退任のご挨拶 「利上げします」

永年の無策 マイナス金利
日銀の円安政策 ご利益なし

退任する前に ちょっとだけ恰好をつけさせてください
「利上げします」


突然の発表 評価・意見 報道大混乱


 


2022/12/2012/2112/2212/2312/2412/2512/2612/2712/2812/2912/3012/31・・・
2023/1/11/21/31/41/51/61/71/81/91/10・・・1/111/121/131/141/151/161/171/181/191/20・・・
黒田東彦・・・
 
 
 
 12/20

 

●日銀 金融緩和策修正 なぜいま?この先どうなる? 12/20
日銀は、いまの大規模な金融緩和策の修正を決め、これまで0.25%程度に抑えてきた長期金利の上限を0.5%程度に引き上げることになりました。
日銀が金利の上昇を許容することとなり市場では事実上金融引き締めにあたるという受け止めから円高ドル安が加速しました。
欧米の中央銀行が利上げを進める中でも動かなかった日銀がなぜいま動いたのか?
Q.市場では事実上の金融引き締めと受け止めた
A.金利の変動幅の上限を引き上げたわけですから、日銀は金利の上昇を容認したわけです。
市場の受け止めは当然です。
記者会見で黒田総裁は「利上げや金融引き締めを意図したものではない」と繰り返し説明しました。
ただ、日銀はこれまで、変動幅の拡大は「金融引き締めにあたる」と説明してきました。
ですから20日の決定は、唐突な印象が否めません。
多くの市場関係者も、サプライズだと受け止めて、激しく反応し、円高、株安が進みました。
Q.欧米が利上げのなか緩和策修正してこなかったがなぜ動いた?
A.欧米の相次ぐ利上げで、日本でも長期金利に上昇圧力が高まっていました。
これに対して日銀は、強引に金利の上昇を抑えつけようと、大量に国債を買い続けてきました。
その結果、国債を売買する債券市場では、秋以降、さまざまな取り引きの指標にもなる10年ものの国債の取り引きが成立しない日が相次ぎ、ゆがみが目立ち始めていました。
日銀は、その副作用で、市場が正常に機能しなくなったことを、なんとか是正しないといけないと判断したのだと思います。
ただ、専門家も黒田総裁の説明だけでは、今回、なぜ修正したのか分かりにくいと指摘しています。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「非常にサプライズだった。金融政策によって市場はゆがんだ状況にあるため、変更すること自体は歓迎したいが、今までの説明とはずいぶん異なっており、とまどう市場参加者は多い」と話しています。
Q.いま金利が上昇して大丈夫なのか?景気はこの先どうなる?
A.今回の政策修正で、円相場は円高に向かう可能性があります。
円安は、原材料価格の高騰の要因にもなっていただけに、短期的にはプラスの面がありそうです。
一方で、長期金利が上昇することになるため、専門家の間では、企業向けの融資の金利や住宅ローンの固定金利が上昇する可能性があるという指摘も出ています。
日本経済はコロナ禍からの回復途上にあります。
そして海外経済は、欧米の大幅な利上げでブレーキがかかり、この先、減速していくという懸念も強くなっています。
それだけに、今回の決定が、日本経済や金融市場にとって果たしてプラスになるのか、マイナスになるのか。
その影響を注意して見ていく必要があると思います。
●日銀が「事実上の利上げ」 生活への影響は 12/20
経済ジャーナリスト・荻原博子さん「もしかしたら住宅ローンの金利も上がってしまうかもしれない。同じローンでも払うお金が増えてしまうということ」
日銀は、20日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の上限幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に変更しました。短期金利は変更ありません。この政策転換が、生活にどう影響するのでしょうか。
荻原博子さん「自動車ローンもそうだし、教育ローンもそうだし、先々金利が上がればたくさん払うのは同じ。固定で借りていれば影響ないが、変動の場合、ローンを借りている方は今のうちに(短期金利が上昇する前に)しっかり繰り上げ返済した方が良い。あと、輸入のお肉などもピークの時よりはちょっと安くなったということが出てくるかもしれない、スーパーに並んだ時に」
急速な円安で食料やエネルギー価格が高騰し、家計にとってもかなりの痛手となっている事態。日銀による『事実上の利上げ』判断を受け、東京外国為替市場の円相場は急騰。また、日経平均株価は下げ幅が一時、800円を超える下落となりました。
●日銀が緩和縮小、長期金利の上限0.5%に 事実上の利上げ 12/20
日銀は19〜20日に開いた金融政策決定会合で、大規模緩和を修正する方針を決めた。従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大する。20日から適用する。長期金利は足元で変動幅の上限近くで推移しており、事実上の利上げとなる。変動幅の拡大は21年3月に0.2%から0.25%に引き上げて以来となる。
黒田東彦総裁が20日午後に記者会見を開き、決定内容を説明する。
歴史的なインフレで海外の中央銀行が利上げに動くなか、日本の国債金利にも上昇圧力が強まっていた。日銀は金融政策で長期金利を人為的に押さえつけていたが、市場機能の低下が懸念されてきた。
日銀は「こうした状況が続けば企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす」として、従来、0%からプラスマイナス0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%程度に拡大することを決めた。マイナス金利政策や上場投資信託(ETF)の買い入れ方針、政策金利のフォワードガイダンス(先行き指針)は据え置いた。
日銀は同日、長期国債の購入額を従来の月7.3兆円から月9兆円程度に増額すると発表した。購入予定の金額についてもレンジで示す形式に変更し、より弾力的に購入額を決められるようにする。10年物国債を0.25%の利回りで無制限に毎営業日購入する「連続指し値オペ」の利回りも0.5%に引き上げる。
日銀は黒田総裁就任直後の13年に「2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に実現する」ことを目的に大規模緩和を始めた。日銀が世の中に供給するお金を2倍に増やすことを目的に、国債やETFの保有額を2年間で2倍に拡大する方針を掲げた。
ただ消費増税やエネルギー価格の下落などを要因に、物価安定目標の未達が続いてきた。16年には総括的検証で政策目標をマネタリーベースから金利へと切り替えた。このとき、短期金利をマイナス0.1%、長期金利の指標になる10年物国債利回りを0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を導入した。
金融緩和をより長く続けるため、政策目標を量の拡大から金利へ戻す狙いがあった。その後、日銀は長期金利の変動許容幅を0.1%から0.25%に段階的に拡大してきた。
インフレを抑制するために欧米が利上げに動くと日本の長期金利にも上昇圧力がかかったが、許容幅の引き上げは「事実上利上げとなり、日本経済にとって好ましくない」として、市場で金利を押さえつけてきた。もっとも、日米の金融政策の方向性の違いを背景に10月には一時、1ドル=151円台まで円安が加速した。
当初、日銀は円安は日本経済にプラスとの立場を示していたが、為替相場の急激な変動が企業活動に及ぼす負の影響も無視できなくなっている。足元の消費者物価の上昇率は3%台半ばに達している。政府・日銀が定める2%の物価安定目標を上回って推移していた。
円安が資源高に拍車をかけ、電力料金や生鮮品など幅広い品目で値上げが進む構図が鮮明になっている。事実上の利上げに踏み切ることで海外との金利差が縮小し、為替相場の急激な変動を抑える効果も期待できる。
●日銀がサプライズ“事実上の利上げ”住宅ローンどうなる? 12/20
日本銀行は金融政策決定会合で事実上の利上げを決めました。市場ではサプライズと受け止められ、円高・株安が進んでいて、住宅ローンなどの金利にも影響が出てくる可能性があります。
「(事実上の利上げに)戸惑ってます」「なんでこのタイミングなんだろうっていう」「ようやくきたなと。今まであまりにも金利が動かなかったから」
日銀は金融政策決定会合で、現在の金融緩和策の一部修正を決めました。これまで長期金利について「プラスマイナス0.25%程度」の変動幅で推移するよう調節するとしてきましたが、これを「プラスマイナス0.5%程度」まで拡大するとしました。
市場で事前に予測されていなかったサプライズでの政策の見直しです。ただ、黒田総裁は金融緩和は変わらないと強調しました。
日本銀行 黒田東彦総裁「利上げではありません。景気には全くマイナスにならないと思いますし、引き締めるつもりはありません」
欧米の相次ぐ利上げで日本の長期金利にも上昇の圧力が強まるなか、金利の上限を日銀が0.25%にとどめていることで「市場のゆがみ」が高まっていると説明。利上げや引き締めではないと否定し、むしろ今回の見直しは景気にはプラスだと強調しました。
しかし、市場は「事実上の利上げ」とネガティブにとらえ、大きく反応しました。
外国為替市場の円相場では、日本の金利が上がるとの見方から会合終了後に一気に円高に振れ、一時132円台をつけました。また、東京株式市場は一時800円を超える値下がりとなりました。
私たちの生活には、どのような影響があるのでしょうか。10月の消費者物価指数は40年ぶりの上昇幅に達していますが、物価高が抑えられる可能性があるといいます。
また、住宅ローンについては、(30年などの)固定型は金利が上がる可能性がありそうです。一方で、変動型の金利はすぐに変化しないとみられています。
また、国の財政運営では、金利の上昇が今後も続けば、国の借金の利払いが将来的には増えることも予想されます。
黒田総裁は、これまで政策変更の可能性を示唆してきませんでした。任期満了が来年4月に迫る中、なぜ、このタイミングで政策変更に踏み切ったのでしょうか。
第一生命経済研究所 熊野英生首席エコノミスト「次の総裁の政策に縛りがないように、次の総裁が変動幅の上限を上げるんだったら自分のうちにやっていこうと、次の総裁へ交代するための準備のために今やってるんじゃないか」
ただ、黒田総裁は路線変更はしていないと何度も強調しました。
日本銀行 黒田東彦総裁「出口戦略の一歩とか、そういうものでは全くありません。具体的に論じるのは時期尚早である」
年明けからは黒田総裁の後任を選ぶ人事が本格化することになります。
●事実上の利上げ、黒田総裁「賃上げしやすくなる」…住宅ローン金利上昇 12/20
日本銀行は20日の金融政策決定会合で、長期金利を0%程度とする金利政策の変動幅を従来のプラスマイナス「0・25%」から「0・5%」に修正した。大規模な金融緩和そのものは維持し、黒田 東彦はるひこ 総裁は記者会見で「利上げではない」と説明した。金融市場では発表後、長期金利が急騰し、事実上の利上げとの受け止めが広がった。
短期金利をマイナス0・1%とする政策は維持した。声明文では、長期金利の変動幅の拡大について市場金利を動きやすくすることで「金融緩和の持続性を高める」とした。企業が社債などで投資家から資金を集めやすくなると判断した。一方で、急激な金利上昇を防ぐため、国債買い入れ額を来年1〜3月は現在の月7・3兆円から9兆円程度に増額する方針を示した。
金融市場は、日銀が金利上昇を容認したとして、金融緩和策の修正とみなした。発表直後、長期金利は従来の上限である0・25%程度から一時0・460%まで上昇した。金利上昇は企業や家計の利払い増加につながる。今後、住宅ローン金利などに影響が及ぶ可能性がある。
黒田氏は9月の大阪市内での記者会見で、変動幅拡大は金融引き締めにつながり、「金融緩和の効果を阻害する」と話していた。20日の記者会見では、市場機能の改善によって「金融緩和の効果をより安定的に発揮でき、賃上げがより行いやすくなる」と説明し、立場を修正した。
国内の消費者物価の上昇率は4%に迫る勢いで、日銀の目標2%を上回る。市場では、金融政策を正常化する出口戦略に日銀が向かうのではとの観測があるが、黒田氏は「『出口戦略』について、具体的に論じるのは時期尚早だ」と、否定した。
 12/21

 

●追い詰められた「日銀」、事実上の利上げの"次"  12/21
金融市場と日本銀行の戦いは、どちらが勝っているのだろうか。12月20日、日銀は市場の圧力により、10年物日本国債の上限金利を0.25%から0.5%に引き上げるというやりたくもないことをやらざるをえなかったのは間違いない。しかし、これが今後の金利の動き、円の価値、金融市場の安定にどのような意味を持つのかは、今のところ誰にもわからない。
例えば、円は日銀が動く前の1ドル=137円から、翌日のニューヨークでは131円まで跳ね上がった。しかし、その多くは、今回の金利上昇に続いてさらに金利が上昇することに賭けるトレーダーによるものである。
金融市場は、ビッグサプライズに反応して大きく変動することが多い。したがって、市場が債券トレーダーと日銀の戦いを見極めながら、今後数週間から数カ月の間に円/ドルがどのような状態になるかはまだわからない。
低金利政策からの「脱却」ではない
日銀の黒田東彦総裁は、たんに「蒸気弁」を開けて圧力を逃がしながら、超低金利を維持し続けることができると考えている。この動きは「利上げではない」と黒田総裁は記者会見で語り、むしろ 「市場機能の改善 」を目的とした技術的な措置であったと述べた。
同氏が動いたのは、日本国債の市場におけるいくつかの歪み(以下で説明)が、社債市場や、他の一部の金融市場に波及しているためだ。金利の引き上げは、日銀の10年にわたる戦略からの脱却の第一歩ではないと黒田氏は主張する。「金利を上げるつもりも、金融を引き締めるつもりもまったくない」。
日銀の上層部は、金利を上げても大丈夫と考える前に、少なくとも年3%の賃金の上昇を持続的に見たいと繰り返し発言している。今年の春闘交渉で連合が5%の賃上げを要求したのは、賃金情勢が変わりつつあることを意味すると期待する関係者もいる。しかし、エコノミストの予測通り、アメリカとヨーロッパが2023年に景気後退に入る可能性が高いとすれば、日本企業が賃金を大幅に引き上げるとは考えにくい。
すべてではないが、多くのトレーダーは、黒田総裁がこのスタンスに固執することはないとみている。一度決断を迫られた日銀は、市場の圧力によって、おそらく数カ月先には再び決断を迫られる可能性がある。日銀は10年来の黒田政策から事実上の離脱を始めたというのがこうしたトレーダーの見立てだ(日銀はまだ気づいていないとしても)。彼らがは、次の動きは3月の黒田総裁の任期満了前か、次の総裁の下で行われる可能性があると見ている。
市場の「歪み」に対応せざるをえない
こうしたトレーダーは、自分たちの見方を正当化するために2つの事実を指摘している。1つは、日銀は10年物国債に対してのみ行動を起こしたが、下図に見られるように、いわゆる「イールドカーブ」に沿って金利が上昇した。イールドカーブは、1年物から40年物までの日本国債の金利を表している。年限の長い国債の金利がマイナスであった年初に比べ、金利ははるかに高くなっている。
2つ目は、日銀の「イールドカーブ・コントロール(長期金利操作)」政策が、国債と社債の両市場に大きな歪みをもたらしているという指摘だ。通常、図の最下段にあるように、債券の満期が長くなればなるほど、イールドカーブは右肩上がりになっていく。
ところが、日銀は10年物国債の金利しか守らなかったため、ここ数カ月、市場は8年物、9年物の国債の金利を10年物国債の金利より高い水準に押し上げることができたのである。トレーダーは、この「歪み」は12月20日の動き以降も存在し続けていると指摘する。したがって、この歪みが一度日銀を動かしたのであれば、再び日銀を動かさざるをえないのは必然であると主張しているのだ。
どちらが正しいかはわからないが、結果を左右するいくつかの要因を見ることができる。
まず、日銀が十分な資金を投入して全期間の日本国債を購入するのであれば、金利を抑えることができる。実際、日銀は国債の買い入れ額を月7.3兆円から9兆円に増やし、金利が0.5%を超えないように必要なだけ10年物の国債を購入すると発表したばかりだ。
しかしこれは、すでに日本国債全体の半分以上を所有している日銀が、さらに多くの国債を所有することを意味する。加えてこの動きは、収入源として債券を保有する必要がある保険会社や年金基金にとって、さらなる問題を引き起こすことにもなる。保険会社や年金基金の全資産のうち日本国債の占める割合は、黒田総裁就任時の39%から現在では35%以上になっている。銀行も融資需要の鈍化に伴い日本国債を買い増し、2012年には銀行資産の18%まで増えていたが、現在は6%まで下がっている。
もう1つの要因は、金利の急激かつ大幅な上昇は、深刻な結果をもたらすという点だ。金利が上がれば、銀行、年金基金、保険会社などの保有する既発債の価値が下がり、バランスシートが圧迫される。
一方、四半世紀に及ぶゼロ金利は、日本企業にタダ同然の資金を供給してきた。現在、銀行融資の37%が金利0.5%以下、そのうち半数が0.25%以下である。融資需要が低迷する中、国債金利と連動して銀行貸出金利がどの程度上昇するかは不明である。
仮に銀行貸出金利が1ポイントでも2ポイントでも上昇すれば、数百万人の従業員を抱える多くの企業の支払能力は一気に低下することになる。その多くは、中小企業全体の約40%に信用保証と直接融資を行っている政府による救済を受けなければならなくなるだろう。これらはGDPの約11%に相当する。しかし、信用保証の対象は最大でも80%なので、銀行は不良債権の急増に悩まされることになるだろう。
円とインフレという要因
円の価値、という問題もある。過去1年半の急激な円安は、日本のインフレ率を上昇させる大きな要因となっている。実際、この間の物価上昇の9割は輸入集約的な食品とエネルギー部門によるものだ。それが消費者の購買力を大きく低下させた。円の価値がある程度回復すれば、インフレ圧力が弱まり、日銀の利上げ圧力も弱まるだろう。
これは、他の地域のインフレと金利の動向に大きく依存する。インフレがピークに達したという兆候もあるが、そうであれば他国の金利は下がるはずである。その結果、円は多少回復するだろう。しかし、インフレの修正に時間がかかるようであれば、円安圧力は続く可能性がある。
インフレの進行も要因となる。黒田総裁は、日本のインフレのほとんどは円安とサプライチェーンの遮断の影響によるものだと考えており、それは正しい。それゆえ、日本の現在のインフレは一時的なものであると主張している。
実際、日銀は10月の「経済・物価情勢の展望」で、2022年度に2.9%上昇した後、2023年度と2024年度のインフレ率はわずか1.6%まで減速すると予測した。これは日銀の目標である2%をも下回っている。
もし日銀の予想が正しければ、日銀への利上げ圧力は緩和される。しかし、日銀の予測にはいい実績がない。例えば、わずか3カ月前の7月の展望では、2022年度のインフレ率は10月に予測した2.9%ではなく、2.3%になると予測していた。2023年について日銀が間違えば、日銀はより大きな圧力に直面することになる。
日本の諺に「一寸先は闇」というのがある。金融市場と日銀の政策にも同じことが言えるようになった。
●日銀の利上げ、金融緩和修正って? 銀行の株価アップ、なぜ? 12/21
「アベノミクス」「異次元緩和」の修正?
日本銀行が20日、これまでの金融緩和策を一部見直して、長期金利の上限を「0.25%程度」から「0.5%程度」へ引き上げました。安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の一環として2013年春から続けてきた「異次元緩和」の修正で、事実上の利上げと受け止められています。これを受けて長期金利は急上昇し、大幅な円高、株安となりました。ただ、異次元緩和の「マイナス金利」政策で苦しい業績が続いた銀行の株価は軒並み上がりました。歴史的な円安が招いていた物価高が落ち着く可能性がある一方、経済が悪くなるリスクもあります。金融政策の変更は銀行など金融機関だけでなく、あらゆる企業の事業に大きな影響を与えます。と言われても、何のことだかピンとこない人もいると思います。いったいどうして、何をどう修正して、何が起きたのか、これからどうなるのか。ちょっと難しい金融政策の話をわかりやすく解説します。
そもそも利上げ、利下げとは?
そもそも金利とは、という話から。日銀など各国の中央銀行は、お金の貸し借りの時に発生する金利の水準を上げ下げすることで経済や物価に働きかける役割を担っています。一般的には金利が低いとお金を借りやすいので、会社が新しい機械を買ったり、個人が住宅ローンを組んだりしやすくなって経済活動が活発になります。各国の中央銀行は、景気が悪いときには金利を低くして世の中にお金が回りやすくします。これを「金融緩和」と呼びます。逆に、景気が過熱してインフレ(物価高)が起きると金利を高くします。「金融引き締め」ですね。
日本経済は長く低成長が続いたため、日銀はこれまで企業の投資や家計の消費を促すため、金利を極端に低く抑える政策を続けてきました。
物価高招いた「悪い円安」で
ロシアのウクライナ侵攻などで昨年から世界で急激なインフレが進みました。米国やヨーロッパ各国の中央銀行はインフレを抑えようと金利を引き上げてきましたが、欧米ほど景気が良くなっていない日本では日銀が金融緩和で景気を支えるため長期金利を据え置いてきました。この結果、金利の低い円を売ってドルを買う動きが加速し、今年10月には32年ぶりに1ドル=150円台を記録するなど歴史的な円安水準となり、物価がどんどん上がりました。流行語大賞のトップ10に選ばれた「悪い円安」とはこのことですね。
そこで今回、事実上の利上げが行われたのですが、少し具体的に説明します。国が借金のために発行する国債のうち、返済期間10年の利回りが長期金利の指標になっています。日銀は2013年4月からの大規模な金融緩和で、金利を低く抑えるために国債を大量に買い入れています。2016年9月から「ゼロ%程度」を長期金利の誘導目標にした後、2021年3月からは上限を引き上げて「0.25%程度」になるように国債を買い入れてきました。その上限を「0.5%程度」にしたのが今回の見直しです。
一気に円高・株安に
金融緩和策の修正が金融市場に伝わると、国債を売る動きが加速しました。これまでおおむね0.25%で推移していた長期金利は一時、一気に0.46%まで上昇。円安の一因になっていた日米の金利差が縮小するとの見方から、円相場は一時5円ほど円高が進み、1ドル=131円台になりました。円高で輸出企業を中心に企業業績が悪化するとの懸念も広がり、日経平均株価は一時9約00円下がりました。
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は「金融緩和の効果を円滑にするためのもので、利上げ、金融引き締めではない」と説明していますが、金融政策の誘導目標である長期金利の水準を引き上げただけに、金融市場の関係者は「事実上の利上げ」と受け止めているのです。
異次元緩和で日本経済の好循環を生み出そうという狙いは10年近くたっても実現できていません。日銀が長期金利を抑え込むために行ってきた国債買い入れは大きく膨らみ、発行済み国債の5割以上を日銀が保有する異例の状況になっており、日銀の内部でも政策転換論が浮上しているといいます。黒田総裁の任期は来年春まで。今回の政策修正が「ポスト黒田」への出口戦略の一歩、との見方もあります。
もうけ復活へ? 銀行の株価は急上昇
私たちの生活や企業にはどんな影響があるのでしょう。10月の消費者物価は前年に比べ3.6%上昇し、日銀が目標にする2%を大きく上回る水準でした。日銀は、来年度半ばには輸入インフレが落ち着き、上昇率が低下するとみています。ただ、住宅ローンや企業の借金の金利は長期金利を参考に決まっているので、長期金利が上がれば個人や企業の負担が増える可能性があります。企業の設備投資などが鈍って景気が減速するかもしれません。
円安の恩恵を受けて最高益をたたき出した多くの輸出系企業にとって、利上げと円高は逆風になりかねず、多くの企業の株価は急落。一方で金利が上がれば貸出金利と預金金利の利ざやによるもうけが復活する銀行業界の株価は20日、業績回復への期待感から急上昇しました。ほかにも、円安によるコスト増に苦しんできた内需型の企業にとっては、追い風になる可能性があります。日銀による金融政策で上下する円相場は、企業の業績を大きく左右します。みなさんの志望企業が輸出中心か、内需中心かで影響は全く異なります。企業研究の一環として調べてみましょう。  
●円相場 値上がり 日銀の金融緩和策の修正受け  12/21
21日の東京外国為替市場、日銀が20日に突然、金融緩和策を修正したことがドル売り円買いを招き、円相場は値上がりしました。債券市場では長期金利が7年5か月ぶりの水準まで上昇しました。
日銀が21日に長期金利の変動幅を0.5%程度まで引き上げたため、外国為替市場では日米の金利差の縮小が意識されて円高が加速しました。
円相場は20日のニューヨーク市場で、およそ4か月半ぶりに1ドル=130円台まで値上がりしたあと、東京市場では131円台から132円台の円高水準で取り引きが続き、午後5時時点の円相場は、前日と比べて83銭円高ドル安の1ドル=131円75銭〜78銭でした。
また、ユーロに対しては、前日と比べて61銭円高ユーロ安の1ユーロ=140円9銭〜13銭でした。
ユーロはドルに対して、1ユーロ=1.0632〜34ドルでした。
一方、日銀が長期金利の変動幅を0.5%程度に引き上げたことに債券市場も反応し、長期金利の代表的な指標となっている10年ものの国債の利回りは、21日、2015年7月以来およそ7年5か月ぶりに0.480%に上昇しました。
市場関係者は「きょうは売られたドルを買い戻す動きもみられたが、日米の金利差の縮小が意識され、円高が進みやすい状況になっている」と話しています。  
●ドル/円、今年の円安が半分以上消えた・・・日銀が突然利上げ! 12/21
今年のドル/円の安値は1月24日の113.47円、高値は10月21日につけた151.95円だ。高値と安値の50%(半値)は132.70円。そしてこの日の終値は131.71円。9ヵ月もの期間をかけてせっせと積み上げてきた円安貯金は、たった2ヵ月でその半分以上が消えてしまった。
12月20日(火曜)のドル/円は大幅に「円高」。
1日のレンジは130.57円から137.48円。値幅は6.91円。
2022年252営業日目は136.79円からスタート。いつものように日銀会合は無風通過との思い込みでドル/円の押し目買いが優勢となり、東京時間昼前に前日の高値(137.16円)を超え137.48円をつけた。
ところが、日銀が「事実上の利上げ」を決定したことに不意打ちを食らったドル/円は137円台から一気に133円まで急落。海外市場でもじりじりと値を下げ続け、未明には130.57円をつけた。終値はやや円安に戻して131.71円(前日比5.22円)。
日本銀行は20日の金融政策決定会合で、突如として大規模金融緩和政策の修正を決めた。2016年9月から導入しているYCC(イールドカーブ・コントロール)の、0%程度に誘導している長期金利(10年国債金利)の上下の変動許容幅を、従来の0.25%から0.5%程度に拡大する。
短期の政策金利(日本銀行当座預金のうち政策金利残高に0.1%のマイナス金利を適用)は据え置いたが、日銀が長期金利の上昇を認めたことで、事実上の利上げと受け取られた。
日銀のこの政策変更は、市場とのコミュニケーション不足によってFX市場や金利市場、そして株式市場を必要以上に不安定にしたとの批判もある。
●『利上げか、利上げでないか』論争が続く日銀のYCCの柔軟化措置 12/21
メディア、金融市場は「事実上の利上げ」と評価
日本銀行が12月20日に決定したイールドカーブ・コントロール(YCC)の長期国債利回りの変動幅拡大は、金融市場に大きな衝撃を与えた。YCCの柔軟化策自体は、金融政策の柔軟性を高め、金融緩和の副作用を軽減するものと評価したい。ただし、サプライズ戦略がとられた2016年1月のマイナス金利導入決定時と同様に、直前まで否定していた政策を突如実施したことで、市場に大きな混乱を生じさせたことは問題だ。
為替市場では、海外時間に移ってからも円高ドル安の流れが続き、円は一時1ドル130円台を付けた。今年8月以来の円高水準である。1日の変動幅は7円にも達したが、これは、10年国債利回りが0.2%台から0.4%台まで上昇したことだけの影響としては、やや大きかったとの印象である。YCCの長期金利変動幅拡大が、さらなる追加措置につながるもの、との認識が市場にあるためだろう。
翌21日の主要各紙には、「異次元緩和を転換」、「実質利上げ」、「事実上の利上げ」などの見出しが見られた。日本銀行は2%の物価目標の達成を目指した金融緩和の枠組みを堅持しており、黒田総裁は今回の措置が利上げでなく、また出口戦略の一環ではないことを強調したが、そうした考えは金融市場やメディアには受け入れられていないのである。
最初に「実質利上げ」と説明したのは日本銀行
YCCの長期国債利回りの変動幅拡大は、2016年9月にYCCが導入されて以降、段階的に実施されてきたことを踏まえれば、今回の措置も実質利上げではなく、YCCの一連の柔軟化策の一環と言える。
しかしながら、今回の措置が「実質利上げ」と評価されるのも、また理解できるところだ。YCCの変動幅拡大を通じた長期国債利回りの上昇を「実質利上げ」と説明し、景気を悪化させることから実施しないと説明してきたのは日本銀行自身であるからだ。それが、今回の措置について日本銀行は、「利上げではない」、「経済に悪い影響を与えない」と説明していることは、多くの人を大きな混乱に陥れている。
「実質利上げ」の名に値するかどうか
実際には、「実質利上げ」との表現が妥当となるかどうかは、10年国債利回りがどの程度の水準で落ち着くかによるだろう。新たな変動幅の上限である0.5%近辺に張り付くようであれば、実質0.25%ポイントの利上げと言えるかもしれない。
ただし、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ姿勢の変化を受けて、米国の長期国債利回りが低下基調にある中、その影響を受けて日本の10年国債利回りも0.3%台などに落ち着くかもしれない。その場合には、利回りの上昇幅は比較的小幅にとどまり、「実質利上げ」の名に値しないかもしれない。
他方、「実質利上げ」かどうかの基準を、景気抑制効果という観点で考えれば、10年国債利回りの上昇幅が最大0.25%ポイントとなっても、経済に与える悪影響は比較的小さく、「実質利上げ」の名に値しないかもしれない。
経済への影響は円高を通じたチャネルがより重要に
今回の措置が経済に与える影響を考える際には、10年国債利回りの上昇を通じた影響よりも、円高を通じた影響の方がより重要だろう。円高は、輸入物価の押し下げを通じて個人消費には追い風となる。他方で、急速な円高となれば、輸出企業の収益や競争力を悪化させ、設備投資や雇用に打撃を与える。さらに、円高進行は株価の下落をもたらし個人消費にも悪影響が及ぶ。
緩やかな円高であれば経済への悪影響は限られるが、急速な円高となれば、急速な円安と同様に経済には打撃となる。この点から、今回の措置が急速な円高につながるのであれば、それは「実質利上げ」の効果を生じさせると言えるのではないか。実際のところ、その可能性は小さくないだろう。
円の中長期のトレンドは実質値で円安、名目値で円高
貿易相手国との物価格差を調整し、日本企業の価格(国際)競争力を示す実質実効円指数は、90年代以降、下落傾向で推移している(図表)。これは、日本の国力低下、技術力の低下などを背景としていることが考えられる。
他方、日本のコアCPI(消費者物価)上昇率の過去20年の平均値は、米国よりも2.4%ポイント低い。購買力平価の考え方に照らせば、ドル円レートの名目値は、年間2.4%程度の円高のトレンドにあると考えることができる。
一方、同様に過去20年間の実質実効円指数の低下ペースは、年間1.8%程度である。この点から、円の中長期のトレンドは、実質値では1.8%程度の円安、名目値では0.6%程度(2.4%−1.8%)の緩やかな円高と考えられる。
過去10年の過度な円安は修正へ
ただし、過去10年の実質実効円指数は、10年移動平均値から大きく下方に乖離しており、均衡水準よりも円安水準が維持されてきたことが分かる(図表)。これは、2013年に導入された日本銀行の金融緩和の影響と、今年のFRBの急速な利上げの影響の2つが重なったものだ。そして、足元ではFRBの利上げ姿勢の変化が意識され始めたことに加えて、今回のYCCの柔軟化措置によって、先行きの日本銀行の金融政策の正常化も意識され始めたのである。この2つの要因がともに変化し始めたことから、過去10年にわたる過大な円安は修正される方向にあると考えられる。
実質実効円指数の10年移動平均値から推察されるドル円レートの均衡値は、1ドル110円程度である。FRB、日本銀行ともに政策修正が意識され、また実行される中では、この1ドル110円程度が向こう数年の円の戻りの目途となるのではないか。
金融政策の正常化観測定着で円高進行
来年4月に日本銀行が総裁交代で新体制に移行しても、マイナス金利解除などの正常化措置は、直ぐには実施されないことが見込まれる。景気情勢が悪化し、円高リスクが高まる中、日本銀行は短期金利の引き上げには慎重となるはずだ。特に、FRBの利下げが意識される中で日本銀行が短期金利を引き上げれば、逆方向となる金融政策が急速な円高ドル安を生じさせる可能性があり、それは金融政策の選択肢とはならないだろう。
日本銀行のマイナス金利解除は2024年半ば以降と現時点では見ておきたいが、「実質利上げ」と広く受け止められた今回のYCCの柔軟化措置によって、金融政策の正常化観測は今後金融市場に定着することになるだろう。それは円高進行のリスクを高め、来年年末に円は1ドル120円にまで達するとみておきたい。2024年には、さらなる円高が見込まれる。 
●住宅ローン金利や物価はどうなる? 金融緩和修正は暮らしにどう影響する  12/21
日銀が大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の上限を従来の0.25%程度から0.5%程度に引き上げると決めました。事実上の利上げとみられますが、暮らしにどんな影響が出るのでしょうか。
Q 金利が上がれば住宅ローン金利にも影響が出ますか。
A 住宅ローン金利は固定と変動があります。影響が出るのは長期金利を参考にして決まる固定で、これから借りる人が対象です。世界的な金利上昇を受け、金融機関は先取りする形ですでに固定金利を上げ始めています。今回の政策修正は1月以降に反映され、固定金利の上昇に拍車をかける可能性があります。
Q 変動金利はどうでしょうか。
A 変動は短期金利を参考にして決まります。今回の修正で直ちに上昇することは考えにくいです。ただ、修正をきっかけに日銀が利上げを進めれば、将来的に短期金利が上昇することも考えられます。
住宅ローンの基準金利(店頭金利)から、一定の条件を満たした場合に一定幅を引き下げる「優遇幅」を設けている金融機関も多いです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎さんは、長期金利の引き上げで、「金融機関がこうした『優遇幅』を縮小するなどすれば、間接的に変動金利に影響する」と話します。
Q 企業の借入金利への影響は。
A 企業は、工場建設などの設備投資や資金繰りなどで金融機関から借り入れており、借入金利が上がればコスト増となります。また「将来負担が増えるのでは」という不安感などから、設備投資などを見送る動きが出るかもしれません。
Q 財務基盤の弱い中小企業が心配です。
A 新型コロナ禍で実質無利子・無担保の資金支援を受けて踏みとどまってきたような中小企業は、利上げのインパクトは大きく、資金繰りに行き詰まり破綻することも警戒する必要があります。
Q 期待されるメリットはありますか。
A 今年大幅に進んだ円安は、日米の金利差の拡大が一因でした。今回の修正は金利差の拡大ペースを落ち着かせ、円安進行に一定の歯止めとなりそうです。原材料など輸入品を中心に上昇一辺倒だった物価にもブレーキがかかるとみられ、電気料金などエネルギー価格も「3カ月以上の時間差はあるが、値上げ圧力を弱める効果が期待できる」(第一生命経済研究所・熊野英生さん)としています。  
●日銀の金融緩和修正で市場との対話に課題−「信頼失った」との苦言も 12/21
日本銀行が20日に踏み切った想定外の金融緩和政策の修正は市場との対話に課題を残した。市場関係者の間では、日銀の市場とのコミュニケーションの欠如を指摘する声が相次いでいる。一方で、一段の政策修正もあり得るとして、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の廃止も指摘されている。
日銀が金融政策決定会合で決めた長期金利の許容変動幅の拡大は、世界的な物価上昇や円安が急速に進行する中で、以前から政策修正の手段として市場が想定していたメニューの一つ。しかし、会見や国会答弁などで可能性を問われた黒田東彦総裁ら日銀幹部は事実上の利上げであり、金融緩和効果を阻害するとして否定的な見解を繰り返していた。
黒田総裁は会合後の記者会見で、変動幅の拡大決定について「市場機能を改善し、緩和効果をより円滑に波及させる」ことを理由に挙げ、「利上げではない」と繰り返した。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、前言撤回とも言える発言に、日銀は「コミュニケーションに関する信頼を失った」と苦言を呈した。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員も、「黒田総裁の発言をもう誰も信じない」とし、「これは日銀にとって大きな損失だ」と指摘する。
決定を唐突と受け止めた直後の市場では長期金利と円相場が急上昇し、株式相場は大きく下落した。翌日も債券市場で新発2年国債利回りが約7年ぶりにプラス圏に浮上。事実上の利上げと受け止めた市場では、さらなる政策修正に対する臆測が広がっている。
マイナス金利解除も
ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦エコノミストは、「日銀が市場機能改善の必要性を従来よりも大々的にフィーチャーしてきた点に鑑みれば、マイナス金利政策の解除を実施する可能性は以前より相応に高まった」と分析。市場機能改善を目的とした変動幅の拡大は今回が最後とみているが、次の政策変更は「長短金利政策目標の変更、もしくはYCCそのものの解除という大きなものとなる」と予測している。
長期金利をターゲットにするYCCは事前に市場に織り込ませようとすると、長期金利を必要以上に不安定化させ、金融市場調節を困難にする可能性が大きい。元日銀理事でみずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫エグゼクティブエコノミストは、「YCCを変更する決定はサプライズにならざるを得ない。次のステップではYCCの廃止を検討する可能性もある」とみている。
日銀がこのタイミングで政策修正に踏み切った背景には、来年4月8日に黒田総裁が任期満了を迎えることから、新体制下での金融政策運営の自由度を確保するためとの見方が多い。
SMBC日興の丸山氏は、「事実上の脱YCCを開始したことで、2023年における日本銀行の金融政策運営は自由度が広がる」と指摘。新体制における金融政策の点検・検証や、政府との共同声明の見直しを急ぐ必要は薄れたとしている。
IMFアジア太平洋局局長補で日本担当ミッション・チーフのラニル・サルガド氏は声明で、「日銀のYCC修正は、賢明な措置だ」と評価した。一方で、「金融政策の枠組みを調整する条件に関する意思疎通が改善されれば、市場の観測を抑え、日銀のインフレ目標達成に向けたコミットメントの信頼性を強化するのに役立つだろう」と述べ、情報発信が最適ではないことを示唆した。
20日の会見で市場とのコミュニケーションについて問われた黒田総裁は、「金融資本市場や経済・物価の動向が変われば、それに応じたことをやるのは当然」としつつ、「金利の引き上げでないということは十分市場関係者にもお伝えしたい」と語った。 
 12/22

 

●日銀がついに金融緩和政策修正 / 変動金利上昇に備えての対策は 12/22
日銀は12月20日に開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和政策の修正を決めた。これまで超低金利の恩恵を受けていた住宅ローンだが、仮に変動金利が大きく上昇したら、あなたはローンを返せるだろうか? 変動金利が上昇したときの対処法を専門家に聞いた。
ついに日銀が動いた!
超低金利国・日本。その低金利の恩恵を受けているのが住宅ローンです。民間金融機関で住宅ローンを借りた場合、全期間固定金利なら0.9〜1.8%程度、変動金利なら0.3〜0.7%程度で借りられます。
しかし昨今、諸外国での金融引き締めの影響によって「住宅ローンの変動金利が急激に上がるのでは?」という心配がされているのも事実です。
そして12月20日、日銀は金融緩和を見直し、長期金利の上限を従来の0.25%程度から0.5%程度に変更するとしました。突然の発表に驚いた方も多いことでしょう。
今まさに変動金利でローンを借りている人は、どう対応したらよいのでしょうか。また、これから住宅を購入しようとしている人は、今購入しても本当に大丈夫?
複数物件を所有する不動産オーナーであり、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の風呂内亜矢さんにうかがいました。
「住宅ローンの変動金利が今すぐ急に上がる」…は嘘⁉
――欧米を中心に金利の引き上げが行われています。その影響で「住宅ローンの変動金利が大きく上がるのでは?」という声も聞きますが、それは本当なのでしょうか。
風呂内 難しいところですが、金利が急上昇する可能性はかなり低いと思います。金利を上げるべき局面では、国内で物価や給与などが上昇し、景気が過熱しているのが一般的です。しかし今の日本では、物価上昇は起きていても給与水準は上がらず、景気もよくありません。
また、日本は国債を多く発行しているので、その利回りが上がるのは好ましくないでしょう。今金利がすぐに大きく上げられてしまうた要素は少なく見えます(※)。
※2022年12月20日に行われた日銀の金融緩和見直しで、長期金利の変動幅が±0.25%から±0.5%に拡大。固定金利の住宅ローンについて新規借入金利が上がる可能性が出てきました。今回は長期金利のみの見直しのため、直近での変動金利の住宅ローン金利への影響は少ないと考えられます。
――ということは、変動金利の利用者はしばらく安心していてよいと…?
風呂内 そこまではいえないですね。そもそも変動金利は「変動する可能性が常にある仕組み」なので、金利変動リスクは否定できません。今は金利がどんどん上がっていくような可能性は低そうだけれど、絶対に上がらないとはいえないのです。
そのため「もし金利が上がったら返済できるのか」ということは下調べしておく必要があると思います。
返済額は125%しか上がらない。 その代わり「未払利息」が発生するかも
――金利の上昇に耐えるために、まず何から確認したらよいのでしょうか。
風呂内 まず確認してほしいのが、変動金利の見直しルールです。ここでは、多くの方が利用している「元利均等返済」という返済方法のルールを説明します。
変動金利は通常半年ごとに金利が見直されます。一方、返済額は5年間固定され、5年経ったあとに返済額が変更されます。つまり、金利と返済額が変わるタイミングは異なることが多いのです。また、返済額が増える場合でも、前回の返済額の125%までしか上がらない「125%ルール」が適用されています。
――125%ルールがあると、返済額が極端に増えることがないので安心できる気がします。デメリットはあるのでしょうか。
風呂内 毎月の返済額の内訳は、借りたお金の「元金部分」と、金利によって変わる「利息部分」とで構成されています。変動金利が上がった場合、利息の割合が増えて元金の割合が減り、なかなか元金が減らないという状態に陥りやすくなりますね。
金利の上昇が激しく継続した場合などでは、月々の返済額では元金の返済までたどり着かず、利息部分も全額返済できないケースもあり得ます。そうして返せなかった元金はもちろん、利息も「未払利息」となり、返済義務が残ってしまうのです。
未払利息は、その後金利が減少して返済額内の割合に余裕ができたら支払いが進みますが、最悪の場合は完済時まで残ることがあるため、注意しておくとよいでしょう。
変動金利が上がっても困らないために、今できること
――もし変動金利が2%まで上がったら、どれくらい返済額が増えるのでしょうか。
風呂内 例えば、あなたが5,000万円の35年ローンを組み、変動金利が0.3%だったとします。現状の返済額は12.5万円です。
そのあと3年経過後に変動金利が2%まで上がった場合、本来の返済額は約16.1万円になります。しかし125%ルールがあるので、実際は15.6万円に抑えられます。以前よりも3.1万円アップです。
こういった返済額のシミュレーションは、家電量販店などで販売されている「金融電卓」や、インターネット上の試算サイトで計算できます。金融電卓は積み立てなどの複利計算もできるので何かと便利ですよ。まずは試算して、金利が上がったときに耐えられそうか確認してみてください。
――金利上昇に備えて、他にできることを教えてください。
風呂内 今できることは、主に2つあります。
1つ目は、資金の余裕を作っておくことです。住宅ローンを借りる際、変動金利にするか固定金利にするかで迷いませんでしたか? もし上記の条件で1.0%の固定金利で組んでいたとしたら、毎月の返済額は14.1万円でした。
「本来は14万円ほど支払っていたのだから、毎月1.5万円は貯金しておこう」などと考え、多めに貯蓄しておくのがおすすめです。そして金利が上昇したタイミングで繰り上げ返済を行えば、返済額を下げたり未払利息の発生を防いだりできますよ。
2つ目は、固定金利の推移をチェックしておくことです。変動金利が上がってきた場合、固定金利への変更を考えると思いますが、実は、変動金利よりも固定金利の方がまめに調整されています。そのため「いざ固定金利にしようと思ったら、固定金利も相当上がっていた…」ということが起こり得るのです。
よって変動金利だけでなく固定金利の推移も定期的に確認しておき、金利上昇の気配を感じたら、固定金利への変更を本格的に検討するとよいでしょう。
――これから住宅購入を検討している人もいますが、今は購入してよいタイミングなのでしょうか?
風呂内 購入するタイミングは、住宅価格や住宅ローン金利の動向、住宅ローン控除の変更などの「外的要因」よりも、その人のキャリアや家庭環境、住宅に求める要素などの「内的要因」によって決めたほうがよいと思います。
例えば、都内の住宅価格は高騰しているため、買うには難しいタイミングかもしれませんが、住宅ローン金利は低い状況です。こうした状況を「買い時」だと捉えるかは、その人次第ですし、そもそもコントロールができません。また極端な話、どんなに外部要因がよい状況だったとしても、申込人が転職直後だったり病気をしていたりしたら、希望する金額は借りられないかもしれません。
住宅には「資産性」と「居住性」の二面があります。住宅を資産として捉えるなら、住宅価格が高いときに買うべきではないですし、住宅ローン金利は低いほうがよいでしょう。
しかしその家に住むことを重視するなら、自分のライフスタイルを叶えるエリアにあり、自分が満足できる物件なのか、自分の家計バランスを考えたときその住宅ローン返済額で妥当なのか、といったことを満たせば、自分にとってはよい選択になるでしょう。
「今、自分は家を買うタイミングなのか」「家に何を求めるのか」といった視点で検討してみてはどうでしょうか。 
●日本生命:超長期債投資増額を検討、日銀は正常化へ一歩と評価 12/22
日本生命の都築彰理事・財務企画部長は21日のインタビューで、日本銀行の長期金利の変動幅拡大を受けて超長期債投資の増額を検討する方針を示した。今回の政策修正は金融政策の正常化に向けた一歩と前向きに評価している。
都築氏は超長期債について、タイミングは別にして市場は一定程度政策修正を想定していたとして「われわれも含め国内機関投資家の需要もあり、金利がどんどん上がることは想定していない」と述べた。それでも30年債金利が1.5−2%に上昇すれば投資しやすいとして「低利の国債の入れ替えも含め、少し厚めに投資することも検討しなければならない」と語った。
日銀は20日の金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(YCC)の長期金利許容幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大した。市場では日銀の次のステップはマイナス金利解除との見方もあるが、都築氏は「あくまで金融緩和を続ける中での微修正」と冷静に受け止め、金融政策を平常に戻すための小さなステップだと評価した。
野村証券の中島武信チーフ金利ストラテジストは、日銀の突然の政策修正を受けてさらなる政策修正観測が高まる中、「生命保険会社が超長期債をしっかり購入する姿勢を示したことは他の投資家にとっても非常に大きな安心材料になる」と述べた。
景気減速と円高
都築氏は2023年について、世界的に景気が減速して為替も円高に振れるとみて、追加的な政策修正の「ハードルは高い」と予想した。米国のインフレが一段と進んで海外金利が上昇し、海外投資家が再びYCCへの攻撃を強めた場合、日銀がもう一度変動幅引き上げを検討する可能性はあるとしながら「今のところそこまで想定していない」と語った。
外国債投資には慎重姿勢を維持している。ヘッジコストが長期金利を上回る状態がしばらく続くとして「ヘッジ付き外債への投資は難しい」と語った。為替も来年にかけて円高を予想して、為替ヘッジなしのオープン外債も「なかなか投資が難しい」とした。
海外クレジット債投資はスプレッド(米国債に対する上乗せ金利)が結構乗っているとして「スプレッド込みの金利からヘッジコストを引いた金利が日本国債並みかそれ以上確保できるのであれば、分散投資の観点からも引き続き力を入れてやっていきたい」と語った。 
●金融緩和修正で不動産投資は要注意…相場調整なら「REITが買い・・・」 12/22
20日、日銀の金融政策決定会合で長期金利の上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げる金融緩和の修正が決まった。
「今後、さらに引き締められると、株や不動産に流れ込んだ資金が逆回転する恐れがあります。そのため1ドル=150円台まで進んでいた円安が133円台まで戻すなど、為替が敏感に反応しました」(経済ジャーナリスト)
そんな中、岸田文雄首相の「資産倍増計画」によって実現しようとしているのが、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化と投資枠拡大。家計の金融資産のうち約1100兆円の現預金を投資に振り向けようという意図で投資熱は高まっているが、株や不動産はいまだ高値圏で推移している。
低コストの投資信託の長期積み立て投資ならともかく、円安や低金利を背景に海外投資家から人気の不動産投資については、「金融緩和も実施から10年が経過し、そろそろ金利上昇を警戒すべき段階です」と、不動産アナリストの長谷川高氏も様子見を勧める。
来年4月に任期を終える日銀の黒田東彦総裁だが、後任が今後どの程度修正に舵を切るかは不明のため、不動産への影響は未知数だ。
「1990年代のバブル崩壊のように長期低迷するのか、リーマン・ショックのように比較的短期で回復するかは引き締めの度合いで変わってくるでしょう。今後の金利上昇で不動産相場が大きく調整すれば、REIT(不動産投資信託)が買いのチャンスかもしれません」(長谷川高氏)
金融緩和修正で要注意の不動産投資
投資家から集めた資金で購入したビル、物流倉庫など、不動産からの賃料収入を分配する仕組みで、日本でも「J-REIT」が01年からスタート。
「REITは投信なのでNISAが利用できます。実物の不動産を買うより投資金額が少額で済み、分散が利いています。個人が投資するようなアパートよりも物件の規模やグレード感が圧倒的に優れていて、固定資産税などもかかりません」(長谷川高氏)
現在分配金の利回りは4%程度で、株と同様、価格は全体的にコロナショック前の8〜9割まで戻しているという。
「ミドルリスク・ミドルリターンといわれますが、リーマン・ショックやコロナショックの際は狼狽売りされているので、緩和の大幅な見直しがあれば同様の事態は免れないでしょう。これから購入するなら積み立て投資のように少しずつ買うことが賢明です」(長谷川高氏)
とはいえ、REITも玉石混交。不動産が高騰する今、資産価値に疑問符がつく物件を、親会社から購入するなど“ゴミ箱”化しているREITもあるため、注意が必要だ。 
●日銀、実質利上げ 物価安定、後手に回った 12/22
日銀は大規模な金融緩和策を修正し、長期金利の上限を従来の0・25%程度から0・5%程度に引き上げる事実上の利上げを決めた。海外で金融引き締めが進む中、従来の大規模緩和は急速な円安の要因となり、物価高が進んで家計を圧迫している。日銀の対応は後手に回ったと言わざるを得ない。
円安是正が期待される半面、住宅ローン金利や企業の借入金利の上昇、国債の利払い費の増加などの影響も懸念される。今後もメリット、デメリットをよく見極めながら、状況に応じた効果的な金融政策を素早く講じていくことが求められる。
大規模緩和は2013年、安倍政権下でスタートした。短期金利をマイナス0・1%、長期金利を0%程度に誘導することが柱。海外発の金利上昇圧力により、長期金利は日銀が上限とする0・25%に張り付いて推移していた。今回は上限を0・5%程度とし金利上昇を認めた。
10月の消費者物価指数は前年同月比3・6%の伸びで、約40年ぶりの高い上昇率だった。インフレを抑制するため米欧の中央銀行は大幅利上げを進めているが、日銀は大規模緩和を維持。内外の金利差が円安を招き、輸入物価の高騰につながって家計や企業経営を直撃している。
日銀の責務は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することだ。多くの国民にとって、日銀の方針転換はあまりに遅かったのではないか。
大規模緩和で日銀は、長期金利の指標である10年物国債を無制限に買い入れ、超低金利を保ってきた。だが、国債金利の決定は本来市場に委ねるべきものだ。10年物国債は市場での取引が低調で、終日取引が成立しない日が相次いでいた。日銀の黒田東彦総裁は実質利上げの目的について「市場機能を改善」することを挙げた。さらなる機能改善の取り組みが求められる。
黒田氏は今回、長期金利の上限引き上げについて「利上げではない」と説明した。9月の会見では利上げに当たるとの見解を示し、「金融緩和の効果を阻害するので考えていない」と明言していた。説明を一変させた理由は明らかにしていない。
市場が予想していなかった「サプライズ」の実質利上げにより、円高が進み、長期金利が上昇、株価は続落した。黒田氏の一貫性のない発言は国内外の投資家やエコノミストの日銀に対する信用を低下させ、金融政策の効果を弱める恐れもある。黒田氏は方針転換についてしっかり説明し、市場と国民の理解を得る責任がある。
現在の国債残高は1千兆円超。日銀の保有分はその半分以上で、大規模緩和前の13年3月末比約5・7倍に上る。大規模緩和が政府の財政規律を緩めているとの指摘もある。大規模緩和からの出口戦略も視野に、今後の責任ある金融政策を政府と日銀は明示する必要がある。 
●円が131円台後半に反発、さらなる日銀政策修正リスクを意識 12/22
東京外国為替市場では円が1ドル=132円台半ばから131円台後半に反発。日本銀行による予想外の金融緩和策修正を受け、さらなる修正や政策変更の可能性が意識される中、円の押し目を買う動きが優勢となった。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは日銀政策修正の円相場への影響について、「日米の金利差縮小だけでいくと133円でも結構良いところだったが、想定よりもインパクトが大きくなっている印象」と指摘。「YCC(イールドカーブコントロール)撤廃などまで織り込まれてしまうリスクが意識されている」と話した。
日銀による長期金利の許容変動幅拡大を受け、円は20日に137円台から一時130円台まで急伸。その後円の上昇は一服し、21日の海外市場では132円台半ばまで小反落していた。
三菱UFJ銀行の鈴木悠太調査役(ニューヨーク在勤)は「135−137円台のロング(ドル買い・円売りポジション)の損切りはいったん130円のところで終わり」、日銀の決定についてもいったん消化したと説明。「ドル・円は大きく下落したので、自律反発的に132円台を回復したという印象」と話していた。
一方、今回の予想外の政策修正を受けて、市場では日銀政策に対する疑心暗鬼が広がっている。
みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジストらは「日銀サプライズ」により、今後も追加修正期待が高まりやすくなったとし、ドル・円相場の予想をドル安・円高方向に修正したことをリポートで明らかにした。23年末の予想は122円で、従来は130円だった。
野村証の後藤氏は、今回の政策修正により「日銀に対するクレディビリティー(信頼性)が相当低下してしまっている部分がある」と指摘。日銀政策に関して円高的な思惑が高まりやすくなったことで「ドル・円が130円を割り込むタイミングが少し早まり、早ければ年内や来年の早い段階での可能性が高まっている」と話した。 
●物価上振れなら日銀の次なる政策修正観測に拍車も−23日に全国CPI 12/22
日本銀行による突然の金融緩和策の修正を受けて、市場には日銀の次の一手に対する思惑が広がっている。今後の物価の動向によっては、さらなる緩和修正の観測に拍車が掛かる可能性がありそうだ。総務省は23日に11月の全国消費者物価指数(CPI)を発表する。
生鮮食品を除くコアCPIの前年比上昇率は足元で日銀が物価安定目標で掲げる2%を大きく上回って推移している。ブルームバーグの調査によれば、11月は同3.7%(前月3.6%)とさらに伸びを高める見通し。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは20日付リポートで、12月には4%前後まで上がる可能性があるとの予想を示した。
大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、今後の物価の上振れは「海外勢を中心に、日銀によるさらなる政策修正の思惑を高めやすい」と指摘。政府の物価対策もあり、年明け以降は2%を割り込んでいく可能性はあるとしながらも、来年4月以降は公共交通機関の値上げやサービス価格の改定などで想定より物価が下がらない可能性があるとみる。
日銀は20日の金融政策決定会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の誘導水準を0%程度に維持しつつ、変動許容幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大することを決めた。事実上の利上げと捉えた市場では長期金利と円相場が急上昇し、株式相場は大幅に下落した。
黒田東彦総裁は決定会合後の会見で、YCC政策の運用を見直した理由について、市場機能の改善によって金融緩和の持続性を高めるためと説明した。上昇する物価動向と切り離すことで、「利上げではない」ことを正当化した格好だ。
黒田総裁は現段階で「2%の達成は見通せない」と繰り返したが、予想物価上昇率の上昇によって実質金利が下がり、景気刺激効果は強まっていると説明。「賃金・物価に動意が見られるようになってきたというのは事実」との見方も示した。先行きの物価動向次第では、賃金上昇を伴う形での2%物価目標の実現性が高まり、日銀の政策修正観測が強まる可能性がある。
日銀の現在のコアCPI見通しは2022年度こそ2.9%上昇だが、23・24年度はいずれも1.6%上昇と鈍化を見込んでおり、これが金融緩和を継続する根拠となっている。しかし、最近の物価動向は日銀の見通しから上振れているとみられる。鍵を握る賃上げ動向や足元の円高進行を踏まえ、1月中旬公表の新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)で示される物価見通しへの注目度も高まっている。
●ドル・円は弱含みか、米減速懸念は一服も日銀政策にらみ円買い継続 12/22
22日の欧米外為市場では、ドル・円は弱含む展開を予想したい。米国内総生産(GDP)が底堅い内容なら、景気減速懸念のドル売り後退の見通し。ただ、日銀による一段の政策修正への思惑は継続し、円買い基調に振れやすい地合いとなりそうだ。
21日発表された米消費者信頼感指数は強い内容となり、前週から続いていた減速懸念のドル売りは収束。ユーロ・ドルは直近の高値圏である1.06ドル半ば付近から値を下げ、ドル・円は131円半ばから132円半ばに浮上した。ただ、本日アジア市場で日経平均株価や上海総合指数などアジア主要指数は強含み、株高を好感した円売りが先行。一方、米株式先物の堅調地合いで、ドルはリスクオフの売りが優勢となった。
この後の海外市場は手がかりが乏しいなか、景気動向が注視される。米7-9月期GDPは3期ぶりにプラスへ浮上し、今晩の確定値は上方修正の改定値から横ばいの見通し。21日の消費者信頼感同様、景気減速懸念を弱められればドル売りは縮小しそうだ。ただ、日銀は金融政策決定会合で長期金利の許容変動幅を拡大しており、目先も緩和政策縮小を進めると警戒される。円買い圧力が続き、主要通貨を下押しするとみられる。  
 12/23

 

●日銀、なぜ突然「緩和修正」を決定? 酷評あっても「日銀の作戦勝ち」 12/23
年末で金融市場が閑散とする中、日銀は予想外にイールドカーブコントロール(YCC)の修正に踏み切った。筆者の知る限り、今回の政策修正を事前に予想していた市場関係者はいなかった。ニュースヘッドラインを“二度見”した市場関係者が多かったことは容易に想像がつく。日銀が政策修正に踏み切った背景とは。そして2023年の金融政策はどうなるのか。
10年金利の変動幅を拡大、金融環境への悪影響を危惧
今回の決定はあくまでYCCの「修正」であり、政策金利の誘導目標そのものを「変更」するものではなく、短期金利はマイナス0.1%、長期金利は0%程度で据え置かれた。今回、修正が施されたのは10年金利の「変動幅」である。従来のプラスマイナス0.25%とされていたものが今回プラスマイナス0.50%へと拡大された。
念のため解説しておくと日銀が定める10年金利の誘導目標は「0%程度」、その「程度」の定義が今回「プラスマイナス0.50%」に変更されたというわけだ。政策修正の狙いの一つに、市場機能の復活がある。
2022年入り後、海外の主要中央銀行が金融引き締めを急ぐ中で世界的に長期金利が上昇していたのをよそに、日本の10年金利は日銀が上限と定める0.25%で頭打ち感となっており、本来の意味での “金融市場”から隔離された状態になっていた。
通常、長期金利はその国の体温(≒経済・物価動向)を示すものであるが、それがYCCによって著しく機能が損なわれているとの指摘は多くあり、日銀自身もそれを自覚していたことから、長期金利の変動幅拡大に踏み切ったとみられる。
日銀は今回の決定の背景について「債券市場では、各年限間の金利の相対関係や現物と先物の裁定などの面で、市場機能が低下している。国債金利は、社債や貸し出し等の金利の基準となるものであり、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼすおそれがある」と記載し、YCCによる市場機能低下を認めた。
黒田総裁「利上げではない」と強調
長期金利の変動幅拡大は事実上の利上げに相当するが、黒田総裁は記者会見で「利上げではない。金融引き締めではまったくない」と繰り返し、また声明文にも「金融緩和の持続性を高める」目的であるとの旨が明記された。
端的に言えば、「事実上の利上げはしたけれども、それによって緩和的な金融政策が長く続けられるようになるのだから、そう考えれば金融引き締めではない、むしろ緩和的だ」という論法だ。
こうした情報発信は日銀が過去に引き締め方向の政策修正(たとえば2021年3月のETF買い入れ方針変更)を決定した際にも用いられていたからもはや驚きはないが、改めてその説明が「巧」であることを痛感させられた。今後、日銀がマイナス金利の撤回を含めた金融引き締め方向への政策変更に踏み切る際は、こうした巧みな説明で過去の発言と整合性を確保していくとみられる。
なぜ突然、金融緩和修正が決まったのか?
今回の決定はその唐突感が話題となった。予想を外した専門家は「市場との対話を軽視している」あるいは「予測不可能な金融政策は中央銀行としての信頼を損ねる」などと酷評するが、筆者が思うに今回は日銀の作戦勝ちである。というのも、YCCの修正は「いきなり感」が不可欠であるからだ。これは(国債を買い入れる)オペ運営の実務を考えれば当然である。
事前に市場参加者とのコミュニケーションを重ねることは金融政策の常道であるが、YCC(長期金利コントロール)に限っては、事前に利上げ観測が広がってしまうとオペに売りが殺到してしまい、かえって混乱を招いてしまうという事情があるためだ。もし、仮に今回の政策修正が1カ月前に予測可能な状態になっていたとしたら、国債を保有する投資家は可能な限り多くの国債を0.25%の利回り(≒高い債券価格)で日銀に売却したはずであり、オペが持続不可能になっていた可能性がある。
「黒田総裁の任期中に政策変更はないだろう」というある種の油断がまん延していたこのタイミングを逃さなかった日銀が一枚上手だったと筆者は考える。今後、YCCの10年金利操作を撤廃あるいは引き上げるタイミングは、多くの市場参加者が油断する時になるのではないか。
2023年新体制の日銀、次の注目点は○○
では、来年日銀は新体制でどういった方向にかじを切るのか。まずポイントになるのは新型コロナウイルスの感染状況にひもづいている現在のフォワードガイダンス(将来の政策指針)を修正するタイミングだ。
「当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。」
これは新型コロナウイルスまん延の初期段階にあたる2020年4月のパニック時において緊急対応的に導入されたものである。今後、日本でも欧米のような経済活動再開が期待される中、いつまでもコロナを理由とする緩和継続方針を掲げておくことは正当化されなくなるだろう。新総裁は着任早々にこのフォワードガイダンスを見直し、その時の賃金・物価情勢を踏まえ、金融政策を策定していくとみられる。
筆者は2023年の賃金・物価動向が、日銀の政策転換を促す方向に動くとみている。その点で注目しているのは企業の価格設定スタンス。中でも筆者が重視する非製造業の販売価格判断DIは大企業がプラス28、中小企業がプラス26と共にバブル時の頂点に比肩する勢いで上昇し、値上げの裾野拡大を印象付ける領域に達している。
これまで企業はコストプッシュ型のインフレに直面した際に十分な価格転嫁ができず、結果的にそれは賃金の下押し要因になってきたが、深刻な人手不足と投入物価の上昇に直面する企業は、最後まで値上げを我慢してシェアを守ろうとする消耗戦に距離を置き始めたようにみえる。
人手不足が構造的な色彩を帯びる下で、一人あたりの賃金は上昇基調を強めており、今や毎月勤労統計の所定内給与は前年比プラス1%を安定的に上回るようになってきた。もちろん春闘の結果次第ではあるが、2023年もこうした賃金上昇を伴った物価上昇が観察されるようだと、日銀は出口戦略にかじを切る可能性が高まる。
新総裁が決まっていない現状、正確な予想を示すのは難しいが、23年春〜夏ごろにはマイナス金利撤回に向けた議論が本格化しているのではないか。
●過去最大更新の23年度予算、日銀緩和修正で超低金利依存から脱却急務 12/23
政府は23日、過去最大規模となる2023年度当初予算案を閣議決定する。日本銀行による予想外の政策修正を受けて市場は来年以降の利上げを織り込み始めており、異次元緩和による超低金利に依存した財政政策からの脱却が急務となる。
ブルームバーグが入手した資料によると、23年度予算案の一般会計総額は114.4兆円程度と防衛費を中心に22年度当初予算から約6.8兆円増え、11年連続で過去最大を更新。税収の増加で新規国債発行は35.6兆円程度と22年度当初の36.9兆円から抑制するものの、国債残高の累増に伴い、国債費は25.3兆円程度と22年度当初から0.9兆円増える見通しだ。
日銀は20日、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の誘導水準を0%程度に維持しつつ、許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。黒田東彦総裁は「利上げや金融引き締めではない」としたが、唐突な政策修正だったこともあり、日銀が再び豹変(ひょうへん)するリスクを市場は意識せざるを得ない状況だ。
21日の債券市場では一時、2年国債利回りがマイナス金利導入前の15年以来のプラス圏に浮上。ブルームバーグのデータによると、先行きの金融政策に対する市場の見方を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS、2年)は0.25%程度と08年のリーマンショック直後以来の水準に上昇している。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、「日銀は利上げではないと言っているが、正常化に向けた流れだとの見方が市場で強まっている」と指摘。「そろそろ政府の方も国債費が増え続けていく可能性に注意を払うべき時期に来ている」との見方を示した。
財務省によると、日銀による金融緩和の長期化によって普通国債の加重平均金利は低下を続け、17年度末に1%を割り込み、21年度末は0.78%まで低下している。一方で国債の利払い費は2000年代半ばを底に緩やかな増加傾向にあり、超低金利下にもかかわらず、国債残高の累増が徐々に財政を圧迫しつつある。
金利が上昇しても発行済みの国債の表面利率は変わらず、利払い費が直ちに急増するわけではないが、残高1000兆円を超える国債が次第に高めの金利に入れ替わるインパクトは小さくない。財務省は、金利が予算編成上の想定(10年国債利回り)よりも1%上昇した場合、国債費は23年度に0.8兆円、24年度に2.1兆円、25年度に3.7兆円増加すると試算している。
「ミスターJGB(日本国債)」と称される財務省の斎藤通雄理財局長は8月のインタビューで、日銀の大規模な国債買い入れと超低金利政策が「未来永劫(えいごう)続くわけではない」とした上で、「発行当局としてできることは何か、何が残っているのか総点検を行い、市場を整備していく必要がある」と述べた。
来年の春闘で相応の賃上げが実現すれば、さらなる異次元緩和の修正も視野に入ってくる。仮に2%の物価安定目標の実現に近づいたにもかかわらず、日銀が緩和政策の継続に固執すれば、今度こそ「財政ファイナンス」との批判から逃れられない。政府と日銀は後手に回らないよう、金融市場の安定確保に向けた一層の連携が必要となる。
岸田文雄政権はこのほど、30兆円近い一般会計の追加歳出を伴う総合経済対策を取りまとめたばかり。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の対策のような大きな財政拡大はなかなか続けられないとし、「長期政権をにらんで政権基盤を強くしていくならば、財政再建は必須だ」と語った。
●動いた日銀 緩和修正を読む・・・ 銀行の灰色債権、60兆円超 12/23
日銀が大規模緩和の修正に動いたことで、過剰債務を抱える企業は利払い負担の増加という問題に直面する。破綻予備軍と呼ばれる要注意先向けの融資残高(銀行などの灰色債権)は今年、9年ぶりに60兆円を突破し、さらに膨れあがる可能性が高い。一方で、金利上昇は運用環境の改善や円安の抑止につながる。家計などへのプラスの効果も見逃せない。
灰色債権とは、返済条件の変更や元利払いの猶予などが必要になった企業(要注意先)向けの債権だ。金融庁によると、2022年3月末の残高が60.1兆円となり、新型コロナウイルス禍が広がる前の19年3月末と比べて15兆円、約3割増加した。新型コロナの長期化で企業の事業環境は厳しい状況が続いた。米リーマン・ショック後のピークの約70兆円に迫りつつある。
状況はさらに悪化する可能性がある。新型コロナ対策で導入した実質無利子・無担保融資(通称、ゼロゼロ融資)の返済と、日銀の政策変更を受けた融資金利の引き上げが二重の負担となるためだ。企業全体の債務残高は9月末で479兆円と約22年ぶりの水準まで膨らんでいる。
ゼロゼロ融資の返済は一部で始まっているが、23年から返済が始まる分の企業に要注意先が多いとされる。金融庁幹部は「今返済できている企業は余裕のある正常先。これから返す企業はそうではない。利上げが始まれば、不良債権化するリスクが高まる。23年は正念場の年だ」と語る。
灰色債権が企業の倒産などで不良債権に変われば、体力に劣る地域金融機関の経営を圧迫する。米長期金利の上昇(米債価格は下落)で、99地銀のうち6割が9月末時点で有価証券の含み損を抱えている。不良債権処理が追い打ちになれば、地銀の貸し出し姿勢などにも影響しそうだ。
もちろん、借金ゼロで現金などを潤沢に抱える企業にとっては、金利上昇は必ずしもマイナスではない。借り入れ状況などで企業の明暗が分かれる可能性が高い。
家計にはプラスの効果も期待される。10月末に1ドル=151円台まで下げた円相場は、米利上げの減速や日銀の緩和修正で130円近くまで戻した。円安が収まれば輸入物価の上昇にブレーキがかかり、家計の負担感は和らぐことになる。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介氏によると、円安が進んだ22年度は前年度比で9.6万円の負担増となる。ただ、日銀の緩和修正で円相場が130円程度で落ち着けば、23年度はもともと想定していた負担増(3.9万円)から、3000〜4000円程度の負担減に転じる可能性があるという。
運用環境も改善しそうだ。日本生命保険は15日、契約時に保険料をまとめて納める一時払い終身保険の予定利率を23年1月1日以降、0.25%から0.60%へ改定すると発表した。引き上げは約16年ぶり。予定利率が上がれば、同額の保険金を得るのに必要な保険料が少なくなる。たとえば60歳男性が保険金を500万円受け取る場合、現在は497万円を払い込む必要があるが、23年1月からは466万円で済む。
日銀が緩和修正を決める前から30年物の国債利回りなどが上昇したことによる措置だ。今後金利上昇が進めば、資産運用を目的に加入することが多い保険商品で似た動きが広がる見込みだ。明治安田生命保険も同様の商品で、16日に予定利率を0.43%から0.50%へ引き上げた。
銀行の預金金利は当面、据え置かれそうだ。日銀は長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げる一方、短期の政策金利はマイナス0.1%に据え置いたためだ。
銀行が支払う利息はゼロ金利政策を導入した1999年の年4兆8千億円から、足元では20分の1の約2400億円まで減少している。大規模緩和からの出口が本格化して預金金利が引き上げられれば、個人消費などにもプラスに働くとみられる。 
●日銀 10月金融政策決定会合で“政策変更は好循環妨げる”指摘  12/23
日銀がことし10月に開いた金融政策決定会合で、政策委員から、政策の変更は物価と賃金の好循環を妨げるリスクがあるといった指摘が相次いでいたことがわかりました。ただ、日銀は今月20日の会合で、一転して金融緩和策の修正を決めていて、修正の理由などについて丁寧な説明が求められることになりそうです。
議事要旨によりますと、会合では、すべての政策委員が、金融調節でのさまざまな工夫によって、国債の利回りの動きは日銀の方針に沿った形になっているという認識を共有したということです。
また、ある政策委員は「長期金利が変動幅の上限に張り付いていることは、市場機能にマイナスの影響を与える面もある」などと、金融緩和の副作用を指摘した一方、長期金利が低い水準で推移していることは経済に与えるメリットが大きいという見方も示しました。
そして、複数の委員から「中途半端な政策の変更は物価と賃金の好循環を妨げるリスクがあるため、時間をかけて粘り強く金融緩和を行う必要がある」といった意見が相次ぎ、このときの会合では大規模な金融緩和の維持を決めました。
ただ、日銀は今月20日に開いた会合で、一転して金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げることを全員一致で決めました。
この修正について日銀は金融引き締めではないとしていますが、市場からはこれまでの説明を覆したという指摘も出ていて、修正の理由などについて丁寧な説明が求められることになりそうです。
●過去最大の23年度予算、日銀緩和修正で超低金利依存から脱却急務 12/23
政府は23日、過去最大規模となる2023年度当初予算案を閣議決定する。日本銀行による予想外の政策修正を受けて市場は来年以降の利上げを織り込み始めており、異次元緩和による超低金利に依存した財政政策からの脱却が急務となる。
ブルームバーグが入手した資料によると、23年度予算案の一般会計総額は114.4兆円程度と防衛費を中心に22年度当初予算から約6.8兆円増え、11年連続で過去最大を更新。税収の増加で新規国債発行は35.6兆円程度と22年度当初の36.9兆円から抑制するものの、国債残高の累増に伴い、国債費は25.3兆円程度と22年度当初から0.9兆円増える見通しだ。
日銀は20日、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の誘導水準を0%程度に維持しつつ、許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。黒田東彦総裁は「利上げや金融引き締めではない」としたが、唐突な政策修正だったこともあり、日銀が再び豹変(ひょうへん)するリスクを市場は意識せざるを得ない状況だ。
21日の債券市場では一時、2年国債利回りがマイナス金利導入前の15年以来のプラス圏に浮上。ブルームバーグのデータによると、先行きの金融政策に対する市場の見方を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS、2年)は0.25%程度と08年のリーマンショック直後以来の水準に上昇している。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、「日銀は利上げではないと言っているが、正常化に向けた流れだとの見方が市場で強まっている」と指摘。「そろそろ政府の方も国債費が増え続けていく可能性に注意を払うべき時期に来ている」との見方を示した。
財務省によると、日銀による金融緩和の長期化によって普通国債の加重平均金利は低下を続け、17年度末に1%を割り込み、21年度末は0.78%まで低下している。一方で国債の利払い費は2000年代半ばを底に緩やかな増加傾向にあり、超低金利下にもかかわらず、国債残高の累増が徐々に財政を圧迫しつつある。
金利が上昇しても発行済みの国債の表面利率は変わらず、利払い費が直ちに急増するわけではないが、残高1000兆円を超える国債が次第に高めの金利に入れ替わるインパクトは小さくない。財務省は、金利が予算編成上の想定(10年国債利回り)よりも1%上昇した場合、国債費は23年度に0.8兆円、24年度に2.1兆円、25年度に3.7兆円増加すると試算している。
「ミスターJGB(日本国債)」と称される財務省の斎藤通雄理財局長は8月のインタビューで、日銀の大規模な国債買い入れと超低金利政策が「未来永劫(えいごう)続くわけではない」とした上で、「発行当局としてできることは何か、何が残っているのか総点検を行い、市場を整備していく必要がある」と述べた。
来年の春闘で相応の賃上げが実現すれば、さらなる異次元緩和の修正も視野に入ってくる。仮に2%の物価安定目標の実現に近づいたにもかかわらず、日銀が緩和政策の継続に固執すれば、今度こそ「財政ファイナンス」との批判から逃れられない。政府と日銀は後手に回らないよう、金融市場の安定確保に向けた一層の連携が必要となる。
岸田文雄政権はこのほど、30兆円近い一般会計の追加歳出を伴う総合経済対策を取りまとめたばかり。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の対策のような大きな財政拡大はなかなか続けられないとし、「長期政権をにらんで政権基盤を強くしていくならば、財政再建は必須だ」と語った。 
  
●23年度予算案、過去最大114兆3812億円 政府決定 12/23
政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決定した。22年度当初予算から6兆7848億円増え、11年連続で過去最大を更新した。110兆円超えは初めて。高齢化による社会保障費の膨張に加え、1兆4192億円の大幅増で6兆7880億円を計上する防衛費が総額を押し上げた。
税収は69兆4400億円と過去最高を見込む。堅調な企業業績や雇用者数の伸びが背景にある。歳出の拡大に追いつかず、35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めする。全体の31.1%を借金に頼る。
政府は今後5年間の防衛費を従来の1.5倍の43兆円程度とする方針。初年度の23年度は前年度から1兆4192億円増やした。伸びは近年の500億〜600億円程度から一気に拡大した。
一般会計の3割を占める社会保障費は36兆8889億円計上した。高齢化による医療や介護の費用の自然増で、前年度から6154億円上振れした。地方自治体に配る地方交付税に一般会計から出す額は5166億円増え16兆3992億円とした。国債の元利払いに充てる国債費は、25兆2503億円と9111億円膨らんだ。
新型コロナウイルス禍で始まった巨額の予備費も引き続き計上した。コロナ・物価高対策で4兆円、ウクライナ危機対応で1兆円を盛った。予備費は政府が閣議決定で具体的な使い道を決められる。国会の監視が及びにくいとの批判がある。 
 12/24

 

●任期満了近づく師走の“黒田サプライズ” 住宅ローン金利は年明け上昇か 12/24
黒田総裁「利上げではない」
日銀が「大規模緩和」を一部修正した。これまで金利を引き上げないとかたくなな姿勢をとり続けてきた日銀だが、 政策の修正に踏み切ることになった。
日銀は、景気を支えるため大規模な金融緩和を続け、金利を低く抑えている。
短期金利の誘導目標をマイナス0.1%程度にするとともに、10年の長期国債利回り(長期国債)はゼロ%程度で推移するようにし、無制限の国債買い入れを通じて金利が上がるのを抑え込んできた。
長期金利が上がるのを認める場合も 0.25%程度という水準までだとしてきたが、 この方針を修正して、 0.5%程度までの金利上昇を認めることにしたのだ。この決定を受けて長期金利は、一時0.46%となり、日銀が新たに認めた上限近くまで大きく上昇した。
市場関係者の多くが、この政策修正は「事実上の利上げ」 だと受け止めたが、 黒田総裁は、会見で、「金融緩和の効果がより円滑に波及していくようにする趣旨で、利上げではない」と強調している。
目立ってきた「大規模緩和」のデメリット
黒田総裁が強力に進めてきた「大規模緩和」だが、副作用のデメリットが目立ってきたことが、今回の修正の背景にある。大きな弊害が市場のゆがみだ。
日銀は、金利上昇を強引に抑えようと、大量の国債を無制限に買い入れ続けている。国債を売買する債券市場では、日銀以外の参加者の間で10年物国債の取引が成立しない日が相次いでいた。
日銀が操作する目標にしている10年金利は低く抑えられる一方で、そのほかの金利は、アメリカやヨーロッパの金利が上がるなか上昇し、金利構造がいびつなものになっていた。
黒田総裁自身も会見で認めたように、企業の資金調達では「10年の社債を避けるとか、いろいろな影響が出つつ」あったのだ。「企業金融などにマイナスの影響を与える恐れがあるので、市場機能の改善を図った」と総裁は説明している。
“円安に屈した”との構図を作りたくなかった?
さらに、デメリットが大きいのが、「円安」が進み、物価高が続いていることだ。
利上げを進めるアメリカとの間で金利の差が開いたことは、より高い利回りの見込めるドルを買って円を売る動きを強める結果となり、輸入品を中心に物価上昇が継続している。
ただ、円相場は、10月に一時1ドル=150円台をつけた時期から比べると、 最近、落ち着きを見せている。
ある市場関係者は、「円安が一段落した時期に行うことで 円安に屈したとの批判をかわす狙いがあったのでは」 と指摘している。このところの円安一服が、日銀に政策修正の機会を提供したのではというわけだ。
円相場は、20日の発表から1日で 7円近くも円高に振れ、敏感な反応を見せた。
総裁にとっての「ラストチャンス」
政策の修正をめぐり、取り沙汰されているのが黒田総裁の任期との関連だ。
黒田総裁は、2023年4月に任期満了を迎える。年が明けると、次の総裁が誰になるのか、 新総裁のもとで新たな政策が打ち出されるのか、など、 ポスト黒田への注目度が高まっていくことになる。
市場関係者の間では、 「黒田総裁が効果的な形で政策を修正して、 次の総裁にバトンタッチすることを考えるなら、 今回がラストチャンスだったのでは」 との声が聞かれる。
今回の決定については、 黒田総裁から、岸田総理に説明があったという。
政府関係者は、「もともと2人の間では、 金融政策は機動的に運用するという認識は共有されている」としたうえで、 「政府内では、日銀の決定は 柔軟な対応の一環だと受け止められている」と話している。
3度目の「黒田サプライズ」
今回、多くの市場参加者が政策の修正を予想していなかったが、 実は、黒田総裁は、過去にも市場の意表を突く形で 政策を打ち出してきている。
2013年に総裁に就任すると、 市場に大量のお金を流し込む「異次元緩和」と呼ばれる金融政策を、予想を大きく上回る大胆な規模や やり方で実施し、その手法は「黒田バズーカ」と呼ばれた。
さらに、2016年に導入したのが「マイナス金利」だ。
銀行が日銀にお金を預けておくと 逆に金利を取られるという異例の政策について、黒田総裁が実施を表明したのは、 そのような政策は検討していないと強く否定した わずか1週間後だった。
今回も、黒田総裁ら日銀幹部が、最近まで、 金利の上限を引き上げることについて、 「金融緩和の効果を阻害する」などとして 否定的な考えを示していただけに、 市場関係者の多くが 「大きなサプライズだった」と受け止めている。
住宅ローン「固定金利」に影響か
私たちの生活にはどんな影響があるのだろうか。
円相場が円高方向に傾くことで、 輸入品価格が抑えられる面はあるものの、 食品などの物価の高止まりは 当分続きそうだとの見方は強い。
気になるのは「住宅ローン金利」への影響だ。
住宅ローン金利には、「固定金利」と「変動金利」がある。長期にわたって金利が変わらない「固定金利」に対し、「変動金利」は一定期間ごとに金利が見直されるが、低い水準で推移してきていて、住宅ローン利用者の7割を占める。
今回、日銀が長期金利の上限を引き上げたことで、 「固定金利」のほうに影響が出る可能性がある。 住宅ローン比較サービス「モゲチェック」では、 「固定金利は来月上がることが考えられる」としていて、35年固定のフラット35と呼ばれるローン商品では、金利が0.26%程度上昇する可能性がある」としている。
このケースで試算すると、3500万円を借りた場合、 返済総額は170万円程度増えることになるという。
一方、「変動金利」については 「今回は直接の影響はなさそうだが、 将来、マイナス金利の解除など、日銀がさらなる政策変更を行った場合、上昇するリスクもある」との見方だ。
街の人はどう感じているか聞いてみた。
10年前に変動金利でローンを組んだという40歳代の会社員は、「金利水準が全く変わらないので、このままもう少し行けるかと思っている」と話す一方、変動金利で6年目を迎えたという30歳代の会社員は「今後、どうなるか不安だ」としたうえで、「変動のままでいいのか、35年固定にしたほうがいいのか、夫婦で相談をし始めている」と明かした。
間もなく金利の固定期間が終わるという50歳代の利用者は、「固定と変動、どちらを選ぶか大いに悩んでいる」という。
日銀はさらなる見直しを迫られるのか
この先、ローンなどの金利がどうなるのかは、 日銀の方針に大きく左右される。
黒田総裁のもとで続けられ、デメリットも目立ってきた 日銀の金融政策が、今回の修正に続き、 さらなる見直しを迫られることになるのか。
注意深くみていく必要がありそうだ。
●日本銀行「ポスト黒田と異次元緩和政策」の行方  12/24
雨宮氏と支持を二分する中曽宏氏
週刊東洋経済 2022年12/24-12/31【新春合併特大号】(2023年大予測 108のテーマで混沌の時代を完全解明!)
『週刊東洋経済 2022年12/24-12/31【新春合併特大号】(2023年大予測 108のテーマで混沌の時代を完全解明!)』(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
日本銀行において2023年に確実に起きることは黒田東彦総裁の2期目任期の終了だ。黒田氏が続投する可能性は制度上ありうるが、2022年11月に黒田氏はメディアから再任に関し問われた際に「個人的な希望はまったくない」と答えた。すでに異例の再任を経て歴代最長となっており、10年ぶりの総裁交代が確実視される。
次期総裁として政界や金融界で名前が最も挙がるのは現副総裁の雨宮正佳氏だ。黒田体制を支え、マイナス金利やイールドカーブ・コントロール(YCC〈長短金利操作〉)など現在の金融政策の構築にも関わったことから、スムーズな引き継ぎが期待される。また政策の急激な変化を警戒するマーケットに継続性を示すこともできる。国内の政財官界に広い人脈を持っていることも雨宮氏が最有力とされる材料となっている。
エコノミストからの支持を雨宮氏と二分するのが前日銀副総裁の中曽宏氏だ。雨宮氏と同様に日銀生え抜きかつ黒田氏の下で副総裁を務めた。1990年代の国内金融危機や2008年のリーマンショック対応などで危機管理の実績を積んできた。また2006〜2013年にBIS(国際決済銀行)市場委員会の議長を務めたことなどから海外の金融界に広い人脈を持つ。
そのほか元財務官でアジア開発銀行総裁を務める浅川雅嗣氏も取り沙汰される。実務能力が高く、黒田路線継承を印象づける雨宮氏や中曽氏より好ましいとの見方だ。
ただ、誰であろうと次期総裁に残される課題とそれを解決する道が困難を極めるのは変わりない。最大の問題は10年間掲げ続けた「2%の物価安定目標」を実現できていないことだ。その目標達成のために導入してきたマイナス金利やYCCなど各種「劇薬」をはじめとする政策の再評価と必要に応じた見直しが求められるだろう。
生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)上昇率は4月から2%を超え続け、10月には3.6%と約40年ぶりの伸びを示した。しかし、黒田氏は現在の上昇は資源価格高騰など一時的要因だとして日銀の目標は未達との姿勢を示す。黒田氏が退任するまでは日銀の政策変更はなさそうだ。
2022年は日銀が頑強に緩和路線維持を示す中、FRB(米連邦準備制度理事会)など各国中央銀行がインフレ退治のために金融引き締め策に転じた。そのため円は10月に一時1ドル=150円台の安値をつけた。景気後退観測が広がり、12月には一時1ドル=133円台まで戻したが、仮にアメリカが市場の予想した時期に景気後退入りせず、金融引き締めが長期化すれば、再び円安リスクは生じる。
政府のもたれ合いで悪循環
さらに政府は物価高抑制と称して総合経済対策で補助金による価格抑制を図っている。その財源調達に国債が発行されるが、それを可能としているのは日銀の緩和政策によって生じた超低金利状態だ。物価上昇を目指す日銀と金利抑制を目指す政府のもたれ合いで悪循環が繰り広げられている。為替の乱高下や政府との関係から金融政策の柔軟性喪失が垣間見える。
新総裁に求められる論点の1つは物価目標の「2%」という数値が妥当だったのかだ。2%の根拠は欧米の中銀が掲げていたことだが、デフレが続いた日本に当てはめても適当だったかは、この10年で目標を達成できなかった結果から改めて再検討が必要となる。それに合わせ、「2%」のために導入した各種政策の検証も必須だ。
とくに長期金利を固定し続けているYCCは市場の価格発見機能を大きく阻害し、マイナス金利も金融機関の収益を傷つけるなど副作用の大きさが懸念され続けてきた。日銀が買い入れ続けたETF(上場投資信託)も一部銘柄の価格形成をいびつにするなど問題視され、かつ膨れ上がったETF保有の出口戦略も課題だ。
とはいえ、2023年中にYCC撤廃やETF売却などでこれまでの異次元緩和を急転換させることはないだろう。時期に前後のブレはあるだろうが、2023年は世界的に景気後退が見込まれる中、日銀は引き締め方向への転換を行いづらい。金融政策の正常化に向けた出口の議論開始や、その環境整備に向けた日銀・政府間の共同声明の修正を進めるなど、政策柔軟化への姿勢を示せるかが問われる。
極端な方向を回避せよ
リスクとなるのは、新総裁が急激な政策転換を行うことだ。黒田氏によって金融政策が硬直化したことは事実だが、デフレからの反転など緩和政策に一定の成果があったのも確かだ。
2022年は、物価高や急速な円安で日銀を批判するなど国民感情の悪化がみられた。国内需要がまだ強くない中で、それらの声にも引きずられて黒田路線全否定の引き締め策への急転換を図れば、これまでの緩和効果をムダにしかねない。
一方で、黒田路線の継承やマクロ環境の悪化を理由にまったく出口戦略の議論をしない硬直性継続のリスクもある。過去10年間の各政策の便益とコストを検証する姿勢は最低限必要である。
引き締めには転じないものの、市場と対話しながら2024年以降を見据えて正常化を含めた各種選択肢を増やし始められるか。新総裁の見識と手腕が問われる。
●日銀“事実上の利上げ”決定 背景“脱アベノミクス”と“黒田総裁のメンツ”? 12/24
予想外の“矛盾した政策” 背景に「脱アベノミクス」? 黒田総裁は「メンツ」を気にかけた?
○ 赤荻歩(TBSアナウンサー)
日銀は2022年最後の金融政策決定会合を終えました。そこで従来0.25%程度としてきた長期金利の変動幅を0.5%に拡大することを決めました。事実上の“利上げ”とみられています。
一方で、今回の措置について、黒田総裁は「金融緩和の効果をより円滑にするためのもので、利上げではない」と説明しています。その上で「出口戦略の一歩ということではない。議論するのは時期尚早」としています。
また「さらなる変動幅の拡大は必要ないし、今のところ考えていない」「共同声明の見直しは必要ない」としています。まず今回の措置をどう受けとめましたか?
○ 末廣徹(大和証券チーフエコノミスト)
事実上の利上げって言っておきながら、黒田総裁は利上げじゃないという何かいろんなところで矛盾みたいなものが起きたという意味でも、こういう変更は誰も予想してなかった。理解が難しいような政策決定に至ったプロセスみたいなものを時系列に見ていく必要があると思っていて、思い切って10年前から振り返ろうかなとも思います。
2021年12月に第2次安倍政権が誕生し、2013年の2月に、政府・日銀は共同声明を発表します。できるだけ早くインフレ目標2%を達成するようにお互い頑張っていきましょうと。2013年の4月に黒田総裁が就任し、国債をたくさん買い入れて金利を押し下げる「異次元緩和」をやるんですけども、なかなか2%も達成できなかったと。そして2016年にもっと金利を下げてやろうってことで「マイナス金利」が導入されます。「マイナス金利」っていうのは、短期の金利を押し下げるっていう政策なので、長期の金利も全部、押し下げようっていうことで導入されたのが「イールドカーブコントロール」という政策。現在はこの「マイナス金利政策」と「イールドカーブコントロール」という政策が2016年からずっと続いているという状況ですね。
しかし、2023年の4月に黒田総裁がいよいよ任期切れで次の総裁が誰か注目されているんですけども当初は、次の総裁も基本的には黒田路線を引き継ぐだろうと、アベノミクスの継承という形で岸田政権も始まったわけですから、そんな変わらないと見られていた。ところが、12月になってからまさにアベノミクスの始まりであり、黒田緩和の始まりである共同声明を、改定した方がいいんじゃないかとか、政府はどうやら改定しようとしているみたいな話が出てきた。この共同声明が改定されるという話が出てきたのは、実は重要だったと思うんですよね。なぜ共同声明が変わるって話が出てきたかというと、アベノミクスの象徴を変えるっていうことなんで、まさに「脱アベノミクス」ですよね。脱アベノミクスが始まってるんじゃないかと。
ただ、黒田総裁の気持ちになると、政治サイドから「脱アベノミクス」を感じてこのままいくと、自分の10年間が否定されてしまうっていう気持ちが出たのではないかと。なので、金融緩和も維持したいんだけれども、最後の方にはその緩和の巻き戻しっていうのも少しやっておきたいと。今後、一気にアベノミクス路線、黒田路線がひっくり返ったときに「黒田総裁は10年間、間違っていたのではなくて、最後の方にはちゃんといろいろ考慮して動いていた」という評価になる。そういう意味で、黒田総裁は、最後にどう評価されるのかというメンツみたいなものも多分あったんじゃないか。
次期総裁は「日銀出身」が“暗黙のルール” 名前が上がる2人の「有力候補」
○ 赤荻歩
「脱アベノミクス」という流れがある中で次の総裁に関する話が出ました。2023年の3月9日から10日が、現在の黒田体制での最後の決定会合になり、その後3月19日に副総裁が任期を終え、そして4月8日には黒田総裁が任期を終えるという予定になっています。こうなると2023年の日銀の金融政策、並びに、新しい体制がどうなるかということになってきますね。
○ 末廣徹
次期日銀総裁候補ですから、候補として名前が挙がってる2人、雨宮副総裁と中曽前副総裁ですね。通常、財務省出身のあとは日銀出身で順番っていうのが日銀総裁の暗黙のルールですね。財務省出身の黒田総裁が2期やったので、次は日銀出身の方で、お2人のどちらかだと思うんですけれども、中曽さんの雰囲気はあるのかなというのが最近の流れだと思っていた。中曽さんはどちらかというと国際会議などにたくさん出てきた人で、グローバルなネットワークがあります。かつてFRBの総裁を務めた、アメリカの財務長官イエレン氏は友達らしいです。
ただ、10年前の日銀・政府の共同声明を変えるという話は、政府だけでできる話じゃなくて、日銀サイドでもちゃんとその話をしてる人はいると思います。後は金融政策に関してもう1回点検・検証した方がいいんじゃないかという、日銀関係者がちらほら出てきていて、なんか日銀の内部から変わってる感じもするんですよね。そうすると、今、日銀の内部にいらっしゃるのは雨宮さんの方で、実はもう総裁に内定していて、そこに向けた動きがもう始まっているというようにも見えるかなと思いますね。そういう意味では7割ぐらいで中曽さんかなと思っていたのですが最近、雨宮さんの可能性も5割ぐらいになってきたという認識です。
2023年は“円高”が進行? 異次元緩和の“出口”は?
○ 末廣徹
私は来年、1ドル=120円ぐらいまでいくんじゃないかなと思ってます。例えばアメリカが今は利上げを止めようとしてますけど、やはり利上げをもっとするとかなったりとかもありうるので。あとウクライナの問題がもっと深刻になって、ドルを持ってないと不安だという、いわゆる有事のドル買いみたいなことが起こりやすい社会にもなっていると思うので、それではまた円安になるリスクってのは当然あると思うので、次の日銀総裁はやはりもうちょっと正常化してほしいっという思いが政治側にあるのは事実だと思いますね。なので次の総裁は緩和一辺倒ではない方になるのだろうと。
ただ、マーケット環境が、出口戦略を許してくれるかの方が私は難しくて重要ではないかなと思う。先日の日銀短観によると、輸出企業の想定為替レートが1ドル=130円ぐらいになっていて、あと3円ぐらい円高が進むと輸出企業は一気に為替で損するという話になってくる。日本経済のことを考えるとそろそろ円高もこれ以上いくときついかなっていう感じになってきている。
2022年は円安が進んで、インフレも進行したのが悩みだったわけですけども、インフレももう半年ぐらいで多分ピークかなと。インフレも結構弱まってくるとすれば出口に向かう必要がある。無理やり出口に向かって円高が進んで、企業業績は悪化する。こっちを心配しなきゃいけないんですかってなってくると、意外にそんな余裕はないんじゃないかなと。要するに出口に向かうぞと言って始まって、政治的にももうアベノミクスは忘れるんだみたいな感じで始まったとしても、「意外にも脱アベノミクス路線はできません」という可能性が私は高いかなと思ってます。 
●日銀、緩和縮小へ軸足 政府には「共同声明」見直し論 一段の修正観測も 12/24
日銀が大規模な金融緩和策の縮小に事実上、軸足を移した。来春の日銀総裁の交代をにらみ市場で政策の修正観測がくすぶる中、日銀が先手を打った格好だ。政府内では、2%の物価目標の早期実現を明記した政府・日銀の共同声明の見直し論も浮上。年明けに大詰めを迎える次期総裁選びも絡み、さらなる政策修正へ市場の思惑は強まりそうだ。
市場をけん制
「大規模金融緩和を直ちに見直す状況になるとは思わない」。日銀が金融政策の修正に踏み切った20日午後、記者会見した黒田東彦総裁は市場に台頭する追加の政策修正観測をけん制。「異次元緩和」の根拠となっている政府・日銀の共同声明についても「見直す必要があるとは考えていない」と言い切った。
食料品などの相次ぐ値上げで、物価上昇率は既に2%の物価目標を上回っている。10月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比3.6%上昇した。ただ、日銀は「賃上げが伴わなければ物価上昇の持続性に欠ける」(幹部)と判断。黒田氏は現在の大規模な金融緩和を維持する構えを崩していない。
もっとも、低金利を続ける日銀の硬直的な政策運営が内外金利差の拡大を通じて急激な円安を招き、輸入物価の上昇に拍車を掛けた。また、低金利を維持するために長期化する国債の大量購入が「財政規律を緩め、事実上の(国の借金を中央銀行が穴埋めする)財政ファイナンスにつながっている」(外資系証券)との懸念も強い。
これら緩和の副作用に警戒感が強まる中、日銀内からも政策見直し論が出始めていた。田村直樹審議委員は一部報道機関とのインタビューで、金融政策の枠組みなどの在り方について「しかるべきタイミングで点検・検証を行うことが適当だ」と訴え、市場で注目を集めた。
次期総裁、正常化課題
こうした中で突如打ち出された長期金利の上限引き上げ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは「長い目でみた出口政策の一環だ」と指摘。次の一手として、長期金利の上限のさらなる引き上げやマイナス金利政策の解除を挙げる。
次期総裁選びが本格化することも、市場の政策修正観測を後押しする。ある日銀OBは「次期総裁は大規模緩和から脱却し、政策を正常化するのが最大の課題」と強調。総裁候補には雨宮正佳副総裁、前副総裁の中曽宏大和総研理事長ら日銀出身者が有力視されており、次期総裁の下で出口戦略に乗り出すとの見方は強い。
ただ、さらなる政策修正のタイミングを巡って市場が疑心暗鬼に陥れば、不安定化する恐れもある。今回の政策修正を「利上げではない」と説明した黒田氏だが、今後は市場との丁寧なコミュニケーションが求められる。
日銀の長期金利の変動容認幅の推移
2016年9月 / イールドカーブコントロール(長短金利操作)の導入を決定。長期金利を 0%程度に誘導
18年7月 / 長期金利の柔軟化を決定。長期金利の変動幅をプラスマイナス 0.2%程度まで容認
21年3月 / 金融緩和策の「点検」を実施。長期金利の変動幅をプラスマイナス 0.25 %程度まで容認
22年12月20日 / 長期金利の変動幅をプラスマイナス 0.5%程度まで容認
●日銀ショックを戦略的買い下がりで乗り切る! 12/24
金融政策修正の不意打ちに岸田政権の影
株式投資にサプライズは付きもの。この点はよく分かっていて、それが起きてもやむを得ないと、受け入れる覚悟はできているつもりだけど、今回は……である。
12月20日の日銀金融政策決定会合で決まった「金融政策の修正」、これは正直衝撃だった。黒田日銀総裁はこれまで繰り返し、大規模金融緩和を継続する姿勢を鮮明にしていた。
このサプライズは黒田総裁に言わせると、「大規模金融緩和策の変更ではない。金融政策の正常化のための修正だ」とのことだが、もちろん、こんな弁明は市場には通用しない。結果はご承知の通りで、いまも株式市場ではショック症状が続いている。
そこで考えねばならないのは、黒田総裁というより、日銀、さらには岸田政権の今後の金融政策になる。今回の不意打ち的な変更には、岸田政権の意向が働いたと考えられるからだ。
岸田政権は今年7月、大規模金融緩和に協力的だった日銀の審議委員2人が任期切れで退任したあと、新たに2人を起用した。
高田創氏と田村直樹氏だ。2人とも反リフレ派(大規模金融緩和に反対)とされ、審議委員に就任後はまだ“新人”でもあるのに金融緩和に否定的な発言を多方面で表明していた。
社会的に実績があるにしても、就任間もない立場では通常は遠慮がちの発言となるはずが、大規模金融緩和にどんな効果があったのか、点検・検証をすべきであるなどと、黒田総裁の方針に疑念があるかのような提言もしていた。
加えて今月17日には、政府内の一部に政府と日銀が定めたアコード(共同声明)の見直し論が浮上していることも明らかになった。
つまり、政府は日銀と必ずしも見解を一致させなくてもよい。こんな方向に進みつつあることが伺われる方針転換の観測であり、それに黒田総裁は譲歩せざるを得ない状況に陥っていたと見てよい。
利上げ歓迎の銀行株を二段構えで狙う
その結果が20日の金融政策修正の決定となるが、いったん実質利上げに踏み切った以上、今後も経済指標がインフレ感を強めることがあると、利上げされることになろう。米国のようにだ。
そのため、今後の投資では米国と日本の利上げ、この双方を意識しながらの売買にならざるを得ず、非常にやりにくくなることは覚悟しておきたい。
こんな状況下での投資は、当然利上げを歓迎する業界の銘柄か、利上げの影響を受けにくい企業になる。
まずは利上げを歓迎する業界となると 銀行、その他金融などになる。これらはすでに急騰中で投資しにくいが、ここから初押し、もしくは横ばいとなることはあるので、そのタイミングでの投資がお勧めの策になる。
具体的な銘柄としては、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]をはじめ、銀行株なら三井住友フィナンシャルグループ <8316> [東証P]、みずほフィナンシャルグループ <8411> [東証P]の3大メガバンクのほか、コンコルディア・フィナンシャルグループ <7186> [東証P]、京都銀行 <8369> [東証P]、しずおかフィナンシャルグループ <5831> [東証P]など、都銀、地方銀行の別なく、極論するなら自分が利用している銀行でよい。
ただし、投資のやり方は二段構えが望ましい。前述したようにどの銘柄も高値圏にあるため、現在水準あたりで試し買いを入れ、下げたら押し目からの反発を待ってもう一度買う。つまり、戦略的買い下がり作戦で対応したい。
 12/25

 

●日銀に喝! 長期金利引き上げだけではダメ、超金融緩和を止めるべき理由 12/25
日本銀行が12月20日に決定した長期金利の上限引き上げは、金融緩和政策の出口に向けての第一歩だが、これだけでは足りない――。特集『貧国ニッポン 「弱い円」の呪縛』では、野口悠紀雄・一橋大学名誉教授が緊急寄稿。野口氏は、日銀が進めてきた異次元金融緩和はデメリットが大きかったと断じ、日銀は“弥縫策”ではなく、金融政策を根本的に見直すべきだと論じる。日本経済への直言を続けてきた野口氏が日銀や政治に喝を入れる。
日銀の金融政策のどこに問題があるのか?
日本銀行は、20日、長期金利の上限を0.5%に引き上げた。これは、利上げではないし、出口戦略の一歩でもないと説明されているが、説得力を欠く。これは、異次元金融緩和政策の基本的な修正であり、出口に向けての第一歩だ。事実、長期金利も為替レートも大きく変動を始めた。
この決定が日本経済に与える影響を考えるため、まずこれまでの経緯を振り返っておこう。
2022年の春から、急激な円安が進んだ。この原因は、FRB(米連邦準備制度理事会)が急速に金利を引き上げたのに対して、日銀が金利抑制を続け、その結果、日米の金利差が開いたからだと説明される。
この説明は間違いではない。しかし不十分だ。なぜなら、金利差が開いただけで、これほど急激な円安が起こるはずはないからだ。
日米金利差が開くと円安が生じるメカニズムは、次のようなことだと説明されている。
日本の金利が低く米国の金利が高い場合、円で資金調達をして、ドルで運用すれば、金利差だけの収入が上げられる。この取引(円キャリー取引と呼ばれる)では、円を売ってドルを買うため、円安・ドル高になるという。
この説明ではなぜ不十分なのか。なぜなら借りた円を返却するときに、為替レートが円高になっている可能性があるからだ。その場合には、為替差損が発生する。損失額は金利差収入を上回る可能性がある。
従って、キャリー取引は極めてリスクの高い取引であり、金利差があるだけで簡単に増大するものではない。
22年3月以降に円キャリー取引が増大し、急激な円安が進んだのは、日銀が金利を引き上げないと明言したからだ。つまり、将来の金融政策について約束し、将来円高になる可能性は低いと約束したのだ。いわば、投機取引の利益を約束したことになる。このため、円キャリー取引のリスクが低下し、急激な円安が進んだのだ。
20日の決定で、今後の金利に関する保障はなくなった。今後も、予告なしに、突然金利上限が引き上げられるかもしれない。従って、為替レートに関する条件は、大きく変わったことになる。
異次元金融緩和でも 賃金はなぜ上がらなかったか?
異次元金融緩和政策とは、国債を大量に購入して長期金利を低下させることだ。金利が低下すれば、すでに述べたように円安にはなる。しかし、賃金が上がる保証はない。少なくとも経済学の教科書には、そのような説明は見当たらない。
だから、「金融緩和を行ったのになぜ賃金が上がらなかったのか?」という質問に対しては、「上がらなくて当然」と答えるほかはない。
これに対して、「物価が上がれば賃金が上がる」と言われるかもしれない。しかし、ここには別の問題がある。
第一に、国債の大量購入がなぜ物価を引き上げるのかが明らかでない。多くの人は、「金融緩和とは日銀が輪転機を回して大量の紙幣を印刷し、それを市中に供給することだ」と考えている。「それによって貨幣の流通量が増え、それが物価を引き上げる」というのだ。
しかし、この考えは間違いだ。異次元金融緩和では、大量の国債を購入した。その代金は日銀の当座預金に積まれた。これは、「マネタリーベース」であり「マネー」ではない。これが取り崩されて銀行預金になれば「マネー」になるが、そうしたことは生じなかった。
第二に、何らかのメカニズムによって物価が上がったとしても、それが賃金を引き上げる保証はない。
これに関連して、「フィリップス曲線」という関係が指摘される。それによると、物価上昇と失業率低下は相関している。だから、物価が上がれば経済活動が活発化し、それによって賃金が上がるのだという。
しかし、日本の場合には「フィリップス曲線の死」と呼ばれるように、曲線はフラットで、失業率の低下と物価上昇が結び付いていない。
以上二つの理由で、金融緩和を行ったとしても賃金が上がる保証はない。それにもかかわらず、金融緩和で賃金が上がるかのような錯覚に日本中がとらわれていた。誠に奇妙なことだったと言うほかはない。
円安で日本が貧しくなる 高度専門家の流出始まる
円安が進めば、外国のものが高くて買えなくなる。これは、すでに生じている。新しいiPhoneの価格は円安のために高騰し、日本人の初任給で買うとすれば食費もなくなるような水準になってしまった。iPhoneは日本人にとって高根の花になりつつある。
同様のことがさまざまな物やサービスについてもいえる。最先端の高度半導体は日本で作ることができないから、外国から買う必要がある。しかし高くて買えない。だから、そのような半導体を用いる製品は、日本では作れなくなる。このように、国際的な一物一価が成り立つ財やサービスについて、日本が貧しくなる。
最も大きな問題は人材だ。高度専門人材は言葉の壁が比較的低いので、給与が高い国に集まる。GAFAなど米国の先端IT産業のトップクラスのエンジニアの年収は、1億円を超えることがある。日本では、これらの人たちが転職しても、1000万円を超える給与は得られないだろう。このように大きな給与格差を背景として、高度専門家の日本からの流出が始まっている。
日銀は金利抑圧政策をやめよ 三つの難題を直視すべきだ
中央銀行の最も重要な役目は、自国通貨の購買力の維持だ。上に述べたような深刻な問題が生じつつある今、円の価値を確保するのは、緊急の課題だ。
そのためには、20日に行った措置(長期金利の上限引き上げ)では十分ではない。イールドカーブコントロール(長短金利操作)による金利抑圧政策そのものをやめることが必要だ。
そして、金融政策の本来の姿に戻るべきだ。つまり、短期金利である政策金利の操作だけを金融政策の手段とすべきだ。そして、長期金利は市場の実勢に任せるべきである。
ただし、これを行えば、さまざまな問題が発生する。
第一に、金利が高騰するから、国債の価値が下落する。日銀は500兆円を超える国債を保有しているので、金利が0.7%程度上昇するだけで債務超過に陥ると考えられる。また、民間の金融機関もほぼ同額の国債を保有しているので、巨額の評価損を抱えることになる。これらをどうするかが大問題だ。
さらに、財政資金の調達コストが上昇する。これが問題だとする意見が多い。しかし、これまで国債利回りが低過ぎたために、ばらまき的な財政支出が行われた。この状況を変えるために、財政資金調達のコストが高まるのはむしろ望ましいことだ。
ところが、現実には金利を抑えたままで、異常な事態が生じている。12月1日に、日銀は、新発10年物国債を、発行された当日に大量に購入した。財政法第5条で禁じられている日銀引き受けに限りなく近い姿だ。今後、防衛費財源の問題とも絡んで、金融政策と財政資金調達の関連が、極めて重要な第二の問題となる。
第三の問題は、住宅ローンの金利が上昇することだ。これについても、これまでの低過ぎる金利が問題だったということができるだろう。しかし、金利が上昇した結果物件の投げ売りなどが始まった場合、それを放置してよいのかについて、政治的に問題視される可能性はある。
このようなことを考慮しながら、緩和政策からの出口をどのように見いだすか。これが、23年に発足する日銀新体制の重要で困難な課題だ。 
●“一枚上手”だった日銀 今後の金融緩和は? 住宅ローンは? 12/25
日銀の突然の金融緩和政策の修正が波紋を広げています。10年物国債金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大するとした今回の決定は「突然」でした。なぜ突然だったのか。なぜ黒田総裁は利上げではないと強調するのか。住宅ローンなどへの影響はどうなるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
12月20日、日銀は予想外にYCC(イールドカーブコントロール)の修正に踏み切りました。その背景を整理したうえで今後の金融政策を予想します。また事実上の利上げが住宅ローン金利に与える影響についても考えてみたいと思います。
Q1:政策修正はどんな内容だった?
今回の決定はあくまでYCCの「修正」であり、政策金利の誘導目標そのものを「変更」するものではありませんでした。短期金利は0.1%、長期金利は0%程度のまま据え置きです。今回、修正が加えられたのは10年金利の「変動幅」で、従来の±0.25%とされていたものが今回±0.50%へと拡大されました。念のため解説しておくと、日銀が定める10年金利の誘導目標は「0%程度」、その「程度」の定義が今回「±0.50%」に変更されたという具合です。
政策修正の狙いの一つに、市場機能の復活があります。2022年に入った後、世界的に長期金利が上昇していたのをよそに、日本の10年金利は日銀が上限と定める0.25%で頭打ち感となっており、本来の意味での“金融市場”から隔離された状態になっていました。通常、長期金利はその国の体温(≒経済・物価動向)を示しますが、そうした機能が著しく損なわれているとの指摘は多くあり、日銀自身もそれを自覚していたことから、長期金利の変動幅拡大に踏み切ったとみられます。
Q2:黒田総裁はなぜ「利上げでない」と強調?
長期金利の変動幅拡大は事実上の利上げに相当しますが、黒田総裁は記者会見で「利上げではない。金融引き締めではまったくない」と繰り返しました。換言すると、「事実上の利上げはしたけれども、それによって緩和的な金融政策が長く続けられるようになるのだから、そう考えれば金融引き締めではない、むしろ緩和的だ」という説明です。
こうした情報発信の仕方から判断すると、今後、日銀がマイナス金利の撤回を含めた金融引き締め方向への政策変更に踏み切る際、こうした巧みな説明で過去の発言と整合性を確保していくのでしょう。
Q3:政策修正はなぜ突然決まった?
今回の決定はその唐突感が話題となりました。予想を外した専門家は「市場との対話を軽視している」あるいは「唐突な金融政策変更は中央銀行としての信頼を損ねる」などと酷評しますが、筆者が思うに今回は日銀の作戦勝ちです。というのも、YCCの修正は「いきなり感」が不可欠だからです。事前に利上げ観測(政策の修正観測)が広がってしまうとオペに売りが殺到してしまい、かえって混乱を招いてしまうという事情があるためです。
もし、仮に今回の政策修正が1カ月前に予測可能な状態になっていたとしたら、国債を保有する投資家は可能な限り多くの国債を0.25%の利回り(≒高い債券価格)で日銀に売却したはずであり、オペが持続不可能になっていた可能性があります。「黒田総裁の任期中に政策変更はないだろう」というある種の油断がまん延していたこのタイミングを逃さなかった日銀が一枚上手だったと筆者は思います。
Q4:日銀は今後「出口戦略」に舵を切る?
筆者は2023年の賃金・物価動向が、日銀の政策転換を促す方向に動くとみており、その点で企業の価格設定スタンスに注目しています。特に注目すべきは中小企業・非製造業の販売価格判断DIで、現在はバブル時の頂点に比肩する勢いで上昇し、値上げの裾野拡大を印象付ける領域に達しています。
これまで企業はコストプッシュ型のインフレに直面した際に十分な価格転嫁ができず、結果的にそれは賃金の下押し要因になってきました。しかし、深刻な人手不足と投入物価の上昇に直面する企業は、最後まで値上げを我慢してシェアを守ろうとする消耗戦に距離を置き始めたようにみえます。2023年もこうした賃金上昇を伴った物価上昇が観察されるようだと、日銀は出口戦略に舵を切る可能性が高まるでしょう。
Q5:住宅ローンへの影響はどうなる?
なお最後に生活への影響ですが、気になるのは住宅ローンでしょう。結論を先取りすると、既に住宅ローンを組んでいるほとんどの人にとって、今回の政策修正による直接的な影響は限定的だと思います(「直接的な」としたのは、金融環境の変化を受け、各行の個別戦略で金利の優遇幅を調整するケースが考えられるからです)。
というもの、今回の(事実上の)長期金利の引き上げによって上がるのは新規に組む「固定型住宅ローンの金利」に限定されるからです。多くの人が利用している「変動型」の住宅ローンは基本的に上がりません。なぜなら変動型の住宅ローン金利は、日銀が定める短期金利(現在はマイナス0.1%、今回変更なし)に連動するからです。
●“見直し論”急浮上…政府・日銀の「共同声明」 12/25
12月の金融政策決定会合で、日本銀行はサプライズで事実上の利上げに踏み切りました。2013年に就任した黒田総裁は、アベノミクスの下でデフレ脱却に向けて、異次元の金融緩和を続けてきました。根拠となっているのは、総裁就任直前に政府と日銀の間で取り決めた「共同声明」です。日銀が物価上昇率2%の早期実現を目指すなどと明記された、政府・日銀による異例の連携でしたが、ここへ来て突如見直し論が浮上しています。
その背景と今後について、声明が発表された当時日銀の審議委員を務めていた木内登英さん(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)に聞きました。(取材は、事実上の利上げ発表の前日、金融政策決定会合初日の12月19日に行いました)
黒田総裁の10年は何点?
――黒田総裁の10年は何点?
100点中30点ぐらい。経済や物価に与えた影響はほとんど確認できなかった。始めた2013年から10年近く経っていますが、日本が成長する力はどんどん落ちていますし、連動する形で物価上昇率も実はトレンドとしては落ちています。景気を強くしてデフレ脱却、インフレ率を2%に押し上げる目標は達成できなかった。10年経っても達成できないので、この金融政策はそこまでの影響力はないということだと思います。
――30点分はどこを評価しているのですか?
2013年4月に政策を導入した前後で行き過ぎた円高が修正されました。超円高で非常に苦しんでいた輸出企業にとっては助けになったことは一つプラスだと思います。
――うまく行っていなかった点は?
景気、物価にほとんど影響を与えなかったということ。あまり金利が下がっていないんです。非常に長く、手を変え品を変え色々な政策をやりましたが、効果を上げることはできなかったと確認できた。
あとは我々の生活が良くなって賃金が上がったりとか日本の成長率を上げたりするために、金融政策は直接的には役に立たないと思います。本当に役に立つのは、政府としては成長戦略ですし、企業としては例えば設備投資を積極的にやるということ。働く人には、自分の技能を磨いて労働生産性を上げること。しかし当初、金融政策でデフレから脱却できて我々の生活も良くなるという幻想をみんなが持った。金融政策への期待が強すぎた結果、本当に必要な成長戦略、構造改革などが進まなくなった、進まなくしてしまったところに大きな罪があると思います。
※2013年に出された政府と日銀の共同声明には、日銀が物価目標2%の実現をできるだけ早期に目指すと明記されています。一方で、政府は、規制緩和や経済構造の変革、成長力の強化などを強力に推進すると約束していました。
共同声明は政府に導入させられた?
――共同声明の経緯は?
「日銀はもっと積極的な政策をすべきだ」という議論が高まって、まずは高めの物価目標を掲げてその達成を目指すと。うまく行かない場合は追加策もするという形で、日銀に非常に積極的な金融緩和策をさせるために、まずは物価目標を導入せよと。2%の物価目標は形式的には日銀が決めたんですけども、客観的には導入させられたという形です。
ただ日本経済の実力と比べると(物価上昇率)2%の水準はすごく高くて、今我々が実感したように2%物価が上がるとすごく物価高で困ってしまう。それで賃金が3%上がってればいいんですが、賃金はなかなか上がらない。というのは企業には日本の市場はあまり成長するように見えないので、中で今のように原油高とか物価高で2%を超える、もう既に4%に近づこうとしていますが、そうするとどんどん賃金が目減りしていってしまう。2%の物価目標というのは日本経済にとっては、ある意味逆風になるような、達成したら大変なことになるような目標だったんです。
非常に高い目標を掲げれば日銀もすごく積極的な金融政策をやるだろう、ということで、2013年の1月に日銀が2%物価目標を導入して、政府との間で共同声明を出した。日銀の金融政策だけが非常に突出していたが、効果はない一方で、色々なマイナス面もあった。急激な円安などが今の硬直的な金融政策の副作用だと言えます。
共同声明見直し論がなぜ今?
――共同声明見直し、なぜ浮上してきたと思いますか?
当時は安倍政権だったんですが、政府も政権が変わって考え方も変わったのが一つ。今では異例の金融緩和が円安を招くなど副作用もだいぶ出てきたので、そんなに無理な政策はして欲しくない、あるいはもっと柔軟な政策に戻ってほしいという思いが国民や政府の間に出てきたということ。
黒田総裁が代わる来年4月のタイミングで、2%の高い物価目標の呪縛から日銀も解放し、もうちょっと柔軟な金融政策できるように助けてあげると、多分政府としてはそういう思いがあって見直すということかと。
共同声明どうすべき?
――木内さんは改定についてはどうすべきだと?
私は改定ではなくて、日銀自らが「この物価目標というのは中長期の目標で、金融政策とそんなに強く結びついていない」というふうに解釈をし直すというのが一番いいと思います。2%の目標は、スローガンのようなものとして残していくと。これが多分一番いいんじゃないか。政策変更のときに必ず政府にお伺いをするという前例になってしまうので。そんな国はありませんから。そういう前例を作らないようにするためにも、日銀が自ら位置付けを変えるのがいい。
共同声明も非常に複雑な文章ですが、実は日銀が金融政策だけで2%の達成をすぐに目指しますとは書いていない。私も日銀の中にいたので、日銀側としてはそういう文章に落とし込んだ。「政府とか企業とかみんな頑張って成長率を高めていきましょう、うまくいったら物価の水準も上がってきます」と、「その時は日銀は速やかに2%物価目標達成を目指して頑張ります」ということを書いている。まずは企業や政府などの努力によって経済の力が高まることが前提になっていて、金融政策だけではないというてこと。そう考えれば本来金融政策を本当に縛るような目標には実はなっていないので、改定するのではなく本来の解釈に戻しますということで解決できるはず。多くの人が2%物価目標を速やかに達成することを日銀が義務付けられたと考えているのは、共同声明を結んだ後に総裁になった黒田総裁の解釈がそうなっているから。
次の総裁の宿題は「正常化」
――次期総裁に残された宿題は?
後始末、やはり正常化です。今までやってきた政策の効果はあまり見られませんでしたが、副作用がいっぱいあります。最近で言うと円安、あるいはマイナス金利などによって金融機関の収益をかなり圧迫してしまったという面もあります。日銀が買い入れている資産、例えば国債などは既に含み損が出てるとか、株式をかなり買っているので将来株価が下がったらそこで損失がかなり出る可能性があるとか、そういった色々な問題が既に起こっているので、できるだけ副作用を下げていくような正常化が必要だと。それが次の総裁の一番の役割だと思いますし、政府も多分それを望んでるんだと思います。
取り沙汰される2人の候補は「対照的」
――総裁候補として名前が挙がっている雨宮副総裁と中曽前副総裁、どんな印象をお持ちですか?
雨宮さんは金融政策をずっとやってきた金融政策の専門家です。一方で、中曽前副総裁は、市場と金融機関の経営の安定性とか金融システムの安定性などを専門にやってきた、90年代の終わり頃の日本の金融不安のときにもいろいろ活躍した人。金融政策ではなく、金融市場・金融機関の専門家です。
日銀法にある目標は2つあって、1つ目の「物価の安定」はある意味金融政策で達成するもの。2つ目は「信用秩序の維持」。「信用秩序の維持」というのは「金融システムの安定」なので、実はその日銀の2つの大きな使命をそれぞれ担う役割を果たしてきた、ちょっと対照的な2人です。
雨宮さんはどちらかというと国内派なんですけども、中曾さんは国際派。特に中央銀行とか海外の金融規制当局とのネットワークがすごくある。
カギは「政権の期待」「黒田総裁との距離感」
――どちらが今の日銀にふさわしいと思うか?
2人は対照的なので、まずは政権が何を期待するかです。金融政策で何か期待するのか。もし来年景気が悪くなって世界的にまた金融が不安定になれば金融市場の安定を巡って、各国の中央銀行とちゃんと連携してやって欲しいっていうことになれば中曽さんの方が適任ということになります。来年の4月なのであとわずかですけども、ここからの経済とか金融の情勢次第でもまだ人選が変わってくる可能性があるのかなと。
黒田さんに近い人かどうかも選択肢としてはある。金融政策に柔軟性がなくなり、硬直的な金融政策が色々な問題を生んでいます。その硬直性を生んでいるのはおそらく黒田総裁だろうと。実際の金融政策は総裁だけが全て決めるわけではないんですが、今年に入ってから金利の上昇を許さない姿勢は黒田総裁が主導してるんじゃないかと思います。それに対する批判も世の中に出てきたので、もし黒田さんに近い人を総裁に指名したら、今の政策を継続するというメッセージになってしまう。それでもいいと思えば、今一緒にいる雨宮さん。多少なりとも変えたい、黒田さんの政策じゃないんだというメッセージを送るんであれば、今執行部にいない人を総裁にするということなので中曽さんやその他の人ということになります。黒田さんとの近さも人選の大きな判断材料だと思います。
 12/26

 

●来年は円高相場か、米利上げ停止や景気後退−日銀政策転換で120円超も 12/26
2023年の円相場は、記録的な円安となった22年から一転、対ドルで円高が進みそうだ。市場関係者は米国のインフレピークアウトと利上げ停止、景気後退がドル安圧力となるとみている。さらに日本銀行による追加的な政策変更が鍵となり1ドル=120円前後までの円高も見込まれている。
しんきんアセットマネジメント投信の加藤純チーフマーケットアナリストは、来年は米国の物価や景気動向、利上げ打ち止めや利下げのタイミングなどを手掛かりに「ドル安が主導」し、円が上昇するだろうと予想。日銀総裁が交代するタイミングに絡めて、金融政策の正常化への思惑から円高圧力が強まり、年前半にも120円を試すとみている。仮に踏み込んだ政策変更があった場合には、120円を超える円高もありそうだという。
米国経済について野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、景気悪化を受けて賃金やその他サービスのインフレも落ち着いてくるだろうとし「米連邦準備制度理事会(FRB)のピボット(政策転換)が1ー3月中にはより明確になる上、9月くらいに利下げ開始の可能性は十分にある」とみている。
また、T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストは、「在庫循環のサイクルから6月がターニングポイントで、ここから若干景気後退に入る可能性がある」と読み、112円までの円高を予想した。
今年の円相場は記録ずくめだった。米国の積極的な連続利上げを背景に春以降、ほぼ一本調子で下落し、10月には151円95銭と1990年以来、32年ぶり安値を記録。年初からの下落率は一時、73年からの変動相場制への移行後で最大となった。また、急激な円安進行を受け、政府・日銀は24年ぶりに為替介入を実施。9月から10月にかけて円買い介入としては過去最大の資金を投じた。
来年最大のジョーカーは日銀か  
来年の相場を占う上で大きなポイントとなるのが、日銀の金融政策だ。12月のイールドカーブコントロール(YCC)政策の一部修正を受けて、海外投資家の間では日銀が超緩和的政策から脱却するとの観測が台頭しており、場合によっては120円を超える円高となる可能性が意識されている。
三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの井野鉄兵チーフアナリストは、今回の修正は正常化の始めの一歩だとした上で「次の一手はいつ何をするかが焦点になる」と指摘。具体的にはフォワードガイダンスの修正やYCC政策の撤廃、マイナス金利の解消などが想定され、タイミングも米国の景気後退より前に動きたいのではないかとみている。
一方、来年の日銀の金融政策について三井住友海上火災保険投資部投資第一チームの小島正慶上席マーケットストラテジストは、基本的には米景気後退リスクから変更しづらいのではないかとみる。仮に日銀に次の一手があるとすれば4月新体制が発足後の7月や9月がタイミングで、「長めの金利目標を5年で0%を中心のレンジに変更する」と予想。この場合には「120円まで円高が進む可能性もあるだろう」と述べた。 
円安要因は引き続き残る
構造的な円安要因も依然として残っている。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、「ドルは下がるかもしれないが、円安は終わったかというと全く終わっていない」と指摘。同氏によれば、日本の貿易赤字は内需の回復と外需の落ち込みにより来年も拡大する見込みで「むしろ来年の方が円安がひどくなるのではないか」と予想した。
さらに今秋以降、顕著に拡大し始めた内外短期金利差を受け、株価がボトムアウトしボラティリティーが下がってくれば、円を借りて高金利通貨で運用する「円キャリートレードが始まる」と佐々木氏は読む。三菱UFJ銀の井野氏も「絶対的な金利差はあり、円高進行の歯止めにはなる。円高圧力は若干マイルドになりそうだ」と指摘している。
中国の経済再開はかく乱要因に
中国当局の政策転換が円相場を左右する一因になる可能性もある。野村証の後藤氏は、「3月中国全国人民代表大会(全人代)で冬場も明けたところで、ゼロコロナ政策が完全解除に向かうと旅行者の回復などを通じて、タイバーツや韓国ウォン、円などアジア通貨にプラスに働きやすい」とみる。
一方、三井住友海上火災の小島氏は「中国の経済再開と不動産規制の緩和はインフレに作用する」と指摘。早期に政策転換が起きた場合、米利上げ最終到達地点が上がる可能性があるほか、世界的な総需要増加から米景気が持ち直す可能性もあり、円の下値余地が広がるリスクがあると述べた。 
●日銀・黒田総裁、政策修正「出口の一歩では全くない」 12/26
日銀の黒田東彦総裁は26日、長期金利の許容変動幅を拡大したことは「出口の一歩では全くない」と話し、金融政策の路線転換を否定した。黒田総裁は20日の金融政策決定会合後の記者会見でも「金利を引き上げる意図ではない」と述べるなど金融緩和の維持を強調している。ただ、市場では大規模緩和の出口へ向けた地ならしとみる向きが多く、さらなる政策修正への思惑も強い。
都内で開かれた経団連の審議員会で講演した。日銀は19〜20日の決定会合で「プラスマイナス0.25%」としていた長期金利の許容変動幅を「プラスマイナス0.5%」に変更した。長期国債の購入額は月7.3兆円から月9兆円程度へと増やし、社債買い入れの柔軟化も決めた。
黒田総裁は講演で会合の決定内容について「金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応だ」と説明した。金融緩和を維持することで「経済をしっかりと支え、企業が賃上げを行いやすい環境を整えることが必要だ」と従来の見解を強調した。
金融緩和策の出口に近づくような前向きな変化への言及もあった。黒田総裁は労働需給が引き締まっていることや企業の値上げ、賃上げ姿勢が積極化しつつあることを踏まえ、「長きにわたる低インフレ・低成長の流れを転換できるかという重要な岐路に差し掛かっている」と述べた。
日銀は今回の政策修正を出口への布石とする見方に否定的だが、市場は疑心暗鬼に陥っている。黒田総裁は9月下旬に大阪市で開いた記者会見で、許容変動幅の拡大について「(長期金利が)仮に上の方にいけば明らかに金融緩和の効果を阻害するので、考えていない」と話していた。若田部昌澄副総裁も6月上旬に「事実上の金利引き上げになる」と述べていた。
国内債券市場では長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが、21日に一時0.48%まで上昇(債券価格は下落)した。日銀の政策修正観測が根強く、足元でも0.4%台半ば程度で推移している。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「次期総裁の負担を軽減するため、来年3月に黒田総裁の下で政策点検を実施する可能性もある」と話す。
●政策修正は出口の一歩ではない、YCC下で緩和継続−日銀総裁 12/26
日本銀行の黒田東彦総裁は26日、20日の金融政策決定会合で決めた政策修正について、金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応であり、「出口の一歩ということでは全くない」と述べた。都内で行われた日本経済団体連合会の審議員会で講演した。
イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の枠組みの下で金融緩和を続けていくことで、「賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標の持続的・安定的な達成を目指していく方針だ」と語った。
日銀は20日の会合で、YCCで0%程度を誘導水準としている長期金利(10年国債金利)の変動許容幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。10年以外の各年限でも機動的な買い入れ額のさらなる増額や指し値オペの実施も決めた。
総裁は、緩和的な金融環境を維持しつつ市場機能の改善を図る観点からYCCの運用面で幾つかの手段を講じたとした上で、「低水準のイールドカーブを維持しつつ、より円滑なカーブの形成を促すことが可能になる」と説明した。「実際、決定後の金融市場調節の下で、 ゆがみが生じていた10年物金利は上昇したが、それ以外の年限の上昇は抑えられている」との認識を示した。
賃上げ
総裁は、出席した企業経営者に対して賃上げの重要性を改めて強調した。足元で見られる企業の価格設定行動の変化が「新しい慣行として定着するのか」を見極めていく必要があり、その実現には賃金と物価の好循環が重要と指摘。人件費によるコスト増が企業で生じると同時に、家計の所得改善による需要増が「緩やかな価格上昇につながっていく」と述べた。
賃金の見通しについては、労働需給のタイト化によって非正規雇用を中心に賃金の伸び率が高まっていく中で、「相対的に雇用の流動性が高い中小企業、対面型サービス業、若年層を中心とした正規雇用の賃金にも広がっていく」とした。来年の春闘におけるベアや物価上昇の反映度合いに注目しているとも語った。
現状は「バブル崩壊以降、長きにわたる低インフレ・低成長の流れを転換できるかという重要な岐路に差し掛かっている」と説明。日銀としては緩和的な金融環境をしっかりと維持し、企業の前向きな取り組みを最大限後押ししていくとの考えを示した。
原材料高や円安の価格転嫁を背景に、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は11月に前年比3.7%上昇まで伸び率を高めた。日銀が目標とする2%を大幅に上回るが、日銀は来年にかけてコストプッシュ要因のはく落で伸びが縮小していくと主張。持続的・安定的な物価目標の実現には名目賃金の上昇が不可欠とし、来年の春闘をはじめとした賃上げの動向を注視している。
●経済4誌が占う「2023年の日本経済」 12/26
経済各誌で恒例の新年予想特集号が出そろった。国際的にはウクライナ侵攻などの地政学リスクや米欧経済の景気後退リスクを抱え、国内も日銀の金融緩和修正や相次ぐ値上げなどで先行きの見通しはますます捉えにくくなっている。経済4誌の予測をまとめた。
日経ビジネス
「徹底予測2023」の10大トピックスは(1)コロナ対策見直し(2)ウクライナ侵攻の行方(3)値上げラッシュ(4)企業の人的資本開示義務(5)自動運転「レベル4」解禁(特定の条件下で完全自動化)(6)次期日銀総裁と金融緩和の行方(7)広島サミット(主要7カ国首脳会議)開催(8)オイルショック50年(9)インボイス制度開始(10)米大統領選まで1年――を挙げている。
国際政治学者のイアン・ブレマー氏はインタビューで、米中間の分断が進み非常に不安定な1年になると語る。ただ「台湾有事」の可能性は低いというのが同誌の見立てだ。仮に武力侵攻が起きれば、台湾積体電路製造(TSMC)の拠点が破壊されかねないからだという。
東京財団政策研究所の柯隆(か・りゅう)主席研究員は、中国国内だけでなく海外の中国人を含めた「グレーター中華圏」に注目する。各企業とも経済安全保障の観点から中国本土離れが進む一方、巨大市場としての中国は無視できない。ミクロ経済で注目されるのは自動車業界。現時点では「クルマを造れば売れる」ほど需要が旺盛なものの、インフレに起因する米国景気の変調が不安材料だ。引き続き半導体需給に翻弄される恐れも残る。電気自動車(EV)をキーワードに、完成車・部品メーカーともに異業種を巻き込んだ合従連衡が一層進むと指摘する。
週刊東洋経済
「2023年大予測」の国内エコノミスト17人による景気予測アンケートでは、22年度の実質国内総生産(GDP)成長率予測が1.4〜1.9%と厳しい。ウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格の高騰や中国のゼロコロナ政策による供給制約が、日本経済に波及しているとの分析だ。さらに23年度は0.5〜1.5%と一層の成長鈍化を予想する。民間住宅投資は引き続き低調で、民間最終消費支出も伸びない。けん引役となるはずの企業設備投資も、世界景気後退の見方から力強さに欠けるとしている。23年の春闘賃上げ率は2.75%と高めに予想するものの、効果は限定的とみる。
一方、23年度の為替水準は1ドル=132円との予想だ。同年度の日経平均株価は上値が3万円を超えると予想したエコノミストは9人。ただ、日経平均は2万6000円〜3万円が最も重なるレンジだった。同誌はスティグリッツ・米コロンビア大教授へのインタビューも掲載。同教授は「コロナ禍以前の世界に完全に戻ることは無く、米連邦準備理事会(FRB)の過度の利上げは世界金融危機を招きかねない」と警鐘を鳴らす。
週刊ダイヤモンド
「2023総予測」では「日本企業の8大テーマ」が注目記事だ。(1)国策半導体のプロジェクトは米国の支援と公的な資金調達がカギ(2)防衛予算大幅増加も企業の軍事産業撤退は続く(3)コンビニ業界にも価格競争が波及(4)メガバンクに問われる「企業再生」の手腕(5)ゼネコン業界に選別受注の機運(6)国産の量子コンピューター開始(7)電気代値上げでも新電力業界に試練(8)半導体業界に追い風――の8テーマだ。
同誌は来春の日銀総裁人事も詳しく分析した。大本命は雨宮正佳・現副総裁、本命に中曽宏・大和総研理事長(元副総裁)、続いて浅川雅嗣・アジア開発銀行総裁(元財務省財務官)……。誰が就任しても円安と長期金利上昇の両方を同時に対処する難局に直面するとみる。一方で初の女性副総裁誕生の可能性が高いとしている。エコノミスト11人が予測する23年の実質経済成長率は0.4〜2.2%、24年は0.6~2.0%だった。
週刊エコノミスト
「日本経済総予測2023」は金融・調査機関30社へのアンケート結果を軸に構成する。「2023年中に起きる可能性が高いこと」では「電車やオフィスでマスクを着用しない人がする人を上回る」を20社が予想し、「日経平均株価が3万円を突破」「30年冬季五輪が札幌ではない場所に決定」「岸田首相の辞任」などが続いた。
同誌は実質GDP成長率について22年が平均1.5%、23年は同1.3%と予想した。日経平均株価(回答25社)は平均で23年上期の上値が3万円弱、下期が3万円突破と年末に向けて右肩上がりの見通しだった。為替(同27社)は上期の上値が1ドル=148円、下期の上値が同142円と150円を上回る円安は一巡するとの見方が多かった。
日本経済のけん引役としてはグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)と並んでインバウンド需要復活を挙げる。星野佳路・星野リゾート代表のインタビュー記事を掲載した。星野代表は欧米豪からの集客が世界でのブランディングのためにも重要と説く。世界の大型連休は分散しているため、需要を平準化できる可能性が高いとしている。さらに文化観光が強いため東京・京都・大阪などに外国人客が集中している点も指摘。自然観光のコンテンツとマーケティングを強化して地方訪問を目的とするインバウンド需要開拓が必要としている。

20年からのコロナ禍、22年のウクライナ侵攻と誰もがほとんど予想しなかったことが相次ぎ勃発している。ビジネスパーソンは仕事環境の変化への対応に加え、世界史的な視野を持っていることが欠かせない。
 12/27

 

●日銀「事実上の利上げ」の先に待つ4つのシナリオ  12/27
日本銀行がついに動いた。
日銀の黒田東彦総裁は12月20日の会見で、長期金利操作の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%から同0.5%に引き上げると表明した。このサプライズニュースは世界中を駆け巡り、12月20日の為替相場は1ドル=137円台から132円台まで円高が進み、日経平均株価は一時800円超も下げた。
日本は世界でも数少ない、金融緩和を続ける超低金利国だが、今回の政策変更は「金利なき世界」から「金利のある世界」へと、大きく方向転換したかもしれない。
一方、黒田総裁は、記者会見で「長短金利操作の修正であって、金利引き上げではない。金融緩和の出口でもない」と強調した。アベノミクスが始まって10年、ついにその終焉かと思ったものの総裁の口からはそういう言葉はついに出なかった。今回の金融政策の修正の意味とその影響を考える。
日銀ショックとは何だったのか?
日銀ショックといわれた今回の金融政策修正、まずはそのポイントをまとめてみよう。
   1 「金融政策修正であって、金利引き上げではない」?
日本の金融政策は、極めてイレギュラーな政策を続けており、中央銀行が10年物国債の金利をコントロールする「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=以下YCC)」を続けている。そのYCCがコントロールできなくなって、10年物国債利回りの許容変動幅を0.25%から0.5%に拡大した。これが今回の日銀ショックの全貌だ。当然ながら10年物国債の金利は、0.25%から一気に0.5%に上昇することになった。もっとも、日銀が主張するYCCの「歪み」は、修正後も残ったままだ。
   2 サプライズであったこと
一部にはYCCの「フォワードガイダンス(中央銀行が前もって金融政策の方針変更を示唆すること)」は難しい、といった指摘もあったが、黒田総裁や日銀関係者は、一貫して「YCCの上限引き上げは利上げにあたる」と述べてきた。今回の突然の変更は、明らかにマーケットとの対話を軽視していると言っていいだろう。
たとえばアメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は金利を引き上げても大きな混乱が起きないように、市場に前もってヒントを与え続けてきた。ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁も、ことあるごとに3カ月先、半年先の見通しを述べている。黒田総裁にそういった意識がなぜないのか、疑問だ。
2015年にスイス国立銀行が為替政策を突然変更したときに、スイスフランが大きく乱高下し、ヘッジファンドがいくつか閉鎖に追い込まれたことがある。日銀には、日本の銀行を守るという使命がある。今回のサプライズで銀行は保有する債券価格の下落リスクに直面することになった。「バズーカ砲」と呼ばれた異次元の金融緩和導入時も唐突な発表で市場を驚かせた。
市場の圧力に負けた?
   3 国債市場の存続不安に日銀が負けた?
昔から金融市場には「中央銀行には逆らうな」という格言があるが、今回はマーケットが日銀に勝ったと言っていいだろう。ここ数カ月、日本の10年物国債の取引は「取引成立せず」が続いていた。10年物国債に限っては、日銀が金利の上限を0.25%と定めていたために、日銀しか国債の買い手がいなくなり、その反動として8年や9年物国債に対して、10年物の金利が低いままとなり、歪んだ形になってしまっていた。
   4 背景に政治の影響? 日銀に独立性はあるのか?
今回の政策修正の背景には、アベノミクスの継続にこだわる勢力と終わらせたい勢力との力関係があったのではないか。安倍元総理なき後のアベノミクスの行方がどうなるのか。もともとは安倍政権と黒田日銀総裁との共同声明からスタートしたアベノミクスだが、今回もまた政治の力が背景に見え隠れする。
アメリカのFRBは、トランプ政権であろうが、バイデン政権であろうが、政権によって金融政策の姿勢を変えることはなかった。中央銀行には常に独立性が求められる――という考え方は国際的には常識だが、日本の中央銀行にはその独立性に疑問が残る。
   5 次は「0.75%」か? マーケットの攻撃は続く?
日銀の金融政策決定会合後の記者会見でも質問が飛んでいたが、「金利引き上げのたびに、市場が次の利上げを催促するのではないか」という疑問がある。黒田総裁は「そのようなことにはならない」と否定したが、その根拠はまるでない。
ウォール・ストリート・ジャーナルが「日銀が市場に屈した日」(12月21日配信)の中で「日銀は、いずれすべての債券を購入するか、白旗を掲げるかの選択を迫られることになりそうだ」と締めくくっている。一度市場に屈服してしまった中央銀行は、次も屈服を余儀なくされる。状況はやや異なるが、イギリスの中央銀行であった「イングランド銀行」とヘッジファンドの著名投資家「ジョージ・ソロス」が戦った1992年のときも、結局は中央銀行が敗北してイギリス・ポンドを引き下げざるを得なくなった。
そもそも日銀のYCCは、かつてアメリカのFRBが実施した1940年代のYCCをモデルにしていると言われているが、「中央銀行が市場をコントロールするには、債券を買い続ける以外に方法がない」ことはすでに歴史が証明している。FRBも最終的には、1951年にYCCの終了に追い込まれている。日本のインフレが続く限り、マーケットは日銀の金利を引き上げようとし、国債を売り続けて金利の上昇にチャレンジしてくるはずだ。
FRBのYCCは、1942年から1951年にかけて第2次世界大戦に必要だった莫大な戦費を調達するものであり、現在日本が行っているような「デフレ脱却」を目的としたものではなかった。その内容も幅広い金利の管理であり、日銀のそれとはやや異なるものの、当時のアメリカのYCCは成功したという見方もある。しかし、FRB側からすると「政府に従属を強いられた苦難の9年間」というとらえ方もある(NRI、コラム「米国の経験に学ぶ日銀イールドカーブ・コントロールの構造的欠点」、2022年7月21日配信)。「中央銀行の独立性を阻害するもの」と考える歴史的評価のほうが多いようだ。
最終的には、当時のトルーマン大統領がマッケイブFRB議長に対して、「国債価格の暴落は、(当時敵対していたソ連の)スターリンが望んでいることに他ならない」という手紙を書いたことで、YCCが終了したと言われている(日本銀行「イールドカーブ・コントロールの歴史と理論」2017年1月11日より)。YCCの継続には、国債の暴落がつきものなのかもしれない。
「財政ファイナンス」のツケをどうするのか?
日銀のYCCは、とりあえず来年3月の黒田総裁の辞任までは継続される、とする見方が一般的だ。周知のように、日銀はYCC継続のために大量の国債を買い続けてきた。中央銀行が政府発行の国債を直接引き受ける「財政ファイナンス」と指摘され続けてきた。財政ファイナンスは、国債の貨幣化であり、法律で禁止されている。
実際に、日本銀行が12月19日に公表した資金循環統計(速報)によると、日銀が保有する国債保有比率は9月末時点で「50.26%」となり、初めて5割を超えている。日本政府が発行している国債の半分を、日本銀行が保有していることを示している。アベノミクスの大きな副作用といっていいだろう。
いずれにしても、「日銀が金利を上げても、すぐにまた金利が高くなるだろう」というイメージが定着してしまう可能性が高い。「金利上昇=債券価格が下がる」とわかっている債券を買う投資家はいない。結局、国債を買うのは日銀だけになってしまい、日銀が財政ファイナンスをやるしか、政府は債券を発行できなくなってしまう。政府が国債を発行できなければ、予算が使えずに、政府機関が閉鎖され、公務員や国会議員にも賃金が支払われなくなる。
黒田総裁は「財政ファイナンスではない」と主張するが、その言葉をそのまま鵜呑みにする市場関係者は少数派になりつつある。FRBが国債価格の暴落を恐れて中止にしたYCCを、日銀は今後も続けていかざるをえない。未来に控えている日本の悲劇ともいえるが、その結果がどうなるのか……。そろそろきちんとしたシミュレーションをしておく必要があるだろう。
日銀なしでは国債が発行できない?
1951年にYCCをやめたときに、FRBは財務省と金融政策について協議し、共同声明を発表している。いわゆる「アコード」と呼ばれるものだが、日銀も最終的には政府との間で共同声明を出してアベノミクスを終了させ、「金融緩和の中止」→「金融引き締めへの転換表明」→「金利引き上げ」、といったプロセスになるはずだ。もともとアベノミクスは、財務省と日銀との間で「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策提携について」という共同声明を出すところからスタートしている。
はっきりしているのは、今後は日本国民全員がアベノミクスによって膨らんだ国債残高を、何らかの方法で返済もしくは処理しなければならないということだ。「日本政府は日銀なしでは国債の発行ができなくなりつつある」という現実は、極めて重い。
FRBがYCCを廃止したことで学んだことは「金融政策は政府から独立した機関が担うことが適切である」という貴重な教訓だったとされている。「日本銀行は政府の下請け」といった間違った考えを持った日本のトップが、日本政府を機能不全に陥らせる状況を作ってしまった、と言っても過言ではないだろう。
岸田政権は、おそらくこのままアベノミクスを継続せず、金融緩和を中止する総裁を選ぶことになるのではないか、と筆者は見ている。早ければ次の新しい日銀総裁が決まった途端に、アベノミクス終焉となる可能性もあるだろう。場合によっては、新総裁就任と同時にYCCは中止になるかもしれない。
金利のある世界とはどんな世界なのか?
FRBのYCCは、第2次世界大戦という非常時の安定的な資金調達、そして戦後の国債価格管理のための政策だったのに対して、日銀のYCCはあくまでも「デフレ脱却」のためのものだ。日銀のYCCが適切な手法だったのかは、今後検証されることになるはずだ。日銀のYCC終了後、ざっと次のようなシナリオが考えられる。
   (1)金利上昇、債券価格の下落
YCCを廃止して政策金利を引き上げると、金利が大きく上昇することは避けられない。インフレ次第だが、2〜3%上昇する可能性もある。その場合、すでに発行されている国債(既発債)の価格は下落することになる。日本銀行も含めて、債券を多く抱える銀行や保険会社、そして年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人など、さまざまな運用機関や基金は会計上の含み損を出すことになる。実際に、日銀は2022年4〜9月期決算で、保有する国債の含み損が8749億円になったと発表している。
日銀や銀行は、途中で国債を売却せずに償還日まで保有し続けるから問題ないという姿勢だが、帳簿上はずっと含み損を抱えるために、決算の悪化は避けられない。企業は株価に影響が出て、日銀はバランスシートが悪化して信頼度が悪化する。日銀が発行する「日本銀行券=円」が慢性的に下落することになる。企業も資金調達が難しくなり、景気後退につながりかねない。
さらに、住宅ローンを返済中の個人、借り入れを抱える企業にも大きな影響が出てくる。変動金利で住宅ローンを抱えている人は金利の上昇でローンの返済金が増える、もしくは返済期間が長くなる可能性が出てきた。そうなれば不動産市場に影響が出る。これまで政府の救済措置などで生き残ってきたゾンビ企業も、一斉に破産するというシナリオが浮上する。
   (2)短期的には超円高、長期的には超円安になる?
30年ぶりに「1ドル=151円」まで円安が進んだ今年の為替変動も、日銀だけが世界の趨勢に逆らって金融緩和を続けたことが要因と見られている。
短期的には金利の上昇=円高となり、場合によっては円高が進むこともありうる。しかし長い目で見たとき、ヘッジファンドなどが金利や為替の先物などを使って、市場の歪みに懸けてくる。円安を誘導し、国債金利の引き上げを狙うわけだ。日銀のバランスシートは徐々に悪化し、円は売られる展開になる。短期的には超円高、長期的には超円安のシナリオがありうる。
   (3)国債の格付けが下落し、日銀の信用が失墜しインフレが収まらない?
今後は、日本国債の格付けが下落するリスクにもさらされる。国債の格付けが下落すれば日本企業の格付けも下落し、海外で外貨を調達する際に金利が高くなるなどの不利益を受ける。国債の格下げが海外で活動する日本企業の成長を阻害することになる。しかも、現在の日本国債の格付けは「シングルA+(S&P、長期発行体)」。Aランク陥落も視野に入ってきた。
   (4)株価が下落する
金利が上がれば株価は下落する。リスクのない預金などにマネーが回避するからだ。そこに加えて、日銀はこれまで「ETF(上場投資信託)」を通じて日本の株価を買い支えてきた。アメリカなどの株価は3割程度下落しているが、日本だけは超低金利だったこともあって株価は下落してこなかった。その背後には、日銀がいたわけだ。
しかし、アベノミクスが終了し金融緩和から金融引き締めへとシフトすれば、このETF=株式も売却していくことになる可能性は高い。実際に、最近は株式の「売り越し」が目立ってきた。金利上昇は株価を下落させるが、日銀がその下落をさらに推し進める存在になるかもしれない。
「日本」の信用が生命線
いずれにしても、日本政府が財政規律を守り、財政再建の姿勢を示さなければ、日本は再び円安が進み、悪性のインフレに見舞われることになる。最近も、イギリスが安易に財源なき予算を拡大したことで、イギリス・ポンドが売られて、就任したばかりの首相が交代に追い込まれた。岸田政権にも財政再建の道筋を示す姿勢が求められる。
防衛費の膨張によって来年度の予算案は総額で114兆円となり、史上最大の歳出がまた求められる。その半分以上は国債発行に頼らざるを得ず、財政ファイナンスへの道につながっている。
日銀は、アメリカが戦費調達のために実施した“切り札”ともいえるYCCの手法を、すでにデフレ脱却のために使ってしまった。次の手はあるのか。経済は信用で成り立っている。国家を崩壊させないために、信用を守ることが生命線だ。
●日銀もついに事実上の利上げ、揺らぐ信認に「おざなりの説明」は許されず 12/27
日本銀行が事実上の金融緩和の修正に踏み切った。来春とされる黒田東彦総裁の交代まで大きな政策変更はないとの見方が大勢だったことから、疑心暗鬼を生んでいる。歴史的に見て、インフレ率上昇局面では中央銀行へのクレディビリティが低下しがちだ。それは米FRBとて例外ではない。わが国の中央銀行も今後はより丁寧な説明が求められることになる。
なぜ「FRBに逆らうな」と言われるのか
米国金融市場では、「FRB(米国連邦準備制度理事会)に逆らうな」という格言がある。
これは、金融市場を左右する強大な力を持った中央銀行の金融政策には、従順でなければならないという意味。中央銀行が示す方向性や政策と異なる投資判断をすると、大きな損失を被るという経験則があるからだ。
中央銀行が、長期にわたり金融緩和(金利を低下させる、もしくは低いままで維持する)を続けると表明しているならば、敢えて金利上昇を予想して、債券を売却することはないわけだ(総じて金利が上昇すると債券価格は下落する傾向があるため)。
このようにプロ投資家にとって、中央銀行の金融政策は、投資判断もしくは相場観の構築にとって重要なポジションを占めている。
金融政策の変更は、短期金融市場の資金過不足の調整などを通して、短期金利の水準だけでなく、金融市場全体のオカネの流れを変える。中央銀行の決定する資金の潤沢感や不足感は、プロだけではなく個人投資家も含めた世界中の投資家のリスク性資産への投資割合をも左右するだけに注意したい。
リスク性資産とは、株式などのように短期間に何割も価格が上下動する変動率の高い資産のこと。具体的には、資金が潤沢であれば、リスク性資産への投資機会が増加する一方、資金調達に困難が生ずるような資金不足の時には、リスク性資産への投資が抑制される傾向がある。
債券市場だけではなく、為替市場や株式市場にも大きな影響を与えるため、多くの投資家が中央銀行の一挙手一投足に注目する。「中銀ウォッチャー」という職業があるほどだ。
議長が発する単語一つで大騒ぎに
米国の場合には、FED(FRBの制度そのものを意味する)ウォッチャー、日本の場合にはBOJ(日本銀行=Bank of Japanの略)ウォッチャーなどと呼ばれている。たとえば、中央銀行議長の発する言葉に、一つの単語が加わっただけで、大騒ぎになることもあるほどである。
中央銀行は、各地域の金融を司るように点在し、英国ではBOE(英中銀)、欧州ではECB(欧州中銀)などがある。その中でも、米FRBの存在感が断トツで大きく、世界中の資金動向を左右している。金融市場では、各中央銀行の中でもFRBは、信認度(クレディビリティ)は最高水準であると言われているのである。
金融政策を有効に実施していく上では、このクレディビリティは非常に重要であることは論をまたない。信認が高ければ、中央銀行の意図に沿った政策の実行が容易になる一方、信頼感が低下すれば、その効力も低下するからである。
市場参加者による中央銀行に対するクレディビリティは差があるため、その影響度も、各中央銀行に応じて変化するはず。特に、金融市場がグローバル化した現在、特定の地域では抜きん出た存在であっても、それを超えるFRBのような、グローバルに支配的な力を発揮する中央銀行には敵わない。
このことは、各地域でも金融政策などを実施する際に非常に大きな意味を持ってくる。
たとえば、クレディビリティの低い中央銀行であっても、支配的な力を持った中央銀行と協調することによって、より大きな影響を及ぼすことができるからだ。その反対に、クレディビリティの低い中央銀行による政策が、グローバルに支配的な中央銀行の政策と異なっていれば、その政策効果は、大いに減殺されてしまう。
FRB神話の妄信は禁物
ところで、これまで支配的とされたFRBに対するクレディビリティも、2021年以降、揺らぎ始めている。
FRBの物価見通しや金融政策に混乱が見られたため、クレディビリティが低下してきているのである。歴史を繙くと、インフレ率が落ち着いていく1980年代以降にFRB議長の重責を担ったポール・ボルカー、アラン・グリーンスパン、ベン・バーナンキ、そしてジャネット・イエレンといった歴代議長は、その金融政策運営手法に対して、一時的には失敗もあったが、大きな疑問符が付くことはなかった。概ね、FRBのクレディビリティを保つことに成功し、FRB神話を不動のものにしたのである。
一方、インフレ率が趨勢的に上昇していく1970年代に議長となったアーサー・バーンズやウィリアム・ミラーの評判は悪く、FRBのクレディビリティが低下したことは、あまり知られていない。世界中の投資家の注目を集めるFRBも、インフレ率の上昇期の金融政策は振るわず、金融市場からも冷たい視線が投げかけられていたのである。それだけにFRBを妄信し、過剰な信頼感を与えるのは禁物かもしれない。
不運と言えばよいのかジェローム・パウエル現議長の場合には、コロナ禍後の急速なインフレ率の上昇に直面して、その手綱さばきが批判されている。
物価の安定という中央銀行の使命を達成するには、インフレ率の急変動は鬼門になると言ってよいだろう。インフレ率上昇期に、FRB神話が崩れ、クレディビリティが低下しているという歴史の現実を垣間見るにつれ、過去数十年の中央銀行と金融市場の良好な関係に転機が訪れているのかもしれない。
投資家にとっては、中央銀行と金融市場との冷たい関係が続く時期には、株式市場や債券市場、為替市場の予測可能性も低下し、市場の不安定化する傾向があるだけに注意が必要だ。
事実上の緩和修正に疑心暗鬼
翻ってわが国の中央銀行と金融市場の関係はどうだろうか?
資産所得倍増が叫ばれる中では、プロ投資家だけではなく、わが国の個人投資家にとっても、中央銀行の位置づけについて関心を持つべきであり、そのクレディビリティについては目が離せない。中央銀行と金融市場の関係は、金融資産の投資成果に大きな影響を及ぼすからである。
市場参加者が、どの程度中央銀行を信頼しているかを、冷静に判断しておくことが重要である。一般に市場参加者が過度に中央銀行を信頼しているならば、その信頼感を揺るがすイベントに対しては、特に注意すべきである。
この観点からは、2022年12月の日本銀行による事実上の金融緩和の修正(10年国債利回りの許容幅変更)は、市場参加者が想定していなかっただけに、中央銀行の姿勢に大きな変化が生じているのではないかとの疑心暗鬼を生んでおり、注目に値する。
具体的には、イールド・カーブ・コントロール政策の一環として、10年国債利回り水準をゼロ%中心に上下0.25%幅で推移させるという方針が、0.50%幅に拡大修正されたため、金利水準が上昇したのである。2022年は、世界的に国債利回りが上昇していたにもかかわらず、日本の場合は日本銀行により抑えつけられて上昇していなかったため、この修正で急上昇したのである。
唐突な政策変更は珍しくない
市場参加者は、この修正を突然の金融緩和政策変更の一つと解釈し、それまでの日本銀行の説明とは、まったく異なるため狼狽している。市場参加者の中には、「もう日本銀行を信じられない」という声まであるが、政策決定の効果を考えれば、唐突感のある大きな政策変更の事例は数限りなく存在しているだけに、この批判は適切とは言い難い。
一方で、インフレ率が上昇し始める局面では、インフレ率そのものの変動率が高まるため、政策変更の頻度が高まると言えよう。それだけに、中央銀行の突然の政策変更の回数も増えるため、適切な説明責任を果たせないケースも散見されるようになるだろう。
FRBの歴史を見ても、インフレ率上昇局面での中央銀行へのクレディビリティが低下しているため、わが国の中央銀行にあっても丁寧な説明が求められるはず。インフレ率が落ち着いている時代には許されていた「おざなりの説明」も、十分に修正する必要があるわけだ。中央銀行に対するクレディビリティの低下は、最終的に政策効果を低下させ、国民の利益を損なうからである。
今から約10年後に発刊されるであろう「日本銀行150年史」に、「金融市場との関係が悪化した時代」と記載されるような事態にだけはしたくないものだ。
●アベノミクスを終わらせたい勢力、日銀の金融政策「修正」の真相 12/27
日本銀行の金融政策が「修正」されたニュースは、市場に大きなサプライズをもたらした。株価は大きく下落し、円高が進んだ。アベノミクスが開始してから10年近く、日銀の金融政策が緩和方針から転換したとする報道が相次いだことが原因だ。
日銀の今回の決定は、YCC(イールドカーブ・コントロール)と呼ばれる政策の修正だった。日銀は短期金利をマイナス0・1%、10年物国債金利を0%程度にコントロールしている。今回は、この10年物国債金利の変動幅を、従来の「プラスマイナス0・25%程度」から「同0・5%程度」に拡大した。これが「実質的な利上げ」と認識されたため、市場の混乱を招いた。だが、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁自身が明言しているように、金融緩和の基本的枠組みの修正ではない。
イールドカーブは、長短金利の動きを描いたわりと滑らかな「曲線(カーブ)」だ。だがこの曲線は、10年物国債金利のところでゆがみが生じていた。日銀の説明では企業の起債などに不便が生じていた。それを直して滑らかな曲線に戻し、さらにイールドカーブ全体を緩和方向に押し下げるというのが日銀の意図だ。国債の購入額も大きく拡大する方針を示している。黒田日銀の金融緩和の継続は揺らいでいない。
だが、マスコミの多くは、日銀の金融緩和をやめさせたい勢力が中心だ。最近でも「悪い円安」キャンペーンが、日本経済新聞や朝日・毎日新聞などで盛んに行われた。
「日銀は金融緩和をやめた」とマスコミが大きく騒ぐのは、この機に乗じて世論を「アベノミクスは終わり」という方向に誘導したい思惑がある。まさに事実をねじ曲げる報道だといえる。
そもそもYCCが採用された背景は、財務省の緊縮姿勢にある。アベノミクスの基本は、日銀がインフレ目標を設定し、国債などをどかんと大きく買い入れ、それでマネーを潤沢に市場に供給してデフレを終焉(しゅうえん)させることだ。
しかし財務省は緊縮姿勢を崩さず、日銀の政策と協調を事実上サボってきた。つまり国債を出し渋ったわけだ。このため少ない国債購入でもなんとかつじつまを合わせようとYCCが採用された。政府・財務省がどんどん国債を発行して、積極財政で日銀と協調すれば本来は必要ないものだ。
今回、国債の買い入れ額を増やしたが、それに見合った新規国債発行があるかは、岸田文雄政権の防衛増税をみると疑問だ。むしろ政府と日銀のデフレ脱却のための協調を唱えた共同声明を見直して、緊縮をさらに加速させようという勢力もある。生活を悪化させる動きで、警戒すべきだ。
●2023年の日銀の金融引き締めはなくなったとみる 12/27
シンカー
•日銀は債券市場の機能低下のリスクを勘案し、10年債の誘導目標の容認レンジの拡大に動いた。2023年に日銀が金融引き締めに動くことはないだろう。
•1つめの理由は、日銀は海外経済の減速をリスク視し、経済の見通しについては、「下振れリスクの方が大きい」としていることだ。
•2つめの理由は、2023年度の政府予算編成の骨太の方針で、アベノミクス堅持を閣議決定していることだ。
•3つめの理由は、日本経済にはまだ構造的なデフレ圧力が残っていることだ。
•4つめの理由として、日銀が防衛増税に耐えうる景気の状態を維持する必要性が新たに生まれた。増税の実施の景気条項が実質的に入ったことになる。
•今回の増税を巡る自民党内の混乱で、岸田首相の求心力は弱くなり、来年春の日銀執行部人事では、アベノミクス路線を継承する自民党内の声に配慮せざるを得なくなっただろう。
•政府・日銀の共同声明が見直されれば、単純な2%の物価安定の目標から、賃金上昇をともなう2%の物価安定の目標に変化し、実質賃金の上昇にコミットすることで、事実上の名目GDP成長率目標となる可能性がある。
•2023年、2024年は現行の政策を維持し、2025年に企業の設備投資サイクルが上振れ、企業貯蓄率がマイナス化(正常化)し、デフレ構造不況の原因が払しょくされた後、YCCの長期金利誘導目標を引き上げるか、景気動向によってはYCC撤廃の動きに進むだろう。日銀が短期の政策金利の誘導目標をプラスに戻して、金融緩和政策から完全脱却するのは2026年以降とみている。
12月19・20日の日銀金融政策決定会合
12月19・20日の日銀金融政策決定会合では、日銀当座預金の政策金利残高の金利をマイナス0.1%、長期金利の誘導目標を0%程度とする「長短金利操作(YCC)付き量的・質的金融緩和」の現状維持を決定した(賛成9、反対0)。
ただ、日銀は債券市場機能の低下のリスクを勘案し、10年債の誘導目標の容認レンジを現行の±0.25%から±0.5%への拡大を決定した。
今回の決定で日銀は債券市場の機能に配慮するという当面の課題にクリアした。質的緩和政策の要であるETF買入に関しては現行の年間12兆円を上限とするETFの買い入れ方針も維持した。
   景気の先行き判断
景気の先行き判断は、「資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる」とし、据え置いた。
海外経済減速への警戒感が強い。物価の先行き判断も、「本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される」とし、据え置いた。
2023年度には物価上昇率は2%の物価安定の目標をまた下回る予想になっている。
金融政策の引き締め方向には動かない理由
債券市場の機能低下の対応策として誘導レンジの拡大にふみった日銀は2023年中には金融政策の引き締め方向(短期金利または長期金利の政策目標の引き上げ)には動かないだろう。主な理由は3つある。
   1つめの理由
1つめの理由は、日銀は海外経済の減速をリスク視し、経済の見通しについては、「下振れリスクの方が大きい」としていることだ。日銀は、現行の金融緩和政策を維持し、海外の中央銀行の政策の動きから1サイクル遅れることを覚悟しているようだ。
   2つめの理由
2つめの理由は、2023年度の政府予算編成の骨太の方針で、アベノミクス堅持を閣議決定していることだ。アベノミクスの「大胆な金融政策」の縛りがまだ存在し、政府・日銀の共同声明を含むアベノミクスの政策連携を支持する候補しか、次期日銀総裁には選ばれないないだろう。
   3つめの理由
3つめの理由は、日本経済にはまだ構造的なデフレ圧力が残っていることだ。企業貯蓄率はまだ異常なプラスであり、企業の過剰貯蓄という内需低迷とデフレ構造不況の原因が存在している中、金融引き締めを強行すれば、日本経済が再びデフレに戻るリスクがまだ大きい。
国内の物価動向の目安となる企業貯蓄率と消費者物価指数には強い相関関係が確認できる。海外からの物価上昇圧力で消費者物価指数がオーバーシュートしても、いずれ企業貯蓄率が示す国内の物価動向の目安の水準まで戻ってくることが何度も起こってきた。
日銀が現行の金融政策の点検・検証を行うとしても、金融緩和効果を維持するための手段が議論となり、必ずしも金融引き締めにつながるものにはならない可能性が高い。
   4つめの理由
ここに来て、4つめの理由として、日銀が防衛増税に耐えうる景気の状態を維持する必要性が新たに生まれた。5年間で防衛費のGDP比を2倍程度に増額するため、法人税中心の増税が行われる計画だ。
「2024年以降の適切な時期」から2027年度にかけて、他の項目と合わせて、増税幅が1兆円程度まで徐々に拡大するとされる。それまでの間に、日本経済が強い景気後退に陥れば、増税が白紙に戻るばかりか、岸田首相の自民党内での求心力が著しく衰え、内閣が退陣に追い込まれるリスクが大きく高まる。
今回の増税を巡る自民党内の混乱
特に、増税の時期と法案への具体化は、来年末の自民党税制調査会で再度議論することになり、それまでの景気の下支えは必須になったとみられる。政務調査会でも、増税以外の選択肢がないか議論が進み、景気が悪化すれば、増税に対する否定的な意見が増えるだろう。
増税の実施の景気条項が実質的に入ったことになる。更に、財源として決算剰余金を充てることになるようだ。日銀が金融緩和をしている期間である過去10年間の平均の額が前提となっている。
決算剰余金は、日銀からの納付金や、金利を高めに設定することによって実際には使われなかった利払い費が含まれる。日銀が金融引き締めを強行すれば、逆ザヤによる日銀納付金の減少や、金利の上昇によって決算剰余金は減少する可能性が高い。
財源が足らないとして、増税額が引き上げられれば、日本経済の景気回復の腰折れのリスクとなる。今回の増税を巡る自民党内の混乱で、岸田首相の求心力は弱くなり、来年春の日銀執行部人事では、アベノミクス路線を継承する自民党内の声に配慮せざるを得なくなっただろう。
政府・日銀の共同声明が見直される可能性もある
新日銀総裁の就任後、政府・日銀の共同声明が見直される可能性もある。現在の共同声明は、黒田総裁ではなく、白川総裁下の2013年1月に公表されたものだ。日銀が大胆な金融緩和をし、政府は構造改革と財政再建という供給側の政策を推進することで、「できるだけ早期に」2%の物価安定の目標を実現する方針となっている。
結果は、政府の需要側の政策が弱く、拙速な財政再建の動きもあり、ネットの資金需要が消滅し、日銀の金融緩和に過大な負荷がかかってしまった。
日銀には支出をする力はなく、経済のマネーを拡大し、需要も拡大するためには、企業と政府の支出する力であるネットの資金需要の回復が必要であったからだ。「できるだけ早期に」目標を実現するためには、積極財政の力で、需要をしっかり拡大する必要があった。
   十分な賃金上昇が実現する環境を整えることが盛り込まれる可能性
共同声明が見直されるのであれば、日銀は大胆な金融緩和を継続し、政府は構造改革と成長投資に加え、財政政策で需要を拡大し、十分な賃金上昇が実現する環境を整えることが盛り込まれる可能性がある。
単純な2%の物価安定の目標から、賃金上昇をともなった2%の物価安定の目標に変更となるだろう。結果として、実質賃金の上昇にコミットすることで、物価安定の目標は名目GDP成長率の目標に実質的に進化することになる。1%程度の実質GDP成長率と、2%の物価安定の目標を加え、3%以上の名目GDP成長率が事実上の目標となる。
政府は、需要の拡大を継続するため、ネットの資金需要(GDP比)を3%程度の名目GDP成長率と整合的な−5%程度に、積極財政で維持することが必要になるだろう。
2023年度の予算編成の骨太の方針に明記された「経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組む。」という方針が、共同声明でも明確になるとみられる。
まとめ
今回の決定を踏まえ、2023年、2024年は現行の政策を維持し、2025年に企業の設備投資サイクルが上振れ、企業貯蓄率がマイナス化(正常化)し、デフレ構造不況の原因が払しょくされた後、YCCの長期金利誘導目標を引き上げるか、景気動向によってはYCC撤廃の動きに進むだろう。
2026年までに、物価上昇率が目標の2%台で安定するようになり、インフレ期待がアンカーされれば、政府はデフレ完全脱却宣言をし、その後、日銀は短期の政策金利の誘導目標をプラスに戻して、金融緩和政策から完全脱却していくことになるだろう。  
●政府・日銀の共同声明、「今こそ十分な検討が必要」との声−諮問会議 12/27
政府が22日に開いた経済財政諮問会議で、デフレ脱却と持続的成長の実現に向けた政府・日本銀行の共同声明について、民間議員から直ちに同会議での検証を求める意見が出た。議事要旨を27日に公表した。
BNPパリバ証券グローバルマーケット総括本部副会長の中空麻奈氏は共同声明について、「見直すべきか、維持するべきかを含め、取り沙汰されている事実を踏まえると、今後の市場とのコミュニケーションが一層重要になってくる」と指摘。同会議が「定期的に検証を行うことになっており、今こそ十分な検討が必要だ」と語った。
第2次安倍政権発足直後の2013年1月に公表された共同声明では、金融政策を含むマクロ経済政策運営の状況や物価安定目標に照らした物価の現状と今後の見通しなどについて、同会議が定期的に検証を行うと定めている。
中空氏は、日銀によるイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の運用見直しに関し、「将来から現時点を振り返った時、これが事実上の利上げ開始であったと考えられるというのが市場関係者の主流の見方」と説明。国債買い入れ増額については、バランスシートが膨らみ続け、市場機能低下の副作用もある中、「ソブリン格付けが引き下げられるリスクがあることを無視してはならない」とも述べた。
日銀は20日の金融政策決定会合で、YCCの国債買い入れを大幅に増額しつつ、0%程度が誘導水準の長期金利(10年国債金利)の変動許容幅を上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限で機動的に買い入れ増額や指し値オペを行うことも決めた。
 12/28

 

●「金融緩和の検証必要」日銀 12月会合の主な意見 12/28
日銀は28日、12月19、20日に開いた金融政策決定会合での政策委員らの主要な発言をまとめた「主な意見」を公表した。現在の大規模な金融緩和策について「いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要」との意見が出た。
会合では金融緩和の持続性を高めるためだとして、長期金利の上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げることを決めた。投資家の間では事実上の利上げとの受け止めが広がったが、会合では「金融緩和の出口に向けた変更ではない」「金融緩和の方向性を変更するものではない」との声が相次いだ。
●長期金利の変動幅拡大、緩和変更や出口否定が相次ぐ-日銀12月会合 12/28
日本銀行が12月19、20日に開いた金融政策決定会合では、全員一致で決めた長期金利の許容変動幅の拡大について、金融緩和の持続性を強化するもので方向変更や出口ではないとの指摘が相次いだ。「主な意見」を28日に公表した。
出席者からは、変動幅の拡大は「現行の金融緩和をより持続可能にするための政策対応であり、金融緩和の方向性を変更するものではない」「出口に向けた変更ではなく、国債買い入れを通じて現状の緩和姿勢は維持されるべきだ」などの意見が出た。予想インフレ率が上昇して実質金利が低下しており、「強力な緩和効果が続くことは変わらない」との説明もあった。
会合では、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)で0%程度を誘導水準とする長期金利(10年国債金利)の変動許容幅を上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大。毎営業日実施している10年国債の指し値オペの利回りを0.25%から0.5%に引き上げた。市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限で機動的に買い入れの増額や指し値オペを行うことも決めた。
出席者からは、市場機能の低下が続けば「金融緩和の効果の波及を阻害する恐れがある」「社債の良好な発行環境は維持されているとみられるが、注意を要する状況にある」などの見解が示された。
会合では「いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要だ」との意見も出た。一方、物価安定目標の2%という目標値を含めた点検・検証に関しては、「目標値の修正は、目標を曖昧にし、 金融政策の対応を不十分なものにする恐れがある」との指摘があった。
田村直樹審議委員は11月30日のインタビューで、「しかるべきタイミングで金融政策の枠組みや物価目標の在り方を含めて点検・検証を行うことが適当ではないか」と発言。木原誠二官房副長官は今月12日のインタビューで、2%目標を「できるだけ早期に実現する」としている政府と日銀の共同声明について「新たな合意を結ぶ可能性はある」と言及していた。
物価に関して、ある出席者は企業の価格転嫁の動きが広がっていることが「物価上昇率の底上げに寄与する可能性や、企業業績の底上げを通じて前向きな循環につながる可能性がある」と指摘。財だけでなくサービス価格も次第に上昇率を高めていることや消費者物価のコア指標が一段と伸びを高めている点を挙げ、「物価上昇のモメンタムが強くなってきている可能性がある」との意見も出た。
●金利引き上げに支持相次ぐ、金融緩和継続へ予防線も 日銀会合意見 12/28
日本銀行は28日、今月19、20日に開いた金融政策決定会合の「主な意見」を公表した。長期金利の変動上限を0・25%程度から0・5%程度に引き上げると決めたこの会合では、債券市場の機能低下に対する懸念が多く示され、変動幅の拡大が必要だとの意見が相次いだ。大規模金融緩和の出口≠目指す動きではないとの声が出た半面、本格的な政策修正に向けた準備を求める意見もあり、日銀内で見方が分かれていることも浮き彫りになった。
出席者からは、日銀が国債を無制限に買い入れ過度の金利上昇を抑えてきたことについて、「投資家のセンチメント(心理)が慎重化している」「金融緩和の効果の波及を阻害する恐れがある」など副作用を訴える声が目立った。その上で、市場機能の改善に向け「長期金利の変動幅の拡大が必要だ」と政策修正を求める意見が多数上がった。
一方、参加者からは黒田東彦(はるひこ)総裁が会合後の記者会見で強調したように、政策修正は現行の金融政策を「より持続可能にするための政策対応」だとして、大規模な金融緩和の出口≠目指すものではないと予防線を張る声が上がった。
ただ、他の参加者からは「いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要」と本格的な政策修正に向けた検討を進めるべきとの意見もあった。
このほか、足元の物価高に関しては「輸入物価の上昇圧力は減衰する」など、来年以降に一服するとの見方が多くを占めた。
この日の会合では長期金利の変動上限を引き上げたが、短期金利をマイナス0・1%、長期金利を0%程度に誘導する大規模金融緩和の大枠や2%の物価安定目標については維持した。
●金融政策決定会合 緩和で債券市場の機能低下 懸念の声相次ぐ  12/28
日銀は、金融緩和策の修正を決めた12月20日までの金融政策決定会合の「主な意見」を公表し、政策委員から大規模な金融緩和を受けた債券市場の機能の低下を懸念する声が相次いだことがわかりました。
それによりますと、日銀が金融緩和の一環で国債を大量に買い入れる中、会合では、政策委員から「10年ものの国債の価格形成にゆがみが生じている」とか「債券市場の機能が低下した状態が続けば、企業の社債発行などの環境に悪影響を及ぼし、金融緩和の効果の波及を阻害するおそれがある」といった懸念の声が相次ぎました。
これを踏まえて日銀は、金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げることを全員一致で決めました。
一方、今回の政策修正について委員からは「今の金融緩和策の枠組みの持続性強化につながる」という意見や「金融緩和の出口に向けた変更ではなく、緩和姿勢は維持されるべきだ」といった指摘も出されました。
日銀はそれまで、変動幅の上限の引き上げは金融引き締めにあたるという見解を示していましたが、会合で内閣府の出席者からは「政策の趣旨について、対外的に丁寧に説明することが重要だ」という注文も出されました。
また会合では、大規模な金融緩和策について「いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要だ」と政策の検証を求める意見も出されました。
●日銀ショック!金利上昇で株価上がる業種はどこ  12/28
12月20日の日経平均株価は669円安と急落、2カ月ぶりに2万7000円を割り込んで2万6568円になりました。株式市場では、今回の急落は「日銀ショック」とも呼ばれています。日銀が10年物国債利回り(長期金利)の「上限」を0.25%程度から0.5%程度に拡大すると発表したことで株価が下落したからです。
日銀は金融緩和の一環で、10年物国債を随時買って長期金利が「上限」を超えて上昇しないように調節しています。その上限が高められたわけですから「これまでの大規模な金融緩和政策の転換。事実上の利上げ」との見方も少なくありません。日銀の決定に対して株式市場はネガティブな反応が続き、翌日以降も株安となりました。日経平均株価は2万6500円も割れて推移しています(26日現在で2万6405円)。
そこで今回は金利上昇が株価に与える影響を整理して、金利上昇の影響を受ける業界を探ってみました。
金利と株価はどう推移してきたのか
まずは、金利と株価の推移を確認しましょう。図表1では10年物国債の利回り(長期金利)と日経平均株価の推移を見たものです。注目のポイントは2012年11月14日に民主党の野田首相(当時)が衆院解散に踏み切る考えを表明してから、自民党の政権復帰への期待で日経平均株価が上昇トレンド入りしたことです。背景にはアベノミクスの最大の経済対策と見られている「大胆な金融政策」があります。
アベノミクスを実現するため、2013年4月以降、日銀の黒田総裁は、デフレ脱却を目指して強力な金融緩和策を発動してきました。これが「黒田バズーカ」と言われるもので、合計3回発動されました。
第3弾では「民間の銀行が日銀にお金を預けると金利を取られてしまう(0.1%の金利分を支払う)」というマイナス金利が決定されて、当時の市場に大きなサプライズを与えました。そして2016年9月には、長期金利と短期金利の両方を超低金利に維持すると政策が打ち出されました。これが通称「イールドカーブコントロール」と呼ばれるものです。
図表1から、このような大規模な金融緩和政策が進むにつれて、日経平均株価が上昇していく「金利低下と株高」の関係が確認されます。
では、なぜ金利が低下すると株高となるのでしょうか。金利が下がると、借入利息の支払いが少なくなるため、人々はお金を借りやすくなります。ローンで家を建てたり、クルマを買う人が増えれば、家やクルマを生産している企業の売り上げが増えて景気も良くなります。さらに生産を増やすために企業が設備投資を行えば、景気拡大の波及効果も広がり、株高が加速していくのです。
「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」の違い
ところで、このような金利低下と株高の関係ですが、図表1で過去の推移を見ると、単純にそうとも言えません。アベノミクス前の2012年11月以前では、「金利低下と株安」が連動していました。10年物国債の利回り(長期金利)と日経平均株価が連動して下落しています。これは株価の下落に対応して日銀が金融緩和しても、それ以上に株価下落の傾向が強くて緩和の政策が追い付かなかったからと見られます。これがデフレと呼ばれるものです。デフレとは、資産などのモノの価値が持続的に下がってしまうことです。
このように金利が下がる場面で、「株価が上がる局面」「株価が下がる局面」の両方があって、どちらになるかはそのときの経済環境で決まります。反対に金利が上がる場面も「株価が上がる局面」「株価が下がる局面」の両方あります。図表2では、それぞれについて「1良い金利上昇」と「2悪い金利上昇」として、まとめてみました。
「1良い金利上昇」は、例えば、次のようなものです。景気が回復していくと企業の業績も良くなります。ビジネスパーソンはボーナスも増えて給料が上がります。収入が増えると人々の購買力があがることからモノがたくさん売れます。モノの需要の増加に対応して企業が設備投資を増やせば、銀行から借り入れも増えるようになります。お金の需要が増えるため、金利が高くなってもお金を借りる人が増えます。これが景気の回復や株高と連動する金利上昇です。
一方、「2悪い金利上昇」は、例えば戦争などの原因により生産国から原材料の輸入が難しくなったときに起こります。モノの供給が不足するためモノの値段が上がります。金融当局はモノの需要を減らして値段を下げようとします。人々がお金を借りてモノを買ったりしないように、金利を高くするのです。こうした金利上昇は景気が良くない状況で起こり、株安にもつながります。
さて今回の日銀ショックに話題を戻しましょう。新年(2023年)の金融市場での大きな関心事は、さらに金融緩和の見直しが行われていくかどうかです。筆者が考えるに、日銀も「2悪い金利上昇」による景気や株価へのネガティブな影響は避けたいのが本心でしょう。このため金融緩和の本格的な見直しは「賃金・給与の上昇」によるデフレ脱却が見えてから行われると考えられます。
金利上昇で株価が上がる業種、下がる業種
とは言え、これまでの金利が下がってきた環境とは異なるため、株式投資などで銘柄を選ぶ際には、金利が上昇するなかではどのような業界が物色されていくかを考えておく必要があります。そこで、金利が上昇するなかで株高が大きい、あるいは株安が大きい業種にはどのようなものがあるのか統計的な手法で探ってみました。
図表3を見てみると、10年国債利回り(金利)が上昇したときに株高が大きい業種の第1位は空運業でした。金利が1%上がると、空運業の株価は平均して13.7%上昇するという関係が示されます。金利が上がると円高につながるため、みなさんも海外旅行がしやすくなるでしょう。飛行機の利用が増えれば空運業の売り上げ拡大となります。また航空機の円ベースの燃料費も下がることも業績プラス要因です。
第2位の鉄鋼業や輸送用機器に関しては、金利上昇が直接業界にプラスに働くというのではないようです。金利上昇を伴う景気回復(1良い金利上昇)で、製品の需要が増えて売り上げが伸びることが理由と考えられます。
第4位のパルプ・紙も景気回復での需要増が理由ですが、製紙原料の木材の円ベースの輸入コストが減ることも業績にプラス要因です。第5位の銀行業は、貸し出したお金の利息が増えて収益にポジティブなことが理由にあります。
一方、金利上昇時に下落が大きい業種の第1位は不動産業となりました。金利が1%上昇すると平均して13.4%株安となることが示されました。金利上昇時にはローンを組んで不動産を買う人が減ってしまうため、不動産業の売り上げが低下することが理由です。
第3位の海運業は金利上昇に伴う円高が業績に対してマイナスの影響が大きい業種です。運賃をドルベースで受け取るケースが多いことから、円高になると円ベースで受け取り額が減ってしまうためです。
第4位の鉱業に関しては、低金利下では商品など資源に投資する資金が増える一方で、金利が上昇すると投資資金が商品市場から流出して市況が悪化することが理由にあります。保有している原油などの鉱区にかかる権益の価値が下がってしまうためです。第2位に医薬品、第5位がサービスとなっているのは、金利上昇が与える成長株へのマイナスの影響が大きいということが背後にあるのかもしれません。
新年は、金利上昇のメリット、デメリット業種を頭にいれておく必要があるでしょう。
●日本円の紙くず化は避けられない…日銀を襲う「債務超過」という最悪の危機 12/28
日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日銀は長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大する事実上の利上げを決めた。これは防衛ラインの後退であり、日本円が紙くず化する日は近い」という――。
日銀の「事実上の利上げ」は防衛ラインの後退である
12月20日、日銀は、金融政策決定会合で「これまで0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大する」と決定した。誰もが予想していなかった発表で市場は大きく動いた。為替は円高に振れた。
日銀が緩和政策を変更し、今後、日米金利差の縮小で円高が進むと解説したアナリストやマスコミも多かった。
たしかにこの日銀の決定を、金融政策の変更と考えれば、この為替の動きはセオリーどおりだ。
しかし私の分析は全く違う。日銀が自身の存亡をかけて戦っている最中での決定だと理解している。日米金利差のようなテクニカル的な分析で為替の先行きを予想すべき次元ではないのだ。
20日の日銀の決定を私は「やむを得ず行った」決定だと思っている。
日銀は10年国債金利の許容変動幅を±0.1%、±0.2%、±0.25%と順次引き上げてきた。一見、物価上昇への対応のように見えなくもないが、本質は組織防衛戦である。
0.25%では、無制限の指値オペを開始した(定めた値段で売ってくる国債を無制限に買い取るオペ)。必死の防衛体制を敷いたのだ。これは「保有国債が評価損に陥るか否か」の防衛ラインで、極めて重要なラインだった。
日銀にはもう後がない…
しかし、9月末に0.277%と多少とはいえ、この防衛ラインは破られた。その結果、9月末の日銀は保有国債に8749億円の評価損を発生させてしまったのだ。
これは外国勢の売り仕掛けに負けた結果だ。
このまま外国勢に対抗すれば、とんでもないほどの国債購入を強いられることになる。入札当日に発行額の半分以上を日銀が落札者から買うという前代未聞の事態も発生していた。
国債購入の代わり金として日銀当座預金が増加するわけですさまじいQE(量的緩和)が進行してしまう。世界中の投資家の間で、日銀は財政ファイナンスを行っているとの認識も広がりそうだった。
もう限界だとの判断で防衛ラインをやむを得ず後退させたのだと思う。許容変動幅を0.5%にすれば、多少は外国勢の売り仕掛けから逃れられるとの判断だったろう。
0.5%は最後の防衛ラインである。0.5%になれば国債の評価損が、現在11兆1000億円ある「準備金+引当金」を上回ってしまう。すなわち債務超過に陥ってしまうのだ。したがってこの防衛ラインの後ろは崖である。
要は20日の日銀決定の意味は、日銀が「評価損発生ライン」から、「債務超過発生ライン」まで防衛ラインを後退させたという話なのだ。日銀は今後、最後の防衛戦を守らねばと「必死の守り」に入る。
「事実上の利上げ」にどれほどの意味があるのか
日銀が長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大すると発表した当日、マスコミやアナリストの中には大幅な利上げと解説した人がいた。たしかに変動許容幅を±0.1%、±0.2%、±0.25%と拡大してきた過去の決定に比べれば大幅利上げだ。
しかし米国の長期金利なら1日で動く変動幅にすぎない。
先日、ここに拙稿を載せた際、ドイツの10年金利は12月12日で1.93%と書いた。ところが2022年12月23日には2.38%と0.45%も上昇している。これが日本と同じように昨年はマイナス金利だったドイツの長期金利の動きなのだ。
ちなみに昨年12月末は△0.38%であるからドイツの10年金利は、昨年末から2.76%も上昇している。
したがって今回の0.25%から0.5%への変動幅の拡大は気休めにもならないだろう。防衛ラインを大きく後退させたから、日銀は一安心というわけにはいかないのだ。
防衛ラインを後退させれば、多少は外国勢の売り圧力が減じるとの判断だったと思われるが、外国勢は当日のうちに0.46%の防衛ラインまで迫ってきた。23日には0.37%と押し戻したものの0.5%の最後の防衛ラインに外国勢が押しかけるのは時間の問題だと思われる。
日銀は0.5%を守り切れない
学問的には名目金利とは実質金利+期待インフレ率+財政破綻リスクの総和なのだが、日銀が財政ファイナンスをしなかったなら、累積債務対GDP(国内総生産)比で264%となった日本の財政破綻リスクはかなり高かったはずだ。
そして期待インフレ率もそれなりに高くなってきている。その和を考えただけでも0.5%などという低利のはずがない。この0.5%というシミのような低金利は日銀が国債を爆買いしている作為的な金利にすぎない。
「短期金利は中央銀行が決める。長期金利は市場が決める」とは金融界の常識だった。長期金利を中央銀行が決められると考えたのは日銀の傲慢(ごうまん)さにすぎない。
そもそも以前は日銀自身が「教えてよ、日銀」という一般向けホームページで「長期金利は中央銀行ではコントロールできません」と記していたのだ。
元FRB議長のバーナンキ氏も2004年5月20日にワシントン州シアトルの講演で長期金利はFRBが決めるものではなく世界中のファイナンシャルマーケット参加者の深遠で緻密な分析で決まる」と述べている。
黒田総裁が「これは政策転換ではない」と強調するワケ
ファンダメンタルズに即した市場の動きを政府・中央銀行が力で抑え受けようとしても、市場は膿(うみ)がたまった段階で、一気におできをつぶしにかかる。
マーケットに長く携わった私は何度も経験してきたことだ。「市場の暴力」と称される時期が日銀にも近づいていると思われる。
これだけの借金を抱えた国の長期金利は本来0.5%のはずはないのである。とても0.5%で抑え込めるとは思えない。いったん0.5%の防衛ラインを崩されれば、一気に長期金利は上昇すると考えられる。
外国勢が国債売りの手を緩めず、市場利回りが0.5%に迫ってくると日銀は大量の債券指値オペを再開し、再度防衛戦を行わねばならなくなる。
前述したように、国債購入の代わり金として日銀当座預金を増加させるわけだから、これはすさまじい量的緩和である。
今ここで政策変更、すなわち「金融緩和をやめた」と宣言したとすると、この最後の防衛戦で「なんだ、金融緩和をやめたはずなのに、なぜ量的緩和をするのだ」との反論に答えようが無くなってしまう。
日銀にできることは「物価が上がりませんように」と祈るだけ
今回の変動許容幅拡大は「やむにやまれず行った」決定だと思うが、もし今後、物価が上昇してきた時、日銀は何ができるのだろうか。
もう何もできない。
物価上昇対応で日銀ができる金融引き締め策は全て出し終わった。ぬれ雑巾を絞り切った状態である。これ以上引き締めると債務超過に陥ってしまう。
最後の引き締め策を黒田日銀総裁は12月20日に使い切ってしまった。そして4月に任期満了を迎える。その結果、次の総裁は、なんの手段も持たずにインフレと戦う羽目になる。
できることと言ったら「物価が上がりませんように」と祈るだけだ。
だからこそ、前回の拙稿で、日銀財務が危機的状況にあることを最も熟知しているだろう雨宮副総裁は、「次期総裁職を引き受けない」と書いた。
12月に決まるのでは?  と言われていた次期日銀総裁はいまだ決まっていない。1月にも決まらなければ、そのこと自体が円安再進行の引き金になる可能性もある。
「0.5%の最終防衛ライン」を破られたあとに起きること
今のようにファンダメンタルズから乖離(かいり)した長期金利では、いくら日銀が防衛ラインを敷いても、ヘッジファンドなどは執拗(しつよう)に攻めてくるだろう。
ましてや今後、日本の物価が上昇してくれば、その勢いは加速していくと思われる。万が一、日銀が防衛の手を緩めれば、ドイツの例を見るまでもなく簡単に2%くらいには吹きあがる。
12月25日の日経新聞の報道によると、25年度時点でもし金利が想定より1%上がると元利払いにかかる国債費は3兆7000億円上振れし、2%の上昇なら上振れは7兆5000億円になると財務省が推計した。
これでは、支払金利上昇で予算編成はアップアップだ。ちなみに予算の膨張を国債の増発に頼れば、国債需給の悪化で長期金利はさらに上昇していこう。
同記事によると、1%を超える程度の緩やかな金利上昇でも、条件によっては、日本国債の格下げの可能性も出てくるとのこと。国債格付けが主要7カ国(G7)で最低のイタリアは、累積債務の対GDP比が147%なのに対し、日本のそれは264%なのだから格下げの可能性は十分にあると私は思う。
S&Pの格付けでシングルAプラスの日本が、トリプルBのイタリア以下になれば邦銀のドル調達が厳しくなる。日経新聞いわく「大手邦銀は外貨調達の2割程度を国際的な銀行間ルートに頼っているが、この調達手段が締め上げられることになる」。
銀行の調達難が海外の日本企業に多大な影響を与えるのは想像に難くない。
ハイパーインフレのリスクが高まっている
ところで日経新聞が報じたように、日本が格下げを免れることができたのは、日銀が金利をゼロ水準に抑え込んできたためだ。
注意が必要なのは、格付けはあくまでも「国の倒産確率」である点だ。だから日経新聞の言うように、日銀が財政ファイナンス(=政府の歳出を紙幣を刷ることによって賄う)を続けている以上、財政破綻のリスクはかなり低くなるはずだ。自国通貨であれば、必要であれば、いくらでも紙幣を刷れるからだ。
それにもかかわらず、トリプルBへの転落を気にしなくてはならないところが、大問題である。
日銀が財政ファイナンスを続けている以上、財政破綻の確率は低い。しかし財政ファイナンスは「ハイパーインフレを引き起こす」から禁じ手中の禁じ手と言われていた手段だ。財政ファイナンスを継続していれば、財政破綻の確率は減って格下げは起こらなくても、ハイパーインフレのリスクは高まる。
デフレ/インフレはモノやサービスの需給で決まるが、ハイパーインフレは中央銀行の信用失墜で起こるからだ。
なお「他の主要国はコロナ禍や物価高対策で傷んだ財政の立て直しに動いている。日本はコロナ禍の前から大規模緩和の下で野放図な財政運営を続けてきた。日銀の緩和修正はその限界が近いことを突きつけている」との12月24日の日経新聞記事「日本の財政、金融緩和の恩恵に幕 金利上昇が迫る規律」はまさにその通りだと私は思う。
コントロールを失った日銀が信用不安を引き起こす
長期金利のさらなる上昇は日銀自身にとって大問題となる。日銀に巨大債務超過が発生してしまうのだ。
浅田均参議院議員が予算委員会でした質問に対し、雨宮日銀副総裁は「日銀は1%の金利上昇で28兆6000億円、2%で52兆7000億円の債務超過」になると答弁した。巨額の債務超過である。通貨の信認はひとえに中央銀行の信認にかかっているから、日銀の巨大債務は日本経済にとっても日銀にとっても死活問題だ。
日銀にとっては存亡の危機である。0.5%の最終防衛ラインを破られると日銀に債務超過が生じる。これは世界中の耳目を集めるだろう。
すでに12月21日の米経済紙のウォールストリートジャーナルが社説で「コントロールを失った日銀」と題して、日銀のオペレーションについて触れた。
「経済の重力に逆らえないのは必然であり、それは日本にさえも当てはまる」
債務超過のニュースが世界の耳目を集めるならば日銀の信用失墜、ひいては円の信用失墜が起きる。ハイパーインフレは時間の問題となる。
ドルと交換できないローカル通貨、円暴落へ…
この影響は国債の格下げなどの次元の話ではない。
外銀の審査部が時価会計で日銀の内部を審査し、信用失墜との理由で日銀当座預金の閉鎖を決めたら日本は終わる(もっとも財政が健全な新しい中央銀行ができて新しい通貨ができれば、外資は再度日本に戻ってくると確信する)。
外資金融機関の日銀当座預金閉鎖は外国人の日本株、日本国債、為替からの撤退を意味する。すべての最終決済は日銀当座預金を通して行われるからだ。
「他の邦銀に代理を任せれば」と言う人がいるかもしれないが、日銀との取引中止を決めたら、すべての邦銀との取引も中止となる。
ドルと交換できない円はローカル通貨化し、円は暴落、ハイパーインフレだ。いくらモノがあふれていようが石ころでは売り手はモノを売ってくれない。
なぜ日銀だけ危機的と言えるのか
中銀のバランスシート規模は日本が突出している。SMBC日興証券によれば、総資産の名目GDPに対するバランスシート規模は米国34%、欧州67%に対し、日本は126%だそうだ。
中央銀行のバランスシートの負債の大部分は発行銀行券と当座預金残高だ。バランスシートが対GDP比で大きいということは経済規模に対してお金をばらまきすぎたということ。お金の価値が希薄化するのは明白だ。
他の中央銀行はコロナでお金をばらまいたのに対し、日銀は異次元緩和の開始時から、すなわち平時から財政ファイナンスでお金をばらまいてきた。ばらまいたお金が少なければ撤退は何とかなるが、ばらまきすぎると、その回収は容易ではない。
実際、それほどお金をばらまいていないFRB、欧州中央銀行(ECB)等は世界的にインフレが加速するなか、量的緩和(QE)を打ち切っている。英国中央銀行(BOE)やFRBは既にばらまいたお金の回収(QT)に入っているし、ECBは来年3月からQTに入ると言われている。
ばらまきすぎたお金が原因でインフレが起きているのならば、そのお金を回収しなければインフレなど収まらないからだ。
その一方、日銀だけが国債を買い続けている。すなわちQE(量的緩和)を継続しているのだ。
日銀はばらまいたお金を回収できない
果たして日銀はばらまいたお金を回収できるのか。無理である。それどころかお金のバラマキを未来永劫(えいごう)、続けざるを得ない。
少し古い資料(2017年度)だが、私が参議院議員だった時、政府が1年間に発行する国債のうち、日銀がどのくらい買っているか聞いたことがある。
131兆3000億円の年間発行額に対し96兆2000億円も買っているとの回答だった。68%というとんでもない数字だ。これはまさに、ハイパーインフレが起きるからと世界中で禁止されていた「財政ファイナンス」そのものだ。この10年間、この数字はほぼ60〜90%の間だった。購入も大部分が長期債だ。
ちなみに米国は、この期間、ほぼ10%以下(2020年に一度だけ40%になった)だった。
私が金融マンだった頃(2000年3月末まで)、日銀はほとんど長期国債など買っていなかった。ほとんど買っていなかった機関が突然買いはじめ、60〜90%も買っていれば価格は高騰する。
その機関が買いをやめれば価格は大幅下落(=長期金利上昇)するのは自明だ。ましてや売り始めたら(QT)価格は大暴落(=長期金利急騰)だ。
資金運用部ショックの記憶
1998年12月、当時、国債の年間発行額のうち19%を購入していた政府直轄の機関・資金運用部(2001年に廃止)が資金繰り悪化で、国債購入を止めると発表した。その結果、長期債は0.6%から2.4%に急騰。慌てた大蔵省は、国債購入中止をやめ購入を継続することにしたのだ。
もし、そのまま購入をやめていたら軽く5%は超えていたと思われる。それでも市場には、いざとなれば、法改正で日銀が引き受けを行い、事を収めるとの期待があった。
しかし今回は、そのラストリゾートの日銀自身が19%どころか毎年60〜90%も購入しているのだ。QEをやめられるわけがない。日銀がQTどころかQEを未来永続継続しなければならないと私が言う理由だ。
日銀のバランスシートは限りなく拡大し、お金はばらまかれ続ける。
最終的には天文学的な数字になるにせよ、途中経過で1ドル400円から500円になるという理由はここにある。回収が始まっているドルと未来永劫、天から降り続ける円との差である。
「破りまくっている財政法」と統合政府の大問題
日本の財政法は破られっぱなしだ。
第4条は「赤字国債の発行などとんでもない。どうしても必要もなら建設国債ならば最小限はしかたがないか」という趣旨の規定だ。しかし「特例公債法」という普通法より上位法の特例法を作り、赤字国債の発行が常態化してしまった。
公債の日銀引き受けを禁止する財政法第5条も同様だ。しかし、0.5%への変動枠拡大の前日には「日銀が入札されて国債の半分以上を当日に買い取った」とのニュースが流れた。第4条のように、一応、体裁を整えての財政法破りではない。法破りの根拠なく財政法5条を破っている。
ここでより重要なのは、先人たちが「なぜ第4条、第5条を作ったか」を深く認識することだ。立法事実(法が存在する合理性の根拠となる社会的事実)は何だったか。
「なぜ世界の主な国々は、中央銀行が政府から独立しているのか」を考えてみよう。
政府の歳出を賄うのは増税、もしくは新しく紙幣を刷って賄うのどちらかしかない。政治家は当然、国民に不人気な前者よりも後者を選択する。その結果、紙幣の刷り過ぎでお金の価値が減価し、ハイパーインフレが起きてしまった。
その悲劇を二度と繰り返さないために、世界の主たる国では中央銀行を政府から独立させた。政府から独立した日銀ができたのもその理由(西南戦争後のハイパーインフレ対処のため)。要は統合政府をいさめたのだ。
それを「統合政府で考えれば大丈夫だ」とか「中央銀行に国債を引き受けさせれば、まだ財政出動できる」などの理屈にのっとって財政赤字を拡大させた罪は大きい。
窮地に立つ日銀、円の紙くず化は近い
先日、朝日新聞の原真人編集委員が「(財政ファイナンスがもたらす弊害について)この恐るべき事態に私たちはもっと敏感に、もっと強い警戒心を働かせるべきではなかろうか」と記事で指摘した。まさにその通りだ。
「長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大する」という日銀の決断は、金融政策の変更でも何でもない。日銀が白旗を上げつつある証左だ。
それは円の紙くず化が近いことを意味する。
●黒田総裁が今年示した「嫌われる勇気」 12/28
日本銀行の黒田東彦総裁の2022年を振り返ると、長期金利の変動幅拡大を決めた先の金融政策決定会合の前でも皆を仰天させてきた。
円が1ドル=150円近辺で推移していたころ、ある野党議員は国会で、円安による物価高が国民生活を苦しめていると黒田総裁を追及。「日本人として、武士の魂があるなら普通は潔く辞める」と主張した。
数十年ぶりの円安水準を付けた責任は日銀の金融政策にあるとの見方は多かった。だが、黒田総裁は辞任を否定。黒田氏は今年、家計の値上げ許容度が高まっているとの発言でも国内で反発を招いていた。
インフレに拍車を掛けたと受け止められたためか、今年注目を集めた人を描く年末恒例の「変わり羽子板」に、9月に死去したエリザベス英女王や米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手、映画「トップガン マーヴェリック」が大ヒットした米俳優トム・クルーズさんと並んで黒田総裁も入った。変わり羽子板の歴史で日銀総裁が描かれたのは初めてだった。
IMFも一言
黒田氏は今年最後となった政策決定会合で、各方面からいら立ちを招いたようにも見受けられる。国際通貨基金(IMF)も「金融政策の枠組みを調整する条件に関して、より明確な意思疎通」を呼び掛けた。異例の言及であり、丁寧ではあるが紛れもない批判だった。
黒田氏は熱心な読書家として知られており、日銀総裁に就任した13年出版のベストセラーで、古賀史健、岸見一郎両氏の著書「嫌われる勇気」のファンなのかもしれない。確かに、黒田総裁には多数派に従うことを気にすることはほとんどない様子だ。
今年は米国やカナダ、欧州の中央銀行が軒並み利上げを急ぐ中、黒田氏は大規模な金融緩和を修正するタイミングとして適切ではないと主張してきた。今回一歩進んだわけだが、これが金融緩和の大がかりな見直しの第一歩になるとする見方も若干うのみにしにくい。
われわれが4月に指摘したように、現在のような輸入型のコストプッシュインフレであっても日本のデフレマインドを是正する上では役立つことを示しつつある。インフレが加速する一方、賃金の伸びがまだ追い付いていないというタイミングで、大規模な正常化に踏み切れば、2%の物価安定目標を放棄するに等しくなる。
黒田氏の後任総裁は岸田文雄政権とこの目標を微調整、またはこれに代わる新たな共同声明(アコード)を取りまとめるかもしれない。だが、日銀が過度なインフレを突如懸念するとの見方は的外れだ。
黒田総裁は現在の物価高が「一時的」で、物価上昇は今後緩やかになると引き続き強調。政府と日銀は春闘後も、賃金と物価のスパイラル的な上昇につながることはなく、賃金の伸びが物価上昇率を上回る公算も小さいとの認識で一致する。
黒田総裁の評価
評判は変動し得る。有名人だから成功が保証されるというわけでもない。ロシアのデフォルト(債務不履行)につながった1990年代後半のアジア通貨危機がようやく後退した時、米タイム誌は当時のグリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長とルービン財務長官、サマーズ財務副長官の3人を「世界救済委員会」と呼んで特集した。
09年には同じタイム誌が金融システムを救ったとして当時のバーナンキFRB議長を今年の人に選んだ。グリーンスパン氏は「メルトダウンに至っていたら、ヘッドラインは逆に『世界破滅委員会』になっていただろう」と認識していたと、ボブ・ウッドワード氏の2000年の著書「Maestro: Greenspan’s Fed and the American Boom」で振り返っている。
黒田総裁はどのように記憶されるだろうか。足元の憤りは強く、日銀の降参に賭ける向きはさらにその姿勢を強めるだろう。だが、日本の外ではインフレ率が徐々に鈍り始めつつあるほか、当局も引き締め効果が表れるまでの時間差について語ることが多くなり、世界経済にも停滞感が漂う。このため、黒田総裁による今回のサプライズ前でもドル高は一服し、円相場は反転していた。
もう一つある。日本当局による為替介入だ。「無益」だとか「お金の無駄」だとか言われたが、円安に歯止めを掛けることに成功したように見受けられる。介入のタイミングが良く、外貨準備のごく一部を使うにとどまっただけでなく、通常は為替市場で国家が積極的に動き過ぎることに眉をひそめる米国からの反発も招かなかった。
これは嫌われる勇気というよりも、日本政府による水面下の外交スキルや、米国との緊密な安全保障上の関係によるところが大きいのかもしれない。新年が近づき、日本の当局にとっては雑誌の表紙を飾れなくても満足だということを心にとどめておくべきだろう。
●「財政の憲法9条」を改正するとき 12/28
今年の国内最大の事件は、安倍元首相の暗殺だった。犯行には背後関係はないようだが、安倍晋三という戦後最大級の政治家を、こんな形で失ったことは残念である。彼の外交・国防政策は満点といってもいいが、彼の経済政策には、いまだに疑問が残る。
安倍氏はなぜ「財政ハト派」になったのか
自民党の主流は伝統的に財政ハト派で、右派は財政タカ派だった。たとえば宮沢首相は「資産倍増」をとなえてケインズ政策をとったが、小泉首相は不良債権処理の最中に「構造改革」の緊縮財政路線をとった。それを継承した第1次安倍内閣も、量的緩和を終了するなどタカ派だったが、第2次内閣は打って変わってハト派になった。
財政出動は、リーマン後の金融危機から脱却する上で必要だった。財政支出でGDPが増えることは自明であり、それ自体を否定する経済学者はいない。問題はその財源を日銀が「輪転機ぐるぐる」でいくらでも出せるという「リフレ」だった。
量的緩和は2000年代初頭に議論されたころは政策として意味があった。そのねらいは財政に中立な金融政策で景気を調節することで、日銀も福井総裁のころやってみたが、ゼロ金利が続く中で通貨供給だけ増やしても意味がないので、2006年に終了した。
他方、ゼロ金利で財政赤字のリスクは小さくなった。財政政策の欠点は、政治家が食い物にし、ゾンビ企業を延命するなど資源配分のゆがみが大きくなることだが、それは政治家にとってはメリットである。これに歯止めをかけるため、財政法では国債を原則禁止し、その日銀引き受けを禁じてきた。
財政法4条の呪縛
しかし安倍氏は、それを逆に見ていたようだ。WiLL6月号の北村滋氏(前国家安全保障局長)との対談で、安倍氏は「赤字国債の発行を禁じる財政法4条は戦後レジームそのものだ」という。大蔵省の1947年の逐条解釈にはこう書かれていた。
「第四条は、健全財政を堅持していくと同時に、財政を通じて戦争危険の防止を狙いとしている規定である。戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、我が国の歴史を見ても、公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである。公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。したがって、本条はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものであるとも言い得る。」
ここには戦時国債の大量発行を許して戦争への道を開いた大蔵省の反省があり、戦後の知識人の悔恨共同体に対する「不戦の誓い」ともいうべきものだった。見方を変えると、GHQが再軍備を阻止するためにつくった規定ともいえる。
しかし今では、この制約は意味がない。建設国債も赤字国債(特例公債)も、国会で議決すれば出せるので、自民党が圧倒的多数を占める国会では、財政赤字の歯止めにはならない。財政法4条は、国債発行のハードルを上げて税金の浪費を防ぐ制度だったが、憲法9条と同じく、もはや機能していないのだ。
統合政府の債務管理が必要だ
したがってGHQのつくった「戦後レジーム」を清算しようとした安倍氏が、国債発行に積極的だったことは不思議ではないが、彼はなぜ財政法4条を改正しなかったのだろうか。
安倍氏の「日銀は政府の子会社」という発言が物議をかもしたが、国債は統合政府でみると日銀の資産なので、その残高は相殺でき、日銀が会計上で債務超過になっても問題はない。それより統合政府の債務管理によって物価と金利をコントロールする制度が必要である。
債務管理として日銀引き受けを禁じる財政法5条も、空文化している。国債の借り換えはほとんど日銀引き受けなので、60年償還ルールは実行されていない。財務省はプライマリーバランスの黒字化を目標としているが、これは日銀のインフレ目標と同じく、形骸化している。
安倍氏の提唱した防衛国債は、建設国債の壁を破る試みだったが、来年度予算では護衛艦など一部の予算が建設国債に入っただけだ。安倍氏の真意は、今となっては知るよしもないが、憲法改正が実現するとき財政法も改正するつもりだったのかもしれない。
「財政の戦後レジーム」の清算
財政規律は重要だが、それは国債を禁止する時代錯誤の法律ではなく、実質的な経済安定化を基準とすべきだ。MMTの元祖ラーナーが言ったように、経済政策の目的は財政の安定ではなく経済の安定なので、過剰債務が金融危機などのショックをもたらすリスクが問題である。
「未来の世代への責任」をどうするかという神学論争ではなく、具体的に何%の金利上昇で金融危機が起こるのか、そして政府債務がGDPの何%になったら、将来世代に何%の純負担が発生するのか、数値シミュレーションで考える必要がある。
今はそれを財務省の主計局が判断しているが、先進国ではイギリスの予算責任局のような独立機関でチェックするのが普通である。ゼロ金利状況では金融政策には効果がなく、財政政策のコントロールのほうがはるかに重要である。
本質的な問題はPBのような単年度の財政収支ではなく、時間を通じた国民負担(社会保険料を含む)をどうするのかという政府の予算制約を設定することだ。それを無視して国営ネズミ講を続けると、国債の負担が社会保険料に上乗せされて現役世代が貧困化する。
財政法4条を改正し、国債を「特例公債」として毎年議決するルールを廃止するとともに、5条を改正して日銀引き受けを認め、そのコントロールを日銀政策委員会がやってはどうだろうか。もちろん財務省は強く反対するだろうが、それが「財政の戦後レジーム」を清算しようとした安倍氏の遺志に添うのではないか。 
 12/29

 

●日銀の金融政策見直し、新たな目標は「円の対外価値維持」重視にせよ 12/29
YCCの長期金利上限引き上げ 「利上げでない」との日銀の弁明は苦しい
日本銀行が12月20日にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の長期金利上限の引き上げを決めたが、日銀は利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもないと、説明した。
他方でマーケットは、この決定にただちに反応し、金利や為替レート、株価が大きく変動した。
これは、20日の日銀の決定が金融政策の大転換であり、「低金利時代の終焉」と捉えられたことを意味している。
決定の影響は、日本国内だけでなく世界に及んだ。米英独などの国債利回りが日銀の決定を受けて0.1%以上高くなったのだ。
「利上げでもないし、金融緩和出口の始まりでもない」という説明と、「金融緩和時代の終了」という見方のどちらが正しいのか?
それを判断するには、YCCの政策変更ががなぜ行なわれたのか、その背景を振り返る必要がある。
金融政策の手段や目標見直しが必要だ。
市場の圧力に屈した日銀 緩和政策修正以外の何ものでもない
日銀が長期金利の誘導目標の上限を引き上げた理由は、一言で言えば、市場の圧力に屈したということだ。
金融市場では、このところ、地方債の国債とのスプレッド拡大やイールドカーブの歪みなどの異常な状況が生じていた(これらについての詳しい説明は、本コラム12月15日付け「日銀が金利を抑えても長期金利はすでに上昇、『YCC修正』は避けられない」を参照)。
また、長期国債の売買が不成立の日が多発し、12月1日には発行直後の国債の約半分を日銀が購入するという異常事態が起きた。
こうしたことになったのは、日銀が設定している0.25%の長期金利上限が、経済の実態に則して低すぎる(日銀が設定している10年物国債の価格が高すぎる)からだ。
つまり、10年物国債は、市場が望ましいと考える以上に発行されており、民間の金融機関はもっと安い価格でないと購入しない。現在の価格で購入するのは、ほとんど日銀だけという状況になっていたのだ。
だから、国債との信用度格差が変わらなかったにもかかわらず地方債はもっと安い価格(もっと高い金利)でないと資金調達できない状態に追い込まれた。社債による資金調達も同じだ。
長期金利の直接コントロールは、2016年のYCC導入以降、金融緩和政策の柱になっている。それに対して市場が拒否反応を示したことになる。
だから、日銀が市場の要求を認めたことは、金融緩和政策の基本的な修正以外の何物でもない。
最後の低金利国だった日本 「低金利時代の終わり」が始まった
これまで、世界のヘッジファンドなどが、日銀のYCC維持は不可能との見通しの下に、10年物日本国債の先物売り投機を仕掛けていた。
ヘッジファンドと日銀の戦いは、今年の6月に顕著になったのだが、このときは、日銀の勝ちに終わった。そして、「中央銀行に勝てるはずはない」というのが、つい先頃までの見方だった。
ところが12月20日の決定で長期金利が上昇したため、ヘッジファンドの勝ちとなった。投機を仕掛けていたファンドは巨額の利益を手にしたはずだ。
投機が巨大中央銀行を屈服させたのは、1992年にイングランド銀行をポンド切り下げに追い込んだジョージ・ソロス氏の例以来の歴史的な事件だとの見方もある。
日銀と同じようなコントロールを行なっていたオーストラリア準備銀行(中央銀行)は2021年11月に、スイス中銀は今年の6月に、市場の圧力によって、金融緩和策の修正に追い込まれている。同じことが日本でも起こったのだ。
「低金利時代の終わり」は、日本を除く全世界ですでに進行していたことだが、最後の低金利国日本にもその時代の終わりが始まったことになる。
これをきっかけに、海外ヘッジファンドの日本国債売りが加速するとの見方もある。
YCCは停止、短期金利操作に 物価は金融政策の目標として適切でない
今後、金融政策をどのように修正する必要があるか?
まず第1に、手法の見直しが必要だ。
長期金利の直接コントロールは市場原理に反することだ。政策金利を決めれば市場の原理によって、イールドカーブの形が決まりしたがって長期金利も決まるからだ。
イールドカーブコントロールを停止し、短期市場での金利操作を主とした中央銀行の元々の政策手法に戻ることが必要だ。
さらに、金融政策の目的についても見直しが必要だ。
異次元金融緩和は、物価上昇率を政策目標とした。しかし、物価は、金融政策の目標として適切ではないことが分かった。
その理由は、次の二つだ(これについての詳しい議論は、本コラム11月3日付「日銀の異次元緩和『本当の目的』は物価でなく低金利と円安」で行なった)。
第1に、政策手段(国債の大量購入あるいはイールドカーブコントロール)と、物価上昇率の関係が明らかでない。
第2に、物価が上昇しても賃金が上がらないことが分かった。そして、賃金を日本銀行が動かすことができないことも分かった。また、政府も賃金を直接には動かせないことも分かった。
つまり、物価上昇は、働く者の立場から見れば望ましくないものであることが明らかになったのだ。
したがって、2%物価目標達成を目指した2013年の政府と日銀のアコードは破棄されるべきだ。
物価に代わり「通貨価値の維持」を目標に 国民生活に円安のデメリット大きい
では、物価に代って金融政策の目標にすべきものは何か?
私は「通貨価値の維持」が尊重されるべきだと思う。
日本の場合には、特に円の対外的な価値の維持だ。
これまで日本では、企業の利益増大の観点から円安が望まれてきた。その反面で、円の対外的な価値を維持する必要性は、ほとんど意識されなかった。
しかし、2022年に急激な円安が進んだことによって、円安が国民生活にいかに大きな問題をもたらすかが、多くの人によって理解されるようになった。
対外的な円の価値の維持とは、大まかに言えば、市場為替レートが購買力平価から大きく離れないことだ。
ここで購買力平価とは、世界的な一物一価が成立するような為替レートだ。OECDなどいくつかの機関が、この考えに基づく指数を計算している。
そして、現在の円の市場レートは購買力平価に比べて大きく円安になっている。
22年の秋には、急激な円安の進行を背景として、人々が円建て預金を外貨預金に移す動きが生じた。幸いにしてこれは大きな流れにはならなかったのだが、仮にこの傾向が広がれば、日本からの大規模な資本流出という事態になりかねない。
そうなれば、日本経済は破綻してしまう。
また、円安が国際間の労働力移動に影響を与えていることも問題だ。
フィリピンなどからの介護人材が日本に来なくなり、オーストラリアなどに流れていると報道されている。また、高度専門人材の日本からの流出が生じつつある。
こうした事態は日本にとって大きな損失だ。
市場レートが購買力平価に比べて円安になる基本的な原因は、日本の金利があるべき水準に比べて低すぎることだ。
この状態を改善する必要がある。
したがって円の対外価値維持が政策目標とされれば、物価上昇率を2%に引き上げるために金利を抑制してきた、これまでの日銀の政策とは反対に金利を引き上げる必要がある。
●本当に金融緩和から脱却するのか 日銀・黒田総裁の金融政策修正の意味 12/29
世界的なインフレを抑え込もうと米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめ世界の主要な中央銀行が利上げなど金融引き締めに転じるなか、かたくなに金融緩和を続けてきた日本銀行が政策の修正に踏み切った。長期金利の許容変動幅をこれまでの0.25%程度から0.5%程度に拡大することから「事実上の利上げ」と見られ、市場も大きなサプライズに見舞われたが、この流れを受けて2023年前半の株式市場や為替市場はどうなっていくのか。グローバルリンクアドバイザーズ代表の戸松信博氏が、日銀の金融政策を読み解く。

日銀は2022年12月20日の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の運用の一部見直しを決定し、長期金利の許容変動幅を従来の上下0.25%程度から上下0.50%程度に拡大しました。これが市場では大きなサプライズと受け止められ、円は急騰、債券と株式相場はともに急落しています。
日本の長期金利が上昇することで、米ドルをはじめ他通貨との金利差が縮小し、円の魅力が増すので円買いが進み、円高となったほか、長期金利が上昇することで資金の借り入れが躊躇され、経済に悪影響を与える懸念から株式が売られました。また金利上昇によって既存の低利回りの債券は魅力が薄れるために債券が売られて債券価格が下がったわけです。
市場では、日銀が10年近く続けてきた異次元の金融緩和政策から脱却の第一歩として受け止められており、2023年の利上げの可能性も論じられているところです。
しかし、今回のイールドカーブ・コントロールの運用内容の修正措置がすぐに金融政策の正常化策につながるわけではありません。欧米のように政策金利を急激に0.75%も引き上げるような金融引き締めと同じようなものでもありません。
実際、日銀の黒田東彦総裁は「金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応であり、出口の一歩ということでは全くない」と述べており、大規模な金融緩和の継続姿勢を改めて強調しています。
日銀の発表文書を見ると、〈国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する〉とあります。黒田総裁は運用内容の修正措置の理由を「市場機能の低下」として「金融緩和の効果がより円滑に波及するようにするための措置」と指摘しています。
イールドカーブ・コントロールをより強化している
確かに長期金利は若干上昇することになりますが、それは例えば、ブレークイーブンインフレ率(物価連動国債の売買参加者が予測する今後最大10年間の年平均物価上昇率)が0.85%前後で推移していることなどからも、本来ならば長期金利は例えば1.0%前後となっているのかもしれません。
ところが、実際には金利の上昇が景気に悪影響を与えないように日本銀行が長期・短期の金利を低く抑えている。それがイールドカーブ・コントロールです。上記の例で言えば、放っておけば1.0%程度まで上昇しているはずの長期金利を0.25%に抑えていたのがこれまでの政策でした。それに対し、今回の措置は、イールドカーブ・コントロールの機能は保持したまま、市場機能を回復させるために実態に歩み寄って少し許容幅を引き上げた形なのではないかと思います。むしろ、国債買入れ額を増やしていることから、イールドカーブ・コントロールをより強化(円滑に運用)している側面も覗えます。
実際のところ、長期金利が0.25%程度上昇しても経済に与える影響は小さいと思います。また、政策金利についても2023年にマイナス金利は修正されるかもしれませんが(仮にマイナス金利がゼロに引き上げられても経済に悪影響はあまり出ないものと思われます)、プラス方向への利上げまであるかというと、その可能性は小さいと考えます。つまり、2023年までを見通すと、今回の修正を原因として日本経済が悪化していくことはないと見ています。
むしろ、現状を考えれば、今回の修正によって、為替が円高方向へ動いていることから、輸入物価の上昇が抑えられる点では、プラスの影響もあるでしょう。株式市場でも金利上昇の恩恵を被る銀行株や保険株は大きく上昇しています。
このように考えていくと、今回の修正発表後の株価急落はやや投機的な動きであり、目先は市場が日本の金利上昇を予想して、更なる投機的な動きに繋がっていく可能性はあるかもしれません。ただ、中長期的にみれば、今回の修正による株式市場への影響は軽微なものといえそうです。もちろん、それ以外の理由によって日本株が下落する可能性はありますが、日経平均株価はここから大きく下がるというよりも、上下動しながらも4月に向けて2万7500円程度は見込めるのではないでしょうか。為替も4月に向けて1ドル=135円程度で推移していくのではないかとみています。
●消えぬ緩和修正観測 日銀、金利抑え込みに躍起 12/29
日銀が大規模金融緩和策の修正に踏み切ってから1週間余り。
金融市場では、日銀が再び見直しに乗り出すとの観測が消えない。黒田東彦総裁は「出口の一歩では全くない」と緩和継続の姿勢をアピールし続けるが、追加の修正を見込んだ投資家が国債を売り続け、金利の上昇圧力は根強い。日銀は臨時の国債買い入れなどを通じ、金利の抑え込みに躍起だ。
日銀は長期金利の指標となる10年物国債利回りの変動を容認する上限を、20日に0.25%から0.5%へ引き上げた。国債の利回りは本来、償還期間が長くなるに従って高くなる。ところが、金利全般が上昇する中、日銀の強力な買い入れによって10年物の利回りだけが低位で推移する「ゆがみ」が生じていた。
国債市場の取引も停滞し、政策修正はこうした副作用を和らげるのが狙いだった。決定に当たり、政策委員からは「市場機能の改善に資する」との声が相次いだ。
しかし、市場関係者らは「追加修正観測は依然くすぶっており、国債金利のゆがみも解消されていない」と口をそろえる。日銀が、「事実上の利上げ」と説明してきた金利変動幅の拡大を手のひらを返すように唐突に決めたため、市場は疑心暗鬼に陥っている。
緩和修正の発表後、長期金利は急上昇(債券価格は急落)。21日には一時、0.48%と新たな上限に早くも接近した。これに対し、日銀は特定の利回りで国債を無制限に購入する「指し値オペ」の対象を10年物以外にも広げ、28日は2年物や5年物で実施。臨時の買い入れを通じ、金利全体を抑え込む姿勢を鮮明にしている。
年明け以降も日銀と市場の神経戦は続く見通し。投資家が国債の売り圧力を強めて緩和再修正を催促し、日銀が防戦に回る場面もありそうだ。 
●挑発的発言で140円までドーンと下落 黒田総裁のマーケット評 12/29
今、日本人が何よりも懸念しているのは、目の前の物価高なのではないでしょうか。2022年10月の消費者物価指数は前年同月比でプラス3.6%、40年8カ月ぶりの上昇率を記録しました。
物価高の発端は、2022年に始まったグローバルインフレです。新型コロナで傷んだ経済を回復させるため、各国は経済対策にじゃぶじゃぶとお金を流してきましたが、その結果として物価が急激に上昇。さらに同年2月にはウクライナ戦争が勃発し、資源・食料価格が高騰し、その波が日本にも直撃しました。
追い打ちをかけたのが、同時期に進行した円安です。年明けから1ドル115円前後で動いていた為替相場は、春以降に円安方向へと動きます。10月には1ドル150円を突破し、32年ぶりの安値を更新しました。輸入物価が押し上げられ、国内の食料・エネルギー価格に上乗せされています。
日本の物価高は「グローバルインフレ」と「円安」の二重苦と言われてきましたが、現在は主に円安が物価高に大きく影響しています。円安対策については日銀の金融政策が注目を集めました。ところが肝心の黒田東彦総裁は金融緩和を続ける方針を示し、金利を上げようとはしません。その頑なな態度が国民やメディアの反発を招き、日銀は無策だと批判を浴びることになりました。
私は1977年に日本銀行に入行し、在職中は調査統計局長(2001〜07年)、理事(2009〜13年)などを務めました。今回はOBの立場から、日銀が金融緩和を続ける理由、この10年の金融政策の問題点などを分析し、今後の日本経済への処方箋についても考えてみたいと思います。
円高になりにくい構造
まずは、現在の状況を整理しましょう。
進行中の円安について、私は2つの要因があると考えています。
1つ目は先ほども触れたように、内外金利差の拡大です。アメリカがあれだけ金融引き締めをしているのに、日本はいまだに大規模緩和に集中している。日米の金利差は4.5%まで広がりましたから、円安圧力が高まるのは当然です。
2つ目には、日本の対外収支構造の変化が挙げられます。
かつての日本は工業製品を大量に輸出して、巨額の貿易黒字を抱えていました。最近の日本の貿易収支はトントン、今のようにエネルギー価格が上がると赤字の状態です。ところが経常収支で見ると、相変わらずかなりの黒字を維持している。実は日本は、海外投資からの利益・配当である投資収益収支で稼ぐようになり、貿易大国から投資大国へと変貌しているのです。
最近の投資収益は、金融機関ではなく製造業の海外現地法人の儲けが大半を占めています。問題は、帳簿上では収益を親会社に移転して連結決算にも反映するのですが、資金の大部分は現地に置きっぱなしで円転しないのです。一方で貿易の支払いはあるから、どうしても日本全体としてはドル不足に陥ってしまう。需給の関係でドルは上がり、円は下がることになるのです。
このような対外収支構造が根底にあることを考えると、現在の日本は円高になりにくく円安が進みやすい状態であると言えます。2011年には、1ドル70円台の超円高時代がありましたが、あの水準まで戻ることはもはや考えられません。
とはいえ、現在の円安は明らかに行き過ぎの感がある。ビッグマックひとつ買うのに米国では5.15ドルも払わなければいけないのに対して、日本では2.83ドルで買える。購買力平価(全く同一の商品を買うことができる購買力)で比較すると、1ドル=100円くらいが適正だろうとみられます。
ですから、過剰な円安はいずれ調整されて戻っていく。ここまで異常な状態が、この先何年も続くとは思いません。
円相場を占ううえで注目すべきは、やはりアメリカの今後の動向です。FRB(米連邦準備制度理事会)は「ある程度は景気を犠牲にしてでも、絶対にインフレを抑え込む」との強い意志のもと、0.75%もの大幅な利上げを4回連続でおこなう、異例の対応をとりました。インフレはしぶとく続いており、利上げの効果が表れるまではある程度時間がかかりますが、あと半年もすれば経済指標に反映されてくるでしょう。少なくとも来年中には、利上げのピークが見えてくるはずです。
それに伴い多少は円高が進み、1ドル100円まではいかないにしても、最終的には120円程度に落ち着くのではないかと思います。
日銀が唯一とれる手は?
インフレに対応すべく各国の中央銀行が金融引き締めに走るなか、日銀だけが利上げをせずに金融緩和を続け、孤立を深めました。
なぜ日銀は大規模な金融緩和を続けているのか、黒田総裁にはどのような思惑があるのかを、ここからは考えていきたいと思います。
最初に申し上げておくと、私自身は日銀の対応には概ね賛成です。各国の中央銀行が金利を上げているからといって、現在の金融緩和を根本的に変えて引き締め政策に移るのは、時期尚早だと考えます。欧米と日本ではインフレの種類が異なるので、何でも同じにすればいいわけではありません。
日本では物価上昇率が3%台まで上がり、2022年度は、日銀が物価安定の目標として掲げてきた前年比2%を達成するかもしれません。ただし、このところの物価上昇は、世界的な資源高が引き起こした一時的な現象です。特に日本は欧米と違って、賃金が上昇する気配がまだありません。実質賃金が下がれば個人消費も伸び悩むため、常識的に考えれば、23年の物価上昇率は徐々に下がっていくことが予想される。そこで金融引き締めをおこなえば、もともと危うかった景気が一気に悪化してしまいます。
金融政策の大枠は変えられませんが、円安対策で何一つ手がないわけではない。日銀がとりうる最も自然な手段として、私も含め多くの関係者が予想していたのが、長期金利の運用の弾力化でした。
現在の日銀は長期金利の変動許容幅をプラスマイナス0.25%程度に設定し、国債買入れによって金利の上昇を力ずくで抑え込んでいます。これが必要以上に円安を促しており、「日銀が金利操作にこだわっているぶん10円くらい余計に円安になっているのでは」と話すマーケット関係者もいるほどです。
例えばですが、この長期金利の変動許容幅をプラスマイナス0.5%程度にまで拡大し、ある程度の弾力性を持たせる。そうすれば、円安の進行を止めるまではいかないにしても、多少は勢いを和らげることが出来たはずなのです。
しかしながら、皆さんもよくご存知のとおり、肝心の黒田総裁が全く動こうとしませんでした(苦笑)。
長期金利を見直すことはおろか、定例会見では「当面金利を引き上げることはない」「(緩和継続は)数カ月ではなく2、3年の話」と、頑なな態度をとり続けています。
マーケットを挑発しているように見られてしまうきらいもあり、一時期は黒田さんが何か喋るたびに円安が進んでいました。ある時、会見を見ていたら「えっ、こんな挑戦的な物言いをするの?」と驚く場面があった。直後に140円までドーンと下落したので言わんこっちゃないと。どうしてあそこまで頑固な態度をとるのか不思議でたまりません。
黒田さんのラストチャンス
「なぜ黒田さんはここまで頑なになっているのか」
「金利を上げられない理由があるのではないか」
国民やメディアは疑心暗鬼に陥り、市場関係者の間でも様々な説が流れました。私もいろいろと考えてみたのですが、一番納得がいくのは、黒田さんが土壇場で“ラストチャンス”を狙っているという説です。
●2023年の展望:ゆっくり進む円高、日銀本格利上げならショック発生 12/29
「光陰矢の如し」の格言よろしく、今年もあと2日で大みそかだ。ここで改めて2022年のドル/円相場を振り返ってみると、想定外のイベントや政策変更が頻発し、事前の予測が困難な乱高下が引き起こされた「為替アナリスト泣かせ」の年だったと言えるだろう。
円安急進展後の円高
1月3日、115円前後で始動したドル/円相場は、同月下旬に一時113円47銭と今年の安値を記録したが、2月にロシア・ウクライナ戦争が勃発すると米国のインフレ率が強烈に上振れして米連邦準備理事会(FRB)が超速利上げを開始。米金利の先高観によって強まるドル高圧力と資源高で膨張した日本の貿易赤字に由来する実需の円売り圧力が入り混じり、10月には一時151円95銭と32年3カ月ぶりの高値を記録した。
ただ、その後は日本政府が巨額のドル売り・円買い介入を実施すると相場の風景が一変。人為的な需給操作で市場のドル買いクッションが一時的に薄くなる中、海外短期筋が感謝祭からクリスマス前の利益確定のドル売り圧力を強めると、急激なドル安・円高が進行した。
既往の米利上げによる米国景気悪化懸念がドル売り材料視される中、師走の日銀会合で予想外の緩和修正が発表されると1日で約7円もの円高ショックを招き、一時130円58銭と4カ月半ぶりの安値圏まで差し込んだ。
その後はようやく下げ止まったが、134円台では戻りの鈍い印象を否めない。今年の年足は「2年連続の陽線引け」がほぼ確実なので「円安の年」になりそうだが、11月と12月に出現した派手な大陰線が、局面変化の予兆であるかのような存在感を示している。果たして、来年はどんな展開が待っているのだろうか──。
23年は3年ぶりの年足陰線か
結論から先に述べると、2023年は「3年ぶりの年足陰線」を記録、「円高の年」になる可能性が高い。
テクニカル的にみると、今年10月高値の151円95銭から12月安値の130円58銭までの下げ幅は、約10週間で21円37銭にも達している。
これだけ深い差し込み傷がチャートに入って市場観察の目線を一気に下げさせられると、さすがに円安支持派の心が折れる。「近い将来の150円台復帰の可能性は消えた」とみる市場関係者が激増しており、期待の自己実現によるドル安・円高局面への移行が促されるだろう。
今年の秋まで続いたドル高の原動力だった米国の利上げは、年明け後もしばらく続きそうだが、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で更新された政策金利見通しによれば、来年の春頃には5%程度で打ち止めになる可能性が示唆されていた。
外国為替市場の住人は先読み好きなので、将来起きそうなことを早めに織り込むくせがある。米国の利上げ局面が終盤に差し掛かっているとの見方が広がるにつれ、その後の米利下げ局面への移行を見越して、ドル売りを進める可能性が高い。
1985年のプラザ合意による政策的な為替相場の水準調整が終了した1980年代末期以降、ドル/円相場のトレンドがいったん変化すると、円安局面も円高局面も1年以内に終わったケースは一度もない。少なくとも来年中は円高が進むことになるだろう。
円高テンポ緩やかな3つの理由
だだ、筆者はこれから述べる3つの理由から、今年10月高値の151円台を頂点にして始まったドル安・円高局面は、今後は速度を落として比較的穏やかに進むとみている。最近の勢いをこのまま維持して円高一直線という雰囲気にはならないのではないか。
第1に、今年10月高値の151円台から12月安値の130円台に至るまで、わずか10週間で21円37銭もの急落は、さすがにスピード違反の疑いが濃厚だ。このまま機械的に延長すると、来年の3月末には1ドル=90円台に突入するような無茶苦茶なペースなので、一本調子で続くとは思えない。
今後、どこかで売られ過ぎの修正を促す自律反発の局面が来れば、当該下げ幅のフィボナッチ分割38.2%戻しの水準である138円台や、半値戻しに相当する141円台の手前あたりまでなら買い戻される可能性はあるだろう。どんなに明確な理由があって円安や円高が進む場合でも、為替は定規で引いたような一直線の動きにはならない。
第2に、日銀は今年の師走会合で市場に衝撃を与える緩和修正を行ったが、我々は来年中のさらなる緩和修正を見込んでいない。「来年4月の黒田東彦日銀総裁の退任後、新たな日銀執行部が追加的な緩和修正に動く」との思惑はくすぶっているが、当該時点における日本の景気・物価情勢を想像すると、恐らくそのような期待は実現しないだろう。
新体制の日銀執行部が発足する来年の春頃には、米国経済の減速が顕著になっている可能性が高い。「米国経済がクシャミをすると日本経済が風邪をひく」の格言通り、恐らくその頃には日本経済の雲行きも怪しくなっているのではないか。
最近の原油安と円高の影響により、現在一時的に3%台後半まで上昇している日本の物価上昇率についても、来年の春以降になると安定的に政策目標の2%を再び割ってきそうだ。
そのような状況の下で、日銀がさらなる株安・円高ショックを引き起しそうな追加利上げに動く可能性は低い。日銀が短期の政策金利をマイナス0.1%に据え置き、長期金利< JP10YTN=JBTC>の上限0.5%をキープしている間、日本の金利は短期も長期も世界で一番低い状態が続く。
来年、米金利の先安観を背景にしたドル安が進めば、結果的に受動的な円高は進むことになりそうだが、世界で最も低い日本の長短金利の魅力がアップしなければ、超円高が進む際に必要不可欠な「円の上値を追いかけてでも買い続ける」為替需給の担い手は現れ難いだろう。能動的な円高推進力は生まれないのではないか。
第3に、貿易収支の赤字体質が定着しつつある令和の日本では、国内外の金融政策の方向感とは関係なく恒常的に片道切符で持ち込まれる実需のドル買い・円売りのフローが、ドル安・円高局面での下振れ幅を和らげるクッションのような役割を果たしている。
最近の原油安と円高の影響を受け、これまで拡大基調で推移してきた日本の貿易赤字は、来年以降縮小に転じる可能性が高いが、赤字の状態が続く限り、実需のドル不足・円余剰は解消されない。令和の時代、円高の値幅は平成の頃のようには広がり難いのではないか。
以上の諸点を総合的に加味すると、2023年のドル/円相場は3年ぶりの陰線になるものの、130円割れの水準では底堅く推移する可能性が高い。その後、24年まで円高が続く場合は、120円割れの可能性も視野に入ってくるかもしれないが、かつて見たような100円割れの水準へ深く差し込んでいくような円高の再来は想定していない。
日銀の矢継ぎ早な対応なら、円高急進展も
もしも来年、筆者の見通しが外れるとすれば、4月に発足する新たな日銀執行部が、比較的早期に現在の長短金利操作を撤廃すると同時にマイナス金利政策も廃止して本格的な利上げ局面に移行した場合、強烈な円高ショックが再び走ることになるだろう。
一方、来年の米国経済が意外な粘り腰を発揮して賃金や物価が下がらず、米国の利上げの最終到着点が、現在市場が織り込んでいる5%前後ではなく、6%をはるかに超える水準に引き上げられた場合は、ドル高トレンドの復活もあり得るだろう。ただ、いずれも現時点では可能性が非常に低いリスク・シナリオだと考えている。
●ドル円見通し 日銀ショック暴落に対する半値戻しに到達 12/29
概況
ドル円は12月28日昼過ぎに134.40円へ上昇、夜に133.39円まで反落したところを買われて29日早朝には134.49円へ高値を切り上げた。12月20日の日銀金融政策修正による「日銀ショック」暴落で当日の直前高値137.47円から21日未明安値130.56円まで6.91円の大幅下落となったが、売り一巡後の買い戻しによりジリ高での推移を続け、日々戻り高値を切り上げながら6営業日を経過して日銀ショック暴落に対する半値戻しラインの134.02円を超えた。12月16日未明に付けた12月2日安値以降の高値138.17円から21日未明安値までは7.61円の下落幅で半値戻しは134.37円だったがこれもクリアした。ただし12月20日の暴落は12月14日安値134.56円を割り込んでの一段安であり、まだ12月14日安値水準には到達できずにいる。
12月27日から28日にかけては米長期債利回りが上昇していることでドル円が押し上げられた。また12月26日の黒田日銀総裁講演での出口戦略否定発言や28日の「日銀金融政策決定会合(12月19-20日開催分)における主な意見」でもあくまでも金融緩和政策の調整範囲との姿勢が示されたことも円安要因となったようだ。しかし12月20日暴落に対する半値戻し到達まで戻したところからさらに日銀ショックそのものを解消するレベルへと上昇継続しうるのかどうかは疑問符も付くところだ。
日銀は出口戦略へ進んでいるのか、市場も模索するところ
12月28日に日銀は12月19-20日に開催して日銀ショックを招いた金融政策決定会合における「主な意見」を公表した。日銀は長期金利をゼロ%へ誘導するために許容変動幅を従来の上下0.25%から上下0.50%へと拡大したが、これに対しては「現行の緩和を世界的なインフレ下でより持続可能にするための対応」(ある委員)とし、「長期金利の指標となる国債価格のゆがみといった債券市場の機能不全を回避するための政策見直しが必要」との声を反映したものとした。許容変動幅の修正について委員の一人は「金融緩和の出口に向けた変更ではない」と主張したが、「いずれかのタイミングで金融緩和政策の検証を行い効果と副作用のバランスを判断すべき」、「将来の出口局面では金利上昇に伴うリスクや市場参加者の備えの確認が必要」との意見もあった。
12月26日に黒田総裁は講演においてあくまでも金融緩和政策の調整であり出口戦略ではないとの姿勢を強調した。実際に長期金利上昇抑制のための主たる対象である10年債の利回りが突出して低下するゆがみがあり国債市場に機能不全が見られたことは確かであり、その修正という言い分も正当ではある。12月28日には2年債や5年債等でも臨時の指値オペによる買い入れが実施されており、長期金利全般を抑制しようとする姿勢も見られる。だが、政府がアベノミクスから脱却し始め日銀も異次元金融緩和を終了してゆくとの市場の見方も根強い。10年債利回りは12月20日の政策修正を受けて0.25%近辺から0.48%へ急上昇し、その後は新たな高値水準超えには至らずにいるものの12月28日は0.45%とこの間の高水準状態を維持している。当面は日銀ショックを消化しきれたのかどうか、市場の模索も続く。
米長期債利回りは連騰
12月28日の米長期金利指標である10年債利回りは前日比0.03%上昇の3.88%で終了した。一時は3.81%まで低下したところから3.89%まで反騰しており、12月27日の前日比0.10%上昇からの連騰とした。
30年債利回りは0.04%上昇の3.97%で12月27日の0.10%上昇から連騰した。2年債利回りは0.02%低下の4.36%で終了したが4.33%まで低下したところから持ち直している。
中国が感染対策における入国規制を年明けから緩和するとしたことについて当初は景気回復へ寄与する楽観材料と受け止められたものの市中感染の爆発が続いていることで世界全体の景気後退へのトリガーとなりかねないと悲観的な見方が優勢となっている。またサプライチェーン混乱により世界規模のインフレが長期化して欧米の利上げ期間長期化への懸念も拡大しており、米長期債利回りの上昇再開感が強まっているようだ。このことは米国株安にも波及しており12月28日のNYダウは前日比365.85ドル安、ナスダック総合指数も同139.94ポイント安と下落している。
●NY外為 円、134円台半ば 12/29
28日のニューヨーク外国為替市場では、日米の金利差拡大観測を背景にドル買いが入り、円相場は1ドル=134円台半ばに下落した。午後5時現在は134円43〜53銭と、前日同時刻(133円46〜56銭)比97銭の円安・ドル高。
米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めの長期化懸念が広がる中、米長期金利の指標とされる10年債利回りは緩やかに上昇。日米の金利差に改めて着目したドル買いが優勢となり、円は朝方の133円台半ばから134円台にレンジを切り下げた。
中国政府が26日、新型コロナウイルスの防疫対策を一段と緩和する方針を表明したことも円売り・ドル買い地合いを支援した。感染拡大への懸念は根強いものの、中国の経済活動再開により世界的なリセッション(景気後退)回避への期待が浮上している。
日銀はこの日、今月19、20両日開催の金融政策決定会合における「主な意見」を公表したが、市場の反応は限定的。この後の臨時の国債買い入れオペの通告に加え、20日の長期金利の変動許容幅拡大決定をきっかけに急ピッチで進んだ円高・ドル安の反動もありポジション調整のドル買いが見られた。ただ、日銀の追加的な緩和修正への警戒感も依然くすぶっており、円の下値は比較的堅かった。
ユーロは同時刻現在、対ドルで1ユーロ=1.0607〜0617ドル(前日午後5時は1.0636〜0646ドル)、対円では同142円63〜73銭(同141円94銭〜142円04銭)と、69銭の円安・ユーロ高。 
●日本経済は麻酔が切れたまま手術するような状態へ 12/29 
超金融緩和策に守られてきた日本経済危うし・・・
黒田さんは金利変動幅を拡大しました。黒田さんというのは、みなさんご存じ、2期10年に渡って日銀総裁を務めてきた黒田東彦氏のことです。
黒田日銀総裁が金利変動幅を拡大した裏の理由とは? 
黒田さんが金利変動幅を拡大した理由は…
「ロシアのウクライナ侵攻以降、資源価格の高騰や各国の金融政策の転換などさまざまな要因からボラティリティが高まっていた。一時的に収まったように見えたが、最近、また高まってきた。イールドカーブがゆがみ、企業金融などにマイナスの影響を与える恐れがあるので、市場機能の改善を図った」というものでした。
これは表向きに言える公式な理由です。
その裏の理由は円安。つまり、インフレです。
日本の11月のコアCPI(消費者物価指数)は前年同月比で3.7%上昇しました。実に1981年12月以来という極めて高い水準です。
日銀はマイナス金利政策で短期金利を抑え込み、さらにYCC(イールドカーブコントロール)によって長期金利(10年物国債利回り)も抑え込んできました。その状況で、インフレが加速していることになります。
実質金利は名目金利からインフレ率を引いたものになりますが、このような状況だと、実質金利はマイナス圏でさらに落ち込んでいっていることになります。
そして、日銀は日本国債全体の50%を保有しています。次に保有量が多いのは生保、その次は銀行です。
国債が売られ、通貨が売られ、株も売られたイギリスの例が日本の参考に…
今後の日本の金融市場を考えるうえで、参考になる国があります。イギリスです。イギリスで起こったことを振り返ってみましょう。
イギリスの中央銀行、イングランド銀行は2021年末にイギリス国債全体の50%を保有していました。その後は徐々に減らそうとしています。
リズ・トラス前政権は景気対策のため、財政出動をして、財政収支がマイナスになる政策を打ち出しました。これを見た市場で、国債は売られ、金利は上昇し、英ポンド安、英国株安が起こりました。
この市場の動揺は、イングランド銀行が緊急措置として国債を買うことで落ち着きました。そして、首相は代わりました。
日本経済は麻酔が切れたまま手術するような状態へ向かっている!! 
イギリスで起こったことの教訓は、日本政府は国債をいつまでも大量に発行し、それを日銀に買ってもらって、財政出動できるわけではないということです。
前述したとおり、日銀はすでに50%の日本国債を保有していて、それを増やすことの限界が近づいていると思います。
日銀は国債だけでなく、ETF(上場投資信託)購入を通じて、実質的に株式もかなりの量、保有しています。日本株式市場の6.7%ぐらい保有していることになります。平常の状態とは言えません。
本来は日銀が金融緩和をしている間に、政府が構造改革するのが良かったのです。これは病人が手術台に乗っている間に、麻酔を打つのと同じです。麻酔は金融緩和で、手術は構造改革です。しかし、日本は麻酔だけして、手術はしていない状況です。
そして、その麻酔はもうすぐ切れそうです。市場はそれを受けて動き始めました。
金利上昇期待で上がっている日本の銀行株。さらにこのまま上がるのか? 
金利上昇の期待を受けて、銀行株は大きく上昇しました。
銀行株は上昇する前、大手銀行株でPERが1ケタ台、配当利回りが4〜5%台だったので、もしも良い金利上昇だったらこの銀行株上昇は妥当なものと言えますが、不景気になって、与信コストが上がれば(破綻が増えれば)、銀行株は下がると思います。
たとえば、アメリカの地銀株は金利が上昇しているにも関わらず、下落していました。大手銀行株も同じトレンドです。
金融の変化が起きる時は、だいたい急に起こります。上がる時はじわじわ、下がる時はショックということが多いです。
金利の急上昇、円安、ハイパーインフレ、倒産の増加、大増税はすべてが同時には起こらないと思いますが、このようなもののうち、いくつかの悪い出来事がこれから起こってくる可能性は大きいと思います。
日銀の超金融緩和策に守られてきた日本経済に変化が出る可能性大!  世界株への分散投資が急務! 
今後の展開を正確に予想することは難しいです。しかし、思ったより早く金融・経済に変化が出る可能性は大きいと思います。特に日本はここ10年、日銀の超金融緩和策に相当守られてきました。
なので、分散投資することが急務だと思います。その時は視野をグローバルに拡げ、世界の株式に投資するのが良いでしょう。
あるいは、どうしても国内の株式を買いたいということであれば、バランスシートが健全で、何か競合にはない強みを持っており、国内市場を相手にしているだけでなく、海外市場にも積極的に輸出するなどしている企業の株式を買うべきだと思います。
●国債支払利子2倍に引き上げへ 日銀緩和修正で 12/29
財務省が来年1月に発行する10年物国債の入札で、国債の買い手に支払う利子の割合を示す「表面利率」を現在の2倍に引き上げる方針を固めた。日本銀行が大規模な金融緩和策の修正を決め、実質的な利上げに動いたことを反映し、現在の年0・2%から0・4〜0・5%へと引き上げる。次回の入札を予定する1月5日朝の市場利回りの動向をもとに表面利率を最終的に判断する。
引き上げは0・1%から現在の0・2%とした今年4月以来。0・4%以上の表面利率は平成27年11月以来、7年2カ月ぶりとなる。普通国債の発行残高は1千兆円規模に上る。国債を投資家に安定的に買ってもらうには表面利率を市場金利に合わせて上げる必要があるが、政府の国債利払い費が増えることになり、その分だけ財政が圧迫されることになる。
表面利率は国債の額面価格に対する利子の割合を示しており、額面100万円で表面利率が0・4%の場合、10年物国債の保有者は毎年4千円の利子を満期までの10年間、国から受け取れる。10年物の表面利率はバブル期の平成2年に7・9%まで上昇した。平成25年4月に日銀の大規模な金融緩和が始まってからは大きく下がり、マイナス金利政策導入後の28年3月からは0・1%が続いた。
政府が今月23日決定した令和5年度予算案では、国の借金返済や利払いに回す国債費として25兆2503億円を計上。このうち利払い費は8兆4723億円を見込んだ。財務省は、仮に5年度から金利が1%上昇した場合、7年度の国債費が3兆7千億円程度膨らむと試算している。
●日銀の緩和継続は「有益」=デフレ克服後押し 12/29
世界銀行の前チーフエコノミスト、カーメン・ラインハート米ハーバード大院教授は、日銀が大規模金融緩和を一部修正したことに関し、日本がデフレを克服するには、緩和を維持して緩やかな物価上昇を目指す「リフレ政策」が引き続き有益だとの見解を示した。29日までに時事通信のインタビューに応じた。
日銀は20日、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた。「事実上の利上げ」との見方もあるが、ラインハート氏は政策変更は「極めて小さい」と指摘。日本は長年デフレに苦しんでおり、金融緩和を続けるべきだと明言した。
日本の公的債務残高は国内総生産(GDP)の2倍超に達し、新型コロナウイルス感染拡大に伴う財政出動でさらに増えた。ラインハート氏は増税と社会保障のバランスを見直す必要性に言及。日本は主要先進国の中で人口の減少と高齢化が加速しており、「(見直し判断は)差し迫っている」と警告した。
また、人口減少は「移民問題と切り離すことはできない」と指摘。「日本はある時点で移民問題に取り組まなければならない」と語り、日本が経済成長に必要な労働力を確保するため、移民受け入れは不可避との認識を示した。
米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など、主要中銀はインフレ抑制のため利上げを推し進めた。世界的に金利が上がり、債務負担が重くなる恐れがある。ラインハート氏は「ここ数年広がっていた『債務増は問題なく、低金利はずっと続く』との考えから脱却しなければならない」と訴えた。
●2022年の日本株、防衛関連銘柄が下支え−勝ち組と負け組を振り返る 12/29
世界的に株式が大きく売られた2022年だったが、日本株の下げは限定的だった。テクノロジー銘柄が下落する一方で、防衛・経済再開関連株が買われたことが寄与した。
TOPIXは今年、約4%の下げだが、米S&P500種株価指数とMSCIワールド指数の下落率はその4倍ほどだ。日本銀行が12月の金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の運用を一部見直し円高が進んだが、それ以前の円安も日本株を下支えした。
インターネット・半導体関連株を押し下げたのは、世界的なリセッション(景気後退)懸念と金融引き締め加速だ。地政学的緊張は防衛関連銘柄にプラスに働いた。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)対策が解除される中で、百貨店運営会社の株価も好調だった。
日銀の政策調整で銀行株の上げは加速。YCC見直しで、長期金利(10年国債利回り)の許容変動幅が0.25%程度から0.5%程度に拡大され、超緩和的金融政策からの出口戦略との観測が広がった。
シティグループ証券は日銀の動きについて、金融銘柄に有利だとしながらも、23年に向け日本株の調整を見込んでいる。同社の阪上亮太氏はリポートで、日銀の政策見直しはこうした見方を強めるだけだと指摘。円高は輸出関連株に、金利上昇は不動産などのセクターにマイナスだとしている。
日興アセットマネジメントによれば、円高は自動車とテクノロジー銘柄にネガティブだが、輸出業は短期の通貨ヘッジをしており、円高にはインフレ抑制効果もある。同社のチーフグローバルストラテジスト、ジョン・ベイル氏は「全体的な企業利益は円高の逆風に直面するが、来年第1四半期(1−3月)後の中国を含めた経済再開の動き」がマイナス効果の相当部分を打ち消すとの見方をリポートで示した。
22年に大きく動いた日本株について振り返る。
   勝ち組
   防衛関連銘柄
   経済再開銘柄
   銀行株
   負け組
   リモートワーク関連株
   テクノロジーハードウエア
   人材サービス銘柄
 12/30

 

●2023年の展望:市場を揺さぶるビッグ3は誰か 12/30
2023年の金融市場はどのような展開になるのだろうか。そのカギを握る注目人物は誰か。今年も、市場の動きに大きな影響を与えると思われる「ビッグ3」を選び、来年の相場を展望してみたい。
注目したい人物の第3位は、クリスティーヌ・ラガルド欧州中銀(ECB)総裁である。理由は、金融政策のかじ取りが非常に難しそうであるためだ。11月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)の上昇率は前年比10.1%と、10月の10.6%からは鈍化したものの、依然として極めて高水準だった。
問題はユーロ圏の場合、インフレ高進の要因が、米国のような「景気過熱」と異なり、資源価格高騰などの「コストプッシュ・インフレ」であることだ。ECBにとって幸いなことに、世界経済の減速による需要減や暖冬の影響などにより、足元天然ガスや原油、穀物などの資源価格は下落している。11月のHICPが鈍化したのも、これが背景だ。また、これまでのECBの積極的な利上げによって、期待インフレ率(独・10年)が2.2%前後まで低下したことも好材料だ。
しかし、仮にインフレの高止まりが今後も続けば、労働組合の強いユーロ圏では、再び賃上げの声が高まる可能性がある。今年11月には、ドイツ最大の労働組合である金属産業労組(IGメタル)が、金属・電気部門で働く従業員390万人について、23年と24年にそれぞれ、5.2%と3.3%の賃上げをすることで経営側と合意した。同労組は元々8%もの賃上げを要求しており、難色を示す経営側に対し5回のストライキを実施し交渉したという。ただ、原材料費などの高騰で企業側にも余裕がない中での無理な賃上げは、いずれ製品への価格転嫁という形で更なるインフレの種となり得る。また、企業業績を圧迫すれば景気が悪化し、経済がスタグフレーションに追い込まれるリスクもある。賃上げと物価上昇により、せっかく抑え込んだ期待インフレ率が再び上昇し始めるかもしれない。
ラガルドECB総裁は、12月のECB理事会後の記者会見で、「今後も0.5%の利上げを継続していく可能性もある」との考えを示した。将来の利上げの幅などについて滅多にコミットしない同総裁にしては、珍しい発言だ。今後も大幅な利上げを続ける姿勢を見せることで、期待インフレ率を抑えようとしたのではないか。報道によれば、ECB内でも意見の相違があるようで、メンバーの意見の集約にも苦労している様子がうかがえる。
今回のラガルド総裁のアナウンスを受け、ソニーフィナンシャルグループは、来年預金ファシリティ金利が3.25%まで引き上げられると、これまでの2.5%から見通しを上方修正した。足元対ドルでやや回復基調にあるユーロだが、ECBがインフレ抑制に軸足を置く場合、ハイペースの利上げで景気が悪化すれば再びユーロ安に転じる可能性がある。一方、景気を重視し過ぎて早期に利上げを休止すれば、これも対ドルではユーロ安要因となり、いずれにせよユーロは再び下落に転じる公算が大きい。インフレと景気の狭間で難しい判断が迫られるなか、23年にラガルド総裁がどのような金融政策のかじ取りを行うか注目が集まる。
注目したい人物の第2位は、次期日銀総裁だ。23年は黒田東彦総裁の後任人事や、日銀の金融政策に俄然注目が集まると予想する。日銀は、12月20日の金融政策決定会合で、10年国債金利目標につき「0%程度」は据え置く一方、変動幅を従来の「プラスマイナス0.25%程度」から「プラスマイナス0.5%程度」に0.25%ポイント拡大した。政府・日銀が13年に結んだ物価安定2%目標についての「できるだけ早期に実現することを目指す」としたアコードの見直し論が浮上していたタイミングだった。それだけに、この「変動幅拡大」は、金融緩和からの出口に向けた一歩と市場で受け止められている。
今回の政策修正は、イールドカーブのゆがみをある程度是正できたという意味では一定の評価ができるが、「市場参加者(特に海外勢)の期待」に火をつけてしまった面は否めない。元々海外投資家の間では、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ→ECBの利上げ→日銀の利上げ、と主要国の金融政策は連動するとの観測が根強く、23年は日銀のマイナス金利解除が新たなテーマとして注目されそうだ。実際、金利先物(OIS)市場が示す日銀政策金利の見通しをみると、先日の政策修正を受けて、足元は23年3月にマイナス金利解除が織り込まれている。
こうした期待を抑え込むためにも、むしろ23年中は日銀の政策修正・変更等は行われないのではないかと筆者は予想している。一通り欧米の利上げ合戦が落ち着いた24年頃には、再び10年債利回りの変動幅拡大が行われるかもしれないが、そのころには欧米の長期金利も低下しており、日本の10年債利回りが変動許容幅の上限に張り付くリスクは低減されているだろう。
ただ、上述した要因から、23年はしばしば日銀に注目が集まり、出口戦略への期待によって円高圧力が強まる可能性はありそうだ。次期日銀総裁は市場との対話が一層難しくなったように見える。23年は新たな日銀総裁の一挙手一投足から目が離せない年となりそうだ。
第1位は、何と言ってもジェローム・パウエルFRB議長だろう。FRBは12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げに踏み切った。利上げ幅は市場の予想通りだった一方で、メンバーの政策金利見通しである「ドットチャート」の中央値は、23年が5.125%と、市場の織り込み(5%未満)よりも高水準となった。パウエル議長は会見で、引き続きインフレ抑制を最優先とする姿勢を強調し、現時点で23年中の利下げは想定していないこと、また、ターミナルレートがまだ上方修正される可能性を示唆した。また、CPI鈍化をどう見るかについても記者から質問があったが、「現状のコアCPIはまだ6%であり、インフレ目標の3倍にあたる」「物価が安定するにはまだ長い道のりになることを理解すべき」などと述べた。
このように、FRBがタカ派スタンスを明確にしたにもかかわらず、米長期金利は急低下した。FRBの米経済見通しが下方修正されたことで、市場では米景気後退が織り込まれつつあり、期待インフレ率が大きく低下したことが背景にある。この結果、米実質金利(10年)はFOMC前の1.3%から1.5%付近へと小幅上昇したが、名目金利は今後4.0%を大きく超えるのは難くなったとみている。
ソニーフィナンシャルグループは、FRBが23年5月まで利上げを継続し、5.125%で利上げは打ち止め、その後政策金利は同水準で年末まで維持されると予想している。利上げに伴い米実質金利は緩やかながら上昇し、ある程度ドル高も進むものの、米10年債利回りの上昇余地が限られそうであることに加え、日銀のマイナス金利修正への期待がしばしば台頭する可能性を踏まえ、ドル円の戻りは最大でも140円付近までとみている。
むしろ年後半は米インフレが急速に鈍化する可能性が高いことに加え、米景気後退懸念が強まる中で、ドル安・円高が加速する公算が大きい。従ってドル円の23年末予想値は128円に置いている。パウエル議長にとって、23年はどのタイミングで利上げを停止するか、また、高水準の政策金利をいつまで継続するかなど、難しい判断を迫られる局面が多く、これまで以上に市場との丁寧な対話が求められるだろう。市場参加者はパウエル議長の発言の微妙な変化にまで高い関心を払うと思われる。
22年の筆者のランキングは、3位岸田文雄首相、2位ジョー・バイデン米大統領、1位ジェローム・パウエルFRB議長だった。23年のランキングはこれと異なり、結果的に全員が中央銀行総裁となった。それだけ、来年は今年よりも更に、各国中銀の政策スタンスの「変化」に注目が集まる年となりそうだ。22年はウクライナ危機や、終わらない新型コロナ、地球温暖化による異常気象や災害など、様々な問題に頭を悩まされた年だった。23年が今年よりも良い年となるように、心から願うばかりである。
●円安か?円高か?2023年のドル円相場はどっちに動くのか 12/30
2023年のドル円相場は、どのように推移することが考えられるのだろうか。
三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏がその時々の市場動向を解説する「市川レポート」の最新版として、「2023年のドル円相場見通し」と題したレポートを発表した。レポートの概要は以下のとおり。
米ドル円のカギを握るのは日米金融政策、FRBは2023年3月に利上げを終了、利下げは翌年から
2023年のドル円相場は、米連邦準備制度理事会(FRB)と日銀の金融政策の行方が、カギを握ると考える。まず、FRBの金融政策について、三井住友DSアセットマネジメントはFRBが2023年1月31日、2月1日と、3月21日、22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、それぞれ25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利上げを行い、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標が4.75%〜5.00%に達したところで、2023年いっぱい据え置くと予想する。
ただ、2024年は四半期ごとに25bpの利下げが行われ、同年の年末時点におけるFF金利の誘導目標は3.75%〜4.00%を想定している。一方、2023年の米10年国債利回りは、3%台半ばで揉み合いながらも、時間の経過とともに、利上げの累積効果による景気減速とインフレの沈静化が進むことで、3%台前半に緩やかに水準を切り下げていく展開を見込んでいる(図表)。
日銀は次期総裁のもと、2023年4月に共同声明見直し、6月にマイナス金利解除、YCC継続へ
次に、日銀の金融政策について、三井住友DSアセットマネジメントの見方をまとめる。日銀は12月20日、長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)の運用を一部見直し、10年国債利回りの操作目標(ゼロ%程度)に対する許容変動幅を上下0.25%から0.5%へ拡大することを決めた。ただ、現行の異次元緩和の基本的な枠組みは、黒田東彦総裁の任期満了(2023年4月8日)まで、維持されるとみている。
しかしながら、次期総裁のもと、2023年4月には、政府と日銀が定めたアコード(共同声明)について早々に見直しが行われ、2%の物価上昇目標を柔軟化すると予想している。
その後、現行政策の点検あるいは検証を経て、6月にマイナス金利の解除に踏み切るも、YCCは継続されると考えている。許容変動幅の上下0.5%も維持される公算が大きく、10年国債利回りは、0.5%付近での推移が続くと思われる(図表)。
2023年末は1ドル=129円を予想、ただ日銀の政策次第で大幅にドル安・円高が進む可能性
以上を踏まえ、三井住友DSアセットマネジメントは2023年のドル円相場について、緩やかなドル安・円高が進み、年末は1ドル=129円の着地を予想している(図表)。2023年1-3月期は、FRBの利上げ継続と日銀の緩和スタンス維持により、一定程度、ドル高・円安に振れる余地はあるとみられるが、3月に米利上げが終了し、4月以降は日銀の異次元緩和修正の動きが強まると想定されるため、4-6月期以降はドル安・円高が進みやすいと考えている。
なお、許容変動幅が上下0.25%から0.5%へ拡大されたことから、市場では今後、異次元緩和の修正が進むとの見方が一段と強まる展開も想定される。
その場合、許容変動幅の再拡大や、YCCの撤廃という思惑が浮上することで、三井住友DSアセットマネジメントの予想よりも大幅なドル安・円高の進行が見込まれる。今のところ三井住友DSアセットマネジメントのメインシナリオではないが、今回のように日銀が突然、政策変更を決定することも考え得るため、十分な注意が必要と思われる。 
●資産所得倍増プラン元年 「超引き締めならリスク資産は大ダメージ」 12/30
日経平均株価は30日、年末としては4年ぶりに下落した。来年の株価にとって最大の材料となるのが、日米の金融政策の動向だ。特に来春に新総裁を迎える日本銀行は大規模な金融緩和策を転換する可能性もあり、市場動向を左右する要因になる。岸田文雄首相は来年を「資産所得倍増プラン元年」に位置付けるが、「貯蓄から投資へ」の流れが加速するかは見通せない。
日銀は今月20日、長期金利の変動上限を0・25%程度から0・5%程度に引き上げた。来年4月には10年ぶりに新総裁を迎える。
直近の金融政策決定会合では、「いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要」と、将来の政策転換を意識した意見も出た。市場では、マイナス金利政策の解除も含めた緩和策の抜本的な見直しへの警戒感がくすぶる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジストは「歴史的な教訓として、超緩和から突如として超引き締め策に転換すると、(株式などの)リスク資産は大きくダメージを受ける」と警告する。
特に為替の動きには要注意だ。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが視野に入り日米金利差の縮小が進めば、急激に円高に振れ、輸出企業の業績の重しとなる恐れがあるからだ。
一方、景気回復の起爆剤として期待されるのが、訪日外国人の需要だ。政府は来年7年に訪日客数を新型コロナウイルス禍前の水準に戻すことを目指す。ただ、政府は30日、中国本土からの入国者に対する水際対策を強化しており、訪日外国人の需要復活の道のりも盤石ではない。
相場の下落局面では、国内投資家の買い支えも期待される。令和6年からは少額投資非課税制度(NISA)が拡充される。藤戸氏は「来年あたりから(個人投資家がNISA拡充の成果を)先取りする動きが出てくる」と予想する。自社株買いなど株主への還元策も定着してきた。
「貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進めていく」。30日の大納会での首相の言葉は現実のものとなるか。来年の株価は岸田政権の通信簿≠ノも大きく影響する。
 12/31

 

●東証大納会は4年ぶり前年割れ 歴史的円安、値上げラッシュに振り回された 12/31
国内の金融市場は30日、年内の取引を終えた。東京株式市場の日経平均株価は4年ぶりに前年末を下回った。東京外国為替市場の円相場は今年、32年ぶりの円安水準に。ロシアのウクライナ侵攻などによる資源高、歴史的な円安、相次ぐ値上げといった「サプライズ」に振り回された2022年の日本経済。23年は緩やかな回復が見込まれるが、食品などの値上げは続くため、家計の実感は厳しそうだ。
円安なのに株高にならず 日銀の利上げでも急落
「堅調な企業業績が株価を支え、比較的落ち着いた相場展開だった」。年内の取引を終えた東京証券取引所の大納会で、日本取引所グループの清田瞭あきら・最高経営責任者(CEO)は淡々と総括したが、円安の時は株高になる従来の傾向は崩れた。米国株の下落に連動し、日本株も下がった。岸田文雄首相は「来年は資産所得倍増プラン元年。官民一体で個人の証券投資を盛り上げよう」と呼び掛けた。
日経平均株価(225種)の22年の終値は2万6094円50銭と前年比2697円安だった。1月に最高値の2万9000円台をつけて以降、ウクライナ侵攻後の3月に2万4000円台の最安値に。その後は持ち直したが、日銀が12月に事実上の利上げに踏み切り、急落した。
インフレ対策で大幅な利上げを繰り返した米国と、超低金利策に固執する日本との金利差拡大などで春以降、円が急落。10月には1ドル=150円を突破した。
苦しい庶民の生活 2023年はどうなる
過度な円安で海外からの調達コストが上昇。資源高に伴って電気代も上がるなど物価高を招き、暮らしや地域経済にも大きなダメージを与えた。
「値上げの対応に追われた1年だった」。豆腐店「土佐屋」(東京都新宿区)を両親と営む川田学さん(35)は仕事納めの30日、そう振り返った。厚揚げやがんもどきなどの調理で使う米油の価格(1斗缶約18キロ)は約5000円から2000円以上も上昇。20円値上げして300円にした厚揚げをはじめ揚げ物全種類は10〜20円上げた。「価格転嫁できず破産手続きをした同業者もいる。原材料費や光熱費がさらに上がれば、再値上げを考えざるを得ない」
国際通貨基金(IMF)などの経済見通しでは、先進国は相次ぐ利上げなどで成長率が減速。一方、日本はコロナ禍からの経済回復の本格化が見込まれ、金利も相対的に低いことなどから堅調と見込まれる。ニッセイ基礎研究所上席エコノミストの上野剛志つよし氏は「近年ではやや高めの賃上げが期待されることもあり、緩やかな回復が続くだろう。米国の利下げ予想などから円高株高が見込まれる」と指摘。ただ「世界の景気後退が想定より深刻化すれば、日本経済も下振れのリスクがある」と懸念も示した。
●歴史的な円安と物価高 日銀の超低金利政策は正しかったのか? 12/31
今年、日本経済は歴史的な円安・物価高に見舞われる年となりました。その要因の一つがアベノミクスの柱として続いてきた、日銀の超低金利政策です。物価高などの副作用が相次ぐ中、黒田総裁が頑なにこだわってきたこの政策は果たして正しかったのか、この1年を検証します。
今月20日、黒田総裁の記者会見が大きな衝撃を与えました。
日本銀行 黒田東彦総裁「長期金利の変動幅を、従来のプラスマイナス0.25%程度から、プラスマイナス0.5%程度に拡大する」
プラスマイナス0.25%程度に抑え込んできた長期金利の変動幅を0.5%程度に拡大するという突然の発表。これまで金利の上昇を抑え込んできた日銀の大きな政策変更でした。
日本銀行 黒田東彦総裁「利上げではありません。景気には全くマイナスにならないし、引き締めるつもりはありません」
会見で「利上げではない」と強調した黒田総裁。しかし、この発言はこれまでとは全く異なるものでした。
日本銀行 黒田東彦総裁[今年9月]「(Q.許容上限を日銀が引き上げることは、総裁が仰る、金利引き上げあるいは金融引き締めになるのか、改めて教えてください)それはなると思いますね。明らかに金融緩和の効果を阻害すると思いますので」
TBSテレビ 経済部デスク 菅野浩志「今回の会見にはびっくり。3か月前は利上げや引き締めに当たると説明していたのに、全く逆の説明で明らかに矛盾している」
今月になって豹変した黒田総裁ですが、これまでは、2013年に自ら始めた異次元緩和に頑なにこだわってきました。
今年6月 1ドル=132円
ロシアのウクライナ侵攻以降、一気に進んだ円安。モノの値段の上昇が続く中、発言が問題に。
日本銀行 黒田東彦総裁[今年6月]「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」
買い物客「違和感を感じますね。国民の立場に立って考えていないというか見ていない」
値上げに苦しむ消費者の感情を逆撫でしているとの批判を受けましたが、利上げや金融緩和の修正は行わず、円安はますます進行。
今年10月 1ドル=149円
10月には、ついに32年ぶりに150円近くにまで進み、その責任を追及されます。
階猛 衆院議員[今年10月]「政府は一生懸命、円安を止めようとしているのに、日銀は円安を加速するような異次元の低金利をやっている。今すぐ退くべきだと考えます。総裁、どうですか」
日本銀行 黒田東彦総裁「ご指摘のような量的・質的緩和が全く失敗したというのは事実に反する」
階猛 衆院議員「やめるかやめないか、どっちなんですか」
日本銀行 黒田東彦総裁「やめるつもりはありません」
10年にわたる超金融緩和の副作用が目立つようになっても、頑なな姿勢を崩そうとしなかった黒田総裁。
それが突然変わったのが、今月20日。超低金利にこだわってきた日銀が、事実上の利上げに転じたのです。
日本銀行 黒田東彦総裁[今月20日]「利上げではありません」
大きな政策変更にもかかわらず、丁寧な説明を避けた黒田総裁。
TBSテレビ 経済部デスク 菅野浩志「行き過ぎた円安や物価高など、金融緩和の副作用が大きくなりすぎて、追い込まれた末の政策変更だといえます。日銀は、これまでのアベノミクスや超金融緩和が日本経済に与えた効果と副作用を、丁寧に説明する必要があると思います」
黒田総裁の任期は残り3か月あまり。日銀、そして黒田総裁には、大きな宿題が残されています。
●次期日銀総裁、中曽氏がトップ 対話力、機動力を重視 12/31
日銀の黒田東彦総裁が来年4月8日に任期を迎えるのを控え、時事通信は市場関係者を対象にアンケート調査を行った。その結果、「次期総裁に最もふさわしい人物」は、前日銀副総裁の中曽宏大和総研理事長が最多票を集めた。総裁の資質としては、市場との対話力や変化への機動力を求める声が多かった。
日銀は今月19〜20日の金融政策決定会合で、大規模緩和策を修正した。今後さらなる政策変更も予想される中、新総裁には丁寧な情報発信が求められそうだ。
アンケート調査は、11月29日から12月12日にかけてメールで行い、市場関係者30人のうち24人(24社)から回答を得た。
次期総裁にふさわしい人物として中曽氏を挙げたのは12人。金融政策の実務に通じていることに加え、「経済・金融危機の現場での経験が役立つ」(農林中金総合研究所・南武志氏)など、日本の金融危機やリーマン・ショックに日銀幹部として深く関与した経験を評価する声が多かった。
また、「一度日銀を離れたことでしがらみが少ない」(アクサ・インベストメント・マネージャーズ・木村龍太郎氏)との指摘もあった。
これに次ぐ8票を獲得したのが雨宮正佳副総裁。理由としては「政策の継続性」(UBS証券・足立正道氏)が多く、「政策の修正や正常化の必要が生じた場合、(現政策)決定時の背景・経緯や問題点も踏まえた対応が行える」(野村証券・美和卓氏)との声が聞かれた。このほか若田部昌澄副総裁の名前も挙がった。
「次期総裁に求められる資質」(自由記述)を聞いたところ、「市場との対話力、理解力」が7票。「変化への機動力、柔軟性」「金融政策に精通、実務能力」「政治との折衝力、調整力」「国際性、国際感覚、語学力」も、それぞれ5票あった。
副総裁2人も3月19日に任期が切れる。「副総裁にふさわしい人物」(2人まで回答可)としては、日本総合研究所の翁百合理事長が最多の10票を集めた。総裁候補に挙げられることも多い元財務官の浅川雅嗣アジア開発銀行総裁は5票、物価と金融政策に詳しい渡辺努東大大学院教授は3票だった。
●日銀決定「金融緩和修正や出口ではない」と首相  12/31
岸田文雄首相は26日、東京都内で講演し、日本銀行による20日の政策決定について、「金融緩和の修正や出口ではない」と語った。その上で、金融緩和の効果を円滑に波及させ、持続性を高めるための見直しとの認識を示した。
日銀は20日の金融政策決定会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)で0%程度を誘導水準としている長期金利(10年国債金利)の変動許容幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。10年以外の各年限でも機動的な買い入れ額のさらなる増額や指し値オペの実施も決めた。
黒田東彦日銀総裁の後任人事については、任期満了となる来年4月の段階で最もふさわしい人を任命するという基本に尽きるとし、「今後の経済動向もしっかり見ながら判断する」と語った。政府・日銀の共同声明(アコード)の見直しについては「具体的に申し上げることは、時期尚早」との見解を改めて示した。
●展望2023 / ドル一強に変化、米利上げ停止が視界 円は強弱感対立 12/31
2023年の外為市場は、米ドル一強の構図に変化が生じそうだ。米連邦準備理事会(FRB)による連続利上げの停止で、ドル高の推進力だった米金利上昇が頭打ちとなる見通しが強まっているためだ。円は日銀の金融緩和政策の修正観測による上昇圧力と、金利差に着目した下落圧力が交錯するとみられている。市場関係者の見方は以下の通り。
ドル安主導で下方向、日銀は金融政策正常化の検討も
<三菱UFJ銀行 チーフアナリスト 井野鉄兵氏>
米国の金融政策は、しばらくの間高水準の金利が維持されるものの、年末には利下げに転じる可能性がある。このため、ドル安主導で、ドル/円は下方向に向きやすい。
22年12月の日銀金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の運用調整との説明があったが、金融政策正常化に向けた第一歩とみている。新執行部となった後は、本格的に金融政策の正常化を検討することになりそうだ。
内外金融政策格差の縮小は日米双方の要因によって起こるとみられ、ドル安かつ円高となりやすい。ただ、日本当局としては円高進行についてはナーバスになるとみられ、コミュニケーションは慎重に取っていくだろう。
日本の貿易収支は黒字が見込めないことから、ドルの下支え要因となる。機関投資家による外債投資については、日銀に動きがあったことから、今後方針が変わる可能性がある。
リスクシナリオとしては、日米双方で金融政策の転換が思いのほか早まることだ。日銀の金融政策の正常化が早まるほか、米国の景気が想定よりも悪化するなど、早期の利下げ期待が高まった場合、急速にドル安/円高が進行するだろう。
ドル/円の予想レンジ:120─142円
米金利低下でドル120円台へ、日銀政策修正期待の円高は続かず
<大和証券 シニア為替ストラテジスト 多田出健太氏>
今回の日銀の政策修正は出口戦略の開始ではなく、短期金利や長期金利の引き上げには高いハードルがある。円金利の一段の上昇は見込めず、日銀金融政策を要因に中長期的にドル/円が下落するとの展開はリスクシナリオにとどまる。
政府と日銀が共同声明を見直すとの報道も見られる。今後、物価目標のあり方も含めて見直される可能性はあるが、大規模緩和による経済の押し上げ効果が小さくなれば、ドル/円への影響は、短期金利上昇と景気後退懸念という強弱が入り混じるものとなる。
予想外の日銀政策修正により、市場では海外勢を中心に、更なる修正の思惑が高まる展開となりやすく、短期的には円高に振れやすい。しかし、早期修正は見込みづらいため、ドル/円に対する日本要因の影響力は徐々に薄れ、米金利の低下など従来の相場変動要因に焦点が移っていくと見ている。
その米金利は2023年、徐々に低下していくとの見通しに変わりはない。年後半には利下げを想定しており、ドルは120円台の定着に向けて下落していくと予想する。
ドルの予想レンジ:120─140円
円キャリートレード再来、ドルは目先反発余地
<JPモルガン証券 為替ストラテジスト 中村颯介氏>
2022年のドル/円は、米国のターミナルレート見通しと日米金利差に沿った動きが続いたが、今後もこれらは最も重要なドライバーとなる。2023年の米国はマイルドリセッション入りを見込んでおり、米金利の低下に沿ってドル/円は下落基調を辿る可能性が高いとみている。
ただ、円高は循環的・構造的要因である程度制約されるかもしれない。日本の政策金利引き上げはかなり先のこととなり、円キャリートレードがより広がる可能性があること、過去最高水準に膨らんだ貿易収支の赤字基調が続きそうなことーーなどがある。
日銀の政策修正後、円金利と米金利がともに上昇したため、日米10年債の金利差はあまり縮小しなかった。金利差の観点だけで言えば、目先のドル/円は反発余地があるとみている。
ドルの予想レンジ:130─140円
国力の弱さが露呈、スタグフレーション懸念から円売り
<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>
2023年は日本売り・円売りが主要テーマになるとみている。食料や資源を持たざる国・日本の弱さが露呈し、本格的なインフレはこれから起きる可能性が高い。
脱炭素社会にシフトする中で天然ガスの価格は下がりにくい中、資源を持つ中東を囲い込んだ中国を中心としたBRICSと主要7カ国(G7)との対立が続く可能性があり、原油価格も高止まる可能性がある。こうしたエネルギー価格動向により、日本の貿易赤字は継続していく。
政府は大規模な財政出動を控える他の主要国と逆行し、大型総合経済政策を決定するなどインフレの素地を作っている。日銀に依存した財政ファイナンスが拡大すれば、財政規律の緩みも問題視される。春闘で賃金の引き上げが進めば、日本は欧米並みのインフレに悩まされる可能性がある。また、台湾有事をめぐる地政学的リスクが高まれば、輸入が滞り、インフレは増長される。
成長率が脆弱な国において、日銀が事実上の利上げに動いたため、スタグフレーション懸念が強まり、円は売られやすい。米国のインフレが落ち着くことは見通せず、再び金融引き締めが強化されれば、ドル買い/円売りの副次的な要因として効いてくるだろう。
ドル/円の予想レンジ:120─160円
●展望2023 / 金利は年前半に上昇圧力、インフレ弱まれば後半はフラット化 12/31
2023年の円債市場は、年前半は金利上昇圧力がかかる見通しだ。欧米中銀が利上げを継続する一方、日銀も新総裁就任とともに正常化への思惑が強まるとみられている。ただ、正常化の時期や手法についての見方は市場で分かれており不透明感が強い。年後半に内外で物価が落ち着いてくれば、長めの金利に低下圧力がかかり、金利曲線はフラット化しそうだ。市場関係者の見方は以下の通り。
ブルフラット、日銀はYCC維持 許容変動幅も変わらず
<みずほ証券 チーフ債券ストラテジスト 丹治 倫敦氏>
当面は日銀の政策修正を織り込む形で、10年金利は0.50%を目指すとみている。ただ、金利急騰はないだろう。日銀は新総裁就任後も、マイナス金利は解除しても、YCCの枠組みは維持し、10年金利の許容変動幅もプラスマイナス0.5%が継続されると予想しているためだ。
2023年の国内物価は徐々に落ち着いてくる可能性が大きく、日銀としては2%物価上昇率を持続的に達成できるという目標が達成できていないことになる。また、12月の日銀の政策修正に政府側の意向が働いていたとしても、政府は資金調達コストが上昇する大幅な金利上昇は望まないだろう。
米国も5%程度まで利上げを継続し、そこで利上げを停止するとみている。実質金利がプラスになるためだ。その後、9─12月期には0.25%程度の利下げが視界に入ると予想している。
円金利も年初は中短期金利が上昇しそうだが、長めの金利は上がらず、金利曲線はブルフラット方向の見通しだ。
新発10年債利回りの予想レンジ:0.25%─0.50%
正常化に向かう日銀、円金利は緩やかに上昇
<パインブリッジ・インベストメンツ 債券運用部長 松川 忠氏>
2023年の円金利は上昇方向と予想している。日銀は12月20日の政策修正をもって、正常化に踏み出したと考えている。ただ、日銀はオペの国債買い入れ額を増やすなど緩和方向の対応もしており、金利上昇スピードは緩やかになりそうだ。
日銀は4月に就任予定の新総裁の下、正常化に向かうだろう。マイナス金利解除やYCC(イールドカーブ・コントロール)政策の撤廃も視界に入る。日銀はイールドカーブをスティープ化させたいだろうから、オペの増減などで調整してくるだろう。
ただ、海外からはフラット化圧力が強まりそうだ。米国など経済が底堅く推移しており、年前半は利上げが続くだろう。日銀は、欧米中銀ほど利上げはできないとみられ、海外のように逆イールドになることはないだろうが、日本国債の金利曲線は緩やかなベアフラット化になると予想している。
ただ、それも日本の物価動向次第だ。2%程度に落ち着いてくれば、利上げをどんどんやる必要はないが、3−4%で高止まりすれば、強力な金融引き締めを行う必要が出てくる。
次期日銀総裁が誰になるか。支持率低迷が続いている岸田文雄政権の行方などが波乱要因となりそうだ。
新発10年債利回りの予想レンジ:0.3%─0.8%
日銀は淡々と正常化に導く、レラティブバリューに注目して取引する1年
<アライアンス・バーンスタイン 日本債券ポートフォリオ・マネージャー 橋本 雄介氏>
日銀はYCCのバンド拡大や撤廃で10年ゾーンを柔軟化、また輪番(日銀の国債買入オペ)でコントロールしながら通常の量的緩和(QE)に回帰し政策正常化を進めるだろう。一方、マイナス金利についてはYCCよりも為替につながる要素が強く、特段テクニカルな限界もないので、ドル円が再び150円を超えていくような円安に行くなどしない限りは維持すると考える。
今の日銀の金融政策はかなり複雑なものだが、黒田東彦総裁の後任の有力候補として名前が挙がる人々はいずれも現状の金融政策に精通しており、そうした人が次期総裁になる限りは、YCCに関しては就任早々から淡々と正常化に取り組むのではないかと思う。
2023年の円債市場は、淡々とYCCの制約が外れていって、輪番の増減で日銀がコントロールしながら市場が正常化し、イールドカーブの歪みがなくなっていく年だと思う。日銀が正常化の第1歩を踏み出し、もちろん方向性としては投資家としてやりやすくはなるが、2023年の1年間で市場機能が回復するわけではなく、かなり時間がかかるだろう。レラティブバリュー(相対価値)に注目しながら取引していきたい。
新発10年債利回りの予想レンジ:0.3%─0.8%
日銀動かずがメインシナリオ 長期金利は前半は0.5%近辺に張り付き 後半は下放れ
<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 債券ストラテジスト 鶴田 啓介氏>
2023年の長期金利の見通しは、日銀が年内に政策修正に動かないとの想定をメインシナリオとして、前半は政府・日銀の共同声明改定や日銀総裁人事にからめて政策修正の思惑が出やすく、海外勢を中心とした売り仕掛けにより日銀のYCCの許容変動幅上限の0.5%近辺に張り付く展開を予想する。
また年後半は、日銀が懸念する通り、米国の景気後退リスクや連邦準備理事会(FRB)の利上げ打ち止め観測の高まりを背景に米国金利が低下し、ほぼ同じタイミングで日本の物価の伸びに減速感が強まるような局面で、長期金利が0.5%から下放れる展開を予想する。
一方、リスクシナリオとしては日銀が政策修正に動くケースを想定する。内容としてはマイナス金利政策の解除やYCCの撤廃もあり得ると考えており、その場合、長期金利はスワップ金利が示唆するような0.8%近辺を試すとみる。
超長期金利については、既に金利はYCCの修正が既に織り込まれたような水準まで上昇しているほか、日銀が買い入れの量を強めていることによる需給ひっ迫感もある中で投資家の需要も集まりやすく、ここからの金利上昇余地は限定的とみている。
新発10年債利回りの予想レンジ:0.2%─0.5%
●展望2023 / 日経平均は年後半3万円の見方も、日銀正常化なら円高が重し 12/31
2023年の日本株は、年後半に持ち直すとの予想が多い。前半は中銀の金融引き締めによる景気減速懸念で上値が重いものの、後半にかけインフレが落ち着き、利下げも視界に入る中で、日経平均の3万円乗せを予想する声も出ている。ただ、日銀の金融政策正常化が進めば、円高が輸出株などの重しになるとみられている。市場関係者の見方は以下の通り。
年後半に3万円超を試す展開も、NISA拡充が追い風に
<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト 藤戸則弘>
年前半と後半で相場の様相が全く変わるとみている。前半は世界的に株安となり、日経平均は2万5000円まで下落するリスクがある。日本企業は、上期に減益となる可能性が非常に高い。外需中心に売り上げの落ち込みは避けられないだろう。2022年の7─9月期まで企業業績の底上げに寄与した円安が剥落することも、日本経済にとっては逆風となる。
米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げは、少なくとも3月までは続くだろう。インフレが期待したように鈍化しない場合、5月まで続くのではないか。欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行も利上げを継続するするとみられる。経済協力開発機構(OECD)の予想では、米欧の成長率は0.5%で、わずかな環境変化でもマイナス成長に陥りかねない。とりわけ年前半は、景気減速や景気後退(リセッション)が警戒されそうだ。
唯一期待されるのが、OECD見通しで2023年4.6%の成長となっている中国だ。ただ、この数字がコロナ規制の緩和などで年後半の相当程度の経済回復を前提にしていることには注意が必要だ。
後半は緩やかに回復基調をたどるだろう。特に秋以降は、FRBによる金融政策の緩和を織り込む相場となり、日経平均の3万円超えも想定される。24年からのNISA(少額投資非課税制度)拡充を踏まえ、個人投資家を中心に株式投資への意欲が高まるとも予想している。10ー12月期にかけてU字型、もしくはV字型のシャープな戻りとなるのではないか。
日経平均の2023年予想レンジ:2万5000円ー3万0000円
日本株は前半に一段安、欧米景気悪化で 中国回復は支え
<シティグループ証券 株式ストラテジスト 阪上亮太氏>
日経平均は、2023年の前半にもう一段、調整するリスクがある。市場では欧州や米国の景気後退リスクが意識されているが、まだ十分に織り込んでいない。欧米株の調整に連れて、日本株も下押し圧力が強まるだろう。
欧米の利上げ減速や停止が予想される中、22年のような円安による国内企業の業績押し上げ効果は見込みにくい。来期の会社計画は減益になり得る。織り込む中で日経平均は、2万3000円程度に下落する余地がある。
もっとも、世界同時不況は見込んでいない。コロナ禍からの正常化で欧米に出遅れた日本経済は、景気悪化というほどにはスローダウンしない。中国もゼロコロナ政策の修正によって景気が回復するだろう。世界経済のスパイラル的な悪化は想定しにくい。
景気悪化の根本原因はインフレだが、景気が悪化すればインフレは沈静化するため、悪循環は起こりにくい。欧米の景気後退は、中国景気が下支えとなって長期化せず、年後半には持ち直すだろう。日経平均は年末にかけ、2万8500円程度に値を戻していくのではないか。
日経平均の2023年予想レンジ:2万3000円─2万8500円
日本株は年央にかけ上値試し、円高が重し 物色2極化
<野村アセットマネジメント シニア・ストラテジスト 石黒英之氏>
日経平均は22年と同様にレンジでの推移を見込んでいる。欧米での金融引き締めへの懸念がインフレ鈍化とともに和らいでくるだろうし、中国経済の復調が見えてくれば日本株は支援される。一方、円安の追い風がなくなり、上値も限られそうだ。
最大の貿易相手国である中国が、かなり強力な経済政策で投資・消費を刺激し経済回復する意向を示している。中国経済の復調が見えてくれば、国内企業にとっても業績の支えになる。年前半から年央にかけ、日経平均はレンジを上抜けて上値を試す局面もあり得る。
一方、2022年は円安で全般的に業績が押し上げられたが、23年はこれがなくなる。このため、指数としての日経平均は上値が重くなりかねない。年後半には円高が企業業績の下押し要因になる可能性がある。ドル高の重しが和らぐ米企業に対してパフォ−マンス面で劣後し、出遅れ気味になってくるだろう。
セクター別では、半導体や電子部品に見直し買いが入りやすいとみている。ただ、セクター全体がいいわけではなく、2極化が進むのではないか。グローバルトップやオンリーワンといった特徴を持ち、円高でも勝てる、価格転嫁力のある会社が買われるだろう。投資家は、企業の真の稼ぐ力を見極める眼力が問われそうだ。
年後半に日経平均3万円トライか、引き続きディフェンシブ株優位に
<JPモルガン証券 クオンツ・ストラテジスト 高田将成氏>
2023年の日本株は、年前半は米景気後退懸念が引き続き警戒される中、上値の重い展開となりそうだが、年後半にかけては米金利の安定に伴い株価はサポートされそうだ。2022年は米国の利上げやインフレ動向が見通しづらかった一方、23年は不確実性が少しずつ解消されるだろう。
年前半は景気後退リスクが意識され、投資家は保守的でディフェンシブな運用戦略でポジションをキープする姿勢が続きそうだ。また、1―3月期は日銀の正副総裁の交代や一段の金融政策正常化観測が、為替市場の変動、株式市場の動揺につながりやすいとみている。
年後半にかけては、米連邦準備理事会(FRB)がゆくゆくは利上げを打ち止めするとの織り込みが、市場で進むとみている。FRBが景気への配慮姿勢を強めると、米短期金利が低下し、イールドカーブがスティープ化していく動きになるだろう。このタイミングで、株式はポートフォリオのローテーションシフトが起こると予想され、株のリスクテイクが増えるとみている。年末にかけて日経平均は3万円を試す展開となりそうだ。
ただ、年前半から年後半に移る中で、株式市場は単純かつ一本調子には動きにくい。市場が想定している通り米国でリセッション(景気後退)が起きるのかが、2023年夏頃の焦点になるだろう。仮に、リセッションが起これば中銀が景気を支えるアクションを取るのではないか、との期待が出てくる。一方、明確なリセッションが起こらない場合は足元のような弱気相場が続き、停滞した状況となりそうだ。
物色面では、「主演」としてディフェンシブ銘柄を選好するスタイルが続きそうだ。ただ、2022年からディフェンシブ株が買われ続けていたため、「助演」という立ち位置では年後半みれらたように、電子部品や半導体関連銘柄の物色も広がりそうだ。
日経平均の2023年予想レンジ:2万6000円―3万円
●邦銀株が復活 日銀「カンフル剤」効果  12/31
日銀が長期金利操作(イールドカーブ・コントロール)の許容変動幅を0.25ポイント拡大したことが日本の金融株の起爆剤になっている。金融政策の見直しが続けば、一段の株高材料になる可能性がある。
日銀は約2週間前、10年物国債の実質的な金利上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げた。このサプライズが好感されて、日本の銀行と保険会社の株価は急伸した。日銀はゼロを中心とする特定のレンジ内に10年物国債の金利を収めるため、長年にわたり国債市場に介入している。
金利上限の引き上げ以降、多くの金融株が2桁の上昇を遂げた。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は15%、第一生命ホールディングスは14%、それぞれ値上がりした。
理由は単純だ。銀行と保険会社は、一段と高い利回りの債券で資金を運用できる。住宅ローンなど長期ローンの金利も上昇するはずだ。0.25ポイントの引き上げは大したことでないようにも思われる。だが長期にわたり低成長と微々たる運用益にあえいできた邦銀には支援材料になるだろう。何より、今回の修正が日銀の超低金利政策のシフトの予兆だとすれば、この先の利上げもあり得る。
日銀は許容変動幅の拡大は金融引き締めには当たらないとし、国債イールドカーブ(利回り曲線)の円滑な形成を促すためのテクニカルな修正と位置付けている。10年物国債の利回りは他の年限より低く抑えられていたが、日銀の動きを受けて0.25%前後から0.44%程度へと、最も大きく上昇した。イールドカーブも全体的に上方にシフトした。例えば、30年利回りは約0.1ポイント上昇した。
大手邦銀の株価は、有形資産の簿価に照らすと依然としてかなり割安な水準にある。株価が企業の有形資産の価値に対して割高か割安かを判断する目安になる株価有形資産倍率は、MUFGで0.7倍、みずほフィナンシャルグループでは0.6倍だ。中小地銀となると、さらに低い。一方、米金融大手JPモルガン・チェースでは2倍に迫っている。邦銀株は長年にわたり海外同業より割安な水準で取引されていたが、日銀が2016年にマイナス金利政策を導入してからは水準をさらに切り下げている。
マイナス金利時代にあって邦銀は最高の投資先とはいえないかもしれないが、日銀の政策が実際に転機を迎えているとすれば、状況が急変する可能性もある。
●2022年の経済政策に点数をつけるとしたら…「30点ですね」荻原博子氏 12/31
物価高騰の一年。1世帯4万5000円の支援では足りない!
ウクライナ危機、安倍元首相銃撃事件、収束の気配のないコロナ禍…後世にも語り継がれるであろう波乱の年となった2022年。「悪い円安」が流行語となり、物価高騰が急速に進むなど、経済への不安が高まった年でもあった。
「新しい資本主義」を掲げて船出した岸田政権の経済政策は、果たしてどれだけの成果を残したのか。経済ジャーナリストの荻原博子氏とともに振り返った。
――2022年は「悪い円安」や物価高騰など、経済の話題が尽きない年でした。まず、今年の岸田政権の経済政策に点数をつけるとしたら何点でしょうか?
経済政策の点数ですか? 30点です。
――厳しい点数ですね……。
人によっては100点をつけるかもしれません。「デジタル田園都市国家構想」で儲けている広告代理店とか、コンサル会社とかは。でも、ごく普通に暮らしている市井の人々の生活が潤うことは、この1年ほとんどなかったじゃないですか。
――今年は物価高による家計負担増が相次ぎました。
思い出していただきたいのですが、物価高が始まったのは2021年です。ウクライナ危機の前ですよ。世界中で新型コロナの流行が沈静化して、モノの需要が高まり、食料やエネルギーの価格がじわじわと上がっていました。
それにも関わらず、これという手を打たず、今年2月にウクライナ危機が起こっても目立った動きが見えない。その間に物価はどんどん上がっていって、結果的に政府が総合経済対策を閣議決定したのは、今年4月ですよ? どれだけ遅いのかと驚きましたね。
――今年は4月、10月と2度の総合経済対策が閣議決定されました。2度目の総合経済対策には29兆円の補正予算を計上し、電気代引き下げなどの家計支援も盛り込まれていますが……。
まったく足りません! 政府は電気、ガス、ガソリンなどの費用に1世帯あたり4万5000円(※1~9月、標準世帯)を支援すると言っていますが、日本全国に一体どれだけの世帯があるかご存じですか? 約5500万世帯ですよ。
ということは、29兆円を5500万世帯で割ると約52万円。私たちは1世帯あたり52万円払っているのに、4万5000円しか恩恵を受けられないんです。あまりにも国民が蔑ろにされています。これじゃあ、まるで「ぼったくりバー」じゃないですか。
そもそも、2度目の総合経済対策のタイトルは「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」です。「物価高克服」と銘打つなら、今まさに苦しんでいる家計をいかに楽にするかに集中しないといけない。
なのに、リスキリング(新しい職業に就くため、あるいは今の職業での変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること)や、GX(グリーン・トランスフォーメーション)などにも多大な予算がついていますよね。それは今やることなのでしょうか? やるべきは家計の底上げだと思います。
「増税」「金利上昇」のダブルパンチ
――リスキリングやGXの予算は、看板政策である「新しい資本主義」の実現が目的とされています。
そもそも「新しい資本主義」とは何のことでしょうか? 私は具体的に答えられる人に会ったことがありません。政権の発足当初は「成長と分配の好循環」や「令和版所得倍増」を掲げていましたが、実質賃金は伸びず、分配は進んでいません。
その一方で持ち上がるのは、増税や社会保険料増額の議論ばかり。これじゃあ「所得倍増」どころか「所得倍減」ですよ!
――12月20日には、日銀が長期金利の振れ幅を0.25%から0.5%に変更し、衝撃が走りました。これは「金融緩和の縮小」と捉えてよいのでしょうか。日銀は「緩和ではない」としていますが。
たしかに今回は、長期金利の振れ幅を今までの0.25%から0.5%に広げただけなので、金融緩和を目指したわけではないでしょう。しかし、債券市場や海外勢から追い込まれて、やむなくやらざるを得なかったという点では、市場が「日銀が方向転換して緩和の縮小に動いた=日銀の敗北」と受け止めたのは、当然の結果だと思います。
ただこれは、2023年の景気にとっては、決して良いことではありません。「金利が上がる」というメッセージで、実際に住宅ローンの変動金利が上がったり、コロナ禍で借りたゼロゼロ融資(コロナ禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で行った融資)の返済で、中小零細企業が追い込まれていったりする可能性があるからです。
また、実は儲かっている企業でも春闘を前に「金利が上がるなら賃金引き上げは難しい」と経営者が思えば、賃上げが実現しないという状況も続きそうです。
その一方で、岸田政権は「増税」を前面に打ち出しています。「増税」と「金利高」は、経営者にとっても家計にとってもダブルパンチです。よって2023年の家計を一段と冷え込ませることになるでしょう。
高校生に投資を呼びかける金融教育、ここがおかしい!
――岸田政権は「資産所得倍増」を打ち出し、NISAの制度拡充や高校での金融教育必修化などを行っています。国民に投資を呼びかける政策については、どのようにお考えですか?
貯蓄に回っている個人金融資産を株式市場に誘導して、景気を活性化させる狙いなのでしょうが、似たような政策は過去に失敗しています。
例えば、20年ほど前に小泉政権で実施された住宅ローン政策ですね。住宅ローン減税を延長して、国民に家を買わせ、住宅市場の活性化を狙いました。しかし、結果は失敗。日本は長期不況から抜けられなかったし、当時、家を買ったためにローンの返済に苦しんでいる人は、今も少なくありません。
岸田政権がやろうとしていることは、この政策と極めて似ています。「住宅」が「株・投資信託」にすげ替えられただけです。
それに、高校での金融教育の強化といっても、その授業の講師をしているのは銀行や証券会社の担当者だそうじゃないですか?
――金融機関の職員が外部講師として授業を行うケースはしばしば報じられています。
そんなの、体のいい営業にしか思えませんよ。第一、金融教育はそもそも「借金はしてはいけない」とか「借りたお金は返そう」などの基本から始めるべきです。
それなのに、高校生に対して「株で資産形成しましょう」「NISAを利用しましょう」というのは違いますよね。株や投資信託はリスク商品なのだから、投資のリスクを徹底的に教え込まないと。それこそが正しい金融教育ですよ。
――最近では「米国株インデックスファンドは過去30年間、右肩上がりで伸びているから、長期保有すれば安定して利益が得られる」などの、低リスクを強調する売り文句をよく見かけます。
過去30年間って……。30数年前、日本はバブル最盛期で株価は3万8000円でしたが、今の株価は2万7000円そこそこです。2008年のリーマンショック後には1万円以下に落ち込んでいました。
30年後に社会や経済がどうなっているかなんて誰も予想できないし、たまたまアメリカの株価が過去30年間で成長していたからといって、今後もそれが続くとは限らないですよね。
ましてや、今は数年先すら見通せない時代です。数年前に新型コロナの流行やウクライナ危機を予測できた人なんてほとんどいないでしょう。長期投資は、そうした先の見えないリスクと付き合う必要があるので、決して「長期投資だから安心」とは言えないはずです。
むしろ、長期投資で都合がいいのは金融機関です。株が大暴落して顧客が怒鳴り込んできても「お客様、長期投資ですから。いつか上がるはずです!」と言い逃れできるんですから。
インボイス制度は「増税」の始まり?
――今年は、2023年10月から導入が予定される「インボイス制度」についても議論が過熱しました。インボイス制度が導入されれば、従来、免税事業者だった売上1000万円以下の個人事業主やフリーランスが消費税の納税を迫られ「実質的な増税」になるとの見方があります。
たしかに、当面困るのは個人事業主やフリーランスの方々だと思います。収入は10%も減少するし、インボイス制度は請求に関する事務処理も煩雑になりますから。もちろん廃業する人も出てくるでしょう。
しかしさらに重要なのは、その先なんです。
――「その先」ですか?
インボイス制度の先に何があるのか。私は消費増税だと見ています。インボイス制度は登録番号を付与して、国が事業者ごとの消費税の納付額を把握する仕組みです。
例えば、フランスのように消費税率(付加価値税率)が20%、10%、5.5%、2.1%と細かく分かれている国は、インボイス制度が必要なんですよ。業種によって納付額が大きく異なるから、国がしっかり把握しなければいけません。
一方、日本の消費税率は10%と8%の2種類だけで、業種ごとの納付額もそれほど差はありません。でももしかしたら、インボイス制度導入後にフランスと同じように「3つ目の税率」が出てくるかもしれない。その結果、国民の負担する税額がさらに増える可能性は十分にあると思います。
実際に現在、防衛費増額をめぐって増税が検討されていますよね。そういうときに上げやすいのは、法人税でも所得税でもなく、消費税です。だから、私はインボイス制度の導入後に防衛費の増額が決まり、その先に消費増税が強行されるのではないかと睨んでいます。
――しかし、人口減少による税収減が見通されるなか、安定的な財源として消費増税を必要とする立場もあります。
そんなことありませんよ。だって、今年の税収は68兆円と過去最高だったじゃないですか。人口減少はもう10年以上続いているのに、税収はバブル期以上なんですよ?
だからもっと税収が増えるように、儲かっていない人からでも徴収できる消費税をどんどん上げていくというのでしょうが、経済が停滞しているなかで、税金だけをガバガバ取っていくから、日本から稼ぐ力が失われて泥沼に陥っているのです。
事実、財務省が発表している税金と社会保障費の国民負担率は46.8%の見通しです(令和4年度)。国民所得の約5割が税金と社会保障費に吸い上げられているんです。これは、つまり「五公五民」ってことじゃないですか。
――まるで江戸時代のようだと。
そうです。江戸時代の8代将軍・徳川吉宗は収穫米の5割を年貢として徴収する「五公五民」を行いました。すると農民の一揆が多発して、大変なことになったんです。
今、この国はそれと変わらない状況にあることを、多くの人が知るべきだと思いますね。 
 1/1

 

●金融政策のシナリオ “異次元緩和”の修正で日銀は新たなステージへか 1/1
2022年12月、市場予想に反して、日銀の金融政策が修正されました。市場は“事実上の利上げ”と受け止めています。日銀の黒田総裁の任期満了を前に、この政策修正によって、2023年の日銀の金融政策はどこに向かうのか。今後の展望をエコノミストに聞きました。
2022年最後の金融政策決定会合で“サプライズ”
2022年12月20日の正午ごろ、金融市場に大きな衝撃が走りました。外国為替市場では急速に円高が進み、東京株式市場では日経平均株価が800円以上の急落となるなど、市場が激しく揺れ動きました。事前予想に反して、日銀がサプライズの金融緩和の修正に踏み切ったためです。
日銀が修正したのはYCC(=イールドカーブコントロール)と呼ばれる10年債の利回り(=長期金利)をコントロールするという政策です。それまでプラスマイナス0.25%としていたものを0.5%と変動幅を拡大しました。その結果、長期金利も上昇する可能性があることから、市場は「事実上の利上げ」と受け止めたのです。
迫る黒田日銀総裁の任期
2023年4月に日銀の黒田総裁は任期満了を迎えます。アベノミクスのもと始まった大規模な金融緩和は、10年間続けられたことになります。
2013年、黒田総裁は政府・日銀で「2%の物価目標」を掲げる中、『黒田バズーカ』とも呼ばれる異次元緩和を放ちました。しかし物価は2%に届かず、2014年10月に追加緩和。2016年1月にはマイナス金利、2016年9月には現在のイールドカーブコントロール(=YCC)政策を導入するに至りました。
そして2022年、予期せぬ理由で物価上昇率が2%に達成することになります。ウクライナ情勢を背景に資源価格が高騰したことに加え、円安による輸入コストの増加で、エネルギーや食料品などを中心に日本国内も値上げラッシュとなりました。世界で記録的なインフレが進み、それを退治するため各国が利上げに踏み切る中、低い金利の円が売られ円安に。「悪い円安」という言葉が駆けめぐるようになり、日本だけが金融緩和を変わらずに継続していていいのか? 懸念の声もあがってきました。
それでも日銀は、この物価上昇はコストプッシュ型で、日銀が目指してきた賃上げを伴う物価上昇ではないとして、むしろ金融緩和を継続させる姿勢を鮮明にしていました。そうした中での12月の日本銀行の予想外の政策修正。日銀がついに大規模な金融緩和政策から脱却するとの観測が広がっています。
ただ、黒田総裁は12月20日の会見で、政策修正について「市場機能が改善することで金融緩和の効果が円滑に波及していくようにする趣旨で、利上げではない」、「出口戦略の一歩では全くない」と述べた上で、(従来の長期金利がおおむね0%程度で推移するように買い入れを行う)「YCC」の基本は全く変わっていないとの考えを示しています。
それでも市場には「出口戦略の第一歩」と捉える見方もあります。また、日銀が政府、企業、家計などからの外部の圧力を受けて対応したのではないか、などという見方もあります。
2023年 金融政策の展望をエコノミストに聞く
果たして2023年、日銀の金融政策はどうなっていくのでしょうか? 4月には黒田総裁が任期を迎えます。市場では新しい総裁のもと、金融政策もいよいよ正常化に向かうのではとの見方が広がっています。
第一生命経済研究所の主任エコノミスト藤代宏一氏は「来年の注目は賃金。人手不足が深刻になる中で企業は人件費増加に寛容になっており、来年は賃金が予想外に上がる可能性がある。賃金が安定的に伸びると日銀が判断すれば、いよいよマイナス金利の撤回が視野に入る」と話しています。
一方で、野村総研のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏は「来年4月に日銀が総裁交代で新体制に移行しても、マイナス金利解除など、正常化に向かうかというと、すぐにはそうならないことが見込まれる。ターニングポイントなのは間違いないが、マイナス金利解除は環境次第だ。アメリカの景気情勢が悪化し、円高リスクが高まると、日銀はマイナス金利の撤廃には慎重となるはずだ。今後、FRB(=連邦準備制度理事会)の利下げが意識される中で、日銀が短期金利を引き上げれば、急速な円高ドル安のリスクもあり得る」と話しています。
後任の人選が本格化する中、市場では、政府・日銀が2013年に結んだ共同声明の改定観測も浮上しています。この共同声明というのは、日銀が黒田総裁の就任前に政府と合意したもので、2%の物価目標の早期実現が明記されています。この10年前に約束した「2%の物価目標」が足かせとなり、政府・日銀が政策を柔軟化できないとの指摘も出ていました。
そうした状況を踏まえ、みずほ証券のチーフエコノミスト小林俊介氏は「政策変更の本丸は、YCCのさらなる修正というよりは、マイナス金利の撤廃となる可能性が高い。マイナス金利を『撤廃』するためには『共同声明』の書き換えが必要となり、新総裁就任のタイミングでまずは共同声明の改定から議論されるのではないか」と話しています。
アベノミクスの象徴とも言われる「政府・日銀の共同声明」が改定され、10年間続いた異次元緩和は終えんに向かうのか? その前提となる賃上げはしっかりと進むのか? 日銀の判断は「物価上昇率」だけで下されるべきものではなく、賃金が持続的に上がってくるような状況になるかが重要な要素となります。
●2023年の展望:ドル/円は128‐143円か、中国のコロナ急増などリスク目白押し 1/1
115円台で始まった2022年のドル/円は日米金利差と日本の貿易赤字の拡大を主因に、歴史的な上昇相場となった。しかし、一時152円台に迫ったところからドル/円も足元では130円台半ばまで反落した。
2023年に関しては、景気後退入りに伴う米国の利下げ観測や総裁交代後の日銀による政策見直しへの警戒から、ドル/円の続落を見込む声も高まりつつある。
しかし、円の反発力やその持久力が強いとは言えず、ドルについても他通貨との相対的な比較でみれば、このまま下落トレンドが続くとは考えにくい。そこで、改めて円とドルの現状を踏まえ、2023年のドル/円相場のシナリオを整理しておく。
依然として円は弱い通貨
円の材料からからみておくと、2023年も貿易赤字が続く見込みだ。資源価格の騰勢が一服しており、通年で20兆円規模に膨らむ見通しの2022年よりは縮小するだろうが、それでも、過去最大で3兆円に届かなかった訪日外国人の円買い(サービス収支の黒字)で打ち消すことは難しく、実需は円売り過多のままとなりそうだ。
日銀に関しては、政府との共同声明やフォワードガイダンスの見直しが見込まれる。物価安定目標の「2%」を「2%程度」に、「できるだけ早期に」とされている目標達成までの期間も「中長期的に」とするなど、日銀の自由度が増す方向に修正されることが市場でもコンセンサスとなってきた。
その上、長期金利の上限が25bp引き上げられたため、マイナス金利の解除も有り得る。金融仲介機能の維持に必要な金融機関の利ザヤの源泉であるイールドカーブの傾きが従前よりも確保されるからだ。どれも正常化への布石とみなされ、円高期待を高めよう。
とは言え、イールドカーブコントロール政策(YCC)が取り除かれる可能性は低いのではないか。日本経済は依然としてマイナスの需給ギャップを抱えている。新型コロナウイルス対応特別オペ制度縮小の影響でマネタリーベースも縮小に転じ、2023年5月には実質無利子・無担保の保証付き融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」の利払いも始まる。
こうした中で政府は、防衛費増額に伴う財源の一部を増税で賄う方針を示した。ここにYCCの見直しが重なると、日本経済に二重の引き締めを強いることとなる。日銀が重視する賃上げも中小企業まで含めた場合、どの程度まで進むのか、未知数だ。輸入材価格の上昇に伴うコストプッシュ型のインフレが主導する日本の物価の伸びも、2023年は縮小に転じる公算が大きい。
このような状況で緩和縮小を急ぎ、経済に混乱が生じた場合、その批判の矛先は日銀にも向けられよう。足元の状況を踏まえると、円金利の上昇はあってもかなり限定的とみられ、主要通貨の中で円の金利が最も低い状況は変わらないだろう。このため、実需筋はもちろん、投機筋も基本的には円ショートを維持しそうだ。総じて円が弱い状況は変わらないと考えられる。
粘着質な米インフレ、ドル安は短命か
次に、ドルについて言えば、金利上昇が一服したことでドル高もピークアウトした可能性が高い。米国の交易条件の改善を通じてドル高に作用した資源価格の騰勢も和らいでいる。これまでのドル高の反動から当面の間、ドルが弱含み、上値の重い時間帯が続きそうだ。
しかし、米国の労働市場の需給は依然としてひっ迫している。モノやエネルギー価格の上昇にけん引される日本やユーロ圏と異なり、米国のインフレは賃金インフレを通じて、幅広いサービス価格を巻き込んだ粘着質なものとなっている。市場が織り込む2023年の利下げ期待は行き過ぎではないか。
利下げ観測が後退し、2023年末で5%台のターミナルレート(最終到達点)を示した12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の見方に市場が近づく局面が訪れる可能性が高く、その際にドルも持ち直しに転じるであろう。
また、2023年以降、多くの国でも物価の伸びが縮小するとみられる。物価の伸びが予想や前月実績を下回り、ドル安が進んだCPIショックがドル以外の通貨でも起こりそうだ。相対的な金利水準に照らしても、このままドル安相場が続くとは考えにくい。
ドル/円、130円割れ後に持ち直し
以上を踏まえてドル/円相場を展望すると、年初から日銀総裁人事が固まる春先までは、米国の利下げ期待や日銀の緩和修正への思惑からドル/円の下落リスクが高まるとみられる。米国の物価の伸びが縮小する場面などで、130円を割り込む場面もみられそうだ。
一方、次第に米国のインフレの粘着性と日銀の緩和継続姿勢とが次第に意識されれば、ドル/円も持ち直しに転じると考えられる。足元ではやや売られ過ぎの感があるドル/円も、2022年の日次データに限ると、米長期金利が12月23日の水準から約25bp上昇するだけで、145円に達する計算だ。
もちろん、こうした関係性は市場の期待や心理で移ろいやすいが、145円がまだ、それほど遠くはない点にも留意を要する。2023年の米国では利上げの打ち止めが確実な情勢で、年末が近づくにつれて2024年以降の利下げも意識されていこう。
したがって持ち直した後のドルも2022年前半にみられた騰勢を取り戻すには至らないだろう。日銀の政策転換への思惑が一定程度はくすぶり続けるとみられ、弱いなりに2022年よりは円も下げ渋ろう。このため、140円大台の半ばでは上値も重くなり、次第に失速しそうだ。以上から2023年の予想レンジとして、128円から143円をがい然性6割のメインシナリオと置く。
上下のリスクシナリオ
次に、上下双方のリスクシナリオも検討しておく。米国の利下げと日銀のYCC見直しが現実味を帯びれば、ドル/円はドル安と円高の双方から強い下落圧力を受ける。その程度にもよるが、最大で120円程度まで想定する必要がありそうだ。
このシナリオの場合、140円の大台を回復することも困難となる。これをがい然性3割の下方向のリスクシナリオとみる。
反対に、資源価格の急反発などにより、米国のインフレ懸念が一気に再燃すれば、金利差の急拡大が見込まれる。交易条件の改善がドル高を促す半面、日本では貿易赤字が拡大し、円安が意識される。
ドル/円が再び150円に迫るシナリオを完全に消し去るのは時期尚早と言え、がい然性は1割と最も低いながら、上方向のリスクシナリオとしては残しておくべきだろう。
2023年を展望すると、様々な地政学リスクの台頭が警戒される。中国情勢をみる限り、新型コロナウイルスもまだ相場のテーマとなり得る。急激な金融引き締めが、様々なバブル崩壊の引き金となることも想定しておかねばなるまい。さらに、英国の事例は先進国でも、国債と通貨の急落が起こり得ることを改めて示した。
結局、2022年がそうだったように、2023年も新たに浮上する材料を踏まえ、不断のシナリオ点検を重ねていくほかないだろう。  
●「黒田サプライズ」の影響は 金融政策で円安・物価・住宅ローン金利 どうなる? 1/1
「コミュニケーションとして、これは良くない」「意図を汲みかねる」「今更?という感じ」
サプライズとは、突然のプレゼントで人を驚き喜ばせることを指すことが多い。しかし、日銀の黒田総裁が繰り出した「サプライズ」を受け取った市場関係者からは、「喜び」ではなく「不信」や「困惑」の声が上がった。「黒田サプライズ」は2023年の日本経済に何をもたらすのだろうか?
想定外だった「実質的な利上げ」
去年12月20日、私は金融政策決定会合の結果を待つため、日銀にいた。大方の予想は「現状維持」だったため、私を含めた多くの記者の間では特に緊張感もなく、記者クラブは、穏やかな空気が流れていた。
日銀からの連絡を受け、パソコン上で公表文を開き、電話をつないだ本社のデスクとともに、内容を確認した。徐々にクラブの雰囲気が変わってきた。「サプライズだ」。本社は、ニュース速報の準備に入った。フジテレビの画面上に流れた文面はこうだ。
「日銀が大規模な金融緩和を一部修正 長期金利の変動幅プラスマイナス0.5%程度に拡大」。
金融に関してある程度勉強していないと分かりにくいが、平たく言えば「実質的な利上げ」だ。日銀はこれまで、欧米の中央銀行が急激に利上げするなか「大規模緩和」を続け、かたくなに利上げしなかった。
そうしたなか、金利の安い円は売られて円安が急速に進行し、輸入品の価格は上昇。物価高で家計が圧迫されている。
黒田総裁は、去年9月の記者会見で「当面、金利を引き上げるというようなことはないと言ってよい」と断言していた。今年4月には総裁の座を降りることもあり、「黒田総裁の在任中に金融政策の大きな変更はない」との見方が大勢だった。
そのため、市場では、今回の「実質的な利上げ」は大きな驚きをもって受け止められた。発表直後、外国為替市場では急激に円が買われ、一時1ドル=130円台をつけた。去年最も円安が進んだ10月の1ドル=150円の水準に比べると、15%近い円高だ。
一方、景気への悪影響を懸念した株式市場では、日経平均株価が一時800円を超えて下落した。黒田総裁は、会見で「金融緩和の効果がより円滑に波及していくようにする趣旨で、利上げではない」と強調したが、市場では、「従来のスタンスとの矛盾について、市場が納得する明確な説明がなかった」との声が上がるなど市場との間でのコミュニケーション不足が指摘される。
4月に黒田総裁からバトンを受け取る次期総裁にとっては、市場の信頼を取り戻すことも課題の一つと言えるだろう。
円安是正は物価高を落ち着かせるか
日銀の金融政策の修正で、今年の暮らしは、どうなるのだろうか。
まず、注目されるのは、円安が是正されることで物価高に落ち着きがでてくるか、だ。一部では、これが日銀のウラの狙いと見る向きもあるが、円相場が円高に傾けば、輸入品の値上がりは抑えられる。
ただ、消費者物価は、去年11月の指数がおよそ41年ぶりの伸び幅となるなど、高い水準が続いている。上昇一辺倒だった勢いにブレーキがかかる可能性はあるが、当面は物価の高止まりは続くとの見方も強い。
アメリカで利上げが減速していけば、円高方向への動きを後押しすることもあり、物価高が落ち着きへの軌道をたどるのかが注目される。
気になる住宅ローン金利は
さらに、暮らしに大きく影響するのは、金利だ。なかでも、住宅ローン金利がどう動くかは、多くの人の家計負担に直結する。
住宅ローン金利には、長い期間金利が固定される「固定金利」と、一定期間ごとに金利が変わる「変動金利」がある。
今回、日銀が長期金利の上限を引き上げたことで、各行は固定金利の引き上げに踏み切った。
みずほ銀行は、1月に適用する住宅ローンの10年固定型金利を0.3%引き上げる。その結果、最も優遇した金利は1.1%から1.4%になる。三井住友銀行も同様に10年固定型金利を0.26%引き上げ、三菱UFJ銀行も0.18%引き上げる。
一方、住宅ローン利用者の7割以上が利用しているとされる変動金利は、各行とも据え置いた。
ただこの先、日銀が、「マイナス金利の解除」など、さらなる政策変更を行えば、「変動金利」にも影響が及んでくる可能性が指摘されている。
ポスト黒田の金融政策に注目
今回修正された金融政策は、今年4月に次の総裁に引き継がれ、新たな体制のもとで運営されていくことになる。黒田総裁が目指していた「賃上げを伴う形での安定した物価上昇」は実現していくのか。
黒田氏のもとで続けられてきた「大規模緩和」が、さらなる見直しを迫られ、本格的な金利引き上げに向け、軸足を踏み出すことになるのか。2023年は、日銀の動きからより一層目を離せない一年になりそうだ。 

 

●大規模緩和の出口焦点=総裁交代で共同声明見直し論―日銀金融政策 1/2
今年の日銀の金融政策は、大規模緩和の出口への道筋が描けるかが焦点となる。日銀は昨年12月中旬、長期金利の変動幅の上限引き上げを決めた。市場では政策のさらなる修正観測が広がる。4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任人事も絡み、政府・日銀が2013年に物価上昇率を2%とする目標の実現へ連携強化を確認した共同声明の見直し論も浮上。10年にわたる異次元緩和は方向転換するのか、市場は見極めていくことになる。
「金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応で、出口の一歩では全くない」。黒田氏は、長期金利の上昇を認める上限を0.25%から0.5%に引き上げたことについて「事実上の利上げ」とする市場の見方に反論。緩和の枠組みを継続する立場を強調した。
日銀が出口に慎重なのは、2%目標の持続的な実現が見通しにくいためだ。昨年11月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は前年同月比3.7%上昇し約41年ぶりの伸びとなったが、日銀は、原材料高が一段落すれば上昇幅は縮小するとみている。
長期金利の上限上げを決めた金融政策決定会合では、物価は「デフレ期以前の状態に近づきつつある」との意見も出た。物価が2%の伸びを維持する見通しが描ければ、出口戦略は現実味を帯びる。市場では、上限の追加引き上げにとどまらず、「マイナス金利の解除もあり得る」(大手金融機関)とささやかれる。
マイナス金利は、金融機関が預け入れる日銀当座預金の一部に適用して利息の支払いを求める緩和手段で、解除すれば金融引き締めとなる。
ただ、大幅な利上げを進めた欧米では景気減速への警戒感が台頭。日銀が「利上げ」すれば住宅ローン金利や企業向け貸出金利が上昇し、国内経済が失速する恐れもある。
黒田氏の後任人事では、雨宮正佳副総裁や、中曽宏前副総裁(大和総研理事長)ら日銀出身者の起用が有力視されている。人事に絡み、政府・日銀の共同声明見直し論も政府の一部で浮上している。岸田文雄首相は昨年12月下旬、次期総裁に関し「今後の経済動向も見ながら判断する」と発言。共同声明見直しは「時期尚早だ」としつつ、「新総裁を決めてからの話だ」と含みを持たせた。
黒田氏は同月下旬の講演で「長きにわたる低インフレ、低成長の流れを転換できるか重要な岐路に差し掛かっている」との認識を示した。
異例の緩和策が転機を迎える年となる可能性がある。 

 

●日銀政策変更で円は緩やかに上昇、春の新総裁誕生で異次元緩和の修正へ 1/3
2022年12月20日、日本銀行は金融政策の一部を修正した。これにより、まず、金利は上昇しやすくなった。これまでに比べて、外国為替市場で主要投資家は円売りを仕掛けづらくなる。ドルなどに対して円は、急激ではなく、緩やかに上昇するものと予想される。いずれにせよ、日銀は実体経済と金融市場に対する大きな負の影響が及ばないように金融政策を修正していくと考えられる。23年4月に黒田総裁は任期を迎える。新しい総裁の下で、日銀は慎重、かつ部分的な異次元緩和の修正を進めることになるだろう。
日銀は今後少しずつ異次元緩和を追加修正
2022年12月20日、日本銀行は金融政策決定会合で、「異次元緩和」と呼ばれるわが国の金融政策の一部を修正した。具体的には、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策について、「国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を、従来の『±0.25%程度』から『±0.5%程度』に拡大する」ことが決定された。背景には、国内の物価上昇、過度な円安傾向の歯止め、および国債市場の機能回復への対応がある。
日銀の今回の修正措置はかなり複雑だ。単純に考えると、今回の措置で長期金利は上昇しやすくなった。今回の決定は、金融政策の転換であるとの報道や指摘も多いのだが、公表された一連の資料、総裁会見の内容をもとに考えると、そう単純に受け取ってよいか疑問の余地がありそうだ。
日銀は物価安定と国債の市場機能に配慮しつつ、全体として金融緩和の効果が希薄化しないように金融政策の一部を修正したと考えるべきだろう。今回の決定によって、国内の金利や円が一方的に上昇する展開はないかもしれない。今後、日銀は家計や中小企業などへの負の影響に最大限配慮しつつ、少しずつ異次元緩和の追加修正を進めるとみる。
黒田総裁による修正措置の内容を検証すると
12月20日に公表された「当面の金融政策運営について」の冒頭、日銀は「緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り、より円滑にイールドカーブ全体の形成を促していくため、長短金利操作の運用を一部見直すことを決定した」と記した。その背景には、わが国の物価上昇への対応と、国債市場の流動性低下などへの配慮がある。
現在、わが国の消費者物価指数は2%を上回って推移している。年明け以降も物価は追加的に上昇しそうだ。背景にはいくつかの要因がある。ウクライナ危機などを背景に世界全体で資源・穀物価格は上昇した。世界的な供給不安は続くだろう。また、21年の年明け以降、外国為替市場ではドルなどに対して円安が進んだ。22年8月下旬のジャクソンホール会合終了後から10月中旬まで、日米の金融政策の方向性の違いは一段と鮮明化した。
1ドル=150円を上回る水準まで、ドル高・円安は急激に加速した。資源などの価格上昇と円安の掛け算によって輸入物価は上昇し、消費者物価は押し上げられた。国債の流通利回り=金利が低下し、長短の金利差も大きく縮小した。海外債券などに比べて予想される利得の小さい日本国債=JGBへの投資を控える主要投資家も増えた。
物価上昇、市場機能低下を食い止めるために、日銀は政策を一部修正した。ポイントは3点だ。まず、日銀は長期金利の上限を0.50%に引き上げる。短期から超長期までの金利をつないだ「利回り曲線」は市場の実勢にある程度は沿いやすくなる。0.50%を上回る長期金利上昇は抑制される。
次に、国債買い入れ額は、従来の月間7.3兆円から9兆円程度に増額する。三点目として、10年以外の年限でも買い入れ額は増やされる。具体的に、1年以下、1年超3年以下、3年超5年以下、5年超10年以下、10年超25年以下、25年超の国債買い入れ額は引き上げられる。それによって金融政策と“整合的”と考えられる利回り曲線の形成を“促す”。
政策の一部修正を行った日銀の意図とは
日銀は、基本的にこれからもイールドカーブをコントロールする考えを変えていない。会見において黒田総裁は、今回の一部修正は「利上げではない。金融引き締めではまったくない」と強調している。「出口戦略の一歩ではない」との発言もあった。黒田総裁の発表を額面度通り受け取ると、わが国の金融政策には変更がないことになる。
日銀は、経済全体に与える金融緩和の効果が大きく変わらないようにしつつ、新発10年物国債近辺の極度な金利の落ち込みを修正し、国債などの取引増加、物価の抑制を狙ったと考えられる。
今回の一部修正は、異次元緩和の正常化に向けた一歩であることに変わりはない。懸念されるのは、長期金利の変動幅を拡大することによって、経済や金融市場にマイナスの影響が及びかねないことだ。そのリスク、あるいは経済的なショックは抑制しなければならない。
日銀短観によると中小企業の業況は不安定だ。長期金利が上昇し、つられるようにして2年債や5年債などの金利も上昇すれば、中小企業の事業運営にマイナスの影響は増えるだろう。住宅ローン金利の上昇など家計にもより大きな打撃が及ぶ。それは避けなければならない。
日銀はすべての年限を対象に、より円滑な政策効果の発揮を目指してイールドカーブ・コントロールを行うことによって、金融政策の部分的修正と金融緩和の持続の両方を満たそうとした。それが、12月の金融政策決定会合の意図と考えられる。
このように考えると、日銀の政策一部修正を金融政策の転換、それに向けた地ならしと論じるのは早計であり、適切ではない。それまでに日銀はより円滑なイールドカーブの形成を市場に促すべく、買い入れ額の修正や国債買い入れオペの運用を目指すだろう。日銀はより繊細に神経を研ぎ澄まして、イールドカーブ・コントロールを進めると予想される。
重要性高まる今後の日銀スタンスの見極め
今回の部分修正によって、金融市場には相応の影響が出るだろう。まず、金利は上昇しやすくなった。これまでに比べて、外国為替市場で主要投資家は円売りを仕掛けづらくなる。
ドルなどに対して円は、急激ではなく、緩やかに上昇するものと予想される。日銀は漸次的なスタンスで、より望ましいと考える利回り曲線の形状実現を促そうとしている。想定以上に金利上昇圧力が強まれば、弾力的にオペが実施されるだろう。
また、FRB関係者は想定以上に金利は上昇する可能性に言及し始めた。ごく短期の時間軸で考えると日米の金利差拡大観測は再度大きく高まり、一時的に為替レートは円安方向に振れやすい。ただ、その場合、1ドル=150円台などにまで円が急激に売られる可能性は低下している。
いずれにせよ、日銀は実体経済と金融市場に対する大きな負の影響が及ばないように金融政策を修正していくと考えられる。23年4月に黒田総裁は任期を迎える。新しい総裁の下で、日銀は慎重、かつ部分的な異次元緩和の修正を進めることになるだろう。
その取り組みは、かなりの時間を必要とするはずだ。というのも、1999年2月の「ゼロ金利政策」以降、長期にわたってわが国は超低金利環境に浸った。「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」からなるアベノミクスが本格始動すると、政府と日銀はアコードを結び金融緩和はさらに強化された。
その正常化を目指すことは、口で言うほど容易なことではない。あくまでも日銀は時間をかけてオペの運用方針や国債買い入れ額を部分的に修正し、経済全体の安定と金融市場の機能回復に資す形でイールドカーブ・コントロール政策を進めていくだろう。
22年12月の決定会合は、これまで以上に金融政策の運営、修正にとってのイールドカーブ・コントロール政策の重要性の高まりを示唆するものだったといえる。そうした日銀のスタンスを、冷静に、事実(日銀の公表文書や総裁発言など)に基づいて見極める必要性は増している。
●大規模緩和の出口焦点 総裁交代で共同声明見直し論―日銀金融政策 1/3
今年の日銀の金融政策は、大規模緩和の出口への道筋が描けるかが焦点となる。日銀は昨年12月中旬、長期金利の変動幅の上限引き上げを決めた。市場では政策のさらなる修正観測が広がる。4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任人事も絡み、政府・日銀が2013年に物価上昇率を2%とする目標の実現へ連携強化を確認した共同声明の見直し論も浮上。10年にわたる異次元緩和は方向転換するのか、市場は見極めていくことになる。
「金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応で、出口の一歩では全くない」。黒田氏は、長期金利の上昇を認める上限を0.25%から0.5%に引き上げたことについて「事実上の利上げ」とする市場の見方に反論。緩和の枠組みを継続する立場を強調した。
日銀が出口に慎重なのは、2%目標の持続的な実現が見通しにくいためだ。昨年11月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は前年同月比3.7%上昇し約41年ぶりの伸びとなったが、日銀は、原材料高が一段落すれば上昇幅は縮小するとみている。
長期金利の上限上げを決めた金融政策決定会合では、物価は「デフレ期以前の状態に近づきつつある」との意見も出た。物価が2%の伸びを維持する見通しが描ければ、出口戦略は現実味を帯びる。市場では、上限の追加引き上げにとどまらず、「マイナス金利の解除もあり得る」(大手金融機関)とささやかれる。
マイナス金利は、金融機関が預け入れる日銀当座預金の一部に適用して利息の支払いを求める緩和手段で、解除すれば金融引き締めとなる。
ただ、大幅な利上げを進めた欧米では景気減速への警戒感が台頭。日銀が「利上げ」すれば住宅ローン金利や企業向け貸出金利が上昇し、国内経済が失速する恐れもある。
黒田氏の後任人事では、雨宮正佳副総裁や、中曽宏前副総裁(大和総研理事長)ら日銀出身者の起用が有力視されている。人事に絡み、政府・日銀の共同声明見直し論も政府の一部で浮上している。岸田文雄首相は昨年12月下旬、次期総裁に関し「今後の経済動向も見ながら判断する」と発言。共同声明見直しは「時期尚早だ」としつつ、「新総裁を決めてからの話だ」と含みを持たせた。
黒田氏は同月下旬の講演で「長きにわたる低インフレ、低成長の流れを転換できるか重要な岐路に差し掛かっている」との認識を示した。
異例の緩和策が転機を迎える年となる可能性がある。
●円高、7カ月ぶり一時129円台 日銀のさらなる緩和策修正の思惑 1/3
3日の外国為替市場で、対ドル円相場が一時、7カ月ぶりに1ドル=129円台の円高ドル安水準をつけた。日本の物価高(インフレ)が進むなか、日本銀行がさらに金融緩和策を修正するとの思惑から円買いが広がっている。
円相場は2022年、日米の金利差拡大を背景に急速に円安ドル高が進んだ。激しいインフレを抑えようと米国の中央銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げする一方で、日銀が金利を低く保ったことで、金利の高いドルを買い円を売る動きが加速。22年初めに115円ほどだった対ドル円相場は、10月に32年ぶりに1ドル=151円台まで円安に振れた。政府と日銀は円買いドル売りの為替介入にも踏み切った。
しかし、その後は逆に日米の金利差が縮小するとの思惑から円高が進んでいる。12月に日銀は長期金利の上限を引き上げる事実上の利上げを決定。さらに日銀が利上げなど緩和策の修正をするとの見方があるほか、米国のインフレがピークを越えたとみられることや米国の景気後退への懸念から、米国の金利は低下傾向にあり、急速に円高ドル安が進んでいる。円相場は円安のピークをつけた10月から2カ月あまりで20円超、円高ドル安に振れている。
●注目の「卯年」日本経済は「跳ねる」か 物価・金利・賃上げの行方は? 1/3
株安・円安が進んだ2022年
2022年の東京市場は、ロシアのウクライナ侵攻に伴って資源・エネルギー価格が上昇し、アメリカやヨーロッパで利上げが加速するなか、株安・円安が進んだ1年だった。
そして、年末には、「長期金利の変動幅拡大」という日銀の政策修正が、市場への「サプライズ」となり、長期金利は急上昇し、株価は急落、円相場は円高方向に振れる展開となった。
2023年のカギ握る 米「利上げ」の行方
2023年は、どういう年になるだろうか。大きなカギを握りそうなのが、アメリカと日本の金融政策だ。アメリカでは、インフレ退治のため、政策金利の急ピッチでの引き上げが続けられてきたが、金融引き締めの継続は、景気を冷やし、経済を後退させる可能性がある。
OECD(経済協力開発機構)は、インフレ対応での利上げなどが成長を阻害するとして、2023年の世界経済の成長率は、2022年の3.1%から、2.2%へと低下すると予測している。
2023年の日本の伸び率の見通しは1.8%で、アメリカとユーロ圏の0.5%を上回ってはいるが、海外経済の悪化による下振れリスクが、マイナス要因として意識されそうだ。こうしたなか、FRB(連邦準備制度理事会)は、2022年末の会合で、利上げ幅を0.5%に縮める一方、2023年の最終的な政策金利の到達点を、それまでの予想より高くする見通しを示した。
FRBによる利上げは、どの時点で一服し、政策転換の兆しは見えてくるのか。アメリカの金融引き締めと景気後退入りの行方が、日本をはじめ世界経済に大きく影響することになりそうだ。
日銀はさらなる方針変更に踏み出すのか
日本では、4月に、日銀の黒田総裁が任期満了を迎え、次期総裁のもとでの新たな体制がスタートする。黒田氏の指揮下で、景気を支えるためとして、大規模な金融緩和を続け、金利を低く抑えてきた日銀は、さまざまな弊害が指摘されつつも、かたくなにこれまでの政策を維持してきたが、市場関係者が予想していなかった「事実上の利上げ」という修正に踏み切った。
債券市場では、長期金利が、日銀が容認した上限の0.5%近くまで一時上昇した。影響は、住宅ローン金利には、すでに「固定金利」の引き上げという形で波及している。今月適用の金利は、大手3行では、10年固定で、12月の水準からの上昇幅が0.18%〜0.30%となった。
企業も、金融機関から融資を受けて設備投資などにまわす際の負担が増えれば、収益が圧迫されることになり、利払い費の増加を心配する声が聞かれる。4月以降注目されるのは、黒田氏からバトンを受け取った新総裁のもとで、日銀がさらなる方針変更に踏み出すのかどうかだ。
一段の利上げがあるのか、日銀当座預金の一部で適用されている「マイナス金利」政策の解除が視野に入ってくるのか、などが関心の的だが、本格的な利上げは、家計の預金金利が増えるなどの恩恵がある反面、企業で広がり始めた賃上げの動きに水を差しかねない側面もある。金融政策の方向性に視線が集まることになる。
2023年度の家計負担 4万円近く増加か
家計を苦しめる物価高はどうなるだろうか。円安による物価上昇は、大規模緩和の副作用として指摘されてきたが、「事実上の利上げ」で円相場が円高方向に傾くことで、 輸入品価格が抑えられる面はある。
ただ、2023年も、食品・飲料で値上げされる予定の品目数は、1月〜4月分だけで7152品目に達し、2022年の同じ時期の1.5倍を超えている。最も多い分野は「加工食品」の3798品目で、2023年全体の半数を占め、冷凍食品のほか、小麦製品、水産缶詰・練り製品といった品目で目立つ。
調査を行った帝国データバンクでは、再値上げ・再々値上げのケースも増えているとして「コスト上昇圧力は解消しておらず、消費者に近い製品ほど、価格転嫁が十分に進んでいない。2023年も少なくとも1万品目で値上げされる」とみている。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストの試算では、食品やエネルギー価格の上昇に伴い、2022年度の1世帯あたりの家計負担は平均で前年度から9万6368円増加し、2023年度はさらに3万9750円増えることになる。財布に厳しい状況が続きそうだ。
好循環に向け 賃上げの広がりは
2023年の最大の焦点は、春闘で賃上げの動きが広がるかどうかだろう。連合は、2022年まで4%程度としてきた要求水準を引き上げ、「5%程度」を求める方針を決めた。うち、3%程度が基本給を底上げするベースアップ分だ。
経団連の十倉会長は、年頭の報道各社のインタビューに応じ、それぞれの企業が、業績を踏まえたうえで、ベースアップを中心とした賃上げに取り組むことが望ましいとの考えを示している。
このところの賃金は、物価変動を反映した実質分が7か月連続でマイナスだ。受け取る賃金が、物価上昇により実質的に目減りする事態が現実化するなか、企業が人への投資に前向きになり、物価の伸びを上回る賃上げが実現されて、消費の活発化につなげられるかが課題になっている。
賃金水準が底上げされ、消費喚起と人材投資が進む好循環に向けた環境づくりを政労使で加速させることができるか、が大きなポイントになる。
「卯年」景気・株価は「跳ねる」?
2023年は「卯年」、相場格言では「跳ねる」だ。卯年の年末の日経平均株価は、戦後でみると、6回中4回、前年を上回っている。
賃上げや生産性向上の広がりを通じて、個人消費や設備投資が伸び、国内景気が上向き軌道を描いて、戦後7戦で5勝という成績をあげられるのか、卯年の景気と株価の「跳ね」具合に注目したい。
●2023年世界経済予想 先進国経済軒並みマイナス成長か! 1/3
2022年の世界経済は脱コロナを原動力に景気回復が期待されたが、ウクライナ戦争が勃発、エネルギー価格が高騰するなどインフレが加速した1年となった。
2023年はその反動から世界経済の減速が進むと懸念されている。どの程度深刻なのか。エコノミストの分析を読み解くと――。
「景気減速、下降サイクルは既に後半戦と前向きに捉えよう」
2023年に確実に来る世界経済の減速。投資家にとってチャンスかもしれないと楽観的に見ることを勧めるのが、J.P.モルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト前川将吾氏だ。
前川将吾氏はリポート「逆業績相場の背後にある景気悪化はいつまで続く?」(12月26日付)のなかで、1998年から2022年までの世界経済の景気の波のグラフを示した【図表1】。そして、こう述べるのだ。
   (図表1)世界経済、景気の3年サイクル
「足元では、来年の米国及び世界的な景気後退や、それに伴う『逆業績相場』を恐れ、株式投資に前向きになれない投資家が多くいます。ただし、過去の経験則や現在の景気サイクルの立ち位置を考えれば、『今すぐ』ではなくとも、例えば『来年後半頃』からは景気サイクルの反転が期待できる可能性があります」
こう説明したうえで、【図表1】の青線グラフに注目した。グローバル製造業PMI(購買担当者景気指数、3か月移動平均値)でみた世界景気のサイクルだ。
「現在は下降しています。しかし、サイクルの上昇も下降も当然いつかは終わります。【図表1】の通り、過去は平均すると約13か月(1年強)上昇し、約24か月(2年)下降していたことがわかります(計3年)。2021年半ばから始まった今回の下降サイクルは、2022年年初の時点では下降開始からたった6か月しか経っておらず、まだまだ序盤戦(=年内は下降が続く可能性が高い)という立ち位置でした。しかし、12月末にはもう18か月も経過したことになり、平均の24か月まであと半年というところまでくるため、下降サイクルは既に後半戦と捉えることが可能でしょう。仮に2023末まで下降し続けた場合は30か月に及ぶことになりますが、【図表1】で30か月を超えたのは世界金融危機を伴う深刻な景気後退を経験した下降サイクル(34か月)に限られます」
2008年9月に米国で発生したリーマン・ショック後に、世界規模で拡大した金融危機は約34か月続いた。しかし、前川氏は「2023年に米国の景気後退が来てもマイルドである」と考えているため、「景気の下降サイクルも金融危機時ほど長引かないとみています」と指摘するのだった
先進国経済は軒並みマイナス成長、スタグフレーションのリスクも
「2023年はインフレが世界を席巻し、その沈静化には先進国経済の景気後退が伴う。そして、スタグフレーションのリスクに傾斜する」と厳しく予想するのは、シュローダー・インベストメント・マネジメントのチーフ・エコノミスト&ストラテジストのキース・ウエード氏だ。
ウエード氏はリポート「2023年市場見通し 世界経済インフレに注視」(12月21日付)のなかで、シュローダーが予想する2023年の世界主要国と地域の経済成長率見通しの表(緑色がシュローダーの予想)を示した【図表2】。
   (図表2)世界各国・地域の経済成長見通し
これを見ると、世界全体が2022年はプラス2.7%の成長率なのに、2023年は1.3%に落ち込む見通し。なかでも注目すべきは、先進国の数字だ。米国マイナス1.0%、ユーロ圏マイナス0.1%(うちドイツ・マイナス0.4%)、英国マイナス0.8%と、軒並みマイナスに転落。先進国全体でマイナス0.2%というありさまだ【再び図表2】。
特に悪いのは米国だが、同社が調査した「米国の生産性成長率の推移」のグラフを見ると、企業の生産性は現在、過去70年で最悪水準だった1970年代半ばのレベルに落ちていることがわかる【図表3】。
   (図表3)米国の生産性成長率の推移
ウエード氏はこう指摘する。
「景気後退による影響はまだ感じられなくとも、今後見込まれる景気後退を受け入れることが現段階では重要といえます。米国テクノロジー企業で実施された約8万5000人ともいわれる解雇は、今後見込まれる苦境を想像させます。インフレ鎮静化に伴うコストは、経済成長率の減速と失業率の上昇であると考えます。また、米国経済が減速することで、賃金、物価、インフレをコントロールする必要があります。これにより、失業率は2023年4〜6月期にNAIRU(インフレを加速させない失業率を指し、米国では4.5%程度とされる)を上回る水準に上昇し、2023年末には足元の約2倍である7%程度に上昇すると考えます」
こうした先進国が激しいインフレで苦境に立たされている背景には、コロナの影響もあると、ウエード氏はこう指摘する。
「足元の景気サイクルで課題となるのは、パンデミックが労働供給に影響を与えたことといえます。例えば、英国では約60万人、米国では200万人程度が労働市場から去っています。その結果、すでに先進国市場の労働市場は供給が不足しており、タイトな状況が続いています」
「このような環境下、米国の生産性の成長率は大きく低下し、足元では過去最低の水準で推移しています【図表3】。通常の環境下では、労働コストの上昇は人員削減の動きにつながりますが、足元では、まだこの動きは見られていません。企業は、経済成長が回復した時に再度人員を増やすのが難しいとの懸念があることから、人員削減に抵抗がある可能性があると考えています。これまでのところ、高いコスト(エネルギー、原料、労働)を価格に転嫁することで成り立っており、インフレ圧力につながっています」
コロナが生み出した人出不足によって、インフレの悪循環に陥っている、というわけだ。
感染大爆発、中国がゼロコロナに後戻りすると...
2023年に世界経済の底割れの可能性を高める8つのリスク要因を取りあげたのが、伊藤忠総研のチーフ・エコノミスト武田淳氏ら合計6人の研究員たちだ。
武田氏らのチームはリポート「2023年の世界経済見通し〜底割れ回避を見込むが不確実性高い」(12月26日付)のなかで、多くの不確実性要因の中で、次の8つのリスクが発生する可能性が高く、注意を払うべきだとした。ポイントは、以下の通り。
(1)米国の過度な金融引き締め(景気のオーバーキル):世界経済にとって最大のリスクは米国の景気後退であり、それはFRB(連邦準備制度理事会)の金融引き締めが景気を冷やしすぎることによってもたらされる恐れがある。
(2)中国のゼロコロナ政策への後戻り:中国経済もここにきて、急速に不確実性を高めている。中国政府は2022年12月初め、厳しい行動制限を課すゼロコロナ政策の大幅緩和に舵を切った。しかし、感染者数の爆発的な急増が起こっている。特に、春節休暇(2023年1月下旬)前後には帰省・旅行のための大移動が増えるため、医療体制が脆弱な農村部での感染爆発・医療崩壊が懸念される。
(3)日本銀行の金融政策変更:比較的良好な景気動向が期待される日本でも、新たに大きなリスク要因が浮上した。12月20日に日本銀行が「事実上利上げ」を決めたことだ。2023年4月の日本銀行総裁交代の後、金融政策の枠組みが変更されれば、金利が大幅に上昇、円高が進行し株価が下落しよう。円高は物価上昇を抑制し、個人消費の追い風となるが、輸出企業の業績を悪化させる部分もある。
(4)欧州のインフレの長期化:1つ目の観点は、天然ガス価格の高止まり。2つ目の観点は、ユーロ圏における物価高と賃金上昇のスパイラル発生だ。欧州は労働協約の適用率が他国と比べて高いため、高インフレを受け賃上げの圧力が強まれば、多くの労働者の賃金に波及、物価と賃金のスパイラルが発生し、インフレがさらに長期化。金融引き締め強化とともに景気の下振れを招くこととなる。
(5)OPECプラスが減産強化:原油価格の反騰も留意すべきリスク。米国は近年、シェール革命によって世界最大の産油国となり、中東への依存度が薄れたため、サウジアラビアとの同盟関係が薄れている。サウジも、ロシアとの軍事協力を強化し始めたほか、中国との関係拡大を図っている。サウジ主導によりOPECプラスが一方的に減産強化に踏み切り、原油価格が上振れ、世界的なインフレ圧力が残り続けるストーリーが、中東情勢や原油市場に関連したリスクシナリオとして最も留意すべきもの。
「米国ねじれ議会」、世界金融市場の混乱に波及する?
(6)人民元の下落:2022年、中国人民元は対米ドルで年初来対比マイナス9.4%と大幅に下落(12月19日時点)。元安進展の背景には、感染再拡大に伴う景気後退懸念や、利上げペースを加速させる米国と金融緩和を続ける中国の金融政策の違いがある。
(7)新興国通貨の下落リスク:人民元だけでなく、他の新興国通貨の中にも下落リスクを意識すべきものが多い。2022年は、世界的なインフレと米欧中銀による急ピッチな利上げを受け、多くの新興国で通貨安が進んだ。2023年は、ファンダメンタルズや政治情勢に脆さを抱える一部の新興国で通貨安がさらに進むリスクがある。特に懸念される国はトルコだ。トルコでは、インフレ率80%台へ暴騰しているのに、トルコ中銀はエルドアン大統領の「助言」に沿って厳しいインフレ下でも政策金利を下げ続け、内需をふかす一方、資金の海外流出と通貨リラ安を通じて、インフレ圧力を上昇させるスパイラルを招いている。
(8)米国のねじれ議会:大統領選を翌年(2024年)に控えた米国では、政治の不安定さもリスク要因となる。米国債の発行上限額を定めた法定債務上限は現状で31.4兆ドルだが、2023年後半にも債務上限に抵触する。このため、米議会は債務上限を引き上げる対応を行う必要があるが、共和党の下院トップは民主党との交渉材料にこの問題を使うと明言、政治問題化は避けられない。2023年は米国でさらなる利上げが見込まれ、金融市場は変動の大きい状況が続くだけに、米国債のデフォルト(債務不履行)懸念が生じるだけでも、世界の金融市場の混乱に波及する可能性がある。
これやあれや、深刻なリスクが次々と襲ってきそうだが、武田氏らの研究チームはこう結んでいる。
「2023年は、ウクライナ情勢の好転が見込めない中で、欧米経済はインフレ抑制のための金融引き締めによる大幅な悪化が避けられず、中国はゼロコロナ政策の事実上の解除による感染急拡大で混乱が続くなど、極めて不確実性の高い状況が見込まれる。それでも、金融引き締めという人為的な景気減速が主因につき底割れは回避できると予想するが、(中略)世界経済に影響を与えるリスク要因が各地に散在しており、その動静には十分留意が必要である」 
●日銀 ことしは節目の年 “大規模緩和”踏まえた政策対応が焦点  1/3
日銀は大規模な金融緩和を続けていますが、先月には市場のゆがみを無視できなくなり、これまでの緩和策を突然修正しました。ことしは4月に黒田総裁が任期を迎える節目の年となり、大規模緩和がもたらす効果や副作用を踏まえてどのような政策対応をとるかが焦点となります。
去年4月以降、消費者物価指数は8か月連続で日銀が掲げる2%の目標を上回っていますが、日銀は賃金の上昇を伴っていないとして引き続き大規模な緩和を続ける姿勢を示しています。
その一方で金利の上昇を抑えるために大量に国債を買い続けた副作用として債券市場の機能が低下するなど市場のゆがみを無視できなくなり、日銀は先月、金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を引き上げました。
これについて黒田総裁は、利上げや金融引き締めを意図したものではないと説明していますが、市場では事実上の金融引き締めだという受け止めが広がり、円相場は3日、7か月ぶりに1ドル129円台まで値上がりしました。
ことしは4月に黒田総裁が任期を迎えますが、市場関係者の間では大規模緩和の副作用や金融市場の動向、それに新体制の考え方しだいで日銀が再び緩和策の修正に動くのではないかという見方も出ています。
こうした中、賃金の上昇を伴う2%の物価目標の実現にどこまで近づくことができるか、そして日銀がどのような政策対応をとるかが焦点となります。
●NY外為 円、131円近辺 1/3
年明け3日のニューヨーク外国為替市場では、日米の金融政策動向に注目が集まる中、円相場は1ドル=131円近辺で推移した。午後5時現在は130円96銭〜131円06銭と、前営業日の12月30日同時刻(131円06〜16銭)比10銭の円高・ドル安。
円の対ドル相場は2日深夜、一時129円台と、昨年6月以来約7カ月ぶりの高値水準に上昇。日銀が1月の金融政策決定会合で物価見通しを引き上げる方針との報道をきっかけに、日米金利差縮小観測が改めて台頭した。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中国の経済指標の悪化を眺め、世界的なリセッション(景気後退)懸念も根強く、その後は流れが反転。円はじりじりと軟化し、ニューヨーク市場入り後は130円台を中心に方向感なく推移した。
今週は、4日に米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(12月13〜14日開催分)が公表されるほか、週末にかけて米雇用関連指標の発表が目白押し。これらが労働需給の逼迫(ひっぱく)状況を示せば、相場は再び円安・ドル高方向に振れる可能性もあるとして、この日は積極的な商いは手控えられた。
ユーロは同時刻現在、対ドルで1ユーロ=1.0543〜0553ドル(前営業日午後5時は1.0710〜0720ドル)、対円では同138円09〜19銭(同140円35〜45銭)と、2円26銭の円高・ユーロ安。

 

●年のはじめに考える 日銀は街に灯してこそ  1/4
米国のトランプ前大統領、トルコのエルドアン大統領、故安倍晋三元首相。この三人には国の経済運営をめぐって共通点があります。それは中央銀行の金融政策に介入したことです。
トランプ前大統領は二〇一九年、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長を「パターのできないゴルファーのようだ。彼が利下げという正しいことをすれば米国は成長する」と酷評しFRBは利下げに追い込まれました。
エルドアン大統領は「金利は最大の敵だ」と繰り返し発言しました。圧力に負けたトルコ中央銀行は一昨年インフレ下にもかかわらず利下げを実施しました。トルコ・リラ安が進みインフレが悪化したのはいうまでもありません。
安倍政権(当時)は一三年一月、日本銀行と政策協定を締結。日銀は政治介入ではないと否定しますが、協定を通じ政権の意向が金融政策に色濃く反映されたのは動かしがたい事実です。
さまよう2%の目標
「日本銀行は、物価安定の目標を、消費者物価の前年比上昇率で2%とする」。協定に盛り込まれたこの一文がその後十年近く日銀の金融政策を縛りました。
投資資金がスムーズに産業界に流れ企業は収益を上げて賃金として還元する。この理想的な好循環を実現するには、消費者物価が2%程度の上昇率を示すことが望ましいと日銀は考えたのです。
日銀は好循環を演出しようと金融緩和を続けます。だが物価は2%を下回り続け国内はデフレの渦に沈んでいきます。やがて2%という数値だけが見果てぬ目標として金融市場をさまよいます。
財政ファイナンス。財政赤字を補うために中央銀行が通貨を増発して国債の直接引き受けなどを実施することです。壮絶なインフレを起こす危険が高いため、原則として財政法で禁止されています。
権力者は支持率アップのため中央銀行にお金を流させようとします。トランプ氏やエルドアン氏は権力を行使して事実上の財政ファイナンスを実施したのです。
政府と日銀はどうでしょうか。日銀幹部に聞くと「直接市場から国債を買っていないから財政ファイナンスではない」という答えでしたが納得はできません。
総合経済対策の裏付けとなった二二年度補正予算は自民党幹部の増額を求める発言を受け一晩で四兆円も増えました。予算が野放図に膨張する背景に、日銀の銀行経由による国債引き受けがあることは間違いありません。
日銀の国債保有率は昨年九月末初めて50%を超えました。「国債を日銀に買わせればいい」。こんな雰囲気が定着する中、財政法の規定は軽視され続けています。
物価の潮目が激変したのはコロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻です。コロナ禍で抑制された消費の反動とロシアの蛮行が起こした資源高で、欧米はすさまじいインフレに直面しました。
欧米各国の中央銀行は景気悪化覚悟で利上げに踏み切り、金利差から円安が加速しました。資源高に円安が加わりインフレの波は日本にも押し寄せました。
昨年十一月の消費者物価指数は前年比3・7%とほぼ四十一年ぶりの上昇を記録。皮肉を込めていえばコロナ禍と戦争により日銀はついに目標を達成したのです。
アベノミクスとの決別
昨年末、日銀は事実上の利上げを実施しました。黒田東彦総裁の決断をいい意味で「驚き」と評価する声もあるが同意できません。
黒田総裁は「大胆な金融政策」を第一の矢としたアベノミクスに忠実で頑(かたく)なに金融緩和を続けました。だが予想外の物価高に直面し利上げに追い込まれたと考えられています。総裁自身が「驚き」、アベノミクスと決別したのではないでしょうか。
アベノミクスに足りなかったのは「第三の矢」の成長戦略です。成長戦略をどう構築するかは引き続き課題ですが、今は暮らしを蝕(むしば)む生活必需品の急激な高騰への対応を優先すべきでしょう。
四月九日、日銀新総裁が就任します。新たな「物価の番人」に期待するのは、暮らしを優先し金利を自在に操る柔軟な姿勢です。柔軟さを持つためには統計を分析したり政府や財界人と対話するだけでは足りません。
総裁自ら小売店やスーパーで買い物を行い、商店街の飲食店で食事をしてほしい。店の人とも話してほしい。トップが暮らしを肌感覚で知ることで統計の分析はより生きるはずです。街を灯(とも)す金融政策を強く期待しています。
●東証400円値下がり アップル・テスラ株下落 日銀金融緩和縮小観測 1/4
先ほど今年の取引が始まったばかりの東京株式市場で、日経平均株価は400円以上値下がりしました。
アメリカでスマートフォンのアップルと、電気自動車のテスラの株価が下落したことで投資家心理が悪化しているとみられます。
また、国内で歴史的な物価高が続く中、日銀は去年12月20日に事実上の利上げを決定しましたが、今年、日銀が金融緩和をさらに縮小するのではないかという見方が市場では広がっています。
●海外投資家、対内中長期債売り越しが過去最大−財務省週次統計 1/4
財務省が4日に発表した対外及び対内証券売買契約等の状況(週次・指定報告機関ベース)によると、2022年12月18日〜24日の週に海外投資家は日本の中長期債を4兆8623億円売り越した。日本銀行による金融緩和の修正を受け、過去最大の売り越しとなった。
日銀は12月20日の金融政策決定会合で、長期金利の許容変動幅をそれまでの0.25%から0.5%に拡大した。市場では事実上の利上げと受け止められ、日銀がさらなる政策修正に向かうとの観測が広がった。海外勢の売り越しは6月に記録した4兆8112億円を上回り、統計がさかのぼれる2005年以降の最大を更新した。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは、海外勢は日銀によるさらなる緩和縮小を見越して、「日本国債を売り建てているのだろう」と指摘。このため、「日銀はせっせと国債を買い続けないといけないだろう」と話した。
●円は131円前半に下落、日銀緩和修正観測による急伸後の反動で売り先行 1/4
東京外国為替市場では円が1ドル=131円台前半に下落している。3日のアジア時間に一時7カ月ぶりの129円台まで急伸した反動から円売りが先行。ただ、日本銀行の緩和修正観測がくすぶる中、一方的に円を売り込みにくいとの声も聞かれている。
三井住友信託銀行ニューヨークマーケットビジネスユニットの土井健太郎主任調査役は、「ドル・円は一回130円を割れてから1円以上戻しているので、東京時間に再び130円割れというのは難しい」と指摘。一方で、「日銀の政策変更が意識されている中では上方向も攻めづらい」とし、日中は131円中心に上下1円程度の値幅を想定している。
日銀が昨年12月にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の修正を決定して以降、円は上昇傾向が続いている。年末には日銀が1月に示す物価見通しを上方修正する検討に入ったと日本経済新聞が報道。さらなる緩和修正の可能性が意識される中、3日のアジア市場では一時129円52銭と昨年6月以来の水準まで円高が進んだ。
一方、米国では景気後退懸念から長期金利が低下。3日の米10年債利回りは14ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低い3.74%程度で、一時3.72%まで低下する場面も見られた。
今週は米国で雇用統計など主要経済指標の発表が相次ぐ。4日には昨年12月の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数のほか、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(12月13、14日開催分)の公表も予定されている。
土井氏は、今週発表の米雇用関連指標やFOMC議事要旨で特に波乱がなければ、いったんは3日に付けた129円半ばがドル・円の底値とみなされるだろうと予想。一方、米指標が予想を下回ったり、FOMC議事要旨がそれほどタカ派的な内容とならなければ、米景気後退が意識され、「多くの人が予想しているようなドル安の流れが出てくる」とみている。
●2023年の経済予測 内需の底堅さで、緩やかな景気回復継続 1/4
新型コロナウイルスが収束したとはいえないが、行動制限がなくなり、社会は少しずつ正常化しつつある。エコノミストの宅森昭吉氏は、これまで我慢していた旅やレジャーなど個人消費は底堅く、新時代対応の設備投資が出て緩やかな景気回復が継続すると予測する。
インバウンド再開などで上向きに
2022年日本の実質国内総生産(GDP)は新型コロナウイルスの感染状況などで一進一退の推移となった。1〜3月期と7〜9月期はマイナス成長だったが、4〜6月期は前期比年率+4.5%と高めのプラス成長になった。10〜12月期はコロナ第8波の懸念はある中でも、行動制限はとられずに、インバウンドや全国旅行支援効果などでプラス成長が見込まれる。
12月の日銀全国企業短期観測調査(短観)では、大企業・製造業・業況判断指数(DI)が+7と9月から1ポイント低下した。原材料高・円安によるコスト高などから4期連続の悪化となった。
一方、大企業・非製造業・業況判断DIでは、9月から5ポイント改善し、12月では+19になった。コロナ禍前の2019年12月の+20以来の水準だ。インバウンドや旅行支援策の後押しで宿泊・飲食サービスなどが改善した。
大企業に中堅企業、中小企業を合わせた、全規模・全産業の業況判断DIは3月の0から、6月∔2、9月+3、12月+6と3期連続で改善した。12月は全体としてみると、景況感は大企業・製造業は4期連続で悪化したものの、その他のカテゴリーは上向き傾向で、全体として緩やかに改善したと言える。
人手不足が賃金上昇につながるか
先行き(全産業)は∔1にとどまった。世界景気の先行き、インフレ動向、欧米の中央銀行の金融政策、為替相場の行方、新型コロナウイルス感染状況など様々な懸念材料による、世界景気の不透明さが濃く、企業は慎重な姿勢を崩していない。
12月調査の雇用人員判断DI(「過剰」−「不足」)では製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業の全ての組み合わせのDIが2桁のマイナスで、変化幅も全てマイナスになり、人手不足感が増した。先行き見通しも、「最近」からの変化幅が全ての組み合わせでマイナスと不足感が拡大している。企業の雇用人員判断が、賃金の上昇につながっていくか注目される。
消費、DX投資で3年連続プラス成長へ
「ESPフォーキャスト調査」は40人弱の民間エコノミストのコンセンサス調査として日本経済研究センターが毎月実施している調査である。過去18年をみると、ESPフォーキャスターの予測平均値はパフォーマンスが高く、信頼度が高い。
12月調査で、2023年度の予測平均値は+1.07%の増加である。新型コロナウイルス感染が拡大し実質GDPが4.1%と大幅減だった2020年度から増加に転じ、+2.5%だった2021年度、+1.65%が予測平均値の2022年度に続き、3年連続プラス成長になると予測されている。
金融引き締めの影響などで2023年米国・実質GDPが予測平均値+0.52%と減速するなどで外需の寄与度は0.1%と弱いとみられるが、民需の寄与度は+1.0%と底堅く、内需全体の寄与度の予測平均値は+1.2%である。コロナ禍で我慢してきた旅行・レジャーなどの増加で個人消費は底堅いとみられる。また、先行きの不透明さから先送りされてきた設備投資はデジタルトランスフォーメーション(DX)投資などを中心に新しい時代に対応するために増加基調を保つと予測される。
また、消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の予測値は、2022年度2.76%だが、2022年10〜12月期の+3.61%がピークで、2023年度は+1.73%に鈍化するというのが平均予測値だ。
最大リスクは米国景気の悪化
ESPフォーキャスト調査では特別調査も実施されている。2020年9月から奇数月に、「景気のリスク」をフォーキャスターが3つまで挙げている。2021年9月調査まではずっと「景気のリスク」の1位は「新型コロナウイルス感染状況」だった。2021年11月調査以降、首位が毎回入れ替わる状況を経て、2022年11月調査では3回連続で「米国景気の悪化」が1位となっている。米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅な利上げが続いたことで、2023年前半に景気後退になるか、ならなくてもかなり減速することが予測されている。なお、11月調査の第2位は「中国景気の悪化」である。
フォーキャスター全員の総意を示す「総合景気判断指数」を見ると、2023年度各四半期はおおむね70台で景気分岐点の50をかなり上回って推移する。大半のエコノミストは景気拡張が継続すると見ている。
2020年5月の景気の谷の次の景気転換点(山)はもう過ぎたかどうかを聞いたところ、「過ぎていない」が全員で、今後1年以内に山が来る確率の予測平均値は37.6%にとどまっている。ある程度、息の長い回復を見込んでいることを表している。
前向きの挑「戦」の先には…
年末の風物詩である「今年の漢字」、2022年は「戦」になった。現状の景気の明暗分かれる背景を映している。「戦」はロシアのウクライナ侵攻という「戦」争や、その影響で高騰したエネルギー・穀物を主因とした物価高やコロナ禍との「戦」いという暗い面がある。
一方で、サッカーのワールドカップや冬季五輪の熱「戦」や、大谷翔平選手や村上宗隆選手の記録への挑「戦」という前向きな意味もある。人々に勇気や感動をもたらし、景気にとってもプラス要因として働いたとみられる。 
●年始の円急伸、海外勢が主導 広がる日銀の政策修正観測 1/4
2023年は円高で始まった。3日のアジア市場でドルは129円台まで急落し、半年ぶり円高水準を更新した。きょうは130円後半まで持ち直したが、海外勢を中心とした日銀のさらなる政策修正観測が円高圧力を高めている。
「日銀が近く大規模緩和政策を修正することはまずない、との予想が日本ではまだ主流だと説明すると、多くの海外投資家は驚きの表情を見せる。こちらもそれに驚いてばかりだ」──。ある外銀幹部は、海外勢の間に広がる日銀の政策修正期待の強さをこう話す。
米商品先物取引委員会(CFTC)によると、IMM通貨先物・非商業(投機)部門の円の売り持ち高は、最新の12月27日時点で6.7万枚と、21年3月以来、約2年ぶり低水準に減少した。買い持ち高と差し引きすればまだ全体像は売り越しだが、金利差拡大に着目し円を売り込んでいた投機筋は、次第に戦略を転換しつつある。
今年4月には黒田東彦総裁の任期が満了する。新総裁人事はまだ不透明だが、他の主要国が続々とインフレ抑止へ金融引き締めに動く中、日銀も物価上昇を背景に早晩、政策修正を迫られるのは間違いない、との読みが投機筋にはあるようだ。
「黒田総裁は、12月の政策修正を出口への一歩ではないとしているが、市場とのコミュニケーションなく突然の決定だったので、市場は総裁の発言を額面通りに受け止められず、疑心暗鬼になっている」と、ニッセイ基礎研究所のシニアエコノミスト、上野剛志氏は指摘する。
昨年12月、日銀は長期金利の許容変動幅拡大を決定した。当日のドル/円は1日の下落率が3.81%と、ロシア危機やロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の経営危機に揺れた1998年10月7日以来、24年ぶりの大きさを記録した。「いかに大きなサプライズだったか、値動きが示した」(アナリスト)といえる。
日銀はなぜ、大きなショックを与えてでも修正に踏み切ったのか。大和証券シニア為替ストラテジストの多田出健太氏は、岸田文雄政権の意向があったとみる。景気を停滞させかねない金融引き締め的な政策を政府が求めるのは異例だが、「物価高で不人気となった円安政策の是正を含め、アベノミクスから脱却して独自色を強めたい政府が、水面下で日銀に圧力を強めているのではないか」と話す。
岸田首相は3日、文化放送のインタビューで、日銀との共同声明(アコード)について「新総裁と信頼関係を作り、政府と日銀がどう政策を進めるのか、信頼関係と連携のあり方の確認は、今後の大事な仕事だ」との考えを示した。
日銀の金融政策を巡って政策点検の実施や物価見通しの上方修正など関連報道が相次いでいることも、その裏には市場に織り込みを求める政府側の意図があるのではないか、との思惑を増幅させている。円相場は当面、日銀の政策変更見通しに右往左往する不安定な展開となりそうだ。
●東京外為 ドル、一時130円台半ば=日銀緩和修正観測で大幅下落 1/4
4日午前の東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、日銀金融緩和策の修正観測を背景に、一時1ドル=130円台半ばまで下落した。正午現在は、130円81〜82銭と前営業日(午後5時、132円12〜14銭)比1円31銭の大幅ドル安・円高。
前日のアジア時間帯には、「日銀が1月の金融政策決定会合後に新たな物価見通しを示す」との一部報道をきっかけに、一段の緩和策の修正観測が高まり、ドル円は一時129円50銭前後と約7カ月ぶりのドル安・円高水準を付けた。ただ、その後は買い戻しが進み、米国時間序盤には131円台を回復した。
こうした海外市場の流れを引き継ぎ、年明けの東京時間は131円20銭台でスタート。その後は日銀の政策修正観測が改めて意識され、午前9時すぎに130円80銭台まで下落した。仲値にかけては、まだ正月休暇中の国内企業もあることから「方向感が出るほどの取引はなかった」(大手邦銀)とされ、131円台を挟んで小動きに推移したが、日銀政策の修正観測は根強く、午前11時前には130円50銭台に沈んだ。
日本時間今夜には12月の米ISM製造業景況指数や米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨の発表を控えているため、市場では「午後は様子見ムードが強まるだろう」(外為仲介業者)との見方が出ている。年明けから売りが優勢となったドル円相場については、「今後も日銀の政策修正関連のヘッドラインに敏感に反応する、不安定な地合いが続くだろう」(大手証券)との声が聞かれた。
ユーロは朝方に比べ対円で軟化、対ドルは小じっかり。正午現在、1ユーロ=138円20〜21銭(前営業日午後5時、140円74〜77銭)、対ドルでは1.0565〜0565ドル(同1.0651〜0651ドル)。
●26000円割れも一段安に注意 1/4
年明け、大発会を迎えた日経平均は大幅下落でスタート。心理的な節目の26000円を大きく下回り、下向きの5日移動平均線からも下放れている。10月3日の安値25621.96円はかろうじて割り込まずに推移しているが、12月20日の急落以降に形成してきた保ち合いを下放れており、トレンドは一段と悪化している。
引き続き世界経済の景気後退に対する警戒感が相場の上値を抑えている。米国ではスマートフォン大手のアップルや電気自動車のテスラの株価が大幅に下落していて投資家心理を悪化させている。アップルは「iPhone(アイフォーン)」の供給混乱を巡る懸念に加えて、需要鈍化を受けて同社が複数のサプライヤーに対し、一部製品の部品生産を減らすよう指示したなどと一部メディアで報じられていることが嫌気された。テスラは、2022年10−12月の世界納車台数が、値下げなどのインセンティブ提供を実施した中でも市場予想を下振れたことがネガティブに捉えられた。
日本株については為替の円高も重荷となっている。昨日の米国時間においては一時1ドル=120円台を付ける場面も見られた。日本銀行の次期総裁の最有力候補として元日銀副総裁の山口広秀氏を指摘する報道があり、「他の候補者よりもタカ派的な選択肢だ」とする声も聞かれる。米国経済の景気後退懸念に加えて、日銀のさらなる政策修正への思惑が日米の実質金利差の縮小を想起させているようだ。
米商品先物取引委員会(CFTC)によると、投機筋の円のポジションは昨年12月27日時点で約3万8000枚の売り越しとなっている。一時10万枚を超えていた売り越し幅からは大分買い戻されたが、依然として売り越しの状態にあり、今後のさらなる買い戻しやその後の買い越しへの余地を踏まえると、一段の円高進行はなお懸念される。自動車など輸送用機器だけでなく、電子部品などハイテク関連も含めて日本上場企業には円高がデメリットとなる企業が多い。
円高については、海外投資家から見ればドル建て日経平均のパフォーマンス改善につながるとの見方もある。しかし、昨年は記録的な円安進行による日本企業の業績改善が、世界株に対する日本株の相対的な底堅さに寄与していたことを踏まえれば、世界景気の後退懸念に加えて為替リスクも加わった日本株のパフォーマンスはむしろ相対的に厳しいものとなる可能性があろう。
年明けのアジア市況では、中国でのゼロコロナ政策の緩和を好感し、上海総合指数や香港ハンセン指数が3、4日と続伸している。しかし、一方で12月31日に中国国家統計局が発表した12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は47.0と11月(48.0)から悪化、市場予想(47.8)も下振れた。また、非製造業PMIは41.6と11月実績(46.7)及び市場予想(45.0)を大幅に下回った。中国では旧正月に当たる春節入りに伴い、1月下旬から人々の移動がさらに活発化する見込みで、一段の感染拡大を受けたサプライチェーン(供給網)の混乱などのリスクに警戒が必要だ。1−3月期の間に感染がピークアウトし、中国人の間で集団免疫が獲得されることを理由に、今後の中国経済に対する回復を予想する声も多いが、目先は一段の下振れリスクに注意したい。
今晩の米国市場では、米供給管理協会(ISM)による12月製造業景気指数のほか、米労働省による雇用動態調査(JOLTS)や米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(12月開催分)の公表が予定されている。米国経済の景気動向と米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の詳細を確認する重要な手掛かりとされ、注目度は高い。結果を受けて一段とリスク回避の動きが強まる可能性もあるだけに、午後の東京市場は様子見ムードが広がりそうだ。
●卯年の相場跳ねる? 日経平均、大幅反落で幕開け 市場の不安色濃く 1/4
「『卯(うさぎ)は跳ねる』と言われている。縁起の良い格言にあやかり、株式市場も大きく跳躍する年になるよう期待している」――。東京証券取引所で4日に開かれた大発会の式典で、東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)の清田瞭最高経営責任者(CEO)は2023年のえとを引き合いに、株価上昇に期待した。だが、ふたを開けてみれば同日の日経平均株価は大幅に反落。市場の不安心理を色濃く映し出すスタートとなった。
えとの卯(う)にちなむ株式相場の格言は「卯は跳ねる」で、株価が上がる1年とされる。昨年は4年ぶりに年間ベースで株価が下落しただけに、市場関係者は格言通りの株価上昇に期待を膨らませている。
野村証券によると、1927〜2011年の過去8回の卯年のうち、年末の株価が前年末を上回ったのは5回。十二支の中では巳(み)年と並んで7位タイと平均的な成績だ。ところが、上がる時は大きく「跳ねる」。過去8回の年間騰落率を平均すると15・5%で、十二支中3位に浮上する。30%を超えた年が計3回(第二次世界大戦勃発の39年、朝鮮戦争特需の51年、ITバブル期の99年)あるのも特徴だ。
では、今年の相場は実際にどうなりそうか。厳しい滑り出しとなったものの、市場では日本株は上昇の流れに向かうとの見方も多い。世界景気が減速に向かう中、国際通貨基金(IMF)は23年の成長見通しで主要7カ国(G7)中、日本が唯一、前年比でほぼ横ばいを維持すると予想している。日本は物価上昇が米国や欧州各国ほど進んでおらず、マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストは「日本の景気の底堅さが海外投資家の資金を引きつける要因になる」とみる。少額投資非課税制度(NISA)の拡充もプラス材料となり、日経平均の上値のめどは3万2200〜3万4500円と強気の予想を立てる。
これに対し、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジストは、今年の前半は欧米の景気後退懸念の高まりの影響を受け、日経平均は2万5000円台で推移する可能性があるとみる。実際、4日の東京株式市場では前年末比377円64銭安の2万5716円86銭で取引を終えた。「ゼロコロナ」政策の見直しで混乱する中国経済の減速懸念もあり、世界経済の先行きへの不安感が強まっている。
ドル円相場はどうか。昨年は米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレを抑え込むため大幅な利上げを続けたため、一時は1ドル=151円台まで円が売られ、約32年ぶりの円安水準を更新した。しかし、足元では130円台まで円高方向に戻している。昨年後半にかけて世界経済の後退懸念から原油価格が下落に転じ、米国のインフレにピークアウトの兆しが出ている。利上げペースが落ちるとの見方からドル売りが進行。昨年12月には日銀が長期金利の上限を0・5%程度に引き上げており、さらなる上限引き上げへの思惑から円高圧力が強まっている。
23年のドル円相場の見通しについて、大和証券の多田出健太シニア為替ストラテジストは「日米金利差の縮小により円高・ドル安が進む」として、1ドル=123〜133円のレンジを予想。また、SMBC日興証券の野地慎チーフ為替・外債ストラテジストは、FRBが市場予想に反して利下げを決めれば、一気に1ドル=119円まで円高が進む可能性もあるとみている。

 

●物価が上がっても金融緩和をやめてはいけない理由 1/5
大規模金融緩和に対する市場関係者の主張
2013年に日銀が2%の物価上昇を目指して大胆な金融緩和政策を始めたが、目標に届かないまま2021年までが過ぎた。ところが2022年の4月には消費者物価上昇率は2%を超え、その後も勢いは続いている。
この動きを見て、大胆な金融政策の失敗、または緩和政策を解除すべきだという議論があった。例えば、「大機小機 金融政策正常化[大胆な金融緩和政策をやめて金利を引き上げるという意味]、今が好機」(日本経済新聞、2022年5月10日)などだ。
このような主張は市場関係者からなされることが多いが、その中でも、「正常化」すべきではないという意見もある(重見吉徳「【マーケットを語らず Vol.79】日銀は金融緩和を止めるべきか?」フィディリティ投信、2022年10月12日)。
ここにきて、22年12月20日に日銀は大規模金融緩和策を一部修正し、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げることを決めたが、物価が上がっても金融緩和をやめるべきではないと筆者は考える。その理由を述べたい。
エネルギー価格上昇による物価上昇は続かない
確かに現在、物価は上がっているが、これはエネルギーと食料価格の影響によるものだ。図表1は、消費者物価のうち生鮮食品を除く総合(以下、物価)、生鮮食品とエネルギーを除く総合(以下、エネルギーを除く総合)、消費者物価のエネルギー価格(以下、エネルギー)の推移を前年同月比で示したものである。
図表1から明らかなように、エネルギー価格が上がると、生鮮食品を除く総合、生鮮食品とエネルギーを除く総合が上がることが分かる。1970年代の初期にはエネルギー価格が50%上がると物価総合も25%、エネルギーを除く総合も23%に上がっていた。ところが、1970年代末には、エネルギーは50%上がったのに物価は8%、エネルギーを除く総合は7%しか上がらなかった。
つまり、エネルギー価格の高騰が他の物価に影響する程度は大きく低下した。このことは80年代以降も同じで、エネルギー価格の上昇が他の物価に波及する程度が小さくなった。
   図表1 消費者物価とエネルギー価格(1971年-2022年)
70年代の物価上昇率が大きくて80年代の動きが見にくいので、物価が落ち着いた1985年以降の動きを見ると図表2のようになる。
   図表2 消費者物価とエネルギー価格(1985年-2022年)
これを見ると、エネルギー価格が上昇すると物価が一般に上昇するが、それは持続せず、エネルギー価格の上昇が一服し、物価一般も落ち着くことが分かる。
なぜそうなるかといえば、第一に、エネルギー価格は永久に上昇する訳ではないからからだ。例えば、今年、原油価格が1バレル=100ドルになったからといって、来年200ドルに、再来年400ドルになる訳ではない。高くなれば増産する国が現れ、長期的には、新たな油田が開発され、シェールオイルのような別の地質からの原油が発掘される。
また、いずれは再生可能エネルギーのコストが低下していく。今年100ドルになれば、それが高いまま続くというのがせいぜいだろう。また、実際には低下してしまうことも多い。2009年、13年、19年はそのような例である。22年から23年にかけても、そのようになるだろう。
第二に、エネルギー価格が上昇すれば、その分だけ他のモノが買えなくなるからだ。他のモノへの需要が減って物価は上がらない。需要が減って不況になり、それがエネルギー価格に及ぶこともある。日本の場合、エネルギーは海外から購入しているのでなおさらだ。所得が海外に流出して、それだけ貧しくなっている。つまり、エネルギー価格の上昇で物価が永続的に上昇することはありそうでない。
政策提言と物価予想が矛盾しているエコノミストたち
日本のエコノミストの予測を平均したESPフォーキャスト調査によると、22年10〜12月期の消費者物価上昇率は3.61%だが、23年10〜12月期には1.38%に低下してしまう(ESPフォーキャスト調査、2022年12月15日)。そうすると、物価上昇率は低下すると予想しながら、金融を引き締めろと主張しているエコノミストが多数いることになる。引き締めれば、さらに物価上昇率は低下する。インフレだから引き締めよと主張するエコノミストは、予想と政策が矛盾している訳だ。
話を戻して、現在物価は上がりにくくなっているのに、1970年代初めに、永続はしなかったが20%以上の物価上昇率となったのはなぜか。
その理由は、物価がすでに上がりだしていたからだ。他の時点を見ると、エネルギー価格が上昇してから物価が上がっている場合が多い。70年代末、87年、2009年、13年、19年、22年もそうである。
ところが、1970年代初めには景気が過熱しており、前掲図表1に見るように、すでに物価が上昇していた。その後にエネルギー価格が上昇し、それが物価をさらに引き上げた。
また、企業は十分な利益を上げていたので生活防衛のために賃金引き上げを求める労働者の要望を受け入れた。賃金の上昇によって需要は落ちず、物価上昇が続いて20%以上のインフレとなった。
フィリップス・カーブが教えてくれること
現在のエネルギー価格の上昇によるインフレを、賃金上昇とさらなる物価上昇に導いていけばよいのではないかという意見がある。20%のインフレ率は困るが2%のインフレになれば望ましいというのである。
それを示すのが、図表3のフィリップス・カーブだ。フィリップス・カーブとは、横軸に失業率、縦軸に物価上昇率を描いたものだ。
一般に、失業率が低下すると物価が上昇するという関係がある。失業率が低いとは景気が良いことで、景気が良ければ物価も上がるという関係を示している。これはある程度の物価上昇(例えば2%)を許容すれば失業率が下がることも示している。失業率が低ければ、新卒の就職率も改善し、就職氷河期はなくなる。13年の大胆な金融緩和以来、コロナショックがあったにもかかわらず、若者の雇用はあまり悪化していない。
図表のフィリップス・カーブは、失業率が下がると物価が徐々に上がり、失業率が2%に近づくと物価が急に上がるという関係を示している。この関係から、物価が2%に近づいたら、上がり過ぎないように金融政策を慎重に運営すべきだと分かる。
ただし、カーブが、波打っている部分がある。失業率が3%のあたりで物価上昇率が低下し、失業率が3.5%〜4.0%あたりで上昇している。これは、図表1、2で見たエネルギー価格の上昇によるものである。
エネルギー価格の上昇は景気が悪い時でも良い時でも起こり得る。たまたまエネルギー価格が、失業率が3%のあたりで下落し、失業率が3.5〜4.0%あたりで上昇したということである。
失業率2.5%、物価上昇率2%以上のところで、ほぼ垂直に並んでいる点(図表3の赤いだ円で囲んでいるところ)は22年4月からのエネルギー価格の高騰を反映したものである。失業率の低下を反映した物価上昇ではなく、資源価格の上昇を反映したにすぎない物価上昇を見て金融引き締めに走れば、2%余という低い失業率と2%の物価上昇の領域(図表3の紫の円で囲んでいるところ)に到達することができない。
   図表3 フィリップス・カーブ(1990-2022年)
つまり、現在の物価上昇はエネルギー価格の上昇によるものである。エネルギー価格の上昇によるインフレは持続しない。それを反映して、多くのエコノミストが23年末には1%余になってしまうと予測している。この段階で、物価が上がっているからといって金融引き締めに転じれば、再びデフレに戻るだけだ。
●日銀が金融緩和を修正で…住宅ローンの7割以上を占める「変動金利」は? 1/5
低金利時代は終わりを告げようとしているのか。昨年末、日銀は金融政策決定会合で長期金利の変動幅の上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げたことが、早くも住宅ローンに影響している。
大手銀行は1月から適用する10年固定の住宅ローン金利を、0.1%から0.3%ほど引き上げた。日銀の黒田東彦総裁は、「出口の一歩ではない」と自ら進めてきた金融緩和の路線変更を否定したが、これは序章に過ぎないのか。
「欧米で起こっている急激なインフレの波が日本にも到来し、結果インフレ率が高まれば、本格的な利上げが始まる可能性が高まります。当然、住宅ローンをはじめ、不動産市場全体に影響を与えることになります」
そう話すのは、不動産アナリストの長谷川高氏。気になるのは、住宅ローンの7割以上を占める変動金利への影響だ。
「長期金利に連動する固定金利が引き上げられましたが、短期金利は依然、マイナス金利が適用されているため、変動金利の幅は変わりません。しかし、さらにインフレが続けば、日銀も政策金利を引き上げ、金利政策を変更せざるを得えないでしょう」(長谷川氏)
だが、変動金利の上昇局面が来ても、毎月の支払額が急激に増加するわけではないとのこと。
「変動金利の住宅ローンの多くはあらかじめ家計への配慮がされており、金利が上昇しても5年間は毎月の支払額が変わらなかったり、増えても1.25倍までというルールが適用されます。ただし、金利上昇分の先送りでしかないため、支払総額は増えることになります。インフレが続き、仮に1%だった金利が将来3%、5%と上がれば、家計破綻の可能性は出てくるでしょう」
資産価格だけが高騰していた1980年代とは様相が異なると、長谷川氏は話す。
「世界中であらゆるものの価格が上がっている影響で、インフレが長期で継続する可能性も否定できませんが、日本の場合、米国のように賃金が上がっていないのに、商品やサービスの価格が上がっている状況です。金利を上げ過ぎると借入金の利払いが増え、設備などへの投資が減少してきます。そうなると、経済そのものを停滞させ不況を招く恐れも出てきます」
4月には日銀総裁が交代するが、“黒田ショック”は庶民の生活にどのような影響を及ぼそうとしているのか。
●物価見通し、上方修正検討 22〜24年度―日銀展望リポート 1/5
日銀は今月17、18両日の金融政策決定会合でまとめる最新の景気予測「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の中で、2022〜24年度の物価見通しを上方修正する方向で検討に入った。食料品を中心に値上げが相次ぐなど、原材料価格の上昇を価格に転嫁する動きが想定以上に広がっていることが背景にある。
昨年10月に公表した前回の展望リポートでは、消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率の見通しについて、22年度は前年度比2.9%、23年度は1.6%、24年度は1.6%としている。日銀は、22、23両年度に関しては小幅の上方修正を検討。24年度の見通しでは、政府が電気料金の負担を軽減する物価高対策の終了で上げ幅が広がる可能性がある。
ただ、政府の物価高対策などの影響によるデータの変動もあり、日銀内では「エネルギー関連価格を除いた方がより物価の基調を正確に把握できる」との見方が出ている。生鮮食品に加えてエネルギーを除いた消費者物価の24年度の見通しは、日銀が物価目標として掲げる2%には達しない公算が大きい。
このため、1月会合では、大規模な緩和政策からの脱却に向けた「出口戦略」としての金融引き締めには慎重な意見もある。 
●日経平均株価は前日比103円高 日銀金融政策を見極めたいと上げ幅は限定的 1/5
1月5日の日経平均株価は反発。
アメリカ株式市場が上昇した流れを引継ぎましたが、日銀の金融政策を見極めたいとの思惑から上げ幅は限定的でした。
終値は前日より103円高い、2万5820円でした。
東証マザーズ指数は713.83、東証REIT指数は1865.93でした。
●「岸田不況」到来! 急激な円高を招く日米真逆の金融政策… お先真っ暗 1/5
「新自由主義的発想から脱却し、官と民の新たな連携の下、賃上げと投資の分配を強固に進める」──。4日の年頭会見で岸田首相はそう言ってのけたが、「急激な円高」により、今年の賃上げにも暗雲が漂う。為替頼みの経済政策が招く“岸田不況”の到来だ。
昨年10月に1ドル=152円に迫ったドル・円相場は、足元では130円前後と2カ月半で20円も円高に振れた。しかし、市場関係者の間では「さらなる円高は必至」との見方が支配的だ。
日経ヴェリタスが67人の市場関係者に円の対ドル相場を聞いたところ、2023年内の高値平均は1ドル=122円で「120〜126円未満」との回答が全体の7割に達した。
「昨年は米国が利上げを繰り返しましたが、日本はマイナス金利を維持し、急激な円安を招きました。今年は、米国の利上げの休止や利下げがささやかれる中、日本は金融緩和を修正し、“利上げイヤー”になる可能性が高い。真逆の金融政策なので、日米金利差は一気に縮小し、急激な円高を招きかねない。政府・日銀は急激な為替変動を問題にしますが、自らの金融政策がそれを引き起こしているのです」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
ヴェリタスのアンケートでは、米国のフェデラルファンド(FF)金利のピークは「23年1〜3月期」との回答が最多の61%。「23年10〜12月期」に利下げを始めるとの回答が50.8%もあった。米国の利上げはすでに“最終コーナー”に突入しており、年内の利下げも十分あり得るのだ。
一方、日銀の「次の一手」について、金融政策の「現状維持」は26.6%にとどまり、多くの市場関係者はさらなる緩和の修正を見込んでいる。すでに日米真逆の金融政策は織り込み済みだ。
インバウンド増加にも冷や水
急激な円高が進めば輸出企業にはマイナスとなる。12月の日銀短観によると今年度下期の想定為替レートは1ドル=132.31円。120円台の円高は輸出企業の収益悪化につながる。トヨタは1円の円高で年間約450億円の営業利益が吹っ飛ぶ。
「春闘で賃上げをリードするのは輸出大企業とみられていました。昨年の大幅な円安で大きな利益を上げ、さすがに賃金に還元するだろうとの見方です。ところが、急激な円高が進むと、経営者に賃上げを阻む“口実”を与えてしまう。岸田首相は4日、『インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい』と強調しましたが、輸出企業の賃上げがパッとしないと物価高に見合う賃上げは到底できない」(市場関係者)
急激な円高は輸出のみならず、岸田政権が期待を寄せる「インバウンド増加」や、企業の国内回帰などの「対内直接投資」にも水を差す。
「岸田政権も安倍、菅両政権同様、円安を前提にした経済政策が目立ちます。円安をアテにした政策は、為替の変動に一喜一憂する脆弱なものです。一方で岸田政権は増税など負担増はしっかり進めています。これでは足腰が強い経済にならない。今年は岸田不況とも言える一年になるのではないか」(森岡英樹氏)
お先真っ暗だ。 
●保有国債、過去最高の564兆円 22年末 日銀 1/5
日銀は5日、2022年12月末時点の国債保有残高が564兆1557億円になったと発表した。
残高は年末として過去最高を更新した。世界的にインフレが進行する中、市場で日銀の金融政策が縮小するとの観測が浮上し、長期金利の上昇(債券価格の下落)圧力が台頭。日銀は過度な金利上昇を抑え込むため、積極的に国債を買い入れたことから、保有残高の拡大につながった。
●日経平均は反発、景気後退と利上げ長期化への警戒感が上値抑制 1/5
日経平均は反発。4日の米株式市場でダウ平均は133.40ドル高と反発。米11月JOLTS求人件数が予想を上回ったほか、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録や米ミネアポリス連銀総裁の発言で当局のタカ派姿勢が確認されたことが重荷となった。一方、米12月ISM製造業景気指数の下振れなどを背景に米長期金利の動きが落ち着いていたため、押し目買いが優勢となった。ナスダック総合指数は+0.69%と反発。米国株の反発を受けて日経平均は108.64円高からスタート。香港ハンセン指数の続伸劇や為替の円高進行の一服も支援要因に買い戻しが先行し、前場中ごろには25947.10円(230.24円高)まで上げ幅を拡大。一方、心理的な節目を手前に騰勢一服となると、その後は上げ幅を縮小。今週末の米雇用統計や今後の日銀の金融政策動向への警戒感が様子見ムードを強めさせたようだ。
大引けの日経平均は前日比103.94円高の25820.80円となった。東証プライム市場の売買高は11億2800万株、売買代金は2兆5881億円だった。セクターではガラス・土石、電気機器、サービスが上昇率上位となった一方、保険、銀行、空運が下落率上位となった。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体の36%、対して値下がり銘柄は61%だった。

 

●日銀の「超低金利固定」からの脱却はなぜ「必要だが困難」なのか 1/6
日銀がついに2022年12月20日野金融政策決定会合で、事実上の金利引き上げに踏み切った。これは金融政策正常化への一歩となるのか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏の寄稿を2回に分けてお届けする。
急激な円安の進行が一段落するなか、日銀の黒田総裁は出口の議論は時期尚早と位置づけ、粘り強く金融緩和を続けることをひたすら標榜してきた。しかし、12月20日の金融政策決定会合で、日銀は、YCC(イールドカーブ・コントロール)の手直しという名目で事実上の金利引き上げに踏み切った。
日銀の金融政策の中核にあるYCC
これは、金融政策正常化への適切な第一歩なのだろうか。以下では「金融政策の正常化」について、現在の金融政策の中核をなしているYCCからの脱却に論点を絞る。
むろん、現在の日本の金融政策にはYCC以外にも他の先進国に例をみない緊急避難的な枠組みが混在する。例えば、日銀による民間企業の株式の大量取得だ。これは資本主義の根幹を揺るがしかねない要素をはらむ。ETFを介して日銀が大量に購入してきた株式をどう処理するかは、国債によるバランスシートの水膨れ対応よりも格段に難しい。国債には満期があり、満期が到来するとバランスシートから落ちるが、株式は満期がないからだ。このため、株式はいつまでも日銀のバランスシートにとどまり続ける。何もしなければ、中央銀行が多くの企業の大株主だったり、筆頭株主だったりし続ける、というおよそ社会主義国家のような事態が続く。
それをどう解消していくのか、というのも大きな問題だ。こうした問題の存在は出口の議論を複雑にしているが、金融政策の根幹であるYCC解除とはいちおう切り離せる問題なので、本稿では取り上げない。
中国のゼロコロナ政策と酷似したYCCの弊害
ところで、YCCの方は、なぜ解除が難しいのだろうか。それは、YCCが中国のゼロコロナ政策と類似の問題を引き起こしているからだ。
中国は、コロナの感染拡大という差し迫った脅威・リスクなどを理由に、特定の都市や地域で自由な外出や移動を厳しく制限してきた。同様に、YCCのもとで、政策金利である翌日物だけでなく、本来は市場の経済観に応じて自由に金利が形成されるべき10年物の国債金利も日銀が固定してきた。YCCは、中国がゼロコロナ政策で人流の感染拡大の影響を抑え込んだように財政拡大の金利への影響などを抑え込んできた。
中国のゼロコロナ政策の厳格な行動制限は、当初、大成功した、と喧伝された。その成功の幻想の下で医療体制の整備は立ち遅れ、欧米の先進型のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン導入や接種など、国民のコロナ感染への耐性強化といった課題は先送りされた。だが、厳格な行動制限は永続化するほどひずみが拡大する。それが極限に達した結果、習近平政権のゼロコロナ政策は破綻した。感染力の強いオミクロン株が蔓延するなか、これまでの厳格な行動制限は人民の忍耐の限界を超えたため持続困難になり、中国政府はオミクロン株の弱毒性をもちだしてゼロコロナ政策を撤廃した。
中国政府はゼロコロナ政策をなぜもっと早く解除できなかったのか。これまでの政策の帰結として、中国国民は有効なワクチン接種も十分な集団免疫のいずれも達成されていない。そうした状況下でゼロコロナ政策を打ち切れば、感染者数・死亡者数が激増する。現に、そうなりつつあるようだ。中国で、新型コロナとの闘いがいつ・どのように終わるかは、現時点では誰にもわからない。
YCCによる行動制限長期化の弊害
日本で、YCCからの離脱と正常化はいずれ必要と認識されながら、日銀がその方向に舵を切れなかった事情も類似している。2年間の短期決戦であったはずの異次元緩和は、当初は大歓迎された。他方で、2%の物価目標は達成される気配がなく、長期戦となるなかで、YCCへ形を変えた。しかし、この異形の金融政策は、日本の課題を解決することなくむしろ日本衰退につながった。
たしかに、超低金利により、ゾンビ企業も含めて多くの企業が倒産を免れたことで大規模な失業は発生しなかった。だが、生き延びることを主眼とした企業経営のもとで生産性は伸び悩み、先進国の中でほぼ日本だけ賃金が上がらず非正規雇用が増えるなど雇用の質は低下し、非正規雇用の労働者を中心に、将来所得への不確実性と不安も高まった。日本の多くの企業は、ひたすら行動制限だけを続けて感染に脆弱になった国の市民に近い。他方、財政はほぼゼロの利払コストを前提としてバラまきに傾斜し、ワイズ・スペンディングの意識は希薄化した。日本経済に新陳代謝や市場経済のダイナミズムを取り戻すためには、金融市場に市場機能を回復させることは不可欠だ。
YCC解除により金利のオーバーシュートが起きるリスク
しかし、中国のゼロコロナ解除が感染の急拡大を招きつつあるのと同様、YCCからの不用意な離脱は、10年物金利を急騰させかねず、大きな混乱を招きかねない。日銀のYCC同様、3年物金利にターゲットを設定していたオーストラリア連銀(RBA)は、2021年11月に3年物金利についての目標(YT)を解除したが、その過程で市場の混乱を招き、オーストラリア連銀は、その名声(reputation)も大きなダメージを被った。健全な財政運営や経済の新陳代謝には適正なプラスの金利が必要だとしても、ゼロ金利を所与の条件として生き延びてきた多くの企業を急激な金利上昇にさらせば、実体経済を大きく動揺させかねない。このようにYCCは中国のゼロコロナ政策と同様のジレンマを抱えている。
それでは、今回のYCCの修正は金融政策正常化への適切な第一歩になるのだろうか。・・・
●ホットストック:銀行関連がしっかり、日銀の追加修正への思惑から 1/6
銀行関連がしっかり。みずほフィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループなどの大手行が堅調に推移しているほか、秋田銀行や千葉興業銀行もそれぞれ約2%高となっている。
市場では「昨日の入札結果を受け、今後、日銀によるさらなる金融政策の修正が実施されるとの思惑で、買われているのだろう」(国内運用会社のストラテジスト)との声が聞かれた。5日に財務省が実施した10年物国債の入札では、最高落札利回りが0.5%となり、日銀が昨年12月に引き上げた長期金利の上限に達した。
一方、三菱UFJフィナンシャル・グループは前日比でマイナスとなっており、「ここ最近、比較的好調だったので利益確定の売りが出ているのではないか」(同氏)との声が聞かれた。
●失敗を繰り返すな 回復軌道に乗るまで金融緩和と不退転の決意を明確に 1/6
令和5年がスタートした。「ことしこそは日本再生元年」と賀状に書いたが、気がかりなのは財政と金融政策である。政府と日銀は足並みをそろえ、内需がしっかりとした回復軌道に乗るまでは、金融緩和と機動的な財政出動を堅持する不退転の決意を明確に打ち出すべきだ。
実際はどうか。財政のほうは、岸田文雄政権が2年後以降の防衛増税を企図している。新年度政府予算案も緊縮路線の上にある。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁のほうは昨年12月20日に長期金利の変動許容幅を従来の0・25%程度から0・5%程度に広げたが、アベノミクスの主柱である異次元金融緩和解体の始まりで、利上げに転じるとの憶測を招いてしまった。
増税と利上げは、だれでも分かる通り、民間の景気回復期待を萎えさせる。来春闘での賃上げ気運に冷水を浴びせることになる。
財政面でも防衛費増額財源確保のため、岸田政権は来年度当初予算から引き締め気味の財政運営に転じようとしている。同12月23日に閣議決定した予算案について、財務官僚に誘導されているメディアは「一般会計総額が過去最大の114兆3812億円」(24日付日経新聞朝刊)というふうに、あたかも拡張型のように一斉に報じたが、無知蒙昧の極みだ。政府案の税および税外収入合計は今年度当初予算に比べて8兆円以上の増収だが、国債費を除く歳出は5・8兆円余増で、この差額が民間需要を奪う緊縮効果となりかねない。しかも防衛増税が先に待ちかまえている。
黒田総裁は長期金利上限引き上げについて、「利上げではない」と盛んに強調するが、市場の長期金利上昇圧力を払拭できない。「量」の面でも異次元緩和の「軌道修正」の印象が否めない。日銀資金発行残高が縮小基調にあるからだ。
市場の思惑を大きく突き動かす背景は、黒田総裁が4月に任期終了を迎えることだ。後任候補で有力視されるのは雨宮正佳副総裁ら日銀生え抜き組だが、日銀は伝統的に引き締めに傾斜し、緩和に後ろ向きである。現時点はリフレ派が優勢だが、黒田後は少数派に転じかねない。そうなると、メガバンクなどの不満が強いマイナス金利を止め、利上げが進みやすくなる。
一般論では借り手が得するマイナス金利は異常であり、正常化しなければならない。だが、日本経済は高インフレの米欧と違ってデフレ圧力が強いままだ。マイナス金利解除を号砲に、円高が急激に進行しかねない。現に、今回の長期金利上限引き上げのみの調整だけで、円買いラッシュが起きた。利上げと円高は共にデフレ圧力となり、企業の設備投資や家計の消費意欲をそぐ。
今は、円安が追い風になって設備投資が上向き、賃上げのコンセンサスも生まれつつある。これまでの脱デフレの好機では、政府と日銀が緊縮財政または金融引き締めで壊した。とりわけ岸田首相は繰り返す愚を肝に銘じるべきだ。 
●日銀はYCCの再修正急がず、12月決定の影響と効果見極め-関係者 1/6
日本銀行は、昨年12月の金融政策決定会合で決めたイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の運用見直しの影響と効果を見極める局面にあり、現段階でさらなる修正を急ぐ必要はないとみている。複数の関係者への取材で分かった。
日銀は17、18日に開く金融政策決定会合に向け、ぎりぎりまで経済・物価情勢や金融市場の動向を見極めて政策対応の是非を判断する。
関係者によると、昨年12月の政策修正が市場に予想外と受け止められたことで、しばらくは債券市場のボラティリティーの高い状態が続くのはやむを得ないと日銀はみている。損失を被った投資家などの債券売り需要が収まり、新たな金利水準の目線が形成されるまでは、月間9兆円に拡大した国債買い入れの新たなめどにこだわらない積極的なオペで市場を支える必要があるという。
日銀はYCCの再修正を急がないとの報道が伝わった後、外国為替市場では円売り圧力が強まり、対ドルで一時134円37銭まで下げ幅を拡大した。 報道前は133円90銭前後で推移していた。
日銀は12月会合で、現行のYCC政策における長短金利目標を維持しつつ、長期金利(10年国債利回り)の許容変動幅を従来の上下0.25%から同0.5%に拡大した。市場機能の改善が狙いだが、足元の長期金利は上限の0.5%に達し、残存8、9年の金利が長期金利を上回るなどイールドカーブのゆがみも解消されていない。
市場には、市場機能改善を名目としたさらなる変動幅の拡大など追加的な政策修正の観測もくすぶる。関係者によると、今後の社債の発行状況など企業金融面を含めた政策修正の効果を見極める局面と日銀はみている。多様な年限の指し値オペや臨時の国債買い入れなど、金融緩和継続の強い姿勢をオペの積極化や工夫で示すことが重要であり、追加的な政策修正の段階にはないとの声もある。
日銀は足元の金利上昇を抑えるため国債の買い入れを増やしている。6日の債券市場では新発10年債の取引が0.50%で成立。日銀が12月に引き上げた許容変動幅の上限に達した。
変動幅上限を上回って金利上昇が続けば、日銀がさらに上限を引き上げるか、あるいはマイナス金利政策を放棄するとの臆測に拍車が掛かる可能性がある。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)は、日銀のさらなる政策修正を織り込んでいる。  
展望リポート
会合後に新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)が示される。関係者によれば、原材料高やこれまでの円安に伴うコスト上昇を価格に転嫁する動きが、前回の昨年10月の展望リポートの想定を超えて広がっている。
消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の想定は、見通し期間である2024年度まで全ての年度で上方修正される可能性があるという。政府の総合経済対策における電気・ガス料金の負担軽減策は23年度を中心にコアCPIを抑制する要因になる一方、その反動も含めて24年度の見通しは現在の前年比上昇率1.6%から同2%前後に引き上げる可能性を関係者は指摘した。
景気は日銀が想定しているシナリオに沿って改善を続け、賃上げ機運の高まりも背景に物価の基調的な動きも着実に強まっていると日銀では判断している。しかし、日銀が目指す持続的・安定的な2%の物価目標の実現には春闘における賃上げの動向とその持続性や、減速感を強める海外経済など見極めるべき要素が控えており、経済・物価情勢を踏まえた金融政策の修正にも慎重な意見が多い。
●地方債の表面利率が上昇 1/6
日銀が金融政策を一部修正し長期金利が上がった影響で、地方自治体が発行する地方債の「表面利率」が上昇している。自治体にとっては、利払い負担の増加に直結する。金利の上昇が続けば、財政が悪化し住民サービスの低下につながる恐れがある。
表面利率は債券の額面価格に対して、毎年支払う利子の割合。広島県、札幌市、浜松市、京都市が6日、日銀の政策変更後初めてとなる10年債の表面利率を公表し、いずれも前回発行分から引き上げた。他の自治体も追随する見通しだ。
浜松市は償還期限が10年の地方債の年利を0・800%に設定した。大規模な金融緩和策導入前の2013年1月以来の水準。
●長期金利 日銀上限の0.5%到達 政策修正から半月で上限に 1/6
金利が上がっています。きょうの債券市場で、長期金利が日銀の設定する上限の0.5%に達しました。日銀が金融緩和の修正を行ってから半月で上限に到達しました。
きょうの債券市場では、長期金利の代表的な指標となっている10年ものの国債の利回りが上昇し、一時、0.5%を付けました。長期金利が0.5%になるのは2015年7月以来7年半ぶりで、日銀が2016年にマイナス金利政策を導入してから初めてのことです。
日銀は先月の金融政策決定会合で、これまでの政策を修正し長期金利の利回りの上限を0.5%程度に引き上げることを決定。これについて黒田総裁は「利上げではない」と説明していましたが、実際には長期金利の上昇が続いていて、日銀の決定からわずか半月で上限に達しました。
市場関係者は「このまま国債利回りが0.5%で動かなくなった場合、日銀がさらなる政策修正に迫られる可能性がある」としています。
●値上げラッシュに円急騰…2023年の日本経済はどうなるか 専門家予測 1/6
日銀の黒田総裁は全国銀行協会の新年の会合で、金融緩和を続け、景気を支える必要性を強調した。岸田総理は年頭の会見でインフレ率を超える賃上げの実現を強く訴えている。
2023年の日本経済はどうなるのだろうか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』は、元日銀政策委員会審議委員で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏に話を聞いた。
――1月3日には一時1ドル129円台まで円が急騰したが、去年の10月21日には151円台まで急落した。2023年の円相場はどうなるか。
「今年は円高になると思う。そもそも昨年円安が進んだ背景は、日本の構造の問題や国力の低下などとも言われたが、やはり日米の金利差の拡大。アメリカで利上げの姿勢がやや変わってきて、年末には日本銀行も政策修正に動いたということで、日米双方から金利差が縮小する可能性が出てきている。今年いっぱい円安の修正、あるいは円高が進むのではないかと予想している」
――黒田総裁は4月に任期満了となるが、総裁の交代で日銀の政策は変わるのか。
「(政策が変わる)可能性は高い。過去の傾向をみても、日本銀行の金融政策が大きく転換するのは総裁が変わるタイミング。今回は明らかに政策が修正、または正常化の方向に向かう。今年中に実際どの程度日本銀行が動けるのかは、経済や物価、為替の動向次第。世界経済が悪化すれば日本経済も巻き込まれて景気後退になり、アメリカで利下げ期待が出てくるので、円が急激に高くなる可能性がある。こういう時に日本銀行がマイナス金利解除に動くと、急激な円高を招いてしまうおそれがある。政策の姿勢は総裁が代われば変わるが、実際に動けるかどうかは外部の環境による。私は今年中に大きな政策変更を行うのは難しいと思う。ただ、市場でも政策修正の観測は残るので、その結果として年末にかけて120円程度まで円高が進むと予想している」
――円高はどこまで進むか。
「年の半ばにかけて、円高のペースが上がる。一時的には111円台に入る可能性もある。年末にかけては若干戻して120円程度になると予想している。一方で、ドル円レートの均衡水準は112円ぐらいで、年内にはそこまではいかないと思っている。例えば来年に日本銀行が本格的な金融政策の正常化に動くことになると、それを織り込んで来年には均衡水準が112円にまで達する可能性がある」
――2022年は記録的な値上げが続き、食品値上げによる標準的な世帯の家計負担が年間6万8760円増えたという試算もある。値上げラッシュは2023年も続きそうか。
「消費者物価指数の統計でも、おそらく12月は前年比で4%に達し、消費者にとっては日々購入する食料品などの値段はもっと上がっている感覚だろう。値上げの動きはまだ続くが、世界全体でいうと市況が下がって円高になると輸入物価が下がる。だから、私は(今年の)半ばから後半にかけては値上げの動きは収まってきて、世界全体で結果的には物価の上昇率が下がると思う。その代わりに景気が悪化するので、景気を犠牲にしてようやく物価の安定を取り戻していく1年になる」
番組コメンテーターで東京工業大学准教授の西田亮介氏は、木内氏に「物価は高止まりするという見立てでよいのか」と質問。次のように回答した。
「物価の水準が下がるところまではいかないが、物価上昇率は下がっていくと思う。仕入れ価格の上昇を十分に転嫁しないような状況がまだあるが、国内の景気がかなり弱くなれば値上げはできなくなっていく。日本経済自体に景気が悪くなる要素はあまりないように思うが、リスクは海外にある。輸出が落ちれば日本経済全体の足が引っ張られて、企業は価格転嫁の途中で頓挫してしまう可能性が高い」
――岸田総理は年頭会見で「賃上げを何としても実現しなければならない」と述べたが、叶うだろうか。
「少し叶うと思っている。1年前は企業に対して賃上げを求める、あるいは賃上げ促進税制で賃上げを促すことを掲げていた。今回は構造的な賃上げを掲げていて、生産性や労働市場の移動を高めることで生産性を高めていく。産業構造の高度化を促していくことに応じて実質、賃金が上がっていく。この方向に政策の舵を切ること自体は正しい。日本経済はなかなか成長が見込めないので、ベアには慎重。生産性が上がれば労働者に転嫁されていくので、政策の考え方としては良い方向に修正されてきた。今年の春闘にすぐに影響が出てくるわけではないが、昨年の物価高の影響が転嫁されていくので、少し高めにはなる。昨年はベアが0.5〜0.6%ぐらいだったが、今年は1%を超えてくるということで、近年では高い上昇率になりやすい。ただ、景気が減速してくると、今年の春闘では高くても来年はそこまでいかず、1年限りで終わる可能性も高い。日本銀行が2%の物価安定や整合的なベアの上昇率を3%と言っているが、いずれにしても3%に届かないのは変わらないと思う」

 

●日銀が22〜24年度物価予想引き上げへ、緩和縮小観測に拍車も−報道 1/7
日本銀行は食料品を中心とする想定以上の値上げを受け、消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)の上昇率予想を引き上げる検討に入ったと共同通信が6日報じた。物価の高止まりで、日銀が大規模な金融緩和策を縮小するとの観測が強まる公算が大きいという。
共同通信によると、22年度を3%台に上方修正するほか、23、24年度も引き上げ、日銀が目標とする2%に接近すると予想する見通し。24年度は2%ちょうどとなる可能性もある。昨年10月時点の予想は22年度が2.9%、23、24年度は1.6%だった。
物価予想は17、18日の金融政策決定会合終了後に公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で示される。日銀は昨年12月の前回会合で長期金利(10年国債金利)の変動許容幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大。エコノミストからは、金融緩和策の「出口への一歩」との声が出ていた。
●日銀の金利引き上げが金融政策正常化につながらない理由 1/7
日銀がついに2022年12月20日野金融政策決定会合で、事実上の金利引き上げに踏み切った。これは金融政策正常化への一歩となるのか。元日本銀行金融研究所所長で、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』などの著書もある翁邦雄氏による寄稿の後編をお届けする。
固定相場解除の内外の事例
これまでのYCCは、「10年物金利の固定」という要素と、その固定金利水準をゼロ近傍に設定する「超低金利政策」という2つの要素からなっていた。
黒田総裁は、これまで「粘り強く金融緩和を続ける」と「出口の議論は時期尚早」の2つを常套句にしてきた。これは出口をぎりぎりまで先に延ばし、どうしても金利を上げざるを得なくなった局面で金利を上げることになる。こうしたかたちでYCCを離脱すれば、金利の上昇圧力がきわめて強いときに、金利形成を自由化することになるから、金利に大きなオーバーシュートが発生するなど金融市場が混乱する蓋然性は高い。
オーストラリア連銀のYT解除のときにもそうした現象が起きた。為替相場についても固定相場制を放棄して変動相場制に移行する際に混乱が生じる大きな理由は、維持不能になるギリギリまで政策当局がそれまでの固定相場を維持しようとする傾向があること、そのために固定相場制に対する大きな調整圧力が蓄積されていること、による。こうした混乱は古くは1971年の日本の固定相場制(1ドル360円)からの離脱、近年では、スイスの無制限介入による対ユーロ固定相場制の放棄(2011年)などでも観察されている。
金利固定解除のベスト・タイミングは?
この点を踏まえるとYCCの2つの要素を切り離し、金利水準の調整の必要のないときに金利固定を放棄し、そのあと政策金利水準を変更させるほうがよいことが分かる。
オーストラリア連銀も日銀のYCCと類似のYT解除の反省として、この政策はもっと早期に、例えば市場金利と目標金利がほぼ同水準であった2021年の早めの時期に終了させても良かった、と総括している。つまり、市場の実勢金利がYCCに近い状態、あるいはむしろ追加緩和期待があるようなときに金利固定の呪縛を解くことが望ましい、といえるだろう。
「緩和政策に変更がない」のに金利が上がる理由
これらの点を踏まえて、12月20日の決定会合の「YCCの手直し」の内容を検討しよう。日銀の金融市場調節方針についての決定の骨格は、1現状維持(金利目標は変えない)、2YCCの運用について一部見直す、というものだ。
具体的には、国債買入れ額を大幅に増やしつつ、長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.5%程度に拡大、0.5%の利回りでの指値オペを原則毎営業日実施、さらに、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、各年限において、機動的に、買入れ額の更なる増額や指値オペを実施する、とした。
円安は一服して政策の手直しは相対的にしやすいタイミングだった。そこで政策変更を行った点は、評価できる。しかし、それでも10年物金利は上昇した。これは、市場の実勢金利がYCCに近い状態ではなかったことによる。長期金利の変動幅拡大、というと金利が上下に動くイメージだが、実際には日銀が強引に10年物金利を低位に固定していた状況での変動幅拡大という措置の効果は、金利が張り付く水準が0.25%から0.5%に上がるだけであり、より自由に変動するわけではない。このため、黒田総裁が金利政策に変更がないと強調したにもかかわらず、「日銀、事実上の利上げ」と報道され金利水準の修正が今回の措置の眼目となった。
金利の固定を強化したYCC手直し
他方、黒田総裁は記者会見で「これはイールドカーブ・コントロールをやめるとか、あるいは出口というようなものでは全くありません」と述べた。実際、YCCの手直しは金利の固定範囲を拡大し、イールドカーブ全体へのロックダウンを強化する、という措置になっていた。
YCCの枠組み変更の理由について、日銀は、イールドカーブの歪みを挙げた。これは、10年物を無理に抑え込んでいる結果、イールドカーブの10年物が不自然に凹んでいることによる弊害を問題視したとみられる。この懸念から、日銀は変動幅拡大という名目で10年物金利を引き上げた。それだけでなく、これと同時に、2年、5年、20年の新発国債を対象に、指定した利回りで無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施する、とした。つまり、日銀は、翌日物金利、10年物金利だけでなく、利回り曲線の主要点にまで金利固定の戦線を拡大する措置を選んだことになる。
こうしてみると、金融政策正常化の第一歩との評価も見られる今回の措置だが、「金利水準正常化」への第一歩ではあっても、「金利形成の正常化」からはかえって遠のいていることがわかる。
金融政策正常化の前に共同声明の再確認が必要
いずれにせよ、金融政策の本格的正常化はやはり来春の新執行部発足後になるだろう。
その場合、新たな金融政策の出発点は、内閣府、財務省、日銀の連名で2013年1月に公表された「デフレ脱却と持続的な成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」を引き継ぐのか、改定するのか、という点にあるのではないだろうか。実際、一部で共同声明の改定を政府が検討している、という報道が流れている。
しかし、共同声明は当時の安倍総理やその後の黒田総裁が喧伝したような「日銀が2%の目標達成にコミットした」ものではない。共同声明の実際の内容はこうした理解とは大きな隔たりがあり、機械的な2%のインフレ目標追求からはむしろ距離を置き、政府も成長力強化や財政の健全化努力を謳った内容になっているからだ。
いずれにせよ、共同声明はあくまでも「その時点の」政府と日銀の連携である。金融政策を決めるのはその時々の日銀政策委員会メンバー、財政・経済政策を決めるのは、その時々の政府である以上、執行部が代われば、あらためて共同声明の精神を受け継ぐのか、何らかの見直しを行うのかという吟味が必要とならざるを得ないはずである。
共同声明の内容
具体的に共同声明をみると、「日本銀行は、今後、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展に伴い持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていくと認識している。この認識に立って、日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価上昇率の前年比上昇率で2%とする」とし、「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組の進展」が2%達成の条件とされている。
また、「その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく」とされており、日銀は2%を絶対的な道標とするのではなく、持続的な成長を脅かす可能性のある様々な動き、とりわけ金融の不均衡(金融システムの不安定化リスク)など他の指標をにらみながら総合的視点で金融政策運営を行う、としている。
この間、「政府は(中略)日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する。」、「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を具体化し、これを強力に推進する。」とされており、政府自身も課題への取り組むことを表明している。
共同声明の扱いについての選択肢
このように「共同声明」はおよそ日銀が片務的に2%物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではなく、日銀と政府が連携しておのおのが果たすべき役割を明確に述べたものになっている。それだけに、その改定は喫緊の課題とは言えないとしても、日銀も、政府も、共同声明で謳われた課題にどう取り組んできたかを総括することには大きな意味があるだろう。そのうえで、現在の共同声明の文字通りの内容を政府・日銀が明示的に再確認し継承するのか、それとも、その後10年の経験を踏まえ、これになんらかの改定を加えるのか、は重要な選択肢になるだろう。
個人的には、2%の物価目標を機械的に追求することを謳った文書ではないことを踏まえたうえで、日銀だけでなく政府サイドも取り組むべき課題を再確認すること、そのうえで日銀は経済情勢をにらみながら市場機能を回復させる金利形成の正常化に舵をきっていくことが望ましい、と考えている。 
●日銀の長期金利の上限引き上げは政策の転換か 単なる為替対策か 1/7
年末に日銀が長期金利の変動幅の上限を0・25%から0・5%に引き上げたことについて、日銀の黒田東彦(くろだ・はるひこ)総裁は「今回の修正は利上げや金融の引き締めではない」という認識を示しましたが、市場では「事実上の利上げ」と受け止め、円高が加速しました。
日銀は表向き、市場機能の改善や金利の歪みの是正を理由にしています。それが狙いだったとしたら、次なる「金融引き締め」もあり得ます。
一方、日銀の本音が円安に歯止めをかけてインフレを止めることが狙いだとしたら、しばらくは金融引き締め的な政策は出てこないと思います。今回の上限引き上げも単発で終わる可能性があります。
為替が狙いなら、「なぜ1ドル=150円台のときにしないのだろう?」との疑問もあります。これは円安が加速する中で政策転換しても効果は限定的なので、米国の利上げのゴールが見えつつあって円安も落ち着き、かつ年末で市場への参加者が少ないタイミングを見計らったのでしょう。
日銀にとって、1ドル=140円以上の円安も、100円以下の円高も好ましくありません。為替対策だったとしたら、円が120〜130円台で推移している限り、これ以上の引き締めはないということです。賃金上昇が伴うインフレが生じた場合は別ですが、それが起きてない中で、短期金利の引き上げ、実質の利上げ政策をすることはあり得ません。
120〜130円台の水準であれば、引き続きインバウンド関連や円安メリットの製造業は注目です。
黒田さんは今回、「金融緩和は現状維持」、あるいは「金融は引き締める」のどちらでも整合性のとれるような状態にしました。政策の転換なのか、単なる為替対策だったのか。
1月18日、日銀の金融政策決定会合直後に「経済・物価情勢の展望」レポートが発表されますが、その中で「物価の見通し」に変更がなければ追加の引き締め政策はないでしょう。しかし、「少し物価が上がるかもしれない」という内容になっていた場合は、さらなる引き締め政策が出てくる可能性があります。
2023年の日銀の金融政策決定会合、これまで以上に注目度が高くなります。

 

●日本の1人当たりGDPを大きく下げた「真犯人」 金融政策転換を日本再生に 1/8
大規模金融緩和は、もともと日本を活性化できるものではなかった。2022年の物価高騰の中で、その問題点が誰の目にも明らかになった。物価目標の取り下げと金利抑制策の停止によって金融政策を転換し、日本再生への手がかりをつかむ必要がある。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第85回。
物価目標を取り下げよ
2022年12月20日に日本銀行が長期金利の上限を引き上げた。これは金融緩和の出口に向かう政策ではないとされているが、すでに、金利をはじめとするさまざまな指標が大きく動き始めた。これは、日銀が2013年4月に開始した大規模金融緩和(通称「異次元金融緩和」)の出口に向かっての動きの始まりと捉えるべきものだ。では、いかなる方向を目指すべきか? 
大規模金融緩和は、2013年1月22日に安倍晋三首相(当時)が白川方明日銀総裁(当時)と結んだ「政府・日銀の政策協定(アコード)」をもとにしている。
ここで、「目標を消費者物価の前年比上昇率で2%」とし、「できるだけ早期に実現することを目指す」と明記された。
しかし、これは、もともと実現不可能な目標であり、仮に実現したとしても、経済活性化にはつながらない無意味な目標であった。
これが採用されたのは、当時支配的であったリフレ派の主張による。
日銀はこれに抵抗したが、日銀法改正という脅しをちらつかされて、組織防衛のために認めざるを得なかった(白川方明『中央銀行』2018年、東洋経済新報社による)。
実現不可能であり、経済活性化につながらない目標であることが、その後、明らかになった。
異次元金融緩和では、この目標を2年以内に達成するとした。しかし、実現できなかった。年平均で消費者物価上昇率が1%を超えたのは2014年だけだが、これは消費税率引き上げの影響であり、それを除けば、2021年まで、どの年も1%未満だった。
もともと、金融緩和で物価が上がるはずはなかったからだ。
どのようなメカニズムで、大量の国債購入が物価上昇につながるかについての納得的な説明はなかった。 
「人々の期待が変われば物価が上がる」とも言われた。しかし、それも働かなかった。
このように、物価を金融政策の目標とするのは適切ではないことが明らかになった。これは取り下げなければならない。
より大きな問題は、賃金が上昇しなかったことだ。
大規模金融緩和が導入されたとき、「物価が上がれば賃金も上がる」と説明された。しかし、実際には、2013年以降、実質賃金は下落し続けた。
2022年に生じた世界的インフレは、日本にも輸入されて国内物価を高騰させた。しかし、賃金の伸びはそれに追いつかず、実質賃金は大きく低下した。
「物価が上がれば賃金も上がる」との説明は、そうならなければ、賃金分配率が大きく下がってしまうということを論拠にしていたので、物価上昇の原因が何であったとしても適用できるはずだ。
だから、2022年の物価高騰についても、賃金は上がるはずだった。しかし、そうはならなかった。これによって、大規模金融緩和側の論理が誤りであることが、誰の目にも明らかになった。
YCCをやめて、金利機能を復活させよ
政策手法では、イールドカーブ・コントロール(YCC)による長期金利のコントロールを停止すべきだと筆者は考えている。
これは、2016年9月に導入されたものだ。それに先立つ2016年1月に、マイナス金利が導入され、民間の金融機関が日銀に預ける当座預金残高の一部にマイナス0.1%の金利が適用された。これによって金利が急低下し、10年物国債の利回りはマイナスになった。20年、30年の超長期国債の利回りも低下した。金融機関は利ザヤを稼ぐことが難しくなった。
この事態に対応するため、日銀は2016年9月、イールドカーブ・コントロールを導入した。長期金利が0%程度で推移するよう国債を買い入れ、下がり過ぎた長期金利を高くしようとした。つまり、このときには、イールドカーブの傾きを急にすることが目的とされた。
長期金利を操作するYCCの手法は、異例のものだ。長期金利は市場で決められるものであって、無理にコントロールしようとすれば歪みが発生する。
その歪みが、2022年には無視できなくなるまでに拡大した。2022年12月の決定は、このような市場からの圧力に対応するために、どうしても必要とされるものだった。
ただし、この引き上げだけでは不十分だ。12月の決定以降も、国債市場の歪みは残っている。YCCそのものをやめて、短期金利だけを操作するという伝統的な金融政策の手法に戻るのが望ましい。
日本経済の活性化は金融政策ではできない
賃金が上昇するには、企業の付加価値が増加しなければならない。それは、金融政策で実現することではない。付加価値増加は、企業や個人が努力して実現するものだ。
現在、アメリカを牽引している高度情報通信産業は、金融緩和政策によって成長したのではない。政府の補助金で成長したのでもない。企業の競争と、高度な専門教育による人的能力の向上によって実現したのである
台湾を成長させ、台湾の1人当たりGDPを日本より高くする原動力となったTSMCを中心とする半導体産業も、新しいビジネスモデルの採用と、世界的な分業体制のなかで成長したのである。こうした成長のための環境を準備することこそが、政府や日銀の基本的役割だ。
経済成長は、民間経済主体の努力の積み重ねと、マーケットにおける競争によって実現される。国や中央銀行が主導してそれを実現するという考え自体が、そもそも間違っている。
社会主義経済の崩壊という世界史上の大事件によって、世界は1980〜1990年代に、このことを学んだ。しかし、日本は(そして、多分日本だけが)全く逆の方向に進んでしまったのだ。
大規模金融緩和によってもたらされた低金利と円安というぬるま湯的環境のなかで、日本企業は付加価値を増大させる努力を怠った。
その結果が、1人当たりGDPの推移に明確に表れている(図表1参照)。
2012年から2022年の間に、アメリカの1人当たりGDPは45.3%増加した。そのほかの国の増減率を見ると台湾は67.0%増、韓国は31.9%増、ドイツ、フランスは10%増だ。そして、日本は30%減少した。
貴重な10年間を日本は無駄にした
図表1は、貴重な10年間を日本が無駄にしてしまったことを、はっきりと示している。この図表こそが、大規模金融緩和の成果を最もわかりやすく示す成績表だ。
日本が成長せず、他国が成長した結果、日本の相対的な地位は、信じられないほど低下した。2012年に、日本の1人当たりGDPは、アメリカとほとんど同じだった。そして、カナダ(図表には示していない)、アメリカについで、G7で第3位だった。しかし、2022年には、日本の1人当たりGDPはアメリカの45.7%でしかない。
2012年に日本はドイツ、フランス(図表には示していない)、イギリスより1割以上高かったが、いまは7割程度でしかない。
2012年に日本はイタリアより4割高かったが、いまはほとんど同じで、G7での最低国を争っている。
2012年に日本は台湾の2.3倍だったが、2022年には追い抜かれた。韓国も、近い将来に日本を追い抜くだろう。そうなれば、図表1に示した国の中で、日本は最低順位になる可能性が高い。
そして、日本は先進国の地位から滑り落ちる。この状態を何とか阻止ししなければならないが、そのためには、金融政策の大転換が不可欠の条件だ。
いまや、大規模金融緩和政策の誤りは明白だ。しかし、政策転換ができれば、条件は大きく変わる。日本はまだ、回復する潜在力を持っている。金融政策の転換がその第一歩になることを望みたい。
●岸田氏、金融政策は丁寧な説明や市場対話踏まえた検討を−日銀新総裁 1/8
岸田文雄首相は8日、NHKの番組「日曜討論」に出演し、4月に日本銀行の黒田東彦総裁の任期を迎えることに関連し、「金融政策については、先行きの見通しがしっかりなければならない。丁寧な説明やマーケットとの対話も考えながら状況を考えていく」と述べ、引き続き政府と日銀が連携して、それぞれの施策に取り組んでいく考えを示した。
岸田首相は、構造的な賃上げを実現するような経済成長や物価安定目標の持続的な維持のため、政府と日銀は連携しながら進めていく必要があると指摘。次期総裁とは「政府と日銀の関係について引き続き議論していかなければらない」と述べた。
次期総裁の人選については、黒田総裁の任期が満了する4月時点で「最もふさわしい人材」を考えると述べるにとどめた。
一方、衆院の解散総選挙の時期については、エネルギーや防衛、少子化など山積する重要課題についての具体的な政策を進める中で「時の総理大臣が判断すべきもの」と語った。その上で、やるべきことをやりながら「適切な時期に国民の皆さんの判断をいただきたい」と述べた。 

 

●注目の日銀決定会合――1月は新たな動きはなし  1/9
日本銀行は、昨年12月の金融政策決定会合で決めたイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の運用見直しの影響と効果を見極める局面にあり、現段階でさらなる修正を急ぐ必要はないとみている。複数の関係者への取材で分かった。
日銀は17、18日に開く金融政策決定会合に向け、ぎりぎりまで経済・物価情勢や金融市場の動向を見極めて政策対応の是非を判断する。
関係者によると、昨年12月の政策修正が市場に予想外と受け止められたことで、しばらくは債券市場のボラティリティーの高い状態が続くのはやむを得ないと日銀はみている。損失を被った投資家などの債券売り需要が収まり、新たな金利水準の目線が形成されるまでは、月間9兆円に拡大した国債買い入れの新たなめどにこだわらない積極的なオペで市場を支える必要があるという。
日銀はYCCの再修正を急がないとの報道が伝わった後、外国為替市場では円売り圧力が強まり、対ドルで一時134円37銭まで下げ幅を拡大した。 報道前は133円90銭前後で推移していた。
日銀は12月会合で、現行のYCC政策における長短金利目標を維持しつつ、長期金利(10年国債利回り)の許容変動幅を従来の上下0.25%から同0.5%に拡大した。市場機能の改善が狙いだが、足元の長期金利は上限の0.5%に達し、残存8、9年の金利が長期金利を上回るなどイールドカーブのゆがみも解消されていない。
市場には、市場機能改善を名目としたさらなる変動幅の拡大など追加的な政策修正の観測もくすぶる。関係者によると、今後の社債の発行状況など企業金融面を含めた政策修正の効果を見極める局面と日銀はみている。多様な年限の指し値オペや臨時の国債買い入れなど、金融緩和継続の強い姿勢をオペの積極化や工夫で示すことが重要であり、追加的な政策修正の段階にはないとの声もある。
日銀は足元の金利上昇を抑えるため国債の買い入れを増やしている。6日の債券市場では新発10年債の取引が0.50%で成立。日銀が12月に引き上げた許容変動幅の上限に達した。
変動幅上限を上回って金利上昇が続けば、日銀がさらに上限を引き上げるか、あるいはマイナス金利政策を放棄するとの臆測に拍車が掛かる可能性がある。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)は、日銀のさらなる政策修正を織り込んでいる。 
展望リポート
会合後に新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)が示される。関係者によれば、原材料高やこれまでの円安に伴うコスト上昇を価格に転嫁する動きが、前回の昨年10月の展望リポートの想定を超えて広がっている。
消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の想定は、見通し期間である2024年度まで全ての年度で上方修正される可能性があるという。政府の総合経済対策における電気・ガス料金の負担軽減策は23年度を中心にコアCPIを抑制する要因になる一方、その反動も含めて24年度の見通しは現在の前年比上昇率1.6%から同2%前後に引き上げる可能性を関係者は指摘した。
景気は日銀が想定しているシナリオに沿って改善を続け、賃上げ機運の高まりも背景に物価の基調的な動きも着実に強まっていると日銀では判断している。しかし、日銀が目指す持続的・安定的な2%の物価目標の実現には春闘における賃上げの動向とその持続性や、減速感を強める海外経済など見極めるべき要素が控えており、経済・物価情勢を踏まえた金融政策の修正にも慎重な意見が多い。
●2023年が転換点に?「すべてが逆向き」になる金利上昇時代到来を覚悟せよ 1/9
日銀が長期金利の上限拡大を決断し、大規模緩和策の修正に乗り出した。これまで日本経済は長期にわたるデフレと低金利が続いてきたが、これは歴史的に見てかなりの異常事態であり、低金利がいつまでも続くということは原理的にありえない。すぐに金利が急騰する可能性は低いものの、日銀が政策転換した以上、金利は上がらないという従来の常識は捨て去る必要があるだろう。
数字上の変化はごくわずかだが・・・
日銀は2022年12月20日の金融政策決定会合において、長期金利の変動幅を0.25%から0.5%に拡大することを決定した。これまで日銀は長期金利の水準を0.25に維持する指し値オペと呼ばれる措置を実施してきた。これは金利の傾きを適切な水準に保つイールドカーブ・コントロールと呼ばれる政策であり、その結果、日本の長期金利は市場が想定する水準よりも低く推移してきた。
一方、20年などの超長期債については価格維持の対象外となっていたため、10年物国債の金利が特に低く推移する状況となっており、イールドカーブの形はいびつになっていた。このところ国債市場で取引が不成立になる日が増えており、12月には政府が発行した国債の約半額を、同日に日銀が買い取ってしまうなど、限りなく財政ファイナンスに近い行為も行われた。
長期金利を過度に低く維持する政策は限界に来ており、日銀は長期金利について柔軟に対応する方針に転換したと言ってよいだろう。
黒田総裁は今回の決定について、利上げではないと説明しているが、以前の黒田総裁は、イールドカーブ・コントロールの柔軟化は利上げにつながるので実施しないとの説明を繰り返してきた。今度は一転して 上限幅の拡大は利上げには該当しないとの説明になっているので、内容が百八十度ひっくり返ってしまったことになる。このロジックの違いを正当化するのは難しく、市場では日銀が事実上、金融政策の修正に踏み切ったと判断している。
今回、上限を撤廃したのは、あくまで長期金利であって、短期金利については引き続きマイナス金利政策を継続する。日銀は短期金利を調整することが使命であるという大前提を考えると、日本が完全に利上げ政策に転換したと言い切るのは早計だろう。
だが、長期金利だけが対象とはいえ、その上昇を容認せざるを得なかった背景には、日本経済がゼロ金利を継続できなくなりつつあるという現実がある。短期金利の上昇が日本経済にもたらすインパクトの大きさを考えると、その決断はかなり後になるのは間違いないが、長期間続いてきた日本の低金利政策が方向転換を迎えつつあるのは確かである。
すべてが低金利を前提に組み立てられていた
これまでの日本経済は、あらゆる分野において低金利であることが大前提となっていた。長期的に金利が上昇する可能性が見えてきたとなれば、企業経営や消費者の活動は変化を余儀なくされるだろう。
今回の決定を受けて、住宅ローンの一部(固定金利の商品)は金利が上がり始めている。多くの国民が利用している変動金利の商品については、短期金利に連動するので、日銀が本格的な政策転換に踏み切らない限り、ローンの支払額が増えることはない。しかし、わずかとはいえ長期金利が上がったということは、長い目で見た場合、変動金利の商品も金利が上がる可能性が見えてきたことを意味しており、住宅市場には逆風となる。
企業経営も同じである。これまで金融機関は企業に対し、限りなくゼロに近い金利での融資を余儀なくされてきた。企業からすれば、ほとんどコストゼロで資金調達できる環境であり、市場メカニズムからすると正常な状態とは言えない。
加えて政府は、東日本大震災やコロナ危機など、相次ぐ非常事態に対処するため、金融機関に対して、急に資金を引き上げないよう強く要請していた。こうした状況が長く続いたことから、本来、存続できないはずの企業も延命しているケースが少なくない。今後、銀行の貸出金利の上昇が予想されるため、一部の企業は経営が苦しくなり、事業継続が困難になるだろう。
財政も同じである。日本政府は1000兆円の借金を抱えているが、ゼロ金利政策のおかげで政府の利払いはごくわずかな金額で済んでいる。長期金利が上がり始めたということは、政府の利払いも徐々に上がっていくことを意味している。
奇しくも、同じタイミングで防衛費の増額が決まり、政府の支出増大がほぼ確実視されている。ここで金利が上昇すれば、防衛費の増額分に加え、利払いも増えることになり、財源に関する制約がよりシビアにならざるを得ない。
防衛費の増額については、とりあえず向こう5年間の財源が確定しているが、その後については未定となっている。5年後、増額された防衛費の財源が改めて議論される際には、利払い費の増加が、相応の影響を与えていることだろう。
金利が高い=物価が上がる
繰り返しになるが、今回の決定は、長期金利の水準をごくわずか引き上げただけであり、半年や1年というタームで経済に深刻な影響が及ぶとは考えにくい。だが、冒頭にも述べたように、これは長く続いたゼロ金利時代の終わりの始まりであり、金利が上がらないというある種の「神話」は、いよいよ消え去りつつあると考えた方がよい。
金利というのはお金を借りる人にとって、支払いまでの時間を猶予してもらうためのコストと言い換えることができる。一方、お金を貸している人にとっては、猶予時間を提供した対価ということになる。分かりやすく言えば、金利は「時間を金銭換算したもの」であり、金利の上昇が始まるということは、時間のコストが高くなったことを意味している。
加えて、金利が高いということは、現在と比較して、将来、物価が上がると多くの人が予想していることと同義になる。なぜなら、物価が上昇する分だけより高い金利を取らないと、お金を貸した人が損を被ってしまうからである。つまり経済学において金利というものは、時間を示す概念であると同時に、物価の先行き見通しを示す概念でもあるのだ。
金利というのは企業にとっては資金調達のコストであり、金利が上がり始めたということは、企業がより多くのコストを負担しなければならなくなったことを意味する。金利が上がる社会においては、企業はより高い付加価値を提示できなければ、生き残りが難しくなる。
物価は上がらず、企業はタダで資金を調達でき、低価格が最大の武器になる、というのは低金利時代の常識であった。だが、金利上昇時代にはすべてが逆向きになる。2023年は、従来の価値観から脱却する最初の年とすべきだろう。
●異次元の金融緩和「縮小した方が良い」50% 「続けた方が良い」22%を上回る 1/9
日銀の大規模な金融緩和政策について「縮小した方が良い」と考える人が50%と、「続けた方が良い」と考える人の22%を大きく上回ったことが最新のJNNの世論調査で分かりました。
日銀の黒田総裁は2013年に就任後、デフレ脱却のため「異次元の金融緩和」をリードしてきましたが、金融緩和により景気を下支えする一方、円安による物価高などの副作用も指摘されています。
日本経済をめぐっては、今年、岸田総理が物価の上昇率を超える賃上げの実現を経済界に要請していますが、どの程度の賃上げが行われると思うか聞いたところ、物価の上昇率以上17%、物価の上昇率未満46%、全く上がらない30%でした。
●「ゼロ金利の終了」でマンション価格は下がるのか 1/9
昨年末、日本銀行は突如として長期金利の上限を0.25%分引き上げて0.5%とした。これはかなりのサプライズであった。すかさず市場は「株安」「円高」へと反応。市場では「異次元金融緩和の終了か」と囁かれた。
金利と不動産は、株式や外為ほどではないにしろ、連動関係にある。金利が上がれば不動産価格が下がるというのがセオリーなのだ。
お隣の韓国では昨年、アメリカの金利上昇に合わせて金融引き締めを行った結果、マンション価格が下落してちょっとした混乱が生じている。日本も同じような軌跡をたどるのか。
日本銀行の総裁はこの4月に交代する。長らく続いた黒田東彦総裁による異次元金融緩和も、それによって終了するのが確実になった。日本も4月以降に金利が上がり始める可能性が高い。
日銀が決める政策金利が上がると、住宅ローンの金利も引き上げられる。アメリカでは30年返済の住宅ローン金利が7%になっている。それで、すっかり住宅が売れなくなっているという。
日本はアメリカほど急激には金利を引き上げられないだろうが、「史上最低水準」ではなくなる。つまり、過去6年間に比べると明確に高くなるだろう。そうなれば同じ額のローンを組んでも、返済額が増える。
加えて、マンション市場をバックアップしてきた住宅ローン控除が縮小された。人件費の高騰から管理費や修繕積立金はインフレ状態。さらにタワマンの高層階購入による相続税の軽減効果も徐々に怪しくなってきた。世界的な不動産市場の低迷で、これまでのような外国人の購入も今後は細りそうだ。
2023年のマンション市場はアゲンストの風が強く吹きそうである。
なかでも、もっとも強力なのが、この?金利の上昇?である。住宅ローンやアパートローンの金利が上がれば、市場に対しては明確な下落圧力となる。
まずは、不動産の取引数が減少していく。それが何カ月か続いた後、多くの人に下落が認知できる状況となる。マンションの価格が「下がった」という状況がみえてくるのは、早くても今年の後半だろう。
長く続いた「史上最低金利」によって、今のマンション市場には投資や投機、相続税対策が目的の買い手がウヨウヨしている。彼らは基本的に「住むため」に購入するわけではない。だから都心や湾岸のタワマンなどは、誰も住んでいない空室がかなり目立っている。
市場が下落期に入ると、それらの住戸が順次売却に回される。それがまた、市場への下落圧力になる。
山高ければ谷深し、と言う。今年の後半から始まるマンション市場の下落期は、ちょっと深刻になる。長期低迷する「失われた〇年」になるかもしれない。
これは世界の経済状況と日本の金融政策によって変わる。今後の展開を見守りたい。
●年明け早々に一時129円台!ドル円相場は今後どう動くか? 1/9
1月3日の外国為替市場で、2022年6月上旬以来7か月ぶりに一時1ドル=129円台と、ドル安・円高水準となった。この先、ドル円相場はどんな展開が予想されるのだろうか。
三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏がその時々の市場動向を解説する「市川レポート」の最新版として、「年明け早々に一時129円台をつけたドル円相場の行方」と題したレポートを発表した。レポートの詳細は以下の通り。
129円台のドル安・円高は概ね想定内、この先は日米金融政策がカギ
ドル円は2023年1月3日の外国為替市場で、一時1ドル=129円51銭水準までドル安・円高が進行した。ドル円が129円台をつけたのは、2022年6月上旬以来、7か月ぶりのことだ。市場では、日銀が先月、長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)における10年国債利回りの許容変動幅を拡大したことで、今後も金融緩和の修正が進むとの見方が強まっており、これが円買いにつながったと思われる。
2022年12月26日付レポート「2023年のドル円相場見通し」で解説した通り、三井住友DSアセットマネジメントは2023年1-3月期のドル円相場について、期中レンジを121円〜139円、期末の着地を130円と予想している。そのため、ドル円が新年早々に129円台をつけたことも、おおむね想定内の動きといえるが、ここから先のドル円相場の方向性は、やはり日米の金融政策がカギを握るとみている。
FRBは今年3月まで2回の利上げを経て来年は利下げへ、日銀は緩和修正を進めると予想
そこで、改めて日米金融政策について、三井住友DSアセットマネジメントの見方を整理する(図表1)。まず、米連邦準備制度理事会(FRB)は、2023年2月1日と3月22日に、それぞれ25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利上げを決定し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標が4.75%〜5.00%に達したところで、年内は据え置きを予想している。その後、2024年には毎四半期25bpの利下げを進めるとみている。
次に、日銀の金融政策について、三井住友DSアセットマネジメントは段階的に金融緩和が修正されていくと考えている。具体的には、2023年4月に政府と日銀が定めたアコード(共同声明)の見直しが行われ、2%の物価上昇目標の柔軟化が図られた後、現行政策の点検あるいは検証を経て、6月にマイナス金利の解除に踏み切ると予想している。なお、YCCは継続され、許容変動幅の上下0.5%も維持される公算が大きいと見込んでいる。
年前半に日銀緩和修正、年後半にFRB利下げの思惑が強まれば年末120円も違和感なし
三井住友DSアセットマネジメントの日米金融政策の見通しを踏まえると、2023年のドル円は、やはりドル安・円高方向に振れやすい展開が予想される。ただ、前述の通り、FRBがFF金利の誘導目標を4.75%〜5.00%で年内据え置き、日銀がマイナス金利解除後もYCCを維持するのであれば、大幅なドル安・円高は回避されると思われ、実際、三井住友DSアセットマネジメントは2023年12月末の着地を129円とみている。
なお、先月の変動幅拡大後も、日本国債のイールドカーブ(利回り曲線)のゆがみは解消されていないため(図表2)、年前半は特に日銀の緩和修正の思惑から、円高が進みやすい地合いが想定される。仮にこの先、130円よりもドル安・円高水準が定着し、年後半にFRBの利下げの思惑がかなり強まった場合、三井住友DSアセットマネジメントの10-12月期予想レンジ(120円〜138円)のドル下限である120円で2023年12月末を迎えても、さほど違和感はないと考えている。
●「アベノミクス」ブレーンたちの高揚、そして... 1/9
怒りなき社会が放置する経済の停滞
   財政・金融の保守本流
「財政の均衡、適切な金利、公平な税制。これが昔の大蔵省(現財務省)の三大原則、『国是』ならぬ『省是』です」
これは2022年7月10日に死去した元財務相の藤井裕久が以前、筆者に語った言葉だ。大蔵官僚出身で、景気過熱によるインフレと行き過ぎた国債発行を警戒した。
藤井は1993年、若くして自民党幹事長を務めた小沢一郎らと同党を離党し、「非自民」勢力で発足した細川護熙(もりひろ)政権で蔵相に就任。続く羽田孜政権でも再任された。その後、野党へ転落し、小沢と自由党を結成して幹事長になった頃、98年から2000年にかけて筆者は担当記者だった。
社会保障の財源に目的化した消費税の増税が一貫した主張だった。この「目的化」にはさまざまな議論もあったが、「消費増税」へのこだわりは正統派の大蔵・財務官僚の象徴であろう。
09年9月に発足した鳩山由紀夫政権でも財務相を務めた。この時期、リーマン・ショックなどを受け、日本経済は歴史的な円高にさらされていたが、インタビューで円高を容認して波紋を呼んだ。
「自国通貨が強くなるのは、目先は貿易面で間違いなくマイナスだが、大きな意味ではいい。日本は基本的に円高の方がいい」(09年9月3日、ロイター通信)
長期的な為替相場はさまざまな要因で動いているが、基本的にはその国の経済活動や通貨の健全性など、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映しているという見方を念頭に、筆者にも「円安の時代は終わっている。国際環境が極端な円安を許さない。為替に左右されない強い経済にすることが最優先だ」と常々、語っていたことを思い出す。
藤井だけではない。1990年代後半に大蔵省で、国際金融の司令塔である財務官を務め、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資も、「日本企業はグローバル展開を進めており、国内に戻ることはあまり期待できない」「円安で輸出を促進する時代ではない」「円高は国益という見方に転換するべきだ」(時事ドットコム「『円安=プラス』の常識揺らぐ?輸入価格の上昇懸念【けいざい百景】」〈2022年6月1日〉)と述べている。
   「リフレ派」の反逆
元首相・安倍晋三は、藤井らに象徴される財務省や日銀の保守本流の常識をすべてひっくり返した。その理論的支柱となったのが、安倍政権の内閣官房参与だった米エール大名誉教授・浜田宏一をはじめ、日銀副総裁を務めた学習院大名誉教授の岩田規久男や、浜田と同じく内閣官房参与を務めた元大蔵官僚の本田悦朗ら、リフレ派と呼ばれるブレーンたちだった。
彼らはデフレを貨幣的現象と分析して、日銀が2%という「インフレターゲット」を確約し、供給する通貨量を示す「マネタリーベース」を拡大するため、「量的・質的緩和」をすることで、「期待インフレ率」が上がるとした。これによって実質金利を引き下げ、設備投資や住宅投資を活性化させて企業収益を改善し、賃金と消費を増加させ、物価上昇を実現するという金融政策を主張した。
さらには需要不足がデフレを助長しているとして、財政出動による需給ギャップの解消を目指した。国債残高の対GDP(国内総生産)比は、安倍政権下で既に200%を超え、主要先進国の中では最悪の水準である。財務省が緊縮財政を主張する一方で、リフレ派は需要不足の状況下では国債発行に問題はないと主張した。
   政治に目覚めた学者
岩田によれば、労働生産性は景気の良しあしで変動しているにすぎない。そして、日銀が通貨供給量を抑制してきたために生じたデフレ下では、いくら生産性を上げようとしても、経営者にとっては「土砂降りの中」か、「雪が降りしきる戸外」でテストを受けるようなものだという。つまり、景気の影響を取り除いた「真の労働生産性」は低下しているわけではなく、デフレの影響で本来の力を発揮できていないというわけだ。
では、このデフレを招き、生産性の向上を阻害してきた責任はどこにあるのか。それは「デフレという、戦後、日本以外の国では起きなかった、経営にとって最悪の経済環境を20年以上もの間にわたって作り上げた」(「『日本型格差社会』からの脱却」〈2021年、光文社新書〉P163)日銀と、それを許してきた政治にあるという。
デフレ脱却のためのインフレターゲット論が提唱されたのは、安倍政権が初めてではない。岩田も1990年代初頭から、論文や著書で「日銀の金融政策こそがデフレを引き起こした」と主張していたが、受け入れられずに失望していたそうだ。小泉純一郎政権の経済政策をリードした経済財政諮問会議でも提案されたが、財務省や日銀の本流の継承者たちによって採用されることはなかった。
リフレ派はその「本流」を批判し、財政・金融政策の大転換を主張していた。岩田は、デフレを脱却できない責任が政治にあるならば、デフレ脱却のためには「政治家を動かさなければ、何も変わらない」(前掲書P51)と考えた。そして民主党(当時)の前原誠司、自民党の石破茂、安倍ら、与野党を股に掛けて接触した。その中で唯一、賛同したのが安倍だったという。
まだ第2次安倍政権が発足する前、岩田が主催したシンポジウムでリフレ派の理念に賛同するスピーチを要請したところ、安倍は快諾したという。別の勉強会では、安倍が岩田の資料を見ながら「こういう図表を第1次安倍政権のときに見ることができたらなあ」とつぶやいたそうだ。
安倍は2回目の自民党総裁選に挑んだ際、財政政策について「経済再生なくして財政再建なし」を基本方針として訴えた。これもリフレ派の考え方に沿ったものだった。
   現在の共通認識
さて、財務省や日銀の常識を覆した結果はどうだったのか。岩田は日銀副総裁の退任後に出版した「日銀日記」(2018年、筑摩書房)に、こう記している。
「財界の人たちに会うと、たいていの人が『円高が修正され、何よりも人々のマインドが明るくなった』と、日銀の『量的、質的金融緩和』を高く評価し、感謝の意を述べる」(P34)
「市場の予想インフレ率は想像以上にすばやく反応した。それが株価の急騰と円安への転換スピードを上げた」(P55)
「大胆な金融緩和」がスタートした直後の、岩田自身の高揚感と、アベノミクスに対する世の中の「歓迎ムード」が伝わってくる。
しかし、それから10年の月日が過ぎた。アベノミクスがデフレ脱却という当初の目標を十分に達成できず、経済の好循環に至っていないという点は、ブレーンたちの共通認識ではないだろうか。
「『生産性を上げる』とは言ったが、具体的にどう上げるかという成長戦略には不足があった」(「日銀と財務省の常識を変えたアベノミクス」〈22年9月5日、毎日新聞サイト「政治プレミア」〉)とは、浜田の反省である。
成長戦略を具体化できず、生産性も上がらず、消費も伸びず、デフレから十分に脱却できなかった原因は何なのか。今、ブレーンたちが口をそろえて批判するのが、2度にわたる「消費増税」だ。安倍が政権に返り咲く前の12年8月、民主党の野田佳彦政権下で消費増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法が自民、公明両党も賛成して成立し、14年4月に税率を5%から8%へ、15年10月には10%へ引き上げることが決められていた。
「消費増税」悪者説
「財務省の財政健全化から逃れ切れなかった。そして企業がデフレマインドから脱却できなかった」
22年11月、本田は筆者にじくじたる思いを語った。筆者がBS日テレの番組「深層NEWS」を担当していた14年10月に消費増税をテーマに議論してもらった経緯もあり、直接会ってアベノミクスを振り返ってもらった。
「デフレ脱却のさなかの増税は全く間違っていました。少なくとも現在の日本のように、需要不足の状態でアクセルとブレーキを同時に踏んだらどうなるか。経済の安定成長は望めません」
岩田も「日銀日記」の中で、「消費増税は愚策だ」と言い切っている。内閣府によると、実際に8%への増税に伴う物価上昇が、実質所得の減少を通じて個人消費を押し下げた(GDPの0.2%程度)。「企業を中心にデフレマインドが完全に払拭(ふっしょく)されておらず、消費税率引き上げ等に伴う物価上昇に見合うだけの賃金上昇が実現されていない」(「日本経済2014─2015の概要」)状況だった。
実質GDP成長率も14年4〜6月期は駆け込み需要の反動減となり、7〜9月期も予想を大きく下回って、年率でマイナス1.9%(2次速報)と落ち込んだ。10%への引き上げはブレーンたちの反対もあり、2度にわたって延期されたが、結局は19年10月に実施されたのである。
浜田は「安倍政権下での2度の消費税率の引き上げも反省している。うまくいきかけていた成長が損なわれた。(中略)今になって思えば消費税率引き上げにもっと強く反対すべきだった」(前掲の毎日新聞サイト)と述べている。
   緊縮財政という実態
さらに本田は、機動的な財政政策を「第2の矢」としていた安倍政権だが、実際は緊縮型の財政になっていたことを悔いている。
「消費増税の議論にばかり気を取られ、毎年の財政に対する注意がおろそかになってしまいました。景気が少しずつ良くなってきて、税収が増えてきたため、プライマリーバランス(国の基礎的財政収支)の黒字化を目指す財務省は、歳出をカットしていたのです。おまけに消費税まで上げている。財務省は賢い。結局、彼らの思惑通りにしてしまった。しかし、その結果、デフレから脱却できなかったという点で財務省は間違っていた。財務省主導の緊縮財政が足を引っ張ったのです」
確かに公共事業費も19年度に8兆円を超えていたが、それまでは6.3兆円から7.6兆円の幅で横ばいに推移していた。図を見ても分かるように、安倍政権下で一般会計歳出は新型コロナウイルス禍前の19年度まで、決算ベースではほぼ横ばいである。公債発行額も減少傾向なのだ。
景気対策という名目で補正予算がたびたび編成されたため、「積極財政と捉えられがちだが、実態としては緊縮気味の当初予算」(ニッセイ基礎研究所・斎藤太郎「アベノミクスは積極財政か?」〈19年11月22日〉)であり、「派手な経済対策とは裏腹に節約傾向であったことが確認できる」(東京財団政策研究所・飯塚信夫「『第2の矢』は放たれていたのか?─財政データに見る『アベノミクス』〈政策データウォッチ(33)〉」〈20年9月16日〉)というのが、多くのアナリストの受け止めだ。
   財政健全化という呪縛
安倍は「成長戦略」どころか、「機動的な財政政策」という第2の矢すら放っていなかったことになる。「1強」とまでいわれた安倍が、なぜ放てなかったのか。
この点について、本田はこう振り返る。
「安倍さんもわれわれも緊縮傾向だったことに気付かなかった。安倍さんがこれを知ったとき、『財務省はこんなことをしていたのか』と怒っていました」
日本の債務残高は安倍政権下でも対GDP比230%前後で推移していた。先進7カ国(G7)のみならず、その他の諸外国と比べても突出している。
財務省は、高まる公債依存は将来世代への負担の先送りであり、利払いや償還費が予算を圧迫して財政の硬直化を招く、そして国債や通貨の信用が低下し、ハイパーインフレのリスクがあると警鐘を鳴らし続けてきた。この財務省主流派の「予言」に安倍自身もからめ捕られていたということだろう。
消費も増えず、生産性も上がらず、デフレ脱却は十分に果たされることなく、日本はコロナ禍にまみれることとなる。そして、その有事のさなか、安倍は再び体調不良を理由に自ら政権を手放した。
岩田は「安倍首相の辞任で、アベノミクスが解決しようとした問題のかなり多くの部分が解決されることなく残ってしまった」(「『日本型格差社会』からの脱却」P60)と嘆くが、むしろ「約8年もの長期政権だったにもかかわらず、かなり多くの問題を解決することができなかった」という方が妥当ではないか。
岩田自身が著書で指摘しているように、「綻(ほころ)び始める社会保険制度と賃金格差の拡大」「不均衡な所得の再配分」「深刻化する貧困問題」など、構造的問題は残されたままだ。
   アベノミクスの呪縛
アベノミクスに一定の成果があったことは否定しない。雇用は確かに増えた。岩田が言うように「職がなく、失業者で、賃金所得がないよりも、非正規でも、職があり、賃金所得が得られる方がいいに決まっている」(「日銀日記」P412)というのも確かだろう。
しかし安倍は、民主党政権を「悪夢」とこき下ろし、成長できないという「『諦めの壁』は完全に打ち破ることができた」と自画自賛していたではないか。「たとえ貧しくても、職と食がないよりはまし」という人を増やして胸を張っていたとすれば、安倍の言葉は大風呂敷であり、居直りであり、ごまかしであろう。
「機動的な財政出動が不十分だったことは確かだ。しかし、アベノミクスの理論は間違っていない。大胆な金融緩和を継続し、不十分だった機動的な財政出動を実現すれば、必ず需要は増えてくる。継続は力なり」
こう語る本田にはみじんの迷いもない。しかし、10年かけて目的を達成できなかった政策である。継続の先に明るい未来を期待する人は、そう多くはあるまい。 

 

●「次の日銀総裁」の人事が、日本経済にとって「決定的に重要」になるワケ 1/10
「低所得・低物価・低金利・低成長」の「4低」が「ふつう」になった日本。かつての経済大国「高い日本」が、なぜこんな「安い日本」になってしまったのか。
気鋭のエコノミスト永濱利廣氏は、著書『日本病――なぜ給料と物価は安いままなのか』で、この「4低」状況を「日本病」と名付け、その原因と、脱却するための道筋を考察している。
​2023年4月に控える日銀総裁の交代が、日本経済にどんな影響を与えるか? 『日本病――なぜ給料と物価は安いままなのか』から見てみよう。
日銀総裁の交代で金融緩和は終わるのか
「アベノミクスの異次元緩和は効果がないから、金利を元に戻すべき」という意見があります。もちろん、この発言は間違っています。ここまで見てきたとおり、アベノミクスには効果があったし、十分な景気回復が見られなかった最大の理由は(財政出動の不足やタイミングの悪い消費税増税などの要因もあるとはいえ)、長期化しすぎたデフレによってデフレマインドが定着してしまっていたからです。
ただ、妥当かどうかにかかわらず、金融緩和が出口に向かうタイミングが近づく可能性があるのも事実です。2023年の春に、日銀の黒田総裁が2期目の任期満了を迎え(厳密には任期満了せず去った白川方明氏の引き継ぎもあり2期+αの歴代最長の任期でしたが)、総裁と、さらに副総裁2名が交代する可能性があります。
もし、岸田首相が「金融緩和を終わらせたいと考える人」を次期総裁に選んでしまえば、せっかくここまで続けた金融政策が、2013年以前に逆戻りしてしまうかもしれません。そして、岸田政権へのこうした不安は、ここまでの政権運営を見ている限り払拭できていません。
2021年12月23日の講演で、岸田首相は日銀の金融政策について触れ、インフレ目標2%の実現に向けて「努力されると期待しております」と述べているものの、「分配」重視路線や閣僚人事などで岸田政権がどう動くかはなんとも言えません。
今の日本が低金利なのは経済環境が悪いから仕方のないことで、局所的なデメリットだけを取り上げて、ここまでの日本の努力を無にするのは問題です。これまでの政権で問題だった点は正していくべきですが、成功した経済政策までを否定するのはナンセンスです。
アベノミクス以降、マーケットを重視した経済政策への好感から、日本株が海外からも買われるようになりました。逆に今、岸田政権に対する不安感もあり、株価が海外にくらべて上がりにくくなっています。株価が上がりにくくなれば企業業績に、ひいては我々の雇用や賃金にも影響するため、もう少しこの反応を重く受け止めてもらいたいものです。
官邸主導で人事を行わないと、強気の金融政策を推し進める日銀総裁・副総裁が選ばれない可能性もあります。それをリスクと見る向きが多いことも事実です。
日銀総裁が変わるとマーケットはどうなるか
しかし、日銀の総裁が交代しただけでそんなにマーケットは変わるものなのか、と思う人がいるかもしれませんが、これが、大いに変わるのです。
それを示したのが図表4-5です。いちばん上の矢印を見てください。
2012年に衆議院の解散が決まるまでは、1ドル70円台の超円高が続いていました。
ふつう自国通貨高の場合には、経済悪化を阻止するため、政策当局は通貨高を阻止しようとします。しかしこのときのマーケットでは、「どうせ放置するから円高が続くだろう」という予想が主流となり、さらに円高が加速していた状態でした。特に、日本の金融政策にマーケット関係者の多くが期待していなかったのです。
それが、2012年11月、民主党政権が衆議院解散宣言をします。当時の支持率からすれば民主党は選挙で勝てそうもなく、自民党総裁だった安倍晋三氏が次期首相になることはほぼ確実とみなされました。安倍氏は金融緩和政策やマーケットが好む経済政策をずっと掲げていたため、就任前から市場は先回りして動き、一気に円安に傾いたのです。またこのとき、ずっと落ち込んでいた日経平均株価も同時に上がりました。
民主党政権時代は、金融緩和にも消極的でアンチ・ビジネス的な発言も多かったことで、外国人投資家は日本株を手放しました。それが安倍政権になり、日銀総裁も黒田氏に代わり、グローバルスタンダードに見合った金融政策が始まりそうだということで、ふたたび日本株が買われ始めたのです。
経済にとって、期待値やマインドがいかに大きな要素であるかがわかります。
●長期金利が上限0.5%、日銀は指し値オペ通知−政策修正観測が根強い 1/10
債券相場では新発10年国債利回りが、日本銀行の許容変動幅の上限0.5%で取引が成立している。日銀は10年国債の連続指し値オペを通知した。米長期金利が大幅低下した流れを引き継いで先物の買いが先行したものの、昨年12月の東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)が上振れする中、日銀の緩和政策修正をきっかけとしたさらなる修正観測が根強い。
日銀は午前10時10分の金融調節で、10年国債を0.50%の利回りで無制限に買い入れる指し値オペを通知。チーペスト銘柄を対象とした指し値オペも継続した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介債券ストラテジストは、「追加的な政策修正観測が根強い中では10年債の買い手も集まりづらく、0.5%に張り付いている。東京都区部のCPIも相場の重しになっている」と指摘。「残存8−9年ゾーンの金利は気配値が低下しており、海外金利低下のサポートもあり、午前の金融調節は10年債の連続指し値オペだけにとどまったのだろう」との見方を示した。
SMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは、10年金利が上限0.5%を付ける動きの背景について、「昨年12月の政策修正が海外金利発ではない形でのイールドカーブ全般の上昇を招いたことがある」と言い、「10年近辺の市場のゆがみが大きく残存する形になっており、昨年7−8月のように米金利低下に伴う日本国債カーブ全般の低下がカーブのゆがみを自然解消させるようなメカニズムは働きにくい」と指摘する。
●異次元緩和10年 暮らしに目向けた政策を 1/10
「異次元」の大規模金融緩和を導入した日銀の黒田東彦総裁が今春、2期10年の任期満了となり、交代が確実視されている。
アベノミクスの第1の矢である異次元緩和は2%の物価上昇目標を掲げた。「物価が上がるからお金を早く使った方が合理的」と予想させ、国民が消費を前倒しするよう誘導する政策だった。
だが消費は一向に上向かず、今後も実現は厳しい状況だ。
日銀はまず異次元緩和を徹底的に検証することが欠かせまい。
昨年末に日銀は事実上の利上げに追い込まれた。人為的に長期金利を抑える政策が市場の圧力などで限界に近づいているためだ。
専門家には、海外金利や物価の動向次第で近く再修正を迫られるとの見方も少なくない。
黒田氏には物価高に苦しむ国民を逆なでする発言もあった。金融政策そのものも、国民の信頼と共感を得ることはできなかった。
新総裁は市場に偏重せず、国民の暮らしに目を向けた政策へ転換することが求められよう。
消費回復はなお遠く
アベノミクスを支えた麻生太郎前財務相は在任時の記者会見で、その目的を「資産デフレからの脱却」と枕ことばのように述べた。
実際、アベノミクス開始前と比べると株や土地などの資産価格は大きく回復した。安倍内閣が任命した黒田氏の異次元緩和がそれらに貢献したことは確かだ。
ただ6年弱のアベノミクス景気でも、個人消費はほぼゼロ成長だった。企業は内部留保をため込むばかりで、賃上げを抑制した。
異次元緩和は国民だけでなく、企業の行動も変えられなかったと評価せざるを得まい。
逆にもたらしたのが円の実質的価値の大幅な低下である。私たちがいま海外の製品やサービスを購入するのに必要な対価は、50年前と同じ水準となっている。
道内には訪日客が押し寄せ、農水産物の輸出競争力が高まるなどの効果はあった。
しかし円安によるコスト増や購買力低下は大企業と中小企業、都市と地方の格差を一層広げた。
異次元緩和とそれによる円安は長い目で見れば、多くの国民や中小企業を実質的に窮乏させるものだったと言うほかない。
資源を輸入し、預貯金に頼る高齢者が多い日本で、円安を誘う超低金利政策は正しい選択だったのか議論を深めるべきだろう。
弊害目立つ金利操作
現在の異次元緩和の中核を成す長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)は、世界の中央銀行でも異例の政策だ。
経済の動きが金利に反映されないため、影響が為替の大幅な変動として表れやすいとされる。
昨秋に一時1ドル=151円まで円安が進んだ一方、年明けには129円台に戻す場面もあった。
YCCは元々、マイナス金利の導入で長期金利も下がりすぎたのを抑える狙いだったが、いまや弊害の方が目立っている。
例えば、長く金利をゼロに抑えねばならないほど経済や物価の低迷は続くという予想を国民や企業に植え付けたことだ。低金利をいま活用して消費や投資をする動機を失わせている恐れがある。
実質賃金が低下する状況では先行きの需要も細るばかりだ。日銀は緩和が長引くほど効果は低下することに留意する必要がある。
国債依存脱却を急げ
異次元緩和やYCCが抱えるさらに大きな問題は、政府の財政規律を失わせていることだ。
政府が100兆円を超す予算を編成し続けられるのは、日銀が国債を買い支えて金利を抑えていることなしには考えられない。
だが金利上昇を抑えられても円安と物価高は止められず、しわ寄せは国民が受けることになる。
その事態を避けるために日銀が取り組むべきは、財政法の趣旨にも反する政府との「一体化」に歯止めをかける仕組みづくりだ。
政府は政策経費を借金に頼らずに賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目標に掲げる。だが達成時期の先送りを繰り返している。
財務省は今月、事実上の利上げを受けて長期国債の表面利率引き上げを余儀なくされた。毎年の利払い費が増え、財政難に拍車を掛ける懸念は高まっている。
デフレ脱却などに向けて政府と日銀が2013年に発表した共同声明について、岸田文雄首相は新総裁決定後に見直す方針だ。声明には財政健全化への道筋をより明確に示す必要があろう。
少子高齢化が進む日本で経済成長の特効薬はない。政府も日銀も金融政策だけでは限界があることを謙虚に受け止めるべきだ。
その上で、危機的な財政や社会保障の改革などにも多面的に取り組んでいかなければならない。 
●中銀の気候変動対策、責務の範囲内で措置講じる=黒田日銀総裁 1/10
日本銀行の黒田東彦総裁は10日、気候変動対応に向けて中央銀行が取る措置は、権限の範囲内で市場の中立性を損なわないよう慎重に調整する必要がある、との見解を示した。
スウェーデン中銀の主催イベントに参加した同総裁は、気候変動対策へ「何ができるか、何をするか」を国民に説明する準備も必要と指摘。「政府から独立した中央銀行は、無条件に気候変動に対応することはできない」とし、長期的観点から「責務の範囲内で自律的に措置を決定」しなければならないと述べた。
気候変動対応は持続可能エネルギーか化石燃料かの区別を必然的に伴うが、中銀は選挙で選ばれていないため、特定の産業ではなく経済全体に影響するようにしなければならないとの見方を示した。
日銀は金融政策で政府と協力すべきと定められており、これは気候変動に対しても適用されると黒田総裁は指摘。気候変動を巡る日銀に特定の責務はないが、対応は政府の措置に沿ったもので、「一般にも受け入れられている」と語った。

 

●「日銀の新総裁は誰か」より注目すべきたった1つのこと 1/11
日本銀行の正副総裁の任期が迫ってきた。「日銀の新総裁は誰か」に世間の注目が集まっているが、国民や投資家が注目すべきポイントは別にあると筆者は考えている。それは、日銀の新体制が金融緩和の見直しを「どのくらいのスピードで行うか」を探ることだ。
日銀正副総裁人事の真の注目点とは?
「岸田リスク本番」だと筆者が恐れているイベントがいよいよやって来る。
日本銀行の正副総裁人事が発表されるタイミングが近づいている。現在の黒田東彦総裁は4月8日まで、雨宮正佳副総裁と若田部昌澄副総裁の任期は3月19日までと、正副総裁の任期にずれがある。ただ、総裁を決めずに副総裁の人事だけが発表されるのも妙なので、3人同時に発表されるのではないか。時期的に2月中の発表が予想されるが、1月に前倒しされる可能性もあるのだろうか。
正副総裁を含めて、日銀の金融政策を決定する政策委員会の審議委員の人事は、政府から人事案の提示があって、国会の同意によって決定される国会同意人事だ。事実上、時の首相が任命する。
「岸田リスク」とは、株式市場関係者の間では岸田文雄首相の発言などによって株価が急落するような事態を指す。過去に金融所得課税の見直し(増税)の検討や自社株買いに対する規制の検討などについて発言して株価が一時的に下落したことがある。しかし、日銀総裁人事は、これらとは影響の桁が違う。
日銀の総裁と副総裁の任期は5年だ。つまり、正副総裁人事は将来5年にわたって金融政策に大きな影響を与える「人事をもって行うフォワードガイダンス」なのだ。フォワードガイダンスとは、中央銀行が政策の決定事項やトップの発言などを通じて将来の金融政策行動を半ば約束・予約する政策手段のことだが、この人事は将来の金融政策の大方針に対する意思表示とみることができる。
日銀の正副総裁人事が「岸田リスク」になり得る理由
これが岸田首相によって行われることがリスクになり得ると考えるのは、過去の自民党総裁選時などに、岸田首相が安倍晋三元首相のいわゆるアベノミクスへの見直し方針を掲げていたことがあるからだ。その後、首相就任時にはマーケットへの影響を考えてか、金融政策の連続性を尊重する方針を打ち出したが、岸田首相の本音は金融緩和方針の見直しの方にあるように見える。
また、岸田氏は時々の世間の評判に影響されやすいが、昨年の円安に関して「悪い円安論」がやかましく、黒田総裁が主犯であるかのような論調が少なからず存在した。そのことが、彼の決断に悪影響を与える可能性がある。
日銀の金融政策は日本経済全体に大きく関わる問題なので、「投資家としては」といった狭い影響範囲からだけ考えるべき問題ではない。それでも、例えば投資家としては、アベノミクスの金融緩和を背景に上昇してきた株価や、内外の金融政策の差によって大きな影響を受けていると円の為替レートに対して、日銀の正副総裁人事は、その時直ちに与える影響が大きい可能性がある。また、その後に長期にわたって影響する可能性も大きい注目すべきイベントである。
問題は政策見直しの「スピード」
次期日銀総裁は誰か? 残念ながら現時点では分からない。現在名前が挙がっているのは日銀プロパー出身者や財務省関係者、あるいは一種のメッセージ効果が伴う女性などだ。ただ、こうした「世間の噂に上る総裁候補」は、いずれも積極的な金融緩和論者である現在の黒田総裁の路線を、相対的には金融引き締め方向に修正することを示唆する人物たちに見える。
失礼ながら、誰でも大差はない。任命者の意図に従い、組織の空気に逆らわない、凡庸な大人であり組織人ではなかろうか。
現時点では、岸田首相が指名する日銀の次期総裁および新体制は「金融緩和の見直し」を真意とするものであると決め打ちしていいだろう。黒田現総裁の金融緩和政策に(心から)賛成するような金融緩和積極論者は「リフレ派」と呼ばれるが、リフレ派の人物が総裁に任命されることはないだろう。
仮にそのようなことがあれば、大いに安心でポジティブなサプライズだ。本記事の続きは読む必要がない。読者は「予想を外したバカ!」と笑ってくれていいし、筆者も自身のバカぶりを笑って喜ぶことにする。その日の株価は、1日で日経平均株価でいうと1000円以上上がるのではないだろうか。
国民や投資家が注目すべきポイントは、新体制が金融緩和の見直しを「どのくらいのスピードで行うか」を探ることだろう。
なお、金融緩和政策の見直しが常にダメだと言っているわけでないことには注意してほしい。黒田総裁が言及するような、賃金の上昇を伴う経済の好循環を背景とした物価上昇が定着して、インフレ目標である「インフレ率2%」を安定的に達成できるような状況で金融緩和の縮小に転じることは適切だ。そして、そのためにこそインフレ目標がある。
避けたい状況は、望ましい物価上昇が実現する手前や、実現して早過ぎるタイミングで金融引き締めに転じて、日本に再びデフレ癖・低インフレ癖を呼び戻すことだ。
黒田総裁以前のような日銀であれば、また、円安悪玉論を隠さない現在の鈴木俊一財務大臣に振り付けをしているような現在の財務省の意を受けた日銀の新体制であれば、「早過ぎる引き締め」のリスクは小さくない。
注目点は政策変化の「スピード」の一点にある。
変化スピードを占う上で注目は「学者枠」の副総裁
現在噂の俎上に上っているような凡庸な人物が総裁になり、副総裁の一方は、「総裁の意に従う組織人」である日銀出身者か財務省出身者だろう。ここには、大きな期待を持てないだろうし、2人の人選だけから今後の政策を示唆する情報を読み取ることは難しいのではないか。
金融政策変更のスピードを推測する手掛かりは、おそらくは学者ないし識者から選ばれるもう一人の副総裁の人選にあるのではないか。現在の若田部副総裁のポジションの実質的な後任者だ。
ありそうにない人事だと現時点では推測するが、仮にこのポジションにリフレ派の学者を任命した場合、岸田首相は金融緩和政策の連続性の維持を強く意識していることが分かる。その場合、政策変更のスピードはかなりゆっくりとした慎重なものになるだろう。このようなバランス感覚が働くのであれば、岸田首相を少々見直してもいい。
他方、金融政策の変更を急ぐのであれば、かなり強硬な反リフレ派的な意見を持つ学者を指名するのではなかろうか。
新体制の政策委員会には、野口旭審議委員と、安達誠司審議委員という2人のリフレ派論客が残る。彼らに対抗する意見で学問的なやりとりができる副総裁を選ばないと、金融緩和撤収を決めようとする際の議事が議論の体をなさなくなるリスクが生じる。
総裁の意向で「長い物には巻かれてくれ」式の結論のまとめ方は組織運営論としてあるとしても、強力な反論を併記の形で議事録に残して、後に政策の失敗を認めなければならなくなるような事態は日銀も新総裁も避けたいだろう。
学者の副総裁であれば、過去に書いた文章や発言から意見の方向性を探ることができる。2013年の黒田総裁の就任以来、「異次元の金融政策」を巡って各所で論争や検討会が行われたので、検討材料は豊富にあるはずだ。
新体制の人事発表の際には、「学者枠」の副総裁に注目したい。
正副総裁人事が発表されたら記者会見で何が分かるか
新しい総裁と副総裁が発表されたら、彼らが発するコメントが注目されることになる。特にマーケット関係者は、今後の政策を探る手掛かりがないかを熱心に探ることになるだろう。
指名を受けてのコメントは、よほどのことがない限り、現在の政策の連続的継承を強調する無難なものになるはずだ。
首相官邸も日銀も、もちろん新総裁も、「○○ショック」と呼ばれるような株価急落を招くような事態をぜひとも避けたいはずだし、そのための発言のシナリオや振り付けを慎重に考えるはずだ。
ただし、総裁も副総裁も子どもの使いではないし、自意識やプライドのある生身の人間なので、今後の政策変更を示唆するような発言が出る可能性はある。
「政府と日銀とのアコード(政策協定)の見直しはあるか?」「2%のインフレ目標の達成時期についてどう考えるか?」「現在の日銀のオーバーシュート・コミットメント(インフレ率2%を十分超えるまで金融緩和を継続するというコミットメントでありフォワードガイダンス)を見直す考えはあるか?」
そういった質問に対して、政策変更のフリーハンドを確保したいとの意向をうかがわせるような発言があれば、「政策変更のスピードは案外速いかもしれない」と推測していいだろう。
新総裁・副総裁たちがどのくらい無難なコメントができるのか、そのコメントは本当に無難なのかを、興味深く聞いてみたい。
日銀の新体制に期待する3項目とは?
せっかく新体制が発足するのだから、新しい日銀総裁への要望事項を三つ述べておきたい。
一つ目は、金融緩和政策の十分な維持継続だ。日銀としてはもちろん、経済政策全体として目指しているはずのマイルドなインフレ状態が十分達成されるように、粘り強く金融緩和を続けてほしい。
かつての(06年の)、福井俊彦元日銀総裁の早過ぎたゼロ金利解除などを見るに、特に旧来の日銀マンは「できることなら利上げをやってみたい」という半ば本能的な欲求を持っているようだ。利上げをしないまでも「せっかく着任したのだから新しいことをしたい」という自意識が働くことも、人間としては自然だが、こうした煩悩を抑え込みながらプロとして金融政策に臨んでほしい。
二つ目は、「期待に働きかける」コミュニケーションのやり方を変えることを検討してほしい。
これまで、「日銀は2%インフレを作ることができるので、国民の皆さんは2%のインフレになると思って行動するといい」という趣旨のメッセージを発し続けてきた。当初は一定の効果があったように思うが、その後に、こうしたメッセージを出し続けなければいけない立場に日銀が自らを追い込んだことが、他の適切な政策(主に金融緩和に協力的な財政政策だ)を要求する議論につながらない事態を生んだ。さらには、日銀自身の手段として不適切な政策(上場投資信託〈ETF〉買い入れ、目標を提示したイールドカーブ・コントロール政策)につながったように思う。次期体制には「もっと率直なコミュニケーションの言語」を開発してほしい。
三つ目は、「財務省に直言できる日銀」の実現だ。黒田総裁時代に望ましい形で早く「インフレ率2%」が達成できなかった背景には、消費税の増税などによる財政政策の問題が大きかった。特に、政策金利がゼロに達して日銀の当座預金残高が積み上がるような状態では、金融緩和の効果に与える財政政策の影響が大きい。
不文律らしいので根拠を上げることが難しいのだが、これまでおよび現在の日銀には、財務省の財政政策に対して口を出さない不文律があるように見受けられる。「日銀の独立性」を尊重してもらうための引き換え条件的なニュアンスなのだろうか。
しかし、日銀と政府のアコード締結からも分かるように、金融政策と財政政策は共通の目的のために両方を関連付けながら最適化して用いるべきだ。日銀は専門的な見地から、財務省の財政政策に対する注文と議論を「国民に対してオープンな形で」投げかけてほしい。
筆者は、マクロ・ミクロ両面で日本の財政、すなわち財務省のあり方に大いに問題があると思っている。全く個人的な思い込みだが、テレビのニュースなどでウクライナの報道を見ると、ロシアの戦車に「Z」のマークが描かれているのを見かけるが、このZが「財務省のZ」に見えて仕方がない。
現在、より大きな問題を抱えているのは、BOJ(=日銀)よりもZ(=財務省)の方なのではないだろうか。
●12月東京のCPI4.0%と40年8カ月ぶりに高水準  1/11
全国の物価の先行指標となる東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、昨年12月に前年同月比4.0%上昇と、1982年4月(4.2%上昇)以来、40年8カ月ぶりに4%台に乗った。原材料高や円安を背景に価格転嫁が続く食料品に加え、エネルギーが全体を押し上げた。総務省が10日に発表した。
生鮮食品を除く食料は同7.5%上昇し、1976年8月(8.1%上昇)以来、46年4カ月ぶりの高い伸びとなった。エネルギーは同26.0%上昇と、昨年3月以来(26.1%上昇)の高い上昇率だった。
SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人主任研究員は、「エネルギー・食料品に限らず幅広い分野に価格上昇の裾野が広がっている」と指摘。「全国旅行支援による政策的な押し下げ要因もあるため、実態としての物価上昇は数字が示すよりもさらに深刻」との見方を示した。
食料品を中心に原材料高や円安に伴うコスト上昇を価格に転嫁する動きが続いている。昨年12月の日本銀行による金融緩和の修正を事実上の利上げと受け止めた市場では、日銀による一段の政策修正に対する思惑が根強い。日銀が17、18日に開く金融政策決定会合における政策対応と新たに示す経済・物価情勢の展望(展望リポート)に注目が集まる。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、足元の物価動向を市場は追加の政策調整を日銀に促す水準と受け止める可能性があると分析。ただ、日銀としては賃上げの状況を見極める必要があることから、「すぐに金融政策に反映される、変更につながるということではないだろう」と語った。
詳細(総務省の説明)
・生鮮食品を除く食料は、ヨーグルトや焼き肉(外食)、握りずし(弁当)、豚肉などの価格が上昇
・エネルギーは、都市ガス代が大手ガス会社による燃料調整費の値上げにより、11月に比べ0.07%ポイントの押し上げ寄与。ガソリン代は前年同月に値下がりした反動などでプラス寄与
・宿泊料(15.3%下落)は全国旅行支援が0.30%ポイントの押し下げ寄与となったが、12月という季節的な影響もあり、前年比のマイナス幅が縮小。全体では11月と比べてプラス寄与
・コアCPIの前年比では、12月に全522品目中376品目が値上がり、値下がりは78品目。11月は値上がり364品目、値下がり90品目
●円は132円前半、米インフレ鈍化観測や日銀政策修正観測で底堅い 1/11
東京外国為替市場では円が1ドル=132円台前半で取引されている。海外時間は米国債利回り上昇を背景にやや円安気味に推移したが、12日に注目の米消費者物価指数(CPI)の発表を控えて、小幅な値動きに終始。米インフレ鈍化観測や日本銀行の政策修正への思惑がくすぶる中で、円は底堅い展開となっている。
三菱UFJ銀行の鈴木悠太調査役(ニューヨーク在勤)は「米国時間は入札に向けたセットアップで米金利が上昇し、ドル・円の支えになったが、その他は材料がなかった」と説明。「日銀の政策変更期待が高止まりしている中、アクティブに取引をするというよりは、ポジションを小さくして米CPIを待っている状態」で、東京市場も新たなニュースが出なければ132円前後で推移する可能性が高いとみている。
10日の米国債相場は長期債中心に下落。10年債利回りは一時11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)高い3.64%付近まで上昇した。9日には平均時給などインフレ関連指標の鈍化を受けて、3.5%台に低下していた。米株式相場は上昇。米CPIが一段と鈍化し、米利上げペース減速への論拠が強まるとの見方が広がった。 
12日発表の昨年12月の米CPIは、1月31日−2月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合前に当局者らが確認する最後の主要経済指標の一つとなる。過去2回は市場予想を下回り、米金利低下・ドル下落につながっただけに、市場の警戒感は強い。
米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン理事は10日、インフレ抑制に向けてさらなる利上げが必要だとし、価格安定に向けて当局者らは金利を景気抑制的な水準でしばらく据え置くべきだとの考えを示した。
パウエルFRB議長は、ストックホルムで開かれたフォーラムで中央銀行の独立性について発言。経済や金融政策の見通しについて直接の言及はなかったが、「われわれは経済を減速させるため政策金利を引き上げている。高インフレの状況で物価の安定を取り戻す上では、短期的に支持されない措置が必要となることもあり得る」と語った。
鈴木氏は、商品価格の下落やベース効果、平均賃金などが弱かったことから市場はどちらかというと米CPIの弱い数字を警戒していると指摘。その上で、「米金融当局はタイトな雇用市場に起因するコアサービス価格がキーポイントになると言っているので、昨年の利上げの効果がそのあたりまで波及してくるのか、コアCPIの前月比の伸びに注目している」と言う。
●「ポスト黒田」を待ち受ける過酷な運命:日銀総裁10年ぶり交代へ 1/11
実現しなかった公約
黒田東彦日銀総裁が今年4月8日に2期10年の任期を終える。岸田文雄内閣は2月にも後継人事案を国会に諮るとみられるが、新総裁が「異次元金融緩和」をそのまま引き継ぐのか、あるいは軌道修正を図るかによって、内外の金融市場は大きく左右される。国際金融の世界で今年最も注目される人事であり、支持率低迷に悩む首相にとっても「絶対に人選ミスの許されないマクロ経済運営の柱」(首相側近)となる。
2013年春、第31代総裁に就いた黒田は「マネタリーベースを2年で2倍に膨らませ、2%の消費者物価上昇率を達成する」と宣言し、自ら「異次元」と称する大規模な金融緩和を開始した。人々のインフレ期待に働きかけ、デフレ脱却を図る戦略だった。
その結果、民間金融機関が日銀に預ける当座預金は「量的緩和」が始まった2001年には5兆円だったが、それが一時100倍近い500兆円にまで膨張した(現在は約480兆円)。この当座預金に現金を加えたマネタリーベースも600兆円を超え、国内総生産の規模を大きく上回る。欧米の中央銀行と比較しても、日銀は突出した存在である。
一方、この膨大な通貨供給の見返りに、日銀は市場から大量の国債を買い入れ、その発行残高に占める保有比率は5割を超えた。加えて、中央銀行としては前例のない株式(ETF=上場投資信託)の買い入れも簿価ベースで36兆円に達している。
しかし、これほど大胆な「経済実験」にもかかわらず、黒田が就任してから9年間、物価上昇率が2%を超えることは一度もなかった。最後の10年目になって物価はついに急騰したが、それは異次元緩和の効果ではなく、皮肉にもロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格の上昇と米国の急激な金融引き締めによる円安・ドル高によるものだった。
新総裁が背負う「負の遺産」
3%を超える物価上昇に対し、国民の間では不満が募っている。だが、黒田は「上昇率はいずれ鈍化する」として、賃上げを伴った安定的な物価上昇が実現するまで緩和を継続すると主張している。昨年暮れに長期金利の変動幅を広げたものの、おそらく現状の枠組みを維持したまま次の総裁にバトンを渡す腹積もりだろう。
「異次元緩和によってデフレを解消し、景気を底上げし、雇用も増えた」というのが、黒田執行部の揺るぎない自己評価である。
だが、次にバトンを渡される側に立ってみると、黒田とは全く異なる風景――つまり気の遠くなるような「負の遺産」が視界に飛び込んでくるだろう。好むと好まざるとにかかわらず、今後5年の在任中に新総裁は膨張しきった複雑な政策を解きほぐし、正常化するという厳しい運命を背負わされているのだ。
岸田首相は基本的に緩和路線を重視しているが、故安倍晋三首相が進めたリフレ政策とは一定の距離を置く構えで、新たな正副総裁や今後の審議委員に「リフレ論者」を指名する公算は小さいとみられている。
このため、アベノミクスからの「緩やかな転換」を託された新執行部は、しばらく緩和政策を継続しつつ、並行して異次元緩和の総点検を進めるだろう。過去10年間の効果とコストを洗い出し、それを踏まえて「何を残し、何を修正するか」を決めることになる。
難題山積の「出口戦略」
特に、これまで黒田が「時期尚早だ」としていた異次元緩和から脱出する出口戦略については、足元の景気と物価をにらみつつ、技術的な検討に着手する可能性が高い。
緩和政策の修正にあたっては、市場との対話を進め、信頼関係を再構築することが重要なカギとなる。2%目標の先送りとサプライズ戦略を繰り返した結果、市場と国民の信頼を失った黒田体制を「反面教師」とし、誠実で練度の高いコミュニケーション能力が新総裁には求められる。
その上で注目の出口戦略だが、仮に「賃金と物価の好循環」が確認できた場合でも、新執行部は現在の膨大なバランスシートを維持したまま、当座預金への付利金利を引き上げることで物価上昇圧力を封じ込めようとする公算が大きい。
当座預金への付利は2008年に始まり、現在はその一部にマイナス金利が適用されている。まずはこれを解除し、さらに金利水準を段階的に引き上げれば、当座預金残高を減らさなくても金融引き締めは実行できる。米国の例で実証済みだ。
一方、保有する国債については、満期到来とともに可能な範囲内で減少させ、極めて緩やかなペースでバランスシートを圧縮していく可能性が高い。その都度、猛烈な国債の売り圧力にさらされるが、現在の長期金利操作(イールドカーブ・コントロール)を駆使しながら金利の急騰を抑え、その後、長期金利から手を放すタイミングを慎重に探ることになるだろう。
ただ、500兆円近い当座預金の付利金利を1%引き上げると5兆円、2%上げなら10兆円に上る利払い負担が発生する。一方で国債の運用利回りは大幅に低下しているため、日銀は深刻な「逆ザヤ」に直面し、巨額の赤字が自己資本を食いつぶして債務超過に陥る恐れがある。日銀の財務悪化は国庫納付金の減少や消滅という形で実質的な国民負担を招くため、新総裁にとっては頭の痛い「政治問題」に発展しかねない。
国債と異なり、満期が到来しないETFの正常化はさらに難しい。株式相場への影響を回避するため、政府への一括売却などさまざまなアイデアが水面下で浮かんでいるが、ETFからの巨額の分配金が日銀財務を実質的に支えていることから、日銀内には「塩漬けしても構わないのではないか」との声も出ている。
「不発弾」処理誤れば大惨事に
このように、どのルートを選択しても正常化への道は険しいが、そもそも外部環境によっては正常化への一歩を踏み出すことも難しくなる可能性もある。最大の懸念材料は、米国経済の先行きと日本の財政状況だ。
経済協力開発機構(OECD)の世界経済見通しによると、23年の米国の経済成長率は22年見通しの1.8%から0.5%に急減速するという。
もし米国が現在の引き締め政策から利下げに転じた場合、再び強い円高圧力が高まることが予想され、「場合によっては日本も追加緩和を迫られる局面も予想される」と日銀幹部は漏らす。もし米国の景気が後退し、さらに中国経済の変調も続くような事態になると、正常化どころの話ではなくなる。
また、仮に米国経済が24年大統領選に向けてリバウンドしても、日本の財政の持続性に対する信頼が揺らげば、その時点で正常化は「ゲームセット」になる。
少子高齢化と潜在成長率の低迷により日本の稼ぐ力が衰え、経常黒字の維持が困難になると、長期金利に対する制御力は瞬時に失われる。昨年秋に見られたように、円は激しく売り込まれ、長期金利の猛烈な上昇圧力に日銀はやがて手も足も出なくなるだろう。
このリスクを回避するには、潜在成長率引き上げのための構造改革と血のにじむような財政健全化に取り組むしかないが、年末の防衛増税をめぐる混乱にもみられたように、選挙重視の政治家たちにそうした覚悟があるようにはみられない。
そしてもう一つ残ったハードルが、10年前に政府と交わした共同声明の取り扱いだ。本来、この種の政治的文書は不必要である。仮に残すとしても「できるだけ早期に実現する」と書かれた2%の物価上昇率を「中長期的目標」と再定義することが不可欠だが、下手に動くと政争の具となる。このため、日銀の有力OBらは「用心深い取り組みが必要」「急いで変える必要はない」などと話している。
異次元緩和の正常化とは、換言すれば金融経済の地中に埋められた「大量の不発弾」から1本ずつ信管を抜いていくようなもの。その抜き方やタイミングを誤れば、大惨事につながる。
こうした事情から、ある政府高官は「過去の経緯と政策体系を熟知した日銀出身者でなければ、とても次の総裁は務まらない」と打ち明ける。ただ、日銀OBの一人は「誰が選ばれようと、140年の歴史で最も厳しい環境に置かれる総裁になるだろう」と、過酷な運命を予言している。
●日本経済の先行き 賃上げの広がりが鍵握る 1/11
厚生労働省が6日発表した2022年11月の物価上昇を加味した実質賃金は、前年同月比3・8%減で14年5月以来、8年6カ月ぶりの下落率となった。物価高に賃金が追い付いていない状況が深刻さを増している。今年に入ってからも食料品などの値上がりに拍車がかかり、家計が一層厳しさを増す年になりそうだ。
岸田文雄首相は経済3団体の新年祝賀会で「日本全体の賃上げを引っ張るのはここにいる企業の皆さんです」などと声を張り上げ、物価上昇率を上回る賃上げを求めた。政府は23年度の実質国内総生産(GDP)成長率をそれまでの1・1%から1・5%に上方修正し、さらには金額も558兆円を予想している。ただ、これは賃上げが実現し消費が拡大すると見込んだ上での予測であり、楽観はできないはずだ。
春闘で連合は定期昇給分を含め5%の賃上げを求めている。大企業などは500兆円超もの内部留保を抱える。上場企業を中心に政府や連合の要請にこたえていく体力は十分にあるのではないか。問題は、企業の多くを占める中小企業の動向にある。昨年来の燃料代、資材高騰を受け、ベースアップにも踏み込めないとする企業も少なくない。賃上げの広がりが鍵を握る状況にある中、「官製春闘」の行方は見通せない。
コロナ禍は最悪期を脱したとの見方もあるが、感染自体は爆発状態にあり、亡くなる人も過去最大ペースが続いている。新たな変異株が出現する恐れもあり、とりわけ、中国の感染拡大を厳重に警戒しなければならない。これが落ち着いてくれば、外食や観光などが再び活発化し、地域経済が潤い消費が向上する好循環につながる。この好循環を生かすも殺すも物価高にかかっているといえよう。
物価高を助長してきた急激な円安は、ここに来て極端な基調から脱しつつあるようだ。一時、1ドル=150円台まで下落したが、日銀の金融緩和修正もあって130円台に戻している。この傾向が定着すれば、原材料価格の高騰も緩和されることになり、コスト低減となる企業では賃上げの原資も確保できるだろう。
一方で、利上げが続く欧米を中心に景気後退が見込まれ、海外経済の動向が日本経済に与える影響も懸念される。そのためにも内需を強め、海外景気に左右されにくい体質が求められる。長年続いてきた低賃金の連鎖を打ち破る必要性はここにもあるのではないか。ウクライナ危機は自由貿易体制を揺るがし、貿易や金融の分断にもつながった。こうした中で、国益を確保しながら国際協調を模索するなど、山積する内外の課題に官民挙げて最善を尽くす必要がある。  
●日銀に政策検証を進言、白井元審議委員「よりシンプルな枠組みに」 1/11
慶応大学の白井さゆり教授(元日銀審議委員)は11日、都内で講演し、日銀が新体制のもとで10年間の政策検証を実施することを進言するとともに「よりシンプルに分かりやすい枠組みに変えられたらいいのではないか」と述べた。
日銀は昨年12月に開催した金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の枠組みを維持しつつ、長期金利の許容変動幅を拡大した。
白井氏は、日銀の判断について、政策の柔軟性と持続性を高めるという意味で方向性は「正しい」と評価。市場の状況を見極めつつ、柔軟性を高めていくことが「一つのこれから追求していく方向性だ」と語った。
今後の日銀の政策運営については、この10年間で政策の仕組みが複雑になってきたことから、よりシンプルで分かりやすい枠組みにしていくことが望ましいと指摘。そのためにフォワードガイダンスの表現やマイナス金利政策の副作用対策なども含め、政策全体の検証と総括が必要との考えを示した。
白井氏は「新しい体制のもとで、可能であれば10年のレビューをしたらいい」と述べつつ、「大きく何か枠組みを変えるのはちょっと考えづらい」とも語った。
●狂気の大増税♀ン田首相、アベノミクス完全否定 経済再建に大打撃 1/11
岸田文雄政権の経済政策に警戒感が高まっている。「防衛力強化」の財源として、安倍晋三元首相が提示した「防衛国債」を排除して、財務省主導の「増税」方針をごり押ししただけでなく、岸田首相は4日の年頭記者会見で、将来的な「子ども予算倍増」を打ち出したが、財源として「消費税増税」が浮上しているのだ。「岸田大増税」の足音が近づくなか、日銀は先月、大規模な金融緩和策を修正して「事実上の利上げ」にかじを切った。今後、住宅ローン金利などに影響が及ぶ可能性がある。岸田政権は「アベノミクスを完全否定」して、コロナ禍で痛めつけられた日本経済の再建を妨害するのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が核心に迫った。
岸田政権の「アベノミクス潰し」が鮮明だ。防衛費増額を口実に昨年末、「防衛増税」を打ち出したのに加えて、春の日銀総裁人事でも利上げ志向が強い日銀出身者らの起用が取り沙汰されている。日本経済は「お先真っ暗」と言わざるを得ない。
岸田首相は3日、ラジオ番組で、国債発行に頼らず、財源を確保していくのは「未来の世代への責任」と強調した。増税に理解を得るため、国民に説明を尽くすという。だが、どう説明するつもりなのか。
政府は当初、「2027年度までの5年間で防衛費の総額は43兆円とするが、27年度時点で1兆円程度の財源が足りなくなるから、その分を増税で賄う」と言っていた。
だが、43兆円のうちの1兆円など「誤差の範囲内」だ。その間に景気が上向いて、税収が伸びれば、1兆円などすぐ出てくる。実際、昨年7月に発表された21年度の税収は前年度を約6兆円も上回っていた。
こうした反論を恐れたのか、岸田政権は途中から「増税は24年度以降」と時期を玉虫色にする一方、増税で確保するのは「27年度までに3・5兆円」と風呂敷を広げてみせた。
逆算すれば、25年度から毎年1兆円以上を増税で賄う話になる。「24年度以降の増税」でつじつまが合うように、数字を操作したのだ。もちろん、振り付けたのは財務省に違いない。
財務省も1兆円が「取るに足らない金額」なのは、とっくに分かっている。それでも増税に固執するのは、自分たちの言うことを聞く岸田政権のうちに「何が何でも増税に唾を付けておきたい」からだろう。逆に言えば、増税路線の既成事実化に成功すれば、財務省にとって岸田政権は用済みである。
財務省は来年度予算案の成立までは政権を支えるだろうが、その後は事実上、「次の政権づくり」に暗躍するだろう。
一方、日銀人事も大きな懸念材料だ。黒田東彦総裁は昨年末、唐突に事実上の利上げに踏み切った。かたくなに金融緩和を続けていた黒田氏が「なぜ、このタイミングで」と思わせたが、私は黒田氏が「退任後も影響力を残そうとした」とみる。
いずれ、自分が退任すれば、慣例に従って、次の総裁は日銀出身者が指名される可能性が高い。そうなったら、金融緩和路線の修正は必至だ。それなら、むしろ自分が緩和修正の先鞭(せんべん)をつけることで「影響力を維持できる」とみたのだ。
自分が緩和路線を修正すれば、次の総裁にも、背後にいる財務省にも、これまでの路線が全否定されることはない。むしろ功労者として評価される。
この利上げのおかげで、岸田政権も次の総裁人事がやりやすくなった。利上げ志向の人物を後継に選んでも、抵抗がぐんと減ったからだ。黒田氏は政権にも恩を売ったかたちなのだ。いかにも、知恵者の黒田氏らしい判断ではないか。
いずれにせよ、これで岸田政権の「増税+利上げ路線」が確実になった。「アベノミクス潰し」というより、「アベノミクスの完全否定」と言っていい。
日本経済はどうなるのか。
世間では、「賃上げが鍵を握る」などといった解説が飛び交っている。だが、企業経営者は増税に利上げ、それが招いた円安修正で3重苦だ。大した賃上げは期待できそうにない。

 

●日銀、大規模緩和の副作用点検へ…年末の政策修正後も市場金利にゆがみ 1/12
日本銀行は17、18日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策に伴う副作用を点検する。昨年末の政策修正後も市場金利にゆがみがあるためだ。悪影響を減らして緩和的な金融環境を維持し、物価高の下での投資や消費を支える。
債券市場における金利の形成や、短期金利の状況を確認する。昨年12月会合で、0%程度に操作する長期金利の上限を0・25%から0・5%に拡大した。ただ、1月以降は長期金利が上限で推移するほか、償還期限のさらに短い金利も上昇しやすく、日銀の狙いと異なる金利の動きがみられる。国債の購入量の調整などで市場のゆがみを是正できるかを見極める。必要な場合は追加の政策修正を行う。
会合後に公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、2023、24年度の生鮮食品を除く消費者物価の上昇率を10月時点の1・6%から、いずれも日銀が目標値とする2%に近づくか上回る水準とする見通し。幅広い品目で広がる原材料高に伴う値上げを反映する。
もっとも、物価動向は、政府による電気料金の負担軽減策の影響を受けやすい。日銀は会合で、金融政策の判断は、経済対策の影響を除いた物価動向を重視する方針を共有する見通しだ。
●銀行株が堅調、日銀が大規模緩和の副作用点検と報道 1/12
東京株式市場で、銀行株が堅調な展開だ。前日は米金利が低下したものの、日銀が大規模緩和の副作用を点検するとの一部報道があり、「政策の追加修正への思惑が出ている」(国内証券のストラテジスト)とされ、金利上昇による収益改善期待が買い材料となっている。
三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、はそれぞれ一時約3%超高となった。
12日付読売新聞は、日本銀行が17─18日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策に伴う副作用を点検すると報じた。同報道によれば、昨年末の政策修正後も市場金利にゆがみがあるためで、悪影響を減らして緩和的な金融環境を維持し、物価高の下での投資や消費を支えるという。債券市場での金利の形成や短期金利の状況を確認するとし、国債の購入量の調整などで市場のゆがみを是正できるかを見極め、必要な場合は追加の政策修正を行うとしている。
●日銀長期金利「上限0.5%」の曖昧な根拠、金融政策には科学的手法が必要 1/12
長期金利の上限はどんな根拠で決めたのか? 客観的科学的指標は存在する
長期金利の動向は、為替レートや株価をはじめとして、さまざまな経済変数に極めて大きな影響を与える。
実際、昨年12月20日に日本銀行がイールドカーブコントロール(YCC)の長期金利の上限を0.5%に引き上げて以来、為替レートも株価も変動し始めた。
上限引き上げを市場関係者の多くは従来の緩和政策の「事実上の修正」と受け止めたが、日銀は「市場機能の改善」を図り、金融緩和の効果をよりスムーズに波及させる狙いだと緩和政策の継続をいっている。
ところで長期金利の上限値を0.5%としたのはどのような根拠に基づいて決定されたのだろうか?
これについての説明は何もされず、ただ単に0.5%という数字が発表されただけだ。
根拠についての何の説明もなかった以上、この数字は、単なる腰だめで決めたとしか考えようがない。だから、これからさらに引き上げられていく可能性が高い。
だが金融政策は、腰だめで決めるのではなく科学的客観的基準が必要だ。そして政策決定のガイドとなるべき、客観的で科学的な指標は存在する。
「自然利子率」をどう推計? FRBは金利操作の基準に
科学的客観的基準となり得るのが、自然利子率という概念だ。
自然利子率というのは、経済活動に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な金利という考え方だ。
米連邦準備制度理事会(FRB)のスタッフは、潜在成長率の推計作業を行ない、それに基づいて、自然利子率を推計している。これが連邦公開市場委員会(FOMC)の金利操作の基準となっている。
海外の主要中央銀行の幹部はしばしば言及しているが、日本でも、この方法を採用すべきだ。
本コラム「『マイナス金利時代の終焉』で株価のバブルも終わる」(2022年9月22日付)でも自然利子率について説明したが、要点を繰り返せば、次の通りだ。
1.実際の利子率が自然利子率と等しければ、金融政策は景気に中立的。実際の利子率を自然利子率より低くすれば、景気刺激的。
2.一定の条件の下で、自然利子率は潜在経済成長率に等しい。そこで、自然利子率を推計するには、生産関数を用いて潜在成長率を推計する。
19世紀のスウェーデンの経済学者ヴィクセルが提唱した概念で、1960年代にフェルプスなどの経済成長理論によって、潜在成長率との関係づけが明らかにされた。
あまり正確ではないのだが、この考え方を直感的には次のように理解できる。
わかりやすくするために、物価上昇率はゼロだとしよう。そして1単位の投資をすると、1年後にこれが1.1単位になるとする。つまり、成長率が10%だ。
他方、この投資のために必要な資金を借り入れで調達する。
利子率がi%であるとすると、1年後に1+i/100を返却する必要がある。
もしiが10よりも小であれば、この投資は利益を生む。したがって投資が促進されることになる。つまり低い利子率が景気刺激的な効果を持つ。
自然利子率との比較では、現状もまだ過剰な金融緩和
自然利子率を求めるには、経済モデルを用いて日本経済の潜在成長力を推計する必要がある。
これについて、いくつかの推計が行われている。
まず、政府が財政収支試算(「中長期の経済財政に関する試算」2022年7月29日)の中で、潜在成長率を試算している。
それによれば、2023年度から31年度までの期間の年率実質潜在成長率の平均値は、成長実現ケースで1.6%、ベースラインケースで0.6%だ。
実際の政策では名目値を決める必要がある。このためには物価見通しを使って実質値を名目値に換算する必要がある。
財政収支試算によれば、23年度から31年度までの期間の消費者物価指数の対前年比の平均は成長実現ケースで1.9%、ベースラインケースで0.7%だ。
したがって、名目自然利子率は、成長実現ケースで3.5%、ベースラインケースで1.3%ということになる。
実際の金利をこれよりどの程度低くすれば景気刺激的になるかは、経験を参照して決められることになる。
ただ、控えめな予測であるベースラインケースと比較しても、現在の日銀の長期金利上限値0.5%は大幅に低い。
したがって、いまだに過剰な金融緩和になっていると考えることができる。
なお、将来の実質成長率の推計は財政収支試算以外にも幾つか行なわれている。
例えば、OECDが行っている2060年までの長期推計によると、20年から30年までの間の実質潜在GDPの年平均成長率は0.987%だ。
また、日本の民間機関などによる将来推計もあり、それによる実質GDPの年平均成長率は0.5%から1%程度の間だ。
これらを用いて比較しても現在の長期金利上限値0.5%は低すぎる。
日銀の政策体系が抱える深刻な矛盾 2%物価目標に比べ低すぎる金利上限
自然利子率の概念は、日銀の政策体系が深刻な矛盾を抱えていることを暴露する。その理由は次の通りだ。
物価上昇率を2%とすると、仮に実質自然利子率が0%だったとしても、名目自然利子率は2%になる。従って、現在の長期金利上限値0.5%は低すぎるということになる。
仮に、実質自然利子率が上で見たように1%程度だとすると、名目自然利子率は3%程度になり、現在の超金利0.5%はそれより2.5%も低い。あまりに過剰な金融緩和だと言わざるをえない。
つまり、日銀が掲げる2%の物価上昇率目標と長期金利上限0.5%は、矛盾しているのだ。
この点から考えても、金利上限値を引き上げ、かつ物価上昇率の目標値を、破棄するか、あるいはもっと現実的な値に改定すべきことが分かる。
低すぎる金利は非効率な投資を許容 経済をむしろ弱体化させる
自然利子率の概念を用いて過去の金融政策を評価することもできる。
名目GDPの年平均成長率は、異次元緩和が始まった2013年から21年までの期間では1.04%だった。コロナによる影響を除去するため13年から19年をみると1.56%だ。
仮に、これらの数値がこの期間の名目自然利子率を表していると考えると、名目長期金利は1%(コロナの影響を除去すれば1.5%)、あるいは、それより少し低いところにあることが望ましかった。
ところが、実際には、名目長期金利は13年以降継続して0.8%より低い水準であり、YCCのもとで16年以降22年までは、0%の近傍だ。
これは、過剰な金融緩和状態だったということができる。
実際の利子率が自然利子率より低すぎたために、効率の悪い対象にも投資が行われた。その結果、いわゆるゾンビ企業が生き残るといった問題が生じた。
低すぎる金利は、経済を活性化するのではなく、弱体化させるのだ。
政府と日銀の見通しの食い違い 無駄な財政支出を助長している
以上では、政府の潜在成長率試算を出発点として金融政策を評価した。
しかし、政府の推計値が正しいとは限らない。むしろ、これが過大推計である可能性も大いにある。
要は、政府の見通しと日銀の見通しとの間に大きな食い違いがあるということだ。この乖離は問題だ。
なぜなら、政府は、高い収益性があるとして公共投資や補助事業をしているが、実はそれほどの収益性はない可能性があるからだ。
他方で、日銀は金利を抑えている。このため、国債を発行して低い資金コストでこれらの支出が賄われることになる。
こうして、無駄な財政支出が行われることになる。
だから、潜在成長率や自然利子率の推計にあたっては、政府と日銀の間に大きな齟齬がないようにする必要がある。
日銀でも自然利子率に関する研究は行なわれている。それらはディスカッションペーパーとして公表されており、大変優れた内容だ。
こうした研究の成果を内部資料にとどめるのでなく、政策決定の場でぜひ活用してほしい。
●日銀政策修正、暮らしに影響 住宅ローン金利は一部引き上げ 1/12
日銀は昨年12月の金融政策決定会合で、大規模金融緩和策の一部修正を決めた。0%程度に誘導している長期金利の変動容認の上限を0.25%程度から0.5%程度に拡大した。これを受け、足元の長期金利は上限の0.5%まで上昇。大手銀行は住宅ローン金利を一部引き上げるなど、暮らしにも影響が出ている。金融市場では、日銀が追加で政策修正するとの観測もくすぶる。
――日銀の大規模金融緩和とは。
日銀の大規模金融緩和は、大量の国債買い入れにより金利の低い状態を維持し、経済を活性化させ、2%の物価上昇目標の達成を狙ったものだ。2016年からは短期金利をマイナス0.1%に、長期金利を0%程度に抑える「長短金利操作」と呼ばれる枠組みで緩和を継続してきた。
――昨年12月に修正したのはなぜ。
昨年春以降、米欧の中央銀行が利上げを加速し、金利上昇圧力が日本市場にも波及。日銀が抑え込んでいる10年物国債の金利がそれよりも短い期間の金利より低くなる「ゆがみ」が生じ、国債の取引が停滞する事態が起きていた。企業が資金調達のために発行する社債も国債金利を基に発行条件を決めるため、市場のゆがみを放置すれば社債が発行しづらくなることが懸念されていた。
――修正でどうなったのか。
1月に発行された新発10年物国債の表面利率は0.5%と約8年ぶりの高水準になり、債券市場でも長期金利が0.5%と日銀が容認する上限で推移している。ただ、国債金利のゆがみは完全には解消されていない。
――暮らしへの影響は。
大手銀行は長期金利に連動する固定型の住宅ローン金利を1月分から一斉に引き上げた。新たにローンを組む人が固定型を選んだ場合、一般的には以前から組んでいる人よりも、利払い負担は増える。一方、変動型の住宅ローンの金利は短期金利に連動しており、今回の修正でも変更はなかった。外国為替市場では、日米の金利差が縮小するとの見方から過度な円安が解消に向かい、輸入物価上昇を背景とした物価高の圧力は和らぐ可能性がある。
――これからも金利は上昇するのか。
日銀の黒田東彦総裁は昨年12月の決定について、金融緩和の持続性を高めるもので「利上げではない」と述べたが、市場関係者の間では「事実上の利上げ」との受け止めが多い。金利上昇圧力が続けば、さらなる政策修正の可能性も指摘されている。
●東京外為 ドル、131円台後半=日米金融政策めぐり売買交錯 1/12
12日午前の東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、日銀が大規模金融緩和の副作用を点検するとの一部報道を受けて売りが先行した後、日米金融政策をめぐる思惑から1ドル=131円台後半で売買が交錯している。正午現在は、131円62〜62銭と前日(午後5時、132円40〜40銭)比78銭のドル安・円高。
前日の海外市場では、欧州時間序盤は132円台前半を中心に推移した。株高などを背景にやや上昇し、米国時間には一時132円80銭台を付けた。ただ、12日に米消費者物価指数(CPI)の発表を控えていることから上値は重く、その後はじりじりと軟化し、方向感は定まらなかった。
この日の東京時間は、日銀が17、18日に開く金融政策決定会合で大規模緩和策に伴う副作用を点検すると報じられたことを受けて下落し、131円90銭台で始まった。一時131円50銭前後まで下落したが、同水準では押し目買いが入りやすく、131円台半ばを中心に売買が交錯している。
市場では「緩和修正後、日銀のさらなる政策修正観測が強まりやすくなっている」(外為仲介業者)との声が聞かれた。また、「米CPIの鈍化が確認できれば、利上げ停止が意識され、ドル円の下値は130円近辺が視野に入る」(資産運用会社)との見方が出ていた。午後も日米の金融政策に対する思惑を背景に神経質な展開が続きそうだ。
ユーロは朝方に比べ対円で下落、対ドルで横ばい。正午現在、1ユーロ=141円70〜72銭(前日午後5時、142円29〜32銭)、対ドルでは1.0767〜0767ドル(同1.0746〜0747ドル)。  
●日銀 金利上昇抑えるため 過去最大 4.6兆円余の国債買い入れ  1/12
日銀が先月に続いて、さらに金融政策を修正するのではないかという見方を背景に、金利の上昇圧力が高まる中、日銀は金利の上昇を抑えるため12日、一日で4兆6000億円余りにのぼる大量の国債を買い入れました。市場関係者によりますと日銀の1日の国債の買い入れ額としては過去最大になるということです。
12日の債券市場では、日銀が先月、大規模な金融緩和策を修正して長期金利の変動幅の上限を引き上げたのに続いて、さらに政策修正に動くのではないかという見方から国債を売る動きが広がりました。
国債は売られると金利が上がるという関係にあり、長期金利の代表的な指標となっている10年ものの国債の金利が、4営業日連続で変動幅の上限の0.5%をつけるなど、長期金利の上昇圧力が高まる事態となりました。
このため日銀は金利の上昇を抑えるため、市場から幅広い年限の長期国債を大量に購入し、12日の買い入れ額の合計は4兆6144億円となりました。
市場関係者によりますと一日の国債の買い入れ額としては過去最大になるということです。
日銀は来週17日と18日に金融政策決定会合を開きますが、金融政策をめぐる市場の思惑が強まる中で今後、日銀がどのような対応をとるのかが焦点となります。
●日銀が国債購入、1日で最大額 4.6兆円、金利抑制 1/12
日銀は12日、市場から4兆6144億円の国債を買い入れた。複数の市場関係者によると、1日の購入額では過去最大となったもよう。日銀が17、18日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策をさらに修正するとの観測から、国債を売る(金利は上昇する)圧力が強まったことに対応。金利を抑え込むために買い入れ額が膨らんだ。
日銀は昨年12月の決定会合で、長期金利の上限を0.25%程度から0.5%程度に変更する事実上の利上げを決めた。それ以来、物価高を受けて、日銀が大規模緩和策の追加修正に動くとの思惑が国内外の投資家に広がっている。

 

●日銀「10年の異次元緩和」が金融市場に残した禍根  1/13
とことんやったがダメだった
――この10年間の日銀の異次元緩和の成果と課題をどう評価しますか。
“成果”は、逆説的だが、金融政策だけで物価は上がらないというのがわかったことだろう。金融緩和で物価が上がるか否かの長い水掛け論が続いた後、実際にとことんやってみたがダメだったということだ。
この10年間で日本経済は衰退してしまった。どうやってこの長期停滞から抜け出すかが課題だ。今の日本銀行がやっているYCC(イールドカーブ・コントロール)は金融市場の「ロックダウン」に近い状況で、ここからどう抜け出すのかも課題になる。
――ロックダウンというのはユニークな表現です。
中国ではゼロコロナ政策のもと、ロックダウンで人々の動きを止めることでコロナの感染拡大を防いだ。当初は成功したかに見えたが、コロナへの耐性強化といった課題は先送りされてきたためロックダウンを解けば感染が急拡大してしまう状況になった。
これと似ているのがYCCによる金利の制御だ。YCCという政策の下で日銀は、政策金利である短期金利だけではなく、本来市場が決めるはずの10年物の国債金利まで固定している。短期と10年物の長期金利を超低位のままロックダウンしてきたに等しい。経済活動の活性化は達成されず、逆に生産性の低い企業の温存など、弱い経済を作り出した。長期停滞をもたらす本質的な課題への取り組みは先送りにされた。
市場経済にとって重要な「価格機能」を金利が果たせなくなったため、経済に異変が起きても金融市場からのシグナルが出なくなっているのは大問題だ。
――異次元緩和は金融市場に禍根を残したということでしょうか。
長期化することで、金融市場だけでなく、むしろ実体経済に大きな悪影響があった。超低金利環境で雇用が増え、企業も潰れなかったと言われているが、これは裏を返せば日本経済の新陳代謝が落ちたということ。企業はリスクをとらず、ゾンビ企業が生き残り、非正規雇用の増大など雇用の質も悪化して正規雇用でも賃金が上がらなくなった。賃金がまったく上がっていない日本は先進国でも例外的存在だ。
長期停滞には需要と供給の両方の要因がある。リフレ派は金融緩和で需要を喚起できると思っていたが、需要は伸びなかったし、リスクをとって成長する環境も作れなかった。結果的に潜在成長率は伸びず、長期停滞から抜け出せないまま雇用の質が悪化した。
――金融政策でインフレ率をコントロールできるという理論は間違いだったと。
異次元緩和が拠って立つ経済理論はニューケインジアンだが、その前提は非現実的だ。現実にはケインズが言っていたように流動性の罠は存在する。金融政策は紐と同じで、強力に引き締めることはできても、押す力は弱い。
期待を重視するニューケインジアンのモデルでは、中央銀行は万能に見える。中央銀行が目標インフレ率達成にコミットすれば、それを人々が予想(期待)インフレ率として織り込む結果、それを前提とした経済が実現していくと考える。
ただ、モデルの世界と異なり、普通の人々は中央銀行の物価目標なんて知らないし、興味もない。異次元緩和に踏み出した当時の日銀のアンケートでも、大多数の人々はデフレよりむしろインフレが怖いと答えていた。
――かつて金融政策に重きを置いていたリフレ派は、物価目標達成に失敗した原因は消費増税と主張し、積極的な財政政策や「高圧経済」を唱えるようになっています。
物価だけを考えれば財政政策もやってみるのが一番手っ取り早い。ただ、高圧経済論の処方箋にはリスクがある。
第一に、歴史上の経験だ。バブル期前に日本でも高圧経済を試したことがある。当時の日本はアメリカと貿易摩擦の問題を抱えており、内需を拡大して貿易黒字を減らすために財政支出を拡大し金融緩和を続けた。しかし、貿易黒字はあまり減らず、財・サービス価格の上昇の代わりに資産価格が上がるバブルが起きた。高圧経済では「高圧」がどこに向かって噴き出していくのかわからない、という問題がある。
第二に、財政政策によって需要サイドは刺激できても、供給サイドが強化されるかはわからないことだ。長期停滞から抜け出すうえでは供給サイドも重要になる。
第三に、イギリスでは前政権が高圧経済を目指したが、財政への強い懸念が金融市場で噴出して頓挫した。日本でも、金利のロックダウンを解除して財政出動による高圧経済を目指した場合には金融市場で同様の反応が起きうる。では、それを避けるために、弊害の多い統制経済的な金融市場のロックダウンを永遠に続けるのか。
これらを考えると、単に需要が足りないから価格が上がらない、だから足せばよい、という高圧経済論は日本の長期停滞に適用するにはあまりに単純すぎるように思われる。
大事なのは将来を豊かにする支出かどうか
――ではどういった財政政策が必要になるのでしょうか。
単に財政を膨らませて高圧にすればいいとか、小さい政府や健全財政がよい、ということではなく、財政支出の中身がワイズスペンディングであることが重要だ。予算の規模や財政赤字が問題というより、日本の将来を豊かにすることにつながる財政支出かどうかが大事だ。
日本の先細りを避けるには、例えば、少子化対策には本腰を入れて取り組む必要がある。財政規律が重要と言っても、合理的でしっかりリターンをもたらす財政支出は惜しむべきでない。
――現在の為替についてはどう考えていますか。
FRB(米連邦準備制度理事会)は金融引き締めを行い、日銀は粘り強く金融緩和を続ける、というように日米の金融政策の方向が正反対であり、その状態が続く、と市場がみている間は、必然的に円安傾向が続く。
しかし、円安に対する評価に、政府と日銀で齟齬があると思う。政府は物価高騰を招く円安を嫌悪しているが、日銀の情報発信を見る限り日銀は円安自体を悪いこととは思っていない。
「急激な円安は不確実性を高める」という表現で日銀は政府と折り合っているが、実際は2022年1月の展望レポートで触れていたように「円安は日本の景気にプラス」が本音で、黒田総裁の過去の記者会見での発言をみても、(急激でなければ)円安自体はむしろ望ましいと思っていることがうかがえる。
問題は円安が多くの国民にとって本当に望ましいのかということ。日本経済は一つの主体ではなく、輸出企業もあれば、家計、内需関連企業もある。円安のメリットは輸出企業だけに偏っていて、家計と内需関連企業にとってのデメリットは大きい。
展望レポートで円安は経済にプラスとする根拠は、トータルのGDPが増えるから、ということだけだ。日本国内への非対称な影響を見ないで、狭い議論をしていると思う。
――2023年4月に黒田総裁の任期満了となります。新体制の課題は何だと思いますか。
目先の課題は金利のロックダウン解除。歴史的に見て金融市場は固定相場制から変動相場制に切り替えるタイミングで問題が起こりやすい。今のYCCという“固定相場制”から“変動相場制“にソフトランディングできるかが課題になる。
2022年12月20日の決定会合で日銀はYCCの手直しを発表しましたが、これは「ロックダウン」の解除ではない。長期金利の許容変動幅の拡大を打ち出しているので、一見、金利のロックダウン解除に向けた正常化の第一歩に見えるが、実際には10年物金利を引き上げるという金利水準の修正が中心だ。
黒田総裁は記者会見でも「これはイールドカーブ・コントロールをやめるとか、あるいは出口というようなものでは全くありません」と述べていて、実際YCCについてはイールドカーブ全体へのロックダウンを強化する方向に手直しする措置になっている。
長期金利の変動幅拡大、というと10年物金利が上下に動けるようになるイメージだが、指値オペで強引に0.25%に抑え込んでいた金利を、変動幅拡大という名目で指値オペの水準を0.5%に引き上げた結果、金利が0.5%という新たな上限に張り付くようになっただけで金利変動の自由度が増したわけではない。
日銀は国民に寄り添えるか
――2%物価上昇率目標を掲げ続ける必要性についてはどう思いますか。
私は2%目標自体には意味がないと思っている。2%目標の理由として黒田総裁が一貫して挙げている根拠は「グローバル・スタンダード」、「のりしろ」の必要性、「消費者物価指数の上方バイアス」だが、いまや総崩れになっている。グリーンスパン元FRB議長が言うように、国民が物価を気にしなくなくてよい状態が本来の物価安定だ。
黒田総裁の異次元緩和はむしろ無理やり国民を物価に振り向かせ関心をもたせようとする政策だった。金融システムの安定性に関わってきた中央銀行は「寝た子を起こす」べき存在ではない。ただ、現在の政策は過去の履歴と無関係ではなく、いきなり数値目標を撤廃することはやりにくいだろう。その観点からは、2%の目標達成を金科玉条にしない方向感が重要になる。
――次期総裁に必要な資質は何でしょうか。
調整力と幅広い識見、それに国民への共感力だろう。黒田総裁は近年流行の経済理論に依存しすぎた。経済学は完成した学問には程遠い。これまでも、常に正しい羅針盤を提供してきたわけではなく、その反省をもとに変遷を続けてきた。もう少し謙虚にいろんな視点をもつことが大事。そうすれば経済学の知見も相対化して生かすことができ、国民にも寄り添える。
また、日銀の事務方も、国民の受け止め方への想像力をもっと働かせて総裁を補佐する必要がある。2022年6月の講演で黒田総裁が発言して世間から猛反発を食らった「値上げ許容発言」は渡辺努氏の研究結果に基づいたものだが、国民に違和感を持たれない紹介の仕方になっているのか、国民に自分たちの見解を強引に押し付ける感じになっていないか、講演案を精査して総裁に上げるべきだった。
日銀全体が、総裁を頂点として、内外の多くの人から信頼されるような説得力と同時に、ソフトで聞く耳を持ち国民に寄り添える姿を示していく、というのがあるべき姿だ。
●日銀の金融引き締めへの転換、5割超が「7月までに」−サーベイ 1/13
日本銀行が昨年12月に突然の金融緩和修正を決めたことを受け、エコノミストの政策見通しも大きく変化している。今月の金融政策決定会合はほぼ全員が現状維持を見込んでいるが、7月までに引き締めに転じるとの予想が5割を超えた。
エコノミスト43人を対象に6−11日に実施した調査によると、日銀の次の政策対応は全員が「金融引き締め」と回答。時期は4、6月がともに19%で、7月までの3会合で合計52%と過半に達した。前回調査では31%だった。今月17、18日に開く会合に関しては、1人が金融政策の微調整を見込む以外は現状維持を予想した。
日銀は昨年12月20日、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大することを決めた。市場機能の改善が狙いと説明するが、エコノミストの76%は金融政策正常化への一歩とみている。
政策修正後の長期金利は足元で上限の0.5%で推移し、残存8、9年の金利が長期金利を上回るなどイールドカーブのゆがみは解消されていない。ただ、複数の関係者によると、日銀は昨年12月の政策修正の影響と効果を見極める局面にあり、現段階でさらなる修正を急ぐ必要はないとみている。
日銀の次の一手に関する質問(複数回答可)では「長期金利の許容変動幅の再拡大」と「金融政策の点検・検証」をそれぞれ22人が指摘。YCCの廃止を20人が挙げた。いちよし証券の愛宕伸康チーフエコノミストは一段の許容変動幅の拡大について、「政策の点検・検証が必要であり、次の一手は新体制に移行した後になると思われる」と語った。
12月の予想外の決定は市場との対話に課題を残した。伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは、日銀は追い込まれればこれまでのメッセージをほごにしてでも行動することが明確となったとし、「現行の金融政策の枠組みが限界に来ていることの証左でもあり、枠組みを見直さない限り、同様のことが起こり得る」とみる。
展望リポート  
関係者によると、会合後に公表される新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の予想が見通し期間である2024年度までの全ての年度で上方修正される可能性がある。24年度は現在の前年比上昇率1.6%から同2%前後に引き上げも見込まれているという。
日銀が目指す持続的・安定的な2%の物価目標の実現が視野に入る可能性がある。UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、本格的な政策変更にはインフレの基調判断を変える必要があるとし、「今回の展望リポートは賃上げ加速が確認できないので時期尚早だが、新総裁の下での4月28日決定会合に向けた理論武装が始まる可能性がある」との見方を示した。
●長期金利、日銀の上限超える 一時0.545%に上昇 1/13
13日の国内債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが上昇(価格は下落)し、一時0.545%と日銀が上限とする「0.5%程度」を上回った。2015年6月以来7年7カ月ぶり高水準。日本でも物価上昇が続くなか、長期金利の適正水準は現状より高いとみて国債を売る動きが続いている。17〜18日の金融政策決定会合で日銀が政策修正に動くとの思惑が国債売りを促している。
日銀の上限超えは上限を従来の「0.25%程度」から広げた22年12月20日以降では初めて。旧上限も含めると22年10月20日以来の上限突破となった。1月10日に総務省が発表した東京都区部の22年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率が4.0%と市場予想を上回り、日銀の政策修正観測が強まった。
日銀は毎営業日に10年債を0.5%で無制限に買い入れる「指し値オペ(公開市場操作)」を実施している。本来は0.5%より高い利回りで市場に売るより日銀に売却した方が高い価格で売れる。ただ日銀の政策修正による金利上昇観測が強いなか、少し損をしてでも国債の売り持ちを構築して政策修正に備える動きが市場金利を押し上げた。
日銀は現在の金融緩和策で短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導する「長短金利操作」を実施している。22年12月20日には長期金利の変動許容幅を「プラスマイナス0.5%」と従来の「プラスマイナス0.25%」から拡大した。
日銀が22年12月に政策修正に動いたのは長期金利が当時の上限の0.25%に貼り付き、市場機能が低下して企業の社債発行などに悪影響を及ぼす懸念があったためだ。足元でも債券市場の「ゆがみ」は解消しておらず、日銀が市場機能改善を理由に再び政策修正に動くとの見方も増えている。
金利上昇を受けて日銀は13日、2年債を対象とした指し値オペと、市場価格に応じて買い取る従来型の国債買い入れオペを臨時で通知した。10年債を対象とした指し値オペは毎日実施している。12日には1日として過去最大となる4兆6000億円超の国債を市場から買い入れており、金利を抑え込む姿勢を鮮明にしている。
●外為:ドル129円前半、日米の金融政策巡る思惑で軟調地合い 1/13
09:02 / ドル129円前半、日米の金融政策巡る思惑で軟調地合い
ドルは129.15円付近で軟調。前日発表の米消費者物価指数(CPI)の伸び率が縮小し、米利上げペースが緩やかになるとの見方からドル売りが継続している。また、来週の日銀金融政策決定会合を控えて政策修正への思惑から、円も買われている。
市場では「米CPIの数字自体はドルが急落するほどの内容でもない。改めて意識されれば、持ち高調整目的でドルのショートカバーが入ってもおかしくない」(国内金融機関)との声が出ている。
米労働省が12日発表した昨年12月のCPI(季節調整済み)は前年同月比6.5%上昇した。伸びは11月の7.1%から鈍化し、2021年10月以降で最小となった。。
ユーロは1.0860ドル付近で堅調。前日の米長期金利の低下を背景にユーロ買い/ドル売りが進行し、一時1.0867ドルと4月以来の高水準まで上昇した。
07:55 / ドル128.50─130.50円の見通し、円高を警戒
きょうの予想レンジはドル/円が128.50―130.50円、ユーロ/ドルが 1.0770─1.0920ドル、ユーロ/円が139.30―141.30円。
ドル/円は、米金利や株価の動向をにらみながらの神経質な展開となりそうだ。実質的な五・十日に伴い、仲値にかけては実需のドル買いフローが多く入る可能性がある。また、週末を控えた持ち高調整の動きで、ドルのショートカバーも入りやすい。
足元のドルはボラティリティーが高い状況が続いている。前日の海外市場で1月3日に付けた129円半ばを割り込んでおり、「ドルが底を打ったような印象はない。海外時間はドル売り/円買いが再燃する可能性があり、再び128円台に突入してもおかしくない。引き続き円高/ドル安への警戒感が強まりそうだ」(国内金融機関)との声が聞かれた。 前日のニューヨーク市場では、米インフレ鈍化を示す経済指標を受け、米連邦準備理事会(FRB)が今後、利上げに対する積極姿勢を緩めるとの見方が広がった。米長期金利の低下を受けて、ドル売り/円買いが進行。ドルは一時128.85円付近と、22年6月1日以来の水準まで下落した。同市場の終値は129.22/25円だった。
きょう海外では、12月の仏消費者物価指数や11月のユーロ圏鉱工業生産、1月の米ミシガン大消費者信頼感指数(速報値)などが発表予定。 このほか、カシュカリ米ミネアポリス地区連銀総裁が同銀主催のイベントに参加、ハーカー米フィラデルフィア地区連銀総裁の講演が予定されている。また、日米首脳会談が開催される。
●IMF専務理事 日銀の政策は緩和的であり続ける必要がある 1/13
IMFのゲオルギエバ専務理事は12日、2023年の世界経済成長にとっても最も重要なのは、中国がゼロコロナ政策から経済正常化へ移行することかもしれないと語った。そのほか、世界経済成長率が2022年度推定の3.2%から減速したとしても、景気後退は回避できると考えている。最大の経済国である米国の成長率が縮小したとしても、それは穏やかなものになるだろう。世界経済は今年末にかけ底打ちし、来年は経済成長のペースは加速している可能性が高いと述べた。また、世界的なインフレは依然として頑固であり、物価上昇を抑えるという中央銀行の仕事はまだ終わっていないとも述べた。
一方、日本の中央銀行については、日銀は金融政策スタンスの適切な見直しを検討しているが、政策は緩和的であり続ける必要がある。日本はインフレ急上昇に直面していない。日銀を取り巻く環境は例外的だと指摘した。
●日本のインフレ圧力なお弱い、金融緩和維持を=IMF専務理事 1/13
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は12日、日銀が12月に長期金利目標の上限引き上げを決めたことについて、金融政策スタンスの適切な見直しを行っているとの認識を示した上で、日本のインフレ圧力は弱いため、緩和政策を維持する必要があると指摘した。
日本のインフレ率は日銀の2%の目標に非常に近い水準にあり、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)による緩和政策の修正はインフレ高進が引き金になったわけではないと述べた。
「日銀が金融緩和政策を推進したのは正しい判断だった。賃上げによるインフレ圧力に劇的な変化は起きていない。つまり、インフレのけん引役にはなっていない」とした。
日銀が「状況に即したオープンな姿勢を取ることは正しい行動だが、インフレあるいはインフレ要因が急上昇しているという状況ではない」と強調した。  
●“ゆがみ”は残った どうする日銀! 1/13
日銀は先月20日、予想外の金融緩和策の修正に踏み切り、長期金利の変動幅の上限を引き上げました。黒田総裁は会見で「利上げや金融引き締めではない」と強調しましたが、市場はそうは受け止めていません。日銀がさらに政策修正に迫られるという思惑から、13日の債券市場では国債を売る動きが強まり、長期金利は0.545%まで上昇。日銀が先月引き上げた0.5%の上限を初めて上回りました。市場はこの先にどのような世界を見ているのか。取材しました。
なぜ突然の政策修正?
そもそもなぜ日銀は政策修正を行ったのか。黒田総裁は記者会見で「市場機能の改善を図り、より円滑なイールドカーブ(利回り曲線)全体の形成を促していくため」「金融緩和の効果が企業金融にスムーズに及ぶようにするため」などと説明しましたがこれだけだとよくわかりませんよね。12月28日に公表された「主な意見」を見てみると、会合では政策委員から、「10年ものの国債の価格形成にゆがみが生じている」「債券市場の機能が低下した状態が続けば、企業の社債発行などの環境に悪影響を及ぼし金融緩和の効果の波及を阻害するおそれがある」といった懸念の声が相次いでいたことがわかります。要はYCC(イールドカーブコントロール)の副作用を無視できなくなり、これを修正しなければ金融政策の効果に影響が及ぶと考えたわけです。
市場の“ゆがみ”とは?
それでは政策委員の言う「国債の価格形成のゆがみ」とは何なのか。日銀はそれまで国債を大量に買うことによって長期金利(10年ものの国債の利回り)を0.25%以下に抑え込んできました。しかし欧米の相次ぐ利上げで、日本でも長期金利に上昇圧力が高まり、12月時点のイールドカーブは下の図のような形をしていました。イールドカーブ(利回り曲線)は、期間が短い国債の利回りから期間が長い国債にかけて利回りが変わっていく形を描いた曲線で、通常は期間が長くなるほど利回りは高くなります。当時のイールドカーブを見ると10年もの国債の利回り近辺だけが不自然に落ち込み、ゆがみが出ていたことがわかります。この10年ものの国債の利回りは、社債などさまざまな取り引きの基準になっているので、このままでは企業が社債を発行するときに適切な金利の水準がわからなくなってしまうといった弊害が出てくるのではないか。日銀はこう考えて金利の変動幅を引き上げたわけです。ただ、12月の前の10月の会合では、委員全員が「金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されている」という認識を示していたほか、市場のゆがみへの強い懸念も目立った形ではみられず、市場は今回の決定を唐突なものだと受け止めました。
“ゆがみ”は依然残る
ずいぶん前置きが長くなりましたが、ここからは市場の見方を紹介します。今回の日銀の政策修正について、アナリストなど債券市場の関係者10人に取材したところ、全員が「マーケットから見れば、変動幅の修正は事実上の利上げにあたる」という認識を示しました。このうちみずほ証券の丹治倫敦チーフ債券ストラテジストは、「上限が引き上げられたとしても、市場が次の修正を催促して、イールドカーブのゆがみが修正されないということは、当然、日銀も想定できていたはずだ」と指摘します。
ゆがみが修正されないとはどういうことなのか。下の図は、いまのイールドカーブの形です。13日の債券市場では国債を売る動きが強まり、長期金利は0.545%まで上昇。日銀が先月引き上げた0.5%の上限を初めて上回りました。しかし依然として期間が7年から9年の国債の利回りを下回り、10年のところが不自然に落ち込む“ゆがみ”は残ったままです。
ゆがみが残るイールドカーブの現状をどう見ればよいのか。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、「12月にYCCの上限を突然動かしたため、マーケットは次もまた修正するのではないだろうかと疑心暗鬼になる。日銀には計画的な出口政策の第一歩だというつもりがなかったとしても、マーケットはYCCが限界に近づいているのではないか、終わりの始まりなのではないかと、解釈するようになる」と指摘します。
海外勢は日本国債売りのスタンスに
海外の投資家の取り引きデータからもこうした傾向をうかがうことができます。財務省が1月4日に発表した対外・対内証券投資によると、海外勢は日銀の政策修正をはさんだ12月18日から12月24日までの1週間で、日本の中長期債を大きく売り越しています。その金額は、4兆8000億円余りと、前の週の10倍以上に拡大しています。日銀が政策を修正すると長期金利が上昇し、国債価格は下落するだろう。それを見越して、日本国債を売っておく。このように考える海外の投資家が増えていることが統計からもうかがえます。
マイナス金利の解除も?
市場はさらに先まで織り込んでいます。市場が注目しているのが「OIS」(オーバーナイト・インデックス・スワップ)のデータです。OISというのは、固定金利と変動金利を一定期間交換する「金利スワップ」と呼ばれる取り引きの1つです。変動金利については「無担保コール翌日物金利」を参考にします。「無担保コール翌日物金利」は、コール市場と呼ばれる多くの金融機関がお金を貸し借りする市場の代表的な短期金利の指標で、日々変動しています。これと交換する固定金利はOISレートとも呼ばれ、金融機関どうしがお金を貸し借りする際に、その返済期間ごとにあらかじめ相対で決めておく金利です。この金利を決める際に、各金融機関がさまざまな分析に基づいて日銀の政策金利がどうなりそうか、いわば予測することで、金利の水準をはじき出していて、ここから市場が日銀の金利をどう見ているかを確認できます。このデータをもとにつくられたグラフです。
データを見ると、去年12月の政策修正を受けて、OISレートをもとに算出した金利が幅広い年限で大きく上昇。翌日物の金利を1か月間でならした平均が今後2年で0.5%を超えるという見方も織り込んでいます。みずほ証券の丹治チーフ債券ストラテジストは「市場はマイナス金利の解除というだけでなく、さらにどんどん利上げしていくところまで織り込んでいる。OISは、海外の参加者が多く、投機筋も多い指標であることに留意する必要はあるが、市場が日銀の政策を先に、先に、どんどん織り込んでいく中で、イールドカーブの歪みが解消するのは難しいのではないか」と説明します。
超長期債は?
一方、10年を超える期間の長い国債、いわゆる「超長期債」についての市場の見方も聞いてみました。10年を超える国債の多くは、生命保険各社が購入しています。日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命の生命保険大手4社の運用担当者に聞いたところ、いずれも小幅ではあるものの、金利水準は今よりは上がるという見方を示していました。ある大手生命保険会社の担当者は「日銀のさらなる政策修正が見込まれるため、超長期の金利は上昇方向に向かうとみている。ただ、債券市場を長らく見てきた我々もこれまで国内で金利が上がる局面は経験したことがない。30年以上前の経営資料などを倉庫から引っ張り出してきて、当時の状況を勉強しながら、今後の運用方針について検討しているところだ」と話していました。実際、各社では外国債券から、国内債券に運用資産を切り替える動きも加速しています。
日銀はどうする?
この先に市場が見る世界は、短期から超長期にわたって金利が上昇するという姿です。ただ、日銀は今回の修正はあくまで金融緩和の一環だという姿勢を貫いています。この結果、日銀の説明と、市場の“思惑”との間には大きな乖離が生まれています。1月17日と18日に金融政策決定会合を開きますが、そこで市場とどう向き合うのか。次の手はあるのか。どうする日銀! 金利の動向は住宅ローンや企業への貸し出しにも影響を与えることになるので国債や金利をめぐる日銀と市場との攻防に引き続き注目です。
来週の予定
来週17日(火)は、ことしの春闘で経営側の指針となる経団連の基本方針が発表されます。足元の物価の上昇を踏まえ、賃上げについてどのような姿勢を示すか注目されます。また、18日(水)は、日銀が金融政策決定会合を開き、その後、黒田総裁が会見を開く予定です。黒田総裁が任期中に行う決定会合後の会見は、これを含めてあと2回。金融政策を巡り、前回のような“サプライズ”があるのか、市場の関心が集まっています。さらに、20日(金)には、総務省が消費者物価指数を発表する予定です。4%台に到達するという見方もある中、物価がどこまで上昇するかも焦点です。
●軋む日銀YCC、長期金利が上限突破 次回会合で撤廃予想も 1/13
日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策が軋んでいる。追加政策修正の思惑から円債売りが止まらず、新発10年国債の金利は13日、一時0.545%と日銀許容変動幅の「上限」を超えた。日銀は国債買い入れオペを総動員させて対抗しているが、来週17─18日会合でのYCC撤廃予想も市場では出ている。
日銀アタックのトレードか
日銀は現在、連続指し値オペによって10年国債の特定銘柄を毎日0.50%で無制限に買っている。日銀が買う値段よりも安く市場で売る(金利が高ければ価格は安くなる)というのは通常考えにくいが、13日は0.545%まで金利が上昇した。
足元で円金利が急上昇する中、保有国債が含み損状態になっている投資家も多いとみられ、「何らかの理由により、損得を度外視してでもどうしても国債をきょう売らなくてはいけない市場参加者がいたのではないか」(外資系投信)との見方が出ている。
一方、「日銀アタック」をねらった投機的なトレードとの観測もある。10年以外の年限の国債を売っておく一方、10年債の「上限」を超えた水準で取引を成立させることができれば、日銀の政策修正観測は強まり、10年以外の金利は一段と上昇。トータルで収益をあげることができる。
昨年12月20日、日銀は長期金利の変動許容幅をそれまでのプラスマイナス0.25%から0.50%に拡大させたが、それから約3週間半での上限突破。マーケットによる日銀政策修正観測はさらに過熱しており、投機的な円債売りが断続的に出ている。
長期金利の許容変動幅が0.25%であった当時も「上限」を超える場面があった。その際は海外金利の低下に伴い「日銀アタック」は次第に沈静化した。しかし、今回は12月米消費者物価指数(CPI)発表を受けて米金利が低下したにもかかわらず、円債売りは止まらず、政策修正観測の根強さを示している。
新総裁前に撤廃との予想
シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は17─18日の日銀会合でYCCが撤廃されると予想している。イールドカーブは変動幅拡大後さらに歪んでおり、再びレンジを拡大させても是正することは期待にしにくいという。「新しい日銀総裁が就任する前に撤廃してしまったほうがダメージは小さい」と話す。
黒田東彦日銀総裁の任期4月8日まで、日銀金融政策決定会合の予定は1月を過ぎると、3月9─10日を残すのみ。3月には新総裁の人事も固まっている可能性が大きく、その中で、金融政策のフレームワークを大きく変えるのは難しいという読みもある。
長短金利操作付き量的・質的金融緩和策の柱であるYCCは2016年9月に導入された。短期の政策金利と10年金利の2点を固定することで、経済活動に影響が大きい中長期金利を抑える一方、超長期金利を上昇させやすくさせることで、生保や年金などの資産運用を助けるという目的があった。
さらに、YCC導入の隠れた目的とみられているのが、国債の買い入れを抑えることだった。「80兆円」のめどは残したが、目標を金利に変えたことで、目標達成に応じた量の国債買い入れを実施すればよくなった。しかし現在、日銀はYCC維持のために大量の国債を買わなければならなくなっている。
国債大量購入に懸念
市場では、日銀は12月に政策修正を行ったばかりであり、追加の政策修正を行うには時間が短すぎるとの指摘もある。「YCC解除に向けた準備を金融機関が十分終えているとは考えにくい」(国内証券)という。
だが、このままYCCを維持しようとすれば、日銀は大量の国債を買い続けなければならなくなるおそれもある。日銀の昨年9月末の国庫短期証券を除く国債・財投債の保有比率が初めて50%を超えたが、13日に実施した指し値オペの落札額が2兆8084億円と過去最大となるなど大量購入が続いている。
日銀は利付国債の入札日には国債買い入れオペを行わないのが通例だった。財政ファイナンス懸念を抱かせない効果をねらっているとみられている。しかし、金利上昇が止まらない中、日銀は11日の30年債入札の午後に臨時で超長期債の買い入れオペを行ったほか、5年債入札があった13日も、中期債の臨時国債買い入れオペを実施した。
日銀の国債買い入れは一度、市場を仲介しており、直接的な国債引き受けとは異なるものの、市場参加者は日銀が買ってくれることを前提に売買するようになってきている。
「日銀のバランスシートが拡大し続ければ、日銀は政府の負債を流動化させているとして、財政ファイナンス懸念を問題視する声は強まるだろう」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。
円という通貨の信認にもかかわってくる問題であり、悪い円安が発生しないような対応が日銀と政府に求められている。
●長期金利一時0.545%で日銀上限を突破 金融政策の修正後“初” 1/13
金融市場で緊張が高まっています。きょうの債券市場では日本国債への売りが集まり、長期金利が日銀が上限としている0.5%を初めて超え、一時0.545%まで上昇しました。
住宅ローンや企業の資金繰りなど、あらゆるものに影響を及ぼす長期金利。市場では、このところ広がっていた日本国債を売る動きがきょう一段と拡大。先月、日銀が新たな上限に設定した0.5%を初めて超え、一時0.545%まで上がりました。
長期金利上昇のきっかけは先月、日銀が突然決めた金融政策の修正です。日銀は市場の予想に反して、それまで上限0.25%としていた長期金利を0.5%まで引き上げたことで、金利の上昇圧力がさらに強まっているのです。
みずほ証券 上野泰也チーフマーケットエコノミスト「(日銀が)12月に突然、手のひらを返したような政策修正をやってしまったから、どう市場を落ち着かせるのか、(日銀は)かなり大きな難題を抱え込んだな」
焦点は、日銀が来週17日から開く金融政策決定会合。市場では「日銀が金融政策を再び修正し、12月に続いて金利の上昇を容認する決断を下すのではないか」という見方が広がっています。
上野泰也「“おそらく何かあるんだろう”というのは(市場の)共通認識。ギリギリの判断に最後はなるんじゃないか」
私たちの生活に大きな影響を与える長期金利の行方。来週の日銀の判断を市場は固唾をのんで見守っています。
●日銀、金融緩和策修正の是非協議 市場は観測強まり長期金利上昇 1/13
日銀は17、18日に開く金融政策決定会合で大規模金融緩和策の修正が必要かどうか協議する。昨年12月に長期金利の上限を「0.25%程度」から「0.5%程度」に引き上げたばかりだが、13日の国債市場では長期金利の指標となる10年債の利回りが一時0.545%まで上昇。金融市場でさらなる政策修正の観測が強まる中、日銀は難しい判断を迫られそうだ。
市場では海外勢を中心に、日銀が上限を「0.75%程度」などに引き上げたり、長期金利を0%程度に誘導する目標自体を解除したりするとの見方が強まっており、国債を売る(金利は上昇)動きが活発化している。

 

●株式週間展望=濃淡強まる展開、日銀・金融政策決定会合をにらむ 1/14
日経平均予想レンジ 2万5700−2万6700円
米国の12月雇用統計とCPI(消費者物価指数)の発表を通過した今週の株式市場では、日経平均株価が一時2万6500円台を回復した。週末に波乱含みの値動きを見せたものの、半導体関連の一角が調子を上げてきた点は心強い。一方で円高が上値の重荷となるセクターには警戒が求められる。来週は日銀の金融政策決定会合も控え、相場の濃淡が強まる可能性がある。
円高進行、輸出株の重荷
米12月雇用統計、CPIはいずれも金利低下につながる結果となった。インフレの鈍化が鮮明になる中で、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げペースは一段と減速する方向。これにより、大きな景気の悪化懸念が後退する形となった。
日経平均は12日に2万6547円(当欄の予想レンジは2万5450−2万6450円)まで上昇した。しかし、それに伴い円高も進行。長期金利は米債が切り下がる半面、日本は日銀の許容変動幅の上限(0.5%)を上回る水準まで高まり、ドル売り・円買いの動きを招いている。
日銀は来週17、18日の金融政策決定会合で、黒田総裁が2013年の就任直後から主導してきた大規模緩和の副作用を点検するとの観測が伝わっている。昨年12月に続く追加の政策修正への意識が高まったことで、国内債券には売り圧力が拡大。次回会合では現状維持を見込む向きが多いものの、その前後では為替や株式市場での仕掛け的な売買に注意する必要がある。
国内金利の上昇が買い材料視される銀行株には追い風が吹き、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> はリーマン・ショック後では初となる1000円に迫っている。YCC(=イールドカーブコントロール、長短金利操作)の撤廃も織り込みつつあるようだ。
半導体は騰勢続くか
一方、存在感を増しているのが半導体セクターだ。シリコンサイクルの底打ちを先取りする形で東京エレクトロン <8035> やレーザーテック <6920> が騰勢を強め、13日は輸出株が下落する中で気を吐いた。ファウンドリー(受託生産)世界最大手の台湾TSMCは、熊本に次ぐ日本での新工場建設を検討しているという。
米市場でも同様に、半導体株で構成するSOX指数が足元で上昇。米金利の低下期待も先高感を支える。25日にはオランダのASMLホールディングの昨年10−12月決算の発表が予定され、先端プロセスのEUV(極端紫外線)露光に関連する銘柄の注目度が高まることも想定される。
来週は日銀会合のある前半に日経平均が安定感を欠く恐れもあるが、2万6000円どころでは押し目買いの意欲が強まりやすい。また、内需をめぐっては、新型コロナウイルスの変異株「XBB1.5」が日本でも確認される中で、リオープン(経済活動再開)を維持できるかが焦点だ。日経平均の予想レンジは2万5700−2万6700円。
国内では16日に12月工作機械受注、18日に12月訪日外客数、19日に12月貿易統計、20日に12月CPIが控える。海外は17日に中国で10−12月GDP(国内総生産)や12月の工業生産、小売売上高といった経済指標が打ち出され、ドイツでも1月ZEW景況感指数が発表される。米国は18日に12月のPPI(生産者物価)と小売売上高、19日に12月住宅着工件数、20日に12月中古住宅着工件数。
●円高さらに進行 一時1ドル127円半ばつける 8か月ぶり水準 1/14
円相場が一時1ドル127台半ばをつけ、急速に円高が進んでいます。日銀が金融政策を再び修正するのではないかとの思惑が広がっているためです。
13日の外国為替市場では円を買ってドルを売る動きが広がり、一時1ドル127円半ばをつけました。去年5月以来、およそ8か月ぶりの円高水準です。
日銀が来週開く金融政策決定会合で追加の政策修正に踏み切るのではないかとの思惑から日本の長期金利が上昇し、アメリカとの金利の差が縮小するとの見方が強まったため、ドル売り・円買いが進みました。
円相場は去年10月に一時1ドル=151円台まで円安が進んでいましたが、そこからおよそ3か月間で24円近く円高ドル安になっています。
●NY外為市場=円急伸、日銀の緩和修正観測で ドル小幅高 1/14
ニューヨーク外為市場では日銀が大規模緩和の修正に動くという思惑から円が急伸した。ドルは大半の主要通貨に対し小幅上昇した。
終盤の取引で、円は対ドルで1.06%高の127.92円。日銀が17─18日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策に伴う副作用を点検するという報道が引き続き材料視された。
また、日銀は13日、長期国債買い入れを16日に実施すると発表した。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略担当グローバル主任、ウィン・ティン氏は「日銀が来週利上げに動く公算は小さいが、3月もしくは4月の会合での利上げの下地を整えるためにイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を撤廃する可能性はある」と述べた。
バークレイズの為替アナリストは顧客向けノートで、日銀の追加政策調整によって「円が最大2.7%上昇する可能性を見込むが、伸びがその倍になるリスクが存在する」という考えを示した。
ドイツと英国発の指標が景気後退回避の可能性を示唆したものの、ユーロ/ドルは0.2%安の1.0828ドルと、一時付けていた9カ月ぶり高値から下落した。ポンド/ドルは0.12%高の1.22275ドル。
主要通貨に対するドル指数は0.02%高の102.22。米ミシガン大学が13日発表した1月の1年先の期待インフレ率(速報値)は4.0%と昨年12月の4.4%から低下し、2021年4月以来の低水準となったことを受け、ドル指数は一時昨年6月6日以来の安値に沈む場面もあった。
ゴールドマン・サックスのストラテジストは、昨年12月の米インフレ指標を受け、2月米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%利上げが確実になった可能性が高いとしつつも、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制で勝利宣言するのは時期尚早という慎重な見方を示した。
●NY為替 円全面高、日銀の大規模緩和修正観測強まる 1/14
13日のニューヨーク外為市場でドル・円は、128円64銭から127円46銭まで下落し、127円88銭で引けた。輸入物価指数が予想外にプラスに改善したためドル買いが一時優勢となった。その後、発表された米1月ミシガン大学消費者信頼感指数速報値で1年期待インフレ率速報値が12月4.4%から予想以上に低下したため米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ減速観測が一段と強まり、ドル売りに拍車をかけた。イエレン米財務長官が米国債務が19日にも上限に達するとの警告を受け、さらなるドル売りに繋がった。また、日銀が次回金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(YCC)撤廃など大規模緩和修正の思惑に伴う長期金利の上昇に伴い円買いが加速。
ユーロ・ドルは、1.0781ドルへ下落後、1.0840ドルまで上昇し、1.0832ドルで引けた。ユーロ圏・11月鉱工業生産が予想を上回ったほか、ドイツの22年のGDPも予想を上回り域内のリセッション懸念が後退しユーロ買いが加速。ユーロ・円は139円10銭から138円01銭まで下落。日銀が政策を修正するとの思惑で日欧金利差縮小を想定したユーロ売り、円買いが継続。ポンド・ドルは、1.2151ドルまで下落後、1.2240ドルまで上昇した。英国の11月GDPが予想外にプラス成長となったためポンド買いが加速。ドル・スイスは、0.9317フランへ上昇後、0.9256フランまで反落した。
●人気のタワマンが全然売れない…膨れ上がった「不動産バブル」崩壊寸前 1/14
この10年で価格は約2倍に
急激な金利上昇は起こらないので、不動産はまだ大丈夫だ。そんな声も聞こえるが、本当だろうか。すでに庶民には手が出ない水準にまで膨れ上がった不動産バブルは、ほんの些細なきっかけで破裂する。
東京・湾岸地域に「異変」が起こっている。これまで飛ぶように売れてきた人気のタワーマンションが、ここにきて売れなくなっているのだ。
「財閥系不動産会社が分譲した豊洲のタワマンの一室(約58u・築14年)が3ヵ月前に7180万円で売り出されたのですが、その後、2度の価格改定を経て、現在は6800万円に値下げしても売れていません。晴海にある別の財閥系不動産会社のタワマンの1室(約61u・築7年)は年末に7500万円で売り出されました。41階の高層階ながら、坪単価410万円程度で比較的値頃感はあると思います。昨年の成約事例だと、同等のスペックで坪単価450万円程度が多かったので、1割程度も安い。しかし、内覧はあっても、成約には時間がかかりそうです」(湾岸地域に強い不動産仲介業者)
12月20日、日本銀行の黒田東彦総裁が会見し、「事実上の利上げ」に踏み切った。誰も予想しなかった「黒田ショック」にマーケットは混乱し、長期金利は上限である0・5%まで上昇した。
これを受けて大手銀行は軒並み住宅ローンの固定金利を引き上げた。変動金利は据え置かれたものの、日銀が短期金利も引き上げれば、こちらも上昇していくはずだ。
不動産価格は、この10年間で急激に上昇してきた。国土交通省が12月28日に公表した不動産価格指数(マンション)は、'22年9月時点で'10年時に比べて約1・9倍に上昇。住宅総合で見ても、1・3倍を超える水準で高止まりしている(57ページグラフ参照)。新型コロナの影響で景気が悪化し、不動産価格が暴落すると言われた時でさえ、逆に上昇した。
不動産情報サービスの東京カンテイによれば、11月の東京都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷)の中古マンションの平均希望売り出し価格(70u換算)は1億円の大台に乗った。これはバブル期以来の水準だというが、その背景にあったのが、日銀の「異次元の金融緩和」による超低金利政策である。
不動産バブル崩壊か
不動産アナリストの長谷川高氏はこう言う。
「'90年代や'00年代前半はサラリーマンが購入できる物件価格の上限は6000万円程度とされていました。金利が3%で35年ローンを組むと、月々の返済額は23万円で、総支払額が1億円になる。要は1億円支払って、6000万円の物件を手に入れたわけです。これが今の変動金利の最低水準0・3%の35年ローンで試算すると、さきほどの例とあまり変わらない月々25万円の支払いで、1億円の物件が買えてしまう。今の日本の住宅ローン金利は極めて低いと言えます」
その超低金利策を進めてきた黒田総裁が4月にいよいよ退任する。それに伴う日銀の政策変更により、この3月に「不動産バブル」の大崩壊がやって来る可能性が高い。
「黒田ショック」以前から、不動産市況は息切れし始めていた。不動産仲介業も手掛ける不動産コンサルタントの有地祐一氏が実情を明かす。
「相場を支えてきたコアであるファミリー層が都心のマンション購入に手を出せなくなってきたと実感しています。昨年、東京・日本橋で、築10年程度の新築時売り出し価格が6000万円だった物件の売却依頼を受け、査定の上、9200万円で売り出しました。中央区は子育て世帯に手厚く、これまではファミリー層にもこの程度の相場で売れていました。しかし、家族連れが内覧には来るものの、購入せず。結局、高齢者の方が住み替えのために現金で購入されました。これは日銀の『実質利上げ』前の取引でしたが、今後、金利上昇の影響が反映されると果たしてどうなるか。すでに同業者からは、日銀の発表後、キャンセルになった取引もあると聞いています」
大阪でも不動産価格が下落
コロナ下のリモートワーク需要で活況を呈してきた東京近郊でも異変が生じている。千葉県流山市にある不動産会社社長がこう話す。
「つくばエクスプレスの快速停車駅である流山おおたかの森駅周辺は、駅前の開発や在宅勤務の増加もあって、地価がうなぎのぼりでした。ここに物件を買えない人が、東武野田線の初石駅や江戸川台駅など周辺の土地に流れて、一帯の地価も上昇してきました。ところが、金利上昇の局面となり、周辺から崩れていくと地元の不動産会社では警戒感が広がっています」
地方都市も例外ではない。この10年でマンション価格が8割程度上昇してきた大阪市でも、マンションの売れ行きが止まりつつある。市内の不動産仲介業者が現地を案内しながら言う。
「大阪でも湾岸に建てられたマンションから下落が始まっています。この物件を見てください。コスモスクエア駅徒歩2分で、大阪メトロ中央線に乗れば大阪のビジネス街、本町まで14分の好立地です。20階建ての11階部分(約77u・築17年)を10ヵ月も前に3480万円で売り出しましたが、当初は内覧の問い合わせすら入りませんでした。今は200万円値引きして、ようやく内覧が少し増えたかなという印象です。まだ売れていません」
居住用の住宅価格に先駆けて、投資用物件の価格下落を示す明らかな兆候がある。東証に上場する不動産投資信託(リート)全体の値動きを表す東証リート指数だ。アイビー総研代表の関大介氏が解説する。
「日銀が実質的な金利上昇を発表した日、東証リート指数は100ポイント(5%)以上下がりました。その後、戻していますが、政策変更前の水準に届いていない。金利上昇はそれほどセンシティブに不動産投資に影響を与えるものなのです」
金利上昇を受けて、不動産業界では、投資用マンションの開発・販売を専業とする企業の先行きが不安視されている。
「東証プライム上場のある投資用不動産販売会社は、セミナーを活発に開き、サラリーマンなどにマンション投資を促してきました。しかし、'21年途中から始まった米国のインフレで金利が上がり始めてから、日本国内の不動産投資熱が冷めて、同社の株価は半値以下まで暴落。そこに日銀の『利上げ』で、さらに不動産市況が冷え込むと予想されます。投資用不動産販売会社が在庫を抱えたままで、新規投資が細っていくと、当然、不動産価格は下落していきます」(不動産エコノミスト)
今すぐ売ったほうがいい
アパートや小規模ビル、ワンルームマンションといった投資用物件は、不動産用投資ローンを組んで購入される場合が多く、金利上昇が収益を大幅に悪化させる。
「今は新築物件価格に対して年4%程度の利回りが要求されます。3億円のビルだと、年間1200万円の賃料収入が見込めることが目安となっています。現状は超低金利ですが、それでも不動産用投資ローンは変動金利で1〜2%の借入金利がかかり、修繕費や固定資産税も必要なので、最低4%の利回りがないと投資商品として採算が合いません。そこに金利が上昇し、仮に借入金利が3〜4%になってしまうと、その物件に投資する妙味がなくなってしまいます。年間の賃料を値上げできれば採算は合うのでしょうが、今後、家賃を上げていくことは現実的には難しいでしょう。結局、物件価格が低くならないと誰も買い手がつかないという状況になりかねません。つまり、求められる利回りが上がれば、物件価格は下落していくことになります」(不動産アナリスト・長谷川氏)
投資用不動産が暴落するほど金利が上がれば、当然、居住用不動産の実需にも波及する。月々のローン返済額が多くなれば、賃貸マンションのほうが得だと考えて、不動産の購買者が減り、負のスパイラルに陥る。
「金利はここ10年間ずっと停滞していて、上昇するという感覚が希薄ですが、歴史的に見ると、そもそもアップダウンが激しいものです。バブル期には3年で4%近く上昇しましたし、'00年代に入ってからもリーマンショック前は1年で1%近く上がる年もありました。今回の金利上昇は恐ろしい事態の前触れで、とうとう不動産価格が逆回転を始めたと身震いしています。もし、投資用の不動産を持っていて、売る必要があるのなら、今すぐに売ることをおすすめします」(長谷川氏)
不自然な値上がり
冒頭に紹介した湾岸のタワマンは、目下、買い手がつかない。この状況が続き、金利上昇が本格化すれば、不動産価格はどこまで下がるのか。住宅ジャーナリストの榊淳司氏がこう見通す。
「この10年間の不動産価格は不自然なまでに一本調子で上がってきたように思います。たとえば、江東区の湾岸エリアにしても、'13年以前は中古のタワマンで坪単価160万円程度でした。それが今は坪単価300万円台後半で、倍以上になっています。川崎市武蔵小杉のタワマンも大幅に値上がりしました。10年前なら新築でも坪単価250万円なら高いなと思いましたが、今は中古でも坪単価400万円です。こうしたところは、下がるときは一気にガーンと下がると思います。10年前の元の価格帯にまで戻るのではないでしょうか」
一方で、都心にはまだまだ大型物件が建設途中で、渋谷や新宿、虎ノ門など数々の一等地で今後も分譲マンションが供給され続ける。
「マンション業者にもバブル崩壊への危機感がないはずがありませんが、彼らは不安を決して口にしません。自分が担当する物件が完売するまでは、今の状況が続くと考えている。結果的には誰かがババを引くわけですが、それは自分たちではない。そう考える人が多いように思います」(住宅ジャーナリスト・山下和之氏)
インフレの恐怖はこれから
不動産価格を暴落に導く金利上昇。誰も得をしない政策変更に、なぜ日銀は踏み切ったのか。そして、今後、どのような展開をたどるのか。
法政大学教授の小黒一正氏が解説する。
「現状、日本でもかなりのインフレが進んでいます。直近の'22年11月の消費者物価指数を見ると、総合指数で前年同月比3・8%の上昇となっており、日銀が目標としている2%の物価上昇率を1・8%も上回っています。これが国民の実質賃金を目減りさせ、住宅需要を後退させていると見ることができます。今後、仮に米国のように消費者物価指数が前年同月比7〜8%も上昇するような事態になると、政府と日銀は大きな選択を迫られます。金利をそれでも低いままで維持するか、それとも利上げするか。前者ではインフレが止まらず実質賃金がさらに目減りし、後者だと住宅ローン金利が大幅に上昇する。いずれにしても、不動産の需要を大きく押し下げることになるでしょう」
金融緩和を続けるか、それとも金融引き締めに転じるか。どちらを選んでも、国民は不動産を買えなくなると小黒氏は指摘する。その結果、膨れ上がった不動産バブルはいとも簡単に破裂する。
黒田総裁の任期は4月8日まで。慣例によると、退任の3週間前までに後任が発表される。
誰が後継になろうが、不動産価格の暴落は避けられないのだから、その日に向けて不動産への投資資金は一気に引き上げられていくだろう。'23年3月は、不動産バブルの大崩壊が始まった時期として、長く記憶されるかもしれない。  
●国内株式市場見通し:日銀金融政策決定会合や米中経済指標に注目 1/14
日銀追加政策修正への警戒感で後半失速
今週の日経平均は週間で145.67円高(+0.56%)と反発。ただ、週足のローソク足は長い上ヒゲを伴った陰線となり、週間の安値近辺で終えた。
祝日明けの日経平均は10日に201.71円高、11日に270.44円高と続伸。米12月雇用統計での平均時給の伸び鈍化や米12月供給管理協会(ISM)サービス業景気指数の50割れなどを受け、インフレピークアウト期待が高まる形で買いが先行。米12月消費者物価指数(CPI)でのインフレ鈍化再確認への期待もあり、米ナスダック指数や米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の上昇が続く中、東京市場でもハイテク・グロース株を中心に買いが続いた。
一方、12日は伸び悩んで3.82円高とほぼ横ばい。日本銀行が次回会合で大規模金融緩和の副作用を点検する方針と伝わり、為替の円高が進んだことが上値を抑えた。週末13日は330.30円安と6日ぶりに反落。米12月CPIは予想通り伸びが鈍化したものの、予想一致にとどまったため、織り込み済みで反応は限定的。一方で為替の円高がさらに進行したことで、来週の日銀金融政策決定会合を前にリスク回避の動きが優勢となった。
セクターでは、銀行や保険の週末にかけての上値追いが目立った。また、週末にかけての円高進行で自動車関連やハイテクが伸び悩む中、半導体関連は逆行高で上値を伸ばした。台湾積体電路製造(TSMC)が日本で2番目の工場建設を検討していると伝わったことが、手掛かり材料となった。
円高進行や景気後退懸念に注意
来週の東京株式市場は神経質な展開か。日銀の金融政策決定会合が17−18日に開催される。追加の政策修正が決定される可能性について一部メディアが報じており、警戒感が高まっている。実際に追加変更があるとすれば、長期金利の上限をさらに引き上げるといった小手先の対応よりは、イールドカーブコントロール(YCC)の持続可能性に対する疑念が高まっていることもあり、YCCの撤廃が可能性としては高いと予想される。年明けの段階では、12月会合の際に決めたYCC運用見直しの影響と効果を見極めるため、さらなる修正は急がない意向とも伝えられていたため、2会合連続での政策修正があれば、サプライズになると思われる。仮に変更なしとなっても、先行き不透明感は強く残り、相場の上値を抑制しよう。
米12月CPIの発表以降、ドル円はすでに1ドル=130円を割り込んでいるが、サプライズ追加政策修正があれば、短期的には125円程度までは円高が進む余地があると想定しておくべきだろう。この場合、多くの企業の想定為替レートが130−135円程度に設定されている中、2月中旬にかけて本格化する10−12月期決算に対する警戒感から、輸出企業を中心に売り急ぐ動きが出る恐れがあるため、注意したい。
また、海外では米国と中国の12月小売売上高や鉱工業生産のほか、米1月ニューヨーク連銀製造業景気指数、米1月フィラデルフィア連銀景況指数などが発表される予定だ。前回の米11月小売売上高は予想を上回る落ち込みで景気後退懸念を強めた経緯があった。今回も市場予想では前月比でマイナスが予想されており、落ち込みが大きければ決算シーズンの本格化を前にリスク回避の動きが加速する可能性があろう。
ほか、来週も週半ばから週末にかけて複数のFRB高官がイベントなどで発言する機会がある。米ボストン連銀・コリンズ総裁や米フィラデルフィア連銀・ハーカー総裁に続き、米12月CPIの鈍化を受けて、米アトランタ連銀・ボスティック総裁も0.25ポイントの小幅な利上げを支持し始めており、市場の年後半の利下げ期待は一段と高まっている。ただ、金利低下・株高が続き、あまりに楽観に傾くようだと、全体のバランスを取る観点から釘を刺すタカ派発言が出てくる可能性もあり、注意したい。
内需・リオープンに注目など
個別では、景気指標の発表が多く、場合によってはソフトランディング(経済の軟着陸)への期待が剥落し、景気後退懸念が再び強まる可能性があるため、内需系のセクターが物色の中心となりそうだ。18日には12月訪日外国人旅客数が公表される予定のため、リオープン・インバウンド関連が再び脚光を浴びる可能性がある。銀行や保険は日銀金融政策決定会合までは期待感で上値追いが想定されるものの、実際の決定を受けてからは利益確定売りが広がる可能性もあるため、会合を挟んで持ち越す場合は持ち高を一部にとどめた方がよいだろう。
米中12月小売売上高・鉱工業生産や米1月連銀景況指数など
来週は16日に12月企業物価指数、12月工作機械受注、世界経済フォーラム、17日に日銀金融政策決定会合(−18日)、中国12月鉱工業生産、中国12月小売売上高、米1月NY連銀製造業景気指数、18日に黒田日銀総裁会見、日銀の展望レポート公表、11月機械受注、12月訪日外客数、米12月生産者物価指数、米12月小売売上高、米12月鉱工業生産、米地区連銀経済報告(ベージュブック)、19日に12月貿易収支、米12月住宅着工件数、米1月フィラデルフィア連銀景況指数、20日に12月全国消費者物価指数、米12月中古住宅販売件数、などが発表予定。

 

●追い詰められた黒田日銀…もはや市場を制御できず、異次元金融緩和は破綻 1/15
日銀がマーケットにケンカを売られ、追い詰められている。13日の国債市場で10年国債の利回りは日銀が容認する0.5%を超え、一時0.545%まで上昇(国債価格は下落)。昨年12月の金融政策決定会合で「国債市場、債券市場の機能度を改善する」(黒田総裁)として“利上げ”に踏み切ったばかりだが、早くも“さらなる利上げ”を催促されている格好だ。
上限利回りの0.5%を死守しようと、日銀は連日、マーケットに徹底抗戦。国債を売り浴びせるマーケットに負けまいと、12日は4.6兆円、きのうは5兆円の国債を購入した。先月、9兆円に増額した1カ月の国債購入予定額をわずか2日で超えてしまった。
13日は日銀が市場を制御できない“珍事”も起きた。
日銀が設定する上限の0.5%を超えたことを受け、日銀は10年国債を0.5%で無制限に買い入れる指し値オペを通知した。ところが、その後、金利は0.545%まで上昇。日銀の買値より、安値で売る投資家がいたのである。
「現時点では損が出る価格で売っても、いずれ国債価格が下落(金利上昇)すると見込み、そこで、買い戻せば、利益が出ると考えたのでしょう。日銀の指し値を信用していない表れです。10年国債の利回りを一定の変動幅に抑えるYCC(イールドカーブ・コントロール)の限界をマーケットに突きつけられた格好です。この状況では、この先、上限を0.5%から0.75%に引き上げても、すぐに国債市場は機能しなくなり、イタチごっこを繰り返すだけでしょう。来週(17〜18日)の金融政策決定会合でYCCを撤廃するとの見方が浮上しています」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
YCCを撤廃し、金利を市場に委ねれば、10年国債の利回りは、糸が切れたタコのように、1%、1.5%、2%と上昇する可能性がある。住宅ローンや中小企業の資金繰りに打撃を与えるのは必至だ。
「黒田総裁はもっと平時にYCCを撤廃し、正常化しておくべきでした。YCCにより、10年国債の金利が低く抑えられてきたため、国の利払い負担は軽く抑えられてきました。岸田政権は、防衛費増額や子ども予算倍増を掲げ、大きな財政支出が目白押し。さらに、国債の利払い負担が膨れ上がると、財源確保のため、利払い増税を打ち出してもおかしくありません」(森岡英樹氏)
財務省の試算によると1%の金利上昇で3年後の利払い負担は、3.7兆円、2%で7.5兆円増える。消費税なら1.5〜3%に相当する。
黒田総裁下の決定会合はラスト2回。大荒れになりそうだ。
●「株安・住宅ローンの変動金利アップ」を引き起こす「諸悪の根源」とは 1/15
変動幅の拡大に関する「見解」
黒田東彦総裁率いる日本銀行が年末から怪しげな動きをしている。2023年の日本経済を占う上で、重要なポイントになってくるので、各新聞の社説を中心に詳しく解説していこう。
「事件」が起きたのは、昨年2022年12月20日だった。日銀は、12月19〜20日の金融政策決定会合で、従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を12月20日から0.5%に拡大する方針を決めた。
日銀は、「物価の上昇は一時的なものであり、今回の方針決定は金利を引き上げるためのものではなく、金融緩和をやめるための『出口戦略』ではない」と述べているが、それをまともに信用する市場関係者はいないだろう。
日経の社説(12月20日)は「事実上の利上げとなる決定だ」と断じ、「これまで総裁や他の日銀幹部は、変動幅の拡大が実質的な利上げにつながるとして否定的な見解を示してきた。唐突な説明の変更には違和感がある」として、日銀の言ってることとやってることが違うではないかと怒りを示した。
「説明が不十分」という点で、朝日社説(12月21日)も同様に怒っている。ポイントとなる部分を抜粋しよう。
「今回の見直しにあたっての説明も不十分だ」「金利上昇が国民や市場にとって不意打ちになっただけでなく、政策の整合性もとれていない。放置すれば、日銀の『約束』への信頼にもかかわる。早急に見直すべきだ」。
ただ、朝日の社説は「修正は当然だ」という姿勢で、日銀の方針転換については支持をしている。
日銀に厳しい毎日新聞
朝日社説とまったく同じスタンスなのが、読売の社説(12月21日)と毎日の社説(12月21日)だ。読売は、論理展開も一緒で、「日銀は修正の狙いと効果について説明を尽くすべきだ」「今年に入って経済の状況が大きく変わる中でも、日銀は金融緩和策の変更を否定し続けてきた。そうした硬直的な姿勢を改め、柔軟な政策の修正に踏み出したとすれば評価できる」と言っている。
いっぽう、毎日の社説はより過激だ。
「10年近く緩和路線にこだわってきたが、賃上げを伴わない急激な物価上昇を招き、弊害が目につく。つぎはぎ的な修正には限界がある。日銀は金融政策のあり方を根本から議論し、政府も国債依存体質からの脱却を進めるべきだ」と結論を出していて、日銀に対してもっとも否定的だった。しかし、毎日の社説が謎なのは、文章中段にある「決定直後から市場金利は上昇している。急激な円安の再燃を防ぐ効果が見込まれるものの、住宅の購入や企業の設備投資を冷え込ませるリスクをはらむ」という文言だ。
「これまでの金融政策をやめるべきだが、やめると景気が悪くなる」ということを言いたいのかもしれない。実際に、それが正しいのかもしれない。であるならば、「景気が悪くなっても金融政策を変えろ」とはっきり言わなくては責任ある態度とは言えないないだろう。
対する産経の社説(12月21日)は、「黒田総裁は、事実上の利上げだという市場の見方を否定したが、この点も実に分かりにくい。ほかならぬ黒田総裁が、これまでの会見などで、こうした修正が利上げに相当するという見解を示してきたからだ。自らの発言が整合性を欠くことについてもっと納得できる説明をすべきだ」と、滑り出しは朝日・読売と同様に「説明不足」への不満からのスタートだが、「金利上昇が企業借り入れに悪影響を及ぼすことがないのか。こうしたことも十分に見極める必要がある」として、利上げに否定的な立場を匂わせている。
上半期は景気減退、株安リスク大
同様の匂わせは、日経にもあった。日経は社説のほとんどを「日銀の方針転換についての解説」に費やしているが、一文だけ「金利上昇が企業借り入れに悪影響を及ぼすことがないのか。こうしたことも十分に見極める必要がある」と指摘している。利上げが続けば、景気が悪くなるのではないかと匂わせているのだ。
帝国データバンクが発表した『「食品主要105社」価格改定動向調査(12月)』では、『来年値上げする予定の品目数は11月末時点で4000品目を超えた。今月中にも計画ベースで累計5000品目に到達する見込みで、特に2月は今年10月に匹敵する規模の値上げラッシュとなる』『落ち着きを取り戻しつつある米ドル・円為替相場も、今年はじめに想定 されていた 1 ドル・110 円台と比較すれば依然として大幅な円安水準』『来春は今年を上回る「値上げラッシュ」が到来する可能性が高い』『来年2月は今年10月級の記録的値上げ』と指摘されている。
日銀の黒田総裁が今後も金融緩和政策を続ける根拠は、現在の物価上昇が一時的なものであり、来年はインフレ率は2%を下回ると考えている点だ。この点については、12月26日に行われた黒田総裁の『賃金上昇を伴う形での「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて』と題する経団連審議員会における講演でも同様の主張をしていてるので、間違いはないだろう。
とするならば、総じて賃上げが達成されると見込まれる春闘(連合は5%の賃上げを目論む)も含めて、物価上昇率が高いレベルで維持される可能性は高い現状では、日銀は、もう一段階踏み込んだ、利上げへの方針変換が行われることになる。となれば、複数社の社説が心配するように、今年前半の日本は、景気後退リスク、株安リスクをはらむ展開となりそうだ。
ポスト黒田総裁の「目論見」
実際に、1月4日現在、円ドルは132円と、日銀による利上げを見越したような動きを始めている。週刊現代の記事『黒田東彦総裁が「早期辞任」する可能性が出てきた…! 原因は岸田官邸との「関係」か』では、永田町や霞が関で、黒田氏の「早期辞任」が囁かれ始めているのだ報道されている。
ここで多くの国民が抱える不安は、住宅ローンだろう。日本では、住宅ローン加入者の8割以上が変動金利を選択しているのだ。金利が高まれば、変動金利も高まることになる。注目すべきは、黒田総裁の任期が今年3月で終わるということだろう。次期日銀総裁の方針によっては、金融緩和を止め、金利が急激に上がる可能性もある。
今もっとも有力視されているのが、雨宮正佳氏だ。現在、日銀の副総裁を務めている。本人は「日銀の外でやりたいことがある」と周囲を煙に巻くが、官邸も含め、その言葉を額面通りに受け取っている人はいない。もし、雨宮氏が黒田総裁の後継となったら、どのような金融政策を打ち出すのか。日銀関係者はこう解説する。
「黒田総裁をずっと支え続けて来たのですから、基本的には方針を踏襲すると考えられます。2022年夏(7月28日)の講演でも『2024年度でも、1%台半ばの上昇率にとどまると想定』していると発言し、金融緩和を維持する姿勢を打ち出しています。ただ、岸田政権はアベノミクスと距離を起きたいとも考えていることや、これまでの金融緩和が副作用や批判が起きているのは事実。岸田首相は別の人事を考えるかもしれませんが、雨宮氏に就任と引き換えに『異次元緩和』から多少の修正を要請する可能性はあります。となれば、株安、岸田不況の到来です」
日銀の後継がいかなる人物になるか。世界中の注目が集まる。  

 

●円が7カ月半ぶり高値更新、日銀政策修正観測で127円台前半 1/16
東京外国為替市場では円が1ドル=127円台前半に上昇し、7カ月半ぶり高値を更新している。朝方は持ち高調整などの円売りが先行する場面も見られたが、続かず。17、18日の日本銀行の金融政策決定会合を控えて、金融緩和策のさらなる修正観測から長期金利が連日で日銀が許容する上限を上回る中、円を買う動きが優勢となっている。
みずほ銀行の鈴木健吾チーフマーケットストラテジストは、長期金利が上限の0.5%を上回る状態が続いているため、「日銀が何もしないわけにはいかないのではないかとの見方が強まっている」と指摘。「ドル・円は昨年まさかの150円台を付けた後ということもあり、下攻め(円の上攻め)の理由になっている」と話す。
日銀が大規模緩和の副作用を検討すると読売新聞が12日に報道して以降、市場では今週の日銀会合で昨年12月に続く政策修正が行われるとの観測が急速に強まっている。13日の債券市場では10年国債利回りが日銀の許容上限0.5%を超え、一時0.545%まで上昇。16日も新発10年国債利回りが0.5%を上回って推移している。金利上昇に対し、日銀は前週末に発表した臨時の国債買い入れオペと指し値オペを通知した。
鈴木氏は、日銀総裁交代前に「緩和政策をこれ以上動かすことには疑問もあるが、4月以降に向けて政策点検する可能性は十分ある」と指摘。前回12月会合の政策変更では1日に7円円高が進んだだけに、「変更含みの点検などあれば、それなりの値動きが期待できるし、125円割れなども十分あり得る」と話す。
一方、りそなホールディングス市場企画部の梶田伸介チーフストラテジストは、イールドカーブコントロール(YCC)の拡大から撤廃に近い状況まで織り込み、マイナス金利解除も織り込んでいることを踏まえると、日銀会合前後にいったん利益確定の円売り・ドル買いが優勢になってもおかしくないと予想。「決定会合前に日銀がオペなどでいかに金利を落ち着けられるかが鍵」になるとみている。
●円相場 円高の流れ続く“日銀 金融緩和策さらに修正か”観測で  1/16
先週、円高が進んだ外国為替市場、週明けは1ドル=127円台から128円台で取り引きされています。
17日と18日に開かれる日銀の金融政策を決める会合を前に、日銀が金融緩和策をさらに修正するのではないかという観測が広がり、先週、海外市場でおよそ7か月ぶりに1ドル=127円台まで円高が進んだ流れが続いています。
市場関係者は、「先週末にアメリカで発表された、消費者が予想している1年後の物価が低下したことでFRBの利上げペースが減速するという見方も、ドル売り円買いにつながっている」と話しています。
●ドル不安定な動き継続、日銀決定会合を見極め=今週の外為市場 1/16
今週の外為市場では、日米の金融政策を巡る思惑を背景にドルは不安定な相場が続くとみられる。17─18日開催の日銀金融政策決定会合では、声明内容や黒田東彦日銀総裁会見の内容次第で相場が値幅を伴って上下に動く可能性がある。米インフレ動向を見極める上で、卸売物価指数(PPI)にも注目が集まる。
予想レンジはドル/円が125―133円、ユーロ/ドルが1.06―1.11ドル。
上田東短フォレックスの営業企画室室長、阪井勇蔵氏
「米利上げペースが鈍化するとの観測と日銀の政策修正を巡る思惑という2つの要因でドル/円は押し下げられており、その流れが続くかがポイント。円金利は上昇圧力がかかりやすくなっている一方で米金利は低下基調にあり、日米金利差の面ではドル高/円安方向には向きづらい。ただ、日銀決定会合の結果次第では足元のドル安/円高の潮目が変わる可能性もある。米経済指標や米連邦準備理事会(FRB)高官によるタカ派的な発言で利上げペース鈍化の思惑が後退すれば、ドル安の巻き戻しも生じやすい」
りそなホールディングスのエコノミスト、村上太志氏
「日銀金融政策決定会合で政策修正されるかどうかが焦点。仮にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)を撤廃をすれば、マイナス金利解除に対する思惑が高まりやすく金利上昇につながり、市場のコントロールが難しいことが想定される。日銀の政策に対する信認を維持するためにも、政策修正は難しいのではないか。政策に変更がなければ、ドルは再び130円台方向に戻りやすい。一方、政策修正に踏み切った場合は、一段の円高圧力がかかるだろう」
●日銀による金融緩和転換で「円一段高になる」は本当なのか−− 1/16
基本的に為替相場は12月下旬、クリスマス前後は小動きになります。欧米の投資家がクリスマス休暇になり、薄商いとなるためです。ところが、2022年の12月下旬は違いました。クリスマス直前に、米ドル/円の急落が起こったのです。きっかけは、日銀の金融政策だったので、「日銀ショック」とも呼ばれたこの米ドル/円急落の背景と、今後の見通しについて考えて見たいと思います。
「日銀ショック」の円急騰は過剰反応?
2022年12月19日(月)・20日(火)に行われた日銀の金融政策会合は、市場関係者の間では政策変更などはないと見られていました。ところが、それまで日銀が行っていた長期金利、10年債利回りの上限を0.25%とするYCC(イールドカーブ・コントロール)と呼ばれた政策について、上限を0.5%に拡大することが発表されたのです。
長期金利の上昇について、容認する範囲を拡大するということは、実質的に金利の上昇を容認することになるわけです。日銀は、近年世界的にインフレが拡大し、金融引き締めへの転換が広がる中で、日本は例外的に金融緩和を続けてきましたが、それはアベノミクスの中の柱となってきた黒田総裁主導の金融緩和路線が根底にあったと見られてきました。ただ、安倍元総理が亡くなり、アベノミクスの転換が現実味を帯びる中で、日銀の金融緩和路線の転換も近付いてきたとの見方は既にありました。
しかし、日銀の方針転換は2023年春の黒田総裁の退任後ではないかと見られていたことから、今回の決定はタイミングとしては予想より早い、「サプライズ」と受け止められ、為替相場も日本の金利急騰に連れた形で円の急騰となりました。その上で、アベノミクスが修正に向かう中で、日本の金利も上昇が続き、為替相場は2022年にかけて展開した歴史的円安の修正が広がるとの見方が増えているようです。はたして本当にそうなのか、そこに「間違い」はないのでしょうか?
日銀が金利上昇を容認し、それに連れて円高になるというのは、それだけを聞くとおかしくなさそうです。しかも、今回は10年債利回りの上限を、0.25%から0.5%へ「倍」にしたわけですから、それなら円相場も急騰して当然と感じるかもしれません。
   【図表1】日米の10年債利回りの推移 (2022年1月〜)
ただ図表1をご覧ください。これは、日米の10年債利回りの推移を同じ目盛りで比較したものです。これを見ると、米国の10年債利回りの変動が激しいため、それと並べると今回の日本の10年債利回りの上昇も、「ほんの少し」のように見えます。
黒田総裁退任は為替相場に影響するのか?
   【図表2】日米の10年債利回りの推移(2021年1月〜)
これに対して、「いやいや、日本の金利上昇は、まだまだ始まったばかりで、それこそこれまで金融緩和を主導してきた黒田総裁が退任すると、金利は一段の上昇に向かうだろうから、為替相場も円高がさらに広がるだろう」といった反論はあるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?
図表2は、日米の10年債利回りについて、目盛りは左右軸に分けて値動きを重ねて見たものです。これを見ると、水準は違うものの、日米10年債利回りの値動きは、2022年春にかけてほぼ重なっていたことが分かるでしょう。
日米10年債利回りの連動、それは日本の10年債利回りに米国の10年債利回りが連れるというより、基本的には「世界一の経済大国」である米国の10年債利回りに日本の10年債利回りが連動することが多かったと考えられます。これについて、別な言い方をすると、日本の10年債利回りは米国の10年債利回りによって決まってきたということです。
それを変えたのが、日銀によるYCC、長期金利上昇抑制策でした。日本の10年債利回りの上限を0.25%に設定し、それ以上の金利上昇を容認しない政策をとったことから、米金利の上昇にも日本の金利は追随せず、両者のかい離が拡大するところとなりました。
今回、日銀が10年債利回りの許容上限を拡大したことで、日本の10年債利回りはかつてのように米国の10年債利回りと連動する状況に戻り始めた可能性があるでしょう。その上で、さらに日銀がYCCといった長期金利上昇抑制策を終了したら、普通ならYCC導入以前のように、日本の金利は「世界一の経済大国」米国の金利で決まる構図に戻るのではないでしょうか。
つまり、黒田緩和を転換し、YCCを止めても、日本の金利が青天井に上昇するわけではなく、米金利の変動の範囲内の上昇にとどまる可能性が高いのではないか−−と筆者は考えます。
円金利上昇が円売りに変わる日
かつて「史上最高のFRB(米連邦準備制度理事会)議長」とも呼ばれたA・グリーンスパン氏は、「長期金利は基本的にコントロールできない」と発言したことがありました。中央銀行は政策金利を変更することで、短期金利には絶対的な影響力がありますが、長期金利への影響力には限界があるといった意味になるでしょう。
日銀によるYCC、長期金利上昇抑制策は、「コントロールできない長期金利」をコントロールしようとした、という意味では常識外れの政策だったかもしれません。10年債利回りの上限を0.25%にしたことで、日銀は0.25%以上の利回り上昇(価格下落)を回避するべく、10年債利回りの購入を拡大しました。その結果、日銀は大量に国債を保有するところとなったわけです。
そんな国債利回りの上昇は、国債価格の下落となります。この利回り上昇に伴う国債価格の下落は、日銀の国債保有にどのように影響するかについて、2022年12月に日銀幹部は、利回りが1%上昇すると、日銀の保有国債の含み損は30兆円弱に急増するとの試算を説明しました。
日本の中央銀行である日銀は「円の番人」と言っても良いでしょう。そんな「円の番人」が、金利上昇に伴う保有国債の含み損拡大で債務超過に転落するなら、果たしてそんな円金利上昇は円買い材料とみなされるのか、ちょっと疑問ではないでしょうか。
●「パンドラの箱」開けてしまった日銀、市場はさらなる政策修正を警戒 1/16
日本銀行が昨年12月にイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策を予想外に修正したことで、市場参加者はさらなる政策修正を警戒せざるを得なくなっており、今週の金融政策決定会合への注目度が急速に高まっている。
ブルームバーグ調査によると、ほぼすべてのエコノミストが今回の政策据え置きを予想している。しかし、日銀が長期金利の許容変動幅を上下0.25%から同0.5%に拡大した理由である市場機能について、変更後も改善はみられず、市場は早くも変動幅の再拡大やYCC撤廃の可能性さえ見始めている。
TDセキュリティーズのメイゼン・アイサ氏とプリヤ・ミスラ氏は、「パンドラの箱は開かれ、それを封じるのは非常に難しい」と指摘。「黒田東彦総裁が退任する頃には、10年債利回りの上限が1%まで引き上げられることを市場は覚悟しておくべきだ」と言う。
前月の日銀の政策修正は、むしろ市場機能を悪化させている。さらなる修正観測による金利上昇圧力に対して、日銀は市場の流動性を犠牲にしながらも、金利上限を守るために国債買い入れを増やさざるを得なくなっているためだ。
10年国債利回りが新たな上限0.50%を上回る
SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、「日銀の国債買い入れ拡大が市場機能をさらに低下させている」と指摘する一方、「積極的な買い入れを止めれば、YCCを突然やめたオーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)のケースが連想され、政策修正の思惑をさらに高めてしまう」と言い、日銀はジレンマに陥っていると語った。
日銀の国債保有比率は昨年9月末時点で初めて50%を超えたが、足元では保有比率が発行額の100%近くに達する10年国債銘柄も出てきている。一方、10年債利回りは日銀の示す上限0.5%を一時突破し、残存8年や9年債の利回りがその水準をさらに上回るなど、イールドカーブのゆがみも進んでいる。急激な利回り上昇を背景に、日本国債の売り値と買い値のスプレッドは過去1カ月で拡大傾向だ。
日銀の指し値オペ、落札額は3兆2074億円−2日連続で過去最高更新
今週も警戒
日銀は17、18日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策に伴う副作用を点検すると、12日の読売新聞が報じた。国債の購入量の調整などで市場のゆがみを是正できるかを見極め、必要な場合は追加の政策修正を行うとしている。
BNPパリバ証券は日銀が3月に10年債利回りの許容変動幅を上下1%まで拡大すると予想しているが、今週の会合で拡大が決まる可能性も「五分五分に近い」とみる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は4−6月のYCC終了をメインシナリオとしながらも、そのタイミングが今週に前倒しされる可能性も無視できないと警戒する。
SBI証券の道家氏は、「日銀が市場との対話に失敗したため、市場は日銀がいつ動いてもおかしくないと言う気持ちで備えざるを得なくなっている」と言う。SOMPOアセットマネジメントの平松伸仁債券運用部長は、「政策変更の可能性を完全に否定することはできないので、金利上昇に備えたポジションを取っている」と話す。
現状維持
今週の会合について、ブルームバーグがエコノミスト43人を対象に6−11日に実施した調査では、1人が金融政策の微調整を見込む以外は現状維持を予想した。早川英男元日銀理事(東京財団政策研究所主席研究員)も12日のインタビューで、一段の政策修正に動けば「市場の臆測をさらに強めるだけだ。さすがに動かないだろう」との見方を示した。
日銀は昨年12月の政策修正から間もないこともあり、企業金融面への影響を含めて効果を見極めるべき局面とみている。市場に突然の政策変更と受け止められたことでボラティリティーの高い状況が続かざるを得ないとも認識しているが、足元で金融市場が一段と不安定化していることを踏まえた判断が注目される。
日銀はYCCの再修正急がず、12月決定の影響と効果見極め-関係者
日銀は政策修正の理由について市場機能の改善を図るためと説明し、足元で加速する物価上昇への対応とは一線を画した。今週の会合では新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)が議論され、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の見通しが上方修正される公算が大きい。追加の政策修正は、金融政策の正常化への一歩と解釈される可能性が高い。
●日銀は金融緩和継続を、アベノミクス完成へ−自民・世耕参院幹事長 1/16
自民党の世耕弘成参院幹事長は、日本銀行が昨年12月に決定した長期金利の変動幅の上限引き上げは金融政策の転換ではないとの見方を示した上で、潜在成長力が伸びていない中では現在の緩和を継続することが重要だと述べた。
13日のインタビューで語った。世耕氏は日銀が長期金利(10年国債金利)の許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大したことは、「現状を追認的に修正したにすぎない」と指摘。「イールドカーブを正常にする努力」であり、金融緩和などを柱としたアベノミクスの「完成に向けた努力が継続されている」との見方を示した。
日銀は17、18両日に金融政策決定会合を開くが、安倍晋三元首相の側近としても知られた世耕氏が会合を前に改めて緩和継続への支持を示した形だ。ブルームバーグが今月行ったエコノミスト調査では、日銀が7月までに引き締めに転じるとの予想が5割を超える一方、今回の会合についてはほぼ全員が現状維持を見込んでいる。
債券市場では13日、新発10年国債利回りが一時0.545%まで上昇し、日銀の許容上限を超えた。昨年11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年同月比3.7%上昇し、8カ月連続で2%を上回った。
世耕氏は現在の経済状況に関しては、海外のインフレによる影響で特定の物価が上昇しているが、デフレマインドは解消されていないと分析。「賃金が上がり、期待インフレ率が上昇して初めて消費が動き始める」として、春闘を控えた今がデフレ脱却の「正念場」だと述べた。
日銀総裁人事
4月には日銀の黒田東彦総裁が任期満了を迎える。ブルームバーグの今月のエコノミスト調査では、長らく黒田総裁を支えてきた 雨宮正佳副総裁が総裁後任の最有力候補として上がり、 中曽宏前副総裁、 山口広秀元副総裁と続く。
後任人事案は23日に召集される通常国会の会期中に各党に提示される。世耕氏は人事については、国会で同意する立場としてチェックをすると述べるにとどめた。日銀の政策に政治が関与できるのは国会同意のタイミングだけであり、新総裁に今後5年間の金融政策運営を託すことから、しっかりと方針を確認したいと語った。
日銀が2%の物価上昇率を目指すことなどを定めた2013年の政府・日銀の共同声明(アコード)の扱いも焦点となっている。共同通信が昨年12月、政府が見直す方針を固めたと報道したが、世耕氏は「今は見直しの段階ではない」と述べた。日本経済の現状が理由であり、後任総裁人事に関連付けた考えではないとしている。
アコードに関しては、西村康稔経済産業相も改定に否定的な見解を示している。世耕、西村両氏は安倍派に所属している。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストが12日付のリポートで「首相官邸としては、次期日銀総裁・副総裁人事で、安倍派からの強い反発を招かないような人選を考える必要は、どうやらありそうである」と指摘している。
責任は政府に
世耕氏は、黒田総裁体制の約10年について「金融政策は本当によくやってもらった」と振り返った。一方で、政府が同期間に「本当の意味で財政出動をしたかは疑問を持っている」と述べた。
基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標にこだわった財政運営や消費増税の実行は潜在成長力が高まらなかった大きなポイントだったとして、「もう少しアグレッシブであってもよかった」と語った。
その上で、成長戦略が十分な成果を上げられなかった責任は日銀より政府にあるとして、今の金融政策の継続を前提とした財政政策や成長戦略を進めることでアベノミクスを完成させていくことが重要と述べた。
安倍政権が掲げたアベノミクスは大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3本の矢でデフレからの脱却を目指していた。
●だまし討ちされた市場が備える日銀再びの裏切り  1/16
日銀の金融決定会合を前に金融市場が揺れている。2022年12月、唐突に長短金利操作政策(YCC)を修正し衝撃をもたらしたため、さらなる政策修正に警戒感が高まる。この10年、リフレ政策は誤算の末にごまかしを重ねてYCCに行き着いた。目指したインフレがその持続性に終止符を打つ。
日銀は1月17、18日に金融政策決定会合を開く。金融市場では現在の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)政策の修正観測が根強い。2022年12月に突然、長期金利の変動幅を拡大させ、事実上の「利上げ」を決定したからだ。
変動幅の拡大について、日銀は表立っては「市場機能への配慮」と説明するが、実態は「副作用対策の自縄自縛」(日銀OB)であり、今後、YCCはなし崩し的に解除される方向と受け止められる。
「利上げではない」と日銀が言っても金利は上昇
2022年12月19、20日の政策決定会合で日銀が長期金利の変動幅を拡大したことは、金融市場には「寝耳に水」だった。
インフレ進行を背景に、欧米金利と同様に日本の長期金利も上昇。日銀が変動幅の上限としていた0.25%に張り付いていたが、上限引き上げについて、日銀幹部はそれまで「利上げになる」と否定的な見解を示していたからだ。長期金利のこう着は、取引低迷などの副作用をもたらしたが、「日銀は静観する」(銀行系証券アナリスト)とみられた。
ところが、日銀は唐突に長期金利の変動幅の上限を0.25%から0.5%に引き上げ、金融市場に衝撃をもたらした。黒田東彦総裁は会見で、「(金融政策の運営スタンスは)現状維持である。利上げではない」と否定したが、長期金利は変動幅がそれまでの2倍に拡大したことを受けて0.5%前後に急騰。住宅ローン金利の上昇など「利上げ」に等しい影響が出ている。
1月17、18日の決定会合では、日銀ロジックに沿えば「恐らくは現状維持になる」(大手邦銀)と見込まれる。長期金利の変動幅を拡大したことで「金融緩和の持続性が高まる」(黒田総裁)からだ。
市場機能に配慮して変動幅を2倍に広げると、その範囲で長期金利は自由に変動して取引が活発になり、金利形成も正常化する――。日銀の理屈では、変動幅の拡大で市場機能は復活したのであり、今度こそ、正真正銘の現状維持となるはずだ。
だが、金融市場ではYCCの解除観測が根強い。
それは「日銀は、何の予兆もなく長期金利の“利上げ”を強行して、金融市場の信頼を失った」(外資系ファンド幹部)からだ。だまし討ちのような政策決定を行うと、金融市場は中央銀行の説明を信用しなくなる。「再び裏切られるリスクを意識せざるを得ない」(同)わけだ。
しかし日銀は、金融市場から疑心暗鬼の目を向けられつつも、1月は現状維持を決定すると見込まれる。「市場機能に配慮した結果、金融緩和の持続性が高まった」という自らのロジックをすぐに放棄するのは「あまりにも無責任であり、少なくとも黒田体制の下では現状維持を続けるだろう」(別の大手邦銀)と考えられるからだ。
ただし、1月の会合を現状維持で乗り切っても、YCCの枠組み自体は、遅かれ早かれ解除されるのは間違いない。なぜなら、黒田日銀が長期金利の“利上げ”に追い込まれたのは、副作用対策が重なって政策運営がほころび始めたことを意味するからだ。
リフレの失敗を糊塗する10年の軌跡
ここでYCCに至る軌跡を振り返り、その場しのぎの副作用対策を繰り返して、いかに政策運営が行き詰まったのかを紹介したい。
発端は2013年の異次元緩和(黒田バズーカ)だ。「デフレは貨幣現象であり、金融政策だけで脱却できる」とのリフレ思想にとらわれた当時の安倍晋三首相は、同じくリフレ思想の黒田氏を日銀総裁に登用。黒田総裁は期待に応えて国債の爆買いによる大規模緩和を敢行した。
ところが、円安・株高を背景に上がりかけた物価は翌2014年に原油急落などで失速した。
「2年で物価を2%にする」という公約は2015年時点で絶望的となったが、黒田日銀はリフレ政策の失敗を認めずに国債爆買いを継続。しかし、購入できる市中国債には限界があり、バズーカの弾切れが懸念された。
これを回避すべく黒田日銀が飛びついたのが、2016年の「マイナス金利」である。一発逆転を狙った転進だったが、強烈な副作用が発生した。利ザヤ縮小で銀行株が叩き売られ、日経平均株価が急落。同時にリスクオフの円高を招いたのだ。
さらに誤算だったのは、長期金利もマイナス圏に落ち込み、運用収益が枯渇して生保・損保の経営が危ぶまれる事態となったことだ。
これに慌てた黒田日銀は、マイナス圏に沈んだ長期金利をゼロ%に引き上げる「誘導策」を導入した。これがYCCの原型である。
つまり、YCCとは、黒田バズーカの弾切れを回避するため、苦肉の策で導入したマイナス金利の副作用を打ち消すための「弥縫(びほう)策」なのだ。リフレ政策の空振りを糊塗する「ごまかし」の最終型であったとも言えるだろう。
インフレが起きなければよかったのに
マイナス金利の副作用対策としてのYCCは、逆説的だが、インフレが発生しない限りにおいては持続的だった。低成長・低インフレが常態化する下では、長期金利の変動は限られ、強引に抑え込む必要性は薄れる。上下0.25%の幅で十分に市場機能は確保された。
ところが、現在のようにインフレ圧力が強まると国債は売られ、長期金利は上限に張り付く。誤算は、上限を引き上げても、市場が求める変動幅に足りず、新たな上限である0.5%に張り付いたことだ。
0.25%を防衛できなかった日銀が、0.5%を防衛できるとは限らない。日銀の足元を見透かした金融市場はさらなる上限引き上げを狙って「新たな国債売りを仕掛けた」(先の外資系ファンド幹部)のが現状だ。1月の決定会合で現状維持を決めても、次の決定会合(3月9、10日)まで新上限での攻防戦が続く。
「市場機能は完全に喪失し、早ければ3月にはYCC解除だろう」(同)とみられている。
●市場の注目は日銀の金融政策決定会合に 1/16
本日の日経平均株価は、下落スタート後にマイナス圏での軟調もみ合い展開が続いている。シカゴ日経225先物は大阪比290円安の25790円で、シカゴ先物にサヤ寄せする格好から本日の日経平均は売りが先行。17-18日に控えている日銀金融政策決定会合で追加の政策修正が決定される可能性について報道があり、本日も国内金利上昇への警戒感から利益確定売りが広がっている。香港市場や中国市場の指数はプラス圏で推移、ナスダック100先物は上値の重い展開が続いている。
新興市場でも軟調な展開が続いている。マザーズ指数やグロース市場の時価総額上位20銘柄で構成される東証グロース市場Core指数は下落してスタート。その後は、下げ幅を縮小する動きを見せるもマイナス圏で推移した。ただ、日経平均よりも下落率は小さく、為替の円高影響が小さい新興株に幕間つなぎの物色が向かっている可能性がある。また、インフレピークアウト期待は引き続き新興株のサポート要因として機能している。そのほか、新興市場でも決算発表を行った個別材料株中心に物色が向かっている。前引け時点で東証マザーズ指数が0.78%安、東証グロース市場Core指数が0.44%安。
さて、前週末に発表された米1月ミシガン大学消費者信頼感指数の1年先期待インフレ率は4.0%と市場予想4.3%を大幅に下回り、昨年12月の4.4%から大きく低下した。
2021年4月以来の低水準となり、米消費者が今後1年で物価上昇圧力が大幅に緩和するという確信を強めている様子が浮き彫りとなった。米10年債利回りは3.49%と昨年12月以降のレンジ下限まで低下、インフレピークアウト期待は個人投資家心理にポジティブに働こう。
ただ、米国のインフレピークアウトに楽観的な意見が見られてきたなか、今週は日銀の金融政策決定会合が17-18日に開催される。追加の政策修正が決定される可能性について一部メディアが報じており、市場参加者の注目度が急速に高まっている。ブルームバーグ調査によると、ほぼすべてのエコノミストが今回の政策据え置きを予想。ただ、日銀が長期金利の許容変動幅を上下0.25%から同0.5%に拡大した理由である市場機能について、変更後も改善はみられず、市場は早くも変動幅の再拡大やYCC撤廃の可能性を想定し始めている。
年明けの段階では、12月会合の際に決めたYCC運用見直しの影響と効果を見極めるため、さらなる修正は急がない意向とも伝えられていた。2会合連続での政策修正があれば、ネガティブサプライズになろう。同会合が終了するまでは、日経平均は上値の重い展開が続きそうだ。
そのほか、株式デリバティブトレーダーは昨年市場を駆け巡った混乱が中断すると想定しているという。今後数カ月間の価格変動の激しさの予想を示すいわゆるボラティリティ・カーブは、どの点でも1年前より低下。カーソン・グループのチーフ市場ストラテジストであるライアン・デトリック氏は「昨年がどれだけひどい1年だったかを考えれば、市場には すでに多くの悪いニュースが織り込まれている可能性が高い」と述べた、とブルームバーグで報じられている。
また、ネッド・デービス・リサーチによる米商品先物取引委員会(CFTC)のデータ分析によれば、機関投資家は過去数週間、株式のショートポジションをカバーし、今月初めにはネットロングポジションを2022年5月以来の水準に高めたという。ネッド・デービスの米国担当チーフストラテジストは「良好なインフレデータが続き、企業業績がかなり良ければ、ヘッジファンドがショートポジションのカバーを続け、それが相場上昇を持続させるかなり良い材料になると言えるだろう」とブルームバーグに語ったようだ。
インフレが鈍化しつつあり、米金融当局が利上げペースを緩めるとの楽観的観測を受けて暗号資産ビットコインも連日大きく上昇している。暗号資産全体の時価総額も昨年11月以降と比較して回復傾向にあり、リスク資産に資金が戻り始めている。トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズの創業者のマイケル・パーブス氏は、短期的に強気の値動きを意味していると分析したようだ。ただ、暗号資産、米国株が好調に推移してはいるが、引き続きインフレ指標やFRB高官の発言、地政学リスクの動向などには注目を続けたい。さて、後場の日経平均は軟調もみ合い展開が続くか。米株先物の動向を横目に、日経平均が下げ幅を縮小する動きを見せるか注目しておきたい。
●長期金利が再び上限0.5%超え、日銀臨時オペ実施−先物や超長期債堅調 1/16
債券市場では新発10年国債利回りが日本銀行の許容上限0.5%を2営業日連続で上回っている。17、18日の日銀金融政策決定会合について、さらなる政策修正観測が根強いためだ。一方、政策据え置きの予想もある上、現物に対して割安な先物や超長期債は買いが優勢になっている。日銀は前週末の予告通り、午前に臨時の国債買い入れオペと指し値オペを通知した。
日銀は午前の金融調節で臨時の国債買い入れオペを実施した。対象は残存1年超3年以下、3年超5年以下、5年超10年以下、10年超25年以下で、買い入れ額はそれぞれ1000億円、5000億円、5000億円、3000億円。また、新発2年国債を0.03%で無制限に買い入れる指し値オペも通知。10年国債の0.50%の指し値オペも毎営業日実施。チーペスト銘柄を対象とした同オペも当面継続。
SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、「日銀決定会合までは、できるだけ金利上昇を抑えるオペは続けざるを得ない」とする一方、「イールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)政策の撤廃はハードルが高い上、これ以上の政策修正も難しいので、10年債0.5%きっかりで毎日実施している指し値オペに柔軟性をもたせたり、国債補完供給のやり方などで対応する可能性はある」との見方を示す。
一方、債券先物相場は売り先行後に買いが入り、大幅上昇。SMBC日興証券の奥村任金利ストラテジストは、「現物に対して先物が非常に売られている」と指摘し、「先物3月物の最終決済日の3月半ばのタイミングでは、ある程度、現物ショート(売り建て)と先物ロング(買い建て)のポジションを取っておくと利益を得るチャンスではあるので、そういう現物と先物間の裁定の動きが多少は出ているかもしれない」との見方を示す。
●橋下徹氏 「経済のエンジンが今は回ってる。ブレーキを踏む考え方には反対」 1/16
元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏(53)が16日、フジテレビの情報番組「めざまし8(エイト)」(月〜金曜前8・00)に出演。13日の国債市場で、長期金利の指標である新発10年債の利回りが一時、0・545%に上昇し、2015年6月以来約7年7カ月ぶりの高水準となったことについて言及した。
日銀が22年12月に大規模な金融緩和策を修正し、事実上の利上げに踏み切った後、上限に設定した「0・5%程度」を初めて超えた。昨年12月に長期金利の上限を0・25%程度から0・5%程度に引き上げた日銀は13日、金利を抑え込むために0・5%の利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」などを実施し、5兆83億円分の国債を買い入れた。1営業日当たりの購入額では過去最大だった。
橋下氏は「経済学のセオリーとしては、物価が上がると金利を上げて物価を抑えよう、これ経済学で僕も学んでいた大原則なんですけど、これが今どんどん考え方が変わってきて。というのは、金利が上がってもメリット、デメリットがあるし、金利が下がってもメリット、デメリットがある。円高についても、円高にメリット、デメリットがあれば、円安にもメリット、デメリットがあるんですよ」と言い、「どう考えるかでね、2つの大きな軸があって、例えば米国は今、金利を上げて物価を抑えようとしていますけど、経済のエンジンがすごい回転してるんです、米国は。だから物価が上がる時に経済のエンジンにブレーキを踏もうという考え方で金利を上げて物価を抑えると。エンジンを止めにいっているんです」と指摘した。
そのうえで「日本って今、経済のエンジンって回ってるんですかね」と疑問を投げかけ、「米国と同じように金利を上げて経済のエンジンにブレーキかけにいくっていったら、日本はもともとエンジンが回ってない状況だから。だから今までは日本はエンジンはふかし続けると。じゃあ物価が上がってきた時にどう対処するかっていったら、賃金を上回るっていう。米国は今、賃金も抑えにいっているんですよ。賃金上昇率が米国は高いから抑えにいっているんです。日本は同じやり方やっていいのかってことです」と持論を展開。
「今、実際に見るとユニクロをはじめ、どんどんこの物価に対応して賃金を上昇している企業が増えてきているから、僕はこっちの流れでいくべきだって持論なんですけど、正直これはねえ、どっちの方向が正しいのか分からなくて、最後は専門家の皆さんの意見を聞きながら、日銀ないしは政府が決めないといけないんですけど。僕はねえ、経済のエンジンが今は日本が回ってるから、このエンジン、ブレーキを踏もうっていう考え方には僕は反対です」と自身の考えを述べた。
●13日の米国市場 米国株式市場は続伸、消費者信頼感指数の改善を好感 1/16
NY株式:米国株式市場は続伸、消費者信頼感指数の改善を好感
ダウ平均は112.64ドル高の34,302.61ドル、ナスダックは78.05ポイント高の11,079.16で取引を終了した。
各主要銀行の最高経営責任者(CEO)が軽度の景気後退を想定していると慎重な見通しを示したため警戒感から売られ、寄り付き後、大きく下落。その後発表された1月ミシガン大消費者信頼感指数速報値が予想以上に改善したため景気への悲観的見方が後退し下げ止まった。さらに、連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を決定する上で注視している同指数の1年期待インフレ率が大幅に低下したため金利先高観がさらに後退しハイテクが買われ相場をプラス圏に押し上げ。終盤にかけ上げ幅を拡大し終了した。セクター別では、小売りや銀行が上昇した一方で、自動車・自動車部品が下落。
銀行のJPモルガン(JPM)は第4四半期決算で金利収入48%増が奏功し、増収増益となり買われた。同業シティグループ(C)も第4四半期決算で債券トレーディングでの収入が過去最高を記録したことが好感され、上昇。重機メーカーのキャタピラー(CAT)はアナリストの投資判断引き上げで上昇した。ファーストフードチェーンのウェンディーズ(WEN)は第4四半期の暫定決算で売り上げが強く増配を発表し、上昇。電気自動車メーカーのテスラ(TSLA)は国内で販売価格を最大20%引き下げると発表、値下げにより短期的に売上総利益が損なわれるとの懸念に売られた。自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やフォード(F)も連られ下落。航空会社のデルタ(DAL)は第4四半期決算で、内容は予想を上回ったが人件費の上昇で第1四半期の調整後の1株利益見通しが予想を下回り、売られた。
投資家の恐怖心理を示すVIX指数は18.12と、1年ぶり低水準となった。
NY為替:円全面高、日銀の大規模緩和修正観測強まる
13日のニューヨーク外為市場でドル・円は、128円64銭から127円46銭まで下落し、127円88銭で引けた。輸入物価指数が予想外にプラスに改善したためドル買いが一時優勢となった。その後、発表された米1月ミシガン大学消費者信頼感指数速報値で1年期待インフレ率速報値が12月4.4%から予想以上に低下したため米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ減速観測が一段と強まり、ドル売りに拍車をかけた。イエレン米財務長官が米国債務が19日にも上限に達するとの警告を受け、さらなるドル売りに繋がった。また、日銀が次回金融政策決定会合でイールドカーブコントロール(YCC)撤廃など大規模緩和修正の思惑に伴う長期金利の上昇に伴い円買いが加速。
ユーロ・ドルは、1.0781ドルへ下落後、1.0840ドルまで上昇し、1.0832ドルで引けた。ユーロ圏・11月鉱工業生産が予想を上回ったほか、ドイツの22年のGDPも予想を上回り域内のリセッション懸念が後退しユーロ買いが加速。ユーロ・円は139円10銭から138円01銭まで下落。日銀が政策を修正するとの思惑で日欧金利差縮小を想定したユーロ売り、円買いが継続。ポンド・ドルは、1.2151ドルまで下落後、1.2240ドルまで上昇した。英国の11月GDPが予想外にプラス成長となったためポンド買いが加速。ドル・スイスは、0.9317フランへ上昇後、0.9256フランまで反落した。
NY原油:続伸、一時80ドルに到達
NYMEX原油2月限終値:79.86 ↑1.47
13日のNY原油先物2月限は続伸。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物2月限は、前営業日比+1.47ドルの79.86ドルで通常取引を終了した。時間外取引を含めた取引レンジは77.97ドル-80.01ドル。アジア市場で77.97ドルまで下げたが、ロンドン市場で79ドル台に上昇。ニューヨーク市場ではドル安を意識した買いが優勢となり、通常取引終了後の時間外取引で80.01ドルまで買われた。
●世界GDP、最大7%損失 貿易の「分断」で―IMFトップ 1/16
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は15日、IMFのブログで、新型コロナウイルス危機やロシアのウクライナ侵攻をきっかけとする貿易の制限などにより、世界の国内総生産(GDP)が長期的には最大で約7%損なわれる恐れがあると警告した。損失規模は日本とドイツのGDPの合計に相当するという。
ゲオルギエワ氏は「経済や国家安全保障の名の下で実施される政策介入が意図せぬ結果をもたらし得る」と懸念。また、こうした政策が「他国を犠牲にして、経済的な利益を得ようと意図的に使われる可能性がある」と、警鐘を鳴らした。
ゲオルギエワ氏は世界的な貿易の「分断」が限定的なら、打撃は世界のGDPの0.2%分にすぎないが、「深刻なシナリオ」の場合には7%程度に及ぶと分析した。
その上で、「アジア諸国の大半が、開かれた貿易に大きく依存しているため、(分断に)苦しむことになる」と見込んだ。
●23年世界成長、1.7%に急減速 日本は1.0%、米0.5%― 世銀予測 1/10
世界銀行は10日発表した最新の経済予測で、2023年の世界の実質GDP(国内総生産)を前年比1.7%増とし、昨年6月時点の前回予測から1.3ポイント下方修正した。米連邦準備制度理事会(FRB)を含む主要中央銀行が高インフレの抑制を目指して同時に利上げを進めていることで、世界的に著しい景気の冷え込みに見舞われるとしている。
米国と欧州、中国の三大経済圏は大幅に下方修正。これに歩調を合わせる形で、日本の成長率も1.0%と、前回予測から0.3ポイント引き下げられた。
米国の成長率はFRBの金融引き締めに加え、新型コロナウイルス危機対策の財政出動がなくなることで、0.5%にとどまる見通し。ユーロ圏も、ウクライナ侵攻を巡るロシアとの対立で同国産エネルギーの供給途絶が続くほか、欧州中央銀行(ECB)の利上げもあり、ゼロ成長を余儀なくされる。上半期はマイナス成長に陥ると予想された。
中国の成長率は4.3%に回復するが、前回予測からは0.9ポイント引き下げられた。コロナ禍による混乱が予想よりも長引く上に、不動産部門も低調に推移する見込み。ロシアも欧州向けエネルギー輸出減が響き、22年から2年連続でマイナス成長を記録するとみられている。
世銀は「世界的な景気後退リスクを和らげる緊急の措置が必要だ」と強調。各中銀はそれぞれの利上げが国境を超えて波及し、想定よりも金融が引き締められる可能性を考慮する必要があると訴えた。その上で、各中銀に協議を通じて過度な景気鈍化を回避するよう促した。  
●日銀の国債購入、月間最高に 1月17兆円、金利上昇を抑制 1/16
日銀は16日、金利の上昇を抑え込むために2兆1148億円分の国債を買い入れた。1月の国債購入額は17兆円規模に達し、月間の購入額として過去最高だった2022年6月の16兆2038億円を上回った。日銀が17、18日の金融政策決定会合で金利を極めて低く抑える大規模金融緩和策の修正を進めるとの観測から国債が売られて利回りは上がり、これを抑え込むための購入が増えた。
民間シンクタンクの東短リサーチの集計によると、決済日を基準とした1月の購入額は17兆円規模となった。国の財政を日銀が支える「財政ファイナンス」が懸念される。

 

●日銀 きょうから金融政策決定会合 金利上昇圧力高まり対応焦点  1/17
日銀は、17日から2日間開く金融政策決定会合で、金融政策の方向性や物価の見通しなどについて議論します。日銀が先月に続いてさらに金融政策を修正するのではないかという見方を背景に、市場では金利の上昇圧力が高まっていて、日銀の対応が焦点となります。
日銀は、先月の会合で、金融緩和策の副作用として無視できなくなった金利水準のゆがみを是正するため長期金利の変動幅の上限を0.5%程度に引き上げましたが、市場では日銀がさらに金融政策を修正し一段の金利の上昇を容認するのではないかという見方が出て、長期金利の上昇圧力が一段と強まっています。
これに対し、日銀は連日、大量の国債を買い入れてこれ以上の金利上昇を容認しないという姿勢を示しています。
今回の金融政策決定会合では、先月の政策の修正が金融市場や経済に与える影響や金融政策の方向性について議論する見通しで、日銀の対応が焦点となります。
会合では、2023年度と2024年度の消費者物価指数の上昇率の見通しを前回10月に示した1.6%から引き上げるかどうかについても議論が交わされます。
日銀は、今年度の物価上昇は原材料価格の高騰や円安の影響によるもので、今後、物価上昇率は徐々に低下するという見通しを示してきましたが、企業の値上げの動きが食品やエネルギー以外の分野にも広がる中、新年度以降の物価見通しが目標とする2%に近づくかどうかが注目点となります。
自民 茂木幹事長「措置の効果や金融市場への影響を注視」
自民党の茂木幹事長は記者会見で、日銀が先月、金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を引き上げたことを受け「大胆な金融緩和を変更するものではないと黒田総裁は説明しているが、まず、措置の効果や金融市場への影響を注視していく必要がある」と述べました。
一方、茂木氏は4月に任期を迎える黒田総裁の後任人事について「為替や金利が不安定な状況にある中、先行きの見通しをしっかり持つことが不可欠だ。また、各国の金融当局との対話や連携も重要であり、新しい総裁にも、丁寧な政策説明とマーケットとの対話、各国との適切な連携を期待したい」と述べました。
●日銀会合注目点:政策修正の有無が最大の焦点、物価見通しと総裁会見 1/17
日本銀行が17、18日に開く金融政策決定会合は、昨年12月に続く金融緩和策のさらなる修正に踏み切るかどうかが最大の焦点となる。新たに公表される経済・物価情勢の展望(展望リポート)では消費者物価見通しの上方修正が見込まれており、政策対応と黒田東彦総裁の記者会見の内容次第では市場環境が大きく変化することになりそうだ。
緩和修正観測を背景に、国債市場では日銀が新たな長期金利(10年物金利)の上限に設定した0.5%を上回る取引が連日発生している。日銀は多様な年限の指し値や臨時の国債買い入れなどのオペレーションを駆使して金利抑制を図っているが、予想外の12月の決定を事実上の利上げと受け止めた市場の疑心暗鬼は消えない。
ブルームバーグが6−11日に実施したエコノミスト調査では、ほぼ全員が今回会合での現状維持を予想した。次の政策対応は全員が「金融引き締め」と回答。時期は4、6月がともに19%で、7月までの3会合では計52%に達した。次の一手として「長期金利の許容変動幅の再拡大」、「金融政策の点検・検証」、「イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の廃止」を挙げる声が多かった。
ただ、足元では12月の政策修正の理由とされたイールドカーブのゆがみが拡大しており、社債の起債延期なども出始めている。市場機能の悪化を踏まえて今会合でさらなる政策修正に動くとの見方が市場で浮上している。
野村証券の松沢中チーフストラテジストは16日付リポートで、政策修正の見送りを予想した。現在の金利上昇の相当部分が短期政策金利の引き上げ観測という「間違った金融政策の前提に基づいている」と指摘。政策修正で応えれば市場に間違ったシグナルを送り、「追加の政策修正を期待し続けるだろう」とみる。
インフレ加速
新たな展望リポートは、原材料高などを価格に転嫁する動きが広がっていることを踏まえ、見通し期間の2024年度にかけて消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)予想の上方修正が見込まれている。日銀は先月の政策修正の際に市場機能を理由に挙げることで加速する物価上昇への対応とは一線を画したが、さらなる対応は金融政策の正常化との市場の見方を強める可能性がある。
黒田総裁は先月26日の講演で、政策修正は金融緩和を持続的かつ円滑に進めていくための対応であり、「出口の一歩ということでは全くない」と語り、緩和的な金融環境を維持する姿勢を改めて示した。加速する物価上昇と重視する来年の春闘での賃上げ見通しなどを踏まえて今回会合でどのような政策判断を下すのか、市場では緊張感が高まっている。
●日銀 金融政策決定会合 利上げ圧力への対応が焦点 1/17
日銀は17日から金融政策決定会合を開きます。長期金利が連日、日銀の定めた上限を超えるなか強まる利上げ圧力への対応が焦点になります。
日銀は先月の会合で、金利水準のゆがみを是正するためとして長期金利の上限を0.5%程度に引き上げました。
しかし、市場は、日銀が上限をさらに引き上げる可能性もあるとみて国債を売る動きを強め、長期金利は17日まで3日連続で0.5%を超えて上昇しました。
日銀は金利の上昇を抑えようと大量の国債を買い入れてきましたが、17日と18日開く金融政策決定会合でさらに国債の大量購入を続けるかなど、先月修正した金融緩和策の効果や対応について議論します。
●「ヘッジファンドvs日銀」、国債めぐる攻防の行方  1/17
「サンタクロース」がやってきた
「黒田サンタからのプレゼント」──英ヘッジファンド大手ブルーベイ・アセット・マネジメントは、昨年12月に行われた日銀の長短金利操作(YCC)に関する修正をこう表現する。
ブルーベイは昨春から日本国債に対し、売り持ち(ショート)ポジションを取ってきた。6月時点では時期尚早とみていったんショートポジションを減らしたが、その後再び10年物国債利回り(長期金利)で、0.21%程度のポジションを積み増した。
サンタクロースがやってきたのは12月20日だ。日銀が長期金利の許容変動幅を0.25%から0.5%程度に引き上げたことを受け、翌日の長期金利は0.48%まで上昇。ブルーベイはそこで大きく利ザヤを稼いだ。同社最高投資責任者のマーク・ダウディング氏は「昨年で最も好調なパフォーマンスの一日だった」と喜びを隠さない。
日本国債のショート、つまりカラ売りは今年も続けるという。ダウディング氏は取材に対し、「各種経済指標やインフレ率の改善により、3月末には利回りの上限が0.5%から0.75%に上昇するとみている。その時点まで日本国債のショートポジションを継続する」と話す。思惑どおりの展開となれば、ブルーベイのファンドパフォーマンスはさらに上昇する(インタビューの全文はこちら)。
「ヘッジファンド対日銀」という構図がクローズアップされ始めたのは、日銀が4月下旬の金融政策決定会合で「指し値オペ」を原則毎営業日実施すると発表した前後からだ。指し値オペとは、指定した利回りで無制限に国債を買い入れる公開市場操作のこと。インフレを受けて金融引き締めに動く米国とは逆行する動きで、市場関係者にはYCCの枠組みが限界に来ていることを印象づけた。
日本国債をカラ売りする格好のチャンスと捉えるヘッジファンドの狙いを一蹴するように、この間日銀の黒田東彦総裁はYCCの修正に終始否定的だった。しかし結果的に12月に政策修正を迫られたことについて、「YCCの維持可能性に疑念を呈する市場圧力に日銀は事実上屈した。指し値オペで長期金利を抑制することが困難だったことの帰結だ」(バークレイズ証券の山川哲史チーフ・エコノミスト)との見方もある。
「思うほどうまくいかない」との声も
日銀の政策修正を金融商品の設計に組み込む動きもある。国内を拠点とする独立系の運用会社GCIアセット・マネジメントは、昨年9月に日本国債の先物ショートとドル円のロング・ショート取引などを組み合わせた機関投資家向け投資信託を設定した。
「YCC修正前のポジションで長期国債を持っている地域金融機関などに対して、今後の円金利市場におけるボラティリティーやイールドカーブの歪みをむしろ収益機会とする選択肢として提供していきたい」と、山内英貴・代表取締役CEOは語る。
さらなる政策修正に期待を寄せるファンドに有利な展開はこの先も続くのか。みずほ証券の大橋英敏チーフ・クレジット・ストラテジストは「足元で高騰しているエネルギーや食料品の価格が沈静化すれば、長期金利の上昇も自然に落ち着く。そうなれば、ヘッジファンドのカラ売りも思うほどうまくいかないはずだ」と指摘する。
●日経平均は大幅反発、銀行株も崩れ買えるものはゼロ?ではない 1/17
日経平均は大幅反発。318.19円高の26140.51円(出来高概算5億3402万株)で前場の取引を終えている。
16日の米株式市場はキング牧師誕生記念日で休場。欧州株式市場ではドイツDAXが+0.31%、フランスCAC40が+0.28%、英国FTSE100が+0.20%と全般堅調だった。欧州株高を引き継いだ日経平均は93.19円高からスタート。前日の下落の反動も意識される中、為替の円高進行が一服していたことも安心感を誘い、早い段階で26000円を回復。その後も断続的な買い戻しが入り、前場中ごろには26198.69円(376.37円高)まで上値を伸ばした。なお、午前11時頃に発表された中国12月の鉱工業生産は前年比+1.3%と前月(+2.2%)を下回った一方、市場予想(+0.1%)を上回った。12月小売売上高は前年比−1.8%と市場予想(−9.0%)を大幅に上回ったほか、前月(−5.9%)からも大きく改善した。
セクターでは、輸送用機器、電気機器、海運が上昇率上位となった一方、空運、銀行、電気・ガスが下落率上位となった。東証プライム市場の値上がり銘柄は全体の70%、対して値下がり銘柄は26%となっている。
前日の米国市場が休場だったことに加えて、日本銀行の金融政策決定会合や黒田日銀総裁の記者会見を明日に控える中、本日は手掛かり材料難と見られたが、東京市場では買いが優勢で、日経平均は1%を超える上昇率となっている。
為替の円高進行が一服していることで、短期筋の買い戻しが進んでいると推察されるほか、中国の経済指標が予想よりも遥かに良好だったことが安心感を誘っているようだ。中国ではゼロコロナ政策の緩和後の感染爆発の影響から、12月の指標に対しては警戒感が高かったため、今回の結果はポジティブサプライズであり、今後の同国の経済再開に伴う景気回復への期待が高まったといえよう。
先週の読売新聞の報道をきっかけに、日銀による2会合連続での政策修正への警戒感がにわかに高まった株式市場ではあるが、明日に結果を控える今会合に限っては現状維持を予想する市場関係者が多いもよう。今回、市場は急速に政策修正を織り込みはじめ、一時はマイナス金利の解除までを織り込む形となった。こうした中、中身はどうであれ、2会合連続での政策修正で応えてしまえば、市場に誤ったメッセージを発することになり、催促相場の様相を強めてしまう恐れがある可能性などが指摘されている。
また、日銀の金融市場局市場企画課が3月1日に公表する債券市場サーベイが2月に実施される。日銀は昨年12月会合での政策修正の要因として、債券市場の健全な機能の回復を挙げていた。12月の政策対応を受けて市場参加者の考えにどのような変化があったのか、こうした点を2月のサーベイ調査で確認するまでは直ちに追加の政策修正を決定することは考えにくい、ということも理由として挙げられている。
以上の観点から、明日の日銀金融政策決定会合は現状維持で終わる公算が大きそうだ。しかし、4月に日銀新体制を控える中、思惑は当面くすぶり続けることになるだろう。世界経済の景気後退入りや為替の円高進行が懸念要素となる自動車関連株などはしばらく上値の重い展開が続くと考えておいた方がよいだろう。金利上昇による債務負担増が意識されやすい不動産セクターもしかりだ。
一方、日銀の追加政策修正を本当に株式市場が嫌がっているのかについては、やや見方を変えるべき点もあると考える。それはグロース株の動向だ。前回の12月会合の政策修正の際には、為替との連動性が小さい中小型の内需系グロース株も大きく売られ、マザーズ指数が特に大きな下落を強いられた。サプライズ的な出来事だったため、流動性リスクの大きい中小型株が売られやすかったという背景もあるだろうが、国内の金利上昇への警戒感も要因として大きかったと思われる。
しかし、先週の読売新聞の報道を契機に追加政策修正への警戒感が高まった今局面はやや様相が異なる。真っ先に自動車関連株や不動産株が売られ、銀行株が買われた初動反応は似たようなものだったが、内需系グロース株はさほど売られていない。Sansan<4443>やマネーフォワードのように決算に対する反応が良好なものも多い印象だ。これらグロース株に関しては、日銀金融政策決定会合に対する懸念よりも、米国での雇用統計や消費者物価指数を受けたインフレピークアウト期待を好感する動きの方が勝っているのかもしれない。
株式市場では、日銀リスクが台頭してきたことで、製造業関連株が買えず、また唯一買い安心感のあった銀行・保険株も早々に利益確定売りに押されはじめたことで、買うものが何もないといった声も聞かれる。しかし、目を凝らすと、上述の内需系グロース株のように、意外と下値を固めてリバウンド基調を強めているものも多い。今後、決算シーズンが本格化していくため、あえて今のタイミングから積極的に買い攻勢で臨む必要もないだろうが、買えるものは存在していると前向きに捉えていきたい。
なお、今晩の米国市場では1月ニューヨーク連銀製造業景気指数のほか、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーの金融大手や航空大手ユナイテッド・エアラインズの決算が予定されている。金融決算では先行きの景気後退懸念を強めるものとなるかが注目される。一方、ユナイテッドの決算では旅行需要の回復が改めて確認されれば、東京市場の航空関連株にもポジティブな波及が期待される。 

 

●日銀が金融緩和策を維持、22年度物価見通し3%に引き上げ 1/18
日本銀行は18日の金融政策決定会合で、長短金利を操作するイールドカーブコントロール(YCC)政策を軸とした大規模な金融緩和策の現状維持を決めた。共通担保資金供給オペを拡充する。新たな消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年度比の上昇率見通しは、2022年度が3.0%と従来の2.9%から上方修正された。
短期金利にマイナス0.1%を適用し、長期金利(10年物国債金利)はゼロ%程度を誘導水準とする方針を維持した。長期金利の許容変動幅も上下0.5%に据え置いた。
ブルームバーグが6−11日に行ったエコノミスト調査では、ほぼ全員が今回会合での現状維持を予想。昨年12月の政策修正の理由に挙げた市場機能の低下にその後も改善は見られず、市場では長期金利の変動幅の再拡大やYCC政策の廃止など追加策を巡りさまざまな観測が浮上していた。
日銀の決定を受けて債券市場で長期金利が一時0.395%に急低下した。会合前には許容上限の0.5%を超える取引が発生していた。為替市場では円が売られ、一時1ドル=131円台まで円安が進んだ。発表前には128円台半ばで推移していた。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「この決定を受けてイールドカーブのゆがみが修正されずに残れば、マーケットの利上げバイアスが継続することになる」と指摘。企業の決算期に当たる3月での政策変更をせずに、「現在の政策を維持して次期総裁での体制にバトンタッチという可能性が高まった」と語った。
市場機能改善の一手
日銀は金融調節の円滑化を図るため、国債などを担保に金融機関に低利で資金を貸し出す「共通担保資金供給オペ」を拡充した。固定金利方式の適用利率について、従来の年ゼロ%から年限ごとの国債の市場実勢相場を踏まえて、貸し付けのつど決定する。
SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、適用金利がゼロ%だけだったのが、10年まで年限によって柔軟に金利を変えられるようにして、イールドカーブの形成を促す意図だろうと指摘。国債買い入れによる需給ひっ迫をできるだけ回避するための、市場機能改善のための一手だろうとの見方を示した。
「貸し出し増加を支援するための資金供給」の貸し付け実行期限の1年間延長と、「気候変動対応オペ」の対象先を拡大して系統会員金融機関を新たに含めることも決めた。
新たに公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)によると、24年度のコアCPI予想は前年度比1.8%と、前回10月の1.6%から上方修正された。見通しは「上振れリスクの方が大きい」とした。23年度は1.6%で変わらず。実質国内総生産(GDP)見通しは各年度とも下方修正された。
●日銀 黒田総裁会見 大規模な金融緩和策の維持を決定  1/18
日銀は18日まで開いた金融政策決定会合で、今の大規模な金融緩和策を維持することを決めました。黒田総裁の記者会見での発言です。
会見開始
黒田総裁が着席し、午後3時30分、記者会見が始まりました。冒頭、黒田総裁は金融政策は「現状維持とすることを全員一致で決定した」と述べました。
“景気は持ち直し”
まず説明したのは景気の現状認識。「景気は資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで持ち直している」と述べました。
物価 “2023年度半ばにプラス幅縮小”
そして消費者物価の見通しです。18日公表した最新の物価の見通しでは、食品などの値上げが相次いでいる2022年度の物価上昇率はプラス3.0%。そして新年度・2023年度はプラス1.6%としました。今の物価高について黒田総裁は「来年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくと予想している」と述べました。
“必要な時点まで金融緩和続ける”
今後の金融政策の方向性について、黒田総裁は「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続する」と強調しました。冒頭発言が終わり、このあと記者からの質問が始まりました。
“物価目標達成できる状況 まだ”
黒田総裁は記者会見で、日銀がめざしている賃金上昇を伴って2%の物価上昇目標を達成する見通しについて問われました。「それにはなお時間がかかるとみている。物価安定の目標を持続的、安定的に達成できる状況が見通せるようになったとは考えていない」と述べました。
“変動幅 拡大必要ない”
黒田総裁は「日本銀行は10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを毎営業日実施していて、経済合理性の観点からは0.5%を超える利回りでの取り引きが継続的に行われることはないと考えられる。日銀としては機動的な市場調節を行っていく方針で、長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えておりません」と述べました。
“市場機能評価 なお時間要する”
黒田総裁は、先月の金融緩和策の修正による市場機能の改善について「運用の見直しからはさほど時間がたっていないのでこれらの措置が市場機能に及ぼす影響を評価するにはなお時間を要すると思うが、機動的な市場調節運営を作り続けることで、今後市場機能は改善していくとみている」と述べました。
“緩和策(YCC)は持続可能”
黒田総裁は、YCC・イールドカーブコントロールといわれる、今の金融緩和策の枠組みが持続可能なのかと問われ「市場機能の改善ということがまだはっきりする事態になっていないが、機動的な市場調節運営を行うことで今後、市場機能は改善していくと考えている。そういった意味でYCCは十分持続可能であると考えている」と述べました。
“国債買い入れ増加は問題ない”
今回の会合を前に、日銀が金融緩和をさらに修正するという思惑で市場で金利上昇圧力が高まり、日銀は巨額の国債を買い入れて金利を抑え込む対応を迫られました。これについて黒田総裁は「金融政策については常に効果と副作用を十分に検証しつつ、適切な金融政策運営を行う必要があることはそのとおりだが、現状国債の買い入れが増えたこと自体は特に問題があるとは考えておりません」と述べました。
“物価目標 達成できておらず残念”
黒田総裁は、10年近くにわたって続けてきた大規模な金融緩和策の効果や副作用について「1998年から2012年まで続いたデフレからは脱却してデフレでない状況が作り出されたということは言えると思う。ただ、賃金上昇率が十分でなく2%の物価目標を安定的、持続的に達成できるような状況になっていないことは残念に思う。金融政策の効果は十分にあったと思う」と述べました。
“国債保有増加に特別リスクない”
黒田総裁は、日銀が国債の発行残高の半分以上を保有する状況にリスクがないかと問われたのに対し「現在の国債保有の増加が、何か特別なリスクがあるとは考えていない」と述べました。
“市場の修正期待 是正された”
今回金融政策を維持したことで、市場に広がっていた金融緩和策のさらなる修正という観測は是正できたと思うかと記者に問われ、黒田総裁は「緩和的な金融政策を維持するということをこれまでも申し上げてきたし今回もそれを申し上げている。市場が金融政策の変更を期待して動いていたということがあったとすれば、それは是正されたと思う」と述べました。
“市場と見方が違ってもいい”
市場が緩和策のさらなる修正を予想し、日銀と市場のコミュニケーションは上手くいっていたのかと問われ、黒田総裁は「経済や市場が動くときにその将来の見通しについてマーケットの人がいろいろな見方をすることは自然な話だ。金融政策当局とマーケットが全く同じ考えでないといけないということはない。私どもとして必要なことは常に金融政策についてオープンに議論し、その考え方や見通しを明らかにしてそれを踏まえて金融政策を決定していくことに尽きる」と述べました。
“ローン金利の動向や影響 今後も丹念に点検”
先月の金融緩和策の修正で長期金利の上限を引き上げたことをきっかけに一部の住宅ローン金利が上昇しました。黒田総裁は「前回の決定会合以降、一部の金融機関で国債金利の動向を踏まえて引き上げる動きが見られる。この間、大半を占める変動金利型については適用金利に変化は生じていない。住宅ローン金利の動向や影響は今後も丹念に点検していきたいと思っている」と述べました。
“後任のためにというのはせん越”
黒田総裁は後任の総裁にスムーズにバトンを渡したいという思いはあるかと問われたのに対し「依然として2%の物価安定目標を持続的安定的に達成するまでには至ってないということは事実なので、今後とも引き続き任期まではしっかりと2%の物価安定目標の実現に向けて全力を挙げたい。後任の方に何かを申し上げたり後任の人のためにというのは大変せん越ですのでそういった考え方はない」と述べました。
“金利操作は今の形が適切”
日銀はいま短期金利と10年ものの国債金利(長期金利)を操作の対象にしています。操作対象を2年ものや5年ものなどのより短い国債金利に切り替える考えがあるのか問われました。黒田総裁は「短期の政策金利と最も代表的な指標である10年債の金利の2つをターゲットにして、イールドカーブ全体を適切な形にすることが最も適切ではないかと思っている。もちろん一切いかなる変更も検討しないってことではないが、今はそういった考え方にもとづいて政策を行っている」と述べました。
会見終了
黒田総裁の会見は予定の45分間をこえ1時間以上におよび、午後4時35分すぎに終了しました。黒田総裁は4月でいまの任期が満了となります。次回3月9日、10日の金融政策決定会合が、任期中最後の会合となります。このあと次の日銀のかじとりを担う総裁人事も本格化します。2013年の就任時に目標にかかげた2%の物価目標。達成できないまま時間が過ぎましたが、任期の終盤になって想定していなかった歴史的な円安とエネルギー価格高騰で、あらゆるモノが値上がりし消費者物価は4%にせまる水準に上昇しています。金利を低く抑え続けることで市場にゆがみも見え始め、先月、政策修正に踏み切りました。黒田総裁は18日も物価高を上回る賃金上昇が確認できるまでは金融緩和を続けることを強調しましたが、総裁の任期という大きな節目も含め、日銀の金融政策は転換点にさしかかっています。
●日銀緩和維持で円安進む 128円台後半から、131円台へ 1/18
日本銀行が金融緩和の維持を決めたことで、外国為替市場では円を売ってドルを買う動きが広がり、円安が進んでいます。
日銀の発表前は、128円台後半で推移していましたが、発表直後から円安が進み、午後0時半前に一時131円台をつけました。
●長期金利0.36%まで低下 日銀の大規模な金融緩和策の維持受け  1/18
18日の債券市場で長期金利は午前中、日銀が変動幅の上限とする0.5%を上回って、0.51%まで上昇しましたが、日銀が金融政策を決める会合で今の大規模な金融緩和策を維持したことを受けて国債を買う動きが広がり、長期金利は0.36%まで低下しました。
●円急落し長期金利は急低下、日銀が緩和策維持−株大幅高 1/18
金融・証券市場では18日、円相場が急落している。日本銀行が金融決定会合で緩和政策の維持を決定、修正を見込んでいた取引が巻き戻されている。長期金利が急低下(債券相場は急上昇)して日本株は大幅高になった。
日銀はこの日の決定会合でイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)を含む政策維持を決めた。前回12月20日の会合に続く政策修正観測が出ていたが、政策据え置きを受けて円は下落、長期金利が大幅に下がり、株高が進んだ。
午後3時半から記者会見した日銀の黒田東彦総裁は、YCCでの長期金利変動許容幅について「さらに拡大する必要があるとは考えていない」と述べた。また、当局と市場が同じ考えでなければいけないことはないなどとも語った。黒田総裁会見を受けた為替市場の動きは限定的だった。
為替
東京外国為替市場では円が一時1ドル=131円台半ばまで急落。日本銀行による金融緩和の現状維持や共通担保資金供給オペの拡充を受け長期金利が急低下する中、円の買い持ち高を手じまう動きが活発となり、円は一時2020年3月以来の大幅安となった。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、共通担保資金供給オペ拡充に反応して国債利回りが大幅低下している影響も加味すると、この程度の円下落は想定内として「黒田総裁会見を経て、もう少しドル・円が上がる可能性も短期的にはあり得る」と指摘した。
同時に総裁交代のタイミングでYCC撤廃を判断する可能性は残るとして「ゲームチェンジャーという形でどんどん円安方向に動く可能性は低い」と話した。
長期金利
債券相場は大幅高。新発10年国債利回りは一時0.36%と日本銀行の許容上限0.5%を大幅に下回った。
大和証券の小野木啓子シニアJGBストラテジストは、日銀の政策据え置きを受けて長期金利が急低下しているとした上で「債券はいったんカバーしたほうが良いとの判断になるのも自然だ」と話した。
5年物の共通担保資金供給オペについては「回りまわって債券利回りの低下要因にも見えるが、貸付利率が入札方式となっており、水準に不透明感もある」との見方を示した。
株式
東京株式市場では日経平均株価の終値が約1カ月ぶりの高値を付けた。日銀が金融緩和策の現状維持を決め、国内金利上昇に伴う外国為替の円高や景気圧迫リスクが後退したとみた投資家の買いが優勢になった。東証33業種中32業種が上昇した一方、銀行業指数が唯一値下がりした。
SMBC信託銀行の山口真弘シニアマーケットアナリストは、日銀の決定は「イールドカーブをしっかりとコントロールするとのメッセージになった」とし、YCC撤廃を見込んでいた投資家が反対売買を進めていると話した。
●日銀、金融政策の現状維持を決定 10年金利0.5%の上限据え置き 1/18
日銀は17―18日に開いた金融政策決定会合で金融政策の現状維持を全員一致で決めた。マイナス金利、10年物国債金利の誘導目標ゼロ%をいずれも維持し、10年物国債金利0.5%での指し値オペを「明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日実施する」と改めて表明、長期金利変動幅の上限を据え置いた。一方、金融調節の円滑化を図るため、共通担保オペを拡充した。
日銀は昨年12月の決定会合で長期金利の変動幅をプラスマイナス0.5%に拡大。拡大決定後もイールドカーブのゆがみが修正されず、10年金利は18日まで4営業日連続で0.5%を超えた。市場では変動幅の再拡大など政策修正への思惑が高まっていたが、日銀は金融政策を維持した。
短期金利は、引き続き日銀当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%の金利を適用。長期金利は、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買い入れを行う。
長期金利の変動幅はプラスマイナス0.5%程度で維持。金融市場調節方針と整合的なイールドカーブ形成を促すため、大規模な国債買い入れを続け、各年限で機動的に買い入れ額の増額や指し値オペを実施する。
日銀は、金融政策の先行き指針も維持した。当面は新型コロナ感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく追加緩和を講じるとした。政策金利は、現在の長短金利の水準またはそれを下回る水準で推移すると想定していると改めて声明に盛り込んだ。
日銀は2%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続するとした。
共通担保オペを拡充
日銀は併せて、共通担保オペの拡充を決めた。貸付期間は金利入札方式、固定金利方式ともに、金融市場の情勢などを勘案して貸し付けのつど決定する10年以内の期間に一本化。固定金利入札方式の貸付利率は、年限ごとの国債市場の実勢を踏まえ「金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す観点から、貸し付けのつど決定する利率」とした。2年ゾーンを中心に金利の低下を促すため、今年に入り日銀は2年物の共通担保オペを頻繁に実施している。
このほか、貸出増加支援オペの貸付実行期限を1年延長したほか、気候変動対応特別オペの対象先に系統金融機関を追加した。共通担保オペの拡充、貸出増加支援オペの延長、気候変動対応オペの対象先拡大はいずれも全員一致で決めた。
日銀はまた、「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を公表し、2023年度の消費者物価指数(生鮮食品除く、コアCPI)の見通しを前年度比プラス1.6%で維持するとともに、24年度の見通しをプラス1.6%から1.8%へ引き上げた。
●日銀 大規模な金融緩和策の維持を決定 長期金利変動幅も維持  1/18
日銀は、18日まで開いた金融政策決定会合で、今の大規模な金融緩和策を維持することを決め、長期金利の変動幅についてもプラスマイナス0.5%程度と、前回・先月の会合で修正した内容を維持しました。
日銀が前回の会合で金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を引き上げたことをきっかけに市場では、日銀が金融緩和策をさらに修正するのではないかという見方も出て金利の上昇圧力が高まっていましたが、日銀としては、修正の効果を見極める必要があると判断したものとみられます。
一方、日銀は、今回の会合に合わせて最新の物価の見通しを公表しました。
それによりますと、今年度の生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で前の年度と比べてプラス3.0%と、これまでのプラス2.9%から引き上げました。
また、新年度・2023年度はこれまでのプラス1.6%のまま据え置いたほか、2024年度については、これまでのプラス1.6%からプラス1.8%に引き上げました。
●黒田総裁「長期金利の変動幅拡大必要ない」 円安進行・長期金利急低下 1/18
日本銀行は金融政策決定会合で、現在の大規模な金融緩和策を維持することを決めました。長期金利が急低下するなど市場が大きく反応する中、日銀の黒田総裁がさきほどから記者会見しています。
日銀は政策決定会合で、現在の大規模な金融緩和策を維持することを全員一致で決めました。
前回、12月の会合では、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%程度からプラスマイナス0.5%程度に拡大しましたが、変更せずに維持しました。
日本銀行 黒田東彦総裁「現在は経済をしっかりと支え、企業が賃上げができる環境を整えることが重要であり、日本銀行としては金融緩和を継続し、賃金の上昇を伴う形での物価安定の目標の持続的、安定的な実現を目指していく。長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えておりません」
日銀が金融緩和策の維持を決めたことに市場は大きく反応し、為替市場では一時、3円ほど円安が進みました。 また、債券市場では長期金利が急低下しています。 

 

●「日銀の全面降伏」不可避か−政策修正見越し投資家容赦ない圧力 1/19
日本銀行は18日、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の長期金利許容上限を0.5%程度に据え置き、大規模金融緩和策の維持も決めた。変動幅再拡大やYCC廃止の観測もあっただけに債券弱気派には再び不意打ちだったかもしれないが、投資家にも「政策の修正は不可避」という日銀に伝えるべきメッセージがある。
UBSアセット・マネジメントとシュローダーは、据え置きの決定にもかかわらず、超緩和的な金融政策スタンスを日銀が最終的に放棄せざるを得ないと見越し、日本国債をショートにしている。トリカ・キャピタルも、中央銀行の政策正常化に向かうグローバルなトレンドに日銀も歩調を合わせることになると予想する。
UBSアセットのポートフォリオマネジャー、トム・ナッシュ氏は「ショートを解消する理由があるとは思わない。YCCは現在の経済・政治情勢と整合的でなく、解除する必要が出てくる」と指摘した。
パインブリッジ・インベストメンツ・シンガポールの日本を除くアジア債券共同責任者オマール・スリム氏は、市場の圧力に屈すれば、「それを最も必要とする時期に信認を損なうことになる」とした上で、「あらゆる方向転換を引き起こす力が進行中だが、段階的に起きるだろう」との見方を示した。
一部のファンドによれば、市場機能の悪化に伴い、日銀に対する圧力は増大する見通しだ。トリカの創業者であるレイモンド・リー最高投資責任者(CIO、シドニー在勤)は、政策正常化の動きの一環として、日銀は利回りの漸進的な上昇を容認すると見込まれ、日本国債をショートにすることで、投資家が失うものはほとんどないと考える。
シュローダーのマネーマネジャー、ケリー・ウッド氏は、利回り上昇が市場の安定や緩和政策を維持する意図と食い違うことを考えれば、日本の政策担当者はある時点で降伏を迫られるとみる。
ウッド氏は「不安定な市場の動きが続くと同時に利回りを押し上げる市場の圧力が持続することで、日銀がオーストラリア準備銀行(中央銀行)と同じ道をたどり、最終的にYCCの解除を余儀なくされるとわれわれが確信する理由がここにある」と説明した。
●現状維持の日銀を待つのは「前門の虎、後門の狼」  1/19
日銀は1月17、18日の金融政策決定会合で、金融政策の大枠を維持した。しかし、2022年12月にイールドカーブ・コントロール(=YCC、長短金利操作)政策を修正し、長期金利の変動幅を拡大したことは、金融緩和路線の「終わりの始まり」とみる向きは多い。YCCの撤廃やマイナス金利政策の解除など、日銀の「次の一手」に注目が集まる状況は続くだろう。
このような疑念を生みやすい背景としては、10年ぶりに日銀総裁が交代することが大きいが、金融政策が政治的要因で動かされている感があることも挙げられる。
毎日新聞は1月6日の記事で、2022年12月の決定会合で日銀が動いた背景には過度な円安の進行があったとして、「結局、政府と世論に、日銀が追い込まれたのが12月会合の結論だ」という日銀関係者の発言を紹介した。
2022年12月の政策修正は債券市場に衝撃を与える結果となったが、12月時点で円安傾向はピークを過ぎており、このタイミングで修正される可能性は低いという見方が市場では優勢だった。
しかし、世論や政治の状況はやや異なった。「悪い円安」に対する不安は、短期的な円高方向への揺り戻しでは拭えなかったということだろう。
「子会社」日銀は変わらず
世論との関係で思い出されるのが、2022年5月9日に安倍晋三元首相が「日銀は政府の子会社だ」と発言したことである。安倍氏は、政府が発行した国債を日銀が購入することについて、「子会社」という表現を用いて説明した。
2022年12月の政策修正は政府主導であったとすれば、日銀の独立性は岸田政権でも限定的だと言えよう。
岸田文雄首相はアベノミクスの代名詞の1つであった「トリクルダウン」を否定するなど「脱アベノミクス」を進めているような節があるが、政府と日銀の関係性についての解釈は安倍氏と変わらないように思われる。
安倍氏がリフレ政策を重視し、日銀の金融緩和を一貫して肯定していたことに比べると、世論に振らされている感のある岸田氏は日銀にとってより厄介な存在かもしれない。
金融緩和策への世論の批判はさらに大きくなっている。政府・日銀が中途半端に金融緩和の修正を模索することで市場に混乱が生じ、一段と世論が緩和策を否定する負のスパイラルに陥っている構図にもみえる。この状況を勘案し、日銀が当初想定していた以上にYCC撤廃を急ぐ可能性も否定できない。
JNNが1月7〜8日に実施した世論調査では、日銀の金融緩和政策を「縮小したほうが良い」とした回答が50%と、「続けたほうが良い」の22%を大きく上回る結果となった。2022年11月の調査では「続けるべきではない」が44%となっていたため、金融緩和策に対する世論の反発が強まっていると言える。
2022年11月と比べれば円安圧力は相当程度、弱くなっている。それどころか円高圧力が強くなっている状況だが、むしろ世論の金融緩和策へのネガティブな印象は強くなっている。中長期的な目線で、もはやアベノミクス以降(黒田東彦総裁以降)の異次元緩和を修正すべきであるという考えが根底にあるのだろう。
世論が反発している状況は、日銀が行っている「生活意識に関するアンケート調査」でも示されている。
2022年12月調査では、物価が「(1年前と比べて)上がった」と回答した人(約94.3%)のうち「どちらかと言えば、困ったことだ」とした割合は86.8%まで上昇した。
また、「日本銀行を信頼していますか」という問いに対して、「信頼している」「どちらかと言えば、信頼している」の合計が39.5%と、2008年9月調査以来の低水準となった。
ようやく認知された2%目標、ただし悪者として
興味深い点は、同時に「物価安定目標」への認知度が上がっていることである。
「大規模緩和が円安やインフレ高進につながっている」という見方が強まる中で、日銀の政策の認知度が上がっている。金融政策のコミュニケーションとしてはかなり悪い状況と言える。
世論が大規模緩和への批判を強める中、「街角景気」を調査する景気ウォッチャー調査でも日銀の政策変更に注目が集まっている。ただし、世論調査の結果とは真逆であり、金融引き締め方向への動きを懸念する声が多い。
日銀の金融政策は「前門の虎、後門の狼」の状況と言える。
景気ウォッチャー調査では、政策変更が景気に与えるネガティブな影響が意識され始めている。
先行き判断のコメント集から「金利」「金融政策」という単語が含まれるコメント数を集計したところ、前月から急増していた。
「金利」「金融政策」に関連したコメントは総じて、先行き判断にネガティブな評価が多く、先行き判断DI(「良い」と答えた割合から「悪い」と答えた割合を差し引いて求める。50であれば横ばい)のうち、関連コメントの平均DIは40.0となった。関連のないコメントの平均DIである46.9を大きく下回った。
具体的なコメントとしては、次のようなものがあった。いずれも、金融引き締めが景気に与える影響を懸念するものである。
「新型コロナウイルス感染症、日用品や光熱費などの値上がり、長期金利の変動幅の見直しなどによる影響で必要最小限の消費になっている。客との会話でもこれらの話題がよく聞かれる」(北海道、自動車備品販売店〈店長〉)
「円安の影響による原価上昇と人件費の増大、税金、公共料金の値上がりが効いている。今回の日本銀行による長期金利の変動許容幅の拡大も、銀行や財務省のほうを向いた政策であって、国民や事業者のことを考えた政策とは思えない」(南関東、一般レストラン〈経営者〉)
「固定金利の上昇が見込まれる一方、新型コロナウイルス感染症対策による融資の返済が本格的に始まる。特に中小企業は0.5%金利が上がるだけで日々の資金繰りに影響が出るため、少し景気が悪くなることが予想される」(東海、公認会計士)
金融引き締めとそれに伴う円高が景気に悪影響との見方が広がり、世論の側から自然と金融政策の転換を求めなくなってくれば、日銀へのプレッシャーは弱くなる可能性がある。
後門の狼=景気悪化で、前門の虎=世論は収まるか
NQNは1月13日に「実質金利上がる『悪い円高』、国債バブル揺るがす」との記事を配信した。2022年12月以降、「名目金利から期待インフレ率を引いた実質金利は上昇」し、「景気の先行きに対する不透明感が強まり、最近の円高は将来の景気悪化を告げる『悪い円高』の可能性が高い。これは軽視できない」とした。
もっとも、このような見方が広がるまでにはかなり時間がかかるだろう。日本経済新聞は一般紙やテレビの報道と比べて企業業績への影響を重視する傾向があると考えられ、いち早く「悪い円高」という議論を持ち出したと言える。
当面は過去の円安を反映した値上げラッシュは続く見込みであり、家計の不満をうまく代弁することになった「悪い円安」の議論は続きそうである。2023年半ばになればインフレ高進もかなり収まってきている可能性が高いが、そこまで政策判断を延期することが出来るか、微妙なところだろう。
本来であれば、為政者はこのような実体経済と世論の期待とのタイムラグを想定して政策を決めるべきなのだが、政権が世論の動向を重視している場合、舵取りが難しくなる。
筆者は2023年中にマイナス金利を撤廃するまでの政策変更は想定していないが、政策変更のリスクは高まっている。
●日銀は金融緩和政策を維持 香港は反発も上値が重く、方向感に欠ける展開 1/19
インフレ圧力上昇も日銀は金融緩和政策を維持
昨年末の政策決定会合で、イールドカーブ・コントロールを突如修正し、市場を驚かせた日本銀行は、18日の同会合では、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%前後の水準で維持し、何らの変更も行わないことを決定した。
直近の動向からは、日本でもインフレ圧力が高まっており、大規模な金融緩和策を縮小するとの観測もあったが、今回は見送られた形となった。
昨年9月にはスイス中銀が政策金利を75bps幅引き上げたことで、マイナス金利を堅持している国は日本のみである。会見での黒田日銀総裁は日本経済は物価安定目標を持続的かつ安定的に達成できる状況にはなっていないと従来からの見方から変わらないことを示し、金融緩和政策を継続していくと述べた。YCCについては、長期金利の変動幅をさらに拡大することには否定的な見解を示した。
日銀が金融緩和策の維持を決めたことに市場は大きく反応して、為替市場ではドル円が円安ドル高に振れ、1ドル=131円まで急変動した。
過去1ヵ月、日米金利差が縮小するとの憶測からドル売り圧力が強まっていたが、一転して、ポジションの巻戻しが顕著にみられた。賃金の上昇を伴う形での物価安定の目標を目指す日銀にとっては出口戦略は時間を要すると考えることが妥当であろう。
ただ、金融市場では、円金利の先高観が強く、日銀の姿勢に挑戦する形で、再度長期金利に上昇圧力をかける日本国債売りを仕掛けるだろう。そうなると、ドル円の上値は重く、当面は128円から131円での動きとなるのではないか。
香港ハンセン指数は反発
18日の香港市場は朝方、ハンセン指数は、前日終値で一進一退の動きを続け、方向感に乏しい展開だった。米大手銀は昨年10-12月期のGDP成長率が予想を上回る内容だったことを受けて、23年の経済成長率を引き上げるなど景気再開に対する期待も高い。
一連の経済指標は厳しい経済状況を示す結果となっており、経済下支えのために、中国政府の経済重視姿勢への転換を催促する形となっている。
香港市場ではゲーム関連株が大幅高。オンラインゲームのネットイース(9999)は6.5%高、モバイルゲームの祖龍娯楽(9990)は6.0%高、インターネットサービスのテンセント(0700)は1.8%高と反発した。17日、中国産ゲームのリリース許可審査の結果を発表し、新たに88の作品が承認されたことが材料視された。
リオープン銘柄も物色され、カジノ関連では大手カジノの新濠国際発展(0200)は4.3%高、金沙中国(1928)は3.8%高、銀河娯楽(0027)は3.7%高、カジノ運営サービスのマカオ・レジェンド(1680)は2.2%高だった。レストランや旅行関連などにも買いが強まった。
一方、不動産関連株が下落し、不動産株で構成されるハンセン不動産指数は前日比2.3%安と反落した。不動産開発の碧桂園(2007)は6.4%安、不動産サービスの碧桂園服務(6098)は5.5%安、龍湖集団(0960)は1.2%安とアンダーパフォームした。
本土株市場は上海総合指数が前日比0.01%高の3,224.41と反発、CSI300は同0.17%安の4,130.31と反落した。中国人民銀行は18日、リバースレポを通じて連日で大幅な市中供給をするなど、来週からの大型連休を控えて資金を供給した。ただこの供給増加は織り込み済みで、本土市場も様子見ムードが漂い、方向感に欠けた。
●19日の日本市場、揺り戻し相場か−長期金利0.4%台、円買い、株反落 1/19
19日の日本市場は前日の反動が出そうだ。日本銀行が18日に金融緩和策の現状維持を発表した後に進んだ金利低下と円安、株高の動きを調整しそうだ。
アシンメトリック・アドバイザーズのシニアストラテジスト、アミール・アンバーザデ氏は「日銀は国債を買い増すことでイールドカーブコントロール(YCC)を守り続けることを余儀なくされ、これで何かが変わるとは思えない」とし、「遅かれ早かれ、黒田総裁体制にしろ次期総裁体制にしろ日銀はYCCを修正する必要がある」との見解を示した。
債券
新発10年国債利回りは0.4%台を保ちそうだ。18日の新発10年国債利回りは一時0.36%と日銀の許容上限0.5%を大幅に下回った後、0.41%台に戻して取引終了。日銀の介入がない翌日物金利スワップ(OIS)市場でも円建て10年物が0.74%に低下する場面があった。
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストはリポートで、「12月の驚天動地の政策決定により日銀自身がパンドラの箱を開け金融市場の信頼を失った」とした上で、1月会合の現状維持にもかかわらず、債券市場などでさらなる政策修正を催促する相場が継続する可能性は相当に高いとみている。
東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは、「総裁交代は政策修正のタイミングになると考える関係者は少なくなく、YCCアタック(政策修正を見込んだ売り)は再び活発になるだろう」と記した。
為替
外国為替市場の円相場は128円台後半で強含み。18日は日銀会合の結果発表を受けて、円は対ドルで2%超下落し、一時1ドル=131円台半ばまで値を切り下げていた。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、共通担保資金供給オペ拡充に反応して国債利回りが大幅低下していることの影響も加味すると、この程度の円安は想定内だと指摘。総裁交代のタイミングで日銀がYCC撤廃を判断する可能性は残るので、「ゲームチェンジャーという形でドル・円がどんどん円安方向に動く可能性は低い」と述べた。  
株式
株式相場は円高や米小売売上高の大幅減を背景に反落する見込み。18日の株式市場では、日銀の発表を受けて国内金利上昇に伴う外国為替の円高や景気圧迫リスクが後退したとみた投資家の買いが優勢になった。一方で金利先高観が後退し、銀行株は値を下げた。
証券ジャパン調査情報部の野坂晃一次長は銀行株について「今後どこまで株価が戻るかは未知数だが、18日の下げは利益確定売りを出した後に押し目を待っていた向きには絶好の買い場になった」と指摘する。 
●日銀が「金融緩和」を修正。経済や生活への影響は?  1/19
長期金利の上限を引き上げた理由は?
今回の発表で大きなサプライズとなったのは、これまで抑えてきた長期金利の許容変動幅を、今までの「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に引き上げたことです。
黒田日銀総裁は今回の修正に対して「出口(金融緩和政策の終了)の一歩ということでは全くない」と利上げを否定しています。長期国債の買入れ額を大幅に増額するうえで、修正はあくまでも債券市場の機能回復が目的であり、企業の社債発行などの円滑化を図る狙いだとしています。
引き上げ発表後に起こったこと
黒田総裁は「利上げではない」と明言しましたが、金融市場は事実上の「利上げ」と判断し、今まで0.25%に抑え込んでいた長期金利は一気に0.46%まで上昇、日経平均株価は大幅安となり、一時800円以上下落しました。為替相場は1ドル=131円台まで大幅に円高が推移し、2022年8月以来4ヶ月ぶりの円高水準となりました。
今回の円高や、日経平均の大幅下落が起こった流れは以下の通りと考えられます。
1. 日本銀行が金融緩和政策を修正したことにより、長期金利が上昇
2. 米国との金利差が縮小して円高が進んだ
3. 円高は輸出を中心とする企業が多い日本において株価下落の要因になるので、日経平均が下落
今後どのような影響があるか
ここからは、日本経済や私たちの生活にどのような影響が想定されるかについて解説します。
   住宅ローン金利への影響は?
住宅ローン金利については、大手銀行では2023年1月適用分から10年固定金利を0.1%から0.3%ほど引き上げており、すでに影響がではじめています。変動金利については、短期金利市場で資金を調達してくるので、基準となる短期金利(日銀の政策金利)が依然マイナス金利で適用されているため、影響は出ていません。
しかし、さらにインフレが続けば、日本銀行も政策金利を引き上げる可能性もあり、変動金利が上昇することも考えられます。
現在、すでに固定金利で住宅を購入している人は「繰上げ返済する」、いつでも繰上げ返済できるように「日頃から貯蓄しておく」などの対策を検討してみてもよいでしょう。住宅購入を検討している人は、住宅ローン金利が上昇すれば、毎月の返済額に大きく影響が出ますので、今後の日本銀行の金融政策や住宅ローン金利の動向を今まで以上に注視し、購入プランを立ててください。
   株式市場への影響は?
円高や、金融緩和策の修正による先行き不透明感から、多くの企業の株価は下落局面に入る可能性があります。一方で金利が上がれば、貸出金利も上がります。「銀行業界の株」には追い風になるでしょう。実際に日本銀行が修正発表をして以降、銀行業界の株価は大幅に上昇しました。
今後、マイナス金利政策の解除や、増収・増益の決算発表があれば、さらに株価は上昇局面に向かうことも考えられます。「輸出企業の株」も円高はコスト削減になり、収益の改善が期待できます。
今後も「円高」や「長期金利の上昇」などで、株式市場に大きな影響が出てくると考えられており、資産運用をしている人はポートフォリオの見直しが必要になるでしょう。
今後の動向に注意し、柔軟に対応できるよう準備しよう
今回の金融緩和策の修正により、長期金利は一気に0.46%まで上昇、日経平均株価は大幅安、為替市場は急激な円高となり、株式市場や為替市場に大きな影響を与えました。
住宅ローンについては、すでに10年固定金利が0.1%から0.3%ほど引き上げられており、特に新規で住宅購入を検討している人の中には、購入プランに影響が出ている人も多いでしょう。
住宅ローンの金利が大きく変われば、日々の生活の負担アップにも直結するので、今後の金利動向に注意して、プランを再検討する必要があります。今後、住宅ローン金利について、変動・固定いずれの金利もここからさらに上昇するかどうかは予想できません。
もし上がった場合でも「繰上げ返済する」「日頃から貯蓄しておく」など、落ち着いて対応できるよう事前に準備しておきましょう。株式市場は、先行き不透明ではありますが潮目が変わるタイミングかもしれないので、資産運用をしている人はポートフォリオの見直しをしておくとよいでしょう。

 

●日銀の金融政策見通し  1/20
現行の異次元緩和は、黒田総裁の任期満了まで継続される可能性が高いとの見方は変わらず
弊社は日銀の金融政策について、1月17日、18日に開催された金融政策決定会合の結果を踏まえ、見通しを変更しました。そこで今回のレポートでは、変更の理由と新しい見通しについて解説します。まず、当面の金融政策に関し、日銀は黒田総裁の任期が満了する4月8日までの期間、基本的に現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する可能性が高いとみています。
この見方は従来通りですが、日銀は今回、10年国債利回りの許容変動幅を上下0.5%で据え置き、「共通担保資金供給オペ」の拡充を決定しました。また、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)では、物価の伸びが2023年度、2024年度とも、目標の2%に届かない見通しとなりました。日銀はこれらにより、イールドカーブコントロール(YCC)維持の強い姿勢と緩和継続の必要性を、改めて示したものと思われます。
ポスト黒田の金融政策は、正副新総裁の顔ぶれ、国内の賃金動向、海外景気が重要な要素に
黒田総裁退任後の金融政策を見通す上では、1日銀の正副新総裁の顔ぶれ、2国内の賃金動向、3海外景気が、重要な材料と考えます。1について、総裁候補には雨宮正佳副総裁、中曽宏前副総裁、山口広秀元副総裁らの名前が上っています(図表1)。総裁、副総裁の人選は、アベノミクスに象徴される異次元緩和政策との距離を測る試金石となりますが、岸田首相は自民党最大派閥である安倍派の意向も一定程度、配慮すると思われます。
2について、労働組合の中央組織である連合は、2023年の春闘(春季労使交渉)で、ベースアップ3%程度、定期昇給とあわせ5%程度の賃上げを求めていますが、現状ではかなり難しい水準とみられます。また、3については、少なくとも今年前半は、欧米を中心に景気減速が予想されるため、日銀が4月以降の新体制で、直ちに緩和を巻き戻す余地は大きくないと考えています。
4月に共同声明見直しとYCC変動幅拡大も、マイナス金利継続で緩和の枠組みは当面維持か
以上を踏まえ、日銀の金融政策は次のような展開を見込んでいます。すなわち、正副新総裁の就任後、日銀は4月に政府との共同声明(アコード)の見直しを行い、2%の物価目標について、柔軟な運用が可能となるよう、文言を修正すると予想します。この点も従来とは変わりませんが、YCCについては、同じく4月にも許容変動幅を上下0.5%程度から1%程度へ拡大し、マイナス金利政策については継続との見方に修正しました(図表2)。
従来、YCCは継続、マイナス金利は6月解除を想定していましたが、すでにYCCの維持が難しくなりつつあり、こうしたなかでのマイナス金利解除は、更なる利上げ期待を生む恐れがあるため、見通しを変更しました。また、変動幅拡大のみならば、改めて政策の点検や検証は不要と考えます。つまり、異次元緩和の枠組みはしばらく維持され、直ちに大きな政策変更が行われる公算は小さいとみています。
●ドル円見通し 日銀金融政策発表後の乱高下が落ち着くも安値圏にとどまる 1/20
・ドル円、日銀金融政策発表後の乱高下が落ち着き、1/19午後127.75まで下げるも前日安値割れを回避
・1/19日夜の米経済指標発表直後128.79まで戻したものの129円には届かず、安値圏での推移
・昨日発表の米経済指標はまちまち、住宅市況は悪化傾向だが米長期債利回りを低下させる程ではない
・米長期債利回りは総じて小幅上昇、10年債は10月以降の最低を更新後に戻す、米株価は続落
・129円手前は戻り売りにつかまりやすいところとみて、129円超えからは129円台中盤試しとする
・1/19午後安値127.75割れからは1/16昼安値127.21試しとする
概況
ドル円は1月18日の日銀金融政策決定会合をきっかけとした一時的な急騰から急落が落ち着き、1月19日午後の下落時は127.75円にとどまって1月18日深夜安値127.55円割れを回避し、1月19日夜の米経済指標発表直後に128.79円まで戻したものの129円には届かず、乱高下は一服したものの安値圏にとどまっての推移となっている。
1月18日の日銀金融政策決定会合では、12月20日の前回会合に続いて追加の政策修正があるのではないかと市場が構えていたところを現状維持とされたため、何もしなかったとのサプライズ感によりいったん円安反応となり日銀声明発表前安値128.38円から13時台高値131.57円へ3円を超える急伸となったが、日銀が異次元金融緩和の出口へ向かう流れは継続するとして戻り売り優勢となり、18日夜の米経済指標が軒並み予想を下回り米10年債利回りが大幅低下したことで1月18日夜安値127.55円へ急落した。
1月16日安値127.21円割れをひとまず回避したことで1月19日の日中は乱高下商状が落ち着き、19日夜の米経済指標がまちまちの内容で決め手に欠いたため、128円割れを買われるも129円には届かない範囲での推移にとどまった。
1月19日の日本10年債利回りは0.01%低下の0.405%で、日銀の許容上限である0.50%を下回って落ち着いている。黒田総裁は市場政策修正への期待感は是正されたとして金融緩和継続を強調したが、4月8日の任期満了までの間は追加修正をしないとしても新総裁が就任からは黒田総裁時代の異次元金融緩和政策に対する是正が顕著に進むのではないかとの市場の見方は変わらず、10年債利回りも再び0.50%超えを繰り返し試して日銀を挑発し、ドル円も急落一服から一段安入りを伺う展開となるのではないかと思われる。
1月19日夜の米経済指標はまちまち
1月19日夜の米経済指標はまちまちの内容だった。
米商務省が発表した12月住宅着工件数(年換算)は138万2000件で市場予想の135万9000件を上回るも11月の140.1万件から1.4%減となった。先行指標である住宅着工許可件数は133万件で市場予想の137万件を下回り11月の135万1000件(速報の134.2万件から上方修正)からは1.8%減少した。
米労働省による新規失業保険申請件数は1月14日までの週間で前週比1万5000件減の19万件となり市場予想の21万4000件を下回り3週連続の改善だった。また失業保険受給者総数は1月7日までの週間で164万7000人となり前週から1万7000人増だったが市場予想の166万人を下回った。
米フィラデルフィア連銀による1月の製造業景況指数はマイナス8.9となり2か月連続の改善で12月のマイナス13.7から上昇して市場予想のマイナス11.0を上回った。
1月18日夜は米12月PPIが予想を大幅に下回ったほか小売売上高や鉱工業生産指数が軒並み予想を下回ったことで米FRBによる利上げペース減速感が強まるとして米長期債利回りが大幅低下したが、19日は住宅市況の悪化傾向が引き続き顕著だったものの米長期債利回りを一段と低下させる程ではなかったようだ。
米10年債利回りは10月以降の最低を更新してから戻す、ダウは続落
1月19日の米長期債利回りは総じて小幅上昇した。指標の10年債利回りは前日比0.01%上昇の3.39%、30年債利回りは同0.02%上昇の3.56%、利上げに敏感な2年債利回りは同0.04%上昇の4.13%で終了した。
10年債利回りは1月18日に前日比0.17%の大幅低下となり12月7日の3.40%を割り込んで10月21日につけた2020年以降の最高値4.34%以降の最安値を更新したが、19日は米経済指標発表前の段階で3.32%までさらに安値を更新していたところからプラス圏まで戻した。30年債利回りは1月18日の0.12%低下からの下げ渋りとなり、2年債利回りは1月18日に0.12%低下の4.09%で11月4日につけた2020年以降の最高値4.88%以降の最安値を更新したが、19日は一時4.04%まで安値を更新してから戻している。
米長期債利回りはいずれも低下傾向の範囲内での推移であり、1月19日の米経済指標はまちまちの内容だたが最近は予想を下回る悪化も見られており株式市場ではソフトランディングへの楽観が後退気味となっている。
NYダウの1月19日は前日比252.40ドル安となり1月17日の同391.76ドル安、18日の同613.89ドル安から3営業日の続落となった。ナスダック総合指数は1月6日から1月17日まで7連騰してきたが1月18日に前日比138.10ポイント安、19日も同104.74ポイント安の続落となり11000ポイント以上で戻り売りにつかまった印象だ。
●黒田日銀が「自爆」した…総裁退任直前での「ハイリスクな奇策」の中身 1/20
退任に向けたカウントダウン
「日銀、金融政策の現状維持を決定 10年金利0.5%の上限据え置き」
注目されていた1月の日銀政策決定会合。その結果が発表された18日午前11時40分に各社が「現状維持を決定」と大きく報じたことで、金融市場は株高、円安、債券高(金利低下)という反応を見せた。
日銀が昨年12月の金融政策決定会合で、想定外にイールドカーブコントロール(以下YCC)の10年国債の誘導利回りの変動幅を0.25%から0.50%に拡大するという「実質利上げ」に踏み切ったことを受けて、債券市場では日銀が新たに設定した0.5%を上回る水準まで国債が売られたこともあり、今回の決定会合でも変動幅拡大などの修正が行われるのではないかという警戒感が根強かったため、「現状維持」という決定に市場が安堵した格好になった。
しかし、今回の「金融政策現状維持」というのは、メディア等の注目が10年国債の誘導目標金利の「変動幅拡大」に過剰に集中したことを利用した「煙遁の術」煙幕作戦だったといえる。
日銀がこうした目くらまし作戦をとったのにはいくつか理由があった。
それは、実際の金融面で、「名実共の利上げ」をせずしてYCCの維持が困難になってきているということに加えて、4月8日に任期が切れる黒田日銀総裁の後任人事に関わる日程的な問題である。
黒田日銀総裁が4月8日に任期満了を迎えることはよく取り上げられるが、副総裁の任期が3月19日で切れることはほとんど報じられていない。副総裁の任期が問題になってくるのは、雨宮副総裁が有力な後任総裁候補になっているからである。
政府は2月の国会で後任候補を提示し、国会承認が得られれば任命する方針を示しているうえ、与党が衆参ともに過半数を占めている現状からすると、2月中に次期日銀総裁が決定する可能性が高い。
つまり、3月9、10日に予定される次回の日銀の金融政策決定会合時点では、次期日銀総裁と副総裁のもとでの新体制が決まっている可能性が高いのだ。筆者は、2期10年総裁を務めてきた黒田総裁は、前任の白川総裁にならい4月8日の任期を待たず副総裁と同じく3月19日に辞任し、速やかに新体制への移行を図るつもりであり、自分が主導的な役割を果たす会合は今月で最後だと決めていたのではないかと考えている。
その方が自身の総裁時代の金融政策の検証と新たな体制での金融政策の修正を早く始められるうえ、批判の矢面に立つリスクも少ないからだ。
今回の会合で黒田総裁が「YCCは十分持続可能」と強調してみせたのも、こうした日程を考慮して逃げ切りを図る意図を感じさせるものだ。
「共通担保資金供給オペの拡大」の余波
今回の金融政策決定会合で最も重要だった事項は「共通担保資金供給オペの拡大」である。「共通担保資金供給オペの拡大」に踏み切ったのは、日銀が国債利回りより低利で最大10年間金融機関に資金を貸付けられるようにすることで、金融機関による国債購入を促すためである。
金融機関がこの制度を利用して国債購入を増やせば、先月実施した「変動幅拡大」によって高まった国債売り(金利上昇)圧力を抑えられるので、「YCC維持」の実現可能性を高められるという算段である。
一見好手に見える修正であるが、裏を返せば「日銀がこれ以上国債を買い入れることが難しくなった」と認めたことでもある。黒田総裁はこれまで、日銀がこのまま国債購入を増やしていくことは可能だという見解を示してきていたが、先月実施したYCCの「変動幅拡大」によって、自ら国債購入を難しくするというミスを犯してしまった。
先月「変動幅拡大」を実施した際に、黒田総裁は巷で広まった「実質利上げ」という見方に対して、「利上げではない」と真っ向から否定した。しかし、「変動幅拡大」によって10年国債利回りは0.5%前後まで上昇してしまった。
この市場金利上昇の影響を受けたのが財務省である。「変動幅拡大」後の1月5日に実施した10年国債の入札で、国債の表面利率をそれまでの0.2%から0.5%に引上げるという「名実共に利上げ」を行った。財務省が表面利率の引上げを行ったのは、市場の流通利回りが0.5%程度まで上昇してきている中で、表面利率0.2%では円滑な国債発行に支障を来すリスクが生じたからである。
黒田総裁が「利上げではない」と強調するなかで、財務省は国債表面利率の引上げという「利上げ」に追い込まれたのである。
この財務省による10年国債の表面利率の引上げは、日銀が金融機関から国債を買い入れることによってこれまで進めてきた量的緩和の拡大を、難しいものにしてしまう結果となった。
黒田日銀の代名詞でもある異次元の金融緩和は、金融機関が入札で得た国債を日銀が積極的に買入れ、日銀から金融機関へ渡った国債売却資金を日銀の当座預金に還流させるという形で、マネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)を拡大させる政策である。
ここで確認しておかなければならないことは、株式の配当と債券の金利収入の違いである。株式の配当金は権利付き最終日の保有者に対し支払われるもので、たとえその日を除く364日保有していたとしても、最終日に持っていなければ配当金は受け取れない。これに対して、債券の場合は保有期間に応じて表面利率分の金利収入を受け取れる。債券の保有期間が1日だけだったとしても、表面利率の365日分の1を受け取ることが出来るのである。
国債の表面利率は、黒田日銀がマイナス金利政策を採用した2016年3月以降に流通利回りがマイナスになったこともあり、昨年3月まで0.1%、4月以降は0.2%と低い水準で推移してきた。しかし、銀行はほぼ金利0%の預金で集めた資金で国債を購入しているので、国債の表面利率が低くても保有期間に応じて受け取る表面利率分で収益を確保できていたのである。
こうした形で収益を確保できている銀行が保有国債を日銀に売却するということは、国債の表面利率から得られる金利収入を放棄するということである。将来の金利収入を放棄するのであるから、それに見合う見返りがなければ売却することはない。日銀が銀行に渡していた見返りは、国債買入価格を銀行の買値よりも高く設定することで生じる売却益であり、日銀当座預金につけられている金利(付利)であった。
日銀当座預金の一部にマイナス金利が適用されたといえ、いわゆる「銀行」はほとんどマイナス金利の適用を受けていないので、日銀に国債の売却資金を預けても損することはない。それ故にこれまで日銀による銀行からの国債買入れはスムーズに行われ、結果としてマネタリーベースを積み上げることが出来ていたのである。
自分で自分の首を絞めた…
しかし、黒田日銀の「変動幅拡大」に端を発した国債利回りの上昇によって、財務省が国債の表面利率の引上げという「名実共に利上げ」に追い込まれたことで、事態は大きく変化することになったのである。
10年国債の表面利率が0.5%に引上げられたことで、銀行が得られる預金金利と国債表面利率からの利鞘は、0.5%近いところまで拡大することになった。利鞘が拡大すれば当然、国債を売却する際に日銀に求める見返りも大きくなる。それは保有国債をこれまで以上に高く買ってもらうか、売却資金を預ける当座預金の付利を引上げてもらうかのどちらか、あるいは両方ということになる。
しかし、現在の日銀は銀行からの要求をどちらも満たすことが出来ない状況にある。
国債の入札利回りは日銀が決めた「変動幅拡大」の上限である0.5%になったので、これが銀行の国債の購入価格になる。一方、日銀は「指値オペ」でこの「変動幅拡大」の上限である0.5%で、上限なく国債を買い入れることを表明している。つまり、日銀はYCC維持のために設定した「指値オペ」によって、銀行の国債を0.5%より低い利回り(相対的に高い価格)で購入することは出来なくなっているのである。
では、日銀当座預金の付利を引上げられるかというと、これも不可能である。日銀はYCCの短期金利水準について、「日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する」としており、銀行の要求に応えるためにYCCで適用する短期金利の水準を引き上げるのはYCCの放棄と同義であるため、「YCCの維持は可能」と強調している黒田日銀には無理な話なのである。
つまり、YCC維持に固執した黒田日銀が長期金利の「変動幅拡大」という勇み足をしたために、国債の円滑な発行を目指す財務省が表面利率の引上げを余儀なくされ、さらにそれによって日銀が金融機関から国債を購入することが困難になるという皮肉な状況を生み出したのである。
こうした苦境を誤魔化すために絞り出した奇策が、日銀の代わりに金融機関が国債投資を増やすことを可能にした「共通担保資金供給オペの拡大」である。
もう一つのミソは、「共通担保資金供給オペ」の貸付期間を「金融市場の情勢等を勘案して貸付けのつど決定する10年以内の期間」まで延ばしたことである。これによって金融機関は、「共通担保資金供給オペ」で借入れた資金で10年債を償還まで保有することが可能になった。
会計上、満期まで保有することを前提とした債券は「満期保有債券」に分類され、取得簿価で評価することが出来る。つまり、今後金融政策の検証が行われ後任総裁によってYCCが放棄されるような事態が生じ、それによって金利が上昇(債券価格が下落)することになっても、金融機関が評価損を計上しないで済むような仕掛けを日銀が準備したということである。
海外の投資家から批判されるリスク
今回日銀が「現状維持」という結論を強調したのは、YCC維持が困難であることを認めるような「共通担保資金供給オペの拡大」を目立たないようにすることで、2期10年という長期間にわたり総裁を務めた黒田総裁の功績を汚さないようにするためだったと言える。
黒田日銀総裁の退任の花道として用意されたこうした奇策は、株式市場と異なり債券市場が「プロマーケット」となり、かつ金融がグローバル化している現状ではリスクも高い。日銀の監督下にある国内金融機関からは、黒田日銀総裁の花道のために用意されたおかしな金融政策に対する批判は、当分の間は表立って出て来ないかもしれない。しかし、日銀の監督下にない、換言すれば日銀に忖度する必要のない海外投資家から「無意味な政策である」という指摘があっても不思議ではない。
日銀が「金融政策の現状維持」を発表したのを受けて、日経平均は650円の上昇、128円台で推移していたドル円も一気に131円台まで円安が進むなど、国内投資家はその決定を好意的に受け取った。
しかし、為替取引がロンドンからニューヨーク市場へと移っていくにしたがって、米国の経済指標の影響もありドル円は元の128円台に戻ってしまった。それを受けて翌19日の日経平均株価も400円近い下落と、前日の上昇分の半分以上を失い、早くも化けの皮が剥がれ始めた格好になってしまった。
金融経済のグローバル化が進んだ今、国内向けの金融政策が世界に通用する保証はない。遅くとも4月8日までには退任する黒田総裁の晩節を汚さないために今回日銀が打ち出した奇策は、実際に黒田総裁が退任する頃まで「花道」であり続けるだろうか。それとも黒田総裁は「枯れ木も山の賑わい」の中を歩くことになるのだろうか。  
●つかの間の円高と正常化タイムの後に来る円安  1/20
日銀が金融政策の現状維持を決めた後、為替は一瞬の円安ののち、円高に振れた。今後のドル円、そして日銀の政策判断を左右するのは、アメリカの動向にほかならない。
日銀は1月17〜18日に開催された金融政策決定会合で現状維持を決定した。会合後のドル円相場は132円台まで急騰したが、アメリカの経済指標の悪化やこれに伴う米金利低下・ドル安を受けて128円台に戻した。
「大山鳴動して鼠一匹」という風情で、大騒ぎしたものの為替は横ばいであった。
事前の読売新聞による観測報道から政策修正に対する期待が高まっていたが、今回は日本の市場参加者の多くがこれを否定的に見る一方、メディアを中心とする金融市場の外縁が騒ぎ立てたノイズに過ぎなかったと言える。
「共担オペ」はタカ派か、ハト派か
もっとも、厳密には現状維持と言えない部分もあった。
耳目を引きやすい政策の大枠(長短金利操作、イールドカーブコントロール=YCC)は現状維持とされつつ、「共通担保資金供給オペレーション(共担オペ)」が拡充された。金融機関は共担オペを使うことで、国債や社債などさまざまな担保を差し入れることで日銀から低利の資金供給が受けられる。
公表文によれば、共担オペの枠組みにおける利回りは、固定金利型については「年限ごとの国債の市場実勢相場を踏まえ、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す観点から、貸付けのつど決定する」とされている。
この理屈に沿ってこれまでは回避(自重?)されてきた中長期(5〜10年)の資金供給が金融機関に対して可能になる。固定金利型の共担オペに限らず、金利入札型のそれに関しても資金供給期間の上限が従来の1年から10年に延長されている。
「低利の長期資金」を得ることができるようになった金融機関は、その調達金利よりも高い利回りの国債を購入するインセンティブを持つようになる(金利差分が収益になる)。必然、日銀が従前ほど国債購入をしなくてもイールドカーブをコントロールする余地が生まれるという算段である。
欧州債務危機の際、ECB(欧州中央銀行)が2011年から低利の長期流動性供給(LTRO)を実施した時も、域内金融機関に低利の資金を与えることで、利回りが高止まりする南欧国債への裁定取引が増えることを狙ったと言われたことがあった。
日本が債務危機に陥っているわけではないが、「国債利回りの抑制に、銀行部門の投資行動を利用する」という構図は同じである。
こうしたアプローチ(共担オペ拡充)については、過剰なタカ派期待に対抗するための緩和策と取る向きが大勢だが、来るべき正常化の布石として引き締め的な政策だという評価もある。
「実質利上げ」となる可能性も
初回のオペは1月23日に期間5年を対象として金利入札型で行われる。従前よりYCCの金利操作目標を10年物から5年物にシフトさせるのではないかという観測はあった。
共担オペで「金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す観点」が重視される以上、期間5年の共担オペ金利を通じて、YCCの金利操作目標が10年物から5年物にシフトする可能性はある。それ自体を捉えて「実質的な利上げ」と評価する向きもあるだろう。
日銀は「次の一手」をどう打つか。
YCCの廃棄やこれに伴うマイナス金利解除といった動きは黒田体制の失敗として評価されるであろうから、引き続き黒田総裁の任期中に決断されるとは思えない。
日本の経済情勢を踏まえれば、日銀のタカ派政策にも自ずと限界はあり、それ自体、無駄打ちはできないと思われる。詰まるところ、「タカ派政策ののりしろ」は残しておきたいのではないか。
新体制がタカ派的な政策運営を展開するとしても、その期間は恐らく長くない。具体的にはFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利下げが本格的に検討されるまでの限られた時間でしか、日銀のタカ派姿勢は維持できまい。
「FRBの緩和」に対して「日銀の引き締め」が対置される構図は、日米の景気循環が一致しやすいことを思えば考えにくい。FRBの利上げ停止後、様子見の時間帯に入るとした場合、それは4〜6月期や7〜9月期だろうか。その隙にどれほど正常化を進められるかが新体制の最初の見せ場になる。
もっとも、日銀が正常化するにしても、さほど深入りできるものではないだろう。岸田政権が増税志向を隠さない中、金融政策を引き締め方向に調整するにも限界はある。本来、「財政引き締め+金融引き締め」のポリシーミックスは景気過熱防止を企図して行われるものだが、今の日本経済にその余力はなく、またそれができるほど岸田政権の政治資源は厚くない。
1月の日銀会合を経ても、筆者のドル/円相場に対する基本認識は変わらない。やはり1〜3月期(長く見ても4〜6月期前半)まではFRBの利上げ幅縮小・停止が主要テーマであり、それに応じたドル安・円高に支配されやすいと考える。ここまでは市場予想の中心に沿った見方でもある。
【局面A】米金利低下で1ドル=125円割れも(遅くとも5月まで)
1〜3月期における最初の大きなテーマは「FRBの利上げ幅がいつ+50bpから+25bpになるか」であり、その後は「+25bpの利上げがいつ停止するか」というテーマへ移る。
金融市場の予想が正しければ、こうした米金利を予想する時間帯は早ければ3月、遅くとも5月に終わる。ここまでを局面Aと呼ぶ。局面Aでは米金利低下とドル安が予想されそうであり、大方の市場予想もこうした見方に立っているはずである。局面Aの期間に125円割れを臨む時間帯はあっても良いとは思っている。
春〜秋にかけて到来する株高・円安
続く局面Bに関し、現在の金融市場では、「来るべき米利下げを念頭にドル売りが継続する」と考える向きが支配的だ。実際、金利先物市場では早ければ年半ばの利下げを織り込む動きが見られている。
とはいえ、利上げ停止の直後に利下げが議論されるわけではない。1月4日公表のFOMC議事要旨(2022年12月13〜14日開催分)でも「2023年中の利下げを予想するメンバーは1人もいなかった」という事実が明記されている。利上げ停止後に起きることは、「高水準の政策金利を据え置く」という展開だろう。
【局面B】米金利高止まりで、7〜9月期にかけて1ドル=140円台も
実際、3〜5月に利上げ停止の判断に至ったとしても、その頃にCPI(消費者物価指数)がヘッドライン(総合)で2%台まで下がっているとは思えない。そうした状況で利下げの議論が盛り上がるはずがないだろう。
筆者は春〜秋(四半期ベースで言えば4〜6月期と7〜9月期)にかけて、FRBは高止まりする政策金利をもって物価圧力の沈静化をアピールする時間帯に入ると予想する。そうしたFRBの政策運営が「凪」とも言える状況は市場にボラティリティ低下を促し、株高を招きやすい。
そのうえで政策金利に関する内外格差は相応に残るのだから、為替市場では低金利通貨を売って、高金利通貨を買うことによる妙味(端的にはキャリー取引)が評価されやすくなる。
キャリー取引ではこうして売られる通貨を調達通貨と呼ぶが、円が調達通貨として最も利用され、円キャリー取引と言われる動きが隆盛を極めたのが2005〜2007年だった。
当時の日本経済は円安バブルと称され、象徴的には亀山モデルという名で薄型テレビの生産などがもてはやされた時代である。当時は「円だけゼロ金利」という条件下で多くの海外中央銀行が緩やかな利上げを少しずつ行い、やはり低いボラティリティと大きな金利差が実現していた。
今春以降は「円だけマイナス金利」という条件の下で似たようなことが起きないのか。筆者はその可能性を気にしており、7〜9月期にかけて140円台に復帰する可能性はまだ見ておきたいと考えている。
貿易赤字大国としての売り安心感
ちなみに2005〜2007年当時の日本は貿易黒字大国だが、現在は貿易赤字大国であり、2022年はマイナス約20兆円と過去最大を更新している。これは過去最大であった2014年の1.5倍以上の大きさだ。
2005〜2007年は貿易黒字大国の通貨である円を調達通貨として使うことに不安を指摘する向きもあり(円高に振れてしまえば金利差で稼いだ分など吹き飛んでしまうので)、実際、2007年以降で超円高が進んだ。
これに対して現在は貿易赤字大国なのだから、円を調達通貨として活用する場合、需給面での安心感は今の方があるように思える。
巷説では2022年の反動としての円高を予想する声が依然支配的だが、果たしてそれほど単純に事が進むのか。貿易赤字は2022年ほどではないにしても、高水準の状態が続くだろう。
日銀の政策運営を受けて乱高下する展開は今後もあろうが、巨大な貿易赤字を抱える中で一方的な円高が持続力を持つと考えるのは、やはり難しいのではないか。
●黒田日銀 修正観測を“一蹴” 「現状維持」に込めた真の意味は? 1/20
日銀は、金融政策の方向性や物価の見通しなどについて話し合う会合を2日間にわたって開き、現在の大規模な金融緩和策の維持を全員一致で決めました。国内外の投資家や金融機関から金融緩和策を修正するとの観測も出ていましたが、任期が迫る黒田総裁が下した「現状維持」の決定には、どのようなメッセージが込められているのでしょうか。
日銀は昨年12月、0.25%程度の変動幅で推移するよう調節するとしてきた長期金利の変動幅を0.5%程度に変更。投資家の中では今回、日銀がこの変動幅を0.75%に引き上げたり、上限自体を撤廃したりするのではとの観測も広がっていました。しかし日銀は大規模な金融緩和策を現状維持することを決め、先月に続く緩和策の修正は見送りました。
政策修正を見込んで国債を売っていた投資家が国債を買い戻す動きが強まり、0.51%を付けていた長期金利は18日の日銀の発表後、一時0.36%を付けるまで急速に低下しました。
今回の日銀の決定に「正直ほっとしています。金利が上がれば返済が苦しくなる」と話すのは、ニットなどの繊維製品を手がける「小莫大小工業」の小高集社長です。去年、増産のため長年使ってきた編み機を刷新しました。
「最新の編み機を7台入れた。全部で6000万円の融資を受けている」(小高集社長)
設備投資の資金は金融機関からの借り入れで賄っていますが、編み機の追加購入を検討しているため、借入の利息に影響を与える日銀の金融政策を注視しているのです。
「徐々に上がってくる可能性は高いと思うので、早めに手を打った方がいいのか、今のものを持ち続けた方がいいのか、その辺りは正直、迷っている」(小高集社長)
金利が上昇した場合、事業にマイナスの影響が大きいとする企業は40%に上るとの、帝国データバンクによる調査の結果もあり、金利上昇への警戒感が広がっています。
これに対し黒田総裁は「経済合理性の観点からは、0.5%を超える利回りでの取引が継続的に行われることはないと考えられます。長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えておりません」と大規模緩和策の継続を改めて強調しました。
為替、株価への影響は?
日銀の発表後、128円台で推移していたドル円は一時131円台まで円安が加速しました。
「日本の金利が上がることで日米金利差が縮小する可能性があったが、今回動かなかった。むしろ維持されてしまったことで、ドル円としては上昇した」(SBIリクイディティ・マーケットの鈴木亮常務)
東京株式市場では、円安ドル高が進んだこともあり、輸出関連株などが上昇。日経平均株価は18日、650円以上値上がりしました。さらに日銀は物価上昇率の見通しを修正。2024年度の見通しについて1.8%に引き上げました。日銀が目標とする2%には届かない状況が続く中、金融緩和を粘り強く進める姿勢を強調しました。
また、日銀は金利を抑えるための対策を強化。銀行など金融機関が持つ国債などを担保に、日銀が低い金利で国債を購入する資金を金融機関に供給します。日銀が直接国債を買わなくても国債利回りの低下を促す狙いです。
日銀の国債の大量購入に問題はないのでしょうか。
会見で黒田総裁は「市場機能の改善を図るために長期金利の変動幅を±0.5%に拡充した。そういう意味では、むしろYCC(現在の金融緩和策であるイールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の持続可能性を高めていると考えている。現状の国債の買い入れが増えたが、そのこと自体は特に問題があるとは考えていない。国債保有量の増加が、特別なリスクがあるとは考えてはいない」と述べ、現在の金融政策は持続可能であると説明しました。
市場の修正観測に反して現状維持を決めた日銀。決定の裏側には何があったのでしょうか。
「2会合連続での金融政策の修正は黒田総裁としては受け入れ難い。修正をすると今までの金融緩和の枠組みが退任間際に一気に崩れてしまう。総裁は強く反対したのではないか。変動幅の再拡大については必要ないと言い切ったことで、市場を強くけん制したというのが一番重要なメッセージだった。金融市場の環境次第だが、3月の会合も追加策は見送られる可能性は相応にある。ただ一方で4月は総裁が代わるので、それ以降は非常に大きな動きが出てくる可能性がある」(野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さん)
木内さんは、黒田総裁が4月の任期満了を迎えるまで、金融緩和策の修正は行われない可能性が高いと指摘します。
さらに、今回の会見を通してこんな印象を持ったといいます。
「会見は非常に渋い顔をされているという感じもあって、受け答えも従来と比べると歯切れが悪い。昨年12月20日の政策修正は黒田総裁としては好ましくなかったのではないか」(木内登英さん)
●「日銀は市場に負けた」と言う人の根本的な間違い  1/21
日本銀行は1月17〜18日に行われた金融政策決定会合で、政策変更を行わなかった。これは国内関係者の予想どおりで、海外トレーダーの予想は外れたわけだが、これはいつものことで、中央銀行という政策決定者の行動原理と心理をわかっていないからだ。では、中央銀行の行動原理と心理とは何か。これが今回のテーマである。
なぜトレーダーの「仕掛け」は失敗に終わったのか
投資家、トレーダーたちは、取引は勝負だと思っている。つまり「儲けたものが勝ち、損したものが負け」だから、なんとしても勝つ、儲ける、損はなんとしても避けたい。
だから「日銀が買い支えるのでチャンスだ、日銀を追い込んで儲けてやれ」と2022年6月には円に売りを仕掛け、2023年1月には国債に売りを仕掛けた。
しかし、この仕掛けは失敗に終わった。日銀がトレーダーたちの脅しに屈せず、政策を維持した。これは100%予想されたことだ。なぜそれがトレーダーたちにはわからないだろうか。
それは、彼らが「世の中はすべて損得で動く」と思っているからである。日銀を追い込めばギブアップするだろう。なぜなら、売り浴びせられたら、買い入れを続けるのは無限に損が膨らむ。だから、維持不可能になる。よってギブアップする。そうなれば、国債は暴落し、膨大な売りポジションを取ったわれわれは大儲けする。そういう発想だ。
それは、このゲームがゼロサムゲームではないことに気づいていないことである。あるいは「日銀の損は俺の得、俺が儲けるということは、日銀は損をする。俺は勝って、日銀は負ける」といったように、「損と得は裏表、勝ちと負けの勝負だ」と勘違いしていることである。
日銀は、損失を気にしない。トレーダーにとっては損得がすべてで、絶対に損はしたくない。しかし、日銀は損しても気にしない。そうなれば、勝敗は明らかだ。制約条件がひとつ少ない日銀が勝つ。損得の勝負で損を気にしないのだから、断然有利だ。
もう少し正確に言えば、目的関数が違う行動主体が対峙しているにもかかわらず、トレーダーの側はその違いを考えずに同じゲームを戦っていると勘違いしているのだ。
自分の行動原理以外、考えられない。自分勝手に相手の行動を決めてかかっているのである(実際は、それは妄想にすぎないのだが)。
本来、中央銀行はギャンブルができない
一方、日銀はもちろん相手の行動原理を考えて行動しており、それを制約条件として受け入れ、自分たちの本来の使命に邁進する。だから、金銭的な損をしたり、メディアに叩かれたりしても、それらは気にしない(正確には、甘受するということか)。
彼らとしてうまくその目的を達成できるかどうかはわからない。だが、トレーダーほど相手にも自分の行動原理を押し付けることはしないのである。
それでも、多くの場合、中央銀行がトレーダーに負けてしまうように見えるのは、トレーダーたちの行動原理はわかっても行動心理がわからないからである。とりわけ、中央銀行の行動原理をまったく理解していない(理解しようともしない)ことが、理解できないからである。
もう1つは、トレーダーたちは多数いるので、それが束になってかかってきて、何人も何度も討ち死にしても(しょせん他人のカネの運用で、その他人(ファンドの出資者など)のカネが討ち死にするだけだから)、何度でも戦える。
中央銀行は一度負けたら終わりである。金融市場が壊れたら終わりである。だから、一度も負けられないから、ギャンブルはできない。普通は。2013年の異次元緩和が成功したのは(トレーダーとの戦いとしては)、中央銀行がギャンブルをいとわずしたからである。
ちなみに、日銀が市場に負けたというのは根本的な間違いである。メディアで「市場」とか「市場の声」というのは、トレーダーの集団、束、塊のことである。
日銀は金融市場を守るためにある。日銀と市場は一体なのである。市場と戦っているのはむしろ、トレーダーたちなのだ。しかし、それをトレーダー自身が間違って理解していて、自分たちが市場を支配している、いや自分たちが市場そのものと勘違いしているから、市場はおかしくなる。市場がおかしくなるのは、すべてトレーダーたちのせいなのである。
さらに言えば、すべてのトレーダー、投資家、潜在的な投資家をすべて含めれば、それは市場である。それこそが市場である。
トレーダーたちは、暴れようとしている(あるいは暴れている)自分たちが市場のほぼすべてだと勘違いしているところが問題で、さらに問題なのは、ギャングが無法地帯を支配するように、誰も近づかなくなると、実際、市場は暴れているトレーダーたちに支配されているように見えてしまい、トレーダー自身が「俺がおきてだ」と思い込んでしまうところが問題なのである。
さて、日銀の目的は何か。正しい金融政策をすることである。正しい金融政策とは何か。日本経済の発展を助けることである。どうやって? 通常のときは、物価の安定を通じて、経済の健全な発展に資する、ということである。では、通常ではないときは? それはそのときの状況に合わせて、日本経済の健全な発展に資するのである。
デフレマインドの解消が日本経済の発展のために最重要であると判断すれば、それが目的となる。その判断が正しいか間違っているかは別の問題である。
日銀総裁として無能として叩かれようが非難されようが気にせず(実際に気にしないのが、大物総裁である)、目的のために自分のそして組織の判断を行い、実行するだけだ。
白川方明・前日銀総裁の回顧が「必読」なワケ
たとえば、『週刊東洋経済』の1月21日号は「日銀特集」だが、白川方明前総裁が渾身の回顧を寄稿している。トレーダーたちも読んでみるといい。政策担当者としての矜持というものを学んだほうがよい。しかし、彼らは読んでも理解できないかもしれない。自己の損得以外は考えられないという職業病に陥っているからだ。
そういう彼らのためにアドバイスするとすれば、日銀は別の目的があり、その目的の達成という制約条件に縛られているから、日銀をやっつけて自分が儲けたいのであれば、「彼らの今の最優先の目的、すなわち、彼らの制約条件や弱みは何か」ということを考えるゲームに切り替えてみろ(損得だけの単純なゲームでなく)、ということだ。
では、日銀の最大の制約条件とは何か。通貨の信任である。だから、それが危うくなるような状況には追い込まれないようにする。それが危うくならない限り、経済の健全な発展にすべてを尽くす。
注意しなければならないのは、リーマンショックのような金融市場の崩壊的な危機や、金融機関の連鎖的な破綻危機などに直面しない限り、株式市場自体が目的関数に入ることはないことだ。
ここは、投機的なトレーダーだけでなく、株式市場などに毒されたいわゆるマーケット関係者は永遠に理解しないところだ(実際は、理解したくない。なぜなら、自分たちは日銀からは無視されていると認めることになるからだ)。
だが、金融市場はあくまで経済の健全な発展の手段であり、それを阻害する最大の要因になる場合があるから、日銀は金融市場、金融機関を守ろうとするのである。いわゆる金融恐慌は全力で防ぐのであり、そうならないように予防的な措置をとるのである。
しかし、株式市場を買い支えることはありえないし、「バーナンキプット」などと言って、あたかもアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の元総裁の金融政策は株式市場を支えるためにあったかのように言っている。
だが、それはたまたまそうなったという偶然の運に感謝するならいいが、それが目的で行われたと信じるのは致命的な誤りだ(リーマンショックを経験していないトレーダーやマーケット関係者が増えてくると、冗談のようだが、本当に金融政策は株式市場のプットだと信じている人が多数派になってきていて恐ろしい)。
このようなトレーダーたちの勘違いは世界的な現象で、現在のFED(アメリカの中央銀行)関係者が自ら出している長期金利の見通しと市場の見通しの違いは、ここから来ている。
FEDはインフレ退治が最優先と考えているし、何度もそう説明しているのに、それを理解しようとせず、景気が悪くなれば利下げすると決めてかかっている(半分は自分が信じたいからそう信じている)。結果、トレーダーや株式投資関係者達は間違い続けることになり、自分たちの予想(淡い期待)が外れると、「中央銀行のコミュニケーション不足だ」「市場を理解していない」などと批判、攻撃する。間違っているのは、彼らのほうなのだが。
日銀は昨年末「最低限の政策決定変更」を行っただけ
実際、日本銀行の2022年12月の政策変更は、まさにそういうことだった。国債市場が機能不全に陥ってきたから、日銀は市場を守るために、機能させるために、最低限の修正を行った。
それだけのことであり、修正は当然だ。それを「あまりに突然だ」とか「日銀は市場とのコミュニケーションに失敗している」「市場をまったく理解していない」「声を聴いていない」などと攻撃した(半分は、自分が損したり、外れて立場を失ったことへの八つ当たりだが)。
こう考えてくると、日銀は次にいつ動いてもおかしくない。
黒田総裁のスタンスは明らかだ。1月18日の記者会見における、日本経済新聞の清水功哉編集委員の最後の質問への回答でも明らかなとおり、「YCC(イールドカーブコントロール)の短期化には否定的だが、まったくあり得ないわけでもないが、10年が最も効果的だ」という説明は、つまり、状況次第では短期化がありうるということだ。
実際、10年物は国債自体が不足しているし、日銀が完全に市場をコントロールできるのは短期金利だから、3年や5年ならゼロ金利あるいは低金利を数年続けるとコミットすれば、どんなにトレーダーたちに攻撃されても、その政策を維持し続けることは可能である。オーストラリア中銀とは状況が違うから、完全にコミットすれば日銀にはできる。
日銀の弱みは、為替で追い込まれ、それが政治、世論全体の圧力となって孤立したときだ。2022年6月の「1ドル=150円」の円安局面は、だから危なかった。現在はアメリカの長期金利の低下が進んでおり、為替の仕掛けの方向として円安はやりにくい。だから、為替で追い込まれにくいのである。
「イールドカーブの期限の短期化」も
したがって、日銀はイールドカーブの期限の短期化という調整に出る可能性は十分にある。そして、それは3月の黒田東彦総裁の最後の政策決定会合でも十分ありうる。黒田総裁が「緩和継続」「利上げではない」「政策変更ではまったくない」という主張を続けることは、これまでの方針と整合性はあるからだ。
強弁は強弁だが、これまでも強弁してきているので、関係ない。むしろ、総裁が変わって短期化ということになると、どう考えても「政策変更だ」「利上げだ」という議論に反論することは難しい。むしろ、黒田総裁のときに「政策の調整はするが、利上げではない、緩和継続だ」と主張して、新しい総裁も「黒田総裁の政策を継続します」と言い続けることができる。
だから、中央銀行の行動原理と心理、批判は甘受するという気概から考えると、3月9〜10日の金融政策決定会合での政策変更は十分にありうると考える。
●週間市場概況 1/21
今週の東京株式市場で日経平均株価は前週末比434円(1.7%)高の2万6553円と、2週連続で上昇した。
今週は、18日発表の日銀会合結果にマーケットの視線が集中した。発表当日は緩和策の維持を好感して全体相場は急上昇したが、その後は米株安の影響もあって上値を追う展開とはならなかった。個別ではインバウンド関連などテーマ物色の流れは継続した。
週明け16日(月)の東京株式市場は売り優勢でスタート。前週末の欧米株市場が総じて高かったものの、日銀の金融政策決定会合を前にした為替市場での円高の動きが相場の重荷となった。日経平均株価は前週末に続き2日連続で下落した。17日(火)の日経平均は、前日の米国株市場が休場で手掛かり材料が少ないなかも3日ぶりに反発。日銀会合の結果公表を控え模様眺めムードは依然として強かったが、一部空売り筋の買い戻しを巻き込み先物主導で上値を伸ばした。18日(水)の東京市場はリスクオンの流れが一気に加速。前場は様子見姿勢が強かった一方、後場は日銀会合で金融緩和策の現状維持が決まったことを好感し、主力株をはじめ広範囲に買いが優勢となった。商い活発で日経平均は600円超高と大幅上昇した。しかし、19日(木)は打って変わって見送りムードの強い地合いに。前日急伸の反動が出たほか、米株市場で弱い経済指標を背景にNYダウやナスダック総合株価指数が下落した流れを引き継いだ。個別ではインバウンドや子育て支援関連など内需株の一角が買われた。20日(金)の日経平均は反発。前日の米株安を受けて東京市場も安く始まったが、下値では値頃感からの買いが流入し、売り一巡後はプラス圏に浮上した。政府が新型コロナウイルスの感染症法上の扱いを「5類」へ移行させる方針が場中に伝わり、リオープン(経済再開)期待の高まりから日経平均は引けにかけて上昇幅を拡大させた。
●NY外為市場 ドル/円上昇、日銀の超緩和政策維持との見方で 1/21
終盤のニューヨーク外為市場では、ドル/円が上昇。利益確定売りで伸び悩んだものの上げを維持し、週間では12月上旬以来の大幅な上昇を記録した。日銀総裁が超緩和的な金融政策を維持すると改めて示したことを受けた。
日銀の黒田東彦総裁は20日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のパネル討論で、2%の物価目標を安定的、持続的に達成するため現在の「極めて緩和的」な金融政策を継続すると述べた。
これを受け、ドル/円は一時12月5日以来の大幅な上げを記録。終盤は0.88%高の129.56円と伸び悩んだが、なお1月4日以来の大幅な上昇率となった。
16日に付けた7カ月ぶり安値からの上昇率は1.32%で12月9日までの週以来の大きさとなった。
総務省が20日に発表した2022年12月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は104.1と、前年同月比4.0%上昇した。1981年12月以来の伸び率で日銀が目標とする2%の倍になった。
CMCマーケッツのチーフ市場アナリスト、マイケル・ヒューソン氏は「日本は今、過去40年近くなかったインフレ問題を抱えている」と指摘。「ドル/円は下落するだろうが、問題はその速さだ」と述べた。
バノックバーン・グローバル・フォレックスのチーフマーケットストラテジスト、マーク・チャンドラー氏は、ドル/円は130─135円のレンジに戻ると予想。米債利回りの方向性でドル/円の方向性も把握できるとした。
ドル指数は0.05%安の102.005。
ユーロ/ドルは0.25%高の1.0856ドル。ポンド/ドルは1.2397ドルでほぼ横ばい。
英国立統計局(ONS)が20日発表した12月の小売売上高は、数量ベースで前月比1.0%減と、市場予想に反して減少した。  
●「円高の逆襲」継続へ、背景に米国のインフレ鎮静化と日本の出遅れインフレ 1/23
引き続き金融市場は米国や日欧のインフレと金利動向に過敏に反応する動きを示している。1月17〜18日の日銀金融政策決定会合では、昨年12月に変更されたイールドカーブ・コントロール(YCC)の10年物国債利回りのレンジ上下0.5%は「変更なし」と発表された。
しかしレンジの引き上げを見込んでいた海外筋中心の日本国債10年物の売りポジションやそれに合わせた外為市場での短期的な円買い持ち高が相当積み上がっていたようだ。その結果、日銀の発表後、損切りの円売りでドル円相場は128円台から一気に131円台まで跳ね上がった。その後は米国の景気鈍化の思惑が強まり、米国長期金利の低下に連れて再び128円前後まで円高・ドル安が進む荒い展開となった。
筆者は、2023年は円高に回帰する年になると予想していたが、それはドル金利の低下が展望されるようになる主に年後半かと思っていた。ところが米国のインフレ鎮静化への動きと、遅れてインフレが進む日本の動きが交差して、日米金利格差縮小の予想が強まり、円高への回帰が予想より早く進む可能性が強まっているようだ。今回はこの点を考えよう。
米国の高インフレとグローバル・サプライチェーンの関係
まず米国のインフレが2021年から2022年にかけて米連邦準備理事会(FRB)の予測を大幅に超えたものになった主因については、昨年10月の論考で次の3点からなる筆者の読み解きを述べた(「米国の高インフレはなぜFRBの予想を超えたのか、その意外な真相」2022年10月17日掲載)。
第1に、新型コロナ不況への対応として2020年に失業手当割増や中小企業支援のために実施された財政支出による巨額給付が家計の可処分所得を押し上げた。第2に、新型コロナへの恐怖心が薄らいで、可処分所得増が消費需要として顕現化してきた2021年春以降に労働力の供給が減少し賃金が上昇、「賃金上昇→物価上昇」の経路が開いた。第3に、2022年2月のロシアのウクライナ軍事侵攻が国際的なエネルギー・食料価格を高騰させた。
ただし、このときの分析に加えることができなかった要因が1つある。2021年から2022年にかけて米国を中心に世界的な物流の遅延・混乱が生じたことを思い出していただきたい。これは新型コロナ感染が世界中に広がり、運輸に十分な人手が確保できなくなったことが主因だった。
物流コストの増加はそのまま物価上昇、とりわけ生産者物価の上昇に跳ね返る。そうした状況は今ではかなり落ち着いてきているが、物流系での人手不足はまだ続いている。そうした状況も物価変動の要因に加えたかったが、それを代表する適当なマクロ経済の指標が見つからなかった。
その後、ニューヨーク連銀がグローバル・サプライチェーン圧力指数(Global Supply Chain Pressure Index、以下GSCPIと記す)という指標を1998年までさかのぼって作成・公表するようになったことを知った(補注1)。
この指標は新型コロナ感染以降の物価動向を解明する問題意識で、各種の輸送コストなどグローバルな物流・供給面にかかっている「圧力」、言葉を変えると「供給面での摩擦」の程度を指標化した試みだ。 
図表1は、米国の生産者物価指数(完成品)、消費者物価指数(全品目)の前年同月比の変化とGSCPIの推移を示したものだ。ここから2つのことが分かる。消費者物価指数より生産者物価指数の変動の方が大きいが、双方は強く相関しており、最大値で1.0となる正の相関係数は0.936と非常に高い(期間:2000〜22年)。物価変動に供給面の要因が働く場合は、「生産者物価の変化→消費者物価の変化」という経路が働くと考えられる。
またGSCPIは長期の平均的な水準から物流コストの増加はプラス、コスト減少はマイナスになるように作成されており、生産者物価指数の変動と正の相関がある。しかもGSCPIは生産者物価指数に数カ月先行する傾向が見られ、6カ月のタイムラグを設定した場合の相関係数は0.592となる(期間:2000〜22年)。
米国の高インフレは順調に鎮静化へ
「インフレ・デフレはもっぱら金融現象であり、商品供給量に対して通貨供給量を金融政策で操作すればコントロールできる」というマネタリスト的なリフレ派の主張は、2013年以来の日銀の量的・質的金融緩和政策の実施でそのようにならなかったことから、完全に否定されたと言えるだろう。
実際の物価の変動は、供給(コスト)要因、需要要因、金融要因の3つに複合的に依存している。
そこで米国の消費者物価指数について次のような2段階の回帰分析を行った。ここでは供給、需要、金融の3要因が盛り込まれている。詳しい変数の設定と回帰分析で得られた推計式は末尾の補注をご参照いただきたい。
回帰分析1(2000〜22年、四半期データ)、生産者物価指数の変化←要因:1 実質国内総生産(GDP)ギャップ、2 GSCPI(2期先行)、3 CRB国際商品市況指数の変化(補注2)
回帰分析2(2002〜22年、四半期データ)、消費者物価指数の変化←要因:1 賃金の変化、2 通貨供給量の変化、3 実質GDPギャップ、4 生産者物価指数の変化(補注3)
分析結果を要約すると、生産者物価指数に関わる回帰分析1については、各要因(変数)とも有意(関係性が偶然ではない)で、説明度を示す決定係数は0.783と高い値が出た。これは3つの要因で生産者物価指数の変化を78%説明できることを意味する。
消費者物価指数に関わる回帰分析2では、3の実質GDPギャップについて有意性に疑問符が付いたが(関係性が偶然である確率約15%)、それ以外の要因は有意で、決定係数は0.935と非常に高い。
次にこの回帰分析で得られた推計式で2023年第4四半期まで予想推計したものが、図表2の赤線で、今年第4四半期には前年同期比2.7%に低下する。予想の前提は次の通り、世界と米国経済が緩やかなスローダウンに向かうことを想定している。
(1)米国の2023年の実質GDP成長率は1.0%(2022年10月時点の国際通貨基金=IMF予想値)。その結果、GDPギャップは2023年第4四半期には−2.1%までマイナス幅が穏やかに拡大する。
(2)GSCPIは2022年第4四半期の1.2のレベル(平均よりやや物流に圧力がかかっている状態)が継続する。
(3)国際商品価格指数(CRB指数)は、世界経済のスローダウンを反映して現在の水準から2023年第4四半期には前年同期比でマイナス8%まで軟化する。
(4)雇用コスト(賃金など)は2022年第4四半期の5.0%(前年同期比)から、2023年第4四半期には同3.5%まで鈍化する。
(5)米国の通貨供給量(M2)は前年同期比でほぼ横ばい。
以上の想定から推計される2023年第4四半期の生産者物価指数は前年同期比3.0%、消費者物価指数は同2.7%となる(図表2の赤線)。もっとも、この種の予想推計は幅をとって受け止めるべきもので、消費者物価指数で2.2〜3.3%が予想レンジとなる(1標準偏差の幅)。これは「高インフレの鎮静化」として年内に達成されるレベルとしては十分なものだろう。
日本の物価は遅れて上昇、YCC上限のさらなる引き上げが望ましい
さて日本の物価動向に目を向けると、昨年11月の消費者物価指数は前年同月比3.8%(総合)、生鮮食品とエネルギーを除くベースでも同2.8%に上がってきた。全国ベースより早く公表される東京都区部の消費者物価指数の12月の値はすでに同4.0%である。また12月の企業物価指数は同10.2%と米国並みに高い。
日本の消費者物価指数と企業物価指数変化(前年同月比)の2000年以降の関係を見ると、米国の場合ほど両者の関係性は高くない(相関係数0.74)。また2010年以降は消費者物価の上昇が企業物価の上昇に数カ月ほど遅れる傾向が見られる。
つまり企業は供給サイドでコスト増加が起こっても消費者向け価格への転嫁を躊躇(ちゅうちょ)する、あるいは転嫁が遅れる傾向が見られる。これは物価問題の研究者から指摘されている通りだ。しかし、そうした企業行動の傾向も昨年来変化してきているようであり、企業が次第に価格転嫁に積極的になる動きが見られる。
こうして考えると、日本の消費者物価は米国ほどには上がらないだろうが、遅行しながら3〜4%程度の伸び率が年内継続する可能性が高いように思える。仮に当面1年間ほど平均3.5%のインフレ率が継続するとしたら、果たして10年物国債利回りを0.5%に抑え込む今の日銀のYCCは果たして合理的だろうか?
言うまでもなく金融政策は名目金利を操作することで実質金利(=名目金利−インフレ率)を上下動させて経済に影響を与えるものだ。操作対象となる金利が伝統的金融政策ではマネーマーケットの短期金利であったが、日銀は2016年から実施しているYCCで事実上の操作の対象を10年物国債利回りに変更している。しかし実質金利が問題であることに変わりはない。
4%の物価上昇の下では名目0.5%金利は、実質−3.5%という大幅なマイナス金利だ。そのことを勘案すれば、YCCを続ける場合、上限をさらに引き上げることが望ましいと筆者は思う。実際、国債市場では10年物利回りが上限の0.50%前後で張り付き、利回りを抑え込むための日銀の国債購入が増えている。
以上まとめると、今年は米国では高インフレが2〜3%台のインフレ率に鎮静化が進み、10年物米国債利回りも3%台で頭の重い展開となる一方で、日本では遅れて消費者物価指数の伸び率が4%前後に高止まりし、長期国債利回りに上昇圧力(=YCCの上限引き上げ思惑)が強まるという状況が続く可能性が高いと思う。
図表は省略するが、昨年来の週次データで日米の10年物金利格差とドル円相場の変化を単回帰すると、金利格差拡大=ドル高・円安、金利格差縮小=ドル安・円高という強い相関関係が続いている(双方の変数の5週間移動平均ベースで相関係数0.83)。その関係性は1%の日米金利格差の縮小に対応するドル安・円高の変化はなんと9%であり、非常に強い「金利相場」に今の外為市場は支配されている。
仮に日銀のYCCの上限が年内に1.0%に修正され、それと並行して米国の10年物国債利回りが、現在の3.5%から0.5%ほど低下すれば、フル1%ポイントの日米金利格差縮小となり、12〜13円程度の円高・ドル安で外為市場が反応することになる。そのタイミングは分からないが、そうなる可能性が高まっているように思える。

補注1:Global Supply Chain Pressure Index (GSCPI)、Federal Reserve Bank of New York
補注2:回帰分析で得られた推計式1
 Y=2.582812+0.208577×X1+1.502587×X2+0.115197×X3
 Y:企業物価の前年同期比%
 X1:実質GDPギャップ%
 X2:GSCPI
 X3:CRB指数の前年同期比%
補注3:回帰分析で得られた推計式2
 Y=0.06961+0.460263×X1+0.021263×X2+0.051428×X3+0.357658×X4
 Y:消費者物価の前年同期比%
 X1:雇用コスト指数の前年同期比%
 X2:通貨供給量(X2)の前年同期比%
 X3:実質GDPギャップ%
 X4:生産者物価指数の前年同期比%(生産者物価指数には実績値を使用したが、回帰分析1で得られた推計値を使用しても決定係数0.80という高い説明度が得られる)  
●“日銀 大量国債買い入れで債券市場機能低下” 懸念の声相次ぐ  1/23
日銀は、金融緩和策の修正を決めた先月の金融政策決定会合の議事要旨を公表し、日銀が大量に国債を買い入れていることで、債券市場の機能が低下していることを懸念する声が相次いだことが明らかになりました。
それによりますと、会合では多くの政策委員から「国債の価格形成にゆがみが生じている」という指摘が出され、債券市場の機能が低下した状態が続けば、金融緩和の効果の波及を阻害するおそれがあるという見方で一致しました。
この結果、金融緩和策を修正し、長期金利の変動幅の上限を引き上げることを決めました。
これについて複数の委員は「金融緩和をより持続可能なものとする対応で、金融緩和からの出口に向けた変更ではないことを明確に説明する必要がある」と指摘しました。
また、日銀が掲げる2%の物価安定目標をめぐり、委員の1人から「目標値も含めて点検・検証が必要との議論があるが、目標値の修正は目標をあいまいにし、金融政策の対応を不十分なものにするおそれがある」という意見が出されました。
これに対して別の委員は「物価上昇率で表現した数字を、どこまで厳密なものと扱うべきか議論の余地がある」と指摘し、物価目標をめぐり活発な議論が交わされました。
一方、このときの会合は、政府の出席者からの申し出を受けて一時中断し、再開後、内閣府の出席者から「政策の趣旨について、対外的に丁寧に説明することが重要だ」という指摘が出されました。  
 
 
 

 

●黒田東彦
[ くろだはるひこ 1944年(昭和19年)- ] 日本の銀行家、元財務官僚。第31代日本銀行総裁。財務官を最後に退官し、一橋大学大学院教授、アジア開発銀行総裁を経て現職。財務省内での愛称はクロトンである。
経歴
福岡県大牟田市出身。父は海上保安官で、黒田が幼少のときは父の転勤に伴い横浜や神戸を転々とし、小学校5年生の時に父は東京の世田谷へ居を構えた。
東京教育大学附属駒場中学校・高等学校(現・筑波大学附属駒場中学校・高等学校)を経て、東京大学法学部(碧海純一ゼミ)卒業。東大在学中に司法試験に合格。1967年(昭和42年)、大蔵省(当時)に入省。
同省では、主として国際金融と主税畑でキャリアを積み、「ミスター円」として知られた榊原英資の後任として財務官に就任、1999年(平成11年)から同省を退官するまでの3年半にわたって同ポストにあった。
2003年(平成15年)に財務省退官後には一橋大学大学院教授を経てアジア開発銀行総裁に就任し、2013年3月18日退任。
2013年(平成25年)2月28日、政府は、衆参の議院運営委員会理事会に、黒田を次期日本銀行総裁の候補者とする人事案を正式に提示した。3月4日、衆議院で所信聴取、3月11日、参議院で所信聴取が行われ、3月14日、衆議院で採決が行われ、賛成多数で同意、3月15日、参議院で採決が行われ、賛成186、反対34で承認される。3月20日、日本銀行総裁に就任。
任期途中で副総裁任期に合わせて前倒しで辞任した前任の白川方明の任期を引き継ぐ形で就任したため、2013年(平成25年)4月8日に一旦任期切れとなる。同年4月5日に、2013年4月9日から2018年4月8日までの任期で黒田を再任する人事案を衆参両院が同意したため、2018年4月8日までの任期が確定した。
2018年3月16日、衆参両院に於いて黒田を日本銀行総裁に再任する国会承認人事案が議決され、4月9日に総裁2期目の任期が開始された。日銀総裁に2期連続で任命されたのは第20代総裁を務めた山際正道以来となる。
略歴​
学歴​
1960年(昭和35年)3月 - 東京教育大学附属駒場中学校(現・筑波大学附属駒場中学校)卒業
1963年(昭和38年)3月 - 東京教育大学附属駒場高等学校(現・筑波大学附属駒場高等学校)卒業
1967年(昭和42年)3月 - 東京大学法学部(碧海純一ゼミ)卒業
1969年(昭和44年)9月 - 人事院留学制度により江田五月、林康夫らと共にオックスフォード大学留学。
1971年(昭和46年)9月 - オックスフォード大学オール・ソウルズ・カレッジ 経済学研究科修士課程修了
職歴​
1967年(昭和42年)4月 - 大蔵省入省(大臣官房秘書課配属)。同期入省に伏屋和彦、目崎八郎、窪田勝弘、若林勝三、永田俊一、山本孝之、入谷盛宣、鈴木一元、寺本泉、石山嘉英ら。
1969年(昭和44年)4月 - 大臣官房付(オックスフォード大学留学)
1971年(昭和46年)7月 - 理財局国債課企画係長
1972年(昭和47年)7月 - いわき税務署長
1973年(昭和48年)7月 - 国際金融局企画課長補佐(銀行)心得
1974年(昭和49年)7月 - 国際金融局国際機構課長補佐(経済統合)
1975年(昭和50年)6月 - 派遣職員(国際通貨基金)
1978年(昭和53年)7月 - 主税局調査課長補佐(総括・内国調査)
1980年(昭和55年)7月 - 主税局税制第二課長補佐
1981年(昭和56年)7月 - 大臣官房企画官兼主税局総務課
1984年(昭和59年)7月 - 三重県総務部長
1986年(昭和61年)6月 - 大臣官房参事官(大臣官房調査企画課担当)
1987年(昭和62年)7月 - 国際金融局国際機構課長
1988年(昭和63年)12月 - 大蔵大臣(村山達雄)秘書官事務取扱
1989年(平成元年)8月 - 主税局国際租税課長
1990年(平成2年)1月 - 主税局税制第一課長
1991年(平成3年)6月 - 主税局総務課長
1992年(平成4年)7月 - 大臣官房参事官(副財務官)
1993年(平成5年)7月 - 大阪国税局長
1994年(平成6年)7月 - 大臣官房審議官(国際金融局担当)
1995年(平成7年)6月 - 国際金融局次長
1996年(平成8年)7月 - 財政金融研究所長
1997年(平成9年)7月 - 国際金融局長
1999年(平成11年)7月 - 財務官
2003年(平成15年)
   1月 - 財務省 退官
   3月 - 内閣官房参与
   7月 - 一橋大学大学院経済学研究科教授 就任
2005年(平成17年)2月 - アジア開発銀行総裁 就任
2013年(平成25年)
   3月 - アジア開発銀行総裁 辞任
   3月 - 第31代日本銀行総裁 就任
2018年(平成30年)4月 - 日本銀行総裁 再任
主張​
リフレーション政策を重視するいわゆるリフレ派(reflationist)の一人である。長年、日本銀行を批判してきた黒田は、15年にわたる日本のデフレーションの責任の所在を問われると「責務は日銀にある」と明言している。
ただし、2%インフレの物価目標や景気回復に矛盾してしまう面が多い消費税増税には一貫して賛成の意向を示している(以下に詳述。マイナス金利の導入とその前後の経済動向など参照)。消費増税は経済失速の“戦犯”であり、黒田の総裁再任にはその反省が微塵もない、との論評がある。
金融政策​
   物価​
物価について「中長期的には金融政策が大きく影響を与える」と述べ、金融政策のみで物価目標達成は可能との見方を示している。
2%の物価目標を達成するには「大胆な金融緩和継続に対する強いコミットメントが必要」「やれることは何でもやる姿勢を示さなければ、物価安定という最大の使命を達成できない」とし、金融緩和の副作用に対する懸念をけん制ししている。物価上昇を実現する経路については「期待物価上昇率が上がり、実質金利が下がり、企業が手元流動性を取り崩し、株高により資産効果で企業の設備投資や消費にプラスの影響を与える」と説明し、量的緩和の拡大が人々の期待物価上昇率を引き上げる経路を強調している。
デフレーションの原因について「人口が減少している先進国はいろいろあるが、デフレに陥っていない」として「人口成長率はデフレやインフレの主たる要因でない」と明言している。
2013年(平成25年)3月11日、参院議院運営委員会の所信聴取で、日銀総裁就任前の黒田は「(エネルギーと生鮮食品を除く)コアコアCPIのターゲット目標を定める必要はない」との認識を示し「中身を変えることになると信用に影響を与える恐れがある」「物価安定目標に掲げるCPI(コアCPI)を変える必要はない」と述べている。
同年7月11日、黒田は金融政策決定会合後の記者会見で、消費者物価を判断する際の指標について「生鮮食品は天候などの短期的な要因に左右されるので、生鮮食品を除いてみるのは合理性がある」との見方を示した一方で、コアコアCPIについては「(物価指標として)一定の合理性はあるが、全体の3分の2ぐらいしか含んでいない」とし、「従来通りコアCPIで見ていくのが適当である」と述べた。
2014年(平成26年)8月1日、都内の講演で「2%物価上昇の早期実現は成長力を高める」「物価さえ上がればよいと思っているわけではない」と述べた。
   為替​
リーマン・ショック後の急激な円高の一因について「欧米と比べてマネタリーベースでギャップがあった」と述べ、日銀のバランスシート拡大ペースが欧米より消極的だったことが要因の1つとした。為替レートは「中期的には金融政策の違い、長期的には購買力平価で決まる」と述べ、「中央銀行のバランスシートの規模と為替レートは直接的に関係がない」とした白川方明前日銀総裁の見方を否定した。また、人民元防衛のために自由化ではなくて資本規制をすべきと中国政府に提案しており、フィナンシャル・タイムズなどから支持を受けている一方で中国共産党の市場統制の容認と批判する向きもある。
   不動産
2014年7月24日、黒田はタイ中央銀行主催の会合での講演で、2014年現在の世界的に金融緩和が続く中、アジアの複数の国で不動産価格が大幅に上昇していることを指摘し、「アジア諸国へのグローバルな資金流入が、健全でない形で生じている可能性がある」と述べた。
消費税​
2013年7月29日、都内での講演後の質疑応答で、2014年4月から2度にわたり予定されている消費税率引き上げの影響について「消費税の二段階の引き上げによって、日本経済の成長が大きく損なわれるということにはならない、と日銀政策委員会は考えている」と述べている。また、日本の財政の信認が失われた場合について「リスクプレミアムの拡大から長期金利が上昇する」と述べ、政府による財政再建に向けた積極的な取り組みを求めている。
2013年8月8日、金融政策決定会合後の記者会見で、政府の財政規律が緩めば「金融緩和の効果に悪影響がある」と指摘し、消費税率引き上げの先延ばし論をけん制している。また黒田は「脱デフレと消費増税は両立する」と述べ、「財政規律の緩みや財政ファイナンスが懸念されると、長期金利がはね返り、金融緩和の効果が減殺される」との懸念を表明している。
2013年9月5日、金融政策決定会合後の記者会見で、2014年4月に消費税を引き上げるよう政府に促し、引き上げを遅らせればその結果は重大なものになるとの見解を示している。黒田は、消費税率の引き上げが見送られて「仮に、そうした状況で財政に対する信認に傷がつき、国債価格が下落することになった場合、財政を拡張するわけにはいかず、財政政策で対応することは難しく、金融政策でもそうした状況では対応することは困難である」と述べた。一方で、予定通り消費税率の引き上げが行われた際は「仮に、景気に大きな影響が出るリスクが顕在化したとすれば、財政政策で十分対応できるし、金融政策でも2%の『物価安定の目標』の実現に対して下方リスクが顕在化すれば、それに対して適切な対応をとる」と述べた。
2013年10月4日、金融政策決定会合後の記者会見で、安倍晋三首相が2014年4月の消費税率8%への引き上げを決めたことについて「最も重要なことは国全体として財政運営に対する信認を確保することであり、大変意義のある決断をされた」と評価している。
2013年11月5日、大阪市で開かれた大阪経済四団体共催懇談会で、2014年4月の消費税率引き上げについて「将来の負担を和らげる効果がある」との見方を示している。
2014年8月8日、金融政策決定会合後の記者会見で、実質賃金が下がっていることの大半は、消費税の引き上げによるものであり、消費税を除くと実質賃金は上がっていると指摘した。
2014年9月4日、金融政策決定会合後の記者会見で、4月の消費増税以降、個人消費が弱めに推移している点について「駆け込み需要の反動、実質所得減の影響、天候」が要因と指摘し「いずれも一時的な要因であり、増税による実質所得の低下の影響は時間を追って小さくなる」と述べた。
2014年9月12日、2015年10月予定の消費税再増税について「増税で景気が落ち込みば財政・金融政策で対応可能だが、延期で国債価格が下落(金利は上昇)すれば対応が難しい」との持論を繰り返した。「今のところ政府の財政再建の方針は守られている」と増税決行に期待を示した。
2014年9月16日、大阪市内で講演し、消費増税について「予定されていたものであり、新たな下振れ要因が生じているわけではない」とし「家計の支出行動に対するマイナスの影響を減殺する力も働く」と述べた。
2014年11月5日、黒田は質疑応答で「消費税率を引き上げた場合、また先送りした場合、それぞれリスクはある。万が一、財政に対する市場の信認が失われると対応は困難になる」と述べた一方で、「もっとも、そうした確率は低いと思っている」と述べた。
2014年11月12日、黒田は衆院財務金融委員会に出席し、金融政策会合で決めた追加緩和について「2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提に実施した」と答弁した。
労働市場​
2014年5月21日、黒田は、建設業などで起きている人手不足を念頭に「供給面の問題」が経済成長を阻害する可能性の懸念を示し、政府に対して労働規制の緩和などを含めた構造改革を求めている。
アジア経済​
黒田は「アジアも経済的な統合が進んでいるので、長期的に見れば共通通貨に向かう可能性はある」と指摘しており、東アジア共同体論者として知られている。中国政府を「1980年代後半の日本と比べて高い経済成長を続けつつハードランディングを回避する絶妙なバランスでうまくやってる」と評価している。アジア開銀時代の黒田の部下である金立群が総裁を務める中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)もアジアの成長に資するとして支持している。
物価高騰​
2022年、商品やサービスの値上がりが続いてる事に関し黒田は講演で、「家計が値上がりを受け入れてる」と発言した。また、「買い物は家内に任せている」とも発言している。
その発言を受けSNSなどでは「#値上げ受け入れてません」というハッシュタグがトレンド入りするなど批判が殺到している。
同年6月8日、厳しい批判を受け、「表現は全く適切でなかった。撤回する」と述べ謝罪した。
評価​
2008年に、福田康夫政権下で進められた福井俊彦日銀総裁の後任人事の際、モルガン・スタンレー証券のロバート・フェルドマン博士は、日銀総裁人事などの重要案件には「特定の基準に照らして開かれた議論」が望ましいと主張し、中央銀行マン・官僚・財界人ら19人を「マクロ経済学と独立性」「政策決定機関トップの経験」「国内外のネットワーク」の3指標で採点した結果を「次期日銀総裁 -- 候補者を比較する」と題する調査報告書として発表した。黒田は「マクロ経済学と独立性」および「国内外のネットワーク」を重視する基準で13位、「政策決定機関トップの経験」重視の基準で7位にとどまった(「マクロ経済学と独立性」の基準で最も評価が高かったのは日銀出身で経済協力開発機構 (OECD) の副事務総長を務めた重原久美春であり、小泉純一郎内閣で経済財政担当相やな金融相どを歴任した竹中平蔵が第2位、また、「政策決定機関トップの経験」「国内外のネットワーク」の2指標を重視した評点でも両者が最高位であった)。
黒田が、国際金融の財務官だった頃からの知り合いであった経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは「黒田は世界で最も著名な日本人エコノミストの1人だ。彼の経済学に対する深い理解に敬意を表している」と述べ、黒田が日銀総裁に就任した事について「日本を一刻も早く成長軌道に乗せようという意気込みを感じる」と評した。
経済学者の榊原英資は「2%のインフレ率達成はほとんど不可能。無理やりやろうとすると、資産バブルになって株価、不動産価格が必要以上に上昇する。だから、やらない方がいいんだが、黒田さんは真面目な人だから、約束したら一生懸命やっちゃうと思う」と述べている。
アメリカのウォールストリート・ジャーナルは社説で、黒田主導で日銀が新たな金融緩和策を打ち出したことについて「連邦準備制度理事会(FRB)が金融危機後に採用した金融政策への転換だ」とし黒田を「日本のバーナンキ(FRB議長)」と評した。量的・質的緩和は日本国外勢から「バズーカ砲」と評された。
エコノミストの片岡剛士は「黒田が日銀総裁に就任し、白川時代に比べるとリークが減った」と指摘している。
2014年1月2日、「日銀への信認を回復し、日本経済に自信をもたらした」としてザ・バンカーの「セントラル・バンカー・オブ・ザ・イヤー2014」賞の世界部門を受賞した。
本田悦朗は「日本銀行総裁には金融政策に専念してほしい。消費税をどのタイミングでどうするかは、政府の専権事項である」と述べている。2014年11月13日、菅義偉官房長官は記者会見で、黒田が12日の国会で追加緩和は消費再増税が前提だったと発言したことについて、「政府が判断することである」と述べ、消費税の判断は政府が行うものだとの認識を示している。
経済学者の高橋洋一は「黒田総裁は、『リカードの中立命題』の考え方を利用している。消費増税はいつかはやらなければならないと国民は認知しており、増税のタイミングは消費には影響しないと考えている」と指摘している。
経済学者のポール・クルーグマンは「黒田はインフレ率2%を目標としているが、実際に2%を達成させるためには、4%を目標にしなければならない。インフレ目標を低く設定することは『臆病の罠』である。黒田は2%インフレを予想しているが、その根拠を示していない。2%目標が好況を生み出すのに十分ではない可能性がある。2%という数字は、その基礎となるモデルが何かわからない」と指摘している。
大規模な金融緩和の実施とその後の経済動向​
2013年4月、黒田は総裁の就任後初めてとなる金融政策決定会合で、2%の物価目標を2年程度で実現するために日銀が供給するマネタリーベースを2年間で2倍にするなど大胆な金融緩和に踏み切った。2012年12月時点で138兆円だったマネタリーベースは、14年末には270兆円に拡大する見通しとした。実際の推移は右のグラフ参照。
2014年1月31日に発表された12月消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は前年比プラス1.3%と、黒田日銀の2014年度見通しに一致するところまで上昇した。次項のグラフ参照。日本銀行が2013年4月に2年程度で消費者物価上昇率を2%まで高めるという「物価安定の目標」を掲げた際には、目標の達成は不可能との見方が大勢だった。しかし、2014年1月現時点では消費者物価は概ね日銀の目標に沿った動きとなっている。消費税率は2014年4月に5%から8%へと引き上げられる。消費税率引き上げによってコアCPIは2%程度押し上げられるとの見方がコンセンサスとなっている。
2014年3月19日、都内で開かれた国際通貨研究所主催の講演会で、失業率はすでに3.7%まで低下しており、3.5%と試算される自然失業率に近い「ほぼ完全雇用状態」と指摘している。
経済産業省が2014年5月29日に発表した4月の商業販売統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は、消費税引き上げに伴う反動減が市場予測を超える1997年を上回る落ち込みとなり、前年比4.4%減の11兆0110億円となった。
2014年5月30日、総務省が消費増税分を含めた4月の全国の消費者物価指数(2010年=100)を発表し、コアCPIは前年同月より3.2%上がり103.0となり、増税の影響で1991年2月以来、23年2カ月ぶりの高い上昇幅となった。日本銀行は、消費税率引き上げによる4月の物価の押し上げ分は1.7%と試算しており、増税の影響を除いた上昇幅は1.5%としている。
2014年6月13日、黒田日銀は消費増税の影響は自動車など耐久財に明確としつつ、想定内とし、2015年度をめどに2%の物価目標を達成する見通しは変わらないと強調した。4月の消費者物価指数は増税の影響を除き前年比1.5%上昇したが、今後しばらくは1%台の前半で上下するとの見通しを示した。
追加金融緩和とその後の経済動向​
2014年10月31日、日本銀行は「物価面では、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている」として、「マネタリーベースが、年間約80兆円(約10〜20兆円追加)に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」、「長期国債について、保有残高が年間約80兆円(約30兆円追加)に相当するペースで増加するよう買入れを行う」などと発表した。この追加緩和は世界的に驚きをもって受け止められ、世界レベルでの平均株価の大幅上昇につながり、また、円安が大きく進んだ。
2015年1月の物価上昇率は消費増税分と生鮮食品を除き、前年同月比0.2%まで大幅に低下し、消費税増税と原油安の物価への影響が大きいことが示唆されたが、黒田総裁は2%物価上昇率目標の早期実現にこだわるとの考えを改めて示した。黒田の公約である2015年度内の2%物価目標は非常に困難であるとの指摘が再び挙がってきている。2014年の全体での実質国内総生産 (GDP) は、0.03%のマイナス成長となった。2015年3月、黒田は物価上昇率(消費増税分と生鮮除く)について、先行きは当面「プラス幅が縮小」から「0%程度」にそれぞれ下方修正することに追い込まれ、マイナスに転じる可能性もあることを認めた。
2015年8月、9月に物価上昇率(生鮮食品を除く総合)はともにマイナス0.1%になった(右下のグラフ、赤い線)。2015年10月、日銀は2%物価目標を2016年前半から2016年後半に先送りすることに追い込まれ、さらに追加金融緩和を見送った。その理由について東京新聞や日経新聞は賃金が上昇していないことを挙げ、『日銀の悩みは賃金上昇が広がりを欠き、物価上昇に追いついていないことだ。一段の賃上げが進まないなかで追加緩和に踏み切り、円安で物価ばかりが上がると、消費が冷え込み、かえって物価の安定した上昇が遠のく。』(日経新聞)などとし、金融政策判断がジレンマに直面していると指摘した。
高橋洋一は、消費税の5%から8%への引き上げをしなかったら物価上昇率(消費税増税分を除く)はすでに2%に達していただろうと述べ、日銀の消費増税の影響の予測の甘さを批判した。また、2017年4月(当時の予定)の消費税の10%への引き上げについても、強行すれば再び経済がマイナス成長に陥り、黒田総裁はお手上げになるだろうと警告した。黒田総裁は消費税のことになると増税賛成に傾倒して客観的な判断ができないと指摘した。日銀の原田泰審議委員は、消費については「消費税増税の影響はかなり大きい」とし、実質所得減少の影響を懸念。消費税に関しては「引き上げが消費需要を減らし、物価を引き下げる効果があるが、多くの議論でこのことが忘れられている」と述べた。
マイナス金利の導入とその前後の経済動向​
2016年1月29日、日本銀行は「(金融機関が保有する)日本銀行当座預金を三段階の階層構造に分割し、それぞれの階層に応じてプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利を適用する」と発表した。日銀によるマイナス金利についての平易な解説がある。
マイナス金利導入後、一般には市中金利は下がったものの、2016年前半において消費者物価は低迷を続け、日銀は目標とする物価2%の到達時期を2017年度中とすることに追い込まれ、次々と物価目標の先送りを余儀なくされている状態が続いていたものの、2018年の統計において改善の兆しが見えつつある。
2016年9月、日銀は長短金利操作を行う「イールドカーブ・コントロール」と、物価上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」を柱とする枠組みを導入したが、実質的な追加緩和はなかった。元日本銀行審議委員の中原伸之は、長期国債の年間買い入れ増加ペースを80兆円から100兆円に拡大すべきだとの考えを表明しており、イールドカーブ・コントロールについて強い批判的な見解を述べている。
消費者物価指数(生鮮を除く)は2015年は0.5%、2016年は-0.3%、2017年は0.5%、2018年は0.9%と現在上昇傾向にある。1世帯当たりの実質消費支出も2015年は-2.3%、2016年は-1.7%、2017年は-0.3%、2018年は0.3%と上昇している。 毎月の実質賃金は2014年と2015年でマイナスであり、2016年にわずかにプラスに転じた後、2017年に前年比0.2%減のマイナスとなった。長い不況下で消費者に根強い節約志向が残っている事や賃金上昇の遅れから低迷していた消費者物価指数だが、近年ようやく賃金上昇が物価を押し上げる効果が表れている。
日銀はそれまで6回、次々と物価上昇目標の到達時期の延長を余儀なくされてきたが、2018年4月、経済・物価情勢の展望(展望レポート)からその達成時期の記述を削除した。黒田は2018年7月、物価が上がりにくい理由を問われ、総裁記者会見要旨では、「長期にわたる低成長やデフレの経験などから、賃金・物価が上がり難いことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることなどがあります。こうしたもとで、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重な見方が明確に転換するには至っておらず、分野によっては競争激化による価格押し下げ圧力が強いと考えています。」と答えた。しかしながらその際に、8%消費税増税までは非常に順調であった物価上昇(上述)や2014年度に言及した8%消費税増税による物価や経済への悪影響(上述)については触れていない。
黒田は2018年10月「消費税が10%に引き上げられても、経済への影響は大きくない」と発言した。2014年4月、消費税率を5%から8%へ引き上げる際にも、「増税の影響は軽微」だと言ったが、結果として増税による日本経済のダメージは回避できなかった。リフレ派の一角と目され続けてきた黒田総裁であったが、こと増税になると、まるで財務省主税局職員のような発言を繰り返している。今回の黒田総裁の発言は、消費増税に対する「支持」とみてとれるが、インフレ目標達成に「大障害」の可能性があり、それはある意味で日銀自身の首を絞める行為でもあるのだ、との見解を週刊現代は掲載した。
岩田規久男・前日銀副総裁は「日銀だけが一生懸命やっているが、財政は逆噴射しているのが実情であり、今は日銀の金融超緩和政策と積極財政の協調が不可欠」とし、このまま消費増税を実施すれば「黒田東彦日銀総裁は、10年かけても物価2%が達成できなかった駄目な総裁で終わってしまう」と述べ、デフレ脱却には10%の消費税率引き上げを撤回するとともに、国債発行を財源として若い世代に所得分配する財政拡大が不可欠と訴えた。「安倍晋三首相も、景気後退の時に辞めることになりかねない」と政府・日銀に対応を促した。
2022年9月 消費者物価指数は、目標の2%を超えて、前年度比3%となったが、黒田は、大規模金融緩和の継続を表明している。
同2022年9月22日 黒田の大規模金融緩和の継続を表明と同日、政府と日銀 黒田は、外国為替市場で1ドル=145円台後半まで円安が進んだことを受けて、急速な円安に歯止めをかけるため、22日夕方、ドルを売って円を買う為替市場介入に踏み切る。
人物​
2017年の『週刊東洋経済』の取材に対し、黒田の姉は幼少期の黒田のことを「穏やかでおとなしい」性格と語っている。東京大学文科一類にストレートで入学し、在学中に司法試験に合格、1967年に法学部を卒業した黒田は、当時は裁判官か学者の道へ進むことを希望していた。しかし母から「人を裁くことができるのか」と問われ、父から「学者の世界で出世するにはコネが必要」と反対されたと、黒田は日本経済新聞に連載していたコラムで述べた。
趣味は読書。『ニコマコス倫理学』が愛読書であるといわれる一方で宮部みゆきの推理小説も楽しむ。ある知人は日本メディアに「公務員ではあるが、自分だけの世界観を持った人」と話した。  
 


2022/12