、ものづくり補助金や事業再構築補助金、IT導入補助金など5件。それぞれの募集開始に合わせて3月末から順次導入する。企業の経営状況といった通常の評価項目に、少子化対策などを加える。
女性が活躍しやすい職場づくりを進める上場企業「なでしこ銘柄」の選定でも、子育てと仕事の両立支援に関する項目を評価に追加する。
●「異次元の少子化対策」財源の次善策は「基金」構想より消費税 3/23
いまや、子育てにお金がかかることは当然となっているが、所得水準と子どもの関係はどうなっているのだろうか。
厚生労働省『国民生活基礎調査』により、所得階層別の子どものいる世帯の割合を見ると、総じてみれば所得水準の上昇とともに子どものいる世帯の割合は高まり、ある所得水準を超えるとその割合が低下することが確認できる。さらに20年前と比べると、より低い所得階層ほど子どものいる世帯の割合の低下幅が大きい事実が浮かび上がる。
以上の点に鑑みても、筆者は子育て支援の充実、特に低所得層への支援の拡充は重要だと考える。
問題は財源の調達方法
筆者が問題にしているのは、子育て支援の充実ではなく、あくまでもその財源調達手段である。
それを実現する場合に筆者は新たな負担増、特にこれから結婚し子育てに入る若い世代や、現にいま子育て中の世代の負担を増やすことに反対である。そうではなく、財源は高齢世代向けの社会保障のスリム化で賄うべきと考えている。ただし、社会保障のスリム化には時間がかかって差し当たりの財源が必要というのであれば、セカンドベストの財源としては、消費税を推したい。
しかし、現在財源の有力候補として注目されているのは、消費税ではなく、慶應義塾大学の権丈善一教授が提唱する「子育て支援連帯基金」構想だ。
同構想は、年金保険、医療保険、介護保険等の保険料に上乗せするため、現役世代に加えて高齢世代も負担することになるため、これを高く評価する向きもあるようだ。シルバー民主主義全盛時代にあって、「これまで負担のなかった高齢世代にもわずかとはいえ負担してもらえるのなら一歩前進なのでは?」と考える読者があるかもしれない。だが、そもそも高齢世代が負担している保険料は微々たるものでしかない点に留意する必要があるだろう。
例えば、後期高齢者医療制度を見ると、給付総額17.1兆円のうち保険料負担はたったの1.3兆円(7.5%)、自己負担1.4兆円(8.3%)を考慮しても全体の16%弱でしかない。残りの84%のうち、7.9兆円(46.2%)は税金(および赤字国債)、6.5兆円(38.0%)は現役世代からの支援金なのだ。
後期高齢者に「子育て支援連帯基金」へ保険料拠出してもらうよりも、大企業の社員らが加入する組合健保や中小企業の社員らが加入する協会けんぽから後期高齢者医療制度への支援金を削減し、少子化対策におカネを回した方がよっぽど財源を捻出できるはずなのだ。しかも、現役世代は後期高齢者への支援金に加えて、前期高齢者への支援金3.7兆円も負担させられているのだ。
「世代間連帯」の美名のもと、現役世代から高齢世代に多額の拠出を強いて(つまり、片務的世代間連帯)、そもそも少子化の原因を作っておきながら、「子育て支援連帯基金」のような屋上屋を架す制度は、率直に言って百害あって一利なしである。
もしどうしても新たな財源が必要になるのならば、本来は社会保障のスリム化がベストなのだが、それが無理であれば、社会保障目的税に位置付けられている消費税の引き上げを国民にお願いするのが筋というものだろう。逆に言えば、ここで消費税を引き上げないのならば、消費税の使途を主に社会保障関係4経費に限定している消費税法第1条第2項を削除のうえ、消費税と社会保障の紐づけを即刻解除するべきだ。
1997年の呪い
なぜ、消費増税が忌避され、社会保険料の引き上げに走るのか。一説には、消費増税が深刻な景気低迷をもたらすのと、社会保険料は引き上げてもいずれ給付となって返ってくる安心感が国民の間にあるため反対が少ないからだと解釈されている。
しかし、こうした解釈は甚だ疑わしい。
消費増税が政治的にタブーになったのは、1997年の経験が契機だと言われている。旧社会党の村山富市氏を首班とした自社連立内閣の後を継いだ橋本龍太郎内閣は、バブル崩壊の影響から日本経済が脱しつつあるなか、6つの改革(行政改革、財政構造改革、社会保障構造改革、経済構造改革、金融システム改革、教育改革)を進めるなど、国民的な人気も高かったのだが、同年4月に消費税を引き上げると景気が失速し、翌年の参院選にも敗北し退陣することになった。
しかし、97年の消費税引き上げのマクロ経済的な影響を総括した旧経済企画庁「98年版経済白書」によれば、景気低迷は、消費増税だけにより引き起こされたのではなく、特別減税の終了および医療保険制度の改革、そして後のアジア金融危機につながるアジア諸国での通貨・金融不安であることが、記されている。つまり、景気失速の原因は消費税引き上げだけではなかったのだ。
97年当時はまだ団塊の世代も50代前半で、他世代にも負担してもらえる消費税引き上げよりも特別減税の廃止、社会保険料引き上げなどによる可処分所得の減少の方がマイナスの影響の方が大きかった。だから、98年の参院選で橋本内閣に反対したというのが実情だ。
一方、団塊の世代の定年退職が始まった2007年(いわゆる2007年問題)以降は、今度は自分たちが負担しなくてもよくなった社会保険料の引き上げによる財源調達を、自分たちも負担しなければならなくなる消費税の引き上げよりも好んでいるだけなのだ。それがいつのまにか、「消費増税は景気の腰折れを招き選挙に負けるからタブー」「社会保険料の引き上げは将来の給付につながるので反対が少ない」と曲解されたのだろう。
景気は、消費増税だろうが、所得増税だろうが、社会保険料引き上げだろうが、国民の負担が増せば失速することに違いはない。ただ違うのは、それぞれの施策によって影響を受ける層だ。各種負担増によって影響を受ける層のなかでもひときわ声の大きな層に政治がなびくのである。
本当の意味での「世代間連携」を
このように、現実は政治的な影響力の大きい団塊の世代の都合に振り回されているだけであり、そこには国民経済や世代間連帯なんていう発想は皆無に等しいと言えよう。
こうした現実を直視せず、まず最善策としての社会保障のスリム化、そして次善の策としての消費税引き上げをやりたくないから「基金」構想に逃げるというのであれば、これまで抜本的な社会保障制度改革から逃げ回ってきたのと同じで、「異次元の少子化対策」など画餅に帰す。
今まで真正面から社会保障の削減に向き合ってこなかったツケが今の「異次元の少子化」につながっていることをしっかり直視し、猛省すべきだと思うが、「異次元の少子化対策」に国民の目を向けることで、これまでの失敗を糊塗したい当局と、極力自分たちの負担増は抑えて他世代に負担させたい団塊世代のコラボの前にはもはや無理な話なのかもしれない。
読者の皆さんはいかに考えるだろうか。  

 

●「統合抑止戦略」から見えるアメリカの身勝手さ  3/24
アメリカとイギリス、オーストラリアの3国同盟「オーカス(AUKUS)」が、5隻の原子力潜水艦をオーストラリアに配備(3月13日)、戦後最悪に陥った日韓関係改善に向けた首脳会談(3月16日)、沖縄・石垣島の陸自駐屯地開設(3月16日)――。一見無関係にみえるこの3つを貫くのが、アメリカ・バイデン政権の「統合抑止戦略」である。だが「抑止」は名ばかりで、緊張を激化させるだけのこの戦略は、同盟国に大軍拡を求める一方、自らは軍事衝突からの退場すら計算に入れた身勝手な戦略ではないのか。
日米同盟強化から着手
「統合抑止力」とは何か。アメリカ国防総省は、「アメリカが他の競争相手や潜在的な敵に対する際、同盟国やパートナー国とともに対峙する」国防戦略のカギだと説明している。
アジアでは日本、韓国、台湾、オーストラリアなど同盟・パートナー国に軍事力強化を求め、アメリカの軍事力と統合して抑止力を強めるのが狙いだ。もはやアメリカ1国では、中国に対抗できないという現状認識が構想のベースにある。
バイデン政権は2022年2月、「インド太平洋戦略」を初めて発表したが、この中に初めて「統合抑止力」が登場し、同10月の「国家安全保障戦略」にも盛り込まれた。時間軸からみると、2021年1月発足したバイデン政権は世界戦略の中心をアジアに移した。中国を「唯一の競争相手」とみなし、「民主vs専制」競争と位置づけ、1同盟関係の再構築、2地球温暖化やパンデミックなどグローバル課題での国際協調回復、の2本柱を掲げたのだった。このうち「同盟関係の再構築」こそが、対中競争勝利を目指す役割を担う。
同盟再構築でバイデン政権がまず着手したのは、日米同盟の強化と深化だった。台湾有事を念頭に、日米同盟の性格を「対中同盟」に変え、日米の軍事一体化を加速させるプロセスはわずか2年というスピードで完成した。
岸田文雄政権は2022年12月に閣議決定した安保関連3文書で、「敵基地攻撃能力」の保有と、防衛予算のGDP比2%への倍増を盛り込んだ。「統合抑止戦略」に基づくバイデンの要求をほぼ全面的に受け入れたのだ。
日米同盟再強化と併せてバイデン政権が傾注したのが、「新同盟枠組み」だ。2021年3月12日、バイデン政権は日米豪印4カ国(クアッド=QUAD)の初首脳会議をオンラインで開いた。中国との国境紛争を抱えるインドを対中包囲網に引き込むのが狙いだった。
続いてバイデン政権は、2022年5月の訪日で中国経済とのデカップリングを目指すアジア諸国との新経済枠組み「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を創設(同5月23日)。これに先立ち、2021年9月15日、米英豪3カ国の新軍事同盟「オーカス」の創設を発表し、オーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与すると発表した。
オーカス創設の狙いは、同じアングロサクソンのイギリスを対中抑止戦略の戦列に加えたことだ。オーストラリアに対し西太平洋と南シナ海で、原潜によって中国ににらみを利かせる「新ステージ」の構想にある。アメリカが原潜の数で中国に後れをとるとの懸念が根底にある。
日韓関係修復の原動力はアメリカ
これが日米同盟強化と新同盟枠組み創設の概要だ。「統合抑止戦略」の中心的課題である台湾問題に照らせば、原子力潜水艦5隻のオーストラリア配備と、石垣島の陸自駐屯地開設はわかりやすい例だと思う。
わかりにくいのは、日韓関係の修復と統合抑止戦略との関係であろう。バイデン政権は、徴用工問題で対立する日韓関係が、「統合抑止戦略」にとってカナメ(要)の「日米韓同盟」復活にとって「最大の障害」とみなしてきた。
とくに文在寅(ムン・ジェイン)前政権が2017年10月、中国に1アメリカ軍のミサイル防衛システム「THAADの追加配備はしない、2アメリカのミサイル防衛網に参加せず、3日米韓の軍事同盟化はせずという「3つのノー」を約束したことを苦々しく見ていた。
それだけに、バイデン政権は「親米派」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の登場を歓迎、日韓両政府に関係改善するよう圧力をかけてきた。朴振(パク・チン)韓国外相は2022年8月10日、「『3つのノー』は合意や約束ではない」と同政策の継続を否定。尹大統領も、台湾問題について「中国が台湾を攻撃した場合、北朝鮮も挑発をする可能性が極めて高い」と、台湾と朝鮮半島「連動説」を展開した。
バイデン政権はロシアのウクライナ侵攻を受け、「統合抑止戦略」の対象に中国、ロシア、北朝鮮を据えた。まるでブッシュ(子)政権時代に唱えられた「悪の枢軸」のように新「悪の枢軸」を設定したかのようだ。しかし、対中同盟化や「アメリカか中国か」の2択を迫られるのを嫌う東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドと並んで、これまで韓国もアメリカの戦略の「弱い環」だった。
だから、日韓関係改善によって、北朝鮮のミサイル発射実験を「米日韓同盟」で対応できるとすれば「統合抑止戦略」にとって大前進になる。ただ、徴用工問題の解決策に韓国世論の反発は強く、尹政権の支持基盤は決して強くはない。日韓関係正常化の環境は決して安定していない。
一方、この戦略の大問題は、「台湾進攻の抑止」に資するどころか、米日台の「暗黙の同盟」の成立によって、台湾海峡情勢を逆に緊張させる結果をもたらしていることだ。そもそもアメリカが、台湾問題を対中戦略の中心に据えた理由は、中国の台湾侵攻が切迫しているという具体的事実に基づいたものではない。中国が軍事力を大幅に強化して、アメリカの戦力投射能力を阻止する能力を持つに至ったという危機感が背景である。
台湾でも「代理戦争」
バイデン政権は、アメリカ高官の台湾訪問や、質、量とともに史上最大の台湾への兵器供与などの挑発によって、中国の軍事演習など過剰反応を引き出し、西側世界で中国の威信を低下させる戦略をとってきた。中国からすれば、「1つの中国」を骨抜きにする挑発がなければ、台湾への軍事的圧力を強める必要などない。
しかしアメリカの戦略は台湾海峡で緊張を激化させて、中国の過剰反応を引き出すことにある。2024年1月の台湾次期総統選に向けて、アメリカは緊張を激化させる政策を継続するはずだ。
台湾の大学教授ら有識者37人は3月20日、台北での記者会見で「平和、反兵器、自主」などをスローガンに「反戦声明」を発表、台湾海峡でのアメリカの挑発を批判し、アメリカ政権を戦争に追いやる「詐欺集団」と非難した。台湾の有識者による「反戦活動」が伝えられるのはきわめて珍しい。
この戦略・政策に基づいて、2021年4月の日米首脳会談は、台湾有事の初期段階に米海兵隊が自衛隊とともに南西諸島を「機動基地」化し、中国艦船の航行を阻止する「共同作戦計画」にゴーサインを出した。
さらに2023年の「2プラス2」は日米の基地の共同使用を拡大し、海兵隊を2025年までに、離島防衛に即応する「海兵沿岸連隊」への改編で合意した。台湾有事への日米共同即応体制が急速に整えられたことになる。
しかし問題はそこだけにあるのではない。
アメリカは台湾有事でもアメリカ軍を投入せず、ウクライナ同様「代理戦争」の可能性を探っている。アメリカ軍制服トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は2022年4月7日、アメリカ上院の公聴会で1台湾は防衛可能な島。中国軍の台湾本島攻撃・攻略は極めて難しい、2最善の防衛は台湾人自身が行う、3アメリカはウクライナ同様、台湾を助けられる、と証言し、代理戦争の可能性を示唆した。台湾ではこの証言以来、台湾防衛に対するアメリカの信頼感が急速に後退している。
代理戦争なら、アメリカは自分の手を汚さずに済み、中国と台湾、それに日本の「アジア人同士」の戦いになる。台湾問題で前面に出つつある日本は「ハシゴ外し」に遭う。
代理戦争説を補強する材料はいくつかある。バイデン政権は、米ロによる中距離核戦力(INF)全廃条約の失効を受けて、中距離ミサイルを日本に配備する計画を明らかにした。だが、岸田政権が「敵基地攻撃能力」の保有を明言し、アメリカ製トマホーク400発を購入する計画を発表した直後の2023年1月、アメリカ大統領報道官は「現時点で日本へ配備する計画はない」と述べた。
中距離ミサイルと兵器貯蔵は沖縄で
もう1つは、アーミテージ元国防次官補が2022年6月、「台湾有事があれば、アメリカが台湾に送る武器や物資を日本で保管できるようにしたい」と、武器・弾薬を南西諸島に貯蔵する案を提案、浜田靖一防衛相も同年9月、それを認める発言をした。「台湾有事」の正面に日本、とりわけ南西諸島が前面に出る態勢が整い始めた。
冒頭に触れたが、統合抑止戦略は同盟国に大軍拡を求める一方、自らは軍事衝突の正面からの退場すら計算に入れた「身勝手」戦略という疑念が拭えない。大義のないイラク侵攻から20年。2年前のアフガン完全撤退で、海外派兵によって「アメリカ一極支配」を維持する時代は終わった。
トランプ政権誕生と3年におよぶコロナ禍も手伝い、アメリカを頂点とする先進国中心の主要7カ国(G7)の衰退が加速し、中国を含めた新興国群「グローバルサウス」が、国際秩序形成で頭角を現す。バイデン政権は、国内対立を棚上げして団結を確保するため、中国という「外敵」を共通の敵にする御旗は下ろせない。しかし中国と軍事的に衝突する以外の選択肢はどんどん減っていく。
●参院予算委 旧統一教会と自民党自治体議員との関係調査求める 3/24
参院予算委員会「岸田内閣の基本姿勢」に関する集中審議で3月24日、「立憲民主・社民」の2番手として質問に立った石垣のりこ議員は(1)公文書の信ぴょう性(2)旧統一教会問題――等について取り上げ、政府の見解をただしました。
石垣議員は冒頭、「明治以降の伝統あるわが国の国会における全ての審議、わが国の議会制民主主義の根幹を支える公文書の信ぴょう性について伺います」と切り出し、「平成29年(2017年)の公文書ガイドライン変更以前にも公文書管理法上、官僚には公文書および行政文書の作成に正確性を期す責務が課せられている」「国家公務員が行政文書をねつ造するなど公文書の不適切な取扱いについては懲戒処分の対象となりうるもので、犯罪である」「国家公務員には犯罪行為を告発する義務がある」等を内閣府、人事院、法務省、内閣人事局の事務方にそれぞれ確認。その上で、総務省が作成した放送法「政治的公平」に関する行政文書をめぐり、高市大臣が「ねつ造」だと発言していることから、「公文書偽造で告発の義務が発生することになる。まだ『ねつ造』との認識は変わらないか」と尋ねました。
高市議員は、「ありもしないことをあったかのように書いている、私に関する文書はねつ造だと申し上げた」と撤回しませんでした。石垣議員はこれを受け、岸田総理に「自分の保身のために官僚に罪があると国会答弁で明確に言及して、自分の部下たる官僚にあらゆる不都合を押しつける大臣はこれまでいなかった。この1点を取っても閣僚として到底任に堪えない。岸田内閣の行政能力全般が問われかねない。これ以上行政機構を傷つけないためにも罷免された方がよいのではないか」と迫りました。
旧統一教会問題については、昨年の臨時国会で被害者救済に向けた新法が成立した以後も不当な寄付の勧誘と思われる事案が継続されているとの情報が寄せられていると指摘。岸田総理は「これ以上被害が広がらないように全力で取り組んでいきたい」と表明していることから、そうであるなら自民党の自治体議員と旧統一教会との関係を統一地方自治体選挙前に調査し公表すべきだと述べました。これに対し岸田総理は、「自民党では統一教会および関係団体と一切関係を持たない方針であることを確認した。これを徹底する。大切なのは選挙を通じて未来に向かって関係を絶つこと」などと強弁。石垣議員は「未来に向かって関係を絶つことが過去を顧みないことの理由にはならない。しっかり調査を進めて明らかにしてほしい」と重ねて求めました。
性的マイノリティ(少数者)に対する差別については、日本を除く先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、性的少数者(LGBTQ)の権利を守る法整備を促す書簡を岸田総理宛てに送っていたことや、経団連の十倉会長が欧米と比べての遅れを「恥ずかしい」と発言したことにも触れ、G7サミット前に進めてほしいとあらためて要請しました。
●YCC撤廃ならば財政規律が一段と重要に 3/24
これまで日本では、日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)などの金融緩和によって長期金利がゼロ近傍に抑えられてきた。そのため国債の発行コストが意識されず、財政規律が緩んだとされる。2012年12月末に691兆195億円(GDP比139%)だった普通国債残高は、2022年12月末には1,005兆7,772 億円(GDP比179%)に達しており、基礎的財政収支(PB)の赤字が続いていることを懸念する声も多い。
一方で、国債金利(r)が名目成長率(g)より低い状態(r<g)を長期にわたって維持できれば、国債残高(対GDP比)は当面は上昇しても、最終的には上昇が止まって一定の値に収束することが知られている。YCCによって国債金利がゼロ近傍に抑えられている現状はこの状態に近い。
だが、インフレ圧力の高まりや日銀執行部の交代などから、YCC撤廃の観測も出てきている。実際に撤廃された場合、国債残高(対GDP比)の先行きはどうなるのだろうか。
YCCが撤廃され、長期金利(10年国債金利)が1%に上昇し、名目成長率が1%(2013〜21年度の平均)で推移する状況を考えてみよう。現状のPB赤字(一般会計ベースでGDP比4.3%、2013〜21年度平均)を続けると、国債残高が増え、財政リスクプレミアムが金利に上乗せされる結果、r>gに逆転してしまいかねない。そうなると国債残高(対GDP比)の上昇が止まらなくなってしまう。
これを回避するためには、1国債金利を引き下げて利払費を抑制する、2成長率を引き上げて分母のGDPを大きくする、3PBを改善して毎年の国債発行額を抑える、の3つが考えられる。これらはそれぞれ、金融政策、成長戦略、財政運営に関係するものだ。
ただし、インフレ圧力が高まる中で金利を引き下げれば(上記1)、金融政策の目標である物価安定は達成できない。
成長戦略によって高い名目成長率を維持できれば(上記2)、国債残高(対GDP比)を安定させることができる。しかし、そのために必要な成長率は3%程度とかなり高く、実現は容易ではない。また、成長率が上昇すると国債金利も同様に上昇することが多い。利払費が増えることになるが、その財源を国債発行に頼れば、国債残高(対GDP比)は上昇するかもしれない。
そのため、やはりPBの改善が重要となろう(上記3、図表の緑の矢印)。筆者の推計では、長期金利が1%+財政リスクプレミアム、名目成長率が1%であれば、国債残高(対GDP比)の発散を回避するにはPB赤字をGDP比で約1%以内に抑制することが必要だ。
政府見通しに基づくと、来年度の一般会計予算のPB赤字はGDP比1.9%程度に圧縮される。だがYCCが撤廃されるならば、政府債務の持続可能性を高めるために、もう一段の規律ある財政運営を行う必要があろう。
●韓国、供給網や国際問題で日本と協力へ=企画財政相 3/24
韓国の秋慶鎬・企画財政相は24日、サプライチェーン(供給網)や投資などの経済問題で日本と協力し、政府のコミュニケーション手段を復活させ、民間セクターの交流を支援すると表明した。
また、両国が相互の利益を満たすために米国のインフレ抑制法や欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズムに関する国際的な問題に対応するとした。輸出に関する会合で述べた。
●経済副総理「日本と産業面での協力と人的交流を推進」 3/24
秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済副総理兼企画財政部長官は、半導体のサプライチェーンにおける日本との協力を具体化するほか、両国間の空の便を増便するなど、韓日関係の早期回復に向けた作業に取り組むとの方針を示しました。
秋副総理は24日、非常経済閣僚会議で、「韓日首脳会談で両国関係回復のきっかけが設けられ、韓国経済にも好ましいい影響が期待される」と述べました。
秋副総理は、「両国共通の利益となる新産業・共同投資・サプライチェーン分野の協力を積極的に推進する」として、新設が予定されている大規模な半導体生産団地において、部品や材料の供給に関する日本との協力を具体化するため、関係官庁が参加する協議体を設ける方針を明らかにしました。
秋副総理はまた、韓国と日本の間の人的交流を関係悪化前の水準に回復させていくとして、「国民1000万人の交流という年間目標の達成に向けて、航空便増便に向けた作業に速やかに着手する」と述べました。
●「脱炭素化支援機構」出資1号案件として WOTAへの出資が決定  3/24
「小規模分散型水循環システム」および「水処理自律制御技術」を開発・提供するWOTA株式会社(代表取締役CEO・前田 瑶介、以下「WOTA(ウォータ)」)は、株式会社脱炭素化支援機構(代表取締役社長:田吉禎彦、英語名称:Japan Green Investment Corp. for Carbon Neutrality (JICN)、以下「JICN(ジェイアイシーエヌ)」)より出資を受けることが決定いたしました。
今回の出資の決定は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて脱炭素に資する事業への出融資等を行うJICNの第一号案件となります。
WOTAは、2022年5月に包括的な水利用を可能にする世界初の住宅向け水再利用システムである「小規模分散型水循環システム」の実証に成功し、その商品化開発とそれを利用した水問題の構造的解決に関する合意形成に取り組んでまいりました。
当社の「小規模分散型水循環システム」は、気候変動に伴う世界的な水不足への適応(アダプテーション)とともに、既存の大規模集中型水インフラの水道配管等の敷設・更新に比べて環境負荷を削減できるという点で、気候変動の緩和(ミティゲーション)の面でも期待できるとJICNから評価をいただきました。
今回のJICNからの出資により、「小規模分散型水循環システム」の商品化開発・社会実装の更なる加速と、水インフラの新たなスタンダードの確立を目指してまいります。
JICN 脱炭素化支援機構 取締役専務執行役員(事業推進担当(CIO)) 上田 嘉紀氏 コメント
JICNは、カーボンニュートラルを実現するため、脱炭素に資する事業に対する資金供給を通して、豊かで持続可能な未来を創ることを目指しております。かかる方針の中で、WOTAの「小規模分散型水循環システム」は、脱炭素に資することはもちろんのこと、「自治体の財政負担の軽減」「水インフラの分散化による災害時のレジリエンス強化」「日本発の新技術・新ビジネスモデルの世界的普及の可能性」等、豊かで持続可能な未来の創造に資するという点で、我が国の経済社会の発展に寄与するものと評価したことから、第一号案件として出資による支援を決定いたしました。JICNとしては今後、出資契約の締結およびそれに基づく出資実行をするとともに、本事業の環境負荷低減等をモニタリングしていきたいと考えております。
WOTAについて
WOTAは、水問題の構造的な解決を目指す民間企業です。2014年の創業以来、地球上の水資源の偏在・枯渇・汚染によって生じる諸問題の解決のため、生活排水を再生し最大限有効活用する「小規模分散型水循環システム」及びそれを実現する「水処理自律制御技術」を開発しています。既に、2つの製品を上市し、日本国内において全国的に活用されており、災害時の断水状況下における応急的な水利用の実現や、公衆衛生の向上に寄与してまいりました。また、日常的な水利用を実現する「小規模分散型水循環システム」の実証に成功。来年度以降、国内外の自治体・政府等への導入が開始されます。
今後も研究開発とプロダクト普及を推進し、人類の持続可能な水利用のために、「小規模分散型水循環社会」の実現を目指しています。
JICNについて
脱炭素化支援機構は、国の財政投融資からの出資と民間からの出資(設立時は計204億円)を原資として出融資等を行う株式会社です。豊かで持続可能な未来を創ることを目指し、カーボンニュートラルに挑戦する多種多様な事業に対して、引き続き、幅広いステークホルダーと連携しながら、支援を行っていきます。
●立民 高市大臣の罷免を要求 岸田首相は拒否 “論理が飛躍” 3/24
参議院予算委員会では集中審議が行われました。放送法が定める「政治的公平」の解釈に関する総務省の行政文書をめぐり、立憲民主党が自身に関わる文書を「ねつ造だ」としている高市経済安全保障担当大臣を罷免するよう求めたのに対し、岸田総理大臣は「いきなり更迭うんぬんというのは論理が飛躍している」と述べ、拒否しました。
この中で、自民党の岩本剛人氏は先端半導体の国産化をめぐり「日本は世界から10年遅れをとっているとも言われている。日本企業の出資で設立された『Rapidus』が先月、北海道に工場の立地を決めたが、どのような形で支援していくのか」と質問しました。
岸田総理大臣は「着実な進展だと歓迎したい。政府としても人材の育成や関連産業と地元企業との連携強化を後押しするなど尽力していきたい」と述べました。
立憲民主党の石垣のりこ氏は、高市経済安全保障担当大臣が自身にかかわる総務省の行政文書を「ねつ造」だとしていることをめぐり「もはや高市大臣は閣僚として到底、任にたえないと言わざるを得ず、閣僚にとどめておくことは岸田内閣の行政能力全般が問われかねない」と述べ、罷免するよう求めました。
岸田総理大臣は「総務省が精査した結果によれば内容の正確性は確認できなかった。引き続き正確性の議論をしていかなければならない段階で、更迭うんぬんというのはあまりに論理が飛躍している」と述べ、拒否しました。
参院予算委 27日の午後 集中審議で与野党合意
新年度予算案を審議している参議院予算委員会は理事会を開き、来週27日の午後、岸田総理大臣も出席して岸田内閣の基本姿勢をテーマに集中審議を行うことで、与野党が合意しました。
●岸田首相のウクライナ訪問に論評 広島名物「必勝しゃもじ」は挑発 ロシア 3/24
ロシア外務省のザハロワ情報局長は23日の記者会見で、岸田文雄首相の21日のウクライナ訪問について、先進7カ国(G7)議長国・日本が「米国の論理と圧力」の下で計画を遂行したと論評した。
そのタイミングは、21日のモスクワでの中ロ首脳会談にぶつけて影響を及ぼすためにあえて選んだ可能性があると主張した。
一方で国営タス通信は、岸田氏がウクライナ訪問時、ゼレンスキー大統領に「必勝」と書かれた広島名物のしゃもじを贈ったことを紹介した。日本の報道などを引用して「日露戦争時の兵士のお守り」と強調。現地メディアはロシアへの挑発と捉えたもようで「奇妙なプレゼント」と不快感をもって伝えた。 
●岸田首相、必勝しゃもじは「敬意表すため」 立民・石垣氏は批判「不適切」 3/24
岸田文雄首相は24日午前の参院予算委員会で、ウクライナ訪問の際にゼレンスキー大統領への贈答品として「必勝」の文字が書かれたしゃもじを持参したことについて「ウクライナの方々は祖国や自由を守るために戦っている。この努力に敬意を表したい」と述べた。立憲民主党の石垣のり子氏が「必勝というのは不適切」と批判したのに対して答えた。
しゃもじは首相の地元・広島の名産。「敵を召し(飯)取る」との意味で、験担ぎにも使われており、日清・日露戦争では戦場に向かう兵士が多くのしゃもじを奉納したとされる。石垣氏は「選挙やスポーツではない。日本がやるべきはいかに和平を行うかだ」と持論を語った。
●岸田政権、再浮揚へ試金石 野党は足腰強化課題 統一地方選 3/24
統一地方選の幕開けとなる9道府県知事選が告示された23日、与野党幹部は各地で支持を訴えた。
4月23日投開票の衆参5補欠選挙まで続く「選挙月間」は、岸田政権にとって政権再浮揚をかけた試金石となる。与党は政権基盤の安定化を目指し、野党各党は対抗勢力としての「足腰」強化に総力を挙げる。
4月9日は、9知事選と41道府県議選のほか政令市の市長選・市議選が投開票される。同23日は、衆院千葉5区、和歌山1区、山口2、4区、参院大分の5補欠選挙のほか、統一選後半戦の市区町村長・議会選がある。
自民党の茂木敏充幹事長は23日、県知事選や参院補選のある大分入りし、「知事選勝利を期し、その勢いを統一選後半戦、補選へとしっかりつなぎたい」と訴えた。
与党は、岸田文雄首相によるウクライナへの電撃訪問や韓国の尹錫悦大統領の来日を踏まえ、「支持率は上がる」(幹部)と見ている。ただ、物価高など市民生活に身近な課題で対応をしくじれば、不満が噴出しかねないとの危機感もある。
政府は22日、予備費を財源に2兆円超の追加物価対策を決定。「予算倍増」をうたう子ども・子育て支援策も、財源は後回しで月内に「たたき台」を取りまとめる。自民党関係者は「今見なければいけないのは野党よりも国民」と、世論の動向に神経をとがらせる。
公明党は統一選を国政選挙並みに重視。党勢回復を懸け、政府に求めていた物価高対策などが実現したことを、有権者にアピールする。
野党各党は党勢拡大に向け、与党に比べ脆弱(ぜいじゃく)な地方組織の強化を目指す。
立憲民主党は、各地の議会選挙で改選される約800議席の上積みを図りたい考え。日本維新の会は現在の1.5倍に当たる地方議員600人を目指し、馬場伸幸代表は目標を達成できなければ代表辞任の意向を示している。国民民主党は改選約150議席の倍増を、共産党は現有約1200議席の「絶対確保」を目標とする。
野党側は今回の統一選を「岸田政権の評価を問う選挙」と位置付ける。立民の泉健太代表は23日、千葉県市川市で記者団に「今の政治は賃上げがまだまだ不十分で、子育て支援も後回しだ」と指摘。「政治を転換させるため、野党に力をいただきたい、その思いでがんばる」と意気込みを示した。 
●追加物価対策 またも予備費の乱用か 3/24
国の予算の使い道は国会で決める――。憲法でも定められたこの財政民主主義の根幹を、政府がまたも傷つけようとしている。看過できない。
政府が、追加の物価高対策を決めた。22年度予算の予備費を財源にし、総額は2兆円を超える。低所得の子育て世帯に子ども1人あたり5万円を給付し、自治体の物価高対応を支援するために「地方創生臨時交付金」を1・2兆円積み増す。
物価高が長引くなか、今春闘では大企業での一定の賃上げが実現しつつある。だが、中小企業や非正規社員にもその恩恵が広がるかは不透明だ。困窮する世帯や原材料費高騰に苦しむ企業に絞った追加支援策の必要性自体は理解できる。
だが、自治体に幅広い裁量を認める交付金を柱にすることには首をかしげる。政府は学校給食費やLP(プロパン)ガスの負担軽減などに充てることを勧めるといいながら、使途はこうした事業に限定しないとしているからだ。
松野博一官房長官は「地域の実情に応じたきめ細やかな支援を一層強化する」と説明するが、統一地方選をにらんだ人気取りではないかとの疑問がぬぐえない。コロナ対策で始めたこの交付金は、巨大なモニュメントづくりや公用車の購入にも使われた。物価高対策以外の支出を招かないような措置が不可欠だ。
何より問題なのは、岸田政権がこうした対策の中身について国会に諮ることなく、閣議決定で支出できる予備費を財源に進めようとしていることだ。後藤茂之経済再生相は、「予見し難い予算に充てるために設けられている予備費の制度趣旨に対して、適切な対応だ」と述べているが、到底納得できない。
原油など国際商品の高騰や円安は一服しつつあり、足元の物価動向もほぼ想定の範囲内にある。4月以降に必要な経費は、そもそも来年度予算案に盛り込めばよかったはずだ。仮に予算案策定時の想定を超えた部分があったのだとしても、審議中の予算案を修正すれば十分対応できるだろう。
今起きているのは、コロナ禍を機に始まった巨額の予備費計上の常態化だ。使途が物価高対策にも広げられ、国会を迂回(うかい)する支出が漫然と続けられている。新年度予算案にも5兆円が盛り込まれた。予算を審議する国会の権能が無視されているのに等しい事態だ。
与野党の議員は、財政民主主義の形骸化という危機にあることを認識し、政府による予備費乱用を正さなくてはならない。新年度予算案からも巨額予備費を削除するよう強く求める。
●「放送法を国民の手に取り戻すために放送法4条はただちに削除を」 3/24
高市早苗大臣の「ねつ造」発言で論点が拡散してしまった感のある<放送法と官邸圧力>の問題。放送法の解釈が時の政権に委ねられるのではなく、これを国民の手に取り戻すために今、何をすべきなのか?“報ステ降板騒動”を通じて、官邸によるメディア圧力を身をもって体験した元経産官僚・古賀茂明氏の提言をお届けする。
「ひとつの番組でも政治的公平性を判断できる」とした政府統一見解
――小西文書を読むと、政権に批判的なマスコミの口封じをしたい安倍首相の意を受けた、あるいは汲んだ礒崎首相補佐官が自分の担務でもないのに(注・礒崎秘書官の担務は経済安全保障と選挙制度)高市総務大臣の頭越しに総務省の放送行政に介入し、放送法4条の解釈変更を強圧的に迫ったプロセスがよくわかります。
古賀茂明(以下同) 当時、安倍政権がマスコミに圧力をかけていたことは「報道ステーション」降板という自身の体験を通して、ある程度理解していたつもりでしたが、まさかここまで官邸が露骨に、しかも非民主主義的な手法で放送法4条の解釈を変更していたとは本当に驚きました。
こうした放送法の根幹に関わる解釈変更は小西文書で総務省出身の山田真紀子首相秘書官が指摘しているように、本来なら内閣法制局に事前相談するとか、審議会を回した上で整理するとか、あるいは国会でオープンに審議して法改正してから行うべきものなのです。
――放送の自律、自由への権力介入に他ならず、けっして許されることではないと。
もちろんです。小西文書によって報道の自由が一政権によって歪められ、侵害されたことがわかった以上、「ひとつの番組でも政治的公平性を判断できる」とした2016年の政府統一見解は撤回されなくてはなりません。
岸田政権では放送法の解釈は何も変わっておらず、16年の統一見解は『従来の解釈に補充的な説明を追加しただけ』と逃げていますが、詭弁もいいところです。実際には放送業者は政治権力からのプレッシャーを受け続けており、岸田政権はこの統一見解を今すぐにでも見直すべきです。
岸田首相は「高市更迭」を様子見
――ただ、世間の関心は16年統一見解の撤回より、高市大臣が辞任するかどうかの一点に集中しています。
完全に論点がずれていますよね。小西参院議員は総務省職員から「国民を裏切る行為をこのまま見て見ぬふりはできない。国民の手に放送法を取り戻してほしい」と言われ、この文書を託されたと聞いています。それを考えるなら、政治権力の介入を許しかねない16年の政府統一見解の撤回こそが、今回の行政文書流出事件のメインテーマとなるべきでしょう。
ところが、高市さんが小西議員らの追及に感情的になり、「文書はねつ造」だの、「自分が間違っていたら大臣も議員も辞める」だのと言ってしまったので、そちらにばかり世間の関心が行ってしまった。官邸の振り付けにしたがって放送法4条の解釈変更や停波を口にした高市さんの政治責任は重大ですが、その進退問題はある意味、二の次。
本当に国民にとって重要なのは表現の自由や国民の知る権利の侵害につながりかねない放送法の解釈変更の撤回の方です。
――岸田首相にすれば、論点がずれて注目が高市さんばかりに集まるのは悪いことではないのでは?
自分への風当たりがそれだけ弱くなるわけですから、内心では喜んでいるかもしれません。おそらく岸田さんはいま4月の統一地方戦を前にして、高市大臣を更迭すべきか、続投させるべきか、様子見をしているのでしょう。
高市さんを切れば、彼女を熱烈に支持する右派岩盤層を敵に回すことになる。その一方で、引き続き閣僚として彼女を続投させれば国民の批判を受けかねない。どちらが政権延命のプラスになるか、必死で計算をしているはずです。
今こそ放送法4条削除を
――世論はどう動くべきでしょう?
先に言ったように、まずは岸田政権に16年統一見解はその公表プロセスに問題があったとして撤回を迫るべきです。ただ、それだけでは足りない。放送法の成立を考えれば、4条は違反したら罰則があるというような法規範でなく、放送の自由を保障するための倫理規範と見るべきだというのは確立した通説です。だから、放送法には4条違反についての罰則規定がないのです。
にもかかわらず、政府だけは長い間、4条の条文を根拠に政治的公平性について総務大臣、すなわち政治権力が判断できるとしてきた。だとしたら、この機会に16年統一見解を撤回するに留まらず、放送法本来の精神に立ち返って政府が放送に介入できないようにする手立てを講じることも重要でしょう。そのためには『政治的公平性』という文言などが含まれる4条そのものを削除する法改正に取り組んでもよいのではないかと思います。
3条の「放送番組は(中略)何人からも干渉され、または規律されることがない」という条文だけで必要十分なはずです。国民の関心が高市辞任や開催中のWBCに集中することで、自政権への風当たりが弱まってほしいと岸田首相は心中で願っているかもしれませんが、それを許してはいけない。小西文書問題は政権がいますぐ対応すべき重要案件だとして、私たちは16年統一見解の撤回や放送法4条削除を岸田首相に迫るべきでしょう。
●高市氏「文書内容あり得ないと確信」 参院予算委でのやり取り 3/24
岸田文雄首相が出席した24日の参院予算委員会での主なやり取りは次の通り。
立憲民主党・小沼巧氏「今月に広島で開催された首相の後援会会合で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)のロゴマークが使用されたまんじゅうやペンが配られた。外務省の使用条件に合致しないのではないか」
首相「ロゴは使用の目的がサミット開催の機運醸成にあると認められた申請は承認されている。会合では、広島でサミットが行われる意味を説明し、地元として盛り上げてほしいとお願いをした。ロゴの使用がサミットの機運醸成に資するとの考えに基づいている」
立民・石垣のり子氏「総務省の(放送法を巡る)行政文書が『捏造(ねつぞう)』という認識は変わらないか」
高市早苗経済安全保障担当相「ありもしないことをあったかのように書いている私に関する4枚の文書は『捏造』だと申し上げた」
石垣氏「明治開闢(かいびゃく)以来、部下の罪をかぶって辞職した閣僚がいたとしても、保身のために部下を売り飛ばすような閣僚はいなかった。高市氏を閣僚にとどめておくことは岸田内閣の行政能力全般が問われかねない問題だ。即刻罷免すべきだ」
首相「あまりに論理の飛躍だ。総務省の精査結果によると、文書に記載された内容は正確性が確認できなかった。いきなり更迭うんぬんというのは論理が飛躍している」
石垣氏「高市氏はある月刊誌のインタビューで『官僚が政治家を殺すのは簡単だ』と述べている」
高市氏「(石垣氏は)正確に述べていない。それは私の言葉ではなく、そう述べている議員がいるという旨だ」
石垣氏「首相はウクライナを訪問した際、ゼレンスキー大統領に『必勝』と書かれたしゃもじを贈ったそうだが事実か」
首相「外交では、地元の名産の土産を持っていくということはよくやる。今回はしゃもじを土産にした」
石垣氏「選挙やスポーツの競技ではない。日本がやるべきはいかに和平を行うかだ。『必勝』というのはあまりにも不適切ではないか」
首相「地元の名産の意味を私から申し上げることは控えるが、いずれにしてもウクライナの方々は祖国や自由を守るために戦っている。この努力に、われわれは敬意を表したい」
日本維新の会・音喜多駿氏「(総務省の行政文書は)『捏造』という強い言葉を使い、(閣僚や議員辞職など)自身の出処進退に結び付けたのは勇み足だったのではないか」
高市氏「私は文書に書かれていることはあり得ないと確信していた。(地元の)奈良県の有権者に迷惑をかけることはないと考えた」  
●債券の価格と利回り、逆の動きに 価格上昇は利回り低下 3/24
債券も普通の借金と同様、「借り手=発行者」は「貸し手=投資家」に利子を支払います。国債を例にとると、額面100円に「表面利率」をかけた利子が支払われます。利払いは半年ごとに1回、年2回に分けて行われます。国の財政が破綻しない限り、償還時(借金の返済期限)には額面が払い戻されます。
債券は株式と同じように、発行後も売買されています。市中金利の動向によって価格は額面を上回ったり、下回ったりします。額面を下回る債券を購入して償還まで保有すると購入価格と額面の差額がもうけになります。償還益といいます。額面より高く投資した場合は、償還損が出ます。
債券投資の収益は毎年の利子と、償還時に得られる購入価格と償還価格の差額(償還差損益)の合計額となります。投資金額に対して、どれだけのもうけがあるかを計算したものが「利回り」です。
表面利率は通常、発行から償還まで変わりませんが、利回りは市中の金利に連動して日々変化します。債券価格が額面を割り込んで値下がりすれば、最終的に得られる償還益が増えるため利回りは高くなります。逆に値上がりした場合は利回りが下がります。利回りと債券の価格は逆に動く点に注意してください。
例えば発行価格100円、表面利率2%、償還まで1年の債券は1年間で額面と利息の計102円が戻ってきます。101円で買えば、投資収益は1円で金利は0.99%、99円なら収益は3円で金利は3.03%となります。
好況で資金需要が増えれば、お金の借り手が増えて「お金の値段」である金利が上がります。物価上昇で金融引き締めの可能性が高まると、やはり金利は上がりやすくなります。金利が上がって購入時より債券価格が下がれば、償還前に売却した際には損が出てしまいます。
国債は円で発行される債券で最も償還の確実性が高いため、利回りは色々な金融商品の金利や収益を決めたり、比べたりする際の基準になります。特に10年物国債の利回りは長期金利の代表的な指標と位置づけられています。
金利の変動以上に債券投資で注意すべき最大のリスクは、借り手が財政破綻して貸した元本が返ってこない債務不履行(デフォルト)です。先進国の国債ではそうした心配は小さいですが発行者の信用力を見極めることは非常に重要です。
●債券、企業の資金調達の手段 投資家は満期に元本の払い戻し 3/24
債券は、一言でいえば借金の証書、証文です。国や企業が長期の資金を調達するために発行します。債券の買い手は定期的に利子を受け取るほか、債券の満期となる償還日に元本が返ってきます。発行体の国や企業が破綻しない限り、元本が払い戻されるため、株式などと比較して安全資産とされています。
債券市場には新たに債券が発行される「発行市場」と、発行後に売買される「流通市場」があります。新たに債券を発行する場合、投資家に1年間でいくら支払うかを示す「利率」と、満期での返済額を示す「額面」を決めます。
「流通市場」では満期前であっても債券を売却することが可能で、発行額の多い国債などでは盛んに売買されています。景気や金融政策、発行体の信用力、需給のバランスによって常に債券の価格は変動します。売却するタイミングによっては投資元本を割り込むこともあるため注意が必要です。
債券投資の成績を測る上では「利率」ではなく「利回り」が重要です。「利率」はよく目にする、額面に対する利息の割合のことで、「クーポン」とも呼びます。
一方、「利回り」は投資金額に対しての利息収入と、「償還差損益(投資金額と額面金額の差)」の合計がどのくらいの割合になるかを示すものです。利回りが高いほど償還までに保有した場合の収益が大きく、魅力的な債券といえます。
債券の「利回り」と「債券価格」は逆方向に動きます。償還時に返ってくる元本は原則として確定しているため、価格が上昇した債券に投資すると償還時までに得られる利益が小さくなり、利回りは低下します。
日本では日銀が、低迷が続いている景気を刺激するために国債を大量に買い入れ、金利を低く押さえつけてきました。ただ足元では物価が上昇し、日銀が金融政策を変更するとの思惑が広がっていることもあり、債券の利回りは上昇基調にあります。
債券は発行体によって、国や地方自治体が発行する「公社債」と民間の企業が発行する「事業債」に大きく分けられます。公社債のうち国が発行する債券を「国債」と呼び、地方公共団体が発行する債券を「地方債」と呼びます。
国債は民間企業と比べて破綻する可能性が低いため、利回りが低くなります。社債の利回りが国債より高いのは、「破綻して元本が返ってこない危険性」を加味しているためでもあります。一般的に信用力の低い債券ほど利回りが高くなります。債券に投資する際は、発行体の信用力と利回りを見極めることが重要です。
●岸田首相「ラピダス成功へ尽力」 3/24
岸田文雄首相は24日の参院予算委員会で、次世代半導体の国産化を目指す新会社ラピダスが北海道への工場建設を表明したことについて「着実な進展と歓迎したい。政府としても人材育成や半導体関連産業と地元企業の連携強化を後押しするなど、成功に向けて尽力したい」と強調した。
●岸田首相「法の支配守り抜く」 G7サミットの目標示す 3/24
岸田文雄首相は24日、自らが議長として5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)での達成目標を示した。「第一は法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の決意を力強く示すことだ」と語った。グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)への関与強化も掲げた。
民間非営利団体「言論NPO」の会合で表明した。ロシアによるウクライナ侵攻を「決して許すことはできない暴挙だ」と非難した。「世界を弱肉強食の時代に戻してはならない」と強調し法の支配の重要性を説いた。
グローバルサウスに関連して「現実問題として様々な特色を持った国のパワーが相対的に増している」と指摘した。「豊かな多様性を尊重するための基本的な原則の順守と分断を招かないための対話が求められる」と話した。
「気候変動をはじめとする地球規模の課題について国際社会と連携していく姿勢を示していく」と述べた。
●岸田首相「地方組織も教団と関係遮断」 3/24
岸田文雄首相(自民党総裁)は24日の参院予算委員会で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と「一切関係を持たない」とする党の方針について「地方組織にも徹底すべく対応している」と説明した。統一地方選で道府県議選に臨む41道府県連のうち、9組織は党方針にのっとって候補者を選定。27組織は関係遮断の宣誓書などを候補者に求め、5組織は党方針順守を文書で周知したという。立憲民主党の石垣のりこ氏への答弁。
●岸田首相、日本の対ロ外交「問題なし」 ウクライナ支援迅速に―国会報告 3/24
岸田文雄首相は24日の衆院本会議で、ロシアのウクライナ侵攻に関し「過去の日本の対ロシア外交に問題があったとは考えていない」と述べ、北方領土交渉を含む平和条約交渉を推進した安倍政権の対応は適切だったとの認識を示した。
衆院本会議では首相のウクライナ・キーウ(キエフ)訪問について報告と質疑が行われた。立憲民主党の徳永久志氏は、2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合後も安倍政権は対ロ経済協力などを進めたと指摘し「(今回の)侵略の遠因の一つとなった」と断じた。
これに対し、首相は「現在の基準で当時を評価することは適切ではない」と反論。「ロシア経済分野協力担当相」ポストは廃止しない方針を示した。
首相は「クリミアを含むウクライナの主権および、領土の一体性を一貫して支持している」と重ねて表明。ロシアの侵攻を阻止するため、先進7カ国(G7)議長国として対ロ制裁とウクライナ支援を強化していくと述べた。
ゼレンスキー大統領に伝えたエネルギー分野などへの支援策について、首相は「可能な限り迅速に進めたい」と説明。北大西洋条約機構(NATO)の基金を通じて殺傷能力のない装備品に3000万ドルを拠出することについては、「拠出国が使途の指定を行うことができる」と述べ、理解を求めた。日本維新の会の青柳仁士氏、共産党の穀田恵二国対委員長への答弁。

 

●なぜ「捏造」と主張したのか…立憲議員が暴露した「総務省文書」 3/25
なぜテレビは政治報道に気を遣うようになったのか
放送法が定める「政治的公平」をめぐり、安倍晋三政権下で首相官邸が放送局の報道を萎縮させるような「新解釈」を導き出した「行政文書」が明るみ出て、永田町や霞が関、メディア界が揺れに揺れている。
国会での論戦に加えて、メディアや多くの有識者がさまざまな視点から多様な論争を展開。当該文書の真贋(しんがん)論争に高市早苗総務相(当時)の「捏造(ねつぞう)」発言、新解釈がもたらした放送界への影響、情報流出の国家公務員法違反騒動、はては自民党内の思惑絡みの綱引きや、総務省内の旧自治官僚と旧郵政官僚の因縁のバトル説まで飛び出し、岸田文雄政権は火消しに追われている。
論点はたくさんあるが、この「事件」が抱える本質的な問題は、一介の首相補佐官が安倍首相にゴマをすろうとした浅慮で「報道の自由」を侵しかねない事態をいともたやすく既成事実化してしまったことにある。
「サンデーモーニング」に募らせた不快感
「事件」が明るみになったのは3月2日。立憲民主党の小西洋之参院議員が、放送法の政治的公平をめぐり、2014年から15年にかけて、磯崎陽輔首相補佐官(当時)の主導で高市総務相が国会で新解釈を答弁するに至った総務省の内部文書を暴露したことに始まる。
当該文書は78ページに及ぶ。文書によると、政府・与党に批判的なTBSの番組「サンデーモーニング」について、磯崎氏が「コメンテーター全員が同じ主張の番組は偏っているのではないか」という問題意識を持ち、総務省に執拗(しつよう)に政治的公平の解釈変更を迫った。
さらに安倍首相が「現在の放送番組にはおかしいものもあり、現状は正すべきだ」と指示、高市総務相が政治的公平の判断基準を「放送事業者の番組全体」から「一つの番組」に変える新たな解釈を国会で披歴するまでの赤裸々な流れが克明に記されている。
「事件」のキープレーヤーとなった総務省出身(元自治官僚)の磯崎氏は、清和会(現安倍派)に所属する参院議員(当時)。首相補佐官としての担務は国家安全保障と選挙制度で、放送行政は所掌ではなく、縁もゆかりもない。にもかかわらず、放送法の政治的公平をめぐって総務省に口を出したところに「事件」の異常性がうかがえる。
首相補佐官が「俺と総理の二人で決める話」と恫喝
安倍政権は常々、政権に批判的な民放の報道番組に不快感を募らせていた。衆院選を控えた14年11月には、安倍首相がTBSの街頭インタビューが偏っていると批判。自民党は在京キー局に「報道の公正中立、公正の確保」を求める「お願い」を送り、番組に注文をつけた。
今回明らかになった内部文書に記されている磯崎氏と総務省のやりとりは、そうした時期に重なる。
磯崎氏は、総務省の安藤友裕情報流通行政局長ら担当者を何度も呼び出し、「この件は俺と(安倍)総理が二人で決める話」と断じ、「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」と恫喝(どうかつ)し、解釈変更を迫った。
首相官邸の権力を振りかざして畑違いの放送行政に口を出したわけだが、そこには、ボスの安倍首相の胸の内を忖度(そんたく)して点数を稼ごうとした下心が透けて見える。
総務官僚は放送法の解釈変更に抵抗したようだが…
政治的公平の新解釈が示されてから8年も経った時点で当時の経緯を記した文書が公になった背景には、安倍晋三首相が暗殺され、磯崎氏は落選し、当時の総務省の幹部職員も退官、さまざまな意味で重しが外れたというタイミングがあるだろう。
総務省出身で放送行政に携わった経験をもつ旧郵政官僚の小西議員は、「総務省の職員から提供を受けた」と文書の入手ルートを明らかにした。
当の文書は、当時の桜井俊総務審議官、福岡徹官房長ら省幹部をはじめ、原課の放送政策課などで広く共有されており、多くの総務官僚が目にすることができた。しかも、「行政文書」として残されているため、総務省OBの小西氏の手元に、どこから流れても不思議はない。
内部文書をつぶさにみると、解釈変更の影響を懸念した総務官僚は少なくなく、磯崎氏の横暴に必死に抵抗した跡がみてとれる。
磯崎氏の説明に前向きな反応を示した安倍首相
中でも、総務省出身で女性初の首相秘書官(メディア担当)となった山田真貴子氏の対応は当を得ていた。
後輩の安藤局長から報告を受けると、即座に「放送法の根幹に関わる話」と指摘し、「政府がこんなことをしてどうするつもりなのか。どこのメディアも萎縮する、言論弾圧ではないか」と影響の大きさを危惧した。
さらに、「民放を攻める形になっているが、結果的に官邸に『ブーメラン』として返ってくる」と冷静に判断、政治的公平の解釈変更はマイナス面が大きいとの認識を示した。
そのうえで、磯崎氏について「官邸内で影響力はない。総務省として、ここまで丁寧にお付き合いする必要があるのか」と疑問を投げかけ、「今回の話は、変なヤクザに絡まれたって話」と切って捨てた。
そして、磯崎氏の説明に前向きな反応を示した安倍首相に、「メディアとの関係で、官邸にプラスになる話ではない」と、解釈変更を思いとどまるよう直訴したのである。
最終的には押し切られた総務省だが、そこには、安倍政権の放送局への強圧的な姿勢に対し、放送の自主・自律を守ろうとする総務官僚(旧郵政官僚)の良識が働いたようにみえる。
政治的公平の判断は「番組全体」から「個々の番組」へ
あらためて、内部文書にしたがって、放送法の政治的公平の解釈変更の経緯を振り返ってみる。
政府は一貫して、「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体をみて判断する」との見解を示してきた。個別の番組について客観的な評価を下すことは難しいと考えられてきたためだ。
ところが2015年5月、高市総務相が国会で「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と、個々の番組が政治的公平の判断対象になりうるという新たな解釈を示した。
ただ、あまりに唐突な答弁で、自民党議員の質問にさりげなく応じる形だったこともあり、大きく報じられることはなかった。
問題が表面化したのは16年2月。高市総務相が国会で「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返した場合、何の対応もしないわけにいかない」と停波命令を出す可能性に言及し、あらためて政治的公平の新解釈を示したころだ。
ほどなく、政府は、「従来からの解釈については、何ら変更はない」としつつ、「一つ一つの番組を見て、全体を判断することは当然」と、さらに踏み込んだ統一見解を出した。
政府の見解を変更する場合に必須とされる内閣法制局と調整した様子はなく、事実上、磯崎氏、安倍首相、高市総務相の間で、報道の自由の琴線に触れるような解釈変更を決めてしまったようだ。
民放連幹部「ピースが埋まり、パズルが解けた」
「停波答弁」と「政府統一見解」を受けて、コトの重大性に気づいたメディアが一斉に報道、にわかに「政治的公平の解釈」が俎上(そじょう)に上った。
新解釈に対し、放送局や新聞社はもとより日本弁護士連合会(日弁連)などから「従来の見解と明らかに矛盾する」「言論の自由への介入だ」「放送事業者の萎縮を招く」との批判が噴出した。個別の番組に対する事実上の検閲や言論弾圧に道を開き、民主主義の基本理念を脅かしかねないと懸念されたのである。
当時、なぜ突然、新解釈が示されたのか、経緯がわからなかったが、今回の文書で首相官邸の意向に沿ったものであることが明らかになった。
日本民間放送連盟(民放連)の幹部は「これでピースが埋まり、パズルが解けた」と驚き、放送法の理念の根幹にかかわる解釈変更が一首相補佐官の強要で実現してしまった実態に強い懸念を示した。
内部文書を暴露した小西氏は「個別番組を狙い撃ちする政治的な目的で放送法の解釈を変えた。一部の権力者によって都合のいい解釈に放送法が私物化されている」と追及しているのに対し、松本総務相は「礒崎補佐官から総務省に問い合わせがあり、従来の解釈を補充的に説明した。放送行政に変更があったとは認識していない」と強調。岸田首相も「放送法についての政府の解釈は変わっていない」と事態の鎮静化に努めている。
だが、放送の現場からは「政治報道は気を遣うようになった」と息苦しさを伝える声が聞こえてくる。
行政文書を「まったくの捏造」と言い張る高市元総務相
この「事件」の核心とはまったく別の次元で世間の注目を集め、醜態をさらし続けたのが、当時の総務相として表舞台で主役を演じた高市経済安全保障担当相だ。
内部文書が露見するやいなや、国会答弁や記者会見で「まったくの捏造」と言い放ち、捏造でなければ大臣も議員も辞職すると大見えを切ってしまったのである。
磯崎氏が早々に自ら総務省に働きかけて新解釈が行われたことを認め、松本剛明総務相が「行政文書」と認定して公表し、総務省が「総務官僚による高市氏への説明(レクチャー)があった可能性が高い」とする調査結果をまとめても、「捏造」と言い張った。
本来、外部に漏れることのない内部文書を総務官僚が捏造する必然性がない以上、もはや「捏造」と受け止める人はいないだろう。
高市氏は「ありもしないことをあったかのようにいうのは捏造だ」と連発したが、「あったことをなかったというのはウソつき」ということばを知っているだろうか。
政府が認めた公文書を「捏造」というからには、立証する責任は高市氏自身にある。
内部文書が「捏造」であってもなくても辞職に値する
ひるがえって、もし、仮に「捏造」だとすれば、大臣在任中に、省内に捏造文書が流布していたことになり、監督責任は免れない。そのうえ、当時の部下たちへの不信感をあらわにしているのだから、何をかいわんや、である。
しかも、高市氏は、自らの判断で新解釈を答弁したと明言した。報道の自由にかかわる重大な解釈変更を、独断で行ったとなれば、一大臣の分を超えた由々しき事態といえる。だが、実際には、半年余にわたって事務方ですり合わせが行われ、安倍首相の指示を受けて答弁に至った経緯を、内部文書が記している。
いずれにしても、大臣としての職責をまっとうしたとは言えず、欠格大臣であることを自ら吐露してしまった。天に唾するとは、まさにこのことだろう。
もはや、内部文書が捏造でなくても、捏造であっても、高市氏は辞職に値する。
気の利いた国会議員ならば、「記憶にございません」とはぐらかしたところだろうが、何を血迷ったのか「捏造」と口走ってしまい、自らを窮地に追い込んでしまった。高市氏の心中は測りかねるが、格下の首相補佐官の画策で自らが役者を演じなければならなくなったことが不快で、あえて解釈変更の主導権は自分にあると言いたかったのかもしれない。
旗色が悪くなるにつれ、当初の勢いもトーンダウン。敵に回した総務官僚はもとより、政府や自民党内からも冷ややかな視線が投げかけられている。
高市氏の立ち居振る舞いは「見苦しい」の一言に尽きる。政治家としてのレベルの低さを自ら知らしめてしまった。
もっとも、報道の自由にかかわる「事件」を広く世に知らしめたことは、大きな功績といっていいかもしれない。
メディアの報道にはくっきりと濃淡があらわれた
それにしても気になるのは、今回の「事件」に対するメディアの報道ぶりにくっきりと濃淡が表れたことだ。
朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は、文書が表面化した直後から大々的に紙面を割いて詳報し、社説も繰り返し掲載、ネットでも大きく展開して、「事件」の経緯や問題点を厳しく指摘し、糾弾した。もともと安倍政権には批判的だっただけに、力の入れようが伝わってくる。
NHKも、異例と言えるほど連日、定時ニュースで報道。標的となった民放各局も、ここぞとばかりに多角的で多様な報道を展開した。
一方、発行部数トップの読売新聞は、控えめな報道に終始し、何が起きているのか、読者に正確に伝えようという意図が感じられなかった。日本経済新聞も同様だった。
読売新聞が安倍政権の「応援団」であったことは広く知られているが、放送法の新解釈は報道の自由に関わる問題だけに、ジャーナリズムの担い手としてのあり方が問われよう。
放送法の目的は、放送の自主・自律を保障することによって、表現の自由を確保することにある。政治圧力によって、放送が萎縮させられるようなことがあってはならない。にもかかわらず、一首相補佐官の身勝手な思い入れが新解釈をもたらしたところに、この「事件」の特異性がある。
政治的公平をめぐる新解釈は、政府の見解として今なお有効だ。国民の「知る権利」にも関わる重大な問題と受け止めなければならない。
●韓日首脳会談の波紋…「関係改善」vs「徴用解決策問題」世論も割れる韓国 3/25
韓国政府が徴用解決策を発表し、韓日首脳会談後に韓日関係が正常化の道に入った中、これを眺める世論は依然として両極化していることが明らかになった。政界と外交界では、政府が積極的に国民と被害者を説得すべきという注文と同時に、日本も意味のある呼応措置を出せるよう政府全体レベルで外交力を発揮する必要があるという声が高まっている。
韓国ギャラップが21−23日に全国満18歳以上の1001人を対象に実施し、24日に発表した世論調査の結果によると、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の職務遂行に対する肯定的な評価は34%、否定的な評価は58%だった。前週比で肯定的な評価は1ポイント上昇し、否定的な評価は2ポイント下落した。
注目されるのは肯定・否定的評価の理由ともに韓日関係が関係している点だ。肯定的な評価の理由では「日本との関係改善」(18%)と「外交」(11%)が、否定的な評価の理由では「外交」(25%)と「日本との関係/強制動員賠償問題」(23%)が多かった。
こうした傾向は1週間前の韓国ギャラップの同じ調査と比較するとさらに強まった。実際、前週の調査で韓日関係と外交を評価の主な理由とした比率は肯定的な評価が16%、否定的な評価が30%だったが、1週間にそれぞれ29%、48%に急増した。韓日関係イシューが尹大統領の支持率に直接的な影響を及ぼしているのだ。韓国ギャラップも「肯定・否定的評価の双方で日本・外交関係への言及が大きく増えたのは、政府の第三者弁済案発表と尹大統領の訪日および首脳会談の後に続いた反響とみられる」と分析した。
大統領室と政府も尋常でない世論に積極的に対応している。尹大統領が21日の国務会議で23分も冒頭発言をしながら国民説得に注力し、これをテレビで生中継したのが象徴的な例だ。大統領室も北朝鮮の核・ミサイル脅威が強まる北東アジア情勢の中で韓日米の連携は選択でなく必須であり、このために韓日関係正常化の決断が避けられなかったという点を強調している。
政府各部処も後続措置に着手した。秋慶鎬(チュ・ギョンホ)副首相兼企画財政部長官はこの日の非常経済長官会議で「龍仁(ヨンイン)に造成される半導体クラスターで韓日サプライチェーン協力を具体化するための関係部処協議体を稼働する」とし「両国間の航空便増便作業にも速やかに着手し、人的交流を関係悪化以前の水準に回復させる」と明らかにした。
訪日中の権寧世(クォン・ヨンセ)統一部長官もこの日、特派員との懇談会で、前日の林芳正外相との会談結果を伝えながら、「北朝鮮情勢や拉致被害者の関連情報などを交換する政府間チャンネルを構築しようと提案し、林外相も前向きに検討するという立場を明らかにした」と話した。
問題は、世論調査の推移で否定的な世論が弱まる兆しが見えない点だ。共に民主党の首都圏重鎮議員は「住民に会ってみると、一様に『韓国が日本から得たものは何か』という指摘と『どうして急いでするのか』という疑問を提起する」とし「これについて納得できる説明がなければ世論の変化は容易でないはず」と診断した。
世宗研究所の陳昌洙(チン・チャンス)日本研究センター長は「徴用被害者に直接会って理解を求めるなど、国民が納得するまで努力する姿を見せる時」とし「日本も両国関係の発展を本当に望むのなら、経済協力などで言葉だけでなく顕著な後続措置を取らなければいけない」と注文した。
●衝撃!こんなに増えていた「サラリーマンの税金」… 「日本の税金は安い」 3/25
サラリーマンの給料や退職金は上がらず、その反面、税金や社会保険料等の負担は増大しています。今やサラリーマンにとって、自衛手段として能動的に「節税」することが欠かせません。本記事では元国税専門官である小林義崇氏が、新刊著書『会社も税務署も教えてくれない 会社員のための節税のすべて』(PHP研究所)から、サラリーマンの税金がいかに重くなってきているかと、国が容赦なく増税に邁進する背景について解説します。
サラリーマンの負担は重たくなる一方…税・社会保険の負担率は「5割」に迫る
収入が増えない状況でありながら、負担は徐々に増えているのが昨今の日本です。税金に目が向きがちですが、社会保険料の増加も無視できません。
毎年昇給しているはずなのに、思ったよりも手取りが増えないと感じることはないでしょうか。これは、社会保険料の負担が増えたことによる可能性が高いです。
[図表1]は、1975年(昭和50年)から2022年(令和4年)の「国民負担率」の推移を示したものです。国民負担率とは、国民の所得に占める租税負担と社会保障負担の割合です。
   [図表1]国民負担率の推移
これを見ると、とくに社会保障の負担率が伸びていることが分かります。昭和と令和を比べると2倍ほどの開きがあります。
社会保障負担のうち、私たちが主に負担しているのが健康保険料と年金保険料です。サラリーマンの場合、健康保険料と厚生年金保険料が給料などから天引きされています。
これらの社会保険料は、4〜6月の平均月給などで決まる標準報酬月額と、ボーナスの千円未満を切り捨てた標準賞与額に基づき、一定の率を掛けて計算されます。
この保険料率が、かつてなく高くなっているのです。健康保険料の保険料率は勤務先の健康保険組合によりますが、主に中小企業の従業員や家族が加入する協会けんぽの場合、1977年度の8.00%から、現在は10%程度に上昇しています。
さらに、2000年度に介護保険が創設され、40歳以上の人は健康保険料に加えて介護保険料も支払う義務があります。協会けんぽに加入している40歳以上の人は、健康保険料と介護保険料の率を合わせて12%程度を負担しなくてはいけません。
厚生年金の保険料についても、2004年10月から毎年0.354%ずつ引き上げられ、2017年9月以降は18.3%となりました。
これらの社会保険料は、勤務先と従業員で折半する形ですが、それでも決して負担が少ないとは言えません。たとえば東京都の会社に勤務する、40歳で、標準報酬月額30万円の人の場合、月々の給料から差し引かれる社会保険料は約4万5,000円に上ります(協会けんぽ、2022年度の保険料率で計算)。
〈労使折半後の社会保険料〉
・健康保険料(介護保険料を含む) 1万7,175円
・厚生年金保険料 2万7,450円
 ⇒合計4万4,625円
収入が月平均30万円であることを考えると、これらの保険料の負担は重たく感じられるのではないでしょうか。収入の約6分の1もの額が引かれ、さらにここから所得税や住民税、雇用保険料も取られてしまうのです。
なお、社会保険料は自らの行動で負担を下げるのが困難です。自分の給料や賞与を自分で決められる経営者であれば対策の余地がありますが、普通のサラリーマンは収入をコントロールできないので、収入に応じた社会保険料を負担する他ありません。
社会保険料については、保険料を減らすことより、高額療養費制度や出産手当金のような給付を確実に受け取ることを意識したほうがいいです。
家計の改善を行うときは、節税により税負担を抑えることが現実的な対策になります。
増税のターゲットはサラリーマン・高所得者
税金のしくみは毎年変わりますが、近年顕著になっているのがサラリーマンや高所得者をターゲットにした増税です。以下は一例ですが、サラリーマンの税負担に直結する改正がなされています。
〈2018年改正〉
・年間所得900万円超の人の配偶者控除・配偶者特別控除額を引き下げ
〈2020年改正〉
・年収850万円超の人の給与所得控除額を引き下げ
・公的年金など以外の年間所得1,000万円超の人の公的年金等控除額を引き下げ
・年間所得2,400万円超の人の基礎控除額を引き下げ
サラリーマンの所得税や住民税は、給与所得に基づき計算されます。この給与所得は、給与収入から給与所得控除額を差し引いて計算します。当然ながら給与所得控除額が多いほうが、税金の負担が下がるわけですが、この控除額が度重なる税制改正により減っているのです。
1974年から2012年まで給与所得控除に上限はありませんでした。年収がいかに高くとも、一定の割合を掛けた金額を差し引いて所得を計算することが可能だったのです。
しかし、2013年に給与所得控除額の上限が245万円に設定され、年収1,500万円を超えると控除額が一切増えない形になりました。これは高所得者をターゲットにした増税に他なりません。さらにその後も給与所得控除の改正は続き、[図表2]のとおり縮小されてきました。
   [図表2]給与所得控除の限度額の推移
給与所得控除額の引き下げに加えて、使い勝手のよかった減税措置のいくつかが廃止されたことも気になる点です。
私が東京国税局に入った2004年には、65歳以上のほぼすべての人が対象となる「老年者控除」や、所得税の20%、住民税の15%が一律減額される「定率減税」といった制度がありました。
これらの制度はとくに手続きをせずとも税負担を下げてくれていたのですが、すでに廃止されています。
その一方で、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」や「ふるさと納税」のように、新しい節税方法も登場しています。これらは自動的に適用されるものではなく、自身が主体的に動かなくてはいけません。
こうした傾向から言えるのは、節税のための行動を何も起こさずにいると、税負担は自然と増えてしまうということです。最初は気にならないとしても、これが何年も積み重なると税負担の差は著しいものになります。
相続税が中間層を直撃
負担が増えているのは所得税や住民税だけではありません。2019年10月1日から、食品などの一部の商品を除き消費税が10%になりましたし、たばこ税や酒税も総じて増税しています。
我々一般庶民になじみのなかった相続税についても2015年に大きな改正があり、申告が必要となる人が大幅に増えています。
相続税は、手厚い基礎控除額のおかげで多くの人は申告や納税をする必要がありませんでした。2014年以前の基礎控除額の計算は、「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」というもので、たとえば妻と子2人が相続する場合、基礎控除額は8,000万円となり、これを超える遺産がなければ相続税はかからなかったのです。
ところが、2015年以降、基礎控除額は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算するようになっています。
先ほどと同じく妻と子2人のケースで考えると、基礎控除額は4,800万円ですから、都内に住宅をもっている人などは、相続税の申告が必要になると考えられます。
この改正が行われる前は、相続税の申告が必要な人は、全死亡者の4%程度でした。しかし、この割合が今や9%を超えています。
相続税の節税が富裕層だけに必要だったのは過去の話です。これからは、多くの人が相続税のルールを知り、節税に取り組む必要があると言えます。
さらなる増税もあり得る
日本は長らく財政赤字が続いており、これを国債という、いわば国の借金によって賄っています。日本では少子高齢化で働ける人の数が減っているにもかかわらず、年金や医療などの社会保障費が増えています。
構造的に税収不足から抜け出すことができず、毎年赤字国債を発行している状況です。
こうした状況にあるため、今後も日本政府はさらなる負担増加に踏み切る可能性が高いでしょう。
財務省がホームページで公開している「これからの日本のために財政を考える」に今後の増税を予想させるような記述がありますので、いくつか抜粋したいと思います。
ホームページに書かれた「財務省の考え」とは
[図表3]は「これからの日本のために財政を考える」に掲載されているもので(2023年3月時点)、1990年度と2022年度の歳出・歳入が比較されています。
   [図表3]日本の財政構造の変化
これによると、社会保障関連費が約25兆円増えている一方、税収の増加は10兆円ほどに留まっています。そして、同じ資料の中に次のような文言があります。
「財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています」
この記述を見ると、社会保障以外の支出、つまり日本人の税金の負担は決して大きくないため、まだ上げる余地があるという財務省の考えが見えてきます。
高齢化が急速に進み、社会保障費が年々増加している日本では、財源不足が深刻化しています。これを補うために、現役世代のみならず、高齢者に対する増税も徐々に実施されていくと考えるのが自然でしょう。
   [図表4]財務省は「日本の税収の規模は諸外国と比べて低い」と説明している
●異次元緩和の恐ろしい結末 3/25
黒田日銀総裁の退任に向けて、10年に及んだ異次元金融緩和を総括する出版物、解説やインタビュー記事が多数、発表されています。黒田氏自身、日銀自身が「本当のところはどうなっているのか」の検証をし、日銀もその公表に取り組んでこなかったからでしょう。
異次元緩和や、これを軸にしたアベノミクスに「一定の成果」があったとする擁護派もいることはいます。一方、批判派の声があちこちで上がり、「このままでは末恐ろしい結末を迎える」という警告が聞かれます。植田新総裁は批判派の声をよく聞き、予想される恐ろしい近未来に対応し、本当のことを国民と市場に向けて語ってほしいと、私は思います。
日銀OBで、シンクタンクのエコノミストである河村小百合氏が「日本銀行・我が国に迫る危機」という近著を出版しました。金融、財政、物価、諸外国の動向などについて、何十枚ものグラフ、表、データを駆使して、実証的に分析する本です。擁護派に多くみられる感覚的、楽観的、思い込みとは正反対の立場です。
河村氏は「黒田日銀は本当のことを語っていない。かたらない本当の理由がある」と、繰り返し指摘しています。「本当のことは何か」を考えてみるという問いかけをしているのでしょう。
世界は高インフレ局面に急展開し、一過性ではなく長期化の兆しがあります。海外ファンドなどは「日銀の異常な金融緩和政策の継続は無理だ」とみて、昨年来、国債の大規模な売り攻勢(金利上昇圧力)をかけています。
河村氏は「ついに不穏な兆候が現れた。高インフレ、円安、海外市場の動き。日銀は国内外の経済・金融情勢に応じて、機動的に金利を引き上げることができなくなっている。日銀は超金融緩和からの転換を頑なに拒み続けている」と、指摘します。日銀は身動きできない、しない。
なぜ頑ななのか。「本当のところ、深刻な理由があるからだ。日銀関係者は本当の理由について自分たちから口にすることはない。隠している」と。日銀関係者とは、黒田氏をトップとする執行部のことでしょう。
その深刻な理由というのは何か。「異次元緩和を10年も続けてきたため、ひとたび利上げ局面に入れば、日銀の財務体質が悪化し、赤字に転落することが確実な状態にすでに陥っている。その状態が数年も続けば、日銀は債務超過に転落し、その状態が何十年も続く」と、河村氏は断言します。
するとどうなるのか。「通貨の信認が失われ、海外との経済取引の相手として信用されなくなる。日銀が自力で収益を回復できる見通しが立たないと、政府が税金を投入するか、国債発行を減額(歳出のカットになる)することになる」という状況にならざるをえない。
そんなことを黒田氏以下は分かっていなかったのだろうか。分かっていても、黒田氏以下は対応してこなかった。河村氏は「黒田日銀は、異次元緩和を始めた当事者であるはずの自分たちの責任を問われる事態は任期中はなんとしても避けたいということだ」と、一刀両断します。
「責任を問われる事態は任期中に避けたい」とは、なんとも激しい言葉です。政府でも民間企業でも、よくあることで、それが傷口を広げてしまう。
日銀の債務超過問題とは何なのか。日銀の保有国債は国債全体の52%(536兆円)に達します。金利が上昇局面に入り、国債価格(相場)が下がれば、保有国債に損失がでる。前副総裁の雨宮氏は国会で「長期金利が1%上昇すれば、含み損が28兆円になる」と証言しています。
これに対し、日銀は国債を満期まで保有を続ける会計処理(全額償還)をする。海外の中央銀行は時価評価するのに対し、日銀は簿価評価をするので、含み損があっても、財務問題は生じないという説明がよく聞かれます。異次元緩和の擁護派がよく使う便法です。
河村氏は、その正反対の論者です。「金利上昇時に発生する国債の評価損は、日銀当座預金に対する利子(付利)コストの増加にほぼ等しい。日銀が供給する通貨の大部分は、民間銀行が日銀に預ける当座預金の形をとる。市場金利が上昇すれば、当座預金の金利も上げることになる。それが日銀の財務に大きくのしかかってくる。含み損が表面化する」と。
日銀当座預金残高は2月現在で、563兆円まで拡大しています。預金の「基礎残高」には0・1%の金利がつけられており、これが上昇していけば、日銀の財務内容が悪化します。つまり「満期まで保有するので、評価損は心配ない」という説明はなり立たないことになります。
この問題では、中曽・前副総裁も昨年9月のインタビューで、「利上げする時はくる。当座預金の金利も引き上げることになり、日銀の収益は減り、国庫納付金も減り、政府収入も減る。増税か歳出カットで穴埋めするしかない。一方、利上げせずにインフレを放置すれば、物価上昇を通じて、結局は国民が負担することになる」と、語っています。
安倍・元首相は22年5月の公演で「大丈夫です。政府がいくら国債を発行しても、日銀に買わせておけば大丈夫」と語りました。河村氏は「日銀の金融政策の運営能力、財政にどのような影響を及ぼすことになるか、安倍氏は22年に至っても、理解できていなかったようだ」と、手厳しい。
日銀の財務問題以外に、「黒田氏が言わない本当の理由がある。それは財政運営だ」と、河村氏は指摘します。国際的な金利動向、インフレ、円安により、金利上昇局面にすでに日本も入っています。日銀当座預金の金利上昇→日銀の赤字決算転落→日銀の債務超過の発生→政府による補填→増税か歳出カットという、連鎖になることが避けられないというのです。
23年度予算(歳出総額114兆円)では、国債費が25兆円(うち利払い費は8・5兆円です。これまでのように10年国債の金利をゼロ近傍に抑えつけておくことができなくなる。長期金利の上昇→利払い費の増加→国債減額→歳出削減→社会保障費、防衛費、教育費などに影響という連鎖です。異次元緩和の出口(金利上昇、国債減額)ではこうした事態が生まれる。
河村氏は、一連の分析を通じて、次のような提言をしています。
1.こういう事態を招いたことを反省し、中央銀行の組織運営を再建する。
2.日銀は政府の財政運営に関する調査に取り組む。
3.市場金利は市場が決めるメカニズムを尊重する。
4.「期待される効果がないのに効果がでるまでやり続けた」ことへの反省。
5.新しい政策手段は慎重、かつ段階的に、期限を切って試みる。
●岸田首相「罷免要求は論理飛躍」 放送法文書、高市氏譲らず―国会 3/25
放送法が定める政治的公平性の解釈に関する総務省の内部文書を巡り、野党は24日の参院予算委員会で政府への追及を強めた。立憲民主党は文書を官僚の「捏造(ねつぞう)」だと断言する高市早苗経済安全保障担当相は閣僚失格だと主張し、岸田文雄首相に罷免を要求。首相は文書が正確かどうかの精査が先決だとして応じなかった。
「引き続き文書の正確性を議論しなければならない。その段階でいきなり更迭うんぬんというのはあまりに論理が飛躍している」。首相は立民の石垣のりこ氏の罷免要求をこういなした。
政治的公平性に関し、総務省はかつて「番組全体を見て判断する」との解釈だった。高市氏は総務相時代の2015年5月の国会答弁で「一つの番組でも判断できる」との新解釈を表明。文書には礒崎陽輔首相補佐官(当時)が解釈の「補充」を同省に働き掛け、安倍晋三首相(同)や高市氏がゴーサインを出した経過が記されている。
石垣氏は「記述は捏造との認識は変わらないか」と高市氏に質問。高市氏は「ありもしないことをあったかのように書いている。だから捏造だと言った」と譲らなかった。
すると石垣氏は「捏造は犯罪だ。(高市氏には)告発義務がある」と指摘。高市氏は「告発するつもりはない」と苦しい答弁に追われた。石垣氏は次に首相に矛先を向け、「保身のため(捏造だと主張し)部下を売り飛ばす一点を取っても、もはや高市氏は任に堪えない」と即時更迭を迫った。
総務省文書の問題を国会で取り上げるのは立民と共産党が中心だった。しかし、24日は日本維新の会が参戦。立民、共産両党とは違う角度から追及した。
維新の音喜多駿政調会長は、放送法の解釈がゆがめられたか否かが最大の焦点にもかかわらず、捏造でなければ閣僚や衆院議員を辞すると高市氏が表明したことで、論点がずれたと指摘。「辞任する必要があるとは全く思わない。軌道修正しないか」と「捏造」発言の撤回を促した。
だが、高市氏は「文書に書かれているようなことはあり得ない」と応じなかった。
2023年度予算案は28日にも成立する見通し。その後は衆参両院の予算委が開かれる機会は少なくなり、総務省文書問題を追及する場も限られる。立民からは「政権を追い詰めるのは難しいかもしれない」(幹部)と焦りの声も漏れる。
●高市早苗氏いつまで袋叩き? 岸田首相は更迭拒否も庇わず… 3/25
なぶり殺しにするつもりなのではないか──。ほとんど“詰んで”いるのに、かたくなに「大臣レクはなかった」「総務省の文書は不正確だ」と訴えつづけている高市早苗経済安全保障担当相。
さすがに、自民党内からも「このままでは傷を大きくするだけだ」「タイミングを見て交代させてやった方がいいのでは」との声が上がっている。
ところが、岸田首相は、23日の参院予算委でも一切、かばおうとせず、「捏造という言葉の使い方は、高市氏から丁寧に説明させたい」と、冷たく突き放している。まだまだ矢面に立たせるつもりだ。これまで4人の大臣を更迭しているが、高市氏は更迭もしない方針だという。
なぜか内閣支持率が上昇している岸田首相は、機嫌がよく、最近「自分に取って代わって首相になれる議員がいるのか」「いま俺を辞めさせるヤツなんていない」と口にしているという。実際、いますぐ後を襲うような「ポスト岸田」は不在だ。
「岸田さんの強みは、いつのまにか強いライバルがいなくなっていることです。“ポスト岸田”が不在なら、“岸田降ろし”も起きづらい。岸田さんは、この際、有力な“ポスト岸田”になりかねない高市さんを、完全に潰すつもりなのではないか。高市さんが『文書は捏造』と主張していたのに、総務大臣が早々と『文書は本物』と認めたのも、岸田官邸がゴーサインを出したからではないか。都合がいいことに、高市さんが火だるまになっても、内閣支持率は下がるどころか、上がっている。岸田首相は、内心、ニンマリしている可能性があります」(政界関係者)
「ポスト岸田」への野心を隠さない茂木幹事長についても、岸田首相は抑え込む自信があるらしい。
「岸田周辺は、茂木さんの耳に入るように、意図的に『岸田首相は再選を目指さない』『総裁任期を迎える来年秋に退陣する』『後継は茂木さんだろう』という情報を流している。岸田首相が、安倍さんからの禅譲を期待して身動きが取れなくなったのと同じ構図をつくっています」(官邸事情通)
連日、袋叩きにあっている高市氏は、岸田首相の術中にはまっているのではないか。
●首相、前中国大使の離任面会断る 世論硬化に配慮、異例の対応 3/25
日本政府が2月末に帰国した中国の孔鉉佑前駐日大使からの岸田文雄首相に対する離任あいさつの申請を断っていたことが25日分かった。歴代大使の大半は離任時に首相面会を受けており、岸田政権の対応は異例。慎重な対中姿勢が浮き彫りになった。硬化する国内の対中世論に配慮したという。複数の日中関係筋が明らかにした。
日中平和友好条約締結から今年で45周年を迎え、日中両政府は関係安定化の機会を探っているが、中国は習近平国家主席のロシア訪問中にウクライナを訪れた岸田氏をけん制。東京電力福島第1原発の処理水放出に懸念を表明しており、岸田政権は国内世論などを見極めながら中国に対応する構えだ。
●「国民をなめきっている」日本の国会議員 英国と比べてみた 3/25
英国のジョンソン元首相がピンチに陥っている。コロナ禍の最中、規制に反し首相官邸でパーティーが繰り返されていた問題で、議会に虚偽答弁をしたとして、追及されているのだ。最悪、議員失職までありうるという。かたや日本では、かつて安倍晋三元首相が在任時に「桜を見る会」問題に関して、118回も虚偽答弁を重ねたのにこうした追及は受けていない。なぜ日英でこうも違うのか、議会答弁の重さを考える。
ロックダウン中のパーティー巡り
「胸に手を当てて、議会にうそをついたことがないと言える」
22日の英下院特権委員会。議場全体から視線が注がれる中、「事情聴取」の冒頭にジョンソン氏はこう宣誓した。
同氏は2020年、新型コロナウイルス拡大時のロックダウン(都市封鎖)のさなか、首相官邸で開かれた規制違反のパーティーに参加していた。昨年1月の下院質疑で公式に謝罪し、4月には現職の首相として初めて警察当局に罰金を支払った。パーティーは複数回にわたり、首相辞任の引き金となった。今回の聴取は、下院で追及された同氏が「ルール違反はなかった」と繰り返していたことが発端。一連の言動が「議会を欺いた」と批判を浴び、下院議員の全会一致で特権委の開催が決まった。
特権委とは何か。議員が議会の動きを妨げた可能性がある際、議会から審査を依頼される常設委員会で、1990年代に前身の機関が発足している。名古屋大の近藤康史教授(政治学)によると、日本の国会の懲罰委員会に近く、開催頻度は数年に1回程度という。今回の委員長は野党労働党から出ており、6人の委員は会派ごとの議員数に応じて割り振られた。
近藤氏は「英国政府では古くから、虚偽答弁やハラスメントに厳しい『閣僚行動規範』があるが、この規範を犯したジョンソン氏自身が昨年、軽微な違反なら辞任しなくても済むように修正した。このような信用をおとしめる行動が特権委の開催を招いた」と語る。
英国では「大きな罪」
英公共放送BBC(電子版)によると、同氏は、意図的にうそをついたかについては「当時、私が正直に知り、信じていたことに基づいていた」と否定。だが、世論調査会社ユーガブの調査では、国民の66%が「故意に議会を欺いた」と考え、「そうではない」は15%だった。
聴取後、特権委は「謝罪」「職務停止」「除名」のいずれかを下院に勧告し、妥当性を下院が判断することになる。除名なら当然失職だが、職務停止でも停職期間によってはその後所属選挙区内でリコール投票が行われ、有権者の1割の署名があれば失職となる。
成蹊大の高安健将教授(英国政治)は「議会の動きを妨げたことは、議員が特別視される英国では大きな罪となる」と指摘。「勧告は政権全体のイメージに影響を与える。他の議員たちは『この人も同じか』と思われるのを恐れて行動することになるので、特権委の持つ機能は大きい」。下院での採決時、現与党でジョンソン氏が党首を務めていた保守党は自由投票の方針を示している。
国民が注視している
「一連のパーティーの開催について、英国民の注目度は依然として高い」と語るのは、同志社大の吉田徹教授(比較政治)。強い言葉でジョンソン氏を非難する特権委の姿勢を「英国議会では、本会議も委員会も与野党が丁々発止でぶつかり合い、言葉からにじみ出る議員の人柄を国民は注視しているから」と説明し、こう続ける。
「言葉の重みに対する感覚や熟議の文化が育まれていない日本とは、その点に差が生まれている」
では、日本ではどうか。安倍政権では事実に反する答弁が繰り返されたが、その責任を取って議員を辞めた閣僚はいない。
故・安倍晋三元首相の後援会が主催した「桜を見る会」前日の夕食会を巡り、問題発覚後の2019年11月から20年9月まで、安倍氏が首相在任中に国会質疑で行った虚偽答弁は少なくとも118回。野党の依頼を受けて衆院調査局が調査して明らかになった。
嘘をついても
安倍氏は衆参両院の本会議や予算委員会で「夕食会の収入と支出に関する政治団体などの関与」「夕食会を開いたホテルの明細書などの発行」「政治団体による不足分の補塡ほてん」についていずれも否定していた。だが、政治資金規正法違反などの疑いで刑事告発され、東京地検特捜部の捜査の中で事務所側の関与や費用補塡などが判明した。
調査結果を受け、安倍氏は20年12月、衆参両院の議院運営委員会で「事実に反するものがあった。国民の信頼を傷つけた」と陳謝。だが、自身は刑事事件では不起訴となったこともあり、議員辞職については「説明責任を果たすことができた」と否定した。その後、21年10月の衆院選にも出馬して10選を果たし、自民党内の最大派閥「安倍派」を率いて岸田政権を支えるなど影響力を保っただけでなく、首相として再登板を求める声もあった。
安倍政権下では「桜を見る会」以外にも学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、政府が事実と異なる答弁を計139回していたと衆院調査局が明らかにしている。安倍氏は国会で、この問題について「私や妻が関係していれば、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁。だが、偽証すると罪に問われる証人喚問は実現しなかった。
今国会でも横行する言い逃れ
国会での答弁の真偽を調査され、回数までカウントされた安倍氏のケースはまれだ。現在、国会では安倍政権下での放送法の「政治的公平」の解釈を巡る行政文書について、議論が繰り広げられている。当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が、野党からの批判に「答弁が信用できないんだったら、もう質問しないでください」と答えるなど開き直りにも見える言い逃れが横行する。
政治ジャーナリストの野上忠興氏は「いまの政治家は話すこともやっていることもでたらめ」と指摘。現状を「国民をなめきっている。自民党は政権を維持できればいいという集団と化している」と批判する。「特に安倍氏は、野党に何を言っても反対されるだけで親切に対応する必要はない、という思いがあった」と野上氏。野党の質問にまともに答えない身勝手な姿勢がいまも引き継がれているとし、こう危ぶむ。「議員は国民の代表なのに。これでは議会政治がいらなくなってしまう」
「核持ち込みや沖縄返還を巡る日米間の密約などトップシークレットを隠すためのうそはかつてもあった」と話すのは細川護熙内閣の首相秘書官を務めた駿河台大の成田憲彦名誉教授(政治学)。その上で「安倍政権で目立ったのは保身のための答弁。国会に対する緊張感がゆるんでいる。与党が政権をかばうため、懲罰動議も証人喚問も実現しない」と説明する。
議会制民主主義発祥の地・英国が虚偽答弁に厳しい対応で臨むが「日本は国会での答弁の真摯しんしさ度合いに対する厳しさがなく、議論に秩序と規律がない」と虚偽答弁がまかり通る背景を指摘する。国会の自浄能力のなさを危ぶむ成田氏は、野党の奮起を求める。「国会での緊張感を取り戻すには政権交代が必要。そのためには、野党は批判に終始するだけなく、ビジョンを示す必要がある」
デスクメモ
「うそも方便」「本音と建前」。腹芸を使いこなしてこそ大人。でないと「正直者はばかを見る」。首相が何回うそをついても本質的責任を取らずにのうのうとしていられたのは、それらの「処世訓」を世間が是としているからか。うそに真剣に怒る正直者が報われる日は、いつ来る。  
●予備費は与党の財布ではない 3/25
政府が2兆円を超す規模の物価高対策を決めた。地方自治体に1兆2000億円の交付金を配り、LPガス料金や大規模な工場で使う電気料金の負担軽減に充てる仕組みだ。自治体を通じ、低所得の世帯に一律3万円を給付する支援枠も設ける。
物価高騰に困る生活や事業者を政府が適切に支援することは必要だ。とはいえ、対策は弱者に的を絞った内容となっているのか。もとより、国会の議決なしに閣議決定で使途を決められる予備費を政府・与党があたかも財布のように流用する実態は容認できない。
対策の過半は「地方創生臨時交付金」として国から自治体に資金を渡し、地方単位で実施する。物価高対策で導入したガソリンや電気・都市ガス料金の負担軽減策の対象を、地方で利用が多いLPガスにも広げる。住民税が非課税の世帯を念頭とする低所得者への給付もこの交付金で実施する。
地方重視の姿勢を示してはいるが、真に助けを必要とする対象に支援が届くかどうかは疑問だ。チェックも甘く、バラマキ的な用途に使われる懸念もある。
「住民税非課税」での線引きでは、年金給付を得る一方で多額の資産を持つ高齢者も対象となる。エネルギーの価格を抑え込む策は、省エネ努力や再生可能エネルギーの普及に逆行しかねない。
対策の財源は2022年度の第2次補正予算で増額した予備費で賄う。予備費は本来、想定外の災害などに備えた経費であり、以前は年5000億円程度だった。新型コロナウイルスの感染対策を名目に10兆円規模に膨れ、コロナ禍の一服後もウクライナ情勢などを名目に巨額の計上が続く。
国家予算の使い道は国会で決めると憲法は定めている。予備費はあくまでも例外的な対応のための経費だ。
統一地方選の目前に、政権が国会のチェックを経ずに兆円単位の支出を自在に決める。こんな事例が当たり前になれば、財政規律も民主主義も損なわれてしまう。
●テレビと政権の関係は正しいのか? “椿発言”問題、第2次安倍政権など検証 3/25
放送法をめぐる総務省の文書。文書の正確性などが論戦となっていますが、問題の本質は、時の政権幹部が主導して、放送法の解釈変更に踏み込もうとしたようにも受け取れることではないでしょうか。政権と放送メディアの関係を検証しました。
テレビ朝日の"椿発言"めぐり 政府が示した"電波停止も可能"の見解
放送法をめぐっては、政治の対応が議論を呼んだ出来事がある。
1993年、自民党が初めて下野した総選挙の約2か月後に行われた民放連の会合で「自民党を敗北させないといけないと局内で話し合った」などと、テレビ朝日の報道局長、椿貞良氏が発言したといういわゆる"椿発言"問題だ。
政治的公平を欠く放送が行われたのではないかとして、国会で証人喚問が行われた。「暴言であり不適切であった」と謝罪した上で・・・
テレビ朝日椿報道局長(当時)「一部の政党、一部のグループを当選させるような目的で、今回の選挙に際して報道を行ったことは断じてございません」
証人喚問に対して、当時テレビ各局のキャスターが声を上げた。
田原総一朗氏「こういう形で証人喚問が行われて、しかもマスコミ偏向報道とか疑われて、(証人)喚問されるような前例になっては大変だというふうに私は思います」
国会議員からも証人喚問反対の声があがった。当時、無所属だった高市氏も・・・
高市早苗衆院議員(当時・無所属)「いちいち気に食わない報道をしたとか、キャスターが好き勝手な事を言ったという度に証人喚問していたら、それはもう知る権利を奪うことにもなるし、マスコミの表現の自由にも大いに係わると思いますよ」
それまで政府は放送法の政治的公平について倫理規定としてきたが、"椿発言"にあったような事が実際の放送に影響を与え、放送法違反にあたるならば、電波停止も可能という見解を初めて示した。
それでも、放送法については当時の郵政大臣も局長も「1つの番組ではなく放送局全体で判断する」という解釈を示していた。
その後、メディア規制が特に目立つようになったのは、第2次安倍政権になってからだと専門家は指摘する。
第2次安倍政権の"メディア規制" NHKとテレビ朝日の幹部を呼びだして…
立教大学(メディア社会学)砂川浩慶教授「第2次安倍政権が長期化することによって、メディア規制がより顕著になり、かつ取り巻きと言われる人たちも一緒になってある種の塊としてメディア規制をやるようになったのが、この10年の20年の特徴なのかなという気がします」
その一例として、2015年4月、自民党がNHKとテレビ朝日の幹部を呼び、報道番組の内容をめぐって直接説明を求める異例の対応を行ったことをあげた。
翌年の2016年2月、当時の高市総務大臣は放送内容が極端な場合、電波停止の可能性に言及した。
野党から追及された安倍元総理は・・・
安倍晋三総理(当時)「高圧的に言論を弾圧しようとしてるのではないかというイメージを一生懸命印象づけようとしていますが、これは全くの間違いであるというふうに申し上げておきたいと思います。安倍政権こそですね、与党こそ言論の自由を大切にしていると思います」
批判的な放送内容を牽制し、安倍氏は出演するメディアを選別していたという。
立教大学(メディア社会学)砂川教授「自分の好きなメディアといいましょうか、出演する番組もある種、自分のことを伝えてくれる放送局には出て。逆に嫌なことを聞かせるためにやっぱりメディアはあるんですよね。逆にその権力を持っている人たちはそこは謙虚でなければいけないのは、いろんな様々な意見を聞いた上で、その権力を使っていくっていうことをやらないと、絶対その国は滅びていくと思うんですよね。これも歴史が証明していますので」
また安倍氏は、放送法をなくそうとする動きも見せていたと指摘する。
安倍元総理「大胆な見直し必要」放送事業のあり方に言及
2017年10月、衆院選公示の2日前、放送法が適用されないインターネットテレビに出演。安倍氏を支持する識者らに囲まれた。
この翌年、2018年2月。安倍氏はネットテレビについて・・・
安倍晋三総理(当時)「ネットテレビは、視聴者の目線に立てば、地上波と全く変わらないわけであります。このように、技術革新によって通信と放送の垣根がなくなる中、国民共有財産である電波を有効活用するため、放送事業のあり方の大胆な見直しが必要だと考えています」
この約1か月後、「通信・放送の改革ロードマップ」と題された政府の内部文書の存在が明らかになった。
そこには、政治的公平が盛り込まれた放送法4条を撤廃するとの記述があった。
さらに、放送は基本的に不要なものだとしてネットへの転換を進めるとしている。放送の政治的公平が無くなるとどんな状況になるのか。
「FOXはトランプを産んだ」政治的公平が消えたアメリカで何が
アメリカでは放送の公平性を担保するために「フェアネス・ドクトリン」、公平原則が導入されていた。しかしレーガン政権下で廃止となり、アメリカの放送局から政治的公平が消えた。
立教大学(メディア社会学)砂川教授「何に繋がっているかというとトランプなんですよね。いろんな論点を出せというのもなくなってしまったものですから、政治的に偏ったことしか伝えないメディアが出てきたんですよね。FOXですよね。FOXはまさにトランプを産んだとも言われていて」
日下部正樹キャスター(TBSテレビ)「(公平原則の撤廃は)もしかしたら表現の自由とかそういうものに繋がるのではないかと思いますけれども、これまたちょっと現実は違うわけですよね」
立教大学(メディア社会学)砂川教授「アメリカの場合でいうと、この30年間かけて、結局分断がより進行してしまった。アメリカは1つの失敗例だって考えた方がいいと思いますね」
G7では日本だけ…政府→放送局に免許交付
「国境なき記者団」が発表している日本の「報道の自由度」ランキングの推移。2010年に11位となって以降、たった6年で72位にまで下がった。
日本の状況を調査するため、2016年には「表現の自由」国連特別報告者のデイビッド・ケイ氏が来日。
1週間の調査を終え、問題視したのは。総務省が放送の監督機関となっている状況だった。
国連特別報告者デイビッド・ケイ氏「メディアはそもそも独立性のある第三者機関によって規制されるべきです。政府そのものが放送に規制をかけることはあってはならないと考えます」
実は、政府が放送局に免許を与えているケースは先進国では珍しくG7の中では日本だけだ。
政府が放送を直接監督している国としてはロシア、中国、北朝鮮などがあげられる。
専門家は・・・
立教大学(メディア社会学)砂川教授「他の国はどうしてるかっていうと、独立行政委員会というある種の第三者機関的なものがやってるんですね。やっぱり形式的に政府が免許を与えるってやると必ずメディア介入みたいなことが起こるんで」

 

●与野党、子育て・防衛で舌戦 統一地方選初の週末 3/26
統一地方選の幕開けとなる9道府県知事選の告示後、最初の週末となった25日、与野党幹部は各地で街頭演説して支持拡大を訴えた。
自民党の茂木敏充幹事長は、子ども・子育て政策に全力で取り組む姿勢をアピール。立憲民主党の泉健太代表は、この主張に疑問を呈し、岸田政権は防衛力強化に偏重していると批判した。
茂木氏は東京都内で「子育て世代の大きな負担となっているのが住宅費と教育費だ」と指摘。公営住宅への優先入居や、出世払い型の奨学金制度の導入・拡充などに意欲を示した。
泉氏は埼玉県草加市で、今国会で審議中の2023年度予算案に触れ、「防衛費は26%も増えるが、子ども・子育て予算(の増加分)は2.6%だ」と強調。「生活を後回しにするのが岸田文雄首相だ」と断じた。
公明党の山口那津男代表は埼玉県川口市で「児童手当の生みの親は公明党だ。これから(対象を)高校3年生まで広げ、所得制限を外し、金額も増やしたい」と表明した。
日本維新の会の音喜多駿政調会長は都内で「維新は本拠地の大阪で10年以上、行政運営を経験してきた。行財政改革で財源を生み出し、教育無償化を全国に先駆けて実現した実績がある」と力説。共産党の志位和夫委員長は埼玉県川口市で「岸田政権による大軍拡を許していいかが大争点だ。力を合わせて止めよう」と呼び掛けた。 
●予定されていた工業団地はハウステンボスに、目的失ったダム計画の謎 3/26
「長崎に行っていました」と知人に不在だった理由を話すと、「どんな取材だったんですか」と尋ねられた。「ダム事業のために立ち退きを迫られている13世帯が座り込みを続けている現場です。計画されたときから半世紀以上が過ぎて、目的も失ったのに、長崎県がやめようとしない」と答えると、「そんなことがあるんですか」と驚かれた。あるんです。
工業用地はハウステンボスになり、ダムは目的を失った
半世紀前は佐世保市に工業団地を誘致することが構想されていた。1960年代、大量の水を必要とする重工業が伸びていた昭和の話だ。誘致は失敗。その用地から14キロメートル離れた隣の川棚町に計画された石木ダムは、その目的を失った。そして、ダム完成予定(1979年)は遠く過ぎ去り、その工業用地にハウステンボス(1992年)が開業した。
本来、重厚長大な企業が買うはずだった水は、佐世保市水道局が引き受ける計画になった。しかし、同水道局によれば、過去10年で「給水人口は22万5000人から21万4000人と1万人減った」。
1日最大給水量も1990年代には10万立方メートル(m3)だったが20年間で7万m3に減少。市は2020年代前半にV字回復すると予測。その予測が外れると2030年代にと下方修正した。しかし、実績との乖離は激しくなる一方だ。
「治水」の目的は、国の補助金を引き出すために、どの利水ダムでも掲げられる。石木ダムも例に漏れず、総事業費285億円のうち125.83億円が国からの治水のための補助金だ。長崎県営ダムにもかかわらず、県負担は92.5億円に過ぎない。佐世保市の利水負担分は66.67億円だが、関連事業でそれは膨れ上がる。
事業を撤退せず、住民に立ち退きを迫った長崎県
こんな状況でも長崎県は事業から撤退せず、用地買収に応じない地権者に立ち退きを迫り始めた。2009年、強制収用に向け、土地収用法に基づく手続きを開始。その手続がまだ終わらない2010年、県はダムで水没する県道の代わりの迂回道路の工事に着手しようと試みた。しかし、住民が現場に座り込んで阻止し、工事は中断。
そして、2013年に国が、石木ダム計画は「公共の利益」だと認める「事業認定」を済ませると、県の収用委員会が13世帯の家屋や田畑の補償額を決め、明け渡しを迫った。
それでも、住民は補償金を受け取らず、事業認定の取消訴訟で対抗した。2014年夏に工事再開を目論む県に対する複数箇所の座り込みが必要になると、町内や佐世保市からの支援者が加わった。業を煮やした県は、座り込みに参加していた23人に通行妨害禁止仮処分命令を申し立てた。
翌2015年3月に長崎地方裁判所は16名に通行妨害の禁止仮処分を決定した。筆者が前回この現場を訪れたのは、同年9月3日だ。
強制立ち入り調査を9月2〜7日まで4日間行うと連絡が入ったからだ。9月3日朝、作業服とヘルメットに身を包んだ県職員10人ほどが水没予定地である川原(こうばる)地区に続く一本道を歩いて迫ってきた。「道を開けてください」と言う。
対する地権者と支援者は皆、通行妨害禁止仮処分対策で、帽子とマスクで特定できないようにして横断幕を広げ、「我々は土地も家も売らない」というプラカードを持って、道を塞いで対抗した。マスコミ各社はカメラを構えた。
山々は緑に覆われ、日差しは強かった。
ピザ窯のある「ダム反対テント」で住民は反対を続ける
今回の取材は、それから8年ぶりだ。2月20日、今までで初めて反対地権者からの収用地に工事が踏み込んだと知らされたからだ。
小さな支流・石木川が注ぐ川棚川沿いに車を走らせ、川原地区へ向かうと、見えてきたのは、8年前には建設を阻止できていた付替県道だった。ダム堤体が取り付けられる石木川の左岸側の山は切り崩され、山肌が見える。
右岸側の川のほとりに立つ「ダム小屋」は無事で、道路を挟んだ空き地に新たなテントが立っていた。朝から地権者と支援者が交代で詰めて工事を見張っている。近寄ると、テント脇に見慣れないものがあった。挨拶も早々、「なんですか、これは」と聞いた。
「ピザ窯たい」と見せてくれたのは、岩下和雄さん(75歳)だ。13世帯のリーダー格で、支援者や弁護団のためにピザを振る舞う焼き窯をドラム缶で自作した。テントの下には焼き芋を焼くドラム缶、暖をとるロケットストーブ、燃やす薪が並ぶ。全てが手作りだ。立ち退きを迫られるようになってから17年、抵抗運動の主たちは皆、知らない人が見れば、アウトドアの達人にしか見えない。
3月でも朝晩は冷える。左岸側の山の上にも座り込みテントがもう一つあり、そこのドラム缶ストーブで燃やす薪をトラックで運ぶというので、車で後を追いかけた。細いガタガタの山道を登ると座り込み地点にたどり着いた。
地権者と支援者がドラム缶薪ストーブを囲んでいる。取材者にも「おはようございます」「ありがとうございます」とにこやかに声をかけてくれる。
「人生を返して。私たちはここに住み続けたかけん」
ここでの中心は女性だ。いざという時には、ブルドーザーの下に潜り込んで工事を止めてきた強者達だが、素顔は普通の生活者だ。
町の外から川原に嫁いだ岩永信子さん(67歳)は退職後に座り込みに加わった。シャツの縫製会社に勤めていた頃は、「遅刻早退が得意だった」と笑う。お姑さんの介護に加え、石木ダムを巡って何が起きるたびに駆けつけた。60歳を機に退職。昨年12月に99歳でお姑さんが亡くなった。介護と仕事とダムを両立は大変でしたねと尋ねると、「みなさん、そうです」と信子さん。女性たちは静かに頷いた。
ブルドーザーの下は怖くなかったかと聞くと、「恐かったけど、引っ張り出されんごとせな。しょんなか。警察も30回ぐらい来た。最初は逃げよったばってん、警察は『民事不介入』ち言うて、その間、工事は止まった」と岩永さん。そう分かってからは、揉めると「警察を呼ばんね!」(呼んだらどうか)と県職員に言い返すようになった。県は自分達から警察を呼ぶのはやめたが、座り込みの場所近くに監視カメラを設置し、住民を監視し続けている。
岩下すみ子(74歳)さんは「人生を返して欲しい。普通に生きたい。私たちはここに住み続けたかけん」とシンプルな願いを吐き出した。
かつて、ダム堤体の右岸に位置する「ダム小屋」にお弁当持参で詰めていたのは、信子さんやすみ子さんのお姑さんたちだ。2015年に取材した時は6人のおばあちゃんのうち4人にお目にかかることができた。今は松本マツさん(96歳)のみがご存命だ。すみ子さんは「50年経って私たちは、50年前のお姑さんたちの年齢になったったいね」と50年を振り返った。
ダムに沈む淡水魚やホタル、川原の風景を描く
今、その「ダム小屋」をアトリエにして絵を描いているのは、イラストレーターの石丸ほずみさん(40歳)、ほうちゃんだ。
ほうちゃんに初めて会った時は、彼女は20代後半だった。高校卒業後に双極性感情障害U型と診断され、生きづらさを抱えて暮らしていたが、生まれ育った川原に住み続けたい、何ができるかと考え、好きな絵を描いてカレンダーを作成したり絵画展を開いたりして、長崎県内外の人々に川原の良さを知ってもらうようになった。描き続けているのは、石木川にダム計画が進めば消えてしまう淡水魚やホタルの飛び交う川原の風景だ。
2023年のカレンダーは1月がカワムツの群れ、3月がカスミサンショウウオ、5月がホタル籠を持つ松本マツさん、7・8月が石木川に飛び込む子どもたちといった具合だ。2015年にはパタゴニア日本支社の支援でできた石木川の風景を描いたラッピングバスができて、佐世保市内や川棚町のバス路線を今でも走っている。
「いつか自分の絵が文化面で紹介されるのが夢です」と、以前には聞いたことがなかった夢を語って笑顔を見せてくれた。
独特な作風で生き物の臨場感が伝わってくるイラストだが、新聞で紹介されるときは、石木ダム計画に絡めて社会面で紹介される。ほうちゃんが「石木川ミュージアム」と名づけたダム小屋は、ダム堤体予定地の真上にあって、「反対同盟のおじさんたちが、『行政代執行される時には通知ぐらい来るだろう』というノリで茶畑だったところに建てたもの」だ。そんな物語と合わさると「社会面」での紹介になってしまう。
だからいつか、絵そのものが評価され、「文化面で紹介されたい」「東京で展示会を開きたい」とイラストレーターとしての夢を語る。
何かやれば倍返し、ダム不要論が広がらない理由
ダムに時間を奪われながらも、一人ひとりが自分の時間を生きようとする川原住民の声は、少しずつ、受益地である佐世保市の住民にも届くようになった。
地権者たちの運動に共感する「石木川まもり隊」の松本美智恵さん(佐世保市在住)は、どうしてダム不要論が佐世保市民の総意にならないのかとの筆者の不躾な問いに「情報量の差」を挙げた。
例は枚挙にいとまがない。市は昨年9月の広報で「渇水の歴史と石木ダム」を特集。全戸配布で「20回(約2年に1度)渇水危機に直面」していると煽った。「石木川まもり隊」は集めたカンパで反論パンフレットを作成、2カ月をかけて全戸の3分の1弱にポスティングするのがやっとだった。渇水20回のうち給水制限があったのは3回だけで、17回は節水の呼びかけに過ぎなかった。その呼びかけは、既存のダム貯水率が80%を下回っただけで行われた年もある。パンフレットでそんな石木ダムありきの市の渇水キャンペーンを打ち消そうとした。
しかし、「何かをやると倍返しで返ってくる」と松本さんは苦笑する。
昨年11月には市内4団体で長崎県知事に直訴し、水需要予測が過大で、水が足りないとしても代替案があると具体的な提案も行い、県議会でそれが取り上げられた。
ところが、こんな努力もよそに、朝長則夫・佐世保市長は翌月12月27日に市議らと大挙して知事を訪れ、石木ダム建設促進を要望した。長崎県土木部河川課によれば、「収用地の施工も含む建設促進」だったという。実際にそれが今年2月にも3月にも起きている。
当初の目的を失ったダムが完成した時に一体誰が喜ぶのか。地方債と国債で事業費が賄われ、その償還金が、次世代の稼ぐ税収の使い道を狭める。こんな構図を止められず、山と川と海を壊し続けているのが、今の日本だ。
●岸田首相、防衛大卒業式で訓示「今日のウクライナは明日の東アジアかも」 3/26
岸田首相は防衛大学校の卒業式で訓示し、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と述べ、強い危機感を示しました。
岸田首相「我が国の周辺国、地域においても核、ミサイル能力の強化、急激な軍備増強や力による一方的な現状変更の試みが顕著になっている。今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」
岸田首相はまた、先週のウクライナ訪問に触れ、「ロシアによる侵略の惨劇を直接、目の当たりにした。これを繰り返さないために、侵略を一刻も早く止めなければならない」と強調しました。
一方、自衛隊でセクハラ事件が起きたことなどを受けて、「人の組織である自衛隊でハラスメントはその根幹を揺るがすものだ」と訓示しました。
今年の卒業生は446人で、このうち民間企業への就職などを理由に自衛官になるのを辞退した「任官辞退者」は46人でした。
防衛省は、2013年度以降、任官辞退者の卒業式への参加を認めていませんでしたが、今年は10年ぶりに参加を認めました。
●岸田首相 “広島サミットで国際秩序守り抜く決意を示したい”  3/26
岸田総理大臣は、防衛大学校の卒業式で訓示し、ロシアによるウクライナへの侵攻を一刻も早く止めなければならないとした上で、G7=主要7か国の議長国として5月の広島サミットで法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したいと強調しました。
この中で岸田総理大臣は、先のウクライナへの訪問について「ロシアによる侵略の惨劇を直接、目の当たりにし、これを繰り返さないために侵略を一刻も早く止めなければならないという決意を新たにした」と述べました。
その上で「ウクライナ支援や、ロシアへの制裁を着実に実施し、法の支配に基づく国際秩序を堅持する必要がある。G7議長国として、5月の広島サミットなどの機会を通じてG7の結束を主導し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したい」と強調しました。
一方、岸田総理大臣は自衛隊の組織内でハラスメントの被害が相次いでいることを踏まえ、「ハラスメントは組織の根幹を揺るがすものだ。自衛隊の中核を担う皆さんには改めて認識してもらいたい」と述べました。
防衛大学校の今年度の卒業生は446人で、このうち民間企業に就職するなどとして任官を辞退した学生は、昨年度より26人少ない46人でした。
防衛大学校は平成25年度以降、任官を辞退した学生は卒業式への参加を認めていませんでしたが、今回から参加を認めています。
●岸田首相の「鬼門」おみやげ問題 センスが問われる首脳への贈呈品 3/26
岸田文雄首相と「おみやげ」。この2つのキーワードが再び、結び付き合うことになるとは思わなかった。今年1月に長男の翔太郎秘書官の外国訪問同行時の「おみやげ選び」で批判された岸田首相。3月21日に電撃的に行ったウクライナ訪問で、ゼレンスキー大統領に渡した手みやげ「必勝しゃもじ」の妥当性をめぐり、賛否が割れている。
G7の国の首脳としては最後のウクライナ訪問。ウクライナと日本の距離的な側面、「首相動静」で一挙手一投足がウオッチされる立場を考えると、しんがりになったのは致し方ない側面もあった。今年は日本がサミット議長国で、サミット前には必ず訪問を実現させなければならないと、並々ならぬ意欲と、強い焦りも持っていたようだ。
約4年8カ月外相を務め、「外交の岸田」を自負するだけに、外交の舞台で自らの失点になるようなことは、許されないとの思いもあったはずだ。自民党関係者は「大きなリスクも伴う行動だったが、首相の決断がすべてだった」と話す。危機管理や情報管理での対応を疑問視する声は根強いが、訪問じたいを批判する声はほとんどない。そんな中で訪問内容とは別に、クローズアップされたのが冒頭のおみやげ問題だった。
戦時下にある国、戦闘を行う態勢で必ずしも侵攻国ロシアに勝っているわけではないウクライナに、「必勝しゃもじ」を渡すことの是非。日本が勝利した日露戦争のころ、戦地に赴く人が厳島神社にしゃもじを奉納したという由来や、しゃもじでごはんを「飯取る」行為と、敵を「召し捕る」と語呂合わせから、勝利祈願の縁起物となった背景はを伝えれば、相手は理解するだろう。日本のウクライナ大使館は24日、ツイッターで「必勝!」とつぶやいた。一方で、ロシアを刺激しかねないセレクトではないかとする声も聞いた。
スポーツや選挙での「必勝」と戦争での「必勝」が同じなのか。この点への違和感が、賛否が割れた一因のように感じる。首相自身は、贈った意味について国会では言及を避けた。「ウクライナの方は、祖国や自由を守るために戦っている。こうした努力に敬意を表したいし、ウクライナ支援をしっかり行っていきたい」とだけ語った。
首脳同士の外交の舞台で相手におみやげを贈るのは、慣習だ。かつて外交に携わった人に取材すると、おみやげ選びは、まずは相手首脳の好みのリサーチが鍵を握るそうだ。時の首相の考えもあるが、相手が喜びそうなもの、日本を紹介する上で的確なもの、伝統工芸品、日本の技術をアピールできる製品などが候補になるようだ。価格は必ずしも高価ではないとされるが、安倍晋三首相は米大統領選を勝ったばかりのトランプ氏に、共通の趣味であるゴルフにちなんで50万円を超える「本間ゴルフ」の最高級ドライバーを贈り、一気に距離を縮めた。安倍氏は2017年、柔道家でもあるロシアのプーチン大統領との会談で、嘉納治五郎の書を送ったこともある。
また小泉純一郎首相は、2002年2月に来日した米国のブッシュ大統領に、イラストレーター山藤章二さんに依頼した、流鏑馬(やぶさめ)の矢を放つブッシュ氏の似顔絵を贈った。当時、同時多発テロを受けた対応に追われていたブッシュ氏は、「私たちは悪と戦う」などと応じ、喜んだとされる。
いちばん重視されるのは「センス」。さらには「物語性」だという。今回のゼレンスキー大統領のように、初めて会う人には特に、なぜこれを贈るのかという意味合いがさらに問われるという。
そんな中での「必勝しゃもじ」だった。首相は「必勝しゃもじ」と一緒に、地元の焼き物でつくった折り鶴のランプも贈った。必勝と平和への祈念を象徴する2つの品で、バランスを取ったのかもしれないが。
岸田首相は、インド、ウクライナ訪問前に地元の広島で開いた会合で、広島サミットのロゴを使ったまんじゅうやペンを自分の支援者に配り、外務省が定めたロゴの使用目的ルールに反すると批判も受けている。「おみやげ」は首相にとって、すっかり「鬼門」(永田町関係者)となってしまった。
●岸田首相のウクライナ訪問、メンツつぶされた習主席 3/26
中国の習近平国家主席がモスクワを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行った。
中国は、これまでロシアに対してやや距離をおいていた。北京冬季五輪の直後にロシアによるウクライナ侵攻が始まったことも、あまりよく思っていない。さらに、中国はウクライナとも関係があり、敵対的ではなかった。
ただ、ここにきて、中国はロシアへのてこ入れに転じたのだろう。表向きは平和志向であり、ロシアとウクライナの和平交渉で仲介し、世界中へのプレゼンスをもくろんでいるのだと考えられる。
中国のそうしたスタンスは、直前に中東でイランとサウジアラビアの国交再開を仲介したことからもうかがえる。米国は自身が産油国になったので、中東の石油が国益にならなくなった。米国が中東から手を引いたところに中国が出てきた形だ。中国としては中東の石油に当分依存するので、外交正常化の仲介をすることは国益にかなうわけだ。
今回、中国がロシアと関係強化を図るのは、前述のように和平の演出という狙いがあるだろう。それとともに、「一帯一路」戦略などでロシアとの経済依存関係を深めたいとの思惑もうかがえる。もっとも本音は中国からロシアへの武器供与ではないか。
中国は、アジアからの使者であり、ロシア大統領府のあるクレムリンでの首脳会談で専制国家の長としての威厳を保つ狙いもあったとみられる。ただし、中国の和平提案は、即停戦でロシアの侵攻を認める「ニセの平和」ともいわれている。その裏で、ロシアへの武器供与も見え隠れしているのが実態だ。
だが、これらの中国の世界へのアピールは、20日の中露首脳会談の直後、21日に行われた日本の岸田文雄首相とウクライナのゼレンスキー大統領の首脳会談によって、かなりの程度、打ち消された格好だ。
岸田首相は、インド訪問の後、ポーランドからウクライナに入り、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行った。首脳会談の場所は首都キーウで、クレムリンの豪華絢爛(けんらん)とはほど遠かったが、世界に向けての絵柄としては上出来だ。
安全なところで優雅に振る舞う習主席とプーチン大統領、かたや戦時下での岸田首相とゼレンスキー大統領は、これまでにない、日本の世界へのアピールになった。
と同時に、日本も中国もアジアからの客であるが、中露の「専制主義」と、日本・ウクライナの「民主主義」との対比になったのはいい。本来であれば弱点となる日本からの殺傷能力のない装備品支援も、中国からロシアへの武器供与を牽制(けんせい)する効果がある。
中国はメンツを潰された。そういう意味でも岸田首相のウクライナ訪問は、絶好のタイミングだったと評価できる。 
●岸田政権支持率上昇の謎、迫り切れぬ各誌 3/26
日本中WBC一色。
『週刊文春』(3月30日号)は「侍ジャパン大奮闘『秘録』」と正攻法で選手中心にエピソードを拾っている。
『週刊新潮』(3月30日花見月増大号)はちょっとヒネって「『大谷ジャパン』鮮烈なる残光」。
両誌とも選手のエピソードはテレビ、スポーツ紙などでも散々報じられているから、さほど新味ナシ。
『新潮』らしいのは、WBCの「経済効果」に注目したところ。
「経済効果」というと必ず出てくる関西大学の宮本勝浩名誉教授が、〈「最終的には、600億から650億円になるのでは(中略)上野動物園のシャンシャンが先月、中国に帰りましたが、経済効果はおよそ5年半で約600億円。ひと月でそれにも並んでしまいそう」〉
ただし、〈「納得できないのは、これだけ日本が収益に貢献したのに、利益の配分などが不透明で不公平」〉
どういうことか。
〈そもそもWBCは、MLBとMLB選手会が作ったWBCIなる企業が主催している。この規定によれば、入場料や放映権料、スポンサー料やグッズの商品化などの利益はWBCIが吸い上げ、その66%を彼らが得て、残りを他の国に分配する。NPBに認められた枠は13%〉
改善を要求すべきだろう。
不思議なことに岸田文雄首相の支持率が上がっている。
そのへんの分析をきちんとしてほしいのだが、『週刊ポスト』(3・31)が「高市が岸田を道連れに!『死なばもろとも』自爆テロ」。
『週刊現代』(3/25)が「高市早苗、クビ 岸田さん『すべて空っぽ解散』へ」。
どちらも匿名コメントばかりの臆測記事の域を出ていないのは残念。
『新潮』、このところ河野太郎デジタル相をしばしば標的にしている。
今週も「難あり案件≠ノいつも『亡国の総理候補』河野太郎」。
乾燥コオロギを口に運ぶ河野氏のSNS画像をあげつらっているのだが、これで「亡国の総理候補」は気の毒。
●低迷野党に終止符を打てるか? 立民と維新「呉越同舟」の本気度を探る 3/26
「1強多弱」に変わりなし
岸田文雄首相は就任から1年半、衆参の両方の選挙を乗り切ったのに、漂流状態が続く。内閣支持率は2023年3月実施の時事通信の世論調査で29.9%だった。22年10月以来、連続6カ月の20%台だ。やや持ち直したものの、国民の岸田離れは止まっていない。
といっても、現在の岸田政権の迷走は自滅・失点型で、野党側の攻勢・得点の成果と受け止める人は少ない。23年3月の時事調査で、各党の支持率は、野党第1党の立憲民主党が3.5%、第2党の日本維新の会は2.9%である。安倍晋三内閣時代の13年から約10年に及ぶ「自民党1強・弱体野党」という与野党の構図に変わりはない。
立民の泉健太代表はインタビューで、21年10月の衆院選を振り返って「焼け野原」と自己分析し、22年7月の参院選も「負けた以上は零点」と断定した。「『野党第1党』と言われるが、複数の野党の群雄割拠の中での『比較第1党』」と自ら評した。
1強下だが、実際には今も「政権交代可能な政党政治」の実現を望む有権者は少なくない。野党第1党の党首として、その期待に応えるために積極的に取り組む姿勢をアピールするのかと思ったら、野党第1党と呼ばれるのも重荷で迷惑、と言わんばかりである。現在48歳の泉代表は、将来を見据えて、今は力を蓄える時、と長期戦略に立っているのかもしれないが、それでは「名ばかりの党首か」という一部の冷評を覆すのは困難だろう。
野党再編への期待感
野党第2党の維新は、21年衆院選で41議席、22年参院選で12議席を獲得して躍進を印象づけた。馬場伸幸代表を23年1月に取材した際、「党の目標は」と尋ねると、「次の衆院選で野党第1党に」と明快に言い切った。「自民党とも立憲民主党とも是々非々で」と述べ、基本方針は不変と強調したが、国民民主党の前原誠司代表代行は取材に答えて、「馬場維新」について、「馬場代表は現実路線。岸田政権で『野党』の道を明確にしている」と解説し、「『非自民党・非共産党』の中道保守改革の緩やかなかたまりを」と期待感を示した。
22年8月まで、立民と維新は双方とも認める「水と油」の関係だったが、周知のとおり、22年9月の臨時国会の開会から突然、「国会共闘」に踏み切った。両党は8項目で合意し、合意事項の多くを実現して、23年1月からの通常国会でも共闘を継続している。とはいえ、国会運営に限った限定的共闘であるのは疑いない。
泉代表は「明確に呉越同舟だと言っている。連携して、自民党に強いプレッシャーを与えて政策の転換を促す」と説明した。維新はどうか。「憲法改正に懸けるわが党の本気度を見せるために自ら党の憲法調査会長を兼任した」と唱える馬場代表は、「立民は態度が変わってきた。岡田克也幹事長と安住淳国会対策委員長の体制になって、国会で憲法審査会を開くことに否定的ではなくなった」と評価し、立民との共闘を決めた理由の第一は「改憲議論の容認と推進」と力説している。泉代表は憲法問題について、「国民にとって必要性がある段階に至っていない」と「改憲不要」を明言した。文字どおり呉越同舟の限定共闘だが、同床異夢は明白で、両党連携の自然消滅を予想する声もある。
連立政権につながる可能性
今後の共闘について、破談・解消という展開ではなく、さらに連携強化が進み、国会共闘にとどまらず、衆参の国政選挙での「選挙共闘」、さらに連立政権を視野に入れた「政権共闘」に進む展望はあるかどうか。選挙共闘については、泉、馬場の両代表とも口をそろえて「それは無理」と言う。ただし、両代表と近い前原氏は「あうんの呼吸で、水面下の選挙協力の調整を」と促している。その先の政権共闘では、泉代表は「先のことは誰も読めない」、馬場代表は「それはケース・バイ・ケース」と、それぞれ含みのある言葉を口にした。「一寸先はやみ」の政治の世界では、何が起こるか分からない。
この場面で、立民と維新が「呉越同舟・同床異夢」を承知で連携に乗り出した計算はどこにあるのか。大胆に推理すると、「焼け野原」の立民の本音は、何よりも選挙での維新票の取り込みではないか。党勢拡大中の維新は、全国に無党派の維新支持層を抱えながら、候補擁立ができない選挙区が多数ある。そこでの選挙協力が立民の隠れた狙いと映る。
一方の維新の着眼は、もちろん改憲作戦だろう。改憲挑戦には「衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成」という憲法上の国会発議要件の壁がある。現在、国会の改憲容認勢力は自民党、維新、公明党、国民民主党などだが、容認勢力ながら改憲に消極姿勢が見える公明党を除くと、衆議院では3党で発議要件ぎりぎり、参議院で14議席の不足という状況だ。維新とすれば、立民の中に潜在する「隠れ改憲派」の取り込み、いざとなれば改憲問題が引き金の立民の分裂、改憲勢力の総結集というシナリオを想定している可能性もある。
改憲問題をわきに置いて、「政権交代可能な政党政治」という点に着目すると、1強の自民党に対抗するには、どうやって野党の大きなかたまりを生み出すかという「野党結集」がいつも中心テーマとなる。群雄割拠の野党の合従連衡という政党の組み合わせの議論ばかりに注目が集まるが、それよりも重要なのは民意の動向である。
新型の「緩やかな多党政治」
確かに1強との対決では、野党結集によって生まれる「大野党」との「2強体制」に持ち込まなければ、「政権交代可能な政治」は絵に描いたもちに終わるという主張も有力だ。それでも政党側の思惑による民意軽視の「大野党」構想は成功しないと見る。
日本の民意は現在、大きくとらえると、政治体制や国際的な同盟関係の在り方などの大きな枠組みの選択では合意点が多く、他方で個別の政策課題では、価値観の多様化で、民意も多様化の傾向が強い。だとすれば、現在の日本社会に最も適合する政党政治は、大きな枠組みで一致する3党以上の複数の政党が、個別の政策課題で互いに協力あるいは対抗し、連携によって多数を構成する勢力がケースに応じて政権を担うという構造ではないか。「伝統的な2大政党政治」よりも新型の「緩やかな多党政治」、2極よりも3極が民意の反映に有効となる場合が多い。
3極だと、基本路線は「伝統的な保守・中道改革保守・リベラル」という選択肢が考えられるが、民意が変化すれば、より新しい図式が現実的となるに違いない。野党の新生と政党政治の再生のカギは、旧来型の発想と思考を超えて、民意に沿った「新しい野党」を創造し、その路線と政策、つまり「軸と旗」を国民に提示できるかどうかである。
現在の日本政治は約10年ぶりの自民党弱体化という状況で、野党にとっては久しぶりの好機だ。「緩やかな多党政治」の形に持ち込み、「新しい野党」で1強打破の潮流を作り出すことができれば、政党政治は再生のスタートを切る。誰がその担い手となるか。  
●岸田首相「京都中心に新たな文化振興」文化庁 京都移転で式典  3/26
文化庁が27日から京都に移転するのを前に、移転を祝う式典が京都市で開かれ、岸田総理大臣が「京都を中心に新たな文化振興に取り組んでいきたい」と述べました。
京都市内のホテルで開かれた式典には、岸田総理大臣や永岡文部科学大臣、それに地元の自治体の代表者などが出席しました。
はじめに文化庁の都倉俊一長官が、「長い歴史に裏打ちされ、培われてきた古い文化財という日本の宝を維持・継承し、新たな文化芸術を京都の地から世界に発信していく」とあいさつしました。
このあと岸田総理大臣は「今回の移転を機に京都を中心に新たな文化振興に取り組んでいきたい。文化庁の移転はポストコロナにおける新しい働き方を示すものでもあり、テレビ会議システムなどを駆使し、職員が場所を選ばず、柔軟な新しい働き方を進めることを期待している」と述べました。
また、京都府の西脇知事は「新しい文化政策を国と地方が連携して推進し、その成果を地方に波及させることで、地方創生の実現につなげていきたい」と述べました。
会場では去年、ユネスコの無形文化遺産に登録された「風流踊」のひとつ、「京都の六斎念仏」が披露され、大きな拍手がおくられていました。
文化庁は27日から長官をはじめとする一部の職員が京都市内の新しい庁舎で業務を開始し、5月15日までに全体の7割程度となるおよそ390人の職員が京都で業務にあたる見込みです。

 

●日本の国家予算107兆円は妥当か...統計学で探る「大きすぎる数字」の真意 3/27
様々なデータ、会社の売上や目標、日々の家計から国家予算まで...身近にあふれるさまざまな「数字」。その意味を正しく把握し、自分事として把握するためのスキルが「統計学」だ。本稿では、一見すると理解が難しい「巨大な数字」との付き合い方について、斎藤広達氏が解説する。
巨大すぎる数字との付き合い方
統計学というと、複雑な式と計算が必要なものを思い浮かべるかと思います。確かに、統計学そのものは複雑な計算式が求められるものですし、そうした高度な計算が必要とされることもあります。
しかし、多くのビジネスパーソンが仕事において使うにあたっては、あるいは日々の生活に役立てるためには、簡単な四則演算、つまり「足す、引く、かける、割る」だけで、ほとんどのことができてしまうのが現実です。
たとえば、「平均」。誰もが小学生のときに習ったことと思います。念のため、以下のような例題を出させていただきます。
Q. あなたは住宅販売メーカーの販売担当者です。今日、6人のお客さんが相談に来られました。それぞれの方の年収は300万円、400万円、400万円、900万円、1000万円、1200万円でした。今日来たお客さんの平均年収はいくらになるでしょうか。
ごくごく簡単な問題です。
300万円+400万円+400万円+900万円+1000万円+1200万円=4200万円
4200万円÷6=700万円
答えは「700万円」です。
簡単すぎるので「ひっかけ問題では?」と思った人もいるかと思いますが、そうではありません。ウォーミングアップのようなものだと考えてください。
平均身長や平均体重、あるいは平均年収など、「平均」は身近に溢れています。あまりに簡単なので誰もが「これが統計学なのか」と考えるかと思いますが、平均も立派な統計学の1つです。
ただし、重要なのはその使い方です。使い方次第で平均値はほとんど意味のない数字になることもあれば、ビジネスに重要な指針を与えてくれる存在にもなり得ます。
本稿では、そのための「正しい平均の使い方」をお伝えしたいと思います。
@変換で巨大な数字を自分事に
私がぜひ「クセ」にしてほしいと思っている平均計算があります。それは「1人当たりの平均値を出してみる」こと。これを「@変換」と呼びます。
世の中にはちょっと想像ができないくらい、巨大な数字が溢れています。
たとえば、
・日本の国家予算107兆円
・トヨタ自動車の売上27兆円
などなど。
人はあまりに大きな数字を前にすると思考停止状態に陥ります。「数字が苦手」という人の多くは、実際には「大きな数字が苦手」なのではないでしょうか。
そこで役立つのが、この「@変換」です。1人当たりの数字を出すことで、大きすぎる数字を「自分事」にする技術だと言えます。
では、先ほどの「日本の国家予算107兆円」を、日本人1人当たりの数字に直してみましょう。日本の人口は約1億2000万人ですから、1人当たり約89万円となります。
107兆円÷1億2000万人=89万1666.666......円
国家予算の中には社会保障費やインフラの整備費、あるいは防衛費などが含まれています。我々が日々、安心して快適に暮らすためのコストとして、年間約90万円が使われている。国家予算107兆円というのは、つまりそういうことだと考えられます。
それを多いと思うか少ないと思うかは人それぞれだと思いますが、@変換によって「自分事」としたことで、大きすぎる数字がイメージできる数字になったと思います。
巨大なトヨタ自動車を「もっと身近」に
続いて、トヨタ自動車の売上27兆円です。これはトヨタ自動車の社員数で@変換してみることにしましょう。
この27兆円という数字は連結決算、つまりトヨタ自動車本体だけでなくそのグループ会社も含めた決算数字です。そこで、社員数も連結で見てみると、約36万人。さすが日本一の売上を誇る企業だけに、従業員もかなりの数です。
これを1人当たりに直してみると、7500万円になります。
27兆円÷36万人=7500万円
とても大きな数字ではありますが、「圧倒的」というほどではありません。たとえばオフィス文具でおなじみのアスクルは売上が約4200億円なのに対し、従業員数は約3300名。1人当たりに直すと1億円を超えています。一般に卸売業は製造業より1人当たり売上高は高くなる傾向があります。
あなたも自社の売上と社員数で「1人当たり売上高」を出してみてください。こうして感覚をつかむことができれば、大企業の数字も自分事としてとらえることができるようになるはずです。
アベノマスクの何が問題だったのか
さて、再び国家の話に戻り、以下の問いについて考えてみてください。
Q.「アベノマスクの予算に466億円」という記事を読んで、お父さんが激怒しています。
「こんなものに460億円以上もかけるなんて、とんでもない!」
確かに自分もおかしいと思いつつ、どのくらいの無駄なのかピンときません。あなたならどのように説明しますか。
2020年のコロナ禍で発生したマスク不足は、皆さんの記憶にも新しいことと思います。そんな中行われた国からのマスク支給は、当時の安倍晋三首相の名前から通称「アベノマスク」などと呼ばれましたが、その対応の遅さやマスクの枚数や品質について数々の非難が巻き起こり、「税金の無駄遣い」と揶揄されました。
ただ、コロナ禍の先が見えない中での判断を、後の視点から印象論で批評するのはフェアではありません。そこで、ここでも「数字」に換算してみましょう。
日本の人口約1億2000万人で、マスク予算466億円を@変換してみると、約390円。つまり、この値段で国民にマスクを配った、ということになります。送料も込みとはいえ、正直、マスクの値段としては少々高いというのが正直なところでしょう。
しかし、マスク不足が本格化している最中、街中ではかなりの高値でマスクが売られていました。その後すぐに暴落したとはいえ、普段は1箱500円くらいのマスクが3000円くらいで売られていたこともありました。
そんな状況ならば、アベノマスクのコストはそれほどおかしなものでもないように思えます。
しかもその後、かかった費用は結局260億円になったとの発表がありました。これだと1人当たり約220円です。
結局、アベノマスクの問題はコストというよりも「スピード」だったのではないかと、私には思えます。民間各社が思いの他早く量産体制を整えたことでタイミングを逸してしまったことが、批判につながったということです。
諸外国と比べて日本人は、国家予算や貿易収支のような話題を避けたがる傾向があるように思えてなりません。そのため、政策を評価したり批判したりするにしても、どうも感情的、感覚的な話に終始してしまっているように感じます。
だからこそ、数字と直面してほしいと思うのです。その際、「@変換」はとても大きな武器になるはずです。
●岸田首相「覚醒」か ロシアや中国に対し強気な姿勢 外交姿勢に変化 3/27
岸田文雄首相の「覚醒」を指摘する声が出ている。近隣諸国による主権侵害などに及び腰だった、以前の外交姿勢に変化が見えるというのだ。一部野党の攻勢に迎合ぎみだった内政の姿勢まで変わったとの見方もある。日本の首相として「戦後初めての戦地訪問」となったウクライナへの電撃訪問(21日)が、何かを変えたのか。
「(ウクライナ訪問で)ロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならない決意を新たにした」「G7(先進7カ国)の結束を主導し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したい」「今後5年間で防衛力を緊急的に強化し、わが国の抑止力、対処力を一層向上させていく」
岸田首相は26日、防衛大学校(神奈川県横須賀市)の卒業式で、こう訓示した。強い覚悟が感じられた。
防衛予算を大幅に増やし、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有も盛り込んだ国家安全保障戦略など「安保3文書」の改定にも触れ、「自衛官となる皆さんが早速取り掛かる大仕事だ」と激励した。
ロシアと専制主義国家の連携を深める中国も念頭に、岸田首相は「急激な軍備増強や力による一方的な現状変更の試みが一層顕著」「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と断じた。
水面下でも、注目すべき動きがあったという。
共同通信によると、2月末に帰国した中国の孔鉉佑前駐日大使側が申請した岸田首相への離任あいさつを、日本側が断ったというのだ。硬化する国内の対中世論に配慮した「異例の対応」だったと指摘する。
日本政府関係者は「首相と大使は対等ではない。外交儀礼上は何ら問題ない」と説明する。前駐中国日本大使の離任時に、習近平国家主席ら最高指導部との面会が実現せず、「相互主義の対応を取る必要がある」とも語った。
沖縄・尖閣諸島周辺での領海侵入など、中国による主権侵害は止まない。26日には、中国国内法に違反したとして、日本企業の男性幹部が当局に拘束されたことも分かった。同様の一方的な邦人拘束は後を絶たない。
岸田首相は最近、放送法の「政治的公平」の解釈に関する総務省の行政文書が流出した問題に絡み、孤軍奮闘の感があった高市早苗経済安全保障担当相の罷免を要求した一部野党に対し、「論理が飛躍している」と断じ、注目されていた。
「反日」暴挙に遺憾砲≠連発して、毅然(きぜん)とした対応を打ち出せなかった外交姿勢の転換となるのか。岸田首相の言動に注目が集まりそうだ。
●「国鉄復活」すべきなのか 「インフラは国で維持」の声多い令和時代  3/27
JR北海道や四国に加え、コロナ禍を経て地方ローカル線を抱えるJR上場4社も厳しい経営を強いられています。するとしばしば聞かれるのが「JRの再国有化」です。国が面倒を見れば、この窮地を脱することができるのでしょうか。
コロナ禍でますます厳しい地方ローカル線
新型コロナの影響で、かつてない苦境に陥った鉄道事業者。コロナ禍前から厳しい状況にあったローカル線問題はさらに際立つことになり、既に経営危機に陥っていたJR北海道やJR四国だけでなく、JR東日本やJR西日本でもローカル線区の在り方を見直そうという動きが顕在化しました。
特に完全民営化を果たしたJR本州3社とJR九州は、公共交通を担う公的な存在でありながらも、株主価値の最大化を目指した経営が求められます。極端に利用の少ない「鉄道としての役割を終えた路線」に、巨額の資金を投じて維持し続けることはできないわけです。 とはいえ公共交通機関を収支採算性だけで語ることはできません。「廃線やむなし」といった動きに対し、ローカル線は国の重要なインフラであるとして、JRの再国有化を検討してはという声が一部で聞かれます。再国有化は可能なのでしょうか。 元も子もない話でいえば、JR上場4社の3月下旬時点の時価総額は計約7.6兆円、仮に30%のプレミアムを付けて買収するなら約10兆円が必要です。東日本大震災の復興予算に10年で約32兆円が費やされたように、必要であれば捻出できない額ではありませんが、株主が応じるはずもなく、政府が株式を全て手放した時点で再国有化は現実的には不可能です。 しかし「再国有化」を唱える人の真意は、JRの買収そのものが目的なのではなく、鉄道政策の視点を変えることにあるはずです。そもそも鉄道国有化の目的、メリットとは何だったのでしょうか。その精神から学べることはあるのでしょうか。
国有鉄道=採算度外視ではない!
日本の鉄道は1872(明治5)年に開業した官設鉄道、つまり国が建設・運営した国有鉄道に始まりますが、明治10〜30年代の路線建設は民間資本の私設鉄道が中心となって進められました。 鉄道が生み出す利益は多岐にわたり、運賃収入だけで事業を評価することはできません。鉄道の運行により鉄道の外に発生する利益(不利益)を専門用語で「外部性」といいます。たとえば新線が開業すれば周辺の地価が上がり、人口が増えれば消費が拡大しますが、鉄道を走らせているだけでは、この利益は鉄道事業者には入ってきません。 そこで私鉄は自ら沿線に住宅地を開発したり、ターミナルデパートを建設したりして、外部性を取り込もうとします。これが阪急や東急に代表される私鉄ビジネスモデルです。さらに視点を広げれば、地方自治体あるいは国のレベルで発生する、より大きな利益もあります。 ひとつ事例を挙げれば、地方都市の鉄道路線は路線単体だと赤字ですが、これを自動車で代替すれば大渋滞となり、多額の費用をかけて道路を拡幅、新設しなければなりません。鉄道の赤字が自治体のより大きな赤字を食い止めている構図ですが、鉄道事業者が倒れてしまっては元も子もありません。そこで近年は、自治体が中小私鉄に公的支援する例も増えています。 話を戻すと、明治ではまだ私鉄ビジネスモデルは登場していませんが、事業者と国の関係は同じです。加えて当時は日清・日露戦争で軍事輸送の重要性が高まっており、株主の意向や景気など短期的な利害に左右されがちな私鉄ではなく、国が俯瞰的・長期的視点から鉄道を整備・運営すべきとの考えが強くなりました。 そうして1906(明治39)年に鉄道国有法が成立し、国が私鉄の大部分を買収して鉄道国有化を達成しますが、国有鉄道と採算度外視は同義ではありません。鉄道は万人に開かれた公共財である道路などとは異なり、上下水道や公営病院などと同様、受益者と負担者の関係が明確であることから独立採算の公営企業として運営が可能です。
財政難でも設備投資… それがもたらした“恩恵”とは
あまり知られていませんが、戦前の国有鉄道も帝国鉄道会計法が定める鉄道会計に基づいた独立会計で運営されていました。戦後の「日本国有鉄道(国鉄)」についても毎年、政府から多額の補助金を受け取っていた印象がありますが、それは経営が行き詰った1980年代の話であり、元々は独立採算で新線建設および改良を行っていました。
では独立採算の枠を守っていたら問題は起きなかったのでしょうか。国鉄は1964(昭和39)年に初めて赤字に転落した後も、幹線、通勤路線の輸送力増強など莫大な設備投資を継続し、これが財政悪化の原因となりました。 しかし、これらの投資がなかったら鉄道は斜陽産業となり、公共的な役割を果たせなくなっていたことでしょう。国鉄に様々な問題があったのは事実ですが、現代の私たちの生活の礎を築いたことは間違いありません。 先述の例では、国鉄の赤字より国全体の利益が大きければ差し引きプラスになるはずです。田中角栄は「国鉄が赤字であったとしても、国鉄は採算とは別に大きな使命を持っている」として、赤字ローカル線の廃止は赤字額以上の国家的損失につながると主張しました。 結果的に赤字路線を多々生み出した彼の業績については賛否が分かれますが、鉄道国有論としては筋の通った主張だったといえるでしょう。しかし彼の主導で設立した鉄道建設公団は新線建設を担うのみであり、政府や自治体も独立採算を口実に、国鉄へ十分な支援をしませんでした。単に国鉄を復活させるだけでは当時の二の舞となってしまうでしょう。
赤字路線は国が維持すべきか
では鉄道国有論の立場から現代を見て「赤字路線は国が維持すべき」でしょうか。個別の路線の評価には立ち入りませんが、突き詰めれば鉄道の生み出す赤字が地域にもたらす外部性を上回るかどうかという判断になります。ただ外部性の範囲を広げていくと「風が吹けば桶屋が儲かる」のように数値化が困難になるため、明確に数字で線を引けるものではないことも留意が必要です。
もうひとつの問題は民営化に際して行われた「分割」です。それまで首都圏の通勤路線や新幹線の利益が地方をカバーする「内部補助」がありましたが、地域分割により東海道新幹線の生み出す巨額の利益が北海道や四国の赤字を埋めることはなくなりました。 厳密にいえば経営安定基金がその役割を担っているのですが、低金利の影響で十分に機能していません。しかし今更、新たな枠組みを創設し、上場済みの4社の利益から赤字を補填することは困難でしょう。 そうであれば国民に広く薄く「交通税」を課し、それを財源に地方ローカル線を補助する仕組みなども考えられますが、単なる赤字補填になってしまっては意味がありません。ローカル線が地域にとって必要であること、それにより地域が活性化すること、ひいては国民全体の利益につながることを示さなければ、鉄道利用者以外に負担を求めることなどできません。それこそが「鉄道国有論」の最大のハードルのように思います。
●大谷翔平の一言に参ってしまった米国人、WBC日本勝利に“納得” 3/27
WBCテレビ観戦:日本9446万、米国650万人
3月22日、「日本」が米メディアで踊った。
大谷翔平選手が、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界の「ユニコーン」(Unicorn)*1になった。
決勝戦で日本に敗れた米国のマーク・デローサ監督は試合後の会見で大谷選手についてこう評した。
「彼はスポーツ界のユニコーンだ。他の選手もやろうとするだろうが、とてもではないが彼のレベルには届かないと思う」
*1=ユニコーンとは12世紀頃から欧州で語り伝えられてきた空想上の一角獣で「非凡のシンボル」。米スポーツ界ではずば抜けたアスリートのことを「Sport Unicorn」と呼んでいる。
デローサ氏は、トロント・ブルージェイズを皮切りに6チームで16年間プレーした。
内外野どのポジションでもこなし、生涯打率0.263、本塁打100本。器用だったが、それほどずば抜けた成績は残せなかった。だが、監督としては選手の力量を見抜く鋭い才能を持っていた。
そのデローサ氏が大谷選手を「ユニコーン」と言ってのけた。
メジャーリーガーをずらり並べた米国チームを3対2で下した日本では、人口の半分、4657万人がテレビ中継に釘づけになった。WBC全7試合生中継リアルタイム視聴者は9446万人になった。
参考:WBC日本戦のリアルタイム視聴者数は推計9446.2万人。最も見られたのは決勝ではなく韓国戦
米メディアはそのことを何度も伝えていた。一方、米国民はどうか。
FOXスポーツが中継したWBCの日米決戦を見た視聴者は452万人。最終回の大谷VSトラウトのシーンを見たのは659万人だった。
WBC中継では過去最高だったが、MLBのワールドシリーズ1148万人と比べると見劣りする。
ちなみにアメフトのスーパーボウルは1億1300万人、バスケットボールNBAチャンピオンシップシリーズの1億2400万人と比べると桁が違う。
米国民喜ばせた「ショーヘイ・スピーチ」
日本でも大反響を呼んだのが、日米決戦直前に大谷選手がロッカールームでチームメイトを前に言ったショートスピーチだ。
その動画が試合後、米テレビでもオンラインでも流れた。最初にこれを報じたのはロサンゼルス・タイムズのバイリンガル「元大谷番記者」のコラムニスト、日系のディラン・ヘルナンデス氏だった。
彼は大谷選手の郷里・岩手県奥州まで行って花巻東高校の監督に取材している。
(23日付の同紙には「ショーヘイよ、エンジェルズを去れ。ワールド・シリーズに確実に出られるチームに移れ」と助言している)
大谷選手は、同年配の日本選手たちにメジャーリーガーとして「一つだけ」助言した。
「僕から一つだけ。(相手チームの選手たちを)憧れる(Respect)のをやめましょう」
「ファーストにポール・ゴールドシュミット(カージナルズ)がいたり、センターを見ればマイク・トラウト(エンジェルズ)がいたり、外野にはムーキー・ベッツ(ドジャーズ)がいる」
「野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思う。しかし、憧れてしまっては超えられない」
「僕らは今日、彼らを超えるために、トップになるために来たのだから、今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、行こう!」
米国人は「Respect」されることが好きだ。
とくに日本人にベースボールを教えたのは米国人だ。それが「野球」になり、高校野球を生み、六大学野球を作り、プロ野球として成長させた。それでもメジャーリーグとは大差があった。
そして今なお大谷選手も含め、日本代表チーム選手もメジャーリーガーに憧れていることを「ユニコーン」が吐露し、同僚に発破をかけていた。
これを喜ばない米国人はいなかった。熱狂的なメジャーリーグ・ファンの隣人、L氏(55)はこう言う。
「まいったね。米国チームはこのショーヘイ・スピーチで負けたね」
「少なくとも日本に負けるものかと敵対心を燃やしていた米国人も日本贔屓というか、公平に試合を見る気になったのだろう。その中にショーヘイがいるんだから」
「俺たちを憧れている日本人選手が真っ向から勝負しようとしているんだから・・・。メキシコやプエルトリコのメジャーリーガーがこんなこと言うかね」
WBCで遺憾なく「二刀流」を披露した大谷選手が率いるドラマに酔いしれた米国人が負けた後もサラリとしているのは、この「ショーヘイ・スピーチ」に負うところ大かもしれない。
岸田文雄と習近平の好対照
「日本」は、3月21日の各紙やオンラインの国際面でも目立っていた。
WBCで「大谷現象」が起こらなければ、このニュースこそ一面トップを飾ったのではないだろうか。
ニューヨーク・タイムズは、「日本の首相、G7首脳として最後のウクライナ訪問」という見出しで、このところ頻繁に引用するラーム・エマニュエル駐日米大使のステートメントを引用してこう報じた。
「岸田氏のウクライナ訪問についてエマニュエル氏は、『岸田氏がウォロディミル・ゼレンスキー大統領との連帯を示している時、中国の習近平国家主席はウラジーミル・プーチン大統領とのパートナーシップを強調していた」
「岸田氏は自由とともにあり、習近平氏は戦争犯罪者の肩を持っている』
ワシントン・ポストは、「岸田氏のキーウ訪問、習近平訪ロと好対照」という見出しでこう報じた。
「アジアの2人の指導者は、ウクライナ紛争で敵味方に分かれている別々の国の首脳に会うという注目するに値する好対照の映像を世界に流した」
「岸田訪問は中国との違いを赤裸々に示すシンボルとなった」
「タイミングは偶然の一致かもしれないが、ロシアによるウクライナ侵攻がアジアにおける安全保障環境をどう変化させるかに光を当てた」
ちなみに「世界の良識」とされる英国のBBCはこう報じた。
「ウクライナ紛争がアジアにどう跳ね返るか。それを暗示する最高の事例が出現した」
「岸田氏がキーウに赴き、ウクライナ大統領に揺るぎない支援を約束していた時、習近平氏は、中ロは『偉大なる近隣国家』であり、ロシアとの絆を最優先にすると宣言した」
「中国はこれまでウクライナ紛争では中立を守ると言ってきたが、今や信頼できる仲介役というよりもよりロシア寄りになってきたように見える」
岸田文雄首相が3月21日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を初めて訪問した。
何度も憶測が流れていたため、米国をアッと言わせはしなかった。米メディアも主流メディアは別として、このニュースが一般大衆に行きわたったとは思えない。
岸田氏はゼレンスキー大統領と会談し、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し「揺るぎない連帯」を表明した。
殺傷能力のない装備支援として3000万ドル(約40億円)を新たに拠出すると伝えた。
5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)にゼレンスキー氏を招待し、オンラインで参加することになった。
日本がG7議長国になる日本の首相としては何としてでもキーウを訪問したかった。他の7か国の首脳はすでに訪問していたからだ。
ゼレンスキー氏も「日本がG7議長国で、国連安保理メンバーの時に会談が実現して非常にうれしい」とその点を強調した。
岸田氏はエネルギー分野などで4.7億ドル(約600億円)の追加支援も表明した。
ゼレンスキー氏は、55億ドル(約7200億円)の財政支援を含む日本のサポートと対ロ制裁に謝意を示し、「日本は非常に重要なパートナー」との認識を示した。
300億ドル(約3兆9000億円)も支援している米国にとっては日本の支援は金額面ではどうということではないが、シンボリックな意味がある。
ジョー・バイデン大統領が歓迎のコメントでも出すかと思ったが、それはなかった。
米政府のコメントは3月21日の国務省報道官が定例記者会見で記者団の質問に答えた発言のみだった。
「日本はG7広島サミット議長国であり、そのスケジュールについては日本政府に聞いてほしい。米国は 岸田首相の歴史的なウクライナ訪問を強く支持している」
「この訪問はウクライナの国民へのサポートの表明であり、国連憲章と同憲章に秘められた普遍的価値への支持の表明である」
目下、主要シンクタンクの外交専門家たちが「岸田・習近平外交の比較研究」を題材に大論文を執筆している最中だろう。
米国民の50%は野球ファンではない
「大谷現象」と「岸田ウクライナ訪問」とは、今の日米関係を分析する一つの関連要素にならないだろうか。
日米同盟関係強化・深化に不可欠な要素、つまり両国国民間に育まれてきた相互信頼や価値観の共有が「大谷現象」によってより確実なものになってきたのではないか、という仮説だ。
日米外交を長年第一線で担当してきた元米外交官、D氏はこう指摘する。
「論議するには難しいテーマだな。日本列島はWBCで熱狂したが、米国内は一部の野球ファンが騒いでいるだけだからだ」
「世論調査を見ると、米国民のうち野球が最も好きなスポーツだと答えた人は9%。何といっても一番人気のあるスポーツはアメフトとバスケットボールだ」
「メジャーリーグの観客も年々減り続け、18歳から34歳までの年代で熱狂的な野球ファン(Avid Fan)は17%、「にわかファン」(Casual Fan)は33%。ファンではないと答えた人は50%という数字が出ている」
「野球は今や『白人高齢者の観戦スポーツ』になっている感じがする」
「MLBも今やスター選手の大半は、中南米出身者。かつてMLBでは黒人選手が活躍していたが、優秀な黒人アスリートは近年、野球よりもアメフトやバスケットボール選手になっている」
「確かに大谷選手は凄い。野球ファンでなくとも大谷の名前を知っているはずだ」
「ベーブ・ルースをすでに抜いている。『二刀流』というがルースはボストン・レッドソックス時代だけ。ヤンキースに移籍して以降はピッチングはやっていない」
「大谷選手は日本人野球選手が凄いということをみせつけるだけでなく、マナーやスポーツマンシップでも米国人に好印象を与えている」
「それが米国人の対日観を良くしていることも確かだ。いわば親善大使の役割を演じている」
「ただ、その大谷選手に対する米国の好感度を米国民全体の対日感情に結びつけ、結論づけるのはやや無理筋なのではないのか」
確かにD氏の言うことは「正論」かもしれない。その点は日本人である筆者は冷静に見ておくべきかもしれない。世論調査も欲しいところだ。
●文化庁 きょう京都で業務開始 「新たな文化振興」岸田首相 3/27
27日から、文化庁が移転先の京都で業務を始める。
26日に開かれた祝賀式典で岸田首相は、「京都を中心に新たな文化振興に取り組みたい」などと期待を語った。
岸田首相「京都から食文化や文化観光などをはじめ、新たな価値を生み出し、広く世界に発信をしていきたい」
あいさつで岸田首相は、「移転を機に、京都を中心にした新たな文化振興に取り組みたい」と述べ、文化財修理の拠点整備なども進める考えを強調した。
文化庁は、京都市の新庁舎での業務を27日から開始するが、中央省庁の本庁の地方移転は初めてで、東京一極集中の是正や地方創生につなげたい狙い。
また、岸田首相は、「ポストコロナにおける新しい働き方を示すものでもある」として、テレビ会議などを駆使した柔軟な働き方への期待も示した。
●岸田文雄首相「高市氏罷免の理由ない」 放送法文書巡り 3/27
岸田文雄首相は27日の参院本会議で放送法の政治的公平に関する総務省の行政文書を巡り高市早苗経済安全保障相の罷免は考えていないと表明した。「丁寧に説明してもらいたいと考えており、高市氏を罷免する理由はない」と言及した。
文書の記載内容と高市氏の認識が異なっていることについて「当時の総務相としての知見に基づき、説明を続けてきた」と指摘した。
立憲民主党の森本真治氏は高市氏が文書を「捏造(ねつぞう)」と表現したことを批判した。「高市氏が国会で虚偽答弁し、かつての部下たちが捏造したと保身のために主張しているのは明らかだ」と語った。
●杉田水脈、平沼Jr、文春砲直撃1年生…岸田首相 3/27
岸田首相のウクライナ訪問が成功し、回復傾向にあった内閣支持率のさらなる上昇が見込まれている。すでに永田町では、統一地方選を終えた後、岸田首相がどのタイミングで解散総選挙に打って出るのかが取り沙汰されている。
だが解散断行まで、自民党は岸田首相の「お膝元」で最後の懸案事項を片付けなければならない。
「4月解散」考えづらいワケ
今月前半の時点では「秋の臨時国会の後が最も有力な説」(安倍派の中堅衆院議員)だったが、もはやそのシナリオの可能性はかなり少なくなったと言っていい。気の早い週刊誌などは「4月のサプライズ解散」説を流しているが、岸田首相「悲願」の広島サミット(5月19〜21日)を無事に成功させた後、6月21日の会期末にかけての政局が有力視される。
すなわち会期末で野党側が“お約束”の内閣不信任案を出し、それを逆手に首相が国民に真を問うというシナリオだ。野党がそれにビビって不信任案提出を見送っても、国民が岸田外交の成果を忘れないうちに、そして野党側の選挙体制が整う前には初夏の解散は妥当かもしれない。
ただし、自民も選挙体制がまだ万全とは言い難い。「4月サプライズ解散」が考えづらいのは「10増10減」に伴う候補者調整の問題が残っているからだ。特に「10減」の対象となった地方では選挙区がなくなる現職がいて死活問題になっている。広島選出である岸田首相のお膝元である中国ブロック(鳥取、島根、岡山、広島、山口)は典型的だ。
同ブロックのうち選挙区が減ったのは岡山(5→4)、広島(7→6)、山口(4→3)の3県。候補者調整の山場は2つあり、まず前半は減少する選挙区を拠点とする現職や支部長の処遇だ。
補選の山口除き、進む選挙区調整
山口は安倍元首相(旧4区)と岸信夫元防衛相(旧2区)の兄弟に、林外相(旧3区)、元副総裁の長男である高村正大氏(旧1区)といった「名門世襲」の選挙区がひしめく。特に中選挙区時代から地盤が重なる安倍氏と林氏の調整は究極的に難航することが予想されたが、安倍氏暗殺を機に事態が動き出した。岸氏の病気による辞職も重なって、旧選挙区でのダブル補選(4月23日)に突入した。
岸氏の長男、信千世氏が旧2区で、安倍氏の元秘書で前下関市議の吉田真次氏が旧4区で、それぞれ当選した場合でも、6月に解散があるとすると、補選を終えて2か月もない。ベテランの林氏は別格扱いが予想されるが、2期目の高村氏、新人の岸信千世氏、吉田氏の間でどのような扱いをするのか見ものだ。
一方、広島と岡山はここに来て選挙区の調整を終えた。広島は、寺田稔前総務相(旧5区)が新4区に、旧6区が地元で比例復活した小島敏文復興副大臣は新5区に、新谷正義氏(旧4区)は比例に回った。岡山は逢沢一郎氏(旧1区→新1区)、山下貴司元法相(旧2区→新2区)、加藤勝信厚労相(旧5区→新3区)、橋本岳氏(旧4区→新4区)で決まった。共に旧3区を地盤にして競合していた平沼正二郎氏と阿部俊子氏は比例に回る。
山陽新聞によると、岡山県連は「地方組織での調整は困難」として党本部に最終調整を丸投げしたようだが、本当の難所はこれからだ。候補者調整の2つ目の山場となるのが、比例で処遇することになった現職の序列だ。「ブロック内の複数の県で調整しなければならず、各県連レベルではどうしようもない高度な政治判断」(広島の自民地方議員)が要求されるからだ。
杉田氏の運命は?次の山場は比例区
前回の衆院選、自民が中国比例ブロックで確保した議席は6つ。旧広島3区を公明・斎藤国交相に譲ったことで名簿1位に処遇された新人の石橋林太郎氏は早々と当確した。その上で、残り5つの当選枠は、選挙区で落選した小島氏と阿部氏の比例復活組で2枠が消え、最後の3枠は名簿順に比例単独の高階恵美子、杉田水脈、畦元将吾の3氏で埋まった。
だが、当然のことながら、選挙区調整で新たに4人(山口1、広島1、岡山2)も比例ブロックに回るとなれば、前回比例単独で当選した現職は厳しい局面に立たされるのは言うまでもない。仮に前回と同じ6人の当選枠を確保しても、4人が名簿上位を占めれば残りは2人だけになる。比例単独組では杉田氏の動向が特に注目されそうだが、4人に準じた順位に入らなければ当選が極めて厳しくなる。
杉田氏を巡っては前回の比例順位は安倍元首相の後押しがあって確保した経緯がある。そして安倍氏が亡くなり、旧山口4区の補選に出馬するとの観測もあったが、結局実現しなかった。
保守系ネット民の間では、選挙区が5つ増えた東京への鞍替えを期待する声も一部にあるが、都連内部では今のところそうした声は聞かれない。加えて選挙区転出となれば共闘する公明・創価学会の心象も問題になる。保守タカ派色の強い杉田氏と公明は水と油。杉田氏と親しい論客は「公明側のアレルギーを和らげられるか試される」と指摘する。
文春砲デビューの新人も黄信号
一方、前回は比例1位だった石橋氏も安穏とできる状況では全くない。前回は岸田氏の地元ということもあって優遇されたが、前述の先輩議員ら4人が比例に回れば前回と同じ処遇なのかは「微妙なところ」(広島県連関係者)なのが実情だ。広島選出で4期務める新谷氏や、平沼騏一郎元首相の義孫で、平沼赳夫元経産相の次男である正二郎氏と同等の扱いになるとはとても言い切れない。
石橋氏は全国的には無名だが、昨年9月には週刊文春に旧統一教会系団体との関係をスクープされ、文春砲を被弾。2月20日の衆院予算委第1分科会では皇室典範について質問した際、「ご承知の通り、天皇陛下は天照大神の直系のご子孫」との“歴史認識”を示し、ネット上で物議を醸した。広島県連の関係者は「石橋氏に今度スキャンダルがあった場合、岸田総理や党本部にとってむしろ難なく比例ブロックを調整しやすくなって“好都合”ではないか」と皮肉混じりに語る。
そもそも広島の保守政界のローカル事情で見た場合、県内の自民党は大きく分けて岸田首相の宏池会系と亀井静香氏の流れをくむ“亀井系”が対峙してきた伝統があり、石橋氏や服役中の河井克行元法相は“亀井系”の流れをくむ。文春はなぜか石橋氏を“岸田首相の秘蔵っ子”と書いていたが、地元の政治文脈的には、首相とはむしろ反目するポジションだ。関係者の前述の指摘は現実味を帯びる。
統一地方選の前半戦は、中国地方でも鳥取、島根の両知事選と広島市長選がすでにスタートした。月末には岡山と広島で市議選の告示を迎える。各衆院議員も地盤を支える地方議員らの応援に汗をかく一方、解散の時期と選挙区調整の成り行きに気を揉む日がしばらく続く。
●岸田首相、装備移転見直しへ議論 情報管理「不断に検討」―参院本会議 3/27
岸田文雄首相は27日午前の参院本会議で、ウクライナの首都キーウ(キエフ)訪問について報告した。その後の質疑では、防衛装備移転三原則により同国への武器供与に制約があることに関し、制度見直しの議論を進める考えを示した。自民党の松川るい氏への答弁。
首相は、防衛装備品の海外移転について「インド太平洋地域の平和と安定、わが国に望ましい安全保障環境の創出、侵略を受ける国の支援のため、重要な手段だ」と指摘。三原則や運用指針の見直しは「こうした観点から結論を出さねばならない課題と認識している」と述べた。
訪問時の情報管理に関しては「万全を期した措置を探った」と説明。同時に「危険地における報道の在り方は不断に検討していく」とも語った。
一方、5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)に韓国を招待することについて、首相は「自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、協力できる」と理解を求めた。立憲民主党の森本真治氏への答弁。
衆院では24日の本会議で、首相がキーウ訪問を報告した。
●「変えるべきは男性の長時間労働」 少子化対策、岸田首相 3/27
岸田政権は今月末に少子化対策のたたき台をまとめるのに先立ち、産後の一定期間に男女が育児休業を取得した場合の給付率を「手取り10割」に引き上げる方針を打ち出した。男性の育休取得を促し、家事・育児の女性への偏りを是正したい考えだ。ただ、子育てにかかわる負担を巡る男女間の不均衡を抜本的に解消する効果は望めない。識者は「男性の長時間労働を改めなければ出生率は上がらない」と指摘する。(坂田奈央)
「家事・育児が嫌だったのではなく、会社に拘束されるストレスで余裕がなかったんだな」
神奈川県鎌倉市で7歳と5歳の子を育てる吉田和子さん(43)は、夫の変化を見てそう感じた。
3年前に夫婦とも勤めていた会社を辞め、東京都内から一家で引っ越した。同時に自営業を始め、柔軟な働き方になった夫は、家事も育児も率先してこなすようになった。今では一緒に働く吉田さんが多忙な時、朝の子どもの準備を引き受ける。
会社勤めに比べて経済的な不安はあると、吉田さんは話す。それでも、夫婦で育児に関われる環境に満足しているという。
育休取得、女性85%、男性は14%
2021年度の育休取得率は女性が85.1%、男性が13.97%(厚生労働省調べ)と大きな差がある。2000以上の企業や省庁などの働き方改革を支援してきたコンサルタント会社「ワーク・ライフバランス」社長の小室淑恵さんは「少子化対策で大事なのは男性の働き方を変え、家庭での育児の手を2本にすること」と説く。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、他の先進国は女性の就業率が上がるほど出生率も上がっている。一方、日本は女性の就業率が上がったのに出生率は低迷。小室さんはその原因を、男性の働き方改革に手を付けなかったことで、仕事と家事・育児の二重の負担が女性にのしかかったからだと分析する。
男性の家事・育児時間と子どもの数は相関関係
男性の家事・育児時間と子どもの数は相関関係がみられる。15年の厚労省調査では、子どもがいる夫婦のうち、休日の夫の家事・育児時間が「なし」で2人目以降が生まれたのは10%。時間が多いほど2人目以降がいる割合は増え、「6時間以上」では90%近くに上った。
岸田文雄首相が17日の記者会見で表明した育児休業給付の拡充は少子化対策の3本柱の1つである「働き方改革」の具体策だが、女性の負担軽減につながるのは、男性が取得した期間中に限られる。男性の家事・育児参加を一層進めるための制度改革として、小室さんが提唱するのが、終業と始業の間に一定の時間を設ける「勤務間インターバル」の義務化や、時間外賃金の割増率引き上げだ。
勤務間インターバルは、欧州連合(EU)が加盟国企業に11時間の確保を義務づけている。日本では18年成立の働き方改革関連法に盛り込まれたが、経団連が義務化に反対したこともあり、強制力のない努力義務になった。22年時点の導入企業はわずか5.8%にとどまる。
時間外割増率もノルウェーの40%に対し、日本は25%と低水準だ。企業の負担増に直結するため、引き上げを目指せば経済界の反発も予想されるが、小室さんは「働き方改革がなければ、育休制度を充実させても、本質である家事・育児分担(の見直し)や出生率向上につながらない」と強調する。
●岸田総理「韓国がG7の議論に参加すること有意義」韓国招待の理由語る  3/27
岸田総理は5月のG7広島サミットに韓国の尹大統領を招待したことについて、「尹大統領はインド太平洋戦略を発表するなど、地域の平和と繁栄にコミットする積極的な対外姿勢を示しており、韓国がG7との議論に参加することは有意義であると考えた」などと語りました。
参議院本会議で野党議員の質問に答えました。
●予算、28日に成立の見通し 放送法文書、解明不十分と追及  3/27
国会は2023年度予算案審議が大詰めを迎える。与党は28日に成立させる方針。野党は放送法の「政治的公平」に関する総務省の行政文書を巡り、捏造と主張した高市早苗経済安全保障担当相の追及を続ける。ただ、予算成立後は岸田文雄首相や高市氏に直接ただす場が減り、真相解明は不十分なままとなる恐れもある。後半国会では重要法案の論戦が焦点となる。
参院は27日、首相が出席する本会議と予算委員会集中審議を開催。立憲民主党は放送法文書問題を取り上げる。総務省は捏造があったとは「考えていない」としており、長妻昭政調会長は「捏造がないのは明らかだ。高市氏は発言を撤回しておらず、閣僚の任にあらずだ」と批判する。
文書には、放送法の事実上の解釈変更に至る経緯が記されている。立民などは首相官邸の圧力があったのではないかと迫るが、議論は深まっていない。予算成立後は首相が出席する衆参両院予算委は当面開かれず、野党にとって追及の舞台が少なくなる。自民党幹部は「このまま平行線だ」と逃げ切りを図る構えだ。  
●参院予算委 放送法 政治的公平 首相“疑念招かぬよう適切に”  3/27
放送法が定める「政治的公平」の解釈に関する総務省の行政文書に関連し、立憲民主党が、法律の解釈が圧力でゆがめられてはならないとただしたのに対し、岸田総理大臣は、政策決定にあたって国民の疑念を招くことがないよう、引き続き適切に取り組む考えを示しました。参議院予算委員会では27日、集中審議が行われました。
自民 宮崎氏 物価高騰対策について
自民党の宮崎雅夫氏は、政府が先週まとめた追加の物価高騰対策をめぐり「農林水産分野について大変深刻な状況が続いており、現場の人たちに具体的に支援の手が届くようなスピード感をもって、政府全体で取り組んでいただきたい」と求めました。これに対し、岸田総理大臣は「物価高から国民生活や事業活動を守り抜くため、年度内にコロナ対策とあわせ、2兆円強のコロナ物価予備費を措置した。今回の追加策を早急に実行に移してまいりたい」と述べました。
立民 石橋氏 安倍政権当時の総務省の行政文書について
立憲民主党の石橋通宏氏は、放送法が定める「政治的公平」の解釈に関する安倍政権当時の総務省の行政文書をめぐり「元総理大臣補佐官が官邸の立場で圧力をかけたことが明らかになったとお認めになったほうがいい。岸田政権では少なくとも放送法の解釈を官邸がゆがめることはないと明言してほしい」と求めました。これに対し、岸田総理大臣は「やり取りがあったのはそのとおりだが、解釈については、所管する総務省が責任を持って行ったと理解している。政策決定にあたって国民の疑念を招くことがないよう、引き続き今の内閣において適切に取り組んでいきたい」と述べました。
公明 宮崎氏 「2024年問題」について
公明党の宮崎勝氏は、トラックドライバーに対する時間外労働の規制が強化され、輸送量の減少が懸念されるいわゆる「2024年問題」について「物流事業者だけで、この危機的状況を乗り切ることは難しく、荷主や消費者の協力も必要不可欠だ。政府横断的な対応が求められるが、具体的にどう進めていくのか」と質問しました。これに対し、岸田総理大臣は「政府として迅速に対応する必要があると認識しており、近日中に、新たな関係閣僚会議を設置・開催し、緊急に取り組む政策を取りまとめる。わが国の物流の革新に向けて、政府全体でスピード感を持って取り組んでいきたい」と述べました。
維新 東参院国対委員長 議員定数の削減について
日本維新の会の東参議院国会対策委員長は、議員定数の削減について「本来なら増税を言う前に、われわれの経費を削減していくべきだが、逆に参議院では議員定数を6人も増やし、年間4億5200万円もの経費が増えた。議員定数の1割削減をずっと訴えてきたが、まずは6人を減らすべきだ」とただしました。これに対し、岸田総理大臣は「議員定数については、全体として国会議員のありようをどうするかを議論するということであり、ぜひ自民党も含めて、国会として民主主義の根幹がどうあるべきか議論すべき課題だ」と述べました。
国民 田村氏 扶養されている配偶者めぐる制度について
国民民主党の田村麻美氏は、扶養されている配偶者をめぐる制度について「半数近くの企業で収入制限つきの配偶者手当が残っている。社会保険の適用拡大の企業規模要件の撤廃の課題についても、すべてこれを取り払っていく決断を総理に求めたい」と述べました。これに対し、岸田総理大臣は「配偶者手当については、さまざまな機会を通じて、私みずからも見直しを促していきたい。雇用のあり方に対して中立的な社会保障制度としていく観点から、勤労者皆保険の実現に向けた取り組みを進めており、多様な働き方が可能になるような環境整備が重要だ」と述べました。
共産 井上参院幹事長 ウクライナ侵攻について
共産党の井上参議院幹事長は、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり「日本がウクライナの情勢から学ぶ教訓は、いったん戦火になれば国土が戦場になって大量の犠牲者が避けられないということで、外交努力の強化こそ最大の教訓だ」とただしました。これに対し、岸田総理大臣は「ウクライナ侵略における教訓は、国連憲章をはじめとする国際法を守る国際秩序をつくっていくことであると考えており、秩序を作るための外交努力に、G7議長国としてもしっかり取り組んでいきたい」と述べました。
れいわ 木村氏 障害のある子どもの教育について
れいわ新選組の木村英子氏は、障害のある子どもの教育について「障害のあるなしで分けられ、コミュニケーションができなかった時間を取り戻すことは容易ではない。障害者やその保護者が希望する学校に入学できるように、法令や制度の見直しをしてほしい」とただしました。これに対し、岸田総理大臣は「障害のある子どもと障害のない子どもが、可能なかぎりともに過ごすための学校運営や環境整備が重要だ。本人や保護者の意向が尊重されるよう、教育委員会に適切な対応を促していかなければならない」と述べました。
●23年度予算、28日成立 岸田首相「総務省が放送法解釈」 3/27
参院議院運営委員会は27日の理事会で、2023年度予算案を28日の本会議で採決することを決めた。与党などの賛成多数で可決され、成立する運び。
これに先立ち、岸田文雄首相は27日の参院予算委員会で、放送法の政治的公平性の解釈について「総務省が所管省庁として責任を持って行った」と表明。首相官邸の指示ではなく、同省が主体的に解釈を判断したとの立場を強調した。
総務省が公表した行政文書には、当時の礒崎陽輔首相補佐官が同省に政治的公平性の解釈見直しを求めたと記されている。この経緯を経た15年5月、総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が、一つの番組でも公平性を判断し得るとの新たな見解を示した。
これについて、立憲民主党の石橋通宏氏は「官邸が都合の悪い番組、キャスターに圧力をかけるため放送法をゆがめることはあってはいけない」と追及。首相は「首相補佐官は行政各部に指示、指揮監督を行うことはできない。ゆがめたと言うが、解釈は一貫している」と反論した。
政府が決めた低所得世帯への3万円給付を柱とする追加物価対策について、首相は「年度内に2兆円強の予備費を措置し、早急に実行に移したい」と語った。自民党の宮崎雅夫氏への答弁。
23年度予算案は、28日の参院予算委で可決され、本会議に緊急上程される。一般会計総額は114兆3812億円。防衛力の抜本強化に向けた関係費などを盛り込み、11年連続で過去最大を更新した。
●岸田首相、教団とのつながり調査に否定的 立民批判「後ろ向き」 3/27
岸田文雄首相は27日の参院予算委員会で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の地方議員とのつながりを明らかにする調査を行うかどうか問われ、否定的な考えを示した。関係断絶を掲げた党方針を出しているとし「何よりも大事なのは未来に向け関係を断つことだ」と述べた。立憲民主党は実態解明に後ろ向きだと批判した。
首相は、自民地方議員と教団側の過去の接点に関し「さまざまな情勢における本人の認識または判断であり、すなわち心の問題だ」と強調。「必要であれば、本人が説明すべきだと考える」と語り、議員一人一人の対応に委ねる意向を示した。「党方針の徹底により、政治の信頼回復に努めたい」とも答弁した。
質問に立った立民の石橋通宏氏は「過去を明らかにしなければ未来はない。首相は党調査を決断すべきだ」と迫った。
首相は24日の参院予算委では、旧統一教会を巡る自民対応について、統一地方選が実施される41の地方組織で立候補者に党方針を徹底させる対応を取ったと説明し、理解を求めていた。
●地元パーティー「大臣規範抵触せず」 岸田首相、ロゴ入り土産も問題なし 3/27
岸田文雄首相は27日の参院本会議で、自身が広島市で19日に開いた政治資金パーティーに関し「国民の疑念を招かないよう良識の範囲で適切に対応すべきもので(大臣規範に)抵触するものではない」と述べ、大規模なパーティーの開催自粛を定めた大臣規範の範囲内との認識を示した。
立憲民主党の森本真治氏は、会費1万円のパーティーに1000人以上が参加したと主張。首相は大臣規範について「自粛すべきパーティーについて特に定められた基準はない」と指摘した。
森本氏は、パーティーで5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)のロゴマーク入りまんじゅうとペンが土産として配布されたことに関し、「特定の政治活動を目的とした使用はしない」とするロゴの使用基準に触れると追及。首相は「使用目的がサミットの開催機運の醸成にあると認められたため、承認された」と述べ、問題ないとの考えを示した。

 

●岸田首相「大臣規範」無視で政治資金5億円荒稼ぎ ルール破り 3/28
広島サミットのロゴ入り饅頭を「政治資金パーティー」で配っていたことが発覚し、「政治利用だ」と批判されている岸田首相。そもそも総理大臣が政治資金パーティーを開くこと自体“禁止”されている。なのに、27日の参院本会議で追及されてもノラリクラリ。フザケた態度だった。
「パーティーについて特に定められた基準はない」
本会議でパーティー開催の是非を問われた岸田首相は、こう言い放っていた。
しかし、岸田首相が開いたパーティーが「大臣規範」に反しているのは、紛れもない事実だ。2001年に政府が閣議決定した大臣規範は「国民の疑惑を招きかねないような大規模なものの開催は自粛する」と定めている。「大規模パーティー」については明確な基準はないが、政治資金規正法で「特定パーティー」と呼ばれる収入1000万円以上のパーティーについては、「自粛する暗黙のルールがある」(永田町関係者)。
しかし、岸田首相は、この大臣規範を「どうでもいい」と思っているフシがある。日刊ゲンダイの調べで、首相就任後や外務大臣時代、大臣規範を無視し、大規模パーティーで“荒稼ぎ”していたことが分かった。
外相時代も「ルール破り」連発
岸田首相が代表を務める資金管理団体「新政治経済研究会」の政治資金収支報告書(21年分)によると、首相就任後の12月4日、地元・広島のホテルで開催したパーティーで1368万円、同月22日に都内ホテルのパーティーで3862万円の収入を得ている。
さらに、後援団体「岸田文雄後援会」の同年分の収支報告書には、3月27日開催のパーティーで約1077万円の収入を得たとの記載がある。
外務大臣だった時期(12年12月〜17年8月)、「新政治経済研究会」は計32回、総額3億7631万円、「岸田文雄後援会」は計8回、総額5468万7000円のパーティー収入を得ている。首相就任後を含めた2団体の総収入は、この約5年間だけでも実に5億円近くに上る。
政治資金問題に詳しい神戸学院大教授の上脇博之氏は言う。
「総理大臣や政務三役は省庁に対する権限を持っているので、便宜を期待する特定の業界団体が『献金』『パー券購入』を通じて近づいてくる傾向にあります。こういった癒着を防ぐための『歯止め』として大臣規範が存在しています。それを、総理大臣自ら軽視するなど、許されることではないでしょう」
政権トップがこんな調子では、政財界の癒着がなくならないわけだ。
●5年度予算成立 過去最大114兆円 防衛力抜本強化へ 3/28
一般会計総額が114兆3812億円の令和5年度予算案は28日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立した。当初予算として110兆円を超えるのは初めて。厳しさを増す安全保障環境に対応するための防衛力抜本強化などに充てる。立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などは反対した。
本会議に先立つ参院予算委員会の締めくくり質疑で、首相は防衛力強化に関し「専守防衛を堅持していく方針に変わりはない。反撃能力(敵基地攻撃能力)はミサイル攻撃から国民の命を守るためのものだ」と強調。反撃能力にも活用する射程1600キロの米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入などに理解を求めた。
防衛費は米軍再編経費などを含め過去最大となる6兆8219億円を計上。ロシアによるウクライナ侵略など急変する安全保障環境を受けて防衛力の抜本的強化を掲げる政府は、防衛費を5年間で総額43兆円程度とする方針を示しており、今後も段階的な増額が見込まれる。
医療や介護などの社会保障費も過去最大で、36兆8889億円を盛り込んだ。国会審議を経ず政府の裁量で活用できる予備費には計5兆5千億円を計上。新型コロナウイルスや物価高のほか、ウクライナ危機などへの対応に充てる。
一般会計総額は11年連続で過去最大を更新し、財政拡張路線を維持。巨額の歳出を税収で賄えず、借金頼みの財政が続く。
●過去最大114兆円超 来年度予算が成立 防衛費の大幅増額など影響  3/28
一般会計の総額が過去最大の114兆円あまりの2023年度予算案が、28日、参院本会議で可決され、成立した。
2023年度予算は、防衛費の大幅な増額などを受け、一般会計総額が114兆3812億円と過去過去最大となった。
28日の参院予算委員会で、岸田首相と全閣僚が出席して締めくくりの質疑が行われた後、予算案の採決が行われ、自民・公明両党の賛成多数で可決された。
その後、参院本会議でも採決が行われ、与党などの賛成多数で可決され、成立した。
●「大日本図書」中学教科書発行を認めず 汚職事件で初の罰則適用 文科省 3/28
教科書会社「大日本図書」による汚職事件を受け文科省は、「大日本図書」による新たな中学校教科書の発行を認めないとする決定を発表しました。不正行為があった場合の罰則による決定で、この罰則の適用は初めてです。
文科省は「大日本図書」が2023年度の教科書検定に中学校の教科書を申請しても内容にかかわらず不合格とすると発表しました。
教科用図書の検定規則には、不正行為があった教科や科目について、次の検定で申請しても不合格にするとの罰則が2017年に盛り込まれ、今回初めて適用されました。
「大日本図書」をめぐっては元役員らが大阪の教科書採択にあたり、教科書選定委員だった元中学校長に対し接待や現金を手渡すなどしていました。
文科省が不合格の対象とする教科書は元中学校長が便宜を図った理科と数学、保健体育の3教科です。
大日本図書の中学教科書の占有率(シェア)は今年度、理科が26・8%(約88万5000冊)で3位。数学は5・2%(約17万2000冊)、保健体育は14・8%(約16万6000冊)を発行しています。また、小学校理科のシェアは30・8%を占め、1位となっています。
●“ステマ” 10月から規制へ 景表法「不当表示」の対象に 消費者庁  3/28
インターネットなどで、広告であることを明らかにせず口コミを装って宣伝する、いわゆるステマ=ステルスマーケティングについて、政府は景品表示法が禁じる不当表示の対象に指定した。
ステマは、SNSで影響力のあるインフルエンサーなどに企業が何らかの対価を支払い、個人の感想を装ってネットなどに書き込んでもらう「企業の広告であることを隠した広告」で、消費者の商品選択を阻害する恐れがあるとして問題視されてきた。
消費者庁が公表した運用基準によると、規制されるのは企業で、インフルエンサーなどは対象とはならない。
企業には「広告」や「PR」など、「広告」だと分かるように明示することが義務付けられる。分かりにくい表示例として、小さな文字、文の末尾に表示する、他の文字に比べ文字が薄い、大量のハッシュタグに埋もれさせる、などを挙げている。
また、自社の高評価や、他社の低評価の書き込み依頼も規制対象となるが、投稿者が自主的に行った場合は対象外とする。
施行は10月1日からで違反すれば再発防止を求める行政処分(措置命令)の対象となり、事業者名が公表される。
欧米では、ステマ行為を禁止している国が多いが、日本ではこれまで規制する法律がなかった。
●日中議連新会長に自民・二階氏  3/28
自民党の二階俊博元幹事長が、超党派の日中友好議員連盟会長に就任する方向であることが、28日、わかった。
二階氏は、これまで何度も訪中し、習近平国家主席と面会するなど、中国との議員外交を牽引してきた。
二階氏の会長就任は、次回の総会で正式に決定される予定。
日中議連の会長をめぐっては、2021年11月、当時会長だった林外相が「外相としての職務遂行にあたって無用な誤解を避けるため」として辞任して以降、会長不在の状態が続いていた。
二階氏は、2015年、観光業関係者など約3000人の訪問団を結成して中国を訪問するなど、中国との議員外交を続けてきた。
●企業の農地取得 うやむやな解禁許すな  3/28
企業に農地取得を特例で認める構造改革特区法などの改正案が衆院で審議入りした。国家戦略特区の兵庫県養父市に限って認めている特例を、一定の要件を満たせば全国の自治体でも利用できるようにする。企業の農地所有が農業振興にどう結び付くのか、国会で議論を尽くすべきだ。
この特例は2016年の国家戦略特区法改正で創設され、当初は5年間の時限措置だった。その後、23年8月末まで2年間延長。今回、構造改革特区に移行して全国で利用できるようにする流れだが、うやむやに企業の農地所有を解禁してはならない。
岡田直樹地方創生担当相は、改正案を閣議決定した今月3日の会見で「養父市においては耕作放棄地の再生や雇用創出などの効果が表れている」と述べた。だが、政府が「岩盤規制の突破口」と位置付ける国家戦略特区は、規制改革そのものを目的にしているため、農業振興の観点での評価・検証は不十分と言わざるを得ない。
昨年10月までに養父市で特例を利用した企業は6社で、取得面積は計1・65ヘクタール。6社の経営面積全体に占める割合は5%にとどまる。
16年当時、地方創生担当相だった石破茂氏は国会審議で、農業参入の増加や収益の向上、農地の有効利用など「国家戦略特区にふさわしい効果が上がっているかという状況の検証・評価が当然、必要だ」と答弁している。なぜ、貸借ではなく所有でなければならないのか。政府は所有にこだわる理由と、特例の効果について、根拠を示して説明すべきだ。
国家戦略特区は、内閣が政令で定める自治体に限定されるのに対し、構造改革特区では自治体の発意で特例が利用できるようになる。著しい担い手不足や耕作放棄地の増加といった地域要件は残すというが、特例の利用を広げる以上、不適正な農地利用を防ぐ手だてをどう確保するかも大きな論点になる。
農地は一度、荒れてしまえば原状回復は難しい。改正案では自治体が農地を取得して企業に売り渡す仕組みは維持し、農地が適正に利用されない場合は、自治体に所有権を戻す契約を結ぶことを条件にする。だが、自治体が万が一の場合に備えて農地を買い戻す予算を計上し、農地の不適正利用が生じた場合も、きちんと対処できるかを見極める必要がある。
4月には改正農業経営基盤強化促進法が施行され、各地で農地利用の将来像を描く「地域計画」の策定が本格化する。特区での企業による農地取得が、地域の意向を無視して進むことのないよう、地域計画との整合性をどう取っていくかも、大きな課題といえる。
●これからのローカル線はどうなる? 住民の足を守るための打開策 3/28
昨年、JR各社は路線の収支や営業係数を相次いで公表し、赤字路線が明らかにされたことが大きな話題になりました。これが引き金となり、ローカル線の存廃議論が始まっています。このままでは、多くの路線が廃止される可能性も否定できません。このほど『日本のローカル線150年全史』(清談社Publico)を出版した著者の佐藤信之さんに、今起きているローカル線問題と生き残るための処方箋を聞きました。
2023年度からローカル線を残す術が広がる
――昨年、JR西日本は2017年から19年までの3年間における17路線30区間の収支、営業係数を初めて公表しました。これを皮切りにJR東日本なども利用者が特に少ない66区間に絞って2021年度の収支を公表しています。全国の鉄道が危機に瀕しています。
佐藤氏:日本の鉄道は明治期に殖産興業の掛け声のもとで拡大・発展を遂げてきました。政治も鉄道敷設法や軽便鉄道補助法などを制定して、鉄道の拡大を後押ししてきました。
そもそも政治は、住民からの陳情を予算化・制度化するプロセスなので、現状、地方議員は住民の意見をそのまま国会議員へと伝えるだけの仲介しかしていません。鉄道を存続するにしても廃止するにしても、住民にとってどれだけの影響が出るのか? 主体的に利益と損失を検証していない気がします。
行政は財政の収支が大事なので鉄道を残すときに生じる財政的な負担を受け入れたくないと考えるのは不思議なことではありません。つまり自治体側が「鉄道を残そう」「鉄道を残す必要はない」と判断するのに、議員は住民の意見・価値観を掬い上げることができているのか? それを自治体の政策や決定に反映させることができているのか?ということが問われています。
今、地方都市へ行くと住民レベルではローカル線を重視していません。例えば、「新幹線がほしい」と言い続けて、その実現のために大物政治家を頼ってきました。
しかし、いざ新幹線を着工する段階になると、反対が起こります。なぜでしょうか? それは、与党である自民党の政策決定プロセスがいびつだからです。自民党の政策プロセスからはずれてしまった人たちや地域住民が異を唱えるのです。かつて日本の政治家はローカル線をたくさんつくってきましたが、次第に時代にそぐわなくなってしまいました。
――国家が鉄道政策を決めていた旧時代の習わしが、今の時代にそぐわないということでしょうか?
佐藤氏:国による政策決定が、必ずしも押し付けになっているとは限りません。むしろ、国がどういう社会を目指しているのか? というビジョンがないことが問題です。それが明確になっていないと、公共交通のあるべき姿も定まりません。
今、公共交通政策に求められているのは、国がきちんとした公共交通の方針を決めることです。それを明確にしなければ、公共交通が必要なのか不必要なのかが不明瞭のまま議論が進んでいきます。つまり、国が公共交通に対する“哲学”を持っていないのです。
――日本は海外に比べて鉄道が発達していると言われますが、哲学はないんですね……。
佐藤氏:ヨーロッパでは、中世、国なり自治体が住民の移動を促進するような政策を取ることで経済発展につながりました。人が自由に移動できることは国が栄える根幹でもあるのです。だから、政治は人の移動や物流を妨げるような障壁を排除することに全力をあげます。地域の足を守ることは国の責任であると決められているのです。
ドイツは憲法で交通権が保障されています。そうした概念は、日本にはありません。日本は議員立法で交通政策基本法が制定されましたので、名義上は国が国民の足を守るというお題目にはなりました。ところが、肝心の財源は手当されませんでした。
――財源がないと鉄道の維持は困難です。
佐藤氏:2023年1月、国土交通省の斉藤鉄夫大臣は2023年度予算案の折衝を終えた後に「今年は『地域公共交通再構築元年』です」と発言しています。地域公共交通再構築という政治的取り組みでは、採算面から多くの鉄道路線がバスへと転換させられることになるかもしれません。
他方で、これまで社会資本整備総合交付金(公共事業関係費)の対象外だったローカル線を含めた鉄道設備にも使途が広がりました。社会資本整備総合交付金の創設前は、道路・空港・港湾などの整備は、個々の特定財源によって地方への補助金や負担金という形で財源の移転を図ってきました。これが一般財源化したうえで2003年度にひとまとめになって社会資本整備総合交付金が創設されました。
これにより使途が弾力化されたのですが、既存の鉄道施設への整備が対象になっていなかったのです。それが2023年度から鉄道設備にも使えるようになります。
――財源という面からも公共交通政策が変わるということでしょうか?
佐藤氏:これまでは、鉄道を廃止して通常のバスやBRTへ転換する際に発生する経費は国が面倒を見ていました。つまり、赤字のローカル線を廃止した場合は財源面からバスやBRTなどに転換するしか選択肢がなかったのです。また、政府は新幹線や地下鉄などは公共事業として整備を財源的に支援していましたが、ローカル線の整備には財源を手当してくれませんでした。
そのため、自治体がローカル線を残す術が限られていました。例えば、自治体が線路や駅舎などの鉄道施設を保有し、鉄道会社は運行に専念するといった上下分離も自治体が鉄道を残そうとした施策のひとつといえますが、これからはそれらに加えて鉄道を残すための投資に関しても国が面倒を見ることが可能になります。ようやく鉄道を残すために前向きな考え方ができる素地が整ったのです。
幹線にも「ローカル線問題」はある
――このほど、『日本のローカル線150年全史』を出版されました。本書についてお伺いできますか?
佐藤氏:3月22日に発売した『日本のローカル線150年全史』は、個人的には趣味的な内容だと思っています。これまで集めてきた資料などをまとめておきたいという思いが、まずあります。
本書では、まず明治時代からローカル線はどのように発達してきたのか、過去、地方がどのように鉄道を獲得し、廃止問題と取り組んできたか、をまとめました。歴史を正しく認識することで、これからいかにすべきか?という課題に対して何らかのヒントを与えてくれるかもしれません。
――ざっくりとローカル線があります。これらを通史としてまとめることは大変だったのではないかと想像します。
佐藤氏:一般的にローカル線とは、特急列車などが走っていない路線と解釈されていますが、厳密にローカル線を定義することはできません。当初の伯備線はローカルな計画でしたが、地元住民から瀬戸内海との連絡線になるように計画を拡大してほしいと要望され、最終的に山陽・山陰を結ぶ現状のような連絡鉄道になるわけです。伯備線のように、計画が持ち上がったときはローカル線だったのに、全線が開業したら幹線的な役割を果たしているローカル線はたくさんあります。
ローカル線と幹線を厳密に線引きすることもできません。また、無理に区別して論じても意味がありません。本書では福井鉄道を取り上げていますが、福井鉄道はローカル線ではなく都市鉄道といえます。
厳密に分類してしまうと、ローカル線問題の議論はまとまらなくなります。そのため、解決策が見出せなくなます。ローカル線問題がややこしいのは、「定義をしなければ議論が始まらない」のではなく、「定義をしてしまうと議論が始まらない」という点です。言ってみれば、幹線にもローカル線問題はあるということです。
例えば、山形新幹線は福島県の福島駅と山形県の新庄駅を結んでいますが、新在直通の新幹線として整備されました。そのため奥羽本線と同じ線路を走っているのですが、これもローカル線問題を抱えています。
また、北海道でも存廃が議論されている路線は函館本線や根室本線など、大部分は幹線です。だから、より厳密な表現をすれば「ローカル線」なのではなく「ローカル線問題」とする方がいいかもしれません。本書のタイトルは『日本のローカル線150年全史』ですが、本の中で論じているのはローカル線問題であり、正確に言えば『日本のローカル線問題150年全史』ということになるでしょう。
――山形新幹線でも、ローカル線と同様の問題を抱えているという話は衝撃的です。
佐藤氏:山形新幹線の走る奥羽本線は、山形新幹線「つばさ」を除けば維持が困難な路線になりつつあります。私は、奥羽本線を活性化させるためには、沿線の自治体が積極的に運行に関わることが望ましいと考えています。
沿線自治体は、線路や設備を保有する第2種鉄道事業者になり、「つばさ」と同じ線路を使って、奥羽本線のローカル列車を走らせればいいと考えています。形式としてはJRに運行を委託することになると思います。
来年度における政府予算案の概要を見ると、公共交通におけるサービスの購入という記述が目にとまります。これは自治体が公共交通の運行のサービスを決めて、その供給者を入札によって決めるというものです。
これを活用して、自治体は山形新幹線が走る奥羽本線でローカル列車の走るダイヤを決めて、山形新幹線とローカル列車を組み合わせて地方鉄道を再構築するのです。それにより路線収支が改善されるかどうかは別として、利用者や地域の住民に大きなメリットを与えることになるでしょう。ただ、現状、国がイメージしているのはバスが中心でしょうか。
こうした手法は、ほかの地域でも応用が可能です。例えば、地方でも県庁所在地などの人口規模がそれなりにある自治体なら確実に通勤・通学需要があります。そうした都市の近郊は、サービスを充実させれば鉄道の利用者数を増やせるんです。
特に、運転本数や列車の乗り継ぎの時間、始発の繰り上げと終発の繰り下げといった部分を改善することで大きな効果をもたらします。だから、地域の特性を踏まえた自治体が積極的に列車の運行に関わっていくことが重要です。
地域の課題は鉄道事業者だけでは解決できない
――自治体がサービスを決め、それを入札で決めるというスキームは現実的に可能なのでしょうか?
佐藤氏:ヨーロッパではローカル線の運行者を民間に委託しますが、その際に自治体がサービスメニューをすべて決めています。サービスメニューとは何か? それを具体的に言いますと、1日に何本の列車を走らせるのか? 始発・終発の時間をどうするのか? 運賃はいくらに設定するのか? といった内容です。
そうしたサービスメニューを決め、自治体は補助金の額を設定します。その上で入札をするわけですから、民間企業もその条件で受託できると判断してから応札します。だから民間事業者は、やり方によって黒字にすることも可能です。
設備は公が所有し、運行にかかるサービスを民が担当する。いわば、自治体が鉄道運行を受託した企業からサービスを買って住民へ提供する方式です。この方式は、これまでの日本では馴染まない鉄道システムと思われてきました。しかし、これから検討していく余地は大きいでしょう。
現在、日本各地ではコミュニティバスがあちこちで走っています。このようなコミュニティバスの多くは、自治体がサービスメニューを作成して、それに見合う補助金を示した上で民間企業が応札する形をとっています。つまり、すでにバスでは自治体が運行者からサービスを買う方式が定着しているのです。
かつて私は、千葉県印西市の公共交通会議の副会長を務めていました。印西市も「ふれあいバス」では、市の負担が最小になるように落札者を決め、サービス内容は一義的に市が決めます。
――自治体がサービスを決めてから入札で事業者を決めるという方式を採用すると、鉄道のサービスは向上すると考えていいのでしょうか?
佐藤氏:運行事業者は公が保有する線路や駅舎を使ってサービスを提供する事業者と捉えれば、ひとつの路線や地域にこだわる必要はなくなります。
例えば、Aという事業者が東北で2路線の運行を受託し、関東でも3路線、近畿で3路線、四国で1路線、九州で2路線といった具合に全国で運行を受託できます。鉄道の運行は現場単位になりますが、経理部や人事部といった間接部門は共通化できます。
フランスには、そういった交通事業者がローカル線を運行ビジネス化しています。そして、海外にも積極的に進出して運行を受託しています。
日本国内にも、みちのりホールディングスという交通事業者が似たような形で事業を展開しています。みちのりホールディングスは、岩手県・福島県・新潟県・茨城県・栃木県・神奈川県でバス事業を受託し、福島県の福島交通や茨城県のひたちなか海浜鉄道、神奈川県の湘南モノレールなどを手がけています。
――自治体がサービスメニューを決めて、運行事業者に入札してもらうというシステムですと、自治体側に交通のプロがいないとうまく回せないという問題が起きそうです。
佐藤氏:だいたいの自治体には、一人ぐらいマニアのように詳しい人がいるんですよね(笑)。とはいえ、交通のプロでなくても大丈夫だと思います。
例えば、交通事業者で運行管理を担当している職員も、その職務に就いてから運輸局や運輸支局などに指導を受け、そこから少しずつノウハウを学んでいます。自治体職員が鉄道のサービスメニューをつくることになったとしても、スタート時からプロ並みの知識は必要ないでしょう。
逆に、運輸局や運輸支局は地域の特性を配慮しない役所なので、全国一律の指導をしがちです。その全国を画一的に見るような考え方が、公共交通の再生においてネックになっています。
だから自治体側でサービスメニューを作成する担当者は、交通の知識に長けた人よりも地域が抱える問題を熟知した人の方が望ましいでしょう。そうしないと、地域住民に使ってもらえるような鉄道に生まれ変われません。
実際には、協議会をつくって議論していくことになります。その協議会には、自治体職員や交通事業者だけではなく、住民にも参加してもらいます。地域の交通は、結局のところ住民が主役なのです。だから、住民の意見を取り入れなければ公共交通は生き残れない。将来的には交通に精通した自治体職員が、住民と一緒にサービスメニューを練っていくことが望ましいのですが、それはまだ先の話です。
――住民に使いやすい鉄道にするためには、やはり地域ごとの事情を反映させることが重要なのですね……。
佐藤氏:ローカル線は誰のためにあるのか?と問われれば、それは沿線住民のためにあるわけです。だから、なによりも住民にとって使いやすい鉄道へとサービスを改善していかなければなりません。
現在の鉄道事業者は、利用者の多い大都市部の利益を利用者の少ない路線に回して線路を維持しているという構図です。そのビジネスモデルは、もう成り立ちません。だから、もう鉄道事業者に任せっぱなしにするのは無理なんです。
肝心なのは財源です。今、自治体はローカル線問題で金を出したくないと考え、だから廃止を選ぶ自治体が増えています。
しかし、公共交通を維持するために総務省・国土交通省などが交付金や補助金で財源を手当てしています。自動車免許を持たない高齢者や高校生などの足として活用することを前提にすれば、厚生労働省や文部科学省からも交付金が手当てされるべきでしょう。
鉄道を維持するためのさまざまな財源を活用できれば、収支が厳しいローカル線でも残せる道はあります。ほかにもローカル線を残すためのアイデアは無限にあります。
●物価対策2.2兆円を閣議決定=後藤経済財政相  3/28
後藤茂之経済財政担当相は28日の会見で、同日の閣議で予備費の使用による総額約2.2兆円の物価高騰対策を決定したと発表した。
総額は2兆2226億円。内訳は新型コロナ臨時交付金1兆2000億円、低所得世帯の子育て世帯支援給付1551億円、飼料価格高騰対策965億円、輸入小麦の政府売り渡し価格激変緩和措置311億円、農業水利施設の電気料金高騰対策34億円、コロナ緊急包括支援交付金7365億円など。
●岸田政権、総額2兆円の物価対策では効果は限定的 さらなる積極財政を 3/28
岸田文雄政権の動きが活発化している。外交面では、日韓関係の「改善」や、ウクライナへの電撃訪問などがその象徴だ。外交はテレビ映えもするため、内閣支持率の上昇をもたらしている。
さらに経済対策も「物価高対策」として予備費を利用した総額2兆円の政府支出を決めた。「検討使」と批判されてきた岸田首相にしては決断が早い。理由は簡単で、4月の統一地方選向けの対策だ。
政治家が国民の歓心を呼ぶために、積極的な財政政策を打ち出すことをポピュリズム(大衆迎合主義)と批判する風潮が日本にはある。だが不況の時に景気刺激政策を打ち出すことは、国民の利益になるので、この種の大衆迎合批判は間違っている。おそらく財務省が数十年かけて「日本は財政危機だ」「将来世代の負担になるような国債発行を控えるべきだ」としてきた洗脳≠フ結果だろう。
経済全体が不振な時に政府が積極的な財政政策を行うことは、先進国の常識である。財務省の宣伝よりも先進国の常識がもっと広まるべきだろう。余談だが、数年前に高校生のボランティア団体のイベントに参加したときに、国会議員が財務省のパンフレットを配布して、財政危機を煽(あお)っていたのを目撃した。すぐに私は反論して、その種の工作を邪魔したことがある。いずれにせよ、財務省の洗脳≠ェ若者にも及んでいることは恐ろしい。
物価高政策2兆円は、2022年度の予備費の残高である6兆円を利用するものだ。再エネ賦課金を引き下げることで、電気代の負担が一般家庭で月800円程度下がる。またガス料金も引き下げる。低所得世帯に3万円の給付金、また低所得世帯の子供1人当たりに5万円の給付なども行われる。電気・ガス代の負担軽減や低所得世帯対策は必要な対策だ。
ただし日本経済全体のおカネの不足が20兆円近くなので、総額2兆円では効果は限定的になる。
第一生命経済研究所のエコノミスト、星野卓也氏が指摘しているが、予備費をそれなりに残し、防衛費増額の「財源」に充てる必要が政府・財務省にある。当初予算での国債発行を避けるためだ。だが、いまの日本で国債を発行して景気対策や防衛費増額に充てても国民は誰も困らない。
まるで家計をやりくりするように国の予算を考えるのは間違いだ。世界経済の先行きを考えれば、もっと規模の大きい補正予算も早急に打ち立てるべき時だ。しかし統一地方選対策とすれば、これで打ち止めになりかねないのが、今の岸田政権の問題である。
●少子化放置で衰退に向かう日本、岸田政権の「異次元」に期待と不安 3/28
子どもにぎりぎりの生活をさせたくないので、もう少し貯金ができる給料になれば出産育児を考えるが、今の段階では産まない。パートタイムの看護師として働く京都府舞鶴市の女性(26)はそう語る。公務員の夫の収入を合わせると2人暮らしの生活は支えることができるものの、子どもを産み育てられるほどの貯金はできていないという。
共働きが主流となり働き方も多様化する中、正規か非正規かといった雇用形態が結婚や出産に影響を及ぼし、少子化を加速させている。
政府は1990年代から少子化問題に取り組み、保育施設の増設による待機児童削減や育児休業の制度拡充など仕事と育児の両立を支援してきたが、抜本的な出生率引き上げにはつながっていない。2022年の出生数は初めて80万人の大台を割り込み、少子化対策は待ったなしの状況だ。
従来の政策は「正社員同士のカップルにしか届いていない」。中央大学の山田昌弘教授はそう指摘。少子化問題を解決するには、正規労働者と非正規労働者との賃金格差の是正や、子どもを産む選択をする際に負担と認識される高等教育費の無償化などが必要との見方を示す。
大和総研の調べによると、妻が自ら正社員として働く被保険者の出生率は上昇傾向にあるのに対し、専業主婦や非正規雇用で働く被扶養者の出生率は15年ごろから低下傾向にある。
   被保険者と被扶養者の出生率
   正社員は回復傾向、専業主婦やパートは低下傾向
「30年間で初任給の水準がほぼ変わらない一方、新卒での非正規雇用の割合は上昇している」とブルームバーグ・エコノミクスの増島雄樹シニアエコノミストは説明。「仮に結婚が自分の人生の選択肢を広げても、教育費の観点から子どもを多く産むのに積極的になれない状況になっているようだ」と話す。
未婚率は上昇
未婚率の上昇も少子化が進む一因となっている。平均年収が相対的に低い非正規雇用の男性は、正規雇用の男性よりも既婚率が低い。また大学生や短期大学生の約2人に1人が奨学金を受給する中、平均の借入額は300万円超、返済額は月平均1万5000円に上る。返済への負担感は年収によって異なるが、3−4割は結婚や出産に影響していると感じているという。
今年の優先課題に「異次元の少子化対策」を掲げる岸田文雄首相は17日の記者会見で、若者の所得向上に取り組む考えを示した。「現在の所得や将来の見通しが立たなければ、結婚、出産を望んでも後回しにならざるを得ない」とし、非正規雇用の正規化や、女性の正規雇用率が20歳代後半でピークを迎えた後に低下する「L字カーブ」の是正などで労働市場改革を加速すると語った。
1人の女性が一生のうちに産む子どもの数「合計特殊出生率」は21年に1.3と、人口が増えも減りもしない「人口置換水準」である2.07を大きく下回り、人口は08年の1億2808万人をピークに減少に転じている。婚姻率と有配偶出生数の掛け算で求められる同出生率を引き上げるためには、独身者の結婚と、子供のいない夫婦の出産を促す政策が必要となる。
岸田首相は、週内にまとめる少子化対策のたたき台で、子育て世帯に対する経済的支援を強化すると明言。多子世帯や教育費負担を踏まえて、児童手当の拡充、高等教育費の負担軽減、若い子育て世帯への住居支援などを講じるという。
「ワンオペ育児」
さらに岸田首相は、母親が1人で育児をするいわゆる「ワンオペ育児」の負担を軽減するため、男性の育児休業取得率の政府目標を25年度50%に引き上げ、30年度に85%を目指す方針も示した。育休取得中の給付率を10割に引き上げ、時短勤務にも育休給付を行う。
日本では、8割の女性が育休を取得しているが、男性の取得率は約14%にとどまる。1日の家事関連時間は男性は1時間未満、女性は3時間以上と、負担が女性に偏っている。
   育児休業取得率
   女性は85%、男性は14%
子育て中の女性は、不完全雇用(パートや能力に見合わない仕事)やキャリアアップの遅れ、生涯収入の低下といった「母親ペナルティー」を負っており、男女間賃金格差の最大の要因となっていると、大手会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は直近の調査報告書で指摘している。英国では、父親の育休取得が母親のフルタイム雇用の維持や、生涯収入の増加に寄与したという。
伝統的家族観
男性の育休取得が進まない背景には、根強く残る伝統的家族観があるとの見方もある。  
ハーバード大学のメアリー・C・ブリントン教授は9日の講演で、欧米に比べ日本は、「男性の労働時間が長く、家事への貢献度が小さいため、出生率が低下している」と指摘した。男性が働き、女性が家を守るという「伝統的な性別役割意識に固執する人の割合が高い韓国や日本などの国々では出生率は低い」という。
ブリントン教授は、女性の勤務時間抑制につながっている所得税の配偶者控除の是正に加え、父親による育休取得を促進するなど「行動に変化をもたらすためのインセンティブが必要」と提案する。これが少子化の原因となっている「男女、家庭、日本社会全体における規範の変化に寄与する」とも語る。
厚生労働省出身の山崎史郎内閣官房参与も、止まらない少子化について「男性や企業が、子育ての問題を自分の問題と思ってこなかったことに全ての原因がある」と指摘。「男性と企業の意識が変わらない限り解決しない」と指摘する。
生殖医療を通じてトランスジェンダーや性同一性障害の人たちが子供を持つ支援をしてきた慶応義塾大学の吉村泰典名誉教授は、「若い世代が子どもを持たないのは、ある意味、多様性を認めない社会に対する一つのレジスタンスかもしれない」と語る。性的少数者(LGBTQ)を認める社会にしていくことが「少子化対策につながっていく」との見解を示した。
晩婚化が最も進み、出生率が1.08と全国よりも低い水準にある東京都の小池百合子知事は今年に入り、「子ども1人当たり5000円給付」と「第2子の保育料無償化」を新たな子育て支援策として打ち出した。来年度から結婚支援と卵子凍結サポートも始める。小池知事は、「働く女性の自己実現とともに、子供を持ちたい、家庭を持ちたいという希望をかなえられる環境づくりをしようという東京都としての強い意志だ」と説明した。
一方、大和総研の是枝俊悟主任研究員は、「在宅育児支援の導入は出生率引き上げの起爆剤となる」との考えを示す。現状子どもが3歳になるまでに産休・育休を経て認可保育所等を利用して職場復帰した場合は601万〜929万円の支援が得られるのに対し、出産前に退職し3歳まで再就職しないと児童手当69万円しか支援を受けられない。
財源
岸田首相は将来的な予算倍増にも言及しているが、財源に関しては6月に策定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で示す考えだ。
「社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる」と慶応義塾大学の権丈善一教授は説明し、年金、医療、介護の3保険から拠出する「子育て支援連帯基金」を提案する。一方、東京大学の山口慎太郎教授は、「社会保険料は一つの可能性だが、主に現役世代が負担することに注意が必要だ。消費税引き上げならそうした問題を回避できる」と指摘するが、首相は現時点での消費増税には否定的だ。
   家族関係社会支出の対GDP比
   日本は1.7%、英仏は3%前後
21年版少子化社会対策白書によると、子育て支援に充てられる日本の家族関係社会支出は国内総生産(GDP)比1.7%と、英国やスウェーデンの半分にとどまっている。
●欧州が難民受け入れに渋い理由を日本人は何も知らない  3/28
実は欧州は難民の受け入れにはかなり何色を示しています。日本の左翼は欧州や北米は熱心に受け入れているということを言っています。確かに数は日本よりは多いものの、政府や有権者が熱心なわけではありません。
例えば極右政党「イタリアの同胞(Fratelli d’Italia 略称 FDI)」を率いる45歳で高卒、シングルマザー家庭出身の労働者階級のジョルジャ・メローニ党首が2022年9月にイタリア初の女性首相に就任しましたが、彼女の公約の中に
   •イスラム主義暴力に反対
   •強固な国境に賛成
   •大量移民に反対
が含まれていました。
「イスラム主義暴力への反対」は日本の方にはピンとこないかもしれません。 しかしこれはイタリアでは 大変な議論になっている問題です。
欧州の他の国と同じくイタリアにはイスラム教過激派が入ってきており、 その中には移民として定住している人々もいます。
イタリアは欧州における海を渡って行ってくる経済移民や難民、不法移民の「入り口」なのです。
EUでは彼らが最初に到着した土地で受け入れられるべきという協定があるので、 目指している国は別のところでも海路で入りやすい イタリアに大量の移民がボートでやってくるのです。
ところがそういった移民は試験を受けるわけでも思想調査を受けるわけではありませんから、 中には過激派思想を持った人がいます。
そういった人々が、イタリアで過激な主張を繰り返したり、テロ行為を行ったりすることが大変な問題になっているわけです。
イタリアは地中海を渡って海から入ってくる不法移民の多くは、北アフリカ・中東・ 南アジアからやってきます。
国連によれば、2022年だけで海を渡ってイタリアにやってきた移民は6万7千人余りになり、2021年より50%も増加しています。 上位3カ国はエジプト・チュニジア・バングラデシュで、到着した移民の75%は成人の男性です。2015年の難民危機以後にイタリアに海を超えてやってきた移民はなんと75万人にもなります。
ところがEU各国が最初の入口であるイタリアに協力しているわけではなく、イタリアの財政が厳しい自治体が受け入れ費用を負担しなければなりません。急激に人が増えれば収容施設は満杯です。かといって他の国が受け入れてくれるわけでも、仕事を世話してくれるわけでもありません。
2016年に発表された研究であるシンクタンクのCPESの「Documenting the Migration Crisis in the Mediterranean Spaces of Transit, Migration Management and Migrant Agency」によれば、収容所を嫌ってホームレスになる移民も多く欧州では問題になっています。
イタリアは他の欧州諸国に比べ、イスラム教過激派によるテロが少ないとされていますが、過激派がいないわけではありません。ただ、他国との違いがあります。イタリア国籍や海外国籍の過激派を迅速に国外退去させるイタリア内務省の権限が強いことです。
さらにメロー二氏のように、地中海を越えてやってくる移民の厳しい規制の主張の背景には、犯罪組織の問題もあります。
犯罪組織はどうしても欧州に渡りたい人々から 大金を受け取って、 ボートに乗せて送り出すのです。 国際移住機関(IOM)によれば、ナイジェリアから欧州に送り出される女性の80%が女性を性的に搾取する人身売買組織の被害者です。
送り出される前に彼女達のスポンサーは犯罪組織にスポンサーフィーを払っています。 イタリアに到着すると 難民収容センターに入っても、 就職の際にスポンサーが接触してきて売春させられたり、 奴隷労働に従事しなければなりません。
また、イタリアに到着して来てから収容所周辺には様々なマフィアやギャングがいるために、 言葉の難しさや仕事を探すことの困難さもあって、そういった犯罪組織の餌食になってしまう人も多いのです。
犯罪者は移民を送り出せばだすほど儲かるという仕組みになっているので、 欧州の政府は規制を厳しくするべきだと言っているところが少なくないのです。
ですから、欧州の保守系政治家が「 『地中海を渡ってくる難民や移民』を厳しく規制するべきだ」 という言葉の背景には、 難民や移民が犯罪組織の犠牲になることも考えるべきだという意味もあるわけです。
彼らは移民全体を規制しようと言っているわけではありません。
日本で例えると、犯罪組織に莫大な手数料を払って不法入国してくる中国人不法移民やベトナム人不法移民を規制しましょう、というのと同じことなのです。
●平均手取り給与24万円「普通の会社員」いよいよ消滅!?…団塊世代 3/28
「2025年問題」をご存じだろうか。団塊の世代が全員75歳以上となることで、社会のさまざまな分野に大きな影響が生じると懸念されている。中でも、介護や医療にまつわるものは大きい。実情を探る。
2025年、団塊の世代がいよいよ全員75歳以上に
少子化、が進展する日本社会。なかでも「2025年問題」はひとつのターニングポイントとして、社会のさまざまな分野に大きな影響を及ぼすと予想されている。
「2025年問題」とは、1947年〜1949年の第1次ベビーブームに誕生し、日本の高度成長を牽引してきた「団塊の世代」800万人のすべてが、75歳以上の「後期高齢者」となる現象のこと。
それにより、およそ1億2,000万人の日本人の実に2,180万人が後期高齢者に達することになる。
厚生労働省『今後の高齢化の進展 〜2025年の超高齢社会像』によると、「2025年問題」にあたり、主に下記の5つの問題点があげられている。
1高齢者数増加:これまでの問題は「高齢化の進展の速さ」だったが、2015年以降は「高齢化率の高さ≒高齢者の数の多さ」が問題となる。
2認知症患者増加:認知症高齢者数は約320万人と、急速に増加すると想定される。
3単身高齢者増加:高齢者世帯数約1,840万世帯のうち、約7割が1人暮らし、または高齢夫婦のみの世帯となる。
4死亡者数増加:年間死亡者数が年間約160万人と急増し、そのうち65歳以上の高齢者は約140万人に達する。
5都市部の高齢化:今後、首都圏をはじめとする都市部は急速に高齢化が進むことで、これまでに見ない高齢者の「住まいの問題」等が顕在化する。
社会全体で問題視されているのは、やはり医療費の増加だ。厚生労働省『令和3年度 医療費の動向』によれば、1人あたりの医療費は75歳未満で23万5,000円であるのに対し、75歳以上は93万9,000円と、およそ4倍だ。
これまで、医療費の問題への対処として、サラリーマンの保険料率を2025年に31%へと増やすといった方法が見込まれていたものの、ここにきて岸田総理による「異次元の少子化対策」で、慶應義塾大学商学部の権丈善一教授提唱の「子育て支援連帯基金」構想が浮上。財源として年金保険・医療保険・介護保険等を連帯させて基金を運営し、それによる子育ての成果を得ることで、将来の給付水準の高まりを狙うという仕組みだ。
厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』によると、日本人※の平均給与(所定内給与額)は30.74万円。手取り24万〜25万円程度。この状況下、現役世代はさらなる負担増に耐えうるのか。
※男女計、学歴計、従業員10人以上企業
想定介護期間「男性9年、女性12年」という現実
また、個々人に容赦なく迫る問題として「介護」がある。日本の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳だが、日常生活に支障なく暮らせる「健康寿命」は、2019年値で女性75.38歳、男性72.68歳だ。つまり、寿命で亡くなる前に、男性は9年、女性は12年もの介護生活があると想定される。
これほどまでに少子高齢化が進展する状況で、誰が介護をしてくれるのだろう。厚生労働省『国民生活基礎調査の概況』(2019年)によると、「主な介護者」の54.4%は「同居している家族」であり、その内訳は「配偶者」23.8%、「子ども」20.7%、「子の配偶者」7.5%と続く。
ここから誰しも想像がつくのは「老老介護の問題」だろう。夫婦の場合、年齢差は平均2〜3歳だ。平均寿命の男女差を考えるなら、高齢の妻が高齢の夫を介護するケースが相当数あると想定され、その数は2025年を境に急激な増加を見せると考えられる。
一方、少子化の進展も容赦がない。介護する人より、介護を必要とする人のほうが多いという問題だ。ひとりっ子を考えれば、将来、父親と母親の2人の介護をする可能性があることは容易に想像がつく。しかもその介護も、時間差で長期に及ぶ場合も、2人同時に要介護になる場合も、二人同時に長期に及ぶ場合も考えられる。
そのような状況で、仕事との両立は可能なのだろうか。厚生労働省『雇用動向調査』によれば、介護を理由に離職する人は、毎年7万〜10万人ほどで推移。そして、その数は今後急激に増えていくと指摘する専門家もいる。
もし介護離職となれば、介護自体にかかるコストは親の年金等でまかなえるだろうが、問題は介護者の老後だ。もし大卒サラリーマンとして50歳まで勤務し、その後、介護離職をしたらどうなるか。50歳まで日本人の平均的な給与を手にしてきた場合、65歳で手にする厚生年金は月5万9,633円だ。国民年金は満額を手にすると月12万円強が老後生活のベースとなる。
年金額がその程度でも貯蓄が十分ならいいだろう。だが、50歳で介護離職し、資産拡大のタイミングを失った人が、十分な資産形成ができるとは考えにくい。むしろ逆に「貯蓄もゼロ」の可能性を懸念すべきではないのか。そのような人が年齢を重ねて介護される側になった場合、自身の介護費用を捻出できるのか。
2025年に想定される大問題以降の日本社会は、非常に厳しいものとなる可能性が高い。対応策はひたすら、過去にない財政ひっ迫に備えた自助努力しかない。決して十分とは言えない給料をもらいながら、税金や保険料の納付という義務を果たし、年老いた親の介護に邁進し、そしてさらに、自身の老後資金も準備する。そんな「厳しすぎる将来」が垣間見えるのだ。
●岸田首相が主張する新解釈…専守防衛は「海外派兵しない」 3/28
岸田政権は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を安全保障政策の大転換と認めながら、憲法に基づく基本方針「専守防衛」は堅持すると主張している。過去に「相手国の基地を攻撃しないこと」という専守防衛の明確な政府見解が出ているが、岸田政権は「『海外派兵』は許されないということだ」との解釈を持ち出した。歴代政権が「憲法上許されない」と禁じてきた集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法の施行から、29日で7年。専守防衛の変質が続いていることに対し、野党や識者から懸念や批判の声が上がる。
専守防衛の変質が止まらない
「専守防衛」の具体的な説明には、1972年の田中角栄首相(当時)の国会答弁がある。田中氏は「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、わが国土とその周辺で防衛を行うこと」と明言した。
共産党の志位和夫委員長は今年1月の国会審議で「専守防衛の考え方は敵基地攻撃と両立しない」と矛盾を追及した。すると岸田文雄首相は田中氏の答弁について「武力行使の目的で武装した部隊を他国へ派遣する『海外派兵』は一般的に憲法上許されないことを述べたものだ」と説明。自衛隊を海外派兵する場合は「相手の基地を攻撃すること」に該当するが、相手の攻撃を防ぐために長射程ミサイルを用いるのは「専守防衛の範囲内」と主張した。
菅義偉内閣当時の岸信夫防衛相が
岸田政権の見解は、70年代の政権の積み上げと継承を否定することにつながる。田中氏の答弁に先立つ1970年、佐藤栄作内閣の中曽根康弘防衛庁長官(当時)が専守防衛について「本土ならびに本土周辺に限る。攻撃的兵器は使わない」などと説明。三木武夫内閣当時の75年に刊行された「行政百科大辞典」でも、田中氏の答弁とほぼ同じ内容が記載されている。
21世紀に入っても、この解釈は引き継がれた。2004年度に防衛研究所がまとめた専守防衛に関する研究で「田中氏の答弁は、防衛上必要であっても敵基地攻撃を実施することを否定している」と認定している。
一方、今国会での首相答弁と同じ見解は、2020年11月に菅義偉内閣の岸信夫防衛相(当時)が示していた。この時期は、安倍晋三氏が敵基地攻撃能力の保有検討を求める談話を発表して首相を退任した後で、保有を見据えて説明を準備した可能性がある。
元内閣法制局長官「論理的に無理がある」
政府の説明の変化を追及した立憲民主党の小西洋之参院議員は「歴史の歪曲わいきょくだ」と非難。志位氏も「時の政府が責任を持って答弁したものを投げ捨てるなら、立憲主義が成り立たなくなる」と批判した。
阪田雅裕元内閣法制局長官は本紙の取材に、田中氏の答弁について「憲法9条の下の『必要最小限度の実力行使』を担保するものだった」と指摘。岸田政権の見解に関しては「上陸して攻撃するのとミサイルで攻撃するのと何が違うのか。牽強けんきょう付会も甚だしい。論理的に無理がある」と酷評した。
●引き続き状況注視、警戒感もって見守る=金融システムで岸田首相 3/28
岸田文雄首相は28日の参院予算委員会で、日本の金融システムについて「引き続きさまざまな状況を注視し、警戒感をもって動向を見守っていきたい」と述べた。片山さつき委員(自民)の質問に答えた。
片山委員は、ドイツのショルツ首相がドイツ銀行の経営について「懸念する理由はない」などと述べたことを引き合いに出し、日本の金融システムは大丈夫だという宣言を求めた。これに対し、岸田首相は「足元の金融市場ではリスク回避的な動きがみられるが、現在日本の金融機関は総じて充実した流動性や資本を有しており、金融システムは総体として安定していると評価している」と語った。
●岸田首相が中国駐日大使に異例の面会拒否…チグハグ外交の裏 3/28
今年は日中平和友好条約締結から45周年の節目。台湾有事を抑止するためにも、平和的外交を通じて冷え込む日中関係を改善できるチャンスなのに、岸田首相はいまだに「外交力」を発揮できていない。それどころか、険悪ムードを助長する振る舞いを見せている。
今年2月末に帰国した中国の孔鉉佑前駐日大使から岸田首相に対して離任あいさつの申請があった際、日本政府が却下していたことが判明。歴代大使の大半は離任時に首相と面会しており、慣例を拒否した岸田政権の対応は異例だ。共同通信が25日報じた。
報道によれば、申請却下の理由は、硬化する日本国内の対中世論への配慮だという。
「岸田さんの出身派閥である『宏池会』の大先輩・大平正芳元首相は、外相時代に日中国交正常化交渉を主導しました。こうした経緯もあり、岸田さんは親中派とみなされてきた。国内の対中強硬派の保守層に配慮しなければ、低迷している内閣支持率をさらに悪化させることになりかねない。統一地方選を見据え、自民党の岩盤支持層である保守派の離反だけは何としても避けたかったのではないか」(永田町関係者)
異例の対応の裏に岸田首相の保身の思惑が透けるのだが、元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏は「もっと単純な話ではないか」と指摘。こう続ける。
「一般論として、どの国でも大使が節目にあいさつしたいのであれば、受け入れるのが普通です。ただ、日本の前駐中国大使が離任する際、共産党最高指導部との面会が実現しなかったといいます。そうであれば、日本側が中国に対して同様の態度を取っても、おかしくはありません。しかし、国内の対中世論への配慮が主な理由だとすると、それはそれで問題。中国からは当然のこと、第三国からも『日本は国内政治の思惑や配慮によって、外交儀礼を破る恐れがある国』とみなされかねません」
「中国における日本の最大の理解者を敵に回すような行為」
面会拒否のニュースが明らかになる直前、岸田首相は24日の参院予算委員会で「中国とも建設的な、安定的な関係を維持していく」「引き続き、意思疎通を図っていきたいと思っています」などと答弁していた。にもかかわらず、外交儀礼を覆すのは言行不一致ではないか。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏がこう言う。
「日本国内に中国に対する厳しい感情があったとしても、日中に国交がある限り、慣例を破る理由にはなりません。結局のところ、日本政府は中国に厳しい態度を取る米国に配慮したのではないか。一般的に駐日大使は日本の最大の理解者であり、中国の駐日大使であれば、中国に帰国後の対日政策に大きな影響力を持つ。中国における日本の最大の理解者を敵に回すような行為は、外交上の愚策です」
国際ジャーナリストの春名幹男氏も「気球騒ぎで一気に緊張が高まった米中関係を考慮して、米国へ追従する態度を改めて見せたのではないか」と分析。
対米配慮に基づく対応だったとみる。
詰まるところ、岸田首相の異例の対応は外交上、損失はあれど国益にかなうことなどない。言っていることと、やっていることがまったく噛み合わない「チグハグ外交」にはウンザリだ。
●「しゃもじ」だけじゃなかった 長男・翔太郎氏の疑惑も…岸田首相の「鬼門」 3/28
この1週間で最も大事なテーマは何だったか? それは「岸田文雄首相とおみやげ」であった。
「ウクライナ電撃訪問」自体は高評価
時系列で振り返ろう。まず首相は先週ウクライナの首都・キーウを「電撃訪問」した。この訪問は《困難を乗り越え、訪問を実現したことは率直に評価したい》(朝日新聞の社説3月22日)と各紙が評価。岸田首相にはさらに追い風が吹いた。同時期に中国の習近平国家主席がロシアを訪問していたのだ。
『首相、習氏との相違示す ウクライナ訪問 同時期外遊「法の支配」発信』(産経新聞3月23日)
期せずしてプーチン&習近平に対抗した形で岸田&ゼレンスキーのツーショットを国際社会に示せたのである。岸田首相、持ってる? こうなると次に注目すべきはウクライナへの「おみやげ」だ。読売新聞にはその内訳として、
・ロシアの侵略を受けるウクライナに対し、殺傷能力のない装備品3000万ドル(約40億円)分の供与
・日本がエネルギー分野などで4億7000万ドル(約600億円)を無償支援
などとあった。
支援品には制約が…他国への「おみやげ事情」
わが国の他国への「おみやげ」には事情がある。欧米諸国はウクライナの要望に応じて武器支援を強めているが、日本は「防衛装備移転三原則」に基づく制約があるのでこれまで防弾チョッキや情報収集用ドローンなどを提供してきた経緯があった。なので今回の支援に関連しても、
《今後どのような装備品を支援するかは明らかにしていない。》(朝日新聞3月23日)
なるほど、ここまで読んだら岸田首相のウクライナへの次なるおみやげが気になった。すると……。
『ウクライナに必勝しゃもじ、岸田首相「地元名産使った」ゼレンスキー大統領への土産』(日経新聞3月24日)
一体何を贈っているのだ。装備品の正体はまさかのしゃもじ?
となると、こういう反応が出てくる。
《平時の外遊ならまだしも、侵略されている戦争当事国に「必勝しゃもじ」を贈る能天気ぶりに、ツイッター上は〈理解に苦しむ〉〈感覚が異常〉などと大荒れ。》(日刊ゲンダイ2023年3月25日 )
国会でもツッコミの嵐
国会でも「戦闘は選挙やスポーツ競技ではない」「不適切ではないか」などと首相はツッコまれた。必勝しゃもじは広島の縁起物で「飯をとる」とかけて「敵を召しとる」という意味を持つ。
首相は必勝しゃもじを贈った理由として「地元の名産をお土産として使った」「ウクライナの人々は祖国や自由を守るために戦っている。こうした努力に敬意を表したい」などと述べた。一応理屈はわかるが今回のしゃもじの“それじゃない感”はどう表現すればよいのだろう。次の解説がしっくりきた。国際ジャーナリスト・春名幹男氏のコメントである(日刊ゲンダイ3月25日)。
・贈られる側の気持ちや立場を考えていない
・ウクライナの風習・文化は脇に置いて、とりあえず「外交慣例」として「地元名産品」を贈った
「しゃもじ」以外も問題に
ああ、そういう人っています。もらった側の気持ちを想像せずに自分の都合であげちゃう感じ。しゃもじの話なんてどうでもいいと思う人もいるかもしれない。しかし岸田首相のおみやげ問題はこれだけではないのです。
『サミットまんじゅう配布 首相「今後は慎重対応」』(共同通信3月23日)
今度はまんじゅうかよ!
岸田首相の後援会の会合で手土産として配布された「G7広島サミット」のロゴ入りのまんじゅうが波紋を拡げているという。またしても、おみやげ問題勃発である。外務省は、政治活動を目的としたサミットのロゴ使用は認めないと規定しているが、今回の使い方はどうなのかと国会で追及された。
《首相は、外務省から承認を得たとしつつ「今後は慎重に対応しなければならない」と釈明した。》
まんじゅう配布問題とは、岸田首相が広島サミットにいかに期待しているかという裏返しである。自身の支持率浮上を賭けている様子がわかる。それにしても首相にとっておみやげは鬼門だ。まんじゅう怖い。
長男・翔太郎氏も「おみやげ」で物議をかもした
これがオチならよかったが、岸田首相にとっておみやげ問題はまだあった。
『岸田首相、長男・翔太郎氏のおみやげ購入は首相秘書官の「公務」と明言 野党追及に悪びれず』(日刊スポーツWEB1月31日)
政務担当の首相秘書官を務める長男の岸田翔太郎氏が、1月の欧米歴訪に同行した際、大使館の官用車を使って首相のおみやげ購入に回ったという公私混同疑惑。首相は「公務である」と明言したが、こうしてみると年明けから“おみやげの呪い”は始まっていたのだ。
さらに岸田翔太郎氏には「首相の欧米歴訪時に公用車で観光地をめぐっていた」と週刊新潮が報じた件がある。私が気になったのはこの件が報じられても、当初、政府は確認を「避ける」と言っていたことだ。
『岸田首相長男、外遊中に「観光」 木原官房副長官は確認避ける―週刊誌報道』(時事通信1月26日)
翌日の会見で官房副長官は「観光を否定」する発言をしたが、それなら最初から確認・説明すればよかったのに。その後に政府は「対外発信に使うための街の風景やランドマークの外観撮影」などが目的で「不適切な行動はなかった」と説明した。
政府の対応に不信感…神はおみやげに宿る
この説明を受けて朝日新聞は2月、翔太郎氏が撮影した写真など画像データを開示するよう内閣官房に請求した。内閣総務官室は3月6日付で「不開示決定」を通知。
つまり首相長男の写真は「不存在」であり、「撮影したが行政文書でない」 という理由なのである(朝日新聞3月18日)。
ドラ息子の海外旅行気分を政府が全力で取り繕っているように思える。ごまかしているように見える。この程度の話題でこういう対応なら、もっと大きな問題でも似たような態度をとる恐れはないだろうか? 神はおみやげに宿る。
以上、「岸田首相とおみやげ」というテーマで振り返った。意外と多岐にわたる論点があり、考えさせられる問題であることがわかる。岸田首相にとっては渾身の外交なのに、後からついてくるのが必勝しゃもじやサミットまんじゅうやドラ息子の話題というのはどこか脱力というか、この感じが岸田感なのかもしれない。となると広島サミットも意外なネタで盛り上がってしまうかも……。
●参院予算委要旨 高市氏「配慮して『捏造』と言った」「偽造でも、変造でもない」 3/28
岸田文雄首相が出席した28日の参院予算委員会での主なやり取りは次の通り。
自民党・片山さつき氏「ドイツのショルツ首相は(株価が下落する)ドイツ銀行は『心配する必要がない』と宣言した。首相も『日本の金融機関は大丈夫だ』と宣言してほしい」
首相「金融市場ではリスク回避的な動きが見られるが、現在日本の金融機関は総じて充実した流動性や資本を有している。金融システムは安定しているとの評価だ。引き続き、さまざまな状況を注視し、警戒感を持って動向を見守りたい」
立憲民主党・杉尾秀哉氏「(放送法に関する総務省の行政文書は)なぜ(高市早苗経済安全保障担当相が登場する)4枚だけが捏造(ねつぞう)なのか」
高市氏「残りの文書については私は当事者ではないので確認のしようがない」
杉尾氏「高市氏は文書を(記者団の取材に)『怪文書』と切って捨てた。怪文書でも何でもない。行政文書だ」
高市氏「事実と異なる内容があり、怪文書の類だ。ただ、国会では偽造でもなく、変造でもなく、『捏造』だとかなり配慮して申し上げたつもりだ」
杉尾氏「予算委の質疑や総務省の調査でどれだけ時間をかけたのか。責任を感じていないのか。閣僚を辞めるべきだ」
高市氏「杉尾氏に言われ、何らやましいことがないのに、閣僚の職を辞することはない」
立民・辻元清美氏「(公立小中学校での)給食無償化はぜひやるべきだ」
首相「子供・子育て政策ではさまざまな提案をいただいている。今月末までに小倉将信こども政策担当相のもとで具体的な政策を整理し、たたき台をつくると申し上げている。その上で予算や財源を踏まえ、6月の(経済財政運営の指針)『骨太の方針』に向け、予算倍増の大枠を示す方針で臨んでいる」
公明党・若松謙維氏「低所得者への支援などの対策を早急に国民に届けることが重要だ」
首相「物価高から国民生活や事業活動を守り抜くため、総合経済対策や(令和4年度)補正予算の執行を加速することが重要だ。それとともに、(物価高の)追加策を早急に実行していきたい。世界的な物価高騰は依然として予断を許さず、日々変化する物価や経済の動向を踏まえ、機動的に対応したい」
日本維新の会・片山大介氏「日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は金融緩和を植田和男次期総裁に引き継ぐことになるが、緩和策の出口をどう考えるか」
黒田氏「出口戦略を具体的に論じるのは時期尚早だ。植田氏はわが国を代表する経済学者であり、中央銀行の実務にも精通している。今後、理論と実務の両面で日銀をリードしてもらえると考えている。総裁を引き継ぐにあたって必要な事項は話をする」
●G7サミット成果文書にLGBTQ権利保護盛り込む意向 首相 参院予算委  3/28
岸田文雄首相は28日の参院予算委員会で、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の成果文書に関して、性的少数者(LGBTQ)の権利保護を盛り込む意向を示した。2022年6月のG7サミットでは「差別や暴力から保護されることを確保する」と明記しており、今年の議長として「昨年の成果を踏まえて関係国と議論し、内容を確定していきたい。大きな方向性は明らかだ」と強調した。立憲民主党の辻元清美氏への答弁。
辻元氏は、首相が自民党に提出準備を指示したLGBTQの理解増進法案について、世界の潮流に反していると指摘。「差別禁止法を成立させた方が(サミット)議長を堂々とやれる」と訴えた。
これに対し、首相は「多様性が尊重され、全ての人が互いの人権や尊厳を大切にする社会を実現していく」と述べるにとどめた。日本を除くG7の6カ国と欧州連合(EU)の駐日大使が取りまとめた、関連法整備を促す書簡を受領したかどうかも明らかにしなかった。  
●23年度予算が成立 過去最大114兆円―岸田首相「物価高、切れ目なく対応」 3/28
2023年度予算は28日の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。一般会計総額は114兆3812億円と11年連続で過去最大を更新。少子化対策や防衛力の抜本的強化に向けた関連費などが盛り込まれた。
岸田文雄首相は予算成立を受け、首相官邸で記者団に対し「予算の早期執行に向け取り組みたい」と表明。同日に22年度の予備費から物価高対策で2兆2226億円の支出を決定したことにも触れ、「引き続き国民生活と事業活動を守り抜くため、切れ目なく対応していく」と語った。
23年度予算は、防衛費が22年度当初比26%増の6兆8219億円に急増した。高齢化の進展に伴い社会保障費も36兆8889億円と過去最高を更新。歳入不足を補うための新規国債発行額は35兆6230億円で、歳出の約3分の1を借金に依存する構図が続く。
立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党などは反対した。
●令和5年度予算成立等についての首相会見 3/28
令和5年度予算成立について
まず、先ほど、参議院本会議場におきまして、令和5年度予算が可決、成立いたしました。それについて、ポイントを3点申し上げたいと思います。第一は、新しい資本主義の実現です。成長と分配の好循環を実現する鍵となる持続的な賃上げと、5年で1兆円の人への投資、そして、エネルギーの安定供給と脱炭素の両立を図るためのGX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた成長志向型カーボンプライシングによる150兆円規模の官民投資の推進、さらには地方創生に向けたデジタル田園都市国家構想、また、食料安全保障の強化、防災・減災、国土強靱(きょうじん)化の推進、こうした政策により、新型コロナ後の日本経済の再生、これを進めるということであります。2点目のポイントが、今のもう一つの質問にも関わりますが、こども・子育て支援の強化です。来年度予算には先行して、出産育児一時金の50万円の引上げ、また、妊娠時から出産・子育てまで一貫した伴走型支援と、10万円相当の経済的支援の継続的実施、こうしたものを盛り込みました。さらに、これはもう一つの質問に対するお答えになると思いますが、こども・子育て政策の強化に向けて、今週中にも小倉大臣にたたき台をパッケージで取りまとめてもらいます。4月1日には、こども家庭庁、これが発足いたします。そしてその後は、私が主導する体制で、更に議論を進めて、6月の骨太方針までに、将来的なこども予算倍増に向けた大枠、これをお示ししたいと思っています。そして、3点目のポイントが、防衛力の抜本的強化です。令和5年度から5年間で総額43兆円の防衛予算、これを確保して、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙(たいじ)し、いかなる事態が生じても、国民の命や暮らしを守り抜いてまいりたいと考えています。こうした令和5年度予算の早期予算成立に御協力をいただきました与野党を始めとする全ての関係者の皆さんに、心より感謝を申し上げたいと思います。今後、速やかに予算の早期執行に向けて取り組んでいきたい、このように考えております。そして、併せてちょっと申し上げたいこととして、本日、閣議において2.2兆円のコロナ物価予備費の使用を決定いたしました。これは、先日取りまとめた物価高克服に向けた追加策においてお示しをいたしました、住民税非課税世帯1世帯当たり3万円を目安とする支援、そして、低所得子育て世帯への児童1人当たり5万円の給付、そして、特別高圧契約向けの電力料金支援やLPガス利用者への支援などの裏付けとなるものです。引き続き、エネルギー、食料品価格の高騰などから国民生活と事業活動、これを守り抜くため、機動的かつ切れ目なく対応してまいります。先週、私はウクライナを訪問し、ロシアによるウクライナ侵略の現場を自分の目で見、そして悲惨な体験をされた方から直接話を伺い、平和への思いを強くいたしましたが、議長国として、我が国が主催するG7広島サミットまで、あと1カ月半となりました。予算審議が終わっても、重要法案の審議が続きます。引き続き気を緩めることなく、丁寧に国会審議に臨みながら、広島サミットへの準備を加速させていきたいと考えています。このタイミングで、G7議長国という重責を担う意味に正面から向き合い、世界の平和と安定に貢献していきたいと考えています。以上です。ですから2番目の質問は、先ほどのポイントの二つ目の後半で、お答えしたことになると思いますので、その部分を御理解いただければと思います。よろしくお願いします。
内閣支持率上昇の受け止めについて
基本的には、支持率について一喜一憂することなく、やるべきことをやっていくという姿勢、これは従来から申し上げてきたところでありますし、これからも、その姿勢は変わらないと思っています。支持率に一喜一憂することなく、新時代のリアリズム外交ですとか、こども・子育て政策を始めとする、先送りできない課題に向けて、答えを出すべく一意専心(いちいせんしん)取り組んでいく、これが大事であると思っています。そして、今後については、間違いなく取り組んでいかなければいけない課題、これは統一地方選挙と衆・参の補欠選挙、こうしたことであると思っています。それと併せて、今申し上げた先送りできない課題について取り組む、今はそれしか考えておりません。
支持率が回復基調にある要因について
要因について、政府として取り組んできた様々な政策課題に対する考え方や姿勢、こういったものが評価されたものであれば、大変、我々としては勇気づけられることではあるとは思います。具体的などこが良かったとか、どこが悪かったとか、そういったことについては申し上げる材料はありませんが、是非、そうした外交への取組、また国内の様々な政策課題への取組、これについて、これからも強い覚悟を持って臨む、これが今後も評価されればと思っております。以上です。
ロシアの艦艇が日本海で対艦巡行ミサイルの発射練習について
本日、ロシア国防省は、日本海において、太平洋艦隊のミサイル艦艇が巡行ミサイルの発射訓練を実施した旨発表したということについて、承知しております。被害情報は入ってきてはおりません。そして、今回のミサイル発射に関するロシア側の意図について申し上げることは控えますが、ロシアのウクライナ侵略が続く中、我が国周辺を含む極東において、ロシア軍がその活動を活発化させており、政府として、こうしたロシア軍の動向について、引き続き、注視をしてまいります。何か発信する考えはないかということでありますが、ロシア側とは必要に応じ、外交上のやり取りを行っております。その内容については、従来から明らかにすることは控えておりますが、政府として、ロシア軍の動向について引き続き注視をしていく、その中で、引き続き、今後とも必要なやり取りは行っていきたいと考えています。
●岸田首相の28日の発言 2023年度予算成立受け 3/28
岸田文雄首相は28日、2023年度予算の成立を受けて首相官邸で記者団の質問に答えた。発言要旨は次の通り。
人への投資で日本経済を再生
――過去最大の114兆円規模の23年度予算が成立しました。
ポイントは3つある。まずは新しい資本主義の実現だ。成長と分配の好循環を実現するカギになる持続的な賃上げ、5年間で1兆円の人への投資を盛り込んだ。
エネルギーの安定供給と脱炭素の両立を図るため、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けて成長志向型カーボンプライシングによる150兆円規模の官民投資の推進も含む。
デジタル田園都市国家構想や食料安全保障の強化、防災・減災、国土強靱(きょうじん)化などにより、新型コロナウイルス後の日本経済の再生を進める。
2つめは子ども・子育て支援だ。出産育児一時金の50万円への引き上げ、妊娠時から出産・子育てまで一貫した伴走型支援、10万円相当の支援などを盛り込んだ。
政策の充実へ週内にも小倉将信少子化相にたたき台を取りまとめてもらう。4月1日にこども家庭庁が発足する。
私が主導する体制で議論し、6月の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに将来的な子ども予算の倍増に向けた大枠を示したい。
最後は防衛力の抜本的な強化だ。23年度からの5年間で総額43兆円の防衛予算を確保する。戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙し、いかなる事態が生じても国民の命や暮らしを守り抜きたい。速やかに予算の執行に向けて取り組む。
引き続きエネルギー・食料品高騰に対応
新型コロナウイルス・物価高対策の予備費から2.2兆円支出すると閣議決定した。
住民税非課税の1世帯あたり3万円を目安とする支援、低所得の子育て世帯への児童1人あたり5万円の給付、特別高圧契約向けの電力料金やLPガス利用者への支援などの裏付けとなる。
引き続きエネルギーや食料品の高騰などから国民生活と事業活動を守り抜くため、機動的かつ切れ目なく対応する。
先週にウクライナを訪問した。ロシアによる侵略の現場を自分の目で見て悲惨な体験をした人から直接話を聞き、平和への思いを強くした。議長国として主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)まで1カ月半だ。
予算審議が終わっても重要法案の審議が続く。気を緩めることなく丁寧に国会審議に臨みながら広島サミットへの準備を加速する。G7議長国という重責を担う意味に向き合い、世界の平和と安定に貢献したい。
――報道各社の調査で内閣支持率が上昇しています。要因をどう分析していますか。
支持率に一喜一憂することなく、やるべきことをやる姿勢はこれからも変わらない。「新時代リアリズム外交」や子ども・子育て政策など先送りできない課題に一意専心することが大事だ。
政府が取り組んできた政策への考え方や姿勢が評価されたのであれば、勇気づけられる。外交や国内の政策課題への取り組みにこれからも強い覚悟を持って臨む。今後も評価されればと思う。
先送りできない課題に取り組む
――自民党内の幹部が衆院解散・総選挙の準備を加速するとの指示を出しています。
間違いなく取り組んでいかなければいけないのは統一地方選と衆参両院の補欠選挙だ。それとあわせて先送りできない課題に取り組む。今はそれしか考えていない。
――ロシア艦艇が28日、日本海に向けて対艦巡航ミサイルを発射しました。何らかの発信をする考えは。
日本海で太平洋艦隊のミサイル艇が巡航ミサイルの発射訓練をしたというロシア国防省の発表は承知している。被害情報は入っていない。
ロシア側の意図に言及は控える。ウクライナ侵略が続く中で日本周辺を含む極東でロシア軍が活発に活動している。政府として動向を引き続き注視する。必要に応じて外交上のやりとりをしている。内容について明らかにすることは控える。
●国民民主党 代表定例会見 3/28
今日、来年度予算案が成立の見込みとなっております。我々としては、中身は不十分ということで、反対で臨んでおります。反対の理由の一番大きなものは、賃上げの実現にとって不十分だということです。大手ではこの間、(賃上げ要求に対し)満額回答などが出ておりますけれども、これをいかに労働組合もないような中小企業や、あるいは非正規の方にも広げていけるのか。ここに来年度予算がいかに貢献できるかということがポイントです。成立は成立としてしますので、速やかに執行して、少しでも持続的な賃上げに繋がっていくような予算執行を強く求めていきたいと思います。その観点でいうと、先週今年度の予備費を使った追加の電気代値下げや、我々が求めておりましたプロパンガスの値下げということが実現するようになったことは評価をしております。こういった今年度の予算、そして来年度の予算が相まって、今ようやく30年ぶりに実現しようとしている賃上げを確実なものにしていくということが必要だと思います。執行も含めてしっかり見守っていきたい。われわれとしては言うべきことはさらに言っていきたいと思っております。
次に、これから議論が行われますが、特区で株式会社による農地の取得を可能とするような特区法の改正拡充が議論されていきます。これに合わせて我々としては、外国人の土地取得についての新法を今検討しておりまして、今国会に提出したいと思っています。WTOのGATSのルール、いわゆる最恵国待遇や内外無差別というルールのもとで、なかなか外国人の土地所有の規制が難しいとこれまで言われてきました。軍事施設や、あるいは原発など重要施設の周辺1kmについては、一定の規制を入れるという枠組みができましたけれども、それだけでは捉えられない問題もあります。そういった既存の世界の貿易ルール、あるいはRCEPをはじめとした新しい地域の経済連携のルール、こういったものもよく見直しながら、場合によってはさらなる外交交渉も含めて見直しをしていくような法案の提出を検討しております。まとまり次第、今国会に提出をしたいと思っております。
もう一つはTikTokに関して。我が党として使用を禁止するとを決めましたが、先日アメリカの下院で、TikTokの周CEOの議会証言が行われました。聞いていましたけれども、噛み合わなかったというか、十分な反論ができていなかったように思います。また各国も政府機関においては、次々と制限規制を導入しています。イギリスなどは政府機関だけではなく、立法府の両院における禁止ということも導入しております。このTikTok、特に中国の場合は国家情報法という法律とセットで考えると、国外に我々の情報が流れるかもしれないという懸念がぬぐいきれません。その意味では安全保障の観点、セキュリティの観点から、こういった規制をより強化していくことが必要ではないかということを政府に対しても、また議運(議院運営委員会)を中心とした国会の場においても、しっかりと我々の考え方を伝えて、日本としてもより対応強化することを求めていきたいと思っています。
●税務相談停止命令制度創設に断固抗議し、納税者の権利擁護・発展へ 3/28
全国商工団体連合会 会長 太田義郎
岸田文雄政権は28日、大軍拡に突き進む2023年度予算案とともに、「税理士等でない者が税務相談を行った場合の命令制度の創設等」(税務相談停止命令制度)を盛り込んだ税理士法の一部「改正」案を可決・成立させた。「戦争国家」づくりと軌を一にして、税金の集め方と使い道にもの言う納税者の自主的な活動の弱体化を狙う岸田政権に、満身の怒りを込めて抗議する。
税務相談停止命令制度は、1規制対象が広範かつあいまいで、自主的な申告納税を支援する団体や個人の「税務相談」が有償無償を問わず対象になり得る2財務大臣や国税庁長官に広範かつ過大な裁量権が与えられ、「納税義務の適正な実現に影響を及ぼすことを防止するため」に「おそれ」の段階で恣意的に介入できる3憲法31条、39条の罪刑法定主義から要請される「明確性の原則」「過度の広範性禁止の原則」に反する4違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科し、命令の内容をインターネット上で3年間公開するなど、看過できない問題点を内包している。納税者同士の相談活動を取り締まるために悪用される危険性もぬぐえない。
税金について相談し、教え合うことを財務大臣が厳罰で「停止」させることは、憲法11条(基本的人権)、13条(個人の尊重・幸福追求権)、21条(集会・結社の自由)、28条(団結権)に反する行為であり、「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則」と定めた国税通則法16条を踏みにじるものである。
全商連は、自由な自主申告運動を弾圧する悪法阻止の共同を呼び掛け、農民運動全国連合会、全国生活と健康を守る会連合会、全日本年金者組合、東京土建一般労働組合、納税者権利憲章をつくる会、自由法曹団、東京税経新人会とともに、自主申告運動の擁護・発展をめざす共同を進めてきた。
3次に渡る国会行動を展開し、27日までのわずか3カ月で集まった16万人分を超える「納税者の権利擁護を求める緊急署名」を国会に提出してきた。衆参両院の財金委員に廃案にするよう要請するとともに、申告納税制度の趣旨と納税者の権利を尊重した対応を求める付帯決議の採択を働き掛けてきた。
財務省へのヒアリングを繰り返し行い、税務相談停止命令の対象と目的の明確化、反論の機会などを設けるなど適正手続きを求め、納税者同士で行う自主申告運動への介入は許されないと迫ってきた。こうした共同行動と国会論戦を通じて、停止命令の目的と対象を限定させ、今後の活動に生かせる答弁を引き出したことは重要である。
衆議院財務金融委員会(2月21日)で財務省は「究極的な目的は、不正に国税を免れさせること等による納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止すること。脱税指南等によって不特定多数の者が脱税を行う等の行為を防止すること」と答弁し(日本共産党・田村貴昭議員の質問)、参議院財政金融委員会(3月17日)では、「納税者同士で一般的な知識を学び合うような取り組みを対象にするものではない」と答弁し、命令処分を行うには、1税務相談の内容が脱税や不正還付の指南に該当し2納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼす場合―という二重の制約があり、命令処分の前に弁明(反論)の機会が与えられることも明らかになった(同・小池晃議員の質問)。
今後のたたかいで重要なことは、署名運動で広げてきた世論と国会答弁を生かし、「脱税や不正還付の指南を取り締まる」ことを口実にした自主申告運動に対する国家権力の介入に歯止めをかけることである。
アメリカでは税務相談は有償でない限りだれでも自由にできる。イギリスでは、家族・友人等に対する無償の税務代理は誰でも可能とされている。さらに諸外国では、市民の助け合いによる無償の申告支援や税務援助が当たり前に行われている。
納税者の権利保護を明確に定めた納税者権利憲章の制定に背を向け、世界の流れに逆行する日本の税務行政を是正することは急務である。
民商・全商連が取り組んでいる自主申告運動は、脱税や不正還付の指南とは一切無縁である。
民商・全商連は、税務相談停止命令制度の創設にもひるまずゆるがない自主申告運動を推進するとともに、納税者権利憲章の制定や、市民の自由な税務相談を規制している税理士法の改正など、納税者の権利擁護・発展へ、さらなる共同の強化を呼び掛けるものである。
●経済同友会「政府に釘を刺す」財政支出増加を食い止める提言発表 3/28
経済同友会は、政府が6月をメドに財政の基本方針、いわゆる「骨太の方針」を策定するのを前に、「政府に釘を刺す」として、財政支出の増加を食い止めるための提言を発表しました。
経済同友会で財政・税制委員会の委員長を務める竹増貞信氏(ローソン社長)は、政府が6月をメドに策定する経済財政運営の基本方針「骨太の方針2023」への反映を目指し、提言を発表しました。
竹増委員長は会見で、「お孫さんの将来の借金で今の社会保障が成り立ってるんですよ、ということをどれだけの方が認識されてるか」と問題提起し、将来世代に負担を先送りしないための方策を説明しました。
具体的には、賃金の上昇を一過性のものにせず継続的に行えるよう、日本全体での生産性の向上が不可欠だと訴え、生産性の低い企業が円滑に市場から“退出”し、生産性の高い産業に人材が移動できるよう、政府は制度改革をすべきと促しています。
また、財政問題が国民一人ひとりの自分事となるよう、金融リテラシーを向上する必要性も訴えました。新入社員研修の際、あるいは初任給や初のボーナスを支給する際に、日本の財政や税負担の学びの場を設けるべきだとしています。
そして、高齢化で社会保障費が増大する中で少子化対策の実効性を高めるため、現役世代の負担構造を見直し、子育てにかかる経済的負担を軽減すべきという提言も盛り込んでいます。
経済同友会は企業の経営者が個人として参加し、国内外の課題解決のために議論し政策提言などを行う組織で、特に財政問題などに若い世代が関与していくことを促しています。

 

●コロナ対策法案、30日衆院通過 首相の権限強化 3/29
新たな感染症危機に備えた新型コロナウイルス対策の特別措置法と内閣法の両改正案は29日、衆院内閣委員会で採決が行われ、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決された。30日の衆院本会議で可決、参院に送付され、今国会で成立する見通し。
29日の内閣委では採決に先立ち質疑を実施。岸田文雄首相は、5月に新型コロナの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられた後の対応に関し、「感染拡大が生じても必要な医療が提供されるよう取り組む」と強調した。
立憲民主党や共産党などは「(内容が)不十分だ」として反対した。
改正案では、都道府県知事に対する首相の指示権限を強化。現在は「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」の発令中に限られているが、感染症の発生初期から指示を可能とする。
また、感染症対策の立案や総合調整を一元的に担う「内閣感染症危機管理統括庁」を新設。トップの「内閣感染症危機管理監」には官房副長官を充てる。
●満州国の光と影 「民族協和」が私たちに問いかけてくるもの 3/29
昭和初期に中国東北部に建てられた日本の傀儡(かいらい)国家・満州国。満州国はなぜ起こり、何を残したのか。謎の多い独立国家の光と影を浮き彫りにする。
1932(昭和7)年から1945(昭和20)年までの13年半、中国東北に存続した「満州国」は、清朝(しんちょう)のラスト・エンペラー、愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ、1906〜67)を皇帝に担いだ日本の傀儡国家として知られる。
1920年から常任理事国を務めていた日本は国際連盟で孤立し、1933年3月に脱退を通告した。そして「民族協和」を東アジア全域に広げる「大東亜共栄圏」構想を掲げた「満洲帝国」を建設することで、第2次世界大戦のアジア・ステージを開いていく。しかし、日本の敗北によりこの傀儡国家は消滅し、それに伴う悲劇の数々もまた語り継がれてきた。
満州国の建設は、中国人の人権を無視し、多大な犠牲を強いた反面、特殊な状況や事情を背負った文明と文化をもたらしもした。膨大な史料を掘り起こし、そうした相互に矛盾した二面性を切り開いたのは満州国で辛酸をなめた中国人の日本文学研究者だった。1990年頃、米国の研究者の中に満州国の「民族協和」を「多文化主義」の先駆とする意見が出され、台湾でも毎年、満州事変を記念する行事が行われていたことが調査で分かった。さらに韓国の研究者は、戦後の自国軍事政権の政策に満州国の影が色濃いことを明らかにした。こうして二面性は多面性へと広がり、その他諸外国でも新たな研究が進んでいるが、さらに総合的、文化的な見地からの見直しが迫られている。
政治スローガンとしての「民族協和」
まず建国の経緯。日本軍は当初、傀儡国家を計画していなかった。1931年9月18日、関東軍の若手参謀は陸軍参謀本部を無視して、南満州鉄道(満鉄)の線路を爆破した。蒋介石軍(国民革命軍)のしわざと喧伝(けんでん)し、朝鮮に駐屯していた日本軍の応援も頼んで占領にかかった。満州事変の発端となったこの柳条湖(りゅうじょうこ)事件で、国際協調路線をとる若槻礼次郎内閣は混乱に陥り、短期間で交代した。
ところが、関東軍の暴走を止め、関東軍と内閣のトップに独立国家建設を指示した黒幕がいた。長く陸軍大臣を務め、当時は朝鮮総督だった宇垣一成(かずしげ、1868〜1956)である。これは、私が2021年に著した『満洲国:交錯するナショナリズム』で明るみに出すまでは知られていなかった。
もう一つ見逃せない動きがあった。事変当初から、溥儀の擁立に向けて動いた清朝の旧帝政派(満州族)が、張学良政権から離反した軍人政治家との関係を結ぶために奔走していたのである。張学良(1901〜2001)の父親・張作霖(1875〜1928)は、南は遼東湾を望み、他の三方を山岳で囲まれた広大な地域(今日の日本の約3.4倍)に独立政権を築き、中原(ちゅうげん=黄河中下流域)に撃って出て、覇権の掌握を狙ったこともある。
1928年6月に父親を関東軍に爆殺された張学良は、鉄道の敷設や港湾の建設を進めるなど日本の利権を圧迫した。しかし中国東北部の奉天・吉林・黒竜江の三省の保持と引き換えに、1928年末に蒋介石政権に帰順した。張学良軍の中には、それに賛同しない者もいたのである。
満州事変は、張学良軍が蒋介石軍に加わり共産勢力の討伐作戦に加わった留守を関東軍が狙ったものだった。蒋介石は関東軍との戦闘を避け、主権の簒奪(さんだつ)を国際連盟に提訴し、日本は調査団の派遣を要請した。
1931年末、清朝の旧帝政派(満州族)と張学良に背いた軍人政治家(漢民族)、モンゴルの族長たちが新国家の建国に向けて動き始め、1932年3月、彼らは建国宣言をまとめ、政権の主な役職も占めた。関東軍がその会議を準備し、陪席もしていたが、建国宣言には溥儀の名はおろか、国家元首の文字も見当たらない。政治体制をめぐって会議が紛糾し、「民族協和」を謳(うた)う独立国家の建国だけを決めたからである。
止まらない関東軍の独断専行
そこで関東軍は建国式と溥儀の執政就任式を別の日に行うことにした。綱渡りのようになったのはリットン調査団の到着までに満州国の国家の体裁だけは整えなければならなかったからだ。関東軍は、日本の外務省の庇護(ひご)を受け、天津の日本租界に暮らしていた溥儀を秘密裏に連れ出していた。溥儀に建国時は「執政」で我慢させ、将来の「皇帝」の地位と引き換えに、1932年9月には日本が満州国を独立国として承認する「日満議定書」を取り交わし、国防と国務院総務庁の日本人官吏の人事権を握った。議定書は満州国が事実上、日本の植民地であることを国際条約の形式で確定したもので、海外諸国から強い反発を招いた。その結果、前述したように1933年3月、日本は国際連盟を脱退し、国際的孤立への道を歩むことになった。そして1934年3月に溥儀を皇帝に即位させ、「満州帝国」をつくったのである。
日露戦争に勝利して租借権を獲得した遼東半島の関東州を拠点に、満鉄に付属する土地・建物の守備隊として陸軍の出先機関にすぎなかった関東軍は、満州帝国の建設によって大いにステータスを上げ、その後も独断専行に拍車をかけていく。1935年頃から関東軍は内蒙古や華北地方に親日政権を立てる工作に出て、小競り合いが絶えなかった。中国軍にとっては、そうした動きは満州国の拡大膨張のように思われたであろう。そして、1937年7月の盧溝橋(ろこうきょう)事件を発端とする日中戦争は、停戦協定を結ぶそばから破られ、中国全土へと拡大していった。
それでも並存した多文化
1932年の満州国の建国後も「民族協和」は国是として保持された。満州は清朝満州族の父祖の地であり、長く他民族の立ち入りを禁止していたが、西の高原に蒙古族が遊牧し、森林地帯にはオロチョン族が狩猟で暮らしていた。18世紀後期に漢民族が流入して開墾をはじめ、回族(ムスリム)、朝鮮族、さらにソ連からの亡命ロシア人が加わった。ロシア人居住地ではロシア正教を奉じ、ロシア語の新聞も刊行された。また、ハルビンの建設にかかわったポーランド系ロシア人により、カトリック教会とシナゴーグ(ユダヤ教会)も建てられた。ロシア帝政時代、祖国を失っていたポーランド人にとって、ここはいわば「約束の地」の意味をもった。こうして満州国は民族の区別なく亡命者を受け入れたため、裕福な居住民にとってはまさに「楽園」であった。
清朝を興した女真(じょしん)族は満州族と同じ民族である。旧清朝帝政派の満州族は、儒教を重んじ、各地の孔子廟(こうしびょう)を整え直し、古式ゆかしい典礼を年中行事にした。孝行息子の表彰にも道をつけた。こうした動きに、近代思想を身に着けた漢民族の知識層が反発した。中国大陸において圧倒的多数を占める漢民族は独立国家・満州国の人民の意味で「満人」、中国語を「満語」と呼んだ。警察官も判事もほとんどがそうした「満人」だった。行政文書の言語もまず「満語」、それに次いでその日本語訳が採用された。日本人の小学生は「満人」と机を並べ、満語も習った。「満人」の小学生も日本語を習った。満州国で職に就くには日本語ができる方が断然、有利だったからだ。これもある種の多文化の交錯、混淆(こんこう)である。
都市開発が進んだ大連や新京
日本人が行政の実権を握った方法は「内面指導」と呼ばれる。内地から送りこまれた高級官僚が総務長官を務め、その仕事を日本人官吏が進めた。関東州の行政機構との一体化を進め、国際貿易港として発展していた大連の都市建設に携わってきたテクノクラートや満鉄の技術者も新国家建設に協力した。日本の国策会社である満鉄は一大総合企業となり、満蒙(まんもう)の地誌調査、学校や図書館の建設・運営など文化事業にも力を入れた。
首都・新京(しんぎょう=長春)は、欧米の先端技術を取り入れ、国際的にもまれなモダン都市になった。地域ごとに特色をつけるゾーニングを駆使し、上下水道やセントラル・ヒーティング、都市ガスも普及した。冬は凍土に覆われ、春にはぬかるむ広い大地に道路網を巡らせるため、寒冷地に対応する技術開発が進んだ。当時、「東洋一」の規模を誇るダムの建設にも着手した。また、関東軍関係者によって通信と情報管理の一元化が内地に先駆けて行われた。
1937年4月に始まる産業開発5カ年計画は「ソ連のまね」だった。事実上その総指揮をとり、帰国後は内地の統制に携わった岸信介(1896〜1987)がそう証言している。彼は総合企業体だった満鉄を改組し、各部門を国営企業にした。しかし、同年7月に日中戦争が勃発し、需給の目算が狂い、急きょ計画を大幅に変更した予算面だけでなく、熟練工の確保など人材面でも破綻をきたした。
チグハグで強引な支配形態は21世紀にも
1941年7月、第2次近衛文麿内閣が「大東亜共栄圏」建設のスローガンを掲げていた頃、ウクライナ出身で満州の大自然を愛したロシア人作家ニコライ・バイコフの書いた、野性の虎が文明に挑む『偉大なる王(ワン)』の日本語訳が内地でベストセラーになった。満人作家の小説も盛んに翻訳された。「民族協和」を文字通り推進した人たちがいたのである。対米英戦争が始まると、関東軍報道部長は「満州国は共栄圏の手本たれ」と叫んだ。しかし、隣の朝鮮と台湾では皇民化政策が進められていた。それが「共栄圏」の実態だった。
満州国がわれわれに突きつけてくるのは、人権無視や多民族共存、国際協調がチグハグに進行した悲劇だろう。こうした半ば強引な支配形態は今日でも世界のあちこちで見られる。2022年2月から1年以上も続いているロシアのウクライナ侵攻などはその最たるものだろう。辛酸をなめた国々の研究者から、満州国を総合文化史の側面から再評価すべきだという声が上がっているのは事実だが、他国への領土侵犯は決してあってはならないことだと筆者は考える。
●参院予算委員会 建設的な防衛論議深めよ 3/29
来年度予算が28日の参院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立し、前半国会が終わった。
今国会は、反撃能力の保有を盛り込んだ国家安全保障戦略など安保3文書が昨年末に閣議決定されたのを受け、抑止力や対処力の向上に関する論戦などが期待された。
だが、参院予算委員会で立憲民主党は放送法に関する総務省の行政文書を巡り、かつて放送法の解釈に関して答弁した高市早苗経済安全保障担当相への追及に終始した。建設的な防衛論議に至らなかったのは残念だ。
立民は同党の小西洋之氏が公表した文書について、「放送法の解釈がゆがめられたことを示す超一級の行政文書だ」と政府への攻撃材料とした。ただ、その作成者は不明で、相手方に発言内容を確認していない不正確な内容も含まれていたことが判明している。
高市氏は「文書は捏造(ねつぞう)だ」と主張し、岸田文雄首相も「放送法の解釈は一貫している」と高市氏への立民の辞任要求をはねつけた。放送法の解釈変更が確認されていない以上、当然の判断だ。
国会審議では、こうした高市氏に対する追及に多くの時間が費やされた。その一方で緊迫度が高まる国際情勢について、具体的な論戦が乏しかったのは問題だ。
3月下旬には中国の習近平国家主席が訪露し、国際刑事裁判所(ICC)からウクライナ侵略に伴う戦争犯罪容疑で逮捕状が出たロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。それでも覇権主義を強める国同士の連携を警戒するような論戦は見られなかった。
同じ時期には岸田氏がウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と連帯を確認した。この訪問をめぐる議論でも、ゼレンスキー氏に「必勝しゃもじ」を贈ったことの是非が取り沙汰されるなど、ウクライナ支援のあり方などの本質論は深まらなかった。
立民などは安保3文書の撤回を求め、防衛費についても「5年間で43兆円が必要なのか」と懐疑的な見方を示した。岸田氏が政府内の検討によって防衛費を積み上げたと説明したうえで、「抑止力、対処力を高めれば武力攻撃の可能性を低下させられる」と明快に答弁したことは評価したい。
与野党ともに日本が先進7カ国首脳会議(G7サミット)議長国として重い責任があることを認識し、後半国会に臨んでほしい。
●日本で「緊縮」財政が続くわけ 3/29
昨日28日に令和5(2023)年度予算案が参議院で可決されました。そもそも、衆議院で2月28日に可決されていましたから、参議院で採決が行われなくても年度内の自然成立が決まっていました。
それはともかく、次年度予算は、114.4兆円と、初めて110兆円を突破し、2013年度から11年連続で過去最大を更新しました。こうした国の予算の肥大化、放漫財政を前にしてもなお、「緊縮財政がー」との声も聞こえてくるわけですが、下のグラフ(「予算に占める各歳出項目のウェイト(%)の推移」)を見ると、そうした主張にも一理あるようにも思えてきます。
   図 予算に占める各歳出項目のウェイト(%)の推移
上図からは、「国民皆保険」、「国民皆年金」がスタートする直前の1960年度には7割弱(68.6%)あった公共事業や教育、防衛等に回せるおカネが、高齢化の進行による社会保障の成熟化、それに伴う国の「借金」の増加によって次第に細っていき、2023年度予算では31.3%となっています。さらに、バブルの絶頂期の1990年度でもこうした裁量的な政策経費が4割弱しかなかった点に注目が必要です。
つまり、社会保障+国債費+地方交付税交付金といったあらかじめ使途が決まった歳出項目が重すぎて、防衛や教育など国の根幹にかかわる大切な政策に回せる自由なおカネが少ないという点では、「緊縮財政」と言えるのかもしれません。
ただし、上記グラフは予算に占める各歳出項目のウェイト(%)ですから、予算総額を膨らませれば、ウェイトが同じでも自由に使えるおカネが増えることには留意が必要です。
もちろん、この場合には、69兆4400億円と過去最高を見込む税収をもってしても、なお35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めしている現実を直視する必要があります。
いずれにしても、こうした似非「緊縮財政」を脱し、教育など未来への投資におカネを回すには社会保障のスリム化が手っ取り早いと思いますが、読者の皆さんはいかがお考えでしょうか?
●23年度予算は114兆円超に…巨額「予備費」乱用に懸念 3/29
2023年度予算が28日の参院本会議で可決、成立した。一般会計の総額が22年度当初予算比6・3%増の114兆3812億円と、11年連続で過去最大を更新。100兆円を超えるのは5年連続で、110兆円を初めて突破した。防衛力の抜本的な強化や子ども・子育て政策の強化、グリーン・トランスフォーメーション(GX)対策などに充てる経費を計上した。
鈴木俊一財務相は23年度予算について「歴史転換期にあって、日本が直面する内外の重要課題に道筋を付け、未来を切り開くための予算」と述べた。
防衛費は過去最大となる6兆8219億円を計上した。22年12月に策定した新しい「国家安全保障戦略」などに基づき、スタンド・オフ防衛能力や総合防空ミサイル防衛能力、施設整備などの重点分野を強化した。防衛費を5年間で43兆円程度確保する方針だ。
社会保障費も36兆8889億円と過去最大を更新した。子ども・子育て支援の強化にも乗り出す。4月にこども家庭庁を創設する。GX対策では、民間の投資を後押しするため「GX経済移行債」を発行するほか、革新的な技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入支援などのための費用を盛り込んだ。
一方で、巨額の予備費の常態化が懸念されている。23年度予算では、一般予備費の5000億円のほかに、新型コロナウイルス感染症および原油価格・物価高騰対策予備費に4兆円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費に1兆円を計上した。
22年度は、当初予算でコロナ・物価予備費として5兆円を計上した後、補正予算を編成。その結果、コロナ・物価予備費の予算が9兆8600億円に膨らんでいる。
コロナ対策で巨額の予備費が常態化し、コロナが収束する中で、物価高対策などに使途が広がっている。
国会審議を経ずに政府の裁量で使途を決められる予備費の肥大化で、財政規律の緩みが危惧される。財政民主主義の観点から予備費のあり方が問われている。
●フランスに続いてドイツでも大規模ストライキ、その原因とは 3/29
フランスでは今年1月、マクロン政権が年金の支給を開始する年齢を現在の62歳から64歳に引き上げるなどとした制度の改革案を示したのに対し、労働組合側が激しく反発。7日、年金の支給を開始する年齢を64歳に引き上げる制度改革に反対するデモやストライキが全国規模で行われ、社会の混乱が深まった。政府が憲法の規定を用いて採決なしで強制的に採択したことにも反発している。
フランスのストライキで製油所稼働率が通常を大きく下回っていることもあり、27日にはそれが原油先物の上昇要因ともなっていた。
フランスに続き、今度はドイツ全土の公共交通機関で、過去30年間で最大規模のストライキが広がった。歴史的な物価高で実質所得が大きく減るなど家計が圧迫され、大幅な賃上げを求める声が高まったことによるもの。複数の都市で高速鉄道「ICE」の運行や空港業務が止まるなど影響が少なくとも数百万人に及んだとされる。
昨年は年初から新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンなどが緩和され、経済の正常化が意識されるとともに、サプライチェーン問題などによって物価に上昇圧力が加わった。そこに2月のロシアによるウクライナ侵攻によって、天然ガスや小麦などの穀物価格が急騰し、特に欧州では物価が大きく上昇してきた。
物価の上昇とともに賃金も上昇してきたものの、物価の上昇に追いつかず、結果として家計が圧迫されてのドイツのストライキとなった。
新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響もあったことで、各国政府は積極的な財政政策を行ったことで政府債務も増加した。フランスのマクロン政権は公的支出の軽減と財政再建を優先し、年金改革を行おうとしたところ国民の反発が起きた格好となった。
日本では欧米と比較しては物価の上昇ピッチは特に消費者物価指数では遅かったものの、しかし、それでも実質的に前年比4%もの上昇となっている(2月の政府の対策によって3%台となっていた)。
賃金は上昇しつつあるが、物価の上昇には追いついていない。欧米ではインフレ政策として中央銀行が大幅な利上を実施。それによって物価上昇に応じて金利も上昇した。しかし、日本では金利は上昇するどころか、日銀が無理矢理に抑え込んでいる。
いまのところ日本ではストライキなどの動きはないが、どこかおかしいとの見方も次第に拡がってくる可能性はある。物価上昇に見合った賃金上昇も必要ながら、金利が付かないことに疑問を持つ必要もあるのではなかろうか。
●2023年最新世界競争力ランキングとは 上位20位と日本の現状  3/29
世界の主要約60カ国を対象にした「世界競争力ランキング」。企業成長しやすい環境が整えられているかを重視したランキングだ。最新のランキング上位20位と、結果から見える傾向や今後の予測などについて紹介する。
IMD(国際経営開発研究所)とは
IMD(International Institute for Management Development)とはスイス・ローザンヌに拠点を置くビジネススクールである。日本では国際経営開発研究所と訳される。
1990年にIMI(国際経営研究所)とIMEDE(企業経営研究所)が合併し、IMDとして設立された。幹部教育をはじめとした高度なビジネスプログラムに特化し、リーダーの育成、組織運営・変革、事象に対する即効性や持続性のスキル習得に重点を置いている。
IMDのプログラムはグローバルだ。毎年100カ国に近い国から約8,000人の経営エグゼクティブがアクセスする。サービス、製造など幅広い業界から人材が参加し、約20カ国から集結した教授陣の高度なプログラムを学習できる。
IMDでは70以上の研究プロジェクトにも着手している。世界産業界と連携しながら進められるプロジェクトはIMDプログラムに価値をもたらし、学ぶ人材に実践的な知識を与え続けているのだ。
またコーポレート・ラーニング・ネットワーク(Corporate Learning Network)を構築し、グローバル企業と強く連携している一面もある。連携によって実践的な価値とイノベーションを促進し、IMDのガバナンスに大きな影響を与えている。バーチャルラーニングやグローバル・ビジネス・フォーラム、ラーニング・イベントなど、最新の研究や事例を共有する場が多く設けられるのはコーポレート・ラーニング・ネットワークの強みだろう。
プログラム修了生はアルムナイ・ネットワークと呼ばれるビジネスネットワークに参加できることも際立った特徴だ。過去にIMDプログラムに参加した6万人ものビジネス・エグゼクティブを結ぶ強力なネットワークである。アルムナイ・ネットワークでは2年に一度のイベントやクラス会などを通じ、修了しても継続的に学べるシステムが整えられている。
このようにIMDは世界経済や人材育成、経済分野における研究に特化した存在であることがわかる。その分野では世界最高峰だという声もある。単なるビジネススクールと定義するにはあまりにも影響が大きく、学びも深い。
世界競争力ランキングとは
そのIMDが1989年のデータから毎年発表しているのが「世界競争力年鑑」、年鑑からわかる「世界競争力ランキング」だ。国家の競争力をあらわすランキングとして重要視されている。ランキングの集計・発表を担当しているのはIMDの研究セクターのひとつ、世界競争力センター(World Competitiveness Center)である。
世界競争力ランキングは世界の主要な国約60カ国を対象に、「企業にとってビジネスがしやすい国であるか」「ビジネススキームを実行する環境が整っているか」などを調査して構成される。
「IMDランキング」と呼ばれることもあり、世界各国の首脳陣や経営陣、企業の注目を集める存在だ。経済・経営に関わる人々からの関心が高く、毎年ランキングが発表されるたびに重点的に取り上げるメディアも少なくない。
人によっては「国際的に大規模な経済力を発揮する企業が多い国=競争力が高い国」と思うかもしれないが、世界競争力ランキングは視点が異なる。
世界競争力ランキングで見えてくるのは各国の「企業が競争できる環境の整備状況」だ。企業や経済活動の規模だけに注目するのではなく、企業が競争力を存分に発揮できる環境であるかを重視する。
評価方法や評価項目は後述するが、評価によっては決して国際的に強い影響力がトップクラスではないと思える国がランキング上位に入ることもある。逆に国際社会で強いイニシアチブを取る国が、思ったよりも低い順位をマークするケースもあるほどだ。
評価方法・項目
世界競争力ランキングは20項目と333の基準で競争力をスコア化して評価される。項目は4つの大項目とそのうち5つずつの小項目に分類されており、大分類・小分類と呼ばれることもある。
大項目は「経済状況・経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」が該当する。小項目は大項目ごとに以下のとおりだ。
経済状況・経済パフォーマンス:国内経済、貿易、国際投資、雇用、物価
政府の効率性:財政、租税政策、制度的枠組み、ビジネス法則、社会的枠組み
ビジネスの効率性:生産性・効率性、労働市場、金融、経営プラクティス、取り組み・価値観
インフラ:基礎インフラ、技術インフラ、科学インフラ、健康・環境、教育
これらの項目に基づいた対象の国における公表統計、および企業エグゼクティブへのアンケート調査結果をもちい、世界競争力ランキングがわかる仕組みである。
国家が公表している統計データだけではなくアンケート調査結果ももちいることによって、幅広い視点で競争力の推察が可能だ。そのいっぽう、アンケートは回答者の各国エグゼクティブが主観で答える可能性もある。そのため、調査結果については多角的な面からの分析が必要だろう。
2023年世界競争力ランキング結果
最新の世界競争力ランキングを見てみよう。IMDが2022年6月15日に発表した。対象国は63カ国である。ここでは上位20カ国を紹介する。
順位  国名
1位 デンマーク
2位 スイス
3位 シンガポール
4位 スウェーデン
5位 香港特別行政区
6位 オランダ
7位 台湾(中国)
8位 フィンランド
9位 ノルウェー
10位 アメリカ合衆国
11位 アイルランド
12位 アラブ首長国連邦
13位 ルクセンブルク
14位 カナダ
15位 ドイツ
16位 アイスランド
17位 中国
18位 カタール
19位 オーストラリア
20位 オーストリア
2022年版の世界競争力ランキングはデンマークが1位をマークした。北欧国家では初である。日本は昨年の31位よりも3ポイントのランクダウンで34位になった。
ランキングから見る傾向
1位になったデンマークをはじめ、4位のスウェーデン、9位のノルウェーなど北欧勢が競争力の高さを誇示している。この3カ国は世界競争力ランキング上位の常連だ。
とくに今回1位のデンマークは環境意識の高まりからSDGsに注力し、他国よりも「環境」項目で一歩先んじていると評価された。逆に言えば他国がサステナビリティの点で後塵を拝しているということでもある。
またデンマークでは国際投資関連の改善に成功した。投資フローの増加、物価上昇の抑制が代表的だ。結果として公的債務と政府の赤字が減少し、財政の強化が高く評価された。
ビジネス面でも企業が損失を感じづらい環境を整えている。法人税率はEUやOECD並みの22%である。企業の海外進出の際には二重課税の心配がない。R&D関連税制(研究開発に対する税制優遇)の導入で税額控除制度・特別所得控除制度があり、イノベーションを促進しやすいことも大きい。
アジアでは、3位のシンガポールがトップに立った。2020年は1位、2021年は5位であり、アジア上位の常連である。経済力を保ちながらも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染を抑制したことが評価されたと見られる。5位の香港、7位の台湾も同様に感染の抑制が評価された傾向だ。
日本の競争力低下の原因
日本のランキングは34位にとどまり、世界競争力ランキングのなかでは競争力があるとは言えない評価である。しかし過去はアジアのなかでトップを走る競争力を持っていたこともたしかだ。
1989年から1992年まで、日本は世界競争力ランキングの1位をマークしていた。1996年までは5位以内をキープし続けた実績がある。
しかし1997年からは順位を落としている。1997年は大手証券会社の倒産をはじめ、銀行の経営破綻が起こるなど、日本経済が大きな打撃を受けた年だ。日本の経済史では金融危機として記録されている。消費税率の上昇で一般家庭での買い控えが起きたことも影響しているだろう。
またそれ以前の1991年、バブル崩壊以降、ノンバンクや不動産融資事業で巨額の不良債権が発生し、日本経済は深刻化し続けていた。それに加え前述の金融危機で金融システムの不安が明らかになり、経済活動は縮小を続けることになる。世界競争力ランキングが下がるのもやむを得ないと言えるだろう。
以降、日本は順位を落とし続け、2019年には初の30位をマークする。それからは30位台にとどまり続け、2022年は34位に終わった。
金融危機のほか、日本の競争力低下の原因は「ビジネスの効率性の低下」と「アジア諸国の台頭」が考えられる。
ビジネスの効率性の低下はDX(デジタルトランスフォーメーション)化の遅れが大きい。世界的にDX化が推進されるなか、日本はいまだに旧態依然のビジネスシステムが残されている。内閣府ではとくに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響拡大で顕在化したと総括した。
完全なDX化はいまだ不完全な日本企業も多い。グローバル視点では「変化に弱い」「遅れている」と見られ、世界競争力ランキングの評価項目のひとつである効率性で低評価を受けても仕方ない。
研究分野でも効率性に弱点が見られる。日本の研究水準はグローバル的に見ても高く、研究開発費も削減されているとはいえ世界3位の水準である。しかし企業の閉鎖性や管理職の海外経験不足などから研究結果を柔軟に活かしきれない一面があり、改革が求められる分野だろう。
また、アジア諸国の台頭は、日本の高い技術力でつくられた製品が必ずしも必要とされない市場をつくり上げた。アジア諸国の技術力が上がり、「それなりによい製品が安価で手に入る」という土壌が生まれている。日本製品の品質がよいことはいまでも不動の事実だが、人々のライフスタイルや意識に変化が生まれ、影響が出ていることもたしかだ。
日本の強みと弱み
世界競争力ランキングから読み取れる日本の弱点は複数ある。DX化の遅れが象徴するように、環境や市場への変化に迅速な対応ができていない。結果として競争力を持つ他国よりも改革のためのスタートが遅れている。世界市場の状況に対応する管理職や若手の育成環境が整っているとは言いがたい一面も重要だ。
世界競争力ランキングのアンケート回答では、日本企業の意思決定が迅速ではないこと、脅威への対応力の低さ、経営陣の自国状況認識が楽観的であるなどを問題点として指摘したエグゼクティブも多い。
いっぽう、日本には強みもある。研究開発力の高さ、高品質の製品を生み出す技術力は過去から変わらず高い評価を得続けている。
世界経済フォーラムの「The Global Competitiveness Report 2019(世界競争力レポート)」では研究開発分野の競争力で日本が1位の評価を受けた。特許出願件数は世界で1位をマークし、ビジネススキームで新たな価値を創出する人材の多さはG7で1位、世界で3位の評価を受け、イノベーションを有していることもわかる。強みである競争力や人材をいかにして活用するかが課題だと言えるだろう。
高品質の製品を生み出す技術力も大きな強みだ。ハーバード大学の「The Atlas of Economic Complexity(経済の複雑性指数、多様な高付加価値を有する製品を輸出する能力指標)」では2000年から2020年まで世界1位を独走し続けている。
整った輸送インフラも強みのひとつになる。世界経済フォーラムの前述レポートによれば鉄道サービスの効率性は世界1位、そのほか空港接続性・海運サービス効率性・道路インフラの質も高い順位をマークしている。ビジネスと輸送インフラは密接な関係にあり、世界競争力ランキングで重視される項目「ビジネスの効率性」に大きく貢献していることは想像にかたくない。
このような強みは世界市場も認識している。経済回復がかんばしくないと言われている日本への投資が継続している理由の一端だ。しかしいつまでも弱点が克服できなければ競争力が再度上向きになることは難しい。弱点の克服と強みのさらなる強化が求められるだろう。
世界競争力ランキングが示す世界経済と日本の現状
世界競争力ランキングは世界経済と日本の現状を比較する重要なデータだ。経済状況や課題が浮き彫りになることによって今後のロードマップ作成に大きな影響を与える。
日本の競争力ランキング結果は現状でアジアの中程度に位置している傾向である。しかしすぐれた研究開発力、技術力、イノベーションを有するという強みもあり、決して今後の打開策がないとは言い切れない。弱点の克服と強みのさらなる強化が望まれる。
●予備費2.2兆円支出 「国会軽視」「補正で」共産党が指摘 3/29
政府は28日の閣議で、「新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費」から2兆2226億円の支出を決め、衆参両院の予算委員会理事懇談会に報告しました。
日本共産党の宮本徹衆院議員は「予算審議のさなかに、巨額の予備費を閣議決定することは財政法に反し、国会軽視だ。地方創生臨時交付金による電気代、ガス代の支援では自治体でアンバランスがあり、必要な支援が届くやり方を考えるべきだ」と主張。山添拓参院議員は「巨額でもあり、本来補正予算など国会審議を経るのが、財政民主主義にかなう形ではないか」と指摘しました。
予備費の支出のうち1551億円は、児童扶養手当を受給するひとり親世帯や住民税非課税の子育て世帯を対象に、子ども1人当たり5万円を支給する費用とします。コロナ対策のため都道府県に配る「緊急包括支援交付金」を7365億円増額しました。
国が地方に配る「地方創生臨時交付金」を1兆2000億円追加しました。このうち7000億円はLPガスの料金負担の軽減策、家畜への飼料が高騰する酪農家への支援などで、残りの5000億円は住民税非課税世帯に一律3万円を目安に給付する事業に充てることを想定しています。
一方、ウクライナ支援に必要な経費計639億円を一般予備費から支出することも閣議決定しました。
●予算過去最大114兆円、なぜ膨らむ? 3/29
2023年3月29日の日本経済新聞朝刊に「財政改善、世界に遅れ」という記事がありました。23年度予算の歳出総額は114兆円と、11年連続で過去最大となりました。なぜ予算の膨張に歯止めがかからないのでしょうか。
23年度予算は前年度の当初予算に比べて6.7兆円増えました。要因の一つが、新型コロナ・物価高対策などの積み増しです。コロナ対策などを含む予備費は5兆円で、感染拡大前は毎年5000億円でした。歳出を税収などで賄えれば健全な財政を維持できます。ただ、国内総生産(GDP)に占める財政赤字の比率は5.6%。ピークの6.3%から大幅に改善することはできませんでした。
米国や英国はコロナ禍で実施した財政出動を元に戻し、増えた財政赤字の負担を半分以下に抑えています。一方日本は、従業員の休業手当を払う企業への支援を3月まで続け、手厚くした病院向け診療報酬の特例は4月以降も継続します。緊急時の財政出動が定着してしまい、手じまいして正常に向かう動きが進んでいません。
債務の残高を膨らませておくことはリスクがあります。世界ではインフレが加速しています。全ての年限の国債金利が想定より1%上振れすると26年度の国債費は23年度予算より8兆円強も増えます。防衛や少子化対策など将来の国力を左右する政策への財政余力を確保するためにも、規律ある「賢い支出」に本気で取り組む時期です。
●岸田文雄首相、衆議院解散「いま考えていない」 3/29
岸田文雄首相は29日の衆院内閣委員会で、衆院解散・総選挙について「いま考えていない」と話した。防衛力の強化やエネルギー政策の転換、子育て支援策の拡充を挙げて「先送りできない課題に向き合い説明責任を果たすに尽きる」と述べた。
「解散は首相の専権事項だが、まずはこうした政策に取り組むことが第一だと考えている」と語った。立憲民主党の中谷一馬氏が「内閣支持率が回復し早期の解散論がささやかれている」と質問したのに答えた。
立憲民主党の安住淳国会対策委員長は29日の党会合で「いきなり解散するのはよほどの党利党略ではないか」と指摘した。
●岸田首相「今、衆院解散は考えていない」…与野党内での早期解散論浮上 3/29
岸田首相は29日午前の衆院内閣委員会で、「今、衆院解散は考えていない」と述べ、早期の衆院解散・総選挙を否定した。与野党内で首相が早期解散に踏み切るとの見方が浮上していることを踏まえ、立憲民主党の中谷一馬氏が「解散を考えているか」と質問したことに答えた。
首相は答弁で「防衛力の強化やエネルギー政策の転換など先送りできない課題にしっかりと向き合い、説明責任を果たしていくことに尽きる。解散権は首相の専権事項だが、まずはこうした政策に取り組むことが第一だ」とも語った。
内閣委は同日、感染症対応の司令塔となる「内閣感染症危機管理統括庁」を内閣官房に新設することを柱とする内閣法と新型インフルエンザ対策特別措置法の改正案を自民、公明両党などの賛成多数で可決した。
●国会でチャットGPTが初質問 岸田首相「私の方が…」 AIに対抗心? 3/29
29日の衆院内閣委員会で、立憲民主党の中谷一馬氏が人工知能(AI)を用いた対話型の自動応答ソフト「チャットGPT」で作成した質問を、岸田文雄首相に問う一幕があった。中谷氏はチャットGPTが作った「首相答弁」も紹介。首相はAI答弁について「ぱっと見て、(自分の方が)より実態を反映した答弁をしている」と答え、AIへの対抗心をちらつかせた。
中谷氏によると、国会審議でAIを用いて首相に質問するのは史上初という。中谷氏は、審議中の新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案について、「衆院議員だったら首相にどのような質問をすべきか」とチャットGPTに「質問案」作成を依頼。チャットGPTが作成した「地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させているのかどうか。そして、改正法案に対する関係者の反応について教えてください」との質問案をそのまま首相にぶつけた。首相は「今回の法案は(関係者の)意見、要望に十分応えている改正になっている」などと答えた。
中谷氏は続いてチャットGPTが作成した首相の「答弁案」も披露した。「(同法改正案は)地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させるように努めている」などとする内容で、中谷氏は「首相の答弁より誠実でピントが合っているかもしれない」と指摘した。これに対し、首相が「(自らの方が)より具体的に関係者の名前などを挙げている」などと反論すると、委員会室に笑いが起きた。
首相は対話型のAIについて「適切に使用することで行政職員がより多くの情報を効率的に利用する可能性がある」とした上で、「活用の進め方を検討したい」と述べた。
●自民・茂木幹事長の存在感が薄すぎる…岸田首相ウクライナ訪問で顕在化 3/29
28日、2023年度予算が成立し、永田町では早期解散説も囁かれるが、自民党内では選挙を仕切る茂木幹事長の手腕を疑問視する声が上がっている。
「総理のウクライナ訪問で、はからずも露呈したのが茂木幹事長の存在感の薄さです。総理は森山選対委員長や公明の山口代表に『これからウクライナに入ります』と電話したそうですが、本来なら真っ先に連絡を入れるはずの幹事長の名前は、報道にもまったく出てこなかった。選対委員長の森山さんが、幹事長も国対委員長も兼務しているような存在感を見せつけているのと対照的です」(自民党の閣僚経験者)
10増10減の区割り変更をめぐる候補者調整でも、茂木派には不満が広がっているという。
広島の新4区では、現4区の新谷正義(茂木派)と現5区の寺田稔(岸田派)が支部長(公認予定者)争いを繰り広げてきたが、党県連は寺田氏を支部長にして新谷氏を比例に回すことを決定したのだ。
「昨秋の臨時国会で悪質な“政治とカネ”の問題が浮上して事実上、総務大臣を更迭された寺田さんに負けるなんて信じられない。何のための幹事長なのか。新谷さんは『茂木幹事長が(小選挙区と比例区の候補者を交互に入れ替える)コスタリカ方式にすると確約した』と言っていますが、それも森山選対委員長に否定されてしまった。一体どうなっているのか」(茂木派関係者)
人望のなさは今に始まったことではないが、一時はポスト岸田に最も近いと言われていた茂木氏の評判は下がる一方なのだ。
本人は焦りからなのか、少子化対策で発信を強める。今国会の冒頭、代表質問でいきなり所得制限撤廃を提唱し、今月は小中学校の給食費無償化や公営住宅を活用した「住宅費の圧倒的削減」などを言い出した。
自民党が27日に取りまとめた少子化対策の提言には、茂木カラーが色濃く反映されているが、これも不評だという。
「事前の調整はなく、党内の意思疎通もしっかりできていない状態であれこれブチ上げられても、実現は難しい」(官邸関係者)
このままでは、次の人事で幹事長を外され“一丁上がり”になりかねない。茂木氏は凋落、高市経済安保相も自滅で党内にライバル不在の岸田首相は高笑いだ。
●「国民に金だけ出せなんて…」敵基地攻撃の具体例説明しない政府 3/29
他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法が施行され、29日で7年。岸田政権はさらに踏み込み、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決め、集団的自衛権の行使で使うことがあり得ると明言している。だが、どんな場面を想定しているのか、行使の具体例を示すよう求められても説明を拒否し、分からないまま。識者は「政府に運用を白紙委任するのではなく、国会で基準を議論すべきだ」と指摘する。
ミサイルの取得費含む2023年度予算成立
「具体例は言わないのに、国民に金だけ出せなんて認められない」。28日の参院予算委員会で、立憲民主党の辻元清美氏は集団的自衛権の行使で敵基地を攻撃する具体例を説明しないまま、長射程ミサイルの取得費を盛り込んだ2023年度予算を成立させる岸田政権の姿勢を批判した。
安保法を制定したのは安倍政権。歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を認め、他国への武力攻撃で日本の存立が脅かされる「存立危機事態」を定義し、要件を満たせば行使できるようにした。
だが、武力行使の範囲は主に公海上までが前提の議論だった。岸田政権は、相手国の領域にトマホークなどの長射程ミサイルを撃ち込むことも排除しない考えを示している。
立民の岡田克也幹事長は1月の国会審議で「日本が攻撃を受けていないのに、相手国本土にミサイルを撃つのは専守防衛の一線を越えている」と指摘し、具体例の提示を要求。岸田文雄首相は「分かりやすく図式などで説明することはあり得る」「調整を進めている」と応じる考えを示したが、2月末には「安全保障上、具体例を示すのは適切ではない」と態度を一転させ、説明を拒んだ。
識者「歯止めとなる基準を具体化する議論を」
安保法を巡っては、安倍政権が集団的自衛権行使の事例として(1)日本周辺の公海で警戒監視中に攻撃を受けた米艦の防護(2)武力紛争が起きた近隣国から避難する邦人輸送中の米艦の防護(3)グアムやハワイの米軍基地を狙った弾道ミサイルの迎撃—などを挙げた。戦後の安保政策を大転換する重大な局面で、国民への説明責任が求められたためだ。各事例の妥当性について国会で激論が交わされた。
一方、敵基地攻撃能力の保有は立法化もなく、岸田政権が昨年12月に閣議決定した。明らかに説明不足で、岡田氏は「安倍政権の下で議論したときのような具体例を示してもらいたい」と主張する。
浜田靖一防衛相は24日の記者会見でも、集団的自衛権行使の具体例提示は「困難だ」と繰り返した。防衛省幹部は「安保法のときは概念的に理解を深めてもらう目的で事例を示したが、今回はもろに運用に関わるため、手の内を明かしたくない」と漏らす。
柳沢協二・元内閣官房副長官補は本紙の取材に、存立危機事態の要件が「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」などと曖昧で「その上に敵基地攻撃の議論が加わり、さらに分かりづらくなっている」と指摘。台湾を巡る米中の緊張が高まる中で「不必要な戦争に巻き込まれないよう、歯止めとなる基準を具体化する議論をするべきだ」と提案する。
●ウクライナが戦後復興で「日本主導」と名指し…突きつけられる巨額支援 3/29
ウクライナのゼレンスキー大統領の単独インタビューを報じた読売新聞朝刊(25日付)に、こんな見出しが躍った。戦後復興を見据えるゼレンスキーから、日本は中心的な役割を担う国として名指しされた格好だ。
記事によれば、ゼレンスキーは今月21日に首都キーウで岸田首相と会談した際、〈より長期的な復興を念頭に、医療や、環境に配慮したエネルギー分野などでの協力拡大が必要だとし、自動車産業やリチウムなどの鉱物生産の分野での進出も促した〉という。
しかし、ウクライナ復興には、いくらかかるのか。世界銀行の試算によると、ウクライナの復興にかかる費用は今後10年で54兆円に膨らむ見込みだという。戦闘が長引けば長引くほど、復興費用はかさんでいくに違いない。
復興に協力するのは当然としても、心配なのは、G7広島サミット議長国のトップとして高揚する岸田首相が、サミットを通じて巨額支援に前のめりになる可能性があることだ。総額54兆円も必要となると、日本は5兆円近くは負担せざるを得なくなるのではないか。
1991年に湾岸戦争が勃発した際、日本は米国を中心とする多国籍軍への“財政支援”をさみだれ式に表明し、最終的に総額130億ドル(約1兆8000億円)を負担。ところが、国際社会の反応は「too little too late」(少なすぎるし、遅すぎる)と冷ややかだった。
必要なのは「投資型援助」
2兆円近い支援をして国際社会から批判された過去を踏まえると、“支援疲れ”に喘ぐ欧米諸国の手前、岸田政権は少なくとも数兆円規模の復興支援をウクライナに拠出する可能性がある。国際ジャーナリストの春名幹男氏がこう言う。
「復興の後押しは重要ですが、日本にそんな国力と経済的余裕があるのでしょうか。これまでのような贈与型支援は無理があると思いますし贈与するなら差し押さえたロシアの外貨準備資産を充当するのが妥当でしょう。ウクライナの先端産業や資源開発に『投資』をする形で支援し、日本の産業にもある種のリターンがあるような、ウィンウィンの投資型援助が望ましい。ただ、ひと口に復興と言っても、どのような産業を育て、経済を再建するのか、道筋を描くのは容易ではありません」
戦争終結が最重要課題だが、悲しいかな、国際社会が「岸田外交」に和平交渉の主導的役割を期待しているフシはない。
●4月23日、電撃”解散”説が急浮上…「高市騒動は政権に好都合」 3/29
岸田文雄首相が「電撃解散」に踏み切るとの観測が広がっている。戦後最悪と言われた日韓関係の改善に加え、ウクライナ電撃訪問を成功させた首相は、内閣支持率が回復傾向にある千載一遇の好機を迎えているからだ。政界には最速で「4/23総選挙」、遅くとも「6月総選挙」といった説が飛び交う。一時は支持率が続落し、退陣危機もささやかれた岸田首相はいつ勝負に打って出るのか――。
各種世論調査で岸田首相の支持率が上昇
4年に1度、首長や議員を選ぶ統一地方選が始まり、3月23日に9道府県の知事選、同26日には6つの政令指定都市の市長選がスタートした。全国で1000近い選挙が集中するタイミングに注目されているのは、岸田首相による「電撃解散」の可能性だ。
元々、4月23日には衆参5つの補欠選挙が投票日を迎える予定となっているが、首相はこのスケジュールに合わせて衆院解散・総選挙を断行するつもりではないかとの見方が広がっている。5つの補選のうち、いくつかは自民党が劣勢と見られているためだ。
野党の戦闘準備が整っていない段階で首相が決断し、統一選後半戦や補選と総選挙を合わせれば強固な後援会・地方組織がフル回転し、相乗効果を生む可能性は高い。劣勢とされる選挙においても、国政における争点がクローズアップされ、メディアの注目は政権・与党が軸となる。支持率が低空飛行を続けていた今冬であれば考えにくかったが、回復基調にある現在は選挙に追い風となる。
実際、岸田首相の支持率は上向いている。NHKの世論調査(3月10〜12日)によると、岸田内閣を「支持する」と答えた人は前月比5ポイント増の41%で、7カ月ぶりに支持が不支持を上回った。時事通信の調査(3月10〜13日)は29.9%と2カ月連続の上昇。毎日新聞の調査(3月18、19日)では2月調査時から7ポイント上昇の33%となり、朝日新聞(3月18、19日)でも前月比5ポイント増の40%と伸びている。
体たらくの野党、高市早苗騒動も岸田首相には好都合
内閣支持率の続落で一時は「危険水域」に入ったと言われた岸田政権だが、昨年の参院選勝利によって向こう3年間は本格的な国政選挙のない「黄金の3年」を手に入れている。ただ、体たらくの野党を見れば支持率が上向いた段階で解散権を行使したい誘惑にかられるのは当然だろう。
立憲民主党などの野党は、放送法が定めるテレビ局の「政治的公平性」の解釈が、当時、総務相だった高市早苗経済安全保障担当相らによって変更されたとして、総務省作成の行政文書をもとに追及を続けている。高市氏は自らに関する文書内容が「捏造(ねつぞう)だ」とし、野党は閣僚辞任を要求するなど攻撃のボルテージを上げているが、内閣支持率を低下させるには至っていない。NHKの調査で自民党の政党支持率は立憲民主党の6倍超だ。
岸田首相からすれば、2021年の自民党総裁選で国会議員票が自身に次ぐ2位だった高市氏への攻撃は痛くもかゆくもないどころか、むしろ好都合にさえ映るのではないか。「高市氏個人」にフォーカスが当たっている間は支持率に響くことはなく、着々と政府の仕事をこなしていれば求心力を維持できるとの思惑も透けて見える。
では、岸田首相はいつ解散総選挙に打って出るつもりなのか。まず言えることは、3月末に2023年度予算案が可決・成立したので、勝負に出ることができる環境が整ったということだ。年頭の記者会見で表明した「異次元の少子化対策」のたたき台も3月末にまとめられる予定で、少子化対策・子育て支援策を争点に「イエスか、ノーか」総選挙で信を問うことは可能となる。
低所得世帯に一律3万円といった給付策などを矢継ぎ早に決め、3月17日に首相自ら少子化対策に関する記者会見を開いてアピールしたことを考えても「4/23総選挙」が首相の手元にあるカードの中に入っていることは間違いないだろう。
日銀総裁人事、資産所得倍増プラン、日韓首脳会談…無駄にサプライズを好む性格
次期衆院選は「一票の格差」是正に伴い、新たな選挙区割りで実施されることになるが、自民党は対象134選挙区のうち「支部長未定」が20強となるまで候補者調整を進めてきた。たしかに新年度予算案の可決・成立後まもないタイミングで衆院を解散するのは慌ただしいスケジュールかもしれないが、総選挙を迎えてもいいように準備ができていると言える。なにより首相は「サプライズ好き」であることを忘れてはならないだろう。
そもそも、岸田氏は(第1次)内閣発足から10日後の2021年10月14日、大方の予想より早く、戦後最短の衆院解散に踏み切った人物だ。内閣改造人事やNHK次期会長人事、日銀総裁人事ではメディアの予想が結果的に外れる「サプライズ」も繰り返しており、これまでの常識は通用しない宰相でもある。
首相は「難しいことから始めていくんだ」と周囲に漏らすことが多く、自民党内でも議論が白熱した防衛費大幅増に伴う増税や資産所得倍増プランの決定、そして少子化対策に取りかかってきた。そして、安倍晋三政権や菅義偉政権で冷え込んでいた日韓関係の修復に向け、今年3月16日に12年ぶりとなる日本での首脳会談を開催。銀座で「ハシゴ酒」を交わして関係改善を印象づけた後、3月21日にはウクライナに電撃訪問した。それは、まるで「電撃解散」へのステップのようにも見える。
ただ、この段階で統一地方選と衆院選が重なることは、連立相手の公明党に慎重な声が根強い上、5月には岸田首相にとって今年の最重要イベントが待っている。5月19日に地元・広島でG7(先進7カ国)首脳が集まるサミットを開催し、首相は議長を務める。「4/23総選挙」であればサミットまで1カ月ほど時間があるとはいえ、各国リーダーとの準備などを考えれば決して余裕があるわけではない。
「電撃訪問」の次は「電撃解散」…G7後が有力か
そのため、総選挙日程で本命視されているのは「6月総選挙」だ。4月の統一地方選で敗北さえしなければ、5月の広島サミットで注目度を最大値まで引き上げた後に信を問うことができるというものだ。6月上旬には「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を決定し、首相が力を入れる少子化対策の大枠が示される。そこでバラマキと批判されようが、子育て世帯のハートをがっちり掴(つか)みたいとの計算も働くだろう。逆に言えば、サミット後はいつ選挙があってもおかしくない状況に入る。
首相は来年秋に自民党総裁としての任期満了を迎えるため、長期政権を築くためには再選を果たさなければならない。それには総裁選前の衆院解散・総選挙で求心力を上げておくことが欠かせないが、今年末には2024年度の税制改正議論を控えている。防衛費大幅増に伴う増税プランを具体化させる必要があり、その過程では侃々諤々(かんかんがくがく)の党内議論が予想されている。その摩擦から自民党内に敵をつくることになれば、総裁選でマイナスに働くこともあり得るため、年末を迎える前に総選挙で勝利し、政権基盤をより安定させておきたいはずだ。
加えて、岸田氏が信頼する麻生太郎副総裁は、首相就任直後、リーマン・ショックに伴う景気後退懸念から衆院解散に踏み切れず、2009年夏の総選挙で野党に転落した苦い経験を持つ。来年夏の自民党総裁選に近い時期が首相にとって求心力を高める最高の解散タイミングといえるが、「来年はどうなっているか誰にもわからない」(自民党幹部)ことから今年中の解散断行は必須と言えるのだ。
岸田氏の周辺は語る。「電撃訪問の次は『電撃解散』があってもおかしくないよ。準備をしていない方が悪い、ということになるかもね」。サプライズを好んできた岸田首相は、メディアの驚きを楽しむように長期政権への道に自信を深めているようだ。
●安倍氏が率いてきた保守派が凋落しても岸田首相の追い風になっていない 3/29
安倍晋三元首相の死後、自民党の保守派が力を失っている。リベラル派の岸田文雄首相の求心力が高まるはずだが、現実はそうではない。一体なぜなのか。
岸田文雄首相は3月21日にウクライナの首都キーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。G7(主要7カ国)の中でキーウを訪れていない首脳は岸田首相だけだったから、5月の広島サミット(主要7カ国首脳会議)の議長を務める岸田氏としては、念願の訪問をようやく実現したことになる。それでも「得意の外交で政権の求心力が高まる」とたたえる声は与野党からあまり上がっていない。その理由は岸田首相の置かれた政治状況にある。
昨年7月に安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、安倍氏が率いてきた自民党の保守派が急速に力を失っている。しかし、だからといってリベラル派の岸田首相の求心力が増してきたかというと、そうではない。なぜか。2021年秋の自民党総裁選で岸田氏は、菅義偉前首相が支持した河野太郎デジタル相や安倍氏が推した高市早苗経済安保相らを破って勝利した。ただ、岸田氏が保守派と全面対決したわけではなく、首相就任後も安倍氏との連携は続いていた。安倍氏の死後も、安倍派との協調が維持されている。保守派が凋落(ちょうらく)しても岸田首相の追い風にはなっていないという構図である。
新体制でリフレ派排除
保守派の地盤沈下は昨年末から顕著になってきた。防衛費の増額に伴う法人、所得、たばこ3税の増税。安倍氏は生前、防衛費の増額分は増税ではなく国債でまかなえばよいと主張。自民党安倍派の議員からも「増税反対。防衛費増額には国債発行で対応すべきだ」という声が相次いでいたが、岸田首相は増税の方針を貫いた。
日銀の黒田東彦総裁の退任に伴う正副総裁人事では、総裁に経済学者の植田和男氏、副総裁に日銀理事の内田真一氏と前金融庁長官の氷見野良三氏が、国会の承認を得て、それぞれ就任。安倍政権下では、黒田氏が安倍氏の意向を受けて大規模な金融緩和を進めた。副総裁には金融緩和を重視する「リフレ派」が10年間、居続けた。新体制ではリフレ派が排除された。安倍派には、黒田路線を引き継ぐ雨宮正佳副総裁の総裁への昇格を望む声があったが、雨宮氏は固辞。安倍派内には「脱アベノミクスの流れが加速するのではないか」との警戒論が出ている。
保守派を蚊帳の外に
韓国との関係改善も動き出した。安倍政権下では、元徴用工への賠償を認めた韓国大法院の判決をきっかけに日韓関係は「過去最悪」の状態に陥っていた。日本は半導体材料の対韓輸出規制を決め、韓国はWTO(世界貿易機関)に提訴。安倍氏を支持する保守系雑誌は韓国たたきを強めた。それが一転。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の決断で財団をつくって賠償を肩代わりすることになった。岸田首相も評価して決着の方向に進んだ。3月16日には尹大統領が訪日して岸田首相と首脳会談。「未来志向の日韓関係」をアピールした。東京・銀座の飲食店で開かれた夕食会で和やかに酒を酌み交わすなど、首脳同士の交流を深めた。韓国バッシングを続けてきた保守派は蚊帳の外に置かれた。
安倍政権当時に首相官邸側から放送法の解釈変更を求める動きがあったという総務省の行政文書が暴露されたのも、安倍氏に連なる保守派には打撃だ。文書によると、安倍派の参院議員だった礒崎陽輔・首相補佐官(当時)が放送法の政治的公平性をめぐって、放送局の番組全体で判断するとされていた従来の解釈を、一つの番組でも偏っている場合は公平性を欠くと判断できると変更すべきだと主張。総務省の官僚に解釈変更を強要する安倍政権の強引な体質を印象付ける文書である。文書については、当時総務相だった高市早苗氏が自身の発言などは「捏造(ねつぞう)だ」と反論。野党側は追及を強め、自民党内でも高市氏の対応に批判が出ている。
自民党内に波紋を広げたのが安倍氏の地元である山口県下関市の市議選の結果だ。2月5日に投開票され、定数34のうち、安倍氏を支持してきた勢力は9人から7人に減少。これに対して安倍氏のライバルとして争ってきた林芳正外相(自民党宏池会座長)を支持するグループは11人から12人に増えた。
林氏はもともと下関市出身だが、参院から衆院に鞍替(くらが)えした現在の選挙区は下関市ではなく、隣の宇部市や萩市など。それでも、林氏の勢いが強まっていることに、自民党内からは「安倍時代の終わりを実感した」(閣僚経験者)という声が聞かれた。
安倍氏が率いてきた保守派が沈む中でも岸田首相が浮上していないことは、世論調査にも表れている。朝日新聞が3月中旬に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は40%で前月比5ポイント上昇したものの、不支持率は50%(前月は53%)で、支持率を上回っている。同時期の読売新聞の調査でも支持率は前月(41%)から横ばいの42%、不支持率は43%(前月は47%)だった。岸田政権の「低位安定」は変わっていない。
多くの調査では、岸田政権を支持する理由について「ほかの政権より良さそうだから」という回答が多い。岸田首相を積極的に応援するというより、消去法で支持している人が多いのだ。自民党の選挙対策担当者は、「内閣支持者も自民党支持者も、安倍政権に比べると熱量不足だ」と指摘する。  
●戦略文書策定後の日米防衛協力 3/29
米国は2022年10月に、日本は同年12月に国家安全保障戦略と国家防衛戦略をはじめとする一連の戦略文書を発出した。2023年1月11日に日米安全保障協議委員会(2+2)を、その2日後には日米首脳会談を開催して、日米同盟がインド太平洋地域の「平和、安全及び繁栄の礎」であり続けること、また「それぞれの国家安全保障戦略及び国家防衛戦略の公表を歓迎し、両者のビジョン、優先事項及び目標がかつてないほど整合していること」を確認した。特に2+2では、戦略文書に適合した当面の日米防衛協力に関する取り組みが確認された。日米防衛協力の指針(ガイドライン)を改定する方針は打ち出されなかったが、これは日本と米国がそれぞれ新たな戦略を打ち出したため、日米の役割や任務を当初から枠にはめるのではなく、日米双方の新たな取り組みに基づいて喫緊の諸課題に関する協議や各種作業を進め、その中で最適な役割と任務の割り当てを検討していくべきとの判断があるとみられる。
以下、日米の総論的な状況認識を見た上で、<作戦・運用構想と指揮・統制・情報>、<能力>、<戦力態勢>の分野1における日米間の主な防衛協力の取り組みを概観した上で、中長期的に日米の役割分担がいかに変化していく可能性があるのかを検討する。
状況認識
日米両国が2+2共同発表で示した取り組みは多岐にわたり、それらは中国、北朝鮮、ロシアを念頭に置いたものであるが、日米双方の戦略文書で明確にされた通り、やはり最大の焦点は中国である。日米両国の外務・防衛閣僚は、「中国の外交政策は自らの利益のために国際秩序を作り変えることを目指しており、伸張する同国の政治力、経済力、軍事力及び技術力をその目的のために用いようとしているとの見解で一致した。この行動は、同盟及び国際社会全体にとっての深刻な懸念であり、インド太平洋地域及び国際社会全体における最大の戦略的挑戦である」との総論的な認識の一致を謳っている。
2+2共同発表では、中国による東シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張、埋立地形の軍事化及び威嚇的で挑発的な活動に対する反対を表明し、日本周辺水域への弾道ミサイル発射といった危険かつ挑発的な軍事活動を非難した。また、2+2共同発表では明示されていないが、日米の防衛当局はかねてから中国のミサイル戦力や核戦力の増強が軍事バランスにもたらす悪影響を強く懸念しており、ロシアによるウクライナ侵略は、いわゆる台湾有事に関する危機感を一層強めた。日本の国家安全保障戦略において、ロシアによるウクライナ侵略と「同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」としたのは、こうした危機感の表れであろう。
主な取り組み
上記のような状況認識の下で、日本と米国はそれぞれ各種取り組みを進めていくことになるが、「日米共同の抑止力・対処力の強化」に関して、日本の国家防衛戦略は、「我が国の防衛戦略と米国の国防戦略は、あらゆるアプローチと手段を統合させて、力による一方的な現状変更を起こさせないことを最優先する点で軌を一にしている。これを踏まえ、即応性・抗たん性を強化し、相手にコストを強要し、我が国への侵攻を抑止する観点から、それぞれの役割・任務・能力に関する議論をより深化させ、日米共同の統合的な抑止力をより一層強化していく」としている。日米共同の抑止力・対処力を強化するための大きな取り組みの方向性として、日本は防衛予算の増額を通じて防衛力を抜本的に強化し、「地域の平和と安定の維持に積極的に関与する上での役割を拡大」する。米国は、「より多面的で、より強靭で、そしてより機動的な能力を前方に展開することで、日本を含むインド太平洋における戦力態勢を最適化」するほか、「核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた」拡大抑止を提供していく。
日米が地域の平和と安定を担保するための抑止力・対処力を構成する個別具体的な協力要素は多岐にわたるが、以下主なものをいくつか取り上げる。(核抑止は極めて重要であるが別稿に譲る。)
   作戦・運用構想と指揮・統制・情報
まず日米は、「統合防空ミサイル防衛、対水上戦、対潜水艦戦、機雷戦、水陸両用作戦、空挺作戦、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)、兵站及び輸送といった任務分野に焦点を当てるべき」という点で一致するとともに、「とりわけ陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波領域及びその他の領域を統合した領域横断的な能力の強化が死活的に重要」であることを2+2で確認した。日米双方において、宇宙・サイバーといった新たなドメインと陸・海・空の伝統的なドメインで作戦を遂行する部隊を統合的に運用し、領域横断作戦を効果的に遂行することが目指される。
日本の国家防衛戦略では、抜本的に強化された防衛力は、新しい戦い方に対応できるものでなくてはならないとの認識の下、「領域横断作戦、情報戦を含むハイブリッド戦、ミサイルに対する迎撃と反撃といった多様な任務を統合し、米国と共同して実施していく必要」(8頁)があるとしている。その上で、国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画に示された方針、「さらにこれらと整合された統合的な運用構想により、我が国の防衛上必要な機能・能力を導き、その能力を陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊のいずれが保有すべきかを決めていく」(8頁)とした。
全ドメインの部隊を統合運用するにあたっては、それを実効ならしめる<指揮・統制>の整備が不可欠となる。米国は、軍種間の指揮・統制(C2)の統合を進めていくための統合全領域指揮・統制(JADC2)なるC2アーキテクチャーを組み上げていると言われるが、日本も今般、「陸海空自衛隊の一元的な指揮を行い得る常設の統合司令部」を設置することを決めた(NDS・23頁)。米側は2+2で日本の決定を歓迎し、日米は「相互運用性と即応性を高めるため、同盟におけるより効果的な指揮・統制関係を検討することにコミットした。」統合運用の実現は主要国の軍隊で重要課題とされているので、米軍や自衛隊の統合運用も一筋縄ではいかないであろうが、統合を推進する機運が高まってきているのは間違いない。今後は、おそらくインド太平洋軍司令部と常設統合司令部との間で、効果的な連携の形が模索されていくことになる。
なお、同盟調整メカニズム(ACM:Alliance Coordination Mechanism)を中心とする日米間の調整機能の強化は、2+2共同発表でも、日本の国家防衛戦略でも謳われている。後者では、「同志国等との連携を強化するため、ACM等を活用し、運用面におけるより緊密な調整を実現する」(14頁)としていることから、オーストラリアなどとの連携も視野に入れているとみられる。
ISRTの分野では、日米共同情報分析組織を発足させ、平素からの情報共有を拡充している。日米の各種センサーからのデータを集約し、人工知能等を活用して処理・加工し、迅速な意思決定に結び付けていく取り組みが、意思決定本位の戦い(decision-centric warfare)において極めて重要な意味を持つことになる。その際には、ネットワークの防護のためのサイバーセキュリティの強化が不可欠となるが、2+2では、2022年3月の自衛隊サイバー防衛隊の新編を歓迎するとともに、「更に高度化・常続化するサイバー脅威に対抗するための協力を強化する」ことで一致した。日本の国家安全保障戦略では、能動的サイバー防御の導入が決定されており(21-22頁)、国内通信網のデータフローのモニタリングを通じたサイバー空間の状況把握能力を高め、政府・重要インフラ等のネットワークを防衛するために未然に攻撃者のサーバ等に侵入し無害化することは、日本のネットワーク防衛能力を高め、ひいては日米による共同作戦能力の向上にもつながる。
また、偵察監視・通信・測位等の重要な機能を果たす衛星システムが配備される宇宙についても、今般の2+2において、「宇宙への、宇宙からの又は宇宙における攻撃が、同盟の安全に対する明確な挑戦であると考え、一定の場合には、当該攻撃が、日米安全保障条約第5条の発動につながることがあり得ること」を確認し、宇宙空間における集団防衛にも踏み込んだ。衛星はターゲティングにおいて重要な機能を発揮するほか、特に低軌道衛星などは極超音速兵器の探知・追跡等の機能を果たし、民間の商業衛星も活用されていくため、集団防衛は極めて重要な意味を持つとみられる。
   能力
様々な作戦・任務に対応するのに必要な<能力>は多岐にわたり、ここで網羅することはできないが、日米はそれぞれ所要の能力を維持・開発していくことになる。日本の国家防衛戦略では、(A)侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除するための能力として、<1スタンドオフ防衛能力>や<2統合防空ミサイル防衛能力>を、(B)万が一抑止が破られた場合に、領域を横断する形で優越を獲得し、非対称的な優勢を確保するための能力として、<3無人アセット防衛能力>、<4領域横断作戦能力>、<5指揮統制・情報関連機能>を、そして(C)迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させるための能力として、<6機動展開能力・国民保護>、<7持続性・強靭性>を強化していく方針を打ち出している。米国の国家防衛戦略で示された統合抑止(integrated deterrence)なる概念には、拒否的抑止(deterrence by denial)と強靭性による抑止(deterrence by resilience)という要素が含まれているが、日本が抜本的に強化する7つの能力分野は、前述の通り、こうした米側の統合抑止の概念と適合するものとみることができよう。以下では反撃能力と防衛技術をめぐる日米協力に絞って取り上げる。
反撃能力をめぐる日米協力について、日本の国家防衛戦略において、「情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力体制を構築する」とされており、この方針に沿って、2+2では、「米国との緊密な連携の下での日本の反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間の協力を深化させることを決定」した2。反撃能力を運用するにあたっては、ISR、ターゲティング、戦闘被害評価(BDA)などが必要となるが、これら各分野で必要な日米協力の作業を特定して進めていくことになろう。重要なのは、日本が反撃能力を獲得することによって、米軍の作戦計画の立案や決定の一部に参与する余地を生み出し、一定の発言権を行使しうるような環境を作り出すということであろう。また、反撃能力のハードウェアの面で、日本政府は400発のトマホーク巡航ミサイルを米国から調達し、2026年に配備する予定となっており、これに関連する日米間の協力も進むものとみられる。
また、これからの能力を開発するための日米協力も進展している。無人システムに関しては、一方でドローン等の無力化に有効とされる高出力マイクロ波に関する共同研究が進められているほか、日本の次期戦闘機と連携する無人航空能力を「無人アセット防衛能力」の一環として実現すべく、2023年中に共同研究の可能性を含め具体的な協力を開始することになっている。また、極超音速技術に対抗するための技術についても日米は協力を進めようとしており、極超音速滑空兵器(HGV)のインターセプター(迎撃体)が必要とするより高い耐熱性素材技術に関する共同研究を開始するほか、HGVを迎撃する将来のインターセプターの共同開発の可能性についての議論も開始される。
   戦力態勢
2+2共同発表で日米の閣僚は、「日本の南西諸島の防衛のためのものを含め、向上された運用構想及び強化された能力に基づいて同盟の戦力態勢を最適化する必要性を確認」し、「日本における米軍の前方態勢が、同盟の抑止力及び対処力を強化するため、強化された情報収集・警戒監視・偵察(ISR)能力、対艦能力及び輸送力を備えた、より多面的な能力を有し、より強靱性があり、そして、より機動的な戦力を配置することで向上されるべきであることを確認」した。ISRの能力・態勢については、米国が鹿屋航空基地にMQ-9無人航空機を展開するという形で態勢の強化が図られた。
対艦能力ということでは、第12海兵連隊が第12海兵沿岸連隊(MLR:Marine Littoral Regiment)へと改編される。MLRは、米海兵隊の新たな運用構想である機動展開前進基地作戦(EABO:Expeditionary Advanced Base Operations)を実践するものであり、対艦ミサイル部隊を含む沿岸戦闘チーム、対空ミサイルを運用する沿岸防空大隊、独立した持続的な活動を可能とする沿岸後方大隊からなる部隊で、有事発生前から分散展開して対艦ミサイル等で海上拒否作戦等に従事する。
また、南西諸島への輸送力の強化や自然災害発生時の対応能力の強化という観点から、米陸軍が13隻・280名から成る小型揚陸艇部隊を2023年春に、横浜ノース・ドックに新編することになっている。小型揚陸艇は、ヘリ・輸送機よりも大量の物資が輸送可能なほか、港湾が無い場所や港湾が破壊された場所でも接岸が可能という特殊な機能を有しており、陸上自衛隊も導入している最中である。
さらに、施設の共同使用ということでは、直近における動きとして、嘉手納弾薬庫地区内の火薬庫を新たに自衛隊が共同使用することとなり、具体的な調整が始まっている。このほか日本の国家安全保障戦略では、「民間施設等の自衛隊、米軍等の使用に関する関係者・団体との調整」(25頁)も進めるとされており、米軍部隊が日本国内で必要な民間施設・拠点にアクセスして円滑に活動しうる措置が講じられていくとみられる。
なお、米国はインド太平洋全域を見渡して最適な戦力態勢のあり方を絶えず検討しており、オーストラリアやフィリピンが展開先としての重要性を増している。特にフィリピンについては、2023年2月に米・フィリピン防衛協力強化協定(EDCA:Enhanced Defense Cooperation Agreement)に基づいて、米国は新たに4つのフィリピン軍基地へのアクセスを獲得している3。また日本は、国家安全保障戦略で、「同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上を目的として、同志国に対して、装備品・物資の提供やインフラの整備等を行う、軍等が裨益者となる新たな協力の枠組み」を創設したが、2023年2月のマルコス・フィリピン大統領来日時に発出された日フィリピン共同声明では、同大統領がこの「新たな協力の枠組みを立ち上げるとの日本の意図を歓迎した」とあり、フィリピン軍が裨益するような軍用資機材等の供与先となる可能性が報じられている4。こうした日本による安全保障能力強化支援が、米国による戦力態勢の分散・強靭化に資するとすれば、相乗効果が生まれていくかもしれない。
日米の中長期的な役割分担
日本の抜本的な防衛力の強化は、まず自衛隊の即応性・強靭性を高めつつ進められる必要がある。国家防衛戦略が、「今後5年間の最優先課題は、現有装備品を最大限有効に活用するため、可動率向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靭化への投資を加速するとともに、将来の中核となる能力を強化することである」(9頁)としているのは、まさにこうした認識を表している。
日本の国家安全保障戦略と国家防衛戦略では、防衛力の抜本的強化が、5年後(2027年)と10年後(2032年)という時間目標を定めて進められることが謳われている。すなわち、「5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する。さらに、概ね10年後までに、この防衛目標をより確実にするため更なる努力を行い、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する」(国家安全保障戦略19頁・国家防衛戦略9頁)とされている。これまで日本の防衛は一般に、米国が「矛」、日本が「盾」の役割を果たすとされてきたのは広く知られている通りであるが、今般の戦略では、日本が自国への侵攻に「主たる責任をもって対処」し、さらにこの防衛目標をより確実にすべく、「より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除」する基本方針が打ち出された。日本が自国防衛において主たる責任を果たし、やがて早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除するということは、端的に言えば、日本が「盾」に加えて「矛」の役割も段階的に担い、日本防衛に必要な機能を揃えていくことを意味し、反撃能力5や能動的サイバー防御などが重要な意味を持つ。こうして日本が自国防衛のための能力を高めていけば、米国は台湾防衛により多くの戦力やリソースを割くことができるようになる。
つまり、日米の役割は、従来は日本防衛という限定的な文脈の中で、米国は「矛」で日本は「盾」という<機能>の分担が基本であったが、将来的には、やや端的に言えば、日本が日本防衛にあたり、米国は台湾防衛にあたるという<戦域>の分担へと移行し、日米が連携しながらそれぞれ主担当の戦域から中国に対処し、それをオーストラリアなどが後方から支援するような形になっていくことが考えられる(無論、米国が日本の防衛を一切担わなくなるなどということではない)。2+2共同発表にも、「日本はまた、自国の防衛を主体的に実施し、米国や他のパートナーとの協力の下、地域の平和と安定の維持に積極的に関与する上での役割を拡大するとの決意を再確認した」とあり、その究極的な含意は、日本が自国を防衛する能力を強化することによって、米国による一層効果的な台湾防衛を可能とし、さらに同志国等との多層的な連携も進めることによって、日米同盟が中国による台湾の武力統一を抑止する体制を実効化し強化することにあると言えよう。ただし、これは戦略文書に書かれたことが予算的な裏付けを伴って着実に実現していけばという条件が付いているのは言を俟たない。日米同盟を強化するための道筋が示された今、それがどこまで実現するかは、日米双方の政治が、国民の理解を得ながら所要の資源を動員できるか、また関係省庁と自衛隊が必要な事業や変革を然るべきペースで実現できるかどうかに懸かっている。
●コロナ対策法案、30日衆院通過 首相の権限強化 3/29
新たな感染症危機に備えた新型コロナウイルス対策の特別措置法と内閣法の両改正案は29日、衆院内閣委員会で採決が行われ、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決された。30日の衆院本会議で可決、参院に送付され、今国会で成立する見通し。
29日の内閣委では採決に先立ち質疑を実施。岸田文雄首相は、5月に新型コロナの感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられた後の対応に関し、「感染拡大が生じても必要な医療が提供されるよう取り組む」と強調した。
立憲民主党や共産党などは「(内容が)不十分だ」として反対した。
改正案では、都道府県知事に対する首相の指示権限を強化。現在は「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」の発令中に限られているが、感染症の発生初期から指示を可能とする。
また、感染症対策の立案や総合調整を一元的に担う「内閣感染症危機管理統括庁」を新設。トップの「内閣感染症危機管理監」には官房副長官を充てる。
●力に裏付けられた外交 3/29
発言内容の信憑性が高いか否かの判断は、概ね発言者の態度や行動と照らし合わせてみないとわからない。口で言うのは安上がりで容易く、ゲーム理論の言葉を借りれば「トークはチープ」だからだ。それでは相手に自分が本気であることを伝え、発言内容に信憑性を持たせるためにはどうすればいいか。シグナリングの効果的な方法はいくつかあるが、まず言葉の内容を裏付けるための行動をとること、特に、金銭、ヒト、あるいは時間といった資源を投入し、実際に身を削るようなコストを支払う姿を相手に見せることで、コミットメントの強さを示すことができる。
2022年12月に発表された「国家安全保障戦略」・「国家防衛戦略」・「防衛力整備計画」(以下、防衛3文書)を通して、日本政府は「国民の命と平和な暮らしを守り抜くため」に防衛力を抜本的に増強する決意を示した。中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と明確に位置付け、今後5年間で長射程の反撃能力の導入、継戦能力の向上、サイバー能力などの大幅な増強を行い、防衛関係費をGDP2%にまで増加させてこれらを財政的に賄うことも発表した。
こうした投資が予定通り実行されれば、日本の防衛力は高まり、地域のパワーバランスは少なからず調整される。中国が図る軍事行動はより複雑なものにならざるを得ず、結果的に軍事行動を思いとどまる可能性が高くなる。つまり抑止力が高まる。また、高齢化社会で増大する社会保障費と経済成長に伸び悩む日本が、このように多額の財政的なコストを支払ってでも「防衛力の抜本的強化」を行う姿勢を見せること自体が、中国を含む世界の国々に日本の本気度を伝えるシグナルとなる。
今回の防衛力の増強は、今後国際社会において日本の外交力を高める助けになるだろう。2012年から2020年まで続いた安倍政権では、首相が80の国と地域を176回にわたって訪問し「地球儀を俯瞰する戦略的な外交」を進めた。「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出し、国際社会に定着させた。一方国内では集団的自衛権の限定的行使容認や特定秘密保護法の制定など、法的整備という形で政治的コストを払ったが、財政面、特に防衛費では中国との差は広がっていくばかりであった。安倍首相が政治シーンから姿を消した今、これから日本は「自由で開かれた国際秩序」の維持・発展のためにどの程度本気で取り組んでいくのか。今回の防衛力増強は、そうした疑念の払拭に役立ち、今後外交の場で日本の指導者や外交官たちが発する言葉により強い信憑性を与えることになるだろう。
こうした防衛力と外交力の相互補完性は、防衛3文書でも明確に打ち出されている。特に防衛力に着目した「国家防衛戦略」において、「力による一方的な現状変更を許さない取組において重要なのは、我が国自身の防衛体制の強化に裏付けられた外交努力である。」と、外交の重要性が語られている意味合いは大きい。2023年1月に訪米した際、岸田首相自ら「外交には裏付けとなる防衛力が必要であり、防衛力の強化は外交における説得力にもつながる」と語った。
力は外交に信憑性を与え、外交は力を意味付けするツールとなる。外交によって適切に相手に防衛力の意図を伝え、誤解を防ぎ、大国間競争を管理し、危機を回避する。力に裏付けられた外交を以って初めて平和の維持は可能となる。防衛力の強化と外交は二律背反の関係にはない。
よって今回岸田政権下で打ち出された防衛3文書は、安倍政権時代から日本が精力的に進めてきた外交とセットでみるべきである。防衛力増強によって日本が発する言葉への信憑性が高まった今、岸田政権はさらに外交でのリーダーシップを強めていくべきだ。
●「上限6カ月」「武力攻撃など5事態下」 3党派の緊急事態条項概要判明 3/29
憲法改正を巡り、日本維新の会と国民民主党、衆院会派「有志の会」が共同でまとめる緊急事態条項の概要が29日、判明した。中核となる緊急時の国会議員の任期延長に関しては、武力攻撃など5つの事態が発生した際、6カ月を上限に可能としている。衆院憲法審査会などで他党との合意形成を目指す方針だ。
この3党派と自民党や公明党は、衆参両院議員の任期が憲法で「4年」「6年」とそれぞれ明記されていることから、改憲によって緊急事態条項を新設し、国政選挙が行えなくなる事態などに備えるべきだとの問題意識を共有している。
3党派の緊急事態条項の概要では、いかなる事態でも国会機能を維持することが重要だと強調。憲法に規定されている「参院の緊急集会」などでは対応できない事態に備えて、「議員任期の延長等に関する規定を創設する」としている。
具体的には武力攻撃や内乱・テロ、自然災害、感染症の蔓延など5つの事態が発生し、「広範な地域において国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難であることが明らか」な場合、内閣の発議や国会の議決(3分の2以上の多数)を経て、6カ月(再延長可能)を上限に任期延長を認めるとの方針を示した。
憲法裁判所の関与の必要性などに関しては、今国会中に成案を得ることを目指すと指摘。内閣が法律に代わり制定する緊急政令、緊急財政処分の規定については引き続き検討を進めるとしている。
●岸田首相夫人 バイデン大統領夫人と面会へ異例の単独訪米 調整  3/29
岸田総理大臣の裕子夫人は、4月にもアメリカを訪れ、大統領夫人と面会する方向で調整しています。単独での訪問は異例で、日米関係の強化に向け、首脳夫人間の信頼関係を構築するねらいがあるものとみられます。
関係者によりますと、岸田総理大臣の裕子夫人は4月にも、アメリカ ワシントンを訪れ、バイデン大統領のジル夫人と面会する方向で調整に入りました。
総理大臣の夫人が単独でアメリカを訪問し、大統領夫人と面会するのは異例です。
ことし5月のG7広島サミットも見据え、日米関係の強化に向けて、首脳夫人間でも信頼関係を構築するねらいがあるものとみられます。
去年5月のバイデン大統領による日本訪問や、ことし1月の岸田総理大臣によるアメリカ訪問の際には、いずれも、それぞれの夫人は同行せず、2人の面会は実現していませんでした。
●岸田首相「参入・退出障壁低く」 産業構造転換で 新資本主義会議 3/29
政府は29日、首相官邸で「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田文雄首相)を開き、6月に行う「新しい資本主義」実行計画の初改定に向け議論した。
岸田首相は会議で、産業の構造転換を促すため、「(企業の)新たな参入と再チャレンジの際の退出の障壁を低くする」と表明した。
企業が事業撤退などで市場から退出しようとしても、保有する設備の転用や売却が困難であったり、顧客への供給責任があったりして、不採算事業の継続を余儀なくされるケースもある。首相は経営者が退出を決断した場合の支援について、「M&A(合併・買収)を含め多面的検討を行う」と述べた。 
●首相、アベノマスク配布に理解 「政府対応は当然」 3/29
岸田文雄首相は29日の衆院内閣委員会で、安倍政権当時に新型コロナウイルス対策として実施された布マスク「アベノマスク」の全世帯配布に理解を示した。「マスクが不足し、大きな社会問題になっていた。政府として具体的に対応するのは当然だ」と述べた。
「当時の切迫した状況で、そうした対策を取ったことは理解しなければならない」とも強調した。立憲民主党の青柳陽一郎氏への答弁。

 

●追加物価高対策 予備費支出、安易過ぎる 3/30
物価高の影響が深刻な家庭へ国の支援が必要であることに異論はない。ただ追加の物価高対策などに2022年度予算の予備費から2兆円超を支出する閣議決定はあまりに安易だ。開会中の国会で与野党が十分に議論した上で、23年度当初予算に計上するのが本来の姿だ。
統一地方選と衆参補欠選挙が4月に控えている。低所得世帯への現金給付やLPガス料金の負担軽減策などの物価高対策には選挙目当てとの指摘もある。選挙の前に現金給付が叫ばれ、実施されるのはもはや恒例となっているのではないか。
予備費は政府が予算成立後に臨時で支出する必要が生じた場合に備え、具体的な使い道を決めずに計上する経費。内閣の判断で支出できるが、国会の事後承諾が求められる。
従来は災害対応などで5千億円程度を毎年度計上。ところが新型コロナウイルス感染症対策を機に急増し、22年度は過去最大の11兆7600億円まで膨らんだ。そのうちの未使用分が今回の物価高対策に充てられた。
昨年来の対策も含め、物価高対策へ次々と予算が投入されている。対象は燃油から電気・都市ガス、さらにLPガスと拡大の一途だ。
その支出に予備費が政府・与党の便利な財布同然に使われてはたまらない。物価高対策は2年目だ。価格動向や予算規模など、これまでの対策による効果を検証することも必要だ。
例えば燃油は本来、価格が上がれば需要が抑制され、値下がりに向かう。ところが昨年から実施の補助金はその市場原理を阻害するともいわれる。継続が妥当なのか、国会での議論が求められよう。
参院本会議で可決、成立した一般会計の歳出総額が過去最大114兆円超となった23年度予算は約3割を国債に依存する。税収で将来返済する必要がある国の借金「長期債務残高」は、23年度末には過去最大の1068兆円に膨れ上がる見通しだ。
防衛費は過去最大となった。23年度は岸田政権が防衛力を抜本的に強化するとした5年間の初年度だが、防衛財源の一部を確保するための特別措置法案は与野党の判断で22年度内の成立が見送られた。法人、所得、たばこの3税の増税は実施時期が未定で財源の裏付けが乏しいまま支出だけが増大する。
国民の暮らしを支えるために必要な政策の予算にせよ、歯止めなく将来世代につけを回し続けるわけにはいかない。岸田文雄首相が防衛予算や子育て対策を「大幅増額」「異次元」と言うのであれば、予算の裏付けを明確に示す責任があろう。
「日本の財政は過去に例を見ないほど厳しさを増している」とは鈴木俊一財務相の発言。このままでは財政再建はますます遠ざかる。岸田政権はまず予備費のような使い勝手の良い財布を手放し、財政規律を取り戻すことから取り組むべきだ。
●出産に保険適用・多子世帯は住宅ローン優遇…岸田首相が明言 3/30
岸田首相は29日、少子化対策についての読売新聞のインタビューに応じ、子どもを産みやすい環境を整えるため、出産費用を将来的に公的医療保険の適用対象とする考えを表明した。就労要件を問わず時間単位で保育所を利用できるようにする制度の創設や、多子世帯への支援策として住宅ローンの金利優遇措置の導入も明言した。
首相は、少子化に歯止めがかかっていない要因について、「若い人たちが将来に対して見通しを十分持てずにいる。出産、結婚は後回しにせざるを得ない現実がある」と指摘、「状況を打開するためには、若い世代の所得を向上させることが重要だ」と述べた。
出産費用は、正常分娩(ぶんべん)の場合、病気やけがに当たらないため、現在は保険が適用されていない一方、原則42万円の「出産育児一時金」を支給する仕組みがある。4月からは50万円に引き上げるが、医療機関の便乗値上げも懸念されているほか、地域や医療機関によって費用に差があることが問題視されている。首相は「出産費用の『見える化』を進め、(医療機関の)サービスと費用の検証を行った上で、保険適用を検討していきたい」と語った。
働き方による格差の是正に向け、「これまでは共働き世帯に対する保育の受け皿整備、待機児童解消に力点が置かれていたが、これからは全ての子育て家庭に必要な支援をすることが重要だ」と強調。時短勤務者への育児休業(育休)手当の支給のほか、非正規労働者や自営業者の育休についても、新たな経済支援を検討する考えを示した。保育の質を改善するため、「保育士1人が担当する1歳児の人数を6人から5人に減らす」と述べ、配置基準の改善に踏み込んだ。
出産をためらう一因になっている教育費の負担軽減については、在学中の授業料支払いを免除し、卒業後、収入に応じて返済する「出世払い方式」の奨学金制度の導入に向けて取り組む考えを示した。返済不要の「給付型奨学金」の対象については、2024年度から、多子世帯や理工農学部系の学生には世帯年収380万〜600万円の中間層まで拡大することを表明した。
政府は31日、子ども政策のたたき台を取りまとめる。その後、関係閣僚や有識者で構成する会議体を設置し、詳細を詰める。6月に閣議決定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに、首相が目指す「子ども関連予算の倍増」に向けた財源確保の大枠を示す方針だ。
●「法の支配」1500人を育成 岸田首相、民主主義サミットで表明 3/30
岸田文雄首相は29日夜、第2回民主主義サミットに首相官邸からオンラインで出席した。今後3年間のうちに「法の支配」などに関わる1500人以上の人材育成を担うと表明。「国際社会と協力し、民主主義の強化に向けた取り組みを主導していく」と語った。
北朝鮮による拉致問題は「基本的人権の侵害」だと言及。自身のウクライナ訪問にも触れ「法の支配がないことで一番困るのは脆弱(ぜいじゃく)な国、脆弱な環境に置かれている人々だ」とし、「民主主義の土台となる人材育成」の重要性を訴えた。
●岸田首相 国際社会の民主主義強化へ 人材育成を支援の方針示す  3/30
岸田総理大臣は、アメリカなどが開いた「民主主義サミット」にオンラインで出席し、国際社会の民主主義の強化に向け、アジアやアフリカ諸国で引き続き人材育成を支援していく方針を示しました。
この中で岸田総理大臣は、先のみずからのウクライナ訪問に触れ「侵略の現場を自分の目で見て、悲惨な体験を直接聞き、社会が従うべき規範を法の支配に置かねばならないという思いを新たにした」と述べました。
そして、法の支配とあわせて、最低限守るべき基本原則の1つが民主主義だと指摘し、日本がアジアやアフリカ諸国で、民主主義の土台となる人材育成や司法・行政制度の構築に向け支援を行っていると説明しました。
その上で「さらに今後3年間で法の支配やガバナンス分野における1500人以上の人材育成を行い、ネットワークづくりを強化していく。国際社会と協力し、民主主義の強化に向けた取り組みを主導していく」と強調しました。
このほか岸田総理大臣は、北朝鮮による拉致問題は深刻な人権問題だとして、早期解決に向けた協力を訴えました。
●早期解散論に神経とがらす 山口公明代表、岸田首相に連日くぎ 3/30
与野党で浮上した早期の衆院解散・総選挙の観測に公明党が神経をとがらせている。重視する4月の統一地方選との「ダブル選」や、6月21日の通常国会会期末までの解散となれば、支持母体・創価学会の組織力がそがれかねないからだ。
公明党の山口那津男代表は29日、岸田文雄首相と首相官邸で昼食を共にした。席上、山口氏が回復基調となった最近の内閣支持率の話題に水を向けると、首相は「一喜一憂しないで着実にやるべきことをやっていく」と語ったという。
山口氏は昼食後、「解散の話はしていない」と記者団に説明したが、公明党内では「統一選と解散を近接させるのは困ると首相にくぎを刺したのだろう」(関係者)との見方がもっぱらだ。
2023年度予算が成立した28日、山口氏が国会内の公明党控室を訪れた首相に「いよいよ統一選ですよね」「解散じゃありませんね」とけん制する場面もあった。党関係者は「普通は表でしない話をあえてした」と解説する。
党幹部は水面下でも首相サイドと接触を重ねている。党幹部の一人は29日、「少なくとも4月総選挙となるような直近の解散はない」との感触を得て胸をなで下ろした。学会関係者は「統一選を戦うと組織が疲弊する。衆院選との間を最低でも3カ月は空けてほしい」と語った。
今回の統一選は、大阪市議選で日本維新の会の伸長を許してキャスチングボートを失えば、大阪府内の衆院小選挙区を公明党と維新ですみ分けてきた「共存関係」が崩れかねないとの危機感もある。党関係者は「大阪市議選後に戦略練り直しの時間が必要になる可能性がある」と説明した。
首相は29日の衆院内閣委員会で「今、衆院解散は考えていない」と語った。ただ、自民党幹部は「5月のG7広島サミット(先進7カ国首脳会議)後はあり得る」と指摘する。公明党内では「最後は首相の専権事項。夏前まで引き延ばせれば容認するしかない」(関係者)との声も出始めた。
●衆参5補選「全勝も可能」? 「慢心」岸田首相の「落とし穴」 3/30
3月23日、統一地方選が始まった。4月23日までの約1カ月にわたり、全国で1千近い首長選や地方議員選、衆参の統一補選が行われる。支持率上昇に自信を深める岸田文雄首相だが、思わぬ落とし穴にハマる可能性も……。
今回の一連の選挙で、政権への影響という点で最も注目されるのは、岸田文雄首相への「中間評価」という位置づけになる衆参五つの選挙区で行われる補選だ。
「(衆参5補選)全部勝つつもりで万全の態勢でやってほしい」
3月14日、自民党本部総裁室を訪れた森山裕選挙対策委員長に対し、岸田首相はこう強く指示した。森山氏によると、岸田首相は「日に日に自信を深めている」という。既にこの時点で、21日からのウクライナ電撃訪問の予定は固まっていた。2日後の16日には韓国の尹錫悦大統領が来日し、徴用工問題の「解決策」を説明。日韓関係の正常化で一致するなど、外交成果をアピールできる条件は整いつつあった。
政府関係者は語る。
「当初、岸田首相は衆参5補選の勝敗ラインを3勝2敗と想定していたが、報道各社の世論調査で支持率が40%台に乗ると、周囲には『(支持率が)どんどん上がるぞ』と語るなど、意気揚々としている。今は強気に5勝も可能と見ているはずだ」
自民党岸田派幹部も次のように話す。
「新型コロナウイルスの感染状況がやっと収束に向かいつつあり、春闘で満額回答が相次ぐなど大幅な賃上げもめどが立ってきた。日韓外交も国民の印象は良いはず。最近は打つ手打つ手が当たって、自信を深めている」
ただ、「一寸先は闇」なのが選挙。自民党「5勝」の現実味はいかばかりであろうか。
まず衆院補選では、引退した岸信夫前防衛相の長男が立候補する山口2区と、昨年銃撃され亡くなった安倍晋三元首相の同4区については、「鉄板」(党幹部)と、自民党は必勝を期す。
だが、二階俊博元幹事長と世耕弘成参院幹事長という大物2人の地元で圧倒的に有利なはずの和歌山1区は「保守票が予想以上に日本維新の会の新人女性候補に流れており、自民党二階派の候補を猛烈に追い上げている状況」(同)だという。
薗浦健太郎元首相補佐官の議員辞職に伴う千葉5区には、立憲民主党をはじめ野党4党がそれぞれ候補を立ててきたため、自民党の新人女性候補が有利と見る向きが多い。「野党が割れてくれて大変ありがたい追い風だ」(陣営幹部)
しかし、地元の石井準一参院議員が自身に近い経済人を押し込もうとしたところ、麻生太郎副総裁が岸田総裁(首相)に直談判してトップダウンで女性候補擁立に道筋を付けるなど、「選挙戦に至る経過に落ち度があった」(森山氏)ことも事実。
選対関係者によると、「麻生氏は側近の薗浦元補佐官の復帰の芽を残すため、いずれは選挙区を明け渡してもらうつもりだろう」と明かす。当然のことながら「石井氏は怒りが収まらず、党県連の動きは鈍い」という。
参院大分選挙区はもともと野党系が議席を保持しており、野党にとって議席維持は至上命題。かつて社民党党首を務めた立憲民主党の吉田忠智氏が参院比例代表からのくら替え出馬を決めたことで、現時点で選挙戦を優位に進めると見られている。しかし、「吉田氏の出馬に出身母体の自治労が難色を示していたしこりが残る」(党関係者)など、立民のもたつきも目立つ。
山口を除く、千葉、和歌山、大分のいずれも自民党が地力を発揮し全勝する可能性はある。だが、山口以外を落として2勝にとどまれば、政権を取り巻く空気は一変し、首相は一気に追い込まれる展開にもなりかねない。
実際、自民党選対幹部の間では「2勝3敗の負け越しもありうる」との危機感があるという。その理由は「分裂しているかに見える野党が実は『死んだふり』で、土壇場で統一候補に一本化しかねない」(自民党選対幹部)からだという。
有田氏の出馬が争点にも影響か
政治ジャーナリストの野上忠興氏はこう語る。
「千葉、和歌山で土壇場の一本化が仮になされれば、自民党は負けるでしょう。岸田首相は周辺に『今回の選挙で負けたからといって、政権の行く末とは関係ない』と予防線を張っているそうだが、総裁としての責任が問われるのは必至です」
さらなる懸念材料が、公明党の支持母体である創価学会の集票力低下だ。昨夏の参院選で比例区の得票は約618万票と、2021年の衆院選での比例票の合計から約93万票減り、01年に「非拘束名簿式」が導入されて以降、最も少なかった。
「支持者の高齢化などから、今回はさらに減らすだろう。その上、山口4区の衆院補選に立憲民主党から前参院議員の有田芳生氏が出馬することによって、波乱要素が出てきた」(野上氏)
有田氏といえば、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に詳しく、立民としては自民党と教団の関係を統一選全体の争点に位置付ける狙いもある。
ある自民党幹部は「問題を蒸し返されかねない。票にどう影響が出るか。不満票が日本維新の会に流れかねない」と強い懸念を示す。そもそも、報道されてきたように多くの議員がこれまで旧統一教会関係者から選挙の際に支援を受けていたとすると、今回、岸田首相が旧統一教会と「関係を断つ」と明言したことが集票にどう影響するだろうか。五十嵐仁・法政大名誉教授(政治学)は次のように話す。
「旧統一教会は、自民党系を中心に地方政治に深く浸透していたことが明らかになりました。今回の地方選で、自民党の候補者たちが本当に関係を断ち切れたか、注視する必要があります。さらに、昨年末の安保3文書改定により戦後日本の安全保障政策の大転換がなされて初めての国政選挙になります。有権者がどういう判断を下すか、蓋を開けてみるまで読めません」
どうせ国民は忘れている、などと慢心していると、命取りになりそうだ。
●貯蓄から投資へ? 岸田政権が掲げる資産所得倍増の3本柱に注目 3/30
「貯蓄から投資へ」は、国民の資産所得倍増を目指す政府のスローガンだ。岸田文雄政権ではその実現に向けて、少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や金融教育の普及、金融事業者による顧客本位の業務運営という3つの柱を掲げる。今回は「貯蓄から投資へ」の3つの柱それぞれに関連する内容を過去記事から振り返ってみる。
国民の資産所得倍増を目指す「貯蓄から投資へ」
「貯蓄から投資へ」とは、国民の資産所得倍増を目的とする政府のスローガンだ。歴代政権も同様のスローガンをしばしば掲げてきたが、「新しい資本主義」を旗印とする岸田政権は「3つの柱」のもとで「貯蓄から投資へ」を体現する資産所得倍増計画に取り組んでいる。
その3つとは、1NISAの抜本的拡充、2金融教育の普及、3金融事業者による顧客本位の業務運営を指す。特に1については、日本の家計金融資産約2000兆円のうち「現預金」が50%を超えていることを問題視し、株式、投資信託の割合を増やすことで「持続的な企業価値向上」と、「個人の資産所得倍増」という好循環をつくり出すことを目的とする。
この記事では「貯蓄から投資へ」の3つの柱について、関連する過去記事をピックアップしていく。
岸田政権の「資産所得倍増プラン」 2000兆円活用、円安加速の懸念
政府が発表した「資産所得倍増プラン」によると、家計金融資産を貯蓄から投資に回すためにNISAやiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)の拡充・改革を目指すという。これが実現すれば約2000兆円と言われる個人資産が株式市場に向かうことになり、企業の投資意欲が高まり経済成長につながるイノベーションも起こりやすくなると期待されている。
NISA、1000万口座突破「フツーの個人」が株主に
そもそもNISAとは、株や投信への投資の利益に対する約2割の課税を免除することで「普通の個人」が投資を行いやすくする制度だ。特に投資未経験者や20〜40代の若年層による投資を促すことで、これまで貯蓄に回されてきた個人資産の有効活用と、その結果としての「資産所得倍増」を目指している。
棚上げの「金融所得課税強化」案が再浮上 NISA拡充と抱き合わせで
これまで「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3つに分かれていたNISA。このNISAを「簡素で分かりやすく、使い勝手のよい制度」にするため、政府は2023年度税制改正要望で、NISAの大幅拡充を打ち出している。具体的な内容は「制度の恒久化や非課税保有期間の無期限化」「つみたてNISAをベースにした制度への一本化」などだ。
高校の金融教育必修化、「生きる力」高めるきっかけに
岸田政権が掲げる資産所得倍増計画の2本目の柱は金融教育だ。NISAのような制度を有効活用するには、金融に対する十分なリテラシーを身に付ける必要がある。その一環として、22年度から高校の家庭科の授業で「投資や資産形成にまで踏み込んだ金融経済教育」が必修となった。
脱・リテラシー貧国へ 金融経済教育、銀行・証券の新たな使命
金融教育を担うのは教育機関ばかりではない。野村ホールディングス(HD)を筆頭に、証券会社や銀行なども子どもを対象とした講座開催や小中学校向けの出張授業などに取り組んでいる。とはいえ日本人の金融リテラシーは、米国などと比べて大きく遅れている。
「貯蓄から投資へ」を実現するため、顧客本位迫る
「貯蓄から投資へ」のシフトを実現するには、制度の拡充や国民の金融リテラシー向上だけでなく、金融事業者による取り組み強化も必要だ。金融庁は銀行や証券会社などに対して「7つの基本原則」を打ち出し、顧客の利益を第一に考える営業姿勢を強く求めている。
最後に
岸田政権は「貯蓄から投資へ」というスローガンの実現に向けて、国の制度(NISAの抜本的拡充)、国民の理解(金融教育)、金融事業者の努力(顧客本位の業務運営)という3つの取り組みに力を入れている。歴代政権の方針を引き継ぎ、「貯蓄から投資へ」による国民の資産所得所得倍増を達成することができるのか、政策実現への動きに注目していきたい。
●「徴用工の次は竹島」…尹政権に「独島請求書」突き付けた日本 3/30
日本政府当局者が、韓国の領土である独島(トクト)問題を韓日関係改善のためには必ず解決すべき「外交懸案」にするという意思を重ねて示している。尹錫悦(ユン・ソクヨル) 大統領が生半可な「降伏外交」で日本に弱点をさらけ出し、その余波が韓国にとって譲歩が不可能な独島にまで影響が及んでいる格好だ。
日本の内閣府のある幹部は29日、産経新聞のオンライン版記事に、「徴用工問題の次は竹島にも着手すべきだ。日韓関係改善に前向きな尹政権の(任期)うちに(この問題解決を)強く訴えていく必要がある」と述べた。木原誠二官房副長官も16日の韓日首脳会談直後に行った非公開ブリーフィングで、「岸田文雄首相は(会談で)日韓間の諸懸案についてもしっかり取り組んでいきたいという趣旨で述べた。この『諸懸案』の中に竹島の問題も含まれる」と述べた。 日本政府当局者が、韓日両国が解決すべき議題として、日本軍「慰安婦」合意や哨戒機脅威飛行(レーダー照射)だけでなく独島まで含まれるという認識を重ねて示しているわけだ。
日本政府がこのような「傍若無人な」態度を見せているのは、尹大統領が韓日関係改善と韓米日3カ国協力の強化を急ぐ過程で、日本に致命的な「弱点」をさらしたためとみられる。尹大統領が日本との関係改善を掲げて2018年10月の最高裁(大法院)判決の趣旨を自ら形骸化し、敏感な歴史問題に目をつぶる姿勢を見て、日本側は独島問題に対してもある程度譲歩が可能だと判断したものとみられる。
産経新聞は韓日が「真の信頼関係を構築していくためには(韓国も)竹島問題は無視できないはずだ」と強調した。同紙はさらに、内閣府幹部の発言を伝えたうえで、「ただ、首脳会談の議題にも上がらない現状では、事態は置き去りになる一方だ」とし、独島を外交議題にすることを強く求めた。
独島は韓国が実効支配をしているが、日本は「わが国固有の領土だ。韓国が不法占拠している」と主張し続けている。島根県は2005年「竹島の日」条例を制定し、毎年行事を行い、日本政府は2013年から政府関係者を派遣している。日本の安全保障政策を説明する『防衛白書』には2005年から、外交政策などが盛り込まれた『外交青書』には2012年から「竹島は日本の領土」という主張が明示されている。日本の小中高のすべての教科書にも独島に対する不当な主張が載っている。
にもかかわらず、日本は韓国の実効支配を「変更」しようとしなかった。唯一の例外は2012年8月、李明博(イ・ミョンバク)大統領が独島を訪問した後、国際司法裁判所(ICJ)への提訴というカードを検討すると明らかにしたことだった。
しかし、尹大統領の「降伏外交」以後、状況は急速に変わる見通しだ。韓国が拒否するとしても、5月の広島主要7カ国首脳会議(G7サミット)などで岸田首相が一方的に独島問題を持ち出すものと予想される。もちろん、独島問題をICJなどで解決するためには、韓国政府の同意が必要であり、日本が単独で現在の状況を覆すことは不可能だ。ただ、これまであえて言及することもできなかった独島問題が首脳会談のテーブルに上がるようになっただけでも、日本外交の「驚くべき勝利」と言えるかもしれない。  
●岸田首相自ら和解を仲介 林外相・世耕氏と会食 3/30
岸田文雄首相は30日夜、東京都内の日本料理店で林芳正外相と自民党の世耕弘成参院幹事長を招いて会食した。世耕氏が林氏の20カ国・地域(G20)外相会合欠席の経緯をめぐって外務省に苦言を呈し、わだかまりが生じたため、首相が仲介に乗り出した。統一地方選を控え、早期の衆院解散論もささやかれる中、政権運営の安定化を図った。
首相は会食で、令和5年度予算成立への参院自民の尽力に謝意を伝達。4月の統一選と衆参5選挙区補欠選挙や、5月の広島市での先進7カ国首脳会議(G7サミット)などについて意見交換したとみられる。自民の関口昌一参院議員会長も同席した。
3月上旬、インドでG20外相会合が開催されたが、林氏は予算の参院審議と重なったため欠席した。世耕氏は外務省から事前に十分な説明がなかったと主張し、政府内からは反発の声が出ていた。
和解を演出した首相について、自民幹部は「党内への目配りと結束をかなり意識している」と語る。30日午後には、自身と距離を置く「非主流派」の菅義偉前首相の国会事務所を訪ね、約20分間、政策課題について報告、意見交換した。
●少子化たたき台、31日に発表 児童手当の所得制限撤廃 政府 3/30
政府は31日、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の具体案となる「たたき台」を発表する。
児童手当の拡充に向け、所得制限の撤廃や支給対象年齢の延長を明記。出産費用を将来的に公的医療保険の適用対象とする方向性も打ち出す。
たたき台では、児童手当の所得制限を撤廃し、全ての子どもに支給する。対象年齢は現在の中学生から高校生に拡大。子どもの多い世帯への増額方針も示す。
出産を巡っては、現行の「出産育児一時金」が4月から50万円に引き上げられる。ただ、首都圏などでは費用が高騰し、全額を賄えないケースもあるため、保険適用を通じた一層の負担軽減を検討する。
新婚・子育て世代に対する住宅支援を強化。育児休業給付も拡充する。
一方、たたき台では政策の裏付けとなる財源の在り方には踏み込まない。首相はこれまで、6月にまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で、子ども・子育て予算「倍増」の大枠を示すと説明。政府は4月以降、首相をトップとする会議を新設し、財源論を本格化させる。 
●岸田首相 イスラム諸国との連携強化を強調 駐日大使らと食事会  3/30
岸田総理大臣は30日夜、総理大臣公邸でイスラム諸国の駐日大使らを招いて食事会を開き、国際社会を分断と対立ではなく、協調に導くことが求められているとして、イスラム諸国との連携を強化していく考えを強調しました。
イスラム教では、ことしは3月下旬からおよそ1か月間が「ラマダン」と呼ばれる断食の月になっていて、日中は一切食事をとらず、日没後に「イフタール」という断食明けの食事をとる習慣があります。
こうした中、岸田総理大臣は30日夜、総理大臣公邸にイスラム諸国の駐日大使らを招いて「イフタール」の食事会を開きました。
岸田総理大臣は「新型コロナのパンデミックや、ロシアによるウクライナ侵略を経験した国際社会は歴史的な転換点にある。今こそ、国際社会を分断と対立ではなく、協調に導くことが求められている」と述べました。
そのうえで、「日本とイスラム諸国が共有する『和』や『寛容』を重視する精神がこれまで以上に重要になっている。イスラム諸国との連携を強化する取り組みを進めていく」と強調しました。
●岸田首相 菅前首相と少子化対策や日韓関係などめぐり意見交換  3/30
岸田総理大臣は30日午後、菅前総理大臣と会談し、菅氏が主張している出産費用の保険適用の導入を含めた少子化対策や、日韓関係などをめぐって意見を交わしました。
岸田総理大臣は30日午後、議員会館にある菅前総理大臣の事務所を訪れ、およそ20分間、会談しました。
この中で、岸田総理大臣は、少子化対策の強化に向けた、たたき台を31日にまとめることを説明し、菅氏が主張している出産費用の保険適用の導入について、「いいアイデアをいただいた」と述べました。
また、菅氏が超党派の国会議員でつくる「日韓議員連盟」や、日本とインドとの友好親善を目指す「日印協会」の会長に就任したことを報告したのに対し、岸田総理大臣は「しっかりお願いします」と応じました。
さらに会談では、岸田総理大臣のウクライナ訪問も話題になったということです。
このあと岸田総理大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し「新年度予算も通ったので、最近の外交や政策課題について報告し、意見交換を行った。基本的に近況報告だ」と述べました。
両氏の会談は2月6日以来、およそ2か月ぶりです。
●新資本主義「G7で議論」 岸田首相 3/30
政府は30日、首相官邸で経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)を開き、岸田首相の看板政策「新しい資本主義」について議論した。
首相は、5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)で「新しい資本主義の重要性や国際的な連携の必要性について議論を進める」との方針を示した。
諮問会議では新しい資本主義の柱である「成長と分配の好循環」を巡り、民間議員が1人当たり実質GDP(国内総生産)や所得分布の偏りなど複数の指標で評価するよう提言。首相は議論を進めるよう求めた。議論は6月にまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に反映される。 
●岸田首相、黒田日銀総裁に謝意「デフレ脱却に尽力」 3/30
岸田文雄首相は30日、官邸で開かれた経済財政諮問会議で、4月8日に任期満了を迎える日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁に対し「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向けたご尽力に心から感謝申し上げる」と述べた。黒田氏の経済財政諮問会議出席はこの日が最後になるとみられ、首相は謝意を示した形だ。
●原発延長法案、審議入り 60年超運転可能に―岸田首相 3/30
既存原発の「60年超」運転を事実上可能にする「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」は30日、衆院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。東京電力福島第1原発事故後に「最長60年」と定めた運転期間ルールを見直し、最大限の原子力活用にかじを切る。本会議で岸田文雄首相は「脱炭素とエネルギー安定供給、経済成長の三つをバランスよく実現する」と狙いを説明した。
法案は、電気事業法と原子炉等規制法、原子力基本法など5本の改正案を一本化した「束ね法案」。既存原発は現行ルールを基本としつつ、安全審査などに伴う停止期間を算入しないことで事実上「60年超」運転を可能にする。
運転開始30年以降は、10年以内ごとに原子力規制委員会の審査・認可を受ける仕組みも導入。首相は「規制委が厳格に審査し、適合しなければ運転は一切認めない大前提は変わらない」と理解を求めた。

 

●日本のコロナ支援縮小を=財政悪化にくぎ―IMF見解 3/31
国際通貨基金(IMF)は31日、対日審査に関する理事会の見解を公表した。理事会は新型コロナウイルス関連支援策を縮小し、低所得世帯などを対象に「より的を絞った財政支援」をすべきだと提言。悪化する日本の財政状況に改めてくぎを刺した。
最近の金融市場について、理事会は「金利リスクと信用リスクが高まっている」と指摘。その上で「注意深く監視する必要がある」と強調した。IMFは日本の実質成長率について、2022年を1.1%(従来予想は1.4%)、23年は1.3%(同1.8%)に下方修正。一方、24年は1.0%(同0.9%)に上方修正した。 
●日本が抱える金融問題  3/31
米欧に燻る金融不安だが、日本の金融システムは相対的に健全と言える。ただし、日本には別種の不良債権予備軍が存在するのではないか。それは、新型コロナ禍の下で実施された「ゼロゼロ融資」だ。無担保、当初は無利子で実行され、総額42兆2千億円程度と見られる。これは、金融システムの問題ではなく、産業の新陳代謝を阻害し、生産性を悪化させる要因だろう。
ゼロゼロ融資:官民合わせて42兆2千億円
新型コロナ感染第1波に見舞われた2020年3月、政府は日本政策金融公庫(日本公庫)、商工組合中央金庫(商工中金)など政府系金融機関を通じ、売上が急減した中小企業、個人事業主を対象に無担保、当初3年間は実質無利子の『新型コロナ対応特別融資』、所謂「ゼロゼロ融資を開始した。2022年9月の申込期限までに、日本公庫16兆1千億円、商工中金2兆7千億円、計18兆8千億円が実施されている。
さらに、同年5月から信用保証協会による保証を付けた民間金融機関によるゼロゼロ融資が導入された。当初、限度額は3千万円に設定されていたが、最終的には6千万円へと広げられ、2020年度の信用保証協会による保証承諾件数は前年度比189.9%増加、最終的に23兆4千億円の貸出が実施されたのである。結果として、2019年度末に20兆8千億円だった信用保証協会による保証債務残高は、2020年度末に42兆円へと増加した(図表1)。
官民合わせて42兆2千億円に達したゼロゼロ融資は、従業員の休業補償を行ってきた雇用調整助成金と共に、新型コロナ禍の下での事業者の破綻、従業員の解雇を抑制し、社会の安定に寄与したことは間違いない。ただし、間もなく金利負担ゼロの期間が終わり、利払いが本格化する。また、民間金融機関の場合、元本の据え置き期間を3年とした契約が少なくないようだ。結果として、返済開始は2023年7月から2024年4月に集中すると見られる。
昨年12月23日、経産省は「新型コロナウイルス感染症の影響の下で債務が増大した中小企業者の収益力改善等を支援するため」、『民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための補償制度(コロナ借換保証)』の開始を発表した。売上の減少などを条件として、限度額1億円、期間10年以内、元本据え置き期間5年、最大100%保証により借り換えできる設計になっている。それだけ、ゼロゼロ融資による反動のインパクトを岸田政権は懸念しているのだろう。
将来に禍根を残す2つのリスク:産業の新陳代謝阻害と重い財政負担
コロナ借換保証により、中小零細事業者の相次ぐ破綻は避けられそうだ。しかし、日々の資金繰りが行き詰り、最大で6千万円を借り入れた事業者に対し、1億円を限度に借り換えに応じるのは、結局のところ債務を膨らませるだけの結果になりかねない。これは2つの点で将来に禍根を残すだろう。
1つ目の問題は、産業の新陳代謝の遅れだ。OECD加盟国の場合、開業率は廃業率に比例する(図表2)。事業の継続性に疑問のある事業者に対し金融面での救済策を続ければ、社会の安定には資する一方で、結局のところヒト、モノ、カネの適正配分が滞り、国際競争力を削がれる可能性が強い。
2つ目の問題は財政への影響だ。融資先の事業者が破綻しても、民間金融機関のダメージは軽微である。信用保証協会を通じて、財政が返済を担保しているからだ。しかしながら、これは財政にとって実質的な隠れ偶発債務と言え、将来、重い負担となる可能性は否定できない。
●イェール大学名誉教授「なぜ日本銀行新総裁に、植田和男氏が適任なのか」 3/31
アカデミア出身の総裁は世界の常識
次期日銀総裁に植田和男氏が起用される見通しだ。日銀総裁は長らく日本銀行や財務省(旧大蔵省)出身者が務めてきた。もし実現すれば、戦後では初めて経済学者出身の総裁が金融政策の舵取りを担うことになる。
世界に目を転じれば、FRB(米連邦準備制度理事会)で議長を務めたベン・バーナンキやジャネット・イエレン、ECB(欧州中央銀行)前総裁のマリオ・ドラギもアカデミア出身だ。バーナンキとドラギはマサチューセッツ工科大学(MIT)大学院で博士号を取得しており、植田氏と同じである。植田氏の総裁就任は世界の潮流に沿ったものである。
私が東京大学経済学部で助教授をしていた1974年に、植田氏が理学部数学科から経済学部へ学士入学してきた。当時の経済学部には数理経済学の宇沢弘文教授がおり、「宇沢先生のお弟子さん」として知り合ったと記憶している。
そのとき、外貨準備の決定要因に関する研究をしていて、確率の定常過程を調べる必要があった。そこで数学科出身の植田氏に聞いたところ、短時間にすっきりと解いてくれたのに感心した。同論文は彼との共著で英国を代表する学術誌に掲載された。
熟考して出した結論は、妥協せずに貫く
学者と言っても、植田氏は机上の論に終始するタイプではない。85年から旧大蔵省の財政金融研究所の主任研究官を経験し、98年から日本銀行政策委員会審議委員を7年間務めた。数学から経済学へ転じて世界一流の教育を受け、実務でも研鑽(けんさん)を積んだ稀有な人材といえる。
彼の印象は、ずっと「ソフト・スポークンな人あたりのよい人」であるが、信念を曲げない強さもある。2000年8月の金融政策決定会合の議事録を読むと、ゼロ金利政策を終了するか否かが検討された議論で、速水(はやみ)優(まさる)総裁(当時)が伝統的なプラス金利に戻す提案を行い、植田氏は中原伸之氏と反対票を投じている。
会合の終盤、全員一致での決定を目指した藤原作弥副総裁が「お考えを少し微修正していただけるなら非常にありがたい」と翻意を働きかけるも、植田氏は「是非賛成してくださいというだけでは変えられない」と突っぱねている。熟考して出した結論は、妥協せずに貫く。この姿勢から、私は植田氏が総裁として大事な資質を備えていると考える。
日本は戦後、円安とインフレ気味の経済で「奇跡の成長」を遂げた。だが85年の「プラザ合意」で円高基調への転換を呑まされ、円高不況に対する懸念から一時は低金利政策を導入した結果、土地・株式のバブルを招いた。
これに懲りて、三重野(みえの)康(やすし)総裁(89年12月〜94年12月)は「平成の鬼平(おにへい)」と言われるように金融引き締めに転じ、以降、速水総裁(98年3月〜03年3月)、白川方明(まさあき)総裁(08年4月〜13年3月)と、歴代の総裁はほぼ一貫して引き締め基調で円高を志向した。それが行きすぎて90年以降の日本経済は成長を止めてしまった。
例外は福井俊彦総裁(03年3月〜08年3月)で、就任直後から量的緩和策を積極的に進めた。円安を追い風に日本経済は回復に向かったものの、任期の半ば06年3月に緩和政策を解除してしまい、デフレを脱却することはできなかった。
08年9月にリーマン・ショックが起こり、これに対処するため各国の中央銀行は大規模な通貨供給を始めた。だが当時白川総裁下の日銀は、日本が金融危機でなかったこともあり十分に金融緩和せず、極端な円高を進行させてしまった。輸出企業は競争力を失い、生産拠点を海外につくるなどして対処したため、国内雇用も低迷。生産性も停滞した。
この悪循環を変えたのが黒田東彦(はるひこ)総裁(13年3月〜)だ。異次元の金融緩和政策を導入し、それまでの極端な円高を正常に戻した。アベノミクスの一環として、19年半ば、コロナ禍の前までで約500万人の雇用を生んだのである。
植田日銀の最初の壁とは
しかし、黒田総裁の円安誘導は、ゼロ金利、マイナス金利が世界に浸透していくと、次第に効果が頭打ちになってきていた。世界各国もゼロ金利になって、金融だけでは円安誘導ができなくなったからだ。窮余の策として、16年9月に日銀はYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)導入を決定した。伝統的には、金融政策は短期金利の操作で行い、長期金利は自然な動きに任せる。それに対して、YCCは10年物国債の金利の変動許容幅に収まるように国債を買い入れ、短期から長期までの金利体系全体の動きをコントロールしようとするものである。
21年以降はコロナ禍への対策、22年以後はウクライナ侵攻の対ロシア制裁のため、世界中でインフレが起こり、欧米ではインフレを高い短期金利で制御しようとした。日本の長期国債金利をゼロ近くに固定するような政策のもとでは短期金利も上がらないので、ドル高円安が進んでいく。長期の量的政策を変えると、為替レートは極端な乱高下(オーバーシューティング)が起こるという、植田氏のMITでの師であるルディガー・ドーンブッシュの理論に類することが現実に起こっているのだ。
22年以降、円が下落し、今は消費者物価で比較しても、生産者物価で比較しても円は安すぎる状態だ。しかし、円安を是正しようとして、金利を急に上げると、債券価格が大幅に下落して国債や社債などの債券保有者がやけどする可能性がある。「金融正常化のためには金利を上げたいが、債券保有者の急激な損失も避けたい」というのが、新日銀の置かれたジレンマである。
なお円安になると、貿易収支は一時的に悪化する。しかし、やがて価格競争力が増して輸出が増加し、徐々に改善に向かう。そのため円安が景気に反映するまでには約2年を要するというのがJカーブ効果である。
現在の円安は22年3月に始まったが、「円安のポジティブな効果が表れるまでYCCを維持すれば、そのうち米国の急激なインフレも収まって金利も下がり、現在の過剰なドル高円安は是正されるだろう」というのが、おそらく黒田総裁の戦略と思われる。好意的にみれば、「日本経済は1995年からアベノミクスの開始まで、20年以上も円高で苦労した。今回の円安の利益が出るまで2、3年は待たしてもらってもよいのではないか」ということになる。
2月24日、植田和男氏に対する所信聴取と質疑が衆議院議院運営委員会で行われた。そこでは金融緩和について「さまざまな副作用が生じているが、経済・物価情勢を踏まえると、2%の物価安定目標の実現にとって必要かつ適切な手法であると思う」と発言し、黒田総裁の路線を継承する立場であることを示した。
植田氏は日本経済を不況から救った黒田総裁の基本路線を進むと思われる。そんな植田氏を指名した岸田政権の基本方針は正しい。現在の長短金利操作と、欧米の高金利との間の調整は依然として残る。植田氏は経済理論と計量モデルに精通している。ゆえに、経済メカニズムに忠実でありながら、しかも政策変更の影響を受ける市場関係者のことも考慮しつつ、緩やかに調整していく道を選ぶだろう。
●日本は先進国で唯一「経済の心肺停止状態」にある!給料が上がらない理由 3/31
デフレは、資本主義の死
貨幣の不足によって経済全体が貧しくなる不健全な経済状態とは、デフレ(デフレーション)のことです。
デフレとは、一般的には、一定期間にわたって、物価が持続的に下落する現象のことを言います。その反対に、物価が持続的に上昇する現象は、インフレ(インフレーション)と呼ばれます。
デフレは、どうして起きるのでしょうか。それは、経済全体の需要(消費と投資)が、供給に比べて少ない状態が続くからです。「需要不足/供給過剰」が、デフレを引き起こします。
デフレとは、需要が不足すること、つまりモノが売れない状態です。
モノが売れない状態が続けば、どうなるか。
企業は赤字が続き、最悪の場合は倒産してしまうでしょう。労働者は賃金が下がり、最悪の場合は失業してしまうでしょう。
企業は赤字が続いたり、倒産したりすれば、「投資」をしなくなります。労働者は賃金が下がったり、収入がなくなったりすれば、「消費」をしなくなります。
投資と消費とは「需要」です。デフレで企業が苦しくなり、労働者が貧しくなれば、需要はさらに縮小し、デフレは続きます。
このデフレの悪循環について、別の言い方をすると、次のようになります。
デフレとは、物価が継続的に下落することですから、裏を返すと、貨幣の価値が継続的に上昇するということです。
デフレとは、貨幣の価値が上がっていく現象なのです。
さて、貨幣の価値が上がっていくならば、人々は、モノよりもカネを欲しがるようになるでしょう。つまり、支出よりも貯蓄を選ぶということです。
また、大金持ちはともかく、普通の消費者は、住宅や自動車のような大型の消費をする場合には、ローンを組むでしょう。
企業もまた、大型の投資をするにあたっては、銀行から借入れをします。
しかし、デフレで貨幣価値が上がっていく中で、債務を負うと、どうなるでしょうか。貨幣価値が上がるということは、借金は、借りた時よりも返す時のほうが実質的に膨(ふく)らんでいるということになります。
このため、デフレになると、誰も銀行から融資を受けなくなります。その反対に、債務が膨らむのを恐れて、返済を急ぐようになります。
デフレになると、経済はどうなるか
さて、資本主義とは、どういう経済システムであったのかを思い出してみましょう。
資本主義とは、民間銀行が企業への貸出しによって貨幣を創造し、企業がその貨幣を使って事業を行い、支出によって貨幣を供給します。貨幣は、経済の中を循環して、生産活動や商業活動を活発にします。
企業が支出をするから、それを受け取る他の企業が利益を増やし、従業員の所得が増えるのです。こうして、経済は成長していきます。
そして、この貨幣循環の出発点には、企業の需要がありました。企業の需要があるから、貨幣が生み出され、経済の中を循環して、経済全体を豊かにするのです。
ところが、デフレになると、どうなるでしょうか。
デフレの原因とは、需要不足です。つまり、企業の需要がない状態です。
企業の需要がなければ、民間銀行は貸出し(=貨幣の創造)ができません。貨幣が創造されなければ、企業は支出できず、従業員の給料も増えません。それでは、経済は成長するどころか、縮小していくしかないでしょう。
問題は、民間銀行の貸出しができなくなることだけではありません。
デフレで債務が実質的に膨らむことを恐れる企業は、銀行への返済を急ぎます。つまり、貨幣の破壊を急ぐということです。
貨幣の創造が行なわれず、貨幣の破壊だけが進む。これが、デフレです。
民間部門の貨幣循環を水道にたとえると、蛇口から水が流れてこないまま、排水管から水が排出されるだけになり、水槽の水が枯渇するというような状態です(【図表】参照)。
   【図表】民間部門の貨幣循環
つまり、デフレとは、貨幣循環を止め、貨幣を破壊していく恐ろしい現象なのです。
資本主義の心臓は、民間銀行による信用創造でした。
しかし、デフレになると、民間銀行の信用創造機能が停止します。要するに、資本主義が心肺停止状態に陥るということです。
戦前の世界では、たとえば1930年代の世界恐慌に見られるように、このデフレという現象がたびたび引き起こされました。資本主義が未熟だったからです。
しかし、戦後の先進資本主義諸国は、世界恐慌の反省も踏まえて、デフレだけは回避しようと努めてきました。このため、戦後の先進資本主義諸国は、インフレにはなったことはあっても、デフレになることはありませんでした。
ところが戦後、唯一、日本だけが、1998年にデフレに陥り、しかもそれから20年以上も、デフレから抜け出すことができなくなりました。つまり、日本の資本主義は、20年以上も、心肺停止状態に陥っていたわけです。
日本では、過去20年以上にわたって、金利は超低水準が続き、ほとんどゼロになりましたが、それでも銀行は貸出し先を見つけられないでいます。それを、日本の銀行の経営センスが乏しいせいにする人がいます。しかし、そうではなくて、デフレで企業の需要がないのだから、貸出しなど不可能なのです。
また、過去20年以上にわたって、日本企業は、内部留保(貯蓄)ばかり積み上げて、大きな事業や革新的な事業をしようとはしてきませんでした。それを、日本の企業のチャレンジ精神不足のせいにする人が後を絶ちません。しかし、そうではなくて、デフレで貨幣価値が上がっている以上、内部留保を貯め込むほうが経済合理的なのだから、仕方がないのです。
そして、過去20年以上にわたって、日本の賃金水準は停滞・下落し続けてきました。それを、たとえば、労働者のITスキルの低さや雇用の流動性の低さのせいにするのが流行っています。しかし、そうではなくて、デフレで企業が貨幣を支出できないのだから、労働者の給料が上がるはずがないのです。
日本経済がなぜ成長しなくなったのか。
もう説明するまでもないでしょう。
日本経済は、デフレを放置したために、資本主義の仕組みが機能しなくなってしまったのです。
●岸田首相「外国人旅行者の国内需要20兆円」 観光立国推進基本計画  3/31
政府は、31日の閣議で、新たな観光立国推進基本計画を決定した。
岸田首相は、関係閣僚を集めた会議で、外国人旅行者の国内需要5兆円、1人当たりの旅行消費額20万円、地方での宿泊数2泊を目指す方針を表明した。
新たな基本計画は、「観光はコロナ禍を経ても、成長戦略の柱、地域活性化の切り札」と指摘した。
その上で、「持続可能な観光」、「消費拡大」、「地方誘客促進」をキーワードに、「全国津々浦々に観光の恩恵をいきわたらせる」としている。
訪日外国人1人当たりの旅行消費額は、コロナ前の2019年実績の15万9千円から、2025年に、25%増の20万円にすることを目指す。
また、外国人の旅行消費額の総額は、2019年の4兆8千億円から、2025年に6兆円超にすることを目指すが、早期に達成する目標として、5兆円を掲げた。
地方での外国人旅行者の1人当たりの宿泊数は、1・4泊から、2025年に2泊に増やすことを目指す。
訪日外国人旅行者数は、2025年に、2019年実績の3千188万人を超えることが目標。
一方、国内の旅行消費額については、21兆9千億円から、2025年に22兆円にすることを目標とした。
岸田首相は閣僚会議で、「観光が地域の社会経済に好循環を生む持続可能な観光地域作りを全国各地で推進し、持続可能な経済社会を作り上げる」と強調し、「新たな計画に基づき、政府一体、官民一丸となって取り組んでほしい」と各閣僚に指示した。  
●岸田首相、英国のTPP加盟決定「歓迎」 コメ輸出に期待 3/31
岸田文雄首相は31日、環太平洋経済連携協定(TPP)への英国の加盟合意を「歓迎する」と述べた。「アジア太平洋地域にとどまらず自由で公正な経済秩序を構成していく意味で大きな意義がある」と強調した。
首相官邸で記者団の質問に答えた。英国向けのコメ輸出にかかる関税の撤廃に関して「世界的な和食ブームの中で重点品目の一つであるコメなどの輸出に一層弾みがつくのではないか」と期待を示した。
●少子化対策 岸田首相を議長に新会議 内容や財源など具体化へ  3/31
少子化対策の強化をめぐり、岸田総理大臣は、政府のたたき台をもとに施策の内容や財源などを6月までにより具体化するため、みずからを議長に有識者なども交えた会議を新たに設置して検討していく考えを明らかにしました。
少子化対策の強化に向けた政府のたたき台がまとまったことを受けて、岸田総理大臣は、31日夜、総理大臣官邸で記者団の取材に応じました。
この中で、岸田総理大臣は「先ほど小倉少子化担当大臣から、子ども・子育て政策のたたき台について報告を受けた。必要な政策の内容、予算、財源を与党と連携しながら議論を深めていきたい」と述べました。
そのうえで「全世代型社会保障構築本部のもとに、私を議長として関係閣僚、有識者、子育ての当事者などの参画を求め、『こども未来戦略会議』という会議体を立ち上げる。この体制のもとで検討を進め、6月の『骨太の方針』までに将来的な子ども・子育て予算の倍増の大枠を示していきたい」と述べました。
●岸田総理 少子化対策で「こども未来戦略会議」の立ち上げ表明 3/31
「異次元の少子化対策」の「たたき台」を発表したことを受け、岸田総理大臣は「こども未来戦略会議」を立ち上げることを表明しました。
岸田総理を議長に、関係閣僚や有識者、子育ての当事者や関係者をメンバーとして、将来的なこども・子育て予算の倍増の大枠について検討を進め、6月に予定される「骨太の方針」の閣議決定までに示すとしています。
●EU首脳、キーウ訪問歓迎 岸田首相と電話会談 3/31
岸田文雄首相は31日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長と約25分間、電話会談した。
両首脳は、ロシアが侵攻を続けるウクライナやインド太平洋地域の情勢について意見交換。引き続き緊密な意思疎通を図る方針で一致した。フォンデアライエン氏は、首相のウクライナの首都キーウ(キエフ)訪問について「必要かつ重要なものだった。国際社会への力強いメッセージとなった」と歓迎した。   

 

●次期「将来人口推計」の憂鬱  4/1
来年2024年は5年に1度の財政検証が行われる年である。財政検証とは公的年金の給付水準や財政状況が長期にわたってどう推移していくのかを確認するもので、厚生労働省が5年ごとに実施している。私たち人間に例えれば、健康診断にあたるものといえる。
この財政検証を行うにあたって、国立社会保障・人口問題研究所が作成・公表する「将来人口推計」という人口推計はなくてはならない基礎的なデータである。
日本は国民皆年金であるため、国民年金や厚生年金に加入する被保険者数は将来の人口動向に大きく左右される。そのうち厚生年金の被保険者数は、労働力人口の影響を大きく受ける。
そこで、2019年に行われた「財政検証」では、被保険者数については、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2017年推計)(以下、「将来人口推計」)、労働力率の見通しについては、独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計」(2019年3月)を用いて将来の動向を推計し、将来の加入制度・性・年齢別の被保険者数を算出している。
また、「労働力需給の推計」や賃金上昇率、物価上昇率、運用利回りなどの経済前提についてもこの「将来人口推計」を用いて推計が行われている。
このように、将来私たちが負担する保険料率や、貰える年金額、マクロ経済スライド等の将来動向を考えるうえで、「将来人口推計」は最も重要な基礎資料だと言える。
この「将来人口推計」は、総務省統計局が5年に1度行う「国勢調査」の確定数が公表されたあと、日本の将来の人口規模ならびに男女・年齢構成の推移について推計を行うものである。
また、国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計とは−その役割と仕組み−」によれば、
・少子化等の人口動向について、客観性・中立性を確保するため、観測された人口学的データ(出生・死亡・人口移動など)の過去から現在に至る傾向・趨勢を将来に投影し、その帰結としての人口の姿を科学的に描いたもの。
・未来を当てる予言・予測を目的としたものではない。
とされている。
これまで大体「国勢調査」が行われた2年後までには公表されている。
直近の「国勢調査」は2020年に行われたため、「将来人口推計」は2022年中に公表されてもよかったものの、2020年はコロナ禍でもあったためか公表はやや遅れており、2023年前半には公表される予定とされている。
ところで、出生数の実績値と将来人口推計(各年版)の比較によれば、
1. 中位推計で見れば1992年・1997年・2002年の各推計は超楽観的(上振れ)
2. 中位推計で見れば2006年・2012年の各推計は(超)悲観的(下振れ)
3. 2002年推計までは低位推計の方が玄逸の動きに近い動きを示していた
4. 2006年推計以降、中位・高位・低位いずれの推計も現実の動きから乖離していて、将来を考えるうえであまり意味をなしていない
5. 2017年推計は2019年(この年はコロナ前)以降実績値が将来人口推計から下方に大きく下振れしている
という特徴があることが分かる。
   図1 出生数の実績値と将来人口推計の予測値の推移
近年の将来人口推計は、中位・高位・低位のいずれの推計も現実の動きと合わなくなってしまっているという事実はさておき、次期将来人口推計における出生の発射台(基準点)をどう設定するかについては、やはり大きな問題であることは確かであろう。
つまり、2019年以降の大きな落ち込みを新トレンドとみなすのか、それとも、2019年を一時的な落ち込み、2020〜2022年をコロナによる異常値とみなすのか、である。
現状では、コロナが明けて婚姻数も戻ってきていることを考えると(婚姻後平均2.5年程度(2020年2.47年)で第一子誕生)、2024年以降、出生のリバウンドも十分考えられるところであり、なかなか悩ましい問題である。
一部識者は4月に統一地方選を控え都合の悪い情報は出したくないという政治的な思惑もあるのでは?としているが、単純にこうした技術的な問題も公表が遅れている原因の一つなのかもしれない。
また、今年1月に突如として岸田文雄首相により表明された「異次元の少子化対策」の効果は盛り込まなくてもよいのか?という問題もある。もっとも、政策効果は、「将来人口推計」は予測ではなく投影(projection)とされていることもあり、盛り込まれることは公式にはなさそうではある。
   図2 将来人口推計と社会経済要因や政策効果との関係
なお、社人研の資料によると、次の将来人口推計における出生の仮定設定に関する考え方は、足元の出生数の落ち込みは、コロナという例外的な外的ショックによる変動との理解のもと、
・今回の将来投影は、新型コロナ前の2019年までのデータを使う。
・2020〜2022年に観察されている、婚姻・出生の落ち込みとその影響は別途見込み、仮定値に反映させる。
としている。
つまり、社人研のような理解に立てば、この場合、2019年の落ち込みは異常値ではなく正常の範囲内として推計に際して考慮されることになる。そして2019年の前年からの出生数の減少は5.3万人と、1990年以降では最大の減少数なので、今後の少子化の加速は不可避となるだろう。
そして少子化が加速するとなれば、当然、年金制度の持続可能性についてもマイナスの影響を与えるので、年金額の削減か、場合によっては保険料の引き上げを検討せざるを得なくなるだろう。
年金問題は、「年金記録問題(消えた年金)」「老後資金2000万円不足問題」など、選挙結果に大きな影響を与えてきた。特に、2007年に発覚した「消えた年金」問題はその後の政権交代につながった遠因でもある。
2019年の出生数の大幅な落ち込みを見れば、今般の新型コロナ禍がなくても少子化は加速していたに違いない。
「将来人口推計」と「財政検証」は次の国政選挙にとっての大きな山となるだろう。
●野党「どこが異次元か」 財源・実現性を疑問視―少子化たたき台 4/1
政府がまとめた「異次元の少子化対策」のたたき台について、野党からは31日、財源の裏付けや実現までの道筋が不明確だといった批判が相次いだ。「どこが異次元なのか」(立憲民主党の長妻昭政調会長)との厳しい声も出た。
立民の泉健太代表は記者会見で「いつどうやって、というところが抜けている。(予算)倍増の基準が明らかでなく、開始時期が示されていない」と批判。長妻氏も会見で「非常に肩すかし。選挙の直前にどうしても出さないといけなかったのだろう」と皮肉った。
日本維新の会顧問の松井一郎大阪市長は、記者団に「財源の具体的な説明をどうするかだ」と課題を指摘。「赤字国債をバンバン発行したら、どこかで誰かが償還することになる」として子どもたちへの付け回しになるとの認識を示し、行政改革などで財源を賄うよう求めた。
共産党の田村智子政策委員長は会見で「異次元と言うにはかなりお粗末な中身」と酷評。たたき台に盛り込まれた奨学金制度の拡充に関し、「あまりに重い教育費負担をどうするかが求められている。借金をさせず、借金を減らす策に踏み出さなければならない」と切り捨てた。
一方、自民党の世耕弘成参院幹事長は会見で「今回のメニューを中心に網羅的にバランスを取って行っていくことが重要だ」と強調。公明党の山口那津男代表は街頭演説で「公明党が訴えてきたものが全て盛り込まれることになった」と党の貢献をアピールした。
●岸田首相、福島・富岡町を視察 復興拠点の避難指示解除で式典出席へ 4/1
岸田文雄首相は1日、東日本大震災後の復興状況を確認するため、福島県富岡町を視察した。東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域のうち、同町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除に伴う、「夜の森地区」での式典に出席する。
夜の森地区は富岡町の桜の名所として知られる。首相は道を覆うように咲く「桜のトンネル」を訪ね、見頃を迎えた桜を町の関係者らと観賞する予定だ。
富岡町訪問に先立ち、震災復興に向け設立される「福島国際研究教育機構」(福島県浪江町)の開所式に出席した。
●岸田首相まるで“愉快犯”…与党重鎮と面会立て続け「解散」におわせ政界翻弄 4/1
政界は早期解散論に翻弄されている。
2023年度予算が参院本会議で成立した3月28日には、「岸田首相は予算関連法案が仕上がる31日に衆議院を解散するつもりだ」という“怪文書”が一斉に出回った。4月23日の統一地方選&衆参5補選に投開票日をぶつけるプランだ。
この怪文書は瞬く間に政界関係者に拡散。予算成立後、各会派へあいさつ回りをした岸田首相に対し、「31日解散」を警戒する公明党の山口代表が「いよいよ統一選ですね。解散じゃありませんよね?」と確認する場面もあった。
岸田首相は「ああ、いやあ、統一地方選挙ですね」と苦笑いで、さすがに、3月31日の解散はなかったが、一度吹き始めた解散風は簡単にはやみそうにない。
「総理のあいさつ回りの際に、山口代表がわざわざメディアの前でクギを刺したのは、近く解散する可能性がかなり高いとみているからでしょう。翌29日の昼には、あらためて自公トップが公邸で昼食を共にしたため、『解散の伝達か』との臆測も流れました。何事もなく3月31日が過ぎてホッとしています」(公明党関係者)
そういう政界の反応を楽しむかのように、岸田首相は思わせぶりな行動を続ける。
30日は、16時27分に菅前首相の議員会館事務所を訪れ、17時37分に官邸で麻生副総裁と会い、18時50分からは関口参院議員会長、世耕参院幹事長と都内のホテルで会食。党内の重鎮と立て続けに会ったのだ。
「麻生さんがわざわざ官邸に出向くのも珍しい。この一連の動静を見れば、総理は本当に31日に解散するつもりだと感じてしまう。あえて解散風をあおる愉快犯みたいなものかもしれません。おそらく、岸田総理は今、権力の絶頂を味わっている。みなが総理の一挙手一投足を注視して、何かあれば『すわ解散か』と色めき立つのだから、面白くて仕方ないのではないか。本会議や委員会でも上機嫌で、やけに楽しそうですよ。調子に乗り過ぎて、足をすくわれないか心配になるほどです」(自民党の閣僚経験者)
懸案だったウクライナ訪問を実現し、支持率は上昇。5月のG7広島サミットを成功させたら、岸田首相は今国会の会期末までに解散・総選挙に打って出るとみられている。それまで岸田首相の言動ひとつで右往左往の状況が続くのか。愉快犯に日本中が振り回されている。
●岸田首相、6月上旬めどに「2024年問題」への対策取りまとめを指示 4/1
政府は3月31日、トラックドライバーの長時間労働規制が強化され、物流現場の混乱が懸念されている「2024年問題」への対応を協議する「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」の初会合を開いた。
席上、岸田文雄首相は「物流政策を担う国土交通省と、荷主を所管する経済産業省、農林水産省などの関係省庁で一層緊密に連携して、わが国の物流の革新に向け、政府一丸となって、スピード感を持って対策を講じていく必要がある」と指摘。6月上旬をめどに、政策をパッケージとして取りまとめるよう指示した。
関係閣僚会議は官房長官が議長を務め、国交相と経産相、農水相の3人が副議長に就任。他に国家公安委員長、厚生労働相、環境相、消費者・食品安全担当相が名を連ねている。
岸田首相は2024年問題について「荷主・物流事業者間などの商慣行の見直しと、物流の標準化やDX・GXなどによる効率化の推進により、物流の生産性を向上するとともに、荷主企業や消費者の行動変容を促す仕組みの導入を進めるべく、抜本的・総合的な対応が必要」と強調。
「1年以内に具体的成果が得られるよう、対策の効果を定量化しつつ、6月上旬をめどに、緊急に取り組むべき抜本的・総合的な対策を政策パッケージとして取りまとめてもらいたい」と求めた。
会議の席上、国交・経産・農水の各省が2004年問題の現状について報告。具体的な対応を行わなかった場合、2024年度に輸送能力が約14%、30年度には約34%不足する可能性があるとの試算に言及した。
●新評価手法、行政レビューに導入 24年度予算編成から 岸田首相 4/1
政府は31日、行政改革推進会議を首相官邸で開いた。
岸田文雄首相は、政府予算の無駄遣いを検証する「行政事業レビュー」について「抜本的に見直す。EBPM(証拠に基づく政策立案)の手法を本格的に導入する」と表明。2024年度予算編成から活用する考えを示した。
●少子化対策、現金給付を強化 財源未定、実現へ道筋見えず 4/1
政府が3月31日に発表した少子化対策のたたき台では、2024年度から3年間の優先事項として現金給付の強化を掲げた。しかし、裏付けとなる財源は決まっておらず、岸田政権が目指す「こども予算倍増」はその基準となる金額すらあいまい。どのように財源を確保して政策を実現するのか、道筋は見えないままだ。
たたき台では児童手当を巡り、所得制限の撤廃や支給期間の延長、多子世帯への増額を盛り込んだ。さらに男性の育児促進へ、「産後パパ育休」などを子供の両親が取得すれば休業前の手取りを全額保障するなど、経済的な支援策がずらりと並ぶ。財源としては、年金や医療、介護といった社会保険から拠出する案が取り沙汰されるほか、自民党内からは国債発行も検討すべきだとの声も上がっている。
だが、岸田文雄首相は具体的な財源について説明を避けてきた。自民党内では多子世帯への児童手当について、第2子に最大3万円、第3子以降は最大6万円に増額するよう求める声も浮上。この場合、識者の試算では年間で2.5兆円規模の追加財源が必要となる。
政府は首相をトップとする新たな会議で財源の検討を進める方針。鈴木俊一財務相は31日の閣議後記者会見で国債の活用に慎重な姿勢を示し、「恒久的な施策には恒久的な財源が必要だ」と強調した。岸田首相は消費税増税について「当面触れることは考えていない」としており、消費税以外で財源を確保する必要がある。
国の少子化対策予算は既に増加傾向にあり、当初予算ベースで22年度は約6.1兆円。国際比較が可能な「家族関係社会支出」は20年度で約10.8兆円に上る。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストは「数兆円規模の追加財源確保はハードルが高い。安定財源の確保に向け、広く税による負担を検討すべきではないか」と指摘する。政策の実現は国民の理解を得られるかにかかっている。
●どこが「異次元」?政府の少子化対策たたき台 難題は財源 4/1
政府が31日発表した少子化対策のたたき台は、網羅的ながら踏み込み不足が目立ち、岸田文雄首相が年初に打ち上げた「異次元」かどうかを判断する以前の状態だ。若い世代の所得増、出産費用の保険適用などの項目は掲げたが、具体的内容や予算規模の本格検討はこれから。全体像が固まったとしても、財源確保の議論は難航必至だ。
「若い世代の賃上げ」具体策見えず
小倉将信こども政策担当相はたたき台を発表した記者会見で「長年の課題解決に向け、まずは必要な政策内容を整理する観点から取りまとめた。これをベースに国民的議論を進めていく」と説明した。
現状では未知数のメニューが少なくない。
出産費用の保険適用は、実現すれば3割負担が発生する。その場合、4月から50万円に引き上げられる出産一時金より自己負担額は下がるのか。上回るなら、保険適用に加えて助成を上乗せするのかなど論点は多い。
若い世代については、たたき台で「結婚の希望を持ちながら、所得や雇用への不安から将来展望が描けない」と指摘。「最重要課題である賃上げに取り組む」と掲げたが、具体策は見当たらない。
男性育休の取得促進に関しては、産後の給付率「手取り10割」という具体策を掲げた。だが、期間は最大28日間と1カ月に満たない。大事なのは短期間の育休取得率を上げるのではなく、十分な期間の確保や夫婦がともに育児と仕事を両立・分担できる労働環境整備のはずだ。経済界の反発を恐れたのか、少子化の一因とされる長時間労働を規制する制度には言及しなかった。
消費税「10年上げない」明言しただけに
財源を巡っては、増税や国債、社会保険からの拠出が取りざたされているが、方向性は出ていない。
増税なら消費税が有力な選択肢になる。与党内には将来を見据え、議論を始めようという動きもあるが、首相は引き上げを「10年間行わない」と明言。「教育国債」を推す声もあるが、借金を将来世代に付け回すことになるため、首相は慎重な姿勢を崩していない。
政府・与党の一部で浮上しているのが「社会保険案」だ。年金や医療、介護の各社会保険から一定額ずつを基金に拠出し、子ども関連予算に充てる内容。急激な少子高齢化で各保険とも財政が悪化する中、人口が増えれば制度維持にも貢献するとの理念に基づく。
ただ、保険料への上乗せ徴収となれば増税と同じで、個人も企業も負担が増える。岸田政権は、防衛費の倍増方針では早々に1兆円の増税を決めたが、防衛費を含む予算全体の抜本的な歳出見直しを求める声が高まる可能性もある。
●恥ずべき国に生きながら政治家も学者もメディアも口を閉ざす不都合な真実 4/1
5年前に93歳で亡くなったロナルド・ドーアという英国人社会学者がいた。朝鮮戦争が勃発する直前に来日し、吉田茂の息子の吉田健一や評論家の中野好夫、加藤周一、学者の都留重人、丸山眞男らと交流し、江戸時代の日本の教育を研究して博士号を取得した。
その後ロンドン大学、ハーバード大学、MITなどで教授を務め、日本研究の大家として米国人のドナルド・キーンと並ぶ存在だった。ドーアは「大の親日家」だったが、亡くなる4年前『幻滅 外国人社会学者が見た戦後日本70年』(藤原書店)という本を書き、中曽根政権以降の日本がアングロサクソン的価値観に染まっていくことに「幻滅」を表明した。
経済面で言えば、日本には第二次世界大戦を戦うために政府が作り出した資本家と労働者の妥協の仕組みがあった。「1940年体制」と呼ばれるが、それが戦後の「日本型市場経済」を作り出し、日本社会に格差の少ない経済成長をもたらした。
しかし1960年代に始まった官僚や大企業社員の米国留学制度によって、新自由主義に染まった「洗脳世代」が生まれ、その世代が出世する80年代に日本の米国化が加速されたとドーアは言う。
外交面で言えば、戦後の日本が重視したのは「国連中心主義」だった。日本が国連に加盟した翌年、岸信介総理は施政方針演説で「我が国は国連を中心として世界平和と繁栄に貢献することを外交の基本方針とする」と宣言した。同時に日本は「自由主義諸国との協調」と「アジアの中の日本」も必要であることから、この3つが外交の基本軸となった。
しかし米ソ冷戦によって国連は機能しなくなり、日本外交は「国連中心主義」より「自由主義諸国との協調」すなわち「米国との協調」に比重が移った。その結果、日米安保体制が「日米同盟」と呼ばれるようになり、それが80年代の中曽根政権で急速に強化された。
ところが89年に冷戦が終わると、国連の機能は回復の兆しを見せる。90年に起きたイラクのクウェート侵攻で、米国のブッシュ(父)大統領は国連の同意を得て多国籍軍を結成、国際社会が協調して侵略に対抗することになった。これは第一次世界大戦後に作られた「不戦条約」の理想に沿う方針だった。
日本国憲法の平和主義は「不戦条約」を下敷きにしたものである。しかしこの時日本は多国籍軍に自衛隊を参加させず、資金提供にとどめたことで国際社会から厳しく批判される。自衛隊を参加させようとした政治家は小沢一郎ただ一人で、それ以外は与党も野党もみな憲法9条を理由に自衛隊の海外派遣に反対した。
日本は世界から国際貢献に背を向ける利己的な国家と看做され、慌てた日本政府は憲法解釈をぎりぎりまで拡大し、国連主導のPKO(平和維持活動)に限って自衛隊を参加させる国際平和協力法とPKO協力法を制定した。しかし当時の社会党、共産党、社民連は「軍国主義の復活だ」と猛反対する。
この時ドーアはMIT教授だったが、日本の野党の態度を見て憤慨した。そこで日本国憲法制定からそれがなし崩しにされた過程を本に書き、日本人はホンモノの平和憲法を作るべきだと主張した。するとドーアは日本国内で「危険人物」と看做された。
ドーア著『日本の転機』(ちくま新書)からそのくだりを抜粋する。「日本は陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めないとする現行憲法を政界全体のコンセンサスの下で、実際行為で踏みにじっている。それは恥ずべきことだ。
憲法擁護という至上命題は、1950年代には政治的合理性があったのかもしれないが、その命題にこだわり過ぎて機能不全に陥っている憲法をそのまま保持しようとするのは、宗教的誠実さの証かもしれないが、頑なな非現実性か、精神分裂か、いずれかの兆候としか言えない」。
ドーアは自衛隊を軍隊として認め、しかし侵略には使えないよう厳しく限定する条文を導入すれば、初めて本物の平和憲法ができると主張した。ところがそれを主張した途端、それまで交流のあった日本の友人たちがみなドーアから離れていったという。
そのことにドーアは驚くと同時に戸惑う。ドーアは英国人であり米国の大学で教えながら、しかし日本を研究することで、アングロサクソン的価値観より日本人の伝統的価値観に傾倒したリベラルな人間である。それが左右両翼の日本人から冷たい目で見られるようになった。
右派の日本人はドーアの考えが「日米同盟」を弱め、「国連中心主義」に近づくことを警戒した。日本が軍隊を持ちその使い方を限定するには、「日米同盟」より「国連中心主義」が望ましいことになる。
米国にとって日本が軍隊を持つことは利益にならない。日本が軍隊を持てば日米安保条約が意味をなさなくなるからだ。日米安保条約は米国が軍隊を持たない日本を防衛する代わり、日本が米国に日本列島全体を基地にする権利を認めるところに本質がある。
従って米国は軍隊ではなく自衛隊のままにして、憲法解釈の拡大で米国に都合の良い役割を負わせ、日本の領土を自由に使う権利を維持する体制を望んでいる。中曽根政権以降の日本の右傾化とは、日本の伝統的価値観を尊重することではなく、米国に都合の良い体制を強化発展させることだった。
安倍元総理が主張した憲法改正案は、憲法9条2項(戦力不保持、交戦権否定)をそのまま残し、自衛隊を憲法に明記するというものだ。つまり米国に都合が良いように軍隊を持たず自衛隊を憲法で認めさせようとしたのである。これはまさに対米従属の道である。
左派の日本人は憲法擁護を金科玉条としているので、ドーアの主張とは真っ向から反する。しかし左派は日本が米国に従属することにも反対だ。左派は日米安保条約によって差別的な「日米地位協定」があることを特に問題視する。
例えば「日米地位協定」について多数の著書を出した矢部宏冶は、日本には「国境」がないと主張する。米国のバイデン大統領もハリス副大統領もペロシ下院議長も正式な手続きなしに日本に入国した。彼らは東京の横田基地に政府専用機で降り立ち、そこからヘリコプターで六本木にある米軍基地に移動し、入国手続きなしに車で東京の街に入った。
かつて米国の要人は日本の玄関口である羽田空港から入国したが、「日米同盟」が強化されるにつれ、日本があたかも自分たちの領土であるかのような振る舞いを公然と見せるようになった。それを日本の政治家も学者もメディアも誰も何も言わない。矢部が日本には「国境」がないと主張するのはそのためだ。
また矢部は、イラク戦争で米国に敗れたイラク政府が米国の提案する「地位協定」を修正させ、イラク駐留の米軍がイラクから国境を越えて周辺国を攻撃することを禁じたことに驚いている。そして「憲法9条を持つ日本にはなぜそれができないのだろう」と嘆く。
日本は憲法9条の下で米軍に日本列島のどこにでも自由に基地を作る権利を与え、さらに国境を越えて周辺国を攻撃する権利も認めている。米国に敗戦したイラクにできることが同じく米国に敗戦した日本にできないのは何故か。
さらに矢部は、米国の植民地であったフィリピンが「米比軍事基地協定」で米軍基地をフィリピン政府の指定した場所に限定していることにも驚いている。フィリピン政府は自らの意思で駐留米軍を撤退させたこともあり、米国との関係は対等である。だが矢部の指摘はそこまでで、それがなぜかを踏み込む手前で終わっている。
米国は世界45カ国に米軍基地を置いている。基地数ではドイツが最も多く、次いで日本、韓国の順である。しかし駐留経費の国別負担では日本が44億ドルと突出して多く、次いでドイツの15億ドル、韓国の8億ドルとなる。そして各国の「地位協定」の中身を見れば、最も差別的な扱いを受けているのが日本だ。
その理由は明確である。誰も言わないが日本には軍隊がないからだ。軍隊のない日本は防衛を全面的に米国に委ねることになる。軍隊がないため米国との間で結ばれた日米安保条約は非対称である。米国が日本を防衛しても日本は米国を防衛できない。
その代わり日本列島全体を自由に基地にする権利を米国に与え、「地位協定」も米国の思い通りの内容になった。軍隊を持つフィリピンは米国との間で安保条約ではなく「相互防衛条約」を結んでいる。互いに守り合おうと言うのだから対等になる。
イラクも軍隊があるから米国との関係は対等だ。だから「地位協定」をイラクの主張通りに修正することが可能となった。ドイツやイタリアの「地位協定」が日本より対等だと言われるのもそれらの国には軍隊があるからだ。
ところが日本では誰もそのことを指摘しない。左派は憲法9条があるのになぜ日本は平和主義とは異なる行動を取るのかと嘆く。憲法9条があるために平和主義とは異なる行動を取るしかないとは誰も言わない。9条を改正して軍隊を持つことはこの国では絶対のタブーなのだ。それを米国は喜んでいる。
そのようにして日本は憲法9条があるために米国に従属する。安倍政権の集団的自衛権の行使容認も、岸田政権が専守防衛から一転して反撃能力の保有を認めるのも、9条の枠内だからという理屈で通り抜ける。しかしそれらは日本が能動的に考えたことではなく、米国の言いなりになった結果である。
憲法9条がある限り、日本は永遠に米国に従属せざるを得ず、自衛隊が軍事力で世界5位、国防費で世界3位の水準になっても、それは軍隊ではないので、つまり米軍に従属する武力組織でしかないので、自分の国を自分で守ることができない。
私は日本が平和国家として生きるのならスイスを目指すべきだと主張してきた。戦乱の絶えない欧州にあってスイスは200年以上も、日本で言えば徳川後期からずっと平和を維持してきた。それはどこの国とも同盟を結ばない中立国家だったからである。
核攻撃から国民の生命を守る核シェルターを100%完備し、他国を攻撃する兵器は持たないが、国民全員で国を守るために徴兵制を敷き、年寄りに至るまで射撃訓練を欠かさない。日本が「東洋のスイス」になるためには、国民の総意で憲法9条2項を削除して軍隊を持ち、世界の全ての国々と平和条約を結び中立国になることだ。
ところがスイスは現在のウクライナ戦争で初めて中立政策を変更した。ロシアを「悪」、EUを「善」とみて経済制裁を課す側に回ったのだ。資源がないため金融で生きてきたスイスがロシアの資産を凍結すると、スイスに資金を預けてきた顧客に不信が生まれた。中立国スイスが「善」と「悪」とを区別するようになれば、危なくて資金を預けられなくなるというわけだ。
それがスイスの大手銀行クレディ・スイスの経営破たんにつながったのではないかと、片山杜秀慶応大学教授が今週号の「週刊新潮」のコラムに書いている。世の中には「善」も「悪」もないことを中立国は絶対に守らなければならないという教訓である。
資源のない日本、もうすぐ人口が半減する日本は、米国の真似をして、米国に従順になっている場合ではない。憲法9条の金縛りを脱し、自前の軍隊を持ち、世界の全てと平和条約を結び、誰とも同盟関係を持たない中立国を目指す。そしてウクライナ戦争が世界を分断する中で、くれぐれも「善」と「悪」を区別してはならないということだ。  
 
 
 
 

 



2022/12-