プーチン大統領の冬支度

ロシアの仲間

増やせるか 減らすのか
仲間は 金持ち 貧乏  どちらの国

イスラエル・ガザ戦争が始まり 
プーチン大統領 大喜びか
ウクライナ侵攻のネット上の情報 情報量が日に日に減少

 


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第三次世界大戦  プーチン大統領の「夢」  戦争終結の道  ウクライナ分断  孤立するロシア  プーチンの新冷戦  どこへ行くプーチン大統領 ・・・   ウクライナ侵攻 丸二年  
  
 

 

●メディアが騒ぎ立てる「中国が165年ぶりにウラジオストク奪還」の現実度 10/1
モスクワを訪問した習近平氏の「本当の目的」
今年5月、中国の税関当局が突然「6月からロシアのウラジオストク港を越境のための通過港として使用可能にする」と発表したことで、世界のメディアは敏感に反応、「中国が165年ぶりに同港奪還か」とセンセーショナルに書き立てた。
もちろんロシアのプーチン大統領がこんな見出しを目にすれば面白くないだろうが、恐らく機嫌を損なうような話題を、側近がプーチン氏に耳打ちすることはないだろう。
中国内陸部の東北三省地域(旧満州)の経済発展のため、海の玄関口として一番近い同港を、自国港のように自由に使えるという取り決めだ。同港はロシア東部、極東地域の日本海に面した貿易港で、同国海軍太平洋艦隊が司令部を置く一大軍港でもある。
東北三省地域での商工業・交通の中心都市、牡丹江(ボタンコウ)は中国の対ロ貿易の窓口で、ウラジオストクは南東約240kmの距離にある。だが越境の際は煩雑な通関手続きが必須で、「手間・ヒマ・コスト」がかかるため、活発に使用されてきたとは言い難い。
これを改善するため、今年3月中国の習近平国家主席が直接モスクワに乗り込みプーチン氏に直談判。プーチン氏も快諾し、中国と同港との間を通過する物流に限って、通関手続きをほぼ撤廃。中国は自国の港並みに自由に使えるようになった。
だが実際は、孤立無援の“盟友”の足元を見つつ、「欧米との関係悪化は避けたいので目立った軍事支援はできないが、可能な限り助ける」と、習氏は自分に有利なディールをプーチン氏に持ちかけ、会談は長時間に及んだものと見られる。
もちろんウクライナ戦争関連が中心で、中国による武器・弾薬支援をプーチン氏が迫ったことは想像に難くはない。
一方、同港の自由使用についても話し合われたようで、「当初難色を示していたプーチン氏も、中国の離反だけは避けたいと、同港の自由使用権を渋々認めたのでは」との見方が有力だ。
習氏は訪ロ直前の3月初め、中国の国会に当たる全人代(全国人民代表大会)で3期目となる国家主席の続投を果たし、初の外遊先にモスクワを選んでプーチン氏を大いに喜ばせるという演出までした。
対照的にプーチン氏はウクライナ侵略戦争が想定外の長期戦・消耗戦に突入、国内経済も疲弊し始めるなど冴えない。両者が交渉に臨めば、どちらが有利かは自明の理だろう。
ウラジオストク港の自由使用権は事実上の「軍港化」
今回の取引では「2030年までの経済協力に関する共同声明」がまとめられ、鉄道・道路・河川・海運など物流インフラでの一層の連携が話し合われ、ウラジオストク港の自由使用権はその目玉的存在でもある。
だが「裏には軍事的な秘密協定も結んだのでは」との指摘もある。「中国海軍による同港の事実上の“軍港化”」だ。
「急膨張する中国海軍は南シナ海、東シナ海、西太平洋と活動範囲を拡大。対米軍事戦略を考えれば今後は日本海、さらには北極海へと艦艇が遊弋(ゆうよく/軍艦が動き回ること)の度を強めるのは確実だ。だが、そうなると適当な場所に補給・休養・修理が可能な港湾がどうしても必要になる。しかもできるだけインフラが整った大規模な軍港、つまりウラジオストクが理想的と言える」(事情通)
近い将来、中国海軍が日本海で活動を活発化させたくても、同国はこの海域に面しておらず自国の港湾などはない。ちょっとした補給・休養なら友好国のロシアや北朝鮮の港を借りることも可能だろうが、常時寄港できる保証はない。
となれば艦艇は定期的に対馬海峡を通過し母国の軍港まで回航しなければならないが、片道だけでも優に1500kmを超え効率が悪い。また、日本海に中国海軍が事実上の軍港を擁したとなれば、対抗する日米韓に対する軍事戦略上の強力な牽制ともなる。
実は「今回の共同声明の文言がカギとなる」との見方もあるようだ。
「『鉄道・道路・河川・海運など物流インフラでの一層の連携』との内容だが、これはそのまま軍事の兵站、『ロジスティクス』と読み替えることができる。
ウラジオストク港を中国海軍の軍港として使用することはもちろん、同港〜牡丹江の鉄道や道路による軍需物資、さらには有事の際の武器・兵員輸送も比較的自由にできる、という内容が盛り込まれているかもしれない。実際、旧共産圏が結んだ『善隣友好協力条約』などには軍事的内容の“密約”が付される場合がほとんどで、額面どおりに見る国際通などいない」(別の事情通)
中国お得意の“サラミ戦術”で失地回復をもくろむ
今回両者の交渉が「中国海軍の同港常時使用」にまで本当に話が及んだかは不明だが、それでも世界のマスコミが騒ぐように、中国側にとって今回の共同声明が、「苦節165年の奪還」の第一歩と位置付けている可能性が高い、との深読みにはそれなりの根拠がある。
以前、当サイトにも寄稿したが、欧米列強が植民地拡大で競っていた19世紀半ば頃、中国(当時の清朝)はアヘン戦争でイギリスに敗北。「眠れる獅子(=清朝)は恐るるに足らず」とロシアも侵略に着手。軍事的恫喝を繰り返しながら1858年に無理矢理「アイグン条約」を結び、ウラジオストク周辺の広大な清朝の領土を奪った「黒歴史」がある。もちろん中国にとっては屈辱的な過去だろう。
そこで皮肉にも、同様にロシアがウクライナに侵略しつつも苦戦している現状を中国はチャンスと捉え、まずはウラジオストクを徐々に取り戻そうと考えても不思議ではない。
「まずは当たり障りのない商業的な『非関税利用』あたりを皮切りに、港湾の拡大・整備やこれに必要な資金投融資、一部港湾区画の長期租借、租借地の治外法権化や軍隊の駐留など徐々にレベルを上げ、気がついた時には事実上の中国領というシナリオだ。
南沙諸島や尖閣諸島などでも現在進行形で、時間をかけて既成事実を徐々に積み上げる“サラミ戦術”(サラミをナイフで薄く切って行くように気がついた時にはなくなっている)はいわば中国のお家芸だ」(前出の事情通)
現に「サラミ戦術」はすでに始まっている模様で、今年2月中国の公式地図を発行する自然資源省は、地図上の「ウラジオストク」の表記をこれまでロシア語だけから、新たにかつて中国領だった時の「海参崴(ハイシェンウェイ):海辺の小さな村」という名前の併記を義務づけた。
ウラジオストク自体がそもそも「東を支配せよ」を意味し、中国にすれば心情を逆なでする“悪名”で、1日でも早い改名を願っているはず。このタイミングでの「海参崴」併記義務づけは、ウクライナ戦争を抱えるプーチン政権が反対しにくい、と中国側が読んだのは当然だろう。
「港湾整備による経済発展」という甘い言葉に誘われて莫大な借金を背負わされ、返済できなければ港湾を約1世紀にわたって租借するという、中国の「債務の罠」は国際的にも問題だ。実際スリランカのハンバントタ港がこの罠に陥り、同港の99年間の運営権を中国に譲渡。パキスタンのカラチ港も同様の弊害に悩む。
それ以前に、「そもそも蜜月状態の中ロの間柄なのに、何で今さらウラジオストク港に対する中国への優遇措置をロシアは今まで認めなかったのか」という素朴な疑問も残る。
だが前述した歴史的背景があるため、「一度同港に対する優遇措置を中国側に認めると、これを突破口として失地回復の動きを加速させる恐れがある、というロシア側の猜疑心が根底に渦巻いていることは確かだろう。
同時に急膨張する中国海軍に、自分の“内海”のような日本海に荒らされたくない、というライバル心も見え隠れする。
その先に視野に置く「北極海航路」の位置づけとは?
今回のウラジオストク港の“確保”と関連するかのように、中国海軍の日本海におけるプレゼンスを印象付けるような動きが連続しているのも事実だ。
まず今年7月下旬に中ロ両海軍は日本海を舞台に合同演習「北方連合2023」を実施、中国側4隻、ロシア側5隻の計9隻が参加した。
次に一度ウラジオストクに寄港したこの艦隊は、引き続き「合同パトロール」と称する演習を展開。「アジア太平地域と平和と安定を維持するのが目的」との名目で、太平洋に出てそのまま北上。アメリカ・アラスカ沖のベーリング海峡で対潜訓練などを行った。
中ロ艦隊が約10隻という大所帯をともなってアラスカ沖で演習を行うのは過去に例がなく、アメリカに対する強力な示威行為だと日米の軍事関係者は注視しているという。
その後も中ロ艦隊の合同パトロールは続き、太平洋を南下した後、今年8月半ばに沖縄本島と宮古島の間に到達。そのまま東シナ海に入るなど、日米を挑発するかのような動きを見せている。こうした動きに、「中国側の狙いは北極海進出の布石と見るべき」との指摘も出ている。
近年温暖化の影響で北極海の氷が解け、年間を通じて艦船が航行可能な、いわゆる『北極海航路』と、同海域での資源開発の利権を巡り、同海の沿岸国のさや当てが激しくなっている。
そして北極海航路を「海の一帯一路の“北回り版”」と位置づけ、その権益を一定程度確保しようというのか、沿岸国でもない中国もこのさや当てに参加。2015年に艦艇5隻からなる艦隊を初めてベーリング海峡に差し向けて軍事プレゼンスをアピールするなど精力を注ぐ。
そして中国の北極海航路戦略にとっても、ウラジオストクは海軍の中継地として極めて重要というわけである。ただしこうした動きにロシア側も警戒しているはずで、実際中国側の「サラミ戦術」がうまく行くかどうかは分からない。
だが、ロシアが仕掛けたウクライナ侵略戦争で苦戦した結果、皮肉にも1世紀以上前に中国からかすめ取ったウラジオストクを、事実上中国に奪還されたとしたら、まさに「歴史の皮肉」と言うべきだろう。
●復興期待先行のウクライナ国債、財政安定も停戦はいまだ見通せない危うさ 10/1
・戦争の長期化が避けられそうにないウクライナだが、開戦当初の予想に反し財政は安定感を増している。
・インフレの抑制に成功し、支援金で外貨準備も潤沢だ。一部の国債の価格は6月以降に5割ほど上昇した。
・だが2024年、仮に大統領選挙が実施され国内の団結にヒビが入るような事態になれば、戦況も財政への信任も大きく揺らぎかねない。
3カ月前に反転攻勢を開始したウクライナ軍はこのところ、クリミア半島の奪還に向けて攻勢を強めている。クリミア半島は2014年にロシアに併合され、ゼレンスキー大統領が「必ず奪還する」と強調している地域だ。
ゼレンスキー氏は「クリミア半島を含むロシア軍に奪われた全領土の奪還」を停戦の条件に掲げているが、反転攻勢全般の戦況はかんばしくない。戦争の長期化は避けられない情勢となっている。
長引く戦況を耐え抜くためには健全な経済が必須だ。しかし、連日のようにロシアからの攻撃にさらされるウクライナ経済は深刻なダメージを被っているのは言うまでもない。
2022年の実質国内総生産(GDP)は前年比29%減の1兆8000億フリブナ(約7兆円)となった。2022年の消費者物価指数(CPI)も急上昇した(前年比26.6%増)。
継戦能力の維持のためには安定した財政運営も不可欠だが、急増する戦費を歳入が賄えなくなったウクライナ政府は国立銀行(中央銀行)による国債引き受けに踏み切らざるを得なくなった。今年度のウクライナの財政赤字は侵攻前に比べ約9倍に膨らむ見込みで、西側諸国からの支援金に依存する状態が続いている。
市場関係者は開戦当初「ウクライナ財政が破綻するのは時間の問題だ」と危惧していた。だが予想に反し、ウクライナ財政はこのところ安定感を増しているようだ。
2023年8月のCPIは8.6%と1ケタになるなどインフレ抑制に成功したことが大きかった。日本をはじめ先進国ですら高いインフレ率に苦しんでいるのに、領土が戦場となっている国が物価を制御できているのはたいしたものだ。
支援金のおかげでウクライナの8月末の外貨準備高が404億ドルと過去最高となっていることも好材料となっている。
債権市場からの資金調達を活発化
ウクライナは昨年末から今年初頭にかけてロシアに電力インフラの約半分を破壊されるなどの深刻な被害を受けた。そうしたなか、政府が銀行部門への電力供給を優先するなど金融面のインフラ維持に努めたことも功を奏した。
これらのおかげで国際機関や投資家からの信認を得ることに成功したウクライナ政府は、債券市場からの資金調達を活発化させている。金利15〜20%近い各種の国債を発行しているのだが、一部の国債の価格は国際市場で今年6月以降、5割近くも上昇している。
過去最大の財政赤字を抱えるウクライナに対して、国際通貨基金(IMF)が3月末、4年間で総額156億ドルの金融支援プログラムを承認したことも追い風となった。だが、足元ではウクライナ経済に対する今後の期待が「買い」材料となっている。
ウクライナ政府は8月1日「来年の成長率は約5%に達する」との見通しも明らかにした。主な要因は「復興向けの投資」だ。
ゼレンスキー氏は国連総会などに合わせて訪米した際、ウクライナ復興のための投資について米実業家らと協議したことを明らかにした。ゼレンスキー氏によれば、資産運用大手ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)などがウクライナの復興に向け、大規模投資を行う用意があると表明したという。
ウクライナ政府は復興資金の規模を明らかにしていないが、世界銀行は「4000億ドルを大きく超える」と推計している。
大統領選挙の実施を求める西側諸国の声
復興資金の獲得でも「獅子奮迅」の活躍ぶりを見せているゼレンスキー氏だが、ここに来て頭が痛い問題が浮上している。
9月24日付の米ワシントンポストは「西側諸国は『来年3月に予定されている大統領選挙を実施すべき』との圧力を高めている」と報じた。
ロシアの侵攻以降、ウクライナでは戒厳令が敷かれ選挙が実施されなくなっている。だが、今年初めに大震災に襲われた後に大統領選挙を行ったトルコの事例を挙げて「ウクライナも『自由で公正な』選挙を行うべきだ」との声がにわかに高まっている。米国に代わってウクライナ支援の主役になりつつある欧州の人権重視の姿勢が影響している可能性がある。
これに対し、ウクライナの政治リーダーたちは戦時に選挙を行うことには消極的だ。
「選挙を強行すれば政治的分裂が生じ、国家の団結を台無しにしてしまう」との意見が大勢を占める。それでも、支援を受けている西側の意向を無視するわけにはいかないだろう。
筆者は「停戦のめどが立っていないのに、復興支援が先行して大きな話題になっているこのはおかしいのではないか」との思いを禁じ得ないでいる。「西側諸国から絶大な信頼を集めるゼレンスキー氏を中心にウクライナは一致団結している」という印象は西側諸国に広く共有されている。だが、そうしたイメージは、「戦争中に民間の長期資金を呼び込むことは至難の業だ」という不都合な真実を覆い隠すという危うい構図を生み出しかねない。
「選挙を実施すれば国内での高い支持率を維持するゼレンスキー氏の再選が有力だ」とされている。それでも、仮に大統領選挙が実施され、その結果がゼレンスキー氏にとって逆風となるものになったら、復興頼みのウクライナ国債への期待も萎んでしてしまうのではないだろうか。
思い起こせば、1998年のロシアの財政危機が災いしてロシア国債への投資を行っていた大手ヘッジファンドLTCMが破綻し、米国の金融市場は大きく動揺した。ウクライナ発でLTCMの「二の舞い」が起きないことを祈るばかりだ。 
●プーチン大統領、ウクライナでの戦争はロシアの主権を守る行動だ 10/1
ロシアのプーチン大統領は9月30日、大統領府のウェブサイトに掲載されたビデオ演説で、同国はウクライナで戦争をすることで自国の「主権」と「精神的価値」を守っているとの見解を示した。
演説はプーチン大統領がウクライナの4州を一方的に併合する文書に署名して1年が経過したのにあわせて公表された。
プーチン大統領は2022年2月に開始したウクライナ侵攻について、「われわれはロシアそのものを防衛している。母国のため、われわれの主権のため、精神的価値と統一のため、勝利のために共に戦っている」と説明。併合した地域を再生・発展させるための「大規模なプログラム」を実施する必要があるとも述べ、目標達成を誓った。
ウクライナが米国や他の同盟国からの多額の武器支援を受け4カ月にわたり反転攻勢を実施し、東部と南部でロシア軍の進行を阻んでいるにもかかわらず、プーチン大統領は今回の演説を通じ、領土に関して強固に主張することを目指した。
ロシア政府は1年前、ウクライナのザポリージャとドネツク、ルハンシク、ヘルソンの4州を併合するため、見せかけの「住民投票」を実施した。この投票は国連やウクライナの同盟国から非難を浴び、国際的にも認められていない。
ロシア安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ前大統領はテレグラムへの投稿で、戦争はウクライナ政府の「完全な破壊」と「ロシア固有の領土の解放」が実現するまで続くと発言。ロシアには「新しい地域が増える」ことになるとも述べた。
●ロシア空軍、戦争長期化で「機能不全」?既に約90機も喪失か 英国防省分析 10/1
イギリス国防省は2023年9月28日(木)、ウクライナ紛争の状況に関する分析を更新。ロシア空軍がウクライナ侵攻を開始した2022年2月以降、戦闘で約90機の固定翼機を喪失したとの分析を明らかにしました。
同国防省は、ロシア空軍が一部のタイプの戦闘機を平時より集中的に飛行させていると指摘。全ての航空機には、飛行時間で定められた寿命がありますが、ロシアは空軍の見込みよりも早く、機体の残存寿命を食いつぶしている可能性が高いとしています。
また、需要の増加や制裁によるスペアパーツ不足により、航空機のメンテナンスに支障をきたしているといいます。
同国防省によると、ロシア空軍は、占領下に置いたウクライナ上空への出撃回数を急増させる能力は依然として維持しているそう。ただ、戦争がロシアの当初計画より長引いているため、長期的にロシア空軍が戦術航空戦力を維持できなくなる可能性が高まったと分析しています。
●スロバキア、ロシア寄り中道左派が第1党に ウクライナ支援に反対 10/1
スロバキアで9月30日、議会選挙が行われ、ロシア寄りでウクライナへの軍事支援停止を訴えたフィツォ元首相率いる中道左派「スメル(道標)」が第1党となる見通しとなった。政権を作るには連立相手が必要となる。
開票率98%の段階でスメルの得票率は23.37%、リベラル派の「プログレッシブ・スロバキア(PS)」は16.86%。
「声(Hlas)」が15.03%で3位となっている。同党はスメル出身のピーター・ペレグリーニ氏が党首を務めており、政権樹立の鍵を握る可能性がある。
●スロバキア 隣国ウクライナへ軍事支援停止訴える野党が第1党へ 10/1
ウクライナの隣国スロバキアの議会選挙で、ウクライナへの軍事支援の停止などを訴えた野党が第1党となるのが確実となりました。今後、連立政権を発足させ、支援を停止するかなどが焦点となります。
ヨーロッパ中部のスロバキアでは先月30日、議会選挙が行われました。
統計局によりますと、開票率99.56%の時点で、ウクライナへの軍事支援の停止を訴え、ロシアへの制裁に反対するフィツォ元首相率いる左派の野党「方向・社会民主主義」が得票率23%余りで1位となっています。
スロバキアのこれまでの政権は、NATO=北大西洋条約機構の加盟国としては初めて戦闘機をウクライナに送るなど軍事支援を進め、ロシアへの制裁についてもEU=ヨーロッパ連合と足並みをそろえてきました。
フィツォ氏率いる党は、ロシアへの制裁は物価の高騰を引き起こし国民を苦しめるだけだなどとロシア寄りの主張を訴え、軍事侵攻の影響に不満を募らせる層などを中心に支持を広げたとみられます。ただフィツォ氏率いる党は単独で過半数を確保できておらず、今後、連立政権の発足に向け、交渉を行う見通しです。
その行方はウクライナを支援するEUの結束にも影響を与えかねず、フィツォ氏が政権を握った場合、ウクライナへの軍事支援を停止するかなどが焦点となります。
専門家 “ロシア寄りの主張は選挙に勝つため”と分析
スロバキアのシンクタンク、ブラチスラバ政策研究所のバシェチカ所長は、これまで3度首相を務めたフィツォ氏について、もともとロシア寄りの政治家ではないとした上で、「フィツォ氏は国民のかなりの数がロシア寄りだと知っていて、ロシアのプロパガンダだけでなく、反欧米的な考え方をまねている」と指摘し、選挙に勝つための戦略として意図的にロシア寄りの主張を繰り返していると分析しています。
そしてフィツォ氏が政権を握った場合、「選挙期間中ほどではないが、反ウクライナ的言動を続け、早期の和平交渉も求め、ロシア側の主張を繰り返すかもしれない」と指摘しました。
一方で停止を訴えるウクライナへの軍事支援については、第3国経由で弾薬を送るなどEUやNATOとの決定的な対立を避ける対応を取る可能性があるとの見方を示しました。

 

●ウクライナのロシア支配地域、地方選で編入支持=プーチン大統領 10/2
ロシアのプーチン大統領は30日、最近行われた地方選挙でロシアへの編入を望むウクライナのロシア支配地域住民の意向が反映されたとし、昨年の住民投票結果を再確認するものだとの認識を示した。
ウクライナ4州の併合宣言から1年となる節目に公開されたビデオ演説で、併合を支持する当局者らが9月上旬の地方選挙で勝利したことでロシアに加わるという選択が改めて鮮明になったと指摘。
「1年前の歴史的な住民投票と同様に、人々は再びロシアと共にあることを表明・確認した」と述べた。
昨年2月に開始したウクライナ侵攻について、「全面的な内戦」と「異なる考えを持つ人々に対するテロ」を引き起こしたウクライナの民族主義的指導者から人々を救う作戦との立場を繰り返した。
ロシアは昨年9月にウクライナ東部ドネツク州とルガンスク州、南部へルソン州とザポロジエ州の一部地域で住民投票を実施。圧倒的多数が賛成したとしてロシアへの併合を宣言した。
●プーチン氏、習氏との会談に期待 建国74年に合わせ祝電 10/2
ロシア大統領府は1日、プーチン大統領が中国の建国74年に合わせて習近平国家主席に祝電を送ったと発表した。中国での巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議に合わせた首脳会談を念頭に「近く行う交渉が、全ての分野におけるロ中の建設的関係の強化と、ユーラシア地域や世界の安定に貢献すると確信している」と期待を示した。
また中国が習氏の指導下で「国際舞台で地位を強化し、地域と世界の重要な問題の解決に積極的に関与している」と称賛。ロ中は包括的パートナーシップと戦略的関係に基づき「全ての分野で効果的に協力し、国際問題でも連携している」と指摘した。
●ウクライナ戦争に終止符か?ロシア外相発言から見えた「停戦のヒント」 10/2
欧米諸国からの強力な支援を受け反転攻勢を続けるウクライナと、攻撃の手を緩めることのないロシア。先日開かれた国連安保理の会合でも両国は非難の応酬を繰り広げましたが、戦争はこのまま泥沼化の一途を辿るしかないのでしょうか。
ウクライナ戦争停戦のラストチャンスか。露外相の意外な国連での発言
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻直後、この戦いは数日のうちにロシアの圧勝で終わり、ロシアの条件下での停戦合意ができるという見込みが強く存在しました。
しかし、実際には今日に至るまで、およそ580日強にわたって両国間での戦闘は続き、ロシアによる一方的な支配地域を巡る攻防は一進一退の状況で、ロシア・ウクライナの当事者たちも、ウクライナの背後にいる欧米諸国とその仲間たちも、この戦争の長期化を見込んだ対応を取り始めています。
欧米諸国とその仲間たちから膨大な支援を受け、ロシアに対する反転攻勢を強め、【2014年の国境線まで領土を回復する】ことを目標に掲げているウクライナのゼレンスキー大統領は、支援を受け、その支援がウクライナの生死を左右する命綱であるがゆえに、ロシアに対して振り上げ、国際社会を味方につけるために掲げた拳を下げるチャンスを逸しています。
NATO加盟を希望し、今夏開催されたNATO首脳会談でNATO加盟に向けた動きが始まるものとの期待は、NATO諸国の首脳たちが抱く「ロシアとの直接的な戦争に巻き込まれたくはない」という堅い意志に阻まれ、しばらくは加盟申請に関する議論さえ始められない始末です。
NATOからは「戦闘中の国家の加盟申請を受けることはできないため、状況が落ち着くまでは議論は開始しない」という回答が寄せられましたが、それは実質的にウクライナ政府にロシアとの停戦協議を持つことを要求すると理解され、ゼレンスキー大統領が掲げる「全土奪還」という究極目標の達成に向けた動きとは相反する内容となるため、ウクライナは大きなジレンマに陥っていると思われます。
「現時点ではロシアと停戦協議のテーブルに就くことは不可能」という立場を表明し、欧米諸国とその仲間たちから供与された最新鋭の兵器(例:英国からのストームシャドーミサイル)を投入して、ロシア軍に占領されているウクライナ国内の都市にあるロシア軍施設や、ロシア国内の空軍基地などへの攻撃を激化させる行動に打って出ています。
その狙いは「できるだけ早期に、ウクライナにとってできるだけ有利な条件で停戦に持ち込むための政治的な土台を確保する」ことと考えられます。
士気を保つためと、欧米諸国とその仲間たちからの継続的な支援の確保のために、表立っては非常に高い軍事的な目標を掲げざるを得ない状況になっているものの、実際にはかなり状況は苦しく、欧米諸国とその仲間たちからの支援の途絶は、ウクライナの存続の可否(生死)を決定づけることに繋がるため、ロシアに対する反転攻勢は継続しつつも、現時点では「完全なるvictoryの追求」や「2014年、または1991年時点の国境ラインまでの回復」といった長期的な目標の追求よりも、「まずは一旦、停戦する環境を整えること」に政策的・戦略的な優先順位が移っているように見えます。
その背後には、来秋に大統領選挙と議会選挙を控えるバイデン政権とアメリカ連邦議会からの圧力が存在し、「現実的な対応を早急に望む」という、先週のワシントンDC訪問時にバイデン大統領や議会関係者からゼレンスキー大統領に伝えられた意向とも重なるものと考えられます。
ウクライナの「クリミア半島奪還」はあり得るか
では「ウクライナにとって有利な政治的な環境」とはどのような状況を指すのでしょうか?
多数の関係者から寄せられる分析を見てみると、それは「クリミア半島の奪還に向けた環境づくり」という答えにたどり着きますが、そのために「ウクライナ南部地域(ロシア本土からクリミアを繋ぐ回廊)の寸断を行い、クリミア半島のロシア軍と親ロシア派勢力への補給路を断つことが出来るか否か」が大きなカギになります。
英国の情報機関の分析では、ここ2週間から3週間の間に、ウクライナ軍がウクライナ南部の回廊を遮断することが出来るか否かにすべてがかかっているとのことです。
もしウクライナ軍による反転攻勢作戦を通じて、ロシアにとっての回廊を寸断し、クリミア半島をロシア本土と切り離すことが出来れば、近未来的にクリミア半島をロシアから奪還する土台が整うということにあります。
そうなれば予想外に早期の停戦を実現する可能性が高まりますが、その際に必ずと言っていいですが、ウクライナサイドがロシアに突き付ける“停戦のための条件”は【クリミア半島のウクライナへの返還とロシア軍の完全撤退】という内容になるはずです。
ロシアが“その”時点でウクライナ側の要求を検討するかどうかは、ちょっと次元の違うお話になりますが、その素地、つまりそのような要求をロシアに突き付ける条件がそろった時点で、ウクライナとしては欧米諸国とその仲間たちに対して【継続支援こそが、ロシアの野望を打ち負かす最低かつ必要条件である】という要求ができる最低条件となります。
仮に今後の反転攻勢がうまく行き、クリミア半島の帰属・返還を議題に挙げ、ロシアを停戦協議のテーブルに引きずり出すことが出来たとして、“クリミア半島の奪還”の実現可能性はどれほど考えられるでしょうか?
長期的なタイムスパンで見た場合、もしかしたら可能性は出てくるかもしれませんが、欧米諸国とその仲間たちが望む“今年中の解決・停戦協議の開始”という短期的なタイムスパンで見た場合、実現可能性、つまりロシアサイドがこれを話し合うことに合意する可能性は極めて低いと考えます。
その理由はプーチン大統領の政治的な理由にあります。
プーチン大統領への非難が強まっていた2014年に、電光石火の作戦でクリミア半島を奪い、ロシアによる実効支配を実現したことは、自身の支持率の急回復と政権基盤の盤石化に繋がった貴重なレガシー、そして権力の象徴として捉えられているため、これを失うことは、ほぼ疑いなくプーチン大統領の政治的神通力の著しい低下を意味することになりますので、来年3月に大統領選挙を控えるプーチン大統領がクリミアを手放すことに合意することは、まず考えられません。
クリミアに関わる要求がウクライナから寄せられた場合、起きうるシナリオはロシアによる戦闘レベルアップであり、クリミア死守のためには戦闘・戦争のエスカレーションも辞さないという姿勢から、ロシア軍による大規模同時攻撃がウクライナに対して行われることにつながると思われます。
核兵器の使用をプーチン大統領は思いとどまる傾向にありますが、ロシア政府内で勢力を拡大し、発言力を増す強硬派に押されて、これまでの【使用を厭わない】という威嚇から、【使用に向けた最終段階への移行】という極限の緊張状態に向かうかもしれません。
独立宣言下で合意したウクライナ領土を露が認める可能性も
ただよりあり得るのは、ウクライナ南部とクリミア半島周辺にウクライナを引き付けておき、キーウをはじめとするウクライナ中部とポーランドなどの中東欧諸国との国境線に近い都市に対する一斉ミサイル攻撃の連日の実施で、圧倒的な実力差をウクライナに思い知らせ、ウクライナ政府が欧米諸国とその仲間たちの協力を受けて実施する【ウクライナは徐々に前進している】という情報戦略による効果も一気に叩き潰すという作戦に出るのではないかと考えます。
その表れに、先週、国連総会および特別安全保障理事会会合にロシア代表として参加したラブロフ外相は「交渉による解決は今のところは考えられず、ウクライナが戦争で雌雄を決するというのであれば、ロシアは受けて立つ。戦場でぜひ解決しよう」と発言し、ロシアはこの戦いにおいて一歩も退かず、目的を完遂するという決意を表明しています。
これだけ見ると、もう平和的な解決の糸口など存在せず、ロシアもウクライナもとことんまで戦い、著しく消耗し、何らかの形でこの戦争に決着がついた際には、どちらも復興不可能なレベルまで破壊されているのではないかという状況を想像させられますが、本当にもう立つ瀬はないのでしょうか?
希望的観測を含め、私はまだ停戦を実現する可能性を諦めていません。
それは私が調停グループにいて、停戦協議が本格化した際、何らかの役割を担うかもしれないからということからではなく、先週、UNの場で「戦争継続やむなし」と受け取れる発言をしたラブロフ外相の“別の発言”の中に【ロシア側からの停戦の呼びかけと条件】を見た気がしたからです。
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、プーチン大統領はもちろん、他のロシア政府幹部が口にする正当化の理由の中で【NATOが東進を続け、ロシアの隣に位置するウクライナをNATOに加盟させるという事態は絶対に許容できない】という内容を何度も繰り返しています。
その背後には常にプーチン大統領が抱くNATOと欧米への根強い不信感があります。プーチン大統領の過去の発言によると、ロシアが旧ソ連の地位と遺産を相続し、ワルシャワ条約機構を解体させることに合意した際、欧米諸国との間で「統一ドイツよりも東にNATOを拡大しない」という約束が結ばれたそうですが、その約束はその後反故にされ、NATOは限りなく東方展開し、ロシアが裏庭と位置付けてきたバルト三国を飲み込んだことで、ロシアは大きな安全保障上の脅威を抱くことになったため、これ以上の東方拡大、特にウクライナに食指を伸ばすことは、ロシアへの宣戦布告に等しいという主張を固めたようです。
ラブロフ外相の発言の中で「1991年にウクライナが旧ソ連邦を離脱する際に合意し、採択された独立宣言に基づいて、ウクライナの主権を承認した。その際、独立宣言(ウクライナ国家主権宣言)の中には、ウクライナは今後、非同盟の国であり、いかなる軍事同盟にも参加しないということが明言されている」ことが強調され、ラブロフ外相は「(プーチン大統領も同じ意見だが)そのような条件が遵守されるという条件下のみ、ロシアはウクライナの領土の保全を支持する」と述べています。
この部分を見ると「ウクライナがNATOへの加盟を、当初の合意の通りに断念し、非同盟・中立の国としてのステータスを貫くのであれば、1991年の独立宣言下で合意したウクライナ領土を、ロシアが認める“可能性がある”」ように解釈できるように感じます。
もしこの解釈が適切だとした場合、ゼレンスキー大統領が停戦、究極的に戦争終結のためにNATO加盟を断念するという条件を呑みさえすれば、停戦の可能性がでてくると考えられますが、実際にはそれほど簡単ではないでしょう。
クリミア問題は棚上げか。考えうる停戦実現のシナリオ
まず【ゼレンスキー大統領とウクライナ政府は、ロシアが再度侵攻してこないという保証を得ることができ、それを信用できるかどうか】という大きな疑問です。
プーチン大統領があからさまにしてきた旧ソ連邦各国のロシアへの再統合という夢と、“ウクライナとベラルーシ、ロシアは不可分の存在”という基本姿勢は、プーチン大統領が存命で権力の座にいる間は不変か、強まる一方であるため、いずれはウクライナへの軍事・非軍事的攻撃を強めるだろうと予想できます。
ゆえに、ゼレンスキー大統領とウクライナ政府としては、身の補償のために、NATOという後ろ盾または“保険”を確保したいと考えるのではないかと予想します。
次に仮にゼレンスキー大統領とウクライナ政府がNATO加盟を諦めることに同意し、公言しても、先ほどのラブロフ外相の発言内容に照らし合わせると、根本的なところでロシアとウクライナ双方が折り合うことが出来ない要素が解決されないことになります。
それはクリミア半島の帰属問題です。
1991年当時の合意内容に基づくならば、ソ連崩壊後は、“クリミア半島はウクライナの領土”とされたため、ウクライナに返還されることとなりますが、2014年にロシアがクリミア半島に侵攻し、一方的に併合したことは、プーチン大統領の政治的なレガシーに位置付けられているため、クリミアを放棄することは考えづらいと考えられるため、一筋縄ではいかないと思われます。
クリミア半島も回復することが至上命題と宣言したゼレンスキー大統領とウクライナ政府に対し、クリミア半島の併合はロシア系住民の権利と安全を保障するための必要な措置であり、住民の大多数をロシア系住民が占めることに鑑みて、クリミアはロシアの一部であることが明白と言いたいプーチン大統領とロシア政府の主張とこだわりは、決して相容れられないものであることは明白です。
しかし、停戦協議を再開し、かつ停戦を実現する可能性が残っているとすれば、「ロシアが一方的に併合した東南部4州―ドネツク、ヘルソン、ルハンスク、ザポリージャの“返還”」がロシア側からのカードとして示され、それをウクライナ側が当面の勝利として受け入れ、一旦、停戦をするというシナリオが成り立つ場合が考えられます。
この場合、クリミアの帰属は未解決案件として残し、2国間での合意に向けたプロセスを国際的に立ち上げ“直し”、調停プロセスに乗せて議論・協議を行うことするという条件に合意したうえで、ウクライナは東南部4州の奪還を“勝利”としてアピールし、ロシアは“NATOの東進・東方拡大を阻止したこと”を国内向けの“勝利”としてアピールするという繕いはできるのではないかと考えられます。
「絶対に停戦協議を行える・話し合いを持つ条件が揃っておらず、とことん戦うしかない」と言われているロシア・ウクライナ戦争ですが、久々に、かなり憶測と希望的観測に基づいた内容であることは否めないものの、無益でかつ多大な犠牲を生み、世界全体に悪影響を与え続けるこの戦争に、一旦、停戦・休憩の機会を与え、沸騰した双方とその後ろ盾の国々の頭を冷やす時間を獲得できるwindowが生まれてきたような気がします。
さほど長くはない「window」が開いている時間
しかし、このwindowが少しだけ開いているのは、さほど長い時間ではないとも感じます。
今年11月には、ウクライナの最大の支援国アメリカが、大統領選まで1年を迎え、国内政治戦が本格化する時期に入ります。それまでに何らかの成果を得てアピールしたいバイデン大統領と民主党と、ウクライナへの支援の行き過ぎと継続に黄信号を灯らせることで、国内回帰を促すことで支持獲得を狙う共和党の政治戦がヒートアップするにつれ、ウクライナが忘れ去られ、明らかに対ロの立場が悪化するタイミングが訪れることが予想されるため、それまでに何らかのプロセスが始動している必要があります。
先述した英国情報機関の分析内容が示す通り、私はこれから2週間から3週間がヤマではないかと見ています。
●バイデン氏、ウクライナ支援継続を約束 支援予算除外「つなぎ予算」成立受け 10/2
アメリカのジョー・バイデン大統領は1日、アメリカはロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を継続すると約束した。前日には、米連邦政府の閉鎖を回避する「つなぎ予算案」が成立期限前に土壇場で可決・成立したが、ウクライナへの追加援助はこれに盛り込まれなかった。
野党・共和党の強硬派は、ウクライナへの軍事支援追加に反発している。強硬派の多くは、ウクライナでの戦争に対するバイデン大統領の姿勢に公然と反対している。
しかし、バイデン氏は、ウクライナはアメリカの支援を「あてにできる」と述べた。つなぎ予算成立を受けてホワイトハウスで会見する中で、ウクライナ支援を継続すると強調した。
「どのような状況だろうと、ウクライナへのアメリカの支援が中断されることを、我々は容認できない」と、大統領は述べた。
バイデン氏は軍事支援の回復について、「確実に提供すると(ウクライナには)安心してもらえる」と述べた。さらに、「アメリカの同盟諸国とアメリカ国民とウクライナ国民には、アメリカは必ず皆さんを支援すると、あてにしてもらいたい。アメリカは皆さんを見捨てて立ち去ったりしない」と強調した。
9月30日夜に成立したつなぎ予算には、ホワイトハウスの最優先事項であるウクライナ政府への60億ドル(約9000億円)相当の軍事援助は含まれていない。
数万人の連邦職員は10月1日午前0時1分(アメリカ東部標準時夏時間、日本時間10月1日午後1時1分)から無給の一時帰休となり、様々な政府サービスが停止される可能性があった。
共和党内の少数の強硬右派議員は、頑なに歳出削減を要求し、議会での交渉を妨げた。大多数の議員は連邦政府の閉鎖回避を優先させたため、共和党強硬派が強く反対していたウクライナへの追加援助は、今回のつなぎ予算案に盛り込まれなかった。
ロシアが昨年2月にウクライナへの全面侵攻を開始して以降、アメリカはすでにウクライナに対して約460億ドル(約6兆8900億円)の軍事援助を行っている。
バイデン氏はさらに、240億ドル(約3兆6000億円)の追加予算を要請している。
今年に入ってからは、米軍の主力戦車「M1エイブラムス」をウクライナに供与したほか、長距離射程の地対地ミサイル「ATACMS(陸軍戦術ミサイル・システム)」をウクライナに供与する方針だと報じられている。ウクライナ軍は同国南部で、ロシア軍に対する反転攻勢をじわじわと続けている。
共和党強硬派が反発
9月30日夜に成立した、10月1日から45日間の予算執行を可能にする「つなぎ予算」では、当面の軍事資金提供の継続は見送られた。
与野党の上院幹部は共同声明で、今後数週間で「米政府による」ウクライナ支援の「継続を確保する」意向を示した。
しかし、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が追加支援を求めてワシントンを訪れてからわずか9日後に、ウクライナ支援を盛り込まないつなぎ予算が成立した。このことは、下院の共和党強硬派がここ数カ月で、戦争に反対する姿勢を強めていることを映し出している。
下院では共和党が僅差で、上院では民主党が1議席差で過半数を占めており、あらゆる財政措置の実施にも両党の賛成が必要となる。
マット・ゲイツ下院議員(共和党、フロリダ州)は9月30日に記者団に対し、「議会ですでに承認された資金の額は、必要以上の額と多すぎる額の間くらいだ」と述べた。
マージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党、ジョージア州)は、ウクライナ政府への提供が決まっている額はすでに大きすぎると批判し、「ウクライナは51番目の州ではない」と述べた。
こうした共和党強硬派のアプローチは、民主党議員から猛反発を招いた。
マーク・ワーナー上院議員(民主党)は、「このタイミングでウクライナから手を引くなど、信じられない」とした。
こうした騒動とは裏腹に、ウクライナ政府関係者は、45日間の期限のつなぎ予算は自国にとっての外交的「チャンス」と位置づけようとしている。この間にウクライナは、さらに長期的な支援を確保しようという姿勢で、その外交努力に「45日」という締め切りが一方的に押し付けられたようなことだと、ウクライナ政府筋は話している。
ウクライナ外務省は、「アメリカからの援助の流れに変化は起きない」としており、30億ドル相当の人道的・軍事的支援は今でも届く予定だという。ただ、「現在進行中の事業」に影響が出るかもしれないことは認めている。
ウクライナの国会議員オレクシイ・ゴンチャレンコ氏は、アメリカからの資金援助停止はウクライナ政府にとって懸念材料だと認めた。
「米議会での採決は気がかりだ。アメリカは必要な限りウクライナと共にあると言っていたのに、その場しのぎの取り決めからウクライナ支援が除外された。これはウクライナだけでなく、ヨーロッパにとっても警戒すべき兆候だ」と、ゴンチャレンコ議員はBBCに語った。
「ウクライナ疲れ」
この政治的混乱は、西側諸国が抱える「ウクライナ疲れ」の症状の1つだ。米共和党内でウクライナ支援への懐疑的な見方が強まっていることや、スロヴァキアで最近実施された選挙でロシア政府寄りのポピュリスト政党が勝利したことは、ウクライナと欧州連合(EU)にとって懸念材料といえる。
キーウでBBCのインタビューに応じた、EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表は、ウクライナへの資金援助に関する米議会の今回の決定を「心配している」という。
「私には今後どうなるかはわからない」としつつ、「ひとつはっきりしていることがある。我々ヨーロッパ人にとって、ロシアのウクライナに対する戦争は、存亡に関わる脅威なので、我々はそれにしかるべく対応しなくてはならない」とボレル氏は述べた。
ゼレンスキー氏は毎晩定例の演説で、誰かがウクライナの戦いを止めさせるなど、あり得ないことだと述べた。
「我々のたくましさ、我々の忍耐、しぶとさ、不屈の精神を、誰かが『停止』させるなど、あってはならないし、そんなことはできない。日常的にも緊急的にも。我々のたくましさにも忍耐にも、どれにも『消費期限』や『使用期限』などない。我々が抵抗を止める、戦いの期限などない。唯一の期限は、我々の勝利だ。そして、勝利を引き寄せる連日の戦いの中、我々はこう言う。『必要なだけ、戦い続ける』と」 「(2022年)2月24日の最初の数分間にもそうしていたし、この585日間ずっとそうしてきた。これからもそうする」と、ゼレンスキー氏は強調した。
●米つなぎ予算「サプライズ突破」、ウクライナ支援除外…反転攻勢の影響懸念 10/2
10月からの2024会計年度予算を巡り、米議会は予算措置期限だった9月30日の急転直下の与野党合意により政府機関の一時閉鎖を回避した。民主、共和両党の妥結によってウクライナ支援予算が除外され、ロシアに対する反転攻勢への影響が懸念される。
事態が急展開したのは、期限直前の30日午後だった。共和党のケビン・マッカーシー下院議長は、前日に否決されたつなぎ予算案から大幅な歳出削減や国境警備強化など共和党独自の主張を削除し、政権が求めていた災害対策費を加えて採決にかけた。極端な主張でマッカーシー氏を揺さぶっていた党内の保守強硬派との協調をあきらめ、民主党と歩調を合わせる路線にかじを切った。
下院の採決では、多数派の共和党から90人もの造反を出したが、民主党はほぼ全員が賛成に回った。民主系が過半数を占める上院でも、反対は共和党のみだった。米メディアは「サプライズ突破」などと相次いで速報した。
保守強硬派は、超党派で合意すれば議長解任の動議を出すと警告していた。マッカーシー氏は「大人の対応をしたい。職を危険にさらす必要があるのなら、私はそうする」と述べ、混乱回避に向けた苦渋の決断だったことを強調した。今後、動議が出る可能性がある。
民主党下院トップのハキーム・ジェフリーズ院内総務は記者団に「米国民の勝利であり、議会を乗っ取ろうとした過激派の全面敗北だ」と歓迎した。
ただ、今回の決着は政権側の完全勝利とは言いがたい。侵略開始以降、バイデン政権はウクライナを全面支援する姿勢を示してきたが、国民生活の混乱回避と引き換えに支援予算を犠牲にする形になったためだ。
政権はこれまで、10月からの3か月のウクライナ支援で240億ドル(約3・6兆円)の予算を米議会に求めてきた。11月17日までのつなぎ予算から支援関連が除外されたことで、必要な予算を確保できなくなる恐れがある。
バイデン大統領は30日の声明で「いかなる状況でも米国のウクライナ支援を中断させるわけにはいかない。重要な時期であり、必要な支援の可決を期待する」と述べ、つなぎ予算とは別の予算措置を求めた。
しかし、2024年の大統領選に向けては、共和党候補者指名争いをリードするトランプ前大統領が、バイデン氏の長男の疑惑が解明されるまで「追加の武器供与をすべきでない」と訴えている。主要候補の間でも「白紙小切手は渡さない」(フロリダ州知事のロン・デサンティス氏)などと支援抑制論が幅を利かせる。
ウクライナへの「支援疲れ」が国民世論に広がる中、バイデン氏が呼びかけた予算措置に共和党が歩み寄る見通しは立っていない。
●スロヴァキア総選挙、ウクライナ支援に反対の政党が勝利 連立交渉へ 10/2
中欧スロヴァキアで1日、総選挙の投開票があり、ロベルト・フィツォ元首相率いる親ロ派の左派ポピュリスト政党「道標・社会民主主義」(SMER-SSD)が第1党となった。
出口調査では中道リベラル派の優勢が伝えられていたものの、最終的にはSMERが24%の票を獲得した。
SMERは、選挙で勝利すれば直ちにウクライナへの軍事支援を中止すると公約していた。
フィツォ党首は2006〜2010年と、2012〜2018年に2度、首相を経験している。2018年には、政権幹部の汚職を調査報道していたジャーナリスト、ヤン・クツィアク氏の殺害事件を受けて辞任した。
今回の勝利を受け、フィツォ氏は新政権樹立に向けた連立交渉を開始する。
第2党は出口調査で優勢だった「プログレッシヴ・スロヴァキア」(PS、17%)、第3党は親欧派の「声・社会民主主義」(Hlas、15%)だった。
Hlasは、2020年にSMERから分離した左翼政党。同党のペテル・ペレグリーニ党首は連立の可能性を示唆しており、「議席の分布から、Hlasがいなければ、正常に機能する連立政権が成立しないことがわかる」と語った。
フィツォ氏はHlasのほか、ナショナリズム政党の「スロヴァキア国民党」(5%)と連立するとみられている。
一方、新たに選出された議会には、自由意志主義から極右まで7党が議席を獲得しており、連立交渉が長期化・複雑化する可能性がある。
ウクライナに「銃弾1発送らない」
フィツォ氏は「親ロ派政治家」と呼ばれることを好まないが、ロシア政府は今回の選挙結果を歓迎するものとみられる。
フィツォ氏は先に支持者らに対し、「SMERが政権入りすれば、銃弾1発といえどもウクライナには送らない」と話していた。
こうした脅しは、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)加盟国に懸念を抱かせる一方で、ソーシャルメディア上では、伝統的にロシアに親近感を抱くスロヴァキア人の支持を得ていた。
スロヴァキアはこれまで、ウクライナ政府を安定的に支援し、地対空ミサイルやヘリコプターを供与してきた。さらに、退役した戦闘機「MIG-29」戦闘機を部隊ごと寄付している。
隣国ハンガリーの右翼政権を率いるオルバン・ヴィクトル首相は、フィツォ氏の勝利をたたえた。
オルバン氏はソーシャルメディアに「Guess who's back!」(誰が戻ってきたと思う!)と英語で投稿し、「いつでも愛国者と仕事をするのは良いことだ」と付け加えた。
オルバン氏と同様、フィツォ氏はウクライナでの戦争について「ウクライナのナチスとファシストが始めた」と主張してきた。その上で、唯一の停戦方法は和平交渉だとしている。
フィツォ氏の勝利は、ウクライナをめぐるNATOとEUの結束に、ドナウ川沿いで非常に明白な亀裂が入ったという印象を与える。
第2党となったPSは選挙期間中、「オープンで、寛容で、コスモポリタンな社会」という構想を提示し、グリーン政策や性的少数者(LGBTQ)の権利といった問題に関して、EU内のリベラル路線を踏襲することを提唱していた。
SMERは、この構想を「リベラル・ファシズム」として否定。選挙活動では代わりに安定、秩序、社会保障などを掲げた。フィツォ氏はまた、スロヴァキア経由で西欧に向かう移民の増加を懸念している。
リベラル派のズザナ・チャプトヴァ大統領は、フィツォ氏の勝利に控えめな反応を示した。
チャプトヴァ大統領は、フィツォ氏の勝利を祝福せず、カメラの前にも姿を現さず、報道官を通じて声明を発表。「選挙の勝者は、国民の期待を最も高めているだけに、今後の展開に最大の責任を負うことになる。スロヴァキアのために、私たち全員のために、その責任を果たすことが重要だ」と述べた。
スロヴァキア初の女性大統領、チャプトヴァ氏の任期は来年までだが、ここ数カ月、自分や家族に対する敵対攻撃を受けているため、再選を目指さないとしている。また、フィツォ氏の支持者から殺害の脅迫を受けたとして、フィツォ氏を提訴している。
●プーチン、ワグネル後継者と面談…「傭兵、ウクライナ戦場に投じなければ」 10/2
ロシアのプーチン大統領が傭兵組織ワグネル・グループの高官要人に会ってワグネルの傭兵をウクライナ戦争に投じる方案などについて議論したとニューヨーク・タイムズ(NYT)が先月29日(現地時間)、報じた。
この日、クレムリン宮(ロシア大統領府)はプーチン大統領がユヌスベク・エフクロフ国防次官を同席させる中でワグネル・グループ創立メンバーでもあるアンドレイ・トロシェフ氏と会った映像を公開した。
プーチン大統領はトロシェフ氏に「あなた方は1年以上戦闘に参加してきた。その戦いがどんなものであるか、どのようにすればよいかを知っている」とし「戦いを再びうまく行うために先決しなければならないことが何かを知っている」と話した。
これに先立ち、プーチン大統領は6月29日、エフゲニー・プリゴジン氏をはじめとするワグネル・グループ指揮官30人余りを呼び集めた席で「セドイ(灰色の髪の毛を意味する単語)」の下で戦闘を持続するよう指示した。セドイとは、ワグネル・グループ支持者で構成されたテレグラムチャネルでトロシェフ氏を示すコードネームとして認識されているという。フランス財務省もまた、セドイがトロシェフ氏を意味する別称であることを確認しているという。
トロシェフ氏はワグネルの高位指揮官であり元ロシア軍大佐で、チェチェンやシリアなどの地で活動した履歴がある人物だ。
特にシリアではバッシャール・アサド政権を助けて反乱軍を相手に戦った。このためトロシェフ氏は2021年12月欧州連合(EU)の制裁名簿に入った。
トロシェフ氏はワグネル・グループの共同設立者であるロシア特殊部隊指揮官出身のドミトリー・ウトキン氏と密接な関係であることが分かった。
●汚職対策で行き詰まるゼレンスキー政権 戦況にも影響か 10/2
ウクライナ軍内で相次ぎ発覚している汚職問題が、ロシアに対する反転攻勢作戦の先行きに影を落としている。徴兵を見逃す見返りとして、当局幹部が巨額の賄賂を得ていた事実が明るみに出ているためだ。
戦争が激化、長期化し、徴兵作業は厳しさを増すなか、一連の事態は国民の士気を下げるのは確実。ゼレンスキー政権は、違法行為の徹底的な摘発や、人事の入れ替えを進めているが、一連の問題は国内の厭戦気分を高めるだけでなく、国際社会によるウクライナへの支援の継続にも支障を及ぼしかねない。
徴兵逃れるためにウソの証明書発行
「俺は何も知らない。俺は何も買っていない。もう、十分説明しただろう。俺は関係ない。俺の親類がスペインで土地を買ったかどうかなど、聞いていない」
ウクライナ南部オデッサ州で、「徴兵事務所」のトップを務めるイェベン・ボリソフ軍事委員は現地メディアの取材に、そう語るのが精いっぱいだった。委員は、男性が徴兵を逃れるために「重い病気に罹患している」などとウソ≠フ証明を行う「兵役免除証明書」を発行する斡旋ビジネスで、巨額の利益を得ていた。さらにその利益で、親族らがスペインで400万ドル相当の別荘や高級自動車を購入していた事実も発覚した。
黒海沿岸にあるオデッサ州は、ロシア軍が占領するクリミア半島に隣接するウクライナの重要拠点で、ロシア軍によるミサイル攻撃に繰り返し苦しめられている地域だ。そのような州で、このような不正が堂々と行われていた事実は、国民に強い衝撃を与えた。
同委員はその後逮捕され、解任されたが、類似の事件の発覚は、ウクライナ国内で後を絶たない。業を煮やしたゼレンスキー大統領は8月、徴兵の責任を担う国内のすべての州の軍事委員の解任を発表。さらに、徴兵をめぐる不正について、112件もの刑事手続きが行われていると表明した。
「徴兵の業務については、前線で戦い、健康と、(地雷などで)足を失いながらも、ウクライナの尊厳を守った人々が付くことこそが望ましい」とも主張し、負傷兵らに寄り沿う姿勢も強調した。
ゼレンスキー氏は同月末にも、演説中に「兵役免除証明書の提出が、昨年2月の開戦時と比べて、十倍以上に膨らんだ州がある」と指摘し、それらのケースを調査していると表明した。違法な証明書の取得には「3000〜1万5000ドルが支払われている」と具体的な金額まで明かし、政府として問題を看過しない姿勢を強調した。
正論である一方、そこまで言い切らねばならないのは、このような不正が戦況とウクライナの国内状況に取り返しのつかないダメージを与えかねないことを、大統領自身が熟知しているからにほかならない。ウクライナの社会調査では現在でも「ロシアに徹底抗戦する」との意見が圧倒的多数を占めている。しかし、自国軍内での不正の蔓延は、そのような国民の士気に甚大な影響を及ぼすのは必至だからだ。
繰り返される汚職スキャンダル
ウクライナ軍や政府をめぐる汚職事件は後を絶たない。1月にはウクライナ国防省による軍用食料の調達をめぐり、特定企業から不当に高い価格で食料を調達する手法で、300万ドル以上が着服されていたと報じられた。
同月には、インフラ発展省の次官が、発電機を含む支援物資の購入に充てられる資金を横領した事件も発覚した。同次官もまた、企業と共謀して物資の購入金額を不当に吊り上げ、40万ドルあまりを着服していたという。次官のオフィスでは、大量のドルやウクライナの通貨であるフリブナの紙幣が発見されたという。
ゼレンスキー大統領は「(政府関係者から汚職で巨額の利益を得ていた)過去にはもう戻らない」と強調したが、厳冬期にロシア軍の攻撃で電力を奪われる国民を守るための発電機の購入費用が汚職で消えていたという事実は、ウクライナの汚職の深刻さを物語ってあまりあった。
汚職問題に関して、従来はウクライナのメディアが精力的に実態を報じていたが、戦争が始まってからは、それらの報道は鳴りを潜めていた。しかし、戦争が長期化するなか、メディアは再び汚職問題をめぐる報道に注力しはじめており、そのような状況も、より多くの汚職問題が公になる背景にあるとみられている。
国民の不満が高まるなか、ゼレンスキー大統領は9月上旬には、オレクシー・レズニコフ国防相の解任に踏み切った。レズニコフ氏をめぐっては、1月に軍の食料調達を巡る汚職が発覚した際も解任が取りざたされたが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされる人物だった。
レズニコフ氏は2022年2月のロシアによる侵攻開始当初からゼレンスキー政権を支え、海外からの軍事支援の確保などでも優れた手腕を振るったとされており、ゼレンスキー氏は解任は避けたい意向だったとみられる。ただ、相次ぐ不正に対する国民の目の厳しさが増すなか、解任に踏み切らざるを得なかったもようだ。ゼレンスキー氏は9月18日にはさらに、国防省の次官6人全員を解任している。
先が見えない戦争
このような状況は、今後の戦況に甚大な影響を及ぼしかねない。
22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、すでに1年半が経過したものの、戦争の終結は依然見通せない状況が続いている。開戦当初は、ウクライナ軍への入隊希望者が相次ぎ、軍は兵力の確保にそこまで苦心することはなかった。
しかし、戦争が長期化するなか、開戦当初と同様に国民の戦意を維持することは困難で、徴兵が思うように進まない実態が浮かび上がっている。
ウクライナ政府は8月から、徴兵を推進するための新たなキャンペーンを開始。徴兵適齢期の男性らに、徴兵事務所に足を運んでもらうことを促進するためのものだが、キャンペーンが掲げたスローガンは「勇気は、恐怖を乗り越える」だった。
マリャル国防次官(後に解任)は「徴兵事務所を訪れた人のすべてが徴兵されるわけではない。徴兵されたとしても、誰もが前線に行くわけではない」と強調したが、そのような説明をせざるを得ない事実に、ウクライナ軍が徴兵でいかに苦戦しているかが分かる。
マリャル氏はまた、「徴兵をめぐる汚職を排除する」と約束した。ロシア軍との終わりの見えない戦争に巻き込まれるなか、賄賂を支払える財力のある家庭の子弟が徴兵を逃れ、その金で徴兵事務所の要人らが私腹を肥やしていた。そのような事実は、軍に加入する人々の戦意に深刻な影響を与えている。
ウクライナ軍は6月上旬から反転攻勢を開始し、南部を中心にロシアによる占領地の奪還作戦を進めている。ドイツ製のレオパルト2戦車や米国製のブラッドレー歩兵戦闘車などを投入し、さらに米英から供与されたクラスター弾や劣化ウラン弾までを使用することで、一部では、ロシア軍の強固な防衛線を突破したと伝えられるなど、少しずつ戦果を出しつつある。
しかし、そのスピードは決して速いとはいえず、ロシア軍の激しい抵抗を受けるなか、犠牲者が増大している。開戦から1年半を経るなか、米メディアは8月下旬、ウクライナ軍の死傷者数が約20万人、ロシア軍は約30万人に達したとの米軍関係者の証言を報じている。
ウクライナ軍は戦況の膠着を受け、米軍の助言を受けて反転攻勢戦略を見直し、南部メリトポリ方面に戦力を集中する作戦を取り始めたとの報道もある。ただ、ウクライナ軍が戦力を集中させれば、ロシア軍にとっても標的を絞りやすくなるため、ウクライナ軍の損失をさらに増大させかねない危険性も指摘される。
米国は汚職調査
ウクライナで再び明るみに出始めている汚職問題は、同国の最大の支援国である米国の動きも躊躇させている。米政府はすでに、ウクライナの汚職問題を監視するチームを派遣したと報じられているが、国内で共和党、また国民の間でも強まるウクライナ支援拒否の動きを抑え込む狙いがあるとみられる。ただ、ウクライナ国内で同様の事態が続けば、米国内の世論を支援支持に向けるのは一層厳しさを増すのは確実だ。
ゼレンスキー大統領は9月21日に米ワシントンでバイデン大統領と会談し、ウクライナに対する支援継続を訴えた。バイデン氏は「パートナーや同盟国と共に、米国民は世界があなた方と共に立つよう、できることを全てやる決意だ」と応じたという。
汚職問題を契機に欧米の支援が滞れば、ウクライナ軍はロシアとの戦いでさらに厳しい状況に追い込まれるのは必至だ。ゼレンスキー氏はロシア、そして国内では汚職の撲滅という、二つの戦いに同時に勝利する必要がある。
●ウクライナ、防衛産業フォーラム開催 欧米企業誘致し集積地目指す 10/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、首都キーウ(キエフ)で開いた海外の防衛企業とのフォーラムで、ロシア軍への反転攻勢のための武器供給を増やすために欧米の装備品メーカーと提携することでウクライナの防衛産業を「一大集積地」にしたいと述べた。
フォーラムには約30カ国から250社強が参加。ロシア軍による攻撃が続くウクライナ国内で、海外企業と協力して武器の製造や修理の能力をどのように構築するかが議題となった。
ゼレンスキー氏は戦況について「後退することなく前進することが非常に重要な局面で、前線での成果が日々求められている」と説明。
「ウクライナの防衛に必要な装備品や、ウクライナの兵士が使用する先進的な防衛システムの生産を現地化し、前線で最高の結果を出すことにわれわれは関心がある」と語った。
同氏によると、防空と地雷除去が当面の優先課題で、ミサイル、無人機、砲弾の国内生産を強化することも目指している。
独ラインメタルや英BAEシステムズなど欧米の防衛大手数社が既にウクライナの防衛企業との提携を発表している。
ウクライナ外務省によると、国内防衛企業は無人機、装甲車、弾薬の共同生産、技術交換、部品供給について、海外企業と約20の契約を結んだ。
●ウクライナの勇気は誰も「閉鎖」できず、ゼレンスキー氏が演説 10/2
ウクライナのゼレンスキー大統領は「防衛者の日」に当たる1日に公表した事前録音の演説で、ロシアに対する自国の戦いを弱めるものは何もないと述べた。前日に米議会がウクライナ支援を含んでいないつなぎ予算を可決し、ひとまず政府機関閉鎖を回避したが、これには直接触れずに勝利へ向け戦う決意を繰り返した。
ウクライナの安定、忍耐、強さ、勇気を「シャットダウン(閉鎖)」することは誰にもできないと述べた。同国ではこのシャットダウンという動詞はロシアの攻撃に伴う停電を指す際にしばしば用いられる。
その上で、ウクライナは勝利の日になって初めて抵抗と戦いをやめるだろうと語った。
一方、ウクライナのウメロフ国防相は、オースティン米国防長官と電話会談したことを短文投稿サイトのX(旧ツイッター)で明らかにし、米国の支援が継続されるとの確約を得たとつづった。
バイデン米大統領は1日、議会共和党に対し、ウクライナへの追加支援を提供する法案を支持するよう求め、政府機関を閉鎖の危機にさらした瀬戸際政策にうんざりしていると述べた。
●EU、ウクライナへの軍事支援拡大へ=ボレル上級代表 10/2
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は1日、ウクライナへの軍事支援を拡大する方針を表明した。
ウクライナを訪問しているボレル氏は、先月就任したウメロフ国防相と対面で初の会談を行った。
会談後の記者会見で、米議会の採決に関する質問に「米国で何が起こるかは様子を見ることになろうが、欧州は支援を続け拡大していく」と述べた。
米議会は30日夜、つなぎ予算を可決したが、ウクライナ支援は盛り込まれていない。
ボレル氏はX(旧ツイッター)への投稿で、EUが「ウクライナ向け安全保障への長期的な関与」を準備していると述べた。また記者会見で、加盟国が年末までに援助拡大について決定することを望むと語った。
ウメロフ氏はXで、EUの「継続的な支援」に謝意を表明。軍事援助に関する協議は「大砲・弾薬、防空、EW(電子戦)、長期支援プログラム、訓練、防衛産業の現地化」に及んだと述べた。
●ウクライナのロシア支配地域、地方選で編入支持=プーチン大統領 10/2
ロシアのプーチン大統領は30日、最近行われた地方選挙でロシアへの編入を望むウクライナのロシア支配地域住民の意向が反映されたとし、昨年の住民投票結果を再確認するものだとの認識を示した。
ウクライナ4州の併合宣言から1年となる節目に公開されたビデオ演説で、併合を支持する当局者らが9月上旬の地方選挙で勝利したことでロシアに加わるという選択が改めて鮮明になったと指摘。
「1年前の歴史的な住民投票と同様に、人々は再びロシアと共にあることを表明・確認した」と述べた。
昨年2月に開始したウクライナ侵攻について、「全面的な内戦」と「異なる考えを持つ人々に対するテロ」を引き起こしたウクライナの民族主義的指導者から人々を救う作戦との立場を繰り返した。
ロシアは昨年9月にウクライナ東部ドネツク州とルガンスク州、南部へルソン州とザポロジエ州の一部地域で住民投票を実施。圧倒的多数が賛成したとしてロシアへの併合を宣言した。
●英国防相、ウクライナで軍事訓練の可能性示唆 首相は否定 10/2
スナク英首相は1日、ウクライナに軍事教官を派遣する計画は当面ないと述べ、同国での軍事訓練の可能性を示唆した国防相発言を否定した。
英と同盟国はこれまでのところ、ロシアと直接衝突するリスクを減らすため、ウクライナに軍を正式に駐留させることは控えている。
就任して間もないシャップス国防相はサンデー・テレグラフ紙のインタビューで、英国や他の西側諸国でウクライナ軍を訓練するだけでなく、軍事教官をウクライナに派遣したいとの意向を示した。
ところが、このインタビューが掲載された数時間後、スナク首相はウクライナに英兵を派遣する計画は当面ないとのコメントを発表した。
与党保守党の年次総会の冒頭に「国防相が言っていたのは、将来的にはウクライナで訓練を行うこともあり得るということだ。しかし、それは長期的な話であって、今すぐにということではない。現在の紛争に英兵を派遣することはない」と記者団に明言した。
●ロシア 来年の国防費1.7倍に ウクライナ侵攻継続に向けてか 10/2
ロシア政府は来年の国防費を今年の1.7倍に増額させる予算案を提出しました。ウクライナ侵攻の継続に向けたものとみられます。
ロシアメディアによりますと、29日に提出された予算案では、来年の国防費は歳出全体の3割にあたるおよそ10兆7000億ルーブル、日本円で16兆円余りに増額となりました。
今年の国防費の1.7倍で、GDP=国内総生産の6%に相当します。
長期化する侵攻のさらなる継続に向けて、武器や弾薬の増産や志願兵などの人件費がかさむことを見込んだものとみられ、ペスコフ大統領報道官は「われわれは特別軍事作戦を続けている。増額は不可欠だ」と述べています。
一方、プーチン大統領は29日、新たに13万人の徴兵を行う法令に署名しました。
毎年春と秋に実施しているもので、ロシア軍参謀本部はウクライナ侵攻に派遣されることはないとしています。
今回の徴兵について、タス通信はロシアが一方的に併合したウクライナの4つの州の住民が初めて徴兵の対象になると報じています。  
●米「ウクライナ支援予算」ゼロの衝撃…支援疲れ蔓延で遠のく停戦、10/2
もはや、ウクライナの敗北は決定的なのか──。
9月30日、アメリカの「つなぎ予算」がようやく成立した。しかし、共和党の反対によって「ウクライナ支援予算」は盛り込まれなかった。今回成立したのは、あくまで11月半ばまでの「つなぎ予算」だが、2024会計年度の本予算でもウクライナへの支援予算は、大幅に縮小される可能性が高い。
「さすがに本予算からウクライナ支援が消えることはないでしょうが、これまでのような大盤振る舞いは難しいと思う。アメリカでは『ウクライナより、国内だ』という世論が強まっているからです。インフレによって生活が苦しくなっているのが大きな理由です。7月のCNNの調査でも、ウクライナ支援の追加予算を『承認すべきでない』が55%と過半数に達しています。1年後に大統領選が控えているバイデン大統領も、世論に抗してまでウクライナ支援に巨費を投じるのは困難でしょう」(元外務省国際情報局長・孫崎享氏)
ロシアのウクライナ侵攻から、すでに1年8カ月。「支援疲れ」は国際社会に広がっている。
30日に行われたウクライナの隣国スロバキアの議会選挙では、ウクライナへの軍事支援の停止を訴えた野党が第1党になった。
これまでスロバキア政府は、戦闘機を送るなど軍事支援を進めてきたが、ストップする可能性がある。勝利した野党党首は「ロシアへの制裁は物価の高騰を招き国民を苦しめるだけだ」とも主張している。
さらに、ウクライナ政府の強固な支持国だったポーランド政府も、ここにきて「ウクライナは溺れゆく人のように何にでもしがみつく」「ウクライナに武器提供はしない」と明言している。
停戦も遠のいた
最大の支援国アメリカが、ウクライナ支援に二の足を踏みはじめたら、戦局が大きく変わるのは間違いない。
「支援疲れしている国は、『早く停戦して欲しい』というのがホンネでしょう。停戦に動く国があるかも知れない。でも、逆に停戦は遠のいたと思う。日本の報道からは分からないかも知れませんが、ウクライナの反攻はうまくいっていません。勝利のシナリオが見えない。西側からの支援が縮小するとなれば、なおさら戦況は不利になる。となると、ロシアのプーチン大統領は簡単には停戦に応じないでしょう。勝てると確信を持ったら、徹底的に行くはずです」(孫崎享氏)
いま頃、プーチン大統領は高笑いしているのではないか。
●トルコ新国会開幕 スウェーデンNATO加盟が焦点 ロシアに強気も 10/2
トルコ国会の新会期が1日、開幕した。エルドアン大統領は5月の大統領選と国会選で勝利し、政策の自由度を高めた。これまで欧米とロシアの間で独自外交を展開してきたエルドアン氏はどう動くのか。対欧米で焦点となるのは、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟への対応。対露政策で変化が生じるとの見方も出ている。
エルドアン政権は、ロシアのウクライナ侵攻後にNATO加盟を申請したスウェーデンに対し、承認を保留してきた。新規加盟には全加盟国の承認が必要だが、トルコ側は同国などの少数民族クルド人の武装組織の「テロ対策」に、スウェーデンが非協力的であることを理由にしてきた。
エルドアン氏は今年7月のNATO首脳会議後、10月からの国会でスウェーデン加盟を批准する意向を示した。ただ、ロイター通信によると同氏は9月下旬、引き換えにバイデン米政権が米戦闘機F16をトルコに提供すると約束したとし、「彼らが約束を守ればトルコの国会も約束を果たす」と述べた。批准とF16提供を絡めたのは米側だとし、米国に履行を迫っている。
エルドアン政権はロシアから防空システムS400を購入して米政府の怒りを買い、最新鋭ステルス戦闘機F35の国際共同開発から排除されたため、F16の提供を求めていた。米国では人権侵害などを理由に提供に難色を示す向きもある。
エルドアン氏が再選を機に、プーチン露大統領に対して強気の姿勢に転じたという見方も少なくない。
エルドアン氏は7月、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、同国の将来のNATO加盟を支持すると表明した。トルコは同国内での滞在を条件にロシアが解放したとされるウクライナ部隊「アゾフ連隊」の指揮官ら5人のウクライナ帰国も認め、ロシアは「合意違反だ」と批判した。
こうした流れを受け、米CNN(電子版)は9月上旬、ロシアの国力低下を見て取ったエルドアン氏が、プーチン氏との衝突を避けつつ影響力を強めようとしているという米評論家の見方を紹介した。
トルコは9月、旧ソ連圏への影響力浸透に向けた新たな足場も得た。支援してきたアゼルバイジャンが軍事作戦を通じ、アルメニアとの「ナゴルノカラバフ紛争」で最終的に勝利を収める形になったからだ。
エルドアン、プーチン両氏は利害対立を抱えつつも親密な関係を基に共存してきた。その関係に変化が起きればウクライナ情勢など多方面に影響しそうだ。
●ウクライナ 領土奪還へ反転攻勢続く EUはキーウで外相会議へ 10/2
ウクライナでは領土奪還を目指して反転攻勢が続くなか、EU=ヨーロッパ連合は2日、外相会議をウクライナの首都キーウで開催します。ウクライナヘの「支援疲れ」も指摘されるなかでEUとして結束して支援を継続する姿勢を示すねらいもあるとみられます。
ウクライナ軍は2日、南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリや東部ドネツク州の激戦地バフムトに向けて反転攻勢を続けていると発表し、占領された地域を少しずつ解放しロシア側は人員や装備を失っていると強調しています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は1日の分析で、ウクライナ軍がことし8月に奪還を発表したザポリージャ州西部のロボティネ付近で、一進一退の戦闘が続き「流動的になっている」との見方を示しました。
こうした中、EU=ヨーロッパ連合は2日、外相会議をウクライナの首都キーウで開催するため、加盟国の外相がキーウに集まっていると明らかにしました。
会議に先立ちEUの外相にあたるボレル上級代表は、今後の支援について意見を交わすことが目的で、ウクライナへの関与がゆるぎないことを示すための開催だと説明しました。
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化でウクライナヘの「支援疲れ」も指摘される中で、EUとして結束して支援を継続する姿勢を示すねらいもあるとみられます。
●メドベージェフが発した核より現実的で恐しい戦線拡大の脅し 10/2
ドミトリー・メドベージェフ前ロシア大統領が、イギリスとドイツの今後の軍事支援を強く牽制した。もしイギリス軍がウクライナ兵の訓練をウクライナ国内で行うという計画を実行に移したら、そのイギリス人は攻撃対象になる。またもしドイツがウクライナに長距離巡航ミサイル「タウルス」を提供するようなことがあれば、ドイツ国内のタウルス製造工場もロシア軍の正当な攻撃目標になる、というのだ。
イギリスに対する脅しの発端となったのは、軍事用ハードウェアの「訓練と生産」をウクライナ領内に移す方向で協議している、というイギリスのグラント・シャップス国防相の発言だった。
英紙サンデー・テレグラフによれば、シャップスは「私は今日、訓練をもっとウクライナに近いところ、いずれはウクライナ領内で実施することについて話し合っていた」と語った。
だがリシ・スナク英首相は「ゆくゆくはそういうこともある、という話であって、今すぐに実施するわけではない」と、国防相の発言を一部、訂正した。
「国防相が言ったのは、ウクライナ国内で訓練を行うことは将来的には可能かもしれないということだ」とスナクは10月1日、保守党会合の前に語った。「イギリス軍の兵士が今、戦地に派遣されることはない」
「われわれは、ウクライナ人の訓練をイギリス国内で行っている」と、スナクは説明した。
メドベージェフは1日、テレグラムに投稿し、イギリス軍兵士がこのような任務に就いた場合、ロシア軍の「合法的な標的」になると述べた。
兵員は「容赦なく破壊されるだろう」と、現在ロシアの安全保障理事会の副議長を務めるメドベージェフは書いている。
NATO全体に拡大も
米シンクタンクのランド研究所は9月末に発表した報告書で、ロシアのウクライナへの攻撃によってウクライナ国内にいるNATO関係者が何かで死亡するなどの事件が起きれば、ウクライナでの戦争がエスカレートする可能性があることを示唆した。
メドベージェフは、ドイツがウクライナへのタウルス・ミサイル供与を決めた場合、ロシアは「これらのミサイルが製造されているドイツの工場を、国際法を完全に順守しながら」攻撃することになる、とも警告している。
NATOはこれまで、ロシアの侵攻に対抗してウクライナを支援しているだけであって、NATOとロシアは戦争状態にはないと主張してきた。だがロシアの意図的な攻撃によって戦争がNATO加盟国に波及すれば、加盟国に対する攻撃はNATO全体の攻撃とする北太平洋条約第5条が発動されて戦争がさらに拡大する恐れがある。
●ワルシャワで数十万人が現政権に抗議 トゥスク氏「分断終わらせる」 10/2
15日に総選挙を控えるポーランドの首都ワルシャワで1日、右派政権に抗議する大規模な集会が開かれた。欧州連合(EU)首脳会議の前常任議長で野党党首のトゥスク元首相が呼びかけた。AFP通信などによると、国内各地から集まった参加者が、ポーランド国旗やEUの旗を掲げてデモ行進した。
地元メディアによると、「100万人の心の行進」と名づけられたデモ行進には60万〜80万人が参加したという。この集会は、愛国主義を掲げ、反EU路線をとる保守与党「法と正義(PiS)」の政策に抗議したものだ。
英紙ガーディアンによると、トゥスク氏は「国民を分断させる強権政治を終わらせなければならない。より良い方向への変化は不可避だ」と政権交代を訴えた。
2015年から政権をとるPiSは、メディア規制や人工妊娠中絶の禁止、反移民、さらにはLGBTQなど性的少数者に対する差別的な政策など、EUの理念と相いれない政策を進めてきた。
そんな中、総選挙では隣国ウクライナへの支援が争点の一つとなり、ウクライナへの積極的な軍事支援をしてきたポーランドとウクライナの関係に亀裂が入りかねない事態になっている。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアが7月に、黒海を通じてウクライナ産穀物を輸出する枠組みから離脱。その影響で事実上黒海が封鎖され、陸路で安価なウクライナ産穀物がポーランドに流入した。この動きに不満の声を上げる農家を支持基盤とする与党のモラビエツキ首相は9月、総選挙を見据え自国の農業を守るため、EUによる規制撤廃後も独自の輸入規制継続を決定したほか、武器供与の停止にまで言及。ウクライナやEUに強く反発する態度に出ていた。

 

●秋の徴兵で13万人を動員するロシア、慢性化する人手不足で加速するモノ不足 10/3
・秋の徴兵で13万人を動員するなど、ロシアは軍事部門に割り当てるヒト・モノ・カネの量を一段と増やしている。
・平時の経済活動に必要な民生品の生産減は中国からの貿易で補っているが、軍事費が膨張する中でどこまで持続可能だろうか。
・生品の生産に必要な生産要素を軍需品の生産に充てざるを得ないロシアは統制経済への道を歩んでいる。
ウクライナとの戦争の膠着を受けて、ロシアは軍事部門に割り当てるヒト・モノ・カネの量を一段と増やしている。
まずヒトに関しては、今年の秋の徴兵で前年比1万人増となる13万人を動員することになった。ロシア政府は2026年までに、軍の兵力を現在から3割増となる150万人まで引き上げることを計画している。来年からは、徴兵の対象年齢の上限が現行の27歳から30歳へと3歳引き上げられる。
こうした徴兵強化の結果、ロシアでは人手不足が深刻化すると予想される。ロシアの失業率(図表1)はすでに歴史的な低水準だが、これは景気の堅調を反映した現象ではなく、若者の徴兵や国外逃亡に伴い人手不足が慢性化したことを反映したものだ。
   【図表1 ロシアの失業率】
ロシア政府による徴兵の強化は人手不足に拍車をかける。労働供給がさらに減少すれば、労働需要が減退しない限り、需給は引き締まって完全雇用の状態になる。ただ、それで実現した完全雇用は民需がけん引する健全な経済成長の成果ではなく、慢性的な人手不足は供給(生産)の制約につながる。
もちろん、政府が軍事活動を優先する以上、企業は軍需品の生産を優先せざるを得ない。つまりモノ(完成品)の生産に必要なヒトやモノ(原材料や半製品)、そしてカネの投入が軍事活動に必要なモノ(軍需品)の生産に傾斜することになる。
そうなると、平時の活動に必要なモノ(民生品)の生産が圧迫され、モノ不足が進むことになる。
モノ不足の現状は、中国とロシアの二国間貿易収支からも透けて見える。
中国とロシアの二国間貿易収支は、一貫して中国の貿易赤字(ロシアの貿易黒字)だが、その規模は着実に縮小している。
ロシアが中国からの輸入を急増させているためだが、この動きは、ロシアが不足する民生品を中国から調達していることをうかがわせる。ロシアは資源を中国に売って得た外貨で、中国からモノを買っているのである。
   【図表2 中国の対ロ貿易収支】
来年の軍事費は今年から1.7倍増
ロシア政府は9月29日、2024年の軍事費を今年の1.7倍増の10兆7754億ルーブル(約16兆円)とする予算案を議会に提出した。ウクライナとの戦争が始まる前、ロシアの軍事費は名目GDP(国内総生産)の3%程度だった。しかし2024年は、その割合が6%程度にまで膨らみ、冷戦期並みの水準となる見通しである(図表3)。
   【図表3 ロシアの軍事費】
そもそも、来年の予算総額は約36.6兆ルーブル(約55兆円)と、前年比2割以上の増加の大型予算である。来年3月に大統領選を控えたウラジーミル・プーチン大統領の意向を汲み、全般的にバラマキを重視した内容となっているが、それでも軍事費の急増は顕著であり、予算全体を大きく拡張させるドライバーとなっている。
問題は、財政拡張の手立てをどうするかということだ。
膨張する軍事費はどこでカバーするのか?
このところロシアは、歳入の4割弱を占める石油・ガス収入の増収を図る観点から、サウジアラビアなどOPEC(石油輸出国機構)の国々との協調減産に尽力し、原油価格の押し上げに努めている。その結果、7月以降、原油価格は上昇が顕著だが、それでロシアの歳入が増えるか定かではない。
ロシア財務省によると、今年1-8月期の石油・ガス収入は前年から38.2%減少したようだ。その主因は、ヨーロッパ向けの天然ガスの輸出が不振を極めていることにあると考えられる。
実際に、ロシア最大のガス会社である国営ガスプロムの今年第2四半期の純損益は、前年同期から1兆ルーブル以上も減少し、186億ルーブルの赤字に転落した。
ヨーロッパに代わる需要家を開拓できない限り、石油・ガス価格が上昇しても歳入は十分に増えない。そのためロシアは新興国、特に中国に秋波を送る。10月の訪中時、プーチン大統領はガスプロムのアレクセイ・ミラー最高経営責任者(CEO)と国営石油会社ロスネフチのイーゴリ・セチンCEOを同行させる予定だ。
また、ロシア政府はエネルギー企業に対する課税の強化に乗り出すようだ。政府は外生的なショックでたまたま高収益を上げた企業に対して課す「棚ぼた税」(wind fall tax)であり、苦しむ家計や企業のための再配分の原資として位置付けているが、取りやすいところから税金を取るというスタンスでしかない。
そうした取り組みをしたところで、膨張が予想される軍事費のどの程度までをカバーできるのかは定かではない。予備費である国民福祉基金を取り崩すとしても限界があるため、起債による市場での資金調達も増えていくはずだ。民間投資家が消化できない部分を中銀が買い支えるなら、貨幣面からインフレ圧力が高まる。
甘いロシアのインフレ認識
そもそもロシアでは、消費者物価が今年4月の前年比2.3%上昇をボトムに伸びを再加速させており、直近8月には同5.2%上昇と中銀の目標水準(4%)を上回るに至った。
家計と企業の強いインフレ期待や政府による最低賃金や年金支給額の引き上げ、ルーブル安に伴う輸入物価の上昇などがインフレ再加速の主因と考えられている。特にルーブル相場の下落は深刻である(図表4)。
   【図表4 ルーブル相場】
米ドルに対する今年9月末までのルーブルの年初来騰落率は終値ベースで38.6%に達し、8月には一時1米ドル=100ルーブルの節目を割り込んだ。政府は中銀に対して通貨防衛のための利上げを要請しているが、政府が財政を拡張する以上、その効果は限定的となる。
ところが、ロシア中銀は9月28日に発表した2024年から2026年までを対象とする『金融政策ガイドライン』で、2024年の消費者物価上昇率がベースシナリオでも4.0%と、物価目標(4.0%)にとどまるという見方を示している。政府も2024年度の予算案で、同年の消費者物価上昇率が4.5%になるとの楽観的な見通しを示す。
戦争の継続にヒトモノカネという限りある生産要素をさらに投入するなら、民生品の生産は圧迫され、インフレはますます強まりそうなものだ。インフレがそれほど高まらないという政府と中銀の見方は、それだけ想定が甘いか、戦争を優先する結果、民間部門の経済活動が停滞すると見越してのことかもしれない。
着実に進む統制経済への道
ロシアとウクライナの戦争は、開戦からすでに1年半以上が経過している。ロシアにとって予想外とも言える展開の中、ロシア政府はヒト・モノ・カネという民生品の生産に必要な生産要素を軍需品の生産に充てざるを得なくなった。その結果、ロシアの経済は着実に軍事経済化している。戦争が長期化する限り、この傾向は強まる一方だ。
戦争の継続を優先するためには、戦争のために生じる様々な不均衡を抑え込む必要がある。例えば、戦争の継続に伴い加速するインフレに対しては、価格統制(公定価格制)や数量統制(配給制)を敷き、インフレを抑え込む必要がある。このことはつまり、戦争の継続を前提に、政府が経済の運営を統制するということである。
緩やかだが着実に、ロシアはそうした統制経済への道を歩んでいる。不均衡の解決を先送りしているに過ぎない統制経済は、今すぐとはいえないが、いつの日か爆発する蓋然性を有している。
●ロシア、契約兵の募集強化 次期大統領選控え動員回避 10/3
ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン政権が契約兵の募集を強化している。来年3月に大統領選を控える政権は、予備役30万人を招集した昨年9月の「部分的動員」で社会に混乱と反発を招いた経緯を踏まえ、自発的な参加を促し戦力増強を図る構えとみられる。ただ、国内には動員再開への懸念は根強い。
報道によると、ロシアの実効支配下にあるウクライナ南部クリミア半島の露軍当局は今年9月、契約兵を募集する新たな動画広告を公開した。
広告では、塹壕(ざんごう)で戦闘中の兵士が仲間に「ペチェルシキ・パゴルブイ地区とは(ウクライナの首都)キーウのどこだ?」と質問。仲間は「中心部だ。叔母が住んでいる」と答えた。兵士が「そこに家を買うのが夢だ。キーウを取って戦争が終われば家族を連れていく」と言うと、仲間も「俺は(南部)オデッサ。海が好きだから」と応じた。
広告はウクライナ各地の都市名とともに「自分の夢の都市を選ぼう」と訴えた上で、軍事務所の連絡先を示して終わる。ロシアがキーウやオデッサの制圧を断念していないことを示すとともに、契約兵になれば裕福になれると強調する内容だ。
政権は今年春には、国民の平均月収の数倍に当たる20万ルーブル(約30万円)以上の報酬を提示して契約兵の募集を強化。プーチン大統領は9月15日、今年だけで「30万人が軍と契約した」と募集の順調さを強調した。
露政権が契約兵の募集を進める背景には、約1年前に発動した部分的動員の苦い記憶がある。動員に対する抗議デモが起き、多数の国民がロシアを出国した。
ただ、動員兵や契約兵が戦況に与えた明確な影響は不明で、露軍の戦力は補充後も低下しているとの見方が強い。
今年8月の米報道によると、米当局者は「露軍の死傷者が最大約30万人に達している」と推定。英BBC放送と露独立系メディアも9月末、共同調査の結果、露軍側に少なくとも約3万3000人の戦死者が確認され、6月のウクライナ軍の反攻開始後の露軍側戦死者も約2500人に上ると報じた。調査結果は公開情報のみに基づく最小値で、実際にはさらに多いのは確実だとしている。
露国内では戦力低下を受け、動員が再開されるのではないかとの危惧も強まっている。
インターネット上では9月10日に行われた統一地方選での政権側の圧勝を機に「動員が再開される」との噂が拡散。政権は「ウクライナによる情報工作」と否定したが、国民の懸念の深さが示された形だ。
部分的動員を定めた露大統領令に「最大100万人を動員できる」との非公開の条項があるとする露国内報道の存在も、国民の不信感に拍車をかけている。
●南部激戦地でもう一息のウクライナ軍、突破できればロシア軍瓦解へ 10/3
1.突破拡大するウクライナ地上軍
ウクライナ軍とロシア軍は、ザポリージャ州西部に主要戦力を集中させて戦っている。この地での勝敗により、戦争の勝敗が見えてきそうな天王山の戦いだ。
ウクライナ南部ザポリージャ州の西部で、ウクライナ地上軍(陸軍に海軍歩兵が加わっているので地上軍の名称を使用)は、ロボティネからトクマクまでの目標線(オリヒウ攻撃軸)に向けて突破口を形成し、それを拡大して、南下しつつある。
一方、ロシア地上軍は南下するウクライナ軍の南下を止めようと必死で、両軍は死闘を繰り広げている。
この地の戦いでは、ウクライナ軍の後方連絡線は後方にあるが、ロシア軍のそれは南にアゾフ海があるために主に東にある。
そのため、ザポリージャ州防御のロシア軍は、この地で敗北すれば、東からの後方連絡線を遮断されるという脅威を受けている。
ザポリージャ州西部のオリヒウ攻撃軸では、両軍の戦闘力の先端がぶつかり合っているのだ。
ロシア軍が占拠する地域は、南北に幅約110キロあるが、防御陣地はその北部の約30キロに集中している。
その約30キロの間に、ロシア軍は前進陣地、第1・第2・第3の防御陣地を、地域によっては第2と第3の間にも陣地線を構築した。
さらに、市街地を利用した防御も実施している。
   図1:オリヒウ攻撃軸のウクライナ軍の進出範囲とロシア軍防御線とそれまでの距離
ウクライナ軍はこれまで、前進陣地や第1防御線を破壊してきた。ベルボベ正面では第2防御線を突破して進んでいる。
ロシア軍はこれらの防御線の戦闘に最も力を入れてきた。ウクライナ軍も苦戦を強いられてきたが、10〜12キロほど深く進軍できている。
ベルボベ正面は、応急陣地の2.5防御線と第3防御線がある。あと、十数キロの戦だ。ロシア軍の戦力は減少しているし、もともと配備されている部隊は2個旅団だけだ。
ロボティネ正面は、まだ第2防御線と第3防御線が残っている。したがって、まだまだ厳しい戦いが続く。
これらの防御線を打ち破れば、その南にはトクマクなどの都市を守るように陣地が構築されているが、主要な都市以外はウクライナ軍を阻止できるような陣地は作られていない。
このため、第3防御線を突破されたときのロシア軍は、ウクライナ軍の前進を止めるためには応急陣地を構築するか、機動打撃により攻撃するほかはない。
南部戦線における地上戦を、第3防御線までの戦いとこれ以降のヤゾフ海までの戦いに区分して、今後の戦闘予想について考察する。
2.オリヒウ攻撃軸、防御3線突破要領
オリヒウ攻撃軸のこれまでの攻撃には、十数キロの前進のために4か月を費やした。
これは、ロシア軍が戦力と防御準備の点で最も強い抵抗をしてきたためだ。地雷などの障害処理にも時間がかかった。
ロシア軍は死力を尽くして戦ったが、戦力を消耗し、ウクライナ軍の前進の速度を遅らせられても、止められてはいない。
火砲の損害も著しく多く、砲撃も大きく減少してきた。
一方、ウクライナ軍は、クラスター弾をロシア軍の防御陣地に使い、効果も出ている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と米国のジョー・バイデン大統領の会談では、射程距離の長い地対地ミサイルATACMS(Army Tactical Missile System、エイタクムス)供与の発表もあった。
この兵器の供与により、攻撃進展速度はさらに速くなるであろう。
これから、ウクライナ軍はどの方向から攻撃するのか予想する。
どの攻撃方向を選択するかで、攻撃目標、攻撃進展速度、ロシア軍の機動打撃対処方法も変わる。
今後の攻撃方向は概ね3つに集約される。
オリヒウ攻撃軸の東側のベルボベから南への攻撃方向(A-1)、ロボティネからトクマクの東を通過する攻撃方向(A-2)、ロボティネからトクマクへ進む攻撃方向(A-3)がある。
   図2:オリヒウ攻撃軸、予想されるウクライナ軍の攻撃方向とロシア軍の防御線
3つの攻撃方向の特色について述べる。
A-1の場合は、現在、第2防御線を突破し戦闘中であるベルボベを経由して南下する攻撃軸である。
この経路では、第3防御線のみ1本だけが立ち塞がってくる。道路状況によっては、応急陣地のような第2.5防御線を突破する必要がある。
また、現在の接触線から第3防御線までは十数キロ、現在攻撃しているベルボベを占拠すれば、残り7〜8キロであり、第3防御線を突破するまでに、最短の攻撃軸である。
この攻撃軸が、現在では最も進展していることから、ウクライナ軍は、この方向を重視して攻撃を進める可能性が高い。
A-2の場合は、ロボティネから南下して、トクマクの東側を通過して南下する攻撃である。
また、この方向はトクマクへの直接攻撃を避けるものである。この方向は、まだ第2と第3の防御線が無傷のまま残っている。
ここを突破するには、ロシア軍の火砲数が著しく減少している現状でも、現在の予備部隊を投入しクラスター弾やATACMSを使ったとしても、10月末まで突破することが難しくなっている。
ただ、突破してしまえば、これらの南には周到な防御陣地が構成されていないので、217高地まで到達するのは早くなる。
A-3の場合は、ロボティネからトクマクの市街地を直接攻撃するものである。
トクマクまでには、A-2と同様に第2と第3防御線がまだ無傷のまま残っている。さらに、トクマクの周囲にも陣地線が構築されている。
著名な都市を攻撃して成功すれば攻撃成功の宣伝はできるが、トクマクを占拠するまでに多くの時間を要してしまう。
トクマクだけで数か月間かかる可能性がある。
そうなればロシア軍が新たな防御線を構築して、ヤゾフ海まで南下するのに時間がかかってしまい、ウクライナ軍の戦争構想が失敗する恐れが出てしまう。
できれば、市街地の戦闘を避けて、南下作戦を実施したいと考えるだろう。
もしも、トクマクがロシア軍に占拠され続ければ、ウクライナ軍の南下作戦の側背に脅威が残ると思われるが、ここは一部の部隊で拘束すればよい。
また、火砲を使って、トクマクに占拠する司令部や兵站施設を火砲で攻撃していけば、つまり兵糧攻めをしていれば、この寒い冬の期間に、ロシア軍の降伏を促すだろう。
この3つの攻撃方向を比較すれば、A-1が攻撃進展が進んでいること、ロシア軍の防御線が少なく短いこと、その後の攻撃進展が速いことが予想されることから、この方向を主攻撃として攻撃を続行する可能性が高い。
とはいえ、ウクライナ軍は第3防御線の突破口を形成したとしても、突破口の拡大を行う必要性があることから、ロボティネからトクマク方向への攻撃も継続して実施するだろう。
3.ヤゾフ海に面する都市までの攻撃方向
ウクライナ軍は、第2と第3防御線を突破した後は、南下してヤゾフ海に面する都市、メリトポリやベルジャンスクまでを奪還して、南部2州およびクリミア半島とロシア占拠地との間を分断する作戦だ。
これらはどうのようになるのだろうか。
具体的には、どの地域を目標として、どの方向から攻撃するのか。
攻撃方向については、3方向(A-1ab、A-2、A-3)が考えられる。
   図3:南部戦線ザポリージャ州オリヒウ攻撃軸作戦予想
A-1は、A-1aとA-1bに分けられる。
A-1aは、ウクライナ軍が現在、ロシア軍の第2線陣地のベルボベを打ち破って進む延長線上の方向だ。
これは、295高地からベルジャンスクに至る経路だ。この経路には主要な道路はないが、ロシア軍の防御陣地がなく、抵抗が少ない。
295高地を占拠していれば、ロシア軍の機動打撃がある場合でも、対処が有利に進められる。
A-1bは、第3防御ラインを打破した後に217高地を経由して、その後、道路P37号線沿いに南下しベルジャンスクに至るものだ。
途中から主要な道路を使用できることで、比較的機動が容易である。
また、この道路を獲得することで、トクマクへの補給を制約することができる。217高地を占拠していれば、ロシア軍の機動打撃がある場合でも、対処が有利に進められる。
A-2は、ロボティネから第2と第3の防御線を突き抜け、その後、方向を南東に向けて進み、150高地、そしてベルジャンスクに至る経路である。
これは、都市トクマクを攻撃せずに、トクマクの東をすり抜けて進むものであり、攻略に時間がかかるトクマクの市街戦を避け、ベルジャンスクに至ることができるので、早期にアゾフ海に到達することができる。
前述したが、トクマクを奪回しないことは、ウクライナ軍の攻撃前進に側背に脅威が残るが、これについては一部の部隊でロシア軍を拘束すれば済むことである。
ウクライナ軍がベルジャンスクに到達すれば、トクマクやメリトポリを守る部隊への補給を遮断することができるので、兵糧攻めで陥落させることができる。
A-3は、第2防御線を通過してトクマクの防御線を突破し、トクマクに入り市街戦を実施しなければならない。
トクマク奪回に多くの時間がかかる。その次に、メリトポリに入り市街地戦闘を実施することになる。
トクマクおよびメリトポリでの市街地戦闘は、陥落させるために時間がかかるし、ウクライナ軍としても大きな被害を受けることになる。
また、ロシア軍の兵站連絡線を止めることができないので、ロシア軍も長期間戦うことができる。
4.ヤゾフ海に面する都市までの攻撃目標
ウクライナ軍は、現在の接触線からヤゾフ海に到達するまでに、目的・距離別に概ね、
1ロシア軍防御線を突破する目標線(トクマク目標線)
2ロシア軍兵站線の妨害を可能とする目標線(ロシア軍兵站妨害目標線)
3ロシア軍を東西に分断する目標線(ロシア軍東西分断目標線)を設定すると考えられる。
図3ウクライナ軍の南部戦線ザポリージャ州オリヒウ攻撃軸作戦予想を参照。
   1トクマク目標線
ウクライナ軍が、ロシア軍の3線の防御線の3線目に突破口を形成し、さらに突破口を拡大することができれば、ロシア軍のザポリージャ州における防御は瓦解する。
そして、これよりも南には防御線がないために、ロシア軍はウクライナ軍の南下を阻止することは極めて難しくなる。
ただ、この目標線を獲得しただけでは、ロシア軍を東西に分断することはできない。また、兵站活動を妨害することも難しい。
このため、ウクライナ軍は、この目標線獲得後は、速やかに南下するだろう。
   2ロシア軍兵站妨害目標線
トクマク目標線を獲得しただけでは、ロシア領域からメリトポリへの後方連絡線(E58道路)を遮断することはできない。
ウクライナ軍は、少なくとも217高地や295高地の南までを獲得しなければならない。
ただし、トクマク目標線を獲得すれば、それよりも周到に準備した防御陣地がないので、ここを通過できればロシア軍兵站妨害目標線まで到達する時間は少なくて済む。
この目標線に到達する前後には、ロシア軍は北部・東部の戦力を抽出してザポリージャ州に移動し、この地まで進出したウクライナ軍を機動打撃するだろう。
ロシア軍がこの地を奪回されれば、南部2州のロシア軍は孤立する可能性が高まる。
   3と4ロシア軍東西分断目標線
ウクライナ軍がメリトポリおよびベルジャンスクに到達すれば、東西の後方連絡線を完全に遮断できる。
ロシア軍は、この地を奪回されれば南部2州のロシア軍は完全に孤立するし、クリミア半島の部隊までもが孤立する。
孤立すれば、時間の経過とともに兵糧攻めにより、投降する部隊が増加する。
このような事態を防ぐために、ロシア軍は前述同様に各地から戦力を抽出して、最大規模の機動打撃を実施するだろう。
5.トクマク目標線進出で南下阻止不可能に
オリヒウ攻撃軸でウクライナ軍の攻撃が進展すれば、ロシア軍の防御は瓦解し、主力はベルジャンスク経由でロシア領内に後退し、一部はトクマク、メリトポリの市街地に集結し、長期間の防御を行うだろう。
しかし、補給が続かず、自滅することになる。
   図4:ロシア軍の防勢作戦イメージ
自滅を防ぐために、ロシア軍はまずザポリージャ州東部やヘルソン州に配備している部隊から兵力を抽出して、機動打撃-1を行うだろう。
この場合、ザポリージャ州西部やヘルソン州の部隊が少なくなる。
この動きをウクライナ軍が察知すれば、これらの2つの地域から反撃を開始することになるであろう。
   図5:各段階におけるロシア軍の機動打撃要領
ロシア軍はこれまで何度も攻勢に失敗したこと、ロシア軍に大きな損失が出ていることから、トクマク目標線でウクライナ軍の攻撃を撃退することは不可能であろう。
ロシア軍が次に反撃を行うのは、295高地および217高地だ。
この場合、ロシア軍は北部戦線や東部戦線から戦力を集中して機動打撃-2を実施する可能性がある。
障害物を利用した陣地線での防御ではなく、防御の利がない機動打撃では、ロシア軍の成功はない。
ウクライナ軍にベルジャンスクが奪回されれば、ロシア軍は東西に分断されてしまい、ザポリージャ州およびヘルソン州の2州に配備されたロシア軍は孤立し、弾薬等の補給が得られなくなる。
さらに、クリミア橋がATACMSで破壊されれば、補給が完全に途絶してしまう。
孤立を防ぐために、ロシア軍は、この正面に対して北部と東部の戦線から抽出した多くの部隊を使って、機動打撃-3・4を実施するだろう。
ロシア軍のこれまでの戦いであれば、ウクライナ軍を撃退することは困難である。
また、この時点になると、ロシア軍内に混乱が起きている可能性が高く、機動打撃は失敗するだろう。
ウクライナ軍にメリトポリが奪回されれば、ロシア軍は東西に分断され、2州に配備されたロシア軍は抵抗できずに早期に降伏することになる。
●バイデン米大統領、ウクライナ支援継続確約で同盟国と電話会談へ 10/3
バイデン米大統領は米国の対ウクライナ支援継続をあらためて確約するため、同盟国との電話会談を計画している。事情に詳しい関係者が明らかにした。
非公表の情報だとして匿名を条件に語った関係者によると、この電話会談は早ければ3日にも実現する可能性がある。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は2日の記者会見で、同盟国と電話会議を行う予定は「現時点で」ないと発言。米国はウクライナでの戦争が始まって以来、パートナー国と連絡を取り続けており、「それは今後も継続する」と同報道官は述べた。
米国は「支援継続を示す」ため、既に承認されている部分からウクライナ向けの別の支援パッケージを「近く」発表するとも語った。
9月30日に米議会が政府機関閉鎖を回避するため超党派で可決したつなぎ予算案では、60億ドル(約9000億円)のウクライナ支援は除外され、一部の同盟国の間で米国の支援が細る恐れが懸念されている。
国防総省は「ウクライナ向けの安全保障支援で利用可能な資金をほぼ全て使い果たしており」、資金不足が生じれば防空や弾薬などを含め緊急に必要とされる支援に遅れや削減が生じることになると、マッコード会計監査官が9月29日遅くの下院民主党議員に宛てた書簡で説明していた。
現水準の資金でウクライナ向けの支援がどれだけ継続できるのか問われたジャンピエール報道官は、「ウクライナが戦場で緊急に必要とする支援にもう少し長く応じるには十分」な水準だと述べた。
バイデン大統領はこれより先、マッカーシー下院議長に対し、約束を守ってウクライナ支援の道筋を確保するよう呼び掛けていた。
●米のウクライナ支援、軍事企業からの調達一時凍結…つなぎ予算除外の影響 10/3
ロシアの侵略を受けるウクライナへの軍事支援で、米政府は2日、民間軍事企業から兵器を調達する制度を一時凍結したと発表した。9月末に成立した政府の暫定予算(つなぎ予算)にウクライナ支援が含まれなかったためで、与野党対立の影響が米国のウクライナ支援に広がりつつある。
一時凍結されたのは「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)」という制度で、供与する兵器や装備を米軍の在庫からではなく、軍事産業から調達する。2022〜23会計年度で180億ドル(約2兆7000億円)の予算が計上され、弾薬などの供与に充てられた。
米政府は追加の予算を議会に求めたが、政府閉鎖を回避するために超党派で可決、成立したつなぎ予算から除外された。国務省のマシュー・ミラー報道官は2日の記者会見で「いかなる状況下でも米国のウクライナ支援が中断されることは許されない」と語り、予算確保を急ぐ考えを示した。
米軍の在庫による追加の兵器供与などは可能で、米政府が近く追加支援を発表する方針。米国防総省によると、米軍在庫から供与するための関連予算は16億ドル残っており、大統領権限で決めることができる。
先進7か国(G7)首脳は3日にオンライン形式での会合を開き、米国の状況を踏まえたウクライナ支援での結束を再確認する。バイデン米大統領と岸田首相らが出席する予定だ。
●米下院議長の解任動議 同じ共和党議員が提出 党内対立が先鋭化 10/3
アメリカで政府の新年度予算案がまとまらない状態が続く中、野党・共和党の保守強硬派の下院議員が同じ共和党のマッカーシー下院議長の解任動議を提出し、党内の対立が先鋭化しています。
アメリカでは議会下院で多数派を占める野党・共和党内の対立などから新年度の予算案がまとまらない状態が続いていて、共和党のマッカーシー下院議長は先月30日、当面の予算執行を続けるための「つなぎ予算」の案をまとめ、与党・民主党と協力して議会で超党派での可決につなげ、政府機関の閉鎖がぎりぎりで回避されました。
こうした中、共和党で保守強硬派のゲーツ下院議員は2日、マッカーシー議長の解任動議を提出しました。
ゲーツ議員は、「つなぎ予算」に保守強硬派が要求する歳出の大幅な削減が盛り込まれなかったことに加え、マッカーシー議長が民主党と協力したことを強く批判していました。
動議の提出を受けてマッカーシー議長はSNSに「受けて立つ」と投稿しました。
共和党の議員の多くはマッカーシー議長を支持していますが、与野党の議席数がきっ抗する中、民主党の対応によって結果が左右される可能性もあり、マッカーシー議長が解任を免れるかは不透明な情勢です。
バイデン政権はウクライナ支援を含む予算案の承認を急ぐよう議会に求めていますが、共和党の内部対立の先鋭化は、今後の審議の行方にも影響を与えるものとみられます。
●ロシア軍は戦々恐々…米国がウクライナに供与を決めた長距離ミサイルの実力 10/3
ブルームバーグ(日本語版)は9月23日、「バイデン政権、ウクライナにATACMSを少数提供へ-関係者」との記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。ATACMSは「エイタクムス」と発音され、日本語に訳すと「陸軍戦術ミサイル・システム」となる。
ATACMSの性能は極めて高く、いわゆるゲームチェンジャー、戦況を一変させる兵器だと指摘されてきた。今回、初めて供与されるわけだが、ウクライナの念願がようやく叶った形だ。
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻すると、早くも6月の時点でATACMSを供与すべきか議論になった。
ゼレンスキー大統領は供与を切望していた。しかし、バイデン大統領は22年6月21日の会見で「第三次世界大戦は望まない」と強く否定。さらに今年1月にもアメリカ国防省の高官が「性能が過剰だ」と説明したことを読売新聞が報じた。
ATACMSを供与するとロシアを過度に刺激しかねない──これがアメリカの本音だった。軍事ジャーナリストが言う。
「ATACMSの射程距離は300キロメートルと長く、命中精度も高いことで知られています。東京都庁から300キロ圏内といえば、静岡県、愛知県、富山県、長野県などです。これらの地域なら、どこでもピンポイントで攻撃できるわけです。ロシアにとって脅威であることは言うまでもなく、対抗措置として戦術核の使用をほのめかしても不思議ではありません。バイデン大統領の『第三次世界大戦は望まない』という発言は、ATACMSの高性能を考えれば当然でした」
やはり怖いロシア
だが、遂にアメリカは供与へと踏み切った。ロシアの恫喝に屈せず、ウクライナに対する強い支援を実現したということなのだろうか。
「ブルームバーグを筆頭に欧米のメディアは、全て『少数』の供与と報じています。これは異常事態と評しても大げさではありません。ホワイトハウス側が『少量』を強調しているわけですが、本来ならあり得ないことです。情報戦でロシアにプレッシャーを与えるためにも、供与数を公表しないのが普通でしょう。バイデン政権が供与を明らかにしながら同時に火消しにも躍起なのは、依然としてロシアの反応が怖いからです」(同・軍事ジャーナリスト)
ならば「ATACMSはロシアの逆上が心配されるほど高性能な兵器」という言い方も可能だろう。一体、ATACMSの何が凄いのか。
「クリミア半島の港湾都市セバストポリに、ロシア黒海艦隊の司令部があります。ウクライナ軍は9月22日、司令部の攻撃に成功したと発表。34人の将校が死亡し、その中に艦隊司令官のビクトル・ソコロフ大将も含まれているとの情報も飛び交いました。さらにBBCは、攻撃にはイギリスとフランスが共同開発した空中発射巡航ミサイル『ストームシャドウ』が使われたと報じました」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア空軍の基地も攻撃可能
ストームシャドウも輸出版は射程距離が280キロある。ATACMSの300キロとほぼ互角と言えるが、性能の差は大きいという。
「ストームシャドウは航空機から発射する必要があり、ウクライナ空軍は数機しか持っていないSU-24戦闘爆撃機を使用しています。機数が足りないのは明白で、いつでも爆撃機を飛ばせるわけではありません。ところが、ATACMSは高機動ロケット砲システム『HIMARS』からの発射が可能です。おまけに、ストームシャドウの最高速度は音速(マッハ1)未満の亜音速ですが、ATACMSはマッハ3で飛びます」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナ南部の都市ヘルソンは、反攻作戦における重要拠点の一つ。このヘルソンからセバストポリの距離は約250キロだ。
「ATACMSを使えば、ウクライナ軍はクリミア半島に駐留するロシア軍を広範囲に攻撃できます。例えば、アゾフ海沿岸の都市ベルジャンシクにはロシア空軍の基地があり、戦闘機や軍用ヘリである程度の航空優勢を確保しているとされています。しかし、ウクライナ領内からATACMSを発射すれば、基地を攻撃できます。甚大な被害が出るのは確実で、一定期間、離着陸を不可能にすることが可能です」(同・軍事ジャーナリスト)
封じ込められるロシア軍
アメリカは以前からHIMARSの供与は行っており、ウクライナ軍はフル活用している。そして重要なことだが、HIMARSがロシア軍の攻撃を受けて破壊されたという報道は今まで一つもない。
「HIMARSが発射するロケット弾の射程距離は約80キロです。ロシア軍は着弾地点から発射地点を算出するレーダーシステムを稼働させており、その範囲は30キロから40キロと推定されています。榴弾砲なら撃たれても発射地点を割り出せますが、HIMARSだとお手上げです。情報の精度が高いことで知られているオランダの戦争研究サイト『ORYX』でも、HIMARSの損害は確認されていません。そしてATACMSに至っては射程距離300キロですから、“絶対的な安全地帯”からロシア軍の重要拠点を攻撃することができます」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍がクリミア半島に拠点を置く司令部、兵站、軍港、空軍基地は、大半が射程圏内となる。ロシア国内とクリミア半島を結ぶクリミア大橋を標的とする可能性も高い。
「ロシア軍は今、ウクライナ領内に攻め込む考えはありません。ATACMSが実戦配備されれば、さらに自陣内に引きこもるでしょう。ロシア軍を封じ込めることができるわけですから、ウクライナ軍にとってはまさに戦術核を手にいれたほどの価値があります。ATACMSでクリミア半島のロシア軍を集中攻撃すれば、反転攻勢に強い追い風が吹くのは間違いありません」(同・軍事ジャーナリスト)
ATACMSと冬
アメリカが「少量」を強調しているのは前に見た通りだ。これには「在庫」の問題も大きいという。
「ATACMSは1991年の湾岸戦争で初めて実践で使用されました。ところが、中距離核戦力全廃条約(INF)が2019年に失効したことから、アメリカ軍は射程500キロ超のミサイル開発にシフトしており、ATACMSの製造は終了しました。在庫は約4000発と見られているのですが、ウクライナの他にも台湾など供与を求めている国はたくさんあります。そのためアメリカ軍は、ウクライナにATACMSを無制限で供与することは反対していたのです」(同・軍事ジャーナリスト)
こうした状況から考えると、アメリカはATACMSを「ウクライナが冬を乗り切るための兵器」と位置づけている可能性が高いという。
「秋の終わりに差しかかかると、ウクライナの大地は泥濘と化し、戦車の移動が難しくなります。そして長い冬が到来し、大地は凍って軍事車両の通行は可能になりますが、今度は兵士が寒さで動けなくなります。ただでさえ戦線は膠着するわけですが、ATACMSの射程距離に入っているロシア軍は新しい陣地や兵站の構築さえ難しくなります。衛星で監視され、そこを狙われたらひとたまりもありません。ウクライナ軍はロシア軍を身動きできない状況にさせ、戦況を見ながら重要な軍事施設を破壊し、戦果を宣伝しながら春を迎えようとしているのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍の悪夢
春になるとNATO(北大西洋条約機構)加盟国から供与される航空戦力が揃うと言われている。これでウクライナ軍は、戦車を孤立させず、空の支援を得ながら反攻作戦を行うことが可能になる。
「ただでさえロシア軍はATACMSで身動きが取れなくなるわけですが、春になって航空戦力が整うと、かなりの脅威を感じると思います。もしロシアのプーチン大統領にまともな判断能力があれば、停戦交渉に応じても不思議ではない状況です。アメリカの狙いも、おそらくはそこにあるのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)
停戦交渉が現実のものとなるためにも、ATACMSの大活躍が期待される。もちろん実力は充分だと専門家の誰もが太鼓判を押す。
「ATACMSを搭載しているコンテナは、HIMARSのロケット弾のコンテナと全く同じ形です。操作するアメリカ軍の兵士も『100メートル離れると、どちらか分からない』と口を揃えます。これは敵軍に監視された場合を想定しているからです。戦場に潜むHIMARSを発見し、軍事衛星やドローンで必死にコンテナを判別しようとしても、射程距離が80キロのロケット弾なのか、300キロのATACMSなのか分かりません。HIMARSは『高機動ロケット砲システム』と訳されるように、発射した後は高速で離脱することが可能です。そしてATACMSなら、マッハ3で標的まで飛んでいきます。こうなると、もう誰にも止められません。今冬、ロシア軍にとっては悪夢のような被害が出ると思われます」(同・軍事ジャーナリスト)
●米、ウクライナに追加軍事支援へ つなぎ予算除外も継続強調 10/3
ジャンピエール米大統領報道官は2日の記者会見で、ウクライナへの追加軍事支援を近く発表するとの見通しを示した。9月30日に成立した「つなぎ予算」には野党共和党の一部の反対でウクライナ支援の予算が盛り込まれなかった。ジャンピエール氏は、支援継続の姿勢を強調した。
ジャンピエール氏は、ウクライナには国際社会の強力な後押しがあると指摘。ロシアのプーチン大統領に対し「粘り勝ちできると考えているのなら、それは間違いだ」と述べた。バイデン政権はウクライナ侵攻を巡り、10月3日に日本や欧州の有志国首脳とのオンライン会合を計画している。 
●ロシア民間軍事会社ワグネル、創設者の息子が「相続」か 10/3
ロシアのSNS「テレグラム」の非公式のアカウントによれば、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者として知られるエフゲニー・プリゴジン氏の遺産や事業は、プリゴジン氏の遺志により、息子のパベル氏(25)に贈られた。
こうしたアカウントの一つである「Port」は、プリゴジン氏の遺言書のコピーを入手し、公開したと主張している。
プリゴジン氏は8月、搭乗していた民間機が墜落して死亡した。3月2日に公証人が署名したとされる遺書によれば、「ワグネル・グループ」を含むプリゴジン氏の多方面にわたる遺産の唯一の相続人として、パベル氏が指定されている。
非公式の発表は、パベル氏が9月8日に遺産相続を申請したことを示唆している。
Portによれば、ロシア国防省はプリゴジン氏の事業に関連して推計で最大8億ドル(約1200億円)の債務を抱えており、パベル氏はこれを全て回収する意向だという。この数字を確認することはできない。
6月にプリゴジン氏が短期間の武装蜂起を起こした際、ロシアのプーチン大統領は、プリゴジン氏が2022年5月から23年5月の間に、国防省から860億ルーブル(約1300億円)を受け取っていたと述べていた。さらに、プリゴジン氏が率いるケータリング会社「コンコルド」はロシア軍に対する食料の供給で、800億ルーブルの契約を国と結んでいたという。
ワグネル関連のテレグラムのアカウントによれば、パベル氏はワグネルの要員をウクライナの戦闘地域に戻すよう積極的に交渉しているという。こうした主張を検証することは不可能で、ワグネルの戦闘員が別の軍事組織に吸収されるかどうかは不明。
CNNはこうした発表や遺書の信ぴょう性について独自の確認ができていない。
●EU外相会議をキーウで開催 EUに支援疲れはないとロシアへメッセージ 10/3
欧州連合(EU)外相会議が2日、ウクライナの首都キーウで開催された。外相らはロシアに対し、ウクライナをめぐる欧州の「支援疲れ」を当てにしないよう警告した。
外相会議がEU域外で行われるのは今回が初めて。ウクライナは加盟国ではないが、かねて加盟を打診している。
一方この前日にはアメリカで、連邦政府の閉鎖を回避する「つなぎ予算案」が可決・成立したが、ウクライナへの追加援助は盛り込まれなかった。
欧州委員会のジョセップ・ボレル副委員長は、ウクライナで進行中の戦争を「存亡に関わる危機」と呼んだ。
「もしかしたら世界中の全員がこう認識しているわけではないかもしれないが、我々ヨーロッパ人にとっては、繰り返し言わせてもらうが、これは存亡に関わる危機だ」
「だからこそ、我々はあなたたちを支援し続けなくてはならない」と、ボレル氏はウクライナ国民に向けて述べた。「そして我々は、同盟相手のアメリカや友人たちに、あなたたちへの支援を続けるよう、協議しなくてはならない」
EUはすでにウクライナに対し、700億ユーロ(約11兆円)相当の軍事・民間支援を決定しており、向こう数年にわたって提供される。
ボレル副委員長はまた、EUが軍事支援で目指すのは「持続可能性と予測可能性」だと説明。加盟国が引き続き、ウクライナ支援とロシア制裁を採択し続けている事実を強調した。
フランスのカトリーヌ・コロナ外相は今回の会談について、「ウクライナが勝つまで、私たちは断固たる支援を続ける。(会談は)そのことを示す場だ」と述べた。
「加えて、私たちが支援に疲れてしまうなど、ロシアはそんなことを当てにしない方がよいと、そういうメッセージでもある。私たちは今後、長いこと、ここにとどまる」
ドイツのアナレナ・ベアボック外相は記者団に対し、送電網への攻撃からウクライナを守る戦略が必要だと訴えた。昨年の冬はこうした攻撃により、数百万人が暖房のない生活を強いられた。
「ウクライナには、防空システム、発電機、エネルギー供給の強化といった防寒計画が必要だ」とベアボック氏は述べた。
ウクライナのロシアの侵攻に対する反転攻勢では、いくつかの進展があった。南部ザポリッジャ州では、ロシアの防衛線を大きく破っている。
また、ロシアがウクライナ南部の防衛強化のために精鋭部隊の一部を東部バフムート周辺から移動させたことで、バフムート周辺でもウクライナが進軍している。
しかし、地上での進展は全体的に予想よりも遅れている。ウクライナはこれまで軍事的進展を政治的通貨として利用できたが、現在はこれまで以上に外交を活用しなければならない状態にある。
バイデン米大統領は支援を約束、EU内の亀裂も
アメリカ連邦議会が9月30日に可決したつなぎ予算には、60億ドル相当のウクライナ向け軍事支援が盛り込まれなかった。
バイデン政権はロシアの全面侵攻開始以来、460億ドル相当の軍事支援をウクライナに行っている。バイデン大統領はつなぎ予算の可決を受け、ウクライナはアメリカの支援を「あてにできる」と述べた。
ロシア政府は、欧州とアメリカの双方で戦争疲れが高まると考えている。ただし、この戦争へのアメリカの直接関与は続くともみている。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は1日の会議で、アメリカのつなぎ予算について、ウクライナ支持の減退を示すものではなく、単発的な「できごと」だと受け止めていると述べた。
アメリカでは野党・共和党の強硬派議員が、ウクライナへの軍事支援追加に反対し、ウクライナでの戦争に対するバイデン大統領の姿勢にも公然と反対している。
クレバ外相は、「我々は今、米連邦議会の両陣営と協力し、どのような状況でも二度と同じことが繰り返されないように努めている」と述べた。
「なので、アメリカの支援が打ち砕かれたとは感じていない」
一方で、EU内にも亀裂がみられる。特に、ウクライナと最も多くの問題を抱えているポーランドとハンガリーは今回、キーウに外相を送らず、代わりに州レベルの高官が出席した。
先週末には、EU加盟国の中欧スロヴァキアで、親ロ派政党が総選挙に勝利した。
道標・社会民主主義(SMER-SSD)を率いるロベルト・フィツォ元首相率いるフィツォ氏は今後、連立交渉に入る見込み。同氏は、ウクライナへの軍事支援を直ちに停止しすると公約していた。
クレバ氏はスロヴァキア総選挙について、その結果がウクライナに与える影響を判断するのは「時期尚早」だと述べた。
こうしたEU内の政治的な動きは、加盟国内で完全な統一を図ることは容易でないことを意味している。
●人口密集地に砲撃、2人死亡 ロシア防衛線で攻防 ウクライナ南部 10/3
ウクライナ当局は3日、前日に南部ヘルソン方面の人口密集地で、ロシア軍による砲撃があり、2人が死亡、少なくとも7人が負傷したと明らかにした。
ウクライナ国営通信が伝えた。2日夜から3日未明にかけて、東部ドニエプロペトロフスク州などにドローン31機とミサイル1発が飛来。大半を撃墜したものの、工場や民家に被害が出たという。
ヘルソン方面のウクライナ軍幹部は、2日の攻撃について、「迫撃砲や戦車、攻撃機などから、502発の砲撃があった」と説明した。教育施設やショッピングセンターも標的になったと訴えた。
ウクライナ軍は8月下旬に奪還した南部ザポロジエ州ロボティネから南下作戦を進めているが、ロシア軍の激しい抵抗を受けている。ウクライナ軍参謀本部は3日、同軍がロシア軍の防衛線の一部を突破したと伝えられる同州ベルボベ西方で「敵が失地回復を図ったが失敗した」と主張した。
一方、ロシアのショイグ国防相は3日、ロシア軍指導部との会議で「ベルボベやロボティネ付近のロシアの守備の突破を図る敵の試みはうまくいかなかった」と語った。米シンクタンク戦争研究所は1日付の報告で、ロシア軍が防御戦術を継続しており、「一帯は複雑で活発な動きがあるようだ」と指摘した。 
●ウクライナとロシア 双方の無人機による攻防が激化 10/3
ウクライナでは連日、ロシア軍による無人機の攻撃が相次ぐ一方、ウクライナ側もロシア西部のミサイル工場に対して、無人機による攻撃を行ったと発表し、双方の無人機による攻防が激しくなっています。
ウクライナ軍の参謀本部は3日、東部ドネツク州の激戦地バフムトや、南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリに向けて反転攻勢を続けていると発表し、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、前線でウクライナ側にやや前進の動きがみられるという見方を示しています。
一方、南部ヘルソン州では2日、ロシア軍による砲撃で教育施設や教会などが攻撃され、地元の知事によると、少なくとも2人が死亡、7人がけがをしたということです。また、ウクライナ空軍は3日、ロシア軍が無人機31機と巡航ミサイル1発の攻撃をしかけてきたと発表しました。
そのほとんどを撃退し、死傷者はいないということですが、東部ドニプロペトロウシク州では、民間企業で火災が発生したということです。
ウクライナ空軍のイグナト報道官は、地元メディアに対して、無人機の攻撃が相次いでいるとして、「空と領土をさらに強力に守るための手段が欠けている」と述べ、防空システムのさらなる強化が必要だと訴えました。
一方、ウクライナ国防省の情報総局は2日、ロシア西部スモレンスク州の軍事企業の施設に対して、無人機4機による攻撃を行い、そのうち3機が命中したとSNSで発表しました。
この工場では、ロシア軍がウクライナへの攻撃で使用するミサイルが生産されているとして「生産能力に深刻な損害を与えた」と主張しています。
ロシア側は、無人機攻撃があったが防空システムによって撃墜し、けが人や被害はないとしています。
ロシアとウクライナ双方で、前線だけでなく無人機による攻防も激しくなっています。

 

●旧ソビエトのアルメニア プーチン氏に逮捕状出したICCに加盟へ 10/4
旧ソビエトのアルメニアの議会は3日、ICC=国際刑事裁判所の加盟に必要なローマ規程を批准しました。ICCはウクライナへの軍事侵攻をめぐりプーチン大統領に対して逮捕状を出していることからアルメニア側の決定をロシアは批判していて、両国の亀裂が深まっています。
アルメニアのメディアによりますと、アルメニア議会は3日、ICC=国際刑事裁判所の加盟に必要なローマ規程の批准について、賛成多数で可決しました。
ICCはことし3月、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対して逮捕状を出していて、アルメニアが今後、ICCに加盟すれば、プーチン大統領が入国した際に、逮捕や引き渡しの請求に応じる義務を負うことになります。
ロシアとアルメニアは同盟関係にあります。ただ、アゼルバイジャンとアルメニアの係争地のナゴルノカラバフをめぐって先月、アルメニア側が敗北し、アルメニア政府は、ロシアが役割を果たさなかったとして不満を強めています。
ICCをめぐるアルメニア側の動きに対して、ロシア大統領府のペスコフ報道官は3日に「不適切な決定だ」と批判し、アルメニア政府に説明を求めていくと強調しました。
ロシアは、アルメニアが欧米に接近しているなどと批判も繰り返し、両国の亀裂が深まっていて、旧ソビエトを勢力圏とみなすロシアの影響力の低下が鮮明となっています。
●旧ソ連のアルメニア、ICC加盟決定…プーチン大統領入国で“逮捕義務” 10/4
旧ソ連のアルメニアは、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しているICC=国際刑事裁判所に加盟することを決めました。
アルメニア議会は3日、ICCの加盟に必要な国際条約「ローマ規程」を批准しました。124か国目の加盟国となり、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ICCが戦争犯罪の疑いで逮捕状を出しているプーチン大統領がアルメニアに入国した際には、逮捕義務が生じます。
アルメニアは、隣国アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフをめぐり、ロシアが支援しなかったとして不満を強めるなど“ロシア離れ”を加速させています。一方、ロシア側はアルメニアが欧米に接近しているなどと批判を繰り返していて、ICC加盟で両国の関係がいっそう悪化する可能性が出ています。
●「プーチン大統領、11月にロシア大統領選出馬を宣言する可能性も」 10/4
ロシアのプーチン大統領が来年の大統領選出馬を発表する可能性があるというロシアメディアの報道が出た。
3日(現地時間)、ロイター通信によると、ロシア日刊紙「コメルサント」は消息筋の話として、プーチン大統領が来月開かれる政府会議で大統領選出馬を発表するものと予想されると伝えた。
プーチン大統領が再選に成功する場合、2030年までにさらに6年間大統領職を維持することになる。ロシア大統領の任期は、2008年のメドベージェフ政権時代の4年から6年に変更された。
コメルサントは消息筋の話として、プーチン大統領が11月にロシア・モスクワで開かれる国家経済業績展示行事「ロシア」の開幕に合わせて来年3月17日に施行されるロシア大統領選挙に出馬すると宣言する可能性があると伝えた。
11月4日から来年4月12日まで開かれる展示会は、ロシア連邦の経済分野で最も重要な業績を展示する行事で、「ここで展示される業績はプーチン氏の業績だ」と消息筋は説明した。
ロシアの重要な経済成果を誇りながら非公式で選挙運動に突入するというシナリオだが、同消息筋は「最終決定はプーチン大統領次第だ」と付け加えた。
公式的にロシアの大統領選挙運動は、連邦議会(上院)が選挙を発表した瞬間に始められる。上院の選挙発表は投票日の100〜90日前に行われなければならないが、投票日が3月17日に予定されているため、12月8〜18日に発表される見通しだ。
このような報道に対してクレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は「いかなる情報もない」として確認しなかった。
プーチン大統領は1999年12月31日に突然辞任したエリツィン元大統領から大統領職を譲り受けた後、2000年、2004年に再選に成功した。
2008年から4年間は側近のメドベージェフ元大統領に権力の座を譲り、首相に退いた。
しかしメドベージェフ元大統領が大統領任期を4年再任から6年重任に改憲した後の2012年プーチン氏は大統領に復帰し、2018年再選され第4期執権を続けている。
プーチン大統領は2021年4月、再び改正された選挙・国民投票関連法律改正案に署名することで、2036年までにさらに2度の大統領職を遂行できる道を開いた。今月7日に71歳の誕生日を迎える彼が84歳まで政権を握ることができるようになったわけだ。
プーチン氏は旧ソ連を最も長く統治した指導者ジョセフ・スターリン(1922〜1952年、30年執権)以来18年間在任したレオニード・ブレジネフ共産党書記長の任期を抜いて独裁体制を維持している。
先月、ペスコフ報道官は「プーチン大統領がまだ2024年の大統領選出馬を発表していないが、出馬することになれば彼と競争できる人は誰もいないだろう」と述べた。
●鈴木宗男参議院議員がロシア上院副議長と会談 10/4
ロシアを訪問中の鈴木宗男参議院議員は、ロシア上院のコサチョフ副議長と会談し、日ロ関係を向上させたいなどと述べました。
鈴木氏は3日、ロシア上院でコサチョフ副議長と会談しました。会談の冒頭でコサチョフ氏は日本が対ロシア制裁に参加した結果、日ロ関係が第二次世界大戦以降、最悪の状況になったと日本側の対応を批判しました。これに対して鈴木氏は、次のように応じました。
鈴木宗男参議院議員「安倍総理がプーチン大統領と極めて良好な関係を築いたのを、わずか1年で岸田総理はマイナスの方になってしまいました。私もコサチョフ氏と同じ考えで、日ロ関係をかつての安倍・プーチン関係にもっていきたい」
鈴木氏は所属する日本維新の会に事前に届け出ず、また、会談相手や内容などについても政府や党と一切調整せず、ロシアを訪れたと明らかにしたうえで、政治家個人としての行動であり、問題はないと主張しています。
●危険警報出ているのに…政府に届けずロシアに行った日本の議員 10/4
日本の国会議員がウクライナ戦争勃発後初めてロシアを訪問したと共同通信が3日にロシア外務省の話として報道した。
これによると、ロシア外務省は前日、日本維新の会所属の鈴木宗男参議院議員がルデンコ外務次官と面談したと明らかにした。元外務次官の鈴木氏は代表的な親ロシア派に分類される。
ロシア外務省はこの席で、鈴木議員が両国関係発展に重要な貢献をしたと評価したが、現在日本政府が対ロシア制裁に参加し数十年間にわたり積み上げてきた両国の協力関係を損傷させていると批判したという。
また、ロシア側が鈴木議員に対し、こうした日本の態度は日本の国益と国民の意思にも反するものと話したという。
これに対し松野博一官房長官はこの日午前の会見で「ロシア全土に渡航中止勧告以上の危険情報を出しており、どのような目的であれロシアへの渡航はやめてもらうよう国民に求めている」と話し、政府として鈴木氏から事前、事後に連絡は受けていないと話した。
続けて「ロシアのウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であり、日本は国際社会と協力してロシアに対する厳格な制裁を継続するだろう」と付け加えた。
鈴木議員は今年春にもロシア訪問を検討したが、維新の会執行部の要請を受け入れ取りやめている。鈴木氏は昨年10月に東京で開かれた駐日ロシア大使の講演会で西側諸国に向けウクライナへの武器支援を中断するよう訴えていた。
鈴木氏は1日に国会に海外出張届けを提出し、5日に帰国するという。維新の会は鈴木氏が党に必要な届けをしていなかったと判断して鈴木氏の帰国後に調査を経て処分を検討する方針だ。
●戦争中のウクライナに「大統領選挙実施」の圧力…黒幕はロシアか 10/4
民主主義国家なら戦争中でも「選挙」を行わなければならないのか。
西側の全面的な支援の下、ロシアの侵攻に対抗する戦争を1年7カ月間続けているウクライナの悩みが深まっている。一部の西側政治家が、戦争にもかかわらずウクライナが総選挙と大統領選挙を行うべきだと主張しているからだ。昨年2月末のロシアの全面侵攻後、ウクライナ全域には戒厳令が敷かれた。ウクライナ憲法は戒厳令のもとではすべての選挙を禁止している。本来ならウクライナは来月29日に総選挙を、来年3月に大統領選挙を実施しなければならない。
ウクライナが戦乱の中でも選挙を強行すべきだと主張した人々の中には、オランダの政治家、ティニー・コックス元欧州評議会議長もいる。コックス氏は5月、ウクライナのメディア「ユーロピアンプラウダ」とのインタビューで「ウクライナは自由で公正な選挙を行わなければならない」と主張した。さらに「戒厳令が維持される限り、憲法によって選挙ができないため、問題がある」とし、「どうしたら選挙が可能になるのかは、我々(西側)ではなく、ウクライナが解決策を見つけなければならない」と語った。コックス氏はトルコが2月に大地震に見舞われたたにもかかわらず、5月に大統領選挙を行ったことを例に挙げた。
それだけではない。リンゼイ・グラハム米上院議員も先月キーウを訪問し、「民主主義の発展」のため、ウクライナが来年選挙を実施すべきだとし、「国が攻撃を受けている状況でも自由で公正な選挙をすることを望んでいる」と述べた。
ウクライナはこのような主張に難色を示している。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「つけにしたり、武器を売ったりしてまでお金を工面し選挙を行うつもりはない」とし、「しかし、あなたたち(西側)が財政支援をし、国会議員が同意するならば、早く法案を変え一緒にリスクを受け入れよう」とウクライナメディアとのインタビューで語った。海外に避難したウクライナ市民700万人余りが権利を行使できる投票所を欧州連合全体に設置すべきだと強調し、「私たちはそのような基盤施設を備える力を持っていない」と付け加えた。
ゼレンスキー大統領は公正な選挙のために「立会人を最前線に送らなければならない」とも述べた。すべての有権者の権利が保障されるならば選挙を行うという立場を示し、事実上不可能だという点を遠まわしに表現したのだ。現在、ウクライナ領土の約5分の1がロシア軍占領下にあるだけでなく、市民数百万人が故郷を離れ、他国や都市に避難している状態だ。最前線に配置されている軍人数万人の場合、投票が容易ではない。
ワシントン・ポスト紙はウクライナのユーリヤ・ティモシェンコ元首相が「戦争中に選挙を行う代償は敗北として返ってくるだろう」と語ったと報じた。選挙によって自然に発生する政治的対立が、ロシアを撃退するために必要な全国家的団結を乱すという点を強調したのだ。ティモシェンコ元首相は、自分の政党は多くの議題でゼレンスキー大統領と異なる意見を持っているが、戦争中に選挙を強行することについては反対する考えを表明した。
ウクライナ内部では、このような主張が出てくる背景にロシアの介入があるという疑念の声が上がっている。あるウクライナの情報機関関係者は匿名でワシントン・ポスト紙に、「ロシアが秘密チャンネルを通じてこれを進めている」とし、選挙を実施すれば、ロシアがウクライナ社会内部に分裂を操作したり助長するチャンスを与えることになりかねないと指摘した。
ウクライナでジャーナリストとして活動しているリー・リニー氏とジョエル・バーサーマン氏は、米外交雑誌「フォーリン・ポリシー」への寄稿で、「全国的な空襲警報は(ウクライナ全域で)非常に多く発生し、20分から数時間まで続くこともある。これによる混乱のため、信頼できる投票、開票、集計は不可能であろう」と指摘した。さらに「ロシアはアフガニスタン選挙でタリバンが試みたように、ウクライナの政治的混乱を最大限に高めるため、全国投票所を爆撃対象にするのが有利だと判断するだろう」と懸念を示した。
8月、ウクライナ国会は戒厳令を11月までさらに90日延長した。総選挙が開かれるためには憲法を改正するか、戒厳令が撤回されなければならない。ジョー・バイデン政権は、選挙実施の可否はウクライナが決める問題という立場を示している。トニー・ブリンケン米国務長官は最近、キーウ訪問の際、ゼレンスキー大統領に市民社会や野党と選挙日程について協議するよう求めた。
●ウクライナへ提供する弾薬「枯渇寸前」 NATO当局者らが警告 10/4
北大西洋条約機構(NATO)と英国の当局者は3日、西側諸国がウクライナに提供する弾薬が枯渇しつつあり、増産する必要があると警告した。
NATOのロブ・バウアー軍事委員長は同日、ワルシャワ安全保障フォーラムでの討議の中で「弾薬の在庫が底を尽きつつある」と発言。「防衛産業界が生産を大幅に増強する必要がある」と指摘した。
バウアー氏によると、ウクライナを支援する国々はロシアがウクライナに侵攻する前に予算を増額したが、生産能力は増強していない。それにより、弾薬の価格は侵攻前に上昇していたという。
バウアー氏は「兵器や弾薬をウクライナに送ることはいいことだが、在庫が十分にある倉庫から提供しているわけではないという事実により、弾薬を取り巻く状況は悪化した。欧州の兵器や弾薬の倉庫が半分かそれ以下の状態からウクライナに提供を始めたため、在庫が底を尽きつつある」と説明した。
バウアー氏とともに登壇した、英国のジェームズ・ヒーピー国防担当閣外相は「ぎりぎり」の生産モデルは「明日の戦闘に備える必要があるときに間違いなく機能しない」と警告。また、ウクライナへの支援は継続すべきとの考えを示した。
ヒーピー氏は「在庫が少なくなっているからといって支援をやめることはできない」「ウクライナが今夜、そして明日以降も戦えるようにしなければならない。我々が供給をやめれば、ロシアのプーチン大統領が自動的に戦争をやめるわけではない」と指摘。「それはウクライナに日々供給し、我々の在庫も再構築することを意味する」と増産の必要性を訴えた。
●ウクライナ支援継続、日米欧が首脳電話会議で確認… 10/4
米国のバイデン大統領や岸田首相ら日米欧の首脳は3日、電話会議を開き、ロシアの侵略を受けるウクライナ情勢について協議した。米国で9月末に成立した政府の暫定予算(つなぎ予算)でウクライナ支援予算が除外されたことなどを踏まえ、ウクライナ支援での結束を改めて確認した。
米政府によると、日米英独など先進7か国(G7)やポーランド、ルーマニアの首脳、北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長らが出席した。
会議はバイデン氏の呼びかけで開かれた。バイデン氏は支援継続を表明した模様だ。同盟国の間では米国内の支援削減の動きに不安が広がっており、懸念を 払拭ふっしょく する必要があると判断したとみられる。
米国のカリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は2日の記者会見で、追加の軍事支援を近く発表すると明らかにした。「勇敢なウクライナの人々を引き続き支援することを示すためだ」と語り、追加予算がなくても、当面は米軍の在庫から支援を続ける姿勢を強調した。
米国務省は2日、ウクライナに供与する武器を民間軍事企業から調達する制度を一時凍結したと発表した。追加の支援予算を確保できなかったことで、財源が底をついた。米国の予算措置が滞れば、他の支援にも影響が及ぶ可能性がある。
●日米欧首脳、ウクライナ巡り電話協議 支援へ結束確認 10/4
日本と米国、欧州の同志国首脳は3日、ロシアによる侵攻が続くウクライナ情勢を巡り電話協議した。バイデン米大統領が主催し、岸田文雄首相やドイツのショルツ首相らが参加した。各国が結束してウクライナへの支援を続ける方針を確かめた。
米ホワイトハウスは協議後の声明で「バイデン氏はウクライナが主権と領土の完全性を守るために必要な限り、米国がウクライナを支援する責務を再確認した」と記した。ウクライナがロシアの侵略から領土や重要インフラを守るために必要な武器供与や防空体制の強化などについて意見を交わした。
9月30日に成立した米政府閉鎖を回避する「つなぎ予算」にウクライナへの追加支援が盛り込まれなった。野党・共和党が反対したためで、米政府が確保したウクライナ支援の予算が底をつく事態が現実味を増す。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は3日の記者会見で、各国首脳との電話協議で「米国の支援継続に懸念を表明した外国首脳はいなかった」と説明した。バイデン氏が「いかなる状況にあっても米国のウクライナ支援を中断させるわけにはいかないと明言した」と明らかにした。
日本外務省によると、各国首脳は「同志国が団結してウクライナに寄り添い、結束して支援を続ける」との方針で一致した。
岸田首相は会議で、24年初めに日本でウクライナ経済復興推進会議を開く方針を説明した。「日本としてウクライナ支援を力強く実施する」と伝えた。
電話協議には主要7カ国(G7)首脳らのほか、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長やポーランドのドゥダ大統領、ルーマニアのヨハニス大統領らも出席した。
●G7首脳らウクライナ支援で結束 電話会談に岸田首相出席 10/4
岸田首相は3日、ロシアのウクライナ侵攻をめぐるG7(主要7カ国)の首脳らとの電話会議に出席し、結束してウクライナ支援を続けることを確認した。
電話会議には、アメリカのバイデン大統領などG7の首脳や、ポーランド、ルーマニアの首脳らが参加した。
首脳らは、「ウクライナの平和を一日も早く実現すべく、今こそ結束して支援を続ける必要がある」との認識で一致した。
また、岸田首相は、2024年初めにウクライナ復興に関する会議を日本で開催するなど、日本の支援の取り組みを強調した。 
●「HIV感染」がロシアとベラルーシで急拡大 その理由は? 10/4
ウクライナ侵攻を続けるロシアと隣国ベラルーシで、エイズの感染拡大が続いている。国連は、ロシアでの新たなエイズウイルス(HIV)感染者数が世界でワースト5に入ると警告、感染者は人口の1%に達する勢いだ。深刻化している欧米との対立が、感染予防に関する知識の普及を妨げており、事態の悪化に歯止めがかからない。
ロシアとベラルーシ / ともに旧ソ連構成国で、キリスト教東方正教を信仰する東スラブ系住民が多数を占める。1999年に両国は連合国家創設条約を締結。ウクライナ侵攻でもベラルーシはロシア軍の出撃拠点を提供し、ロシアと同じく欧米から制裁を受けている。ロシアの人口は約1億4000万人。ベラルーシは約950万人。
「私の周囲では誰も感染するとは思っていない」
ロシアでは2021年、新たに5万9000人がHIVに感染。国連は昨年末に南アフリカ、モザンビーク、ナイジェリア、インドに次ぐ深刻な状況だと指摘した。米フォーブス誌(ロシア語版)などが、公式統計を基に試算した感染者は150万人にのぼる。シベリアやウラル地方では、妊婦の2%以上がHIVに感染している都市もある。
しかし市民の危機感はいまひとつだ。ロシアやベラルーシでは「エイズは同性愛者の病気」という偏見が根強く、性病への警戒も薄い。モスクワのIT企業で働く20代男性は「私の周囲では誰も感染するとは思っていない」と話す。同市の20代の男性銀行員は「学校や大学ではエイズについて学ばなかったし、話題になりにくい」と打ち明けた。
「欧米敵視」が議論や知識の普及を阻んだ
ロシアでは1991年のソ連崩壊後、社会が混乱に陥り、売春や薬物乱用の際の注射針で感染者が急増。ロシア政府はエネルギー輸出で財政が安定した2000年以降、国際社会と連携して「ストップHIV」キャンペーンを実施し、メドベージェフ元大統領の妻が推進団体のトップを務めた。
だが、ロシアのエイズ啓発や患者支援に携わる団体の多くは、欧米の基金や国際機関から支援を受けており、ウクライナを巡って欧米との対立が激化すると、政府系団体以外は弾圧を受けるようになった。16年以降、複数のエイズ患者支援団体が、当局によって「外国の代理人」と認定された。「欧米のスパイ」とほぼ同義語であり、活動を封じられた。プーチン政権の欧米敵視の姿勢がエイズに関する社会の議論や知識の普及を阻んでいる。
社会学者のグトコフ氏は「プーチン政権は欧米敵視の思考を国民に植え付けており、この呪縛が解かれるには少なくとも15年はかかるだろう」と悲観する。
ベラルーシでは独自の理論まで
ベラルーシもエイズ禍が続いている。当局の発表によると、人口約200万人の首都ミンスクでの感染者数は9月1日時点で5501人。しかし「欧州最後の独裁国家」と呼ばれるベラルーシでは、政府にとって都合の悪い現実は公式統計に反映されないため、実際の感染者数はさらに多いとみられる。
外交筋によると、ベラルーシ南東部の工業都市スベトロゴルスク市は、1990年代後半、薬物中毒者らの注射針の回し打ちなどで感染者が爆発的に増え、「エイズの都」と呼ばれた。市保健当局は2000年代に「封じ込めに成功」と宣言したが、市民団体によると現在もスベトロゴルスクを含むゴメリ州での感染数はベラルーシ全体の半数近くを占める。
ロシアとベラルーシでは、感染症に対する国際社会の警戒を「欧米による陰謀論」と見なす風潮があり、ロシア正教会で「長司祭」と呼ばれる高位聖職者ドミトリー・スミルノフ氏は生前、「エイズはストレスやうつ病、予防接種が原因で生まれる」と主張。ベラルーシのルカシェンコ大統領も新型コロナウイルスについて「心の病なので、ウオッカやサウナが効く」と持論を展開してきた。
●ロシア ニュース番組中に反戦訴えた元職員に判決 禁錮8年6か月 10/4
ロシア国営テレビのニュース番組の放送中にスタジオに入ってウクライナ侵攻への反対を訴え注目された国営テレビの元職員に対し、モスクワの裁判所は、軍の活動についてうその情報を拡散したとする罪で禁錮8年6か月の判決を言い渡しました。
ロシア国営の「第1チャンネル」に勤務していたマリーナ・オフシャンニコワ氏は、ウクライナへの軍事侵攻が始まった直後の去年3月、ニュース番組の放送中にスタジオに入り、「戦争反対」と書いた紙を掲げて軍事侵攻を批判し注目されました。
その後も反戦を訴える活動を続けたオフシャンニコワ氏は、軍の活動について、うその情報を拡散したとして起訴され、自宅軟禁となっていましたが、去年10月、家族とともにロシアを離れたことが明らかにされました。
オフシャンニコワ氏は、SNSを通じて無罪を主張する声明を出していましたが、モスクワの裁判所は4日、禁錮8年6か月の判決を言い渡しました。
オフシャンニコワ氏はことし2月、滞在先のパリで会見し、「終わりが見えない戦闘が続き、ロシアの犯罪行為はどんどん残忍で攻撃的になっている。この戦争がウクライナの完全なる勝利で終わらないと、ロシアの未来もない」と述べるなど、国際社会が結束してウクライナを支援するよう呼びかけています。
フランス外務省「判決を強く非難する」
オフシャンニコワ氏が現在、滞在しているフランスの外務省は4日、声明を出しました。
声明では「判決を強く非難する」とした上で「オフシャンニコワ氏は、ロシアで放送されたニュースの中で、ウクライナに対する侵略戦争を勇気を持って非難した」としています。
そして「ロシア当局が、侵略戦争に批判的な声に対して行っている弾圧キャンペーンの激化を非常に懸念している。ロシアのプロパガンダは、ウクライナへの侵略戦争における武器そのものだ。国際人権法と報道の自由を尊重すべきだ」などとしています。
オフシャンニコワ氏は、先月29日ロシア国内の反戦活動を支援するためパリで開かれたフォーラムに参加するなどいまも活動を続けています。

 

●ロシアを支持する南アフリカ、忠誠心の根っこに見当外れの郷愁 10/5
時折、道徳的な悟りは稲妻のように訪れる。今年8月、南アフリカでそのような落雷があった。ナイジェリアの偉大な文人でノーベル文学賞受賞者のウォーレ・ショインカ氏(89)がステレンボッシュ大学の学生たちからウクライナ戦争についての見解を問われた時のことだ。
中立の立場は建前だけ
公式見解としては、南アフリカはこの戦争について中立の立場を保とうとしてきた。
だが、多くの若手を含む与党・アフリカ民族会議(ANC)の一部メンバーは公然とロシアの味方をした。
昨年、ANC青年同盟が送り込んだ使節団は、ウクライナ東部、南部4州でのインチキ住民投票は「美しく素晴らしいプロセス」だったと宣言した。
これは党内の年配政治家がわざわざ正す必要もないと判断したナンセンスだった。
1990年から南アフリカ労働組合会議(COSATU)とともにANCと3者同盟を組んでいる南アフリカ共産党は決まって、ロシアによるウクライナ侵攻を「NATO(北大西洋条約機構)が誘発した戦争」と呼ぶ。
今年2月にはロシアの侵略行為を記念するかのごとく、南アは自国沖合でロシア、中国両国との海軍合同演習を実施した。
また、急進左派の「経済的解放の闘士(EFF)」の党首で、ANCに連立パートナーが必要になった場合には未来の南ア副大統領になる可能性があるジュリアス・マレマ氏は、アンチ西側の姿勢をロシアへの忠誠と同一視している。
同氏は今年、ある集会で「我々はプーチンであり、プーチンは我々だ」と語った。
不正義と戦ってきた文人の道徳心
ショインカ氏はそうした浅はかな考え方を痛烈に批判した。
「今日のロシアはアフリカの解放の味方についたロシアではない」と同氏は言った。
「ウクライナは人間が暮らしている主権国家だ。ロシアは侵略者だ。なぜ我々はそうじゃないふりをしているのか。この義務感は一体何なのか」
ショインカ氏はその道徳心を証明してきた。
1960年代終盤には、ビアフラ戦争(ナイジェリア内戦)で仲裁を模索した後、投獄されて2年間独房で過ごした。
刑務所でトイレットペーパーに文章を書き、後に『The Man Died』として出版される獄中記を綴った。
だが、ショインカ氏は死ななかった。生涯にわたり、どこで見つけようとも見つけるや否や、不正義を不正義として糾弾した。
確かに、侵攻直後のパニックに駆られた日々にウクライナから避難した一部のアフリカ人学生は同国で人種差別に遭った。
(アフリカの黒人に対する人種差別はロシアでも決して未知の現象ではない)
また確かに、イラクとリビアに対する悲惨な侵攻をめぐって西側の偽善を批判することができる。
だが、ほかの誰かの愚行に基づいてロシアの侵略を応援することは、道徳の破綻というものだ。
ソ連に郷愁を抱く歴史
南アにおけるソビエト連邦に対する郷愁は本物だ。
世界の大部分が喜んで白人至上主義者とビジネスをしていた時、ロシアは国外に亡命したANCに資金を提供し、訓練に協力した。
ウォルター・シスル氏やクリス・ハニ氏など、ANCの指導部数人は南ア共産党のメンバーだった。
危険を顧みずにアパルトヘイト(人種隔離政策)に反対した白人の多くも共産党員だった。
伝記作家のジョニー・スタインバーグ氏はマンデラ一族に関する新著で、ズールー語を話す清掃員が1961年に、当時逃亡中だった故ネルソン・マンデラ氏がユダヤ系白人男性のウォルフィー・コデシュ氏の部屋に一緒にいるところを見かけたシーンを回想している。
これはスタインバーグ氏があの時代の「最も奇妙なシーン」と呼ぶものだ。
「黒人と白人の男性が2人だけで部屋にいて、2人の関係は明らかに対等だった」。ほとんど必然か、コデシュ氏は共産主義者だった。
もちろん、ソビエト連邦に対する忠誠心には二重思考の離れ業が必要だった。
スターリンのグラーグ(強制収容所)では何百万人もの人が殺され、ソ連はハンガリーの街頭に戦車を送り込んだ。
共産主義の理念がどういうわけか自由と平等を表していたとすれば、それは間違いなくソ連では実践されていなかった。
ソ連に郷愁を抱く歴史
南アにおけるソビエト連邦に対する郷愁は本物だ。
世界の大部分が喜んで白人至上主義者とビジネスをしていた時、ロシアは国外に亡命したANCに資金を提供し、訓練に協力した。
ウォルター・シスル氏やクリス・ハニ氏など、ANCの指導部数人は南ア共産党のメンバーだった。
危険を顧みずにアパルトヘイト(人種隔離政策)に反対した白人の多くも共産党員だった。
伝記作家のジョニー・スタインバーグ氏はマンデラ一族に関する新著で、ズールー語を話す清掃員が1961年に、当時逃亡中だった故ネルソン・マンデラ氏がユダヤ系白人男性のウォルフィー・コデシュ氏の部屋に一緒にいるところを見かけたシーンを回想している。
これはスタインバーグ氏があの時代の「最も奇妙なシーン」と呼ぶものだ。
「黒人と白人の男性が2人だけで部屋にいて、2人の関係は明らかに対等だった」。ほとんど必然か、コデシュ氏は共産主義者だった。
もちろん、ソビエト連邦に対する忠誠心には二重思考の離れ業が必要だった。
スターリンのグラーグ(強制収容所)では何百万人もの人が殺され、ソ連はハンガリーの街頭に戦車を送り込んだ。
共産主義の理念がどういうわけか自由と平等を表していたとすれば、それは間違いなくソ連では実践されていなかった。
●ワグネルの精鋭部隊はプリゴジンの息子(25)の指揮下でウクライナに戻る 10/5
民間軍事会社ワグネル・グループの創設者である故エフゲニー・プリゴジンの息子パベルが、本格的にウクライナ侵攻に参加するワグネルの精鋭部隊を引き継いだという情報が、ロシアのSNSテレグラムで伝えられている。
8月23日にエフゲニー・プリゴジンが原因不明のプライベート・ジェット機墜落事故で死亡して以来、ワグネルが今後、ウクライナ戦争とどう関わるかは明らかになっていない。
プーチンがワグネル司令官を登用
ワグネルはプリゴジンの指揮下で、ウクライナ東部バフムトで数カ月に及ぶ戦いの先頭に立ってきたが、6月24日にロシア軍幹部に対して反乱を起こした後、ロシア政府によってウクライナから撤退させられている。
プリゴジンとワグネルによるモスクワへの「正義の行進」が未遂に終わった後、一部の戦闘員は隣国ベラルーシに追放され、一部はロシア国防省との契約を提示された。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今年7月、ワグネルは「存在しない」し、ロシアには民間軍事会社に関する法律も存在しないとみずから語った、とロシア紙コメルサントが報じている。
だがその点については疑問の声があがっている。ロシア政府は9月28日に、プーチンがワグネルの司令官だったアンドレイ・トロシェフと会談し、ウクライナで「さまざまな戦闘任務」を遂行できる「志願兵部隊」の創設について協議したと発表したからだ。
犯罪に走る元戦闘員
ロシアのニュースメディアMK.ruは10月2日、傭兵グループとつながりのあるテレグラム・チャンネルの投稿を引用し、ロシア国防省と契約を結んでいない3個のワグネル突撃部隊が、ウクライナの戦闘に参加するため、すでにアフリカを出発したと報じた。
あるテレグラム・チャンネルによると、ワグネルの戦闘員たちは、ワグネル内部の指揮系統を維持し、パベル・プリゴジンがウクライナでその指揮を執る協定に調印する可能性があるという。
MK.ruは軍事専門家の話として、アフリカから帰ってくるワグネルの部隊の最初の任務は、ウクライナ領ドンバス地方東部の都市アヴディーイウカの占領になるだろうと伝えている。この都市はバフムトの南約90キロ、ロシア占領下のドネツク州のすぐ北に位置している。
ワシントンのシンクタンク戦争研究所(ISW)は10月1日、ワグネルとロシア政府が今後の協力について交渉していると報道されてはいるが、ワグネルの立場は依然として不透明だと指摘した。
「ワグネルの主要な戦闘部隊は、ベラルーシ、中央アフリカ共和国、リビア、マリなど複数の国にまたがっており、ワグネル・グループ全体を統一するリーダーは存在しない」
一方、ロシア各地の新聞報道などによると、ワグネルをやめてロシアに戻った元戦闘員は国中で問題を起こし、殺人、誘拐、放火、レイブなどありとあらゆる重犯罪を犯している。
●「シベリアで核実験を」 ロシア編集長、発言が炎上 10/5
ロシア国営テレビRTのシモニャン編集長が2日の番組中、ウクライナ侵攻で対立する西側諸国を威嚇するため「シベリアのどこかで熱核爆発(核実験)を起こせばいい」と発言し、国内のSNS上で炎上している。シベリアの中心都市ノボシビルスクの市長らから批判が噴出した。
シモニャン氏は、核実験が戦争で優位に立つための「最後通告」になると述べていた。
プーチン政権は対外的に核兵器による威嚇を続ける一方、爆発を伴う核実験のモラトリアム(一時停止)を順守するのが建前。ペスコフ大統領報道官は3日、「彼女は政府機関で働いておらず、発言が公式見解を反映しているわけではない」とコメントした。
●北朝鮮が衛星再打ち上げ予告した10月…ロシアが「ワンポイントレッスン」か 10/5
北朝鮮が予告した軍事偵察衛星の再打ち上げを控え「助力者」としてのロシアの役割に関心が向かう。プーチン露大統領が自ら示唆した「衛星技術支援」をいつ、どんな形で適用するかという点だ。
北朝鮮は8月24日の2回目の打ち上げに失敗した直後、「10月に3回目の発射を断行する」と明らかにした。発射時点は10日の労働党創建日の前後が有力という見方が出ている。北朝鮮の立場では政治記念日を迎えて金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の功績を浮き彫りにしながら内部結束を図る必要性がある。
失敗すれば政治的負担が大きい中、ロシアの助力レベルが変数になると予想される。プーチン大統領は先月13日、金正恩国務委員長との露朝首脳会談に先立ち、北朝鮮の衛星開発を支援する意向を表した。
しかし今回の打ち上げではロシアの影響力は少ないという見方が多い。2回目の打ち上げで発射体「千里馬1型」の1段目と2段目は正常に飛行したが、3段目の非常爆発体系に問題が生じて失敗したというのが北朝鮮の評価だった。北朝鮮が言及した非常爆発体系は「飛行終了システム(FTS=Flight Termination)」とも呼ばれるが、各段の飛行中に問題が発生すれば意図的に爆破させることができる装置だ。
北朝鮮は「事故の原因は段階別発動機(エンジン)の信頼性と体系上大きな問題でない」と説明した。失敗は1・2・3段目ロケットの作動および段分離などの決定的な要素でなく、FTSの誤作動のような小さな問題にすぎないため10月中の再打ち上げを公言するのが可能だったということだ。北朝鮮の主張が事実なら、衛星を宇宙空間に打ち上げるうえでロシアの決定的な支援が必要な状況でない可能性もある。
また、先月の露朝首脳会談で技術移転に合意したとしても、北朝鮮がロシアの技術力をすぐに適用するには時間があまりにも短いという指摘もある。韓国国防安保フォーラムのシン・ジョンウ事務局長は「発射体を置いて実務陣の間で諮問する程度しかできないだろう」と話した。北朝鮮がロシアの技術を基盤にした液体燃料エンジンで衛星に搭載される白頭山(ペクドゥサン)エンジンを作ったという点で、ロシア技術陣のコンサルティング程度は可能ということだ。シン氏は「北が首脳会談後に設計図や発射データをロシアに提供したかも確実でない」とし「諮問したとしてもどれほど実効性のある助言を得られたかも疑問」と話した。
ただ、ロシアが衛星打ち上げ成功の経験から築いたノウハウを「ワンポイントレッスン」方式で伝える場合、予想以上の効果につながるという見方もある。政府筋は「わが国も衛星打ち上げ失敗を繰り返した当時、先進国の技術陣の助言が役に立った」と伝えた。
また光学装備のアップグレードなどは短期間で移転可能な技術であり、今回の打ち上げに活用される可能性もある。クォン・ヨンス元国防大教授は「ロシアとの協力で粗悪という評価を受けた衛星体の光学監視能力を補完できる技術や装備を確保する可能性も排除できない」と話した。
軍当局は北朝鮮偵察衛星の衛星体「万里鏡1号」について「偵察衛星としての軍事的効用性が全くないと評価する」という立場だ。ここに搭載されたカメラの解像度が横・縦1メートル以下の「サブメートル」級に至らず、軍事偵察衛星としての役割をするのは難しいという意味と解釈される。
結果的に北朝鮮はロシアの技術支援を中長期な課題として接近する可能性が高い。21世紀軍事研究所のリュ・ソンヨプ専門研究委員は「千里馬1型の10月の再打ち上げが失敗する場合、ロシアの技術は『プランB』になる可能性がある」と分析した。そのためには少なくとも1年以上の期間を置いて発射体と衛星体を新たにやり直す作業が必要というのが専門家らの評価だ。
一部ではロシアが試験設備の提供など間接支援に注力するという声も出ている。北朝鮮が確保していないと推定される真空チャンバーが代表的な例だ。エンジンの安定した試験基盤を備えるだけでも北朝鮮の衛星開発に大きく寄与すると予想される。
●ウクライナ支援に暗雲 米議会混乱で途絶懸念 10/5
マッカーシー米下院議長が解任されたことで、米議会で審議中のウクライナ支援予算案の行方に不透明感が強まった。
バイデン大統領は3日、日本や英国、欧州連合(EU)などの首脳と電話会議を開き、支援継続に取り組む姿勢を強調。だが、最大の後ろ盾だった米国の政治混乱は、ロシアの侵攻が続くウクライナの反転攻勢にも影を落としかねない。
「短期間でも支援が途切れれば、戦況は一変する。プーチン(ロシア大統領)は、われわれが折れるまで戦争を続けようと考えるだろう」。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は3日の記者会見でこう警告し、切れ目ない支援の必要性を訴えた。
米政府機関の一部閉鎖を回避するため9月末に成立したつなぎ予算からは、下院多数派を握る共和党の賛成を取り付けるため、ウクライナ支援分が除外された。日米欧首脳の電話会議は、バイデン氏が同盟国に事情を説明するのが狙いだったとみられる。ホワイトハウスによると、参加した他の首脳は米議会の状況に理解を示した。
米国で予算編成権を握るのは、政府ではなく議会。バイデン氏はウクライナ支援予算案の迅速な可決を議会に呼び掛けていたが、その直後の下院議長解任で、早期可決の希望はあっけなくついえた。
カービー氏は議会が追加資金を承認しなければ、米国の支援は「あと2カ月程度で底を突く」と指摘。国防総省によると、米軍が保有する武器を大統領の権限でウクライナに供与できる支援枠が約54億ドル(約8100億円)分残っているだけだ。
議会内でも混乱長期化への懸念が募っている。ダックワース上院議員(民主)は「上下両院の超党派の多数派が賛成している。(ウクライナ)支援継続を政治問題にしてはならない」と強調したが、マッカーシー氏を解任に追い込んだ共和党の強硬右派は支援に強く反対。予算案審議の先行きは見えない。 
●上がらぬゼレンスキーの戦果。限界に達した欧米の「ウクライナ支援疲れ」 10/5
開戦から1年7ヶ月を超えるも、先の見えない状況が続くウクライナ戦争。欧米のウクライナ支援疲れも頂点に達した今、新たな難題がNATOに降りかかりつつあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、最新の戦況を詳しく解説するとともに、アメリカの「ウクライナ支援拒否」の動きに対するゼレンスキー大統領の反応を紹介。さらにNATO加盟国コソボと国境を接するセルビアの不穏な動きを注視しています。
前進止まったウクライナ軍。欧米のウクライナ支援も限界か
ロ軍最強の第76空挺師団は、南部コパニの東側面を防衛している。師団全体で、そこにしか投入されていない。相当損耗しているようである。師団規模は1万人であるが、相当に少ないようである。
オリヒウ軸にウ軍は集中して攻撃している。その他では、バフムトの南を攻撃している。それ以外では、ウ軍は攻撃をしていない。
ロ軍も全体的に攻撃をしなくなった。ロ軍は代わりに各地で空爆を行っている。
このため、あまり状況の変化がない状態である。
   クピャンスク・スバトバ・リシチャンスク方面
ロ軍は、防衛のみで攻撃できない状態になっている。このため、ロ軍は航空優勢であることで、空爆を各地で行っている。ウ軍も、攻撃を行っていない。
ロ軍はクピャンスク南部のオスキル川にかかる4つ以上の橋を空爆して破壊したが、ウ軍は損傷した橋の近くに舟橋を設置したようだ。
   バフムト方面
北西では、ロ軍はオリホボバシリフカに地上攻撃したが、ウ軍と戦闘中である。
南側では、ウ軍はクリシチーウカ、アンドリーイウカを完全奪還した。ウ軍は追撃して「T0513」道路に向かって線路を超えて攻撃している。この道路は、バフムトへの補給路になっている。この補給路を火器管制下に置いたことで、ロ軍の補給が困難になっている。
その他で、ウ軍はクルディミウカとイワニフスクにも攻撃している。
というように、ロ軍は、この地域で押されている。このため、ワグナーの戦闘員を再配置されるようだと英国防省は言う。規模は数百人程度で、バフムトの地形を知る熟練兵をバフムート周辺に集中配備したようだと。
   ザポリージャ州方面
1.ベルカノボシルカ軸
東では、ノボドネツク、ノボマヨルシケ、シェフチェンコに攻撃をしているが、前進できずにいる。ここには大きな兵力を入れないので、攻撃も限定的になっている。中央では、ウ軍は、ザビトネ・バジャンニャを攻撃しているが、前進できないでいる。
2.オリヒウ軸
ウ軍は、ロボティネの南ノボプロコピウカを攻撃しているが、このノボプロコピウカ方向で少しづつ前進している。ロ軍も徐々に退却している。
コパニ方向へウ軍は向かっているが、ロ軍最強の第76空挺師団が立ちはだかっている。
ベルボベ方向では、第2防衛線を越えてウ軍は、市内の西側に前進しているが、ロ軍陣地も強化されていて、クラスター弾をはねのける構造になってきたことで、前進できなくなってきた。ここに、第7強襲師団が逆襲に出て、一部ウ軍を押し戻している。
もう1つが、ベルボベの南東にロ軍第1防衛線沿いにウ軍は前進して、166高地方向に塹壕を横から攻めている。
防空システムやレーダーも破壊され打つ手なしのロシア軍
   クリミア方面
ケルチ橋周辺にウ軍はドローンとミサイル攻撃をしている。クリミア西部の防空システムを破壊しているので、ケルチ橋付近のロ軍の防空システムを攻撃し始めている。
クリミアの全域に空襲警報が出ているが、ドローンを飛ばして、防空部隊の位置を探っている可能性もある。爆発炎上は、ケルチ地域に限られている。
米国からクラスター弾のATACMSミサイルが供与されるので、その前に防空システムを破壊する必要がある。
低い位置を飛ぶストームシャドーのような巡航ミサイルをロ軍防空システムは迎撃できないでいる。低い位置の探索する早期警戒機をロ軍は持っていないか、能力を発揮できないかである。早期警戒機がクリミア地域でもモスクワでも飛行していない。
ウクライナのヴェレシチューク副首相は28日、被占領下クリミアに滞在するロシア国民に対して、同地を退去するよう呼びかけた。「今後、クリミアへの攻撃が増加して、クリミア大橋が落ちた時、陸上回廊が切断された時、地上戦がクリミア半島で始まった時、彼らはどうするのかだ?」と発言した。
   その他方面
ロシア自由軍団は、ベルゴルドの国境付近のスタロセル村とテレブレノ村に夜間に入り、国境警備隊、警察、FSBと銃撃戦を行った。
また、ロシアのブリャンスク地方のルゴヴォイ集落に入り、ロ軍と衝突している。恐らく、ロシア自由軍団の偵察部隊があろう。
ロシア領内クルスク州、ブリャンスク州、ベルゴルド州では、連日ドローン攻撃があったが、侵攻作戦のための偵察活動も兼ねているようである。
クルスク州のカスタ2Eレーダー基地をドローン攻撃で破壊した。この2Eレーダーは極低高度の目標を察知する能力があるが、このレーダーをドローンで破壊ということは、近くに防空システムがないことを意味しているようだ。
クルスク州のスタロボイト知事は29日、州内の5ヶ所の集落や1ヶ所の病院が同日、ウ軍のドローン攻撃にさらされ、停電被害などを受けたとした。ウクライナのインフラ施設へのロ軍の攻撃が続くのなら、ウ軍も同様に対応するとした。
ブリャンスク州のウクライナ国境から21kmのポガール村では、ドローン攻撃でガス供給施設が破壊されて供給停止になっている。
モスクワ近郊のテカロフスキー航空基地で爆発炎上が起きたが、1回目はパルチザンによる航空機2機とヘリ1機を破壊したが、2回目は、空港の2階建てのビルを直撃した。このため、ビルが炎上している。搭乗員の殺傷を狙った可能性が高い。
この基地は、核戦争時空中指揮をする特殊な航空機を運用する部隊の基地である。
ルハンスク州のクラスノドンで、ロ軍弾薬庫の一帯が激しく炎上している。弾薬庫で誘爆が起きている。
ロ軍占領のルクスク、ドネツク、ヘルソンでもドローン、ミサイル、砲撃を受けて大きな被害を受けているが、ロ軍に打つ手がないようである。すでに、電子戦部隊を破壊され、防空システムやレーダーも破壊されていることによる。
ベルジャンスクでも爆発が起き、一帯が停電している。
それと、ウ軍は、ロシア占領地で負傷し、ウ軍前線の後ろに取り残されていた空挺部隊の軍人2人を救出した。
アメリカ人記者の質問に激怒したゼレンスキーの心中
ゼレンスキー大統領は、新たな攻勢作戦について米英の了解を得たという。とうとう、ドニプロ川左岸に、大規模な渡河作戦を実行するため海兵隊と特殊部隊が集結しているという。オリヒウ軸での攻撃速度が上がらず、このままでは、突破ができないことで、新たな攻撃軸を必要としているようだ。
オリヒウ軸の進捗が進まないことで、欧米でのウクライナ支援疲れを払拭できないでいる。このため、払拭するために、違う何かの戦果を出し続ける必要があり、その一環として、クリミア黒海艦隊司令部の攻撃やベルゴルドへのロシア自由軍団の攻撃などを行う必要があるようだ。
ゼレンスキー大統領も、米国でのウクライナ支援拒否の共和党の動きを非常に心配している。米国の記者が、ウクライナへの支援金が軍幹部の汚職で、消えているのではないかと聞いたときに、猛然と怒っている。
このようなウクライナ支援疲れで、徐々にウクライナ国産の兵器に置き換える必要を感じているようである。このため、費用が掛からない各種ドローンを作り始めている。
1機1,300万円の「バックファイヤー」ドローンは、事前に設定したルートを飛び、設定した場所を爆撃することができる。電波を出さないので、発見されない利点がある。高度300mを時速85kmで飛ぶ。
1輌350万円の地上ドローン「ラーテル」は、35kgの爆弾を積んで1.5km先の目標物を破壊できる。時速24kmで走行する。
しかし、中国はドローン部品の輸出制限したためウクライナは困難に直面している。ウのドローン製造者も「中国製部品の代わりを作るのは不能に近い」と述べている。中国部品の代わりをできるのは、日本しかないような気がする。日本から輸出したらどうだ。
その他、BAEシステムズは、105mm榴弾砲の砲弾の製造をウクライナ国内で行うことや、ラインメタル社とは、戦車の修理工場を国内に作る。
トルコのバイカル社とは、ドローンの製造工場を作ることで合意した。米国の防衛産業とウ国内で生産する方向で協議を行うことになったし、フランスも防衛企業がキーウを訪問して、現地生産企業への技術提供などの契約を締結したようである。
長期戦に備える方向で、ウクライナは国産兵器を拡充するようである。軍事大国化に向けてウクライナは動き出すことになる。
英国のグラント・シャップス国防長官は、英国兵をウクライナに派遣し、英国内だけでなく、現地でウクライナ兵の訓練を開始する予定だと述べた。そして、英海軍も黒海に展開するという。英国が米国の代わりに世界秩序維持の前面に立ち始めている。
反対に、ハンガリーのオルバン首相は、ウクライナのEU加盟を阻止すると述べているし、スロバキアでも反ウ政党が選挙に勝つ可能性があるが、スロバキア選挙出口調査だと、対ウ支援止めるとしたスメル(Smer)より、親ウなプログレッシブ(PS)の方が勝っている。これは予想外の展開だ。
正気を疑うロシア安全保障会議副議長の発言
28日に、プーチンは、ワグナー参謀長のトロシェフ氏にワグナー部隊の組織再構築を指示したように、プーチンはロ軍将軍たちの意見を聞かず、自ら戦争の指揮を執っているようである。そして、ワグナー軍をバフムトに投入する。
南部オリヒウ軸がロ軍とウ軍の決戦場所であるはずが、プーチンは東部バフムトをまだ重要視しているようである。
ロ軍は砲身が大量生産できず、戦場に新しい砲身が届くことはない。ロシアの貯蔵基地にある50%の耐用年数を持つ兵器から砲身を取っているが、それでも足りない。砲が1日に30〜40門、砲撃戦で失われている。このため火力支援がないことで、ロ軍兵士たちは大きな犠牲を出していて、ロ軍部隊は攻勢から守勢に転じている。
現状の状況から、ゲラシモフ参謀総長はトクマク防衛を犠牲にしても、メリトポリとベルジャンスク防衛を優先するという。このため、トクマクを取られることを前提に、南部地域全体の兵站が機能しなくなる恐れがあるので、トクマク経由ではない新しい鉄道の建設をしている。
それにかかわらず、「特別軍事作戦はキエフのナチ政権を完全に破壊するまで続く。勝利は我々のもの。ロシア国内に新たな地域がうまれるだろう」と、メドベージェフは発言した。正気か?
このような状況で、ロ軍は、10月1日より秋季の徴兵召集を開始する。召集は10月1日から10月31日まで手続きが行われる。13万人程度の徴兵であるが、今回はロ軍の人員不足があり、訓練後一度除隊するが、今回からは、そのまま派兵できるようにしたので、そのままウクライナ前線送りであろう。
これにより、前線の人員不足は解消される可能性が高い。
練度が低い兵で防衛するので、陣地の構造はそう簡単には潰せないように強固に作り、弱兵でもウ軍を押しのけるようにするようだ。
ロシア国民生活では、野菜、果物の値段は30%〜50%上昇し、ガソリンや軽油も歴史的高値であるが、シルアーノフ財務相は「インフレ?お客さんが買わなければいい!」とモスクワ経済フォーラムで発言した。この発言にロシア国民は怒っているようだ。
NATOに新たに降り掛かかりつつある難題
カラバフのアルツァフ共和国のシャフラマニャン大統領は28日「2024年1月1日までにアルツァフ共和国を解散する法令に署名した」とした。アルメニアに逃れたカラバフのアルメニア系住民の数も7万人を突破し、ナゴルノ・カラバフ地域に住んでいた住民のほぼ半数が故郷を離れたことになる。この地域はアゼルバイジャンの直轄領になる。
このアゼルの武力による現状変更の成功は、世界に影響して、米NSCのカービー報道官は、セルビアがコソボとの国境付近に大規模な軍部隊を展開しているとした。次はセルビアが武力による現状変更を行う可能性が出ている。
欧州はウクライナ戦争だけではなく、コソボ戦争も支援する必要になる。アルバニア系住民92%とセルビア系住民5%のコソボは、紛争が起きやすい。アルバニアはNATOに加盟している。このため、NATOもコソボの住民保護に動くことになる。
●ウクライナ国防省「クリミアで上陸作戦 ロシア側に打撃」 10/5
ウクライナ国防省はロシアが一方的に併合した南部クリミアで上陸作戦を行い、ロシア側に打撃を与えたと発表しました。一方、ロシア国防省はウクライナ軍の上陸作戦を阻止したとしていて、攻防が激しくなっているとみられます。
ウクライナ国防省の情報総局は4日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアに対して、特殊部隊が行った上陸作戦だとする映像をSNSに公開し「クリミアはウクライナとなる」と投稿しました。
情報総局の幹部は地元メディアに対して、この作戦でロシア軍の空てい部隊に打撃を与えたと強調しています。
一方、これに先立ちロシア国防省は4日、黒海の海域でクリミア半島の西側の岬に向かうウクライナ軍の部隊を発見し、空軍が上陸を阻止したと主張しました。
ロシア国防省は3日には、クリミア沖の黒海上空でウクライナの対艦ミサイル「ネプチューン」を迎撃したとも発表していて、双方の攻防が激しくなっているとみられます。
また、ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で反転攻勢を強めていてロシアが占拠する交通の要衝トクマクの奪還を目指しています。
このトクマクについて州内の主要都市メリトポリの市長は4日、SNSでロシア軍が将校の家族を避難させたり、占拠する行政機関を閉鎖するなど「混乱が起きている」と指摘しました。
イギリス国防省は4日、ロシア軍はトクマクを死守しようと要塞化を進める一方、先月(9月)28日、自国の最新鋭戦闘機「スホイ35」を防空システムによって撃墜してしまった可能性が高いとする分析を発表し、ウクライナの反転攻勢に対し、ロシア側が警戒を強めていることがうかがえます。
●ウクライナ特殊部隊がクリミア半島に上陸、任務完了後に撤退… 10/5
複数のウクライナメディアは4日、ロシアが一方的に併合したクリミア半島に特殊部隊が上陸し、露軍に大きな損害を与えたと報じた。ウクライナ国防省情報総局が明らかにしたというが、作戦の詳細な場所や日時は伝えていない。
ウクライナ当局が公開した動画には、特殊部隊を乗せたとみられる複数のボートが浜辺に接近する様子が映っている。任務完了後に部隊は撤退したが、損害も出たという。
タス通信によると、露国防省は4日、クリミア西部に到達しようとしたウクライナ軍の上陸を阻止したと明らかにした。
ウクライナ軍は最近、2014年にロシアに一方的に併合されたクリミアへの攻撃を続けている。9月13日に南西部セバストポリの造船所へのミサイル攻撃で露軍の大型揚陸艦などを損傷させたほか、22日にもミサイルで露軍黒海艦隊司令部を攻撃した。
クリミアは南部戦線への露軍の物資補給地となっているほか、ウクライナ各地に向けた長距離ミサイルの発射拠点でもある。一連の攻撃は、露軍の戦闘能力の弱体化を狙ったものとみられる。
●米中央軍、イランから押収した弾薬110万発をウクライナ軍に供与 10/5
米中央軍は4日、イランから昨年12月に押収した約110万発の7・62ミリ弾薬をウクライナ軍に供与したと発表した。米暫定予算からウクライナ支援が除外されたことを受け、米政府として様々な手法で支援を続ける意志を示す狙いがあるとみられる。
声明によると、弾薬はイランの革命防衛隊がイエメンの反政府武装勢力フーシを支援するため、国連安全保障理事会決議に違反して輸送していた際に押収された。
米政府は、イランから押収した弾薬をウクライナ支援に使う法的枠組みを検討した。民事上の没収手続きに沿って米政府に所有権を移転し、今月2日にウクライナ軍に引き渡した。
中央軍は声明で「米国は同盟国などと協力し、あらゆる合法的手段でイランによる殺傷兵器の援助に対抗する」と強調した。
●アルメニア フランス外相が軍事支援を表明 欧米側に接近へ 10/5
フランスのコロナ外相は3日、係争地をめぐって軍事行動を起こしたアゼルバイジャンに敗北したアルメニアを訪れ、軍事支援を行うことを表明しました。アルメニアもロシアとは離れて欧米側に接近する動きを強めています。
フランスのコロナ外相は3日、係争地をめぐって軍事行動を起こしたアゼルバイジャンに敗北したアルメニアを訪れ、パシニャン首相などと会談しました。
現地で記者会見を行ったコロナ外相は「アルメニアの主権と領土の保全に脅威を与えるいかなる試みに対してもフランスは注意を払っている」と述べた上でアゼルバイジャンによる脅威を受けているとして軍事装備品の供与など支援を行うことを表明しました。
アルメニアは、アゼルバイジャンが軍事行動を起こした際もロシアが役割を果たさなかったとして不満を強めていて、プーチン大統領に対して逮捕状を出しているICC=国際刑事裁判所への加盟に向けた動きまで進めるなどロシアとの亀裂が深まっています。
一方、アルメニアは、アメリカと合同軍事演習を行ったほか、パシニャン首相は5日から「ヨーロッパ政治共同体」の首脳会議が開かれるスペインを訪れると明らかにするなど、同盟関係にあるロシアとは離れて欧米側に接近する動きを強めています。
ウクライナ侵攻を受けてロシアと対立する欧米側もアルメニアとの関係を強化したいねらいとみられます。
アゼルバイジャン大統領 アルメニア首相との会談取りやめ
アゼルバイジャンの国営通信社は4日、アリエフ大統領がアルメニアのパシニャン首相との会談への出席を取りやめると報じました。
会談は、アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事行動で先月アリエフ大統領が勝利宣言したあと、情勢の安定化に向けてEU=ヨーロッパ連合やフランス、ドイツなどが調整していました。
会談は、5日からスペインで開かれる「ヨーロッパ政治共同体」の首脳会議にあわせて行われるとみられていました。
アゼルバイジャンの国営通信社は、アリエフ大統領が出席を取りやめる理由について、EUなどヨーロッパ側がアゼルバイジャンに対して批判的な対応をとっているとしたほか、同盟関係にあるトルコ側の代表が会談への同席を認められなかったことを挙げています。
これに対し、現地のメディアによりますと、アルメニアのパシニャン首相は4日、「会談が行われないことは残念だ」と述べたうえで、自身はスペインに向かい、関係国と会談する考えを示したということです。
●ロシアが2024年3月からVPNサービスをブロックする予定だと報じられる 10/5
2022年2月にウクライナへの侵攻を開始したロシアでは、X(旧Twitter)やFacebookなどのSNSやさまざまな外国のウェブサイトへのアクセスを遮断していますが、一部の国民はVirtual Private Network(VPN)を使用してアクセスし続けています。ところが、ロシアの政権与党である統一ロシアの上院議員が、ロシア当局が2024年3月1日からVPNをブロックする計画だと発言しました。
ロシア当局はウクライナ侵攻を開始した直後からSNS各社へのアクセスを制限しましたが、外国産のSNSやウェブサイトを使いたいロシア国民はVPNを利用してアクセスし続けており、ウクライナ侵攻直後のVPNの平均需要は進行前と比較して2692%も増加したことが報じられました。
2023年3月には政府系機関が外国産のメッセージングアプリを利用することを禁止する法案が施行されたほか、2023年8月には「Gmailなどの外国産電子メールシステムを利用してロシアのプラットフォームに登録することを禁止する」「VPNなど規制を回避する方法について助言することを禁止する」といった内容の法令にウラジーミル・プーチン大統領が署名しました。
そんな中、統一ロシアのアルテム・シェイキン上院議員は2023年10月3日に、「2024年3月1日から、ロシアで禁止されているサイトへのアクセスを提供するVPNサービスをブロックする命令が施行されます」と発言しました。この命令はロシアでインターネットの監視を担っている連邦通信・情報技術・マスコミ分野監督庁(Roskomnadzor)によって下されたものです。
シェイキン氏によると、この計画において特に重視されているのは、Facebook・Instagram・WhatsAppを所有するMetaのプラットフォームへのアクセスをブロックすることだそうです。シェイキン氏は、「過激派組織として識別されているMeta製品への市民のアクセスを制限することが、特に重要である点を強調したいと思います」とコメントしました。
ロシア当局はMetaを危険視する理由について、「ロシア人に対する暴力行為を奨励・誘発する投稿が流布されているため」と主張しています。実際にMetaはウクライナ侵攻の直後に、一時的ですがウクライナやポーランドなど12カ国で暴力的な言論を一時的に許可していたとのこと。Metaの広報担当者は、暴力的な言論の許可はロシアの軍事侵攻に関するものに限定され、ロシアの民間人に対する暴力を呼びかけるような投稿は削除したと説明しています。
Metaの対応を受けて、2022年3月にはロシアの地方裁判所がFacebookやInstagramを運営するMetaを「過激派」と認定しました。また、2022年10月にはロシアの金融監視当局であるロシア連邦金融監視サービスが、Metaを「テロリストおよび過激派」のリストに追加しました。 
●支援弱体化へ世論工作を強化か ロシア、AIで各国に揺さぶり 10/5
米紙ニューヨーク・タイムズは5日までに、ロシアのプーチン政権が米欧によるウクライナへの軍事・経済支援を弱体化させようと、今後数カ月の間に人工知能(AI)などを使った世論工作を強化する可能性が高いと報じた。米政府関係者の話としている。
9月末に米議会で成立したつなぎ予算はウクライナ支援予算を除外。スロバキア国民議会選では軍事支援停止や対ロ制裁見直しを主張する左派政党が1党となった。支援を巡る対立が表面化する中、ロシア側は世論に揺さぶりをかける好機とみているようだ。
同紙によると、プーチン大統領は米政界へ影響力を及ぼし、ウクライナ支援への支持を縮小させて戦況をロシア有利に転換させることが可能だと考えているという。来年の大統領選に向けた共和党の候補指名争いで、国内経済優先を訴えるトランプ前大統領がリードする状況も影響している。
来年の欧州連合(EU)欧州議会選でより多くの親ロシア派候補を擁立することも画策しているという。
●ウクライナ、クリミア上陸作戦か ロシア艦隊は一部退避 10/5
ウクライナ国防省当局者は、ロシアが併合した南部クリミア半島への上陸作戦を特殊部隊が行い、ロシア軍に「大きな損害」を与えたと主張した。ウクライナ国営通信が4日伝えた。米シンクタンク戦争研究所は同日付の戦況報告で、ロシア海軍が黒海艦隊の数隻をクリミアの軍港セバストポリから、ロシア南部のノボロシスクに退避させたと分析した。
報道によると、特殊部隊は複数の班で構成され、黒海に面したクリミア半島西岸にここ数日の間に上陸。戦闘の末、ロシア空挺(くうてい)部隊に打撃を加えた。ウクライナ側にも被害が出た。特殊部隊は既に任務を完了し、クリミアから撤退したという。

 

●条件付き日ロ対話の用意 制裁解除前提か―プーチン氏 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナ侵攻下の日ロ関係について、日本の働き掛けがあれば「われわれは(対話に応じる)用意がある」と述べた。プーチン氏は、関係正常化に向けて、日本が対ロ制裁をやめるなどの具体的行動を取ることが必要だという認識を示唆した。
内外のロシア専門家を集めて南部の黒海沿岸の保養地ソチで開かれた「バルダイ会議」で語った。参加した笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員の質問に答えた。
プーチン氏はこれまでも日米欧の制裁を批判している。昨年2月の侵攻開始以降、プーチン氏が日本側の質問を受ける形で、公の場で2国間関係に直接言及したのは初めてとみられる。
畔蒜氏とのやりとりで、プーチン氏は「われわれは日本に制裁を科していないし、窓を閉めたわけでもない。やったのは日本だ」と強調。一方で「(日本側が)『対話に意味がある時が訪れた。イニシアチブを取ることが可能だ』と考えるのならば、対話は常に良いことだ」と主張した。
●プーチン大統領が主張 関係正常化について「日本と対話する用意ある」 10/6
ロシアのプーチン大統領は南部ソチで開かれた国際会議で、日本との関係正常化について「対話する用意はあるが、日本側がイニシアチブを取る必要がある」などと主張しました。
ロシア プーチン大統領「ウクライナでの“戦争”を始めたのは我々ではない。逆に我々は(戦争を)終わらせようとしている」
プーチン大統領は5日、国内外のロシア専門家を集めて毎年開かれるバルダイ会議で演説し、ウクライナ侵攻を巡り「ロシアは2014年からウクライナ東部のドンバスで続く紛争を終わらせるために特別軍事作戦を開始した」と改めて持論を展開しました。
「さらなる領土に興味はない」とも述べ、領土拡大のための戦争ではないと主張しました。
プーチン氏は、「射程が数千キロに及ぶ原子力推進式巡航ミサイル『ブレベスニク』の発射実験に初めて成功した」と述べ、「ロシアがもし核攻撃を受ければ敵に生き残る可能性はない」と威嚇しました。
さらに、「だれもロシアの言うことに耳を貸そうとせず、西側諸国の傲慢(ごうまん)さは完全に常軌を逸していた」などと冷戦終結以降の西側諸国のロシアへの対応を批判しました。
ウクライナへの侵攻が長期化するなか、プーチン政権は、戦争が西側に起因するものだとするイメージを国民にアピールしています。
また、日本との関係を巡ってプーチン氏は、「我々が日本に制裁を科したわけではなく、窓を閉ざしたのは日本だ」と主張しました。
そのうえで、「制裁解除についてロシアは日本と対話する用意があるが、そのためには日本側がイニシアチブを取る必要がある」などと述べました。
●プーチン氏、CTBT批准撤回を示唆 有識者会合で 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日、南部ソチで開催した有識者会合で、ロシアが批准している包括的核実験禁止条約(CTBT)を撤回する可能性を示唆した。ウクライナ侵攻で対立する米国が同条約を批准していないと批判した。核による威嚇を強め、米国をけん制する狙いとみられる。
内外有識者が参加する国際会合「ワルダイ会議」で発言した。プーチン氏はCTBTについてロシア、米国ともに署名したが、批准したのはロシアだけだと指摘。そのうえで「理論的には(ロシアの)批准を撤回することは可能だ」と表明した。
CTBTは核爆発を伴う全ての核実験を禁じた国際条約で、1996年に国連で採択された。米国や中国が批准せず発効はしていないが、核保有国はCTBTを尊重して核実験を停止してきた。
プーチン氏はまた、超長射程の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」の発射実験に成功したと述べた。具体的な実施時期などについては触れなかった。
ロシア通信によると、ブレベスニクはプーチン氏が2018年3月の議会演説で開発を表明した。核弾頭を搭載可能で、仮想敵国のミサイル防衛網を突破する目的で開発を進めていた。
ウクライナ侵攻を非難し、対ロ制裁を科している日本との関係については「窓を閉ざしたのは我々ではない」と述べ、日本から申し出があれば対話に応じる考えを示した。
プーチン氏は8月にロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏らが搭乗した小型ジェット機が墜落し乗客全員が死亡したことについて、調査委員会からの報告として「死亡した人々の遺体から手榴弾(しゅりゅうだん)の破片が発見された」と述べた。機体への外部からの衝撃はなかったという。
プーチン氏は演説で西側諸国がウクライナ政権を支援したために同国東部地域での紛争が起きたと主張。「特別軍事作戦はそれを阻止することを目的としている」などと改めて自らの見解を説明した。
●ロシアの原子力巡航ミサイル「プレベストニク」、試験成功と発表 プーチン氏 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日、新世代の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」の試験に成功したと発表した。
ロシア国営RIAノーボスチがプーチン氏の話として伝えたところによれば、世界全体を射程に収める原子力推進式巡航ミサイル「ブレベストニク」の最新の試験に成功したという。
プーチン氏の発言は南部ソチで開催された「バルダイ・フォーラム」で出たもの。
ブレベストニクの開発計画は2018年、新世代の大陸間極超音速ミサイルを開発する幅広い取り組みの一環でプーチン氏が発表した。名前が出た兵器の中には弾道ミサイル「キンジャル」や極超音速滑空体「アバンガルド」も含まれる。
プーチン氏は18年3月の連邦議会演説で、開発の目的は今後数十年にわたって世界の戦略的均衡を確保することにあるとの認識を示した。
プーチン氏はこの時、プレベストニクについて「核弾頭を搭載する低空飛行ステルスミサイルであり、ほぼ無制限の射程と予測不能な軌道、迎撃を迂回(うかい)する能力を有する」と説明していた。
ただ欧米の専門家によると、このプログラムは問題に見舞われ、試験失敗が相次いでいる。オープンソースの分析グループ、核脅威イニシアチブは19年、「メディアはブレベストニクの試験が13回実施され、2回の部分的な成功を収めたという認識で一致している。米情報機関も同様の見解とされる」と明らかにした。
●ロシア、ウクライナのEU加盟に反対せず=プーチン氏 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナによる北大西洋条約機構(NATO)加盟はロシアの安全保障を脅かすため常に反対してきたが、ウクライナの欧州連合(EU)加盟には反対しないと述べた。
●ロシア経済、国防費増大に「耐え得る」=プーチン大統領 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日、同国経済が数年にわたりウクライナでの戦争に伴う国防費増大に耐え得ると指摘し、西側諸国による制裁の影響は大きくないとの見方を示した。
政府が先月示した予算案によると、ウクライナへの「特別軍事作戦」に一段の資金を振り向ける中、2024年国防費は歳出全体の約3分の1を占める見通し。
プーチン氏は南部ソチで開いた内外有識者の会合「ワルダイ会議」で、ロシア経済は昨年2.1%のマイナス成長になったが今年は回復する見込みで、制裁がもたらした課題を克服したと語った。
その上で、財政収支は第3・四半期に6600億ルーブル(66億9000万ドル)を超える黒字を記録したと明かした。
「全体として、われわれは安定的で持続可能な状況にある。制裁を受けてから浮上した全ての問題を克服し、次の発展段階に入った」と強調した。
プーチンは、ロシアが深刻な労働力不足に直面していると認めたが、中央銀行と政府はいかなる困難にも対処できる手段を持っていると述べた。
●ロシア国防費が歳出の約3割に プーチン氏発言、侵攻前から倍増 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナ侵攻で増加するロシアの国防費について、「国防と安全保障の支出が伸び、(国内総生産〈GDP〉の)約3%だったのが、いまは約6%になった」と述べ、侵攻前から倍増したことを明らかにした。侵攻の長期化で弾薬などの生産を増やしており、歳出の約3割を占めることになる。
プーチン氏肝いりの国際有識者会議「バルダイクラブ討論会」で発言した。
ロシア政府が先月発表した2024年の予算案では、歳出は約36兆6千億ルーブルと歳入の35兆ルーブルを上回った。ただ、プーチン氏は「大砲に多額の出費をし、バター(国民生活)を忘れているわけではない。すべての発展計画が遂行されている」と強調した。
●ウクライナ東部でロシア軍による攻撃 住民少なくとも50人死亡 10/6
ウクライナ東部ハルキウ州でロシア軍による攻撃があり、子どもを含む住民少なくとも50人が死亡し、ウクライナ側はロシアへの非難を強めています。
ウクライナ内務省は、東部ハルキウ州のクピヤンシク近郊の集落で5日午後、ロシア軍の攻撃があり、子どもを含む住民少なくとも50人が死亡したとSNSで明らかにしました。
クリメンコ内相は地元メディアに対して、商店やカフェが被害を受け、現場では当時、追悼式で多くの人々が集まっていたとしています。
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSで、「残忍な犯罪だ。ロシアのテロを阻止しなければならない」と強く非難しました。
また、イエルマク大統領府長官も「ロシアは意図的に住民を殺害したテロリストだ」とSNSに投稿し、非難を強めています。
一方、ウクライナ国防省の情報総局は4日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアで特殊部隊が上陸作戦を行い、ロシア軍の空てい部隊に打撃を与えたと発表しました。
クリミアでウクライナ軍がロシアの軍事施設などへの攻撃を強める中、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルは4日、ロシア海軍の黒海艦隊が、潜水艦やフリゲート艦など複数の艦船をクリミアのセバストポリからロシア南部のノボロシースクに移したと伝えました。
ウクライナによる一連の攻撃を受けた動きだという見方を示した上で、「2014年にクリミアを占領したプーチン大統領にとって驚くべき後退だ」と伝えています。
●「生活のため」ウクライナ戦争を選ぶキューバの男たち、手付金30万円 10/6
キューバの首都ハバナ郊外にある小さな町ラ・フェデラルでは、男たちが次々とロシアに渡っているという。彼らはメッセージングアプリなどを介して、ウクライナ侵攻を進めるロシア軍のために傭兵になるよう勧誘を受けたのだ。ロイターは今回、キューバに残された家族らへの取材などを通して、キューバ人たちがどのように集められているのか、その実態に迫った。
「ここに着いて、この契約が本物だとわかった。ロシア連邦が私をここに連れてきた。ここにいる誰もが、自分たちが何をしに来たのかわかっていた。それは確かだ」
元レンガ職人のエンリケ・ゴンザレスさんは、ウクライナ戦争で戦うためにロシアに雇われたと話す数多くのキューバ人のひとりだ。妻のヤミデリー・セルバンテスさんとのビデオ通話でゴンザレスさんは、現在働いているという、モスクワから南へ数時間のトゥーラ近郊にある訓練キャンプを撮影して見せた。
ロイターは、キューバの小さな町ラ・フェデラルにある自宅でセルバンテスさんから話を聞いた。彼女によれば、ゴンザレスさんがロシアのために戦うことを決めた理由は、金銭的なものだったという。出発の数日後、セルバンテスさんは契約の手付金として約30万円を受け取った。以来、彼女は生活必需品を買えるようになったという。
妻のヤミデリー・セルバンテスさん「この状況を動かしているのは、必要性からだと私は言いたい。もし生活に困っていなかったら、男性たちは(ロシアに)行っていなかっただろう。働いて、働いて、働いて、夫は誰の助けも受けずに1人で働いた。他の誰かを雇って、あれこれ指示するくらいなら稼いだお金をあなたに渡す方がいいと言っていた。夫はとても一生懸命働いていた。だがある日彼は言った、これ以上我慢できないと。私はどうしたのか尋ねた。でも彼は『心配するな、何をするのかわかっている。ただこれ以上、この生活には耐えられないんだ』と言っていた」
キューバ人傭兵についてロシア当局に問い合わせたが、直ちに回答はなかった。本記事作成にあたりキューバ政府にも問い合わせたが、返答はなかった。
カリブ海に浮かぶキューバは、共産党による支配が今も続き、経済は疲弊している。同国のデータによると、ゴンザレスさんが受け取った手付金はキューバ人の平均月収わずか17ドルの、100倍以上だ。首都ハバナ郊外のラ・フェデラルほど困窮している町はない。2022年のデータによれば、住民800人の4人に1人が失業中だ。セルバンテスさんの近所では、傭兵の採用話が広まった6月以来、少なくとも3人の男性がロシアに向かった。
「数人が採用された。残った男性は、片手で数えられるほどだ」(セルバンテスさん)
ロイターは、ハバナ近郊の地区から採用された十数人の男性たちについて詳しく取材した。男性たちの職業は様々だ。ある者は商店主、またある者は製油所の労働者だ。
これらの男性たちやその家族への取材、そしてメッセージングアプリのやり取りや、渡航書類、写真や電話番号から得られた情報から、ロシアのウクライナ侵攻を支援するため、キューバ人たちがどのように集められているのか、その実態が浮き彫りとなった。
23歳のヨアン・ヴィオンディさんは、ラ・フェデラルのあるヴィラ・マリア地区で、6月以降ロシアに雇われた数十人の男たちを知っていると語った。ヴィオンディさんは、ロシアの採用担当者だという「ダヤナ」と名乗る人物とのアプリのメッセージを記者に見せてくれた。
ヴィオンディさんは、ロシア軍と契約した複数の友人と連絡を取り合っていた。彼が知る限り、友人らは「元気」だった。大半はウクライナにいるという。
一度はロシア渡航を検討したヨアン・ヴィオンディさん「この国では一生懸命働かないと生活していけないし、それでも生活は厳しい。だから、キューバで飢え死にしたくないから、これ(傭兵)を選んだとみんなが言っている。私も、彼らも、自分がどこへ行くのか完璧にわかっていた」
当初ロシア行きを望んでいたものの、後に不安を覚えたヴィオンディさんは「ダヤナ」との連絡を絶った。
ロイター記者が話を聞いたほとんどの人は、連絡先として「ダヤナ」の名前を挙げた。ロイターが確認した9人は全員、戦争に参加する契約を結んでいた。ロイターは「ダヤナ」からコメントを得ることができなかった。またこの人物のフルネームも確認できなかった。
キューバ政府は今年9月、ロシアのために戦うキューバ人を集める人身売買組織に関与したとして17人を逮捕したと発表。キューバ人がロシアの傭兵として渡航している実態が浮かび上がった。ロイターは、人身売買組織に関与したとされる人物の身元や、これらの人物が逮捕されたのか、確認することはできなかった。
長年の同盟国であるロシアのために自国民が戦闘に加わることについて、キューバ当局の説明は二転三転している。9月中旬、キューバ国民が外国軍のために戦うことは違法だと警告。ところがその数日後、在モスクワのキューバ大使は、「契約に署名し、合法的にロシア軍と共にこの作戦に参加することを望む」キューバ国民に、政府は反対しないと述べた。しかしそれ以降は再び、傭兵は禁止との従来の説明を繰り返している。
●戦争の裏でエスカレートするEUの「難民問題」…ドイツ都市部はカオス状態に 10/6
ランペドゥーサ島を目指す難民たち
地中海の島、イタリアのランペドゥーサ島が大混乱に陥っている。この島は、シチリア島からは230kmで、チュニジアからは113km。つまり、どうにか辿り着けそうなEUの領土として、アフリカ難民の格好の目的地だ。そのため前々から、チュニジアがアフリカ難民の積み出し港のようになっている。
ただ、地中海はれっきとした外海なので、小さなボートでの出帆など危険すぎてあり得ない。実際に、独Statista(世界最大の統計データプラットフォーム)が把握しているだけでも、今年の初めから9月17日までに海の藻屑となった命が2340人。本当はもっと多いだろう。
難民は、自力でボートや小船を工面して海に漕ぎ出しているわけではなく、その裏には密航を斡旋している国際的犯罪組織が存在する。この“難民ビジネス”は、大した元手も要らず、麻薬の密輸などよりリスクも少なく、失敗しても返金義務もないということで、今や彼らの巨大な資金源だ。
いずれにせよ、難民のせいで過去に何度もニュースを賑わしてきたランペドゥーサ島だが、現在の混乱はおそらく最大級。人口5500人のこの島に、今年すでに13万人が来ており、9月の18日から20日までの3日間には、なんと8500人が199艘の粗末なボートで漂着した。EUでは現在、難民受け入れ条件の厳格化が検討されているため、駆け込み現象が起こっているとみられる。
しかも、今回はいささか様子が違う。これまで地中海では、難民救助に特化したNGOが大型船を駆使してはアフリカ沿岸で“遭難”している難民を救助し、何百人もまとめてイタリアやマルタに運んできていた。
この活動は、一方からは人命救助の尊い行動と称賛され、他方からは、犯罪組織と協働しているとか、難民が増える原因を作っているなどと非難されたが、いずれにせよ、イタリアやマルタにしてみれば迷惑な話だ。そこでここ数年は、NGO船は入港を拒まれ、難民を積んだまま行き場を無くすなどという事態が繰り返されていた。
ところが今回は、難民は粗末なボートでランペドゥーサ島まで続々と到達していた。いくら海が穏やかであったにしても、199艘のボートが100km以上を無事に航行し、3日の間に数珠繋ぎに到着するのは、やはり少々奇異だった。そのため、難民を運んできたNGO船が、ランペドゥーサ島の近くで彼らをボートに乗せて放しているのではないかという憶測まで流れた。
イタリアは以前より、これらNGOの活動に業を煮やしていたが、実はドイツ政府は、このNGOに、長年のあいだ補助金を出している。そこで、強く反発したイタリアのメローニ首相が、「資金援助をやめてくれ」とドイツ政府に書簡で要請したのが9月末。それに対し、ドイツのベアボック外相(緑の党)が、「人命救助に対する支援はやめない」と応酬。女二人の対立はエスカレートした。
その結果、28日、国境防衛強化についての採決が予定されていたEUの内相会議は拗れ、イタリア内相が突然ローマに帰ってしまった。かくしてEUの難民政策の刷新は進まず、今年は例年よりも気温が高いこともあって、難民は今もランペドゥーサ島を目指している。
大量の難民の庇護でドイツもパンク寸前
実は、難民ではち切れそうになっているのはドイツ国内も同じで、こちらは主にアフガニスタン、シリア、イラクなどの中東難民だ。今年の8月だけで1.5万人が、オーストリアやチェコの国境から陸路で違法に侵入した。
現ドイツの社民党政権内で強い力を持っているのは緑の党だが、彼らは今も、難民は全て受け入れるという党の基本方針に拘っているため、ドイツの国境ははっきり言って隙間だらけだ。
ドイツで23年1月から8月までに提出された難民申請の数は22万116件で、前年比66%増。難民として認められる確率は今のところほぼ半々だそうだ。それでも皆がドイツで難民申請したがる理由は、申請中でも潤沢なお金が支給されるからだと言われる。
しかもドイツの場合、難民として認められなかった人たちも、そのまま滞在し続ける。地中海の難民をなるべく減らそうとする計画にあまり乗り気でないドイツ政府は、国内の不合格難民の母国送還にも消極的なのだ。その結果、退去しなければならないのに留まっている人の数が、今や累計で330万人に迫る。極度の人手不足の折り、これが労働力に回ればいいが、なかなかそうはいかない。
それに加えて、難民としてカウントされていないウクライナ避難民が、すでに100万人を超えた。最初は1年の期限付きの庇護のはずが、戦争は終わらないし、多くがいずれ長期、あるいは無期限ビザに切り替わっていくだろう。普通なら、ドイツの無期限ビザなどそう簡単に取れないから、移住したいウクライナ人にとっては無二のチャンスだ。
一方、ドイツの市町村は、強制的に割り当てられる大量の難民の庇護で大変なことになっている。受け入れは拒否できず、住居が足りない、職員が足りない、託児所が足りない、教師が足りない、もちろん、お金も足りないと、今や、ありとあらゆるところが破綻しつつある。
特に住居は不足しており、使っていない工場や倉庫を改造したり、郊外の空き地に急拵えのプレハブを建てたりしてもまだ足りず、役場や、学校の体育館や、とにかく並べられるところには隈なくベッドを並べているが、追いつかない自治体も多い。
そうでなくてもドイツは恒久的な住宅不足で、手頃な値段の住処を見つけることが難しかったというのに、今や自治体は大量の難民の住居の確保に必死で、住民はほったらかし。ベルリンでは7月、128戸の集合住宅の棟上げ式が行われたが、これが全戸、難民用になるとわかり、市民は怒った。ベルリンは、ドイツの中でも特に住宅難が深刻な都市だ。
難民や移民による犯罪も急増中
また、最近では、ベルリンやバーデン=ヴュルテンベルク州では、老人ホームの老人が追い出されて難民施設になったとか、ノルトライン=ヴェストファレン州の4つ星ホテルが、アフガニスタンとシリア人の難民収容施設になったとか、信じられないような話まで伝わってくる。
実際問題として、不動産の持ち主は、物件を老人ホームの事業者に貸すよりも、今や自治体に貸す方が儲かる。また、ホテル経営者も同様で、自治体に丸ごと貸し出せば確実に賃料が入る上、難民一人当たり一定の金額が支給される。
たとえば前述の四つ星ホテルでも、難民の世話は自治体の職員が全て仕切ってくれるので、もはや経営努力も要らない。厨房や清掃の従業員はそのまま残って、難民のために働いているそうだ。ただ、ホテルの入り口にあった女性の裸体の彫像だけは、難民を刺激しないように取り外されたとか。
もっとも、難民が皆、四つ星ホテルや新築の難民住宅に住んでいるわけではなく、粗悪な住居しか提供できない自治体では、若い男性の難民が、仕切りを作った体育館や、昔の兵舎などにぎゅーぎゅー詰めにされていたりもする。こんなはずではなかったと、極度の欲求不満に陥っているケースも多いらしい。難民申請中は働くことはできないが、自由には出歩けので、あちこちに出没し、それが近隣の住人とのトラブルも引き起こしている。
最近、問題になっているのは、難民や移民による犯罪で、政府はそれらをずっと隠そうとしてきたが、すでに隠せないレベルに達している。特に急増しているのがナイフによる傷害事件だが、殺人や婦女暴行といった凶悪犯罪も増えている。去年は、通学途上の小学生の女の子が、精神に異常をきたしていたらしい難民に刺し殺されるという凄惨な事件も起こり、ドイツの親たちを不安に陥れた。
ちなみに、長らく移民・難民の模範国であったスウェーデンでは、移民が形成した犯罪組織同士の争いがエスカレートし、殺人が増え、収拾がつかなくなっている。政府は9月末、これら犯罪組織の撲滅のため、国内での軍隊動員の計画まで発表した。ドイツはこういう事例を参考にすべきだが、残念ながら、緑の党は聞く耳を持たない。
ただ、この頃は、小さな市町村に難民の収容所設置が計画されると、住民が大々的に反対運動をするようになってきた。反人道と言われようが、人種差別と言われようが、自分の妻や娘を守ることの方が重要だという合意が形成されつつあるのだろう。ただ、現実として、これらの運動が必ずしも実を結ぶとは限らない。難民は、どこかに住まなければならないからだ。
左派の政治家たちは何を思うのか
ドイツ社会では、70年代にやってきたトルコ(クルド)、イタリア、レバノン系などの移民がすでに定着しているが、特定の都会では、長年のあいだに彼らの一部が形成したマフィアのような血縁犯罪組織もすっかり定着してしまった。
そこに、2015年以来、メルケル首相が呼び込んだ中東とアフリカからの難民が加わり、現在、縄張り争いが加熱している。今、ドイツの都会で街を歩いていると、いったいここはどこの国かと思うほど中東や北アフリカ系の外国人が増えており、以前のように安全とは言い切れない状況になっている。
しかし、左派の政治家はいまだに、多文化共生とか多様性とか、とにかく民族の坩堝状態が理想の社会であるように言っており、国民が、高い家賃と住宅難に苦しみ、夜になると娘の帰宅を気にかけていることなど、わかっていない。
また、地域によっては学校が崩壊し、ドイツ人が去っていくという現象も起こっているが、高級住宅地に住み、子供たちを私立の学校に通わせている政治家には、それも見えない。多様性を説く彼らが思い描いているのは、スイスの高級寄宿学校の、優雅な民族の坩堝かもしれない。
●ロシアによるウクライナ戦争、領土ではなく信条巡る対立 プーチン氏主張 10/6
ロシアのプーチン大統領が、ウクライナでの戦争は領土を巡る対立ではないと主張した。
5日、ロシア南部ソチで開かれたバルダイ・クラブ討論会に出席したプーチン氏は、「ウクライナ危機は領土対立ではない。それをはっきりさせておきたい。ロシアは領土面積で世界最大の国であり、我々は新たな領土の征服には関心がない」と発言した。
同氏によれば、ロシアは依然シベリアや極東などの開発に関連してなすべきことが非常に多いという。
また同国は地域の地政学的均衡の構築を試みているわけではないと重ねて強調。むしろ「新たな国際秩序の基礎となる信条」こそが問題になっていると指摘した。
その信条の一つは「世界の均衡の中で、誰であれ一方的に力で他者をねじ伏せることはできないということだ」と、プーチン氏は説明。「ある覇権国が他国に対し、その国のあり方や行動を意のままに従わせることがあってはならない」と続け、この信条の否定こそが対立を引き起こすとの見解を示した。ここでは西側諸国に言及していたとみられる。
その上で、西側のエリートは「敵を求めている。軍事行動とその拡大の必要性を正当化するためだ」と述べ、実際にロシア政府をその一つにしたと付け加えた。
●「ウクライナ戦争の終結議論…イスタンブールで第3回平和会議開催」 10/6
ロシア・ウクライナ戦争終結に向けた第3回「ウクライナ平和会議」が今月末、トルコ・イスタンブールで開催される。トルコは黒海の穀物協定をなどロシアとウクライナの間で仲裁の役割を遂行したことがある。
4日(現地時間)、ブルームバーグ通信は、消息筋によるとトルコが各国の安保顧問が参加する救済会議の開催を準備しており、日時と場所は暫定的に今月末、イスタンブールで予定されていると伝えた。
この会議では、ウクライナが今年年末に開催されることを希望する平和首脳会議を支持する案が協議される見通しだ。
先立って、ウクライナ平和会議の第1回会議は6月にデンマークのコペンハーゲン、第2回会議は今月5〜6日、サウジアラビアのジッダで開かれた。国家安保補佐官級会議で、いずれも非公開で行われた。
この会議は当初、ウクライナのゼレンスキー大統領が提案した10項目からなる平和の公式(peace formula)に対する支持を集めるために行われた。
しかし、第2回会議も具体的な成果なく終わり、共同声明も出されなかった。ただし、出席者は第2回会議は第1回会議の時より意見の相違が大幅に縮まったと伝えた。サウジアラビアは声明で「平和のための道を築く共同基盤を構築するため、国際的な協議を続け、意見を交換することの重要性に同意した」と述べた。
今回の会議には、米国官僚を含め、制限された人数が参加することが分かった。しかし、米国から誰がこの会議に参加するかは決まっていない。
ウクライナと同盟国はこの会議を通じてブラジル、インドなど中立の立場の諸国がロシアではなくウクライナに味方するように説得する案を模索している。ウクライナはこれらの国々に自国の事情を詳しく説明する機会が得られるものと見られる。
ゼレンスキー大統領は今年末に和平案を議論する首脳会議を開催することを希望している。
ロシアと緊密な関係を維持している中国は8月、サウジアラビア会議に出席して注目された。ブルームバーグは、ウクライナと同盟国は中国が次の会議にも出席することを望んでいるが、中国がイスタンブール会議に代表を派遣するかは不明だとした。
ロシアは会議に招待されなかった。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はゼレンスキー大統領の平和計画について「絶対的に実現不可能」と一蹴した。
ロシア官営のノーボスチ通信は、アンカラの外交消息筋によるとトルコがロシアの会議出席を支持していると報じた。
この消息筋はトルコがリードした会議で「平和交渉が進展するには、ロシアが出席しなければならない」という立場を表明したが、参加国全体の支持を受けることができなかったと伝えた。
モスクワの消息筋は、この会議に参加する国家が「圧力」、「脅迫」、「詐欺」によりゼレンスキー大統領の計画の議論に引きずられていると批判した。
●底抜け樽に「弾薬」注ぐ…3億発受けたウクライナ「ロシアに劣勢」 10/6
米国が押収したイランの弾薬までもウクライナに送るほど弾薬の枯渇が深刻な状態だ。ロシアとウクライナの戦争が1年7カ月続き、ウクライナに支援した数億発の弾薬は底抜けの瓶に水を注ぐように消耗されている。半面、ロシアは品質を低めて生産量を大きく増やしたうえ、北朝鮮からも弾薬を受け、ウクライナより優勢という評価が出ている。
4日(現地時間)のCNN・ロイター通信などによると、米国政府は海上で押収したイランの7.62ミリ弾薬110万発を2日、ウクライナ軍隊に譲渡した。この弾薬はウクライナなど東欧で広く使用されている突撃銃AK−47に使われる。中東地域の軍事作戦を担当する米軍中部司令部は昨年12月、米海軍兵力が無国籍船舶に積まれてイラン革命守備隊(TRGC)からイエメンのフーシ派反乱軍(シーア派武装組織)に輸送されていた物量を押収したと明らかにした。
英日刊ガーディアンは、最近西側陣営が深刻な弾薬不足状況に直面したと明らかにしたのに続き、米国が押収したイランの弾薬まで支援したという点に注目した。これに先立ち北大西洋条約機構(NATO)のロブ・バウアー軍事委員長はポーランドで開かれたワルシャワ安全保障フォーラムで「ウクライナに弾薬を提供しているが、もう底が見えている」と話した。
弾薬3億発支援も不足
米国務省が先月21日に発表した資料によると、米国は開戦以降、ウクライナに小型弾薬3億発と155ミリ砲弾200万発、105ミリ砲弾50万発など約3億510万発の弾薬を提供した。このほか欧州連合(EU)など同盟国が約35万発の弾薬を支援したと推定される。
ところがウクライナは昨年夏から東部の最大激戦地バフムトだけで数十万発の砲弾を使用するなど消耗戦を続け、年初から弾薬不足を訴えてきた。6月初めに南部電線で反攻を始め、砲弾、銃弾など多量の弾薬がさらに速いペースで消耗している。ニューヨークタイムズ(NYT)によると、ウクライナは反攻以降、防御ラインを突破するための接近戦をし、一日最大7000−8000発の弾薬を使用している。
米国企業研究所(AEI)の軍事専門家フレデリック・ケイガン氏はウォールストリートジャーナル(WSJ)に「ウクライナは南に進撃するため歩兵への依存度が高まり、イラン弾薬のような小銃弾薬も重要になった」と伝えた。
戦争が長期化して弾薬はさらに必要になったが、西側の生産能力は追いついていない。タイムズ紙によると、米国は1950年代の韓国戦争(朝鮮戦争)当時、戦時の需要を満たすために軍用弾薬工場86カ所を保有していたが、現在は5カ所にすぎない。欧州も1990年代の脱冷戦以降、軍需産業が縮小して弾薬生産量が減った。
米国は年初から弾薬生産量を倍以上に増やし、EUは6月、防衛産業業界へのEU基金支援を骨子とする「弾薬生産支援法」を推進するなど生産量を増やす努力をしている。しかしウクライナ軍の需要を満たすほどの成果は出せていないと、BBCは指摘した。また、最近は弾薬の価格が急騰し、より多くの費用をかかる状況であり、西側の支援余力に限界があるという見方も出ている。
ロシアの弾薬生産量は7倍多い
半面、ロシアは昨年半ばから一日に最大6万発の砲弾を使用するなど弾薬をかなり消耗しているが、依然としてウクライナより多くの弾薬を保有しているという。エストニアのクスティ・サム国防次官は「現在、ロシアの弾薬生産量は西側より7倍多いと推定される」と明らかにした。
ロシアは弾薬生産量を増やすため品質を犠牲にしながら価格を抑えた。NYTによると、西側の155ミリ砲弾製造コストは5000−6000ドル(675万−810万ウォン)だが、ロシアの152ミリ砲弾製造コストは600ドルにすぎない。また、アルメニア、トルコなど第3国を経由して軍需物資を調達し、北朝鮮から弾薬の供給を受けるなど西側の制裁を避けている。
大慶大学付設韓国軍事研究所のキム・ギウォン教授は「ウクライナは今後ロシアとの交渉で有利な条件を引き出すために弾薬を引き続き消耗しながら持ちこたえる必要があるため、西側の負担はさらに加重するしかない」とし「世界で最も大きな弾薬備蓄物量を保有する韓国に対する弾薬支援圧力がさらに強まる可能性がある」と話した。
●ウクライナ中銀が固定相場制を緩和、柔軟な管理相場制に移行 10/6
ウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)は10月2日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以来継続していた対ドル固定相場制を緩和し、3日から柔軟な管理相場制に移行すると発表した。
移行の理由として、インフレ率の低下のほか、外貨準備高が十分に高い水準にあり、NBUが為替レートの安定性を維持できる能力が高まっていることや、通貨フリブニャ建ての金利商品の魅力が高まっていることを挙げた。
移行後も、NBUは外国為替市場の状況を監視し、為替介入を行うことで過度な相場変動を大幅に制限するとしている。また、為替レートの安定性を維持することで、インフレ率の減速を維持し、中期目標の5%の達成を目指すとのこと。
移行翌日の4日の公定為替レートは1ドル36.5901フリブニャ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとなり、前日と比べて0.0615のフリブニャ安にとどまった。
NBUのアンドリー・ピシュニー総裁は3日、自身のフェイスブックで「目標はレートの安定性を維持することだ。NBUがフリブニャを自由に変動させるつもりがないことを市場が理解すれば、(市場)介入は徐々に安定化すると確信している」と述べている。
NBUは2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、金融システムの信頼性と安定性を確保することを主な目的とし、公定為替レートを同日時点のレートで固定した。同年7月21日には、1ドルの固定レートを36.5686フリブニャに引き上げていた。
ウクライナでは2023年第2四半期(4〜6月)の実質GDP成長率が戦争勃発以来初のプラスを記録したほか、8月にはインフレ率が8.6%まで低下している。
●23年の世界貿易量、伸び予想を半分に下方修正=WTO 10/6
世界貿易機関(WTO)は5日、今年の世界の財貿易(モノの貿易)量について、前年比0.8%増にとどまるとの見通しを示した。4月時点の予想(1.7%増)から下方修正し、根強いインフレ、金利上昇、中国不動産市場の緊張、ウクライナ戦争が見通しに影を落としていると指摘した。
2024年には3.3%増に回復するとし、4月予想の3.2%増とほぼ同程度の伸びを見込んだ。
貿易の鈍化はより多くの国と品目に及んでいるとし、特に鉄鋼、事務・通信機器、繊維、衣料品が顕著だと指摘した。
自動車は例外で今年の販売台数は急増している。
WTOは、予測に対するリスクは均衡していると述べた。予想よりも大幅な中国の景気減速や、インフレ再燃、金利上昇の長期化といったリスクがマイナス要因になり得る一方、インフレが急速に鈍化すれば、予測の上方修正につながる可能性もあるとした。
また、世界的な緊張に関連した貿易分断化の兆候が見られるものの、24年の予測を脅かすような広範な脱グローバル化の兆候はないとした。
●露軍の砲撃が店舗直撃、6歳児含む51人の市民死亡…短距離弾道ミサイル 10/6
ウクライナメディアによると、東部ハルキウ州クピャンスクの村で5日、露軍による砲撃があり、6歳の子どもを含む少なくとも51人の市民が死亡した。ウクライナの民間施設への攻撃では、今年最多の死者数とみられる。
ウクライナ当局の発表によると、砲撃は午後1時過ぎ、村の喫茶店などの店舗を直撃した。喫茶店では当時、住民の追悼式が行われ、少なくとも60人が参加していたという。
クリメンコ内相は、今回の攻撃に短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が使用されたとSNSで指摘した。スペイン訪問中のウォロディミル・ゼレンスキー大統領はSNSで「完全に意図的なテロ行為だ」とロシアを強く非難した。
一方、複数のウクライナメディアは4日、クリミア半島に特殊部隊が上陸し、露軍に大きな損害を与えたと報じた。ウクライナ国防省情報総局が明らかにしたというが、詳細な場所や日時は伝えていない。ウクライナ当局が公開した動画には、特殊部隊を乗せたとみられる複数のボートが浜辺に接近する様子が映っている。
●米中首脳会談、11月に米で調整 1年ぶり、台湾情勢など協議 10/6
米紙ワシントン・ポスト電子版は5日、米政府がバイデン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談を11月に西部サンフランシスコで実施する方向で本格調整を始めたと報じた。米中首脳の直接会談は昨年11月にインドネシア・バリ島で開いて以来となる。多くの分野で米中対立が先鋭化する中、関係安定化を目指す。
サンフランシスコで11月15〜17日に開かれるAPEC首脳会議に合わせた米中首脳会談を目指している。同紙は、実現する可能性は「相当高い」とする米政府関係者の発言を伝えた。
バイデン氏は習氏との会談で、台湾情勢など米中の利害が激しく対立する安全保障分野について協議。不測の事態を防止するため、軍同士を含めた意思疎通を維持することの重要性を訴える。ウクライナ侵攻を巡るロシアと北朝鮮の軍事協力の動きも議題とし、くぎを刺したい考えだ。
バイデン氏は香港民主化運動や少数民族ウイグル族抑圧など中国の人権状況への懸念を伝える方針。気候変動や食料安全保障など利害が重なる分野では連携を模索する。
●プーチン大統領「達成できると確信」軍事侵攻続ける考え強調 10/6
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナが行っている反転攻勢でウクライナ側は9万人以上の兵士を失うなど大きな打撃を受けていると主張し、軍事侵攻を続ける考えを強調しました。そのうえで、核弾頭を搭載できる最新の巡航ミサイルの開発実験に成功したと述べて核戦力を誇示し、欧米側をけん制しました。
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア南部ソチで開かれた国際情勢をテーマにした「バルダイ会議」に出席しました。
4時間近くにわたって行われた会議の中でプーチン大統領は、ウクライナがことし6月に開始した反転攻勢について、「ウクライナ軍は9万人以上の人や557両の戦車、1900台近くの装甲車を失った」と述べ、ウクライナ側が大きな打撃を受けていると強調しました。
そのうえで、「われわれは目標に向かって自信を持って進んでいる。必ず達成できると確信している」と述べ、軍事侵攻を続ける考えを強調しました。
また、プーチン大統領は、これまでにおよそ33万5000人が契約軍人としてロシア軍に参加したと述べました。
一方、プーチン大統領は「数年前に発表した最新の戦略兵器について作業がほぼ完了した」と述べ、原子力を動力源とし、核弾頭を搭載できる最新の巡航ミサイル「ブレベストニク」の最終実験に成功したとするなどロシアの核戦力を誇示し、対立する欧米側をけん制しました。
日本との対話「申し出があれば応じる用意」
また、日本から参加したロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員からの質問にプーチン大統領が応じました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻後、悪化している日本との関係についてプーチン大統領は「われわれが日本に制裁を科したわけではなく、窓を閉ざしたわけではない。日本がやったのだ。対話が行われるのは良いことだ。閉ざした側から申し出があれば応じる用意がある」と主張しました。
松野官房長官「国益の観点から適切に対応」
松野官房長官は閣議の後の記者会見で、「ロシア側からは核をめぐるさまざまな発信がなされており、核兵器が使用される可能性を深刻に懸念している。核兵器による威嚇も使用もあってはならない。G7をはじめとする国際社会と連携し、厳しい制裁など外交的取り組みをしっかり進めていく」と述べました。
一方、プーチン大統領が日本側から申し出があれば対話に応じる用意があると主張したことについて、「日ロ両国が隣国として対処する必要がある事項については、何が国益に資するかという観点から適切に対応していく。北方領土問題については、問題を解決して平和条約を締結するとの方針を堅持する」と述べました。 
●プーチン大統領「新しい世界秩序」という表現でアメリカに対抗 10/6
ロシアのプーチン大統領は5日行った演説でウクライナへの軍事侵攻を正当化したうえで「新しい世界秩序」という表現でアメリカに対抗する姿勢を全面的に打ち出しました。
さらにCTBT=包括的核実験禁止条約の批准を撤回する可能性も示唆し、欧米側へのけん制を一段と強めています。
ロシアのプーチン大統領は5日、ロシア南部ソチで国際情勢をテーマに開かれた「バルダイ会議」に出席しました。
プーチン大統領は「ロシアの領土は世界最大で追加の領土を征服することに関心はない」などと述べ、ウクライナ侵攻は領土目的ではないと主張し、正当化しました。
そのうえで「われわれは新しい世界秩序の基礎となる原則について話している。西側諸国、特にアメリカは独断的にルールを決め、こうすべきだと教えてくる。植民地主義的な考えだ」と述べアメリカに対抗する姿勢を全面的に打ち出しました。
また、プーチン大統領は最新の巡航ミサイルなどロシアの核戦力を誇示したほか、ロシアが批准しているCTBT=包括的核実験禁止条約について「理論上、批准は取り消すことができる」と述べ、批准を撤回して新たな核実験に踏み切る可能性も示唆しました。
これを受けてプーチン大統領の側近として知られるボロジン下院議長は6日、SNSで「次の議会でCTBTの批准撤回について必ず議論する。CTBTを批准していないアメリカに対する鏡のような対応となるだろう」と投稿し、欧米側へのけん制を一段と強めています。
専門家「軍事侵攻を正当化しようとしている」
今回のバルダイ会議に日本から参加し、プーチン大統領に直接質問もした、ロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員が会議の後、NHKのインタビューに応じました。
畔蒜氏は、プーチン大統領の発言について「ウクライナでの戦争は、今後の世界秩序をめぐる戦いだと再定義することが一番のねらいだった。その世界秩序とは、彼が繰り返し言ってきた、アメリカ主導ではなくすべての国々が参加できる秩序であり、それに向けた象徴的な動きがBRICSだ」と述べ、アメリカと距離を置く国も多いBRICSやグローバル・サウスなどと、新たな秩序を作るための戦いだとして軍事侵攻を正当化しようとしていると指摘しました。
また、核戦力を誇示した一連のやりとりについて「ロシアにとって核の抑止力の信頼性が落ちているという危機感がある。西側が直接的に関与しないようけん制するのが一番の目的だと思う」と述べ、ウクライナ支援を続ける欧米側をけん制するねらいだと指摘しました。
プーチン大統領がCTBTの批准の撤回を示唆したことについては「今後の展開次第では、核実験の再開に向けた地ならしをする余地があるという発言をしたということだ」と述べ、けん制するねらいが込められているとしています。
畔蒜氏は、演説などを行うプーチン大統領の様子について「アメリカで国内政治が混乱し、ヨーロッパではスロバキアで親ロシア派の政権が誕生するなど、プーチン大統領にとってある種の追い風のようなものが吹いている。良くも悪くも自信を持って受け答えをしたという感じがある」と述べました。
一方、専門家などによる日ロの対話の可能性に関してプーチン大統領に質問したことについて「アメリカとロシアは核の問題があるので政府間の関係が悪化しても民間で対話を補うという伝統が根づいている。いま、日ロの政府間の関係は最低レベルだが、隣国であるロシアは核兵器を持っているし、最近は北朝鮮との関係も強化しようとしている。専門家レベルでも対話のチャンネルは持っておくべきだ」と述べました。
●なぜロシアは広大な国土があるのに他国を攻めるのか? 10/6
海外で、今や「ビジネスパーソンがいま最も学ぶべき学問の一つ」と言われている“地政学”。――地政学とは、「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」。主体的に、自らがその国のリーダーであったら、とその国の置かれた状況に自らを置いて考えてみる訓練である――と『地政学が最強の教養である “圧倒的教養”が身につく、たった1つの学問』、田村耕太郎は話します。その地政学とは一体何なのか。
地政学とは「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」
地政学とは「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」である。そして、「その国のトップの考え」に影響を与える要素に「地理」とその他「6つの要素」がある(下図参照)。
つまり、「『地理』と『6つの要素』にその国の条件を入れ込むことで、『その国のトップの考え』が決まる思考の枠組み」が「地政学の思考法」だ。そうして、「自分がその国のトップだったら、どう考えるか」、思いをめぐらせる。
では、「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」とは具体的にどんなことなのだろうか。今何かと地政学リスクについて話題を提供してくれているロシアを例に考えてみたい。
「なぜロシアは大きな国土があるのに、他国を攻めるのか?」という疑問を持つ人がいるかもしれないので、このテーマについて少し深掘りをしてみよう。あなたもプーチン氏になってみる。あなたが、クレムリンの執務室にどっかりと座っていたらどういう世界が見えるだろうか?
ロシアは世界一の国土の広さで、その面積は約1710万平方キロメートル、日本の約45倍である。東西に大きくまたがるため11ものタイムゾーンがあり、同じ国内でも時差は最大10時間にわたる。そんな広大な国土を治める立場にいるのだ。その広大な国土に190を超える少数民族を抱えているのだ。
あなたは大豪邸に住んでいる。その中には自分たちとは慣習や言葉も違う人たちが多く住んでいる。それよりある意味異質な人たちと、その広大な豪邸の敷地の境を接しながら窓やドアは増えているのだ。家が大きければ大きいほど、増えた窓やドアから強盗や泥棒に侵入される可能性は高くなる。プーチン氏は、陸続きの国境線が延びれば延びるほど侵入される恐怖は増すのだ。
地理が決まれば気候も決まる。ロシアの国土の約60%は永久凍土である。そしてその国土の80%は無人であるといわれる。国土が広く見えて、「なぜあんな広い国に住みながらまだ領土を拡大しようとするのか」と思う人もいるだろうが、80%が無人で住めない場所だとしたらどうだろう。
そして、地理が決まれば、必然的に「周辺国」が決まる。実は、ロシアは国境を隣接する国が14もある。ただでさえ、家が広くて侵入者に「恐怖」を感じているのに、侵入可能な窓やドアが増えたら、あなたならどう思うだろうか。「恐怖」はさらに強まり、もうこうなると、「攻められる前に、こちらから攻める」というマインドになりかねない。
ロシアという国は永久凍土など、居住や移動に適さない土地が多い。そのせいもあり、農業の生産性は低い。ロシアの耕地面積は1億2200万ヘクタールで、日本の28倍もあるが、穀物の単位面積あたり収穫高は1ヘクタールあたり2.4トンで日本の4割ほどしかない。そして、交易や海洋進出のために活用したい港湾の多くが、冬場に凍結してしまう。
こうして、「地理」が決まることで、間接的に「歴史」も決まる。「攻められる前に、こちらから攻める」というマインドと、生きていくために「不凍港」を求める動きが合わさる。あなたなら、どうするか。そう、だからこそ、ロシアは常に国外に進出を繰り返してきた。
もちろん、私はだからといってロシアの過去や現在の行動を正当化はしない。しかしながら、価値判断を除いてロールプレイング思考訓練だけやる。その上で自分ならどうするか? オプションを導き出すことがとても大事なのだ。
自らをクレムリンの執務室に置いて、価値判断はせずに、自分がプーチンならどうするかを考えてみることに意義はある。もちろん、違うオプションを導き出すことを試みるなど、相手の立場に立つことはとても重要である。この訓練はビジネスに役立つだけでなく、実際の和平交渉やその進展を読むことにおいても有意義だ。
地政学は「戦争」でなく「平和」のための学問
どうだろう。このように「要素」で考えていくと、例えば「ロシアがウクライナに侵攻した」というニュース一つをとってみても、その受け取り方が結構変わってくるのではなかろうか?
持続する現実的な平和を確立するためには地政学的理解が欠かせないのだ。世界はジャングルの掟が支配する。フランシス・フクヤマ氏が『歴史の終わり』で説いたような世界はやってこなかった。世界に自由民主主義が自然と広がり、国際機関や国際社会が国際法を使って平和を保障してくれるような世界はまだまだやってこないだろう。
現実的には平和とは力の均衡状態のことを言う。今回のウクライナ戦争は、プーチン氏がウクライナにおけるNATOとロシアの均衡状態が崩れたと判断して起こした。むき出しの力を使って状況を変えようとするリーダーの置かれた立場を理解して手を打たなければ、現実的で持続する平和はやってこない。
そのために地政学的理解、つまりロールプレイング的思考訓練が必要なのだ。善悪でリーダーを判断して勧善懲悪を期待してはいけない。NATO側にもアメリカにも、国益・名誉・恐怖から来る地政学的判断がある。そこも理解して我々日本人は世論やビジネスの構築を目指すべきだろう。
ウクライナ戦争に勝るとも劣らないような地政学的リスクが、我々が住む日本近辺にもないわけではないのである。
「地理」が「6つの要素」すべてを決める
我々は世界中ほぼどこにでも旅ができて、ほぼ世界中からスマホ一つで色々なものをオーダーできる時代に生きている。そのため、「もうテクノロジーは地理を乗り越えてしまった」と思いがちである。しかし、地理による運命を書き換える能力はまだまだ我々人類は手にしていないのだ。
スマホのおかげで世界中からオーダーできると思われている品々は、デジタル化できる商品を除いて、ほとんどが海を渡って我々のもとに届いている。デジタル情報の99%も海底ケーブルを通じて届いている。海を制するものが世界を制する時代は変わっていないのだ。
一方で個人で旅行はできるが、国として物理的に、欧州や北米に引っ越せるわけではない。後述するが私はシンガポール建国の父である故リークワンユーさんから三度も「今の地理的条件で日本が小さく、貧しく、老いていくのは相当まずいよ。日本は引っ越せないんだよ」と指摘された。地理的な運命を、今の人類が乗り越えることは難しいのだ。
ウクライナ戦争も台湾情勢も朝鮮半島情勢もすべてが地理的な運命から来ている部分が大きい。どんな国に周りを囲まれるのかは変えられない。
天候は地理に左右される。日本に台風が来るのも、台風発生地帯より南に位置するシンガポールで台風がないのも地理のせいだ。ロシアのほとんどが極寒の地にあり、アメリカが肥沃で温暖な土地を多く持つのも地理的条件のせいである。今後は期待したいが、気候を自在に変化させるようなテクノロジーをまだ人類は持っていない。
地理的な位置で国民性も影響を受ける。大陸的、島国根性、半島感情など色々言われるが、それらも一理ある。日々、目に入る光景や暮らしの風景や人の出入りは地理に左右される。
天候や国民性や周りの国々により、その国の統治体系も影響を受ける。地理的な位置で、獲れる食物も利用できる資源も左右される。そこから起こってくる産業も変わってくる。
地球上のどこにあるのか? 緯度はどのへんなのか? 島なのか? 半島なのか? 大陸の真ん中にあるのか? これによって、国の運命は大きく変わる。今まで述べた要素によって歴史が作られてくる。歴史はその地理的条件から始まっているのだ。
かつてパンゲアという一つの大陸だった我々が住む世界も6つの大陸と多くの島に分かれてしまった。その後、我々人類が誕生した。そしてどこに住むのかによって我々の運命は左右されるようになってしまったのだ。
「地理」が習近平氏の支配体制を決めている?
中国は、ロシアと同様、異様なほど広い国土を有している。その国土の多くの部分、特に内陸部は砂漠地帯などの乾燥地域が続く。内陸部の乾燥地帯は「ステップ気候」と呼ばれ、日本とは異なり大木が育つことはなく、背丈の低い草木が生える程度。草原気候とも言われる。
そこで安定的に食糧を生み出すには大河川から灌漑などの大規模な土木事業を行い水を確保するしかない。よって、大規模な土木工事をするために大量の動員が可能になるよう広い国土を中央集権的に治める制度が確立されてきた。欧州のように高い木々や山脈が大地をさえぎることがないので、複数の国に分かれることもなかった。
巨大な国を作り、それを中央集権で束ね、巨大なインフラを建設して生きていくために、道路や文字や暦や単位を統一し、巨大な領地を隅々まで管理するために官僚制度を作り出した。
また騎馬民族の存在も大きい。ステップ気候帯は定住には適さない環境のため、常に移動する生活スタイルが確立した集団が常に存在した。彼らは気候の変化によって南下し、機動力・狩猟能力に長けていたので、それを戦闘力に転換しやすく、常に定住する人々の脅威になった。
中国はその騎馬民族らから広い国境線を守るのに必死だったのだ。中国は万里の長城などの軍事インフラ構築や軍隊整備を行って、騎馬民族の来襲から自らを守るためにも、統一した文字や暦や単位や官僚制度を作り出した。
「中国はなぜ中央集権的なのか?」への答えが少し見えてきたのではないか。中国が中央集権的、強権的なのは、こういった中国の地理的な制約があるのだ。「地理」によって、「統治体系」が決まり、歴史が作られた。「地理」つまり「場所」というのは、国において、運命を決定づけてしまう重要な要素なのである。
●ロシアの軽油輸出禁止、大半を解除 10/6
ロシア政府は6日、先月21日に導入した軽油の輸出禁止措置の大半を解除したことを明らかにした。
パイプラインで海港に輸送される軽油の輸出を解禁する。各生産者が生産した軽油の少なくも半分を国内市場に供給することが条件。
ガソリンの輸出制限は継続する。
軽油は石油製品ではロシア最大の輸出品目。昨年の輸出は約3500万トンで、4分の3近くがパイプライン経由で輸送された。
昨年のガソリン輸出は480万トン。
ロシアの輸出禁止措置は国際価格の押し上げ要因となっており、一部のバイヤーがガソリンと軽油の代替調達先の確保を迫られている。
●ロシア、隣国ジョージアの分離派地域に海軍基地を建設へ=現地指導者 10/6
ロシアが、隣国ジョージアの独立分離派が実効支配している地域アブハジアに海軍基地を建設する予定だと、同地域のリーダーが5日付のロシア紙で語った。
アブハジアの大統領を自称しているアスラン・ブジャニヤ氏はロシアのタブロイド紙に対し、この地域が近々、黒海におけるロシアの「恒常的な展開拠点」になると述べた。
ロシア政府はこの件についてコメントを拒否している。
ジョージアの外務省は、「ジョージアの主権と領土保全に対する明白な侵害」だと述べている。
アブハジアはジョージア北西部に位置し、黒海に面している。ソ連崩壊後の1992〜1993年に自治権をめぐってジョージアと戦闘となり、1999年に独立を宣言したが、国際的には承認されていない。
だが、2008年にジョージアとロシアの間で紛争が起きると、ロシアはアブハジアの独立を承認した。ジョージアは、アブハジアがロシアに占領されているとしている。
ロシアはすでに、アブハジアに陸軍基地を置いている。
ブジャニヤ氏は、オチャムチレ地区に海軍基地が置かれることで、ロシアとアブハジアの防衛能力が高まり、両国の「基本的利益を守る」ことになると述べた。また、「安全保障が何よりも重要だ」と語った。
同氏は今週初めにロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談しており、ロシアのウクライナ侵攻を支持すると述べていた。
黒海ではこのところ、ウクライナがロシアの黒海艦隊への攻撃を強めている。2週間前には、クリミアにある艦隊司令部を攻撃した。
ロシアは2014年以降、クリミアを不当に併合している。
イギリス国防省は先に、クリミアでウクライナのさらなる攻撃に直面し、ロシアの黒海艦隊の活動は東に移動しているとの見方を示した。
高解像度の人工衛星写真によれば、少なくとも17隻のロシア戦艦がセヴァストポリからノヴォロシスクに移動している。
アブハジアに新たに予定されているという海軍基地の位置は、ノヴォロシスクからさらに500キロほど南東になる。
アブハジアに艦隊を置くことで、ロシアがジョージアの領土から攻撃を行う可能性も、ウクライナがジョージアの領土に攻撃する可能性も高くなる。
ロシアのドミトリ・ペスコフ大統領報道官は、艦隊の派遣についての質問に答えず、国防省にたずねるよう記者らに促した。
黒海艦隊は、ロシア海軍の主力部隊とみなされている。同艦隊はウクライナに向けてミサイルを発射し、壊滅的な被害をもたらしている。
そのため、ウクライナとっては重要な標的となっている。9月下旬にはウクライナがクリミアにある艦隊司令部を攻撃。4人のロシア人将校を殺害したとしている。
●世界でロシアにNO!を突き付けている国は意外に少ない? 各国の対応 10/6
実際、世界でどれだけの国がロシアにNO!を突き付けている?
いま知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。ロシアのウクライナ侵攻は世界中から非難されましたが、実際にロシアにNO!を突き付けている世界の国々はどれくらいあるのでしょうか?友好的な国、曖昧な態度の国など、国ごとの反応をまとめました。
ウクライナ侵攻でロシアを強く非難した日本
ロシアがウクライナへ侵攻したことで、日本はロシアを強く非難し、ロシアへの経済制裁を強化しました。今日では中古自動車や高級品などがロシアへ輸出することができませんし、一部のロシア高官の日本への入国も規制されています。日本はアメリカや西欧諸国と足並みを揃え、対露非難を強めていますが、それによって米露関係や日露関係は急激に悪化しました。今日でもその状況に全く変化はなく、日露関係は冷戦後最悪な状況が続いています。北海道知床半島からすぐ見える国後島が、これほど遠くに感じることはこれまでなかったでしょう。
実はロシアにNO!を突き付けている国は世界で少数派
日本のメディアで報道されている事実を中心にウクライナ戦争を眺めていると、日本や欧米の対露姿勢が基本で、他の国々もそのスタンスを取っているかのように映ります。しかし、実はロシアに対して明確にNOの姿勢を貫いている国々は世界で少数派なのです。
ウクライナ侵攻直後の2021年3月、国連総会ではウクライナ侵攻を非難する、ロシア非難決議が141カ国の賛成で採択されました。採択反対に回ったのはロシアの他にはベラルーシとエリトリア、北朝鮮とシリアの5カ国で、どれもロシアと良い関係を維持している国々です。一方、中国やインドなど35カ国が棄権し、国際社会の複雑さ、難しさを露呈する結果となりました。
ペナルティーを課していない国々もかなり多い
そして、さらに重要なのは、同決議で賛成に回ったものの、侵攻したロシアに対してペナルティーを課していない国々が極めて多いのです。侵攻から1年半が経過しますが、その後ロシアに対して経済制裁などを実施しているのは、アメリカや西欧諸国、日本や韓国、オーストラリアなど40カ国あまりに留まっているのです。
たとえば、親日的な国が多いASEANをみても一目瞭然です。ASEANといっても、インドネシアやマレーシア、シンガポールやタイ、ベトナムなど日本と良好な関係を維持する国もあれば、ラオスやミャンマー、カンボジアのように経済的に中国と深く結び付いている国もありますが、ロシアへ経済制裁を実施しているのはシンガポールのみなのです。
国家は自分の国の利益のために行動する
では、なぜ多くの国は戦争を仕掛けたロシアに対して明確にNOの姿勢を示さないのでしょうか。戦争を仕掛けたのだから、当然非難されるべきだと多くの人が思うことでしょう。しかし、国際社会の実状は極めて複雑で、国家は自身の国益のために行動しており、1つのチームなることは極めて難題です。
たとえばさっきのASEANのケースでも、ラオスやミャンマー、カンボジアといった国は中国からの経済支援なしには発展が望めないのが現実で、政治的に中国の異に反する外交はなかなか展開できません。中国はウクライナ侵攻に対して、それを非難することも支持することもなく沈黙を続けています。そのような状況で、ラオスなどが欧米と足並みを揃えるような姿勢に転じれば、それを良く思わない中国との間で亀裂が生じる恐れがあり、経済支援停止など圧力を掛けられる可能性があります。一種の脅しになりますが、道徳的に動けないという現実もあります。
ロシアが持つエネルギーも途上国に魅力
また、ロシアは世界有数のエネルギー大国であり、原油や天然ガスなどを多くの途上国に輸出しています。東南アジアや南アジア、中東やアフリカ、中南米にはこれから経済発展が期待される新興国が多くあります。そういった経済発展を遂げようとする国々としては、それに必要なエネルギーを提供してくれる国とは安定的、良好な関係を維持する必要があります。
今日、ウクライナ侵攻によってロシア産エネルギーの価格は安くなっており、今こそロシア産エネルギーを買おうと、多くの途上国はロシアとの経済関係を強化しています。これから日本を抜いて世界第三の経済大国になるインドも、ロシアとのエネルギーを軸とした経済関係を強化しています。
ロシアに明確にNOを突き付けているのは、世界で40カ国あまりしかありませんが、その大半は欧米諸国です。他の国々は人道的にそれが許されない問題と自覚しつつも、国家の国益を第一に実利的外交を展開しています。ここに国際社会の難しさがあります。ウクライナ侵攻は、我々に世界の難しさを改めて示しています。

 

●プーチン氏「ロシアは世界最大の領土」「さらに増やす野心はない」… 10/7
ロシアのプーチン大統領は5日に露南部ソチで開催された「バルダイ会議」で、ウクライナ侵略を改めて正当化し、強気な発言を繰り返した。ウクライナが頼りとする米欧に「支援疲れ」が見えていることが背景にあるとみられる。
プーチン氏は会議で、ウクライナとの戦闘に関し「反転攻勢が始まった6月4日以来、ウクライナ軍は9万人以上の人や、557両の戦車、1900台近くの装甲車を失った」と主張した。ウクライナは経済・軍事面で米欧の支援に依存していると指摘し「軍事支援が止まれば、1週間しかもたない」とも強調した。
会議に出席した笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は「既に勝利を決めたかのような自信に満ちた受け答えが目立った。米連邦議会はウクライナ支援を巡って混乱し、スロバキアではウクライナ支援反対を訴える政党が勝利し自信を深めているのではないか」と指摘した。
プーチン氏は会議で「ロシアは世界最大の領土を持ち、さらに領土を増やすことに関心はない」とも語り、ウクライナ侵略を、西側諸国が覇権を握る現在の国際秩序を巡る戦いにすり替える持論を展開した。
米欧批判の一方で、プーチン氏は中国の 習近平シージンピン 国家主席やインドのナレンドラ・モディ首相ら新興5か国(BRICS)加盟国首脳を称賛した。ロシアは来年、議長国を務めるBRICSを軸に、西側諸国の覇権に挑戦するものとみられる。
●ウクライナ、子供500人超死亡 ロシア侵攻、東部州で多く 10/7
ウクライナ検察は6日、昨年2月に始まったロシアの侵攻によって6日までに子ども計505人が殺害され、1100人以上が負傷したと明らかにした。激戦が繰り広げられている東部のドネツク州やハリコフ州で死傷した子どもが多いとしている。
ウクライナメディアなどによると、6日朝に起きたハリコフ州の州都ハリコフにある住居用ビルに対するミサイル攻撃では、10歳の少年と祖母が亡くなった。11カ月の乳児も負傷した。
ゼレンスキー大統領が公開した動画によると、建物は大きく破損し、道路に破片が散乱。複数の車両が炎上した。
ハリコフ州クピャンスク近郊の村への5日のミサイル攻撃でも、子どもを含む50人以上が命を落とした。ウクライナ側は、いずれの攻撃も弾道ミサイル「イスカンデル」が使われたとみている。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報道官は6日、この村に調査団を派遣したと明らかにしている。ロシアのペスコフ大統領報道官は、ロシア軍が民間人を標的にすることはないと主張した。
●プーチン大統領と金正恩総書記が急接近の背景 「中国から支援」北朝鮮 10/7
プーチン大統領と金正恩総書記が会談した。両国接近の背景には中国からの支援引き出しという共通の思惑がある。
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が9月、約4年半ぶりに会談し、軍事協力の可能性がとりざたされている。韓国政府当局者は会談について「中国を脅して支援を得るための、プーチンと金正恩による共同作品だ」と語る。打算だけで結びついた二人の関係だが、事態の展開によっては東アジアの安全保障に深刻な影を落とすことになるかもしれない。
ロシア(旧ソ連)は、金日成氏を首班に据えた北朝鮮を生み出した。朝鮮戦争では戦闘機や戦車を支援し、戦後は東欧諸国とともに荒廃した北朝鮮の国土を再建した。金日成氏が当時、「わが国はネジ一本までソ連製だ」と嘆いたほどだ。
北朝鮮の製鋼所や発電所などの重要インフラや兵器などは、現在に至るまでほぼ旧ソ連製で占められている。
ただ、第2次大戦直後、北朝鮮に進駐したソ連軍兵士は強盗や強姦なども働いた。当時を知る脱北者の一人は「朝鮮人はロシア人をロスケと呼び、憎んだ」と語る。1991年のソ連崩壊後は、支援も急減した。韓国の統計によれば、北朝鮮の対外貿易でロシアが占める割合は1%もない。
一方、ロシアも北朝鮮から裏切られ続けた。ソ連が有償援助をしても、北朝鮮はほとんど返済しなかった。金正日総書記時代の末期、対ロシア債務の9割を免除してもらったが、ロシアにとっての北朝鮮は魅力的な交易相手ではない。プーチン氏は2019年の前回首脳会談では、正恩氏が提案した北朝鮮産の水産物や鉱物の輸入に関心を示さなかった。
朝ロの共通の思惑
決定的だったのが1993年の北朝鮮による核不拡散条約(NPT)脱退宣言だった。ロシアは研究用小型原子炉を提供するなど、北朝鮮の原子力の平和利用を支援してきた。ロシア外務省関係者は当時、日本政府関係者に対して「我々はとんでもない国を作ってしまった」と語り、嘆いた。ロシアは近年、北朝鮮に軍事兵器の支援をしてこなかった。
「信頼も共通の価値観もない関係」(韓国の金塾・元国連大使)の両国が接近した背景には、「中国から更に支援を引き出したい」という共通の思惑がある。
ロシアはウクライナ侵攻が長期化し、深刻な弾薬・兵器不足に陥っている。北朝鮮から弾薬、イランからドローン(無人機)などをかき集めている。軍事関係筋は「アフリカなどの第三国からも、旧ソ連製兵器が間接的にロシアやウクライナに流れ込んでいる」と語る。
これに対し、中国は国連の対ロシア制裁決議に賛成しないものの、ロシアに対する公式の軍事支援には踏み切っていない。
北朝鮮も中国との関係に苦しんでいる。中国は昨年、7回目の核実験に踏み切ろうとした北朝鮮に圧力をかけたとされる。韓国政府元高官によれば、習近平国家主席が正恩氏に送った親書で「我々は様々な局面で朝鮮を支持してきた。だが、核実験をすれば、我々は朝鮮を保護する幕を下ろさざるを得なくなる」と警告したという。
北朝鮮の“二股外交”
その後、北朝鮮と中国との関係は微妙な状況が続いている。北朝鮮は今年、朝鮮戦争休戦70周年の7月27日と建国75周年の9月9日を記念した軍事パレードを行った。中国は党政治局常務委員ではない軽量級の代表団を送るにとどめた。
北朝鮮経済は新型コロナウイルス問題もあり、どん底の状態が続いている。韓国銀行によれば、北朝鮮の22年の経済成長率はマイナス0.2%。20年のマイナス4.5%、21年のマイナス0.1%に次いで3年連続のマイナス成長を記録した。北朝鮮の経済回復のためには、中国からの石油や肥料、建設資材などの輸入拡大、中国人観光客の訪朝などが欠かせない。
韓国政府当局者は「北朝鮮は誇り高いため、中国に素直に頭を下げたくない。中国が譲歩せざるをえない環境をつくるため、ロシアに接近したのだろう」と語る。北朝鮮は金日成氏の時代から、ロシア(旧ソ連)と中国の間を渡り歩く「ヤンタリ(二股)外交」を行ってきた。
今回、正恩氏はロシア訪問にあたり、陸海空軍の将校や軍需部門関係者を引き連れた。朝鮮中央通信は正恩氏がロシア製戦闘機や軍艦に試乗する写真を相次いで公開した。別の韓国政府当局者は「ロシアとの軍事協力を匂わせ、中国を慌てさせるのが目的だろう」と語る。
中国は北朝鮮の核開発を苦々しく思っている。東アジアで日本や韓国、台湾などに核開発の動きが広がる「核ドミノ現象」を警戒しているからだ。青年失業率の悪化や不動産事業の深刻な不況など、内政が混乱するなか、日米韓との対立をあおる動きも避けたい。
北朝鮮としては中国に「北朝鮮とロシアとの軍事協力が嫌なら、もっとカネを出せ」というメッセージを送ったつもりなのだろう。
●米研究グループ “北朝鮮がロシアに武器供与を始めたか” 10/7
アメリカの研究グループは、北朝鮮とロシアの国境沿いの衛星写真を分析した結果、これまでになく多い貨物車両を確認したと発表し、先月行われた両国の首脳会談を受けて、北朝鮮がロシアに対して武器の供与を始めたのではないかとする見方を示しました。
アメリカのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所は6日、北朝鮮とロシアの国境沿いを5日に撮影した衛星写真の分析結果を公表しました。
それによりますと、北朝鮮とロシアの国境沿いの北朝鮮側の鉄道施設で、これまでになく多い73両の貨物車両を確認したということです。
先月の北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記とロシアのプーチン大統領の首脳会談の5日後から、貨物車両が徐々に増えたということで、北朝鮮がロシアに対して武器の供与を始めたのではないかとする見方を示しました。
首脳会談でロシアは北朝鮮に対して砲弾などの供与を求めるという見方もありましたが、研究グループは、車両は覆われているため、特定するのは難しいとしています。
北朝鮮とロシアが軍事分野で協力を進めているとみるアメリカ政府は、武器の供与は国連安全保障理事会の複数の決議に違反するとして、新たな制裁も辞さない考えを示すなど警戒を強めています。
●プーチン氏、アルメニア首相と会談カラバフ情勢協議 10/7
アルメニア首相府は7日、パシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談したと発表した。9月にアゼルバイジャンの攻撃を受けたナゴルノカラバフのアルメニア系住民がアルメニアに避難している状況や、ロシアとの2国間の問題を議論したという。
パシニャン氏は7日に71歳の誕生日を迎えたプーチン氏に祝いの言葉も贈った。露大統領府はパシニャン氏を含む各国首脳から祝電を受けたと発表した。
ナゴルノカラバフを放棄した形のパシニャン氏は現地に平和維持部隊を派遣するロシアの支援が不十分だったと不満を表明してきた。プーチン氏はパシニャン氏が昨年来アゼルバイジャン領だと認めていたと反論している。
●アメリカを狙える…核弾頭搭載可能なICBM「サルマト」近く実戦配備へ ロシア 10/7
ロシア国防省は7日、アメリカまで届く核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル「サルマト」を近く実戦配備すると発表しました。
ロシア国防省は7日、ショイグ国防相が、シベリアにある軍需産業で、大陸間弾道ミサイル「サルマト」の製造工程を視察する映像を公開しました。近く実戦配備される予定だとしています。
「サルマト」は世界最長、1万8000キロの射程をもち、南極経由でもアメリカを狙えるミサイルで、プーチン大統領が5日、「開発を終了した」と述べていました。
ロシアの核兵器開発を巡っては、プーチン大統領が同じ5日、「CTBT=包括的核実験禁止条約」の批准撤回について言及し、核実験の再開を示唆しました。
ロシア下院議長も6日、「次の議会では必ず議論する」とSNSに投稿するなど、核を使って西側をけん制する動きを強めています。
●ロシアの「核使用」、追い込んでいるのは米国 ベラルーシ大統領 10/7
ベラルーシのルカシェンコ大統領は6日、ウクライナに武器を供与することで米国がロシアを核兵器の使用に踏み切る状況へと追い込んでいるとの認識を示した。
南西部ブレスト州にある軍の施設の視察中、ルカシェンコ氏は「あくまでも私見だが、米国人がロシア人を追い込んで、最も恐ろしい兵器を使わせようとしている印象を持っている。彼らはウォロディミル・オレクサンドロビチ・ゼレンスキーと彼の軍隊を武装し、長距離ミサイルを供与する。300キロ飛べるミサイルまで与えている」と語った。
その上で、もしそうしたミサイルがロシアの領土に撃ち込まれれば、ロシア政府は反撃せざるを得なくなると指摘。反撃は核兵器による極めて大規模なものになるとの見方を示唆した。
ルカシェンコ氏によれば、国同士の対立の激化はロシアに核の使用を促すが、米国人は自分たちの安全に不安を感じていないという。「なぜなら彼らは海の向こう側にいるからだ」
同氏の発言に先立ち、ロシアのプーチン大統領は5日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する可能性を示唆。翌日にはウォロジン下院議長が、次の会合で批准撤回の問題について間違いなく話し合うと明言した。
ルカシェンコ氏はまた、米議会によるウクライナ支援の今後の不透明感にも触れ、現状をウクライナに向けた合図だと指摘。「もたもたせずに反転攻勢の範囲を拡大し、より多くの若者を投入しろ」というメッセージを送っているとの見方を示した。
ルカシェンコ氏によれば、米国がウクライナに反転攻勢のペースを上げるよう求めるのは、ウクライナの戦場での勝利を利用してバイデン大統領の支持率を引き上げる狙いがあるためだという。
「政治的な状況から、この戦争はバイデン氏や米政権の権威を高めていない。彼(バイデン氏)は既にあらゆる世論調査で敗北している。彼には何らかの勝利が必要だ。勝つためには何かを提示してみせる必要がある」(ルカシェンコ氏)
●ガザ地区からロケット攻撃 イスラエル報復 首相“戦争状態に” 10/7
中東のイスラエルで7日、パレスチナのガザ地区からロケット弾などによる大規模な攻撃があり、地元メディアはこれまでに少なくとも40人のイスラエル人が死亡し、500人以上がけがをしたと伝えています。
イスラエル側もガザ地区への報復作戦を開始していて、事態の激化が懸念されています。
イスラエルのメディアによりますとパレスチナ暫定自治区のガザ地区から7日、2000発以上のロケット弾が発射され、イスラエル南部などで被害が出ているほか、ガザ地区から侵入した武装勢力とイスラエルの治安部隊との銃撃戦も起きているということです。
一連の攻撃でこれまでに少なくとも40人のイスラエル人が死亡し、500人以上がけがをしたと伝えています。
今回の攻撃について、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは声明で、イスラエルへの攻撃を開始しその後、複数のイスラエル兵を捕虜にしたと主張しています。
イスラエルのネタニヤフ首相「戦争状態にある」
イスラエルではネタニヤフ首相が「われわれは戦争状態にある」とする声明を出したほか、イスラエル軍も報復作戦を開始しガザ地区にあるハマスの複数の拠点を空爆したとしています。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどは、ガザ地区では7日、160人以上が死亡したと伝えています。
ガザ地区からのロケット弾による攻撃は、これまでもたびたび行われてきましたが、ガザ地区からイスラエル側に武装勢力が侵入して攻撃を行うのは極めて異例で、事態の激化が懸念されています。
ガザ地区とは
パレスチナは、1948年のイスラエル建国とその後の中東戦争、それに内部の対立を経て、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に分断されています。
このうちガザ地区は、地中海に沿った、鹿児島県の種子島ほどの広さの土地に220万人以上が暮らしていて、イスラム組織「ハマス」が実効支配しています。
このハマスを敵視するイスラエルによる経済封鎖が続いているほか、軍事衝突で多くの民間人が犠牲となってきました。
また、ガザ地区の周囲には壁やフェンスが張り巡らされ、移動の自由も制限されていて、「天井のない監獄」とも呼ばれています。
イスラエルとパレスチナ 武力攻撃の応酬
中東のイスラエルとパレスチナの間では、武力攻撃の応酬が続いてきました。
2014年、イスラエル軍が地上部隊を投入してガザ地区に侵攻し、この軍事衝突ではガザ地区で2200人以上、イスラエル側でおよそ70人が死亡しました。
また、2021年5月の衝突でガザ地区では256人が死亡しています。
さらに、ことしに入ってから、双方による暴力の応酬が激化していて、7月にはヨルダン川西岸地区で、イスラエル軍が過去20年間で最大規模とされる軍事作戦を実施し、パレスチナ人13人が死亡したほか、イスラエル側も兵士1人が死亡しました。
国連の発表によりますと、ことしに入ってから、パレスチナ人は200人以上、イスラエル人はおよそ30人が死亡しているということです。
小林外務報道官「すべての当事者に最大限の自制を求める」
外務省の小林外務報道官は7日夜、談話を発表し「ハマスなどのパレスチナ武装勢力がガザ地区からイスラエルに向けて多数のロケット弾を発射するとともに、イスラエル領内に越境攻撃を行ったことを強く非難する。犠牲者の遺族に対し哀悼の意を表し、負傷者に心からお見舞い申し上げる。わが国は、これ以上の被害が生じないようすべての当事者に最大限の自制を求める」としています。
各国から厳しい非難や双方に自制を求める声
欧米や中東などの各国からは攻撃に対する厳しい非難や、双方に自制を求める声が出ています。
このうちアメリカ、ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は声明を出し「ハマスのテロリストたちによるイスラエル市民への攻撃を明確に非難する。いかなるテロも正当化できない」としてハマスを強く非難しました。
また、安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官がイスラエル側と電話で協議し、イスラエルと緊密に連絡をとっていくと伝えたとしています。
イギリスのスナク首相は「ハマスのテロリストによるイスラエル市民への攻撃に衝撃を受けている。イスラエルには自国を防衛する絶対的な権利がある」とSNSに投稿しました。
フランスのマクロン大統領は、SNSへの投稿で「イスラエルに対するテロ攻撃を強く非難する。犠牲者やその家族らに対し、全面的に連帯を表明する」としています。
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSへの投稿で「世界のどこであってもテロはあってはならない。それは1つの国に対してのみならず、人類や世界全体に対する犯罪だからだ。イスラエルの自衛の権利は疑いの余地はない」としてハマス側を強く非難しました。
また、ロシア外務省のザハロワ報道官はSNSへの投稿で「状況の急激な悪化に最も深刻な懸念を表明する」としたうえで、双方に対し、即時の戦闘停止や暴力の放棄など自制を求めました。そして「現在の状況の激化は、国連や安保理決議が慢性的に無視された結果だ」などとして中東和平に向けた調停の動きを欧米が拒否していると一方的に批判しました。
トルコのエルドアン大統領は、首都アンカラで開かれた政権与党の大会で「すべての当事者に自制を呼びかけている。緊張を高めてはいけない」と述べ、双方に対し一刻も早く戦闘をやめるよう求めました。
エジプト外務省は声明で緊張の激化による深刻な危機に警鐘を鳴らすとした上で、市民を危険にさらさないよう自制を求めています。
サウジアラビア外務省も声明で状況を注視しているとした上で、双方に対し暴力を止めるよう訴えています。
一方、イスラエルと敵対し、ハマスを軍事的に支援してきたイランでは最高指導者ハメネイ師の顧問が、首都テヘラン市内で演説し「国際機関が沈黙するかげでパレスチナの子どもや若者がイスラエルに殺されてきた。われわれはパレスチナとエルサレムが解放されるまで、パレスチナの戦士たちとともにある」と述べハマスによる攻撃への支持を表明しました。

 

●プーチン大統領 71歳の誕生日 “勢力圏”の国々と緊密関係演出 10/8
ロシアのプーチン大統領は71歳の誕生日を迎えた7日、中央アジアのカザフスタン経由でウズベキスタンにガスの供給を開始する記念式典に出席し、関係の強化を強調しました。ウクライナ侵攻を続け、みずからの勢力圏とみなす旧ソビエト諸国の間でもロシア離れの動きがみられる中、緊密な関係を演出した形です。
ロシアはカザフスタンを経由してウズベキスタンにパイプラインを通じて初めてロシア産の天然ガスを供給することになり、プーチン大統領は7日、首都モスクワ郊外で両国の大統領とともに記念式典に出席しました。
式典でプーチン大統領は「このプロジェクトは、地域全体の経済発展やエネルギー安全保障の点で非常に重要だ。両国との戦略的なパートナーシップは今後も継続し、発展すると確信する」と述べてさらなる関係の強化を強調しました。
7日、プーチン大統領は71歳の誕生日をむかえ、ロシア大統領府は同盟関係にあるベラルーシなど旧ソビエトの国々やキューバなど友好国の首脳から祝福が寄せられたと発表しました。
また、係争地をめぐって軍事行動を起こしたアゼルバイジャンと、敗北したアルメニアの両首脳ともそれぞれ電話会談し、意見を交わしたということです。
ウクライナへの軍事侵攻を続け、旧ソビエト諸国の間でもアルメニア政府がロシア離れの動きをみせるなど影響力の低下がみられる中、プーチン大統領としては勢力圏とみなす国々との緊密な関係を演出した形です。
プーチン大統領は今月中旬、中央アジアのキルギスで旧ソビエト諸国の首脳らと会議を行う予定で、結束を強調する思惑があるとみられます。
●プーチン氏、71歳に 近く5選出馬宣言か―ロシア 10/8
ロシアのプーチン大統領は7日、71歳の誕生日を迎えた。2020年の憲法改正で来年3月予定の大統領選に再出馬する道が開かれたが、そうでなければ4期目を終えて退任を迎える年齢。ウクライナ侵攻で「戦時体制」が続き、政権はさらに長期化する公算が大きい。
5選出馬については「あるかないか」ではなく「いつ宣言するか」が注目されている。時期は今年11月4日の祝日「民族統一の日」ごろが有力。ペスコフ大統領報道官は早くも8月に「プーチン氏の圧勝は明白だ」と述べた。「健康不安説」は過去の話となっており、今月5日に出席した国際会議では、演説や質疑応答で約3時間半も発言した。
戦時下で孤立を回避しようと、昨年10月7日は独立国家共同体(CIS)非公式首脳会議を開き、70歳の節目を旧ソ連圏の友人と祝った。今年は訪ロしたウズベキスタンのミルジヨエフ大統領らと6、7両日に同席。公務をこなしながらの誕生日となった。
本人は意気軒高だが、旧ソ連圏ではロシアの影響力にほころびが見えており、再結束が急務だ。タス通信によると、プーチン氏は12日にキルギスを訪れ、翌13日のCIS首脳会議に出席。その後、中国主導の経済圏構想「一帯一路」の国際協力サミットフォーラム出席のため訪中する見込みだ。両国ともプーチン氏に逮捕状を発付した国際刑事裁判所(ICC)の加盟国ではない。
●大統領選「中止」を提案 戦時理由にプーチン氏の続投訴え―チェチェン首長 10/8
ロシア南部チェチェン共和国の独裁者カディロフ首長は7日、ウクライナ侵攻が続いていることを理由に、来年3月に予定される大統領選を事実上「実施しない」ことを提案した。国営タス通信などが伝えた。現在4期目のプーチン大統領の続投を前提にした発言だ。
7日はプーチン氏の71歳の誕生日。チェチェンの中心都市グロズヌイでは、約2万5000人がこれを祝福する「官製集会」が開かれた。カディロフ氏は集会で「特別軍事作戦(侵攻)が続く中、大統領選に候補者としてプーチン氏1人だけが出馬するか、実施を一時キャンセルするかを提案したい」と表明。「今日、わが国を守れる人は(プーチン氏の)他にいない」と訴えた。
●ロシア「紛争は外交的解決を」 ウクライナ大統領はイスラエル支持 10/8
ロシア政府は7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの大規模な軍事衝突について、「(長年にわたる紛争は)武力ではなく、外交手段でのみ解決できる」と指摘した上で、双方に即時停戦を求めた。
外務省のザハロワ情報局長が述べた。
ザハロワ氏は「パレスチナとイスラエル双方に暴力を放棄し、必要な自制心を示すよう求める」と強調。国際社会の助けを借り、双方が「長年待ち望まれた、包括的かつ持続的な平和の確立に向けた交渉プロセス」に取り組むよう促した。
一方、現在ロシアの侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領は、通信アプリ「テレグラム」で「イスラエルに自衛権があることは議論の余地がない」とイスラエル側の反撃を支持。「テロ行為が金輪際、人の命を奪わぬよう、世界は結束して立ち上がらなければならない」と訴えた。
●「南」からのぞいた世界 10/8
南アフリカのヨハネスブルクで8月、同国とブラジル、ロシア、インド、中国の新興5カ国(BRICS)首脳会議が開かれ、中東4カ国を含む6カ国の加盟が認められました。いずれもグローバルサウス(南の世界)の国々です。
中東4カ国とはイラン、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)で、イランを除けば、米国とも親しい国です。
BRICSは中ロが中核で、欧米諸国と溝を深めています。米国が中東を一極支配していた時代には、米国の尾を踏むような加盟はとても考えられませんでした。そうした「絵踏み」が通じない時代に入ったということでしょう。
BRICS11カ国の総国内総生産(GDP)は先進国のG7総体を上回る世界全体の37%を占めます。なにより加盟国の総石油輸出量は同じく約4割に達しました。
この点は重要です。というのも国際基軸通貨としての米ドルの礎は原油取引の大半がドル建てであることに根差しています。
自国の国益を最優先に
BRICSはドルを介さず、互いの通貨などで決済する仕組みを整えようとしています。実現すれば、米国主導の経済制裁も従来のような威力を発揮できません。
だからといって、エジプトやサウジなどに反米の意思はありません。自国の国益を最優先にした関係を望んでいるにすぎません。
グローバルサウスの台頭はロシアのウクライナ侵攻後、顕著になりました。英「エコノミスト」誌によれば、親ロシアもしくは中立の国々で暮らす人びとは世界人口の3分の2に及びます。その多くが「南」の国々です。
民主主義不在の国が多く、権威主義の中ロに甘いという見方があります。ただ、彼らの視点を無視することもできないでしょう。
ロシアの軍事侵攻が国際法違反であることは明白ですが、「南」の国々は国際秩序の原則よりも現実の経験則を重視します。
原則が言葉にすぎないことが少なくないからです。例えば、米国はイラク戦争では国際法を無視する一方、イスラエルのパレスチナ自治区への空爆には制裁を科そうとしません。サウジも権威主義国ですが、友好関係を崩しません。
中東にはウクライナでの戦争と1980年代のアフガニスタン内戦を重ねる知識人が少なくありません。欧米はアフガンでイスラム武装勢力を支援し、旧ソ連に勝利しました。だが、地元の民衆は辛酸をなめ、欧米の支援はイスラム過激派の誕生を促しました。
「南」では欧米の植民地主義に対する憤りも共通項です。旧フランス植民地のアフリカ諸国では、この3年間で6カ国の親仏政権がクーデターで倒されました。
ロシアが扇動した一面があります。とはいえ、クーデターの背景には60年代の独立後も、旧宗主国に間接支配されてきた不満があります。どの国の通貨もフランス政府が操るCFAフランで通貨主権はなく、天然資源の取引もフランス企業が独占してきました。
この地域ではイスラム過激派が台頭しています。かつてはリビアのカダフィ独裁政権がその防波堤役でしたが、同政権は北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入で倒されます。その副作用は治安の不安定化として残されました。
欧米や中ロにくみせず
「南」の国々はロシアの蛮行の非を認めつつ、欧米に対しても根深い不信感を抱いています。その結果、彼らの多くは欧米と中ロ双方にくみすることを避け、是々非々の関係を志向しています。
一見、50年代の非同盟主義を彷彿(ほうふつ)とさせますが、各国とも自国の利益優先で往時のような団結は見られません。その傾向は世界全体の多極化を促しています。
こうした世界の変動に日本は追いついているのか。世界が多極化するほど、国ごとの丁寧な外交が求められますが、そのための情報収集力や理解は十分でしょうか。
米国はいまも世界随一の大国ですが、国力の衰えは否めず、自国を優先する点では変わりません。ロシアとの衝突を恐れて、ウクライナが望む飛行禁止区域の設定を拒んでいることが一例です。
日本は長く米国頼みを金科玉条としていますが、そのリスクも検証してみるべきです。「南」の国々のしたたかな外交戦略には学ぶべき点もあるかもしれません。
「長いものに巻かれろ」という処世術があります。しかし、多極化とは長いものが消えていくことです。内向きさを克服し、荒波を直視する覚悟が欠かせません。 
●北朝鮮がロシアに武器供給か、国境に貨車集結 報告書 10/8
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が6日公表した最新報告書によると、ロシアとの国境に近い北朝鮮・豆満江(Tumangang)駅に貨物車両が集結している。先月には金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長がロシアを訪問してウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と会談しており、報告書は、軍備品の鉄道輸送を示している可能性が高いとしている。
報告書は高解像度の衛星画像を分析した結果、少なくとも70両の貨車を確認したと説明。新型コロナウイルスの流行前と比べても「前例のない」規模だとしている。過去5年間に同駅に20両を超える貨車が集まった事例はなかったという。
報告書は、こうした北朝鮮側の動きについて「武器・弾薬のロシアへの供給を示すものである公算が大きい」と結論付けている。ただし、貨車には覆いがかけられているため、貨物を「特定」するのは不可能としている。
米CBSニュースは前日、米当局者の話として、北朝鮮はロシアに対し、ウクライナ侵攻に使うための砲弾の輸送を始めたと報じていた。
ロシアは、先月の金氏との首脳会談では北朝鮮からの武器供与について合意はなかったとしているが、プーチン氏は軍事協力の「可能性」はあると述べていた。
●イスラエルとハマス衝突、ロシア双方に停戦要求…ウクライナ支援の関心低下 10/8
イスラム主義組織ハマスによるイスラエルへの攻撃に対し、ロシアが双方に停戦を求めた一方で、ウクライナはイスラエル支持を明確に打ち出し、対照的な反応を示した。ロシア側がウクライナ侵略への関心を低下させるため、情報戦に乗り出したとの見方もある。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は7日、事態の深刻化に懸念を示した上で「75年にわたる紛争は武力ではなく、政治・外交的な手段でのみ解決できる」とし、双方に即時停戦を求めた。
ロシアは中東情勢で中立的な立場を維持してきた。ハマスを支持するイランとは友好関係にあり、イスラエルとも関係を維持するためだ。イスラエル側も米欧主導の対露制裁やウクライナへの軍事支援からは距離を置く。
米政策研究機関「戦争研究所」は7日、ロシアは中東の軍事衝突を「西側諸国のウクライナへの支援や関心をそぐための情報戦に利用する」と分析した。実際、メドベージェフ前大統領はSNSに「(中東情勢こそ)米国やその同盟国が取り組むべきだ」と投稿した。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はSNSでハマスの攻撃を「テロ」とし、「イスラエルが自衛権があるのは議論の余地がない」と投稿した。米欧各国と同様、イスラエルを支持する姿勢を示している。

 

●プリゴジンだけではない、同様の運命をたどったプーチンの批判者たち 10/9
今年8月、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの創設者エブゲニー・プリゴジンを乗せた飛行機が墜落し、搭乗者全員が死亡した。この墜落は不慮の事故ではなく、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自身の批判者を罰するために起こした事件だとの見方が強い。
同様の事件の多くはプーチン大統領に対する公然とした批判や非難の後で起きているが、同大統領が批判者たちの死の責任を取ったことはない。
野党の元党首でプーチン大統領を激しく批判していたアレクセイ・ナワリヌイは2020年、ロシア政府が開発した神経剤ノビチョクによる毒殺未遂に遭った。この事件について、当時のアンゲラ・メルケル独首相は、ナワリヌイを「黙らせる」ための攻撃だと非難した。
ロシアの二重スパイだったセルゲイ・スクリパリも2018年、ノビチョクで攻撃された4人のうちの1人となった。ロシア当局はこの事件の責任を取らなかったが、当時のテリーザ・メイ英首相は、この攻撃は「ロシア国家の上層部で」承認された可能性が高い暗殺未遂だったと指摘した。
ロシアの元スパイでプーチン批判者のアレクサンドル・リトビネンコは2006年、英ロンドンで放射性金属のポロニウムによって毒殺された。英国の公的な取り調べでは、プーチン大統領自身がリトビネンコの殺害を承認していた可能性が高いことが判明した。
ロシア軍に対する人権訴訟でチェチェン市民の代理人を務めていた人権派弁護士のスタニスラフ・マルケロフと、プーチン大統領に批判的な記事を書いていた記者のアナスタシア・バブロワは2009年、ロシア大統領府(クレムリン)近郊で射殺された。
プリゴジンが6月にワグネルの傭兵を率いてモスクワに進軍する短期間の武装反乱を起こしたことを受け、米国土安全保障諮問評議会(HSAC)のドミトリー・アルペロビッチは米CNNに対し「プーチンは何よりも忠誠心を重んじる」と語った。「プーチンの下では盗みを働くことも、殺人を犯すことも、犯罪者になることもできる。だが、不誠実であることだけは許されない」
ロシア当局によると、プリゴジンは8月23日にモスクワ北西トベリ州で墜落した小型ジェット機の搭乗名簿に載っていた。乗員3人を含む搭乗者10人全員が死亡したという。ロシア連邦航空輸送庁が国営RIAノーボスチ通信にプリゴジンの死亡を確認したにもかかわらず、プリゴジンがまだ生きているのではないかとみる向きもある。
いずれにせよ、プリゴジンの死は突然起きたことではない。プリゴジンはプーチン大統領とかつて親密な関係にあったが、最近の反乱で両者の間に緊張が生じていた。プリゴジンは6月、プーチン大統領に強力な挑戦を仕かけ、モスクワに到達しそうになったが、突然、進軍を中止することに同意した。
両者の関係は30年ほど前にさかのぼる。プリゴジンが営むケータリング事業がロシア政府との契約を獲得したことで、囚人からレストラン経営者に転身したプリゴジンが「プーチンの料理人」として知られるようになったのだ。
プリゴジンは2014年以降、約2万5000人の傭兵を擁するワグネルを率いることで、政府を支援してきた。ワグネルは、ウクライナ侵攻の最前線で最も激しい戦闘に参加したことで知られている。だが、プリゴジンはロシア政府がワグネルの傭兵への攻撃を命じたと主張し、反乱を引き起こした。その後、ワグネルをベラルーシに移転させる協定をプーチン大統領と結んだとして、反乱は終結した。ところが、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、プリゴジンは国内にいなかったと説明。反乱に終止符を打ったのがどのような取り決めであったにせよ、その正確な条件もわかっていない。
英当局が英BBCに語ったところによると、プリゴジンが死亡した墜落事故の背後には、ロシアの国内情報機関である連邦保安庁(FSB)が関与している可能性が高い。匿名でBBCの取材に応じた国防筋は、プリゴジンはプーチン大統領に対する不誠実な態度が原因で狙われたと述べた。
●「中東の火薬庫」のもう一つの戦争…安保・経済リスクの再点検を 10/9
「中東の火薬庫」ガザ地区のパレスチナ武装組織ハマスが一昨日イスラエルに数千発のロケット砲を打ち込み両側が戦争局面に突入した。昨日はレバノン内のイスラム武装勢力ヒズボラが迫撃砲でイスラエルを攻撃して戦争拡大の様相を呈している。ウクライナ戦争が長期化する中でもう一つの戦争の炎が中東に広がり国際政治・経済に同時に暗雲が立ち込めている局面だ。
今回の武力衝突はイスラエルの安息日に合わせてハマスが「アル・アクサ・ストーム(Al Aqsa Storm)作戦」を敢行してイスラエル側に数千発のロケット砲を発射したことで始まった。数百人のハマス武装兵力は陸・海・空の3面からイスラエル領域に進入して、軍人と民間人を人質に取った。イスラエルも特別非常事態を宣言して「鉄剣(Swords of Iron)作戦」で大々的な反撃に出て両側の死亡者がすでに900人を超えた。
イスラエルのネタニヤフ首相は昨日、「ハマスがいる悪の都市を廃虚にする」と宣言した。ハマスも人質に取ったイスラエル民間人などをガザ地区全域に分散させて背水の陣を敷いた。ロシアのウクライナ侵攻以降、権威主義陣営と米国中心の自由陣営が対立する状況なので仲裁も容易ではない。
今回の衝突が長期化するという展望も出ている。今回の衝突の原因の一つとして、キリスト教・ユダヤ教・イスラム教三宗教の聖地である東エルサレム聖殿山の中にあるアル・アクサ寺院を巡る葛藤が挙げられている。イスラエル警察は4月、アル=アクサー・モスクでラマダンの夕方の祈りを捧げていたパレスチナ住民に閃光弾を発射して追い出した。当時シーア派であるシリアのヒズボラがイスラエルに向かってロケットを発射したが、今回スンニ派であるハマスと手を組んだ形だ。
2020年、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が修交したことに続き、最近ではイスラエルがイスラム・スンニー派の宗主国であるサウジアラビアとの関係正常化交渉に速度を出してハマスなどが反発してきた。特にサウジアラビアとも関係がギクシャクしているイスラム・シーア派宗主国のイランがハマスとヒズボラをそそのかして中東の平和を揺さぶろうとしたのではないかという分析も出ている。
全世界が関わっている最近のウクライナ戦争はもちろん、中東の武力衝突は対岸の火事と見ることはできない。何よりも産油国が集中している中東の武力紛争は韓国経済にとって悪材料だ。韓国政府は海外同胞の安全を守り、戦況に注目しながら対応シナリオを先制的に用意しなければならない。敵性国家とテロ勢力に囲まれたイスラエルの境遇は我々の安保状況も振り返らせる。世界最高水準というイスラエル情報機関モサドでさえ今回の奇襲攻撃を予想することができず、ロケット防御システム「アイアンドーム」にも穴が空いた。何よりも韓国は、もう一つの戦争が米国など自由民主同盟の関心と対応能力を分散させる間、北朝鮮の挑発拡張にも万全の備えを整えておかなくてはならない。
●砲弾だけでなくロシアに足りない“砲身” “共食い”で凌ぐロシア戦車部隊 10/9
長引くウクライナ戦争の中でロシア軍の軍事物資が不足していることが度々報じられてきた。中でも今回は陸地戦の要、大砲、その“砲身”の話だ。
「ウクライナ軍はロシア軍の大砲を狙って攻撃」
ロシア軍兵器の残骸をとらえた写真がある。ウクライナの国防省が公表したものだ。そこに映し出された兵器は戦車に似ているが“自走砲”と呼ばれるものだ。興味深いのは砲弾を発射する大砲の筒の部分“砲身”が外部から破壊されたというよりも、内部から破裂したように見えることだ。
つまりウクライナ軍の攻撃で破壊されたのではなく、暴発もしくは消耗による破裂だろうと考えられる。大砲の砲身は一般に1日200発撃った場合、2週間程度で消耗するという。しかしロシア軍は古い砲身を使い続けているらしい。
ロシアの軍事情報に精通するウクライナのアナリストに聞いた。
政治軍事アナリスト オレキサンドル・コワレンコ氏「ロシア軍はソ連時代の古典的な戦闘方法を採用していて1日の砲撃数が非常に多いのだが、当初使用していた兵器は消耗してしまった。今すべての大砲の砲身が不足している。砲身は弾薬並みに不足している。(中略)ウクライナ軍はロシア軍の大砲を狙って攻撃し、砲身を修理できないほどの数破壊することによって戦地で砲身が足りなくなるようにしている。特定の戦地で砲身や弾薬が足りなくなればロシア軍の攻撃が減るからだ…」
大砲をピンポイントで狙う戦法は功を奏し、今年に入ってロシア軍の大砲は急激に消耗している。しかしロシアではりゅう弾砲などの大砲が大規模生産されていない。
「寿命の尽きた兵器から取り外したモノ」
コワレンコ氏「この1年半でロシア軍は多くの砲身を失ったため、倉庫内に眠っていたソ連時代の砲身を蔵出しして使わざるを得なくなった。倉庫にある兵器から砲身を取り外して、今使ってる車両にくっ付けるだけだ。倉庫に保管されていた砲身は新品ではなく多くが寿命の尽きた兵器から取り外した物だ。保管状態は良くなく、金属疲労もみられる。寿命の尽きた砲身は破裂する可能性もあるし、砲身の内部で砲弾が暴発する可能性もある。」
実際に衛星からでロシア内の基地を写した写真を分析すると戦前に152ミリ自走砲が298両あった駐機場に今年5月は155両に減っていて、そのうち砲身が残っている車両はわずか4両だけになっている。
RUSI日本特別代表 秋元千明氏「自動小銃でも撃ち続ければ熱を持つので銃を交換しないと危ない。運動エネルギーで発射する筒を持った兵器は定期的に交換しないと事故になる。ということで、どんどん撃つロシアは頻繁に砲身を交換したので消耗した。新しく作るのではなくすでにあるものを取り外して交換する“共食い”というやり方でやっている。もうひとつの理由は戦術によるもの。ウクライナが防衛線を突破するのにいちばん苦労したのは地雷で、これを撤去しないと進めない。機械で処理することもあるんですが手作業でやらなきゃならないことが多い。その時砲撃で邪魔してくるわけです。従ってウクライナとしては前進するために大砲を潰す必要があって、集中的にロシアの大砲陣地を一つ一つ叩いた。これが功を奏した…」
「一番増産が難しいのは・・・、非常に高度な冶金技術が必要な砲身」
ウクライナ軍は先月だけで、これまでで最多の900以上のロシア軍の砲身を破壊した。
コワレンコ氏「ロシア軍の攻撃の質はすでに下がっている。ウクライナ軍の平均射程30kmに対してロシア軍は射程15km。精度も違う。ウクライナ軍はロシア運より精度が高く、射程の長い兵器を使って対砲兵戦を始めている。」
兵器の消耗は止まらない。一方で増産はできるものとできないものがあるという。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠専任講師「ロシアがこの1年半、“頑張るぞ”と言って増産できるものとできないものがある。増産し易いのは大砲の弾。ショイグ国防大臣が8倍って言ってるくらい比較的簡単であろうと…。ロシアの軍需産業は戦時動員のための準備が義務付けられているので普段使わない工作機械も資材もある程度持ってる。逆に一番増産が難しいのは西側の技術に頼るハイテク製品。それと、非常に高度な冶金技術が必要な砲身なんかなんです。(中略)ただあと1年くらいは予備を引っ張り出してくることでもつ。ロシアの在庫の力は侮れない。あと1年持たせれば、砲身の新しい生産ラインを作れるかもしれない。なのでロシア軍がもの凄く苦しいことは間違いないが、これで瓦解寸前とは思わない…」
ロシアにも2か所、砲身を作れる工場があるというが、冶金技術から見て質の高い砲身を作ることが可能かは甚だ疑問だと堤伸輔氏は言う。
国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏「砲身の寿命1500発から2500発というのは、(高度な冶金工学に基づく)精巧な金属で造られたモノであって、レベルの低い作り方では…。でっかい鉄工所があればいいってものじゃなく、小さい溶鉱炉でいいから精度の高い金属を作らなきゃいけない。つまり、精度の低い砲身では寿命はもっと短いかもしれない。それを使わなければならないロシア兵は相当恐怖心を持って撃ってるんだろうなぁと…」
●「一帯一路」に対抗する 米欧の陸海路建設構想 10/9
9月9日付のFT紙の解説記事‘US and EU back new India-Middle East transport corridor’が、主要20カ国・地域(G20)首脳会議の脇で米欧首脳が、インドから中東を経て欧州に至る海陸の交通路の建設を支援することに合意したと報じ、貧困諸国を債務の罠に陥れる不透明な中国の「一帯一路」より、遥かに評価が高いとしている。要旨は次の通り。
米国と欧州連合(EU)は、中東から地中海に至る地域における中国の経済的影響力に対抗するため、インド・中東・地中海を結ぶ新たな海陸交通回廊の開発を支援することに合意した。この計画は、9月9日にニューデリーで開催されたG20首脳会議の議場外で、バイデン、モディ、ムハンマド・ビン・サルマンを含む諸首脳が合意した覚書に基づき開始される。
提案されている回廊は、新しい海底ケーブルやエネルギー輸送のためのインフラも含むプロジェクトで、インドからアラビア海を経てアラブ首長国連邦(UAE)まで伸び、その後サウジ、ヨルダン、イスラエルを横断してヨーロッパに至るものである。 義務的な財政支出の約束は未だないが、参加諸国は今後60日間の間に「行動計画」を策定することに合意した。
欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、「プロジェクトはインド、アラビア湾、ヨーロッパを結ぶこれまでで最も直接的な連絡路となるだろう。これは複数の大陸と複数の文明世界を結ぶグリーンでデジタルな橋だ」と述べた。
米国にとって、このプロジェクトは、UAEやサウジアラビアを含むアラブ地域に存在する米国と伝統的に協力関係にある諸国が中国、インドその他のアジアの大国と関係を深めている中、この地域における中国の影響力扶植への対抗策となるであろう。
EU当局者らは、この協力は、特にロシアの対ウクライナ戦争に対抗すべく、EUが湾岸諸国との貿易投資関係を深めようとする取り組みの中核である、としている。
EUは、中国の一帯一路構想に対抗し、主要な貿易相手国における欧州の権益を守るために始めた「グローバル・ゲートウェイ・プロジェクト」を通じ、2021年から27年までの間に海外インフラへの投資のために最大3000億ユーロを準備している。
このプロジェクトは、貧しい国々を債務の罠に誘い込み不透明であると酷評されている中国版の「一帯一路」構想が資金供与するインフラプロジェクトとは対照的だ。ファイナー米国家安全保障副補佐官は、「このプロジェクトは、水準が高く、強圧的でなく、何処かの国に何かを強いるものではないため、関係国からだけでなく世界中から高い評価を得ている」と語った。

インフラ建設は、経済支援、武器供与などの「実弾」の供与を通じた外交の中でも経済的インパクトが大きく、かつてわが国は今より積極的にアジアをはじめ多くの途上諸国にそうした支援を提供し、受益国の経済成長を促し、それを重要な外交手段の一つとしてきた。
日本が支援し急速な経済成長を遂げた諸国の中に中国も含まれるが、10年前頃から中国は欧州との間を繋ぐインフラ供与の「一帯一路」構想をその対外政策の表看板に掲げ、そのルート上の諸国に対し、中国が資金を貸し与えるので、それを受領すれば中国と同様に経済成長を享受できる、と魅了してきた。
東南アジアでも、昆明からシンガポールに至る高速鉄道計画を示し、クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画がマレーシアとシンガポール政府によって発表された折には、高速鉄道分野の草分けである日本の新幹線に対抗する勢いで、「一帯一路」構想を激しくぶつけてきた。
上記の記事も言うように、その構想は各国の政治指導者を「不透明な」政治判断に誘い込み(マレーシアのナジブ政権時代には賄賂が横行した)、その結果としてそれら諸国は経済合理性から外れた借金を負うことになった。「債務の罠」にはまった途上国に対し、中国は「借金の形」に「一帯一路」のルート上に港湾などの利用権の提供を求め、中国への外交的傾斜を誘導してきた。世界はこうした事態を安全保障の懸念と感じるまでになった。
なぜ、日本が参画しないのか
過去数年、中国はブラジル、ロシア、インド、南アフリカとの新興5カ国(BRICS)や上海協力機構などを通じ、中央アジア、中東、アフリカ、中南米への更なる影響力を急速に拡大しつつあるが、この動きに対し、米国や欧州諸国が具体的対策を講じるのはやや遅きに失した感がある。しかし、手遅れというわけではないのだろう。例えば最近、イタリアのメローニ首相が一帯一路からの脱退の意向を明らかにしたと報じられている。
米当局者によれば、G20の脇で合意された上記の構想は、中東諸国を鉄道で結び、港でインドと接続させることで輸送時間や燃料の使用量を削減し、湾岸諸国から欧州へのエネルギー・貿易の流れを後押しすることが狙いだという。
署名された覚書によれば、この構想はインドとアラビア湾を結ぶ東側回廊と、アラビア湾と欧州を結ぶ北側回廊の2回廊で構成される。鉄道ルートに沿って、参加国は電力・データ回線用のケーブルや、発電に使用する再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する予定だという。
残念なのは日本が参加していないことである。中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗すべく、米欧諸国が協力して実施しようとする世界的なインフラ整備プロジェクトに対し、質の高いインフラ整備を訴える外交努力を続けてきたわが国は、この米欧主導のプロジェクトに参画すべきだったのではないだろうか。 
●習主席「中国とアメリカは平和共存すべき」米シューマー院内総務ら議員団 10/9
中国の習近平国家主席は9日、アメリカの民主党シューマー院内総務が率いる超党派の議員団と会談しました。この中で習氏は「中国とアメリカは平和的に共存すべき」と述べ、関係改善に意欲を見せました。
中国国営の中央テレビによりますと、習近平国家主席は9日午後、人民大会堂で王毅政治局員兼外相と共にアメリカ民主党のシューマー院内総務が率いる超党派議員団と会談しました。
会談で習主席は「中国とアメリカは互いに尊重し合い平和的に共存し、ウィンウィンを目指して協力すべきだ。それは、両大国が正しく付き合う道を見出すためだ」と述べ、両国関係の安定と関係改善に意欲を見せました。
そのうえで「競争や対立は時代の趨勢にそぐわず、両国の経済は深くつながっていて、互いの発展から恩恵を受けることができる」とした上で、気候変動問題や国際的な問題解決への協力を呼びかけました。
一方、シューマー氏は「アメリカは中国との対立を求めておらず、相互尊重の精神で対話と意思疎通を強化することを望んでいる」と関係改善への意欲を示したということです。
アメリカと中国は11月の国際会議に合わせて1年ぶりとなる米中首脳会談を実施することを模索していて、今回の議員団の訪中は、その地ならしとみられます。
中国の習近平国家主席と会談した超党派のアメリカの上院議員団は9日、北京で記者会見しました。
議員団を率いた民主党のシューマー院内総務は、習主席と「様々な問題について率直に議論した」として、中国国内でのアメリカ企業に対する公正な競争条件の確保や、アメリカで社会問題になっている合成麻薬「フェンタニル」の取り締まり強化を求めたことを明らかにしました。
また、中東情勢をめぐり、イスラム組織「ハマス」による攻撃を受けたイスラエルを支援するよう促したうえで、イスラエルと敵対するイランに対して中国が影響力を行使し、地域の緊張を抑えるよう伝えたとしています。
さらにウクライナ情勢では、「ロシアのような無法国家と組むことは中国の大義にそぐわない」として、ロシアと連携することのないようけん制したことも明らかにしました。

 

●熟練工は軍、高学歴事務職は国外へ 「作戦」長期化に悩むロシア企業 10/10
2022年に始まったウクライナへの「特別軍事作戦」の収束が見えない中、労働力の一部は国外に流出し、一部は軍に取られ、死傷者も出ている。これがロシアの企業の現場をいかに揺るがし、労働市場や人口構造にどんな影響を与えるのか、現地で取材した。
チーズ工場の熟練工ほぼ全員が従軍
招集令状は昨秋の朝、そのチーズ工場に突然送られてきた。対象となったのは農場でトラクターの運転や修理を担当する熟練工の9人。「(農場に関係する)熟練工のほぼ全員が従軍させられた。一時期は大変だったが、何とかやりくりしている」
ロシアの首都に隣接するモスクワ州の酪農場を兼ねるこの工場では約500人が働く。経営者のオレグ・シロータさん(35)は、チーズ棚の前で自社に降りかかってきた難事を思い返した。
ロシアがウクライナで続けている「特別軍事作戦」に関連して、国内各地の住民が軍に招集されている。特に兵力不足が顕著になった2022年9月には「部分的動員令」が発動されて、政府発表によれば30万人が入隊させられた。
その際、人員の招集義務を負わされた自治体が地元企業に一定数の従業員を派遣するように要求。軍では機械に強い人材が必要とされており、このチーズ工場の熟練工のような従業員が対象にされることが多かった。
別の製造業のロシア企業もメカニック部門の人材を提供するように強いられた。今、この社の電子版の社内報には、ウクライナの前線に送られた社員たちの最新情報が載せられている。記者(大前)が関係者に一部を見せてもらうと、少しぎこちない様子でヘルメットをかぶった軍服姿の男性たちの姿が映っていた。
このときの社員たちは戦闘員として招集されたわけではなく、最前線には送られなかった。そのため、この時点では「まだ死傷者は出ていない」ということだった。
一方、部分的動員令が発動された当時、この社の一部の事務職員は、熟練工たちとは対照的な動きを見せたという。軍に招集されることを恐れた一部の男性職員は、部分的動員令の発令から数日のうちに、ロシアの近隣諸国を中心とした外国へと出国を急いだ。中には国外で落ち着いた後、電子メールを通じて辞表を提出してきた職員もいた。
ロシアが特別軍事作戦を始めた後、100万人を超すロシア国民が国外に逃れたとの推計もある。特にIT関係などの職に就く人たちは本国を離れても仕事を続けられる利点を生かし、出国の波に乗った。
だが現場で働かざるを得ない熟練工たちに、そんな選択肢はなかった。また多くの熟練工たちが日本の小中高に相当する一貫校を出た後、専門学校を卒業し、職に就いている。同じ企業で働いていても、大卒は安全な国外に出て、「比較的に学歴の低い職員ばかりが前線に送られた」との声は、この製造企業でも聞こえてきた。
●「ロシア利する」と警鐘 イスラエル攻撃、イランを批判 ウクライナ大統領 10/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃について「ロシアは中東で戦争を引き起こすことに関心を持っている」と主張し、ウクライナ侵攻を続けるプーチン政権を利するものだとして警鐘を鳴らした。
動画メッセージで述べた。
ゼレンスキー氏は「新たな苦痛の種が世界の団結を弱め、欧州の自由を破壊することにつながる」と指摘。さらに「ロシアの友好国イランが、イスラエルの攻撃者(ハマス)に公然と協力している」と語った。イランは、ハマスによる攻撃の立案に関与したと伝えられている。ウクライナへの攻撃に使用される自爆ドローンも供給しており、ゼレンスキー政権はイランに不信感を抱いている。 
●ウクライナ軍の補給支える鉄道、ロシアの攻撃ものともせず走り続ける 10/10
軍用車両を積んだウクライナの列車に対するロシア軍の攻撃は、ロシアがウクライナで拡大した1年8カ月近くにおよぶ戦争を子細に観察している人々の間で、警鐘のように響くものだった。
というのも、ウクライナは部隊や装備の輸送を含めて、輸送を国営ウクライナ鉄道に全面的に頼っているからだ。鉄道への依存度はほとんどの国よりもかなり高いだろう。
ロシア軍がウクライナの列車を計画的に攻撃すれば、ウクライナの戦争努力をまひさせることはできるかもしれない。9月30日かそれ以前にウクライナ南部ザポリージャ市近郊で行われたこの攻撃は、ウクライナ軍の兵站を寸断しようとロシア軍が組織的な行動に乗り出したことを示すものだろうか。
そうではない。この攻撃が目を引いているのは、ロシア軍による新たな対鉄道作戦を意味するからではなく、単にロシア側のドローン(無人機)によって上空から鮮明に撮影されていたからにすぎない。
ロシア軍は実のところ、これまでもずっとウクライナの鉄道を攻撃目標にしてきた。2022年2月24日に戦争を拡大した直後の一時期は鉄道を無視していたが、それは単純に鉄道もすぐに押さえられると思い込んでいたからだ。
ロシア軍は爆弾やロケット弾、巡航ミサイル、ドローンといった手段で、ウクライナの数十両の列車や鉄道駅、車両基地、鉄道橋、交換駅などを攻撃してきた。フォーリン・ポリシー誌によると、ウクライナ鉄道の職員22万人のうち、およそ400人がロシアの攻撃で亡くなっている。
だが、ロシア軍はどんなに攻撃してもウクライナの鉄道網全体を破壊することはできない。なぜならウクライナの鉄道網は広大で耐久力があるからだ。鉄道路線の総延長はおよそ2万4000kmに及び、欧州の国では3番目に長い。そこを2000両の機関車が計9万両の客車や貨車を牽引して走り、1500の駅に乗り入れている。
ロシア側はウクライナに多くの攻撃目標があるが、重要な結節点、とりわけ動く結節点を狙うのに苦慮している。今回の攻撃では重量4トンの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が使われたとされ、列車の近くに着弾して機関車と、貨車に積まれていた軍用トラック12台の一部が損傷した可能性があるが、この列車が停車中だった点に留意すべきだ。
重要な鉄道施設は西側製防空システムでカバー済み
ロシア軍がウクライナ鉄道を攻撃目標にするようになったのは2022年春にさかのぼる。ウクライナ軍が首都キーウに迫るロシア軍の機甲部隊を撃退し、2週間でウクライナを「非武装化」するというロシア側の目標を踏みにじってみせた後のことだ。
ロシアと親ロシア派勢力は以後、ウクライナ鉄道を破壊するという決意を再三新たにしている。直近では3月、ザポリージャ州の親ロ派幹部ウラジーミル・ロゴフが「鉄道は(ウクライナの)体制の部隊移動能力にとってきわめて重要だ」とロシア国営メディアに語っている。
しかし、ロシアのスパイ衛星はウクライナ鉄道の何千、何万という数の列車の動きを確実に追跡することはできない。たとえ、ウクライナ軍の兵士らを大量に輸送するために列車が集結している場合であってもだ。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のリポートによれば、ウクライナ鉄道の列車は2022年3月、ロシアの衛星に気づかれずに1日に3〜4個旅団を移動させていた。
仮にロシア側がウクライナの列車を確実に追跡し、優先的に攻撃できたとしても、ウクライナ空軍はすでに最も重要な鉄道結節点を西側製の新たな防空システムで守っている。
さらに言えば、ロシア側の攻撃がたまたま防空を抜けて着弾し、被害を受けたとしても、ウクライナ側は迅速に復旧させるだろう。キーウ電気車両修理工場は、損傷した線路や橋、機関車、車両を修理するため140%の能力で稼働しているとのことだ。工場責任者のオレフ・ホロバシュチェンコは8月に「昨年は過去最多の車両を修理した」とフォーリン・ポリシーに話している。
つまり、ウクライナの列車は非常に困難な攻撃目標なのだ。機関車1両とその貨物がロシア軍の攻撃に遭ったからといって、ウクライナの鉄道網全体がこれまで以上に大きな危険にさらされるようになったわけではない。
●中東での戦争扇動、ロシアを利することに=ウクライナ大統領 10/10
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日夜のビデオ演説で、世界の結束を弱めるため中東で戦争をあおることはロシアの利益になると述べた。
ロシアのプロパガンダ担当者が事態を「ほくそ笑んで」おり、「ロシアの同盟国」イランがイスラエルを攻撃する勢力を公然と支援していると指摘した。
「この全ては現在、世界が認識しているよりもはるかに大きな脅威となっている」とした上で「われわれは、この脅威に対抗する方法を知っている。必要な対策を準備している。最も重要なのは、最大限の世界的団結の必要性を訴えていることだ」と述べた。
ゼレンスキー氏は8日にイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し「イスラエルと連帯している」と伝えた。
一方、ウクライナ国防省の情報総局は、ロシアの対外情報機関が中東紛争を利用して、ウクライナに対して行動を起こそうとしていると表明。ロシア側がウクライナでの戦闘で獲得した武器をパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに渡したとし、後にウクライナが西側の武器をテロリストに流していると非難することを目的としていると指摘した。証拠は示していない。
●ウクライナ戦争の裏で燻る「新たな世界の火薬庫」が、別の戦争の“火種” 10/10
世界の目がウクライナに向いている間隙を突き、アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフを電撃的に奪取したアゼルバイジャン。かような紛争の火種は、他の地域でもくすぶっているようです。元国連紛争調停官の島田さんが、米中ロという大国の影響力低下により「新たな世界の火薬庫」となりうる地域を挙げ、その注視すべき動向を詳細に解説。最悪の場合、世界を巻き込む終わりの見えない戦争に突入する可能性もあるとの見方を示しています。
次なる戦火はどこで上がるのか?各地でくすぶる紛争の火種
【世界の火薬庫】と聞いて、どの国・どの地域を思い浮かべるでしょうか?
私は旧ユーゴスラビアを含むバルカン半島をすぐに思い浮かべます(実際には「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれることが多いですが)。
実際に紛争調停の初めてのケースはコソボでしたし、紛争調停の世界に入るきっかけになったのは、先の旧ユーゴスラビアの崩壊とボスニア・ヘルツェゴビナにおける紛争でした。
また過去には「オーストリア・ハンガリー帝国の皇帝がサラエボで暗殺され(サラエボ事件)、そこから第1次世界大戦が勃発することになった」という“史実”も存在します。
しかし、そのバルカン半島諸国も、火薬庫と揶揄されるほどの不安定な緊張関係は現時点では存在せず、先のユーゴスラビア崩壊の悲劇以降、コソボ紛争を除けば、大きな武力紛争に発展していません。
ただそのコソボでまたセルビアとの武力紛争の可能性が急浮上してきました。アルメニアがナゴルノカラバフ紛争における完全敗北を認めざるを得なかったのとほぼ時を同じくして、9月24日にコソボ北部バニスカにかかる橋をセルビア系の武装勢力が封鎖し、コソボの警官を射殺したことに端を発し、コソボ特殊部隊と武装勢力との間で激しい戦闘が行われました。
セルビア政府は国境線沿いに重火器を装備した部隊を展開したのに対し、NATOはKFOR(コソボ治安維持部隊)を4,500人増派して対応に当たっていますが、コソボでの紛争ぼっ発以来、最大級の軍事的な対峙となっています。
今後、コソボ問題が大きな戦争に再度発展するかどうかは、コソボの後ろ盾である欧米諸国(国家承認してコソボの独立を承認)がセルビアを制裁対象にし、軍事的な行動を慎むように圧力をかけるかどうかにかかっているかもしれません。
元調停担当者として、本件の解決(できれば予防)にすでにお声がかかっておりますが、しっかりと状況を見極めたいと思います。
コソボを除けば比較的安定してきているバルカン半島情勢に代わり、ユーラシアがかなりきな臭くなってきました。
この地域の危うい安定は、すでに1917年のロシア革命によってできたソビエト連邦の成立以降、何度も民族問題・独立問題によって脅かされ、1991年のソビエト連邦崩壊と共和国の独立の連発に繋がり、“帝国”は崩壊しています。
その中には今、ロシアによる侵攻を受けているウクライナ(2022年から)、チェチェン(2000年)、ジョージア(2008年当時はグルジア)などが含まれ、さらにはロシアと微妙な距離感を保つスタン系の国々(カザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンなど)や、ナゴルノカラバフ紛争の主役であるアゼルバイジャンとアルメニアも含まれます。
それらは各国が抱く飽くなき領土とコントロールへの欲望の表れであり、ユーラシア諸国を常に悩ませる民族問題でもあります。
ナゴルノカラバフ紛争やウクライナでの戦争は、地域内のみならず、中東欧諸国の内政問題をクローズアップし、世界を分断する要素になっています。
ロシア革命以前に遡るナゴルノカラバフ紛争の芽
まずナゴルノカラバフ紛争ですが、僅か4,400平方キロメートルほどの地域の領有権を巡って長く争われてきています。
その争いの芽はもうロシア革命以前に遡ることができるようですが、ロシア革命後、ソビエト連邦の中央集権国家システムの“おかげ”で、一応は平静を保っていたように思います。
ただ、この時期にアルメニア系の住民の移住が盛んになり、1988年にゴルバチョフ政権下でのペレストロイカで共和国の自治権を拡大する方針が執られたのを機に、アルメニア住民が数にものを言わせてナゴルノカラバフ共和国(アルツァフ共和国)を設立し、実効支配体制を敷きます。
しかし、ここで問題となるのは、国際法上、ナゴルノカラバフ地域はアゼルバイジャン領とされており、それは今も変わりませんが、ナゴルノカラバフ共和国の一方的な設立と自治権の確立を狙っていたアルメニアが戦闘を開始し、アゼルバイジャンと激しい戦闘を行ったのが、1988年から1994年まで続いた第1次ナゴルノカラバフ紛争です。
そこでは100万人超の難民が発生し、双方合わせて3万人を超す死者がでましたが、その際、一般市民の多くも犠牲になったと言われています。
1994年に実質ソビエト連邦の後継者を自任したロシアが仲介し、ビシュケク議定書という停戦合意が結ばれましたが、戦争はアルメニア側の勝利だったがゆえにナゴルノカラバフ共和国の存在は黙認される代わりに、領有権は変わらずアゼルバイジャンが持つという不可思議な内容となりました。
それゆえでしょうか。アゼルバイジャンとアルメニア間で平和条約は締結できず、次第にアゼルバイジャンとナゴルノカラバフ共和国との接触線(軍事境界線)が武装化され、第2次ナゴルノカラバフ紛争が2020年9月に勃発する頃には、世界でも三本の指に入る武装軍事境界線になっていました。
1994年のビシュケク議定書で屈辱的な扱いを受けたと感じているアゼルバイジャンは、バクーの油田の開発を通じて経済力を一気に高めたのと同時に、民族そして宗教的にも近い隣国トルコの支援を受け、軍事力も大幅にupした結果、第2次ナゴルノカラバフ紛争では圧勝し、面目躍如となったのは皆さんもご記憶に新しいかと思います。
私はこの際の停戦合意の作成に関わりましたが、ここでも残念ながら終戦を意味する平和条約は締結できず、その後も、トルコとロシアの平和維持部隊の駐留を受けても、アゼルバイジャンとアルメニア側(ナゴルノカラバフ共和国)の小競り合いは続いていました。残念ながら、2022年2月24日以降は、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、欧米諸国の関心が失われることにつながり、効果的な抑止力は働かない事態に陥りました。
その結果、ウクライナ戦争に忙殺されているロシアも欧米諸国も手出しできないと判断したのか、アゼルバイジャン側が今年9月19日に一気にナゴルノカラバフ共和国を攻撃し、次の日にはアルメニア側の全面降伏と武装解除を受けて、一応武力衝突は終結し、9月28日には9月1日付でナゴルノカラバフ共和国の大統領になったサンベル・シャラフラマニャン氏が「2024年1月1日をもってすべての行政機関を解散する」と宣言したことで、アゼルバイジャン側の全面勝利に終わりました。
これで【ナゴルノカラバフ紛争はついに終結し、幕を閉じる】という見込みが示されました。
またも「傍観するだけ」のロシアを非難したアルメニア
9月30日までの3日間で全12万人のアルメニア系住民のうち、10万人以上が本国アルメニアに向けてナゴルノカラバフを脱出し、来年の元旦を待つことなく、事態が収束するとの期待が示されたのですが、10月1日にアゼルバイジャン側がハルトゥニャン前大統領を含む300人以上を国際手配し、犯罪者として訴追するという行動に出たことで、再度、アルメニアとの緊張が高まっています。
アルメニアのパシニャン首相は「これはアルメニア系勢力を根絶やしにするためのアゼルバイジャン側の企て、テロである」と非難すると同時に、軍事同盟国であるロシアが“今回も”アルメニアを助けてくれなかったことを非難する声明を出しました。
これは今回の完全敗北を受けて、再度パシニャン首相への非難が国内で高まってきていることに対する対応と割り引くことは可能ですが、9月11日にはすでに小規模ながらアメリカ軍との軍事演習を敢行し、加えて隣国イランに接近して、アゼルバイジャン側に圧力をかける動きに出ています。
ちなみにイランは、皆さんもご存じの通り、アゼルバイジャンとは非常に近く、イランのシーア派の起こりはアゼルバイジャンであることが分かっており、今でもイラン国民の25%ほどがアゼルバイジャン系であることから、アルメニアがイランと接近することは、アゼルバイジャンに対して大きな疑念と心理的プレッシャーをかけることに繋がります。
でもどうしてイランはアルメニアに接近したのでしょうか?それはアゼルバイジャン政府が、イランにとっては宿敵のイスラエルからの軍事支援を(トルコの仲介で)受けることになり、それがイラン政府に「イスラエルは隣国アゼルバイジャンを通じてイランを攻撃する気ではないか」とイランを激怒させたからであると分析できます。
ナゴルノカラバフ紛争はアゼルバイジャン側の勝利に終わりそうですが、今後、アゼルバイジャンを核にトルコ、イランなどの地域大国を巻き込んだ情勢の不安定化につながることが懸念されます。
ちなみにナゴルノカラバフは、先述の通り、4,400平方キロメートルと決して広くはないのですが、石油と天然ガスパイプラインの回廊に近く、またロシア・トルコ・イランという強国の間に位置するため、コーカサス・中央アジア・欧州にまたがる地政学リスク・利害関係は自ずと大きくなることがお分かりになるかと思います。
少しこじつけと言えるかもしれませんが、今後、バルカン半島に並ぶ世界・地域の火薬庫になりそうです。
緊張に油を注ぐような真似に出たカザフスタン
コーカサスを世界の火薬庫にかえてしまう一端を担いそうなのが、スタン系の雄であるカザフスタンです。
トカエフ大統領が国内でデモに攻撃された際、プーチン大統領はロシア軍を派遣してトカエフ大統領の窮地を救ったため、トカエフ大統領はプーチン大統領に借りがあるため、無条件でプーチン大統領支持かと思いきや、ウクライナ侵攻を巡っては決してそうとは言えず、欧米諸国とその仲間たちによる対ロ制裁には加わらないものの、ロシアによるウクライナ東南部4州の併合は承認せず、これまでにもプーチン大統領が招集する会議でもあからさまに拒絶するそぶりを見せて、ロシアとの緊張を高めているように見えます。
その緊張に油に火を注ぐような真似に出たのが、先週9月28日にベルリンを訪問した際、ショルツ独首相に対して「カザフスタンはロシアの制裁回避・迂回を支持しない。そしてカザフスタンは対ロ制裁の方針に沿った行動を取る」と述べ、「カザフスタンは制裁を遵守するために関係機関と連絡を取っていて、制裁回避を目的とした行動が起きる可能性について、ドイツが心配する必要はない」と言ってのけ、ロシア、そしてプーチン大統領への決別を演出してみました。
トカエフに対するプーチンの不思議な対応
しかし、トカエフ大統領、そしてカザフスタンの本心はどこにあるのでしょうか?
表面的には【経済発展と海外投資の獲得を目指した改革路線のアピール】ではないかと考えます。
ロシアとの近すぎるイメージを払しょくするともに、“ロシアはもう単独では、カザフスタンを含む中央アジア・コーカサスという旧ソ連圏の面倒を見ることが出来ない”という現実を受けてのカザフスタン生存のための策と考えます。
ちなみにコーカサスの地図を今一度見ていただければと思いますが、カザフスタンはヨーロッパとアジアの交差点に位置し、輸送と貿易の要衝地であり、中国と中央アジア諸国と欧州各国を結ぶ貨物の80%以上がカザフスタンを経由するという戦略的な位置づけにあります。それは例えるならば、ボスポラス海峡を擁するトルコに似た位置づけでしょうか。
そして今、計画中のインドから欧州への輸送ルート(南北アジア回廊)と、カスピ海を基点としたトルコ・ジョージア・アゼルバイジャンを経由する中国と欧州とを結びつけるカスピ海横断ルートの中心に位置するという【アジア・コーカサス・欧州の要衝】になり、地域におけるパワーハウスになろうという意図があります。
ロシアとは7,500キロメートルの国境線で接しており、軍事・経済両面で非常に密接なつながりを持つ“同盟国”であるため、このような態度はプーチン大統領を刺激し、「ウクライナの後はカザフスタンではないか」と予想する勢力もありますが、不思議とプーチン大統領はトカエフ大統領を虐めておらず、どちらかというとスタン系の国々を纏める立場を推奨しているようです。
スタン系の国々からすると、カザフスタンの経済的な興隆は自国への経済的な利益のspill over(おこぼれ)を期待できますし、ロシアにとってはスタン系の国々をまとめてくれることで、中央アジアの安定を今は保つことが出来るという利益を感じているようです。
中央アジアに進出してきていた中国が現在、経済的なスランプで停滞しており、アメリカもつながりは持つものの、ウクライナ問題と中国への対応、そして国内の政治情勢に忙殺されているため、中央アジアとコーカサスへの介入が低下していることを受け、今はカザフスタンに中央アジア・コーカサスの守りの固めを依頼しているようです。
とはいえ、プーチン大統領のことですから、裏切られたと感じ始めたら、トカエフ大統領の命運も分かりませんが。
対ロ包囲網とウクライナ支援から離脱するNATO加盟国
そしてその混乱は中東欧にも及んできているようです。
その典型例が9月30日に実施されたスロバキアの議会選挙において、対ウクライナ支援の停止とロシアとの関係の回復を旗印にするスメルが第一党となり、親EUでウクライナ支援を進めてきたプログレッシブ・スロバキア(PS)が第二党となったことで、NATO加盟国でありEUのメンバーでもあるスロバキアが、対ロ包囲網とウクライナ支援から離脱するのではないかとの懸念が広がっています。
このまま行けば、第1党となったスメルの党首で元首相のフィツォ氏に対し、大統領が組閣指令を与えることとなりますが、スメルも、第2党のPSもこの度の総選挙で過半数を取っていないため、必然的に今後、連立協議が行われることになります。
対ウクライナ支援疲れとロシア制裁による経済的なスランプと国民生活の困窮、そして資源国であるロシアとの関係修復という国民生活に密着した主張に、インフラによる生活苦に不満を持つ有権者の支持が集まったことになりますが、今後、成立する連立政権の性格によっては、EUとNATOにとって、対ロ政策とウクライナ支援の結束を一気に崩し乱す要素になるかもしれません。
連立協議は、フィツォ氏の主張と過去の犯罪歴の存在から混迷すると言われていますが、ウクライナの隣国の一つで内政上の混乱と反転が起き、ロシア・ウクライナ戦争の趨勢を決めかねない事態が起きていることは、まさにコーカサスから中央アジア、そして中東欧が新たな世界の火薬庫になりかねない危険を提示していることにつながるのではないかと思われます。
新旧の大国が国際情勢の緊迫化に対応できぬ危機的状況
欧米諸国は実質的にナゴルノカラバフで起きたことに関与せず、結果を黙認する態度に出たことで、アゼルバイジャンが一気にアルメニア人系勢力の追い出しに出ました。
もしコソボで高まる非常に危険な緊張と戦いに対して、欧州各国が無関心を貫くようなことがあれば、もしかしたらセルビアによるコソボへの攻撃を誘発し、再度、バルカン半島を欧州のみならず、世界の火薬庫に変える可能性が高まります。
その場合、中央アジア・コーカサスで高まる紛争に向けた緊張感と共鳴して、コーカサスとバルカン半島が火薬庫となり、再度、世界を巻き込む終わりの見えない紛争に突入することになるかもしれません。
期せずしてナゴルノカラバフとコソボ、そしてロシア・ウクライナの問題に関与することになっていますが、とても大変な状況になってきていることを実感しています。
アメリカの影響力が下がり、欧州は根本的に停滞に陥っていて他地域に構っていられない中、その好敵手となるはずの中国も国内経済のスランプゆえに積極的に他国の面倒を見ることが出来ず、ロシアはウクライナとの戦争に掛かり切りという状況下で、新旧の大国たちが国際情勢の緊迫化に有効に対応できない危機的な状況になっているように感じます。
今後、世界はどうなるのか?対応を見誤らないようにしないといけないと感じています。
●イスラエル「宣戦布告」で米国は難しい立場に、ウクライナとの同時支援 10/10
イスラム組織ハマスによる前例のない奇襲攻撃を受け、中東における米国の同盟国であるイスラエルは戦争状態を宣言した。米国はイスラエルとウクライナ両国を同時に支援するという難しい立場に立たされた。
「米国は今、非常に困難な状況にある非常に厳しい立場にいることは明らかだ」――そう語るのは米ニューヨーク大学グローバル・アフェアーズ・センターのキャロライン・キセイン副学部長だ。
米ニューヨーク大学 キセイン教授「バイデン政権は明確にイスラエル支持を表明している。バイデン氏はまた、軍事支援を行うとも言っている。その軍事支援がどのようなものかは、まだ決まっていない。米地上軍の派遣はないと想定するが、装備品に関しては、おそらく米国がイスラエルに提供している年間30億ドル(約4450億円)の支援を超える援助が行われるだろう」
米陸軍は9日、イスラエルとウクライナへの支援を同時に行うためには、米国防総省の軍需品の生産・調達計画への追加資金について、議会の承認が必要だと説明した。
キセイン教授「米国は選挙の年を迎える中、中東やウクライナの戦線を支援する必要に加えて、イランやロシアにも目を光らせなければならない。外交政策の専門家たちは非常に忙しくなるだろう」
米国の対イスラエル支援物資の第1弾は、数日中に到着する見通しだ。
●原油価格4%台の急騰…「中東戦争拡大すれば第3のインフレの波」 10/10
パレスチナ武装勢力ハマスによるイスラエル攻撃の余波で国際原油価格が4%ほど急騰した。戦争が長引いたり戦争が拡大する最悪のシナリオが原油価格急騰と株式市場の不安につながりかねないためだ。
ブルームバーグが9日に伝えたところによると、この日午前にニューヨーク商品取引所(NYMEX)で11月引き渡し分のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は前営業日より4%ほど上昇した1バレル=86ドルで取引された。北海産ブレント原油の場合、一時前営業日より5%以上値を上げた89ドルを記録したりもした。
専門家は戦争による原油価格上昇は一時的とみている。イスラエルとパレスチナとも原油生産地ではないため原油市場に直接的な影響を及ぼしはしないからだ。石油・ガス市場専門家のバンダナ・ハリ氏は「原油価格が条件反射的に上がることはあるが、事態がさらに拡大せず中東地域の石油・ガス供給に影響がない点が認識されれば価格は落ちつくだろう」と予想した。
問題は戦争が長期化したり他の中東地域へ戦争が拡大する時だ。イランがハマスの攻撃を支援したという報道が出てきてから衝突が拡大する可能性への懸念が大きくなった。サウジアラビアの減産の余波などで上昇したWTIとブレント原油価格は高金利の長期化で世界経済が鈍化しているという懸念から今月に入り10ドル以上下がった。米国との関係で雪解けに入ったイランが原油輸出を増やしたのも原油価格下落に一役買った。ところが米国がイランの原油輸出制裁を再び強化すれば国際原油価格は1バレル=100ドル以上に高騰する可能性があるとの見通しが出ている。
韓国の専門家が挙げる最悪のシナリオも中東諸国が戦争に巻き込まれ世界の石油供給に大きな支障が生じる状況だ。これはドル高・高金利状況に置かれた韓国経済には踏んだり蹴ったりの状況になりかねない。
原油を輸入して使わなければならない韓国の立場では原油輸入価格が上がり貿易赤字が悪化するほかない。貿易赤字により韓国からドルが抜け出る場合、ウォン安圧力がかかり韓国の物価がともに上がる悪循環が続く恐れがある。漢陽(ハニャン)大学経済学科のハ・ジュンギョン教授は「ここに高金利基調が長期化すれば昨年のロシアとウクライナの戦争の余波で経験したように原油高・ドル高・高金利の衝撃が再び発生する可能性がある」と予想した。
各国中央銀行は国際原油価格が急騰し新たなインフレ圧力として作用する可能性を注視している。世界的会計コンサルティング企業マザーズのチーフエコノミスト、ジョージ・ラガリアス氏は「世界経済の最も大きなリスクは『第3のインフレの波』が起きる可能性。中東情勢に緊張が高まればエネルギー価格が上昇し、インフレを統制しようとする中央銀行の努力を弱めることになる」と話した。特に物価上昇抑制とソフトランディングを同時に達成しようとする米連邦準備制度理事会(FRB)の計算が複雑になった。原油価格上昇により物価が上がれば基準金利を「さらに高く、さらに長く」維持する必要性が大きくなるが、同時に高金利で景気ハードランディングの懸念もともに大きくなった状況だからだ。
不安な中東情勢がすぐにアジアの証券市場に及ぼす影響は大きくなかった。「ハングルの日」の休日で韓国証券市場が休場したこの日、中国上海総合指数は前営業日比0.44%下落した3096.92で取引を終えた。これに対し香港ハンセン指数は0.18%上がった1万7517.4を記録した。台湾加権指数も0.41%と小幅に上昇した。日本の証券市場は「スポーツの日」で休場した。
●ウクライナ軍 南部の要衝奪還目指す ロシア軍 地雷敷設強化か 10/10
ウクライナ軍は南部ザポリージャ州でロシア軍が占拠する要衝の奪還を目指しています。これを防ごうとロシア軍は地雷の敷設作業を強化しているとの分析も出ていて、双方の攻防がさらに激しくなるとみられます。
ウクライナ国防省は8日、ウメロフ国防相が激戦となっている東部ドネツク州バフムト方面で軍の指揮所を訪問し、現地の指揮官から戦況の報告を受けるとともに兵士を激励したと発表しました。
また、ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で反転攻勢を続けていて、国防省はロシア軍の拠点ベルボベの西側で部分的な成功を収めたとしています。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日、ウクライナ軍がすでに奪還したと発表したザポリージャ州ロボティネから、ベルボベにわたる前線で、ロシア軍が再び地雷の敷設作業を強化しているとする分析を発表しました。
新たな地雷の設置によってウクライナ軍の突破を阻止するねらいだと指摘していて、ウクライナ軍がさらに南方にある交通の要衝トクマクの奪還を目指す中、攻防がさらに激しくなるとみられます。
またウクライナ軍の参謀本部はロシア軍が8日、東部や南部など各地を砲撃したと発表し南部ヘルソン州の知事は9日、この砲撃で1人が死亡し、子ども2人を含む18人がけがをしたとSNSで発表するなど被害が相次いでいます。
●"ウクライナ疲れ?"懸念される支援の綻び 10/10
ロシアがウクライナに侵攻してから1年7か月あまり。ウクライナと隣国ポーランドが農産物の輸出入をめぐって対立するなど長期化に伴い支援疲れともいえる動きが各国で見られ始め、ウクライナ情勢への影響が懸念されます。
Q.ゼレンスキー大統領の行く手を阻んでいるのは投票箱のようですが?
はい。ポーランドは次の日曜日、15日に総選挙を控えていまして、これが政府の姿勢を強硬にさせています。これまでポーランドはウクライナを積極的に支援してきましたが、ロシアの侵攻でウクライナ産の穀物が黒海に代わり陸路東ヨーロッパ経由で輸出され、国内に安い穀物が流入したため与党の支持基盤である農家を守るためEUが輸入制限の期限とした先月半ば以降も独自に禁止措置を続けてきました。これをウクライナのゼレンスキー大統領が国連総会で批判したことにモラウィエツキ首相は激怒し、ウクライナへの新たな武器の供与を止めると表明、さらに大統領に対して「二度とポーランドを侮辱するな」と怒りをあらわにしました。
Q.選挙後は緊張が緩和されるのでしょうか?
選挙戦では与党の右派政党「法と正義」が、EUの大統領もつとめたトゥスク元首相率いる野党を一歩リードしていますが、その差はわずかです。単独での過半数は難しく反移民を掲げウクライナ支援にも批判的な右派政党との連立政権ができれば、ウクライナやEUとの溝が深まりかねません。さらにウクライナに厳しい姿勢を見せているのはポーランドだけではないのです。
Q.他にもあるのですか?
ハンガリーとスロバキアもウクライナ産穀物の輸入禁止措置を続け、ハンガリーのオルバン首相は先月、ウクライナ国内のハンガリー系住民の権利が守られていないとして権利が回復されるまで国際的な問題ではウクライナを支持しないと表明。スロバキアでは総選挙でウクライナへの軍事支援に反対する左派政党が第1党になりました。ヨーロッパ各国で支援疲れともいえる状況が見られ始め、アメリカではウクライナ支援の予算のめどが立たないなど、このままではプーチン大統領の思うツボです。各国の足並みが乱れれば今後のウクライナ情勢をも左右しかねません。 
●イスラエルとハマスの衝突の陰にプーチン大統領? 「世界中で戦争を煽る」 10/10
イスラム組織「ハマス」とイスラエルの大規模衝突によって、利益を得ていると指摘される国がある。ロシアだ。ウクライナメディアは、「世界が一時的にでもウクライナから目を背けることで、ロシアはイスラエルでの紛争激化から利益を得ている」と報道している。ロシアが中東の大規模衝突にどのようにかかわっているというのだろうか?
「ハマスの弾薬はウクライナから」? 偽情報も乱れ飛ぶ
10月7日、ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃が開始されてからおよそ3時間後、ロシアのメドベージェフ元大統領は、さっそくSNSに次のように投稿した。
「ヨム・キプール戦争(=第四次中東戦争)開戦50周年の節目にハマスとイスラエルの間で戦闘が勃発することは、予想できたことだ。
イスラエルとパレスチナの間の紛争は何十年も続いていて、アメリカはそこで重要な役割を果たしている。
しかしこの愚か者たちは、パレスチナとイスラエルの和解に積極的に取り組む代わりに、私たちに介入し、ネオナチを全力で助け、隣国を紛争に追い込んでいる」
今回の大規模衝突は、西側諸国がウクライナ情勢に加担しすぎ、中東をなおざりにしていたために引き起こされたというのが、プーチン政権が発信する筋書きのようだ。
またラブロフ外相は9日、ハマスが使用している兵器を念頭に「西側がウクライナに供給している武器が世界中に拡散している」と主張。プーチン政権が、今回の中東での危機を利用してあらゆる方面から西側によるウクライナへの支援を断ち切ろうとしているのがわかる。
一方で、ウクライナの国防省は「ロシアが戦闘中にウクライナから奪った西側の兵器をハマスに渡している」とロシアがウクライナの信用失墜を狙ったものだとして、激しい情報戦が繰り広げられている。
だが、ウクライナ侵攻でも弾薬不足が指摘されるロシアが、ハマスに武器を渡すなどということがあり得るのだろうか。
ハマスと協議を続けてきたロシア
ロシアは公式的な立場として、アメリカなどとは異なり、イスラエルに対してパレスチナに領土の一部を与えるよう要求していて、アラブ側の主張を支持している。実はハマスとのつながりも深い。
ロシアメディアによると、ハマスの指導者は2022年5月と9月にモスクワを訪れ、9月にはラブロフ外相と会談している。この日、ラブロフ外相とのほか、ハマス指導者は、中東担当のボグダノフ外務次官らとも広範囲な協議を行ったという。
「ロシアの関与」を断言する専門家も…
ただ、ハマスによる今回の攻撃をロシアが支援したという決定的な確証はない。
それでもドイツの東欧の専門家セルゲイ・スムレニー氏は、イスラエルの戦車を破壊するハマスの映像とともに「ロシアが関与しているのは明らかだ」とSNSに投稿している。
「ハマスの同盟国はロシアを除いて、現代の戦車に対して爆弾投下ドローンを使用した経験を持っていない。ハマスを訓練できるのはロシアだけだ」という。
また、イギリス軍のリチャード・ケンプ元指揮官もハマスの攻撃について次のような論考を発表し、背後にロシアがいる可能性について警告している。
「これをガザからのテロリスト集団による、単なるいわれのない残忍な攻撃であるとみなすべきではない。それ以上のものであり、これらの殺人者を前進させたのはモスクワの手によるものだ」
証拠が示されていないため、英独という西側からも情報戦が仕掛けられている点は考慮する必要があるが、近年ロシアは中東情勢に積極的に関与してきたこともあり、ロシアの独立系メディアでも、直接的・間接的なものをふくめて「ロシアの関与があるのか?」という観点の記事も少なくない。
また、表向きには否定されているが、今回のハマスの攻撃をイランが支援しているとされる。
ウォールストリートジャーナルは、今回の攻撃は、イラン諜報機関の支援を受けて数週間前に計画されていたと伝える。
イランの「イスラム革命防衛隊」の将校らは8月から、地上、空、海からの侵攻の選択肢を探してハマスと協力し、作戦の詳細はベイルートで複数回行われた会合で最終決定されたという。
イランはロシアへのドローンの提供など、プーチン政権と深いつながりがあることが知られている。
「ロシアは各地で戦争を煽っている」
先に引用したイギリス軍のケンプ指揮官は、プーチン大統領が、中東に留まらず世界中で不安定な状況を生み出しているとして、次のように指摘する。
「プーチン大統領はNATO(=北大西洋条約機構)に直接戦いを挑まず、代わりにアゼルバイジャンとアルメニア、セルビアとコソボ、西アフリカ、そして今はイスラエルで戦争をあおっている」
北朝鮮でも…プーチン氏の狙いはウクライナから注目をそらすこと
ユーラシア大陸の反対側、朝鮮半島でも重大な動きがあった。
欧米メディアなどによると、10月5日の衛星画像で、ロシア連邦との国境に位置する北朝鮮の豆満(トゥマン)江で、「前例のない数」である73両の貨物列車が確認されたという。
衛星画像から貨物の中身を割り出すことは難しいものの、ロシアへの武器弾薬の供給開始に関連しているとみられている。
あるクレムリンに近い関係者は、プーチン氏が金正恩総書記と会談した狙いをこう明かす。
「プーチン氏の狙いは、極東に“優秀なトラブルメーカー”を作り上げることだ。先月のロ朝首脳会談の目的は軍事だけではなかった。ロシアは、産業なども含めて北朝鮮を近代化させようとしている」
プーチン大統領は、来年3月の大統領選挙に向けて、どうにかしてウクライナでの戦況を少しでも好転させたいと考えている。
「優秀なトラブルメーカー」はもちろん、西側諸国に東アジア情勢に目を向けさせるためのものだ。
国際社会がウクライナに注力しないように仕向けること。
これが今のプーチン政権の外交方針の中心的な課題となっていることは間違いない。
プーチン大統領があらゆる力を駆使して、世界各地で紛争を煽っている可能性も排除せず、情勢を注視する必要がある。
●ゼレンスキー氏、ハマスとロシアは「同じ悪」…武器供給支援するイランも非難 10/10
ウクライナ国営通信などによると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、北大西洋条約機構(NATO)の関連会合にオンラインで参加し、イスラム主義組織ハマスのイスラエルへの攻撃を、ロシアのウクライナ侵略に重ねて非難した。武器供給などでハマスとロシアを支援するイランも非難した。
ゼレンスキー氏はハマスとロシアが「同じ悪」だと指摘し、ハマスの行為をキーウ近郊のブチャで起きた民間人殺害と重ねて批判した。イラン製無人機がロシアによるウクライナへの攻撃に使われている点も指摘した。
ゼレンスキー氏は会合でNATO加盟国の議員らに、支援継続を訴えた。一部加盟国からは、ウクライナへの支援継続に疑問の声も出ており、米欧の軍事支援の停滞が反転攻勢の遅れを招きかねないとの危機感があるとみられる。
ロシアは冬に向け、ウクライナのエネルギー施設への攻撃も強めている。プーチン露大統領は5日、露南部ソチで開かれた「バルダイ会議」で、「米欧の支援が止まれば、ウクライナは1週間しか持たない」との表現で、米欧の対応しだいで戦況がロシア有利に傾くとの見方を示していた。
●プーチン氏「米国が完全に失敗」 ガザ戦闘に初言及 10/10
ロシアのプーチン大統領は10日、モスクワでイラクのスダニ首相と会談し、イスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの大規模戦闘が起きた中東情勢などを協議した。プーチン氏は今回の事態について「米国の中東政策の明白な失敗だ」と指摘。米国がイスラエル側に立ち、パレスチナ側の利益を考慮してこなかったことが問題の根本にあるとする認識を示した。
プーチン氏がハマスとイスラエルの戦闘に公の場で言及するのは初。プーチン氏は「米国は情勢の正常化を独占しようと試みたが、双方に受け入れ可能な妥協案に関心を持たなかった」と主張した。また、「民間人の被害を最小限、あるいはゼロに抑えるべきだということを紛争当事者双方に求める」とも述べた。
ハマスとイスラエルの戦闘でロシアは即時停戦を要求。ロシアはハマスを支持するイランと友好関係にあるが、イスラエルにも影響力を保持し、イスラエルが欧米側の対露制裁やウクライナ軍事支援から距離を置く要因となっている。
ロシアは米国と欧州連合(EU)、国連とともに、イスラエルとパレスチナの仲介を目指す枠組み「中東カルテット」の一角。ロシアは「2国家共存」の実現による問題解決が必要だとする立場を示してきた。
プーチン氏とスダニ氏は11日、エネルギーをテーマとした露主催の国際会議の全体会合に出席。プーチン氏は全体会合で予定される演説でも中東情勢に言及するとみられる。
●露、人権理復帰へ立候補 国連、10日投票 10/10
国連総会(加盟193カ国)は10日、スイス・ジュネーブの人権理事会で来年1月から3年間の任期を務める新理事国の選挙を行う。ウクライナでの民間人虐殺などを理由に昨年、人権理を追放されたロシアが立候補。米欧が強く反対する一方、南半球を中心とした新興・途上国グローバルサウス(GS)の一部が賛成に回る可能性があるとして、人権団体などがロシアの復帰を懸念している。
ロシアが当選を目指すのは年末に任期が切れるウクライナとチェコの枠。ほかにアルバニアとブルガリアが立候補している。投票は各国に対して行われ、当選には全加盟国の過半数97票を獲得したうえで、上位2カ国に入る必要がある。
国連外交筋によると、ロシアは「人権理が特定の国々の政治的な道具になるのを防ぐ」と記した書簡を送り、米欧から人権問題を批判される一部のGS諸国の支持獲得を目指す。GS諸国は全加盟国の約7割を占める。米国などがロシアを支持しないよう働きかけているという。
ロシアは2021年から理事国を務めていたが、昨年2月に全面侵攻したウクライナでの人権侵害が問題となり、国連総会は昨年4月の緊急特別会合で理事国資格の停止を決議し、任期途中での追放が決まった。
ロシアは追放後もウクライナの民間人や住居、ダムなどを攻撃。子供の連れ去りなどの重大な人権侵害が指摘されてきた。人権理の役割は、人権問題に関する国際世論の喚起や人権状況の改善など。米ジェイコブ・ブラウスタイン人権向上研究所は「ロシアが人権理にふさわしくないのは明白」として、各国に当選阻止を呼びかけている。
●プーチン氏死ぬまで大統領≠フ野望、71歳の誕生日 10/10
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は7日、71歳の誕生日を迎えた。ウクライナ侵略が長期化し、国力を大きく消耗させているプーチン氏だが、強気の発言を繰り返し、2024年3月の大統領選にも意欲満々とされる。11月にも出馬を示唆するとの見方もあり、当選すれば83歳となる36年まで続投可能だ。
プーチン氏はロシア南部ソチで開かれた国際会議で、ウクライナは6月の反攻開始以来、「9万人以上の兵力と557台の戦車、約1900台の軍用車両を失った」と述べ、自軍の優位を強調した。ウクライナとの戦争は「新しい世界秩序を確立する原理の問題だ」とし、欧米主導の世界秩序を終わらせるための戦いだと正当化している。
開発中の「ブレベスニク」射程は事実上、無制限
また、開発中の原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」について「最終的な試験に成功した。量産と実戦配備に移行する必要がある」と述べた。米ミサイル防衛(MD)網を突破できる新兵器の一つとして開発しているもので、原子力推進で射程は事実上、無制限だとしている。
ロシア紙コメルサントは、プーチン氏が11月にも出馬を示唆する可能性があると報じた。プーチン氏は2000年に大統領の座に就き、憲法改正で任期を延ばすなどして政権に君臨してきた。24年の大統領選で勝てばさらに2期12年務めることができる。
多くの外交官や情報機関関係者らは、プーチン氏が生涯権力を維持すると予想している。大統領経験者は生涯に刑事・行政上の責任を問われない免責特権を与える法律も作っており、制度上の備えも盤石だ。
ただ、プーチン氏をめぐっては、健康不安説が消えていない。また、ウクライナでの戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ており、外遊もままならない。経済力も低下し、中国頼みというのが現状だ。「死ぬまで大統領」の野望が実現するかどうかは不透明だ。
●不毛な議論で「犠牲」となったウクライナ支援 ほくそ笑む中露 10/10
出張のため米国を訪れている。米政府や議会の関係者らと意見交換するためだ。最初の訪問地のニューヨークでは記録的な大雨に見舞われ、地下鉄や道路は冠水し、ぎりぎりで首都ワシントンに移動できた。改めて米国のインフラの老朽化を肌で感じた。
ワシントンでの話題は、米政府機関の閉鎖問題で持ち切りだった。昨年11月に訪れたときには、ロシアによるウクライナ侵攻や対中政策についての議論があったが、明らかに内向きに変わっていた。
確かに、政府閉鎖になると、多くの政府サービスがストップし、数百万人の連邦職員が一時休暇や無給での勤務を強いられる恐れがある。そして何よりも、米国の国内総生産(GDP)の約4分の1を占める政府支出が止まると経済を直撃しかねない。
米議会予算局によると、2019年に1カ月余り続いた政府閉鎖では、約110億ドル(約1兆6000億円)の経済損失が生じたという。
筆者がワシントンで勤務していたときにも、政府閉鎖はあった。当時は、オバマ政権が導入を進めた医療保険改革法(オバマケア)や、トランプ政権が移民対策としてメキシコとの境界に建設した「国境の壁」など、議会を二分するような政策が争点だった。
ところが、今回は争点が明確ではない。民主、共和両党の議員の主張を見ても、閉鎖が「政争の具」になっているようにしかみえなかった。
結局、期限ギリギリの9月30日午後(日本時間10月1日午前)、上下両院は、2024会計年度が始まる10月1日から11月17日までの政府資金を確保する暫定予算(つなぎ予算)案を可決した。土壇場で閉鎖は回避された。
だが、この予算からウクライナへの追加支援を除外したのだ。野党・共和党の強硬派らが強く反対したためだ。国防総省が議会側に送った対ウクライナの追加予算を促す書簡によると、米軍の武器の在庫の中でウクライナ側に供与できる259億ドル(約3兆9000億円)の予算枠が、16億ドル(約2400億円)しか残っていないという。
追加資金がなければ補給が遅れるのは必至だ。にもかかわらず、「ウクライナに資金を回すぐらいなら国内の経済対策に使うべきだ」と主張する強硬派の声に押された。
ところが、これだけでは収まらなかった。このディールをまとめた共和党のケビン・マッカーシー下院議長は3日、共和党保守強硬派議員が下院に提出した解任動議が賛成多数で可決され、解任に追い込まれたのだ。下院議長の解任は史上初で、極めて異例の事態となっている。
今回のゴタゴタ劇にほくそ笑んでいるのはロシアのウラジーミル・プーチン大統領だろう。このまま戦争が長引けば、米国の「支援疲れ」に追い込むことができ、戦いを有利に進めることができる。
そして、中国の習近平国家主席も同じ思いで見ているだろう。台湾で「有事の際に米国を信用できない」という世論が拡大すれば、最重要目標に掲げる「祖国統一」に有利に働くからだ。
米国内の「コップの中の嵐」は、さざ波となって広がり、そして津波になって欧州や東アジアを襲うのではないか。そんな杞憂(きゆう)が現実のものになりつつあることを感じている。
●イスラエル“南部制圧” 双方の死者1600人以上に 10/10
イスラム組織ハマスへの報復作戦を進めるイスラエル軍は10日、ハマスが実効支配するガザ地区への空爆を続けるとともに、ハマスの戦闘員などが侵入した南部の地域を制圧したと発表しました。双方の死者はあわせて1600人以上にのぼっていて、ガザ地区では空爆によって避難を強いられる人が急増しています。
外務省 イスラエルの危険情報のレベル引き上げ
今回の事態を受けて、日本の外務省は10日、イスラエルの危険情報のレベルを引き上げました。ガザ地区とその境界周辺には、これまで4段階の上から2番目にあたるレベル3の「渡航中止勧告」が出されていましたが、最も高いレベル4の「退避勧告」に引き上げました。また、レバノンとの国境地帯はレベル3の「渡航中止勧告」、ヨルダン川西岸地区は不要不急の渡航中止を求めるレベル2を継続しています。一方、テルアビブやエルサレムなどこのほかの地域については、これまでレベル1でしたが、航空便の運航を含め、事態が流動的だとして、不要不急の渡航中止を求めるレベル2に引き上げました。
プーチン大統領「中東でのアメリカ政策の失敗例」
ロシアのプーチン大統領は10日、首都モスクワを訪問したイラクのスダニ首相との会談の冒頭、イスラエルとパレスチナ暫定自治区のガザ地区の情勢について言及し、「ウクライナ危機が続き、そして残念ながら中東情勢が急激に悪化している。中東におけるアメリカの政策の明らかな失敗例だ」と述べアメリカを批判しました。そのうえで「われわれの立場は、民間人への被害は最小限に抑えるべきというものだ」と述べ、双方に自制を促しました。
ハマス最高幹部”攻撃が続く限り、人質解放の交渉受け入れず”
ハマスがガザ地区に連れ去った100人を超える人質について、ハマスの最高幹部ハニーヤ氏は10日、声明を発表し「敵の捕虜について、接触をしてきたすべての当事者に対して、戦闘が終わるまでこの件について取り合わないと伝えた」として、イスラエル軍の攻撃が続いている限り、人質の解放をめぐる交渉は受け入れないと主張しました。イスラエルのネタニヤフ首相は9日、「市民の解放のためにあらゆる手段を講じる」と述べ、ガザ地区へのさらなる攻撃が懸念される一方で、トルコのエルドアン大統領は「捕虜交換をはじめとしたあらゆる仲介の準備がある」と述べて、仲介に意欲を示しています。
UNRWA “空爆で18の国連施設が被害”
パレスチナ難民を支援するUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は10日、声明を発表し、イスラム組織ハマスによる奇襲攻撃が始まった10月7日以降、学校など少なくとも18の国連の施設でイスラエル軍による空爆の被害を受けたほか、2人の職員とUNRWAの学校に通う生徒5人が死亡したということです。また、ガザ地区にあるUNRWAの本部が入るビルも、近くで起きた空爆で大きな被害を受けたと明らかにしました。これによる死者やけが人はいないということです。国連の推計では、10日現在でガザ地区にある80以上のUNRWAの学校に13万7000人あまりが避難しているということで、さらなる被害が懸念されます。
イスラエル軍“南部の地域を制圧”と発表
イスラエル軍などによりますと、これまでにイスラエル側では少なくとも900人が死亡し、およそ2700人以上がけがをしたほか、100人以上がハマスの人質になっているということです。一方、パレスチナの保健当局によりますとガザ地区でこれまでに770人が死亡し、およそ4000人がけがをしたとしていて、双方の死者はあわせて1600人以上にのぼっています。イスラエル軍の報道官は10日、ガザ地区に空爆を続けているとしたうえでハマスの戦闘員などが侵入した南部の地域を制圧したと発表しました。そして「テロリストのインフラを完全に破壊した。何千もの標的を攻撃し、何百トンもの爆弾を投下してきた。最大限の被害を与え続けている」と述べ、空爆とともに海上からもガザを包囲し、報復作戦を続ける方針を示しました。また、イスラエルのカッツエネルギー相は10日、SNSに「ガザ地区への電力供給は終わる。燃料の備蓄がなければ数日以内に地区の電力はなくなり、井戸水も1週間以内にくみ上げられなくなるだろう」と投稿し、圧力を強めています。ガザ地区の状況についてOCHA=国連人道問題調整事務所は9日、家を破壊されたり、被害を受けたりして学校や親戚の家などに避難している人が18万7000人以上に上り、さらに増え続けるとみられ、食料などの支援が急務だと指摘しています。
ハマス報道官 ”さらなるサプライズ起こす”
イスラエルの隣国レバノンの首都ベイルートにあるイスラム組織ハマス事務所のアフマド・アブドルハディ報道官は9日、NHKの取材に応じました。この中で「イスラエルでパレスチナに敵対的な政権が誕生し、占領地でのユダヤ人入植地の数が増え続けているにもかかわらず、多くのアラブ諸国がイスラエルとの国交正常化を進め、パレスチナの権利をはく奪しようとしている」と述べ、今回の攻撃を正当化するとともにアラブ諸国にも責任の一端があると主張しました。イスラエル軍によるガザ地区への攻撃が激しさを増していることについては「私たちはイスラエルが空爆や地上戦を展開することは想定していて、それに対応する用意がある。私たちはさらなるサプライズを起こすだろう。私たちは奪われたすべての土地を取り返すまで抵抗を続ける」と述べ、イスラエルがガザ地区への攻撃を激化させれば激しい抵抗を受けることになるとけん制しました。
ハマスの攻撃計画イランの関与は否定
ハマスによる攻撃の計画に、同じくイスラエルと敵対するイランが関与していたとアメリカの有力紙が報じたことをめぐり、イランにあるハマス事務所のハレド・カドミ代表が9日、NHKのオンライン取材に応じ「この作戦ははじめから最後まで完全にパレスチナの抵抗勢力によって行われているものだ」と述べ、イランの関与を否定しました。また、イランの最高指導者ハメネイ師は10日、首都テヘランで行った演説で、ハマスによるイスラエルへの攻撃について「政権の中枢を容易に再建できないほど破壊した」と称賛しました。その上で「この動きの背後にイランがいるという話は間違っている」と述べ、今回の攻撃の計画にイランが関与していたとする指摘について改めて否定しました。
SNSなどで偽動画が拡散 現地の検証団体など注意呼びかけ
旧ツイッターの「X」では、ハマスによる大規模攻撃が起きた直後に「パレスチナの戦士がイスラエルのヘリコプターを撃墜した」などとする文章とともに、兵士が持ち運びができるミサイルでヘリコプターを撃ち落とす様子を撮影したとされる動画が拡散されました。しかし、この動画はゲームの映像で、偽動画だと指摘する投稿が相次いでいます。また、動画共有アプリ「TikTok」でも、今回の衝突のものだとする偽動画が広がっていて、このうち「パラシュートでイスラエルに降下するパレスチナの兵士たち」だとする動画は映像の中に映る建物がエジプト・カイロにある軍の教育施設で、今回の衝突とは無関係であることがわかります。さらに「イスラエルの子どもたちがハマスに誘拐され、おりに閉じ込められている」様子だとする動画は、数百万回閲覧されていますが、イスラエルの研究者らによる検証団体は、攻撃が起きる前に投稿された誤った動画で害を及ぼすものだとして拡散しないよう呼びかけています。
空爆続くパレスチナ ガザ地区
   がれきの山 増え続ける負傷者
イスラム組織ハマスによる大規模な攻撃への報復として、イスラエル軍による激しい空爆を受けたパレスチナのガザ地区の各地から被害の状況が伝えられています。このうち、北部にあるジャバリア難民キャンプでは、空爆を受けた建物が大きく壊れてがれきの山になっていて、消火活動にあたる人の姿も確認できます。また、ガザ地区にあるモスクも空爆を受け、9日、けがをした人たちが次々と病院に運び込まれていました。なかには毛布に包まれた小さな子どもの姿もあり、住民の女性は「彼らは私たちを殺し、私たちを破壊しました。ガザの人たちを助けてください」と話していました。
   病院では医療物資不足
イスラエル軍による大規模な空爆が続くパレスチナのガザ地区では地区の拠点となっている病院に連日、多くのけが人が運び込まれています。NHKが9日午後に撮影した映像では病院に次々と救急車が到着し、空爆で負傷した人たちが医療関係者によって運び込まれていました。なかには出血して自力で歩けなくなった幼い子どもたちもいて、ストレッチャーに乗せられたり大人に抱えられたりして運び込まれていました。また病院の外では死亡した家族と対面し、泣き崩れている人の姿や祈りをささげている人の姿もありました。NHKの取材に応じたガザ地区の保健当局の報道官は「受け入れ態勢を引き上げたが医療物資の不足に苦しんでいます。負傷者が著しく増えていて医療物資の支援が必要です」と訴えていました。
   NHKのガザ事務所スタッフ「安全な場所はない」
NHKのガザ事務所のスタッフ、ムハンマド・シェハダ氏は10日、オンラインでのインタビューで現地の様子を次のように伝えました。シェハダ氏はイスラエル軍による報復攻撃について「30分から45分おきに激しい空爆が行われていて、誰も寝ることができていない。3日間で10時間ほどしか眠れていない」としています。その上で、イスラエル軍から安全な場所に避難せよとの警告があることについて「シェルターに避難しろというメッセージを受け取っても、ガザ地区にシェルターはない。シェルターとされる学校も空爆を受けているからだ。ここに安全な場所はない。どこに行けばいいのか、どこに身を隠せばいいのかわからない。いつ頭の上に爆弾が落ちてくるかわからない状況では、いまいる場所が安全かどうかを判断することはできない。『安全』という感覚を私たちは失っている。人々がどのような気持ちでいるのか、ことばや映像で説明することはできない」と話しています。激しい空爆が続く中、シェハダ氏とカメラマンの2人のNHKスタッフも避難を余儀なくされています。9日午後、イスラエル軍がNHKの事務所がある地域に空爆を行うとして、直ちに避難するよう住民に警告したためです。シェハダ氏は避難したときの様子について、「亡くなった市民が次々と運ばれてくる病院を取材して事務所に戻ると、イスラエル軍が事務所のある地域は危険だと警告していることを知った。11階にある事務所から外を見ると、住民らが急いで避難していく様子が見えた。すぐに最低限の荷物をまとめて避難した」と話しています。さらに10日午前1時ごろ、避難先のホテルの近くでも空爆があり、現場近くまで取材に行ったジャーナリスト3人が亡くなったということです。避難先のホテルでは、現在は電気やインターネットを使うことができていますが、いつ使えなくなるかはわからず、今後どうなるのか見通せない状態だといいます。そして、「イスラエルはハマスの軍事施設だけを攻撃していると主張しているが、私たちが病院やその周辺で目にした攻撃されている場所は、すべて民間の建物であり、犠牲者も市民だった。多くの子ども、女性、お年寄りが殺されている」と話し、国際社会に対し「一刻も早く、ガザで起きている戦争を止めるための方策を見つけてほしい」と強く訴えていました。
ハマスとの戦闘続くイスラエルでは
   ガザ地区近くから避難の女性 “テロリストに多くの人殺された”
イスラエルの南部では、ガザ地区からイスラエル側に侵入してきたハマスの戦闘員とイスラエル軍の戦闘が続いています。こうしたなかエルサレム郊外のホテルには、イスラエル南部から逃れてきた人たちおよそ300人が身を寄せています。3人の子どもを連れて8日に避難してきたという42歳の女性は、「土曜日の朝にテロリストが集落に侵入して来て、私たちは避難部屋にずっと隠れていました。15年以上、ガザ地区の近くで暮らしていますがこんなことは初めてです。多くの人が殺され、行方不明になっている人もいます。再び戻れるのか想像もできません」と話していました。また、37歳の男性は、「テロリストが朝6時ごろに集落に来て、近所の家を襲い始め、それが午後5時半ごろまで続きました。住民が小型の銃やライフルで集落を守ろうとし、さらに犠牲者が増えました。私も小さなナイフを持っていて連れ去られそうになったら家族を守るために抵抗しようと思っていました」と話していました。エルサレムはガザ地区からおよそ70キロ離れていますが、NHKの取材班が避難してきた住民を取材している最中も、ガザ地区からロケット弾が飛んできたことを知らせる防空警報が鳴り響きました。ホテルの前の広場で遊んでいた子どもや親たちは、慌てて建物の中に入り、地下の部屋に集まっていました。その後、ホテルから数キロ離れた住宅をロケット弾が直撃し、1人がけがをしたことがわかりました。被害を受けた住宅では窓が割れ、壁の一部が崩れ落ちていて、警察や消防が駆けつけて騒然とした雰囲気に包まれていました。
   エルサレム 献血に1000人超の列
エルサレムではハマスによる大規模攻撃を受けて、スタジアムに設けられた臨時の献血会場に長蛇の列ができていました。イスラエルでは負傷者への輸血のために今月7日から献血の呼びかけが始まり、9日も午前9時に受付が始まると、1000人を超える人が集まり、中には献血をするまで4時間待ったという人もいました。献血に訪れたエルサレムに住む男性は「兵士たちは私たちのために戦っている。多くの人が自分たちの責任を果たそうとここにきている」と話していました。またエルサレムに住む女性は「南部で起きていることはひどいことだ。献血には2〜3時間かかると聞いたが、国のために貢献したいと思い、ここで待っている」と話していました。
   イスラエル中央銀行 為替市場へ初介入
イスラエル中央銀行は9日、通貨シェケルの大幅な値下がりを防ごうと、保有する外貨の一部を売却すると発表しました。イスラエル中央銀行の発表によりますと、売却する外貨の額は最大300億ドル、日本円でおよそ4兆4700億円だとしています。売却の目的については、「シェケル相場の大幅な価格変動を抑え、市場が適切に機能し続けるために必要な流動性を供給するため」と説明していて、市場ではシェケルを買い支える狙いがあると受け止められています。海外メディアによりますと、イスラエル中央銀行による為替市場への介入は、変動相場制に移行して以来初めてだということです。
各国の反応は
   米バイデン大統領ら5か国の首脳 “イスラエルの取り組み支援”
アメリカのバイデン大統領とイギリスのスナク首相、ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、それにイタリアのメローニ首相は9日、電話で会談しました。会談後に発表された共同声明でバイデン大統領らは「イスラエルへの揺るぎない結束した支持とともに、ハマスの恐るべきテロ行為に対する明確な非難を表明する」としています。そして「われわれの国は残虐行為から自国と自国民を守るためのイスラエルの取り組みを支援する」と強調し、引き続き5か国で連携していくとしています。
   米国防総省高官“軍事支援急ぐ”
アメリカ国防総省の高官は9日、記者団に対しイスラエル側の要請を受けて防空関連の装備や弾薬などの軍事支援を急いでいると説明しました。さらに周辺地域の抑止力を高めるため、アメリカ海軍の最新鋭の空母、「ジェラルド・フォード」を中心とした空母打撃群が、イスラエルに近い東地中海にまもなく到着するということです。また、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者団に対し「イスラエルが戦闘で弾薬を消費し続けるため、追加の軍事支援の要請があることを想定しており、可能な限り迅速に要請にこたえる」と述べて、イスラエルを継続的に支援する考えを示しました。一方、カービー調整官は「イスラエルにアメリカ軍を派遣するつもりはない」と述べました。
   国連事務総長 ガザ地区の人道状況 極めて悲惨
国連のグテーレス事務総長は9日、ニューヨークの国連本部で会見し、ハマスによる攻撃を改めて非難したうえで、「パレスチナの人たちが抱えている正当な不満はわかっている。しかしテロ行為と市民の殺害や誘拐は正当化できない。ただちに攻撃を停止しすべての人質を解放するよう求める」と訴えました。一方、イスラエルの軍事作戦について「イスラエルの正当な安全保障上の懸念を認識している。一方で軍事作戦は国際人道法に沿って行われなければならない」と述べ、市民の生命や民間インフラは保護されなければならないと強調しました。さらにガザ地区の人道状況は極めて悲惨だとしたうえで、イスラエルがガザ地区を完全に包囲するとしていることに「深く心を痛めている」と述べ、緊急の人道支援を届けるため国際社会が取り組むよう呼びかけました。国連によりますとグテーレス事務総長はイスラエルのネタニヤフ首相やパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長、それに、周辺国の首脳らと相次いで電話会談を行っていて、事態のさらなる悪化や地域の不安定化を防ぐために協力を求めています。
   トルコ エルドアン大統領「あらゆる仲介の準備がある」
トルコのエルドアン大統領は9日の首都アンカラで行われた閣議後の会見で、イスラエルのヘルツォグ大統領、それにパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長、それぞれと電話で会談したと明らかにしました。その上で、「双方からの要請があれば、捕虜交換をはじめとしたあらゆる仲介の準備がある」と述べて、双方に自制を呼びかけるとともに仲介に意欲を示しました。ただ、イスラエル側は「今は交渉や仲裁の時ではなく、境界の安全確保に取り組んでいる」としているほか、ハマスの軍事部門も「空爆のさなかに人質をめぐる交渉はしない」と述べるなど、当事者間では停戦に向けた動きは見られません。こうした中、エルドアン大統領は9日、エジプトのシシ大統領やカタールのタミム首長ら関係各国とも相次いで電話会談を行っていて、事態打開の糸口を見いだせるか注目されます。
   イギリス イスラエルへの全面的支援 表明
イギリスの首都ロンドンでは9日、パレスチナ出身の人たちなどがイスラエル大使館前に集まり、イスラエルによる長年にわたる占領や入植が今回の事態を引き起こしたとしてガザ地区への攻撃をやめるよう訴えました。集まったのはイギリス在住のパレスチナ人や反戦団体のメンバーなど数百人で、パレスチナの旗を振ったり「パレスチナを解放しろ」などと声を上げたりして攻撃の停止を呼びかけました。一方、イギリス政府はイスラエルへの全面的な支援を表明し、ハマスを支持したり、ユダヤ人の安全を脅かしたりする行為は取り締まりの対象になると警告していて、現場では多くの警察官が警戒に当たっていました。デモを主催した1人、イシュマイル・パテルさんは「イスラエル側はガザ地区への電気や食料、水の供給を遮断すると発表したうえ、地上侵攻が始まれば数千人が犠牲になると懸念している。イギリス政府はかつて1917年のバルフォア宣言に署名し、イスラエルという国家の成立に歴史的な責任を持っている。侵略者の肩を持つのではなく公平な立場を保ち、両者の対話を促してほしい」と訴えていました。地元メディアによりますと、ハマスによる攻撃でイギリス人10人以上が死亡、または行方不明になっているということで、スナク首相はこの日、内閣の会議を緊急招集し「イスラエルは自国を守り、さらなる侵略を阻止する権利を持っている」と強調しました。
   世界各地で双方の支持者がデモや集会 根深い対立浮き彫りに
アメリカ・ニューヨーク、マンハッタン中心部のイスラエル総領事館の近くでは、9日、幅20メートルほどの道路を挟んで、北側にイスラエルの支持者100人あまり、南側にパレスチナの支持者300人あまりがそれぞれ集まりました。現場に多くの警察官が出て警戒にあたる中、双方ともバリケードの中から身を乗り出すようにして相手側を非難することばを叫び、周辺は一時騒然となりました。イスラエル側の参加者の女性は「イスラエルの人たちは非人道的に誘拐された。いったい誰がやったのか。裁かれなければならない」と話していました。パレスチナ側の参加者の女性は「パレスチナの人たちは長い間、抑圧の中で生きてきた。もう十分だ」と話していました。ヨーロッパ有数のユダヤ人コミュニティーがあるフランスでは、9日、パリ中心部におよそ2万人が集まり、「イスラエルに連帯を」などと書かれたプラカードを持って行進したほか、観光名所のエッフェル塔ではイスラエル国旗をあしらったライトアップがされました。
   EU パレスチナへの資金支払いを即時停止
パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃を受けてヨーロッパではパレスチナへの支援を見直したり、一時的に停止したりする動きが出ています。このうちEU=ヨーロッパ連合では、近隣国についての政策などを担当するバールヘイ委員が9日、ソーシャルメディアに「イスラエルとイスラエルの人々に対する暴力行為と残酷さは転換点となった。何事もこれまでどおりというわけにはいかない」と投稿しました。そのうえでパレスチナに対するあらゆる資金の支払いを即時停止するとしたほか、すべての開発援助プロジェクトを見直すとしています。
   ドイツやオーストリア パレスチナへの援助 見直す動き
ドイツ政府は、9日の定例の記者会見で、パレスチナにおける飲料水の確保や職業訓練などのために、ことしと来年拠出する予定の2億5000万ユーロ、日本円でおよそ400億円の資金について、見直しが必要か検討するため一時的に拠出を停止していると明らかにしました。さらにオーストリアの外相も9日、地元メディアに対して、ハマスによる今回の攻撃を強く非難した上で、パレスチナへの援助を一時的に停止すると明らかにしました。
   ロシアとアラブ連盟 イスラエルと欧米を批判
ロシアのラブロフ外相は9日、首都モスクワを訪問したアラブ連盟のアブルゲイト事務局長と会談しました。会談後の記者会見でアブルゲイト事務局長は「ガザでは、これまでも多くの人々が殺害され、流血の事態が起きてきた。イスラエルはこうした行為を繰り返してきた」と述べイスラエルを批判しました。そして「今回の協議で、最も重要なことは流血を止め、情勢の安定化を達成するということで一致した。そうでなければ状況は大きく悪化するおそれがある」と述べ即時停戦を訴えました。これに対しラブロフ外相も「欧米は即時停戦を求めながら、イスラエルが勝利しなければならずテロリストを破壊すべきだと言っている」と述べ、欧米の立場は矛盾していると主張し、批判しました。
   ウクライナ大統領 “ロシア 中東で戦争を引き起こすことに関心”
ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、動画を公開し、イスラエル・パレスチナ情勢について「これはウクライナだけでなく、ヨーロッパ全体にとって極めて重要だ。入手可能な情報によれば、ロシアは中東で戦争を引き起こすことに関心を抱いている。それにより新たな痛みや苦しみの源が世界の団結を損ねることになる。ロシアのプロパガンダの宣伝者はほくそ笑んでいる」と述べ、事態が悪化し国際社会の足並みが乱れれば、ウクライナへ軍事侵攻を続けるロシアにとって利益になると主張しました。そのうえで「世界中のあらゆる国は今、国際法をどう守るか選択しなくてはならない」と訴えました。
   ユニセフ ガザ地区の電力などの供給停止に懸念示す
イスラエル政府は9日、ハマスに対する圧力を強めるため「ガザ地区を完全に包囲する」としてガザ地区への電力や食料、水などの供給をすべて停止する考えを示しています。これについて、ユニセフ=国連児童基金のキャサリン・ラッセル事務局長は9日、声明を発表し「ガザ地区への電力の遮断や、食料、燃料、水の供給を止める措置は、子どもたちの命を危険にさらすことにつながりかねない」と懸念を示しました。その上で、「人道状況が急速に悪化する中、子どもたちやその家族がどこにいようと、人道支援に携わる人々が安全に、命を守るための活動や、物資を届けることをできるようにしなければならない」として封鎖が行われる中でも緊急な人道支援は行われるべきだと訴えました。
ハマス奇襲攻撃 何が起きたのか
   始まりはガザ地区からの大規模ロケット攻撃
今回のハマスによる奇襲攻撃は7日午前6時半ごろ、ガザ地区からの大規模なロケット攻撃で始まりました。発射されたロケット弾の数について、ガザ地区を実効支配するハマス側は5000発以上、イスラエル側は2200発以上だとしています。それと前後するように戦闘員がイスラエル側に侵入。ガザ地区はイスラエルが建設した壁やフェンスに囲まれて封鎖されていますが、イギリスの公共放送BBCは、検問所を含む7か所をハマスの戦闘員が突破したと分析しています。ハマスの軍事部門のカッサム旅団はSNSなどで戦闘員がイスラエル側に侵入した様子だとする映像を公開しています。このうち、空から侵入したとする動画では複数の戦闘員が、動力付きのパラグライダーを使ってイスラエルが建設したコンクリートの分離壁を越えていくような様子が映っています。また、イスラエルとガザ地区の間の人の行き来を管理するエレズ検問所で撮影されたとされる映像では、分離壁で大きな爆発が起きたあと戦闘員たちが走って行く様子や施設のなかで激しい銃撃戦が起きている様子が記録されています。そして、フェンスごと爆破してそこから武装した戦闘員を荷台に乗せた複数の車がイスラエル側に侵入しているような動画もあります。さらに8日に公開された映像では、複数の戦闘員が海とみられる場所でボートに乗って水面を進む様子がとらえられています。ハマスによる奇襲攻撃が行われた7日はユダヤ教徒にとって、重要な祭日の最中で、イスラエルにとっては不意を突かれた形です。さらに前日の6日は、ユダヤ教徒にとって最も重要なしょく罪の日「ヨム・キプール」にイスラエルが突如、攻撃を受けたことから始まった第4次中東戦争から50年の節目にあたっていました。ハマスは今回の奇襲攻撃の作戦名を「アルアクサの洪水」としていてエルサレム旧市街にあるイスラム教の聖地「ハラム・アッシャリフ」にある「アルアクサ・モスク」のことを指しているとみられます。この聖地をめぐっては、同じ場所にかつてユダヤ教の神殿があったとされることから、イスラム教徒とユダヤ教徒の間の火種になってきました。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争状態にある」と述べ、イスラエル軍が「鉄の剣」と名付けた報復作戦でガザ地区のハマスの拠点などへの大規模な空爆を続けています。
   ハマス 音楽イベントを襲撃 100人以上を人質に
イスラエル側は侵入した戦闘員がおよそ1000人にのぼるとしていて、戦闘員はガザ地区との境界近くで開かれていた音楽イベントの会場を襲撃し、260人を殺害したほか、兵士や市民を人質にしてガザ地区に連れ去るなどしています。人質の数について、ハマスは声明で100人以上にのぼると主張しています。一部のハマスの戦闘員はその後もイスラエル領内に残っていてイスラエル軍は交戦状態が続いていることを明らかにしています。
   音楽イベント参加者“生き地獄のよう”
音楽イベントの参加者が、ロイター通信の取材に応じ、凄惨な現場の様子を証言しました。このうち、イスラエル人の男性は、「午前6時半ごろにロケット弾による攻撃が始まり、参加者は何が起きているか分からず、叫び声が聞こえた。その後、会場で自動小銃を持ったバイクの男2人が銃を乱射し始めた。私たちは頭を伏せながら車を運転して逃げた。それから建物に入って部屋に隠れたが、外では絶えず銃声や叫び声が聞こえ、人が殺されていった」と話していました。別の男性は、「本当に生き地獄のようだった。私は軍隊に入って2つの戦争を経験したが、これほどの事態は見たことがない。遺体がそこかしこにあり、テロリストは殺す相手が男か女かも気にしなかった。彼らが行ったことは決して許されない」と話していました。
   イスラエル軍 レバノンから侵入の戦闘員を殺害
イスラエル軍は9日、「レバノンからイスラエルに侵入した複数の戦闘員を殺害した」とSNSで明らかにしました。具体的な人数や所属などは明らかにしていません。イスラエル軍は隣国レバノンとの国境付近にも戦車や装甲車を展開していて、9日に撮影された映像では、国境付近の道路に検問所が設けられているほか、武装した兵士が警戒にあたる様子が確認できます。隣国レバノンをめぐっては、イスラエルと国境を接する南部を拠点にするイスラム教シーア派組織ヒズボラが8日、イスラエル北部にある軍事施設に対し砲撃を行ったと発表しています。ロイター通信は「ヒズボラの幹部は今回の戦闘員のイスラエルへの侵入を否定した」と伝えていますが、今後、ヒズボラが攻撃を本格化させれば、イスラエルはハマスと二正面作戦を余儀なくされることになり、緊張がさらに拡大する事態も懸念されます。
各国の犠牲者
各国の発表によりますと、イスラエルでのイスラム組織ハマスによる攻撃で外国人にも多くの犠牲者や行方不明者が出ていて、一部は人質になっているとみられています。このうち、アメリカのバイデン大統領は9日、少なくとも11人のアメリカ人の死亡が確認されたと明らかにしました。バイデン大統領は「ハマスに拘束されている人たちの中にアメリカ人が含まれている可能性が高い」としています。タイの外務省によりますと、これまでにタイ人2人の死亡が確認されたほか、現地の雇用主からは死亡したタイ人は18人にのぼるという情報も入っているということで確認を急いでいます。また、タイ人11人が人質になっているということです。フランス外務省も、これまでにフランス人4人の死亡が確認されたほか、13人の行方がわからなくなっているとしています。フィリピン外務省は自国民7人が行方不明になっていると発表したほか、ブラジル外務省はガザ地区との境界近くで開かれていた音楽イベントに参加した自国民3人の行方が分からなくなっているとしています。イギリスの地元メディアはハマスによる攻撃で、イギリス人10人以上が死亡、または行方不明になっていると伝えています。アルゼンチンの外務省によりますと、これまでにアルゼンチン国籍の7人が死亡し、15人の行方がわからなくなっているということです。またブラジル外務省によりますと、ガザ地区との境界近くで開かれていた音楽イベントに参加していたブラジル人1人の死亡が確認されたということです。ペルー外務省も1人が死亡したと発表しました。また、チリの外相はチリ人の女性1人が誘拐されたと明らかにしました。そのほか、各国政府によりますと、ペルー人3人、ブラジル人2人、コロンビア人2人、パラグアイ人2人の行方がわかっていないということです。
●ロシア ラブロフ外相 16日から訪中 王毅外相と会談へ  10/10
ロシア外務省は、ラブロフ外相が10月16日から18日の日程で中国の北京を訪問し、王毅外相と会談すると発表しました。プーチン大統領も10月、北京で習近平国家主席と会談する見通しです。
ロシア外務省のザハロワ報道官は10日、中国の北京で開かれる巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムにあわせて、ラブロフ外相が10月16日から18日の日程で北京を訪問すると発表しました。
滞在中に中国の王毅外相と会談するとしています。
ロシアのプーチン大統領も同じく「一帯一路」のフォーラムにあわせて、ウクライナへの軍事侵攻以降、初めて北京を訪れて、習近平国家主席と会談する見通しで、欧米との対立が深まる中、中国との関係を一層強化するねらいがあるとみられています。
一方、ラブロフ外相は10月、北朝鮮も訪問する予定ですが、ザハロワ報道官は「日程は調整中だ」としています。

 

●ロシア脱出者も受難 プーチン政権、帰国促す口実に―イスラエル攻撃 10/11
パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃では、昨年2月のウクライナ侵攻開始後にロシアからイスラエルへ逃れた若者も巻き込まれた。タス通信は9日、ロシアに戻っても身に危険は及ばないとするペスコフ大統領報道官の発言を伝えた。今回の衝突を口実に帰国を促している。
イスラエルには、プーチン政権による昨年秋の動員令前から、徴兵や戦争協力を嫌うユダヤ系ロシア人が移住した。独立系メディアによると、その一人、アンドレイ・コズロフさん(27)は、襲撃された野外音楽祭で警備員として働き、行方不明になった。
在イスラエル・ロシア大使館は、自国民の安否確認に着手。だが、コズロフさんの親族は独立系メディアの取材に「今のロシアを信用しない。(戦争を起こしたという点で)ハマスと何も変わらない」と述べ、支援を求めない考えを示した。
プーチン政権を支持する保守系メディアはSNSで、ロシアからイスラエルに渡った著名人がハマスの攻撃で逃げ惑っているというプロパガンダを流している。
ソ連時代のヒット曲「百万本のバラ」で知られる歌手アーラ・プガチョワさん(74)の夫で、イスラエルに移住したコメディー俳優マクシム・ガルキンさん(47)は「(ユダヤ系であることを)誇りに思う」と声明を発表。夫妻が欧州に脱出したというのは「偽情報」だと注意を促した。
●一帯一路サミット 17、18日開催 中国政府 プーチン大統領も出席へ 10/11
中国政府は、来週17日と18日に、北京で一帯一路サミットを開くと発表しました。ロシアのプーチン大統領も参加するとみられ、どのような話し合いが行われるのか注目されます。
来週17日と18日に北京で開かれる一帯一路サミットには、130以上の国が参加する予定です。
テーマは「ハイクオリティな『一帯一路』を共同で建設し、手を携えて繁栄を実現しよう」で、開幕式では習近平国家主席が演説を行うということです。
巨大経済圏構想「一帯一路」は習近平国家主席が2013年に提唱したもので、今年で10年を迎えます。
きのう行われた会見で、中国政府は「中国ラオス鉄道」の建設などの例を挙げ、この10年間に150か国以上の国々と「一帯一路」に関する協力文書に署名し、直接投資額は2400億ドルを超えたと成果をアピール。「貧困の解消や雇用の拡大、人々の生活向上に貢献した」と強調しました。
一方で、「一帯一路」に関わるプロジェクトが対象国の財政的負担となり、「債務の罠」に陥るケースが批判されていることを意識してか、今回のサミットでは「質の高い共同建設について話し合う」と繰り返し強調。
中国の強引なプロジェクトの進め方への批判をかわそうとする狙いがあるものとみられます。
また、サミットにはロシアのプーチン大統領も出席する予定です。
ウクライナ侵攻後、プーチン大統領が北京を訪問するのは初めてで、習近平国家主席との緊密さをアピールするものとみられます。
●ロシア軍、東部で攻勢強める ウクライナ「激しい戦闘」 10/11
ウクライナ東部ドネツク州アブデーフカ市の当局者は10日、ロシア軍が同市への攻勢を強めており「激しい戦闘が起きている」と述べた。ウクライナのメディアが報じた。イエルマーク大統領府長官も「大規模な砲撃と空爆にさらされている」と通信アプリに投稿した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ルーマニアの首都ブカレストを訪れ、ヨハニス大統領と会談した。記者会見でウクライナの防空強化について「朗報があるだろう」と述べたが、詳細は明らかにしなかった。
英国防省は10日、ロシアのプーチン政権が来年3月の大統領選までに軍への追加の動員を行う可能性は「極めて低い」との分析を公表した。プーチン大統領は立候補するとみられており「不人気な政策は最小限に抑える」との見通しを示した。
●アルメニア首相、プーチン氏出席予定のCIS首脳会議欠席へ 10/11
中央アジアのキルギスは10日、首都ビシケクで開かれる独立国家共同体(CIS)首脳会議について、アルメニアのニコル・パシニャン首相が欠席の意向を伝えてきたことを明らかにした。会議にはロシアのウラジーミル・プーチン首相が出席の予定で、このところぎくしゃくしている両国の関係が一段と冷え込む可能性がある。
プーチン氏は12日にビシケク入りの予定。3月に国際刑事裁判所(ICC)からウクライナ占領地からの子ども連れ去りに関与したとして逮捕状を出されて以来、初めての国外訪問となる。
一方、パシニャン氏はキルギスのサディル・ジャパロフ大統領に電話で、「諸事情により残念ながら出席できない」と伝えてきたという。
パシニャン氏は、アゼルバイジャンが係争地ナゴルノカラバフで先月軍事作戦を行った際、ロシアは介入に乗り出さなかったと非難している。
先週にはアルメニア議会がICCへの加盟を承認。同じく先週、スペイン・グラナダで行われた欧州連合(EU)非公式首脳会議に参加したパシニャン氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と同地で会談した。こうした一連の動きにロシアは神経をとがらせている。
●「膠着状態」のウクライナ戦争の不都合な真実...西側の支援も限界か? 10/11
ウクライナの反転攻勢が開始されて3カ月以上。これから秋が深まり、戦場は泥濘と化して攻勢は一層困難となる。アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、反転攻勢が可能な時期は10月中旬から下旬までだと述べ、攻勢ペースが遅いことを認めたが、「作戦はまだ終わっていない」とわずかな期待を表明した。
これは、ウクライナの事実上の武器庫であるアメリカが反転攻勢の失敗を認めたようにも聞こえる。同じく、ウクライナの武器庫であり、応援者でもあるイギリスのトニー・ラダキン国防参謀総長は、「ウクライナが勝ち、ロシアが負けつつある」と述べている。彼によれば「ロシアの目的は、ウクライナを征服し、ロシアの支配下に置くこと」だが、現時点で「そういうことは起きていないし、今後、決して起きない。だからウクライナが勝ちつつあると言える」そうだ。ロシアの目的がウクライナ征服にあるという断定の妥当性はさて置き、さすがに苦し紛れの強弁に聞こえる。
これまでウクライナにおける戦況を「ウクライナ側から」報じてきた米CNNでさえ、今後数カ月の展望として、「ロシア軍の規模はウクライナ軍をはるかにしのいでいる。戦争で孤立が深まっても、プーチンは戦争の長期化で友好国を失う心配をしなくていい状況にある。消耗戦にはウクライナよりロシアのほうがうまく対応できる可能性がある」との評価を下している。その上で、「ウクライナ政府は万が一和平交渉が行われる場合に備えて、あるいは現在享受している西側諸国の鉄壁の支援が崩れ始めた場合に備えて、可能な限り有利な切り札を手にしておきたいところだ」と述べている。
西側の支援はそろそろ限界
こうした西側の高官やメディアの動向を見るにつけ、反転攻勢が「成果を出せなかった」という評価は固まりつつある。同時に、停戦交渉、和平交渉への期待や予測が高まってきている。西側が投入してきた莫大なウクライナ支援はそろそろ限界に近づいているのかもしれない。
EU諸国も、ウクライナ支援には是々非々で臨んでいる。ポーランドは大量のウクライナ避難民を受け入れて支えてきたが、スロバキアやハンガリーと共に、戦争のため海上輸送できなくなったウクライナ産穀物が流入してくることを拒否している。ポーランド政府にとっては、国内の農家への配慮のほうがウクライナ支援より重いのが現実である。この問題をウクライナがWTO(世界貿易機関)に提訴したことから、ポーランドはウクライナとの距離を取り始めた。9月20日、ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は、自国の軍備近代化を理由としてウクライナへの武器供与を停止したと発表した。ポーランドは、米英独に次いで4番目の規模の軍事支援をウクライナに与えてきた国である。アンジェイ・ドゥダ大統領は、国連総会が行われているニューヨークでの記者会見で、ウクライナを溺れる人に例え、「溺れる人は救助しようとする人をも深みに引き込む恐れがある」と発言している。
欧州諸国は侵攻当初、ロシアをウクライナで食い止めなければ自分たちが危ないとの危機意識から何を置いてもウクライナを全面的に支援してきた。だが、ここにきてロシアの「野望」が無限ではなかったことに気付き、物事のバランスを改めて考え始めたのだろう。
こうしたウクライナ支援の空気の落ち込みを受けてか、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、英誌エコノミストのインタビューにおいて、ウクライナ支援が減少すれば、ウクライナ避難民たちがどのような反応を示すか分からない、と述べたようだ。その真意は不明だが、大量のウクライナ難民を受け入れている欧州諸国にとっては、一種の脅迫にも聞こえたことだろう。
ブリンケン発言のニュアンス
9月にインドで行われたG20首脳会議にウクライナは招待されなかったが、アントニー・ブリンケン米国務長官と日本の林芳正外相(当時)がG20と並行してウクライナを訪問し、支援の姿勢を示したのは記憶に新しい。ブリンケンは新たに10億ドル規模の支援を約束したが、ウクライナ訪問後の9月10日の記者会見で、ゼレンスキーはロシアと交渉するだろうかとの質問を受け、「プーチンはウクライナを地図から消し去るという目的に失敗したことを忘れてはならない」と述べつつ、「交渉には相手が必要だ」と応じた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「目的に失敗した」というところは、前述のラダキンと同じ認識を示しており、「既にロシアは敗北している」というのが、西側が協調してアピールしたいナラティブなのだろう。その裏には、ウクライナは既に「勝利」しており、交渉してもいいのではないか、との言外のニュアンスが感じられる。
というのも、ブリンケンはさらに、「プーチンが交渉に関心を示せば、ウクライナ側は率先して応じると思う」と述べているのだ。その後に続けて「戦争終結はウクライナの主権と領土一体性を反映した条件で」としているが、これは定型文であって、重点は前者の交渉に関するくだりにあるのは明らかだ。
では、ロシア側はこうした情勢をどのようにみているのだろうか。ブリンケンの会見の2日後のプーチンの発言を見てみたい。これは、ウラジオストクで行われた極東経済フォーラム全体会合でのものである。プーチンは、ウクライナに交渉の用意があるというなら、第1歩としてウクライナ政府が定めたプーチン政権との和平交渉を禁じる法令を撤回してはどうかと切り返している。実際、ゼレンスキーはプーチンとの交渉を拒否することを公にしている。
さらに、プーチンはウクライナとの交渉の可能性について、「ウクライナは、全ての資源(人的資源、兵器、弾薬等)が尽きてから停戦し、交渉を開始することで、交渉を続けている間に資源の回復を図るという戦術の可能性もある」との趣旨の発言をした。
また、その3日後の9月15日にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、ウクライナ情勢について演説し、現在「交渉」についていろいろ言われているものは西側の陰謀だと断じた。そして、ウクライナ侵攻から間もない2022年3月に行われた和平交渉で、ウクライナのNATO加盟とは別の形での安全保障について事実上合意に至ったが、西側勢力から署名しないよう圧力がかかり、失敗したと批判している。
「両雄」は並び立たない
過去の交渉の失敗の経緯から、プーチンもラブロフも、たとえ交渉してもそれは相手側の時間稼ぎにすぎないと考えている。残念ながら、ロシアは現在、前向きに交渉に応じることはないと言わざるを得ない。
ロシアは、最初の和平交渉が西側の圧力によって失敗した後、反転攻勢を受けて大きく前線を後退させたため、予備役の部分動員を行わざるを得なくなった経緯がある。さらに、長引く戦闘に対処するため、軍事部門に投資を行い、総動員体制に準ずる国内体制まで整備した。さらにイランや北朝鮮との軍事協力にも動いている。ロシアはもう覚悟を決めているのである。ウクライナの武器弾薬要求は、NATOの供給能力を上回っていると認めているNATOとは対照的だ。つまり、部分動員令を発した昨年秋の時点で、ロシアは大きな転換点を迎えていたのだ。果たしてその事実を西側諸国は認識できているのだろうか。
現在進行形のウクライナの反転攻勢の成否については、人によって評価が大きく異なっており、確かなことは不明だが、ウクライナ側が思ったような結果を出せていないことは確かである。また、「資源」の観点からもロシア側が優勢であることも、基本的な共通認識となっているだろう。もちろん、ウクライナに対して欧米が、人的資源を含め、これまで以上の大規模支援を投入できるというなら話は変わってくるが、来年の米大統領選次第では、支援は今後縮小局面に入る可能性もある。
では、ロシア側は今後停戦の機運が高まったときにどのような条件で何を目標として行動するだろうか。まず指摘すべきは、ゼレンスキーとプーチンは互いに並び立たないということ。ゼレンスキーはプーチンとの交渉自体を拒否しており、プーチンはゼレンスキーとの最初の和平交渉の失敗以来、交渉は時間稼ぎとして信を置いていない。つまり、プーチンがいなくなるか、ゼレンスキーがいなくなるかだ。
どちらの可能性がより高いかは、比較的容易に想像できる。ゼレンスキーの支持基盤はプーチンに比べればはるかに脆弱だ。ウクライナでは次の大統領選挙が来年の3月に予定されているが、予定どおりに実施されるかは不明だ。ゼレンスキーは選挙資金の不足を理由に実施の有無を明確にしていない。
もし、公正な選挙が行われれば、落選する可能性も十分あるだろう。ウクライナ国民がゼレンスキーを選んだのは、そもそも彼がロシアと交渉して、14年以来のドンバス紛争を和平に持ち込むことを公約に掲げていたからである。6月の世論調査ではウクライナ国民の大半は領土面での譲歩を支持していないようだが、だからと言ってロシアに勝利するまで戦争を継続するというゼレンスキーが再選されるとは限らない。国民は現実的な見方をしているものだ。
選挙の結果、ゼレンスキーが去るというシナリオがなくても、ロシア側がゼレンスキー政権と交渉を行う可能性は低いだろう。ゼレンスキーを追い落とすために、どこかのタイミングでウクライナへの攻撃を強化することもあり得る。ロシアは、ゼレンスキー政権が崩壊するか、合法的に交代するか、ウクライナに新たな政権が誕生するまで待つだろう。
ウクライナ支援継続は得策か
というのも、ロシア側の認識では、ゼレンスキーは米英の「傀儡」である。ラブロフは、米英を「人形遣い」と呼んでいる。すなわち、ロシア側の大きな戦略目標の1つは、ロシアの安全保障のためにウクライナから米英の影響力を排除することにある。このことは、ウクライナのNATO非加盟、中立化にとって必要不可欠な条件となっている。
仮に和平交渉が成功したとしても、英米がバックに付いたウクライナ政権が残る限り、NATO加盟や軍備増強などの動きが再開される可能性は残り、その場合には、ロシアは躊躇なく侵攻を繰り返すことだろう。
歴史を通じて、ウクライナはロシアと欧州の間の緩衝地帯であったが、今や、双方にとって危険な火薬庫と化した。それは、停戦しても変わることはない。なぜなら、アグレッシブなウクライナと、ウクライナのNATO接近を決して許さないロシアという構図に変わりがないからだ。
欧州にとってウクライナという火薬庫を維持してまで、ウクライナのNATO加盟が必要なのだろうか。親ロ的なウクライナの時代に、東欧諸国が今以上に大きな脅威にさらされていたという事実はない。むしろ、ウクライナがNATOに加盟したほうが、安全保障上の問題がはるかに大きくなることは、全てのNATO加盟国が理解しているはずだ。そもそも、NATOは安全保障組織であって、自由民主主義を拡散するための政治組織ではない。安全保障を脅かすような拡大は本末転倒である。すなわち、ウクライナのNATO非加盟という条件で交渉を行うこと自体は、不合理な判断ではないのだ。
では、何のために、昨年3月の和平交渉を打ち切って戦争を継続したのか。西側は、ゼレンスキーではなく、プーチンがその座を追われるシナリオを期待したのである。
しかし、プーチン政権が予想以上に強固な支持基盤を国内に築いていることが明らかとなり、ゼレンスキーがプーチンを追い落とすことができないことが判明した今、西側にとってアグレッシブなウクライナを維持することが、果たして得策なのかという疑問が改めて問われることになるだろう。
主なものとして、以下のような問題があると考えられる。
第1に、既に述べたように、アグレッシブなウクライナは欧州の火薬庫となり、欧州の安全保障にとって大きな問題となる。
第2に、長期にわたってウクライナ支援を続けなければならないとすれば、避難民の問題も含めて近隣諸国にとって大きな負担となる。
第3に、自由民主主義の旗印を掲げてウクライナ支援を行ってきたが、汚職がはびこるウクライナをEUの基準まで浄化するのは容易ではない。
第4に、ウクライナで混乱が拡大し、治安が悪化すれば、近隣諸国にもその影響が及ぶだろう。これは避難民の問題のみならず、ウクライナに供与された大量の武器弾薬の密輸・流出なども含まれる。
第5に、ロシアは自国の安全保障のために実力行使をためらわないことが明らかとなったため、ウクライナを西側で維持することはロシアとの緊張を高め続けることとなる。
これらの問題点を踏まえて言えることは、ウクライナがロシアを弱体化させ、プーチンを追い落とすことができないのであれば、安全保障の観点に限れば、欧州、特に近隣の東欧諸国にとって、ウクライナを支援するデメリットは非常に大きいということだ。つまり、ウクライナを西側陣営につなぎ留めることができなくても、欧州諸国の安全保障にとってはむしろ望ましいという判断がなされることも十分あり得る。
そして、ウクライナを西側に引き寄せようとすることは欧州とロシアの安全保障にとって危険であるというこの判断こそ、プーチンが欧州に示そうとしている「事実」なのである。ここには、自由主義とか民主主義とかいったレッテルに基づく政治的価値判断はない。あるのは安全保障上の戦略的判断だけである。おそらく、現在の欧州に最も必要なのも安全保障上の戦略的判断だろう。
アメリカの著名な政治学者であるエドワード・ルトワックは、他国の紛争に第三者が介入することの危険性を指摘している。無責任な第三者の介入は、当事者同士が紛争の決着をつけることを邪魔することで、かえって双方の戦意を温存し、戦争を永続化させることにつながるというのだ。この議論はウクライナ情勢にもよく当てはまる。遠方のアメリカはともかく、欧州は紛争の長期化、永続化によって、自らの安全保障環境を明らかに悪化させている。
ところで、日本の岸田文雄政権はウクライナ支援の姿勢を鮮明にしているが、何を望んでいるのだろうか。いかなる外交政策にも、明確な戦略目標があるはずだ。日本の戦略目標は、紛争当初の欧米のようにプーチンが失脚することなのか、あるいは欧州の安全保障環境を悪化させることで、ロシアと欧州を分断させることなのか。これはアメリカには喜ばれるだろうが、本当に日本の国益になるのだろうか。国家として自国の国益が何なのか、真剣に考える必要があるだろう。
●「米国は2つの戦場に対応できない」 中東に向かう目に笑うプーチン 10/11
イスラエル、ウクライナに武器支援せず
ただ、ロシアがイスラエルとの長い友好関係を断って中東事態に深く介入するのは難しいという分析もある。第2次世界大戦以降、イスラエルに移住したロシア系ユダヤ人が多く、現在もイスラエル内のロシア語駆使者は150万人にのぼる。ウクライナ戦争の直前にもプーチン露大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が何度か会うなど両国首脳間の関係も深い方だ。
実際、過去にロシアは親イスラエルの動きを見せてきた。イスラエルが2018年末、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが国境の地下を掘った浸透用トンネルを破壊する作戦を進めると、ロシアはこれを支持した。また両国は2019年3月、シリアからの外国軍撤収を議論する実務グループを構成して協力した。
イスラエルもウクライナ戦争の局面で西側国家と違い、事実上、中立的な立場を見せた。ウクライナがロシアのミサイル空襲を防ぐために「アイアンドーム(Iron Dome)」防御体系の支援を何度か要請したが、イスラエルはこれに応じなかった。
その一方でイスラエルはロシアとイランがドローンなど武器提供を口実に密着するのを警戒している。昨年10月、当時のイスラエルのラピド首相はウクライナのクレバ外相との電話会談で「ロシアがテロリスト国家のイランと近づくのは、ウクライナだけでなく世界を危険にする」と述べた。
会談をして関与幅を広げるプーチン
開戦4日目の10日までロシアは今回の事態に公式的な立場を明らかにしていないが、「静中の動」の動きを見せている。ロシア大統領府はこの日、プーチン大統領がモスクワを訪問したイラクのスダニ首相と会い、ガザ地区の紛争を含む国際情勢について議論すると明らかにした。
また、パレスチナ自治政府のアッバス議長が近くロシアを訪問し、仲裁を要請するだろうと発表した。モスクワに駐在するパレスチナのハピズ特使はロイター通信に「アッバス議長がモスクワを訪問することで合意した」とし「我々はいつ訪問が実現するかロシア大統領府の公式声明を待っている」と話した。
パレスチナ自治政府は国際社会でパレスチナを代表するが、ハマスとは過激な武装闘争など路線上の葛藤があり、政治的に敵対的な関係にある。現在、イスラエル西南側にあるガザ地区はハマスが統治し、パレスチナ自治政府は西岸地区を総括している状況だ。これに先立ちアッバス議長がイスラエルのガザ地区空襲を防ぐために国連の介入を訴えただけに、ロシア訪問計画もこれと関係があるという見方が出ている。
国家安保戦略研究院のチャン・セホ研究委員は「これまでロシアはイスラエルのパレスチナ攻撃に批判的な立場を見せてきたが、とはいえ露骨な言及や軍事的な関与はしてこなかった」とし「現在は状況に注目しながら『戦略的あいまい性』を維持する段階とみられる」と述べた。
●ナゴルノカラバフ紛争で旧ソ連諸国がロシア離れ 10/11
フィナンシャル・タイムズ紙のMax Seddonモスクワ支局長が9月21日付け同紙に、「ナゴルノカラバフのアルメニア兵力はロシア仲介の停戦で解散することに同意。降伏は領域に対するアルメニアの掌握への破滅的な打撃たりうる」との解説記事を書いている。その要旨、次の通り。
9月20日、ナゴルノカラバフのアルメニア兵力は、アゼルバイジャンによる24時間の攻撃(少なくとも32人が死亡、200人が負傷)の後、ロシアが仲介した停戦で解散することに同意した。
この降伏は、南コーカサス山脈の領土(アルツァフ共和国:国際的にはアゼルバイジャンの一部と認められているが、ソ連崩壊以来事実上アルメニアが掌握してきた)へのアルメニアの掌握に対する破滅的な打撃になるだろう。
トルコが支援するアゼルバイジャンはイスラム教徒が多数を占める専制国家であるが、2020年の戦争でアルメニアの飛び地の一部とその周辺領域を支配下に置いた。この戦争でロシアがキリスト教の同盟国の支援をしなかったことがこの地域でのモスクワの影響力の喪失の始まりになった。
昨年のウクライナ侵攻後、ロシアの平和維持軍はアゼルバイジャンがこの地域とアルメニアを結ぶ唯一の道路を封鎖し、食料不足,医療品不足、停電が発生したのに何もしなかった。 
モスクワによって作られた真空に踏み込もうとする最近の米欧の試みも打開をもたらさなかった。
アルメニアとロシアの関係は汚職摘発ジャーナリストであったパシニャンが18年の民主的革命で首相になった後、悪くなりはじめ、20年戦争でロシアがアルメニアを助けに来なかったことでさらに悪化した。
ロシアはパシニャンが共同演習のために米軍を招き、ウクライナに人道援助を送ったあと、アルメニアの大使を呼びだし注意した。
クレムリンはロシアの平和維持軍がナゴルノカラバフのアルメニア人を守り、飛び地への経路を開いておくとの義務を果たしていないとのアルメニアの主張に反論している。
ペスコフ報道官は9月20日、「このような非難は全く根拠がない」と述べ、今年初めにパシニャンがアルメニアは1991年ソ連が崩壊した時のアゼルバイジャン国境(ナゴルノカラバフを含む)を承認する用意があると述べたことに言及した。彼は「これはアルメニア側がカラバフをアゼルバイジャンの一部と認めたことを意味する。法的にはアゼルバイジャン共和国は自分の領土で行動している」と述べた。
ナゴルノカラバフをめぐりアルメニアとアゼルバイジャンは1991年のソ連崩壊後ずっと対立していたが、ロシアがウクライナ戦争もあってコーカサスでの影響力を低下させる中で、アゼルバイジャンがナゴルノカラバフを「対テロ作戦」と称して攻撃し、今回の事態が引き起こされた。
勝利したアゼルバイジャンはナゴルノカラバフの主権回復を宣言し、同地の「アルツァフ共和国」は、24年1月1日までに解体されることとなった。一応停戦がロシアの仲介で成立した状況であるが、今後の進展を注意深く見守る必要がある。
記事にもある通り、20年にアゼルバイジャンはナゴルノカラバフを巡りアルメニアと軍事衝突し、これに勝利した。その結果、「アルツァフ共和国」は領土の多くをアゼルバイジャンに返還することとなった。
さらに、22年にはアゼルバイジャンがアルメニアの国境地帯を攻撃し、アゼルバイジャンが戦略拠点を占領するなど、両国の軍事紛争においてアゼルバイジャンの優勢は更に強まっていた。
影でうごめくトルコ
アルメニアはロシアがソ連崩壊後北大西洋条約機構(NATO)に倣って成立させた集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟している。しかし、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争において、ロシアがその条約に従ってアルメニアを支援したことはない。
それに対する失望感は、アルメニアのロシア離れを引き起こした。アルメニアが米軍との共同軍事演習を行うなどは、かつては考えられないことであった。
これに対し、アゼルバイジャンの方はトルコの影響力が強くなり、両国は今や準軍事同盟関係にある。
ロシアのコーカサスでの影響力は今や地に落ちていると言ってよいように思われる。ロシアはグルジアとも、南オセチアなどのロシアの傀儡政権樹立を巡り関係は良くない。
コーカサス情勢と連動しているかどうかは議論の余地があるが、ウクライナ戦争のせいで中央アジア5カ国にもロシア離れが起こっている。カザフスタンはその北部に多くのロシア人居住者を抱えており、それがウクライナ東部のようにロシアの侵攻の理由にもなりかねないと強い懸念を有し、領土の一体性の尊重を強く主張している。
ウクライナ戦争後、ロシアは国際的影響力を失い、弱体化する可能性が高い。その理由の一つは旧ソ連諸国のロシア離れである。このアルメニア・アゼルバイジャン紛争はその一つの現れではないかと思われる。
●ウクライナ東部で総攻撃 包囲進むアウディイウカ―ロシア軍 10/11
ウクライナのメディアなどは10日、ロシア軍が東部ドネツク州アウディイウカに同日朝から総攻撃を行っていると伝えた。アウディイウカは、親ロシア派の拠点都市ドネツクから北に約15キロの最前線に位置。ロシア軍による包囲が進んでおり、州内の激戦地になぞらえて「第2のバフムト」と化する恐れがあると懸念されている。
●核実験禁じるCTBT ロシアで批准の撤回に向けた動き 10/11
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアでは、CTBT=包括的核実験禁止条約について、批准の撤回に向けた動きが出ています。ロシアの外務次官は「批准に関する条文を取り消す法案を提出すべきだ」と述べ、アメリカへのけん制を強めています。
ロシアではプーチン大統領が今月5日にCTBTの批准を撤回して新たな核実験に踏み切る可能性を示唆したことを受けて、議会下院の議長が9日、批准を撤回するかどうか、下院の国際問題委員会で検討するよう指示したと発表しました。
これについて議会下院のスルツキー国際問題委員長は10日、記者団に「関連法案はすでによく練られており、期限の今月18日には法案を提出できるだろう」と述べました。
また、リャプコフ外務次官は10日、ロシアの通信社に対し、アメリカが条約を批准していないことに触れ「ロシアも批准に関する条文を取り消す法案を提出すべきだ」と述べ、アメリカと均衡を保つ必要があるという考えを強調し、けん制を強めています。
プーチン大統領は10日、首都モスクワを訪問したイラクのスダニ首相との会談で「ウクライナ危機が続き、中東情勢は急激に悪化している。中東におけるアメリカの政策の明らかな失敗例だ」と述べ、アメリカを批判しました。
●ロシア 国連人権理事会の理事国に立候補も落選 10/11
世界各国の人権問題への対応を協議する国連人権理事会の理事国を決める選挙がアメリカ・ニューヨークの国連本部で行われ、ウクライナへの軍事侵攻で資格を停止されたロシアが立候補しましたが、国連加盟国による投票の結果、落選しました。
スイスのジュネーブにある国連人権理事会は、世界各国で深刻な人権侵害が起きたときに対応を協議する機関で、47の理事国で構成されています。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻後、2022年4月に国連総会で採択された決議で、人権理事会の理事国としての資格が停止されました。
その後、ロシアは2024年からの3年間の理事国を決める選挙に立候補していたことが、9月に明らかになりました。
ニューヨークの国連本部で10日、国連加盟国による投票が行われ、日本や中国、それにキューバなどが理事国に選ばれましたが、ロシアは落選しました。
投票に先立ち、国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻と、中国による新疆ウイグル自治区の人権状況をあげて、「ロシアと中国は理事国にふさわしくなく選出されるべきではない」と表明していました。 
●プーチン大統領 米を非難「民間人を巻き込むな」 ハマスとイスラエルの衝突 10/11
イスラム組織「ハマス」とイスラエルの衝突を巡り、ロシアのプーチン大統領は、アメリカが原因であり、戦闘を激化させていると批判を繰り返しています。
プーチン大統領「アメリカは過去数年間、(パレスチナ問題の)解決策を無視してすべてを独占した」
プーチン大統領は11日、モスクワで開かれた国際フォーラムの演説でこのように述べ、アメリカを批判しました。
プーチン氏はまた、女性や子どもなどの民間人を戦渦に巻き込むべきではないと主張しました。
プーチン大統領「男同士で争うと決めたら、子どもと女性には手を出すな。これは双方に当てはまる」
この発言に対してロシアの独立系メディアは、ロシアのウクライナ侵攻により、1年半で少なくとも545人の子どもを含む9444人の民間人が殺害されていることを指摘しています。
プーチン氏の演説会場の建物は、一般の車などが近付かないよう工事用の車両が周囲に配置され、厳重な警戒態勢が敷かれました。

 

●プーチン大統領 中央アジア訪問し旧ソビエト諸国の結束演出へ 10/12
ロシアのプーチン大統領は、12日から中央アジアのキルギスを訪問し、旧ソビエト諸国の首脳会議に出席します。ウクライナへの軍事侵攻以降、旧ソビエト諸国のロシア離れが指摘されていて、プーチン大統領としては結束を演出したい思惑です。
ロシア大統領府は11日、プーチン大統領が、12日から中央アジアのキルギスを訪問し、ジャパロフ大統領と会談を行うと発表しました。
また翌13日にはキルギスで開かれる旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議に出席する予定です。
プーチン大統領が外国を訪問して首脳と会談するのは、ことし初めてとなります。
今回の訪問に関連して、ロシア大統領府のウシャコフ補佐官は、プーチン大統領がアゼルバイジャンのアリエフ大統領とも12日に会談する予定だと明らかにしました。
アゼルバイジャンは先月、係争地ナゴルノカラバフを巡って起こした軍事行動で、アルメニアに勝利宣言し、この地域の統合を進めていてプーチン大統領としては両国の仲介役としての存在感を示したいねらいもあるとみられます。
一方、アルメニアのパシニャン首相はロシアへの不満を強めていて今回のCIS首脳会議にも欠席する意向を明らかにしました。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、旧ソビエト諸国のロシア離れが指摘されていて、プーチン大統領としては今回の訪問を通じて勢力圏とみなしている旧ソビエト諸国の結束を演出したい思惑です。
●ロシア、イスラエル・ハマスとの対話維持…両にらみ戦略のプーチン大統領 10/12
ロシアのプーチン政権は、イスラム主義組織ハマスとイスラエルの軍事衝突に関し、直接的な評価に強く踏み込まず、慎重に言葉を選んでいる。双方の当事者に加え、ハマスの後ろ盾となっているイランの重要性が、ウクライナ侵略の長期化に伴って増していることが背景にあるようだ。プーチン政権には来年3月の大統領選を控え、世論の分断を避けたい思惑も透ける。
プーチン大統領は、モスクワで11日開かれたエネルギー関連の会合で、米国の中東政策批判を繰り返す一方、衝突の原因には直接触れず、「双方に大きな苦しみがあるのは理解するが、民間人や女性、子どもの犠牲を抑える努力が必要だ」と述べるにとどめた。
ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は11日、国営テレビの番組で、ハマスの軍事行動を「テロとしか言いようのない行為を非難せずにはいられないが、その前に何があったか、忘れてはならない」と述べた。「バランスの取れたアプローチが重要」とも語った。
イスラエルに一方的に肩入れする米国とは一線を画し、露政府が双方と対話を維持する考えを示した発言だ。
かねてイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を支持してきたプーチン政権は、イスラエルや米国が「テロリスト」と断じるハマスとも良好な関係を維持している。米紙ワシントン・ポストによると、セルゲイ・ラブロフ外相は2020年以降、少なくとも5回、モスクワでハマス幹部らと会談した。政治部門トップのイスマイル・ハニヤ氏も含まれるという。
ハマスを支援しているイランとの関係について、9月にテヘランを訪れたセルゲイ・ショイグ国防相は「新たなレベルに到達しつつある」と明言した。ロシアによるウクライナの民間施設への攻撃ではイラン製自爆型無人機が主力になっている。
プーチン政権与党「統一ロシア」の議員はSNSに「イスラエルの同盟国は米国だが、イランやムスリム世界の同盟国は誰だ。我々だ」と投稿した。ロシアと対立する米国の支援を受けるイスラエルへの反感も根強い。
ただ、プーチン氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と頻繁に連絡を取り合う「盟友」と称される。ロシアのウクライナ侵略を巡って、イスラエルは対露制裁に参加していない。露国内には十数万〜数十万人規模とされるユダヤ系コミュニティーがあり、財界などで影響力を持っており無視できない存在になっている。
●正恩氏「ロシアの勝利願う」 プーチン氏と祝電交換 10/12
朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は12日、ロシアとの国交樹立75年を記念してプーチン大統領と祝電を交換した。
正恩氏は「ロシア人民が、国の自主権と尊厳、安全と平和を守る闘いで栄光をとどろかすことを願う」と伝達。ウクライナに侵攻するロシアの勝利に期待を示した。
プーチン氏は、9月の正恩氏とのロ朝首脳会談に言及。この時の合意実現が「2国間協力の一層の拡大に寄与すると確信する」と強調した。
合意の具体的内容は明らかにされていないが、北朝鮮が首脳会談を受け、ロシアへの武器・弾薬供給に着手したとの見方が強まっている。
●ロシア軍、ウクライナ東部要衝に大規模攻勢 10/12
ロシア軍は、数カ月にわたって包囲しているウクライナ東部の要衝の町アウディーイウカに大規模な攻勢をかけている。ウクライナ軍当局者が明らかにした。
当局者によると、2022年2月の侵攻開始以来、最大の同町に対する攻撃で、ロシア軍は大量の兵力と装備を振り向けた。大規模な攻撃は10日から行われているという。
ロシア側の発表でも戦闘が激化していることを示唆しており、同国軍が「アウディーイウカ近郊の形勢を改善した」という。
ウクライナ軍参謀本部によると、町への敵の攻撃を10回撃退した。
●ロシア軍がウクライナの学校をミサイル攻撃、4人死亡=当局 10/12
ウクライナ当局は、ウクライナ中部ドニエプロペトロフスク州ニコポリにある学校が11日にロシア軍によるミサイル攻撃を受け、少なくとも4人が死亡したと発表した。
2人が負傷し、治療を受けているという。
●米共和党議員、イスラエル・ウクライナ支援一括案に反対表明 10/12
米野党共和党の一部議員は11日、バイデン大統領からイスラエルとウクライナへの軍事援助を組み合わせた資金要請があった場合、拒否すると表明した。
政府当局者によると、ホワイトハウスはウクライナへの軍事援助承認の可能性を高めるため、イスラエル向け資金をウクライナや台湾向けと一括して議会に要請するかどうかを検討している。
イスラム組織ハマスの攻撃を受けたイスラエルを巡ってはバイデン氏と与野党双方の議員が支援に向けあらゆる措置を取ると表明している。
一方、共和党の一部議員はウクライナの汚職対策が不十分だとして同国への支援を批判。追加支援に反対している。
ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は記者会見で、政権が議会に要請する追加資金の枠組みはまだ確定していないと述べた。
共和党のドン・ベーコン下院議員は、イスラエルとウクライナへの援助のどちらも支持するが、別々に検討すべきだと記者団に述べた。
●バイデン政権、ウクライナに追加軍事支援…「イスラエル支援と両立可能」 10/12
米政府は11日、ウクライナに対する弾薬や対無人機システムなど2億ドル(約300億円)の追加軍事支援を発表した。9月末に成立した米政府の暫定予算(つなぎ予算)からはウクライナ支援費用が除外されているが、継続支援の姿勢を示す狙いがある。
これに先立ち、オースティン米国防長官は11日、ベルギーのブリュッセルで主催した約50か国によるウクライナ支援の国際会合で支援内容を説明し、「米国民の幅広い支持がある」と訴えて各国に理解を求めた。16回目となる同会合には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が初めて対面で出席した。
オースティン氏は会合後の記者会見で「イスラエルとウクライナの両方の支援を行うことが能力的に可能で、それを行うつもりだ」と述べ、両国への支援の両立を図る姿勢を強調した。
●ウクライナ大統領、冬の戦いに向け武器供給要請 NATO本部で 10/12
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、同国に侵攻したロシアが発電所などのインフラに対して攻撃するのに備え、冬を乗り切るための武器や防空設備を供給するよう北大西洋条約機構(NATO)同盟国に要請した。
ゼレンスキー氏は、2022年のロシアによる侵攻後で初めてNATO本部を訪問。ロシアのプーチン大統領をパレスチナのイスラム組織ハマスになぞらえ、ロシアのウクライナ侵攻とハマスのイスラエル攻撃を同じ硬貨の表裏のようだと指摘し、西側の軍事支援が不可欠だと訴えた。
NATO加盟国と、非加盟国でウクライナを軍事支援する約20カ国の国防担当相が集まった会合で「この戦争がいつ終わるのか、ウクライナにとって正当に終わるのかという問いに対し、冬の防空戦が答えの重要な部分を握る」とし、「私たちはテロとの冬の戦いに勝たなければならないし、勝つことができる」と訴えた。
オースティン米国防長官は、必要なだけウクライナを支援するという西側諸国の誓約を改めて表明。防空弾薬や、ロシアのドローン(無人機)に対抗するための武器を含む2億ドル相当の軍事支援を発表した。
NATOのストルテンベルグ事務総長は、プーチン氏がウクライナのエネルギーインフラを攻撃して「冬を戦争の武器として再び利用する準備をしている」と批判した。  
●プーチン大統領がキルギス訪問、逮捕状後初外遊 親ロシア国 10/12
ロシアのプーチン大統領は12日、中央アジアの親ロ国家キルギスを訪問しジャパロフ大統領と会談した。ウクライナ侵攻を巡る戦争犯罪容疑で国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出して以来初の外遊となった。
プーチン氏は2022年2月のウクライナ侵攻以来ほとんど海外に出ておらず、ICCが今年3月にウクライナからの子どもの連れ去りに関与したとして逮捕状を出して以降はロシアを離れたことはなかった。
訪問は2日間の予定で、13日には首都ビシケクで開催される独立国家共同体(CIS)首脳会議に出席する。
プーチン氏はジャパロフ大統領との会談で、キルギスにとって重要な貿易相手国であり、最大の投資国であるロシアの重要性を強調、両国の協力関係をさらに発展させると述べた。
ロシアとキルギスの貿易が2桁の伸びを示していることをプーチン大統領は挙げたが、西側諸国ではキルギスがロシア企業による制裁破りを助けているのではないかと疑う声もある。
●中東情勢で偽動画拡散「発信源はロシア」の疑惑も 10/12
イスラエルとパレスチナの衝突をめぐって、SNSなどでさまざまな偽動画が拡散されています。その発信源の一つとして、ロシアの存在が指摘されています。
BBCのロゴが入った動画 「偽動画」と警告
「欧米がウクライナに供与した武器がイスラム組織ハマスに流出していた」
国際的な調査報道グループの「ベリングキャット」が偽動画だと警告したこの動画。
イギリスの公共放送、BBCのロゴが入っていて、BBCが制作したように見えますが、偽動画だと注意を呼びかけています。
制作者は不明ですが、同じような主張はここ数日、ロシア政府の関係者から相次いでいます。
ロシア側の発言 偽動画とほぼ同じ主張を
ロシアのメドベージェフ前大統領は、SNSに「ウクライナのナチス政権に供与された武器は現在、イスラエルに対して使用されている。事態は悪化するばかりだ。ミサイルや戦車、そしてすぐに飛行機も闇市場で売られるだろう」と書き込みました。
さらに、ロシア外務省の報道官も10日の記者会見で。
ロシア外務省 ザハロワ報道官「アメリカやイギリスなどNATOがウクライナに供与した兵器は、現場の兵士に渡されなかった。闇市場で売られたので世界のどこにでも現れる」
ウクライナ政府は反論「ロシアがハマスに兵器供与のケースも」
これに対して、ウクライナ政府は反論しています。
ロシアがパレスチナ情勢を利用して大規模な偽情報の発信に乗り出したと批判し、「フェイクだ」とSNSなどで注意を呼びかけています。
ウクライナの国防省も声明を発表し、「ロシアの特別機関が中東でウクライナの信用を失墜させるキャンペーンを進めている」と警告しました。
ロシアがウクライナでの戦闘で奪った欧米の兵器を、ロシアがハマスに引き渡しているケースがあると主張しているのです。
さらにウクライナ軍は、現場の兵士のビデオメッセージも発信し、イスラエルを全面的に支持する姿勢をアピールしています。
ウクライナ軍兵士「イスラエルに対する今回の攻撃は文明世界に対する犯罪だ。人道に対する罪を止めるため、国際社会は結束すべきだ」
パレスチナ情勢がどのようにウクライナ情勢に影響を及ぼすのか、現時点では不透明ですが、情報・サイバー空間ではすでに戦いが激しくなっているようです。

 

●プーチン大統領 キルギス訪問 中央アジアでの存在感をアピール 10/13
ロシアのプーチン大統領は、中央アジアのキルギスを訪問し、現地に駐留するロシア軍が地域の安全保障に貢献してきたと強調し、ロシアが勢力圏とみなす中央アジアでの存在感をアピールしました。
ロシアのプーチン大統領は12日、中央アジアのキルギスを訪問し、ジャパロフ大統領と会談しました。
プーチン大統領が、外国を訪問して首脳と会談するのはことし初めてで、プーチン大統領は「キルギスにとってロシアは最大の投資国だ」と述べ、ロシアが果たす経済的な役割は大きいと強調しました。
また、プーチン大統領は、首都ビシケク郊外のカント空軍基地にロシア軍が駐留してことしで20年になるのにあわせて開かれた式典で演説しました。
このなかで「中央アジア全体にも安全と安定をもたらし、テロなどの脅威に大いに貢献してきた」と述べ、アフガニスタン情勢などでロシア軍が安全保障に貢献してきたと強調しました。
そのうえで今後も最新の兵器などを配備していくとしてロシアが勢力圏とみなす中央アジアでの存在感をアピールしました。
プーチン大統領は13日にはキルギスで開かれる、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議に出席する予定です。
プーチン大統領は、今月6日も中央アジアのウズベキスタンの大統領をロシアに招待して関係強化を打ち出したばかりで、ウクライナ侵攻以降、旧ソビエト諸国のロシア離れが指摘される中、関係国の結束を演出したい思惑があるとみられます。
●東部拠点でウクライナ防戦…ドネツク州アウディーイウカ、ロシア大規模攻撃 10/13
ウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカに対し、ロシア軍が最近、大規模な攻撃を仕掛けている。アウディーイウカは東部戦線でのウクライナ軍の守備の重要拠点で、両軍の激しい戦闘が続いている。
ロイター通信などによると、露軍の攻勢は10日に始まり、数十台の戦車や装甲車を投入している。ウクライナ軍は11日、露軍の10回にわたる攻撃を退け、「戦線を維持している」とSNSで発表した。
一方、ロシアのタス通信によると露国防省は11日、アウディーイウカで「前進している」と発表した。
アウディーイウカは、ドネツク州の要衝バフムトの南方約50キロ・メートルにある。ウクライナ軍は工場を 要塞ようさい 化し、立てこもっているという。米政策研究機関「戦争研究所」は、現在の露軍の兵力でアウディーイウカを陥落させることは難しいと指摘する一方で、露軍の攻勢にはウクライナ軍をくぎ付けにする狙いがあると分析している。
●ロシア軍 東部ドネツク州で兵力増強 ウクライナ軍との攻防激化 10/13
ウクライナ軍が領土の奪還を目指して反転攻勢を続ける中、東部ドネツク州ではロシア軍が兵力を増強して攻撃を強め、双方の攻防が激しさを増しているとみられます。
ウクライナ軍は、南部ザポリージャ州や東部ドネツク州で反転攻勢を進め、徐々に領土を奪還していると発表していますが、ドネツク州の激戦地アウディーイウカ周辺では、ロシア軍が兵力を増強して攻撃を強めているもようです。
ウクライナ軍の報道官は12日、地元メディアに対し、ロシア軍が空爆などを繰り返しているとした上で「敵は何らかの勝利を得て流れを変える好機とみているようだ」と述べたほか、アウディーイウカの市長は「攻撃は3日間続いている」としていて、双方の攻防が激しさを増しているとみられます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日「われわれは踏みとどまっている。この戦争の結末を決めるのはウクライナの勇気と結束だ」とSNSに投稿しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は11日、アウディーイウカの南西や北西の集落付近にロシア軍が部隊を進めたことが位置情報で確認できるとした上で、ウクライナ軍がほかの戦線に展開するのを阻止するねらいもあると分析しています。
一方、ウクライナ空軍は12日、ロシア軍がロシア西部の国境付近などから夜間に33機のイラン製無人機で攻撃を仕掛け、このうち28機を撃墜したと発表しました。
また、ウクライナのクリメンコ内相は、今月5日に東部ハルキウ州の集落でロシア軍のミサイル攻撃によって亡くなった人があわせて59人で、全員が地元住民だと確認されたと発表し、「決して許さない」とロシアを重ねて非難しました。
●G7財務相、ハマスによるイスラエル攻撃を非難 共同声明 10/13
主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁は12日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスによるイスラエルに対する攻撃を非難すると同時に、ロシアの侵攻を受けているウクライナへの「揺るぎない」支援を表明する共同声明を発表した。
G7はモロッコのマラケシュで開かれている国際通貨基金(IMF)・世界銀行の年次総会に合わせ財務相・中銀総裁会議を開催。会議後に発表した共同声明で「ハマスによるイスラエルに対するテロ攻撃を断固として非難し、イスラエル国民との連帯を表明する」とした。
また、ロシアに対し制裁やその他の経済措置を実施する決意を表明。「制裁措置を回避し、損なうようなあらゆる試みに対抗することにコミットする」としたほか、ロシアの原油と石油製品に対し設定されている上限価格が効果を発揮しているか注視するとし、履行確保に向け必要に応じて適切な措置を取るとした。
このほか、欧州諸国の働きかけに応じる形で、凍結されたロシア資産から得られる収入をウクライナ復興に振り向ける方法を検討すると表明した。
今回のG7財務相・中銀総裁会議は、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルの攻撃は始まってから初めての対面形式での会議。議長を務めた鈴木俊一財務相は会議後の記者会見で、中東での紛争激化に懸念と非難の声が上がったとし、議題に挙げられていなかったものの、多くの参加者が時間をかけて見解を表明したと述べた。
日銀の植田和男総裁は、紛争が直ちに世界経済の見通しに関する見解の変更につながるわけではないとしながらも、ウクライナ情勢で世界経済の先行き不透明感が高まり、金融政策の舵取りが難しくなる中、このところの中東情勢で不確実性が一段と高まったとの認識を示した。
共同声明には世界経済に対する今回の危機の潜在的な影響に関する言及はない。  

 

●プーチン氏は、イスラエル・ガザ戦争で得をするのか=BBCロシア編集長 10/14
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領について、まるでボンド映画の巨悪のようなイメージを、私たちはついつい抱きたくなる。山奥の秘密の隠れ家には巨大な指令パネルがあり、彼はその前に鎮座して、世界中に混乱を巻き起こすのだ――というような。
ボタンを一つ押せば、バルカン半島が不安定になる。別のボタンを押せば、中東が爆発する、などなど。
そう思いたいのはやまやまだが……おそらく、不正確だ。クレムリン(ロシア大統領府)を率いる彼の、世界的な影響力を過大評価している。
確かにロシアは、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスと結びつきがあるし、イランとは緊密な関係を築いている。アメリカによると、ロシアとイランの両政府は今では、全面的な軍事同盟国なのだという。
だからといって、ハマスによるイスラエル攻撃について、ロシア政府が直接関与していたことにはならない。事前に承知していたことにも、ならない。
「ロシアが何かしら関与していたとは、我々は思っていない」。イスラエルの駐モスクワ大使、アレクサデル・ベン・ズヴィ氏はこのほど、ロシア紙コメルサントに対してこう述べた。ハマスがイスラエルで繰り広げた残虐行為に、ロシアが何か関わっていたなどとほのめかすのは、「まったくナンセンスだ」とも話した。
米ジェームズ・マーティン不拡散研究センターでロシアと中東を専門とするハンナ・ノッテ博士(在ベルリン)は、「ロシアがハマスに直接、武器を提供したとか、ロシアがハマス工作員に軍事訓練を提供したとか、そういう証拠はまったく目にしていない」と話す。
「確かにロシアは、長年にわたりハマスとかかわってきた。ロシアは一度も、ハマスをテロ組織と呼んでいない。ハマスの代表は昨年と今年、モスクワを訪れている」
「しかしだからといって、ロシアが多岐にわたりハマスを軍事的に支援しているとは類推できない。ロシア製の兵器システムがガザ地区に入っていることは、確認されている。しかしそれはおそらく、(エジプトの)シナイ半島経由で、かつイランの援助があってのことだろう」
つまり、プーチン大統領が「中東戦争」とラベルの付いたボタンを押したわけではないということだ。
しかし、この戦争から利益を得るつもりでいるのではないか? 
もちろんだ。どうやるのか、説明しよう。
ウクライナから世間の注目が外れる
中東における暴力拡大で、各国の国際報道はそのニュース一色になった。イスラエル発の劇的な記事タイトルが、ロシアがウクライナで続ける戦争から世間の目をそらすだろうと、ロシア政府は期待している。
ここで大事なのはただ単に、ニュースの流れを変えることだけではない。ロシア政府は中東情勢の結果として、西側がウクライナに提供するはずだった軍事援助がイスラエルへ振り向けられることを期待している。
「この危機は、(ウクライナでの)特別軍事作戦の展開に直接影響すると思う」。ロシアの外交官、コンスタンティン・ガリロフ氏は政府系新聞イズヴェスチヤにこう話した。
「ウクライナを支援する各国は、イスラエルでの紛争に気が移ってしまうはずだ。西側がウクライナを見放すという意味ではない。しかし、ウクライナに行く軍事支援の量は減り(中略)もちろん軍事作戦は一気にロシアに有利になるかもしれない」
ロシアは、自分に都合よく解釈している?  そうかもしれない。
「ウクライナを支援すると同様に、我々はイスラエルを支えることができるし、実際にそうする」。アメリカのロイド・オースティン国防長官は13日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防相会議でこう発言した。
けれども、中東での紛争が長引けば、2つの戦争で2つの同盟国を同時に支え続けることが果たしてできるのか、アメリカの能力が試されることになる。
仲介者ロシア? 
ロシアは、平和を仲介するいわゆる「ピース・メイカー」の役割を自ら担うことで、中東での存在感を拡大しようとしている。
かつてロシアは中東での紛争終結に向けた国際的取り組みに参加し、その役割を請け負っていた。
「ロシアは(この紛争で)役割を果たすことができるし、そうする」。ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官はこう述べた。「我々は紛争の双方と、連絡を取り続けている」とも話した。
イラクのハンマド・スダニ首相は10日、モスクワを訪れてプーチン氏と会談し、中東における「本格的な停戦のイニシアチブを発表」するよう求めた。
ロシアが平和の使者に?  それはなかなか難しそうだ。
そもそもロシアは、隣国に全面的な侵略戦争を仕掛けた国だ。開戦から間もなく1年8カ月となるこの戦争で、ロシアがウクライナにもたらした死と破壊の規模は、世界に衝撃を与え続けている。
しかも、平和の実現に自分たちが「役割を果たせるし、そうする」と宣言したところで、紛争の当事者たちがロシアを仲介者として受け入れる保証はない。
ロシアはかねて中東に関心を抱いてきた。イスラエルがアメリカと緊密な関係を築く一方で、ソヴィエト連邦はアラブ寄りの姿勢をとった。旧ソ連は長年にわたり、国を挙げて反ユダヤ主義を推進し、それがソ連での暮らしの一部だった。
ソヴィエト「帝国」の崩壊後、ロシアとイスラエルの関係は改善した。旧ソ連を構成した各地の共和国から、100万人以上のユダヤ系住民がイスラエルへ移住したことも、これに関係している。
最近ではプーチン氏率いるロシアは、イランをはじめ、イスラエルと敵対する諸国と接近した。これがロシアとイスラエルの関係悪化につながっている。
アメリカを非難
クレムリンはこの機に乗じて、ただでさえ普段からしきりにやっていることを、さらに大々的に展開できそうだと察している。つまり、アメリカを非難することだ。
ハマスのイスラエル攻撃以降、プーチン氏が繰り返す主な言い分は、「これはアメリカの中東政策が破綻しているという一例だ」というものだ。
ロシアは「アメリカの覇権主義」と呼ぶものを攻撃するのが常で、今回もこのパターンに当てはまる。
そして、「中東で一番の悪者はアメリカ」と主張し続けることで、ロシア政府はアメリカのイメージを損ないつつ、中東における自分たちの位置を向上させようとする。これがロシア流のやり方だ。
私はこれまで、今の中東情勢がロシアにとってどう有利に働くかを検討してきた。しかし、ロシアにとって危険もある。
「慎重に調整された不安定。これこそロシアにとってベストの状態」だと、前出のノッテ博士は言う。
「この危機でウクライナから世界の注目が離れるなら、アメリカの国内政治におけるイスラエルの重要性を思えばそのリスクは本物だが、そうなれば確かに、ロシアは短期的には現状から利益を得ることになる」
しかし、ハマスに武器と資金を提供するイランを含め、中東の広範囲が現在の戦争に巻き込まれるようなことになれば、それはロシアの利益につながらないとも、ノッテ博士は言う。
「ロシアは、イスラエルとイランの間の全面戦争を望んでいない。もし事態がその方向に進み、アメリカがイスラエルを徹底的に支援すると明らかになれば、ロシアは今以上にイラン寄りに進むしか選ぶ道はないと判断するだろう。しかし、それがロシアの本心なのかどうか、はっきりしない」
「プーチン氏は今なお、自分とイスラエルとのつながりを重視していると私は思う。味方する側を選ばなくてはならないような外交状況に移ることを、ロシアは望んでいないと思う。だが、この紛争が悪化すればするほど、ロシアに対する圧力は高まるかもしれない」
●ウクライナ東部で激しい戦闘続く ロシア軍は主導権を演出か 10/14
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカへの攻撃を続けていて、地元当局はロシア軍が「街を包囲しようとしている」として、危機感を示しています。
ウクライナ軍は東部や南部で反転攻勢を進め徐々に領土を奪還し、陣地を固めていると発表していますが、ロシア軍はドネツク州のアウディーイウカで激しい攻撃を続けています。
ウクライナのメディアは14日、アウディーイウカの市長が「5日間、敵は市街地周辺への攻撃を続けている。街を包囲しようとしている。新しい部隊が次々に送り込まれている」と述べたと伝えていて、市内には電気や水道が止まったままいまもおよそ1600人がいるとして強い危機感を示しています。
ただ、ウクライナ軍の参謀本部は14日、この地域の戦況についてロシア軍はウクライナ側の防衛を突破しようとしているが「成功していない」としています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は13日、ロシア軍が情報統制を強め、アウディーイウカ周辺での作戦についてSNSなどでの情報発信を制限するよう指示していると指摘し「プーチン政権は、局地的な動きをとらえて『ウクライナでの主導権を握っている』と見せようとしている」という見方を示しています。
こうした中、ドネツク州のポクロウシクでも13日、ロシア側による砲撃があり、地元の検察は1人死亡し、24人けがをしたと発表するなど、ウクライナ側での被害が続いています。

 

●ロシア軍 東部の州で攻勢強める ウクライナ側 街包囲に危機感 10/15
領土奪還を目指すウクライナ軍は南部ザポリージャ州で反転攻勢を続けていますが、これに対し、ロシア軍は東部の州で攻勢を強めていてウクライナ側は「街を包囲しようとしている」と危機感を示しています。
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部ドネツク州で拠点の1つ、アウディーイウカへの攻勢を強めていて、地元の市長は「敵は市街地周辺への攻撃を続けている。街を包囲しようとしている」と述べ、危機感を示しています。
また、市長はウクライナメディアに対してロシア軍がアウディーイウカを占拠して年末までにドネツク州全域の掌握をねらっているという見方を示しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は13日「ロシア軍が情報統制を強め、アウディーイウカ周辺での作戦についてSNSなどでの情報発信を制限するよう指示している」としてロシア軍に不利益な情報が流れないよう情報を制御しようとしていると指摘しました。
一方、ウクライナ陸軍のシルスキー司令官は「東部のハルキウ州クピヤンシクからドネツク州リマンにかけての戦線がここ数日で著しく悪化している。敵はクピヤンシクを包囲しようとしている」としてロシア軍が攻勢を強めていると明らかにしました。
ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で反転攻勢を続け、ロシア側が占領する拠点のトクマクの奪還を目指していますが、これに対し、ロシア軍は東部への攻撃を強化しているとみられます。
●ロシアとウクライナは、違うのか? 同じなのか? 10/15
ロシアとウクライナは、同じ国の中の地方の違いのように思っていたが、1年半にわたる戦争は終わらない。この両国の複雑でわかりにくい関係を、ChatGPTに説明してもらった。
ロシア人というが、実はウクライナ人
ロシアとウクライナの戦争が1年半たっても終わらない。残酷に破壊されたウクライナ市街地の写真が、いつになっても、新聞の紙面から消えない。
これほどの戦いを続けるのは、普通は、よほど憎み合っている国の間のことだ。しかし、両国の間でそうしたことをうかがわせるようなことは、これまでなかった。2014年のロシアによるクリミア半島併合も、あまり大きな世界的ニュースにはならなかった。
実際、日本人には、ロシア人とウクライナ人の違いを区別できない人が多い。いや、日本人だけではない。アメリカ人でもそうだ。
アメリカの大学教授にはユダヤ人が多い。これらの人々は、第二次世界大戦時にヨーロッパから逃れてきた人(あるいは、その子)が多い。とりわけ、ソ連や東ヨーロッパから来た人が多い。私の恩師であるヤコブ・マルシャック教授もそうだった。
これらの人たちをアメリカでは「ラッシャン・ジュー」と呼んでいた。「ロシア生まれのユダヤ人」という意味だ。
しかし、マルシャック教授はキエフの生まれなので、ロシア人ではなく、ウクライナ人だ。それにもかかわらず、ラッシャン・ジューの範疇に入っていたのは、アメリカ人が、ロシア人とウクライナ人の区別をしていなかったことを示している。
ロシア人とウクライナ人の区別をしないのは、日本人やアメリカ人だけのことではない。当のウクライナ生まれの人々が、気にかけていないようなのだ。
例えば、ロシアで活躍しているバレリーナには、ウクライナ出身の人が多い。その1人であるボリショイバレエのプリマバレリーナ、スヴェトラーナ・ザハーロワは、20年位前のビデオ・インタビューの中で、「私たちロシア人のバレリーナは」と言っている。
「ロシア対ウクライナ」でなく「皇帝対民衆」
同じようなことは、いくらでもある。
ソ連時代の映画監督セルゲイ・エイゼンシュテインの代表作は、「戦艦ポチョムキン」だ。これはロシア革命前夜に、ロシア黒海艦隊の戦艦ポチョムキン号で起きた水兵の反乱を描いた映画だ。
クライマックスは、オデッサにある大きな石作りの階段で、ロシア皇帝の軍隊が民衆を虐殺する場面だ。民衆が階段の下まで逃れると、馬に乗ったコサック兵が現れて、無残に殺戮する。
コサック兵は、ロシア皇帝の親衛兵だが、ウクライナ出身だ。だから、この場面で彼らは同胞を殺していることになる。
ただ、この映画の中では、「ウクライナ出身のコサックがロシアの皇帝のためにウクライナの民衆を殺している」という側面は無視されており、「皇帝の軍隊が民衆を殺している」という側面が強調されている。
これはその当時の感覚で、ロシアとウクライナの違いよりも、皇帝と民衆の違いの方が強く意識されていたことの結果だと言えるだろう。
いまの時点でこの場面を見ると、なんとも奇妙な感覚にとらわれる。
クリミア半島は、ロシア? ウクライナ?
今回のウクライナ・ロシア戦争で、クリミア半島は重要な地域だ。ここには、ロシアの軍港セヴァストポリがある。したがって、黒海を制覇し続けるために、ロシア本土からセヴァストポリまでの陸路を確保するのは、ロシアにとって決定的に重要なことだ。それを阻止するため、いまの戦争では、しばしばウクライナからの攻撃が行われている。
ところで、クリミア半島は、2014年にそれまでのウクライナ領からロシア領になった。
クリミア半島は、地理的にウクライナの1部のように見えるから、歴史的にウクライナ共和国のものであり、それが2014年に無理矢理ロシア領に編入されたのだと、私は考えていた。
ところが、実はそうではなく、この半島は、もともとロシア共和国の1部だったのだ。それが、1954年にロシアからウクライナに行政的に移管された。この移管は、ソ連共産党第一書記ニキータ・フルシチョフによって行われ、ウクライナ共和国の300周年を記念するものとして実施された。これは、ウクライナとロシアの間の友好と協力を強化するための象徴的な行為として行われたとされる。
複雑なロシアとウクライナの関係
これまで、ロシアとウクライナの差が強く意識されることはなかった。
したがって、歴史の教科書でも、しばらく前のものだと、クリミア半島がロシアとウクライナのどちらに属していたのかなどということは、書いていない場合が多かった。
ロシアとウクライナが違う国であるということは、今回のロシア侵攻によって、初めて多くの人が意識したことではないだろうか。実際、日本でも、この1年位の間に、ロシアとウクライナの関係に関する解説記事が急に増えた。
ロシアとウクライナは、歴史的に、対立し憎しみ合ってきたわけではなく、かといって、本当に友好的な関係でもなかった。この関係は、外から見ると、極めてわかりにくい。
しかし、その関係を正確に理解しないと、現在の世界で起こっている重大な事件を理解できない。
ChatGPTで複雑な関係がよくわかった
私が強調したいのは、ChatGPTがこうした問題にわかりやすく答えてくれたことだ。ロシアとウクライナの関係は複雑で捉え難いところが多い。これまでは、それを調べるのが面倒で、よくわからないままに放置していた。しかも、歴史の教科書や書籍にもこの複雑な関係をよく解説したものはなかった。
ところがChatGPTがこれらの問題に明確に答えてくれたのである。
ただし、ChatGPTの出力は誤っていることがあるので、検索エンジンなどで確かめる必要がある。それなら最初から検索エンジンで調べればよいではないかという意見があるかもしれないが、そうではない。
仮に書籍や資料に書いてあっても、このような複雑な問題に対する答えは、すぐには出てこない。書籍や資料には、著者が説明してしたいと思っていることが書いてあるので、読者が知りたいことが書いてあるわけでは必ずしもないからだ。
ところが、ChatGPTの場合には、こちらの質問に対してピンポイントで答えが返ってくる。このため、1945年のウクライナへの移譲のことなどがわかった。
いまの複雑な世界情勢を理解するのに、ChatGPTは強力な武器になってくれる。 
●ウ東部戦況「著しく悪化」 10/15
ウクライナ軍のシルスキー陸軍司令官は14日、北東部ハリコフ州クピャンスクから東部ドネツク州リマンにかけての前線の情勢について、「ここ数日で著しく悪化している」と認めた。ロシア軍は「クピャンスク包囲」を狙っているとの見方も示した。冬の到来を前に、両軍の攻防が激しさを増している。
ロシアのプーチン大統領も国営テレビのインタビューで、ウクライナ軍の反転攻勢に強力な防戦で対応していると表明した。クピャンスクやドネツク州アウディイウカといった地名も挙げつつ、「わが軍は(前線)のほぼ全ての地域、かなり広い地域で持ち直している」と強調した。
クピャンスクはロシアとの国境に近く、鉄道網の中心として知られる。アウディイウカは、ロシア軍が今月に入り総攻撃を仕掛けている「激戦地」(ウクライナのゼレンスキー大統領)。ロイター通信は15日、ロシア軍の攻撃で市民2人が死亡したと伝えた。
●プーチン氏"一帯一路"を擁護 10/15
ロシアのプーチン大統領は、17日に北京で始まる中国の経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議に合わせた訪中を前に、中国メディアのインタビューに応じた。一帯一路について「誰かに何かを強制することはなく、機会を提供するだけだ」と指摘。途上国への融資を通じ「債務のわな」を仕掛けていると批判される中国を擁護した。
タス通信が15日、インタビュー内容を伝えた。プーチン氏は一帯一路に関し、「植民地時代の重い遺産を持つ(西側)諸国が世界で取り組もうとしている多くの計画と違う」と述べた。ウクライナに侵攻し欧米と対立するプーチン政権は、「反植民地主義」を掲げて「グローバル・サウス」と呼ばれる新興・途上国の取り込みを図っている。
●ロシア軍、ウクライナ東部に集中攻撃 街包囲か 10/15
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、東部ドネツク州で攻勢を強めていて、ウクライナ側は、「敵は街を包囲しようとしている」と危機感を示しました。
ウクライナ当局は14日、ロシア軍が5日間にわたりウクライナ軍の防衛拠点の1つであるドネツク州アウディイフカに集中攻撃をしかけていると明らかにしたうえで、「敵は街を包囲しようとしている」と危機感を示しました。
ただ、14日にはアウディイフカ周辺で「8倍もの敵の攻撃を撃退した」として、ロシア軍の攻撃は成功していないと主張しています。
街には今も約1600人の民間人が残っていて、双方に多数の死者が出ているとみられます。また、地元の市長はウクライナメディアに対し、ロシア軍が年末までにドネツク州全域の占拠をねらっているとの見方を示しており、州都ドネツクから約20kmに位置するアウディイフカの攻防が焦点となっています。
●機能不全を露呈する国連 存在意義はいっそうなくなる? 10/15
世界で戦争が起これば、その先頭に立って解決を目指すのが国連安保理の最大の使命である。国連安保理の決定は全加盟国を拘束し、これまでも場合によって武力行使を容認する決定を行ってきた。その絶大な権力を持つ国連安保理ではあるが、ウクライナ戦争では全く何もできないでいる。
機能不全極まりない“安全保障理事会”
安保理には常任理事国5ヶ国と非常任理事国10ヶ国が参加するのだが、その5ヶ国とは米国、英国、フランス、そして中国とロシアなのだ。そして、拒否権といって、その5ヶ国のうち1ヶ国でも反対すればどんな決議も否決される仕組みになっており、国連安保理では中国やロシアを非難したり、制裁を課したりする決議は全て拒否権の行使(中国やロシアが行使する)によって廃案となるのだ。
国連は今後崩壊するのか
今後、米国と中国、ロシアとの大国間対立はいっそう激しくなっていく。これはすでに避けられない事実だ。そうなれば世界の平和と安全を担う安全保障理事会にはさらなる活躍が期待されるわけだが、安全保障理事会は争いの中心にある大国によって運営されているのだ。安全保障理事会には何も期待はできない。そうなれば、安全保障理事会に変わる組織を何とか作らなければならないが、その可能性はゼロに近い。よって、国連とは別に今後はNATOの役割がいっそう広がる可能性があるが、NATOが対象とする範囲は北大西洋であり、要は欧米外の問題に介入する組織ではない。このままの状態が続けば、国連の崩壊も徐々に現実問題となってくるだろう。
●ウクライナ支援揺るがず 「EU結束維持に貢献」 10/15
東欧ブルガリアのガブリエル副首相兼外相は、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの「支援疲れ」が物価高騰などを背景に欧米で懸念される中、ブルガリアは経済的問題との「ジレンマはない」と明言し、支援継続の姿勢は揺るがないと強調した。首都ソフィアで15日までに共同通信の単独インタビューに応じた。
欧州連合(EU)では9月にスロバキアの議会選でウクライナへの軍事支援停止を訴えた左派が勝利。ポーランドが安価なウクライナ産穀物の輸入規制を巡り、同国と一時激しく対立した。ガブリエル氏は「EUの結束維持に貢献することが重要だ」と語った。
ロシアが黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意を7月に離脱したことで「食料価格のインフレに拍車をかけ食料安全保障の状況を悪化させた」と批判。ブルガリア政府がポーランドなどと異なり、穀物の輸入規制を9月に延長しなかったことに関し、困難な時に協力し合うのが「真の連帯だ」と語った。
ただ「農家が心配し抗議もあった」とも言及し、政府にとって「簡単な決断ではなかった」と振り返った。

 

●プーチン大統領「ウクライナの大攻勢は完全に失敗…ロシア、最前線で成果」 10/16
ロシアのプーチン大統領がウクライナの大反撃を「完全に失敗した」と評価し、ロシア軍が最前線で成果を出していると主張した。
プーチン大統領は15日、ロシア国営放送の記者がテレグラムで一部公開したテレビ番組のインタビューで「遅々として進まないとされた反撃は完全に失敗した」と話した。
ウクライナは6月にロシアに奪われた領土を奪還するとして大反撃に出たが、膨大な地雷畑と塹壕などで構成されたロシアの防衛網を突破するのに苦戦しているという。
プーチン大統領は激戦が続くウクライナ東部アウディーウカに対しては「相手は新たな積極的攻勢作戦を準備している。われわれはそれを見ていて知っている」として自信を示した。
彼は「接触線全体に沿って起きることを『積極的防衛』と呼ぶ。わが軍はほぼすべての地域で陣地を改善している。非常に広い地域」と評価した。
●ロシア軍 東部で攻勢強める ウクライナ側拠点包囲に危機感 10/16
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は東部で攻勢を強めていて、ウクライナ側は拠点が包囲されることへの危機感を示しています。一方、プーチン大統領は戦線でロシア軍が有利な状況になっていると強調しました。
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の拠点の1つアウディイウカへの攻勢を強めていて、地元市長はウクライナメディアに対し、「敵は街を包囲しようとしている」と危機感を示しました。市長はロシア軍が年末までにドネツク州全域の掌握を狙っているとの見方を示しています。
また、ウクライナ陸軍のシルスキー司令官はハルキウ州クピャンスクからドネツク州リマンにかけての戦線が「ここ数日で著しく悪化している」とし、ロシア軍がクピャンシク包囲を狙っていると指摘しました。
一方、プーチン大統領は15日に公開された国営テレビのインタビューで、ウクライナ軍の反転攻勢について「停滞しているとされていたが、完全に失敗した」と主張。そのうえで、アウディイウカやクピャンシクなどの地名を挙げて、「われわれの軍はほぼすべての地域で陣地を持ち直している」と述べ、ロシア軍が有利な状況になっていると強調しました。
●ロシアと武器前払い取引、中国とは新鴨緑江大橋連結…北朝鮮戦略 10/16
「対米長期戦」を予告した北朝鮮が中国・ロシアと密着しながら戦略的生存に動いている。ロシアに通常兵器を運送する状況が捕捉され、北朝鮮新義州(シンウィジュ)と中国遼寧省丹東をつなぐ新鴨緑江(アムノッカン)大橋の開通が迫っているという見方も出ている。
米ホワイトハウスは13日(現地時間)、北朝鮮がロシアと隣接した羅津(ナジン)港からロシアに軍事装備と弾薬を送った可能性があると明らかにした。米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官はこの日の記者会見で「北朝鮮が1000個以上のコンテナ分量の軍事装備と弾薬をロシアに供与した」とし、ロシアが羅津港の埠頭からコンテナを運送する場面が入った衛星写真を公開した。
写真には9月7、8日に羅津港埠頭にコンテナが積まれた場面と、同月12日にロシア国籍船「アンガラ号」がロシア太平洋艦隊の施設が並ぶドゥナイ港にコンテナを運んで停泊している場面がある。また10月1日にはコンテナを積んだ列車がロシア・チホレツクの弾薬庫に到着した場面などが衛星写真で捕捉された。
米国が公開した諜報が事実なら、北朝鮮は従来の対外交渉パターンとは異なる果敢な取引に入ったという意味と解釈できる。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は米国・韓国と交渉する場合は選択肢さえも先に公開するのを避ける姿を見せたが、ロシアとの取引ではプーチン大統領と首脳会談が行われる前から武器を送ったからだ。国際制裁で経済的な困難に直面する北朝鮮と、ウクライナ戦争で武器が不足するロシアの利害が一致したのだ。
新型コロナ拡大前まで中朝の最大貿易拠点だった新義州と丹東をつなぐ新鴨緑江大橋付近では最近、車両の移動量が増え、開通が迫っているという分析があった。新鴨緑江大橋は中国が22億元(約440億円)を投入して2014年に完工したが、北朝鮮が新義州方向につながる接続道路の建設を特別な説明もなく延期し、開通が遅れていた。
米国の北朝鮮分析サイト38ノースは衛星写真を分析し、先週、新鴨緑江大橋で車両の活動が増えたとし、近いうちに完全に開通するという見方を示した。新鴨緑江大橋一帯を12日に撮影した衛星写真には、中国税関区域でバスと推定される大型車両が接近する場面があり、北朝鮮地域でもクレーン・トラックなどの車両や建築資材と推定される物体が捕捉された。
こうした状況は中露朝の密着を誇示しようとする北朝鮮の内心が反映されているという分析がある。露朝が密着する中でも、中国は米国との関係改善などを考慮して中露朝軍事協力には一線を画するような態度を見せ、北朝鮮が各個撃破式の接近をしたというのが専門家らの説明だ。
原州漢拏大のチョン・デジン教授は「不必要に関与しないという中国側の雰囲気が感知された中、北が共通関心事の経済・貿易を中心に関係の回復に入る姿」とし「中国が最近、収監中の脱北者の送還に入ったため、これをモメンタムにして両国関係を深めようとするだろう」と話した。
●米議会のロ中同時戦争準備提言、プーチン氏は「ナンセンス」と一蹴 10/16
ロシアのプーチン大統領は、米議会の超党派委員会がロシアと中国に対する同時戦争に備えるべきだと提言したことについて「ナンセンスだ」と一蹴した。ただ米国がロシアと戦おうとすれば、ウクライナにおける戦争は「完全に異なるレベル」に移行するだろうと警告した。
米議会の戦略態勢委員会は12日、米国は核保有国のロシアと中国との同時戦争に備え、核戦力の現代化と通常戦力の増強を進めるべきだなどとした報告書を公表した。
これを巡りプーチン氏は「われわれは平和を欲している」と強調した上で「ロシア、中国と戦うなどはばかげており、真剣だとは考えられない。単に互いが威嚇し合っているということだと思う」と述べた。
プーチン氏は「核保有の超大国同士の戦争となれば、話は全く違ってくる。まともな思考の持ち主なら、そんなことを考えるとは思わない。だが本当にそうした考えが彼らに去来するなら、われわれに警戒心をもたらすだけだ」と説明。米国など西側がロシアに戦いを仕掛けるならば、ウクライナでの戦争はこれまでと様相が全く違ってくると付け加えた。
●アゼルバイジャン大統領 ナゴルノカラバフ訪問 国旗を掲揚 10/16
旧ソビエトのアゼルバイジャンのアリエフ大統領は、隣国アルメニアとの係争地、ナゴルノカラバフの中心都市を訪問して国旗を掲げ、先月起こした軍事行動で勝利宣言したことを受けて、この地域の統合を進める姿勢を強調するねらいとみられます。
アゼルバイジャンとアルメニアの係争地のナゴルノカラバフでは、アルメニア系の勢力が「共和国」として独立を宣言し支配してきましたが、アゼルバイジャンが先月起こした軍事行動でアルメニア側が敗北したことを受けて来年1月1日までにアルメニア側の行政組織を解体する手続きが行われています。
こうしたなか、アゼルバイジャン大統領府は15日、アリエフ大統領がナゴルノカラバフの中心都市ハンケンディを訪問して国旗を掲げ、「これは歴史的な出来事だ」などと演説したと発表しました。
ハンケンディは、アルメニア側が「ステパナケルト」と呼ぶ行政の中心都市でしたが、アリエフ大統領としては軍事行動で勝利したことを受け、この地域の統合を進める姿勢を強調するねらいとみられます。
一方、アゼルバイジャンとアルメニアの対立を巡っては、ロシアのプーチン大統領が、今月13日に行われた旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の首脳会議の場などを通じて、両国の仲介役としてモスクワで協議を開く用意があるなどと呼びかけています。
ただ、これまでロシアを後ろ盾としてきたアルメニア政府は今回の敗北を受けてロシアへの不満を強め欧米側に接近する姿勢も見せていて、この地域ではロシアの影響力の低下も指摘されています。
●ロシア黒海艦隊、防御強化か ウクライナは東部「撃退」 10/16
英国防省は14日、ウクライナに侵攻するロシアの黒海艦隊が8、9月のウクライナの攻勢を受け、防御態勢を強化しているとみられるとの分析を発表した。ミサイル艦や潜水艦などの戦力を、司令部があるクリミア半島セバストポリからロシア南部ノボロシースクなど東に移動させているという。
ウクライナ軍参謀本部は15日、ロシア軍が東部ドネツク州のアブデーフカ付近での攻撃を継続しているが「撃退した」と主張した。米シンクタンク、戦争研究所は14日、米国とウクライナ当局者の話から、ウクライナ側がアブデーフカ周辺への攻撃を予期し、準備を進めていた可能性に言及した。
ウクライナは無人機(ドローン)やミサイルによる攻撃などで黒海の北西部では主導権を握ってきた。英国防省は、黒海艦隊が巡航ミサイルでウクライナを攻撃しており、今後も黒海の東部からミサイル攻撃を継続するとみられると指摘した。
一方、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ハリコフ州クピャンスク、南部ザポロジエ、アブデーフカの各方面でロシア軍が「積極的防衛を行い、形勢を改善した」と主張した。国営テレビ記者が15日、通信アプリに発言動画を投稿した。
AP通信は15日、ロシア軍の攻撃により、過去24時間にドネツク州やハリコフ州、南部ヘルソン州で計6人が死亡したと報じた。
ロシア国防省は15日、ウクライナと国境を接する西部2州などに14日夜から15日未明にかけてウクライナの無人機27機による攻撃の試みがあり、防空システムで迎撃して阻止したと発表した。うち18機がクルスク州、2機がベルゴロド州、その他は不明。クルスク州のスタロボイト知事は、クルスク市内など各地に破片が落下したが負傷者はいないと主張した。
●プーチン大統領、習近平・国家主席は「信頼できるパートナー」 10/16
中国の「一帯一路」構想の国際会議が開かれるのを前に、ロシアのプーチン大統領は中国国営メディアのインタビューに応じ、「一帯一路」構想を称賛し、習近平国家主席を「信頼できるパートナー」と称えました。
中国国営の中央テレビは15日、プーチン大統領が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「実りある成果を上げてきた」と称賛するインタビューを放送しました。
インタビューでプーチン大統領は、「中国が他国を“支配しようとしている”と見る人がいるかもしれないが、それは違う」とした上で、「中国の協力の良いところは他者への押しつけや強制がないところだ」と中国を支持する考えを示しました。
また、プーチン大統領は習近平国家主席について、「冷静で、実務的な信頼できるパートナーだ」と称えました。
プーチン大統領は17日から開かれる「一帯一路」の国際会議にあわせて中国を訪問する予定で、習近平国家主席との緊密さをアピールするものとみられます。
● プーチン大統領 中国との連携強化に意欲示す 中国国営テレビ 10/16
ロシアのプーチン大統領は、17日から中国ではじまる「一帯一路」の国際フォーラムにあわせて北京を訪問するのを前に、中国の国営テレビのインタビューで、習近平国家主席との友好関係をアピールしながら、中国との連携の強化に意欲を示しました。
ロシアのプーチン大統領は、去年2月にウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、初めて中国を訪問し、習主席が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムに出席するとともに、習主席との首脳会談に臨む予定です。
プーチン大統領は、中国訪問を前に国営の中国中央テレビのインタビューに応じ、15日、その内容が放送されました。
この中でプーチン大統領は習主席について「冷静で実務的な、信頼できるパートナーだ」とたたえ、個人的な友好関係をアピールしました。
そして「一帯一路」の構想について「協力の枠組みで自分の意思を他者に押しつけていない。植民地主義的な色彩を帯びた計画とは決定的に違う」と述べ欧米を念頭にした比較を持ち出しながら「一帯一路」を支持し、中国との連携の強化に意欲を示しました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官はロシアの国営テレビに対して「ロシアも中国も国際情勢において重要な役割を果たしている」と述べ、習主席との首脳会談では国際情勢が議題の中心になるという見通しを示しました。
●米国・中央アジア初の首脳会談が見せた課題 10/16
国連総会の機会にバイデン米大統領は中央アジア5カ国との首脳会談(C5+1)を開催した。これについて、この地域を専門とする研究者のカムラン・ボハリが、9月15日付けウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘The U.S. Should Upgrade Its Central Asia Strategy’で、米国はこの際カザフスタンをはじめとするこの地域に対する戦略を更に強化すべきであると論じている。要旨は次の通り。
米国にとって初めての中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタン)とのサミット(C5+1)は、長い間待たれていたものであり、この枢要な地域における重要な一歩となる可能性がある。
米国のこの地域への影響力は、歴史的にロシアや中国よりもはるかに劣っているが、ウクライナ戦争によるロシアの弱体化と中国の景気後退は、米国にとって中央アジアとの関係を緊密化し、これまで孤立していたこの地域を西側諸国に引き寄せ国際社会に招き入れる好機である。
この地域の各国は、国内的、政治的、経済的な変革期を迎えており、地域最大の経済大国であるカザフスタンは、切望されている改革に向けて先頭に立っている。さらに、カザフスタンは、核不拡散、テロ対策、紛争解決、国際協力など、さまざまな分野で国際的なプレーヤーとしての地位を確立しつつある。
トカエフ大統領は昨年秋、マルチベクトル外交ドクトリンを宣言した。つまり、ロシア、中国、米国、欧州連合(EU)など、世界のあらゆる主要国との緊密な関係を目指すということだ。
カザフスタンは、米国がウクライナでの和解を模索し、戦後の不透明な時代におけるロシアとの関係を管理するのを助けることができるし、同様に、中国との競争激化への対応も助けることができる。
カザフスタン政府がこのような役割を果たすためには、ロシアと中国からの圧力に耐えるための2つの面での米国の支援が必要である。第一に、米国はカザフスタンの政治改革を支援し、メディアの自由を強化すべきだ。カザフスタンの民主化は、他の中央アジア4カ国にとり、中国、ロシア、アフガンの影響から脱するためのモデルとなりうる。
第二に、カザフスタンはカスピ海横断国際輸送回廊(通称:中央回廊)を通じて、この地域と世界経済をつなぐ役割を担っている。この輸送大動脈は、パイプライン、鉄道、高速道路、光ファイバーケーブルなどのチャンネルを通じて東西を結ぶ。この回廊は中央アジアの経済発展を促進し、国際的なエネルギーやその他の貿易の流れに貢献するだろう。
米国は、投資、貿易、技術、グローバル・リーダーシップを通じて、回廊の成功を支援することができる。より広く言えば、米国は、中国やロシアを追い抜く戦略の追求により、中央アジアへの戦術的アプローチをアップグレードする必要がある。
米国と中央アジア5カ国による史上初の首脳会談(C5+1)は、9月19日に開催された。会談後バイデンは、主権、独立、領土保全に関する原則はこれまで以上に重要であるとし、この地域での今後の協力の方向性として(1)テロ対策の強化、(2)民間部門が開発に貢献できるための新たなビジネス・プラットフォームの設立とエネルギー安全保障とサプライチェーン強化のための重要鉱物資源に関する新たな対話の可能性、(3)障害者の権利に関する新たなイニシアティブの3点を成果として列挙する簡単な声明を発表した。
(1)のテロ対策については既にこれまで国境警備に関する支援を行ってきており、(2)の鉱物資源に関する対話は注目されるがこれからその可能性を議論するということに過ぎない。カザフスタンとの二国間の首脳会談であればもう少し踏み込んだ成果の発表もあり得たかもしれないが、歴史的な首脳会談の成果としてはいかにも地味に見える。
特に、本年5月に中国が西安で主催した中国・中央アジア・サミットにおいて、習近平が38億ドルの経済支援を行う旨発表し、共同宣言と成果リストを発表し、100を超える協議文書が署名されたこととは比較しようもない。また、習近平は、別途5人の大統領との個別会談も行った。
上記の論説は、地域のリーダー国であるカザフスタンの政治改革を支持すべしと論じているが、注意すべきは他の4カ国大統領はこれをモデルとは考えているわけではなく、むしろカザフスタンの民主化への動きによりその孤立を招きかねないことであろう。
また、論説は、カスピ海経由の大回廊の構築を米国が支持すべきだと言う。確かに、ウクライナ戦争の影響で、ロシア南部経由の輸送ルートやパイプラインが機能不全となり、カザフスタンの繁栄にとりカスピ海中央回廊の重要性は増している。しかし、これは中国にとってはまさに一帯一路の大動脈にあたる部分であるので、米国の関与は容易ではないだろう。
米国にとってより重要なのは、この地域の鉱物資源であり、またカザフスタン側は、同国経済に貢献する何らかの投資をしてもらいたいというところだろう。それがバイデンの記者発表にも反映された今後の方向性であろう。
中国・ロシアにいかに対抗するか
論説は、米露関係においてカザフスタンの何らかの役割が期待できると示唆しているが、プーチンとトカエフの関係は相当悪化しており、ウクライナでの停戦や戦後秩序に対する貢献も当面期待できるとは思えない。
中央アジア諸国は、欧米の投資は歓迎するであろうが、ロシアの拡張主義に対する警戒感と、過度の中国への依存も避けたいという構図の中で、そのバランスをとる限度で欧米との関係緊密化を求めているのである。米国としてはそのような機会を何とか最大限に生かして関係を強化していくことが重要である。
上記の論説はやや楽観的に過ぎ、そう簡単に成果は期待できないように思われる。いずれにしても、米国が中央アジア外交に積極的に向き合おうとしていることは、地政学的なバランスから言えば大変良いことであるのは間違いない。
●中東紛争拡大のリスク、米高官が警告 イランやヒズボラの介入警戒 10/16
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は15日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突が拡大する可能性があるとして警戒感を示した。
米CBSに「紛争がエスカレートし、北部で2つ目の戦線が開かれ、イランが関与するリスクもある」と述べた。
オースティン米国防長官は14日、東地中海に空母打撃群を追加派遣すると発表。「イスラエルに対する敵対的な行為やこの戦争を拡大しようとする試みを抑止するため」と説明した。
イランのアブドラヒアン外相は15日、中東の衛星テレビ、アルジャジーラに対し「ガザ地区での残虐行為をやめなければ、イランは傍観者のままでいることはできない」というメッセージをイスラエルに伝えたと述べ、イランが介入する可能性を警告。また「戦争が拡大すれば米国にも大きな損害が及ぶだろう」とけん制した。
イスラエル北部の国境では既に暴力がエスカレートしている。イランと関係が近く、レバノン南部を拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員は15日、イスラエル軍の駐屯地や国境の集落を攻撃し、イスラエル側も反撃した。
サリバン氏はイスラエルとウクライナへの新たな軍事支援の規模について、報じられている20億ドルよりも「かなり大きな」額になるとの見方を示し、バイデン大統領が今週、議会と集中的な協議を行う予定だと述べた。
当局者によると、米政府はガザの人道危機緩和にも動いている。サリバン氏はNBCに、米国が民間人のために地上攻撃を遅らせるようイスラエルに求めているか問われ、イスラエルの軍事計画に干渉していないと回答。ただ、いかなる行動も戦争法に従うべきであり、民間人が安全な場所に避難する機会を確保すべきだとイスラエルに伝えていると述べた。
また、ガザの住民が食料や水、安全な避難所を確保できるようにしたいと強調。CNNのインタビューで、イスラエル当局がガザ南部で水の供給を再開したと述べた。
●3つの戦争に直面する世界経済…スタグフレーション現実化か 10/16
戦争の恐怖がまたしても世界経済にとっての問題として頭をもたげている。昨年2月に始まったロシアとウクライナの戦争もまだ終わっていない中、イスラエルとハマスの武力紛争は、ただでさえ脆弱な世界経済に暗い影を落としている。
中東の地政学的リスクは常に世界経済にとって火薬庫だった。中東地域の紛争が原油価格不安を刺激してきたからだ。さらにサウジアラビアが主導するOPECプラスの減産政策により、原油価格が1バレル当たり90ドル水準で動いている時期に起きた今回のイスラエルとハマスの紛争は、原油価格の高騰によるインフレ圧力の懸念を増幅させる火薬庫となりうる。それが物価高騰と景気低迷が同時に起こるスタグフレーションを現実化させうるからだ。
しかし懸念とは異なり、グローバル株式市場は上昇ラリーを続けており、原油価格も下落するという、意外な現象が演出されている。短期的な状況だけで中東の事態を評価するのは早計だと思われるが、金融市場がかつてとは異なる反応を示している背景には注目する必要がある。
第1に、戦争拡大の可能性が低いこと。イスラエルが地上戦を準備するなど、戦争は長期化する兆しを示しているが、金融市場が懸念する主な原油生産国とイスラエルとの全面戦争のシナリオが現実化する可能性は低いように思える。これは、以前の中東戦争の例とは異なり、中東地域内の原油生産とホルムズ海峡を通じた原油輸送に対する大きな打撃は当面ないことを示唆する。今回の事態で主な産油国の集まりであるOPECプラスのさらなる減産がむしろ難しくなったことも、原油価格下落の要因だ。
第2に、安全資産選好と景気後退が懸念されることによる金利の下落だ。今年9月の米国の連邦公開市場委員会(FOMC)以降、米国債の金利を中心として主要国の国債金利が続騰していることで、金融市場は2013年の緊縮発作(テーパータントラム)と似たような梗塞現象に直面した。韓国も株価、債券価格、ウォンの価値が同時に下落するトリプル安現象に苦しめられた。このように、金利の続騰にお手上げ状態だったグローバル金融市場において、中東戦争リスクは国債金利上昇にブレーキをかける役割を果たした。グローバル資金の安全資産選好現象と景気後退に対する懸念の重なりによって国債金利が急落したことが、株式市場をはじめとするグローバル金融市場にとっては恵みの雨となった。
しかし、戦争リスクを過小評価してはならない。世界で事実上3つの戦争が展開されることになったからだ。ロシアとウクライナの戦争、イスラエルとハマスの戦争、そして技術覇権をめぐる米中覇権戦争によって、世界経済は物理的ショックと経済的ショックに同時にさらされている。2024年の大統領選挙を控えて増幅している米国内の政治的対立も、もう一つのリスク要因だ。
国際通貨基金(IMF)は来年の世界の成長率を2.9%と見通しを示した。米国を含めた主要7カ国(G7)の来年の国内総生産(GDP)成長見通しも、大半が0〜1%台だ。非常に異例の低成長見通しだ。中東リスクが早期に沈静化すれば幸いだが、既存の戦争(ロシアとウクライナ、米中技術覇権戦争)に加え、中東戦争まで長期化または拡大すれば、世界経済はゼロ成長にも直面しうる。世界経済が1980年代初めのようなスタグフレーションに陥る可能性もあることを警戒しなければならない。
● クリミア大橋の復旧工事が完了、4車線通行が再開… 10/16
ウクライナ南部ヘルソン州で14〜15日、ロシア軍の攻撃による住宅やインフラ(社会基盤)施設など民間施設の被害が相次いだ。AP通信によると、攻撃で2人が死亡し、3人が負傷した。一部地域で停電や断水が起きている。
ヘルソン州当局高官は15日、戦闘機による空爆を含むロシア軍の攻撃を繰り返し受け、インフラ施設に被害が出ているとSNSで明らかにした。AP通信によると、東部ハルキウ州でも14〜15日にロシア軍による攻撃があり、住宅が破壊されて2人が死亡した。
一方、露タス通信は14日、ウクライナ南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ「クリミア大橋」の復旧工事が完了し、4車線での通行が再開されたと報じた。予定より18日早い復旧という。クリミア大橋は7月に攻撃を受け、一部車道区間が完全に破壊されるなどの被害が出た。ウクライナの情報機関は米メディアに対し、攻撃が海軍との合同作戦だったことを認めていた。
●ガザ地区人道危機深刻化 人道回廊など外交動きも 10/16
イスラエルによる大規模な地上侵攻への緊張が高まる中、国連によりますと、パレスチナのガザ地区では少なくとも100万人が自宅を追われるなど人道危機が深刻化しています。一方、アメリカの国務省は中東を訪問中のブリンケン国務長官が16日に再びイスラエルを訪れると明らかにし、人道回廊の設置などについて関係国の外交の動きが活発化しています。
バイデン大統領 ガザ地区占領は「大きな過ちだ」反対の姿勢
アメリカのバイデン大統領はCBSテレビのインタビューの中で、イスラエルがガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスに攻撃を続けていることに支持は表明しつつも、大規模な軍事作戦によってガザ地区を占領することについては「大きな過ちだ」と述べ、反対する姿勢を示しました。
これは、15日に放送されたCBSテレビのニュース番組「60ミニッツ」のインタビューでバイデン大統領が述べたものです。
この中で、バイデン大統領は、ガザ地区でのイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの衝突で、多くのパレスチナ市民が巻き込まれる中「停戦すべき時か」と質問され「イスラエルは対応しなければならない。ハマスを攻撃しなければならない」と述べ空爆を続けるイスラエルを支持する姿勢を改めて示しました。
一方、バイデン大統領は、イスラエル軍が1967年の第3次中東戦争の時と同じように、ガザ地区を再び占領することについては「大きな過ちだ」と述べ、反対する姿勢を示しました。
また、バイデン大統領は、イスラエルと、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの双方に同時に支援を続けることができるかどうかについては「アメリカは世界史上、最も強力な国家だ。双方に対応できる」と強調しました。
ガザ地区“1週間で少なくとも100万人が避難余儀なくされる”
イスラエル軍とハマスの衝突は15日も続き、ガザ地区の保健当局によりますとこれまでに2670人が死亡した一方、イスラエル側では少なくとも1400人が死亡し、双方の死者は4000人を超えています。
パレスチナ難民を支援するUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は、15日、ガザ地区ではこの1週間で少なくとも100万人が自宅を追われて避難を余儀なくされたと発表しました。
少なくとも40万人はUNRWAの学校や建物に避難しているものの、避難場所としての設備が整っておらず衛生環境も悪いということです。
また、OCHA=国連人道問題調整事務所によりますとガザ地区南部の一部の地域でイスラエルからの水の供給が再開されたものの、海水から真水をつくるための施設は燃料不足で稼働できておらず、脱水症状などの懸念は続いているということです。
さらに、WHO=世界保健機関によりますと、15日、ガザ地区の北部にある4つの病院が、損傷したり標的にされたりして稼働できなくなっているなど、ガザ地区では人道状況の悪化が深刻化しています。
一方、アメリカの複数のメディアは政府関係者の話としてバイデン大統領が今週、イスラエルを訪問する可能性について両国の間で協議が行われていると伝えました。
これについてホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は「大統領の訪問について発表できるものはない」とコメントしています。
このほか、アメリカの国務省は先週、イスラエルを訪問したブリンケン国務長官が16日、再びイスラエルを訪問すると発表しました。
ブリンケン長官は、今回の中東訪問でエジプトなどと協議し、ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所が支援物資を運び込むために開放される予定だと明らかにしています。
イスラエルへの再度の訪問では民間人の避難のための人道回廊の設置などについて改めて協議を行うとみられていて、大規模な地上侵攻が懸念される中、民間人への被害を最小限にするための関係国の外交の動きが活発化しています。
米メディア“米大統領のイスラエル訪問可能性を両国が協議”
アメリカの複数のメディアは15日、両国の間でバイデン大統領が今週、イスラエルを訪問する可能性について協議が行われていると伝えました。
このうちニュースサイト「アクシオス」は、両国の政府関係者の話としてバイデン大統領が14日にネタニヤフ首相と電話会談を行った際に招待を受けたとしています。
また、エジプトの当局者の話としてシシ大統領が今週後半にパレスチナ情勢について話し合う国際会議を主催し、この場にバイデン大統領を招待しているということです。
ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議の報道官は「大統領の訪問について発表できるものはない」とコメントしています。
国連総長“人質解放と人道支援は交渉材料になってはならない”
国連のグテーレス事務総長は15日、声明を出し「中東情勢が奈落の底に突き落とされようとしているいま、私の義務は2つの強力な人道的アピールを行うことだ」とした上で、「ハマスに対しては無条件で人質を直ちに解放するよう求める。イスラエルに対しては、ガザの人たちのために、人道支援物資の迅速かつ無制限な搬入を認めるよう求める」と訴えました。
そして、人質の解放と人道支援について「これらの2つは交渉材料になってはならない。それぞれ正しいことであり、実施されなければならない」と強調しました。
WHO “ガザ地区北部の4病院 稼働できず”
WHO=世界保健機関は15日、ガザ地区の北部にある4つの病院が、損傷したり標的にされたりして稼働できなくなったと発表しました。
また、イスラエル軍からガザ地区内の21の病院に対して退避するよう通告があったということです。
WHOは「医療従事者や医療機関、患者を守るためあらゆる予防策を取らなければならない」と強調するとともに「病院からの退避を強制することは集中治療や救命手術が必要な人たちにとって死刑宣告となり、国際人道法に違反する可能性がある」と批判しています。
ガザ地区とエジプト境界の検問所 大勢の市民が集まる
パレスチナのガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所には、ガザ地区から出ようとする大勢の市民が集まっています。
ラファ検問所は現在、原則、通行出来ない状況になっていて15日に撮影された現地からの映像では検問所が開くのを待つ大勢の人々が大きな旅行カバンなどの荷物のそばに座り込んでいます。
ドイツ国籍を持つという女性は「娘がドイツ外務省に連絡し、帰れるようにしたというので来てみたところ、すべて閉まっていた。助けてほしい。とにかくここを去りたい」と話していました。
また、アメリカ国籍を持つという女性は「家屋が破壊され人々ががれきの下で亡くなる状況を目の当たりにすると、ここまで来られたことで命をもうひとつもらった気がします。アメリカに戻りたい」と話していました。
一方、ラファ検問所に近いエジプト側の街では、ガザ地区への人道支援物資を積んだ大型トラックが列を作って待機しています。
米国務長官 “支援物資搬入のため検問所開放される予定”
中東を訪問中のアメリカのブリンケン国務長官はエジプトの首都カイロで15日、記者団に対し、アラブ各国の首脳らとの会談について「すべての国と考えを共有できた。各国は、衝突が拡大しないようにそれぞれの影響力を行使するということだった」と述べ、一連の会談の成果を強調しました。
またブリンケン長官は、ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所についてエジプトのシシ大統領と協議を行ったと明らかにしたうえで「国連やエジプト、イスラエルなどとともに支援を必要とする人々に届けられるための態勢を整えている」と述べ、ガザ地区に支援物資を運び込むため検問所が開放される予定だと明らかにしました。
また16日に再びイスラエルを訪問することについて「この数日間の訪問で聞いたことを共有し、今後の道筋について協議する機会としたい。困難な状況だが、この状況を乗り越えようという決意は皆同じだ」と述べました。
さらにブリンケン長官は「イスラエルにはハマスの攻撃から自国を守り、二度と同じことが起きないようにする権利、そして義務がある」と述べた一方で「イスラエルがこれをどのように行うかが重要だ。民間人を傷つけないようあらゆる予防策をとらなければならない」と強調しました。
イスラエル軍報道官 “人質155人にのぼる”
イスラエル軍の報道官は15日、これまでにガザ地区でハマスに捕らわれていることが確認できた人質は155人にのぼると発表しました。
また、イスラエル軍がガザ地区の北部の住民に対し南部に退避するよう通告していることについては「ハマスは民間人を人間の盾にしようと躍起になっているが、これまでに60万人以上の住民が南部に移動した」として、退避は進んでいると強調しました。
英首相とヨルダン国王 ガザ地区への人道支援について協議
イギリスの首相官邸はスナク首相が15日、イギリスを訪れたヨルダンのアブドラ国王と会談し、ガザ地区への人道支援などについて協議したと発表しました。
両首脳はイスラエル政府やパレスチナ暫定自治政府だけでなく、中東地域の指導者たちとも協力して事態がさらにエスカレートするのを防ぐための外交努力について話し合ったとしています。
またガザ地区の民間人を保護するための措置を講じるとともに支援が確実に届くようにすることの重要性について合意したとしています。
ネタニヤフ首相「怪物を根絶やしにする準備できている」
イスラエル軍とハマスの衝突は15日も続き、ガザの保健当局によりますと、これまでに2670人が死亡した一方、イスラエル側では少なくとも1400人が死亡し、双方の死者は4000人を超えています。
ネタニヤフ首相は15日、今回の事態を受けて野党とも連携して新たに樹立した緊急政府の初めての閣僚会議を開きました。この中でネタニヤフ首相は「兵士たちは、いつでも怪物を根絶やしにする準備ができている」と述べ、ガザ地区への大規模な地上侵攻を強く示唆しました。
イスラエル軍のハレビ参謀総長も兵士らを前に「ガザ地区に入り、ハマスのすべての指揮官や戦闘員を倒すことはわれわれの責任だ」と述べています。
さらにイスラエル軍は15日、ハマスの治安機関で南部を管轄する指揮官を殺害したと発表しました。
ガザ地区から10キロあまり離れたイスラエル南部のアシュケロン郊外では15日、100を超える戦車や軍用車両が集結し、兵士らが車両を整備したり、物資を運び込んだりしていました。イスラエルに対するハマスによるロケット弾攻撃も繰り返されていて、市内のホテルなどに避難する住民の姿も見られました。
ただ、避難先のホテルもロケット弾の被害を受けていて、ホテルの責任者の男性は「われわれはガザ地区からの攻撃を受けてきた、今回はそれが終わることを望みます」と話していました。
一方、ガザ地区の保健当局は、空爆によって病院が破壊されたり、医療従事者が死亡したりして、けが人の手当てができないケースが増えていると訴えています。
また、地元の救助団体は15日、イスラエル軍の空爆で倒壊した建物のがれきの下に閉じ込められるなどして1000人以上の行方がわからなくなっているとしています。
ガザ地区では飲み水や医薬品も著しく不足し、人道状況の悪化が深刻化していて、民間人の犠牲者が増え続ける中、地上侵攻が始まればさらなる被害の拡大が懸念されます。
仏外相 “国際人道法を順守 民間人保護が必要”
イスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相などと会談したフランスのコロナ外相は15日、現地で記者会見し「イスラエルにはハマスとその危険から自らを守る権利があるが、公正でなければならない。国際人道法を順守し、民間人を保護する必要がある」と述べ、空爆を続けるイスラエルに民間人への被害を最小限にとどめるよう求めました。
また、多くの住民が避難しているガザ地区の南部にも食料などが届けられるべきだとしています。
さらに、イスラム組織ハマスによる攻撃で死亡したフランス人の数が19人にのぼったと明らかにしたほか、人質となっているとみられるフランス人については「すべての人質を即時かつ無条件で解放するよう求める。フランスは誰も見捨てない」と述べ、引き続き解放に向けて尽力する姿勢を強調しました。
米大統領補佐官 “イスラエル側 ガザ地区南部への水供給 再開”
イスラエルによってガザ地区の電力や水、燃料の供給が止められ人道危機が深まる中、アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は15日、CNNテレビに出演し、イスラエル側がガザ地区南部への水の供給を再開したと伝えてきたことを明らかにしました。実際に水の供給が再開されたかは不明です。
またサリバン補佐官は「ハマスとは何の関係もない罪のないパレスチナの人々が、爆撃を受けず、食料や水、医薬品などを手に入れることができる安全な地域にたどりつけるようにしたい」と述べ、民間人の避難のための人道回廊の設置などについて国連や関係国などと引き続き協議していく考えを強調しました。
一方、アメリカ国務省は15日、バイデン大統領がガザ地区での緊急の人道支援をはじめとした中東の人道問題を担当する大統領特使を任命したと発表しました。
国連レバノン暫定軍 “暫定軍本部にロケット弾1発が着弾”
レバノン南部に駐留しイスラエルとの国境地帯を監視する国連レバノン暫定軍は、15日、暫定軍の本部にロケット弾1発が着弾したと発表しました。けが人は出ていないということで、どこから発射されたのかは確認中だとしています。
現場周辺ではハマスが今月7日に大規模な攻撃を開始して以降、イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの間で散発的に衝突が起きていて、死者も出ています。
国連レバノン暫定軍は、武力衝突の拡大が続いていると非難した上で「すべての当事者に対し、戦闘を停止するよう求める」と呼びかけています。
国連レバノン暫定軍は1978年、レバノン南部に侵攻したイスラエル軍の軍事作戦の停止と撤退を監視するため、国連の安全保障理事会が設立した平和維持部隊で、ことし8月時点で49か国からおよそ1万人が参加しているということです。
OIC 閣僚級の緊急会合開くと発表
ガザ地区の情勢などについて話し合うため、イスラム諸国でつくるOIC=イスラム協力機構は、本部のあるサウジアラビア西部のジッダで18日、閣僚級の緊急会合を開くと発表しました。ガザ地区で命を脅かされている市民の状況や、エスカレートする軍事的な状況などについて意見を交わすとしています。
ただ、OICに加盟するイスラム圏の各国の間では、イスラエルとハマスの双方に自制を求める国もあれば、イランのようにハマスを支持する国もあるなど、立場に違いがあり、一枚岩となって事態の打開に向けた対応をとるのは容易ではないことが予想されます。
米報道官 “ブリンケン国務長官 16日に再びイスラエル訪問”
アメリカ国務省のミラー報道官は中東を訪問中のブリンケン国務長官が16日に再びイスラエルを訪れると明らかにしました。国務省は当初、ブリンケン長官が12日にイスラエルを訪れたあと、15日にかけてサウジアラビアやエジプト、それにカタールなど中東の各国を訪問すると発表していました。
ブリンケン長官はアラブの各国の首脳らとの会談を踏まえて、民間人の避難のための人道回廊の設置などについて改めてイスラエル側と協議を行うとみられます。
イラン外相 “ガザ地区への攻撃 やめるよう求めた”
中東の衛星テレビ局、アルジャジーラは15日、イランのアブドラヒアン外相がガザ地区への攻撃をやめるようイスラエルに求めたと伝えました。
イランのアブドラヒアン外相は、アルジャジーラのインタビューの中で「われわれはイスラエルに対し、第三者を介してガザ地区での犯罪行為をやめなければ手遅れになると伝えた」と述べ、イスラエルに警告したことを明らかにしました。
また、イランが後ろ盾となりイスラエルと敵対してきたレバノンのイスラム教シーア派組織、ヒズボラの最高指導者のナスララ師から「すべての選択肢が用意されている」と聞かされたとして、イスラエルがガザ地区への地上侵攻に踏み切ればヒズボラによるイスラエル北部への攻撃が激しくなる可能性を示唆し、イスラエルとそれを支援するアメリカをけん制しました。
その上で「この状況ではイランは傍観者のままではいられない」と述べ、具体的な手段には言及を避けながらも、ガザ地区の情勢に関わっていく考えを示しました。
イスラム圏の国々 立場わかれる
ガザ地区情勢への対応をめぐってはイスラム圏の国々でも立場がわかれています。
多くの国はイスラエルとハマスの双方に自制を求めていて、このうちトルコはエルドアン大統領が仲介役を務める意欲も示していて「双方からの要請があれば、捕虜交換をはじめとしたあらゆる仲介の準備がある」と述べています。
また、アラブ諸国の中でも早くからイスラエルと国交があり、イスラエルとハマスの過去の大規模衝突でも仲介の実績があるエジプトは双方に自制を求めた上で人道状況の改善に向けて隣接するガザ地区の南部から支援物資を運び込めるよう準備を進めています。
一方、ハマスを支援してきたイランは、ハマスによる攻撃を支持してイスラエルのみを非難し、イスラエルが大規模な軍事作戦を前にガザ地区の住民に避難を呼びかけていることについても「強制移住」だとして受け入れられないという立場を示しています。
また、内戦を通してイランの支援を受けるなど、関係の深いシリアもイスラエルを非難する立場を鮮明にしています。 
●日本産水産物の輸入制限 ロシア検疫当局「中国の措置に参加する」 10/16
東京電力・福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、ロシアの検疫当局は、日本産水産物の輸入を一時制限すると発表しました。すでに禁輸に踏み切った中国と足並みを揃えた形です。
ロシア検疫当局は16日、声明を発表し「予防措置として、日本産水産物の輸入を一時制限する中国の措置に参加する」と表明しました。水産物の安全性を確認するために必要な情報が提供され、専門家によって分析が行われるまで制限を続けるとしています。
福島第一原発の処理水放出をめぐっては、中国が日本の水産物の輸入を全面的に禁止していて、ロシアとしては友好国の中国と足並みを揃えた形です。
プーチン大統領が近く中国を訪問し、習近平国家主席と会談を行う見通しですが、このタイミングでの発表は中国に協力的な姿勢を示す狙いがあるとみられます。
●「第5次中東戦争」に拡大か イスラエル情勢…カギを握るのはイランの関与 10/16
パレスチナ・ガザ地区を実行支配するイスラム原理主義組織ハマスが10月7日、イスラエル領内に向けて数千発のロケット弾を打ち込んで以降、中東における軍事的緊張が高まっている。ハマスは人質130人以上を拉致して連行し、イスラエル軍がガザ地区への攻撃を強化していることから、一部の人質を殺害している。イスラエル側も徹底抗戦の構えで、ガザ地区への地上侵攻が秒読み段階に入っており、これまでの犠牲者数は双方で4000人を超えている。さらなる犠牲の拡大は避けられない状況だ。
イスラエル情勢はどうなっていくのだろうか。その上でカギを握るのがイランの対応だ。今後イランがどれほどこの軍事衝突に介入するかで、その後の状況は大きく変わってくる。10月7日のハマスによる奇襲攻撃について、これまでのところイランは具体的に関与していないと主張している。この点についてはイランが関与してない可能性が極めて高い。仮にこの攻撃でイランの支持などが明らかになれば、イスラエルとイランの軍事的緊張が高まることは避けられず、サウジアラビアとの国交正常化を成し遂げたイランにとっても得策ではない。
しかし、イスラエルがガザ地区に地上部隊を展開し、そこで罪のないパレスチナ市民がさらに犠牲になれば、長年ハマスを支援するイランとしても何もしないわけにはいかなくなる。ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ氏と最近会談したイランのアブドラヒアン外相も、「イスラエルによる犯罪が続けばいかなることも起こりうる、イランは傍観者でいられなくなる」と警告している。
中東地域において、レバノン・シリア・イラク・バーレーン・イエメンではイランの支援を受けるシーア派武装勢力が活動しているが、今回の件で既に反イスラエル感情を強め、レバノン南部を拠点とする親イランの武装勢力ヒズボラはイスラエル北部に向けてミサイルを打ち込んでいる。イスラエル側も親イランの武装勢力への警戒を強め、ヒズボラに応戦したり、隣国シリアへも空爆を行っている。親イランの武装勢力は米国がイスラエルを支援すれば、米国権益も攻撃対象になると警告するなど、一貫して強硬姿勢を貫いており、地上侵攻となればイスラエルへの攻撃をエスカレートさせる恐れがある。
そういった中、イランが目に見える形で具体的な関与を示さないと、イランのメンツが潰れるだけでなく、中東各地に点在する親イランの武装勢力との間でも摩擦が生じる可能性がある。
今日のイスラエル情勢は、今後の中東情勢の行方を大きく左右しかねない岐路にある。イスラエルとハマスとの交戦が激化し、イランが自ら、また親イランの武装勢力を利用する形で各地にあるイスラエル権益への攻撃を強化すれば、それは第5次中東戦争に発展しかねない。
そして、そうなれば米国の関心は再び中東にも注がれることになり、ウクライナや台湾といった問題に割ける時間やマンパワーが減り、ロシアや中国に隙を与えることになる。今まさに世界は1つの大きな分かれ道に差し掛かっている。
●中ロ外相が会談、中東情勢やウクライナ巡り協議 10/16
ロシアのラブロフ外相は、中国の王毅外相と北京で会談し、悪化する中東情勢を巡って意見を交わした。ロシア外務省が16日明らかにした。
外務省によると「中東情勢を含む幅広い国際問題と地域問題について徹底的な意見交換が行われた」。ウクライナにおける軍事衝突と「政治・外交的方法」による解決への取り組みについても議論したという。
●ロシア外相が北朝鮮を公式訪問へ 北朝鮮での首脳会談の布石か 10/16
ロシアのラブロフ外相が、18日から19日の日程で北朝鮮を訪問する。
ロシア外務省は16日、ラブロフ外相が18日から19日にかけて、北朝鮮を公式訪問すると発表した。
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、9月にロシア極東で首脳会談しており、北朝鮮メディアによると、晩さん会後に金総書記が北朝鮮に招待し、プーチン大統領も快諾している。
ラブロフ外相の訪朝は、北朝鮮での首脳会談の布石とみられる。
●ハマスのイスラエル攻撃「10月7日」にロシアの影 10/16
ロシア政治に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏が10月16日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演し、辛坊と対談。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが突如、イスラエルに大規模攻撃を行ったのが7日だったことについて、「ロシアのプーチン大統領の誕生日だった」とロシアの影を指摘した。
イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻に向けた動きを加速させる中、ロシアのプーチン大統領が13日、停戦を仲介する用意があると表明した。今回の発言の背景には一体どんな思惑が見え隠れするのか―。
中村)プーチン大統領の誕生日は10月7日で、今年71歳になりました。私、びっくりしました。今年10月7日は、ハマスがイスラエルに突如、攻撃を開始した日にあたります。
辛坊)プーチン大統領の誕生日と、ハマスの攻撃に関係性はないでしょう。
中村)いえ、関係あるんですよ。誕生日祝いです。プーチン大統領はウクライナと戦争していますが、なかなか思い通りにいっていません。その理由は、ウクライナが強いからだけではなく、背後にアメリカがいて武器支援をしているからです。プーチン大統領としては「アメリカが邪魔だ」と考えています。そこで、アメリカの戦力を削ぐために、第2の戦線を開きたかったわけです。
辛坊)確かに、アメリカは現実問題として中東情勢の緊迫により、東地中海への空母打撃軍の派遣を決めましたから、二正面作戦を強いられているのは間違いないです。これで朝鮮半島でも有事が起きたら、アメリカはてんてこ舞いです。

 

●プーチン大統領、中国を訪問 10/17
ロシアのプーチン大統領は17日、中国を訪問した。北京で巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議に出席し、中国の習近平国家主席と18日に首脳会談を開く。プーチン氏の訪中はウクライナ侵攻後初めてで、米欧と対立する中、中国と連携強化を図る。両首脳は緊迫するパレスチナ自治区ガザ情勢も議論し、イスラエルの同盟国である米国とは一線を画した対応を取りそうだ。
中国は東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡り、ロシアと足並みをそろえて日本に圧力を加える構え。ロシアは16日に日本産水産物の輸入を制限すると発表。中国は日本産水産物の輸入を全面的に停止している。
●プーチン大統領が北京に到着 あす(18日)習近平主席と会談へ 10/17
ロシアのプーチン大統領がさきほど中国・北京に到着しました。
プーチン大統領が北京を訪問するのはウクライナ侵攻後初めてで18日、習近平国家主席と会談します。
ロシアのプーチン大統領はさきほど北京の空港に到着しました。
17日から開かれる巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議に出席し、開幕式でスピーチを行うほか18日には習近平国家主席と会談します。
プーチン氏が北京を訪問するのはウクライナ侵攻後初めてです。
これに先立ちロシアのラブロフ外相は16日中国の王毅外相と会談、「首脳会談では二国間関係の発展について全面的に話し合う予定」だとしています。
習主席との会談ではウクライナ情勢や緊迫化するイスラエル・パレスチナ情勢についても意見交換が行われるとみられ、両国がどのようなメッセージを発信するか注目されます。
●プーチン大統領「市民の犠牲に反対」、イスラエル首相と電話会談… 10/17
ロシアのプーチン大統領は16日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとイスラエルの衝突を受け、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話会談した。パレスチナ自治政府とエジプト、イラン、シリアの首脳とも電話会談した。
露大統領府の発表によると、プーチン氏はイスラエルの犠牲者に哀悼の意を伝え、「市民の犠牲を伴うあらゆる行動に対する完全な反対と非難」を強調した。ガザにおける暴力の拡大と人道危機を防ぐため、ロシアが協力する用意があるとも述べた。ネタニヤフ氏は「ハマスを排除するまではガザへの攻撃をやめない」と述べた。
プーチン氏はパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長、エジプトのアブドルファタハ・シシ大統領、イランのエブラヒム・ライシ大統領、シリアのバッシャール・アサド大統領とも電話で会談した。露大統領府によると、首脳らは人道危機が深刻化していることに懸念を示し、即時停戦の必要性で一致した。
プーチン氏は、独立したパレスチナ国家とイスラエルの平和的共存に向け、交渉の再開を支持する立場を表明したという。
●プーチン氏 ガザ危機で双方首脳らと相次ぎ電話会談 紛争拡大に懸念 10/17
ロシアのプーチン大統領は、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり双方の首脳らと相次いで電話会談を行い、紛争拡大への懸念を示しました。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は16日、パレスチナ自治政府のアッバス議長、イランのライシ大統領、シリアのアサド大統領、エジプトのシシ大統領と相次ぎ電話会談し、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突をめぐり、紛争拡大に伴う人道危機への懸念を示しました。
そのうえでプーチン氏は、問題解決のためにはパレスチナ国家を樹立しイスラエルと「共存」することが必要だとの考えを改めて示しました。
プーチン氏はその後、イスラエルのネタニヤフ首相とも電話会談し、亡くなったイスラエル人遺族らへの哀悼の意を示すとともに、民間人を犠牲にする軍事行動への非難を表明しました。
プーチン氏は17日から中国で開かれる国際会議に合わせて訪中し習近平国家主席と首脳会談を行う予定で、中東情勢についても協議を行うとみられ、一連の電話会談で情勢を把握する狙いがあるとみられます。
●訪中したプーチン氏「習氏は真の世界領袖…『臨時職』ではない」 10/17
ロシアのプーチン大統領が中国の習近平国家主席こそが真の「世界領袖」であり、「臨時職」ではないと言って称えた。
17日、北京で4年ぶりに開かれる第3回一帯一路(陸・海上新シルクロード)国際協力首脳フォーラムに出席するプーチン大統領は中国中央テレビとの事前インタビューに臨み、今まで習主席と40回余り会って多くの良い記憶があるとアピールした。
プーチン大統領は「習主席は世界が公認した指導者の一人」としながら「一時な状況を見て決める指導者ではなく、情勢を分析評価できて未来を見通す長期的な観点を持っている」と称賛した。
続いて習主席に対して「彼こそが真の世界領袖だ。我々が『臨時職人』と呼んでいる人とは区別される」とし「『臨時職人』は国際舞台で5分ショーをして消えれば痕跡も残っていない」と話した。選挙で選出されて一定の任期だけをこなす通常の民主主義国家の国家指導者とは違うという意味だ。今年国家主席3連任に成功した習主席の追加再任までロシアが支持するというメッセージであると解釈することもできる。
西側と該当国家が「負債の罠」としながら批判する中国の一帯一路に対する支持の意向も表明した。プーチン大統領は「一帯一路イニシアチブとロシアのユーラシア経済共同体構想は完全に一致する」とし「これを中国が他人を征服するための試みと感じる者もいるが、我々は事実を直視しており、そのようなことはない」と評価した。
これに先立ち、プーチン大統領は5年前の2018年上海協力機構(SCO)青島首脳会議出席を控えて臨んだ中央テレビとのインタビューで「習主席は私と誕生日を祝う唯一の国家指導者」とし、二人のブロマンスを誇示していた。
18日に開幕する第3回一帯一路首脳フォーラムで習主席とプーチン大統領の中露首脳会談は最大の観戦ポイントに挙げられている。香港鳳凰放送などによると、16日午前、ロシアのラブロフ外相はプーチン大統領より一日早く北京に到着して王毅外交部長兼政治局委員と会談し、経済・金融・エネルギー協力をはじめ、ウクライナ戦争と最近のイスラエル・パレスチナ戦争に対する首脳会談発表文を調整した。
●ロシア、日本産水産物を全面禁輸へ 中国に同調、プーチン氏訪中前に 10/17
ロシアで動物検疫などを担う監督当局は16日、「予防的措置として、日本からの水産物の輸入を一時的に禁止する中国の規制に同調する」と発表した。
中国は8月、東京電力福島第一原発の処理水の海への放出にともない、日本産の水産物輸入を全面的に停止しており、ロシアも全面禁輸にするとみられる。
ロシアのプーチン大統領は近く、中国を訪問して習近平(シーチンピン)国家主席と首脳会談するとみられ、それを前に中国と歩調を合わせた可能性がある。
発表によると、期間は「水産物の安全性を確認し、当局の専門家が分析できる詳細な情報が提供されるまで」としており、事実上、無期限となる。
ただ、インタファクス通信によると、ロシアの日本からの魚の輸入は2022年が190トン、今年も9月までに118トンと少ない。日本近くの海ではロシア漁船が操業しており、中国との連帯を示す象徴的な意味が強いとみられる。
●中国、「一帯一路」10年の成果誇示 習氏、プーチン氏と会談へ― 10/17
中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが17日、北京で開幕する。習近平国家主席は2日間の会期中、ロシアのプーチン大統領をはじめとした構想参加国の首脳らと会談する見通し。2013年に習氏の肝煎りで始まった構想の10年間の成果を誇示し、関係国との連帯をアピールする。
サミットフォーラムは今回で3回目。中国メディアは140カ国以上の代表が参加すると報じているが、外務省は出席者の内訳を明らかにしていない。期間中、習氏が基調演説を行うほか、ハイレベル会議やテーマ別会議、企業家による会合、歓迎夕食会が予定されている。
15日以降、アフリカや南米から首脳らが続々と北京入り。ロイター通信によると、アフガニスタンからもイスラム主義組織タリバン暫定政権の代表が出席する。中国は暫定政権を正式に承認していないが、資源開発を念頭に関係を強めており、9月には新たな駐アフガン大使が着任した。
一方、日本や米国からの公式な高官派遣はないもようだ。過去2回のフォーラムに出席した構想参加国の韓国も、今回は政府代表団を派遣しないと報じられている。
19年の前回開催時は150カ国以上の代表が出席し、そのうち37カ国が首脳級だった。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは外交関係者の情報として、今回は習氏が「選び抜いた指導者のみを招待した」と伝えており、参加規模は前回から縮小する可能性もある。
一帯一路には、ウクライナ侵攻を続けるロシアの脅威に敏感な東欧諸国も多く参加している。ただ、会議でのプーチン氏との同席を嫌い、首脳や代表団の派遣を見送った国もあるとみられる。
●軍事侵攻600日 ゼレンスキー大統領 領土奪還目指す決意示す 10/17
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から600日となった16日、ゼレンスキー大統領は領土奪還を目指す決意を改めて示しました。これに対しプーチン大統領は国防や治安当局のトップと会議を行い侵攻を続ける姿勢を鮮明にしました。
ゼレンスキー大統領「諦めない」国民へのメッセージ投稿
ロシアによる軍事侵攻が始まってから600日となった16日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNSに国民へのメッセージを投稿しました。
この中でゼレンスキー大統領は「諦めないという意志が自由を勝ち取ることにつながる。大切なのは、時間を浪費しないこと。団結を失わないこと。意志をむしばむ疑念を持たないことだ」として、国民に結束を呼びかけました。
その上で、「ウクライナ人の未来が、ウクライナ人だけのものとなるよう、日々全力を尽くさなければならない。祖国を守るために命をささげたすべての人の記憶が永遠となり、祝福されますように。私たちは必ず勝利する」として、徹底抗戦を続けていく決意をあらためて示しました。
ロシア 軍事侵攻を続ける姿勢
一方、ロシア大統領府は16日、プーチン大統領が首都モスクワ郊外の公邸でショイグ国防相やFSB=連邦保安庁のボルトニコフ長官、対外情報庁のナルイシキン長官などと会議を行ったと発表しました。
この中でプーチン大統領に対しショイグ国防相が「ウクライナ軍は反転攻勢で深刻な損害を受けている」と報告し、軍事侵攻を続ける姿勢を鮮明にしました。
また、大統領府はプーチン大統領がロシアが占領したウクライナ東部ドネツク州のマリウポリで行われた橋の開通式にオンラインで参加した様子を公開し、支配地域の既成事実化を図るねらいとみられます。
こうした中イギリス国防省は16日、ロシアが民間軍事会社を利用して「志願兵」という名目で戦闘員を集めていると指摘しました。
国民が懸念するさらなる動員を避けながらロシア軍の兵力を増強するねらいだとしていてプーチン政権は長期戦に備える構えを示しています。
●EU、ガザ人道支援で物資空輸へ エジプトに複数便 10/17
欧州連合(EU)は16日、パレスチナ自治区ガザの人道支援団体に物資を届けるためエジプトに複数の航空機を派遣し、空輸を開始すると発表した。
声明で「最初の2便が今週、避難所用品、医薬品、衛生キットを含む国連児童基金(ユニセフ)の人道支援物資を運ぶ予定だ」とした。
フォンデアライエン欧州委員長はアルバニアの首都ティラナで開いた記者会見で「ガザのパレスチナ人は人道支援と援助を必要としている。彼らが(イスラム組織)ハマスの蛮行の代償を払うことはできない」と述べた。
欧州委員会は14日、ガザの住民に対する人道支援について、当初予定の3倍の7500万ユーロに増額すると発表した。
●ロシア軍、東部戦線突破に攻勢 戦闘激化=ウクライナ陸軍司令官 10/17
ウクライナのシルスキー陸軍司令官は16日、北東部ハリコフ州クピャンスクから東部ドネツク州リマンにかけての戦線で戦闘が激しさを増しているとし、ロシア軍はこの前線を突破しようとしていると述べた。
陸軍が公開したビデオによると、シルスキー司令官は兵士らに対し、クピャンスク─リマン戦線で戦闘が「著しくエスカレートしている」とし、ウクライナ軍の防衛線を突破するためにロシア軍は攻勢を準備していると述べた。
ウクライナ軍はこの日の戦況説明で、クピャンスク周辺のほか、ドネツク州アブデーフカとマカリフカ近辺の東部戦線で戦闘が激化していると報告した。アブデーフカは大規模なコークス工場がある戦略的に重要な町で、ロシア軍は先週、アブデーフカ周辺に攻勢をかけた。 
●ロシアの大軍から要衝アウディーイウカを防衛したウクライナ軍のドローン戦術 10/17
ウクライナ軍の反転攻勢が続くなか、ロシア軍はウクライナ東部の要衝アウディーイウカに大規模な攻撃を仕掛けている。だが一時の勢いは衰えつつあるようだと、新たな分析が示された。
米シンクタンク「戦争研究所」は最新の戦況分析の中で、ロシア軍が10月15日に「アウディーイウカの包囲」を狙った攻撃を仕掛けたと指摘。だが「この地域でのロシア軍の作戦展開の勢いが衰えているようで、その後さらなる進展はみられていない」とつけ加えた。
戦争研究所によれば、ロシア軍はアウディーイウカ周辺への進軍初期に「大規模な損失」を被り、また進軍ペースも思いどおりにいかなかった可能性が高い。(公開情報を利用して情報収集・分析を行う)オープンソース・インテリジェンスの複数のアカウントは、アウディーイウカへの攻撃でロシア軍の装備にかなりの損失が出たと示唆していた。
ロシア軍は10月10日にアウディーイウカ周辺への大規模攻撃を開始。少なくとも3つの大隊を投入したとみられている。ウクライナの大統領首席補佐官を務めるアンドリー・イェルマクも、アウディーイウカが「ロシア軍の迫撃砲や航空機による集中攻撃を受けている」と述べていた。
14日夜にはヴォロディミル・ゼレンスキー大統領も、アウディーイウカを激戦地の筆頭に挙げ、「拠点を守り、ロシア軍を撃退している全ての者に感謝する」と述べた。
ウクライナ守備の重要拠点
アウディーイウカはずっと以前から、ウクライナとロシアの紛争の影響を受けてきた。ビタリー・バラバシ町長は以前、今も町に残っている住民は1600人程度だろうと言う。戦争が始まる前には約3万人が住んでいた。
ウクライナ軍のビクトル・トレフボフ少佐は、ロシア軍と親ロシア派武装勢力は9年前から、アウディーイウカを支配下に入れようとしてきたと指摘する。「ロシア軍の攻撃は激しいが、いまだ成功には至っていない。その大きな理由は、ウクライナの戦闘用と偵察用ドローン(無人機)がかつてないほど効果的に運用されているからだ」と彼は16日に本誌に語った。
ウクライナのミハイロ・フェデロフ副首相は16日、ウクライナ軍のドローンは10月9日から16日までの1週間で、ロシア軍の装甲車88台、戦車75台、榴弾砲と大砲101門とロシアの防空システム2つを破壊したと明らかにし、無人テクノロジーが「アウディーイウカの防衛において優れた効果を発揮したことが証明された」とX(旧ツイッター)への投稿の中で述べた。
戦争研究所は11日の戦況分析の中で、アウディーイウカは「ウクライナ軍の守備の重要拠点で、要塞化されていることで有名」だと述べ、ロシア軍が制圧するのは難しいだろうと指摘していた。
それでもハーグ戦略研究センターの戦略アナリストであるフレデリック・マーテンスは、ロシア軍が自分たちの防衛ラインに割り込む「突出部」であるアウディーイウカ(マップ参照)を制圧しようとするのは、驚くにはあたらないと指摘。ロシアは今回の戦争で、以前にもこの地域を制圧しようと試みており、それは「軍事的に筋の通った」戦略だと本誌に述べた。
ロシア軍がアウディーイウカを制圧すれば、6月に反転攻勢を始めたウクライナ軍と激しい戦闘を続けているロシア側にとっての大きな戦果となる。
マーテンスは、「もしもウクライナがアウディーイウカを失えば、それはロシア側の防衛にとって重要な勝利になる」と説明。ロシアがアウディーイウカを支配下に入れれば、ウクライナ東部の要衝ドネツク州を今後、ウクライナ軍の攻勢からより強力に守ることができるようになるからだと述べた。
だがキングズ・カレッジ・ロンドン戦争研究学部の教授であるマイケル・クラークは先週、ロシアがアウディーイウカに照準を合わせたのには、ほかの前線からウクライナ軍の注意を逸らす狙いもあった可能性が高いと本誌に語る。ロシアは「流れが変わるまでの時間稼ぎをしながら、アウディーイウカの前線の至るところで攻撃を仕掛けている」ようだと指摘した。
マーテンスも、「ウクライナ軍の兵士たちを釘付けにするために攻勢を仕掛ける場所という意味では、理論的にアウディーイウカが最適だろう」と分析した。
秋と冬も反転攻勢は続く
ウクライナ軍は何カ月も前から、ウクライナ東部と南部でロシア軍に対する激しい抵抗を繰り広げており、幾らかの成果を上げているものの、反転攻勢の進展ペースは遅く、大きな代償も伴っている。秋と冬は雨や雪が多く前線が泥でぬかるむが、ウクライナ政府は条件が悪化しても、反転攻勢を続けると宣言している。
ロシア軍は15日の戦況報告の中でアウディーイウカについては言及しなかったが、ウクライナ軍参謀本部は16日、前日にアウディーイウカでロシア軍から15回を超える攻撃があったと述べた。
ウクライナ国防省情報総局の報道官は先週、アウディーイウカに対するロシア軍の攻撃は想定していたと述べていた。戦争研究所は先日の戦況分析の中で、地雷を敷設するなど、ウクライナ軍が攻撃に備えていた兆候がみられると指摘していた。
●プーチン大統領…“最重要パートナー” の中国を訪問 10/17
中国が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議にあわせ、中国を訪れているロシアのプーチン大統領。今回の中国訪問には、両国の経済関係をさらに強化する狙いもあります。西側諸国との対立が深まるなか、ロシアにとってパートナーとしての中国の存在感は急速に高まっています。急速に中国との関係を深める、中国との国境の街を取材しました。
17日午前の北京市内、一般車両を全て排除した厳戒態勢の中を車列が進んでいきました。その数36台。ロシアのプーチン大統領が北京に到着したのです。
記者「襲撃などを防ぐ目的でしょうか、同型の車両が2台並んで走行していきます」
車列はそのまま、中国で最高クラスの賓客を迎える迎賓館へ入りました。
ウクライナ侵攻をめぐり国際刑事裁判所から逮捕状が出て以降、プーチン大統領が旧ソ連圏以外の国を訪問するのは初めてです。
主要な外交舞台復帰の第一弾として、中国を選んだプーチン大統領。ウクライナ侵攻により西側諸国と“断絶状態”にあるロシアにとって、今や中国は“最重要パートナー”なのです。訪中に先立って行われた中国メディアのインタビューでは、プーチン大統領が習主席を持ち上げる発言もありました。
ロシア プーチン大統領「彼は間違いなく、世界に認められたリーダーのひとりです」
18日の首脳会談でも、ロシアと中国の“関係強化”を確認するとみられます。
こうしたなか、急速に中国との関係を深める街がありました。ロシアの極東地域にある、中国との国境の町、ブラゴベシチェンスクです。
記者(ロシア・ブラゴベシチェンスク、12日)「このアムール川を挟んで500メートル向こう側は、中国・黒竜江省の黒河市です」
町には、至るところに中国人観光客の姿がありました。
――食べ物で楽しみなのは?
ロシアを訪れた中国人「ロシアのバーベキュー!」
この町では、中国とのビジネス拡大に向けた動きが進められています。
去年6月には、両国を結ぶ初の「道路橋」が開通しました。プーチン大統領、“肝いりの事業”で、中国との“物流の大動脈”として期待を寄せています。現在は“物資の運搬”のみですが、来年から“人の往来”も可能になります。
より中国が身近になるなか、「中国語を子どもに習わせたい」と考える親が増え、語学学校の生徒も増えているといいます。去年からは、市内すべての学校でも、行政のトップダウンで「中国語」を教えるようになりました。
孔子学院 クハレンコ所長「この地域は中国との協力が欠かせず、住民が中国語を話せることは非常に重要だと、行政のトップが言っています」
市内の卸売市場を訪れると、そこに続々と運び込まれていたのは中国産の品物です。
そのわけは、橋の開通を受けて今年5月に設置された、税関と物流を1つにした施設です。
記者「中国からのトラックがたくさんとまっています」
それまで、中国からこの地域への貨物の輸送は、1500キロ離れたウラジオストクを経由していましたが、新たな橋と施設によって、大幅に短縮されたのです。
今年の中露の貿易額は、前年に比べて約3割も増加し、着実に成果を出しています。
地元のビジネスマン「経済など様々な分野で両国が協力すれば、ロシアにとって利益になると思います」
川をはさんだ隣国・中国に熱い視線を向けるプーチン大統領。したたかに、苦境を乗り切ろうとしています。
●タイ、ロシア人観光客のビザ延長 首相、北京でプーチン氏と会談 10/17
タイのセター首相は17日、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議のため訪問した北京で、ロシアのプーチン大統領と会談した。ロシア人のビザ(査証)の滞在期間を30日間から90日間に延長することを決定したと伝えた。タイ政府が明らかにした。タイ経済の柱の観光業でロシア人を誘致する狙い。
ウクライナ侵攻を受けて欧州各国などがロシア人の入国を制限する一方、タイは受け入れを継続。南部のリゾート地、プーケットなどがロシア人に人気となっている。

 

●プーチン氏「ロシアは抑圧できず」、バイデン氏の発言に反論 10/18
ロシアのプーチン大統領は17日、北京でのインタビューで、ロシアの国益は抑圧できないとし、バイデン米大統領の発言を否定した。その上で米国の政治家は他国を尊敬することを学ぶべきと述べた。
バイデン米大統領はCBSニュースでのインタビューで「われわれがもし実際に欧州全土を団結させ、プーチン大統領を、問題を引き起こせない状態に最終的に追いやったとしたらどうなるのかを想像してほしい」と述べた。
この発言に対し、プーチン大統領は「これは私個人に関するものではなく、国益に関するものだ。そしてロシアの国益を抑圧することは不可能だ」と指摘。「これはバイデン大統領だけでなく、米政治家全体にも当てはまる。他国を尊重することを学ばなければならない。そうすれば誰も抑圧する必要はなくなる」と語った。
●中国の「一帯一路10年フォーラム」に140ヵ国参加、習主席とプーチン氏会談 10/18
中国の習近平国家主席が核心政策である巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱してから10年を迎え、140ヵ国の代表が参加した「一帯一路」国際フォーラムが17日、北京で開催された。ウクライナでの戦争犯罪容疑で国際刑事裁判所(ICC)に逮捕状を出されているロシアのプーチン大統領も出席し、両国の協力を強調した。
習氏が2013年8月に提唱した一帯一路は、中国内陸から中央アジア・欧州を結ぶ「陸上シルクロード」と東南アジア・インド・アフリカ・欧州を結ぶ「海上シルクロード」の建設を中核とする中国主導の巨大経済圏構想。その一環として、低開発国が中国から資金の支援を受けて国内のインフラなどの建設に乗り出したが、莫大な「債務のわな」に陥ったという指摘も出ている。
18日まで2日間開かれる国際フォーラムには、ロシアをはじめ、アフガニスタンなど親中の国々の代表が多数参加した。中国外務省は140ヵ国、30の国際機関から約4千人が参加したと明らかにした。
習氏は18日、基調演説で、一帯一路10年の成果を評価し、今後の計画を発表する。さらにプーチン氏との首脳会談も予定されている。両首脳は3月のモスクワ会談から7ヵ月ぶりに会うことになり、イスラエルとハマスの武力衝突などの懸案に対する立場を明らかにするとみられる。
●ロシア、CTBTの批准撤回へ 下院議長「我が国の安全保障のため」 10/18
ロシア下院は17日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する法案の審議を始めた。
プーチン大統領が今月、米国への対抗措置として撤回が可能との考えを示しており、成立は確実な情勢だ。ロシアがウクライナ侵攻をめぐって「核の恫喝(どうかつ)」をちらつかせる中、「核実験のない世界」を目指すためのCTBTの発効は、米国なども批准していないため、一段と厳しい状況となった。
CTBTは1996年に国連総会で採択された。ロシアは2000年に批准したが、核開発能力を持つ「発効要件国」44カ国のうち、米国や中国、インドなど8カ国が批准せず、いまだ発効していない。
ボロジン下院議長は審議前、「我々は米国の批准を23年間も待った。我が国の安全保障のために批准を撤回する」とSNSに投稿した。ロシアメディアによると、定数の95%となる430人以上の議員が法案の提出者になっているという。
17日は法案を審議する3段階の第1読会が開かれて可決した。19日に下院を通過し、上院の採決後、プーチン氏が署名して成立するとみられる。
●ロシアが平和の使者に?イスラエルとハマスの衝突めぐる中露の狙い 10/18
独メディアのドイチェ・ヴェレ(中国語版)は17日、「ロシアが平和の使者に?」と題し、イスラエルとハマスの衝突に関する中露の立場について報じた。
ロシア当局は16日、プーチン大統領がイスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、「民間人が犠牲となるあらゆる行動を非難する」「ガザ地区での人道危機を防ぐため問題解決を支援する用意がある」と表明したことを発表。
外交的手段を通じて紛争を終結させ、和平合意を実現するのがロシアのスタンスだと強調した。
一方で、イスラエル側のプレスリリースによると、ネタニヤフ首相はプーチン氏に対し「ハマスが壊滅するまでガザ地区への攻撃をやめることはない」と伝えたという。
記事は、「中国やロシアが停戦の仲介役を買って出ている」と指摘。ロシアが国連安全保障理事会で「バランスのとれた非政治的な停戦」を求める決議案を提出したこと、ロシア当局が「パレスチナ、イラン、エジプト、シリアらと即時停戦と人道主義的な休戦、緊急支援を行うことで一致した」としていること、プーチン氏が「独立したパレスチナ国家をつくり、イスラエルと平和的かつ安全に共存するため、国際法に基づく政治プロセスを再開すべき」と述べたことを紹介した。
一方、ロシアのこうした動きについて、ロイターが「この危機はある意味で世界の目をロシア・ウクライナ戦争からそらさせ、ロシアに中東諸国と緊密な関係を作り、自らに平和、冷静というイメージを付ける機会を提供した」と指摘したことを伝えた。
また、「ロシアの主張は中国の立場とも類似している」とも言及し、中国当局が衝突収束の活路は独立したパレスチナ国家の樹立にあるとしていることや、停戦や人道危機の緩和など情勢のクールダウンを呼び掛けていることに言及。
これについて独紙ディ・ヴェルトが「中国が中東で仲介者を演じる“偽中立”の裏にある真の狙いは、自らの経済的利益を守ることだ」と論じたことを伝えた。
●ロシア軍 ウクライナ東部で「ことし最重要作戦」か 英国防省 10/18
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部ドネツク州のアウディーイウカへの攻勢を強めていて、イギリス国防省は「ことし1月以降で最も重要な攻撃作戦になっているとみられる」と指摘し、ロシア軍が大規模な作戦に乗り出しているという見方を示しました。
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカへの攻勢を強めていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は16日「ロシア軍は作戦を強化するため新たに旅団を派遣した可能性が高い」と指摘しました。
また、イギリス国防省も17日「アウディーイウカはロシア軍によるドネツク州の掌握を阻止するための主要な街となってきた。ロシア軍はここを包囲しようとし、ことし1月以降で最も重要な攻撃作戦になっているとみられる」と指摘し大規模な作戦に乗り出しているという見方を示しました。
一方、ウクライナ側は守りを固めロシア軍の侵攻を食い止めていてロシア側に大きな損失が出ているとも分析しています。
こうした中、ロシア国防省は17日、ショイグ国防相が弾薬などの製造の増強に向けた会議を開き「武器を補充することが特に重要だ」と強調したと発表しました。
また、ロシアのシルアノフ財務相は16日、議会で「現在、ほとんどの無人機は中国から来ているものだ」と明らかにしたうえでロシア国産の無人機の割合を2025年までに4割まで引き上げる考えを示しました。
ロシアはウクライナ侵攻でもイラン製の無人機を使って、インフラ施設などへの攻撃を繰り返していますがプーチン政権としては外国の輸入に依存せず無人機の国産化を進めていくねらいとみられます。
●ロシアの戦略爆撃機が日本海を飛行 10/18
ロシア国防省は17日、戦略爆撃機の「ツポレフ95」2機が日本海を飛行したと発表した。中立海域の上空を飛行したとしている。
ツポレフ95の飛行時間は約7時間で、戦闘機のスホイ35が護衛した。国防省によると、飛行は国際規則を厳守して実施されたという。
プーチン大統領は17〜18日の日程で訪中している。18日には北京で習近平(シー・ジンピン)国家主席との中ロ首脳会談に臨む予定だ。
●ウクライナ、米供与の長射程ミサイル「ATACMS」初使用 10/18
ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、米国から供与された長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」をウクライナ軍が使用したと明らかにした。
ゼレンスキー氏はビデオ演説で「米国に感謝する。バイデン大統領との合意が履行されている。ATACMSは極めて正確だ」と述べた。
これに先立ち、米CNNは複数の匿名の米政府当局者の話として、米国がウクライナにATACMSを秘密裏に引き渡したと報道。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はウクライナが17日にロシア軍に対し初めてATACMSを使用したと報じていた。
ウクライナ軍はこの日、ロシア軍が制圧しているウクライナ東部と南部の飛行場を攻撃し、ヘリコプターや防空ミサイル発射装置などを破壊したと発表。具体的には、ルガンスク市とベルジャンスク市の近郊にある飛行場に「正確に狙いを定めた」攻撃を行ったと明らかにした。ただ、ウクライナ軍がATACMSを使用したとの報道については言及していない。
ロシア国防省はこの攻撃についてコメントしていないが、ベルジャンスク市があるザポロジエ州の親ロ派当局者は、ATACMSミサイルによるクラスター弾が17日に現地で確認されたと述べた。
ロシアの軍事ブロガーも今回の攻撃に言及し、ATACMSによる攻撃でロシア軍が兵士と装備を失ったと伝えている。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は戦争の新たな章が始まったとし、「国際的に認められたウクライナ国境内でロシア軍にとって安全な場所はもはやない」とX(旧ツイッター)に投稿した。
ロシアのアントノフ駐米大使は、ウクライナにATACMSを供与する米国の決定は重大な過ちであり、深刻な結果をもたらすと警告した。
ロシアメディアによると、同大使は「意図的に市民から隠されていたこの措置の結果は最も深刻なものになるだろう」とし、「米国は北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接衝突を推し進め続けている」と述べた。 
●グーグルのロシア子会社が破産 戦争でコンテンツ削除応じず多額の罰金 10/18
モスクワの裁判所は18日、米IT大手グーグルのロシア子会社の破産手続き開始を決定した。ロシア通信が伝えた。昨年6月、当局による銀行口座凍結で事業継続が不可能になったとして破産を申請、同9月に受理されていた。
グーグルは傘下の動画投稿サイト、ユーチューブがウクライナでの軍事作戦に関する虚偽情報を含むコンテンツ削除に応じなかったとして、多額の罰金を科されていた。
ロシアでは現在もグーグルの無料のサービス利用やユーチューブ視聴は可能。
●バイデン大統領がイスラエル訪問を急いだ理由とは 人道問題 10/18
バイデン米大統領が危険を押してイスラエルを訪問したのは、ハマスが実効支配するガザへの侵攻へとはやるイスラエルに対し、国際社会が民間人の犠牲拡大への懸念を強めているためだ。バイデン氏は改めて同盟国イスラエルとの連帯を強調したものの、人道問題が後手に回れば米国にも批判の矛先が向くため、自制も求める狙いがある。
防衛側のウクライナとは逆、はやる軍事大国の手綱を締めに
バイデン氏が戦渦の国で支援を表明したのは、2月に電撃訪問したウクライナに続いて2カ国目。ただ、ロシアに対する自衛に追われるウクライナとは対照的に、イスラエルは最新鋭の軍事力を誇り、すでにガザへの空爆で国連関係者らも含め多くの民間人が死傷している。17日の病院爆発もイスラエルは関与を否定しているが、国際社会に波紋が広がった。今後、地上部隊の投入で犠牲が拡大すれば中東諸国を中心に世界的な反発が強まり、イランなど反イスラエル勢力が「参戦」する口実にもなる。
イランはすでにイスラエルのガザ攻撃を「戦争犯罪」として軍事介入の可能性をほのめかし、イランの影響下にあるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラはイスラエル北部に砲撃を加えている。
バイデン氏は10日の演説で「イスラエルには悪質な攻撃に対応する権利と責務がある」と一定の報復を容認したものの、13日には「人道危機への対処が私の優先事項だ」と軌道修正した。
側近たちの相次ぐ現地入りも時間稼ぎか
バイデン氏の訪問に先だち、16日までにブリンケン国務長官やオースティン国防長官ら米政府高官が相次いでイスラエルを訪問。米紙ニューヨーク・タイムズによると、バイデン氏の側近たちは、政府高官を派遣中は大規模な侵攻を遅らせ、民間人を避難させるための時間を稼ぐことができると考えているという。米国が16日に人道支援の計画策定に合意させたことも、侵攻開始を遅らせる狙いがあるとみられる。
バイデン氏は米国内のユダヤ人感情にも配慮してイスラエルへの支持を表明し続けているが、民間人を巻き込んだ過剰な反撃を抑えられるか、難しい局面に立たされている。
●習主席に立場鮮明化をお願い? プーチン大統領訪中3つの狙い 10/18
ロシアのプーチン大統領が10月17日、北京空港に降り立った。中国の習近平主席が進める巨大経済圏構想「一帯一路」国際会議に出席するためだが、プーチン大統領が旧ソ連の国境を越えて外国を訪問するのは、3月17日に国際刑事裁判所によって「ウクライナ人児童の連れ去り」の戦争犯罪容疑で逮捕状が出されて以来、初めてだ。中国は国際刑事裁判所ローマ規定の締約国ではないため、プーチン大統領が逮捕されることはない。
政財界トップを引きつれた訪問
今回の中国訪問で注目されるのは、プーチン大統領に随伴するメンバーだ。エネルギー担当副首相ノヴァク、テクノロジー担当チェルヌイシェンコ、財務大臣シルアノフ、中央銀行総裁ナイブリナをはじめ、ロシア最大の天然ガス会社「ガスプロム」のミレル社長、同じくロシア最大の石油会社「ロスネフチ」のセーチン社長など、ロシアの政財界のトップを引き連れた異例の訪問団となっている。
軍と軍産複合体のトップだけが同席した、北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談とは桁違いの充実ぶりだ。
プーチン大統領の3つの狙い
プーチン大統領の狙いは1ガス・石油など天然資源の供給契約を結ぶこと。2先端テクノロジー面での協力を得ること、3中国政府から「特別軍事作戦」でのロシアへの強力な支持表明を得ること、の3つだ。
   1) ガス・石油の供給契約
現在、ロシアと中国の間には「ガスプロム」が運営する「シベリアの力」という
東シベリアからの天然ガスパイプラインが稼働している。ロシアはさらに中国西部へ年間500億立方メートルの天然ガスを供給するパイプライン「シベリアの力2」の締結を目指している。しかし、中国側は「新しいパイプラインは必要ない」、と契約には消極的な姿勢を示してきた。ロシアにしてみれば、これまでヨーロッパに供給していたが、ウクライナ戦争によって買い手の消えた1550億立方メートル分の天然ガス収入の代替にしたい考えで、エネルギー担当のノヴァク副首相は年内の契約締結を目指しているが、その行方は不透明だ。
   2) 最先端テクノロジーでの協力
ロシアと中国の貿易額は2023年度には2000億ドル(約30兆円)を超える勢いで、これは「特別軍事作戦」開始時から60%増大したことになる。いまや乗用車や衣料品などをはじめ、ロシアの消費市場は中国製品なしではなりたたなくなっているが、ロシアが喉から手が出るほど欲しい、軍事用に転用できる最先端技術については、中国は慎重な姿勢を見せている。今年4月には、中国政府は「紛争当事者の一方に武器を供与することはしない」と声明を出している。確かにロシアの通信監督庁である「ロスコムナドゾール」は中国の「ファーウェイ」を通じて半導体やVPN接続やYouTubeのブロックシステムを購入していると言われており、中央アジア諸国やトルコなど第三国を経由する貿易でも、中国は大きな役割を果たしていると見られている。しかしロシアとしては精密ミサイルやドローンに転用できるテクノロジーや部品の供給が、何よりも重要になっているのだ。
   3) ロシアへの協力や支持の表明
プーチン大統領は、訪中直前の国際会議で、米国の一極支配と欧米的価値観を他国に押し付ける欧米の文化的帝国主義を非難するとともに、軍事同盟によって世界を分断し、ロシアにウクライナ侵攻を余儀なくさせたのはNATOである、と強い口調で批判した。そしてハマスのイスラエルへの攻撃についても、「米国の中東政策の明白な失敗」の結果だと、激しく米国に対峙する姿勢を見せた。
習近平主席は、2月にウクライナ戦争の調停案を提示したが、明確なロシア支持を打ち出さず、自国の国益を重視しながら曖昧な立ち位置を取り続けている。プーチン大統領としては、イスラエル情勢をテコに、中国に立場の鮮明化を迫り、グローバルサウスや「一帯一路」に集まる各国を「反欧米」の立場で結束させることで世界の分断を加速させ、長期化する「特別軍事作戦」を決定的に有利に継続させていくことが目標となっている。
習主席はどう応える?
しかし、プーチン訪中のこの3つの狙いに対して、習近平主席はどこまで応えるのだろうか。中国としては、停滞気味だとはいえ、いまでも貿易総額の12%(2022年)を占める最大の貿易相手国であり、「競争相手」でもある米国をいたずらに刺激することは避けたいであろうし、すでに中国の圧倒的な経済力の支配下に取り込んだといえるロシアを「一帯一路」の他の参加国以上に優遇する必要もない。欧米の価値観とは一線を画するにしても、ウクライナ戦争でロシア支持を明確に表明する必要も認めてないだろう。
弱体化したロシアを通貨的にも経済的にも支配下に置いたまま、長引く戦争をこのままプーチン大統領に続けさせ、ロシア、ウクライナ双方のみならず、支援する欧米をも疲弊させていくことが、中国の狙いであろう。

 

●中ロ関係、世界の紛争受け「強化」 プーチン氏 10/19
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は18日、訪問先の中国で習近平国家主席と会談し、両国関係は世界の紛争を受けて「強化」されたとの認識を示した。一方習氏も、両氏の深い友情と、両国の「政治・経済関係の深化」をたたえた。
巨大経済圏構想「一帯一路」の国際協力サミットフォーラムに出席するため、ロシアの国際的孤立を招いたウクライナ侵攻開始以降では初めて主要国を訪問したプーチン氏は、首都北京の人民大会堂で「旧友」の習氏との会談に臨んだ。
会談後に記者会見したプーチン氏は、世界的な混乱を受けて中国とロシアの距離が縮んだとの見方を示し、「これらすべての外的要因は共通の脅威であり、ロシアと中国の協力を強化している」と述べた。
国営新華社通信によると、習氏も「両国の政治的信頼関係は継続的に深化している」と述べ、「緊密かつ有効な戦略的協調」を評価した。
また習氏は、フォーラムの主賓として招いたプーチン氏と過去10年で42回面会してきたことに触れ、「仕事の上での良好な関係と深い友情を築いてきた」と述べたとされる。
一方、ロシア大統領府は、プーチン氏が習氏を「親愛なる友人」と呼び、「現在の困難な状況」における「外交面での緊密な協調」の重要性を強調したとする公式声明を出した。
さらに両首脳は、パレスチナ自治区ガザ地区の病院で17日夜に爆発があり、多数が犠牲になった事態についても言及した。
「悲劇」であり、「恐ろしい出来事だ」と表現したプーチン氏は、「衝突をできるだけ早く終わらせる必要性を示す警鐘になることを心から願う」と述べ、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突を終結させなければならないと訴えた。
新華社によると、習氏も、「国際社会としての公平性と正義」を守るため、両国の協力を促したとされる。
●習主席・プーチン大統領、中東情勢など議論… 共助を再確認 10/19
米国のバイデン大統領がイスラエルを電撃訪問した18日、中露首脳は北京で会ってイスラエル−ハマス戦争の対応を議論して共助を再確認した。ロシアのプーチン大統領はこの日、中国の習近平国家主席との会談後、記者と会って習主席と約3時間にわたって話をしたとし、「中東情勢に対して細部まで議論した」と明らかにした。
プーチン大統領はガザ地区病院爆発について「悲劇であり人道主義的災難」としながら「この紛争を最大限はやく終わらせるか、少なくとも両側が対話する信号になるよう願う」と話した。今回の戦争を含めた外部要因が中露関係に及ぼす影響についての質問には「このような外部要因はすべて共通の脅威であり、両国協力を強める」と答えた。中国外交部も首脳会談後「イスラエル−パレスチナ情勢などに関して突っ込んだ意見を交換した」としてプーチン大統領の発言を確認した。
プーチン大統領はまた、米国がウクライナに地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」を供与したことに関連して「ウクライナの苦痛を先延ばしするだけの米国のもう一つの失敗」と批判した。この武器が戦線状況を急変させることはできず「米国はこの紛争にますます巻き込まれている」という。
両国首脳は会談冒頭発言から格別の友情を誇示した。習主席は「尊敬するプーチン大統領、私の老朋友(古い友人)」と親密さを表した後、「両国の政治的相互信頼が絶えず深化し、戦略的協力は緊密で効果的」と評価した。特にプーチン大統領を見つめながら「2013年以降、10年間で42回会って良い業務関係と深い友情を築いた」として特別な「ブロマンス」をアピールした。
プーチン大統領は「尊敬する習近平主席、親愛する友よ」と呼びかけて習主席の言葉に応じた。プーチン大統領は「現在の厳しい環境では外交政策の緊密な共助が求められている。両国関係を含めてすべてのことを議論するだろう」と話した。米国から経済および技術制裁に苦しめられている中露両国の首脳が外交で共助を誇示した。
習主席はこの日、広域経済圏建設構想である一帯一路10周年を迎えて開かれた「第3回一帯一路国際協力サミットフォーラム」開幕式で中国主導の二者択一秩序を強調した。習主席は基調演説で「他人にバラを渡せばその手に香りが残り、他人の成就を助ければ自分も助けを受けるが、他人の発展を脅威と考えて経済的相互依存を危険と感じるなら、さらなる急成長は望めない」と述べた。米国の半導体制裁と欧州連合(EU)の中国製電気自動車(EV)ダンピング調査などを批判したものと分析される。また、西欧で広がっている中国経済危機論を狙ったように「世界がうまくいってこそ中国がうまくいき、中国がうまくいってこそ世界がより良くなる」と強調した。
今回のサミットフォーラムは第1・2回に比べて動力が弱まった。この日の開幕式には24カ国首脳と国連およびBRICS新開発銀行総裁が出席した。2017年第1回フォーラムには29カ国、2019年第2回には38カ国の首脳が参加したことと比べると減った。計152カ国が参加していた。米国と日本・北朝鮮の国旗は見えなかったが、太極旗は立てられていた。
ロシアのラブロフ外相はこの日サミットフォーラムおよび中露首脳会談に同席した後、北朝鮮に移動したとスプートニク通信などが報じた。19日まで北朝鮮に留まって崔善姫(チェ・ソンヒ)外相と会い、プーチン大統領の北朝鮮答礼訪問などについて議論するものとみられる。
●「親愛なる友よ」中国への依存強めるロシア…習近平政権、深入り避ける構え 10/19
北京で18日開かれたロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席との会談では、ウクライナ侵略を続けるプーチン政権が、エネルギー分野などで中国への依存を強めていることが浮き彫りになった。習政権は、米国主導の国際秩序に対抗するためロシアとの連携を利用しつつも、深入りを避けているとみられる。
「親愛なる友よ」
侵略開始以降、旧ソ連圏外で初の外遊に中国を選んだプーチン氏は、会談の冒頭、習氏にこう呼びかけた。「一帯一路」構想を「非常に発展している」と述べ、「あなたの指導の下、成功を収めている」と称賛の言葉を繰り返した。
会談の主眼は、経済とエネルギー分野の連携強化だ。中国当局によると、今年の中露の貿易総額は9月末時点で1700億ドル(約25兆円)を超えた。2024年までに2000億ドル(約30兆円)に上げる目標を掲げるなか、プーチン氏は「今年は間違いなく突破する」と強調した。必死のアピールは、米欧の経済制裁が続く中、ロシアにとって中国との結びつきが死活的であることを際立たせた。
露側の期待感は同席者にも表れた。エネルギー担当の副首相のほか、露国営の石油会社ロスネフチやガス企業ガスプロム、銀行や原子力関係の企業トップが会談に同席した。石油や天然ガスの中国への輸出拡大を見据えた動きとみられる。
習氏は、プーチン氏との会談が13年以降で42回に上り、「良好な関係と深い友情を築いてきた」と述べ、プーチン氏が欠かせないパートナーだと強調した。
米欧も中露接近を警戒する。AP通信によると、9日に習氏と会談した米上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務はロシア支援の停止を求めた。
ただ、習政権もロシアへの過度な肩入れはしない構えだ。英メディアによると、習氏は3月のモスクワでの会談で、プーチン氏にウクライナで核兵器使用を控えるよう警告。それでもプーチン氏は6月、隣国ベラルーシへの戦術核配備の開始を宣言するなど威嚇を続けた。米ブルームバーグ通信によると、中国は6〜7月にロシアからの原油輸入を3割近く減らしたという。
中国にとって対露貿易総額(22年)は、対米国(約7600億ドル)と対欧州連合(EU)(約8500億ドル)の総額を合わせれば、約8分の1にすぎない。露専門家からは「中国がロシアだけを理由に西側を含む関係を悪化させることはない」との分析も出ている。
中露首脳会談発言要旨
   習近平国家主席
プーチン氏が3回続けて一帯一路フォーラムに出席したことはロシアの一帯一路への支持を示している。ロシアは一帯一路国際協力の重要なパートナーだ。
互恵協力、ウィンウィンの中露関係はその場しのぎではなく長久の策だ。来年は中露国交樹立から75年となる。中国はロシアとともに両国民の根本的利益を基礎とし、両国協力を絶えず充実させていきたい。
中国は、ロシアが国家主権、安全、発展の利益を守ることを支持する。中国は上海協力機構(SCO)や主要20か国・地域(G20)などの枠組みでロシアとの協力を強め、中露両国や発展途上国の共通する利益を守りたい。
   プーチン大統領
一帯一路フォーラムの成功を祝福する。習氏が10年前に提唱した一帯一路は大きな成功を収め、世界が認める重要な国際公共物となった。私は開幕式での習氏の基調演説を高く評価し、習氏の将来展望と見識を称賛する。
ロシアは新興5か国(BRICS)のような多国間の枠組みで中国と密接に協力し、国際法に基づく国際体制を守り、より公正で合理的なグローバル・ガバナンスの形成を推進していきたい。
台湾は、中国の不可分の領土の一部だ。ロシアは「一つの中国」原則や、中国の国家主権と領土保全を断固として支持する。来年の国交樹立75年を契機に、両国の協力関係をさらに発展させていきたい。
●ロシア外相が訪朝、ウクライナでの戦争支持に謝意表明 10/19
北朝鮮を訪問したロシアのラブロフ外相は、ウクライナでの「特別軍事作戦」に対する北朝鮮の支持に謝意を表明し、金正恩朝鮮労働党総書記への「完全な支持と連帯」を約束した。ロシア外務省が発表した。
ラブロフ氏は18日に平壌に到着。同日に開かれた歓迎会で同氏は、ウクライナでの戦争に対する北朝鮮の「信念に基づく揺るぎない支持」を「心から」評価すると述べた。
「同様に、北朝鮮が選んだ発展の道において、ロシアは北朝鮮の願望に完全な支持と連帯を示す」と強調。演説原稿がロシア外務省のウェブサイトで公開された。
北朝鮮の国営メディアは、ラブロフ氏の訪問は両国関係をさらに強固なものにする「重要な機会」になると伝えた。
ラブロフ氏は、今回の訪朝が9月のプーチン大統領と金総書記の会談での合意事項を確認し、具体的な履行の手順をまとめる「重要な機会」になるとの見方を示した。
ロシアのタス通信は先に、ラブロフ氏がプーチン大統領の訪中の結果について北朝鮮側に説明する可能性もあると伝えた。
●ロシア下院 CTBT批准撤回を可決 10/19
ロシア下院が、すべての空間で核実験を禁じるCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准撤回を可決した。
ロシア下院は18日、CTBTの批准撤回を審議し、全会一致で可決した。
ボロジン議長は本会議場で、「われわれの決定は、世界の安全保障を維持する義務に対して奔放な態度をとるアメリカへの返答となるだろう」と述べた。
CTBTは宇宙空間、大気圏内、水中、地下といったあらゆる空間での核実験を禁止している。
批准撤回をめぐっては、プーチン大統領が10月5日、ロシア南部ソチで開かれた国際討論フォーラムで、「批准していないアメリカのようにロシアが動くことは可能だ」とアメリカは無責任だと批判したうえで、対抗措置をとることを示唆していた。
CTBTの批准の撤回は、25日に上院で審議され可決される見通しで、プーチン大統領の署名を持って成立する。
今後、ロシアが核実験を再開するおそれがある。
●ウクライナ「ATACMS」でロシア軍を攻撃か ロシアは欧米けん制 10/19
ウクライナ軍はアメリカから新たに供与された射程の長い地対地ミサイルATACMSを使用し、ロシアが占拠する飛行場などを攻撃したとみられています。これに対しロシア側はプーチン大統領が、ウクライナへの侵攻作戦には影響はないと主張するなどして、欧米側をけん制しています。
領土奪還を目指すウクライナはアメリカから射程の長い地対地ミサイルATACMSの供与を受け、ロシア軍が占領している南部ザポリージャ州のベルジャンシクと東部ルハンシク州のルハンシクの飛行場で攻撃を行い、ヘリコプターや弾薬庫などを破壊したとみられています。
アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは17日、欧米側の当局者の話としてアメリカが今回供与したATACMSは、およそ20発だったとしています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「作戦上重要なロシアの飛行場を攻撃したことで、ロシア側は航空戦力を分散させ、一部は撤退させることになるだろう。後方地域にあるロシアの弾薬庫にも重大な脅威をもたらしている」と指摘し、今後のロシア軍の作戦に影響を及ぼす可能性があるという見方を示しています。
これに対し、中国を訪問していたロシアのプーチン大統領は「この攻撃を撃退できる。これによって戦況が劇的に変わることはまったくない」と述べ、ウクライナの戦況に影響はないと主張しました。
また、ロシアのショイグ国防相は17日、首都モスクワでベラルーシのフレニン国防相と会議を開き「両国の国境近くでNATO=北大西洋条約機構が敵対的な行動を行い情勢が悪化している」と主張し、同盟関係にあるベラルーシとの連携を強調し、欧米側をけん制しました。
●国連安保理で停戦決議案 米が拒否権行使し否決 10/19
アメリカのバイデン大統領は18日、イスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルで演説し、拘束されたすべての人質の解放に強い決意を示した。
こうした中、国連の安全保障理事会で、イスラエルとハマスに「停戦」を求める決議案がアメリカの拒否権行使で否決された。
安保理事会は18日、ガザ地区での人道支援のためにイスラエルとハマスに「停戦」を求めるブラジルの決議案を採決した。
その結果、日本やフランスを含む12の理事国が賛成したが、アメリカが拒否権を行使して否決された。
ロシアとイギリスは棄権している。
アメリカの国連大使は、「イスラエルの自衛権について言及されていない」と反対の理由を説明した。
また、「ハマスが自らガザの深刻な人道危機を招いた」とあらためて非難した。
●バイデン氏 全人質解放に強い決意 ガザなどに1億ドルの人道支援表明 10/19
アメリカのバイデン大統領は18日、イスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルで演説し、拘束されたすべての人質の解放に強い決意を示した。
アメリカ・バイデン大統領「米大統領として、人質全員の解放と安全な帰還、これ以上の優先順位はないと断言する」
バイデン氏は演説の中で、「いかなる勢力もイスラエルに新たな攻撃を加えてはならない」とあらためて警告した。
深刻化するガザ地区の人道危機に関しては、1億ドル、およそ150億円の人道支援を行うと表明したほか、現在は封鎖されているエジプト側の検問所についても支援物資の搬入ができるようイスラエルと合意した。
こうした中、現在、ガザ地区南部に避難している国境なき医師団の白根麻衣子さんがインタビューに応じ、「爆撃やミサイルは常に隣り合わせで逃げる場所がない」と語った。
国境なき医師団・白根麻衣子さん「移動しろと言われても、封鎖された空間で逃げる場所がない、人道危機的な状況。12日間見てきたものは非常に衝撃的な規模の暴力。今一番被害を受けているのは一般市民。子どもや女性」
白根さんは、「医療施設に対する攻撃をいち早くとめてほしい」と訴えた。
●米支援案、ウクライナ600億ドル・イスラエル100億ドル=関係筋 10/19
バイデン米政権はウクライナに対する600億ドルの追加支援とイスラエルへの100億ドルの支援を検討しており、20日にも米議会に追加予算の承認を要請する見通し。事情に詳しい関係筋が18日に明らかにした。
バイデン大統領はイスラエル、ウクライナ、台湾の防衛支援やメキシコとの国境管理強化のための支出を含む約1000億ドルの追加予算の承認を議会に要請する方向で検討していると、関係筋が17日明らかにしていた。
上院外交委員会の共和党トップ、ジム・リッシュ議員は、報道以外では1000億ドルという数字は承知していないが、政権がイスラエルに100億ドルの支援を検討していることは聞いていると記者会見で述べた。
複数の関係筋は、バイデン氏が最終的な数字をまだ決定しておらず、議会に追加予算の内訳は伝達されていないと述べた。
●イスラエル・ハマス紛争の波及リスク「非常に現実的」=国連特使 10/19
国連で中東和平を担当するウェネスランド特使は18日、安全保障理事会で、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの紛争が拡大するリスクは「非常に現実的で、極めて危険」と警告した。
ドーハからのビデオ演説で「中東全体とまではいかなくても、イスラエルとパレスチナの紛争の軌道を変えかねない、深く危険な深淵の瀬戸際にいることを恐れている」と述べた。
●ウクライナ、ロシアの攻撃で民間人10人死亡 南部反攻で前進 10/19
ウクライナ当局によると、17日夜から18日にかけてロシア軍が南部ザポロジエ市の集合住宅などを攻撃し、少なくとも民間人10人が死亡した。ウクライナ軍幹部らはまた、南部の反転攻勢で一定の進展があったと明らかにした。
当局によると、ザポロジエ市の集合住宅が深刻な損傷を受けたほか、中部ドニエプロペトロフスク州の村落も攻撃を受けて31歳の女性が死亡、住宅約20戸が損傷した。南部ヘルソン州では夜間の攻撃で2人が死亡した。
南部ミコライウ市の近くにある食料品店にもロシア軍のミサイルが着弾し、内務省によると、がれきに埋もれていた2人が救出された。
ゼレンスキー大統領は通信アプリ「テレグラム」に「邪悪な国家がテロ行為を続け、市民に戦争を仕掛けている。ロシアのテロを打ち破らなければならない」と投稿した。
一方、南部で反攻作戦を指揮するタルナフスキー司令官は、アゾフ海に向けて計画通りに部隊が前進していると表明。戦略的に重要なザポロジエ州ロボティネの南で「部分的な成功を収めた」とテレグラムに投稿した。
●なぜアフリカの国々は「プーチン支持」なのか… 政権維持 10/19
アフリカの「巨大利権」はプーチンに引き継がれる
ロシアの傭兵集団「ワグネル」を率いたエフゲニー・プリゴジン氏の死後も、ワグネルとロシアがアフリカを牛耳る構図には大きな変化がないのかもしれない。
海外各紙は中央アフリカなどで傭兵ビジネスを展開し、金鉱など天然資源の利権を牛耳るワグネルの事業をプーチン大統領が整理・引き継ぎを図っていると報じている。
ワグネルはこれまで、アフリカ、特に中央アフリカ共和国(CAR)で政府を対象とした警護サービスや武器の提供ほか、独自ブランドのアルコール販売などを通じ、ロシアのイメージ向上策を展開してきた。
米公共放送のPBSはこうした警護サービスについて、「ワグネルの帝国は広大であり、特にアフリカではロシアの影響力を広め、不安定さを助長するために、およそ12カ国に約5000人を派遣した」とする専門家による分析を報じている。
その結果、アフリカ諸国には、ワグネルやロシアに恩義を感じている政府が少なくない。こうした政府は、ワグネルの戦闘員がアフリカ現地で繰り広げている略奪や人権侵害からは目を背け、国を守る英雄として扱っている。
アフリカの国々が「親ロシア」になった理由
ロシアがアフリカへの影響力を強めることで、国際政治のバランスにも影響を及ぼしかねない。国際協力機構(JICA)の坂根宏治・スーダン事務所長は、笹川平和財団が発信する国際情報ネットワーク分析IINAに寄稿し、ロシアによる国連への影響力増大に懸念を示している。
昨年3月3日に開かれた国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議が賛成多数(賛成141カ国)で採択された。アフリカ諸国は54カ国中、8カ国が欠席、17カ国が棄権し、1カ国が反対票を投じた。こうした動向に、坂根事務局長は「ロシアによるアフリカ諸国の軍事セクターへの関与とは無関係ではない」と指摘する。
アフリカではクーデターや軍部による騒乱が次々と発生している。2021年1月から2022年2月までに9件のクーデターなどが発生し、このうちマリ、チャド、ギニア、スーダン、ブルキナ・ファソの5件が「成功」している。2000年以降では最も高い発生件数に達しており、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、相次ぐ不測の事態が「クーデターの流行」にあたると述べ危機感を表明した。
ロシアの関与は、現地情勢を不安定化させているだけではない。国連に加盟するアフリカ54カ国は、全加盟国193カ国の3割近くを占める。文化的・軍事的影響を通じて親ロシア派の国家を増加させることで、国連決議にさえ影響与えかねない事態を招いている。
欧米と一線を画し、現地政府の支持を得てきた
なぜロシアは、アフリカと関係を築くことができたのか。欧米諸国による支援とは異なるアプローチが、大きな要因として挙げられている。
ヨーロッパのオンラインメディアであるユーロ・ニュースは、ワグネルがロシアの利益を助長するために活動しており、結果としてアフリカ全土でロシアの影響力が増していると指摘している。
欧米諸国であれば支援を提示する際、引き換えに、現地の人権問題の改善を要求するのが通例だ。一方でロシアは、見返りさえ確保されれば現地の政治事情には口出ししない。
フランスの独立系地政学シンクタンク「イースタン・サークルズ」は、ユーロ・ニュースに対し、「若者たちのダイナミズムを支持し、『あなたたちの行動を支持しますし、人権侵害があっても裁きません』と言っていることが(ロシアの)特色なのです」と語る。
ロシアは西側と異なるスタンスをとり、これによってワグネルが現地に巧妙に入り込んでいるのだという。武器供給のほか、政情不安が続く強権国家にとってワグネルは治安維持の頼れるパートナーになったからだ。
強権政府を守るために、人々の生活を破壊してきた
だが、ワグネルは治安維持の英雄などではない。現地男性がCBSニュースに語った証言は、ワグネルがアフリカの一市民の生活を破壊したケースを克明に物語る。
ウスマンという仮名で取材に応じた中央アフリカのこの男性は、かつて家族で金の取引業を営んでいた。「とても裕福でした」とウスマン氏は振り返る。「家族全員の教育費を賄い、いい暮らしをしました。何も不自由はありませんでした」
2021年、家族が住む町にワグネルが進出したことで、状況は一変した。ウスマン氏の弟は殺害され、姉たちは強姦(ごうかん)され、そして金取引のビジネスはロシア人によって奪われたという。ウスマン氏自身は、ワグネルの基地にある仮設の監獄に連行された。何日にもわたる間拷問を受けたあと、やっとのことで脱出したという。
繰り返された虐殺、処刑、レイプ…
肩を震わせ、泣き崩れながらウスマン氏は語る。「やつらが私の国にしたこと、私の両親の目の前でしたこと……男として役立たずだと感じました」「やつらは私たちの財産を盗み、家を焼き払ったのです」。一度、盗まれたバイクにまだウスマン氏の名前が書かれているままの状態で、ワグネルの兵士が乗り回しているのを見たこともあるという。
ウスマン氏は、ワグネルが治安維持に貢献しているとの見方に真っ向から反抗する。「ワグネルは国を守るためにここにいるのではありません」「誰が言ったか知らないが、そんなことは大嘘だ!」
CBSは「ワグネルはあらゆるところに目を光らせているのだ」と述べ、取材に応じたウスマン氏が完全に怯えきっていたと伝えている。ウスマン氏は「仮名を使い、身元を隠し、隣国カメルーンで会うという途方もないことを条件に」して、ようやく記者の前に姿を現したほどだったという。
ウスマン氏の事例は、中央アフリカで起きている悲惨な殺害・略奪のほんの一例だ。CBSは、ワグネルによる民間人の虐殺、処刑、レイプの事例を複数確認していると指摘する。
利権を脅かす存在を徹底的に排除する
事業の邪魔になる存在は、何であれ徹底的に叩き潰す。それがワグネルの手口だ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今年3月のある晩、中央アフリカで防犯カメラに捉えられたショッキングな一幕を報じている。
フランスの大手飲料会社・カステル社が現地で運営するビール醸造工場に夜間、ワグネルの集団が近づき、柵越しに火炎瓶を投げ込み火災を発生させた。商品のビールに引火し、出荷前の在庫の大部分が焼失した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、この攻撃はロシアのワグネル・グループによるものであり、アフリカにおけるロシア対西側諸国の影響力争いが表面化した一例だと報じている。
ワグネルは1990年代から中央アフリカ共和国で製造されているカステル社のMOCAFビールに対抗する商品を製造するため、首都北部のバンギに新たなビール醸造所を設立した。新たなロシア製のビールブランド「アフリカ・ティ・ロール」として急速にシェアを拡大している。
軍事的支配だけでなく、このように商品や教育を通じたソフトパワーでも支配を強めているのが、ワグネルのアフリカ支配の実態だ。
ダミー会社で偽装…「ワグネル帝国」の全容解明は難しい
こうした事業のうち、ワグネルが関与を公にしているものはごく一部にすぎない。プリゴジン氏は多岐にわたる方法で、自身の行動やビジネスの実態を隠蔽(いんぺい)していた。偽装工作やペーパーカンパニーの導入、そして移動手段の隠蔽などを通じ活動を秘匿化していたと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。
商売の実態を掴まれにくくするため、手の込んだ手法を多用していた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「プリゴジンの取引の多くは、厳重に管理された多数のダミー会社によって覆い隠されていた」と指摘する。この措置はワグネルに有利に働くのみならず、ロシアが影響力を隠蔽する目的も兼ねていたようだ。
記事は、「ワグネル・グループがロシアの影響力を増大させ、アフリカで親欧米政権に対する抗議を扇動し、制裁の回避を助け、クレムリンが(アフリカへの直接的な介入を)否認できるようにするための曇りガラスのようなものだった」と論じる。
同紙によると、商売の実態を不明瞭にするためにプリゴジン氏は、「いくつかの巧妙な手段」を用いていた。まず、取引の多くは、厳重な管理を受けたペーパーカンパニーを経由して行われた。
見返りは現金払い、天然資源の利権で荒稼ぎ
また、協力者に対して常用された手段として、多くの労働者や傭兵から、料理人や学者に至るまで、報酬は好んで現金払いとした。政府から直接現金を受け取るため、自身のプライベートジェットで出向くことさえ厭(いと)わなかったという。
米超党派組織の外交問題評議会は、「ワグネルのサービスは、反政府勢力や政権を含むクライアントのニーズによって異なり、その資金源は直接支払いから資源の利権まで多岐にわたる」と指摘する。
たとえば2018年、中央アフリカのフォースタン=アルシャンジュ・トゥアデラ大統領政府を防衛するべく、ワグネルの兵士約1000人が中央アフリカ入りした。ワグネルの子会社は見返りとして、制限のない森林伐採権と、高い利益を出しているンダシマ金鉱の管理権を得た。また、2017年以降のスーダンでは、スーダン軍の訓練などの見返りとして、金の輸出を受けている。
こうして、送金記録による把握が難しい手段で見返りを受ける手法を常用していた。
無関係に見える金鉱も木材輸出も、すべてワグネルにつながっている
ダミー会社もプリゴジン氏お得意の手法だ。CBSニュースは、ワグネルとプリゴジン氏が暴力、偽情報、そして煙幕の役割を果たす「ペーパーカンパニーの銀河系」を駆使し、取引を隠蔽していたと報じている。
記事によれば、プリゴジン氏は中央アフリカの鉱物資源を支配し、それがワグネルの活動の財源になっていた。独立系情報会社のグレイ・ダイナミクスはCBSに対し、中央アフリカのンダシマ金鉱はワグネルの25年間の採掘権の下で運営されていると指摘する。だが、金鉱はプリゴジン氏が関与するペーパーカンパニーである、ミダス・リソースの名の下で運営されている。
さらに、採掘した金をロシア首都へと直接運び出す際にも隠蔽工作が施された。ワグネルは飛行機のトランスポンダーをオフにし、レーダー上での識別を困難にした。こうして税関の規制が緩いアラブ首長国連邦に降り立ち、貨物を積み替えていたという。
ダミー会社で西側諸国からの制裁を逃れる
さらにCBSの取材により、木材の輸出に関してもダミー会社が用いられていることが明らかになった。伐採権を持つワグネル企業のボイス・ルージュ社は、表向きには木材を中央アフリカ国外に輸出していない。CBSが追跡した木材は書面上、カメルーンからウッド・インターナショナル・グループと称する企業が輸出したことになっている。
だが、調査の結果、ボイス・ルージュ社とウッド・インターナショナル・グループの登記上の住所は同一であり、許認可番号も同一のものを使用していることが発覚した。「調査を逃れるため、フロント企業の名前を変える。これもまたプリゴジンの裏技だ」と記事は指摘する。
CBSニュースは、プリゴジン氏とワグネルが多数の架空企業に関与しており、これらはクレムリンの戦略の一部だと論じている。ワグネルはアフリカ大陸で同盟の輪を広げつつ、天然資源をほしいままにし、西側諸国の厳格な制裁から逃れる新しい方法を模索している――との指摘だ。
ウクライナ戦争の資金源になっているとの指摘も
ワグネルの活動はウクライナ戦争の資金源になっているおそれがある。米CBSニュースは、ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始して以来、最も血なまぐさい戦闘の多くは東部バクムート周辺で起きていると指摘。こうした戦闘員の多くはロシア兵ではなく、ワグネルから報酬を得ている傭兵だと述べている。
ワグネルが大量の傭兵を雇うには、相応の資金が必要だ。CBSニュースは独自に追跡調査を行ったうえで、ワグネルが中央アフリカの政府に味方し、見返りとして現地の金鉱の利権や木材伐採の許可などを取り付けていると報道。また、ワグネルは戦闘員をアフリカに派遣し、現地政府に対する騒乱の抑制をビジネスとして請け負うことで、ウクライナ戦争での「活動資金の大部分を賄っている」と記事は分析している。
「アフリカの巨大利権」はプリゴジンからプーチンへ
プリゴジン氏の死後、ロシアの影響力はどう変化するだろうか。米CNNは「モスクワが放ちたいメッセージは、『平常通りである』ということのようだ」と指摘。アフリカにおけるワグネルの活動をロシアが引き継ぎ、中央集権化すべく整理が進められていると報じている。初期からの取引相手国のひとつ、中央アフリカでは、ロシア政府が戦闘員との契約を更新し、主要都市に集約することで運用コストを軽減するよう、再編活動を積極的に進めているという。
米ワシントン・ポスト紙も、中央アフリカ共和国の当局者による情報として、現地にいる1000人以上の傭兵をロシア政府が直接管理する体制に移行しつつあると報じている。
さらにプリゴジン氏の死後、ロシアのユヌス=ベク・エフクロフ国防次官と、軍参謀本部情報総局(GRU)で秘密作戦部門を統括するアンドレイ・アベリャノフ氏は、そろってアフリカ諸国を訪問している。ある西側政府当局者はワシントン・ポスト紙に対し、訪問の主な目的は、「プリゴジンの広大な帝国は、いまや政府の管理下にある」とのメッセージを発信することだろうとの観測を示した。
プリゴジンの代わりはいくらでもいる
米公共放送のPBSも、ロシアの支配力は残るとの見方を取り上げている。現在のワグネルはより小規模な組織に分割されるが、引き続きロシア政府の下に置かれるという。
同局の報道番組「PBSニュースアワー」に出演した外交・防衛特派員のニック・シフリン氏は、「プーチン大統領はワグネル帝国を解体し、明らかに首を切り落としたようだ」と最新の話題に触れている。
続けて、「プリゴジンは自らを、人気者であり、必要不可欠な存在だと考えていた。そして、ウクライナであろうとアフリカであろうと、彼は個性と残忍さによってワグネルの多様な活動をまとめあげてきた」と、存在感あるプリゴジン氏を振り返る。だがその上で、「プーチン率いるロシアでは、ボス(プーチン氏)以外、誰一人として不可欠な存在ではない」と指摘。プリゴジン氏の代わりはいくらでもいるとの見方を示した。
共演した米シンクタンクのブルッキングス研究所のヴァンダ・フェルバブ=ブラウン氏も、アフリカ各国の政府はロシア依存から脱却できないとの見解を示した。ワグネルの今後についてブラウン氏は、ロシアはアフリカにおけるワグネル帝国を解体した方が管理しやすくなると指摘した。
ブラウン氏によると、複数の会社や人物に置き換えられる可能性が高いという。実際、例えばシリアでは、ワグネル部隊がロシア軍に編入され、ワグネルの指揮官がロシア軍の指揮官と交代しているという。ワグネルには政府への警護サービスから誤情報の流布までを一括して行う「スーパーマーケット」としての利点があったが、プーチン氏としては二度とこのような帝国の存在を許したくないだろう、とブラウン氏は語る。
ワグネル依存を止められない中央アフリカ
中央アフリカでは、ワグネルとの関係は続きそうだ。現地ではワグネルへの依存が強く、にわかに関係から抜け出せない現状がある。中央アフリカ共和国のトゥアデラ大統領は、ロシアへの感謝を明確に表明している。ワシントン・ポスト紙は親ワグネル色が濃い理由として、内政不安の解消にロシアが貢献したことを挙げている。
トゥアデラ大統領は同紙のインタビューに応じ、2016年に大統領に就任した際、全土の90%が反乱軍に支配されていたと振り返る。政府は首都防衛のための兵器を必要としていたが、過去2013年に反乱軍が政府を転覆したことを受けて国連が禁輸措置を敷いており、入手が困難であったという。そこへ「親切にも援助を申し出た」のがロシアだ。
トゥアデラ大統領は「フランスやアメリカではなく、ロシアが『親切に』援助を申し出た」と強調する。2018年には、ロシアから指導者たちが兵器の使用方法を教育するために送り込まれ、のちにそれがワグネルであることが明らかになった。2020年に反乱軍が政府転覆をもくろんだ際は、さらに多くの兵員がワグネルから派遣された。こうした事情を経て、現在でも政府関係者たちは、ワグネルの戦闘員によって首都バンギが救われたと捉えているのだという。
大統領顧問のTシャツには「私はワグネルだ」の文字
中央アフリカとワグネルの蜜月は続く。中央アフリカのフィデル・ゴンジカ大統領上級顧問は、ワグネルとの今後の関係を訊ねるCNNのインタビューに、「私はワグネルだ」と書かれたTシャツを着て臨んだ。ワグネルがPR用に配布しているものだ。
プリゴジン氏の訃報を耳にしたゴンジカ氏は、「悲しみ、私たちは泣いた。中央アフリカのすべての人々が泣きました」という。紛争が絶えない同国において反乱軍から身を護ってくれたワグネルに、感謝が尽きないとゴンジカ氏は語る。
CNNの記者が「アメリカは中央アフリカ共和国に、どの国よりも多くの人道支援を行っていますよね」と水を向けると、ゴンジカ氏は「しかし、それはまた別のことです」と応じた。「彼ら(アメリカ)はわれわれに食料を与え、ロシアは平和を与える。われわれは食料よりも平和を愛しているのです」
ゴンジカ氏はまた、「よく聞いてください。貧乏人に選択肢はないのです」とも語る。
「フランスに助けてもらいたかった。アメリカに助けてもらいたかった。彼らに頼んだが、助けることに同意したのはロシアだった。だから結局のところ、こうしてロシアにすがっているのです」
トップのプリゴジン氏が死亡したあとも、ロシアに頼らざるを得ない実情は変わらないだろう、とゴンジカ氏は語った。
「ワグネル帝国」の解体を狙うプーチンの意図
政情不安が続くアフリカの強権国家の指導者は、人権問題への対応を先送りしてでも、自身の政府を守ろうとする意識が強く働く。こうした国々に、ワグネルは武器や防衛サービスの提供を通じて影響力を拡大してきた。ビールやウォッカなどの販売など民間ビジネスも提供し、文化面でも親ロシア派の市民を育みつつある。
このような活動はワグネルにとって資金源となっているだけなく、国連総会で54票を持つアフリカ諸国を票田と化す作用を生み、ロシアにとって有利に働いてきた。西欧諸国がロシアに制裁を強めるなかで、海外から支持を取り付ける抜け道として機能している。
プリゴジン氏の死後、ワグネルの存在を危険視するプーチン氏は、企業の部分的解体と影響力の抑制を図るだろう。それでもアフリカ諸国がロシア依存から脱却できない以上、ロシアの影響力は依然残るものとみられる。
米シンクタンクのカウンシル・オン・フォーリン・リレーションズは、ワグネルがアフリカに関与した結果、人権侵害が疑われ、当該地域の治安が悪化したケースが多数あると実例を挙げている。2019年のリビアではワグネルが民間人地域に地雷を仕掛けたとされたほか、最近リークされた情報によるとチャドではワグネルが反政府勢力に加勢し、暫定大統領の追放を試みているという。
傍若無人に振る舞うロシアとワグネル戦闘員
欧米の支援を受けるには人権問題への対応が必須となるが、ワグネルやロシアはその条件を設けていない。結果としてアフリカ諸国は容易に支援を求めることができるが、その結果待っているのは、傍若無人に振る舞うロシアとワグネル戦闘員による支配と、国内の人権問題のいっそうの深刻化だ。
プリゴジン氏の死を受け、プーチン氏は強大で複雑に入り組んだワグネル帝国を解体し、ロシア政府による直轄化に動くとみられる。アフリカの資源を牛耳るだけでなく、国連総会での票をロシアの意のままに操る動きでもあり、国際社会への挑戦とも言えよう。プリゴジン氏の死後も続くロシアの暴虐が懸念される。
●欧州委員長のイスラエル訪問が波紋 EUの足並みに乱れ 10/19
イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスによる軍事衝突を受け、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長がEU内で調整せずイスラエルを訪問したことが「職権逸脱」(欧州メディア)と波紋を広げている。EUは17日、テレビ会議形式で臨時首脳会議を開催し、認識の擦り合わせを図った。
フォンデアライエン氏が急きょイスラエル入りしたのは13日。ネタニヤフ首相を前に「イスラエルには自衛権がある」と全面的な支持を表明した。EUは10日の緊急外相会議で、自衛権を容認しつつも「国際人道法の順守」を求めることで一致していた。
訪問を受け、ボレル外交安全保障上級代表(外相)は「EU外交は政府間(で決める)政策だ」と強調。フォンデアライエン氏のスタンドプレーに、珍しくくぎを刺した。
EUのミシェル大統領は、軍事衝突の影響で社会的対立が深まっていることから「EU首脳の強固な結束」が必要だとして、17日に臨時首脳会議を開催した。欧州メディアによれば、会議では一部首脳がイスラエル訪問を支持したが、大半の加盟国はフォンデアライエン氏の発言に関して事前調整がなかったことに不満を示したという。
また、ロシアのプーチン大統領と北京で会談したハンガリーのオルバン首相は臨時首脳会議を欠席。結束の難しさが露呈した形となった。
ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、EU内では東欧を中心に「支援疲れ」も目立つ。ウクライナ問題に加え、パレスチナ情勢にどう向き合うのかを巡り、EUの結束は正念場を迎えている。
●南部にロシア攻撃、5人死亡 住宅破壊、東部でも 10/19
ウクライナ南部ザポロジエ州の当局者は18日、未明にあったロシア軍による州都ザポロジエへの攻撃で5人が死亡したと発表した。集合住宅が破壊され、遺体が見つかった。クリメンコ内相によると、東部ドニエプロペトロフスク州の村にも攻撃があり、1人が死亡した。
ロシア国防省は18日、2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島にウクライナ軍による2発のミサイル攻撃があり、迎撃したと発表した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、フランスのマクロン大統領と電話会談した。フランス大統領府によると、マクロン氏は中東情勢が緊迫しても「ウクライナ支援は必要な限り続く」と述べた。
●プーチン大統領、病院爆発は「恐ろしい出来事」 中露首脳会談 10/19
中国の習近平国家主席と会談したロシアのプーチン大統領は、パレスチナ自治区ガザ地区での病院での爆発を「恐ろしい出来事」と述べるとともに、停戦仲介に前向きな姿勢をアピールしました。
中国メディアによりますと、会談で習主席は「ロシアとの友好は一時的なものではなく長期的なものだ」と述べ、長期化が予想されるアメリカとの対立を念頭に連携強化を呼びかけました。また、「ロシアの国家主権や安全、発展の利益を守ることを支持する」と述べ、ウクライナ侵攻で孤立が続くロシアに寄り添う姿勢を鮮明にしました。
一方、会談後に記者会見したプーチン大統領は、「中東情勢についても詳しく話し合った」と明らかにしました。
プーチン大統領「(ガザ地区の病院への爆発は)恐ろしい出来事だ。数百人が死亡し、数百人が負傷した。これは惨事だ。この被害が紛争を早く終わらせるきっかけとなることを願っている」
会見でプーチン大統領はこのように述べ、厳しく非難しました。ウクライナ侵攻をめぐり孤立を深めてきたプーチン大統領としては、仲介姿勢をアピールすることで国際社会への復帰を目指す狙いがあるとみられます。 
●20日にも検問所開通し物資搬入か ガザ地区人道状況悪化 10/19
人道状況が悪化しているパレスチナ自治区・ガザだが、早ければ20日にも現地に支援物資が届く可能性がある。
ガザ地区では、イスラエルからの水や食料などの供給が止められ、急速に人道状況が悪化している。
イスラエルは18日、エジプトとガザ地区の境にあるラファ検問所からの支援物資の搬入を認める方針を示した。
現在は空爆で損壊した道路の修復がまだ続いているとの報道もあるが、検問所は早ければ20日にも開かれ、支援物資の搬入が始まる可能性がある。
一方で、物資はトラック20台分に制限されているほか、イスラム組織ハマスに横取りされるおそれもあり、事態改善につながるかは不透明。
またエジプトとヨルダンは声明を出し、安全保障上の観点から、ガザ地区にいるパレスチナ人を自国の領土に受け入れないとの方針を示した。
こうした中、イギリスのスナク首相はイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談を行い、ハマスを「市民を危険にさらすテロリストだ」と厳しく非難するとともに、人道危機に対応するために支援を行う考えを明らかにした。
また、テルアビブの空港では自衛隊機で退避するため、イスラエルに住む日本人とその家族60人余りと、韓国人およそ20人が搭乗の受付などを行っている。
退避する日本人「非常にありがたいと思います。国の強いメッセージだと思います」、「毎日のようにミサイルが飛んでくるので精神状態も限界がきた。複雑です。イスラエルがすごく恋しいし、主人をここに残していかなければいけないので、心が張り裂けそうな思いでいます」
自衛隊機は、このあと経由地を経て羽田空港に向かう。
●露大統領演説で伊大使離席 侵攻に抗議、一帯一路会議 10/19
中国北京市で18日に開かれた巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議でロシアのプーチン大統領が演説を始めた際、イタリアのアンブロセッティ駐中国大使がウクライナ侵攻への抗議の意思を示すため離席し、会場を後にしたとイタリアメディアが19日までに報じた。
外交筋によると、先進7カ国(G7)で唯一、一帯一路に参加するイタリアは中国政府から国際会議への招待を受けたが代表団の派遣を見送り、習近平国家主席らが演説する行事にだけ大使が出席した。プーチン氏は習氏に続いて演説した。
イタリアは代表団派遣を見送ったことで、一帯一路を離脱する意向を固めたとの見方が強まっている。
欧州では中国がウクライナに侵攻したプーチン氏を招いたことに反発が広がり、国際会議への招待を受けた国が相次いで代表団派遣を拒否した。ハンガリーとセルビアは首脳級が会議のため訪中した。
●タイ首相、中ロと積極連携 実利優先で多角化外交 10/19
タイのセター首相は19日、訪問先の中国・北京で習近平国家主席と会談した。タイ政府が明らかにした。17、18両日に開かれた中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議にも出席し、協力して発展を目指すと表明。ロシアのプーチン大統領とも会談し、ロシア人観光客の滞在期間延長を提案した。9月の就任後初の中ロとの会談で、実利優先の積極姿勢で接近した。
タクシン元首相派「タイ貢献党」のセター氏は実業家出身で、経済政策を重視。中国の建設会社や自動車メーカー幹部とも面会し、タイへの投資を促した。習氏との会談では電気自動車(EV)や半導体の分野での協力強化で一致。タイ公式訪問も呼びかけた。
プーチン氏との会談でもタイ訪問を招請。実現性は不明だが、タクシン氏と親交のあるプーチン氏はタイ語で「ありがとう」と返答したという。
ウクライナ侵攻を受けて欧州各国などがロシア人の入国を制限する中、セター氏はロシア人観光客のビザ(査証)なしでの滞在期間を30日から90日に延長するとも伝えた。セター氏は政権の正式発足直前にロシア人に人気の南部のリゾート地、プーケットを視察しており、タイ経済の柱の観光業活性化に注力する。
一方でタイは米国と同盟関係にある。就任直後にはニューヨークを訪れ、テスラやグーグルなどの企業幹部と相次いで面会。セター氏は米メディアに「ビジネスに関しては米中どちらにもオープンだ」と語った。国家の「最高経営責任者(CEO)」を自称してタイ経済を成長させたタクシン氏をほうふつとさせる経済重視路線で、タイの伝統的な多角的外交を継続する姿勢を鮮明にしている。
●ロシア、ガザに27トンの人道支援物資提供 非常事態省 10/19
ロシア非常事態省は19日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)の民間人を支援するため、27トン分の人道支援物資を送ったと発表した。エジプト経由で輸送されるという。
同省によると、首都モスクワ近郊の空港から、特別機がエジプトのアリーシュ(El-Arish)に向けて飛び立った。
送られた物資は「小麦、砂糖、米、パスタ」などで、「エジプトの赤新月社(Red Crescent)に引き渡され、ガザ地区に送られる」予定だという。
前日18日には米国のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領も、エジプトがガザ地区ラファ(Rafah)との境界にある検問所を開き、トラック20台分の人道支援物資を通過させることに合意したと明らかにしていた。
●海兵隊ドニエプル渡河か ロ軍無人機とミサイル攻撃 10/19
米シンクタンク、戦争研究所は18日、ウクライナの海兵隊が南部ヘルソン州でドニエプル川を渡河し、東岸に上陸した可能性があるとの見方を示した。ただ現時点で本格的な足場は築いていないと指摘、ロシアの軍事専門家はウクライナ側が今後、大規模な作戦を行う可能性を警告している。
ウクライナ軍は19日、ロシア軍が18日夜から19日未明にかけ、イラン製無人機と弾道ミサイル「イスカンデル」などによる攻撃を行ったと発表した。東部や南部のインフラや軍事、民間施設が目標で、ウクライナ側は一部を迎撃した。南部ミコライウ州の知事は村の飲食店が被害を受け、2人が死亡したと明らかにした。
●ドイツ極右に中国との「癒着」発覚...中国の「脅しと賄賂」に屈してしまう理由 10/19
ドイツで急伸する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に醜聞だ。今月、独メディア「ティー・オンライン」はAfD所属の欧州議会議員マクシミリアン・クラーと中国当局との癒着を報じた。
EU懐疑主義、反移民を掲げる同党は来年の欧州議会選で親中派として知られるクラーを筆頭候補に据えている。報道によると、クラーに「非常に近しい人々」が、中国から資金提供を受けていた。
また彼の側近はドイツ国内の中国反体制派グループと中国当局の双方とつながりがあり、前者の動きを後者に注進している疑いがあるという。クラーはこの報道を「事実無根だ」と否定しており、この一件が彼の強固な支持基盤に影響を与えることはなさそうだ。
ただ中国とつながるAfDの指導層はクラーだけではない。過去1年の間に、同党の政治家が数人、当局の招待で中国を訪れたことが分かっている。同党は中国・新疆ウイグル自治区での国家主導の残虐行為や、ウクライナ戦争での中国のロシア支援を受けて中国と距離を取るドイツ政府の姿勢に反対の立場だ。
専制国家への接近は、AfDだけでなくドイツの極左運動にも共通して見られる。しかし同党の親中化はそれよりも、中欧・東欧の極右全体に見られる明確なパターンをなぞっている。
欧州での「ばらまき」をいとわない中国
このパターンは欧州の各勢力に「ばらまき」をいとわない中国の姿勢と、中国の事実上の同盟国であるロシアと極右勢力が概して友好的であることの両方の帰結だ。アメリカやEUが中国と対決姿勢を強めているため、欧州諸国の反米・反EUの右派が中国に傾いていることも背景にある。
例えばハンガリーのオルバン首相や、セルビアのブチッチ大統領は親中傾向を隠さない。チェコではゼマン大統領(当時)が2015年、中国の政商、葉簡明(イエ・チエンミン)を経済顧問に任命したほどだった。
対照的に、西ヨーロッパの極右政党は中国に対して複雑な態度を取っている。フランスでは国民連合のマリーヌ・ルペン党首がインド太平洋における対中戦略を訴える。イタリアではメローニ首相が中国の「一帯一路」構想から離脱する方針を決めた。極右化が進むイギリスの保守党にも強力な反中派閥がある。
中国側からすると、中欧・東欧の極右勢力との協力はイデオロギーの親和性ではなく、便宜上の理由に基づいている。味方になりそうな各国の周縁的な勢力を見つけてはせっせと資金を注ぐことを繰り返しているだけだ。
中国にとっては大きなチャンス
とはいえ、ブレア元英首相からシュレーダー元独首相に至るまで、主流派政治家に対してさえも中国が「求愛」するのは以前から見られる光景ではあった。
大筋では、中国は他の大国との間で影響力拡大のゲームを競っているにすぎない。脅しや賄賂が中国の常套手段であることは確かだが、その他の手管はアメリカなどと同じ──政治家の自尊心をくすぐり、外国との取引の機会や、時には資金を提供する──だ。その違いは手段ではなく、中国の人権侵害に対する批判を封じるという目標にこそある。
AfDの台頭は、ハンガリーやセルビアのような小国よりもドイツを重視する中国にとって、大きなチャンスではあるだろう。
ただ本当に危険なのは、欧州のこうした周縁的な親中勢力ではなく、中道政党が権力を得るためそうした勢力と手を結ぶ意欲を強めていることかもしれない。

 

●ロシア、北極海航路で対中LNG販売の拡大狙う=ノバク副首相 10/20
ロシアのノバク副首相は19日、北極海航路(NSR)を経由した中国との貿易を拡大し、液化天然ガス(LNG)の最大供給国になることを望んでいると述べた。
NSRは、ノルウェーとの国境に近いムルマンスクから東方に伸び、アラスカに近いベーリング海峡まで続いている。
ロシア政府によると、プーチン大統領は今週、中国を訪問。ノバク氏は訪中団の一員で、現地で丁薛祥・筆頭副首相と会談した。中ロビジネスフォーラムでは演説を行った。
ノバク氏によると、ロシアは中国向けLNG供給で第4位。ノバク氏は、世界LNG市場で、カタール、米国、オーストラリアと競合しており、「進行中の複数のプロジェクトを踏まえると、ロシアは対中LNG供給において、主要かつ信頼できる供給国になる可能性がある」と演説した。
ノバク氏と丁薛祥氏は、NSR経由の両国間の貿易貨物量を、少なくとも約5000万トンに拡大する方法について協議した。
ロシアは昨年、NSRの拡張計画を承認。貨物取扱量は24年に8000万トン、30年に1億5000万トンに拡大する見通し。
●プーチン大統領「ロシア五輪出場禁止は民族差別」 IOC批判 10/20
ロシア選手がオリンピック(五輪)に出場できなくした国際オリンピック委員会(IOC)の決定を巡りプーチン大統領が「民族差別」と猛非難した。
プーチン大統領は19日(現地時間)、ロシア・ペルムで開かれたロシア−スポーツ強国体育フォーラムの演説でIOCに対して「民族差別の中断」を促した。
プーチン大統領は「ロシアは五輪参加が選手たちの無条件の権利ではなく一種の特権であることを知ることになった」とし「この特権はスポーツの結果ではなくスポーツと関連のない政治的行動から得ることができるということを学んだ」とした。続いて「政治と何の関連もない選手にとって五輪が政治的圧迫の手段になる場合がある」と皮肉った。
ロシア選手は昨年2月ロシアのウクライナ侵攻余波で1年以上にわたり国際大会に参加することができずにいる。一部の選手は他国の国家代表に合流して五輪出場を準備中だ。
IOCは今年3月ロシアとベラルーシの選手が個人資格として中立団体に編成されて来年のパリ夏季五輪に出場できるように道を開けた。しかし「ロシアとベラルーシの選手は個人資格でも五輪出場を禁じるべきではないか」という声が出てIOCは最終決定を先送りしている。
プーチン大統領は「取り消すことができない価値の一つがスポーツの持つ統合の力だ。しかしスポーツの真の原則である結束力と忠誠心が試されている」とし「選手は五輪出場剥奪で厳しい時期を送っている」と述べた。
13日、IOCはロシアオリンピック委員会(ROC)の国家オリンピック委員会(NOC)の資格を停止した。ROCがドネツィク・ルハンシク・ヘルソン・ザポロジエなどロシアがウクライナから強制併合した4カ所のオリンピック委員会を自国組織に統合したことに対応する措置だ。
●「これ以上ない皮肉」 プーチン氏の民間人犠牲発言に―独首相 10/20
ドイツのショルツ首相は19日、ロシアのプーチン大統領がパレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突で、民間人の犠牲が出ることを容認しないと述べたことについて、「これ以上の皮肉はない」と指摘した。連邦議会の演説で語った。
ショルツ氏は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で市民に大量の犠牲者を出し続けていることを棚に上げたプーチン氏の言動に怒りをあらわにした。プーチン氏は13日、パレスチナ情勢に関して「民間人の死傷は絶対に受け入れられない」と語った。ロシアは、イスラエルとハマスの即時停戦を求めている。
●ロシア、女性編集者を拘束 米ロ二重国籍 10/20
米国とロシアの二重国籍を持つ米政府系報道機関「ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティー(RFE/RL)」の女性編集者アルス・クルマシェワ氏がロシア当局に拘束された。RFE/RLが発表した。
プーチン政権はウクライナ侵攻以降、報道機関への統制を強め、多くの独立メディアやジャーナリストを「外国の代理人」に指定している。RFE/RLによると、ロシア当局は18日、クルマシェワ氏がこの「外国の代理人」登録を怠っていたとして起訴したと発表した。最長5年の禁固刑に処される可能性があるという。
クルマシェワ氏はプラハを拠点とし、今年5月に家族の緊急事態のためにロシアに入国。その後ロシア出国時に拘束され、パスポートを没収された。米国のパスポートをロシア当局に登録しなかったとして罰金も科されたという。
米国籍のジャーナリストとしては、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシコビッチ記者も今年3月にロシア当局に拘束された。
●イスラエルとウクライナ支援、バイデン氏「不可欠」 緊急予算を要請 10/20
バイデン米大統領は19日夜、ホワイトハウスの大統領執務室から米国民向けに演説した。イスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルやロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援継続が「米国の安全保障にとって不可欠だ」と訴えた。また、両国への追加軍事支援を柱とした緊急予算を20日に連邦議会に要請すると明らかにした。
バイデン氏は演説で「我々は歴史の転換点に直面している」と述べた。ハマスとロシアのプーチン大統領に共通点があるとし、「双方とも近隣の民主主義国家を完全に滅ぼそうとしている」と指摘した。
その上で、ハマスの「テロ行為」に代償を負わせなければ「米国や世界へのテロの脅威は増大する」と主張。ロシアのウクライナ侵攻を許せば「世界中の侵略者たちをつけあがらせる。紛争や混乱のリスクがインド太平洋や中東に拡大する恐れがある」と訴えた。
米メディアによると、バイデン氏が要請する緊急予算は1000億ドル(約15兆円)規模。台湾への軍事支援や移民対策のための国境警備強化の費用も含まれるとみられている。バイデン氏は演説で「米国のリーダーシップが世界を支えている」と強調。国民に巨額の支出への理解を求め、議会側に党派対立を超えて停滞している予算審議を進めるよう訴えた。
バイデン氏は18日にイスラエルを訪問し、イスラエルへの連帯を内外にアピールしていた。米大統領は、戦争や自然災害などの重大事案で国民の結束を呼びかけたり理解を求めたりする際に執務室から演説する。バイデン氏が執務室から演説するのは2回目となる。
●バイデン氏、イスラエル・ウクライナ支援訴え 米指導力の重要性強調 10/20
バイデン米大統領は19日、ホワイトハウスで国民に向けて演説し、イスラエルとウクライナに対する多額の追加支援の重要性を訴えた。
「世界をまとめるのは米国のリーダーシップだ。米国の安全を守るのは米国の同盟関係だ」と強調した。
「(イスラム組織)ハマスと(ロシア大統領の)プーチンは異なる脅威だが、共通しているのは両者が隣国の民主主義を滅ぼしたい点だ」とも述べた。
ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの病院で起きた爆発について、イスラエルの責任ではないとしつつ、「平和に暮らし、機会を得たいと願うだけの罪のないパレスチナ人の人間性を無視できない」と語った。
また、戦争を支援することが米国にとってなぜ重要なのか疑問視する声が国民の間で出ていることに懸念を示した。
「これらの紛争が遠くのことのように見えるのは分かる」と述べる一方で、米国の敵対勢力は両紛争がどのように展開するか注視しており、結果次第で世界の他の場所で問題を引き起こす恐れがあると警鐘を鳴らした。
共和党が多数派を握る下院で議長不在が続いている状況を念頭に「取るに足らない党派的で怒りに満ちた政治が偉大な国家としての責任を妨げてはならない」とも述べた。
また、議会に対し20日に緊急予算を要請する方針を明らかにした。
●イスラエル電撃訪問は「危険な誤算」?! 10/20  
それでも英BBCが「バイデン大統領しかいない」と評価する理由とは
イスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を仕掛け、両者の軍事衝突に発展するなか、米国のバイデン大統領がイスラエルを電撃訪問して、世界をあっと驚かせました。
もともと米国は親イスラエルの立場で知られていますが、現職の米国大統領が、砲弾が飛び交い、多くの死者が出ている「wartime」(戦渦)に訪問するのは極めて異例。各国メディアも「gamble」(危険な賭け)と称していますが、果たして、バイデン大統領が「政治生命をかけた」賭けの行方はどうなるのでしょうか?
早くも「誤算」と報じるメディアがある一方で、中東情勢を知りつくした英BBCは「世界中を見渡しても、バイデン大統領しかいない」と、手腕に期待を寄せていました。その理由は...。
英BBC「80歳のバイデン大統領、世界を見渡しても彼しかいない」
イスラム組織ハマスによる突然の大規模攻撃で、混乱に陥っている中東情勢。わずか10日間ほどで死者が数千人に及ぶなど、過去に類を見ない甚大な被害が広がっています。
この先、圧倒的な軍事力を誇るイスラエルの大規模報復が始まったら、一体どうなるのか...。世界中を巻き込んだ紛争への発展が懸念されるなか、各国首脳は「最悪の事態」を避けようと外交手段の限りを尽くしています。
そんななか、米国のバイデン大統領がイスラエルを電撃訪問。外国首脳のイスラエル入りはドイツ首相に続く2人目でしたが、直前にガザ地区の病院が爆破されて数百人が無くなるなど、戦況が悪化するなかでの「異例の訪問」に、地元米メディアも「危険な橋を渡った」と伝えています。
   President Biden walks a tightrope on Israel-Gaza
(バイデン大統領は、イスラエル・ガザ問題で危険な橋を渡っている:NYタイムズ紙) walk a tightrope on:危ない橋を渡る、綱渡りをする
残念ながら、多数の民間人死者を出したガザ地区病院爆発の影響で、予定されていた会合が次々とキャンセルになったバイデン大統領。緊張緩和の仲介役としては、期待されていたほどの役割を果たせなかったようです。
日本でも、「イスラエル訪問は誤算だった」「次期大統領選に向けた地盤固めは失敗に終わった」と伝える報道が目につきます。ところで疑問に残るのは、なぜ、これほどまでのリスクを冒して、バイデン大統領がイスラエル訪問を決行したのかということです。
複雑を極める中東情勢が、そんなに簡単に解決できるとは当の大統領自身も期待していなかったでしょうし、直前の病院爆発で「最悪のタイミング」となったことはわかっていたはずです。
そう不思議に思って海外ニュースを追いかけていたら、「今こそ、バイデン大統領の出番だ」という英BBCの記事を見つけました。
英BBCによると、今年80歳になるバイデン大統領は、議員になった50年前からずっとイスラエル問題に取り組んでいたそうです。さらに、イスラエルのネタニヤフ首相のことも40年近く知っているなど、バイデン大統領に匹敵する「人脈」や「経験」を持つ首脳は、世界中にいないとのこと。
最近は、演説中に足を踏み外したり、不可解な発言をしたりといったアクシデントが続いて「おじいちゃん大統領」のイメージが強かったバイデン大統領ですが、英BBCは「ようやく、バイデン大統領の『高齢』がマイナスではなく、プラスに働く時がきた」と、中東情勢に関わるキャリアを評価していました。
「やっと、高齢がプラスになる」というのは、英国らしい皮肉交じりではありますが、確かに、イギリスのスナク首相(43)や、フランスのマクロン大統領(45)が生まれる前からイスラエル問題に取り組んでいるという事実は説得力がありますし、バイデン氏の半世紀にわたるキャリアの右に出るものがいない、という評価には納得です。
また、政治家として大事な選挙を控えているとしても、戦況が悪化して自身が暗殺される危険性もある遠い外国の地に、「打算」だけで老体にムチを打って出かけるでしょうか?
もちろん、複雑な国際情勢ですから、バイデン大統領の「人脈」や「長年のキャリア」で状況が一変することはありません。それでも、状況を知り尽くし、特派員を現地に派遣して危険を冒しても現地から報道を続ける英BBCが、バイデン大統領に「淡い期待」を寄せる背景が理解できる気がします。
バイデン大統領でも状況を変えるのは難しい、それでも、バイデン大統領しかいない...。そんな厳しい現実を知ると、軽々に「今回の訪問は誤算だ」と否定する気にはなれません。日本のメディアだけでは見えてこない、世界の現実がそこにあるようです。
トラック運転手たちも安堵! やっと、エジプト側から支援物資を届けられる!
「危険な賭け」に出たバイデン大統領ですが、支援物資の搬入に関しては成果があった様子。パレスチナ自治区ガザへの人道支援について、エジプトとの境界の検問所からトラック20台分の支援物資を運び入れることで、エジプトのシシ大統領と合意したことが明らかになりました。
   Egypt and US agree to allow aid into Gaza
(エジプトと米国は、ガザ地区に支援物資を認めることに合意した:英BBC)
これまでガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所は封鎖されていて、エジプト側には、各国からの支援物資を積んだ大型トラックが大量に「足止め」されていました。
物資不足が危機的な状況にあるガザ地区。水や食料、医療品などの必需品が足りずに人々の生活が切迫している目の前で、大量の物資が「足止め」されているとは信じがたいことです。未だ「150台以上のトラックがエジプト側で待機している(英BBC)」という報道に驚くばかりです。
今回、バイデン大統領とエジプトのシシ大統領が合意したのは、「最大20台のトラック通過」ですから、まだまだ氷山の一角にすぎません。それでも、「トラック20台」の小さな穴が大きく広がって、事態を動かす大きな一歩になることを願うのみです。
ウクライナの戦争もそうですが、政治の力が間違った方向に動く恐ろしさを目の当たりにする時代になりました。こんな時こそ、海外メディアにも目を向けて、複眼的な視点で世の中を眺めることが必要でしょう。これからも、多様な視点を伝えていきたいと意を強くしました。
それでは、「今週のニュースな英語」は、NYタイムズ紙の見出しから、「walk a tightrope 」(危ない橋を渡る、綱渡りをする)を使った表現を紹介します。ちなみに、「タイトロープ」は「綱渡り」に使う綱のことだそうですから、文字通り「綱渡り」なのですね。
   Ukraine must walk a tightrope between the U.S. and Europe
(ウクライナは米国とヨーロッパの間で危ない橋を渡らないといけない)
   Fed will walk a tightrope between inflation and recession
(Fedはインフレと景気後退の間で、綱渡りをしている)
   We have to walk a tightrope on pricing
(商品の値段決めでは、危ない橋を渡ることになる)
バイデン大統領に続いて、英国のスナク首相のイスラエル訪問も報じられました。各国首脳が一堂に会さずに五月雨式に訪問しているのは、イスラエルの大規模報復を遅らせる作戦だ、との説もあります。
さすがに他国の首脳を迎えている間は進行を開始しないだろう、という見立てですが、これといった打開策がない証左に映ります。事態の深刻さに圧倒されつつも、各国ニュースから目が離せない日々が続きそうです。
●ウクライナで約3万人の民間人・軍人が行方不明 10/20
ロシアによる侵攻が続くウクライナで、約3万人の民間人や軍人が行方不明になっていることが分かりました。
戦争や災害による行方不明者を調査するICMP(国際行方不明者機関)は18日、ウクライナでの行方不明者の捜索や遺体の身元確認についてウクライナ政府とさらに協力して進めることに合意しました。
このなかでウクライナ保健省は現在、約3万人の民間人や軍人の行方が分からなくなっていると明らかにしました。
ICMPは「これほど膨大な行方不明者を発見し、残虐行為の証拠を集めることは、単独の国では不可能」としています。
ICMPは去年11月、ウクライナでの行方不明者を1万5000人以上と推計していて、侵攻が長期化するなか、行方不明者の増加が伺えます。
●欧・米、貿易摩擦解消へ互恵的措置必要=EU大統領 10/20
欧州連合(EU)のミシェル大統領は19日、EUと米国は貿易摩擦解消に向けた互恵的な対策を見つける必要があると述べた。
ウクライナを巡る欧米の結束を示すため、20日に米ホワイトハウスで米・EU首脳会議が行われるが、貿易問題が双方の関係に影を落としている。
ミシェル氏とフォンデアライエン欧州委員長はトランプ前米政権時代に導入された関税の撤廃や米国のグリーン産業向け補助金の影響緩和で合意したい意向だが、交渉担当者は19日午後の時点で突破口を開くに至っていない。
ミシェル氏は記者団に対し、特に中東情勢の緊迫化を踏まえると米国とEUが共通の価値観や民主主義へのコミットメントで結束する重要な時期だと指摘。
一方、貿易面での解決策は互恵的でなければならないとも述べた。この問題が20日のホワイトハウスでの会談までに解決するかどうかについては予測を避け、交渉が継続していると述べるにとどめた。
米国はトランプ前政権が課したEUからの鉄鋼・アルミニウム輸入に対する関税を一時停止したが、中国など非市場経済の過剰生産能力への対応策などで今月末までに双方が合意することが前提となっている。
●鉄道輸送で「ヨーロッパ一帯一路」実現へ!? 安全保障は物流から! 10/20
ヨーロッパでは世界の不安定な情勢を受け、鉄道による輸送網の確立に向けた動きがあります。この「鉄道回廊」計画ですが、一枚岩ではなくさまざまな「関係性」も見え隠れします。
「脱ロシア・脱中国」のために「まず団結すべきなのは輸送」
ロシアのウクライナ侵攻で、ガス供給源と輸送ルートに苦悩した欧州。さらに、世界各地に食指を伸ばす中国の巨大経済圏構想「一帯一路政策」に対する警戒感も高まっています。それらの教訓から欧州では、「脱ロシア・脱中国」をすすめ「信用し合えるパートナー」だけで輸送網を確立することが重要課題となりました。
そのなかでも鉄道が安全保障上、非常に大切な戦略インフラであることが改めて意識されており、欧州版一帯一路ともいえる「鉄道回廊」の整備を進める計画があります。
その計画の中枢にあるのは、ドイツ。自らが鉄道網の「ハブ」となってEUを取りまとめ、鉄道強国への道を突き進もうとしています。鉄道や海路でインドまで結ぼうという構想もあり、世界の鉄道輸送網が大きく変わるかもしれません。
ドイツは来年度から2027年度までに400億ユーロ(約6兆円)という巨費を鉄道予算に割り当てる予定で、鉄道の近代化を急速に進めています。特に、信号システムをはじめ、国別で異なる運行方式を一元化し「シームレスな一つの鉄道網」を目指しています。すなわち鉄道の欧州統合です。
そのベースとなるのが、鉄道や海路を組み合わせた「欧州横断輸送ネットワーク (TEN-T)」という構想で、もともと冷戦が終わった1990年代に浮かんだ計画でした。それが昨今の緊迫した政治情勢を受け、具体化が急速に進んでいるのです。主要部は原則として「2030年完成」を視野に入れています。
ヨーロッパの安全保障「鉄道回廊」とは
TEN-Tは9つのルート(回廊)があります。フランス、イタリア、オーストリア、ハンガリー国内には4ルートが通り、デンマークなど12か国は1つしか通っていません。そのなかでドイツは突出していて、6つの回廊が通っています。しかも最新の発表資料によると、7つ目のルートもドイツにつながる可能性があります。
その7つ目のルート「北海―地中海回廊」は、アイルランドから海路でオランダのアムステルダムやフランスのル・アーヴルに上陸し、そこから地中海へと抜けるものです。欧州委員会は2022年11月、68ページの計画書を発表し、同回廊について「ドイツに繋ぐことを検討する」と、ひっそり書き加えたのです。
東欧と西欧、北欧と南欧の間、すなわち「中欧(セントラル・ヨーロッパ)」に位置するうえ、9つの国と接し、経済的にも政治的にも欧州の中心のドイツ。欧州最大の経済大国で自動車や工作機械などのモノ作りも集積しています。ほかの欧州諸国との貨物のやり取りが多いのも当然です。ドイツが欧州の鉄道輸送の「ハブ」になることは必然とも言えます。
しかも2021年末に発足したショルツ政権では、環境政党の「緑の党」が連立与党に入り、自動車や航空より環境に優しい鉄道への期待が高まっています。

一方、欧州の「鉄道回廊」の整備から外れつつあるのは英国です。
前述のTEN-Tの「北海―地中海回廊」は、もともとアイルランドだけでなく「英国の北部スコットランドからロンドンを経由してドーヴァー海峡を渡り、地中海に向かう」というルートでしたが、2022年1月のブレグジット(英国のEU離脱)で大きく計画が変わりました。
英国が「信用し合えるパートナー」から外れ、ハブと接続するどころか「ハブられる」選択をしたことにより、英国を通る必要がなくなり、代わりにドイツを経由する7つ目の回廊にする方向に切り替わったようです。
「ハブられ」イギリスの悲哀は「新幹線計画」にも…
英国の鉄道整備には、ほかにも甚大な影響が出ています。例えば英国は、ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道「HS2(ハイスピード2)」を建設する予定でしたが、計画縮小を余儀なくされました。中部バーミンガムからさらに北のマンチェスターの間の着工を断念し、当初よりも路線を大幅に短縮したのです。
表向きの縮小理由は「インフレによる費用高騰」とされていますが、建設費用にあてこんでいたEUの資金支援が見込めなくなった影響もあるようです。
その動かぬ証拠が、英国運輸省の資料に書かれた当時の「HS2用に助成金を得られる可能性が最も高いのは、EUのTEN-Tから」という一文です。
EUとの“喧嘩別れ”から4年弱、もらえなかった資金の穴は大きかったのかも知れません。「ハブ」になる国のドイツと「ハブ」られた国の英国の明暗が分かれています。
ちなみに、欧州〜中東〜インドの回廊に含まれず「ハブ」られたのはトルコも同じで、「トルコ抜きの経済回廊はありえない」と怒りをにじませるという政治ドラマもありました。

ウクライナ情勢をかんがみて、EU内の輸送網だけを拡充しても近隣の「信用し合えるパートナー」との輸送網を築いておかなければ意味がないという考えになったEU。2022年7月に作成された欧州委員会の資料は「ロシアやベラルーシを信用したことへの反省」などがつづられ、欧州内で新設予定の輸送網から両国を排除することや、代わりにTEN-Tの4つの回廊をウクライナやモルドバまで伸ばす案が明示されています。
今後は、ロシア、中国、北朝鮮などの鉄道建設の計画がどう変更してくるのかも気になるところ。足元でイスラエルと、イスラム武装組織ハマスによる武力衝突もあり、激変した中東情勢も世界の物流に影響してきます。国際秩序が大きく揺れ動くなか、世界の鉄道輸送が変化していくのは間違いありません。「ハブ」になる国と、その一方で「ハブ」られる国々の行く末を注視したいところです。
●世界経済とG20 広がる不安への処方箋を 10/20
世界経済の先行きにさらなる不安が広がりかねない情勢だ。国際社会の対応が問われている。
日米中など主要20カ国・地域(G20)は財務相らによる会議を開き、世界経済は下振れリスクを抱えているとの認識で一致した。
国際通貨基金(IMF)は来年の成長率見通しを2%台に下方修正した。2000年以降、好不況の境目とされる3%を割ったのは、リーマン・ショックや新型コロナウイルス禍などによる5回だけだ。
ウクライナ危機に伴う物価高が重荷となっている。成長をけん引してきた中国は深刻な不動産不況に陥っている。米国は予算を巡る与野党の対立で政府機関の閉鎖と国債格下げの懸念がくすぶる。
追い打ちを掛けているのが中東情勢の緊迫化だ。イスラム組織ハマスとイスラエルの衝突がエスカレートし、産油国に混乱が広がれば、原油価格が高騰しかねない。
米欧の利上げが長引き、景気をさらに冷え込ませる恐れがある。米国の高金利は多額のドル建て債務を抱える途上国の負担を重くする。スリランカのような財政破綻が続くと金融市場を動揺させる。
さらに気がかりなのは、国際社会の対立が一段と深まることだ。
G20はウクライナ危機で日米欧と中露の亀裂が拡大し、共同声明を採択できない状態が続いた。ハマスの攻撃に対しても、イスラエル寄りの米欧と、中露やサウジアラビアとでは姿勢が異なる。
今回は声明を採択したが、ロシアのウクライナ侵攻を直接非難せず、中東情勢には全く触れなかった。初日に採択したのも、議論に深入りすることを避けたためだろう。インフレや食料危機にも処方箋を示したとは言いがたい。
第4次中東戦争を発端とした石油危機から今月で50年を迎えた。当時、日米欧は主要7カ国首脳会議(G7サミット)を創設し、連携して世界不況を克服した。協調の重要性は今も変わらない。
政治体制の違う国が集まるG20は意見集約が難しい。だが分断が深刻化すれば、しわ寄せは途上国など弱い立場の人たちに及ぶ。
意見の相違があっても、グローバルな課題では主要国は連携する必要がある。各国は責務を自覚し解決に努めなければならない。
●ブラジルは戻ってきた――返り咲いたルーラ大統領の外交 10/20
国際社会に「ブラジルは戻ってきた」
ブラジルを含む「グローバルサウス」と称される国々は、近年、再編が進む国際秩序における第三勢力として注目を集めている。とくに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、拡大路線を強める中国との関係も含め、世界各国の外交姿勢が以前より問われるようになった。2023年5月に日本で開催された主要7カ国(G7)サミットには、ブラジルやインドなどのグローバルサウス諸国が招待され、ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日して出席したこともあり、外交舞台での各国の対応や立ち位置への関心が高まった。
ブラジルでは2022年10月に大統領選挙が行われ、史上最僅差ながら左派の労働者党のルーラ元大統領が現職大統領のボルソナロに勝利した。当選したルーラは、大統領就任前の2022年11月、エジプトで開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)に参加し、環境問題に取り組む国際社会に「ブラジルは戻ってきた」(O Brasil voltou)とアピールした。“南米のトランプ”とも称されたボルソナロ大統領が任期中、外交や環境問題に消極的だったため、ルーラ新大統領の発言はボルソナロ政権への暗示的な批判であるとともに、新政権の外交姿勢を表明するものとして注目された。
2023年1月に3度目となる大統領に就任したルーラは、政権発足100日を記念するイベントも「ブラジルは戻ってきた」というタイトルを付して開催した。このイベントでルーラ大統領は、キーワードの「ブラジルは戻ってきた」を外交以外のさまざまな分野でも使い、20回以上も繰り返しながら演説した。外交に関しては、「世界のすべての国との良好な関係を再開しながら、積極的で誇り高い外交政策を有するよう、ブラジルは戻ってきた」と主張した。また、グローバルな課題である環境問題に関しては、「持続可能性と気候変動への取り組みにおいて、ブラジルは世界の基準に戻るだろう」と述べた。
2010年の退任から13年ぶりに大統領へ返り咲いたルーラのもと、ブラジルはグローバルサウスの一角に挙げられ、国際社会でのプレゼンスを再び高めている。本稿では、G7やBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)首脳会議などの重要な外交舞台において、ルーラ大統領が行ってきた主な言動を概観する。それらをもとに、変化する世界の勢力図におけるルーラ外交について考察し、ブラジルの課題について本稿が注目する点を指摘する。
13年ぶりに戻ってきたルーラ大統領の外交
ルーラは政権を発足させた2023年初めから活発に外交を行っている。年初からの主要な外交舞台における言動からは、ルーラ大統領が国際舞台に“ブラジルを戻した”ことが見てとれる。
大統領就任後に初訪問した米国での発言(2月10日)
バイデン大統領との首脳会談において、ロシアのウクライナ侵攻は「はなはだしい国際法違反」との文言を載せた共同声明を発表した。しかし、ウクライナ支援に関しては米国と歩調を合わせず、CNNのインタビューに「戦争に加わりたくない」と語り武器供与を拒否した。
大統領就任後の中国初訪問(4月13〜15日)
米国とEUはウクライナでの戦争を煽るのは止めるべきであり、和平の道を模索する国々でグループを結成すべきだと主張した。上海にある新開発銀行(NDB、いわゆるBRICS銀行)を訪問し、「IMFが発展途上国を窒息させ続けることはできない」「世界の国々がドルで貿易を行う必要があるのか疑問だ」と述べ、現行の国際金融システムを批判した。また、「我々ブラジルは、中国との戦略的パートナーシップのレベルを引き上げ、貿易の流れを拡大し、中国とともに世界の地政学のバランスを取りたい」と述べ、中国との関係強化により、再編が進む国際秩序での影響力を拡大させたい意向を示した。帰路に訪問したアラブ首長国連邦では、「戦争をやめることよりも始めることの方が簡単だ。なぜなら、今回の戦争はウクライナとロシアの両国が始めたものなのだから」と発言した。戦争勃発時に表明した「両国が始めた」との見解を繰り返すなど、ロシア寄りとも思われる言動を行った。
日本・広島でのG7サミット(5月21日)
ウクライナのゼレンスキー大統領と共同セッションで一度だけ同席し、両大統領はほぼ向かい合わせの正面に座った(写真1)。ただし、ゼレンスキー大統領が登場した際に各国代表が次々と挨拶したのに対し、ルーラ大統領は席を立たずに書類に目を通していた。ルーラ大統領はウクライナの領土一体性の侵害に言及し、紛争解決の手段としての武力行使を断固として拒否するとしてロシアを非難した。しかし同時に、中ロへの敵対ブロックの形成をけん制するとともに、多極的な世界秩序への移行には国際協力が必要だと強調し、自身のこれまでのポジションを堅持した。G7サミット最終日の記者会見では、ブラジルをはじめ中国やインドなどのグローバルサウスは和平を議題にしたいが、G7諸国が戦争を望んでいると強く批判した。
ロシアのプーチン大統領との電話会談(5月26日)
ブラジルはウクライナ戦争を解決すべく、中国、インド、インドネシアなどと共に和平交渉に関与する意思があると改めて表明した。ただし、招請されたロシア来訪については、謝意を表しつつ「今はロシアを訪問できない」と辞退した。
南アフリカで開催されたBRICS首脳会議(8月22〜24日)
中国主導で欧米諸国に対抗するようBRICS加盟国の拡大が協議されたことに対し、「我々はG7、G20、米国の対抗勢力になることを望んでいるわけではない。我々自身を組織化し、これまで存在しなかったものを作りたい」との立場を表明した(写真2)。ただし、BRICS首脳会議の最終日、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦という、中国とより親密な6カ国の新たな加盟が発表された。
インドで開催された20カ国・地域(G20)サミット(9月11日)
国際刑事裁判所(ICC)による逮捕状の問題からG20サミットを欠席したプーチン大統領に関して、2024年にG20議長国となるブラジルとして、「プーチン大統領は我が国を問題なく訪問できる。私が大統領在任中にブラジルに来るのであれば、プーチン大統領が逮捕される理由はない」と発言した。しかし、この発言に批判が集まったこともあり後日、「逮捕するかしないかを決めるのは司法であり、政府でも議会でもない。ただ私としては、米国やロシアが加盟していない国際刑事裁判所になぜブラジルが加盟しているのか調べたいと思う」と述べ、トーンをやや後退させた。
国連総会での演説(9月19〜20日)
演説の冒頭で取り上げたのは気候変動、世界における貧困や格差などブラジルが影響力を持ちうるテーマであり、「ブラジルは戻ってきた」とのフレーズを使いながら、多国間主義の外交姿勢を強調した。しかし、戦争や平和に関する内容を取り上げたのは演説の終盤であり、パレスチナ問題、ハイチ危機、イエメン紛争、グアテマラの政治不安など11カ国の名前を先に挙げた。「ウクライナ戦争は、国連憲章の目的と原則を普及できていない私たちの集団として無能さを露呈した」と最後の事例として取り上げ、国連の問題と関連させるかたちで言及した。またルーラ大統領は、国連総会の翌日にゼレンスキー大統領と初めて会談を行い、和平を提案できる国々でグループを形成する必要性という今までの持論とともに、「ロシアが行ったような領土占領が二度と起きぬよう」と述べ、ウクライナへの配慮を示した。
大統領就任以降の外交をめぐる言動には、世界の勢力図が変化するなかでグローバルサウスの一角として、国際社会に“戻ってきたブラジル”の影響力を強めようとするルーラ大統領の姿勢が表れていよう。このようなルーラ大統領の外交は、政権一期目と二期目と同様、ブラジル外交の伝統である多方位的な多国間交渉をベースにしながらも、大統領主導による独自外交を再び試みているものだといえる。
ただし、13年ぶりに大統領の座に戻ってきた現在の国際社会の情勢は、とくにロシアのウクライナ侵攻により、ルーラが2003年から8年間政権を担った頃とはかなり異なっている。大統領に返り咲いたルーラの外交は、国連総会の演説でみられたように、多国間主義にもとづいて和平への賛同を取りつけることが難しいこともあり、ブラジルが「南」の利益を代表しながら国際社会での影響力を高められるような環境や貧困・格差などの問題を優先しているといえよう。
グローバルサウスと従属論
「グローバルサウス」(川村 2023)の観点からブラジルを「世界」の中で捉えるときに想起されるのが、主にラテンアメリカ地域から発せられた開発理論である「従属論」(カルドーゾ&ファレット 2012)である。従属論では、世界資本主義経済システムの中枢である「北」に対して、周辺の「南」は構造的に低開発の状態にとどめ置かれる。従属論のなかにもさまざまな見解があるが、主唱者のひとりである社会学者のカルドーゾは、「北」との構造的な従属関係を変化させることで「南」も周辺から中枢へ移行していくことが可能だと唱えた。そのカルドーゾは、ブラジルの大統領を1995年から8年間務め、自らの理論の実践を試み、経済の安定の実現や21世紀初頭の発展の礎を築いた。
「南」の低開発や貧困問題への関心が強いルーラ大統領は、8月のBRICS首脳会議で次のように述べている。「我々は常に、あたかも地球の貧しい地域であり、まるで存在していないかのように扱われてきた。我々は常に二流であるかのように扱われた。しかし今、我々は重要な国になれることに気づき始めた」「気候問題について話すとすれば、今日交渉できる力があるのは誰か? それはグローバルサウスである。発展の可能性、成長の可能性について話したいなら、それはグローバルサウスである。我々は存在し、自らを組織していて、欧州連合、米国、すべての国と対等な条件で交渉のテーブルに座りたい、と言っているだけである。我々が望んでいるのは、政治的決定の観点から世界をより平等にする新しいメカニズムを作り出すことなのだ」。これらの発言は、低開発を強いられたグローバルサウスの一員であり、中枢への接近が可能とする従属論者を輩出したブラジルの、現大統領としての意志を込めたものだといえよう。
「戻ってきた」ブラジルの課題
周辺の「南」は、資本主義経済のなかで、中枢である「北」への従属的な構造から長きにわたり低開発の状態に置かれてきた。ルーラ大統領は自身が貧困層出身なこともあり、グローバルサウス諸国の結束や組織化により、「世界をより平等にする新たなメカニズム」の構築を試みていると考えられる。ただし、ブラジルの現状に関する課題として、経済における過度な「一次産品への依存」という、従属論で脱却が目指された状況が再び顕在化している点が挙げられる。
一次産品である「農牧業と鉱業」の合算が国内総生産(GDP)に占める割合、および、「鉱業以外の第二次産業」、とくに生産性の高い「製造業」が占める割合の推移を、20世紀半ばからまとめたのが図1である。ブラジルをはじめとするラテンアメリカ諸国は伝統的に「一次産品への依存」が高く、その脱却を目指して1960〜80年代に輸入代替工業化を推進した。その結果、GDPに占める「農牧業と鉱業」の割合は低下して「鉱業以外の第二次産業」の割合が増加し、1970年前後には「ブラジルの奇跡」と呼ばれる高度経済成長を達成した。その後、1980年代の「失われた10年」といわれる経済危機の後、1990年代に経済が自由化されると「鉱業以外の第二次産業」の割合は急激に低下した。21世紀初頭になると、「新しいブラジル」といわれる発展期を迎えたが、その背景には高度経済成長を遂げる中国への鉄鉱石や大豆などの一次産品輸出の増加があった。そのため、「新しいブラジル」においてGDPに占める「鉱業以外の第二次産業」の割合に大きな変化はなく、それどころか2021年になると、より生産性の高い「製造業」の割合を一次産品の「農牧業と鉱業」が上回る状況となった。
従属論の観点からは、「中枢」への一次産品輸出の増加が「周辺」の低開発を助長させることが懸念される。ブラジルは、中国と貿易や投資などの関係を深めるほど、自国経済における一次産品の比重が高まり、低開発の状態にとどめ置かれる可能性が高くなるのである。周辺から中枢へ移行した中国との関係をどう構築するかという点は、ルーラ外交が直面する重要な課題のひとつである。今回のBRICS首脳会議において、中国が欧米に対抗するかたちで加盟国拡大を主導したのに対し、必ずしも賛成ではないブラジルは、拡大を認める代わりに、ブラジルの国連常任理事国入りを中国が支持するよう持ちかけた。中国が実際にそれを支持するか否かは、両国の関係性をはじめ、今後の国連改革や拡大BRICSの影響力を左右するかもしれず、ブラジルの今後を占う試金石のひとつとなるだろう。また、ブラジルだけでなく南米地域全体においても、中国の経済的な影響力が増大しており、地域大国のブラジルにとって中国との関係は期待と懸念が混在する課題である。
ウクライナ戦争で問われるブラジルの安全保障観
最後に、ウクライナ戦争の和平交渉におけるブラジルの役割について指摘しておく。ブラジルは軍事的脅威にさらされていない南米のグローバルサウスである。この点はとくにウクライナ問題をめぐるルーラ大統領の外交姿勢に表れている。和平の仲介役に名乗り出る一方、ウクライナにクリミア半島の断念をも提案したルーラ大統領に対し、「世界をもっと広く理解すべきである」「ブラジルは誰とも戦争しているわけではない」と、ゼレンスキー大統領は批判的な発言をした。「誰かがアマゾンを侵略したら黙認するか」という、ウクライナのラテンアメリカ担当大使が示したような視点が、軍事的脅威にさらされていないブラジルには欠けているように見受けられる。
ブラジルが「戻ってきた」現在の世界には、戦争中でなくとも軍事や紛争の危険を抱えている国や地域が少なくない。国家安全保障に関わる問題にどこまでコミットし貢献できるか、グローバルサウスの大国としてルーラ大統領に問われる外交力のひとつだといえる。 
●バイデン大統領 イスラエル・ウクライナ支援の緊急予算要請を表明 10/20
アメリカのバイデン大統領は19日、ホワイトハウスの執務室から国民向けの演説を行い、イスラエルとウクライナへの支援に向けた緊急の予算を議会に要請すると表明しました。
バイデン大統領はロシアのプーチン大統領とイスラム組織「ハマス」を重ね合わせ、イスラエルとウクライナへの支援はアメリカの安全保障に不可欠だとして国民に理解を求めました。
バイデン大統領「ハマスとプーチン(大統領)は異なる脅威を代表しているが、共通点がある。両者は近隣の民主主義を完全に消滅しようとしている。イスラエルとウクライナ支援の成功が、アメリカの国家安全保障に不可欠だ」
バイデン大統領は「アメリカのリーダーシップが世界をまとめている」と強調し、「前例のない」緊急予算を議会に要請することに理解を求めました。
ガザ地区への攻撃で国際社会のイスラエルへの批判が高まっていることを念頭に、大統領はまた、「イスラエル政府が怒りに目を奪われないように警告する」と述べ、パレスチナ側に寄り添う姿勢も強調しました。
バイデン大統領は中東外交、そしてウクライナなど複数の事態対応を迫られる、まさに正念場を迎えています。
●「ハマスと同じ」発言容認せず=米大統領に反発―プーチン氏報道官 10/20
ロシアのペスコフ大統領報道官は20日、バイデン米大統領がイスラエルを攻撃したパレスチナのイスラム組織ハマスと、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領を同列に扱ったことについて「受け入れられない」と強く反発した。タス通信が伝えた。
バイデン氏は19日の演説で「(ハマスもプーチン氏も)近隣の民主主義国家を完全に消滅させようとしている共通点がある」などと指摘。イスラエルとウクライナを支援する必要性を米国民に訴えていた。 
●プーチン氏の主張に反論 IOC 10/20
ロシアのプーチン大統領が来年のパリ五輪への同国選手の参加可否を決めていない国際オリンピック委員会(IOC)を批判したことについて、IOCは20日、「民族差別という非難を強く拒絶する」と反論した。AFP通信が報じた。
IOCは、ウクライナに侵攻を続けるロシアと同盟国ベラルーシの選手は個人資格で国を代表しない中立の立場で国際大会に出場できるよう、各競技団体に勧告している。プーチン氏の発言を受けIOCは「国際大会参加について定めた厳格な条件は、五輪憲章に基づいたものだ」と主張した。
●ウクライナ軍、ドニプロ川東岸へ渡河作戦…ロシア軍と激しい戦闘 10/20
ウクライナ軍は、ロシア軍が占領するウクライナ南部ヘルソン州のドニプロ川東岸への渡河作戦を実施した。露国防省は18日、ドニプロ川東岸の集落で、ウクライナ軍の活動を阻止したと明らかにし、ウクライナ軍に渡河を許したことを認めた。今回の渡河作戦はこれまでよりも規模が大きく、本格的な上陸作戦も視野に入れた拠点確保が狙いとの見方が出ている。
プーチン露大統領は18日、「(ウクライナ側は)ヘルソン方面で反攻作戦を始めたが結果は出ていない」と主張した。米政策研究機関「戦争研究所」は露軍事ブロガーらのSNSへの投稿を根拠に「ウクライナ軍が17〜18日にドニプロ川東岸に攻撃を仕掛けた」と指摘した。公開された位置情報を基に、ウクライナ軍がドニプロ川から東へ4キロ進軍したとの分析も明らかにした。露軍が反撃し、激しい戦闘になっている模様だ。
一方、露大統領府は20日、プーチン氏が露南部ロストフ・ナ・ドヌーの露軍司令部を訪れ、ウクライナ侵略作戦総司令官のワレリー・ゲラシモフ参謀総長から戦況報告を受けたと発表した。タス通信によるとプーチン氏の訪問は昨年2月の侵略開始以降、4回目だ。
● ロシア・ウクライナ首脳 中東情勢注視し作戦進めるか 10/20
ロシアのプーチン大統領は、南部の軍司令部を訪問し、参謀総長から最新の戦況について報告を受けた一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍事支援をめぐってアメリカのバイデン大統領と電話会談を行いました。双方は、緊迫する中東情勢が戦況にどう影響を与えるかについても注視しながら作戦を進めるとみられます。
ロシア大統領府は、プーチン大統領がウクライナと国境を接するロシア南部ロストフ州のロストフ・ナ・ドヌーにある軍司令部を訪問したと20日、発表しました。
プーチン大統領は、ゲラシモフ参謀総長から「作戦計画に従い任務を実施している」などと報告を受け、ロシア軍が今月に入りウクライナ東部での作戦を強化したとされる中、大統領みずから指示したとみられます。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、アメリカのバイデン大統領と電話会談を行い、「勝利に必要なだけ支援するという強いシグナルをもらった」と述べました。
会談では、アメリカから供与された射程の長い地対地ミサイルATACMSが領土奪還に向けた追い風になると伝え、さらなる軍事支援ついても協議したとしています。
イスラエルとパレスチナの情勢が緊迫することで、ウクライナ侵攻に対する欧米側の関心が低下するとして、ウクライナは警戒しているとみられます。
双方は、中東情勢が戦況に影響を与えるかについても注視しながら作戦を進めるとみられます。
英国防省「米供与のミサイル攻撃 ロシア軍の作戦に影響も」
戦況を分析するイギリス国防省は20日、ウクライナ軍は、アメリカから供与された射程の長い地対地ミサイルATACMSを軍事作戦に使用して今月17日、ロシアが占拠する飛行場を攻撃し、南部ザポリージャ州のベルジャンシクで9機、東部ルハンシク州のルハンシクで5機のヘリコプターをそれぞれ破壊した可能性が高いと指摘しました。
このうちベルジャンシクの飛行場は、ロシア軍にとって南部戦線での後方の補給や攻撃、防衛の拠点として使用されていて、ロシア軍の作戦に影響を与える可能性があると分析しています。
また、現在のロシア側の軍需産業の製造能力を考えると、この損失について短期から中期的に代替することは難しいと指摘しています。
さらに、ロシア側は、今回の攻撃を受けて今後、最前線から司令部機能などを移転せざるを得なくなり、補給活動などにとっても負担が増大する可能性があると分析しています。
●プーチン氏、ロ南部司令部訪問 侵攻1年8カ月で軍引き締め 10/20
ロシア大統領府は20日、プーチン大統領が南部ロストフナドヌーの特別軍事作戦司令部を訪れ、ウクライナ侵攻を統括する総司令官兼務のゲラシモフ軍参謀総長らから戦況報告を受けたと発表した。タス通信によると、プーチン氏のロストフナドヌー訪問は、侵攻開始後で4回目。
プーチン氏は17、18両日に中国・北京を訪問。続いて立ち寄ったロシア中部ペルミからロストフナドヌーに入った。24日で侵攻から1年8カ月を迎えるのを前に、軍の引き締めを図った形だ。
●ロシアとハマスを同列に「近隣の民主主義国家を完全に破壊しようとしている」 10/20
米国のバイデン大統領は19日夜、ホワイトハウスの執務室から米国民向けのテレビ演説を行った。ロシアの侵略を受けるウクライナ、イスラム主義組織ハマスの攻撃を受けるイスラエル両国への軍事支援を巡り、20日に米議会に対して追加支援予算を一括要求すると表明した。ロシアとハマスを同列の脅威と位置づけ、「両者とも近隣の民主主義国家を完全に破壊しようとしている」と非難した。
バイデン氏は「イスラエルとウクライナでの成功は米国の安全保障にとって不可欠だ」とし、「ウクライナから立ち去り、イスラエルに背を向ければ、米国の指導力など全てを危険にさらす」と訴えた。追加予算は「賢明な投資だ」と説明し、国民、予算編成権を握る議会に理解を求めた。
バイデン氏は予算規模に触れなかったが、米メディアは今後1年で1000億ドル(約15兆円)規模と報じている。米国が「唯一の競争相手」と位置づける中国を念頭に、台湾への軍事支援も含まれる可能性がある。米政府が複数の国家脅威に関する支援予算を一括で議会に求めるのは異例だ。
9月末に成立した政府の暫定予算(つなぎ予算)では野党・共和党の反対でウクライナ支援予算が削除され、支援継続が危ぶまれている。政権は共和党が主張するイスラエル支援と同様の必要性を訴えることで、支援両立の実現を目指す。
バイデン氏は演説で、18日のイスラエル訪問時に、パレスチナ自治区ガザへの攻撃を重ねるベンヤミン・ネタニヤフ首相に、国際法に沿った行動を取り、民間人を可能な限り保護するよう求めたと語った。中東の安定に向け、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を「あきらめない」とも述べた。17日にガザで発生した病院爆発については、イスラエルの攻撃が原因ではないと改めて指摘した。
ウクライナ情勢に関しては、ロシアの侵略を許せば「世界中の未来の侵略者たちが同じことを試みるだろう」と強調。「紛争と 混沌 のリスクはインド太平洋や中東など世界各地に広がる」と懸念を示した。
米大統領は、重要局面でオーバルオフィスと呼ばれる執務室から演説を行うことが慣例となっている。

 

●露、反戦派の元外務次官を「スパイ」指定 産経取材にも侵略批判 10/21
ロシア司法省は20日、ウクライナ侵略を批判してきた元露外務次官、ゲオルギー・クナーゼ氏(74)をスパイと同義の「外国の代理人」に指定したと発表した。クナーゼ氏は侵略開始直後の昨年3月、産経新聞の電話インタビューに応じ、プーチン露大統領を批判。また、侵略への加担を避けるためとして、良心に基づき露外務省を退職するよう現役外交官らに呼び掛けていた。
クナーゼ氏の「外国の代理人」指定は、ウクライナ侵略後、政権批判が事実上禁じられたロシアの言論環境の悪化を改めて浮き彫りにした。
露司法省はクナーゼ氏の「外国の代理人」指定の理由について「反露感情を形成する目的で、露公権力の決定や政策、露軍の活動に関する虚偽の情報を流布した。定期的に外国メディアにコメンテーターとして登場していた」などとした。クナーゼ氏は最近もウクライナメディアの取材に応じるなどしていた。
「外国の代理人」に指定された個人や団体は財政状況や活動内容が当局の厳しい監視下に置かれ、違反した場合は刑事罰などの対象となる。
露政権側は近年、自身に不都合な情報を発信する独立系メディアや人権団体などを続々と「外国の代理人」に指定。指定により活動停止に追い込まれる団体も出ており、欧米側からは言論弾圧だとする批判が出ている。
●バイデン大統領「ロシアが北朝鮮武器でウクライナ攻撃」 10/21
ロシアがウクライナ攻撃の武器確保のために北朝鮮に頼っていると、バイデン米大統領が19日(現地時間)、強調した。ロシアが北朝鮮の武器をウクライナ攻撃に使用しているか、使用しようとしていることをバイデン氏が直接明らかにしたのだ。
バイデン氏は、ホワイトハウスで行った国民向け演説で、「ウクライナは、米国が主導する世界50ヵ国の支援を受け、ロシア軍が占領した領土の半分以上を奪還した」とし、「一方、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナの都市と市民を脅かすための攻撃ドローンと弾薬を購入するためにイランと北朝鮮に頼っている」と述べた。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は19日、訪朝したロシアのラブロフ外相と会談し、「安定的で未来志向的な新時代の朝ロ関係の百年の大計を構築しよう」と述べたと、北朝鮮の朝鮮中央通信が20日、伝えた。北朝鮮は、正恩氏とラブロフ氏が「地域および国際情勢に主導的に対処し、共同の努力で全ての方面において双務的連携を計画的に拡大していくことを議論した」とし、「見解の一致を見た」とも伝えた。
これにより、プーチン氏の訪朝が近いうちに実現するものと予想される。正恩氏とプーチン氏は、北朝鮮のウクライナ攻撃用武器供与やロシアの偵察衛星技術の提供など、武器と軍事技術の取引を超え、米国に対抗する長期的な共同戦線を構築するものとみられる。
これに先立ち、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相とラブロフ氏の会談では、経済、文化だけでなく、先進科学技術分野での協力事業についても話し合われたと、同通信は伝えた。ロシアが軍事偵察衛星、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、原子力潜水艦技術など、北朝鮮に先端軍事技術を移転することを議論した可能性を示唆したのだ。また、2024〜25年の交流計画書も締結したと同通信は報じた。専門家らは、「北朝鮮とロシアがこの期間、経済、エネルギー、技術協力で目に見える成果を出すという考えを示した」と見ている。
訪韓中のデニス・フランシス国連総会議長は20日、最近の北朝鮮とロシアの接近について、「休戦協定を違反したり、韓半島の安定・安全を損なうような措置や政策につながらないことを願う」と警告した。
朝鮮中央通信は20日、論評で、米軍の戦略爆撃機B−52H「ストラトフォートレス」の韓国初上陸について、「最初の消滅対象」と警告した。核武装が可能な米軍の代表的な戦略爆撃機であるB−52Hは前日、忠清北道清州(チュンチョンプクト・チョンジュ)の空軍基地に着陸した。
●民主主義国家の結束確認=米EU首脳、相次ぐ紛争で 10/21
バイデン米大統領は20日、訪米した欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長、ミシェル大統領とホワイトハウスで会談した。ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナのイスラム組織ハマスのイスラエル攻撃と紛争が相次ぐ中、民主主義国家の結束を確認した。
会談の冒頭、バイデン氏は「われわれはウクライナ支援で共に立ち上がり、今はイスラエル支援で手を取り合っている」と表明。フォンデアライエン氏は「これらの紛争が示しているのは、民主主義国家は団結しなければならないということだ」と応じた。
会談後に発表した共同声明は、ハマスの攻撃を「残忍なテロ」と非難し、「国際人道法を含む国際法に従い、凶悪な攻撃に対するイスラエルの自衛権を確認する」と強調した。同時に、パレスチナ自治区ガザでの人道危機に懸念を示し、民間人保護の必要性を訴えた。ウクライナ支援の継続も改めて確認した。
バイデン氏は19日のテレビ演説で、ハマスとロシアのプーチン大統領を「近隣の民主主義国家を完全に消滅させようとしている共通点がある」と指摘。フォンデアライエン氏も19日の講演で「ハマスとロシアは似ている」と断じていた。
●中露首脳会談 世界の安定に寄与しない 10/21
「蜜月関係」をアピールすればするほど、そう演出せざるを得ない国情が浮かび上がる。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が北京で首脳会談を行い、両国の結束を誇示した。
プーチン氏は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」をテーマとした国際会合に招待され、演説を行った。ウクライナ侵略で国際刑事裁判所(ICC)から3月に逮捕状を出されて以降、旧ソ連圏以外では初の外国訪問となった。
ロシア同様、ICCに加盟していない中国だが、国際社会から強く非難されているプーチン氏を厚遇する姿勢には呆(あき)れかえるばかりである。
会談で習氏は「国際的な公平・正義を守り、世界の共同発展に貢献する力を促進したい」とプーチン氏に語りかけた。公平や正義を守るというのであれば、明確な国際法違反であるウクライナ侵略を非難し露軍の即時撤退を要求すべきだった。
中露両国は結託して、米国や国際秩序に対抗するつもりかもしれないが、国際法や人権を軽視し、力による現状変更を辞さない国家が国際社会から信頼を得られるはずはない。信頼されない国家が世界の安定に寄与することもあり得ない。
中国との対等な関係を強調するロシアだが、実情は異なる。米研究機関などによると、ロシアは2017年時点で1250億ドルの対中債務を抱えている。中国はロシアに「一帯一路」向け資金の3分の1を融資してきたが、米欧の対露制裁でほぼ全額が不良債権化しており、中国に頭が上がらない属国化≠指摘する声も出ている。
中国にも誤算が生じている。インフラ建設支援などで新興・途上国と連携する枠組み「一帯一路」は、中国の過剰な融資によって途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」が取り沙汰され、当初の期待は警戒へ変わった。
中国は今回の会合に140カ国以上の代表が参加したと喧伝(けんでん)したが、首脳の出席は東南アジアやアフリカなど一部の国に限られた。ここへきて中国経済の成長鈍化がはっきりしてきた。これが中国共産党政権の土台を揺るがす可能性もある。
日本は米欧諸国と協力し、実のある支援で新興・途上国を引き込む動きを強めたい。それが中露の専制指導者の国際秩序攪乱(かくらん)を抑えることにつながる。
●米財政赤字254兆円、3年ぶり拡大…ウクライナ・イスラエル支援 10/21
米財務省は20日、2023会計年度(22年10月〜23年9月)の財政赤字が前年度比23%増の1兆6950億ドル(約254兆円)になったと発表した。赤字の拡大は3年ぶりだ。ウクライナやガザ情勢を踏まえて追加予算を議会に要請しているバイデン政権と、大幅な歳出削減を求める野党・共和党との対立がさらに激しくなる可能性がある。
赤字額は2000年以降では3番目の大きさだった。法人所得税や個人所得税などの徴収額が想定を下回り、歳入は約9%減の4兆4393億ドルだった。歳出は約2%減の6兆1344億ドルだったが、利払い費が拡大した。国内総生産(GDP)と比べた財政赤字の割合は6・3%となり、前年度から0・9ポイント拡大した。
バイデン政権はロシアの侵略を受けるウクライナや、イスラム主義組織ハマスに攻撃されているイスラエルへの軍事支援に向け、米議会に総額1000億ドルの緊急予算の承認を求めている。戦況次第では、支援額はさらに膨らむ可能性がある。
米議会は9月、24会計年度予算を巡り、11月17日までの暫定予算(つなぎ予算)を可決したが、本予算の成立に向けた協議はその後も難航している。
●米EU首脳「ウクライナ支援継続」 中東と同時対処 10/21
バイデン米大統領は20日、ホワイトハウスで欧州連合(EU)のミシェル大統領やフォンデアライエン欧州委員長と会談した。イスラエルの自衛権を支持し、不安定な中東情勢下でもウクライナ支援を続けると確認した。
バイデン氏は会談冒頭でイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲攻撃に触れ「我々はイスラエル支持で結束する」と強調した。ミシェル氏はバイデン氏のイスラエル訪問に関し「個人的関与に感謝する」と語り、同国をめぐる協力を申し合わせた。
会談後の共同声明に「国際人道法を含む国際法に整合的な形で凶悪な攻撃に対するイスラエルの自衛権を支持する」と明記した。地上侵攻を計画するイスラエル軍に民間人の被害を最小限にとどめるよう促した。
「地域の緊張拡大阻止が重要だ」とも言及し、イスラエルやパレスチナ自治区ガザの戦闘が周辺に波及しないよう取り組むとした。周辺国の武装勢力を支援してイスラエルと敵対するイランに関し、EUはパイプを持っており直接外交の余地がある。
フォンデアライエン氏は会談でロシアによるウクライナ侵攻と合わせ「これらの紛争は民主主義国が団結しなければならないことを示す」と語った。「中東での出来事は我々の強固なウクライナ支援を妨げない」と断言した。
共同声明に「ウクライナが主権や領土の一体性を守るために必要なだけ支援する」と盛り込み、支援を緩めない方針をアピールした。
バイデン政権はイスラエルとウクライナ支援を両立させる方針だが、野党・共和党の協力が必須条件となっており、実行が見通しにくい面がある。
● イスラエル支援で割れるアメリカの世論、武器支援に半数が反対… 10/21
バイデン米大統領は19日のテレビ演説で、世界での米国の役割を重ねて強調し、ウクライナとイスラエルに対する支援について議会や国民に理解を求めた。イスラエルへの軍事支援を巡る米国内の世論は大きく割れ、予算を審議する下院は議長不在の機能不全が続く。バイデン氏が訴える国内の団結にはほど遠いのが実態だ。
「米国のリーダーシップは世界をまとめ上げるものだ」「米国は世界を照らす灯台だ」――。
バイデン氏は約15分間の演説で、米国が世界秩序を守る超大国だと重ねて強調し、ロシアの侵略を受けるウクライナとイスラム主義組織ハマスの攻撃を受けたイスラエルの両方を支える必要性を訴えた。
演説場所は歴代大統領が重要局面で使ってきた「オーバルオフィス」と呼ばれるホワイトハウスの執務室が選ばれた。バイデン氏の執務室からの演説は今年6月以来、2度目だった。前回は米史上初の債務不履行(デフォルト)の危機に直面した時だった。
バイデン氏は、18日に自らイスラエルを訪問し、軍事支援の強化を約束しており、米国の世界での役割を改めて説明することで国民の理解を得ようとしたとみられる。
ただ、イスラエル支援を巡る世論は割れている。米CBSニュースの世論調査によると、イスラエルに対する武器支援に約半数が反対した。ハマスが実効支配するガザへの空爆で、多くの民間人が犠牲になっていることが影響しているとみられる。
ワシントンでは、ホワイトハウスや議会の周辺で停戦を求めるデモが相次いでいる。
国務省で同盟国などへの武器売却を担当する政治軍事局に11年間、所属していた男性が最近、イスラエルへの軍事支援に反発して辞職した。
一方、バイデン氏は議会に要求すると表明した緊急予算に、イスラエル向けの支援だけでなく、ウクライナ支援を組み合わせるしたたかさも見せた。野党・共和党にはウクライナ支援への消極姿勢が広がっている。
下院で多数派の共和党は前議長の解任から2週間が経過しても新議長を選出できずにいる。バイデン氏は演説で「米国内に分裂があるのは知っている。それを乗り越えなければならない」と述べたが、緊急予算は審議の開始時期すら見通せない状況だ。
●実は、世界の国の半数近くがウクライナではなくロシアを支持していた 10/21
ウクライナへ軍事侵攻したことで22年4月に国連人権理事会の理事国資格停止処分を受けていたロシア。だが、返り咲きを目指し、理事国を入れ替える選挙に立候補したものの、10日に行われた投票であえなく落選。この結果自体は順当とも思えるが、それでも予想以上に賛成票が集まったことに世界中で驚きの声が上がっている。
当選には国連に加盟する193カ国中、過半数の97カ国以上の支持が必要で、ロシアの理事国入りを支持したのは全体の43%にあたる83カ国。秘密投票のため、どの国がロシアを支持したのかは不明だが、欧米圏以外の地域から多数の賛成票が投じられたようだ。
「ウクライナは被害者、ロシアとプーチン大統領は悪という図式で日本のメディアは報じていますが、西側以外の国の捉え方はそれとは異なっています」(国際ジャーナリスト)
実際、中国やイラン、北朝鮮にアフガニスタンといった反米国家は、早い段階からロシア支持、あるいはロシア寄りの姿勢を打ち出している。また、プーチン大統領は国際刑事裁判所から逮捕状が出ており、国外で身柄を拘束される可能性があるが、「彼が入国しても逮捕されない」と発言したのはブラジルのルラ大統領。ロシアやプーチン大統領を擁護する発言を繰り返している。ブラジル以外でも、アルゼンチン、ベネズエラ、キューバなど、中南米の多くの国がロシア寄りだ。
「アフリカ諸国も大半が親ロシア。プーチン大統領は今年7月、アフリカの『40カ国以上と軍事協定』を結んだと述べており、これらの国が賛成に回った可能性が高い。他にも中東は親米のイスラエルやサウジアラビアをはじめ、大半の国が中立。シンガポール以外のASEAN諸国、インドなども同様の立場です。ただし、中立を謳いながらもロシア寄りの国も多く、一部の国が賛成票を投じたのだと思われます」(同)
孤立どころか国連加盟国の4割以上の国が支持。それを考えれば、西側に屈することなくロシアとプーチン大統領が強気な姿勢を貫くのは当然のことなのかもしれない。  
●自由と秩序乱す中ロ連携は看過できない 10/21
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が今年2度目となる首脳会談を北京で開き、米国に対抗する陣営として結束と蜜月ぶりをアピールした。
ウクライナに加え、中東情勢も緊迫の度合いを増しているさなかだ。中ロの連携強化が世界の分断をあおり、自由と「法の支配」という国際秩序をこれ以上揺るがすとすれば看過できない。
首脳会談は今年3月に習氏がモスクワを訪問して以来。同氏が広域経済圏構想「一帯一路」を提唱して10周年を記念する会議に合わせてプーチン氏を招いた。
プーチン氏は会談後に2国間関係のほか、ウクライナ情勢やパレスチナとイスラエルの軍事衝突で緊張する中東情勢などで意見交換したことを明らかにした。
中東情勢について中ロはイスラム組織ハマスとイスラエル双方に停戦を呼びかける一方で、緊迫化のきっかけとなったハマスの大規模攻撃についてはテロと位置づけず、イスラエルとその後ろ盾である米国批判を強めている。
米国をけん制するためにテロを認めず擁護しているのであれば、筋違いだ。国連安全保障理事会の常任理事国としての責務を果たすことを中ロには求める。
ウクライナ情勢でも中国の責任は大きい。2022年2月、北京五輪の開会式の際に中ロ首脳会談を開き、安全保障を含む両国の連携を確認した。ロシアが侵攻に踏み切ったのはその直後だ。
今回も習氏は国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に逮捕状を出すなか同氏を主賓級でもてなした。「一帯一路」の成功を宣伝するために利用したのだろうが、結果的に侵攻を後押ししている。このような振る舞いは国際社会の信頼を失うだけでなく、中ロと米国を中心とする西側陣営との溝を深めるだけだ。
気になるのは北朝鮮だ。今年9月に金正恩(キム・ジョンウン)総書記がロシア極東を訪問したのに続き、プーチン氏の訪朝が取り沙汰されている。中ロ首脳会談でも北朝鮮について意見交換した可能性がある。3カ国の連携の行方を注視する必要がある。
一方で分断を防ぐ試みは不可欠だ。米中は今年11月の首脳会談の実現に向け調整に入った。反目したままでは偶発的な事件が衝突に発展しかねない。制御できるうちに対話を再開し、安定と発展に貢献するのが大国の役目だ。
●全領土奪還まで交渉応じず ロシアは「中国の手下」 10/21
ウクライナ政府で安全保障政策の中枢を担うオレクシー・ダニロフ国家安全保障・国防会議書記は21日までに、ロシア占領下の自国領土を全て奪還する見通しがない限り、停戦交渉には応じないと明言した。首都キーウ(キエフ)で共同通信と単独会見した。ロシア本土の軍事施設への攻撃を継続すると表明。中国に接近するロシアは「中国の手下になった」と指摘した。
ロシアは併合したクリミア半島と東部・南部の4州支配の維持を図り、激しい攻撃を続けている。ウクライナの国家安保・国防会議は軍司令官や国防相、外相らで構成されるゼレンスキー大統領直属の最重要機関。同会議を取り仕切るダニロフ氏が全領土奪還の決意を表明したことで、戦争の長期化は避けられない状況がより明確になった。
ダニロフ氏は「クリミアを含む国土からロシアが去ることなく、何を話せるというのか」と訴えた。プーチン大統領を「テロリストだ」と非難し「プーチンという名前のヒトラーがわれわれの子どもたち500人を殺害した」と断じた。
● ウクライナ “東部でロシアが新たな攻撃か”激しい攻防続く 10/21
ロシア軍が侵攻を続けるウクライナでは、東部でロシア側が大きな損失を出しながらも新たな攻撃を仕掛けていると指摘されるなど、領土奪還を目指すウクライナ側との間で激しい攻防が続いているものとみられます。
ウクライナ軍はロシア側による激しい攻撃が続き、東部ドネツク州ではロシア側によるミサイル攻撃で教育施設が破壊されたほか、各地で一般の住宅などもミサイルや砲撃などによる攻撃を受け、市民に死傷者が出たと21日、発表しました。
また、ロシア軍が攻撃を強めているウクライナ側の拠点、東部ドネツク州のアウディーイウカでは、ロシア側が周辺を取り囲もうとしているもののウクライナ軍が持ちこたえ、ロシア側に大きな損失を与えているとしています。
アウディーイウカ周辺での攻防をめぐって、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は20日の分析で、ロシア軍が新たな攻撃を仕掛けてわずかに前進したとの見方を示すとともに、ロシア側が大きな損失にもかかわらず、この地域での攻撃に傾倒しているとみられると指摘していて、周辺では激しい戦闘が続いているものとみられます。
一方、ウクライナのシュミハリ首相は20日、SNSでロシア側が大規模攻撃のためにミサイルをため込んでいる可能性があるとの認識を示しました。
これは、去年の冬、ロシア軍によるインフラ施設への攻撃によって深刻な電力不足に陥ったことを念頭にしたもので、本格的な冬の訪れを前に備えを続ける必要性を強調しました。
●ウクライナ、東部アブデーフカでロシアの猛攻撃退=ゼレンスキー氏 10/21
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、同国軍が東部ドネツク州の町アブデーフカでロシア軍の新たな猛攻を退け、激しい戦闘の中で地歩を固めていると述べた。
ゼレンスキー氏と軍幹部らは南部ヘルソン州を訪れ、同州やアブデーフカ周辺、その北部にありロシア軍が攻撃を強化しているクピャンスクについて協議した。
同氏はメッセージアプリ「テレグラム」に投稿した動画で「ここ数日、ロシア側の損害は実に甚大だ」とした上で、「強力な国防を維持し、占領者を連日撃破している全ての兵士に感謝する」と述べた。
大統領府は、ロシア軍のアブデーフカ攻撃により人員と装備の「記録的な損害」を被ったと述べたが、その程度についての詳細は明らかにしなかった。
ロイターは戦況を確認できなかった。
ロシア政府はアブデーフカ周辺の戦況は自軍の方が有利だと主張している。一方ウクライナ軍によると、戦闘は前線に沿って激化しており、この24時間で約90件の衝突があったという。これは、1週間前の平均である約60件を上回っている。

 

●カイロ平和サミット 上川外相も出席 イスラエルは不参加 10/22
上川外相はエジプトを訪問し、ガザ地区の緊張緩和などについて話しあう「カイロ平和サミット」に参加した。
この会議は、エジプト政府が呼びかけて、パレスチナのアッバス議長や国連のグテーレス事務総長が参加している。
21日は、人道危機が深刻化するガザ地区への支援などについて協議が行われた。
上川外相はカイロで会見し、「ハマスによるテロ攻撃を断固非難する」考えを示した。
さらに、ガザ地区の外国人退避の実現が優先課題だとしたうえで、現地の必要に沿った早急な支援を検討すると述べた。
一方で、地元メディアなどによると、平和サミットはアラブ諸国の主導で行われたため、イスラエルは出席しておらず、アメリカも閣僚の派遣を見送っている。
会議でも、アラブ諸国はイスラエル軍によるガザ地区への空爆停止を求める一方、欧米は人道支援の必要性を訴えるなどして温度差があり、停戦への糸口は見つけることができず閉幕した。
●ロシア、ウクライナの郵便施設をミサイル攻撃 6人死亡 10/22
ウクライナ東部ハルキウ(Kharkiv)州で21日、郵便施設がロシアのミサイル攻撃を受け、少なくとも職員6人が死亡、16人が負傷した。当局が明らかにした。
ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領はソーシャルメディアで、郵便企業ノバ・ポシュタ(Nova Poshta)のロゴの入ったコンテナとがれきに囲まれた、大きく損傷した倉庫とみられる動画を公開した。
ハルキウ州のオレグ・シネグボウ(Oleg Sinegubov)知事は「占領者の攻撃で6人が死亡、14人が負傷した。全員がノバ・ポシュタの職員で、施設内にいた」「死傷者の年齢は19〜42歳で、爆風や飛んできた破片で負傷した」と述べた。
シネグボウ氏によると、負傷者は病院で手当を受けているが、うち7人が重体だという。
その後の内務省の発表で、負傷者は16人に増えた。
●「米ロの拒否権」 ガザ地区における人道危機に、国際社会は何ができるのか 10/22
パレスチナ自治区ガザでの人道危機は日増しに深刻さを増していますが、停戦の兆しは見えていません。背景には大国アメリカの存在がありました。
人道危機が広がるガザでは…
中東、パレスチナ自治区ガザ。イスラエルによる激しい空爆が続いています。
ガザ地区の少年「家も全部壊され、家族もみんな死んじゃった…」
攻撃に巻き込まれる民間人は日に日に増え、子どもたちの犠牲者もすでに数百人に達するなど“人道的危機”は深刻さを増しています。
ガザ地区の少女「助けてくれる人も、後を追いかけてくれる人もいない。私たちはどうやって生きていけばいいの?教えて…」
国連安保理で何が?
こうした状況を受けて10月18日、国連安保理では人道支援のための、戦闘の一時停止を求める決議案が採決にかけられます。ところが…
安保理議長「決議案は否決されました」
日本など12か国が賛成したにもかかわらず、アメリカのみが反対、「拒否権」を行使し、決議案は葬られます。アメリカはその理由を…
米・トーマスグリーンフィールド国連大使「アメリカはイスラエルの自衛権に言及していないことに失望している」
パレスチナの国連大使からは怒りの声が…
パレスチナ・マンスール国連大使「(アメリカは)信用や権威を失い、ガザでの惨事に責任を負うことになる」
アメリカの「拒否権」行使は偽善?
さらに、アメリカを強く非難したのがロシアでした。
ロシア・ネベンジャ国連大使「アメリカの偽善とダブルスタンダードを目の当たりにした」
ロシアが指摘したアメリカの偽善。
それはウクライナ侵攻を巡り、撤退を求める決議案に、ロシアが拒否権を行使した際…
米・トーマスグリーンフィールド国連大使「思慮に欠けた無責任な常任理事国(ロシア)が『拒否権』を乱用し隣国を攻撃して、国連と国際社会のシステムを破壊している」
アメリカが、ロシアを厳しく批判していたからです。
そもそも「拒否権」とは国連の常任理事国5か国に与えられた特権で、一か国でも行使すれば、安保理決議は否決されてしまいます。
一方、ヨルダン川西岸地区では…
10月18日、ガザから約70キロ離れたヨルダン川西岸地区では…
イスラエルへの抗議行動をしていた、子どもを含むパレスチナ人数百人に向け、イスラエル兵が発砲したのです。
イスラエルの「入植活動」とは?
そのヨルダン川西岸地区は、以前からイスラエルが、国際法に違反するとされる「入植活動」(占領地への居住)を続けており、そこに住むユダヤ人はすでに70万人以上ともいわれます。
こうした違法な入植や、パレスチナ人に対する人権侵害などで安保理に出された非難決議に、アメリカは繰り返し拒否権を行使。
2000年以降でアメリカが拒否権を行使したのは15回。うち13回がパレスチナ関連で、アメリカはイスラエル擁護の姿勢を変えません。
10月20日、バイデン大統領が行った国民向け演説でも、ハマスと、プーチン大統領を並べて非難し、イスラエル支持を正当化。
米・バイデン大統領「テロリスト(ハマス)と独裁者(プーチン大統領)が報いを受けなければ、さらなる混乱と死、そして破壊を引き起こす」
なぜアメリカは、イスラエルを擁護するのか?
渡辺靖 教授(慶應義塾大学・現代アメリカ政治)「ユダヤ・ロビーというのは全米で最大規模の強さを持っている。アメリカの政治家にとっては、大統領選挙戦においても、非常に大きな影響力を持っている。そういう意味ではイスラエル支持というのは政治的に譲れない一線」
しかし、ガザの惨状を受け、アメリカ国内からも停戦を望む声が高まります。
デモ参加者「これ以上の虐殺を許してはならない。私たちの声を聞いて欲しい!」
10月18日、連邦議会前では、ユダヤ系市民にまでその声が広がり…
ユダヤ系の参加者「ユダヤを口実にするな!」「今すぐ停戦を!」
一部が議会の中に座り込む、異例の事態に発展したのです。
にもかかわらず、解決策を話しあうべき国連は、現在、アメリカの拒否権行使によって機能不全に陥ったまま。
渡辺靖 教授(慶應大学・現代アメリカ政治)「アメリカの力が失われつつあることもありますが、アメリカが自由を掲げる、民主主義を掲げると言っても、それはすべてダブルスタンダードで、偽善で、そういう不信感が中国からロシア、そして中東にまで横に繋がってきている」
大国の拒否権によって、何も手が打てない国連の現状。私たちはそれをどう受け止めたらいいのでしょうか―。
●プーチン大統領、「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの成果に期待 10/22
ロシアのプーチン大統領がこのほど、クレムリン宮殿で中央広播電視総台(チャイナ・メディア・グループ/CMG)記者の独占インタビューを受けました。
今年3月に発表された中ロ共同声明によると、中ロ関係はすでに過去最高レベルに達しています。このほど行われたバルダイ会議でプーチン大統領は「ロシアと中国の協力は世界の安定にとって極めて重要だ」と発言していました。
中ロ関係の位置づけとその将来の発展について、プーチン大統領はインタビューの中で「両国関係は現在の国際情勢の下で形成されたものではなく、現在の世界政治情勢における『その場しのぎの方策』でもない。両国関係は20年間にわたって心血を注いで築き上げられ、安定的に発展してきた成果であり、一歩一歩が両国自身の利益に基づくものである。これは双方の共通認識だ。両国関係を引き続き推進していく中で、ロ中双方が常に互いの意見に耳を傾け、互いの利益に配慮する。われわれは歴史的に残された複雑な問題を含め、すべての問題で折衷案を見出すよう努力してきた。両国関係は常に善意に基づいており、国境画定問題の解決においても同様だ」と述べました。プーチン大統領によりますと、ロシアは中国にとって最大のエネルギー供給国で、供給額は1位となっています。また、中国はロシアにとって最大の貿易相手国で、ロシアの貿易額は中国にとって第6位になっています。これについてプーチン大統領は「ロシアと中国の双方は手を携えて正しい方向に向かって進んでいる。これは両国人民の利益に合致すると信じている」と述べました。
北京で開催された「一帯一路」国際協力サミットフォーラムについては「互恵協力プロジェクトの数は増え続けている。これらのプロジェクトは、『一帯一路』共同建設構想に参加し、融資を受けた国々に利益をもたらすだけでなく、中国にもプラスになる。中国もこれらのプロジェクトの実施から成果を得て、より良く、より多くの発展条件を獲得しているからだ。すべては互恵協力の基礎の上で進められている。ロシア政府が提出した各分野での『一帯一路』共同建設に関する協力提案は多数ページに及び、非常に細かくはっきりと書かれている。各プロジェクトは今後数十年の仕事となるため、非常に期待している」と語りました。
●ロシア、24時間で戦車55両・兵士1380人損失か アウジーイウカ攻勢継続 10/22
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍はつい最近、4日間で戦車8両を含め、少なくとも68両の装甲車を失った。1年8カ月に及ぶウクライナ侵攻でロシア軍は苦戦しているが、そうした中でも今回の損失は特に大きい。同期間にウクライナ軍が被った損失は、ロシア軍の10分の1とみられている。
68両という損失車両の数は、オープンソースの情報を分析しているアンドルー・パーペチュアがソーシャルメディアに投稿された写真や動画で確認したもののみが含まれている。ロシア軍の実際の損失は、これよりもかなり大きいことはほぼ間違いないだろう。
この戦闘についてウクライナ軍参謀本部は、19日から20日にかけた24時間で戦車55両を含む175両もの装甲車を破壊したと発表した。昨年2月以来、ロシア軍が1日に失う戦車は平均してわずか3両だった。同軍はまた、アウジーイウカ上空で少なくとも戦闘機5機を失ったと報じられている。
兵士の死傷者数は車両の損失に比例している。ウクライナ軍参謀本部は、20日までの24時間でロシア兵1380人が死亡したと発表。ロシアの侵攻以来、双方における1日の犠牲者数としては最多規模だ。
ロシア側の犠牲者増加の要因は明らかだ。ここ数週間、各兵力最大2000人の7、8個の連隊と旅団が、ウクライナで最も防御が固められている都市のひとつであるアウジーイウカを包囲し、防御を切り崩そうと試み続けるも、失敗している。ウクライナ東部ドンバス地方にあるアウジーイウカは、ロシアの占領下にあるドネツクの北西に位置している。
ロシア軍は連日、戦車や戦闘車両の長い隊列を組んで挑んでいる。来る日も来る日も地雷原を突っ切り、ミサイルで狙われるキルゾーンに入り込み、大砲の砲撃を受け、そして爆発物を積んだドローンの餌食になっている。
それでもなお、ロシア軍は部隊を送り続けている。
これは、ウクライナ側のアウジーイウカ守備隊を側面から攻撃して切り崩し、最終的には撃破することを目指したものだが、失敗続きのこの作戦にロシア軍がなぜこれほどの兵力と車両を投入するのかは、はっきりしない。ウクライナ軍はアウジーイウカに少なくとも2個の旅団と連隊、付属の大隊を展開している。
ロシア軍の指揮官らは、ウクライナ軍が6月に始めた南部での反転攻勢の強化を阻止するために、ウクライナ軍の旅団を多大な犠牲を伴う戦いに引き込もうとしている可能性がある。ウクライナ軍はこの反攻作戦で、ロシアが占領しているメリトポリの北側に伸びる軸と、さらに東側のモクリヤリ川沿いに伸びる軸で、少なくとも約16km前進した。
ウクライナ軍はまた、ドニプロ川の左岸や東部バフムートの南でも前進している。
アウジーイウカの攻撃が本当にウクライナ軍の戦力を引き付けることを意図したものだとすれば、それはおそらく失敗している。「ウクライナ当局はすでに、アウジーイウカへの攻撃は戦力を引くための作戦だと認識しており、この軸にウクライナ軍が兵士を過度に投入することはないだろう」と米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は指摘した。
もしかするとこの攻撃は、引き付けの作戦ではないかもしれない。ロシアは単に、冬の到来を前にして、大規模な攻撃の機会が減少する中で勝利を収めようと必死になっているだけなのかもしれない。アウジーイウカの戦いで重要なのは、アウジーイウカ自体ではない可能性がある。
それはある意味、筋が通っているものの、実際には無意味な行為だ。ISWは「仮にアウジーイウカを掌握したとしても、ドネツク州の他の地域へ進軍する新たなルートが開かれることはない」と説明している。
だが、ロシアがアウジーイウカを象徴的な価値のために狙ったのだとすれば、それはひどい誤算だった。多くの血が流れた作戦が始まって2週間が経過した今、アウジーイウカが象徴しているのは、ロシア兵の死と大破した戦車だけだ。
攻勢の初日にロシア軍は撤退することもできただろう。ISWの推定では、ロシア軍は少なくとも45両の戦車や装甲車両を失った。だが、ロシア軍は攻勢を続けた。中隊や大隊が全滅しても、指揮官たちは気にしなかったようだ。
その意味で、ロシア軍のアウジーイウカでの作戦は、今年初めの東部ドネツク州ブフレダールでの作戦と不気味なほど類似している。ドネツクの南西約40kmに位置するブフレダールでは、ロシア軍の海兵隊が数週間、ひっきりなしにウクライナ軍の守備隊に猛攻撃をかけた。
ウクライナ側は、突撃隊を砲撃。ある交差点には、ロシア軍がウクライナ軍の攻撃に対応できなかった痕跡が残されていた。ウクライナ軍が数週間にわたってロシア軍に対する待ち伏せ攻撃を繰り返したこの交差点には、破壊された十数両の戦車や戦闘車両の残骸が散らばっていた。
激戦を経たブフレダールはいま、ウクライナ側にある。ロシア軍が制圧しようとできる限りの攻勢をかけているにもかかわらず、アウジーイウカも同様だ。
この戦いがどうなるかは分からない。ロシア軍は昨冬、ブフレダールの占領に失敗し、2つの海兵隊旅団の大部分を無駄に失った。だが春には、ドネツクの北約48kmに位置するバフムート周辺での戦いで、それより多くの犠牲を払いつつも、勝利を収めた。ウクライナ軍の旅団は時間を稼ぎ、ロシア軍に死傷者を出しながらバフムートから撤退したため、ロシア側にとってこの勝利は割に合わないものとなった。
キルゾーンが待ち受けるアウジーイウカに連隊を投入し続ければ、ロシア軍は最終的には同市を制圧できるかもしれない。だが、大きな損失を被った状態では、約970kmに及ぶ前線での作戦に支障をきたしかねない。
「この速い死傷ペースが続く限り、ロシア軍は効果的な攻勢をかけるのに必要とされる水準を満たせるよう、新兵を十分に訓練することができなくなる」と英王立防衛安全保障研究所は指摘している。
●ウクライナ軍 南部ドニプロ川東岸地域で大規模な作戦を展開か 10/22
ウクライナ軍はロシア側が占領を続ける南部のドニプロ川の東岸地域で大規模な作戦を展開しているとみられ、集落に部隊を前進させたという分析も出ていて、今後の反転攻勢の足がかりに出来るかが焦点となります。
ウクライナ軍はこのところ、南部ヘルソン州を流れるドニプロ川で作戦を展開し、川を渡ってロシア側が占領を続ける東岸地域で反転攻勢を続けているとみられています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は20日、ウクライナ軍が東岸で大規模な作戦を続け、集落に部隊を前進させたという分析を示しました。
また、イギリスの公共放送BBCは21日、ドニプロ川の東岸で戦うウクライナ軍の兵士の話として、「集落を確保できれば、そこを拠点にロシア軍の部隊や補給路を分断するためのさらなる大規模な作戦を展開できるようになる」とする見方を伝えていて、今後の反転攻勢の足がかりに出来るかが焦点となります。
一方、ウクライナ各地では21日にかけて、ロシア軍のミサイルなどによる攻撃があり、住宅や教育施設などに被害が相次ぎました。
今回の攻撃についてウクライナ軍の報道官は21日、地元メディアに対し、ミサイルと航空機から投下する誘導式の爆弾、そして無人機を同時に使う新たな戦術が用いられたと指摘しました。
その上で、「ウクライナの防空システムに対応させず、攻撃の成果を最大化することが目的だった」として警戒感を示しています。
●イスラエル・パレスチナ 米世論、軍事行動への賛意まだら 10/22
バイデン米大統領が19日、国民に向けて演説した。「オーバルオフィス」と呼ばれる大統領執務室からの演説は、戦争や重大な事件、主要政策の説明など限られた機会に行われ、重要な意味を持つ。今回の演説の背景にも、イスラエルへの支援や、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援継続を巡って国内世論が割れているという現状がある。
米国では、イスラム組織ハマスによる攻撃を受けたイスラエルへの同情や支持は強い。CNNテレビが12、13両日に実施した世論調査によると、ハマスによる7日の攻撃について、71%がイスラエル国民に「深く同情する」と答えた。一方、パレスチナの人々については「深く同情」との回答は41%にとどまった。 ・・・
●極右首相に安心感 メローニ氏就任1年 イタリア 10/22
イタリアのメローニ首相(46)が就任して22日で1年。
ファシスト党の流れをくむ極右「イタリアの同胞」の党首だけに、当初は「欧州で最も危険な女性」(ドイツ誌)と警戒された。しかし、ロシアの侵攻に直面したウクライナへの支援で米国や他の欧州諸国と足並みをそろえる手堅い外交を展開。西側諸国に安心感を与えたほか、国内世論の支持も厚く、安定した政権運営を続けている。
「われわれは火星人ではない。生身の人間だ」。イタリアで最初の女性首相となったメローニ氏は昨年11月、初外遊で訪れたベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)本部で記者団にこう語った。政治信条が異なっても、会って話せば分かり合えるという趣旨だ。
かつて「反ユーロ」などの極端な主張を唱えた欧州の極右政党の多くは穏健化し、一部が政権参画するまでになった。メローニ氏も暴力・専制のファシズムに「郷愁はない」と強調しつつ、野党時代のEU批判を控えて各国との協調をアピールする。
ウクライナ支援では、イタリアがフランスと共同開発した防空システムを供与。侵攻開始1年の今年2月、メローニ氏はウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ゼレンスキー大統領に「全面支援」を約束した。イタリアは対ロシア制裁を巡るEUの結束に水を差すと危ぶまれたこともあったが、杞憂(きゆう)に終わっている。
一方、公約に掲げた不法移民の阻止は実現に程遠い。中東や北アフリカから密航船でイタリアに到着する入国者は今年に入って急増。見かねたEUが海上監視の強化に乗り出す事態となった。
「もうけ過ぎ」とされる銀行を対象とした「超過利潤税」では失態を演じた。政権による8月の導入発表後、イタリア主要行の株価は一時10%近く急落。これを受けて課税規模をトーンダウンするなど、懸念の払拭に追われた。巨額の公的債務を抱えながら中・低所得層向けに減税を実施し、財政赤字の増大を容認しようとする姿勢も金融市場で不安視されている。
先進7カ国(G7)でイタリアが唯一参加した中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関しては離脱を検討中。来年はG7議長国として存在感を発揮できるか、メローニ氏の手腕が問われそうだ。  
●櫻井よしこ氏が指摘「一帯一路は基本的に失敗」参加国は“債務の罠”に 10/22
10月18日から北京で2日間にわたって開かれた、中国主導の経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムで、習近平国家主席は「より多くの成果を得た」と強調し、実績をアピールした。
22日のフジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』では、今回の国際フォーラムをテーマに議論。ジャーナリストの櫻井よしこ氏は「一帯一路計画は基本的に失敗したというふうに見ていい」と断言した。
理由について、櫻井氏は、米国のエイドデータ研究所の調査を引用し、一帯一路の参加国のうち42カ国がGDPの10%以上の債務を抱えていわゆる「債務の罠」に陥っていることに言及。それらの国は債務を返せないため、それが中国に跳ね返ってくる、と指摘した。
習氏はフォーラムで「質の高い一帯一路を目指す」と強調し、そのために「8項目の行動」を明らかにした。番組では、この8項目に含まれた「カスピ海を横断する国際輸送路のインフラ建設への投資」に注目。この国際輸送路は、ロシアを通過しないことなどから欧州諸国からも注目されているという。ただ、元外交官で内閣官房参与の宮家邦彦氏は「これも量を増やしてるだけだ」との認識を示し、「こんな人のいないところにこれだけの投資をして果たしてペイするのか。実現可能性は高いとは思わない」と切り捨てた。
以下、番組での主なやりとり。
松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員)「米国のヒラリー・クリントン元国務長官は(番組単独インタビューの中で)「中国がロシアを従属国にしようとしている」と述べた。今回、習近平国家主席が提唱した「一帯一路」の国際フォーラムにロシアのプーチン大統領が参加した。プーチン氏がウクライナ侵攻後に国外に出るのは、旧ソ連構成国を除いては初めてということで注目された。実際は、一帯一路国際フォーラムに参加した各国首脳の人数は前回の37カ国から22カ国へと減少している。特にヨーロッパはハンガリーだけで、G7(主要7カ国)で唯一参加していたイタリアはすでに(構想からの)離脱を中国側に伝えたという報道がある。一帯一路はすでに行き詰まっているのか。どう見るべきか。」
櫻井よしこ氏(ジャーナリスト・国家基本問題研究所理事長)「かなり行き詰まっていると思う。習近平氏が総書記になったのが2012年、翌年13年にこの一帯一路を提唱してちょうど10年になる。この10年間で彼らは(日本円で)だいたい36兆円分の投資をしていると聞いている。アジアインフラ投資銀行(AIID)などを通して6兆円とか、その他かなりの金を投資して中国のためのこの経済活動を世界中に広げようとしたわけだが、中国のための経済活動で、援助を受ける国のことは考えていない。そのため債務の罠のようなことが起きる。米国のエイドデータ研究所によると、中国の一帯一路に参加した国々の中のだいたい42カ国が国民総生産(GDP)の10%以上の債務を抱えて、いわゆる「債務の罠」に陥っているという見通しというか、推測がある。債務の罠に陥った国は債務を返せないから、中国に跳ね返ってくる。この一帯一路計画は基本的に失敗したと見ていいと思う。」
梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー)「習主席は一帯一路フォーラムで新たなルート、すなわちカスピ海を横断するルートに積極投資を行うと発表した。カザフスタンとアゼルバイジャンなどが欧州への輸出を念頭に開発を進めてきたルートだという。カザフスタンはユーラシア大陸でロシアに次ぐ天然ガスと石油の宝庫、アゼルバイジャンは輸出の9割を天然ガスと石油が占める資源大国だ。ロシアによるウクライナ侵攻後、こうしたロシアを回避する物流ルートに世界が注目をしているという。物流ルートには当然モノが集まり、人が集まり、金が集まってくる。ロシアを回避する形となるこのルートについて習氏は、プーチン氏がいる前で、一帯一路の今後の取り組みの第一項目にあげた。」
松山キャスター「習氏は一帯一路計画についてはこれから「量から質」に転換していくのだと、もっと質のいい投資を行っていくのだという考えも示した。今回新たなルートを発表した思惑について。」
宮家邦彦氏(元外交官・内閣官房参与)「これも量を増やしてるだけだ。質が本当にいいのだったら、もうとっくに投資が行われ、動いているはず。こんな人のいないところにこれだけの投資をして果たしてペイするのか。何か一つ新しいものを打ち上げたいという気持ちはわかるが、実現可能性は高いとは思わない。」
松山キャスター「日本政府も中央アジア地域には非常に強い関心を持っている。中国による中央アジア地域への投資拡大は、日本にはどのような影響があるか。」
櫻井氏「日本政府は中央アジアをものすごく大事なところだと見ている。中央アジアは、ロシアからも中国からも取り合いの対象になっていて、どっちが影響力を強めるかということ。今回の中東情勢とイランのことにも結びついていく。ロシアと中国の間にあって、人口がかなりあって、資源がものすごくあって、地政学的にも大事なところということで、このユーラシア大陸を中国が自分のものとして支配することがないようにするためにも日本は中央アジアとの関係を積極的に作っていかなければいけない。日本政府はそのことをいいと思っていると思う。ただ、あまり進んでいないという印象はあるけれど。」
●郵便施設にミサイル、6人死亡 ドニエプル川東岸に陣地 ウクライナ 10/22
ウクライナ北東部ハリコフ市近郊で21日夜、郵便会社の配送施設がロシア軍のミサイル攻撃を受け、6人が死亡、16人が負傷した。
ウクライナ軍参謀本部が発表した。
地元メディアによると、軍当局はロシア西部ベルゴロドから発射された地対空ミサイル「S300」が着弾したとの見方を示している。ハリコフ州のシネグボフ知事は、SNSで「ただの民間施設だ。ロシアがまた市民へのテロに及んだ」と非難した。
ウクライナ南部ヘルソン州では、ロシアが占領するドニエプル川東岸に対し、ウクライナ軍が上陸作戦を進めている。米シンクタンク戦争研究所によると、同軍は17〜18日にかけ、これまでより大規模な作戦を展開。ヘルソン市の東方数十キロ一帯で、東岸の一部に陣地を確保し、ロシア軍と交戦しているもようだ。 

 

●中ロ、ガザ危機で「パレスチナ支援」の共通大義 10/23
イスラエルのパレスチナ自治区ガザ攻撃に中東全域で怒りが高まる中、中国とロシアはパレスチナ人支援という共通の大義名分を見いだしている。
ロシアと中国にとって、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を受けてイスラエルがガザを砲撃したことは、同盟国イスラエルの後ろ盾に徹する米国とは対照的に、開発途上国の擁護者としての信任を高める好機だ。
中国は一貫して自制と停戦を求めてきたが、イスラエル批判も強めている。
中国国営メディアによると、王毅外相は「イスラエルの行動は自衛の範囲を超えている」と述べ、ガザ住民に対する「集団的懲罰」をやめるよう求めた。
また、ロシアのプーチン大統領は先に、ガザ危機は「米国の中東政策の失敗の実例であることに多くの人が同意すると思う」と述べた。 もっと見る
プーチン氏と中国の習近平国家主席はともに、経済的機会のほか、おそらく米国とその同盟国の外交的影響力に対抗する方法として、グローバルサウスとの関係を深めようとしている。
中国で今月開催された習氏肝いりの「一帯一路」構想のサミットにプーチン氏は出席。習氏と「パレスチナ・イスラエル情勢に関する詳細な意見交換」を含む3時間の会談を行った。
ワシントンの戦略国際問題研究所の中東プログラムディレクター、ジョン・アルターマン氏は「中国とロシアはいまだに、パレスチナやイスラエルというよりも、米国という観点から(危機を)見ている」と指摘。中国とロシアにとって、米国が世界をまとめるこよは都合が悪く、米国とその同盟国が孤立を深めれば好都合なのだと語った。
パレスチナ支援
中東におけるロシアと中国の戦略は完全に一致しているわけではないが、共通点は多い。
ロシアは米国を痛烈に批判しているが、中国は米国を批判することをほとんど避けている。ウクライナ戦争の初期に中国がロシアを支持したことで外交的立場が悪化したのと対照的だ。
中国は今年、サウジアラビアとイランの国交回復を仲介し、中東における影響力の高まりを示した。
ロシアも、イラン製無人機(ドローン)の供給やシリアのアサド大統領支援で利害が一致するイランとの関係を改善しつつある。
中国とロシアはともに以前からパレスチナ人を支援しており、米国によるパレスチナ人の疎外に批判的だ。
シンガポール国立大学中東研究所のシニア研究フェロー、ジャン・ルー・サマーン氏は「中国とロシアはガザ危機における米国の負の役割を強調することで明らかに利害が一致し、それは米国に代わる世界秩序の構築が必要という両国の主張にも合っている」と指摘する。
中国メディアは10月7日にハマスの奇襲攻撃を取り上げたが、その後の報道ではパレスチナ人犠牲者の映像を流し、イスラエルに責任があるとするパレスチナ側の主張の引用が目立った。
中国・イスラエル関係のシンクタンク、シグナルグループのディレクター、カリス・ウィッテ氏は「10月7日に世界中の人々に衝撃を与えた現実は、中国のニュースには全く出てこない。その代わりに、イスラエルによるガザ空爆が取り上げられ、その標的がハマスのインフラのみであることは説明されていない」と語った。
同盟国を求めて
ウクライナにおけるロシアの戦争は、パレスチナの大義に賛同する動機をロシアに与えている。
米国はグローバルサウス諸国をウクライナ支持に引き込もうとしているが、米国が紛争を引き起こしているように見せかけることは、その取り組みを鈍らせることにつながる。
先のアルターマン氏は、米国を地政学上の最大のライバルと見なす中国にも同様の動機があると見る。イスラエルへの国際的支持を築こうとする米国に対抗するグローバルサウス勢力の形成を静かに支援していると指摘した。
中東専門家で浙江外国語学院のMa Xiaolin教授は、中国はパレスチナとイスラエルの間で公平な立場を取っているが、イスラエルが米国の支持を得て戦争の規模と範囲を拡大し、より多くの犠牲者を出せば、中国はパレスチナ側につくだろうと述べた。
●「中国、独裁で不安定化」 腐敗続く軍、疑念強める習氏 10/23
中国の習近平国家主席が共産党総書記として異例の3期目入りを果たして、23日で1年。
習氏の権力基盤が確立した一方、外相が突然解任され、核ミサイルを扱うロケット軍のトップが変則的に交代。近く国防相も更迭されるとの見方が強い。この動きをどう見るべきか。防衛研究所の山口信治・中国研究室主任研究官に聞いた。
――今夏、ロケット軍の司令官、政治工作を担当する政治委員にそれぞれ海軍、空軍の出身者が起用されるなど、中国軍に異変が見られた。
習氏の一強体制が固まり、人事は習氏の一存で決まり、習氏の信任を失うと簡単に失脚する状況だ。毛沢東時代と似ているところがあり、習氏の信任を巡る争いが体制内で激しくなっている。
習氏は就任以来、軍に対する統制を強めてきた。習氏が軍を掌握できていないというより、軍を信頼できていないのだろう。トップリーダーは長く在任すると疑念が強くなる。習氏もそうなっているのかもしれない。
――習氏は何を目指しているのか。
全ての最終判断を習氏が下し、典型的な「独裁者の政治」になりつつある。習氏が年を取れば取るほど、中国はさらに不安定になるのではないか。プーチン・ロシア大統領がウクライナ侵攻を強行したように、不合理な決断を下すかもしれない。
――7月に軍に対する党の優位を確認する会議が開かれ、軍機関紙・解放軍報で何度も反腐敗を訴えているが、習氏は軍に不満があるのか。
何らかの理由で軍に対する習氏の不信感が高まっているのかもしれない。最近の人事は反腐敗が関係している。今でも中国軍に腐敗している部分があるのは間違いない。
――解放軍報に指揮官の能力不足を率直に認める表現がしばしば出る。
指揮官の能力不足はずっと言われてきた。習氏に忠誠を誓い、十分な能力を備えた将官が少ないのだろう。
――中国軍の全体的な能力をどう評価するか。
ミサイルの性能が高く、戦闘機や艦艇も新しくて強力だ。周辺国にとって脅威だ。通常戦力の打撃力は非常に高い。中国と戦争になれば、日米は深刻な打撃を受ける。ただ、中国軍は本格的な戦争を長く経験しておらず、台湾を巡り全面的な戦争になった場合、本当に米軍と戦える能力があるのか疑わしい。
――昨年8月に台湾周辺で行った大規模演習などを見ると、海上封鎖で台湾を追い詰めて屈服させようとする意図が感じられる。
中国は「戦わずして勝つ」を目指しているのだろうが、容易ではない。台湾社会で中国による影響力工作が問題と見なされていて、すでに手の内がばれている。海上封鎖はあり得る作戦だが、米国が台湾に物資を運ぼうとするのを実力で妨げるのは、中国にとって非常に難しい決断になる。短期の戦闘終結も難しい。
――合理的に考えるなら、台湾侵攻の可能性は低いという見方が一般的だ。
軍事的な合理性から見れば「勝てない」。しかし、習氏は「勝てる」と考えるかもしれない。側近が習氏の意を酌んで「勝てます」と応じることが懸念される。
●習近平・プーチン「にんまり」か? 「一帯一路」フォーラム 10/23
10月18日、北京で第3回「一帯一路」国際協力サミット・フォーラム開幕式が開催された。習近平国家主席の基調講演の次に、プーチン大統領が壇上に立ってスピーチをしたのは、習近平がいかにプーチンに重きを置いているかを国際社会に明らかにするのに十分な効果を上げたにちがいない。
その後、習近平とプーチンは単独会談も含めて3時間ほど話し合っているが、何しろこの日はバイデン大統領が今から戦争を始めようとしているイスラエルを訪問しただけでなく、本来開催することになっていた中東諸国との会談を中東側に断られている。17日にガザ地区の病院が爆破されたことが原因だ。ガザ地区のあまりの惨状がウクライナ戦争の存在を霞めさせ、プーチンに「漁夫の利」をもたらしているように見える。
フォーラムに参加したのは151ヵ国と41の国際組織の代表で、1万人を超える人々が登録したが、日本のメディアは西側先進諸国の出席が少なかったと嘲笑うがごとく報道している。
しかし習近平からしてみれば、これはすなわちグローバルサウスを中心とした発展途上国が、アメリカから制裁を受けて抗議を共有している中露両国を支持しているということになる。拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で書いた、グローバルサウスを中心として習近平が築こうとしている世界新秩序が、フォーラム会場で実現しているかのようだ。
アメリカ国内における大統領選のためにイスラエルを支持したために中東紛争を招き、バイデンが自ら中東で失点を招いているのだから、米中覇権競争という意味では、習近平としても「悪くない」ことになるのかもしれない。
開幕式でスピーチした国から見える現実とグテーレス国連事務総長の怒り
開幕式の司会を務めたのは、拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』で注目した新チャイナ・セブンの一人である丁薛祥(てい・せつしょう)だ。彼は2015年に発表された「中国製造2025」の提案者の一人で、GDPの「量から質への転換」という新常態(ニューノーマル)提唱者の一人でもあった。
どうりで、今般の習近平の基調演説のテーマも、「一帯一路」活動方向性の「量から質への転換」で、これまでのような巨額のインフラ投資からAIをはじめデジタル経済への投資と共同繫栄を目指していくとのこと。
開幕式で挨拶をした国と人物の布陣を見ると、「一帯一路」フォーラムが目指している姿が見えてくる。
中国の中央テレビ局CCTVには数えきれないほどの報道があるが、いずれも中国が言いたいところだけを切り取っており、またアクセス数が多いためか映像が途切れ途切れになるので、開幕式を最初から最後までフルコースで紹介しているユーチューブがあるのでそれをご紹介したい。
欧華傳媒による現場中継<第三回“一帯一路”国際協力サミット・フォーラム開幕式>だ。こんな凄いことをしてくれた欧華傳媒のスタッフの方々には心からの敬意を表したい。このユーチューブで、全てがわかるからだ。
最初の習近平の基調講演は約30分間で、次のプーチンのスピーチは約12分間だった。習近平が壇上に上がると、それまで開幕を待っていたこともあるだろうし、また今回のフォーラムの主催者でもあるので、割れるような拍手で迎えられたことは言うまでもないだろう。
しかし、参加者の目つき、顔の持ち上げ方などから見ると、習近平の時より、むしろプーチンが話し始めた時の方が、緊張感というか興味というか、注目度が高かったように見える。
たとえ中東情勢でウクライナ問題が霞むという状況がなかったとしても、プーチンはお構いなしに堂々としていたかもしれないが、まあ、喋り方の勢いの良いこと。立て板に水と言わんばかりの早口で、ほとんど原稿にも目を落とさず、喋りまくった。参加者が前のめりになって真剣に聞いている様子が伝わってくる。
3番目に壇上に立ったのはカザフスタン(中央アジア)のトカエフ大統領だ。
なんと、中国語で話し始めた!
最初の一言だけかと思ったら、そうではない。なかなかに流ちょうな中国語だ。まだソ連時代だった1970年にモスクワ国際大学に入学して北京にあるソ連大使館で実習しただけでなく、1983年からは北京語言大学で中国語を学んでいる。まさに中国痛で、習近平とは仲良しだ。
4番目にはインドネシアのジョコ大統領が、5番目には南米アルゼンチンのフェルナンデス大統領が、6番目にはアフリカ大陸エチオピアのアヴィ首相がスピーチをした。
ロシア、中央アジアのほかに、まさにグローバルサウスを満遍なく取り込んでいる布陣が、この講演者からも窺(うかが)えるだろう。
そして最後に登場したのが国連のグテーレス事務総長である。グテーレスはポルトガル人で1999年には首相としてマカオの中国返還に携わっている。そのような関係から中国とは仲良く、潘基文(パンギムン)事務総長辞任に当たり、グテーレスを国連事務総長に強く推薦しバックアップしたのは中国だった。
当然、熱烈な親中派なので、習近平の「一帯一路」に関する功績を褒めちぎり、最後に国連事務総長としてひとこと言わせてほしいとした上で、ガザ地区での非人道的な惨状に関して憤りを露わにした。「即時停戦」を求めると同時に、「このフォーラムの精神が、平和を必要とする人々の助けとなりますように」という言葉で結んだ。すなわち、この「一帯一路」フォーラムに集まっている人たちは「即時停戦」を求める陣営であることを示唆している。
奇しくも翌日、国連でブラジルが提案した即時停戦案に対して、唯一アメリカだけが拒否権を使い「停戦を阻止した」のは、あまりに象徴的だと言わねばなるまい。
3時間にも及んだ習近平・プーチン会談
この会談に関しても数多くの報道があり、中にはアクセス状態が悪かったり、習近平の発言だけで終ったりしているものがあったりと、適切なのを見つけるのに手間取ったが、CCTVのこの番組は一応安定しているし、双方の言葉を聞き取ることもできるので、こちらをご紹介したいと思う。
習近平はプーチンに対して「老朋友(昔からの友人)」と呼びかけ、プーチンは習近平に対して「親愛なる友人」と応じている様子を確認することができる。
何を話したかはあまり重要ではなく、そのときの互いの表情や言葉のトーンで関係を知ることができる。どっちみち、公開できる場面だけしか報道しないので、会談の長さも「親密度」や「重視度」を推し量るパラメータの一つとなる。
その点から言うと、習近平は17日から19日にかけて数十ヵ国の代表と対談しているので、各国30分程度と限られているのだが、プーチンだけは通訳を交えるだけの「テタテ」と呼ばれる「秘密会談」も含めて「3時間」に及んだと、プーチンが釣魚台国賓館の庭における記者会見で自慢げにばらしている。
たとえば10月18日のフランスのメディアRFI中文は<プーチンは北京における記者会見で習近平との会談を紹介した>という見出しで報道しており、その3時間の中には、実は茶話会のような形での「テタテ」もあったとのことだ。その意味では、やはりプーチンだけは特別扱いだったのは確かだったにちがいない。
さて、茶話会でのお茶の味は「にんまり」としていたのだろうか?
少なくとも、西側先進諸国に対する優越感から抜け出せない日本人の多くには、この「にんまり」の味はわからないかもしれない。その驕り高ぶった視点が、国際社会を見る目を曇らせ、アメリカが導く次の戦争へと日本を誘っていくことを憂う。
●プーチン大統領大誤算<鴻Vア軍、最大19万人戦闘不能か 10/23
ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領の「大誤算」を示すデータだ。英国防省は22日、昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、ロシア軍の15万〜19万人が死亡や重傷により戦闘不能になったとの分析を発表した。戦場に復帰可能な負傷者を含めると損害は24万〜29万人に上ると推定した。この数字には東部ドネツク州バフムトで戦った民間軍事会社ワグネルの戦闘員は含まれていないとしている。
侵攻開始から約1年8カ月が経過した、ロシア軍はウクライナ東部と南部の4州を一方的に併合したが、西側の支援を受けたウクライナの反撃を受けている。
英国防省は、ロシアが昨秋に約30万人といわれる予備役の部分動員に踏み切るなどして兵力を増やしていることが「犠牲を伴いながらも攻撃を実行し、占領地を防衛できる主な要因となっている」と指摘した。
ウクライナ軍は南部クリミア半島奪還を目指し、半島につながる南部ヘルソン州方面への攻勢を強めている。タス通信によると、現地のロシア軍部隊司令官は22日、ウクライナ軍がヘルソン州を流れるドニエプル川河口で南岸の先端に位置するキンブルン半島への砲撃を以前の数倍に強化していると指摘。クリミアに上陸し、ロシア側支配地域への進軍を狙っているとみられる。今後もロシア軍の損害が増えると、さらなる動員を迫られる可能性がある。
●東部アウディウカへ執拗な攻撃で大損害のロシア軍、南部戦線の瓦解早める 10/23
今後の戦況に重大な影響を及ぼす戦いが今、行われている。
この戦闘の焦点は、南部戦線ザポリージャ州西部でのウクライナ地上軍の攻撃と東部戦線ドネツク州アウディウカでのロシア地上軍の攻撃だ。
ウクライナ軍が大規模部隊(数個海兵旅団)規模以上の部隊を投入して、へルソンを流れるドニエプル川を渡河するかどうかも注目するところである。
ウクライナ軍のアウディウカ要塞に対するロシア軍の無謀な攻撃とその失敗は、南部戦線の作戦に重大な影響を及ぼすことになるだろう。
東部戦線アウディウカでの戦闘について考察する。
1.アウディウカ要塞の存在価値
ウクライナ軍のアウディウカ要塞は、ロシア軍が2022年2月24日に侵攻を開始してから一度も破られていない。
ロシア軍は、アウディウカとバフムトを拠点とする防御ラインを突き破って前進できない限り、ドネツク州の境界まで進出できない。
ウラジーミル・プーチン大統領は侵攻当日、「ドネツク共和国(ドネツク州)とルガンスク共和国(ルハンスク州)の要請に応えて、特別軍事作戦を実施する」と発表した。
しかし、ロシア軍は現在でもプーチン氏が目標と定めたドネツク州の境界まで(約60キロの距離)進出できていない。
   図1 両軍の占拠範囲とアウディウカの位置
2.ロシア軍大量投入と無謀な攻撃
ロシア軍のドネツク境界までの進出を止めているのが、ウクライナ軍のアウディウカ要塞である。
ロシア軍は、侵攻当初から戦略的に重要なアウディウカ要塞に対して何度も攻撃している。
今回は10月10日頃から、これまでと異なり比較的大兵力を投入して正面から攻撃して圧迫を加えつつ、南北から挟み込むように攻撃(図2参照)している。
   図2 アウディウカ要塞へのロシア軍攻撃構想(推測)
敵軍よりも数倍以上の戦力差がある場合に採用する戦法であり、ロシア軍の得意とする戦法、両翼包囲攻撃だ。
この攻撃で、ロシア軍は約2個旅団(約8000人)を投入し、攻撃当初から約1週間、積極的に攻撃を実行した。航空攻撃も行った。
そして、多くの損害を出し膠着状態になった。
攻撃衝力(攻撃を続行する能力)は、1週間が過ぎてから急速に低下してきている。
攻撃の成果は、北部で約1.5キロ前進できただけだ。
ロシア軍は、侵攻開始後、何十回と攻撃したのだが、この要塞を陥落することができず、あと8キロという距離を塞ぐことができないのである。
アウディウカは、図1にあるように戦略的には重要だが、接触線の全体から見れば小さな局面だ。
その戦いで、ロシア軍はたったの1週間で無謀と見えるほど激しく攻撃し、大きな損害を出した。
しかも、投入戦力に見合うような結果が得られなかったのである。
ロシア軍は侵攻当初、ウクライナ軍に比して圧倒的に優勢である戦力を保有していた。
絶対的に有利だと評価されていたロシア軍が、この狭い地域でさえも陥落させられないでいるのだ。
   図3 アウディウカでの両軍の占拠地域の変化
再び、10月20日頃から新たに2個旅団を投入して、無謀な攻撃を開始している。
3.ロシア軍、アウディウカ攻撃で致命的損失
米国戦争研究所(ISW)のリポートによれば、アウディウカの戦いだけでロシア軍の損失は、5日間で兵士4500人以上、戦車60両以上、装甲車100両以上という。
兵士の損失を見ると、約7000〜8000人を投入して約4500人の損失、55〜65%の損失となる。
たった5日間で、ほぼ壊滅状態になっている。攻撃を再開するためには、新たな部隊を投入しなければならない。
この1週間ほどの損失の数字がどのような意味を持つのか。
ウクライナ参謀部が日々発表しているロシア軍損失を侵攻開始からその月の1週間の平均を算出し、その数値をアウディウカの1週間の戦いでの損失数と比較して分析する。
まず、ロシア軍全体の戦車・歩兵戦闘車のアウディウカで行われた1週間の戦いでの損失は約150両である。
150両の損失というのは、ロシア軍が侵攻を開始したその月の週平均値約130両を超えている。
侵攻開始したばかりの1か月の損失は、ロシア軍がウクライナ軍に突っ込んで行ったために、最も多くの損失を出した時の数値だ。
今回の1週間の数値が、侵攻当初の数値を超えているのだ。
   図4 ロシア軍戦車等の1週間平均損失数(アウディウカ戦が茶色)
次に兵員損失だが、週平均数値で最も多かったのは、侵攻から11〜13か月の期間だ。1週間に約5500人だった。
これは、バフムトを攻撃していたプリゴジン氏が率いるワグネル部隊の損失が多かったためだ。
アウディウカ攻撃の1週間の損失は6400人であり、バフムトで囚人たちを先頭に立たせて無謀な攻撃を行った時を超えて最も多い。
   図5 ロシア軍の週間平均兵員損失数(茶色がアウディウカ戦)
この大きな損害が発生しているのは、ロシア軍が練度不十分な部隊を大量に投入し、無策・無謀な攻撃を行って、ウクライナ軍に撃破されてしまったためだ。
4.大統領選前に戦果を得たいプーチン
ロシアは今、どのような戦果を得たいのか。なぜアウディウカなのか。
ロシアは、当面の地域目標をどこに設定しているかというと、「UKRAINSKA PRAVDA」によれば、東部のドンバス地域、特にドネツク州の境界までを制圧しようとしている。
この背景により、ロシアはドネツク州の象徴的で軍事的に緊要な地のアウディウカを是が非でも奪取したい、大きな損失を出してでも目標を達成したいと考えていると見てよい。
10月に実施しているのは、「プーチンの誕生日が10月7日であったために、10月上旬、遅くとも10月末までに戦果を出すように、セルゲイ・ショイグ国防相に命令があった」からだろう。
2024年3月のロシア大統領選挙に向けて、侵攻目的としたドネツク州の境界まで占拠する戦果が必須なのである。
ISWのリポートによれば、プーチン氏は「象徴的な勝利」を目指している。そして、「ウクライナでの戦いにおいて、局地的な戦闘場面でも主導権を握っている」と見せようとしている。
5.ウクライナ敗北を広める情報戦を展開
プーチン氏は、10月5日にロシア南部のソチで開催された「バルダイ会議」で、ウクライナとの戦闘に関し、次のように述べた。
「ウクライナ軍の反転攻勢が始まった6月4日以来、ウクライナ軍は9万人以上の兵士や、557両の戦車、1900台近くの装甲車を失った」
そして、ウクライナ軍に大きな損害が出ており、反転攻勢は「失敗している」と主張している。
ウクライナ軍の損害についての発言が事実と異なっているのは明白であり、反転攻勢のスピードは速くはないが、一つひとつ着実に成果を挙げている。
ロシア軍は、ウクライナ軍の反転攻勢の重点であるザポリージャ州西部での攻撃を止められていない。
プーチン氏には正しい情報が伝えられていないという。その結果、誤った発言をしていると言われている。
しかし、プーチン氏は、ロシア軍がドネツク州でさえ占拠できていないこと、ザポリージャ州西部ではウクライナ軍の前進を止められていないこと、兵士が多数死傷したことにより次から次に兵員を招集しなければならなくなっていることを、当然知っているはずだ。
現実を概ね把握していると見た方がよいだろう。
プーチン氏は10月15日には、ロシア国営テレビのインタビューで、ロシア軍がアヴディウカ、クピャンスク、ザポリージャ方面で「積極的な作戦戦闘」を行っていると主張した。
これに対し、ISWは「積極的な作戦戦闘」ではなく「積極的な防衛」という表現を使っている。
「ロシアの大幅な攻撃進捗に対する期待を和らげようとする試みである」というのがISWの評価である。
プーチン氏のこの発言も現実を理解しているからこそであろう。
ロシアは、東部戦線の局地的な戦いにおいてもその目標を達成できていないどころか、侵攻開始直後よりも短期間に多くの損失を出している。
プーチン氏は、目標を達成することができない都合の悪いことを嘘の情報にすり替え、戦果を挙げたように見せかけている。
6.南部戦線防御に波及、瓦解へ
ロシア軍は大量の戦力を投入し、無策無謀な攻撃で戦力を失っている。
ロシアの国防大臣や軍参謀長はプーチン氏に、「10月までに、(現実には不可能な)成果を上げよ」とせかされ、戦術なき無謀な突撃を後ろから銃を突き付けて実行させている。
それでもこれまでは十分な戦力があったのだが、今回、その戦力は破壊され続けている。
ロシア軍は、局地的な地域での作戦、特にザポリージャ州西部での防御やアウディウカの攻撃で多くの損害を出し、ウクライナ軍の防御を撃破できないでいる。
これらの地域にロシア軍の予備兵力を逐次投入しても、その目標を達成できていない。
予備戦力は、南部戦線の第2・第3の防御線に投入する予定だったはずだが、無策で無謀な攻撃でその戦力を著しく減少させてしまった。
一方、南部戦線におけるウクライナ軍は、戦力の損害を極力抑えるために火砲でロシア軍陣地を破壊して、その成果を確認してから再び攻撃している。これを何度も繰り返している。
これは、米軍の地上作戦の基本的戦術である。したがって、攻撃速度が遅くなっているのは当然のことである。
ウクライナ軍は今後、南部戦線でロシア軍陣地を一つひとつ着実に奪回していくだろう。
ロシア軍は、その場面での必要な戦力、機動打撃戦力(反撃力)が少なくなっている。
つまり、ウクライナ軍の前進を止める戦力は減少し、防御の強靭性がなくなってきているのだ。
ロシア軍防御の瓦解はその速度を上げている。
●ロシア、ウクライナ東部アブデーフカや南部ヘルソン州で攻撃強化 10/23
ロシア軍は22日、東部ドネツク州の町アブデーフカと南部ヘルソン州への攻撃を強めた。
一方、ウクライナ軍参謀本部はアブデーフカ周辺で20近いロシア軍の攻撃を撃退したと発表した。
アブデーフカは、ロシアが支配するドネツク市とドンバス地方の一部地域の奪還に重要な場所と見なされている。
ウクライナ国防省情報局の報道官は、アブデーフカが重要な意味を持つのは事実だと国内テレビに指摘。「占領軍がドネツクとルガンスクの全土を占領すると宣言して緊張を高めたのは今回が初めてではない。彼らの計画は失敗している」と語った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、アブデーフカと近郊の町マリンカの状況について「特に厳しい。ロシア軍による多数の攻撃を受けているが、われわれは拠点を維持している」と語った。
ロシア軍はアブデーフカについて言及しなかったが、5月に占領したドネツク州バフムトで東側のウクライナ軍陣地に対する作戦が成功したと発表した。
ヘルソン州のプロクディン知事は、州内の複数の村が砲撃を受け、ヘルソン市内の輸送や食料生産拠点も攻撃されたと述べた。
●東部アブデエフカで激戦 ロシア軍攻勢も損害多数か 10/23
ロシアの侵略を受けるウクライナの国防省情報総局高官のユソフ氏は、露軍が東部ドネツク州都ドネツク近郊の都市アブデエフカの制圧を狙って攻撃を激化させていると発表した。ウクライナメディアが22日伝えた。
露軍は今月、アブデエフカへの攻勢を強化。ただ、ウクライナ軍に阻まれ、多くの損失を出しながら限定的な成果しか得られていないとの観測が強い。
ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は同州バフムト制圧後、同市周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデエフカの突破を狙っているとみられる。
アブデエフカを巡る戦闘について、米シンクタンク「戦争研究所」は21日、露軍が同市北西の地域でわずかに前進したもようだと指摘。ただ、「ここ数日間、ウクライナ軍は露軍の攻勢を撃退し、人員と装備に相当規模の損害を与えた可能性が高い」と分析した。
英国防省も23日、アブデエフカを巡る戦闘で露軍の損害がそれまでより90%増加していると指摘。侵略開始後の露軍の戦死者と戦線に復帰できない負傷者は計15万〜19万人だとする推計も公表した。
一方、南部戦線に関し、英BBC放送は21日、ウクライナ軍の現場部隊の話として、露軍占領下にある南部ヘルソン州ドニエプル川東岸地域にウクライナ軍が上陸し、「初めて強固な足場を確保した」と伝えた。一部の露軍事ブロガーもウクライナ軍の同川東岸への上陸を報告した。双方によると、ウクライナ軍部隊は東岸地域の集落クルインキに接近している。
これについて、ウクライナ軍南部方面部隊のグメニュク報道官は22日、地元テレビで同国軍の同川東岸への上陸を暗に認める一方、成果に言及するのは「時期尚早だ」と述べた。
●ガザ南部に支援物資2回目搬入へ イスラエル北部の住民が避難開始 10/23
イスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への空爆が続けられる中、大勢の市民が避難しているガザ南部に、2回目となる支援物資を搬入するため、トラックの一団が、エジプト側からラファ検問所に入った。
支援物資を積んだトラック一団が、日本時間の22日午後8時過ぎから、ガザ地区とエジプトとの境にあるラファ検問所に入り始めた。
ガザ地区に支援物資を届けられれば、21日に次いで2回目となる。
今回の支援物資には、電気不足に苦しむ病院のために燃料も含まれていると報じられている。
一方、イスラエル政府は22日、レバノンとの国境に近い北部地域の住民を避難させる方針を発表した。
ハマスと緊密な関係を持つレバノン南部ヒズボラが、連日ミサイルで攻撃しているためで、北部を訪れたイスラエルのネタニヤフ首相は「仮にヒズボラが参戦を決断すればそれは過ちだ。レバノンとヒズボラは壊滅的な状況になる」と警告した。
●首相から危機感が伝わってこない 10/23
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、民主主義国家イスラエルに対して卑劣な大規模の奇襲攻撃を行った事件だ、と正確に理解する必要があると思う。
ハマスの背後にイランと中露
ハマスが事前にイランと協議し、承認を得て実行に移された、と一米紙が事件翌日に報道して世界を驚かせたが、その後サリバン米大統領補佐官は「広い意味でイランはこの攻撃の共犯者だと我々は最初から述べている」と語った。関係者にとっては当たり前の事実だというのだ。「イランはハマスの軍事部門に資金を提供し、訓練を施し、実力を付けさせた」と同補佐官は付け加えた。ただ、今回の事件にイランがどう関わったかは現時点で確たる事実が分からないから、分かり次第明らかにすると記者団に約束している。
その通りだろう。ロシアのウクライナ侵攻は事前に米国が情報をつかみ、ウクライナ側に伝えたが、ゼレンスキー大統領らウクライナ首脳が信用しなかったという。今回のハマスによる攻撃を米側が知らなかったことをサリバン発言は物語っている。世界に名高いイスラエルの情報機関モサドも役に立たなかった。西側情報機関全体の惨憺たる失敗と言っていい。
事件と呼吸を合わせたかのように、1カ月前の米誌フォーリン・アフェアーズ電子版が「イランの新しいパトロン」と題する論文を載せた。ホメイニ革命後のイランが国家目標として核保有を追求し、国際的孤立を招き、そこに中露両国が食い込んで事実上のパトロンになった経過が、2人の専門家によって詳述されている。ハマスやレバノンの武装勢力ヒズボラをイランが操り、その背後に中露両国がいる世界的な構図がはっきりしてこよう。
あり得る世界戦争への拡大
ガザの紛争が世界的規模の戦争に広がりかねない深刻な事態が進行しつつあるが、紛争の鎮静化、新たな危険の阻止に当たる国は西側の依然として中心的存在である米国だ。国防総省は既に空母1隻を近海に派遣し、さらにもう1隻の派遣を決めたが、ウクライナ戦争と同様に、地上戦闘部隊を介入させる気配はない。ウクライナ向け武器支援に対してすら批判の少なくない「内向き」の米世論から判断して、海と空からの抑止で精いっぱいだろう。
米国は人種、所得、政治など多くの分野で分断症状を呈している。わけても民主、共和両党の対立は先鋭化をたどっているうえ、共和党内にもごたごたが起こり、同党出身の下院議長が解任されたまま議長空席の状態が続いている。ウクライナ向け追加援助承認は宙に浮いたままだ。
事件発生以来、日本の立場はいまひとつはっきりしない。21日に都内で開かれた国際会議に寄せられた岸田文雄首相のビデオメッセージは「パワーバランスの変化と地政学的競争の激化の中で、様々な課題が山積し、複合的危機を生み出している」と述べているだけで、危機感はさっぱり伝わってこない。メッセージの結論は「日米で連携したリーダーシップを発揮しなければならない」だ。論評に値しない。
●バイデン氏はイスラエルを全面的に支持した後、自制を求める圧力に直面 10/23
ジョー・バイデン大統領は週末、群衆の民主党献金者に対し、数十年前にベンヤミン・ネタニヤフ首相と撮った写真について語った。そのプロフィール写真は、同氏のイスラエルに対する長年の支持と率直に話した実績を示すことを意図したものとみられる。イスラエルと一緒に。 保守的なイスラエルの指導者。
バイデン氏は、自身が若い上院議員でネタニヤフ首相が大使館補佐官だった頃、自分の写真に「ビビ、私はあなたを愛している。あなたの言うことには同意しない」と書いたと述べた。 募金活動の会場で、ネタニヤフ首相は今も机の上に、バイデン氏が先週テルアビブをめまぐるしく訪問した際に持ち出した写真を掲げている。
イスラエルがガザ地区を支配するハマス過激派の根絶を目的とした地上攻撃を間もなく開始するとの期待が高まる中、バイデンは中東における米国の最も緊密な同盟国への全面的な支持を示す一方で、イスラエルに圧力をかけようとするという難しいバランスに再び直面していることに気づく。戦争がより広範な大火災に拡大するのを防ぐために、十分な自制心を持って行動すること。
バイデン氏は10月7日のハマスによる攻撃以来、文字通りにも比喩的にもネタニヤフ首相を温かい抱擁で包み込んできた。 同氏は、ガザ地区を支配し、1,400人のイスラエル人を殺害し、200人以上のイスラエル人を拘束する残忍な攻撃を実行した過激派組織の排除を目指すイスラエルを支援すると繰り返し約束した。
しかし同時に、パレスチナ人の窮状やイスラエルの強硬な対応がもたらす潜在的な影響に対する国民の関心も高まっている。
ホワイトハウス当局者らによると、バイデン氏は先週のテルアビブ訪問中、ネタニヤフ首相に戦略や今後の進め方について「難しい」質問をしたという。 バイデン氏自身は、イスラエルからの帰国途中に記者団に対し、地上作戦の拡大の可能性の「代替案について」イスラエル当局者らと「長い会話」をしたと語った。 米国防当局者もこの問題についてイスラエルと協議している。
バイデン氏は木曜日のテレビ演説で、イスラエルとウクライナの戦争支援について「イスラエルがこれまで以上に強力であることを地域の他の敵対勢力に知らせ、この紛争の拡大を防ぐだろう」と述べた。 「同時に…ネタニヤフ首相と私は昨日、イスラエルが戦争法に従って行動する緊急の必要性について再度話し合った。これは戦闘中の民間人を可能な限り保護することを意味する。」
アントニー・ブリンケン国務長官と国連世界食糧計画のシンディ・マケイン事務局長は日曜日、現場の状況はより複雑になっていると厳しい警告を発した。
ブリンケン氏はNBCの番組「ミート・ザ・プレス」で、イランの代理人による地域駐留米軍に対する「エスカレーションの可能性」を警告した。 イランはハマス、レバノンのヒズボラ過激派、イラクのシーア派民兵組織に対する最大の資金援助者である。
マケイン氏はABCの番組「ディス・ウィーク」で、ガザ地区で自身の組織が直面している人道状況は「壊滅的」だと述べた。
バチカン報道局は短い声明で、バイデン氏とフランシスコ法王が日曜日に約20分間電話で会談し、世界的な紛争における「平和への道筋を定める」必要性について話し合ったと発表した。
バランスの取れたアプローチを取るようバイデン氏に圧力をかけているのは、ガザ危機に関して首都で大規模な抗議活動が勃発しているのを目の当たりにした、エジプト、イラク、ヨルダンおよび海外のアラブ指導者たちだ。 欧州当局者らもこの声明を出し、ここ数十年で最も残忍なイスラエル領土への攻撃に恐怖を表明する一方、イスラエル人は国際法と人道法を遵守しなければならないとも強調した。 バイデン氏はまた、民主党の中道派や年配の指導者よりもイスラエル・パレスチナ問題で意見が分かれている、民主党のより若いリベラル派の人々からの厳しい監視にも直面している。
戦争開始から1週間も経たないうちに、数十人の国会議員がバイデン氏とブリンケン氏に書簡を送り、イスラエルの軍事行動が国際人道法の規則に従うこと、人質の安全な帰還、外交政策を遵守することを求め、イスラエルとパレスチナの民間人の保護を確実にするよう要請した。尽力。 恒久的な平和を確保するために。 これに続き、十数人の議員がバイデン政権に対し、エスカレーションの即時停止と停戦を求める決議案を提出した。
民主党議員団の3人の議員、イリノイ州のデリア・ラミレス議員、ペンシルベニア州のサマー・リー議員、ミシガン州のラシダ・トレイブ議員は先週ブリンケンに対し、米国民間人、特にガザ地区やガザ地区の人々の状況について「有意義な情報が不足している」と書簡を送った。イスラエル。 西岸。 政権は、500人から600人のアメリカ国民がガザにいる可能性があると述べた。
ミネソタ州民主党のイルハン・オマル下院議員は、罪のないイスラエル人とガザ人の命の評価に関して政権が二重基準を示していると指摘した。 ハマスが運営する保健省によると、イスラエルの報復爆撃作戦により4,000人以上のパレスチナ人が死亡した。 犠牲者の多くは女性と子供です。
「一つの残虐行為を見て『これは間違っている』と言いながら、生者が平らにされる一方で死体が山積みになるのをどうやって見るのでしょうか?」 オマル氏は記者会見でこう尋ねた。 「イスラエルはこの10日間で、アフガニスタンに1年間で投下したのと同じ数の爆弾を投下した。あなたの人間性はどこにあるのか、怒りはどこにあるのか、国民に対する懸念はどこにあるのか?」
政権内では、バイデン氏がイスラエル政策に近すぎる政策を追求しているのではないかとの議論があった。
先週、少なくとも一人の同省当局者が辞任し、パレスチナ人を犠牲にしてイスラエルを有利にする「一方的」政策と称する政策をもはや支持できないと述べた。
ジョシュ氏は「紛争の一方側へのさらなる兵器の急送など、一連の重要な政策決定を支持するために働くことはできない。それは近視眼的で破壊的で不公平で、私たちが公に受け入れている価値観と矛盾していると考えている」とジョシュ氏は語った。 。 国務省政治軍事局に11年間勤務した退役軍人であるポール氏は、水曜日に自身のLinkedInアカウントに投稿された声明の中でこう述べた。
他の国務省当局者も同様の懸念を表明しており、プライベートな会話について匿名を条件に話を聞いた関係者らによると、その一部は金曜日に開催された一連の内部職員協議で発言したという。 これらの人々は、それらのコメントの多くは怒りや感情的なものだったと述べた。
ブリンケン氏は木曜日、全省共通のメモを送り、イスラエルとパレスチナ人の双方に対する平等な正義と平和という政権の広範な目標を忘れないようスタッフに促した。
一方、バイデン政権当局者らはイスラエル側とのやりとりの中で、明らかな衝撃と怒りを目の当たりにしてきた。
先週のバイデン氏のイスラエル訪問で発表された最も重要な発表は、食糧、水、医薬品、その他の必需品を積んだ限られた数のトラックがラファ国境検問所を通ってガザに入るのを許可することにエジプトとイスラエルを説得することであった。
人道危機の大きさを考えると、ガザへの一部援助を認める合意は簡単に見えるが、米当局者らは、これは月曜のブリンケン首相とネタニヤフ首相の会談、そして水曜ごろのバイデン氏のネタニヤフ首相との会談前にイスラエルがとった立場における大きな譲歩を意味すると述べた。
ブリンケン・ネタニヤフ首相会談中、この協議に詳しい米国当局者らは、水、電気、燃料、食料、医薬品がガザに到達するのを阻止するというイスラエル側の意図や水を阻止する義務についてのイスラエル側のコメントを受けて、ますます懸念を強めたと述べた。 、電気、食料、医薬品がガザに到達するのを妨げます。 民間人の死傷者の数。
私的な会話について匿名を条件に語った4人の米当局者によると、これらのコメントはガザ地区のパレスチナ人全員に対する激しい痛み、怒り、あからさまな敵意を反映しているという。
当局者らは、イスラエルの安全保障と政治体制のメンバーはガザ人へのいかなる援助にも完全に反対していると述べ、ハマスの排除には第二次世界大戦で枢軸国を倒すために使用された方法が必要だと主張した。
ある当局者は、同氏らはイスラエル側の関係者から「第二次世界大戦で多くの罪のないドイツ人が亡くなった」と聞き、米国による広島と長崎への核爆撃で日本の民間人が大量に死亡したことを思い出したと述べた。
同様に、この問題に詳しい米国当局者によると、バイデン氏と側近らは非公式会談に関与した一部のイスラエル高官らから深い苦痛の声を聞いたという。
テルアビブへの7時間半の訪問を終えたバイデン氏は、10月7日の攻撃を、約3,000人が死亡した米国への攻撃である2001年9月11日と比較し、米国人が感じた怒りと戦争を回想した。その怒りに…彼は彼らを殴りました。 正義を求める気持ちは米国の多くの人が共有しています。 同氏はまた、米軍が20年に及ぶアフガニスタン戦争の泥沼にはまった時代である9.11後のアメリカの過ちを思い出すようイスラエル国民に促した。
「これについて警告します。この怒りを感じている間は、それに巻き込まれないでください」と彼は言いました。 「9/11の後、私たちは米国で激怒しました。私たちは正義を求め、正義を勝ち得ましたが、間違いも犯しました。」 
●ロシア軍の戦死者1日の最悪を更新? 原因はアウディーイウカの戦略ミス 10/23
ウクライナでのロシア軍の兵員の損失はここへきて急増し、死傷者数は30万人に近づいている、とウクライナ側が発表した。
ウクライナ軍参謀本部が10月21日に出した最新情報によれば、2022年2月の戦争勃発以来、ロシア軍は約29万2850人の兵士を失ったという。そのうち790人は過去24時間以内に死亡した。
その前日の20日には、ロシア軍が1日で1380人の戦闘員を失ったと発表。ほぼ20カ月に及ぶこの戦争において、ロシア軍にとって最も人命の損失が大きい戦闘だったと述べた。
ロシアはウクライナ戦争における自軍の死傷者数を発表していない。ロシア国防省は20日、ウクライナ軍は過去1週間、クピアンスク周辺の前線で約995人、ドネツクのライマン周辺で940人の戦闘員を失ったと発表した。
ロシアによると、ウクライナ軍はドネツク周辺で2065人以上の兵士を失い、さらにロシアが併合した地域の南部で過去7日間に1010人の兵士が戦線離脱したという。ウクライナは同じ期間にザポリージャ南部とへルソン地方でさらに820人の兵士を失った、とロシア政府は発表した。
ロシア側が発表したこれらの数字を合計すると、10月14日〜20日の間にウクライナ南部と東部で失われたウクライナ軍兵士は3895人となる。ウクライナ軍参謀本部は、同時期にロシア軍は6140人を失ったと主張している。
自国の被害は認めない
本誌は、ロシアとウクライナが発表した数字を独自に確認することはできなかった。ロシアもウクライナも自国の被害については口を閉ざし、自国の死傷者数や破壊された軍備の量について、認めることはほとんどない。
「現在進行中の紛争で死傷者数を特定するのはきわめて難しい。双方がデータを秘密にし、敵の死傷者数を膨らませようとするからだ」と英ロンドン大学キングス・カレッジ戦争学部の特別研究マリーナ・ミロンは今年5月に本誌に語っている。
ロシアは10月から、ウクライナ軍が6月初めに夏の反攻を開始して以来初の大規模な攻撃を開始し、ウクライナ東部ドネツクの町アウディーイウカに焦点を当てた。このコークス生産の中心地は、9年前からウクライナとロシアおよび、親ロシア派武装勢力の間の戦闘の最前線になっている。ここで勝てばロシア政府にとって戦術的にも象徴的にも重要な勝利となっただろう。
だがロシアはアウディーイウカ周辺の領土をいくらか獲得したものの、西側のアナリストはすぐに、この攻撃で多くの兵士と軍備を失ったと評価した。
ロシア軍は軽歩兵を「確実な死」にさらしていると、アウディーイウカを担当するウクライナ軍タブリア部隊のオレクサンドル・シュトゥプン報道官は17日に本誌に語った。
ウクライナ政府高官や西側の専門家たちは最近、ロシアの攻撃は絶望的で、攻撃の回数は減少しているという見方を示していた。
だがロシア軍部隊は20日、「アウディーイウカ近郊で再び攻勢を開始」し、わずかな領土を確保したと、ワシントンのシンクタンク戦争研究所(ISW)は最新の分析で述べた。
ISWによれば、ロシア軍司令官たちは、物資や人員の莫大な損失にもかかわらず、この地域での攻撃作戦に全力を尽くしている。
ウクライナの参謀本部は21日、「わが軍の兵士は着実に防衛を維持し、敵に多くの損害を与えている」と述べた。
だがロシア軍の死傷者の急増は、アウディーイウカに対する戦略的に誤った攻勢に負うところが大きいと、英国防省は分析する。アウディーイウカに対する度重なるロシア軍の攻撃はこれまでのところすべてウクライナ軍に跳ね返されたと、同国防省は22日に指摘した。
●ロシア、最大19万人戦闘不能か 英国防省分析、動員で兵力増強 10/23
英国防省は22日、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍の15万〜19万人が、昨年2月の侵攻開始以来、死亡や重傷により戦闘不能になったとの分析を発表した。戦場に復帰可能な負傷者を含めると損害は24万〜29万人に上ると推定した。この数字には東部ドネツク州バフムトで戦った民間軍事会社ワグネルの戦闘員は含まれていないとしている。
英国防省は、ロシアが昨秋に部分動員に踏み切るなどして兵力を増やしていることが「犠牲を伴いながらも攻撃を実行し、占領地を防衛できる主な要因となっている」と指摘した。
●ロシア軍の損失膨らむ=冬場控え東部で激戦―ウクライナ軍は渡河 10/23
ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州で総攻撃を仕掛けている。戦場の冬季入りを目前に控え、ウクライナの攻勢をくじいておくのが狙いで、22日も同州アウディイウカなどで激戦が繰り広げられた。ウクライナ軍は徹底抗戦で踏みとどまっており、ロシアは兵力の損失が膨らんでいるもようだ。
「アウディイウカと(さらに南方の)マリンカ方面は特に(戦闘が)激しい。ロシアの攻撃はおびただしいが、われわれの陣地は守られている」。ウクライナのゼレンスキー大統領は22日、前線の兵士らを鼓舞した。
アウディイウカはウクライナにとって「抵抗の合言葉」(ロイター通信)となっている地区。ロシアの侵攻に対する反転攻勢で象徴的な意味を帯びており、防衛にも力が入る。
ウクライナ側の情報では、ロシアはアウディイウカ周辺で過去1週間に推計5000〜6000人の兵士が戦死した。米シンクタンク戦争研究所は22日、ロシアが前線に部隊の増派を続けていると指摘。ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、ロシアには「自軍は人的損害を気にせずに戦える」と示す狙いがあると分析する。
一方、ウクライナ南部ヘルソン州では同国軍部隊がドニエプル川を渡り、ロシアに占拠された東岸に足場を設けたと伝えられる。南部クリミア半島とロシア本土を結ぶ「陸の回廊」の分断に向け、一歩前進した形だ。
ただ、タス通信によると、ロシア軍は22日の戦闘でウクライナ軍のボート部隊を撃退したと主張。川を舞台に攻防が展開されているもようで、ウクライナが占領地へ前進するための橋頭堡(きょうとうほ)を東岸に築けるかは予断を許さない。 
●南部のダム決壊、損失3兆円 ロシアの環境犯罪2500件 10/23
ウクライナの環境保護・天然資源省のエブゲニー・フェドレンコ次官は23日までに共同通信のインタビューに応じ、6月に起きた南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所の巨大ダム決壊による損失が総額240億ドル(約3兆6千億円)に上る可能性を指摘した。また、ロシアによる2500件の環境破壊を、戦争犯罪として検察当局が捜査していると明らかにした。
フェドレンコ氏は侵攻によって全土で生じた土壌や大気、水質汚染など環境被害による損失額は現時点で560億ユーロ(約8兆9千億円)と試算。生態系への影響も深刻で、黒海やアゾフ海のイルカ類千頭が死んだなどと説明した。
●ウクライナ検察当局 軍事侵攻から各地で子ども508人死亡と発表 10/23
ロシア軍は、東部ドネツク州でのウクライナ側の拠点アウディーイウカの戦闘について多くの人員の損失が出る中、新たな部隊を派遣するなど掌握をねらっているとみられます。こうした中、ウクライナの検察当局は軍事侵攻が始まってから各地でこれまでに508人の子どもが死亡したと発表しました。
ウクライナ空軍は23日、ロシア軍が夜間、無人機やミサイルを使って各地を攻撃したと発表し、南部オデーサ州の地元当局は無人機9機を撃墜したものの無人機の破片で港湾のインフラ施設が損傷したとしています。
また、ロシア軍は東部ドネツク州でのウクライナ側の拠点アウディーイウカの周辺で攻撃を強め、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は22日「ロシア軍は新たな攻撃を行い、失敗したにもかかわらずこの戦線に追加の兵力を投入している」と指摘しました。
イギリス国防省も22日「アウディーイウカでの戦闘でロシア軍の犠牲者は90%増加した」と指摘していて、ロシア軍は人員の犠牲もいとわず掌握をねらっているとみられます。
こうした中、ウクライナの検察当局は23日、軍事侵攻が始まってから各地で多くの子どもたちも戦闘に巻き込まれていて508人が死亡し、1138人以上が負傷したと発表しました。
負傷した子どもの数はドネツク州が492人、ハルキウ州が304人と東部の州が多くなっていて、22日もハルキウ州のクピヤンシクでロシア軍の砲撃によって15歳の少女と17歳の少年が負傷したとしています。
一方、ロシア側が占領を続ける地域での犠牲者の数は把握されていないことから、ウクライナ検察当局は実際に死傷した子どもはさらに多いとみています。

 

●プーチン大統領の自信のワケは経済成長。若さの秘訣は「茶の湯」の意外 10/24
欧米諸国が望むような展開にならないウクライナ情勢。それどころかロシアのGDPの成長率は欧米をはるかに上回っているようです。そのためか、プーチン大統領は意気軒昂。バルダイ国際討論会で大演説をぶったようです。国際政治経済学者の浜田和幸さんが、71歳になっても元気一杯なプーチン大統領の自信の源泉として、有名な「柔道」のほかに日本ルーツの「茶の湯」があると解説。ウクライナ戦争の停戦の道筋を拓くことができるのは、今年100歳を迎えた裏千家の千玄室氏ではないかとしています。
プーチン大統領の若さの秘訣は柔道と茶の湯の心?
71歳の誕生日を迎えたばかりですが、ロシアのプーチン大統領は元気一杯のようです。今年で20回目となったソチで開催されたバルダイ国際討論会では大演説をぶちました。
曰く「ロシアが中心となり、新たな世界を建設する」。
その自信のほどに参加者も世界のメディアも圧倒されたものです。日本をはじめ、欧米諸国では「ウクライナ戦争に足を引っ張られ、プーチンは青息吐息だ。ロシアの終わりの始まりが見える」といった論調が主流となっていますが、ロシアの経済はIMFの分析でも「欧米をはるかに上回るGDPの成長を見せている」とのこと。
アメリカを中心とするNATO諸国は、何かとロシアを敵視し、ウクライナでの代理戦争を通じてロシアの力を削ぎたいと願っていることは間違いありません。そのため、どうしても希望的観測から「ロシア崩壊論」に引っ張られる傾向が顕著です。
しかし、原油や天然ガスなどエネルギー資源の豊富なロシアは中国やインドなどに大量の輸出を重ね、経済を順調に回しています。アフリカなどグローバル・サウス諸国にも穀物や肥料などを大々的に輸出しているのです。
プーチン大統領とすれば、ハマスがイスラエルに大規模なドローン攻撃を仕掛け、大勢の死傷者が発生していることも、「アメリカの中東政策の失敗だ。ウクライナへの支援も同じ結果になるだろう」と一刀両断。
実は、プーチン大統領の自信の源泉にあるのは「柔道で鍛えた肉体」と「茶の湯で体得した平静心」と思われます。柔道に関しては、自身が黒帯の有段者であり、山下泰裕選手との交流も有名です。しかし、茶道についての思いはほとんど知られていません。
意外に思われるでしょうが、プーチン大統領は中国、ロシア、モンゴルを結ぶ「お茶の道構想」を推進しています。2023年末までには「お茶を通じた平和と安寧の世界」を目指すという意気込みです。
そうした構想を吹き込んだのは、裏千家元家元の千玄室大宗匠に他なりません。千利休が唱えた「和敬清寂」は、戦いのさ中にあっても、一服の茶の湯の心を大切にすることで、平和への道が開かれるという発想です。大正12年生まれで、今年100歳を迎えた千玄室氏の存在と教えはプーチン大統領の心を捉えて離しません。
「老いてますます盛んなり」。プーチン大統領は医者である娘からは現代医学に基づくアドバイスを受けていますが、最もほれ込んでいるのは、柔道と茶の湯の心なのです。
国連親善大使でもある千玄室氏と茶の湯の心を分かち合えば、ウクライナ戦争にも停戦の道筋が生まれるかも知れません。
●習近平の「一帯一路」は本当に“破たん”したのか? イタリアの離脱 10/24
10月17日から2日間、中国の首都北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(一帯一路フォーラム)が開催された。今回の一帯一路フォーラムは、2013年9月に中国の習近平国家主席が一帯一路構想(当時は「シルクロード経済ベルト」)を提案してから10年という節目を迎えて開催されたこともあって、国際的に高い注目を集めた。
一帯一路構想を巡っては、スリランカのハンバントタ港の事案が象徴するように、中国による投融資が新興国の過剰債務問題(債務の罠)につながるという批判が、欧米からなされていた。一方で中国に対しても、戦略的価値に乏しい資産を引き取らざるを得ないという意味で、同国自身が「不良債権の罠」に陥ることへの警鐘が鳴らされている。
もともとこの一帯一路構想に関しては、中国の習近平国家主席自身にも確たる戦略ビジョンがなかったように感じられる。そのため、この10年間、中国政府が主導する対外投融資は、必ずしも戦略的に実施されてこなかったというのが現状だろう。その意味で、欧米による一帯一路構想への懸念や批判は、いささか過剰反応だったといえなくもない。
そして不動産価格の下落が象徴するように、10年の間に中国経済そのものが変調し、かつてのような高成長も見込めなくなった。一帯一路フォーラムで習近平国家主席は、一帯一路構想に基づく投融資を量から質に転換すると表明したが、ある意味で中国はようやく、政府が主導する対外投融資を戦略的に実行していく意思を表明したことになる。
一帯一路構想の性質の変化は、今回の一帯一路フォーラムに出席した各国首脳らの数にも反映されているといえる。一帯一路フォーラムサミットに首脳を派遣した国の数は24カ国にとどまり、2019年に開催された前回の38カ国から大幅に減少した。量的な拡大が見込めなくなった一帯一路構想から、距離を置く国が増えてきたわけだ。
離れるイタリアと留まるハンガリー
一帯一路に関しては、この構想に賛同していた唯一のG7加盟国であるイタリアが離脱の意思を示したことが話題となった。
確たる経済的な果実、具体的には中国からの投資の流入や対中輸出の増加が実現しなかったためだが、一方で引き続き、中国による対外投融資に期待を寄せる国も少なからず存在する。ヨーロッパの小国ハンガリーはその典型だ。
今回の一帯一路フォーラムでは、出席する各国の指導者の数が大幅に減ったが、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は北京を訪問し、習近平国家主席や李強首相と個別に会談した。欧州連合(EU)は中国に対する姿勢を硬化させているが、オルバーン首相は中国との経済関係を重視しており、今回の訪中を実現させた。
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実際に、ハンガリーと中国の経済関係は深まっている。ハンガリーの直接投資流入額(投資の最終的なリスクがどこに所在するかを示す最終リスクベース)の推移を確認すると、中国からの投資流入額は2014年から2021年の間に10億ユーロから34億ユーロまで拡大した(図表1)。それに香港を加えると、日本からの投資流入額を上回る。
   図表1 ハンガリーの直接投資受入額
EVを通して関係が深まる中国とハンガリー、その理由
他方で、ハンガリーの対中貿易収支を確認すると、ハンガリーから中国に対する輸出はそれほど増えていない。が、中国からハンガリーへの輸入は急増しており、ハンガリーの対中貿易赤字も急増している(図表2)。とはいえ、ハンガリーが中国から輸入しているモノは、いわゆる完成品ばかりではなく、部品や中間財といった仕掛品も多い。
ハンガリーでは今後、中国の電気自動車(EV)関連メーカーが生産工場を相次いで稼働させる。そうなればEV関連を中心に、部品や完成品を輸入する流れが強まる。一方、中国のEV関連メーカーの工場が稼働すれば雇用が生まれ、ハンガリー経済の成長を押し上げることになる。ハンガリーは中国による対外投融資の恩恵を着実に得ているわけだ。
   図表2 ハンガリーの対中貿易収支
中国にすり寄るロシア、一定の距離を置く中国
ハンガリーのオルバーン首相は、一帯一路フォーラムへの参加に伴う訪中で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談を設けた点でも注目を浴びた。ハンガリーが加盟する欧州連合(EU)は、ウクライナとの戦争を巡ってロシアと対立を深めている。にもかかわらずプーチン大統領と会談を設けるオルバーン首相の姿勢には、賛否の両論がある。
一方でロシアは、中国への経済面での依存度を急速に高めている。
一帯一路フォーラムで演説をしたプーチン大統領は、一帯一路構想の実績を高く評価すると同時に、自らが主導する「ユーラシア経済連合」(ロシアを含む旧ソ連5カ国による経済同盟)と一帯一路構想を照らし合わせるなど、対欧米を念頭に中ロ主導の国際秩序の形成に期待を寄せている。
ユーラシア経済連合には、旧ソ連から独立した諸国のうち、中央アジアからはカザフスタンとキルギスが参加している。両国は中国と国境を接しているとともに、鉱物資源が豊富な資源国でもある。そのため中国にとっても、両国との間で友好関係を維持し、経済的なつながりを深めることは国益に適うものであり、投融資の優先対象となる。
とはいえ中国としては、ロシアとの協力関係はあくまで是々非々での判断に基づくものであり、両国が一体となって欧米と全面的に対立する構図が出来上がることを望んでいるわけではない。
ロシアは中国に対して折に触れて強いラブコールを寄せているが、中国はあいまいな態度に終始することで、欧米とロシア、両方との関係の維持に努めている。
より戦略性を帯びてくる中国の対外投融資
そもそも明確な戦略ビジョンがあったかさえ疑わしい一帯一路構想が、当初のイメージ像から萎んでいくことは、ある意味で当然の帰結である。
とはいえこのことは、中国による対外投融資路線が完全に破たんしたこと意味するものではない。「量」から「質」への転換のとおり、中国による対外投融資は、今後より戦略性を高めることになるだろう。
一帯一路構想から距離を置く国は確かに増えているが、同時にこのことは、中国による対外投融資の方向性を見守ろうという国が増えているということでもある。言い換えれば、今後は「量」から「質」に転換することになる中国の対外投融資が、やはり経済的に魅力的なものだと判断する国が、増える可能性も十分あるということだ。
その意味では、一帯一路構想から離脱するイタリアが、将来的に再び中国の対外投融資構想にコミットする展開もあり得る。一帯一路構想にとどまり続けるハンガリーが、経済的な利を得続ける可能性もある。
中国による対外投融資路線は確かに岐路に立っているが、それが完全に破たんしたという見方は、やはり間違いといえよう。
●中国「一帯一路」フォーラムのスピーチに感じた習近平主席の「強運」… 10/24
「一帯一路」は大丈夫なのか
先週17日と18日、中国が「今年最大の外交イベント」と位置づけてきた、第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが、北京で開催された。
「一帯一路」とは、2013年秋に習近平主席が提唱した、中国とヨーロッパを陸路(シルクロード経済ベルト)と海路(21世紀海上シルクロード)で結び、インフラ整備などをユーラシア大陸全体に広げていくという広域経済圏構想だ。いまは、アフリカや南米にまで広がったと、中国政府は吹聴している。
今回の2日間にわたったビッグイベントには、中国側の発表によれば、151ヵ国と41の国際機関の代表が参加。国家首脳23人を始めとする1万人以上が、972億ドルのビジネス契約と、458項目の合意成果を得て閉幕した。このイベントを主催した習近平主席は、2日間、まさに「ユーラシア大陸の皇帝様」のように振舞ったのだった。
しかしながら、このイベントを報じた日本の主要メディアの論調は、おおむね否定的で、以下にような見出しが躍った。
・“習近平氏の誤算?” 中国「一帯一路」10年 どうなった?(NHK)
・退潮隠せぬ一帯一路 プーチン氏と同席嫌う各国―円卓会議見送り・中国(時事通信)
・途上国を借金漬けにする「債務のわな」に懸念、中国「一帯一路」方針転換か…フォーラム参加国は過去最少(読売新聞)
・中国の外交力強めたが、審査甘く借金漬けも 「一帯一路」四つの疑問(朝日新聞)
・一帯一路、「量から質」転換は誤算の裏返し 中国も「債務のわなに」(毎日新聞)
・岐路に立つ「一帯一路」、10周年首脳会議リポート(日本経済新聞)
・一帯一路、共同声明なし 会合、前回より首脳参加減る(産経新聞)
・中国「一帯一路」提唱から10年…15兆円超が不良債権化との推計も(東京新聞)
このように日本では「一帯一路」フォーラムについて「マイナス報道一色」とも言える状況だったのである。こうした記事を読むと、「習近平の『一帯一路』は、もう終わりだ」「最近の中国は経済もダメだが、外交もダメになったものだ」――そんな印象を抱いてしまう。
だが私は、まったく別な視座から、「一帯一路」フォーラムを注視していた。それは、「習近平の『強運』がいまだ続いているか」という視点だ。
「習近平政治」を形成するもの
習近平が、実質上の中国トップである共産党総書記に上り詰めたのは、2012年11月15日の「1中全会」(中国共産党第18期中央委員会第1回全体会議)で、私はこの大会を、北京の人民大会堂2階の記者席から目撃した。以後、この11年近くというもの、習近平総書記の公の場での言動を、つぶさにフォローしてきた。
その結果、「習近平政治」というものの輪郭が、おぼろげながら分かってきた。それは大ざっぱなイメージで言うと、「内核」と「外膜」から成っている。
内核を形成するのは、「毛沢東的権力闘争史観」である。「革命を継続せよ」と唱え続けた毛沢東主席は、1976年に82歳で死去するまで、「中南海」(北京の最高幹部の職住地)で権力闘争を続けた。
習近平という指導者は、明らかにこうした「毛沢東的遺伝子」を受け継いでいる。そのため、常に「権力闘争史観」に立たないと、いまの中国政治は理解できない。
一方、外膜を形成すると私が思うのは、比類なき「強運」である。これももしかしたら、「生涯で一度もケガしたことがない」という伝説を持つ毛沢東主席とつながるのかもしれない。
とにかく、この11年弱というもの、習近平総書記がピンチに立たされると、常に「外部から何かが起きて救ってくれる」のである。それは内政、外交問わずだ。
いくつか実例を挙げよう。まず内政については、昨年10月の第20回中国共産党大会で、本来なら「2期10年」を務めあげた習近平総書記は、政界を引退しなければならなかった。実際、8月前半に河北省北戴河(ほくたいが)で一年に一度だけ顔を合わせる長老グループは、揃って「引退勧告」を突きつけた。
だが当人は、辞めたくない。「隣国の友人」ウラジーミル・プーチン大統領のように、半永久政権を築きたい。
そんな時に、「宿敵」アメリカから、ナンシー・ペロシ下院議長が台湾に降り立ったのだ。すると習近平総書記は、ことさら大仰に人民解放軍の台湾近海での大演習を企図。「いまは有事である」として、政権を替えるべきではないという理由をつけて、「抵抗勢力」を押し切ってしまった。
続くピンチは、昨年11月の「白紙運動」である。
3年に及んだゼロコロナ政策に業を煮やした若者たちが、北京や上海で立ち上がり、「習近平は下野せよ!」「共産党は下野せよ!」と声を挙げた。こんなことは、1989年の天安門事件以降、33年ぶりで、これが中国全土に広がれば、政権崩壊につながる。
そうかといって、天安門事件の時のように、若者に銃口を向けるわけにはいかない。習近平政権は一体どうやって収めるのかと注視していたら、何と国内で最大の「政敵」だった江沢民元総書記が、11月30日に96歳で死去したのである。
習政権は渡りに船とばかりに、「全国民が一週間、喪に服す」として、14億中国人が持つスマートフォンの画面を「白黒」にした。これで「白紙運動」は、たちまち萎んでしまったのである。
外交についても、一例を示そう。
2015年11月15日と16日、トルコのアンタルヤでG20(主要国・地域)サミットが開かれた。この時のG20の主要議題は、「中国叩き」だった。中国は南シナ海で人工島を7つも作り、国際社会は非難轟轟だった。また中国株の大暴落、人民元の突然の切り下げによる「人民元ショック」などで、中国経済に対する疑心暗鬼は、頂点に達していた。
習近平主席にとっては、大変頭の痛い外遊だったが、逃げるわけにもいかない。すると、G20開催の二日前に、パリで同時多発テロが起こったのである。死者130人、負傷者300人超という大惨事で、G20は一転して、テロへの非難や対策一色となった。中国叩きなど、どこかへ吹き飛んでしまったのだ。
いま3つ例を挙げたが、事程左様に、「困ると何かが起こって助けてくれる」のが、習近平政権の常なのだ。
習近平主席が行った「二つのスピーチ」
そこで、話を戻して今回の3回目の「一帯一路」フォーラムである。冒頭の日本メディアの見出しが示すように、確かに「ピンチの一帯一路」だった。
前回2019年4月の時は、38ヵ国の国家元首クラスの首脳が勢揃いしたのに、今回は23ヵ国。会期も前回は3日間だったのに、今回は2日に短縮。習近平主席がこだわった「円卓での会議」も実現せず、共同声明すら出せなかった。
しかし、である。私は習近平主席が行った「二つのスピーチ」を、CCTV(中国中央広播電視総台)のインターネット中継で見たが、心にズシリと響いたのだ。
一つ目は、10月17日晩に人民大会堂で行われた歓迎宴会での祝辞である。習主席は、次のように述べた。
「レディース・アンド・ジェントルメン・アンド・フレンズ! いまの世界は太平とは言えない。世界経済は下降圧力が増大し、全世界の発展は多くの挑戦に直面している。
しかしわれわれは、堅く信じていこうではないか。平和・発展・協力・共栄という歴史の潮流は、阻むことができないと。人々の麗しい日常生活は、阻むことはできないと。各国が共同で発展・繁栄していく願いを実現することは、阻むことはできないと。
それには、われわれは協力関係を堅く守るという初心に返り、発展していく使命を銘心しさえすればよいのだ。そうすれば、共に築くハイレベルの『一帯一路』に、時代の光彩を放つことができるのだ。われわれが共同で努力し、人類のさらに美しい未来を切り拓いていこうではないか!」
二つ目は、翌18日の午前11時過ぎ(日本時間)から、人民大会堂で行われた基調演説で、こちらは33分にわたって、落ち着いた口調で述べた。その要旨は、以下の通りだ。
「今年は私が『一帯一路』を提唱してから10周年だ。その心は、古代のシルクロードにちなんで、互いの連通を主線とし、各国と政策の疎通、設備の連通、貿易の流通、資金の融通、民心の互通を強化していくものだ。それによって、世界経済の成長に新たなエンジンを注入し、全世界の発展に新たな余地を切り拓き、国際経済の協力に新たなプラットフォームを作り上げていくのだ。
『一帯一路』の提携は、ユーラシア大陸からアフリカ、ラテンアメリカにまで伸びていき、150ヵ国以上の国と、30以上の国際機関が『一帯一路』を共に築き上げる協力文書に署名した。『一帯一路』の提携は『大きな構図意図』から、『筆入れ』の段階に入ったのだ。企画図は実際の景色へと転化したのだ。
開放的でグリーンで清廉な、ハイレベルで民生に持続可能な『一帯一路』を、共に商い、共に建て、共に享(う)けるというのが、重要な指導原則だ。
10年来、われわれは力を尽くして、鉄路・道路・空港・港湾・パイプライン網などを作り、陸・海・空・ネットの全世界の相互通信網をカバーしてきた。各国の商品・資金・技術・人員の大流通を有効に促進し、千年にわたって続いたシルクロードに、新時代の新たな活力を与えてきた。
中国は各国に向けて、100億枚以上のマスクと23億回分のワクチンを提供し、20ヵ国以上でワクチン生産の協力を行ってきた。われわれが深く知ったのは、人類は相互依存する運命共同体だということだ。世界がよくなってこそ、中国もよくなれる。中国がよくなれば、世界はもっとよくなれる(世界好,中国才会好;中国好,世界会更好)。
中国はすでに、140以上の国と地域にとって主要な貿易パートナーであり、ますます多くの国にとって投資を受ける主要国となっている。皆が互いに友でありパートナーとして、相互尊重・相互支持・相互成就となれば、バラを贈ればその手に香りが余るように、他者を成就させることも自己を助けることなのだ。
イデオロギーの対立を起こさず、地政学の無茶な衝突を起こさず、グループ政治による対抗を起こさず、単独制裁に反対し、経済的な威圧に反対し、デカップリングやサプライチェーンの断絶に反対していく。10年の歴史過程が証明しているのは、『一帯一路』を共に作ることは、歴史の正しい道のりの一つであり、時代が進歩していくロジックに合致しているということだ。この道を歩んでいくことは、人間の正道なのだ。
私は、8項目の行動を提唱したい。(中略)近未来の5年(2024年〜2028年)で、中国の貨物とサービス貿易の累計は、おそらく32兆ドルを超える。中国国家開発銀行と中国輸出入銀行はおのおの、3500億元の融資窓口を開設する。(中国人民銀行は)800億元のシルクロード資金を増設する。今回のサミットフォーラムの期間中、企業家大会で計972億ドルの項目の提携協定を達成した。
『一帯一路』建設は中国に始まり、その成果とチャンスは世界に属する。『一帯一路』のさらに高品質で、さらに高水準の新たな発展を迎えようではないか。開放包容・互連互通・共同発展の世界を作り、共同で人類運命共同体作りを推進していこうではないか!」
以上である。習近平主席はスピーチの他にも、26回もの首脳会談をこなした。
具体的には、17日がカザフスタン、エチオピア、チリ、ハンガリー、パプアニューギニア、インドネシア、セルビア、ウズベキスタン。18日がロシア(プーチン大統領と3時間)、ナイジェリア、アルゼンチン、国連(アントニオ・グテーレス事務総長)、ケニア。
19日がカンボジア、モンゴル、エジプト、トルクメニスタン、コンゴ、タイ、モザンビーク、パキスタン、新開発銀行(ディルマ・ルセフメット総裁)。20日がスリランカ、ベトナム、ラオス、ブラジルである。
またしても「神風」が吹いた
この二つの演説を聴いていて、私が心にズシリと来たというのは、他でもない。イスラエル・パレスチナ紛争が勃発したことと関係している。昨年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争に続き、いまや人類は二つ目の大型戦争に入ろうとしている。
世界の「米中ロ3大国」のうち、アメリカはウクライナに武器と軍事情報を提供し、今回またイスラエルに同様のものを与えようとしている。ロシアはウクライナに侵攻した当事者であり、パレスチナのハマス側が軍事的に頼るのも、結局はロシアということになるのだろう。
そのようなアメリカとロシアに比して、中国だけは、この二つの悲しむべき戦争に、軍事的な関わりを持っていない。中国のロシアとの今年の貿易額(1月〜9月)は、前年比で29.5%も増えているが、殺傷能力のある武器は提供していない。
今回、プーチン大統領が北京へ来て、習近平主席と「42回目の首脳会談」に臨んだが、そこでもおそらく、殺傷能力のある武器を提供するとは約束していない。
本来なら、冒頭の日本メディアがこぞって指摘しているように、「一帯一路」は10年前に習近平政権が思い描いていた理想とは程遠いし、すでにヒビ割れてもいる。「カネの切れ目が縁の切れ目」とばかりに、中国から離れていった国もある。
特に、中国が「一帯一路の終着点」と位置づけるヨーロッパで国家元首級の首脳を派遣したのは、ハンガリーとセルビアくらいのものだった。G7(主要先進国)で唯一、「一帯一路」の協定に署名していたイタリアも、今回は参加を見送った。ジョルジャ・メローニ政権は、今年中に「一帯一路」から離脱するとも言われている。
だが、世界情勢は、対象国を個別に見る「絶対的分析」も必要だが、現実には広く俯瞰した「相対的分析」によって判断されるものだ。現在の「戦争まみれ」の世界の中で、改めて習近平主席の愚直なスピーチを聴くと、「この10年で『一帯一路』はインフラ整備を積み上げてきた」「共に手を携えて『人類運命共同体』を作ろうではないか」といったセリフが、妙に説得力を持ってくるのである。
確かに中国は、この10年というもの、戦争を起こしていない。人民解放軍がどこかの戦争に積極的に加担したということもない。習近平政権が行ってきたのは、「一帯一路」の名のもとに、発展途上国にカネを貸し、中国企業が進出してインフラ建設を進めたことだ。「壊す」のではなく、「建てる」側だったのである。
前述の「習近平の強運」という論点から見れば、本来なら今回の3回目の「一帯一路」フォーラムは、「ボロボロの大会」になるリスクを孕んでいた。何せ開幕の一週間前まで、日程さえ正式発表できなかったくらいだ。
それがやはり今回も、「習近平にとっての神風」が吹いたのだ。すなわち、10月7日に突如として起こったハマスによるイスラエル攻撃と、それに対するイスラエルのガザ地区への報復攻撃である。
つくづく「持ってる男」
この降って湧いたような中東危機に、「米中ロ3大国」の中で最も慌てたのは、アメリカである。アントニー・ブリンケン国務長官が急遽、11日〜16日に中東を訪問し、18日にはジョー・バイデン大統領が自ら、イスラエルを緊急訪問した。
だが、アメリカがイスラエルに加勢すればするほど、世界のアメリカを見る目は冷ややかになっていくようにも映る。イスラエルは、発生当初こそ「被害者」だったが、現在は「加害者」の側だからだ。
そのことを象徴したのが、18日に国連安全保障理事会で行われた、ブラジルが提出した即時停戦決議案に対する採決だった。何とアメリカが反対し、拒否権を行使して葬り去ったのだ。「イスラエルによる自衛権の行使を妨げる」というのが、その理由だった。
これに対して、国連パレスチナ常任オブザーバーのリヤド・マンスール氏は、怒りをぶちまけた。
「この理事会が2日前に停戦を呼びかけていれば、何百人もの命を救うことができただろう。とにかく、いますぐ流血の事態を止めてくれ!」
17日にガザ地区のアル・アハリ病院が砲撃を受け、500人近い無辜の人々が犠牲となったばかりだけに、マンスール氏の言葉には重みがあった。
ともあれ、繰り返しになるが、「米中ロ3大国」のうち、ロシアは現在、戦争中である。アメリカは、ウクライナに武器などを提供しているばかりか、中東で今後起こりうる戦争に、加担しようとしている。
そうなると相対的に、「一帯一路」や「人類運命共同体」の提唱者である中国の世界における存在感が、高まっていくのである。特に、グローバルサウスと呼ばれる発展途上国においては、そうである。いや、先進国においても「中国の方がマシではないか」と共感する人が出てくるだろう。
加えて、過去5年間、「中国封じ込め」を実行してきたアメリカも、微妙に態度を変えざるを得なくなる。ロシア・ウクライナ、イスラエル・パレスチナという「2つの戦争」に加担しながら、「中国封じ込め」も同時に行う「3正面作戦」は、いまのアメリカの国力では無理である。
そもそも中東問題を解決するには、中東の多くの国にとって最大の貿易相手国である中国を敵に回すわけにはいかない。2001年の「9・11事件」後のアメリカの二つの戦争――アフガニスタン戦争とイラク戦争も、「後背地」の中国を説き伏せたことで勝利に導けた。
というわけで、今回も習近平主席に「強運」がもたらされた。つくづく「持ってる男」だと思う。
●アウディーイウカ攻撃に失敗したロシア軍、兵力追加投入… 10/24
ロシアによるウクライナ侵略は24日で1年8か月を迎える。ロシア軍は東部ドネツク州アウディーイウカ周辺で多くの犠牲を出して攻勢を続けているが、ウクライナ軍が敷設した地雷などに阻まれ、苦戦を強いられているとみられる。
アウディーイウカの戦闘について、米政策研究機関「戦争研究所」は22日、露軍が19〜20日の攻撃に失敗したにもかかわらず、兵力を追加投入したと指摘。英国防省も22日、「露軍の犠牲者は90%増えた」と分析した。
プーチン大統領は15日にウクライナの反転攻勢について、「完全に失敗した」と決めつけた。アウディーイウカへの攻勢は、是が非でも成果を得たいという政治的動機に基づいているとの指摘もある。
同研究所は、ロシアの軍事ブロガーの話として、ウクライナ側はアウディーイウカ周辺に地雷を敷設し、「厳重に要塞(ようさい)化した」と指摘した。ウクライナが6月に反転攻勢を開始した直後、南部ザポリージャ州の要衝トクマクを目指す攻撃で露軍の地雷に足止めされた状況と似ているという。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日夜の演説で、アウディーイウカの現状に触れ、「多数のロシアの攻撃があるが、我々の陣地は維持されている」と語った。
ウクライナ軍は広範な領土奪還の足がかりとするため、南部ヘルソン州のドニプロ川で渡河作戦を続けている。
●スイスは「保守回帰」「ポピュリズム復活」 総選挙海外報道 10/24
他の欧州国家と同じように、スイスでも右翼ポピュリズムが広がっている――22日に実施されたスイス総選挙の結果について、複数の国外メディアがこう総括した。一方、国内メディアは環境政党が墓穴を掘った結果に過ぎないと分析する。
22日の総選挙では、右派の国民党(SVP/UDC)が得票率28.6%と2019年の前回選挙を3ポイント上回り、第1党としての地位を強固にした。最大の敗者は2つの環境政党で、合計11議席を失った。
「今回の選挙は、欧州全土の投票所でポピュリスト(大衆迎合主義者)が復活していることを裏付ける」。英紙フィナンシャル・タイムズはこう総括した。他の多くの報道機関と同じように、イタリアやオーストリア、ドイツ、フィンランドに続くスイスの右傾化を指摘した。
独紙フランクフルター・アルゲマイネは「コロナ禍や地政学的大変動の結果、国民の間で気候問題への意識は再び低下した。政治的にも経済的にも不安定な時代にあって、再び保守勢力にすがりたいと考えるスイス国民が増えた」と分析した。
ウクライナ戦争や緊迫化する中東情勢を受け、有権者は外部の脅威と認識されるものに対する防衛的な姿勢を強めた、と解説するメディアも複数あった。
物議を醸す選挙広告
仏紙ル・モンドは、国民党が選挙戦で「『大量移民』との闘いや人口1千万人予想という得意分野に重点を置いた」と指摘した。「血まみれのナイフやフードで顔を隠した犯罪者、拳、傷だらけの顔、怯える女性はニューノーマル(新常態)になるのか?外国人による犯罪に焦点を当てるため、こう問いかける広告がソーシャルメディアを駆け巡った」
独紙ツァイト紙は、選挙戦で「『外国人を攻撃』カードが切られた」とたとえた。
独紙スードドイチェ・ツァイトゥングは「スイスは孤立しつつある」と批判的に報じた。「ウクライナ戦争、中東戦争…多くの有権者は目をつぶって国民党に投票した。居心地の良い中立に身を包むために」
米CNBCは、スイスの有権者は他の欧州諸国と同様、相反する問題の間で板挟みになっていると解説した。
「スイス総選挙は、右翼ポピュリストを選ぶか、カネや資源を地球温暖化対策に投じるべきかの間で揺れる欧州有権者の実像を改めて浮き彫りにした。裕福なスイス有権者でさえ、例外ではなかった」
環境政党の敗因
スイス・ドイツ語圏の日刊紙NZZは「世界中に広がる巨大な影がスイスにも落ちた」と総括した。「世界は燃え、大きな不確実性がある。国民に何かを要求する政党は求められていない。たとえ嘘だとしても、安全を約束する者が勝利する」
「今回の選挙ではリベラリズムが台頭し、個人の責任はこれまでになく軽視された」
しかし、国内メディアの多くはより細かい変化にも着目し、今回の選挙で右派が地滑り的な勝利を収めたわけではないと総括した。左派・社会民主党(SP/PS)と中央党(Die Mitte/Le Centre)も議席を伸ばしたからだ。
メディアの批判の矛先は、終始劣勢だった緑の党(GPS/Les Verts)と自由緑の党(GPL/PVL)に向かった。環境政党は気候対策として国民に大きな負担を強いる一方で、有権者に受け入れられる具体的な計画を示すことができなかった。
スイス・ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー他のサイトへは「危機が多発する今、緑の党の掲げる終末論は警鐘効果が薄れ、絶えず変化を求める同党の呼びかけは威嚇効果をもたらした」と読み解いた。
スイス・フランス語圏日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブは「緑の党は、説教ばかりしているうちに道を見失ってしまった」と皮肉った。
●ウクライナのEUへ期待の声と山積する課題 10/24
欧州統合のプロセスにおいて「加盟国の拡大」は統合を進める推進力の一つであったが、少し前まで真剣に討議されなかった。しかし、ロシア・ウクライナ戦争で、ウクライナ加盟へ前向きな姿勢を取る必要が出てきており、解決すべき問題となっている。
Economist誌9月30日号は「ウクライナにおける戦争は欧州連合(EU)を拡大し改善すべき強い理由である」と題する社説を掲載している。概要は次の通り。
EUを27カ国から36カ国に拡大する(ウクライナ、西バルカン諸国、ジョージア、モルドヴァを含む9か国の新規加盟を受け入れ)のは、容易なことではない。最も新しい加盟国はクロアチアだが、その加盟は10年前のことであった。
EU拡大という考えは長らく休眠状態であったが、ようやく討議項目として復活してきた。拡大完了の目標年次は2030年とされており、これは楽観的であるものの目指す価値がある。
拡大は、EUの最も成功した政策である。ユーロの導入、単一市場の設立といったEUのプロジェクトが大きな意味を持ったのは、それに参加する国が広範だったからだ。ウクライナを支援するEUの取り組みは、戦地に接する4カ国(ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア)を加盟国として受け入れていなければ、はるかに弱々しいものとなっていたであろう。
EUには、これら9カ国の加盟申請を中途半端な状態に止めておく余裕はない。それは、プーチンに欧州を不安定化させる隙を与えることになる。
EU拡大の作業を進める上で三つ重要なことがある。第一は、加盟申請国に対して希望を持たせるメッセージを発することである。EU加盟国になるに足りる必要な改革を行った場合には、加盟を認めることをはっきりさせるべきだ。
第二点は、EUの内部改革(拒否権の見直しや共通農業政策の改革など)を理由に、準備ができている国の加盟を遅らせるべきではない。内部改革を進めていることは、加盟申請国に対してドアを閉じる理由にならない。
第三点は、過去の拡大から教訓を学ぶことである。多くの国の場合、EU加盟のための改革がその後も継続し、それらの国は、EU加盟後、より自由になり、更に繁栄した。しかし、EUに加盟した後、EUの規範に反する方向に進んでしまったハンガリーやポーランドのような事例もある。ガバナンスの面で好ましくない実績のある国については、よくない行いを罰する仕組みが必要である。
欧州が世界の中で一つの勢力として数えられるためには、行動できる力を示す必要がある。拡大が困難であるからといってそれを遅らせることは、欧州とEUを弱体化させることにしかならない。
まして、欧州は、ロシアの侵略と米国の孤立主義にさらされている時である。戦争は悲惨な状況を生み出しているが、EUがより大きく、よりよい存在になるための推進力をも生み出している。欧州はそれを実現する道を探さなければならない。

欧州統合のプロセスにおいて「加盟国の拡大」は、「権限の拡張」、「制度の深化」とともに統合を進める推進力の一つであったが、少し前まではこの問題がEU内において真剣に討議される状況ではなかった。
「EUは四つの危機に直面してきた」とよく言われた。2010年に本格化したユーロ危機、14年以降のロシアのクリミア半島及びウクライナ東部への侵攻、15年以降の移民・テロ危機、16年以降の英国のEU離脱問題の四つである。
その後、さらに、新型コロナ・ウイルス問題への対処、ハンガリーとポーランドの「法の支配」からの逸脱の問題の深刻化が加わり、新規加盟国の問題について取り組むような状況にはなかった。
しかし、ロシア・ウクライナ戦争がこれを大きく変えた。EU加盟国の多くが、ウクライナに対して連帯感を示すため、また、ロシアの脅威を受けての欧州のあるべき姿を考え、ウクライナのEU加盟申請について前向きな姿勢を取った。
しかし、EUへの新規加盟については既に列に並んでいる国がいる。それらの国々と並行してウクライナの加盟について検討を進めていこうとの力学が働いているのが今日の状況である。列に並んでいる国を宙ぶらりんな状況のままにしておくことは、好ましくない方向に向かわせかねないとの考慮も働いている。
新規加盟へ並ぶ国の特徴
EUへの新規加盟の列に並んでいる国は、いくつかのカテゴリーに分けられる。第一は、「加盟候補国」とされ、加盟交渉がすでに開始されている国である(アルバニア、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)。第二は、加盟交渉開始にまでは至っていないものの「加盟候補国」と認定された国である(ウクライナ、モルドヴァ、ボスニア・ヘルツェゴビナ)。第三は、それよりも更に時間とプロセスを要する「潜在的な加盟候補国」である(ジョージアとコソボ)。第四は、かねてから「加盟候補国」とされながらも動きのないトルコであるが、ここでいう9カ国には含まれない。
上記の社説では、9カ国をまとめて取り扱っているが、実際には、物事が早く進む国とそうでない国に分かれていくだろう。EUへの新規加盟に際しては、1993年にとりまとめられた「コペンハーゲン基準」に沿って、EUとしての政治的基準、経済的基準、法的基準に合致しているかを各分野について精査するプロセスが進められるが、特に、「アキ・コミュノテール」と呼ばれるEUにおける法の総体系への整合性を確保するのは大作業である。
EU拡大は、中長期的な視点からウクライナの安全保障をどのように確保するかの問題ともリンクしている。ウクライナのNATO加盟は一つのオプションであるが、それが難しい際のセカンド・ベストとしてウクライナのEU加盟を同国の安全保障措置の一環として位置づけるとの考えがある。
しかし、EU加盟はNATO第5条のような集団防衛の仕組みを提供するものではない。EUが用意しているのは、加盟国の一つに攻撃が加えられた際には他の加盟国はできる限りの援助を行うとの努力義務に止まるものである。
●ロシア人の約半数が「収入不足」、基礎的支出満たせず 10/24
人材採用会社ヘッドハンターの調査で、賃金が基礎的支出を下回っていると回答したロシア人が過去2年で20%増加し、約半数に達したことが分かった。
ロシアはウクライナでの戦争に多額の支出を投じている。
調査は10月に約5000人を対象に実施。副業や投資による収入を除いて賃金が基礎支出をカバーできているかとの質問に「できている」と回答したのは20%と、ウクライナ侵攻前の2021年の36%から大幅に低下した。
また、「困難だができている」は同25%から36%に、賃金が不十分との回答は同39%から45%に上昇した。
この45%のうち、毎月少なくとも2万ルーブル(212ドル)以上不足しているとの回答は過半数を占めた。
ロシア連邦統計局(ロスタット)によると、7月のロシア人の名目月収は平均7万1419ルーブル(756ドル)だった。
●ウクライナ戦争で大儲けするゼレンスキー大統領とその取り巻き 10/24
長引くウクライナ戦争ですが、欧米や日本の報道では「ロシア=悪、ウクライナ=善」といった構図が一般的になっています。そのため、「日本もウクライナのためにできる限りの支援をするのが望ましい」との論調が大手を振っているようです。
しかし、どの戦争でも一方だけが善で、一方だけが悪ということはあり得ません。人類の歴史は戦争の歴史でもあり、そこではさまざまな利害が絡まっており、どちらかに絶対的な正義が宿っていることはあり得ない話です。
たとえば、ウクライナ戦争の場合でも、ロシア軍による侵攻が始まる直前の2022年2月14日、ゼレンスキー大統領が率いる政権政党「国民への奉仕」所属の国会議員37名が行方不明になりました。イタリアの新聞報道によれば、彼らはウクライナの富豪らとともに自家用ジェットでオーストリアに脱出したといいます。その直後、戦争が始まったわけです。
そしてウクライナの新聞が調べたところ、多くのウクライナの金持ち連中が家族をともないフランスのコート・ダジュールの保養地で過ごしていることが確認されています。大半のウクライナ国民が戦火の下で生きるか死ぬかの瀬戸際に追いやられているときに、勝手気ままに海外で暮らしているゼレンスキー大統領の取り巻きが数多く目撃されているのです。
今年7月20日に召集されたウクライナ議会には450人いる議員のうち、たった99人しか出席しませんでした。欠席した議員の多くはモルディブなどのリゾート地で悠々自適の生活をしているようです。そうした議員連中曰く「ウクライナの防衛は外国の義勇兵に任せている」。
しかも、アメリカのCBSがまとめたドキュメンタリーによれば、「欧米からの軍事品や医薬品など、支援物資の70%は必要な所に届いておらず、闇市場に流れている」とのこと。ゼレンスキー大統領夫妻の両親や親族は早い段階で外国に逃亡しています。世界を飛び回り、ウクライナへの支援を呼び掛けているゼレンスキー大統領ですが、エレナ夫人は同行したニューヨークやパリで大盤振る舞いの買い物三昧。
最近もカルティエで金やダイヤのブレスレットを始め34万ドルものショッピングに勤しんでいることが報道されたばかり。昨年のクリスマスはパリで過ごし、そこでも高級ブティックをはしごし、しこたまブランド商品を買い漁っていました。とても国民が生死の瀬戸際に追い込まれていることに寄り添うような姿勢は見られません。
また、ポロシェンコ前大統領に至っては、自分の子どもたちのみならず10もの現金をもってイギリスに逃れている模様です。最大の問題はウクライナの腐敗体質が悪化の一途をたどっていることです。以前からウクライナは世界でも指折りの「汚職大国」として知られていました。
最新の世界腐敗指数(CPI)でも、ウクライナはワーストランキングの上位を占めています。そのことを象徴的に示しているのが、去る9月に解任されたレズニコフ国防大臣の現金持ち逃げ事件でしょう。海外から提供されてきた経済支援や軍事物資の横流しで懐にしまい込んだ10億ドル(約1,500億円)をもって、国外に姿を消してしまいました。同時に7人の副大臣ら軍の幹部も解任されましたが、政府の上から下まで「ワイロ三昧」が当たり前になっているようです。
兵役を逃れるために軍の幹部にワイロを渡すのは日常茶飯事。追放されたレズニコフ国防大臣ですが、ウクライナの軍部の間では「あいつはアメリカの金を持ち去っただけで、ウクライナの金に手を出したわけではない」と、奇妙な論理で肩を持つ動きもあります。
実は、ゼレンスキー大統領も同じ穴の狢で、海外からの支援金で国内の公務員6万人の給与を全額賄っているうえに、家族名義でイギリスやフランス、最近はエジプトにも豪邸を購入したことが明らかに。
こうした腐敗体質や「ワイロ文化」を解消しない限り、ウクライナ戦争は終結しないのではないでしょうか。ウクライナの新聞によれば、ウクライナ人は1人頭8,000ドルから1万ドルの代金を払えば、徴兵対象であっても国外への脱出が可能になっているとのこと。最近は死亡診断書の偽造が急増しているとの報道もあります。こうした偽造文書で徴兵を免れているわけで、新たなビジネスとして急成長している模様です。
●パレスチナ情勢が国際エネルギー秩序にもたらす影響 10/24
パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスがイスラエルへの大規模攻撃を2023年10月7日に実施したことを受け、イスラエルがガザ地区への報復攻撃を行うなど、パレスチナ情勢が緊迫化している。こうした中、パレスチナ情勢の悪化に連動し、世界有数の石油・ガス産出地域である湾岸地域が不安定化し、国際エネルギー秩序が混乱に陥る可能性があるのかが注視される。
イスラエルの天然ガス動向への影響
まず、パレスチナ情勢の悪化はイスラエルの天然ガス動向に影響を及ぼした。イスラエル・エネルギー省は23年10月9日、安全性の懸念を理由に南部沿岸のタマル・ガス田の生産停止を発表した。
翌10日には、米石油会社「シェブロン(Chevron)」は、イスラエル・エジプト間の東地中海ガスパイプライン(EMG)を通じたエジプト向け天然ガス輸出を停止し、ヨルダンを経由する代替パイプラインで供給することを発表した。EMGは、イスラエル南部の町アシュケロン(ガザ地区の北約10キロメートル)とエジプト・シナイ半島の町アリーシュを結ぶ海底パイプラインである。
エジプトは20年1月からイスラエルの沖にあるタマルおよびレバイアサン両ガス田で生産されたイスラエル産ガスを輸入している。地中海で唯一の液化天然ガス(LNG)施設を擁すエジプトは、22年6月にイスラエルおよび欧州連合(EU)と調印した覚書にもとづき、輸入したイスラエル産ガスをエジプトのLNG施設で液化した後、タンカーで欧州諸国に輸出する計画を進めてきた。
だが、今回のタマル・ガス田での生産中断とEMGの操業停止が長期化し、イスラエルからエジプトへの輸出量が大きく減少すると予想されることから、エジプトは国内供給を優先せざるを得ず、欧州向け輸出分を十分に確保できなくなる恐れがある。欧州が22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に、エネルギー面でのロシア依存の脱却を試みる中、地中海を挟んで隣接するエジプトは代替調達先の1つとして期待されていた。
さらに、今般のガザ情勢に連動してイスラエルとレバノンのヒズボラ間の軍事衝突も起きたことで、イスラエルのガス田開発全体が悪影響を受けるだろう。イスラエルとレバノンの係争中の海域には、イスラエルが開発を進めるカリシュ・ガス田(ハイファ沖80キロメートル)がある。両者の対立激化がイスラエル権益への攻撃の活発化につながると予想されるため、同ガス田がヒズボラによる更なる海上攻撃を受け、開発事業が中断に追い込まれる可能性がある。
情勢悪化で原油価格は上昇
イスラエルの軍事行動を受け、イランの「代理勢力」であるシーア派民兵が中東各地で武装活動を活発化させている。代表的な組織はレバノンのヒズボラ、イラクの人民動員、イエメンのアンサール・アッラー(通称フーシー派)である。
10月19日、シリアやイラクに駐留する米軍を狙った無人機攻撃が相次いだ。シリアは南東部のタンフ基地や東部コノコ・ガス田の基地、イラクは北部エルビルにあるハリール基地やバグダード国際空港付近の基地などが攻撃を受けた。
さらに同日、イエメンからイスラエルに向けてミサイル4発と無人機12機ほどが発射され、米海軍の艦艇が全てを迎撃した。一連の攻撃は、イランの代理勢力によるものであるとされる。
パレスチナ情勢の緊迫化は国際原油価格の推移にも影響している。原油指標の1つ、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、ハマスの奇襲前(10月6日)に1バレル当たり82ドルであったのが、攻撃後の9日には86ドルに上昇した。その後、一旦は下落したものの、油価は再び上昇し、19日には90ドルを上回った。
原油価格の変動はいくつかの要因から引き起こされる。米ミシガン大学経済学部のLutz Kilian教授は09年に油価変動を、(1)供給要因、(2)実体経済の総需要要因、(3)地政学リスクとしての原油市場特有の変動要因(将来の供給停止といった不確実性に起因する事前予防的な需要)に分類した時系列分析モデルを提示した。
また、日本銀行が16年に発行したワーキングペーパーでは、Kilianモデルを拡張させ、金融要因や将来の需要・供給に対する期待要因を考慮したモデルが提示された。
今回のイスラエル・ハマス間の攻防は、主要産油地ではない場所で展開しているため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国の原油輸出に直接影響を与えている訳ではない。しかし油価が上昇する背景には、地政学リスクの観点から事前予防的な需要が生じたことがあると考えられる。
特に米国が19日、戦略石油備蓄(SPR)の補充を打ち出した影響が大きい。バイデン政権は今年12月と来年1月に600万バレルの原油を購入し、SPRの積み増しを図る計画だ。先行き不透明な中東情勢への懸念から、早期に原油を確保しようとする動きが世界中に広がれば、油価上昇に拍車がかかるだろう。
懸念される湾岸情勢への飛び火
パレスチナ情勢での大きな懸念点が、イスラエルが地上軍事作戦の実施に踏み切った場合におけるイラン側の反応である。現在、イランの代理勢力がイスラエルや米国の出方を牽制するような形で武装活動を行っているものの、イラン自体は大きな軍事行動をとっていない。
しかし米ニュースサイト「アクシオス(Axios)」によると、10月13日、イランのアブドゥルラヒヤーン外相は国連の中東和平担当特別調整官との会談で、イスラエルによるガザ攻撃が続けば、介入せざるを得ないと警告し、イラン参戦の可能性を示唆した。このように、イランはイスラエルおよび米国との対決姿勢をより一層強めている。
また、イランはイスラエルを地域的孤立させるため、対イスラエル包囲網の形成にも努めている。10月18日にイスラム協力機構(OIC)加盟国に対し、イスラエルに対する石油禁輸を取るよう呼びかけた。また、イスラエルと外交関係を締結しているOIC加盟国には、イスラエルとの断交を求めた。
こうした状況下、米国はハマスをロシアのプーチン大統領と並ぶ、米国の民主主義にとっての深刻な脅威であると名指し、イスラエルを全面的に支援する構えだ。このため、パレスチナ情勢の展開次第で米国・イラン間の緊張も高まるだろう。その場合、湾岸諸国は米国・イランとの関係で板挟みの立場に追い込まれる可能性がある。
湾岸諸国は米国に安全保障面を依存する一方、最近はイランとの関係改善を進めてきた。特に、今年3月のサウジ・イラン関係正常化に係る合意は地域情勢の緊張緩和に貢献するものであった。このため、湾岸諸国としては、イスラエルの地上軍事作戦からのイランの介入、米・イランの対立激化といったシナリオを避けるため、イスラエルに自制を強く要請するしかない状況である。
仮に湾岸諸国が、イランが求めるイスラエルへの石油禁輸やイスラエルとの断交に応じず(アラブ首長国連邦(UAE)およびバーレーンの場合)、イランがそれに対し不信感を募らせれば、イランの代理勢力が湾岸諸国側を警告するような武装活動に着手する可能性も否定できない。過去には、イエメンのフーシー派の無人機が19年9月にサウジアラビア東部の石油施設を、22年1月にUAE首都アブダビの石油施設を攻撃した経緯がある。
世界の多くの国々がサウジアラビア・UAEから原油を輸入しており、特に日本は両国から原油調達率が全体の約8割に達する。このため、パレスチナから湾岸地域に戦火が移るとなれば、単に原油高の煽りを受けるだけでなく、日本の原油の安定確保が脅かされる事態となることは留意すべき点である。
●裏切り、分裂…「米国政治の混迷」は報道の斜め上! 10/24
アメリカ政府のウクライナ支援のための追加予算が連邦議会で宙に浮いている。バイデン政権は大統領在庫引き出し権限(PDA)を利用することで、当面はウクライナ支援を継続できるものの、連邦議会の正常化による予算措置は急務だ。それにもかかわらず、10月初頭からアメリカの連邦議会はさらなる混乱に陥っている。そしてそれは、ウクライナ情勢やイスラエルとパレスチナ自治区の軍事衝突にも大きな影響を及ぼしている。
アメリカ内政、前代未聞の事態に陥る
10月3日、アメリカ議会下院でケビン・マッカーシー議長に対して史上初めて解任動議が可決された。これは前代未聞の事態である。
この解任動議は、マッカーシー議長が政府閉鎖を回避するつなぎ予算(1カ月間の政府資金を確保する暫定予算)を下院の民主党と協力して通したことに対し、共和党の保守強硬派、フリーダム・コーカス(自由議連)のメンバーが下院議長解任動議を提出したため、とされている。
だが、この解任動議に関する出来事は日本で言われているほど単純ではない。マッカーシー議長の解任決議可決には、共和党の一部にすぎないフリーダム・コーカスの議員票だけでは不足していた。実は、マッカーシー議長は、つなぎ予算で協力したはずの下院民主党の裏切りにあって、民主党議員の賛同によって、その職を解任されてしまったのである。
下院民主党には共和党保守強硬派と同じく、ウクライナ支援に否定的な勢力が実は存在している。それは下院民主党の最大勢力である進歩派議員連盟(CPC)である。
進歩派議員連盟は当初からウクライナ支援に対して否定的であり、バイデン政権の外交姿勢について度々くぎを刺してきた。昨年10月同連盟議員はバイデン大統領にプーチンとの直接対話を求める書簡を発表し、民主党内の他議員から激しい反発を招いて同書簡を撤回した経緯がある。ウクライナ支援に対する懐疑的な見方は、共和党側だけでなく実は民主党側にも潜在的に渦巻いているのだ。
そのため、下院民主党としては、ウクライナ支援を求めるバイデン政権に配慮しつつ、CPCの意向を背景としてウクライナ支援をつなぎ予算から除き、さらにその責任を共和党保守強硬派に求める一手を打ったといえよう。
さらに協力したはずのマッカーシー議長を解任し、連邦議会を混乱させることで、来年の連邦議会議員選挙で共和党の責任を追及する政局的な意図も丸見えだ。
アメリカは内政の混乱が外交に波及するようになっており、共和党・民主党両党ともにウクライナ支援に対して一枚岩の姿勢が取れなくなっている。アメリカの対ウクライナ支援でのリーダーシップが落ちれば、国際状況は大きく変わっていくことになるだろう。
そんなアメリカの動きを、欧州諸国やグローバルサウスは冷静に見ている。日本も従来通りアメリカ頼りでは危うい状況だが、一体何が今世界で起きているのか、見ていこう。
ドイツとフランスの「保険」の掛け方
欧州諸国の姿勢が基本的にはウクライナ支援を基調としていることは間違いない。しかし、それはウクライナ情勢の変化にいつでも対応できるようにしていることが前提だ。つまり、国益を踏まえた二股外交を展開しているのだ。
たとえば、ドイツは急速に悪化する経済状況に対応するため、実質的にロシアに対して塩を送っている。今年6月まで、ロシアから欧州に石油を運ぶドルジバパイプライン経由でロシアのエネルギーを輸入していたし、6月以降も第三国のエネルギーをロシア経由で輸入している。また、ドイツはイランとの関係が良好であり、両者の原油取引の利益はイラン製自爆ドローンに使用されていて、そのままロシアに供与されている。ドイツはウクライナ支援と同時にロシアも含む反西側国家と関係をしっかりと保っているのだ。
また、フランスのマクロン大統領は今年4月ロシアの後ろ盾である中国の習近平国家主席と面会した。その際、「ロシアに理性を取り戻させ、みんなを交渉のテーブルに着かせるにはあなたが頼りだ」と習近平氏を持ち上げて見せた。EUのフォンデアライエン欧州委員長が中国に警戒感を崩していないのに対し、マクロン大統領は「私たちが一緒にやれることは幅広い。フランスと中国の友情万歳!」と自らのSNSに中国語で投稿すらしている。フランスは中国との関係を、てことして対ロシアの“保険”をかけている。
つまり、EUの中心である独仏は、アメリカが何らかの形でウクライナから手を引くことを想定し、目立たないところで、自らの生き残りと立場の強化を図っているのだ。
ハマスもアメリカの混乱をうかがった
グローバルサウスの動きはもっと露骨である。グローバルサウスの中心は中国、インド、ブラジル(およびロシア)だ。彼らは元々、西側諸国との価値観を共有していない(特にインドに対する西側諸国の誤解は著しい)。
だからこそ、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に対するグローバルサウスの支持は高まる一方だ。BRICSの一角である南アフリカで、8月に開催されたBRICS首脳会議では多くの国々の新規加入見通しが示された。約20カ国が公式に加盟申請し、さらに20カ国以上が参加に関心を示している。人口・経済力を持ちながら、グローバルサウス西側諸国の価値観を押し付けない枠組みへの求心力は高まり続けている。
また、9月にはロシアのウラジオストクで東方経済フォーラムが開催された。プーチン大統領が北朝鮮の金正恩と接触したことが日本でもニュースなって注目を集めたが、実は同フォーラムには他にもインド、ベトナム、カザフスタン、ラオス、ミャンマー、シンガポール、フィリピン、ベラルーシといった国々が参加していた。往年の勢いはないものの、この状況下でもまだ一定の国々との付き合いが維持されているのだ。
さらに、トルコを後ろ盾としたアゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノ・カラバフ紛争が再燃し、アルメニアが事実上あっさり降伏することになった。この紛争はアメリカとアルメニアが軍事演習を行った直後に起きたものであり、まさにアメリカの影響力の失墜と弱腰な外交姿勢を露骨に見透かす事件であった。
直近のハマスによるイスラエルに対する奇襲は、サウジアラビアとイスラエルの接近を妨害するものとも推察されているが、ハマス側がバイデン政権の脆弱な足元を見て行動したことは明らかだ。アメリカの混乱はそのまま世界情勢の混乱に直結する。
岸田政権に求められる「日本の生き残り戦略」
岸田政権はバイデン政権のウクライナ支援に歩調を合わせてきたものの、急速に変化するアメリカ情勢およびグローバルサウスの動向を踏まえた外交を志向することが必要だ。バイデン政権の外交姿勢に過剰におもねるのではなく、自国独自の生き残りおよび影響力拡大に向けた取り組みが重要である。
岸田政権は「反撃能力」にも活用する予定の巡航ミサイル「トマホーク」を、1年前倒しして2025年度から取得することをアメリカ国防総省と決定した。台湾有事や北朝鮮問題を前提としても、2024年大統領選挙後の政治混乱の可能性に慌てて対応した、というのが実態だろう。
ただし、トマホークは国産スタンドミサイルの補完的役割でしかなく、国産ミサイルの前倒生産も努力すべきだ。それに伴う配備場所や弾薬庫整備加速も行うことが求められる。アメリカに頼りきりになるのではなく、自国の取り組みの充実が必要だ。
一方、自民党は今年9月「日・グローバルサウス連携本部」を新たに設置し、萩生田光一政調会長が本部長に就任することを決めた。同本部では対日投資やサプライチェーン構築に向けた戦略を議論するものとしている。この取り組みが世界全体を見据えた腰の据わった取り組みとなることに期待したい。果たして実態が伴う取り組みになるのか、今後の状況を見守りたいと思う。
アメリカ政治の混乱が世界に大きく波及しつつあり、日本政府は従来のアメリカ頼りの戦略の延長線ではなく、日本独自の戦略を持つことが急務といえるだろう。
●米EU首脳会談、ウクライナ支援などで一致 10/24
米国のジョー・バイデン大統領は10月20日、訪米中の欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長および欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長と、首都ワシントンで会談した。会談後に共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、国際的な諸課題への対応や米国EU間の経済協力の強化を掲げた。
共同声明では、イスラエルとパレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの衝突を巡り、イスラエルが国際法に従ってハマスの攻撃から自国を守る権利を確認すると記した。また、武力衝突の地域的な拡大を防ぐことが重要との認識を示した。ロシアのウクライナ侵攻については、米国とEUによる「ウクライナとその国民に対する長期的な政治的、財政的、人道的、軍事的支援に揺るぎはない」と訴えた。対ロシア制裁を迂回する行為には、今後も制裁と輸出管理を厳格に実施すると主張した。
共同声明には、インド太平洋地域における連携も盛り込まれた。それぞれのインド太平洋戦略に沿って、インド太平洋における実務的な協力を強化する機会を探ると言及した。中国に関しては「率直に関わり、われわれの懸念を直接伝える重要性を認識し、中国と建設的かつ安定的な関係を構築する用意がある」と明記した。経済的なデカップリング(分断)は目指さないとしつつ、リスク軽減のために国家安全保障に関わる先端技術を保護する必要があると指摘した。また、経済的威圧や非市場的政策への対処も挙げた。
米国EU間の経済協力では、米国EU貿易技術評議会(TTC)における進展(2023年6月6日記事参照)を評価し、2023年内に開催予定の第5回閣僚会議に向けて共同作業を進めることを奨励した。TTCで策定した「信頼できる人工知能(AI)とリスク管理に関する共同ロードマップ」を通じて、AIのリスク管理と信頼性のあるAIに関わるツールや手法を開発するための継続的な取り組みを確認した。
今回の首脳会談では、米国とEUが2021年10月以降、交渉を続けてきた「鉄鋼・アルミニウム・グローバルアレンジメント」と、2023年3月に交渉入りを決めた重要鉱物協定がそれぞれ合意されるか注目されていたが、いずれも合意には至らなかった。鉄鋼・アルミ貿易に関する交渉は、世界の鉄鋼・アルミを巡る炭素排出と過剰生産問題への対処を取り決めるもので、2023年10月末が交渉期限となっていた(2021年11月2日記事参照)。共同声明では「この2年間で、われわれは非市場的な過剰生産能力の原因を特定するために大きな進展を遂げた」などと指摘しつつ、今後2カ月間、交渉を続けると表明するにとどまった。
一方、重要鉱物協定は、EUで採掘または加工された鉱物が米国のインフレ削減法(IRA)のクリーンビークル(注)税額控除のバッテリー調達価格要件を満たせるようにすることが目的だ。共同声明では「今後数週間、これらの交渉を引き続き進展させ、それぞれの利害関係者と協議する」と説明したが、具体的な交渉期限は明示されなかった。政治専門紙「ポリティコ」(10月20日)によると、米国とEUは協定の労働や環境に関する規定を巡って見解の相違を解消できていないもようだ。
(注)バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。
●ロシアのウクライナ侵攻20か月 東部・南部で激しい攻防続く 10/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して24日で20か月となります。東部や南部で双方の激しい攻防は繰り返され、兵士の犠牲も増え続けています。
ロシア軍は東部ドネツク州のウクライナ側の拠点アウディーイウカの周辺で、追加の兵力を投入しながら攻撃を強め、掌握を狙っているとみられます。
イギリス国防省は、ロシアが去年2月24日にウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、ロシア軍の死者と、戦闘に復帰できない負傷者をあわせた人数は15万人から19万人に上るという見方を示しました。
また、ロシアの政府高官は今月、戦闘で重傷を負った兵士の過半数が手足の切断を余儀なくされたと明らかにしました。
これについてイギリス国防省は23日「ロシア政府は増え続ける負傷兵の医療費や戦死者の遺族補償として、多くの支出を割り当てる必要が出てくる」と指摘し、ロシア政府がいずれ戦費の調達で難しい決断を迫られることになるという見方を示しました。
一方、反転攻勢を進めるウクライナ側でも兵士の犠牲は増え続けています。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、ことし8月、複数のアメリカ当局者の話として軍事侵攻が始まって以降、ウクライナ側の死者はおよそ7万人に上ったという見方を伝えています。
西部の都市リビウでは23日、教会で3人の兵士の葬儀が合同で営まれていました。
市内の集団墓地には軍事侵攻以降、戦死した兵士を埋葬するための新たな区画が整備されましたが、ことし3月には300ほどだった墓が23日には536にまで増えたということです。
この日の葬儀に参列した女性は「高すぎる代償を払っていることも事実で、最終的には犠牲の大きさに耐えられなくなるかも知れない。それだけに、さらなる武器の供与や支援が必要だ」と訴えていました。 
●習氏、引き締めの手を緩めず 異例の長期政権、不透明感増す 10/24
中国の李尚福(り・しょうふく)国防相が24日解任されたことは、中国政治を巡る不透明感が強まっていることを鮮明にした。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は異例の3期目体制に入って権限集中を進めているが、長期政権を維持するために政権内部でも引き締めの手を緩めないとの姿勢を鮮明にしている。
李氏の人事について、中国メディアの記者は「何が起きているか全く分からない」と指摘する。中国外務省報道官も「状況を把握していない」などと答えるにとどめてきた。
7月には秦剛外相(当時)が1カ月間動静不明となった後に外相職を解任されたが、いまだに理由については明らかにされていない。北京の外交筋は「外相や国防相が理由も明かされずに突然いなくなるような状況は、世界的に見ても正常なものではない」と指摘する。以前にも増して人事のブラックボックス化が強まっている。
2012年に発足した習指導部は「トラもハエもたたく」と宣言し、腐敗を理由に政敵を次々と失脚させて政権を脅かす動きを封じてきた。習氏に有力な対抗勢力は既に見られないが、問題があると判断すれば政権要職であっても躊躇なく交代させるという姿勢を明確にしている。
ただ、人事の異変による影響が一部で生じているという指摘もある。外交トップの王毅共産党政治局員兼外相は9月、出席が予想されていた米ニューヨークの国連総会には行かず、ロシアを訪問してプーチン大統領らと会談した。秦氏解任で外相兼務となった王氏の手が回らなくなっていると北京の外交筋は見ている。
一方で、李氏の交代を機に停滞していた米中の軍当局間の対話が本格的に再開するか注目される。李氏はロシアとの武器取引を巡り米国の制裁対象に指定されており、バイデン米政権は不測の軍事衝突回避のため米中国防相会談を求めてきたが中国側は拒否してきた経緯があるからだ。ただ、中国側は米国が台湾への武器売却を進めていることなどに反発しており、対話再開が進むかは不透明だ。
●中国、外相に続き国防相も解任 異常事態続く3期目の習体制 10/24
中国の李尚福国務委員兼国防相が2カ月近く、公の場から姿を消した末に解任された。
7月に解任された外相に続き、習近平国家主席の信頼を得て登用されたとされる主要閣僚の相次ぐ失脚劇は、3期目の習氏の指導体制にとってどんな意味をもつのか。
中国の国防相は軍の作戦・指揮の責任者ではなく、「軍事外交」の顔としての役割が大きい。李氏は3月に就任して以降、公表されたものだけで40カ国近くの防衛当局者と会談。四つの国際会議に出席し、各国軍関係者のほか、ロシアのプーチン大統領など首脳級との会見もこなした。
しかし、北京にアフリカの約50カ国から関係者を招いた会議で演説した8月29日を最後に、動静が途絶えた。
英紙フィナンシャル・タイムズは9月14日、米政府関係者の話として、米政府は李氏が中国当局の捜査を受けすでに職を解かれたと判断したと報道。ロイター通信は李氏の容疑について、装備品の調達にからむものだと伝えた。李氏は2017〜22年に軍の調達部門トップを務めている。
●EUはソ連の「パロディー」 ハンガリー首相 10/24
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は23日、旧ソ連軍の撤退を求めてハンガリー市民が蜂起した「ハンガリー動乱」の日に合わせて行った演説で、欧州連合(EU)を旧ソ連の「パロディー」だと批判した。
ハンガリーはEU加盟国だが、オルバン氏は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後も、ウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持している。
西部べスプレーム(Veszprem)で演説したオルバン氏は「歴史は時に繰り返す。幸いなのは、1度目は悲劇だったものが、2度目はせいぜい茶番に終わることだ」と発言。
その上で、「モスクワ(ソ連)は悲劇だったが、ブリュッセル(EU)はまずい現代版パロディーだ。モスクワが口笛を吹けば、われわれは踊らないわけにいかなかった。ブリュッセルも口笛を吹くが、われわれは好きなように踊ればいいし、躍りたくなければ踊らなくても済む」と述べた。
ただしオルバン氏は、EUは「まだ絶望的ではない」と補足。「モスクワは修復不能だったが、ブリュッセルとEUは修復が可能だ。欧州にはまだ選挙がある」と述べ、来年6月に予定されている欧州議会選挙に言及した。
オルバン氏は司法や報道の独立性、移民問題、性的少数者(LGBTなど)の権利をはじめ、さまざまな課題をめぐってEUと頻繁に対立しており、以前から欧州議会でポピュリスト政党が躍進し、EUに方針転換を迫ることを望むと語っている。

 

●セター首相、北京でプーチン大統領と会談 10/25
タイのセター首相は17日、中国の北京でロシアのプーチン大統領と会談した。両首脳は、二国間の関係強化について確認した。
会談後、セター首相は口頭で、プーチン大統領にタイ訪問を打診。プーチン大統領は、「大変嬉しく思う」と応じたという。プラチャーチャート・トゥラキットが報じた。
セター首相は、10月16日の閣議決定で、ロシア人のビザの滞在期間を30日間から90日間に延長したと述べた。また、二国間の農産物の貿易について、ロシアが食肉市場の開放しタイの貿易拡大につながることを期待しているとした。
プーチン大統領は、タイとロシアの関係は古く、2022年には国交樹立125周年を迎え、両国は良好な関係にあると述べた。
一方、2022年の両国の貿易額は、世界経済の影響で減少したと指摘した。今年、タイへ旅行したロシア人は約100万人にのぼり、来年は両国の観光と文化交流の年になるとした。
●英紙「プーチン大統領、寝室で心停止状態で発見」、健康不安説浮上 10/25
健康不安がしばしばささやかれていたロシアのプーチン大統領が、心停止し、応急処置の末、意識を取り戻したという主張が提起された。ロシア大統領府は、心停止説が広まると、プーチン氏が会議をする写真を公開した。
英紙デイリー・ミラーなどは23日、テレグラムチャンネル「ジェネラルSVR」を引用し、前夜、プーチン氏が寝室の床に倒れてけいれんを起こしているのが発見され、医療陣による心肺蘇生で意識を取り戻したと報じた。ジェネラルSVRは、「主治医は、プーチン大統領が今秋を越えられないだろうと警告した。今回の件で、大統領府はひどく動揺している」と主張した。
大統領府はこれに対して反応を出さず、数時間後、プーチン氏がカバルダ・バルカル共和国のカズベク・ココフ首長と大統領室で会う写真をホームページに説明と共に掲載した。
すると、ジェネラルSVRは24日、ココフ氏と会ったのはプーチン氏ではなく代役だとし、「現在、集中治療室にいるプーチン氏の状態は安定しているが、見通しは楽観的でない」と指摘した。ただし、これに関する具体的な証拠は提示しなかった。これに先立ち、ジェネラルSVRは、今年3月にウクライナ占領地を訪問したのもプーチン氏ではなく、代役だったと主張した。
米国の経済専門ネットメディア「ビジネス・インサイダー」によると、2020年に登場した反プーチンのジェネラルSVRは、ロシア対外情報局(SVR)の前・現職の要員が運営していると主張した。これまで、プーチン氏の癌手術説、初期パーキンソン病診断説などを提起した。ビジネス・インサイダーは、「このチャンネルが出した興味深いニュースを大統領府が公開否定したこともあるほど、影響力のあるチャンネルだ」としながらも、「ただし、具体的な証拠を提示せず、ロシアのメディア専門家も信頼度を低く見ている」と指摘した。
●「プーチン大統領、心停止で心肺蘇生」の噂流出に…会議中の写真を公開 10/25
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(71)が寝室で心停止状態に陥り、心肺蘇生法を受けたという噂が流れた中、ロシア大統領宮(クレムリン)が健康な様子のプーチン大統領の写真を公開した。
英タブロイド紙「デイリー・ミラー」や「デイリー・エクスプレス」などは23日付で、プーチン大統領の健康異常説を提起してきたテレグラムのチャンネルを引用し、「プーチン大統領が22日夜、心停止を起こし、救急要員から緊急措置を受けた」という主張が出たと報じた。
22日午後9時5分頃、大統領の保安要員らが大統領の寝室で何かが落ちる音を聞いて駆けつけたところ、プーチン大統領がベッドの横に倒れているのを発見したと、これらのタブロイド紙は報道した。当時、プーチン大統領は床に倒れてけいれんを起こし、体を弓型に曲げて白目をむいており、急いで医療スタッフの蘇生術を受け安定を取り戻したと伝えた。
しかし、ロシア大統領宮は23日、プーチン大統領がいつも通りの姿で執務室で会議している写真を公開した。写真のプーチン大統領は、向かい側に座ったロシア南部のの代表カズベク・ココフ氏と書類を前にして話し合っている。プーチン大統領の健康異常説はしばしば登場するが、事実と確認されたことはない。
●「心停止説」プーチン大統領、健在ぶりを誇示…「多くの会議に出席する」 10/25
「心停止説」が流れたプーチン大統領が24日(現地時間)、これ見よがしに公開活動を続け、健在ぶりを誇示した。
この日、プーチン大統領はクレムリン宮(ロシア政府)の会議室でデニス・マントゥロフ産業商務相と会議し、産業・生産分野の報告を受けた。
スプートニクなどのロシア通信社は、プーチン大統領とマントゥロフ産業商務相の会議の様子を写真記事で報じた。
プーチン大統領はこの日、モスクワで開かれたロシア・モスクワ外科医学術会議の開幕式には直接出席しなかったが、挨拶の言葉を送った。
これに先立って「ゼネラルSVR」テレグラムチャンネルはプーチン大統領が22日夜、心停止を起こして医療スタッフの蘇生術を受けた後、官邸内の特別集中治療室で意識を取り戻したと主張した。
同チャンネルは過去にもがん手術説、初期パーキンソン病診断説、階段で倒れた後の便失禁説などプーチン大統領の健康に関する各種疑惑を提起している。
71歳のプーチン大統領がどのような病気を患っているのか確認された情報はない。
クレムリン宮のドミトリー・ペスコフ報道官は同日の定例記者会見でプーチン大統領の心停止説に関する質問を受け、「偽ニュースだ」と強く否定した。
さらにペスコフ報道官は、「プーチン大統領がマントゥロフ大臣と会談する予定であり、多くの非公開会議に出席する計画がある」と明らかにした。午後には電話で「国際的な対話」が行われる可能性もあると付け加えた。
プーチン大統領は25日にはエネルギー、建設、極東分野の閣僚とガスプロムのアレクセイ・ミレル最高責任者(CEO)などが参加するテレビ会議を開き、冬の準備に関して話し合う予定だとクレムリン宮は明らかにした。
●ドニプロ川めぐる攻防 戦況への影響は 10/25
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍が東部で攻勢を強めているのに対して、ウクライナ軍は南部ヘルソン州を流れるドニプロ川を渡って大規模な作戦を展開しているとみられ、東部と南部で激しい攻防が続いています。
このドニプロ川をめぐる攻防、今後の戦況にどのような影響を与えるのでしょうか。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治 研究幹事の解説です。
ボートに乗り込むウクライナ軍の兵士たち。川をボートで進んでいきます。
ウクライナ軍兵士「迷いなく敵と戦いに行く われわれの家族と国のためだ!」
反転攻勢を続けるウクライナ軍。
南部ヘルソン州を流れるドニプロ川を渡ってロシア側が占領を続ける東岸地域で大規模な作戦を展開し、一部の集落に部隊を前進させたという見方も出ています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ウクライナ側は奪還した陣地で補給や部隊の補強を図ろうとしているが、ロシアも必死に阻もうとしている」と分析しています。
ウクライナ軍 ドニプロ川での作戦 その意味合いは?
激しい攻防が続くドニプロ川。
その流域ではことし6月に水力発電所のダムが決壊。
下流では広い範囲が浸水し、ウクライナ軍の反転攻勢への影響が指摘されていました。
今回のウクライナ軍によるドニプロ川での作戦。
その意味合いを兵頭さんは、こう分析します。
防衛省防衛研究所 兵頭慎治 研究幹事「水没の影響が収まってきて、ウクライナ側も本格的な渡河作戦を再開する状況が整ってきた。ドニプロ川というのは、渡河が成功して突破できればウクライナ軍はクリミア半島に最も近い場所になる。ロシア軍の側も一定の兵力を別の前線から振り向けて、ここの守りを固めていかざるをえない可能性もある。」
冬が近づく中 焦点は?
そのロシア軍は、東部で攻勢を強めています。
21日の夜、ハルキウ州の郵便施設に対してミサイルで攻撃を行い、ウクライナ側は6人が死亡したと発表しました。
冬も近づく中、どのようなことが焦点となるのか、兵頭さんに聞きました。
兵頭慎治 研究幹事「ウクライナ軍の反転攻勢の本命は引き続き南部ザポリージャ州、トクマクに向けてロシア軍の防衛線を突破できるか。ロシア側の兵力の分散を図り、そしてこのザポリージャ州でのロシア軍の守りを弱めていきたい。ロシア軍の戦力を分散させるという観点からドニプロ川をめぐる両者の攻防戦、これは引き続き続いていく。」
●アメリカがウクライナを見捨てる日...米大統領選が戦争の結果に影響か? 10/25
米大統領選の勝敗が外国で起きている問題で決まるということはめったにない。だが2024年大統領選の序盤において、ウクライナは争点となっている。
ジョー・バイデン大統領は、ウクライナ支援を「必要な限り」続けると述べている。ドナルド・トランプ前大統領は、再選されたらできるだけ早く「1日で」戦争を終結させると主張している。2大政党の外交政策の違いがこれほど際立つのは、イラク戦争が大きな争点となり最終的にジョージ・W・ブッシュが勝利した04年の大統領選以来、20年ぶりのことだ。
こうした意見の対立は、イラクとアフガニスタンから米軍を撤退させた後の時代に、アメリカは世界という舞台でどんな役割を果たすべきかという、米国内の幅広い議論を反映している。
バイデンに言わせれば、21世紀における大国同士のしのぎ合いで民主国家が専制国家に勝るには、アメリカの断固たるリーダーシップが必要で、それを証明しているのがウクライナ情勢だ。一方、トランプやフロリダ州のロン・デサンティス知事(いずれも共和党の大統領候補指名レースの有力候補だ)は「アメリカ・ファースト」的な孤立主義のほうを好み、他国の紛争へのアメリカの介入に厳しい制限を加えるべきだと呼びかける。
共和党の候補者の中には、マイク・ペンス前副大統領のように外交に関しては伝統的な保守派らしい考え方を信奉し、「自由世界」のリーダーとしてアメリカが積極行動主義的な役割を果たすべきだと考える人々もいる。だが、ウクライナ支援に反感を抱く共和党の草の根の支持者たちとの溝は広がるばかりだ。
ウクライナ問題が24年米大統領選の行方を左右しそうなのと同様に、米大統領選はウクライナにとっても戦争の結果を左右する要因になるかもしれない。NATOの対ウクライナ支援の方向性を決めるのも、西側諸国からの軍事支援の規模に影響を与えるのも米大統領選の勝者だからだ。また米大統領選の結果は、ウクライナ問題以外のアメリカの外交政策の方向性にも大きな影響を与える。
バイデンにとっては、外交で成果を上げたといえるかどうかはウクライナ次第という面がある。「バイデンとしてはウクライナを負けさせるわけにはいかない」と、かつて米国家安全保障会議(NSC)ロシア担当上級部長を務めたトーマス・グレアムは本誌に語った。「これが民主主義と専制主義の戦いなら、専制主義者を勝たせるわけにはいかない」
この大統領選で特定の結果を願っているのは、バイデンやウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領だけではない。欧州の指導者たちも選挙戦を注視している。アメリカはバイデンの下で自分たちのパートナーであり続けるのか、それともトランプか似たような考え方の共和党候補の下で敵とも味方ともつかない国になるのか──。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が誰を応援しているかは言うまでもない。
バイデンの世界観は古い?
バイデンにとって、ウクライナ戦争は長引くという見通しは政治的に厄介な問題だ。彼が指揮しているのは西側とロシアの代理戦争だが、数多くの命と多額の戦費を費やしても、戦いに終わりは見えない。
米軍の派兵やロシア政府との対立激化の引き金を引くことなくウクライナの主権を守り、プーチンを地政学的に打倒するというのがウクライナ問題におけるバイデンの長期的戦略だ。しかし戦争の長期化により、再選しない限り実現は不可能だ。
アメリカ国民は基本的にはウクライナを支持している。だがアメリカがまたも外国の紛争に、間接的とはいえ長期間巻き込まれ、税金を使うことには懸念を持っている。バイデンにとっては、こうした外交政策が選挙戦で裏目に出る可能性もある。
「バイデンはこれまで一貫して国際主義者だった」と、ハーバード大学ケネディ行政大学院のトーマス・パターソン教授は言う。バイデンは「伝統的な同盟関係と、『自由世界』の盟主としての義務を果たすこと」の信奉者だという。「1950年代初頭なら(バイデンの世界観は)幅広い支持を集めただろう。今はそれがどれほどの意味を持つか疑問だ」
だが政権内外でバイデンを支える人々は、彼の皮算用をこう分析する。ウクライナに関わる出費はアメリカがアフガニスタン戦争に費やした2兆ドル超と比べればささやかな額であり、アメリカ国民の生命を危険にさらすことなくロシアを弱体化させ世界ののけ者にすることができるなら安い買い物だ──。
「専制主義と対峙する民主主義国家を支援する際のアメリカの利益について語るバイデンの言葉は、決して空虚な理想主義ではない。1945年からアメリカが掲げてきた抜け目ない戦略の一環だ」と、駐ポーランド米大使を務めたダニエル・フリードは言う。「ウクライナ支援のための出費は、非常にいい投資だ」
だが有権者の同意が得られるかどうかは分からないし、バイデンのアプローチが将来の米外交のモデルとなり得るのかどうかも不明だ。
「同盟相手のウクライナの人々は、イラクやアフガニスタン、シリアやリビアにはいなかったタイプだ」と、元駐ウクライナ米大使のジョン・ハーブストは言う。「(身の安全のため)避難しようとわれわれが提案したら、ゼレンスキーは『武器をくれ』と言った。だがタリバンによるカブール制圧が迫ったとき、(当時のアフガニスタンの)アシュラフ・ガニ大統領は逃げ出した」
自力で戦い続けるというウクライナの覚悟が、この戦争をブッシュ時代の中東における「永久戦争」と比較しにくくしていると、ハーブストらは指摘する。イラクとアフガニスタンではアメリカとそのパートナーが初期の戦闘のほとんどを行い、その後、現地の治安部隊に従来型の常備軍を持たない反乱勢力と戦う訓練を実施した。
一方、ウクライナの戦闘部隊は非常に士気が高く、開戦当初に大部分を占めていた旧ソ連時代の兵器に外国製の最先端兵器をうまく統合した。そうした要因が、ウクライナの場合は国際社会から多額の援助が寄せられたこともあって、ヨーロッパにおける第2次大戦以来最大の地上戦で核超大国の本格的侵攻から国を守ることを可能にしている。
ウクライナ戦争は「自力で戦う覚悟の国を支援すれば最後には勝てる」というメッセージだと、フリードは言う。最終的にウクライナが勝てばバイデンの戦略の正しさが証明されるだろう。戦争が終結したとき「ウクライナが自由で安全なら、ロシア帝国再興というプーチンの夢は破れるだろう。それはアメリカにとって大成功だ」と、フリードは言う。
だが、ウクライナの勝利は確実ではない。トランプと他の共和党予備選候補が何をもってウクライナの成功とするかも同じくらい不透明だ。
トランプやデサンティスの孤立主義的傾向は、共和党支持者に受けがいいようだ。国民はバイデン政権のウクライナ政策をおおむね支持しており、今年6月のギャラップの調査では62%が引き続き「ウクライナの領土奪回」を支持すると回答した。だが共和党支持者では、49%が「速やかな紛争終結」を望むと答えた。
この調査結果は、保守派陣営で外交政策をめぐる亀裂が拡大していることを浮き彫りにしている。ブッシュが始めた戦争を共和党員の大多数が支持していた頃には想像できなかった状況だ。「トランプは共和党を大きく変えている」と、パターソンは言う。
トランプは7月のFOXビジネスのインタビューでウクライナ問題について発言。「私ならゼレンスキーに『もう援助しない、取引しろ』と言い、プーチンには『取引しないとゼレンスキーに多くを与える』と言う。1日で取引成立だ」と明言した。
しかしトランプは具体的なことは語らず、デサンティスの考えはそれ以上に不明だ。今年3月、FOXニュースのタッカー・カールソンが共和党の大統領選の候補者らに送った質問状へのデサンティスの回答は、ウクライナ戦争に総じて無関心であることをうかがわせた。
カールソンは各候補の回答をツイッター(現X)に投稿。デサンティスはウクライナとロシアの領土争いへの関与を深めることはアメリカの大きな国益にはならないと回答していた(彼は10日後に発言を修正。「ロシアが侵攻したのは明白であり、誤りだ」とし、プーチンを「戦犯」と呼んだ)。
共和党は「トランプ一強」状態
共和党の極右議員も、アメリカがウクライナ問題に関与することをますます公然と軽視するようになっている。下院では7月、共和党議員89人がウクライナへの軍事支援を3億ドル削減する予算修正案に賛成票を投じた。それとは別に、今後ウクライナに対する全ての軍事援助を停止する案には共和党議員70人が賛成票を投じた(いずれも成立せず)。
多くの共和党支持者も、アメリカの対ウクライナ支援は過大だと考えている。ピュー・リサーチセンターの6月の調査では、「過大」と回答した人は共和党支持者と共和党寄りの無党派層では1年前の12%から44%に上昇。一方、民主党支持者と民主党寄りの層ではわずか14%だった。
共和党の孤立主義勢力がアメリカの対ウクライナ援助の削減、ひいては停止への意欲を募らせている状況は、共和党がロシアのウクライナ侵攻に対するバイデンの「弱腰」を非難してきたことと矛盾している。
昨年2月にロシアが侵攻を開始して以来、バイデン政権はウクライナ政府に430億ドルの軍事支援を実施、ウクライナはHIMARS(ハイマース)やパトリオットミサイルなど、より高性能な兵器システムを手にしてきた。ただし、それは何カ月も議論を重ねた末、時にはヨーロッパの同盟国から説得された末だった。
「アメリカは他のNATO加盟国と同じく、ウクライナの主権と領土保全の全面回復を目指しているとバイデン政権は主張する」と、トランプ前大統領の補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトンは言う。「問題は、そのために何を提供するかだ」
今回の戦争へのバイデンの対応は支援継続に対する「議会超党派の支持を台無しにしている」と、共和党のマイケル・マコール下院外交委員長は言う。「極めて重要な兵器システムの提供の遅さは紛争を長引かせるばかりか、中国共産党のような敵に弱さを示してもいる」
共和党主流派の候補者であるペンス、ニッキ・ヘイリー元米国連大使、ティム・スコット上院議員、クリス・クリスティー前ニュージャージー州知事という穏健派4人も、欧米の強固なウクライナ支援の継続を求めてきた。だが支持率は全員1桁で低迷し、大半の調査で4人合わせて15%未満だった。対するトランプは、ほとんどの調査で支持率50%超とトップ。彼以外で常に10%を超えている候補はデサンティスだけだ。
問われる戦闘継続の条件
今のところ、来年の大統領選で政権交代が実現すれば、ホワイトハウスの次の主人はウクライナ問題に関してバイデンと異なった、そして米主流派とは懸け離れた意見の持ち主になる可能性が高い。
だがトランプの返り咲きは早期の戦争終結を意味するとは限らないと指摘するのは、トランプ前政権でNSCのウクライナ担当を務め、いわゆる「ウクライナ疑惑」をめぐってトランプの1度目の弾劾訴追につながる証言をしたアレクサンダー・ビンドマン元米陸軍中佐だ。
「ウクライナは、力が続く限り戦闘を続けるしかない」と、ビンドマンは本誌に語った。「アメリカが孤立主義に転換し、ウクライナにもう1ドルの支援も行わないとしても」その点は変わらないはずだという。
25年以降もウクライナが国を守る戦いを継続するには、これまでと同じレベルの支援を、別の形で獲得することが必要になるかもしれない。
専門家らが言うとおり、政権を率いるのがトランプなら、バイデンのように国際的なウクライナ支援体制をまとめ上げるとは思えない。だが米戦略国際問題研究所の客員研究員で、欧州政策に詳しいマチュー・ドゥロワンに言わせれば、「アメリカ・ファースト」によって欧米関係が冷え込んだ場合、ウクライナの近隣国が役割を拡大する可能性がある。
「アメリカが支援をやめたら、欧州各国に穴埋めができるかどうかはまだ分からない。しかし、少なくともそうしようとする動機はある」
ウクライナが戦闘で決定的勝利を挙げ、ロシアに有利な長期の消耗戦に引きずり込まれる事態を回避するには、追加の軍事支援に踏み出してくれる相手が必要だ──ウクライナ内務省顧問のアントン・ゲラシュチェンコは、そう本誌に語った。
「時間が私たちの敵になりつつある。ロシアの人口はウクライナの3.5倍だ。私たちには、いつまでも戦い続けるだけの人員がいない」
死傷率がより高くても、ロシアはウクライナに比べて容易に持ちこたえられるし、プーチンが出口を探している兆候はまだない。ロシア専門家で米海軍大学院助教のアレクサンダル・マトフスキは、個人的見解だと断った上でそう指摘する。「ロシアとロシア国民にどれほど打撃を与えようと、プーチンは物理的限界まで粘る道を選ぶかもしれない」
さらにロシアの兵力は比較的高齢で、多くの場合は経済・社会的に恵まれない層からの動員兵だと、ゲラシュチェンコは語る。一方、ウクライナでは文化的エリート層や高学歴の中間層の多くが志願兵になり、空洞化が進んでいる。これはウクライナにとって過酷なツケだという。
「私たちには、はるかに大規模な物量の武器が必要だ。それも、最も熟練した兵士の少なくとも一部がまだ戦場にいる間に。これから10年間、あるいはそれ以上にわたって援助を求め続けずに済むために、即時の支援増大を必要としている」
侵攻当初から、ウクライナの運命はウクライナが決めるべきだと、バイデン政権は主張してきた。こうした姿勢が大統領選で勝利をもたらすと、民主党関係者は確信している。彼らが指摘するように、現職大統領としての職務能力への支持率は低いものの、世論調査ではバイデンとトランプは互角。加えて、米国民の大半が、アメリカはウクライナへの支援を継続すべきだと(少なくとも今のところは)考えている。
高齢バイデンの意外な強み
有権者はウクライナ問題や外交政策を「人格検査」と位置付けるはずであり、トランプ相手の戦いならそれがバイデンに幸いするのではないか。そうみるのは、20年大統領選でバイデン陣営に参加した民主党の世論調査担当者セリンダ・レイクだ。
「安定したリーダーシップと、混乱したリーダーシップの違いがはっきり表れる」と、レイクは本誌に語った。「(ウクライナでの戦争は、80代に入ったバイデンが)力を示し、年齢を長所にする機会にもなっている。外交政策は、明らかに年齢が経験と同義の分野だから」
政策的観点から見れば、バイデンの戦略は既に効果を上げていると話すのは、カーネギー国際平和財団のロシア問題専門家で、元NSC顧問のアンドルー・ワイスだ。「何もかもが、プーチンが(侵攻当初に)ロシアにとって戦略的に重要と判断したものと正反対になりつつある」
「ロシアと隣り合うウクライナは今や重武装化され、欧米と緊密な関係にあり、軍事的・経済的支援を要求できるようになっている」
ロシアの将来的な侵略から身を守るため、ウクライナには具体的な安全保障、つまりNATOやEUへの加盟が不可欠だと、ゼレンスキーは主張している。それが実現するか、答えを出すのは時期尚早だ。
バイデンは7月のNATO首脳会議の後、戦争が続く間はウクライナのNATO加盟の可能性はないと発言した。ただし、バイデンはウクライナ政府をなだめるためか、ロシアが「永遠に戦争を維持する」ことは不可能だろうとの見方も示している。
バイデンが米大統領として和平プロセスを導くには、再選を決めるのが最も確実な道だ。既にウクライナに投じた資源の規模を考えれば、このまま進む以外に選択肢はほぼないと、元NSCロシア担当上級部長のグレアムは語る。今さらバイデンが後戻りすることはあり得ない、と。
●歩兵戦闘車を大量に失ったロシア、「コスパ悪い」BMD-3も戦線復帰 10/25
ロシアはウクライナの戦場に部隊を送るために、使えるものならどんな装甲車両でも確保しようと長期保管庫や車両駐車場、試験場を隅々まで探し続けている。
最近見つけ出したのは、軽量で空中投下ができるBMD-3歩兵戦闘車(IFV)だ。前モデルのBMD-2を踏襲した車体に、より重量のあるBMP-2の砲塔と30mm機関砲を組み合わせている。
乗員、歩兵合わせて7人乗り込める2両のBMD-3が、このほどネット上に出回ったウクライナ前線の写真に登場した。
1990年代に製造されたBMD-3は、BTR-50装甲兵員輸送車よりもずっと新しい。ロシアはウクライナとの1年8カ月に及ぶ戦争で被った5000両超の損失を補うために、退役して数十年経つBTR-50を復活させて戦線に投入した。
BMD-3は、ロシア軍が古いMT-LB装甲けん引車をベースにして作ったDIY戦闘車両よりも、防御力ではるかに優れている。
ウクライナでのBMD-3の登場で奇妙なのは、古すぎるとか、装備が貧弱だとかいうことではない。そうではなく、ロシアの空挺部隊が数年前に、BMD-3のコストが維持に見合わないと判断していたことだ。その判断は、ウクライナでの戦争で変わった。
BMDシリーズの開発は1960年代にさかのぼる。輸送機が1両か複数のBMDを運搬してパラシュートで投下させられるよう、まずは軽量であることを念頭に設計されている。
BMD-3の場合、重量は14トンだ。BMDは軽量化の代償として、MT-LBや米国のM113装甲兵員輸送車ほどではないにせよ、防御力が低下している。
ロシアが1980年代にBMD-3の開発を始めた際、ヘリで輸送できるほどの軽さはそのままに、防御力と火力を追加することを目標としていた。
だが、BMD-3は不運だった。ソ連が崩壊する直前の1990年に生産が始まり、その後の経済混乱で生産は短期間で打ち切られた。空挺部隊が入手したのはわずか137両で、数年間だけ使用した後に倉庫入りとなった。
改良を加えられた上でも、BMD-3は維持コストに見合う価値があるという判断にはならなかった。当時、空挺部隊はすでに数千両のBMD-2を運用・保有していた。
だがウクライナに侵攻してからの約2年間で、空挺連隊は250両以上のBMD-2を失った。総数の10%だ。137両あるBMD-3を全て再稼働させれば、BMD-2やBMD-1の損失を補うことができ、ロシアの防衛産業が車両を新規生産する時間を稼ぐことができる。
問題は、次に何が起きるかだ。現在の損失ペースが続けば、早ければ来年にもBMD-3は使い果たされる可能性がある。そうなった場合、ロシアは保管されている冷戦時代の旧式車両にさらに手を伸ばすのだろうか。例えば、1950年代の装輪式BTR-40偵察車両を復活させるのだろうか。
●SEECATにみるドローンの脅威と探知の未来 10/25
テロ対策特殊装備展(SEECAT)/危機管理産業展(RISCON)が10月11〜13日に、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された。毎年の開催だが、SEECATは名称が示すとおり、テロに対応するための装備の展示会ということから、自衛隊、警察、自治体、重要インフラ事業者など入場者が限定されている。近年はこの展示会で対ドローン(空中無人機、UAV)が一つの分野として確立しているが、対ドローンの探知・識別・無力化のプロセスのなかで、特に探知について興味深い出展があった。
開催直前の10月7日から中東でハマスとイスラエルの戦闘が起きている。ハマスはロケット弾「カッサーム」を攻撃開始から20分間で5000発以上打ち込んだと主張している。これと同時にドローンがイスラエルの警備塔や検問所、通信塔に爆発物を投下する様子が捉えられており、ロケット弾攻撃は陽動作戦の可能性が高い。
ドローンにより警備センサーを破壊されたイスラエルは状況を十分把握できず、その間に数百人のハマス戦闘員が境界のフェンスや障壁を破壊するなどして侵入。150人以上が拉致され、2000人以上が殺害された。
日本でも弾道ミサイルや巡航ミサイル、極超音速ミサイルによる飽和攻撃の可能性はかねて指摘されているが、今回のハマスの攻撃からは、やはりドローンによる攻撃への対処により重きを置く必要があると考えられる。
ドローンは1機10万円台から調達できるため、大量に装備できる。そして、爆発物を搭載して投下させたり、自爆させたりする運用法がウクライナ戦争では本格化したことで、戦争・紛争においてドローンは欠かせないものとして確立した。まだ数百機のスウォーム(群れ)としての実戦投入例はないが、技術的には実用段階にある。近い将来の戦争・紛争ではスウォームで投入されるのは間違いない。
ただ、ドローンの泣きどころは行動距離(滞空時間)が短いこと。問題の克服には、北朝鮮の工作船のように偽装した漁船や商船を使う手がある。漁船や商船に多数のドローンを搭載、日本の沿海で発進させ飽和攻撃を行う。船舶にロケット弾を搭載する方法もあるが、ドローンに比べれば発射装置などが目立ちやすいので、ドローンを使う方が合理的だろう。
防御側としては船舶の監視、飛行するドローンの探知・識別・無力化が必要になる。このなかで探知について、従来のドローン探知はレーダーや赤外線カメラなどが主役だが、「ライダー」による探知の開発が進められている。ライダーはレーダーのように電波を使って探知するのではなくレーザーを使ったもので、低高度ではレーダーよりも有効である可能性が高い点が最大の強みではないか。
メトロウェザー社の小型ドップラーライダーWG−100は、もともと大気状態の観測が出発点という。赤外線レーザーを照射してそれが大気中のチリに反射して戻ってきたのを感知することで、風を観測する。その風の動きをソフトウエアで分析することでドローンを探知する仕組み。「大気中のチリは低空の方が多いため、原理的に高空よりも高度が低いところが得意」と担当者は説明する。
さらに「海上の方が得意。理由は水しぶきによる海塩エアロゾルがあるから」とも。海塩エアロゾルは海面から出た微小なしぶきが蒸発して残った塩の成分が大気中を漂う状態のこと。天候が荒れて波浪が強い時にできやすい。逆にレーダーは海面近くはシークラッターなど乱反射があるため不得意で、そのため荒天はさらに不利になる。
現在のところ同製品の探知距離は約15キロというが、これは照射出力を上げることで距離を延ばせる。現状はクラス1という目に入っても安全だとされる弱いレーザーを使っている。
探知対象の形状などを判別する分解能は1メートル以下という。これではドローンがあることはわかるが、どのようなものかの詳細を知るには不十分で、複数のライダー、レーダー、光学機器と組み合わせ、動きの特徴などを分析することで判別する。「1年後くらいには実用に耐えるものができる」ともくろむ。スウォームへの対応は「同時追尾は10以下ぐらい。より多くに対応するには複数のライダーを方向別に設置し対応していく」と説明している。
高さ106センチ、縦60センチ、横74センチ、重量180キロで、消費電力最大800Wという諸元からも設置の容易さを意識していることがわかる。
気象観測目的としては現在、NASAのプロジェクトに採用され、バージニア州のバージニア航空宇宙センター近くに2台設置して試験中。日本でも大阪・アジア太平洋トレードセンター屋上に設置されている。大阪・梅田地区にも設置予定だ。
ドローン探知用としても「2〜3年後の実用化目指す」という。分解能や同時追尾能力は今後向上していくとみられ、近い将来の有望株の一つだ。
また、韓国企業の対ドローンシステムも目を引いた。トリス・スクゥエア社は日本初進出で、韓国企業のこの分野での出展は過去に例がないとみられる。
同社の「Elijah」はAESAレーダを核にするシステム。Xバンドレーダー4基で全周、さらに上方に1基組み合わせるとドーム状にカバーできる。1・5メートル四方程度の大きさのドローンなら13キロの探知距離があり、他社製品よりも探知距離が長い点を強調。
同時に200機を追跡可能で、距離10キロ前後でAIが怪しいドローンなのか分類・識別してアラートを出せる。24時間365日の稼働が前提で、完全自動化による検知・監視が可能などとしていた。
特徴的なのは韓国で2年半前にリリースし、納入実績は陸軍2基、海軍1基、空軍1基だったのが、今年中に軍に50基を納入予定で、さらに増えていく見通しとしている点。また原発や高速道路といった重要インフラ企業向けにも商談が進んでいるという。同社製品に限らず対ドローンシステムは1基がカバーできる範囲が限られるので、多数の配置が急ピッチで進められていることを示している。
背景にあるのは北朝鮮の動き。2022年12月に、北朝鮮のドローン5機が南北境界線を越えて韓国領空に侵入する事件があった。うち1機はソウルの北端に飛来し、北に戻っている。韓国でのドローン対処への危機感は「相当強い」と同社関係者。韓国軍も今年9月に陸海空海兵隊の合同部隊「ドローン作戦司令部」を発足させている。
SEECAT/RISCONの展示からも、ドローンによる攻撃の危機は既に日本周辺に存在しており、対処法はすでにあることがわかる。ただ、ピンポイントでの警戒・監視になるので、いかに網を広げていくかが死活問題になるのは、ハマスによる攻撃が示した。
●ウクライナにはなぜ米国のクラスター弾が必要か 兵士が明かした現実 10/25
ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、米国は7月、クラスター弾をウクライナに供与すると発表した。一つの親爆弾が無数の小型爆弾をばらまく兵器は軍事的な効果が高い半面、無差別に民間人に被害を及ぼす危険があり、「悪魔の兵器」とも呼ばれる。ウクライナ軍はクラスター弾をどこで、どう使っているのか。前線の兵士が語った。
「1発で広大な範囲の敵を攻撃できる。弾薬が極度に足りない中でこれほど強みになる武器は他にない」
東部ドネツク州の激戦地バフムートでロシア軍と戦う部隊に所属するボロディミール・ラシュクさん(35)は8月12日、戦場からオンラインで応じた朝日新聞の取材にこう語った。
米国製のクラスター弾は供与の発表から数週間でラシュクさんたちの部隊に届いた。地形やロシア軍の部隊の種類に応じて、親爆弾が子爆弾を散乱させる高さの調整や子爆弾の種類の入れ替えが可能なため、戦場で大きな効果を発揮するという。ラシュクさんは「塹壕(ざんごう)に隠れている兵士にも有効だ」と話す。
しかし、米国によるウクライナへのクラスター弾の供与は国際社会に波紋を呼んだ。過去の戦争では、着弾と同時に爆発するはずの子爆弾の相当数が不発弾として残り、戦闘が終わった後に民間人が死傷する事例が相次いできたからだ。
その非人道性から、2008年には禁止条約が作られ、120カ国以上が参加している。米国は条約に加わっていないが危険性を認め、使用を控えてきた。クラスター弾の廃絶に取り組むNGOの連合体「クラスター兵器連合(CMC)」の報告書によると、世界では昨年1年間に1172人がクラスター弾で死傷し、10年の統計開始以来、最多を記録した。そのうち、916人がウクライナでの死傷者で、民間人の犠牲は9割を超えた。
●ロシア石油大手ルクオイル会長が急死、昨年は前会長が転落死 10/25
ロシア第2位の石油会社ルクオイル(LKOH.MM)は24日、ウラジーミル・ネクラソフ会長(66)が急性心不全のため急死したと発表した。
同社を巡っては、昨年9月に当時会長だったラビル・マガノフ氏も入院先の病院で窓から転落し死亡したとされている。
ネクラソフ氏は同社の石油・ガス部門に約50年間従事し、第一副社長や社長顧問も務めた。ルクオイルは同氏の死亡について、コメントを控えた。
ロシアでは昨年2月のウクライナ侵攻開始後、複数の実業家が急死しており、その大半がエネルギー産業の関係者だった。
ルクオイルの取締役会は昨年3月、ウクライナ情勢を巡り「悲劇的な出来事」と憂慮を表明し、交渉を通じて紛争を可能な限り早期終結させることを求めた。
●クリミア、射程圏「時間の問題」 ゼレンスキー氏が国際会議で演説 10/25
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、ロシア占領下の南部クリミア半島と周辺海域について、全域がウクライナ軍の攻撃の射程圏に入るのは「時間の問題だ」と述べた。チェコの首都プラハで開催された国際会議でオンライン演説した。
ウクライナ軍はロシア黒海艦隊が拠点を置くクリミアへの攻撃を強めている。ゼレンスキー氏は「ロシアにとって安全な基地はもはや存在しない」と主張。ロシア軍が黒海西部で活動できなくなり、クリミアから東方に艦隊を移動させていると指摘した。
ウクライナ東部ハリコフ州では24日、ロシア軍の攻撃により民間人2人が死亡した。
●IEA、当面の戦略的石油備蓄は十分 備蓄増は不要=幹部 10/25
国際エネルギー機関(IEA)の貞森恵祐エネルギー市場・安全保障局長は24日にロイターのインタビューで、石油市場安定のために必要な場合でも加盟国の現在の戦略的石油備蓄量は十分な量があると見ており、さらに増やす必要はないとの見解を示した。
10月上旬にイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃後に原油価格は1バレル=95ドル超まで高騰し、2022年のロシアのウクライナ侵攻後の石油市場にとって最も重大の地政学的リスクの一つとなっている。
IEAの加盟31カ国は22年、ウクライナ侵攻による市場の混乱に対応するため、緊急備蓄から2回に分けて合計1億8270万バレルを放出した。
貞森氏はシンガポールでの業界イベントに合わせたインタビューで、戦略的石油備蓄量の拡大について「今のところ、そのようなことをする必要はないと思う」としつつ、「私たちは状況を注視していく」と語った。
IEAは加盟国に対し、石油純輸入量の少なくとも90日分に相当する石油を備蓄し、世界の石油市場に影響を及ぼす深刻な供給停止に協調して対応できるよう準備することを求めている。現在、加盟国の戦略備蓄は計約12億バレルとなっている。
貞森氏は、中東情勢による実際の供給への直接的な影響はこれまでのところないとのIEAの2週間前のコメントを繰り返した上で「しかし、今後の展開については警戒する必要がある」と述べた。
●北朝鮮から供与も ロシアが砲弾400万発保有、米戦争研究所 10/25
米シンクタンク、戦争研究所は、ウクライナに侵攻するロシアは約400万発の砲弾を保有しているとの分析を伝えた。北朝鮮による弾薬供与も始まったとみられ、今後1年間「限定的な規模」で戦闘を継続できる数という。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア占領下の南部クリミア半島と周辺海域について、全域がウクライナ軍の攻撃の射程圏に入るのは「時間の問題だ」と述べた。
ウクライナの軍事専門家によると、ロシア軍は現在、1日当たり1万〜1万5000発の砲弾を発射している。昨年夏には1日4万5000〜8万発を発射しており、大幅に減少している。
ただ、戦争研究所は23日、「ロシアの砲弾生産能力と北朝鮮の継続的な輸出を考慮すれば、ロシアは当面十分な火力を維持できる」と分析した。
こうしたなか、ゼレンスキー氏は24日、チェコの首都プラハで開催された国際会議でオンライン演説し、「ロシアにとって安全な基地はもはや存在しない」と主張した。
ウクライナ軍は現在、ロシア黒海艦隊が拠点を置くクリミアへの攻撃を強めている。ゼレンスキー氏は17日のビデオ声明で、米国から供与を受けた長射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」をロシア軍に対して使用したと明らかにした。
ATACMSは射程約160〜300キロで、高機動ロケット砲システム「ハイマース」から発射して前線のはるか後方を攻撃できる。
ゼレンスキー氏は、ロシア軍が黒海西部で活動できなくなり、クリミアから東方に艦隊を移動させていると指摘した。
●ロシア軍、「1年強」継戦可能 砲弾400万発保有 10/25
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍が、長期戦を見据え十分な弾薬確保に動いているとの見方が浮上している。
ロシアに隣接するエストニアの情報当局高官は、「ロシアには約400万発の砲弾が残されている」と指摘。現状でも1年以上戦闘を継続できるとの分析を明らかにした。
エストニア公共放送は20日、同国軍情報機関トップ、アンツ・キビゼルグ大佐の記者会見の内容を報道。キビゼルグ氏は、約400万発との推計を公表した上で、「1日1万発という比較的少ない現在の消費量なら、1年強は使用し続けることが可能だ」と述べた。
北朝鮮によるロシアへの軍事支援に関しては、ロシア軍の約1カ月分の消費量に相当する30万〜35万発の砲弾がロシアに渡ったと推測。ロシアが現時点で十分な砲弾を保有していることを踏まえると、北朝鮮の砲弾は長期戦に備えた備蓄に回ると予測した。
弾薬を巡っては、ウクライナへの供給源となっている西側諸国の間でも不足が取り沙汰されている。北大西洋条約機構(NATO)高官は今月に入り、各国の弾薬が減っていると指摘。ただ、ゼレンスキー大統領は23日、前線への弾薬供給について、自国産を含め「絶えず増加している」と主張した。
米シンクタンク戦争研究所は23日、西側諸国がロシア軍と比較してどれだけウクライナに弾薬を供与できるかが「2024年の両国の戦力を決定する重要な要因になるだろう」と分析した。
ロシアのウクライナ侵攻は、24日で1年8カ月を迎えた。英国防省の分析によると、侵攻後のロシア側の死傷者は15万〜19万人に上る。一方、ウクライナの検察当局は23日、侵攻によりこれまでに508人の子供が死亡したと発表した。 
●CTBT批准撤回法案、ロシア議会を通過 プーチン大統領に送付 10/25
ロシア議会は25日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する法案を可決した。下院に続き、上院も全会一致で通過。署名のためプーチン大統領に送られる。
リャブコフ外務次官は、米国が「敵対的」政策をやめない限り、核問題協議を再開するつもりはないと述べた。
プーチン氏は今月、CTBTに署名したものの批准しなかった米国の立場にならうため、批准を撤回するよう議会に求めていた。
ロシアは核実験について、米国が再開しない限り再開することはないとしている。ただ、ウクライナや中東で戦争が勃発し、緊張が高まる中、ロシアか米国のどちらかが実験を行えば新たな軍拡競争、そして他国によるさらなる実験の引き金になりかねないと専門家は指摘する。
●ロ軍、空爆主体に転換 地上戦で死傷者多数か―ウクライナ東部 10/25
ウクライナに侵攻するロシア軍は25日も東部ドネツク州アウディイウカ近郊に集中攻撃を仕掛けているもようだ。ただ、ウクライナ軍によると、ロシア軍は地上戦で多数の死傷者を出したため、空爆を中心とする作戦に転換を強いられているという。
英スカイニューズによると、ウクライナ軍南方部隊報道官は「敵は過去2日間で40発の誘導爆弾を投下したが、地上攻撃の回数は前日と比べ半減した」と指摘した。ロシア軍はドネツク州で5日間に2400人の死傷者を出したとされ、報道官は「こうした(地上攻撃が減る)事態は驚きではない」と述べた。
● ロシア 冬の戦闘に向け準備を指示 インフラ施設を標的に攻撃か 10/25
ロシアのショイグ国防相は侵攻を続けるウクライナ東部の指揮所を訪問し、冬の戦闘に向けて部隊に準備を指示しました。ロシアは冬の間、インフラ施設に対して無人機による攻撃を強めていくとみられ、ウクライナ側は警戒を続けています。
ロシア国防省は、軍事侵攻を続けるウクライナ東部のドネツク州の南方方面で戦闘を行う指揮所にショイグ国防相が訪問したと25日、発表しました。
ショイグ国防相は戦況とともに、無人機を扱うロシア軍の部隊についても報告を受けたということです。
さらに、今後の冬の戦闘に向けて寒さ対策の軍需物資の支給など部隊に準備を指示したとしています。
また、ウクライナ空軍は25日、ロシア軍が夜間、11機のイラン製の無人機を使って各地で攻撃を行い、いずれも撃墜したと発表しました。
ただ、西部フメリニツキー州では破壊した無人機の破片が落下し、16人がけがをしたほか、ウクライナのエネルギー省は、攻撃によってフメリニツキー原子力発電所の敷地内にある管理棟が損傷し送電線が切断され、周辺地域で停電が起きたと発表しました。
ゼレンスキー大統領は25日、SNSで「エネルギーのインフラ施設に対するテロ攻撃にわれわれは備えている。ことしは自分たちを守るだけでなく、それに対応していく」と投稿し、冬の間のインフラへの攻撃に対し警戒を続けています。
一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は24日、ロシア軍が23日にキーウ州で攻撃した際、ロシア製の新たな長距離無人機「イタルマス」を初めて使用した可能性があると指摘しました。
ロシアは冬の時期に向けてインフラ施設を標的にした攻撃を強めていくとみられていて「戦争研究所」は「イラン製の無人機だけでなくより安く、軽量な国産の無人機で攻撃を補おうとしている」として攻撃の手法を多様化しようとしていると分析しています。
●教皇、戦争に苦しみ平和を望むすべての人々のために祈る 10/25
教皇フランシスコは、深刻化するイスラエルとパレスチナ間の情勢を思い、来る27日(金)を断食と祈りと悔い改めの日とするよう改めて招かれた。
教皇フランシスコは、10月25日(水)の一般謁見で、深刻化するイスラエルとパレスチナ間の状況に変わらぬ憂慮の念を示された。
パレスチナとイスラエルの厳しい情勢を常に思っていると述べた教皇は、人質の解放とガザへの人道支援物資搬入の進展を強く願われた。
教皇は、中東をはじめ、ウクライナ、そして戦争に傷つく他の地域において、苦しみ、平和プロセスに望みをかけるすべての人々のために祈り続けていると話された。
こうした中、教皇は、10月27日(金)を断食と祈りと悔い改めの日とするよう皆を招くと共に、同日18時、バチカンの聖ペトロ大聖堂で行われる世界平和のための祈りの集いへの参加を呼びかけられた。

 

● 志願兵38万人、来年も活用=消耗戦でウクライナ威圧― 10/26
ウクライナ侵攻を続けるロシアのメドベージェフ前大統領(安全保障会議副議長)は25日、今年1月以降、新たに志願兵ら約38万5000人が軍務に就いたと明らかにした。志願兵の活用を「最高司令官(プーチン大統領)が来年も続けるよう決めた」と説明。戦況が消耗戦の様相を呈する中、兵員についてロシアは無尽蔵に近いと主張し、ウクライナと支援する西側諸国を威圧する狙いとみられる。
ロシアは昨年秋、予備役30万人の部分動員令が徴兵忌避や反戦運動を生み、国内が混乱に陥った。志願兵の存在によって今年と来年、動員が回避できると示唆することで、プーチン政権には来年3月の大統領選への悪影響を最小化する思惑もあるもようだ。
●プーチン大統領、核攻撃に応じた大規模な核抑止の訓練を指揮 10/26
ロシアのプーチン大統領が大規模な核抑止の訓練を指揮し、大陸間弾道ミサイルや巡航ミサイルの発射が行われました。
ロシア大統領府は25日、プーチン大統領の指揮のもと陸海空の各部隊による核抑止力の訓練が実施されたと発表しました。敵の核攻撃に応じた大規模な核攻撃を想定したということです。
訓練では大陸間弾道ミサイル「ヤルス」のほか、戦略原子力潜水艦「トゥーラ」から弾道ミサイル「シネワ」が発射されました。また、長距離戦略爆撃機ツポレフ95MSから巡航ミサイルも発射されました。
プーチン氏はちょうど1年前の2022年10月26日にも同様の訓練を指揮しています。ウクライナ侵攻を続けるロシアは、核による威嚇を強めています。
●ロシア、核ミサイル演習を実施 ウクライナや欧米威圧 10/26
ウクライナ侵略を続けるロシアは25日、プーチン大統領の指揮の下、戦略核兵器を運用する露軍部隊によるミサイル発射演習を行った。ロシアは核戦力を誇示することで、ウクライナに抗戦を断念させたり、欧米諸国にウクライナ支援を躊躇(ちゅうちょ)させたりする思惑だとみられる。
露国防省の発表によると、北西部プレセツク宇宙基地から大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」を極東カムチャツカ半島の試験場に向けて発射。バレンツ海では原子力潜水艦「トゥーラ」が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「シネワ」を発射した。長距離戦略爆撃機「ツポレフ95MS」による巡航ミサイルの発射も行われた。
ショイグ国防相はプーチン氏への報告で「敵による核攻撃への報復」を想定した演習だと主張した。
ロシアはウクライナ侵略開始後、核兵器開発と運用態勢の強化を加速させてきた。ロシアは2月、米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の義務履行を一時停止すると表明。プーチン氏は今月5日、新型ICBM「サルマト」や原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」の量産を近く開始する方針を示した。露上下両院も25日までに包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准をロシアが撤回すると定める法案を可決。法案はプーチン氏の署名を経て近く発効する見通しだ。
ロシアの動きに対し、ウクライナや日米欧などは「核による恫喝」だと批判している。
●「プーチンが寝室で心肺停止」衝撃情報の裏に「死のシナリオ」が! 10/26
〈10月22日夜、ロシアのプーチン大統領が寝室で心肺停止状態に陥った〉
そんな衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。イギリスのタブロイド紙(デイリー・ミラー、デイリー・エクスプレスなど)が、驚くべき「秘密」を報じたのだ。
同ニュースの引用元は、SVR(ロシア対外情報庁)の元上級幹部を名乗る人物が運営しているとされる、テレグラムチャンネル「ゼネラルSVR」だ。通称「SVR将軍」と呼ばれる同メディアなどの情報を総合すると、衝撃情報の内容は以下のようになる。
・22日午後21時5分頃、プーチン大統領の保安要員らは、大統領の寝室で何かが落ちるような音を耳にした
・保安要員らが寝室に駆けつけると、プーチン大統領は床に倒れて痙攣を起こし、体を弓なりに曲げて白目を剥いていた
・ほどなくしてプーチン大統領は心肺停止状態に陥り、急ぎ駆けつけた医療スタッフによって、心肺蘇生術が行われた
・その甲斐あってか、プーチン大統領は間もなく息を吹き返して、死の危機を脱した
その後、ロシアのペスコフ大統領報道官は一連の報道を「偽ニュースだ」と完全否定した上で、クレムリン(ロシア大統領府)内の執務室で、普段と変わらぬ様子で会議の指揮を執っているプーチン大統領の「写真」を公開した。デニス・マントゥロフ産業商務相と会議し、産業・生産分野の報告を受けたのだという。さらにモスクワで開かれたロシア・モスクワ外科医学術会議の開幕式に際し、挨拶の言葉を送ったとされる。
「心肺停止情報」を慌てて打ち消すかのような、これ見よがしの「健在アピール」だが、独裁者プーチンとその周辺で何が起きているのか。プーチン大統領とクレムリン内の動静に詳しい国際諜報アナリストが明かす。
「ゼネラルSVRは、プーチンの健康不安説を発信してきたことで有名なメディア。今回の心肺停止報道の真偽は不明ですが、クレムリン内でプーチンの『死のシナリオ』、すなわち独裁者が急死した後のシナリオが、秘かに検討されてきたことは紛れもない事実です。今回の一件は、そのことを裏づける証左かもしれません」
虐殺王もすでに71歳。ガンやパーキンソン病などの噂に限らず、何があってもおかしくはない年齢なのだ。
●ロシア「プーチン大統領の健康不安説は常に繰り返される…笑い呼ぶだけ」 10/26
ロシアのプーチン大統領が健康不安説を一蹴し積極的な公開活動に出た。
AP通信は24日、ロシア大統領府がプーチン大統領とマントゥロフ産業商務相が会議をしている写真を公開し、彼がだれよりも健康だとロシア大統領府のペスコフ報道官の話を引用して報道した。
ペスコフ報道官はこの日の記者会見で、「プーチン大統領の健康不安説は常に繰り返されてきたフェイクニュースだ。こうした話にならない主張は笑いを呼ぶだけだ。影武者説もまたとんでもない詐欺だ」と強調した。
これに先立ちテレグラムチャンネル「ゼネラルSVR」は23日、「プーチン大統領が気を失いけいれんを起こし倒れた。医療陣が心停止と判断し、救急室に移して彼を蘇生させた」と明らかにした。英国の複数のタブロイド紙がこのチャンネルを引用報道しプーチン大統領の健康不安説が急速に広がることになった。
ロシア大統領府はすぐにプーチン大統領がカバルダ・バルカル共和国のココフ首長と会う写真を公開して反論したが、ゼネラルSVRは「ココフ首長と会ったのはプーチンの影武者」と主張して対抗した。
このチャンネルはプーチン大統領のがん手術説、パーキンソン病診断説、階段で足を踏み外した後の便失禁説などを提起している。しかしいずれも明確な根拠は提示できていない。
●ロシア無人機攻撃、原発狙った可能性高い=ゼレンスキー氏 10/26
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、西部フメリニツキー州で同日未明にロシア軍が行ったドローン(無人機)攻撃は原子力発電所を狙った可能性が高いとの見方を示した。
この攻撃により原発敷地内の窓が衝撃で破損したほか、周辺住民20人が負傷した。
国際原子力機関(IAEA)によると、原発の運転や送電網への接続に影響は出ていない。
ゼレンスキー氏はロシアに対する制裁強化の必要性を改めて示すものだと述べた。
ウクライナ軍はロシアの無人機11機を全て破壊したとしており、内相によると、被害は爆風と破片の落下によって生じた。エネルギー省は原発の管理棟などの窓が破損したほか、送電線も損傷し、周辺地域で停電が発生したとしている。
●プーチン氏、イスラエル・ハマス衝突が中東域外に広がる可能性警告 10/26
ロシアのプーチン大統領は25日、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの衝突が中東域外にも広がる可能性があると警告するとともに、ガザにいる罪のない女や子ども、老人が別の誰かが犯した罪のために痛めつけられるのは間違いだと述べた。
プーチン氏は国内のさまざまな宗教の指導者と大統領府で面会し、中東地域での流血を止めなければならないと強調。外国首脳と電話会談した際、戦闘を止めなければ戦火が大幅に拡大するリスクがあると伝えたと説明した。
中東危機のさらなる激化は「重大かつ極めて危険で破壊的な結果を招く」とし「中東の境界をはるかに越えて波及する可能性がある」と語った。大統領府が発言内容を公表した。
また、特定の勢力ができる限り多くの国や人を紛争に引き込もうとしていると述べ、名指しすることなく西側諸国を批判。「混乱と相互憎悪の本当の波」を中東だけでなく、域外に起こすことが目的だと主張した。
ロシア政府はパレスチナとイスラエルが共存する「2国家解決」を引き続き支持している、と語った。
●中国の影響力は減衰している―独メディア 10/26
2023年10月23日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、北京で先日開かれた「一帯一路」サミットフォーラムから中国の影響力低下がうかがえるとするドイツ主要紙の評論を紹介する記事を掲載した。
記事は、先週北京で行われた同フォーラムに出席した各国首脳の数が前回に比べて半分近く減少したと紹介。
この状況について独紙フランクフルター・アルゲマイネが「経済が低迷する中国は『慈善事業』を維持できなくなっており、習近平(シー・ジンピン)国家主席の外交戦略にも影響していることが十分に示された」と論じるとともに、中国はグローバルサウスに極力迎合しようとしているものの、関係国の全ての人物が中国に協力する政策を続ける意思を持っているわけではないと指摘したことを伝えた。
また、習主席は今後5年で「一帯一路」の枠組みにおいて1000億ユーロ(約16兆円)を提供することを約束したと紹介した上で「金額は以前より少ないものの、依然として大多数の新興国や途上国がフォーラムに代表団を派遣した」としつつ、その一部は中国への迎合が「致し方ない選択」であるとの認識を示し「アルゼンチンの大統領は、国際通貨基金(IMF)から圧力を受け続ける中で中国が救いの手を差し伸べてくれたとコメントしていたが、中国はアルゼンチンのリチウム資源が目当てなのだ」としている。
その上で「中国はこの10年、概念が曖昧で統一的な協調性に欠ける『一帯一路』というブランドの下、新興国や途上国のインフラ建設のために1兆ユーロ(約160兆円)近い資金を提供してきた。現地市場の開発と同時に国際的な影響力を拡大することが中国の狙いだった。そして、中国の経済成長が鈍化するにつれ『一帯一路』は高額な融資や巨大なプロジェクトに焦点を当てず、『グリーン』『デジタル化』といった分野へと転換した。しかし、西側主導の国際秩序に中国の烙印(らくいん)を押すという習主席の野望は何ら変化していない」と評した。
記事は、習主席の「一帯一路」構想にロシアのプーチン大統領が積極的に呼応するほか、ハンガリーが欧州連合(EU)加盟国として唯一同フォーラムに出席し、中ロ両国の首脳とそれぞれ会談する動きを見せたと指摘。南ドイツ新聞がハンガリーの思惑について「経済的な利益に加えて、西側が苦境に陥った時に東側に後ろ盾を求められるようにするという政治的な打算があるのは明らかだ」と分析したことを伝えた。
●北からロシアへの武器提供「複数回」確認 日米韓外相が非難声明 10/26
上川陽子外相と米国のブリンケン国務長官、韓国の朴振(パクチン)外相は26日、ウクライナ侵攻に使うための軍事装備品や弾薬が、北朝鮮からロシアに複数回提供されたことを確認したとして、「ロシアの侵略戦争による人的被害を著しく増大させることになる」と非難する声明を出した。
3氏はまた、ウクライナへの支援の継続を表明し、関連する国連安保理決議に違反する活動を直ちに停止するよう朝ロに求めた。
朝ロ間の武器移転をめぐっては、米政府が13日、北朝鮮がコンテナ1千個分以上の弾薬など軍需品をロシアに提供したとの見解を示している。日本政府は移転の有無について見解を示してこなかったが、外務省は「総合的評価として、信じるに足る情報が確認された」としている。
また、声明は「北朝鮮はロシ… ・・・
●ウクライナ、9月のGDP9.1%増=経済省 10/26
ウクライナ経済省は25日、9月の国内総生産(GDP)は前年同期比約9.1%増だったと発表した。
1─9月期のGDPはロシアによる侵攻が開始した2022年の同期比5.3%増だった。
同省は「比較となる統計の基準が低いことに加え、新たな課題に対する企業の高い適応能力、政府や国外のパートナーからの支援が背景にある」と指摘した。
ウクライナ経済は、ロシアの侵攻による経済的打撃から徐々に回復しつつある。しかし、戦争の長期化や物流の混乱、エネルギーシステムへの攻撃が今も経済成長の大きな障壁となっている。
●露軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州 10/26
ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデエフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。
シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。
ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデエフカへの攻勢を強化。露軍は同州バフムトの制圧後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデエフカの突破を狙っているとみられる。ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデエフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。
一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着の度を増している。
●NATO事務総長「備蓄は尽きた」ウクライナ侵攻長期化で軍需品増産呼掛け 10/26
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はロシアによるウクライナ侵攻で「NATOの備蓄は尽きた」と述べ、加盟国に軍需品の生産量を増やすよう呼びかけました。
NATOのストルテンベルグ事務総長は24日、スウェーデンの首都ストックホルムで会見し、トルコのエルドアン大統領がスウェーデンのNATO加盟を認める法案に署名したことを歓迎しました。
また、スウェーデンのウクライナに対する軍事的支援に感謝を述べたうえで、「ロシアによる戦争でNATOの備蓄は尽きた」と話し、加盟国に武器や弾薬などの軍需品の生産量を増やすよう促しました。
さらに、今後のロシアの動きについて「再び冬を戦争の武器とすべく準備している」と分析したうえで、「ウクライナの需要を満たし、自らの防衛力を確保するために増産は不可欠だ。スピードと量が重要になる」と強調しています。
●スロバキア新首相にフィツォ氏 ウクライナへの軍事支援停止主張 10/26
スロバキアのチャプトバ大統領は25日、ウクライナへの軍事支援停止を訴えて9月の総選挙で第1党となった中道左派スメル(道標)を率いるフィツォ元首相を首相に任命した。フィツォ氏は対ロシア経済制裁にも反対しており、欧州諸国の結束が乱れる可能性もある。
新政権は、議会(1院制、150議席)で42議席を獲得したスメルと27議席の左派HLAS(声)、そして10議席の民族主義政党「スロバキア国民党」による3党連立となる。
英紙ガーディアンによると、フィツォ氏は25日、「我々は建設的な政府になる。スロバキアの主権ある外交政策が見られるだろう」と語った。
選挙戦ではウクライナ支援の是非が主な争点となった。ロシアによるウクライナ侵攻後、スロバキアは隣国ウクライナを積極的に支援してきた。しかしフィツォ氏は選挙戦で、「政権入りすれば、ウクライナには武器も弾薬も送らない」と訴えていた。またスロバキア国民党も軍事支援の停止を訴えていた。一方、HLASは外交政策の継続を訴えており、新政権の外交方針が注目される。 
●ロシア、北朝鮮と「あらゆる分野」で緊密な関係構築へ 10/26
ロシア大統領府のペスコフ報道官は26日、北朝鮮とあらゆる分野で緊密な関係を構築していくと表明した。
これに先立ち、日米韓の3カ国は北朝鮮によるロシアへの武器や軍事装備の提供を強く非難し、複数の武器取引を確認していると明らかにした。 もっと見る
ペスコフ報道官はこれについて「そうした報告はたくさんあるが、概して全て根拠なく、詳細が明らかにされていない。そのような報告はは昔からある。私たちがコメントする意味はない」と発言。
「北朝鮮は隣国であり、今後もあらゆる分野で緊密な関係を発展させていく」と述べた。
武器の供給があったのかとの質問には「これについては一切コメントしない」と答えた。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記とロシアのプーチン大統領は9月にロシアで会談し、軍事問題やウクライナ戦争のほか、ロシアが北朝鮮の衛星開発を支援する可能性について協議した。
●ハマス幹部がモスクワ訪問 ロシア、人質解放など求める 10/26
ロシア外務省は26日、イスラエル軍と戦闘を続けるイスラム組織ハマスの幹部アブマルズーク氏が、ハマス代表団を率いてモスクワを訪問したと明らかにした。ロシアは、ハマスがパレスチナ自治区ガザで拘束する外国人の人質の即時解放や、ロシア人を含む外国人の安全な避難を保証するよう求めたとしている。タス通信が伝えた。
ロシア紙イズベスチヤは通信アプリで、ボグダノフ外務次官がアブマルズーク氏と会談したと写真付きで報じた。ハマスも26日、代表団がロシアを訪れ、ボグダノフ氏と会談したと発表。ハマス側はプーチン大統領の姿勢を称賛したという。ロシアはソ連時代からパレスチナと良好な関係にある。
●ロシア 大陸間弾道ミサイルなどを使った大規模な演習 映像を公開 10/26
ロシアは25日、「敵の核攻撃に報復するため」として、大陸間弾道ミサイルなどを使った大規模な演習を行ったとしてその映像を公開しました。
軍事演習は、プーチン大統領がオンラインで参加する中、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の指揮で行われました。
演習のなかでは北西部の基地から大陸間弾道ミサイル「ヤルス」をカムチャツカ半島の訓練場に向けて発射しました。ヤルスはロシアが地上に配備する核兵器の主力とすることをめざしています。
また、バレンツ海では戦略原子力潜水艦が弾道ミサイルを発射しました。
さらに核兵器を搭載可能な戦略爆撃機ツポレフ95も演習に参加しています。
ロシアは25日、議会上院がCTBT=包括的核実験禁止条約の批准撤回を承認していて、西側諸国に対して核による威嚇を強める狙いがあるとみられます。
● ロシア 38万人余が兵役に “来年も契約軍人で兵員補充”決定 10/26
ロシアの安全保障会議のメドベージェフ副議長はことし1月以降、38万人余りが兵役に就いたとしたうえで、プーチン大統領が来年も契約軍人で兵員の補充を行うことを決定したと明らかにしました。兵力を増強し、ウクライナ侵攻を続ける構えを示したものとみられます。
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は東部ドネツク州などで、人員の犠牲もいとわず攻撃を繰り返しています。
ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は25日、軍への追加人員に関する会議を開き、ことし1月以降、契約軍人を中心に38万5000人が兵役に就いたと明らかにしました。
また、毎日およそ1600人が軍と契約を結んでいると主張したうえで「プーチン大統領は来年も契約軍人で兵員の補充を行っていくことを決定した」と述べました。
ロシア軍をめぐっては、イギリス国防省が今月、死者と、戦闘に復帰できない負傷者を合わせると15万人から19万人に上るという見方を示すなど、兵員不足が深刻になっています。
プーチン政権は去年9月に30万人規模の予備役の動員に踏み切りましたが、国民の間で不安や反発が広がり、その後は高額の報酬などを示しながら、契約軍人などを確保しています。
プーチン政権としては、来年3月の大統領選挙を前に、国民の不満を回避しつつ、契約軍人によって兵員不足を補い、ウクライナ侵攻を続ける構えを示したものとみられます。
●ロシア人大隊、ウクライナ軍内に新設 自国での反体制活動に見切り 10/26
ウクライナの首都キーウ近郊の渓谷で、迷彩服を着た兵士の一行が戦闘の基礎を学んでいる。指導に用いられているのはロシア語だ。
ウクライナ軍内に新設されたこの「シベリア大隊」には、同胞と戦う覚悟でウクライナにやって来たロシア人約50人が所属している。
ソバを意味する「グレチハ」というコールサインで呼ばれる兵士は、「ロシアと戦うため、また(ウラジーミル・)プーチン政権、帝国主義と戦うために、一刻も早くウクライナに入ろうと決めた」と話した。
ロシアによる侵攻が始まると、ウクライナには諸外国から義勇兵が集まった。このうちの大半がウクライナ軍の外国人部隊に加わっており、シベリア大隊もその一部だ。
隊員には、民族的にはロシア人だが、長く反体制的な意見を持ってきたという兵士もいれば、シベリアの少数民族出身者もいる。
外国人部隊の報道官によると、ロシア出身兵に不法入国者はいない。「何もかも完全に合法だ。ウクライナに入れるよう、国内外の法律のさまざまな抜け穴を見つける必要がある」と明かした。戦争捕虜は一人もおらず、全員が契約兵だという。
ロシア国内での抗議デモは「無意味」
グレチハさんはウクライナのクリミア半島生まれだが、モスクワで暮らし、救急隊員として働いてきた。侵攻に抗議するデモに何度か参加したが、「無意味」だと悟ったという。
「現在ロシアは独裁政権で、もちろん極めて不満だ。今自分の身に具体的に影響があるわけではなく、私は刑務所に入っているわけでも、外国のスパイでもないが、国家が国民の自由を徐々に奪っているということは感じている」とグレチハさん。
昨年ロシアを出国してウクライナ入りしようとしたが、「当初は組織化されておらず、入国方法に関する情報もなかった」ため、ロシア人の入国時にビザ(査証)取得要件のない国々で、主にテントに寝泊まりして過ごした。
その後、シベリア大隊への入隊希望を受け付けている団体「シビック・カウンシル(Civic Council)」の存在を知った。フェイスブックの公式ページによると、拠点はポーランド・ワルシャワにあるという。
グレチハさんによると、同団体が自身と妻のウクライナ入国を手配してくれた。
また、スウェーデン人を意味する「シュウェブ」というコールサインで呼ばれる兵士は、「政治的迫害」が理由で10年以上前にロシアを離れ、2011年からスウェーデンで暮らしてきたと話した。「長年、反政府や反プーチンの活動に参加し、外国に移住せざるを得なくなった」
「この戦争では、人々の自由を守る側に立っているのはウクライナだ」とみているシュウェブさん。「今必要なのは、プーチンのロシアを打倒すること」であり、ひいてはロシアに加えベラルーシでも政変が起こることを願っている。
「そのためには、ウクライナの勝利が必要だ」とシュウェブさんは強調した。

 

●ハンガリー首相にEU内から批判、プーチン氏との会談巡り 10/27
欧州連合(EU)首脳会議のためにブリュッセルに到着したエストニアとルクセンブルクの首脳は26日、ハンガリーのオルバン首相が今月の訪中時にロシアのプーチン大統領と会談したことを批判した。
エストニアのカラス首相はオルバン氏にこの問題を提起すると述べ、ルクセンブルクのベッテル首相はプーチン氏との会談はロシアの侵攻を受けるウクライナ国民に「中指を立てる」ようなものだと非難した。
オルバン氏は自身の戦略を「誇りに思う」と表明。「われわれは平和のために何でもやるつもりだ。それ故、ロシアとの対話ラインを全て開いたままにしている。そうしなければ平和の機会が失われる」と釈明した。
オルバン政権は他のEU加盟国に比べてロシアと近い関係にあり、対ロシア制裁に繰り返し反対しているほか、EUのウクライナ追加支援阻止もほのめかしてきた。
●「なぜプーチンと握手を?」 EU・NATOの非難にハンガリー首相「誇らしい」 10/27
ロシアのプーチン大統領と握手をするなど会談したことに対して批判を受けていたハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相がロシアとの疎通を今後も続けるという意向を明らかにした。
26日(現地時間)、オルバーン首相はベルギー・ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議開始前に記者団と会い、「我々はロシアとすべての疎通チャネルを今後も開放する。そうしなければ平和の機会がそもそもなくなってしまう」と主張した。
オルバーン首相はまた「これは(外交)戦略」としながら「したがって誇らしいと考える」と強調した。
オルバーン首相はこれに先立って17日、中国で開かれた一帯一路(中国−中央アジア−欧州を連結する陸上・海上シルクロード)サミットフォーラムを契機にプーチン大統領と会談した。
これによってEUと北大西洋条約機構(NATO)内部から批判を受けた。「昨年のウクライナ戦争勃発以降、西側がロシアと対立している状況で、EUやNATO加盟国の首脳として不適切」という批判だ。
当時外信も「EUの首脳がプーチン大統領と会合したのはウクライナ戦争勃発後で初めて」と指摘したことがある。
この日、オルバーン首相の発言は相次ぐ批判にも自国が追求してきた外交政策方向に問題がないと迂回反論したものと解釈される。
●「プーチン心停止で影武者代行」情報…訪中大失敗のストレス 10/27
ロシアのプーチン大統領(71)の深刻な健康不安説が世界を駆け巡っている。寝室で心停止状態になり、特別な集中治療室で意識を取り戻したものの、影武者が執務を代行しているというのだ。出口の見えないウクライナ侵攻から20カ月あまり。来年3月の大統領選を控え、いよいよ「プーチンのロシア」はジ・エンドなのか。
警護官は見た「ベッドの横でけいれん」
プーチン大統領の異常を発信したのは、テレグラムのチャンネル「SVR将軍」。SVR(ロシア対外情報局)の元メンバーを名乗る人物が運営していて、ウクライナ戦争以降、その情報力に注目が集まる。プーチン大統領については過去にがん手術説、初期パーキンソン病診断説、階段から踏み外して便失禁した説などを流していた。
SVR将軍によると、コトが起きたのは22日夜。〈午後9時5分ごろ、プーチンの警護官が寝室で物が落ちる音を聞いて駆けつけると、プーチンがベッドの横に倒れているのを発見〉し、〈プーチンがけいれんを起こしているのを見た〉という。ブラジルのルラ大統領との23日の電話会談は影武者が代行したとも主張しているが、信憑性はどうなのか。ペスコフ大統領報道官は「大統領は健康だ」と明言している。
プーチン大統領は絶望の淵に
筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「SVR将軍のこれまでの投稿は、プーチン氏の表舞台での動きと整合しているため、この件についても事実に近いとみています。実際、プーチン氏は先週の訪中が大失敗し、非常に大きなストレスを抱えている。習近平国家主席肝いりの一帯一路の関連フォーラムに出席し、首脳会談を実施しましたが、ロシアと中国を結ぶ天然ガスパイプライン『シベリアの力2』の建設にGOサインを得られなかった。ロシアの対中債務は1250億ドル(約18.7兆円)に達し、中国の対外融資の3分の1に及んでいるため、天然ガス輸出で返済する計画だったのがパー。米国との関係改善を模索する習近平氏から中ロ軍事同盟の締結も蹴っ飛ばされ、プーチン氏は絶望の淵に立たされています」
プーチン大統領はウクライナ情勢をめぐっても、ひどい思い違いをしていた。進軍したロシア軍を住民が歓喜で迎えると信じていたとされる。
「ウクライナにしろ、中国にしろ、プーチン氏に正確な情報が上がっていないということ。死に体のプーチン氏に大統領5選は無理だという空気が国内で広がっていますし、盟友のベラルーシのルカシェンコ大統領も距離を取り始めています」(中村逸郎氏)
残り任期は半年。四半世紀の独裁にようやく幕が下りそうだ。
●プーチン氏にウクライナとの停戦交渉訴え ロシア改革派野党元代表が会談 10/27
ロシアの改革派野党「ヤブロコ」は26日、創設者で元党代表のグリゴリー・ヤブリンスキー氏が同日、プーチン大統領と会談し、ウクライナ侵攻について協議したと明らかにした。ヤブリンスキー氏は早期の停戦交渉開始が必要だと訴えた。党広報部が通信アプリで公表した。
ほかにロシア経済の見通しも話し合った。来年3月に予定される次期大統領選は話題にならなかったとしている。ペスコフ大統領報道官はタス通信などに「コメントしない」と述べた。
ヤブロコは昨年2月に始まった侵攻に一貫して反対しているが、下院に議席がなく社会での影響力は限られている。
ヤブリンスキー氏は過去にも大統領選に立候補しており、仮に有権者1千万人の署名が集まれば次期大統領選に出馬すると表明している。
●米政府、ウクライナに弾薬供与 議会に追加予算念押し 10/27
米国防総省は26日、弾薬を柱とするウクライナ向けの武器支援を発表した。声明で米議会に「ウクライナ国民への責務を果たすよう求める」と強調し、将来の支援に必要な追加予算を可決するよう念押しした。
米国は1億5000万ドル(225億円)相当の武器を新たに供与する。地対空ミサイルシステムのNASAMSや高機動ロケット砲システムのハイマースに搭載する弾薬を送る。携帯型防空ミサイルのスティンガーも支援に盛った。
ブリンケン国務長官は声明で、ロシア軍がウクライナから撤退するまで「米国や50カ国以上の有志国はウクライナに寄り添い続ける」と言明した。
「我々はウクライナ国民が強靱(きょうじん)で繁栄する民主主義のもとで(国を)再建して安全に生活する将来を確保できるように米議会と連携する」と説明。議会に追加予算を早期に通すよう促した。
バイデン政権は20日、議会に要請した緊急予算にウクライナ支援として614億ドルを盛り込んだ。追加予算を確保できないと、ウクライナに送った分の武器を補充できなくなる恐れがある。
予算確保のカギは野党・共和党の賛同を得られるかどうかだ。共和党にはウクライナ支援よりメキシコとの国境管理などを重視すべきだとの意見がある。
25日に下院議長へ就任した共和党のマイク・ジョンソン氏は「プーチン(ロシア大統領)が成功しないようにしなければならないし、下院共和議員はその大義で一致している」と話した。ウクライナ支援の扱いを議論していく考えを示した。
バイデン政権はウクライナやイスラエル支援などをセットにした一括予算法案の策定を議会に働きかけてきた。与野党がほぼ一枚岩で支持するイスラエル向けと抱き合わせると、ウクライナ支援予算も通りやすくなると見込む。
●黒海穀物回廊は機能している=ウクライナ副首相 10/27
ウクライナのクブラコフ副首相は26日、黒海の新たな穀物輸出回廊は機能していると説明した。
キエフを拠点とするコンサルタント会社バルバ・インベストと英警備会社アムブレイはなどは、ロシアの戦闘機や機雷による脅威の可能性があるため、ウクライナが回廊の使用を停止したと報じていた。
クブラコフ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、回廊の一時停止に関する情報は誤りで、ウクライナ海軍が設定した利用可能な航路は全て有効であり、民間船舶が利用していると説明した。
● 北朝鮮の弾薬、コンテナ1000個以上がロシアに到着か…英国防省 10/27
英国防省は26日、北朝鮮の弾薬がロシア西部に到着したのはほぼ確実だとする分析を発表した。ここ数週間でコンテナ1000個以上が運び込まれているとみられており、「規模とペースを維持すれば、北朝鮮はイランやベラルーシと並んで最も重要な武器供給国の一つになる」と指摘した。
プーチン露大統領(右)と握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(今年9月)=ロイター
分析では、これらの弾薬供与が露軍のウクライナ侵略を支えているとし、露高官の最近の訪朝における「主要議題の一つであった可能性が高い」とした。
ロイター通信によると、ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官は26日、「北朝鮮は隣国で、あらゆる分野での緊密な関係を続けていく」と述べた。武器が実際に運搬されたかについてはコメントしなかった。
一方、ウクライナ政府は26日、東部ハルキウ州クピャンスクの10集落から子供275人の避難を計画していると発表した。ウクライナの英字ニュースサイト「キーウ・インディペンデント」によると、これらの集落は前線の西方10〜20キロ・メートルにある。露軍による攻撃が激化し、8月から子供の避難を始めていたという。
●スロバキアがウクライナへ武器供与停止 ロシア寄り政党が選挙で勝利 10/27
ウクライナの隣国・スロバキアの新しい首相が、ウクライナへの武器供与を停止すると表明した。
フィツォ首相「私は首相として、ウクライナへの軍事援助の停止を支持します」
現地メディアなどによれば、フィツォ首相は、ウクライナへ人道支援や財政的な援助は継続する方針を示す一方、ロシアに対する追加制裁には反対の姿勢を示している。
フィツォ氏が率いるロシア寄りの左派政党「スメル(道標)」は9月の総選挙で第1党となり、連立政権が25日に発足、フィツォ氏が4度目となる首相の座に就いた。
ウクライナ情勢をめぐっては、これまでハンガリーがロシアに融和的な姿勢を取っていて、スロバキアの新政権誕生で、ヨーロッパ内の結束が揺らぐ可能性もある。 
●ハマス代表団がモスクワ訪問、プーチン氏を称賛「イスラエルの犯罪の終焉」 10/27
タス通信などによると、イスラエル軍との戦闘を続けるイスラム主義組織ハマスの代表団が26日、モスクワを訪れ、ロシア政府で中東問題を担当するミハイル・ボグダノフ外務次官と会談した。露外務省によると、露側はパレスチナ自治区ガザで拘束中の外国人の人質の即時解放や、安全な避難を保証するよう求めた。
モスクワを訪問したのは、ハマス幹部のムーサ・アブ・マルズーク氏ら。ハマスは声明を出し、「西側諸国の支持を受けるイスラエルの犯罪を終わらせようとしている」として、プーチン大統領の姿勢を称賛した。
ロシアのプーチン大統領の写真を掲げる人たち(パレスチナ自治区ヘブロンで、ロイター)
プーチン政権は中東地域のパレスチナやハマス、イラン、イスラエルなどと一定の関係を維持している。今回の事態を「米国の中東政策の失敗の典型例だ」と訴え、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による解決を探るべきだとして即時停戦を求めている。
これに対しイスラエル外務省は声明を出し、ロシア政府によるハマス幹部の招待は「テロ支援行為であり、ハマスの残虐行為を正当化するものだ」とロシアを非難。ハマス幹部らを直ちに追放するよう求めた。
●ロシア中銀、予想以上の大幅利上げ−インフレ抑制とルーブル安定重視 10/27
ロシア銀行(中央銀行)は27日、予想を大きく上回る利上げを実施した。資本規制再導入で通貨ルーブルへの圧力は沈静化したが、インフレリスクはなお強まっていると指摘した。
中銀は政策金利を15%と、これまでの13%から引き上げた。エコノミストは14%への利上げを予想していた。
今回の決定により2022年4月以来の高金利となり、ロシア経済にはリセッション(景気後退)に陥るリスクが生じる。それでもプーチン氏が大統領選挙に備え、対ウクライナ戦争が1年9カ月目に入った今、ルーブルを安定させてインフレを抑制することを優先させた。
中銀は声明で「インフレ率が目標から上方に乖離(かいり)していくことを抑え、2024年に4%に戻す」ためには、追加的な金融引き締めが必要だと説明した。
「現在のインフレ圧力は中銀の予想を上回るレベルまで大きく高まった」と続けた。次の政策行動の方向性に関する示唆はなかった。
決定発表後にルーブルは対ドルで上げを広げた。
中銀はまた、インフレ率予想を引き上げ、年末は7−7.5%のレンジになるとの見通しを示した。金利軌道の予測も上振れさせた。
●ECBの利上げ、インフレ抑制に効果=独連銀総裁 10/27
欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのナーゲル独連銀総裁は27日、これまでの一連の利上げがインフレ抑制で効果を発揮しているとの認識を示した。
将来の政策行動について予断を持っていないとも述べた。
総裁は声明で「インフレは依然として目標の2%への到達には程遠いが、金融引き締め政策は効果を発揮している」とし「このため、理事会は方針を堅持しており、金利を据え置いた」と述べた。
●プーチン氏、リベラル派と会談 大統領選前に異例、臆測も―ロシア 10/27
ロシアのリベラル系野党「ヤブロコ」は26日、創設者グリゴリー・ヤブリンスキー氏(71)がプーチン大統領と会談したと明らかにした。強権体制を敷くプーチン氏がウクライナ侵攻下、与党や政権に従順な「体制内野党」以外の政治家と会うのは極めて異例だ。
タス通信によると、ペスコフ大統領報道官は会談に関し「何もコメントしない」と確認を避けた。ヤブロコは「(来年3月の)大統領選については議論していない」と主張したが、内容を巡り臆測を呼びそうだ。
ヤブリンスキー氏は2018年の大統領選で5位だった。来年の選挙での再挑戦について、ヤブロコ側は「1000万人分の推薦署名が集まれば立候補を検討すると、本人が繰り返し公言している」として、条件付きながら可能性を否定していない。前回選挙で立候補を認められなかった反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)は、禁錮19年の判決を受けて収監中。
次期大統領選は、現在4期目のプーチン氏が出馬し圧勝するのが既定路線だが、「無風選挙」になり投票率が低下すれば、有権者全体に占めるプーチン氏の「絶対得票率」が伸び悩むことになる。政権の正統性を誇示するためにも、投票率アップは至上命令。ヤブリンスキー氏が参加し投票率が押し上げられるシナリオも、政権は視野に入れているもようだ。
ヤブロコの発表によると、今回の会談は「特別軍事作戦(ウクライナ侵攻)での停戦合意の必要性」が議題。ヤブリンスキー氏は「できるだけ早く停戦交渉を始める必要があると考えており、自身も交渉に参加する用意がある」とプーチン氏に伝えたという。
ヤブロコは「反戦」を掲げていたが、発表文は戦争の現実を認めた上で「停戦」を訴えるという配慮を見せた。プーチン政権は目標達成まで侵攻を続ける構えで、戦闘長期化は停戦交渉に応じないウクライナや支援する米国のせいだと責任転嫁している。
●ウクライナ軍、10日以降で「ロシア軍の死傷者5千人」…装甲車400台破壊 10/27
ウクライナ国防省系メディアによると、ウクライナ軍報道官は26日、ウクライナ東部アウディーイウカとドネツク近郊で10月10日以後、「ロシア軍の死傷者が5000人に達する」と述べた。装甲車は約400台が破壊されたとしている。
報道官によると、露軍は攻撃ヘリ「Ka52」や戦闘機「Su(スホイ)25」などの航空戦力を投入し、アウディーイウカの包囲を試みている。
米政策研究機関「戦争研究所」も26日、衛星写真の分析などから、露軍が10月10〜20日に装甲車や戦車など少なくとも109台を破壊されたと発表した。露軍はアウディーイウカに追加の兵力を投入しているが、「装甲車など兵器の損耗を埋めるのに苦労する」と指摘した。長期的に、露軍の作戦能力の弱体化につながる可能性もあるとしている。
一方、英国防省は26日、北朝鮮の弾薬がロシア西部に到着したのはほぼ確実だとする分析を発表した。ここ数週間でコンテナ1000個以上が運び込まれており、規模と頻度が維持された場合、「北朝鮮はイランやベラルーシと並ぶ最も重要な武器供給国の一つになる」と指摘した。
インターファクス通信によるとドミトリー・ペスコフ露大統領報道官は26日、「北朝鮮は隣国で、あらゆる分野での緊密な関係を続けていく」と述べた。
●EU、ウクライナ支援で亀裂 ハンガリーとスロバキアが難色 10/27
欧州連合(EU)はウクライナに向こう4年間で500億ユーロ(530億ドル)を支援する案を大筋で支持したが、全会一致が必要となる12月の詳細合意を前にハンガリーとスロバキアが難色を示し、EU内に亀裂が生じていることが明らかになった。
EUはブリュッセルで開催された首脳会議2日目に「ウクライナとその国民に必要な限り、強力な財政・経済・人道・軍事・外交支援を提供し続ける」と明記する声明を採択した。EU欧州委員会は6月、2024─27年にウクライナに500億ユーロを支援することを提案している。
ドイツのショルツ首相は首脳会議後「ウクライナの財政安定のために必要なことが決定されると予想している」とし、「部分的に異なるアセスメントが決定に影響するとは考えていない」と述べた。
アイルランドのバラッカー首相は2日目の協議前「ウクライナに追加の資金が必要だという強い意見があり、その点はほぼ一致している」とした上で「ただ、資金をどこから捻出するかについては、効率性を除いてほとんど意見が一致していない。12月までに合意できると思う」と述べていた。
ハンガリーとスロバキアが難色
ハンガリーはこれまでもウクライナ支援に懐疑的な姿勢を表明。ロシアのプーチン大統領と会談したばかりのハンガリーのオルバン首相は、ウクライナに資金と軍事支援を提供するEUの戦略は失敗したとし、「ウクライナは戦場で勝てない」と述べた。
その上で、ウクライナに対する500億ユーロの新たな支援を含むEU予算の改定案を現在の形では支持しないと表明。ただ、交渉の余地はあるとの姿勢も示した。
スロバキアのフィツォ首相もオルバン氏に同調。ウクライナでは汚職が蔓延していると指摘し、EUの新たな支援に資金が不正利用されない保証を盛り込むよう求めたほか、ウクライナに対する軍事支援を停止すると表明した。
●EU首脳会議 ウクライナへの資金支援 2か国が支持しない姿勢 10/27
ロシアによるウクライナ侵攻が長引くなか、EU=ヨーロッパ連合の首脳会議でハンガリーなど2か国が、ウクライナへの今後の資金支援を支持しない姿勢を示し、ウクライナを支えるEUの結束を揺るがしかねない事態となっています。
EUは、27日までの2日間ベルギーで首脳会議を開き、ウクライナに対し、来年からの4年間で最大500億ユーロ、日本円で7兆9000億円規模の資金支援や、その裏付けとなるEUの予算について協議しました。
27日、記者団の取材に応じたエストニアのカラス首相は、首脳会議でハンガリーとスロバキアの2つの加盟国が、資金支援について支持しない姿勢を示したことを明らかにしました。
このうち、ロシア寄りの姿勢を示すハンガリーのオルバン首相は、27日朝、ラジオに出演し「ヨーロッパの戦略はウクライナが戦争に勝つというものだったが、そうはならない。ウクライナに資金を送る理由はない」と述べました。
また、ウクライナへの軍事支援の停止を訴えて、10月に新たに就任したスロバキアのフィツォ首相は、SNSにウクライナ国内の汚職を問題視し、資金が適切に使われる保証が必要だと投稿しました。
EUはことし年末までの合意を目指していますが、資金支援には、すべての加盟国の合意が必要で、2か国の姿勢はウクライナを支えるEUの結束を揺るがしかねない事態となっています。
●財政支援の継続確認=ウクライナ巡り―EU首脳会議閉幕 10/27
欧州連合(EU)は27日、ブリュッセルで首脳会議を開き、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの支援を継続する方針を改めて確認した。移民問題や欧州経済についても協議し、2日間の日程を終えた。
会議で採択された文書は、ウクライナ支援について「EUは今後も強力な財政、経済、人道、軍事、外交支援を継続する」と明記。凍結したロシア資産について、ウクライナ復興などに活用するための具体案を示すよう欧州委員会に求めた。

 

●ウクライナ鉄鋼業、ロシアの黒海攻撃や停電で生産停滞 10/28
ウクライナ南部の都市ザポロジエにある旧ソ連時代の製鉄所ザポリスタルは、人手不足や阻止されている海運での輸出、停電、ロシアのミサイル攻撃といったさまざまな脅威に耐え、これまでなんとか操業を続けてきた。
ただ、昨年は第二次世界大戦後初めて、一時的に操業を停止した。ロマン・ソロボディアニウク所長は同社の先行きと、かつては強大だったウクライナの鉄鋼産業全体の将来が危ぶまれていることを把握している。
黒海経由で鉄鋼を市場に供給できるようにならない限り、ウクライナ経済にとって農業に次いで重要な鉄鋼産業が回復する見込みはほとんどない。だが、黒海の海運はロシアによる脅威にさらされ続けている。
ウクライナ鉄鋼メーカーの労働組合のオレクサンドル・カレンコフ委員長は「海運が自由にできなければ、われわれの産業は存続できず、他の全ての産業もわれわれに続くだろう」とロイターの取材に答えた。
労組の統計によると、旧ソ連時代にウクライナは年間5000万トン以上の鉄鋼を生産していた。それが2021年には2100万―2200万トンに減少し、昨年のロシアの侵攻を受け、22年には630万トンに落ち込んだ。
これは、ロシアによる領土獲得で巨大製鉄所が制御できなくなったり、破壊されたりしたことが一因だ。特にマリウポリのアゾフスタリ製鉄所は最も激しい戦闘の舞台となった。
最新のデータによると、今年1―9月期の生産量は前年同期から17%減って390万トンだった。通年では小幅ながら増加する可能性がある。
もう一つの小さな光明は、国内需要の増加だ。ウクライナが武器製造を増やし、防空壕を建設するとともに、戦争で破壊された都市の復興も始まったことにより、1―9月の鉄鋼消費量は260万トンと、ほぼ倍増した。
しかし、生産量の5分の4を輸出していた鉄鋼産業を維持するには、これでも不十分だ。
ロシアによる本格的な侵攻以前、金属セクターは全体としてウクライナのGDPの10%、輸出の30%を占めていた。
列車と船舶
黒海経由の輸送が事実上不可能なため、鉄鋼メーカーは製品を可能な限り鉄道で欧州に輸送している。
ウクライナから欧州に毎日移動する貨物車1800両の約半分を鉄鋼業界が占める。鉄道輸出の限界は年間約300万トンだ。
今月初め、ザポリスタル製鉄所を訪れたロイターの記者にソロボディアニウク所長は「海上輸送と比較すると4倍のコストがかかる」と語った。今年は貨物鉄道の運賃が上がり、コストがさらに20―30%押し上げられるだろうという。
ウクライナのシンクタンク、GMKセンターのスタニスラフ・ジンチェンコ代表は、今年に入って南部オデッサ周辺の港を通過した鉄鋼は10万トンに満たず、必要量のごく一部に過ぎないと述べた。
ザポリスタル製鉄所は今年、鉄鉱石と圧延鋼材の生産量240万―250万トンの3分の2を輸出する見通しだ。侵攻前の生産量は年間420万トンだった。
ロシアが農産物を積んだ船舶を攻撃しないことを決めた協定から離脱したため、ウクライナは自国とルーマニア、ブルガリアの沿岸部を通り、トルコを経由する「人道回廊」と呼ぶルートで貨物を運び始めている。
鉄鋼関係者もこのルートの利用を望んでいるが、ウクライナ領内と黒海で戦争が激化しているのに加え、ロシアがここ数週間、オデッサ周辺の港湾インフラへの攻撃を強めていることを考えると、リスクが大きい。
停電、従業員の離職
製鉄所は稼働を減らしているにもかかわらず、十分な人員を確保するのにも苦労している。
ザポリスタルの従業員数百人は、戦争初期に街を離れた。ザポリスタルは前線からわずか50キロしか離れておらず、ロシアの支配下にある欧州最大の原子力発電所にも近いためだ。
ソロボディアニウク氏の話では、さらに1050人が軍隊に行き、そのうち40人が死亡した。製鉄所は全体として侵攻前の労働力、約1万人の20%を失っていて「人員数を考えれば、生産能力は限界に達している」という。
鉄鋼圧延工として働くマクシム・メドコフさんは、自分の部署では人手が足りないと語る。「病気になったり、家族に問題があったりすると、難しい状況になる」と説明した。
だが、ロイターが製鉄所で話を聞いたほとんどの労働者は、働き続ける決意を固めていると語った。
23歳のオレクサンドル・ヤスナスさんは、ここにとどまるつもりだ。「引っ越したいと思っていた人たちは皆、もう引っ越した」と語った。
一方、冬が近づき、送電網への圧力が最高潮に達すると、電力供給が一層不安定化して鉄鋼生産を圧迫する恐れがある。
昨冬、ロシアはウクライナの電力系統を数百発のミサイルや無人機で攻撃し、電力網の約40%に損害を与えた。一部はなお修理が必要だ。
シンクタンクのジンチェンコ氏は「昨冬の停電で、鉄鋼生産は2分の1から3分の1に減少したとみられる」と述べた。
●EU首脳、ロシア資産凍結による利益活用で合意 10/28
ブリュッセル-欧州理事会首脳会議によると、欧州連合の指導者らは、凍結されたロシア国家資産から得た利益をウクライナ再建に活用するという前例のない計画を支持し、この点に関する法的提案を提出するよう欧州委員会に求めた。 結論。
同氏はさらに、「適用される契約上の義務に沿って、凍結されたロシア資産から直接得られる民間団体が保有する特別な収入を、ウクライナの復旧と再建を支援するためにどのように振り向けるかについて、パートナーと連携して決定的な進展を図る必要がある」と付け加えた。 「国際法は欧州理事会、上級代表、欧州委員会に対し、提案提出に向けた作業を加速するよう求めている」と彼らは書いている。
ロシアの対ウクライナ戦争開始時に制裁参加国が凍結したロシアの外貨準備高約3000億ドルのうち、大部分(2000億ユーロ以上)は欧州連合内にある。 ロシアの証券は満期に達し、金融仲介業者によって再投資され、利益を生み出します。
欧州連合は、ウクライナのこれらの利益に税金を課すという考えを浮上させたが、欧州中央銀行と一部のEUは、 パリやベルリンなどの首都は疑問を表明した。 彼らは、この動きが金融市場を混乱させ、基軸通貨としてのユーロの地位を弱めることを懸念している。
金曜日にブリュッセルで開かれた首脳会議で、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は指導者らに法的提案の提出義務を求め、支持があることを示唆した。 声明 首脳らの議論に詳しい関係者によると、G7財務相らは今月初めに声明を発表した。
欧州連合では、バルト三国、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ポーランドがこの考えに賛成の立場を表明した。 ベルギーのアレクサンダー・デ・クルー首相は、ルクセンブルクのザビエル・ベッテル首相と同様に、すべての法的、マクロ経済的、金銭的リスクを考慮するよう求めた。 注意注意。
ベルギー政府によると、ベルギーの清算機関ユーロクリアはロシアの国有資産1800億ユーロを保有しており、木曜日に発表された四半期決算では、今年最初の9カ月間に30億ユーロの利益を上げたと発表した。 ルクセンブルクには、現在凍結されたロシア証券を保管している別の清算機関であるクリアストリームの本拠地がある。
この決定は、ブリュッセルで開催されたEU首脳による欧州理事会サミットの最終日に下される。 しかし、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による全面侵攻後のウクライナ再建のためにロシアの資産を活用するという考えは、1年以上前にウクライナが西側の制裁下で凍結されて以来、広まっていた。
フォンデアライエン首相は6月、「夏休み前に」ロシアの国有資産の活用方法に関する提案を作成すると約束したが、欧州中央銀行や一部資本からの懸念により提案は出されなかった。
その後、欧州委員会は、EUが独自にこのような前例のない措置を講じることによる法的および財政的リスクを確実に負わないようにするため、ウクライナの利益のためにロシア資産を活用することに関するG7声明をまとめようとした。 欧州連合は最近のG7法務・財務相会合で解決の仲介を試みたが、それも実現しなかった。
欧州連合の指導者たちは、ロシアのウクライナ戦争に影を落とすイスラエルとハマスの戦争の脅威を考慮して、この進展を達成した。 委員会関係者は、提案は年内に提出される予定だと述べた。
●ウクライナ復興にロシアの資産から得た収益 EU、12月にも提案か 10/28
英紙フィナンシャル・タイムズは27日、欧州連合(EU)欧州委員会が、ウクライナ侵攻を受けて凍結されたロシア中央銀行の資産から得た収益をウクライナの戦争復興に充てる計画を検討していると報じた。12月にも提案する見通しだ。
今月26〜27日に開かれたEU首脳会議の合意文書は、制裁で凍結したロシア関連資産を活用する案について検討を進めるように求めた。凍結資産を没収、活用することには法的な問題点を指摘する声もあるため、欧州委は元本ではなく収益を活用する方針だ。
報道によると、ロ中銀の凍結資産は3千億ドル(約44兆9千億円)。1800億ユーロ(約28兆4千億円)はブリュッセルに本部がある決済機関が保管しており、これを再投資して得た収益をウクライナの支援に充てる計画だ。
同機関によると、金利の上昇も背景に、凍結されたロシアの資産から今年1〜9月だけで30億ユーロの収益が得られた。
●ロシアの新車輸入、ほぼ中国車に 今年9月末までに全体の97%に拡大 10/28
ロシアと中国の関係強化と西側の制裁継続によって、ロシアの新車輸入のほとんどが中国車になろうとしています。これまで日本車が持っていた市場が奪われつつあります。
記者「モスクワの中国車販売店に来ています。こちらはハイブリッドカーなのだそうですが、洗練されたデザインです」
ロシアメディアによりますと、ロシア税関当局がまとめた今年9月末までの新車輸入数は、およそ41万5000台で、このうち中国車が40万台と全体の97%にまで拡大しました。
つい最近まで、ロシアでの中国車の評判は、品質の面から高くありませんでした。しかし、プーチン大統領自らも認めるほど中国車の質は改善されています。
中国車販売店「ROLF」カンディノフ部長「中国車販売は増加傾向にあると見ている。これには2つの要因がある。まず、中国車自体の品質が非常に良くなった。2つ目は(西側企業)が市場から撤退したからだ」
客「内装がとてもキレイで、オプションが非常に興味深い。価格もヨーロッパ車と比較してかなり安い。だからとても気に入っている」
モスクワ市内を走る中国車の数は目に見えて増えていて、ロシア自動車ディーラー協会は「2年以内に中国が市場の90%を占める」と分析しています。
制裁によって、西側企業がロシア市場から撤退したことで、中国企業がまたとないビジネスチャンスを得るという皮肉な結果となりました。
●ウクライナ提唱の和平案 各国協議がマルタで開催へ 28日から 10/28
ウクライナが提唱する和平案について、各国の政府高官が話し合う協議が28日から地中海の島国マルタで始まります。
イスラエル・パレスチナ情勢を巡り、立場が異なる各国が、ウクライナ支援でどこまで一致した対応を打ち出せるかが焦点です。
この協議は、G7=主要7か国やグローバル・サウスと呼ばれる新興国などの安全保障担当の政府高官が参加して行われているもので、今回で3回目です。
外交筋によりますと、28日から2日間の日程で地中海の島国マルタで開催される協議には、これまででもっとも多い、およそ90の国や国際機関の関係者が対面やオンラインで参加する見通しで、ウクライナからはイエルマク大統領府長官が、日本からは秋葉国家安全保障局長が参加するということです。
協議では、ウクライナが提唱する和平案の10項目のうち原子力と放射線の安全や食料の安全保障など、各国が一致しやすい分野で連携強化を進めることを確認する見通しだということです。
ただ、一部の欧米メディアは「イスラエルによる地上侵攻を支持するアメリカなどの立場がロシアの戦争に反対する合意形成の努力を害している」として、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐるアメリカなどの立場がロシアを非難するという新興国も含めた各国の結束に乱れを生じさせる可能性を指摘しています。
今回の協議では、中東情勢を巡って立場が異なる各国が、ウクライナ支援でどこまで一致した対応を打ち出せるかが焦点です。
●ロシア軍、東部の要衝アブデーフカで兵力損失=ゼレンスキー氏 10/28
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、東部での戦況について、ロシア軍はドネツク州の要衝アブデーフカを進攻しようとしたものの、少なくとも1旅団分の兵力を失ったと明らかにした。
ウクライナ大統領府によると、ゼレンスキー大統領は英国のスナク首相との電話会談で「ロシア軍はアブデーフカ包囲を何度も試みたが、ウクライナ軍が阻止し、ロシア軍は少なくとも1旅団を失った」と述べた。
ロイターは戦況を独自に確認できていない。ロシアからコメントは得られていない。
アブデーフカはロシアが制圧しているドネツク州の領域から約25キロの距離にあり、北、東、南側をロシア軍に包囲されている。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は26日、ロシア軍はアブデーフカ近郊で大きな損害を受けたとし、長期的な攻撃能力が損なわれた可能性が高いとの見方を示した。
●米バイデン大統領 中国 王毅外相と面会 対話維持の必要性強調 10/28
アメリカのバイデン大統領は中国の王毅外相と面会し、両国が対話を維持することの必要性を強調しました。焦点となっていた米中首脳会談についてホワイトハウスの高官は「実現すると確信している」と述べ、期待感を示しました。
アメリカのブリンケン国務長官は27日、前日に引き続き、首都ワシントンで中国の王毅外相とおよそ2時間会談し、ウクライナや中東情勢などについて議論したほか、米中首脳会談の実現に向け、調整が進められたものとみられます。
また、ホワイトハウスは、バイデン大統領が王外相と面会したと発表しました。
この中で、バイデン大統領は、両国が責任を持って競争を管理することや対話を維持することの必要性を強調したということです。
面会後、ホワイトハウスの高官は記者団に対し面会は1時間にわたって行われたとした上で、「バイデン大統領は前向きな議論だったと受け止めている」と述べました。
その上で「会談が実現すると確信している」と述べ、時期については明言しなかったものの米中首脳会談の実現に期待感を示しました。
今回の一連の協議で、来月中旬にサンフランシスコで開かれるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議に合わせてバイデン大統領と習近平国家主席の首脳会談が実現することにつながるのか注目されます。 
●ロシアの占領地を守るエリート「イルカ部隊」を増強...10/28
ロシアが、ウクライナの戦闘地域に近い海域に「軍用イルカ」を配備し、黒海でイルカ利用を拡大する動きを見せているという。欧州の海軍専門メディア「ネイバルニュース」の報道によると、クリミア半島西部のエフパトリアからほど近いノボオゼルノエにあるロシア海軍の基地に、イルカの囲いが出現したことが新たな画像で確認された。
イルカの軍事利用は、ウクライナ戦争以前から見られたものだ。ロシアがウクライナの特殊部隊を撃退するため、黒海の基地周辺で軍用動物を訓練・使用していることは以前から報じられてきた。今回の戦争が始まってからは、爆弾や機雷による火傷、またはソナーの影響で死亡したイルカたちの痛々しい写真も、現地では繰り返し撮影されてきた。
米海軍協会は、ロシアによるウクライナへの全面侵攻の開始直後に、セバストポリに駐留するロシア軍が港入り口に「イルカの囲い」を2つ設置したと明らかにしている。なお、米海軍も長年にわたってイルカを使用してきた。
今回の画像が確認されたノボオゼルノエはセバストポリの北方にあり、黒海におけるロシアの主要基地よりも、激しい戦闘が続くウクライナ本土南部に近い。また、ウクライナがここ数カ月で照準を合わせているエフパトリアのすぐ北に位置する。
ウクライナは、2014年にロシアが併合し、20カ月におよぶ全面戦争の足がかりにしているクリミア半島の奪還を宣言している。
イルカで敵のダイバーを撃退
ノボオゼルノエへの軍用イルカの配備は、「この地域で脅威となっているウクライナの特殊部隊に対する防衛」を目的としていると見られるとネイバルニュースは伝えている。また、クリミア半島西部にイルカの囲いが現れたのは今年8月頃だという。
ウクライナ軍は今夏、クリミアでの戦闘を強化し、エフパトリア近くに配備されているロシアの高度防空システムを攻撃した。同時に水陸両用攻撃を実施した後は、セバストポリを長距離ミサイルで攻撃し、ロシアの揚陸艦と潜水艦それぞれ1隻が被害を受けた。
英国防省は6月下旬、ロシアがセバストポリ基地に対して、「訓練された海洋哺乳類の増加」を含む「大規模な強化」を行っていると発表した。情勢報告によれば、同基地の画像には「浮かんでいる哺乳類用の囲いがほぼ倍増」している様子が捉えられ、そこにはバンドウイルカも含まれると見られていた。
英政府によれば、ロシアは様々な任務のために多くの動物を訓練しており、クリミア半島のイルカは敵のダイバーを撃退するためのものだ。また、ロシアの北極海域では、シロイルカやアザラシも利用されているという。
●プーチン大統領が非道戦術<~サイルでインフラ大規模攻撃の懸念… 10/28
ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領が非道な戦術に出ようとしている。ロシア空軍は巡航ミサイルによる攻撃を控えていることから、冬場に電力インフラを大規模攻撃する懸念がある。ロシア軍はウクライナ東部で10日間に軍用車両100台以上を失うなど甚大な被害を受けたが、命令に従わない兵士を処刑しているとの指摘もある。
英国防省は27日、ロシア空軍の長距離爆撃を担う部隊が、巡航ミサイル攻撃を1カ月以上、控えているとの分析を発表した。ミサイルを備蓄し、冬場に電力インフラを狙う準備をしているとの見方を示した。イラン製の無人機を併用し、インフラ攻撃を繰り返す恐れがあるとも警告した。
ロシア軍は南部ザポリージャ原発を占拠し、冷却水を供給するダムを破壊するなどの攻撃を繰り返している。
一方、米シンクタンク、戦争研究所は26日、東部ドネツク州アブデーフカの戦闘でロシア軍が10〜20日に軍用車両100台以上を失うなど、甚大な被害を受けたとの分析を公表した。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、アブデーフカなどで攻勢をかけるロシア軍が「命令に従わない兵士を処刑しているとの情報がある」と述べた。カービー氏は、ロシア軍が十分に訓練せず、装備のない兵士を戦地に送り込む「人海戦術」を取っていると指摘。ロシア軍の指揮官が、ウクライナ軍の砲撃から逃れようと撤退を求めた部隊に所属する全員を処刑すると脅していた情報もあると明らかにした。
カービー氏によると、10月11日以降、アブデーフカ周辺でロシア兵数千人が死傷、うち一部はロシア軍に殺害されたという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、スナク英首相と電話会談し、アブデーフカの包囲を狙って攻撃を続けるロシア軍を押し戻したと説明し「敵は少なくとも一つの旅団を失った」と強調した。
●露空軍、ミサイル攻撃抑制 「冬にインフラ狙う準備」英分析 10/28
英国防省は27日、ロシア空軍で長距離爆撃を担う部隊がウクライナに対し、空から発射する巡航ミサイル攻撃を1カ月以上、控えているとの分析を発表した。ミサイルを備蓄し、冬場に電力インフラを狙う準備をしているとの見方を示した。イラン製の無人機を併用し、インフラ攻撃を繰り返す恐れがあると警告した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、スナク英首相と電話会談した。東部ドネツク州アブデーフカの包囲を狙って攻撃を続けるロシア軍を押し戻したと説明し「敵は少なくとも一つの旅団を失った」と主張した。通信アプリへの別の投稿では「今週、ロシアの損失が大幅に増えた」と戦果を強調した。
米シンクタンク、戦争研究所は27日、ウクライナ軍が南部ヘルソン州のドニエプル川東岸でわずかに前進したとの分析を発表した。
●“核兵器のない世界目指す”日本提出の国連決議案30年連続採択 10/28
核兵器のない世界を目指して世界に取り組みを呼びかける国連決議案を日本政府が提出し、賛成多数で採択されました。核兵器廃絶を目指す日本の決議の採択は30年連続です。
日本は唯一の戦争被爆国として、核兵器廃絶に向けた決議案を毎年、国連に提出していて、ことしの決議案は27日、軍縮を扱う国連総会の第1委員会で採決が行われ、賛成多数で採択されました。
決議の採択は1994年から30年連続となります。
賛成したのは核保有国のアメリカやイギリスを含め145か国で、去年より6か国増えました。
一方、ロシアや中国、北朝鮮など7か国が反対しました。
決議ではウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアを念頭に、「核兵器をめぐる無責任な主張によって世界の安全保障環境が悪化している」と懸念を示し、ロシアがアメリカとの核軍縮条約「新START」の履行停止を表明したことに遺憾の意を表しています。
また、世界全体の核弾頭の数は減少傾向にあるものの、中国が核戦力を増強しているとみられることを念頭に、「いくつかの国の行動でリスクにさらされている」と指摘し、核保有国に対して核兵器のさらなる削減や透明性の確保などを求めています。
このほか、すべての国連加盟国に対し、指導者や若者が広島や長崎を訪問し、被爆者との交流を通じて被爆の実相に理解を深めるべきだと呼びかけています。

 

●“ワグネルの戦闘員 多くが別の部隊に” ロシア 国営通信 10/29
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが兵士の犠牲もいとわず攻撃を続ける中、ロシアの国営通信は、民間軍事会社ワグネルに所属した戦闘員の多くが別の部隊に加わっていると伝えました。プーチン政権が、かつて反旗を翻したワグネルを統制下に置きながら兵員不足を補っている実態がうかがえます。
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州で、ウクライナ側の拠点アウディーイウカの掌握を狙ってウクライナ軍と激しい戦闘を続けています。
アウディーイウカをめぐってイギリス国防省は28日「ロシアは最大8つの旅団をこの地域に投入したとみられるが、ことしロシア側で最も高い死傷率を記録している可能性がある」と分析しました。
その上で「政治指導部は、より多くの領土を奪うことを要求しているが、軍は効果的な作戦を生み出すことができずにいる」という見方を示しました。
こうした中、国営のロシア通信は28日、民間軍事会社ワグネルに所属した戦闘員の多くが、プーチン大統領に強い忠誠心を示すチェチェンのカディロフ氏が率いる部隊に加わっていると伝えました。
プーチン大統領は先月末、ワグネルの元幹部と会談し、ウクライナ侵攻に参加する志願兵の部隊を組織するよう指示していて、ことし6月に武装反乱を起こしたワグネルを政権の統制下に置きながら兵員不足を補っている実態がうかがえます。
また、ロシア通信は27日「ウクライナ軍の元兵士で組織された志願兵の部隊が、ロシア軍部隊として前線に送られている」とも伝え、これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「捕虜に強要した可能性が高く、戦争捕虜の扱いを定めた条約に違反する」と指摘しています。
●プーチンも「被害」に…「藁人形に五寸釘」で呪殺する「丑の刻参り」 10/29
イスラエルとハマスによる空爆の応酬を世界中が注視する中、報道頻度が少なくなった感のある、ロシアとウクライナ戦争だが、最前線では現在もなお、熾烈な激戦が続いている。
ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を始めたのは、昨年2月。以降、1年8カ月にわたり、血で血を洗う戦闘が繰り広げられている。
その最中、千葉県松戸市内の約10カ所の神社で、御神木にプーチンの顔写真を付けた藁人形が打ち付けられる事件が発生したのは、昨年5月だった。千葉県警は「丑の刻参り」事件として、捜査を開始。6月には同市在住の男が、建造物侵入と器物損壊の疑いで逮捕された。
取調べに対し、男は「ロシアによるウクライナ侵攻への抗議が動機だった」と供述。呪殺については科学的効果が実証できないため、現行法では不能犯と扱われる。そのため「丑の刻参り」は住居侵入罪と器物損壊罪として扱われるケースがほとんどだとされる。
とはいえ、令和の時代に「丑の刻参り」など時代錯誤と思えるのだが、実は近年でも、相変わらず藁人形に釘を打ち込んで相手を呪い殺す、といった行為が多発しているというから、驚くばかりだ。
「丑の刻参り」は、午前1時から午前3時頃を指す「丑の刻」に、神社の御神木に呪い殺したい相手に見立てた藁人形を置き、五寸釘で打ちつける日本古来の呪いの儀式だ。オカルト研究家によれば、
「白衣を着用し、灯したロウソクを突き立てた鉄輪を頭にかぶった姿で連夜、この詣でを繰り返す。すると7日目の満願の日に、呪った相手が死ぬというものです。ただ、途中で行為を誰かに見られると、その効力が失せると信じられています」
その現場を見られ、目撃者を脅したり襲い掛かかったりすれば、脅迫罪や傷害罪、あるいは殺人未遂の現行犯で逮捕されることもありうるわけだが、
「実際に『丑の刻参り』に関連して、脅迫罪が適用されたケースがあります。例えば1954年には、秋田市在住の女が交際中だった男性に対し『お前を丑の刻参りで呪い殺す』という旨の脅迫を行い、逮捕されました。また、2017年、東京都江戸川区に住む男が藁人形に『クソがきどもここからとびおりてみんな死ね』と書いて歩道橋に吊るしたことでも、脅迫罪で逮捕されている。逮捕に至らないまでも、いまだ『丑の刻参り』の報告は後を絶たないと言われますから、時代は変われども、いかに呪いが信じられているかを物語っています」(前出・オカルト研究家)
罪を憎んで人を憎まず。いくら呪いの儀式とはいえ、一歩間違えば犯罪になる「丑の刻参り」には、くれぐれも注意すべし。
●匿名SNS発の「プーチン死亡説」に世界の大衆メディアが飛びつく理由 10/29
「大統領は今晩バルダイの大統領邸で死亡した」
[ロンドン発]暗号化メッセージアプリ「テレグラム」の匿名チャンネル「対外情報局(SVR)将軍」は26日「注意! 今この瞬間、ロシアで“クーデター”が進行中だ。ウラジーミル・プーチン露大統領は今晩、ロシア北西部の保養地バルダイの大統領邸で死亡した。モスクワ時間午後8時42分、医師は蘇生を中止し、死亡を告げた」と速報した。
「SVR将軍」によると、医師団はプーチン大統領の遺体が横たわる部屋でロシア連邦警護庁のドミトリー・コチュネフ長官の個人的な命令で大統領警護官に拘束された。コチュネフはシロビキ(治安・国防関係の国家主義者)の実力者、ロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記と連絡を取り、指示を受けている。大統領府の警備は強化されている。
「積極的な交渉が行われている。プーチンの死後、ドッペルゲンガー(影武者)を大統領にすり替える試みはクーデターだ」(SVR将軍)。
翌27日には「昨日午後、プーチンの健康状態が急激に悪化し始めた。午後8時ごろ、当直医が医師団を追加招集し、到着15分後にプーチンの蘇生処置を開始したが、その時点で危篤状態に陥っていた」と詳報した。
午後8時42分、医師は蘇生を中止し、プーチンの死亡を告げた。その後、警護官に事態を報告した。コチュネフの個人的な命令で、プーチンが死亡した集中治療室に改造された一室は封鎖された。医師団はプーチンの遺体と一緒に閉じ込められたままだった。警護当局は医師団に落ち着いて静かに待つように命じた――「SVR将軍」はそう報告している。
「SVR将軍」とは
「コチュネフはパトルシェフの指示を実行している。コチュネフの指示により大統領の影武者の警備も強化された。現在、医師団の運命も含め、問題は解決されつつある。現体制を維持し、影武者を大統領としてプーチンにすり替えるため、パトルシェフの指導の下、プーチンの側近による集団指導体制を構築する交渉はほぼ終了した」(SVR将軍)
「プーチンが生きていた時は何の問題もなく影武者を使うことができ、極端な場合、本物を登場させることができた。しかしプーチンの死後、影武者を大統領として詐称しようとする試みは国家革命だ! プーチンの遺体は大統領邸の以前は冷凍食品が保管されていた冷凍庫に安置された。医師団はいくつかの部屋に分けられ、拘束され続けている」(同)
「SVR将軍」のテレグラム・チャンネルは2020年9月に開設され、登録読者は現在40万4677人に達している。チャンネル主宰者は海外で暮らすSVRの退役将官「ビクトール・ミハイロビッチ」とされ、信頼できる政府筋を情報源にしているという触れ込みだ。これまでにもプーチンの影武者説やプーチンの末期がん説をまことしやかに流し続けてきた。
今回の「プーチン死亡」情報もクレムリンの鉄のカーテンに覆われて裏の取りようがない。
数日前から「SVR将軍」は「プーチンの体調急変」を伝えてきた。23日には「昨日モスクワ時間午後9時5分ごろ、大統領邸の警護官がプーチンの寝室から物音と倒れる音を聞いた。警護官が寝室に入ると、プーチンは目を丸くして床の上で痙攣していた」と投稿している。
「プーチンの容体が悪化しているのは腫瘍やその他多くの病気が原因」
「SVR将軍」の23日の報告によると、倒れているプーチンの元に当直医がすぐに呼ばれた。プーチンは心停止状態と診断され、蘇生処置が行われた。救命措置は間に合い、心臓は動き出し、プーチンは意識を取り戻した。蘇生に必要な最先端の医療機器を備えた大統領邸内の集中治療室に移された。プーチンの容体は安定し、常に医師の監視下に置かれている――。
「プーチンの健康状態が悪化しているのは腫瘍やその他多くの病気が原因だ。主治医はプーチンの容体は非常に悪く、秋の終わりまで生きられそうにないと警告している。今回の心停止は大統領の側近たちを深く憂慮させた。最近、公式の会議や行事はすべて影武者が行っている。側近たちは大統領が数日中に死亡した場合に備えて協議することで合意した」(SVR将軍)
続けて24日には「パトルシェフが率いる権力ブロックの指導者グループは、円卓会議のようなものを組織し、すべての決定はコンセンサスによって行われると約束している。しかし権力体制のバランスを取る重心の役割を担ってきたのはプーチンであり、彼に代わる二重権力者は存在しない。プーチン抜きでは体制が崩壊するのは当然の帰結なのだ」と分析している。
25日には「昨日、初めて大統領の影武者がビデオリンクによる非公開の会議に招かれた。パトルシェフは影武者の存在を事実上、無視して会議を進行したが、会議の進行方法について異論は出なかった。プーチンはもはや国を運営することはできない。影武者がしばらくの間大統領を演じるが、一時的な解決策に過ぎないことは誰もが認識している」と解説した。
そして26日には、冒頭で紹介したように、ついに「プーチン死亡説」を唱えるに至った。
露大統領府報道官「影武者は笑い話」
ロシアの国営通信RIAノーボスチ(24日付)によると、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は「プーチン大統領の健康問題についての話はデタラメだ。大統領は健康だ」と述べ、プーチンの影武者説についても「不合理で虚偽の主張だ。笑い話に過ぎない」と否定した。情報は世界中の大衆メディアに取り上げられ、瞬く間に拡散するからだ。実際、今回の「心停止」説も英国の大衆紙などがこぞって取り上げている。
しかし影武者説は大統領に就任した2000年当時から浮き沈みしている。民間軍事会社ワグネルグループの武装反乱が鎮まった直後の6月28日、プーチンは南部ダゲスタン共和国の都市デルベントをサプライズ訪問し、市民の握手や写真撮影に応じた。暗殺を警戒して信頼のおけるごく少数の側近としか会わないとされるだけに、影武者説は一段と強まった。
偽情報・検証・メディアのミスリードを担当する英BBC放送アシスタント・エディター、オルガ・ロビンソン氏は「プーチンの心停止に関する憶測はX(旧ツイッター)のあるアカウントで数百万ビューを獲得した。情報源の『SVR将軍』はロシアの政治やエリートに関する内部情報を持っていると主張する多くの匿名テレグラム・チャンネルの一つだ」という。
ロビンソン氏はXへの連続投稿で「クレムリンは秘密主義で有名なので、その空白を埋める刺激的なうわさを提供する情報源には長年事欠かない。『SVR将軍』は情報機関の現役メンバーや元メンバーによって運営されていると主張しているが、誰が運営しているのかは正確には分からない」と指摘する。
ロシア専門家「『SVR将軍』は真に受けるべきでない」
ロビンソン氏によると、根拠のない主張を売り込むことで知られるモスクワ国際関係大学元教授で評論家のヴァレリー・ソロヴェイ氏やウクライナの弁護士が「SVR将軍」の正体として取り沙汰されたが、弁護士と「SVR将軍」は否定している。ロシア当局から「好ましくない組織」に指定されている独立系メディアサイト「メドゥーザ」はソロヴェイ氏についてこう報じている。
「ソロヴェイ氏の『予測』の大部分は実現していないが、例外的な数回のヒットのおかげでTV・ラジオ局は出演を依頼し続けた。次第に彼の『予測』や『内部スクープ』は空想に近いものになっていった。プーチンの健康状態に気を取られるようになり長い間、パーキンソン病など何らかの恐ろしい病気で死の淵に立たされていると主張している」(メドゥーザ)
ロビンソン氏は「ここ数年『SVR将軍』はプーチンとその側近に関する突拍子もないうわさの発信源となってきた。プーチンが階段から落ちて、お漏らしをしたという類の話だ。その投稿はいつも具体的な証拠がないにもかかわらず、刺激的な詳細にあふれている。そのため世界中のメディアで何度も引用される」と注意を呼びかけている。
『プーチンの戦争:チェチェンからウクライナまで』の著者でシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級アソシエイト研究員は昨年5月、プーチンがガンの手術を受けている間、パトルシェフがロシアを代行統治するとのうわさについて「発信源のテレグラム・チャンネル『SVR将軍』は真に受けるべきでない」と否定した。
読者が潜在意識の中で憂さ晴らしニュースを切望している
ロシア憲法によれば、大統領が長期にわたって職務を遂行できない場合、首相が暫定的に職務にあたる。ガレオッティ氏は「パトルシェフは誠実な仲介者でもなければ、コンセンサス重視の議長でもない。彼はタカ派の中のタカ派であり、彼にこのような権力を与えることはたとえ短期間であっても、政治的に深刻で不安定な影響を与える」と分析していた。
まず安全保障や外交政策ではほとんど影響力がないとはいえ、自分のために国を運営するテクノクラートを恐怖に陥れ、怒らせる。経済政策においてプーチンはシロビキよりテクノクラートを支持している。「パトルシェフが事実上の後継者として昇格するのを見るのはシロビキでさえ心地よくないかもしれない。彼は周りにあまり好かれていない」という。
「匿名のソーシャルメディア・チャンネルは驚くべき特権的なアクセスを主張し、荒唐無稽で人目を引く話を発信するので注意せよということだ。たとえそれがページビュー稼ぎのニュース記事になったとしても」とガレオッティ氏は釘を刺す。しかしプーチンやクレムリンの思考法は西側にとってパラノイアそのものだ。
世界は今、インフレとエネルギー危機、食料不足にさいなまれている。匿名のソーシャルメディア・チャンネルも世界中の大衆メディアも、鉄のカーテンに囲まれてクレムリンの情報が枯渇する中、読者が潜在意識の中で切望する仮想現実を憂さ晴らしニュースとして流していると言えるのかもしれない。
●まともな装備与えられず危険な前線へ、ロシアの部隊「ストームZ」… 10/29
英BBCは26日、ウクライナ侵略を続けるロシアが兵力増強のため、受刑者の軍隊への勧誘に再び力を入れていると報じた。恩赦と引き換えに、戦闘に受刑者を参加させる民間軍事会社「ワグネル」の手法をロシア政府も踏襲しているとみられる。
英BBCや露メディアなどによると、部隊は非公式に「ストームZ」と呼ばれている。ロシアのウクライナ侵攻への支持を意味する「Z」をあらわすほか、ロシア語で受刑者を意味する「Zek」の頭文字でもある。この部隊は、まともな装備を与えられないまま危険な前線に送り込まれることが多い上、軍紀違反などに対する「懲罰」として兵士が配置されるという。
米紙ワシントン・ポストは26日、昨年2月のウクライナ侵攻開始時点で約42万人いた露国内の受刑者が、最近は約26万6000人と記録的な水準にまで低下したと報じた。ワグネルは約5万人の受刑者を戦闘員に起用したとされ、その他に、約10万人の受刑者が戦闘に参加した計算になる。
プーチン大統領は昨年11月、殺人などの重罪で服役した受刑者の招集を可能にする法律を成立させている。
一方、ロシア語の独立系メディア「メドゥーザ」は24日、戦闘からの帰還兵による犯罪について報じないよう露大統領府が政府系メディアなどに指示したと報じた。「ウクライナから戻った兵士が妻と母に花束を贈った」といった内容の記事が報じられているという。
●ロシアのクラスター弾が奪った日常 今も歩けず、苦悩する被害者 10/29
戦争が終わった後も民間人に無差別に被害を及ぼす危険から非人道性が批判されるクラスター弾。ロシアはウクライナに侵攻を開始した当初から各地の戦場で使ってきた。戦争が始まってから1年半が過ぎた今も、「悪魔の兵器」がウクライナの人たちの日常を奪っている。
ウクライナ北部チェルニヒウで暮らすナターリャ・アブデンコさん(33)は昨年3月17日に、家族で市中心部に飲料水を受け取りに出かけたときに、ロシア軍によるクラスター弾の攻撃があり、被害に遭った。夫も含めてその場にいた一家全員が負傷した。アブデンコさんは今もほとんど歩けない。現実を受け入れるしかないと分かっていても、いまだに受け入れられずにつらい日々を過ごす。
ウクライナではロシアが使用したクラスター弾による民間人の被害が相次ぐが、ロシアに対抗するためにクラスター弾の使用の正当性を強調する政府の立場を支持する声が根強い。東部クラマトルスクで昨年4月にクラスター弾による攻撃から生き残ったイナ・バラノフスカさん(25)は「人道に反する兵器であってもウクライナを勝利に近づけてくれると思う」と話す。
クラスター弾の廃絶に取り組むNGOの連合体「クラスター兵器連合(CMC)」によると、世界では昨年1年間に1172人がクラスター弾で死傷した。これは2010年の統計開始以来、最多記録だという。そのうち、916人がウクライナでの死傷者で、民間人の犠牲は9割を超えた。
●積み重なるロシア兵の屍、「孤塁」アウジーイウカを守る第110旅団の死闘 10/29
10月10日、ウクライナ東部ドネツク市のすぐ北西にあるウクライナ軍の要衝アウジーイウカ周辺に対して、ロシア軍の3個旅団が攻撃を仕かけた。
激しい砲撃に続いて行われたこの攻撃は、明らかに「固定(フィクシング)作戦」だった。ロシア軍はこの攻撃を通じて、ほかの前線で戦っているウクライナ軍の旅団を引き剥がし、こちらに張り付けることを目論んだのだ。
だが、これまでロシア側の狙いどおりにはなっていない。「ウクライナ当局は、アウジーイウカへの攻勢はロシア側による固定作戦だと認識しており、この軸に過剰な兵力を投入する公算は小さい」ワシントンD.C.にある戦争研究所(ISW)は早くも11日時点でそう分析している。
現に、ウクライナ軍によるアウジーイウカへの比較的大きな増援は、確認できるものでは第47独立機械化旅団の1個もしくは2個大隊だけだ。第47旅団は最近まで、南部ザポリージャ州のメリトポリに向かう軸の反転攻勢を主導していた部隊である。
つまり、アウジーイウカにいるウクライナ軍の数個旅団は現存の兵力で、より大きな兵力のロシア軍部隊による連続攻撃に持ちこたえねばならなかった。この町の北面に配置された第110独立機械化旅団は、そうした旅団の1つだった。
2000人規模の第110旅団はウクライナ軍で最も経験豊富な部隊というわけでもなければ、最も装備の充実した部隊でもない。だが、この旅団は現時点で、ウクライナの戦争努力において最も過酷で最も重要な仕事をしていると言っても過言ではない。1000km近くにおよぶウクライナの前線からほかの旅団を引き離させずにアウジーイウカを死守することで、ウクライナ軍が南部と東部で始めて5カ月近くたつ反転攻勢を停止せずに済むようにしているからだ。
「第110機械化旅団の英雄的な戦いぶりは言葉では言い表せない」ウクライナのジャーナリスト、ユーリー・ブトゥーソウはそう記している。
塹壕に配された第110旅団の兵士たちは、対戦車ミサイルや対空ミサイルを撃ち込んだり、24時間運用しているドローン(無人機)から爆弾を落としたり、あるいは近傍の第55独立砲兵旅団から支援射撃を受けたりしながら、ブトゥーソウによると13日間でロシア軍の装甲車両を200両以上破壊し、兵士800人以上を殺害した。
「途方もない数だ。何百もの死体が農地や野原に転がっている」とブトゥーソウは書いている。
1年半にわたり交代せず防御を続けている
しかも、第110旅団はそれほど新しい装備が配備されているわけでもない。この旅団が主に使っている車両は旧ソ連やチェコ、オランダ製のもので、むしろかなり老朽化している。具体的に言えば、オランダから供与された防護の薄いYPR-765装甲兵員輸送車、旧ソ連軍から引き継いだやはり軽装のBMP-1歩兵戦闘車、チェコから剰余分を譲渡されたダナ自走榴弾砲やRM-70自走多連装ロケット砲などだ。
こうした可もなく不可もなくといった程度の車両を、第110旅団は独創的に用いてきた。3月に撮影された動画には、泥だらけの場所を第110旅団のYPRが前進しては反転し、そしてまた前進するという一見奇妙な動きをしながら、近くのロシア軍陣地に向けて重機関砲で射撃している様子が映っていた。
YPRのダンスは、敵が照準を合わせるのを難しくし、装甲の薄いこの車両を守るのに役立ったかもしれない。
とはいえ、第110旅団が持ちこたえてきたことは装備や戦術だけでは説明できない。これほど激しい戦闘では、装備や戦術以上に士気が重要になる。
「この旅団は1年半にわたって、まったく交代せずにアウジーイウカを防御してきた」とブトゥーソウは驚嘆している。「かなりの数の部隊が、あらゆる種類の兵器による攻撃にさらされているアウジーイウカから一歩も出ないで、ずっとそれぞれの陣地で生活している」
「想像するのですら難しい」とブトゥーソウは続ける。「これらの鋼鉄の男たちは、世界のほかのどんな軍隊も耐えられないであろう状況で戦っている。ロシア軍ならあっさり逃げ出しているだろう」
壕に潜み、ロシア軍が最も好みそうな攻撃ラインで待ち構える第110旅団はおそらく、ここを放棄しない限り敗北することはないだろう。「わたしたちの兵士たちは長い戦闘で疲弊している」ともブトゥーソウは伝えている。「ロシア兵たちも、ウクライナ側が自分たちを殺すのに飽きてくれることを望んでいる」
●戦争防止機能としては限界となった国連の問題点 10/29
ロシアとウクライナ、イスラエル軍とイスラム組織ハマス。現在、世界では大きな衝突が起きているが、どちらも終結への糸口が見いだせていない。こういった国レベルでの争いの場合、解決に向けての場として国連安全保障理事会(以下、安保理)に期待したいところではあるが、残念ながら機能不全という声が多く聞こえる。世界をゆるがす非常事態に元陸将・小川清史氏が、国際連合の枠組みを検証する。
ウクライナの安全保障「ブタベスト覚書」について
ウクライナゼレンスキー大統領は先月、安保理に出席し、国連の枠組みを批判した。特にロシアを侵略者と名指し「侵略者の手にある拒否権こそが、国連を手詰まりへと追いやった」と述べ、安保理のあらゆる取組みや、イニシアチブを拒否する能力がロシアにあるため、ロシアのウクライナ侵攻を止めることが不可能になっていると論じた。
グテーレス国連事務総長も演説し「ロシアのウクライナ侵攻は、国連憲章と国際法に明らかに違反している」と述べ、ロシアの侵攻を批判した。さらに「ますます多極化する世界で深い亀裂を生んでいる」と、ウクライナに対する被害にとどまらず、世界を亀裂へと向かわせていると述べた。
ウクライナは、この戦いを自分たちの主権のためというだけでなく、民主主義そのもののための戦いであると主張し、国際社会の協力の必要性を訴えている。
国連に大いに期待を抱いている発言であり、日本国内でも「国連が本来の役目を果たしていない」といった発言が多々聴かれるところである。では、国連は戦争を止める機能や、新たな戦争発生を防止する機能を有するのか確認したい。
妥当な理解と判断をしないと、過剰な期待によって事態の悪化を招いてしまうこともあるので、正しい理解が必要である。
では、ロシア・ウクライナ戦争から再度確認したい。そもそもウクライナの安全保障の枠組みは、ソビエト連邦崩壊後の1994年の「ブダペスト覚書」に基づくものであった。
その署名国は、ウクライナ・ロシア・アメリカ・イギリスであり、その覚書によると「ウクライナは自国領内に残る核兵器を放棄する。それと引き換えにロシア・アメリカ・イギリスが、ウクライナの領土的一体性を尊重し、安全を保障する」との内容であった。
しかし、この枠組みはNATOのような条約に基づく共同防衛体制ではなく、署名国はウクライナに対して軍事的な協力をする義務のない覚書であった。中国やフランスも別々の書面でウクライナの安全を保障することにしたが、同じく義務の無い内容であった。
2014年のロシアによるドネツク共和国および、ルガンスク共和国への軍事侵攻が行われ、ミンスク議定書とミンスクUが調印されたものの、停戦を約束する議定書であり、新たな安全保障の枠組みではなかった。
ウクライナにとっては、ブダペスト覚書が機能しない以上、頼みとなる安全保障機構は国連だけになる。
国連の成立は第2次世界大戦の再燃を防止するため
しかし、そもそも国連はウクライナの安全を保障する機能を有していたのか。全111条からなる国連憲章は、安保理が平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持、または回復するために勧告をし、必要な措置をとることが記されている。
その措置は安保理の許可がなければ強制行動をとれない一方、敵国であった国に対しての強制行動は例外とされ、許可なく強制行動をとることができる。その敵国とは第2次世界戦争中に国連憲章のいずれかの署名国の敵国であった国のことである。
いずれかの署名国とは、1942年1月1日の連合国宣言に署名し批准した国(原加盟国)、または1945年6月26日にサンフランシスコで連合国会議に参加した国が該当する。当時は第2次世界戦争中であり、国連加盟国にとっての当時の敵国とは、日本とドイツである。
つまり、国連とは安保理が権限を有し、第2次世界戦争の再燃を防止するための枠組みである。基本的に過去に発生した第2次世界戦争の再燃防止、その役割のために創設されたものである。
その後、国連はさまざまな紛争などに対して対応してきたものの、その活躍はPKOに象徴されるように停戦後の紛争国相互の監視などであった。残念ながら現在起きている戦争や、将来起こる戦争を防止するものではないのである。
国連機構創設から80年近くが経過するが、国連憲章の趣旨によって創設された以上、その根本的役割はどうしても根強く残るのである。ゼレンスキー大統領としては、国連そのものに期待できない以上、個別に各国首脳などに対して協力要請を継続して、ロシア・ウクライナ戦争での領土奪還を目指すことが、最も確実かつ必要な行動である。
この世界には超国家政府がないために、国家が相互に紛争や国益の対立を解消する努力をしなければならない。そのためには相互理解がきわめて重要であるが、現在の安保理中心の国連で可能かと言われれば、困難であると評価せざるを得ない。 
なぜNATOの全会一致方式が有効なのか?
同じく国際機関である北大西洋条約機構(NATO)の意思決定は全会一致方式であり、全加盟国のコンセンサスを得ることが必要である。意思決定に至るまでに長期間を要する場合や、決定に至らない場合もあるものの、コンセンサスを得るために粘り強く徹底的な議論が行われるからこそ、各国の認識共有が図られる。
各加盟国の主権を尊重し、それぞれの立場に基づく主張を聞くことが国際機関としての役割とも言えよう。
一方、国連は拒否権を有する安保理常任理事国の全てが、意見の一致をみないと意思決定されないため、拒否権発動をもって議論は止まってしまうのである。常任理事国以外の加盟国は、多数決方式に参加する国家としての位置付けであり、多数決である以上、議論を尽くすよりも採決を優先しがちにならざるを得ない。
全会一致方式は、意思決定に時間がかかるものの、徹底的に議論するために、たとえ意見が一致しなくとも議論を通じて理解が進むのである。一方、多数決方式では、ある程度まで議論すれば採決によって意思決定がなされ、理解の進展には限界があろう。
安保理常任理事国から拒否権を剥奪するとの改革案では、現行の多数決方式を残したままで、意思決定は容易かつ早期にできるものの、議論は尽くされないまま国連による強制措置が行われる可能性が多くなろう。
また、常任理事国の数を増やすといった改革案が出されることもあるが、拒否権のある国と、ない国が存在する以上、現在と同じく意思決定できないという問題は残ることになろう。ちなみに、日本国内の政治的意思決定は多数決方式である。仮に全会一致方式を採用すると、周辺国との紛争対処や国内問題にタイムリーな対応ができなくなる。
地域ごとの安全保障の枠組みの必要性
結論としては、現在の国連憲章に基づく国連機構では、戦争防止機能としては限界があると言わざるを得ないだろう。安保理事会を完全に改革して、その構成国には地域ごとの代表を参加させ、国際的な問題に対しての強制措置には、全会一致方式による意思決定を行うことが望ましいだろう。
しかし、国連憲章変更のためには、まず憲章再審議の全体会議の開催を決定するため、総会構成国の3分の2の多数と安保理事会理事国の投票が必要となる。そのうえで、全体会議の3分の2の多数により勧告された憲章変更について、安保理全常任理事国を含む加盟国の3分の2が批准して効力を生ずる。はっきり言って、国連憲章は改正不可能な手続きが盛り込まれた憲章である。
結局は新たな条約に基づく、新たな国際機構を作り上げるしかないと思える。いや、それよりは国連憲章の認める地域的取り決めを発展させることが、妥当かつ近道ではないだろうか。
前述したNATOは、国連の目的および原則と一致しており、冷戦後加盟国が2倍に増加したものの、域内での紛争は発生していない。地域ごとに集団安全保障機構を作り、周辺にある脅威対象国の武力行使を抑制することができるように、全会一致方式で粘り強く機構を構築することが望ましい。 
●ロシア、ハマスと「連携」 米欧対抗でウクライナ侵攻正当化の狙いも 10/29
ロシアが、イスラム組織ハマスとイスラエルとの軍事衝突をめぐり、久々に存在感を示している。国連などでパレスチナ側を支援する姿勢を鮮明にし、イスラエル支持の米欧に対抗。背景には、国際社会から非難を浴びているウクライナ侵攻の正当化に利用する思惑も見える。
「ハマス代表団は、プーチン大統領の姿勢と、積極的なロシア外交の努力を高く評価した」
モスクワを訪問したハマス幹部のアブ・マルズーク氏らは26日、ロシア外務省のボグダノフ次官と会談後の声明でロシアの姿勢を称賛した。ロシア人ら外国人の人質解放についても協議し、ロシアとイスラエルの二重国籍を持つ8人の解放に努力する考えを伝えたという。
マルズーク氏は今年3月にも訪ロするなど、ハマスはロシアと友好関係にある。ウクライナ侵攻についても、「米国支配を終わらせ、世界を多極化する目的だ」と理解を示す 。
●ウクライナ原発近くで爆発、施設の多数の窓割れる IAEA 10/29
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は29日までに、ウクライナ西部フメリニツキー州にある原子力発電所近くで起きた爆発の衝撃波で、同原発の施設の窓ガラスが多数割れる被害が出たと報告した。
また、現場から離れた場所に位置する放射線監視施設への送電が一時止まったとも述べた。
事務局長は声明で「多数の窓が割れたということは爆発が非常に近くで起きたことを意味する」とし、「次はそれほど幸運でないかもしれない」との危機感を表明。「原発への攻撃は何としても避けなければならない」と訴えた。
「今回の事態はウクライナでの原子力の安全管理態勢が、極度に不安定な状態に直面していることを再度示した」と強調。「この状態は悲劇的な戦争が続く限り変わらない」と続けた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアがドローン(無人機)を使ってフメリニツキー原発を狙った可能性が高いと非難。原発から約5キロと約20キロそれぞれ離れた場所でドローン2機が撃墜されたとも報告した。
●ウクライナ提唱の和平案協議=東部アウディイウカで攻防続く 10/29
地中海の島国マルタで28日、ウクライナが提唱する和平案「平和の公式」について議論する各国政府高官による国際会議が開かれた。ウクライナのゼレンスキー大統領によれば、66カ国が参加した。ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、将来の和平協議に向けウクライナ側の主張への理解を広める狙いがある。
ゼレンスキー氏は28日の国民向けビデオ演説で、「昨年私が初めて平和の公式を紹介した時、世界はまだ(和平実現に向けて)さまざまなビジョンや異なるアプローチを議論していた」と述懐。「世界の多数が、共有された公正なビジョンを軸に徐々に団結しつつある」と会議の成果を強調した。日本からは秋葉剛男国家安全保障局長が出席した。
平和の公式は、ロシア軍の撤退や領土の回復など10項目で構成。会議では、このうち食料供給や核・原子力の安全の確保などを重点的に議論した。ロシアは平和の公式を「実現不可能だ」(ラブロフ外相)として拒否している。
一方、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地アウディイウカ周辺では両軍の攻防が続いている。ウクライナ軍参謀本部は28日も「敵(ロシア軍)は突撃を試みたが、失敗した」と主張した。
英国防省は「ロシア軍は恐らく最大8個旅団をこの地域に投入している」と分析。しかし、死傷者が非常に多く、ロシア国内でも軍の戦術を批判する声が上がっていると指摘した。その上で、政治指導者の要求に軍が応えられていないとし、「ロシアの軍事的・政治的課題は戦争を通じて何も変わっていない」と述べた。
●G7も気を遣うグローバルサウスの新盟主インド、存在感高まるも「弱点」が 10/29
インドの首都ニューデリーで9月9、10日の両日開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、モディ首相にとって、存在感を世界に示す格好の舞台となった。
「G20の議長国として、全世界が団結し、信頼の欠如を、信頼と信用に変えるように呼び掛ける。今こそ私たち全員が共に歩む時だ」
インドの“顔色”うかがうG7諸国
サミットの冒頭の演説で、モディ首相は力強く各国に結束を呼びかけると、午後には首脳宣言を採択したことを表明した。ロシアのウクライナ侵攻後、各国の対立や意見の相違が大きく、首脳宣言が出せない事態も予想されていた。ところがインドは議論も始まっていないような段階で各国に提案し、判断を迫る“奇策”で、初日採択という異例の展開を生んだ。
「インドがやろうとすることに、G7(主要7カ国)が相当譲歩し、顔色をうかがったというのは特筆すべきことだ。各国とも『インドを敵に回したくない』『手放したくない』と、やや遠回りで消極的な関与の仕方をした結果、採択された文書は重みに欠けるものになった」。国際情勢に詳しい東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授(国際政治経済学)が解説する。
グローバルサウス主導
ロシアのウクライナ侵攻以降、世界は対立・分断を深めている。そうした中、経済成長の潜在力が大きく、各分野ごとにパートナーを代える外交を展開するインドに秋波を送ってきたG7各国は、ウクライナに関する文言もなく、形式だけを整えたような内容の宣言に同意するしかなかった。
このG20会合では議長国インドが主導する形で、アフリカ連合(AU)が正式にメンバー入りすることも決まった。存在感を高める「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国をインドが主導して取り込んだことで、その代表という立ち位置を固めた形だ。
存在感を高めるインド。国連経済社会局の推計では、今年4月末までに人口が14億2577万人に達し、中国を追い越して人口世界一になったとみられる。若年人口が多く、成長の余地も大きい。
米巨大ITのトップを次々輩出
最近、インドの隆盛を感じさせる存在となっているのがグローバル企業のCEO(最高経営責任者)の地位に次々と就くインド出身者だ。マイクロソフト、IBM、スターバックスコーヒー、グーグルなどのトップがインド出身者となり、話題を呼んだ。
果たして、インドはこのまま大国、グローバルリーダーへの道を歩むのか。鈴木氏は「インドは社会資本やインフラに関しても未整備で、自国で全部まかなえるような国ではない。グローバルな大国としての条件に、まだ達していないだろう」と指摘する。
最大の問題点は製造業
その一番の問題点は、製造業の弱さだ。製造業振興策「メーク・イン・インディア」の旗印の下、補助金を活用した産業育成策を進めているが、主要な製品はなお輸入に頼っているのが実情だ。
背景には「人口ボーナス」を生かせていない社会構造がある。みずほリサーチ&テクノロジーズの対木さおり主席エコノミストは「人的資本の蓄積の遅れは深刻で、特に女性の労働参加率の低さが経済成長を妨げている」と語る。
飛びぬける女性の識字率の低さ
特に農村部では、家庭の労働力として扱われ、学校に通っていない少女も少なくない。女性の識字率は6割台(21年)にとどまり、アジア諸国でも飛び抜けて低い水準にある。対木氏は「政府も若年層向けの支援策などを実施しているが、教育の問題は補助金ですぐに解決できるような問題ではない。女性がオフィスで働くということ自体が根付いておらず、改善には時間がかかる」と指摘する。
優秀な人材は海外へ
一方で、IT分野など優秀な人材は活路を求め、海外に出ていく。世界的企業のCEO増加は、インド社会の問題点の裏返しでもある。このほかにも貧弱なインフラ、行政の汚職、連邦政府と州の複雑な関係など、インドの成長を阻む存在は次々に挙げられる。
拡大する存在感に見合うように、足場をどう固めるのか。インドが解決すべき課題は多い。

 

●プーチンは習近平を「世界のリーダー」と絶賛したが…中国にも見放される 10/30
格の違いが鮮明になった「一帯一路」フォーラム
10月17〜18日、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際協力フォーラムに出席したロシアのプーチン大統領は、習近平国家主席を「世界的指導者」と持ち上げ、「一帯一路構想はロシアの考えと合致し、大きな成果を収めた」と絶賛した。
ロシアの国営メディアは、プーチン大統領が今回の訪中で世界的な威信と尊敬を集めたと伝え、「西側に対する象徴的な勝利」と描いている。
写真=EPA/SERGEY GUNEEV/SPUTNIK/KREMLIN POOL/時事通信フォト
2023年10月18日、中国・北京の人民大会堂で、第3回「一帯一路」国際協力フォーラムの一環として行われた会談の前に握手するロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席。 - 写真=EPA/SERGEY GUNEEV/SPUTNIK/KREMLIN POOL/時事通信フォト
だが、「プーチンは手ぶらで帰った」(独立系紙モスクワ・タイムズ)とされるように、中国側はウクライナ侵攻で孤立するロシアへの深入りを避け、冷淡な対応がみられた。中露の格の違いも鮮明になり、ロシアの外交的後退を示した。
中国による「植民地貿易」を批判
9月の統一地方選で勝利したソビャーニン・モスクワ市長が9月28日、「モスクワ経済フォーラム」で行った中国批判演説が話題を呼んでいる。
大統領に近いソビャーニン市長はこの中で、「西側諸国の制裁により、東側に目を向けたロシア経済は新たな困難に直面した。東側は西側よりさらに厳しいことを認識しなければいけない」と述べ、中国の名指しは避けながら、中露経済協力の落とし穴に警告を発した。
市長は「東側は機械製造でも、航空機製造でも、エレクトロニクスの分野でも技術を提供しようとせず、優遇措置を自国企業に提供し、自国メーカーにダンピングを与えている」と述べ、「経済戦争という深刻な事態が起きている」と指摘した。
さらに、中国を念頭に、ロシアから資源のみを大幅な安値で購入し、完成品の購入を押し付けていると批判。ロシアへの技術移転や低利融資をほとんどしないと批判した。中露貿易の実態は、中国が資源を購入して製品を売る一種の「植民地貿易」であることを告発したものだ。
習主席を「世界のリーダー」と大絶賛
不均衡な中露経済関係への懸念や不満は、ロシアの経済官僚やビジネスマンの一部に出ているが、プーチン大統領は今回の訪中で、対中一辺倒路線を推進した。
訪問直前、中国中央テレビとのインタビューで、習主席を「間違いなく世界のリーダーだ。細部に気を配り、冷静で、ビジネスマインドがあり、信頼できるパートナーだ」とべた褒めだった。
中露経済協力については、両国貿易が今年、目標の2000億ドルを突破し、さらに拡大していくと予測。ソビャーニン市長の懸念についても、「製品貿易における不均衡について、中国の友人たちがわれわれの意向を無視することはなかった」と否定し、習主席のイニシアチブに今後も協力していくと誓った。
「一帯一路」は、中国の経済減速や途上国の「債務の罠」で難航しているが、大統領はフォーラムの演説で、「真に重要でグローバルな未来志向の構想だ」と絶賛。首脳会談では、「共通の外的な脅威が中露関係を強化させる」と述べ、対米連携を訴えた。
訪中前、ロシア政府は福島第1原発処理水の海洋放出を受け、日本産水産物の輸入制限を発表し、中国に同調していた。
一方、中国は冷淡な態度が目立つ
だが、歯の浮くような中国賛美にもかかわらず、訪中の成果はあまりなかった。
大統領には多数の経済閣僚や石油・ガス企業トップらが同行したが、中国側はロシアが強く求める2本目のガス・パイプライン建設構想に同意しなかった。ロシアは欧州向けのガス輸出が激減したため、北極圏のヤマル半島からモンゴル経由の第2のパイプライン建設を中国に持ちかけており、ロシアメディアは合意の可能性を報じたが、中国は応じなかった。
エネルギー調達先の多角化を進める中国は、中央アジアやアフリカからのガス輸入計画を進めており、ロシアへの過度の依存を避けたようだ。国際価格より大幅に安い石油・ガス輸出も維持される。
共同声明など首脳間の文書は今回、発表されなかった。ロシアメディアはパレスチナ情勢で共同文書が発表されると伝えていたが、誤報となった。
プーチンの期待とは裏腹に中国はしたたかだった
ウクライナ戦争で兵器不足に陥ったロシアは中国の武器援助を切望しているが、訪問団にショイグ国防相ら軍関係者は入っておらず、軍事問題は議題に上らなかったようだ。中国が最初から、軍事協力問題は討議しないと伝えていた可能性がある。
両国の発表をみる限り、習主席が反米連携に同調した形跡もない。
首脳会談は3時間に及んだが、会談内容は公表されず、共同記者会見もなかった。プーチン大統領は単独の会見で、会談内容に関する質問に対し、「完全な機密情報の性質を持つ話もした。生産的で有益だった」とかわした。
ウクライナ戦争のやりとりも不明だ。中国は今年2月、12項目の和平案を発表したが、ロシアは「核兵器の移転」や「核の恫喝」「穀物の安定輸出」などの項目に公然と違反しており、平行線だったとみられる。
モスクワ・タイムズ紙は、「ロシア代表団は、期待していた大型のエネルギーや農業の取引なしに帰国した」とし、具体的な成果に結びつかなかったとする代表団筋の発言を伝えた。中国側はしたたかで、ロシアの期待は空回りに終わったようだ。
クレムリン当局者は「テレビ局に指示している」
それでも、ロシアの国営メディアは、プーチン大統領が北京で大歓迎を受けたと大々的に報じ、「習主席はプーチン大統領を最初に歓迎宴に招待し、到着時にはレッドカーペットが敷かれ、一挙手一投足に注目が集まった」などと強調。ラブロフ外相は「会場でのプーチン大統領の演説は熱狂的に受け止められた」と記者団に語った。
クレムリン当局者は同紙に対し、「プーチン大統領が世界的リーダーであることを国民に想起させる観点で報道するよう、テレビ局に指示している」と検閲を明かした。
大統領が旧ソ連圏以外を外遊するのは、3月に国際刑事裁判所(ICC)から、ウクライナの子供連れ去りで逮捕状を請求されて以来初めて。久々の外遊でスポットライトを浴び、来年3月の大統領選を前に、外交活動に支障がないことを国民に示す狙いがある。
しかし、実際にはプーチン大統領の演説中、空席が目立った。前回のフォーラムでは、参加国代表が一堂に会する円卓会議が開かれたが、今回はプーチン大統領との同席を嫌がる国が多く、開催されなかったという。
中国は反米パートナーである同大統領を厚遇しながら、侵略戦争を進めるロシアと距離を置き、肩入れを避けようとしたようだ。
不平等貿易でも“兄貴分”に従うしかない
経済減速や失業問題など内憂が高まる習主席は11月中旬、サンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合に出席する見通しで、米中、日中首脳会談も予想される。年末には、中国・EU(欧州連合)首脳会議が開かれる予定だ。
米国から入国禁止措置を受けるプーチン大統領はAPECの欠席を早々と決めたが、習主席は今後、西側諸国との一定の関係改善を重視しそうだ。
一方、孤立するロシアには「向中一辺倒路線」以外に選択肢はない。中国から冷淡な対応を受けても、中国との全面協力を進めざるを得ない。経済分野は不平等かつ不利な「植民地貿易」であっても、兄貴分の中国に従わざるを得ないのだ。
中露関係は、「踏まれても 付いていきます 下駄の雪」の構図だろう。
●ロシアとウクライナ、戦争終結に向け交渉すべき=ベラルーシ大統領 10/30
ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領は週末、ウクライナとロシアの戦争について、前線がこう着状態に陥っており、両国はいったん腰を据えて戦争終結に向けた交渉を行う必要があると述べた。 
国営ベルタ通信のウェブサイトに掲載された質疑応答形式の動画での発言。
ルカシェンコ氏は「両国がいずれも十分な問題を抱えており、全般的に状況はかなりこう着している」と指摘。「両陣営が真っ向から対立して死闘を繰り広げ、動きが止まっている。人々は死に続けている」と述べた。
ウクライナがロシアに自国領土から撤退を求めていることについて、「誰も死なないように」交渉の場で解決すべきだと主張。「以前言及したように、前提条件は必要ない。重要なのは『停止』の命令が下されることだ」と述べた。
●G7貿易相会合“不必要な制限撤廃を” 中国・ロシアの輸入制限 10/30
大阪市と堺市で行われていたG7(主要7カ国)貿易相会合は、中国とロシアが行っている日本産水産物の輸入制限の撤廃を求める共同声明を発表し、閉幕した。
西村経産相「(輸入規制は)科学的根拠に基づかない、全く受け入れない日本の考え方を明確に伝え、G7各国から幅広く支持を得た」
声明では、不当な貿易制限などで他国に圧力をかける経済的威圧の拡大への「憂慮」を示し、協力して対抗していく方針を示した。
そのうえで、「G7メンバーは、新たに導入された日本の食品への輸入規制を含め、不必要に貿易を制限するいかなる措置も直ちに撤廃されることを強く求める」と明記し、中国とロシアによる日本産水産物の輸入制限の撤廃を求めた。
●ロシア軍がウクライナのレオパルト2をさらに2両撃破か、1週間で計5両 10/30
ロシア軍がウクライナ軍のレオパルト2戦車をさらに2両撃破したようだ。そうだとすれば、ロシアがウクライナに仕かけた戦争の約965kmにおよぶ前線の1つの区域で、わずか1週間ほどでウクライナ軍は4両目と5両目のレオパルト2を失ったことになる。
最近のレオパルト2の損失は、すべてウクライナ南部ザポリージャ州で発生した。ウクライナ軍が南部で反攻を開始して4カ月が経つ。同州では疲弊した第47機械化旅団に代わって第33機械化旅団が最近、反攻を主導している。第33旅団は、欧州の同盟国から今春、第1弾として供与された40両のレオパルト2A4を唯一運用している。
「この方面での敵の損失は兵士85人、レオパルト2両を含む戦車3両、装甲戦闘車両4両、軍用車両2両にのぼる」とロシア政府は10月26日、国営タス通信に語った。
ロシア国防省はウクライナ側の損失についてよく嘘をつくため、疑ってかかる必要がある。だが、レオパルト2への最近の攻撃の少なくとも1つを撮影したとみられる映像があることにも注意したい。
レオパルト2の損失の急増は予想外ではない。第33旅団がザポリージャ州のベルボベからメリトポリにかけての攻勢軸でロシア軍の連隊と日々接近戦を展開するにつれ、同旅団のレオパルト2大隊(通常、少なくとも30両の戦車を運用する)は地雷や砲撃、そして最も致命的な爆発物を搭載したFPV(1人称視点)ドローンの攻撃をますます受けている。
最近発生した5両のレオパルト2A4の損失のほとんどは、ドローン攻撃によるものだったようだ。ロシア軍のドローン作戦の急増は、第33旅団の損失拡大のもう1つの大きな要因である可能性がある。ザポリージャ上空ではFPVドローンがますます増えている。
米シンクタンである戦略国際問題研究所の欧州・ロシア・ユーラシア部門で非常勤上級研究員を務めるサミュエル・ベンデットは、約450gの擲弾を搭載する重量900gのFPVドローンはそれほど強力な対戦車兵器ではないと説明する。
「すべてのFPVの命中が実際の損失につながるわけではなく、FPVが他の兵器より常に優れているとは限らない」とベンデットはいう。「戦車のように大きく、しっかりと装甲が施された標的を破壊するには、複数のFPVドローンによる攻撃が必要となることもある一方で、強力な対戦車ミサイルなら一発で仕留めることができる」
だが、FPVドローンは往々にして群れをなして攻撃する。最初の攻撃は戦車にダメージを与え、おそらく動けなくする。続く攻撃で、徐々に戦車を破壊していく。
保有するドローンが多ければ多いほど、車両1台に対してより多くのドローンを投入できることはいうまでもない。ロシアはこの1年、小型ドローンの国内生産を大幅に拡大し、同時に熟練したドローン操縦士の部隊を養成した。
モノと人材がそろえば、軍がFPVドローン部隊を拡大するのは簡単だ。「FPVは1機あたり約400〜500ドル(約6万〜7万5000円)と安価なためどこにでもあり、ウクライナ、ロシアともに月に何千機ものFPVを投入している」とベンデットはいう。「つまり、戦場がドローンで溢れている状態を我々は目の当たりにしている」
ザポリージャ上空で今起きていることは、ロシアがFPVドローンの配備に本腰を入れたため、避けられないことだった。逃れられないロシアのドローンの存在により、ウクライナ軍の戦車の乗員にとって特に昼間に身を隠さず野原や道路を移動するのは非常に危険な行為だ。それは、第33旅団の戦車の乗員がもちろん理解している残酷な現実だ。
はっきりさせておくと、ウクライナ軍は西側製の戦車を使い果たしつつあるわけではない。最近、戦車の損失が急増したが、ウクライナ軍は西側が供与した戦車の維持に全体的に成功している。これまでにウクライナはドイツ製のレオパルト2A4(40両)、レオパルト2A6(21両)、レオパルト1A5(20〜30両余り)、スウェーデン製のStrv 122(10両)、英国製のチャレンジャー2(14両)、米国製のM1A1エイブラムス(31両)を受け取った。追加のレオパルト1と2も届く予定だ。
反攻開始からの4カ月の激戦で、ウクライナ軍はレオパルト2A4を7両、2A6を3両、チャレンジャー2を1両失った。ウクライナの同盟国が供与した150両ほどの戦車のうちの11両だ。
一方で損傷した戦車はそのままになることはない。戦車コンサルタントのニコラス・ドラモンドは「失われた戦車もあるが、回復率はすばらしい。損傷した戦車を迅速に修理し、再び使用できるようにしている」と指摘している。
だがウクライナ側の損失率は間違いなく大幅に悪化している。今後ウクライナが優れた戦車を維持するためには、小型ドローンから戦車を守るための対策を講じる必要がある。
それには3つの手法が考えられる。1つはドイツ製の優れたゲパルト自走対空砲など、より機動性の高い対空砲を配備することだ。それから、ドローンの制御信号を妨害できるジャミング装置を増やすこと、そして敵のドローン部隊が脅威となる小型ドローンを飛ばす前にその部隊を標的にすることだ。
「双方ともFPVドローンの増大し続ける脅威にできるだけ早く適応しようとしている」とベンデットはいう。
だがドローン操縦士らも適応している。戦車を狙うFPVドローンの第一世代は、重量がわずか1kg前後で、その半分の重さのものを搭載できるというモデルが主流だった。
いまドローンは大型化し、最大約4.5kgを搭載するようになっている。4.5kgの爆薬は、1kgの爆薬よりはるかに大きなダメージを与えることができる。
●ウクライナ・反転攻勢とコサック自立の地 10/30
冬が近づく中、ウクライナ軍は南部ザポリージャ方面で反転攻勢を続けています。この地域はウクライナの自立の歴史と深く結びついています。石川専門解説委員に聞きます。
Q ザポリージャの重要性は?
A ウクライナ南部ドニプロ川流域から黒海に至る州でクリミア半島につながる要衝で、ウクライナ反転攻勢にとって最重要な目標です。ウクライナ側が徐々に前進しつつありますが、ロシアの防御も非常に頑強です。
Q そこがウクライナの歴史にとっての意味とは?
A ウクライナの形成に重要な役割を果たした自立武装農民集団コサックと深く結びついています。ザポリージャのドニプロ川の流域には、16世紀から18世紀にかけてザポリージャ・コサックといわれる一大拠点がおかれ、北西からのポーランド、東からのロシア帝国、南からのオスマントルコという列強がしのぎを削る中、コサックの自治と自由を守り、今のウクライナの源流の一つとなりました。ウクライナ国歌「ウクライナは死なず」の中にも、「われらが自由のために魂と身をささげ、われらがコサックの氏族であることを示そう」とうたわれています。
Q 自由ということが重要なのですか?
A その通りです。ウクライナにとって自由は特別な意味を持っています。自由が失われたという喪失の歴史でもあるからです。ザポリージャのコサックは、18世紀後半にかけて、ロシア帝国の拡大によって飲み込まれ、自治と自由を喪失しました。この喪失したコサックの自由を再び回復しようという思いが19世紀以降の独立を求めるウクライナの民族運動を支えてきました。その歴史が今の戦いとも重なっています。
去年2月プーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻を始めてから、
ロシア軍と戦うウクライナ人の間に愛唱されている歌に愛国歌「草原の赤いカリーナ」があります。20世紀初頭に生まれ、失われたザポリージャ・コサックの自由を復活させウクライナの独立を希求する歌です。
ザポリージャでの反転攻勢は自由の回復という歴史における意味も持っているのです。
●東部でロシア軍機撃墜と表明 製油所もドローン攻撃 10/30
ロシアの侵攻を受けるウクライナの国境警備隊は29日、激戦が続く東部ドネツク州アブデーフカ周辺で、ロシア軍機を対空ミサイルで撃墜したと表明した。スホイ25攻撃機の可能性があるという。
ウクライナ保安局当局者は29日、地元メディアに、ロシア南部クラスノダール地方の製油所を2機のドローンで攻撃したと明らかにした。製油所では昨年700万トン以上の航空燃料が製造され、軍用機に使用されていたとしている。ロシア国防省は無人機を迎撃したと発表した。
またニューヨーク・タイムズは28日、ウクライナが米国と、現有のソ連製兵器と欧米供与兵器を組み合わせた防空システムの構築を進めていると報じた。 
●中ロ、関係強化をアピール−北京の軍事フォーラムで米国を強くけん制 10/30
中国とロシアは北京で30日開催された国際軍事フォーラムで両国間の強い結び付きをアピールし、米中首脳会談が11月に行われるとみられる中にあっても米国を強くけん制した。
中国共産党中央軍事委員会の張又俠副主席は安全保障フォーラム「香山論壇」で講演し、「特定の国々が世界中で問題を引き起こし続けている」と指摘。「意図的に混乱を生み出し、地域の問題と他国の内政に干渉し、カラー革命を扇動する」と述べ、米国を暗に批判した。
ファーラムに出席したロシアのショイグ国防相は、「覇権維持のため米国は絶えず動いているが、それは間もなく消え去る」と語った。ロシアは2022年2月に開始したウクライナ侵攻を巡り米国と欧州連合(EU)から制裁を受けている。
両者の発言は、ウクライナへの武力侵攻に踏み切ったロシアと中国の間に形成された緊密なパートナーシップをあらためて示している。
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は侵攻開始の直前に「限界のない」友好関係を宣言。中国は以来、西側諸国の制裁に直面しているロシアを外交・経済的に支援。対ロシア輸出を増やす一方、ロシア産化石燃料の安定供給を確保した。
●ウクライナ紛争、西側がアジア太平洋に拡大模索=ロシア国防相 10/30
ロシアのショイグ国防相は中国・北京で開催中の安全保障会議「香山フォーラム」で、西側はウクライナ紛争をアジア太平洋地域に拡大しようとしていると述べた。ロシア国営メディアが30日に報じた。
タス通信によると、同氏は北大西洋条約機構(NATO)がアジア太平洋での軍備増強を「仰々しい対話願望」で覆い隠していると発言。NATO諸国が同地域で軍拡競争を進め、自らの軍事的プレゼンスや軍事演習の頻度と規模を拡大していると主張した。
また、米軍がロシアと中国を抑止するため、ミサイル発射に関する日韓との情報交換を利用するだろうと述べた。
一方、ロシアによる包括的核実験禁止条約(CTBT)批准撤回の動きは合意の終わりを意味するものではないとし、ロシアは核兵器使用のハードルを下げないと強調した。

 

●ロシア南部 イスラエルに抗議の群集 プーチン大統領は対応協議 10/31
ロシア南部のイスラム教徒が多数を占めるダゲスタン共和国で、イスラエルに抗議する群衆が空港に乱入する事態となったことについて、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナの領土から欧米の情報機関が暴動を扇動した」などと一方的に主張しました。
プーチン大統領は政権幹部と対応を協議し、混乱が広がることへの警戒を強めているとみられます。
イスラエル軍がパレスチナのガザ地区で地上での軍事行動を拡大する中、29日夜、ロシア南部のイスラム教徒が多数を占めるダゲスタン共和国の中心都市マハチカラの空港では、イスラエルからの旅客機が到着するという話を聞きつけた数千人の群衆が、空港に殺到しました。
一部は滑走路にも乱入して到着した旅客機を取り囲み、空港は一時閉鎖される事態になり、地元当局によりますと、この騒動で警察官9人を含むあわせて20人がけがをしたということです。
また、空港に侵入するなどした83人が拘束されたほか、ロシアで重大事件を扱う連邦捜査委員会は30日、捜査を開始したと発表しました。
さらにプーチン大統領は30日夜、モスクワ郊外の公邸で政権幹部を集めた会合を開きました。
この中で、ダゲスタン共和国で起きた騒動について、プーチン大統領は「ロシアを不安定化させ、分裂させようとする試みがある。ウクライナの領土から欧米の情報機関が暴動を扇動した」と一方的に主張した上で、今後の対応を協議し、混乱が広がることへの警戒を強めているとみられます。
●空港での反ユダヤ主義の暴動、「外部の干渉」によるもの ロシア政府 10/31
ロシア南部ダゲスタン共和国の空港で起きた反ユダヤ主義の暴動をめぐり、ロシア大統領府のペスコフ報道官は30日、暴動が「外部の干渉」によるものと非難した。
ペスコフ氏は記者団に対し、マハチカラ空港周辺で起きた出来事が外部からの情報など外部からの干渉によるものであることは明らかだとの認識を示した。
ダゲスタン共和国はイスラム教徒が多数を占める。29日にはイスラエルからの航空便が到着した空港が集団に襲われ、当局は空港の閉鎖や航空便の行き先変更を余儀なくされていた。
地元保健省のSNSへの投稿によれば、今回の暴動によって、警官と民間人を合わせて少なくとも20人が負傷した。
SNSに掲載された複数の動画には、空港内や飛行場に侵入した群集が映っている。一部はパレスチナの旗を振ったり、国際ターミナルの扉を突破したりしていた。
ペスコフ氏によれば、ロシアのプーチン大統領はダゲスタン共和国の治安当局などから今回の事案に関する情報を幅広く受け取っており、暴動に対処するための会議を30日夜に予定しているという。
●ガザ危機、西側に責任 米は世界的混乱が必要=プーチン氏 10/31
ロシアのプーチン大統領は30日、安全保障会議当局者らとの会議で、中東危機の責任は西側にあり、米国は世界的な混乱を必要としていると主張した。
プーチン大統領とはテレビ放映された会議で「米国の支配的なエリート」とその「衛星国」がイスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザでの殺害や、ウクライナのほか、アフガニスタン、イラク、シリア情勢の背後にいるという認識を表明。「米国は中東の絶え間ない混乱を必要としているため、ガザ地区での即時停戦を主張し、危機の解決に真の貢献をしようとする国々の信用を失墜させることに全力を尽くしている」と述べた。
その上で、中東危機の原因になっている米国の影の勢力と、ロシアはウクライナの戦場で戦っているとし、「パレスチナはこの悲劇の背後にいる者と戦うことによってのみ救われる。ロシアは、われわれ自身のほか、真の自由を求める人々のために、『特別軍事作戦』を通して彼らと戦っている」と語った。
プーチン氏はこのほか、ロシア南部ダゲスタン共和国の首都マハチカラで29日、数百人の反イスラエルのデモ隊が空港の滑走路に侵入し、イスラエルから到着した飛行機を襲撃しようとした事件について、西側諸国の情報機関やウクライナが手助けしていると非難。マハチカラで起きたことは、西側情報機関のエージェントによって触発されたと述べた。ただ、証拠は示さなかった。
●中国、北朝鮮、イラン… ロシアの外交活発化 新興・途上国にも秋波 10/31
ロシアがウクライナで続ける「特別軍事作戦」の長期化を背景に、外交を活発化させている。中国など友好国との関係強化に加え「グローバルサウス」と総称される新興・途上国の取り込みを図るのが狙いだ。ただ、プーチン政権が影響圏とみなしてきた旧ソ連諸国の一部では「ロシア離れ」の動きも起きている。
「中露関係は模範的で、他の国にとっても魅力的だ。欧米側に引き入れられたくないと考える国々の輪が広がっている」。ショイグ露国防相は10月30日、北京での安全保障関連の国際会議に出席し、中露の結束を強調しつつ欧米をけん制した。プーチン大統領も同18日に北京での別の国際会議で中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」を絶賛し、習近平国家主席との首脳会談で結束を誇示した。
ウクライナ危機を巡って、中国は「(戦争の)原因は北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大にある」と明確にロシア寄りの立場を取り、貿易拡大でロシア経済を支える。そのため、ロシア側では以前は指摘された隣の大国・中国への警戒感は一掃されたかのようだ。むしろ、対中友好関係を強調することで、新興・途上国への影響力拡大につなげたいという思惑さえちらつかせている。
ソ連時代から関係が深い北朝鮮との再接近も急ピッチで進む。9月の首脳会談や10月の外相訪問などを通じ、武器供与での合意があったとの観測が浮上。米政府は、北朝鮮が9〜10月にロシアへコンテナ1000個超分の兵器や軍需品を供与したと指摘している。
反米で共闘するイランに対してもテコ入れが進む。ショイグ氏が9月にイランを訪問。リャプコフ外務次官は10月下旬、両国の軍事技術協力について「互恵的に発展させていく」と報道陣に強調した。
目指すは中露中心の「多極化」
こうした動きを見せるプーチン政権が目指すのは、欧米中心の国際秩序から、中露などが強い発言力を持つ「多極化」した世界への転換だ。アジア、アフリカ、中南米などの新興・途上国の多くは、自国の国益を最重視する観点からウクライナ問題で欧米とは歩調を合わせておらず、ロシアは関係強化が可能とみる。
プーチン政権が新興5カ国(BRICS)や上海協力機構(SCO)といった多国間枠組みを重視するのはそのためだ。7月にはロシア・アフリカ首脳会議を開くなど、幅広く外交攻勢をかけている。プーチン氏は北京での会議に際しても、タイやベトナムの首脳らと会談して秋波を送った。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、露連邦極東大のアルチョム・ルキン教授は「ロシアは依然として豊富な資源を持つ大国だ。グローバルサウスの国々はウクライナ問題よりも対露ビジネスに関心がある」と指摘している。
旧ソ連圏には引き締めやつなぎ留め
一方で、ロシアの影響力低下が指摘される旧ソ連圏では引き締めを図る。特に、カザフスタンなど中央アジア諸国については、欧米側の接近の動きにロシアは警戒を強めている。米国などには、これらの国々が対露経済制裁の「抜け穴」となるのを封じる狙いがあるとみられるためだ。
現状、旧ソ連9カ国で構成する独立国家共同体(CIS)の首脳会議が10月中旬にキルギスで開かれた機会に、プーチン氏は別途、中央アジア4カ国の首脳と会談して結束を確認した。
ただ、CIS加盟国の中でも、アルメニアは首脳会議を欠席するなどロシア離れを加速させている。9月にアゼルバイジャンが係争地ナゴルノカラバフで軍事行動を起こしてアルメニア系の地元勢力を敗退させた際、同盟関係にあるロシアが動かなかったためだ。プーチン氏は平和条約締結の支援を提案するなど、つなぎ留めを図ろうとしている。
●バフムトでロシア軍攻勢 ウクライナ「厳しい情勢」 10/31
ウクライナのシルスキー陸軍司令官は、東部ドネツク州バフムトでロシア軍が部隊を大幅に増強し、防衛から転じて攻勢を強めているとの見方を示した。「依然として厳しい情勢が続いている」と訴えた。インタファクス・ウクライナ通信が30日、インタビューを伝えた。
シルスキー氏は、ロシア軍が空挺部隊を投入し、失地を取り戻そうとしていると指摘した。目標に突っ込んで自爆する「カミカゼ・ドローン」の増加にも警戒感を示した。
ウクライナ南部ヘルソン州当局者は30日、州内を走るバスにロシア軍の砲撃があり、男女7人がけがをしたと明らかにした。
●原油先物、主要中銀会合控え上昇 中東情勢の緊迫続く 10/31
アジア時間序盤の原油先物は、主要中央銀行の金融政策決定を週内に控えて上昇した。中東情勢を巡る緊張も続いている。
0001GMT(日本時間午前9時01分)時点で北海ブレント先物は0.46ドル(0.53%)高の1バレル=87.91ドル、米WTI先物は0.33ドル(0.4%)高の83.64ドル。
イスラエル軍は30日、パレスチナ自治区ガザ北部のガザ市を2方向から攻撃した。
市場は日銀、米連邦準備理事会(FRB)、イングランド銀行(英中銀)が今週発表する政策決定会合の結果も注視している。
また、中国は購買担当者景気指数(PMI)、香港と台湾は第3・四半期域内総生産(GDP)を発表する。
●ドル円の変動率上昇には要警戒 3つの火種抱え 10/31
これまで150円ちょうどで上値を抑えられていたドル円は、10月26日にその壁を上抜けた。もともとその水準にさほど意味があったわけではない。既に昨年10月に151円95銭まで上昇したうえ、今年10月3日にも150円03銭の高値を付けている。
ただ、鈴木財務大臣や神田財務官による円安けん制発言が続くなかで、「150円ちょうどを明確に上抜けたら円買い介入が入るのではないか」といった介入警戒感が高まりやすかったこと、また、こうした大台にはオプションのストライクなども含めて様々な注文(オーダー)が集まりやすく、これらが壁を作っていた可能性が高い。
ドル円の変動率、今後上昇へ
しかし、壁を上抜けた割には、ドル円の上昇に過熱感はない。もし今後さらに上昇が続き、昨年高値の151円95銭をも上抜けた場合、冷静にテクニカルポイントだけ見てみると、1990年6月25日高値の155円87銭、同年4月17日の160円20銭といった水準まで、明確な抵抗線(レジスタンス)は見当たらない。
果たして来年にかけて、ドル円は昨年の高値を超えてこれらの水準を試すのか、あるいは下落に転じるのだろうか。結論から言えば、来年に入ると米国景気は利上げの累積効果から減速するとみており、ドル円は反落すると予想している。とはいえ、どのようなトレンド線を描くかまでは、正直なところ予測し難い。ドル円が上昇、下落、いずれの方向にも大きく変動し得る不確定要素があまりにも多いためだ。現段階で言えることは、ドル円相場のボラティリティー(変動率)は今後上昇していく公算が大きいということだ。
15%超え、過去10年で4回
まずはドル円の1カ月物ボラティリティーを見てみよう。過去10年で見ると、ドル円のボラティリティーが15%を超えて大きく上昇した局面は4回あった。
1回目は、2013年3月に就任した黒田東彦日銀総裁の下で行われた異次元緩和による円安局面だ。ドル円は年初の86円台から半年ほどで約20%上昇。ボラティリティーも年初の9%台から6月には17%付近まで上昇した。
2度目は2016年だが、同年は6月のBrexitショックと、夏場には米大統領選でトランプ候補の支持率がクリントン候補の支持率を上回るなど混戦の様相を呈したことから、ドル円が年初の120円台から6月には100円を割り込む展開となるなかで、ボラティリティーは15%台まで上昇した。
3度目はコロナショックの2020年3月だ。この時はドル円が1カ月間で111円台→101円台→111円台と激しく変動し、ボラティリティーも16%台まで上昇。
直近は、2022年10月の151円台後半を付けた局面で、ボラティリティーは同じく16%台まで上昇した。
しかし、今年は年初来でドル円が約18%も上昇したにもかかわらず、足元のボラティリティーは8%程度と、10%を割り込んでいる。もちろん、もう一段ボラティリティーが低下する可能性もないとは言えないが、いくつかの波乱要因を踏まえれば、今後は上昇する可能性のほうが高いように思われる。筆者が注目している主な火種は、以下の3点だ。
米長期金利、一段の上昇リスク
第1に、米長期金利の更なる上昇リスクが挙げられよう。
10月23日、米10年債利回りは5%台に乗せた。主な要因としては、米国経済の想定外の強さが続いていることが挙げられるが、9月以降は、期待政策金利は4.5%付近で変わらなかったにもかかわらず、米長期金利は上昇した。これは、タームプレミアムが上昇したことが背景にある。タームプレミアムとは、残存期間の長い債券に対して、価格変動や流動性リスクが高まる分、投資家が求める「上乗せ金利」のことである。
米10年債のタームプレミアムは9月27日、約2年半ぶりにプラスに転じた。折しも米下院で歳出法案がまとまらなかったタイミングで、いったんはつなぎ予算で凌いだものの、仮に政府のシャットダウンとなれば、米国債格下げのリスクも高まっていた。その後マッカーシー下院議長が解任され、米下院議長が3週間も不在という前代未聞の混乱を来したなかで、タームプレミアムはさらに上昇。10月25日にジョンソン氏が下院議長に選出されたが、トランプ前大統領に近い同議長がうまく下院を取りまとめられるかは未知数だ。
今後民主党と協議し、つなぎ予算が期限を迎える11月17日までに、政府の歳出法案が議会を通過するかが喫緊の課題となる。そもそも米財政は悪化が目立っており、今月20日の財務省の公表によれば、2023年度の財政収支は、1兆6950億ドルの赤字と、前年度比で23%悪化したという。こうした環境下でタームプレミアムは0.4%と高止まりしているが、今後仮に米国債の格下げリスクが高まるような場合には、米金利はさらに上昇するだろう。
日米金利差の観点からすればドル高だが、この場合、「悪い金利上昇」となり、必ずしもドル高にならない可能性もある。むしろ米国債やドルへの信認が損なわれれば、金利は上昇しても、為替の反応としてはドルが急落するリスクもはらむ。
米大統領選、トランプ氏返り咲きシナリオ
第2に、来年の米大統領選も波乱要因の1つと言えよう。調査会社ファイブサーティーエイトによる世論調査では、10月28日時点では共和党の候補者の中で、トランプ前大統領の支持率が56.9%と、2位のデサンティス候補の14.1%を大きく引き離している。仮に同氏の返り咲きが実現するようなら、ウクライナ情勢、中東情勢に対する米国の対応方針にも大きな変化が生じる可能性があるうえ、米中摩擦が再び激化するリスクもくすぶる。
米メディアの報道によれば先月15日にトランプ氏は、「米政策金利が高すぎる」と述べ、米連邦準備理事会(FRB)を批判したという。2019年に当時大統領だった同氏がパウエル議長に対し、「金利が高すぎる」と圧力をかけたのは記憶に新しい。そもそも同氏は起訴されており今後の裁判の行方次第ではあるものの、トランプ氏が来年共和党の代表選で勝利する展開となれば、ドル円のボラティリティーも高まる公算は大きい。
中東情勢、原油急騰による米経済への衝撃
第3に、10月以降急激に悪化した中東情勢だ。今後さらに深刻化した場合には原油価格の急騰を招く可能性がある。イランのアブドラヒアン外相は10月26日、「イスラエルとハマスの戦争がより広範な紛争に発展した場合、米国も影響は避けられない」と警告。今後、この衝突がさらに広がり、イランと米国の対立を深めた場合には、イランがこれまでも度々示唆してきた「ホルムズ海峡封鎖」に踏み切るリスクが懸念される。
原油高はコストプッシュインフレにつながり、FRBの利上げ観測から長期金利の上昇につながるとの見方もある一方で、供給制約による原油価格の急騰は米国経済にとってマイナスとなり、むしろ米長期金利の低下につながるかもしれない。
これも、ドル相場にとっては不確定要素となり、ドル円のボラティリティーを高める公算が大きい。なお、これまでボラティリティーが低く推移してきたことが、低リスクでドルと円の金利差を狙った取引を可能にしたため、いわゆる「円キャリー取引」の活発化につながったことを踏まえれば、ボラティリティーの急騰は円キャリ―取引の巻き戻しを促し、どちらかといえば円高圧力がかりやすくなる可能性がある点には警戒しておきたい。
嵐の前の静けさ
米国では10月の景況感も概ね良好な結果となるなど、足元の経済は堅調さを維持している。景気悪化が著しいユーロ圏や、依然として金融緩和を維持する日本と比べれば、相対的にドルが強いのも頷けるが、景気格差や金利差だけで動くわけではないのが為替相場だ。地政学リスクをはじめとする様々な環境変化を踏まえれば、足元のボラティリティーの低下は、嵐の前の静けさかもしれない。 
●ロシア大統領、外部干渉対策強化を協議 南部の空港乱入受け 10/31
ロシアのプーチン大統領は、南部ダゲスタン共和国で29日に発生した反イスラエルデモ隊の空港乱入を受け、30日に安全保障担当当局者と外部からの干渉対策強化を協議した。ペスコフ大統領報道官が31日、明らかにした。
30日の会議には、安全保障会議のメンバーや法執行機関のトップらが出席。プーチン氏は、西側とウクライナがロシア国内の不安をあおっていると非難した。中東危機の責任は西側諸国と米国の支配エリートにあるとし、この影の勢力とウクライナの戦場で戦っていると述べた。
ペスコフ報道官は、イスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突に乗じてロシア社会を不穏にしようとする情報操作など外部からの干渉への対策が会議で話し合われたと述べた。
●プーチン大統領「空港デモ、ウクライナ・西側が背後」主張…「責任転嫁」 10/31
ロシアのプーチン大統領がダゲスタン共和国の空港で発生した反ユダヤ暴力デモについて「ウクライナと西側が扇動した」と主張した。
30日(現地時間)のAP通信によると、プーチン大統領はこの日、ダゲスタン空港の暴力デモに関連した閣僚との会談で「昨夜マハチカラで発生した事件はウクライナだけでなく西側の特殊情報要員によりSNSで扇動されたものだ」と述べた。
これに先立ち前日、ロシア西南部のダゲスタン共和国の首都マハチカラの空港では150人以上のデモ隊が空港ターミナルの出入口を壊して滑走路まで乱入した。
デモ隊はイスラエル発の飛行機が到着すると乗客を包囲し、「イスラエル人を見つけ出す」として暴徒化した。アラビア語の祈祷文「アラフ・アクバル・(神は偉大だ)」を叫んだりパレスチナ国旗を振ったりした。
プーチン大統領は「誰が混乱を煽っていて、誰が利益を得ているかはすでに明らかになった」とし「米国の支配エリートと衛星国家が世界不安定の主な受恵者」と述べた。
ロシア大統領府のペスコフ報道官もこの日、空港デモに関連し「外部の干渉の結果ということはよく知られていて、明白だ」とし、悪意を持った人たちが人口の大多数がムスリムと知られるダゲスタン地域の人たちを刺激したと主張した。
これに対し米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は「ロシアはいつも問題が生じるたびに他の人に責任をなすりつけて外部の責任にする」とし「西側は今回の件といかなる関係もない」と反論した。
また「プーチン大統領は安保当局者らと会議をしたというが、ロシア政府は静かだ」とし、プーチン大統領がデモ隊を批判しない点を指摘した。
●ロシア南部でイスラエル批判の群衆が暴徒化… 10/31
イスラム教徒が多く住むロシア南部のダゲスタン共和国で、パレスチナ自治区ガザを攻撃するイスラエルを批判する群衆が暴徒化した原因を巡り、ロシアのプーチン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が30日、非難合戦を展開した。
プーチン氏は閣僚らとの会議で、暴動について「SNSなどを通じて、ウクライナ領内からも含め、西側の情報機関に触発された」と具体的な根拠を示さず主張した。これに対し、ゼレンスキー氏は夜のビデオ演説で、露国内で反ユダヤの動きが表面化したことを「憎悪と堕落がはびこり、統制が取れない事態になっている」と非難した。
ダゲスタン共和国の空港では29日夜、イスラエルのテルアビブから到着した旅客機の乗客を標的に、反ユダヤを訴える住民らが滑走路などになだれ込んだ。治安部隊が出動し、20人以上が負傷した。
●ロシア侵攻を「猫のケンカ」扱い…『通販生活』が謝罪 10/31
10月30日、雑誌『通販生活』を発行するカタログハウスは、ロシアによるウクライナ侵攻を猫のケンカにたとえた2023年冬号の表紙について、表現が不適切だったとして在日ウクライナ大使館に謝罪したと発表した。同号の店頭販売は取りやめる予定という。
10日、『通販生活』のX(旧Twitter)公式アカウントで告知された2023年冬号の表紙には、銃を構える兵士を映したモニターを猫が眺める構図の写真を掲載。その下には以下の文言が並んでいた。
《プーチンの侵略に断じて屈しないウクライナの人びと。がんばれ、がんばれ、がんばれ。守れ、守れ、守れ。殺せ、殺せ、殺せ。殺されろ、殺されろ、殺されろ。人間のケンカは「守れ」が「殺し合い」になってしまうのか。ボクたちのケンカはせいぜい怪我くらいで停戦するけど。見習ってください。停戦してください》
この表紙画像は拡散され、SNSで違和感を訴える声が続出する事態に。在日ウクライナ大使館は、27日、Xの公式アカウントで、こう抗議していた。
《在日ウクライナ大使館はこのような呼びかけ及び例えを、日本国民及び日本政府の立場に矛盾するものとして強く非難します。ロシアは侵略国家であり、ウクライナから直ちに撤退すべきです。主権国家に対する侵略戦争はケンカではありません。侵略者を宥めることは終戦に導きません。》
30日夜、カタログハウスは同社のホームページで見解を公表。以下のように謝罪した。
《『殺せ』『殺されろ』の主語は決して『ウクライナの人びと』ではなく、戦争の本質を表現したつもりです。どちらの側に理があるにせよ、『殺せ』は『殺されろ』の同義語になってしまうから、勃発した戦争は一日も早く終結させなくてはいけない。そんな思いを託して、このように表現しました。つたない表現で誤解を招いてしまったことをお詫びします。》
SNSでは、カタログハウスの謝罪文にも批判的な声が多くあがっている。
《つたないとか誤解とか言い訳がましい》
《謝罪文とか言ってるようだが、単なる言い訳じゃん 「戦争」を“ケンカ”扱いする時点でお花畑過ぎるゎ》
《あの醜悪な表紙を「つたない表現」とはね。炎上したから、とりあえず謝ってます感がすごいわ》
カタログハウスは《ウクライナ、そしてパレスチナ・ガザ地区において一日も早い平和が訪れることを願い、これからも非戦の特集に取り組んでまいります》としている。
●JICA、ウクライナで業務再開 10/31
上川陽子外相は31日の記者会見で、ウクライナ情勢の悪化に伴い一時閉鎖していた国際協力機構(JICA)の現地事務所について、11月1日からの業務再開を発表した。「支援を迅速かつ着実に実現していくため、現地の拠点となる事務所の再開が不可欠だ」と説明。その上で「日本らしいきめの細かい支援を実施し、復旧・復興への歩みを力強く推進する」と強調した。
●ウクライナ、黒海沿岸へ穀物輸送急増 新たな輸出回廊が機能 10/31
ウクライナの鉄道当局者は30日、黒海の新たな穀物輸出回廊が機能しており、オデーサ(オデッサ)地方の港湾に穀物を輸送する貨物車が急増していると明らかにした。
フェイスブックの投稿によると、貨物車はここ1週間で50%増加し、2676両から4032両になった。
ロシアがウクライナ産穀物の海上輸送を巡る協定を停止し、黒海が事実上封鎖されたことを受け、ウクライナは8月にアフリカやアジア向け船舶のために「人道回廊」を開設。農業当局者によると、その後にウクライナ南西沿岸からルーマニア領海を経てトルコに至る黒海航路も使用されることになった。
8月以降、新航路を経由した穀物は70万トンを超えた。農業省高官は先週、新回廊による穀物輸出は10月に100万トンを突破する可能性があると述べた。
ただ30日に発表された統計では、10月の全穀物輸出は物流問題で約50%減少した。
●ウクライナ、ロシア軍機撃墜 東部アブデーフカ周辺 10/31
ウクライナ国境警備隊は29日、激戦が続く東部ドネツク州アブデーフカ周辺で、ロシア軍機を対空ミサイルで撃墜したと表明した。スホイ25攻撃機の可能性があるという。米シンクタンク、戦争研究所は同日、ロシア軍がアブデーフカ方面に4万人を配置し、増援部隊も送っていると分析した。
ウクライナ保安局(SBU)当局者は29日、地元メディアに、同日未明にロシア南部クラスノダール地方の製油所を2機の無人機(ドローン)で攻撃したと明らかにした。製油所では昨年700万トン以上の航空燃料が製造され、軍用機に使用されていたとしている。
 
 

 

●ロシアはウクライナで成功、米支援なければ=米国防長官 11/1
オースティン米国防長官は31日、米国のウクライナ支援がなければ「プーチン氏は成功を収めるだろう」と米上院での公聴会で述べた。
また「今、ウクライナへの支援を急にやめれば、プーチン氏は一段と強くなり、やりたいようにやって成功するだけだ」とした。
●「今すぐ停戦!今すぐ停戦!」米連邦議会で“反戦”訴える抗議が相次ぐ 11/1
アメリカ連邦議会で31日、ブリンケン国務長官などが出席してイスラエルなどへの軍事支援を議論する公聴会が開催されたが、反戦を訴える傍聴者の抗議が相次ぎ、審議が中断した。
議会で証言するブリンケン氏らの後ろで、赤色に塗られた手が挙がっている。反戦を訴える団体などが、バイデン政権がイスラエルを支援し、手を血で汚していると抗議して行ったものだ。
さらに、ブリンケン氏の発言を遮るように、傍聴席にいた女性から「ガザに対する残忍な大虐殺を止めてください。アメリカは虐殺を支援している」などと停戦を求める声が挙がった。
審議が一時中断し、警察が女性を部屋から退場させるが…。
女性: パレスチナ人は動物ではない。
委員長: 公聴会を再び中断します。傍聴者の皆さんは、会場にいる人々に敬意を払って…。
女性: 今すぐ停戦!今すぐ停戦!今すぐ停戦!今すぐ停戦!
抗議は収まることなく、6回にわたって公聴会が中断する異例の事態になった。
アメリカ国内では、ガザ地区での戦闘の拡大に伴い、イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦を求める抗議活動が強まっている。
●ロシア、自国から撤退する外国企業に規制「自由な出口ない」 11/1
ロシアが自国を離れる企業に対し厳格な規制を予告した。事実上昨年2月のウクライナ侵攻勃発後ロシアに制裁を加えている西側諸国とその企業を狙った措置という分析が出ている。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は先月31日の会見で「ロシアを離れる企業は厳格な規制を適用されることになるだろう」と明らかにした。
ペスコフ報道官はロシアから撤退する企業の条件に関する質疑に、「明らかに自由な出口はありえず、政府の特別委員会が厳格に規制するだろう」と答えた。
特に西側企業に対してはより厳格な規制があるだろうと示唆した。彼は「西側がロシアを相手に行う『準戦争』を考慮すると西側企業は特別体制を適用される」と言及した。
ウクライナ侵攻後ロシアに制裁を加えている西側諸国を「非友好国」に分類し、該当国の企業に不利益を与えるという説明だ。
ペスコフ報道官によると、プーチン大統領は先月30日にダゲスタン空港で起きた反ユダヤ主義的暴力デモ関連会議で外国の内政干渉に対する対応を強化する案を議論したりもした。
プーチン大統領はこの会議で「ウクライナと西側が今回のデモを助長しロシア社会に不安を起こした」と批判した。
西側企業に対する特別規制と関連し英フィナンシャル・タイムズは「西側企業がロシアから撤退する場合、事業売却代金をルーブルで受け取ることに同意しなくてはならず、ドルやユーロで受け取ることに固執するならば海外送金が遅れたり金額損失を甘受しなければならない」と報道した。
同紙は「最近のルーブル下落を防ごうとするロシアの資本統制措置」と分析した。
しかしペスコフ報道官は「ルーブル相場とは関係ない措置」と線を引いた。続けて「ロシアは依然として外国人投資家に開放的。一部企業は離れるが別の企業はより多くの関心を見せている」と主張した。
一方、ペスコフ報道官は2024年3月のロシア大統領選挙を控え、プーチン大統領がいつ出馬宣言をするかとの質問には「まだ選挙キャンペーンは公示されていない。多くの潜在的候補者が憲法が規定した大統領候補要件を満たしている」という話で答に代えた。
●ロシア軍 ウクライナ東部で攻勢強めるも 南部では守りを強化か 11/1
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は東部の各戦線で部隊を増強するなど攻勢を強めています。一方、ウクライナ軍が反転攻勢を続ける南部では、ロシア側は精鋭とされる空てい部隊の司令官が指揮をとることになったとみられ、占領地域の守りを強化するねらいとみられます。
ウクライナ陸軍のシルスキー司令官は10月30日、SNSで「ロシア軍は、クピヤンシクで活発に活動し、バフムトでは防衛から積極的な攻勢へと移行した」と投稿し、東部のハルキウ州クピヤンシクやドネツク州バフムトでロシア軍が攻勢を強めていると指摘しました。
ロシア軍はドネツク州のウクライナ側の拠点、アウディーイウカでも部隊を増強して攻撃を続けています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は30日ロシア軍が受刑者などで構成された「ストームZ」と呼ばれる突撃部隊を激戦地に投入していると指摘していて、兵士の犠牲をいとわず攻勢を強めているとみられます。
一方、イギリス国防省は31日、ロシア軍が南部ヘルソン州で作戦指揮をとる司令官に、精鋭とされる空てい部隊の司令官で、参謀本部の評価が高い、テプリンスキー氏を新たに任命したとみられると指摘しました。
ウクライナ軍の部隊は、ヘルソン州を流れるドニプロ川でロシア側が占領する東岸に渡って反転攻勢を続けていて、イギリス国防省は「ロシアにとって、ヘルソン州の占領地域の維持が優先課題となっている」と分析しています。 
●ウクライナ製油所で火災、ロシアがインフラを攻撃 11/1
ウクライナ空軍は1日、ロシアが夜間に多数の無人機とミサイルを発射し、軍事施設と主要なインフラを攻撃したと発表した。地元当局によると製油所が被害を受けた。
空軍はイラン製無人機「シャヘド」20機のうち18機を破壊し、ミサイルも撃ち落としたとメッセージアプリ「テレグラム」に投稿した。
ウクライナ中部ポルタワ州のプロニン州軍行政府長官によると、同州のクレメンチュク製油所で火災が発生した。
「(火災は)鎮火し状況は管理下にある」とテレグラムで説明した。被害状況について情報を収集中で、これまでのところ死傷者の報告はないとした。
●ロシア軍が今年最大の砲撃、24時間で100集落以上 ウクライナ内相 11/1
ウクライナのイーホル・クリメンコ内相は1日、ロシア軍が過去24時間に100以上の集落に対し砲撃を行ったと発表した。24時間で行われた攻撃としては今年最大の規模だったとしている。
クリメンコ氏はソーシャルメディアに、「敵は過去24時間で、10州の118の集落を砲撃した。攻撃を受けた町村の数としては今年最多だ」と投稿した。
現地当局によると、東部ハルキウ州と南部ヘルソン州でそれぞれ1人が死亡した。
また、東部ドニプロペトロウシク州知事は州内の都市ニコポリでロシア軍による無人機攻撃があり、女性1人が死亡し、4人が負傷したと明らかにした。
●「1万3000両以上の車両を撃破」ロシア国防省が「侵攻以来の戦果」を発表 11/1
ロシア国防省は2023年10月29日、2022年2月のウクライナ侵攻(ロシア側は特別軍事作戦と呼称)からの戦果を発表し、侵攻開始以来、ロシア軍は1万3000両以上のウクライナ戦車やその他の装甲戦闘車両を破壊したと主張しました。
戦果の内訳はほかに、517機の航空機、253機のヘリコプター、6902基のりゅう弾砲および迫撃砲、1170基の多連装ロケット砲となっています。
この報告でロシア国防省は「特別軍事作戦開始以来、敵の車両は破壊され続けている」と述べています。
なお、ウクライナ側はほぼ毎日戦果報告を行っており、ウクライナ軍参謀本部の主張によると2023年10月31日の時点で撃破した兵器の数は、戦車5223両、装甲戦闘車両などを9834台、航空機321機、ヘリコプター324機といった数字になっています。
●国連機関“ウクライナ侵攻以降9900人以上の市民犠牲”明らかに 11/1
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、9,900人以上の市民が犠牲になったとする最新のデータを国連機関が発表した。
10月31日、ウクライナ情勢をめぐる国連安全保障理事会の会合で、ロシアの侵攻開始以降、ウクライナ全土への攻撃で9,900人以上の市民が殺害されたとする最新の集計を発表し、「毎日16人の市民が犠牲になっている」と指摘された。
そして、実際の犠牲者は「もっと多いだろう」との見方も示した。
ウクライナでは現在、ロシア軍が東部に戦力を集中して攻勢をかけているが、ウクライナ軍の反撃を受け、一進一退の攻防が続いている。

 

●ウクライナ戦争の停止、露国民7割が支持 露世論調査 11/2
「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止を決めた場合、その決定を支持するか」とロシア国民に尋ねたところ、70%が「決定を支持する」と回答したことが、露独立系機関「レバダ・センター」の10月の世論調査で分かった。プーチン政権は従来、「国民の大多数がウクライナでの軍事作戦を支持している」と主張してきたが、今回の調査結果は露国民内での厭戦(えんせん)機運の高まりを示唆した。
レバダ・センターは10月19〜25日、18歳以上の露国民約1600人を対象に世論調査を実施。結果を31日に公表した。
それによると、冒頭の質問に対し、37%が「完全に支持する」と回答。「おおむね支持する」とした33%を合わせると計70%が戦争停止を支持した。一方、「あまり支持しない」は9%、「全く支持しない」は12%で、9%は「回答困難」とした。
レバダ・センターは同時に「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止と、併合したウクライナ領土の返還を決めた場合、その決定を支持するか」との質問でも世論調査を実施。この質問形式の場合、「完全に支持する」「おおむね支持する」とした回答者の割合は計34%まで低下した。反対に「あまり支持しない」「全く支持しない」との回答は計57%に上った。残りは「回答困難」だった。
半数超の露国民が領土の返還を条件とした戦争の停止は支持できないと考えていることが明らかになった形だ。
●ウクライナ戦争の犠牲者隠すロシア 11/2
ロシアのプーチン政権は、自ら仕掛け、1年半以上過ぎた対ウクライナ戦争での正確なロシア軍兵士の死傷者の実態を明らかにしていない。クレムリンが恐らく意図的に、ウクライナでの戦死者の人数を隠そうとしていることは、広く知られている。
ロシア政府の公式統計機関である「ロススタット」は、対ウクライナ戦争での戦死者数の発表を控えていながら、ある意味で、「プーチンの戦争」におけるロシア軍の戦死者の状況について、貴重な情報を与えてくれているという。その一つが、非ロシア系や貧困地域出身兵士の死傷者数が、ロシア人兵士よりも突出している指摘である。これは米国のロシア・ウクライナ問題の専門家ポール・ゴーブル氏(元ベーカー国務長官特別顧問)の調査で明らかにされた。
統計のサブ範疇を変更
プーチン大統領が昨年2月24日、ウクライナに対する本格的な侵攻を始めた後、「ロススタット」は特別なサブ範疇(はんちゅう)としての軍の死者数の発表を中止した。しかし、この政府統計機関は、政府が政策決定に比較的正確なデータを必要としているという理由により、全体の死者数と、他の範疇に属する死者数の発表は従来通りにした。ロススタットはそうすることで、自分たちとしては発表を阻止していると思っていた数字を意図せずに公表してしまった。ロススタットは既に、早過ぎる死について性別の記載を中止して、女性を男性の中に混じりこませ、原因不明の死の割合を減らそうとしている。ロススタットは今後、こうした形での死者数の発表を完全に止(や)めてしまう可能性もあるといわれる。
ロススタットは、戦争の前には死者について、病死者と、「外的要因」による死者という二つの範疇に分けていた。病死の範疇について変更はないが、「外的要因」による死者の範疇は変更された。この範疇はここ数十年間、「事故死、自殺」と、「軍での死者」が、別々のサブ範疇になっていた。2022年2月以降、「軍での死者」というサブ範疇がなくなった。しかし、「外的要因」による死者の全体の数から事故死および自殺による死者数を差し引くことで、「軍での死者数」を導き出すことができるのだ。
ロシアの独立系調査報道メディア「インポータント・ストーリーズ(IS)」は今年夏、この方法で22年のロシア軍の戦死者の総数を計算したと発表した。同メディアは数字を公表していないが、同じ時期の地域ごとのロシアの若者戦死者数の計算を、既に完了しているという。
このISの新たな報告で特に注目すべきは、22年にはロススタットの「外的要因」の範疇に入る死者のうちでは「軍における死者」が最大となった、と結論付けている点である。18歳から29歳のロシアの若者の間では、「外的要因」による死者の40%が戦死者だ。この年代の死者では、高齢者よりも健康状態の良好な者が多いために、「病死」の範疇に入る者は比較的少なく、従ってこの年齢層の死因では、戦死が異常に高い割合を占めていることになる。こうして、戦死を隠そうとする政府の努力は無駄になってしまった。
ISの報道内容の中で、特に大きな意味を持つのは、国内の非ロシア人共和国や貧困地域でのロシア人の戦死の割合に関するISの発見である。これらの地域から動員された動員兵の数は他の地域と比べ、不釣り合いに多い。ブリヤート、北オセチア、ダゲスタン、モルドビア、マリ・エルの五つの非ロシア人共和国と、ロストフおよびオレンブルグというロシアの貧しい地方の若者の死因の70%近くが、「外的要因」の範疇に入っている。
高まる反モスクワ感情
そしてその死因は、ウクライナでの戦闘によるものである可能性が高く、ここで示されている傾向は、多数の徴兵が行われている非ロシア人および貧しい地方のロシア人の若者たちがロシア政府によって「大砲の餌」用兵士として使われ、他の地域と比べ、自分たちが不釣り合いに幅広く苦しめられている、と考える地元の人々の議論に証拠を提供することになり、彼らの民族主義感情や反モスクワ感情を煽り立てるのは、ほぼ間違いない。
●イスラエル・ハマス戦争で見え隠れするウクライナ人の「複雑な本音」 11/2
10月9日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「イスラエルを攻撃しているのはテロ組織で、ウクライナに攻撃を加えているのはテロ国家だが、本質は同じ」と話した。
イスラエルによるハマスへの攻撃が激化する一方、昨年から始まったウクライナとロシアの戦争もいまだ終わりがまったく見えていない。
そんな中で、「侵略から国を守る」側として国際社会から支援を受けるウクライナは、イスラエルによる侵攻をどう見ているのだろうか? 
イスラエルに対するふたつの評価軸
10月7日、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム武装組織「ハマス」は数千発のロケット弾でイスラエルを急襲。これに対しイスラエルは宣戦を布告した。
中東で新たに生じた大規模な戦闘「イスラエル・ハマス戦争」(以下、ガザ戦争)に世界の注目が集まる中、難しい立場に置かれている国がある。ロシア軍による侵攻と戦い続けているウクライナである。
ただでさえ、ロシア・ウクライナ戦争の長期化で、一部の西側諸国でも「支援疲れ」がささやかれるなど、国際社会における存在感がやや低下しているところだ。では、ウクライナの人々は中東の事態をどう見ているのだろうか?
ウクライナ政府は新たな戦争に対しどのようなスタンスを取ろうとしているのだろうか。ウクライナのグローバルメディア「ウクルインフォルム通信」の編集者で、現地の情報を発信し続けている日本人、平野高志氏に解説してもらった。
「今回ウクライナ政府はゼレンスキー大統領も外務省もイスラエルを支持するような発表をしていますが、それはまず何よりも『テロは根絶しなければならない』との立場からです。
ウクライナは、ロシアが民間人を狙って攻撃していることをテロと見なしています。ロシアのテロを非難する以上、ハマスのテロも非難しないわけにはいかない、という考えです。
とはいえ、ウクライナとイスラエルの関係は複雑です。特に2014年、ロシアがウクライナのクリミア半島を占領して以来、両国の見解はしばしばかみ合わないことがありました」
14年3月、ロシアはクリミア半島を占領し、次いで親露派による独立宣言が行なわれたウクライナ東部の2州を支援し続けてきた。
ウクライナ政府としては、親露派に独立宣言をさせて「併合」や武力介入を正当化する、というロシアの常套(じょうとう)手段はとうてい認められない。そこで国際法を盾にロシアを非難するわけだが、困ったことに国際社会の「無法者」はロシア以外にもいる。
そのひとつがほかでもない、イスラエルだ。同国は例えば第3次中東戦争(1967年)でシリアから奪ったゴラン高原を長期の占領の後に「併合」して今に至るが、日本も含め国際社会はいまだにそこをイスラエルの領土だとは認めていない。
そして、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸と東エルサレムにイスラエル国民の居住を進める「入植」も、国際法違反として非難を浴び続けている。
「ウクライナも、やはりイスラエルの入植は非難してきました。16年に国連安保理に入植非難決議が出された際にはウクライナも賛成を投じました。結果、棄権したアメリカ以外の14ヵ国が賛成で一致し、採択されたのです。
これにはイスラエル政府が激怒しまして、当時予定されていたウクライナの首相のイスラエル訪問を一方的に取り消してしまいました」
ちなみにこのときのアメリカの棄権≠ヘ、同国にしては珍しくイスラエルに厳しいほうの対応だったという。
「まとめると、ウクライナ政府はイスラエルに対し、ふたつの判断軸を持っているということです。テロと戦うことについては支持し、国際法を侵犯していることについては非難する。先日、政府関係者に話を聞きましたが、この立場は今回のハマスの襲撃以降も変わっていません」
一方、イスラエルはウクライナに対して、微妙に距離を置いている。
例えばハマスのテロが起きたとき、ウクライナのゼレンスキー大統領はいち早くイスラエルに弔意と連帯を表明するとともに、同国への訪問を希望したが、「今はその時ではない」と断られてしまった。平野氏はこう語る。
「話を聞いたときは、拒否するんだ!ってびっくりしましたよ(笑)。考えてみたら断る理由も想像できますが。
ゼレンスキー大統領がイスラエルを訪問したらおそらく、『ハマスとロシアは共にテロリスト集団である』といった発言をする。イスラエルのネタニヤフ政権としては、今の難しい状況の中でロシアを敵に回すのは避けたい。だから断ったのだと思います」
ウクライナ人のトラウマを呼び起こす
これまでウクライナは各国の支援を得てロシアの侵略と戦ってきた。ここで注目がイスラエルに移ると、支援が減ってしまう――そういった不安はあるのだろうか?
「支援をしている欧米の国々から『今後も支援は変わらない』と確証を得ているので、政府関係者レベルではそういった不安はないと思いますよ。ウクライナ国内の報道を見ていると、国民の関心事になっているとは思いますが。
でも、自国の心配をする以前に、ウクライナの人々もガザ戦争の報道にくぎづけになっている部分があると思います」
さて、ここでウクライナの現状について触れておきたい。首都キーウ在住の平野氏によれば、ロシア侵攻により電力などの生活インフラにまで被害を受けていた昨年と異なり、今は比較的、市民生活は安定しているそうだ。
ウクライナ国民はガザ戦争に対して、どんな見方をしているのだろうか。平野氏はこう話す。
「SNSを見る限り、10月7日の攻撃直後の反応は、イスラエルへの支持の声が目立ちました。ハマスのテロは、ロシアがウクライナの都市ブチャで行なった虐殺(昨年3月)とかぶって見えたからでしょう。
トラウマ的にショックを受けた人が本当にたくさんいたと思います。『ハマスはなんてひどいことをするんだ』と、まず感情的な反応が多かったようです」
ただ、これまでイスラエルは国際法に反してパレスチナの人々を迫害してきた歴史がある。ゼレンスキー政権も国際法違反を認めない姿勢は踏襲しているようだ。一般国民はどうか。
「ガザ地区に対するイスラエルの侵攻が始まると、パレスチナに対して共感を抱いていた人の声も少しずつ聞こえてきました。私の肌感覚ではイスラエルに対する支持の声が大きいような気がしますが、必ずしもパレスチナに対する共感がないかというとそうでもないです」
ガザ地区にいた同胞たち
イスラエルはおよそ2500年以上もの間、自国≠持てなかったユダヤ人が、1948年に国際世論の後押しを受けてパレスチナの地に建てた国である。それまでは世界各地にマイノリティとして暮らしていたわけで、その結果各地にコネクションを持っている。
中でもウクライナ、特に西部のガリツィア地方は、ユダヤ人が多く暮らしていた土地だ。ユダヤ−イスラエルとの結びつきは強く、それゆえのシンパシーもあるのだろうか。
「あると思います。こっちからイスラエルに移住した人でも、ウクライナとのコンタクトはもちろん残っていますし、その分イスラエルからの情報は入りやすくなっています。
そのほか、イスラエルで暮らしているウクライナ人も当然いますし、私の知り合いにもいます。その人たちはやはりイスラエル支持を表明していますね」(平野氏)
ただ、一筋縄ではいかない事情もある。
「実はガザ地区に約800人のウクライナ人が住んでいるそうなのです。ウクライナの大学に留学していたパレスチナ人と結婚して、一緒にガザに移住した人が多くいるらしい。
今、そのうちの300人以上がガザからの避難を希望してウクライナの外務省に訴えています。脱出できなくて困っていると報じられていますし、彼らの中には死者が出ています。政権も気をもんでいます。
その人たちの声が届くようになると、ウクライナ人のこの戦争の見方が大きく変わることもあるかもしれません」
●いたずら電話にだまされたイタリア首相「正直ウクライナ戦争に疲れた」 11/2
イタリアのメローニ首相がロシアのユーチューバーによるいたずら電話にだまされ、ウクライナ戦争に対する疲れを打ち明けたとCNNが1日に伝えた。
報道によると、「ボバン」と「レクサス」という芸名で活動するロシアのユーチューバー2人はこの日、メローニ首相との電話を録音した13分の音声ファイルを公開した。彼らは9月18日にアフリカの政治家のふりをしてメローニ首相に接近したという。
メローニ首相は彼らに「正直に言えば(ウクライナ戦争に対する)疲労度が非常に高いのが事実だ。出口を探すべき時がきた。問題は国際法に違反せず双方が受け入れられる出口を見つけること」と話した。
続けてメローニ首相はイタリアが今年12万人のアフリカ移民を受け入れたが残りの欧州連合(EU)諸国は気にもとめていないと不満を述べたりもした。「イタリアがあらゆる問題を解決すべきという非常に愚かな考えをしている」としながらだ。
イタリア首相室はこの日声明を通じ「通話が行われたのは事実であり、首相がだまされたことは遺憾」と明らかにした。
2人のユーチューバーはジョンソン前英首相、メルケル前ドイツ首相、トルコのエルドアン 大統領などにもいたずら電話を試みている。これに対し世界の指導者らと簡単に電話通話に成功した点から彼らがロシア安保機関の助けを受けたものと多くが疑っているとイタリアメディアのラ・レプブリカは伝えた。
●ウクライナ軍総司令官が危機感、戦局こう着でロシア軍再建の時間与える恐れ 11/2
クライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は1日、英誌エコノミストへの寄稿記事で、ロシアとの戦争が一進一退の消耗戦に移行しつつあり、このままではロシア側に兵力再建の時間を与えてしまうと危機感を表明した。
ザルジニー氏は「ミサイルや砲弾といった基本的な武器は引き続き大事だ。しかしウクライナ軍はこの種の戦争で局面を打開するために鍵となる能力と技術を必要としており、最も重要なのは航空兵力だ」と説明した。
ウクライナ軍が反転攻勢を開始してほぼ5カ月が経過しているが、大量の地雷を敷設したロシアの防衛ラインをなお本格的に突破できず、冬の天候悪化とともに戦局がこう着する見通しも出てきた。
ロシア軍は現在、ウクライナ東部の幾つかの地点では逆に攻勢に出ており、ウクライナ側は空爆で送電網が破壊されて、真冬に数百万人が停電に見舞われかねないと懸念している。
こうした中でザルジニー氏は、消耗戦の危険性を強調。「これはロシアに利益をもたらし、兵力を再建して最終的にウクライナの軍と国家に脅威となるだろう」と訴えた。
同氏は、ロシアの航空優勢こそがウクライナ軍の前進を困難にしていると指摘し、ロシアの防空網を圧倒するためには大規模な無人機攻撃を遂行するべきだとの見方を示した。また西側から供給される武器では、ロシアの広大な地雷原に対応するには不十分なことが分かっているとも述べた。
さらに同氏は、ウクライナ軍が予備兵力の整備を最優先に掲げているものの、国内の訓練能力や招集対象者が限られる点などの問題については、解決に向けて鋭意努力していると明らかにした。
●ロシアやOPECが演出する原油高、ロシア財政に与える影響はどれほどか? 11/2
2023年4-6月期をボトムに反発している国際原油価格。主にロシアがOPEC諸国と協調した減産によるものだが、ロシア財政にポジティブな影響を与えている。
7-9月期の連邦歳入は前年比28.5%増だが、牽引したのは石油ガス収入ではなく、所得税などの一般税収。歳入に対する原油価格の上昇分はこれから訪れる。
もっとも、原油高はロシア財政にポジティブだが、軍事費という形で浪費されており、原油高でなければ戦争の継続も国内の経済対策も打つことができない。
2022年2月に生じたロシアのウクライナ侵攻に伴って急上昇した国際原油価格(ブレント原油価格)。同年4-6月期をピークに下落に転じ、安定したが、2023年4-6月期をボトムに反発し、7-9月期の平均水準はバレル当たり86.7米ドルと、4-6月期の78.1米ドルからおおよそ11%上昇している(図表1)。
   【図表1 ブレント原油価格】
この間の国際原油価格の上昇は、主にロシアがサウジアラビアなど他の産油国と協調して原油の減産に取り組んだことで実現した。いわゆるOPECプラスは、10月4日に開催した第50回共同閣僚監視委員会(JMMC)でも、6月4日の第35回閣僚級会合で合意した2024年末までの減産方針を維持することを再確認したところだ。
他方で、ロシア産原油の価格(ウラル原油価格)は、いわゆるG7とオーストラリアによる制裁を受けて国際原油価格を下回って推移している。ただ、ロシアによる追加の自主減産に加えて、原油市況そのものの上昇もあり、ロシア産原油価格も上昇。バレル当たり60米ドルという天井を突破している。
ロシアが原油高の演出に躍起になっている最大の理由は、歳入の確保に他ならない。
ロシアの連邦歳入のおおよそ3割が、資源企業に対する課税(石油ガス収入)であることは広く知られた事実だ。ウクライナとの戦争で膨張する軍事費と国内の経済対策費を賄うために、ロシアは原油高を演出して歳入を確保する必要があるのだ。
とりわけロシアは2024年3月に大統領選を控えている。これを見据え、9月に発表された2024年の予算案は歳出が2023年から26%増える計画となった。
大企業に対する増税もあり、石油ガス収入以外の収入が大幅に増えるため、財政赤字はわずかだと政府は説明する。そうはいっても、石油ガス収入が増えるに越したことはないだろう。
それでは、2023年7-9月期に進んだ原油高は、ロシアの歳入をどれだけ押し上げたのだろうか。ロシア財務省の統計より、その様子を概観してみたい。
原油高がロシアの歳入増につながるのはむしろこれから
ロシアの7-9月期の連邦歳入は前年比28.5%増の7兆3524億ルーブルに達した。その増加をけん引したのは、むしろ石油ガス収入以外の収入(つまり所得税など一般的な税収)だった(図表2)。
   【図表2 ロシアの連邦歳入】
ロシアの2022年の実質経済成長率は2.1%減だったが、これは欧米日からの経済制裁で圧迫された民需を、軍需を中心とする公需が下支えした結果でもある。
民需そのものが強く圧迫された結果、資源企業向けを除く課税収入が減少したことが、2022年4-6月期以降に石油ガス以外の収入が下押し寄与に転じた理由だ。
もっとも、2023年4-6月期に入ると、ロシアの実質経済成長率は前年比プラスに転じており、景気は曲がりなりにも回復軌道に乗っている。
同期以降、石油ガス以外の収入は前年比で急増しているが、これは前年の急減に伴うベース効果に加えて、大企業に対する課税の強化や、高インフレによる税収増(インフレ課税)を反映した現象だと考えられる。
このように、7-9月期の歳入の動きを確認する限りにおいては、この間に進んだ原油高は、ロシアの歳入を増やす方向にはそれほど働いていないと判断される。
ただ、これは当然のことだ。なぜならこれまでのトレンドに基づけば、国際原油価格の上昇でロシアの石油ガス収入が増えるとしても、概ね1四半期のラグがあるためだ(図表3)。
   【図表3 ロシアの石油ガス収入と国際原油価格の推移】
つまり、マクロ的に考えれば、7-9月期における原油価格の上昇は、翌10-12月期の石油ガス収入の増加につながると考えられる。
10月に入って、国際原油価格は頭が重い展開となっているが、一方でパレスチナ情勢が緊迫化しており、価格の一段の上昇も意識される。そうなれば、ロシアの歳入は年明け以降も増加基調で推移すると考えられる。
ロシア軍の攻勢を阻んだ財政面の制約
他方で、話を財政収支に転じると、2023年7-9月期の財政収支は、5四半期ぶりとなる歳入超過(6517億ルーブル)となった(図表4)。歳入が増えたことに加えて、歳出が実に17四半期ぶりに前年割れ(4.8%減)となったことも、財政収支の黒字転換につながっている。
    【図表4 ロシアの財政収支】
それではなぜ、ロシアは歳出の抑制に努めているのだろうか。
筆者は戦局分析に関しては全くの門外漢だが、今年の7-9月期、ロシアとウクライナの戦争は膠着が続いた印象がある。歳出の減少が物語るように、この間にロシアは軍事費の拡大を抑制しており、そのことが財政面からロシア軍の攻勢を阻んだのかもしれない。
いずれにせよ、ロシアは何らかの歳出のカットを迫られた。
つまるところ、ロシアはウクライナとの戦争の長期化に備えて、歳出面からも財政の再建に努めているのではないだろうか。確かに原油価格は反発しているが、結局のところは水物である。資源企業に対する法人税や採掘税も引き上げたが、石油ガス収入が不安定であることに変わりはない。そのため、財政再建には歳出の抑制が不可避となる。
財政再建がある程度まで進んだ段階で、ロシアはウクライナとの戦争で攻勢に出るのかもしれない。そうでなくても、ウクライナとの戦争が続く以上、ロシアの軍事費は膨張したままであり、財政を圧迫する。
結局、原油高を演出しても、それが軍事費というかたちで浪費されれば、ロシアの財政は回るかもしれないが、経済は確実に干上がる。
原油高でなければ成り立たないロシア財政
原油高は確かにロシアの財政にポジティブな影響を与える。だが、結局のところ、ロシアの財政は原油高だから盤石であるというよりも、原油高でないと今のロシアの財政は成り立たないという解釈の方が正しいといえよう。
原油高を維持しないと、ロシアはウクライナとの戦争も継続できず、国内の経済対策も打つことができない。
他方で、他の産油国とともに減産に努めたところで、ロシアがいつまで原油高を謳歌できるかは不透明だ。世界景気は停滞が続いており、原油の需要そのものも低迷している。
それに、米財務省が10月にロシア産原油の取引を行った事業者に対して金融制裁を科するなど、先進国側もロシア産原油の価格を引き下げるべく、対策を強化してきている。
ロシアとしては、今後に備えるために、今のうちに得られるだけの石油ガス収入をとにかく確保しておきたいというところではないだろうか。 
●プーチン大統領 CTBT=包括的核実験禁止条約の批准撤回の法案に署名 11/2
ロシアのプーチン大統領は2日、CTBT=包括的核実験禁止条約の批准を撤回する法案に署名しました。プーチン大統領の署名により法律は発効し、ロシアは事実上、CTBTを離脱することになります。
プーチン氏は先月、国内に核実験再開を求める声があるとし、アメリカがCTBTを批准していないことから「理論的には批准を撤回することは可能だ」と表明。その後、上下両院が法案を可決していました。
今後の核実験再開の可能性について、外務省高官は「アメリカが核実験を実施した場合に限られる」としていますが、ロシアとしては対立を深めるアメリカをけん制する狙いがあるとみられます。
ロシアのCTBT=包括的核実験禁止条約の批准撤回について、アメリカのブリンケン国務長官は、「誤った方向への一歩」で「深く懸念している」との声明を出しました。
ブリンケン長官は、ロシアの最近の核に関する発言を「無責任だ」と指摘し、「ウクライナに対する違法な戦争を続ける中で、核のリスクを高めようとしている」と批判しています。
●ロシア、包括的核実験禁止条約から事実上離脱−プーチン氏が批准撤回 11/2
ロシアのプーチン大統領は、同国の包括的核実験禁止条約(CTBT)批准を撤回した。プーチン氏は先月、米国がCTBTを批准していないことに不満を述べていた。
1996年に国連で採択されたCTBTはこれまでにロシアを含む178カ国が批准したが、条約発効の要件とされる、核兵器または原子炉を持つ特定の44カ国全ての批准が済んでいないため世界的には未発効のままだ。米国はCTBTを署名した187カ国のうちの一つだが、上院の否決により批准はされていない。
ただ、米国はCTBTに署名して以来、条約で禁止されている核実験を行っていない。プーチン氏は以前、米国が実験を再開しない限り、ロシアがすることはないと語っていた。
ロシア下院は先月、CTBTの批准を撤回する法案を全会一致で可決していた。
●プーチン氏周辺に異変 大企業の幹部また変死 11/2
ウクライナ軍が公開した映像。塹壕(ざんごう)のすぐ近くで、ロシア軍の砲弾が爆発し、がれきが降りかかる。
ウクライナ東部のバフムト。ロシア軍の砲弾が次々と爆発し、目の前で炎が上がる。輸送車が到着し、急いで乗り込むウクライナ兵。
現在、ロシア軍はバフムト周辺で兵力を大幅に増強。防衛から一転、攻勢を強めているという。
しかし国内に目を向けると、プーチン大統領の周辺に異変が。
まず、2024年3月の大統領選。ウクライナへの侵攻に反対する元下院議員が立候補を表明し、「プーチン氏は致命的なミスを犯した。このままでは、ロシアは中国の属国になる危険性がある」と主張している。
一方、謎めいた出来事も。
プーチン氏と握手を交わす大手石油会社「ルクオイル」の前の会長。2022年9月、病院の窓から転落し死亡した。さらに10月、あとを継いだ会長も死亡したことがわかったのだ。
ルクオイルは2022年3月、ウクライナ侵攻の停止を求める異例の声明を発表。その後、およそ1年半で3人の幹部が死亡したのだ。
ロシアの独立系メディアの調査によると、7割が停戦を支持。
国内では、一定の厭戦(えんせん)機運が出始めていることを示している。
●ウクライナ反攻「期待通り進まず」=成り済まし電話に伊首相 11/2
イタリアのメローニ首相が9月、アフリカ連合(AU)高官に成り済ました人物からのいたずら電話に引っ掛かり、ロシアの侵攻に対するウクライナの反転攻勢が「期待通りに進んでいない」と懸念を示していたことが分かった。ANSA通信が1日伝えた。
メローニ氏をだましたのは、著名人への偽電話で知られるロシアの2人組「ボバンとレクサス」。録音した会話がインターネットで公開され、イタリア首相府も認めた。2人はロシア当局とのつながりが指摘される。
報道によると、電話があったのは9月18日で、2人のうち1人がAU委員長をかたった。メローニ氏はウクライナ情勢を巡り、「皆、とても疲れている。出口が必要だと理解する時が近づいている」と述べ、「国際法を踏みにじらずに(ロシア、ウクライナ)双方が受け入れ可能な解決策が見つかるかが問題だ」と語った。
●プーチン氏死亡のデマはロシアが流布、ウクライナ情報機関 11/2
先月出回ったプーチン大統領死亡説について、ウクライナの国防省情報総局のアンドリー・ユソフ報道官は、デマはロシア政府が流布したとの考えを示した。
ウクラインスカヤ・プラウダによると、1日、ウクライナのラジオ番組のインタビューに応じたユソフ氏は、「ウクライナのリスナーにとっては甘い音楽に聞こえるが」としつつ、デマはロシア国内向けに画策されたものだと主張。目的は「社会がどのように反応するかを観察することだ。個人やエリート、メディアの反応を見るため」であり、「このようにして、諜報機関の活動の上に構築された帝国は、支配を継続する方法を学習している」と述べた。さらに「これでお終いではなく、特定の作戦であることは明らかだ」と加えた。
これとは別に、ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は、来年の大統領選の下準備との見方を示している。
ロシア大統領府は先月、ウクライナ情勢にかかわらず、次期大統領選と26年の議会選挙を予定通り実施すべきとの考えを明らかにしている。
先月26日、テレグラムのチャンネル「General SVR」は、プーチン大統領がモスクワ時間の午後8時42分、ヴァルダイにある大統領公邸で医師による蘇生の努力の甲斐なく他界したと投稿した。 同チャンネルは、プーチン氏の健康不安説や影武者説、プリゴジン氏生存説などセンセーショナルな内容をたびたび投稿することで知られる。クレムリン内部に詳しい人物が運営するとされるが、誤情報の専門家は信頼性に欠けるとしている。
それにも関わらず、死亡の噂はオーストラリア、イギリス、インドなど各国メディアによって報じられ、SNSで広く拡散された。AP通信によると、投稿は40万回視聴され、2.2万回シェアされたほか、5,000人の新規フォロワー獲得につながったという。
死亡へとつながる一連の投稿が始まったのは23日。チャンネル主は、プーチン氏の邸宅で大きな物音がしたため警備員が駆けつけると、目を白黒させて痙攣している大統領を発見したと説明。医師らは心停止と判断し、公邸内にある最新技術を備えた集中治療室で蘇生処置が施されたと投稿した。
翌日の投稿では、プーチン氏の容体は目を離せない状況にあるとしつつ、同日行われたブラジルのルーラ・ダシルバ大統領との電話会談やカバルダ・バルカル共和国の指導者との会談は、影武者がこなしたと主張した。
死亡デマの前日の25日には、過去24時間で容体が悪化し、医師らは懸命の努力を続けているものの、最悪を覚悟している旨のコメントを投稿していた。
ちなみにロシアのペスコフ大統領報道官は先週、二度にわたって噂を否定している。タス通信によると、同氏は噂を「でっち上げ」と一蹴。大統領は「問題ない」と語った。
●消耗戦は「ロシアに有利」 空軍、電子戦強化が鍵 11/2
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は1日、英誌エコノミストに寄稿し、ロシアの侵攻が互いの陣地を奪い合う消耗戦に移行しており、軍事力を回復できるロシアにとって有利な状況が生まれるとの見方を示した。局面打開のためには、空軍や通信妨害などの電子戦の強化が鍵になると訴えた。
ザルジニー氏はミサイルや砲弾などの兵器増強も重要と指摘。ロシア側の兵器を破壊するための武器や、地雷除去技術も必要とした。さらに、ロシア軍の人的損失は甚大だが武器備蓄では今後も優位性を保つとして「ロシアを過小評価すべきでない」と強調した。
●「偽情報」問題、国連で議題に 11/2
偽情報の拡散とAI(人工知能)の悪用は世界の何十億という人々に危害を及ぼす −− 国連英国代表部のスポークスパーソンがニューヨークで訴えた。
10月中旬、ニューヨークの国連本部で開かれた国連総会第4委員会で「情報」が議題に取り上げられ、英国代表部スポークスパーソンのマンゴ・ウッディーフィールド氏が「デジタルプラットフォームが生む深刻な危機」と「偽情報・誤情報の拡散による脅威」を訴えた。
「偽情報や誤情報、意図的に情報を操作しようとする企ては、世界の何十億という人々に危害を及ぼす。我々の自由を脅かし、個人と社会を害し、危機の際には人々を誤った方向に導くことをこの数週間、我々は目撃してきた」
依然続くロシアのウクライナ侵攻、そしてイスラエルとイスラム組織ハマスとの軍事衝突の勃発。昨今、プロパガンダの応酬は世界でますます激化する。
「AIは偽情報・誤情報をいかにも真実であるかのようにでっち上げ、大規模に拡散する能力を持っている」
さらに同氏は、「ロシアは安全保障理事会を偽情報のプラットフォームとして利用し」ており、「ウクライナに関する虚偽情報を広めるため、何十人という偽の証人を国連の場に呼んだ。それらが明らかにでたらめであることは、国連の専門家によって何度も証明されている」と発言。
英政府高官は、「ロシアは自らが犯している恐ろしい罪を隠蔽するため、偽情報キャンペーンを展開し、安全保障理事会における議論を貶めている」と話す。
「英国は引き続き、偽情報を見つけ次第公開し、ロシアの説明責任を問いただしていく」
英国は国連グローバルコミュニケーション局が推し進める「デジタルプラットフォームにおける情報保全の行動規範(Code of Conduct for Information Integrity on Digital Platforms)」を支持する。「加盟国はプラットフォーム同様、急速なテクノロジーの進化に責任を持って対処する必要がある。最新のテクノロジーを理解し、適切に管理して、何十億という人々が安全に利用できる環境を構築しなければならない」とウッディーフィールド氏。
「偽情報や誤情報に対抗できる手段は、信頼できる情報へのアクセス。国連には、事実に基づいた正確かつ公正な報告書を作成するという極めて重要な役割がある。だがその役割を果たすことは、毎年困難になりつつある」
国連はコンゴ民主共和国や中央アフリカ、マリ、南スーダンといった国々で平和維持活動を展開する。だがその活動は、偽情報によって脅威に直面している。
「国連加盟国は、信頼できる情報源としての国連の完全性を守っていく責任がある」(ウッディーフィールド氏)
「残念ながらいくつかの加盟国は、国連の場で有害な偽情報を拡散したり、国連に関する偽情報を拡散したりしている。国連の平和維持活動に関する偽情報は、依然として大きな懸念事項だ。平和維持部隊は極めて困難な環境で、困難な任務を遂行する使命を課せられている。その任務に関する偽情報が拡散すれば、国連スタッフにとって脅威となり、任務遂行の妨げとなる」
国連グローバルコミュニケーション局は「国連の現場活動を支援し、偽情報をいち早く正す情報研究所の開設を進めている」。英国もこの計画を支援していくという。

 

●米国、ロシアの核実験禁止条約批准撤回に「深く憂慮…無責任」 11/3
米国政府はロシアが包括的核実験禁止条約(CTBT)批准撤回案を通過させたことについて「深く憂慮する」と述べた。
トニー・ブリンケン長官は2日(現地時間)、声明を出して「不幸にもこれは我々をCTBTの発効側ではなく誤った方向に導く重大な歩みを意味する」と述べた。
ロシアのプーチン大統領は同日、CTBT撤回法案に署名した。先月5日、バルダイ・クラブ討論会での演説で「原則的には米国が条約に署名はしたが批准していないことと同様に行動することが可能」としてCTBT批准撤回の可能性に言及してから約4週間後に、実際に批准撤回を断行した。
CTBTは1996年9月の国連総会で採択されたが、核兵器を保有中または保有可能な44カ国中8カ国(米国、中国、エジプト、イスラエル、イラン、インド、北朝鮮、パキスタン)が批准していないため未だ発表されていない。ロシアと米国は1996年にCTBT条約にともに署名したが、ロシアと違って米国は批准手続きを終えておらず署名のみで批准は行っていない。
これに対し、ロシアは米国と「均衡」を合わせて批准を撤回することにしたもので、批准を撤回しても核兵器実験を行う意図はないと主張した。
ブリンケン長官は「ロシアの措置は国際軍備統制体制に対する信頼を後退させる役割しかしない」と指摘し、「我々は核兵器爆発実験とCTBTに関するロシアの最近の発言の無責任さを引き続き強調する」と説明した。
また、「ロシア当局者は批准撤回の動きが核実験再開を意味するものではないとしており、ロシアがこの言葉を守ることを促す」とし「米国はCTBT発表のために専念している」と述べた。
●岸田首相、ロシアのCTBT批准撤回に署名で「極めて遺憾」 11/3
岸田文雄首相は3日、ロシアのプーチン大統領が核実験全面禁止条約(CTBT)の批准を撤回する法律に署名し、発効させたことについて「国際社会がCTBTの発効促進・普遍化に向けて長年積み重ねてきた努力に逆行するものであり、極めて遺憾だ」と自身のX(ツイッター)に投稿した。
首相は核軍縮に向けた現実的な手法として、核爆発を伴う全ての核実験を禁じるCTBTの早期発効を重視している。首相は投稿で「現実的かつ実践的な取り組みを通じて、『核兵器のない世界』の実現に向けて引き続き全力を尽くす」と強調した。
●プーチン大統領も嘲弄した「欧州トコジラミ」…「ロシア制裁?虫が流入されない」 11/3
ロシアのプーチン大統領が西側の経済制裁に対して懸念しないという立場を示し、トコジラミ(南京虫)の出没問題をあざ笑ったと2日(現地時間)、米政治専門メディアポリティコが報じた。
この日、ポリティコはロシア国営タス通信を引用して「プーチン大統領は欧州連合(EU)の12回目の経済制裁について滑稽だ」とし「欧州のトコジラミ問題に言及した」と伝えた。
前日、プーチン大統領は「ゴミは少ないほど良い。欧州の大都市からロシアにトコジラミが入ってくる可能性はなくなった」と話したという。リトアニアが12回目の対露制裁にボタンや釘、針なども含めようとしたことに対する反応だ。
最近、フランスでは汽車や映画館など、さまざまなところでトコジラミが目撃されて市民の混乱を招いている。先月7日にはフランス全域の学校17校で空き巣が発見され、このうち7校が休校になった。
英国でも、トコジラミと推定される茶色の虫が乗客のズボンを這う動画がソーシャルメディア(SNS)を通じて広がり波紋を呼んだ。ロンドンのサディク・カーン市長は現地メディアとのインタビューで「ウィーン大学での出没は本当に懸念すべきこと」とし「パリのようなことを体験しないように当局が措置を取っている」と話した。
専門家は、新型コロナ以降、再び活発になった観光など国家間の往来が頻繁になりトコジラミが出没していると判断している。
ただ、ポリティコはプーチン大統領の発言に対して「経済制裁を全く懸念しないというプーチン大統領の発言は事実ではないだろう」とし「EUの新しい制裁はほとんどの品目を指定する可能性がある」と指摘した。
●プーチン大統領の策謀か 中東にワグネルが「参戦」へ ハマス協力 11/3
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘が激化するなど混迷する中東に、ロシアのプーチン政権が手を伸ばすのか。ハマスに協力しているレバノンの民兵組織ヒズボラに、ロシアの民間軍事会社ワグネルが防空システムの供与を検討していると米メディアが報じた。ワグネルをめぐっては、8月に創設者のプリゴジン氏が飛行機事故で死去した後、ロシア軍が統制を強めているとされる。
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は2日、ワグネルがヒズボラに対し、防空システムの供与を検討していると報じた。米政府はワグネルの動向に警戒を強めているという。
米政府当局者は同紙に、ワグネルが既に防空システムを供与したとの確認はできていないとした上で、注目していると述べた。
ワグネルは民間軍事会社としてアフリカや中東に部隊を派遣しており、内戦が続くシリアではアサド政権と協力関係を築いてきた。アサド政権を支援するイランの影響下にあるヒズボラも、シリアに多数の戦闘員を送り込み、アサド政権が内戦で優位を確立することを支えてきた。
ハマスに対して空爆や地上作戦を進めているイスラエルにとって、ヒズボラとの「二正面作戦」は避けたいところだ。ワグネルがヒズボラの軍事的な支援を行うことは痛手となる。
ワグネル創設者のプリゴジン氏は、6月に反乱を起こし、8月に飛行機事故で急死した。その後は一部がロシア軍に組み込まれるなど再編が進み、プーチン政権の影響力が強まっているとの見方がある。
プーチン大統領は10月30日、イスラエルの後ろ盾である米国が自国の覇権維持のために世界の不安定化を望み「停戦を求める国々をおとしめている」と非難した。ハマスに共感を示しつつ、ウクライナでの軍事作戦は「全世界とパレスチナの人々の運命を決める戦い」だと一方的に主張し、侵略を正当化しようとしている。
●ロシア軍 消耗戦準備か“受刑者などの部隊 突撃させる可能性” 11/3
ロシア軍は、掌握をねらうウクライナ東部の激戦地で、多くの兵士の犠牲を出しながらも再び激しい消耗戦を仕掛ける準備をしているとの見方が出ていて、抗戦するウクライナ側は警戒を強めています。
ロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の拠点アウディーイウカの掌握をねらって、多くの兵士の犠牲を出しながら攻撃を続けています。
アウディーイウカの戦況について、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は1日の分析で「ロシア軍は歩兵を中心とした、消耗の激しい地上攻撃を再び仕掛ける準備をしているとみられる」とした上で、受刑者などで構成された部隊を突撃させる可能性があるとの見方を示しました。
前線のウクライナ軍の報道官も2日、地元メディアに対して、ロシア軍がアウディーイウカ周辺で新たな攻撃に向けて部隊の増強など準備をしているとする見方を示し警戒を強めています。
一方、ロシア国防省は2日、ロシアが占拠を続けるウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所の近くで、ウクライナ側の無人機9機を撃墜したと発表しました。
またロシア外務省はザハロワ報道官のコメントを発表し、2機が近くの宿泊施設を直撃したと主張した上で「IAEA=国際原子力機関の専門家が交代する時期であり、無責任な挑発行為だ」とウクライナ側を一方的に非難するなど、揺さぶりを続けています。
●世界の耳目が中東に集中する隙に…ロシア、ウクライナ10州の118都市を爆撃 11/3
ロシアが1日(現地時間)、ウクライナの10州におびただしい量の爆弾を落とし、今年に入って最大規模の空爆を行った。イスラエルとハマスの戦争でウクライナ戦争に対する国際社会の関心が薄れている隙を狙い、全面的な圧迫に乗り出したものとみられる。
ウクライナのイゴール・クリメンコ内務相は同日、ソーシャルメディアへの投稿で「24時間にわたり敵軍が10州の118の都市と村を爆撃した」とし、「これは今年に入って一日でなされた攻撃としては最大規模」だと明らかにした。AFP通信などが報じた。ウクライナには24州と3つの特別行政区域があるが、このうち40%程度が攻撃を受けたわけだ。ロシア軍の攻撃は東部と南部戦線に集中しているが、比較的攻撃が少なかった中部地域の産業施設も空爆の被害を受けた。
ウクライナ空軍は、ロシア軍がドローンとミサイルを動員して中部ポルタバ州を攻撃したとし、この地域を狙ったドローン20機のうち18機とミサイル1発を撃墜したと発表した。ユーリ・イナート空軍報道官は「ポルタバ州に(一日の間に)数回にわたる空爆があった」と説明した。
同日の攻撃で、ポルタバ州クレメンチュクにある精油施設で火事が発生し、数時間にわたる鎮火作業の末に火が消し止められたと、地元の軍政庁関係者が明らかにした。ウクライナのエネルギー省は、ポルタバ州の3つの村の電気が途絶え、基盤施設も損壊したと発表した。近隣のクロピヴニツキー地域にもドローンの破片などが落ち、鉄道用電力が途絶えた。
ロシア軍は南部のヘルソン州とニコポリ州も爆撃した。ウクライナ南部司令部のナタリア・コメニウク報道官は、昨年夏、ヘルソン州を横切るドニプロ川の東側に押されたロシア軍が、20発の空中投下爆弾で川の西側地域を攻撃したと伝えた。この川を挟んでザポリージャ原発に面しているニコポリ州ニコポリ市の住居地域も攻撃を受け、59歳の女性1人が死亡し、4人が負傷した。
最大の激戦地である東部ドネツク州では、中部の都市アウディイウカをめぐり激しい攻防が繰り広げられた。同市の軍政責任者のビタリー・バラバシ氏は「昨日だけで40回に及ぶ大規模砲撃が発生し、都市がほぼ消えるほど破壊された」とし、ロシア軍が再び集中攻撃に乗り出す準備をしていると警告した。ロシア軍は先月10日から同都市を包囲し、20日以上集中攻撃を行っている。
ウクライナの軍事アナリスト、オレクサンドル・コバレンコ氏は、「現在、ロシア軍約4万人がこの都市周辺に結集している」と伝えた。さらに「ロシア軍はこの都市の占領作戦で相当な被害を受けたが、依然として占領を試みている」とし、「これは戦術的目標というより政治的目標になった」と指摘した。
ウクライナのワレリー・ザルジニー総司令官は、冬季に入り戦争が「陣地戦」中心の新しい局面に入ったと述べた。ザルジニー総司令官は英誌「エコノミスト」に寄稿した文で、戦争局面が「素早く動く機動戦から陣地を取って消耗的な戦闘を繰り広げる段階に変わっている」とし、「このような状況は、ロシアに軍事力を再構築する機会を提供し、ロシア軍に有利に働くだろう」と指摘した。さらに「このような状況を突破するためには、ミサイルや砲弾などの基本的な兵器が必要だ」と述べ、西側に改めて兵器供与を求めた。
一方、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は同日、北大西洋条約機構(NATO)の軍事支援にもかかわらずウクライナが戦争で敗北していると主張した。さらに、ロシア軍がザポリージャ州、ヘルソン州、ドネツク州で攻勢を強化し、ウクライナ軍が大きな損失を被って「兵士の士気も低下した」と語った。
●ウクライナ最高指導者「ロシアとの戦争は行き詰まり」 11/3
ウクライナの最高司令官は、数ヶ月にわたる激しい戦闘にもかかわらず戦線はほとんど変化しておらず、ウクライナ軍はロシアとの「行き詰まり」に陥っており、差し迫った大きな進展はないことを認めた。 これは、行き詰まった軍の反撃に対するウクライナ高官によるこれまでで最も率直な評価である。
ヴァレリー・ザロズニー司令官はエコノミスト紙に「第一次世界大戦と同じように、我々は行き詰まる技術レベルに達している」と語った。 インタビュー 水曜日に発行されました。 「おそらく、うまく深く浸透することはないだろう。」
ザロズヌイ将軍は、ウクライナ軍上級司令官が戦闘が膠着状態に達したと発言したのは初めてだが、膠着状態を打破するには制空権を獲得し砲撃の効果を高めるための技術進歩が必要かもしれないと付け加えた。 同氏は、ロシア軍も前進できないと付け加えた。
同将軍は、双方の最新技術と精密兵器により、無人機の使用拡大や無人機妨害能力など、部隊が敵陣に侵入することを阻止していると述べた。 同氏は膠着状態を打破する方法として電子戦の進歩を求めた。
「私たちは新しいテクノロジーに組み込まれた力を活用する必要があります」と彼は言いました。
同将軍はまた、突破口を阻止し戦争を長引かせるために自国の軍隊を犠牲にするロシアの姿勢を過小評価しているとも述べた。 「それは私のせいだった」と彼は言った。 ロシアは少なくとも15万人の死者を出した。 他の国であれば、これほどの損失があれば戦争は止まっただろう。 ロシアにおける人的被害に関する彼の説明は、独自に検証することができなかった。
同氏のコメントは、侵攻してくるロシア軍との20か月にわたる戦いの中で、ウクライナにとって特に困難な時期に発せられた。 西側諸国がウクライナに供給した兵器はロシアの防衛を突破することができず、状況を変えることができる兵器は少数しか残されていなかった。 一部の下院共和党議員が追加支援を拒否している米国も含め、西側同盟諸国のウクライナ支援継続の意欲は低下している。
ウクライナ当局者らはまた、イスラエルとハマスの戦争が西側諸国の注意をウクライナからそらし、ロシアとの戦いに使用できる武器供給を枯渇させることを懸念している。
ウクライナは一連の反撃で、最初の侵攻で占領した領土のほぼ半分からロシア軍を追い出すことに成功したが、多くの軍事アナリストが驚いたことに、同将軍は「現段階の戦争は徐々に本格化しつつある」と述べた。ポジションフォーム。」 双方がお互いを釘付けにすることができる場所。 彼はAで評価した 9ページの記事 この記事はインタビューとともに掲載され、「出口」を見つける必要性を指摘した。
クレムリン報道官のドミトリー・S氏は次のように語った。 ペスコフ氏は木曜日、戦争は「膠着状態ではない」とし、ロシア軍は戦場で前進を続けるだろうと述べた。
ザロズヌイ将軍のコメントは、戦場での迅速な成功に対する連合国の期待を和らげようとするウクライナ当局者らの広範な努力の中で発せられ、同時にウクライナが戦場で優位に立つことができるよう軍事支援を維持するよう求めた。 火曜日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、外の世界は「成功に慣れている」と述べ、ウクライナ軍の成果が「当然のことと思われている」と不満を述べた。
国防治安局長官ローマン・コステンコ大佐は、将軍の記事には具体的にそうは書かれていなかったが、戦争が「その場での」戦闘になったという評価は、ウクライナの反撃が目標を達成することなく終了したことを認めたことを示していると述べた。目標。 ウクライナ最高議会情報委員会
これは、キエフ政府の立場として表明されたものではなく、しばらくの間、軍事アナリストの結論であった。 コステンコ氏は、ウクライナは南部で引き続き攻勢を続けているが、前進はゆっくりであると述べた。 同氏は、この記事は「勝利は明日には訪れないということを社会に知らしめた」と述べた。
コステンコ氏は、この記事は武器調達を担当する国防省に対し、戦車や大砲を含む重火器の調達に焦点を当てることは、新技術や精密兵器の探索よりも重要ではないことを指摘すべきだと述べた。 同氏は、ウクライナ軍はすでに大砲よりも無人機でロシアの大砲や装甲車両を多く破壊していると述べた。
ザロズヌイ将軍はインタビューと記事の中で、この対立は主に戦場での技術的平等の結果であり、双方とも最新のセンサーを使って軍隊や装備を探知し、先進兵器を使ってそれらを破壊したと指摘した。
同氏は、数週間にわたって繰り返しロシアの攻撃にさらされてきたウクライナ東部の都市アヴディウカの前線を訪れ、戦闘の新たな状況を理解したと述べた。 大砲と無人機を使用することで、各陣営は敵と目標の前進部隊を消耗させ、抑制することができます。
「単純な真実は、私たちは敵の行動をすべて見ており、敵も私たちの行動をすべて見ているということです」と彼は書いた。
ザロズヌイ将軍は、西側諸国が提供した兵器の有効性は、ロシアの通信妨害システムに対して脆弱なGPS航法技術を使用したため低下したと述べた。
電子戦 ロシアの能力がウクライナの能力を上回っているため、これは戦争の大部分の背後に隠れた手である。 ロシア軍は携帯電話の信号を探知し、GPSや無線周波数を妨害することができます。 ウクライナには独自の電子戦システムがあるが、兵士らはこの分野ではロシアが一貫して優位に立っていると不満を漏らすことが多い。
これは、無線が時々役に立たない環境で戦おうとするウクライナ軍の編隊がますます孤立することを意味する。
ロシアによる難読化に直面して、有効な通信設備がなければ歩兵、戦車、砲兵による支援間の調整が極めて困難であるため、ウクライナ軍は多くの場合、大規模に集結して攻撃することができない。
ロシア軍部隊もウクライナ軍の妨害により同様の問題に直面しているが、ウクライナの能力が限られているため、ロシア軍部隊がどの程度広範囲に規律を持って対応しているかは不明である。
5か月前に始まり、ウクライナ軍が南部のロシア軍を分断できるとの期待を抱いて始まった南部でのキエフの反撃は、ほぼ停止したようだ。 ウクライナ軍はロシアの防御陣地の巨大な層を突破することができなかった。
戦略国際​​問題研究センターはAに数えられます。 最終分析 8月下旬まで、ウクライナ軍は1日あたり約90メートルの速度で南下していた。
フランス戦略研究財団のティボー・フィーユ副所長は「これは戦術的な妨害だ」と述べ、ロシア軍とウクライナ軍が互いの空軍・地上軍の能力を打ち消し合っていると指摘した。 「前線には十分な時間があった。」
ザロズヌイ将軍のコメントに応えてペスコフ氏は、キエフがウクライナの勝利が見えなくなったと悟るのが早ければ早いほど、「新たな地平が早く開くだろう」と述べた。
彼が何を指しているのかは明らかではなかった。 クレムリンは長年、ウクライナがロシアへの領土割譲に同意すれば和平が実現する可能性を示唆しているが、双方が交渉による解決について話し合う意向を示す兆候はない。
ザロズヌイ将軍はまさにこの懸念を表明した。彼の軍隊が第一次世界大戦と同様の血なまぐさい塹壕戦に巻き込まれるのではないか、この戦争は何年も続く可能性があり、その兵力の多さによりロシアが有利になる可能性がある。
同氏は記事の中で、「ウクライナ軍はこの種の戦争から脱却するための基本的な軍事能力と技術を必要としている」と述べた。 これには、ロシアの防空システムを突破するためのドローンやより高度な砲兵兵器の大量使用や、ロシアが独自のドローンを飛行させるのを阻止するための妨害装置が含まれる。
ウクライナは長年西側に対し、来年中に実戦投入される予定のF-16戦闘機の取得を強く求めてきた。 しかし、ザロズヌイ将軍は、ロシアが防空能力を向上させているため、これらの兵器は戦争のこの新たな段階では以前よりも役に立たなくなるだろうと示唆しているようだ。
●ウクライナ軍「膠着状態にある」、航空優勢の確保強調…露軍は攻勢 11/3
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は1日、英誌エコノミストへの寄稿で、ロシア軍との現在の戦況は「膠着(こうちゃく)状態にある」と認め、一進一退の消耗戦に移行しているとの認識を示した。最も必要なのは航空優勢の確保だと強調した。
ザルジニー氏は、現状打破へ、ロシアが敷設した地雷の突破や、電子戦能力の強化などが必要と指摘した。戦争の長期化は「あらゆる手段で軍事力を再編成・増強しようとするロシアに有益だ」とし、ウクライナに脅威になると強調した。
31日、ウクライナ東部ドネツク州で、爆撃後に燃え上がるタンク車=ロイター
露軍は犠牲をいとわず東部ドネツク州アウディーイウカへの攻勢を続ける構えだ。米政策研究機関「戦争研究所」は1日、露軍が歩兵主導の地上攻撃を再び仕掛ける準備をしていると指摘した。受刑者らを中心とする部隊が正面から突撃する可能性があるという。
露軍はウクライナ全域への攻勢も強めている。ウクライナのイゴール・クリメンコ内相は1日、SNSで、露軍がこの24時間で「10地域の118集落を攻撃した」とし、今年に入り最大規模だと指摘した。中部ポルタワ州クレメンチュクでは攻撃を受けた製油所が炎上し、送電線も被害を受け、停電が発生した。
また、ウクライナ軍によると、ロシアの侵略開始以来、地雷や爆発物で民間人260人以上が死亡した。農作業中に被害に遭うケースも多く、事故の4分の1は農地で発生したという。
●「東部でロ軍に多大損害」 ゼレンスキー大統領 11/3
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、ロシア軍が攻勢を仕掛けている東部ドネツク州でロシア側に多大な損害を与えたと明らかにし、南部戦線では攻撃を続けていると主張した。オランダのオロングレン国防相と首都キーウ(キエフ)で会談し、各国が重要兵器の供与を決断する後押しをしたとして、謝意を示した。大統領府などが発表した。
英国防省は2日、ウクライナ軍の攻撃でロシアが先週、長距離地対空ミサイルの発射装置を少なくとも4基失った恐れがあるとの分析を発表。損失により、ロシア側の防空が弱まる可能性があるとの考えを示した。クリミア半島でも地対空ミサイル関連設備が損傷したと指摘。 
●年金基金に攻撃、7人死亡 11/3
ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部ヘルソン州出身のバシューク・ロシア上院議員は3日、ロシア側の実効支配下にある同州中部の集落チャプリンカにウクライナ軍のミサイル攻撃があり7人が死亡、9人が負傷したと明らかにした。タス通信が報じた。標的になったのは年金基金などが入居する建物という。
バシューク氏は通信アプリの投稿で、軍事活動とは関係のない建物が狙われたと指摘。「ウクライナ軍が民間インフラを攻撃するのは初めてではない」と非難した。
ヘルソン州ロシア側行政府のサリド知事は、米国製ミサイル6発がチャプリンカに撃ち込まれ、防空システムで破壊されなかった2発が命中したと説明した。
●ウクライナ向け西側供与の兵器の一部、タリバンの手に=ロ大統領 11/3
ロシアのプーチン大統領は3日、西側諸国がウクライナに供与した兵器の一部が違法な武器市場を通じて中東に流れ、イスラム主義組織タリバンに売られていると主張した。
プーチン氏は「ウクライナから中東に兵器が流れていると言われている。もちろんそうだ、売られているのだから」とし、「タリバンに売られ、そこからどこへでも流れる」と発言した。
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、西側の大国はロシア軍を打ち負かすためウクライナに数百億ドルもの武器を供与してきた。
キール世界経済研究所によると、米国はじめ西側の8つの援助大国はウクライナに少なくとも総額840億ユーロ(900億ドル)の軍事支援を約束した。
ウクライナは供与された武器を厳重に管理しているとするものの、西側の安全保障当局者の一部は懸念を示しており、米国はウクライナに対して汚職問題により広く取り組むよう求めた。
22年6月、国際刑事警察機構(インターポール)のユルゲン・ストック事務総長は、ウクライナに供与される兵器の一部が犯罪組織の手に渡る恐れがあると警告していた。
「国際組織犯罪に対抗するグローバル・イニシアティブ」が今年3月にまとめたウクライナでの戦闘と違法な武器取引に関する報告書は「現在、ウクライナ紛争地域からの武器の大量の流出はない」とした上で、現在の戦闘が終結した際にはウクライナの戦場が秩序のない新たな武器庫となる可能性があることを前例が示しているとも言及した。
●ロシア軍の防衛線・人海戦術に苦戦、拠点都市の奪還進まず… 11/3
ウクライナ軍がロシアに占領された南・東部の領土奪還を目指す大規模な反転攻勢の着手から4日で5か月となる。ウクライナ軍は主戦場と位置付ける南部ザポリージャ州一帯の戦線で、露軍の防衛線と人海戦術に手を焼き、戦況は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。東部では露軍が犠牲をいとわぬ攻勢に転じ、反攻の障害になっている。
ウクライナ軍は2日、ザポリージャ州の補給拠点都市メリトポリ方面で「敵の人員と装備に損害を与えた」と発表し戦果を強調した。
ただ、ウクライナ軍の足踏みは長期化している。ウクライナ軍がメリトポリ奪還を目指す戦線の起点オリヒウから約15キロ・メートル南方のロボティネに到達したのは8月だ。それ以降、ほとんど前進できていない。ロボティネから目的地のメリトポリまで約75キロ・メートルある。
ウクライナ軍の反攻は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアと露本土の間にある拠点都市を奪還し、クリミアを孤立させる狙いだったが、年内の実現は不可能な情勢だ。露軍がウクライナ領の約17%を占領している状況は5か月前からほぼ変化がない。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は、英誌エコノミストとの最近のインタビューで、戦況が「膠着状態にある」と述べた。総司令官が率直に苦境を認めたのは、米欧から迅速に高性能兵器の支援を受けなければ戦局を打開できないとの危機感があるためとみられる。
ウクライナ軍は10月中旬以降、南部ヘルソン州ドニプロ川東岸の露軍占領地域への渡河作戦を実施して、拠点を維持しているとみられるが露軍は抵抗している。
対する露軍は10月10日頃から東部ドネツク州アウディーイウカで攻勢に出ている。ウクライナ軍は一帯での露軍側の死傷者が5000人を超えたと主張する。露軍の損失は記録的な水準に拡大しているとされるが、露軍は部隊の追加投入を続けている。露軍がプーチン大統領の出馬が有力視される来年3月予定の大統領選に向け「戦果」を得ようとしているとの見方が根強い。
英国防省は、露軍による巡航ミサイルを使った攻撃が減少している点に注目し、ウクライナのエネルギー施設を攻撃するため温存している可能性があるとの見方を示している。
●北極圏LNG開発、外国企業の参加継続困難か ロシア主導、日本も権益 11/3
ロシア紙コメルサント電子版は3日、日本が権益の一部を持つ北極圏の液化天然ガス(LNG)開発事業「アークティックLNG2」がウクライナ侵攻を理由にした米政府の対ロ追加制裁に含まれたことで、出資する外国企業は銀行を通じた支払いができなくなり、事業への参加継続が困難になるとの見方を報じた。
同紙は、対ロ制裁を科しロシア政府から「非友好国」に指定されているフランスと日本の企業についてはプーチン政権が権益の売却などを認めない可能性が高く、撤退も容易ではないとの専門家の意見を伝えている。
タス通信によると、アーク2を主導するロシア天然ガス大手ノバテクのミヘルソン社長は3日、訪問先のウズベキスタンで、事業が縮小すればLNGの国際価格は上昇するだろうと指摘した。

 

●「世界一の富豪」がウクライナを救った…プーチン得意の「情報工作」が頓挫 11/4
なぜロシアは「ハイブリッド戦」を展開しなかったのか
もしロシアが軍事行動に出る場合、戦車などによる軍事行動とともに、サイバー攻撃も駆使する「ハイブリッド戦」を展開すると言われてきました。
ところが今回の戦況の推移を見ると、ロシア軍のサイバー攻撃が有効だったとは、必ずしも言えない状態が続きました。
たとえば2014年にロシアがクリミア半島に電撃的に侵攻して占領した際には、ウクライナ政府のコンピューター網にサイバー攻撃が仕掛けられ、政府の機能がマヒしてしまったケースがありました。
そこで今回も同じような攻撃が仕掛けられるのではないかと危惧されていたのですが、それほどの被害が出ないで済んでいます。2014年以降、アメリカがサイバー攻撃を防ぐ技術や装備をウクライナに提供していたからです。
つまり、ロシアのサイバー攻撃は、アメリカが供与した技術や装備によって防がれたというわけです。実際、どの程度の攻撃が行われたのか。
アメリカがウクライナに提供したもの
たとえばマイクロソフトは2022年4月27日に、ロシアが行ったサイバー攻撃に関するレポートを出しています。
そのレポートによれば、ロシアは実際の侵攻前から、積極的にウクライナのインフラに対するサイバー攻撃を加えていました。わかっているだけで実に237回の攻撃を行い、そのうち約40件はウクライナの数百のシステムファイルを破壊・抹消したと報告されています。
さらにロシアは原発などの発電所、空港などにサイバー攻撃を加え、その直後にミサイルなどの実際の攻撃を加えていたこともわかっています。おそらくこれは、サイバー攻撃だけではインフラ機能を破壊しきれなかったので、実際の火力による攻撃、つまり物理的な破壊に切り替えたのでしょう。
2014年とは違い、ウクライナがロシアのサイバー攻撃を防御できたのは、アメリカが提供した「相応の備え」があったからこそです。
アメリカは、2021年の10月から11月にかけて、陸軍のサイバー部隊やアメリカ政府が業務委託した民間企業の社員をウクライナに派遣し、ウクライナ政府のコンピューターシステム自体にコンピューターウイルスが忍び込んでいないかチェックしました。
その結果、鉄道システムに「ワイパー」と呼ばれるウイルスが潜んでいるのを発見、駆除しています。「ワイパー」は、普段はじっと潜んでいるだけですが、外部から指示を受けると突然作動し、システムを破壊するウイルスです。ロシアがウクライナに侵攻した際、大勢のウクライナ国民が鉄道で避難しました。
もしワイパーの存在に事前に気づかなければ、鉄道網は大混乱に陥っていたことでしょう。
最も役に立った機器
今回、ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナにとって極めて役立ったのは、アメリカのスペースXの最高経営責任者のイーロン・マスク氏が提供した「スターリンク」でしょう。
「スターリンク」は、2000基を超える小型の通信衛星を低い軌道に乗せて地球を周回させています。この衛星を使うと、ウクライナのどこにいても通信が途切れることはありません。
ロシア軍がウクライナに侵攻し、携帯電話の中継基地などを破壊したため、通信が難しくなりました。そこでウクライナの副首相がツイッター上でマスク氏に助けを求めると、いち早く通信が可能になるようにスターリンクの機器5000基以上が寄付されたというのです。
これにより、ウクライナ軍はどこにいても連絡が取れ、戦闘に大きく貢献しました。実際の戦闘と同じくらい重要なのが情報です。侵攻開始当初から、ロシアは「ゼレンスキーは首都を捨てて逃げだした。国民を見捨てた」という偽情報をSNSやメディアによって拡散してきました。
こうしたロシアの情報工作、世論や決定権者に対する影響力工作はソ連時代からの「得意技」で、KGB仕込みの工作戦術を、インターネットと組み合わせることで磨き上げてきました。
ウクライナ戦争においても当然、ロシア側の言い分を客観情報のように装って流したり、ウクライナの言い分を否定するフェイク画像をネット上で拡散したりするなどの情報戦を展開しています。
もしスターリンクがなければ…
ロシアの情報戦は、ウクライナの人々だけではなく、NATO諸国の国民はもちろん、日本や、いわゆる西側諸国全体をターゲットとしているのです。もしスターリンクがなく、ウクライナ発の情報が国民に届かなければ、ウクライナ国民は戦意を喪失していたか、ゼレンスキーを敵視するようになっていたかもしれません。あるいは周辺国も、ウクライナへの支援を打ち切っていた可能性があります。
しかしゼレンスキーは、「私は首都にいる」と他の閣僚と一緒にスマートフォンを使って「生中継」し、ウクライナ国民だけではなく、ウクライナを支援する各国の人々を安心させました。
ロシアの偽情報を自らの情報によって打ち消すという、ウクライナ戦争の情報戦を象徴するような場面でした。ゼレンスキー大統領による日々の発表が、途絶えることなく国民に、あるいは全世界に届いたのは、スターリンクの働きがあったからなのです。
さらに2022年3月にゼレンスキーが降伏を呼び掛ける偽の動画が、ロシアのSNSで拡散されるという出来事もありました。実際にゼレンスキーが喋っているかのような、一見しただけでは見分けのつかない動画です。こうした動画や画像は「ディープフェイク」と呼ばれ、新たな戦争の武器になるだろうとかねて指摘されてきました。
新しい戦争の形
「ゼレンスキー降伏勧告動画」は、誰が作ったのか明らかになっていませんが、当然ながらロシアの関与が疑われています。これまでにも、オバマ大統領やトランプ大統領が実際には言ってもいないセリフを話しているかのような偽動画が作成されてきましたが、まさにこのゼレンスキー動画は、ディープフェイクが「実戦投入」された事例となりました。
ただ、これもゼレンスキー自身が「偽物だ」と発信したことで事なきを得ました。もしこうした発信がなければ、戦況が大きく変わっていた可能性さえあります。
さらには、ウクライナの人々が地下壕(ごう)や地下鉄に避難を余儀なくされている実態、自分の部屋から爆音が聞こえる動画などを、自分のスマートフォンから発信したことも、国際世論に対する強いアピールになりました。
戦時の情報戦は、インターネットやスマートフォンによって、個人個人が発信者となり、さらには工作のターゲットにもなるということを、このウクライナ戦争はまざまざと見せつけたのです。
マイクロソフトが発表した「教訓」
マイクロソフトは2022年6月、「ウクライナの防衛 サイバー戦争の初期の教訓」というレポートを発表しています。ここでは「各国は最新テクノロジを駆使して戦争を行い、戦争そのものがテクノロジの革新を加速する」としたうえで、ロシア対ウクライナのサイバー空間の戦いから得られた結論を示しています。
レポートでは4つのポイントを取り上げています。
第1に、先にも述べた「ワイパー」攻撃のような、事前に仕込まれた脅威を見つけることの重要性。
第2に、肉眼で見えないサイバー上の脅威に対する防御を、AIなどを駆使して迅速に行うことの必要性。
第3に、ウクライナ以外の同盟国の政府を標的としたサイバー上の攻撃やスパイ活動に対する警戒。
そして第4に、サイバーを介したネットワーク、システムの破壊などの攻撃や情報窃取だけでなく、情報戦・影響力工作に留意することを挙げています。
国境もなく、目に見えない状態で日常的に行われているサイバー空間でのつばぜり合い。実際の戦地からは遠く離れている日本も、サイバー戦争については全く他人事ではありません。
ロシアが「ワクチン脅威論」を流布したワケ
特に4つ目の影響力工作には注目する必要があります。
マイクロソフトの分析によれば、開戦後にロシアは自国を有利にするためのプロパガンダ情報を拡散し、その拡散度合いは開戦前と比べてウクライナで216%、アメリカで82%拡大した、と報告しています。
しかも直接戦争にかかわる話題だけではなく、ロシアが「ワクチン脅威論」を流布し、他国の国民に自国政府に対する不信感を植え付けようとしていたことも指摘されています。目に見えないサイバー空間で、実際に戦争を行っているわけではない国に対しても、日常的に攻撃が行われている実態——。
ハイブリッド戦の時代は、軍事手段と非軍事手段の区別だけでなく、戦時と有事、さらには戦争当事国とそうでない国の境目をなくすものであり、攻撃対象も、かつてのスパイが工作対象とした政府や軍の要人、メディア関係者などに限らず、「一般市民」までも巻き込むものであることに留意しなければならない時代なのです。
ロシアのスパイが行っていたこと
一方で、ウクライナ国内ではロシアのスパイの摘発に追われました。2022年7月には検事総長とウクライナの「保安局」の長官が解任されています。両氏が管轄する機関で60人以上がロシアに協力した疑いが出たため、その責任を取らされたのです。
解任された2人はいずれもゼレンスキー大統領の側近でした。ウクライナ政府にとっては大きな痛手でした。ゼレンスキー大統領は、国民向けのビデオ演説で、「国家反逆」などの疑いで、650件を超える捜査が進められていると説明しています。
保安局とはウクライナの情報機関。ソ連時代にはKGBでした。一方、ロシアの情報機関のFSBも、もともとはソ連のKGBです。いわば仲間同士でした。
ウクライナが独立を果たした後も、ロシアのスパイだった局員が多数保安局の中に潜伏していたということなのです。熾烈(しれつ)なスパイ合戦の一端が見えました。
当初アメリカは、自らが掴んだロシアの軍事情報について、ウクライナに速報することをためらっていました。情報を加工しないでウクライナ側に伝えると、ウクライナ政府内に潜んでいるロシアのスパイが内容をロシアに伝えることで、ロシア内のアメリカの情報源が暴露されてしまうことを恐れたからです。
ウクライナ国内でロシアのスパイ網が摘発されたことで、アメリカはロシアの軍事情報を速報するようになりました。ロシアによるウクライナ侵攻でも、このようにスパイ活動が展開されていました。
スパイ活動は、時として大きく報道されることがありますが、普段は目にすることがないものです。でも、スパイ活動によって世界史が大きく書き替えられたこともあるのです。
●ワグネル反乱「詳報し過ぎ」 タス通信の社長更迭―ロシア紙 11/4
ロシア紙モスクワ・タイムズ(電子版)は3日、国営タス通信の前社長が7月に退任した内幕について、民間軍事会社ワグネルによる6月の武装反乱を「詳しく報じ過ぎた」ことが原因の更迭だったと伝えた。タスは反乱の「状況証拠」として、ワグネルが南部ロストフナドヌーを占拠する写真をいち早く配信していた。
更迭されたのは、タスを11年間率いたミハイロフ前社長。モスクワ・タイムズによると、政府関係者は「重要業務が報道ではなく、プーチン政権にとって正しい見方の周知であることをタスは忘れていた」と警告した。
●米ウクライナ支援、一部財源が枯渇 「今後は小出しに」 11/4
米政府は3日、ロシアの侵略が続くウクライナへの4億2500万ドル(約633億円)の追加軍事支援を発表した。この結果、議会が承認済みの資金枠「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)」が枯渇し、今後は大統領の権限で米軍在庫から供与できる枠組みから小出しに支援を続けるとしている。
ウクライナとイスラエル支援を一括した緊急予算案の行方も不透明感が漂い、「戦闘が続く限り支え続ける」としてきた米国のウクライナ支援に財源上の制約が急浮上してきた。
今回の内訳はロシアの無人機攻撃に対処する防空システム3億ドルをUSAIから拠出。高機動ロケット砲システム「ハイマース」の弾薬などの補充に1億2500万ドル分を「緊急時大統領在庫引き出し権(PDA)」から拠出する。
ジャンピエール大統領報道官は3日、USAIは今回の支援で使い果たすと指摘。ウクライナが戦場で必要とする武器はPDAから供与を続けるとしつつ「米国の支援能力を可能な限り引き延ばすため、より小さなパッケージで供与を始める」と述べた。ロイター通信によると、PDAは残り約50億ドル分ある。
支援の財源をめぐっては政府が10月下旬、ウクライナ支援に614億ドル、イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘が続くイスラエル支援に143億ドル、インド太平洋向け支援20億ドルなどで構成する1060億ドルの緊急予算案を議会に要請。
しかし、下院は共和党のジョンソン新議長の主導でイスラエルに絞った予算案を賛成多数で可決。親イスラエルで一致するが、ウクライナ支援に否定的な党内の空気を反映した形だ。
民主党が多数派の上院は下院の案に反対の意向。バイデン大統領も仮に両院で可決しても拒否権を行使する方針を示す。だが、開始から約5カ月を経過したウクライナ軍の反攻作戦が難航する中、ジャンピエール氏は「米国がウクライナと共にあり続けることを世界とプーチン大統領に示す必要がある」と議会に緊急予算案の早期可決を訴えた。
●「対立から協調」の岸田外交への不安 11/4
第212回臨時国会の開会に当たり、去る10月23日、岸田文雄首相が所信表明演説を行った。首相官邸発表の演説全文は、小見出し込みで8868文字、盛りだくさんの内容だが、大事な二つの言葉が含まれていなかった。
今回の所信表明演説では、「経済、経済、経済」が注目を集めたが、その陰に隠れて「新しい資本主義」が一度も出てこなかったことは注目されていない。「新しい資本主義」は岸田内閣の看板だったはずである。
好意的にみれば、これは言葉の置き換えかもしれない。「低物価・低賃金・低成長のコストカット型経済」から「持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済」への変革、そして「供給力の強化」と「国民への還元」を「車の両輪」として総合経済対策を取りまとめ、実行する決意は「新しい資本主義」の中身と言えなくもない。
党の政策変える合図か
しかし「経済、経済、経済」が、1997年5月、18年ぶりの政権交代を実現した「ニュー・レイバー」の旗手、ブレア英首相が所信表明演説で「教育、教育、教育」と連呼した故事に倣ったものだとすると、そこに別の意図を見いださざるを得ない。すなわち、ブレア首相は、サッチャリズム政策から「第三の道」への路線変更、つまり価値観の転換を含む政策変更を示すために「教育、教育、教育」と連呼したのであった。
そうだとすると、岸田首相の「経済」の連呼は、安倍晋三首相以来の、経済以外の価値観をも重視してきた自民党の政策を変えるシグナルだったことにならないか。2013年以来の日本は、経済において世界をリードする国ではなかったが、安倍首相が自由と民主、法の支配の価値観共有を基礎とする「自由で開かれたインド太平洋(FOIP=Free and Open Indo-Pacific)」の実現を世界に呼び掛け、日米豪印のQUAD首脳会議を定例化させ、アメリカをはじめとする先進7カ国(G7)がFOIPを共有するように働き掛けた。岸田首相が主催した今年5月のG7広島サミットで、首脳コミュニケに「自由で開かれたインド太平洋の重要性を改めて表明する」と明示できたのは、その成果だった。
あれから5カ月、岸田首相の所信表明演説に「自由で開かれたインド太平洋」は一度も出てこなかった。その代わりに、今回、首相は自ら「岸田外交」という語を用いた。安倍首相は、史上最長の首相在任期間において、施政方針および所信表明で「安倍外交」という語は一度も用いなかった。安倍首相はその代わりに「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を語り、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を求めた。では、「岸田外交」の中身は何か。
岸田首相は「世界を分断・対立ではなく協調に導く」のが日本の立場だと述べた。では岸田首相に問う、世界を分断・対立させているのは誰か。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナから危害を加えられずして一方的に武力攻撃を命じ、ウクライナの無辜(むこ)の市民を殺傷して飽くことがない。習近平国家主席指導下の中国は、東シナ海・南シナ海で自国の領土、領海を一方的に拡張しようとし、一秒も支配したことがない台湾を中国の領土に組み込もうとあらゆる圧力をかけ、武力行使を辞さないと公言している。金正恩総書記の北朝鮮は、世界を敵に回しつつ核武装を進め、ミサイル発射に余念がない。
岸田首相は、これらの国々、そしてその指導者を、どのようにして宗旨変えさせて、世界を協調に導くのだろうか。
自由と民主諦める恐れ
世界の分断・対立を厭(いと)わない相手の意図が変わらないのに、分断・対立を回避して協調する方法は一つしかない。こちらが主張を取り下げて相手に合わせ、相手の要求を呑(の)むことである。自由と民主、法の支配を諦めることである。
ところで、岸田首相は「経済、経済、経済」と連呼した。そうだとすると日本経済の目標達成のために、経済以外に問題があっても、アステラス製薬の幹部社員に続いて、日本のビジネスマンが「スパイ容疑」で続々と逮捕されても、中国との対立より協調を重視して経済関係促進に動かないだろうか。ロシアの天然資源のために、アメリカをはじめとする同志国と異なる対露経済外交を展開しないか。
「自由で開かれたインド太平洋」を掲げない「岸田外交」で、日本はどういう世界を創ろうとしているのか、不安を禁じ得ない。
●「価値観、文化守る戦い」 露大統領、侵攻を正当化 11/4
ロシアのプーチン大統領は3日、ウクライナで続けている軍事作戦により「われわれは自らの道徳的価値観や歴史、文化を守っている」と述べ、国の独立を懸けた歴史的な戦いと位置付けて侵攻を正当化した。4日の祝日「国民統一の日」を前に、モスクワで開かれた国の諮問機関「社会評議会」メンバーとの会合で語った。
プーチン氏は、2014年にウクライナの親ロ派政権が暴徒化した野党側デモで倒されなければ、ロシアによるクリミア半島併合も「なかっただろう」と指摘。その後に起きたウクライナ東部のロシア系住民とウクライナ政府軍の交戦を念頭に、昨年2月の侵攻開始以前にロシアは「攻撃されていた」と主張した。
ウクライナでの汚職は「事実上制度化されている」と述べ、欧米が供与した兵器が中東やアフガニスタンに横流しされていると語った。
●プーチン大統領 ウクライナ占領地域の既成事実化急ぐ考え示す 11/4
ウクライナ軍が反転攻勢を開始して5か月となるものの、こう着した状況が続く中、ロシアのプーチン大統領は、占領地域の既成事実化を急ぐ考えを示しました。
ロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州の拠点アウディーイウカの掌握をねらって、兵士の犠牲もいとわず攻撃を繰り返す一方、ウクライナ軍は南部のザポリージャ州などで反転攻勢を続けています。
イギリス国防省は3日、アウディーイウカ周辺ではロシア軍の攻撃がウクライナ側の強固な防衛に阻まれている一方で、南部では逆にウクライナ軍の部隊が、ロシア側が周到に準備した防御陣地でとどまっていると指摘しました。
その背景として、双方とも防空能力を維持していることや、1200キロに及ぶ戦線を維持するために大半の兵力が必要となり、突破口を開く部隊の編成に苦労していることを挙げています。
ウクライナがことし6月に反転攻勢を開始して5か月となるものの、こう着した状況が続く中、ロシアのプーチン大統領は3日、首都モスクワで政府の諮問機関との会合を開きました。
この中でプーチン大統領は、去年9月に一方的に併合を宣言したドネツク州やザポリージャ州などウクライナ東部と南部の4つの州について、「住民がロシア領になった恩恵をできるだけ早く実感できるようにすべきだ」と述べ、占領地域の既成事実化を急ぐ考えを示しました。
また、9年前にウクライナ南部クリミアを一方的に併合したことにも触れ、「ウクライナときょうだいのような関係ができていれば、クリミアに関連するような行動など誰も思い浮かばなかっただろう」と主張しました。
●ロシア軍 大統領選も念頭にウクライナ東部へ大規模攻撃準備か 11/4
ロシア軍はウクライナ東部の拠点アウディーイウカでさらなる大規模攻撃の準備を進めているとみられています。来年3月に行われる予定のロシアの大統領選挙も念頭に攻勢を強めているという見方も出ています。
ロシア軍は東部ドネツク州のウクライナ側の拠点、アウディーイウカで攻撃を続けていて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は3日「ロシア軍は第3弾となる大規模攻撃の準備を進めている」と指摘しました。
アウディーイウカを攻撃する思惑についてロシアの安全保障や核戦略に詳しく、現在はヨーロッパを拠点に活動するユーリー・フョードロフ氏はNHKのインタビューに対し、「政治的なものが主体だろう。プーチン大統領が掲げたドネツク州全域の占領という戦略目標の実現のために有利な条件を作ろうとするものだ」と指摘しました。
そして「プーチン大統領にとって勝利が必要となっている。勝利がないままに大統領選挙のキャンペーンを開始するのは都合がよくないということだ」と述べ、来年3月に行われる予定のロシアの大統領選挙も念頭にロシア軍が攻勢を強めているという見方を示しました。
ただ、フョードロフ氏は「軍事的にはアウディーイウカを占領してもロシア軍が先に進むにははるかに多くの兵力が必要となる。この街で終わりとなるだろう」としています。
また、ロシア軍は3日も大規模な無人機攻撃を行い、各地で被害が相次いでいます。
ゼレンスキー大統領はSNSで「冬が近づくにつれ、ロシアのテロリストはさらに被害を与えようとしている。われわれは敵に対応する」と投稿しロシア軍のインフラ施設などに対する攻撃に対抗していく考えを示しました。
●“ゼレンスキー大統領 欧米に裏切られたと感じている” 米雑誌 11/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカの雑誌「タイム」に対して「最も恐ろしいことは戦争に対する慣れだ」と述べ、大統領側近の1人は、欧米側から必要な軍事支援を受けられていないとして大統領は裏切られたと感じていると明らかにしました。
アメリカの雑誌「タイム」が10月30日付けで報じたところによりますと、ゼレンスキー大統領はことし9月、アメリカを訪問したあとに応じた取材の中で「最も恐ろしいことは戦争に対する慣れだ。戦争疲れの波が押し寄せアメリカやヨーロッパでも見られる」と述べたということです。
また、大統領の側近の1人は「タイム」に対して「欧米側は戦争に勝つ手段を与えずただ生き延びるだけの手段しか提供していない」と述べゼレンスキー大統領は欧米側に裏切られたと感じていると明らかにしました。
また、別の側近は、これまで作戦会議で雑談をしたり冗談を言ったりしていたゼレンスキー大統領について「今では最新の情報を聞いて指示を出し、そして会議の部屋を出るだけだ」と述べました。
一方、戦況が芳しくない中であってもウクライナが最終的に勝利するという大統領の抱く信念が、周囲を心配させるほどにかたくなになっていて、そのことが新たな戦略などを打ち出そうとするチームの努力を損ねているとしています。
また、記事では、ゼレンスキー大統領の訪米を前に、ホワイトハウスがウクライナが行うべき汚職対策のリストを作成するなど国防省での疑惑も伝えられた汚職の問題を解決するようアメリカ側からの圧力が強まっているとしています。
ウクライナの政権内では「仕事への監視が強まり、官僚主義がまひし、士気が下がっている」という声も出ているということです。
この記事の内容についてウクライナのポドリャク大統領府顧問は、31日地元メディアに対して「独自の視点を持つジャーナリストの主観的な見方だ」としたうえで「われわれのパートナーを裏切り者だとは考えていない」と述べ、否定しました。
●ゼレンスキー氏、「疲れ切り西側に失望」 会見の米誌報道 11/4
米週刊誌「タイム」は4日までに、ウクライナのゼレンスキー大統領と会見し、同大統領は支援国のウクライナに対する信頼をつなぎとめる絶え間ない努力を注いでいるため、疲れ切っているなどと報じた。
ゼレンスキー氏は「誰も私のようには我々の勝利を信じていない。誰もがだ」とし、「支援国にその信念をしみこませるためには私の全てのエネルギーが必要だ」と明かした。
同誌は「大統領は疲れている。時には短気になる。支援国の援助がしぼむことを心配している」とも伝えた。ウクライナでの戦闘への「疲労感は波のように寄せている。米国や欧州でこれを見ることができる」と指摘したという。
ゼレンスキー大統領は勝利にこだわっており、休戦や交渉は支持しないとも述べたとした。
イスラム組織「ハマス」とイスラエル軍との交戦に関連し、「当然、ウクライナの問題への関心は中東での事態のため薄れている」とも認めた。
タイム誌はゼレンスキー大統領の側近の話として、「大統領は西側の支援国に裏切られたとも感じている」とも伝えた。支援国は戦争の勝利に必要な手段を与えず、ただ事態を切り抜けるための手段を提供しているとの思いを抱いているとした。
長射程の米戦術ミサイル「エイタクムス」の供与決定に時間がかかり、ウクライナ側が切望していたF16型戦闘機の到着が早くても来春になるなど速度感に欠ける支援のあり方は、ロシアを利するだけとの不満につながっている。
●ロシア軍、欧州最大規模「コークス工場」の掌握狙いか… 11/4
ロイター通信によると、ロシア軍が攻勢を強めるウクライナ東部ドネツク州のアウディーイウカの当局者は3日放送の国営テレビで、露軍の次の目標は中心部に隣接する巨大なコークス工場の掌握だと明かした。露軍の音声通信の傍受で判明したという。露軍は、アウディーイウカ中心部を包囲する狙いとみられる。
欧州最大規模とされるコークス工場は、ウクライナ軍が 要塞 化しているとみられる。露軍が工場を制圧すれば、中心部への補給路を断つことにつながる。当局者は「地面が乾き、前進が可能になれば、いつでも攻撃は始まる」と語り、露軍の大規模攻撃が近く始まる可能性を示唆した。米政策研究機関「戦争研究所」も3日、露軍がアウディーイウカの北側で進軍したのを確認した。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が3日にSNSに投稿した画像から、地雷原を除去するなどの役割を担う戦闘車両「M1150 ABV」が確認された。米海兵隊や米陸軍が使用しており、ウクライナ側に供与されたものとみられる。 
●欧米、ウクライナに停戦促す動き 米NBC報道 11/4
ロシアによるウクライナ侵略で、米NBCニュースは4日、複数の米当局者らの話として、ウクライナを支援する欧米諸国がウクライナ側と停戦について「ひそかに」協議を始めたと伝えた。ウクライナ軍の反攻が進まず戦局が膠着(こうちゃく)していることや、ウクライナ軍の疲弊、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの交戦などを背景に、欧米側のウクライナ支援の余力が低下していることが背景だとしている。
NBCによると、停戦に関する欧米とウクライナの協議は、50カ国以上が参加した10月のウクライナ支援国の会合の中で行われた。ウクライナがロシアに一定の譲歩をする見返りに、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナの安全を保証し、ロシアの再侵略を防ぐ案が浮上しているという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は従来、停戦はロシアによる占領地支配の既成事実化と将来的な再侵略を招くとしてプーチン露政権との交渉を否定。ただ、ウクライナも欧米側の意向を無視できない見通しで、今後、停戦に向けた動きが表面化する可能性もある。
●和平交渉の可能性模索 欧米、ウクライナと協議 報道 11/4
米NBCニュース(電子版)は3日、欧米諸国がウクライナに対し、ロシアとの和平交渉の可能性に関する協議を持ち掛けたと報じた。
戦況がこう着状態に陥り、ウクライナ軍の兵士不足が懸念されていることに加え、イスラエルとイスラム組織ハマスによる軍事衝突を背景に、欧米の支援余力が低下しているため。複数の関係者の話として伝えた。
NBCによると、50カ国以上が参加した10月のウクライナ支援国の会合で協議された。年末から来年初めまでの和平交渉開始を視野に、ウクライナが何を譲歩するのかなどを幅広く話し合った。北大西洋条約機構(NATO)がウクライナの安全を保障し、ロシアによる再侵攻を抑止する案も出ているという。 
●辞任した露タス通信CEOは「大統領府が解任」…ワグネル報道巡り 11/4
ロシアの独立系英字紙「モスクワ・タイムズ」は3日、7月に辞任した国営タス通信のセルゲイ・ミハイロフ最高経営責任者(CEO)について、民間軍事会社「ワグネル」の反乱に関する同通信の報道に不満を持った大統領府に解任されたと伝えた。
6月に起きたワグネルの反乱で、タス通信はワグネル部隊が露南部のロストフ・ナ・ドヌーに入り、市街地などを占拠したことをいち早く写真で報じた。メディアを統括する政府高官が激怒したという。7月5日、ミハイロフ氏は自らの意思で辞任すると発表された。
露政府関係者は「タス通信はあまりに詳細で迅速だった。彼らの仕事は報道ではなく、クレムリンのため正しい物語を作ること」と語ったという。ミハイロフ氏は勲章を受けるなど、プーチン大統領に近いとされていた。
●ウクライナ「脇に追いやられている」 ガザ情勢注目で懸念 ゼレンスキー氏 11/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、首都キーウ(キエフ)で記者会見し、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が国際社会の耳目を集める中、「ウクライナは脇に追いやられている」と述べ、対ウクライナ支援低下の可能性に懸念を示した。
ウクライナでの戦争が注目されないようにすることが「ロシアの狙いの一つだ」とも述べ、「この困難を乗り越える」と強調した。
ゼレンスキー氏はこの日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長と会談し、ウクライナのEU加盟などを協議した。
会見に同席したフォンデアライエン氏はウクライナの加盟を巡り、司法制度などの国内改革を「素晴らしい前進だ」と評価。改革が完了した場合、加盟交渉入りという「野心的な目標を達成できると確信している」と指摘した。 
●クリミアの造船所攻撃 ウクライナ軍 11/4
ウクライナ軍は4日、ロシアが併合した南部クリミア半島のザリフ造船所を攻撃したと表明した。ロシアが創設した「クリミア共和国」のアクショーノフ首長は、ロシア軍がミサイルを迎撃し、破片が造船所の周辺に落ちたと述べた。
ウクライナはクリミアのロシア軍施設への攻撃を続けている。ザリフ造船所は半島東部に位置し、ロシア軍の艦船を建造していた。
英国防省は4日の戦況分析で、ロシア軍が東部ドネツク州アブデーフカで過去3週間に軍用車両約200台を失った可能性が高いと指摘した。歩兵による無謀な作戦に変更し、人的損失が拡大しているもようだ。

 

●欧米当局 ウクライナに停戦交渉の可能性 協議持ちかけか 11/5
ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、アメリカのメディアは欧米の当局者がウクライナに対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について協議を持ちかけていたと伝えました。一方、ロシアは東部で攻勢を強め、軍事侵攻を続ける姿勢を強調しています。
アメリカのNBCテレビは4日、アメリカ政府高官などの話として、先月行われたウクライナ支援の会合の場で欧米の当局者がウクライナ政府に対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について内々に協議を持ちかけていたと伝えました。
この中では、停戦の合意のためにウクライナ側が何を放棄する必要があるのかなどの概要についても、話があったとしています。
そして、戦況がこう着する中、ウクライナへの軍事支援が継続できるかという懸念が広がっているうえ、イスラエル・パレスチナ情勢によってウクライナ侵攻へのアメリカ国民の関心が大きく低下する中で、この協議が行われたと報じています。
これについてウクライナのゼレンスキー大統領は4日、記者会見で「報道を不快に思う。ロシアと話し合うようにと圧力をかける欧米側の指導者はいない」として、交渉を行う考えはないと強調しました。
一方、ロシア軍は軍事侵攻を続けていてイギリス国防省は4日、「ロシア指導部はわずかな領土獲得のために甚大な人的損失も受け入れる姿勢を示している」としてロシア軍は犠牲をいとわず、東部ドネツク州の拠点アウディーイウカの掌握をねらっていると指摘しています。
また、ロシアのプーチン大統領は4日、ロシアの祝日「民族統一の日」にあわせて首都モスクワで開かれた式典で献花し、その後、集まったボランティアの人たちに対し、「命を危険にさらす人への精神的な支援は重要だ」と述べウクライナの戦闘に参加する兵士をたたえ、侵攻を続ける姿勢を強調しました。
●ウクライナ大統領、和平交渉の可能性巡る欧米からの圧力説を否定 11/5
ウクライナのゼレンスキー大統領は、米国と欧州の当局者がロシアとの和平交渉の可能性について圧力をかけ始めたとする米NBCの報道内容を否定した。
ゼレンスキー大統領は欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長との記者会見で、「誰が何のためにこれを報じたのか分からない」と発言。ウクライナが数カ月にわたり反転攻勢を展開している同国東部と南東部の戦況について「膠着(こうちゃく)状態ではない」と付け加えた。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は先に、1年9カ月目に入ったロシアとの戦争が第一次世界大戦に似た消耗戦の新段階に入ったと指摘していた。
●欧米諸国がウクライナ側とロシアの和平交渉の可能性密かに協議開始 11/5
ウクライナを支援する欧米諸国が、ウクライナ側とロシアとの和平交渉の可能性について密かに協議を開始したと、アメリカメディアが報じました。
これは、アメリカ当局者の話として、NBCテレビが伝えたもので、先月、ウクライナへの軍事支援に関する国際会議などで話し合われたということです。
これについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、キーウを訪れているEU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長との共同会見で、「今、我々がロシアと交渉の座に着き、何かを明け渡すことはあり得ない」として応じない姿勢を示しました。
EUは今月8日にウクライナなどの加盟問題について報告書を公表する予定で、フォンデアライエン委員長は加盟に向けてウクライナは「大幅に前進した」と話しました。
●「プーチン大統領は1人だけ」ロシア大統領報道官“影武者”説を否定 11/5
ロシアのペスコフ大統領報道官は「プーチン大統領は1人だけだ」と述べ、“影武者”説を否定しました。
ロシアの祝日「民族統一の日」にあたる4日、プーチン大統領は「赤の広場」にある記念碑に献花しました。
ロシア正教会トップのキリル総主教ら各宗教関係者や愛国的な団体に所属する若者たちを前に、プーチン氏は特別軍事作戦と称するウクライナ侵攻に参加する兵士らへの精神的な支援が「非常に重要だ」と強調。侵攻継続に向けて国民の団結を訴えました。
「民族統一の日」に合わせて、首都モスクワでは、ロシアの各地域の伝統や産業などを紹介する大規模な展示会「ロシア」が始まりました。去年、一方的に併合したウクライナの4つの州もロシアの地域として紹介されています。
この展示会はプーチン政権下でのロシアの発展をアピールするもので、来年3月の大統領選の後まで続けられる予定だとしていて、事実上の選挙キャンペーンの一環とみられます。
一方、展示会の中で行われたイベントでペスコフ大統領報道官は「メディアやSNSでプーチン大統領の“影武者”が3人なのか4人なのかと憶測が飛び交っているが、プーチン大統領は1人だけだ」と述べ、“影武者”説を否定しました。
プーチン氏をめぐっては、これまでにW影武者W説のほか、健康不安説なども取り沙汰されています。
●プーチン氏の選挙キャンペーンか ロシアで大規模イベント開催 11/5
ロシアでは「民族統一の日」を迎え、大規模なイベントがはじまりました。プーチン大統領の選挙キャンペーンの一環と見られます。
モスクワでは4日、「民族統一の日」にあわせロシアの各地方の伝統工芸や最新技術などを紹介する大規模な展示会「ロシア」がはじまりました。
独立系メディアによりますと、この展示会はプーチン大統領就任以降の約20年間でロシアが、どれだけ発展したかをアピールしているということです。大統領選が終わる4月まで続く予定でプーチン氏の大統領選挙キャンペーンの一貫とみられています。
2022年、ロシアが一方的に併合したウクライナ4州もロシアの一部として紹介されています。
●なぜ失敗国家は「不屈のウクライナ」に豹変できたのか 11/5
ロシアがウクライナに侵攻してから、2回目の冬が近づいている。膠着気味とはいえ、ウクライナは頑強な抵抗を続けている。正直、今回の戦争がこんな形で2年目の半ばを過ぎるとは思いもしなかった。
2022年2月24日にロシア軍が国境を越えた時点で、私は短期間でウクライナはロシアに組み敷かれると予想した。不明を恥じるしかないが、当時、専門家の大半も同じような見通しを持っていたはずだ。ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領がリーダーシップを発揮して反転攻勢に出るなどと言えば、夢想家として笑い物になったことだろう。
払拭しきれなかった「失敗国家」のイメージ
当時、私は日本経済新聞社で編集委員として働いていた。開戦直後のタイミングでニュースキャスターも兼務することになった。日々のメディアチェックに加え、番組のゲストなど専門家と接する機会も多く、戦況自体はかなり詳細に把握していた。
だが、いくら情報を追いかけても、霧が晴れない気分は続いた。根っこにあったのは、長年抱いてきた「失敗国家ウクライナ」のイメージと、大国ロシアを退ける「不屈のウクライナ」の間の大きすぎるギャップだった。とても同じ国とは思えないほど、ウクライナは戦争を挟んで豹変した。なぜそんなことができたのか。
開戦前の私のウクライナ像は、日本人としては平均的なものだったと思う。
1972年生まれの私がウクライナを最初に意識したのは1986年のチェルノブイリ原発事故だった。その後、冷戦終結・ソ連崩壊の過程で「世界第3の核保有国」の処遇が焦点になったこともあり、ウクライナはぼんやりと「核」と重なるイメージの国だった。
近現代史の視点からは、ロシアとドイツという二つの大国に苛まれた受難の国と捉えていた。歴史家ティモシー・スナイダーが『ブラッドランド』(ちくま学芸文庫)で示したように、ウクライナ、ポーランド、ベラルーシの地は夥しい血を吸ってきた。
21世紀以降の印象は「失敗国家」そのものだった。2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン革命と改革の兆しが見えても、根深い汚職でまともに機能する政府を持てない国。民主化の波を警戒するロシアの影響下からいつまでも抜け出せない国。そんなイメージだ。天然ガス供給網の要であり、黒海へアクセスする世界有数の穀倉地帯という強みですら、ウラジーミル・プーチン氏の野望を引き寄せる地政学的な呪縛のように映っていた。
言葉を選ばずに言えば、私はウクライナを「呪われた地」と考えていた。まるで他人事のように。
開戦してもキーウにとどまった友人
2022年2月、その遠く離れた失敗国家の命運が、いきなり身近で、切迫したものに変わった。一人の友人が戦禍に巻き込まれる可能性が高まったからだ。
ロシアの侵攻が迫っていた2月上旬、嫌な予感がして、フリージャーナリストの古川英治氏にダイレクトメッセージを送った。
「まさか、キーウにいたりしないよね?」
私の問いかけに、すぐに「ビンゴ」と返信があった。 
「おいおい。記者根性はいいけど、さすがに逃げなさいよ。少なくとも西部に!」
「ジャーナリストじゃない、当事者だよ、おれ。妻が動かないって言うから」
天を仰いだ。古川氏は2009年にウクライナ人女性と結婚している。義母と義妹の家族も一緒で、キーウに留まる意志は固いという。
話題のノンフィクション『ウクライナ・ダイアリー 不屈の民の記録』(KADOKAWA)の著者である古川氏は、日本経済新聞の元同僚だ。古川氏は2021年、私は2023年6月に日経を退社している。2016年に私が欧州・中東・アフリカ地域の報道のまとめ役としてロンドンに赴任した時期、古川氏はモスクワ支局長を務めていた。日常的な業務連絡のついでに、1〜2時間話し込むことも度々だった。
トランプ政権や英国の欧州連合離脱がもたらすカオス、シリア内戦とプーチン政権の闇、領土問題に固執する安倍政権の融和的な対露外交の危うさなど、国際情勢をめぐる話題には事欠かなかった。海外の政府関係者や学識者に幅広いネットワークを持つ古川氏との対話は、メディアや本に頼りがちな私にとって、新鮮な刺激になった。ロンドン出張の折には、いつも我が家に立ち寄ってもらった。日本食材店「アタリヤ」の新鮮な刺身を皿いっぱいに盛り、モスクワではなかなか味わえない手巻き寿司を振る舞った。人懐こい古川氏は、すぐに私の家族の間でも人気者になった。
新聞記者として、あるいは一人の人間として、私は人並み以上に世界で続く戦禍に関心を持ち、胸を痛めてきたつもりだった。だが、友人が巻き込まれてみて、これまでの自分はあくまで傍観者にすぎなかったと痛感した。
開戦直後は首都キーウへのロシアの進軍ペースが気になり、夜中に何度も起きてニュースをチェックした。ミサイル攻撃に日本人ジャーナリストが巻き込まれたとニュースで聞いた時には胃が痛くなった。
やがてウクライナは反撃に転じ、古川氏は「当事者」からジャーナリストに戻り、ウクライナ中を飛び回って取材を再開した。時折、連絡をとり、戦地の惨状や現地の人々の暮らしぶりを聞いた。
だが、私の中でくすぶる「なぜウクライナは豹変できたのか」というビッグクエスチョンを突っ込んで話し合うことはなかった。古川氏が2022年秋に一時帰国した際にはロンドン時代のように自宅に招いて手巻き寿司パーティーを開いた。その時も「なぜ」には話が及ばなかった。
その時点では「これからどうなる」と戦争の行方に我々の関心が集中していたからだろう。『ウクライナ・ダイアリー』を読むと、この時点では古川氏の中にもまだ答えははっきりと形作られていなかったのではないかと思う。
書いて伝えなければならない「不屈の民」の姿
「原稿、読んでみて」
開戦から約1年経った2023年2月初め。古川氏から『ウクライナ・ダイアリー』の草稿が送られてきた。そこには私の「なぜ」という問いへの答えが、不屈の民の姿があった。
ロシアの理不尽な蛮行に対する怒り。
自律的に動くコサックの伝統。
自由と民主主義への渇望。
国土・郷土への愛着。
勇気とユーモア。
ウクライナの民とは、こんな人々だったのか。小泉悠氏の『ウクライナ戦争』(ちくま新書)など「鳥の目」で今回の戦争を捉えた好著と「虫の目」で人々を描く『ウクライナ・ダイアリー』が補い合って、パズルが一気に埋まるように疑問が氷解する思いだった。
「俺は彼らに借りがあるんだよ。何が起きたか、なんとかして伝えないと」
初稿を読んだ私に、古川氏がこんな言葉を漏らした。「彼ら」は取材したウクライナの人々を指す。
私はこの言葉を意外な思いで聞いた。5つ年上の古川氏のことを誰かに伝える時、私は「突撃取材小僧です」と説明することがある。このニックネームには「取材となればどこまでも突っ込んでいくけれど、それで満足してなかなか原稿を書かない」という含意もある。ロンドン時代は「上司」として原稿を書かせるのに苦労したものだ。
そんな男が、書かなければ、伝えなければ、と切迫感を抱いている。
だから私はあえて大幅な加筆を提案した。古川氏の個人的な想いや家族のエピソードを、もっと読みたい、特にソ連時代からウクライナの現代史を生きてきた「ママ」こと義母の物語をもっと知りたかった。
ジャーナリスティックな記述だけでも一級のドキュメンタリーにはなる。そこに古川氏自身と家族の数奇な巡り合わせが加われば、強い訴求力をもった素晴らしい読み物が生まれる。そんな予感がした。
私の無責任な期待は『ウクライナ・ダイアリー』という稀有な一冊として結実した。
「早くキーウに帰りたい」
今年も昨年と同様、一時帰国した古川氏を自宅に招いた。日経新聞の現役記者をまじえ、ご所望の手巻き寿司を囲んだ3時間ほどの間、本の話も、ウクライナの話題も、ほとんど出なかった。何を話したかほとんど忘れてしまったが、ずっと笑いっぱなしの一夜だった。
覚えているのは「早くキーウに帰りたい」という古川氏の言葉だ。安全で快適な日本より、ウクライナの方が居心地が良いという。何より、今回の戦争を機に「ネーション」として目覚めたウクライナの姿を現場で取材したいのだろう。
もうすぐウクライナは戦時下の2度目の冬を迎える。ロシアによるインフラ攻撃で電力不足が続く中、氷点下まで冷え込む日々が待っている。『ウクライナ・ダイアリー』を数回読み返した今、彼の地の厳しい冬の景色の中には、一人の友人だけでなく、その家族と友人たち、戦地で理不尽な侵略に抗う人々の姿が浮かぶ。 
いつかウクライナを訪れて、不屈の民と彼らが守りぬいた大地をこの目で確かめたい。
●EU委員長、ウクライナの加盟を目指した改革を評価 11/5
EU(=欧州連合)のフォンデアライエン委員長は、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ウクライナのEU加盟を目指した改革について、「ロシアとの戦争中でも進んでいる」と評価しました。
「(改革が)実現すれば、ウクライナは野心的目標であるEU加盟への次の段階に進めると確信しています」(フォンデアライエン委員長)
「ウクライナは組織変革を止めません。改革は続きます。新たな法律を制定し、反汚職システムを有効に機能させます」(ゼレンスキー大統領)
EUはウクライナなどの加盟についての報告書を8日に公表する予定です。それに先立ち4日、キーウを訪問したフォンデアライエン委員長は、ウクライナの改革について多くの目標を達成していることを評価し、「加盟に向けて目覚ましい前進をしている」と述べました。
ウクライナは2022年2月に、ロシアによる侵攻が始まった直後、EUへの加盟を申請し、6月には異例のスピードで加盟候補国に正式に認定されていました。汚職が問題になっていたウクライナですが、EU加盟には基準を満たす必要があり、改革を進めていました。12月のEU首脳会議でもウクライナの加盟が議論される予定です。
●ウクライナ政権と軍に不協和音 11/5
ロシアの侵攻を受けるウクライナの政権と軍の間で、対外発信や幹部人事に関して不協和音が生じている。十分な意思疎通を欠いていることがうかがわれ、失態が続けば政権の求心力低下につながる恐れもある。ゼレンスキー大統領は神経をとがらせているとみられる。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は英誌エコノミストへの1日の寄稿で「戦争は新たな段階に入りつつある。第1次世界大戦のような、変化の少ない消耗戦だ」と述べ、ロシアに有利な状況が生まれていると指摘した。
この発言について、大統領府高官はウクライナメディアに「私が軍にいたら、前線で起きていることや今後の選択肢について報道機関に話したりしない」とけん制。軍最高司令官を兼ねるゼレンスキー氏も4日の記者会見で「膠着状態ではない」と述べ、ザルジニー氏の戦況分析を否定する形となった。
ゼレンスキー氏が3日発表した特殊作戦軍の司令官人事では、交代となった前司令官が「理由が分からない。報道で(交代を)知った」と暴露した。
●ゼレンスキー氏、ガザでの戦争でウクライナへの注目薄れたと認める 11/5
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日、イスラエル・ガザ戦争によって世界の注目がウクライナでの戦争から離れていると認めた。キーウを訪れた欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長との共同記者会見で、発言した。
ゼレンスキー氏は記者会見で、「中東での戦争のため、注目が(ウクライナから)外れているのは明らかだ」と述べた。そして、世界がウクライナでの戦争に注目しなくなることは、ロシアの「目標の一つ」だと指摘した。
ウクライナ軍がロシア軍に対して6月から続けている南部での反転攻勢は、今のところ目立った成果につながっていない。
このためウクライナを支援する西側諸国の間では、戦争疲れの懸念が高まっている。一部の西側政府では、ウクライナに高性能の兵器や資金を提供し続けることへの抵抗感が募っているとも言われる。
「手詰まりではない」=ゼレンスキー氏
ゼレンスキー大統領は記者会見で、ロシアとの戦争が膠着状態に達したという見方を否定した。ロシアは世界の注目が「弱まる」ことを期待しているが、「すべては今も我々の力の及ぶところにある」と強調した。
2022年2月にウクライナ全面侵攻を開始したロシアとの戦争について、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は11月1日付の英誌エコノミストに対して、ウクライナとロシアの両軍が前線で行き詰っており、「手詰まり」の状態に達したと発言。「おそらく深く美しい前線突破はないだろう」とも、司令官は述べていた。
ザルジニー総司令官は、ロシアとの戦争が今ではお互いの位置を維持するための静的な段階に移行しつつあり、これによってロシアは「軍事力再建の猶予を得る」ことになるとも述べていた。
これについて質問されたゼレンスキー大統領は、「誰もがくたびれているし、いろいろな意見がある」と答え、さらに「しかし、手詰まり状態ではない」と言明した。
ロシアが「制空権を握っている」とゼレンスキー氏は認め、状況を変えるにはウクライナはアメリカ製のF16戦闘機や最先端の防空システムを喫緊に必要としていると強調した。
さらに、昨年にもウクライナでの戦争について「手詰まり」「膠着」といった話がしきりに飛び交ったものの、ウクライナ軍が北東部ハルキウ州や南部ヘルソン州で大きな戦果を挙げたのはその後のことだったと、ゼレンスキー氏は指摘した。
ロシアと停戦交渉に臨むよう圧力が高まっているとの報道についても、ゼレンスキー氏は否定した。
「欧州連合にもアメリカにも、どのパートナー諸国にも、ロシアと交渉し、何かをロシアに与えるよう、いま我々に圧力をかけている人は誰もいない。そんなことにはならない」
「全目標の実現が必要」=ロシア政府
これに先立ちロシア政府は2日の時点で、戦場が「手詰まり」状態にあるというザルジニー総司令官の評価に反論していた。
クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ペスコフ報道官は、「当初定められたすべての(戦争)目標は実現されなくてはならない」として、「キエフ(キーウのロシア語読み)の政権が戦場で勝てるなど、そのような可能性に言及することさえ、ばかげている」とも述べた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はこれまでに、ウクライナの反転攻勢は失敗したと繰り返している。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は今週、北大西洋条約機構(NATO)同盟諸国から新しい兵器を受け取っているにもかかわらず、ウクライナは戦争に負けつつあると発言している。
前線の状況は
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は4日、南部ザポリッジャ州で3日に第128機械化旅団「ザカルパッティア」の兵士が複数、死亡したと認め、この「悲劇」について全面的な調査を行うと述べた。
ウクライナ軍によると、ロシアのミサイル攻撃で犠牲が出たという。
ウクライナ・メディアやロシア軍事ブロガーによると、前線に近い村で行われていた勲章授与式でウクライナ兵20人以上が死亡したという。
これとは別にウクライナ軍は4日、クリミアの造船所攻撃に成功し、「開運・港湾インフラ」を破壊したと発表した。クリミア半島は2014年にロシアが併合している。
これについてロシア国営メディアはロシア国防省の発表として、クリミア東部ケルチの造船所にウクライナが撃ち込んだミサイル15発のうち13発を迎撃したものの、ロシア艦1隻が被害を受けたと伝えた。
で、ロシアが「東部ドンバス地域の町アウディイウカを襲撃する中で、おそらく装甲車約200台を失った」と指摘した。
「2023年10月初めから、この町の周辺でロシア兵数千人が死傷している可能性が高い」ともしている。
「ロシア軍指導部は引き続き、微小な領土制圧と引き換えに大量の人員を失ってもかまわないという姿勢を示し続けている」と、英国防省は述べている。
ロシア軍はこのところウクライナ東部と北東部で進軍しようとしているものの、ウクライナ軍はすべて押し戻しているという。
ロシアとウクライナ双方の言い分は、第三者による客観的な検証を受けていない。
●ウクライナへの国際的関心低下か ゼレンスキー大統領が認める 11/5
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は4日、パレスチナ自治区ガザ情勢を受け、ウクライナへの国際的な関心が低下しているのは「事実だ」と認め「ロシアの狙いの一つだ」と述べた。首都キーウ(キエフ)を訪問した欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長との共同記者会見で述べた。
ウクライナでは、関心低下に伴って欧米の支援が先細りになるのではないかとの懸念が出ている。ゼレンスキー氏は、ガザ情勢に関心が向くことを「理解できる」とした上で「われわれはウクライナにほとんど注意が払われなかった非常に困難な時期を経験し、乗り越えた。今回の難問を克服できると確信している」と強調した。
●ウクライナと支援国が不信感を持つ事態だけは避けたい 11/5
「自由民主主義の勝利」が謳われた冷戦終焉時に、アメリカの権威は絶大になった。自由主義陣営の盟主としての地位とともに、軍事力・経済力において、他の追随を許さない実力を持っていると思われた。インターネットによる産業構造の変革においても主導的な役割を果たし、蓄積された財政赤字も1990年代に改善し、21世紀初頭においてアメリカは絶頂期にあったと言える。
隔世の感がある。
2001年からの「グローバルな対テロ戦争」は、アメリカ軍を迷走させ、経済に足かせを作り、社会構造に苦悩に満ちた分断を生んだ。
屈辱のカブール完全撤退を2021年8月に完遂させた後、22年2月にロシアがウクライナに全面侵攻を開始した。アフガニスタン共和国政府のガニ大統領がいち早く首都を脱出したことを聞いて、バイデン大統領は激怒したと言われる。それに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は、迫りくるロシアの首都攻撃に屈せず、徹底抗戦を誓った。バイデン大統領は、ウクライナへの全面支援を表明した。同盟諸国もそれに続いた。
それから一年半以上がたった。今年の夏のウクライナ軍の反転攻勢は、来年秋の米国大統領選挙をにらんで、ぎりぎりのタイミングで開始されたものであった。苦戦や予測されたが、それ以上引き延ばすこともできなかった。
二カ月ほど前、進軍の速度が遅いという声もある中、私は、事情を考えれば、ウクライナ軍は善戦していると言えるのではないか、と書いた。
ただ、その後、ウクライナ軍の進軍はむしろ一層停滞した。できれば、せめて冬になる前に要衝地のトクマクまで到達したかったが、それはほぼ不可能な情勢だろう。すでに秋の泥濘期に入っている。
『TIME』誌に、勝利だけを目指して突き進むゼレンスキー大統領に対して、政権内で不安と不満が生まれていることを伝える記事が掲載され、大きな波紋を呼んでいる。
特によくないのが、ゼレンスキー大統領が「西側に失望した」と語ったと報じられていることである。
あわせて『Economist』誌にザルジニー・ウクライナ軍総司令官のインタビュー記事も公刊された。ザルジニー総司令官は、戦局が膠着常態に入ったことを認め、それは自身の責任でもあると考えている、と語った。カリスマ司令官の実直な言葉であるだけに、重たく響く。
折しも中東情勢が混迷を極め始めた。アメリカを始めとするウクライナ支援国の関心が大きくウクライナからそがれている。これはアメリカの議会でウクライナ支援懐疑派が発言力を高める効果をもたらし、さらには軍事的・財政的資源が先細りしていく可能性が出てきたことを意味するだけではない。米国の大統領選挙でバイデン大統領が再選される見込みが目立って減少し、トランプ氏のようなウクライナ支援懐疑派が勝利する可能性が高まったことまでも意味している。
アメリカは中東情勢への対応で四苦八苦している。私に言わせれば、ミスをした。イスラエルに対する眼差しが一層厳しい欧州諸国の指導者たちも、ゼレンスキー大統領も、ミスをした。
21世紀になって米欧の威信が大きく低下し、しかも成果が出ないまま、軍事的・財政的に疲弊の度を強めていく傾向が顕著だった。アメリカとその同盟諸国は、ウクライナでその流れを堰き止めたいという期待をしていた。残念ながら、現状では、大きな流れに真っ向から抗して押し戻すのは、難しい、と言わざるを得ない。
冷静になる必要がある。
私は開戦時から、「軍事専門家はウクライナの敗北は不可避だと言い、歴史家はロシアの敗北は不可避だと言っているが、双方が正しいように見える」、と言ってきた。
少しニュアンスを変えると、これは、「ウクライナは負けないが、ロシアも負けない」、と言うのと、同じである。
ロシアがウクライナを完全制圧するのは難しい。だが同時に、ウクライナがロシアを完全に駆逐することも難しい。
仮にウクライナが奪われた領地の全てを取り戻しても、なお広大な国境線にそってロシアの再侵略を防がなければならないことは、取り戻せなかったときの場合と、同じである。
国際社会の大多数はロシアの侵略を認めている。戦局の行方等の事情だけで、その事実が変わるわけではない。だが戦争の結果は、国際世論の結果で決まるわけではない。
巷ではウクライナが望めばいつでも簡単に停戦がなされて戦争が終わるかのように語る者もいるが、状況の過度の単純化は禁物である。戦争を続けるのは難しく、戦争を終わらせるのもやはり難しい。
また、せっかくウクライナとの固い団結を示して平時ではありえない努力をした支援国が、結局はウクライナからの恨みの対象になるような事態は、何としても避けなければならない。
勝利か敗北か、完全奪還か降伏停戦か、といった二者択一は、最初から存在していない。状況は常に厳しく、複雑だ。だが、全面侵攻から二回目の冬を迎えるにあたり、厳しさと複雑さは、さらにいっそう高まっている。 
●ロシアがリビアで基地創設の動き、米政府「非常に真剣に」脅威を認識 11/5
ロシアがリビア東部で軍事的プレゼンスを拡大する動きを見せている。海軍基地の創設につながる可能性があり、そうなればロシアは欧州の南に強力な足場を築くことになる。
ロシアのプーチン大統領とリビアの軍事組織「リビア国民軍(LNA)」のハフタル司令官は、9月下旬にモスクワで会談した後、防衛協定の締結に取り組んでいると、この件について説明を受けた複数の関係者が明らかにした。扱いに注意を要する問題だとして、関係者らは匿名で話した。
リビアでロシアの活動が活発になることは、米欧に新たな課題を突きつける。ウクライナ侵攻を巡るロシア政府との対立は解決の糸口が見えず、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦争が中東で拡大した場合にロシアが何らかの形で関与する可能性が警戒されている。ロシアは隣国シリアにおいて、10年にわたる内戦を通じて積極的に活動してきた。
元米リビア特使のジョナサン・ワイナー氏は、米政府がこの脅威を「非常に真剣に」受け止めていると話した。「ロシアに地中海の足場を築かせないことは、重要な戦略的目標だった。ロシアがそこに港を築けば、欧州連合(EU)全域を偵察する能力を得る」と述べた。
●ロシア正教会トップを捜査 ウクライナ保安当局 11/5
ウクライナ保安局(SBU)は4日、ロシアによる侵攻を正当化し助長したとして、ロシア正教会の最高位キリル総主教に関する捜査に着手したと表明した。キリル総主教はプーチン大統領に近く、侵攻支持の立場を表明している。
キリル総主教はロシアにいるため、身柄拘束は事実上不可能。
SBUはキリル総主教が、ロシアの軍事・政治の最高指導部に非常に近い存在だと指摘。プロパガンダのためにロシア正教会やウクライナ正教会の組織を利用し、信者に対しウクライナと戦うために団結するよう呼びかけたとしている。
●ウクライナ政権と軍に不協和音 大統領、求心力低下を警戒 11/5
ロシアの侵攻を受けるウクライナの政権と軍の間で、対外発信や幹部人事に関して不協和音が生じている。十分な意思疎通を欠いていることがうかがわれ、失態が続けば政権の求心力低下につながる恐れもある。ゼレンスキー大統領は神経をとがらせているとみられる。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は英誌エコノミストへの1日の寄稿で「戦争は新たな段階に入りつつある。第1次世界大戦のような、変化の少ない消耗戦だ」と述べ、ロシアに有利な状況が生まれていると指摘した。
この発言について、大統領府高官はウクライナメディアに「私が軍にいたら、前線で起きていることや今後の選択肢について報道機関に話したりしない」とけん制。軍最高司令官を兼ねるゼレンスキー氏も4日の記者会見で「膠着状態ではない」と述べ、ザルジニー氏の戦況分析を否定する形となった。
ゼレンスキー氏が3日発表した特殊作戦軍の司令官人事では、交代となった前司令官が「理由が分からない。報道で(交代を)知った」と暴露した。
●欧米当局者、ウクライナに停戦交渉の可能性について協議もちかけ 11/5
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、さらに、中東情勢の緊迫化で関心も低下する中、アメリカのNBCは4日、アメリカ政府高官らの話として、欧米の当局者がウクライナに対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について協議をもちかけていたと報じました。NBCによりますと、この中には停戦のために、ウクライナが何を諦めなければいけないか、大まかな概要が含まれていたとしています。
協議の一部は、先月開かれたウクライナ支援のための会合で行われたということです。
ロイター通信によりますと、この報道に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、今はロシアと停戦について交渉するときではないという姿勢を改めて示しました。
また、「EUやアメリカの首脳らの誰からも、停戦交渉に応じるよう圧力はかけられていない」としています。
●ゼレンスキー氏、停滞する戦況に「膠着ではない」と強調…「支援疲れ」警戒 11/5
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4日、ロシア軍との戦況が膠着(こうちゃく)しているとしたウクライナ軍総司令官の分析を「今の状況は膠着ではない」と否定した。米欧各国の「支援疲れ」を招くことを警戒している模様だ。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は1日、英誌エコノミストへの寄稿で、消耗戦に移行しているとの認識を示していた。一方、英BBCなどによると、ゼレンスキー氏はキーウで開いた記者会見で「様々な意見があるが、これは膠着ではない」と強調した。また、中東情勢の緊迫に伴うウクライナへの関心低下について認め、「それがロシアの狙いの一つだ」と述べて支援の継続を求めた。
戦況を巡っては、米NBCニュースが4日、米政府高官らの情報として、米欧の当局者が10月、ロシアとの停戦の可能性についてウクライナと協議を始めたと報じた。ゼレンスキー氏は記者会見で、この報道にも言及して「ロシアと協議するよう圧力をかける欧米やパートナーの指導者は一人もいない」と否定した。
NBCは、協議の背景には、戦況の停滞や米欧が支援を継続できるかという疑問があると伝えている。バイデン米大統領は、兵士の大量動員が可能なロシアに対し、ウクライナ軍がいずれ兵力不足に陥る可能性を危惧しているという。
一方、ウクライナ空軍は4日、クリミア半島のケルチの造船所へのミサイル攻撃に成功したと発表した。高精度巡航ミサイル「カリブル」を搭載できる最新鋭艦が停泊していたという。ロシアのインターファクス通信によると、露国防省は、ウクライナ軍が4日にケルチに巡航ミサイル15発を発射し、1発が艦船1隻に損傷を与えたと発表した。艦名は明らかにしていない。
ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、露軍は4日、短距離弾道ミサイル「イスカンデル」などで東部ドニプロペトロウシク州や中部ポルタワ州などを攻撃した。

 

●ゼレンスキー大統領「トランプ、ウクライナに来てみてほしい」 11/6
ウクライナのゼレンスキー大統領が20カ月間続くロシアとの戦争に対して「膠着状態に陥ったとは考えていない」として米国や友邦の支援を求めた。戦争を24時間内に終わらせることができると主張したトランプ前米国大統領には「ウクライナに来て見るよう招待する」と言って反論した。
ゼレンスキー大統領は5日(現地時間)、米国NBC放送とのインタビューに出演して「相手は我々を窮地に追い込んだと考えているようだが、そのようなことは起きていない」と話した。ゼレンスキー大統領のこの言葉はウクライナの勝利の可能性に疑問を呈して戦争が膠着状態に陥っていると話した米国軍関係者や同盟国の一部の主張を一蹴する発言だ。実際、最近数週間にわたり、両国の戦争は東部ドンバス地域で押して押し戻される戦闘を繰り返している。
ゼレンスキー大統領は「我々はさらに早く進軍してロシアを不意打ちできるようなさまざまな作戦を立てている」と話した。ただし、防空作戦のためにはドローンが必要だと訴えた。また「我々が防空システムを生産する間だけでも、全世界、米国、欧州、アジアはドローンを借してほしい」とし「特に冬は非常に厳しい時期」と求めた。
あわせてトランプ氏に対して「24時間内に戦争を終わらせることができると言ったことは歓迎する」としつつも実現の可能性に関しては距離を置いた。これに先立ち、トランプ氏は来年大統領選挙で再選すればウクライナ戦争を24時間内に終わらせることができると主張した。
ゼレンスキー大統領は「ウクライナに実際に来てみてこそ知ることができることがある」とし「バイデン大統領は来たことがあるのでトランプ氏も招待する」と話した。続いて「もしここに来ればなぜトランプ氏が戦争を終わらせることができないのか説明できるが、24分あれば充分だろう」と付け加えた。
この日のインタビューでゼレンスキー大統領はプーチン大統領を「滅びるテロリスト」と呼び、ロシアはもちろん北朝鮮やイランがイスラエルと戦争を行うパレスチナ武装勢力ハマスの背後にいると主張した。ロシアとの平和交渉問題に関しては「テロリストとはどんな対話もしたくない」と答えた。
最近、米国メディアは米国と欧州連合(EU)当局者がウクライナ政府にロシアとの戦争を終わらせる平和交渉のためにあきらめなければならない可能性のある懸案に言及し始めたと報じた。ゼレンスキー大統領は「米国は私がテロリストと対話する準備はできていないことを知っている」とし「我々はテロリストを信じることはできない」と否定した。
●ゼレンスキー氏がトランプ氏招待の意向「侵攻処理できぬと説明する」 11/6
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は、2024年の米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領に対し、ウクライナを訪問するよう呼びかけた。5日に放送された米NBCニュースのインタビューで語った。
ゼレンスキー氏は、トランプ氏が「私が大統領なら24時間以内に侵攻を終わらせる」と主張していることに言及。「トランプ氏を(ウクライナに)招待する」と訪問を呼びかけたうえで「ここに来ることができるなら、彼にはこの戦争を処理できない、平和をもたらすことはできないということを24分以内で説明する」と話した。
トランプ氏は米国のウクライナ支援に疑問を呈し、欧州が資金を援助すべきだと主張して米共和党の保守強硬派らに影響を与えている。ゼレンスキー氏は「もしロシアが私たちを皆殺しにしたら、彼らは北大西洋条約機構(NATO)諸国を攻撃し、あなたたちは自分の息子や娘たちを(戦場に)送ることになる」と話し、米国に対して支援継続の必要性を訴えた。トランプ氏が再選された場合、ウクライナの「後ろ盾」となるかどうかについては「分からない」としている。
●米国にウクライナ支援強化を要請、ゼレンスキー大統領 11/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日放送の米NBCテレビ報道番組「ミート・ザ・プレス」のインタビューに答え、ロシア軍と戦うウクライナ軍支援のため米国に資金供給の拡大を要請した。
インタビュー草稿によると、米国が支援を強化しない場合、最終的に米兵が欧州でロシアとのさらに大きな衝突に巻き込まれかねないと同大統領は発言。その上で「ロシアはわれわれ全員を殺せば、次に北大西洋条約機構(NATO)諸国を攻撃し、あなた方は自分の息子や娘を戦いへと送ることになるだろう」と語った。
米下院は先週、多数派を共和党が占める中、イスラエル支援に143億ドルを拠出する予算案を可決したが、ウクライナ支援の増額案は一切盛り込まれなかった。
来年の米大統領選で共和党候補として有力なトランプ前大統領はこれまでウクライナ支援を厳しく批判しており、本選挙で再選を果たせば24時間以内に戦争を終結できると表明してきた。
これに対しゼレンスキー大統領はインタビューの中で、トランプ氏に自身の目で武力衝突の規模を理解できるようウクライナに招待した。仮にトランプ氏が訪問した場合「私がこの戦争を完遂できないことを説明するのに必要な時間は24分だ。彼はプーチンのせいで平和をもたらすことができない」と話した。
●ガザの状況への怒り当然、ロシア国民は冷静に対応を=プーチン氏 11/6
ロシアのプーチン大統領は3日、パレスチナ自治区ガザの「血まみれになった子供」の映像を見て怒りがわくのは当然とした上で、国民は冷静さを保つ必要があると呼びかけた。
イスラム教徒が多数を占めるロシア南部ダゲスタン共和国の首都マハチカラで10月に起きた反イスラエル暴動について発言した。
ガザで苦しみ血まみれになっている子どもたちを見れば、怒りをぶつけたくなるのは当然だと述べた上で「しかしわれわれは冷静に対応し、悪の根源がどこにあるのかを理解すべきだ」と訴えた。
イスラエルのガザ空爆に抗議する群衆が10月29日、マハチカラの空港に押し寄せ、テルアビブから到着したユダヤ人の乗客を襲撃しようとして大混乱になった。 もっと見る
80人以上が逮捕され、プーチン氏は治安責任者との緊急会議を招集して再発防止策を協議した。
●ゼレンスキー大統領、停戦交渉の可能性を否定 「世界の疲弊は理解」 11/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日に放送された米NBCのインタビューで、ロシア側と停戦交渉するつもりがないと強調した。「彼ら(ロシア軍)は我々の領土から出ていかなければならない。その後で初めて、世界は外交のスイッチを入れられる」と述べた。
イスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が始まったこともあり、ロシアによるウクライナ侵攻への国際社会の関心は薄れつつある。NBCは4日、米政府高官らの話として「欧米の当局者がウクライナ政府と和平交渉の可能性について議論を始めた」と報じた。
だが、ゼレンスキー氏はインタビューで「米国は、私がテロリスト(ロシア側)と話す用意がないことを知っている。彼らの言葉は無に等しいからだ」と述べ、現時点ではロシア側と停戦交渉に臨む考えがないと改めて説明した。一方で、「世界の多くの人が疲弊している。当たり前のことだ。理解できる。なぜなら、長い戦争だからだ」とも指摘した。 ・・・
●南部インフラにミサイル攻撃 - ロシア軍、2週間で死亡900人 11/6
ウクライナ軍は5日、ロシア軍が南部オデッサ州のインフラ施設をミサイル攻撃し、建物が損壊したと明らかにした。職員3人が負傷し、周囲の家屋に被害が出た。ウクライナメディアが報じた。一方、米シンクタンク、戦争研究所は4日、ロシア独立系メディアなどのデータを基に過去2週間で900人超のロシア兵が戦死したと発表した。
ウクライナメディアは5日、ロシア軍が過去24時間で、50発以上の爆弾を使って南部ヘルソン州を9回空爆したと報じた。教育機関が被害を受けた。
英国防省は5日、冬を迎えると、ウクライナに展開するロシア兵士の士気が下がるとの分析を発表した。
●「西側、ウクライナと平和交渉議論」…ゼレンスキー「そのようなことはない」 11/6
米国と欧州の当局者が、ロシアとの平和交渉の可能性に対しウクライナと対話を始めたという外信報道が出た。
米NBCニュースは4日、複数の米政府当局者の話として、「この対話には交渉妥結のためにウクライナがあきらめるべき事案に対する広範囲な枠組みが含まれた」と伝えた。
これまでロシアとの平和交渉の可否は当事国であるウクライナだけ決定可能というのが西側の公式な立場だった。しかし報道の通りならばウクライナの一部譲歩を甘受してでも戦争を早く終わらせなければならないという側に西側の気流が変わったことになる。イスラエルとハマスの戦争勃発により「2つの戦争」を支援する西側の疲労感が大きくなったためという分析だ。
ウクライナは6月から領土修復を目標に大反撃に出たが、現在まで具体的な成果を出せずにいる。これと関連しウクライナ軍のザルジニー総司令官は最近エコノミストとのインタビューで「今回の戦争が第1次世界大戦方式の塹壕戦に流れる危険がある。ロシアがこうした膠着状態を戦力再整備の機会に活用できる」と警告した。
だが米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は報道に対し「現時点で(平和)交渉と関連してウクライナと進められているどんな対話も知らない」と即時否認した。
英BBCなどによると、ウクライナのゼレンスキー大統領も「時間が過ぎ人々は疲弊しているがこれは膠着状態ではない。われわれのパートナーのうちだれもロシアと向かい合い何かを与えるよう圧力をかけていない」と明らかにした。
●防空システム供与加速訴え 11/6
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、米NBCテレビとのインタビューで、制空権を握るロシアに対抗するため、各国に防空システムの供与を加速するよう訴えた。防空システムを米国と共同生産する案を検討しているとも説明した。攻撃用無人機の供与も求めた。
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ情勢に国際的な関心が集まる中、ゼレンスキー氏は防空態勢強化やF16戦闘機の投入で制空権の確保を急ぎ、停滞する反転攻勢で勢いを取り戻したい考えだ。 
●プーチン時代の「成果」アピール 博覧会で選挙運動開始 ロシア 11/6
ロシアの首都モスクワで、2000年から通算4期にわたるプーチン大統領の治世の「成果」をアピールする博覧会が始まった。
来年3月に予定される大統領選に関し、プーチン氏は態度こそ表明していないが、5選出馬が確実視される。博覧会を通じ「選挙運動」が事実上スタートしたと受け止められている。
行事は「国際博覧会・フォーラム『ロシア』」。ソ連時代に「国民経済の達成」を示す国威発揚の場として建設された常設博覧会場「VDNKh」を舞台に、来年4月まで開催される。
独立系メディアによると、博覧会には51億ルーブル(約82億円)が投じられた。会場には「成果」として、14年に一方的に「併合」したウクライナ南部クリミア半島や、昨年2月からの侵攻で占領を進めたウクライナ東・南部4州に関する展示もある。
4日の開幕に合わせてプーチン氏が立候補の意思を発表するのではないかという観測も流れたが、本人は会場に姿を見せなかった。それでも期間中に「大統領は何度も訪れる」(ペスコフ大統領報道官)とされ、この博覧会か12月に催される別の投資フォーラムが出馬表明の場となりそうだ。ロイター通信は6日、プーチン氏が出馬する意向だと伝えた。
4日は祝日「民族統一の日」。17世紀に人々が団結してポーランド軍からモスクワを解放したことを記念する日で、多民族国家ロシアで重視されている。しかし、現実には国民統合どころか、南部ダゲスタン共和国マハチカラで10月下旬、「反ユダヤ」を叫ぶイスラム系住民が暴徒化したばかりで、プーチン政権は民族問題に神経をとがらせている。
プーチン氏は4日、例年通り、祝日ゆかりの中世の英雄、商人ミーニンとポジャルスキー公の銅像に献花。国防省の青少年団メンバーと交流した。最近は大統領選を控え、子供たちとの「自撮り」に応じるなど、親しみやすさを印象付けることに余念がない。
●プーチン大統領、来年3月のロシア大統領選“出馬を決めた”…ロイター通信 11/6
ロイター通信は6日、ロシアのプーチン大統領が、来年3月の大統領選に出馬することを決めたと報じました。
ロイター通信は、複数の情報筋の話として「プーチン大統領は、3月の大統領選挙に出馬することを決めた」と報じました。
この報道に対し、大統領府のぺスコフ報道官は6日、「プーチン大統領はまだ、その旨の発言をしていない」とコメントし、否定しませんでした。
出馬についてプーチン大統領自身は先月、「3年後までの連邦予算についてミシュスチン首相と協議している」と述べていて、ぺスコフ報道官も先月、「ライバルはいない」と話していました。
プーチン大統領が次回選挙で当選すれば、通算5期目となります。
ロシア大統領選挙は、来年3月17日に行われる予定です。
●ロシア軍、東・南部で前線突破に「失敗」 ウクライナ軍 11/6
ウクライナ軍は6日、ロシア軍が先週ウクライナ東部および南部で前線突破を試みたものの、「失敗に終わった」と発表した。
ウクライナ側の発表によると、過去1週間で400件の「武力衝突」が発生。ロシア軍は数か月にわたって包囲・掌握を試みているウクライナ東部ドネツク州の工業都市アウディーウカへの攻撃を続けている。
ウクライナ軍のアンドリー・コワリョウ報道官は6日の国営テレビのインタビューで「敵は複数の方面に同時攻撃を行っている」と述べた。
ウクライナ側も、同州バフムート南方で独自の攻撃作戦を実施しているという。
また同報道官によると、ロシア軍はウクライナが今年に入り支配権を回復した南部ザポリージャ州ロボティネ付近でも陣地回復を試みたが、成功していないという。
一方、ロシア国防省は前日5日、ロボティネ付近でウクライナの攻撃を撃退したと発表した。
AFPは、どちらの主張についても真偽を確認できていない。
両国政府は、紛争はこう着状態には陥っていないと主張しているが、前線の位置はこの1年間ほとんど動いていない。
●ウクライナ、戦時下の選挙に賛否 難題が山積、実現困難か 11/6
ウクライナで、ロシアとの戦争中でも選挙で民意を問う是非についての議論が続いている。平時であれば大統領選が来年3月に予定されていたが、国内法は戒厳令下の選挙を禁じると規定。ウクライナを支援する欧米には選挙を促す意見があり、ゼレンスキー大統領は法改正の可能性に言及した。ただ難題は山積し、実現は困難との見方が大勢だ。
8月にウクライナを訪れた米国のグラム上院議員(共和党)は「ウクライナが攻撃にさらされていても、自由で公正な選挙を行うことを望む」と述べ、政権の正統性を保つには選挙が必要だと主張した。欧州評議会の幹部も5月、選挙の確実な実施を呼びかけていた。
●欧米への対抗強めるロシア ガザ情勢引き合いにウクライナ侵攻正当化 11/6
ロシアのプーチン政権は、ウクライナでの「特別軍事作戦」が長期化する中、中東情勢を巡ってもイスラエル支持の欧米への対抗姿勢を強めている。パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘について、ロシアはパレスチナ寄りの立場を鮮明にし、露軍のウクライナでの戦闘を「欧米支配に対する共闘」と位置づけて非欧米諸国にアピールしている。
「欧米が中東に望んでいるのは絶え間ない混沌(こんとん)だ」。プーチン露大統領は10月30日、政権内の会合でガザ情勢悪化の責任は欧米にあると指弾し、ガザ地区での民間人の犠牲を「決して正当化できない」と非難した。欧米が武器や資金を送って憎悪をあおっていると訴え、「ロシアが特別軍事作戦で戦っているのも、まさにこういう者たちだ」と主張した。
ロシアはソ連時代から兵器供与などを通じてアラブ諸国との距離を縮め、ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスとの関係も深い。また、イスラエルと敵対してハマスを支援するイランとは反米路線で一致し、軍事協力を強化している。
一方で、ソ連崩壊前後に大勢のユダヤ系住民がイスラエルへ移住した経緯もあり、ロシアは同国とも友好関係を築いてきた。ロシアにとって、イスラエルは親米国家ながら対露経済制裁に参加せず、ウクライナへの軍事支援を控えるという貴重な存在だ。プーチン政権には関係の決定的な悪化を避けたい思惑もにじむ。
10月下旬に露外務次官がハマス幹部とモスクワで会談した際、イスラエル外務省の抗議を受けた。これに対し、ザハロワ露外務省情報局長は、ロシアとイスラエルには「強固な2国間関係がある」と述べ、「ロシアはパレスチナ紛争で公平な調停者としての立場を維持している」と強調した。
ただ、ロシア国内ではイスラム教徒が多い地域などで、反イスラエルの世論が高まっている。同29日には、南部ダゲスタン共和国の空港でイスラエルからの到着便を狙った暴動が発生。プーチン氏は、欧米の諜報(ちょうほう)機関がネット交流サービス(SNS)を通じて扇動したと主張して矛先をそらした。だが、かじ取り次第では一部地域の不安定化の可能性があり、危うさも抱えている。

 

●プーチン氏、9日にカザフ訪問 トカエフ大統領と会談へ 11/7
ロシアのプーチン大統領は9日にカザフスタンを訪問する予定だと、カザフスタンの大統領府が6日に明らかにした。
声明によると、プーチン大統領とトカエフ大統領はカザフの首都アスタナで会談し、二国間の問題を協議する。また、コスタナイ市で開かれる両国間のビジネス会合にともにビデオ参加するという。
オランダのハーグに本部がある国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、ウクライナの子どもの不法な送還と同国領土からロシアへの不法移送の疑いでプーチン大統領の逮捕状を発行。加盟する123カ国に、プーチン氏が訪れた場合、拘束して裁判のためハーグに移送することを求めている。
逮捕状の発行以後、プーチン氏は中国とキルギスのみを訪問しており、カザフは3カ国目。いずれもICCに加盟していない。
●ウクライナ大統領、戦時中の選挙実施求める声は「無責任」 11/7
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻が続く中で選挙を実施すべきかどうか議論が高まっていることについて、戦時中に選挙を行うという考えは無責任だと一蹴した。
2022年2月にロシアが侵攻を開始した際にウクライナでは戒厳令が発令され、選挙は実施できない。
ゼレンスキー氏は「現在は戦時中で、多くの課題がある中、選挙関連の話題を軽薄に出すのはまったく無責任だと誰もが理解している」と強調。防衛に集中する必要性を訴えた。
平時であれば、今年10月に議会選、24年3月に大統領選が行われるはずだった。
米共和党のリンゼー・グラム上院議員など米欧の当局者の一部は、戦争中であっても自由で公正な投票を実施できることを示すため、ウクライナ政府に選挙を実施するよう求めてきた。
●スロバキア首相、民間企業のウクライナ武器輸出は反対せず 11/7
スロバキアのフィツォ新首相は6日、ロシアの侵攻を受ける隣国ウクライナへの軍事支援の停止について「企業が武器を製造し、海外で販売したい場合には反対しない」と述べ、民間軍需企業の輸出は認める意向を示した。首都ブラチスラバで記者団に語ったと、米ブルームバーグ通信などが報じた。
フィツォ氏は9月の総選挙で「(与党になれば)ウクライナには武器も弾薬も送らない」と公約していた。フィツォ氏は、この公約はスロバキア軍の備蓄から供与される武器のみが対象になると説明したという。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国のスロバキアには、砲弾や戦車のメーカーがある。ブルームバーグによると、スロバキアは年間約18万発の砲弾を生産し、ウクライナへの重要な弾薬供給国となってきた。
● “ロシア軍兵士も劣悪な環境に置かれている” 英国防省分析 11/7
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、冬が迫る中、無人機などによる攻撃を続け、各地で被害が出ています。一方、イギリス国防省はロシア軍の兵士も劣悪な環境に置かれていて軍の課題となっていると分析しています。
ロシア軍は、ウクライナ各地で無人機やミサイルによる攻撃を続けていて南部オデーサ州の当局者は6日、ロシア軍の夜間の攻撃で8人がけがをしたと発表しました。
さらに世界遺産に登録されているオデーサ中心部の「歴史地区」では住宅や美術館が被害を受けたとしています。
ゼレンスキー大統領は5日に公開されたアメリカNBCテレビのインタビューで、「冬は非常に困難な時期だ」と述べ、防空システムや無人機などのさらなる軍事支援を欧米各国に求めました。
一方、イギリス国防省は5日、侵攻するロシア軍の状況について「前線で何週間にもわたり、頭からつま先までぬれていた」とか「泥の中で食事をとっていた」などとする証言を紹介し、兵士が劣悪な環境に置かれていると指摘しました。
補給支援の不安定性などが背景にあるとしていて、ロシア軍の大きな課題となっていると分析しています。
こうしたなか、ロシアが一方的な併合を宣言したウクライナ南部ザポリージャ州のロシア側の幹部は6日、国営メディアなどに対し、ロシア南部ロストフ州からザポリージャ州を経由し、南部クリミアまでつながる鉄道の建設工事が始まったと明らかにしました。
ウクライナ東部ドネツク州でもすでに鉄道建設が始まり、物資輸送などに使われる見通しだとしていて、ロシアとしては部隊の補給支援を強化するとともに支配の既成事実化を進めるねらいとみられます。 
●CFE条約の破棄完了 ロシア外務省 11/7
ロシア外務省は7日、欧州通常戦力(CFE)条約の破棄手続きが完了したと発表した。
ウクライナ侵攻を巡って対立する北大西洋条約機構(NATO)への対抗措置。今年5月、プーチン大統領が破棄する法案を提出し、上下両院で可決・承認されていた。
●ゼレンスキー氏、トランプ氏をウクライナに招待 「和平もたらすのは不可能」 11/7
ウクライナのゼレンスキー大統領がこのほど、米国のトランプ前大統領を自国に招待した。トランプ氏は来年の米大統領選で自身が勝利すれば、ロシアによるウクライナとの戦争を24時間以内に終わらせることができると主張していた。
ゼレンスキー氏は5日放送の米NBCとのインタビューで、トランプ氏の主張を疑問視。同氏をウクライナへ招待し、ロシアの侵攻の規模を本人に直接確かめてもらう考えを示唆した。
その上で、トランプ氏がウクライナを訪問した場合、24分あれば同氏にこの戦争を処理するのは不可能であることを説明できると発言。トランプ氏が和平をもたらせない原因はロシアのプーチン大統領にあるとも指摘した。
ゼレンスキー氏はこの他、今年初めにウクライナを訪問したバイデン米大統領を称賛。実際に現地へ来て初めて理解できる事柄もあるとし、「だからトランプ大統領を招待する」と続けた。
トランプ氏は今年5月、CNNの取材に答え、ロシアが全面侵攻を開始した時点で自身が大統領だったなら、戦争は起きていなかっただろうと発言。自分が大統領に再選されれば、プーチン氏やゼレンスキー氏との会談を通じ、1日で紛争を解決できると語っていた。
ウクライナ軍トップのザルジニー総司令官は先週、英誌「エコノミスト」への長めの寄稿文で国内の戦況が膠着(こうちゃく)状態にあると説明。「第1次世界大戦がそうだったように、技術的な進歩の影響で我々は手詰まり状態に陥っている」と述べていた。
NBCからザルジニー氏の見立てを受け入れるかと問われたゼレンスキー氏は、困難な戦況を認めつつも、戦争が「膠着状態」に達しているとは思わないと回答。主導権はウクライナ側が握っていると主張し、黒海やクリミア半島での自軍の戦果に言及した。
またウクライナによるロシアとの戦闘は、米国の国家安全保障にも関連すると強調した。米国からの支援が縮小すれば、ロシアとの軍事衝突は欧州地域で一段と広範囲に拡大し、最終的に米軍兵士がこれに巻き込まれる可能性もあると述べた。
さらにロシアと和平協議を行う考えについてはこれを否定。「テロリストと話をする用意はない。彼らの言葉には何の意味もないからだ」と一蹴した。
●ロシア軍、南オセチアでジョージア市民射殺 11/7
ジョージア政府は6日、北部の親ロシア派支配地域、南オセチア近郊で、民間人1人がロシア軍に殺害されたと明らかにした。
南オセチアをめぐっては、2008年にロシアとジョージアが軍事衝突し、独立を宣言。ロシアは独立を承認し、実効支配している。
ジョージアの保安当局によると、民間人が殺害されたのはゴリ市。また別の民間人1人が「違法に拘束された」という。
08年の紛争以降、派遣されている欧州連合(EU)の監視団も、南オセチアの行政境界線で発生した事案でジョージア市民1人が死亡したと確認した。
地元住民が独立系テレビ局ピルベリTVに語ったところによると、殺害されたのは58歳の男性で、地元住民数人と教会に礼拝に訪れた際にロシア兵に撃たれた。ロシアは今年に入り、この教会へのジョージア人の立ち入りを禁止していた。
ジョージアのサロメ・ズラビシビリ大統領は、「ロシアの占領軍がジョージア市民を射殺したことに怒りを隠せない」とし、「ロシアの行動を明確に非難するよう」国際社会に求めた。
●ロシア 本土からクリミアまでつなぐ新たな鉄道の建設工事に着手 11/7
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアをめぐり、ウクライナの占領地域を通ってロシア本土とクリミアをつなぐ新たな鉄道の建設工事が始まったと報じられました。
国営ロシア通信によりますと、鉄道はロシア南部ロストフナドヌーからクリミアをつなぐルートで、一方的にロシアが併合したウクライナ東部・ドネツク州のマリウポリや南部ザポリージャ州を通ります。
ザポリージャ州のロシア側トップは新たな鉄道は軍への補給などに活用されるとしていて、ロシアにとってウクライナの攻撃が続くクリミアへの補給路の確保が課題となっているとみられます。
こうしたなか、プーチン大統領が来年3月の大統領選に出馬する意向を固めたと、6日にロイター通信が報じました。
複数の関係者の話として、顧問らがすでに選挙運動の準備に入ったと伝えていますが、報道についてペスコフ大統領報道官は6日、「プーチン大統領は何も表明していない」としています。
一方、ウクライナのEU=ヨーロッパ連合への加盟をめぐり、ロイター通信はEU関係者の話として、加盟に関する交渉が「来年にも始まる見通しだ」と伝えています。
●ロシア、インフラ破壊の準備か ウクライナ情報総局 11/7
ウクライナ国防省情報総局は7日、ロシア軍が南部ヘルソン州の支配地域で、ガス施設や変電所など重要インフラに爆弾を仕掛けている兆候があると表明した。撤退を強いられた際に破壊する準備をしている可能性がある。ロシア軍は5〜6日に南部をミサイルや無人機で集中攻撃した。
クリメンコ内相は、ヘルソン州には5日に87回の空爆があり、一度の攻撃としては侵攻開始以降で最大規模だったと指摘。米シンクタンク、戦争研究所は6日、ロシアがミサイル生産を加速し備蓄が増えたとの見方を示した。
一方、ロシア国防省は7日、同日午前にウクライナの無人機による攻撃の試みがあり、迎撃したと発表した。
●ウクライナの世界遺産「オデーサ歴史地区」をロシア軍が攻撃 11/7
ウクライナ侵略を続けるロシア軍は5日、ウクライナ南部オデーサを無人機などで攻撃し、少なくとも8人が負傷した。世界遺産に登録された「オデーサ歴史地区」が攻撃され、120年以上の歴史がある美術館が被害を受けた。ロイター通信などが報じた。
美術館近くの道路は深くえぐれており、美術館の窓やドアなどが壊れた。国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)は爆撃を非難し、文化遺産の保護を求めた。「歴史地区」では今年7月にも露軍の攻撃があり、大聖堂に被害があった。
一方、RBCウクライナ通信は6日、ウクライナの国防関係者らの話として、ロシアが気温が氷点下となる冬を待ち、エネルギー施設などに大規模な攻撃を仕掛けるとの見方を伝えた。電力消費のピークにあわせた巡航ミサイルによる攻撃で、大規模な被害を引き起こす狙いがあるという。

 

●多極的世界秩序構築が難局、各地の紛争で=カザフ大統領 11/8
カザフスタンのトカエフ大統領は8日付のロシア紙イズベスチヤのインタビューで、世界各地で紛争が発生する中、「多極的世界秩序」の基盤づくりが極めて難しくなっているとの見方を示した。
一方で、世界の緊張が今後は収まり、改革後の国連を中心とする国際協力に取って代わられると予想した。
インタビューは、ロシアのプーチン大統領による今週のカザフ訪問を前に行われた。トカエフ氏は「地球上の全く離れた地域での紛争、制裁をめぐる対立、貿易戦争などを背景に楽観的になるのは難しい」と語った。
カザフスタンはソ連崩壊後も、ロシアと近い関係を保ってきた。ロシアのウクライナ侵攻に関してはバランスの取れた立場を維持しており、約1年前のロシアによるウクライナ東・南部4州の一方的な併合を認めていない。
一方、プーチン氏はカザフスタン紙のインタビューに応じ、8カ国で構成される上海協力機構(SCO)における両国の取り組みを称賛。旧ソ連諸国がつくる独立国家共同体(CIS)などの組織も高く評価した。
●ロシアのCFE条約脱退非難 NATO、条約履行停止 11/8
北大西洋条約機構(NATO)は7日、旧ソ連諸国などで構成したワルシャワ条約機構加盟国との間で欧州に配備できる通常兵器の上限を定めた欧州通常戦力(CFE)条約をロシアが脱退したことを非難する声明を出した。条約の履行を停止するとした。
NATOは声明で「ロシアはルールに基づく国際秩序を損ない続けている」と強調。条約について「ロシアが順守しない状況では持続不可能だ」と指摘した。
ロシア外務省は7日、CFE条約からの脱退手続きが正式に完了したと発表した。
ロシアは今年5月、ウクライナ侵攻を受けたフィンランドとスウェーデンのNATO加盟の動きによりCFE条約が「最終的に過去の遺物となった」とし、NATO北欧拡大への対抗措置として同条約破棄を決定。上下両院を通過した条約破棄の法律にプーチン大統領が同29日に署名し、発効させていた。
●NATO、ロシアのCFE条約脱退を非難 運用停止へ 11/8
北大西洋条約機構(NATO)加盟国は7日、ロシアが東西対立の緩和を目的とした冷戦後の重要な軍縮条約となる欧州通常戦力(CFE)条約から正式に脱退したことを非難した上で、CFE条約の運用を停止すると発表した。 もっと見る
声明で「加盟国は、ロシアによるCFE条約からの脱退と、同条約の目的に反するウクライナへの侵略戦争を非難する」と指摘。ロシアは欧州および大西洋の安全保障を損なっているとし、「したがって加盟国は、国際法上の権利に従い、必要な限りCFE条約の運用を停止する。これは、NATO全加盟国が全面的に支持する決定だ」とした。
米国は12月7日からCFE条約の義務を停止すると表明。サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はロシアのウクライナに対する戦争およびCFE条約からの脱退は、条約に関連する状況を「根本的に変化させ」、参加国の義務を一変させたとした。
ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も、ロシアのCFE条約脱退を受け、米国が「脱退しないことをどう正当化できるか分からない」という認識を示した。
●欧米当局がウクライナにロシアとの停戦交渉を要請か 11/8
ウクライナとロシアの戦争が続くなか、米国メディアは4日に米政府高官の話として、先月開催されたウクライナ支援の国際会議で、欧米当局者たちがウクライナ政府に対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について協議を持ちかけたと報じた。
危機感を強めるゼレンスキー大統領
それ以上に詳しい内容は分かっていないが、これが事実だとするとウクライナにとっては極めて痛い話となる。
ロシアとウクライナの混沌状態が続くなか、ゼレンスキー大統領は欧米諸国で“ウクライナ支援”疲れが広がり、中東問題で世界の関心がウクライナから薄まっていくことを懸念している。
ニコニコ笑うプーチン
しかし、これは欧米が自らの敗北をロシアに示したことと等しい。ウクライナ侵攻後、ウクライナ軍は欧米からの支援もあってロシア軍を追い込み、ロシアの劣勢が顕著だった。
しかし、最近は双方とも優勢劣勢と言える状況ではなく、ウクライナ軍の勢いに陰りも見えている。そのような中、ロシアがウクライナの一部領土を占領している状態で停戦交渉が実施されれば、それはロシアの占領を既成事実化し、再侵攻させる意欲を与えることになる。
欧米諸国はロシアの侵攻は許さないと当初から非難し、ロシアへ経済制裁を強化してきた。にもかかわらず、欧米がウクライナに停戦交渉しなさいと呼び掛けることは、ロシアに敗北を認めたようなものだ。
今ごろ、プーチンはニコニコ笑っているに違いない。仮に停戦となれば、プーチンはさらなる攻勢を強めることだろう。
●ウクライナへの関心低下懸念 中東情勢でゼレンスキー政権 11/8
イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が1カ月に及ぶ中、ロシアによる侵攻が続くウクライナのゼレンスキー大統領は懸念を強めている。
反転攻勢を進める上で頼みの綱となる「国際社会の関心」が薄れつつあると実感しているためだ。中東での戦争が、東欧で続くもう一つの戦争に影響を与えている。
「事態が急速に動き始めようとしている」。米誌タイム(電子版)によると、ハマスによるイスラエル攻撃から2日後の10月9日、ウクライナ高官の一人はゼレンスキー氏も参加した会議後にこう漏らした。
もっとも、それ以前から欧州の一部諸国では、ウクライナ支援に後ろ向きな主張が表面化していた。ゼレンスキー氏は9月の訪米時、昨年末と打って変わって冷淡な対応に直面。バイデン米大統領は軍事支援の継続を約束したが、最大の後ろ盾である米国にも「支援疲れ」が波及しつつある現実を突き付けられた。
追い打ちを掛けるように、中東情勢の急変で「欧米やメディアの関心が(ハマスが実効支配するパレスチナ自治区)ガザに移った」(タイム誌)。ゼレンスキー氏は「最も恐ろしいのは、世界の一部がウクライナ戦争に慣れてしまったことだ」と、強い危機感を抱いているという。
支援疲れと関心低下の結果、ウクライナに不利な形で西側諸国が停戦圧力を強める展開となれば、徹底抗戦を貫いた政権の求心力にも響きかねない。
バイデン氏は10月19日、「(ハマスもロシアも)近隣の民主主義国家を完全に消滅させようとしている共通点がある」と述べ、ウクライナ支援継続の必要性を訴えた。それでもウクライナの不安は拭えない。ゼレンスキー氏は今月4日の記者会見で、関心の低下こそ「ロシアの狙いの一つだ」と警鐘を鳴らした。
●クリミア攻撃でロシア新造艦損傷 英分析、戦線へ配備遅れる可能性 11/8
英国防省は7日、ウクライナ軍による南部クリミア半島のザリフ造船所に対する4日の攻撃で、新造のロシア艦船が損傷を受けたのは確実との見方を発表した。ロシアは造船インフラを前線から離れた場所に移転する必要に迫られ、新造艦の戦線への配備が遅れる可能性があると分析した。
英国防省によると、損傷したのはコルベット艦「アスコルド」で2021年に進水したが、まだロシア海軍に就役はしていなかった。
ロシアが併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州のロシア側行政府トップ、プシーリン氏は7日、州都ドネツクの中心部などにウクライナ側が米国供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」から数発撃ち込み、市民6人が死亡、少なくとも11人が負傷したと明らかにした。タス通信などが伝えた。プシーリン氏によると、住居や医療施設などが狙われた。
ウクライナ当局は7日、ロシア兵の捕虜を収容する新たなキャンプを近く開設すると発表した。ロシア側の士気の低下や前線の状況によって、捕虜の数が増加しているためだと主張した。
●G7外相、ウクライナ情勢を議論 対ロシア制裁、支援継続確認へ 11/8
先進7カ国(G7)は8日午前、外相会合の2日目の討議を東京都内で実施した。ロシアの侵攻が続くウクライナ情勢を巡り議論し、対ロシア制裁やウクライナ支援を継続する方針を確認する見通し。中国の覇権主義的な動きを踏まえ、自由で開かれたインド太平洋の実現についても協議する。G7外相声明を発表する方向で調整している。
7日の会合ではイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が激化する中東情勢を中心に議論。議長の上川陽子外相は共同声明を通じ、事態沈静化に向けたG7の一致した立場を示す考えだ。ウクライナ情勢への対応についても結束を確認する。
● G7外相会合2日目 ウクライナや中国情勢を議論 共同声明発表へ 11/8
東京で開かれているG7=主要7か国の外相会合は、7日、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐって討議を行い、上川外務大臣は、人道目的の一時的な戦闘休止の必要性などを訴えました。8日はウクライナや中国の情勢を議論し、共同声明を発表することにしています。
G7の外相は7日夜、東京・港区の飯倉公館で最初の会合となるワーキングディナーを行い、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐって2時間あまり討議を行いました。
議長の上川外務大臣は人質の即時解放とガザ地区の深刻な状況の改善が最優先であり、人道目的での一時的な戦闘休止などを関係国に働きかけていく必要性を訴えました。
外務省関係者によりますと、各国は人道目的での戦闘休止が必要だという認識を共有していたということで、上川大臣は記者団に対し「声明では中東情勢に関する一致した立場を示せるようにしたい」と述べました。
2日目の8日は、ウクライナ情勢や中国を含むインド太平洋地域の情勢などが議題となります。
ウクライナのクレバ外相もオンラインで参加する方向で、厳しい対ロシア制裁と支援の継続をG7として改めて確認したい考えです。
また、覇権主義的な動きを強める中国をめぐっては、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持する重要性を共有する一方、対話の必要性も確認する見通しです。
一連の討議を終えたあと、上川大臣が議長として記者会見するとともに共同声明を発表することにしています。 

 

●プーチン氏、米欧接近の同盟国を訪問 一段の「ロシア離れ」防ぐ狙い 11/9
ロシアのプーチン大統領が9日、中央アジアのカザフスタンを訪問した。
経済面でも安全保障面でも、カザフスタンはロシアにとって最重要の同盟国だが、ウクライナ侵攻後はロシアから距離を取り、欧米に近づく動きも見せている。今回の訪問で両国の緊密な関係を国内外にアピールし、一層の「ロシア離れ」を防ぐ狙いがあるとみられる。
「ロシア語は我々の共通財産であり、競争力のある長所だが、重要なのは友好を強固にする大切な要因であることだ」
プーチン氏は、訪問前日となる8日公開のカザフスタンメディアのインタビューで、旧ソ連構成国だったカザフスタンとの強い絆を強調した。
●ロシア、トルコ、イラン首脳、中央アジア訪問 強まる外交攻勢 11/9
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9日、カザフスタンを訪問した。一方、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン、イランのイブラヒム・ライシ両大統領は同日、ウズベキスタン入りした。中央アジアに対してはこのところ、外交攻勢が改めて強まっている。
ロシアは中央アジアが依然自国の影響下にあると考えているものの、ウクライナ侵攻以降、その影響力は陰りを見せており、旧ソ連構成国はパートナーシップの多様化を目指している。
それでも、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ、プーチン両大統領は首都アスタナでの会談を前に、共に両国関係を称賛。プーチン氏は「われわれの戦略的パートナーシップは実に前向きだ」と述べ、トカエフ氏は「豊かな歴史と明るい未来のある同盟」とたたえた。
だがソ連崩壊から30年が経過し、ロシアがウクライナ侵攻で行き詰まりを見せる中、中央アジアに対しては他の大国も投資を進めている。
中国は巨大経済圏構想「一帯一路」で中央アジアの主要パートナーとなった。
プーチン氏訪問の1週間前には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領もカザフスタンを訪問。また欧州連合(EU)や米国、イラン、トルコも、カザフとの関係強化に動いている。
一方、エルドアン、ライシ両大統領はウズベキスタンの首都タシケントで開催される経済協力機構(ECO)首脳会議に出席するため同国を訪問した。
会議にはこのほか、パキスタンのアンワールル・ハック・カーカル首相ら中央アジア諸国首脳の出席が予定されている。
ただしウズベキスタン政府によると、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの紛争は、今回の会議の議題には上がっていないという。
●プーチン氏、カザフ訪問 同盟関係の発展強調 11/9
ロシアのプーチン大統領は9日、中央アジアのカザフスタンを公式訪問し、トカエフ大統領と首都アスタナで会談した。プーチン氏は「両国間の戦略的パートナーシップと同盟関係が成功裏に発展している」と強調し、トカエフ氏も「訪問は政治的、歴史的に重要」と述べ、歓迎した。共同声明ではエネルギーや軍事など幅広い分野での協力強化が盛り込まれた。
ウクライナ侵攻により、ロシアの求心力は旧ソ連諸国でも低下。10月のキルギスでの独立国家共同体(CIS)首脳会議はアルメニアが欠席しロシア離れを印象付けた。プーチン氏は伝統的影響圏のつなぎ留めを図る。
●ウ大統領「年内に戦果示す」 11/9
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ロイター通信とのインタビューで、ロシア軍に対する反転攻勢について「年内に戦果を示したい」と語った。消耗戦で損失が増えており「(結果を出すのは)非常に重要だ」と強調した。
反転攻勢が遅れ、戦況がこう着状態に陥っているとの指摘に対しては「ゆっくりとではあるが南部で前進しており、東部でも同様だ」と反論。「容易ではないが、成功を確信している」と述べた。
ゼレンスキー氏は、欧米諸国の武器供与を改めて歓迎した。ただ、パレスチナ情勢の悪化でウクライナへの関心が低下し、支援が思うように進んでいないと懸念を示した。 

 

●プーチン氏、大統領選に向け恒例行事開催へ 「政権の安定」アピール 11/10
ロシアのプーチン大統領は年内に、恒例行事の「大記者会見」と国民との「直接対話」を合同で開催することになった。ペスコフ大統領報道官が9日、明らかにした。昨年はウクライナ侵攻が長期化した影響で見送られたが、プーチン氏は来年3月の大統領選で当選が確実視されており、「政権の安定」と「国民の強固な支持」を国内外にアピールする狙いとみられる。
ロシアの経済紙RBCは同日、情報筋の話として14日に計画されていると伝えた。昨年は開かれず、ウクライナ侵攻でロシア軍が苦戦し、国民に侵攻の成果や見通しを示せないためだとみられていた。
大記者会見は例年、国内外から1千人以上の記者が参加し、約4時間にわたり行われる。直接対話は、プーチン氏が国民から直接要望などを聞き、知事らに指示して指導力を誇示する生放送のテレビ番組だ。
来年3月には大統領選が控える。プーチン氏の再選は揺るがない情勢だが、侵攻が長期化する中、「圧倒的な支持」で再選する形をつくる必要がある。
恒例行事の復活により、プーチン氏が国民の声に耳を傾ける姿勢や、侵攻など国内外の課題に対応する能力を強調し、国民からの強い支持も示せると判断したとみられる。
●ウクライナで失った国際的権威の回復をガザで狙うプーチン大統領 11/10
イスラム主義勢力ハマスによるイスラエル攻撃から2023年11月7日で1カ月。パレスチナでの歴史的流血が続く中、プーチン氏が複雑で巧妙な外交を展開している。どんな外交なのか。狙いは何なのか。その成否の見通しも含めて考えてみた。
今回のプーチン外交の狙いは大きく分けて2つある。最大のものは、ウクライナ情勢から中東情勢へと、国際的関心をできるだけそらすことである。
ウクライナ侵攻を受けて米欧日に包囲網を築かれ、国連でも孤立感を味わっているロシア。プーチン氏としては、ワシントンや欧州各国の注意がパレスチナ情勢に注がれる結果、米欧のキーウへの武器支援が減り、対ロ制裁の緩和につながることを期待している。そうなれば、ゼレンスキー政権の立場を弱めることができる。
ガザにおける人道状況が悲惨であることは誰の目にも明白であるが、プーチン・ロシアは、ウクライナ紛争を巡る独自の思惑を懐に抱えて、国連などでガザでの停戦要求など声高に主張しているのだ。
米欧との「地政学的均衡」とは
もう1つの目的は、米欧との「地政学的均衡」の実現だ。今回の事態発生を奇貨として、プーチン氏は元々反米意識の強いアラブ世界においてロシアへの親近感を回復し、世界規模での孤立解消、あるいは米欧に対抗できる国家群の形成に向けた第一歩にすることを狙っている。これが「地政学的均衡」だ。
このため、プーチン氏は極めて手の込んだ外交を展開している。ハマスによる今回のイスラエル攻撃自体は「テロ」として批判する一方で、この攻撃を実行したのはハマスの一部に過ぎないとの立場だ。
そのうえで、攻撃直後にクレムリンにハマス代表団を迎えるなど、長年緊密な関係を維持してきたハマス寄りの立場を打ち出した。国内でイスラム過激派の動きに神経を尖らせているプーチン氏としては、反テロは基本政策だ。
このため、反テロの表看板を下ろさない一方で、その裏で実質的にはハマスとの関係維持を優先するという建前と本音の使い分けをしたのだ。ただその後、ハマスによるイスラエル市民への攻撃が続いていれば、この使い分け外交も苦しくなる可能性はあった。
ところがそこに追い風が吹いた。イスラエルの地上侵攻によってガザでの住民の犠牲が拡大し、米欧含め世界規模で、イスラエルとこれを支援するアメリカへの批判が一気に広がったのだ。パレスチナ紛争の歴史の中で、これだけ国際社会のイスラエルへの風当たりが厳しくなったのは初めてだ。
プーチン氏にとっては、願ってもない状況が生まれたのだ。一気に反米言辞のトーンを強めた。アメリカこそ、中東のみならず世界規模で紛争を起こし、利益を得ている元凶との論理を振りかざした。
元凶は「人形遣い」のアメリカ
これを象徴するのが2023年10月30日のクレムリンでの安全保障会議での演説だ。「中東だけでなく、他の地域紛争でも世界中で人々に憎悪のタネを撒き、衝突させている勢力がいる。それは地政学における操り人形遣いだ。世界の不安定化の受益者はアメリカとその衛星国だ」と決めつけた。
「操り人形遣い」と「衛星国」は、プーチン政権がウクライナ侵攻に絡み、アメリカとゼレンスキー政権を指す際に使う言葉だ。人形遣いのアメリカがウクライナ政府を思うままに操り、ロシアに敵対させているという、お得意の理屈だ。
つまり、今回のガザでの人道危機も、ロシアのウクライナ侵攻も根っこは同じで、引き起こしたのはアメリカの覇権主義的だ、という論理だ。いわば、国際法違反の暴挙であるウクライナ侵攻を、アメリカの覇権に挑む正当な行動だ、とする「違法行為のロンダリング」だと筆者は考える。
筆者はこのプーチン演説の映像を見たが、その表情に最近では見られなかった迫力を感じた。自分こそ、アメリカの一極支配体制に挑み、多極化を目指す、世界のリーダーだというのが、プーチン氏にとって最大の自負だ。表情にその高揚した気持ちが出たのだろう。
隣の主権国家への一方的侵攻によって、このプーチン氏の主張は国際社会に対する説得力を失っていたが、今回のパレスチナ情勢の出現で、再び「反米、多極化」を訴える舞台装置が整ったと、ほくそ笑んでいるに違いない。
ウクライナ侵攻でロシアを批判したのに、イスラエルのガザ侵攻を支持するアメリカは「ダブルスタンダードだ」との批判を切り札にして、米欧との「地政学的均衡」を狙うグローバル戦略なのだ。
その戦略の最大の標的はどこか。それはインド、ブラジル、南アフリカなどグローバルサウス(GS)と呼ばれる新興・途上国だ。GSには米欧が主導する国際秩序への反発やウクライナ侵攻を発端とする食料危機への危機感から、侵攻を巡り中立的立場を取る国も多い。
プーチン氏としては、GS諸国に対し、ダブルスタンダード論でアメリカへの反発をいっそう募って、その立ち位置を中立からさらに一歩ロシア側に引き寄せ、反アメリカ国家群の緩やかな形成を促す狙いだろう。
では、このプーチン外交は思い通り、うまく進むのか。筆者はいくつか疑問を持つ。まず、何と言っても、戦争を仕掛けているロシアに対し、GS諸国が今の中立から軸足を移すとは考えにくい。
さらにロシアにとって、大きなリスクが出現してきた。イスラエルとの関係悪化だ。ネタニヤフ首相はこれまでに10回以上もロシアを訪問し、プーチン氏を「親愛なる友人」と呼ぶ関係を築いてきた。
ウクライナ侵攻後も、イスラエルはウクライナが求めた武器供与には応じず、西側制裁にも加わらず、実質的な中立を保っている。プーチン氏は、アラブ諸国との伝統的な友好関係に加え、ネタニヤフ首相との信頼関係を築くことで、ロシアを頂点に微妙な二等辺三角関係を築いていた。
「友人に背中を刺された気分」のイスラエル
イスラエルにはソ連時代からユダヤ系の移住者が多く、現在も多い。人口約900万のイスラエルで、ロシア・ウクライナ系は約120万人に上るといわれる。選挙でも大きな票田だ。
しかし、今回のハマス攻撃後のロシアのハマス寄り、あるいはアラブ寄りの姿勢を受け、ネタニヤフ首相は「友人に背中を刺された気分」(ロシア系ユダヤ人軍事専門家、グリゴーリー・タマル氏)と言われている。
タマル氏によると、イスラエル・メディアの論調はすっかり反ロシアに傾いている。イスラエルは高性能な兵器生産国であり、プーチン政権への反発から、今後ウクライナに武器供与を始める事態は、ロシアにとって、悪夢ともいえるシナリオだ。
さらにハマスとの関係でも微妙な情報が出ている。先述したモスクワ訪問時に、ハマス側はロシアからの武器供与と引き換えに、今回の奇襲で取った人質の中に含まれるロシア人の解放を約束したといわれる。
しかし本稿執筆時点でロシア人の人質の解放は報じられていない。ロシアが武器供与に応じていないためと見られている。
今回のパレスチナ危機を巡るロシアの行動を見ると、狙いは先述した「ウクライナ情勢からの国際的注意の引き離し」であり、「地政学的均衡」の回復であって、強力なハマス支援ではない。
元々ウクライナ侵攻を続けているロシアに武器の供与をする余裕はない。これにハマスが、支援は口先だけ、と反発する可能性はある。つまり、今回のプーチン外交はあまりに複雑過ぎて、多くの失敗リスクを内含していると言えるだろう。
筆者としては、ウクライナ侵攻で民間人を標的にした攻撃を続けるプーチン氏がそもそも、悲惨なガザ状況を憂う発言を行う資格はないと考える。資格がないどころか、人命をもてあそぶ、あまりに冷笑的行為だと思う。
この筆者の気持ちをスカッと代弁してくれたのが、ドイツのショルツ首相だ。10月19日、ドイツ議会で、パレスチナ情勢に警告を発するプーチン氏に対し「憤慨なんてもんじゃない」と切り捨てたのだ。
一方で、今回のイスラエル・ハマス戦争ではウクライナも動いた。ゼレンスキー氏の反応は驚くほど素早かった。ハマスによる直後に「テロ攻撃」だと非難し、「イスラエルの自衛の権利に疑いの余地はない」とX(旧ツイッター)に投稿した。
この背景には、侵攻を受けるウクライナがハマスのテロ攻撃を受けたイスラエルとの間で一種の暴力被害国同士の連帯関係を築く好機到来との計算があったのは間違いない。同時に防空兵器面で定評のあるイスラエルから軍事協力を引き出す狙いもあった。そのため自身のイスラエル訪問の実現を急いだ。
訪問については、本稿執筆時点ではイスラエル側から「今は適切な時期でない」との返答で、ペンディングのままだ。しかし、イスラエル訪問を急ぐゼレンスキー氏の前のめり姿勢に対し、ウクライナ大統領府内では懸念する声も出ている。
とくにガザでの人道状況悪化を受けて、「訪問しても大丈夫か」との危惧の声が起きた。ガザ住民の受難に配慮を示さず、国際的非難が強まっているネタニヤフ首相とのこのタイミングでの首脳会談がウクライナへの非難につながるのではないかとの懸念だ。
ゼレンスキーのイスラエル訪問はなるか
しかし、ゼレンスキー氏はウクライナにとって最大の軍事的・政治的後ろ盾であるバイデン政権に対し、イスラエル支援で追随する以外「他の選択肢はない」との判断をしているという。
だが、ガザ情勢を巡ってウクライナには他にも不安材料がある。グローバルサウスとの関係だ。先述したようにロシアがGS諸国の取り込みに力を入れることへの対抗策として、ゼレンスキー政権もこのところ、GSの取り込み外交を積極的に進めていた。
ゼレンスキー氏が提唱する和平案「平和の公式」を巡る3回目の国際会合が2023年10月末に地中海のマルタで開かれた際も、ウクライナ側は食料安保を重要議題の1つに掲げてGS側に配慮した。
結果的にGSの代表格であるインド、ブラジル、南アフリカなど過去最多の66カ国・機関の参加を実現する成果を上げたばかりだ。ゼレンスキー政権がネタノヤフ政権支持で深入りすれば、こうしたGS取り込み外交の努力が一気に水泡に帰すリスクが高まるのだ。
ロシアとウクライナがGSを巡って綱引きを行っている構図が明確に浮かび上がってきた。
●プーチン氏がカザフスタン訪問=逮捕状後3カ国目 11/10
ロシアのプーチン大統領は9日、中央アジアのカザフスタンを訪問し、トカエフ大統領と会談した。ウクライナ侵攻により旧ソ連圏で進むロシアの求心力低下を食い止める狙いがある。
プーチン氏の外遊は、ウクライナの子供連れ去りを巡って国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出された後、ウクライナの占領地を除いてはキルギス、中国に続いて3カ国目。いずれもICC非加盟国だ。プーチン氏は10月の記者会見で、外国訪問が減少したのは「国内の問題山積」が理由だと主張した。
カザフは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の陸路となる地政学的な要衝。ウランなどの資源大国でもあり、最近では先進7カ国(G7)の一角であるフランスのマクロン大統領が訪れた。
一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は9日、昨年見送ったテレビ特番を通じた「国民対話」について、年末に計画する大規模記者会見と統合する形で実施すると明らかにした。プーチン氏はまだ来年3月の大統領選に出馬表明していないが、内政を重視した格好だ。
●露「米・ウクライナ、ロシアに勝つのは不可能…もう悟るべき」 11/10
ロシア側が「もはや、ウクライナと米国は戦場でロシアに勝つのは不可能」という立場を示した。
ロシアのプーチン大統領に随行してカザフスタンを訪問中のロシア大統領府報道官は9日(現地時間)、ロシア国営放送「ロシア1」のパーベル・ザルビン記者とのインタビューでこのように述べた。
ペスコフ報道官は「米国がウクライナ支援のために1時間当り2億ドル以上を負債利子償還に支払っているという内容を読んだ」とし「(紙幣を印刷する)紙がまもなく足りなくなるだろう」と述べた。
カザフスタンを訪問中のロシアのラブロフ外相は同じ記者とのインタビューで、ウクライナの領土回復の可能性を信じるという米国の立場について「信じる者に福が来る」ということわざを論評の代わりとした。
先立って、米大統領府のジョン・カービー国家安全保障会議(NSC)戦略疎通調整官は8日の会見で「バイデン大統領はウクライナが領土を取り戻すと信じているのか」という質問に「我々は彼らが領土を取り戻すことができると絶対的に信じている」と答えた。
●独裁者は何度でも蘇る…アメリカと「悪の枢軸」の戦いが終わらない理由 11/10
本当の敵は米国
米議会の重鎮、ミッチ・マコーネル上院院内総務(共和党)がロシア、中国、イランの3カ国を名指しして「悪の枢軸」と呼んだ。ウクライナを侵略したロシアと対イスラエル攻撃の背後にいるイラン、台湾侵攻を目論む中国こそが「米国の敵」という認識である。
マコーネル氏は10月22日、米FOXニュースとCBSのインタビューで、それぞれ「悪の枢軸」という認識を明らかにした。同氏は「米国に対して現実に存在している脅威に対処しなければならない。これは緊急事態だ。中国とロシアとイランは悪の枢軸であり、米国にとって脅威だ。今日の世界は、これまでの私の人生で、もっとも危険に晒されている」と語った。
悪の枢軸という言葉は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領が2002年1月29日の一般教書演説で、イラン、イラク、北朝鮮の3カ国を名指しして初めて使った。当時、世界に「米国が戦争の時代に突入した」ことを印象付けた。米国は01年9月11日の同時多発テロを受けて、アフガニスタン戦争を開始し、03年にはイラク戦争に突入していった。
今回は、名指しした国が北朝鮮とイラクから、ロシアと中国に入れ替わったが、事態はより深刻だ。ロシアと中国は北朝鮮やイラクよりも、軍事力や国力がはるかに勝るうえ、ロシアは正規軍でウクライナに攻め込んでいる。
名指しされた側も「本当の敵は米国」と認識している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は10月30日、クレムリンで開いた安全保障担当者たちとの会議で「米国を支配しているエリートとその仲間が、ガザのパレスチナ人虐殺の背後にいる。ウクライナもアフガニスタン、イラク、シリアでも、そうだ」と語り、米国と西側を非難した。
直前の10月26日には、イスラエルをテロ攻撃したイスラム原理主義組織ハマスの代表団をモスクワに受け入れ、ハマスが人質にとったロシア人の釈放などについて協議している。ハマスは声明で、戦いを「西側に支援されたイスラエルの罪」と呼んだロシアを称賛した。ハマスを支援するイランの外務副大臣で核開発の責任者も、ロシアを訪問している。
ここへきて本音が出てきた
ロシアの姿勢は当初、少し違っていた。
プーチン大統領はハマスのテロ攻撃から10日後の10月17日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話し、イスラエルの犠牲者に哀悼の意を表明するとともに「女性や子供を含む民間人の犠牲者を出した『いかなる行動』も非難し、断固として拒絶する」と強調した。
プーチン氏は電話会談で、ロシアが暴力の連鎖とガザが人道的な破局状態に陥るのを防ぐために努力する旨を伝えた。イスラエル側に、ロシアとパレスチナ、エジプト、イラン、シリアとの電話会談の内容を明らかにした、という。
当時はイスラエルにも同情的で、中立的な態度を示していた。背景には、イスラエルに旧ソ連時代から約40万人のロシア人が暮らしており、イスラエルはロシアのウクライナ侵攻について、国連安全保障理事会での非難決議に加わらなかった事情もある。両国は一定の友好関係を維持していた。
ところが、ここへきて本音が出てきた。
イスラエルが本格的に反撃し、ハマスとイスラエルの戦争が長期化すれば、米国や西側はイスラエルに政治的、軍事的資源を集中せざるをえなくなり、そのぶん、ウクライナで戦うロシアに有利になる。ガザへの空爆を続けたイスラエルに対する批判が高まったタイミングもある。米国と西側非難に舵を切るには、絶好の環境だった。
中国もそうだ。
中国外務省の報道官は11月1日、会見で「民間人に多くの犠牲者を出した難民キャンプに対する空爆を強く非難する。すべての関係者、とくにイスラエル側に最大限の冷静さと抑制を維持し、直ちに戦闘を停止し、できるだけ早く人道支援のための回廊を開いて、これ以上、民間の犠牲者を出さないよう求める」と語った。
すべての関係者に「冷静さを保て」と語っているので、中立的なように見える。ところが、当のハマスが中国との密接な関係を語ってしまった。
ハマスの元指導者、ハレド・マシャル氏は10月26日、エジプト・テレビのインタビューに答えて「中国は、我々のイスラエルに対する攻撃に『目を見張っている』。中国は、我がアル・カッサム師団がやった攻撃を台湾に対して実行することを検討している」と語った。同氏は「ロシアは『10月7日に起きたこと(テロ攻撃)は軍事学の教材になる』と我々に話している」とも語った。
悪の枢軸と自由民主主義の戦い
イランはかねて、ハマスを軍事的、経済的に支援してきた。10月8日付のウォール・ストリート・ジャーナルはイランが8月以来、ハマスやレバノンのイスラム教シーア派武装組織、ヒズボラなど4つの武装勢力の代表を集めて「イスラエル攻撃を計画していた」と報じた。
イラン外相は11月1日、もしも停戦が実現せず、米国とシオニスト(注・イスラエルを指す)によるガザ攻撃が続けば「深刻な結果を招くだろう」と警告した。
ロシアと中国は米国の1極支配に反対し、自分たちを中心とした多極化体制を目指している。10月27日公開コラムで指摘したように、イランは世界でイスラム革命を起こすことを憲法に掲げている。悪の枢軸の3国とハマスは「米国を倒す」という同じ目標を共有し、密接に連携しているのだ。
この3国はいずれも「専制独裁国」だ。プーチン氏と中国の習近平総書記(国家主席)、イランのアリ・ハメネイ大統領は、それぞれ国内で強固な基盤を築き、反対する政治家やジャーナリスト、国民を過酷な暴力や脅迫で弾圧している。
彼らの独裁体制はトップが変わっても、体制自体は生き残ってきた。習近平氏は毛沢東以来、6人目の最高指導者であり、イランのハメネイ大統領はアヤトラ・ホメイニ師に続く2代目、プーチン氏もボリス・エリツィン氏に次いで2代目だ。
彼らは他国の領土や主権といった基本的な国際ルールを尊重せず、自分たちが「勝てる」もしくは「邪魔されない」と踏んだときには、武力や武力による威嚇に訴えて、現状を変更しようとする。そこから、英語では「修正主義勢力」とも呼ばれる。
ウクライナに侵攻したロシアは言うまでもなく、イランは支配下にある武装勢力を使って、イスラエルや米国を攻撃している。中国は南シナ海で国際法を無視してフィリピンなどを脅し、台湾を虎視眈々と狙っている。
彼らが勝手に行動できる根本的な理由は、国内に権力者をチェックする仕組みがないからだ。彼らを制御するのは、したがって、原理的に他国になってしまう。言い換えれば、独裁体制が変わらない限り、悪の枢軸と国際ルールを尊重する自由民主主義勢力の戦いは続かざるをえない。
欧州・日本に真の平和は訪れるのか
この点は、ウクライナ戦争でも早い段階から指摘が出ていた。
22年10月21日公開コラムで紹介したが、たとえば、ロシアの反体制派活動家で、いま獄中にあるアレクセイ・ナバルニー氏は昨年9月、米ワシントン・ポストへの寄稿で「ロシアに独裁体制が続く限り、欧州に真の平和は訪れない」と訴えた。以下のようだ。
〈ロシアは「議会制共和国」を必要としている。それこそが、終わりのない帝国主義的な独裁・専制主義から脱する、ただ1つの道なのだ。それは万能薬ではないが、決定的な長所がある。国民への権力委譲や議会多数派による政府の構成、独立した司法、地方の権限強化などだ〉
〈私は、西側に戦争の根本原因を見過ごしてもらいたくない。いまの国家の形が維持される限り、プーチン後のロシアは、また好戦的な「プーチニスト」になってしまうだろう。議会制共和国だけが、それを止められるのだ〉
欧州と同じように、ハマスはもちろん、彼らを背後で操るイランの独裁体制が続く限り、中東に真の平和は訪れないだろう。そして、中国の独裁体制が続く限り、アジアの平和もない。もしも習近平体制が終わったとしても、同じような独裁者がまた現れるなら、日本に真の平和と安定は来ないのだ。
日本は欧州や中東の戦火を他人事とみてはならない。「自由民主主義と専制独裁主義の戦い」という大きな文脈において、日本は当事者だ。にもかかわらず「原油確保が最優先」としか頭にないような岸田文雄政権には、とても日本の安全を任せられない。
●フランス国内世論の分断を図ったか…パリの「ダビデの星」落書き事件 11/10
先月末にフランス・パリ市内で、ユダヤ人とユダヤ教の象徴である「ダビデの星」の落書きが相次いで見つかった事件をめぐり、現地捜査当局は背後にロシアがいるとの見方を強めている。モルドバ出身の不法滞在者らが犯人とされているが、犯人らは皆、ロシア寄りの事業家とみられる第3の人物の指示を受けていたことが分かったからだ。そのため、ウクライナと戦争中のロシアがフランス国内の内部対立をあおるために事件を企んだのではないかとの疑惑が持ち上がっている。
フランスの日刊紙「ル・モンド」などが8日(現地時間)に報じたところによると、パリ検察は「ダビデの星」落書き事件の容疑者として2組のカップルを捜査線上に乗せた。1組は拘束されたが、もう1組は既にフランスを出国して逃亡したことが分かった。全員がモルドバ国籍で、フランスに不法滞在していたという。
検察は、2組のカップルがいずれも同一の第三者と接触していたことを把握した。検察は7日「パリ地域で『ダビデの星』の落書きが見つかった事件は、海外に居住する何者かの要請によって行われた可能性を排除できない」として「拘束されたカップルが取り調べに対し『第三者の指示を受け、見返りをもらって実行した』と供述した」と明らかにした。
捜査当局は、ロシアがフランス内部の対立と分裂を引き起こすために事件を企んだのではないかとみている。落書きする様子が収められた監視カメラの映像で、カップルがロシア語で第三者とみられる人物と電話で話していたからだ。ル・モンドは複数の消息筋の話として、落書きを指示した人物がロシア寄りのモルドバ人事業家、アナトリ・プリジェンコ氏だと報じた。
同紙は独自に分析した結果として、パリ10区に描かれた「ダビデの星」の写真が、ロシア系のプロパガンダ・ネットワークに関連するSNS(交流サイト)アカウントを通じて急速に拡散されたと報じた。同紙は「フランスの情報当局は、今回の事件は海外からフランスを『不安定化』させようとする組織的な試みの可能性があるとみている」「これは疑う余地がない」とつづった。
専門家は今回の事件について、ウクライナと戦争中のロシアが、反ユダヤ主義的な感情を利用して西側諸国の結束を弱体化させるために企てたと分析した。フランス国際関係研究所のロシア専門研究員、ディミトリ・ミニック氏は「ロシアは反ユダヤ主義を捏造するなどの手口で西側諸国を弱体化させることについて、豊富な経験がある」として「フランスにはユダヤ人もイスラム教徒も多く、反ユダヤ主義が存在するため、デリケートなテーマで社会を揺さぶるのは容易だったはずだ」と指摘した。さらに「隠密な行動を通じた心理戦と情報戦が、依然としてロシアの軍事戦略の中心になっている。ロシアは今回の落書き事件を通じ、イスラエルとハマスの軍事衝突の緊張感を高めると同時に、ウクライナへの関心を分散させ、西欧社会を分裂させようとしたのではないか」と述べた。
一方、今回の調査は先月30日夜から31日未明にかけて、パリ14区のマンションや銀行などで、青いスプレーで落書きされた「ダビデの星」が60個以上発見されたことをきっかけに始まった。「ダビデの星」は窓ガラスやドアにスプレーで描かれていたが、これについて一部では、ユダヤ人をあぶり出すために何者かがユダヤ人の住んでいる場所に目印を付けたのではないかとの懸念も示された。「ダビデの星」は星型の六角形で、ユダヤ人とユダヤ教の象徴とされ、かつてナチスがユダヤ人を社会から排除・隔離するために利用したこともあった。
●ウクライナ、来年の予算案成立 国防費に重点配分 11/10
ウクライナ最高会議(議会)は9日、2024年の国家予算案を承認した。ロシアとの戦争に終わりが見えない中、歳出の過半を国防費が占める見通しだ。
歳入は1兆7700億フリブナ(484億ドル)、歳出は3兆3500億フリブナ。歳入不足は435億8000万ドルに達する見込み。
シュミハリ首相は予算案成立後、「優先順位は明確だ。資金は敵に抵抗し、勝つために使われる」と述べた。
その上で「事実上、予算の半分はウクライナの防衛と安全保障に振り向けられる。武器、車両、ドローン、弾薬、ミサイルが増えるだろう。税収は軍のために使われる」と強調した。
シュミハリ氏はまた、戦時中の生活費高騰に対応するため、最低賃金と年金を引き上げる計画も発表した。
●ロシア国境にフェンスを築くフィンランドの危惧 11/10
ロシアによるウクライナ侵略以来、ロシアと1300キロの国境線で接する北欧の国フィンランドは、北大西洋条約機構(NATO)加盟を実現するとともに、国境にフェンスを築きロシアに対する備えを強化している。
フェンスはロシア軍の侵攻を防ぐことに役立つわけではないが、不法移民の越境を防ぐことによって、ロシアが仕掛ける「ハイブリッド戦争」を抑止する狙いがある。
フィンランドの首都ヘルシンキから鉄道で2時間半。東部の工業・観光都市イマトラから、タクシーに乗って10分ほど走るとフィンランド・ロシア国境のペルコラ検問所に着く。
10月26日、検問所付近から国境沿いに3キロにわたって建設されたパイロットプロジェクト(試験事業)のフェンスが、報道陣に公開された。
高さ3メートルの金網、50メートル間隔の監視カメラ
緑に着色された金網は高さ3メートルで、その上部に有刺鉄線が巻き付けてある。森を切り開き、フェンスとそれに並行して敷設された道路が、起伏を伴いながらはるか先まで続くのが見える。50メートル間隔に立てられた柱の上に監視カメラが設置されている。
周囲は白樺やカラマツが茂る人里離れた場所。幸いキラキラした陽光が降り注ぐ爽やかな天候だったが、気温は摂氏0度。時折身を切るような冷たい風が吹き抜け、白樺の落ち葉が降りかかる。
現場では国境警備隊南東地区副隊長のユッカ・ルッカリ氏や、建設責任者のイスモ・クルキ氏らが説明に立った。
フェンスが完成したのは2023年の夏で、数カ月間、試験的な運用を行ってきた。その結果、フェンスの有用性が確認できたという。
「フェンス設置前は毎日、国境地帯をパトロールしていたが、設置後は頻繁にパトロールをする必要はなくなった。監視カメラや警報装置は司令部でモニターし、フェンスが設置されていない区間を重点的にパトロールすることになる」(ルッカリ氏)
ロシアが意図的に国境に向かわせている
2015〜2016年、欧州連合(EU)諸国に多数の移民が流入した「難民危機」の際、フィンランド北部ラップランドの検問所にも、中東、アフガニスタンなどから1000人以上が押し寄せた。
通常、ロシアの国境警備当局は移民をフィンランド国境に近づけることをしない。検問所に押し寄せた人の多くはロシアの滞在許可(ビザ)を所有しており、ロシアがEU諸国の混乱を引き起こすことを目的に、これらの人々を意図的にフィンランドに向かわせたことは明らかだった。
2014年のクリミア併合の際、ロシアは軍事行動に、サイバー攻撃、偽情報の拡散などの多様な手段を組み合わせた「ハイブリッド戦争」を遂行したが、フィンランドに対してもロシアは移民を政治的道具として利用し、「ハイブリッド戦争」を仕掛けたのだ。
ロシアとベラルーシは、2021年にも同じことをポーランドに対して行い、ベラルーシとポーランドの国境では移民とポーランド軍が衝突した。
ヘルシンキで話を聞いたフィンランド国際問題研究所のヨエル・リンナインマキ研究員によると、難民危機の際のラップランドでの越境事件以来、フィンランド政府は国内法の整備を進めるなど国境管理の強化を図ってきた。
フェンスの建設計画が議論され始めたのは、ポーランドへの移民流入の状況を見てからで、さらにウクライナ戦争をきっかけに建設が具体化した。
フィンランド外交筋は、「なぜ今フェンスを建設するかというと、ウクライナ戦争をきっかけに、われわれハイブリッドであれ、サイバー攻撃であれ、ロシアのあらゆる悪意ある行動に備えねばならないからだ」と話す。
●プーチン大統領 ウクライナ東部に近い軍司令部訪問 作戦指示か 11/10
ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部に近いロシア軍の司令部を訪問し、ロシア軍が東部で攻勢を強める中、みずからも作戦を指示したものとみられます。
ロシア大統領府はプーチン大統領がウクライナ東部と国境を接するロシア南部ロストフ州のロストフ・ナ・ドヌーにある軍司令部を訪問したと10日、発表しました。
訪問にはショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が同行し、軍事侵攻の戦況や装備品について説明を受けたということです。
プーチン大統領は10月20日も同じ司令部を訪問していて、ロシア軍が東部で攻勢を強める中、みずからも作戦を指示したものとみられます。
また、プーチン大統領は10日、内務省の職員に向けた動画のメッセージで「あなた方の仕事はロシアの新たな地域であるドネツク州とルハンシク州、ザポリージャ州とヘルソン州で特に重要だ」と述べ、一方的に併合したウクライナの4つの州の支配を推し進める姿勢を強調しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ロシア軍との間で、東部ドネツク州のアウディーイウカ、バフムト、マリインカそして東部ハルキウ州のクピヤンシクの4つの方面で激戦となっていると明らかにしました。
また、ウクライナ軍は南部で反転攻勢を続け、10月からはヘルソン州でロシア軍が占領するドニプロ川の東岸に渡り作戦を展開しているとみられています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日、「ロシア軍は東部で攻撃を維持しながら、ザポリージャ州で防衛作戦を実施していて、ヘルソンでのウクライナの作戦に対応するための増援部隊に苦労している」と指摘しています。 
●ウクライナ国防費、GDP2割に/議会、24年予算案を承認 11/10
ウクライナ最高会議(議会)は9日、2024年の国家予算案を承認した。国防、安全保障関連費は1兆6900億フリブナ(約7兆900億円)で国内総生産(GDP)の約2割に達する見込み。無人機製造、弾薬・武器生産にそれぞれ430億フリブナを充てる。歳入は1兆7680億フリブナで、歳出は3兆3500億フリブナ。GDP成長率は4・6%、インフレ率を9・7%と見込んでいる。
ロシア大統領府は10日、プーチン大統領が中央アジア・カザフスタン訪問の帰途にロシア南部ロストフナドヌーに寄り、ウクライナ侵攻作戦の拠点である南部軍管区司令部で戦況報告を受けたと明らかにした。
●ゼレンスキー大統領が画策「アフリカ切り崩し」「プーチン孤立化」戦略の行方 11/10
プーチン大統領が9日、ロシアにとって重要な同盟国である、中央アジアのカザフスタンを訪問した。同国は経済、安全保障面でロシアと密接な関係にあるも、ウクライナ侵攻後は距離をとる動きを見せており、今回のプーチン往訪は「ロシア離れ」にくさびを打ち込みたい狙いがあるとみられる。
全国紙国際部記者が語る。
「会談でプーチン氏は『われわれは最も親密な同盟国だ』と強調し、カザフスタンのトカエフ大統領も『強い絆と共通の歴史で結ばれている』と応じたものの、ウクライナ侵攻により中央アジアでのロシアの求心力低下は顕著で、その証拠に各国との関係も多様化し始めています。そのためプーチン氏としては、ロシアと7600キロの国境を接し、多くのロシア系住民が住む最重要国のカザフをなんとしても繋ぎ止めておきたい。ただ、プーチン氏が訪問する1週間前には、フランスのマクロン大統領がカザフを訪れ、さらには欧州連合(EU)や米国、イラン、トルコなどもカザフとの関係強化に動いています」
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦況が膠着する中、6日深夜の演説で「今は誰もが国を守ることを考えるべきだ。私たちは団結し、他の事に巻き込まれたり分裂したりしてはいけない」と国民に対し結束を訴えた。
「ウクライナ国営通信は9日、ウクライナの最高会議にてロシアの侵略後に発令された戒厳令と総動員令を来年2月まで延長することが承認されたと報じています。当然、戒厳令下では大統領選や地方選挙などは行われませんから、来年2月まではゼレンスキー氏が陣頭指揮を取ることになる。同氏としてはこの先も反転攻勢を強め、年内になんとか先が見えるところまで持っていきたいという思いがあり、戦闘面だけでなく外交攻勢も仕掛けています」(同)
そのひとつが、ロシアを孤立化させるための「アフリカ諸国の切り崩し」だというのだ。
「ウクライナのクレバ外相は、昨年10月以降4度もアフリカに飛び、アフリカ12カ国を訪問、結果5カ国以上と大使館の開設合意を取りつけています。また、9月にはアフリカ諸国に対し、現在使用している古いロシア製兵器から、最新のウクライナ製兵器へ切り替えるよう働きかけたり、軍需工場建設を提案するため『国際防衛産業フォーラム』なる見本市まで開催し、アフリカ各国の関係者を招待しています。ロシアはこれまで、民間軍事会社ワグネルを使いアフリカとの関係を構築してきましたが、ワグネルなきあとは関係が希薄になった国もあると聞きますからね。交渉によってはウクライナの『切り崩し作戦』が功を奏す可能性もあり、今後、両国のアフリカ諸国を巡る攻防が激しくなることは間違いないでしょう」(同)
6日、プレトリアで演説したクレバ外相は、新興国・途上国の総称である「グローバル・サウス」は、「西側とそれ以外の国で分断があると思い込ませるロシアの『ナラティブ』(物語)だ」とコメントしたとされるが、果たしてウクライナの巻き返しは成功するのか、アフリカ諸国の動向が注目される。
●「習近平主席は両岸戦争を楽観」…米NSC元高官が警告 11/10
中国の習近平国家主席が台湾との戦争を過度に楽観しているという警告があった。「中国通」のポッティンジャー元米国家安全保障会議(NSC)副補佐官が8日に開かれた「2023台北安全対話」でこのような見方を示した。この日、ポッティンジャー氏は、台湾が同盟と協力しながら習近平主席の両岸(中国・台湾)戦争に対する過信と台湾侵攻意志を抑止すべきだ、と促した。
台湾政府系シンクタンクの国防安全研究院(INDSR)が主催した「2023台北安全対話」は台湾ハンブルハウス台北ホテルで開かれた。この日、画像を通じて行事に参加したポッティンジャー氏は「ロシア−ウクライナ戦争が両岸関係に示唆する点」セッションで、「習近平主席は両岸戦争の効用性と戦争所要期間を過度に楽観的に見ている」と主張した。
その根拠は習近平主席の「メッセージ」にある。習主席は、現在の世界的な「混乱」がしばらく続くはずで、この「混乱」は中国に非常に有利だ、と明らかにした。また習主席は危険よりも機会が大きいと公然と話している。これを見ると、習主席の戦争に対する楽観的な心理が反映されているのが分かるという分析だ。
ポッティンジャー氏は「戦争は怒りや判断の誤りでなく、侵略者の過度な楽観主義のために生じる」とし「朝鮮戦争、ベトナム戦争、ウクライナ侵攻ともに戦争が短期間で終わるという独裁者の過信のために起きた」と強調した。また「我々は独裁者の『言葉』に注目する必要がある」とし「習主席が提示した中国の夢は台湾と統一してこそ実現するが、習近平は台湾問題を後の世代で渡さないと公言した」と指摘した。
台湾の対処について、ポッティンジャー氏は「戦争も辞さないという決心を見せてこそ実質的な抑止が可能だ」とし「抑止は武器や戦艦よりはるかに費用が少なくなる」と述べた。続いて「台湾は米国、日本、オーストラリアなど同盟国との協力を強化し、集団の力で戦争に対する習主席の過信と台湾侵攻意志を挫くべきだ」と主張した。
具体的な戦略について「独裁者は敵国の報復が自国の経済に及ぼす被害や国民の犠牲を気にしない」とし、台湾に対して「報復的抑止」よりは「拒否的抑止」に集中するのがよいと強調した。
この日、習主席を繰り返し「独裁者」と呼ぶなど対中国強硬派のポッティンジャー氏はロイター通信の記者、ウォールストリートジャーナル(WSJ)北京特派員を経験し、トランプ前政権でホワイトハウスNSC副補佐官を務めた。在任当時、国務省東アジア太平洋次官補、国防総省アジア太平洋次官補と共に朝鮮半島政策を担当する「三角軸」と呼ばれるなど東アジア専門家に挙げられる。
8日の行事には台湾の蔡英文総統、台湾国防安全研究院国家安保研究所の沈明室所長らが出席し、ミシェル・フロノイ元米国防次官は画像を通じて参加した。米国、英国、ドイツ、フランス、日本、オーストラリア、インドなどから訪問した学者や専門家はこの日、台湾の学者と共に世界秩序と民主主義に対する中国の挑戦を分析し、熱を帯びた討論をした。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 10日の動き 11/10
プーチン大統領 記者会見と国民対話イベント 年内に実施
ロシア大統領府のペスコフ報道官は9日、プーチン大統領が大規模な記者会見を、テレビを通じて国民からの質問に直接答えるイベントと合わせる形で年内に実施すると、ロシアの通信社に明らかにしました。
実施の時期については、「すでに決定している。折を見て発表する」と述べるにとどまりました。
この記者会見は数時間にわたって内外のメディアの質問に答えるもので、例年、年末に行われてきましたが、ウクライナへの軍事侵攻を始めた去年は、会見も国民との対話形式のイベントも見送られました。
ロシアでは来年3月に大統領選挙が予定され、ロイター通信は今月、プーチン大統領が通算で5期目を目指して近く立候補を表明する意向だと伝えていて、ウクライナ侵攻をめぐる主張とあわせて、その発言に関心が集まりそうです。
ロシア メドベージェフ前大統領「軍事産業の能力 空前のレベル」
ロシアの前の大統領で、安全保障会議のメドベージェフ副議長は9日、モスクワ近郊で軍の訓練を視察した際、ことし1月以降、およそ41万人が軍と契約を結んだとした上で、「ロシアの軍事産業の能力は第2次世界大戦の終結以来の空前のレベルになった」と主張し、ウクライナや欧米をけん制しました。
プーチン大統領 ウクライナ近くのロシア軍司令部訪問
ロシア大統領府は、プーチン大統領がウクライナ東部と国境を接するロシア南部ロストフ州のロストフ・ナ・ドヌーにある軍司令部を訪問したと10日、発表しました。
訪問にはショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が同行し、軍事侵攻の戦況や、装備品について説明を受けたということです。プーチン大統領は10月20日も同じ司令部を訪問していて、ロシア軍が東部で攻勢を強めるなか、みずからも作戦を指示したものとみられます。
またプーチン大統領は10日、内務省の職員に向けた動画のメッセージで「あなた方の仕事はロシアの新たな地域であるドネツク州とルハンシク州、ザポリージャ州とヘルソン州で特に重要だ」と述べ、一方的に併合したウクライナの4つの州の支配を推し進める姿勢を強調しました。
ゼレンスキー大統領 “4つの方面で激戦”
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ロシア軍との間で東部ドネツク州のアウディーイウカ、バフムト、マリインカそして東部ハルキウ州のクピヤンシクの4つの方面で激戦となっていると明らかにしました。
また、ウクライナ軍は南部で反転攻勢を続け、10月からはヘルソン州でロシア軍が占領するドニプロ川の東岸に渡り作戦を展開しているとみられています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は9日「ロシア軍は東部で攻撃を維持しながら、ザポリージャ州で防衛作戦を実施していて、ヘルソンでのウクライナの作戦に対応するための増援部隊に苦労している」と指摘しています。

 

●プーチンの顔面に「異変」が...「頬どうした?」と話題に 11/11
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「顔の異変」が、話題になっている。最近撮影されたと見られる動画のなかのプーチンは頬が明らかに膨らんでおり、まるで美容整形のフィラー(充填剤)の注入を受けたかのよう、というのだ。プーチンをめぐっては、今月のカザフスタン大統領との会談での「奇妙な様子」を捉えた動画も拡散されており、変わらぬ注目度の高さを見せている。
動画を投稿したウクライナ内務省顧問のアントン・ゲラシチェンコは、「プーチンの頬はどうしたんだ?」と、座って話をするプーチンの様子について述べている。4秒間のこの動画は、右上に「クレムリン」という透かし文字が入っているが、撮影時期は不明だ。
11月9日、プーチンはカザフスタンを訪問し、同国のカシムジョマルト・トカエフ大統領と会談している。ウクライナのゲラシチェンコは、カザフスタン訪問中のプーチンを捉えた別の動画も投稿しており、こちらの動画にはプーチンが「(カザフスタン)大統領の名前をうまく発音できずにいる」とコメントしている。
「彼が他国の指導者の名前を言い間違えたのは、今回が初めてではない」とゲラシチェンは指摘する。「敬意が欠けているのか、それとも彼の『新しい頬』が発音に影響を与えているのか?」
フィラーを注射したのはプーチンの影武者?
プーチンの頬の動画に対し、あるユーザーは「頬の上に小さなあざがあるから、これは新しいフィラーだ。整形していない彼は、本当はどんな顔なのだろう」とコメントした。
別のユーザーは、これは「リフトアップのための注射」であり、「役者」に対して行われたものだと書いた。これは、プーチンの「影武者説」に言及したもので、あるユーザーは、今回の動画の顔と別のプーチンの画像を比較し、「頭の形、耳の形、鼻のカーブ」が違うと主張した。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、影武者説を強く否定しているが、ウクライナ軍事情報総局のアンドリー・ユーソフ報道官は11月5日、プーチンが影武者を使っているという「信頼できる情報」を持っているとNVラジオに語った。
「クレムリンの報道官がプーチンの影武者の存在を繰り返し否定するほど、逆の結論のほうが信憑性が高くなる」とユーソフは述べた。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、プーチンの健康状態に対する疑念が渦巻いている。プーチンの「死亡説」がソーシャルメディア上で伝えられた際には、ペスコフは「彼は何も問題なかった」と説明した。
●プーチン政権を悩ます“怪”情報「影武者説」「死亡説」は嘘か実か… 11/11
「プーチン大統領に何人の影武者がいるのかという憶測が飛び交っています。3人なのか4人なのか、専門家が推測しようとしています。毎日私たちが目にしている姿は3番目の影武者なのか4番目なのか、わからないですよね?…プーチンは1人しかいませんよ」(ペスコフ大統領報道官)
ロシアの祝日である11月4日の「民族統一の日」。モスクワでは約20年にわたるプーチン時代の「成果」をアピールする博覧会が始まったが、メディアの関心は博覧会そのものより会場で講演したペスコフ大統領報道官の発言に向けられた。
これに先立つ10月26日、ロシアから次のような“怪”情報が発信されていた。
「暴君は死んだ。ドッペルゲンガー(影武者)を大統領にすり替える“クーデター”が進行中だ」
メディア統制下にあるロシア国内でも、規制を受けない通信アプリ「テレグラム」を通じて情報が拡散。独立系メディア『モスクワ・タイムズ』によると、国内最大の検索サイトで「プーチン死亡」というキーワードが前月の30倍以上検索されたという。
もちろん、ペスコフ報道官は「デタラメだ」と一蹴。強力な情報機関を持つ米英等の主要国からも公式反応は一切出ていない。偽情報だろうと断じてしまえばそれまでなのだが、その後も「遺体はヴァルダイの大統領邸の冷凍庫にあり、近親者が葬儀の準備をしている」とか「プーチン氏に成り代わった影武者がコロナに感染し公務を休んだ」といった二の矢、三の矢の“続報”が放たれ、ペスコフ氏が重ねて否定するという異例の「いたちごっこ」が続いている。
●プーチン氏、大統領選出馬を公式化か…「12月に大規模な記者会見」 11/11
ロシアのプーチン大統領が来月中旬、大規模な記者会見を開く予定だ。2024年3月にロシア大統領選挙を控えているだけに注目が集まっている。
露メディアのRBCが10日(現地時間)、情報筋を引用して報じた内容によると、プーチン大統領の記者会見は12月14日に行われるという。今回の会見で、プーチン大統領は放送を通じて、一般国民の質問に即席で答える時間を持つ計画だ。
ロシア大統領府のペスコフ報道官も9日、「年内に2つの行事(放送と記者会見)を兼ねた行事が開かれる」と予告した。両行事を同時にする形式であるため、例年より大規模な行事になると予想される。
国民との対話と記者会見はもともと年次行事として別々に開かれてきた。昨年はウクライナに対する「特別軍事作戦」の影響でともに開かれなかった。
最近の国民との対話は2021年6月に3時間42分ほど進行され、記者会見も2021年が最後だ。会見は同年12月に4時間29分ほど行われた。当時最も多かった質問は新型コロナの影響とワクチン接種に関するものだった。
RBCは今回の行事が2024年3月17日に予定された大統領選を控えて開かれるという点にも注目した。プーチン大統領は大統領選を控えた2017年12月14日にも大規模な記者会見を開いた。当時の会見でプーチン大統領は2018年3月の大統領選に無所属で出馬する意向を明らかにした。これに先立ちプーチン大統領は記者会見が開かれる1週間ほど前、自動車工場の労働者らと会った席で大統領選出馬を公式宣言した。
プーチン大統領が今回再選に成功すれば2030年まで任期を延長することができる。ただ、まだ出馬を公式化していない。
●プーチン大統領 ウクライナ近くの軍司令部を先月に続き訪問 11/11
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナとの国境に近い軍司令部を先月に続いて再び訪問しました。ロシア軍が攻勢を強めているとアピールする狙いがあるとみられます。
ロシア大統領府は10日、プーチン大統領がロシア南部ロストフナドヌーの軍司令部を訪問したと発表しました。ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長も同行し、ウクライナ侵攻の戦況や最新の軍事装備などについて報告を受けたとしています。
プーチン氏は先月20日にも司令部を訪問したばかりで、来年3月に大統領選を控えるなか自らが最高司令官として作戦をコントロールし、ロシア軍が攻勢を強めているとアピールする狙いがあるとみられます。
一方、ロシアの経済紙RBCは10日、関係者の話としてプーチン大統領の年末の大記者会見や国民との直接対話が、12月14日に予定されていると報じました。大記者会見ではプーチン氏が数時間にわたって質問に答えるのが恒例で、大統領選への出馬に触れる可能性もあります。
●ウクライナのEU加盟交渉に反対 ハンガリー首相、“ロシア寄り” 11/11
ハンガリーのオルバン首相は10日、欧州連合(EU)欧州委員会が8日に勧告したウクライナのEU加盟交渉開始について「ウクライナは準備ができていない」と述べ、反対する姿勢を示した。ラジオでの発言を欧米メディアが報じた。EUは12月の首脳会議で交渉を始めるかどうかを決める。
開始には全27加盟国の承認が必要。オルバン氏はロシア寄りとされ、10月にプーチン大統領と会談したばかり。ウクライナのハンガリー系住民が母国語を使う権利を侵害されていると主張し、加盟に反対している。
スロバキアも10月に就任したフィツォ首相がウクライナへの軍事支援停止を表明している。
●プーチン氏がカザフスタン訪問 逮捕状後3カ国目 11/11
ロシアのプーチン大統領は9日、中央アジアのカザフスタンを訪問し、トカエフ大統領と会談した。
ウクライナ侵攻により旧ソ連圏で進むロシアの求心力低下を食い止める狙いがある。
プーチン氏の外遊は、ウクライナの子供連れ去りを巡って国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出された後、ウクライナの占領地を除いてはキルギス、中国に続いて3カ国目。いずれもICC非加盟国だ。プーチン氏は10月の記者会見で、外国訪問が減少したのは「国内の問題山積」が理由だと主張した。
カザフは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の陸路となる地政学的な要衝。ウランなどの資源大国でもあり、最近では先進7カ国(G7)の一角であるフランスのマクロン大統領が訪れた。
一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は9日、昨年見送ったテレビ特番を通じた「国民対話」について、年末に計画する大規模記者会見と統合する形で実施すると明らかにした。プーチン氏はまだ来年3月の大統領選に出馬表明していないが、内政を重視した格好だ。
●ウクライナ “南部クリミアでロシア小型揚陸艦に損傷”と発表 11/11
領土奪還を目指して反転攻勢を続けるウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアでロシア海軍の小型揚陸艦を攻撃し損傷を与えたと発表しました。一方でロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部に近いロシア軍の司令部を視察し、みずから作戦を指示したものとみられます。
ウクライナ空軍は10日、ロシア軍が発射した無人機5機とミサイル1発を、東部ハルキウ州や中部ポルタワ州、南部ミコライウ州などの上空で撃墜したと発表しました。
また、ウクライナ国防省情報総局は10日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアで作戦を実施し、ロシア海軍の黒海艦隊の小型揚陸艦に損傷を与えたと、発表しました。
クリミアでは今月4日にもウクライナ軍が造船所をミサイルで攻撃し、ロシア海軍の艦船1隻を損傷させるなど、ウクライナ側はクリミアの奪還を目指し攻撃を続けています。
ゼレンスキー大統領は10日、激戦が続く東部や南部など前線での戦況について現地の司令官から報告を受けたとSNSに投稿し、このうち南部ヘルソン州について防空能力や電子戦を強化する方針を明らかにしました。
一方、ロシア大統領府は、プーチン大統領がウクライナ東部と国境を接する、ロシア南部ロストフ州にある軍の司令部を視察したと10日発表しました。ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が同行し、戦況や装備品について説明を受けたということで、大統領が東部の作戦をみずから指示したものとみられます。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は10日「ウクライナは戦場で勝利は得られないと理解すべきだ」と述べ、軍事侵攻を続ける姿勢に変わりがないことを強調しました。
●ロシア軍のドローンが前線で火力支援、ますます脅威に 11/11
ロシアがウクライナに対して仕掛けた1年10カ月に及ぶ戦争において、爆発物を搭載したドローンはいま、双方にとって最も重要な武器のひとつとなっている。
突撃隊や補給部隊を襲い、防空施設や砲台を執拗に攻め、前線から数十キロメートル、あるいは数百キロメートルも後方に位置する航空基地を攻撃する。
最近までは、歩兵部隊が敵の陣地に近づいて攻撃する際にドローンが直接火力を支援することは通常なかった。火力支援としては、歩兵は依然として迫撃砲や肩撃ち式ロケット砲、速射できる機関砲を備えた戦車や戦闘車両に頼っていた。
それが変わり始めた。そして、通常の法則の例外として、かなりの技術革新を行っているのはロシア軍だ。
最近、ウクライナ南部のザポリージャ州とドネツク州の境にあるウクライナ軍の塹壕群を、ロシア軍の歩兵部隊が襲撃した際、ロシア軍はウクライナ軍の分隊に向けて爆発物を搭載した8機の一人称視点(FPV)ドローンを飛ばした。これによりウクライナ軍の兵士7人が死亡し、生き残った6人は後退を余儀なくされた。
スタロマイオルスケとプリユトネの間にあるヴレメフスキー棚沿いで先週展開されたこの攻撃では、ロシア側に死者は出なかった。この集落はモクリ・ヤリー川渓谷に近く、そこでウクライナ海兵隊は今夏、大きく前進した。
戦争の最新情報をまとめるウクライナのディープ・ステート・プロジェクトは、この戦闘の映像を分析し、独立調査機関コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)がその分析を要約した。CITは「ロシア軍の4つの突撃隊が攻撃支援でFPVドローンを使っているのが観察された」と述べている。
「最初の映像では、ロシア軍の兵士らがドローンでウクライナ軍の塹壕を攻撃し、砲兵1名と兵士3名を殺害している」とCITは続けた。
CITによると、「その後、ロシア軍は即席の空爆を続けながら、2つ目の塹壕を襲撃した」。ドローンがさらに押し寄せ、生き残ったウクライナ軍の兵士らは逃亡した。「ロシア軍は損害を被ることなく、これらの陣地を占領することができた」とのこと。
ロシアの宣伝工作を行う国営メディアなどは、最近の小戦を取り上げて、6月初旬に始まったウクライナ軍の反攻が「完全に停止した」と宣言した。
それは事実ではない。だがウクライナ側がドローン対応に苦慮しているのは事実だ。「ロシア側も含め、要塞攻撃時にドローンが効果的に使用されていることから、対ドローン戦のさらなる展開に疑問が投げかけられている」とCITは説明している。
ウクライナ側は、強力な電波妨害装置や車両の周囲に取り付けるケージ装甲、ゲパルト自走対空砲など、ロシア軍のドローンの飛行を落下させたり逸らせたり撃ち落としたりするシステムを続々と配備している。だが、防御の大半は前線から何キロメートルも後方で機能し、戦闘の最前線にいる歩兵のためのものではない。 
●ウクライナ首都にミサイル ロシア、9月以来の攻撃 11/11
ウクライナの首都キーウ(キエフ)に11日、ミサイルが撃ち込まれた。
キーウはこのところ比較的平穏な状況が続いていたが、軍報道官は声明で、ロシアが「52日間の休止を経て、キーウへのミサイル攻撃を再開した」と表明した。
AFP記者はキーウで2回の爆発音を聞き、その直後に空襲警報が鳴り響いた。9月下旬のキーウ攻撃では、防空システムで撃墜されたミサイルの残骸が落下し、子供1人を含む7人が負傷。今回の攻撃による被害や死傷者は伝えられていない。
空襲警報が着弾後に鳴った理由について、ウクライナ空軍報道官は「弾道ミサイルは極めて高速で飛来し、巡航ミサイルと異なりレーダー上で捕捉できない」と説明。撃ち込まれたのが弾道ミサイル「イスカンデル」か地対空ミサイル「S400」か、空軍が調査しているという。
●キーウに2カ月ぶりミサイル攻撃、空襲警報間に合わず 負傷者はなし 11/11
キーウのセルヒー・ポプコ軍事行政長官は11日、ロシア軍がキーウに約2カ月ぶりにミサイル攻撃を仕掛けたとSNSに投稿した。
ミサイルは防空システムによって撃墜されたという。
ポプコ氏はSNSに「52日間の長い休止の後、敵はキーウへのミサイル攻撃を再開した」と投稿。攻撃には短距離弾道ミサイル「イスカンデル」が使われたとみられるという。負傷者はおらず、別の当局者によると2発のミサイルが野原に墜落したという。
英BBCによるとキーウでは同日朝、空襲警報が鳴る前に爆発音が響いた。ウクライナ空軍のユーリー・イフナート報道官は「弾道ミサイルは飛翔(ひしょう)速度が速く、レーダーで捉えるのが難しい」と述べたという。
ロシア軍は昨冬、ウクライナ各地のインフラ設備を集中的に攻撃。多くの市民が停電や断水に苦しんだ経緯があり、ウクライナは西側の高性能兵器を輸入するなどして防空態勢の強化に努めている。
●ウクライナ軍大佐 海底パイプライン破壊に関与か 11/11
昨年9月に起きたロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」爆破事件で、ウクライナ軍大佐が中心的役割を果たした疑いが浮上した。
ワシントンポスト紙がウクライナや欧州各地の当局者などの話として伝えたところによると、破壊工作の「コーディネーター」を務めたとされるのはウクライナ特殊作戦軍のローマン・チェルビンスキー大佐(48)。爆破作戦で、ロジスティクスを管理し、6人の工作員が偽名でボートを借りて、深海潜水器具を使用して海底パイプラインに爆発物を設置するのを助けたという。
ノルドストリーム1と2の二本のパイプラインの複数箇所でガス漏れが発生したのはロシアによるウクライナ侵攻開始から7ヶ月後の昨年9月26日。当初捜査を行ったスウェーデンの検察当局は同年11月、現場から「爆発物の痕跡」が見つかったとし、「重大な破壊工作」によるものと発表した。
チェルビンスキー氏は計画策定に関わっておらず、命令はより上級の軍当局者から下され、ワレリー・ザルジニー総司令官に報告されていたという。
同紙は今年6月、バイデン政権は事件の3ヶ月前に計画の存在を同盟国から知らされていたと報じていた。情報はヨーロッパの情報機関からCIAに共有されたもので、ウクライナ軍が総司令官に直接報告する少数のダイバーを使って隠密攻撃を計画しているというものだった。ヨーロッパ情報機関の報告は、今年4月に逮捕されたマサチューセッツ州の州兵のメンバー、ジャック・ティシェイラよってネットに流出し、それには工作員の数や攻撃方法など、具体的な詳細を把握していたことが示されていた。同報告ではまた、計画と実行はザルジニー氏に直接報告され、ゼレンスキー大統領に知らされなかった可能性が記されているという。
同報道を受け、ゼレンスキー大統領は当時、ポリティコ掲載のインタビューで「私がウクライナの大統領であり、適切に命令を下している」とした上で、「そのようなことをウクライナはしていない。私は決してそのように行動しない」と政府の関与を否定していた。
CIAは当時、ザルジニー氏に仲介者を通じて米政府の反対の意向を伝えており、米当局者らは攻撃は中止されたものと信じていたという。
ローマン・チェルビンスキーとは
チェルビンスキー氏はロシアによる侵攻開始後、ウクライナ特殊作戦軍の部隊に所属。ロシア占領下にある地域で「抵抗活動」に従事し、ザルジニー氏とダイレクトにつながるヴィクトル・ハヌシュチャク少将に報告していた。
ウクライナの軍情報機関やウクライナ保安庁(SBU)の上級職を歴任しており、公私にわたって軍事および安全保障の指導者と親しかった。
ポスト紙は、こうした立場から、チェルビンスキー氏はウクライナの責任を曖昧にするための秘密任務の遂行に適していたと指摘している。
パイプライン以外の秘密作戦にも関わっており、2020年には、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの戦闘員をベラルーシに誘い込んで拘束、ウクライナに連行して告発することを目的とした計画を監督したほか、親ロシア派分離勢力の指導者をウクライナで殺害する作戦やドンバス地域東部で2014年に起きたマレーシア航空17便撃墜事件をめぐって、ロシアの役割を裏付けられる証人を拉致する計画や実行にも関わったとことを自ら認めているという。
ただし現在は、ロシア人パイロットをウクライナに亡命させる計画をめぐって今年4月に逮捕、職権乱用の罪で起訴され、キエフの刑務所に拘留されている。捜査当局は同氏が許可なく行動し、作戦によってウクライナ飛行場の座標が漏洩したことで、ロシアのロケット弾の標的となり死傷者を出したとしている。
チェルビンスキー氏は命令に基づく行動で、ロシアの攻撃に責任はないとして無実を主張。さらに逮捕と起訴はゼレンスキー政権批判に対する「政治的報復」だと非難している。
同氏はアンドリー・イェルマーク大統領府長官がロシアのためのスパイ活動をしている疑いがあると公に主張したほか、ゼレンスキー政権がロシアの侵略に対する十分な準備を怠ったと非難するなどしていた。
パイプライン爆破への関与については、ポスト紙と独シュピーゲル誌に対する声明で「ノルドストリーム攻撃への私の関与に関する憶測はすべて、何の根拠もなくロシアのプロパガンダによって広められている」と否定したという。
● ウクライナ軍 激戦続く東部で「ロシア側に大損失与えた」発表 11/11
ウクライナ軍は激戦が続く東部アウディーイウカで、ロシア側に大きな損失を与えたと発表しました。一方、ロシアは東部や南部でウクライナ軍を撃退したなどと主張し、激しい戦闘が続いているとみられます。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は10日、SNSで東部ドネツク州のアウディーイウカでの1か月にわたる戦闘について、ロシア側の損失は兵士およそ1万人、戦車100両以上、戦闘機7機にのぼるなどと発表しました。
これに対してロシア国防省は10日、この1週間でドネツク州でウクライナ軍を撃退したとしたほか、南部ヘルソン州のドニプロ川の東岸周辺では砲撃により、ウクライナ側に兵士およそ500人の損失を与えたと主張しています。
ロシア軍はアウディーイウカ周辺に4万人規模とされる部隊を投入しているとされ、現地では激しい戦闘が続いているとみられます。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア大統領府が10日、プーチン大統領がウクライナ東部と国境を接する、ロシア南部ロストフ州にある軍の司令部を視察したと発表したことについて「来年の大統領選挙を前に戦時の指導者としてみずからを印象づけるねらいとみられる」と指摘しました。
また、不足が指摘されている車両や装備品を視察する姿を国営メディアが公開したことについても、大統領選挙に向けたアピールのねらいもあるという見方を示しました。
●ウクライナに1400億円支援=事務レベル合意―IMF 11/11
国際通貨基金(IMF)は10日、ウクライナへの約9億ドル(約1400億円)の金融支援に関し、同国当局と事務レベルで合意したと発表した。改革の進展などが背景で、正式合意にはIMF理事会の承認が必要。3月に承認された総額156億ドルの融資枠の一環となる。
IMFは、ロシアの侵攻がウクライナの経済や住民に壊滅的な打撃をもたらしているものの、「マクロ経済や金融の安定は維持されている」と指摘。2023年のウクライナの実質GDP(国内総生産)伸び率見通しを4.5%と、従来予想の1〜3%から上方修正した。 

 

●侵攻後ロシア移送のウクライナ人少年に招集令状 「市民として兵役義務」 11/12
ロシアによる軍事侵攻開始後、ウクライナからロシアへ移送された17歳のウクライナ人男性が、ロシアで徴兵され、自分が生まれた国を相手に戦わなければならない可能性があったことが明らかになった。
ウクライナ南東部の都市マリウポリ出身のボグダン・イェルモヒン氏は、3月にウクライナに戻ろうとした際、ロシアの国境警備隊に止められた。
ボグダン氏は間もなく18歳の誕生日を迎える。来月にモスクワ州の徴兵センターに出向くよう命じられていた。
しかしその後、ボグダン氏の窮状が公になり、同氏の弁護人がウォロディミル・ゼレンスキー大統領に助けを求めたところ、ロシアは心変わりしたようだ。
ロシアで子どもの権利を担当するマリア・リヴォワ・ベロワ大統領全権代表は10日、ボグダン氏はいとこに面会するために近々海外へ連れて行かれる計画があると発表した。ウクライナ側もこれを事実だと認めた。
侵攻開始後にロシアへ
ボグダン氏は2014年に孤児となった。ロシアがウクライナに侵攻する以前は、港湾都市マリウポリの里親のもとで暮らしていた。2021年に、ボグダン氏が通っていた専門学校の校長が同氏の法定後見人になった。
2022年になると、マリウポリはロシア軍に占領され、ボグダン氏は最終的にロシアに行き着いた。どのように、あるいはなぜロシアに移されたのかは不明のままだ。
リヴォワ・ベロワ氏によると、ボグダン氏はロシア兵により残忍に包囲されたマリウポリの「地下室で発見された」ウクライナ人の子供の1人だったという。
ウクライナは、ロシアに強制的に送られた2万人近いウクライナ人の子供のリストを作成している。実際の人数はこれよりはるかに多い可能性があると、ウクライナはみている。
ロシア政府は、子供たちは安全のためにロシア領内に連れていかれたと主張し、ウクライナ側の言い分を一蹴している。
しかし、オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とリヴォワ・ベロワ大統領全権代表に逮捕状を出した。ICCは、ロシアの狙いは「(ウクライナの)子供たちを彼らの国から永久に排除すること」だと指摘した。
ボグダン氏はまず、ロシア占領下のウクライナ東部ドネツク市に移送された。その後、ウクライナ人の子供30人と共に、モスクワ州の青少年サマーキャンプに移された。子供たちの中には、リヴォワ・ベロワ氏が自ら養子にした少年も含まれる。
ボグダン氏は最終的に、ロシア側の里親に預けられ、ロシア政府発行の身分証など公式書類を渡された。ロシアの大学に入って勉強も続けた。ボグダン氏は、ロシア占領下のウクライナの地域から来たティーンエイジャーたちを「統合」することを目的としたサマーキャンプで働いていたと、リヴォワ・ベロワ氏は主張した。
ロシアの招集令状を受け取る
ボグダン氏はロシア語の書類に加えて、ロシアの招集令状も受け取っていた。
このことは、2022年にロシアでのボグダン氏の法廷後見人となったイリーナ・ルドニツカヤ氏がBBCに認めた。
ルドニツカヤ氏はボグダン氏がウクライナでの戦闘に派兵される危険はないと主張した。「彼は学生です」、「新兵は特別軍事作戦には参加しません」と、ルドニツカヤ氏は述べた。「特別軍事作戦」とは、ウクライナ全面侵攻を指す、ロシア側の公式の言い回しだ。
リヴォワ・ベロワ氏はルドニツカヤ氏の主張に同調し、メディアが「大げさに」書き立てていると非難した。
ロシア当局は新兵が前線に送られることはないと、たびたび主張してきた。しかしBBCは、新兵が実際に前線に送り込まれていると、何度も立証してきた。
ウクライナが「おびき出そうとしている」
2023年4月、リヴォワ・ベロワ氏は記者会見で、ボグダン氏が自力でウクライナに戻ろうとしたと発表。ロシアの国境警備隊がなんとか阻止したとした。
「ベラルーシとの国境で彼を捕まえました」とリヴォワ・ベロワ氏は述べた。「ぎりぎりのところで、彼を止めることができました」。
リヴォワ・ベロワ氏も、ロシア国営テレビのジャーナリストたちも、このティーンエイジャー(ボグダン氏)は「巧みな操作と脅迫にだまされた」のだと、頑として譲らなかった。そして、ウクライナ当局が彼をウクライナにおびき出そうとしていると非難した。
「非常に積極的な少年で、我々の軍を助けてくれました。とてもロシアに友好的でした」と、リヴォワ・ベロワ氏は言い切った。
本人の意思に反することはしていないと
10日にソーシャルメディアに投稿されたリヴォワ・ベロワ氏の最新の主張によると、ボグダン氏は10月まではロシアに残りたがっていた。ロシア当局は彼の意志に反することは何もしていないと、リヴォワ・ベロワ氏は断言した。
「どこで暮らしたいのか、ボグダンの考えが変わりました。今の彼は、ウクライナに戻るつもりでいます」
ボグダン氏は3月にロシアを離れようとして失敗したが、これより以前には、マリウポリ出身でロシアの里親に引き取られたウクライナ人ティーンエイジャーが少なくとも1人、ウクライナへの帰還に成功している。
ウクライナの人権オンブズマン、ドミトリー・ルビネッツ氏によると、「セルヒイ」という名前の少年は、2022年12月にウクライナのチャットボットを通じてオンライン上で助けを求めた。
ボグダン氏もソーシャルメディアを利用していたが、ロシアを離れようとした3月ごろから自分の名前を使って投稿するのをやめていた。
ロシアでボグダン氏の里親となったルドニツカヤという女性は、モスクワ州の里親活動家で、地元メディアによると、ルドニツカヤ氏は少なくとも12人の子供を育て、複数の勲章を授与されている。
ロシア当局は少なくとも当初は、ウクライナ人の子供を里親経験のある人々に預けることを好んでいたことが、BBCの取材で明らかになっている。
ボグダン氏のロシア人里親と、ウクライナ人法廷後見人はいずれもBBCに対し、ロシア当局が現在、ボグダン氏をロシア市民とみなしており、ロシアの法律では兵役義務が発生していることを認めている。
しかし、占領地での招集令状の発行は国際法違反で、ウクライナはロシア側のこうした動きを非難している。これが、ICCがリヴォワ・ベロワ氏に逮捕状を出す根拠のひとつとなった。
ウクライナをはじめとする国際社会からすると、ボグダン氏はいまも変わらずウクライナ市民であり、ロシア軍への徴兵は違法だ。
リヴォワ・ベロワ氏は当局はいかなる違法行為もしていないと否定している。ロシア政府も、未成年者がウクライナへ帰還するのを妨げているとの主張を一蹴した。
一方でロシア当局は、子供をウクライナへ連れて帰るためにロシアに直接出向くことができるのは、子どもの母親か近親者のみだと主張している。
多くの場合、この条件を満たすのは不可能だ。特に子供が孤児の場合や、親族が渡航できる状況にない場合は難しくなる。
ボグダン氏については、ウクライナへ帰還することと親族と再会することで合意に達したことを、ウクライナのオンブズマンが確認している。
●ウクライナ将校関与か=昨年のパイプライン爆破事件 11/12
米紙ワシントン・ポスト(電子版)と独誌シュピーゲル(同)は11日、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」が昨年9月に爆破された事件について、ウクライナ軍将校が調整役として深く関わっていた疑いが浮上していると報じた。西側当局者らの話を基に伝えた。
この将校は、ロマン・チェルビンスキー大佐。報道によると、ウクライナ上層部の命令を受け、特殊部隊所属のチェルビンスキー氏が、偽造パスポートなどを用いパイプラインに爆発物を仕掛けた潜水士ら実行役6人の後方支援を担った。ウクライナ軍のザルジニー総司令官は一連の活動について報告を受けていたとされる。
ウクライナのゼレンスキー大統領とザルジニー氏は関与を否定している。ワシントン・ポストによれば、各国の当局者らは、ゼレンスキー氏が爆破作戦の意思決定から外されていたとの見方を強めている。
チェルビンスキー氏は現在、別の特殊作戦に関する不正の告発を受けウクライナで拘束されている。弁護士を通じ「根拠のないロシアのプロパガンダだ」とコメントし、爆破作戦への関与を否定した。
●ヘルソンに砲撃、1人死亡 奪還1年「ロシア支配続かず」 11/12
ウクライナ南部ヘルソン州の検察は11日、州都ヘルソンにロシア軍の砲撃があり、1人が死亡、2人が負傷したと発表した。直撃した民家で火災が発生し、集合住宅も被害を受けたという。ロシアの占領下にあったヘルソンはウクライナ軍が1年前に奪還した。
ゼレンスキー大統領は奪還1年に合わせて通信アプリにメッセージを投稿し「敵の力に屈しなかった人々は世界を鼓舞した。ロシアの支配が永遠に続くことはない」と訴えた。
11日には首都キーウ(キエフ)に9月以来のミサイル攻撃があった。キーウ市当局は「52日間の停止を経て、敵が攻撃を再開した」と述べ、弾道ミサイル「イスカンデル」が使われたと指摘した。負傷者は報告されていない。
キーウでは警報発令前に爆発音が響いた。ウクライナ空軍のイグナット報道官は、弾道ミサイルは速度が速くレーダーでの覚知が難しい場合があると説明した。ロシアが昨年の同時期にエネルギー施設への攻撃を強めた経緯があり、ウクライナは警戒している。
●ヘルソン解放1年も“ロシア軍による攻撃などで800人以上死亡” 11/12
ウクライナ南部のヘルソンがロシアによる占領から解放されて1年となる中、ウクライナの当局はヘルソンでは解放後もロシア軍による攻撃などによって800人以上が死亡したことを明らかにし、ゼレンスキー大統領は引き続き防衛を強化しながら反転攻勢を続ける姿勢を強調しました。
ロシアによる軍事侵攻で占領下におかれていたウクライナ南部の都市ヘルソンが、ウクライナ軍によって解放されてから11日で1年になりました。
これに合わせてヘルソン州の検察当局は、ヘルソンでは解放されたあとも
▽ロシア軍による砲撃などや
▽ことし6月のカホウカ水力発電所のダムの決壊でおきた洪水によって
子どもを含む800人以上が死亡したことを明らかにし、いまだに市民が危険な状態に置かれていると訴えました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、動画のメッセージで「ロシア軍によるヘルソンへの攻撃には、これまでと同じように、われわれの部隊が対応する」と述べ、防衛を強化していくとしています。
また、今月10日にウクライナ軍がロシアが一方的に併合したクリミアに駐留するロシア海軍の艦船に損傷を与えたことを踏まえ「われわれは黒海やクリミアでも占領者に打撃を与えられることを証明した」と述べ、反転攻勢を続ける姿勢を改めて強調しました。
●ウクライナ侵攻 活発化する露外交 中国、北朝鮮、イラン 新興・途上国 11/12
ロシアがウクライナで続ける「特別軍事作戦」の長期化と中東情勢の混乱を背景に、外交を活発化させている。中国など友好国との関係強化に加え、新興・途上国の取り込みを図るのが狙いだ。影響圏とみなす旧ソ連諸国についても、プーチン大統領が9日にカザフスタンを訪問するなど、つなぎ留めに努めている。
「米国はアジア太平洋地域で緊張状態をつくり出そうとしている。我々は防衛力の強化を図って対処しており、その協力のレベルは常に高まっている」。プーチン氏は8日、モスクワ郊外でショイグ露国防相とともに中国軍制服組トップの張又俠・中国中央軍事委員会副主席と会談し、中露の結束を強調しつつ米国をけん制した。
プーチン氏は10月中旬に北京で開かれた中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議に出席していた。ウクライナ危機を巡って、中国は「(戦争の)原因は北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大にある」と明確にロシア寄りの立場を取り、貿易拡大でロシア経済を支える。ロシアも良好な対中関係を強調し、「グローバルサウス」と総称される新興・途上国への影響力拡大につなげたい思惑もちらつかせている。 ・・・
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 12日の動き 11/12
ヘルソン州検察当局 “解放後も市民は危険な状態”
ロシアによる軍事侵攻で占領下におかれていたウクライナ南部の都市ヘルソンがウクライナ軍によって解放されてから11日で1年になりました。
これに合わせてヘルソン州の検察当局は、ヘルソンでは解放されたあともロシア軍による砲撃などや、ことし6月のカホウカ水力発電所のダムの決壊でおきた洪水によって、子どもを含む800人以上が死亡したことを明らかにし、いまだに市民が危険な状態に置かれていると訴えました。
ゼレンスキー大統領 反転攻勢続ける姿勢を強調
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、動画のメッセージで「ロシア軍によるヘルソンへの攻撃には、これまでと同じようにわれわれの部隊が対応する」と述べ、防衛を強化していくとしています。
また今月10日にウクライナ軍がロシアが一方的に併合したクリミアに駐留するロシア海軍の艦船に損傷を与えたことを踏まえ「われわれは黒海やクリミアでも占領者に打撃を与えられることを証明した」と述べ、反転攻勢を続ける姿勢を改めて強調しました。
ゼレンスキー大統領 「敵の強さ 過小評価すべきでない」
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、南部の都市ヘルソンをロシアの占領から解放して1年になるのに合わせてビデオ演説を公開し「ヘルソンは英雄、象徴、希望の街だ。敵に屈することなく、周辺、そして世界中の人々を鼓舞してきた」と述べました。
そのうえで「敵の強さを過小評価すべきでない」と述べ、領土の奪還という共通の目標に向けて、国内も国際社会も結束することが重要だと訴えました。
ウクライナ空軍 “ロシア軍の無人機 撃墜”
ウクライナ空軍は11日、ロシア軍がひと晩で首都キーウをはじめ東部ハルキウ州や南部オデーサ州など各地に対し、31機の無人機や複数のミサイルによる攻撃を仕掛け、このうち19機の無人機などを撃墜したと発表しました。
キーウに向かっていたミサイルは地対空ミサイルシステム「パトリオット」で迎撃したということで、キーウ市当局は「52日間の中断のあと敵は首都へのミサイル攻撃を再開したが届かなかった。けが人はなかった」と発表しました。
一方、各地の地元当局によりますと、首都近郊のキーウ州では複数の住宅や商業ビルが被害を受けたほか、南部オデーサ州では3人がけがをし、黒海に面した港湾インフラにも被害が出たということです。
●ロシア揚陸艇2隻を攻撃 黒海艦隊の“最新鋭艦被弾”防空に影響は 11/12
ウクライナ国防省は10日、クリミア半島のチョルノモルスクで、水上ドローンによる攻撃により、ロシア黒海艦隊の揚陸艇2隻を攻撃したと発表した。撃沈された2隻はロシア軍の防空を担っていたと見られ、同国防省は、「今後、ロシア軍の防空力がさらに低下する」と指摘した。また、クリミア半島ケルチの造船所に係留されていたロシア海軍の最新鋭艦「アスコルド」が4日、ウクライナ軍のミサイル攻撃で被弾・損傷したことが判明した。米経済誌「フォーブス」は6日、ウクライナ空軍の爆撃機「SU-24」から仏供与の巡航ミサイル「スカルプ」3発が、「アスコルド」に向けて、発射されたことを報じた。黒海艦隊が誇る最新鋭艦「アスコルド」は、全長67mで、最大8発の巡航ミサイル「カリブル」が搭載可能で、射程は、2400キロを超えると見られる。当時、黒海での試運転を行っており、年末までに、黒海艦隊に加わる予定だった。
ウクライナ軍は10月中旬以降、大規模な渡河作戦に乗り出し、ロシア軍と激しい戦闘を展開している。7日の米シンクタンク・戦争研究所によると、ウクライナ軍は、装甲車をドニプロ川東岸のクリンキー付近に移送したと主張した。複数の装甲車が渡河に成功した可能性があると指摘されている。輸送されたウクライナ独自開発の装甲車「BTR-4」は、戦闘重量は最大25トン、兵士輸送に使用される。ロシア軍が占領するドニプロ川東岸を、ウクライナ軍が攻勢をかける前提として、今後の焦点は、対岸にある敵陣を攻める際に拠点となる「橋頭堡」の確保となる。ロシアの軍事ブロガーによると、橋頭堡は既に、ドニプロ川東岸の土手沿いをはじめ、クリンキーの集落の中にも設営されていると指摘する。ロシア軍は10日、ドニプロ川東岸で“橋頭堡”を設置するウクライナ軍の試みを阻止し、1週間で約500人のウクライナ兵を殺害したと発表した。
●ウクライナ、越冬へエネルギー確保 ロシアのインフラ攻撃警戒 11/12
ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は11日、公共放送を通じ、今年の冬を越すための「十分なエネルギー資源があり、安心している」と語った。
一方、侵攻を続けるロシアによる供給網への攻撃について懸念も表明した。
ウクライナ政府は8日、ここ数週間のロシアからのインフラ攻撃が60回に及んだと発表。冬を前に、ロシアが送電網を標的にし始めたとの見方が出ている。昨年冬はロシアのドローンやミサイルによる攻撃が大規模な停電を引き起こした。今年は暖かい日が続いたものの、間もなく氷点下の冬が訪れるとみられている。

 

●プーチン大統領異変#ュ生か 最新のカレンダーに近影なし 11/13
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(71)が来年3月の大統領選出馬の意向を固めたと報じられた。5選は確実な情勢のプーチン氏だが、最新の2024年版カレンダーでは「異変」も生じている。カレンダーに使われている写真を確認した西側メディアが、昨年2月のウクライナ侵略以後に撮影したプーチン氏の近影が1枚もないと指摘している。
ロシアの新聞社、コムソモリスカヤ・プラウダが発売する24年版のカレンダーには、プーチン氏が背広姿で公務に臨む姿や、クレムリン(大統領府)を背景に立つ姿のほか、柔道着姿や森林を散策するようなプライベート風のカットもある。同社サイトでは、「プーチン大統領の明るい名言と表情豊かな肖像」が含まれており、「(政府)関係者への贈り物のための良い解決策になる」などのうたい文句で紹介されている。
毎年発売されるプーチン氏のカレンダーは、上半身裸の「マッチョ」な姿などが話題となり、日本でも人気となったこともあった。
筑波大学の中村逸郎名誉教授は「カレンダーは例年、複数のバージョンがあり、販売に際し、政府のチェックを受けていると考えられる。ロシア社会では『何でもできるお父さん』が理想像とされており、さまざまな側面をみせることで、『国父』としてのイメージを国民にアピールする狙いもある」と解説する。
ただ、英BBC(日本語版)は前出のカレンダーについて、少なくとも2年以上前の写真ばかりで、ウクライナ侵略以後に撮影された写真が1枚もないと分析した。
プーチン氏は、中東情勢をウクライナの侵攻正当化に利用する構えを強めている。イスラエルの後ろ盾である米国を非難し、ウクライナでの軍事作戦は、米欧の新たな植民地主義にあらがう「全世界とパレスチナの人々の運命を決める戦い」だと一方的な主張を行った。
プーチン大統領の支持率は80%超あるが、情報統制を徹底し、強権的に野党勢力を排除しているのがその実態とされる。
前出の中村氏は「別バージョンのカレンダーでは、各国首脳と一緒のカットも消え、国際的孤立を深めている印象を受けた。ウクライナ侵攻の戦果を象徴するカットがないのも、政府が国民の冷ややかな視線を気にしていることを暗示するものではないか」と指摘した。
●東部ドネツク州で激戦続く 州都近郊で40回衝突 11/13
ロシアによるウクライナ侵略で、ウクライナ軍参謀本部は12日、東部や南部の前線で過去1日間に露軍との戦闘が80回起き、いずれも撃退したと発表した。うち計40回の戦闘が東部ドネツク州の州都ドネツク市近郊の小都市アブデーフカとマリインカ周辺で起きたほか、同州バフムト方面でも10回の戦闘が起きたという。露軍がドネツク州で攻勢を強めていることが改めて示された。
ウクライナ軍参謀本部の12日の発表によると、1日間で露軍に1100人の人的損害を与えたほか、戦車7両や装甲車32台を撃破した。一方、露国防省は12日、ドネツク市近郊での1日間の戦闘でウクライナ軍に250人の人的損害を与え、装甲車3台を破壊したと主張した。
露軍はウクライナ軍が6月に開始した反攻作戦で損耗したとみて、秋ごろからドネツク州などで攻勢を強化。狙いは、主目標とするドネツク州全域の制圧に向けた突破口を開く▽自身の実効支配下に置くドネツク市周辺からウクライナ軍を駆逐し、同市の安全を高める▽ウクライナ軍が反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面に兵力を集中させる事態を防ぐ−ことだとみられている。
ウクライナ軍参謀本部によると、露軍はアブデーフカの包囲を目指している。米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデーフカ周辺で一定の前進に成功しているものの、相当の損害も受けている。ウクライナ軍のザルジニー総司令官も10日、「アブデーフカを巡る攻防で露軍は過去1カ月間に約1万人の人的損害を出した」と指摘した。
一方、ザポロジエ州方面では、8月下旬にウクライナ軍が奪還したロボティネ周辺で、前進を図るウクライナ軍と阻止しようとする露軍の戦闘が続いている。
● へルソン 住宅地などにロシアからの攻撃相次ぎ民間人死亡 11/13
ロシアによる占領から解放されて1年となったばかりのウクライナ南部のヘルソンで民間人1人が死亡するなど、ロシア側からの攻撃が相次いでいます。
ウクライナ南部ヘルソン州の知事は11日から12日の朝にかけてロシア側からヘルソン市内の住宅地などに多数の攻撃があり、64歳の男性が死亡し、4人がけがをしたほか、市内の図書館が被害を受けたと明らかにしました。
また、ウクライナ軍の南部方面の司令官は12日、ウクライナ南部では誘導爆弾をつかったロシア軍の空爆が増えていて、30回の空爆があったとSNSに投稿しています。
ヘルソンはロシアによる軍事侵攻で一時、占領下におかれ、11日に解放から1年を迎えたばかりですが、このところ攻撃が相次いでいます。
一方、ウクライナ国防省の情報総局はロシア側が占領する南部ザポリージャ州の主要都市メリトポリで11日、大きな爆発があり、ロシア側の当局者少なくとも3人が死亡したと発表しました。
発表では、爆発は地元の抵抗勢力によるもので、ロシア側に占拠された建物内でロシアの治安機関などが会議を行っている最中に起きたとしています。
これに対しロシア側の地元当局はSNSへの投稿で、市内で爆発音があり、装置の不具合で自動車から火が出たもののけが人はいなかったと否定しました。
ウクライナ軍の司令官は「メリトポリ方面への攻勢はこれからも続く」と投稿し、引き続き反転攻勢を続ける姿勢を強調しています。 
●CTBTOは存続できるか 11/13
ウィーンに暫定技術事務局を置く包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)の行方は一層不透明となってきた。CTBT(包括的核実験禁止条約)は1996年の国連総会で署名が開始され、今年で27年目を迎えたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を依然満たしていないため、条約は発効していない。
そのような中、核大国のロシアは今年10月、CTBTの批准を撤回する意思を表明し、下院が10月18日、上院は10月25日にそれぞれCTBT批准撤回法案を可決。それを受けてプーチン大統領は今月2日、CTBTの批准を撤回する法案に署名し、同法は成立したのだ。
CTBT署名国数は11月現在、187カ国、批准国177国だ。条約発効には核開発能力を有する44カ国=発効要件国の署名、批准が条件だ。その44カ国中で署名・批准した国は36カ国に留まり、8カ国の署名・批准が依然欠けている(米国、中国、インド、パキスタン、イラン、エジプト、イスラエル、北朝鮮)。過去6回の核実験を実施した北朝鮮は未署名、未批准だ。
CTBTOは現在、国際監視制度(IMS)を構築中。IMSは核爆発を探知するネットワークで全世界に4種類の観測所(地震観測所、微気圧振動観測所、水中音波観測所、放射性接種観測所)を設置し、監視している(IMSは過去、インドネシアの大津波など自然災害の対策にも貢献した)。
米国は1996年9月24日にCTBTに署名したが、クリントン政権時代の上院が1999年10月、批准を拒否。それ以後、米国は批准していない。一方、ロシアは2000年6月30日に批准済みだ。ロシアが今回、CTBT批准の撤回を決定したが、米国はモスクワを批判できない立場だ。
プーチン大統領は今年2月21日、年次教書演説でウクライナ情勢に言及し、「戦争は西側から始められた」と強調し、戦争の責任は西側にあるといういつもの論理を展開する一方、米国との間で締結した核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表した。ロシアのCTBT批准撤回はその第2弾目の核軍縮に逆行する決定だ。
プーチン大統領は近い将来、北極のソ連時代の核実験場ノヴァヤ・ゼムリャ島(Nowaja Semlja)で1990年以来初めての核実験を実施するのではないか、という懸念の声が欧米軍事関係者から聞かれる。ロシア国防省関係者は、「プーチン大統領によって命令された核実験の再開準備は確実に遂行される。そのための準備を行ってきた」と説明している。
ロシアのCTBTの批准撤回はCTBTOにとって大きな打撃だ。もはや「条約の発効」云々ではなく、「CTBTOの存続」にもかかわるからだ。米国と並んで世界の核大国が核軍縮に対してはっきりと「ノー」というスタンスを取り出したからだ。
さぞかしCTBTO関係者は失望しているだろう、と考えていたが、オーストラリア人のロバート・フロイド事務局長は先月末から中国を訪問し、CTBTOと中国との間でパートナーシップを強調するなど、活発な動きを見せている。ロシアが出て行っても中国がいる、というわけではないだろうが、フロイド氏は中国政府高官らと会談し、中国の国家データセンター(NDC)や複数の国際監視システム(IMS)施設を訪問している。国連機関のトップが1週間も中国を集中的に訪問することは異例といわざるを得ない。
フロイド事務局長は中国からCTBTに対する継続的な支持を得るために、北京で外務省軍備管理軍縮局長の孫暁波氏と二国間会談を行い、IMSネットワークの中国側の推進に向けて前進していくことで一致している。フロイド氏はまた、中国の馬昭徐外務次官とも会談し、今回の訪問を中国とCTBTOのパートナーシップにおける「新たな章」の始まりと歓迎し、CTBTの普遍化と発効に向けた勢いが今後も続くとの期待を吐露しているのだ。
ちなみに、フロイド氏は王暁明所長率いる中国のNDCを訪問後、IMSステーションを視察した。完成すると、IMSネットワークの中国セグメントには、2カ所の超低周波観測所、4カ所の補助地震観測所、2カ所の主要地震観測所、3カ所の放射性核種観測所、および1カ所の放射性核種研究所の計12の施設が含まれる。CTBTが誇る国際監視システムに対する中国の貢献が広がるわけだ。現在5カ所のIMS施設は認証を受けており、フロイド氏は残りの施設の認証を進める重要性を強調している。
ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)はその機関の非効率、腐敗などからカナダ、米国、英国、フランスなど欧米主要国が次々と脱退し、組織としての存続の危機に直面してきたが、ここにきて中国との関係を深め、中国共産党の習近平国家主席が提唱した新シルクロード構想「一帯一路」の下請け業者のような使命を受け、延命を図っている。
同じように、CTBTOは中国に接近し、そのパートナーシップの強化に乗り出している。両者はよく似ているが、その試みが成功するか否かは不明だ。
いずれにしても、フロイド事務局長が取り組まなければならない最初の課題は中国のCTBTの批准だ。中国は1996年9月に署名したが、批准していない。曰く、「国会で慎重に検討中」と弁明してきた。中国は米国の批准待ちの姿勢を崩していないのだ。
なお、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国の核弾頭数は2023年1月時点で約410発と推定され、「中国は核戦力を急速に拡大している」という。
●北朝鮮とロシアが急接近、「戦略的信頼関係」に透ける両国の温度差 11/13
1.はじめに
朝鮮戦争(1950〜53)休戦70周年(7月27日)以後、北朝鮮とロシアの接近が急速に進んだ。ショイグ露国防相の訪朝(7月)に始まり、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の訪露とプーチン露大統領との首脳会談(9月)、ラブロフ外相の訪朝(10月)と、ハイレベルの接触が続いた。
これに伴う露朝間の武器取引に注目が集まる中、米ホワイトハウス当局者は、北朝鮮がロシアにウクライナで使用するコンテナ1000個分以上の軍事物資を供与したという情報を確認したとし、関連の衛星写真を公開した。一方、ロシア側が北朝鮮に対し、どのような軍事的な見返りを供与したのかは、依然明らかになっていない。北朝鮮による軍事偵察衛星の発射は予告期間だった10月は見送られたものの、ロシアの支援を得て11月内にも3度目の発射が試みられる可能性がある。
こうした状況を踏まえ、「質的に新たな戦略的レベルに達した(ラブロフ外相)」 とされる露朝関係の現状及び中国を含めた今後の北東アジア情勢について考察する。
2.ロシアを宣伝扇動に活用
このところ北朝鮮は、ロシアとの関係強化を宣伝扇動の前面に押し出している。朝鮮中央テレビは9月12日から18日までの金総書記のロシア公式親善訪問を連日詳報し、日々の視察を複数回にわたって再放送した。また、帰国翌日には早くも約1時間30分の記録映画を公開した。
ニュース報道では写真、記録映画では動画が公開されたが、いずれも金総書記の肉声は伝えられず、アナウンサーがナレーションをつける形での放映だった。報道期間は9月12日から24日までの延べ12日間、記録映画も合わせた報道時間は57回、計1370分に及んでいる。(朝鮮中央テレビ集計:筆者)
   2019年と2023年の訪露報道比較
      2019年    2023年
報道期間    4/23〜5/1     9/12〜24
報道日数    9日           13日
(報道内容)  回数   分数   回数   分数
予告        4      4    
出発・到着  8      56     12     39
首脳会談    4      76     10     185
参観        4      56     18     204
通過                      6      7
帰国                      1      5
記録映画    8      432    10     910
総計        28     624    57     1350

2018年に開催された米朝、南北、中朝の一連の首脳会談のうち、朝鮮中央テレビでの報道回数が最も多かったのは同年6月にシンガポールで開催された初の米朝首脳会談であった。当時の報道期間は延べ9日間、放送回数は28回・624分に達する。北朝鮮が「主敵」としてきた米大統領との歴史的初対面とあって、北朝鮮側の報道ぶりもこれまでにない期待感と達成感が盛り込まれていた。今回の訪ロ報道はそれと比べても遜色のない最大級の扱いとなっている。朝鮮中央テレビの放映時間の拡大iや会談日程・報道日数の違いもあり、単純比較はできないものの、北朝鮮側が会談を高く評価し、国内外に向けた宣伝材料としてフル活用したと見てよいだろう。
金総書記のロシア訪問は2019年以来4年ぶり2度目、新型コロナウイルスの感染拡大以来、初の海外訪問となった。外遊再開にあたってロシアを訪問先に選んだことについて金総書記は、「朝露関係の戦略的重要性をわが党と政府が重視する立場を示す明確な表現になる」iiと述べ、北朝鮮のロシア重視の姿勢を強調している。
今回の訪問ではプーチン大統領との会談場所となった極東アムール州ボストーチヌイ宇宙基地をはじめ、コムソモリスク・ナ・アムーレ市での戦闘機などの飛行機工場参観、ショイグ国防相が同行したウラジオストク市での軍用飛行場、ロシア海軍太平洋艦隊基地など軍事関連施設への訪問が中核を占めた。両国の軍事協力の強化をアピールする上で効果的な場所への訪問が集中的に報じられた結果、国際社会に露朝の蜜月ぶりが印象づけられた。
3.曖昧な合意に隠された軍事的見返り
一方、露朝首脳会談での合意内容は曖昧な形でしか報道されず、首脳会談後の共同声明や共同記者会見も見送られた。北朝鮮メディアは9月13日に開催された露朝首脳会談について、金総書記が「朝露関係を最重要視して根の深い親善の伝統を変わることなく発展させていこう」と述べたことを伝えるとともに「相互の関心事となる重要問題(複数)で掘り下げた意見交換」がなされたと報じたiii。また会談は「帝国主義者らの軍事的威嚇および挑発、強権と専横を粉砕するための共同戦線で(略)国家の主権と発展の利益、地域と世界の平和と安全、国際的正義を守護していくうえで提起される重大な問題とさしあたっての協力事項(複数)を虚心坦懐に討議」して「満足のいく合意と見解の一致」を見たとしたが、具体的な合意内容は明らかにされなかった。
ただし、ロシア大統領府の公開映像に含まれた金総書記の肉声には、北朝鮮のより具体的な立場が示されていた。首脳会談の冒頭、金総書記は「ロシアは現在、覇権主義勢力に対抗して自らの主権的権利と安全、利益を守護するための正義の偉業を展開」しているとして「(ロシアが講じる)全ての措置に全面的・無条件的な支持」を表明したiv。北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻直後からロシア支持の立場を鮮明にしており、今回、金総書記自ら支持に言及したという意味で注目される。この場面は北朝鮮では報じられていないが、「さしあたっての協力事項」に北朝鮮によるロシアへのウクライナ侵攻向けの砲弾や弾薬の提供が含まれていることを意味する発言と言えた。
今後の焦点はロシア側がどのような軍事的見返りを北朝鮮に与えるかだ。プーチン大統領はロシアメディアに対し、「(金総書記は)ロケット技術に大きな関心を示しており、宇宙開発も進めようとしている」と述べ、軍事偵察衛星の発射など宇宙開発の面でロシアの協力を示唆したv。また、「ロシアはこれらすべての制限(国連の制裁措置)を順守しているが、我々が確かに話し合い、議論し、考えることができる事柄もある。そして、ここにも展望がある」と主張した。衛星発射への支援に加え、国連が海外渡航を禁じている北朝鮮の軍幹部の随行など制裁違反が明確な状況にも関わらず、ロシア側は一切、問題視していない。
4.「戦略的信頼関係」めぐる露朝の温度差
このように北朝鮮とロシアの武器取引が示唆される中、米国は異例の形でインテリジェンス情報を公開し、両国を強くけん制した。米国家安全情報局(NSC)のカービー戦略広報調整官は、9月7日から10月1日までに撮影された衛星画像を示し、北朝鮮からロシアへの武器輸送ルートを明らかにしたvi。衛星写真からは羅津港に積まれたコンテナが、ロシア船舶によってロシア太平洋艦隊の施設が並ぶ極東のドゥナイ港へ運ばれ、そこから列車でウクライナ戦の弾薬庫とされるロシア・チホレツク(ロシア南西部クラスノダール地方)に到着したことがわかる。
ロシアに運ばれたコンテナの数は1000個以上に上り、ウクライナで使う弾薬・軍事装備品が搭載されていると目されている。こうした動きは両国が露朝首脳会談の以前から、北朝鮮の武器をロシアへ運ぶための準備を周到に進めていたことを物語っている。カービー氏によると、米国情報機関は北朝鮮が見返りとして戦闘機や地対空ミサイル、装甲車、弾道ミサイルの生産装置などの調達を目指していると見ているという。ロシアが武器と軍需品の対価として北朝鮮に何を与えているのか、国際社会の懸念は高まる一方だ。
果たしてロシアは核・ミサイル開発に関わる核心先端技術を北朝鮮に実際に供与するのだろうか。かつてロシアは、国連安全保障理事会の常任理事国であり、責任ある核兵器国として、北朝鮮の核ミサイル保有に反対してきた。「核不拡散および大量破壊兵器とその運搬手段の不拡散の政治的・法的基盤の強化への揺るぎない関与を維持する」viiという立場から、安保理が2006年から2017年までに採択した11回の北朝鮮制裁決議もすべて支持している。
しかし、ウクライナ侵攻後の2022年5月には、中国とともに拒否権を発動して北朝鮮への制裁強化決議案を否決した。北朝鮮に対する制裁決議案が拒否権によって退けられたのはこれが初めてだった。これ以降、安保理は北朝鮮の核ミサイル開発に一致した対応を打ち出せなくなり、機能不全の状態が続いている。北朝鮮にとっては非常に好都合な状況であり、ロシアにとっても対米共闘とウクライナ侵攻の長期化への備えという点で、双方の利害が一致したと言える。だが、あくまで利害の一致に過ぎず、理念や信頼に基づく二国間関係と見ることは難しい。
北朝鮮側が露朝関係について、たびたび「強固な政治的および戦略的信頼関係」viiiを強調しているのに対し、ロシア側の対応には温度差が感じられる。10月16〜17日に訪朝したラブロフ外相は、9月の首脳会談で露朝関係が「質的に新たな戦略的レベルに達した」ixと評価したものの、「新たな戦略的レベル」の詳細については明らかにしなかった。プーチン大統領の訪朝時期についても言及していない。一方で、ラブロフ外相は「日米韓による軍事活動の増大と、戦略資産の韓国移転」に懸念を表明し、ロシア・中国・北朝鮮が一致した対応を取ることを強調した。このことは、ロシアが露朝の枠組みに中国を引き込み、反米共闘体制の強化を図ろうとしていることを示している。北朝鮮側がロシアと中国を競わせることを念頭に、それぞれを個別に扱っているのとは対照的な動きと言ってよいだろう。
5.露朝接近と中国の反応
一方、露朝の接近に対する中国の反応は冷ややかだ。中国外務省の毛寧副報道局長は露朝首脳会談について「北朝鮮とロシアの間で調整され、朝露関係に関するものだ」「中朝関係の発展は良好だ」と突き放してみせたx。中国は朝鮮戦争休戦70周年や北朝鮮の建国75周年の記念行事に過去より格下の代表団を送る形で、露朝の接近に間接的に不快感を表明している。
そもそも中国は北朝鮮とは違い、ロシアのウクライナ侵攻を全面的に支持したわけではない。国連のロシア非難や即時停戦決議案などでは棄権に回るなど、ウクライナや国際社会の目を意識して、ロシアの側を一方的に支持することは避けた。中国は国際社会で孤立を深める露朝の米国批判に同調する一方で、米国との対話は模索し続けてきた。習近平国家主席が2023年6月に、就任後初めて中国を訪問したブリンケン国務長官との面談に応じたのも、米中対立の核心的な問題では譲らないが対話は続けるという意思表示だった。この際、米中は気候変動や麻薬密輸などの地球規模の問題で協力していくことを改めて確認した。
これまで中国にとって、北朝鮮問題は数少ない対米交渉カードの一つだった。中国は北朝鮮の第7回核実験に反対しているとされ、アメリカは中国に北朝鮮を踏みとどまらせるよう促してきた。開催で原則合意した11月の米中首脳会談で、北朝鮮の核ミサイル問題がどう扱われるのかも注目点だ。中東情勢が緊迫する中、北朝鮮問題の優先順位は高いとは言えないが、北朝鮮が第7回核実験に踏み切った場合を含め今後の中国の対応に影響を及ぼす可能性も考えられる。
北朝鮮にとって中国は政治的にも経済的にも最大の後ろ盾である。それゆえ、米中が同調することによって2017年のように対北朝鮮制裁が大幅に強化されるような事態は避けたい。そのためにも、中国との間にロシアを介すれば、中国を刺激し過ぎない範囲で揺さぶる材料として活用できる。ロシアは北朝鮮にとって中国に代わる存在にはなりえないが、対中国カードとしては歴史的にも効果を発揮してきた。とはいえ、ロシアもウクライナ侵攻以降、中国への経済的依存度を急速に深めている。露朝双方とも中国の意向を重視せざるを得ないため、露朝接近には一定の限界があるといえよう。
6.おわりに
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中で、10月にはイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスの紛争が勃発した。混迷を増す国際情勢の下で、11月にはサンフランシスコで米中首脳会談が約1年ぶりに開かれる。ここではウクライナ情勢やイスラエル・ハマスによる衝突で緊迫する中東情勢、さらには台湾情勢をめぐる緊張緩和に向けて意思疎通を図る。米中両国を筆頭に国際社会の関心事は紛争地域に向けられている。
北朝鮮に対する国際社会の関心が失われ、監視が弱まっている間に、露朝協力がさらに進展する恐れがある。北朝鮮が今後複数の軍事偵察衛星を保有・運用して米国の軍事行動を把握できるようになれば、日本にとってもより一層深刻な事態となる。さらに、国際社会の混乱に乗じて、北朝鮮が第7回核実験に踏み切る懸念も排除できない。そうなった場合に、中国が国連安保理で拒否権を発動するのか否かによって、状況は大きく変わってくる。
安保理の機能不全が常態化する状況において、北朝鮮に対する拡大抑止を強化するためにも、露朝ならびに中露朝関係にいかにくさびを打ち込むのかが肝要となる。
●AI解析で判明...プーチン死亡説でウクライナ内務省顧問が投稿した「影武者」 11/13
ロシアのプーチン大統領がバルダイ(モスクワとサンクトペテルブルクの中間地点に位置する都市)の大統領邸(別荘)の寝室で、心肺停止状態に陥った。10月22日夜(現地時間、以下同)のことだ。その後、医師団による蘇生術で息を吹き返したが、10月26日午後に健康状態が急激に悪化。同日午後8時42分、医師団は救命措置を中止し、大統領の死亡を確認した。そして遺体は邸内にある冷凍庫に安置された――。
本サイトが10月26日と31日に配信した記事では、SVR(ロシア対外情報庁)の元上級幹部らが運営しているとされるテレグラムチャンネル「ゼネラルSVR(通称:SVR将軍)」が伝えた、超衝撃情報の詳細に迫った。
そんな中、ウクライナの内務省顧問を務めるアントン・ゲラシチェンコ氏がSNS上に投稿したプーチン大統領の「影武者動画」が大きな波紋を広げている。
投稿日時は11月9日午前5時51分。動画はわずか4秒ほどの短いもので、画像の右上には「クレムリン(ロシア大統領府)」の文字。そして、投稿のタイトルには「最新映像」の但し書きとともに「プーチンの頬はどうなっているのか?」とあり、動画で話をしている人物は影武者ではないのか、との疑問を投げかけている。
というのも、動画に登場するプーチンらしき人物の頬が異常に膨らんでおり、充填剤を注入されたような「整形顔」をしていたからである。この動画を閲覧したユーザーからは早速、「頬のアザから考えると、整形はつい最近のものだ」「頭の形も耳の形も鼻のカーブもプーチンとは違う」などの反響(返信)が相次いだ。
プーチンの影武者説をめぐっては、TBSのBS報道番組「報道1930」(5月22日、6月12日放送)が、影武者との指摘がある映像や写真をAIで解析した結果、目や鼻や口の形と輪郭、さらには歩き方や声紋も、本物との一致率が低いと指摘。11月11日付のニュースサイト(TBS NEWS DIG)でも「暴君(プーチン)は死んだ」「ドッペルゲンガー(影武者)を大統領にすり替えるクーデターが進行中」との、ロシア発の情報を伝えている。
「ロシアのペスコフ大統領報道官は死亡説も影武者説も否定しているが、少なくともプーチンとその周辺で、かつてない異変が生じ始めていること、そしてロシア国内も含めて関連報道がさらにヒートアップしていくことは間違いないでしょう」(ロシア専門家)
鉄のカーテンの向こう側で、何が起きているのか。今後の動向が注目される。
●ウクライナ軍事支援に1.3兆円 24年予定、当初から倍増―独 11/13
ドイツのショルツ政権は、2024年のウクライナに対する軍事支援の規模を当初予定の40億ユーロから80億ユーロ(約1兆3000億円)に倍増する方針を固めた。13日までに複数の独メディアが報じた。ウクライナへの「支援疲れ」の兆候が見られる中、ロシア軍占領地の奪還を目指すウクライナを支える姿勢を改めて示す。
ピストリウス国防相は公共放送ARDとのインタビューで、「イスラエルに多くの注意が向けられている今、重要なシグナルになる」と説明した。ドイツはロシアによるウクライナ侵攻開始以来、人道目的も合わせると米国に次ぐ約240億ユーロ相当の支援を提供している。
●経済制裁が続くロシアにヨーロッパ製マイクロチップを輸入する仕組みとは? 11/13
ウクライナ侵攻などで国外からの製品の輸入が規制されているロシアでは、アメリカやヨーロッパで製造されたマイクロチップの輸入も同様に制限されています。しかし、ロシアではヨーロッパ製のマイクロチップが秘密裏に輸入されており、海外メディアのFinancial Timesは、ロシアのマイクロチップ密輸に携わる人物であるマキシム・エルマコフ氏について紹介しています。
フランスの半導体製造企業Ommicなどが製造するマイクロチップは、高性能窒化ガリウムや、ガリウムヒ素集積回路基板など特殊な技術が用いられており、Istokをはじめとするロシアの軍需メーカーにとって不可欠な製品です。また、国内でのマイクロチップ製造技術が西側諸国やアジア諸国に対して後れを取っているロシアは、外国製部品の調達を長年行ってきました。
一方で、2022年からウクライナへの侵攻を開始したロシアに対しては、アメリカをはじめとする西側諸国がこれまで行ってきた経済制裁をより強化したため、ロシアでは国外製のマイクロチップなどの調達がより困難になりました。そこでロシアは自国の諜報機関員に対し、輸出規制をかいくぐるためのネットワークを構築するように指示していたとのこと。
その中でもエルマコフ氏は、1990年代からアイルランドやフランス、ドバイ、ドイツなどでマイクロチップの取引に関するネットワークを構築していました。Financial Timesによると、エルマコフ氏は国外のビジネスパートナーから調達したマイクロチップを、国営テクノロジー企業であるIstokに流していたとされています。また、アメリカ国家安全保障会議の元戦略貿易・不拡散局長であるトーマス・クルーガー氏は「エルマコフ氏らはマイクロチップ取引のためのフロント企業を立ち上げ、国外のメーカーとの取引を行うことでロシア国内にマイクロチップを届けているようです」と語っています。
Ommicは2004年から、Istokとマイクロチップに関する取引を行っていましたが、2014年のロシアによるクリミア侵攻以降、西側諸国での経済制裁が強まり、Istokとの直接的な取引が打ち切られました。Istokという大手の取引相手を失ったOmmicは、大きな経済的な損失が発生しました。そこでOmmicは、アラブ首長国連邦に拠点を持つ「Amideon Systems」という企業にチップを出荷。Amideon SystemsはIstokのフロント企業とされる「Fly Bridge」と契約を結び、Ommic製のマイクロチップの取引を行っています。
Amideon SystemsからFry Bridgeに流れたマイクロチップは2018年までに、460万ドル(約7億円)相当とされています。これらの三者間での取引を指導したのはエルマコフ氏とされています。実際にエルマコフ氏は2014年までFry BridgeのCEOを務めていました。Financial Timesによると、フロント企業を用いてチップの取引を行うことの目的は、商品の最終的な買い手を偽装することで、西側諸国の政府当局による取引に関する追跡を困難にするためとのこと。
ロシアに対する経済制裁が厳しくなった2018年以降は、Ommic製のマイクロチップはより複雑なルートでロシアに密輸されるようになり、一部のOmmic製チップは中国やインド経由でロシアに送られていたとされています。
しかし、フランス警察による調査の結果、Ommicは2023年3月にフランス政府による株式差し押さえ処分を受け閉鎖されました。これに伴い、Amideon Systemsとの取引も停止され、Fry BridgeがOmmic製のマイクロチップを入手することは不可能になりました。Financial Timesは「2021年の1年間だけで1万3500個以上のマイクロチップが偽造された通関書類を使ってロシアに送られたとされています」と報告しています。
Ommic製のマイクロチップを入手することが不可能になったエルマコフ氏ですが、Financial Timesによると、エルマコフ氏は記事作成時点でも水面下で活躍しているとのこと。ウクライナ侵攻が開始されて以降、Istokは軍需品の在庫を管理するためのまったく新しいシステムなど、ロシア軍向けの新たな機器を製造しているとされています。そのためにエルマコフ氏らのFry Bridgeはハイエンドな電子機器を製造するための特殊な機材を輸入しているとのこと。
タフツ大学フレッチャー・スクールのクリス・ミラー教授は「エルマコフ氏らが構築している密輸ネットワークは、フロント企業という使い捨ての会社を利用することで、そのフロント企業が特定され、制裁を受ける前にエルマコフ氏らは倒産させて、新たなフロント企業に業務を移行することが可能です。西側諸国の諜報機関にとって、このネットワークはイタチごっこのようなものです」と指摘しています。
それでも、アメリカやイギリス政府はエルマコフ氏に対して、ロシアによる戦争に加担した容疑で大規模な制裁を発令しており、銀行や保険会社、交通会社に対し情報提供を行っています。
●ロシア当局者3人が爆発で死亡、南部の抵抗組織が実行=ウクライナ 11/13
ウクライナ情報当局は12日、ロシアが支配するウクライナ南部の要衝メリトポリで爆発があり、少なくとも3人のロシア当局者が死亡したと発表した。地元抵抗組織による「報復行為」としている。
爆発は11日にロシア国家警備隊やロシア連邦保安局(FSB)の当局者が出席する会議中に発生。死亡したのは国家警備隊当局者で、他の犠牲者については調査中という。
ロイターはこの情報を独自に確認することができなかった。
ロシア国防省からは今のところコメントを得られていない。
●中東情勢に注目が集まる陰でロシアが何を? 「ウクライナに地雷バラまく」 11/13
2024年3月に大統領選を控えるロシアだが、ロイター通信が先週、プーチン大統領が出馬の意向を固め、近く正式に表明する見通しであると報じた。10月7日に71歳となったばかりのプーチン氏は現在4期目。ロシアの大統領の任期は6年のため、5期目となると少なくとも2030年まで権力の座を維持することになる。背景には、どんな思惑が見え隠れするのか―。
中村)今、世界の注目はロシア、ウクライナ情勢ではなく、中東情勢に集まっています。その陰でロシアが何をしているかというと、ウクライナに地雷をバラまいているんです。この地雷を除去するには757年もかかるといわれています。信じられない数字ですよね。
犠牲になるのは一般の民間人です。ロシアが仕掛けた地雷により、既に260人以上が亡くなり、900人以上が負傷しています。戦争が終われば、すぐに復興するというイメージを抱きがちですが、地雷がどこにあるか分からないため、そんな簡単な話ではありません。
国外に出て行ったウクライナ人は既に1000万人に上っています。また、戦争で亡くなった若者たちもいます。つまり、ウクライナの出生率は今後20年、30年、大きく下がってしまうということです。
結局、狂気に陥ったプーチン大統領がしていることは、ウクライナをロシアに併合することではなく、ウクライナという国の廃墟化であり、世界地図からの抹消です。

 

●ウクライナ、ロシア占領地域や国内で破壊工作活発化…貨物列車や自動車 1/14
ロシアの侵略を受けるウクライナは最近、ロシアの占領地域や露国内で露軍の関係施設や鉄道の爆破などの破壊工作を活発化させている。反転攻勢が進まない中、局地的な破壊工作で揺さぶりをかける狙いのようだ。
ウクライナ国防省情報総局は12日にSNSへの投稿で、ロシアが一方的に併合を宣言した南部ザポリージャ州メリトポリで行われた11日の露軍の会合で爆発があり、少なくとも3人の将校が死亡したと明らかにした。地元の抵抗運動のメンバーらが実行したという。
米政策研究機関「戦争研究所」はウクライナの公共放送局の報道を引用し、ロシアのモスクワ南東にあるリャザン州で11日に貨物列車が爆発して脱線した事故について、ウクライナの情報総局が関与したと指摘した。情報総局は、東部ルハンスク州で8日に親露派政治家が死亡した自動車爆発にも関与した。
●ウクライナに「泥将軍」現れる? 過去にはヒトラーも足止め… 微笑むロシア 11/14
ウクライナの地にいる「泥将軍」。かつてはナポレオンやヒトラーの軍隊を撃退し、「冬将軍」とともにロシアの救世主でもありました。水を含んだ泥は車両を足止めし、ウクライナ軍の反攻を阻止するには好都合ですが、今年はワケが違うようです。
ナポレオンやヒトラーの軍隊も手を焼いた
ロシア・ウクライナ戦争が2度目の冬を迎えようとしています。厳しい冬には軍事的な動きは少なくなるという見方が一般的で、ナポレオンやヒトラーの進軍を妨げた「冬将軍」は有名です。しかし、もうひとつ厄介なものに「泥将軍」があります。
ウクライナ語で「ベズドリジャ」、またはロシア語の古い言い回しで「ラスプチツァ(道なき道)」といわれる季節の変わり目は泥濘期と呼ばれ、文字通り道を泥沼に変えます。第2次世界大戦の東部戦線記録映像でも、戦車のような装軌式の車両ですら泥まみれでスタックする有様が映っています。ドイツ軍が得意とした、機動力を生かした電撃戦など実施できるわけもありません。「泥将軍」はナポレオンやヒトラーの軍隊の機動を妨げ、防衛するロシア軍を助けました。
しかし2023年の「泥将軍」はこれまでと異なり、ロシア軍の味方にはならないかもしれないとアメリカの政治ブログ『デイリー・コス』が指摘しています。その原因は夏の高温です。地球規模の気候変動の影響ともいわれていますが、暑かったのは日本だけではなく、ウクライナなどの東欧圏でも気温が高かったのです。暑さは「泥将軍」も苦手のようです。
ウクライナの大部分の土壌は「チェルノーゼム」(ロシア語で「黒い土」の意味)と呼ばれる粘土質の多い黒色の土壌で、保水力が高いのが特徴です。これが、大きな灌漑設備無しでも、ウクライナを豊かな穀倉地帯にした理由でもあります。「泥将軍」は侵略者を足止めするだけでなく、ウクライナの農業を発展させている一面もあります。
チェルノーゼムは冬の雪や春の降雨によって多量に水を含んだ表土層と、地下深くの凍土層で構成され、この凍土層が排水を妨げて水が地下に溜まります。5〜7月には雪解けと雨季によって多くの水分が土壌に浸透し、保水力を超えて水があふれだし「道なき道」を作り出します。
暑いと「泥将軍」はどうなるのか
夏に気温が上がると、蒸発量が増え表土は乾きます。しかし地下には水が溜まったまま。秋になって気温が下がると蒸発量が減り、1日の平均気温が5℃を下回るようになると、10月下旬からの雨期も相まって土壌内の水分が飽和し、また「道なき道」が生まれます。
実はウクライナ北部と南部では土壌の性質が異なります。チェルノーゼムの割合は北部が高く、南部は低くなっています。つまり「泥将軍」はウクライナ全土一律に猛威を振るうわけではないのです。2022年春にロシア軍の攻勢が各方面で行き詰っていたなかで、南部のヘルソン、メリトポリ、トクマク、マリウポリで成功を収められたのは、機甲部隊が「泥将軍」の妨害をあまり受けずに機動でき、補給線を確保できたからだという指摘もあります。
2023年11月現在、ロシア・ウクライナ戦争の焦点は南部です。ウクライナ軍の反攻を迎撃するロシア軍は、「泥将軍の支援」を期待したいところでしょうが、気温は高かったうえに南部の降水量は少なく、地下水位が下がって平年より乾燥しています。ウクライナ農業省は、農作物の収穫量への影響を懸念していますが、ウクライナ軍にとって「泥将軍」の影響が少ないことは有利に働きそうです。
それでもアメリカ陸軍のマーク・ミリー大将は、イギリスのBBCに対し「泥将軍が元気を取り戻すまでにはおそらく30日から45日程度しか期間がない」と語っており、ウクライナ軍には西側からのタイムリーな支援が必要なことを指摘しています。
しかしアメリカ下院では11月2日、ハマス・イスラエル戦争の勃発により、イスラエルとウクライナへの支援予算を一度に配分するというバイデン大統領の要求は拒否されました。イスラエル支援法案だけが可決されるなど、大統領選挙も睨んでホワイトハウスおよび民主党と共和党は政争中です。気候変動や複雑な国際政治情勢が絡み合い、戦争は文字通り泥沼化していきます。
●「平和を意味するわけではない」中立国、スイスは兵力14万人の重武装… 11/14
テーマは「中立国」。ロシアのウクライナ侵略を機に、かつて中立を掲げてきた北欧のフィンランドが4月、北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。隣国スウェーデンも続く見通しだ。国際紛争が多発する昨今、中立国のあり方が問われている。
紛争参加せず 同盟にも入らず
中立国とはいかなる国際紛争にも参加せず、軍事同盟にも入らない国家を指す。主に小国の生き残り策だ。
NATO加盟にかじを切ったフィンランドやスウェーデンのように外交・軍事的に中立的な立場を取ってきた「中立主義国」と、条約などによって他国に中立国の地位を認められたスイス、オーストリアなどの「永世中立国」に大別できる。
スイスなどの中立国の権利と義務は、帝国主義諸国が国際平和を維持しようと1907年にオランダで開催した第2回ハーグ国際平和会議で採択された「ハーグ条約」で明文化された。「戦争中の国に領土を提供しない」「交戦国を援助するために戦闘員を募集してはいけない」「紛争地への武器の輸出は公平にする」といった義務を守ることで締約国から領土の保全と独立を保障された。ロシアなど34か国が批准・加盟している。
仏から逃れた職人 時計産業の礎に
スイスは第1次、第2次世界大戦の際、武装中立を守ることで直接的な戦火を免れた。国際連盟には加盟したが、国際連合には当初加盟せず、2002年に国民投票を経て190番目の加盟国となった。
同じく永世中立国のオーストリアは1955年5月、米、英、仏、ソ連の4か国との「オーストリア国家条約」によって独立(国家回復)が認められた。条約の規定に従い、同年10月、「永世中立に関する連邦憲法法規」(中立法)を制定して永世中立を宣言した。
軍が内戦や政治に介入した反省から、大統領が83年に永世非武装中立を宣言したコスタリカや、95年の国連総会決議で永世中立国の地位を承認されたトルクメニスタンなど条約に基づかないケースもある。
スイスは、1515年にイタリアでの戦争で大敗を喫したのを機に拡張政策をやめて中立的な立場を取った。永世中立国として正式に承認されたのは1815年、ナポレオン戦争終結後のウィーン会議だった。スイスを緩衝地帯としたい周辺大国の思惑と一致した。
●ソ連を没落させた中東戦争、今度は誰を 11/14
アフガニスタンが帝国の墓だとすれば、中東も同じだ。
英国は第1次世界大戦後、南アフリカ共和国の喜望峰からインドまでを結ぶ大英帝国の版図を確かなものとするために、パレスチナにユダヤ人国家を許容し、中東を分割した。しかし、イスラエル建国にともなうパレスチナ紛争は、中東における英国の影響力を喪失させた。英国は1956年のスエズ運河危機で勃発した第2次中東戦争に介入し、完全に帝国の一員から脱落した。
ソ連も、1973年10月6日にエジプトなどのアラブ諸国の先制攻撃で始まった第4次中東戦争であるヨム・キプール戦争で勃発したオイルショックによって、没落の道を歩むことになった。イスラエルを支援した米国などの西側諸国に対し、サウジアラビアなどの中東産油国は石油禁輸を断行した。米国がベトナム戦争で深刻な財政赤字に苦しめられるなど、戦後の西側資本主義体制は最大の危機に直面し、不況は10年近く続いた。
そのころソ連は、シベリア油田が急成長したことで、世界最大の産油国に躍りでた。ソ連は高い石油価格に酔いしれ、第三世界への進出を加速化した。その頂点は1979年のアフガニスタン戦争だった。その内実は違う面もあった。ソ連は1960年代から生産性低下にともない体制改革が必要だったが、オイルショックに酔いしれ国力を過剰展開した。
一方、米国は重工業などを新興国に渡し、知識ベースの先端産業に移行した。1980年代初期に石油価格が下落すると、ソ連は深刻な体制硬化に苦しめられた。ミハイル・ゴルバチョフが社会主義をあきらめるほどになるまで、改革(ペレストロイカ)と開放(グラスノスチ)を進めたが、結局は崩壊の道を歩むことになった。米国のソ連史家であるスティーブン・コトキンは、オイルショックはソ連にとって「歴史の残酷なトリック」だったと評した。
米国が一極体制を宣言した1991年の湾岸戦争も、歴史の残酷なトリックの始まりだった。米国は、イラクのサダム・フセイン政権を湾岸戦争で封じ込めた後、パレスチナ問題を解決しようとする野心的な中東和平会議を開催した。これはパレスチナ独立国家の建設を約束する1993年のオスロ合意につながった。致命的な欠陥があった。イランを排除したのだ。
イランをけん制していたイラクのフセイン政権が湾岸戦争で弱体化し、イランは地域内の影響力を増大させたにもかかわらず、中東秩序の再編から除外された。イランはパレスチナのハマスなどの反イスラエル勢力を支援した。ハマスは、遅々として進まないオスロ合意に不満と反対を表明し、一歩踏み込みテロ攻撃を敢行した。これは、ヨルダン川西岸などの占領地で入植地を増やした強硬右派のイスラエル人住民たちのオスロ合意サボタージュを引き起こし、イツハク・ラビン首相は結局、1995年に極右に暗殺された。
2001年の9・11同時多発テロに続く米国のイラク侵攻とフセイン政権排除は、巨大な勢力空白を引き起こし、イスラム国家(IS)などをはびこらせた。イランは核開発に拍車をかけ、地域内の影響力をさらに強めた。2009年に発足した米国のバラク・オバマ政権は、イランと核合意を結び、中東問題に対して新たなアプローチを試みた。しかし、ドナルド・トランプ政権は2015年、イランとの核合意を一方的に破棄し、極端な親イスラエル政策に転換した。サウジなどのアラブ国家とイスラエルが国交を結ぶアブラハム協定も推進した。
イスラエルにとってはすでに安保の脅威となる勢力ではないサウジなどのスンニ派アラブ諸国を対象としたアブラハム協定は、むしろイランとパレスチナを刺激しただけだった。2022年にウクライナ戦争が勃発すると、サウジの計算も変わった。サウジは戦争でオイル価格が高騰すると、最大の武器である石油価格の決定力を強化するためにロシアと協力し、中国の仲裁でイランとも国交を回復した。ジョー・バイデン政権はサウジの中国接近を防ぐため、サウジに安全保障の公約を提供するとしてアブラハム協定を押しつけた。ヨルダン川西岸の入植地を拡大してパレスチナ封鎖を強化するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ極右政権の横暴には、見て見ぬふりをした。
その結果がハマスとイスラエルのガザ戦争だ。米国はガザ戦争の拡大を止めなければならない。そのカギはイランだ。これを解決するためには、イランに対する中国とロシアの関与を弱める必要がある。ウクライナ戦争が続くかぎり、不可能な課題だ。ガザ戦争は、イスラエルがガザ北部を軍事占領するかたちでの「ガザの南北分断」になる公算が高い。周辺地域の長期的な低強度戦争を意味する。米国は三重苦に陥っている。ガザ戦争、ウクライナ戦争、中国との対決だ。加えて、ウクライナ戦争とガザ戦争に対する米国のダブルスタンダードを非難する声が、国際社会では非常に強い。
1970年代の中東戦争はソ連を没落させる引き金となったが、今回のガザ戦争はどのような結果をもたらすのだろうか。
●脆弱な欧州経済を追い込む、ウクライナ情勢の長期化とイスラエル紛争 11/14
・ロシアによるウクライナ侵攻の長期化とイスラエル・ハマス紛争の勃発が、低迷する欧州経済に追い打ちをかけている。
・エネルギー価格の高騰と産業の空洞化に直面しているドイツでは、極右勢力が台頭し社会の分断が深刻だ。英国では不動産バブルが崩壊するなど「英国病」の再来が懸念されている。
・欧州はこれまで地政学リスクが比較的低かったが、2つの「戦争」が起きたことで社会不安が一気に高まり、経済にも深刻な影響を及ぼしかねない。
欧州株の低迷に拍車がかかっている。主要企業の今年第3四半期決算が前年同期比10%の減益見通しとなっており、投資家の先行き不安を強めている。
株価不調の根本的原因は欧州経済全体のパフォーマンスの悪さだ。欧州はインフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」に突入しつつある。
ユーロ圏の9月の消費者物価指数(CPI)上昇率は4.3%、英国は6.7%といずれも2〜3%台の米国や日本を上回っている。ユーロ圏の第3四半期の国内総生産(GDP)成長率(速報値)は前期比0.4%減(年率換算)と3四半期ぶりにマイナスに転落した。英国の第3四半期のGDP成長率は前期比0.0%だった。
欧州経済が景気浮揚の道筋を描けないでいるのは、これまで牽引役を担ってきたドイツと英国が足を引っ張っているからだ。
欧州最大の経済大国ドイツでは、競争力の根幹ともいえる製造業(GDPの2割を占める)がウクライナ危機で生じたエネルギー高によるコスト上昇に苦しんでいる。ロシアから安価な天然ガスの調達が途絶える中、ドイツ政府は今年4月に脱原発を完了した。再生可能エネルギーの導入拡大を急ぐものの、電気代の高騰がとまらない。
ドイツの中小企業の景況感は、既に新型コロナウイルスのパンデミック時以来の水準にまで低下した。11月7日に発表された9月の鉱工業生産指数も前月比1.4%減とマイナス幅は市場の予想を上回った。
産業の「空洞化」が進むドイツ
産業立地条件の悪化から「空洞化」の動きも進んでいる。
今年上期のドイツへの海外直接投資は35億ユーロ(約5600億円)と前年同期の341億ユーロ(約5兆5000億円)から急減している。
ドイツ商工会議所などの調査結果によれば、同国企業は国内よりも外国への投資を計画しているという。
危機感を強めたドイツ政府は11月9日、電気料金の高騰に直面している国内産業を支援する対策(期間は5年)を決定した。支援額は来年だけでも120億ユーロ(約1兆9000億円)に達する見込みだ。
ドイツでは不動産開発業も危機に瀕している。
独IFO経済研究所が11月6日に発表した調査結果によれば、国内の住宅建設部門でプロジェクトの中止を報告した企業の割合は22.2%と過去最高となっている。「ドイツ不動産市場はメルトダウンした」との悲鳴が聞こえてくるようだ。
英国は「不動産バブル」崩壊
欧州の金融センター英国でも「不動産バブル」が崩壊している。
9月の住宅価格は2009年8月以来の大幅下落を記録し、首都ロンドンのオフィスの空室水準は30年ぶりの高水準になっている。
1970年代の「英国病」が再発するとの懸念も生じている。
英国立経済社会研究所は11月8日、「政府がインフラ整備や労働者の技能向上に大規模な投資をしなければ、英国経済は今後10年にわたり低迷する」と警告を発した。
欧州経済には日本と同様、「少子高齢化」という問題もある。世界保健機関(WHO)は10月11日「欧州の65歳以上の人口は来年には15歳未満の人口を上回る」との予測を公表している。
満身創痍の欧州経済だが、筆者が注目するのは地政学リスクの上昇だ。
欧州中央銀行(ECB)は、11月6日に発表した調査レポートの中で「ユーロ圏の大手企業は、コスト削減という従来の理由に加え、地政学的リスクの高まりを受け、世界各地への生産移転を活発させている」ことを明らかにした。
欧州の地政学リスクは今年の夏以降、上昇した感が強い。
7月26日付のフィナンシャル・タイムズは、「政治化する年次報告書」と題する論説記事で「欧州の企業は『ロシア』『ウクライナ』『戦争』といった言葉を使わずにこの1年の事業環境を説明することは不可能になっている」と指摘していた。スイス国立銀行も9月下旬、「ウクライナ戦争の継続が欧州経済にさらに悪影響を与える」との見方を示していた。
安全保障環境が極端に悪化
ロシアのウクライナ侵攻直後、「ロシアの進軍をウクライナで止めなければ自分たちが危ない」とのロシア恐怖症が欧州全域で広がった。欧州各国は「民主主義を守る戦いだ」としてウクライナへの全面支援を続けてきた。
だが、足元で起きているのは欧州の安全保障環境の極端な悪化だ。
特にロシアに近接する東欧諸国にとっては深刻だ。ハンガリーやスロバキアのように「ウクライナを支援することはデメリットの方が大きい」と考える国が今後さらに増加する可能性は排除できなくなっている。
ウクライナ戦争に加えて、中東情勢の緊迫化が火に油を注いでいる。移民が急増しているドイツでは極右勢力が台頭し、国の方向性を巡って第2次世界大戦後で最も大きな分断が起きている。だが、既存政党は対策を見いだせない状況にある。
ドイツの緊張は他の欧州諸国にも波及し始めている。欧州の地政学リスクは高まるばかりだ。
ウクライナ戦争以前の欧州は、世界で最も地政学リスクが低い地域とされてきたが、現在は様変わりしている。地政学リスクほど経済活動を妨げるものはない。この問題に直視しない限り、欧州経済の復活は不可能なのではないだろうか。
●ロシア軍、東部要衝への空爆強化 多大な損害も=ウクライナ 11/14
ウクライナ軍は13日、東部の要衝アブデーフカ周辺で戦闘が続いており、ロシア軍が空爆を強化し、地上部隊を前進させようとしていると発表した。
ロシア軍に多大な損害が出ているほか、ウクライナ軍は前線の他の地域でロシアの攻撃を撃退したという。
ウクライナ軍報道官は国営テレビに「戦闘はまだ続いている。この2日間、占領軍はSU35機からの誘導爆弾による空爆の回数を増やした」と語った。
ウクライナ国営通信社「ウクルインフォルム」は現地当局者の話として、アブデーフカに対する今回の攻撃に伴うロシア側の損害は死者3000─4000人、負傷者7000─8000人に上ると伝えた。
一方、ロシア側の発表によると、同国軍は5月に制圧したバフムト郊外の村に進攻しようとしたウクライナ軍の試みを5回撃退したという。
●ゼレンスキー氏「孤独な戦い」、軍と不協和音…ガス管爆破知らされず 11/14
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と軍の間で、ロシア軍への反転攻勢をめぐって不協和音が生じているとの指摘が出ている。露占領下にある東・南部を解放する攻勢が難航する中、ゼレンスキー氏は難しいかじ取りを迫られている。
「我々にはしっかりとした計画がある。今年、結果を出したい」
ゼレンスキー氏は今月8日のロイター通信のイベントで、反転攻勢について前向きな展望を強調した。
この発言は、英誌エコノミストへの最近の寄稿で戦況を「塹壕(ざんごう)戦が続いた第1次世界大戦のような膠着(こうちゃく)状態」と分析したウクライナ軍トップのワレリー・ザルジニー総司令官を意識したものとみられる。
先進7か国(G7)関係者によると、ドミトロ・クレバ外相も8日、東京でのG7外相会合にオンラインで参加し、「ある人が前線の情勢を『第1次世界大戦のようだ』と述べたが、それは違う」とザルジニー氏の発言を打ち消した。
ゼレンスキー氏とザルジニー氏の間には、過去にも溝があると報じられたことがある。独ビルト紙は今年3月、要衝バフムトの防衛方針で両氏が衝突したと伝えた。ザルジニー氏は早期撤退を進言したが、ゼレンスキー氏は聞き入れなかったという。露軍は5月にバフムト制圧を宣言し、露軍とウクライナ軍の双方に多くの犠牲者が出た。
米紙ワシントン・ポストは11日、昨年9月にロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプラインが爆破された事件にウクライナ軍が関与したと報じた。ザルジニー氏は報告を受けたが、ゼレンスキー氏には知らされていなかったという。
ウクライナ国内では、これまで英雄視されてきたゼレンスキー氏への批判も目立つようになっている。1月に大統領府顧問を辞任したオレクシー・アレストビッチ氏は、ゼレンスキー氏が他人の意見を聞き入れないと主張し、SNSで「現実に目を向けず、達成できない『早期の勝利』を叫ぶ独裁者」と批判した。
キーウ国際社会学研究所が10月に発表した世論調査によると、ゼレンスキー氏への信頼度は76%(昨年5月は91%)と依然高いものの、ウクライナ政府に対しては39%(同74%)と大きく低下した。相次ぐ汚職事件が要因とみられる。
ゼレンスキー氏は今月1日に公開された米誌タイムのインタビューで、「私と同じように我々の勝利を信じる人は、誰もいない」と吐露した。同誌は「ゼレンスキーの孤独な戦い」とのタイトルで報じた。 
●ウクライナ「今は選挙できない」演説に「独裁者!」批判も ゼレンスキー 11/14
ロシアとの戦争が長引くなか、ウクライナのゼレンスキー大統領は11月6日のビデオ演説で「今は選挙に適した時期ではない」と発言。
選挙について口にするのは無責任で、「今は誰もが国を守ることを考えるべき。われわれは団結する必要がある」とも述べた。
ウクライナではロシアの侵攻後に発令された戒厳令の下、選挙が実施できない状況が続き、先月の議会選も延期された。来年3月予定の大統領選も実施困難との見方がある。
戒厳令は90日ごとに延長され、現時点では来年2月までだ。
「選挙中止」とみられる発言には批判も出ており、X(旧ツイッター)には「ゼレンスキーはウクライナを人質に取り、権力放棄を拒否した。ゼレンスキーは独裁者に格上げされた」との投稿も。
選挙実施に多くの課題があるのは確かだ。何百万人もの避難民が投票できなかったり、投票が確実に集計されない可能性がある。公正性の確保は難しく、ロシア支配下にある東部地域では特にそうだろう。
●クリミア半島攻撃とドニプロ川“渡河作戦” ウクライナ最新情勢 11/14
ウクライナ軍による反攻が続く中、戦局の新たな動きが報じられている。最新のニュースをロシア・ウクライナ情勢の専門家3人が分析した。
ウクライナ軍、クリミア半島で水上ドローン攻撃ロシア“最新鋭艦”に大きなダメージ
ウクライナ軍がクリミア半島で攻撃を強めている。9月13日にはセバストポリのロシア軍造船所を攻撃、9月22日にはロシアの黒海艦隊の司令部を攻撃した。
さらにウクライナ国防省情報総局は11月10日、ロシアが占領しているクリミア半島西部チョルノモルスクで水上ドローンによる攻撃を行い、黒海艦隊の揚陸艦2隻を撃沈したと発表した。
またアメリカの経済誌『フォーブス』は、11月4日にウクライナ軍はクリミア半島の東側のクリミア大橋につながるケルチの造船所を攻撃、Su-24爆撃機から、フランスが供与した巡航ミサイル「スカルプ」を少なくとも3発発射し、黒海艦隊の最新鋭艦「アスコルド」を損傷させたと報じている。「アスコルド」は黒海で試運転中で、年内に黒海艦隊に加わる予定だったとされている。同艦は2400キロ以上の射程を持つ「カリブル」巡航ミサイルを8発搭載可能。「カリブル」ミサイルはこれまでウクライナ領内のインフラ攻撃に使用されてきた。
安全保障政策や防衛戦略に精通する渡部悦和氏(元陸上自衛隊東部方面総監、著書『プーチンの超限戦』など)はこの攻撃を「非常に大きな成果だ」として次のように分析する。
現在ウクライナ軍は大規模な“ドローン艦隊”を作り、大量の水上ドローンを投入し黒海の制空権と制海権を押さえることをねらっている。ケルチの造船所施設を破壊したことで、黒海艦隊はクリミア半島での新たな造船や修理が困難になり退避を強いられる。
「セバストポリの指令本部も被害をうけておりロシアの防空体制が弱体化しているのは間違いない。ウクライナは南部全域の反攻作戦を成功させるために、クリミア半島への攻撃を強めている」
駒木明義氏(朝日新聞論説委員、元モスクワ支局長、著書『安部VS.プーチン』など)は今回の攻撃はウクライナ紛争全般においても以下の3つの意味があると指摘する。
1) 黒海艦隊の行動を制約することでウクライナは黒海からの穀物輸出を安定化させることができる
2) ロシアの南部戦線への補給を困難にする
3) クリミア半島に圧力をかけロシア軍の本拠を後退させることで、将来停戦交渉などを行う際に大きな圧力をかけることができる。
「クリミア半島はそれだけ重要な地点であり政治的にも非常に大きな意味を持つと言える」と駒木氏は分析する。
ウクライナ軍装甲車が初めてドニプロ川“渡河作戦”成功か?
クリミア半島への攻撃と並行してウクライナ軍は、ドニプロ川東岸への“渡河作戦”を進めている。
ロシアの著名軍事ブロガーは11月7日、ウクライナ軍が10月中旬以降、南部ヘルソン州ドニプロ川東岸へこれまでにない渡河作戦を展開しており、東岸のクリンキー付近に初めて装甲兵員輸送車「BTR−4」1―2台を運ぶことに成功した、と報じた。ウクライナ軍はさらに橋頭堡を構築し、クリンキー近辺で2―3kmロシア占領地に入り込んでおり、川沿いに20kmから30kmの奪回を狙っているという。
一方で渡河作戦に使用されたとみられる水陸両用車「PTS―2」は水上での搭載能力は12トンであり、移送したとされる「BTR―4」は最低重量が18トンのため、“過剰な荷重”だった可能性も指摘されている。
渡部氏はこの作戦もまた、大きな一歩と分析する。
「ウクライナ軍はこれまで約300人の歩兵を投入し渡河作戦を実施してきたが、装甲兵員輸送車「BTR-4」は水陸両用で機動力があり広範囲の移動も可能となる。今後、本格的に架橋しながら、歩兵を増員し装甲車両を投入し橋頭堡を築きながら東岸の奪還地域を拡大させようとしている。ロシア軍は歩兵主体のため、ウクライナ軍が装甲車両を数十台渡河させることができればかなり有利な状況になるだろう」
一方、駒木氏は「小さな一歩ではあるがまだ予断を許さない。ウクライナ軍は数km単位で東岸の内陸に進んでいるようだが、数十km先の内陸に拠点などをつくらないと戦況は大きく変わらない。根本的に困難な状況は変わらないのではないか?」とも指摘する。
ウクライナ軍ザルジニー総司令官の主張する戦術意図は?
渡部氏によると、渡河作戦にはウクライナのザルジニー総司令官の主張してきた戦術意図が表れているという。ザルジニー総司令官は、11月1日付けのイギリス『エコノミスト』誌の取材の中で「ロシア軍の航空優勢こそがウクライナの前進を困難にしている」として、戦線膠着(こうちゃく)状態を打破するためには
1) 航空優勢を獲得するための技術
2) 深い地雷原を突破するための技術
3) 有効な対砲兵戦の技術
4) 電子戦能力
5) 予備兵力の増強と訓練、の5つが必要だと語った。
「今回の渡河作戦では1)航空優勢の獲得、3)対砲兵戦、4)電子戦の3つがまさに実施されているといえる。渡河作戦では、ロシア軍の航空攻撃、榴弾砲射撃、ドローン攻撃が最大の脅威となる。ウクライナ軍は、大量のドローンを投入し“ドローン優勢”ともいうべき状況をつくり、ロシア軍の兵站や電子システムの破壊を行う電子戦を実施しドローンの展開を阻み、地域の戦況を根本的に変える作戦を行っているのではないか」と渡部氏は分析する。
アメリカの新たなウクライナ支援の行方と3月のロシア大統領選
イスラエルとハマスとの戦闘が激化する中、アメリカの新たな支援が潤滑に行われるかも大きな不安要素だ。
杉田弘毅氏(共同通信社特別編集委員、明治大学特任教授、著書『国際報道を問い直す ―ウクライナ戦争とメディアの使命』など)は、アメリカのウクライナ支援がどのくらい続くかが困難な時期を迎えていると指摘する。
「アメリカ全体の国家予算の期限切れが近づいており、11月17日までにつなぎ予算を議会で通過させる必要がある。さらにイスラエルへの軍事支援の予算も通す必要があり、ウクライナへの支援予算はその次の3番目の政治課題となる。いずれもまだ合意がたっておらず、ウクライナ支援予算をいつ成立させることができるのか大きな懸念を持っている」
駒木氏は2024年3月にロシア大統領選を控えていることも今後の戦況を考える要素だと語る。
「12月14日にプーチン大統領は大規模記者会見などを行うとみられている。おそらくそこで来年の大統領選に関して何らかの表明があるだろう。ロシア国内はすでに選挙モードになっており、そのためにウクライナ情勢の成果報告を必要としているのではないか、そこに注目している」。
●「塹壕」掘る工兵部隊の能力拡充、司令部縮小がカギ…ウクライナ戦争教訓 11/14
フランス陸軍のブノワ・ヴィドー中将(56)が13日までに都内で産経新聞とのインタビューに応じた。ウクライナ戦争で第一次世界大戦時のような塹壕戦≠ェ本格的に復活し、ロシアと陸続きのフランスでも塹壕を掘る工兵部隊の能力拡充が重要だと強調。戦線司令部の縮小・機動性向上に優先して取り組む必要があるとも語った。
露軍の塹壕約800キロ
露軍は今回、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)から南部ザポリージャ、ヘルソン両州にかけて、800キロにも及ぶ防衛戦(塹壕)を構築したと指摘される。ヴィドー氏は「塹壕を使った戦いが戻っており、塹壕を掘る工兵部隊の力が必要だ。仏軍はこれまで、その能力が重要だとは考えてこなかった」と語った。
また、ウクライナ司令部が露軍の「(空からの)標的になりやすかった」と振り返り、「司令部を縮小し、機動性を高めなくてはいけない」と強調した。
戦場の「透明化」の懸念
戦場では軍事技術に加え、イーロン・マスク氏率いる米宇宙企業スペースXの衛星通信網「スターリンク」や、携帯電話など民生技術も頻繁に使用されているのが実情。民生技術の使用には「リスクが伴う。(自軍の)場所が容易に特定化されるからだ。つまり『戦場の透明化』が起こる」とし、軍事・民生技術の効果的な併用が重要との認識を示した。
戦闘で無人機(ドローン)が「1カ月に数千機投入されている」とした上で、「電磁波の妨害」の中でもドローンが機能し続ける必要があるとも力説。戦争当初、多数投入されたトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」はほぼ姿を消したと指摘し、「2、3カ月で新しい技術革新をしていく」ことが肝要とした。
仏軍のみならず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本も、「(これら指摘した点を)同じ教訓として引き出したはずだ」と述べた。
厳冬期は戦闘「凍結」状態に
ウクライナの戦線は今後、厳冬に見舞われる。ヴィドー氏は「多くの戦闘が『凍結』状態となり、(本格的な戦闘は)春に再開する」との見方を示した。
一方、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスが対峙し、ウクライナ情勢への国際社会の注目度が低下しているとされることについては、「ロシアとウクライナの国境付近の国々は(戦闘の行方に)今も高い関心を持っている」とし、「米国で(ウクライナ支援について懐疑的な)議論はあるが、関心を持ち続けていることに変わりない。米国にはウクライナとイスラエル双方を同時支援する能力があると思う」と語った。
ヴィドー氏は日仏間の軍事交流についても言及。2024年6月、フランスで行われる陸上装備の展示会に、自衛隊の人員派遣を望むとの考えを示すとともに、日仏がそれぞれ主催する大規模演習にオブザーバーを相互派遣することで双方が調整中と語った。
日仏関係の展望について「日本はパートナー国を多様化する必要があると考えている。良好な関係が築けると思う」と述べた。
●「ラスベガスのような感じ」 ウクライナ前線で戦うロシア兵の15%が薬物中毒 11/14
ウクライナの前線で戦っているロシア兵の最大15%が薬物を使用している――英国防省が最新の戦況分析報告書の中で、こう指摘した。
英国防省は11月13日に発表した戦況分析の中で、ロシアの反体制メディア「Verstka」の9月の報道が真実であると確認した。ウクライナの前線では、アンフェタミンや大麻をはじめとする薬物が簡単に入手できるという報道だ。
同メディアは10月にも、ウクライナ国内のロシア占領地域で暮らす兵士や市民、数十人にインタビューへのインタビューから、ロシア軍の約10人に1人がマリファナを使用しており、さらに中毒性の高い違法薬物を使用している可能性もあることが分かったと報道していた。
英国防省はX(旧ツイッター)上で共有した報告書の中で、「一連の報道は信用できるものであり、これ以前にも、ウクライナへの軍事侵攻開始以降、ロシア軍では規律違反、犯罪やアルコール乱用に関連のある死亡事例が高い率で発生していた」と述べた。
さらに同省は「薬物やアルコールの乱用者は、事実上の懲罰部隊である突撃部隊『ストームZ』に送り込まれる可能性が高い」と指摘した上で、こう続けた。
「ローテーションがなく戦闘部隊が前線に出ずっぱりで交代の機会がないことが、規律違反や薬物乱用が多い理由の一つだ」
本誌はこの件についてロシア国防省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
統制の乱れが深刻化
10月の報道の中で、ロシア軍のある兵士はVerstkaに対して、「退屈だからという理由で」薬物に走る兵士がいると証言。別の兵士は、前線地域では容易に薬物を入手することができると述べ、さらに別の兵士は「ラスベガスのような感じだ」と語った。
ウクライナとの戦闘開始以降、ウラジーミル・プーチン大統領の配下にあるロシア軍は、兵士の士気の低下や訓練不足に悩まされている。
英国防省が10月末の分析で、2022年2月の侵攻開始以降、ロシア軍の最大19万人が死亡や重傷により戦闘不能となったと発表。
ウクライナ側の推定はさらに多く、ロシア軍が侵攻開始以降で失った兵士の数は11月はじめの時点で30万人を超えるとの見方を示している。本誌はこれらの数字について、いずれも独自に確認を取ることはできていない。
統制の乱れが続くなか、一部のロシア兵が前線で指揮官の命令を拒否する事態も発生している。ウクライナの情報機関によれば、11月1日にはクリミア半島に配備されているロシア軍の複数の兵士が副司令官を殴って死に至らしめ、その後逃走したということだ。
ロシア軍は死者の増加を受けて兵士の追加採用の取り組みを強化しており、移民や失業者など社会的に弱い立場にある人々をその「標的」にしている。
プーチンは2022年秋に(多くの市民の反発を招いた)部分動員令を発令。その後、部分動員は完了し追加募集は予定していないとしていた。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 14日の動き 11/14
ウクライナ “ロシア軍 ウクライナ東部で空爆を増やしている”
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の拠点アウディーイウカの掌握を狙って、多くの犠牲もいとわず周辺で攻撃を続けています。
ウクライナ軍の参謀本部は14日、ロシア軍が空爆を強化しながら地上部隊が街の包囲を試みているとしたほか、軍の報道官は地元メディアに「ロシアはスホイ35戦闘機から誘導爆弾による空爆を増やしている」と明らかにしました。
ロシア軍は無人機による攻撃も繰り返していて、ウクライナ空軍は14日、ロシア軍が夜間に9機の無人機で攻撃を仕掛け、このうち7機を撃墜したと発表しました。
ウクライナのベレシチュク副首相は、北欧フィンランドのメディアに対して「これからの厳しい冬でもロシアが前の冬と同じように電力インフラを破壊しウクライナの人々の意志を打ち砕こうとするのは明らかだ」と述べ、防空能力の強化に向けた欧米の支援を訴えました。
ゼレンスキー大統領「ロシアの電力施設など攻撃に警戒を」
ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、ビデオ演説で、本格的な冬の到来を前に、ロシアが電力施設などインフラへの攻撃を増やす可能性があるとして警戒を呼びかけました。
この中でゼレンスキー大統領は「11月も半ばを過ぎようとしているが、敵がわれわれのインフラに、ドローンやミサイルでの攻撃を増やしてくる可能性に備えなければならない。われわれはこの冬を乗り切れるように全力を傾けるべきだ」と述べました。
そしてロシアの攻撃に対応するための防空システムについて「残念ながらまだすべての領土を完全に防御できているわけではない」と述べたうえで各国に対して防空能力の強化に向けた支援を継続するよう訴えました。
ヘルソン州知事 ロシア軍の砲撃を受け3人死亡と発表
ウクライナ南部ヘルソン州の知事は13日、中心都市ヘルソンの郊外で車両がロシア軍の砲撃を受け、1人が死亡し、乳児と母親がけがをしたほか、市の中心部でも砲撃により2人が死亡したと発表しました。
領土の奪還を目指すウクライナ軍は先月以降、ヘルソン州でロシア側が占領するドニプロ川の東岸に渡り作戦を展開しているとみられますが、ロシア軍は1年前に撤退した川の西側にあるヘルソンに向けて攻撃を繰り返しています。
ロシア国営通信 “部隊の再配置を決定” 速報し取り消す
ロシア国営のタス通信とロシア通信は13日、ロシア国防省の情報として、軍の司令部がドニプロ川の東岸に展開する部隊の「再配置を決定した」と速報で伝えました。
部隊の撤退をうかがわせる内容でしたが、2社とも、速報のおよそ10分から15分後に誤報だったとして撤回しました。
国営通信社が同じ内容を速報し、同時に取り消すのは異例で、ロシア国防省はロシアメディアのRBKに対して何者かが偽情報を流した挑発行為だとする見方を示しました。
ロシアの独立系メディアは、国営通信社の関係筋の話としてウクライナ側でつくられた偽のアカウントから情報を入手した可能性があると伝えています。
ノルドストリーム爆発 ウクライナ軍の大佐関与か 米メディア
ロシアとドイツを結ぶ海底パイプライン、ノルドストリームで、去年9月に起きた爆発について、アメリカメディアなどは、ウクライナ軍の特殊部隊に所属していた大佐が深く関与していたと伝えました。
バルト海を経由してロシアとドイツを結ぶ天然ガスの海底パイプライン、ノルドストリームでは、去年9月26日に爆発が起き、大量のガスが漏れ出しましたが、爆発の真相は明らかになっていません。
これについて、アメリカの有力紙ワシントン・ポストなどは11日ウクライナやヨーロッパの当局者の話として、ウクライナ軍の特殊部隊に所属していた大佐が、調整役として深く関与していたと伝えました。
報道によりますと、この大佐は、パイプラインに爆発物を設置した6人の実行犯のために後方支援を行い、ウクライナ軍のザルジニー総司令官にも最終的な報告が上がっていたということです。
ただ、ゼレンスキー大統領には意図的に知らされていなかった可能性があると伝えています。
この大佐は、現在別の容疑で拘束されていて、弁護士を通じて、爆発への関与を否定しているということです。
報道についてウクライナ軍の報道官は12日、ロイター通信に対し「情報はない」と述べました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は13日「ウクライナ側による妨害工作の痕跡が、報道や調査で見られるようになってきた。われわれは注意深く見ている」と述べました。
ルーマニアにF16戦闘機訓練施設 ウクライナのパイロットも訓練
ウクライナ軍のパイロットの訓練にも使われるアメリカ製のF16戦闘機の訓練施設が、ウクライナの隣国ルーマニアに新たに設けられ、記念式典が行われました。
ルーマニアの空軍基地に新たに設けられた訓練施設は、F16戦闘機の訓練に特化した施設としてはヨーロッパで初めてのもので、13日、記念式典が行われました。
F16戦闘機を製造するアメリカのロッキード・マーチン社からも教官が派遣されていて、この日は、ルーマニア軍の2機のF16戦闘機が基地上空で激しく旋回するなど模擬訓練を繰り返す様子が見られました。
F16戦闘機をめぐっては、ウクライナが反転攻勢を進める上で重視し、オランダなどが供与を表明していて、アメリカやデンマークなどでウクライナ軍のパイロットなどへ訓練が始まっています。
この施設では、まずルーマニア軍のパイロットの訓練が行われることになっていて、ウクライナ軍のパイロットの訓練も実施される予定です。
オランダのオロングレン国防相は「ロシアと戦うウクライナが対空防衛強化のためF16戦闘機を必要としていることを理解し、訓練を可能な限り早く始めたい」と述べました。
またロッキード・マーチン社の責任者は「ウクライナであってもほかの国でもこの施設はパイロットが効率的に訓練を受け任務に戻る拠点となる」と話していました。

 

●ロシア 経済制裁の裏で北方領土の実効支配が進む 旅行も奨励 11/15
経済制裁の裏でロシアによる北方領土の実効支配がさらに進んでいます。ロシア政府は極東の観光振興を進めていて、北方領土への旅行も奨励しています。
ロシアの首都モスクワでロシア各地の魅力をPRする博覧会が開かれています。
経済制裁による外国からの旅行客の減少を受け、ロシア政府は国内旅行の活性化を図っています。
国内の観光先としてビーチや文化遺産、自然が人気で、ロシア政府によると、北方領土の択捉島を含む千島列島への観光客は増加傾向にあり、2022年は前年より5000人多い8万8000人が訪れたということです。
ロシア政府は助成金など極東の観光振興を進めていて、サハリン州のブースでは砂鉄が多く含まれる択捉島のビーチの砂を展示するなど、北方領土への関心を高めようとしています。
国後島ではプーチン大統領が主導する観光振興プロジェクトの一環として、温泉施設などが充実したグランピング施設が9月にオープンするなど、観光地化が進められています。
●「動機の65%が理想主義だった」─彼がウクライナで義勇兵になった理由 11/15
世界各地で起こる紛争や戦争。そこで戦っているのは当事国の正規軍や国民だけではない。外部の非当事者でありながら、傭兵、義勇兵、外国人部隊など、さまざまな形で自らその戦いに身を投じる人たちもいる。
何が彼らを戦場に駆り立てるのだろうか。実際にウクライナで義勇兵として戦ったドイツ人や、傭兵の専門家の話から見えてくるのは、ロマンと金と宿命が絡み合った、複雑な事情だ。
ヨナス・クラッツェンベルクは鏡を見る度、戦争が彼に残した痕跡と向き合うことになる。左耳から頭にかけて走るギザギザの傷跡。目の中には黒い点。それはガラス片が角膜と硝子体を貫き、視神経のわずか手前まで突き刺さっている箇所だ。
彼は手術で、足や内臓から何百という散弾を取り除いた。だが目の中の破片は、手術をすれば損傷のほうが大きくなるだろうと医者が判断したため残っているのだと、クラッツェンベルクは説明する。
私たちはドイツのアーヘンにあるカフェで待ち合わせた。クラッツェンベルクは角の席で壁に背を向け、部屋全体と入り口が見えるように座っていた。
彼は25歳だが、彼ほど多くの戦争体験を持つ同世代のドイツ人はほとんどいない。彼は学校卒業後にドイツ連邦軍に入隊し、部隊とともにアフガニスタンに派遣され、将校になる道を歩みはじめていた。
ところが、2022年3月、クラッツェンベルクは防寒着、防弾チョッキ、食糧をまとめて、ウクライナへと向かった。ニュースでしか知らなかった現地の戦争に、義勇兵として参加するためだ。
それから数週間後には、彼の部隊はブチャとイルピンにたどり着いた。彼らはジャーナリストや国のトップがそこに来る前に、ロシア軍の虐殺による遺体を目の当たりにしたという。
南部のヘルソンでは、クラッツェンベルクは機関銃手としてハンヴィー(高機動多用途装輪車両)に乗ってロシア軍の占領地を攻撃した。その際に何人殺したかは語りたくないという。そのようなことを大っぴらに言っても、何の自慢にもならないと──。
ミコライウ近郊の前線で、クラッツェンベルクの戦争は終わった。ロシア軍のドローンが、彼の足元に榴弾を投下したのだ。彼が平和な生活に戻ってから1年半になる。怪我はほとんど治ったそうだ。眼鏡のおかげで、視力も取り戻した。ただ、前線から送られてくる戦友のビデオを見た日には、戻りたいという思いに駆られるという。
戦争に憧れて
自らの意思で戦争に参加し、命を危険にさらす人がいるというのは、想像し難いことかもしれない。しかも彼らは、ほとんど知らない国の難解な紛争に身を投じることもある。
正規の軍人は義務感から、傭兵は金のため、義勇兵は理想に駆られて、戦争に参加するといわれている。だが、ヨナス・クラッツェンベルクのようなウクライナへ赴いた義勇兵に取材したり、元傭兵に話を聞いたり、フランスの外国人部隊の歴史を調べたりすると、これらの兵士たちの違いだけでなく、彼らを前線へと駆り立てる動機も、はっきりと分けられるものではないとわかってくる。
戦争とは、多くの人にとって辞めるのが難しい仕事なのだ。
ヨナス・クラッツェンベルクは時折、自分のような人間がなぜ兵士になったのかと、自分で不思議に思うことがある。
彼の母親は医者、父親は警察官で、小さな村の一軒家で大切に育てられた。彼はモンテッソーリ教育の学校に通い、平均2という良い成績で高校卒業資格を得た(註:ドイツの成績は1〜6で表記され、数字が小さいほど良い)。
子供の頃から、戦車や戦艦の絵を描くのが好きだった。ほかには、歴史の本を読んだり、コンピュータゲームで遊んだり、戦争映画を見たりしていた。これらは、子供部屋で「新兵募集」のような役割を果たした。
高校卒業後、親が希望していた大学進学をする代わりに、クラッツェンベルクは自らドイツ連邦軍に入隊した。そして対戦車砲と機関銃を扱う装甲擲弾兵として教育を受け、2019年にアフガニスタンに派遣された。
アフガニスタンでは、マザーリシャリーフとクンドゥーズの近くでパトロールに従事したが、実戦は経験しなかった。多くのよく訓練された兵士たちと同じく、彼はそのことに不満を抱いていた。
ドイツに帰国した後、クラッツェンベルクは将校になろうと思ったが、やがて時代遅れの上官たちにいらいらしはじめたという。そうして、彼はドイツ連邦軍を辞めてしまった。
その数日後の2022年2月、ロシア軍がウクライナに侵攻した。そのときのクラッツェンベルクには恋人も子供もおらず、自分の将来もはっきりしていなかった。3月、クラッツェンベルクはバンを満タンに給油し、東へと走り出した。
戦場でしか得られない感覚
クラッツェンベルク自身は、動機の65%が理想主義だったと述べる。ウクライナを侵略者から、つまり善を悪から守りたかった。
だが、動機はほかにもあった。
クラッツェンベルクは何年も、戦争のために訓練を積んできた。その「習得した技術」を活用したいと考えたのだ。
これはほかの職業でも同じだろうと彼は言う。外科医は手術室に、屋根ふき職人は屋根の上に、パイロットはコックピットに、そして兵士は前線に行きたいと考えるものだと。
しかし、それらは本当に同じことなのだろうか?
もちろん、戦争ではほかの職業とは違う倫理的決断を下すことになるし、生きるか死ぬかの世界だ、とクラッツェンベルクは言う。だからといって、「屋根ふき職人の仕事に伴う危険性を軽視してはいけないと思います」というわけだ。
ウクライナでクラッツェンベルクは、ゼレンスキー大統領が開戦直後に創設した外国人部隊に迎えられた。これは、世界がウクライナを守っていることを示すための部隊である。ドイツ、ポーランド、コロンビア、イスラエル、英国、米国といった国々から、男女ともに志願者が来ていた。
クラッツェンベルクによると、メンバーの大部分は、以前に別の軍隊で勤務していた。ジョージア人やベラルーシ人のように、自分の国もプーチンの帝国主義に脅かされていると考える人たちは、政治的な信念とともに戦っていた。そうではない、主に西欧からの人たちは、冒険あるいは「刺激」を求めて参加したのだろうとクラッツェンベルクは推測する。
クラッツェンベルクも、キーウ近郊で最初の戦闘を経験したときに、その刺激を味わった。はじめは不安で胃が痙攣した。だが次にアドレナリンが放出され、最後には多幸感に包まれた。
スリルを求めて、パラシュートを背負い、崖から身を投げるエクストリームスポーツのプレーヤーの話にも似ている。砲撃に耐え抜いた人たちも、死を免れた戦闘の後には、特に生を実感すると報告しているのだ。
だが、そのような感情はすぐに消えてしまう。そして多くの人がそれをもう一度感じたいと思うのだ、とクラッツェンベルクは説明する。クラッツェンベルクにとって、これは非難されるべきことでも病的なことでもないが、一般市民にとっては理解し難い感覚だ。
●居場所と絆は手に入るが…多くの人が戦場から「抜け出せなくなる」理由 11/15
日給2000ドルの仕事
人々が戦争に赴く理由はもう1つある。そちらのほうが、一見すると理解しやすいかもしれない。それは、金だ。
外国人部隊の基本給は月に500ユーロ(約8万円)だったと、ウクライナで義勇兵として戦ったドイツ人、ヨナス・クラッツェンベルクは回想する。その後、彼は正規軍に編入され、月に3000ユーロ(約48万円)もらえることになった。だが、戦争の混乱で支払いがきちんとおこなわれないこともあった。そのため、金を儲けたい人はほかの国に行くといいだろう、とクラッツェンベルクは言う。
給料のいい傭兵の募集を見つけるのは難しくない。グーグル検索を少しするだけで充分だ。傭兵に特化した求人サイトもあり、一部の募集内容は誰でも見ることができる。
スーダンでの撤退支援任務、アフリカの角の近海における船舶の警護、アフガニスタンでのとある任務に必要な狙撃兵などだ。5年以上の軍隊経験が必須で、1日あたりの報酬は500〜2000ドル(約7万5000〜30万円)だ。
経験次第では報酬がもっと高くなる場合もあると、政治学者で傭兵の専門家のショーン・マクフェイトは言う。元特殊部隊員に対して最大で1万ドル(約150万円)の日当が出るケースを聞いたことがあるそうだ。そのような専門的人材はインターネットでは募集されず、推薦で採用されるという。
マクフェイトによると、傭兵の大半はどこかの国の正規軍で訓練を受けた人だ。その後、彼の昔の戦友が言うところの「ダークサイド」に転向するのだ。
正規の軍人は正規の軍人なりの倫理観を持っており、表向きは、愛国心、名誉心、義務感によって戦う。そして傭兵は、最も多く支払ってくれる者のために戦うことで、この倫理観を転覆させてしまうといわれている。
しかし、2022年におこなわれた米国での研究によると、米国軍の兵士たちが入隊した主な理由も、いい給料をもらえて、無料で訓練を受けられ、健康保険に加入できるからだそうだ。
探求者、冒険者、そしてサイコパス
それでは、傭兵の動機は、正規の兵士のそれとどう違うのだろうか。
「傭兵は、ハリウッド映画でおなじみのならず者とは限りません」とマクフェイトは言う。彼は、この仕事をするようになる人には4種類いると考えている。まず、金が必要な人。次に、戦うことしかできない元軍人。さらに、冒険心から参加する人。最後に、サイコパスだ。
マクフェイトはそのような多くの人間と知り合ってきた。彼自身が傭兵として長く働いてきたからだ。落下傘兵として米国陸軍での兵役期間を終えた後、彼は修士号を取るためにハーバード大学に進んだ。
ある日キャンパスにいると、彼のもとに民間軍事会社ダインコープ・インターナショナルから電話がかかってきた。マクフェイトは傭兵の世界に「知的関心」があり、ハーバードで経済モデルを計算するよりも何か実のあることをしたいと考えてもいたため、参加を決意した。
マクフェイトの最初の任務はリベリアに行き、米国政府の委託で軍隊の編成を手伝うことだった。その後、彼はブルンジの大統領を護衛し、民兵とともにサハラを駆け抜け、東ヨーロッパに武器を輸送し、諜報機関のために情報収集をおこない、傭兵を採用する立場にもなった。まるで冒険映画のような人生だ。
ロマンのためにこの仕事に足を踏み入れる人は、たいていすぐに辞めてしまうとマクフェイトは言う。多くの「衝撃的な」出来事を目の当たりにし、「倫理的に疑わしい」こともしなければならないからだ。
マクフェイトはサイコパスにも出会った。サイコパスとは、他人への共感を持ち合わせず、殺人を楽しむような人だ。このタイプの人は、規則を無視したり上官を殴ったりしたために、正規の軍隊を追放されたケースも多い。
そして、そのような人たちを狙って採用する民間軍事会社がある。たとえば、2015年にナイジェリアでテロ組織ボコ・ハラムを撃退した南アフリカの傭兵たちだ。彼らは民間人の犠牲を厭わなかったので、成果をあげることができた。
フランスの外国人部隊の男たちにも、同じように良心がないという評判が長らくつきまとっていた。この部隊は第二次世界大戦後、フランスの正規軍と傭兵部隊の両方が混ざった犯罪者のたまり場といわれた。
だが実際には、外国人部隊のメンバーが「危険な無頼漢」であることは稀だったと、ロンドン大学で軍事史を研究するエッカート・ミヒェルズは言う。
彼らには別の共通点があった。ミヒェルズによると、軍の外の生活における自分の地位が低いと思っている人ほど、軍事組織に進んで入りたがるそうだ。その点では、外国人部隊も、義勇兵も、傭兵も、大きな違いはないと彼は考える。
過激派組織ISILに加わった若い男性たちも、宗教的な熱意だけでなく、ヨーロッパでの生活で感じた失望によって動かされていた。ISILは彼らに権力と、複数の妻と、高い地位を約束したのだ。
逃避の一形態
ミヒェルズによると、フランス外国人部隊への志願者の多くも、それ以前はホームレスだったり、借金を抱えていたり、孤児だったりしたという。そして入隊後に彼らは、部隊が自分を正しい道へ戻してくれたと主張するのだ。そこで彼らは規律と自信、そして家族の代わりを手に入れる。
軍人の多くは戦友との絆について語る。それはつまり、軍隊の外にいる誰もが人生において求めている、受容、友情、人間的な親密さのことだ。
これは、軍隊や戦争から抜け出すのが難しい理由でもある。一般市民の生活に戻ると、こうした戦友との絆、規律、意味、地位が失われてしまうからだ。
フランス外国人部隊の兵士の多くも、除隊後は困難を経験したとミヒェルズは言う。長年従ってきた秩序が突然なくなる。そして一般市民は兵士たちを元犯罪者のような目で見るので、きつい仕事しか見つからず、心を開いて話せる相手もいない。すぐに部隊に戻る人も少なくなかった。
元義勇兵のヨナス・クラッツェンベルクも、このジレンマについて語る。
「ウクライナの前線での生活はひどいものでした。水浸しの塹壕にうずくまり、カビの生えたパンを食べ、ロシア軍の砲撃を受けます。でも、その世界は、外よりもシンプルだったのです」
一般市民としての生活に馴染めなかった元兵士は、傭兵になるケースが非常に多いと、政治学者のマクフェイトは説明する。しかし、再び戦争に逃げることは、問題をさらに悪化させるだけだ。囚人も似たような問題を抱えている。あるときから、刑務所の中でしかうまく生きられなくなるのだ。
マクフェイトの元戦友で、その世界から抜け出せた人はわずかしかいないという。ある人はジンバブエでバーを開き、ある人は犯罪組織に流れ着き、ある人はワグネル・グループで戦った。兵士の道を続けた人の多くは、いつかは戦場で命を落とす運命だった。「傭兵稼業に年寄りはあまりいませんよ」
マクフェイト自身は、何年にもわたった傭兵のキャリアを終えたとき、学術界に拾ってもらえた。彼は現在、傭兵に関するノンフィクションや小説を執筆しつつ、米国の複数の大学で国際関係論と紛争について教えている。
刺激の足りない生活だとしても…
ウクライナで義勇兵になったヨナス・クラッツェンベルクは、戦士としての人生からまだ完全には抜け出せていない。
アーヘンでウクライナ人の恋人と暮らす彼は、あるライターと一緒に自分の経験をつづった『援護射撃』(未邦訳)という本を出版した。普段は、米国企業で営業の仕事をしている。
その生活はたしかに、あまり充実感を見出だせない「刺激のない」ものだという。
戦争に関して彼が懐かしく思うのは、自分自身よりも大きなことを成し遂げていたということだ。いまの生活には、戦友との絆もアドレナリンもない。
だが、あの前線に戻ったり、再び傭兵の仕事をやるつもりはまったくないという。
「常に戦争を追いかける血に飢えた人間にはなりたくないのです」
では、代わりに彼は何を望むのか。家族を作り、家を買い、「まっとうな」人生を送ることだ。「戦争に行く回数が多くなるほど、そして戦場にいる期間が長くなるほど、その夢は実現から遠のいてしまうでしょう」
●ルーブル高と財政拡張の実現、矛盾した政策目標を課されたロシア中銀 11/15
・今年7月に利上げに転じて以降、ロシア中銀は金融引き締めを強化しているが、住宅ローンや企業向けローンなど貸出は高い伸びが続いている。
・その背景にあるのはプーチン政権の拡張財政。中銀がいくら金融を引き締めても、ウクライナとの戦争や政府による需要喚起策が続けば需給はバランスしない。
・ロシア中銀としては、来年3月の大統領選後に政府の歳出削減が進むことを期待するばかりだが、来年も拡張予算を志向しているため、その可能性は低い。ロシアの「戦時スタグフレーション」はまだまだ続きそうだ。
ロシア中銀は10月30日に開催した会合で、政策金利(キーレート)を2%ポイント引き上げて年15%とした。ロシア中銀は今年7月の会合で利上げに転じて以降、インフレの加速を受けて、金融引き締めを強化している。消費者物価は今年4月にボトムアウトして以降、直近10月時点で前年比6.7%まで上昇が加速した(図表1)。
   【図表1 ロシアの政策金利と消費者物価】
直後の11月7日に、ロシア中銀は年内で最後となる「金融政策レポート」を発表した。この中でロシア中銀は、インフレの加速について興味深い指摘をしている。中銀は、まずインフレの主因が供給能力を凌駕する需要にあると指摘したうえで、その供給能力が通貨ルーブルの下落や労働者の不足によって低下していることを明示したのだ。
7-9月期はロシア経済の前期に続き堅調な前年比プラス成長が見込まれるが、その一因が投資にあったとロシア中銀は指摘する。特に製造業で人手不足が慢性化しており、企業は不足する人手を投資でカバーせざるを得なくなっているという見解だ。
もっとも、投資が生産能力化するまでには時間を要するため、投資が増えても生産はすぐに増えない。そのため、需要を満たすだけの供給がないまま、結局は価格だけが上昇し、それが需要を圧迫するという悪循環に今のロシア経済は陥っていると、中銀は評価を下している。
つまるところ、ロシア経済がモノ不足に陥っていることを、中銀は素直に認めているわけだ。そしてインフレ期待を鎮めるためには、中銀は金融引き締めを継続する必要がある。
現に、年平均9.9%程度であった今年の政策金利は、来年は平均で12.5-14.5%程度になるという見通しを中銀はレポートの中で示している。この高金利を受けて、来年の消費者物価上昇率は4.0-4.5%と中銀の目標(4.0%)に近づく一方、実質経済成長率も0.5-1.5%と今年(2.2-2.7%)から低下するという見通しだ。
利上げにもかかわらず貸出が増え続ける構図
またロシア中銀は、利上げにもかかわらず貸出が増える構図に頭を悩ませているようだ。利上げによって貸出の伸びが鈍化すれば、それはインフレの抑制につながる。しかしロシア中銀が相次いで利上げを行っても、銀行による住宅ローンと企業向けローンは増勢を維持している(図表2)。
   【図表2 銀行による貸付の伸び】
なぜこうしたローンの伸びは鈍化しないのだろうか。
中銀は住宅ローンの伸びが鈍化しない理由として、政府による補助金の存在を指摘している。ロシア政府は2024年6月まで、新築住宅の購入者に対して住宅ローンの優遇策を行っている。政府が補助金を給付して住宅ローンのアクセルを踏み込むなら、中銀が利上げをしてブレーキを踏んでも、その効果が相殺されてしまって当然である。
また中銀は、企業向けローンの伸びが鈍化しない理由として、企業のインフレ期待が強いままであることを指摘する。
一般にインフレが加速しても、中銀は景気や市場へ配慮する必要があるため、金利の上昇は物価の上昇に遅れがちだ。企業が先行きも高インフレが続き、金利がさらに上昇すると考えるなら、今借り入れを行ったほうが、将来の返済負担は軽くなる。そのため、企業の借り入れ需要は強いままとなる。
ただ、確かに企業のインフレ期待は強いはずだが、製造業に関しては、製造業では人手不足を受けて設備投資が旺盛であるから、そのことが資金需要の強さになっている側面があるのかもしれない。それに、非製造業の多くの企業では、そもそも高インフレのために企業間での支払いが急増しており、資金不足が生じているのではないだろうか。
住宅ローンに関しては、政府による優遇策が予定通り来年前半で打ち切られれば、伸びが落ち着く可能性が高い。一方で企業向けローンについては、物価上昇で借入の返済負担が軽減される限り、企業の借り入れ需要は減退しないため、企業向けローンの増勢は高水準で推移することになるだろう。
金融引き締めを帳消しにするプーチン政権のバラマキ政策
結局のところ、中銀がいくら金融政策を引き締めたところで、政府が財政政策を拡張し続ければ、需要が刺激され続けるため、需給バランスは改善しない。それどころか高インフレが続き、需要が最終的には圧迫され、経済が停滞するというスタグフレーションが続く。ロシアの場合、それは戦時スタグフレーションということになる。
ウクライナとの戦争でロシアは軍事費を拡大させ続けてきた。国内では軍需品の生産が優先され、民生品の生産が圧迫されている。ヨーロッパとの間でサプライチェーンが寸断したことも民生品の生産を圧迫させた。中国から民生品の輸入を増やすことで国内のモノ不足をカバーしてきたが、その結果、外貨が失われ通貨は下落している。
さらに、ロシアは来年3月に大統領選を控えている。再選を目指すウラジーミル・プーチン大統領としては、ウクライナとの戦争での具体的な戦果をアピールすると同時に、国内のバラマキ対策に努めて有権者の支持をキープする必要がある。こうした状況では、政府による財政の拡張には歯止めがかからず、インフレの加速は当然の帰結だ。
インフレを鎮めたいなら、クラウディングアウト効果が強い公需である軍事費を削減し、軍需品ではなく民生品の生産を優先させる必要がある。ロシアでも停戦に向けた機運が少しずつは高まっているようだが、いずれにせよ政府が今の軍事経済体制を緩めるようなことができるとしても、それは来年3月の大統領選以降のことだろう。
ロシア中銀が11月7日付で発表した「金融政策レポート」は、中銀としては、戦時スタグフレーションの下で出来ることが限られていることを素直に認める内容となっている。また、政府の財政拡張がインフレの主因であることを節々で指摘しており、その意味で中銀にインフレ対策を求める政府への「反論」といった性格も強いと言えよう。
ロシア中銀に押し付けられる無理難題
高インフレの大きな理由の一つにルーブル安があるが、政府はその責任を中銀に転嫁している。今年8月、ルーブルが1ドル=100ルーブル台まで下落した時、プーチン大統領の経済顧問であるマクシム・オレシキン氏は国営のタス通信に対して、大統領は強いルーブルを望むとし、ルーブル安の責任が中銀の緩和的な政策にあると寄稿した。
中銀としては、政府が強いルーブルを望むなら、利上げを進めるだけである。だが、それでは金利が上昇して財政の拡張が難しくなる。金融政策で財政を拡張させつつ、ルーブル高に誘導することなど不可能である。戦時中において、中銀は政府を支える立場となることは当然だが、矛盾した政策目標を課されたところで実現はできない。
中銀としては、まず来年3月の大統領選を何とか乗り越え、その後に政府が歳出を少しでも削ることを望むばかりだろう。とはいえ、政府は来年も拡張予算を志向しているため、歳出が大幅に削られる展望は、その実として描きにくい。そうなると、中銀が「金融政策レポート」で示した見方以上に、ロシアで高インフレが続くことになるはずだ。
そもそも、スタグフレーションを金融政策で解決することは不可能である。ロシアの場合、戦時下によるモノ不足に端を発する戦時スタグフレーションであるため、問題は一段と厄介となる。にもかかわらず、政府は中銀に無理難題を押し付ける。そうした政府の要望に中銀がいつまで耐えきれるかも、ロシア経済の今後の注目点となる。
●「100万発の供与困難」 ウクライナ支援でEU外相 11/15
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は14日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに来年3月までに弾薬100万発を供与するというEUの目標について「できないかもしれない」と述べた。ブリュッセルでの国防相理事会後、記者会見した。
供与はまだ3割しか実現しておらず、期限までの目標達成が疑問視されていた。ドイツのピストリウス国防相もボレル氏と同様の見方を示した。
ボレル氏はEU加盟国の軍事協力を推進する欧州防衛庁(EDA)を通じた弾薬の共同発注を進めていると説明。ウクライナに優先的に弾薬を回すよう呼びかけた。  
●ウクライナ東部で攻撃激化 「プーチン氏選挙前に戦果」見方 11/15
ウクライナ東部ドネツク州の検察は15日、ロシア軍が同州セリドボの住宅地をミサイル攻撃し、1人が死亡したと発表した。ゼレンスキー大統領は14日のビデオ演説で、ドネツク州で攻撃が特に激化していると指摘した。
ロシアのプーチン大統領は12月前半に次期大統領選への出馬表明をすると見込まれている。ゼレンスキー氏はプーチン氏が表明前に戦果を示すため、ドネツク州に部隊を投入しているとの見方を示し、ロシア軍の側に多くの戦死者を出そうとしていると訴えた。
●「プーチン氏、選挙前の戦果急ぐ」 ウクライナ大統領が指摘 11/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日のビデオ演説で、ロシアのプーチン大統領が来年3月の大統領選への出馬表明に先立ち、東部戦線で目に見える戦果の獲得を急いでいるとの見方を示した。
ウクライナ国営通信によると、同国軍は、ロシア軍による東部戦線での攻撃が10月10日ごろから激しくなったと分析している。
ゼレンスキー氏は「プーチン大統領は12月前半には一定の戦術的成果を挙げるため、多くの人員を死地に送ろうとしている。(成果を得た後)大統領選への出馬を表明する計画だ」と指摘した。特にドネツク州アウディイウカやバフムト、ハリコフ州クピャンスクで戦闘が激化しているという。
ウクライナ軍のシルスキー陸軍司令官は14日、通信アプリ「テレグラム」で、「敵は東部のいくつかの方面で一斉攻撃を継続している。しかし、あらゆる試みを阻止している」と説明。ロシア軍は過去2週間に東部戦線で4000人以上の兵力を失ったと強調した。
● ウクライナ ロシア側占領のドニプロ川東岸に拠点構築と主張 11/15
ウクライナ政府の高官は、南部ヘルソン州でロシア側が占領するドニプロ川の東岸に、ウクライナ軍が拠点を築いたと主張し、反転攻勢を強める構えを示しました。一方、ゼレンスキー大統領はプーチン大統領が来年3月の大統領選挙に向けて具体的な戦果を必要とし、東部で攻撃を強化しているとして警戒を強めています。
ウクライナのゼレンスキー大統領の側近、イエルマク大統領府長官は13日、訪問先のアメリカのシンクタンクで講演を行いました。
このなかでイエルマク長官は「ウクライナ軍はドニプロ川の左岸に足場を築いた。クリミアの非武装化に向け徐々に進んでいる」と述べ、南部ヘルソン州でロシア側が占領するドニプロ川の東岸にウクライナ側が拠点を築いたと主張し、南部で反転攻勢を強める構えを示しました。
そのうえで「われわれは武器をすぐに必要としている。特に防空システムが必要だ。ロシアは再び送電網やインフラを攻撃し、国民を恐怖に陥れようとするだろう」と述べ、欧米側に速やかな軍事支援を訴えました。
一方、ゼレンスキー大統領は14日、動画での演説で「ロシアによる攻撃は特にドネツク州で激しい」と述べ、東部ドネツク州アウディーイウカなどで激しい戦闘が続いていると訴えました。
そのうえで、来年3月に予定されるロシアの大統領選挙に向けて、プーチン大統領は具体的な戦果を必要としていて東部で攻撃を強化しているとの見方を示し、警戒を強めています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日「ロシア軍は東部で、複数に同時攻撃を実施することで、主導権を取り戻そうとしている」と指摘したうえで、ウクライナ側も抵抗していてロシア軍が主導権を取り戻せるかは不透明だと分析しています。
●世界の食料インフレ、来年は緩和見通し=ラボバンク 11/15
オランダ金融大手ラボバンクは、来年は食料インフレが幾分緩和するとのリポートを発表した。砂糖、コーヒー、トウモロコシ、大豆など主要品目の供給が拡大するという。
ただ、全ての主要品目の価格上昇が和らぐわけではなく、小麦は悪天候などの影響により5年連続で供給不足になると予想した。
コーヒー市場ではブラジルとコロンビアの生産改善で2024/25年度に供給余剰が予想されるほか、砂糖はタイの状況改善が見込まれる。
ブラジルの大豆生産量は過去最高の1億6300万トンと予想。一方、小麦はアルゼンチンとオーストラリアの生産が今後数カ月低迷する公算が大きいほか、ウクライナ戦争が引き続き輸出向け余剰の減少につながる見通しという。
●米中対立どうなる?台湾 経済安保… 首脳会談の焦点は 11/15
アメリカと中国の首脳会談が、日本時間の16日、アメリカ・サンフランシスコ近郊で行われます。
習近平国家主席がアメリカを訪問するのは、APEC=アジア太平洋経済協力会議の機会にあわせたものとはいえ、2017年以来、実に6年ぶりです。
それなのに、「成果は多くは望めない」という厳しい見方も・・・。
米中の対立の焦点と今後を特派員が両国の専門家へのインタビューも交えて解説します。
米中関係の対立点は?
ことしの夏以降、アメリカと中国は対話を加速させ、関係安定化を目指してきました。
しかし、現実には軍事・安全保障・経済安全保障など幅広い分野で対立は深まりつつあります。
現在、アメリカと中国の間には、具体的にはどのような対立点があるのでしょうか。
それぞれ具体的にみていきます。
台湾をめぐる立場
アメリカと中国の関係で避けて通れないのが台湾情勢です。
米中関係が一段と冷え込んだ1つのきっかけも、去年(2022年)8月、当時下院議長だった民主党のペロシ氏が台湾を訪問したことでした。
台湾を訪問した当時の下院議長ペロシ氏(左・2022年)
中国軍は対抗措置として、台湾周辺で軍事演習を行うなど、強く反発しました。
あらためて、台湾をめぐる中国とアメリカの立場について、みてみます。
中国の立場
台湾をめぐって、中国は世界で中国はただ1つ、台湾は中国の不可分の一部、中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府 という「1つの中国」の原則を主張しています。そして、台湾に関する問題については主権に関わり、一切譲歩することができない「核心的利益」だとしていて、将来的には台湾の統一を目指しています。
習主席は去年開かれた5年に1度の共産党大会で「最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢は残す」と述べ、統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示しています。
ことし9月、中国の建国記念日にあたる国慶節を祝う行事でも「祖国の完全な統一を実現することは時代の流れと歴史の必然であり、いかなる勢力も阻止することはできない」と演説し、改めて統一に向けた意欲を強調しています。
アメリカの立場
アメリカは、台湾海峡の平和と安定は世界の利益だとして、中国による武力を背景にした台湾の統一にも台湾の独立にも反対し、どちらかによる現状の一方的な変更は容認できないとしています。
「台湾は中国の一部だ」という中国の立場を認識する「1つの中国」政策を掲げる一方、台湾関係法に基づき、台湾が十分な自衛の能力を維持できるよう支援しており、台湾の防衛への関与を続けています。
台湾の部隊が参加したアメリカでの多国間の共同軍事訓練(2023年8月)
また、アメリカは、中国が軍事力を用いて台湾統一を図ろうとした際の対応をあらかじめ明確にしないことで中国の行動を抑止する「あいまい戦略」とも呼ばれる戦略をとってきました。
ただ、バイデン大統領はこれまで、台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるかと記者から問われ「ある。それがわれわれの決意だ」と応じるなど、「あいまい戦略」から逸脱したとも受け止められる発言もしていて、ホワイトハウスが「アメリカの政策は変わっていない」と火消しに追われたこともありました。
国力の変化とパワーバランス
アメリカと中国、それぞれの国力の変化につれてパワーバランスも大きく変化してきました。
ちょうど10年前の2013年、習主席が就任後、初めてアメリカを訪問、くしくも今回と同じカリフォルニア州で当時のオバマ大統領と会談しました。
当時は軍事力も経済力も、アメリカが優位な立場にありましたが、果たして2023年の現在は。
この10年間の変化をみてみます。
   軍事力
まず、中国軍の海軍力の変化です。
アメリカ議会調査局によりますと、中国軍の弾道ミサイル潜水艦はこの10年で倍増して6隻。攻撃型原子力潜水艦は5隻から1隻増えて6隻に増加しました。空母は1隻から2隻に増加。
また、10年前は巡洋艦は保有していませんでしたが、現在は8隻。駆逐艦は23隻から42隻に増加しました。海洋進出を加速させている様子が浮き彫りとなっています。
続いて、中国とアメリカの軍事力の比較です。
現役の兵士数は中国が200万人あまりで、アメリカを65万人以上、上回っています。また、弾道ミサイル潜水艦は、アメリカが14隻に対し、中国は6隻。空母は、アメリカが11隻に対し、中国は2隻。駆逐艦はアメリカが70隻に対し、中国は42隻。フリゲート艦は、アメリカが22隻に対し、中国が41隻となっています。
ただ、アメリカ軍は世界各地に展開しており、アジア太平洋地域に戦力を集中できているわけではありません。
また、海軍力を測るには艦船の数だけでなく、その能力にも着目することが必要で、単純な比較はできないという指摘もあります。
巨大な軍事力を保有する米中両国にとっては、意図しない出来事が衝突に陥るのを防ぐためのメカニズムの構築が差し迫った課題となっていますが、軍のトップどうしの対面での会談は去年11月以降、行われていないうえ、軍どうしがやりとりする連絡ルートも遮断されたままです。
今回の首脳会談で、軍どうしの対話を活性化できるかどうかが、ひとつの焦点となっています。
   経済力
次に中国と米国の経済力の対比です。
GDP=国内総生産は、2013年、ドルベースでアメリカが16兆8400億ドル余り、中国は9兆6200億ドル余りでした。
2023年にはアメリカがおよそ60%増加して26兆9400億ドルに、中国は80%余り増加して、17兆7000億ドルに達して、少しずつその差を縮めています。
さらに、アメリカの研究機関、ピーターソン国際経済研究所の分析によりますと、中国はアメリカや日本などが参加する、IPEF=インド太平洋経済枠組みの参加国との貿易を急速に増やしています。そのシェアは平均で輸入で40%以上、輸出で45%近く増加するなど、インド太平洋地域での存在が急速に高まっています。
一方で、中国では、不動産市場の低迷が長期化し、厳しい雇用情勢も続いています。これに対し、アメリカ経済は堅調で、IMF=国際通貨基金が、主要国の中でコロナ禍から最も力強く回復していると指摘するなど、景気の現状は米中で明暗が分かれています。
経済安全保障戦略
先端技術分野をめぐるアメリカと中国の主導権争いも激しさを増し、両国はそれぞれの経済安全保障戦略を展開しています。
   アメリカ
バイデン政権は国家安全保障戦略で、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置づけています。経済安保では、半導体・蓄電池・重要鉱物・医薬品の4つの特定分野に焦点を当て、軍事転用のおそれのある製品などの、中国の製造能力を抑え込むため、去年10月以降、先端半導体などの輸出規制を強化しています。
またEV=電気自動車などに不可欠で脱炭素社会の鍵を握る蓄電池では、サプライチェーン全体で高いシェアを誇る中国への対抗を鮮明にしています。北米地域で組み立てられたEVのみを税制優遇の対象とすることを盛り込んだ異例の法律を成立させるなど、露骨な中国外しを進めています。
こうした戦略の根底には、「Small Yard, High Fence(小さな庭に高いフェンスを設ける)」というバイデン政権の政策があります。
中国と覇権争いにおいて重要な分野を“小さな庭”の範囲に特定したうえで、その分野の技術については中国を締め出すため“高いフェンス”を設けて厳格に管理するというものです。
バイデン政権は、中国との関係について、経済的な結びつきを切り離す「デカップリング」ではなく、経済関係を維持しながら、中国との間で抱えるリスクを減らしていく「デリスキング」を目指す方針を強調していますが、専門家からは、どこまでが“小さな庭”の範囲なのか、その境界線が示されていないという指摘も出ています。
   中国
一方、中国は対抗姿勢を強めています。
「国際的なサプライチェーンの中国への依存度を高めることで、外国による供給網の遮断に対し、強力な反撃と抑止力を形成する」
習主席が示した方針です。アメリカなどを念頭に、各国が中国に依存する資源などをいわば「武器」として用いる狙いとみられます。
3年前(2020年)には、安全保障に関わる製品などの輸出規制を強化する「輸出管理法」を施行。
そして、ことし8月に実際にこの法律に基づいて、希少金属のガリウムとゲルマニウムの関連品目の輸出規制に踏み切りました。ガリウムとゲルマニウムは、半導体の材料などに使われる物質で、中国が世界的に高いシェアを占めていて、アメリカや日本などをけん制する狙いがあるとみられています。
中国が輸出規制に踏み切った希少金属 ガリウム
さらに10月にはアメリカが半導体の輸出規制の強化を発表した直後に、リチウムイオン電池の材料に使われる黒鉛の関連品目の輸出規制を実施すると発表しました。
一方、中国は、半導体や電気自動車の部品など、外国への依存度が高い製品の国産化を進める方針も同時に示しています。
狙いは、アメリカなどが進める「脱中国」の動きに左右されない産業構造の構築。「科学技術の自立自強」を掲げて、強じんなサプライチェーンをつくりあげ、自国内で開発から生産までを完結させることを目指すとしています。
他国を巻き込む外交戦略は?
   アメリカのインド太平洋戦略
アメリカのバイデン政権が外交政策の柱として去年2月、発表したのが、「インド太平洋戦略」です。
「自由で開かれたインド太平洋地域の推進」を掲げ、同盟国や友好国と連携し、中国を念頭に、経済的な威圧に立ち向かうとともに、東シナ海や南シナ海などこの地域の空や海が国際法のもとで利用できるように取り組むとしています。具体的には、日米豪印の4か国でつくる枠組み「クアッド」を通じて先端技術やサイバーの分野で連携を深め、米英豪の3か国でつくる安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を強化するとしています。
そこには、同盟国や友好国と連携することで、経済力や技術力で中国に対する優位性を確保するとともに、中国の軍事的な行動を抑え込む狙いがあります。
アメリカはオバマ政権の時代に軍事的な重点をインド太平洋地域に移す方向性を明確に示し、その後のトランプ政権、バイデン政権がイラクとアフガニスタンでの長期にわたる「テロとの戦い」からの脱却を急いだのも、限られた軍事力や外交力をインド太平洋地域に振り向けるという超党派の一致した認識があったためです。
しかし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とイスラエル・パレスチナ情勢の緊迫の度合いが増す中、アメリカはこのまま思うように対中国シフトを加速できるのかが焦点となっています。
   中国の「一帯一路」とグローバル・サウスとの関係強化
一方、中国は、冷戦時代に「第三世界」と呼ばれていたアジアやアフリカなどの国々とともに、「対中国包囲網」を主導するアメリカなどとの対抗軸を築くことを目指してきました。
2013年に打ち出した巨大経済圏構想「一帯一路」では、特に「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国や新興国で、インフラ整備などを進め、みずからの影響力の拡大を図ってきました。
また、中国、ロシア、インドなど新興5か国で始まったBRICS加盟国を11か国に拡大する方針を主導してきたほか、ロシアとともにけん引してきた上海協力機構では、ことし、アメリカなどと対立するイランの正式加盟を承認。
さらに、ことし10月に北京で開かれた「一帯一路」の国際フォーラムでは、ウクライナ侵攻で国際的に孤立しているロシアのプーチン大統領を主賓のように歓待し、協力関係をアピールしました。
長期的には、中国はロシアとの戦略上の関係を重要視するとともに、グローバル・サウスの国々との関係を強化し、いまの国際秩序をみずからが主導する形に作りかえていくねらいがあるとみられます。
米中それぞれの専門家の見方は
アメリカと中国、それぞれの専門家に、米中関係の今後の展望を聞きました。
   アメリカ国務省元次官補代理 リック・ウォーターズ氏
アメリカ国務省元次官補代理(中国・台湾担当)/ ユーラシアグループ・中国部長 リック・ウォーターズ氏
米中首脳会談への期待は?
ウォーターズ氏「今回の米中首脳会談への私の期待は、はっきり言って高くない。米中関係は、かつてのように何日も会談して共同声明を出していたような時からは、ほど遠い状況にある。両首脳は、去年インドネシアのバリ島で議論したことと同じ議題について意見を交わし、関係構築のための土台をどう作るか、互いの政策を明確に理解するための意思疎通のチャンネルをいかに確保するかを話し合うはずだ。大部分の議論は、台湾問題、技術競争、そして中東のガザ地区での衝突やウクライナでの戦闘といった、非常に重要な課題に割かれることになると思う」
中東におけるイスラエルとハマスの衝突が米中関係に与える影響は?
ウォーターズ氏「現実にはいま、バイデン大統領とその国家安全保障チームの力はガザ地区に集中的に向けられている。そのことが、アメリカの対中国政策を変えるわけではない。しかし必然的に、片方で起きた危機に相当な注意を振り向けなければならないときには、もう片方で混乱が生じて欲しくないと考えるのは当然なことだ。中国はアメリカのそうした状況を見て、東アジア地域やフィリピン周辺でアメリカやその同盟国の航空機に対して危険な妨害行為をあえてしているのだと思う」
今後の米中関係の焦点は?
ウォーターズ氏「まず、技術競争だ。アメリカが新たな行動に踏み切ることは確実で、中国はそれに対抗する必要性を感じることになると思う。もう1つは2024年1月の台湾総統選挙の結果だ。中国が新しい台湾総統に対してどのような行動をとるか。もっとも深刻で差し迫った問題は、先端技術と台湾をめぐる問題だ」
   中国の対米外交に詳しい 中国人民大学国際関係学院 王義桅 教授
米中首脳会談の注目点は?
王教授「まずは中国とアメリカが一定の対話のメカニズムを取り戻せるかどうかだ。なぜなら、中国とアメリカの間には、100近い対話のメカニズムがあるが、バイデン政権下では5つにとどまっているからだ。気候変動や人工知能などは中国とアメリカの新たな成長分野となり、ともに取り組むべき分野だ。中国とアメリカが協力しなければ、この世界では何も解決できない」
中国のねらいは?
王教授「中国自身も経済発展を加速させなければならない。新型コロナウイルスの3年は地方政府の債務増加を招き、経済成長が鈍化して失業率が高くなっている。中国はアメリカとの関係の安定を望んでいる」
今後の米中関係の行方は?
王教授「中国とアメリカの関係はしばらくの間、局地的で断続的に安定した関係になる。しかし、中国とアメリカが正しい付き合い方を見つけ、そのメカニズムを確立するには、長いプロセスが必要になるだろう」
米中関係 今後の焦点は?
2024年は、1月に台湾で総統選挙が行われ、11月にはアメリカで大統領選挙が行われます。
台湾は、蔡英文政権のもとでアメリカとの関係が緊密になる一方で、中国との緊張が高まりました。台湾総統選挙では、頼清徳副総統が蔡総統の後継として与党・民進党から立候補する予定で、中国との関係を争点の1つとして激しい選挙戦が繰り広げられる見込みです。
総統選挙の結果を受けて中国がどう出るのかが、米中関係や東アジア情勢にとり、まずは大きな焦点となります。
これにともなって中国との間で経済安全保障分野での競争も激化する可能性があります。 こうした状況が予想されるからこそ、今回のサンフランシスコ会談では首脳同士が互いの戦略の方向性を理解し合い、関係の安定化をはかることに力点が置かれます。
両国の対立の根深さから、今後少なくとも数年間は「下降線をたどる」と指摘される米中関係を、両首脳が会談を通じて少しでもコントロールすることはできるのか。2つの大国の動きを私たちも注視していく必要があります。
●ロシア ウクライナに軍事侵攻 15日の動き 11/15
ウクライナ政府高官「クリミアの非武装化 徐々に進んでいる」
ウクライナのゼレンスキー大統領の側近、イエルマク大統領府長官は13日、訪問先のアメリカのシンクタンクで講演を行いました。
このなかでイエルマク長官は「ウクライナ軍はドニプロ川の左岸に足場を築いた。クリミアの非武装化に向け徐々に進んでいる」と述べ、南部ヘルソン州でロシア側が占領するドニプロ川の東岸にウクライナ側が拠点を築いたと主張し、南部で反転攻勢を強める構えを示しました。
そのうえで「われわれは武器をすぐに必要としている。特に防空システムが必要だ。ロシアは再び送電網やインフラを攻撃し、国民を恐怖に陥れようとするだろう」と述べ、欧米側に速やかな軍事支援を訴えました。
ロシア軍は攻撃強化も「主導権 取り戻せるかは不透明」
ゼレンスキー大統領は14日、動画での演説で「ロシアによる攻撃は特にドネツク州で激しい」と述べ、東部ドネツク州アウディーイウカなどで激しい戦闘が続いていると訴えました。
そのうえで来年3月に予定されるロシアの大統領選挙に向けてプーチン大統領は具体的な戦果を必要としていて東部で攻撃を強化しているとの見方を示し、警戒を強めています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日「ロシア軍は東部で、複数に同時攻撃を実施することで、主導権を取り戻そうとしている」と指摘したうえで、ウクライナ側も抵抗していてロシア軍が主導権を取り戻せるかは不透明だと分析しています。
“記者殺害の受刑者 侵攻に加わり恩赦で釈放”ロシアメディア
ロシアのプーチン政権に批判的な姿勢を貫いた新聞記者が17年前に殺害された事件の受刑者が、ウクライナ侵攻に加わり恩赦で釈放されていたとロシアのメディアが伝え、記者の遺族は、政権を強く批判しています。
ロシアのプーチン政権に批判的な姿勢を貫いた独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の記者、アンナ・ポリトコフスカヤ氏は、2006年、モスクワの自宅アパートで銃で撃たれて殺害されました。
ロシアの新聞RBKの電子版などは14日、この事件で20年の禁錮刑を受けていた治安機関の元職員が、去年、ウクライナ侵攻に加わり恩赦で釈放されていたと伝えました。
報道を受けてポリトコフスカヤ氏の遺族は14日「ノーバヤ・ガゼータ」を通じて声明を出し「信念と職務を果たしたために殺された者の記憶を冒とくするものだ」と政権を強く批判しました。
「ノーバヤ・ガゼータ」は、ロシアで言論の自由を守る闘いを続けてきたとして編集長のムラートフ氏がおととし、ノーベル平和賞を受賞したことでも知られています。
ウクライナ侵攻を続けるプーチン政権は、恩赦や高額な報酬を約束しながら受刑者を兵役に就かせるなどして兵員の補充を進めていると伝えられています。
ウクライナ軍総司令官 米軍制服組トップと反転攻勢を協議
ロシア軍とウクライナ東部で激しい戦闘を続けているウクライナ軍の総司令官は、アメリカ軍の制服組トップと電話で会談し、冬の反転攻勢に向けて、砲弾や防空兵器などが緊急に必要だと訴えました。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、アメリカ軍の制服組トップのブラウン統合参謀本部議長と電話で会談し、冬の反転攻勢に向けて協議したことを13日、明らかにしました。
この中でザルジニー総司令官は、ロシア軍と激しい戦闘を続けている東部ドネツク州のアウディーイウカなどの戦況について「難しい状況だがコントロールしている」との認識を示したということです。
その上で、砲弾や防空兵器などが緊急に必要だと訴えたとしています。
一方、EU=ヨーロッパ連合は14日、ベルギーで国防相会議を開き、今後のウクライナへの軍事支援について協議しました。
EUは来年3月までにウクライナに砲弾など100万発を供与する目標を掲げていますが、これまでに供与できたのはおよそ30万発にとどまっています。
ドイツのピストリウス国防相は記者団に対し、100万発の目標は達成できないという見方を示したうえで「防衛産業が増産しなければならない」と述べました。
また、エストニアのペフクル国防相も「ロシアはいま、これまで以上に砲弾などを生産し、北朝鮮からも調達している。ヨーロッパが『調達できない』と言うことはできない」と述べ、取り組みの大幅な強化が必要だと強調しました。

 

●北朝鮮とロシア、経済協力拡大へ 平壌で委員会 食料支援も議論か 11/16
北朝鮮の朝鮮中央通信は16日、ロシアとの政府間委員会が15日に平壌で開かれたと報じた。貿易や経済、科学技術などの分野での協力拡大を議論し、議定書に調印したとしている。軍事協力にとどまらない両国関係の強化を内外にアピールした形だ。
政府間委員会の実施は2019年3月以来。9月に北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記とロシアのプーチン大統領が会談した際に開催で合意していた。ロシアのコズロフ天然資源環境相らが参加したという。委員会での議論や議定書の中身については報じなかった。
韓国統一省は、これまでにロシア側から言及のあった北朝鮮への食料支援やロ朝間の物流の強化に加えて、北朝鮮の労働者派遣についても議論する可能性があると指摘する。
●米中首脳会談終わる 関係安定化はかれるか焦点 11/16
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席による1年ぶりの首脳会談が、アメリカ西海岸で日本時間の16日午前4時すぎから行われました。
ホワイトハウスは、バイデン大統領が日本時間の午前、単独で記者会見を行い、会談の成果を発表するとしています。
バイデン大統領「最も建設的で生産的な議論できたと思う」
バイデン大統領は米中首脳会談のあと、SNSに「習近平国家主席との1日にわたる会談を終えたところだ。これまでで最も建設的で生産的な議論ができたと思う。私たちは数か月にわたる両国の間の外交で土台を築き、重要な前進を遂げた」と投稿しました。
米中首脳会談はAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議に合わせて行われ、両首脳による対面での会談は1年ぶりです。
会場に習近平国家主席が到着するとバイデン大統領が笑顔で出迎え、2人は握手をしたあと、報道陣の声かけには答えず、建物の中に入りました。
米中の間で台湾や南シナ海をめぐる情勢、それに経済安全保障分野などをめぐって対立が深まる中、会談を通じて、去年夏から遮断されている軍のホットラインの再開など、両国が意思の疎通を円滑にはかれる環境を築けるかが焦点です。
また両首脳はイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が続く中東情勢についても意見を交わしているとみられ、米中の対立の深まりに歯止めをかける糸口を見いだせるのか注目されています。
“両首脳 国防相会談再開で合意” バイデン政権高官
アメリカのバイデン政権の高官は米中首脳会談のあと記者団に対し、両首脳が去年11月以降行われていない国防相会談を再開させることで合意したと明らかにしました。
また、米中の軍の制服組トップや司令官どうしが軍事演習や軍の展開について対話を行うことで合意したことも明らかにしました。
“各領域の対話と協力強化で合意” 中国 新華社通信
中国国営の新華社通信は、習近平国家主席とバイデン大統領の首脳会談の結果について、「両国の首脳は各領域の対話と協力を推し進めて、強化することで合意した」と伝えました。
具体的には、「平等と尊重に基づく」として米中両国の間で、軍のハイレベル対話や防衛当局による会談、それに海上軍事安全協議のメカニズム会合を再開させることなどを合意したとしています。
このほか米中両首脳は、AI=人工知能についての政府間対話の立ち上げや中国とアメリカの薬物の取り締まりをめぐる作業部会の設立も合意したとしています。
さらに、来年の早い時期に航空便を大幅に増加させることや、教育やスポーツ、ビジネスなどの分野で交流を拡大させることにも合意したとしています。
また、中国とアメリカで気候変動対策を強化するための作業部会を立ち上げることも明らかにしました。
習主席 台湾の平和的統一への支持や一方的制裁の撤廃求める
習近平国家主席は、バイデン大統領との首脳会談で、台湾の平和的な統一への支持や、一方的な制裁の撤廃を求めました。
中国の国営メディアによりますと、習主席はバイデン大統領との首脳会談で、台湾について取り上げ、「台湾問題は常に中米関係において、最も重要で敏感な問題だ」と指摘しました。
そのうえで「アメリカは『台湾独立』を支持しないという態度をはっきりと具体的な行動で示し、台湾を武装することをやめ、中国の平和的な統一を支持すべきだ」として、みずからが強い意欲を示す台湾統一について強調しました。
また、習国家主席は、アメリカが実施している中国向けの輸出規制について、「中国の正当な利益を著しく損なっている。中国の科学技術を抑圧することは、中国の質の高い発展を封じ込め、国民の発展の権利を奪い取ることだ」と強く反発しました。
そして「アメリカ側が中国側の懸念と厳粛に向き合い、一方的な制裁を撤廃し、中国企業に公平かつ公正で、差別をしない環境を提供することを望む」として、アメリカ側に制裁の解除を求めました。
バイデン大統領「競争が衝突へ転じないように」
バイデン大統領は習近平国家主席との首脳会談の冒頭、「去年、G20にあわせてインドネシアのバリ島で私たちが会って以来、われわれのチームの主要なメンバーはさまざまな問題について重要な議論を交わしてきた。対面での話し合いにかわるものはない。私たちの話し合いはいつも率直であり、感謝している」と述べました。
そして、「わたしは今回の会談を重視している。指導者どうしが互いに誤解をしないことは最も重要だと考えているからだ」としたうえで、「私たちは競争が衝突へと転じないよう責任ある形で競争を管理していかなければならない」と述べました。
習国家主席「新しい合意に達すること期待」
習近平国家主席は、会談の冒頭「世界は新型コロナウイルスの感染拡大からは抜け出したが、大きな影響はまだ残っている。世界経済は回復し始めたが力強さに欠け、産業のサプライチェーンは妨げられ、保護主義が台頭するなど、これらの問題が非常に際立っている。世界で最も重要な二国間関係として、中米関係は人類の進歩のために責任を果たさなければならない」と述べました。
そして、「この50年余り、中米関係は順風満帆ではなく紆余曲折(うよきょくせつ)の中で前に向かって発展してきた」としたうえで、「この地球は中米両国を受け入れることができる。それぞれの成功は互いのチャンスだ。私は中米関係の将来は明るいとかたく信じている」と述べました。
また、習国家主席は「両大国が関わり合わないことはいけないことで、お互いのことを変えようとすることも現実的ではなく、衝突と対抗の結果には誰も耐えることはできない」と述べたうえで、「私と大統領は中米関係をかじ取りする者として人々、世界、歴史に対し、重い責任を背負っている。きょう、私は大統領と中米関係の戦略性、方向性、それに世界の平和と発展の重大な問題について、突っ込んだ意見交換を行い、新しい合意に達することを期待している」と述べました。
さらに、「大国による競争はこの時代の潮流ではなく、両国と世界が直面する問題を解決することもできない」としたうえで、「両国の歴史、文化、社会制度、発展の道が異なることは客観的な現実だ。しかし、双方が相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力を堅持するかぎり、完全に相違を乗り越えて、正しくつきあう道を見つけることができる」と述べました。
会談では2人で散歩の様子も
今回の会談ではバイデン大統領と習近平国家主席が2人で並んで、言葉を交わしながら、会場の敷地内の庭を散歩する様子も見られました。
会談の状況について記者団から質問されると、バイデン大統領は両手の親指を立て「うまくいっている」という身ぶりを示して応じました。そして、習主席も記者団に向かって手を挙げて、呼びかけに応じていました。
アメリカ ロシアとも接触あるか注目
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は15日に行った会見の中で、APECの首脳会議をめぐり、「アメリカから水面下ではあるが、われわれと現実的で非公式な対話を行う用意があるというシグナルがでている」などと述べ、アメリカ側から何らかの対話の打診が内々にあったと主張しました。
APECの首脳会議にはロシアからはプーチン大統領は出席せず、代わりにオベルチュク副首相が出席することになっています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によってアメリカとロシアの対立が深まるなか、両国の間で何らかの接触が見られるか注目されます。
●1年ぶりの米中首脳会談 国防相会談の再開などで合意 11/16
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は日本時間の16日、1年ぶりに首脳会談を行い、両首脳は去年11月以降行われていない国防相会談を再開させるほか、両国の軍の制服組トップや司令官どうしが対話を行うことなどで合意しました。
1年ぶりとなった米中首脳会談はAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議に合わせて、アメリカ西海岸のサンフランシスコ近郊でおよそ4時間にわたって行われました。
会談のあと、バイデン大統領は単独で記者会見し、「これまでで最も建設的で生産的な議論ができたと思う」と述べたうえで、「私と習近平主席の間を含むハイレベルでの外交を維持し、追求していくことになった。私たちはすぐに電話で直接、連絡をとれるようにすることで合意した」と明らかにしました。
そして、「われわれは軍どうしの直接の連絡を再開させる。大きな進展があった」と強調しました。
これについてバイデン政権の高官は、両首脳が去年11月以降、行われていない国防相会談を再開させることで合意したと明らかにしました。
また、米中の軍の制服組トップや司令官どうしが軍事演習や軍の展開について対話を行うことでも合意したとしています。
また、中国外務省も、米中両国の間で軍のハイレベル対話や防衛当局による会談、それに海上軍事安全協議のメカニズム会合を再開させることなどで合意したとしています。
一方で、台湾をめぐっては、バイデン大統領が中国による台湾海峡周辺での軍事的な活動を抑制するよう求めたのに対し、習主席は「アメリカは『台湾独立』を支持しないという態度をはっきりと具体的な行動で示し、台湾を武装することをやめ、中国の平和的な統一を支持すべきだ」と強調し、議論は平行線のまま終わりました。
会談冒頭 バイデン大統領「競争が衝突へ転じないように」
バイデン大統領は習近平国家主席との首脳会談の冒頭、「去年、G20にあわせてインドネシアのバリ島で私たちが会って以来、われわれのチームの主要なメンバーはさまざまな問題について重要な議論を交わしてきた。対面での話し合いにかわるものはない。私たちの話し合いはいつも率直であり、感謝している」と述べました。
そして、「わたしは今回の会談を重視している。指導者どうしが互いに誤解をしないことは最も重要だと考えているからだ」としたうえで、「私たちは競争が衝突へと転じないよう、責任ある形で競争を管理していかなければならない」と述べました。
会談冒頭 習国家主席「新しい合意に達すること期待」
習近平国家主席は会談の冒頭、「世界は新型コロナウイルスの感染拡大からは抜け出したが、大きな影響はまだ残っている。世界経済は回復し始めたが力強さに欠け、産業のサプライチェーンは妨げられ、保護主義が台頭するなど、これらの問題が非常に際立っている。世界で最も重要な二国間関係として、中米関係は人類の進歩のために責任を果たさなければならない」と述べました。
そして、「この50年余り、中米関係は順風満帆ではなく、紆余曲折(うよきょくせつ)の中で前に向かって発展してきた」としたうえで、「この地球は中米両国を受け入れることができる。それぞれの成功は互いのチャンスだ。私は中米関係の将来は明るいとかたく信じている」と述べました。
また、習国家主席は「両大国が関わり合わないことはいけないことで、お互いのことを変えようとすることも現実的ではなく、衝突と対抗の結果には誰も耐えることはできない」と述べたうえで、「私と大統領は中米関係をかじ取りする者として人々、世界、歴史に対し、重い責任を背負っている。きょう、私は大統領と中米関係の戦略性、方向性、それに世界の平和と発展の重大な問題について、突っ込んだ意見交換を行い、新しい合意に達することを期待している」と述べました。
さらに、「大国による競争はこの時代の潮流ではなく、両国と世界が直面する問題を解決することもできない」としたうえで、「両国の歴史、文化、社会制度、発展の道が異なることは客観的な現実だ。しかし、双方が相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力を堅持するかぎり、完全に相違を乗り越えて、正しくつきあう道を見つけることができる」と述べました。
習主席 台湾の平和的統一への支持や一方的制裁の撤廃求める
習近平国家主席はバイデン大統領との首脳会談で、台湾の平和的な統一への支持や、一方的な制裁の撤廃を求めました。
中国の国営メディアによりますと、習主席はバイデン大統領との首脳会談で台湾について取り上げ、「台湾問題は常に中米関係において、最も重要で敏感な問題だ」と指摘しました。
そのうえで、「アメリカは『台湾独立』を支持しないという態度をはっきりと具体的な行動で示し、台湾を武装することをやめ、中国の平和的な統一を支持すべきだ」として、みずからが強い意欲を示す台湾統一について強調しました。
また、習国家主席はアメリカが実施している中国向けの輸出規制について、「中国の正当な利益を著しく損なっている。中国の科学技術を抑圧することは中国の質の高い発展を封じ込め、国民の発展の権利を奪い取ることだ」と強く反発しました。
そして、「アメリカ側が中国側の懸念と厳粛に向き合い、一方的な制裁を撤廃し、中国企業に公平かつ公正で、差別をしない環境を提供することを望む」として、アメリカ側に制裁の解除を求めました。
“5本の柱築くべき”習主席が会談で示す 中国外務省
中国外務省によりますと、習近平国家主席はアメリカのバイデン大統領との会談で、「中国とアメリカは新たなビジョンを持ち、共に努力して中米関係の5本の柱を築くべきだ」として、両国がともに取り組むべき5つのことを示しました。
それによりますと、1つ目は「共に正しい認識を確立すること」で、両国がパートナーとなり、互いに尊重し平和共存することを望むとしています。
2つ目は「共に意見の隔たりを効果的に管理すること」で、より多くの意思疎通と対話を行い、意見の隔たりや予想外のできごとに冷静に対処しなければならないとしています。
3つ目は「共に互いに利益のある協力を推進していくこと」で、経済や貿易、農業などの伝統的な分野だけでなく、気候変動やAI=人工知能などの新たな分野も含め、さまざまな分野で協力すべきだととしています。
4つ目は「共に大国としての責任を果たすこと」で、人類が直面している困難を解決するには大国の協力が欠かせず、米中両国は率先して国際社会や地域の問題で協調と協力を強化すべきだとしています。
そして5つ目は「共に交流を促進すること」で、両国の直行便の増加や観光協力の促進、地方の交流拡大、それに教育分野の協力を強化して、両国民の往来と意思疎通を奨励し、支援しなければならないとしています。
“各領域の対話と協力強化で合意” 中国 新華社通信
中国国営の新華社通信は習近平国家主席とバイデン大統領の首脳会談の結果について、「両国の首脳は各領域の対話と協力を推し進めて、強化することで合意した」と伝えました。
具体的には、「平等と尊重に基づく」として、米中両国の間で軍のハイレベル対話や防衛当局による会談、それに海上軍事安全協議のメカニズム会合を再開させることなどを合意したとしています。
このほか、米中両首脳はAI=人工知能についての政府間対話の立ち上げや、中国とアメリカの薬物の取り締まりをめぐる作業部会の設立も合意したとしています。
さらに、来年の早い時期に航空便を大幅に増加させることや、教育やスポーツ、ビジネスなどの分野で交流を拡大させることにも合意したとしています。
また、中国とアメリカで気候変動対策を強化するための作業部会を立ち上げることも明らかにしました。
会談では2人で散歩の様子も
今回の会談ではバイデン大統領と習近平国家主席が2人で並んで、言葉を交わしながら、会場の敷地内の庭を散歩する様子も見られました。
会談の状況について記者団から質問されると、バイデン大統領は両手の親指を立て「うまくいっている」という身ぶりを示して応じました。そして、習主席も記者団に向かって手を挙げて、呼びかけに応じていました。
アメリカ ロシアとも接触あるか注目
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は15日に行った会見の中で、APECの首脳会議をめぐり、「アメリカから水面下ではあるが、われわれと現実的で非公式な対話を行う用意があるというシグナルがでている」などと述べ、アメリカ側から何らかの対話の打診が内々にあったと主張しました。
APECの首脳会議にはロシアからはプーチン大統領は出席せず、代わりにオベルチュク副首相が出席することになっています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によってアメリカとロシアの対立が深まるなか、両国の間で何らかの接触が見られるか注目されます。
●米中首脳、軍高官同士の対話再開で合意 衝突回避で一致 11/16
バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は15日、米西部サンフランシスコ近郊で会談した。両首脳は軍高官同士の対話再開や薬物対策での協力作業部会の設置など双方の意思疎通を拡大させることで合意した。米政府高官によると、オースティン国防長官は中国の新たな国防相が決まり次第、早期に会談する。軍事や経済分野での対立が深まる中、大国同士の衝突回避で一致した形だ。
両首脳はサンフランシスコ中心部から南に約40キロの町、ウッドサイドにある歴史的な邸宅で会談した。バイデン氏は会談冒頭で「我々の競争が衝突に転じないようにしなければならない」と述べた。習氏は「この地球は中国と米国を受け入れることができ、我々のそれぞれの成功は互いにとってチャンスだ」と応じた。
バイデン氏は会談後、単独で記者会見し、「これまでで最も建設的で生産的だった」と述べた。米政府高官によると、会談は4時間超に及んだ。両首脳は、国防相同士の会談再開のほか、軍司令官などさまざまなレベルでの対話開始でも合意した。中国は台湾周辺や南シナ海などで軍事活動を活発化させており、バイデン政権は誤解などに基づく偶発的な衝突を回避する必要性を繰り返し訴えていた。
米政府は来年1月に総統選がある台湾への中国による介入を警戒しており、バイデン氏は会談でも台湾海峡の「平和と安定の重要性」を強調した。新華社通信によると、習氏は台湾への武器支援をしないよう要求。中国の封じ込めをやめるよう求めた。一方で、米政府高官によると、習氏は会談の中で「(軍事行動を起こす)計画はない。誰も私にそのような話をしていない」と語ったという。
このほか、新華社によると、両首脳は米中間の航空便の大幅増などでも一致した。気候変動対策などでの協力や、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘、ロシアによるウクライナ侵攻への対応も議論した。
首脳会談は15日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて行われた。両首脳は2022年11月にインドネシアで会談したが、それ以降は電話協議も含めて対話は実施されていなかった。
●ロシア人の半数、プーチン大統領にウクライナでの終戦望む−世論調査 11/16
ロシア国民のほぼ半数が、プーチン大統領にウクライナでの戦争終結に向けて協議開始を望んでいることが世論調査で判明した。戦争継続を望む人の数を初めて上回ったという。
ロシア・フィールドが10月21−29日に1611人を対象に電話で実施した世論調査によると、回答者の約48%が和平交渉の時期にあるとの見方に賛同し、39%が戦争継続に賛成だった。和平交渉に賛成する割合は同社が昨年4月に戦争に対する意識を調査し始めて以来で最も高かった。ロシア・フィールドはクラウドファンディングで独立した世論調査を実施していると主張している。
調査によれば、プーチン大統領が仮に明日、和平協定に署名すれば支持するとの回答はほぼ4分の3となった。過去にこの水準を上回ったのは、ロシアがウクライナでの戦闘のために30万人の予備役を招集すると発表した昨年9月のみだった。将来の動員への懸念も浮上し、58%が2度目の招集には反対だと回答した。
国民の間で高まる懸念がプーチン大統領に影響を及ぼす可能性は低い。プーチン氏は、ロシアがウクライナ東部と南部の一部を掌握しているという「現実」を受け入れる協議にしか応じないと発言してきている。ロシア軍が多大な犠牲者を出し、米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国から提供された数十億ドル相当の武器で武装したウクライナ軍によって占領地からの撤退を何度も余儀なくされているにもかかわらず、2022年2月に開始した侵攻を終わらせる意志を示していない。
プーチン氏は来年3月に予定されている大統領選挙で5期目を目指そうとしており、クレムリンは反対派を投獄し、戦争批判を非合法化するなど、ここ数十年で最も厳しい反対派弾圧を行っている。
●プーチン大統領「公正で開かれた選挙の実施が重要」演説で強調 11/16
ロシアのプーチン大統領は、国内の安定のためには公正な選挙の実施が重要だと強調し、来年3月に予定される大統領選挙に向けて、近く立候補を表明するとみられるなか、選挙の正当性を打ち出したいねらいもあるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は15日、モスクワ州で開かれたロシアの中央選挙管理委員会の代表者などとの会合に出席し、演説しました。
この中でプーチン大統領は国内の政治的な安定のためには公正で開かれた選挙の実施が重要だと強調したうえで、「選挙プロセスへの違法な侵入を排除するためあらゆる措置を講じていく」と述べました。
また、ことし9月に行われたロシアの統一地方選挙にあわせ、ロシアが一方的な併合を宣言したウクライナの東部と南部の4つの州でも選挙だとする活動を強行したことについて、「ロシアに対する勇気と忠誠心を感謝したい」とたたえ、支配地域の既成事実化を強調しました。
ロシアでは来年3月に大統領選挙が予定され、プーチン大統領が通算で5期目を目指して近く立候補を表明するとみられていて、選挙の正当性を打ち出したいねらいもあるとみられます。
一方、ロシアでは大統領選挙に関する改正法案が議会で可決され、14日、プーチン大統領が署名し、成立しました。
この改正法には大統領選挙の投票所でのメディアの取材を新たに制限する内容も盛り込まれていて、ロシアの独立系メディアは「不正を監視するジャーナリストの活動を困難にするものだ」と懸念を示しています。
●ウクライナ軍の死者は3万人超か、市民団体が調査報告公表 11/16
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、これまでにオープンソースを通じて死亡が確認できたウクライナ兵は約2万4500人、総数は3万人を超えたとする調査結果を、ウクライナの市民団体が発表した。
ウクライナ政府は死者数を国家機密として扱っており、公表は戦闘の弊害になる可能性があるとしている。
米紙ニューヨーク・タイムズは8月、匿名の米当局者の発言として、ウクライナの総死者数は7万人近くと報じていた。
今回の報告はウクライナ誌に掲載され、執筆した歴史家らは行方不明としてされる1万5000人の多くが死亡したとみられることから、実際の死者数はさらに多いとの見方を示した。
ロイターは数字を独自に確認できていない。
報告は、戦闘・非戦闘の環境を含む死者数は3万人を超えることになるとし、死者数と負傷者数の比率を1対3として計算すると、負傷した軍関係者は最大10万人になると説明した。
この数字は14年のクリミア侵攻以降のウクライナ戦争死者数を追跡するプロジェクトの一環で発表された。 
●北朝鮮とロシア 経済や科学技術協力を協議、議定書に調印 11/16
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は16日、北朝鮮政府と北朝鮮を訪問しているロシア政府の代表団が15日に平壌で貿易や経済、科学技術協力について話し合う部門別協議を開催し、議定書に調印したと伝えた。議定書の内容は明らかにされていない。ロシアによる北朝鮮への食料支援や、北朝鮮労働者のロシア派遣などについて話し合われた可能性がある。
同通信によると、協議には、北朝鮮の尹正虎(ユン・ジョンホ)対外経済相、ロシアのコズロフ天然資源環境相らが出席。9月に露極東で行われた露朝首脳会談での合意に基づいて、各分野の交流を拡大するための具体的な方策について話し合った。
両国の体育相間でも会談が行われ、体育部門の交流を強化するために2024〜26年度の交流計画書を策定した。
●アルメニア首相「他のパートナー探す」 ロシア離れ加速、欧米へ接近 11/16
旧ソ連アルメニアのパシニャン首相は15日、武器や装備を獲得するために「安全保障上のほかのパートナーを探す必要がある」と述べた。ロシア通信が伝えた。23日にベラルーシで開催されるロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議を欠席する意向をすでに明らかにしており、「ロシア離れ」を加速させている。
アルメニア首相府によると、パシニャン氏は14日、ベラルーシのルカシェンコ大統領との電話協議で、CSTOの首脳会議に参加できないと伝えていた。これを受け、ペスコフ露大統領報道官は遺憾の意を表明。ロシア紙RBKによると、パシニャン氏は15日開催の国会で、CSTOが「アルメニアの安全保障上の要請に適切に対応していない」と指摘した。
アルメニアは隣国アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフを巡る紛争で、CSTO加盟国であるにもかかわらずロシアの支援を得られなかったことに以前から不満を募らせていた。今年9月にアゼルバイジャンが大規模な軍事行動を起こした際もロシアは支援に動かず、アルメニア側は事実上、敗北した。
ロシアとの距離を置く動きが顕著になっており、10月にはウクライナでの「特別軍事作戦」に絡みプーチン露大統領に逮捕状を出している国際刑事裁判所(ICC)の加盟に必要なローマ規定を批准。また、キルギスで開かれた旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)の首脳会議を欠席した。一方で、9月に米国と合同軍事演習を実施し、10月にはフランスと防空ミサイル購入の契約を結ぶなど欧米への接近を強めている。
●ウクライナ軍、ドニプロ川東岸に拠点確保と主張 ロシア側も認める 11/16
ウクライナのアンドリー・イェルマク大統領首席補佐官は15日、ロシア軍が占領してきた南部ヘルソン州のドニプロ川東岸にウクライナ軍が足場を築いたと、米シンクタンクに説明した。
ドニプロ川東岸を押さえられれば、ウクライナにとって大きな前進となる。
ドニプロ川をはさんだ攻防は、ロシアの侵攻を受けたウクライナの反転攻勢で、焦点のひとつとなっている。
ロシアは1年ほど前に、西岸から撤退。以来、ウクライナ軍は、東岸にも拠点を築くことを目指している。
アメリカの専門家らは、ドニプロ川から2キロメートル、ヘルソン市から30キロメートルの位置にあるクリンキー村で、ウクライナ軍がわずかに前進したと分析していた。
ロシア側も認める
一方、ロシア側も15日、ウクライナ軍の「小グループ」が東岸のクリンキー村に拠点を構えたと認めた。ただ、まもなく一掃されるだろうと主張した。
ロシアが占領するヘルソン州のウラジーミル・サルド知事は、ウクライナ軍は多大な損害を被っていると主張。兵士らは「火炎地獄」に直面し、逃げ出せる見込みはないとした。
そして、「現在、私たちの追加部隊が投入されている。敵はクリンキーに閉じこめられている」と述べた。
この2日前には、ロシアの国営メディアが、ドニプロ川東岸のいくつかの陣地からロシア軍が撤退したと報じ、すぐに撤回している。
ウクライナ軍は春から夏にかけて何度か、小型ボートでドニプロ川を渡ろうした。だが、制空権がないことなどから、ほぼ失敗に終わった。
東岸に拠点を確保すれば、ウクライナ軍は装甲車や防空システムをドニプロ川を越えて運び入れることができる。さらに、2014年にロシアに不法に併合されたクリミアへの進軍に一歩近づく。
イェルマク氏は、「ウクライナ軍は一歩一歩、クリミアの非武装化に向かっている。70%の距離まで来た」と述べた。また、ロシアがイラン製のドローン(無人機)や北朝鮮製の大砲を使っているとし、西側諸国にウクライナへの武器供与を増やすよう訴えた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日、東部アウディイウカ近郊で戦闘が激化していると説明。ロシア軍はその破壊された町の占領を狙っているが、「人員と装備を失っている」とした。
ウクライナは今年6月、南部と東部の領土を取り戻そうと反転攻勢を開始した。しかし、これまでのところ目立った領土奪還は達成できていない。
●英キャメロン外相、就任後初の外遊でウクライナ訪問 「支援継続」 11/16
イギリスのキャメロン外相が就任後初めてとなる外遊でウクライナを訪れ、ゼレンスキー大統領に軍事的支援を継続していくことを伝えました。
今週行われた内閣改造に伴い、外相として7年ぶりに政界に復帰したキャメロン元首相は「ウクライナに対するイギリス政府の揺るぎない支援を示すため」として、就任後初めての外遊でキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。
イギリス キャメロン外相「私たちは道義的支援、外交的支援、経済的支援、そして何より軍事的支援を提供し続ける」
ロシアによる侵攻が長期化し、欧米を中心にウクライナに対する「支援疲れ」が懸念されるなか、キャメロン外相は「どれほど時間がかかってもウクライナへの支援を継続する」と強調しました。
ゼレンスキー大統領も「世界の注目がウクライナ以外の戦争にも集まっている今だからこそ、この訪問はとても重要だ」と述べ、感謝の意を表しました。
ウクライナ政府によりますと、会談では黒海の安全状況や、市民やインフラ施設を守るための防空システムの強化などについて話し合われたということです。

 

●子ども略取にベラルーシ関与 ウクライナから、米報告 11/17
ロシアによる戦争犯罪の証拠を収集する米国務省の関連団体「紛争監視団」は16日、ウクライナからの子どもの連れ去りにロシアの同盟国ベラルーシが関与していたとの報告書を公表した。計画ではプーチン、ルカシェンコの両大統領が最終的に意思決定し、治安機関が進めていたとしている。
報告書によると、ロシアがウクライナに侵攻を始めた昨年2月から今年10月までに、6〜17歳の少なくとも2442人がウクライナから連れ去られ、ベラルーシの13カ所以上の施設に移された。
障害のある子や貧しい家の子、孤児ら社会的弱者が標的とされ、ロシア連邦捜査委員会と、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州、ルガンスク州の教育省が選定。ロシアを経由し、鉄道でベラルーシに運ばれた。
移送先には軍事訓練を施す施設のほか、ロシア側の体制支持への再教育施設が含まれる。病院で「リハビリ」と称した内容不明の医療措置を受けた子どももいた。
●ウクライナの子ども数千人がベラルーシに、ロシアの拉致支援=米大学 11/17
米エール大学は16日、ロシアによるウクライナ侵攻以降、ウクライナ人の6─17歳の子ども2400人以上がベラルーシの施設13カ所に拉致されているとの調査結果を発表した。
ウクライナの検事総長は5月、ロシアの占領地域で特定されている1万9000件以上の子どもの拉致事件について、ロシアへの移送も含めベラルーシが関与している疑いを捜査していると明かしていた。
ロシアは、ウクライナから自主避難を希望する人に人道支援を行っているとし、戦争犯罪との見方を拒否している。
エール大の調査は、ウクライナのドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポロジエの各州の少なくとも17都市から子どもが拉致されており、現在も継続していると報告。22年9月─23年5月の期間にベラルーシのミンスク地域にある施設に2000人を超える子どもたちが連行されたほか、392人が他の12施設に連行されたことが特定できているとした。
その上で、「ウクライナの子どもの特定、収集、拉致、再教育を行うロシアの組織的な行為にベラルーシが便宜を図っている」と分析した。
●“死の商人” 金正恩がロシア&ハマス特需景気を満喫… 11/17
ロシア軍とウクライナ軍の死傷者数は合計50万人以上。イスラエル、ガザ地区では1万人以上の死者。世界中で戦争を嘆き悲しむ声が聞こえるなか、この男だけは、高笑いをしている――。“死の商人” 金正恩だ。
「北朝鮮は “戦争特需” に沸いているでしょうね」と語るのは、元韓国国防省分析官で、拓殖大学客員教授の高永侮≠セ。
「北朝鮮製の兵器は、おもにレバノンの武装組織ヒズボラや、イランを通じてハマスに流れています。北朝鮮は、表向きはハマスとの関係を否定していますが、ハマスの高官は11月2日、『北朝鮮はハマスと同盟関係にある。いつか、ハマスと一緒にアメリカを攻撃する日が訪れる』と、明確に発言していますからね。米国防省によると、北朝鮮製のF7ロケット弾発射機(RPG)や、対戦車ロケット兵器が数多くハマスに流れているようです。さらに、ガザ地区には500kmにおよぶ地下トンネルが広がっているといわれていますが、まさにこれは、北朝鮮が韓国への侵攻用に掘った『南侵トンネル』と同じです。トンネルの掘削技術すら、指南していた可能性が疑われます」(高氏)
同じく北朝鮮は、8月以降100万発以上の砲弾をロシアに輸出したと報じられている。
「9月中旬、ロシアの宇宙基地で、プーチンと金正恩の会談がありました。その3週間後、北朝鮮からロシアへ100両近くの貨物列車が移動したんです。ハマスやロシアが、北朝鮮製の兵器で善戦しているとなれば、今後、金正恩にとっては、武器の “セールスポイント” になりますね」(筑波大学名誉教授・中村逸郎氏)
実際、北朝鮮はこうした武器ビジネスで莫大な利益を得ている。
「2009年に国連安保理から制裁を受けるまで、北朝鮮は世界中に武器を輸出しており、一時期は全輸出額の30%を占めていました。制裁後は “密輸” に切り替え、2013年にはトルコの臨検により、シリアに輸出しようとしていた1400丁の小銃と3万発の弾薬が船から発見され、2016年にはスエズ運河でロケット砲弾3万発を積んだ北朝鮮の船が発見されています。今こそ、火事場泥棒的に儲けているでしょう」(『コリア・レポート』編集長・辺真一氏)
こうした利益は、“金王朝” の高級ブランド品の爆買いに費やされている。
「9月に訪露した際は、スイスの高級腕時計ブランド・IWCの約170万円の時計を着けていると話題になりました。また、ペンはモンブランの10万円以上する高級万年筆、同行した妹の金与正は、100万円するディオールのバッグを使っています。さらに、愛娘の金主愛は今年の4月に、同じくディオールの25万円のコートを着ていたと韓国紙が報じています」(国際部記者)
だが、金正恩がブランド品だけで満足するはずもない。中村氏は、“半島動乱” の予兆があるという。
「北朝鮮がロシア、ハマスの背後にいるというのは、非常に不気味ですよ。たとえば米国は、すでにウクライナ、イスラエルの支援という二正面作戦を強いられています。ただでさえ、長期化するウクライナ戦争への “支援疲れ” が指摘されるなか、朝鮮半島にどこまで関与できるのかわかりません。逆に、ロシアやイランなどからすれば、西側諸国を悩ませる “戦線” が極東でも形成されるのは大歓迎でしょう。特に2024年1月は、台湾総統選挙がおこなわれ、米国も大統領選に向けて本格的に動きだす時期です。西側諸国が不安定なタイミングを狙って、韓国への進軍を開始する可能性があるかもしれない。注視すべきです」
辺氏も「北朝鮮を侮るべきではない」と警鐘を鳴らす。
「一部では、ハマスと北朝鮮を比較する向きがありますが、あり得ません。北朝鮮はICBMを所持し、正規軍は120万人。武器を輸出する余裕があるほど備蓄もあり、性能も悪くありません。日本や韓国より軍事力は上なんです。そして、直近では、北朝鮮の排他的経済水域に、2度にわたり偵察機を侵入させた米軍に対し『次は撃ち落とす』と警告していますからね」
世界の戦火は、極東に迫りつつある……。
●ドイツ国防相「再び戦争のできる軍隊に」発言の衝撃…「30年の眠り」 11/17
ドイツの国防意識
11月初め、ドイツのボリス・ピストリウス国防相が、「ドイツ軍は再び戦争遂行能力のある軍隊にならなければならない」と言ったので、皆が腰を抜かしそうになった。「ドイツ軍」と「戦争」という言葉が完全にミスマッチになって以来、すでに30年が経とうとしているからだ。
ピストリウス氏が国防相の任に就いたのが今年の1月。氏が本気でドイツ軍の改革を望んでいるなら前途は多難だ。
ドイツ軍のポンコツぶりは有名で、すでに10年以上も前から、戦車が動かない、戦闘機が飛ばない、標準装備の自動小銃の照準が合わないなど、多くの欠陥が指摘されていたが、一番の問題は、誰もそれを問題だと思わなかったことだ。
それまでの国防相は、2013年以来、3人続けて女性。しかも、国防などとはあまりにも縁のなさそうな人物ばかりで、軍備の充実よりも、女子の兵隊募集のために託児所付きの職場をアピールしたり、兵士の右翼思想の一掃に力を注いだり。
さらに緑の党が政権に入ってからはそこに温暖化対策が加わって、酪農はメタンガスを排出するから気候に悪いという理由で、基地の食堂から肉料理が削られたりしていたという。野菜と豆腐をあてがわれ、有事の際にはしっかり戦えというのは酷な話だ。
つまり問題は、この“お花畑”的状況を「戦争遂行能力のある軍隊」にどうやって結びつけるか。戦争は悪であり、愛国心すらあまり良いものとは捉えられていないのが昨今のドイツの風潮だから、ピストリウス氏の掲げた「メンタリティの転換」は口でいうほど簡単ではないだろう。
ドイツ人と日本人の軍事に対する感情はよく似ている。兵隊は、災害救助に駆けつければ褒められるが、武器を取った途端に白い目で見られる。米軍に軍事費を上げるよういくらせっつかれても、政府がのらりくらりと交わし続けていたところもそっくりだ。
それどころかドイツでは、「戦争好きの輩」に対する感謝の念は、日本人が自衛隊に持っているほどもない。軍事費は少なければ少ないほど良く、だから、戦車が整備不良で機能しなくても気にする者はいない。そうするうちに当然ながら、国防は国民の興味から完全に外れていった。
しかし、ひょっとするとメルケル氏は、故意にこの状況を作ったのではないか。思えば難民の大量受け入れも、脱原発の前倒しも、国民を熱狂させながら魔法のように進めた氏だったが、そのどちらもが、今、国家にとって決定的なダメージとなっている。それと同じく、国防意識の低下もやはり間違いなくドイツの弱体化に繋がる。これは果たして偶然なのかというのが私の疑問だ。
歴代の国防相はどんな人物だったか
2013年に就任したドイツ初の女性国防相はウルズラ・フォン・デア・ライエン氏で、メルケル首相の子飼いだ。就任後は、改革、改革と声は大きかったが、その実、防弾チョッキを着こんではアフガニスタンなど戦地に飛び、自身の勇姿を撮らせることが大好きだった。
一方、肝心の改革には、外部から自分の息のかかった“アドバイザー”を高額で、しかも正式な募集もかけずに雇い入れていたことがのちに大きな問題となった。ただ、調査が始まると、氏が使っていた2台のスマホからは、ショートメールの履歴が2度と復元できないよう念入りに削除されていることがわかり、追求は逃れた。
現在のフォン・デア・ライエン氏は、EUの内閣ともいえる欧州委員会の委員長で、やはりここでも狭義の“政治力”を駆使しつつ、絶大な権力を奮っていることは言うまでもない。
なお、19年にその後任となったアンネグレート・クランプ=カレンバウアー国防相も、一時はメルケル氏の後継と言われたが、21年12月の政権交代で辞任。現在、なぜか氏の存在はすでに話題にも上らない。
続く社民党のショルツ新政権では、3人目の女性国防相としてクリスティーネ・ランブレヒト氏が抜擢された。ちなみに国防相というのは、外相と並んで国民の人気を得やすいポストだ。
フォン・デア・ライエン氏の前任者であったカール=テオドール・ツー・グッテンベルク氏は、当時、絶大な人気でメルケルを凌ぎ、次期首相とまで言われたが、唐突の博士論文盗作事件で11年に失脚。当時から謎の多い事件だった。
ショルツ首相が自分の身を慮って、人気の出なさそうなランブレヒト氏を国防相に抜擢したのかどうかはわからないが、それにしても氏のパフォーマンスは悪すぎた。
氏がウクライナ支援のために軍用ヘルメット5000個を供出し、世間の失笑を買ったことは記憶に新しい(もっともヘルメットはウクライナの提出した希望リストに入っていたし、ドイツは発電機や野戦病院施設など、役に立つ物も多く提供していたが、メディアはわざとそれを報道しなかった)。
結局、自分の乗った軍用ヘリコプターに、バカンスに行く21歳の息子を同乗させたことなどが明るみに出て、さすがのショルツ首相も庇いきれなくなったようだ。
また、ウクライナの戦闘が長引くことが予想されたため、実質の伴う国防相が必要だという結論に達したのだろう、23年1月にピストリウス氏が就任。久しぶりに「兵役体験のある国防相!」と話題になった。たとえ若い時分に基礎訓練を受けただけでも、整列も行進もしたことがないよりはずっとマシだ。
兵役が停止されて早12年
いずれにせよ、就任以来、ピストリウス氏の人気は圧倒的で、アンケートではダントツの1位。ドイツ人は、本当は男の国防相を渇望していたのかもしれない。
思えば、東西冷戦中のドイツ軍は強かった。戦後、国土が東西に分かれたドイツは、否応無しに冷戦の最前線に位置してしまい、1957年には軍隊が復活。思想的には平和主義を貫きながらも、一方では強く国防を意識せざるを得なくなった。
男子は18歳で兵役が義務付けられ、当初12ヵ月だったそれは、62年から72年には18ヵ月に達した。病気でもない限り兵役の忌避はほとんど不可能で、私がドイツの音大を卒業した85年、まだ兵役を終えていなかったピアニスト志望の同級生が入隊したのを、気の毒に思ったことを覚えている。何日もピアノを練習できない生活など、当時の私たちにとっては考えられないことだったからだ。
その後、兵役は15ヵ月となり、91年からは、ワルシャワ条約機構の瓦解と共にさらに短くなった。また、それなりの理由を記したレポートを提出すれば、兵役を社会奉仕に変更することが容易になり(ただし、従事する期間は兵役より数ヵ月長かった)、当時、私がピアノを教えていた青年たちも、もう誰も兵役には行かなくなった。
兵役に終止符が打たれたのは11年の6月だが、最後の半年は、兵役期間は6ヵ月で、ほとんど無用の長物。入隊するのはレポートを書けなかった男子ばかりだとか、ベッドメイクと服のたたみ方をマスターし、行進の練習の途中でもう除隊などと揶揄された。
また、兵役が停止された後は、社会奉仕の義務も無くなったため、老人ホームや救急班や身障者施設などで、深刻な人手不足問題が生じた。なお、現在の連邦軍は、職業軍人と志願兵で編成されており、一般国民の意識からはかなり遠ざかっている。
そんなわけで、さすがのピストリウス氏も今、これらの後遺症に手を焼いている。そして、さらに改革の足を引っ張っているのが、実は、ドイツに蔓延する規則のしがらみだ。
ドイツの変わり身の早さを見習うべきか
かつてドイツ製品の品質保証の象徴的存在であったTÜV(技術検査協会)の認証は、今や、特に外国からの投資を妨げる一大要因となっている。道路1本、ビル1棟造るにも、ドイツでは確かに気の遠くなるほどの規則をクリアし、認可を取らなければならない。そして、それは軍の改革にも言える。
笑い話となったのが8年前、「妊婦に優しいドイツの戦車」というようなタイトルであちこちに出た記事だ。きっかけは、有名なドイツの戦車、レオパルトのメーカー、KMW(Krauss-Maffai Wegmann)のCEOが、無意味な規則が多すぎることを批判したことだった(『ディ・ヴェルト』紙2015年10月13日付)。
たとえば、戦車の操縦室では、砲弾を発射した後、一酸化炭素の値が増えるが、そこにもオフィスと同じ労働環境基準が求められたという。一般のオフィスで一酸化炭素値が制限されている理由は、それを超えると羊水に悪影響が出る可能性があるからだが、羊水というのはいうまでもなく胎児の浮かんでいる水である。
もっとも国防省はそれに対し、「戦車の操縦室には通常の職場衛生基準は適用されていない」と反論したので、どちらの言い分が正しいのかは不明だが、いずれにせよドイツに規則が多すぎるのは紛れもない事実で、国際競争力を損ねているという指摘は、今や防衛産業だけでなく、あらゆる産業部門からも出ている。
なお、現在、ピストリウス氏が、「戦争をしないためにこそ、軍備を充実させなければならない」と、国民に向かって抑止力のイロハを説き始めていることも興味深い。
元々、平和主義を貫いていた社民党の政治家が、「戦争遂行能力」と言ったのは少々勇み足気味だったが、抑止力なら理にも適う。しかも、それに呼応するように、ショルツ首相がすかさず軍事費の増額を約束するなど、これまでにない動きとなっている。ドイツは30年の眠りから覚めるかもしれない。
日本も本当なら、攻め込まれないために軍備を充実させるべきだと思うが、それを言える政治家はいないようだ。これまでいつも「ドイツを見習え」と言っていたのだから、今こそドイツの変わり身の早さを見習った方が良いのではないか。手遅れにならないうちに。
●内憂外患のバイデンに中国の習近平がくれたご褒美 11/17
不気味な2024年を前に、賭けに出た独裁者
ジョー・バイデン米大統領と中国の習近平国家主席がサンフランシスコで11月15日に会談した。
サンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて行われた米中首脳会談は、2022年11月のインドネシア・バリ島での会談以来1年ぶり。習近平氏の訪米は6年半ぶりだ。
太平洋の主役を自負する米中の首脳にとって、太平洋諸国の「自由で公正でオープンな経済システム」を堅持・促進する目的で結成されたAPECの首脳会議は出席せざるを得ない国際舞台である。
自国がいかに太平洋圏の繁栄と安定に責任をもって貢献できる国家であるかを示す場だからだ。
そして今年は、図らずも開催地は中国にとっては歴史的にも因縁のあるサンフランシスコ。
習近平氏としては、この機会に訪米し、1979年の米中国交正常化後で最も複雑で危うい状態にある米中関係の是正を考えたのも頷ける。
それに2024年の米大統領選に向けて米国内の政治情勢は流動的だ。台湾の総統選挙は来年1月に控えている。
習近平氏としては、「不気味な2024年」を前に、米中関係の不安定な状況を少しでも是正するには、ここ数か月が勝負どころだと見たのだろう。
一方、今年6月には習近平氏を「独裁者だ」と罵っていたバイデン氏は、この首脳会談で何を得ようとしたのか。
ベテラン政治記者のマーチン・フラクウィッツ氏は、こう指摘する。
「米国が与野党とも反中ムード一辺倒の中で、バイデン氏としては台湾問題、半導体、合成オピオイドのフェンタニル製造・輸出取り締り、ウクライナ戦争、イスラエル・ガザ戦闘など対中懸案で、一つでも習近平氏の譲歩を得られなければ、再選戦略に大きな躓きとなる」
「そうした中で世論を納得させる分かりやすい成果は何かと言えば、過去15か月一触即発状態にあった米中間の『危機回避メカニズム』の再始動にあった」
関係悪化を招いた民主党重鎮のペロシ訪台
バイデン政権の3年は中国の目にはどう映っているのだろうか。
米国内に吹き荒れる反中旋風にバイデン政権は、攻撃的なトランプ政権の対中外交を不本意に受け継がざるを得なかった。
与党民主党内のリベラル派の中からも中国の人権抑圧政策に対する厳しい目が向けられ、米議会には反中法案が次々と出された。
そうした中で、本来ならバイデン政権を支えねばならない立場にある身内の重鎮、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)が2022年8月、訪台した。
米中関係は暗転した。
(どちらかと言えば、党内穏健リベラル派のペロシ氏は、従来から中国の新疆地区ウイグル民族や香港に対する人権抑圧政策に反対、台湾に対する威嚇政策を厳しく非難してきた)
そのペロシ氏が台湾を訪問したことに対し、中国は激しく反発、2022年8月4日から8日まで台湾周辺空海域で「実戦的合同演習」を行った。
中国軍機39機、軍艦13隻(いずれも延べ数)が出動した。これに対抗して、米第7艦隊の軍用機、艦船が台湾海峡周辺に出動した。
また、中国軍は12月25日に台湾周辺の空海域で統合軍事演習を行い、戦闘機延べ71機が台湾の防空識別圏に一時進入した。
バイデン政権は2022年9月2日、台湾に対する総額11億ドル(約1500億円)規模の防衛装備品売却を承認した。
その内訳は、早期警戒レーダー、対艦ミサイル「ハープーン」60発、空対空ミサイル「サイドワンダー」100発。
また12月6日には、「F16」 戦闘機や「C130」輸送機などの軍用機の交換部品(4億2800万ドル=約587億円)の売却を承認した。
保守対リベラルの対立が続く中で、反中スタンスでは米世論も議会も意見が一致していた。
習近平氏は同年11月14日、バイデン氏とインドネシア・バリ島で初の対面による首脳会談を行ったが、関係改善に向けた具体的進展はなかった。
今年に入っても、6月には台湾海峡を通過した米軍とカナダ軍の艦船に中国軍艦船が急接近、10月には中国軍機が南シナ海で飛行していた米戦略爆撃機「B52」に中国の主力戦闘機「殲11」(J11)が急接近するなど一触即発の事態が生じていた。
軍事海洋、防衛政策調整の両協議も中断
米中間では、1998年にこうした偶発的な衝突が生じた場合、大事に至らぬように、米軍と中国人民解放軍とのホットラインを設置してきた。
ところが、中国軍はペロシ訪台以降、このホットラインを不通にしてしまった。
これに伴い、米中軍部高官が定期的に軍事状況等について協議することを定めた防衛政策調整協議や艦船の艦長や航空機のパイロット同士がいざというときに交信できる米中軍事海洋協議協定を停止してしまった。
(李向福氏の後任国防相ポストは11月15日現在空席のままだ)
これに加えて、米国がロシアに対する軍事支援交渉に関与したとして李向福国防相を制裁対象人物にしたことに中国が激怒、米中国防相以下、国防省幹部の交流を停止してしまった。
この危機はあまりメディアで報じられていなかったが、今回のバイデン・習近平会談での合意で1998年以降の状態に回復したのである。
軍対軍交流だけでなく国防相会談も開かれず
米国防総省関係者の一人はこう述べる。
「つまり、ペロシ訪台以降1年以上、米中間の武力勢力同士が偶発的に衝突事件を起こせば、大規模な交戦になりかねないリスクが続いていた」
「李向福国防相については、2023年9月、防衛装備品調達をめぐる汚職で拘束され、10月24日に国防相を解任されたことを受けて、米国は同氏に対する制裁を解除した」
「11月6日にはマリー・スチュワート米国防次官補(軍備管理担当)が、中国の孫暁波国防相軍縮局長との協議を行ったのを皮切りに、国防相高官の交流が再開している」
「まさに李向福解任は、米中軍事交流再開の障害を取り除くシンボリックな人事になったわけだ」
米中首脳会談で合意した軍対軍の危機回避メカニズムの再始動を前に、10月30日には国防総省のシンシア・カラス軍縮部長が北京で開かれた香山フォーラム(中国軍部主催の多国間の安全保障対話)に出席した。
また11月3日には、米中国防・外務高官が海上での偶発的な軍事衝突回避をめぐる協議を始めている。
米中関係をめぐっては、米国の世論は極めて感情的で、「坊主憎けりゃ袈裟まで」といった面が強い。
新型コロナウイルス感染症の発生地を中国だと断定する報道が米メディアを席巻すれば、全米各地にアジア系ヘイトクライムが広がる。
中国人スパイによる先端技術窃盗事件が起これば、全米の大学・研究機関からの中国人研究者の排斥が行われる。
それを大統領選に立候補している共和党政治家たちが過激な発言で増長させる。
米中ともに国民は軍事対決より外交対話望む
今回の首脳会談を前に、中国との軍事対決を支持する米国民は5%、高圧的なアプローチを望む人は13%という世論調査の結果が出ている。
他方、米国民の77%が中国との首脳会談などハイレベルでの外交対話を望んでいる、といった結果も出ている。
一方、米国を敵視する中国民も2023年4月以降9%も減少したという世論調査結果が出ている。
バイデン・習近平会談について「大山鳴動して鼠一匹」といった声も聞かれるものの、軍対軍の危機回避メカニズム再始動は「大きなネズミ」と言っていいのではないだろうか。
●ゼレンスキー氏「黒海の主導権を奪還」と演説で表明…無人艇の艦隊展開 11/17
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日のビデオ演説で、「ロシアから黒海の主導権を奪還することができた」と述べた。穀物輸出に関する合意から離脱したロシアの妨害を受けながらも、黒海経由での船舶によるウクライナ産穀物輸出が行われていると強調したものだ。
ゼレンスキー氏はロシアについて、「世界の食料市場を崩壊させ、世界各地で混乱を引き起こすため、我が国の港を封鎖した」と批判した。その上で、「ロシアは黒海を利用して世界の他の地域を不安定化させることはできていない」と語った。ウクライナ軍が無人艇で編成する艦隊を黒海に展開させていることも明らかにした。
ロイター通信によると、米国務省高官も16日、黒海でのウクライナの軍事的成功で航路が確保され、穀物輸出を止めようとするロシアの試みが失敗したとの見方を示した。 
●「プーチンが次の大統領になることは間違いない」ペスコフ大統領報道官発言 11/17
ロシアのペスコフ大統領報道官は2024年3月に行われる大統領選挙について「プーチンが出馬することを信じたい。プーチンが次の大統領になることは間違いない」と述べた。
ペスコフ氏が17日、政治家や外交官、官僚を多数輩出している国立モスクワ国際関係大学の学生メディアのインタビューに応じ答えた。
このなかでペスコフ氏は、2024年3月に行われる大統領選挙について「彼が出馬することを心から信じたい。選挙に勝ち、次の大統領になることは間違いない」と述べた。
一方、次の大統領について「プーチン大統領と同じであるべきだと確信している。あるいは、人は違うかもしれないが、プーチン大統領と同様の人物」とも答えた。
SNSではプーチンの死亡説や影武者説がささやかれていて、これらを意識した発言なのだろうか。
プーチン大統領はまだ立候補を表明していないが、大統領選にはすでに2人が出馬表明していて、プーチン大統領の動向が注目されている。
●ペスコフ大統領報道官、「プーチン氏の大統領選出馬望む」 11/17
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、プーチン大統領が2024年3月の大統領選挙に出馬することを望んでいると述べた。17日公表のインタビューで語った。
プーチン氏の在任期間はすでに最長となっている。選挙に勝てば少なくとも2030年まで権力の座にとどまることになる。
ロイターは今月、プーチン氏が大統領選出馬を決めたと報じた。
ペスコフ氏はモスクワ国際関係大学(MGIMO)の学生向け放送のインタビューで、次の大統領は誰かと聞かれ「同じ」と答えた。「プーチン氏はまだ出馬を表明していないが、そうすることを切に信じたい。彼が大統領であり続けることを疑っていない」と述べた。
ウクライナ侵攻でロシアは西側の厳しい非難と制裁を受け、プーチン氏自身も国際刑事裁判所から逮捕状が出ている。
ペスコフ氏は、西側が冷戦後の支配的地位の維持に苦戦し、世界は変革していると指摘した。
10年後にロシアがどうなっているか、との質問には「より強く、賢く、豊かになっている」との見方を示した。
●ロシア ウクライナ ともに防空システム強化へ 空の攻防激化か 11/17
ロシア軍はウクライナの各地でミサイルや無人機による攻撃を続けていて、ウクライナ側は警戒を強めています。双方とも防空システムを強化する姿勢を示していて、この冬は空をめぐる攻防が激しくなることが予想されます。
ウクライナ空軍は17日、ロシア軍がイラン製の無人機10機で南部のミコライウ州やオデーサ州などに攻撃をしかけ、このうち9機を撃墜したと発表しました。
また、ロシア軍は東部ドネツク州にもミサイル攻撃を行ったとしています。
ロシア側の空からの攻撃が続くなか、ゼレンスキー大統領は17日、SNSで「われわれの防空能力は強化されている。しかし、100%ではなく、ハルキウのような都市、ドネツク州やザポリージャ州はさらに多くのシステムが必要だ」として防空システムを強化する姿勢を示しました。
一方、プーチン大統領の側近、パトルシェフ安全保障会議書記は16日、ウクライナと国境を接するロシア西部ボロネジ州で会議を開き「各地域の作戦本部は重要なインフラ施設を守る措置をとり、防空を強化している」と述べました。
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は16日、「ウクライナ側もこの冬、ロシアの後方地域をミサイルで攻撃して補給路を断とうとしており、ロシアも対応しようとしている」と指摘しました。
ロシア、ウクライナ双方とも防空システムを強化する構えを示していて、この冬は空をめぐる攻防が激しくなることが予想されます。
●ロシア軍、アウディーイウカのウクライナ軍拠点に迫る… 11/17
英国防省は16日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州アウディーイウカで、ウクライナ軍の守備拠点がある欧州最大級のコークス工場に迫っているとの分析を発表した。アウディーイウカの戦況を左右するとみられ、戦闘がさらに激化しそうだ。
アウディーイウカは親露派が押さえる州都ドネツクから約15キロ・メートルに位置し、露軍が重点攻略目標としてきた。米政策研究機関「戦争研究所」が16日に発表した露軍事ブロガーの情報に基づく分析によると、露軍はウクライナ軍を南北から挟撃する形で進軍している。
工場が露軍に制圧されれば、ウクライナ軍としては、アウディーイウカへの補給線が断たれることになる。工場は何重にも塹壕(ざんごう)を掘るなどして要塞(ようさい)化され、露軍が攻め落とすのは容易ではないとの見方もある。
一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日、ビデオ演説で「ロシアから黒海の主導権を奪還した」と述べた。ウクライナは、ロシアが一方的に併合した南部クリミアに拠点を置く露軍黒海艦隊への攻撃を強化している。
●アウディーイウカ、ロシア「肉の嵐」作戦を実施も...強烈な「反撃」を受け敗走 11/17
ウクライナ東部ドネツク州では現在、同州の玄関口と言われているアウディーイウカ付近で戦闘が激化しており、ロシア軍は同地域を占領しようと攻勢を強めている状況だ。そうしたなかでロシア軍は今月、「ミートストーム(肉の嵐)」なる作戦を実施。しかしウクライナ軍に撃退されて作戦は失敗し、この様子を捉えた映像がウクライナの部隊によって公開された。
ウクライナ地上軍の第58自動車化部隊は11月13日に投稿した映像について、夜明けに進撃を開始したロシア軍が、数時間で「恥辱のうちに」退散していった場面だと説明した。同部隊は、2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、ウクライナ東部ドネツク州で活動している。
10月10日以来、ロシアはアウディーイウカを占領するため、戦車や装甲車に加え、数千人規模の軍隊を投入している。しかし、ロシア軍は兵力と装備の両方で大きな損失を被っていると報じられている。そのためロシアは、アウディーイウカでの新たな攻撃のために、約4万人の兵力を集めているとされる。
ウクライナ軍第58自動車化部隊は、「全員が脱出できたわけではなく、戦場には約50人の侵略者の死体が残された」と説明。「占領者を排除し、(部隊は)最大の成功を収めた」と述べている。
黒焦げになった車両の残骸に、炎に包まれた兵士
ドローンで撮影されたこの映像には、音楽もつけられており、ウクライナ軍が複数のロシア軍の戦車や装甲車に発砲し、煙が上がっているように見える。黒焦げになった車両の残骸や、炎に包まれながら這って逃げようとする兵士の姿も映っている。
本誌は、この映像がいつ撮影されたのかを独自に確認することができず、ロシア国防省にメールでコメントを求めている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、アウディーイウカ周辺の状況について、「特に厳しい」と表現した。
ウクライナ軍のアントン・コツコン報道官は11月9日、ロシアはアウディーイウカを奪還するために新たな準備を進めていると述べた。「ロシアは約4万人の兵士を投入している」とコツコンは述べ、「ロシア軍がアウディーイウカ包囲計画を中止する兆候は見られない」との見解を示した。
「ロシアは成果を挙げていない」米シンクタンク
コツコンによれば、ロシア軍は同地を三方から包囲し、追いつ追われつしながら、ウクライナ軍の防衛体制を分析するために大量のドローンを送り込んでいるという。
米シンクタンクの戦争研究所は、ロシア軍はアウディーイウカ近郊での計画的かつ大規模な攻撃作戦に、さらに多くの兵士と軍備を投入していると指摘している。同シンクタンクは11月12日、ウクライナ情勢に関する最新の分析を発表し、ロシア軍はアウディーイウカ周辺での攻撃作戦を継続しているが、いかなる成果も得られていないとした。
一方、ウクライナ参謀本部は、ウクライナ軍が同地でのロシア軍の攻撃を18回以上撃退したと発表した。戦争研究所は、ウクライナ軍がアウディーイウカ周辺で最近反撃に成功し、わずかな成果を挙げたと報告している。

 

●プーチン氏、露文化の排斥「不可能だ」 欧米との断絶否定 11/18
ロシアのプーチン大統領は17日、ウクライナ侵略後に欧米で広がった露文化排斥の動きについて「反文化的で人種差別的だ」と批判した。露文化は世界の文化の一部で、禁止することは不可能だと語った。対立する国々の間に「橋を架けられるのは文化に関わる人々だ」とも述べ、欧米との交流を断絶する考えはないと強調した。
北西部サンクトペテルブルクで国際文化フォーラムに出席したプーチン氏は、文化とスポーツが相互理解を促進すると指摘。「これなしで紛争終結は難しい」と述べた。
欧米の反露的対応を理由に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)や国連からの脱退を求める意見があることについては「ロシアは国連の創設国(の一つ)だ。そんな必要はない」と否定した。
●来年2月にICC加盟 ロシアとの関係悪化―アルメニア 11/18
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は17日、旧ソ連構成国のアルメニアが来年2月1日に正式加盟すると発表した。ICCはロシアのプーチン大統領に対し、侵攻先のウクライナで子供を連れ去ったとして逮捕状を発付。加盟国に入国した場合、逮捕される可能性がある。
アルメニアを巡っては、隣国アゼルバイジャンが今年9月、係争地ナゴルノカラバフを奪還。約12万人のアルメニア系住民が土地を追われた。ロシアの平和維持部隊が看過したため、アルメニアとロシアの関係が悪化していた。
●ウクライナ軍がドニプロ川東岸で前進、ゼレンスキー大統領が主張 11/18
ウクライナ軍はロシアが支配する南部の領土を回復しようと、ドニプロ川東岸で前進していると、ゼレンスキー大統領が主張した。ウクライナ政府幹部からは最近、東岸で拠点を広げているとの主張が相次いでいる。
ゼレンスキー氏は「ヘルソン州左岸。われわれの戦士たち」と、画像と映像を添付してソーシャルメディア「X(旧ツイッター)」に投稿。「彼らの強さと前進に感謝する」と続けた。
これに先立ちウクライナ海兵隊は17日、いくつかの新たな陣地を確保するなど作戦が今週成功したと説明していた。ゼレンスキー氏のコメントは、これを強調する意図がある様子だ。
ウクライナ軍が東岸で前進した可能性は、ロシア軍が最近攻撃を強めるバフムトやアウディーイウカ周辺を含むウクライナ東部とは対照的だ。戦争が再び冬に入るにあたり、ウクライナのザルジニー総司令官は最近、こう着状態にあると話した。
海兵隊は東岸の数カ所で「拠点を築いた」と、フェイスブックで説明。イエルマーク大統領府長官も今週に入り、同様の言い回しを使っていた。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)によると、ウクライナ軍はヘルソン市の北東約30キロにあるクリンキ周辺で前進した様子だ。
ロイター通信によると、ロシア支配部分のヘルソン州でロシアが知事に据えたウラジーミル・サルド氏は今週の発表文で、ウクライナ軍がドニプロ川を渡河し、部隊をさらに増強していると警告していた。
●APEC、首脳宣言採択 ロシアの侵攻、中東に言及せず 11/18
日本や米国、中国、ロシアなど21カ国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は17日(日本時間18日午前)、3日間の日程を終え、首脳宣言を採択して閉幕した。宣言はロシアのウクライナ侵攻や中東情勢について言及を見送った。議長の米国は宣言と別に、「ほとんどのメンバーがウクライナ侵略を強く非難した」と明記した議長声明を公表。パレスチナでの軍事衝突に関しては、イスラエル非難と支持で立場が分かれたと明らかにした。
米サンフランシスコで開かれた今回の会議は、ウクライナ侵攻の長期化に加え、重要物資の輸出規制を巡る米中の応酬、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突など国際情勢の混迷が続く中で開かれた。全会一致が原則の首脳宣言を採択し、アジア太平洋地域の結束を示せるかが焦点だった。日米と中ロなど参加国・地域間で認識の隔たりが大きい問題については宣言で触れず、議長国の権限でまとめた声明で米国の立場を示した。
議長のバイデン米大統領は閉幕に当たって演説し、「包括的で力強く、持続可能な経済を築く方法を模索するために討議を重ねた」と成果を強調した。
● ロシア 来年の予算案可決 3分の1近い国防費は日本円で約18兆円 11/18
ロシアの議会下院は来年 2024年の予算案を可決しました。このうち国防費は、ことしの当初予算の2倍以上に膨らみ、予算案全体の3分の1近くを占め、ウクライナに対する軍事侵攻の長期化を見越したものとなっています。
ウクライナ情勢をめぐってウクライナ軍の海兵隊は17日、南部ヘルソン州のドニプロ川東岸に部隊が上陸し、数か所に拠点を築いたと明らかにしました。
ゼレンスキー大統領もSNSにこの作戦に参加したと見られる兵士らの写真を投稿し「前進するわれわれの兵士たちに感謝する」と述べました。
こうした中、ロシアの議会下院は17日、来年2024年から2026年までの3年間の予算案を賛成多数で可決しました。
このうち来年の予算案では、国防費は10兆8000億ルーブル、日本円でおよそ18兆円でことしの当初予算の2倍以上に膨らみました。
また、予算案全体の3分の1近くを占め、ウクライナに対する軍事侵攻の長期化を見越したものとなっています。
ロシアの新聞RBKは国防費がしめる割合が初めて社会保障費を上回ったと伝えています。
シルアノフ財務相は先月、議会下院で議員に対し国防費は兵士の給与や戦車など兵器の購入、それに軍需産業の近代化にあてられると説明しました。そのうえで「国の防衛能力を強化するためのもので、われわれの最優先課題だ」と述べました。 
●報道から消えるウクライナ戦争、ガザ紛争激化の裏で関心低下顕著に 11/18
テレビのニュースで、ウクライナからの中継映像を最後に見たのはいつだろうか。恐らくは、ずいぶんと前になるのではないか。
中東での戦争の過熱を受け、長引く東欧での戦争はメディア報道においてほぼ後回しの扱いとなった。ロシアのプーチン大統領によるウクライナへの残虐な作戦行動は、イスラエル・ハマス紛争の勃発以前と比較するとメディアからの注目度が激しく落ち込んでいる。
世界のメディア報道を追跡するGDELTプロジェクトが分析したネットやテレビでの映像字幕のデータによれば、ケーブルテレビ局でのウクライナ戦争の報道はイスラム組織ハマスが遂行した先月7日のイスラエル南部でのテロ攻撃以降、劇的に減少した。
イスラエル・ハマス戦争前、ウクライナでの戦闘はCNNのテレビ報道の約8%を占めていたが、ハマスの奇襲後の割合は1%を切っている。
米連邦議会下院の議長選びが混沌(こんとん)としていた当時の状況下、報道におけるウクライナへの言及は目に見えて増えたものの、主な焦点はあくまでも米国による同国への資金援助であり、実際の戦況ではなかった。
インターネット分析会社のコムスコアが提供したデータからは、ネットでも同様の傾向が生じているのが見て取れる。そこではソーシャルメディア上で、ウクライナ戦争についての議論がイスラエル・ハマス紛争勃発以降著しく減少していることが示唆される。ただ全般的にはプーチン氏によるウクライナ侵攻に対する関心自体が、過去数カ月間は薄れていたともみられる。
中東情勢以外にも、米国のメディアはこの数週間、複数の重要な話題の報道に追われていた。議会の混乱やトランプ前大統領の裁判、メーン州で起きた銃乱射事件などだ。
現状のウクライナに対する関心低下は、プーチン氏にとって恩恵以外の何物でもない。
米ハーバード・ケネディー・スクールのベルファー科学国際問題センターの上級研究員で、米中央情報局(CIA)に25年勤務した経歴を持つポール・コルベ氏は、記者の取材に対し、イスラエルとハマスの間の戦争によって米国の関心がロシアからそれるのをプーチン氏は「喜んでいる」に違いないと指摘した。その上で、こうした中にあってロシアは「ウクライナの都市や民間人を狙った攻撃を続けている」と述べた。
また西側がウクライナ戦争の報道を減らす一方、ロシアは虚偽や誤情報を拡散する独自の情報戦を展開しているともコルベ氏は分析。西側の忍耐力と支援を疲弊させ、米国内や北大西洋条約機構(NATO)加盟国間に分断を引き起こすのがプーチン氏の戦略だとの見解を示した。
コルベ氏によれば、プーチン氏はメディアを活用し、ウクライナを分断した腐敗国家として描写しようとしている。ウクライナに対して、米国とNATOの傀儡(かいらい)との印象付けを図ることがプーチン氏の戦略の中心だという。
●ロシア、非正規移民使い周辺国に圧力 EU「恥ずべき行為」 11/18
欧州連合(EU)は17日、ロシアからフィンランド入りする非正規移民の数が急増している点に言及し、ロシアが移民を利用して周辺諸国に圧力をかけているのは「恥ずべき行為」だと非難した。
フィンランド政府は16日、ロシアから流入する移民が急増しているため、同国との国境にある検問所8か所のうち4か所を今週末から閉鎖すると発表した。
フィンランドのペッテリ・オルポ(Petteri Orpo)首相は、同国が今年、北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことに対抗して、ロシアが不安定化工作を意図的に仕掛けてきていると述べた。
EU欧州委員会(European Commission)のウルズラ・フォンデアライエン(Ursula von der Leyen)委員長は同日、オルポ氏と会談し、「ロシアによる移民の道具化は恥ずべき行為」と非難した。
ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻して以来、フィンランドとロシアの関係は悪化。フィンランドは安全保障上の懸念から、数十年にわたる軍事的非同盟政策を放棄し、NATOに加盟した。
フィンランドの国境警備隊によると、ロシアと約1340キロにわたって国境を接する同国では今年8月以降、ロシアからの非正規移民の数が急増している。主に中東やアフリカ出身で、9月以降、難民認定申請者は約280人に上っているという。
●地方都市の困窮と住民の本音−国民対話再開はプーチン大統領安泰の証 11/18
プーチン大統領は今年12月、国民からの要望を直接受け付けるホットラインと地方からの記者も集めた大規模紙記者会見を同時に実施する見通しだ。
関係者によると、去年は不満が高まる世論に正面から対峙することが難しく実施を見送った。
今年、恒例行事を復活させるのは、すべてが侵攻以前と変わりないという国民に対するアピールだとみられている。
プーチン大統領は国内経済も順調だと繰り返し主張しているが、本当だろうか?
ロシアの地方を取材すると、大都市ではわからない、国民が疲弊している状況が如実に見えてきた。
足を踏み入れた途端に悪臭が…黒い煙の街
ロシア北西部、フィンランドと国境を接するカレリア共和国。
首都ペトロザボーツクから北へ3時間ほど車を走らせ、幹線道路をそれてセゲジャの街に入った瞬間、異様な光景が目に飛び込んでくる。
工場の煙突から真っ黒い煙がもくもくとあがっているのだ。街の産業を支えている製紙工場だという。
車の窓を開けると、ひどいにおいが車内に入り込み、思わずえずきそうになる。街をしばらく歩くとどうにか鼻は慣れてくるが、それでも違和感は消えない。
セゲジャは、リゾート地として知られ、郊外には立派なホテルも営業している。しかし、街の大気は工場の煙で汚染されているようだ。
地元メディアによると、2019年には街が数時間にわたって濃くて汚い霧に覆われたという。
当時のデータでは異常値は検知されず、因果関係は不明だが、たくさんの鳥の死骸が通りで見つかったと報じられている。
黒い煙に圧倒されていると、女性が声をかけてきた。
「また、ひどい煙が出ていますね。どうしたの?興味があれば私の家を見せてあげましょうか?」
「水道水はコニャックのよう」 自宅は1930年代築の木造
診療所に勤務するターニャさん(44)は3人の子供を育てている。自宅はこの地方の特徴でもある木造の歴史的な建物で1938年にドイツ人によって建てられたものだという。
部屋に入るとネコが迎えてくれる。ネズミ対策なのだという。
「小さなハタネズミです。冬になるとネズミは暖かさを求めてみんなアパートの中に入ってきて、とても活動的になります」
ターニャさんは室内を努めてきれいにしている。自力で部屋の床などを修繕したという。歴史的な建物で天井は高く作られていて、住み心地は悪くないという。
しかし、この家は2018年に危険だと宣言された。別の部屋の住民は床が抜けて、別の場所に引っ越したが、居住登録を変えることができず2重に家賃を支払い続けているという。
ターニャさんは1カ月2万7000ルーブル(約4万5000円)の給与と子供手当てで暮らしていて、引っ越しをする資金的な余裕はない。水光熱費だけでも1万5000ルーブル(約2万5000円)に上る。
特に困っているのが水回りだという。
「ほら見てください」
ターニャさんはキッチンに続く風呂場の蛇口をひねる。たまりだした水はうっすらと茶色い。
「もう少したまれば、コーヒーのようになります。茶色です。時間帯によっても違いますが、コニャックといったほうが良いかしら」
別の60代の年金暮らしの女性も水道水に悩まされている。水質が茶色い理由を教えてくれた。
「私たちの水は工業用水であり、すべて汚れています。家は崩壊しつつあります」
この自宅も1936年に建てられて以来、修繕されていないという。
2019年に安全ではないと宣言されたが、移転の目途は2030年で「それまで生きているのかしら」と女性はつぶやく。
「生き延びているだけ…」崩壊間際の部屋に住む女性
「『人生』なんてものじゃない。生き延びているだけです」
ガリーナさんがわずかな年金で暮らす木造アパートは、入り口の玄関と階段が崩れ落ち、部屋の壁も崩壊し始めている。
木造にもかかわらず1938年に建てられて以来、一度も修繕されたことがないそうだ。国からは今すぐに退去が必要な住宅に指定されている。しかし何の支援もないため、ガリーナさんには住み続ける以外の選択肢は残されていない。
水道や光熱費などを差し引いて手元に残る数千円ほどで、どうにか日々暮らしている。趣味や楽しみに使うお金がガリーナさんの手元に残ることはない。
「生き延びているだけ」だというガリーナさんの言葉を私は否定できなかった。
ロシアでは、ガリーナさんと同じように崩壊しかけている家に住み、政府が住み替えの対象としている人は少なくとも150万人にのぼる。
ガリーナさんのようにギリギリの生活を続けている人が多く、政府の補償がなければ転居先の家賃も払えず、建物を自力で修繕することもできないため、住み続けるしかない。
セゲジャの家並み 一見して老朽化しているのがわかる
住宅問題は大きな社会問題となっていて、常に行政の最優先課題の一つだとされるが、具体的な進展はほとんど見られない。
プーチン大統領に直訴 返信が来たが…
「プーチンとペトロザボーツクの住宅基金にも手紙を書きました」
地元の行政に訴えても事態の改善は見込めないと考えたガリーナさんはプーチン大統領に直接手紙を出して訴えたという。
返事はあったものの、新しい住宅として提案されたのは、キッチンもトイレも水道もなく、さらに悲惨な状態の木造の共同住宅だったという。
ガリーナさんはさらにこう付け加える。
「プーチンからの返答はペトロザボーツクの政府に送られ、地元政府から私に届いたのです」
地方の行政が機能していないから直接プーチン大統領に訴えるという行為に出た。にもかかわらず、返答はその地方政府を通して送られてくるという皮肉な事態にガリーナさんはがっかりしたようだ。
国民ではなく戦争に費やされる税金
ガリーナさんに「特別軍事作戦(=ロシアによるウクライナ侵攻)」について尋ねても「反対」だとは答えない。
ガリーナさんは特別軍事作戦で親しい友人を2人亡くし、さらに2人が今も戦っているという。だから「特別軍事作戦」に多額の資金が投じられていることについては「惜しいとは思わない」と言う。それでも、疑問を呈さざるを得ない。
「ドネツクに資金が投じられています。そこが大変な状況だということはわかっています。
しかし私たちには割り当てられませんし、年金だって増えません。何らかの見直しが必要かもしれません」
ドイツの国際安全保障問題研究所の試算によれば、ウクライナへの侵攻には1日300億ルーブルが費やされている。2024年の予算では10兆8000億ルーブルが「国防」費に充てられる見通しだ。
一方で、ロシア全土の住宅問題の解決に必要な資金は1・3兆ルーブルから3兆ルーブルだとされている。住宅問題の解決に必要な額の3倍以上が、ウクライナへの侵攻に費やされることになる。
プーチン大統領の直接対話再開は「安定」の証か?
プーチン大統領は、今年12月、国民からの要望を直接受け付けるホットラインと地方からの記者も集めた大規模紙記者会見を同時に実施する見通しだ。
去年、実施を見送ったのは9月に動員を発表し、全国で反対デモが次々とおこったためだ。プーチン氏は、国民の不満に正面から向き合えなかった。
今はロシア国内で反戦の声もほとんど聞こえず、一見ロシア社会が「安定」を取り戻したかのようにみえる。しかし、ロシア人が反戦を唱えなくなったのは、厳しい弾圧によるものだろう。
言論に対する取り締まりは、ますますエスカレートしている。
コンサート会場に機動隊が突入
11月9日、サンクトペテルブルクでコンサート会場に突如、機動隊が突入した。観客は全員が床にうつぶせにされ、コンサート会場は一瞬にして恐怖とパニックに陥った。1人1人が身分を細かくチェックされ、抵抗した女性は連行され、裁判が行われている。
機動隊の突入は、演奏を予定していたグループが「反戦」を主張したことが理由だったという。騒動後、会場の外にいたファンの女性に何が起こったのか経緯を尋ねると、こう答えた。
「ただ音楽を聴きたいだけ。政治に巻き込まれたくない」
煙草を持つ手は震えているようだった。
消去されていない「戦争反対」の落書き
カレリア共和国で旅行業を営む50代の男性は「戦争には反対だ」と打ち明ける。
彼は80年代に旧ソ連のアフガニスタン侵攻に参加し、当時ウクライナ人とも戦友として戦ったという。
「なぜ、かつての仲間を敵にすることができるのですか? 反対です。もちろん反対です。」
男性は、溜まっていたものを吐き出すかのように繰り返した。
セゲジャの街の中心近く、キーロフ通りのバス停には、黒いスプレーで大きくこう記されていた。
「戦争反対」
モスクワなどでは真っ先に消されているだろう。
しかし言論統制の手も回らないのか、それとも見逃されているのか。
このスプレーの黒い文字は長い間、消されずに残されている。
●プーチン氏、露文化排斥「人種差別的」 国連などからの脱退否定 11/18
ロシアのプーチン大統領は17日、ウクライナ侵攻後に欧米で広がったロシア文化排斥の動きについて「反文化的で人種差別的だ」と批判した。ロシア文化は世界の文化の一部で、禁止することは不可能だと語った。対立する国々の間に「橋を架けられるのは文化に関わる人々だ」とも述べ、欧米との交流を断絶する考えはないと強調した。
北西部サンクトペテルブルクで国際文化フォーラムに出席したプーチン氏は、文化とスポーツが相互理解を促進すると指摘。「これなしで紛争終結は難しい」と述べた。
欧米の反露的対応を理由に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)や国連からの脱退を求める意見があることについては「ロシアは国連の創設国(の一つ)だ。そんな必要はない」と否定した。
●バイデン外交、求心力低下も APEC閉幕 漂う「トランプ2期目」への警戒 11/18
バイデン米大統領は15〜17日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、地域の平和と安定に果たしてきた米国の歴史的指導力は不変とのメッセージの発信に努めた。ただ、1年後の米大統領選に向け激しさを増す党派対立と自身の支持率低迷が、外交の求心力を弱めていく可能性がある。
「今後数年間、世界の歴史の多くはアジア太平洋で書かれる」。バイデン氏は16日の夕食会でこう訴えた。
太平洋の「玄関」にあたるサンフランシスコでは1951年、サンフランシスコ講和会議が開かれた。米国は日本やオーストラリアなどとの安全保障条約にそれぞれ署名し、自由と民主主義に基づく第二次大戦後の地域秩序と同盟ネットワークが産声を上げた。
だが、それから72年が経過。首脳会議期間中の一連の外交からにじんだのは、米国一国のパワーで太平洋の平和と安定を追求できないとのバイデン政権の判断だ。
米国は中国と太平洋でグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国を巻き込み争覇を繰り広げる。台湾やフィリピンへの中国の威圧は、米中の衝突と第三次大戦の導火線になりかねない。バイデン氏は15日の中国の習近平国家主席との会談で対話チャンネルの構築で合意し、紛争回避を図った。
APECはゆるやかな連携体であり、バイデン氏は「持続的で包括的な経済成長」を牽引(けんいん)する太平洋の未来へ参画を促した。一方、参加国の姿勢が異なるロシアのウクライナ侵略、パレスチナ自治区ガザ情勢を巡る議論への深入りを避けた。
バイデン氏は地域に対する「戦略的、経済的な関与」と同盟諸国を結ぶ「価値観」は不変だと訴えた。だが、先行きは国内の分断で不透明だ。議会では野党共和党の反対でウクライナ、イスラエル、インド太平洋への支援を一括した予算案が棚上げされたままだ。
米大統領選でバイデン氏が支持率で共和党の首位を走るトランプ前大統領と対戦すれば、再選は厳しいとの世論調査も相次ぐ。英誌エコノミスト(電子版)は16日、トランプ氏再登板が「2024年の世界に最大の危険を及ぼす」との記事を掲載。同盟国には「トランプ氏の2期目に備えるべきだ」との空気も漂う。
●重大汚職容疑で70人手配 ウクライナ、中銀前総裁ら 11/18
重大汚職を捜査するウクライナ国家汚職対策局(NABU)が昨年2月のロシアの侵攻後、国立銀行(中央銀行)前総裁や元副検事総長ら71人を指名手配したことが18日、NABUへの取材で分かった。容疑者は大半が欧州など国外に逃れたとみられるが、居場所を特定しても戦時を理由に相手国に身柄引き渡しを拒まれるケースが大半。侵攻後に実現したのは3件にとどまり、侵攻が捜査の壁になっている。
ウクライナでは汚職が深刻で、目標とする欧州連合(EU)加盟には撲滅が求められている。ウクライナは対策を強化している。
指名手配されたのは、昨年10月まで中銀総裁だったキリロ・シェフチェンコ氏(51)や国有財産基金の元長官ドミトロ・センニチェンコ氏(49)、元副検事総長のミコラ・ゲラシミュク氏(54)ら。元オデッサ市長や最高会議(議会)の議員数人も含まれる。
身柄引き渡しに応じたのはドイツ、スロバキア、リトアニアの3カ国。
●首脳宣言、対ロ非難見送り 採択を優先―APEC閉幕 11/18
日本や米国、中国、ロシアなど21カ国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が17日(日本時間18日)、閉幕した。全会一致が原則の首脳宣言は、採択を優先し、参加国・地域間で意見が異なるロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の言及を見送った。
米国は宣言と別に、議長国の権限で討議の結果をまとめた議長声明に「ほとんどのメンバーがウクライナ侵略を強く非難した」と、昨年の首脳宣言とほぼ同じロシア非難の文言を盛り込んだ。パレスチナ情勢を巡っては、イスラエル非難で立場が分かれ、一部の首脳がAPECは地政学的な問題を議論する場ではないとして、宣言に盛り込むことに反対したと声明で明らかにした。
米サンフランシスコで開かれた今回の会議は、ウクライナ侵攻やパレスチナの緊迫化、重要物資の輸出規制を巡る米中の応酬など、国際情勢の混迷が続く中で開催された。米国が議長国を務めた今年に入って開かれた閣僚級会合で共同声明を一度も採択できず、首脳宣言を取りまとめてアジア太平洋地域の結束を示せるかが焦点だった。
会議では、APECが目指す域内の自由貿易推進や経済協力のほか、気候変動対策などで意見を交わした。議長のバイデン米大統領は閉幕に当たって演説し、「包括的で力強く、持続可能な経済を築く方法を模索するために討議を重ねた」と成果を強調した。
首脳宣言は、脱炭素化に向けて各国のエネルギー事情などを踏まえた「多様な道筋」を通じ、クリーンエネルギーへの移行に取り組む方針を盛り込んだ。保護主義的な動きが広がっていることを踏まえ、自由貿易を推進するため機能不全に陥っている世界貿易機関(WTO)改革を急ぐ決意を表明。来年中の新たな紛争解決システムづくりを目指す。
15日に閉幕した閣僚会議の共同声明も、調整の末に採択された。首脳宣言と同様、ウクライナや中東情勢に言及せず、首脳レベルと同じ内容の議長声明を発表した。
2024年のAPEC首脳会議は南米ペルーで開かれる。

 

●プリゴジン氏の墓に異変 今も多くの人が…軍事侵攻長期化でくすぶる火種 11/19
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者のプリゴジン氏が埋葬されてから2カ月ほど。プリゴジン氏の墓に異変が起きていました。
平日の午前中にもかかわらず、墓を訪れる人が…。車道で車を止めてお祈りする人もいます。
墓はカメラで監視されているようです。
ロシア南部から来た男性「プリゴジン氏は人々の目を開かせました。今までにない一体感を与えてくれました。プリゴジン氏は私たちの国にとって、そして今の時代にとって非常に重要な人物です」
かつて国防省を徹底的に批判したプリゴジン氏。
「ワグネル」創設者 プリゴジン氏「ショイグ、ゲラシモフ、弾薬はどこだ!」
プーチン大統領はプリゴジン氏を裏切り者などと徹底的に批判しました。にもかかわらず、墓地の関係者によると平均して一日に50人ほどが今も墓を訪れるということです。
ウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、ロシア国内の火種はくすぶり続けています。
●ウクライナ、ロシアとの消耗戦で重要な戦場勝利を収める 11/19
膠着状態の中で戦っていたウクライナ軍は今週、ドニプロ川東岸に足場を確保して勝利を収め、ロシア軍がウクライナ東部全域での攻勢を前進させるのに苦労する中、別の前線でロシア軍を押し返した。
6月のウクライナの反攻は西側諸国に事態打開への期待を抱かせたが、その後戦争は激しい消耗戦となり、双方とも実質的な進展は見られなかった。 冬が近づいており、今後数カ月は全長600マイルに及ぶウクライナ東部戦線での奇襲作戦が行われる可能性は低い。
しかし、ウクライナはドニプロ川を渡って軍隊を上陸させて地盤を維持することに成功し、南部ヘルソン地域に新たな戦線を開いた。これによりロシア軍に圧力をかけ、ザポリージャ南東部の戦場からロシア軍の注意を逸らすことができるだろう。
ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマック長官は「あらゆる予想に反して、ウクライナ国防軍はドニプロ川左岸に足場を築くことに成功した。段階的にクリミアを非武装化している」と述べた。 それは今週起こりました。 「私たちは勝利を達成する方法を知っています。」
コーネル大学の軍事史・政策教授デービッド・セルビー氏は、キエフが大規模なロシア軍との長期戦争という困難な任務に直面しているとしても、最近の展開はウクライナが戦術的優位を維持していることを示していると述べた。
セルビー氏は「ウクライナが若干優位に立っているが、膠着状態よりもはるかに優れているわけではない」と述べた。 「過去2カ月間に我々が目にしたものは、進歩がマイルではなくヤードで測られる第一次世界大戦の試合ほど思い出させるものはない。負傷は本当に恐ろしいものだった。」
丘からの最も重要な物語
セルビー氏は、ロシア占領下のクリミア半島の貴重な拠点と関連する地域であるウクライナにおけるヘルソン氏の足がかりは有望だと付け加えた。
「これは確実にクリミアに対するロシアの支配を脅かし、ロシアはクリミアに軍隊を維持できるかどうか心配させるだろう」と付け加えた。 「実際に大きな問題は、物流チェーンの流れを維持することです。なぜなら、川の軍隊を支援するには、すべてを川を渡って運ぶ必要があるからです。」
ロシアの軍事ブロガー、リバール氏も、ウクライナが近くの村で橋頭堡を確保したことを受けて、ヘルソンへのウクライナ軍の進軍が懸念されていると指摘した。
「現場の状況は常に困難だ」とリバール氏はテレグラムに書いた。 「現時点で敵は川の左岸にある橋頭堡を拡張する計画を放棄していない。 [Dnipro]。 ウクライナ軍は占領地域で攻撃作戦を継続するため、状況は比較的安定しているにもかかわらず、リラックスするのは時期尚早です。
ウクライナはこれまでにドニプロ川を渡ったロシアの陣地を襲撃したことがあるが、東岸の陣地はまだ確保していない。 ウクライナの反撃のほとんどは、トクマクの町に向かうザポリージャ地方周辺と、ドネツクの荒廃したバフムート市周辺で行われた。 攻撃は冬の間も続くと予想されているが、限定的なものとなる可能性が高い。
ロシア軍はウクライナへの攻撃も続けており、北東部ルハンシク市の残りの地域と東部ドネツク地方の制圧を進めている。
現在、ドネツク州アヴディーイウカの町周辺で大規模な作戦が進行中であり、ロシア軍は先月再び攻撃を開始したが、春のバフムート攻撃と同様に多くの死傷者が出たと言われている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、アヴディーウカを守ることが自軍の目標にとって重要であり、ロシアの力を弱めると述べた。
ゼレンスキー氏は、「ロシアはすでにアヴディウカ近郊で兵士と装備を、例えばバフムート近郊よりも早く、そして大規模に失っている」と述べた。 タイトルで彼は言いました 今週。 「この攻撃に耐えるのは非常に困難です。」
伝えられるところによると、ロシア軍は今週、アヴディイウカの北に徐々に進軍し、ウクライナ防衛軍にとって戦略的と考えられるコークス工場に進軍した。 もし工場がロシアの手に渡れば、モスクワを掌握する能力が強化されることになる。
英国国防省が明らかにした。 インテリジェンスのアップデート ロシア軍は都市を包囲しようとしているが、ウクライナ後背地を占領することに失敗しており、コークス工場を占領しようとしてさらなる損失を被ることになる。
同省は「この工業施設はウクライナに局地的な防衛上の優位性をもたらしており、ロシア軍が施設を攻撃しようとすると、重大な人的損失を被る可能性が高い」としている。
ウクライナの悪名高い秋の泥の季節が終わりを迎え、厳しい冬への扉が開かれています。 通常、気温が低いと戦闘のペースが遅くなりますが、地面が再凍結すると地上車両が前進する新たな機会も生まれます。
しかし、ウクライナの最高指導者は、すぐには反撃に打開策は見られず、米国の予備選が1月に始まることを公に認めており、それがキエフの最も重要な支援者に対するウクライナの支持政治をさらに複雑にするだろう。
ブルッキングス研究所の外交政策研究部長マイケル・オハンロン氏は、大規模なロシア軍は長期戦に備えてより良い装備を備えており、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はそれを待つつもりのようだと述べた。
同氏は、「ロシアは人口基盤が大きければ、より多くの死傷者を生むことができる」と述べ、ロシアには「来年の大統領選挙で誰かが勝って状況全体が変わる可能性は全くないが、米国はそうなる」と付け加えた。 「つまり、現時点では時間はウクライナ側には味方していないのだ。」
共和党大統領候補の最有力候補であるドナルド・トランプ前大統領は、当選してもウクライナを強力に支援するとは予想されていない。
オハンロン氏は、ロシア政府が「明確な勝利」を達成する能力に疑問を抱いているが、ウクライナについてはほとんど楽観的ではないとも表明した。
「確かにどちらの側にも目に見える勢いはなく、すぐに状況が変わる可能性はほとんどない」と同氏は述べた。 「今後数カ月間、政治的にも軍事的にもウクライナの邪魔をする可能性のあるものよりも、ロシアの邪魔をする可能性のあるもののほうが多い。ウクライナは勢いを伸ばすのに苦労している」
●戦争経済に突入したロシアの行方は哀れ、中国の資源植民地に 11/19
プロローグ/ロシアは「戦争経済」に突入
ロシア(露)では9月1日の新学期から国定歴史教科書が採用され、露V.プーチン大統領の歪んだ歴史観が学校で教えられることになりました。
日本流に言えば、「紀元は2600年」の歴史観と言えましょうか。
ロシア経済は「油上の楼閣」です。油価が上がると「油上の楼閣経済」は強固となり、油価が下がると弱体化します。
ただし、この場合の油価とは、ロシアの主要油種「ウラル原油」(中質・サワー原油)です。
2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻作戦発動後、欧米メジャーや欧米石油サービス企業はロシア市場から順次撤退。現在ロシア市場に残っているメジャーは仏トタール社のみです。
筆者は昨年、欧米メジャーがロシア市場から撤退したことを受け、「ロシアでは今後、原油・天然ガス生産量低下は不可避」と断じました。
気象条件の厳しい海洋鉱区や大掘削深度を必要とする鉱区においては、欧米メジャーや欧米石油サービス企業の参画なしには原油・ガス鉱区の探鉱・開発・生産は困難です。
当方予測通り、今年に入り原油・天然ガス生産量低下が数字で検証可能になると、ロシアでは原油生産量発表が法律で禁止されました。
今年3月度から1年間の時限立法で原油生産量は発表禁止ですが、来年原油生産が回復すれば1年間の時限立法で終わることでしょう。
しかし、生産回復が見込まれない場合、この時限立法はさらに延長されることになると予測します。
付言すれば、世界最大のガス会社ロシアのガスプロムは今年に入り、自社の天然ガス生産量を発表していません。天然ガスを生産しても輸出先がないので、生産量を削減していることが窺えます。
この結果、ガスプロムは今年上半期(1〜6月度)、赤字会社になりました。
プーチン大統領は今年10月17日に北京訪問、翌日18日に中露首脳会談が開催されました。
ロシア側報道によれば、中露首脳会談にてモンゴル経由天然ガスパイプライン「シベリアの力2」構想実現促進で合意した由。
しかし、両首脳は同建設構想では以前から合意しており、今回の訪中は実質成果ゼロとなりました。
一方、ガスプロムのA.ミーレル社長は「欧州市場に代替する市場は中国になる」と豪語。
欧州ガス市場はガスプロムの金城湯池でしたが、欧州市場の代替市場が中国のみになれば、ロシア産天然ガスは中国一国が顧客となり、ロシアの対中資源植民地化・属国化が促進されます。
換言すれば、中国にとっては熟柿の落ちるのを待っていればよいだけの話にて、「果報は寝て待て」となります。
筆者がよく受ける照会に、「ウクライナ戦争は実態として戦争なのに、なぜプーチン大統領は特別軍事作戦と呼んでいるのか?」という質問があります。
ロシアは宣戦布告していません。
宣戦布告すると「戦争状態」となります。ロシアが戦争宣言すると、ロシアを盟主とする軍事条約CSTO(集団安保条約)に従い、旧ソ連邦諸国の中でこの軍事条約に加盟している国は参戦義務が生じます。
しかし、条約参加国が参戦するかどうか不明にて、脱退する国・動きが表面化するはずです。
筆者は、ウクライナ戦争においてロシア軍側に参戦する条約国は(ベラルーシ以外)ないと考えます。
この場合、対ウクライナ支援を巡り欧米内部で亀裂が生じたように、CSTO内部でも亀裂が生じること必至です。
アルメニアは既に脱退、カザフスタンも脱退することになるでしょう。
上記理由にて、プーチン大統領は(実態は戦争ですが)「戦争」と呼べないものと筆者は考えます。
ロシアは実質戦争経済に突入したので、今後ロシア経済のさらなる弱体化は不可避です。
第1部 2油種週次油価動静(2021年1月〜23年11月)
最初に2021年1月から23年11月初旬までの2油種(北海ブレント・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末まで上昇基調でしたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落開始。ウラル原油以外は乱高下を経て、23年10月下旬から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油はREBCO(Russian Export Blend Crude Oil)として商品登録されています。
REBCOは西シベリア産軽質・スウィート原油とヴォルガ流域の重質・サワー原油のブレンド原油で、中質・サワー原油になります。
過去の北海ブレントとの値差$2〜3は品質差による正常な値差でした。
ご参考までに、カザフスタン原油は軽質・スウィート原油ですが、ロシアのドルジュバ原油パイプライン経由ドイツに輸出されているカザフ原油はウラル原油とブレンドされ、REBCOと同様の性状になります。
このカザフ産原油はKEBCO(Kazakhstan Export Blend Crude Oil)として商品登録されています。
付言すれば、昨年5月まで日本が輸入していたロシア産原油は3種類(S−1ソーコル原油/S−2サハリン・ブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油です。
露ウラル原油と北海ブレントとの値差はバレル約$12の水準が続いています。
この超安値のウラル原油を輸入し、自国で精製して石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出して、「濡れ手に粟」の状態がインドです。
直近では、中東諸国やパキスタンなども新規に露ウラル原油を輸入開始しました。
下記のグラフをご覧ください。黒色縦実線はロシア軍がウクライナに侵攻した昨年2月24日です。
この日を境として北海ブレントは急騰。6月に最高値更新後に下落。
今年4月2日のOPEC(石油輸出国機構)+原油協調減産サプライズ発表後、油価は上昇開始。
一方、露ウラル原油はウクライナ侵攻後に下落開始。今年4月から油価上昇後、10月下旬以降、油価は下落傾向に入っています。
第2部 2油種(北海ブレント・露ウラル原油)月次油価動静(2021年1月〜23年10月)
次に、2油種の月次油価推移を確認します(出所:北海ブレントは米EIA/ウラル原油は露財務省)。
油価を確認すればすぐ分かることですが、ウクライナ侵攻後、露ウラル原油は下落しています。
日系メディアでは「ウクライナ侵攻後油価上昇したので、ロシアの石油収入は拡大した」との報道も流れていました。
ロシアの石油輸出金額が増えたのは事実ですが、ウラル原油の油価は下落しているのです。
ではなぜロシアの石油輸出収入が増えたのかと申せば、前年比油価水準自体が底上げしたからです。
昨年2月度の露ウラル原油(FOB)はバレル$92.2でした。以後今年3月までウラル原油の油価は下落傾向に入り、今年上半期(1〜6月度)の平均油価は$52.2、1〜10月度平均油価は$61.8になりました。
第3部 ロシア国庫税収概観
ロシアではウラル原油の油価が国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存しています。
ロシア経済は「油上の楼閣経済」にて、ロシア財政は油価(ウラル原油)依存型構造です。
下記グラフをご覧ください。ロシア国庫税収は油価(ウラル原油)に依存していることが一目瞭然です。
なお、この場合の石油・ガス関連税収とは2018年までは炭化水素資源採取税(石油・ガス鉱区にかかる税金)と輸出関税のみでした(註:天然ガスは気体としてのPLガスのみ/液化天然ガスLNGはゼロ)。
2019年からはロシア国内の石油精製業者に賦課される税収も加わりましたが、補助金対象にもなっており、現在でも石油・ガス関連税収の太宗は炭化水素資源採取税です。
露財務省は毎月、石油・ガス関連税収と非石油・ガス関連月次税収を発表しています。
プーチン大統領は2000年5月にロシアの新大統領に就任したので、ここでは2000年から2022年までの油価と国家予算案実績と2023年1〜10月度実績、および現在審議中の2024年国庫予算原案を概観したいと思います。
プーチン新大統領誕生当時、ロシアの国家予算案に占める石油・ガス関連税収は約2割でした。
ところが、プーチン大統領就任後、油価は徐々に上昇開始。
ウラル原油がバレル$100を超えた2011年から数年間は、ロシアの国家予算案に占める石油・ガス関連税収は上記2種類の税金のみで50%を超えていました。
2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2(石油・ガス関連税収シェア38.1%)、実績$76.1(同41.6%)。2023年は予算案想定油価$70.1(同34.2%)に対し、1〜10月度実績$61.8(同31.2%)になりました。
露ウラル原油は今年10月下旬から下落傾向に入りました。
ゆえに、今年通期ではロシアの国家予算案に占める石油・ガス関連税収は今後減少することが予見されます。
付言すれば、天然ガス輸出の場合、PLガス輸出はFOB(Free on Board=本船渡し/PLガスの場合、国境渡し)輸出金額の50%が輸出関税(2022年までは30%)、LNG(液化天然ガス)輸出は関税ゼロです。
第4部 ロシア国家予算案概観
   4−1. 2022年通期/23年1〜10月度ロシア国家予算案実績と24年予算原案概観
ロシア下院は11月17日、下院第三読会にて2024年国家予算原案を審議・採択しました。
今後、上院にて承認後、大統領の署名をもって、予算原案は成立・発効予定です。
ご参考までに、2022年の期首予算案と実績、23年期首予算案と1〜10月度実績、および24年予算原案概要は以下の通りです。
ロシアの2022年国家予算は期首予算案1.33兆ルーブルの黒字案でした。
期首想定油価バレル$62.2に対し実績$76.1ですから、本来ならば期首黒字案以上の大幅黒字になるはずが大幅赤字となりました。
露財務省は2021年までは各支出項目の経費が明記されていましたが、22年1月から支出総額のみで、支出細目は白紙となりました。
ゆえに赤字の詳細は不明ですが、これが何を意味するかは説明不要と思います。
   4−2. ロシア国家予算案遂行状況概観 (2023年1〜10月度)
露財務省は今年1〜10月度の露国家予算案遂行状況を以下の通り発表。2023年の予算案想定油価$70.1に対し、1〜10月度ウラル原油平均油価は$61.8になりました(現在1ルーブル約1.6円)。
油価が上昇したので、今年上半期実績(油価$52.2/赤字2.6兆ルーブル)と比較して露財政状況が改善していることが分かります。
換言すれば、露財政は油価に依存していることを意味します。
   4−3. 2024年ロシア国家予算原案と治安・国防費
本稿では2024年露予算原案の治安・国防費を概観します。
2024年の下記予算原案を見れば一目瞭然ですが、ロシア経済は既に実質戦争経済に突入しています。
2024年の期首予算原案では、23年期首予算案と比較して国防費は倍増(24年歳出案の3割)となりました。
国防費に治安関連費用を加えると国家歳出案の約4割が治安・国防費となりますが、露大統領府の秘密資金等も勘案すれば、実質国家予算歳出案の半分が国防・治安・情報関連費になるものと推測されます。
2022年から個別支出項目は発表禁止となり項目別歳出実績は不明ですが、戦争経済は確実にロシア国民の生活を蝕んでいると言えましょう。
第5部 欧米の対露経済制裁措置は効果大
筆者は2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻開始以来、一貫して油価と戦費問題に言及してきました。
しかし、メディア界では戦費に言及する報道・解説記事はほぼ皆無で、民間のテレビ放送には「ロシアは石油・ガス収入があるので、対露経済制裁措置は効果ない」と解説する評論家も登場しました。
経済学の基礎知識ですが、国民総生産=投資(主に設備投資)+消費(主に個人消費)+政府支出+外需(輸出−輸入)です。
ロシアのように政府支出が巨額になれば、GDPの数字は表面上一時的に好転します。
しかし持続的繁栄は望むべくもなく、この皺寄せは早晩目に見える形でロシア国民の実生活に反映されることになるでしょう。
ロシアのGDPが一時的に好転したことを受け、「ロシア経済は順調である」と解説している人もいますが、戦争経済が持続的発展をその国にもたらすことはなく、これは歴史が証明しています。
また、油価上昇を受け、「対露経済制裁措置は効果ない」と解説している識者もいます。
欧米による対露経済制裁措置強化策の一環として、昨年12月5日には海上輸送によるロシア産原油の上限価格がバレル$60(FOB)に設定され、石油製品の上限価格は今年2月5日に導入されました。
現実のロシア産原油の油価はこの上限価格を超えています。理由は3つあります。
1 パイプライン輸送による原油輸出には$60の上限価格は適用されないこと。
2 制裁逃れの輸送船団(通称「影の船団」)が存在すること。
3 超安値となったロシア産原油を新規に輸入する国が増えたこと。
インドは従来、ロシア産原油(ウラル原油)の輸入割合は2%程度でしたが、バナナの叩き売り原油となった露ウラル原油を輸入拡大。2022年のロシア産原油の輸入シェアは約20%になりました。
超安値原油を輸入して、自社で精製して、石油製品(主に軽油)を欧州に国際価格で輸出するのですから、儲からないはずはありません。
では、対露経済制裁措置は効果ないのかと言えば、効果大です。
露ウラル原油と北海ブレントは品質差によりバレル$2〜3の値差があります。これは正常な値差ですが、現在でも約$12の値差が続いています。
これはロシア経済にとり機会損失であり、国富の海外流出であり、ロシア経済は確実に弱体化の道を歩んでいると言えましょう。
第6部 ロシア国民福祉基金資産残高推移
ロシアには「国民福祉基金」が存在します。
これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。
露原油(ウラル原油)の油価が国家予算案で設定された基準を上回ると「安定化基金」に組み入れられ、国家予算が赤字になると、「安定化基金」から補填される仕組みでした。
この仕組みを考案したのが、当時のA.クードリン財務相です。
この基金は発足時の2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで積み上がりました。
この安定化基金は2008年2月、「予備基金」(準備基金)と「国民福祉基金」(次世代基金)に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資用目的として発足。
分割時、「予備基金」は約1200億ドル強を継承、残りを「国民福祉基金」が継承。
この石油基金のおかげでロシアはリーマンショックを乗り越えられたと言われています。
その後「予備基金」の資金は枯渇してしまい、2018年1月に「予備基金」は「国民福祉基金」に吸収合併されました。
この国民福祉基金は結果として国家予算案が赤字になると補填可能でしたが、2022年に法律が改定され、「緊急目的のために支出可能」との条項が加わりました。
「緊急目的」が何か明示されていませんが、戦費補填用であることは論を俟ちません。
露財務省は2023年11月1日現在の資産残高は1452億ドル(GDP比9.0%)と発表しました。
ただし、この資産残高は預貯金残高ではなく、あくまでも資産残高です。ちなみに、流動性のある資産残高(ユーロ・人民元・ルーブル・金等)は公表されており、国民福祉基金資産残高の約6割を占めています。
下記グラフをご参照ください。2021年も22年も予算案想定油価より実際の油価は高くなりましたが、資産残高は右肩上がりになるはずが右肩下がりになっています。
何に使われたかは自明の理と言えましょう。
付言すれば、露ルーブルは減価しています。年初より対ドルで30%以上ルーブル安となっているので、ドル表示をルーブル表示すると、その分だけルーブルでは資産残高は膨らんでいます。
第7部 米国/対露新規追加経済制裁強化措置発表 (2023年9月14日)
米OFAC(米財務省外国資産管理室)は9月14日、新規対露追加制裁リストを発表しました。
このSDN(Specially Designated Nationals=特定国籍指定者)リストは公表されており、全文閲覧可能です。
このリストの中に北極圏Arctic LNG 2関連ロシア企業が軒並み含まれており、船舶を含め北極圏関連ビジネスが狙い撃ちされています。
続く11月2日、米国はさらなる対露経済制裁措置強化策を発表。SDNリストに、露Novatek社が主導する北極圏LNGプロジェクトArctic LNG 2が入りました。
今年9月14日には、Arctic LNG 2用LNG積替え基地(ムールマンスクとカムチャッカ半島ペトロパブロフスク)にて使用される2隻のLNG備蓄タンカーがSDNリストに指定されました。
今回はそれに続く対露LNG制裁措置強化策です。
筆者は今年9月14日の時点でこのArctic LNG 2プロジェクトは実現困難と理解しましたが、今回の措置で同プロジェクトはほぼ息の根を止められたと言えましょう。
今後の注目点は、欧米メジャーとして唯一同プロジェクトにオペレーターとして参加している仏トタールが撤退するのか否かという問題になりました。
仏トタールが撤退すれば、同プロジェクトは崩壊必至となりましょう。
個別のプロジェクトに参加する・しないは参加企業の経済性の問題ゆえ、筆者はこの点には関与しません。
しかし、カムチャッカ半島ペトロパブロフスクLNG積替え基地建設構想が報じられた時点から、筆者はこのLNG積替え基地建設プロジェクトに反対する孤高の論陣を張ってきました。
理由は、ペトロパブロフスク原潜基地の軍事能力拡張に貢献することになるからです。
ソ連・ロシア海軍には4外洋艦隊があります。
北洋艦隊(艦隊根拠地セヴェロモルスク)、黒海艦隊(クリミア半島セヴァストーポリ)、バルチック艦隊(カリーニングラード州バルチースク)、太平洋艦隊(ウラジオストック)にて、日本海海戦で有名なバルチック艦隊は18世紀初頭にピヨートル大帝が創設したロシア海軍の母体です(当時の艦隊根拠地はクローンシュタット)。
エカテリーナ2世は18世紀後半、タタール末裔のクリミア汗国を征服。クリミア半島セヴァストーポリを要塞化して、黒海艦隊を創設。
クリミア半島にタタール系住民が多いのは、ここはクリミア汗国の土地だったからです。
4外洋艦隊以外に、支援艦隊としてカスピ海艦隊(カスピースク)と地中海艦隊(タルトゥース)が存在します。
これら諸艦隊が艦隊根拠地から出撃する際、チョークポイント(軍事的阻止点)を通過しなければなりませんが、唯一チョークポイントの存在しない港がソ連(ロシア)太平洋艦隊第7戦隊(潜水艦部隊)の母港、カムチャッカ半島ペトロパブロフスクです。
換言すれば、ロシア海軍はチョークポイントのないペトロパブロフスクに分遣隊としての潜水艦基地を建設したことになり、これは軍事戦略上、正しい選択でした。
ここから南下すればチョークポイントなしに真珠湾にて、これがロシア太平洋艦隊原子力潜水艦基地の存在意義になります。
付言すれば、1945年8月18日未明、千島列島最北の占守島に赤軍上陸。この赤軍はどこから出撃したのかと申せば、このペトロパブロフスクからでした。
ペトロパブロフスクは天然の良港ですが、1つだけ欠点があります。それは電力不足です。
ではなぜ、LNG積替え基地がペトロパブロフスクに建設されるのかと申せば、ここにLNG積替え基地が整備されればLNG火力発電が可能となり、原潜基地の電力不足問題が解決されることになります。
同LNG積替え基地建設構想に協力することは、地政学的観点より日米の国益と安全保障に反する行為となります。
これが同構想誕生時より、筆者がこのLNG積替え基地建設構想に反対してきたゆえんです。
エピローグ/プーチン後継はプーチン
プーチン大統領の任期は2024年5月7日までです。この日、ロシアには新大統領が誕生します。
では、プーチン大統領の後任者は誰になるのでしょうか?
プーチンは信頼置ける部下を大統領後継候補に指名するのでしょうか?
この問題を占う重大事件が今年1月13日、隣国カザフスタンで発生しました。
旧ソ連邦時代からカザフスタン共和国の独裁者であったN.ナザルバエフ大統領は2019年3月、退任の意向を発表。長女ダリガへの権力継承の中継ぎとして、自分に忠実な部下を大統領に引き立てました。
側近を繋ぎの暫定大統領に引き上げる条件として、ナザルバエル大統領は側近のトカエフ氏に一族郎党の不逮捕特権を確認させました。
ところが、トカエフ大統領が2019年6月誕生すると、ナザルバエル前大統領に残った権力も剝奪され、長女ダリガも権力の座から追放されてしまいました。
そして今年1月13日、カザフスタンで大きな動きがありました。
何と本人の名誉称号(「国父」)が剥奪され、家族の不逮捕特権も反故にされてしまいました。
すなわち、今後ナザルバエル前大統領一族郎党の投獄もあり得るということになります。
隣国カザフスタンの政治情勢を見て、プーチン大統領はますます権力の座にしがみ付くことになるでしょう。
すなわち、権力の座から自ら降りることは死ぬまでないということになります。
来年3月17日はロシア大統領選挙予定日にて、新大統領は5月7日に就任予定です。
プーチン大統領が側近を後継候補に指名するや否や、プーチンはレームダックになります。
ゆえにプーチン大統領にとり「プーチン後継はプーチン」以外の選択肢は存在せず、早晩立候補宣言して、死ぬまで権力の座にしがみ付いていることでしょう。
その結果、ロシアの対中資源植民地化が進み、ロシアは大きな北朝鮮になる可能性大と予測します。
●ウクライナ戦争を口実に…日本の軍事力が大幅に増強されている 11/19
ロシアのウクライナ侵略を契機として、日本がまるで待っていたかのように本格的な軍事力増強に乗り出している。これまでも日本の軍事力は、自衛隊といいつつ韓国よりもはるかに先端兵器で武装したものだったが、ロシアの侵略戦争で軍事戦略が防御戦略から攻撃戦略に変わった。2022年末に決定された国家安全保障戦略が法律的な裏付けを得て、ブレーキのない軍事大国へと走り出している。武器システムを見ると、北朝鮮と中国東部を打撃できる射程1000キロ以上のミサイルを2024年から1000発保有すると決定した。第2次世界大戦以降、日本は射程数百キロの地対艦ミサイルは保有していたものの、全て防御用のミサイルだった。ところが今では全てが攻撃型のミサイルに変わるというのが特別な変化だ。軍国主義を放棄して相手が攻撃してきたときに防御用の対処をするという、いわゆる専守防衛戦略がなくなるのだ。あまりにも大きな歴史の変化が北東アジアで起きており、それも米国の同意の下、スピード感を持って進められている。
日本は、南部の大分県から北部の青森県に至るまで10棟の弾薬庫を建設し、2035年までに計130棟の弾薬貯蔵施設を造って持続可能な戦争への備えを推進する。もちろん、ここには米国のトマホーク巡航ミサイル1000発を分散配置する案も含まれている。そして来年には、陸海空の司令部が別々だったのを、防衛省のある市谷に陸海空統合司令部として創設する。日本と既に宇宙軍事同盟を結んでいる米国は、米宇宙軍司令部を日本に創設すると決定した。独自の衛星測位システムを持っている日本は、軍事用の偵察衛星も10基保有するまでになっており、米国と真の意味での宇宙軍事同盟だ。中国や北朝鮮などのミサイルが極超音速ミサイルに変化しているので、米国と日本はこれらのミサイルを破壊するためのミサイルを共同開発すると、今年8月の首脳会談で合意した。
日本は、世界的に類例のない弾頭交換型ミサイルも開発する方針を固めたが、これは必要に応じて弾頭を取り換えることができる。通常の攻撃型弾頭だけでなく、偵察用の高性能カメラを積んで広い範囲の状況を早期に把握できる偵察用弾頭、敵のレーダーを無力化する妨害用弾頭などだ。
世界最高の戦闘艦であるイージス艦を韓国は3隻持っているが、日本は計6隻だ。4万トンから5万トン級の中型航空母艦も2隻計画している。中国の潜水艦の「天敵」という対潜哨戒機も100機以上あり、独自開発したP1対潜哨戒機は航続距離が9000キロを超え、朝日新聞は「大東亜共栄圏」タイプの対潜哨戒機だと別名を付けたことがある(ママ)。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)が最も恐れる米国のF35ステルス戦闘機も、韓国の60機に対して日本は147機を保有することになっている。潜水艦戦力も、原子力潜水艦ではない潜水艦としては世界最高の性能を誇る「そうりゅう」型で武装しており、韓国の潜水艦が相手をするのは困難だ。
日本はまた、主に米国から輸入してきた武器類を国産化して独自生産し、国家主導で輸出にまい進することにしたという。国が主導するのは、第2次世界大戦で敗れて以降、初めてだ。中国に劣らぬもう一つの軍事大国・日本が、韓国の隣に登場しつつある現実を直視しなければならない。
●汚職に軍との“不協和音”も…ゼレンスキー大統領の内憂外患 11/19
ウクライナではロシアとの戦闘が長引くなか、ウクライナの調査会社が先月末に発表した世論調査では、政府や大統領への信頼度が低下。特に政府への信頼度は39%と、去年5月に比べてほぼ半減しました。
さらにゼレンスキー大統領と軍幹部との間に“不協和音”との指摘も。
国民の支持を得て戦ってきたゼレンスキー政権に何が起きているのか。今後の戦況に影響は?詳しくお伝えします。
ゼレンスキー大統領と軍幹部の間に“不協和音”
戦況の分析や見通しを巡ってゼレンスキー大統領と軍幹部との間で意見の食い違いが表面化し、不協和音が生じているのではないかという指摘も出ています。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は今月1日付けのイギリスの経済誌「エコノミスト」の寄稿やインタビュー記事の中で、戦況について「第1次世界大戦と同じように、こう着状態に陥る段階に達している」という認識を示しました。
これに対してゼレンスキー大統領は4日に行った記者会見で「皆、疲れているが、こう着状態ではない」と述べ、総司令官の見方を否定しました。
ゼレンスキー大統領は、今月3日のビデオ声明で、軍の特殊作戦を担当する司令官を新たに任命したと発表しましたが、地元メディアは、解任されたホレンコ前司令官が「理由は知らない。報道で知った」と不満を示したと伝えています。
英BBC “徴兵逃れで2万人近くが出国”
イギリスの公共放送BBCは17日、ウクライナからこれまでに2万人近くが徴兵を逃れるために国外に出国したことがわかったと伝えました。
川を泳いだり、夜間に徒歩で国境を越えたりして隣国のルーマニアなどに出国したとしていて、ほかにおよそ2万1千人が国外に逃れようとしてウクライナ当局に拘束されたということです。
ウクライナではロシアによる軍事侵攻以降、総動員令が出され、18歳から60歳の男性が徴兵の対象となり、原則、出国が禁じられています。しかし、徴兵を逃れるために賄賂を贈るなどの汚職も後を絶たず、兵員の確保も課題となっています。
汚職の問題が次々と…
ウクライナでは、一握りの政治家や実業家が利権を独占する政治構造が続いていて、2019年に行われた大統領選挙で政治経験のなかったゼレンスキー大統領がはじめて当選したのは、汚職に対する国民の不満も背景にあったとみられます。
しかし、ロシアによる侵攻を受けて欧米などからの軍事支援が続くなかでも汚職の問題が次々に明らかになりました。
ことし1月には、大統領府のティモシェンコ副長官など汚職の疑惑やスキャンダルが指摘されていた政府の要人が相次いで解任されました。
また、国防省による制服や食料の調達をめぐる汚職疑惑が伝えられる中、ことし9月、当時のレズニコフ国防相の交代が発表され事実上の更迭とみられています。
さらに、徴兵事務所の責任者が、市民などから賄賂を受け取る見返りに徴兵逃れを認めていたケースが後を絶たないとして、ことし8月、すべての州の徴兵責任者が解任されました。
世界各国の汚職を監視するNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表している世界の汚職に関するランキングでは、ウクライナは、去年(2022)180の国と地域のうち116位で、公的資金の運用などに透明性が求められています。(参考:日本18位・ロシア137位)
欧米諸国 汚職対策の強化を求める
こうした事態を受けてウクライナへの軍事支援を行っている欧米諸国は、ゼレンスキー政権に対して汚職対策の強化を求めています。
スロバキアのフィツォ首相は、先月、支援した資金が適切に使われるという保証が必要だと指摘するなどして、EUによる資金面での支援を支持しない姿勢を示しました。
アメリカのイエレン財務長官も先月、支援を必要な限り続けるとした上で、ゼレンスキー大統領に対し、汚職対策に力を入れるよう求めました。
ゼレンスキー大統領は今月4日、EUのフォンデアライエン委員長と行った会見で「ウクライナは改革を続ける。新たな法律を制定し、汚職防止のシステムを機能させる」と述べ、汚職対策に取り組んでいく姿勢を強調しました。
国防省のクリメンコフ副国防相も、今月開いた会見で「透明性が最も重要だ。欧米の基準に従う形で継続的な改善を進める」と述べました。
ウクライナ政府への信頼度が大幅低下 調査会社
こうした中、ウクライナの調査会社、キーウ国際社会学研究所が先月31日に発表した世論調査では、ゼレンスキー大統領を信頼していると回答した人は76%で、去年5月の91%から下落したほか、ウクライナ政府への信頼度は39%と、同じく74%から大幅に低下したことがわかり、相次ぐ汚職問題の発覚などが影響しているという見方も出ています。
また、ことし9月下旬から先月中旬にかけて行った世論調査で、ロシアとの戦い以外で何が問題か尋ねたところ「汚職」を挙げた人が63%と最も多くなりました。
さらに、別のシンクタンクがことし7月から8月にかけて行った世論調査では、回答した人の78%が「戦時下の政権や軍部の汚職の直接的な責任は大統領にある」と回答しました。
シンクタンクの責任者は地元メディアに対して「この数字は警告であると同時に『汚職対策をやれば支える』という励ましでもある」とコメントしていて、ゼレンスキー大統領にとって汚職との戦いは喫緊の課題となっています。
大統領選候補者 対決姿勢を鮮明に
一方、ウクライナのメディアは、来年の春に大統領選挙が実施される場合、大統領府の元顧問のアレストビッチ氏が立候補する意向だと報じました。
アレストビッチ氏は、ウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟と引き換えにロシアによるウクライナの領土の占領を事実上認める内容の主張を展開していて、すべての領土の奪還を訴えるゼレンスキー大統領との対決姿勢を鮮明にしています。
政治ジャーナリスト「二人三脚の非常に強力な体制」
おととし(2021年)ゼレンスキー大統領の評伝「ゼレンスキーの素顔」を執筆したウクライナの政治ジャーナリスト、セルヒー・ルデンコ氏は、先月下旬、ウクライナ西部のリビウでNHKのインタビューに応じました。
この中でルデンコ氏は、ゼレンスキー大統領の政権運営について「大統領は成長し、変化している。人の異動を行わずして前進することは不可能だと考えている。政権は非常に強力だ」と述べ、戦況や政治状況に応じて人事の刷新もいとわない戦時下の非常体制を敷いていると指摘しました。
その上で「最初からチームにいたイエルマク大統領府長官が指導的な立場にある。ゼレンスキー氏のことを本人よりも知っているとも言われる人物で、大統領と同じぐらいの影響力を持っている。政治的な『タンデム』を誰が形成しているかは明らかだ」と述べ、政権は、ゼレンスキー大統領とイエルマク大統領府長官による「タンデム」とも呼ばれる二人三脚の体制だと明らかにしました。
また、ロシアとどう対じしていくのかについては「ゼレンスキー氏はロシアに妥協しないと思う。民意に反して妥協することは政治的なキャリアと、人間としての将来に終止符を打つことになる」と述べ、プーチン政権との間で停戦交渉を行う可能性は低いという見方を示しました。
一方、ルデンコ氏は、欧米などから巨額の軍事支援を受けるなか、国防省などで汚職の問題が明らかになっていることについて「最重要のトピックのひとつだ。汚職官僚が国全体に行っている内部戦争でもある。ウクライナを助けたいと思っている西側諸国は、援助した資金が盗まれない公正な国であってほしいと望んでいる。大統領は努力をすべきだ」と述べ、各国からの軍事支援を受け続けるためには汚職の問題を早急に解決すべきだと指摘しました。
【記者解説】首都・キーウの横川浩士記者
ゼレンスキー大統領と軍との不協和音や国民の不信感の高まり、戦況に影響はあるのか?
(横川記者)現時点では直接的な影響はないとみられる。ただ、大統領と軍の隙間にロシア側がつけ込み、揺さぶりをかけようとする動きも見られる。さらにただでさえウクライナへの支援疲れが指摘されるなかで汚職がはびこったままだと欧米からの支援の継続にも影響しかねない。
再び求心力を高めるために何が必要か?
(横川記者)汚職対策で成果をあげることが極めて重要。各国からの信頼を取り戻し、必要な兵器の供与や兵士の訓練を進め戦況を好転させていく、そんな機運を高めていくことが大事だ。
信頼度が低下しているとのことだが、国民はついて行く?
(横川記者)国民は、ウクライナ国内の結束の乱れは、ロシアを利することになると分かっている。政権にとっては辛口の調査結果を出しているシンクタンクも「改善策を進めよ、という励ましでもある」とコメントしている。ロシアに勝利して戦争を終わらせるーウクライナの人たちの思いが揺らぐことはない。
●“ウクライナから徴兵逃れで2万人近くが出国” 英BBC 11/19
ロシア軍はウクライナの各地で無人機などを使い、インフラ施設をねらった攻撃を続けています。一方、イギリスの公共放送BBCは、ウクライナからこれまでに2万人近くが徴兵を逃れるために国外に出国したと伝えました。
ウクライナ空軍は18日、ロシア軍が無人機あわせて38機で各地への攻撃を仕掛け、このうち29機を撃墜したと発表しました。
ただ、南部オデーサ州ではエネルギーのインフラ施設が無人機による攻撃を受けて火災が発生し、1人がケガをしたと地元当局が発表するなど、インフラ施設をねらったロシア軍の攻撃が続いています。
イギリス国防省は18日、この1週間でウクライナでは東部のクピヤンシクとアウディーイウカ、そして南部ヘルソン州のドニプロ川の東岸など3つの前線で激しい地上戦が起きていると指摘しました。
そのうえで「東部では本格的な冬の到来に伴い、戦線に大きな変化が生じる見通しは当面なさそうだ」と、こう着状態になる可能性も示しました。
こうした中、イギリスの公共放送BBCは17日、ウクライナからこれまでに2万人近くが徴兵を逃れるために国外に出国したことがわかったと伝えました。
川を泳いだり、夜間に徒歩で国境を越えたりして隣国のルーマニアなどに出国したとしていて、ほかにおよそ2万1千人が国外に逃れようとしてウクライナ当局に拘束されたということです。
ウクライナではロシアによる軍事侵攻以降、総動員令が出され、18歳から60歳の男性が徴兵の対象となり、原則、出国が禁じられています。
しかし、侵攻が長期化する中、徴兵を逃れるために賄賂を贈るなどの汚職も後を絶たず社会問題となっていて、兵員の確保も課題となっています。
●ウクライナ侵攻明記に中ロ難色 APEC首脳宣言で言及せず―米高官 11/19
米政府高官は17日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で採択された首脳宣言にロシアのウクライナ侵攻が盛り込まれなかった理由について、「ロシアと中国の参加を踏まえると、合意に至るのは難しかった」と述べ、中ロが難色を示したと批判した。時事通信の取材に語った。
高官は「(中ロは)こうした会議を利用して、非常に重要な問題から注意をそらそうとしてきた」と指摘。ウクライナ侵攻がアジア太平洋地域を含む世界の経済に影響を及ぼしていることから、大半のAPECメンバーは侵攻に関する議論に言及することが重要だと感じていたと説明した。
首脳会議を受けて議長国の米国は、宣言とは別に「ほとんどのメンバーがウクライナ侵略を強く非難した」と明記した議長声明を発表した。議長国の権限でまとめることができる議長声明は、人道状況の悪化が続くパレスチナ自治区ガザ情勢を巡る議論にも言及し「一部の首脳は首脳宣言に盛り込むことに反対した」と記したが、この経緯について高官は説明しなかった。  
●G20、22日にオンラインで首脳会議 ロシア大統領参加 11/19
20カ国・地域(G20)の議長国を務めるインド政府は19日までに、オンライン形式のG20首脳会議を22日に開催すると発表した。正式加盟が決まったアフリカ連合(AU)を含む全加盟国の首脳が参加するという。ロシア国営テレビもプーチン大統領が参加予定だと伝えた。
9月のG20首脳会議の成果を踏まえた今後の方針を議論する。今月17日に実施した新興・途上国の首脳らによる「グローバルサウスの声サミット」の内容も共有する方針。
プーチン氏は9月の首脳会議にラブロフ外相を派遣し、自身の出席は見送った。
インドは11月末までG20議長国で、以降はブラジルが担う。
●政権批判の元大佐出馬意向 露次期大統領選 11/19
ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻作戦を「消極的」などと批判、7月に拘束されたイーゴリ・ストレルコフ連邦保安局(FSB)元大佐が18日、来年3月に予定される次期大統領選に立候補する意向を明らかにした。ネットメディア「フォンタンカ」などが伝えた。
ただ「過激な言動」を理由に逮捕・起訴され公判中で、実際の立候補は困難とみられる。
ストレルコフ氏は自身の政治組織「ロシア・ストレルコフ運動」が18日に開いた大会に寄せた書簡で、大統領選に無所属で出馬する意思を表明。届け出に必要な有権者の署名集めを始めるよう求めた。
ストレルコフ氏は本名イーゴリ・ギルキン。2014年にウクライナ東部ドネツク州で独立を宣言した親ロ派「ドネツク人民共和国」で一時国防相を務めた。
●ロシア軍、電力インフラ攻撃 3地点で激しい地上戦と英分析 11/19
ロシア軍は18日、ウクライナ南部オデッサ州の電力インフラ施設を無人機で攻撃した。石油貯蔵所が被害を受けたほか、送電線が損傷し停電が発生。州政府によると、約2千世帯に影響した。気温が氷点下となるなど厳しい冬が迫る中、ウクライナは電力インフラへの攻撃が続くことを警戒している。
英国防省は18日の戦況分析で、この1週間で、東部ハリコフ州クピャンスク方面と東部ドネツク州アブデーフカ周辺、南部ヘルソン州のドニエプル川東岸の3地点で激しい地上戦になったと指摘した。いずれも実質的な進展はなく、特に東部では冬の寒さが本格化すれば、戦況は膠着するとの見方を示した。

 

●プーチン大統領「アイヌはロシアの先住民族」差別理由に北海道侵攻!? 11/20
江戸幕府は、ロシアの脅威に応じて、蝦夷地(現北海道)や樺太、千島を、松前藩統治と幕府直轄統治で、わが領土として防衛、交渉してきた。同時に領土確定に必要な地図作製も幕府は怠っていない。
1644年の「正保日本御絵図」には、松前藩が自国領とした蝦夷地・樺太・千島が含まれていることをすでに説明したが、1790年には最上徳内が、1802年には近藤重蔵が、蝦夷地・樺太・千島のより実態に近い日本図を作製した。
さらに、幕府の命を受けた北方探検家、間宮林蔵は樺太が島であると確認し、伊能忠敬の蝦夷地未測量地を再測量した。忠敬の21年の「大日本輿地全図」完成に寄与している。
このように、江戸幕府が懸命に守ってきた蝦夷地・樺太・千島のうち、すでに樺太・千島が奪われ、残る蝦夷地も「アイヌのもの」を理由に奪われる恐れが指摘されている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2018年12月、モスクワで開かれた人権評議会で、アイヌを「ロシアの先住民族」に認定する考えを示した。これは日本の国会決議「アイヌ先住民族決議」を逆手にとった動きと見られ、警戒すべきだ。
ロシアは昨年2月、「ロシア系住民の保護」などを口実に、ウクライナに軍事侵攻した。プーチン発言は、ロシアの北海道侵攻に利用されかねない。ロシアのオンラインメディア「レグナム通信」は同年4月、セルゲイ・ミロノフ下院副議長の「一部の専門家によると、ロシアは北海道にすべての権利を有している」との発言を報じている。
今回の連載第1回で、私は北海道の歴史年表で、江戸時代の蝦夷地が「アイヌ時代」となっていることを指摘した。一部の教科書は「明治以後の開拓で、アイヌの文化、言葉を奪い差別してきた」という趣旨を広めている。
北海道開拓記念館は、道立アイヌ民族文化研究センターと統合してアイヌ史観の北海道博物館に変更されている。そして今、開拓百年を記念し道民の浄財で建てた北海道百年記念塔も解体された。
いずれも、高橋はるみ前知事(現自民党参院議員)時代に方針が出された。反対する道民の声に耳を傾けることなく、北海道知事、道庁、道議会自らが開拓の歴史を抹殺しようとしている。
これでは、ロシアが「差別されているロシアの先住民族アイヌを救う」と北海道を侵略してきても、反論すらできない。恐ろしい事態が進行している。
私は「江戸幕府の北方防衛」の事実を、国民共有の知識にしなければならないと強く感じている。北海道の歴史年表や教科書、副読本の間違いを修正し、北海道を奪取しようとする勢力の撃退の実現が急がれるのである。
●ウクライナ南部で停電、ロシア軍がエネルギー施設を破壊… 11/20
ウクライナ空軍は19日、ロシア軍がキーウや中部ポルタワ州などを無人機20機で攻撃したのに対し、15機を迎撃したと発表した。ロイター通信によると、中部チェルカーシ州で数軒の住宅が損壊した。キーウなどへの無人機攻撃は2日連続となった。
前日の18日未明の攻撃では、南部オデーサ州のエネルギー関連施設が被害を受け、1人が負傷したほか、同州や南部ザポリージャ州などで停電が発生した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日のビデオ演説で、「冬が近づくにつれ、ロシアの攻撃はより強力になるだろう」と警戒を呼びかけた。
一方、タス通信の19日の報道によると、露国防省はウクライナが発射したミサイル2発と無人機31機を迎撃したと主張した。
● ウクライナ軍 引き続き東岸地域で作戦展開 11/20
ロシアからの領土の奪還を目指すウクライナ軍は、南部ヘルソン州のドニプロ川東岸で、ロシア軍を3キロから8キロにわたって退却させたとして、引き続き東岸地域での作戦を展開する方針です。
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、東部ハルキウ州のクピヤンシクとドネツク州のアウディーイウカ、そして南部ヘルソン州のドニプロ川東岸など、3つの前線で激しい地上戦となっているとみられます。
このうちドニプロ川東岸の前線について、ウクライナ軍の南部司令部の報道官は19日、地元メディアに対し、ロシア軍を3キロから8キロにわたって退却させたと主張しました。
その上で「一定の成果があったが、多くのロシア軍の部隊が東岸にとどまっている。やるべきことはまだたくさんある」として、引き続きロシア側に占領されている東岸地域での作戦を展開し、領土の奪還を進める考えを示しました。
一方、ヘルソン州内の住宅地に向けて19日の午前中にロシア側から攻撃があり、地元の知事は3歳の子どもを含む5人がけがをしたとSNSに投稿しました。
午後に入ってからも激しい攻撃が続いているとして、住民に警戒を呼びかけたということです。
こうした中、イギリス国防省は19日、ロシアが旧ソビエト時代に開発された高度2万メートル以上まで飛ぶことができる高高度偵察機を軍事利用しようとしていると指摘しました。
この偵察機は、いまは学術目的で利用されているということですが、軍事用の偵察機器を搭載していることが確認されたとしています。
イギリス国防省は、ロシア側は目標の位置の正確な監視や、偵察能力が欠けているとしたうえで、この偵察機を投入することで、こうした能力を高めようとしていると分析しています。
●ウクライナ国境でトラック3000台立ち往生、ポーランド運転手が封鎖 11/20
ウクライナ当局によると、ポーランドのトラック運転手による道路封鎖が原因で、両国国境のポーランド側で19日、燃料や人道支援物資などを運ぶウクライナ行きのトラック約3000台が立ち往生した。
ポーランドのトラック運転手らは、今月に入ってウクライとの国境検問所3カ所につながる道路を封鎖し、ロシアのウクライナ侵攻開始以降、事業機会を海外の競合社に奪われている問題に対する政府の無策に抗議している。
ウクライナ政府の当局者らは先週、ポーランド政府と抗議阻止に向けた合意がまとまらなかったと明らかにしていた。
ウクライナのクブラコフ副首相は短文投稿サイトX(旧ツイッター)で、ウクライナの運転手がポーランドとの国境地帯で10日以上も立ち往生していると指摘。何千人もの人々が限られた食料、水、燃料により困難を強いられているとした。
ロイターは、この報告を独自に確認できていない。
ポーランド通信(PAP)は、ポーランドとウクライナの間で最も交通量の多いメディカ検問所も今週初めから封鎖される可能性があると週末に報じた。そうなれば、両国国境の検問所の半分で交通が封鎖されることになる。
●ゼレンスキー大統領、医療部門の司令官交代 更迭か 11/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日の声明で、軍の医療部門を統括するオスタシチェンコ司令官を交代させたと発表した。ウメロフ国防相の要請に基づく交代としている。ウクライナメディアは更迭と報じた。
ゼレンスキー氏は「兵士らに対する新しいレベルの医療支援が必要になっている」「早急な変化が求められている」と述べたが、交代理由は明確にしなかった。ゼレンスキー氏は11月3日には、特殊作戦軍の司令官交代を発表していた。
南部ヘルソン州知事によると、ヘルソン市の住宅地に19日、ロシアの攻撃があり、3歳の幼児を含む5人が負傷した。ウクライナ軍は19日、ヘルソン州のドニエプル川の渡河作戦で東岸に築いた拠点を維持し、ロシア軍への攻撃を継続していると発表した。
ウクライナメディアによると、南東部マリウポリから昨年、ロシアに連行された少年(18)が自身の誕生日の19日、帰国した。国連児童基金(ユニセフ)と中東カタールが仲介した。ウクライナはこれまでに、ロシアに連行された子ども約2万人の身元を特定した。帰還した子どもは約400人にとどまる。 
●ロシア大統領選の投票日 初の3日間に 選挙の正当性を担保する狙いか 11/20
ロシアで来年3月に行われる大統領選の投票日が、これまでの1日ではなく3日間行われる見通しになった。
ロシアメディアによると、ロシア中央選挙管理委員会のパムフィロワ委員長が、大統領選は2024年3月15日から17日までの3日間の投票日を設けると明らかにした。
パムフィロワ委員長の発言は、16日から18日まで、モスクワ郊外で開かれた選挙管理委員会関係者とのセミナーであったという。
前回の2018年の大統領選の投票日は1日だけで、ロシアメディアによると、大統領選の投票日が3日間となるのは初めて。
投票日を3日間にした理由は明らかになっていないが、ロシアメディアは「ロシア大統領府のキリエンコ第一副長官やパムフィロワ委員長は、最も重要なことは正当性だと何度も強調していた」とする情報筋の話を伝えていて、国民の投票機会を長く設けることで、選挙の正当性を担保する狙いがプーチン政権にあるとみられる。
また、7割近い得票率で圧勝した前回同様の結果を手にしたい思惑もあるとみられている。
●プーチン大統領死亡!? ロシアは火消しに躍起も国民の不信感SNSで広がる 11/20
ウクライナ侵攻で苦戦を強いられながらも国内で圧倒的な人気を誇り、来年3月の大統領選で通算5期目の当選が確実視されているプーチン大統領。その同氏を巡り「死亡説」がSNSを中心に広がっている。
情報の発信元は「SVR将軍」と名乗る匿名人物。秘匿性が高いことで知られる通信アプリ『テレグラム』で発信され、それによるとプーチン氏は10月22日夜に心臓発作で倒れ、26日夜にロシア北西部バルダイの公邸で死亡したという。
「『SVR』はロシア対外情報局の意味で、発信者は政権内部の関係者から情報を得て国外から発信している退役将官とみられている。この人物は以前にもロシア当局の情報をリークしたことがあるが、今回はプーチン氏の死亡ばかりか、11月4日にモスクワの赤の広場に姿を現したのは3人いる影武者の1人だと暴露しているのです」(全国紙外信部記者)
ただ、これは荒唐無稽な話ではない。2020年のインタビューでプーチン氏は「過去に影武者の使用を提案されたが、拒否した」と話したことがある。また、米ニューヨーク・タイムズは今春、プーチン氏が化学療法を受けていると報道。がんやパーキンソン病などのウワサも根強いからだ。
国民は不信感を強め…
ウクライナ国防省の報道官は、この死亡説を浮足立った行動に出る者をあぶり出すためにロシア当局が流した情報との見方を示唆したが、当のロシアは火消しに躍起。大統領報道官が「虚報だ。プーチン大統領は健康だ」と全面否定したほどなのだ。
「もっとも、それが『ロシア当局は真実を伝えていない』と国民の不信感を強めている。プーチン氏が健在だと強調すればするほど、逆に疑念が広がっているのです。そのためか、現在ロシアでは『プーチン 死亡』という単語でネット検索する人が爆発的に増えている。国民も情報の真偽に注目しているのです」(大手紙外信部デスク)
死亡説の真偽は不明だが、もしもこれがウクライナ側が仕掛けた陰謀≠ネら、その効果は絶大だったといえそうだ。
●ロシア軍、冬季攻勢で疲弊したウクライナに襲いかかる備え── 11/20
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、国民の戦争疲れが見える中、厳しい冬を前にロシアがまもなく「さらに強力な」攻撃を開始するとの見通しを示した。
ゼレンスキーは11月18日の演説で「冬が近づく中、ロシアはさらに強力な攻撃を増やしてくるだろう」と述べた。
「ウクライナにいるわれわれ皆が100%、実戦能力をもつことが欠かせない」と彼は述べた。「あらゆる困難やあらゆる疲れ、ウクライナを弱体化させようというあらゆる試みにも関わらずだ」
2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻で、ロシアはミサイルや無人機による攻撃を続けてきた。2022年の秋から冬にかけては、ウクライナのエネルギー関連施設を標的にした攻撃が行われた。今年も同じ戦術が採られるとみられている。
「ここ数カ月、ロシアはミサイルをあまり使ってこなかった。そこそこの量の備蓄ができているはずだ」と、ハーグ戦略研究所(HCSS)の戦略アナリスト、フレデリク・メルテンスは10月下旬、本誌に語っていた。「標的として最も筋が通るのは、ウクライナのエネルギー関連インフラだろう。そしてタイミングとして最も筋が通るのは、エネルギーが最も必要とされる冬だ」
クリミアにミサイル備蓄
11月に入ってゼレンスキーは、ウクライナ国民に対し「敵がわが国のインフラに対する無人機やミサイルの攻撃を増やすかも知れないという事実」に備えるべきだと呼びかけている。
「ここウクライナでは、すべての注意は防衛に向けられるべきだ」と、ゼレンスキーは12日、防空システムの重要性を強調した。ゼレンスキーは以前から、ウクライナは攻撃から身を守るだけでなく「対応する」と述べてきた。
ウクライナの複数の高官も、冬期にウクライナ国内のエネルギー関連施設に向けて攻撃を行うため、ロシアは800発のミサイルをクリミア半島に備蓄しているとの見方を示している。
ウクライナ軍の報道官によれば、ロシア軍はクリミア半島で艦船発射型の巡航ミサイル「カリブル」や、対艦巡航ミサイル「オニキス」の備蓄を増やしているという。16日に国内メディアが伝えたところでは、この報道官はロシアが「明らかにミサイル能力を増強している」と述べたという。
19日、ウクライナ軍の幕僚はロシアが前夜、ウクライナに向けて飛ばした自爆型無人機(ドローン)を多数、補足したと明らかにした。イラン製の無人機「シャヘド」で、防空システムが20機のうち15機を破壊したという。
その前の24時間でロシアはウクライナに対し、7発のミサイルを発射するとともに76回の空爆を行ったと、ウクライナ軍は声明で述べた。また各地で150を超える集落が砲撃を受けたとウクライナ政府は明らかにした。
とりわけ首都キーウを標的としたドローン攻撃は19日、20日の2日に渡って続き、激しさを増していると、地元メディアは報じた。

 

●ガザ混乱に乗じるプーチン氏、反欧米色鮮明に「影響力強化」狙う 11/21
イスラエルに対するイスラム組織ハマスの奇襲攻撃で多くの犠牲者が出たのは、ロシアのプーチン大統領の71歳の誕生日だった。同大統領がコメントしたのは事件の3日後、非難の矛先はハマスではなく米国だった。
プーチン氏はイラクのスダニ首相に対し、「中東和平プロセスを独占しようと試みた米国の、中東政策の失敗の実例であることに多くの人が同意すると思う」と語った。
プーチン氏がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、約1200人のイスラエル国民の死に対し哀悼の意を示したのは、さらに6日後だった。その10日後、ロシアはハマスの代表団が協議のためモスクワを訪れていることを明らかにした。
ロシア、西側諸国の政策専門家によれば、プーチン氏はイスラエルの対ハマス戦争を利用して、西側諸国に対する「存亡を賭けた戦い」と称するものをエスカレートさせようとしているという。目指すのは、米国の優位に代えて、すでに誕生しつつあると同氏が考える多極的システムに移行する新世界秩序だ。
元ロシア政府顧問のセルゲイ・マルコフ氏は、「米国・欧州はイスラエルを全面的に支持しているが、米欧は今や悪の象徴になっており、どうしても正義になりえないというのがロシアの理解だ」と自らのブログに投稿し、プーチン氏には米欧とは別の立場を打ち出す必要があると説明する。
「したがって、ロシアは米欧と同じ立場には立たない。イスラエルにとって最も重要な同盟国は、当面ロシアの主敵である米国だ。そしてハマスは、ロシアの盟邦であるイランと手を結んでいる」
ロシア政府はますますイラン政府との関係を強化している。イラン政府はハマスを支持し、米政府は、ロシアがウクライナとの苛酷な消耗戦で運用しているドローン(無人機)はイランからの供給によるものだとして、イラン政府を非難している。
ベルリンで活動するロシア外交政策の専門家ハンナ・ノッテ氏は、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターに対して、ロシアはかつてのようなバランス重視の中東政策をすでに捨てており、「露骨にパレスチナ寄りの立場」を採用している、と語った。
「ロシアはこうした政策全般を進めるなかで、中東全域の、そしてもっと広くグローバルサウスの人々が抱くパレスチナ問題に対する意見に寄り添っていることを理解している。こうした地域ではパレスチナ側の主張が共感を呼んでいるからだ」とノッテ氏は指摘する。
米国の影響力を低下させる新世界秩序へと突き進んでいく中でプーチン氏が獲得したいと思っているのは、まさにこうした地域の人々からの支持だ。
「ロシアが今回のガザ危機を利用する際に一番重要なのは、グローバル世論という法廷において得点を重ねることだ」とノッテ氏は言う。
プーチン氏はこれまでに、「(ガザにおける)苦悩と血塗れの子どもたちを見れば、誰もが拳を握りしめ、目に涙を浮かべる」と語っている。
米欧の「ダブルスタンダード」を批判
ロシアの政治家は、米国政府がイスラエルによるガザ空爆を無条件に認める一方で、ロシアによるウクライナ侵攻に懲罰的な対応を取るという姿勢を指摘する。ウクライナでは多数の民間人が殺害されているが、ロシア政府は意図的に市民を標的にすることはないと弁明している。
イスラエルの国連大使は、ウクライナにおける所業を考えれば、ロシアは他国に何か説教できる立場にはないと述べている。
だがロシアのアレクセイ・プシュコフ上院議員は、西側諸国は、私利私益に基づく政治的な好き嫌いをもとに相手国によって扱いを変えるダブルスタンダードぶりを自ら露呈するという落とし穴にはまった、と指摘する。
「米国と西側諸国は異口同音にイスラエルの行動を支持したが、アラブ世界やグローバルサウス全域から見れば、それによって西側諸国の外交政策は手痛い一撃を受けた」とプシュコフ上院議員は通信アプリ「テレグラム」に投稿している。
またマルコフ元ロシア政府顧問は、ロシアは今回の危機について、あらゆる当事者とのルートを持つ有力な和平仲介者として振る舞うことで、中東地域における存在感を増大させるチャンスだと捉えているという。
ロシア政府は中東諸国外相会議の開催を呼びかけており、プーチン氏は、ロシアには支援の用意ができていると述べている。
プーチン氏は10月、アラブのテレビ局に対して、「私たちはイスラエルとの間にとても安定した実務的な関係を維持しているし、パレスチナとも数十年にわたる友好関係があり、私たちの友人たちはこれを承知している。私としては、ロシアは和平プロセスにも独自の貢献をなしうると考えている」と語った。
マルコフ氏は、経済面でも潜在的なメリットがあると指摘し、西側の財政的・軍事的リソースがウクライナから逸らされることもありがたい副産物だと続ける。
「この戦争による原油価格の上昇もロシアにとっては有利だ」とマルコフ氏は言う。「(さらに)米国とEUがリソースを投じなければならない紛争が生じればロシアの利益になる。ウクライナの反ロシア体制を支えるリソースがそれだけ減るわけだから」
対イスラエル関係は悪化
一方で、これまで緊密で実用主義的だったロシアとイスラエルの関係は悪化しつつある。
10月7日のハマスによる攻撃から2週間も経たない時点でハマスの代表団を受け入れたロシアに怒ったイスラエルは、ロシアのアナトリー・ビクトロフ駐イスラエル大使を呼び出し、「テロを正当化するメッセージ」を送ったとして抗議した。
不満はお互いにある。イスラエルのアレクサンダー・ベン・ツビ駐ロシア大使も少なくとも2回、ロシア外務省との協議に呼び出されており、ロシアの国連代表がイスラエルの自衛権の範囲について疑問を呈したことを受けて、両国の代表団のあいだでは厳しい言葉が飛び交っている。
ロシアの外務副大臣の1人であるミハイル・ボグダノフ氏によれば、イスラエルはロシアの同盟国であるシリアに対する空爆を行うときは事前にロシア政府に警告するのが習慣だったが、これを取りやめているという。
イスラエルの閣僚がガザに対する核攻撃も選択肢の1つと示唆してその後停職処分となった件について、ロシアはそうした発言が「非常に多くの疑問」を呼び起こしたと述べている。
ネタニヤフ首相の与党リクードでリバタリアン系の派閥を率いるアミール・バイトマン氏は、イスラエルはいずれ、ロシア政府の姿勢に罰を与えるだろうと述べた。
バイトマン氏は10月、ロシア国営放送RTによるインタビューの中で、「私たちは(ハマスとの)戦争を終わらせようとしている。その後、ロシアは代償を払わなければならない」と述べた。
「ロシアはイスラエルの敵を支援している。私たちは彼らがやっていることを今後も忘れはしない。私たちはいずれ、ウクライナに勝利をもたらすことになる」
●ロシア、アルゼンチン次期大統領の発言に留意も良好な関係望む 11/21
ロシア大統領府(クレムリン)は20日、アルゼンチンの次期大統領ハビエル・ミレイ氏のロシアに関する発言に留意していると発表した。
ミレイ氏は19日投開票のアルゼンチン大統領選決選投票で56%近くの得票率を獲得。以前からロシア、中国、ブラジルを含む国々の政策に同意できないとして、これらの国々との関係を後退させると発言していたほか、ロシアと対立するウクライナへの支持を表明し、米国およびイスラエルをアルゼンチンの主要なパートナー国と見ていると述べた。
こうした中、クレムリンのペスコフ報道官は記者団に対し、「われわれはミレイ氏が選挙期間中に行った多くの発言に注目しているが、主に就任後の発言に注目し判断する」と指摘。「われわれはアルゼンチンとの二国間関係の発展を支持する」とした。
クレムリンのウェブサイトに掲載された声明によれば、プーチン大統領はミレイ氏に祝意を示したという。
●「偽物選挙の妨害くらいはできる」 プーチン批判で投獄された軍事ブロガー 11/21
ロシアでプーチン大統領を批判し、過激主義を扇動した容疑で逮捕・拘禁されているロシアの有名軍事ブロガー、イーゴリ・ギルキン氏が来年3月に予定されているロシア大統領選挙に出馬する意向を表明した。
ギルキン氏自ら19日(現地時間)にテレグラムを通じて支持者に「選挙に出馬する。今のロシアの現状で大統領選挙に出馬することは、詐欺師によるカードゲームのテーブルに座るようなものと完全に理解している」「候補者としてテーブルに座ることもできないだろう(とも知っている)」などと伝えた。ロイター通信やBBC放送などが同日報じた。
ギルキン氏は出馬を宣言した理由について「来年3月の大統領選挙はすでに当選者が決まっている『虚偽』選挙になることは分かっているが、ばかげた選挙をやろうとするクレムリンの計画を妨害くらいはできるだろう」と説明した。ギルキン氏は支持者らが自分を候補者とするため署名を集める行動を起こしたことだけでも「愛国勢力が結集する機会になる」として「外部と内部の脅威に対抗し団結できる私たちの機会だ」と呼びかけた。
ロシアの大統領選挙に関する法律によると、無所属で大統領選挙に出馬するには最低500人以上の署名を集め、候補者として推薦を受けねばならない。「ストレルコフ(ギルキン氏の別名)を支持するロシア運動」の共同議長を務めるオレグ・ネルジン氏は先日テレグラムを通じ「ギルキンを3月の選挙に出馬させる作業を開始するよう支持者らに求める」と呼びかけた。
支持者らはロイター通信の取材に「ギルキン氏に対する捜査が来月18日まで延長された」とする一方「ギルキン氏はまだ有罪の判決を受けていないため、理論的には世論調査に参加できる」と主張している。ロシアの日刊紙コメルサントは「ロシアでは刑事事件の被告人も大統領候補として指名を受けることはできるが、有罪が宣告されれば選挙運動はできない」と伝えた。
ギルキン氏はロシア連邦保安局(FSB)元大佐で、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合した際には大きな役割を果たした。最近はロシアの民族主義的な軍事ブロガーとして活動を続けている。ギルキン氏は昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始してからはロシアの戦術を批判し「プーチン大統領が指名したロシア軍首脳らがウクライナでより効果的に戦争を行わなければ、ロシアは革命はもちろん内戦にも発展しかねない」と何度も警告してきた。
ギルキン氏は今年7月にロシア連邦刑法282条(過激主義活動)により逮捕された。これはギルキン氏がプーチン大統領を「役立たずの臆病者」と批判し、権力の座から下りるよう公開批判してから3日後のことだった。この容疑で有罪となった場合、最大で5年の懲役刑となる可能性もある。
ロシアの大統領選挙は来年3月に行われるが、プーチン大統領は現時点で出馬を明言していない。2000年に大統領となったプーチン大統領は08−12年に首相となった4年を除いて今に至るまで大統領を続けている。プーチン大統領が来年3月に大統領選挙に出馬し当選すれば、任期は30年まで続く。ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日「プーチン大統領が来年3月の大統領選挙に出馬し、大統領としての任期をさらに続けることを希望している」と述べた。
●北方領土・択捉島とロシア本土結ぶ旅客便、露航空会社が運航開始へ… 11/21
ロシアのオーロラ航空は20日、露極東ウラジオストクと北方領土・択捉島の紗那(ロシア名クリリスク)とを結ぶ旅客便の運航を、12月6日から始めると発表し、航空券の販売を開始した。同社は露サハリン州ユジノサハリンスクと紗那を結ぶ便を運航中だが、露本土にも路線を拡大する。
発表によると、旅客便は週1往復。機体は「ボンバルディアDHC8―Q400」で客席数は70。料金は片道2000ルーブル(約3300円)から。ロシア政府の補助金を利用して運航するという。
プーチン政権は北方領土を含む極東の開発を重視しており、旅客便は近年増加するロシア人観光客向けとみられる。北方領土を「自国領」として既成事実化を図り、実効支配を強める狙いもありそうだ。
●ウクライナ総司令官「戦況は膠着」発言の真相 11/21
ウクライナでは2023年11月に入り、突然、軍制服組トップから「戦況膠着論」とも受け取れる発言が飛び出した。西側メディアからも反転攻勢の行方に悲観的な論調も出始めるなど、さまざまな動きや臆測で一気にざわついた。
実際に何があったのか。そして今後の反攻作戦は来年に向け、どのような方向に向かうのか。深掘りしてみた。
戦争の長期化を避ける5つの優先課題
「いったい何が言いたいのか」。11月初め、日頃、ウクライナ情勢を追っている内外ウォッチャーたちやキーウ駐在の各国外交官が目を皿のようにして、ある記事を読んだ。ウクライナ軍のザルジニー総司令官が11月1日付のイギリスの『エコノミスト』誌で公表した見解である。会見とエッセイの2つからなる見解の骨格的概要は以下の通りだ。
1. 両国軍の戦力が拮抗してきたため、ウクライナ軍の反攻は計画通り進んでいない。このままでは戦況が第1次世界大戦のような数年越しの「陣地戦」に陥る恐れがある。戦争の長期化は、国力で勝るロシアを利する。
2. これを避けるためには5つの優先課題がある。1地上戦を支援するための制空権確立、2ロシア軍が得意の電子戦を妨害する電子戦能力の向上、3ロシア軍の火砲能力を圧倒できる砲撃能力、4ロシア軍が敷設した広大な地雷原を克服できる駆除・探知能力、5予備兵力の準備態勢確立、である。
この見解はウクライナ内外で大きな波紋を呼んだ。2023年6月初めに始まった反攻について、軍制服組トップがまるで膠着状態に陥ったと宣言したかのようにも読めたからだ。
折から、ウクライナ軍は2023年9月以降、司令部を含め黒海艦隊がある南部クリミア半島に波状的な攻撃を開始し、東部・南部に続いてクリミア半島に第3の戦線を開くことに成功したばかりだった(詳しくは「クリミア攻撃の本格化で募るプーチンの憂鬱」参照)。
東部・南部でも目立った戦果はないものの、激しい戦闘が続いている。このように現実に戦況が動いている中、地上作戦に限ったものとはいえ、ザルジニー発言には多くのウォッチャーが戸惑った。筆者もその1人だ。
騒ぎはさらに拡大した。軍最高司令官でもあるゼレンスキー氏が2023年11月4日の記者会見で「膠着(こうちゃく)状態ではない」と述べ、ザルジニー氏の戦況分析を公の場で否定する形となった。
西側メディアでは大統領と総司令官の間で「対立」や「不協和音」が表面化したとの報道が出た。一般国民からはザルジニー見解に対し「反攻がうまくいっていないことの言い訳」との批判的反応も出たほどだ。
はたして、この時期に大統領とザルジニー氏は本当に戦況判断をめぐり対立しているのか。ザルジニー見解はそれを証明したものなのか。そこで、筆者はウクライナの軍事筋やその他のウクライナ人専門家の見解を集め、分析した。
結論から書こう。今回のザルジニー見解は、大統領と総司令官の間に根本的対立があることを反映したものではない。そもそも、ザルジニー氏は「膠着状態」に陥ったと断定していない。膠着状態を意味する「陣地戦」に近付いていると指摘しているだけだ。
ゼレンスキー氏が「膠着状態でない」と発言し、大統領府高官が見解の対外的公表に苦言を呈したことで、意に反して「対立」の印象を強めてしまったと筆者は判断している。
大統領批判・不満表出ではない
もちろん、政治指導者である非軍人のゼレンスキー氏とザルジニー氏の間で反転攻勢の戦略・戦術をめぐり、何らかの意見の違いがある可能性は大いにある。その前例はある。今なお激戦地になっている東部ドネツク州の要衝バフムト防衛などだ。
軍事的価値はないので撤退もやむなしと見ていた軍部に対し、ゼレンスキー氏が政治的観点から死守を命じたため、結果的に今もウクライナ軍は多くの兵力を失う羽目になってしまっているのは事実だ。当時、軍部に不満はあった。
しかし、今回の見解発表に限って言えば、ザルジニー氏の真意は、大統領批判でも不満表出でもなかった。戦争長期化を回避し勝利するために、ウクライナ政府内や米欧に対し、先述した5つの弱点克服が喫緊の課題だとアピールし、米欧などに武器支援の質量両面での拡充を求めたものにすぎなかった。
さまざまな臆測を招いたザルジニー見解について、真意を極めて的確に捉え、その意義を積極的に評価した人物がいる。有力な軍事専門家であるロマン・スビタン氏だ。
曰く「軍司令官は分析を求められたら、つねに回答を示さなければならない。その答えを示せない司令官は解任されるべきだ。司令官は打開策のメカニズムを提示しなくてはならない。その意味でザルジニー氏は的確に答えた。前向きな内容だ」と。
つまり、戦況が膠着化したという後ろ向きの報告ではなく、文字通り、今後の膠着回避に向けた打開策を示したという解釈だ。
そのスビタン氏の指摘通り、実はザルジニー氏は『エコノミスト』誌で公表される前に、ウクライナ政府に対し、この見解を打開策として提示していた。
その結果、重要な決定がなされたもようだ。膠着状態に陥る前に、ロシア軍に対し2023年11月以降の冬季に新たな大規模な攻勢を掛けるという戦略がひそかに採用された、と軍事筋は証言する。
その冬季攻勢の内容について、前述の軍事筋は以下のように明らかにした。
1ロシアが占領し続けている南部クリミア半島への軍事的圧力を高めるため、南部ヘルソン州との州境までウクライナ部隊が南下する、2黒海艦隊を含め、クリミア半島への攻撃をさらに拡大し、本格化させる、3苦戦が伝えられている南部ザポリージャ州でも要衝トクマクやメリトポリ方面への攻撃を強める、である。
1の南下作戦はすでに11月上旬に始まった。海兵隊と保安局部隊などの合同部隊が、ヘルソン州のドニエプル川西岸からロシアが実効支配する東岸へと渡河作戦を実施。装甲車両も運び入れた。11月17日には、複数の出撃拠点を確保したと発表した。
渡河開始当時、この渡河作戦の本当の狙いは不明だった。しかし同軍事筋は、州境まで南下を目指した作戦だと述べた。この地域には、ザポリージャ州でウクライナ軍の進軍を阻んでいる大規模な地雷原のようなものはないという。ロシア軍部隊も手薄だ。これは、ウクライナ軍の州境への南下作戦を警戒していなかったからだ。
いわばロシア軍の虚をついた作戦だ。ヘルソン州との州境に近い、クリミア半島北部の要衝アルミャンスクを目指しているとみられる。クリミア半島に続いて、ヘルソン州南部を第4の戦線にする戦略だろう。
ちなみに、ゼレンスキー大統領は11月初め、特殊作戦軍のホレンコ司令官を解任したが、この理由はホレンコ氏がこの南下作戦の実施に消極的だったと軍事筋は明らかにした。
2の今後のクリミア攻撃は、従来以上に大規模かつ、作戦範囲を広げたものになりそうだ。
大規模なクリミア攻撃を想定
クリミア半島南部のセバストポリに司令部を置く黒海艦隊は2023年9月以降のウクライナ軍による連続攻撃の結果、主要艦船の一部がロシア本土にある艦隊の別の拠点ノボロシースクに避難した。事実上の艦隊機能の喪失に近い状態に追い込まれている。
艦隊としての大規模な作戦行動はその後、1回も行われていない。ウクライナ軍としては、冬季攻勢の中で、イギリス製の空中発射巡航ミサイル「ストームシャドー」などで引き続き艦隊施設を空から攻撃する一方で、小型ボートや海上攻撃用ドローンを駆使した作戦を展開するだろう。
ゼレンスキー大統領は2023年9月末、世界初の海上ドローン艦隊の創設を発表している。前世紀的大艦隊を海上ドローン艦隊が攻撃する。まさに21世紀における新たな海戦の姿を象徴するものになろう。
さらにクリミア半島への上陸作戦も、より大規模で実施されると筆者は見る。これまでも小規模な上陸作戦は実施されていたが、「これらは予行演習のようなものだった」と軍事筋は指摘する。ドニエプル川渡航作戦と同様に、半島内に橋頭堡を築く狙いだろう。
3では、トクマク、メリトポリ方面を狙った攻勢を強めるとみられる。ザルジニー氏は先述した見解の中でも認めたように、ウクライナ軍は最大で幅20キロメートルに及ぶ異例の地雷原に計画通りの前進を阻まれている。
しかし一方で、アメリカ供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの砲撃により、メリトポリ方面の輸送路は相当被害を受け、ロシア軍の補給が相当苦しくなっているという。この間、ウクライナ軍はメリトポリ方面での戦況を詳しく発表しておらず、今後新たな動きを見せる可能性がある。
アメリカからの支援先細りを見通す
では問題はなぜ冬季に攻勢を掛けるのかだ。理由はいくつかある。まず、最大の要因は、2024年11月に大統領選を控えるアメリカからウクライナへの財政上・軍事上の支援が2024年は減少するとの懸念だ。
中東情勢の緊迫化もあり、このままでは2024年になると、アメリカはウクライナ情勢への関心を相当他方面に向けるだろうとの読みがある。そのため、ウクライナとしては、新たな攻勢に出ることで、アメリカ政界の関心を高めることを狙っている。
戦術的・戦略的戦果を挙げていけば、勝ち馬に乗るのが好きなアメリカ政界の特徴からみて、ウクライナへの財政的支援の削減を阻止できるのではないか、との計算がある。
もう1つは、1年前の苦い教訓だ。2022年11月初めにヘルソン市を陥落させた後、ウクライナ軍は後退するロシア軍への追撃をしなかった。この結果、何が起きたのか。
2022年末から2023年初めの冬季、追尾の憂いがなくなったロシア軍に南部ザポリージャ州などで大規模な地雷原を敷設して防御を固める時間的な余裕を与えてしまったのだ。これが今の南部での反攻作戦の難航につながっている。
ウクライナ軍としては、この苦い教訓を生かして、冬季も攻勢を続けることを選んだ。2023年11月半ばから2024年4月までの雪・雨の季節で、黒土地帯の東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)は土でぬかるみ重戦車は動けないので大規模な攻勢は難しい。
しかし、ザポリージャ州やヘルソン州は純粋な黒土地帯でないため、冬でもひどいぬかるみにならない。重戦車も動ける。
とはいえ、この冬季攻勢は当然ながら、リスク・フリーではない。ウクライナも賭けであることは承知している。ウクライナでは一部軍事専門家の間から、制空権の確立に大きな貢献が予想されるアメリカ製F16戦闘機が供与される2024年春以降までは、ひたすら防御に重点を置いた戦いに徹すべきとの意見もあった。
しかし、ゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官は、あえて上空からのF16による援護なしで、攻勢に出ることを選択した。ドローンなどでの上空からの支援を計算したうえでの判断だ。
ウクライナには、アメリカを含めた国際的支援体制をつなぎ止めるためにも、2024年前半までが勝負だ、との悲壮な決意がある。
●ウクライナの砲撃の下で生きる人々 11/21
最前線の町、オリヒウの惨状
ウクライナ南東部にあるオリヒウは、ロシア軍の陣地にほど近い最前線の町だ。住民はどんな状況にあるのか。5月下旬、私はウクライナ軍司令部の許可を得て、現地に向かった。
ドーン、ゴゴーン……。雷が轟くような重い音が響きわたる。7キロ先のロシア軍が砲撃してくる音だ。絶え間なく撃ち込まれる砲弾。すでに住民のほとんどが、別の町や国外に避難した。大通りに人影はなく、商店は軒並み閉まっている。
防弾ベストとヘルメットを着用し、地元の警官とともに町の中を歩いた。どの家も屋根や壁が崩れ落ちている。地面のあちらこちらをえぐるように開いた10メートルを超える大きな穴。ロシア軍機が投下した大型誘導爆弾が炸裂した痕だ。
被害の様子を撮影していたその時、突然、ヒューッと空気を切り裂く音が上空から聞こえてきた。私のすぐ真上を砲弾がかすめ、少し先に着弾する。「ロシア軍が小型のドローンを飛ばして偵察しているかもしれない。同じ場所にとどまっていると狙われる」と警官は声を強めた。
さらに進むと、公立学校があった。3階建ての校舎の真ん中が、まるで巨人に踏みつぶされたかのごとく崩れている。むき出しになった黒板や机。かつて子どもたちの元気な声があふれていた校庭は瓦礫に埋もれ、スクールバスがひしゃげていた。
子どもたちの目に、この光景はどう映るのだろう。地面に散らばった教科書とノートのページが、ひらひらと風に揺れていた。
町に残るのはほとんどが高齢者
ロシア軍の侵攻前、オリヒウには約1万4000人が暮らしていた。攻撃の激化で多くが逃げ出したが、今も1割が残る。被害を免れた学校が、住民の支援拠点となっていた。
そのひとつを訪ねた。校舎の地下フロア全体を退避シェルターにし、食堂や簡易シャワー室が設けられている。ここに避難している住民のほとんどが高齢者だ。外に出れば、いつミサイルや砲弾が飛んでくるかわからないため、皆、地下の食堂に集まっていた。
カテリーナさん(71歳)は、息子の家族とともにいったんポーランドに避難したものの、半年でオリヒウに戻ってきた。彼女は力なく言った。
「この年齢になると、言葉も違う外国での新たな生活はそれだけで大きな心労となるのです」
その脇に座っていた男性、ローマンさん(51歳)は、なかば諦めが入り混じった口調で話した。
「どこに逃げても危険に変わりはないんです。ならば愛する故郷に留まりたい。運命は神にゆだねています」
スビトラーナ・マンドリチ副市長(51歳)は、この避難拠点で連日、ボランティアスタッフとともに住民の支援にあたっていた。彼女は、町の惨状に、苦しい心境を打ち明けた。
「地元の人間として、副市長として、悲痛な思いです。町が破壊し尽くされるのを見るのはつらく、また恐ろしい」
食堂には壁一面を覆うほどの大きなウクライナ国旗が掲げてあった。避難所を訪れた人道支援団体スタッフらが、住民へのメッセージを旗に寄せ書きしていた。「あなたもぜひ」と副市長に請われ、私も小さく書き添えた。「一日も早く皆さまに平和が訪れますように」。
だが、そんな願いは容赦なく打ち砕かれた。7月10日、この学校をロシア軍が攻撃したのだ。校舎の半分が跡形もなく吹き飛び、ボランティアスタッフや医師ら7人が犠牲となった。
地元警察が公表した映像には、瓦礫の下から遺体が次々と運ばれていく様子が映し出されていた。ウクライナ検察当局は、これを戦争犯罪として捜査すると表明。戦火に包まれた町で、行き場を失った高齢者が身を寄せる最後の避難所である学校さえもが標的となったのだ。
ロシア軍まで2キロの村にも住民が
オリヒウから東に車を走らせ、さらに前線に近いマラ・トクマチカ村に向かう。バリケードと土のうで固められた厳重な検問所をいくつも越える。ロシア軍との境界までわずか2キロ。緑の木立の中に、破壊された家屋が点在する。
ここにもわずかに残る高齢者がいた。医薬品や衣類を届けにやってきた人道支援団体の物資配布の列に並んでいた住民たちに聞いてみた。
「家畜の牛が3頭もいて、置き去りにはできない」「年金生活なので、よその場所にアパートを借りる余裕もない」
危険な状況でも、なかなか避難できない事情を口々に話した。
戦闘の激しい地域から逃れたものの、身を寄せたアパートにミサイルが着弾し、家族を失った人もいる。避難生活で苦労が重なって心身の調子を崩した高齢者も少なくない。若い世代や子どもは脱出するが、高齢の住民が避難に二の足を踏んでしまうのには、こうした背景もあった。
村の女性、スビトラーナさん(61歳)は、私に駆け寄ってきて、力いっぱい抱きしめてくれた。
「平和になったらまた来るんだよ。自慢の手料理をふるまってあげるから」
この地域をロシア軍が執拗に攻撃するのは、戦略的に重要な場所に位置するからだ。ここがウクライナ軍に突破されれば、ロシア軍の占領地域の分断につながることになる。そのため、この地域に徹底した砲撃や空爆を繰り返しているのだ。
このマラ・トクマチカ村は、のちにウクライナ軍の反転攻勢の進撃路のひとつとなり、大規模な戦闘が開始された。攻防の地となった村は、さらなる戦火に見舞われている。
4キロ先から次々と砲弾が
ウクライナ南部の都市、ヘルソン。約8ヵ月にわたりロシア軍はこの一帯を占領した。昨夏、私はウクライナ軍が前線拠点としていたヘルソン西方のノバ・ゾリャ村を取材した。
当時はこの村のすぐ近くまでロシア軍が部隊を展開し、緊張が続いていた。4キロ先から次々と砲弾が撃ち込まれてくる。ひっきりなしの砲撃にこわばりながら村に入った私を迎えてくれたのが、ウクライナ軍のオレグ隊長(51歳)だった。
「こんな危険な前線までよく来てくれたね」と、分厚い手でぎゅっと力強く握手をしてくれた。がっちりした体格に厳めしい口ひげを蓄えているが、笑顔は優しく、人なつっこさを感じさせる。
隊長が率いる小隊の任務は、ロシア軍の動きを偵察することだ。
「ロシア軍は1日400発の砲弾を撃ち込んでくるが、こちらは40発撃ち返せるかどうか。武器も弾薬も足りない。とてつもなく過酷な戦いだ」
隊長は険しい顔つきで言う。そして、ウクライナが置かれた状況をこう例えた。
「今、銃を持ったやつらが私たちの家に押し入って、家族を殺し始めたのに、『これで何とかして』と近所の人たちが差し出したのは野球のバットだ。各国が外交ゲームを繰り返している間にも、市民と兵士が犠牲になっている」
砲撃のあまりの激しさに、住民はすべて別の町に避難。村は無人となっていた。兵士とともに誰もいなくなった家に入ると、台所には食べ残したパンや洗いかけの食器がそのままになっていた。急いで避難した様子が窺える。住人はどんな思いで、この村をあとにしたのか。無事なのだろうか。ずっと気がかりだった。
その後、ロシア軍はヘルソン西部から撤退し、村を含む地域はウクライナ軍が奪還。今年6月、私は再びノバ・ゾリャ村に向かった。
変わり果てた村の姿に……
でこぼこの農道が、車を大きく揺さぶる。家々の屋根はことごとく抜け落ち、壁は崩れたままだった。車を降りてしばらく歩くと、見覚えのある家があった。昨夏、私が兵士と一緒に入った、あの家だ。ドアをノックすると、白髪の女性が出てきた。
私がようやく出会うことができたのは、ナターシャさん(72歳)という女性だった。避難していた町から2週間前に戻ったばかりとのことだった。ここを脱出したのは、昨年4月下旬。砲撃が日増しに激しくなり、村を離れることを決めた。雨が降るなか、隣人の車に乗せてもらい、町に向かった。慌ただしい脱出。持ち出せる荷物は何もなかった。
この時、代わって村に入ってきたのが、オレグ隊長の部隊だった。22年11月にロシア軍がこの一帯から撤退するまで、彼らが村を守り抜いた。
戻ってきた村の変わり果てた姿は、ナターシャさんの目にどう映ったのか。
「人生を懸けて、努力してこの家を建てましたから、胸がえぐられるようです。なぜこんなことが……」
水道とガスはまだ復旧しておらず、給水車が水を供給する。住民の帰還が進まないのには、ほかにも理由があった。村の至る所に不発弾が残っているのだ。家や庭で不発弾が見つかると、爆発物処理班が撤去してくれるが、広大な畑までは手が回らない。農家の生活再建には、まだほど遠い状況だった。
足の不自由なナターシャさんは、松葉杖をつきながら庭先を案内してくれた。ロシア軍が撃ち込んだロケット弾の一部が、地面に4つ、刺さったままだ。これは爆発しない部分だと処理班に説明されたが、触らずそのままにしているという。
隣国のロシアとウクライナが戦争になってしまったことをどう感じているか、私は尋ねてみた。すると彼女は、沈黙のあと深いため息をついた。
「とても難しい質問です。私の父はウクライナ人、母はロシア人です。ロシアには親戚もいます。親戚どうしが争い、殺しあうなんて、複雑な思いです」
そう言って彼女はうつむいた。この戦争が、村や家を壊しただけでなく、自身の生い立ちや人生までも引き裂いてしまったかのようだった。
ナターシャさんと出会えた一方、私にとって悲しみの「再会」となった人がいる。この村を守ったオレグ隊長が戦死した知らせが届いたのだ。
オレグ隊長はノバ・ゾリャ村での戦闘ののち、東部の激戦地バフムトに移り、負傷兵や戦死者を搬送する任務についていた。5月11日、前線の塹壕にいたところにロシア軍の砲弾が命中。部下の兵士6人とともに命を落とした。
遺体はバフムトから戻り、ミコライウで葬儀が行われた。隊長を慕っていた兵士たちが、棺を担いだ。私は小さな赤い花を棺に添えた。こんな形で「再会」するなんて……。
昨年、前線の村でともに戦っていた中尉は、無念だと語った。
「彼はサムライだった。いつも仲間のことを第一に考えていた。真の戦士だ」
隊長の妻は避難先のドイツから駆け付け、棺を見送った。涙を流しながら体を震わせていた姿が忘れられない。これが、ウクライナで続いている戦争の現実だ。他方で、この戦争に動員されて死んでいったロシア兵の側にも家族がいて、つらい思いをしているだろう。
「戦争は人間の悲しみそのもの」
私はこれまで、ミサイル攻撃で市民が亡くなった現場を各地で取材してきた。そのどれもが、悲しみと憤りに満ちていた。今年4月、中部の町・ウマニでは、集合住宅に炸裂したミサイルで23人が犠牲となった。そのうち6人が子どもだった。
破壊された住宅の脇に設けられた慰霊台には、同級生がぬいぐるみや花を手向けに訪れていた。亡くなった友達の遺影を前に、5年生の少女が言った。
「まさかこんなことが起きるなんて。第二次大戦の時代に生きているようです。どの国にも戦争をしてほしくない。戦争は人間の悲しみそのものだから」
ミサイルが断ち切った、たくさんの命とひとりひとりの未来。いったいどれほどの犠牲が出なければならないのか。戦争で苦しむのは、高齢者や子ども、力なき市民だ。
プーチン大統領とロシア政府の責任は当然問われるべきだ。だが、この非道を止められない国際社会も重い責任を負っている。私たちは、子どもたちに、これがあたりまえの大人の世界だなどと思わせてはならない。
●ロシア、遺憾表明 フィンランドの国境検問所閉鎖巡り 11/21
ロシア大統領府(クレムリン)のペスコフ報道官は20日、フィンランドによるロシアとの国境の検問所の一部を閉鎖する決定を「非常に遺憾」に思うと述べた。
フィンランドは、ロシアから増加している難民申請希望者の流入を阻止するため、ロシアとの国境にある9カ所の検問所のうち4カ所を閉鎖した。
ペスコフ報道官は「相互尊重に基づき、長年にわたり現実的で非常に良好な関係を築いていたため、実に遺憾に感じる」とし、フィンランド指導部が「支持し始めたロシア恐怖症的な立場を遺憾に思う」と述べた。
さらに、ロシアが意図的に難民申請希望者を国境へ送り込んでいるというフィンランドの主張を否定し、ロシアの国境警備隊は規則に従って任務を遂行していると述べた。
また、ロシア外務省は20日、検問所閉鎖が両国の「数万人の権利や利益」を侵害したとして、駐モスクワ・フィンランド大使に正式に抗議したと発表した。
●米国防長官、ウクライナ訪問 支援継続を表明 11/21
米国のオースティン国防長官は20日、ウクライナ首都キーウを事前の予告なく訪問し、ロシアとの戦争を続けるウクライナへの支援を改めて表明した。
オースティン長官はウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、「私が今日、あなたに伝えるメッセージは、大統領、米国はあなたとともにあるということだ」と述べた。オースティン長官は、ウクライナで起きた出来事は、ウクライナにとってだけでなく、世界の他の国々や米国にとっても重要だと語った。
米国防総省の発表によれば、オースティン長官は「ウクライナの自由のための戦いに対する米国の確固とした支援を強化する」ためにウクライナを訪問した。
国防総省は、新たに総額1億ドル(約148億円)の軍事支援を発表した。米国でウクライナ支援に使える資金が減りつつあるなか、今回の軍事支援は金額としてはこれまでで最も少額のもののひとつとなった。
追加の軍事支援は、高機動ロケット砲ミサイルシステム「ハイマース」1基と追加の弾薬や、155ミリ砲弾、携帯式地対空ミサイル「スティンガー」など。
●米国防長官がキーウ電撃訪問、追加軍事支援を表明… 11/21
米国のオースティン国防長官は20日、ウクライナの首都キーウを予告なしに訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。1億ドル(約148億円)の追加軍事支援を行う方針を表明し、米国としてウクライナへの支援を継続する意向を伝えた。
ロシアによる侵略開始後、オースティン氏のキーウ訪問は昨年4月に続き2度目。会談後、キーウで記者団に「米国が支援し続けるということを(ウクライナの)指導部と改めて確認したかった。素晴らしい訪問になった」と強調した。
米議会では、下院で多数派の野党・共和党にウクライナ支援への慎重論が根強く、バイデン政権が求めるウクライナ支援の予算措置に応じていない。
ゼレンスキー氏は20日のビデオ演説で「米国の継続的な指導力に感謝している。平穏な生活は、米国が強いかどうかにかかっている」と述べ、強力な支援の継続に期待感を示した。
今回の支援では、携行型地対空ミサイル「スティンガー」や高機動ロケット砲システム「HIMARS」、砲弾などを供与する。
●ウクライナ南東部をロシアが砲撃、少なくとも3人死亡 送電線損傷 11/21
ウクライナ当局者は20日、 ロシア軍による攻撃で東部ドニエプロペトロフスク州と南部ヘルソン州で少なくとも3人が死亡したほか、送電線とガスパイプラインが損傷したと明らかにした。
ドニエプロペトロフスク州のリサク知事によると、ロシア軍によるニコポリへの砲撃で高齢の女性が死亡。送電線とガスパイプラインも損傷したとしている。
ヘルソン州のプロクジン知事によると、20日朝にヘルソンの民間輸送会社の駐車場がロシア軍の砲撃を受け運転手2人が死亡した。この砲撃について地方検察は戦争犯罪として捜査を開始した。
ウクライナ軍は昨年11月にヘルソン州の州都ヘルソンを奪還。ロシア軍は以降、ドニエプル川の対岸からヘルソンに対する攻撃を行っている。
●ロシア軍、バフムト周辺で攻撃強化=ウクライナ軍当局 11/21
ウクライナ軍当局によると、ロシア軍は東部ドネツク州バフムト周辺で攻撃を強めており、ウクライナ軍は20日、攻撃を食い止める作戦を展開した。
当局によると、ウクライナ軍部隊はまた、南部ヘルソン州でドニエプル川東岸に渡り、一定の成果を収めた。
ロシア軍は5月にバフムトを掌握。数カ月にわたる激しい戦闘で荒廃していた。
ウクライナ軍地上部隊の報道官は国営テレビに対し、ウクライナ軍が9月に奪還した高台の近くにあるクリシチフカ村にロシア軍が攻撃を集中させていると語った。予備役兵も投入したという。
「この24時間で11回の攻撃を撃退した。敵はクリシチフカ周辺の防御陣地からわれわれの兵士を追い出そうとしている」とした。
ロシア側の情報によると、過去1週間にバフムトとその周辺で30回以上のウクライナ軍の攻撃を撃退した。ロシア国防省は、ウクライナ東部ハリコフ州クピャンスク近郊で1週間に20数回の攻撃があったと報告した。
●東部アブデーフカで激戦続く ウクライナ軍反撃 11/21
ロシアによるウクライナ侵略で、ウクライナ軍参謀本部は20日、東部ドネツク州の州都ドネツク市近郊の都市アブデーフカなどで激戦が続いたと発表した。露軍は10月ごろからアブデーフカへの攻勢を強化。多大な損害と引き換えに一定の前進に成功しているとされる。一方、米シンクタンク「戦争研究所」は19日付の戦況分析で、アブデーフカ周辺でウクライナ軍が反撃し、一定の陣地の奪還に成功したもようだとした。
ウクライナや露メディアによると、アブデーフカ攻防戦で両国軍は、市郊外のコークス工場や高台の廃棄物集積場、工業地帯などを巡り戦闘を続けている。
露軍はアブデーフカを包囲して陥落させることで、実効支配下にあるドネツク市の安全を高めるほか、主目標とするドネツク州全域の制圧に向けた進軍ルートを確保する思惑だとみられている。
●ウクライナ、情報当局者2人を解任 横領容疑で調査 11/21
ウクライナ政府は20日、国家特殊通信・情報保護局(SSSCIP)のユーリ・シチホリ局長とビクトル・ゾラ副局長を解任した。タラス・メルニチュク政府代表がテレグラムへの投稿で明らかにした。
解任の報道より1時間弱ほど前に検察当局は、シチホリ氏とゾラ氏を横領の容疑で調査していると発表した。2020年から22年にかけて両氏を含む6人が6200万ウクライナフリブナ(172万ドル)を横領した疑い。
SSSCIPは政府における通信の安全確保やサイバー攻撃からの防衛を担っている。
シチホリ氏はフェイスブックへの投稿で、自分の無罪が立証されると確信していると表明した。ゾラ氏のコメントは得られていない。
●ウクライナ、ガザ紛争の影で増え続けるミャンマー避難民 届かない悲鳴 11/21
2021年2月のミャンマーでの軍事クーデター後、国軍の弾圧を避けるため、100万人を大きく超える市民が家を離れた。10月下旬以降、国軍と対抗勢力との間で戦闘が激化し、その数はなお増え続けている。長引く混乱は避難者にどんな困難を強いているのか。国際社会の関心の低下と裏腹に深刻さが増すミャンマーの状況について、避難民の声を聞きながら目を向けた。
1日1食「米や油…基本的な食料が足りない」
「10月下旬以降の戦闘の激化で新たに多くの人が逃げ込み、対応しきれない」。タイとミャンマーの国境地帯にある避難民キャンプを支援する地元民間団体の関係者は危機感を表す。
記者は8月下旬、このキャンプに団体が物資を届ける活動を取材した。既にこの段階で、慢性的な物資不足の状態だった。
町から自動車で約1時間半。運んで来た米や野菜の袋を耕運機の荷台に積み替え、未舗装の道を約30分。そこで車輪がぬかるみにはまり、抜け出すのに約20分。川を渡り、ジャングルに囲まれたキャンプにようやくたどり着いた。
約80世帯、300人以上の少数民族カレン人らが、竹で壁を組み、木の葉で屋根をふいた簡易な小屋に住んでいた。燃料は薪や炭だ。
「米や油といった基本的な食料が足りない」。避難民の女性(33)は訴えた。物資はこの団体に依存する。国際機関の援助は届いていないようだ。飲用水は湧き水を引いているものの、十分ではない。女性は淡々と話した。「大体1日1食で過ごしている」
屋根だけの学校、地べたに机を並べて
辺鄙(へんぴ)な場所だけに、支援する側も大変だ。特に5〜10月ごろの雨期は困難さが増す。団体の男性(55)は「大雨で未舗装の道が浸水すると、途中にある小屋に野宿する」と明かす。
避難民のうち50人以上を子どもが占めていた。やや大きめの建物が「学校」で、幼児から小学校の中学年までが勉強する。屋根はあるが、足元は土。地べたに机を並べている。先生も避難民で、校長は22歳の若者だった。高学年以上の学びの場はキャンプにない。
不安定な情勢のため、最近逃げてきた人もいた。男性(40)は7月、妻と4人の子の一家6人でキャンプに来た。男性は食料不足に触れた上で言う。「どんな難局でも心を強く持つしかない。日本の人たちは私たちの存在を忘れず、できれば支援してほしい」
爆発物がキャンプに落下、けが人や病人が出ても医療体制は…
国境地帯の別のキャンプの避難民にも話を聞いた。畑だった場所を切り開き、約220世帯、900人近くが暮らす。国軍の攻撃を避けるため、三つの村や町から逃げて来たという。
キャンプの責任者の女性(51)はクーデター前、看護師だった。「二つの点で困っている」と話す。一つは先述のキャンプ同様に食料。やはり、地元の民間団体の支援に頼る。もう一つは衛生・医療環境だ。満足な医療設備や医薬品はない。「インフルエンザなど病気になる人が多いが、そのための支援は少ない」
また「近辺で戦闘があり、落ち着かない」と気をもむ。半年ほど前には爆発物がキャンプに落下し、けが人が出た。子どもや高齢者用のシェルターも作っているという。
女性は「早くクーデターが終わり、元の暮らしに戻るように願っている」と語る。一方で、差し迫ったニーズに目を向ける。「お米だけでも支援してほしい。そして、安全な避難民キャンプを作ってくれれば」と国際社会の助けを望んだ。
10月末の国境紛争、半月で20万人以上が避難
記者が見た国境地帯の避難民の姿は、全体の一端でしかない。
10月下旬、ミャンマー北東部シャン州で、民主派との連携姿勢を示す三つの少数民族武装勢力が、国軍への大規模な攻撃を開始した。戦闘の影響は他の地域にも拡大。東部のカヤ、カイン両州や北西部ザガイン地域で、国軍と民主派など対抗勢力との戦闘が続く。
この結果、10月下旬〜今月14日に20万人以上の避難民が発生したと、国連人道問題調整室(OCHA)は発表した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は6日現在、クーデター後の国内避難民がミャンマー全土で約171万人に上ると推計したが、人数はさらに膨らむとみられる。
このように最近、ミャンマーの状況は深刻度が増しているが、ウクライナやパレスチナの問題に隠れ、国際的な関心は薄れている。
集まった支援金は必要分の2割
OCHAは今年の人道対応計画で、ミャンマーでは国内避難民を含めて、総人口の約3分の1に当たる1760万人に人道支援が必要と推計。500万人を支援の目標とした。また、必要資金を8億8700万ドル(約1330億円)と見積もった。
だが、10月発表された上半期(1〜6月)の中間報告によると、支援が届いたのは180万人で目標の36%。確保できた資金も1億8100万ドルで必要分の20%程度だという。
ターク国連人権高等弁務官は7月、国連人権理事会で「ミャンマー国軍は人道援助を組織的に拒絶している」と非難した。国軍は国連機関やNGOの活動に協力的ではない。戦闘が激しい地域やインフラ整備が遅れた遠隔地への支援は、いっそう難しくなる。
タイに近い避難民キャンプの場合、タイ側から国境を越え、物資を運んだほうが効率がよい。だが、ミャンマー国軍に融和的なタイ政府は、こうした支援活動を認めていない。結果として、ミャンマー人系の民間組織が、非公式ながら越境支援をしている状態だ。
「加速度的に増えるニーズに国際社会が追いつかない」
さて、日本はどの程度、支援に関わっているのか。
日本政府はクーデター後、国連機関やNGOを通じ、計約1億900万ドル(約164億円)以上の人道支援を実施したとする。また、NPO法人「ジャパン・プラットフォーム」によるミャンマーの人道危機対応の事業に約4億円を支出している。ただし、これら全てが避難民への直接的な支援というわけでなく、コロナ対策なども含まれる。
外務省国際協力局の担当者は「加速度的に増えるニーズに国際社会が追いつかず、必要とする人全てに支援が届いているとは言えない」と不十分さを認める。
現地の団体と連携しながら避難民支援に取り組む大阪市のNGO「日本ビルマ救援センター(BRCJ)」の中尾恵子代表は、戦闘激化に懸念を強めている。
「期待したほど国際社会は助けてくれない」
中尾さんは今月14日、カヤ州で活動する少数民族団体からメッセージを受けた。「11日以降、戦闘が続き、国軍は避難民キャンプも空爆している」とし、食料などの緊急支援を求める内容だった。
「以前から要望に応えきれていなかったのに、さらに支援が必要になっている」と中尾さんは危惧する。
「クーデターから2年半余り。ミャンマーの人々は『期待したほど国際社会が助けてくれない』と感じている」。中尾さんは国軍の強硬な態度を念頭に指摘する。「国際社会は厳しい現状を認識した上で、ミャンマー人の自助組織や国連機関経由など、さまざまなチャンネルで支援を増やし、継続しなければならない」
デスクメモ
屋根はあるが、足元は土—。避難民キャンプの学校の様子に、ミャンマーの窮状を実感する。仮住まい中もどんどん大きくなる子どもたちに何とか教育を、と考えたのか。避難民が先生をしているのも、支援が足りていない表れだろう。軍と戦闘に追われた人たちの「被害」の現実だ。
●ロシア国防費68%増、初の社会保障費超え…ウクライナ侵略長期化 11/21
ロシア議会下院は17日、2024年の政府予算案を可決した。国防費は前年比68%増の10・8兆ルーブル(約18兆円)に膨らみ、社会保障費を初めて上回った。治安対策などを含む国防関連予算は歳出全体の約4割を占め、ウクライナ侵略の長期化を見据えたものとなった。国防予算への傾斜は、長期的に経済への悪影響を招くとも指摘されている。
露政府紙のロシア新聞によると、17日の議会ではプーチン政権を支える与党「統一ロシア」の議員が「国家の主権を守り、(ウクライナ侵略のロシア側の呼称である)『特殊軍事作戦』の参加者や家族を支援する予算だ」と語った。予算案は上院で審議後、大統領の署名で成立する見通しだ。
発表によると、歳出は36・7兆ルーブル(約62兆円)。国防費は国内総生産(GDP)の6%に当たる。治安対策などの国家安全保障費3・4兆ルーブルを合わせると、国防関連費は14・2兆ルーブルとなり、歳出全体の39%を占めた。国防費の詳細は非公表だが、露メディアによると、人件費や兵器の購入、軍需産業の近代化のほか、負傷兵や死亡した兵士の家族への対応にもあてられる。
歳入は35・1兆ルーブル(約59兆円)を見込み、そのうち約33%は原油やガス関連の収入が占める。AP通信は「米欧の経済制裁下で歳入を支えるのは、中国やインドによるロシア産の原油やガスの輸入増だ」とする専門家の分析を紹介した。
プーチン大統領は米欧の制裁下でも、ロシア経済の回復を強調している。ウクライナ侵攻の長期化で国防関連企業で特需が起き、失業率は過去最低水準の3%で推移するが、食品価格などが高騰することへの懸念もある。元ロシア中央銀行高官はAP通信に対し、来年3月の大統領選後、プーチン政権が歳入増のため増税に踏み切る可能性も排除できないと指摘した。
歳出ではこのほか、プーチン大統領が昨年9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部のドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリージャ4州の地域に、「復興・経済発展予算」として375億ルーブル(約629億円)を計上した。プーチン氏は既に4州への集中的な予算投下を宣言しており、併合の既成事実化を急ぐ狙いがあるとみられる。インフラ(社会基盤)施設の修復や、ロシア国内で行われている行政サービスや教育の普及など、地域住民の「ロシア化」に向けた政策などにあてるとみられる。 
●ゼレンスキー大統領、米メディア王後継者の訪問に感謝 11/21
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、米メディア大手フォックス・コーポレーションのラクラン・マードック最高経営責任者(CEO)と首都キーウで会談し、世界の関心をウクライナでの戦争につなぎ留めておく上で同氏の訪問は重要だと述べて感謝の意を表明した。 
米国の対ウクライナ軍事・経済支援を巡っては、ロシアとの戦いに終わりが見えないことから、議会で支援反対の意見も増えているほか、2024年11月の大統領選で再度共和党候補になりそうなトランプ前大統領が支援を厳しく批判している。
ラクラン氏はメディア王として知られたルパート・マードック氏の長男で後継者。フォックスは主に共和党支持者が視聴するメディアで、ウクライナ大統領府は同日、公式サイトで「世界で数々の出来事が起きてウクライナに対する関心が薄れている時にラクラン氏が訪問したことに国家元首(ゼレンスキー大統領)は感謝し、同氏の訪問がウクライナ支援は非常に重要だという合図であると強調した」と発表した。
また会談の際にゼレンスキー大統領は「われわれにとって、われわれの戦士にとって、これは映画でなく、生活なのだ。毎日が重労働だ。早期に終結しないだろうが、あきらめる権利はないし、その気もない」と述べたという。
●ウクライナ軍の電子戦装備「ロシアのGPSを妨害できれば効果的な防衛」 11/21
元陸上自衛隊中部方面総監の山下裕貴氏と元駐ロシア防衛駐在官の佐々木孝博氏が21日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ウクライナ軍が重視する電子戦能力強化について議論した。
山下氏は、ウクライナが開発を進める電波妨害(ジャミング)機能を持つ電子戦装備について「ロシアのGPSを妨害できれば、攻撃に来るドローンを撃墜し、非常に効果的な防衛ができるようになる」との見方を示した。佐々木氏は、相手側が使用する周波数などの情報の入手が電子戦に向けて不可欠だとし「ウクライナが電子戦をやる上で足りていない」と指摘した。
●ウクライナ戦争の潮目が変わった? 領土割譲で停戦という「不都合な選択」 11/21
「支援疲れ」に中東情勢の緊迫も加わり、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道に潮目の変化が起きている。ウクライナ軍の反転攻勢の失敗や兵員不足に多くが言及、バイデン政権の対応にも批判が集まる。現状でロシア側が占領地域を手放すことは考えにくい。このまま停戦交渉に向かった場合、ウクライナが領土割譲という苦渋の選択を強いられるとの見方が台頭している。
ロシア軍の全面侵攻から1年9カ月を経たロシア・ウクライナ戦争は、ここへ来て潮目が変わりつつある。
ウクライナ軍の反転攻勢は成果を得られず、政権内の亀裂が伝えられる一方で、ロシアは長期戦に持ち込み、兵力を増員しながら有利に展開している。
イスラエル・ハマス戦争も、欧米諸国のウクライナ支援に影を落とした。
欧米側がヴォロディミル・ゼレンスキー政権に対し、和平交渉の検討を打診したとも報じられた。ゼレンスキー政権は依然徹底抗戦の構えだが、今後、停戦の動きが浮上する可能性も出てきた。
「力による現状変更は許されない」(岸田文雄首相)としてウクライナ支援を続けた西側諸国にとって、憂鬱な展開となりかねない。
「反攻は失敗、突破口なし」
10月末以降、ウクライナ側の「不都合な真実」(米誌『タイム』)を伝える欧米の報道が相次いでいる。
ウクライナのワレリー・ザルジニー総司令官は英誌『エコノミスト』(11月1日)とのインタビューで、「ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で17キロしか前進できていない」「われわれは膠着状態に追い込まれた。これを打破するには大規模な技術的飛躍が必要だが、突破口はないだろう」と苦戦を認めた。
ウクライナが6月4日に反転攻勢を開始して5カ月を経たが、ロシアが制圧するウクライナ領土の約20%のうち、奪還できたのは0.3%にすぎないとの報道もあった。
国民的人気の高い総司令官は、「ウクライナ軍はロシアが構築した地雷原に足踏みし、西側から提供された兵器も破壊された。指揮官らの交代もうまく機能しなかった」と述べた。ウクライナ軍高官が戦況の膠着や苦戦を公然と認めたのは初めて。
『タイム』誌(10月30日号)はゼレンスキー政権の内幕を報道し、「ゼレンスキー大統領は肉体的な疲労からか精神的にも疲弊し、メシア的妄想と精神病的な第三次世界大戦の恐怖を煽っている」とし、「ウクライナはロシアとの消耗戦に敗れつつあり、大統領の命令に従わない兵士も出ている」と伝えた。兵員不足で高齢兵士の招集をせざるを得ず、現在の軍部隊の平均年齢は43歳まで老化しているという。
『タイム』は昨年末、国家と国民を統率し、勇気ある抵抗を示したゼレンスキー大統領を「パーソン・オブ・ザ・イヤー」(今年の人)に認定したが、カバーストーリーを書いた同じ筆者が今回、政権内部の亀裂を列挙している。
欧米が水面下で停戦説得
こうした中で、米NBCニュース(11月3日)は、欧米諸国の政府高官がロシアとの和平交渉の可能性について、ウクライナ政府と水面下で協議を始めたと報じた。
米当局者によれば、これは10月に開かれたウクライナ支援国会合の際に話し合われ、ウクライナ側が協定締結のために何をあきらめるかについて概要が討議されたという。NBCは、欧米側の和平提案は、戦況の膠着や欧米の援助疲れ、中東紛争激化という新展開を受けて示されたとしている。
NBCによれば、ジョー・バイデン大統領はウクライナの兵力が枯渇していることに強い関心を寄せている。米当局者は「欧米はウクライナに兵器を提供できるが、それを使える有能な軍隊がなければ、あまり意味がない」と話した。
これらの報道に対し、ゼレンスキー大統領は記者会見やNBCテレビとの会見で、「戦争が膠着状態とは思わない」「年末までに戦場で大きな成果を挙げる」「ロシアと交渉するつもりはない」と反論し、抗戦方針を確認した。
米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「米国は引き続きウクライナを強力に支援する。交渉も含め、将来の決定を決められるのはウクライナだけだ」と述べた。戦争継続か和平かの決断を、ゼレンスキー政権が下す構図は変わらない。
一方で、ロイド・オースティン米国防長官とウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官が11月20日時点でキーウを訪問中だ。バイデン政権屈指のロシア通といわれるバーンズ長官の訪問はサプライズで行われたが、今後の展開などをめぐり重要協議が行われた可能性がある。
バイデン外交への批判噴出
一連の報道を受けて、欧米では、ロシア・ウクライナ戦争が転機に入ったとの見方が相次いでいる。
ドイツのニュースサイト、『インテリニュース』(11月6日)は、「ウクライナ戦争の終わりの始まり?」と題する記事で、「西側のウクライナ疲れは半年前から始まっていたが、反転攻勢への期待があったため、抑えられた。しかし、反攻が何ら進展をみなかったことで、停戦論が浮上している」「ゼレンスキーが昨年4月に和平に持ち込むことを検討したことは正しかった。今、クレムリンに交渉を持ち掛けても、一蹴されるだろう。時はロシアに味方する」と分析した。
英紙『テレグラフ』(11月4日)は、「ウクライナの現在の軍事力では、ロシアが厳重に構築した防衛網を突破する見込みはなく、反攻作戦は萎縮している。ロシアは間違いなく、消耗したウクライナ軍に対して再攻勢を準備している」とウクライナ軍が悲惨な状況に追い込まれかねないと指摘した。
同紙は、米国が長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与を10月まで実施しなかったり、F16戦闘機の供与を遅らせるなど、優柔不断な対応を続けたことが反転攻勢不調の理由だとし、「現状では、プーチンが勝利を手にする。これを打破するには、ウクライナに制空権、戦闘技術、強力な大砲を与えることだ」と強調した。
米紙『ワシントン・ポスト』(11月5日)も、ウクライナ軍が今後、突破口を開く可能性は低いとし、昨年11月にロシア軍が南部ヘルソン市から撤収した時点が交渉のチャンスだったが、バイデン政権は何もしなかったと指摘。「長距離ミサイルの供与の遅れも含め、バイデン政権はウクライナで確固たる対応を取らなかった。官僚的な惰性や、戦況がエスカレートするリスクへの懸念があった」と分析した。
パレスチナとウクライナの二つの戦争への対応をめぐり、米国内でバイデン外交への批判が高まりつつある。
ただし、首都キーウの外交筋は、一連の報道について、「長期戦がロシアを利する要素はあるが、ウクライナ軍内部に乱れはなく、反転攻勢は続く。ザルジニ―総司令官らの発言は、航空戦力、地雷撤去など西側に支援の足りない部分を列挙したものだ。ドイツ政府も援助の倍増を決めた」と述べ、誇張が多いと指摘した。
バルダイ会議で「西側との戦争」を強調
ロシアの通信社は、ウクライナの苦境を伝える欧米の報道を細大漏らさず転電し、ロシアの優位を印象付けている。ウラジーミル・プーチン大統領は10月のバルダイ会議で、「6月に開始されたいわゆる反攻作戦で、推定9万人以上のウクライナ兵が死傷した。作戦は失敗に終わった」と強調した。
開戦から1年9カ月を経て、戦争目的をめぐるプーチン発言も変化してきた。
開戦演説では、「ドンバス地方の親ロシア系住民を虐殺から守る特別軍事作戦」「ウクライナのネオナチに代わる非武装中立の新政権樹立を目指す」としていた。
しかし、今年2月の年次教書演説では、「この戦争は、西側が仕掛けた2014年の軍事クーデターで始まった」「ウクライナとの戦いというより、背後にいるNATO(北大西洋条約機構)との戦いだ」などと語った。
さらに、10月のバルダイ会議では、「西側は何世紀にもわたり、植民地主義と経済的搾取で途上国を蹂躙した」「この戦争は、より公平な国際秩序を作るための戦いだ」と述べ、BRICS諸国とともに、新国際秩序を目指すと強調した。ロシア側のナラティブ(物語)は、限定軍事作戦から「西側との戦争」へと変質しており、長期戦の構えのようだ。
停戦交渉について、プーチン大統領は「ウクライナが東部・南部の4州をロシア領と認めることが停戦の条件」としてきた。バルダイ会議では、「ロシアは世界最大の領土を持つ国であり、これ以上新たな領土は求めない」とも述べた。
ロシアの独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン大統領が4州確保を前提に停戦を提案すれば、70%が支持すると回答しており、ロシア世論にも戦争疲れの兆しがみられる。
中国が仲介に登場との予測も
これに対し、ゼレンスキー大統領は昨年11月のビデオ演説で、ロシアとの和平交渉再開の条件として、1領土の回復2国連憲章尊重3損害賠償4戦争犯罪者の処罰5ロシアが二度と侵攻しないという保証――の5項目を要求した。
この基本方針は1年後の現在も変わっていないが、反転攻勢の不調、欧米の支援疲れ、国内の疲弊といった新情勢の下で、今後停戦交渉に乗り出す可能性もないとは言えない。「すべての領土奪還まで戦争遂行」を支持する国内世論は、昨年前半は90%に達したが、最近は60%台に低下している。
仮にロシア・ウクライナ間で和平交渉が行われるなら、領土の線引きと戦後ウクライナの安全保障が最大の焦点になろう。
ロシアは既に、クリミアと東部・南部4州をロシア領と憲法に明記しており、占領地を手放すことは考えられない。ただ、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は新しい国境線について、「東部ドネツク、ルハンスクは州全体がロシア領。南部ヘルソン、ザポリージャ両州の境界は住民と協議して決める」と述べたことがあり、南部2州で一定の譲歩を行う可能性もある。
いずれにせよ、和平交渉に応じるなら、ウクライナ側は領土割譲を受け入れるかどうか、苦渋の選択を強いられそうだ。
戦後の安全保障では、ウクライナは既にNATO加盟を申請している。ロシアは停戦によって時間稼ぎをし、再度侵攻する可能性があるだけに、安全確保にはNATO加盟が最も有効だ。しかし、ロシアはこれに猛反発するほか、NATO内部に反対論、慎重論もある。
仮に和平交渉が始まっても、交渉は難航し、長期化しそうだ。和平工作に際しては、「欧米とロシアはウクライナ戦争で疲弊しており、中国が満を持して仲介に登場し、超大国としての台頭を狙う」(エドワード・サロ米アーカンソー州立大准教授、『ナショナル・インタレスト』誌、11月7日付)との予測も出ている。
●ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 11/21
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の5号機が温態停止状態から冷温停止状態に移行中であり、冷却系統で検知されたホウ素の原因を特定するとともに、蒸気と熱生産のため6基中1基の温態停止状態を維持、継続していることを明らかにした。
ZNPPによると、5号機の冷温停止状態への移行は昨日開始され、本日中に完了する見込み。4号機は温態停止状態を維持する。現在のところ、5号機に替わる原子炉を温態停止状態にする計画はない。
冷温停止状態に移行後、ZNPPは5号機の蒸気発生器のうち、1つの二次冷却系統で低レベルのホウ素が検知された原因を特定するためのテストを実施する。
ZNPPは現地のIAEAの専門家らに対して、影響を受けた冷却系統におけるホウ素濃度は技術仕様で許容されている制限内にあると報告した。なお、二次冷却系統では放射能は検知されていない。ホウ酸塩水は、原子力安全を維持するために一次冷却材に使用されている。
ZNPPは、オフサイトにあるディーゼルボイラー(1万7,400kW)3台のうちの1台が11月17日に運転を開始し、多くのプラントスタッフが住む近隣のエネルホダルの町に追加の熱を供給したことから、5号機の冷温停止状態への移行を決定した。
ZNPPは、エネルホダルへの熱供給のほか、サイトの原子力安全を目的に熱と蒸気を供給すべく4、5号機の温態停止状態を維持してきた。IAEAは、代替の蒸気発生源を確保するようZNPPの状況をフォローし続けている。ウクライナの規制当局であるウクライナ国家原子力規制検査局(SNRIU)は6月、ZNPPの全6基の運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発令している。
また現地のIAEA専門家らは、先週6号機が電源を喪失し、90分間ディーゼル発電機に依存するという事象を招いた原因を突き止めるため、情報収集を続けている。
IAEAチームは今週後半、ZNPPで計画されている緊急時訓練の視察に招かれている。
グロッシー事務局長は、「ザポリージャ原子力発電所での緊急時対応訓練を、臨時の緊急時管理センターと現場の両方から視察することを楽しみにしている」「緊急時対応訓練は、特に紛争によってリスクが高まっている今、原子力安全にとって非常に重要である」と述べた。
リウネ原子力発電所に駐在するIAEAチームは先週、同プラントの緊急時訓練を視察、そしてチョルノービリサイトのIAEAチームは本日、液体放射性廃棄物処理プラントでの緊急時演習を視察した。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、チョルノービリサイトに駐在するIAEAチームは、紛争が継続しているものの、これら原子力施設が安全かつ確実に運転していることを報告している。

 

●ロシア反体制派「イスタンブールにプーチン氏所有5000万ドルの超豪華ヨット」 11/22
ロシアのプーチン大統領の所有と推定される高価な豪華ヨットがトルコのイスタンブール近くの港に停泊しているという主張が21日に提起された。
ロシア反体制派のミハイル・ホドルコフスキーが運営するドシエセンターは、ドローンなどを動員した独自の調査を根拠にこうした主張を広げている。船を軍事施設として建造し、乗組員が連邦警護局(FSO)士官学校出身である点などがプーチン氏所有の根拠として提示されている。
彼らは今回新たに発見されたヨットが全長71メートルに達するビクトリア号で、5000万ドルの価値があると評価している。
ロシア北西部のセブマシュ造船所で建造されたこの船は、2019年7月に内装工事のためトルコのある造船所に移されたことが確認された。
最近までロシアのリゾート地であるソチの港にいたが、先月21日に出港しイスタンブール近くで停泊しているというのが彼らの主張だ。
内部には2000ドルのタオルとチェスなど5000ドル相当のボードゲームセット、マホガニー製のテレビボードに設置された60インチのテレビなどで装飾されているという。
ビクトリア号の護衛艦の役割をするヨットで全長38メートルのオリオン号も今回確認された。オリオン号の推定価値は1500万ドルだ。
ビクトリア号は公式にはプーチン大統領の友人であるオリガルヒ(新興財閥)のゲンナディ・ティムチェンコ氏と関連した会社に登録されている。エネルギー業界の大物であるティムチェンコ氏はロシアの民間軍事会社リダウトを財政的に支援しているとされる人物だ。
●ガザ共同声明で合意できず BRICS臨時首脳会議 11/22
中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカによる新興5カ国(BRICS)は21日、オンラインで臨時首脳会議を開き、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザの情勢について協議した。中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領らが出席した。共同声明を出す予定だったが、ロイター通信によると、合意に至らなかった。
議長国である南アのラマポーザ大統領は、合意するには時間が不十分だったと釈明した。
各国の政府やメディアによると、プーチン氏は人質解放やガザからの市民退避に向け、人道的な戦闘休止が必要だと指摘。習氏も即時停戦や人道支援拡大を訴えた。
ラマポーザ氏は、イスラエルのガザ住民への対応が「虐殺に等しい」と非難。一方、インドのジャイシャンカル外相は、危機の発端が「10月7日のテロ攻撃」だったと述べ、ハマスを批判した。
臨時首脳会議には新たにBRICS加盟が決まったサウジアラビアやイラン、アルゼンチンなど6カ国の代表とグテレス国連事務総長も出席した。
●ロシア、ウクライナ現政権と「共存できず」=高官 11/22
ロシアのロジオン・ミロシニク無任所大使は21日、ロシアはウクライナの現政権と共存できないと述べ、プーチン大統領が「特別軍事作戦」として進めているウクライナ侵攻の目標を改めて確認した。
ミロシニク氏は、ロシアが一方的に独立を承認したウクライナ東部の「ルガンスク人民共和国」の元幹部。同氏の現在のポストは、民間人に対するウクライナによる犯罪疑惑の証拠を収集するために設けられた。
ミロシニク氏はモスクワで記者団に対し「ウクライナの現政権は絶対的に有害だ。現時点で共存に向けた選択肢は全くない」とし、ロシアが一方的に「併合」したウクライナの地域で、ウクライナ軍が民間人に対する犯罪を犯していると非難した。
その上で、ウクライナ軍を打ち負かすためにロシアは必要な限り北大西洋条約機構(NATO)に対抗できると表明。西側諸国はいずれ関心を失い、ウクライナの現政権は崩壊すると述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアとの協議の道を閉ざしていないが、プーチン大統領とは協議できないとしている。
●ウクライナ、政権と軍に不協和音 反攻遅れ背景に 11/22
ロシアの侵略を受けるウクライナのゼレンスキー政権と同国軍の間に確執が生じているとの観測が出ている。
軍トップのザルジニー総司令官は11月、「戦局が膠着(こうちゃく)し、突破口がない」との認識を表明。これにゼレンスキー氏は異議を唱えた。反攻作戦の遅れを背景とした軍高官らの解任も相次いでいる。
ザルジニー氏は11月初旬、英誌エコノミストへの寄稿やインタビューで「戦況は消耗戦の様相を呈している。これは兵力や国力で勝るロシアに有利だ」と指摘。反攻が計画通り進まなかったことも認めた。その上で、戦局打開には兵器の技術革新が必要だとした。
これに対し、ゼレンスキー氏は11月4日、「反攻は続いている。戦局は膠着していない」とザルジニー氏の認識を否定。戦局の膠着を認めて欧米側の軍事支援が削減される事態を懸念したとみられる。ゼレンスキー氏は英大衆紙サンの20日のインタビューでも「ザルジニー氏や軍指揮官らに敬意を表すが、ヒエラルキー(権力の階層構造)が存在する」「軍は政治に関与すべきではない」などと述べた。サン紙は「ザルジニー氏が政界に転じればゼレンスキー氏のライバルになる」とし、両氏は潜在的な競争関係にあると伝えた。
人事でも政権と軍の確執が示唆された。ゼレンスキー氏は3日、ザルジニー氏の側近でウクライナ特殊作戦軍のホレンコ司令官の解任を発表。解任はホレンコ氏やザルジニー氏にも秘密裏に決定されたとされる。
さらにゼレンスキー氏は19日、軍の医療部門を統括するオスタシチェンコ司令官の解任を発表。同氏は更迭が検討されているとウクライナメディアが事前に報じていた3人の司令官の一人だった。政権側は「他の2人を即座に交代させる予定はない」としているが、同国メディアは「一連の人事は反攻の遅れに対する責任追及だ」と伝えている。
露メディアはウクライナの「不協和音」をことさら強調して伝えている。
露有力紙の独立新聞は11月16日、「ウクライナのイエルマーク大統領府長官が11月中旬に訪米した目的はザルジニー氏の解任について米国の同意を得るためだった」とするロシア在住の元ウクライナ最高会議(議会)議員、キリンカロフ氏の主張を紹介。国営ロシア通信も「ゼレンスキー対ザルジニー戦争が開幕した」とする記事を配信した。露国防省系メディア「ズベズダ」は14日、「ウクライナはザルジニー氏の刑事訴追を計画しており、軍事クーデターが起きる可能性もある」などと主張した。
●ウクライナ南部の厳しい現実 − 砲撃、避難、洪水を生き延び、冬に怯える 11/22
ウクライナ、2023年10月27日 ― 2023年6月、カホフカ・ダムが破壊された時、2022年2月のロシアによる本格的なウクライナ侵攻以来、すでに計り知れない苦しみに耐えてきたコミュニティやその地域の家族にとって、状況はさらに悲惨なものとなりました。
戦争とダム決壊に引き裂かれた故郷
「この20か月間、私たちはロシア兵が村に侵入するのを目撃し、激しい砲撃を生き延び、避難を余儀なくされました。村に戻った後、私たちは元の正常な生活に戻り、生活を再建することを望んでいました。でもその時、洪水が起きたのです」と、アナさん(21歳)は語ります。
地元の学校教師であるアンナさんは、母親と妹と共にミコライウスカ州アファナシウカ村に住んでいます。ダムが破壊されたと聞いた時、彼女たちはダムから120キロメートル離れた自分たちの村まで水が来るとは思ってもみませんでした。しかし、翌日にはすでに家屋は浸水し、道路は洪水によって通行不能になりました。
家族である母親、妹と共にミコライウスカ州アファナシウカ村に暮らすアンナさん(21歳)
アンナさんと家族は、水が押し寄せる直前に何とか自宅から脱出しました。彼女たちはより安全な地域にいる親戚に受け入れられ、ここからインターネットやソーシャルメディアの映像を通して故郷の村の状況を監視しました。
「私たちの村がこんなにも急速に浸水したのは衝撃的でした。私たちが最も懸念していたのは、水で地雷が村まで流されてくるのではないかということでした。それが一番怖かったです」
洪水で彼女たちの家は損傷を受け、壁の高いところには黒い粘土の層が残りました。庭も地下室も破壊され、家具はすべて駄目になり、処分する必要がありました。フェンスも完全に崩壊しました。
「洪水後、家に入った時、私たちは目にしたものを信じることができませんでした。まるで竜巻が通過したかのようでした。水の勢いはすさまじく、あらゆるものを押し流しました」とアンナさんは言い、すべての壁と床を修理しなければならなかった、と付け加えました。
UNHCRとパートナー団体が提供した緊急用の建設資材等の物資を使って、アンナさんの家族はカホフカ・ダム破壊による洪水の被害を受けた他の多くの人々と同じように、家を修理することができました。
今、アンナさんはこれからやって来る冬を心配しています。
極寒となるウクライナの冬
「私たちの村では冬は凍えるので、去年の冬と同じような停電や断水を恐れています。これだけ苦労したのですから、家族と一緒にこの家に留まりたいのです」とアンナさんは語ります。
アファナシウカ村は、カホフカ・ダム破壊による洪水の著しい影響を受けた29集落のうちの1つです。壊滅的な洪水は、人々の命、家屋、安定への希望を一掃し、そこに住む多くの人々は、緊急の避難のみならず人道支援が必要となりました。
ダム破壊の壊滅的な影響は、隣接するユリウカ村にも及びました。その村では、60代のヴァシルさんとナタリアさんのベレスト夫婦が地元の灌漑システムで働いています。また、夫妻は庭を手入れし、小さな家でさまざまな動物を飼っています。
ダムが破壊された後、彼らの村で洪水が始まるまでほんの数時間しかかからず、水位は急激に上昇しました。ヴァシルさんは仕事から急いで帰宅し、できる限り動物を救い出そうと決意しました。
「ある瞬間、ふと周りを見渡すと、胸まで水につかり、溺れそうになっているアヒル数匹を両手に抱え必死で助けようとしている自分がいました」とヴァシルさんは回想します。
迅速に行動することが重要でした。翌日までに水位は家の屋根の高さまで上昇、夫妻の40年にわたる結婚とこの地での生活で築き、手に入れたものすべてが水没の危機に瀕していました。
ダム決壊後に実施されたUNHCRのシェルター活動
4日後、水は引き始め、ヴァシルさんとナタリアさんは残った家の構造を確認することができました。幸い、壁と屋根は洪水に耐えたので、家が十分に乾き次第、修理を始めることにしました。UNHCRからの建設資材と自分たちが持つリソース、そして家族からの援助により、ヴァシルさんとナタリアさんは家の改築に成功し、冬が来る前に元の家に戻れることになりました。
「冬の間にどんな困難が待ち受けているか分かりませんが、私たちはここに、家に留まる決心をしています。ここが私たちの居場所なのですから」とナタリアさんは語りました。
2023年6月カホフカ・ダム破壊の直後、UNHCRとパートナー団体は、ベッド、マット、枕、寝具、毛布、タオル、調理器具セット、衛生キット等、必需品8万点以上を提供しました。被災者は心理社会的支援、カウンセリング、移送サービスといった援助を受け、洪水の被害を受けた1万2000人以上が多目的に利用できる現金給付を受けられるように登録されました。
「水の勢いはすさまじく、あらゆるものを押し流しました」
ミコライウスカ州当局の要請を受け、UNHCRとパートナー団体の現地NGO“4月10日”は、洪水被害を受けた家屋210棟を支えるために必要な建設資材を配布しました。資材には、セメント、木材、ブロック、屋根材、天井の崩落や配管の破損といった内装を修復するための材料が含まれていました。
「私たちがこれまで提供してきた援助が、戦争や洪水で被害を受けた家屋を冬の到来前に修復する実質的な手助けになっていることを嬉しく思います」と、被害を受けた地域を訪問した後、カロリーナ・リンドホルム・ビリングUNHCRウクライナ代表は述べました。
「非常に寒くなる可能性が高く、重要なインフラへの攻撃によって、人々が寒さと雨天にさらされることがさらに増えると懸念されています。そのためUNHCRは、今後数か月間の防寒対応を優先し、人々が迅速に家の断熱を実施し、暖房や固形燃料のコスト増を補い、保湿性の高い毛布といった防寒用品を受け取れるよう援助します。欧州連合(EU)をはじめとする支援者の皆様からの時宜を得た寛大な資金提供のおかげで、UNHCRとパートナー団体は、ウクライナの人々がこの冬を安全で暖かく過ごせるよう、共同の防寒対策に貢献するために全力を尽くします。」
●米「ウクライナとともにあり続ける」1億ドル規模の支援 11/22
ウクライナ戦争が国際社会の関心から遠ざかっている中、オースティン米国防長官が20日、約1年7ヵ月ぶりにウクライナの首都キーウをサプライズ訪問した。オースティン氏は、揺らぐ欧米の支援に不安を感じているウクライナに対し、「米国はウクライナとともにあり続ける」と述べ、1億ドル規模の安全保障支援計画を発表した。
オースティン氏は同日、キーウに到着した後、ソーシャルメディアX(旧ツイッター)に「米国はロシアの侵略に対して自由を守るために戦っているウクライナとあり続ける。今もそうだし、未来にも変わらない」と強調した。米国防総省は報道資料を通じて、「オースティン長官はウクライナに対する米国の確固たる支援を強調するために訪問した」と説明した。
CNNによると、同日、米国防総省は1億ドル(約1291億ウォン)規模の新しい安全保障支援を発表した。高機動ロケット砲システム「HIMARS」や155ミリ砲弾、対空ミサイル「スティンガー」などが含まれた。オースティン氏は支援を発表し、「上下両院で超党的な支持を得ている」と述べた。
オースティン氏は、戦争勃発から約2ヵ月後に、ブリンケン米国務長官と共に初めてキーウを訪問している。
●米、弾薬供与3割減と報道 ウクライナにガザ情勢影響 11/22
米ABCテレビは21日、パレスチナ自治区ガザ情勢が緊迫した先月以降、米国がウクライナに供与した北大西洋条約機構(NATO)規格の弾薬量が3割以上減ったと報じた。ウクライナ政府当局者の話としている。米国による弾薬供与は全体の6〜7割を占めるとされ、事実であればウクライナ軍にとって痛手となる。
米政府高官はABCテレビに対し「ガザで起きていることとウクライナで起きていることの間には何の関連性もない」と影響を否定した。ウクライナ政府当局者は「弾薬が届かない。深刻な問題に直面している」とした。
米国防総省のシン副報道官は記者会見で「米国はイスラエルと同時にウクライナも支援できると自信を持っている」と強調した。
オースティン米国防長官は20日にキーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談。米政府は同日、対戦車兵器や300万発以上の小火器用弾薬の供与を含む最大1億ドル(約150億円)の追加軍事支援を発表した。
●要人のキーウ訪問相次ぐ 厳冬期控え支援調整―ウクライナ 11/22
欧州連合(EU)のミシェル大統領とドイツのピストリウス国防相は21日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れた。20日までにはオースティン米国防長官や日本の外務副大臣らもキーウを訪問。大規模な部隊展開が難しくなる厳冬期の到来を控え、各国は軍事や復興支援の調整を活発化させている。
ピストリウス氏は13億ユーロ(約2000億円)規模の新たな軍事支援を表明した。ウクライナを巡っては戦闘が長期化し、「支援疲れ」が顕在化している。相次ぐ西側諸国の要人訪問には、世界の関心がパレスチナ情勢に向き始める中、改めてウクライナを支える姿勢を強調する意図もありそうだ。
東部ドネツク州アウディイウカでは、ロシア軍による包囲作戦が進行している。米シンクタンク戦争研究所の20日付報告によると、降雪が戦闘に影響し始めており、ウクライナ軍報道官は「(雪で)両軍の視界が遮られた」と指摘した。南部ヘルソン州のドニエプル川東岸ではウクライナ軍がじりじりと陣地を広げているもようだ。
ウクライナ軍によると、ロシア軍は20日夜から21日未明にかけて、ミサイル5発とドローン11機を発射し、ウクライナ各地を攻撃。ドネツク州の病院などで被害が出た。
●ウクライナ南部で国内避難民支援を開始:AAR Japan 11/22
[特定非営利活動法人 難民を助ける会]
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは、東部・南部を中心に家を追われた数十万人の国内避難民がいます。AAR Japan[難民を助ける会]は現地協力団体「The Tenth of April」(TTA/本部オデーサ)と連携して、南部ミコライウ、ヘルソン両州の国内避難民や地域住民に現金給付・食料配付を行う支援活動を近く開始します。
AARはTTAの現場支援チームを通じて、両州に滞在する国内避難民、および障がい者や高齢者、深刻な被害を受けた地域住民への現金給付(1人当たり約1万5,000円相当×3カ月分)、食料配付(2カ月分)の準備を進めています。現地では女性や子ども、高齢者を中心に多くの避難民が極めて困難な状況に置かれており、ミコライウ州は約55万人、ヘルソン州は約24万人が何らかの支援を必要としています。本格的な冬の到来を前に、家を失った人々の生命をつなぐための支援が急がれています。
AAR Japanは昨年3月以降、ウクライナ難民・国内避難民や障がい者団体への支援活動に取り組んできましたが、事態が長期化する中、困難な状況に置かれた人々に寄り添う支援がいっそう重要になっています。AARのウクライナ人道支援へのご協力を重ねてお願い申し上げます。 
●習近平主席 ロシア連邦議会下院のボロージン議長と会談 11/22
習近平国家主席は北京市内の人民大会堂で22日午後、ロシア連邦議会国家院(下院)のボロージン議長と会談しました。
習主席は、「中露両国は互いに最大の隣国であり、国連安全保障理事会の常任理事国として広範な共通利益がある。私は今年、プーチン大統領と2度お会いして、全面的な戦略協力と各分野における実務協力をめぐって、多くの共通認識を達成した。来年は両国国交樹立75周年に当たる。中国はロシアとともに、恒久の善隣友好、全面的な戦略協力、互恵協力とウィンウィンの両国関係を絶えず深め、両国の発展と振興に新しい力を注ぎ込み、世界の繁栄と安定により多くの安定をもたらしたい」と述べました。
ボロージン議長は、「習主席とプーチン大統領の戦略的な指導により、両国の関係は史上最良の状態に達した。ロシア連邦議会国家院の各党派は中国との友好関係を支持する上で、高いレベルの共通認識を持っている。ロシアは一つの中国の政策を尊重し、中国が国家の主権と領土の保全を維持する行動を支持する。また、ロシアは中国とともに両国の立法機関と党の交流や協力を強め、両首脳の重要な共通認識を実行に移し、国民の友好と相互信頼を深め、両国の新時代における全面的な戦略協力パートナー関係の発展の継続のために有効な法律上の保障を提供し、両国関係の発展に貢献したい」と表明しました。
●侵攻停止を考える必要があるとロシア大統領 11/22
ロシアのプーチン大統領は22日のG20首脳会議で、ウクライナ侵攻が続いていることは衝撃だとする一部首脳の発言に対し「軍事行動は常に悲劇で、停止する方法を考える必要がある」と述べた。ウクライナとの和平交渉を拒否したことはないと主張した。
●ヨーロッパに「鉄のカーテン」が復活──ロシアの新種の嫌がらせ 11/22
フィンランドは、ロシアとの国境からの入国制限を強化している欧州諸国の一つだ。際限なく続く亡命希望者は、フィンランドを弱らせるためにロシアが送り込んでいる「武器」だと非難している。
ある専門家は本誌の取材に対し、ロシアは、NATO加盟でアメリカと軍事同盟を組んだフィンランドの決意を試そうとしていると語り、状況はさらに悪化する可能性があると付け加えた。
フィンランドでは南部の国境から入国を求めるイラク、イエメン、ソマリアなどからの亡命希望者が急増し、11月16日、ロシアとの国境にある9カ所の検問所のうち4カ所を2月18日まで閉鎖すると発表した。
フィンランド国境警備隊によると、フィンランド南東部にあるバーリマー、ヌイヤマー、イマトラ、ニイララの各交差点に障壁が設置された。この4カ所は両国間の最も交通量の多い地点で、1日あたり約3000人が国境を超える。
この動きを見たノルウェーのエミーリエ・エンゲル・メヘル法務大臣は、ロシアからノルウェーへの越境者が急増した場合、極北にあるロシアとの国境を閉鎖する用意があると警告した。
越境阻止に動く近隣諸国
一方、バルト三国のエストニアでは、ソマリアからの移民8人が国境都市ナルバを経由してNATOおよびEU加盟国に入国しようとする事件があり、必要とあればロシアとの国境通過点をすべて閉鎖すると発表した。
エストニア政府は、東部ナルバにあるロシアとの国境に、対戦車用の「竜の歯」という障害物を設置するよう命じた。ラウリ・ラーネメッツ内相は、ロシアが「理由もなく」亡命希望者を国境に向かわせていると非難した。エストニアは、書類も許可もなしに国境を越えようとする人々を全員送還した。
ヨーロッパ各国のロシアとの国境における緊張を如実に物語るのが、ニイララ国境駅でのフィンランド国境警備隊と移民の対立を撮影した動画だ。ソーシャルメディア上で共有された画像には、自転車で国境に集まった難民たちの姿が写っている。
フィンランドはロシアと1340キロに渡る国境を接している。数十年間中立と軍事的非同盟を貫いていたフィンランドがNATOに加盟したことにロシアは怒り、それがプーチンのウクライナ侵攻の一因ともなった。フィンランドはまた、国境の一部に全長200キロのフェンスを建設中で、2026年までに完成する予定だ。
NATO加盟への報復
フィンランドのペッテリ・オルポ首相は、ロシアがフィンランドのNATO加盟に報復しようとしていると主張し、ロシアからの難民は「ロシアの国境警備隊の助けを借りて国境まで護衛されたり、移送されたりしている」と非難した。
シンクタンク英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアソシエイトフェローでヘルシンキ大学の客員研究員サリ・アルホ・ハブレンは、ロシアはフィンランドのNATO加盟と10月に発表されたアメリカとの防衛協力協定(DCA)の両方に反応していると述べた。
「フィンランド当局は、こうしたロシアの圧力に断固として対応する用意があると言っているが、状況は緩和されるどころか、悪化する可能性がある」と彼女は本誌に語った。フィンランドは今も国際人権協定を遵守し、正当な亡命希望者の申請手続きを進めているというが、ロシアはそれを逆手に取っている可能性もある。
ロシアはフィンランドに圧力をかけるために亡命希望者を利用している、とハブレンは言う、「冬の気候を考えると、国境地帯に集まった人々はとても厳しい状況にある」
「今や、フィンランドに住むロシア人までが、国境を開放し続けるよう要求し始めている。事態の根本的な原因はロシア政府の攻撃的な政策にある」と、彼女は言う。「ロシアが次にどんな行動を計画しているのか、推測するしかない」
巧妙な難民利用作戦
ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、フィンランドが移民問題でロシアと対立するのは「大きな過ち」だと述べ、ロシア外務省は「移民を武器化している」というフィンランドの主張を否定。「非常に奇妙」な非難だと表現した。
移民の武器化といえば、ロシアから数千人の移民がロシアの同盟国ベラルーシ経由でEU加盟国のポーランドとリトアニアに入国した2021年のケースが有名だ。EUはベラルーシの指導者アレクサンドル・ルカシェンコがEU圏を不安定化させようとしていると非難した。
フィンランドのタンペレ大学の研究員ペッカ・カッリオニエミは、ロシアはベラルーシとともに、軍備と難民の「ハイブリッド攻撃作戦」をEUに仕掛けていると本誌に語った。
「ロシア政府は、この作戦からさまざまな面で利益を得ることができる。国内のプロパガンダに利用できるだけでなく、フィンランドを亡命希望者を不当に扱う国に仕立て上げることもできる」
●ウクライナ、政権と軍に不協和音 反攻遅れ背景に 11/22
ロシアの侵略を受けるウクライナのゼレンスキー政権と同国軍の間に確執が生じているとの観測が出ている。
軍トップのザルジニー総司令官は11月、戦局が膠着(こうちゃく)し、「突破口がない」との認識を表明。これにゼレンスキー氏は異議を唱えた。反攻作戦の遅れを背景とした軍高官らの解任も相次いでいる。
ザルジニー氏は11月初旬、英誌エコノミストへの寄稿やインタビューで戦況について「消耗戦」の様相を呈し、兵力や国力で勝る「ロシアに有利だ」と指摘。反攻が計画通り進まなかったことも認めた。その上で、戦局打開には兵器の技術革新が必要だとした。
これに対し、ゼレンスキー氏は11月4日、「反攻は続いている。戦局は膠着していない」とザルジニー氏の認識を否定。戦局の膠着を認めて欧米側の軍事支援が削減される事態を懸念したとみられる。ゼレンスキー氏は英大衆紙サンの20日のインタビューでも「ザルジニー氏や軍指揮官らに敬意を表すが、ヒエラルキー(権力の階層構造)が存在する」「軍は政治に関与すべきではない」などと述べた。サン紙は「ザルジニー氏が政界に転じればゼレンスキー氏のライバルになる」とし、両氏は潜在的な競争関係にあると伝えた。
人事でも政権と軍の確執が示唆された。ゼレンスキー氏は3日、ザルジニー氏の側近でウクライナ特殊作戦軍のホレンコ司令官の解任を発表。解任はホレンコ氏やザルジニー氏にも秘密裏に決定されたとされる。
さらにゼレンスキー氏は19日、軍の医療部門を統括するオスタシチェンコ司令官の解任を発表。同氏は更迭が検討されているとウクライナメディアが事前に報じていた3人の司令官の一人だった。政権側は「他の2人を即座に交代させる予定はない」としているが、同国メディアは「一連の人事は反攻の遅れに対する責任追及だ」と伝えている。
露メディアはウクライナの「不協和音」をことさら強調して伝えている。
露有力紙の独立新聞は11月16日、「ウクライナのイエルマーク大統領府長官が11月中旬に訪米した目的はザルジニー氏の解任について米国の同意を得るためだった」とするロシア在住の元ウクライナ最高会議(議会)議員、キリンカロフ氏の主張を紹介。国営ロシア通信も「ゼレンスキー対ザルジニー戦争が開幕した」とする記事を配信した。露国防省系メディア「ズベズダ」は14日、「ウクライナはザルジニー氏の刑事訴追を計画しており、軍事クーデターが起きる可能性もある」などと主張した。
●米国が「反ウクライナ」に手の平返し、次はアジア戦争か!?  11/22
ジェームズ 今日は日米の2つの裏切りについてお話ししましょう。
──2つの裏切り?
ジェームズ はい。まず、一つはCIAがゼレンスキーたちを裏切りました。去年、ノルドストリームというガスパイプラインの爆破事件があったじゃないですか。
──アメリカがやったとか、やらないとかになった事件ですね。
ジェームズ あれは以前に親露派のセイモア・ハーシュというアメリカ人ジャーナリストがCIAがやったと言い出したんです。これで一気に「CIA犯行説」 が広まったのですが、今回、ワシントン・ ポストがウクライナの特殊部隊がやったと言い出したんですよ。
ジェームズ ワシントン・ ポストというバイデン政権大バンザイ御用メディアがここに来て完全に反ウクライナに舵を振りました。これはCIAの謀略です。ちなみに、私は昨年に事件が起きた直後に「ロシア自作自演説」 CIA関係者を含む私の人脈から聞いていたのでそれを暴露しま した。今でもそれを支持しています。あれはロシアにしかできないことです。
ハーシュの「CIA犯行説」も元を辿ればクレムリン発の悪質なディスインフォメーションです が、重要なのは今回CIAがそれを反駁せずにあろうことか「ウクライナ犯行説」 というディスインフォメーションを拡散したことです。CIAはワシントンポスト等の主要メディアを「 モッキングバード作戦」 というメディア工作を通じて完全に握っていますので、いくらフェイク満載のディスインフォメーションでも「真実」 になります。つまり、CIAはロシアに対抗せずに、ウクライナに責任をなすり付けて「見殺し」にしています。このCIAの一連の行動を振り返ると、私が2022年2月のウクライナ全面侵攻以前から主張していた「ウクライナの生贄化」があからさまに実行される段階になったということがわかります。
──手の平返しを始めたんですね。
ジェームズ そうですね。いまやアメリカでは「ウクライナの部隊を野放しにすると何をするかわからない。 そんなやつらに支援金を出す必要はない」という論調になっています。もちろん、その前からもう、ウクライナへの支援はやめるべきだという国民の声は大きかったの ですが、これで決定的になりましたね。
──やっとあの茶番のような戦争が終わりますか。
ジェームズ 確実に終わりに向かっています。実際、ウクライナ国内ではすでに内部分裂が起こっています。 10月にウクライナ参謀本部のヴァレリー・ザルジニー総司令官が「いま戦況は膠着状態にある」という事実をエコノミスト誌に語ったのですが、直後にゼレンスキー大統領が「待った」をかけて、「ウクライナは勝っている。膠着状態ではない」と否定しました。ウクライナ軍の総司令官が負けてると認めているのに、 トップが負けを認めないという状態です。しかも、その後、 ザルジニー総司令の腹心の部下が誕生日プレゼントとして手榴弾を渡されて爆死しています。ウクライナ政府はこれを事故だと言い張っています(苦笑)。
──誕プレが手榴弾!? なんか、 手榴弾をプレゼントする習慣がウクライナにはあるんですか!?
ジェームズ ありません(苦笑)。狙われたのは部下ではなく、ザルジニーだったという説が濃厚です。
──ということはゼレンスキー側が狙ったと。
ジェームズ その可能性がいま示唆されています。ウクライナはそういう状況で、 戦争をやりたいのは戦争支援金ビジネスで潤っているゼレンスキー たちだけです。ウクライナ軍も国民も厭戦気分がまん延していて、 本当であればゼレンスキーは大統領を辞めるべきなんです。 実はアメリカもそれを望んでいて、ゼレンスキーに対して「選挙をやれ」と言ったんです。やれば間違いなく落選しますから。しかし、11月に入る前にゼレンスキーは「いまは戒厳令下なので選挙はしない」と拒否しました。 それで11月に入ってノルドストリームの暴露記事が出たのです。
──完全にウクライナ外し、ゼレンスキー外しの流れができてきてるんですね。
ジェームズ アメリカからすれば、イスラエルで戦争が起きたので、ウクライナ戦争は終わっていいのです。 前回お話しした新エルサレム計画(メルマガを参照)も、いまの状況であればロシアとイスラエルで勝手に進めていってくれるのでバイデン政権にとってはウクライナ戦争はもう必要ありません。いまは新たな戦争としてアジアを睨んでいて、それが15日の米中首脳会談になります。報道では大して中身がなかったことになっていますが、台湾有事についての密約があったと聞いています。 この会談については岸田VS習近平会談の様子も併せて次回お話ししましょう。ともかく、ウクライナ戦争はアメリカが見放ししたことで事実上終わりになったということです。
岸田総理は財務省に裏切られた?
そして、もう一つの裏切りが岸田さんです。 岸田さんは財務省に裏切られました。
──ああ、人気取りのために減税とか言い出しましたからね。本気でやる気なんかないくせに。
ジェームズ まさにその通りで、増税で批判されたので突然減税と言い出しました。それで財務省に見捨てられたのですが、どうやら岸田さんはそうなることがわからなかったようです。彼は何も考えていませんので、その場その場の対応しかできないのです。しかし、これまでの日本の政治を見ていると財務省に喧嘩を売って無事だった政治家はいません。 財務省と真っ向から対立していた安倍さんですら増税をしていますから。
── あの増税があるから安倍さんを手放しで絶賛できないんですよね。
ジェームズ 本来、安倍さんは積極財政派なので「増税マンセー」の緊縮財政を支持するはずがないのですが、増税をせざるを得ないほど財務省は強いということです。財務省にとっては増税だけが存在意義で、事務次官レースに勝つためには政治家に増税を飲ませた人間が勝つという不文律まであります。一番有名なのが野田政権の時に増税をやった当時の財務事務次官の勝栄二郎です。彼は事務次官のあとにインターネットの会社の顧問になりますが、その会社がいま何をしているのかというとマイナンバーのデータベースの監理ですよ。
──えっ、それって何もしなくてもウハウハじゃないですか!?
ジェームズ 永久に金が入ってきますからね。そもそもマイナンバーは勝栄二郎が事務次官の時に仕組みを作ったのです。彼の言葉に「政治家が財務省に勝てるはずがない」というのがありますが、これは残念ながら事実です。政治家は常に落選と隣り合わせの孤独な個人プレーなのに対し、財務省の官僚は上から下まで全員が増税派でチームプレーの結束力 でもって完全に圧倒します。政治家と財務省の力関係は、サッカーの日本代表チームに対し地方の代表選手が「一人サッカー」を挑むようなものです。ともかく、 歴代の総理も財務省と対立するとすべて失脚しています。 それにもともと国民のことを非人ぐらいにしか思っていません。
──財務省ってなくなったほうがいいですね。
ジェームズ 国家の財政を管理する組織は必要悪ですが、彼らの欺瞞を日々の任務で目の当たりにする機会がよくあるので、私でもそう思ってしまいます(苦笑)。 最低でもあの組織は一度解体したほうがいいと思います。そういう組織を無意識のうちに敵に回したのが岸田さんです。
──ということは岸田さんは終了ということですね。 それはそれでいいと思いますが。
ジェームズ ところが終了ではないのです。ここが岸田政権の最大の矛盾なのですが、国民に嫌われ、財務省にも捨てられた人間なのに現在でも首相だということです。本当であれば、内閣は崩壊しているのですが、そうならないのはバイデン政権に気に入られているからです。
──結局、バイデン政権か!
ジェームズ 岸田さんは信頼されているわけではなくて、手駒として使いやすいためですが(苦笑)。 来年9月の総裁選にしても密約があって茂木さんは出ないことにな っています。すると対抗馬は石破さんや河野太郎なので、また、 岸田さんの続行です。 来年の9月ならまだバイデン政権もありますし。
──まだまだ続くのですか、岸田政権は!?
ジェームズ 残念ながら(苦笑)。これが日本政治の現状です。 おそらくここまでアメリカの意向が直に反映される政治は、 GHQの占領時代でもあり得なかったことだと思います。選挙もなにも信用できなくなった今、インテリジェンス・ リテラシーのみが生存の道だと思います。

 

●G20、ロシア侵攻巡り分断 首脳会議、プーチン氏出席 11/23
インドが議長国として22日にオンライン開催した20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は、ウクライナ侵攻を正当化するロシアのプーチン大統領と、非難する岸田文雄首相らとの間で応酬となり、国際社会の分断が際立った。ロシアと関係が深いインドのモディ首相は批判を避けた。
岸田氏は「各国の非難にもかかわらず侵攻は続き、世界の持続可能な発展の基盤を揺るがしている」と訴えた。プーチン氏は「軍事行動は常に悲劇で、止める方法を考える必要がある」と述べた上で、和平交渉を拒否しているのはウクライナの方だと主張した。
パレスチナ自治区ガザの情勢も議論した。モディ氏は「対話と外交が唯一の解決策だ」とし、G20として可能な限りの支援を提供する用意があると述べた。
インドと国境係争を抱えて関係が悪化している中国の習近平国家主席は9月のサミットに続いて今回も欠席し、李強首相が参加した。李強氏は世界経済の回復に向けて「G20のメンバーは大国の責任として、模範的な役割を果たすべきだ」と述べた。
●プーチン氏 G20にオンライン出席 「悲劇を止める方法を考える必要」 11/23
ロシアのプーチン大統領が、G20(主要20カ国・地域)の首脳会議にオンラインで出席した。
欧米諸国の首脳が参加する主要な国際会議に出席するのは、ウクライナ侵攻後、初めて。
プーチン大統領は22日、議長国インドの呼びかけで開催された、オンライン形式のG20首脳会議に出席し、戦闘が続くガザでの民間人被害が「衝撃だ」と話した。
会議で、一部の首脳がロシアによるウクライナ侵攻が「衝撃」だと発言したことについては、「軍事行動は常に悲劇で、それを止める方法を考える必要がある」と反論した。
そのうえで、ウクライナとの和平交渉について、ロシアが拒否したことはない、拒否しているのはウクライナだとあらためて主張した。
●ウクライナ戦争の「悲劇」停止の方策考える必要、プーチン氏 G20で 11/23
ロシアのプーチン大統領は22日、オンライン形式による20カ国・地域(G20)首脳会議で、ウクライナ戦争の「悲劇」を止める方策を考える必要があると語った。
2022年2月のウクライナ侵攻開始後、G20首脳会議での初の演説となる。また、ウクライナに絡むプーチン大統領の発言としては最もハト派的な内容の一つ。
G20首脳の間から、ウクライナ侵攻の継続は衝撃という発言が聞かれたことを受け、プーチン大統領は「軍事行動は常に悲劇だ」と指摘。「無論、この悲劇を止める方法を考えるべきだ」とし、「ロシアはウクライナとの和平交渉を拒否したことは一度もない」と強調した。
さらに、ロシア大統領府(クレムリン)が通常使用するウクライナに対する「特別軍事作戦」という文言は使わず、「この戦争、そして人々の死は衝撃以外の何ものでもないと理解している」と述べた。
その上で、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの衝突が続くパレスチナ自治区ガザの情勢について、「ガザにおけるパレスチナ人の死は衝撃的ではないのだろうか」とも述べた。
●G20首脳会議 プーチン大統領 “和平交渉拒むのはウクライナ” 11/23
G20=主要20か国の首脳会議が22日オンライン形式で開かれ、ウクライナ情勢をめぐって、ロシアのプーチン大統領は「この悲劇をどう終わらせるのか考えなくてはならない」と述べる一方、和平交渉を拒んでいるのはウクライナだなどと、これまでの主張を繰り返しました。
このオンライン会議は、ことし9月にニューデリーで開かれたG20の首脳会議で採択された首脳宣言の具体化に向けて議長国インドの呼びかけで開かれたもので、日本から岸田総理大臣も参加しました。
この中でインドのモディ首相は、グローバル・サウスの国々が抱える課題に優先的に取り組んでいくべきだと強調したほか、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突について「市民の犠牲はいかなる場所であれ非難すべきだ」と述べました。
今回の会議には欧米諸国の首脳が参加する主要な国際会議を欠席してきたロシアのプーチン大統領が出席しウクライナ情勢についても議論が交わされました。
プーチン大統領は、参加した首脳の間からロシアによる軍事侵攻が続いていることは衝撃だとの発言が出たとしたうえで「当然、軍事行動はいつも悲劇だ。この悲劇をどう終わらせるのか考えなくてはならない」と述べました。
ただ「ロシアはウクライナとの和平交渉を拒否したことはない。公に交渉を拒んでいるのはウクライナのほうだ」などと、これまでの主張を繰り返しました。
インド外務省によりますと、会議では、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐって、人道状況の改善や人質の早期解放に向けて各国が一致して取り組むことを確認したということです。
岸田首相「ロシアによる侵略 世界の発展基盤揺るがす」
岸田総理大臣も22日夜、G20=主要20か国のオンライン形式の首脳会議に参加しました。
そして「現在、国際社会は一層複雑化する危機に直面している。中でもロシアによるウクライナ侵略は、これまで各国が非難しているにもかかわらず今も続いており、世界の持続可能な発展の基盤を揺るがしている」と指摘しました。
そのうえで、国際社会の課題により効果的に対応するためには安保理改革を含む国連の機能強化が必要だと訴えました。
●「世界の発展基盤揺るがしている」 岸田首相 ウクライナ侵攻めぐり 11/23
ロシアのプーチン大統領が、G20(主要20カ国・地域)の首脳会議にオンラインで出席した。
欧米諸国の首脳が参加する主要な国際会議に出席するのは、ウクライナ侵攻後、初めて。
一方、この会議の中で岸田首相は、ロシアによるウクライナ侵略について、「世界の持続可能な発展の基盤を揺るがしている」と批判した。
G20の会議の中で、岸田首相は「国際社会は、いっそう複雑化する危機に直面している」と指摘し、「ロシアによるウクライナ侵略は、これまで各国が非難してきているにもかかわらず、今も続いており、世界の持続可能な発展の基盤を揺るがしている」と批判した。
そのうえで、「国際社会が直面する諸課題に対処するには、人間の尊厳が守られる世界を目指していくべきだ」と訴え、安保理改革を含む国連の機能強化も重要だとして行動を呼びかけた。
●「ウクライナ侵攻やめろ」 独首相、G20でプーチン氏に直言 11/23
ドイツのショルツ首相は22日、オンライン形式で同日開かれた20カ国地域・首脳会議(G20サミット)で、ロシアのプーチン大統領に対して「ウクライナへの侵攻をやめるよう呼び掛けた」と明らかにした。ベルリンを訪れたイタリアのメローニ首相との共同記者会見で述べた。
ショルツ氏はまた、「(プーチン氏が)ウクライナの領土から軍隊を引き揚げて、そこでようやく戦争が終わる」と説明したという。メローニ氏もウクライナの和平に関し、「最も簡単なのは、(ロシアが)軍を撤退することだ」との立場を再確認したと強調した。
●プーチン氏に侵攻撤退要求 11/23
ドイツのショルツ首相は22日、20国・地域(G20)のオンライン首脳会議(サミット)で、ロシアのプーチン大統領に「ウクライナへの攻撃をやめ、軍隊を撤退させるよう求めた」と明らかにした。イタリアのメローニ首相とのベルリンでの共同記者会見で語った。
ショルツ氏と共にサミットに参加したメローニ氏は「プーチン氏はロシアは和平交渉に取り組みたいと言ったが、とても簡単だ。軍隊を撤退させればいい」と強調した。
ショルツ氏は、プーチン氏のサミットへの参加は「ロシアが軍隊を撤退させれば、ウクライナの平和は容易に回復できることを明らかにする良い機会だった」と述べた。
●NYマーケット反発 ダウ平均3万5273ドル03セント ナスダック1万4265.86 11/23
22日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反発した。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止観測を受け、景気の先行きに対する楽観的な見方が広がり、買いが優勢となった。
対話型AI(人工知能)「チャットGPT」を開発した「オープンAI」のCEOに、先日解任されたサム・アルトマン氏が復帰することで合意したことも好感され、ITのマイクロソフトが買われた。
結局、ダウ平均は、前日比184ドル74セント高の3万5273ドル03セントで取引を終えた。
また、ハイテク株主体のナスダック総合指数も反発し、前日比65・88ポイント高の1万4265.86だった。
●ロシアの逸脱、中国の黙認、米国の余力分散…機会迎えた北朝鮮の野心 11/23
警察のひとつはあちこちで同時に起きる騒擾事態に目が回るほど忙しく、別の警察は目の前で刃物を持って強盗を謀議しているのに知らないふりで別の所を見ている。また別の警察は最初から暴力団から支援を受けて機密情報を流している。
現在の米中ロの状況を例えるならば北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の前に置かれた状況はこうだ。ここで法律違反者とはもちろん北朝鮮だ。21日の奇襲的な深夜の軍事偵察衛星打ち上げはこうした「機会の窓」が開かれた隙間を最大化した犯罪だ。
堂々と「追加犯罪」まで予告するほど大胆になった法律違反者の標的になった市民は家に防犯カメラを増やし戸締まりを徹底して他の善良な市民らと力を合わせて防衛に立ち向かうしかない。韓国政府が南北9・19軍事合意の一部効力停止に続き国際制裁などを推進するのがこうした姿だ。
北、勢いに乗り「さらに複数打ち上げ」
北朝鮮の朝鮮中央通信は22日、前日の衛星打ち上げに対し、「国家航空宇宙技術総局は、21日22時42分28秒に、平安北道鉄山郡(ピョンアンブクド・チョルサングン)西海衛星発射場で偵察衛星万里鏡1号を新型衛星キャリア・ロケット千里馬1型に搭載して成功裏に打ち上げた」と報道した。また、金正恩委員長が参観した事実を明らかにし、「国家航空宇宙技術総局は、今後、早い期間内に数機の偵察衛星を追加発射して、南朝鮮(韓国)地域と共和国武力の作戦上の関心地域に対する偵察能力を引き続き確保する計画を党中央委員会第8期第9回総会に提出することになる」と数回の追加打ち上げも予告した。
金委員長はこれに先立ち5月と8月の2度にわたり衛星打ち上げに失敗した後、すぐに再打ち上げを予告した。また、9月には直接ロシアに行きプーチン大統領と会い弾薬と砲弾の支援と引き換えに衛星技術伝授の約束を取り付けるなどの動きを見せ焦りを隠さなかった。
ロシア訪問直前には潜水艦打ち上げ弾道ミサイル(SLBM)10発を搭載し水中で核攻撃が可能な戦術核攻撃潜水艦「金君玉(キム・グンオク)英雄」を進水したと誇示した。だが実状は正常運用そのものが厳しいというのが韓国軍の評価だった。
軍事偵察衛星と原子力潜水艦は金委員長が2021年1月の第8回労働党大会で直接提示したさまざまな武力課題のうち進んでいない武器システムに挙げられる。「核パッケージ」完成に向け必須の分野という意味でもある。金委員長が死活をかける理由だ。
デッドラインでも決めたかのように急ぐ金委員長の焦燥感の裏には核能力高度化を通じ値打ちを高めようとする意図があるとみられる。2024年秋に行われる米国の大統領選挙結果を意識したかも知れない。金委員長と「美しい手紙」をやりとりしながら冷え込んだり改善したりの関係を維持したトランプ前大統領がほとんどの世論調査でバイデン米大統領をリードしているためだ。金委員長にはまた別の機会になり得る。
●市民ボランティアはゼレンスキーも政府も全く信用していなかった… 11/23
自宅が破壊されても町を離れられない理由
ウクライナ軍は6月以降、ロシア軍に対して反転攻勢をかけており、東部戦線と南部戦線で連日激しい戦闘を行っている。南部戦線では、ウクライナ軍が少しずつではあるがロシア軍から支配地を奪還しているという。10月下旬、南部ザポリージャ州の前線へと向かった。
フリアポレという町は前線から6km。ロシア軍の砲爆撃で徹底的に破壊され、いたるところに瓦礫の山ができていた。町の半数の建物が破壊されたとされ、多くの集合住宅は窓やドアが爆風で吹き飛び、住めるような状態ではない。1万3500人だった町の人口はいま2300人まで減少、80%の人々が他の町に避難しているという。
砲撃音がとぎれぬ町の通りに人影が見えた。自転車で荷物を運ぶ60代の女性だった。ここは危険なのになぜ他の場所に避難しないのかと尋ねると、「わずかな年金しかないので避難できない」との答えだった。避難した場合、公的な支援として支給されるのは、大人1人に生活費として初めの3カ月は日本円で約2万3000円、4カ月目からはわずか約8000円である。これでは、月1万円から2万円の年金で暮らす高齢者は、避難先で生活を維持できる見込みがないという。
国民それぞれが原則、「自己責任」で戦争に対応せざるをえないのだ。余裕のある人、親族や知り合いがいる人は国外に逃げることもできるが、自宅が破壊されても土地を離れられない人もいる。非常時には命の格差も表に現れてくる。
残った町民の「命綱」は地下シェルター
では、避難できずに居残っている人はどんな暮らしをしているのか。地下に住む人がいると聞き、訪ねてみた。
そこは集合住宅の地下室で、破壊された上の階に住む高齢者8人が共同生活を送っていた。その1人アウグスチナさんは「戦争が始まってから夫が心臓まひで死んで一人暮らしになったところに、住んでいた集合住宅の部屋がミサイル攻撃で破壊されたのでここに来ました。地下に住んでもう1年になります」と言う。
太陽電池で電灯をつけ、ボランティアから寄贈されたストーブで冬に備えている。食糧や生活必需品は月に一度行政から配布されるが、足りないところはボランティア団体の支援に頼っているという。ピクルスなど保存用の漬物を入れた瓶を見せながら、「勝利するまでの辛抱ですよ」と気丈に言うアウグスチナさん。ただ戦争が長引いているのが心配だという。
残った人々のために半年前に開設されたのが、地下シェルターだ。町で唯一発電・暖房設備をもち、シャワー、ランドリー、理容室など住民サービスを提供する。また、食糧や日用品を無料で配給するなど町民の「命綱」となっている。テレビを見ながら雑談してくつろぐ人々の姿もあった。ある男性の高齢者は、週に2〜3回、スマホを充電するついでに来てリフレッシュしていると語る。ここは憩いの場にもなっているようだ。
シェルターの責任者から厳しく注意されたのが、外の風景を撮影しないこと。住民生活の中心になっている地下シェルターは、場所を特定されるとロシア軍からの攻撃にさらされる可能性があるという。実際、近くのオリヒウ市では8月に地下シェルターがミサイル攻撃を受け、完全に破壊されていた。
敵まで3.5kmの地点で支援活動を行う20歳
前線に近い別の町で、砲撃跡の大きな穴のあいた道を走りながら、家々を回って食糧を配布するボランティアがいた。マックスという20歳の若者で、大学でITを学んでいたが、ロシアの侵攻直後から休学し、個人で支援活動をはじめたという。いわば「ひとりNGO」。
あたりでは砲撃の音がひっきりなしに響き、道路脇には地雷原を示すドクロマークの看板がつづく。対戦車用地雷が3列敷設されているのが見えた。これらはウクライナ軍がロシア軍に対する防御として敷いたという。最前線に近いことを実感する。
マックスさんが車を停める音を聞いて村人が集まってきた。こうした前線に取り残された住民をマックスさんは週2回のペースで支援する。行政の手が届きにくいこれらの集落では、市民ボランティアに暮らしの多くを頼っていた。
巡回中の兵士に前線までの距離を聞くと「敵の部隊まで3500m」だという。今回のウクライナ取材で、ここは私たちがもっとも前線に近づいた地点となった。マックスさんはさらに先に進んで、残っている人を探すというが、危険なので私たちはここで取材をやめた。
マックスさんは活動するなかで何度も危ない目にあってきた。実は私たちが取材した2日後、マックスさんからわずか30mのところに迫撃砲弾が落ちて危うかったそうだ。それでもこの活動をやめる気はない。「だって、ここは僕の国です。僕の家族や同胞、この国の子孫のために、自由を失うわけにはいきません」とマックスさんは淡々と言う。
食料や装備が不足する理由は「汚職」と
マックスさんは、兵士への支援にも力を入れている。東部ドニプロ市にある彼の事務所には、兵士への冬用靴下や使い捨てカイロ、止血帯、医薬品などがところ狭しと置かれていた。戦闘の合間に食べるスナックは、ドローンで運んで塹壕に投下するという。なぜ民間のボランティアが、そんなことまでして軍隊を支援しなければならないのか。
「食糧や装備など、みな不足していますから」。それはなぜ? 支給されていないのですか? とつづけて問うと、マックスさんの答えは一言、「汚職です」。必要な物資が途中で消えて前線まで届かないのだという。ウクライナ政府の財政がひっ迫している事情もあるが、前線の物資不足は汚職が原因だと多くの国民は信じている。
汚職の蔓延は、ウクライナがEUに加盟できない大きな理由にもなっている。「腐敗認識指数ランキング(2022年トランスペアレンシー・インターナショナル)」によると180カ国中、清潔度でウクライナは116位、ロシアは137位といい勝負。ゼレンスキー大統領も汚職撲滅を公約に当選したが、まだまだ改善されていないと国民の目は厳しい。9月にはレズニコウ国防大臣が解任され、これも汚職がらみの人事だと噂されている。
マックスさんたちボランティアは、政府も大統領も当てにせず、自分たちの力で戦争を支えようとしている。かつてナチスと戦ったレジスタンス運動を想起した。ウクライナの防衛戦争は、民衆の自由への強い意志に支えられた国民総抵抗運動の様相を呈している。
●大統領選控えたロシア、ウクライナ戦争兵士家族のデモ取り締まり強化 11/23
ロシア政府が来年3月の大統領選挙を控え、ウクライナ戦争に動員された兵士の家族が行うデモに対する取り締まりを強化したと、英タイムズが21日(現地時間)報じた。
英タイムズはロシアの独立系メディア「ザ・インサイダー」を引用し、ロシア政府が最近モスクワ付近で3日間開かれた会議で、こうしたデモが広がるのを必ず防ぐよう関連当局者に指示したと伝えた。
ロシア政府は徴集された兵士の家族が抱く不満を西側がプーチン大統領を非難する素材として利用するとし、あらゆる手段を動員して規模に関係なくデモが起きないようにすべきだと指示したと、消息筋は伝えた。
この数週間、ロシアではロシア軍徴集兵の配偶者らが複数の大都市でデモを行う動きが表れていた。配偶者らは公開書簡で、志願兵でない徴集兵は戦闘行為に投入されてはならないとし、いかなることがあっても夫を家に連れ戻すと主張した。
ロシア政府は1990年代のチェチェン戦争当時に反戦世論を刺激した軍人の母親らのデモのように、徴集兵の配偶者のデモが来年の大統領選挙を控えて反戦世論につながることを警戒していると、タイムズは分析した。
プーチン大統領はまだ来年の大統領選出馬を公式宣言していないが、2036年まで執権できるよう憲法を改正した状態であり、出馬は既成事実化されている。 
●G20閉幕、プーチン氏「和平交渉を拒んでいるのはウクライナ」… 11/23
主要20か国・地域(G20)首脳会議が22日、オンライン形式で開かれた。24日で1年9か月となるウクライナ侵略を正当化するロシアと、非難する米欧日の対立が改めて鮮明になった。パレスチナ自治区ガザ情勢を巡っては、イスラエルとイスラム主義組織ハマスが人質解放と引き換えに「人道的な戦闘休止」で合意したことを歓迎した。
侵略開始後、米欧首脳が参加する主要な国際会議を欠席してきたプーチン露大統領が今回出席した。米国のバイデン大統領や中国の習近平(シージンピン)国家主席は欠席した。
ドイツのショルツ首相は22日、会議でプーチン氏に対し、ウクライナ領土から露軍が撤退し、侵略を終結させるよう求めたと明らかにした。プーチン氏は「この悲劇をどう止めるべきかを考える必要がある」と述べたが、和平交渉を拒んでいるのはウクライナだと従来の主張を繰り返した。
ガザ情勢については、トルコのタイップ・エルドアン大統領が「戦争犯罪、人道に対する犯罪が行われているのは明らかだ」とイスラエルを非難した。G20議長国・インドのナレンドラ・モディ首相は閉幕時の演説で、ハマスを名指しせずにテロと暴力を強く非難し、民間人の犠牲を許容できないとの認識で各首脳が一致したと述べた。ただ、会議の成果文書は出されなかった。
●プーチン氏の苦悩 イスラム系ロシア人とロシア系イスラエル人 11/23
イスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突によって世界がどちらを支持するか“立ち位置”を明らかにする中、プーチン大統領はいまだ沈黙を守っている。これまで国際的にはプーチン大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相は親しい関係であると知られてきた。だが今回の衝突の後、プーチン氏とネタニヤフ氏が初めて電話会談を持ったのは9日も経ってから。
さらにその内容は、民間人が犠牲になっていることへの非難と、ガザ地区での人道に反した行動を控えるよう要請したと伝えられる。つまりどちらかといえばパレスチナ擁護のスタンスだ。実は今回の中東の衝突はロシアの国内問題と無関係ではないらしい。プーチン氏の難しい立場を読み解いた。
「プーチンは・・・、弾圧するためにどんな手段もいとわないだろう」
ロシア、プーチン大統領が親しいネタニヤフ首相との間を置いて、親パレスチナとも取れる立場を強調するのは西側への牽制だけではない事情があると専門家は言う。
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イギリス王立国際問題研究所 ティモシー・アッシュ氏「ガザでのパレスチナ人の死の規模の大きさは明らかにイスラム世界に衝撃を与えていてイスラム世界の一部を過激化させ、イスラム国(IS)やアルカイダのような過激なテロ組織の極端な教義を広める可能性もある」
実はロシア国内には15〜20%のイスラム教徒がいるといわれ、連邦を組織する小さな共和国には殆どがイスラム教徒の共和国の少なくない。そして、その人たちはウクライナ戦争で多くの犠牲を払ってきた。
アッシュ氏「今も南部地域の人はロシアの人口の比率に比べ、この戦争によって多く犠牲になっている。サンクトペテルブルクやモスクワのような都市部では徴兵運動はあまり活発ではないが、南部の貧しい地域では徴兵は非常に積極的でとても激しい。そして不釣り合いな数の死傷者を出している。彼らはすでに非常に貧しく、連邦内の他の地域と比べてもはるかに貧しい。過去にもそういう地域で社会不安が急増したことがある。(中略)プーチンは国内で不満分子が過激な行動に出た場合弾圧するためにどんな手段もいとわないだろう。もし南部共和国のいくつかで分離主義運動が再開されるようなことがあればプーチンはそれを弾圧することは間違いない。残忍にね…。チェチェンで既に見たわけで、彼は非常に攻撃的に対処することに全くためらいはないだろう」
実際、ロシア南部のタゲスタン共和国では先月末、反イスラエルの大規模なデモがあり、一部が暴徒化し、60人が当局に拘束された。タゲスタンはイスラム教徒が94%を占め、ウクライナ戦争ではモスクワ州の2倍(人口比換算)に及ぶ戦死者を出している。
南部の貧しい地域に不満が鬱積していることの象徴的出来事だが、中でもこのタゲスタン共和国、いささか特別だと現地の取材経験がある石川一洋氏は言う。
元NHK モスクワ支局長 ジャーナリスト 石川一洋氏「タゲスタンは多民族で統治が難しい。アヴァール人、ダルギン人、レズギ人…。いろんな民族が混ざって、しかも大体イスラム教徒…。さらにこの国は武勇の国なんです。男たるもの武道を学ばねば…。ロシアがオリンピックで柔道やレスリングで勝ちますよね。大体この共和国出身ですよ。我々の世代いうと前田日明とやってたヴォルク・ハンっていたでしょ、彼もタゲスタン出身ですよ。ソ連崩壊後、若い世代は敬虔なイスラム教徒になってきた。“タゲスタンの英雄”といわれる総合格闘家だったヌルマゴメドフという人がいるんですね。プーチンさんにも祝福されたりして…。彼が敬虔なイスラム教徒で、今回もパレスチナ支持を明確にしているんです。彼が何か言えば間違いなく90%以上が支持する。(中略)問題は、今回デモの人たちが空港になだれ込んだんですが、治安機関はほとんど防げなかったこと。無力化していて、防ぐ力がなかった」
そして、タゲスタンとプーチン大統領、因縁が強い。タゲスタン共和国の隣に位置するのが、あのチェチェン共和国だ。
「チェチェンというのはロシア憲法が通じない国」
チェチェン共和国では1999年反体制グループが隣のタゲスタンに侵攻。独立を宣言した。首相時代のプーチン氏はこれを制圧したことで大統領への足掛かりにしたといわれている。だが実際は、イスラム教徒が96%を占めるチェチェン共和国はプーチン氏に制圧できる国ではなかった。チェチェン共和国はウクライナ戦争でも強力な私兵を率いて勇猛さをアピールするカディロフ首長が治める国だ。つまりプーチン氏はこのカディロフ氏と上手に付き合ってきたことでチェチェンを統治してきたといえる。現在重病説もささやかれるカディロフ氏。もしもの場合プーチン氏にとっても大きな問題となる。
石川一洋氏「チェチェンというのはロシア憲法が通じない国。カディロフの全くの独裁。ロシアと繋がっているのはプーチンとカディロフとが繋がってるからだけなんです。極端に言えばですね。(中略)さらに数万という私兵を持ってる。逆に言えばこれが寝返ったらどうするんですか…。実はロシアの軍はカディロフが好きじゃない。もしカディロフに何かあったら、あるいはプーチンに何かあったらチェチェンがロシアにとどまるのか…」
朝日新聞 駒木明義 論説委員「プーチンが圧倒的権力をカディロフに持たせてしまった。事実上の独立国ですよ。しかも統治の原理にイスラム教を標榜している。だから今チェチェン行くとお酒売ってないです。イスラムの教義ですから。カディロフは今回完全にパレスチナ支持。イスラエルをテロ国家とまで言っている。その点でもプーチンは気を使わなきゃならない。問題は(チェチェン紛争の時)カディロフが追い出した亡命政権のチェチェン人が今パレスチナ支持。本来は敵同士のはずが、イスラムという点で一致してしまう。もしカディロフかプーチンに何かあればチェチェン人の共通のバックグラウンドで結び付く可能性がある。ということでプーチンから見ると非常に危険な要素…」
「イスラエルを支持する欧米に対する支持を世界的に弱めようとしている」
今回国内のイスラム勢力への気遣いからイスラエル支持を明確にできないプーチン氏だが、そもそもプーチン氏は何故“親イスラエル”となったのか…。ここにもチェチェン紛争が関係してるという。
駒木明義「プーチンはチェチェン紛争の時に苛烈な攻撃をするわけです。彼らをひとまとめにしてテロリストだ、イスラム過激派だと言って…。この非人道的な攻撃で殲滅するということに対してイスラエルが理解を示した。これでロシアとイスラエルが親密になる…」
以来長きにわたって蜜月だった両国だったが、ロシアは今回はっきり態度を示せない。その理由として国内イスラム勢力への気遣い以外にもう一つ理由があるという。
アッシュ氏「ロシアはこの戦争を最大限に利用している。プーチン氏にとって最優先事項はウクライナ。イスラエルを支持する欧米に対する支持を世界的に弱めようとしている」
駒木明義「まったくその通り。国際的には味方を増やす。つまりグローバルサウスといわれる国々のアメリカやイスラエルへの反感を利用して自分たちの味方につけようとしているということです」
●ゼレンスキー大統領“防空能力高める欧米の支援グループ結成” 11/23
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍が無人機やミサイルでインフラ施設への攻撃を続ける中、防空能力を高める欧米の支援グループが結成されたとして、ロシア側の攻撃に対抗する考えを強調しました。
ウクライナでは本格的な冬を迎える中、ロシア軍が無人機やミサイルで電力などのインフラ施設を狙った攻撃を加速させるのではないかと警戒を強めています。
こうした中、ウクライナへの軍事支援について欧米各国が話し合う会合が22日、オンライン形式で開催され、ウクライナからはザルジニー総司令官も初めて参加し、戦況について説明しました。
会合での欧米側の支援についてゼレンスキー大統領は22日、動画での演説で、「砲弾やミサイル、電子戦、無人機、そして新たな防空能力が含まれる。防空の連合が結成され、リーダーはドイツとフランスだ。ウクライナの空の盾は毎月、強力になっている」と述べ、防空能力を高める欧米の支援グループが結成されたとして、ロシア側の攻撃に対抗する考えを強調しました。
一方、ロシアではプーチン大統領が21日に中国、ロシア、インドなど新興国でつくるBRICSのオンライン形式の首脳会議に参加したのに続き、22日にはG20=主要20か国のオンライン形式の首脳会議に参加し、和平交渉を拒んでいるのはウクライナだなどと、これまでの主張を繰り返しました。
そして、23日にはロシアが主導して旧ソビエトの国々が加盟する軍事同盟の首脳会議がベラルーシで開かれ、プーチン大統領も出席する予定です。
プーチン大統領としては勢力圏とみなす国々の結束をアピールしながら、欧米へのけん制を強めるねらいとみられ、外交活動を活発化させています。
●侵攻に抗議し徴兵事務所に火炎瓶、17歳少年に懲役6年 ロシア 11/23
ロシア・サンクトペテルブルクの裁判所は22日、ロシアによるウクライナ侵攻に抗議し徴兵事務所に火炎瓶を投げ込んだ17歳の被告に対し、未成年者用の矯正労働収容所での懲役6年を言い渡した。
ロシアではウクライナ侵攻開始以降、各地で徴兵事務所が狙われる放火未遂事件が数十件起きている。
傍聴したAFP記者によると、裁判所はエゴール・バラゼイキン被告を「テロ罪」で有罪とし、少年矯正労働収容所に相当する未成年者特別施設での懲役6年を科した。
バラゼイキン被告が用意した火炎瓶は火が付かなかったため、死傷者は出ず大きな物的損傷もなかった。
被告は、ウクライナ侵攻への抗議として、サンクトペテルブルクと同市から東に約30キロ離れた地元キロフスクの徴兵事務所を狙ったと認めた。
被告のおじは、侵攻開始直後に志願して従軍し、その数か月後に戦死した。
ロシアではこれまでにも、軍や政府関係の建物を狙った襲撃の容疑者に対し、同じく「テロ罪」で数年間の懲役刑など厳罰が言い渡されている。
バラゼイキン被告は逮捕時、サンクトペテルブルク市内の名門高校の生徒だった。
被告の母親タチアナさんが独立系ニュースサイト「ドクサ」に語ったところによると、被告は自らの行為を「後悔していない」という。
タチアナさんは、「息子は正しいことをしたと信じている。自分の意見を主張することは許されてしかるべきだからだ」と述べた。
被告は裁判の中で、火炎瓶を投げたことは認めたものの、自身の行動を「テロ行為」と見なすことには同意しなかった。
独立系メディア「SOTA」は、被告が法廷で「自分と同じ方法でなくても、もし人々が一斉に不満を表明すれば、この戦争を終わらせ命を救うことにつながると信じている」と話したと伝えた。

 

●露主導軍事同盟の足並み乱れ 11/24
ロシアが主導する軍事同盟の首脳会議が開かれ、プーチン大統領が加盟国の結束を呼びかけましたが、アルメニア首相は会議を欠席し、足並みの乱れもあらわになっています。
ロシアが主導する旧ソ連圏の軍事同盟CSTO=集団安全保障条約機構は23日、ベラルーシの首都ミンスクで首脳会議を開催しました。
この中でプーチン大統領は「CSTOの活動がわれわれ加盟国の結束と国民の団結につながる」と述べ、結束を呼びかけました。
ただ、アルメニアのパシニャン首相は今回の会議を欠席。アルメニアは隣国アゼルバイジャンとの係争地をめぐる紛争で事実上敗北しましたが、ロシアやCSTOが支援しなかったことに不満の声が高まっていました。
議長国のベラルーシのルカシェンコ大統領は「不満を公言するよりも、われわれの会議で議論すべきだ」と述べ、アルメニア側をけん制しました。
●プーチン大統領 軍事同盟の首脳会議に出席 アルメニアは欠席 11/24
ロシアのプーチン大統領は23日、隣国ベラルーシの首都ミンスクを訪れ、ロシアが主導して旧ソビエトの国々が加盟する軍事同盟のCSTO=集団安全保障条約機構の首脳会議に出席しました。
プーチン大統領は会議で、CSTOの即応部隊の強化などに取り組んできたとしたうえで、「ロシアや加盟国の国々はいかなるテロ行為も認めない」と述べ、結束をアピールしました。
また、プーチン大統領の盟友で議長国ベラルーシのルカシェンコ大統領も「加盟国とユーラシアの安定を確保する上でこの組織は不可欠だ」と強調しました。
一方で、アルメニアのパシニャン首相は会議を欠席し、係争地のナゴルノカラバフを巡って、隣国アゼルバイジャンの軍事行動に敗北した不満を、後ろ盾としてきたロシアに示したものとみられています。
アルメニア側はCSTOから離脱するつもりはないとしていますが、パシニャン首相は先月も旧ソビエト諸国の首脳会議を欠席したばかりで、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「アルメニアの欠席は遺憾だ」と批判しました。
プーチン大統領はウクライナ情勢を巡って対立を深める欧米側に対抗する上で、ロシアの勢力圏とみなす加盟国の結束を打ち出したいねらいですが、アルメニアのロシア離れが鮮明となっています。
●EU、フィンランドに追加要員派遣 ロシア経由の不法移民殺到で 11/24
欧州連合(EU)の域外国境管理を担当する欧州国境・沿岸警備機関(フロンテクス)は23日、ロシア経由で大量の不法移民が押し寄せているフィンランドに、警備要員ら50人を追加派遣すると発表した。来週にも到着する予定で、巡回用の車両などの機材も送るという。
フィンランドには現在、約1300キロの対ロシア国境で10人のフロンテクス要員が活動している。大量の移民到着について、オルポ首相はロシアによる「組織的行為だ」と非難。フィンランド政府は22日、1カ所を除き国境検問所を閉鎖すると発表した。
●ロシア動員兵の妻や母親による早期帰還求める集会相次ぎ却下 11/24
ウクライナ侵攻が長期化するなか、ロシア各地では動員された兵士の妻や母親から早期の帰還を訴える動きが出ていますが、新型コロナ対策などを理由に集会の開催が認められない事例が相次いでいます。
首都モスクワで今月7日に開催された野党の集会に動員された兵士の妻らおよそ30人が集まり、「動員兵は家に帰る時だ」などと書かれたメッセージを手に早期の帰還を訴えました。
侵攻が長期化するなか、動員兵の妻や母親が兵士の帰還を求める動きが出ていて、彼女たちを支援するSNS「プーチ・ダモイ(=家路)」によりますと、モスクワのほかサンクトペテルブルクやシベリアのノボシビルスクなどで“集会の開催を当局に申請したものの、新型コロナウイルス対策などを理由にいずれも却下された”ということです。
一方で、プーチン政権を支持する愛国的な大規模コンサートなどは、これまでに何度も開催されており、政権としては来年3月に大統領選を控えるなか、動員兵の妻や母親らの不満が反戦機運の高まりにつながることを警戒しているものとみられます。
●ロシア野党党首、連れ去りウクライナ女児との養子縁組否定 11/24
ロシアの政権寄りの左派系政党「公正ロシア・正義のために」の党首を務めるセルゲイ・ミロノフ(Sergei Mironov)下院議員(70)が24日、ウクライナの孤児院から連れ去った2歳の女児を養子にしたとする報道を否定した。
英BBCはロシアとウクライナ双方の文書を引用し、ミロノフ氏が昨年、ウクライナ南部へルソン(Kherson)市の孤児院から強制連行した女児を養子にしたと報じた。
BBCによると、ミロノフ氏と現在結婚している女性が昨年引き取った女児の養子縁組の記録にミロノフ氏の名があった。女児の元の名前はマルガリータだったが、ロシアに連れ去られた後、養子にされ改名されたという。
これに対し、ミロノフ氏は詳細に触れることなく、「ウクライナの特務部隊とそれを支援する西側諸国が放ったヒステリックなフェイク」だと報道を強く否定。「信用失墜」を狙った「情報戦」だと主張した。
かつて10年以上にわたって上院議長を務めたミロノフ氏は、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の忠実な支持者として知られる。ウクライナ侵攻も固く支持しており、プーチン氏から勲章を授与されたこともある。
女児は、ロシア軍がヘルソン市を一時占領した時、孤児院から連れ去られた子ども48人の一人。
ウクライナの検事総長室は23日、48人のうち返還されたのは一人だけだと述べた。ヘルソン市の孤児院からの「子ども48人の違法な連れ去り」について捜査を進めており、これまでに容疑者3人を特定したとしている。
●OPECプラス会合、ロシアが追加減産に消極的な理由 11/24
石油輸出国機構(OPEC)が加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」は、今月ウィーンで閣僚会合を開く。有力な産油国が一段の減産を検討する一方で、ロシアは大胆な変化を支持するインセンティブをほぼ失っている。エネルギー収入が順調で、原油価格は同国の想定より高く、財政赤字も縮小しつつあるからだ。
OPECプラスの関係者3人によると、今回の会合では減産をさらに加速するかどうかが検討される。原油価格は9月下旬以降、16%低下している。米国の原油生産が過去最高の水準を維持する一方で、世界最大の石油輸入国である中国を中心として需要増大に疑問符がついているためだ。
ロシア政府に近い情報提供者は匿名を条件に、間近に迫ったOPECプラス会合について、「大胆な変更に踏み切るべき理由は特に見当たらない」と語った。また、閣僚が直接顔を合わせればサプライズもあり得ると付け加えた。
サウジアラビアとロシア、その他のOPECプラス参加国は、2022年後半に開始した一連の措置として、世界需要の約5%に当たる1日あたり516万バレルの減産を公約している。
「好都合な価格帯」
ロシアのプーチン大統領は、西側諸国が主要国に対するものとしては過去に例を見ない厳しい制裁を科したにもかかわらず、ロシアは耐え忍ぶどころか、力強く成長していると主張する。制裁の1つが、同国産原油について設定された1バレル60ドルという上限価格だ。
ロシア経済は2022年には後退したものの、今年は米国や欧州連合(EU)よりも高い約3%の成長を見せると予想されている。
今年はグローバルな原油価格が堅調で、ロシア政府が「闇のタンカー」船団の活用を広げた結果、ロシア産原油の大部分は、西側諸国が設定した上限価格を超えて取引されている。
モスクワを拠点に活動する独立系の石油アナリスト、アレクセイ・コーキン氏によれば、原油価格は「非常に快適な」水準から「ちょうどいい快適さの」水準まで下落したという。
「だから、(ロシアとしては)特に動く必要はなさそうだ。現状のままの生産制限というのが妥当な選択肢だ」とコーキン氏は言う。
ロシアは今年、課税算定に使うウラル原油の価格を1バレル4788ルーブル(53.36ドル)と想定している。
米国がタンカーの船主に対して初めて実施した制裁を背景に運賃が上昇し、グローバル市場での原油価格が低下する中で、17日のウラル原油価格は西側諸国の設定した上限価格1バレル60ドルを下回った。
それでも価格は1バレル5000ルーブルを上回り、21日には再び1バレル60ドルを超えた。
9月に発表された来年の予算案では、ブレント原油価格をロイターの調査に基づく予想よりも悲観的な1バレル85ドル、ウラル原油価格を1バレル71.30ドルと想定している。
ロシアの歳入への影響
原油価格上昇とルーブル安の進行、四半期ごとの税収計上があったことを受けて、10月のロシアの財政赤字はさらに縮小した。
今年1─10月の財政赤字は、国内総生産(GDP)の0.7%に当たる1兆2400億ルーブル(134億5000万ドル)となった。2023年通年で2兆9300億ルーブル、対GDP比で2%という当初見込みに比べるとはるかに良好だ。
10月の石油・天然ガスによる歳入は前年比27.5%の増加となったが、1−10月では26.3%の減少となっている。
ただし、国家予算全体に占めるエネルギー売却収入の比率は、かつては50%を超えていたものの、現在では急激に低下している。
エネルギー収入の比率は、2022年には歳入総額の41.6%だったが、今年1─9月の原油・天然ガスによる歳入は、歳入総額19兆7300億ルーブル(2200億ドル)のうち28.3%にとどまった。
ロシアが天然資源に関して超大国であることに変わりはない。
ロシアは穀物輸出の点でも世界最大で、肥料やその他の日用品も輸出している。ロシアの歳入に占めるエネルギー以外の収入源は付加価値税、超過利得税3000億ルーブル、その他の手数料などだ。
モスクワのBCSワールド・オブ・インベストメントでシニアアナリストを務めるロナルド・スミス氏は、「ロシアの国家予算は、原油生産量よりも、原油価格とルーブル相場の変動による影響を受けやすい。原油価格が1バレル75−100ドルの範囲にある限り、ロシアとしては現状の原油生産目標を尊重することになるのではないか」と語る。
●ウクライナ民間人死者1万人…キーウで初の積雪 11/24
ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、露軍が攻勢に出ている東部のドネツク州アウディーイウカやハルキウ州クピャンスクなどで「特に困難な状況にある」と述べ、厳しい戦いになっていることを認めた。東・南部とも、戦況はこう着状態が続いており、戦闘は2度目の越年が確実な情勢になっている。
ウクライナで活動する国連の人権監視団は21日、侵略開始以降、ウクライナの民間人の死者数が少なくとも1万人に達したと発表した。うち560人以上が子供だという。実際の死者数はさらに多いとみられる。
RBCウクライナ通信によると、首都キーウでは22日、初の積雪が観測された。両軍の戦闘が続く東部や南部では今月に入って、雪が降り始めた。路面が凍結する厳冬期までは地面がぬかるんで、戦車など制圧地域の拡大に不可欠とされる戦闘車両の移動が困難となる。
英国防省は21日、露軍が約2か月、空中発射型の巡航ミサイルを使った攻撃を行っていないとの分析を明らかにした。冷え込みが厳しくなってからウクライナのエネルギー施設を集中攻撃するため、ミサイルを温存しているとの見方が出ている。 
●「国際秩序めぐる米国と中・露の対立は加速」と警戒感 防衛省 11/24
防衛省の研究機関「防衛研究所」が「中国安全保障レポート」を発表し、将来の戦略環境について、中国とロシアの連携強化によりアメリカとの対立が加速していくと警戒感を示した。
「中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境」をテーマにした今年のレポートでは、中国がアメリカへの対抗姿勢を強め、既存の国際秩序でのルールや価値を否定し、アメリカのリーダーシップを拒否していると指摘している。
また、国際秩序の変革を目指しロシアとの連携を強化しつつあるとした上で、最大の不確実性として、「プーチン体制の行方」を挙げた。
今後、10年程度の将来について、「ロシアで急激な政治変動が生じない限り、国際秩序をめぐる米国と中ロの対立は加速していく」と警戒感を示している。
日本としては、必要な防衛力の強化やアメリカとの連携の深化に加え、新興国などとの外交の展開も必要だと訴えている。
●ウクライナやイスラエル情勢で国連の機能不全が鮮明に 11/24
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区への空爆が続く。イスラエル側の犠牲者数が1400人余りに留まる一方、パレスチナ側の犠牲者数は1万人を超え、増加の一途をたどっている。国際社会ではイスラエルに対する非難の声が広がるが、イスラエルはガザ地区への空爆や侵攻を止めようとしない。こういった危機が発生した際、本来であれば国際社会の平和と安全の維持を追求する国際連合が主要な役割を果たさなければならない。しかし、国連は十分に機能しているとは言い難い。その原因はどこにあるのだろうか。
常任理事国たちの拒否権発動で役割を全く果たせない国連の安保理
10月16日、国連の安全保障理事会において、ロシアがパレスチナ寄りの立場で、今回の原因をイスラエルによる長年の占領だと主張。ハマスを非難しない形で即時停戦を求める決議案を提出した。しかし、ハマスを非難する欧米諸国や日本がそれに反対し、決議は採択されなかった。
続いて、10月18日には、ブラジルがハマスを非難した形で停戦を求める決議案を提出し、フランスや日本が賛成に回ったものの、アメリカはイスラエルの自衛権への言及がないとして拒否権を行使した。
そして、10月26日にはアメリカがハマスを非難し、イスラエルの軍事作戦に極力支障が出ない範囲での一時停戦を求める決議案を提出したが、ロシアや中国は「イスラエルの行為を容認するようなものだ」として拒否権を行使し、廃案となった。
このように、本来世界の平和と安全で最前線に立って機能しなければならない安保理は、その役割を全く果たせない状況だ。
すぐできそうなことができない、国連で浮き彫りになる世界の分断
一方、全加盟国が参加する国連総会でも、世界の分断が顕著に見られる。イスラム教国は攻撃を続けるイスラエルを非難し、即時停戦を訴えているが、アメリカやイスラエルはそれに真っ向から反対。日本やイギリスなどは、どちらにもつかない中立的な立場を維持している。結局、国連総会ではハマスを非難しないで停戦を求めるヨルダンの決議が121カ国の賛成で採択されたが、アメリカやイスラエルなど14カ国が反対、欧州や日本など44カ国が棄権した。
自然に考えれば、今回の発端を作ったハマスも、過剰な攻撃を続けるイスラエルも双方が非難され、双方が即時停戦に応じるべきだが、各国によって考え方が全く異なるため、一般的にすぐできそうなことができない“世界”の難しさが浮き彫りとなった。
しかし、これは今回に限ったことではない。ロシアがウクライナへ侵攻した翌月、国連総会ではロシアの侵攻を非難する決議が141カ国の賛成で採択された。反対に回ったのは侵攻したロシアに加え、ベラルーシとエリトリア、北朝鮮とシリアの5カ国だったが、中国やインド、その他のグローバルサウスなど35カ国が棄権した。このときは、安保理では常任理事国ロシアがウクライナ侵攻に関する決議案で拒否権を行使することは議論の余地がなかったが、国家による侵略を非難する決議にも40カ国余りが賛成に回らなかった。
分断の原因は各国ごとに異なる「実利主義」
なぜ、国連における諸外国の立場はここまで異なるのか。一つに、イスラエル情勢における日本の立場を取り上げて説明しよう。
日本はイスラエル情勢において、イスラエルを支持するアメリカの立場でもなく、パレスチナ側を支持するアラブ諸国の立場でもない。日本はこれまでアラブ諸国と良好な関係を維持し、石油の9割を中東に依存してきた。そのため、今回のような事態にアメリカと足並みを揃えれば、日本としてはアラブ諸国との間に摩擦が生じる恐れがある。一方、日本は近年イスラエルとも経済的な協力関係を強化しており、同盟国アメリカの姿勢を考慮すれば、パレスチナ支持の立場を明確にすることもできない。
また、ロシアによるウクライナ侵攻では、欧米や日本など世界40カ国余りは、ロシアへ経済制裁を強化した。一方、インドなどのグローバルサウスの中にはロシア非難決議で賛成に回った国々もあるが、それ以上のことは何もしていない。国家による侵略が許されないものだと認識しつつも、アジアやアフリカ、中南米の途上国の中にはロシア産エネルギーに依存している国も多く、国益を第一に考え、実利的に行動している。
当然だが、日本もグローバルサウスの国々も、自国の利益を考えての判断だ。どこかで戦争が勃発し、それがエスカレートすれば、われわれはその惨劇を毎日のように見る。国連は一致団結しようとし、決議しようとするが、各国によって立場や考えは大きく異なり、各国とも実利的に行動した結果、世界の分断が浮き彫りとなる。世界の分断が進むなかでは、国連の機能はますます低下していくと言わざるを得ない。
●日中はなぜ「戦略的互恵関係」を温め直したのか―仏メディア 11/24
2023年11月22日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、日本と中国が一度は冷却化した「戦略的互恵関係」を温め直していると報じた。
記事は、岸田文雄首相が16日に米サンフランシスコで中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と1時間余りにわたって会談し、日中間のさまざまな懸案を対話を通じて解決し、日中間の戦略的互恵関係の位置づけを再確認することで一致したと伝えた。
そして「戦略的互恵関係」について、小泉純一郎首相(当時)の度重なる靖国神社参拝などで低迷していた日中関係の改善を目指し、2006年10月に政権を発足させた安倍晋三首相(当時)が真っ先に中国へ赴いて胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席(当時)と首脳会談を行い、その後発表された日中共同コミュニケで提唱されたのが最初だと紹介。08年には胡氏が訪日して福田康夫首相(当時)とともに「戦略的互恵関係の全面的推進に関する日中共同声明」に署名し、これが日中関係を導く「4つの政治文書」の一つとなったと伝えている。
一方で、新型コロナの流行拡大によって日中両国は観光を基軸とした民間交流がほぼ断絶状態となったほか、ロシア・ウクライナ戦争後は日米欧と中露の拮抗が鮮明になり、日中関係は「戦術的互損関係」の状態に陥ったと指摘。日本は経済、貿易面でも中国に対して国際政治の立場に追随する姿勢を取り、高性能半導体製造装置の輸出を規制するなどの措置を発動してきたとした。また、中国政府も半導体材料や新エネルギー分野で広く使われているガリウムやゲルマニウムなどのレアメタルの輸出規制を発表するなどの対抗措置をとってきたほか、日本が今年8月24日に福島第1原発の汚染処理水海洋放出開始を理由に、日本の水産物の輸入を全面的に禁止し、日本の対中食品輸出に大きな打撃を与えたと紹介した。
その上で、中国が日本にとって食品輸出の最大かつ最も重要な顧客であるために日本の経済や漁業は少なからぬ打撃を受け、岸田内閣の支持率が12年の自民党政権復活以降最低の支持率をたたき出す要因にもなったと指摘。一方で、中国国内で「日本海で取れた魚介類は放射能汚染の可能性がある」という根拠のない情報がネット上で拡散したことにより制裁を発動した側である中国の水産業にも打撃が及び、9月23日に呉江浩(ウー・ジアンハオ)駐日中国大使が「風評被害は、中国漁民も同様だ」との認識を示したことを伝えている。
記事は、米国が現在、ウクライナ、中東、台湾海峡の3カ所で同時に敵をつくることを避けるべく米中関係の改善を図っており、日中両国もこれを機に「戦術的互恵関係」の状態に戻したいと考えているとした上で、「サンフランシスコでの日中首脳会談は良い出発点といえるが、戦略的互恵関係を真に回復するためには、まだ長い道のりがある」と評した。
●人肉を食らったロシアの殺人鬼、ウクライナで戦うために釈放される 11/24
ロシアで殺人を繰り返した男が、ウクライナで戦うために刑務所から釈放されたと報じられている。
殺害後に、男性の肉を食べる
その男とは、サハリン出身のデニス・ゴリン(44)だ。
彼は2003年に殺人の罪が確定し、2010年には仮釈放されたのだが、その後再び男性を刺し、殺害後にその肉体を食らったという。
またゴリンは2018年にも殺人罪で起訴され、懲役22年の判決を受けていたそうだ
しかしロシアの独立系メディアの「Agentstvo」は11月23日、ゴリンがウクライナで戦うために、釈放されていたと報じた。
また別のメディアによれば、ゴリンはすでに先月、軍服のようなものを着た自分の写真をソーシャルメディアに投稿していたという。
さらに詳細は不明なのだが、彼はすでに中等度の怪我で、ユジノ・サハリンスクの病院にいるとの情報もあるようだ。
ロシアの刑法では、人肉を食べたことによる特別な罪はないらしく、ゴリンは合計で少なくとも4人を殺害したと言われている。
刑務所から人材を集める
ロシアでこのような殺人鬼が、ウクライナとの戦争に参加するために、刑務所から釈放されるケースは、これが初めてではない。
2008年に十代の若者グループを殺害した罪で、懲役20年の判決を受けたニコライ・オゴロビャク(33歳)も、ウクライナで6カ月間戦闘に参加した後、7年早く釈放されたという。
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」や、ロシア国防省も、刑務所から大量の人材を集め、ウクライナでの戦闘参加を条件に恩赦を与えてきた。
また最近では、捕虜になったウクライナ兵にも、ロシア側について戦場で戦うことを条件に、恩赦を与えていると言われている。
●プーチン氏G20首脳会議出席、大統領選前に「外交活動を印象づける狙い」 11/24
防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事と慶応大の廣瀬陽子教授が24日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、オンラインで開かれた主要20か国・地域(G20)首脳会議に出席したロシアのプーチン大統領について議論した。
兵頭氏は、プーチン氏が来年3月に予定される大統領選を前に「外交活動を行っていることを国内に印象づける狙いがあるのではないか」との見方を示した。廣瀬氏は、会議でのプーチン氏の発言について「今の世界の混乱の元凶はすべて欧米にあるとアピールした」と述べた。
●ロシア、要衝に大部隊投入 歩兵重視に転換か―ウクライナ東部 11/24
ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、戦略的要衝である東部ドネツク州アウディイウカ周辺に大規模な部隊を投入している。AFP通信が23日、ウクライナ軍関係者の話として報じた。ロシアはこれまでにアウディイウカを巡る戦闘で多くの兵員や装備を失ったが、同地を奪取する計画を諦めていない。
親ロシア派の拠点、州都ドネツクから近いアウディイウカは、1年9カ月続く軍事侵攻の激戦地の一つ。ロシアは10月、数百台の軍用車両で包囲しようとし、総攻撃を仕掛けた。しかし、西側当局者によれば、ロシアは多くの車両を失い、作戦は失敗した。
ウクライナ軍の大隊幹部はAFPの取材に「あちこちに遺体が確認できる」と現地の状況を説明した上で、「ロシアは恒常的に攻撃を仕掛け、われわれの防衛線を疲弊させようとしている」と述べた。同幹部は、ロシアが現在、歩兵部隊を重視する作戦に転換し、「アウディイウカを奪取する機会を狙っている」と指摘。「(ウクライナ軍は)半分包囲されている」と認めたが、同地を守り抜く十分な部隊を有していると強調した。
一方、複数のウクライナ政府高官が23日明らかにしたところによると、各地でロシアの攻撃が相次ぎ、ドネツク州東部のウクライナ支配地域で2人が死亡。また、南部ヘルソン州でも3人が犠牲になった。

 

●ロシア、カシヤノフ元首相を「外国代理人」指定 プーチン政権批判 11/25
ロシア法務省は24日、元首相で現在はプーチン政権を批判するミハイル・カシヤノフ氏が「外国のエージェント(代理人)」に指定されたと明らかにした。
カシヤノフ氏はプーチン政権の最初の4年間に首相を務めたが、プーチン氏の2期目当選が決まる数週間前の2004年2月に解任された。その後はプーチン政権と対立し、ウクライナ侵攻を批判。22年にロシアを出国した。
●ロシア元首相を「スパイ」指定 政権批判の野党カシヤノフ氏 11/25
ロシア法務省は24日、野党「国民自由党」を率いてプーチン政権を批判していたミハイル・カシヤノフ元首相をスパイとほぼ同義の「外国のエージェント(代理人)」に指定した。ウェブサイトで発表した。
法務省は、カシヤノフ氏がウクライナ侵攻に反対し、不正確な情報を拡散して「ロシアの内政外交の信用をおとしめた」と説明している。
カシヤノフ氏は2000年に初当選したプーチン大統領の1期目に首相を務めたが、政策を巡る対立から04年に解任された。15年にモスクワで殺害されたネムツォフ元第1副首相らと国民自由党を設立し、政権の強権体質を批判した。タス通信によると、カシヤノフ氏は昨年出国した。
●ロシア野党党首、ウクライナ施設から生後10か月の女児連れ去り養子に… 11/25
英BBCは23日、露左派系野党「公正ロシア」のセルゲイ・ミロノフ党首が昨年、ロシアが一時占領したウクライナ南部ヘルソンの児童養護施設から連れ去られた2歳の女児を養子にしていたと報じた。名前や出生地を変え、ロシアの出生証明書を発行するなど「ロシア化」が進められていた。
BBCによると昨年8月以降、ミロノフ氏の妻ら議会関係者がヘルソンを訪れ、当時生後10か月だったマルガリータちゃんを連れ去った。モスクワへの移送にミロノフ氏の妻が関与したほか、昨年12月には、ミロノフ氏夫妻の娘「マリーナ」として出生証明書がロシアで新たに作成された。誕生日はマルガリータちゃんと同じで、出生地はモスクワ近郊とされていた。
施設からは同時期に他にも子供47人が連れ去られた。ロシアの議員は施設職員に「子供たちを安全な(ロシアが一方的に併合したウクライナ南部)クリミアに連れて行く」と告げていた。ミロノフ氏は23日、「偽情報が流されている」とSNSに書き込み、報道内容を否定した。
ウクライナ政府は、保護者の同意なしにロシアや露占領地に連れ去られた約2万人の子供を特定している。国際刑事裁判所(ICC)は子供の移送が戦争犯罪の可能性があるとして、プーチン露大統領に逮捕状を出している。
●ロシア、モルドバのEU制裁参加に報復へ 「関係破壊目指す敵対行動」 11/25
ロシア外務省は24日、モルドバが欧州連合(EU)の対ロシア制裁措置への参加を決定したことは、ロシアとの関係破壊を目的とした敵対的な動きと見なしており、報復すると表明した。
ロシア外務省は声明で「モルドバ指導部は『集団的な西側』の 反ロシアキャンペーンに完全に組み込まれており、ロシアは(モルドバのEU制裁参加を)新たな敵対的措置と見なす」と指摘。ロシアとの関係の完全な破壊を目的としており、こうした動きにロシアは報復すると表明した。
●ウクライナ、軍隊動員プログラムの改革策定へ=大統領 11/25
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、ロシアとの戦争が激化し終わりが見えない中、ウクライナは軍隊動員プログラムの改革を策定していると述べた。
ロシアによる2022年2月のウクライナ侵攻以降、ウクライナは兵力の損失や動員プログラムの仕組みについて公表していない。こうした中、ゼレンスキー氏は高官に対し、草案を作成するよう命じたとし、「計画は練り上げられ、全ての答えが出るだろう。来週にはこの計画を見ることになる」と述べた。ただ、改革の詳細は明らかにしなかった。
ゼレンスキー大統領はまた、ウクライナは米国と欧州連合(EU)からの大規模支援策の承認およびEU加盟交渉の正式な開始という海外からの3つの重要な「勝利」を確保する必要があると述べた。
●ウクライナの苦戦、プーチン氏に勝利のチャンス−兵器も注目も遠のく 11/25
ウクライナのゼレンスキー大統領は9月下旬、北大西洋条約機構(NATO)のブリュッセル本部訪問についてストルテンベルグ事務総長と協議した。ウクライナに軍事支援を提供している国々と会談し、大きな成果を生めなかった今夏の反攻の後も兵器供給を維持することが目的だった。
ロシア侵攻後初のNATO本部訪問をゼレンスキー氏が果たした10月11日までに、その使命はいっそう緊急の度合いを増した。この4日前にイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザからイスラエルを攻撃し、イスラエルは報復を開始。中東での紛争が注目の的となっていた。
ウクライナを支援する約50カ国から成る「ラムシュタイン・グループ」の国防担当相は、今週再びバーチャル形式で会談した。ウクライナ支援があらためて表明されたものの、兵器供給の遅れや、国内政治により金融支援が滞る中で、当局者の間の雰囲気は以前よりも暗かったという。ゼレンスキー氏がブリュッセルを訪問して以来、ウクライナにはなんとかして勝利への道筋を描き出すよう圧力が高まっている。
再び冬を迎える中で弾薬は不足し、戦況は厳しさを増している。もう一つの懸念は人手だ。ロシアは犠牲を払いながらも次々と兵士を前線に送り込んでいるが、ウクライナはそうすることに消極的だ。
ウクライナのザルジニー総司令官がこう着状態だと認める戦争に、余力に乏しい資源を今後も投入し続けることができるのか、戦場から離れたところで米国と欧州は疑問を抱き始めている。
ウクライナ政府の意向に詳しい複数の関係者によると、米大統領選まであと1年と迫り時間がなくなりつつあることと、戦況の好転がパートナー国の支援増強を容易にすることを同国政府は認識している。だが、ハマスが攻撃した10月7日の前ですらも、ウクライナ当局者は関心の低下を感じていたと、関係者は述べた。
ゼレンスキー大統領は、ウクライナ軍が冬の間も戦闘を続ける準備を進めていると支援国に説明することに先週1週間を費やした。今月16日には大統領府で「今は西側からの支援確保に集中している」とし、西側の「注目は中東やその他の理由で移りつつある。支援がなければ、事態は悪化する」と述べた。
前線は1年にわたり大きくは動いていない。極めて重要な弾薬の供給で欧州の取り組みが失速しつつある一方、米国を中心に政治的な支援疲れの兆しは増えている。
支援の不足や先細りはゼレンスキー氏に尚早な和平協議を強いることになりかねず、さらに悪い場合にはロシアに軍事的な突破を許し、プーチン氏が交渉に応じる必要を感じなくなる展開があり得る。
プーチン氏の意図を長年警告してきた東欧の一部の指導者は、こうした展開を恐れている。ロシアはウクライナ国境では止まらず、西側はいまだに危険の深刻さを完全に理解していないと主張する。
ウクライナ支援国は防衛を十分真剣には捉えていないとのシグナルを発しているリスクがあると、エストニアのカラス首相は先月の欧州連合(EU)首脳会議(サミット)前に発言。リトアニアのランズベルギス外相は、緊急性の欠如はウクライナに望まないロシアとの交渉を強いる恐れがあると語った。
「新たな戦車も、新たなミサイルシステムも、弾薬すらも供給されず、解決策も見いだされていない。EUは決定に何カ月もかかっている。このような状況を見るに、勝利に貢献するわれわれの集団的な能力に懸念を抱く」とランズベルギス氏は22日、同国公共放送局LRTに述べた。ロシアが北朝鮮から支援を受けているのと比べると、「滑稽に見える」と続けた。
オースティン米国防長官は今週キーウを訪問し、米国の支援をあらためて確認した。だが、既存の資金枠は今年末で底を突き、共和党の保守派が下院を掌握する中で、バイデン大統領は支援継続で困難に突き当たっている。
米国防総省は今月、議会の行き詰まりにより既にウクライナ向けの兵器供給を削減せざるを得なかったと説明。バイデン氏にとって、来年の大統領選はウクライナ支援をいっそう難しくする。ウクライナへの支援提供に対し批判を繰り返しているトランプ氏が相手であれば、なおさらだ。
トランプ氏が1日で戦争を終わらせると公約する中で、戦争のこう着を有権者に売り込もうとするのはバイデン氏にとって政治的に難しいだろうと、欧州の上級当局者は指摘。11月前半に発表されたギャロップの調査によると、米国市民の41%が米政府のウクライナ支援は行き過ぎていると回答し、6月の29%から上昇した。
戦争の長期化で、ロシアは自らが有利な方向に流れが移ってきていると見なしている。事情に詳しい在モスクワの関係者が語った。ロシア側の見方では、プーチン氏にはいま選択肢が2つある。消耗戦を続けて相手とその同盟国を根負けさせるか、春に大規模な攻勢を新たに仕掛けるかだ。後者を選ぶなら、不評を買うであろう大規模な動員が必要になる公算が大きい。
ゼレンスキー氏は和平交渉の戦略をまだ考えてはいない様子だ。だが世論調査によると、平和のためロシアへの領土割譲はやむを得ない対価だとの考えを受け入れるウクライナ市民の割合が、少数ではあるが増えつつある。
ウクライナは同盟国の一部が戦闘の規模を完全には理解せず、反攻を停滞させたロシアの防衛線の強力さを過小評価していることに不満を募らせている。ゼレンスキー氏の側近の1人は、期待が高過ぎたと語った。
一方、ロシアの一部当局者も戦況は芳しくないと考えている。ロシア政府は西側との我慢比べに勝てると思い込んでいるが、それは危険な自己欺瞞(ぎまん)だと、モスクワの戦略技術分析センター(CAST)で防衛問題を専門とするミハイル・バラバノフ氏は論じた。
「戦争が長期化すれば、ウクライナはイスラエルのような、米国にとって重要な同盟国としての地位を固めることになる。そのような展開は、ロシアにとって地政学的に深刻な敗北だ」と、バラバノフ氏は述べた。
オースティン長官はX(旧ツイッター)への投稿で、米国のウクライナに対するコミットメントをあらためて強調しようとし、このコミットメントはゼレンスキー氏やプーチン氏だけでなく、欧州の同盟国と米国市民に対するものでもあると示唆。「プーチン氏の侵攻に対するウクライナの戦いはマラソンだ。短距離走ではない」と述べた。
● フィンランド ロシア国境の検問所 1か所を除きすべて閉鎖 11/25
フィンランド政府は24日、隣国のロシアが中東などからの難民申請者を意図的に越境させて混乱を生じさせようとしているとして国境にあるほとんどの検問所を閉鎖しました。ロシア側は関与を否定しています。
フィンランド政府は24日、ロシアとの国境にある検問所を1か所を除いてすべて閉鎖しました。
理由として、ロシア経由でフィンランドへの入国を目指す中東やアフリカからの難民申請者の急増を挙げています。
ことし8月からフィンランドの検問所に到着した人が急増し今週だけでおよそ240人にのぼるとしています。
フィンランドは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて軍事的中立の方針を転換し、ことし4月にNATO=北大西洋条約機構に加盟したほかアメリカとは防衛協力協定の交渉を進めています。
フィンランド政府は、こうしたことを背景にロシアが意図的に多くの人を越境させて混乱を生じさせようとしていると非難し、オルポ首相は「人々は検問所まで移送されている」と述べ、ロシアの関与を指摘しています。
おととしは、ポーランドの国境付近に難民申請する多くの人が集まりロシアの同盟国ベラルーシの関与が疑われ、イギリスのメディアは「今回も同様の問題が起きている」と伝えています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ロシアの関与を否定した上で「良好な関係を築いてきたフィンランドがロシア恐怖症のような立場に変わったことは残念だ」と述べました。 
●「女性は子どもを産みたいと思うべきだ」 ロシアで進む中絶規制強化 11/25
ウクライナ侵攻を続けるロシアで、人工妊娠中絶への規制が強まっている。
米欧への対抗軸として「伝統的価値」重視の姿勢を強めるプーチン政権の方針に沿った動きで、ロシア正教会や有力政治家が同調する声を上げ、いち早く規制を導入した地域もある。
ロシア上院のオリガ・コビティディ議員は16日、「妊婦に対し説得したり提案したりして中絶に踏み切らせる行為を、罰するべきなのは明らかだ」と述べ、刑事罰の対象にすべきだと主張した。「ロシアでは大家族が社会生活の規範となり、女性は子どもを産みたいと思うべきだ」とも主張。妊婦の学生への優遇措置などを通じて、出生率の向上も期待できるとした。
カリーニングラード州議会も22日、中絶を勧めることなどを禁止する法案を可決した。法案の趣旨を「生命の自然な継続と子だくさんの否定、そして利己主義など、ロシア人には異質の破滅的なイデオロギーの広がりを阻止する」と説明。違反した場合は、市民に最高5千ルーブル(約8千円)、公務員に同2万ルーブル、法人に同5万ルーブルの罰金が科される。
●クリミア半島とロシア本土を結ぶ海底トンネル、中露政府系企業が建設協議 11/25
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は24日、ロシアと中国の政府系企業が、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島と露本土を結ぶ海底トンネルの建設計画を秘密裏に協議していると報じた。プーチン政権の長期的なクリミア支配への決意を示し、ロシアによる中国への接近の象徴だと指摘している。
同紙によると、ウクライナの情報機関が傍受した電子メールで判明した。中国の国営企業の関与がうかがえ、クリミアでは最近、中露の共同事業体が結成されたことも分かったという。
ウクライナ軍は露本土とクリミアを結ぶケルチ海峡にかかるクリミア大橋への攻撃を続けている。物流の要衝への安全性の懸念が高まったことが、露側が海底トンネル建設を検討する契機になったとしている。
専門家によると、トンネル建設は技術的に可能で、中国側も必要な知見を持っているとしている。だが、建設費用は最低50億ドル(約7500億円)が見込まれ、長期間の工事が必要になるほか、中国は米欧などから制裁を受けるリスクがあるとも指摘した。
タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は報道内容を否定した。
●ドニプロ川を巡るウクライナの戦い、その内側に迫る CNN 11/25
セルヒ・オスタペンコ氏(32)が深夜に小型トラックの車内にしゃがみ込み、樹の陰に身を隠していると、周囲にロシアの爆撃の轟音(ごうおん)が鳴り響いた。
「敵は1日24時間ひっきりなしに砲撃してくる。最後に静寂が1時間以上続いたのがいつだったか、思い出せない」。ドローン(無人機)操縦士のオスタペンコ氏はウクライナ南部を流れるドニプロ川の右岸(西岸)でそう語った。この場所は2度目の冬を迎える消耗戦の新たな前線となっている。
オスタペンコ氏は「雷の子ら」と呼ばれるドローン部隊の一員。ドニプロ川渡河作戦の一端を担い、ロシア軍を後退させて左岸に恒久拠点を築く取り組みを進めている。ウクライナは今月、左岸に「橋頭堡(ほ)を確保した」と発表しており、これまで精彩を欠いていた反転攻勢が大きく前進する可能性が出ている。
ただ、CNNによるオスタペンコ氏の単独取材の間、夜間作戦が中断に追い込まれる場面もあった。右岸にある陣地がロシア軍に特定され、避難を余儀なくされたためだ。
「また攻撃だ。ロケット弾だと思う」。再び轟音が鳴り響くなか、オスタペンコ氏が語った。その顔はぼんやりとした赤色光に照らされている。「この地域に入るたびに死を覚悟する。ロケット弾や砲弾が命中して、いつ人生が終わってもおかしくない。慣れてくるが、不快な経験だ」
ドニプロ川を進む
全長2200キロのドニプロ川は欧州第4の長さの河川で、ロシアからベラルーシやウクライナを抜けて黒海に注ぎ込んでいる。
川はヘルソン州のロシア支配地域にある湿地帯を蛇行しながら流れる。ロシア軍は昨年11月、ウクライナ兵によってヘルソン市から追い出され、川の対岸へ撤退を余儀なくされた。
8カ月に及んだ過酷な占領の後の解放とあって、ヘルソン市は勝利の高揚感に包まれ、ウクライナの戦争努力における重要な節目になった。しかし、その後の1年間で緊張が和らぐことはほとんどなく、ヘルソン市と周辺地域は今も対岸のロシア軍による激しい爆撃にさらされている。
ドニプロ川は川幅が約1.6キロに広がる場所もあり、ロシア軍にとって自然の要害の役を果たす。ウクライナ軍が川を重要目標に位置付けているのは、一つにはそれが理由だ。ウクライナ軍は以前にも渡河作戦を仕掛けているが、対岸に強固な橋頭堡を築いてロシアを後退させることができれば、民間人と敵の火砲の間の距離が広がり、ヘルソン市の防御をさらに強化できる可能性がある。
また少なくとも理論上は、左岸を進軍すれば、2014年に違法併合され占領下にあるクリミア半島への進撃拠点となる可能性もある。
ウクライナ軍は、これまでにロシア軍を川から3〜8キロ後退させたと主張している。
「いま我々(の部隊)はドニプロ川の対岸を前進している。非常に困難な状況であり、進軍を可能にして対岸の戦力を増強すべく手を尽くしている」(オスタペンコ氏)
オスタペンコ氏によると、川を渡る「一定の接続」が確立され、ウクライナ軍は対岸にいる友軍に「兵器や弾薬、食料、燃料」を運べるようになったという。
同氏の航空偵察部隊はこれと並行して、川を渡る兵士の援護や、ロシアの部隊や動きの監視、ウクライナ兵や装備品の位置の隠蔽(いんぺい)も担っている。
この作業には危険が伴う。オスタペンコ氏は連日、「シャヘドと思われる自爆ドローンやグラートロケット砲と見られるロケット弾、迫撃砲、戦車」による一斉攻撃にさらされていると話す。
ただ、ロシアの爆撃は良い兆候と見なすこともできる。「敵は総力を挙げて抵抗を試みている。我々の作戦がすべて順調に進んでいることの表れだ。我々が問題を引き起こしているので、彼らは対抗しようとしている」
「生き延びないと」
一方、ヘルソン市内では、昨年の解放の喜びが薄れ、その日その日をしのぐことに専念しているという住民もいる。
「静かだと、砲撃がある時よりも怖さが増す」。インナ・バリオハさん(54)はそう語る。「じっと待ち、ラジオの音量を下げて絶えず耳を澄ましている。そうすれば窓の外の音が聞こえ、砲撃への対応が間に合うから」
バリオハさんはヘルソン市に残る住民約7万3000人の一人だ。当初30万人を数えた住民は4分の1以下に減った。バリオハさんは4歳の孫と体の弱い87歳の母親の面倒を見なければならず、「とうの昔に避難しないことを決めた」という。
ただ、戦時下の暮らしには犠牲が伴う。孫が最初に覚えた言葉の一つは「警報」だった。「孫は空襲警報が鳴った時にどう行動すればいいか、ちゃんと分かっている。どこへ行けばいいのかも。窓の外で爆発音が聞こえたら、廊下に設けた小さな避難所に行けばいい」
砲撃がひどくなってきたので、短い散歩に出かけるのはやめ、現在はもっぱら自宅にとどまっている。「いまは子どもの安全を保つため、私の肩に掛かっていることを何でもこなしている」「私たちの主な仕事は生き残ること。占領中もそうだったし、いまもそう。生き延びないと」
●キーウで「大飢饉」犠牲者を追悼 旧ソ連政権下、400万人が死亡 11/25
ウクライナ政府が25日、首都キーウ(キエフ)で、旧ソ連のスターリン政権下の1932〜33年、穀物の強制徴発や弾圧で400万人以上が死亡した大飢饉(ホロドモール)犠牲者の追悼式典を開いた。ウクライナはソ連を継承するロシアが今回の侵攻でも穀物供給を滞らせて食料危機を引き起こしたと主張し、大飢饉の記憶と侵攻を重ね合わせロシア非難を強めている。
ゼレンスキー大統領夫妻らはこの日、キーウのホロドモール博物館にあるやせ細った少女像にろうそくを供えた。
ロシアは7月、黒海経由のウクライナ産穀物合意を離脱し、ウクライナの港湾施設への攻撃を繰り返している。
●ウクライナ首都に最大規模の無人機攻撃 11/25
ロシア軍は25日未明、無人機でウクライナの首都キーウ(キエフ)を大規模攻撃した。50機が飛来し、市長は昨年2月の侵攻開始以降で最大規模の無人機攻撃との見方を示した。
●ウクライナ首都キーウに「過去最大」ドローン攻撃 5人負傷 火災や停電も 11/25
ウクライナの首都キーウでロシア軍によるドローン攻撃があり、5人が負傷しました。キーウ市長は「過去最大だ」と述べています。
ウクライナ軍は25日、ロシア軍がキーウなど少なくとも6つの地域に対し、大規模なドローン攻撃を仕掛けたと明らかにしました。
イラン製ドローン75機が飛来し、そのうち73機を撃墜したということです。
キーウのクリチコ市長は、去年2月の侵攻開始以降「過去最大のドローン攻撃だ」と非難し、11歳の子どもを含む5人が負傷したと明らかにしました。
また、ドローンの破片が落下するなどして幼稚園や集合住宅で火災が発生し、200近くの建物が停電したということです。
ゼレンスキー大統領はロシア軍の攻撃を非難し、「防空能力を強化していく」と強調しました。

 

●プーチンと愛人の「超豪華ヨット」内部写真が流出...ロシア野党指導者が公表 11/26
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と関係がある豪華なヨットが、トルコのイスタンブールに停泊していることが明らかになった。さらには、その内部とされる写真もネット上にアップされたが、その豪華さには驚くばかり。この約5000万ドルのヨットは、プーチンの愛人とされるアリーナ・カバエワが頻繁に利用しているという。
ロシアの反体制派のミハイル・ホドルコフスキーが創設した団体「ドシエセンター」は、全長71メートルの「ビクトリア」という船名の船が、10月下旬からイスタンブールの造船所に停泊していることを発見した。
ドシエセンターの情報筋によると、この豪華なスーパーヨット(大型クルーザー)は、プーチンとの関係が確認された9隻目の船だ。ヨットは、NATO加盟国であるトルコの造船所で修理中であることがわかった。
ヨット内部の写真を見ると、黒、白、茶色を基調とした豪華なエンターテイメントスペースには、大きな三日月形のソファや柱、鏡張りの天井、天窓が施されている。
ミニマルなベッドルームの写真もあり、ステージタイプの巨大な円形ベッドに鏡張りの天井、大型テレビ、ワークスペースがある。セカンドベッドルームには、大きなベッド、マホガニーのベッドサイドテーブル、壁際にはソファが置かれている。
プーチンの公式な給与は「年間約12万ドル」
このヨットは、公式にはプーチンの長年の盟友であるロシアの大富豪ゲンナジー・ティムチェンコの関連企業に登録されていると報じられている。
ビクトリアは、2005年にロシア海軍の船舶を建造するセブマシュ造船所で建造が開始され、2019年に完成した。完成が大幅に遅れたのは、ティムチェンコの知人であるセルゲイ・マスロフが代金の支払いを止めたからだ。
ホドルコフスキーはX(旧ツイッター)で、プーチンは「公式には年間約12万ドルの大統領給与で生活しているため、これらのものに自分の名前をつけることはできない」と投稿した。「ビクトリアの書類にはプーチンの名前はどこにも出てこないが、彼の個人的な船であることを示す証拠は多数ある」
カバエワの親友の写真にビクトリアの姿が
「第一に、原子力潜水艦を専門とするロシア海軍の造船会社にヨットを発注することなど、彼の他には誰もできないだろう」とホドルコフスキーは指摘。「さらに、このヨットは(プーチンの黒海の他の船と同様に)ソチを拠点とし、しばしばプーチンが所有する他の船と共に彼の宮殿があるゲレンドシクのイドコパス岬を定期的に訪れている」と述べた。
ビクトリアの乗組員リストには、プーチンや彼の側近とつながりのある船で働いていたことで知られる船員数名の名前が含まれているという。ホドルコフスキーはまた、カバエワの親友である新体操選手ナタリア・ベルギナが公開した写真の背景に、ビクトリアが映っているのをドシエセンターが発見したと説明した。
「ドシエセンターの情報源によれば、カバエワはしばしば友人や家族と共にビクトリアで休暇を過ごしている」とホドルコフスキーは述べている。
●ハニートラップを仕掛ける素人系中国人スパイの“驚きの手口” 11/26
日本の有名女優似の留学生がハニートラップを仕掛ける
ハニートラップでは中国人女性スパイと懇ろになったりすると、その様子を動画に撮られたり、メッセージのやりとりなどをネタにして脅される。もしくは、その関係のままで、情報をどんどん吸い取られていくようになる。会社員や企業幹部なら、かなり機密度の高い情報も求められるようになるだろう。気がついた時には、もはや断れなくなっている。
私個人としては、ハニートラップについてもともと半信半疑だった。ところが、外事警察時代に実際に起きているのを知って、考えを改めた。日本には、中国人留学生が数多くいて、中国大使館の教育処でリスト化されている。そしてその中から、ハニートラップに向きそうな素人の女性を中国大使館がスカウトしていると見られている。中国スパイは、「大使館のメッセンジャーとして協力してほしい」と、もっともらしい口説き文句で協力を持ち掛けている。しかも、先に触れた通り、協力の見返りに「中国に残してきたあなたの両親の年金額を増額しますよ」などと提案する。
これは中国スパイの常套句だが、加えて、協力の謝礼も出すと伝えれば、拒否する人はほぼいない。そして女性は、パーティの席やバーでターゲットに自然な形で接触して、デートに持ち込んでいく。
こんな例もある。2007年から営業していた京都の祇園にあった中国人クラブは、中国スパイ活動の拠点となっていた。この中国人クラブの当時31歳のホステスが、常連の陸上自衛隊桂駐屯地の当時53歳の陸曹長と偽造結婚していたとして、公正証書原本不実記載・同行使で逮捕された。
実はこのクラブには、親族に共産党員の幹部がいるとされたママと、若いホステスが7〜8人在籍しており、人気店になっていた。京都のハイテク企業幹部や自衛隊桂駐屯地の幹部も足繁く通っていたという。企業幹部は、自社製品の情報や人事情報をホステスに見せていたことも判明。ところが、産業スパイ行為については、ホステスが頑なに否定したことで立件はできなかった。
「好みの女性は?」と聞かれたので、有名女優の名前を答えると…
他には、日本の有名女優似の中国人女スパイが現れたこともある。某省庁の高級官僚が知人に連れられて、新宿区内にある中国人パブで飲んでいた。官僚はママに名刺を渡し、その際に「好みの女性はどんな子?」と聞かれ、有名女優の名前を答えた。すると、半月ほどして職場を出たところで、その女優似の女性にぶつかり、お互い「すみません」と言い合って別れた。そしてその数日後には、近所のコンビニで、再びその女性とばったり出会ったのである。また次の日には、近所のファミレスでも姿を見かけ、最後には職場の正門でも出会ってしまったというのだ。
そこで彼は怖くなって、知り合いだった私のもとに相談を寄せてきた。私は「ハニトラだから、誘われても接触するな」と、警戒を促した。そして外事警察がしばらくこの官僚の様子を見張っていたところ、案の定、その中国人女スパイが現れたという。彼女を尾行すると、中国人留学生だったことが判明した。
日本には、全国各地に、中国人女性によるハニートラップの拠点になっているところがある。東京なら、中国大使館の息がかかっていると見られている飲食店が、歌舞伎町や六本木、池袋にある。在日中国大使館御用達の高級中華レストランが六本木にあるが、その2階にいくつもある個室は情報活動の拠点になっている。要は、スパイの巣窟なのである。そこには女性も常駐していると見られており、ハニートラップに使われている可能性が高い。
秋葉原にある在日中国人を違法に取り締まる「海外警察」
こうしたスパイ行為に加えて、中国は世界中に「海外警察」を設置して、国外に暮らす中国人に、中国共産党のルールを当てはめ、監視や「摘発行為」を行っている。スペインに拠点を置くNGO団体のセーフガード・ディフェンダーズが2022年9月に公開したリポートでは、中国政府が少なくとも世界30カ国の54カ所に海外警察を作っていると告発されている。日本国内では、秋葉原にあることが確認されている。他に可能性があるのは、福岡、名古屋、神戸、大阪、銀座だといわれている。
彼らが監視対象にしていたのは、海外で中国人相手に商売をするなどして中国国内の法律を破っているような人たちだ。「自主的に」と言いながら半ば強制的に中国に連れ戻して、罪を償わせるのである。全世界的に直近3年間で数十万人ほどの中国人が帰国させられていることが判明している。
●美しすぎるロシア人スパイが色仕掛けで狙った“機密情報” 11/26
「美しすぎるスパイ」アンナ・チャップマンの素顔
ロシアスパイは、実は訓練を受けた外交官の身分を持っているような人たちばかりではない。一般人の身分で、外交官の肩書を持たずに活動しているスパイも少なくない。永住者や長期滞在者がスパイであるケースだ。日本の警察も、そうしたスパイを追いきることは至難の業だ。外事警察は長年の経験と情報で、外交官の肩書で日本にいるロシアスパイが出没するパターンや接触の仕方をプロファイルできているが、社会に浸透している民間スパイをあぶり出すことは簡単ではない。
日本では、ロシアの航空会社アエロフロートや、通信社であるタス通信(ロシアの国営通信社)にスパイが紛れ込んでいたのは外事警察もわかっている。それに加えて、アメリカで2010年6月にロシアスパイとして逮捕され、「美しすぎるスパイ」として大きく報じられたアンナ・チャップマンのケースのように、民間のビジネスパーソンに扮しているスパイもいる。
チャプマンのケースは、ロシア人の民間スパイの手口として参考になる。もちろん公安部もそう考えて、事件を摘発したアメリカのFBIに講義を依頼している。当時、チャップマンらロシア人民間スパイ10人が逮捕されているが、その数カ月後にFBI特別捜査官が来日した。
外事課では、特別捜査官の話を聞くべく、数人の捜査員が集まった。相手がFBI捜査員であっても顔を晒すのはられるということで、外事警察の受講者はサングラスやマスクをして講義に臨んだ。特別捜査官によれば、摘発された10人はSVRのスパイで、彼らの任務は米連邦議会(国会)の議員と親しくなることだった。ロシアに不利となる法案が提出されれば、それを妨害する工作をするよう指示されていたという。また国防総省の幹部にも接触を図って軍事情報を入手するよう命じられていた。
「美しすぎるロシア人スパイ」の“色仕掛け”
チャップマンは、ニューヨークで不動産会社の社長を装っていた。色仕掛けで情報収集や人脈の構築に励んでいたという。さらに講義では、FBIがチャップマンらを尾行して、鞄や靴に仕込んだ超小型のカメラで撮影していた動画も披露された。動画には、チャップマンがカフェでパソコンを開いてデータを通信している様子や、古典的なスパイの手法で、スパイ業界ではよく知られている「フラッシュ・コンタクト」も使っていた。フラッシュ・コンタクトとは、情報機関員と情報提供者であるスパイが、情報交換のため、すれ違いざまに機密資料を手渡すやり方だ。日本の捜査員らはそうした動画に目が釘付けになった。
世界に目を向けると、民間スパイには画家を装っている者もいる。日本ではまだ画家は確認されていないが、ヨーロッパの外交官から「画家にはスパイがいるから気をつけろ」と言われたこともある。画家であれば、浜辺で発電所を描いていても、ダムを描いていても、誰にも怪しまれない、ということだ。
またこれは意外な事実かもしれないが、ロシアンパブにスパイはあまりいない。警察では、生活安全課が風営法違反でロシア人を逮捕することがある。逮捕の調書や参考人聴取の供述を読むことがあったが、パブの女性にスパイはいない印象だった。
男性であれば、日本で俳優をしているスパイがいた。以前、日本のテレビで再現ドラマによく出ていたロシア人の俳優だ。この俳優は、SVRのスパイとも頻繁に会っていたのを確認していた。2014年にロシアがクリミアに侵攻した際も、ウクライナ大使館前での抗議デモに参加したり、日本に暮らす親ロシアのウクライナ人とも連絡を取り合っていた。ロシアに友好的なウクライナ人と連絡をする役割もあったのかもしれない。ここ最近では再現ドラマでも見なくなってしまった。
ロシアスパイと中国スパイの違い
ロシアスパイは、中国スパイとはやり方が根本的に違う。同胞に力技で協力させるようなことはあまりしない。もちろん、在日で反ロシアや反プーチン発言をしている人たちのことはきっちりとチェックしているが、在日ロシア人を飴と鞭で協力者にしていくということはほとんどない。
ロシア大使館は、外国人の職員も置かない。大使館ではよくある公用車のドライバーに現地人を雇うようなこともせず、すべて自国民で固めている。日本での業務も日本人にはさせず、日本語ができるロシア人が担当するのである。この点だけは、中国と同じだ。
メディアでロシアについて専門家がコメントすると、それが日本語の有料記事であっても、大使館はチェックしている。一度、ある大学の国際政治学者がロシアのスパイ活動について、全国紙にコメントを寄せたことがあった。その全国紙の有料デジタル版にコメントは掲載されたのだが、その日のうちにロシア大使館から大学に「ぜひお会いしたい」とアポイントを取る連絡が来たという。それくらい、ロシア大使館は日本メディアでの扱われ方を注視しているのである。
さらにロシアは、領事もスパイ活動をすることがある。領事なら、パスポート情報から個人情報も知ることができる。そこから接触をしたり、名刺交換をして、人脈を作っていくこともある。そういう理由から、どこの情報機関でも、領事は大切に扱い、重要な情報源にしている。領事は敵に回すな、というのは情報機関の常識なのである。
●キーウなどに最大規模の無人機攻撃 74機撃墜も火災や建物損壊 11/26
ウクライナの首都キーウを中心に25日夜、ロシアによる大規模な無人機攻撃があった。ウクライナ軍は75機が飛来し、うち74機を撃墜と発表。侵攻開始後の無人機攻撃では最大規模だという。
ウクライナ空軍によると、飛来したのはイラン製無人機「シャヘド」。キーウ当局は、5人が負傷したと発表。空襲警報は6時間にわたって鳴り響いた。
ビタリ・クリチコ市長は、撃墜された無人機の残骸が落下して火災が起きたり、建物が損壊したりしたことを明らかにした。気温が氷点下となる中、電力網も被害を受け、停電が発生した。
25日は、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリン政権下の1930年代にウクライナで起きた大飢饉(ききん)「ホロドモール(ウクライナ語で飢饉による殺害)」の犠牲者の追悼日。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はSNSで、「ロシア指導部は殺りくできることを誇っている」と怒りをあわらにした。
●ドイツでウクライナへの兵器供与に反対するデモ 軍事費削減を訴える 11/26
ドイツの首都ベルリンで現地時間25日、デモが行われ、ドイツ政府にウクライナへの武器提供を中止し、軍事費を削減するよう呼びかけました。
今回のデモはドイツ各界から広く支持され、参加者は「爆弾ではなく教育、NATO=戦争」などのプラカードを掲げ、北太平洋条約機構(NATO)が世界中で戦争激化を訴えていることに抗議し、ドイツ政府にウクライナへの武器提供の停止、ロシアとの停戦交渉の推進を呼びかけました。
デモに参加したドイツ連邦参議院議員のセヴィム・ダデーレン氏は「ロシアとウクライナは消耗戦を繰り広げており、両方とも進展が得られない。最も重要なのは停戦と交渉で、ウクライナ問題の平和的解決だ。ウクライナへの武器供与と軍事支援を停止しなければならない。なぜならこれは解決策ではなく、衝突のエスカレートを招くだけだからだ。われわれは衝突のエスカレートを阻止しなければならない」と訴えました。
デモ参加者はまた、ドイツ政府に軍事費削減に取り組むよう呼びかけました。ドイツのメディアによりますと、ドイツ連邦政府の2024年度予算草案では、軍事費支出がドイツの国内総生産の2%を超える900億ユーロ以上と記録的に増加し、ウクライナへの軍事支援だけで80億ユーロに倍増したということです。
なお、ロシアとウクライナの衝突が始まって以降、欧州の対露制裁のバックラッシュ効果(文化的ステレオタイプにそぐわない振る舞いに対し、社会的・経済的制裁が生じる現象のこと)によって多くの社会的矛盾が生じ、人々の不満が高まっています。さらにこれに先立ち、国際通貨基金(IMF)はドイツが今年唯一景気後退する先進経済体であると予想していました。
●キーウにロシア軍のドローン攻撃 侵攻開始以来で最大の規模 11/26
ウクライナからの情報によると、首都キーウに25日、ロシア軍による侵攻が始まってから最大規模のドローン(無人機)攻撃があった。
ウクライナ空軍はSNS「テレグラム」への投稿で、ロシア南西部のプリモルスコ・アフタルスクと西部クルスク州の2方面から主にキーウを狙って、イラン製ドローン「シャヘド」約75機が発射された。これは「記録的な数」とされる。
ウクライナ軍の防空システムが、キーウ州を中心に計6州で71機のドローンを迎撃した。迎撃作戦には対空ミサイル防衛部隊、戦術飛行隊、機動射撃班、電子戦部隊が参加した。さらに中部ドニプロペトロウシク州で、ロシア軍の誘導ミサイル「Kh59」を破壊した。
キーウ市軍政当局の報道官は、無人機が数回に分かれて複数の方向から飛来したと述べた。同報道官によると、キーウが攻撃を受けるのは今月4回目。
現地のCNNスタッフは、大きな爆発音や衝撃音が繰り返し聞こえたと報告した。
軍政当局は住民に向けて警告を発し、避難を促した。
クリチコ市長は、同市ソロミアンスキー地区の集合住宅など数カ所で火災が発生し、少なくとも2人が負傷したと発表した。このほかに市内の2地区で無人機の残骸が集合住宅を直撃した。
同市のポプコ軍事行政長官によると、ソロミアンスキー地区にある幼稚園の敷地内でも、無人機撃墜後に火災が起きた。
エネルギー省によれば、市内の住宅77棟と事業所120棟で停電が発生したが、電力会社は同日中に完全復旧を発表した。 
●モスクワ中心部でGPS誤作動、無人機攻撃に備えた妨害電波か… 11/26
モスクワ中心部にあるロシア大統領府周辺で、衛星を使った位置情報システムの障害が続いている。無人機攻撃に備えた妨害電波が原因とみられ、カーナビの誤作動などで交通に混乱が生じている。無人機が頻繁に飛来した今夏以降、範囲が広がった。
モスクワ中心部の「赤の広場」は最近、中国人観光客であふれている。携帯電話でタクシー配車アプリを起動すると、車両の場所を示すアイコンが道を無視し、川の上を走るなど異様な動きを繰り返す。手配後も頻繁に「問題発生」と表示され、動きが止まった。
大統領府周辺での位置情報システムの障害は昨年もあったが、今年5月に無人機の攻撃を受けて以降、範囲が広がった。プーチン大統領が出席した5月9日の旧ソ連による対独戦勝記念日の式典前後はカーナビが全く使えなくなり、渋滞が起きたという。タクシー運転手の男性(50)は「戦争中だから、しょうがない」と語った。
モスクワでは、夏にビジネス街などへのウクライナ軍によるとみられる無人機攻撃が相次ぎ、最近も郊外で無人機が見つかった。戦線から離れたモスクワ市民への心理的なゆさぶりが狙いとみられる。30歳代の女性は「夏以降、朝起きるたびに攻撃があったかどうか気になるようになった」と話した。
●国連人権担当者、ウクライナの信教の自由に懸念表明 占領地域の宗教抑圧 11/26
国連の人権担当者が、ウクライナにおける信教の自由、特に歴史的にロシアとつながりのある教会に対する対応に懸念を示し、ロシアによる占領地域を含め、ウクライナ国内の宗教共同体の安全に対する制限や脅威を指摘した。
国連の発表(英語)によると、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のイルゼ・ブランズ・ケリス人権担当事務次長補は17日、ロシアと歴史的につながりのあるモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)と、2018年に別の2つの正教会が合併して設立された非モスクワ総主教系のウクライナ正教会(OCU)の間の緊張が高まっていることを、国連安全保障理事会で述べた。
ケリス氏は、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を始めた昨年2月以降、この2つの正教会の信者らの間で、口論からエスカレートした身体的暴力事件が10件、脅迫的暴力事件が6件あったことを、OHCHRが確認していると指摘。ウクライナの法執行機関が不適切な対応をしており、UOCの信者を保護できていないと批判した。
ケリス氏はまた、ウクライナと武力紛争状態にある国々と関係のある宗教団体を解散させる可能性のある法案が、ウクライナ議会で審議されていることについても言及。法案を含め、こうした措置が必要かつ適切で、国際人権法に沿ったものになるよう求めた。
一方、ウクライナにおけるロシアの占領地域では、ロシアが独自の法律を適用しており、宗教的少数派を規制したり、聖職者に対する拷問を行ったりしていると指摘。全ての当事者が国際人権法を尊重し、信教の自由を保障するよう呼びかけた。
同じく安全保障理事会に出席したロシア正教会のモスクワ総主教庁教会社会・マスメディア関係部副議長のバフタン・キプシゼ氏は、ウクライナ当局がUOCの消滅を狙っていると非難。OCUへの転会を拒否するUOCの信者が権利侵害に直面していると主張した。
安全保障理事会ではその後、討論が行われ、ロシア代表は、ウクライナ議会で審議されている法案は、UOCの活動を完全に禁止するものだと主張。UOCの信者に対する暴力や脅迫を、西側の理事国メンバーが無視していると非難した。
これに対し米国代表は、ロシアが安全保障理事会を利用して偽情報を流し、侵略を正当化していると非難。ロシアの占領地域における宗教的抑圧に焦点を当てる必要性を強調した。
マルタ代表も、ロシアがウクライナに対する侵略から注意をそらそうとしていると非難。フランス代表もこれに同意し、宗教施設への攻撃は戦争犯罪であることを示した安全保障理事会決議第2347号(2017年)を含む国際法を遵守するようロシアに求めた。
ウクライナ代表は、ロシア正教会がロシアの侵略を支持し、ウクライナの領土の占領と併合に加担していると非難。ウクライナ議会で審議されている法案は、侵略のために宗教団体が利用されることに対抗するための措置であると擁護した。
●ロシア、新型ドローンでキーウ攻撃か 「レーダー探知難しい素材」 11/26
米シンクタンク「戦争研究所」(ISW)は25日、ウクライナの首都キーウで同日未明にあったロシア軍による70機を超えるドローン(無人機)攻撃で、レーダー探知が難しい黒色の新しい自爆型ドローンが使用されたとするウクライナ空軍やロシアの軍事ブロガーの分析を紹介した。
ISWによると、ロシア軍が今回の攻撃に使用したドローンは新型で「黒色でレーダー信号を吸収する素材が使われ、探知がより難しい」と、ウクライナ空軍の報道官が報告したという。また、ロシアの複数の軍事ブロガーも、ロシア軍が今回の攻撃で「夜空での探知がより難しい」黒色の自爆型ドローンを初めて使用した、と主張していると紹介した。
●モスクワ周辺に無人機24機 ロシア発表、前日攻撃に報復か 11/26
ロシア国防省は26日、首都周辺のモスクワ州や隣接するトゥーラ、カルーガ、スモレンスク各州とウクライナ国境の西部ブリャンスク州にウクライナの無人機計24機が飛来し、いずれも防空システムで撃墜したと発表した。
最近のモスクワ周辺への無人機攻撃としては異例の多さ。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を中心にウクライナ全土で25日に行った過去最大規模とされる無人機攻撃への報復とみられる。
ロシアが併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州が面するアゾフ海上空では飛来したミサイル2発を撃墜したという。 トゥーラ州のジュミン知事は、撃墜した無人機のうち1機が高層住宅に突っ込み、住民1人が負傷したと明らかにした。ロシア通信によると、モスクワ周辺の3空港で計約30便に欠航や遅れなどの影響が出た。
●ロシア国防省 無人機24機をモスクワ近郊などで撃墜と発表 11/26
ロシア国防省は26日、ウクライナによる無人機24機をモスクワ近郊などで撃墜したと発表しました。
ロシア国防省によりますと、26日未明、モスクワの南側と西側に位置する5つの州で、合わせて24機の無人機を撃墜したということです。
モスクワ市長はSNSに、このうち1機はモスクワ市までおよそ7キロのモスクワ州まで飛来したと投稿しました。
また、モスクワの南およそ160キロ位置するトゥーラ州政府はSNSで、妨害電波で制御不能となった無人機がアパートに落下し、住民1人がケガをしたと発表しました。
無人機を使った攻防では、25日、ウクライナ空軍が、ロシアが首都キーウ市などに無人機75機による攻撃を仕掛けたと発表していました。
●数百万人が餓死したホロドモール追悼の日、ロシアが大規模無人機攻撃… 11/26
ウクライナ軍の発表によると、ロシア軍は25日、イラン製自爆型無人機「シャヘド」約75機でウクライナ各地を攻撃した。一度の攻撃としては、昨年2月のウクライナ侵略開始後、最大規模だという。ウクライナ軍は74機を撃墜したとしている。
ウクライナメディアによると、50機以上が首都キーウに飛来した。機体の破片が市街地に落下し、11歳の子供ら5人が負傷した。
25日は、1930年代に旧ソ連の最高指導者スターリンの政策でウクライナで数百万人が餓死したとされる「ホロドモール」と呼ばれる大飢饉(ききん)の犠牲者を悼む日だった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「追悼の日を狙い、意図的に恐怖を与えようとするものだ」とSNSで批判した。
ロシアのタス通信によると、ウクライナ軍も26日朝、モスクワなどを無人機で攻撃した。露軍の発表によると、防空システムで24機を撃墜した。
●キーウに最大規模のドローン攻撃 少なくとも5人けが、中心部で停電 11/26
ウクライナの首都キーウの市長は25日、ロシアによる大規模なドローン(無人機)攻撃を受けたと発表した。昨年の本格侵攻の開始以降で最大の攻撃だったとした。
キーウへの攻撃は25日未明に始まり、多くの住民が爆発音で目を覚ました。その後6時間以上にわたり、市内全域に防空システムのごう音が鳴り響いた。
ロシアによる波状攻撃は、キーウの北と東の方角から続いた。
ウクライナ当局によると、イラン製のドローン「シャヘド」が75機以上、キーウに向けて放たれた。1機を除いてすべて撃墜したという。
ただ、迎撃に成功しても、落下する破片で致命傷を負う恐れもある。
キーウのヴィタリー・クリチコ市長は、この攻撃による死者は報告されていないが、11歳の子どもを含む少なくとも5人が負傷したと述べた。
被害を受けた建物の中には、幼稚園もある。
ロシアはミサイルの在庫が減っており、シャヘドを安価な代替兵器にしているとみられている。シャヘドは弾道ミサイルより速度が遅く、特徴的な翼がある。
ここ何週間かはロシアによるミサイル攻撃がなかったため、ロシアが備蓄を増やしているのだろうとの見方が出ていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、今回の空爆を「意図的なテロ」行為と非難。「ロシアのテロから守るため、世界団結への努力を続ける」と述べた。ウクライナは現在、西側からの継続的な支援の確保と、ウクライナの欧州連合(EU)加盟を目指している。
ゼレンスキー氏はまた、今回の攻撃が、ウクライナで「ホロドモール」と呼ばれる大飢饉(ききん)の犠牲者追悼の日に行われたことにも言及した。ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンによる政策で、ウクライナは1932〜1933年に大飢饉に襲われ、数百万人が命を奪われた。
ウクライナでは冬の寒さが続くなか、ロシアが再びウクライナのエネルギーインフラを標的にすることが懸念されてきた。この日の攻撃では、キーウ中心部の1万6000戸が停電。懸念が現実になった格好だ。
ただ、昨年の冬は、ロシアによる攻撃の被害を受けた送電線やパイプを、ウクライナ当局が素早く修復。住民から電気や水を奪おうとしたロシアの狙いをくじいたとされる。
ウクライナは防空能力も向上させている。
しかし、今回のような攻撃がなくなったわけではない。なおも人々は殺され、家々が破壊され、恐怖は拡散され、生活が混乱状態に置かれている。

 

●宗教(団体)と宗教心は別だ 11/27
国家、機関、グループと個々の国民、人間は別々の存在であり、両者が常に統合して一体化しているわけではないということを訴えてきた。もちろん、両者が統合し、調和している状況も考えられるが、非常に稀なことで、多くは分裂し、特には対立しているケースが多いのだ。
この「・・は別だ」に新たな例を加えたい。宗教組織(団体、教派)と個々の信者の宗教心は別だということだ。
ドイツ国民の80%が宗教に無関心という調査結果をこのコラム欄でも紹介したが、それではドイツ国民は教会には関心がなく、非常に世俗的で資本主義的消費社会にどっぷりとつかっているか、というとそうとは言えない。ドイツは宗教改革の発祥地でもある。クリスマスには家族が集まって共に祝う国民だ。ただ、自身が所属する教区の教会には関心は薄く、年に数回しかミサには参加しない平信徒が多い。聖職者の未成年者への性的虐待問題がメディアに報じられるたびに、益々教会への足が遠ざかる、というのが現状ではないか。
教会から足が遠ざかり日曜礼拝にもいかなくなった信者は世俗化したのか、というとそうとはいえない。ただ、自身が願う教会の姿ではないので、教会から離れていくだけで、その宗教心は変わらないばかりか、燃え上がっているケースもある。そこで「宗教(団体)と宗教心は別だ」ということになるわけだ。
日本では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が契機となって「宗教2世」という表現がメディアで報じられ出したが、宗教は本来、世襲的なものではない。各自が人生の目的、何のために生きているか等々の疑問を模索していく中で、納得する宗教に出会う。ただ、親が特定の宗教に所属していたならば、その子供たちが自然に親の宗教を継承していくケースは十分に考えられることだ。
もちろん、「宗教2世」も成長していく中で、新たな人生の目的を見出し、親の信仰から離れていくケースも見られる。その場合でも、親の宗教(団体)というより、親の宗教心(信仰姿勢)が決定的な影響を与えるのではないか。
人類の歴史で数多くの宗教が生まれ、また消滅していったが、「世界宗教」と呼ばれるキリスト教やイスラム教は創設者の教えを世界に広げていった。ただ、キリスト教でも300以上のグループに分かれていったように、宗教(団体、教会、寺院)も時代の流れの中で変遷していった。そのようなプロセスの中でも人間が生来有する宗教心は続いてきたわけだ。極端にいえば、教会が消滅したとしても、人間が持つ宗教心は消滅することなく続いているのだ。
人間の持つ宗教心を根絶しようとして唯物主義的共産主義が誕生し、「宗教はアヘン」として国民から宗教を撲滅しようとした歴史があった。その結果、宗教団体、組織は一部、解体され、消滅しても、国民の宗教心までは抹殺できなかったことは歴史が端的に示してきた。
例を挙げる。アルバニアはバルカン半島の南西部に位置し、人口300万人弱の小国だ。冷戦時代、同国のエンヴェル・ホッジャ労働党政権(共産党政権)は1967年、世界で初めて「無神論国家宣言」を表明したことから、同国の名前は世界の近代史に刻印されることになった。
ホッジャ政権下で収容所に25年間監禁されてきたローマ・カトリック教会のゼフ・プルミー神父と会見したことがあるが、同国では民主化後、多くの若者たちが宗教に強い関心を示してきているのだ。ホッジャ政権は教会を破壊し、聖職者を牢獄に入れることは出来たが、国民の中にある宗教心を完全に抹殺することはできなかったのだ。アルバニア国民はその宗教心を「アルバニア教」と呼んでいる(「『アルバニア教』の神髄語った大統領」2021年5月4日参考)。
中国の習近平国家主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告している。具体的には、キリスト教、イスラム教など世界宗教に所属する信者たちには「同化政策による中国化」を進めている。にもかかわらず、中国人の宗教熱は冷えていない。非公式統計だが、中国人の宗教人口は中国共産党員をはるかに凌いでいる。
1990年代後半に入ると、李洪志氏が創設した中国伝統修練法の気功集団「法輪功」の会員が中国国内で急増し、1999年の段階で1億人を超え、その数は共産党員数を上回っていった。それに危機感をもった中国第5代国家主席の江沢民氏(当時・在任1993年3月〜2003年3月)は1999年、法輪功を壊滅する目的で「610弁公室」を創設した。「610弁公室」は旧ソ連時代のKGB(国家保安委員会)のような組織で、共産党員が減少する一方、メンバー数が急増してきた法輪功の台頭を恐れた江主席の鶴の一声で作られた組織だ。
最後に、宗教心とは何だろうか。明らかな点は程度の差こそあれ、誰でも宗教心を持っていることだ。その中には、人知を超えた存在(?)への畏敬心も含まれるだろう。人は誰でも幸せを願っている。そしてより良い人間になりたい、という消すことが出来ない願望がある。
イエスの言葉を借りるならば、人はパンのみで生きているのではない。そして誰から言われなくても、何が善であり、何が悪いかを理解している。だから、世界宗教といわれる宗教の教えはよく似ている。人を殺すなかれ、姦淫するなかれ、といった戒めはどの高等宗教も教えていることだ。
宗教団体が時の為政者から弾圧されたとしても、また、宗教団体が内部から腐敗・堕落していったとしても、人間の本来の宗教心は消えることがない。ローマ帝国の皇帝ネロ(在位54〜68年)はキリスト教を徹底的に弾圧したが、そのキリスト教が西暦392年、ローマ帝国の国教となることを防ぐことは出来なかった。宗教心は弾圧さればされるほど燃え上がることを多くの独裁者は理解していないのだ。
●核禁条約会議開幕 抑止論の壁打ち破る場に 11/27
核兵器禁止条約の第2回締約国会議が、米ニューヨークの国連本部できょう開幕する。核兵器が使われるリスクが冷戦以降、最も高まった今、核廃絶への道筋を議論する意義はより重くなった。
昨年6月の第1回会議で採択した「ウィーン宣言」は、核抑止論を誤りだと断じた。判明した今回の政治宣言の草案は「不拡散義務と矛盾するだけでなく、核軍縮の進展を阻害している」として、改めて正当性を否定する。核抑止論に固執することで生じる負の側面を掘り下げて示し、核兵器保有国や依存国に脱却を求める考えだ。当然である。
世界中の誰にとっても、どの国にとっても一考せざるを得ない議論になるだろう。
ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核による威嚇を続け、ベラルーシに戦術核兵器の配備を進める。中東では今月、イスラエルの閣僚が、パレスチナ自治区ガザに核爆弾を落とすのも「選択肢の一つ」と発言した。
核兵器が存在すれば使おうとする国が出てくる。破滅をいとわない指導者がいれば、抑止など当てにならない。そんな現実が目の前にある。核抑止論はもろく、使われた時の悲惨さは広島、長崎の被爆者が訴える通りだ。核戦争になれば、どの国にとっても被害が及ばない保証はない。
それゆえ、日本政府が締約国会議へのオブザーバー参加を、初回に続いて見送ったのは理解できない。日本はいずれも核兵器を保有するロシア、中国、北朝鮮に囲まれ、核の脅威は格段に高まっている。核兵器禁止条約の議論に加わり、国家間を超えた、世界や人類の安全保障との観点に立って核廃絶を目指す手法は有益なはずである。
参加しない理由を岸田文雄首相は「条約に核兵器保有国は一国も参加していない」と今国会で答弁した。結論が逆だろう。保有国と非保有国の分断が深まる現状だからこそ参加すべきではないか。
岸田氏は2年前の首相就任時から核兵器のない世界を目指すため、現実的な取り組みが肝心と繰り返してきた。だが頼みとする核軍縮の枠組みは、機能不全に陥っている。
核拡散防止条約(NPT)は、昨年8月の再検討会議で最終文書を採択できずに決裂した。包括的核実験禁止条約(CTBT)は米中が批准しておらず、ロシアは先ごろ批准を撤回した。この情勢下で戦争被爆国の日本が核兵器禁止条約にオブザーバーであっても参加し、リスクへの警告を出す意味は十分にある。
日本の安全保障にとって、米国の核抑止への依存がベストな選択なのか。従来の政府の考えを検討し直す機会にできるのではないか。
締約国会議に被爆者や日本の非政府組織(NGO)が参加し、広島市と県、長崎市のトップも現地入りする。核兵器が使われた現実を起点にした人道性への訴えは、説得力に富む。核実験などの「ヒバクシャ」援助や環境修復の議論を深めるのは加盟国を増やすのに有効だ。何より日本政府の消極姿勢を変えさせる世論の醸成に期待したい。
●ジェトロ、ウクライナ復興支援ビジネスネットワーキングを開催 11/27
ジェトロは11月21日、日本の経済産業省およびポーランド投資・貿易庁(PAIH)との共催で、在ポーランド日本大使館の協力の下、ウクライナ復興支援ビジネス機会の捕捉を企図する日本企業とポーランド企業の連携を促すため、ビジネスネットワーキングを開催した。本イベントは、2023年5月にジェトロとPAIHの間で締結した覚書(MOU)にある「ウクライナ復興支援に関する両国間の協力と日本企業の活動促進への貢献」のための具体的なアクションの1つでもある。
参加者は、総勢で約80人だった。日本企業からは商社、エンジニアリング、開発コンサルタント、エネルギー、IT、化学や素材のスタートアップなどから約40人、ポーランド企業からはエンジニアリング、建設資材、空調、浄水、電力、ロジスティクスなどの分野から約20人が参加した。そのほか、日本とポーランド両国の政府関係者、欧州復興開発銀行(EBRD)が参加した。
講演に先立ち、PAIHのパベウ・クルタシュ長官、続いて宮島昭夫駐ポーランド大使が開会あいさつを行った。基調講演では、岩田和親経済産業副大臣が2024年2月19日に開催予定の日ウクライナ経済復興推進会議に向け、両国企業間の連携の加速化に期待を寄せた。ヤドビカ・エミレビッチ・ポーランド・ウクライナ開発協力担当政府全権代表は「ウクライナ支援は、戦争の終結を待っていてはいけない」と、行動に移すことの重要性を強調した。
参加した日本企業からは11社が、ウクライナでの活動や復興ビジネスの戦略、技術提案などについてのピッチを行った。その後のネットワーキングを通じて、両国の参加企業は、協業によるウクライナ復興支援ビジネスの可能性を探っていた。
また、ウクライナ復興支援ビジネスにおける日本企業とポーランド企業の協業のモデル事例として、グリーン水素の生産に適した技術統合・システム設計を手掛けるポーランド企業ヒンフラ(Hynfra)の創業者で最高経営責任者(CEO)のトモホ・ウメダ氏が、日本のスタートアップつばめBHBとウクライナのエンジニアリング企業ユーテムと協力して参画するグリーン産業ゾーンプロジェクトを紹介した。同氏は、ウクライナの暖房・エネルギー分野の課題解決の重要性について説明し、参加企業の関心を集めていた。
ネットワーキングに先立ち、石賀康之ジェトロ・ワルシャワ事務所長が閉会スピーチを行い、日本企業との協業を支援するジェトロのプラットフォーム「J-Bridge」の活用をポーランド企業に推奨した。
参加企業からは、「ウクライナへの入国が難しい日本企業にとって、ポーランド企業とのマッチングの機会は有益だった」「このようなイベントを継続的に開催してほしい」「ウクライナ支援ビジネスへの参入を急ぐ必要があると認識できた」といった声が聞かれた。
●前週のロシア株、原油高やルーブル高、企業の配当金ニュースに4週続伸 11/27
前週(20−24日)のロシア株式市場で、RTS指数(ドル建て)の24日終値は前日比0.51%安の1143.15、前週比では17日終値比1.9%高と、4週続伸した。
週明け20日は指数が上昇。翌21日も続伸した。22日は反落、23日も続落した。
週前半は、通貨ルーブル高と、ブレント原油先物が1バレル当たり83ドルに上昇したことが好感され、買いが優勢となった。原油高はOPEC(石油輸出国機構)プラスの減産延長観測が背景。その後は、海外株高を好感、買いが一段と強まった。原油価格が82ドルで落ち着いたことや、ルーブル高の進行も支援材料。個別銘柄ではイーコマース(電子商取引)最大手オゾンが1−10月期小売り売上高の統計が好調だったことが好感され、急騰、上げをけん引した。
週後半は、原油価格が一時78.4ドルにまで急落したことが嫌気され、売りが優勢となった。OPECプラスの減産延長決定が微妙な情勢となったことが背景。ただ、海外株高となったことや、個別銘柄で製パン大手ノボロシスク・ブレッド・プロダクツ・プラントが配当の実施を発表後、急騰したため、下げは限定的となった。その後は、原油価格の回復懸念で売りが一段と強まった。個別銘柄では資源大手ポリメタルがモスクワ証取から上場廃止される可能性が強まり、急落、下げを主導。同社は西側の対ロ制裁により、本拠地移転手続きが難しくなったことが背景。
週末24日は3日続落。原油価格の先行き不透明感や、ルーブル安が嫌気され、売りが強まった。また、ポリメタルが再び急落、下げをけん引した。
今週(11月27日ー12月1日)のロシア市場は、引き続き、中東紛争やロシア・ウクライナ戦争(22年2月24日勃発)の動向、西側の対ロ制裁などの地政学的リスク、原油・ガス相場、ルーブル相場、主要企業の配当政策などが焦点。このほか、原油価格に影響を与える29日の米API(石油協会)週間石油在庫統計や30日の米EIA週間石油在庫統計も注目される。主な経済発表の予定は29日の10月失業率と10月鉱工業生産、1日の11月製造業PMI(購買担当者景気指数)など。指数は1100−1200のレンジでの取引が予想される。
●ウクライナ軍の無人機がモスクワに飛来 “報復攻撃だ” 11/27
ロシア国防省は25日夜から26日未明にかけて、ウクライナ軍の無人機が首都モスクワ近郊などに飛来し、24機を撃墜したと発表しました。
ロシア側の発表によりますと、モスクワのおよそ200キロ南のトゥーラ州では、撃墜された無人機が集合住宅に墜落し、1人が軽いけがをしたほか、モスクワ近郊でも複数の建物が損傷する被害が出たということです。
ウクライナでは、これに先立つ25日、首都キーウなどにこれまでで最大規模とされるロシア軍の無人機による攻撃があったばかりで、ウクライナのメディアは、この攻撃に対する報復としてモスクワ近郊などへの無人機攻撃が計画され、ロシア軍の関連施設などを標的に35機ほどが投入されたと伝えています。
●人権監視団 “ウクライナ市民 侵攻以降1万人以上殺害された” 11/27
国連のウクライナ人権監視団は、去年2月にロシアによる軍事侵攻が始まって以降、ウクライナで560人以上の子どもを含む、1万人以上の市民が殺害されたと明らかにしました。
死者のほとんどはミサイルやクラスター爆弾など、広範囲に被害を及ぼす兵器によるものだということです。
人権監視団は、確認作業に時間がかかるため実際の死者数ははるかに多いという見方を示したうえで、「最近の3か月間は死傷者の半数近くが前線から遠く離れた場所にいた市民で、ウクライナ国内では安全な場所はない」と指摘しています。
●ウクライナのドローン24機を撃墜 ロシア国防省 双方がドローン攻撃の応酬 11/27
ロシア国防省は首都モスクワなどでウクライナ軍によるドローン攻撃があり、24機を撃墜したと発表しました。
ロシア国防省は26日、過去24時間でモスクワなどでウクライナ軍のドローン24機を撃墜したほか、激しい攻防が続くウクライナ東部のドネツク州や、南部のヘルソン州などの地域でドローン53機を撃墜したと主張しました。
ロシアのトゥーラ州の知事によりますと、撃墜されたドローン1機が集合住宅を直撃し1人が軽いけがをしたということです。
ウクライナの首都キーウなどでは25日、ロシア軍による過去最大規模とされるドローン攻撃があったばかりで、双方のドローン攻撃の応酬が続いています。
●ウクライナ、穀物輸出守るため防空能力の増強必要=大統領 11/27
ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、同国は穀物の輸出経路およびロシアとの国境地帯を守るため防空能力を増強する必要があると訴えた。キーウで開かれた食糧安全保障に関する国際会議で語った。
ゼレンスキー氏は、ウクライナは「防空能力が不足している。これは秘密ではない」と述べた。同会議にはスイスのベルセ大統領やリトアニアのシモニーテ首相など欧州の首脳も出席した。
ゼレンスキー氏は、防空能力不足の問題は支援国からの新たな供給と国内生産能力の増強を通じて解決できると期待していると表明した。国内生産能力を増強する計画については「現時点では、何をどこで作っているか詳しいことは言えないが、進展している」と話した。
同氏はまた、ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する貨物船を護衛するため、西側の支援国が軍艦を派遣する計画があると明らかにした。ウクライナはロシアが7月に穀物輸出合意から離脱した後、独自に黒海に臨時航路を開いた。
●キーウなどを無人機波状攻撃 ホロドモール記念日の朝 11/27
ロシアは11月25日未明、ウクライナの首都キーウに対して、2022年のウクライナ侵攻以降最も激しいドローン攻撃を実施した。
ウクライナ空軍によれば、ロシアは75機のイラン製ドローン「シャヘド136」でウクライナの首都とその周辺を攻撃したが、そのうち66機が防空システムによって撃墜された。
昨年のロシア軍のウクライナ侵攻以降、「キーウに対する最も激しいドローン攻撃」だったという。
攻撃は、1932年から1933年にかけ、てソビエト政権が組織的かつ意図的に数100万人のウクライナ人を餓死させたホロドモール記念日の朝に実行された。
午前4時に始まったドローンの波状攻撃は6時間におよび、11歳の子ども1人を含む少なくとも民間人5人が負傷。幼稚園を含む数棟の建物が、撃墜されたドローンの破片などで損壊したほか、電線が破損したため、住宅77棟と120戸の施設が停電した。
この日はキーウに加え、スーミやドニプロ、ザポリージャ、ミコライウなどの都市も標的にされた。
●ロシアに過去数カ月で最大規模のドローン攻撃、モスクワ含む複数地域 11/27
ロシアの複数の地域に対し、25日夜から26日早朝にかけて、ここ数カ月で最大規模のドローン(無人機)攻撃があった。ロシアは前日、ウクライナに対し、首都キーウを中心に最大規模の無人機攻撃を仕掛けていた。
ロシア、キーウ中心に最大規模の無人機攻撃−大飢饉の犠牲者追悼日に
ロシア国防省によれば、モスクワを含む少なくとも4つの地域で、26日早朝にかけて24機のドローンが撃墜された。
モスクワのソビャニン市長はテレグラムへの投稿で、複数のドローンがモスクワを標的としたとし、「大規模な攻撃」だったと述べた。モスクワにある3つの空港は一時、飛行制限を課し、後に解除した。 
●前線で「遺体袋」山積みの中…プーチンと恋人の「超豪華ヨット写真」流出 11/27
ロシア国防省は26日、前日夜に首都モスクワ近郊にウクライナ軍の自爆型無人機が飛来し、24機を撃墜したと発表した。一方、ウクライナ空軍も25日、首都キーウほか6つの地域に現れたロシア軍の自爆型無人機75機のうち74機を撃墜したと発表。ロシア軍の自爆型無人機による攻撃では、これまでで最大規模だったという。
依然として停戦の糸口が全く見えない、ロシアによるウクライナ侵略戦争。前線では連日遺体袋が山積みになっているとも報じられるが、ロシアでは来年3月の大統領選を控え、再選を目指すプーチン氏が水面下である動きを見せているというのだ。
「ロシアの独立系メディア『ザ・インサイダー』によれば、ロシア政府がロシア軍徴集兵の家族によるデモを厳しく取り締まるよう、関係当局に指示を出したというんです。というのもここ数週間、ロシアではロシア軍徴集兵の配偶者らが『志願兵でない徴集兵は戦闘行為に投入されてはならない』『どんな手段を講じても夫や息子を連れ戻す』などとスローガンを掲げた大規模な抗議デモを複数の都市で行い、政府もかなり神経を尖らせています。当然、次期大統領を目論むプーチンとしても、これ以上デモが広がり続ければ選挙への影響も懸念される。そこで、デモ鎮圧を強化するよう関係各所に通達したと伝えられます」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
そんな折も折、ロシアの反体制派であるミハイル・ホドルコフスキー氏が創設した団体「ドシエセンター」が、驚きの情報を明らかにした。プーチン氏と、愛人とされる五輪金メダリストの元新体操選手アリーナ・カバエワ氏が所有する全長71メートルの超豪華ヨット「ビクトリア」が、10月下旬からイスタンブールの造船所に停泊しているとして内部写真を公開したのだ。その目を見張るような豪華さにSNS上では、毎日兵士が死んでいく中での豪遊ぶりに怒りの声が上がっている。
「ドシエセンターによれば、この大型クルーザーはイスタンブールの造船所でメンテナンス中といい、船の値段は推定5000万ドル(約75億円)。登録は、プーチンの長年の盟友であるロシアの大富豪ゲンナジー・ティムチェンコの関連企業になっているようですが、事実上の所有者はカバエワ氏であることは間違いないとしています。さらに、ドシエセンター代表のホドルコフスキー氏はX(旧ツイッター)で、《(プーチンの)大統領給与は公式には年間約12万ドル。そのため自身の名義にはできず、ビクトリアの書類にはプーチンの名前はどこにも出てこないが、彼の個人的な船であることを示す多くの証拠がある》と投稿。カバエワ氏はしばしば友人や家族と共にビクトリアで休暇を過ごしている、として情報源は彼女の周辺だとほのめかしていますが、この時期にあえて豪華客船内部の画像を公開し、しかもネタ元はカバエワ氏周辺であると暴露する意味はなんなのか。そのあたりの背景にも注目が集まっていまです」(同)
そういえば、今年3月には「テレグラム」の匿名チャンネル「対外情報局(SVR)の将軍」によって、プーチン氏がカバエワ氏に対し「お前のバカな友人のせいで情報がダダ漏れになっている!」と罵倒したとの顛末が発信されている。現時点で、プーチン氏はまだ大統領選立候補を宣言していないが、出馬が既定路線と言われるなか、今後しばらくは反プーチン派らによるネガティブキャンペーンが続くことになるだろう。
●ロシア軍がキーウに最大規模のドローン攻撃 ウクライナ首都潰し 11/27
一体、何が狙いなのか──。ロシア軍が25日、ウクライナの首都キーウに侵攻開始後で最大規模のドローン攻撃を仕掛けた。キーウでは同日未明から6時間以上にわたって空襲警報が鳴り響いたという。
ウクライナ空軍は、主にキーウを狙って発射された75機のドローン(イラン製)のうち74機を撃墜。ドローンの破片が落下して幼稚園で火災が発生するなど、11歳の子どもを含む5人が負傷した。
ロシアが、このタイミングでキーウに過去最大規模の攻撃をした理由は何なのか。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう解説する。
「キーウに住む知人によれば、寒さと食糧不足によって赤ん坊が次々に命を落としているといいます。攻撃が未明に集中しているため、迎撃しても爆音や閃光のせいでロクに寝られず、地下の避難所に逃げ込んでも人が殺到していて休めないそうです。ロシア軍は住民をジワジワと追い詰めつつ、さらに寒さが厳しくなるタイミングで、インフラ施設などを狙ったのでしょう。キーウの知人は、『ロシア軍による攻撃は、かつて旧ソ連によって引き起こされたホロドモール(大飢饉)を彷彿とさせる』と嘆いていました」
米国の注意が分散しているタイミング
この時季のキーウは最高気温が1〜2度。氷点下は当たり前だ。25日未明の攻撃によってキーウ中心部では約200の住宅や施設が停電したというから、いてつく寒さに震えて夜を明かした住民もいたに違いない。
プーチン大統領がウクライナの“首都潰し”に乗り出した裏には、中東情勢も絡んでいるという。
「イスラエルとパレスチナの戦闘が始まり、米国はウクライナと同時に、中東情勢に関する懸案も抱えることになりました。そこへ北朝鮮の核実験の可能性も浮上しています。米国の注意が分散し、ウクライナへの支援が滞る中、プーチン大統領にとって今が“首都潰し”の絶好の機会なのでしょう。近くプーチン大統領は来年3月の大統領選へ正式に出馬表明すると見られています。それまでに何とか戦果が欲しいという狙いも透けます」(中村逸郎氏)
国際社会はイスラエルとパレスチナの戦闘の行く末に注目している。プーチンは隙をついて、次に何を仕掛けてくるのか。
●露軍 黒い自爆ドローン使用? 11/27
ロシアとウクライナ双方のドローン攻撃が激化しています。これまでで最大規模とされるロシア側の攻撃では、レーダー探知が難しい新たな黒い自爆型ドローンが使用されたとみられています。
ウクライナでは25日、侵攻開始以降、最大規模とされるロシア軍によるドローン攻撃があり、全土に70機以上が飛来したということです。
この攻撃についてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、イラン製自爆型ドローン「シャヘド」を改修した新型が使用されたとし、「ドローンは黒くてレーダー信号を吸収する素材が使われ、探知がより難しくなっている」との分析を示しました。
一方、ロシア国防省は26日、首都モスクワ近郊などでウクライナ軍のドローン24機を撃墜したと発表しました。
モスクワの南に位置するトゥーラ州では、撃墜されたドローンが集合住宅に墜落し、1人が負傷したということです。

 

●動員兵の妻ら、プーチン氏への「直訴」呼びかけ 早期帰還を求める 11/28
ウクライナ侵攻が長期化するロシアで、動員兵の妻や母親らが、早期の帰還を求めて署名活動を始めた。
動員兵は故郷に帰れず、多くが死亡しているとして、「動員は恐ろしい誤りだった」と批判。プーチン大統領直属の機関に手紙を送ることも呼びかけている。これに対し、当局は各地で集会を認めないなど、締め付けを図っている。
署名を呼びかける投稿が掲載されたのは、今年8月に開設されたテレグラムの匿名の情報チャンネル「プーチ・ダモイ」(ロシア語で「家路」)。登録者数は27日時点で、約1万6千人。
プーチン政権は昨年9月、予備役兵を対象にした30万人規模の部分動員を始めたが、終了時期は明示されておらず、すでに1年以上が過ぎている。
動員兵の家族によるとみられる投稿の一つは「大統領はプロの契約兵だけが任務を遂行すると約束したのに、愛する人々はウクライナに連れて行かれた。多くは戻らないだろう」と、動員を非難。また、プーチン政権が、ロシアに生活の安定やたしかな未来をもたらすなどと訴えていることに対し、「希望はほとんど残っておらず、多くの人に未来はない」と指摘した。
●ハマスがロシア国籍もつ25歳男性解放「プーチン氏の努力に応える」 11/28
パレスチナ自治区ガザ地区をめぐるイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘の一時休止は、27日で最終日の4日目を迎えた。ハマスは同日、人質の第4陣を解放する見通しだ。両者の合意では戦闘休止期間は現地時間の28日午前7時で終わる。それ以降も期間を延長し、さらなる人質解放につながるかが焦点だ。
ハマスは26日、人質解放の第3陣として、イスラエル人14人とタイ人3人の計17人を解放した。イスラエル側も、拘束していたパレスチナ人39人を釈放した。解放された人質にはイスラエルと米国の二重国籍の4歳の少女も含まれる。訪問先のマサチューセッツ州で会見したバイデン米大統領によると、少女は両親を殺害されたといい、バイデン氏は「ひどいトラウマを抱えている」と述べた。
ロシアとの二重国籍の男性(25)も解放された。成人男性の解放は初めてとみられる。ハマスは声明で「プーチン大統領の努力に応え、パレスチナの大義に対するロシアの支持に感謝した」とした。
● ロシア側犠牲者増か ウクライナ東部へ攻勢強めているとの見方 11/28
ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は1日あたり900人以上の死傷者を出しているという見方が出ていて、東部ドネツク州のウクライナ側の拠点を掌握しようと犠牲をいとわず、いっそう攻勢を強めていることがうかがえます。
ロシア軍はウクライナ東部ドネツク州の州都ドネツクに近い、ウクライナ側の拠点アウディーイウカの掌握をねらって10月以降、攻勢を強めています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は26日、ロシア軍の部隊がアウディーイウカの北西や南東の郊外で前進したことが映像から確認できるという見方を示し、本格的な冬を迎えた中でもウクライナ軍との激しい戦闘が続いているとみられます。
イギリス国防省は27日、ウクライナ軍の参謀本部が、ロシア側の犠牲者は11月になって、1日あたり930人を超えていると発表したことについて「死者とけが人を合わせた数字だとすれば、信ぴょう性は高い」と指摘しました。
そしてロシア軍は過去6週間、これまでで最も多くの犠牲者を出しているとした上で「アウディーイウカへの攻撃が大きな要因だ」と分析し、ロシア軍が兵士の犠牲をいとわず、いっそう攻勢を強めていることがうかがえます。
一方、ロシア軍が無人機攻撃を繰り返す中、ウクライナ空軍の報道官は地元メディアに対して、ロシア側がレーダーによる探知を難しくし、色も黒い素材を用いた無人機を夜間の攻撃に使ってきたと述べ、警戒を強めています。
●核兵器禁止条約 第二回締約国会議開始 11/28
・日本はオブザーバー参加見送りも長崎の被爆者が核兵器廃絶訴え
核兵器禁止条約の第二回締約国会議がニューヨークの国連本部で始まり、日本の被爆者が核兵器の廃絶を訴えました。
おととし発効した核兵器禁止条約は、核兵器の開発や保有、使用などを全面禁止するものです。現在、93の国と地域がすでに署名していますが、アメリカやロシアなどの核保有国は参加していません。
会議では、長崎で被爆した木戸季市さんが核兵器の廃絶を訴えました。
日本被団協 木戸季市事務局長「核戦争の危機が高まっています。ウクライナとガザから伝えられる光景は被爆者にとって“あの日”の再来です」
アメリカの核抑止力に頼る日本は核兵器禁止条約に署名や批准しておらず、今回の会議にも参加していませんが、被爆者団体などからは核軍縮に向けた日本のリーダーシップに期待する声が上がっています。
●核兵器禁止条約 第2回締約国会議始まる 被爆者らが核廃絶訴え 11/28
アメリカ・ニューヨークの国連本部で27日、核兵器禁止条約の第2回締約国会議が始まり、被爆者らが核廃絶を訴えました。
核兵器の保有や使用を禁じる核兵器禁止条約は2021年に発効し、これまでに93の国と地域が署名しています。ただ、アメリカやロシアなどの核保有国や、アメリカの「核の傘」に入る日本やNATO(=北大西洋条約機構)の加盟国は参加していません。
27日に開幕した第2回締約国会議では、長崎で被爆した木戸季市さん(83)が演説を行い、核廃絶を訴えました。
木戸季市さん「ウクライナとガザから伝えられる光景は、被爆者にとって“あの日”の再来です。核戦争が起これば何もなくなった真っ黒の街、死体の山、死の世界が残るだけです」
会議は来月1日までの5日間開かれる予定で、ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮による核・ミサイル開発などにより核の脅威が高まる中、核軍縮に向けた機運を高められるかが焦点です。
●行き詰まるウクライナ情勢 カギとなるF16戦闘機、NATO諸国は兵器供与 11/28
米紙ワシントン・ポスト、英紙フィナンシャル・タイムズなど、欧米の有力紙が報じる最新のウクライナ情勢分析に接すると気が重くなる。
両紙が一致して指摘するのはウクライナ軍が6月に始めた領土奪還に向けた反転反攻が行き詰まっていることだ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と、軍トップのワレリー・ザルジニー総司令官との間の意見対立はもとより、ロシアが併合・実効支配した東部と南部4州での軍事作戦の不首尾が指摘されている。
そうした中で、ウクライナが待望する米戦闘機F16(ロッキード・マーティン社製の第4世代戦闘機)の欧州訓練センターが、13日にルーマニア東部のフェテシュティ空軍基地に設置された。
当初はオランダがF16戦闘機18機を提供し、米国を中心に北大西洋条約機構(NATO)加盟の「戦闘機連合」(オランダ、デンマークなど11カ国)が、ウクライナ空軍パイロット育成を担う。
来年以降、ベルギー、ノルウェーなども供与する意向を明らかにしている。その狙いは、ウクライナ空軍を旧ソ連式からNATO基準に転換させることにある。すなわち、ウクライナ戦争の長期化を前提にしているのだ。
一方で地上戦の兵器では10月中旬、ウクライナ軍が米国から供与された長射程の地対地ミサイルATACMS(エイタクムス)を、初めて対ロ戦闘で使用した。最大射程300キロメートルを射程165キロメートルミサイルに改修したものだ。
このように米製F16戦闘機やATACMS供与が実現したのは、実は米国防総省の人事と決して無関係ではない。
今夏、同省ナンバー3のコリン・カール国防次官(政策担当)が退任、後任にデレク・ショレ顧問が昇格した。バイデン副大統領時代の副大統領補佐官(国家安全保障担当)を務め大物次官とされたカール氏は一貫して最新鋭兵器のウクライナ供与に慎重であり、ATACMS、戦車エイブラムスだけでなく、F16戦闘機供与に最後まで反対した経緯がある(F16の直接供与はしない)。
次に、わが国のウクライナ支援の現状である。当然ながら武器支援はできない。岩田和親経済産業副大臣と辻清人外務副大臣が20日、ウクライナの首都キーウでデニス・シュミハリ首相と会談した。両氏にはウクライナ復興に関心が高いIHI、日本工営など、日本企業10社の幹部が同行。来年2月に東京で開催される「日ウクライナ経済復興推進会議」に向けて協議した。
日本の支援は限られているが、官民連携の復興・再建ビジネスに傾注することは国益にかなうのだ。
●ロシアの希少な歩兵戦闘車、次々にウクライナ軍が鹵獲 11/28
ウクライナ東部ドネツク州ウロジャイネの東にあるウクライナ軍の陣地を狙ったロシア軍第37独立自動車化狙撃旅団による中途半端な反撃は、23日にウクライナ軍第3、第58旅団に遭遇し、失敗に終わった。
この短い戦闘は当初、特に大きな注目を浴びなかった。同州では、数個の旅団と連隊を擁するロシアの野戦軍が、アウジーイウカを守るウクライナ軍部隊への攻撃で数千の車両を投入している。ロシア軍がアウジーイウカの作戦でこれまでに失った戦車や戦闘車両は数百両にのぼり、おそらく数千人の兵士が犠牲になった。
だが、ウロジャイネ郊外の戦場から撤退したロシア軍は、少なくとも1つの興味深い置き土産を残したようだ。それは、無傷のBMP-1AM歩兵戦闘車(IFV)だ。ウクライナ軍の第58旅団は、重量15トン、乗員と歩兵合わせて11人が乗り込めるBMP-1AMの写真をソーシャルメディアで披露した。
明確にしておくと、ロシア軍の第37旅団が23日にBMP-1AMを放棄したと断定はできない。そうでないとすれば、その直前だっただろう。10月上旬にネット上に出回った同旅団をとらえた写真には、これと同じ車両、あるいは似たような車両が写っていた。
BMP-1AMは、1960年代に数多く生産されたBMP-1の希少な派生型の1つだ。BMP-1は古いにもかかわらず、ロシアがウクライナに仕掛けた1年9カ月に及ぶ戦争で、ロシアとウクライナの双方で最も多く使われている戦闘車両の1つとなっている。旧ソ連は装甲の薄いBMP-1を何万両も生産した。
BMP-1の最大の問題は、防御の弱さに加え、主砲が73mm低圧滑空砲であることだ。この砲は反動が少ないという利点があるが、標的までの距離が数百mを超えると精度が落ちる。BMP-1の主な改良版のほとんどが、73mm砲をより威力のある機関砲に換装したり、73mm砲の上か後ろに機関砲を追加したりしているのには理由があってのことだ。
2018年に初めて公開されたBMP-1AMの主な特徴は、装輪式IFVのBTR-82Aから借用した30mm機関砲だ。ロシアの産業界はBMP-1AMが輸出限定となると予想していたが、ロシア政府は2019年に自軍向けにBMP-1AMを発注した。
2020年時点でロシア軍が保有するBMP-1AMはわずか37両だった。その後、昨年2月にウクライナに侵攻するまでの間にロシアが何両生産したかはわからない。数十両かもしれないし、もっとたくさんかもしれない。いずれにせよ、ウクライナでの1年9カ月に及ぶ激戦の末、ロシア軍は少なくとも32両のBMP-1AMを失い、これとは別にウクライナ軍は8両をほぼ無傷な状態で鹵獲(ろかく)した。
このペースでいくと、ウクライナ、ロシア両軍が機能するBMP-1AMを同数保有するということもあるかもしれない。ウクライナ軍のBMPを運用する能力は疑わなくてもいい。ウクライナ軍全体で広く使用されていないBMP-1AMの部品はない。
●首脳会議を欠席 ロシア離れを加速させるアルメニア 背景と思惑は 11/28
ロシアによるウクライナ侵攻のあと、旧ソビエトの国々では、ロシアと距離を置く動きがでています。なかでもコーカサス地方にあるアルメニアは、このところロシア離れの動きを加速させています。その背景と思惑について聞きます。
Q)こちらの会議、ひとりだけ席についていませんね。
A)コーカサスにある人口約280万の国、アルメニアのパシニャン首相です。
先週(11月23日)、ロシアをはじめ旧ソビエト6か国で作るCSTO=集団安全保障条約機構の首脳会議がベラルーシで開かれたのですが、パシニャン首相は欠席を早々と表明し、実際に出席しませんでした。
その理由についてパシニャン首相は、「CSTOはアルメニアの要請に応えていない」と不満を表明しました。
Q)不満の背景には何があるのでしょうか。
A)隣国アゼルバイジャンとの間で長年対立してきたナゴルノカラバフ紛争で、ことしアルメニア側が屈辱的な敗北を喫したことです。
ナゴルノカラバフは、アゼルバイジャンにありながらアルメニア系住民が多く住んできたところで、現地住民とそれを支える本国、つまりアルメニア側が長年実効支配し、ロシアがその後ろ盾となってきました。
しかしことし9月、軍事力に勝るアゼルバイジャン軍の攻撃を受け、アルメニア側はほとんど抵抗することもできないまま、降伏を迫られました。
現地住民による自称“共和国”は消滅することになり、およそ12万人の住民は迫害をおそれてアルメニア本国に避難する事態となりました。
アルメニアは、ロシアなど集団安全保障条約機構から支援を得られなかったとして、その存在意義に疑問を強めてきました。
Q)アルメニアはどうしようと考えているのでしょうか。
A)パシニャン首相は今のところCSTOから脱退する考えはないと表明していますが、「安全保障上の新たなパートナーを見つける必要がある」と述べました。
アルメニアはことしアメリカと合同軍事演習を行っており、欧米などとも関係を深め、ロシアだけに頼らない、多角的な外交方針を模索しています。
また、アルメニアは来年2月からICC=国際刑事裁判所に正式に加盟することになりました。
ICCは、ウクライナからロシアへの子どもの移送をめぐってプーチン大統領に逮捕状を出しています。
プーチン大統領がアルメニアを訪問する場合、身柄を拘束する義務が生じることになります。
Q)ロシアはどう反応していますか。
A)ロシアはいずれも「遺憾だ」として不快感を表明するとともに、背後には欧米がいるとも指摘し、今後、両国の間で、緊張が高まることも懸念されます。
このあと来月(12月)も、今度はロシアで、アルメニアもメンバーである旧ソビエト諸国の首脳会議が予定されています。
そこにパシニャン首相が出席するのかどうか、ロシア離れの動きを見ていくうえで、もうひとつの試金石となり、注目していく必要がありそうです。
●宙に浮く24年のCOP開催地 ロシアがEU内招致を「阻止」 11/28
地球温暖化問題の解決を目指し、世界各地で毎年開かれている国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)。28回目となる今年は30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開幕するが、来年の開催地が宙に浮いている。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが、欧州連合(EU)域内での開催に難色を示しているためだ。
COPは通常、アフリカ▽アジア太平洋▽ラテンアメリカ・カリブ海▽東欧▽西欧・その他――という国連が分類する五つの地域グループの持ち回りで開催される。24年は東欧の順番だ。まずグループ内の総意で開催国を決め、ドバイで開かれるCOP28で全ての参加国が承認する。COPでの承認はほぼ形式的なもので、グループ内での選考が決定的な意味を持つ。
ロシアなど旧ソ連諸国を含む23カ国が属する東欧グループからは複数の国が立候補の意向を示し、これまでにブルガリア、アルメニア、アゼルバイジャンに絞られている模様だ。このうち唯一のEU加盟国であるブルガリアは、東欧のEU加盟国を中心に最も広い支持を得ている。
これに対し、ロシアはウクライナ支援を強化するEU域内での開催阻止に動いている。ロイター通信によると、ロシアは今春、「EUには誠実で効果的な仲介役を務める能力はない」として、EU域内での開催に反対するメールをグループ内に送付したという。ロシアの同盟国ベラルーシも、ブルガリア開催に反対する意向を示している。
一方、旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンは係争地ナゴルノカラバフをめぐる対立が続き、開催地の選定にも互いに反対する。ロシアとの関係も複雑だ。アルメニアはロシアと同盟関係にあるが、ナゴルノカラバフを巡る紛争で十分な支援が受けられなかったとして、対露関係を悪化させている。
開催地を決める期限は定められていないが、COPは世界各地から数万人が参加する国連有数の大規模な国際会議だ。例年、ホスト国は1年近い時間をかけた入念な準備が求められ、25年はブラジルでの開催がほぼ決まっている。ドバイで開かれるCOP28で来年の開催地について合意に至らない場合は、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の事務局があるドイツのボンが代替の開催地となる可能性がある。ただ欧州メディアは、ドイツは自国開催に「消極的」だと報じている。
●ウクライナで冬の嵐、南部とモルドバで死者 停電も 11/28
ウクライナ中部から南部にかけて冬の嵐が襲来し、国内で少なくとも5人、隣国モルドバで3人が死亡している。また、暴風雪により数百の都市や村で停電が発生し、ハイウエーが不通となった。
ウクライナでは少なくとも19人が、モルドバではさらに10人が負傷。ウクライナ全土では28日も降雪と降雨が続く予報で、さらに悪天候が予想されている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は夜の定例ビデオ演説で、南部オデーサ(オデッサ)地域で5人が死亡したと明かし、他の地域でも死者が出ている恐れがあると述べた。
非常事態当局によると、882の自治体で停電が発生。10のハイウエーが通行止めとなり、トラック1500台以上が立ち往生しているという。
ウクライナ南部とモルドバでは学校が閉鎖された。
●冬の嵐が黒海沿岸地域で猛威 ウクライナでは大規模停電も 11/28
前日ヨーロッパ中部のブルガリアとルーマニア、モルドバを直撃した冬の嵐は11月27日、黒海沿岸のジョージアとクリミア半島、さらにウクライナ南部のオデーサに猛威を振るった。
港湾都市オデーサでは雪でスタックする車が続出。首都キーウ、オデーサ、ミコライウなど16の自治体の2000を超える町や村で、電力の供給が止まった。
国家非常事態庁によれば、天候は今後さらに悪化する見通しで、強風と大雪に対する警報が出されている。
●ロシア軍死傷率、侵攻後最高か 英分析、多くは東部激戦地で犠牲 11/28
英国防省は27日、過去6週間のロシア軍の死傷率が侵攻後、最高を記録している可能性があると分析した。ウクライナ軍の発表によると、今月のロシア軍の死傷者は1日の平均が931人だった。多くがロシア側が攻勢をかけるウクライナ東部ドネツク州の激戦地アブデーフカでの犠牲だと指摘した。
これまで最も死傷者が多かったのはドネツク州バフムトの攻防が激化した3月で、1日の平均死傷者は776人。
ウクライナは27日、全土的に吹雪に見舞われ、ゼレンスキー大統領は通信アプリに各地で停電が発生したと投稿した。 
●NATO事務総長、加盟国にウクライナへの支援維持を要請 11/28
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は28日、加盟国に対し、ウクライナ支援路線を継続するよう要請した。
NATO外相理事会に出席した際、記者団に対し「ウクライナに必要な武器を確実に提供することはわれわれの義務だ。これはわれわれの安全保障上の利益でもある」と述べた。
米国による支援継続についても楽観的な見方を示し、「米国が支援を提供し続けることを確信している。それはわれわれの合意にも沿っている」と述べた。
ストルテンベルグ氏はまた、ウクライナの戦争は国境を越えて大きな意味を持つと指摘。「プーチン大統領が勝利すれば、ウクライナの人々にとって悲劇であるのみならず、われわれにとっても危険だ。ロシアだけでなく中国にも、国際法に違反して武力で他国を侵略すれば、望みをかなえることができるというメッセージを送ることになる」とした。
同会議に出席するためブリュッセルに到着したブリンケン米国務長官も、NATO外相らがウクライナへの支援を再確認することに自信を示した。
ストルテンベルグ氏は、西側諸国はロシアとウクライナの紛争に適用した基準をパレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスとの紛争に適用していないとのアラブ諸国からの批判に対し「あらゆる紛争において国際法、人道法が尊重されなければならず、民間人の命は常に守られなければならない」と指摘。その上で「ガザの状況とウクライナの状況は多くの点で異なることを認識することも重要」とし、「ウクライナがロシアに脅威を与えたことは一度もなかったし、ウクライナがロシアを攻撃したこともなかった。ロシアのウクライナ侵攻は他国に対するいわれのない侵略であり、全面的な侵略だった。そのため、ウクライナにはいわれのない攻撃に対して自衛し、領土保全を守る権利がある」とした。
●プーチン氏、キャタピラーのロシア資産売却承認 ズベルバンク元幹部に 11/28
ロシアのプーチン大統領は、国内銀行最大手ズベルバンク(SBER.MM)の元幹部が所有するロシア企業PSK-New Solutionsが米建設機械大手キャタピラー(CAT.N)のロシア資産を取得することを承認した。27日に公表された法令や企業データベースで分かった。
法令は取得資産の価値を明らかにしていない。キャタピラーはコメント要請に応じていない。
同社は昨年、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて同国にある製造施設の操業を停止した。
法令によると、PSK-New Solutionsは西側の制裁への対応として、キャタピラー・トスノとキャタピラー・フィナンシャルのチャーター資本を100%取得することが認められている。
インタファクス通信のデータベースによると、同社は2022年8月に登記されており、ズベルバンクの法人・投資銀行部門であるズベルバンクCIBの元幹部が所有している。
●ロシア予算、3割が国防費 ソ連末期以来の水準 11/28
ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナ侵攻下、2024年予算案に署名し、成立させた。
歳出約36兆6600億ルーブル(約61兆円)のうち、国防費が約3割の10兆8000億ルーブル(約18兆円)を占める。英字紙モスクワ・タイムズ(電子版)によると、予算の3分の1相当が国防費に充てられるのは、ソ連時代末期の1990年以来。
国防費は前年比約7割増。ソ連崩壊後で初めて、国防費が社会保障費を上回ることになった。
●ロシアで2024年予算成立、国防費7割増 11/28
ロシアで27日、既に議会で可決された2024年予算案にプーチン大統領が署名し、予算が成立した。国防費を前年比でほぼ70%増額し、支出全体の約30%を軍に配分する。
ロシア政府はウクライナでの戦争遂行にこれまで以上に資源を投入。国防と安全保障の合計支出は、全体の40%前後に達する見通しだ。
来年の歳入については、原油高を前提に前年比22.3%増の35兆1000億ルーブル(3912億ドル)と野心的な目標を設定している。
アナリストらは、この前提が甘過ぎると判明した場合、政府は法人課税の強化を余儀なくされる可能性があると指摘している。
●ロシア兵の死傷率、侵略後「最高」か…東部アウディーイウカ 11/28
英国防省は27日、ウクライナへの侵略を続けるロシア軍兵士の過去6週間の死傷率が侵略開始後、最高となっている可能性があるとの分析を明かした。その多くが露軍が攻勢をかけるウクライナ東部ドネツク州アウディーイウカでの犠牲だという。
同省によると露軍の11月の死傷者数は1日平均931人に上った。これまで同じドネツク州のバフムトで戦闘が激化した今年3月の1日776人が最高で、それを上回った。
露軍は、アウディーイウカで犠牲をいとわず攻撃を続けている模様だ。米政策研究機関「戦争研究所」は26日、アウディーイウカの北西部と南東部で「露軍の確実な前進がみられた」と指摘した。ただ、前進は「わずか」だとし、ロシアの軍事ブロガーも「ウクライナ軍をただちに脅かすものではない」としている。
一方、タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は27日、国防費を今年の約1・7倍に増やす2024年予算を承認した。国防費は国内総生産(GDP)の6%に当たる。治安対策などを含む国防関連予算は歳出全体の約4割を占め、ウクライナ侵略の長期化を見据えた戦時予算となった。
●ウ冬到来 猛吹雪で10人死亡 11/28
ロシアの侵攻が続くウクライナのクリメンコ内相は28日、猛吹雪に見舞われた南部オデッサ州や北東部ハリコフ州で10人が死亡したと通信アプリ「テレグラム」に投稿した。一方、米シンクタンク戦争研究所(ISW)は戦況分析で、ロシア、ウクライナ両国軍は冬の到来に伴う悪天候の中、地上戦を続けていると指摘した。
オデッサ州のキペル知事は28日、雪の吹きだまりから約2500人が救助されたとテレグラムに投稿。自動車内に閉じ込められた人々の救出活動が行われていると説明した。
ウクライナは黒海に臨む南部のクリミア半島やヘルソン州でも悪天候の被害が発生。広い範囲で停電が起きたほか、鉄道などのインフラ施設が打撃を受けたもようだ。
ゼレンスキー大統領は27日夜の演説で、他の地域でも「犠牲者を出さないよう全力を尽くすことが重要だ」と訴えた。
ISWは27日付の分析で、前線の軍部隊は大雪や強風によって視界が遮られ、作戦のペースが遅くなっていると指摘。ただ「軍事活動が完全にストップしたわけではない」と強調した。
 
●地雷除去の国際枠組みに参加へ 自衛隊、ウクライナ支援で訓練も 11/28
政府は、ロシアの侵攻が続くウクライナへの支援を巡り、関係国会合が計画している地雷除去の枠組みに参加する方針を固めた。除去機材の提供やウクライナ国外での自衛隊による訓練への協力が想定され、具体的な活動内容は今後調整する。サイバーセキュリティー対策や通信といったIT分野の支援枠組みにも加わる。政府関係者が28日、明らかにした。
日本は殺傷能力を持つ武器や弾薬の供与が禁じられているため、戦闘に直結しない両枠組みへの参加で支援の幅を広げる狙いがある。木原稔防衛相が近く表明する。現行の輸出ルールで認められていない地雷を破壊する性能を持つ防衛装備品の供与を求められる可能性もある。
●ウクライナの汚職まみれも原因か 欧米の支援が滞る理由…双方の不信 11/28
遅れに遅れている米国の新たなウクライナ支援法案について、下院情報特別委員会のマイク・ターナー委員長(共和党)は、「年内の可決は難しい」との見解を示した。これは共和党が、イスラエルやウクライナへの軍事支援と、移民が大挙して押し寄せている南部メキシコとの国境管理の厳格化をセットにした予算を承認するよう求めているためで、包括法案は12月4日に上院に提出される予定だが、先行きはいまだに不透明だ。
「去年のイスタンブール停戦交渉で、ロシアは戦争をやめる用意があった」
こうしたなか、去年の開戦直後にロシアとの停戦交渉にあたったウクライナ側代表ダヴィド・アラハミヤ氏がウクライナのテレビ「1+1」に語ったインタビュー(11月25日)が波紋を広げている。
アラハミヤ氏は、去年3月の停戦交渉で「ロシア側はウクライナの中立化をもっとも重視していた。ウクライナがかつてのフィンランドのように中立の立場を守り、NATOに加盟しないと約束すれば、ロシアは戦争をやめる用意があった」と語ったのだ。
「ただ戦え」とボリス・ジョンソン英首相は言った
ウクライナがこの合意を蹴ったのは、NATO加盟を目指すとするウクライナ憲法を改正する必要があったこと、そしてロシアに対する根深い不信感だったということだが、アラハミヤ氏は、次のように付け加えている。「この時キーウに来ていた英国のボリス・ジョンソン首相(当時)が、いかなる文書にもサインせず、『ただ戦え』とアドバイスした」。
この発言は、プーチン大統領が今年6月、アフリカ諸国との首脳会議で語ったことを裏付けるものになっている。プーチン大統領はその席で「2022年3月、イスタンブールでの交渉の結果、『恒常的中立とウクライナの安全の保障』についてはアラハミヤ氏との間で仮調印が出来ていた。ところがウクライナ側は突如それを歴史のゴミ箱に捨ててしまった」と語っている。このプーチン発言についてアラハミヤ氏は、仮調印はしておらず、文書は存在しない、と反論している。
「最初の戦争はイスタンブール合意で決着していたかもしれない」
アラハミヤ氏のインタビューを受けて、元ウクライナ大統領府顧問のアレクセイ・アレストビチ氏は、テレグラムのサイトに「ウクライナに大戦争を遂行する場合の支援を約束しておきながら、武器を供与しなかった者たちにこそ責任はある。すなわち、欧米はウクライナを見捨てたのだ」と書き、強く欧米を非難した。
アレストビチ氏によれば、ウクライナ軍はロシアの侵攻計画を叩き撃退するという当初の戦争に勝利していたと言う。「この戦争はイスタンブール合意によって終結し、何十万もの人びとがそのまま生き延びていたかもしれない」。
「プーチンに4州をくれてやっておしまいにしろ」
アレストビチ氏は、その後の戦争の推移をこう述べる。「この緒戦の後には、まったく別の類の戦争が始まった。その戦争は航空機や長距離ミサイルなしでは勝利できない大戦争であったにもかかわらず、航空機や長距離ミサイルは供与されなかった。そのためにわれわれウクライナは巨大な代償を払った」。
そしてウクライナが戦争に勝つために必要とする武器の供与を約束していたはずの欧米諸国は、今になってこう言い始めている、とアレストビチ氏は言う。「俺たちはこれほど武器を供与してやったのに、汚職まみれのおまえたちウクライナは戦い方も知らず、成果も出せなかった。プーチンに4州をくれてやって終わりにしろ!」。
さらにアレストビチ氏は「ウクライナの指導層も、その従順さと汚職まみれの体質によって、欧米にわれわれを見捨てさせる多くの口実を与えてしまったのだ」とウクライナ指導部をも厳しく非難した。
武器の供給を絞って交渉の席へ
ウクライナへの武器、弾薬支援が滞り、欧米とウクライナ双方で不信がわき上がるなか、ドイツの大衆紙『ビルト』(11月24日)は、ドイツ首相府からの内部情報として「独、米の政府はウクライナへの武器の供給量を絞ることによってウクライナをロシアとの交渉にかりたてることを決めた」という記事を掲載し、「ゼレンスキー大統領は停戦交渉が必要だとウクライナ国民に呼びかけなければならない」との考えを強調した。さらにもし武器の供給量を抑えることによってウクライナを交渉のテーブルにつかせることに失敗した場合、欧米は「紛争当事者双方の合意がないままに紛争を凍結させる」というプランを練っているとも伝えている。
ドイツ首相府は『ビルト』の取材に「軍事的、政治的目標を決定するのはあくまでもウクライナ自身である」としてこの憶測を打ち消している。
しかし戦線が膠着状態に陥り、武器弾薬の供与の遅れへのウクライナ側の不信感が高まり、「停戦交渉」をめぐるさまざまな憶測が欧米各国で出始めた現在、アレストビチ氏が言うように、「欧米はウクライナを見捨てた」と見え始めていることは否定できないだろう。
●ロシア軍艦、荒天で黒海退避 戦闘縮小、機雷漂流の危険も 11/28
ウクライナは27日、南部を中心に全土で吹雪に見舞われた。ロシアが2014年に併合したクリミア半島も暴風が襲い、一部で洪水や停電が発生。ウクライナ軍は、ロシア軍が悪天候のため黒海に展開する軍艦を退避させたと指摘した。米シンクタンク、戦争研究所は27日、前線の戦闘は完全に停止してはいないが、活動が低下していると分析した。
戦争研究所はまた、ロシアの軍事専門家の見方として、悪天候により機雷が漂流し、今後、黒海北西部で危険が増大するとした。ロシア支配地域の沿岸にある鉄道インフラが被害を受け、ロシア軍の補給に影響する可能性も出ている。
●欧州委副委員長、ウクライナ訪問 汚職対策を評価 11/28
欧州連合(EU)欧州委員会のヨウロバー副委員長は27日、訪問先のウクライナの首都キーウで、同国の汚職対策を評価した上で、EU加盟にはさらなる取り組みが必要だとの認識を示した。
欧州委は今月、ウクライナのEU加盟交渉について、汚職対策の強化など最終的な条件が満たされ次第、開始するよう提言した。
ヨウロバー氏は「(2017年当時は)エネルギーと強い意志を感じなかったが、今は17年とは全く違う状態にある。ウクライナ国民は古いウクライナにうんざりしており、新しいシステムを望んでいると思う。あらゆるレベルの組織的な犯罪・汚職を起訴・捜査する機関が十分に機能することを望んでいるはずだ」とした上で、ロビー活動に関する法律の採択など、まだやるべきことがあると述べた。
ウクライナがEUに加盟するには広範な法的・経済的基準を満たす必要があり、加盟交渉には数年かかるとみられている。

 

●ロシア総主教、プーチン氏支持 正教会、侵攻で関係深化 11/29
ロシア正教会最高位のキリル総主教は28日、モスクワで開かれた会議で演説し、プーチン大統領が国家発展のための職務を続けるよう期待を示した。タス通信などが伝えた。来年3月の大統領選で立候補が確実視されているプーチン氏への事実上の支持表明とみられる。
プーチン氏も南部ソチからオンラインで会議に参加し、ウクライナ侵攻に参加する軍人や家族への正教会による支援に謝意を表明した。侵攻を通じた政権と正教会の一層の緊密化が示された。
会議はロシアの伝統的価値観の維持を目的に正教会などが主導して開催した。
●プーチン氏、米大統領選の結果前に和平で合意せず=米高官 11/29
米国務省高官は28日、ロシアのプーチン大統領は、2024年11月の米大統領選の結果を確認するまではウクライナと和平で合意することはないと述べた。
米大統領選を巡っては、共和党の有力候補と見られているトランプ前大統領がウクライナへの支援を批判している。
同高官は、北大西洋条約機構(NATO)外相会合後に記者団に述べた。個人的な見解かそれとも米政府の見解かと記者から質問された際、「広く共有されている認識だ」と述べ、「それが28日のNATO会議で全ての同盟国がウクライナへの強い支持を表明した背景だ」と説明した。
トランプ氏に言及したり、米大統領選の結果がウクライナ支持にどう影響するかは明言しなかった。
●ロシア、大阪・関西万博から撤退表明 11/29
ロシアが大阪・関西万博からの撤退を表明しました。
「ロシアは、主催者との十分なコミュニケーションが取れていないため、2025年の大阪・関西万博への参加を見合わせることを決めた」(ロシア代表)
ロシアの代表は、撤退の理由として「創造と革新、人道主義などを追求する万博の原則を損なおうとする一部の加盟国の試みが見受けられる」と述べました。ウクライナ侵攻をめぐる日本や欧米諸国の対応への不満が背景にあるとみられます。
大阪・関西万博では、当初出展を予定していたメキシコとエストニアが既に辞退を表明しています。
●クリミア半島を襲った「世紀の嵐」…ロシア塹壕、一瞬で流される 11/29
冬の嵐「ベッティーナ」がロシア南部とウクライナ海岸地域を襲った。
27日(現地時間)、タス通信によると、強風と大雪を伴ったハリケーン級の嵐「ベッティーナ」が黒海沿岸に沿う形でロシア南部地域に大きな被害をもたらしている。
特にロシアが占領中のクリミア半島には時速115〜130キロに達する強い風が吹いたほか、最高9メートルに達する高波が沿岸部に押せ寄せた。クリミア山脈では時速150キロに達する風が吹きつけた。
オンライン上に拡散されている映像では、クリミア半島西部沿岸都市であるイェウパトーリヤに巨大な波が押し寄せ、街の至るところが浸水して車や施設などが押し流される様子を確認できる。
海岸にあるロシア軍の軍施設を荒波が一瞬で飲み込む場面もあった。ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ内相顧問は関連する映像とあわせて「嵐によってロシア軍がクリミア半島に設置した塹壕が流された」とし「イェウパトーリヤでは海岸防御線や工兵施設、射撃陣地などが破壊された」と主張した。
今回の嵐でロシアの5つの地域では停電があり、一時200万人に影響が出た。クリミア半島の一部地域には非常事態が宣言されている。ソチやアナパなどリゾート地が位置するロシア・クラスノダール地域では2人が遺体で見つかるなど4人が今回の嵐で亡くなったことが確認された。ウクライナでも少なくとも10人の死亡者が発生したことが分かった。
現地メディアは今回の嵐を「世紀の嵐」と描写している。ロシア気象庁長は「記録を取り始めてから最も強力な嵐の一つ」と国営通信RIAノーボスチ通信に伝えた。
一方、クレムリン宮(ロシア大統領府)のペスコフ報道官はプーチン大統領が今回の嵐に対する報告を受け、被害地域を助けるための措置を指示したと明らかにした。
●ウクライナ南部ロシア併合のクリミア 嵐が直撃し非常事態宣言 11/29
ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島周辺が激しい嵐に見舞われ、これまでに4人が死亡、非常事態が宣言されました。嵐による戦闘への影響も指摘されています。
ロシアメディアによりますと、クリミア半島やロシア南部を嵐が直撃し、風速40メートルの暴風や高波が発生、少なくとも4人が死亡したほか、およそ200万人が停電に見舞われたということです。
クリミアの親ロシア派は27日、一帯の地域に非常事態宣言を出しました。一方、ウクライナ内務省顧問はSNSに波が打ち寄せる動画を投稿し、「ロシア軍が海岸に作った塹壕が波で流された」と指摘しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、嵐の影響によりロシア軍が黒海に展開させていた軍艦などを退避させ、前線での戦闘活動も低下していると分析しています。
こうした中、プーチン大統領は28日、保守派のイベントにオンラインで参加し、「われわれはいま、全世界の自由のために戦っている。ひとつの覇権国による独裁は弱まっている。われわれはより公平な世界秩序を構築するため最前線で戦っている」と述べ、アメリカを念頭に批判するとともにウクライナ侵攻を改めて正当化しました。
このイベントは侵攻への支持を表明してきたロシア正教のキリル総主教らが出席、来年3月の大統領選に向けた事実上の選挙戦の一環とみられています。
●プーチン氏、「干渉は侵略行為」と西側に警告 来年の大統領選控え 11/29
ロシアのプーチン大統領は28日、ロシア正教会のキリル総主教が主導する「全世界ロシア民族大会議」の大会で演説を行い、2024年3月のロシア大統領選を前に、外国の干渉があれば侵略行為と見なすと西側諸国に警告した。
プーチン氏は大統領選に出馬するとみられており、選挙キャンペーンは来月にも開始される見通し。
この日の大会でプーチン氏は、西側諸国はロシア人を後進的な「奴隷の民」とする人種差別的な「ルソフォビア(ロシア嫌悪症)」にとらわれているとし、米国はロシアが持つ膨大な資源を略奪しようとしていると警告。
1917年のボリシェヴィキ革命とそれに続く内戦のほか、1991年のソ連崩壊でロシアの人々の分断化が引き起こされたことを思い起こし、教訓を学ばなければならないとし、「われわれは外部からの干渉や、民族、宗教間の対立を引き起こすことを目的とした挑発行為をロシアに対する攻撃的行為と見なすと強調したい」と述べた。
その上で「民族間、宗教間の不和を拡散し、われわれの社会の分断化を図るいかなる試みもロシア全体に対する裏切り行為であり、犯罪であると改めて強調したい。ロシアを分裂させることは容認しない」と語った。
●チェチェン共和国首長「ウクライナに兵力3000人の追加派兵を準備」 11/29
ロシアのためにウクライナ戦争に参戦したチェチェン自治共和国が兵力3000人を追加派兵する計画だとロイター通信が28日(現地時間)、伝えた。
報道によると、ロシア連邦のチェチェン共和国首長ラムザン・カディロフ氏は前日テレグラムを通じて、自国の兵力3000人がロシア民間防衛軍の新しい部隊としてウクライナで戦う準備ができていると明らかにした。
同時に「軍隊は最高の装備と現代兵器を持っている」として「彼らは非常に戦闘的で、結果を達成するための意欲があふれている」と付け加えた。
カディロフ氏は今年5月、志願兵1万2000人を含む2万6000人の兵力をウクライナ戦に派兵したと明らかにした。ただ、これは別途で確認されていない数値だとロイターは伝えた。
カディロフ氏は今月初め、エフゲニー・プリゴジン氏の率いる「ワグネルグループ」出身の傭兵たちがチェチェン共和国の特殊部隊と訓練を始めたと明らかにした。
●ウクライナ国防省局長狙い毒殺図ったか、同居の妻が重金属中毒… 11/29
ロシアの侵略を受けるウクライナの有力ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」などは28日、治安当局者の話として、ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ局長の妻マリアンナさんが、重金属中毒で治療を受けていると報じた。食事に毒を盛られた可能性が高いとの見方を伝えている。
報道によると、マリアンナさんは体調不良を訴え検査したところ、中毒が判明した。快方に向かっているという。
マリアンナさんはブダノフ氏の職場で生活を共にしており、無症状だった職員数人からも同じ物質が検出された。ウクライナ・プラウダなどは「特定の人物を毒殺する計画的な試み」と指摘した。検出された物質は日常生活では使用されていないとしている。
ブダノフ氏はウクライナ軍による特殊作戦や情報戦のカギを握る人物だ。情報総局によると、ブダノフ氏は過去に10回以上、ロシアに命を狙われている。
●ウクライナ支援継続を確認 米NATO 11/29
ブリンケン米国務長官は28日、訪問先のベルギー・ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と会談した。ロシアの侵攻が続くウクライナへの支援継続を改めて確認。NATOの抑止力強化のほか、来年7月にワシントンで開催されるNATO首脳会議に向けた準備について協議した。
ストルテンベルグ氏はパレスチナ自治区ガザ情勢を巡り、イスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘休止の延長を歓迎した。ブリンケン氏は、ハマスが拉致した人質の解放に向けた取り組みを続けると強調した。
●ウクライナ兵訓練費4倍に EU、300億円超増 11/29
欧州連合(EU)は28日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの軍兵士の訓練費を1億9400万ユーロ(約314億円)増額することで合意したと発表した。訓練費の総額は、これまでの約4倍となる2億5500万ユーロに上る。
EUは「ウクライナ軍の能力向上を支援することが目的だ」と説明。軍事支援に使える基金「欧州平和ファシリティ」で訓練費を賄うとした。EUによると、これまでにウクライナ兵約3万4000人が訓練を受けた。
●ロシア 核兵器廃絶の二国間協定終了 日本に通告 11/29
ロシア外務省は、核兵器の廃絶に関する二国間協定の終了を日本側に通告したと発表した。
ウクライナ侵攻後の日本の制裁をふまえた対応とみられ、「非友好的な国家との協力を継続することは不可能」としている。
ロシア外務省は28日、核兵器廃絶の支援に関する二国間協定からの離脱を日本側に通告したと発表した。
通告日は、11月21日で6カ月後の2024年5月21日に正式に終了する。
11月7日、ロシアのミシュスチン首相が署名し、外務省に対して日本へ決定を通知するよう指示していた。
協定は冷戦終了後、旧ソ連諸国に配備されていた核兵器を安全に廃棄し、海洋環境を保護する目的にロシア、ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシの4カ国と個別に結び、ロシアとは1993年に締結した。
協定締結から20年目の2023年、ロシア側から一方的に終了を突きつけられた形。
ロシア外務省は岸田政権のロシアへの制裁や極東での軍事活動の強化はあからさまな反ロシア政策だと非難し、「非友好的な国家との交流を継続することは不可能である」としている。
●ウクライナ各地で吹雪の被害 死者10人 11/29
ウクライナの広い地域が3日前から吹雪に見舞われ、少なくとも10人が死亡するなど大きな被害が出ている。
クリメンコ内相が28日、SNS「テレグラム」に投稿したところによると、国内11州にある400以上の集落で停電が続き、住民数千人の救助に緊急要員1500人あまりが出動している。
これまでに南部のオデーサとミコライウ、東部ハルキウ、北部キーウの各州で計10人が死亡したほか、子ども2人を含む23人の負傷者が報告された。
現場のビデオには激しい風の中、道路から溝にすべり落ちた車を警官らが押し戻そうとする場面が映っている。
内務省の報道官によると、一部地域では積雪が2メートルに達した。
同報道官は28日、死者についての初期情報として、全員が低体温症で亡くなり、路上で発見されたと述べた。
特に被害の大きいオデーサ州のキペル知事によれば、州内で子ども162人を含む2500人近くの住民が救助され、バス24台と救急車17台を含む車両849台が立ち往生してけん引された。
ロシアが実効支配する南部クリミア半島も嵐に直撃され、アクショーノフ・クリミア自治共和国首相が28日、10市に緊急事態宣言を出した。
アクショーノフ氏によると、クリミアでは約9万3000人が停電の被害を受け、245の集落で水道が止まった。
26日に一部で最大29メートルの暴風をもたらした低気圧はすでに通過したが、別の低気圧が28日深夜から29日にかけ、大雪や強風、大雨をともなって襲来する見通し。特に西部イワノ・フランキウスク、ザカルパッチャ両州の山岳地帯で降雪量が多くなり、雪崩の危険性が高まることが予想される。
●ウクライナとバルト3国、OSCE外相理事会ボイコット ロシア参加に反対 11/29
ウクライナとバルト3国のラトビア、エストニア、リトアニアは28日、週内に北マケドニアで開かれる欧州安保協力機構(OSCE)の外相理事会について、ロシアのラブロフ外相が参加を表明しているため、 ボイコットすると発表した。
57カ国が参加するOSCEは11月30日─12月1日に北マケドニアの首都スコピエで外相理事会を開催。ラブロフ外相は、北マケドニアの東隣のブルガリアが自身のために領空を開放すれば同外相理事会に出席すると表明している。ラブロフ氏がOSCEの会議に出席すれば、2022年2月のウクライナ全面侵攻開始以降で初めてとなる。
ウクライナ外務省のニコレンコ報道官は「ウクライナ代表団はOSCE外相理事会に参加しない」と表明。ロシアがウクライナのOSCE代表3人を500日にわたり収監したことなどに触れ、「ロシア代表団が(OSCE外相理事会に)参加すれば、ロシアが追い込んだOSCEの危機が一段と深まるだけだ」とした。
ウクライナに連帯しバルト3国の外相もOSCE外相理事会のボイコットを表明する共同声明を発表。ラブロフ外相の参加は「侵略国家であるロシアを自由主義国家共同体の正当なメンバーとして正当化し、ロシアが犯してきた残虐な犯罪が矮小化される危険性がある」とした。
米国のブリンケン国務長官は予定通りOSCE外相理事会に出席する。米国務省当局者は、ブリンケン長官が出席することで米国は北マケドニアや他のOSCE加盟国との連帯を示すことになるとしている。 
●ロシア、外国人に「忠誠」要求か 内務省が法案、タス通信報道 11/29
タス通信は29日、ロシア内務省が入国する外国人にロシアへの忠誠を求める法案をまとめたと報じた。公権力行使の妨害や内政外交の信用失墜を禁じ、伝統的価値観に反する情報拡散も制限するとの内容。ウクライナ侵攻で欧米と対立を深めるプーチン政権の保守的傾向を反映しており、論議を呼ぶとみられる。
タスが入手した法案によると、対象となるのはロシア国内に一定期間滞在する外国人。移民に対しては、結婚を男女の結び付きとみなす価値観に反する考えや、LGBTなど性的少数者に関する情報の拡散を禁ずるとしている。
また、第2次大戦でソ連軍がナチス・ドイツと戦った歴史的事実を歪曲する試みも禁止されるという。
侵攻が長引く中、プーチン政権は、ウクライナでの軍事作戦を「ロシアの主権と伝統的価値観を守る戦い」と位置付け、国民に団結を訴えている。
●ロシア、外国人に「忠誠」求める法案 ウクライナ侵攻の批判禁止 11/29
ロシア内務省は、入国した外国人に「ロシアへの忠誠」を求める法案をまとめた。タス通信が29日伝えた。具体的には、ウクライナ侵攻下のロシアの内政・外交を批判したり、性的少数者の権利を主張して伝統的価値観を否定したりすることを禁止する。
西側諸国の影響によってプーチン政権の国内統制が揺らぐのを防ぐ狙いとみられる。「思想統制」をロシア国民だけでなく外国人にも広げる試みと言え、法案は議論を呼びそうだ。
●ロシア 入国する外国人に「忠誠」義務付けか 法案提出の動き 11/29
ロシアに入国する外国人に対し、「ロシアへの忠誠」を義務付けるとする法案の準備がすすめられていることがわかりました。
タス通信によりますと、ロシア内務省は入国するすべての外国人に対し、ロシアの信用を傷つける行為を行わないことへの同意を求める文書への署名を義務付け、「忠誠」を誓約させるとする法案をまとめました。
具体的には、ロシアの内政・外交を批判することや、LGBT=性的少数者の情報を拡散し伝統的価値観を否定すること、また、第二次大戦における旧ソ連のナチス・ドイツへの勝利に関する「歴史的事実を歪曲すること」などが禁止されるということです。
違反した外国人への罰則など詳細は明らかになっておらず、運用次第ではウクライナ侵攻に関する批判も禁止対象になる可能性があります。
法案は近く議会に提出される見通しで、ウクライナ侵攻が長期化する中、プーチン政権がロシア国民だけでなく、国内の外国人についても統制を図る狙いがあるとみられ、議論を呼びそうです。
●話題にならなくなったウクライナ問題 11/29
ウクライナの報道がめっきり減ってきました。このところ、膠着状態であった上に食傷気味となっており、メディアも何か新味がないと報道しない商魂たくましさがあります。そこにイスラエルとハマスの問題が勃発、報道機関からすれば渡りに船、そして見事に目線をほぼそちらに振り替えました。
このとばっちりを受けたのは元コメディアンであるゼレンスキー大統領でしょう。元コメディアンとわざわざ断りを入れたのは芸人は着目度があってこその芸人なのです。人気が落ちることは自分のビジネスが終わることを意味します。
元芸人ゼレンスキー氏は様々な手段で各国にウクライナ支援を訴えました。まさに決死の営業活動です。おかげで多くの国の賛同を得て、高価で高度な武器、兵器の供与が次々と決まりました。が、同じトーンで繰り返す氏のスタンスは「継続こそ力」だとしても聞く側にはインパクトが無くなるのです。これはゼレンスキー氏の行動に限らずどんな事象でも共通します。これを経済学の限界効用逓減の法則に当てはめることも可能なのかもしれません。
イスラエルとハマスの戦いが休戦になる可能性はあります。この両者は過去、ずっと戦ってきては停戦を繰り返しています。個人的には今回もさほど遠くない時期に停戦になるとみています。しかし、仮に停戦になってもその後、再びウクライナ問題に目を向けるか、と言われれば耳目を集めることはない気がします。つまり、ゼレンスキー氏が外交的にどれだけ訴えても和平がキーワードになれば世論の圧倒的賛同を得られることはなく、各国は動けなくなる、ということです。
ロシアとウクライナ、どちらが強いか、といえば現時点ではロシアに分がありそうです。理由は明白。ウクライナには自前で武器が調達できず、NATO頼みにあること、しかも欧州もアメリカもここにきて無尽蔵な武器供与は各国の国内事情があり、徐々に難しくなっていることがあります。2番目に兵力の問題。様々な推計調査がありますが、概ね20万人。それに対してロシアは90万人。双方、総力戦にはなっていませんが、兵力を貯金と考えれば取り崩しが大きいのはウクライナであります。特に世界大戦のように第三国が合流する場合は兵力の増強が図れますが、世論が戦争を厳しく統制する時代となった今、ウクライナに合流し、共に血を流す第三国はないでしょう。これでは兵力という貯金を使い果たすことが目に見えてくるのです。
私は再三、ウクライナという国家が壊れることを懸念してきました。国家の構築すなわち、インフラや国民の財、教育、人口、社会保障、その他あらゆる基盤は一朝一夕では立ち上げられません。私は50年というスパンを見ています。つまり、今回の戦争、そしてその責任者であるプーチン氏とゼレンスキー氏は国家を少なくとも50年分後退させたのです。
その上、ウクライナはもともと極端な人口減に直面しています。ウクライナが独立した91年、5200万人を超えていたのに欧州の不良国家と言われ続け、不正大国だったこともあり、海外流出が続き、人口は減少の一途となり、現在は3600万人程度。更に問題は人口ピラミッドで一番少ないのが15−34歳の層であり、今後、戦争が終結してもウクライナが国家としての体を成さなくなってしまいます。
戦争は大義と引け際ほど難しいものはありません。大義の基本は国土防衛です。ロシアの最大の懸念はウクライナがより欧州寄りになり、将来NATOに加盟するなら国境を接することになり、かつての東欧のような緩衝地帯が無くなることが最大のリスクと捉えています。戦争当事者は盲目のようなデスマッチに陥りやすいものです。日本もそうでした。
プーチンが負ける日はプーチンが死んだ時以外に考えられません。北朝鮮がそうであるように完全独裁で全ての権力を握りしめています。それはロシアという国がそもそもそういう成り立ちであって国民は民主主義そのものを理解できないし、独裁政権下の民が不幸か、と言えばその価値判断は西側標準であって彼らは西側のスタイルを必ずしも必要としないこともあるのです。
西側諸国が武器を供与しにくくなった時、戦争終結に向けた外交が動く時だと思います。様々な解決方法があるでしょう。ビジネス的に東部ウクライナをかつての東欧のような緩衝地帯として独立させ、ロシアは実質的に緩衝地帯に将来干渉できる代償として巨額の戦後補償金をウクライナに払う案は無いとは言えないでしょう。ただ、その場合、ウクライナが再び不正の温床になりやすいことから第三国なり、欧州がその資金管理ないし監査をするという条件をつけるべきでしょう。
戦争はそもそもご免ですが、長期戦になった国はアフガンでもイランでも荒廃が進みます。欧州の穀倉地帯に安どの日を早く回復することが我々の使命ではないでしょうか?
●ロシアの万博撤退 戦争・対日関係悪化が理由か 撤退ドミノ防止を 11/29
ウクライナ侵略を続けるロシアが28日、2025年大阪・関西万博への参加辞退を表明した。政府や万博を運営する日本国際博覧会協会にとっては、想定内の事態だったとみられる。ロシアは独自に設計する「タイプA」パビリオンを出展する意向だったとされるが、協会にとっては跡地利用を決めるうえでも、ロシアの早期の判断が好ましかった。ただ、万博からの撤退はこれで3カ国目。戦争状態にある国の参加取りやめは初めてだ。今後、他国の撤退の呼び水になる可能性も否定できない。
「ロシアのウクライナ侵略は万博の理念と相いれない。状況が変わらなければ参加は想定されない」。松野博一官房長官は29日の記者会見で、ロシアの撤退をめぐり、こう述べた。
ロシア当局は今月中旬の段階でも、産経新聞の取材に「万博への参加について、現時点でお答えできることは何もない」と回答していた。だが、水面下では撤退の意向をすでに固めていた可能性が高い。
ロシアは直前のドバイ万博(21年10月〜22年3月)で、人間の脳をテーマにした大型パビリオンを出展しており、当初は大阪・関西万博にも大型のタイプAパビリオンを出展する意向だったとされる。
しかし、22年2月にロシアがウクライナへ全面侵略を開始して以降、日露関係は悪化。ロシアは日本への不満を強めていた。加えてロシアが大阪・関西万博に出展しても、来場者の厳しい視線にさらされるのは必至。出展のメリットはないと判断したとみられる。
各国が独自に設計・建設するタイプAパビリオンが取りやめになれば、万博協会は跡地利用の検討を進めなくてはならない。25年4月の開幕が迫るなか、簡易な建築物でも新規の計画は困難になりつつある。協会としては、一刻も早くロシアに態度を明確にしてほしかったのが実情だ。
ただ、万博からの撤退はメキシコ、エストニアに続き3カ国目。ロシアの侵略を受けるウクライナはそもそも参加を表明しておらず、すでに参加を表明した国にも、軍事衝突に巻き込まれているところがある。ロシアに他国が追随する可能性は否定できず、撤退ドミノが起きないよう、政府や協会は細心の対応が求められる。
●ウクライナ加盟支援で一致 外相会合が閉幕―NATO 11/29
北大西洋条約機構(NATO)は29日、ブリュッセルで外相会合を開いた。今年7月のNATO首脳会議で設置された「NATO・ウクライナ理事会」も開催。「将来のウクライナの加盟に向け、改革実施を支援する」ことで一致し、2日間の日程を終えた。
NATOは、ロシアによる侵攻終結後、ウクライナが加盟するため、同国に対し、汚職対策や少数民族の人権尊重などの分野で優先的な改革を行うよう求めた。NATOのストルテンベルグ事務総長は、会合後の記者会見で「戦闘のさなかに改革を進めるウクライナの取り組みに感銘を受けている」と述べ、同国への支援を継続すると強調した。
●脱炭素化、ウクライナ危機で厳しさ増すLNG調達 需要高まる冬を前に対策 11/29
発電用や給湯用で液化天然ガス(LNG)の需要が高まる冬を前に、官民が連携する対策が打ち出された。LNG調達を巡っては世界的な脱炭素化の潮流に加え、屈指の産ガス国・ロシアのウクライナ侵略に西側諸国が経済制裁を科したことなどで需要が逼迫。価格も一時急騰した。露産LNGの新規調達が難しくなる中、LNGのほぼ全量を輸入に頼る日本はエネルギー安全保障の観点から、調達体制などの見直しも必要となりそうだ。
露LNG、不透明感強く
「新型コロナウイルス禍やロシア・ウクライナ情勢、脱炭素化など(LNG調達に関して)2020年代は複雑性を増している」
29日、東京ガス袖ケ浦LNG基地(千葉県袖ケ浦市)で行われた操業50周年記念式典で、同基地の城所秀樹所長はこう強調した。
同基地は昭和48年に稼働した国内初のLNG専用基地で世界最大級の規模を誇る。貯蔵量は標準家庭約186万世帯が1年間に使用する都市ガスに相当する。東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資する発電会社「JERA」の袖ケ浦火力発電所へのLNG供給も担い、首都圏のエネルギー需要を支えている。
ただ、同基地でも一部を調達している露産LNGの先行きは不透明感が強い。
日本企業が権益を維持するサハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からの調達は続いているが、露政府の意向や日米欧の対露追加経済制裁による供給途絶リスクがくすぶる。同様に日本企業が権益を持つ北極圏の開発プロジェクト「アークティックLNG2」は米国が開発業者を11月に追加経済制裁の対象に指定。年内にも生産を開始し、日本も最終的に年200万トンの供給を受ける予定だったが、計画は大幅な見直しを余儀なくされそうだ。
JERAが余分に調達
「万が一の供給途絶に備える」。24日の記者会見で西村康稔経済産業相は、民間企業がLNGを余分に調達可能とする支援制度の第1号にJERAを指定した意義を強調した。JERAは今年12月〜来年2月の間、通常よりもタンカー1隻分を多く調達。平時はアジアなど海外市場で転売して、非常時は日本企業向けに販売する。
経産省によると、26日時点の発電用LNGの在庫は233万トンで過去5年の平均(212万トン)を上回っている。日本エネルギー経済研究所の橋本裕上級スペシャリストは「大きなトラブルがなければ、今冬は乗り切れそうだ」と分析する。露産LNGについては「サハリン2は維持できているが、アークティック2は難しくなっている」と指摘。オーストラリア、カタール、米国などでの代替調達先の確保が必要との認識を示す。

 

●ロシア “外国人に忠誠求める検討” 統制強めるねらいか 11/30
ロシアの国営通信社は、プーチン政権が、入国する外国人に対して、ロシアの内政や外交を批判しないことなど、忠誠を求めることを検討していると伝え、外国人も対象にしながら言論や思想の統制を一段と強めたいねらいとみられます。
ロシア国営のタス通信などは29日、ロシアの内務省が、入国する外国人に対して、ロシアへの忠誠を求めることを検討していて、関連する法案を議会に提出する方針だと伝えました。
法案では、ロシアに入国する外国人に対して、内政や外交への批判など、ロシアの国家政策の信頼を失墜させることを禁じているということです。
さらに、伝統的な家族の価値観を重視するとして、同性婚など、性的マイノリティーに関する情報を広めることの禁止や、第2次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことなど、歴史的な事実をゆがめることも禁じるとしています。
一方、こうした事項に違反した場合の罰則などについては明らかになっていません。
ウクライナ侵攻の長期化でロシア国民の不満もくすぶっているとみられる中、プーチン政権は、世論の動向と欧米の干渉にも警戒していて、外国人も対象にしながら言論や思想の統制を一段と強めたいねらいとみられます。
●ウクライナ支援、NATOに「疲労感ない」=米国務長官 11/30
ブリンケン米国務長官は29日、ウクライナ支援について北大西洋条約機構(NATO)内に「疲労感はない」と述べた。
ブリュッセルで行われたウクライナとNATOの会議後、「われわれはウクライナを支援しなければならないし、支援を続ける」と言明。NATOはこの立場で一致しており、米国では上下両院からウクライナ支持の声が続いていると説明した。
ウクライナは、ロシアとの戦争に対する国際社会の注目がイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に奪われるのではないかと懸念。クレバ外相はこの日、西側に武器の増産を求めた。
クレバ氏は欧州連合(EU)各国がこれまで、ウクライナに供給を約束した砲弾100万発中30万発を提供したと報告。「欧州・大西洋に共通の防衛産業を構築する必要がある」と述べ、それによりウクライナとNATO加盟国双方の安全保障が確保されると訴えた。
●ウクライナ戦争で、北方領土の返還は夢のまた夢に 11/30
来年2月下旬で、ロシアがウクライナに侵攻してから早くも2年となる。侵攻直後、日本は欧米と足並みを揃え、ロシアへの経済制裁を強化し、ロシア外交官を国外追放にするなど、日露関係は冷戦後最悪なレベルに悪化した。日本は中古車などいわゆる贅沢品の対露輸出を停止し、ロシアに進出する多くの日本企業がロシア市場から撤退した。それからもうすぐ2年となるが、冷戦後最悪な日露関係は現在でも続いている。
一方、それによって北方領土4島の返還という日本外交の悲願は、夢のまた夢となってしまった。昨年3月末、北海道東端の根室市では、市民から地鳴りのような音がして海の方から光のようなものが見えると警察や海上保安庁に通報が相次いだ。海上保安庁の巡視船によると、国後島から照明弾のような光が複数回確認され、ロシア側から国後島の南東部で射撃訓練をするという通知があったという。
また、ロシアは日本周辺の海域で中国との軍事的結束を強く示している。昨年9月、ロシア軍は中国軍とともに日本海やオホーツク海など極東海域で大規模な軍事演習「ストーク2022」を行った。2021年10月には、極東ウラジオストク沖で4日間の日程で戦闘機による射撃や潜水艦による探査などの合同演習が行われ、ロシア軍と中国軍の艦船が北海道の奥尻島南西の日本海で一緒に航行しているのが確認され、その後津軽海峡から太平洋へ抜け、千葉県犬吠埼、伊豆諸島、高知県足摺岬沖へと南下して行った。
ウクライナ侵攻以前から、中露両国は日本周辺海域で協力関係をアピールしてきたが、侵攻によってロシアによる北方領土やその周辺海域での軍事的野心はいっそう強まり、北方領土の軍事拠点化、中国との軍事的協力はいっそう拍車が掛かることだろう。
しかし、ロシアの野心は軍事的なものに留まらない。ロシア政府は近年、ロシア極東への観光振興を進めており、ロシア人の北方領土観光も強化されている。ロシア政府は新たに温泉施設がオープンした国後島や択捉島のビーチなど北方領土の島々の自然を市民にアピールしており、北方領土を訪れるロシア人は2021年に8万3000人、2022年に8万8000人と増加傾向にある。
ウクライナ侵攻によって諸外国との関係が冷え込む中、ロシア人の海外旅行が減少する一方、ロシア政府は国内旅行を推奨している。その中でロシア人の北方領土旅行を強化し、経済的にも領土支配の既成事実化を進める狙いがあるとみられる。
また、北方領土周辺海域で操業する漁師たちからは、安心して漁業ができないとの声が上がっている。日本最東端納沙布岬の海域では、昆布漁を営む漁師がロシア国境警備隊の臨検に遭う回数がウクライナ侵攻後に大幅に増え、侵攻前の2021年に比べ、今年は既に同年の6倍近くの臨検数となっている。国後島周辺の海域で操業する漁師たちは、沿岸警備隊によって拿捕されることを心配しているといい、実際、水揚げ量が減少傾向にあるという。
知床半島からは国後島が目の前に映る。しかし、地理的には近く、昔は日本人が暮らしていた北方4島と日本との分断、分離はいっそう進んでいる。ウクライナ戦争は日本と北方領土との分断をいっそう進めているのだ。
●ロシア・ウクライナ戦争の潮目が変わった? 領土割譲で停戦の見方も浮上 11/30
「支援疲れ」に中東情勢の緊迫も加わり、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる欧米メディアの報道に潮目の変化が起きている。ウクライナ軍の反転攻勢の失敗や兵員不足に多くが言及、バイデン政権の対応にも批判が集まる。現状でロシア側が占領地域を手放すことは考えにくい。このまま停戦交渉に向かった場合、ウクライナが領土割譲という苦渋の選択を強いられるとの見方が台頭している。
ロシア軍の全面侵攻から1年9カ月を経たロシア・ウクライナ戦争は、ここへ来て潮目が変わりつつある。
ウクライナ軍の反転攻勢は成果を得られず、政権内の亀裂が伝えられる一方で、ロシアは長期戦に持ち込み、兵力を増員しながら有利に展開している。
イスラエル・ハマス戦争も、欧米諸国のウクライナ支援に影を落とした。
欧米側がウォロディミル・ゼレンスキー政権に対し、和平交渉の検討を打診したとも報じられた。ゼレンスキー政権は依然徹底抗戦の構えだが、今後、停戦の動きが浮上する可能性も出てきた。
「力による現状変更は許されない」(岸田文雄首相)としてウクライナ支援を続けた西側諸国にとって、憂鬱な展開となりかねない。
「反攻は失敗、突破口なし」
10月末以降、ウクライナ側の「不都合な真実」(米誌『タイム』)を伝える欧米の報道が相次いでいる。
ウクライナのワレリー・ザルジニー総司令官は英誌『エコノミスト』(11月1日)とのインタビューで、「ウクライナ軍は南部ザポリージャ州で17キロしか前進できていない」「われわれは膠着状態に追い込まれた。これを打破するには大規模な技術的飛躍が必要だが、突破口はないだろう」と苦戦を認めた。
ウクライナが6月4日に反転攻勢を開始して5カ月を経たが、ロシアが制圧するウクライナ領土の約20%のうち、奪還できたのは0.3%にすぎないとの報道もあった。
国民的人気の高い総司令官は、「ウクライナ軍はロシアが構築した地雷原に足踏みし、西側から提供された兵器も破壊された。指揮官らの交代もうまく機能しなかった」と述べた。ウクライナ軍高官が戦況の膠着や苦戦を公然と認めたのは初めて。
『タイム』誌(10月30日号)はゼレンスキー政権の内幕を報道し、「ゼレンスキー大統領は肉体的な疲労からか精神的にも疲弊し、メシア的妄想と精神病的な第三次世界大戦の恐怖を煽っている」とし、「ウクライナはロシアとの消耗戦に敗れつつあり、大統領の命令に従わない兵士も出ている」と伝えた。兵員不足で高齢兵士の招集をせざるを得ず、現在の軍部隊の平均年齢は43歳まで老化しているという。
『タイム』は昨年末、国家と国民を統率し、勇気ある抵抗を示したゼレンスキー大統領を「パーソン・オブ・ザ・イヤー」(今年の人)に認定したが、カバーストーリーを書いた同じ筆者が今回、政権内部の亀裂を列挙している。
欧米が水面下で停戦説得
こうした中で、米NBCニュース(11月3日)は、欧米諸国の政府高官がロシアとの和平交渉の可能性について、ウクライナ政府と水面下で協議を始めたと報じた。
米当局者によれば、これは10月に開かれたウクライナ支援国会合の際に話し合われ、ウクライナ側が協定締結のために何をあきらめるかについて概要が討議されたという。NBCは、欧米側の和平提案は、戦況の膠着や欧米の援助疲れ、中東紛争激化という新展開を受けて示されたとしている。
NBCによれば、ジョー・バイデン大統領はウクライナの兵力が枯渇していることに強い関心を寄せている。米当局者は「欧米はウクライナに兵器を提供できるが、それを使える有能な軍隊がなければ、あまり意味がない」と話した。
これらの報道に対し、ゼレンスキー大統領は記者会見やNBCテレビとの会見で、「戦争が膠着状態とは思わない」「年末までに戦場で大きな成果を挙げる」「ロシアと交渉するつもりはない」と反論し、抗戦方針を確認した。
米国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「米国は引き続きウクライナを強力に支援する。交渉も含め、将来の決定を決められるのはウクライナだけだ」と述べた。戦争継続か和平かの決断を、ゼレンスキー政権が下す構図は変わらない。
一方で、ロイド・オースティン米国防長官とウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官が11月20日時点でキーウを訪問中だ。バイデン政権屈指のロシア通といわれるバーンズ長官の訪問はサプライズで行われたが、今後の展開などをめぐり重要協議が行われた可能性がある。
バイデン外交への批判噴出
一連の報道を受けて、欧米では、ロシア・ウクライナ戦争が転機に入ったとの見方が相次いでいる。
ドイツのニュースサイト、『インテリニュース』(11月6日)は、「ウクライナ戦争の終わりの始まり?」と題する記事で、「西側のウクライナ疲れは半年前から始まっていたが、反転攻勢への期待があったため、抑えられた。しかし、反攻が何ら進展をみなかったことで、停戦論が浮上している」「ゼレンスキーが昨年4月に和平に持ち込むことを検討したことは正しかった。今、クレムリンに交渉を持ち掛けても、一蹴されるだろう。時はロシアに味方する」と分析した。
英紙『テレグラフ』(11月4日)は、「ウクライナの現在の軍事力では、ロシアが厳重に構築した防衛網を突破する見込みはなく、反攻作戦は萎縮している。ロシアは間違いなく、消耗したウクライナ軍に対して再攻勢を準備している」とウクライナ軍が悲惨な状況に追い込まれかねないと指摘した。
同紙は、米国が長射程地対地ミサイル「ATACMS」の供与を10月まで実施しなかったり、F16戦闘機の供与を遅らせるなど、優柔不断な対応を続けたことが反転攻勢不調の理由だとし、「現状では、プーチンが勝利を手にする。これを打破するには、ウクライナに制空権、戦闘技術、強力な大砲を与えることだ」と強調した。
米紙『ワシントン・ポスト』(11月5日)も、ウクライナ軍が今後、突破口を開く可能性は低いとし、昨年11月にロシア軍が南部ヘルソン市から撤収した時点が交渉のチャンスだったが、バイデン政権は何もしなかったと指摘。「長距離ミサイルの供与の遅れも含め、バイデン政権はウクライナで確固たる対応を取らなかった。官僚的な惰性や、戦況がエスカレートするリスクへの懸念があった」と分析した。
パレスチナとウクライナの二つの戦争への対応をめぐり、米国内でバイデン外交への批判が高まりつつある。
ただし、首都キーウの外交筋は、一連の報道について、「長期戦がロシアを利する要素はあるが、ウクライナ軍内部に乱れはなく、反転攻勢は続く。ザルジニ―総司令官らの発言は、航空戦力、地雷撤去など西側に支援の足りない部分を列挙したものだ。ドイツ政府も援助の倍増を決めた」と述べ、誇張が多いと指摘した。
プーチンはバルダイ会議で「西側との戦争」を強調
ロシアの通信社は、ウクライナの苦境を伝える欧米の報道を細大漏らさず転電し、ロシアの優位を印象付けている。ウラジーミル・プーチン大統領は10月のバルダイ会議で、「6月に開始されたいわゆる反攻作戦で、推定9万人以上のウクライナ兵が死傷した。作戦は失敗に終わった」と強調した。
開戦から1年9カ月を経て、戦争目的をめぐるプーチン発言も変化してきた。
開戦演説では、「ドンバス地方の親ロシア系住民を虐殺から守る特別軍事作戦」「ウクライナのネオナチに代わる非武装中立の新政権樹立を目指す」としていた。
しかし、今年2月の年次教書演説では、「この戦争は、西側が仕掛けた2014年の軍事クーデターで始まった」「ウクライナとの戦いというより、背後にいるNATO(北大西洋条約機構)との戦いだ」などと語った。
さらに、10月のバルダイ会議では、「西側は何世紀にもわたり、植民地主義と経済的搾取で途上国を蹂躙した」「この戦争は、より公平な国際秩序を作るための戦いだ」と述べ、BRICS諸国とともに、新国際秩序を目指すと強調した。ロシア側のナラティブ(物語)は、限定軍事作戦から「西側との戦争」へと変質しており、長期戦の構えのようだ。
停戦交渉について、プーチン大統領は「ウクライナが東部・南部の4州をロシア領と認めることが停戦の条件」としてきた。バルダイ会議では、「ロシアは世界最大の領土を持つ国であり、これ以上新たな領土は求めない」とも述べた。
ロシアの独立系世論調査機関、レバダ・センターによれば、プーチン大統領が4州確保を前提に停戦を提案すれば、70%が支持すると回答しており、ロシア世論にも戦争疲れの兆しがみられる。
中国が仲介に登場との予測も
これに対し、ゼレンスキー大統領は昨年11月のビデオ演説で、ロシアとの和平交渉再開の条件として、1領土の回復、2国連憲章尊重、3損害賠償、4戦争犯罪者の処罰、5ロシアが二度と侵攻しないという保証――の5項目を要求した。
この基本方針は1年後の現在も変わっていないが、反転攻勢の不調、欧米の支援疲れ、国内の疲弊といった新情勢の下で、今後停戦交渉に乗り出す可能性もないとは言えない。「すべての領土奪還まで戦争遂行」を支持する国内世論は、昨年前半は90%に達したが、最近は60%台に低下している。
仮にロシア・ウクライナ間で和平交渉が行われるなら、領土の線引きと戦後ウクライナの安全保障が最大の焦点になろう。
ロシアは既に、クリミアと東部・南部4州をロシア領と憲法に明記しており、占領地を手放すことは考えられない。ただ、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は新しい国境線について、「東部ドネツク、ルハンスクは州全体がロシア領。南部ヘルソン、ザポリージャ両州の境界は住民と協議して決める」と述べたことがあり、南部2州で一定の譲歩を行う可能性もある。
いずれにせよ、和平交渉に応じるなら、ウクライナ側は領土割譲を受け入れるかどうか、苦渋の選択を強いられそうだ。
戦後の安全保障では、ウクライナは既にNATO加盟を申請している。ロシアは停戦によって時間稼ぎをし、再度侵攻する可能性があるだけに、安全確保にはNATO加盟が最も有効だ。しかし、ロシアはこれに猛反発するほか、NATO内部に反対論、慎重論もある。
仮に和平交渉が始まっても、交渉は難航し、長期化しそうだ。和平工作に際しては、「欧米とロシアはウクライナ戦争で疲弊しており、中国が満を持して仲介に登場し、超大国としての台頭を狙う」(エドワード・サロ米アーカンソー州立大准教授、『ナショナル・インタレスト』誌、11月7日付)との予測も出ている。
●核禁条約会議 日本の不在理解できぬ 11/30
核兵器禁止条約の第2回締約国会議が米ニューヨークの国連本部で開幕した。被爆者が核戦争の危機を訴えた場に、唯一の戦争被爆国であり、核廃絶を唱える日本政府代表の不在は理解できない。政府にはまず会議にオブザーバー参加するよう重ねて求めたい。
長崎で被爆した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の木戸季市(すえいち)事務局長(83)=岐阜市=は会議で、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦に触れ「核戦争が起きれば死の世界が残るだけだ」と警告した。
日本政府は「条約に核兵器国は1カ国も参加していない。核兵器国を関与させる努力をしなければならない」(松野博一官房長官)として、昨年6月の第1回会議に続き、今回も参加を見送った。
核禁条約は、核兵器の保有や開発、使用、威嚇を禁じる。日米安全保障条約で米国の「核の傘」に依存する日本政府は、核禁条約に署名する考えはないとしている。
ただ、条約上の義務も議決権もないオブザーバー参加は直ちに可能だ。政府が核禁条約の実効性に疑義があるなら会議で発言すべきだ。それこそが核保有国と非保有国の「橋渡し役」ではないか。
オブザーバー参加が核抑止力を損なうと考える理由も乏しい。日本同様、米国の核抑止力に頼る北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツやベルギー、ノルウェーもオブザーバー参加した。
岸田文雄首相は核廃絶への「唯一の現実的な道」として核拡散防止条約(NPT)を重視するが、米ロ中英仏の核保有国が参加するNPT再検討会議は決裂が続く。米ロの核軍縮枠組みは崩壊に向かい、非加盟国の核保有も進む。NPTこそ実効性が揺らぐ。
一つの国際枠組みに固執しても核軍縮を進められまい。日本政府はあらゆる機会、手段を利用して核廃絶を訴えるべきである。
首相は核禁条約を「核兵器のない世界への出口ともいえる重要な条約」と評価するが、就任から2年を経てもオブザーバー参加に踏み出そうとしないのでは、核廃絶にかける熱意を疑うほかない。
●核兵器禁止条約締約国会議 鈴木市長が「長崎を最後の戦争被爆地に」 11/30
アメリカ・ニューヨークの国連本部で開かれている核兵器禁止条約の締約国会議で長崎市の鈴木市長や高校生平和大使などがスピーチし、核兵器の廃絶を訴えました。
長崎市 鈴木史朗 市長「私は約束します。世界中の誰にも二度と同じ体験をさせてはならない、との被爆者の思いを受け継ぎ、長崎を最後の戦争被爆地にするために」
長崎市の鈴木市長はロシアによるウクライナ侵攻や、中東の軍事衝突が深刻化する中、核兵器の使用が現実的な選択肢として示唆されている、と懸念を示しました。
その上で78年前の原爆投下によって何が起きたのか原点に立ち返り、世界全体で核兵器の問題に向き合うべきなどと訴えました。
鈴木史朗 市長「核兵器が人間にもたらす結末を知ることが核兵器のない世界への出発点であり、世界を変える原動力にもなり得ると強く確信している」
また、長崎と広島の高校生平和大使や、長崎市出身で被爆三世の中村涼香さんもスピーチし、核兵器の廃絶に向けた具体的な行動などを呼びかけました。
●ロシア 東部で攻勢強める ゼレンスキー大統領は輸出継続を協議 11/30
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、東部ドネツク州で新たに集落を掌握したと主張し、東部では兵士の犠牲をいとわず攻勢を強めているとみられます。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、黒海に面した南部オデーサ州を訪れ、農産物などの輸出継続に向けた対策を協議しました。
ロシア国防省は29日、東部ドネツク州のバフムトに近い集落を新たに掌握したと主張しました。
ドネツク州でロシア軍は、バフムトの南にあるアウディーイウカに向けても部隊を進めている模様で、1日あたりのロシア兵の死傷者が900人を超えていると指摘されるなど、多くの犠牲を出しながら攻勢を強めているとみられます。
こうした中、ウクライナ大統領府は29日、ゼレンスキー大統領が南部オデーサ州を視察し、現地の軍の司令官らと戦況などについて話し合ったと発表しました。
ロシアがことし7月に農産物の輸出をめぐる合意の履行を停止したあと、オデーサ州の港湾インフラなどへの攻撃を繰り返してきたのに対して、ウクライナは、ロシア軍の艦船などを攻撃するとともに、黒海で臨時の航路を設けて農産物などの輸出を続けています。
ウクライナ大統領府によりますとこの日の会議では防空能力の強化や、黒海で船舶の航行を脅かしている機雷対策などについて話し合われたということで、ゼレンスキー大統領としては、農産物などの安定的な輸出を続けるために欧米の支援を得ながら黒海の安全を確保したい考えです。 
●プーチン氏、12月14日に年末会見 侵攻後初 11/30
ロシア大統領府は30日、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が来月14日に今年を振り返る記者会見を行うと発表した。プーチン氏による恒例の年末会見が開かれるのは、ウクライナ侵攻開始以降では初めて。
プーチン氏は例年、綿密に演出された行事を二つ開催している。一つは各地の市民から電話を受け付けて行う直接対話で、もう一つは数時間に及ぶことが多い記者会見だが、昨年はどちらも実施されなかった。
ドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道官は記者会見で「12月14日、ウラジーミル・プーチン大統領が今年の成果を総括する。ホットラインと大統領会見を組み合わせた形式になる」と明らかにした。
この年末会見の模様は、国営テレビで放送されるという。
ロシアでは来年3月に大統領選が予定されており、プーチン氏は来月にも出馬を表明するとみられている。
●プーチン大統領、キッシンジャー氏死去で弔意 「賢明な政治家」 11/1
ロシアのプーチン大統領は30日、亡くなったキッシンジャー元米国務長官のナンシー夫人に弔電を送り「賢明で先見の明のある政治家」だったと哀悼の意を表した。
プーチン氏は「ヘンリー・キッシンジャーの名は現実主義的な外交政策路線と切っても切れない関係にある。国際的な緊張の緩和と、世界の安全保障の強化に貢献した最重要のソ連・米国の合意の実現を可能にした」と指摘。
「私はこの深く非凡な人物と個人的に何度も交流する機会があった。私には間違いなく最良の思い出がある」と述べた。
キッシンジャー氏は1970年代に米ソの対話を推進し、両国初の重要な核兵器管理条約を導いた。
●キッシンジャー氏の訪中は100回超、習主席がバイデン氏に弔電… 11/30
中国国営新華社通信は、米国のヘンリー・キッシンジャー元国務長官の死去を受け、習近平(シージンピン)国家主席が30日、バイデン米大統領に弔電を送ったと伝えた。習氏は「深い哀悼」の意を表明し「中米関係の正常化に歴史的な貢献を果たした」とキッシンジャー氏の功績をたたえた。
中国は、1971年7月に極秘訪中し、米中国交正常化の道筋をつけたキッシンジャー氏を重んじてきた。中国外務省によると、キッシンジャー氏の訪中回数は100回を超え、歴代指導者と会見を重ねてきた。今年7月にも習氏と会談した。
習氏は弔電で、キッシンジャー氏を「中国人民の古くからの友人、良き友」と表現した。米中関係に関しても「卓越した戦略眼をもって、両国に福をもたらし、世界を変えた」と評価した。「中国は米国と共に両国民の友好事業を伝承し関係を健全で安定的に発展させていきたい」とも呼びかけた。
中国メディアも訃報(ふほう)を相次いで速報した。キッシンジャー氏は「中国人に最も親しまれている外国人の一人」(共産党機関紙傘下の環球時報)とされる。
一方、ソ連の後継国家ロシアのプーチン大統領は30日、キッシンジャー氏の追悼メッセージを発表した。1972年に米ソが締結した第1次戦略兵器制限条約(SALT1)を念頭に「一時は、国際社会にデタント(緊張緩和)を実現し、ソ連と米国の間に最も重要な合意をもたらした。世界の安全強化に寄与した」と評価した。
●ロシア軍撤退まで停戦せず ゼレンスキー大統領会見 11/30
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、共同通信などアジアの一部メディアと首都キーウ(キエフ)の大統領府で会見し、ロシアがウクライナから部隊を撤退させない限り、停戦に応じないと明言した。欧米では停戦を探る動きもあるが、ゼレンスキー氏は否定。中東パレスチナ情勢が緊迫し、侵攻への関心が低下していることへの懸念を示した。来年2月に東京で開かれる日ウクライナ経済復興推進会議の成果に期待を示した。
ゼレンスキー氏はロシア軍が撤退しないままの停戦は「紛争の凍結」に過ぎず、ロシアは時間を稼いで戦力を回復した後、領土を奪うため再び攻撃を仕掛けてくると主張。「ロシアは平和を望んでいない」と述べた。
欧米で広がりつつある停戦論に関しては「手を切り落として他人に渡すような案」しか見たことがないと批判し、領土を割譲してまで和平を求める考えはないと断言した。
ロシアのプーチン大統領については「貪欲で常に飢えている」「ソ連がかつて有していた影響力を取り戻すことを目標としている」と分析した。
●フィンランド、対ロシア国境の最後の検問所閉鎖 30日に 11/30
フィンランド政府は30日までに、ロシアとの国境線上で業務を続けていた最後の検問所を同日午前0時に閉鎖すると発表した。今年12月13日までの措置。
フィンランドのオルポ首相は報道発表文で、「ロシアは人々を利用し、厳冬のフィンランド国境に誘導している」と批判。「この現象を終わらせる」との決意を表明した。
ロシアからフィンランドへの越境者は、ロシアによる昨年のウクライナ侵攻やフィンランドが今年、北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことを受け増加していた。同国のランタネン内相は報道発表文で、東部のロシアとの国境線の全てを閉鎖することが必要と主張。
「全面閉鎖はフィンランドの国家安全保障をロシアによる(軍事力と非軍事力を融合させた)ハイブリッド作戦から守るために決められた」と強調した。
フィンランドとロシアの国境線は約1336キロに達する。多くの西側諸国はウクライナ侵略に反発してロシアの航空機を自国の領空や国境線から締め出している。この中でフィンランドの国境検問所はロシア人にとって通行可能な数少ない場所の一つとなっていた。
ロシアのグルシコ外務次官は28日、フィンランドによる全検問所の閉鎖は同国国民に有害な措置であり、不合理であると非難した。
フィンランド政府は今月16日、ロシアとの国境の4カ所にある検問所の一時閉鎖を発表。対象期間は今週から来年2月までで、不法越境を封じ込めるための対策としていた。
フィンランド内務省によると、東部国境線の検問所経由でビザも保持せず同国に入国した第三国の外国人は今年8月初めからこれまで約1000人に達した。大半がフィンランドで亡命を申請したという。
同国は昨年9月末にもロシアとの国境を閉鎖していた。ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦線での兵員補充を狙って打ち出した数十万人規模の「部分的な動員令」から逃れるため、検問所を通行するロシア人が増えたことが背景にあった。1日だけで8500人以上のロシア人が越境する事例もあったという。
フィンランドの国境警備隊は今年初期、東部のロシアとの国境の一部区間でフェンスを試験的に設置する工事に着手してもいた。
●スウェーデンのNATO加盟に土壇場の抵抗 トルコ、外相理事会で 11/30
29日にブリュッセルで閉幕した北大西洋条約機構(NATO)外相理事会では、昨年5月に加盟申請をした北欧スウェーデンを正式な加盟国として迎えることができなかった。加盟31カ国のうちトルコとハンガリーの批准が完了しなかったためで、加盟国の間にはウクライナ戦争の長期化やロシアの脅威増大をにらんで焦燥感も漂いつつある。
NATOのストルテンベルグ事務総長は外相理事会が閉幕した後の記者会見で「スウェーデンを迎えることは同国およびNATO同盟国にとって良いことだ」と述べ、正式加盟は「早ければ早いほど好ましい」と強調した。
ストルテンベルグ氏やスウェーデンのビルストロム外相によれば、ハンガリー政府高官は「わが国が最後に批准することはない」と繰り返し主張したとされ、加盟国の間ではトルコが批准に動くかどうかが最終的な流れを決めるとの見方が支配的となっている。
トルコのエルドアン大統領は、スウェーデンが国内で少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)の活動を容認しているとして、同国のNATO加盟に難色を示してきたが、今年7月に従来の立場を覆してスウェーデンのNATO加盟に同意する意向を示した。
エルドアン氏は10月23日に批准のための議定書をトルコ議会に送付したが、議会では一部の議員が引き続き加盟に否定的で、採決に至っていない。
スウェーデンはトルコの要請を受けてテロ対策を強化しているほか、トルコとテロ対策を巡る閣僚級会合を毎年開催することでも合意した。トルコへの武器禁輸も緩和した。
また、NATOはトルコの意向を受けてテロ対策特別調整官のポストを10月に新設した。NATO加盟国のうちオランダもトルコへの武器輸出規制を解除したほか、カナダは無人機部品の輸出規制解除に向けた協議を再開することでトルコと合意するなど、NATO全体でトルコの批准を促す動きを強めてきた。
ビルストロム氏は今月29日、NATO外相理事会の場でトルコのフィダン外相と会談し、「トルコは数週間以内に批准するだろう」との見通しを伝えられたと記者団に語った。
ところがトルコ外交筋はロイター通信に対し、批准は議会次第と指摘しただけで、時期的な見通しには言及しなかったとして発言を否定しており、いつ批准できるかは見通せない。議会の与党がNATOから一層の譲歩を引き出したい思惑から採決を遅らせている可能性も指摘されている。
●キッシンジャー現実主義の功罪 11/30
キッシンジャーが100歳の生涯を終えた。東西冷戦下の1970年代、中ソ緊張に着目して北京と極秘交渉し、中国との国交正常化を導いたほか、ベトナム戦争の和平や第4次中東戦争の停戦を仲介。抑止を最大の目的とした現実主義外交を切り開いた。「ニクソン・ショック」と呼ばれた対中姿勢の転換は今日の中国の覇権主義を助長する関与政策の源流にもなり、「最も評価が分かれ、影響力ある外交家」(米紙)だった。
「われわれは外的な状況を選ぶことはできないが、それらにどう対処するかは常に選ぶことができる」
古代ギリシャの哲学者エピクテトスを引き「指導者の役割は選択とその遂行に人々を導くこと」と述べたのは最後の著作「リーダーシップ」。現実主義外交を簡潔に表す遺言だった。
ナチスドイツの迫害から米国に逃れた過去を持つキッシンジャーが外交の最前線に立ったのは69年、共和党のニクソン政権の大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に就任したときだ。
「直面する試練が欧州、中東、東南アジアの3つの戦略的領域で作られ始めた」とキッシンジャーは回想する。ウクライナ、イスラエル、台湾海峡の3正面で脅威と対峙(たいじ)する今日と匹敵する分断世界。キッシンジャーは、ソ連と対立を深める中国に接近すれば対ソ関係で優位に立ち、泥沼化したベトナム戦争終結の糸口にもなるとの判断から、71年に極秘訪中した。
ニクソンは同年の演説で、自らの訪中と対中政策の見直しを電撃発表。米国とともに台湾と外交関係を維持してきた日本など世界に衝撃を与えた「ニクソン・ショック」を振り付けたのはキッシンジャーだった。翌72年2月にニクソンは北京を訪問し、上海コミュニケ(米中共同声明)で「一つの中国」政策を表明。79年の国交正常化に至る。
73年には、南ベトナムからの米軍撤退で合意したパリ和平協定締結の立役者となり、ノーベル平和賞を受賞。同年、ソ連を後ろ盾としたエジプトなどアラブ側とイスラエルとの第4次中東戦争が勃発すると、関係国間を行き来する「シャトル外交」で停戦にこぎつけた。
フォード政権の国務長官だった77年に退くまで8年間世界を駆け回ったキッシンジャーの目標は、勢力均衡による第三次大戦の回避であり、価値観を異にする相手の懐に飛び込んだ。その後、西側は中国を自由主義市場に抱き込む関与政策を続けた。それを生かして急成長をとげた中国は核を含む軍事力を増強し、台湾侵攻をもくろむ。
キッシンジャーは昨年2月の行事で、米中間の「抑制された行動と平和的対話が国際秩序の鍵」だと語ったが、中国の覇権主義に対する批判は抑えた。対照的に晩年のニクソンは「われわれは(中国という)フランケンシュタインを作り出してしまった」と元スピーチライターに述懐した。「ニクソン・ショック」を起点に力と野心を肥大化させた中国との新冷戦に打ち勝つ選択肢を、キッシンジャーに聞いてみたかった。
●日本で報じられぬプーチンの「北方領土」観光地化 年間9万人近いロシア人 11/30
ロシアによる不法占拠が続く北方領土。そんな我が国固有の領土の「返還」は、叶わぬ夢に終わりそうです。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、北方領土支配の既成事実化を進めるロシア政府のさまざまな手口を紹介。さらにこの先、「北方領土はロシア領」とする国際的意見が広がる可能性を懸念しています。
ウクライナ戦争からもうすぐ2年。これまでになく遠くなる北方領土
筆者はこの秋、仕事仲間の誘いを受け、根室と知床半島を訪問した。特に、知床半島の羅臼側からは北方四島で最も人口が多い国後島が目の前に映る。北海道側から国後島まで最も短いところだと16キロほどしかなく、船ですぐに行けるところだ。しかし、そこには“超えられない分断”があり、以前に筆者が知床半島を訪れた時よりも、その分断は明らかに大きくなっているように感じた。
来年2月で、ロシアがウクライナに侵攻してから2年となる。侵攻直後から、日本はロシアの侵略を強く非難し、欧米と足並みを揃える形で経済制裁を強化し、日露関係は冷戦後最悪なレベルにまで冷え込むこととなった。ロシアに進出していた日本企業も相次いでロシア市場から撤退し、その冷え込みは2年が経つ今日でも続いている。そして、それによって日本外交の悲願である北方領土の返還は夢のまた夢となり、ウクライナ侵攻によって最短16キロほどの間を大きな壁が遮ることとなった。米国や中国、ロシアなど大国間対立が激化する中、北方領土は民主主義と権威主義の最前線にあると言えよう。
北方領土は地理的には北海道の目の前に位置しているが、政治的には日本にとってこれまでになく遠いものになっている。そして、プーチン大統領はそれを利用する形で、北方領土の経済的、軍事的な既成事実化を積み重ねている。
国民の北方領土訪問を促進し「ロシア化」押し進めるプーチン
最近、モスクワなどではシベリアやロシア極東の観光や自然をアピールする催しが積極的に開かれている。ウクライナ侵攻により、欧米諸国を中心にロシアへの経済制裁が強化されるなか、海外旅行するロシア人の数は大きく減少傾向にあるが、プーチン大統領はそれを上手く利用した。すなわち、海外旅行は難しいが国内旅行はどうですか?と国民にロシア極東地域の国内旅行を強く推奨し、その中で国民の北方領土訪問を促進し、北方領土のロシア化をいっそう押し進めているのだ。
たとえば、ロシア観光当局は国後島や択捉島の温泉や海岸、山々の魅力を積極的にアピールし、北方領土とサハリンを結ぶフライトを増便するなどし、現地を訪れるロシア人の数は近年増加傾向にある。国後島や択捉島には豪華なホテルや温泉施設も建設されるなど観光化が進み、2021年には8万3,000人、去年には8万8,000人あまりのロシア人が北方領土を訪問し、今後も増加するとみられる。
また、今後は中国との共闘関係も利用し、北方領土の開拓をいっそう強化すべく、中国企業を積極的に誘致し、中国人の北方領土観光も現実味を帯びてくる可能性があろう。
中国に人民解放軍の北方領土駐留を打診する可能性も
そして、ロシアは軍事的地固めもいっそう強化している。今年4月、ロシア軍は択捉島周辺の海域でミサイル射撃訓練を含む大規模な軍事演習を行い、2万5,000人あまりの兵士が参加した。この訓練では、敵対国が択捉島などに海上侵攻することを想定した防衛訓練が行われたというが、既にロシア側には日本との領土紛争はないという認識だろう。
ウクライナ侵攻直後の2022年4月には、国後島と択捉島にある2か所軍事演習場で、対戦車ミサイルシステムや自走砲などの実弾発射を行う軍事訓練が行われ、1,000人以上が参加し、その前月にも軍事訓練が行われ、その時は3,000人あまりが参加した。去年3月末には、根室市の住民から相次いで地鳴りのような音がし、海の向こうから赤い光のようなものが見えたとする通報が海上保安庁や警察に相次いだ。近海をパトロールする海上保安庁は、国後島から照明弾のような光が複数回確認されたと発表し、ロシア側からは国後島南東部で射撃訓練を行うとの連絡があったとされる。
今後、米国と中国、ロシアを巡る大国間対立がいっそう激化すれば、中国を共闘パートナーとするロシアは、人民解放軍の北方領土駐留などを中国側に打診する可能性も十分に考えられよう。
ウクライナ侵攻以前から、プーチン大統領は北方領土で既成事実化を進めてきたが、侵攻による日露関係の悪化により、プーチン大統領は北方領土問題で日本側に聞く耳を持たなくなっている。これは今後も続くだろう。ウクライナ侵攻により、我が国固有の領土である北方領土はこれまでになく遠い領土になっている。そのうち、北方領土はロシア領だとする国際的意見が広がるかも知れない。
●ウクライナ東部ドネツクに砲撃、子ども含む10人負傷=内相 11/30
ウクライナのクリメンコ内相は30日、東部ドネツク州が夜間にロシア軍のミサイル攻撃を受け、10人が負傷し、5人ががれきの下敷きになっているようだと明らかにした。
州の3つの集落がミサイル6発の砲撃を受けたと通信アプリ「テレグラム」に投稿した。
負傷者には4人の子どもが含まれているという。
 
 

 

●ロシア最高裁、LGBTQの運動を「過激派」認定し禁止に… 12/1
AP通信によると、ロシアの最高裁判所は11月30日、性的少数者(LGBTQ)の権利を訴える市民運動を「過激派」と認定し、禁止する判決を下した。プーチン政権はLGBTQの権利を訴えるデモを「伝統的価値を破壊する欧米の思想」と批判しており、さらに規制を強める構えだ。
露法務省が「過激派」の認定を申し立てたことに基づき、最高裁は非公開で審理を行った。具体的にどんな行為が禁止されるかは明らかではないが、活動への参加や資金提供などが対象になる可能性がある。
ロシアの憲法は「結婚は男女の結びつき」だと明記している。AP通信によると、同性婚を認めていないロシア正教の報道担当者は、判決に関して、「社会による道徳的な自己防衛だ」と述べて賞賛したという。
判決について、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「恥ずべきことでばかげている」とし、差別につながる恐れがあると警告した。ロイター通信によると、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官も判決の撤回を求めた。
●プーチン氏の「変態」発言? ロシア性的少数者人権運動に「過激派」レッテル 12/1
ロシア最高裁が性的少数者の人権運動を事実上不法化したと外信が伝えた。
30日(現地時間)、AP通信によると、ロシア司法省はLGBTQ+など性的少数者の人権運動に関連して今月上旬に始まった訴訟で「社会・宗教的不和を扇動する」とし「過激主義的な兆候と表現を確認した」と明らかにした。
裁判所判決により「過激派」に規定された性的少数者人権運動はロシアで禁止される見通しだ。
最高裁は該当の訴訟審理を被告人なく非公開で行ったが、一部の性的少数者活動家はこの訴訟が自分たちの権利と関連があるとして訴訟当事者になろうとしたが裁判所がこれを受け入れなかった。
ロシアの人権弁護士マックス・オレニチェフ氏は「司法省が存在さえしない『国際市民性的少数者運動』過激主義のレッテルを貼った」とし「ロシア当局はこの判決を根拠にロシアでのLGBTQ+運動をこの『運動』の一部と見なして取り締まりに出るだろう」と指摘した。
プーチン大統領は「伝統的家族価値」を統治の礎石としており、ロシア政府は昨年2月ウクライナの侵攻以降、西側が同性愛を強要していると批判し、伝統的価値を守らなければならないと強調していた。
プーチン大統領は昨年9月「ロシアで『ママ』と『パパ』の代わりに『親1号』『親2号』『親3号』と呼ばれたいのか。ロシアの小学校で退化と絶滅につながる変態が拡散するのを望むのか」と発言した。
また今年7月には公式文書と公共記録上の性別変更と性転換のための医療的介入を許さない内容の法律にも署名した。
●ロシア 性的マイノリティー支援運動関係者の国内活動禁止に 12/1
ロシアの最高裁判所は、性的マイノリティーの人たちを支援する国際的な運動の関係者を「過激派」と認定し、ロシア国内での活動を禁止しました。プーチン政権が締めつけを強化する動きとみられ、国連は懸念を強めています。
ロシアの最高裁判所は、先月30日、性的マイノリティーの人たちを支援する国際的な運動の関係者を「過激派」と認定し、ロシア国内で活動することを禁止する決定を出しました。
ロシアのインターファクス通信は「性的マイノリティーについて関心を呼び起こしたり、活動に関与したりすることを確実に禁止するのが目的だ」と伝えています。
ロシアで来年3月に行われる予定の大統領選挙に立候補するとみられるプーチン大統領は、伝統的な価値観の重要性を訴えて選挙活動を行うという見方が出ています。
今回の決定は、これを前に性的マイノリティーの人たちへの締めつけを強化する動きとみられます。
ロシアでは去年、法律の改正で同性愛に関する情報の発信や公共の場での活動が規制の対象となるなど、多様性を排除する動きが強まっています。
国連人権高等弁務官事務所のシャムダサーニ報道官は30日、ロイター通信のインタビューで「基本的人権のさらなる抑圧だ」と非難した上で「何が国際的な運動と定義されるのかも不明確で、悪用される可能性がある」と強い懸念を示しました。
●孤立したロシア…欧州安全保障協力機構で演説が始まると各国代表者退場 12/1
ロシアのラブロフ外相が欧州安全保障協力機構(OSCE)長官会議に出席し、約15分間演説を行ったが、各国代表団が退席するなど、露骨に不満を示した。
英ガーディアン紙によると、30日(現地時間)、北マケドニアの首都スコピエで開かれたOSCE長官会議でラブロフ長官は「OSCEは北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の付属物に転落した」とし、「現在、OSCEは崖っぷちに立たされており、西側がこの機構を復活させる機会をなくしている」と指摘した。
ラブロフ長官の演説が始まると、数人の代表者が退席した。ロシアと戦争を行っているウクライナをはじめ、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト3国は当初、循環議長国の北マケドニアがラブロフ長官を招待したという事実が伝わると、これに反発して一斉に不参加を宣言した状態だった。
ラブロフ長官も15分間演説した後、会議場を出た。北マケドニアはNATO加盟国で、ラブロフ長官がNATO国家を訪問したのは昨年2月のウクライナ侵攻以来、初めて。
AFP通信は、今回のOSCE長官会議はロシア問題に包まれたと伝えた。各国代表団がラブロフ長官の出席について露骨な不満を示したためだ。これに先立って、ブルガリアはOSCE長官会議に参加するためにラブロフ長官が乗った飛行機の領空通過を拒んだ。
ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表は前日、「ラブロフはロシアがなぜ非難され孤立したのか、皆の話を改めて再び聞くべきだ」とし、「その後、クレムリン宮殿に戻り、クレムリン宮殿の主人(プーチン大統領)にEUとOSCEが声を一つにしてロシアの攻撃的かつ不法な行動を糾弾していると報告できるだろう」と述べた。
●消耗激しいウクライナ軍、戦争長期化で動員に不公平感も 12/1
ウクライナで人事マネジャーの仕事をしているアントニーナ・ダニレビチさん(43)の夫は、昨年3月に軍に入隊して以来、休暇を取得して自宅に帰ることができたのは合計わずか25日程度しかない。2人の娘は、父親にほとんど会えないまま育っている。
ダニレビチさんは首都キーウの自宅で受けた取材で「私たちはウクライナに勝利してほしい。でもいつも同じ人たちの努力で成し遂げられるのは望まない」と語り、現在兵役に就いている人々を交代させて、彼らに休息を与えるべきだと自分は理解できるが、それが分からない人もいると嘆く。
また、留守を預かる女性たちはたくましくならざるを得なくなったとはいえ、「一体どんな犠牲を払って強くなったのだろうか」と問いかけた。
ロシアとの戦争が2年目に突入している今、ダニレビチさんだけでなくウクライナ各地の家族が、戦争は当初予期したよりもずっと長引き、犠牲も大きくなるばかりか、勝利の保証もないという厳しい見通しに直面している。
そしてこの秋、ダニレビチさんを含む2万5000人が、ゼレンスキー大統領宛ての嘆願書に署名した。求めているのは、兵役期間を無制限にせず、軍が退役期日を明確に示すことだ。最近数週間では、キーウの主要な広場でそうした要求を掲げた50─100人のデモが2回発生し、ウクライナ軍の消耗の激しさや残された家族の負担の大きさが浮き彫りになった。
夏場にウクライナ軍が開始した大規模な反転攻勢は、今のところ戦局の逆転につながっていない。ウクライナとロシアの両軍は、各戦線でおおむねこう着状態に陥っており、ウクライナに対する外国の武器支援もこれまで通りの規模で実施されるかどうか不透明になってきた。
ウクライナにとっては、米国や他の同盟国による多額の軍事支援が頼みの綱だが、手元の武器弾薬は枯渇しつつあるのに、各国は従来のレベルでの支援を継続する熱意を失ってきている。
こうした中でダニレビチさんらの要求を受けて厳しい選択を迫られているのがウクライナの戦争計画担当者だ。戦死者が着実に増えている以上、より強大なロシアを倒すためには絶え間なく新兵を戦場に送る必要がある半面、疲弊する経済を何とか切り盛りするための要員も確保しなければならないからだ。
ウクライナでは現在、当局が動員できる年齢は27歳から60歳までで、18歳から26歳は招集対象ではなく、あくまで志願者のみを入隊させている。
これまで同国は予備役を含めた総兵力を100万人前後と公表し、兵役対象年齢の国民が外国に渡航するのを禁止している。個別の動員計画の人数や戦死者は明らかにしていない。
徴兵逃れ
ウクライナ軍総司令官は今月、ロシアに有利な消耗戦に引きずり込まれないようにするための戦略として予備役の拡充や、電子戦、無人機、対砲兵などの分野での能力強化を挙げた。同時に、徴兵逃れを許している法の抜け穴をふさぐことも提言した。
ただ徴兵手続きに関しては、当局が動員したい男性を無理やり連行したり、脅したりする様子がソーシャルメディアに投稿され、国民の批判を浴びている面がある。
当局者が徴兵の「目こぼし」をするために賄賂をもらっている幾つかのケースも多くの国民を怒らせ、ゼレンスキー氏が担当幹部を更迭する事態になった。
ルーマニア国境沿いのティサ川では、かつてタバコの密輸を取り締まっていたウクライナの国境警備隊が、今は徴兵を逃れて国外に出て行く人々に目を光らせている。
国境警備隊はロイターに、これまでにルーマニアに渡ろうとした約6000人を拘束したと明かした。渡河中に溺死した人も少なくとも19人いたという。
対応策
ウクライナ議会は、合法的に招集から外れる手段として30歳以上の人が高等教育機関を利用するのを禁止する法案を審議している。
教育相による9月のフェイスブックへの投稿によると、ロシアがウクライナに侵攻した昨年、大学生として登録された25歳以上の人数は前年比で5万5000人も増加したという。
一方、西側諸国からは、ウクライナは徴兵対象年齢を引き下げるべきだとの声が出ている。
ウォレス前英国防相は、前線で活動するウクライナ軍兵士の平均年齢が40歳を超えており、動員を見直す時期だと指摘。英紙テレグラフへの寄稿で「将来ある若者を温存したいというゼレンスキー氏の願いは分かる。だがロシアがひそかに総動員に踏み切りつつあるというのが事実だ」と述べた。
ゼレンスキー氏の側近議員の1人は23日、議会が動員計画の改善と復員手続きに関する法案を年内に策定する方針だと語った。この法案は、丸2年ずっと交代なしで戦闘に従事する兵士の扱いや、捕虜となって帰還した兵士の復員方法に加えて「徴兵年齢に関するさまざまな事項」にも対応するという。
●米空軍長官も“宣戦布告” 米中が火花を散らす「AI搭載無人戦闘機開発」 12/1
ウクライナ戦争やガザ紛争などで軍事用ドローンが数多く投入されているなか、米空軍のケンドール長官から「AI搭載の無人戦闘機開発」に意欲を燃やす、かなり踏み込んだ発言が飛び出した。米中が火花を散らすこのステージで、完全に周回遅れ状態の日本はどう対処していくのか?
無人戦闘機の開発が進むアメリカ
「開発中の次世代戦闘機とF-35ステルス戦闘機、B-21新爆撃機を購入するだけでは空軍を維持できない。少なくとも1000機規模の戦闘機を手頃な価格で購入し、配備することが必要だ。CCA(Collaborative Combat Aircraft=有人戦闘機とともに戦う無人戦闘機)はそのために設計された」
ワシントンDCの「新アメリカ安全保障センター」で、米空軍のフランク・ケンドール長官がこう語ったと米軍事専門ニュースサイト「ザ・ウォーゾーン」が報じたのは11月13日のこと。
この長官発言は近い将来の米空軍のあるべき姿の“一里塚”を明確に示したものと言っても過言ではないだろう。ケンドール長官のCCAに関する主要な発言は以下のとおりだ。
⦁ 現在、ロッキード・マーチン社製の改造されたAI搭載F-16(パイロットなし)を使った自律性開発と、ボーイングが進める同じくAI搭載のMQ-28ゴーストバットなどで有人機との運用をテスト実験中(上写真参照)である。
⦁ CCAは5年以内にできるだけ早く生産する。計画は1000機だが、それ以上になる可能性が非常に高い。
⦁ 予想コストはF-35戦闘機(A型からC型まで約85〜110億円)の「4分の1から3分の1」程度になる。
⦁ 有人戦闘機の前方もしくは随伴して飛行するため、作戦に合った航続距離とペイロード能力を持つドローンとなる。
⦁ CCAは現在の戦闘機が搭載するシステムをフル装備するわけではない。ある機体は武器を搭載し、ある機体は偵察や索敵のセンサーなどの他のシステムを搭載する。
これまで米空軍幹部がCCAのコストや生産機数までを具体的に言及したことはなかった。すでにウクライナ戦争やガザ紛争などでドローンが数多く投入されているとはいえ、さらに一歩進んで、有人機とともに戦うAI搭載の無人戦闘機開発に意欲を燃やすケンドール長官の発言を聞き、SFではない現実味を感じるのは私だけだろうか?
近い将来、「無人機空母」も登場か
無人機だけではない。近い将来、「無人機空母」も登場しそうだ。洋上で揺れる空母に短い距離で発着艦するのは一番の難関だ。先ごろ、インドやトルコが無人機を空母や揚陸艦で運用する計画を公表したが、無人機開発で世界の最先端を行くアメリカが遅れを取るはずがない。
11月17日には米東海岸での実験で、イギリス海軍の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」から軍用無人機「モハベ」を見事に発着艦させ、いち早く実用化への目途をつけたのだ。
「モハベ」は米国ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)が開発した短距離離着陸(STOL)機能を持ち、F-35Bよりも大型で武器搭載量も多い。アメリカに続き、イギリスでも空母に搭載する予定のF-35B飛行隊の一部を無人機で代用する動きが出ているというニュースもある。
前出のMQ-28ゴーストバットも一部報道によれば、英海軍空母向けにアピールしているという。同機はボーイングがオーストラリアと共同で開発した機体で、従来の無人機と異なって有人戦闘機と連携した作戦を行う性能を持つ。
今年3月にオーストラリアで実際に同機を取材したある軍事アナリストが言う。
「ゴーストバットは単なる無人航空機ではありません。AIを搭載し、機体先端部分を任務に応じて機器を交換できるモジュラーミッション・パッケージシステムを採用しており、偵察にも攻撃にも使えるCCAです。他の先進国の空軍がめざす無人機と有人機が連携して戦う次世代の航空戦に沿った兵器と言えるでしょうでしょう。
AUKUS(インド太平洋の安定をめざす米英豪の安全保障の枠組み)の一員であるオーストラリアは三カ国の緊密な連携や有事の統合作戦能力強化に務め、原子力潜水艦の配備計画、さらには極超音速兵器やサイバー分野での技術協力などを進めています。当然、米英が進める次世代航空戦での無人機の活用も必須となるわけで、オーストラリアが国産機としてのゴーストバットの開発に力を入れる理由もよくわかります」
完全に「周回遅れ」な日本の無人機開発
一方、わが日本はCCAの前段階となる無人機ドローンの開発でさえ、難航する始末だ。たとえば、2000年代には富士重工(現SUBARU)が偵察任務と火砲の着弾観測用として開発した「遠隔操縦観測システム」(FFOS&FFRS)を備えた無人機が部隊配備された。
ただ、これはひと言で言うと、大型ラジコンヘリのようなもので、その名が示すとおり30名以上の要員と6台もの管制車両が必要など、部隊展開の迅速性に欠けるという課題を抱えていた。
最先端まで到達しかけたせっかくの技術が水泡に帰してしまったこともある。2001年から10年間、偵察用として防衛装備庁(当時)と富士重工が開発してきた「多用途小型無人機」(TACOM)である。
「TACOM」は4号機まで製造され、その性能を徐々に高めていたものの、2010年7月に硫黄島での実験中にF-15から切り離された機体が海上で行方不明になるなどのトラブルに見舞われ、翌2011年に開発中止となってしまった。
技術開発に失敗はつきものだ。一度の失敗にあきらめることなく、官民あげて無人機技術を引き続き磨いていれば、米国やトルコ、イスラエルなどに頼らなくても「日の丸無人機」の開発に成功していたかもしれない
現状ではわが国にはようやく米国製無人機の輸入が開始された段階で、小型の偵察用「スキャンイーグル2」(2019年)、警戒・監視にあたる中型の「MQ-9Bシーガーディアン」(2023年)、大型の「RQ-4Bグローバルホーク」(2023年)の部隊配備がスタートしたばかりだ。
ドローン技術の革新で世界の戦場風景が変わりつつある昨今、これらの無人機から得られる「情報」をどのように利活用するのか、その運用方法を含めてアメリカから学んでいる最中だと言ってもよい。
前出の軍事アナリストがこうため息をつく。
「わが国では第1段階の無人機(ドローン)の導入が始まったばかり。ましてや、AIを搭載したCCAとなると、まだまだ構想の段階にすぎない。世界の最先端レベルと比べると、その技術開発は一周も二周も遅れていると言わざるをえません」(前同)
中国の攻撃型ドローンが日本の領海、領空に…
このままではCCAはおろか、無人機開発に対する日本の軍事テクノロジーは世界から取り残されることだろう。
その一方で、不気味な動きを見せるのが中国だ。アメリカ同様、無人機開発に力を入れる中国はドローンを大量に運用し、攻撃型ドローンを次々に投入している。そして、その多くが日本の領空・領海である南西諸島方面に繰り返し侵入しようとしている。
この中国無人機の動きに日本の自衛隊がいくら有人戦闘機で対応しようとしても限界がある。我が国は防戦一方なのが現実だ。しかも、そのうちに中国の無人機が知能の高いAIを搭載するのはほぼ確実で、そうなるとさらに対応は困難を極めるはずだ。
だからこそ、冒頭に登場したケンドール米空軍長官の「中国との高度な戦闘に勝利するためにはCCAプログラムが鍵を握る。コスト効率のよい十分な運用能力を持つ無人機をできるだけ早期に大量に配備しなければならない」という指摘が信憑性を帯びてくる。
AIで制御された無人戦闘機が空中戦に介入し、有人戦闘機とタッグを組んで戦う。そんなシーンはもうすぐ目の前にまで到来している。この流れに日本が遅れてはならない。
●親パレスチナと反ユダヤ抗議 フランスデモの分断と共通点 12/1
ガザ地区のイスラム武装組織ハマスがイスラエルを襲撃した10月7日以降、欧州各国でさまざまな緊張が高まっている。中でも、ユダヤとイスラム両教徒の人口が欧州でもっとも多いフランスでは、戦争や人質、人種差別や反ユダヤ主義の反対を訴える双方のデモ活動が繰り広げられてきた。
中東とは地理的に離れたフランスで、何が起きていたのか。なぜフランス人は、この問題に敏感に反応するのか。パリ市内の異なるデモに参加してみた。
禁じられた親パレスチナのデモ
フランスには、欧州最多約500万人のイスラム教徒がいるといわれている。一方、米国とイスラエルに次ぐ世界最大規模のコミュニティーを持つユダヤ教徒の数は、約50万人と推定される。
ハマスのイスラエル襲撃で、これまでに少なくとも40人のフランス人が殺害されている。当初は、世界中がハマスを非難し、イスラエルを擁護する報道が見られた中、フランス政府も、ユダヤ人に対する町中での人種差別攻撃などを危惧していた。
ダルマナン内相は、「公共の秩序を乱す恐れがある」との声明を発表し、パレスチナやハマスを支持するデモを禁止した。しかし、パレスチナの旗を持つ市民がパリ市内で抗議し、10人が逮捕された。10月12日、マクロン大統領は民放を通じ、「イスラエルの悲しみを分かち合う」と述べ、ハマスのテロリスト行為を非難した。
その後、イスラエルによるガザへの報復攻撃が進む中、フランス政府は、親パレスチナ派デモの禁止を継続させることもできなかった。10月22日、パリ市内の共和国広場には、約3万人(主催者発表、警察発表はその半数)のパレスチナ支持者が怒りの声を上げた。
〈パレスチナの子供たちへの殺戮を止めろ〉、〈虐殺、フランスは共犯者〉、〈子供たちへの爆撃は、自衛行為ではない。パレスチナを解放せよ〉、〈ネタニヤフ(首相)テロリスト、マクロン(大統領)共犯者〉、〈メディアは、反パレスチナ〉——。さまざまな抗議文を書いたプラカードを持つ参加者や、パレスチナの旗を振り続ける若者たちが共和国広場を埋め尽くした。
このデモに参加した唯一の政党は、極左「不服従のフランス」。ジャン=リュック・メランション党首はX(旧ツイッター)で、イスラエルを訪問していた国民議会のブロンピベ議長に対し、「殺戮を推進している」と書き込み、フランスのイスラエル支持を非難した。
また、同党のマニュエル・ボンパール議員も、ブロンピベ議長がXに掲載したイスラエル軍との写真を批判。「……議長は、戦争犯罪を犯す軍隊への支持を示すべきではない」と記し、「フランスは、即時停戦、人質解放、ガザ包囲中止を求めるべき」と訴えた。
反ユダヤ抗議に参列した極右ルペン
フランスでは、10月7日から1カ月の期間に、反ユダヤにまつわる行為が1000件以上、報告されていた。内務相によると、その数は、通常2年間で累積されるものだという。この事態を警戒し、上下院の議長やダルマナン内相らは、反ユダヤ主義を否定するデモ行進を呼びかけた。
11月12日、パリで10万5000人、その他の都市で数万人が参加し、フランス全土で合計18万2000人(内務省発表)が反ユダヤ主義に抗議するデモに参列した。前述の極左「不服従のフランス」は、「ガザ市民虐殺を支持しているデモ」と非難し、参加を拒否。国内で批判の的になった。
そんな中、極右「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首が姿を現したことが、この日の最大のニュースだった。反ユダヤや移民排斥のイメージを植え付けてきたルペン党首は、「われわれは、いるべき場所にいる」と述べ、国民やメディアの意表を突いた。
反ユダヤ問題の専門家、マルク・ノベル氏によると、過去20年間でフランス国外に移住したユダヤ人の数は6万7437人に上るという。その理由について、同氏は、『フィガロ・マガジン』に対し、こう語っている。
「そのうちの半数は恐れによるものだが、それは10月7日に起因するものではない。その恐怖は、2000年10月に始まった第二次インティファーダに遡る。イスラエル・パレスチナ紛争の緊張が高まると、フランスで反ユダヤ攻撃が増加するという決まりがある」
デモの先頭には、ニコラ・サルコジ氏やフランソワ・オランド氏といった元大統領らが〈共和国のため、反ユダヤ主義のため〉と書かれた横断幕を持って行進した。参加者たちも、〈反ユダヤ主義、人種差別、極右に反対〉と書いた旗を持ちながら歩いていた。ここに集まった市民が、ユダヤ人だけでなかったことが重要視された。
フェミニスト作家で哲学者のエリザベート・バダンテール氏は、これまでイスラム主義には口を閉ざしてきた。しかし、「ユダヤ人でない人々の反ユダヤ主義抗議の声は、貴重であり、必要不可欠だ」とフランス週刊誌『レクスプレス』に語っている。
また、バダンテール氏は、昨今、社会の分断が進むフランスで、民主主義が弱体化している現状について、独特な視点を示していた。
「ふたつの理由がある。ひとつは心理的、もうひとつは政治的。前者は、われわれの超個人主義。『私が最初』で、その他は二の次。集団の目的を考える前に、個人の喜びを考えている。後者は、法に対する軽視。(中略)……子供たちに法の尊重を十分教えてこなかった」
平和を訴える沈黙のデモ行進
パリでは翌週の11月19日、パレスチナもイスラエルも敵対視しない「もうひとつの声」をスローガンに掲げた平和デモが行われた。参加者は、女優のイザベル・アジャーニ氏やエマニュエル・ベアール氏、元文化相のジャック・ラング氏らを含む、約600人の芸能人や文化人が集まった。
普段のデモ行進とは違い、参加者は文字のない白い横断幕や旗を掲げ、無言のまま約2.5キロメートルの道を練り歩いた。これはイスラエル側でもパレスチナ側でもなく、殺戮や暴力に反対するための「祈り」を意味するものだった。
元工学者のディディエ・プル氏(79歳)は、デモの先頭付近を歩きながら、フランスの外交に対する不満を口にしていた。
「国民議会の議長がイスラエルに渡り、無条件で極右のイスラエルを支持したフランスは間違っている。ハマスはテロ行為をしたかもしれないが、彼らの領土が長年、イスラエルに脅かされてきたことも事実。私はとにかく、停戦を願っている」
某アジア国のフランス大使館に勤務経験がある元外交官、ロマン氏(69歳)は、「ウクライナ戦争も含め、すべての戦争が停戦に向かうべきだ」と主張。「日本も含め、民主主義国家はまだ未成熟で、必ずしも理にかなった行為をしているとは言えない。私は、宗教や人種差別の反対を求めてデモに参加している」と話した。
約2時間続いたこのデモ行進は、最後まで沈黙が保たれた。アラブ世界研究所を出発し、クリスマスの装飾が始まる市内中心のデパートを抜け、ユダヤ芸術歴史博物館を通過した。多くの若者たちは、ショッピングに夢中だった。しかし、振り向くと、このデモに20代と30代の若者の姿は、ほとんど見受けられなかった。
日本は多元主義を発信せよ
親パレスチナ支持者も反ユダヤ主義に抗議する人々も、価値観こそ異なれど、彼らの願いには共通するものがある。殺し合いを止めろ、ということだ。彼らはおそらく、それだけを祈っていた。このシンプルな状況を複雑にしているのは誰なのか。それは、人間一人ひとりのエゴイズムにほかならない。
3つのデモを観察しながら見えてきたことは、敵か味方かで正義を捉えようとする物事の難しさだ。そこには、人種、民族、宗教など、複雑に絡み合う要素はあるが、それ以上に利権争いを繰り返す各国の政治家たちが求める「白か黒か」の二者択一に、多大な過ちがあることは間違いない。
人間は、アイデンティティを持ちたがる生き物だ。親パレスチナ支持と反ユダヤ主義抗議については、フランス全土で大規模なデモとなった。しかし、中立な平和デモに参加した人々の数は、圧倒的に少なかった。言わば、イスラエルやガザで起きている殺し合いに対し、「白か黒か」の二元論をなくした世界には、あまり興味を示していなかったように見える。
日本は、どのようなアイデンティティを持っているのだろうか。欧米社会とは、歴史も宗教も異なる中で、米国や欧州のような二元論主義にこだわるべきなのか。パリで行われた平和デモのように「人命第一」を貫くならば、日本はむしろ独自の多元主義を世界に発信していくべきではないだろうか。
●ウクライナ・イスラエル…2つの戦争の「不都合な真実」… 12/1
総司令官と大統領の意見が対立した
ロシアに対するウクライナの反転攻勢は失敗した。イスラエルがイスラム過激派組織ハマスを殲滅できるかどうか、は分からない。自由民主主義勢力の盟主である米国は、ハマスのテロ攻撃を予想できなかった。2つの戦争の「不都合な真実」に目を向けてみる。
6月から始まったウクライナの反転攻勢は、12月で6カ月になった。
ロシアに奪われた領土すべての奪還を目指すウクライナは、まずクリミア半島とロシアをつなぐ補給路になっている南部ザポリージャ州の奪還を目指した。この作戦は失敗した。ウクライナ軍はアゾフ海まで到達できず、目標である「陸の回廊」を遮断できなかったからだ。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は11月1日、英誌エコノミストのインタビューに答えて「現在の戦況は膠着状態(stalemate)にある」と語った。事実上、作戦の失敗を認めた発言である。同氏は「この5カ月で、ウクライナ軍が進軍したのは、わずか17キロだ。膠着状態を打破するには、大規模な技術的な飛躍が必要だ。深く美しい打開はないだろう」と語った。
ウクライナ軍は、ロシア軍が張り巡らした地雷原と大砲とドローンの攻撃で立ち往生した。総司令官は、改善されたロシアの防空能力を考えると、来年投入される予定のF16戦闘機の有効性にも疑問を呈し、状況を打開するには「中国が発明した火薬のような新しいものが必要だ」と指摘している。そんな武器が発明されるとは、思えない。
これに対して、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11月4日、記者会見で「時間は過ぎていき、人々は疲れている。状況はどうあれ、それは理解できる。だが、これは膠着状態ではない。私は、もう1度、そう強調する」と反論した。総司令官と大統領が公然と意見対立したこと自体が苦境を物語っている。
この先を見ても、ウクライナに有利とはいえない。米国で「ウクライナ支援疲れ」が強まって、肝心の武器弾薬がいつまで供給されるか、分からないのだ。
このコラムで何度も指摘してきたように、米共和党の一部は昨年秋から、支援見直しを唱えていた。米国にとって、真の敵は中国であり、近い将来、台湾をめぐって予想される中国との対決に備えるためにも「ウクライナ支援は欧州に任せるべきだ」という主張である。
国民の間でも「ウクライナは、もう十分支援した」という意見が増えている。たとえば、11月2日のギャラップ調査では「ウクライナ支援は、もう十分だ」という意見が41%に上った半面、「まだ十分ではない」という声は25%にとどまった。
そんななかで、イスラエルに対するハマスのテロ攻撃があり、米国でウクライナへの関心は一層、薄れてしまった。こうなると停戦論が出てきてもおかしくないが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は簡単に応じないだろう。
来年の米大統領戦で、ウクライナ支援に消極的なドナルド・トランプ前大統領が大統領に返り咲けば、より有利な条件で停戦に持ち込める可能性があるからだ。戦場はぬかるみ、膠着状態は固定化しつつある。ウクライナは厳しい冬を迎えている。
イスラエルは敗北するかも?
ハマスに対するイスラエルの反撃はどうか。
イスラエル軍はガザ中心部まで、予想を上回る速さで進撃した。11月24日から人質解放のための一時休戦が実現したが、全ての人質が開放される見通しは立っていない。
そもそも、イスラエルが人質解放を要求しながら、ハマスの殲滅を主張しているのは「ハマスに対して説得力がない」という指摘もある。ハマスとすれば「人質を解放すれば、殲滅される」と分かっているのに、全員の解放に応じるわけがないからだ。
普通は「人質を解放すれば、命だけは助けてやる」というのが、交渉のロジックだ。ハマス殲滅を掲げている限り、交渉はいずれ暗礁に乗り上げる。交渉による人質解放を目指すなら、イスラエルはハマス殲滅の旗を降ろさざるをえないのではないか。あるいは、人質の犠牲も覚悟して、武力による解放と殲滅を目指すか、だ。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級副所長で中東問題専門家のジョン・B・アルターマン氏は「イスラエルは敗北するかもしれない」と指摘している。次のようだ。
〈ガザでの戦争について、ほとんどの議論は「最終的にイスラエルが勝つ」とみている。だが、イスラエル史上、初めて負ける戦争になる可能性は十分にある。その敗北は、イスラエルにとって破局的であり、米国にも深刻な損害を与えるだろう〉
〈ハマスにとって「軍事的勝利」という概念は、長期の政治的成果に関わっている。1年や5年ではなく「パレスチナの連帯」と「イスラエルの孤立」を高める何十年にもわたる闘争の観点から勝利を見ている。ハマスはガザの住民を怒りで結集し、パレスチナ自治政府を「イスラエル軍事当局の無能な従属物」にすぎないように見せることによって、崩壊させようとしている〉
〈アラブ諸国はイスラエルとの国交正常化から遠ざかり、グローバル・サウスの国々はパレスチナの大義に寄り添い、欧州はイスラエル軍の行き過ぎに怒り、米国ではイスラエルをめぐる議論が沸騰する。そうやって、イスラエルが1970年代から享受してきた超党派のイスラエル支持が破壊されていく〉
〈地域戦争についての議論は、イスラエルと同盟するコストについて考えさせる。ハマスの思惑通りだ。イスラエルが団結を強めても、それはハマスの関心事項ではない。ハマスはイスラエルが世界の友好国から弾き飛ばされ、世界の嫌われ者になるのを狙っている〉
〈この戦略を追求するのに、ハマスは強力である必要はない。単に不屈であればいいだけだ。イスラエルを打ち負かす力に頼らず、イスラエル自身の力を利用しようとしている。イスラエルがパレスチナの民間人を殺し、インフラを破壊し、自制を求める世界の声に挑戦する。それらはみな、ハマスの戦争目的を前進させる〉
〈ハマスは、多くの戦闘に負けるつもりだ。だが、10月7日のテロ攻撃は、不可能だと思えた勝負に小さな勝利を得たことで、将来のパレスチナ人を鼓舞するだろう。エルサレムを取り戻すのは、キリストの再臨のようなもので、生きている間に実現するかどうかは関係ない。イスラエルはハマスの戦闘員を殺すことに賭けているが、ハマスは膠着状態に持ち込むことが目標なのだ〉
ハマスは戦闘に負けても、イスラエルの攻撃で民間人の犠牲者が増え続け、世界から非難を浴びるようになれば勝利、という見立てである。
ハーバード大学のステファン・M・ウォルト教授も、10月9日付の米外交誌フォーリン・ポリシーで「イスラエルは戦闘に勝つかもしれないが、戦争に負ける」と指摘した。
〈強い国家は戦場で勝利しても、政治的に負ける。米国はベトナムやアフガニスタンで戦闘に勝利したが、究極的には敗北した。1973年の戦争でエジプトとシリアは負けたが、イスラエルに「シナイ半島を奪還するエジプトの決意を無視できない」と悟らせた〉
直視すべき不都合な真実
世界最高の情報収集能力を誇る米国は、ハマスの攻撃を予想できなかった。
私は10月13日公開コラムで、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、テロ攻撃の1週間前に開かれたセミナーで「中東地域は過去20年間で、もっとも静かだ」と語っていたことを紹介した。
同氏はテロ攻撃前に発売された雑誌版の外交誌フォーリン・アフェアーズに発表した論文でも「中東は依然として、永続的な課題に悩まされているが、この地域は数十年の間でもっとも静かだ」と記していた。
発売後にテロが起きたために、ネット版は「10月7日の攻撃は地域全体に影を落としている。私たちは、現在の危機が地域紛争に陥る可能性があるリスクを警戒している」などと修正した。この修正は、タイミングの悪さで歴史に残るかもしれない。
最近の現地報道によれば、イスラエルは、最前線の情勢を偵察していた女性兵士たちが数カ月も前から、ガザでの不穏な動きを正確に察知していたのに、軍の上層部と政権が彼女たちの報告を無視して、ハマスのテロを許してしまった。
ロシアに対するウクライナの苦戦も、ハマスにテロ攻撃を許したイスラエルと米国の失態も、残念な展開である。
日本では、ウクライナを応援するあまり、ロシアの苦戦を宣伝し、ウクライナの善戦を過剰に称える向きがある。だが、現実を直視せず「思い込み」と「願望」に基づいて現状を判断すれば、大きな間違いを犯してしまう。それは、中東情勢でも同じだ。
当事者であるウクライナやイスラエル、米欧はもっと冷静だ。戦争の開始から終戦までのプロセスを正確に見通せるような千里眼の持ち主はいない。不都合な真実こそ、直視すべき現実である。
●独首相がゼレンスキー氏と電話会談、揺るぎない支持表明 12/1
ドイツのショルツ首相は30日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ウクライナに対する揺るぎない支持を伝えた。政府報道官がベルリンで明らかにした。
報道官の声明によると、両首脳はウクライナ情勢を巡り「平和的解決に対する国際支援に向けた視野を持って」やり取りを継続することで一致した。
ゼレンスキー氏は夜の定例ビデオ演説で、ショルツ氏との電話では英国のスナク首相、ブルガリアのデンコフ首相にも支援に対する謝意を伝えたと説明。「合意は全て実行されており、パートナーに謝意を伝える理由がある。新たな共同歩調の概要も話し合った」と述べた。
●ロシア極東の鉄道で爆発 ウクライナ関与と報道 12/1
ウクライナメディアは11月30日、ロシア極東ブリャート共和国の鉄道トンネルで爆発があり、ウクライナ保安局が関与していたと報じた。情報筋の話としている。貨物列車が走行中、四つの装置が爆発したという。装置が仕掛けられた場所は不明。ロシアは軍事物資の輸送に鉄道を利用していた。
爆発はウクライナから4千キロ以上離れた場所で起きた。ロシア鉄道は、29日に貨物列車の燃料タンクから煙が上がっていることに職員が気づき、車両を停止したと発表。被害は調査中だとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は30日、東部ハリコフ州クピャンスクの前線に近い司令部を訪れた。
●ウクライナ「4000キロ離れた露シベリア貨物列車を攻撃」 12/1
ウクライナ情報機関が国境から4000キロ離れたロシア・シベリア地域の貨物列車を攻撃したと、ロイターとCNN、ブルームバーグ通信が30日(現地時間)報じた。
ウクライナの情報筋がこれらメディアに対し、ウクライナ保安局(SBU)が夜中に爆発装置4つを利用し、モンゴルのバイカル湖北東部セベロムイスキー付近のトンネルを通過していた貨物列車を爆破したと明らかにした。
SBUはこの貨物列車が通るバイカル・アムール路線が軍需品の輸送に使用されているとみている。ウクライナ情報筋は「ロシアと中国をつなぐ唯一の幹線鉄道」とし「今回の爆破はもう一つのSBU作戦成功事例」と明らかにした。
中国との国境の北部で運行されるバイカル・アムール鉄道とシベリア横断鉄道はシベリアを通過するロシアの主要物流網で、両路線が昨年扱った物流量は1億4900万トン。
ウクライナの首都キーウから6500キロ離れた地域で発生した今回の攻撃は、SBUがロシア本土の奥地まで作戦を遂行できることを見せた。
SBUはロシアに対する標的攻撃の背後と見なされてきた。ブルームバーグによると、先月クリミア半島でミサイルを輸送していたロシア海軍所属の哨戒艦に対するドローン攻撃もSBUが主導した。
ロシア調査委員会はこの日、声明を出し、29日夜にモンゴル隣接地域のブリヤートで燃料を積んでいた列車の火災が発生したが、人命被害はなく、原因を調査中だと明らかにした。 
●プーチン氏、外国人投資家からロシア主要空港の経営権取り上げ 12/1
ロシアのプーチン大統領は、サンクトペテルブルクのプルコボ空港に出資する外国人投資家から経営に参加する権利を取り上げる大統領令に署名した。外国人投資家の持ち株は全て新たなロシアの事業体に移転される。同空港にはドイツのフランクフルト空港を運営するフラポートや、カタールのウェルスファンドが投資している。
11月30日遅くに発表された大統領令によると、同空港の運営会社はこれまでキプロスに登記されていたが、この会社の株式は全て新たなロシア企業に移される。アブダビ首長国の政府系ファンド(SWF)、ムバダラ・インベストメントが加わるコンソーシアムなど、既存の投資家は株式の保有を継続できるが、議決権は失う。
この決定は「特定の外国法人による義務違反があり、ロシアの国益と経済的安全が脅かされている」ことが理由だと、大統領令は説明。プーチン氏は政府に対し、プルコボ空港を運営する新たな管理組織を設立するよう指示した。
ロシアはウクライナ侵攻で西側から受ける制裁の報復として、非友好的と見なす国の企業のロシア事業について接収を続けている。これまでにフランスのダノンやデンマークのカールスバーグのロシア工場を奪い、プーチン氏支持者に経営を委ねた。
ただ今回は、株主が議決権を回復できる可能性にも含みを残し、「その申請があり、他の出資者の合意があり、ロシア法を順守する義務を負うという前提」がある場合に検討されると説明している。
プルコボ空港の運営企業には、フラポート、カタールの政府系ファンド(SWF)であるカタール投資庁(QIA)、ロシアのVTB銀行がそれぞれ約25%出資。インタファクス通信によると、残りはロシアのSWF、ロシア直接投資基金(RDIF)やムバダラなどの投資家から成るコンソーシアムが保有する。
フラポートは大統領令の影響を精査していると、広報担当者が説明。同社はロシアのウクライナ侵攻後、既に持ち分の価値をゼロに引き下げており、ロシア側との連絡や資金の出し入れもないと明らかにした。
QIAとムバダラはコメントを控えた。
●ボリショイ劇場 総支配人にプーチン大統領に近いゲルギエフ氏 12/1
ロシアのバレエ・オペラの殿堂、モスクワのボリショイ劇場の総支配人にプーチン大統領と近い世界的指揮者のワレリー・ゲルギエフ氏が就任しました。
ロシア国営通信によりますと、ロシア政府は12月1日、マリインスキー劇場の芸術総監督を務める世界的指揮者のゲルギエフ氏をボリショイ劇場の総支配人に任命し、就任したということです。
サンクトペテルブルクのマリンスキー劇場と兼務すると見られています。
ゲルギエフ氏はロシアで最も影響力のある芸術家で、プーチン大統領の側近としても知られています。
ウクライナ侵攻を事実上、肯定してミュンヘン・フィルハーモニーの首席指揮者の職を解かれるなど、西側からは追放状態にあります。
一方、2013年からボリショイ劇場の総支配人を務めていたウラジーミル・ウリン氏は11月30日、「きょうが最後の仕事だ」とスタッフらに別れを告げました。
ウリン氏はウクライナ侵攻の直後、「新たな戦争は望んでない」と戦争に反対する公開書簡に署名していました。
その後は同性愛の宣伝だなどと指摘されたバレエの演目「ヌレエフ」を上演リストから外すなど、プーチン政権の意向に沿った劇場運営を続けてきましたが、辞任した形です。
プーチン大統領の恩師の娘として知られるジャーナリストのクセニア・サプチャーク氏は今回の人事について「プーチン氏の個人的な決定だ」と指摘しています。
●ロシアの情報工作、「ウクライナ人の分断を狙っている」…政権求心力の変化 12/1
防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事と慶応大の廣瀬陽子教授、キーウ在住ジャーナリストの古川英治氏が1日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ウクライナ情勢を巡り議論した。
ウクライナに対するロシアの情報工作について、廣瀬氏は「反欧米的な意識を植え付けることでウクライナ人の分断を狙っている」と解説した。古川氏は「ウクライナ国民が一番恐れているのは、軍と政権の対立が決定的になることだ」と分析した。兵頭氏は「ゼレンスキー政権の求心力がどう変化するかが、戦争の行方に影響を及ぼす可能性が出てきた」との見解を示した。
●北方領土の早期返還 北方墓参再開など求め 東京で街頭行進 12/1
ロシアによるウクライナ侵攻の影響で北方領土の返還に向けた動きが停滞する中、元島民らが都内で街頭行進を行い、北方領土の早期返還や、「北方墓参」の再開などを訴えました。
東京・千代田区の日比谷公園で行われた出発式には北方領土の元島民などおよそ500人が参加しました。
式の冒頭、根室市の石垣雅敏市長が「元島民が高齢になるなど、残された時間に一刻の猶予もない。長期化とともに北方領土問題が置き去りにされ、関心が薄れることを懸念する」とあいさつしました。
このあと、参加者は日比谷公園から東京駅周辺までのおよそ1.6キロを行進し、「北方領土を返せ」とか「北方領土交渉を再開しよう」などと声をあげていました。
この街頭行進は、1945年(昭和20年)12月1日に当時の根室町の町長がGHQに北方領土返還を求める陳情を出したのにちなんで2007年から年に1度行われています。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻に対する日本の制裁措置に反発して去年3月、北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明しているほか、元島民が故郷の島で墓参りする「北方墓参」も実施が見送られていて、元島民らは再開を求めています。
1回目の行進から毎回参加している歯舞群島の多楽島出身の元島民、河田弘登志さん(89)は「元島民だけの問題ではなく全国的な問題だ。国民一人一人に積極的な関心を持ってほしい。一番大事な交流事業は復活させてほしいという思いで体の続く限りはまた参加して声を上げたい」と話していました。
釧路放送局・梶田純之介記者の目
日ロ関係が悪化する中、北方領土問題は進展の兆しが見えないままです。
返還運動の全国的な機運の高まりを目指して、元島民らは今回の東京での活動に先立ち、10月には本州の各地でも訴えを行ってきましたが、十分な手応えを得られないという焦りの声も聞かれます。
一方で、元島民らにとってこうした啓発活動のほかに道はないのが現状です。
「北方領土問題を置き去りにしないでほしい」。
政府とわれわれ国民に向けた元島民らの切なる願いです。
●「西側の武器庫」韓国とロシアの意外なつながり 12/1
米国・ホワイトハウスが10月13日、北朝鮮によるコンテナ1000個分の対ロシア軍事物資が遠く離れたウクライナと目と鼻の先にあるロシア西部に到着したと発表した。エストニア軍情報機関のトップも北朝鮮がロシアに約30万発の弾薬を提供したと発言し、韓国国家情報院は「北朝鮮が8月からロシアの船舶などを利用して砲弾など各種武器を10回以上輸送した。北朝鮮からロシアに持ち出された砲弾は100万発以上」と具体的に明らかにした。今年9月13日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記がロシアを訪問し、プーチン大統領との会談を境に北朝鮮の対露軍事支援が具体化したことが明らかとなった。
北朝鮮による対露支援が明るみに出たのとほぼ同時期に、韓国・ソウル近郊の城南(ソンナム)市にあるソウル空港(空軍基地)では、同国最大規模の防衛産業展示会(隔年開催)である「Seoul ADEX(ソウル航空宇宙および防衛産業展)2023」が開催された。6日間の期間中に約22万人の来場者が訪れ、35の国と地域の550社が参加し、1億2800万ドルの契約が結ばれたとされる(「「ソウルADEX」で294億ドルの受注商談 22万人来場」『聯合ニュース(日本語版)』2023年10月23日)。
ロシアによるウクライナ侵攻以後、西側自由主義諸国の中で韓国防衛産業の存在感は高まるばかりだ。もはや世界はロシアによるウクライナ侵攻後、朝鮮半島が東西陣営の武器庫としての存在感をいかんなく発揮している現実を受け入れざるを得ないだろう。
南北間での新しい軍事技術をめぐる競い
過去10年間を振り返ると、われわれは北朝鮮による核実験(2013年・16年1月・9月、17年9月)とさまざまな種類の弾道ミサイル発射といった核とミサイルの技術的進展に目を奪われてきた。その一方で、韓国でどのような軍事的技術の進展があったかどうかについてはあまり注目されてこなかった。
この間、韓国軍の能力増強策の中で注目すべきは、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)と潜水艦からSLBMを発射するための垂直発射装置(VLS)、そしてこれらを装備として兼ね備える新型潜水艦である。16年8月に北朝鮮がSLBM(北極星1号)の発射に成功すると、韓国国防部は水面下で韓国もSLBM開発を進めていたと明らかにした。
VLSを搭載した潜水艦「島山安昌浩(トサンアンチャンホ)」は18年9月に就役。21年9月に同艦からのSLBM発射に成功したことで開発完了が宣言された。SLBM発射に必要なVLSのために必要なコールド・ローンチ技術はロシア由来であることが知られている。
このほかにも18年以降、北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射を重ねると、ロシア由来とされる弾頭下降時に再度機動・上昇を可能にする「プルアップ機動」の技術を確立したことをアピールした。これに対して、当時の韓国国防部のチョン・ギョンドゥ長官が韓国もすでに国防部の付属組織である国防科学研究所で開発された技術を持っていることを明らかにしている。
しかしながら、プルアップ機動は元々ロシアのイスカンデル型短距離弾道ミサイルが持つ独自技術であり、コールド・ローンチ技術と同様にロシア由来なのではと疑いたくなるが、実際のところ現時点で筆者はその根拠となる情報を持ち合わせていない。
知られざる韓国とロシアの軍事技術協力の歴史
日本ではあまり知られていないが、冷戦後ソ連からロシアになって以後、韓国とロシアの間では防衛産業協力協定に基づく軍事技術協力が行われてきた。その起源は、冷戦末期に当時の盧泰愚大統領が推進した「北方外交」により、当時のソ連と国交締結し対ソ借款を提供したことである。ソ連崩壊後に借款を引き継いだロシアが経済状況の悪化により返済が困難になると、債務処理の手段として、ロシアからの防衛装備および技術の導入が実施されたのである。
このロシアとの協力事業は「ヒグマ(韓国語で「プルゴム」)事業」と名付けられ、1995年以後、債務返還の代わりにロシアからT-80U戦車、BMP-3歩兵戦闘車、9K115 Metis-M対戦車ミサイルなどの装備品が韓国に渡った。今でも韓国軍はロシア製戦車を30台ほど保有しているとされる(「駐韓ウクライナ大使、韓国のミサイル生産企業訪問中止」『ハンギョレ』2023年4月15日)。
このロシアとの防衛産業協力は韓国の研究者レベルではロシアとの防衛産業協力があった事実は知られているものの、その協力レベルがどの程度のものだったのか人によって認識はさまざまだ。「大した兵器や技術を輸入していない」、「砲撃訓練の的になる戦車を輸入しただけだ」といったさまざまな答えが返ってくるがどれも信憑性が怪しい。
韓国とロシアの間では96年11月に「国防協力協定」が結ばれると、97年11月に「軍事技術分野・防衛産業・軍需協力に関する協定」、2001年2月に「軍事秘密情報の相互保護に関する協定」、05年10月には「地対空誘導武器体系協力事業の相互協力に関する協定」がそれぞれ締結された。
ウクライナ侵攻の約1年前の21年3月には「国防協力に関する協定」が条約として再び締結されてもいる。90年代後半から脈々と続いてきた協力関係が存在するのだ。
ロシアとウクライナの狭間で
22年3月7日にロシア政府は日本などと同じく韓国を非友好国と指定した。対ロシア制裁を巡って他の西側諸国と足並みが揃わず、若干トーンダウンした対応を見せた韓国が抱える事情には、ロシアに進出している自動車産業などへの影響だけでなく、宇宙開発も含む、ロシアとのさまざまな分野での協力関係を今後どうマネージしていけばよいのか、すぐに判断ができなかったからではないだろうか。
韓国メディアの報道によれば、ウクライナがロシアによる侵攻以後、韓国からの武器援助リストを示したとされる。今年4月に駐韓ウクライナ大使が防衛産業大手のLIGネクスワンを訪問することが報じられている 。
ウクライナは防空能力向上を進めており、同社製の中距離地対空ミサイル「天弓」が候補に挙がっていたことは容易に想像できる。「天弓」はまさにロシアから技術供与を受けたコールド・ローンチ技術が活用されている。
今年1月にアラブ首長国連邦(UAE)との間で最新の「天弓2」の契約が結ばれ、輸出装備品としての存在感を高めている。韓国は自国製であることを強調しているが、ここまで紹介してきた通り、ロシアによる技術提供が大きな役割を果たしていることは確実だ。
ウクライナとロシアの戦争が長引く中で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は自由・民主主義国との連帯へと舵を切った。同時に、軍事技術の面では、自国の技術革新に注力して「科学技術強軍」を目指している。
今でこそ世界でも名だたる防衛産業輸出国となった韓国の技術革新に寄与してきたのは、意外にも米国だけでなくロシアの力も大きかったのである。
●割安なロシア産原油で精製した石油製品を国際価格で売りつけるインド 12/1
2023年に入ってインド製石油製品の輸入を増やしているEUだが、インドはロシア産原油の輸入を増やしており、結果的にロシア産原油が石油製品としてEUに流入している。
ロシア産原油の「裏口流入」と認識しているEUはインドに対してロシア産原油を精製した石油製品の輸出をやめるよう呼び掛けているが、原油に色がついていない以上、その取引を止めることはできない。
こうした迂回ルートで外貨を稼ぐロシアだが、国際価格から割り引かれた価格で第三国に原油を販売しており、戦争継続のために身を削っている状況は変わらない。
2023年に入って、欧州連合(EU)がインド製の石油製品の輸入を増やしている。欧州連合統計局(ユーロスタット)によると、EUは2023年1-9月期までに、インドから前年同期比168%増となる769万トンの石油製品を輸入した(図表1)。近年の輸入水準と比較しても、2023年の輸入水準は飛びぬけていることが分かる。
   【図表1 EUによるインドの石油製品輸入量(年初来累計値)】
そのインドは、石油製品の元となる原油をロシアから積極的に輸入していることで知られる。インド商工省より同国の輸入統計を確認すると、ロシアがウクライナに軍事侵攻した2022年2月以降、インドはロシア産原油の輸入量を急増させており、直近2023年9月時点では総輸入量の4割弱を占めるに至っている(図表2)。
   【図表2 インドの原油輸入量の国別内訳】
EUは対ロ制裁の一環として、2023年2月にロシア産石油製品の輸入を禁止している。一部、クロアチアが輸入する減圧軽油は2023年まで、ブルガリアが海上輸送で輸入する石油製品は2024年まで例外的にロシア産が容認されるが、EU全体として見れば、ロシア産石油製品の輸入量は激減している(図表3)。
   【図表3 EUの石油製品輸入量に占めるインド産石油製品の割合】
EUは急増しているインド産石油製品の輸入について、ロシア産石油製品をインド経由で輸入する「裏口流入」と認識しており、EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)は2023年5月、英紙ファイナンシャルタイムズとの取材で、インドがロシア産原油を精製した石油製品を輸出しないように呼び掛けた。
とはいえ、カネと同様、原油に色はついていないため、EUに輸出されるインド製石油製品のうち、いったいどれだけがロシア産原油であるかは厳密には不明である。いずれにせよ、インドはロシア産原油を精製してEUに転売しており、それが巡り巡ってロシアの外貨収入の確保につながっていることをEUは懸念している。
ロシア産原油の精製・販売でボロ儲けのインド
インドがロシア産原油を輸入し、精製した石油製品をEUに輸出する最大の理由は、利幅が大きいことにあると考えられている。欧米からの制裁対象であるロシア産原油の価格は、ブレント価格のような国際原油価格に比べると割り引かれて取引されている。とりわけ、ウラル原油価格はインドとの取引の指標となっているようだ(図表4)。
   【図表4 国際原油価格とロシア産原油の推移】
EUといわゆるG7、そしてオーストラリアは、2022年12月、ロシア産原油の取引に対して1バレル当たり60米ドルという価格上限を科した。この価格を超えて取引された場合、G7とオーストラリアの保険会社による海上保険の提供を禁止するという制裁だ。
世界的な原油高もあり、ロシア産原油はこの価格上限を超えて取引されているが、一方でウラル原油価格は常にブレント原油価格を下回っており、その点で制裁は有効に機能している。
またG7らは2023年2月から、ロシア産石油製品の価格上限をほかの石油製品にも拡大している。
その価格設定は、軽油や灯油、ガソリンなど原油に対してプレミアムがつく石油製品は1バレル当たり100ドル、重油など原油よりも値引きされる石油製品には同45ドルだ。この制裁のため、ロシア産の石油製品は、国際市場では他国製の石油製品よりも安価に取引されている。
しかしこの制裁は、ロシア産石油製品に限定して科されたものだ。したがって、インド産石油製品は制裁の対象外となり、先進国の保険会社による海上保険の対象となるため、国際価格で取引がなされる。 国際価格より安価なロシア産原油を輸入し、それを石油製品に精製して、国際価格で輸出すれば、インドは当然大きい利幅を得ることができる。
ロシア産原油を用いた石油製品を輸出しないように、EUがインドに対していくら協力を要請しても、インドからすれば、欧米が主導したルールに則ってロシア産原油を輸入し、それを精製してEUに輸出しているだけだ。当然、EUの要請に応える必要もないし、だからといってEUから非難される覚えもないというところだろう。
原油や石油の輸出で身を削るロシア
インド以外にも、類似の行為をしている国が存在する。
例えば、サウジアラビアは、ロシアから国際価格よりも安価な原油や石油製品を調達し、それを国内で消費する一方、自国で採掘された原油や、それを用いて精製した石油製品は国際価格でEUに輸出する。このようにして、サウジアラビアは厚い利幅を得ている。
見方を変えると、ロシアはそうした「迂回ルート」を用いて制裁逃れに努めていることになる。
ただ、一方でロシアが結局は制裁による損害を被っていることも、紛れのない事実である。制裁を科されなければ、ロシアは正々堂々とEUに対して国際価格で原油や石油製品を輸出することができ、正当な利益を得ることができたからだ。
それに、ロシアが自国産の原油や石油製品を国際価格よりも安価に輸出しているということは、ロシアがそうした輸出先の国々に一種の所得移転を施していることと同義だ。所得移転という「身を削る」行為をしてまで輸出をして得た収入で、ロシアはウクライナとの戦争で膨張した軍事費や経済対策費を賄っている。
迂回ルートが機能する以上、そしてその迂回ルートを取り締まる権限をEUが持たない以上、どのような制裁を科してもロシア産原油を精製した石油製品はEUの市場に流入する。ただ第三国を経由する以上、その量が、かつてロシアがEUに対してダイレクトに石油製品を輸出していた頃と同等程度の量になるとは、まず考えにくい。
それに、ロシア産原油価格とロシア産原油を用いた石油製品の価格との間のマージンを得るのは、あくまでロシア産原油を輸入して精製し、それをEUに輸出する第三国にほかならない。そのため、迂回ルートでの原油や石油製品の輸出に努めたところで、ロシアの「稼ぐ力」が、かつてに比べて落ち込んだままであることに変わりはない。
ロシアによる主体的な「迂回」なのか
繰り返しとなるが、ロシアは第三国を軽油したロシア産原油の輸出という「迂回ルート」を用いて、結果的にEUにロシア産原油を輸出し、外貨を得ていることになる。ただ、そもそも、こうした「迂回ルート」はロシアが主体的に作り上げたものではなく、G7らによる制裁の結果、自然発生的に成立した経路に過ぎない。
そして、この経路が機能するためには、ロシア産原油の価格は恒常的に国際原油価格よりも割り引かれ続ける必要がある。
新興国や他の産油国のリーダーとして振る舞おうとするロシアだが、結局のところ、そうした新興国や他の産油国の存在なくしては、ロシアの頼みの綱である原油輸出が成立しえないことを、一連の事実は端的に物語っている。
●ゼレンスキー氏が東・南部視察 前線の防衛強化指示―ウクライナ 12/1
ウクライナのゼレンスキー大統領は11月30日、北東部ハリコフ州と南部ザポロジエ州を訪れ、ロシア軍の侵攻に抵抗する前線の部隊を視察した。前線はこう着状態が続いているが、冬の到来で気候が厳しくなる中、双方は支配地拡大を急いでいる。
ゼレンスキー氏はSNSに投稿した動画で、前線の兵士らを称賛するとともに「主導権を失ってはならない」と鼓舞。また、激しい攻防が続く東部ドネツク州の要衝アウディイウカなどでの「(防衛態勢)構築を促進し、加速させる必要がある」と強調した。

 

●ロシア軍、17万人増員 侵攻長期化で大統領署名 12/2
ロシア大統領府は1日、プーチン大統領が軍人を最大132万人に増やす大統領令に署名したと発表した。従来より最大17万人、約15%の増員となる。ロシアはウクライナ東部ドネツク州などで攻勢をかけており、侵攻長期化に伴い前線の兵員不足を補う狙いだとみられる。
国防省は、ウクライナ侵攻と北大西洋条約機構(NATO)拡大の脅威への対応だとし、志願による契約兵を増やすと説明した。
プーチン氏は昨年8月にも軍の総定員を増やす大統領令に署名、同9月に予備役30万人の部分動員を発表した。今回も追加動員の前触れだとして警戒する見方も一部で出ているが、国防省は1日の発表で、強制的な動員を否定した。
ロシア安全保障会議副議長のメドベージェフ前大統領は1日の会議で、年初から約45万2千人が軍に入隊し、モスクワやクリミア半島、南部チェチェン共和国で志願兵を組織的に集めていると述べた。
ロシアの軍事ブロガーらは通信アプリで、ドネツク州の激戦地マリンカにロシア国旗が掲げられたとする映像とともに、ロシア軍が制圧したようだと伝えた。
●敵発見から破壊までわずか80秒 ウクライナのドローン、橋頭堡防御の要に 12/2
80秒。これは、ウクライナ軍のチームがロシア軍の戦闘車両をドローン(無人機)で発見し、2機目のドローンを送って破壊するまでにかかった時間だ。
ウクライナの著名なドローン指揮官ロベルト・ブロブディによると、これはロシアがウクライナに対する戦争を拡大して以降、ドローンによるキルチェーン(目標の識別から破壊までの一連の処置)としては最速記録になったという。この数字はまた、ある重要な戦場で、ウクライナ軍のドローンによるロシア軍の車両や歩兵に対する脅威が一段と高まっていることも物語る。
このドローン攻撃は最近、ウクライナ南部ヘルソン州のドニプロ川左岸(東岸)沿いにある集落、クリンキの東端であった。ドニプロ川左岸は現在、ほとんどをロシアが支配している。
10月上旬、ウクライナの海兵隊部隊は小型ボートでドニプロ川を渡り、一連の歩兵行動を敢行して初めて持続的な橋頭堡(きょうとうほ)を築いた。海兵たちはこの橋頭堡を拡大すべく、左岸で戦闘を続けている。
ウクライナ側はクリンキ上空で局所的な航空優勢を確保している。これは偶然の結果ではない。ウクライナ軍の砲兵部隊やドローン部隊、電子戦部隊は秋口に、数週間かけてドニプロ川左岸のロシア側の防空システムや無線妨害装置をつぶしていった。同時に、敵のドローンが飛べないようにする無線妨害装置を設置していった。
ロシア側の失態もあったらしい。ロケット砲で自軍の第144自動車化狙撃旅団の妨害装置車両を近距離で誤射し、爆破してしまったという話がある。
ともあれ、入念な準備の結果、ウクライナ側のドローンが圧倒的に優勢な戦場ができ上がった。クリンキにいる海兵隊部隊は2、3個程度の中隊か大隊だが、ロシア軍の旅団や連隊がこれまで、ウクライナ軍の小規模な部隊を押し戻せていないのは理由のないことではないのだ。
ロシア軍はヘルソン州南部でウクライナ軍の10倍程度の兵力を擁するとも考えられる。だがクリンキ周辺では、どこへ進むにも多数のドローンによる攻撃を受けるという状況にある。
しかも即座に。ブロブディのドローン運用チームは、最速記録を打ち立てたドローン攻撃を記録し、それをソーシャルメディアで共有した。その内容は、ウクライナ軍のドローン操縦士がますます即応性を高めていることを示すものだった。 
● ロシア国境全面閉鎖 「国家安全保障をロシアから守るため」  12/2
ロシアからフィンランドへの越境者は、ロシアによる昨年のウクライナ侵攻やフィンランドが今年、北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことを受け増加しています。
フィンランドは、東部のロシアとの国境線の全てを閉鎖することが必要とし、『全面閉鎖はフィンランドの国家安全保障をロシアによる(軍事力と非軍事力を融合させた)ハイブリッド作戦から守るために決められた』としています。
フィンランドとロシアの国境線は約1336キロとなっています。
多くの西側諸国はウクライナ侵略に反発してロシアの航空機を自国の領空や国境線から締め出しています。
この中でフィンランドの国境検問所はロシア人にとって通行可能な数少ない場所の一つとなっています。
●ロシア軍の捕虜となったウクライナ兵、額に「カギ十字」を彫られる 12/2
ロシア兵により、捕虜になったウクライナ兵の額にナチスの印が刻まれたと、ある皮膚科医が主張している。
治療したウクライナ人の医師が主張
その皮膚科医とは、ウクライナ人のオレクサンドル・トゥルケビッチ氏だ。
トゥルケビッチ医師は、フェイスブックやインスタグラムなどにおいて、現在ウクライナで治療を受けている「セルヒイ」という名前のウクライナ兵の写真を投稿している。
トゥルケビッチ医師の説明によれば、そのウクライナ兵は、ロシア軍の捕虜になった時、額にナチスの印である「カギ十字」を刻まれたという。
「アゾフ大隊の兵なら、バラバラに…」
またその兵士は、額にカギ十字を刻まれた時、ロシア兵から「もしお前が、アゾフ(大隊)の兵士だったら、バラバラにしてやるだろう」と言われたそうだ。
その上で、トゥルケビッチ医師は「これらの写真は、私たちの部下が前線で(ロシア軍に)どのように扱われているかを示しています」と述べている。
そもそもロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻について「非ナチ化」するためだと主張してきた。
そしてドネツク州のマリウポリ包囲戦で、重要な役割を果たしたウクライナのアゾフ大隊は、ロシア政府から、極右あるいは「ナチス」と繋がりがあるとみなされてきたという。
しかしウクライナのゼレンスキー大統領は、そのようなロシア政府の主張はばかげており、違法な征服戦争を正当化するためのものだと批判している。
トゥルケビッチ医師は、この兵士に治療を施し、額に刻まれた「カギ十字」を除去することに成功したという。
●首都キーウの空港再開に自信 ウクライナ、時期は不明 12/2
ウクライナ大統領府は1日、イエルマーク長官が首都キーウ(キエフ)郊外のボリスピリ国際空港を近く再開することに自信を示したと発表した。再開時期は明らかにしなかった。ロシアの侵攻で、ウクライナでは民間機が離着陸できない状況が続いている。
大統領府によると、ウクライナ政府は同空港でゼレンスキー大統領が提唱する和平案「平和の公式」を巡る会合を開き、三つの国際機関や83カ国の外交官らが参加した。イエルマーク氏は「われわれは(空港の)安全を確保できる」と述べ、早期再開に自信を示した。
空港からはロシア侵攻直前の昨年2月24日午前3時、最後の民間機が離陸した。
●ロシア占拠の原発、電源一時喪失 ディーゼル発電機作動 12/2
ウクライナ国営原子力企業のエネルゴアトムは2日、ロシアが占拠する南部ザポロジエ原発が外部電源を一時喪失し、非常用ディーゼル発電機が作動したと発表した。電源はその後復旧した。
国際原子力機関(IAEA)によると、喪失が起きたのは1日夜から2日朝にかけて。同原発が全ての外部電源を失うのは5月以来という。

 

●露への「忠誠」法案 前例なき言論統制やめよ 12/3
ロシア内務省が、入国する外国人にロシアへの「忠誠」を求める法案を準備している。ソ連の独裁者スターリンの恐怖体制下でもなかった言論統制法案だ。議会に提案される前に即刻、撤回されねばならない。
ロシアでは来年3月に大統領選挙がある。ウクライナ侵略を「特別軍事作戦」と呼ぶプーチン大統領の政策が、西側諸国の影響によって揺らぐのを阻止することが狙いだろう。言論統制を露国民だけでなく外国人にも広げる試みで、国際社会の反発は必至だ。
国営タス通信によると、対象となるのはロシア国内に一定期間滞在する外国人だ。法案は、ロシア連邦の公的諸機関の活動を妨害し、その当局者の信用を傷つける行為を禁じている。
伝統的価値観に反する情報の拡散も制限する。移民に対しては、結婚を男女の結びつきとみなす価値観に反する考えや、性的少数者に関する情報の拡散を禁じる。
また、第二次大戦でのソ連のドイツに対する勝利への貢献という「歴史的真実」を歪曲(わいきょく)することも禁じる。
タス通信は禁止事項に違反した場合の罰則には触れていないが、プーチン政権はすでに、「非友好的」とみなした、日本を含む西側諸国の特定の国民に対しては「入国禁止」措置をとっている。
侵略戦争に反対する国民や組織はスパイと同義の「外国の代理人」と指定して活動の芽を摘んでいる。直近ではクナーゼ元外務次官や1期目のプーチン政権で首相を務めたカシヤノフ氏が標的となった。
最近は、公園で雪の上に指で「戦争反対」と書いた男性が「10日間の拘留」処分を下された。日増しに強まる言論弾圧は到底容認できない。
今年3月、「ロシアに関して虚偽の内容を含む一連の記事を発信した」としてスパイ容疑で逮捕、起訴された米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者も拘束されたままだ。
ロシア政府に「忠誠」を誓う外国人しか入国できなくなれば、外国との自由な交流は大幅に縮小し、ロシアの国際的孤立は一段と深まることになる。
国際的にも前例のないロシアへの「忠誠」法案は、自らの首を絞めるだけだとプーチン政権は知るべきだ。
●前大統領の出国禁じる ハンガリー首相と会談計画 ウクライナ保安局 12/3
ウクライナ保安局は2日、ロシア寄りとされるハンガリーのオルバン首相と会談するため出国しようとしたポロシェンコ前大統領に対し、出国を禁じたと発表した。保安局は、オルバン氏は「プーチン(大統領)の友人」であり、会談はウクライナに対する挑発行為に利用される可能性があると指摘した。
ポロシェンコ氏は現在、野党「欧州連帯」の党首。ウクライナメディアによると、1日に出国しようとしたところを止められた。ポーランドと米国で「複数の会談を行う」と説明したという。
保安局はポロシェンコ氏とオルバン氏の会談計画の情報を独自に入手したとしている。
●核禁条約会議 廃絶へ機運高める時だ 12/3
核兵器禁止条約の第2回締約国会議が国連本部で開催された。
宣言を採択し、核抑止論への固執は核軍縮を阻害しているとして正当性を否定した。その上で、検証可能で不可逆的な核廃絶が急務だと訴えている。
2021年に発効した条約は核兵器を全面的に違法化した初めての国際規範だ。93カ国・地域が署名しているが、米英仏ロ中の核保有国や、米国の「核の傘」に依存する日本は背を向けている。
日本は昨年の第1回に続き、今回も参加しなかった。岸田文雄首相は核保有国が不参加であるのを理由に挙げたが、保有国と非保有国の「橋渡し役」になると訴えてきたのは、首相自身ではないか。
米の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツなどはオブザーバーで参加し、核軍縮に向けて意見を表明した。
日本がオブザーバー参加しなかったことは核廃絶への熱意が疑われる。唯一の戦争被爆国としての責務を放棄したと言うほかない。
世界の核を巡る状況は危機的だ。ロシアは米ロ間で最後に残った新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を表明した。26年に期限切れを迎えると、核大国を縛る条約が全くなくなる。
プーチン大統領はウクライナ侵攻を巡って「核の脅し」を繰り返す。偶発的な核戦争にもつながりかねず、断じて認められない。
パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、事実上の核保有国であるイスラエルの閣僚が、ガザに核爆弾を落とすのも選択肢だと発言した。核をもてあそぶようなロシアの姿勢が影響した可能性がある。
米国は核の近代化を急いでいる。中国は核戦力を増強させ、北朝鮮も核開発を加速させている。核軍縮の機運は遠のく一方だ。
だからこそ核の非人道性を訴える国際規範を強化することが不可欠である。核兵器禁止条約の重要性はいっそう高まっている。
米英仏ロ中を核保有国と認める代わりに軍縮を義務づけた核拡散防止条約(NPT)は、非保有国との対立が激化し機能不全だ。
首相はNPTを重視し、現実的な取り組みを強化すると訴えてきたが、そのために何をやったのか。核兵器禁止条約はNPTを補完し、核軍縮を後押しする。その重要性を無視してはなるまい。
締約国会議では長崎の被爆者らが演説し「核戦争が起きれば死の世界が残るだけだ」と警鐘を鳴らした。国際社会は重く受け止め、核廃絶を諦めてはならない。
●ロシア大統領選「プーチンの対抗馬候補」はプーチン以上に危険人物だった! 12/3
いよいよ今年も12月に入り、残すところ1カ月を切った。今月にも来年の大統領選への出馬を表明するとみられるロシアのプーチン大統領だが、現在、通算4期目となる同氏が来年の大統領選で5選された場合、2036年まで2期にわたって大統領の地位にとどまることも可能だ。
ところがそんな中、とんでもない人物が大統領選出馬の意向を示したとして、ロシア国内に波紋が広がっている。全国紙国際部記者が解説する。
「その人物とは、プーチン政権のウクライナ侵攻停滞を批判し、7月に拘束された元連邦保安庁(FSB)大佐のイーゴリ・ストレルコフ(本名・イーゴリ・ギルキン)氏です。ギルキン氏は2014年2月からのクリミア併合ではFSBで情報将校を務め、ウクライナ東部で新ロシア派勢力とウクライナ軍が武力衝突した際は、新ロシア派の司令官を務めた国家主義者。14年7月に起こったマレーシア航空機撃墜事件(乗客乗員298人が死亡)に関与したとして、昨年11月にオランダの裁判所から終身刑が言い渡されている被告3人のうちの1人でもあります。そんなヤバい人物が出馬の意向を示したことで、国内では大きな話題になっているのです」
ギルキン氏が、支持者らに向けた書簡をテレグラム内にアップしたのは先月19日のこと。そこには、自分の出馬が認められるかどうかはわからないが、《大統領選に出馬するのは、トランプゲームでイカサマ師と対戦するようなものだ》として、勝者がすでに確定しているような「でっちあげ選挙」を混乱させたいとして、支持者らに選挙活動本部を設置し、立候補のための署名集めを始めるように求めている。
「支持者らによれば、ギルキン氏は過激派活動を呼び掛けた罪で7月に拘束・訴追されたものの罪状を否認。刑事捜査は12月18日にまで延長されており、有罪判決も受けていないことから理論上は選挙に出馬できると主張していますが、はたしてこれをクレムリンが認めるかどうか。仮に有罪になった場合には、最長で5年の禁錮刑を科される可能性がありますからね。文字通り、プーチンの胸先三寸といったところでしょう」(同)
軍事評論家となったギルキン氏は昨年2月のウクライナ侵攻開始以来、膠着した戦況に業を煮やし、プーチンを「クズ」「無意味な存在」「空間を無駄遣いする卑怯者」などと罵倒し続けてきた。しかし、元FSB情報将校で、クリミア併合の際に大活躍した立役者ということもあり、クレムリンも簡単に手出しできなかったともいわれるが、そんな同氏を逮捕に導いたのが、6月に反乱を起こしたワグネルのプリゴジン氏の影響だというのだ。
「ロシア政府は当初、ウクライナ侵攻支持派であれば、個人の見解を配信するのを黙認していました。ところが国防相や参謀総長に対し、あれだけ悪態をつきまくっていたプリゴジン氏も、反乱失敗後はすっかり鳴りを潜めてしまった。これが布石となり、いくら戦争支持派でも、政府批判など一線を越えた者は処罰するという方針に転換しました。それが結果、誰も手を付けられなかったギルキン氏の逮捕、拘留に繋がったとみられています」(同)
つまり、同氏の逮捕は、2度とプリゴジンのような人間は出さない、というプーチン氏の強い意思の表れである可能性が高いようだ。さて、この獄中出馬宣言の行方は…。
●ウクライナ、ロシア極東のシベリア鉄道の橋など「爆破」 BBC報道 12/3
英BBCは、ウクライナ治安部隊幹部の話として、ウクライナがロシア極東シベリア鉄道の関連施設を11月末に爆破した、と1日に報じた。BBCによると、ロシアが「テロリズムによる犯罪行為」として調査を始めたという。
爆破されたのは、ロシアと中国の国境付近を走る、バイカル・アムール鉄道のトンネルや橋。爆発は11月29日と30日に発生し、報道によると、燃料タンクや線路などが損傷した。現時点で、ロシア当局からの爆発についての公式発表はないという。BBCは、爆発による損傷の程度は「確認できていない」とする。
ウクライナ側の情報筋は爆破の意図について、ロシアが軍事目的で使う重要インフラを「機能しないようにする」ことだとする。
●ドローン対策施したロシア軍車両、ウクライナ軍のドローンに破壊される 12/3
ロシア海軍の歩兵部隊は当然のことながら、ウクライナ軍のドローン(無人機)を恐れている。他のロシア軍部隊と同様、爆薬を積んだ小型のドローンを撃墜したり、飛び立たせないようにしたり、飛行方向をそらしたりするために、あらゆる手を試みている。
だが、即興での対応がすべてうまくいくわけではない。ロシア軍は、敏捷な一人称視点(FPV)ドローンを制御する信号を妨害しようと、小型のRP-377ジャマー(電波妨害装置)を戦車や戦闘車両にくくりつけていることが次第に明らかになっている。目的は、無線で起爆できる即席爆発装置(IED)を爆発させる信号の妨害だ。
ただ、RP-377はFPVドローンに対してはあまり効果がないことが明らかになってきている。これらの手製ジャマーを取り付けたロシア軍の車両をウクライナ軍のドローンが爆破する様子をとらえた皮肉な動画が、ソーシャルメディアに出回っているのだ。
これと似た皮肉としては、ウクライナ軍がロシア軍のGPSジャマーをGPS誘導爆弾で爆破する様子をとらえた動画も存在する。
ロシア海軍の歩兵旅団(第155旅団か第40旅団)が運用する不格好なT-80BVM戦車は、ドローン対策にロシア軍が苦慮していることを物語っている。この戦車には手製のケージアーマー(鳥かご装甲)が施されている。これは砲塔の旋回を妨げる可能性はあるものの、少なくとも爆発するドローンからある程度は車両を保護できるはずだ。
もっと奇妙なのは、戦車の最後部のケージアーマーに装着されているRP-377だ。RP-377は、敵の通信を妨害し、IEDから歩兵や車両を守るためにロシアが開発した、持ち運び可能なジャマーだ。
IEDは、ロシアがシリアなどで展開する非正規戦争で大きな問題となっている。主に正規軍同士が戦っているウクライナではさほど問題ではない。
だがウクライナでは、RP-377を車体にボルトで固定して前線に登場するロシア軍の車両が増えている。これらのRP-377はおそらくIED対策で取り付けられたわけではなく、ドローン対策で効果を上げることを期待したもののようだ。
原理的には、遠隔操作のIEDもドローンも同じくらい電波妨害に弱い。ロシア軍の東部軍管区は2020年に試験を行い、RP-377が無人航空機(UAE)の制圧に役立ったと主張した。
実際には、多くのドローンは通信中に周波数をこまめに変更する周波数ホッピングや自動操縦の機能を搭載しており、電波妨害の影響を軽減することができる。だからこそRP-377を取り付けた車両へのドローン攻撃が数多く成功している。
おそらく最も皮肉なのは、ウクライナ軍のFPVドローンが数週間前に行ったロシア軍のBMP戦闘車両への攻撃だ。ドローンはRP-377が取り付けられたBMP目掛けて飛び、RP-377を直撃した。
● ロシア南部で工場爆発 軍事企業に“重要部品”を納品か… 12/3
ロシア南部の工場で爆発が起きた。この前の日の朝、ロシアはウクライナの首都キーウにドローン攻撃を開始し、爆発が起きた当日は、ロシアの首都・モスクワ周辺でウクライナ軍がドローン攻撃を行っていた。
爆発したのは“変圧器” 発生のタイミングは…
大きな爆発音とともに上がる、巨大な火柱。辺り一面が真っ赤に染まっている。
爆発は11月26日、ロシア南部の工場で起きた。当局によると、爆発したのは変圧器だった。地域の人たちの生活に影響はなく、けが人もいないと伝えられている。
前の日の早朝、ロシアはウクライナの首都キーウにドローン攻撃を開始していた。この攻撃で、11歳の少女を含む5人が負傷。空襲は6時間続いた。キーウの市長は侵攻以来、最大規模のドローン攻撃だったとしている。
一方、工場で爆発が起きた当日は、ロシアの首都・モスクワ周辺でウクライナ軍のドローン攻撃があった。
そんな中起きた今回の爆発。現場の工場では、トラクターが製造されていたという。
しかし、ウクライナのメディアによると、この工場はロシアの大手軍事企業に重要な部品を納品していたという。 
●死傷率が侵攻後最高 ロシア軍損失顧みず“突撃作戦”戦術の背景は 12/3
ウクライナメディアは28日、国防省情報総局トップのブダノフ局長(37)の妻マリアンナさんが、重金属中毒で入院したと報じた。マリアンナさんの身体から検出された物質は、日常生活で使用されるものではないことから、食物を通じて毒物である水銀やヒ素を摂取した可能性が高く、毒殺未遂の疑いがあると指摘されている。その後の検査で、同局に所属する他職員にも重金属中毒の症状が確認された。英BBC放送によると、同局のユソフ報道官は、「職員数人にも軽い中毒症状が見られる」と明らかにし、ブタノフ局長をはじめとする同局のメンバーを狙ったものとの見方を示唆した。ウクライナ保安庁のヤフン元副長官は、「マリアンナ氏やブタノフ局長に接近できる工作員を抱えるロシアに驚きだ」と語った。ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、プーチン政権が直近2カ月で、休眠していたスパイのネットワークを活発化させていることを指摘したうえで、「軍事的な行き詰まりに直面したプーチン大統領が、ウクライナ社会の不安定化を企図している」と背景を分析した。英経済誌「エコノミスト」によると、2022年2月の侵攻開始以来、ロシア軍によるブタノフ局長への暗殺未遂事件は10回以上発生している。ブタノフ局長は34歳で、国防省情報総局局長に就任。クリミア半島への攻撃など特殊作戦を指揮するなど実績を残した。ブタノフ局長は今年5月29日、ウクライナの首都キーウ中心部に近い情報総局本部で会議中にミドローンによるミサイル攻撃を受けていた。
英国防省は11月27日付の情報分析で、ロシア軍の11月の死傷者数が、1日当たり平均931人に達していると評価した。過去6週間でロシアの死傷率は最高水準に至った。ロシア軍は小規模な歩兵集団による無防備な突撃作戦を展開している。英国防省は11月28日、「ロシア軍は10月以来、前線を最大2キロ前進させたが、数千人の死傷者を出している」との分析を明らかにした。ウクライナ軍の予備兵将校は、X(旧ツイッター)で、「ロシア軍の持続的な戦術は、撃退に追われるウクライナ軍を疲弊させ、陣地維持を危うくする可能性がある」と述べ、ロシア軍が高い死傷率の戦術を選択している現状を指摘した。ウクライナ軍第47機械化旅団のラズトキン主席報道官は1日、アウディイフカ北部に展開する同旅団に言及し、「一貫して困難な状況が継続している。毎日10回以上、時には20回以上のロシアからの攻撃を撃退しなければならない」と窮状を語った。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンブルグ事務総長は29日、続出するロシア軍死傷者の状況に触れ、「プーチン大統領は死傷者に対して耐久性が高い。ウクライナにおけるロシアの狙いは変わっていない」と述べた。米AP通信によると、ロシア政府は1日、プーチン大統領が、軍人17万人を増員し、総兵力132万人とする大統領令に署名したと発表した。英BBCによると、プーチン大統領は、動員や徴兵開始ではなく、募集活動の強化によって、兵力増強を実現する意向を持っていると見られている。
●ウクライナ軍 反転攻勢から半年もこう着状態か 悪天候も 12/3
ウクライナ軍が反転攻勢を始めて半年となりますが、全体としては、こう着した状況が続いていると見られるうえに、このところ、雪や雨が降る悪天候に見舞われ、戦闘のペースが落ちているという見方が出ています。
ウクライナ軍は、ことし6月に東部や南部に大規模な部隊を展開し、反転攻勢を始めましたが、ロシア軍は防御陣地を固めて応戦を続けています。さらに、ロシア軍はことしの秋以降、東部のドネツク州やルハンシク州で攻勢を強めています。
このうちドネツク州のウクライナ軍の拠点、アウディーイウカについてウクライナ軍は3日、ロシア側が航空戦力の支援を受けながら、街を包囲しようという試みを続け激しい戦闘が起きていると発表しました。
各地で一進一退の攻防となり、全体としてはこう着した状況が続いていると見られるなか、ウクライナでは、先月の終わりごろから各地で雪や雨が降り、強風が吹くなど悪天候に見舞われています。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、天候の影響で地面がぬかるんで進軍が難しくなるなどして、戦闘のペースが落ちているという見方を示しました。
また、ウクライナ軍のざんごうに大量のネズミが発生しているとの情報もあるとしていて、本格的な冬を迎える中、厳しい寒さと劣悪な環境のもとでの戦闘が続いています。
ウクライナは東部で防衛強化 南部で攻撃継続
ウクライナ軍は、ロシア軍の攻撃が激しさを増す、東部ドネツク州のアウディーイウカなどで防衛を強化するとともに、南部ザポリージャ州やヘルソン州、それにクリミアを中心に攻撃を続けています。
アウディーイウカは、ウクライナ軍が補給などの拠点としていて、ドネツク州全域の掌握を目指すロシア軍も戦略的に重視しています。
ロシア軍は、ことし10月から戦車を含む大規模な兵力を投入して複数の方面から攻撃を仕掛け、街を包囲しようとしています。
犠牲もいとわず多くの兵士を投入するなどして、一部で前進したと伝えられていますが、ウクライナ軍による抗戦で損失も甚大だと指摘されています。
ゼレンスキー大統領は、先月14日の動画メッセージで、アウディーイウカの戦況について「ロシア軍による猛攻撃が続いている」と述べ、ロシア側はプーチン大統領が来年3月に予定されている、大統領選挙への立候補を表明するとみられている今月前半までに、戦果を得たいと考えていると指摘しました。
そして、ゼレンスキー大統領は「アウディーイウカ近郊でロシア軍が破壊されればされるほど、この戦争の全体的な状況は敵にとって悪くなる」と述べ、アウディーイウカで勝利することが全体の戦況を好転させるとして、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
また、ゼレンスキー大統領は先月30日の動画の演説では防衛線を強化するため、アウディーイウカや東部ハルキウ州のクピヤンシクの前線などで要塞の建設を進める考えを明らかにしました。
一方、ウクライナ軍は、ザポリージャ州で攻撃を続けているほかヘルソン州では、ロシア側が占領するドニプロ川の東岸に、複数の拠点を築き、さらにクリミアにあるロシア軍の拠点も攻撃するなど、南部で反転攻勢を続けています。
ウクライナ軍の報道担当「兵士たちは士気で疲れを克服」
アウディーイウカの前線でロシア軍と激戦を繰り広げているウクライナ軍の第110独立機械化旅団で報道担当を務めるアントン・コツコン氏が先月28日NHKのインタビューに応じました。
アウディーイウカの戦況についてコツコン氏は「ロシアの攻撃は、歩兵部隊だけでなく戦車やロケット砲、航空隊など多くの部隊が関わっていて、毎日ノンストップで機能している」と述べました。
そのうえでロシア側は、数万人にのぼる兵士を集中的に投入するなど、これまで以上に戦力を強化していると明らかにしました。
また、インフラ施設や住宅などにも攻撃が相次いでいるということで「産業の中心となっていたコークス工場は空爆され、非常に深刻な破壊を受けた。彼らはアウディーイウカを破壊し尽くしている」と述べました。
ロシア側がアウディーイウカにこだわる理由としてコツコン氏は、この街がウクライナ軍にとって補給などの拠点になっているからだとしたうえで「ロシア軍はアウディーイウカをウクライナの領土から切り離しわれわれをドネツクから撤退させたいのだろう」と指摘しました。
一方、コツコン氏は「戦争が2年近く続く中で、特に歩兵は疲労を感じている。寒さや雨、雪の中、極限状態だ」と述べ、冬を迎えて前線の部隊が一層厳しい状況に置かれているとしています。
ただ「兵士たちは前線で戦う意味を理解し、士気で疲れを克服している。この戦いは相手を全員殺したときに終わる」と述べ、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。
アウディーイウカ市長「弾薬の供給が減っている」
アウディーイウカでロシア側と戦うウクライナ軍と連携しているビタリー・バラバシュ市長は、先月28日NHKのインタビューに応じ、戦況や街の今の様子を明らかにしました。
この中でバラバシュ市長は、去年2月にロシアによる軍事侵攻が始まって以降この2か月間はもっとも激しい戦闘が続いているとしたうえで「正確な数字では言えないが、ロシア側の弾薬のほうが間違いなく何倍も多い。私たちの弾薬は不足していて確実に供給が減っている」と述べ、中東情勢の緊迫を受けてアメリカなどからの弾薬の供与にも影響が出ているという見方を示しました。
バラバシュ市長は「弾薬が不足しているので、われわれの兵士は狙撃手のように一人一人を狙うような細かい作業をしている」と述べたうえで「もしロシア人をここで止めることができなければ、彼らは暴走していくだろう。だからこそ、全世界がわれわれを助けなければならない。これは文明的な世界全体に対する戦争でもあるのだ」と述べ、欧米各国に軍事支援の継続と強化を求めました。
一方、バラバシュ市長は、街の現状について、行政施設や住宅などはほとんど破壊されたとしたうえで、侵攻が始まる前には3万3000人いた住民が、今ではその4%にあたるおよそ1300人しか残っていないと明らかにしました。
こうした住民は、自宅の地下室などで生活していますが飲料水や電気などが不足しているということです。
また、戦闘によってこれまで死亡した市民は、157人でけが人は354人に上り、ロシアが攻撃を激化させたことし10月以降、死者が増加しているということでさらに犠牲が増えることに懸念を示しました。
ウクライナ高官 反転攻勢の成果得られない要因を指摘
ウクライナ大統領府の高官は、反転攻勢で期待されていた成果が得られていない要因として、欧米からの軍事支援の遅れのほか、兵士の命を全く顧みずに大量の兵力を投入するなど、ロシア側の戦術が十分想定できていなかったことなど、4つの点を指摘しました。
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、先月28日NHKの単独インタビューに応じました。
この中でポドリャク顧問は、ウクライナ軍が進める反転攻勢で現時点で、多くの人が期待したような成果は得られていないという認識を示しました。
その要因として欧米からの軍事支援が遅れたことに加え、支援のなかでウクライナにどのような兵器が送られるのかという情報が事前に広く伝わり、ロシア側に対応する余地を与えたことを挙げました。
これに加えてロシア軍が兵士の命を全く顧みずに大量の兵力を投入するというロシア側の戦術が十分想定できていなかったことや、ロシア軍が防御陣地の制空権を握っていることの合わせて4つの点を指摘しました。
ポドリャク顧問は「こうした複数の要因が重なり合っていたために反転攻勢がこう着状態に陥ることは運命づけられていた。そもそも電撃的で迅速な攻勢などはなから期待することはできなかった」と述べ、当初から反転攻勢で成果を得るには時間がかかるという認識だったと強調しました。
そのうえで「ロシア軍は防御が精いっぱいで身動きがとれなくなっているが、ウクライナ側は各方面でロシア軍に圧力を加え続けている」と述べ、ウクライナ軍としてはこう着状態を打開するため攻勢を強めていきたい考えを示しました。
●ウクライナ反転攻勢、4日で半年 数カ月にわたり戦況膠着 12/3
ウクライナ軍が大規模反転攻勢を開始してから4日で半年が経過した。ウクライナ軍はロシア軍の防衛線を一部突破したものの数カ月にわたり戦況は膠着。長期戦が見込まれる中、ゼレンスキー政権と軍の間では確執が表面化した。国内の分断を狙ったロシアの揺さぶりとの見方もあり、ウクライナは正念場を迎えている。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は英誌エコノミストが11月に報じたインタビューで、戦争が「膠着状態」にあり、打開するには兵器の技術革新が必要だと指摘。これに対しゼレンスキー大統領は記者会見で「膠着ではない」と反発した。
国民の人気が高いザルジニー氏が政界に転じればゼレンスキー氏のライバルになり得るとされる。来年の大統領選実施の可否が取り沙汰される中、政権与党の議員がザルジニー氏に公然と辞任を求める事態にもなった。
政権と軍の不協和音は国内外の関心を集めたが、国防省情報総局のユソフ報道官は「占領者にとって前線での戦争より安上がりだ」と述べ、ロシアが内紛を扇動しているとの見解を示した。
●拡大するロシアの「航路」「鉄道網」 制裁下の交通インフラ強化にみる戦略は 12/3
停滞する貿易情報
最近、ロシアの交通網と経済動向に関する話題が日本国内でも頻繁に取り上げられている。特に、2022年10月に石川県の七尾港からロシアのウラジオストクへの新航路開設は、日本とロシア間の新たな経済的・文化的交流の可能性を示唆している。
さらに、11月には北方領土の択捉島とウラジオストクを結ぶ航空会社の定期便も開設され、北方領土の自国領を既成事実化する試みとも報じられている。これら交通に絡む活発な動きの背景としてロシア経済はどうなっているのか。今回は諸外国との貿易関係から検討していく。
ロシアとウクライナの戦争が長期化するなか、経済制裁によるロシア経済の疲弊が指摘されている。しかし、ロシアの経済活動は活発であり、国際貿易も盛んに行われているようだ。
ロシアの貿易動向は、特に日本企業にとって重要な指標である。ロシア連邦税関局が「ロシア連邦外国貿易通関統計」を公表していた時期のデータは、日本のロシアNIS貿易協会・ロシアNIS経済研究所の分析に広く利用されていた。これらの機関は、ロシアとNIS諸国(ソ連解体後の独立国家)の経済分析において最も信頼できる情報源とみなされている。
2022年2月以降、ロシア連邦税関局は統計の公表を停止した。これは2023年3月まで続いた。その後、公開されたデータはHSコード(国際条約に基づく商品分類番号)による輸出入金額のみで、数量や国別の詳細は非公開のままである。
ただ、「ロシアNIS調査月報」2023年8月号によると、限られた情報に基づいても、2022年のロシア貿易の全体像は明らかになりつつある。
SWIFT排除も続くロシア貿易
ロシアの2022年の貿易額は前年比8.1%増の8505億ドルに達し、過去最大を記録した。このなかで、輸出は19.9%増の5915億ドル、輸入は11.7%減の2591億ドルであった。結果として、ロシアは3324億ドルの貿易黒字を達成している。
ロシア経済は、特に原油やガスなどのエネルギー輸出に依存しており、国際資源価格の変動が経済動向に大きな影響を与えている。ウクライナ侵攻後の資源価格の高騰は、ロシア経済に一時的な利益をもたらした。
しかし、ウクライナを支援する西側諸国は、ロシアからの輸入を減らすことで対抗しており、ロシアは中国やインドなど新たな市場への拡大を図っている。経済制裁中にも関わらずロシアと貿易を行っている国々は、侵攻開始当初の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除などの強力な制裁にもかかわらず存在している。
イェール大学の調査によれば、2023年9月時点でロシアにおける外資系企業の約33.7%が撤退を表明し、31.8%が活動を一時停止、34.8%が何らかの形で活動を継続している。このうち13.7%が活動を継続、11.0%が新規投資を停止、9.7%が活動を縮小している。
国別で見ると、中国企業の79.2%が侵攻後も活動を継続しており、フィンランドは撤退した企業が全体でゼロである。ドイツは17.6%、イタリアは22.6%、日本は17.1%、米国は5.0%と、ロシア国内で経済活動を続けている企業が存在する。
前述の「ロシアNIS調査月報」2023年8月号の分析によると、2022年の主要貿易相手国は中国が第1位、次いでトルコ、ドイツ。日本は11位、米国は14位に位置している。侵攻後の制裁強化にも関わらず、日露間の貿易は継続している。
財務省の貿易統計によると、2023年10月の速報値ではロシアからの魚介類9627t、穀物類281t、液化天然ガスや鉄鋼などの資源も輸入されている。
制裁下で開かれる新航路
これらの統計からは、ロシアが経済制裁下にありながらも、豊富なエネルギー資源を背景にして経済活動を盛んに行っている実態が明らかになっている。
ロシアとの経済的な相互依存関係は今後も続くと予測される。経済制裁下でのロシアとの関係は複雑であり、一部の国々は制裁を維持しつつも経済活動を続けることを選択している。ロシアの豊富な資源と国際市場の需要により、貿易関係は今後も一定程度維持される可能性が高い。
この状況下で、ロシアの交通インフラの動向からは、国の経済的な野心と戦略が明確に見て取れる。
・新航路の開設
・鉄道網の拡張
・物流施設の整備
など、ロシアは積極的に交通インフラを強化している。これは、内陸部からの資源輸出を円滑にし、経済的な影響力を拡大する試みと見ることができる。
ロシアは、特に北極海航路の開発にも注力しており、これがアジアとヨーロッパを結ぶ新たな物流ルートとしての位置づけを目指している。これらの動きは、ロシアが国際貿易においてより重要な役割を果たそうとしていることを示しており、グローバルな経済の文脈においてもその重要性は増している。
ロシアの経済活動は多岐にわたり、国際市場においても重要な役割を担っている。特に、エネルギー資源市場におけるロシアの動向は国際経済に重要なインパクトを持つ可能性がある。
ロシアの原油、天然ガスなどの輸出は、世界的なエネルギー供給に大きな影響を及ぼしており、国際的な価格動向にも影響を与えている。戦時下という特殊な状況で、ロシアの交通網に関する話題もまた、価格動向に影響を与えるものにもなっている。
●キーウ市長 ウクライナは独裁主義に向かってる 12/3
ウクライナの首都キーウのクリチコ市長は、ドイツのメディアの取材に国家が独裁主義に向かっていると話すなど、ゼレンスキー大統領に向けたとみられる批判を展開した。
キーウ・インディペンデントによると、クリチコ氏は、ロシアとの全面戦争に突入した当初の数ヶ月間、ウクライナは指導者不在で混乱していたと説明。市長らが住民を守り、軍を支援するなど重要な指導的役割を果たしたと指摘した。しかし、大統領府は市長たちを権力集中にとって慣習的な障害としかみなしておらず、「ある時点で、われわれはすべてが一人の男の思いつきに頼るようなロシアと変わらなくなるだろう」と語った。
クリチコ氏は首都の市長でありながら全面戦争が始まって以来、ゼレンスキー氏と会話をしていないという。
両者の関係悪化が明るみに出たのは昨年11月。ゼレンスキー氏は国民向け演説で、ウクライナ全土の多くの地域が大規模な停電に見舞われたが、「最も大きな問題」はキーウにあると批判した。
ゼレンスキー氏は「残念ながら、すべての都市で地方自治体が良い仕事をしているわけではない」と述べ、「特にキーウでは多くの苦情が寄せられている」「キーウの住民はより多くの保護が必要だ」と主張。市長に「さらなる支援」をするべきとしたほか、市内の避難所の提供について「市長の事務所から質の高い仕事を期待している」と述べるなどした。
これに対してクリチコ氏は当時、政治的な争いは「無意味」と反論。「ウクライナ国民と外国のパートナーにとっても醜い」と反撃していた。

 

●ロシア軍、兵士17万人増員へ 12/4
ロシアのプーチン大統領は、ロシア軍に対し、兵力を17万人増員するよう指示した。ロシアがウクライナで行っている戦争は始まってから1年10カ月が経過している。
ロシア大統領府が発表した大統領令によれば、今回の人員増によってロシア軍の要員は220万人あまりとなる。そのうち兵士が132万人を占める。
ロシア国防省は、今回の人員増加の動きについて、ウクライナでの戦争や北大西洋条約機構(NATO)の継続的な拡大などロシアに対する脅威の増大に対応したものだと説明した。
国防省によれば、人員増は新兵募集を通じて段階的に実施される。徴兵や新たな動員の計画はないという。
ロシア軍の人員増加に向けた大統領令は、ロシアがウクライナに対する全面侵攻を開始してから2度目。
プーチン氏は2022年8月、23年1月1日までに兵士を13万7000人増加するよう指示。これによりロシア軍の規模は兵士115万人を含む200万人余りとなっていた。
●ロシア・ウクライナ双方が捕虜使い「情報戦」… 12/4
ウクライナ侵略を続けるロシア軍が、捕虜となったウクライナ軍兵士に軍の規律の乱れや士気の低下などを暴露させる動画を盛んに発信している。発言は強制された可能性があり、捕虜の適切な処遇を定めた国際人道法に違反しているとの批判がある。ウクライナ側も捕虜の露軍兵士を通じた発信を行い、「情報戦」が激しさを増している。
「兵士は酒と金のことばかり考えていて、戦いに臨める状態ではない」。露国防省が10月に公開した動画では、捕虜となったウクライナ兵とされる男性が、こう語った。軍の士気は著しく低いとし、「戦場で負傷した仲間を見捨てるほどだ」とも述べた。
ロシアは国防省のSNSや国営テレビなどで、捕虜となったウクライナ兵による「証言」の発信を続けている。「子どもを迎えに行ったら、軍に捕まって招集令状を渡された」といった話から、「訓練レベルが低く戦闘能力はない。できることは穴を掘るだけ」といったウクライナ軍の批判まで幅広い。
動画の公開は、ウクライナと米欧各国の世論の動揺を誘い、侵略を正当化する狙いがあるようだ。
国家間の国際紛争に適用される「ジュネーブ条約」では、捕虜を拘束した国に対し、捕虜の安全や名誉を守る責任があると定めている。ロシアが公開した動画で自ら撮影を望んだと語っていたウクライナ兵は解放された後、オーストラリア公共放送ABCの取材に対し、暴行を受けて衰弱した状態で撮影されたと訴えた。ロシアは、捕虜に発言を強要している可能性が高い。
ウクライナ政府は昨年7月、捕虜の「政治利用」を非難し、人道的な扱いを求める声明を発表した。
一方、ウクライナ側も昨年2月の侵略開始直後、捕虜となったロシア兵が母親と電話して泣き崩れたり、自身の名前や住所を明かしたりする動画を次々と公開した。ロシア国内で反戦機運を盛り上げ、プーチン政権への圧力を高めることを狙ったとみられる。
こうした動画について、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは昨年3月、捕虜を「公衆の好奇心にさらしている」として、ウクライナ側に動画の公開をやめるよう警告した。
ただ、ウクライナ当局は最近になっても、捕虜の露兵を利用したアピールを続けている。9月には捕虜の収容施設が外国メディアに公開され、露兵が食堂に集まってパンやスープ、サラダなどの食事を食べる様子のほか、テレビや冷水機が設置された部屋などの撮影と取材が許可された。AFP通信は「ウクライナ側が捕虜を人道的に扱っていると印象付ける狙いがある」と報じた。
●ベラルーシ大統領が訪中 ウクライナ巡り習氏と会談へ 12/4
ベラルーシ大統領府は3日、ルカシェンコ大統領が3、4両日の日程で中国を訪問すると発表した。4日に習近平国家主席と会談する。「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ氏の訪中は2〜3月以来。
会談では、ベラルーシの協力の下、同盟国ロシアが続けるウクライナ侵攻も議題になるとみられる。ベラルーシは中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」にも賛同している。
●戦時下のウクライナで2度目の冬到来 12/4
雪が初めて降った日はこのコラム欄で必ず記したものだ。初雪の日を忘れないためという意味もあったが、雪が初めて降った日はやはり特別な思いが湧いてくるからだ。
ドイツのショルツ首相と防衛政策の協調で電話会談するゼレンスキー大統領(2023年11月30日、ウクライナ大統領府公式サイトから)
8年前のコラムの中で「『ベートーベンの生涯』を書いた作家ロマン・ロランは『ウィーンはどこか軽佻(けいちょう)な街だ」と表現している。非日常的なイベントで明け暮れる観光の街に住んでいると、人々は落ち着きを失い、内省する習慣もなくなっていく。例外は雪が降る日だ。ウィーン子は雪の降る日、人生について考え出すのだ」と書いたほどだ。
その音楽の都ウィーンはここ数年、雪が余り降らなくなった。地球の温暖化のせいかは知らないが、暖冬が続いたので重いマンテル(外套)を着て冬用の靴を履く、ということはここ数年なかった。
雪が降らなければ、雪掻きをするサイドビジネス(お小遣い稼ぎ)をしている人々にとっては収入源の喪失を意味する。雪掻きの仕事を希望する市民は市当局の担当部署に登録しておく。そして雪が降って、路上の雪掻きが必要となれば、市当局から登録していた市民に電話が入る。通常、早朝、3時、4時ごろから雪掻きが開始される。
アルプスの小国オーストリアのチロルなどアルプス山脈地域は、ウインタースポーツのメッカだ。ただ、アルプスの地域でも雪が十分に降らないためにアルペンスキーW杯大会が開催できないという事態もあった。
幸い、今年はそのようなニュースは届かない。今夏は例年にない暑い日々が多かったというニュースを聞いたばかりだったが、ここにきて「今年の冬は寒くなるだろう」という予測が出ている。
今年のウィーンの初雪は11月25日から26日にかけて降った。ただ、太陽が昇るとすぐに消えてしまった。そして12月2日、本格的に雪が降った。自宅のベランダには約30センチの雪が積もった。本当に久しぶりの雪だ。その翌日(3日)、近くの教会から朝7時を告げる鐘の音がいつもより小さく響いてきた。教会の鐘の音が積もった雪に吸収されてしまったのだろう。路上から聞こえる音も3日が日曜日ということもあるが、静かだ。
ところで、ウィーンから1000キロも離れていないウクライナでは既に冬が始まっている。「初雪だ」といって当方のようにのんきなことをいっている場合ではない。ウクライナの冬はウィーンより寒い。ウィーン大学で学生が「今日は寒いわ」と呟くと、キーウ出身の女学生が「寒い?この程度の寒さなど問題ではないわ。ウクライナではマイナス20度は普通」と答えたという。「ウィーンの寒さ」と「キーウの寒さ」では大きな差があるわけだ。
ウクライナ国民にとって寒さだけではない。ロシア軍の攻撃を受け、電力・水道などの産業インフラが破壊されたこともあって、停電は日常茶飯事、自宅で温かいスープで寒さをしのぐといった贅沢なことは難しい。爆撃で窓が吹っ飛んでしまったアパートメントに住むキーウ市民は新しいガラスは直ぐに手に入らない。寒さがもっと厳しくなる前にビニールを貼って緊急処置をする。
マイナス20度、停電、空腹の状況下に生きている人々がどんなに大変かは体験しないと理解できないだろう。ロシア軍と戦うウクライナ兵士は更に大変だ。生命の危機を常に感じながら、戦場でロシア軍兵士と闘っている。冬になれば、通常の戦闘は難しくなるから、無人機攻撃やミサイル攻撃が中心となってくる。兵力の増強を決定したロシア軍は戦時経済体制のもと武器を依然十分保有しているから、欧米諸国からの武器供与に依存するウクライナ軍はやはり不利だ。
ウクライナ軍によると、ウクライナ軍とロシア軍の間の戦闘はここにきてウクライナ東部に集中している。アヴディウカ戦線では、過去24時間に20回のロシア軍の攻撃が撃退された。ウクライナ軍参謀本部の最前線報告によると、ロシア軍はバフムートを15回攻撃した。ウクライナ南部ヘルソン地域では、ウクライナ軍がドニプロ川南岸の新たな陣地を維持しているという。
ウクライナ戦争は来年2月24日でまる2年目を迎える。ウクライナ国民の祖国への愛国心、防衛の決意は途絶えていないが、2022年上半期のような高まりはないだろう。犠牲者も増えれば当然のことだ。この冬を何とかして乗り越えなければならない。ゼレンスキー大統領はどのような思いを持ちながら、国の指揮をとっているのだろうか。同大統領は11月30日、AP通信とのインタビューの中で「期待した成果は実現していない」と、現状が厳しいことを認めている。
欧米諸国はウクライナ支援の継続と連帯を繰り返し表明しているが、欧州諸国(EU)の27カ国でも対ウクライナ支援で違いが出てきている。スロバキア、ハンガリーはウクライナへの武器支援を拒否し、オランダでも極右政党「自由党」が11月22日に実施された選挙で第一党となったばかりだ。もはや前政権と同様の支援は期待できない。欧州の盟主ドイツは国民経済がリセッション(景気後退)に陥り、財政危機に直面している。対ウクライナ支援でも変更を余儀なくされるかもしれない。最大の支援国・米国では連邦議会の動向が厳しい。共和党議員の中にはウクライナ支援のカットを要求する声も聞かれる、といった具合だ。もちろん、イスラエルとハマスの戦闘は米議会の関心を中東に傾斜させているため、ウクライナへの関心は相対的に薄くなりつつあることは事実だ。
ウクライナ国民は今、内外共に厳しい時を迎えている。ウィーンで空から静かに落ちてくる白い雪を見つめていると、キーウ市民はどのような思いで今、雪を眺めているだろうか、と考えざるを得なかった。
●ウクライナ軍、動員体制に見直し必要=ゼレンスキー大統領 12/4
ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、ロシアの侵攻に対抗する軍の体制を改善する総合的戦略の一環として、兵士動員の見直しが必要だと述べた。
定例のビデオ演説で同氏は、軍司令部の会議で2024年に具体的な戦果を出すためのシナリオについて議論したとし、「特に動員の問題に関連しており、ウクライナの誰もがこの分野で変革が必要だと理解している」と強調した。
その上で、単に数や対象だけではなく、兵役解除や新規動員の時間枠と条件が問題になっていると説明した。
一方、ロシア大統領府は1日、プーチン大統領が軍の最大兵員数を17万人増やす大統領令に署名したと発表した。これにより軍の正規兵力は132万人となる。
ウクライナのレシチェンコ大統領府補佐官は今週、国営テレビで、前線に十分な人数を確保するために部隊のローテーション配備が必要と訴えた。ウクライナの多くの旅団は50代の兵士で占められていると語った。
●プーチン政権が難民大量誘導 NATO加盟フィンランドに嫌がらせ=@12/4
ロシアのプーチン政権が、国境を接する北欧フィンランドに難民を大量に送り込む事態となっている。フィンランドが西側の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことへの報復と指摘されている。ロシアが政治や社会に揺さぶりをかける「ハイブリッド攻撃」を仕掛けているとみて、フィンランドは国境にある全検問所を閉鎖する対抗措置に踏み切った。
フィンランドのオルポ首相は11月28日、「この現象を終わらせる」と表明した。難民の不自然な急増が、国家の安全と秩序を脅かすと判断し、検問所の閉鎖を12月13日まで継続する。
フィンランド政府によると、8月上旬以降、1000人近くがビザを持たずに検問所に来た。うち900人以上が11月に集中し、ほとんどがフィンランドで亡命を申請した。
難民は子供用の自転車に乗っていたり、氷点下の中、最寄りのロシアの街から約250キロ離れた検問所に十分な装備をせずに現れたりするなど不自然さが目立った。オルポ氏は検問所にたどり着く手段について「ロシア国境警備隊が手助けしているのを確認した」と言い切った。
現地の報道では、難民らは出身国からロシアやベラルーシを経由してフィンランド国境に到達するまでの旅費や交通手段などをまとめた「パック旅行」を何者かにあっせんされたという。
米シンクタンクの戦争研究所は内部関係者の話として、ロシアのキリエンコ大統領府第1副長官が内務省に中東、アフリカなどの難民らを集め、フィンランドの国境に送り込むよう指示したと明らかにした。大半がフィンランドへの入国を拒まれ、結果的にロシアが引き受けることになっているという。
ロシアのウクライナ侵略を受けてフィンランドはNATOに加盟申請し今年4月に実現した。ロシアは西側の戦力が自国に迫る恐れがあるとして強く反発しており、今回の事態は軍事と非軍事的手段を組み合わせたハイブリッド戦争の一環とみなされている。
ロシアと接するバルト3国のエストニアも11月30日、難民が急増する事態に備え、国境にある検問所6カ所を閉鎖する可能性があると表明。国民に「ロシアへ行くと戻れなくなるかもしれない」と注意を呼びかけた。 
●ウクライナ人の44% ロシアとの戦争終結に「妥協が必要」 調査で明らかに 12/4
ウクライナ人のほぼ半数が戦争終結のためにロシアとの妥協が必要だと考えていることが分かりました。
ウクライナ人の44%が戦争の終結の交渉でロシアとの妥協が必要だと考えていることがウクライナの独立系調査機関「レイティング」の調査で明らかになりました。
今年2月の調査に比べて9%増加しています。
ウクライナメディアが3日、報じました。
特にウクライナ東部の住民や18歳から35歳の若い世代に妥協を支持する人が多いということです。
一方で、48%はロシアに占領された領土を解放するまで戦争を継続することを支持していますが、減少傾向にあるということです。
●反攻半年、戦況こう着 「数カ月動かず」の見方―ウクライナ 12/4
ロシアの侵攻を受けるウクライナが反転攻勢を開始してから4日で半年が経過した。ロシア軍の強固な防衛線を前に反攻は期待通りに進まず、戦況はこう着状態に陥っている。冬が到来する中、数カ月は前線は停滞するという見方も出ている。
反転攻勢の開始は準備の遅れから当初予定より遅れ、ロシア軍に地雷原をはじめ強固な防衛線を築く時間的猶予を与えた。この半年間でウクライナは一部でわずかに前進したものの、ウクライナの南部と東部に展開するロシア軍の分断という目標の実現には至っていない。
英誌エコノミスト(電子版)は11月、ウクライナのザルジニー総司令官のインタビュー記事を配信。ザルジニー氏はこの中で、ロシアとウクライナの軍事技術の水準が拮抗(きっこう)し、「こう着状態にある」と認めた。
CNNテレビによると、過去数週間、ウクライナ軍の前進が滞っているほか、西側情報当局は今後数カ月は前線が大きく動く可能性は低いと予測している。反攻が進展しない要因の一つには、地上作戦を支援する空軍力の不足がある。
侵攻の長期化を受け、米国をはじめ西側諸国ではウクライナに対する「支援疲れ」が目立ってきた。ウクライナはまた、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの衝突後、国際社会の関心が中東情勢に移り、支援に影響を及ぼす可能性があると危機感を深めている。ゼレンスキー大統領は3日のビデオ演説で、「ウクライナの運命の戦いは続いている」と強調し、支援継続を強く訴えた。

 

●プーチン氏がロシア業績展示会視察、「核ボタン」は押さず 12/5
ロシアのプーチン大統領は4日、国の業績に関する大規模展示会を視察した。ソ連の核爆弾設計について説明を受けた際に核実験を行うための「核ボタン」が付いた模擬制御盤を見せられたが、押すことは避けた。
ウクライナ戦争が始まって以来、プーチン氏はロシアに対して核攻撃を仕掛けようとする者は地球上から抹殺されると述べている。
同氏は来年3月の大統領選への出馬を今月中にも表明するとみられているが、この日は子どもたちと触れ合う姿も見られた。
●ウクライナ、反転攻勢「失敗」 12/5
米有力紙ワシントン・ポスト電子版は4日、ウクライナがロシアに対して6月に始めた反転攻勢について、当初の想定が外れて戦況が膠着し、全体として失敗していると特集記事で報じた。作戦方針や開始時期を巡り、最大支援国の米国と摩擦が生じていたと伝えた。同紙はプーチン大統領が支配地域を完全に吸収できると確信していると分析した。
同紙によると、ウクライナと米英両軍は反転攻勢のため、ドイツ・ウィースバーデンの米軍基地で8回の机上演習をした。米国は戦力を南部ザポロジエ州に集中させ、拠点都市メリトポリに南下してアゾフ海に到達し、ロシアの補給路を断つ作戦を主張。早ければ60〜90日間で成功する可能性があるとみていた。
だが、ウクライナはメリトポリに加え、メリトポリ東方のベルジャンスク、東部ドネツク州バフムトへの進軍を訴えた。東部に戦力を投じなければ、隣のハリコフ州を侵食されかねないと懸念した。ロシア軍の兵力を分散させる狙いもあり、結局、反転攻勢は3方面で進めることになった。
●プーチン大統領、UAEとサウジアラビアを訪問へ… 12/5
ロシアのオンラインメディア「SHOT」は4日、プーチン露大統領が今週、アラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアを訪問する予定だと報じた。ロシアのユーリー・ウシャコフ大統領補佐官が明らかにしたという。
プーチン氏が昨年2月のウクライナ侵略開始後、旧ソ連圏以外を訪れるのは、今年10月の中国訪問以来となる。UAE、サウジ両国は、ウクライナ侵略に絡んでプーチン氏に逮捕状を出している国際刑事裁判所(ICC)に加盟しておらず、プーチン氏を逮捕する義務はない。
ロシアとUAE、サウジ両国は、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟産油国による「OPECプラス」の枠組みに参加しており、プーチン氏はエネルギー分野を中心に連携強化を図る考えとみられる。
サウジで実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子との会談が注目される。
●ウクライナ侵攻で多くが死亡… プーチン、女性に8人でも子どもを産むよう求める 12/5
ロシアのプーチン大統領は、国民にもっと子どもを作るよう要請した。
「大家族が当たり前にならなければならない」とプーチン大統領は11月28日の演説の中で語った。
ウクライナに対する軍事侵攻が続き、経済危機が深まる中、ロシアでは出生率が低下している。
ウクライナに対する軍事侵攻で命を落とすロシア兵が増え続け、その人口危機が悪化する中、ロシアのプーチン大統領は女性に8人でも子どもを産むよう強く求めた。
11月28日にモスクワで開催された全世界ロシア民族大会議で演説したプーチン大統領は、ロシアは大家族が当たり前だった時代に戻らなければならないと語った。
「わたしたちの祖母や曽祖母たちの多くは7人、8人、あるいはもっとたくさんの子どもを産んだ」とプーチン大統領は話した。
「この素晴らしい伝統を守り、よみがえらせよう。全てのロシア人の生き方として、大家族が当たり前にならなければならない。家庭は国や社会の礎というだけでなく、崇高なものであり、道徳の源だ」
「ロシアの人口を維持、増加させることがこれからの数十年、さらには数世代先のわたしたちの目標だ。これがロシアの世界、千年の歴史を持つ永遠のロシアの未来なのだ」とプーチン大統領は続けた。
ロシアではここ数十年、出生率が低下し続けていて、ウクライナ侵攻とそれに続く経済低迷は状況を悪化させる一方だ。
ウクライナ侵攻の影響で90万人が国外へ逃れ、さらに30万人がウクライナで戦うために入隊し、ロシアの労働力危機は深刻化している。ロシアメディア「メディアゾナ」と「メドゥーザ」が7月に行った統計分析によると、ウクライナ侵攻でおよそ5万人のロシア人男性が死亡したと見られている。
イギリス国防省は10月、ロシアはウクライナ侵攻で最大29万人の兵士を死亡または負傷させた可能性があると報告した。
24年前に権力を握って以来、プーチン大統領は複数の子どもがいる家庭に現金を支給するなど、さまざまなインセンティブを与えることでロシアの出生率を上げようと取り組んできた。
ただ、効果はほとんどない。ロシア連邦国家統計局のデータによると、2023年1月1日時点でロシアの人口は1億4644万7424人と、プーチン大統領が初めて大統領に就任した1999年よりも減っているとル・モンドは報じている。
「ロシアには労働者がいない」とロシア連邦国家統計局で働いていたこともある人口統計学者アレクセイ・ラクシャ氏は2月、AFP通信に語っている。
「これは昔からある問題だが、動員と大量出国で悪化している」とラクシャ氏は指摘する。
ロシア人の中には、土地の提供など政府が大家族に約束した経済支援は実現しなかったと主張する人たちもいると、RadioFreeEurope/RadioLibertyは2020年に伝えている。
ちなみに、プーチン大統領には4人以上子どもがいると噂されているが、大統領が自身の子どもについて公に語ったことはない。
●プーチン、英など21か国の新大使ら前に「ロシアは独立した外交政策をとる」 12/5
ロシアのプーチン大統領は4日、新たに着任したイギリスなど21か国の大使から信任状を受け取る式典に出席し、「ロシアは独立した外交政策をとる」と述べました。
クレムリン宮殿で行われたこの式典には、旧ソ連のカザフスタンのほか、イギリスやドイツなど21か国の新任大使らが出席しました。
プーチン大統領は各国の新任大使を前に「世界は激動の中にある」とした上で、「ロシアは独立した外交政策を今後も追求し続ける」と述べ、西側諸国と妥協する考えがないことを改めて主張しました。
続いて、21か国すべてについてロシアとの関係を語りましたが、演説終了後も出席した大使から拍手はなかったということです。
●西側非難「封印」 ウクライナ言及せず、軟化演出―プーチン氏 12/5
ロシアのプーチン大統領は4日、新たにモスクワに着任した外国大使21人の信任状奉呈式に臨んだ。英国やドイツなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大使が含まれたが、演説でロシアが侵攻するウクライナ情勢に直接言及はなかった。西側諸国への非難も事実上封印した。
対外的に軟化姿勢を演出することで、ウクライナを支援する西側諸国を揺さぶり、ロシアに有利な形での停戦を促す狙いもあるとみられる。ただ、各国との関係冷却化は「ロシアが主導したことではない」という立場は崩さなかった。
式にはスウェーデン大使も出席しており、ロシアの脅威を理由にスウェーデンが200年近い中立・非同盟を放棄し、NATO加盟を申請したことについては「疑問を抱かずにはいられない」と述べた。
●独ロ協力関係、ノルドストリーム爆発事件で中断=プーチン氏 12/5
ロシアのプーチン大統領は4日、ロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム」で2022年9月に起きた爆発事件を受け、ロシアとドイツの協力関係が中断されたとの認識を示した。
プーチン氏は、ドイツや英国を含む20カ国以上の新駐ロシア大使の信任状を受理する式典で「ロシアが主導したものではないが、ドイツのロシアとの関係が凍結している現状は、双方にとって利益にならない。特にドイツにとって利益にならない」とし、「エネルギーは常に二国間協力の魅力的な分野だったが、この協力はノルドストリームに対する妨害行為によって中断された」と述べた。
一方、英国については関係改善を望むと言及。「両国と両国民の利益のために状況の好転を期待したい」と語った。
●米のウクライナ支援金近く枯渇、ホワイトハウス当局者が議会に警告 12/5
米ホワイトハウス当局者は4日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対する支援について、議会が行動を起こさなければ資金が年末までに枯渇すると警告した。
米議会では共和党が下院を僅差で支配しており、ウクライナへの資金援助を巡る問題は一部の議員の間で政治的な論争となっている。
行政管理予算局(OMB)のシャランダ・ヤング局長は共和党のジョンソン下院議長を含む議会指導部に宛てた書簡で、ウクライナに対する資金と兵器の供給を断ち切ることは、ロシアの勝利の可能性を高めることになると指摘。「議会が行動を起こさなければ、年末までに資金が枯渇する」と訴えた。
その上で、国防総省は11月中旬までに623億ドルの追加資金の97%を使用したほか、国務省は47億ドルの軍事支援を全て使い果たしたと指摘。約272億ドルの経済支援、100億ドルの人道支援も使い切ったとし、「ウクライナが自国を防衛し、主権を持つ民主的で独立した国家としての将来を確保できるよう支援することは、米国の安全保障上の利益にかなうと強調したい」と述べた。
また、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は記者団に対し、議会は「ウクライナの自由のための戦い」を支援し続けるか、「歴史から学んだ教訓を無視し、(ロシア大統領の)プーチンに勝たせる」かを決めなければならないと指摘。「ウクライナ支援に反対する投票は、プーチンの戦略的地位を向上させる投票だ。これは避けられない現実だ」と語った。
5日に機密ブリーフィング
バイデン政権は5日に上下両院向けに機密ブリーフィングを行う。
上院民主党トップのシューマー院内総務によると、ブリーフィングの一環として、ウクライナのゼレンスキー大統領が動画を通じて上院議員向けに演説するよう要請されている。
上院議員向けの非公開ブリーフィングは、米東部時間午後3時に予定されている。
一方、ジョンソン議長はX(旧ツイッター)上で、政権がウクライナ戦略に関する共和党の懸念に「実質的に対処できていない」と指摘。国家安全保障のいかなる支出も国境政策に対処するものでなければならないと投稿した。
「上院民主党とホワイトハウスが理性的に交渉すれば、この2つの問題は合意できると信じている」と記した。
●「支援疲れ」が広がるなかで「プーチンの考え」を完全に読み違える西側諸国 12/5
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は反転攻勢を始めてから5カ月たった11月初め、陰鬱な戦況報告をした。ウクライナとロシアの陣地戦は膠着状態に陥り、このままではロシア有利に傾く恐れがある、というのだ。
折しも西側では「支援疲れ」が広がり、停戦交渉を求める声が高まっている。ザルジニーは今から1年前、反転攻勢で大きく前進するために必要な支援を西側に具体的に求めた。
防空システム、戦闘機、主力戦車、歩兵戦闘車、榴弾砲、長距離ミサイル......。勝算はあると、当時彼は言い切った。「ただし、それには軍事資源が必要だ!」
しかし西側の支援は品目も量もザルジニーの求めるレベルに遠く及ばなかった。
西側が支援をためらったせいでロシアは時間稼ぎができ、障害物や塹壕や地雷原を広範囲に設けて防御を固めた。
なかでもウクライナ軍の痛手となったのは、アメリカがつい最近まで長距離射程の地対地ミサイル「ATACMS」の供与を渋り、ドイツも巡航ミサイル「タウルス」の供与を見送ったことだ。
西側の迅速かつ寛大な支援があればウクライナ軍が快進撃できたという保証はないが、それがなかったために膠着状態に陥ったことは確かだ。
ロシアは10、11月にウクライナ東部のアブディイフカなどウクライナ軍の拠点に兵力を集結させて攻勢に出た。それにより多大の犠牲を出したものの、一定の成果はあった。小さな領域を奪ったところで戦略的な価値は疑わしいが、心理戦での効果は明らかだ。
ロシアの攻勢は前線で再びロシアが主導権を握ったという印象を西側に与えた。ウクライナの反転攻勢がパッとしなかったことも手伝って、ロシアが優勢になるとの見方が広がり、それが西側の支援疲れを助長して停戦交渉を求める声が一気に高まったのだ。
実際、西側の支援戦略は行き詰まっている。西側は口に出しては言わないものの、腹の中では「決定的な勝利ではなく、ウクライナの存続を保証すること」を目指していた。その結果として今、困難な選択を迫られている。
領土割譲で和平実現?
西側の一部には選択肢は2つしかないとの見方がある。1つは延々と戦争を続けること。その場合、ロシア有利に傾くリスクがある。もう1つは、ウクライナの領土の一部をロシアに与え、戦争を終わらせることだ。
しかしウクライナにとっての現実、そして何よりロシアにとっての現実を見ると、2つ目の選択肢はあり得ない。
ウクライナ人にすれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの一部地域を分捕るだけで満足するとはとても思えない。
プーチンはウクライナの国家および民族、歴史、文化的アイデンティティーを地上から消し去らずにはおかないと彼らはみている。「領土を割譲して和平を実現」という妥協策はウクライナ人にはあり得ない。
それに対して西側の停戦交渉支持派は、ウクライナが交渉を拒んだところで、西側の援助がなければ戦争を続けられないと反論するだろう。だが彼らはプーチンの考えを読み違えている。
プーチンは完全な勝利は望めないとみて、これまでに奪った地域を確保するだけで満足するだろうと高をくくっているのだ。
この見方は、プーチンの権力基盤を支える上でこの戦争が帯び始めた戦略的役割を見落としている。注目すべきは、プーチンの言説がこの2年ほどで変わってきたことだ。
ロシアのプロパガンダでは、当初ウクライナ侵攻はウクライナの「ネオナチ」の攻撃を防ぐための作戦とされていた。だが今では西側全体の攻撃から祖国を守る「愛国の戦い」となっている。こうなると、妥協による停戦はあり得ない。
プーチンが権力維持のために大規模な戦争を必要とするようになったのは2018年から20年にかけて。14年のクリミア併合で一気に高まった支持率が国内に山積する問題でジリ貧になった時期だ。
18年には年金改革に反対する声が高まり、19、20年にもモスクワとハバロフスク地方に反政府デモが広がった。
国民の不満に追い打ちをかけるようにコロナ禍が発生。その経済的影響に加え、反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイが毒を盛られ収監されたことや、「外国の代理人」の活動を規制する法律で市民の自由が制限されたことで人々の怒りは沸騰寸前にまで達した。
「粘り勝ち」を目指す敵
プーチンがウクライナとロシアの一体性を強調した悪名高い論文を発表したのは、まさにこの時期だ。問題の論文はイデオロギー的にも戦争正当化のロジックとしても、ウクライナ侵攻の序章となった。
いま停戦に応じれば、プーチンはたなざらしの諸問題に加え、西側の制裁と大規模な侵攻がもたらした新たな問題にも対処しなければならない。良いことは1つもないのだ。
西側に突き付けられた困難な選択は「戦争か妥協か」ではない。「敗北か勝利か」だ。
西側が今のレベルの支援を続けるか、停戦交渉を促しつつ支援を減らせば、敗北の確率が高まる。プーチンが当てにしているのは、まさにそれだ。
彼の勝ち筋の根幹を成すのは、西側(それに付随してウクライナ)よりもロシアのほうが粘り強く消耗戦を続けられるという読みにほかならない。妥協に望みを託す西側のあやふやな姿勢と違って、プーチンの戦略には明確なロジックがあるのだ。
西側は今こそ問うべきだ。ウクライナの勝利を可能にするために支援を大幅に増やすコストと、現状の支援を続けるか支援を減らすことでウクライナの敗北を招くコスト。そのどちらが大きいか。
敗北すれば、どうなるか。勝利したロシアはこれまでに奪った5地域を占領し、それを通じてウクライナ政府を影響下もしくは支配下に置くが、それだけでは満足しないだろう。
この戦争でロシアも軍事的、経済的に打撃を受けたから、ポーランドやバルト3国に即座に手を出す余裕はないかもしれないが、モルドバの存続は危うくなる。しかも、自信を付けたロシアが軍備を立て直せば、どうなるか。分別ある欧州諸国は、そして分別ある米政権はそんな危ない賭けには乗らないはずだ。
もちろんウクライナの勝利もコストを伴う。支援を拡大しテコ入れを続ける西側の経済的な負担は膨大なものとなる。中東でも戦闘が起きている今はなおさらだ。それでもウクライナの敗北がもたらす実存的危機に比べれば、負担は安いものではないか。
●経済制裁から逃れるロシア、中国製オフロード車2000台購入…戦線に投入 12/5
ロシアが中国から約2000台のオフロード車を輸入し、ウクライナ戦争に投入していることが分かった。英フィナンシャル・タイムズが3日(現地時間)に報じた。
ロシアのプーチン大統領は先月10日、ショイグ国防相らと共にウクライナ国境に近いロストフナドヌーの南部軍管区司令部を訪れ、中国製オフロード車「デザート・クロス(中国名、沙漠越野)1000−3」を視察した。ショイグ国防相はプーチン大統領にこの車両の性能について説明し「非常に需要が多い」と報告した。その様子はロシア国営タス通信が報じた。
車両の横に設置された表示板からロシア軍の購入状況と購入計画を具体的に知ることができる。すでに537台の基本モデルが輸入されてロシア軍に配備されており、またオプションを追加した1590台も今後追加で輸入する計画で、うち500台は今月中に、1090台は来年1−3月期に輸入するという。価格はオプションにより1台158万−210万ルーブル(約254万−337万円)になるようだ。ウクライナ・メディアのキーウ・ポストは「ロシア軍が輸入した車両の一部が南東部のザポリージャなどに配備された」と報じた。SNS(交流サイト)にはロシア軍兵士らがこの車両で移動する様子を撮影した写真や動画が掲載されている。
フィナンシャル・タイムズは「プーチン大統領はウクライナ戦争に必要な装備を中国メーカーにより多く依存している」と指摘した。
●ウクライナ軍最大の砲弾、米国が5千発をギリシャから調達か 12/5
ウクライナ軍では、保有する最大の大砲に使用する砲弾が減少しており、米国がその補充に手を尽くしていることが、メディア報道から明らかになった。
ギリシャ紙カティメリニによると、米政府はウクライナ向けに砲弾7万5000発を4700万ドル(約69億円)で購入することをギリシャ政府と交渉している。内訳は105mm砲弾5万発、155mm砲弾2万発、203mm砲弾5000発だ。
そのうち最も興味深いのが、最も大きな203mm砲弾だ。この砲弾が入手できれば、ウクライナ陸軍は巨大な2S7自走カノン砲をもう少し長く使うことができる。
装軌式の2S7は、ロシアがウクライナに仕掛けた戦争で双方が使用するものの中で最大の大砲だ。重量50トンの2S7をウクライナ軍で唯一運用する第43砲兵旅団は多くの2S7を保有しているが、砲弾が足りない状況にある。
ウクライナ軍は1991年のソ連崩壊時にソ連軍から約100門の2S7を受け継いだ。ウクライナはそのうちの約20門を売却。残りは、同国軍がりゅう弾砲を小口径のものに統一したため、倉庫行きとなった。
2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島に侵攻したことで、すべてが変わった。ウクライナ軍は埃をかぶっている国内各地の倉庫を開け、古い兵器を多く引っ張り出した。その作業はロシアが昨年2月に再びウクライナに侵攻すると加速した。
ウクライナ軍は当初、十数門ほどの2S7を復帰させ、侵攻から最初の6週間にわたり首都キーウの防衛に役立てた。2S7は、前方にいる監視員の合図や、ロシア軍部隊が通過するのを見かけた愛国心のある民間人から時々もらう電話によって発射された。
一方で、まだ保管されていた70門ほどの2S7の多く、あるいはすべての修復が進められた。ウクライナ軍の砲手たちはいま、修復された2S7を使い、ドローン(無人機)からの合図に従って砲撃を行っている。
2S7は、理想的な条件下であれば約100kgの砲弾を37km先まで飛ばす。だが発射速度は速くなく、1分あたり1、2発にとどまる。これは乗員14人が支援車両から砲弾を運び、油圧アームを使って1回につき4発装填するという手間があるためだ。
それでも、前線に展開する大隊が絶えず火力支援を求めるため、2S7は時に何時間も砲撃を続け、反撃の砲撃をかわすために砲の位置を変えるときだけ中断することもある。ウクライナの防衛産業によると、昨年の侵攻後間もない時期にキーウを防衛するのに使われた2S7はそれぞれ、1日あたり約50発の砲弾を発射した。
それから1年半にわたる激戦で、ウクライナ軍は2S7を少なくとも5門失い、ロシア軍から1門鹵獲(ろかく)した。第43旅団は2S7を75門保有している可能性がある。これまでに発射した砲弾はおそらく数万発にのぼる。
ウクライナは122mmと152mmの砲弾を生産しているが、203mmの砲弾は生産していないようだ。だが幸運なことに、米国と旧ソ連の203mmりゅう弾砲はいずれもルーツが英国にあるため、米国製の砲弾も2S7で問題なく使用できる。米陸軍は1994年に203mmりゅう弾砲を退役させた。
だが、米軍は203mmの砲弾をあまり備蓄していなかった。そのため、米国がこれまでに在庫からウクライナに供与した203mm砲弾はわずか1万発だ。ウクライナ軍が保有する2S7の数で割ると、1門当たり133発となり、激戦3日間分にしかならないだろう。
米国は、自国の備蓄が少ないことから、他国から203mm砲弾を調達しようと試みている。ギリシャ軍は米国製の古い203mmりゅう弾砲をまだ使用しており、大量の砲弾を保有していると報じられている。
ウクライナ内外の産業界が203mm砲弾の新たな生産ラインを確立するという大胆な取り組みを行わない限り、戦争3年目突入が見えてくる中で、第43旅団にとって最良の砲弾供給源はギリシャ軍かもしれない。他に203mmりゅう弾砲を運用している国の大半は中東とアジアで、砲弾を手放す気はないだろう。
米国がギリシャから購入する量は、砲弾不足を長期的に解決するには少なすぎ、応急処置のようなものだ。だが、新たに5000発の砲弾を手に入れるか、それとも全く手に入れないかの選択を迫られれば、第43砲兵旅団はもちろん砲弾を手に入れる方を選び、少なくとももう数週間は砲撃を続けるだろう。
●「オランダのトランプ」だけじゃない、欧州の極右台頭に笑うのはプーチンか? 12/5
・欧州の極右が勢いづいている。「オランダのトランプ」と呼ばれる極右政党が同国の総選挙で大勝したが、それだけではない。
・かつて移民に寛容だったアイルランドでも大規模な暴動が発生。ウクライナ難民の増加や住宅事情の悪化などへの不満が爆発した。
・イスラエル・ハマス紛争に端を発したテロなどが起きれば、反移民の動きは一気に燃え上がる懸念がある。欧州域内の分断は、膠着が続くウクライナ情勢でロシアのプーチン大統領を利することにもなる。
11月23日、アイルランドの首都ダブリン中心部で暴動が発生した。同月24日のAP通信は、少なくとも100人ほどの暴徒が街へ繰り出し、警察車両やトラム(路面電車)などを襲撃したと報じた。SNS上には、覆面の男がパトカーに火を放ち、周囲が奇声を上げる様子や、別の車両にも数名が攻撃を加える様などが拡散している。商店なども襲撃され、略奪も横行したと伝えられた。
暴動の発端は、同日の昼間に起きた小学校付近での刃物による襲撃事件だ。ナイフを持った中年の男が5〜6歳の幼児を次々に襲い、このうち5歳の女児と、子どもをかばおうとした女性教員が重症を負った。2人は一命を取り留めたものの、胸を刺された女児は先月末まで危険な状態が続いていた。
通行人らの咄嗟(とっさ)の行動により、その場で逮捕された容疑者の身元が判明しないうちから、SNSではこの男が不法移民だとの不正確な情報が拡散した。ガーディアン紙によれば、アルジェリア人、モロッコ人、またはルーマニア人だとの噂(うわさ)が瞬く間に広がった。暴動は、襲撃事件から数時間後には、先に記したような惨状を招いた。アイルランド史上、この数十年で最悪の暴動だと伝えられている。
犯人はその後、アルジェリア出身者ではあるものの、既に20年前からアイルランドに暮らす49歳の男で、アイルランドの国籍保持者だと判明した。取り押さえられた際、頭を強く打ったことによる後遺症で、警察の取り調べも進んでいない。
動機さえも不明な殺人事件がなぜ、一気に大規模な暴動に発展してしまったのか。カギは、SNS上に拡散した誤情報により暴徒らが犯人を「不法移民」であると断定したこと。あるいは、イスラム系過激派によるテロであると、勝手に結論づけたことにあるようだ。
極右思想の「フーリガン」が暴動を煽動
警察はこうした暴徒らが、極右思想に基づく「完全な狂気のフーリガン一味」であるとし、こうした輩を恥ずべきものとして糾弾した。しかし、ガーディアンが当日取材をした現場からは、若い母親のこんな懸念が伝えられている。
「人々はこの国のために戦わねばなりません。私はレイシストではありませんし、アイルランドを尊重する人々が(この国に)くるのは構いません。でも、混乱をもたらすようなろくでなしが審査もなしに入国しています」
複数の地元メディアの見解では、この暴動が起きたことに衝撃が広がる一方で、実は近年アイルランドにおいてこうした暴動が起きかねないと懸念されていたという。
アイルランドは19世紀に起きた飢饉(ききん)などによって、米国などに移民を大量に輩出する側にあった。一方、この20年ほどは、欧州連合(EU)の拡大などにより流入してくる移民が急増し、昨年までにアイルランド出身ではない人の数が、全人口の5分の1にまで増えた。それまで自らが移民を出す側であったアイルランドには、流入してくる移民に対しても比較的寛容な土壌があった。
ところが、この社会的背景が、昨今激変しつつあるという。ガーディアンは別のコラムで、変化のきっかけがロシアのウクライナ侵攻に伴う膨大な数の難民受け入れであると指摘した。地元紙は、9月までにアイルランドが受け入れたウクライナ難民が9万3000人に上るとしている。さらに、この12カ月でウクライナ難民の増加率が、他のEU加盟国より10倍の速さであると報じた。
移民に寛容だったアイルランドも激変
英国同様、アイルランドでも昨今は住宅価格の高騰や賃貸物件の不足などにより、住宅事情が危機的な状況下にある。今年3月にはバラッカー首相が、アイルランドには25万件もの物件が不足していると発表した。2月には、全国で賃貸できる物件の数が1100件ほどであったとされた上に、ホームレスの数は1万2000人近くに上り、2014年の統計開始以来最多であったという。地元紙はこの状況を「壊滅的」だと分析している。
さらには、保育所も慢性的に足りず、医療も十分に行き渡らないなど、社会サービスの質の低下に対して、人々の不満が高まっている。それが、これまで同国ではあまり問題とされてこなかった極右の主張に正当性を与える要因となっているようだ。
アイルランドでは今年1月にも「#IrelandIsFull (アイルランドはもう満杯)」という旗印のもと、難民が優先的に住宅を確保できているなどという不満を示す、大規模なデモが首都中心部で起きている。また、難民の身元審査が十分ではなく、若い男性の難民が大量に流入することで、身の危険を感じるという主張もされていたという。
今回の暴動に見られるようなアイルランドの人々の不満は、地域固有のもの、もしくは一過性のものと見過ごすことはできない。欧州の各国・地域にとって、危険な火種となる問題だろう。先のコラムでガーディアンは、政府やメディアがアイルランドの極右を単なる「狂気に満ちた陰謀論者」と位置付け、真剣に対峙していないことへの懸念を示している。
ポルトガルの極右を各国の右派・極右が応援
2016年、英国のEU離脱、いわゆる「ブレグジット」や米国のトランプ前大統領選出に世界は驚愕した。欧米諸国においても、極右の台頭が顕著になった。それにもかかわらず、アイルランドではこれまで、極右政党の候補者が国会議員に選出された例はない。直近の2020年の総選挙でも、反移民を掲げた極右は惨敗している。
しかし、この選挙はコロナ禍以前のものだ。その後、政府が先にあげたような諸問題を解決できていないことで、蓄積される人々の怒りの矛先が移民に向けられるようになる、とガーディアンは警鐘を鳴らしている。
アイルランドでの暴動から数日後の11月25日、独仏を含む欧州の名だたる右派・極右政党の党首がポルトガルで一堂に会した。欧州議会の右派・極右政治会派である「アイデンティティと民主主義」のメンバーだ。
ポルトガルでは今年11月、汚職疑惑で首相が辞意を表明したことに伴い、来年3月に総選挙が予定されている。右派党首らは、ポルトガルの「同志」である極右政党「チェガ(「もうたくさん」の意)」党首・アンドレ・ヴェントゥラ氏への支持を表明するために集まった。
チェガは2019年に結党したが、同年の選挙で、1974年の同国保守派独裁政権の終焉以来、極右として初の議席を獲得し、衝撃を与えた。党首のヴェントゥラ氏は2020年、欧州の少数民族ロマの人々に対する差別的な発言で罰金刑を受けたり、黒人の人権を訴えるブラック・ライブズ・マター運動に批判的な発言をしたりと、何かと物議をかもしてきた人物だ。
極右台頭はロシアのプーチンを利するか
ポルトガルの首都リスボンに右派の党首らが集まったのは、11月22日のオランダ総選挙で極右・自由党が大勝した直後だ。党首のヘルト・ウィルダース氏は「オランダのトランプ」とも呼ばれるポピュリストだが、極右政治家が極意とする反欧州、そして反移民のスローガンを掲げてきた。
中でもイスラム教に対する批判は苛烈(かれつ)を極め、イスラム教の経典であるコーランがファシスト的であるとして、オランダ国内で禁じるよう主張したこともある。今回の選挙戦では反イスラム色を多少薄めた同氏だが、移民の制限については主張を変えていない。
物価や住宅の高騰と移民問題により、欧州が今、各地で極右の台頭という火種を抱えているのは事実だろう。欧州懐疑派であるウィルダース氏が長年目指してきたオランダのEU離脱の強行は、今のところ現実的ではないと言われている。しかし、各地の極右台頭によって、欧州全体が対峙すべき諸問題に一致団結できない状況に追い込まれれば、それによって利する人物が一人、存在する。ロシアのプーチン大統領だ。
ウィルダース氏は、ウクライナへの軍事援助に反対している。最近ではスロバキアでもウクライナへの軍事支援停止を掲げた新首相が就任し、ハンガリーも同様の姿勢を示している。現在欧州では、こうして徐々に、ウクライナへの軍事支援の足並みにほころびが生じつつあるといえるのではないだろうか。
加えて、仮に来年の米大統領選挙でトランプ前大統領が共和党を率いて現職のバイデン大統領に勝利すると、欧米が示してきたウクライナへの軍事協力の結束が、大きくゆらぐ事態になりかねない。EUの東方への拡大や、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の増大を敵視してきたプーチン大統領にすれば、ウクライナとの戦いが有利に運ぶだけでなく、ウクライナ侵攻前から掲げてきた目的に向け、大いに前進することが可能となるだろう。
イスラエル・ハマス紛争でテロ懸念
さらに、イスラエルとハマスの紛争に端を発したイスラム過激派などによるテロ攻撃が欧州で頻発すると、世論はますます反イスラム、そして反難民・移民の方向へ流れかねない。折しも、欧州は1年で最も人々が街に繰り出すクリスマスの時期を迎える。筆者の元へは12月1日、外務省より海外在住者向けのメール連絡で、クリスマスシーズン中、ソフト・ターゲット(一般市民が多く集まる場所)がテロの標的になる可能性について、注意を喚起するメールが届いた。
冒頭のアイルランドでの襲撃事件において、身をていして犯人確保に努めたのは、皮肉なことに暴動を扇動した極右フーリガンの怒りの矛先となっていた「移民」の男性たちだった。ブラジル出身の男性は、デリバリーサービスの仕事をしている最中、事件に偶然遭遇し、ヘルメットで男を殴りつけるなどして犯人逮捕に貢献した。犯人から刃物を取り上げようと格闘し、負傷したのはフランス出身のシェフ見習いの男性。胸を刺された女児に現場で緊急医療を施したのも、フィリピン出身の看護師だった。
しかし、こうした客観的な事実など、極右には取るに足らない事例なのだろう。彼らが目的を達するには1度のテロ攻撃だけで十分だ。不測の事態を避けるには、まず住宅問題の解決など、火種となり得る人々の不満を解消すべく、各国政府が真剣かつ早急に対応する必要があるだろう。
●ロシア軍“侵攻後最多の死傷者”  犠牲をいとわぬ人海戦術の脅威と思惑 12/5
ウクライナ東部では、ロシア軍が要衝アウディイフカへの攻撃を強化中だが、死傷者が1日平均931人達したとされる。侵攻後最多を記録している可能性が高い。損失をいとわないロシアの戦術を解き明かす。
1) ロシア軍のアウディイフカ包囲・攻撃続く
ウクライナ東部では冬期を迎え、ロシア軍の攻勢が強まっている。アウディイフカではロシア軍が、波状攻撃を続けており、町の東部と南部を制圧、さらに町の西側から北上する部隊と、北側から西に攻勢をかける部隊によって包囲が進んでいる。
11月27日付けの「キーウ・ポスト」は、ロシア軍はアウディイフカ南部の最も重要な防衛拠点である工業地帯の9割を制圧したと報じている。
ロシア軍はアウディイフカ周辺に約4万人の兵士を投入し、大きな被害をだしながらも犠牲をかえりみぬ人海戦術を仕掛けていると見られている。
2) ロシア軍 “過去最多”の死傷者 突撃作戦の狙いは?
イギリス国防省は11月27日、過去6週間のロシア軍の死傷率はウクライナ侵攻後「最高水準」に達し、3月から約20%増加し1日平均931人、1か月で2万7千人が死傷し戦闘不能になったという分析を示した。
その原因は、ロシア軍がウクライナ軍の防衛拠点に対して「歩兵の小集団による突撃」をしかけるという戦い方にあるとされる。この作戦は大きな損失を伴うが、ウクライナ軍には大きな脅威になっている。
あるウクライナ予備兵将校は「X」(旧Twitter)に「“ある集団が別の集団に続く”というこの持続的な戦術はウクライナ軍を疲弊させ時間をかけて陣地を危うくする可能性がある。ロシア軍は高い死亡率にもかかわらず継続している」と投稿した。
「キーウ・ポスト」も「ロシア軍の損失は大きいが攻撃は決して止まらない。自分たちの屍を乗り越えて攻撃している。ある部隊がやられ次の部隊がやられれば3番目の部隊を投入する」とウクライナ軍軍曹の声を報じている。
英国国防省は11月28日、「アウディイフカ付近ではロシア軍は10月以前線を最大2km前進させたがこのために数千人の死傷者を出している」と発表した。
小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター)は、開戦前のロシア陸軍の兵力は約28万人とされ、この損害は「すさまじい犠牲だが、ロシア軍は兵士を死なせることへのハードルが非常に下がっている」と分析する。そして「政治指導部が、甚大な犠牲をだしてもアウディイフカを落とすことができればいいと考え、国民も強く反発しないならば作戦は実行できてしまう。非人道的としか言いようがないが“軍事的合理性がないとは言えない”」と述べた。
兵藤慎治氏(防衛省防衛研究所)は「プーチン大統領には第二次世界大戦と比べればまだ大きな犠牲ではないという認識がある。」とし、「さらなる追加動員は来年3月のロシア大統領選挙まではまだ想定されておらず、大きな政治的反発がロシア国民から出ることはないだろうと想定しているのではないか。しかし今後損失が拡大しロシア大統領戦の後に追加動員が行われたならば、ロシア国民がどう受け止めていくのかは注目される。」と述べた。
NATOのストルテンベルグ事務総長は11月29日「プーチン大統領は死傷者に対して耐久性が高い。ウクライナにおけるロシアの狙いは変わっていない」と発言した。
杉田弘毅氏(共同通信特別編集委員)は「プーチン大統領の頭の中には、ソ連が第二次世界大戦で数百万人を犠牲にして国を守ったという歴史が強く刻印されており、同じことを自分もできると考えているのではないか。」と述べた。さらにウクライナ軍のザルジニー総司令官が11月1日に「ロシアは少なくとも15万人の死者を出した。他の国ならそのような死傷者が出れば戦争をやめていただろう」とロシアの戦争継続意欲を見誤っていたと認める発言をした、という報道を引用し、戦局はまさにその現実を示している、と分析した。
3) 膨大な損害をいとわないロシア軍の攻勢の意図は?
ロシア軍が“過去最多”の死傷者を出しながらウクライナの東部で何を得ようとしているのだろうか?12月1日の戦争研究所は、衛星画像から、ロシア軍が東部のクピャンスク北東15kmまで進軍、さらに少しずつ前進しており、ウクライナ軍が反転攻勢をかけていたバフムトでも、ロシア軍は集落を“再制圧した”と主張するなど両軍が攻め合う展開となっていると報じた。
小泉氏は「ロシアはウクライナを屈服させることが難しいので、全戦線で相当な犠牲をだしながらも攻勢を継続し国家としての抵抗意志をなくすのをまっている。さらに来年のアメリカ大統領選でトランプ氏が再選されれば、減少しているアメリカからの軍事援助がさらに激減する可能性がある。当面は時間がロシアにとって味方であると認識されており、その間ウクライナに対し損害を強要しようとしており、現状はロシアが有利と言わざるを得ない。どこかの時期でウクライナに対する支援体制や勝利条件を考え直さないともたない可能性がでてきており、非常に厳しい局面といえる。」と述べた。
4) ロシア軍の総兵力は132万人?来年にはさらなる追加動員も?
プーチン大統領は12月1日、ロシア軍に約17万人を増員し132万人にするよう命令を出した。一方で動員ではなく、“募集活動の強化で実現する”と表明し下記の条件を示している。
・動員や徴兵開始ではなく募集活動の強化で実現
・入隊を希望する国民を対象に段階的に実施する
兵頭氏は、この命令はロシア国防省が昨年春に総兵力を150万人に増強する方針を示した延長上にあるとし、「ロシアは現状兵力では戦況を大きく変えられず増強を図っているが、来年3月のロシア大統領選に影響があるので現在のところは追加動員令はだせない。しかし戦況次第では大統領選後には追加動員を行うという懸念も一部では浮上してきている。」と述べた。
一方、小泉氏は「約130万人という数字はロシア軍の現有兵力の総数をほぼ示しているのではないか?」と分析する。開戦時のロシア軍の総兵力は約90万人とされ、開戦以来約30万人の損害を出したと見られている。「ロシア軍は損害を差し引いた60万人に、その後約30万人を動員し、40万人の志願兵を集めたとされており、足し合わせるととほぼ130万人となる。昨年動員された兵力の大半はすでに戦場に動員されており、最近の広範囲での攻勢に投入されている。ロシア軍の総兵力は大統領令によって示されるが2種類あり、将来の中期的な軍改革目標として出されるものと、公表翌日から発効される即座の大統領令がある、今回は明らかに後者の即時実施の大統領令である。」と述べた。
そして最後に「現状の総兵力を追認し、2023年の終了に会わせて兵力を確定し、来年150万人の目標に達することを目指すさらなる大統領令も出されるのではないか?」と分析した。 
●同性愛者の集まりを強制捜索、LGBTQ運動禁止の最高裁判決後 ロシア 12/5
ロシアの警察が同性愛者の集まった施設への強制捜索を行っていたことが5日までに分かった。同国の二つのニュースサイトが伝えた。ロシア最高裁は11月30日、「国際的なLGBTQ運動」を過激団体と位置付けて、ロシア国内での活動を禁止する判断を言い渡していた。
最高裁のこの判断により、ロシアの性的少数者のコミュニティーには改めて恐怖を伴う激震が走った。ロシア国内での性的少数者に対する弾圧は、この数年で既に強化されていた。プーチン大統領は伝統的な道徳的価値観の守護者として自身のイメージアップを図り、リベラルを標榜(ひょうぼう)する西側諸国に対抗しようとしている。
強制捜索は首都モスクワにある少なくとも3カ所のエンターテインメント施設で行われた。SNSテレグラム上で運営される独立系の二つのニュースメディアが明らかにした。
報道によれば警察は、通常の薬物取り締まりの強制捜索を行っていると説明したという。
上記のメディアの一つは目撃者の証言を引用し、治安部隊が薬物取り締まりを口実に施設に入ったと説明。施設を訪れていた人々のパスポートを写真に撮っていたと付け加えた。警察はパーティーの最中に音楽を止め、ホールに踏み込んできたという。
強制捜索の対象になったとされるパーティーと関連したオンライングループでは、参加したユーザーらがチャット欄で恐怖感を吐露。「危険だ。もうどこにも行けない」などと書き込んだ。
ロシアの当局者らは強制捜索についてコメントしていない。通常の薬物取り締まりのものを含め、いかなる種類の強制捜索も国営メディアでは報じられていない。
● ウクライナ支援、議会不承認ならロシア勝利も 米政府が警告 12/5
米ホワイトハウスは4日、議会に対し、ウクライナ支援予算は年末までに払底する見通しだとするとともに、議会が支援継続を承認しなければロシアが軍事侵攻で勝利を収める可能性があると警告した。
行政管理予算局のシャランダ・ヤング局長が下院のマイク・ジョンソン議長宛てに書簡を送った。
ジョー・バイデン大統領は10月、ウクライナに加え、イスラム組織ハマス掃討作戦を実行中のイスラエルに対する総額1060億ドル(約15兆6000億円)の支援予算を議会に要求。しかし、議会内での意見対立から審議は難航している。
ヤング局長は書簡の中で、「武器・装備供与の流れを止めればウクライナの軍事作戦を阻害することになる。ウクライナ側がこれまでに収めた戦果をリスクにさらすのみならず、ロシア側が軍事的勝利を収める可能性を高めることになる」と述べた。
ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も記者団に対し、「自由を守るためのウクライナでの戦いへの支援を続けるのか、それとも歴史から学んだ教訓を無視して(ウラジーミル・)プーチン(ロシア大統領)に勝利を譲るのか、議会は決断しなければならない」と語った。
●ウクライナ、交渉による戦争終結を望む世論が半数に 12/5
ロシアとの交渉による和平を支持する――世論調査によれば、ウクライナでは過去9カ月でこうした考え方が急速に広まり、今では国民の半数近くを占める。
厳しい冬が迫り双方に多大な損失を出しながらも、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が停戦や和平へ向けた交渉を始める兆しはみられない。
ゼレンスキーは、ロシアが占領しているウクライナ東部ドンバス地方と、同じくロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島を奪還することが戦争のゴールだと繰り返し述べてきた。目標を達成するまで戦闘を続ける決意だ。
だがウクライナの独立系調査機関「レイティング」が実施した世論調査では、交渉による解決を支持するウクライナ国民が、今年2月の時点よりも増えていた。この調査結果は、ロシアとウクライナの両国で広く報じられた。
若者とウクライナ東部に多い妥協派
11月に実施されたこの調査では、回答者の44%が「第三者の仲介のもと交渉を行い、妥協と解決を模索する」と回答した。ロシアとの戦闘開始から1年経った今年2月の時点では、交渉による解決を支持した人は35%に過ぎなかった。
ロシアに占領された領土を奪還するまで戦闘を続けることを支持するウクライナ国民の割合も、この1年で減少傾向にある。2月の時点では、回答者の60%が「全ての領土を奪還するまで」戦闘を続けるという考えを支持したが、11月の調査ではその割合は48%に減少した。
ウクライナのニュースサイト「ストラナ」は調査結果を報道する中で、和平のためには妥協を支持するという回答は15〜35歳の若者(支持者の45%)とウクライナ東部の住民(51%)が多いと指摘。より年配のグループ(36〜50歳)とウクライナ西部の住民は、いずれも50%が戦闘の継続を支持した。
調査の誤差範囲は公表されておらず、本誌はレイティングとウクライナ大統領府にコメントを求めたが返答はなかった。
ロシアでも半数近くが交渉を支持
コメルサントは「ウクライナ国民はロシアとの戦争をいかに終結させるかという問題で、意見がほぼ二分されている」と述べ、ウクライナ国民の48%がロシアとの交渉を拒んで敵対行動の継続を支持する一方、44%が「敵対行為を終わらせることを支持している」と伝えた。
ブルームバーグは11月、ロシアの独立系調査団体「ロシア・フィールド」が実施した世論調査で、ロシア国民のほぼ半数(48%)が戦争を終わらせるために和平交渉を望んでいるという結果が示されたと報じた。一方で戦闘継続を望むと回答した人は39%で、和平交渉を支持する人の割合が初めて戦闘継続派を上回った。
ロシアの別の独立系調査団体「クロニクルズ」の調査によれば、多くのロシア国民は、ウクライナとの戦争がロシア経済に悪影響を及ぼしていると感じており、戦争を真に支持している人は2月時点の22%から現在はわずか12%にまで減っているという。
●WP「韓国がウクライナに与えた砲弾、欧州全体の支援量より多い」 12/5
韓国政府は表向きにはウクライナに殺傷兵器を支援しないという立場を維持しているが、韓国が米国を通じて「迂回支援」した砲弾の規模は、欧州全体が支援した物量の合計より多いと米国メディアが報道した。
米ワシントン・ポスト紙は4日(現地時間)、昨年2月末以降1年10カ月にわたり続いているウクライナ戦争の状況を点検する特集記事で、「韓国は究極的に欧州諸国全体の合計よりも多くの砲弾をウクライナに供給した」と報じた。
同紙によると、戦争が長期化するにつれ、ウクライナ軍が必要とする兵器と弾薬を適時に供給することが米国など西側諸国の主要課題として浮上した。2月3日、ホワイトハウスのジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)主宰で開かれた対応会議で浮上した問題は、ウクライナがロシアの防衛線を突破するのに必ず必要な155ミリ砲弾だった。
ホワイトハウスは、ウクライナが望む軍事的目的を達成するためには月9万発以上の砲弾が必要と計算したが、米国が増産しても必要量の10分の1程度しか供給できなかった。米軍がすでに保有している155ミリ砲弾を追加する方法もあったが、ロイド・オースティン国防長官はそれについて、国際的禁止対象となっている砲弾一発に小さな爆弾数十個が入ったクラスター弾であるとして供給に反対した。
結局、サリバン補佐官は米国が提供した砲弾を多く保有している韓国に支援を求める計画を立てた。米国防総省の計算によると、韓国はその気になれば保有する155ミリ砲弾33万発を41日以内にウクライナに供給できた。ただ、韓国には戦争地域に対する殺傷兵器の供給を制限する法律があるということが問題だった。米国高官らは、ウクライナに直接韓国が砲弾を供給しない「間接的方式」であれば米国の提案を受け入れる意思を明らかにした韓国政府と具体的な方法を議論した。
こうした過程を経て「今年初めから砲弾供給が始まり、結果的に韓国は全欧州諸国の合計より多くの砲弾をウクライナに提供した」とワシントン・ポストは伝えた。ただ、同紙は韓国が送った砲弾がウクライナに直接提供されたのか、米国を経由したのか、米国が自国保有分をウクライナに送り、韓国が提供したもので在庫を満たしたのか、など具体的な内容については言及しなかった。
このような内容は、今年4月に米マサチューセッツ州防衛軍空軍所属のジャック・テセイラ一等兵(21)を通じて流出した米国防総省の「盗聴文書」を通じてある程度公開されている。当時の文書を見ると、当時韓国大統領室のキム・ソンハン国家安保室長らは2月末頃、砲弾33万発をポーランドを通じて迂回支援する案を議論したという内容が出ている。
キム元室長は「ウクライナに弾薬を早く供給することが米国の究極的目標」だとし、ウクライナと国境を接するポーランドに砲弾を販売する案を提示した。この直後、韓国メディアも韓国が米国に最大50万発の砲弾を貸与することで合意したと報じた。さらにウォール・ストリート・ジャーナルは5月、「韓国がウクライナ向けの砲弾数十万発を移送中であり、これは殺傷兵器を支援しないという韓国政府の政策が変わったものだ」と伝えた。
しかし、韓国政府は今のところウクライナに殺傷兵器を支援しないという立場を維持している。韓国政府は、米国に砲弾を輸出しても、最終使用者は米国という条件をつけると明らかにした。韓国のチョ・テヨン国家安保室長は5月、国会運営委員会に出席し「ウクライナに直接支援するものではない。ポーランドを通じて迂回支援するということも事実ではない」と明らかにした。ただし今後は砲弾を支援するのかという質問に「戦況を見て他の状況を考慮して今後検討する予定」とだけ答えた。
●経済連携狙いEUに秋波 補助金やウクライナで温度差 中国 12/5
中国・北京で7日に行われる欧州連合(EU)との定期首脳会議を前に、習近平政権がEUに秋波を送っている。
1日から欧州5カ国を対象に中国訪問時のビザを免除したほか、4日には王毅共産党政治局員兼外相がEU加盟国に関係強化を呼び掛けた。米欧の連携にくさびを打ち込む思惑のほか、EUと経済的結び付きを強め、低迷する景気のてこ入れを図りたい考えだ。
「多国間主義の潮流は中国と欧州の利益にかなう。欧州の戦略的自主性を支持している」。中国外務省によると、王氏は4日、北京でEU諸国の外交官を一堂に集めた会合でこう訴えた。
EUからは今週、ミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長が北京を訪れ、習国家主席と会談する。EUトップの訪中を控え、王氏は欧州に、米国の干渉を退け、中国との協力で得られる利益に目を向けるよう促した形だ。
中国外務省はこれに先立ち、フランスとドイツ、イタリア、スペイン、オランダに対するビザ免除措置を施行した。投資や観光客の呼び込みが狙いだ。日本に対しては、従来認めていた免除措置を停止したままで、再開の条件として日本側もビザを免除する「相互主義」を要求。日本と同様に中国人のビザなし滞在を認めていない仏独などへの好待遇が際立つ。
ただ、EUとは温度差がある。中国との貿易赤字は約4000億ユーロ(約60兆円)に上るとされ、政府の補助金を受けた中国製電気自動車(EV)が欧州市場の競争をゆがめているとの批判も根強い。ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、中国が十分な影響力を行使していないこともEUの不満の種だ。
習氏はEUトップとの会談で、ウクライナやパレスチナ情勢について協議するほか、気候変動対策など協力可能な分野を模索する方針。共同声明は発表しないとみられている。
●ウクライナ反攻、目標果たせず 南部斬り込み部隊は東部に転戦 12/5
米紙ワシントン・ポストは、ウクライナが6月から行った対ロシア反転攻勢を分析した4日の特集記事で、南部ザポロジエ方面に斬り込み部隊として投入された「第47機械化旅団」が当初の目標を果たせないまま東部に転戦した経緯を報じた。
「膠着 ウクライナの失敗した反転攻勢」と題した記事によると、ウクライナは米英と共に反転攻勢の一環としてザポロジエ州の拠点都市メリトポリからアゾフ海に抜けるラインを確保し、ロシアの補給路を遮断する作戦を立てた。第47旅団は突破口を開く部隊として新設され、兵士らはドイツで戦車操縦などの訓練を受けた。7割は戦場で経験のない兵士で司令官は28歳の若者だった。

 

●プーチン大統領 核開発の展示物視察 “核大国の指導者”強調か 12/6
ロシアのプーチン大統領が核兵器開発に関する展示物を視察したとする映像が国営テレビを通じて公開され、来年3月に予定されているロシアの大統領選挙を前に、核大国を率いる指導者の姿を強調するねらいもあるとみられます。
ロシア大統領府によりますと、プーチン大統領は4日、首都モスクワで開かれている大規模な博覧会に初めて訪れました。
この博覧会はプーチン政権のこれまでの業績を誇示する内容が中心で、このうち、プーチン大統領は国営の原子力企業ロスアトムのブースで、旧ソビエト時代からの核兵器開発に関する展示物を視察しました。
国営テレビはプーチン大統領が核実験のための設備を紹介するコーナーを訪れ、「核のボタン」とされる展示物について説明を受ける様子などを伝えました。
ロシアでは来年3月に大統領選挙が行われる予定で、プーチン大統領は今月にも通算で5期目となる立候補を表明する見通しだとロシアのメディアが伝えています。
プーチン政権としては、大統領選挙を前に核大国を率いる指導者の姿を強調するねらいもあるとみられます。
一方、プーチン大統領はボランティア活動を行う人々の表彰式にも出席し、ウクライナへの軍事侵攻を支える人々をたたえました。
国民が結束して軍事侵攻を支持していると印象づけたい思惑もあるとみられます。
●恐ろしいロシア化≠フ真実 占領下「刑務所かパスポート取得か選べ」 12/6
ロシアのウクライナ侵攻から1年9カ月以上が経過した。ウクライナの本格反攻から半年となるが、領土奪還は進まない。中東問題もあって国際社会の関心が薄れつつあるなか、占領地域では「ロシア化」が進んでいるという。昨年に続きウクライナを訪れたフォトジャーナリストの小野寺翔太朗氏が、現地の悲痛な叫びを聞いた。
アンナ(仮名、18)は2023年6月に、ロシアに占領されたルガンスクの村から、脱出してきたばかりだった。
22年、村が占領されてからの日々は悪夢だった。ロシア兵は民家の庭に缶や瓶を並べて銃で撃って笑っていた。村のカフェで子供たちにウクライナ兵を斬首する動画を見せつけて楽しそうに笑っていたこともあったという。「あいつらの笑顔は、まさに悪魔の微笑みだった」
最も恐ろしかったのは、銃を持ったロシア兵が家を訪ねて来るときだった。占領下の村は地獄だったが、祖母は家を手放したくないといい、ただ1人の家族であるアンナも村に残った。
ロシア軍が村を占領してから1年が経過し、ロシア化の圧力は強まっていった。ロシアのパスポートを取らなければ仕事をして金を稼ぐことができなくなった。尋問や拷問を受けたり、男性であれば、徴兵されてしまう恐れもある。アンナはスマートフォンにロシアの悪口を書いた形跡があることをロシア兵に見つかった。「刑務所に行くか、ロシアのパスポートを取得するか、どちらか選べ」とロシア兵に脅されたという。
彼女は18歳になったのを機に、村からの脱出を決意した。祖母を残して行かなければならない苦渋の選択だった。脱出への道はわずか2キロの距離だが、ロシア兵の検問所が2カ所あった。
検問では、いかにロシアを愛しているかを語らなければならない。インスタグラムもチェックされ、ウクライナ政府関連やメディアのアカウントをフォローしていたらアウトだ。ウクライナの通貨「フリブニャ」も下着に隠さなければならなかった。
無事にロシアの検問を通り抜け、ウクライナの検問にたどり着いたとき、アンナは思わず涙を流し、ウクライナ兵にキスをしたという。
アンナはこう語った。「大好きなおばあちゃん。生きている内に、また会えるといいな。愛している、たった一人の家族だから」
●カタール仲介で子ども6人帰還へ ロシアからウクライナに 12/6
カタール当局は5日、ウクライナの子どもがロシアに連れ去られている問題に絡み、カタールの仲介で子ども6人が帰還すると明らかにした。ロイター通信が伝えた。カタールは10月にも4人の子どもの帰還を仲介した。
今回の子どもたちはロシアやロシアが実効支配する地域の親族宅に滞在していた。ロイターは「ウクライナが主張するような強制的な連れ去りとは異なるようだ」と伝えた。
ウクライナ政府はロシアに連れ去られた子ども約2万人の身元を特定。国際刑事裁判所(ICC)は連れ去りに関与したとして、ロシアのプーチン大統領らに逮捕状を出した。
●OPECプラス、24年第1四半期に減産強化の用意=ロシア副首相 12/6
ロシアのノバク副首相は5日、石油輸出国機構(OPEC)加盟・非加盟国で構成する「OPECプラス」が2024年第1・四半期に減産を強化する用意があるという認識を示した。タス通信が報じた。
OPECプラスは11月30日、来年初に日量約220万バレルの自主減産を実施することで合意した。
ノバク氏は「OPECプラスの時宜を得た行動によって、需要低迷期を難なく乗り越えることができるだろう」とした上で、「現行の措置が十分でなければ、投機とボラティリティを排除するため、OPECプラスには追加措置を講じる用意があることにも留意したい」と述べた。
さらに、ロシアは早ければ今月中にOPECプラス協定に基づく石油と燃料の供給制限を強化し始め、早ければ1月にも日量50万バレルの石油・燃料供給の自主削減に関する義務を果たす考えとした。
ロシアのプーチン大統領は6日にアラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアを訪問し、7日にはロシアでイランのライシ大統領と会談する予定で、石油市場協力を含む協議を行う見通し。
●米の支援遅延で戦争敗北の「大きなリスク」=ウクライナ大統領府長官 12/6
ウクライナのイェルマーク大統領府長官は5日、米国の対ウクライナ支援が遅延されれば、ウクライナがロシアとの戦争に敗北する「大きなリスク」が生まれると懸念を示した。
イェルマーク長官は米シンクタンクの米国平和研究所(USIP)のイベントで、支援が遅延されれば 「ウクライナが現在置かれている状況にとどまる大きなリスクが生じる」とし、「そうなれば当然、継続的な(領土の)解放が不可能になり、(ウクライナが)この戦争に負ける大きなリスクが生まれる」と述べた。
ウクライナ政府は来年の財政収支は430億ドルの赤字になると予想。イェルマーク長官は直接的な予算支援がなくなる脅威を問題点として挙げ、「直接支援がなければ、ウクライナが現在のポジションを維持するのは困難になる」と指摘。「だからこそ一刻も早く採決されることが極めて重要になる」と訴えた。
イェルマーク氏がワシントン訪問するのは、過去数週間で今回が2回目。今回の訪問中に、米議会が新たな支援策を承認することの重要性について議員や政府当局者に働きかけると語った。
米ホワイトハウス行政管理予算局(OMB)のシャランダ・ヤング局長は前日、米議会が行動を起こさなければウクライナ支援の資金が年末までに枯渇すると警告している。
一方、ウクライナのクレバ外相は5日、同盟国からの戦時支援が減少するとは考えておらず、軍事支援も減速していないと述べた。
オランダのハンケ・ブルーインズ・スロット外相との会談後、クレバ氏は「危機に瀕しているのはウクライナの将来だけでなく、もっと大きな問題であることをパートナーは理解している。従って、今後、ウクライナへの注目や支援が減速したり減少したりすることはないだろう」と述べた。
また、ウクライナがロシアとの交渉を強いられることはないとの見通しも示した。
●ゼレンスキー氏、米議会とのテレビ会議を直前キャンセル 支援滞るなか 12/6
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は5日、予定されていた米議会の議員らとのビデオ会議を直前になって中止した。理由は明らかになっていない。アメリカではウクライナへの支援が滞っている。
ゼレンスキー氏はこの日、米議会の上下両院にバーチャルで出席する予定だったが、急きょこれをキャンセルした。
上院のチャック・シューマー院内総務(民主党)は、ゼレンスキー氏が出席しなかった理由については説明しなかった。「急な」用件で手が一杯だったようだと述べ、詳細は語らなかった。
同じ日、ウクライナのアンドリー・イェルマク大統領首席補佐官は、米首都ワシントンのシンクタンク「米国平和研究所」で講演。アメリカの継続的な支援がなければ、ウクライナがロシアに負ける「大きなリスク」があると訴えた。
イェルマク氏はまた、「同じポジションを維持して、国民が本当に生き残るのは難しいだろう」と述べた。
この数時間後、ゼレンスキー氏は米上院議員らとのビデオ会議の予定をキャンセルした。
BBCはワシントンのウクライナ大使館にゼレンスキー氏のキャンセルについて説明を求めたが、すぐには返答がなかった。
アメリカのジョー・バイデン政権は、ウクライナへの追加支援の必要性を議会に強く訴えている。議会はウクライナでの戦争が始まった昨年2月以来、同国に対する1100億ドル(約16兆2000億円)以上の軍事・経済支援を承認しているが、政府は数カ月前から、すでにその大半が使われたとしている。
米上院では現在、共和党と民主党が1060億ドル(約15兆6000億円)というさらに大規模な支出案について協議中だ。これにはウクライナ支援のほか、イスラエルと台湾への軍事支援や、メキシコ国境の警備資金の増額が含まれている。
国境警備は、政治的に大きな問題となっている。民主党議員らが、アメリカへの入国を難しくする変更などに難色を示している一方、共和党からは「ウクライナに追加資金を拠出する見返りに、国境政策の大幅で実質的な改革が必要だ」(トム・コットン上院議員、アーカンソー州選出)といった声が出ている。
シューマー上院院内総務は、軍事支援法案を今週中に採決に持ち込むと表明している。しかし、移民対策で両党が合意しない限り、採決で共和党から十分な支持を得られるかは不透明な情勢となっている。
ウクライナとロシアの戦争は、前線での戦闘が実質的な膠着(こうちゃく)状態に陥っているとみられる。
ウクライナ軍は南部での反転攻勢の勢いが弱まっており、ドニプロ川東岸に築いた拠点の維持に苦労しているとされる。
●ウクライナ「領土放棄・NATO加盟」条件に平和交渉に乗りだすか 12/6
イスラエルとハマスの戦争勃発後、ロシアの侵攻を受けているウクライナに対する関心と支援が減り、ウクライナの困難が増している。反転攻勢で大きな成果を上げられずにいるウクライナ軍が、ロシア軍と秘密裏に平和交渉を行っているとする主張も出てきた。
米国ホワイトハウスは4日(現地時間)、このままではウクライナを支援する資金と兵器が枯渇するとして、追加支援をしなければロシアが勝利すると議会に訴えた。米国ホワイトハウスのシャランダ・ヤング管理予算局長はこの日、議会に送った書簡で「我々の資金と時間が尽きてしまった」としたうえで、「米国の兵器と装備の供給を断ち切れば、ウクライナが得た成果を危機に陥らせるだけではなく、ロシアの軍事的勝利の可能性を高める」とし、「戦場でウクライナの膝蓋骨を破壊することになるだろう」と訴えた。
ヤング局長は「これは来年の問題でない」としたうえで、「ロシアの侵略に立ち向かい戦う民主的なウクライナを助ける時はまさに今だ」とし、ウクライナ支援案の通過を訴えた。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)もこの日、記者団に「ウクライナ支援案を支持しないすべての議会構成員は、プーチンが簡単に勝利できるよう票を入れる者たちだ」と述べた。
ジョー・バイデン政権は10月、610億ドル(約9兆円)相当のウクライナ支援案を含む1060億ドル(約15兆6000億円)の国家安全保障支援案を要請したが、共和党は国境統制と移民制限案を先に通過させるべきだとする否定的な反応を示している。
ウクライナ支援案に繰り返し反対票を投じたマイク・ジョンソン下院議長はこの日、X(旧ツイッター)に「共和党の下院議員は、国家安全保障の補強統合案は我々自身の国境から始めなければならないと決心した」と投稿した。ジョンソン下院議員は、この数日の間、共和党の下院議員が通過させたトランプ政権時の厳格な移民政策を復活させる法案を上院で処理しないのであれば、ウクライナ支援に賛成しないと述べていた。共和党のリンゼー・グラム上院議員も、3日のCNNのインタビューで「我々が我々の国境を安全にする時まで、いかなる援助案にも賛成しない」とし、「我々が我々自身を支援するまで、私はウクライナを支援しない」と述べた。
共和党は、移民許可の決定が出るまでは移民希望者を国外で受け入れるよう主張しており、民主党側との妥協の可能性は高くないと、ニューヨーク・タイムズが報じた。
欧州連合(EU)がウクライナを支援しようと編成した500億ユーロ(約8兆円)の経済支援案と200億ユーロ(約3兆2000億円)の軍事支援案も、通過するかどうか不透明だ。ウクライナ支援に反対するハンガリーのオルバン・ビクトル首相は、自国に対するEUの支援凍結を解除しなければ、EUのウクライナ支援案を拒否すると主張している。左派の社会民主党のロベルト・フィツォ首相率いるスロバキア政権も先月初めに前政権のウクライナへの兵器支援案を廃棄し、オランダも先月の総選挙で第1党に浮上した極右の自由党がウクライナ支援に反対している。ウクライナ支援に積極的なドイツも、最近は自国の予算問題で困難に陥っている。
西側の支援と関心が減り、戦況はウクライナに不利に展開している。ニューヨーク・タイムズによると、ウクライナ東部のアウディウカから北に約220キロメートル離れた前線の砲兵部隊の兵士には、1日あたり20発の砲弾しか支給されず、現実的には2つの目標物だけにしか撃つことができないと同紙は報じた。ウクライナが昨年夏に反転攻勢を始めた時に比べると、砲弾数は20%に過ぎない。
ウクライナが反転攻勢を集中させる南部戦線のヘルソンのドニプロ川東岸では、ウクライナ部隊がロシア軍に対して兵力と兵器で劣勢となり、一部回復した領土を守ることに必死な状況で犠牲が増えていると、BBCが4日報道した。
ウクライナ軍がロシア軍に奪われた領土を放棄する代わりに北大西洋条約機構(NATO)への加盟を推進する協議に入っているという主張も出てきた。調査報道記者のシーモア・ハーシュ氏は2日、自身のブログで、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官とロシアのワレリー・ゲラシモフ総参謀長が平和交渉を行っているとする米国の官僚らの話を引用して主張した。ハーシュ氏は昨年9月、ロシアとドイツを結ぶ海底パイプラインの「ノルドストリーム」爆破事件は米国の工作だと主張する暴露報道をしたジャーナリストだ。
ハーシュ氏は、ロシアが2014年に強制併合したクリミア半島に加え、トネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ヘルソンの4州のロシア占領地をウクライナが認める代わりに、ロシアはウクライナのNATO加盟を認める内容の交渉を行っていると主張した。ウクライナの領土にはNATOの兵士は駐留させず、防衛兵器だけを配備するという条件が含まれていると主張した。
ハーシュ氏は米国の官僚の話を引用し、「今回の交渉は、ザルジニーが慎重に調整する」、「メッセージは『戦争は終わり、私たちは抜ける。戦争を継続すれば、ウクライナの次世代が絶滅する』というものだ」と伝えた。ザルジニー司令官は昨年2月のロシアの侵攻後にウクライナ軍の抗戦を指揮し、ウクライナ国内では国民的な人気が高く、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政治的ライバルとして浮上している人物だ。
ハーシュ氏は、バイデン政権はこの交渉に頑強に反対しているが、ウクライナのゼレンスキー大統領は「これは軍事的な問題を解決するものであり、米国とは関係なく続く」というあいまいな態度を示していると主張した。
●米、新たなロシア関連制裁 防衛調達ネットワーク対象 12/6
米政府は5日、ベルギー、スウェーデン、香港などを拠点とする個人や組織で構成される防衛調達ネットワークを対象に新たなロシア関連制裁を科した。ウクライナ戦争を巡る西側の制裁逃れを取り締まる取り組みの一環。
米財務省の声明によると、このネットワークはロシアのエンドユーザーへの軍事用途の電子機器調達に関与しており、ロシア、ベルギー、キプロス、スウェーデン、香港、オランダを拠点とする9つの事業体と5人の個人で構成されているという。
また、米司法省は米国から中国とロシアのエンドユーザーに機密性の高い軍事用技術を輸出する計画に関連し、このネットワークを率いるベルギーを拠点とする実業家ハンス・デ・ジーテレ氏を起訴したことを明らかにした。
米商務省は、同氏と5事業体を事実上の禁輸リストにあたる「エンティティーリスト」に掲載した。
●ロシア参加容認、IOCに要請 「中立」でパリ五輪に―国際競技団体 12/6
国際オリンピック委員会(IOC)は5日、スイスのローザンヌでバッハ会長やスポーツ界の首脳を集めた五輪サミットを開き、ウクライナに侵攻するロシアと同盟国ベラルーシの選手らについて、夏季競技の国際競技団体(IF)から、「中立」の立場の個人資格でパリ五輪参加を認めるよう要請されたと発表した。各国オリンピック委員会連合(ANOC)も支持した。
IFの代表者はできる限り早く決断するよう求めた。IOCは来年3月の理事会までに結論を出す見込みで、両国の五輪参加は「現行の厳しい条件下でのみ可能」との見解を示し、予選方式や出場枠は変更しない。IOCは今年3月、両国選手の国際大会参加を「中立」など条件付きで認めるようIFに勧告。軍所属や戦争を支持する選手は認めない方針を示していた。
IOC選手委員会は、両国のパリ五輪参加可否の明確化を要望した。
●ロシア進出日系企業実態調査、赤字見込みは過去最高を更新 12/6
ジェトロは12月6日、「2023年度 海外進出日系企業実態調査(ロシア編)」の結果を発表した。2023年の営業利益見込みについて「赤字」と回答した企業の割合は、前年比4.8ポイント増の54.8%だった。前年に続き、本調査を始めた2013年度以降の最高記録を更新した。ウクライナ情勢を受け、「事業停止状態となっているため」といったコメントが多くみられた。「黒字」を見込む企業の割合は5.4ポイント減の30.1%と過去最低を更新した。
前年と比較した2023年の営業利益見込みについて、「悪化」と回答した企業は前年比5.7ポイント減の65.3%だった。理由については「現地市場での販売体制縮小」が51.1%で最大となり、企業側要因が大きく影響した。次いで、「現地市場での需要減少」を挙げた企業が多かった(27.7%)。2024年の営業利益見通しは、「悪化」の割合が前年比17.4ポイント減の40.0%。「改善」の割合は前年比5.8ポイント減の5.7%と2022年の過去最低を更新した。
今後1〜2年の事業展開について、「第三国(地域)へ移転、撤退」と回答した企業は14.1%(前年比5.8ポイント増)と、前年に続き過去最高を更新。「縮小」と回答した企業は28.2%(20.1ポイント減)、「現状維持」が53.5%(11.8ポイント増)、「拡大」が4.2%(2.5ポイント増)だった。また、97.3%の企業が西側諸国による対ロ経済制裁およびそれに対するロシアの対抗措置について影響ありと答え、具体的には「日本本社におけるロシアビジネスのプライオリティ低下」(63.4%)、「現地市場での売り上げ減少」(60.6%)といった影響があるとした。
「第三国(地域)へ移転、撤退」を選択しなかった企業61社に現在の状況を尋ねたところ、27.9%の企業が「事業継続意欲があり、仮に情勢が悪化しても残留を希望」、57.4%の企業が「すぐに撤退する計画はないが、情勢を様子見している状態」と回答した。今後の情勢悪化に備えた対策について、「すぐに撤退できるような態勢を整えている」(23.3%)、「安全対策や撤退時に関するマニュアルの策定」(18.3%)が多かった。「対策は特に行っていない」と回答した企業は33.3%だった。
今回の調査は2023年9月に実施した。ロシアに現地法人(日本からの直接投資または間接出資比率が10%以上)や支店の形態で拠点を構えている企業110社に送付し、うち73社(製造業12社、非製造業61社)から回答を得た。調査は2013年度から毎年実施しており、今回で11回目。調査結果の詳細はジェトロ・ウェブサイトに掲載されている。
●尹政権がウクライナに供与した砲弾、朝鮮半島危機の「ブーメラン」に 12/6
ウクライナへの砲弾支援を求める米国の要求を尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が受け入れてから、 朝鮮半島情勢を決定的に悪化させた朝ロの「戦略的接近」が行われたという情況がますます明らかになっている。尹錫悦政権の無謀な選択が、韓国の安全保障に「災い」をもたらす北朝鮮の弾道ミサイル技術の向上につながったものとみられる。
6月初めに始まったウクライナの「大反撃」の顛末を取り上げたワシントン・ポスト紙の4日(現地時間)付の特集記事で、最も注目を集めているのは、今年2〜4月頃に行われたウクライナ砲弾支援をめぐる攻防だ。記事によると、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の主宰で開かれた会議で、米国は友好国の中でウクライナ軍に155ミリ砲弾を供与できる能力を備えた唯一の国は「(その気になれば)41日以内に航空と船舶で33万発」を提供できる韓国だけだという結論を下した。
その後、米国が韓国に砲弾の供与を執拗に要求した情況はすでに公開されている。4月に流出し大きな衝撃を残した韓国大統領室国家安保室に対する米国の「傍受文書」には、当時のキム・ソンハン室長らが2月末頃、ポーランドを通じて砲弾33万発を供与する案を話し合った内容が含まれている。キム前室長は「ウクライナに弾薬を早く供与するのが米国の究極的な目標」だとし、ウクライナと国境を接するポーランドに砲弾を販売する案を示した。
同案は実際進められたものとみられる。この頃、米国を訪問したポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は4月11日、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、自身が数カ月間にわたり韓国との砲弾供与協議に参加したことを明らかにし、「米国の介入がなければ、これは不可能だと思う」と述べた。また、ロシアの報復を予想したかのように「ジョー・バイデン米大統領が韓国に提供できる一種の安全保障がなければ、これは実現しないだろう」という意味深長な言葉も残した。
尹錫悦大統領の米国国賓訪問を控えていた韓国の最終的な選択は「砲弾供与」だった。 尹大統領は4月19日、ロイター通信とのインタビューで、ウクライナに対する韓国の支援が「人道支援や財政支援にとどまっており、それらだけを固執することは難しい」と述べた。武器供与もあり得るという事実上の宣言だった。
すると、1990年の国交正常化以後、友好関係を維持してきたロシアが激しく反発した。インタビューの翌日、ロシア外務省のマリヤ・ザハロワ報道官は「韓国がこのような行動を取るなら、朝鮮半島に対する我々のアプローチに影響を及ぼしかねない」と警告した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は約1カ月後の5月24日付記事で、米国政府当局者の話として「韓国がウクライナに数十万発の砲弾を移送する手続きを進めている」と報じた。
急変した韓国と対照を成しているのは日本の動きだ。日本は口ではロシアの侵略を強く非難しながらも、武器供与はおろか、液化天然ガス(LNG)供給の10%を占めるサハリンの天然ガス開発利権を手放さずにいる。
報復を公言したロシアが行動に出たのは7月末だった。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、北朝鮮の戦勝節70周年を機に平壌(ピョンヤン)を訪れ、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と会談した。約2カ月後の9月13日には、ウラジーミル・プーチン大統領がロシア宇宙開発の象徴であるボストーチヌイ宇宙基地で金委員長に会った。プーチン大統領は、北朝鮮の人工衛星開発を支援するのかという現地メディアの質問に、「そのために我々がここに来たのだ」と答えた。
ロシアの警告が「虚言」ではないことがある程度実証されたのは11月21日だった。北朝鮮の国家航空宇宙技術総局は同日夜、西海(ソヘ)衛星発射場で、偵察衛星「万里鏡1号」をロケット「千里馬1型」に搭載して打ち上げ、成功裏に宇宙軌道に安着させたと発表した。国家情報院は2日後の23日、国会情報委員会非公開全体会議で、「打ち上げの成功にはロシアの助けがあったと判断する」と明らかにした。ウクライナに「迂回供与」したとみられる砲弾が、ブーメランとなって韓国に災いを招いたのだ。
●ロシア、ウクライナ東部アブデーフカへの攻撃継続 12/6
ロシア軍は5日、ウクライナ東部のアブデーフカ制圧に向けた作戦を続行した。ウクライナ東部と南部ではロシアの攻撃により4人が死亡した。
ウクライナは南部オデーサ(オデッサ)地域への攻撃に向かっていたロシアの戦闘機スホイ24をスネーク島近くの黒海上空で撃墜したと発表した。
アブデーフカの軍当局トップ、ビタリー・バラバシュ氏はラジオ・リバティーに、ウクライナ軍が町の北西にあるステポベ村を制圧したと明らかにした。
ロシア軍事ブログ「リバル」はロシア軍がアブデーフカの北5キロにある村の周辺を新たに確保したと伝えた。ロシアは10月中旬以降、ドネツクのロシア占領地域に近く大規模なコークス工場で知られるアブデーフカに焦点を当ててきた。
バラバシュ氏はロシア軍の工場への侵入を許していないとする一方、中心部以外の「工業地帯」で戦闘が激化していることを認めた。
東部のウクライナが支配するマリンカとロシアが掌握しているバフムトでも戦闘が発生している。
軍事アナリストのセルヒイ・ズグレツ氏はエスプレソTVのウェブサイトに、ロシア軍は北東部のクピアンスクに移動しようとしていると指摘した。クピアンスクは侵攻後にロシア軍に占領されたが、後にウクライナが奪回した。クピアンスクから9キロ離れたシンキフカ村付近で数週間前から戦闘が続いているという。
南部ヘルソンではロシアの砲撃により3人が死亡、少なくとも6人が負傷した。当局によるとロシアは2発のS─300ミサイルを発射し近くの住宅にも被害が出た。
ロシア軍はまた東部の最前線に位置するチャソフヤールを多連装ロケットシステム「グラッド」を使用して2時間にわたって砲撃した。検察総局は1人が死亡し5人が負傷したとが発表した。住民は攻撃当時ボランティアから水とパンを受け取っていたという。
●ロシア軍、東部の激戦地で前進 12/6
英国防省は5日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の激戦地マリンカで前進し、市街地をほぼ制圧したとみられると分析した。ロシア軍は目標とする東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)の全制圧に向け、攻勢を強めている。
英国防省によると、ウクライナ軍はマリンカの一部地域で勢力を維持しているという。マリンカはウクライナ東部で紛争が始まった2014年から最前線となっていた。
ロシア軍はマリンカや同じドネツク州のアブデーフカで人海戦術を展開。2都市はロシア側が支配する州都ドネツクに近い。 
●反プーチンのロシア人義勇軍が、アウディーイウカでロシア軍の拠点を急襲 12/6
ロシアに反旗を翻したロシア人の部隊が、ロシア軍正規軍部隊を攻撃する新しい動画が浮上した。ロシア側がここ数カ月、戦力を集中的に投入し、激戦地となっているドネツク州アウディーイウカ付近でのことだ。
反プーチンを掲げるロシア義勇軍団がドネツク州で行なっている作戦からいくつかの場面を切り取ったものとみられる。映像では、軍用車の動きや、網の目のように張り巡らされた塹壕付近で爆発が連続する様子などが見て取れる。
義勇軍団はアウディーイウカ付近にある「敵の拠点を急襲」し、その後「この拠点をウクライナ正規軍に引き渡し、その支配下に置いた」と、説明がある。
本誌は、この映像の撮影時期や場所について、独自に裏付けを取ることはできなかった。
ロシア義勇軍団は、2022年2月にプーチン政権がウクライナ侵攻を開始したのちに結成された極右集団で、ロシアに対抗し、ウクライナのために戦う元ロシア軍兵士で構成されている。ウクライナのチェルニーヒウ、キーウ、ヘルソン、ザポリージャ、ドネツクの各州を拠点にロシア領内への越境攻撃を行うほか、ロシアのブリャンスク州やベルゴロド州でも作戦を実施している。
なかには重罪犯も
ロシア義勇軍団には、解散したロシアの民間軍事会社「ワグネル」の元戦闘員も入っているとみられる。ワグネルはウクライナとの戦いで主要な役割を果たしていたが、2023年6月にロシア軍幹部に対して反乱を起こした。反乱は急転直下で終結し、その後、創設者のエフゲニー・プリゴジンは死亡した。同義勇軍団にはまた、重罪犯も含まれているとされるロシア軍の傭兵部隊「ストームZ」に所属していた兵士も採用しているようだ。
こうしてさまざまな反プーチンのロシア人を寄せ集めた義勇軍団は、アウディーイウカを包囲しようと攻めてくるロシア軍に対して一斉攻撃を開始した。
●ロシアのプーチン大統領がサウジ到着、異例の外遊で協力強化狙う 12/6
ロシアのプーチン大統領が6日、サウジアラビアに到着。ロシア国営タス通信によると、ムハンマド皇太子と会談した。同大統領にとって異例な外遊の目的は湾岸諸国との協力強化で、国際舞台でロシアの孤立化を狙う米国や欧州の取り組みに対抗している。
ロシア国営テレビの映像によれば、プーチン氏はアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビからサウジのリヤドに入った。アブダビではムハンマドUAE大統領と会談し、両首脳は二国間関係と経済的な連携拡大を称賛した。
サウジとUAEへのプーチン氏の訪問は2022年2月のウクライナ侵攻以降初めてで、米国と欧州が制裁でロシアを締め付け、ウクライナに兵器を供給する中でも同氏を歓迎する地域が世界にあることを見せつけた。サウジでは二国間関係の連携強化が協議の焦点になるとみられる。両国が中心となっている石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成する「OPECプラス」は先週、追加減産で合意したばかりだ。
今回の外遊に当たり、プーチン氏の搭乗機は4機のSU-35がUAE領空まで護衛。タス通信によると、領空を通過する国からは特別な飛行許可を取得していたと、ロシア大統領府のペスコフ報道官が述べた。UAEに入ってからは同国の空軍が搭乗機を護衛したと、国営首長国通信(WAM)が報じた。
●プーチン大統領 “核のボタン”見学 核大国率いる強い指導者アピールか 12/6
ロシアのプーチン大統領は、国の発展ぶりをアピールする大規模な展示会を訪れ、核兵器に関する展示を視察しました。来年3月の大統領選を前に、核大国を率いる強い指導者像を示す狙いとみられます。
プーチン大統領は4日、モスクワ市内で開かれている大規模展示会「ロシア」を訪れました。
展示会は、プーチン政権下での国の発展ぶりをアピールするもので、この中でプーチン氏は旧ソ連時代からの核兵器開発に関する展示を視察。いわゆる「核のボタン」と呼ばれる制御盤などを見学しました。
視察の様子は、国営テレビを通じロシア全土に放映されました。
来年3月に大統領選を控え、プーチン氏が今月にも出馬を表明するとの見方が広がる中、核大国を率いる強い指導者像を示す狙いがあるとみられます。
●ロシア軍、東部激戦地で前進か 英分析、攻勢を強化 12/6
英国防省は5日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の激戦地マリンカで前進し、市街地をほぼ制圧したとみられると分析した。ロシア軍は戦争目的の一つとして掲げる東部ドンバス地方(ドネツク、ルガンスク両州)の全制圧に向け、攻勢を強めている。ウクライナ軍は依然としてマリンカの町の西端部を維持しているとされる。
ロシア軍はドネツク州の州都ドネツク近郊のウクライナ軍支配地域だったマリンカやアブデーフカで人海戦術を展開。プーチン大統領の出馬が確実視される来年3月のロシア大統領選を前に、戦果の拡大を狙っている可能性がある。

 

●ICC赤根裁判官 “プーチン氏に逮捕状出す十分な証拠あった” 12/7
ウクライナ情勢をめぐり、ロシアのプーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出したICC=国際刑事裁判所の赤根智子裁判官が記者団の取材に応じ、プーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出すのに十分な証拠があったと強調しました。
オランダのハーグにあるICCはことし3月、ロシアがウクライナの占領地域から子どもたちをロシア側に移送したことをめぐり、国際法上の戦争犯罪の疑いでプーチン大統領など2人に逮捕状を出しました。
ICCの赤根裁判官は6日、ニューヨークの国連本部で記者団の取材に応じ「逮捕状を出すときは逮捕の必要性があるかどうか、事実の裏付けがあるかどうかだけで判断している。これはプーチン大統領だろうがほかの人であろうが、全く変わらない検討過程だ。かなりの証拠がないと逮捕状を出さない。あくまでも実務的に検討した」と述べ、プーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出すのに十分な証拠があったと強調しました。
一方、ICCの逮捕状についてロシア政府は強く反発し、ことし7月にはロシアの国営メディアがロシア政府が赤根裁判官を指名手配したと伝えました。
これについて赤根裁判官は「予想はしていた。何があっても中立で職務を全うするだけだ」と述べる一方、身の安全を守るため、外出先での食事や水など口にするものには普段から注意していることも明らかにしました。
●バイデン氏「プーチン氏勝たせてはならない」、ウクライナ追加支援訴え 12/7
バイデン米大統領は6日、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領を「勝たせるわけにはいかない」と述べ、ウクライナへの追加軍事支援の必要性を共和党に訴えた。
バイデン大統領は「ウクライナを掌握したとしても、プーチン大統領はそこでストップしないだろう」と強調。ロシアがその後、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国に攻撃を仕掛け、米国を戦争に引きずり込む恐れがあると警告した。
米政府は現在、1億7500万ドル規模のウクライナ向け追加支援の発表を計画している。
バイデン氏は、共和党の支持を取り付けるためにメキシコとの国境に関する移民政策を大幅に変更することも辞さない構えを示した。ただ、全て共和党の望み通りにはさせないとし、「交渉が必要だ」と語った。
上院共和党はこの日、ウクライナとイスラエルに対する安全保障関連の支援を盛った法案の審議入りを阻止した。メキシコ国境の移民対策強化の必要性を訴えるためだとした。 もっと見る
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)はロイターとの電話インタビューで「このタイミングで米国がウクライナ支援から手を引けば歴史的な過ちになるとわれわれは主張し続ける。最終的にはこの主張が浸透すると確信している」と述べた。
サリバン氏は、国境政策において超党派で結果を出すためにバイデン大統領が「合理的で責任のある協議」を行う用意があると語った。
●プーチン氏、サウジ皇太子と会談 ガザ情勢、原油価格を協議 12/7
ロシアのプーチン大統領は6日、サウジアラビアの首都リヤドを訪問し、同国の実権を握るムハンマド皇太子と会談した。ロシア大統領府によると、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ情勢を協議したほか、ロシアとサウジが加わる「OPECプラス」の枠組みでの原油価格維持に向けた協力継続を確認した。
ロイター通信によると、ムハンマド皇太子は国営サウジ通信を通じ、ロシアとの協議は「中東の緊張緩和に役立つ」と会談を評価した。
プーチン氏はこれに先立つ同日、UAEでムハンマド大統領と会談。7日にはモスクワでイランのライシ大統領と会談する。
●ロシア大統領、サウジ皇太子と会談 両国関係「かつてなく良好」 12/7
ロシアのプーチン大統領は6日、サウジアラビアを訪問し、ムハンマド皇太子との会談に臨み、両国の関係は「これまでになく良好」だと述べた。
ロシアのテレビ局がプーチン氏の冒頭あいさつを報じた。プーチン大統領はムハンマド皇太子の招待に感謝し、当初は皇太子がモスクワを訪問すると予想していたが、「計画に変更があった」と述べた。
プーチン大統領は、両国は政治や経済のほか、人道的な分野でも良好かつ安定した関係を築いていると指摘。「われわれの友好関係の発展を妨げるものは何もない」と語った。
会談では、ガザでの紛争や石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国で構成する「OPECプラス」における両国の協力についても話し合われる予定。
プーチン氏は「もちろん、われわれ全員にとって、この地域で起きていることについて情報を交換し、検証することは非常に重要だ」とも述べた。
●プーチン大統領 中東外交活発化 思惑は 12/7
ロシアのプーチン大統領が、中東の主要国の首脳たちと相次いで会談を行い、中東外交を活発化させています。
その思惑について、安間解説委員とお伝えします。
Q)プーチン大統領、ずいぶんせわしなく動いているようですね。
A)プーチン大統領はきのう(12月6日)、UAE=アラブ首長国連邦とサウジアラビアの2か国を日帰りで訪問しました。そしてきょう(7日)には、ハマスを支援してきたイランのライシ大統領をモスクワに招いて会談する予定です。非常にタイトな日程で、それだけ実現したかったということでしょう。ロシアは、ウクライナ侵攻で欧米から厳しい批判と制裁を受け、孤立化が指摘されてきました。ただことし10月以降、中東、ガザ情勢が緊迫化していることは、国際社会のウクライナへの関心が相対的に弱まるという点で、ロシアには有利に作用しています。一連の中東外交は、ガザで休戦が終了し戦闘が再開され、イスラエルやアメリカに再び国際的に厳しい目が向けられていること、アメリカで、ウクライナへの支援や反転攻勢の行方に懐疑的な見方が広がっていることなどから、アメリカに対抗するうえでよい機会と捉えたのだと思います。
Q)プーチン大統領はどのような成果を上げたいのでしょうか。
A)中東への関与を内外に示すことです。具体的にはまず石油です。中東の3か国はOPEC=石油輸出国機構のメンバーで、ロシアはOPECプラスと呼ばれる枠組みに加わり関係を深めてきました。11月もOPECプラスの会合が行われたばかりで、産油国首脳どうし、直接会談することで、国際市場での影響力を誇示することができます。次に新興国の集まり、BRICSです。BRICSはもともとブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの国々の枠組みでしたが、来年からこの中東3か国を含む6か国が新たに加わることになりました。来年議長国を務めるロシアとしては、アメリカなどに対し、中国やインド、中東、アフリカ、南米にまたがる新たなBRICSの結束を印象づけようというねらいがあります。さらにカザ情勢をめぐっても、パレスチナ寄りの中東の国々との連携を印象づけ、イスラエルを支持するアメリカをけん制し、巻き返そうというわけです。
Q)巻き返しはうまくいくのでしょうか。
A)そう簡単ではないと思います。ロシアでは来年3月に大統領選挙が予定され、プーチン大統領としては外交で得点を挙げ、アメリカへの対抗姿勢を国内的にもアピールしたいところです。ただ、プーチン大統領にはICC=国際刑事裁判所から逮捕状が出され、首脳外交は依然大きな制約を受けています。また、ウクライナでは激しい戦闘が続き、国際的な批判や懸念を払拭することは容易ではありません。
プーチン大統領の思惑通りに行くかどうか、注意深く見ていく必要がありそうです。
●プーチン氏がUAEを訪問、ウクライナでの戦争中に異例の外遊 12/7
ロシアのプーチン大統領は6日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、両国関係は過去最高の水準にあると表明した。2年近く前のウクライナ全面侵攻以降、プーチン氏が中東を訪問するのは初めて。
プーチン氏はUAEの首都アブダビでムハンマド大統領と会談し、両国の関係を称賛。UAEを「アラブ世界におけるロシアの主要な貿易パートナー」と評した。
この後、プーチン氏はサウジアラビアのムハンマド皇太子と会談するため、サウジの首都リヤドを訪問する。中東や欧州で戦争が続く中、湾岸諸国との緊密な関係を誇示し、引き続き関係醸成を図りたい考えだ。
国際刑事裁判所(ICC)がウクライナでの戦争犯罪容疑で逮捕状を発付して以降、プーチン氏の外遊は少なくなっている。UAEとサウジはICCのローマ規程を批准しておらず、プーチン氏を逮捕する義務はない。
ICCの逮捕状により、プーチン氏の外遊には大きな制約が課されている。南アフリカがローマ規程の署名国であることから、プーチン氏は8月にヨハネスブルクで開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会議への対面出席を見送った。
プーチン氏はUAE、サウジの湾岸両国と良好な関係を保つ。両国は対ロシア制裁への同調を求める欧米の声にもかかわらず、ウクライナ全面侵攻をめぐり中立的な立場を維持している。
プーチン氏はロシアとUAEの歴史的な絆を強調。ソ連が1971年、UAEを主権国家として最初に承認した国の一つになったことに言及した。
首脳会談の前には、今回の訪問を活用して石油から貿易、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争まで、幅広い問題を協議したいとの考えを表明した。
●ロシア極東と択捉島 直行便が就航 実効支配強化か 12/7
北方領土の択捉島とロシア極東の中心都市ウラジオストクを結ぶ定期直行便が就航しました。プーチン政権は往来を増やすことで実効支配を一層強化しています。
択捉島からの乗客「(直行便は)とても必要です。1年待ちましたが、待ったかいがあり、今とても幸せです」
ロシア極東のウラジオストクの空港に6日、北方領土・択捉島から初めてとなる定期直行便が到着しました。
関係者によりますと、搭乗客は45人ほどで、チケットは完売だったということです。
北方領土へは、これまで極東サハリン州から航空便やフェリーが運行していたものの、所要時間の長さなどから不便さが指摘されていました。
プーチン政権は、直行便を就航させることで往来を活発化させ、北方領土の実効支配をさらに強化する狙いとみられます。
●ゼレンスキー氏、G7会合で各国首脳の名を挙げ謝意… 12/7
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6日、先進7か国(G7)首脳のテレビ会議で演説し、自由主義陣営の団結とウクライナへの支援継続を訴えた。
ゼレンスキー氏は、ロシアの侵略について「ウクライナだけでなく欧州の命運を握っている」と強調し、米欧で広がる「支援疲れ」に危機感を示した。「ロシアは自由主義社会の統合が崩壊することだけを望んでいる」と訴え、ウクライナへの支援を維持するよう各国に要請した。
プーチン露大統領については、来年3月に予定される大統領選で再選を目指すため「戦果を巡って高まる市民の不満を抑えようと前線で攻勢を強めている」との見方を示した。「我々の戦士は耐えている。プーチンは今年いかなる作戦にも勝利していない」と自軍の成果もアピールした。
演説の冒頭で、各国首脳の名前を挙げて謝意を示し、「G7の枠組みが効果的である限り人命は失われない」とG7との連携の重要性を強調した。
●「夫をロシアに帰して」兵士の帰還求める女性たちの運動広がる 12/7
マリア・アンドレワさんの夫はウクライナで1年以上戦っている。マリアさん自身も、夫の帰宅を求めて戦いを続けている。マリアさんだけではない。いま夫や息子、きょうだいの前線からの帰還を求めるロシア人女性が増えている。
マリアさんの夫らは、昨年9月のプーチン大統領による大統領令によって動員された。何十万人もの若者がロシアから慌てて出国した一方で数百万人の若者がロシアにとどまり、その一部が招集された。
マリア・アンドレワさん「私たちは夫を復員させたい。家に帰してあげたい。夫たちは1年間で、できることはすべてやったと思う。彼らは民間人だ。(仕事の)技術も衰えていくし、精神的にも肉体的にも健康を失いつつある」
マリアさんの夫は動員されて以来、妻と幼い娘に会うために2度ほど短い休暇を取っただけだ。マリアさんは、戦場で戦う兵士の休息としては不十分だと話す。
「娘はパパが遊んでくれて、パパがそばにいてくれて、夕方になれば体をゆすってくれるものと思っている。彼は子育てにも最初から参加していた。娘にとってパパがいないことはとてもつらいことだ」
マリアさんたちの運動の目標、それはロシア政府のトップに伝えることだ。
「私たちは大統領と直接のコミュニケーションを図ろうとしている。そこで、その先のことは考える。個人による抗議とか、車にステッカーを張ったりだとか、彼らが私たちのことを忘れないように服にプリントしたりとか、この問題に関心を引くためならできる限りのことはする。メディアともやり取りしたい」
この運動に対処することは、ロシア政府にとって慎重な問題だ。ロシアは2022年2月、ウクライナに数万の軍隊を派遣した。
これまでの戦争でも、西側では政治的に容認されないほど多くの戦死者を、ロシアは許容してきた。しかし活発化するロシアの女性たちによる運動は、長期間にわたり多くの男性を戦場にとどめることの複雑さと不平等を表している。
徴兵年齢に達している多くの男性が国内にとどまっているなら、なおさらだ。ウクライナの女性たちもまた、男性たちを戦線から帰還させることを要求している。
マリアさんによれば、ロシア国防省はほとんど対話に応じていないという。同省はロイターのコメント要請に応じなかった。
マリアさんは、夫が隣のベッドでいびきをかいていたら、抗議は終わりにすると語った。
取材にあたりロイターは、軍事的あるいは潜在的に機微な情報をマリアさんに求めたり、受け取っていない。
●イタリア 「一帯一路」脱退を中国に正式通告 12/7
イタリアが、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を中国側に通知していたことがわかった。
イタリアの主要紙コリエレ・デラ・セラは6日、イタリアが中国の「一帯一路」から離脱することを、3日前に中国側に通知したと報じた。
政治的に好ましくない影響が多く大きな経済効果が見込めないことから、メローニ政権が離脱を決め、数週間にわたって中国側と協議してきたという。
イタリアは2019年3月に、当時のコンテ首相がアメリカの反対を押し切って覚書を交わし、G7(主要7カ国)として唯一「一帯一路」に参画していた。
イタリアと中国は友好関係を維持することを確認したとしているが、離脱は中国にとって痛手となるとみられる。
●ウクライナ戦争の長期化狙うプーチンへの西側の対応策 12/7
ワシントンポスト紙が「ウクライナはどのように膠着状態を打破できるか」と題する社説を11月12日付けで掲載している。その主要点は次の通り。
ウクライナの最高位の将軍ザルジニーはEconomist誌とのインタビューで、ウクライナはロシアと膠着状態にあり、「深く美しい突破はありそうにない」と明言した。この発言は、ロシアの侵攻に対するウクライナの戦闘を米欧の同盟国からの支援で強める新たな努力の引き金になるべきである。
将軍の分析は冷静である。彼はウクライナとロシアは第一次世界大戦のようにどちらも相手に勝てない塹壕戦の「茫然自失」に到達していると言う。彼は、ウクライナは技術的な飛躍を必要とすると述べ、新しい航空戦力、電子戦能力、対砲兵能力、地雷除去技術の提供を求めた。
軍事的に全てが失われたわけではないが、戦争は失速したとの感覚がある。
安定的だが慎重な西側の武器の供与は、ゼレンスキーを失望させている。ウクライナは生き残るには十分な武器の供与を受けているが、勝つには十分でない。バイデンはロシアによるエスカレーションを懸念している。
プーチンは長期戦に備えているが、これは外部からの供与と支持に依存しているウクライナにとって現実的な危険である。今月議会に出されたロシアの予算は来年の防衛支出を70%増やすとしている。プーチンは明らかに西側の忍耐とウクライナの物的・人的備えを消耗させることを希望し、トランプが再選され米国のウクライナ支援を続ける意思が弱まることを望んでいる。
最終的にはウクライナは、戦場でお金と人命を犠牲にする意思のある敵、ロシアと交渉する必要があるとの現実に向き合わなければならないかもしれない。その時はまだ来ていないが、西側はもしその時が来れば、最善の取引を行えるような梃子をウクライナに与えるべきだろう。
この梃子は、ウクライナが生き残り、ロシアの属国ではなく、欧州の繫栄する民主主義国として成長する機会を残すことを意味する。

この社説は、時宜を得た良い社説である。ザルジニー総司令官の率直なウクライナ戦争の膠着に関する発言が、この社説が言うように米国のウクライナ支援の強化につながることが望まれる。
ウクライナの反転攻勢がウクライナ南部でロシア軍を分断すると期待されていたが、これは簡単には現実化しないことが明らかになった。ザルジニーの発言は戦果を誇大に言いがちな大本営発表とは異なり、率直に苦境を認めている。
ザルジニーは技術面でロシアを凌駕する電子戦能力の強化など、技術面での飛躍が必要であると指摘している。電子戦能力は無人機攻撃実施と敵の無人機攻撃に対する防御のために必要であり、米国としてはできるだけの支援をするべきだろう。
米国の軍事関係者はウクライナ側のニーズについて、率直な話をしていると思われるが、バイデンがロシアによるエスカレーションを心配し過ぎることと議会共和党がイスラエル支援をウクライナ支援に優先させていることの二つの問題がある。この二つの問題を乗り越える方策を考える必要がある。
変わるロシアが戦争する理由
ロシアは来年度予算で国防費を70%増にし、国内総生産(GDP)の6%にするとしている。ロシアのGDPは国際通貨基金(IMF)統計で日本の約半分であるが、こういう資源配分はロシアが長期戦に備えようとしていることの証左であり、西側としてもそれに対応する必要がある。
ただ、ロシア国内においても、この資源配分には、不満が出てくることが考えられる。ロシア人の多くはウクライナの非ナチ化などといった特別軍事作戦の目的をよく理解していないと思われるからである。プーチン政権はウクライナ戦争の目的を、ウクライナの非ナチ化から西側が仕掛けてきたことに対する戦争とするなど、プロパガンダの方向性を変えてきている。
『戦争論』で有名な戦略家のクラウゼビッツは戦争における意志の重要性を指摘しているが、まさしくこれが当てはまる。西側は、ロシアをこの戦争の勝利者にはしないという意志をさらに強固にする必要がある。
●EU首脳、中国主席と会談 ウクライナ戦争や貿易問題など協議 12/7
欧州連合(EU)首脳は7日、北京で中国の習近平国家主席と会談した。対面での首脳会談は4年ぶり。貿易不均衡やウクライナ戦争など幅広い問題について協議した。
フォンデアライエン欧州委員長、ミシェルEU大統領、EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表らが中国を訪問しており、李強首相とも会談する。
来年は欧州議会議員選挙が予定されておりEU首脳陣の顔ぶれが変わるため、現行の指導部が中国首脳と直接顔を合わせる最後の機会となる。
●中国とEU、北京で首脳会談へ ウクライナや貿易問題協議 12/7
欧州連合(EU)のミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長は7日、中国の習近平国家主席と北京で会談した。中国国営中央テレビが伝えた。李強首相とも会談予定。関係安定化を図り、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢など国際問題を協議。EUが巨額の対中赤字を抱える貿易不均衡など経済の課題も話し合う。
イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を中国側に正式に通知したことを踏まえ、習指導部は中国離れが広がらないよう欧州をつなぎ留めたい考えだ。
ウクライナ侵攻後もロシアと連携強化を図る中国は米欧による対ロ制裁の抜け穴になっていると懸念されている。
●G7 ウクライナ情勢やイスラエル・パレスチナ情勢への対応確認 12/7
G7=主要7か国の首脳会合が6日夜、オンラインで開かれました。ウクライナ情勢をめぐって、引き続きロシアに対する制裁とウクライナへの支援を強力に進めていくことで一致したほか、イスラエル・パレスチナ情勢の事態沈静化に向けた対応をG7がリードしていくことを確認しました。
今回のオンラインでの首脳会合は、ことしG7の議長を務めた岸田総理大臣にとって締めくくりの場となり、ウクライナのゼレンスキー大統領も招待国として出席しました。
岸田総理大臣はウクライナ情勢について、中東情勢が緊迫化する中でもG7の対応は変わらないと指摘し、日本として現地の復旧・復興などに総額45億ドル規模の追加支援を行っていく意向を表明しました。
そして、ロシアの制裁逃れに関与した疑いのある第3国の団体について、年内に制裁対象に指定する方針などを示し、各国首脳は引き続きロシアに対する制裁とウクライナへの支援を強力に進めていくことで一致しました。
また、岸田総理大臣は、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり、戦闘休止が再び実現することに強い期待を示すとともに、みずからもイスラエルや中東諸国との首脳会談を通じて人道状況の改善を働きかけていることなどを説明し、各国首脳は事態の沈静化への対応をG7がリードしていくことを確認しました。
このほか岸田総理大臣は、広島サミットで立ち上げた枠組み「広島AIプロセス」のもとで、生成AIの活用や規制に向けた共通のルールを国際社会に拡大していきたいという考えを示し、連携を呼びかけました。
そして岸田総理大臣は来年の議長国・イタリアへの協力を表明し、会議を締めくくりました。
●首相、45億ドルのウクライナ追加支援表明 12/7
岸田文雄首相は6日夜に開かれた先進7カ国(G7)首脳によるテレビ会議で、ウクライナ情勢を巡り、復旧・復興と世界銀行の融資への信用補完で総額45億ドル(約6600億円)規模の追加支援の用意があると表明した。
●ウクライナ支援に6千億円 首相、G7で対ロ追加制裁も表明 12/7
岸田文雄首相は6日夜、先進7カ国(G7)首脳によるテレビ会議を開催した。ロシアの侵攻が続くウクライナを巡り、復旧・復興と世界銀行の融資への信用補完で総額45億ドル(約6600億円)規模の追加支援の用意があると表明。対ロ制裁の迂回に関与した疑いのある第三国の団体を年内に制裁対象に追加する方針も明らかにした。会議後、首脳声明を発表した。
会議にはウクライナのゼレンスキー大統領も参加し「ロシアは自由世界の結束が崩れることを望んでいるだろう」と述べ、支援継続を訴えた。G7首脳は、ウクライナ支援と対ロ制裁の継続で一致した。首相は来年1月からロシア産ダイヤモンドの直接輸入を規制する考えも示した。
イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続く中東情勢に関し、首相は人道状況の深刻化を憂慮。全ての当事者に国際法の順守を求める重要性を強調した。再び戦闘休止が実現することに期待感も示した。
会議は、日本が議長国を務めた今年の締めくくりとして実施した。
●ウクライナ支援 曲がり角? 米の支援予算 年内に枯渇か 12/7
ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナに対して、巨額の予算をもとに、大量の兵器を送っているアメリカ。そのアメリカ議会で、支援のための予算が通らず、年末までに枯渇する可能性が強まっています。去年2月の軍事侵攻以降のアメリカ主導のウクライナ支援は、曲がり角に立っているのではないか。そういう見方すら出てきている事態になっています。
「キャッチ!世界のトップニュース」別府正一郎キャスターの解説です。
問題の焦点となっているのは、アメリカの議会、その中でも、今回は上院の対応です。
バイデン政権は、ことし10月に、ウクライナやイスラエルに対する支援などとして、議会に対してあわせて1,000億ドル以上の緊急予算を要請しています。
しかし、上院では、日本時間の7日朝、審議を進めるかどうかの採決が行われましたが、これは必要な賛成を得られず、現時点で、審議すら始めることができない状況となっています。
背景にあるのが、野党・共和党の一部にある、巨額の支援に対する批判的な立場です。
その主張は、ざっくり言えば、「アメリカ国内でもさまざまな問題を抱えているのに、いつまでも、ウクライナばかりに多くの予算を割いている場合ではない。アメリカの予算はアメリカ国内のために」という趣旨のものです。
こうした中で、共和党が持ち出しているのが不法移民の問題で、予算に賛成するには、メキシコとの国境管理の強化が条件だとしています。
不法移民の問題は、アメリカ国内では、確かに重要な問題です。
こうした内政の課題が、外交の課題と絡み合って、予算をめぐる協議が難航しているのです。
このまま協議がまとまらず、議会が新たに予算を承認しなければ、ウクライナが必要としている支援は大きな打撃を受けることになります。
折しも、ウクライナ軍がことし6月から続けている大規模な反転攻勢は、半年を経て、大きく前進できず、行き詰まっています。
一部で、「失敗している」という指摘も出ています。
こうした中で、アメリカからの支援が途切れることが懸念されているのです。
イギリスの経済誌「エコノミスト」は、この状況を「ウクライナにとって、アメリカは最大の救世主だったが、今や、最大の心配事になっている」と表現しています。
日本の岸田総理大臣を含む、G7=主要7か国の首脳会合が、6日夜、オンラインで開かれましたが、これに招待されたゼレンスキー大統領は、「ロシアは、自由世界の団結が来年にはもろくなることを期待しているだろう。ロシアは、アメリカやヨーロッパが、ウクライナへの支援を維持しなくなるはずだと見ている」と述べ、G7各国に支援の継続を訴えました。
これまでも懸念されてきた欧米の「支援疲れ」、それが、いよいよ、大きく表面化することになるのか。
アメリカの議会上院の動きに、大きな関心が寄せられています。
●ウクライナへの欧米の支援にかげり ゼレンスキー「ロシアの望むこと」と警鐘 12/7
ウクライナは現在、ロシアの全面侵攻開始以来、最も苦しい日々に直面している。
大きな期待がかかっていた反転攻勢は膠着(こうちゃく)したようだ。アメリカと欧州連合(EU)は、新たな財政・軍事支援の合意に苦慮している。そして世界の注目は、イスラエル・ガザ戦争によって逸らされてしまった。
アメリカの支援パッケージが同国議会で論争に巻き込まれた後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシア政府は欧米が弱さを見せるのを待っているのだと警告した。
主要7カ国(G7)の会合にバーチャルで参加したゼレンスキー氏は、「ロシアの望むことはただ一つ。来年、自由世界の結束が壊れることだ」と述べた。
アメリカのジョー・バイデン大統領は連邦議会に、「正しいことをしてほしい」と訴えた。「(支援法案の成立を)待っている余裕はない」とも述べた。
一方、ウクライナ政府高官は一見、前向きだ。国民の反抗心も残っている。しかし、やはりそこには暗い空気がうかがえる。
首都キーウのコントラクトワ広場で取材したイリナさんは、「1年前に比べて勝つという自信は少し薄まった」と話した。
夫のオレクサンドルさんと一緒にいたイリナさんは、侵攻前の暮らしを思い出して泣き始めた。
「今この広場を歩きながら、数年前にここで新年を祝った時のことを思い出している。交響楽団が演奏していて、とても美しかった」
「そういうことが自分たちの暮らしに戻ってきてほしいと本当に思うし、ウクライナに勝ってもらいたい。私たちはとてもつらい思いをしているので、外国からの助けが本当に必要だ」
「得するのはプーチン氏だけ」
ゼレンスキー大統領は5日、米連邦議員とのバーチャル会議を、直前にキャンセルした。理由は明らかになっていない。
翌6日に米上院は、ウクライナへの支援を含む大型支出法案を否決した。
1060億ドル(約15兆6000億円)の支出案のうち610億ドルはウクライナ支援に振り向けられる予定だった。このほか、イスラエルと台湾への軍事支援と、アメリカの南部国境の強化が含まれていた。
しかし、ゼレンスキー氏がビデオ会議で登場する予定だった会議は、国境措置をめぐって口論に発展。数十人の共和党議員が退席した。6日の採決では、共和党議員全員が反対票を投じた。
駐米ウクライナ大使のオクサナ・マカロワ氏は、慎重な楽観主義の根拠はまだあると述べた一方で、「私たちはまだ、望んでいるような状況にはない」と認めた。
こうした中でバイデン政権は、ウクライナに対して1億7500万ドル規模の新たな安全保障支援を行うと発表。これには、すでに承認されている資金が使われる。
一方のEUは、500億ユーロ(約7兆9000億円)の経済支援を計画しているほか、ウクライナのEU加盟に向けた正式協議も始めようとしているが、その見通しも不透明だ。
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、来週始まるEU首脳会議を前に、これらの提案を否決すると脅している。あるEU外交官はこれを受け、「全てが危険にさらされている」と話した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持しているオルバン首相は、欧州が追加支援を提供ても、ウクライナがロシアに勝つ見込みは「非常に疑わしい」と発言した。
こうした状況に、BBCがウクライナで取材したタチアナさんは、涙ながらに「もちろん支援が必要だ。私たちは欧州全体を守っている」と話した。タチアナさんの息子は現在、前線で兵役についているという。
「もっと武器が必要だ。私たちの子供が死んでいるのだから」
駆け引きやトレードオフはどんな政治システムにもつきものだが、欧米の支持を得るのは「ますます難しくなっている」と、ウクライナの野党議員オレクシイ・ゴンチャレンコ氏は認めている。
ゴンチャレンコ議員は、米・ウクライナ両議会が作る友好グループに参加しており、アメリカの議員や政府高官との協議のためにワシントンを訪れたこともある。
ウクライナへの支援は依然として強いと考える一方で、新たな援助が来るのか苦悩しながら待つことダメージは大きいと、ゴンチャレンコ氏は警告した。
「西側が、必要とされる限りずっとウクライナと共にいると言う時、それは本当にたった2年なのか? 『ずっと』とは2年のことなのか?」
「今の展開で得をするのはプーチンただ一人だ」
今年6月にやっと始まったウクライナの反転攻勢には大きな期待がかかっていた。
しかし、この取り組みがなぜ失敗したのかについては、すでにアナリストらが事細かに事後分析を重ね、制空権の欠如、戦略的誤算、ロシアの厳重な防衛網といった問題を指摘している。
キーウにある軍事・司法研究センターの防衛アナリスト、オレクサンドル・ムジイエンコ氏は、「どんなに優れた計画も実際の作戦行動が始まれば、話は変わってしまう」と話した。
反攻が終わりに近づいているとムジイエンコ氏は考えているが、この冬、ロシア軍を「休ませない」ことが重要だろうと指摘した。
占領地への長距離攻撃と局地的な攻撃作戦は続けなければならないが、ウクライナは来年の新たな攻撃に備えられると同氏は考えている。
さらに武器が到着すれば、「こうした困難な時期にあっても、我々にはチャンスがある」と、ムジイエンコ氏は述べた。
ロシアには常に時間の余裕があり、ウクライナには決してかなわない膨大な人的資源がある。
ウクライナでは、ゼレンスキー大統領と、11月に英誌エコノミストに「戦争は膠着状態にある」と語ったヴァレリー・ザルジニー総司令官との間に緊張が走っていると報じられている。
しかし、ウクライナにはまだ戦う意志がある。これは存在をかけた戦争であり、また、武器の国内生産を強化しようとする動きがあるからだ。
しかし、国外のパートナーからの武器や資金が重要であることに疑いの余地はない。
ウクライナ与党のオレクサンドル・ワシウク議員は、「決定的な勝利のためには、包括的かつ緊急の支援が必要だ!」と宣言した。
ワシウク議員はBBCに対し、「アメリカとEUが明確に状況を判断し、相違を乗り越えられると確信している」と述べた。
キーウで取材した年金生活者のウォロディミルさんも、「悪は打ち負かされなければならない」と、強い口調で話した。
「アメリカも、EUも、世界中がこれを理解しないといけない」
●「ロシアの第2防衛線突破した」 ウクライナ国防相、反攻を強調 12/7
ウクライナのウメロフ国防相は、反転攻勢を進めるウクライナ軍が3層から成るロシアの防衛線のうち第2防衛線を突破したとの認識を示した。「われわれは第2、第3防衛線の間にいる」と説明し、領土奪還を続けていると強調した。ウクライナのメディアが6日伝えた。
ウメロフ氏は「われわれには2024年に向けた計画がある」と述べ、反攻継続を表明。ロシアが14年に併合したウクライナ南部クリミア半島を含む全土を取り戻すことが目標だとした。 
● ロシア大統領選 来年3月17日実施決定 プーチン氏立候補表明か 12/7
ロシア大統領選挙の日程について、ロシアの議会は来年の3月17日に行うことを正式に決定しました。これを受けてプーチン大統領が近く、通算で5期目となる立候補を表明するという見方が高まっています。
ロシアの議会上院は7日、来年の大統領選挙の日程について、3月17日に実施することを決定しました。
投票は3日間にわたり行われることが提案され、ロシアの中央選挙管理委員会で協議されることになっています。
また、中央選挙管理委員会では、ロシアが軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したウクライナの地域についても選挙だとする活動をどのように実施していくかなど決定していくとしています。
一方、プーチン大統領はこれまでみずからの立候補については態度を表明しておらず、選挙の日程が議会で正式に決定されたあと、考えを表明するとしていました。
プーチン大統領は来週14日、大規模な記者会見や国民との対話形式のイベントなどを開催するほか、プーチン政権を支える与党「統一ロシア」も17日に集会を開催する予定です。
こうした中、プーチン大統領が近く通算で5期目となる立候補を表明するという見方が高まっています。
●プーチン氏批判するロシア最後のリベラル、戦争終結の取引「不可避」 12/7
ロシアのベテラン民主派政治家、グリゴリー・ヤブリンスキー氏はウクライナとの和平を呼びかけ、自身の政治生命で最後になるかもしれないプーチン大統領への挑戦を仕掛けている。
ロシア大統領選挙にこれまで3回出馬したヤブリンスキー氏は、来年の大統領選でプーチン氏に挑むことを検討中だ。ただ、前回2018年の選挙では1%程度の票しか得られず、今回出馬するとしても結果に幻想は抱いていない。
モスクワからオンラインでのインタビューに応じたヤブリンスキー氏は「結果は今の段階で言える。投票率75%、プーチン氏の得票率は78%だ」と語った。
ロシア上院は7日、大統領選の日程を来年3月17日に設定した。ウクライナでの戦争に対する市民の支持を演出すべく圧勝を収めようと政府当局者が決意する中で、プーチン氏は5期目を目指す立候補を表明すると広く見込まれている。同氏に反対する政治家はほぼ全員が刑務所または外国におり、ヤブリンスキー氏のような声は政治議論の片隅でかろうじて生きながらえている。
民主派政党ヤブロコの創設者でもある同氏(71)は、10月26日に約2年ぶりにプーチン氏と会談。会談は1時間半にわたり、「極めて真剣な会話」をしたという。休戦と和平交渉の必要性をプーチン氏に説いたが、「結論は出なかった」と述べた。
ソ連崩壊以降に北大西洋条約機構(NATO)がロシア国境に向かって拡大し続けていることで、プーチン氏は「ベルサイユ・シンドローム」にかかっているとヤブリンスキー氏は指摘。第1次大戦後の賠償金への不満がヒトラーの台頭を許したドイツの状況になぞらえた。
ただ、ヤブリンスキー氏の主なメッセージは、欧州で第2次大戦後最悪の戦争を終結させる交渉に臨むよう米国とその同盟国に求めるというものだ。その交渉はウクライナが現在支配する「領土の80%を保全することについてだ」と語った。ウクライナはロシアからの領土奪回に苦戦し、過去1年にわたり戦線がこう着している。
和平交渉は「1カ月以内に始まるかもしれないし、1年または2年かかるかもしれないが、その時はやってくる。これは不可避だ」と主張し、「人々が死んでいくのを止める必要がある。われわれはおぞましい対価を支払っており、ウクライナの破壊は続いている」と述べた。
●兵士の数も武器の数もロシア軍に劣る……「地獄」のウクライナ前線 12/7
ウクライナ軍は兵士の数でも、武器の数でもロシア軍に劣っている。前線に立つウクライナ兵の1人は、脈々と流れるドニプロ川の東岸に築いた拠点に必死にしがみつこうとする自軍の厳しい状況についてBBCに語った。
6カ月前に始まったウクライナの反転攻勢の一環で、数百人のウクライナ兵がこの地域に入った。
ロシア軍の容赦ない砲火を浴びながら、ウクライナ兵はロシア軍が占領してきたこの場所で数週間を過ごした。ドニプロ川東岸のクリンキ村周辺で橋頭堡(きょうとうほ、橋のたもとに設ける陣地)を築こうとしていたからだ。BBCは今回証言したウクライナ兵の身元を保護するため、名前を伏せている。
私たちは、メッセージングアプリを介して彼から証言を得た。そこには、部隊のボートが川から吹き飛ばされたことや、経験の浅い援軍のこと、そしてウクライナ軍の司令官たちから見捨てられたと感じたことがつづられていた。
また、ウクライナ軍がロシアの侵略に対抗し始めてから2度目の年末が近づく中、緊張が高まっていることも浮き彫りにした。
ウクライナ軍は安全上の理由から、同地域の状況についてはコメントしないと、BBCに伝えた。
「(ドニプロ河岸)全域では絶え間なく、対岸まで渡ろうとする兵士が砲火にさらされています。仲間が乗った複数のボートが被弾して水中に沈み、ドニプロ川に永遠に消えていくのを見たことがあります」
「私たちは発電機や燃料、食料など、あらゆるものを携行しなくてはなりません。橋頭堡を築くにはあらゆるものが大量に必要ですが、この地域への物資供給は計画されていませんでした」
「現場まで行けば敵は逃げ出すものと、私たちは考えていました。そうすれば、必要な物をすべて落ち着いて輸送できるだろうと。しかし実際はそうなりませんでした」
「私たちが(ドニプロ川の東)岸に着くと、敵が待ち構えていました。捕まえたロシア兵から、私たちの上陸に関する密告があったと聞きました。いつ私たちがそこへ来るのか、具体的にどこで私たちを見つけられるのかを知っていたのだと。(ロシア兵は)大砲や迫撃砲、火炎放射システムなど、あらゆるものを発射してきた。もう脱出は無理だと思いました」
それでも、数百人のウクライナ海兵隊員は、ドニプロ川西岸の高台から発射されたウクライナ軍の砲撃にも助けられ、足場を固めることができた。
ドニプロ川はウクライナ南部ヘルソン州のロシア占領地域と、ウクライナ支配地域を隔てている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、この反転攻勢はさらに大きな何かの始まりだと、盛んに強調してきた。
ウクライナ軍参謀本部は12月3日、自軍がドニプロ川東岸の陣地を維持し、「敵の後方部隊に砲火を浴びせ、損害」を与えていると、日々の報告の一環として述べた。
しかし、この兵士の証言は、戦況をめぐりウクライナ政府と将官たちが分裂していると露呈する。
ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は11月1日付の英誌エコノミストに対して、「第1次世界大戦と同じように、我々はこう着状態に陥るような技術水準に達している」と語った。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はザルジニー氏の発言を即座に非難し、戦場で手詰まり状態にはなっていないとした。
「私たちは毎日、森の中で座り込み、攻撃を浴びていました。身動きがとれなかった。道路も小道もすべてが地雷だらけなので。ロシア兵はすべてをコントロールできていないので、私たちはそれを利用します。それでも、ロシア軍のドローン(無人機)は絶えず上空を飛んでいて、動きを察知したらすぐに攻撃できるようになっています」
「一番の弱点は物資の供給でした。ロシア兵が私たちの供給路を監視していたので、物資の運搬がなおさら困難になった。ボートやドローンを使って運んではいたものの、飲料水が本当に不足していました」
「自分の装備はかなり自分でまかなっています。発電機やポータブル充電器、防寒着などを、自前で買いました。いまは霜が降り始めていて、今後状況は悪化するばかりです。実際の状況は公表されないので、誰もこの状況を変えようとしません」
「何がゴールなのか、誰も分かっていません。多くの兵士は、司令部が単に自分たちのことを見捨てたのだろうと考えています。あの人たちは、私たち兵士の存在意義はは、軍事面より政治面で大きかったと考えている。だけど私たちは、自分の仕事をしていただけで、戦略には関与していませんでした」
ウクライナ軍がドニプロ川の東岸に到達したことで、ロシア軍が部隊の一部を前線の他地域から移転せざるを得なくなったことは間違いない。例えば、ロシア軍が厳重に守りを固めているザポリッジャ州の陣地などからだ。ウクライナ政府は同州で、もっと早くに突破口が開くことを望んでいた。
BBCロシア語は最近、この地域の川岸を守るロシア部隊の数人に話を聞いた。ロシア兵たちは、あの場所へ向かうのは「自殺行為」だと語った。戦闘ですでに多くの兵士を失っており、ウクライナ軍を拠点から動かすのは無理だと。
一方でウクライナ軍は、ロシア軍の補給路を標的にし、民間人を砲撃から守れるようになるまで、ロシア軍をドニプロ河岸から後退させたいとしている。
つまり、ロシア兵もウクライナ兵も、多くの砲火を浴びているということだ。
「こちらの損害の大半はミスが原因でした。誰かが塹壕(ざんごう)に素早く入れなかったり、うまく隠れられなかったり。集中力が欠けていると、あっという間に全方位から標的にされてしまう」
「でも医師たちのおかげで、医療班まで運ぶことができれば負傷兵は助けられます。医者たちは巨人です、神のような存在です。ただ、戦死者の遺体を運び出すのは無理です。危険すぎる」
「同時に、こちらのドローンやミサイルは敵にかなりの損害を与えています。捕虜をとったこともありますが、どこに置けばいいのか。負傷した仲間さえ、連れてドニプロ川を渡れないのに」
前線のあらゆる地点と同様に、ここでの作戦も消耗戦と化している。
ロシアが徴集兵や、恩赦と引き換えに受刑者を従軍させることで軍勢を保つ一方で、ウクライナは必要な人員の確保に苦慮している。
BBCの最近の調査では、ロシアによる全面侵攻が始まって以降、徴兵を回避するために2万人近い男性がウクライナを出国していることが明らかになった。
「この場所には本来、個別の中隊ではなく、複数の旅団が配備されるはずでした。ともかく人員が足りません」
「私たちの部隊には若い兵士がたくさんいます。人手が必要です。でも欲しいのは、今ここにいるような新兵ではなく、訓練を受けた兵士です。3週間しか訓練を受けていない人もいます。数回しか発砲できない人もいます」
「完全に悪夢です。1年前ならそんなことは言わなかっただろうけど、今は、申し訳ないけど、うんざりしています」
「戦争に進んで志願した人たちはみんな、もうとっくに戦地に入っています。今となっては、お金でその気にさせるのはあまりに難しすぎる。いま動員されているのは徴兵を逃れられなかった人たちです。笑うかもしれないけど、泳げない海兵隊員もいるくらいです」
クリンキ村はがれきと化している。
1年前に、ヘルソン市やハルキウ州の複数地域が解放された時のような、はっきりとした安堵(あんど)感はいまのところ、再現されていない。
それどころか、ウクライナの勝利は、荒廃し放棄された土地の小さな区画にとどまっている。
この状況のため、西側諸国に長期的支援を求めるゼレンスキー大統領が、その訴えを政治的に売り込むのは難しくなっている。
しかしそれでも、BBCに匿名で証言した兵士の戦いはこれからも続く。
「地雷で脳震とうを起こしたけど、脱出できた。でも同僚の1人は助かりませんでした。残されたのは彼のヘルメットだけでした」
「地獄から逃げ出した気分ですが、前回私たちの代わりに配置された兵士たちの方が、私たちよりもっと地獄を味わっています」
「次の配置転換が迫っています。もうすぐ、私がドニプロ川を渡る番がやってきます」
●国家反逆罪に問われたウクライナ元国会議員、逃れたロシアで暗殺される… 12/7
ロイター通信などによると、ウクライナの元国会議員でロシアのウクライナ侵略を支持し、国家反逆罪などに問われたイリヤ・キバ氏(46)が6日、露モスクワ州内で遺体で発見された。銃で射殺されたという。ウクライナ政府関係者によると、同国の情報機関「保安局」(SBU)の部隊が実行したと認めた。
キバ氏は昨年2月、ロシアの侵略開始後、「ウクライナ国民は解放を必要としている」などとSNSに書き込んだ。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領への批判を繰り返し、昨年3月にウクライナ議会から議員資格を 剥奪 された。その後、ロシアに逃れ、市民権付与をプーチン大統領に求めていた。
露国内や占領地域では親露派の政治家らの殺害が相次ぎ、ウクライナ情報機関の関与が指摘されている。11月8日には、ウクライナ東部ルハンスク州で自動車が爆発し、親露派の政治家が死亡した。
●岸田首相 ノルウェー首相と会談 ウクライナ支援など連携で一致 12/7
岸田総理大臣は、日本を訪れているノルウェーのストーレ首相と会談し、ウクライナ情勢をめぐり、今後も連携して対ロシア制裁やウクライナ支援を継続していくことなどで一致しました。
会談は、7日午後6時半すぎから総理大臣官邸で始まり、その後、隣接する公邸に場所を移して、夕食をとりながら行われました。
そして、ロシアによる侵攻が続くウクライナ情勢をめぐり、今後も連携して厳しい対ロ制裁やウクライナ支援を継続していくとともに、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現に向けて、協力を進めていくことで一致しました。
また、両首脳は、日本とノルウェーは基本的価値と原則を共有する重要なパートナーだとして、両国の関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げし、脱炭素化に向けた取り組みや、安全保障面などで連携を強化していくことも申し合わせました。
岸田総理大臣は、記者発表で「両国がさまざまな分野で、2国間関係を一層深めるとともに、世界の平和と安定に向け、国際場裏(じょうり)で協力を拡大していけるよう取り組んでいきたい」と述べました。

 

●ロシア大統領選を控え…「反プーチン」呼び掛けも 12/8
来年3月17日のロシア大統領選挙に向け、ロシアの反体制派とプーチン政権の攻防が始まりました。
ロシア反体制派のナワリヌイ氏陣営は7日、プーチン大統領以外の候補者への投票を呼び掛けるキャンペーン「プーチンのいないロシア」を開始しました。
キャンペーンのサイトにアクセスできるQRコードが記された看板の存在はSNSで広まりましたが、警察が撤去を進めています。
●プーチン大統領 イランと関係強化 中国とは連携深める姿勢強調 12/8
ロシアのプーチン大統領は、首都モスクワでイランのライシ大統領と会談し、アメリカと対立するイランとの関係を強化する姿勢を示しました。プーチン大統領はまた別の会合の中で、中国との間で経済面だけでなく軍事面でも連携を深めていく姿勢を強調しました。
ロシアのプーチン大統領は7日、モスクワにイランのライシ大統領を招いて首脳会談を行いました。
会談の冒頭、プーチン大統領は「パレスチナ情勢について意見を交わすことは非常に重要だ」と述べ、ライシ大統領もガザ地区ではイスラエル軍によって大勢の子どもが殺害されているとして「こうした犯罪はアメリカや西側の国々によって支援されている」と述べ、イスラエルを支持するアメリカなどを強く非難しました。
アメリカとの対立を深めているロシアは、同じくアメリカと敵対するイランとの関係を強化していて、ウクライナでの戦闘でイラン製の自爆型の無人機を使用しているほか、イランから弾道ミサイルの購入も検討していると指摘されています。
これに先立ちプーチン大統領は、モスクワで開かれた投資フォーラムに出席し、中国やインド、トルコなどの企業関係者を前に演説しました。
この中でプーチン大統領は、ことし中国との貿易額が2000億ドルを越えるとの見通しを示したうえで、「中国とはすべての分野で協力する用意がある。軍事技術の分野でもだ」と述べ、欧米による経済制裁が強まる中、中国と経済面だけでなく軍事面でも連携を深めていく考えを強調しました。
●西側からの孤立、「新世界」での成長拠点化を後押し=プーチン氏 12/8
ロシアは西側から経済的に孤立しても、それは急激な変革期に入った「新世界」における成長拠点になるのを後押ししてくれる――。プーチン大統領は7日、モスクワで開催されたビジネスフォーラムでこう豪語した。
プーチン氏は、ロシアの今年の国内総生産(GDP)成長率が昨年のマイナス2.1%からプラス3.5%に転じる見込みだと指摘。「今のGDPは既に、西側による制裁発動前を上回っている」と主張した。
ロシア経済は、ウクライナ侵攻に伴う軍需の増大で押し上げられている半面、インフレと高金利、人手不足や生産性の伸び鈍化などの問題に直面している。
しかしプーチン氏は、ロシア経済と財政の健全性を自賛し、西側の制裁は効果がなかったとの見方を示した。
その上で「世界は急激な変革期に入り、個別の企業やセクターだけでなく、各国家や地域全体が重大な試練にさらされている。私が強調したいのは、強く安定した主権国家だけがこの局面を乗り切ることに成功し、新たな世界経済の成長の中心地になれるということだ」と語った。
またプーチン氏は、西側の金融システムは現状に甘んじるのみで、技術的に時代遅れになりつつあると述べた。
●ロシアとサウジ、OPECプラス加盟国に減産協力呼びかけ 12/8
サウジアラビアとロシアは7日、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国で構成する「OPECプラス」の加盟各国に対し、減産合意に協力するよう呼び掛けた。
ロシアのプーチン大統領は6日、リヤドを訪問し、サウジのムハンマド皇太子と会談。両国は、ロシア大統領府が発表した共同声明で「エネルギー分野での両国の緊密な協力関係と、石油市場安定のためのOPECプラスの取り組みが成功した」と強調。その上で、「双方はこの協力を継続することの重要性を確認した。OPECプラスの加盟国が減産合意に加わるべきだ」と訴えた。 もっと見る
OPECプラスは11月30日の閣僚級会合で、日量約220万バレルを自主的に減産することで合意。サウジとロシアの主導による日量130万バレルの自主減産を延長する形だ。OPECプラス加盟国合計の産油量は、世界の40%以上を占めている。
●プーチン氏側近が米国に「第2のベトナム」警告 「支援疲れ」助長か 12/8
ロシアの情報機関・対外情報庁(SVR)のナルイシキン長官は7日、米国がウクライナへの支援を続ければ、ロシアとウクライナの戦争が「第2のベトナム戦争」になると述べた。ロイター通信が報じた。戦争の泥沼化を警告することで、米国で広がるウクライナへの「支援疲れ」を助長し、ロシアに有利な形に持ち込みたい思惑があるとみられる。
ナルイシキン氏はプーチン大統領の側近の一人。報道によると、ナルイシキン氏はSVRの内部向け機関誌で「ウクライナは、次から次に資源や人員を吸い込む『ブラックホール』になるだろう。米国は、自ら『第2のベトナム』を作り出す危険を冒しており、(バイデン政権以降の)先々の政権も対応を余儀なくされるだろう」と指摘した。
ウクライナが今年6月に反転攻勢を始めてから約半年が過ぎたが、期待したような戦果が得られず、前線の戦況は行き詰まっている。米国の世論調査でも、徐々に支援の有効性を疑問視する声が広がっている。
ベトナム戦争は米ソ冷戦下の1960年代半ば、南ベトナムの親米政権を米国の「かいらい」とみなして統一を進めようとした北ベトナムに対し、アジアでの共産主義拡大を恐れた米国が介入を深め泥沼化した。米国内を中心に反戦運動が広がり、73年にパリ和平協定が結ばれ米軍は撤退。75年に北ベトナムの勝利で終結した。
●支援総額、前年比87%減 独研究所、8〜10月 12/8
ドイツのキール世界経済研究所は7日、各国が今年8月から10月に表明したウクライナ支援の総額が前年同期比で87%減少したと発表した。昨年1月以来、最低の額となった。支援に消極的な各国の姿勢が確認されたとして、「支援表明の遅れは、ロシアのプーチン大統領の立場を強めることになる」と指摘した。
ロシアの侵攻に抵抗するウクライナには欧米や日本の支援が不可欠だが、米国ではウクライナ軍事支援予算の議会承認が野党共和党の反対で滞っている。欧州ではハンガリーやスロバキアが支援に否定的な姿勢を示しており、各国で「支援疲れ」が表面化している。
●ネパール政府 自国民の軍採用中止などロシアに要請 12/8
ネパール政府はロシア軍に所属するネパール人兵士の帰国などをロシア政府に要請しました。ウクライナとの戦争が長期化するなか、ロシア軍が兵士の不足を外国人で補う実態が浮き彫りになりました。
ネパール外務省は4日、ロシア軍に従軍していたネパール人兵士6人が死亡したことを受け、遺体の返還と家族への補償をロシア政府に求める声明を発表しました。
声明では現在、兵役に就いているネパール人兵士の帰国と新たな採用をやめるよう求めています。
また、ウクライナ側の捕虜となったネパール人兵士の解放のため外交交渉が行われているとしています。
ネパールでは山岳民族出身の「グルカ兵」が協定で認められたイギリス軍やインド軍に所属する以外は、国民が外国の軍隊に入ることは禁止されています。
しかし、BBCによりますと、ロシア軍に入隊したネパール人は少なくとも数百人に上るとみられています。
ウクライナとの戦争が長期化するなか、ロシア軍はネパールのほかにもジョージアやシリア、リビアなどからも兵士を集めているとされています。
●ヨーロッパとロシアの対立で漁夫の利を得る緩衝地帯、カザフスタンの可能性 12/8
・ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに続くヨーロッパとロシアの対立。その裏で、双方に顔が利くカザフスタンの存在感が高まっている。
・カザフスタンはフランスやドイツとエネルギー関係で協力関係を深める一方、ロシアとは貿易関係で関係を強化している。
・ヨーロッパとロシアの対立で漁夫の利を得るカザフスタンだが、それが続くかどうかはトカエフ大統領がうまく後継指導者に禅譲できるかにかかっている。
ウクライナとロシアの戦争が膠着状態に陥る一方で、ヨーロッパとロシアの対立も続いている。こうした状況の下で、ヨーロッパとロシアの双方に顔が利くカザフスタンの存在感が高まっている。
まずヨーロッパとの関係では、脱炭素化に加えて、化石燃料の脱ロシア化を掲げる欧州連合(EU)が、カザフスタンとの連携の強化を図っている。
例えば、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、11月1日から2日にかけてカザフスタンとウズベキスタンを公式訪問し、双方の指導者と会談を行った。ヨーロッパの電力生産を支えるフランスの原子力発電だが、カザフスタンはその核燃料であるウランの世界最大の生産国であり、ウズベキスタンも世界第5位の生産国である。
かねてより、フランスは原子力産業に注力してきた。2011年の東日本大震災後は、世界的な原発見直しの機運を受け、フランスの原子力産業に対する逆風が強まった。しかし近年は、原子力発電が脱炭素化に適うことから、フランスの原子力産業に追い風が吹いている。またEUが化石燃料の脱ロシア化を掲げたことも、大きな追い風となった。
もともとフランスとカザフスタンの関係は良好であり、両国の国営原子力会社(オラノ社とカザトムプロム社)が合弁企業(カトコ社)を設立し、カザフスタン国内でウランの生産を行ってきた。またフランスとウズベキスタンの関係も良好で、オラノ社はウズベキスタン国営のナボイウラン社とも合弁企業を設立し、ウランの生産に努めている。
報道によると、フランスはカザフスタンとの間で、核燃料サイクル分野での協力の拡大で合意に達した模様だ。カザフスタンとの経済・技術協力関係が進化すれば、フランスは安定的に核燃料を調達することができる。一方のカザフスタンからしても、フランス資本による鉱山開発や技術移転を通じて国の発展を促すことができる。
ドイツ向けを中心に増加するカザフ産原油
他方でドイツは、ロシアに代わる新たな原油の調達先として、カザフスタンへの依存を強めている。ドイツは2022年6月に決まったEUの対ロ制裁第6弾を受けて、ロシア産原油の輸入を着実に減らしてきた。EU統計局(ユーロスタット)のデータからも、ドイツの原油輸入量に占めるロシア産の割合が急低下していることが分かる(図表1)。
   【図表1 ドイツの原油輸入量の国別内訳】
直近2023年8月のドイツが輸入したロシア産原油の量はわずか14トンだった。ドイツが8月に輸入した原油の総量は約687万トンだったため、ロシア産原油が占める割合はわずか2%程度である。その一方で、ドイツは着実にカザフスタン産の原油の輸入を増やしてきた。その結果、カザフスタン産原油は約89万トンと全体のおよそ13%を占める。
カザフスタンの国営パイプライン運営会社カズトランオイルは、ロシアの国営パイプライン運営会社トランスネフチのパイプライン「ドルジバ」を経由して、ロシアに原油を供給している。カザフスタンは内陸国であるため、ヨーロッパに対して原油を輸送するためには、どうしてもロシアのパイプラインの力を借りる必要がある。
EUのうち、チェコとハンガリー、スロバキアは対ロ制裁第6弾の発効後もドルジバを経由してロシアから原油の提供を受けているが、ドイツとポーランドはドルジバを経由したロシア産原油の輸入を停止した。ただ、ドルジバを経由してドイツはカザフスタン産の原油を輸入するため、ここにロシア産が混じっている可能性は否定できない。
それにドルジバを使うことで、トランスネフチに対して利用料が発生するため、それが最終的にロシアの利益となってしまう問題がある。とはいえ、そうして得た収入がロシアの財政を支えるほどの規模になっているとはまず考えにくい。確かに、EUの化石燃料の脱ロシア化の理念には多少反するが、これは一種の必要経費とも言えるだろう。
同じくカザフスタンとの協力深化を模索するロシア
それ以外にも、カザフスタンはフランスやドイツとの間で、再エネや水素関連で協力を深めようとしている。
同時に、ロシアもカザフスタンとの間で協力関係の深化を模索している。フランスのマクロン大統領がカザフスタンを訪問した一週間後の11月9日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がカザフスタンの首都アスタナを公式訪問した。
プーチン大統領はカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領と会談。両国間でエネルギーや貿易、労働などの分野で協力関係を進化させる複数の文書が調印された。またロイター通信によると、ロシアはロシア産の穀物や肥料を第三国経由で輸出することを模索しており、その中継地としてカザフスタンに期待を寄せているようだ。
カザフスタン経由でロシア産の穀物や肥料を第三国に輸出するとなると、カザフスタンは相応のマージンをロシアから徴収することになるはずだ。ヨーロッパは苦々しく感じるだろうが、ロシアとカザフスタンの関係悪化は、カザフスタンの不安定化につながるため、同国からエネルギー資源を得たいヨーロッパにとっても好ましくない事態である。
そのため、カザフスタンにロシアが接近しても、ヨーロッパはそれを黙認せざるを得ない。カザフスタンはもともと、旧ソ連の構成共和国の中でもロシアと親密な関係にあり、トカエフ大統領の前任のヌルスルタン・ナザルバエフ元大統領はプーチン大統領と個人的に親しかった。
もっとも、ロシア同様に権威主義国家として知られたカザフスタンだが、2019年に就任したトカエフ大統領は、内政面では国内の民主化に努める路線に、また外交面ではロシアとの距離を見直して欧米との関係も重視する路線にそれぞれ舵を切った。
2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻を仕掛けた後、微妙な立場に置かれた中央アジアの中でロシアに苦言を呈したのもトカエフ大統領だった。
緩衝地帯として機能するカザフスタンが得る漁夫の利
カザフスタンは、政治的にはロシアに対して慎重に距離を置いているが、経済的には引き続き密接な関係を維持している。両国間の貿易は縮小するどころか、むしろ拡大している(図表2)。欧米日から経済制裁を科されたロシアが、カザフスタンを通じて第三国と貿易を試みていることが、両国間の貿易の活発化につながっているようだ。
かつてであれば、ロシアはカザフスタンを属国扱いしていただろう。しかしロシアが欧米日から強力な制裁を科されたことで、ロシアにとってのカザフスタンの戦略的な重要性は一気に高まったと言える。そこに、トカエフ大統領の巧妙な外交が重なり、カザフスタンはヨーロッパのみならず、ロシアからも一定の利益誘導に成功している。
   【図表2 カザフスタンの対ロ貿易収支】
いわば、カザフスタンはヨーロッパとロシアの実質的な「緩衝地帯」になると同時に、双方の衝突から、いわゆる「漁夫の利」を得ている。カザフスタンが引き続きヨーロッパとロシアの双方から漁夫の利を得ることができるかは、カザフスタンの政情が安定し、中立的な外交に努めることができるかどうかにかかっている。
漁夫の利を得たトカエフ大統領は、2022年11月の大統領選で再選し、2029年までの7年間大統領を務める。任期満了の際には76歳と相応の高齢となるが、そのとき、トカエフ大統領が優れた後継指導者に政権を禅譲できるかどうか。それこそが、カザフスタンが引き続き漁夫の利を得ることができるかどうかの、一番のポイントとなる。 
●「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ大統領...「扱い」の違い 12/8
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が12月6日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。現在、ウクライナ侵攻をめぐって西側諸国と対立するロシアだが、中東では仰々しいほどの大歓迎を受けた。11月にUAEの隣国カタールを訪問した際、ドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領が受けた対応とのあまりの違いが注目を集めている。
ロシアがウクライナに本格侵攻を開始して以降、アメリカをはじめウクライナを支援する国々は、ロシアを国際的な金融システムから孤立させようとさまざまな制裁を科してきた。国際刑事裁判所(ICC)も、ウクライナの子どもたちを拉致したとしてプーチンに逮捕状を出した。
だが今回のUAE訪問では、プーチンがのけ者にされている兆候はみられなかった。プーチン到着を受けて上空ではジェット戦闘機がロシア国旗の色の煙を放出しながら飛び、プーチンの車列がアブダビ市街を走行した際には騎兵隊がエスコートし、道路脇にはロシア国旗が掲げられる......といった具合だ。なおUAEは、国際刑事裁判所に加盟していない。
駐南アフリカ・ロシア大統領特使のX(旧ツイッター)には、プーチンが歓待される様子を示す動画と共に「これが国際的に『孤立している』ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がUAEで受けた待遇だ」と皮肉を込めた文章が投稿された。
ドイツの大統領はタラップの上で待ちぼうけ
あるソーシャルメディアユーザーは、プーチンのこの動画とドイツのシュタインマイヤーの動画を比較した。シュタインマイヤーが11月にカタールを訪問した際、空港にカタールの政府関係者が到着するまでドイツ政府特別機のタラップの上にぽつんと立って待っている様子を捉えた動画だ。ドイツ大統領はこのまま30分近く待たされたという。
このユーザーはXに「シュタインマイヤーはカタールで政府関係者に忘れられていた。これが、ロシアとドイツの大統領がアラブ諸国で受ける待遇の差だ」と投稿した。
シュタインマイヤーに同行取材したドイツの国際公共放送「ドイチェ・ウェレ」のジャーナリストであるロザリア・ロマニエクは、この外交的な不手際について、計画立案のミスだったのか、それともイスラエルで3日間を過ごしてきたシュタインマイヤーを冷遇したのか分からなかったと述べた。
UAEの対応にSNSでは怒りの声が噴出
ロシア政府によればプーチンはUAEを「実務訪問」し、ムハンマド・ビン・ザイド・ナハヤン大統領と会談。中東の状況に加えて、「多角的な二国間協力の現状」についても議論した。
機密情報やサイバーセキュリティを専門に扱うコンサルティング会社S-RMのサイフ・イスラムは、プーチンがUAEを訪問したもう一つの目的は「UAEとサウジアラビアとの関係を利用して、ウクライナ侵攻をめぐる西側諸国の制裁に対処すること」だったと本誌へのメールで指摘し、イスラエルとハマスの戦争も議題に入っていたとつけ加えた。
ソーシャルメディアユーザーからは、この訪問に怒りの声が上がっている。
プーチンに批判的なことで知られる政治活動家のビル・ブラウダーは、「UAEは戦争犯罪で起訴されているウラジーミル・プーチンを盛大に歓迎した。『みっともない』の一言に尽きる」と投稿した。
●ウクライナ支援の阻止継続を ロシア大統領府、米議員に期待 12/8
米議会でウクライナ軍事支援予算の承認が滞る中、ロシア大統領府は7日、米議員らが予算成立を阻止し続けることを期待すると述べた。
米上院共和党は、求めていた移民制度改革が予算案に盛り込まれないことに難色を示し、ウクライナとイスラエルに対する総額1060億ドル(約15兆3900億円)の支援予算を阻止した。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は会見で、「米議員の中に冷静な人物が十分残っていることが期待される」と述べた。
さらに、米ホワイトハウスが米上院議員を「懐柔」し、「米国民から集めた税金を、ウクライナ戦争という炉」で焼き尽くそうとしていると非難した。
クレムリンは、米国がウクライナへの軍事支援をやめることが、和平交渉の前提条件だと主張している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、西側諸国の支援がなければウクライナ軍は1週間で崩壊するとの見方を示している。
ジョー・バイデン米大統領はウクライナ支援で世界を主導しているが、議会では共和党議員の間でウクライナ支持が弱まっている。バイデン政権は、議会が予算を承認しなければ、ウクライナ軍事支援予算が数週間以内に枯渇すると警告している。
●ロシア、自粛ムードなき年末 クリマス飾り「日常」演出 12/8
ウクライナ侵攻を続けるロシアでも、12月に入ってクリスマス気分が高まってきた。昨年は自粛ムードが強かったが、欧米の制裁に経済が持ちこたえたこともあり、今年は都市部の街頭でクリスマスの飾り付けが例年通りに進む。来年3月の選挙で続投を目指すプーチン大統領が一般市民に「普通の日常生活」を実感させたがっていることも背景にありそうだ。
モスクワ中心部では先月末、多くの広場や地下鉄駅前などに銀行や大企業の手で巨大なクリスマスツリーが設置された。
ロシア正教の暦ではクリスマスは1月7日だが、クリスマス商戦は欧米と同様に12月25日前後や、家族が食卓を囲んで新年を迎える元日がターゲットだ。
●「ウクライナ敗戦論」が囁かれ出した 12/8
戦況を含め、キーウから流れてくるウクライナ情報はここにきて余り芳しくはない。東部・南部での戦況でウクライナ軍の攻勢が停滞する一方、ゼレンスキー大統領の政治スタイルを「専制主義的」といった批判の声が国内の野党(例・キーウ市のビタリ・クリチコ市長)から飛び出し、ウクライナの政治エリート層の腐敗問題が欧米メディアで頻繁に報じられてきた。
それだけではない。ウクライナが対ロシア戦で敗戦する危険性が出てきた、といったシナリオまで飛び出してきたのだ。ロシア軍は世界の軍事大国だ。「ウクライナ軍はこれまで善戦してきたが、ここにきて息切れしてきた」、「ロシア軍の抵抗に遭ってウクライナ軍の反攻は失敗した」といった類の軍事専門家の評価まで聞かれ出したのだ。「ウクライナの敗戦」予想は今年上半期では聞かれなかったシナリオだ。ロシア側の情報工作の成果だろうか。
「ウクライナ敗戦シナリオ」が飛び出した直接の原因は、ウクライナ軍の守勢というより、同国への最大支援国・米国の連邦議会の混乱を反映したものだろう。米国がウクライナへの支援を停止した場合、といった前提に基づく予測だ。総額1105億ドルの米国の「国家安全保障補正予算」のうち約614億ドルがウクライナへの援助に充てられ、140億ドル相当がイスラエルへの援助に充てられていることになっているが、米共和党議員の中ではウクライナ支援の削減を要求する声が高まっているからだ。
米共和党議員の中には、ウクライナ支援と難民政策をリンクさせ、「バイデン米政権がこれまで以上に強硬な難民政策を実施するならば……」といった条件を持ち出す者もいるのだ。共和党は現難民法を大幅に強化し、入国許可する移民数を減少させたい。
共和党穏健派のミット・ロムニー議員は、「われわれはウクライナとイスラエルを支援したいが、そのためには民主党は国境開放を阻止する必要がある」と述べ、共和党が補正予算を承認するかどうかは国境の安全問題の解決にかかっているというわけだ。
民主党支持者の大多数はウクライナ支持に賛成している一方、共和党支持者の中で賛成しているのは少数だ。特にドナルド・トランプ前大統領の支持者らは支援を拒否している。来年11月の大統領選を控え、民主党・共和党両党とも選挙戦モードだ。
ゼレンスキー大統領の首席補佐官アンドリー・イェルマック氏はワシントンでのイベントで、「米議会が支援をすぐに承認しなければ、ウクライナが戦争に負ける可能性が高い」と警鐘を鳴らしているほどた。また、ホワイトハウスは「ウクライナへの資金は年末までに枯渇する」と議会に警告している。バイデン米大統領は、「ウクライナ支援の削除は間違っている。米国の国益にも反する」と強調し、ウクライナ支援の履行を約束している。
ウクライナ支援問題では、米国だけではなく、欧州諸国も揺れ出している。欧州連合(EU)27カ国で対ウクライナ支援で違いが出てきている。スロバキア、ハンガリーはウクライナへの武器支援を拒否し、オランダでも極右政党「自由党」が11月22日に実施された選挙で第一党となったばかり。もはや前政権と同様の支援は期待できない。欧州の盟主ドイツは国民経済がリセッション(景気後退)に陥り、財政危機に直面している。対ウクライナ支援でも変更を余儀なくされるかもしれない。
欧州議会の中道右派「欧州人民党グループ」のマンフレッド・ウェーバー代表は、「ウクライナがこの戦争に負ければ平和はない。プーチン大統領は我々を攻撃し続けるだろう。プーチン大統領が移民を政治的武器として利用しているため、フィンランドは対ロシア国境を閉鎖している。バルト三国ではロシアからのサイバー攻撃が毎日見られ、スロバキアではロシアからのフェイクニュースが溢れている」と指摘、各国政府首脳に対し、「来週のEU首脳会議ではウクライナ支援の明確なシグナルを送る必要がある」と述べた。
一方、プーチン大統領は11月27日、議会が既に承諾した2024年予算案に署名したばかりだ。同予算では国防費は前年度比で70%増額されている。GDP(国内総生産)に占める国防費の割合は6%。ウクライナ戦争の長期化に備えた準備と受け取られている。
プーチン大統領は来年3月17日実施予定の大統領選での5選を目指して独走態勢を敷く一方、6日にはアラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビア両国を訪問するなど、積極的な外交を見せている。国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が3月17日、プーチン大統領に戦争犯罪容疑で逮捕状を発布した時、プーチン氏には追い込まれたような困惑と危機感が見られたが、ここにきて余裕すら見せてきているのだ。
以上、2023年の終わりを控え、ウクライナにとって2024年の予測は楽観的ではない。厳密にいえば、かなり悲観的だ。プーチン大統領と停戦・和平交渉に応じるか、それともクリミア半島を含む全被占領地をロシア軍から奪い返すまで戦争を継続するか、ゼレンスキー大統領は厳しい選択を強いられてきている。
●ウクライナ支援総額、前年比87%減 12/8
ドイツのキール世界経済研究所は7日、各国が今年8月から10月に表明したウクライナ支援の総額が前年同期比で87%減少したと発表した。昨年1月以来、最低額となった。支援に消極的な各国の姿勢が確認されたとして「支援表明の遅れは、ロシアのプーチン大統領の立場を強めることになる」と指摘した。
●ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 12/8
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)は数日間にわたり、6基の原子炉冷却とその他の安全機能に必要な外部電源を単一の送電線に依存しており、軍事紛争中に送電網の混乱が生じた場合、非常に脆弱な状態となっていることを明らかにした。
このサイトの脆弱な電力供給は、依然として欧州最大の原子力発電所であるZNPPにおける原子力安全とセキュリティに関する懸念の中心となっている。このことは、先週土曜日にZNPPの外で発生した外部送電網の不具合により、残っていた送電線の両方が切断され、8回目の外部電源喪失が発生したことにより浮き彫りになった。その結果、ZNPPは一時的に、非常用ディーゼル発電機に電力を依存せざるを得なかった。
約5時間後に750kVの主送電線への接続が回復したが、最後の330kVの予備送電線はまだ切断されたままである。ZNPPに駐在するIAEA専門家は、修理は来週初めまでに完了する予定であるとの報告を受けた。紛争前、ZNPPには750kVの送電線4系統と予備送電線が数系統、利用可能であった。
IAEAチームはまた、4号機は先週の外部電源喪失で主冷却ポンプの稼働が一時的に停止したが、再び温態停止状態に入っており、サイトとZNPPスタッフの殆どが住んでいる近隣の町エネルホダルに暖房と蒸気を生産していると報告した。他の5基の原子炉は、冷温停止状態のままである。
「IAEAは、この壊滅的な戦争中の原子力事故を防ぐためにできる限りのことを行うことに引き続き全力を注いでいる。ZNPPでは、時には発電所から遠く離れた場所にある事象によって引き起こされる相次ぐ外部電源喪失が、この状況において、特に冬季において依然として主要な課題の1つとなっている。原子力事故により誰も何も得るものはなく、事故は避けなければならない」とグロッシー事務局長は語った。
さらに同事務局長は、ZNPPはこれまで外部送電線1系統に依存していたが、それは明らかに持続可能な状況ではないと述べた。
2日前、新たなIAEA専門家チームが、過去数週間にわたってZNPPで原子力安全とセキュリティを監視していた同僚らと交替するため最前線を渡った。これは、2022年9月に事務局長がZNPPへのIAEA支援・援助ミッションを設立以来、現地に駐在する14番目のIAEAチームとなる。
IAEAの新たな専門家チームは、ZNPPの人員配置状況や外部電源の状況、そして先月5号機の蒸気発生器の二次系でホウ素が検知されたことを受け、プラントが今後実施する対応を含む、現場での保守活動に引き続き細心の注意を払っていく。ホウ酸塩水は、原子力安全機能を維持するために、一次冷却材に使用されている。
紛争がZNPPに物理的に差し迫っていることを常に思い起こさせる中、IAEAの専門家らは、おそらく重火器やロケット弾によるものと思われる遠くの爆発音を継続して耳にしている。本日、新たなチームは現場近くで9回の爆発音を耳にしたと報告した。
また本日、IAEAチームは原子炉全6基のタービン建屋の視察を実施した。専門家らは、訪問したエリアでは、地雷、爆発物、軍事装備品、車両などは一切確認しなかった。タービン建屋のすべての部分にアクセスできたわけではないため、原子力安全に影響を与える可能性のある物品が存在するかどうかを完全に評価するには、追加のアクセスが必要となる。
ウクライナの他の場所では、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの原子力発電所やチョルノービリの現場に駐在しているIAEA専門家らは、一部の施設では頻繁に空襲警報が鳴るなどの困難な戦時状況にもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告している。
IAEAは、要望の高い機器の提供やその他の技術支援を通じて、ウクライナにおける原子力安全とセキュリティを引き続き支援している。先週、南ウクライナ原子力発電所は、サイトの非常用ディーゼル発電機用のスペアパーツとゴム製品の3回目(最後)の納入を受け、外部電源が喪失した場合でも、稼働態勢が確保できるようにした。この支援の提供は、今年5月に締結されたIAEA、フランス、ウクライナの原子力事業者エネルゴアトムの間の三者協定に基づいて実施された。

 

●「世界の地殻変動を主導」ロシア高官が自賛 プーチン氏出馬で 12/9
ロシアのペスコフ大統領報道官は8日、来年3月の次期大統領選にプーチン大統領が立候補を表明したことを受け「プーチン氏が率いるロシアは世界情勢の地殻変動を主導している」と述べ、ウクライナ侵攻による欧米との対立激化にもかかわらずロシアは孤立せず発展を続けると自賛した。タス通信が伝えた。
ペスコフ氏は記者団に、ロシアと非欧米諸国との関係強化を念頭に「世界の政治や経済、その他の分野で本質的変化が始まった」と指摘。「この動きは不可逆的なものだ」として制裁への対抗に自信を示した。
プーチン氏の出馬表明については、マトビエンコ上院議長が「国の歴史的選択の時、国民の要請に応えた」と支持。ウォロジン下院議長も「ロシアを守り、強く発展させたいという願望の表れだ」と評価した。
プーチン氏は8日、昨年9月に併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州などの住民や戦死した軍人の遺族らと会って出馬を表明した。
●原油65ドル割れも?プーチン中東訪問も効果薄、反転材料は地政学リスク 12/9
・原油価格の下落傾向が強まっている。サウジアラビアなどOPECプラスの一部が自主減産を打ち出したが、実効性に懸念が広がっている。
・ロシアのプーチン大統領が急きょ、中東を訪問して懸念の払拭に向けたアピールをしたが、市場関係者は冷ややかだ。
・もはや、フーシ派によるサウジアラビアの石油関連施設への攻撃といった地政学リスクを急上昇させる事態が生じない限り、原油価格は上昇に転じることはないかもしれない。
12月7日の米WTI原油先物価格は前日比0.04ドル安の1バレル=69.34ドルで取引を終えた。6日連続で下落し、終値としては6月下旬以来、5カ月半ぶりの安値となった。
下落傾向が強まっているのは、11月30日に発表されたOPECプラス(石油輸出国機構=OPECとロシアなどの大産油国で構成)の閣僚級会合の決定に市場が失望したからだ。
2024年1月から日量220万バレルの自主減産を行うとしているが、実効性に疑問の声が上がっている。OPEC全体で取り組む協調減産と異なり、自主減産では目標が遵守されているかどうかを定期的にチェックする仕組みがないことがその理由だ。
これに対し、2024年から新たに自主減産を実施することを表明した国々からは減産実施を強調する発言が相次いでいる。クウェートとイラクの石油相は「来年1月からの自主減産を必ず実施する」と明言し、アルジェリアのエネルギー相は「自主減産の来年第1四半期以降の延長も排除しない」との決意を見せた。
OPECプラスの両雄であるサウジアラビアとロシアも、減産の実効性に対する懸念の払拭に躍起だ。
サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相は「OPECプラスの減産は、必要ならば来年第1四半期以降も絶対に継続できる」と強調した。ロシアのノバク副首相は「OPECプラスは来年第1四半期に減産を強化する用意がある」との認識を示した。
ロシアはさらにプーチン大統領自らOPECの主要メンバーであるアラブ首長国連邦=UAE(12月6日)とサウジアラビア(同7日)を訪問した。
この外遊は前述のOPECプラスの会合後、急きょ決定されたと言われている。プーチン大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子とともに「OPECプラスのメンバーは定められた生産目標を遵守する」よう求める声明を発出した。
自主減産の効果に市場は反応せず
OPECの11月の原油生産量は前月比9万バレル減の日量2781万バレルと4カ月ぶりの減少となった。OPECの中で協調減産を実施している10カ国の取り組みがようやく効果を発揮し始めており、来年からさらに減産することが決まっている。
だが、一連の動きに市場が反応することはなかった。OPECプラスの取り組みを相殺するかのように需要サイドの懸念が広まっているからだ。
米国ではこのところガソリン在庫が増加している。物価高と金利高で消費者が節約志向を強め、ガソリン需要が落ち込んでおり、足元のガソリン価格は1月以来の安値となっている。
米連邦準備理事会(FRB)は「10月以降、米国経済は減速している」との見方を示しており、冬場の原油需要は低迷すると見る向きが多い。
国際エネルギー機関(IEA)は11月の月報で「欧州の原油需要量は著しい減速の最中にある」と指摘している。
中国でも不動産不況の影響が原油需要に反映されるようになっている。中国の11月の原油輸入量は前年比9.2%減の日量1033万バレルとなった。前年に比べて減少したのは4月以来だ。高水準の在庫や弱い経済指標などを受けて原油需要の減退が顕在化しつつある。
市場では「原油価格はさらに1バレル=65ドルを下回る」との見方が出ている。OPECプラスにはこれを止める手段がほとんど残されていないのが実情だ。
サウジアラビアの第3四半期の国内総生産(GDP)は前年比4.4%減少した。石油部門が17%減少したことが足を引っ張っており、これ以上の追加減産は不可能だろう。
フーシ派を恐れるサウジアラビア
このような状況にかんがみ、筆者は「地政学リスク以外に『上げ』要因はなくなってしまったのではないか」と考えている。
現在に至るまで、中東地域からの原油供給に支障が生ずる事態にはなっていないが、潜在的な脅威として浮上しているのはイエメンの親イラン武装組織フーシ派だ。フーシ派は紅海の民間船舶などにミサイルやドローン攻撃を実施しており、同航路を運航する際の戦争リスク保険料が上昇している。
フーシ派の戦力は不明だが、中東に展開する米軍の脅威になりうるだけの対鑑ミサイルを保持しているとの見方もある。
米国防総省は12月5日、紅海で商船防衛を実施するため、「連合海上部隊(CMF)」を活用することを明らかにした。CMFは中東地域を中心に活動する多国間の海洋安保の枠組みであり、日本を含め30カ国以上が参加している。
米国では「フーシ派に攻撃を仕掛けるべきだ」との声も上がっているが、「自国が新たに攻撃対象になってしまう」ことを恐れるサウジアラビアがこれに「待った」をかける展開となっている。サウジアラビアは2019年9月にフーシ派のドローン攻撃を被り、同国の生産能力の5割に相当する日量570万バレルの石油施設が損傷するという「苦い経験」がある。米軍とフーシ派が衝突すれば、その悪夢が再現されてしまうというわけだ。
中東地域と地政学リスクは切っても切れない関係にある。原油価格の下落傾向が強まる中でも、地政学リスクはくすぶり続けている。
● ロシア プーチン大統領 来年3月の大統領選挙に立候補を表明 12/9
ロシアのプーチン大統領は、来年3月に行われる大統領選挙に立候補する意向を表明しました。選挙を通じて国民に結束を訴えながら政権基盤を一層、固め、ウクライナへの軍事侵攻を続けていく構えとみられます。
プーチン大統領 立候補表明「今が決断のとき」
ロシアのプーチン大統領は8日、首都モスクワのクレムリンで開かれた、ウクライナへの軍事侵攻に参加する兵士などをたたえる式典に出席しました。
式典のあと、参加した兵士などがプーチン大統領のもとに駆け寄り「あなたが私たちの大統領だ。ロシアはあなたを必要としている」などと訴えかけました。
これに対してプーチン大統領は「今が決断のときだ」と応じ、来年3月17日に行われる大統領選挙に立候補する意向を表明しました。
2000年に初めて当選したプーチン大統領にとっては、通算5回目の立候補となり、当選すれば新たな任期は2030年までとなります。
大統領選挙をめぐってプーチン政権は、ウクライナの南部クリミアのほか去年、一方的に併合を宣言した東部と南部の4つの州でも強行するとしています。
国営テレビで放送された今回の立候補表明は、兵士から直接、請われたとする形が強調されていて、戦時下のロシアでプーチン大統領の存在は欠かせないと強調するねらいとみられます。
有力な対立候補はおらず、プーチン氏の当選は確実視されています。
プーチン大統領としては、国の存亡をかけた戦争が続いているとして国民に結束を訴えながら政権基盤を一層固め、軍事侵攻を続けていく構えとみられます。
立候補は既定路線 表明時期が焦点
ウクライナへの軍事侵攻が続く中、ロシア国内では、プーチン氏の立候補は既定路線だという見方が大勢でいつ表明するのかが焦点となっていました。
ことし9月、国際会議の場で司会者から意向を固めたのか質問されたプーチン大統領は「法律に従えば、ロシアの議会は年末に選挙について決定を下すことになっている。選挙の日程が指定されたら今後、話し合う」と述べるにとどめ、態度を明らかにしませんでした。
その一方で、先月上旬から首都モスクワでは、ロシアの発展を誇示する大規模な博覧会が開かれ、メディアは、大統領の業績をアピールする事実上の選挙活動が始まったと伝えていました。
また、プーチン大統領は、先月28日にはロシア正教会などがモスクワで開いた保守派の大規模集会にオンラインで参加し、欧米との対決姿勢を打ち出して国民に結束を訴えるなど、大統領選挙を意識したとみられる発言が相次いでいました。
そして、ロシアの議会上院が7日、来年の大統領選挙の日程について、3月17日に実施することを決定し、プーチン大統領は、近く立候補を表明するという見方が専門家などの間で強まっていました。
ペスコフ報道官「多くの人が立候補求め支持している」
ロシア大統領府のペスコフ報道官は8日、プーチン大統領が大統領選挙に立候補する意向を表明する直前、記者団に対し、今月14日に開催予定の大統領が国民からの質問に直接答えるイベントに向けて「多くの人たちがプーチン大統領に立候補するよう求め、全面的な支持を表明している」と述べていました。
反体制派の指導者“プーチン大統領以外の候補者に投票を”
ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、刑務所に収監されている反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏は大統領選挙の日程が正式に決まった7日、みずからを支援する団体を通じてプーチン大統領以外の候補者に投票するよう呼びかけました。
ナワリヌイ氏を支援する団体は「プーチンのいないロシア」というタイトルのウェブサイトを立ち上げていて、この中では、プーチン氏に投票しないよう少なくとも10人を説得することなど各自が行動を起こすよう求めています。
ロシアの独立系メディアによりますと、首都モスクワや第2の都市サンクトペテルブルクでこのウェブサイトを読み取るためのQRコードが付いた看板などが設置されたものの当局がすでに撤去したということです。
ナワリヌイ氏は、毒殺未遂事件のあと、おととし療養先のドイツから帰国した際に過去の経済事件を理由に逮捕され、実刑判決を受けて刑務所に収監されています。
モスクワ市民からは賛否の声
プーチン大統領が大統領選挙に立候補する意向を表明したことについて首都モスクワの市民からはさまざまな声が聞かれました。
このうち、学生だという女性は「選挙はとても興味深いものになるだろう。プーチン大統領に投票するつもりで、彼が当選することを願っている」と話していました。
また、別の男性は「プーチン氏が大統領を続けることを望んでいる。彼はとても強い人であり、あらゆる方面からの圧力にも耐えられるからだ。ロシアが防衛され、最終的には平和がもたらされることを期待している」と話していました。
一方、別の女性は「プーチン大統領に反対していて彼には投票しない。戦争や特別軍事作戦は悪いことであり、ロシアの人々は、平和に暮らし、発展し、幸せな生活を送ることを望んでいる。そうなるように今回の選挙が影響を与えることを願っている」と話していました。
また、ウクライナ東部のドンバス地域の出身だという女性は「ウクライナとの戦争が終わることを期待している。プーチン大統領は長く政権にいすぎると思う」と述べる一方で「他の誰かに投票しても何も変わらないだろう。必ずプーチン大統領が残り続けるのだろう」と悲観的な様子で話していました。
キーウ市民“戦闘の長期化懸念”“戦い続けるべき”
また、ウクライナの首都キーウでは、戦闘の長期化への懸念が聞かれる一方、勝利するまで戦い続けるべきだという声が聞かれました。
このうち、キーウ市内に住む女性は「プーチン氏が再選されたらと思うと、とても不安です。早く終わると言われていた戦争が長期化していて、子どもたちの将来が心配です」と話していました。
一方、37歳の運転手の男性は「独裁的なので、反対する人は何もできずに選挙は行われ、プーチン氏は再選されるのだろう。私たちは勝利のために友好国から武器などの支援が必要です」と話していました。
また、教師の女性は「プーチン氏が再び大統領になろうがなるまいが、私たちは戦って勝たなければならない。ウクライナ人にとっては、勝利こそが重要です」と話していました。
●パリ五輪 ロシアとベラルーシの選手は個人資格で参加容認 IOC発表 12/9
2024年のパリオリンピックについて、ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアと同盟国のベラルーシの選手が、個人資格で中立の立場であることを条件に出場できることになった。
IOC(国際オリンピック委員会)は、ロシアとベラルーシ国籍の選手について、個人資格で中立の立場という条件で、2024年のパリオリンピックに出場することを認めると発表した。
ロシアやベラルーシを代表するチームは参加できないほか、戦争を積極的に支持したり支援する選手や、軍や治安当局に属する選手は参加が認められない。
パリ大会は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を行ってから初めて開催されるオリンピックで、これまでにロシア人選手8人、ベラルーシ選手3人が予選で出場資格を得ているという。
●ウクライナ、IOC決定を非難 ロシア勢容認「無責任」と声明 12/9
ウクライナのビドニー青年スポーツ相代行は8日、国際オリンピック委員会(IOC)がロシアとベラルーシの選手について「中立」選手としてパリ五輪参加を容認すると決めたことに関し「無責任な決定を強く非難する」と述べた。フェイスブックで声明を発表した。
ウクライナのパリ五輪参加については、ウクライナのスポーツ界や政治指導者と協議した上で決定すると述べた。「ロシアの選手は占領者と同じパスポートを持っている。ウクライナ人の死に対し、責任の一部を負っている」と主張した。
●「ロシアの組織的犯罪」 子ども連れ去りで大統領 12/9
ウクライナの首都キーウ(キエフ)で8日、ロシアによる子どもの連れ去りへの対応を協議する国際会合が開かれた。ゼレンスキー大統領はウクライナからの子ども連れ去りについて「ロシアの犯罪であり、組織的な行為だ」と非難し、早期の帰還を求めた。大統領府が発表した。
ゼレンスキー氏は「全ての子どもを戻すために、できるだけ早期の精力的な努力が必要だ」と強調し、国際社会に協力を訴えた。
ポルトガルのレベロデソウザ大統領はビデオ声明で「罪を犯した者に責任を取らせることが重要だ」と指摘した。リトアニア、スロバキアの大統領もメッセージを寄せた。 
●プーチン氏、戦時色濃い出馬表明 「軍人の要請」受け宣言 5選目指す 12/9
ロシアのプーチン大統領が8日、来年3月の大統領選に通算5選を目指し出馬すると宣言した。
2020年の憲法改正で多選制限が空文化し、立候補は既定路線。「いつ、どのように」表明するかが焦点だったが、機会として選んだのはウクライナ侵攻に参加する軍人らへの勲章授与式で、戦時色の濃いものとなった。
「(ウクライナの占領地の)住民を代表し、立候補をお願いしたい」。式典後、親ロシア派幹部らがプーチン氏を囲んで口々に要請。プーチン氏はこれを受ける形で出馬を表明した。
ペスコフ大統領報道官は「シナリオ」があったことを否定するが、プーチン氏としては「独裁」の長期化ではなく「民意」に基づく続投だとアピールしたい。現在4期目の任期中も、出馬の意向を問われるたび「国民次第」とはぐらかしており、有権者の要請を受諾する形になるとの見方が強かった。
6年前の4選出馬表明は、中部ニジニーノブゴロドの自動車工場を視察時に行い、経済重視の姿勢を示した。今回は勲章授与式で、立候補を求めたのは軍人ら。公約して取り組む最優先課題が、ウクライナ侵攻の「勝利」だと明示した格好となった。
「その時々で、さまざまな思いを抱いていた」。プーチン氏はこう繰り返し、出馬に迷いがあったと主張。20年の改憲の際、4期目満了後の「院政」か「再出馬」かを巡って議論があったことを想起させた。その一方で、この発言には「続投ありき」ではなく、戦勝のためにやむを得ない決断だったと演出する狙いも垣間見える。
プーチン氏は1、2期目を終えた08年、憲法が「連続2期を超えてはならない」と規定していることから首相に転身。「一回休み」を経て、12年から大統領として3、4期目を務めた。改憲で過去の任期がリセットされると見なされ、5選出馬に道が開かれた。
●占領地のロシア大統領選「無効」 ウクライナが声明で非難 12/9
ウクライナ外務省は9日、ロシアが来年3月の大統領選で、ウクライナの東部・南部4州とクリミア半島で投票を行うとしていることについて「ウクライナの憲法と国際法の原則に著しく反し、無効だ」とする声明を発表した。
声明は国際社会に対して、占領地での選挙実施を厳しく非難し、関係者に制裁を科すよう求めた。さらに「偽りの選挙」に監視員を送らないよう要請。「ロシアの選挙は民主主義とは何の関係もない。体制維持の道具でしかない」と批判した。
●プーチン大統領 Su-35護衛で中東諸国を訪問、UAE「アル・フルサン」が歓迎 12/9
ロシア国防省は、2023年12月6日から行われたプーチン大統領の外遊で、政府専用機をロシア航空宇宙軍のミサイルを搭載した戦闘機が護衛して飛行したことを明らかにしました。同省によると、プーチン大統領の搭乗機イリューシンIl-96-300型機をスホーイSu-35戦闘機4機が、飛行経路全体にわたって「護衛」。飛行中の安全を確保したとしています。
プーチン大統領の国外訪問は、国際刑事裁判所から逮捕状が出て以来、旧ソ連諸国や中国を除いて初めて。最初に訪問したアブダビ市内では、アラブ首長国連邦空軍のアクロバット飛行チーム「アル・フルサン」が、7機のアエルマッキMB-339型機によるフライパスを披露しました。プーチン大統領の車列通過時には、ロシア国旗と同じ3色のスモークを出して歓迎しています。
●イタリア、「一帯一路」構想から離脱へ 欧州は対中関係再考 12/9
中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」 に主要7カ国(G7)のメンバーで唯一参加していたイタリアは、来年3月の契約満了時に構想から離脱する見通しとなった。中国政府と同国が抱く世界的な野心に対して、欧州が態度を硬化させている最新の兆候となる。
メロー二伊首相は7日、広く予想されていた「一帯一路」離脱の方針について確認した。2019年に前政権が中国と交わした当該の契約を巡っては、イタリア経済に恩恵がほとんどもたらされていないとの不満が噴出。メロー二氏は首相就任に挑んだ昨年の選挙で、構想からの離脱を公約に掲げていた。
ただ同氏は、離脱後も中国政府と良好な関係を維持できると強調する。「一帯一路」については中国の世界的な影響力が拡大する一方、一部の国々に管理不能な負債を背負わせているとの懸念が浮上している。
イタリアが加盟する欧州連合(EU)は、中国のサプライチェーン(供給網)からのリスクを低減する取り組みに着手。同国を「体系的ライバル」と位置づけた19年以降は、機微なテクノロジーの安全確保に向けた活動にも乗り出している。
こうした双方の不和は、7日に北京で開かれたEU首脳と中国の習近平(シーチンピン)国家主席の会談で露呈した。両者は貿易やロシアによるウクライナでの戦争といった問題で主張が食い違い、具体的な議論の進展はほとんど見られなかった。
中国外務省の報道官は、同日の定例会見でイタリアの「一帯一路」離脱について問われ、「一帯一路の連携には非常に大きな魅力と世界的な影響力が伴う」と指摘。「中国は一帯一路の連携を中傷、妨害する試みには断固として反対する。地域間の対立や分断をかき立てる行為についても同様だ」と強調した。この中でイタリアを直接名指しすることはなかった。
●ロシア軍、東部で波状攻撃 コークス工場の制圧狙い 12/9
ウクライナ東部ドネツク州アブデーフカに展開する同国軍部隊の当局者が8日、ロシア軍がアブデーフカのコークス工場の制圧を狙って歩兵やドローン(無人機)による波状攻撃を仕掛けていると述べた。ウクライナメディア「ウクラインスカ・プラウダ」が報じた。
ロシア軍は10〜15人の歩兵グループを連続して投入。多数のドローンや、精密誘導弾も使用しているという。当局者は「現時点では彼ら(ロシア軍)が優勢になりつつある」と述べた。
ウクライナ空軍は8日、ロシア軍が戦略爆撃機から巡航ミサイル19発を発射し、14発をキーウ(キエフ)州と東部ドニエプロペトロフスク州で撃墜したと発表した。キーウの当局者は戦略爆撃機から巡航ミサイル攻撃が行われたのは79日ぶりだと述べた。
一方、キーウでは8日、ロシアによる子どもの連れ去りへの対応を協議する国際会合が開かれた。ゼレンスキー大統領は子ども連れ去りについて「ロシアの犯罪であり、組織的な行為だ」と非難し、早期の帰還を求めた。大統領府が発表した。
●戦争中に強制移住させられた387人が帰還...ロシア軍徴集の危険から脱却 12/9
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の期間中に強制移住させられたウクライナの児童・青少年の一部が故国に戻った。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の夫人であるオレーナ・ゼレンシカ氏は9日(現地時間)、自身のテレグラムチャンネルで「ロシアに拉致された子ども2万人のうち387人が帰国に成功した」と明らかにした。また、この日にウクライナ児童権利保護センターで開かれた児童帰還行事に参加して、解放された子どもたちと会って激励した。
ウクライナに帰還した387人のうち、一部は誕生日が過ぎてロシア軍に徴集される状況に置かれていたことが伝えられた。17歳のとき、自分が滞在していた保育園の子どもたちとロシアに連れて行かれたボフダン・イェルモキンさん(18)は、ロシアで寄宿学校に通っていたところ、年齢が1歳増えた。彼女はロシア当局から軍徴集通知書を受け取り、戦線に投入される可能性があったが、周辺の助けによって抜け出して家に戻った。
救出の過程でウクライナはロシアと直接接触しておらず、第3国の関係者らの国際的な協力があったことが分かった。
オレーナ・ゼレンシカ夫人は、「1か月前にカナダが提案し、まもなく実行される子どもの救出作戦に大きな希望をかけている」とし「すべての子どもたちが戻れるようにしなければならない」と述べた。

 

●“ウクライナの領土でロシアの選挙 国際法に違反”と強く非難 12/10
ロシアが、来年3月の大統領選挙を軍事侵攻によって一方的に併合を宣言したウクライナの地域でも行うとしていることについて、ウクライナ外務省は国際法に違反すると強く非難しました。こうした中、ロシアの世論調査機関は、国内でウクライナとの和平交渉の開始を求める人が57%と、去年10月とならんでこれまでで最も高くなったと発表しました。
ロシアのプーチン大統領は、8日、来年3月に行われる大統領選挙に立候補する意向を表明しました。
プーチン政権は、ウクライナの南部クリミアのほか去年、一方的に併合を宣言した東部と南部の4つの州でも、選挙を行うとしています。
これについてウクライナ外務省は9日、声明を発表し「ウクライナの領土でロシアの選挙を行うことは、国際法に著しく違反する」と述べ、選挙は無効だと強く非難しました。
そのうえで国際社会に対し「選挙を実施しようとするロシアの意図を断固として非難し、それに関与した者に制裁を科すよう求める」と呼びかけました。
こうした中、ロシアの独立系の世論調査機関「レバダセンター」は8日、ウクライナへの軍事侵攻をめぐるロシア国内での最新の調査結果を発表しました。
それによりますと「軍事行動を続けるべきか、和平交渉を開始すべきか」という質問に対して、「和平交渉の開始」と答えた人は57%でした。
これは予備役の動員に踏み切った後に行われた去年10月の調査とならんでこれまでで最も高くなっています。
一方「軍事行動の継続」と答えた人は36%でした。
「レバダセンター」は、プーチン政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています。
●「米国は助けに来ないかも」 欧州は独力でロシアと戦えるのか 12/10
ロシアはウクライナでの戦争の長期化を見据えて軍や経済を動員しつつある。もしウクライナを敗北させた場合、ロシアはそこで止まらないかもしれない。つまり、さらに西進して、バルト諸国やポーランドなど、北大西洋条約機構(NATO)の最前線の国に侵攻するおそれがある。
しかし、そうした大変動が起こっても、NATOの盟主である米国は何もしないかもしれない。「米国はわれわれを助けに来ないかもしれない」。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク上級研究員は、最新の論考の発表にあたってそう警鐘を鳴らしている。
全体主義国家による欧州の民主主義の支配、さらには破壊を防ぐために、米国以外のNATO諸国はただちに弾薬の生産を増強するとともに、ロシアの防空システムの破壊という危険な任務に向けて空軍の準備を進めなくてはならない。
現在、NATOの重要な軍需品の大半を提供しているのは米国である。だが、2つの要因から、米国の気前のよさは当てにできなくなるおそれがある。ひとつは米国自体に忍び寄る全体主義。もうひとつは、現実味を増す米中戦争の可能性だ。
中国が台湾に侵攻し、米国が介入した場合、米国防総省は勝利のチャンスを得るために、欧州駐留の米軍をアジアに移動させる必要が出てくるかもしれない。
「中国軍が台湾、もしくは南シナ海や東シナ海の主要な係争海域に対して封鎖や侵攻に踏み切るリスクは、2026年から2028年にかけて最も高くなりそうだ」。ブロンクは論考でそう分析している。
この時間枠では、中国軍がアジア太平洋に駐留する米軍に対して大きな航空優勢と海上優勢を確保している可能性がある。ブロンクによれば、その頃には「(米軍にとって)非常に問題になる中国の能力の大部分は成熟し、実戦配備されている」のに対して、新型のステルス戦闘機や爆撃機など「対抗する米国の装備の多くはまだ用意が整っていない」とみられるという。
「したがって、この期間にインド太平洋で危険なにらみ合いや実際の軍事衝突が起こった場合、米国(の戦力)は大きく引き伸ばされることになる」とブロンクは続けている。
ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンは、自由なウクライナを破壊するという目標を中国による台湾攻撃よりも先に達成した場合、米中衝突の機を捉えて、民主主義の欧州に対する攻撃を続けようとするかもしれない。欧州大陸は「(中国による台湾侵攻と)並行したロシアの軍事侵攻を受けやすい状態に置かれる」とブロンクは警告する。
ブロンクの論考では、中国との戦争がなくても、米国が友人や味方であるはずの国への軍事支援を停止する可能性については触れられていない。
米議会の共和党は今月、ウクライナとイスラエル、台湾への軍事援助を含む法案を否決した。これらの援助と引き換えに、長年続けられてきた難民保護政策の実質的な廃止をジョー・バイデン政権側に要求していたが、折り合えなかったからだ。
共和党政権では、米国による中国やロシアの軍事侵攻への対応は「何もしない」というものになりかねない。その場合、欧州の民主主義諸国は独力で対処せざるを得なくなる。
欧州がロシアの通常戦力を押し返すには空軍が頼みの綱になる
だが、欧州諸国はその準備ができていない。ロシアがウクライナで残虐な戦争を始めて22カ月目に入るというのに、NATOの大国はポーランドを除いて、集団的自衛のための動員を部分的にすら行っていない。
2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻したあと、ドイツの国防費は増えるどころか減った。英会計検査院は最近、英国の重要な国防プログラム向け予算が170億ポンド(約3兆1000億円)不足していると明らかにしている。
欧州での戦争拡大を防ぐ最も安価な方法は、ウクライナがロシアを打ち負かすのを助けることである。ただ、重ねて言えば、共和党が国内外の全体主義の脅威にきちんと向かい合わない限り、欧州はこの取り組みで米国を頼りにすることはできない。
欧州はウクライナを通じて間接に、あるいはウクライナが敗れた場合は直接に、ロシアと単独で戦えるように準備しなくてはならない。単独で戦うためには、米国が現在提供している軍事能力をすべて自前のものに切り替える必要がある。
「英国を含む欧州諸国は、ウクライナが戦い続けるのに必要な砲弾や予備部品、防空ミサイルの生産能力を大幅に引き上げるとともに、危険なほど減っている自国の在庫を補充するためにも、至急投資する必要がある」とブロンクは提言している。
さらに欧州の空軍は、ロシアの防空システムを制圧・破壊するという複雑で危険な任務に向けて訓練し、装備を整えることも求められる。
なぜなら「欧州でロシアの通常戦力を押し返すうえで頼りにできるのは、もっぱら航空優勢の達成になる。それなしでロシアを打ち負かすのに必要な規模と質の地上戦力、地上火力を配備する採用能力や資金を、欧州のNATO諸国は持ち合わせていない」(ブロンク)からだ。
欧州人とその指導者は、いまが歴史的な危機だということを理解しなくてはならない。戦争が欧州で起こり、アジアでも起こる可能性が高まってきている。ウクライナの国の存亡をかけたロシアに対する死闘を支援することで、戦争の拡大は防げるかもしれない。
戦争など起こらないとうそぶくのは、前もって降伏するも同然だ。ブロンクは論考の最後に、1936年、ドイツとの戦争は不可避と正しく認識していた英国の政治家ウィンストン・チャーチルが、議会で英軍の軍備増強を訴えた際の言葉を引用している。
「わが国の防備を整える時間はまだ残されておりましょうか。(中略)それとも、あの恐ろしい、『遅すぎた』という言葉で振り返られることになるのでありましょうか」
●クナイスル元外相の優雅なロシア生活 12/10
ドイツのゲアハルト・シュレーダー元首相(首相在任1998年10月〜2005年11月)とオーストリアのカリン・クナイスル元外相(在任2017年12月〜19年6月)の2人は国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)から戦争犯罪人容疑で逮捕状が出ているプーチン大統領の支持者として知られている。
両者とも久しくロシア国営企業の顧問料という名目でプーチン氏から経済的恩恵を受けてきたことでも知られている。それゆえに、両者とも出身国ばかりか、欧州諸国からは「好ましくない人物」と見られてきた。
ところで、クナイスル元外相(58)は最近、BBCからインタビューを受けて、移住したロシアでの生活の近況などについて答えている。
元外相の名前が世界に知られるようになったのは、クナイスル女史が2018年、同国南部シュタイアーマルク州で自身の結婚式を行った際、ゲストにロシアのプーチン大統領を招き、一緒にダンスするシーンが世界に流されたからだ。「プーチン氏と一緒に踊った外相」ということでその後、彼女の名前は常にプーチン氏と繋げられて報じられた。自身の結婚式にロシア大統領を招待すること自体、異例だ。そのプーチン氏とダンスする姿が報じられると、オーストリア国民も驚いた。
クナイスル女史は任期期間が短かったこともあって、外相としてその能力を発揮する機会はほとんどなかった。クルツ国民党政権のジュニア政党、極右政党「自由党」から外相に抜擢されたが、自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(当時副首相)の「イビザ騒動」が契機となってクルツ政権は崩壊した。クナイスル女史はわずか1年半の在任で外相職を失った。その後、プーチン氏とのダンスが縁となって2022年3月までロシア国営石油会社ロスネフチの新役員に就いていた。
クナイスル元外相はプーチン氏から結婚のお祝いに時価5万ユーロ相当の高価なホワイトゴールドで飾ったサファイアのイヤリングをプレゼントされている。クナイスル元外相は外相辞任後もその高価な贈り物を私有していたため、オーストリア外務省は「外国の要人から得た贈り物は任期が終了すれば外務省に返還することになっている」と要求し、「私へのプライベートな贈り物だ」と主張するクナイスル女史と一時期争いがあった(最終的には外務省が保管することになった)。
ちなみに、クナイスル女史はプーチン氏を招いて結婚式を挙行したが、その相手とは2020年4月に離婚している。外相職を失い、夫を失い、そして今、プーチン氏支持者と受け取られて、欧州諸国からはバッシングを受けてきた。いずれにしても、ロシアの独裁者プーチン氏と関係を深めた政治家は平穏な人生を送ることが難しいのは、シュレーダー氏だけではなく、クナイスル女史も同じだ。
クナイスル女史は親ロシア派としてバッシングを受ける日々に直面、オーストリアで職が見つからなかったためにフランスのマルセイユ、そしてレバノンのベイルートに移動したが、最終的にはプーチン氏の出身都市サンクトペテルブルクに住み、同市の大学の分析センターを指導することになったわけだ。最近は、クナイスル女史のポニーがロシア軍用機でロシアに輸送されたことが国際メディアの話題を呼んだばかりだ。BBCは「オーストリアの元外相カリン・クナイスル氏はポニーとともにロシアへ移住した」と報じたほどだ。
クナイスル女史はBBCとのインタビューで、「ロシアで今、快適に暮らしている」と述べ、サンクトペテルブルク大学の「学問の自由」を称賛し、「身近な環境で抑圧を経験していない。ロシアで働く機会を得られたことに本当に感謝している」と語った。
同女史はまた、欧米諸国の対ロシア制裁が「機能していない」、「対ロシア制裁が望ましい結果をもたらしていないことを多くの人が認めざるを得ない」と強調。プーチン大統領については「彼は最も知的な紳士だ」と高く評価している。ロシアのウクライナ侵略についてはこれまでの通り、何も批判していない。
なお、クナイスル女史は、「オーストリアでは、私が現在ロシアの大学で働いているという理由で、私の国籍を剥奪するよう求める声が聞かれる。ウィキペディアによると、私は汚職、反逆罪、そして30年間KGBに勤務していたスパイ容疑で告発されている。この種の汚い中傷はすべて人生を破壊する。だから法的措置が講じられるまでは戻りたくない」と述べ、オーストリアに戻る可能性を否定している。
クナイスル女史は英語やフランス語のほか、アラブ語の達人といわれている。イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム過激テロ組織ハマスとの間の戦争について、クナイスル女史の意見が聞けなかったことは残念だった。
●ウクライナがIOC非難、ロ選手のパリ五輪参加容認は戦争「奨励」 12/10
ロシアとベラルーシの選手の2024年パリ五輪参加が条件付きで認められたことに対して、ウクライナ政府が9日、戦争を「奨励している」と国際オリンピック委員会(IOC)の判断を批判した。
ロシアと同盟国ベラルーシの選手は、ウクライナに軍事侵攻した2022年2月以降多くの競技で制裁を受けてきたが、ここ1年は多くのスポーツで制限が緩和され、IOCも8日、侵攻を積極的に支持しない、個人競技の選手であることなどを条件として中立の立場での出場を容認した。
これに対してウクライナ外務省は、「今回の判断を下したIOC理事会のメンバーは、ロシアとベラルーシのウクライナに対する軍事侵攻の継続を奨励している責任がある」と発表した。
IOCは、軍または治安機関に所属する選手の出場は認めないと話している。しかしウクライナ外務省は、両国の選手の多くは「軍と関係のあるスポーツ組織」を代表しており、「現役の軍人もいる」と主張。今回の判断は「ウクライナの女性や子どもに対する殺人に同調するのみならず、そうした恐ろしい犯罪に直接関与している可能性が高い」選手の復帰を歓迎するものだと語り、「IOCは実質的に、五輪の兵器化にゴーサインを出した」と続けた。
パリ五輪では、ロシアとベラルーシの国旗や国歌などの使用も禁止される。ウクライナ側は「ロシア政府が示すのは白い中立旗ではなく、第二次世界大戦以来、欧州では最大の軍事衝突の責任逃れという、自分たちの力の勝利だ」と述べている。
●ウクライナ「24時間に100回近い空爆」 支援停滞に大統領夫人が危機感 12/10
ウクライナ軍は9日、国内各地で直近24時間にロシア軍から計100回近い空爆があったと発表した。ゼレンスキー大統領の妻オレナ・ゼレンシカ氏はインタビューで、米欧による支援の停滞に強い危機感を示した。
ウクライナ軍参謀本部がSNS上で報告したところによると、東部ハルキウ、ルハンスク、ドネツク各州などの軍拠点や市街地に対し、ミサイル28発、空爆27回、ロケット弾59発の攻撃があった。
ウクライナ当局は8日、約80日ぶりに巡航ミサイルを迎撃したと発表していた。欧米の情報機関は、ロシア軍が冬の間、民間インフラへの爆撃を拡大する恐れがあると指摘している。
また南部ヘルソン州のプロクジン知事は、同州だけで62回の砲撃があったと報告。迫撃砲や戦車砲、ロケット砲、ドローンなど航空機からの発射は、計300回を超えたと述べた。
ヘルソン州ベリスラウ市当局によると、同市では9日、ロシア軍のドローンから投下された爆弾で市民1人が死亡、もう1人が負傷した。
プロクジン氏によれば、州都ヘルソンでは8日夜、重要インフラや住宅への砲撃で47歳の女性が負傷し、病院に収容された。州検察が戦争法違反の疑いで捜査に乗り出している。
一方、オレナ氏は英BBC放送とのインタビューで、世界がウクライナへの「支援疲れ」に陥れば「私たちはただ死んでいくばかり」だと強調。「支援への情熱的な意欲が薄れる兆候を目の当たりにするのは、私たちにとって大変つらい」と訴えた。 

 

●イスラエル首相がプーチン氏と会談、停戦決議案支持に不満表明 12/11
イスラエルのネタニヤフ首相は10日、ロシアのプーチン大統領と会談し、ロシアが国連で「反イスラエル的立場」を取ったとして不満を表明した。イスラエルが声明で明らかにした。
国連安全保障理事会が8日、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの紛争について、人道的な即時停戦を求める決議案を採決した際、ロシアは支持に回った。決議案は米国が拒否権を行使し否決された。 もっと見る
イスラエルの声明によると、ネタニヤフ首相はロシアとイランの「危険な」協力関係に対して「断固とした反対」も示したという。
クレムリン(ロシア大統領府)は声明で、市民の苦しみを和らげ、紛争を緩和するために可能な限りの援助を提供する用意があると強調。
「プーチン大統領は、あらゆる形態のテロを拒否し非難するという原則的立場を再確認した」とするとともに「テロリストの脅威への対抗が、市民にとって重大な結果を招かないことが極めて重要」とも述べた。
●ロシアとイスラエルが首脳会談 ガザ情勢協議も隔たり鮮明 12/11
ロシアのプーチン大統領は10日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を行い、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ情勢を協議した。プーチン氏は民間人被害を拡大させるべきではないと伝達。一方、ネタニヤフ氏はロシアの「反イスラエル的な姿勢」に不満を表明した。パレスチナ情勢を巡って鮮明化した両国の立場の違いが改めて浮き彫りになった。
タス通信によると、両首脳の会談はイスラエルとハマスの戦闘が激化した直後の10月16日以来。
露大統領府によると、会談でプーチン氏は「いかなるテロも容認できない」としつつ、「同時にテロとの戦いは民間人に深刻な結果をもたらさないようにすることが重要だ」と指摘。イスラエルによるガザへの攻撃を暗に非難した。一方、イスラエル政府によると、ネタニヤフ氏はロシアが反イスラエル姿勢をとっているとして不満を表明。ロシアがイスラエルの敵国イランと協調していることも「強く批判」したという。
ロシアはパレスチナ和平問題で従来、中立的な姿勢を示してきたが、10月のハマスによるイスラエル攻撃では、強硬なパレスチナ政策を進めてきたイスラエルや米国にも非があったとする立場を表明。ウクライナ侵略で欧米側と決定的に対立したロシアはパレスチナ寄りの姿勢を示すことで、イスラエルに批判的なイスラム諸国を自国側に引き寄せて欧米に対抗する思惑だとみられている。
●プーチン大統領と50分間の電話会談で不満をぶちまけたネタニヤフ首相…「なんで私たちの味方にならないのか」 12/11
イスラエルのネタニヤフ首相がロシアのプーチン大統領との電話会談で、イスラエルと武装団体ハマスの戦争でロシアが見せた立場に「不満」を示したと10日(現地時間)、イスラエル首相室が伝えた。
これによると、ネタニヤフ首相とプーチン大統領は同日、約50分間電話会談を行った。両首脳の対話は10月16日以来約2カ月ぶりのことだ。ロシアは8日、国連安全保障理事会(安保理)でイスラエルとハマスの即時停戦を求める決議案に賛成票を投じた。
イスラエル首相室は両首脳間の対話後、「ネタニヤフ首相が国連でロシアが見せたイスラエルに反する立場に対する不満(annoyance)を提起した」と発表した。また「首相はロシアがイランと構成している危険な協力関係に対しても鋭い批判を加えた」と述べた。
現地メディアのタイムズ・オブ・イスラエル(TOI)は「ロシアは10月7日の戦争勃発以降、イスラエルをしばしば非難し、これを通じてイランとの友好関係を強化する契機にした」と指摘した。
ネタニヤフ首相がプーチン大統領とこれまで友好関係を築いてきたということから、このような直接的な不満の提起は異例だという評価だ。イスラエルはロシアのウクライナ侵攻後、ロシアとの関係を考慮してウクライナに兵器を販売・支援しなかった。
ロシアのクレムリン宮は、両国首脳の電話会談でイスラエル側の不満が提起されたという事実は公開しなかった。
クレムリン宮は、プーチン大統領があらゆる形のテロリズムを拒否し、糾弾するという原則的立場を再確認したと発表した。またプーチン大統領がネタニヤフ首相に「ロシアは民間人の苦痛と紛争を緩和するために可能なすべての支援を提供する準備ができた」という立場を伝えたと明らかにした。
●続投目指すプーチン氏に経済は追い風、制裁すり抜けインフレも制御可能か 12/11
ロシアは西側諸国の経済制裁を巧みにすり抜けつつあり、人手不足やインフレなどの課題を抱えながらも回復に向かいつつある。来年3月の次期大統領選への出馬を表明し、通算5期目を目指すプーチン大統領にとっては追い風が吹いている状況だ。
昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻に対して西側は、経済の締め付けやロシアの孤立を狙って制裁を発動。ところが西側の思惑、あるいはロシア側の想定よりも、同国経済は底堅さを発揮している。
重要なのは、西側がロシアの石油収入を効果的に抑え込めていない点にある。ロシアは石油の輸出先を中国やインドなどに切り替え、いわゆる「影の船団(シャドーフリート)」を駆使して西側の設定した石油輸出価格の上限制度の網の目をくぐり抜けてきた。
11月のロシアのエネルギー収入は9617億ルーブル(104億1000万ドル)で、1月の4255億ルーブルよりもずっと多い。
こうした石油収入の持ち直しとともに、プーチン氏が直面する重要な経済上の課題は深刻な人手不足になるだろう。昨年の大規模な動員や、ウクライナ侵攻後に数十万人がロシア国外に出国したことなどで、働き手が足りない状況に拍車がかかった。
人手不足
ロシアの失業率は過去最低の2.9%に下がっているだけでなく、政府が予算を投じて軍需拡大を図っている中で、ITなど非国防セクターは労働力が不足し、生産性の足かせになっている。
プーチン氏の経済顧問を務めるマキシム・オレシュキン氏は11月、ロシアは国内製造業の「技術的主権」を望ましい水準まで引き上げるために、より多くの技能労働者や管理職、能力の高いエンジニアを必要としていると説明。「人材にもっと積極的にやってきてもらうには、魅力的な給与が欠かせない」と付け加えた。
オレシュキン氏は、短期的な制裁のショックは乗り切ったが、西側からの圧力は今後も強まるばかりだろうし、ロシア独自の技術基盤へと経済全体が移行していかなければならないとの見方を示した。
一方、製造業と軍事産業の大幅な賃上げや、戦争と動員の影響を受けた家庭への財政支援が相まって、ロシア国民の給与所得は押し上げられている。
昨年目減りした実質所得は今年、急回復する見通し。ただセクターや地域によってばらつきは大きく、多くの家庭は特に輸入品の支出を切り詰めざるを得ない。
キャピタル・エコノミクスのシニア新興国市場エコノミスト、リーアム・ピーチ氏は「家計は大きな所得増加を経験した。しかしそれは長続きしないと思う」と語り、選挙を前に物価が上振れて、家計所得の圧迫度は強まるとの見方を示した。
インフレの行方
インフレを良くするのは中央銀行の仕事で、ロシア中銀は7月以降、既に計750ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切った。来週15日の会合でも追加利上げして政策金利を16%にするとの予想が大勢。こうした中で昨年2桁を記録した物価上昇率は今年、7.5%前後まで鈍化しそうだが、中銀が目標とする4%はまだ大きく上回る。
「物価上昇率が来年10%まで高まってもおかしくない。なぜなら経済が急速に成長を続けているからだ」と話すピーチ氏は、賃金上昇圧力と家計の予想物価が不安定化していることを指摘した。
ただ現段階では、最終的にインフレは制御可能とみられている。特にロシア国民は、痛みを感じつつも恒常的な物価高には慣れている面もある。
ピーターソン国際経済研究所とキーウ経済大学の上席研究員、エリナ・リバコワ氏は、物価が相乗的に加速していく重大な事態に陥るのは、財政への圧力がもっと大きくなり、ルーブル安にブレーキがかからず、中銀の対応が後手に回ることが条件だが、今のところそうした展開には程遠いと説明した。
石油価格も安心の水準
ロシア経済の生命線と言える石油価格は足元で、同国の財政安定に必要な水準よりもずっと高い。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国でつくるOPECプラスによる一連の減産と、ロシアが西側の輸出価格上限(1バレル当たり60ドル)を随所で回避できていることが組み合わさり、ロシアのエネルギー収入を押し上げている。
キーウ経済大学は11月、ロシアからの10月の海上ルートでの石油輸出の99%以上が、60ドルを超える価格で販売されていると分析し、価格上限の枠組みがますます危うくなっていると警鐘を鳴らした。
今年初め時点では、ロシアは財政が確かに大きな重圧を受けたが、今は財政赤字の対国内総生産(GDP)比を1%程度と見積もっている。
リバコワ氏は「石油価格が現状にとどまる限り、ロシアにとって極めて安心できる状態だ」と述べた。
●ウクライナ侵略、完遂の意思示す プーチン氏、大統領選出馬表明で 12/11
ロシアのプーチン大統領が8日、来年3月の次期大統領選への出馬を表明したことは、戦闘の泥沼化にもかかわらずウクライナ侵略を目標達成まで続けるとする意思の表れだとみられる。選挙で圧勝を演出し、侵略やウクライナ東・南部4州の一方的な併合を「民意」として正当化する思惑もあるもようだ。
プーチン氏は8日、国内式典で出席者から大統領選への出馬を求められた。プーチン氏は過去に不出馬を検討したこともあるとした上で「だが今日、別の選択は許されない。大統領選に出馬するつもりだ」と述べた。「今日」とはウクライナ侵略が続いている現状を指すのは明白だ。当選すれば通算5期目となる。
プーチン氏は対ウクライナ戦の開始を宣言した昨年2月の演説で、ウクライナの親欧米派勢力の排除を意味する「非ナチス化」や北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止を指す「非軍事化」を目標に掲げた。その後も「作戦は目標達成まで続ける」と繰り返してきたが、現時点で目標達成のめどは立っていない。
プーチン氏は面目にかけてもウクライナにロシアの要求を認めさせる必要に迫られており、大統領を続け、引き続き軍の指揮をとる意思を示したとみられる。ウクライナ軍の反攻が停滞し、占領地域を奪還されて自身の威信に傷がつく恐れが減退したことも、出馬表明を後押しした可能性がある。
ロシアは次期大統領選の投票を昨年9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州でも行うとしてきた。プーチン氏の勝利を併合の「正当性」をアピールする材料にも使う見通しだ。
●ロシア外相「ウクライナの平和の可能性? ゼレンスキー氏に電話してみろ」 12/11
ロシアのラブロフ外相は、ウクライナに休戦や平和をもたらす外交的可能性があるかという質問に、「ゼレンスキー氏(ウクライナのゼレンスキー大統領)に電話してみろ」と答えた。
10日(現地時間)、ロイター通信によると、ラブロフ長官は同日、カタール・ドーハのフォーラムで公開されたアルジャジーラとのインタビューで、「1年半前、プーチン大統領(ロシア大統領)といかなる交渉もできないようにする命令に署名したためだ」と述べた。
そして、平和会談が開かれるためには、ゼレンスキー大統領が問題の大統領令を無効化しなければならないと強調した。
現在、ウクライナの状況が膠着したのかという質問には「米国人が彼らを押し込んだくぼみがどれほど深いかを悟るのはウクライナ人にかかっている」と話した。
また、ロシアがウクライナと戦う状況で、イスラエルとパレスチナ武装政派ハマスの戦争に対して批判するのは偽善的ではないかという質問には「そうではない」と答えた。
さらに、ガザ地区の人道主義的状況を評価するための国際監視団の派遣を提案した。
ラブロフ長官は、「ガザ地区で人道主義的に停止されるためには、一種の現場実態調査が必要だ」とし、「アントニオ・グテーレス国連事務総長に監視団派遣を考慮することを提案したが、これまでは成果がなかった」と述べた。
また「私たちは10月7日、イスラエルに対するテロ攻撃を強く糾弾する」としながらも「同時に、この事件を無差別的な砲撃でパレスチナ人数百万人を集団処罰するのに利用することは容認できないと思う」と述べた。
ロシアが来年の米国大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が当選することを望んでいるかという質問には「このことに関与したくない。彼らの選挙は彼らのもの」と一線を画した。
●米ウクライナ首脳、12日会談 予算枯渇迫る中、支援継続訴え 12/11
米政府は10日、バイデン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領をホワイトハウスに招き、12日に会談すると発表した。ロシアの侵攻が続くウクライナへの軍事支援を含む米政府予算が年末までに枯渇する見通しの中、バイデン氏は会談で支援継続の必要性を訴える。
対ウクライナ支援に関して、バイデン政権は継続に向けた緊急予算の承認を求めているものの、野党共和党の反対などで審議が難航。政権側は年末までに予算が尽きると警告している。
米メディアによると、ゼレンスキー氏はジョンソン下院議長、上院議員らと会う予定で、支援継続を訴えるとみられる。2022年2月のロシアの侵攻開始後、ゼレンスキー氏のワシントン訪問は昨年12月、今年9月に続き3度目。
ジャンピエール米大統領報道官は声明で、バイデン氏が会談でウクライナ支援への「米国の揺るぎない関与」を強調すると指摘した。ロイター通信によれば、ウクライナ政府も首脳会談の開催を発表し、ウクライナでの防空システムの共同生産などが議論されると明らかにした。ゼレンスキー氏は11日に米国入りする。
●ゼレンスキー氏、南米首脳と会談 12/11
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、訪問先のアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで南米首脳と相次ぎ会談し、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支持に謝意を伝えた。アルゼンチンのミレイ新大統領との会合について、X(旧ツイッター)に「ウクライナの和平に向けて協力を求めた」と投稿した。
ゼレンスキー氏は同日、ミレイ氏の就任式に出席。列席したエクアドル、パラグアイ、ウルグアイの各大統領とも会った。ロイター通信によると、ウクライナの欧州連合(EU)加盟交渉入りに慎重な姿勢を示すハンガリーのオルバン首相とも式典で言葉を交わしたという。
● ロシア 派兵で戦死の兵士急増 サハリンで慰霊碑の除幕式 12/11
ロシア極東のサハリン州からウクライナに派兵され戦死した兵士が、この2か月ほどで急増したことが地元の知事が発信する情報で明らかになりました。ウクライナ東部などで激戦が続く中、犠牲者が増えているという見方を裏付けるもので、サハリン州では9日、兵士たちを追悼する慰霊碑の除幕式が行われました。
ロシア政府は、ウクライナへの軍事侵攻に参加した兵士などの死者数をほとんど明らかにしていませんが、極東サハリン州のリマレンコ知事は、州内から派兵された兵士が亡くなるたびに名前や階級などをSNSに投稿し、追悼しています。
この情報を集計したところ、去年は毎月の死者の平均が8人だったのが、ことしに入ってから増加し、10月には36人、先月には43人と急増したことがわかりました。
ウクライナでは、反転攻勢を進めるウクライナ軍とロシア軍が東部ドネツク州などで激しい戦闘を続けています。
イギリス国防省などは、ロシア側の犠牲者が増えているとしていて、リマレンコ知事の情報はこうした見方を裏付けるものです。
リマレンコ知事は、9日発信した動画で州の中心都市ユジノサハリンスクにある墓地に兵士たちを追悼する慰霊碑が建立され、除幕式が行われたことを明らかにしました。
この中で知事は「1つの家族である私たちは息子たちの最期の旅立ちを見送るためここに集いました」とあいさつし、動画には参列した遺族の声も投稿されています。
息子を亡くした母親は「息子を誇りに思います。家族や祖国を守るために戦ったのです」と話し、兄弟を亡くした女性は「この痛みをことばで表すことはできません」などと話していました。
高さ4メートルほどの慰霊碑は、軍事侵攻への支持を示す象徴となっている「Z」の文字もデザインされています。
亡くなった兵士たちを英雄視することで戦時下における人々の結束をうながすねらいがあるとみられます。
●ウクライナ追加支援、米上院与野党の交渉進まず−国境政策で溝 12/11
米上院の交渉担当者は米・メキシコ国境政策を巡る民主、共和両党の溝はなお深いと述べた。議員は今週末にワシントンを離れる予定だが、ウクライナなどへの追加軍事支援案は滞っている。
バイデン政権はウクライナがロシアの侵攻に対抗するのに追加支援は不可欠だとしている。
上院民主党の交渉責任者、マーフィー議員は10日のNBCの番組「ミート・ザ・プレス」で、「われわれは共和党の要求への対処についてなお協議中だ。現在の共和党の要求は理にかなっておらず、民主党の票を得られない」と説明した。
共和党の下院保守派グループ「下院自由議員連盟」は先週、ウクライナ支援を支持する条件として米・メキシコ国境警備の大幅強化を要求。バイデン大統領は破綻したシステムを修復するために大幅な譲歩をする用意があると述べた。
マーフィー議員は同番組で、両党の溝はなお深く、「ホワイトハウスは今週、関与を強めるだろう」と話した。
一方、上院共和党の交渉担当者、ランクフォード議員は亡命適格要件の厳格化へのバイデン政権の取り組みが不十分だと、CBSの番組「フェース・ザ・ネーション」で指摘した。
民主党とバイデン政権は数週間前から、イスラエルとウクライナへの軍事支援や国境警備案を含む1060億ドル(約15兆4000億円)の緊急予算の要求を保留することは敵の思うつぼだと共和党に警告してきた。
ブリンケン米国務長官はABCの番組「ジス・ウィーク」で、米国のウクライナ支援に関する見解不一致をロシアが利用するのではないかと「強く懸念している」と語った。
●ロシア、冬の集中攻撃開始か エネルギー関連施設狙う 12/11
英国防省は10日、ロシア空軍の戦略爆撃機が7日夜、ウクライナの首都キーウ(キエフ)や同国中部に向けて巡航ミサイルを発射したとして、エネルギー関連インフラを狙った冬季の集中攻撃を始めた可能性があると発表した。
ロシアが戦略爆撃機で巡航ミサイル攻撃を加えたのは9月21日以来。ロシアは巡航ミサイルを備蓄し、新たな製造分と共に冬季のインフラ攻撃に使おうとしているとの見方が出ていた。
英国防省は12月7日の攻撃で長距離戦略爆撃機ツポレフ95が使われ、カスピ海上空から少なくとも16発の巡航ミサイルを発射したとみられると分析した。
ウクライナ空軍は8日、ロシア軍が戦略爆撃機から巡航ミサイル19発を発射し、うち14発をキーウ州と東部ドニエプロペトロフスク州で撃墜したと発表していた。 
●プーチン 「ロシア人を追い出さなければ、我々はこんなことを始めなかった」 12/11
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は8日、ロシアによるウクライナ侵略について「(ウクライナ政府が)ロシアの歴史的な領土を破壊し、ロシア人を追い出さなければ、我々はこんなことを始めなかった」と述べた。責任がウクライナ側にあるとして、侵攻を正当化するものだ。
プーチン氏が来年3月に行われる大統領選への出馬表明をした大統領府での式典会場で、出席者と交わした会話の映像を国営テレビ記者が10日にSNSで公開した。プーチン氏はウクライナについて、「完全におかしくなってしまった」とも主張した。
また、露外務省のマリア・ザハロワ報道官は9日、AFP通信と今月行ったインタビュー内容をSNSで公開し、「ウクライナ政府は敵対行動をやめ、ロシアの領土から撤兵しなければならない。新しい領土の現実を認めなければならない」と主張した。一方的に併合したウクライナ東・南部4州をロシア領と認めるよう求めたものとみられる。
●プーチン氏、無所属で出馬へ ロシア大統領選、併合州投票確定 12/11
ロシア中央選挙管理委員会は11日、2024年3月の次期大統領選に立候補を表明したプーチン大統領の候補者登録に必要な署名集めを行う推薦人団体が組織されたことを確認した。これによりプーチン氏の無所属候補としての出馬が確実になった。
中央選管はまた、侵攻したウクライナでロシアが併合を宣言し、戒厳令が敷かれている東部・南部4州でも選挙が可能との結論を出し、4州での投票実施が確定した。
大統領選の関連法によると、下院に議席を持つ政党の公認候補にならず無所属で出馬する場合、推薦人団体を選管に登録し、ロシア全土で計30万人以上の有権者の署名を集める必要がある。
通算5選を目指すプーチン氏は今月8日、ウクライナ東部ドネツク州のロシア側支配地域のジョガ議会議長らの要請を受けて立候補を表明。ジョガ氏は9日、モスクワでプーチン政権与党「統一ロシア」のトゥルチャク総務評議会書記や企業家、文化人らと会い推薦人団体発足で合意した。16日に初会合を開く。
●ゼレンスキー氏、西側のウクライナ支援の「再活性化」模索 12/11
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、アルゼンチンのハビエル・ミレイ新大統領の就任式に出席するために訪れていた同国で、ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相と言葉を交わした。オルバン氏はウクライナが強く望んでいる欧州連合(EU)加盟を阻止しようとしており、両首脳のやり取りは短時間ながらも感情的なものに見えた。
ゼレンスキー氏は10日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われたミレイ新大統領の就任式に出席した際、ハンガリーのオルバン首相と対面した。
オルバン氏はウクライナのEU加盟プロセスを進めることに、声高に反対している。
両首脳の接触の様子からは、今週後半に予定されている外交面の動きが失敗することへの懸念が生じている。
ゼレンスキー氏と、EUの「バッド・ボーイ」と広くみなされているオルバン氏との間でどんな言葉が交わされたのか、それを理解できるのは読唇術のプロだけかもしれない。
しかし、ウクライナの戦争努力にとって非常に重要となりうる1週間が始まるのを前に、このやりとりが交わされたことは事実だ。
ウクライナ紙キーウ・ポストは、両首脳が立ち話する様子をソーシャルメディアに投稿した。
ゼレンスキー氏、開戦後2度目のワシントン訪問へ
アメリカから600億ドル(約8兆7300億円)の防衛援助パッケージを得ようとしているゼレンスキー氏は、12日にアメリカ・ワシントンへ向かう。
ジョー・バイデン米大統領は議会に対し、ウクライナ支援を含む追加予算の承認を要請しているが、うまくいっていない。アメリカとメキシコの国境の安全保障にもっと予算を回すべきだと主張する野党・共和党からの反発に直面している。
上院は6日、ウクライナへの軍事支援を含む大型支出法案を51対49で否決した。
ゼレンスキー氏のホワイトハウス訪問は、ロシアによる全面侵攻が始まって以来2度目。前回は昨年9月だった。
ワシントン滞在中、ゼレンスキー氏は下院のマイク・ジョンソン議長(共和党)とも会談する予定。
EU加盟交渉と財政支援は
14日にはベルギー・ブリュッセルでEU首脳会議が開かれる。全加盟国の承認が得られれば、ウクライナの正式な「加盟」に関する交渉が開始される。
そうなれば、完全なEU加盟へと続く非常に長いはしごを一段のぼることになるが、このプロセスが成功する保証はない。
ウクライナへの500億ユーロ(約780億ドル)の財政支援パッケージも承認されるはずだった。
しかし、ハンガリーのオルバン首相はこの二つを阻止するとしていて、EU各国から不満が噴出し、ウクライナ政府の怒りを買った。
オルバン氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの全面的な、血なまぐさい侵攻を行うと決定した後も、プーチン氏との関係を維持してきた。そのため、プーチン氏の「口利き役」だと批判されている。
ロシア政府に対する一連の制裁措置には首を縦に振りながら、ウクライナに追加の資金や武器を送ることには反対している。
オルバン氏はEU各国首脳が、ウクライナの加盟を認めるよう「我々(ハンガリー)に無理強いさせている」と主張し、EUの全体的なアプローチについて「戦略的な議論」を行うよう求めている。
EU加盟を熱望するウクライナについては、「世界で最も腐敗した国のひとつ」とまで言っている。
オルバン氏が自国で、民主主義の後退を監督していると非難されていることを考えると、ウクライナ政府の怒りに火をつける主張だ。
オルバン氏がウクライナを交渉の切り札として利用し、EUからさらに多くの資金を引き出そうとしているとの見方もある。
ウクライナにとって今週は、大きな試練の1週間だといえる。ウクライナ当局者はBBCのジェシカ・パーカー記者に対し、いまのところは、EU加盟交渉に関する決定は、EUの経済支援よりもウクライナの士気に大きな影響をおよぼすだろうと話した。
ゼレンスキー氏は(EU加盟交渉は)「ウクライナ社会と軍のモチベーションに大きな影響を与える」だろうとソーシャルメディアに投稿した。
実際のところ、ハンガリー以外にも、EU圏の拡大に難色を示している加盟国もある。
ただ、ある外交官は、いまのところ話し合いを保留にしているのはハンガリーだけで、「まさに26対1の問題」だと話した。
●伊メローニ首相、移民規制の一方で外国人労働者の受け入れ拡大 12/11
マドウ・コウリバリーさん(24)は、歴史あるイタリアに来てまだ日の浅い新顔だ。
ギニア出身のコウリバリーさんがこの国に来たのは2018年。人手不足を外国人労働者で埋める取り組みの一環として、トスカーナ地方初の移民出身バス運転手になった。誰よりも驚いたのはコウリバリーさん自身だった。
「バスの運転手なんてとんでもない、できるわけがないと言った」とコウリバリーさんは回想する。「アフリカ人がイタリアでバスを運転するなんて。しかも、船で渡ってきたアフリカ人がね」
コウリバリーさんが経験したのは、メローニ伊首相による移民政策の対照的な2つの側面のうち、「歓迎」サイドだ。
メローニ氏は昨年10月、国家主義的な政策を掲げて政権の座についた。移民規制の強化による北アフリカからの不法入国の摘発、海難事故に遭う移民を救助する慈善団体への規制、アルバニアでの移民収容所の建設計画といった公約により、国際的な注目を集めた。
だがその一方でメローニ首相は、イタリア国内で深刻化している人手不足を埋めるため、数十万人の移民に門戸を開き、合法的な就労を認めようとしている。イタリアは世界で最も高齢化が進み、人口減少に直面している国の1つだ。
イタリア統計局の予測では、2050年までにイタリアの人口は約500万人減少し、人口の3分の1以上が65歳以上になる。建設や観光、農業に至るまで、多くの産業が若い力を切実に必要としている。
タヤーニ外相は10月、チュニジアと3年間の協定を結び、年間最大4000人のチュニジア人を対象にビザ発給と在留許可手続きを簡素化した。同外相は、メローニ政権は移民そのものには特に反対していないと語る。
タヤーニ外相は11月21日、国会で「イタリア、そして欧州に誰が入ってくるかは我々が選びたい。人選を密入国斡旋業者に任せておくわけにはいかない」と発言した。
労働市場の専門家で元保守派議員のジュリアーノ・カッツォーラ氏は、経済と人口動態の現実が政府の反移民姿勢を弱めているとの考えを示した。
「移民の受け入れが、イタリアの人口を増やす最も簡単な手段だと私は確信している」とし、「今日生まれた赤ん坊が労働市場に参入するのは20年後だ。一方で、ここに到着する20歳(の移民)はすぐに働くことができる」と述べた。
収容センターからの直接採用
メローニ政権は不法移民の流入増加に歯止めをかけるという公約を掲げたが、ほとんど成功していない。
イタリア政府のデータでは、今年に入ってから北アフリカから海路で到着した人数は15万3000人に迫り、2022年の同時期の約9万6000人、同21年の6万3000人に比べ急増した。通年での史上最高となった2016年の18万1400人も目前だ。
一方でイタリアは、非EU諸国の市民に対する就労ビザの割り当てを、2023─25年の3年間で45万2000人分に増やし。これに先立つ3年間に比べ150%近い増加だ。今年の割り当て13万6000人は、2008年以降で最多となる。
就労ビザはすでに就職先を確保している人々のために用意されたもので、現に国内で不法就労している移民がこの割り当てを利用し、合法的な地位を獲得することになるのが普通だ。
だが、人手不足を解消するにはこれでも足りない。
政府の試算では、2023─25年に産業界や労働組合から要請される就労許可件数は、83万3000人分に上るる。今年分の割り当てについては事前申請分だけで60万件もあり、大幅な定員オーバーとなった。
イタリアの労働力危機が特に深刻なのは、豊かな北部のブレシア州などの地域だ。ブレシア州の失業率は約4%で、全国平均の半分ほどしかない。
経営者団体「コンフィンドゥストリア」は地方自治体と提携し、経営者が亡命申請者収容センターから労働者を直接選抜、採用できるようにする仕組みを立ち上げた。
コンフィンドゥストリア傘下の建設業界団体が運営するブレシアの研修センターで所長を務めるパオロ・ベットーニ氏は、「喉から手が出るほど人を求めているが、イタリアの若者にアピールする力はない。彼らは肉体労働を二流の仕事と思っていて、もはや何の関心も示してくれない」と話す。
地方自治体の当局者によれば、これまでに800人以上の候補者の中から約200人の亡命申請者が選抜されたという。計画では、選抜された人々と研修機会について協議し、1月をめどに研修を開始し、その後の雇用につなげたいとしている。
イタリアでは経済成長が鈍化しており、経済協力開発機構(OECD)加盟の38カ国では唯一、過去30年間でインフレ調整後の賃金が低下している。
小売企業のロビー組織「コンフコメルシオ」のブレシア州支部長カルロ・マソレティ氏によれば、州内の企業は人手不足に伴う機会損失で収益の約20%を失っており、特に厨房スタッフ、ウェイター、ホテルスタッフは欠員補充が難しくなっているという。
「唖然としたのは私だけか」
メローニ氏は9月、政界における長年にわたる盟友であるハンガリーのビクトル・オルバン首相がブダペストで開催した首脳会議に出席し、自らの右派としての立場を確認。「現代は、私たちが私たち自身であるための全てが攻撃にさらされる時代だ」と述べた。
メローニ氏は、イタリア、欧州における人口問題については、国民の出生率を上げることが最善の策だと述べる一方で、合法的移民の割り当てが各国経済にとって「積極的な寄与」になり得ることを認めた。
硬軟織り交ぜたメローニ首相の移民政策については、政権内の連立相手から、弱腰と指摘する声もあがる。
11月28日、連立を組む「同盟」党首で、年来の強硬な反移民派であるサルビーニ副首相は、「優先すべきは移民の流入を食い止めることだ」と語った。
トスカーナ州議会でメローニ氏の与党「イタリアの同胞(FDIO)」代表を務めるフランチェスコ・トルセッリ氏は、地元の運輸会社アウトリネー・トスカーネがフィレンツェでコウリバリーさんのような移民運転手を採用したことを「紛れもない恥さらし」と非難した。
トルセッリ氏は、亡命申請者を選抜・採用する計画が始まった昨年10月、インスタグラムに「移民を採用できるなら、たぶん給料はこれまでより安くて済むだろう。運転手の給与を上げる話にはならない」と投稿した。「これが、トスカーナ州でのバス運転手不足問題に対してアウトリネー・トスカーネがとった『解決策』だという。唖然としたのは私だけだろうか」
アウトリネー・トスカーネは、イタリア人と外国人労働者との間に差別はなく、移民労働者に国内労働者より低い賃金を提示している事実がないとしている。
コウリバリーさん自身は動じていない。
コウリバリーさんは在留許可を得ていたにも関わらず、最近まで移民収容センターで暮らしていた。フィレンツェでは手頃な住宅がなかなか見つからなかったからだ。
コウリバリーさんは、バス運転手の仕事を自分の「イタリアン・ドリーム」を追求するチャンスだと捉えており、新たにやってくる移民が後に続けばいいと思っている。
「この仕事をやるのは、自分のため、家族のため、そしてイタリアにいる全ての移民のためだ。多くの人が、自分たちはみなダメな人間で、自分にはできない仕事があると思い込んでいるが、それは事実ではないのだから」とコウリバリーさんは話した。
●第二次冷戦か? 地経学的な分断が進む中での経済協力の維持 12/11
はじめに
おはようございます。国際経済学協会(IEA)の第20回世界大会でお話しする機会をいただき光栄に存じます。
今大会の包括的な問いは、「われわれは転換期にあるのか」というものです。
私はそうだと考えています。それどころか、私はその問いかけをさらに一歩推し進めて、「われわれは第二次冷戦の瀬戸際にあるのか」と問いたいと思います。歴史家のニーアル・ファーガソンはそうだと言っています。であるなら、そのことは世界経済にとって何を意味するでしょうか。そして、どうすれば分断が進む世界において経済の開放がもたらす利益を守ることができるでしょうか。
こうした問いに答えるために、まず、20世紀の国際貿易関係の歴史を簡単に振り返りたいと思います。続いて、冷戦期と今日の類似点および違いを検討したいと思います。これまでに貿易と投資のデータから見られる分断化の兆候を説明し、亀裂が深まった場合の潜在的な経済的コストについて論じます。そして最後に、分断が進む世界において経済協力を維持するための3つの原則を提示したいと思います。
パンデミックや戦争、そして世界の2大経済大国である米国と中国の間で高まる緊張によって、世界の経済関係のプレイブックは間違いなく変化しています。米国は「フレンドショアリング」を、EUは「デリスキング」を、中国は「自立」をそれぞれ唱えています。世界各地で、国家安全保障上の懸念によって経済政策が規定されています。
一方で、ルールに基づくグローバルシステムは、国家安全保障に基づく貿易紛争を解決するために構築されたものではありません。そのため、実効的な審判員が存在しない中で、各国が曖昧なルールと戦略的に張り合う状況が生まれています。
各国は自国のサプライチェーンのリスク軽減と国家安全保障の強化を図るという点では、こうしたプレイブックから利益を得ることができます。しかし、適切に管理できなければ、コストの方がそうした利益を容易に上回ることになり、何十億人もの人々が貧困から抜け出す助けとなった30年近くにわたる平和と統合、成長を後退させることになりかねません。
世界の成長見通しが数十年ぶりの低さとなり、また、パンデミックと戦争に伴う過度の後遺症によって富裕国と貧困国の間の所得格差縮小が減速している中で、私たちには第二の冷戦を行っている余裕はほとんどありません。
若干の歴史的視点
歴史を振り返ることから始めたいと思います。グローバル化が脅威にさらされ、地政学的な考慮事項によって世界の貿易・資本フローが分断されるのは、今回が初めてではありません。
1789年のフランス革命に始まる125年間の「長い」19世紀を通じて、国際貿易は爆発的に拡大しました。しかし、第一次世界大戦によってそのグローバル化の黄金時代は突然終わりを迎え、所得に占める世界貿易の割合は急低下しました。戦後長く続いた経済的困難は、国家主義的で権威主義的な指導者が台頭する下地を作り、後に世界を第二次世界大戦に陥れることになりました。第二次世界大戦後、世界は米国とソ連というふたつの超大国を軸に二極化し、イデオロギーと政治経済構造によって分断されました。両陣営の間では、一連の非同盟国が慎重にバランスをとっていました。
この「冷戦」期は、1940年代後半から1980年代後半まで続きましたが、脱グローバル化の時期ではありませんでした。というのも、戦後復興と西側諸国の多くで採用された貿易自由化政策に牽引されて、世界貿易の対GDP比が上昇したからです。しかし、貿易と投資のフローが地政学的要因に大きく規定されたため、分断化の時期になりました。対立する陣営間の貿易は、冷戦期に世界貿易全体の約10〜15%から5%以下にまで急減しました。
冷戦が終わると、それまで敵対していた陣営間で貿易が急速に拡大し、10年間で世界貿易の約4分の1に達しました。冷戦の終結は、1990年代および2000年代のハイパー・グローバリゼーションの時期とも重なりました。技術革新や一方的あるいは多角的な貿易自由化、地政学的・制度的変化がすべて合わさって、経済の統合がかつてない水準にまで引き上げられたのです。
しかし、2008年以降、グローバル化のペースは低迷しています。いわゆる「スローバリゼーション」です。ハイパー・グローバリゼーションを促した諸要因が自然に薄れるのに応じて、貿易の対GDP比は頭打ちになりました。
ここで現在に目を向けてみましょう。この5年間で、地政学的リスクの増大に伴って資本と財の自由な移動に対する脅威が高まっています。関税や輸出制限を含む一部の措置は、貿易と投資を直接標的にしています。他にも、国内の特定の部門に対する財政・金融支援やローカルコンテント要求などの国内措置が貿易フローに間接的に影響を与えています。
昨年導入された貿易制限措置は約3,000件に上ります。これは、2019年に導入された数のほぼ3倍に当たります。
多国籍企業は、決算説明会において、リショアリングやニアショアリング、フレンドショアリング、脱グローバル化といった論点を取り上げることが増えています。
第二次冷戦か?
では、私たちは第二次冷戦の始まりを目の当たりにしているのでしょうか。主要な原動力は似ています。つまり、2つの超大国間におけるイデオロギー的、経済的な競争です。冷戦の時は米国とソ連でしたが、現在は米国と中国です。しかし、そうした要因が力を発揮する舞台は、いくつかの側面で根本的に異なっています。
まず初めに、各国間の経済的相互依存の度合いは現在の方が高くなっています。各国経済は以前よりもはるかに世界市場に統合され、しかもそれは複雑なグローバル・バリューチェーンを介しています。世界貿易の対GDP比は、冷戦中には24%であったのに対して、今日では60%に上っています。このことは、分断化のコストを大きくすると考えられます。
また、各国がどの陣営に加わることになるかについても不確実性が大きくなっています。冷戦時代に比べて国内における政治的リーダーシップのイデオロギーの変動が大きくなっており、忠誠の対象を見極めることが難しくなっています。こうした不確実性は、コストをさらに増大させる可能性があります。
他方で、今日では、GDPや貿易、人口の面で潜在的な非同盟国の経済的重みが以前よりも増しています(スライド7左)。今の時代については、この分析では国連における各国の投票パターンに基づきふたつの仮定的なブロックを検討しています。主に西側陣営には米国と欧州が、東側陣営には中国とロシアが含まれ、その他の国々は「非同盟国」とみなしています。1950年には、東西両ブロックで世界GDPのおよそ85%を占めていました。今日仮定しているふたつのブロックは世界GDPのおよそ70%と、世界人口の3分の1を占めるにすぎません。そして、非同盟の新興プレーヤーとの競合を余儀なくされます。
非同盟国は経済統合が進んでおり、2022年には世界貿易の半分以上にいずれかの非同盟国が関与していることから、敵対し合う陣営の間で「コネクタ」としての役割を果たす可能性があります。非同盟国は分断された世界経済における貿易・投資の転換から直接に恩恵を受け、分断が貿易に与えるマイナスの影響を緩和し、それによって分断のコストを軽減することができます。
広がる亀裂:分断化をめぐるファクト
次に、分断化に関するファクトを検討したいと思います。亀裂の広がりを示す兆候があるのがお分かりいただけると思います。
冷戦期と同様に、大幅な脱グローバル化は見られません。世界GDPに占める世界貿易の割合は比較的安定的に推移しています。 しかし、根底にある二国間貿易関係は大きく変化しており、分断化の兆候が見られ始めています。
ウクライナ戦争以降、各地で貿易の伸びが減速していますが、政治的に提携していないブロック間では伸びがより鈍化しています。具体的に見ると、各ブロック内では貿易の伸びが戦争前の2.2%から1.7%へと減速しています。これに対して、ブロック間の貿易の伸びは戦争前の3%から約-1.9%へと低下しました。そのため、全体として、ブロック内での貿易の方がブロック間の貿易よりも伸び率が3.8%ポイント高くなっています。
重要なのは、こうしたパターンが政策当局者の標的に最もなりやすく潜在的に各国のデリスキングの助けとなる戦略的な部門の貿易に限られるわけではないということです。非戦略的な製品の貿易についても同様のパターンが見られます。
さらに、世界の外国直接投資(FDI)が地政学的な境界線に沿って分かれつつある明確な兆候も見られます。ウクライナ戦争勃発後に発表されたブロック間のFDI案件は、ブロック内のFDI案件よりも減速幅が大きくなっています。その一方で、非同盟国に対するFDIは急増しています(スライド9右)。実際、2023年第3四半期に発表されたFDI案件の約40%は、非同盟国におけるものです。
それと同時に、米中間で貿易摩擦が再び高まっていて、両国間では直接的なつながりが切断されつつあります。
中国はもはや米国の最大の貿易相手国ではありません。米国の輸入に占める中国のシェアは、2018年の22%から2023年上半期には13%となり、5年間で約10%ポイント低下しています。2018年の米中貿易戦争勃発以降に導入された貿易制限措置によって、中国からの関税対象製品の輸入は実際に抑えられています。
また、中国はもはや米国の対外FDIの突出した投資先にもなっていません。中国は発表されたFDI案件の数でインドやメキシコ、アラブ首長国連邦などの新興市場国に順位を抜かれています。
しかし、米中間の直接的なつながりが単に間接的なつながりによって置き換えられつつあることを示唆する証拠があります。メキシコやベトナムなど、米国の輸入におけるシェアが最も拡大した国々は、中国の輸出におけるシェアも他国より拡大しているのです(スライド11左)。そうした国々は、中国のFDIの主要な受入国にもなっています。
米国の対中「デリスキング」戦略から恩恵を受ける特異な立場にある一連の「コネクタ」国の存在を示す事例証拠が増えています。それは、そうした国々の立地や天然資源、あるいは米中双方との自由貿易協定といった要因に由来しています。
例えば、米国が中国製品に関税を課したことを受けて、大手の電子機器メーカーは中国からベトナムへの生産拠点の移転を加速しています。しかし、ベトナムは投入物の大半を中国から調達しており、輸出の大半は米国向けに行っているのです。
また、2023年にはメキシコが中国を抜いて米国に対する最大の財の輸出国になりました。しかし、メキシコに工場を開設しているメーカーの多くは中国企業であり、米国市場をターゲットにしています。メキシコ民間工業団地協会によれば、今後2年間の新規事業の5件に1件は中国企業になるということです。
こうした事例証拠は、データの相関性と合わせて、サプライチェーンが長くなっていることを示しています。国際決済銀行(BIS)による最近の研究がこれを補完しています。この研究では、2万5,000社を超える企業のデータを検討し、過去2年間にとりわけ中国のサプライヤーと米国の顧客を含むサプライチェーンが長くなったことが明らかになっています。
まとめますと、貿易と投資のフローが地政学的な提携関係によって規定されるのに応じて分断化はすでに現実となっており、このプロセスは継続する可能性が高いと思われます。しかし、米中両経済大国が縁を切ろうと取り組んでいるものの、統合と接続が進んだグローバル経済においてそれがどれほど効果的であるかはまだ不明です。
分断の経済的コスト
分断が深まる場合、経済的コストはどのようなものになるでしょうか。そして、そうしたコストはどのように波及するでしょうか。
分断化によるグローバル経済の再編は貿易が主な経路となる中、貿易に制限を課せば特化を通じた効率性向上が抑制され、市場の縮小に伴い規模の経済が制限され、競争圧力が低下するでしょう。
産業内の資源再配分にインセンティブを与え、生産性向上を実現する貿易の力が抑圧されることになるでしょう。貿易の縮小は、知識伝播の減少にもつながると考えられます。知識伝播は統合がもたらす主要な利点のひとつですが、それは国境を越えた直接投資の分断化によっても減る可能性があります。
資本フローの分断化はFDIの減少を理由に資本蓄積を制約し、資本の配分や資産価格、国際決済システムに影響を与えることにより、マクロ金融安定性リスクを突きつけ、より不安定な経済をもたらす可能性があります。
分断による経済的コストの試算はばらつきが大きく、非常に不確実なものとなっています。しかし、IMFで最近進められている研究では、そうしたコストは大きなものとなり、発展途上国に過度に重くのしかかりかねないことが示唆されています。
世界経済が2022年のウクライナ決議に関する国連での投票に基づいてふたつのブロックに分断され、両ブロック間で貿易が行われなくなれば、世界全体の損失はGDPの約2.5%に上ると試算されています。しかし、各国の適応能力次第では、損失はGDPの7%にまで膨らむ可能性があります。 国レベルでは、損失は特に低所得国と新興市場国で大きくなります。
一部に非同盟国を残しつつ、米国と中国を軸にふたつのブロックに分割された世界でFDIが分断されると、世界全体で長期的にGDPの約2%に相当する損失が生じかねません(スライド15右)。
貿易の場合と同様に、損失は対立するブロックからの資本流入への依存度が高い発展途上地域の方が大きくなります。
しかし、貿易と投資が具体的にどのように分断されるかによって、多くのことが左右されることになります。一部の国が非同盟を維持し、あらゆるパートナーとの関与を継続する場合には、そうした国々は貿易と投資の転換から恩恵を受けることができるでしょう。
私たちのシミュレーションでは、米欧ブロックと中露ブロックの間で貿易が中断すれば、その他の国々は概して多少の利益を得ることが示唆されています。
中南米諸国は、そうしたシナリオにおいて恩恵を受ける上で格好な立場にあります。例えば、メキシコは米国との距離の近さゆえに製造業部門のてこ入れが可能になり、南アメリカの一次産品輸出国は市場シェアを拡大できるでしょう。
しかし、分断が深刻化すれば、穏やかな形の分断からは恩恵を受ける国々であっても極端なシナリオの下では小さくなったパイの大きな一切れしか得られなくなるかもしれません。つまり、全員が敗者になりかねないのです。
分断は、国際協調を必要とする他の地球規模の課題に対処する私たちの取り組みを阻害することにもなるでしょう。気候変動から人工知能(AI)まで、そうした課題は非常に幅広いものです。
IMFの最近の分析では、銅やニッケル、コバルト、リチウムといったグリーン移行にとって重要な鉱物の貿易が分断されれば、エネルギー移行のコストが大きくなることが示されています。こうした鉱物は地理的に集中しており、容易に代替できないため、その貿易を混乱させれば価格が大きく振れ、再生可能エネルギーと電気自動車(EV)生産への投資が抑制されるでしょう。
第二次冷戦の本格化に伴う最悪の経済シナリオを阻止するために政策当局者には何ができるか?
このような転換期にあって、政策当局者は分断のコストの最小化と安全保障およびレジリエンスの最大化との間で難しいトレードオフに直面しています。歪みを最小化しつつ、自由貿易の利点をできる限り維持して、グローバルな課題の解決を確保するという実践的なアプローチが求められています。
もちろん、最善の解決策は分断を回避することです。しかし、今のところ、それは実現が難しいかもしれません。
最善のシナリオを欠く中で、私たちは最悪のシナリオを回避し、分断が進む世界において経済協力を維持するために取り組まなければなりません。これから述べる3つの原則が役に立つでしょう。
第一に、少なくとも共通の利益がある分野では多国間アプローチを追求することです。例えば、「緑の回廊」に関する合意があれば、クリーンエネルギー移行にとって重要な鉱物の国際的な移動を保証することができるでしょう。
必要不可欠な食料品や医療用品に関しても同様の合意があれば、ますますショックが発生しやすい世界において国境を越えた最低限のフローの確保が可能になるでしょう。そうした合意は、気候変動による破壊や食料不安、パンデミック関連の人道的災害を防ぐという世界的な目標の維持につながります。
第二に、デリスキングや多様化のために貿易とFDIのフローの再編がある程度必要であると判断される場合、各国が統合を深化させ、多様化を進め、レジリエンスのリスクを軽減する上で無差別的で複数国間のアプローチが助けとなります。
政策当局者は、経済的パートナーシップを深化させるパートナーや同盟国の一群を幅広く定義すべきです。地域貿易協定や共同声明イニシアティブなどのWTOと整合的な複数国間協定は、明らかに次善策ではあるものの、いくつかの利点をもたらすと考えられます。例えば、規模の経済や市場アクセスの拡大、サプライヤーの多様化などです。そうした協定は、ルールを更新し門戸開放政策を維持することにより、協定のルールや規範にコミットする意思と能力を有する新しいパートナーが加入することを可能にします。
最近の地域貿易協定の例としては、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)やアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)などがあります。電子商取引や投資円滑化、サービス国内規制に関するものを含め、現在いくつかの共同声明イニシアティブが進行中です。2021年12月には、70のWTO加盟国がWTOに基づくサービス国内規制に関する複数国間協定に合意しました。
政策当局者は、経済安全保障を根拠に介入が正当化される狭い範囲の製品や技術のみをターゲットにすべきです。生産を自国に戻す前に、リスクが低い地域のサプライヤーが本当に欠如しているか慎重に検討し、供給の混乱に伴う社会的・経済的コストの客観的な評価を行わなければなりません。半導体などの広く使用されている技術の場合には特にそうです。
第三に、外部性や市場の歪みに対処する上では産業政策などの一方的な政策対応を制限し、期限を設定することです。政策対応の目的を市場の失敗の矯正に限定し、市場原理による最も効率的な資源配分が可能なところではそれを維持すべきです。
産業政策については、所期の成果を達成する上での有効性と、国際的な波及効果を含む関連コストの観点から、慎重に評価することが非常に重要です。
産業政策は、国内においては、利益が集中しコストが分散しているために制限や撤回が難しくなる可能性があります。
国際的には、産業政策は報復措置につながる可能性があり、それは分断を深化させるでしょう。IMFの最近の試算によれば、中国が補助金を導入する場合、EUがそれへの対応として12か月以内に貿易制限措置を発動する可能性は90%となっています。
産業政策に関する政府間対話や協議の枠組みがあれば、データ・情報共有の改善や、国境を越えた意図せざる結果を含む政策のインパクトの特定に役立つでしょう。長期的には、定常的なコミュニケーション経路があれば産業政策の適切な利用・設計に関する国際的なルール・規範を策定する助けとなり、企業の新しい環境への適応が容易になると思われます。
これら3つの原則それぞれについて、先の冷戦に青写真を見出すことが可能です。冷戦期を通じて、米国とソ連は核の破局を回避するためにいくつかの合意を結びました。両超大国は、一方による攻撃が最終的には全滅につながることを理解し、相互確証破壊ドクトリンを採用しました。
私たちがコストを分かった上で第二次冷戦に陥る場合、経済の相互確証破壊は見えていないかもしれません。しかし、開かれた貿易による利益が消滅するのは見えているでしょう。つまるところ、政策当局者はその利益を見失ってはならないのです。ルールに基づく多角的な貿易体制と、それを支える諸制度を強く提唱することは、政策当局者、そして全員の最善の利益なのです。
もちろん、全員が経済統合の恩恵にあずかってきたわけではなく、それを認めることは世界的な内向き志向の背後にある追加的な動機を理解する上で非常に重要です。そして、国内政策を調整して利益の範囲を広げる必要があります。しかし、経済統合は何十億人もの人々がより豊かでより健康になり、より良い教育を受けられるようになる助けになってきました。冷戦終結以降、世界経済の規模は約3倍に成長し、約15億人が極度の貧困から抜け出しました。
終わりに
そろそろ締めくくりたいと思います。グローバル化からの広範な後退の兆候は見られないものの、地経学的な分断が次第に現実になる中で、亀裂が表面化しつつあります。分断が深まれば、私たちは新たな冷戦に身を置くことになりかねません。
第二次冷戦の経済的コストは大きなものになるでしょう。世界は以前よりもはるかに統合が進んでおり、私たちは分断された世界では対処することのできない、かつてなく幅広い共通の課題に直面しています。
しかし、このような新しい地政学的現実においても、政策当局者は分断のコストを最小化するような解決策を追求することができます。安全保障とレジリエンスという国内の目標を達成しつつ、自由貿易の利点をできる限り維持し、グローバルな課題の解決を確保するという実践的なアプローチに重点が置かれるべきです。
米国と中国、EUが行っているように、コミュニケーションの回線を開いたままにしておくことは、最悪の結果が生じるのを防ぐ上で有用です。非同盟国は、主として新興市場国と発展途上国ですが、世界の統合を維持するために自らの経済的・外交的影響力を行使することが可能です。結局のところ、新興市場国と発展途上国が世界の分断に伴う最大の損失に直面しているのであり、一部の国は分断化の初期段階で恩恵を受けるとしても、冷戦が本格化すれば全員が敗者になるのです。
今後数日間、私たちはこの「転換期」の問題を検討することになりますが、みなさんには私たちが研究や協力を通じてこうした解決策の実現にどのように貢献できるか是非考えていただきたいと思います。それは、私たちが達成してきたことを維持し、この先グローバルな課題に立ち向かう上で、非常に重要となるでしょう。
●首都にロシア弾道ミサイル8発 「全て迎撃」とウクライナ 12/11
ウクライナ空軍は11日、ロシア軍が同日朝、首都キーウ(キエフ)に向けて弾道ミサイル8発を発射したと発表した。防空システムで全て迎撃したとしたが、キーウのクリチコ市長によると、破片が落下して4人が負傷した。10日夜から11日朝にかけては南部にも無人機(ドローン)18機の攻撃があったが、全て迎撃したとしている。
英国防省は10日、ロシア空軍の戦略爆撃機が7日夜、キーウやウクライナ中部に向けて巡航ミサイルを発射したとして、エネルギー関連インフラを狙った冬季の集中攻撃を始めた可能性があると発表した。
ロシアが戦略爆撃機で巡航ミサイル攻撃を加えたのは9月21日以来。

 

●ナワリヌイ氏陣営、プーチン氏の弱さ露呈に照準 ロシア大統領選で 12/12
ロシアの反体制派指導者で服役中のアレクセイ・ナワリヌイ氏の陣営は、次期大統領選でプーチン大統領を負かすことはできないものの、100日間の選挙戦がウクライナ侵攻や経済という重要な問題で大統領の脆弱さを示す好機になるとの見方を示した。
プーチン氏は8日、来年3月の大統領選に出馬する考えを表明した。ナワリヌイ氏が服役中で、他の反体制派も収監されているか亡命しているため、有力な対抗馬は出ていない。
ナワリヌイ氏側近のレオニード・ボルコフ氏は、国民が政治に注目し、公約や解決策を期待する選挙期間中、政権が難しい話題を避けるのは難しいと指摘。「プーチン氏は人々が憂慮する問題への答えを持っていないため脆弱だ」とし、戦争がいつどのように終結し兵士が帰還するかという出口戦略や、貧困、汚職などを例に挙げた。
プーチン氏以外に出馬の意向を表明したのは今のところ3人。うち2人は知名度が低く、出馬に必要な30万人の署名を集められるか不透明。3人目はイーゴリ・ギルキン元連邦保安局(FSB)大佐だが、過激派扇動の疑いで拘束され裁判を待つ身だ。
ナワリヌイ氏の陣営はプーチン氏以外の候補者に投票するよう呼びかける運動を既に開始している。
●「プーチンの政敵」ロシア野党圏活動家…刑務所移監後に行方不明 12/12
収監中であるロシア野党圏活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏が別の刑務所に移されたが行方がわかっていないとナワリヌイ氏の支持者が11日に明らかにした。
ロイター通信によると、ナワリヌイ氏の報道官を務めるキラ・ヤルミシュ氏はソーシャルメディアのX(旧ツイッター)に「第2刑務所(IK−2)の職員はナワリヌイ氏がこれ以上ここの収監者ではないと話したが彼をどこに連れていったのかは話さなかった」と投稿した。モスクワから100キロメートル離れたIK−2はロシアで悪名高い刑務所のひとつに選ばれる。
これに先立ちヤルミシュ氏はXを通じ「ナワリヌイ氏がどこにいるのか、彼にどんなことが起きているのかわからない日がすでに6日目」としてナワリヌイ氏との連絡が途絶えたと伝えた。またナワリヌイ氏の体調が良くなく点滴を受けたと付け加えた。
ロシアメディのニュースRUはあるテレグラムチャンネルを引用し最近ナワリヌイ氏がオンラインの裁判所審理にも出席しなかったと報道した。
ロイター通信によると、ナワリヌイ氏の側近であるリュボフ・ソボル氏は「先週ロシア大統領選挙運動が始まりナワリヌイ氏が別の刑務所へ移送され外部と断絶するかと考え支持者が恐れている」と話した。
ロシア大統領選挙の投票日が来年3月17日に確定した中でロシアのプーチン大統領は8日に大統領選挙に出馬すると宣言した。
ナワリヌイ氏はプーチン大統領の政敵に挙げられる人物だ。彼は違法金品取得、極端主義活動、詐欺などの容疑で30年以上の懲役刑を宣告され服役中だ。
●プーチン大統領 原潜就役式で演説 ウクライナや欧米けん制か 12/12
ロシアのプーチン大統領は、核兵器も搭載可能な新型の原子力潜水艦の就役式で軍事力を誇示し、ウクライナや欧米をけん制するねらいがあるとみられます。
ロシア北西部のセベロドビンスクで11日、核ミサイルの搭載が可能な新型の原子力潜水艦「皇帝アレクサンドル3世」など2隻の就役式が行われ、プーチン大統領が出席しました。
プーチン大統領は演説で「われわれは北極圏から極東、黒海など戦略的に重要な海域における海軍力を強化する」と述べ「ボレイ級」と呼ばれる原子力潜水艦をさらに3隻建造していると明らかにしました。
そして「皇帝アレクサンドル3世」がボレイ級としては7隻目で、極東の太平洋艦隊に配備されるとした上で「これらの原子力潜水艦は何年にもわたってロシアの安全を確実に守り、戦略的抑止の任務を遂行していく」と強調し、ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナや、ウクライナを支援する欧米をけん制するねらいがあるとみられます。
一方、ロシア軍は、ウクライナ東部で攻勢を強めていて、ウクライナ陸軍のシルスキー司令官は11日、ロシア側が追加の突撃部隊を投入するなどして攻撃を仕掛けているとSNSに投稿しました。
イギリス国防省は11日、この1週間で最も激しい戦闘が続いているのはドネツク州のアウディーイウカだとした上で、ロシア軍の攻撃は受刑者などで構成された部隊「ストームZ」による突撃が中心だと分析し、ロシア軍が引き続き多大な犠牲をいとわず攻撃を繰り返していることをうかがわせています。
●ゼレンスキー氏訪米 米政府の支援遅れはプーチン氏「願ったりかなったり」 12/12
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が11日、米ワシントンを訪問し、ウクライナへの支援継続を強力に訴えた。米連邦議会でウクライナ追加支援の法案成立が滞る中、ゼレンスキー氏は米国防大学で米軍関係者を前に演説し、ウクライナは自国の自由のためだけでなく、世界の民主主義のために戦っているのだと強調した。ゼレンスキー氏にとって、ロシアとの戦争が始まって以来、3度目の訪米となる。
米連邦議会の上院は6日、ウクライナへの軍事支援を含む大型支出法案を51対49で否決した。野党・共和党がウクライナ支援と引き換えに求めていた、アメリカ国境の警備強化をめぐって合意に至らなかった。1060億ドル(約15兆6000億円)の支出案には、ウクライナ支援のほか、イスラエルと台湾への軍事支援が含まれていた。
ゼレンスキー氏はワシントンの国防大学での演説で、支援法案の成立を阻止している野党・共和党を批判し、米政府の追加支援が遅れることは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって「願ったりかなったり」だと強調。「米議会で課題が解決されない状態に盛り上がる人がいるとするなら、それはプーチンと、プーチンの病んだ一味だけだ」と述べた。
ゼレンスキー氏は12日にホワイトハウスでジョー・バイデン大統領と会談し、同様に援助継続を訴える見通し。さらに、ウクライナへの軍事支援継続に否定的なことで知られる、マイク・ジョンソン下院議長(共和党)とも会談予定。
ホワイトハウスは10日、ゼレンスキー氏の訪米についてコメントを発表し、「ロシアの残酷な侵略から自分たちを守るウクライナの人たちを、アメリカは揺るぎなく支えるのだと強調するため」バイデン大統領がゼレンスキー大統領をホワイトハウスに招いたのだと説明。「ロシアがウクライナへのミサイルやドローン攻撃を強化する中、ウクライナが何を緊急に必要としているか、そしてこの緊急時にアメリカの支援継続がいかに重要かを、両首脳は協議する」と述べていた。
上院の共和党議員団は、メキシコとの国境警備強化の重要性を訴え、600億ドル相当のウクライナ支援継続に賛成しなかった。共和党議員たちは、アメリカに政治亡命を求める移民対策の改正も求めている。
共和党のジェイムズ・ランクフォード上院議員(オクラホマ州選出)は11日、米NBCニュースに対して、「正直言って、我々はアメリカで実際に何が起きているかを見ずに、外国を助けたりしない」のだと述べた。連邦議会がウクライナの利益を優先してアメリカの国境警備を無視するなど、有権者は望んでいないとして、ゼレンスキー氏の訪米で意見を変える議員はいないだろうと話した。
バイデン政権は難民制度について一定の変更を受け入れる姿勢を示しているが、こうした譲歩は与党・民主党内のリベラル派の怒りを買う恐れがある。民主党は現在、パレスチナ自治区ガザ地区での戦争においてバイデン政権がイスラエルを支持し続けていることを受け、党内の不一致が拡大している。
バイデン大統領は議会に、ウクライナ追加支援を可決するよう強く訴えている。6日のテレビ演説では、「プーチンがウクライナを奪えば、彼はそこで終わりになどしない」と警告した。
今年6月に始まったウクライナの反転攻勢は、西側諸国が期待したほど戦況を好転させないまま膠着(こうちゃく)し、ウクライナに軍事支援を続けてきた西側の一部では支援疲れの様相が出ている。
●ウクライナ長期支援で協調を 結束がプーチン氏の圧力に―ショルツ独首相 12/12
ドイツのショルツ首相は11日、ロシアが侵攻を続けるウクライナに、戦闘が長期化しても「必要な限り支援を続ける」方針を西側諸国が協調して打ち出すことが、ロシアのプーチン大統領への圧力になると訴えた。ベルリンを訪れたオランダのルッテ首相との共同記者会見で述べた。
ショルツ氏は「当初想定したよりも戦争は長く続く」との見方を表明。その上で「プーチン氏は明らかに(支援国の)意欲の低下を望んでいる。私たちが彼に、それは『当てにならない』と言うことが、重要なメッセージになる」と強調した。
●ポーランド議会、新首相にトゥスク氏選出 8年ぶり政権交代 12/12
ポーランド議会で11日、右派の与党「法と正義」(PiS)のモラウィエツキ首相に対する信任投票が行われ、不信任が多数を占めた。これを受け議会は欧州連合(EU)大統領を務めたトゥスク元首相を新首相に選出した。8年ぶりの政権交代となる。
トゥスク氏の新首相就任を議員248人が支持。201人が反対した。トゥスク氏は採決後「この歴史的な変化を決断した全ての人に感謝する」と語った。
●徒歩で突撃のロシア歩兵、ウクライナは戦車で迎撃 東部激戦地 12/12
ロシアがウクライナで拡大した戦争が3年目に入ろうとするなか、両国のほとんどの戦車は戦車本来の戦い方をしなくなっている。ドローン(無人機)や砲門につけ回され、地雷に取り囲まれている両軍の戦車は、前線の数km後方にとどまり、主砲の角度を上げ、乗員からは見えない目標に向けて射撃することが多くなっている。言い換えると、戦車はりゅう弾砲のような使われ方をしている。
だが、ある重要な戦域はその例外だ。ウクライナ東部ドネツク州にあるウクライナ軍の要衝、アウジーイウカ方面である。ロシア軍はこの2カ月、占領しているドネツク市のすぐ北西にあるこの町を攻略するため、使える連隊や旅団をこぞって投入してきた。
ウクライナ側は、進撃してくるロシア軍部隊に代償を払わせるため、戦車を配備した。そして、これらの戦車はまさしく戦車の戦い方をしている。ミサイルなどの攻撃にさらされながら、ロシア軍の突撃部隊に接近し、砲撃を加えているのだ。
「戦車のおかげで防衛線を維持できています」。あるウクライナ兵はトルコの国営アナドル通信の取材にそう語っている。
先週、ソーシャルメディアで共有された映像は、ウクライナ軍の戦車によるこうした反撃の様子を捉えていた。ドローンから撮影されたこの動画では、アウジーイウカの北翼にある巨大なコークス工場のすぐ東で、ウクライナ軍の第116独立機械化旅団に所属する戦車が、家屋に立てこもるロシア軍の歩兵チームに迫っている。
T-64と見受けられる戦車は、簡単にロシア軍に狙われないように、急速に前進しては後退、そしてまた前進という動きをとりながら、主砲の125mm滑空砲で数回射撃し、いくつかの建物を破壊していく。途中、ロシア側から対戦車ミサイルとみられる攻撃に見舞われるが、すんでのところで被弾を免れている。最終的にロシア軍の歩兵は負けを悟ったらしく、家屋からそそくさと徒歩で逃げ出している。
この小競り合いは、機動性、火力、防護という戦車の強みをまざまざと示している。同時に、歩兵は塹壕(ざんごう)に身を隠せなかったり、味方の戦車による支援がなかったりした場合、戦車の攻撃にどれほど弱いかということも露わにしている。
アウジーイウカ方面に展開している総勢4万人とされるロシア軍部隊も、戦車などの装甲車両を保有していないわけではない。事実、最近は戦車同士の一騎打ちという珍しい一幕もあった。
しかし、ロシア側は、攻撃に際して長い車列を組むのはあまりに脆弱(ぜいじゃく)だということを、アウジーイウカ周辺で大きな犠牲を払って学んだ。攻略戦の最初の1カ月、ロシア軍はアウジーイウカに向けて次々に縦隊を送り込んでは、ウクライナ側が町の南と東、北に用意していたキルゾーンで仕留められた。
ウクライナ側の地雷や大砲、ドローンによる攻撃で、ロシア軍の縦隊は戦車や歩兵戦闘車、その他の車両を合計で数百両失った。11月中旬、ロシア軍の指揮官は戦術を変更し、歩兵を車両から降ろして戦わせるようになる。これは、ウクライナ軍が今夏、下車した少人数の歩兵チームで成功を収めたのを参考にしたのかもしれない。
ウクライナの分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは11月24日、アウジーイウカ方面の戦闘について「ロシア軍は全体的に車両の使用を減らし、使う場合も投入数を絞っている」と報告。「小規模な戦術グループの使用が顕著に増えている」とも指摘している。
だが、ロシア軍のこれらの歩兵部隊は、支援がない場合はウクライナ軍の経験豊富な戦車乗員の餌食になる。ウクライナ軍の指揮官もその点を理解しているようだ。ウクライナ軍はアウジーイウカ方面に少なくとも5個旅団の一部あるいは全部を配置した。うち4個は機械化旅団で、それぞれ、十数ないし30両の戦車を保有する1個戦車中隊もしくは大隊が置かれている。1個は戦車旅団で、こちらは数個戦車大隊を擁する。
ウクライナ側が実際のところ、どのくらいの数の戦車をアウジーイウカの防衛戦に投入しているのかは不明だ。数十両かもしれないし、数百両にのぼるのかもしれない。いずれにせよ、古いT-64やそれよりは新しいT-72、ドイツ製のレオパルト2など、いろいろな戦車のごたまぜなのは間違いない。ロシア軍から鹵獲(ろかく)したT-90も数両含まれるかもしれない。だが、支援のない歩兵分隊は、これらのどの戦車にもかなわない。
もっとも、ウクライナ軍のこうした戦車戦術によって、アウジーイウカが生き延びることが保証されるとは限らない。ロシア側がアウジーイウカ戦域に動員している兵力はウクライナ側より数千人以上多い。ロシア軍はこの方面で1日に数百人損耗していると言われるが、攻撃の手を緩める気配はない。
英国防省によると、アウジーイウカでの戦いによって、ウクライナの1000km近くにおよぶ前線全体でのロシア軍の損耗は90%増えた。
また、米首都ワシントンにあるシンクタンク、戦争研究所(ISW)は「ロシア軍はウクライナの前線全体で、ロシアが現在、新たに生み出している兵力をすべて失うのに近いペースで損失を出している可能性がある」と分析している。
しかし、これは裏を返せば、ロシア軍では、経験のある兵士が殺傷されるのと同じくらいの数の新兵が、毎日投入されているということでもある。ISWは、ロシアは「ウラジーミル・プーチン大統領が国内での影響を吸収する用意があり、またそうできる限り」、アウジーイウカでの作戦を続けられそうだとの見方も示している。
半面、ロシア軍は新たに動員する兵力をすべてアウジーイウカに費やすことで、現在もしくは近い将来、ほかの場所を攻撃する機会を失っている可能性もある。しかもロシア側はこれまで、アウジーイウカ周辺でごくわずかしか前進できていない。
ISWによると「ロシア軍が作戦を継続する間、ロシアの戦力造成の取り組みが現在のペースなら、ロシアは高い損耗率のために、ウクライナにいる既存部隊を完全に補充・再編したり、新たな作戦・戦略予備を編成したりできない可能性が高い」という。
ロシア軍がほかの作戦のために戦力をつくり出していくには、アウジーイウカの攻略に成功するか、それを断念するしかない。だが、ウクライナ軍の戦車が立ちふさがる限り、アウジーイウカを落とすのは容易ではないだろう。
●IMF、ウクライナ向け9億ドル融資承認 大統領とトップ会談 12/12
国際通貨基金(IMF)理事会は11日、ウクライナへの156億ドルの融資プログラムから9億ドルを拠出することを承認した。ゲオルギエワ専務理事は訪米しているウクライナのゼレンスキー大統領と会談した。
IMFは先月、4年間の融資プログラムの進捗状況を巡る審査でウクライナ政府と事務レベルの合意に達していた。理事会の承認を受けて9億ドルの融資に道が開かれ、IMFによる今年のウクライナ支援額は45億ドルとなる。
ゲオルギエワ氏は声明で、ウクライナ経済はロシアの侵攻に伴う甚大な社会・経済的コストにもかかわらず強靭さを示していると述べた。
先行きについては回復の継続が見込まれるとしつつ、主に戦争に絡む極めて高い不確実性による大きなリスクがあると指摘。「譲許的な条件の対外融資がタイムリーで予測可能な形で継続されることが重要」とも強調した。
●貿易のハブとして急成長を見せるキルギス経済 12/12
外務省の招聘(しょうへい)事業で訪日中のキルギス大統領府付属国立戦略研究所(NISS)のデニス・ベルダコフ顧問に、ロシアによるウクライナ侵攻のキルギス経済や対外経済戦略への影響について話を聞いた(12月6日)。概要は次のとおり。
(問)ロシアのウクライナ侵攻後のキルギスの経済情勢やビジネス環境の変化について。
(答)良い方向に変わった。中国、ロシア、欧州、韓国との貿易高が増えた。キルギスは長いこと対外債務の償還に悩まされていたが、(2023年は)国家予算が黒字になり、社会プログラムの充実に向ける資金ができた。
キルギスは中国、ロシア、欧州、中東をつなぐ貿易のハブになりつつある。多くの国と貿易協定を結んでいることが理由だ。ロシアとはユーラシア経済連合(EAEU)加盟国同士、中国とは「グリーン・コリドー」(注1)の設置が議論されている。欧州からはGSPプラス(注2)の適用を受け、約6,400品目の関税の優遇がある。2023年の9カ月間で航空貨物輸送量が1,200%の伸びを見せ、航空機の新規購入や空港の新規建設を計画している。外国資本による倉庫やドライポートの建設も盛んだ。
(問)貿易拡大要因として何が挙げられるか。
(答)まず、今までモスクワ経由でキルギス向けの事業を行ってきた外国の大企業がキルギスに事務所を開設し、ビジネスを直接行うようになった。それから、ロシアとウクライナから移住してきた富裕層やIT技術者による高級品への需要がある。また、仮想通貨がこの1年で大きく普及し、中国との決済が現金から仮想通貨に移行しつつある。
(問)国の対外政策や経済戦略の影響はあるか。また、国の方針は今後どうあるべきか、日本との関係も視野に入れて聞きたい。
(答)基本的に、国はビジネスに介入しないという方針だ。
この1年半で中央アジア諸国の統合が進んだ。1つの市場を形成することで対外的により魅力的になれるという共通認識ができた。中国からロシア、欧州を結ぶ新シルクロード構想(注3)が半年前に本格稼働し、中央アジアはその一部だ。今、中央アジア5カ国間の対話がかつてないほど高まっている。
エネルギー分野では、急激な経済発達によって電力不足が起き、対策として首脳レベルで中国からの投資と、ロシアからのガス供給を合意した。欧州、韓国、サウジアラビアからの水力、風力、太陽光発電への投資もある。数年のうちにキルギスは世界で一番安くエネルギーを生産できるようになり、日本をはじめとする外国企業にとって製造拠点として魅力的な国になるだろう。
キルギスの主要貿易相手国は中国、ロシア、トルコなどだが、地経学的なバランスという意味で日本への関心が高い。
(注1)キルギスと中国の農産物貿易と郵便分野で、迅速な国境通過の促進を目指す協力拡大が進んでいる。
(注2)EUの一般特恵関税(GSP)の優遇制度のGSPプラスは、持続可能な開発や人権保障などに関連する一連の国際条約を批准・準拠する後発開発途上国(LDC)・地域に対して、EUがさらなる特恵措置を付与する制度。キルギスには2016年に適用された。
(注3)中国がカザフスタン、キルギス、その他の国々と協力して推進するユーラシア大陸横断輸送システム構想で、中国から欧州諸国に物資や乗客を陸路で輸送する。ユーラシア・ランドブリッジとも呼ばれる。
●ネパールから200人入隊か=ロシア軍に、6人の死亡確認 12/12
ネパールのダハル首相は11日、同国からロシアへと渡った推定200人がロシア軍に加わっていると明らかにした。先週、ウクライナ侵攻を続ける同軍所属のネパール人兵士6人が戦闘で死亡したことが判明。現状を調べていた。
戦争が長期化する中、ロシア軍が兵力を外国人の雇い兵で補っている実態の一端を示すケースだ。ネパール政府は自国民を採用せず、入隊者も送り返すようロシア政府に要請している。
約200人は観光や就学のビザでロシアに入ったという。報酬やロシア国籍の取得が目当てとみられる。国内産業の乏しさから国外に雇用を求めるネパール人は多い。
●ウクライナ軍 「キーウへの弾道ミサイル 8発迎撃」 12/12
戦況の膠着(こうちゃく)が伝えられるなか、ウクライナ軍はロシア軍が発射した長距離弾道ミサイルを迎撃したと明らかにしました。
ウクライナ軍は11日、首都キーウに向けてロシア軍が発射した長距離弾道ミサイル8発をすべて迎撃したと発表しました。
迎撃の際、落下したミサイルの破片で住民ら4人がけがをしたということです。
ロシア軍は7日にも首都キーウに大規模な攻撃をしていて、イギリス国防省は10日、「冬の戦闘で使用すべく、ロシアがミサイルを備蓄していることはほぼ確実だ」という分析を公表していました。
また、ウクライナ陸軍のシルスキー司令官は自身のSNSで、「ウクライナ東部の状況は依然として厳しい。敵は攻撃を続けている」とウクライナ軍が東部で苦戦していることを明らかにしています。
●「ウクライナには供与しない」装甲車100台提供に大統領が拒否権発動 12/12
ブルガリアのルメン・ラデフ大統領は2023年12月4日、ウクライナへのBTR-60装輪装甲車100台の供与に関して拒否権を発動しました。
BTR-60装輪装甲車はブルガリア陸軍で40年以上に渡り使用されていた旧ソ連の車両になります。長くブルガリア内務省が保管していたものを、ロシアによる侵攻が続くウクライナへ供与する目的で、2023年11月13日にキーウで無償提供に関する協定が調印されていました。
拒否の理由に関して、ブルガリア共和国大統領府は「議会が供与の具体的な内容を十分に理解していないため、供与される装備が旧式のものであるかどうかを客観的に評価することができない」としています。
同国の国境警備隊は現在、必要な装備が十分ではなく、2024年度の予算に草案に装甲車や装輪装甲車の調達するという明記もなかったことから、ラデフ大統領は同車両を国境警備隊の装備として転用するべきであると見解を述べたようです。
BTR-60は車体後部に水上推進用のウォータージェットを装備し、地上だけではなく水上航行も可能な装輪装甲車です。
なお、この拒否権は現地時間の12月8日時点には議会で否決され無効となっており、12月12日現在は供与の協定は維持されています。 
●プーチン氏 “核”をちらつかせ国内世論の引き締めか 「脅しではなく“警告”」 12/12
核爆弾のレプリカや“核のボタン”が付いた模擬制御盤などの展示を見学するプーチン大統領の様子が4日公開された。
真剣な眼差しで説明に聞き入るプーチン大統領だが、このタイミングで映像を公開する意図は何なのか。
ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎()名誉教授に、現在のロシア情勢とプーチン大統領の思惑を聞いた。
ウクライナ膠着状態への焦り
――核兵器に関する施設を見学した映像を公開した意図は?
最大の意図は、プーチン大統領は来年3月の大統領選挙を前にして、非常に焦ってきています。
なぜかと言いますと、来週半ばに3月の大統領選に関する告示が行われて、その直後の木曜日(14日)にプーチン氏は正式に立候補を表明すると言われています(※プーチン氏は8日に大統領選に出馬する意向を表明している)。
勝利は間違いないと見られていましたが、ウクライナとの戦いが膠着化する中、国内情勢はプーチン氏にとって安泰の方向に必ずしも流れていないという雰囲気に変わってきています。
そこで、大規模なロシア展示会に行って、核使用の映像を見せつけることによって国内世論の引き締めに走っていると考えられます。
要するに、来週の木曜日(14日)に大統領選挙への正式な立候補を表明すると言われる中、それに向けてのデモンストレーションだったのではないかと思います。
――他国に対する“力の誇示”の意味合いは?
ウクライナとの戦争だけでなく、中東情勢もかなり緊迫化しています。
そうした中でロシアは核保有国で、強いロシアであるということを誇り、影響力を発揮するためにこのタイミングで映像を流したと言えます。
「核兵器の使用は既定路線」
さまざまな場面で核をちらつかせるプーチン大統領。
中村名誉教授は、単なる脅しではなく“警告”として受け止めるべき段階に来ていると話す。
――核施設の見学で推察できることは?
私の知る限りでは、昨年来からプーチン政権の内部では、「核兵器の使用は既定路線」という話がなされているようです。
実際に核を使用するかどうかはわかりませんが、それに向けて1つ1つ段階を踏んできているのではないかと想像します。
――10月に習近平国家主席と会談した時も将校が核のカバンを持っていたが?
プーチン政権は欧米を相手に、すでに核を使わざるを得ない状況に追い込まれてきている様子をさまざまな場面で世界に見せつけてきました。
これは単なる脅しに留まらず、むしろ警告として受け止めるべき段階に来ているのではないかと思っています。
原発と戦術核の2段構想
ウクライナとの戦いが膠着する中、ロシアによる核を使った攻撃は“2段構え”で想定されているという。
――ウクライナに対する核使用も示唆している?
現実的に今大きな問題になってきているのは核使用です。
中でもウクライナ国内のザポリージャ原発において、緊迫度合いが非常に高くなってきています。
冷却水のための電源が喪失状態になったという情報があります。
これは核兵器というよりも、原発を使ったウクライナ、さらに欧米への攻撃が差し迫ってきている状況です。
――原発を使った攻撃?
昨年3月以降、ロシアはザポリージャ原発を軍事的に制圧しています。
そこに2000人近いロシア兵たちがいるわけですが、この原発にロシアはすでに爆弾を仕掛けたと言われています。
この原発を爆発させることによって核物質によるウクライナ国内、さらには欧米、ヨーロッパへの攻撃を仕掛けようという意図が見えます。
つまり、攻撃は2段構えです。
1つはザポリージャ原発を使ってのウクライナ攻撃で、これはヨーロッパにも大きな被害を及ぼします。
2つ目は、戦術核を使って、規模を限定した形でのウクライナ国内への攻撃です。
具体的には、ベラルーシに配備しているロシアの戦術核をウクライナの都圏・キーウに打ち込むというシナリオです。
この2つが想定されています。
●経済制裁にあえぐロシア、航空機トラブルが一年で3倍に──整備不良 12/12
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月にウクライナに本格侵攻を開始したことを受けて、西側諸国はロシアに厳しい経済制裁を科した。なかでも航空機を対象とした制裁は、航空業界に多大な影響を及ぼしている。
航空機の故障はこの1年で3倍に増加。またこの数カ月は、交換部品の不良が原因の技術トラブルにより、国内便が緊急着陸する事例が相次いでいる。
米政府はロシアの航空会社が運航する航空機を制裁対象にしており、各航空機メーカーもロシアに対する交換部品や新たな航空機の納入を停止している。
本誌がまとめたデータによれば、ロシアでは2023年9月〜12月8日までに民間航空機のトラブルが60件発生しており、これには緊急着陸やエンジンからの出火、エンジンの故障、その他の技術トラブルから航路変更を余儀なくされた事例などが含まれる。本誌の調べでは、こうした事例が9月に15件、10月に25件、11月に12件と12月は8日までに8件あった。
これに先立ちロシアの独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は、2023年1月〜8月までに、ロシアの航空会社が運航する民間機について120件以上のトラブルがあったと報道。本誌のデータと合わせると、2023年に入ってからロシアでは180件超の航空機トラブルが発生していることになる。
重要なソフトを更新できないまま飛行
本誌の調べでは、2022年の航空機トラブルは60件で、ロシアではこの1年で既に航空機の故障が3倍に増えている。
ノーバヤ・ガゼータは2023年の故障について、エンジントラブルが全体の30%、着陸装置の故障が25%と見積もっている。ブレーキやフラップ、空調システムや防風ガラスにまつわるトラブルも多く、それぞれ故障原因の3〜6%を占めた。
ロシアの航空機の故障事例は全てが公開されている訳ではないため、実際は本誌の見積もりよりも多いとみられる。本誌はこの件についてロシア外務省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
制裁の一環で、アメリカとEUはロシアの航空会社にリースした航空機の返還を求めているが、ロシア政府はこれを回避するために、国内の航空会社にリース機をロシア籍に登録し直すよう呼びかけている。この件についてブルームバーグは3月の記事の中で、重要なソフトウエアの更新も、耐空性を保証するために義務づけられている保守点検もせずに航空機を飛ばし続けていることを意味する、と指摘している。
危ないロシアの空
航空産業を維持するために、ロシアはそのほかの制裁を迂回し、欧米製の交換部品や機材の代替品を調達する方法も模索している。
ロシアのビタリー・サベリエフ運輸相によれば、ロシアは2022年2月以降、欧米の制裁措置により旅客機76機を失ったという。
12月も、最初の8日間で早くも8件の航空機トラブルが報告されている。12月8日には、ロシア南部シベリアのノボシビルスクでボーイング737型機がエンジントラブルのため緊急着陸した。ロシアのテレグラムチャンネル「Baza」は、乗客・乗員あわせて176人に怪我はなかったと報告している。
この前日にはロシア連邦を構成するブリャート共和国の首都ウラン・ウデから離陸したロシア機のエンジンが火を噴く事故が発生。ブリャート共和国のアレクセイ・ツィデノフ首長は、中国・福建省の章州に向かっていたツボレフTU204貨物機について、自身のテレグラムチャンネルで「その後着陸し、怪我人はなかった」と述べた。
ツィデノフによれば、ロシアの航空会社「アビアスタル-TU」が保有する同貨物機は、ウラン・ウデにあるバイカル国際空港から離陸した際にエンジンから出火した。同機は安全に着陸し、乗員5人に怪我はなかったということだ。
保守点検用資材が調達できない
6日にはロシア西部のカザン発モスクワ行きの旅客機がエンジンの故障によりモスクワのシェレメチェボ空港に緊急着陸。1日と2日には、メンテナンスの不備から航空機5機が故障した。
ロシア乗客連合のキリル・ヤンコフ代表は、ロシアのウェブサイト「74.RU」に対して、民間航空機のトラブルが増えている背景には、交換部品の不足と保守点検の問題があると述べた。
ヤンコフは「以前と比べて、多くの航空機の交換部品や保守点検用資材を入手するのが困難になっている。そのため、メーカーの認定を受けていない交換部品が一部の航空機に使われ始めている」と述べた。「航空機の墜落事例はまだ増えていない。だが犠牲者を出さない事故の数は顕著に増えている」
欧米の制裁のせいで空の旅の安全性が脅かされている、とヤンコフは言った。
● 英 “ウクライナ産農産物の輸送ルート確保へ 掃海艇を提供” 12/12
ロシアによる軍事侵攻の影響で、黒海を通じたウクライナからの農産物の輸出が停滞する中、イギリス国防省は11日、輸送ルートの安全確保のため掃海艇をウクライナ側に提供すると発表しました。
イギリス国防省がウクライナ側に提供するのは機雷を除去する掃海艇2隻です。
イギリスは北欧のノルウェーとも協力して、黒海の安全保障を強化するための訓練や装備などを長期的に提供するとしています。
ロシア軍はこれまでウクライナ産の農産物の輸出を阻止しようと、黒海に面したウクライナの港の周辺で、機雷などを使って民間の船舶を攻撃しようとしている兆候があるとイギリス政府が指摘していました。
掃海艇の提供によってウクライナからの農産物の輸出ルートの安全確保を目指したい考えです。
ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSへの投稿で、感謝の意を示すとともに「農産物輸出は世界全体の食料安全保障に寄与するものだ」として黒海の安全保障は世界の問題でもあると訴えています。
一方、ロシアでは11日、一部の兵士などに対し要請に基づいて、パスポートを政府に提出するよう求める法律が施行されました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「兵役逃れを防ごうとするのが目的だ」と指摘していて、締めつけ強化によって兵士を確保するねらいもあるとみられます。
●反転攻勢「希望かなわず」 ロシア軍、各地で猛攻―ウクライナ 12/12
ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は11日付の英BBC放送とのインタビューで、ロシアの占領地奪還に向けたウクライナ軍の反転攻勢について「希望はあったが、かなわなかった」と述べた。半年余り続けた作戦が、ロシア軍が築いた強固な防御網に阻まれ、想定より戦果が挙がらなかったことを認めた。
ダニロフ氏はその上で、「それは勝利がわれわれの側にないことを意味しない」と強調。領土奪還に向けた意欲を改めて示した。
一方、ロシアは各地で猛攻を仕掛けている。ウクライナ軍参謀本部は12日、ロシア軍に包囲されている東部ドネツク州アウディイウカ周辺で過去1日に計42回の攻撃を受けたと報告。交戦回数は他の地域と比べて突出していた。
英国防省も11日、先週を通じてアウディイウカが「前線における最も激戦の地」となり、日によっては戦闘全体の4割近くがこの付近に集中していたと分析した。ロシア軍の1日平均の死傷者数は11月時点で過去最多の931人と推定されたが、攻撃の手が緩む気配はない。

  

●プーチン政権批判の急先鋒 ナワリヌイ氏が行方不明 12/13
来年3月に大統領選挙を控えたロシアで、プーチン政権批判の急先鋒として知られるナワリヌイ氏が1週間にわたり、行方が分からなくなっていると関係者が明らかにしました。
ナワリヌイ氏の広報担当者は12日、SNSでナワリヌイ氏と1週間におよび連絡が取れていないと明らかにしました。
ナワリヌイ氏はこれまで、モスクワからおよそ240キロ東にある刑務所に収監されていました。
しかし11日、ナワリヌイ氏の弁護士は、刑務所の担当者からナワリヌイ氏は収監者のリストに載っていないと告げられたということです。
独立系メディア「バザ」はナワリヌイ氏が新たな容疑をかけられ、捜査のためにモスクワに移送されたと報じましたが、詳細は分かっていないとしています。
ナワリヌイ氏の側近のヴォルコフ氏はSNSで、連絡が途絶えたのがナワリヌイ氏の陣営が反プーチンキャンペーンを開始した時期と重なると指摘し、「偶然の可能性は0%で、ロシア大統領府が100%、直接、政治的にコントロールしている」と述べました。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日、「ナワリヌイ氏が現在どこにいるのか知らない」と述べました。
●ロシア 政権批判のナワリヌイ氏が所在不明 支援団体が明かす 12/13
ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、刑務所に収監されている反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏について、支援団体はナワリヌイ氏との連絡が途絶え、所在が不明となっていると明らかにしました。
アレクセイ・ナワリヌイ氏は、ロシア政府の関与が疑われる毒殺未遂事件に見舞われ、おととし療養先のドイツから帰国した際に過去の経済事件を理由に逮捕され、実刑判決を受けて刑務所に収監されています。
ナワリヌイ氏を支援する団体の広報担当者は11日、およそ1週間にわたりナワリヌイ氏との連絡が途絶えているとSNSなどで明らかにしました。
ナワリヌイ氏は、モスクワ近郊のウラジーミル州の刑務所に収監されていたとされますが、刑務所のリストには登録されておらず、職員は移送先も明かさず、所在が不明となっていると訴えています。
ナワリヌイ氏をめぐってはことし8月、ロシアの裁判所が過激派団体を創設した罪などで新たに禁錮19年の判決を言い渡し、管理がさらに厳しい施設に移送されるとみられてきました。
ナワリヌイ氏は今月7日、来年3月のロシア大統領選挙に向けて、支援団体を通じて、プーチン大統領以外の候補者に投票するよう呼びかける運動を始めたばかりでした。
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は12日、ナワリヌイ氏について「受刑者の運命や所在地について、監視する意図もなければ可能性もない」と述べ、把握していないとしています。
●ロシアの反政権活動家・ナワリヌイ氏、所在不明 12/13
ロシアの反政権活動家、ナワリヌイ氏の広報担当者は11日、ナワリヌイ氏が収監先のモスクワ東方ウラジーミル州の刑務所から別の場所に移され、行方不明だと明らかにした。ペスコフ大統領報道官は12日「囚人の運命や収監先を追跡する意図も可能性もない」と記者団に述べた。
2021年から収監されているナワリヌイ氏は今年8月、過激派団体を創設したとして新たに懲役19年の判決を受け、9月に判決が確定。管理が厳格な施設に移される可能性が指摘されていた。
ロシアの次期大統領選をめぐって、プーチン大統領は8日、立候補を表明したが、ナワリヌイ氏は直前の7日、プーチン大統領以外の候補に投票するよう通信アプリで呼びかけていた。選挙を控え、政権側が反対派への締め付けを強化している可能性がある。
●戦時下のロシア大統領選挙戦始まる 12/13
ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻を続けるなか、来年3月の大統領選挙に立候補を表明しました。石川一洋専門解説委員に聞きます。
Q プーチン大統領の周りにいる人々は
A 軍事侵攻の参加者に英雄勲章を授与する軍事色の強い式典です。ロシアが一方的に併合したウクライナのドネツクの司令官がまず「あなたしかいない、ぜひ」と立候補を要請し、戦死した英雄の母も大統領支持を表明、国民の要請に応えるという体裁でプーチン大統領は立候補を明らかにしたのです。自ら始めたウクライナ軍事侵攻を“祖国防衛戦争”・正義の戦いであるとすり替え、正当性を国民に問う選挙とするつもりです。
Q 選挙の状況は?
A 大統領陣営は、投票率70%、得票率80%、これまで一度も達成したことのない高い目標を掲げています。一方的に併合したウクライナの占領地でも選挙を強行するつもりで、ロシアの実効支配を示したい思惑でしょう。14日には、去年中止したテレビを通じた「国民との対話」を行います。あらゆる質問に答える“国民に近い”大統領という演出をするでしょう。
Q 戦争は、選挙に影響しないのでしょうか?
A モスクワではなかなか見えませんが、地方の中心都市でも町の中に「わが町の英雄」という記念碑が建てられ、戦死者の墓の数も増えて、生活の中に戦争の影が濃くなっています。ロシアの独立系世論調査機関によりますと、今大統領に聞きたいことのトップは、「いつこの軍事作戦が終わるのか」「いつ平和が来るのか」という戦争の終結の時期について尋ねる質問です。この質問にプーチン大統領が、14日の“国民との対話”でどのように答えるのか、少数派ですが20%は存在する戦争反対の声が選挙の中で広がりを見せるのかが注目です。
ロシアが占領地で選挙を強行することにウクライナは、「無効な選挙だ」と強く反発し、また選挙戦の中で、形ばかりの“平和攻勢”をプーチン大統領が仕掛けてくることを警戒しています。
選挙そのものが情報戦の側面があることを忘れてはなりません。
●UAEで開催のCOP28の裏で中東外交、蠢く「化石燃料の独裁者」プーチン 12/13
UAEはロシアにとって中東最大の貿易パートナー
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は4機のロシア戦闘機に護衛されて6日、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開かれているアラブ首長国連邦(UAE)を訪れた。ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーンUAE大統領と会談し、両国の多角的な協力関係の拡大と中東情勢を中心とした国際問題を協議した。
ロシア側からセルゲイ・ラブロフ外相、アンドレイ・ベロウソフ第1副首相、デニス・マントゥロフ、アレクサンドル・ノヴァク各副首相、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官、チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長、中銀総裁、国営企業のロスコスモス(宇宙開発)、ロスアトム(原子力)、ロスボロネクスポート(武器輸出)関係者が加わった。
ムハンマド大統領は「親愛なる友プーチン、UAEへようこそ。またお会いできてうれしい。過去数年にわたり両国の国家と国民の相互利益のためにさまざまな分野で関係を発展させてきた。UAEは中東および湾岸地域におけるロシアの最大の貿易パートナーだ。UAEはロシア経済への主要な投資国で非石油部門への投資は昨年103%も増加した」と強調した。
これを受けプーチンは「私たちを招待し、友好的な歓迎をしてくれたことを感謝する。UAEは建国52周年を迎えた。ソ連は独立をいち早く承認した。昨年の貿易成長率は67.7%で、今年はさらに伸びる。投資活動も同様だ。昨年はロシアから90万人強の観光客がUAEを訪れた。アラブ・パレスチナ・イスラエル紛争の状況についても話し合う」と応じた。
ロシア、サウジ関係は「前例のないレベル」
プーチンはサウジアラビアも訪れ、首相のムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談し、共同声明を採択した。皇太子は「私たちは中東を含む世界の安定と発展を促進するために協力する多くの共通する関心事やテーマを見つけられる。過去7年間、エネルギー分野、投資、農業で多くのことを成し遂げてきた。大統領は大切なお客様だ」と歓迎した。
西側と対立するプーチンは「モスクワで会うことを期待していた。状況が計画に影響を与えたが、友好関係の発展を妨げるものは何もない。UAEを訪問する予定だった私はサウジの招待を受け、過去7年間にわたって精力的に交流を深めてきた友人に会いに来た。次の会談はモスクワで行われることを期待している」と「前例なきレベル」に達した関係を強調した。
ウクライナの被占領地域からロシアへ子どもを強制移送し、養子縁組をしたとして国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているプーチンはICC加盟国に容易に訪問できなくなった。その点、UAEもサウジもICCには加盟していない。「化石燃料の段階的廃止」を成果文書に盛り込むかどうかが争点のCOP28を妨害する狙いもプーチンの日帰り中東訪問にはあった。
モスクワに戻ったプーチンは翌7日、ウクライナ戦争でカミカゼドローン(自爆型無人航空機)シャヘド136/131の提供を受けるイランのエブラヒム・ライシ大統領をモスクワに迎え、5時間超にわたって会談した。セルゲイ・ショイグ露国防相も加わった。
プーチンは「昨日、私はあなたの国の領空を飛行中にテヘランに着陸したかったが、ライシ大統領はすでにモスクワに飛んでいると言われた」と語った。
イラン「シオニスト政権の手で6000人以上の子どもが殺された」
プーチンはライシ大統領との会談で、「昨年貿易は20%増えた。(カスピ海沿岸ラシュトとアゼルバイジャン国境に近いアスタラを結ぶ全長162キロメートルの)南北鉄道の建設に至っている。パレスチナ情勢について意見交換することは重要だ」と強調した。昨年12月までにイランはドローンを1700機以上提供し、ロシアは国内でイラン製モデル6000機を生産する計画と言われる。
ライシ大統領は「近隣諸国、特に友好国であるロシアとの関係を促進するわれわれの政策の中で交流が非常に順調に進んでいる。ガザではシオニスト政権の手で6000人以上の子どもたちが殺された。こうした犯罪はすべて米国や西側諸国によって支援されている。10分ごとに1人の子供が亡くなっている。爆撃は一刻も早く止めなければならない」と訴えた。
ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国(BRICS)は今年8月、ヨハネスブルクで開催された首脳会議で約10年ぶりにUAE、サウジ、イラン、エジプト、エチオピア、アルゼンチンの6カ国を受け入れ、BRICSは11カ国体制となることが決まった。またイランは、中国とロシアなど旧ソ連諸国が中心となって設立した「上海協力機構」のメンバーで、UAEとサウジは対話パートナーでもある。
プーチンはBRICS、上海協力機構、そして石油輸出国機構(OPEC)に関係する産油国3カ国――UAE、サウジ、イラン――に焦点を当てている。米欧と対立するプーチンはますます中国の習近平国家主席への依存を深めており、プーチンは「中露関係は史上最高」と自画自賛してみせるものの、実態は「中国のガソリンスタンド」「資源植民地」と化しているとの見方も強い。
そうした中、プーチンは産油国3カ国と連帯することで、原油価格の高値安定化と「化石燃料の段階的廃止・削減」を阻止するCOP28での連携、対露制裁への不参加、経済協力、あわよくば軍事協力まで取り付けようとしている。
中露印は化石燃料の「段階的廃止」に、サウジは「段階的削減」に反対
COP28で行われている第1回グローバルストックテイク(GST、パリ協定に基づき温室効果ガス排出削減目標の世界全体の進捗状況を評価する仕組み)では、ネットゼロ(実質排出量ゼロ)を達成する2050年までに化石燃料の燃焼を限りなくゼロに近づける「段階的廃止」か、いつまでにどれだけ減らすか定かではない「段階的削減」かが最大の争点になっている。
中露印は化石燃料の「段階的廃止」に、サウジは「段階的削減」にさえ反対だ。OPECもGSTの書きぶりが産油国の死命を決すると警戒する。OPEC事務局は6日付書簡で加盟国に「草案には化石燃料の段階的廃止の選択肢が依然として含まれる。化石燃料に対する不当かつ不均衡な圧力が転換点に達し、取り返しのつかない結果をもたらす」と警告を発した。
「OPEC加盟国は気候変動を真剣に受け止めているが、政治的動機に基づくキャンペーンが国民の繁栄と未来を危険にさらすことは容認できない。OPEC加盟国のCOP28交渉団に対し、排出量ではなくエネルギー、すなわち化石燃料を対象とする文書を積極的に拒否するよう要請する」(OPECのハイサム・アルガイス事務局長)
OPEC加盟13カ国は世界の石油埋蔵量の8割を占める。書簡はロシアとメキシコ、アゼルバイジャンを含むOPEC以外の石油輸出国10カ国にも送られた。13カ国と10カ国を足して世界の石油の4割以上を生産するOPECプラスは炭素回収・有効利用・貯留技術のCCSやCCUSによって二酸化炭素が大気中に排出されるのを止められると主張している。
プーチンとサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の賭けは不発
英紙インディペンデントによると、欧州連合(EU)輪番議長国スペインのテレサ・リベラ環境移行首相は「OPECがあるべき水準に達することに反対するのは非常に不快だ」と述べ、アニエス・パニエ=ルナシェール仏エネルギー転換相も「OPECの主張は最初に犠牲になる最も脆弱な国々と最も貧しい人々を危険にさらす。唖然とし、怒りすら覚える」と語る。
OPECは原油価格をコントロールするため1960年に設立された。非OPEC産油国を加えてOPECプラスに拡大されたのはシェールオイル生産による米国の台頭に対応するものであった。OPECと非OPECの産油国が手を組むことでより大きな影響力を世界の原油価格に及ぼすことを目指している。
OPECプラスは11月30日、サウジとロシアの日量130万バレルの自主減産延長を含め日量220万バレルの自主減産で合意した。その中心にいるのがプーチンとサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子だ。しかし投資家やトレーダーの間には減産の効果や実施について懐疑的な見方がある。すべての加盟国が完全にこれに従うか疑問視されているのだ。
中国の不動産バブル崩壊、世界的な景気減速が原油価格を押し下げ、1バレル当たり70ドル台を低迷する。11月の米国の製造業および工場雇用者数が低調であったことも産業用石油の使用量が減少する可能性を示唆する。米国はロシアをにらんで石油備蓄を放出する。その一方で米国の原油生産量は増加しており、9月には過去最高の生産量を記録した。
COP29、COP30の開催国もOPECプラス
ロシアが来年のCOP29がEU加盟国で開かれるのを妨害したため、数カ月間宙ぶらりんの状態だった。アルメニアとブルガリアが招致を取り下げ、来年も産油国のアゼルバイジャンで開催されることが9日決まった。アゼルバイジャンの輸出の9割以上が化石燃料だ。COP30開催国のブラジルもOPECプラスに加盟すると発表した。
COP28で活動する化石燃料ロビイストは少なくとも2456人。化石燃料ロビイストの数はCOP26の503人、COP27の636人から4〜5倍に膨れ上がっている。プーチンはウクライナ戦争を継続する資金を確保するため化石燃料の延命と原油価格のつり上げを画策する。一方、米欧は原子力と再生可能エネルギーを加速させる。
GST成果文書のドラフトから「化石燃料の段階的廃止」「化石燃料の段階的削減」という文言は跡形もなく消え去り、「化石燃料の代替」に置き換えられた。COP28の舞台裏でエネルギーを巡る苛烈な闘争が繰り広げられている。
●バイデン氏が警告、ウクライナ追加支援なければプーチン氏つけあがる 12/13
バイデン米大統領は12日、ウクライナへの追加支援が米議会で承認されなければ、ロシアのプーチン大統領をつけあがらせ、ウクライナが「誇り高く自由で、西側にしっかりと根を下ろした国」になる道を頓挫させる恐れがあると警告した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は追加支援への支持を年内に得ようと、米議会休会入り前の土壇場のタイミングでワシントンを訪問した。
バイデン大統領はゼレンスキー氏とホワイトハウスでの共同記者会見に臨み、「プーチン氏は前進を続け、どこであろうと侵略者は、力ずくで奪えるものを奪おうとする勢いを強めるだろう」と指摘した。
ゼレンスキー氏の訪米に先立ち米政府高官は、重要な冬の数カ月を前にウクライナ支援の流れを維持する時間がなくなりつつあると厳しい警告を発していた。しかし、この日早くにゼレンスキー氏と会談した共和党議員らは、バイデン大統領が要請した610億ドル(約8兆9000億円)の支援承認を求めるゼレンスキー氏の訴えにも動じなかった。
ここ数カ月のウクライナ軍による対ロ反転攻勢はほとんど成果を上げていない上、戦争開始から2年の節目に近づく中で米国の支援の停滞や欧州の分裂で同盟国の支持が低下し、ロシア政府をつけあがらせる恐れがあるとの懸念が強まっている。
プーチン氏はこの冬、ウクライナを圧迫するためエネルギーインフラを標的にする見通し。ゼレンスキー大統領の訪米に先立ち、バイデン政権当局者は、ロシア政府が冬の戦況こう着で西側の支持が弱まり最終的に自国に有利に働くと考えていることが米国の情報に示されていると指摘していた。
ゼレンスキー大統領は記者会見で、「プーチン氏以外は誰も戦争の長期化を望んでいない。われわれは平時のクリスマスを夢見ている」と語った。
バイデン氏は「ウクライナが緊急作戦のニーズに対応するのをわれわれが支援する能力は、急速に限界に近づいている。プーチン氏は米国がウクライナのために約束を果たせないことを当てにしている。われわれは彼が間違っていることを証明しなければならない」と述べた。
バイデン氏のウクライナ支援要請は、1060億ドル規模の大型パッケージの一部で、イスラム組織ハマスと戦うイスラエルへの支援やインド太平洋地域の安全保障、合成オピオイドのフェンタニルの密売対策を含む国境政策への予算も求める内容。
議会共和党はウクライナの戦争の必要性よりも移民問題を優先すべきだと主張し、状況の深刻さを重大視していない。ジョンソン下院議長は、民主党はまず移民政策の「変革」を受け入れなければならないと述べた。
●ロシア、侵攻兵力の9割死傷か 31万5千人と米情報機関 12/13
米情報機関は11日、ウクライナに侵攻したロシアの兵士ら約31万5千人が死傷したと推定する報告書の機密を解除し、議会に通知した。米メディアは12日、侵攻した地上軍36万人の9割近くに相当すると報じた。
ロシア軍は当初保有していた戦車3500両のうち2200両を失い、50年前に製造された旧式の戦車を使用せざるを得ないという。報告書は、ウクライナ侵攻がロシア軍の現代化を15年遅らせることになったと分析している。
●ロシア軍の死傷者31.5万人、ウクライナ紛争で=関係筋 12/13
ウクライナ紛争で、ロシア軍の死傷者がこれまでに31万5000人に達した。機密解除された米情報機関の報告書の情報を関係筋が明らかにした。ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った2022年2月時点のロシア軍事要員は36万人規模で、そのほぼ87%に相当するとみられる。
関係筋によると、報告書はまた、ロシア軍は兵士のほか、多くの装甲車両を失っており、ロシア軍の近代化が18年間後退したと評価しているという。
●ロシア軍、北の「不良砲弾」で戦車も “自爆”… 12/13
「ロシア軍は北朝鮮から提供された砲弾の品質問題により、ウクライナ戦争の現場で困難を極めている」という情報が伝えられた。
12日(現地時間)ウクライナの軍事メディア“ディフェンス・エクスプレス”などの報道によると、あるテレグラムチャンネルは最近、ロシア軍が使用している北朝鮮製NDT-3の15ミリ砲弾5発を解体し分析した様子の写真を公開した。
これらのメディアは「砲弾の内部をみると、砲身内部の銅の粉末を無くすための電線部分が抜けている場合が少なくなく、充填(じゅうてん)された火薬はその色が目でみてわかるほどバラバラで、一部の砲弾は密封された部分が破損して湿気が流入するなど、品質に問題がある可能性が高い」と説明した。
ディフェンス・エクスプレスは「北朝鮮の労働者たちは自分たちの利益のため、工場からできるかぎりあらゆるものを盗む」とし「品質よりも量を重視する北朝鮮の計画経済は、このような欠陥をもたらすことになる」と指摘した。
ロシア軍では実際、北朝鮮製とみられる砲弾を使用したことで爆発事故も起きていることが伝えられている。
最近SNSで公開された動画をみると、内部爆発したロシア軍のBM-21戦車が目撃された。これをみた軍事専門ブロガーは「内部の爆発であることは確実で、欠陥のある砲弾が原因だ」と推測した。
このようなことから、最近ウラジミール・プーチン・ロシア大統領が韓国に対し「われわれは準備できている」と語ったことが、あらためて注目を集めている。
●ウクライナで大規模サイバー攻撃、通信最大手 空襲警報ダウン 12/13
ウクライナ最大の通信事業会社「キーウスター」が12日、大規模なサイバー攻撃を受け、 携帯電話やインターネットのサービスが停止した。
攻撃の規模はロシアによる全面侵攻開始以降で最大と見られ、首都キーウ(キエフ)があるキーウ州の75以上の集落で空襲警報システムが停止するなどの影響が出ている。ただキーウスター関係筋は、ウクライナ軍に影響は及んでいないとしている。
キーウスターはアムステルダム上場の移動通信事業者Veon(VON.AS)傘下にあり、携帯電話サービスの契約件数は2430万件と、ウクライナの人口の半数以上を占める。インターネットサービスの契約件数は110万件超。
キーウスターのオレクサンドル・コマロフ最高経営責任者(CEO)は国営テレビに対し、キーウスターのITインフラが部分的に破壊されたと明らかにし、「戦争はサイバースペースでも起きている」と述べた。今回のサイバー攻撃はロシアとの戦争の結果起きたとの認識を示したものの、背後にいると考えられるロシアの団体について具体的には語らなかった。
ウクライナ保安局(SBU)はロイターに対し、ロシアの治安機関によるサイバー攻撃の可能性も調査対象になっていると明らかにした。
この件に関してロシア外務省から現時点でコメントは得られていない。
ロシアのハッカー集団「キルネット」は、今回のサイバー攻撃を実施したと表明する声明を対話アプリ「テレグラム」に掲載。ただ証拠は示していない。
●ESGファンド、エネルギー大手の排出削減目標に不満 12/13
ドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、石油・ガス関連企業大手が温室効果ガスの削減目標に合意したが、ESG(環境、社会、ガバナンス)ファンドの多くは、対象とする排出元の範囲が狭く、石油・ガス大手をポートフォリオに組み入れるには不十分な内容と見ていることが、関係者6人への取材で分かった。
石油・ガス関連企業大手50社は2030年までに温室効果ガスのメタン排出をゼロにし、さらに50年には自社のエネルギー使用と生産における温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す取り決めに合意した。
50社の排出削減目標は、自社の事業による排出である「スコープ1」と「スコープ2」を対象とし、サプライチェーン(供給網)や利用者の排出である「スコープ3」を含んでいない。エネルギー企業において、スコープ3の排出は85%を占める。
持続可能な事業に投資するESGファンドの投資家は、エネルギー大手の取り決めは時流に遅れており、十分ではないと見なしている。
資産運用大手キャンドリアムは、自社のESGファンドから主要な石油・ガス企業を除外する方針を継続すると表明。50社の取り決めについて、地球の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑えるパリ協定の目標達成にとって望ましいシナリオに全く沿っていないとした。
首席ESGアナリストのアリックス・ジョンソン氏は「これまでと同量の石油・ガスを、より炭素効率の高い方法で生産しても低炭素世界への移行とは言えない。主要なエネルギー源を化石燃料から低炭素エネルギーへとシフトする必要がある」と述べた。
一歩前進だが不十分
ESGファンドは、従来型のエネルギー生産者にどのようにアプローチすべきか、長い間頭を悩ませてきた。一部には、こうした企業から投資を引き揚げても効果はなく、排出を減らす、つまりスコープ3に責任を持たせるよう説得した方がよいとの意見もある。
プリンシパル・アセット・マネジメントのグローバル投資責任者、カマル・バティア氏は、エネルギー転換戦略を持たない「化石燃料企業」は、純粋なESGファンド組み入れの環境上の定義を「100%満たしていない」と指摘する。
資産運用会社フェデレーテッド・ハーミーズのレオン・カムヒ氏は、先週ドバイで開かれた業界関係者の夕食会で、大手50社の取り組みは「大きな前進」だが、十分ではないと述べた。
英金融シンクタンク、カーボン・トラッカーの調べによると、石油・ガス大手25社のうちパリ協定に沿った排出目標を掲げているのはイタリアのエニ(ENI.MI)のみで、同社も上流部門への投資計画や報酬政策など他の指標はパリ協定に沿っていない。
経済情勢が変化
ウクライナ戦争で化石燃料価格が高騰する中、ESGファンドは石油・ガスセクターへの投資が増加。同時に世界の多くの地域で生活費高騰の危機が発生し、持続可能な投資から、最も簡単に得られる株主利益へと焦点が戻った。
米調査会社モーニングスターのデータによると、米国のサステナブルなオープンエンド型ファンドと上場投資信託(ETF)のうち石油・ガス株を保有するファンドの割合は9月に49%となり、3年前の43%から上昇。従来型ファンドではこの割合が同期間に45%から68%に上がった。
しかし、エネルギー価格が低迷するにつれてファンドは石油・ガスへの投資割合を縮小している。モーニングスターのデータによると、米サステナブルファンドの石油・ガス株への平均エクスポージャーは2022年末ごろには2%だったが、今年9月には1.86%に低下。従来型ファンドは9月が5.3%で、サステナブルファンドの方が低下ペースが速い。
欧州連合(EU)域内でサステナブルとして販売されているファンドの石油・ガスへの平均エクスポージャーは2022年末ごろに3.33%のピークを付け、今年9月に2.43%に下がった。
サステナブル志向の強い投資家が利害関係者として石油メジャーに影響を与えようとしてもほとんど成果を上げていないと、米国の富豪で環境保護活動家のトム・スタイヤー氏はドバイでロイターに語った。スタイヤー氏は、米エクソンモービル(XOM.N)がシェール大手パイオニア・ナチュラル・リソーシズを600億ドルで買収すると発表したことに触れ、「100年の歴史を持つ企業文化を変えることがいかに難しいかを認識することは非常に重要だ」と述べた。
再エネ移行は期待できず
一部のESG投資家は「石油・ガス企業が再生可能エネルギー企業に転換することはない」という現実を突きつけられて、エネルギー大手への投資の意義が弱まっていると、ジェフリーズの持続可能性・移行戦略ヘッド、アニケット・シャー氏は指摘する。
石油・ガス会社は株主への配当を優先し、設備投資を減らしている。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2022年には、企業支出10ドル当たりの設備投資は5ドル弱と2008年の8.6ドルから減り、低炭素向け設備投資の割合は0.1ドルに過ぎなかった。
脱炭素を目指す国際的なアセットオーナーの枠組み「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」(NZAOA)の議長で独アリアンツの取締役のギュンター・タリンガー氏は「エネルギー供給企業が『本気で供給源と供給方法の変革を目指している』と言うのなら、もっと信頼性を高める必要がある」と苦言を呈した。
●バイデン氏、ウクライナ支援は「可能な限り」 以前の言い回しから変化 12/13
米国のバイデン大統領は12日、ホワイトハウスで訪米中のウクライナのゼレンスキー大統領との共同記者会見に臨み、米国が「引き続きウクライナに向けて、重要な兵器及び装備を可能な限り供給する」と述べた。
バイデン氏は従来、米国によるウクライナ支援を今後も「必要なだけ」持続していくと約束していた。12日の発言で、この約束には修正が加えられたように見える。
発言の変化は、米国の対ウクライナ追加支援の承認に大きな逆風が吹いている現状を反映する。ゼレンスキー氏は米連邦議会で議員らと会談したが、新たな支援が年内に行われるかどうかは不透明な情勢のようだ。
会見の冒頭、バイデン氏はロシアのプーチン大統領に言及。プーチン氏は米国による追加支援が行われないことを見込んでいると指摘した。その上で、追加支援について米国内で意見が割れると、ロシアの思うつぼになると警鐘を鳴らした。
バイデン氏によれば、ロシア国営テレビ局の多数の番組で米国の共和党議員が称賛されていたという。当該の議員らが先週、ウクライナへの追加支援を盛り込んだ法案の成立を阻止したためだ。
戦争が2年目の終わりに近づく中、バイデン氏はウクライナの勝利を望んでいると明言。勝利とはウクライナが主権と独立を確保し、自国を守る能力を獲得した上で、今後の侵略を抑止することを意味すると説明した。「それこそが我々の目的だ」とも言い添えた。 
●「親プーチン」を反省したドイツの社民党、「親金正恩」の韓国・民主党は? 12/13
ドイツの執権与党であるドイツ社会民主党では、過去の同党の親プーチン政策について「明白な誤り」と言った。同党は10日に閉幕した党大会決議文で、「『ロシアとの経済協力を強化すればロシアは民主化する』という党の仮定は間違いだった。ロシアが主権国を征服・抑圧する限り、関係正常化を拒否する」と述べた。そして、「軍隊は平和を守るための政策的手段だ」として、安保における主導的な役割と武器産業の非効率性克服を強調した。再武装と軍備拡充を通じ、欧州防衛の先頭に立つということだ。
社会民主党の親ロシア政策のルーツは、1970年代のブラント首相の東方外交だ。同首相の東方外交は単なる親ロシア政策ではなく、国家戦略だった。しかし、同党はその後、親ロシア・親プーチンに傾き、ロシア産天然ガスの輸入に乗り出した。シュレーダー首相時代の2002年には脱原発法まで作った。これによるエネルギー不足分を埋めるため、ロシアとドイツを結ぶ超大型ガスパイプライン事業を開始した。その結果、欧州全体がロシアの天然ガスに依存するようになった。その後、プーチン大統領は何かというとすぐにガス管のバルブを閉めて欧州をもてあそんだ。同党の親プーチン・親ロシア政策はロシアの民主化につながるどころか、プーチン大統領のエネルギー兵器化をあおっただけだったのだ。プーチン大統領は「自分がウクライナを侵攻しても欧州はなすすべがないだろう」と判断するようになった。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州では「ドイツ責任論」が巻き起こった。ロシアの天然ガスに依存してきたドイツ企業は莫大(ばくだい)な打撃を受けた。「欧州の経済エンジン」と呼ばれていた製造業強国ドイツは、今や「欧州の病人」とあざけられている。社会民主党の反省はこうした内外の指摘・批判を受け入れた結果だろう。同党が自分たちの政策の失敗を認め、国民に謝罪したのは責任政治という面で当然のことだ。しかし、韓国政治と比べると、驚くと同時にうらやましい光景だ。
一方、韓国の民主党と、その流れをくむ共に民主党は「北朝鮮を支援すれば北朝鮮が改革・開放に乗り出し、核を放棄する」という、いわゆる太陽政策に20年以上追従している。約20年前、100万人以上の餓死者が発生するなど、ほぼ国がつぶれかけていた北朝鮮は、民主党政権の大々的な支援で生き返り、核開発に成功した。民族の未来に核という暗雲が垂れ込めているのにもかかわらず、太陽政策の過ちを反省・謝罪するのではなく、北朝鮮の核を弁護・擁護し、親金正日(キム・ジョンイル)、親金正恩(キム・ジョンウン)政策を続けている。
北朝鮮・中国・ロシアのような専制的独裁集団とも対話し、交渉していかなければならないのは事実だ。しかし、これは親北朝鮮・親中国・親ロシア政策とは違うものでなければならない。民主党の代表団は2006年、北朝鮮が核実験を行った直後に北朝鮮を訪問し、北朝鮮政権の人物たちと踊ったこともあった。民主党から「太陽政策により国民を核の脅威の下にさらすことになった」という反省の弁を聞くことになれば、金正恩総書記も考えを改めるだろう。
●ゼレンスキー氏、米議会に追加支援を要請 共和党議員は「何も変わらず」と 12/13
アメリカを訪問中のウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12日、米議員らに対し、ロシアとの戦いにおける追加支援を強く求めた。だがその「直訴」も、議員らの気持ちを変えることはほぼなかったもようだ。
ゼレンスキー氏はこの日、首都ワシントンで議会指導者らと会談。610億ドル(約8.9兆円)規模のウクライナ支援が、米議会で国境政策をめぐる対立の中で二の次にされるのを防ぐことに努めた。
ジョー・バイデン米大統領ともホワイトハウスの執務室で会談。バイデン氏は、議会がウクライナへの新たな軍事支援案を可決できなければ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への「クリスマス・プレゼント」になると警告した。
バイデン氏はまた、ゼレンスキー氏とともに記者会見に臨み、議会が「妥協」して「プーチンが間違っていることを証明」する必要があると訴えた。
しかし議員らは、ゼレンスキー氏と会談後も変わったことは何もないと、BBCに話した。
●米国、ロシア支援の中国や中東企業を制裁−最新技術や兵器など供給 12/13
米財務省および国務省は、中国とトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の250以上の企業と個人を対象に制裁を科した。米国はこうした企業や個人のロシアに対する継続的な支援が、ウクライナ侵攻をロシアが続ける上で重要な役割を果たしてきたと主張する。
今回の制裁は、米国の制裁や輸出規制に反してロシアへの最新技術や兵器の供給維持を助ける緩やかな企業連合に狙いを定めた。米国とその同盟国はウクライナ侵攻後にロシアに制裁を科したが、こうした物品がロシア市場に流入するのを止められないでいる。
イエレン財務長官は、今回の制裁を通じて「ロシアが軍事産業基盤の強化と維持に絶対的に必要としている物資を供給する意欲的な第三国のサプライヤーやネットワークに対し、圧力をかけ続けていく」と声明で述べた。
●ウクライナ支援 バイデン大統領「追加資金ないと限界」下院「自国の安全」 12/13
バイデン米大統領は12日、ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領とホワイトハウスで会談し、支援継続の方針を伝えて米議会に支援を盛り込んだ補正予算案の可決を求める考えを示した。しかし、補正予算案に反対している議会下院共和党のジョンソン議長は、ゼレンスキー氏との会談後も依然として難色を示した。
「ウクライナのおかげでロシアから守られている」
バイデン氏はゼレンスキー氏との会談後に武器や弾薬など2億ドル(約290億円)の追加支援を発表。共同記者会見では「追加の資金がなければ、ウクライナの作戦に対応した支援はすぐに限界に至る」と説明した。ゼレンスキー氏は「ウクライナが防衛しているおかげで、欧州やアジア諸国はロシアの侵略から守られている」とし、「米国のリーダーシップは極めて重要だ」と支援継続を求めた。
ゼレンスキー氏はバイデン氏との会談に先立ち、米議会でジョンソン氏とも会談。非公開だったが、バイデン氏が提案しているウクライナ支援を盛り込んだ約1000億ドルの補正予算案の早期可決を求めたとみられる。しかし、会談後にジョンソン氏は「まずはわれわれ自身の安全保障を優先するべきだ」と記者団に語り、メキシコ国境から米国への移民流入防止策のさらなる強化をバイデン氏に要求した。
下院では共和党が過半数を握っており、予算案の成立には協力が不可欠。バイデン氏は記者会見で共和党に「譲歩を提案している」と語ったが、議会が年末の休暇に入るまでに残された時間は少ない。米行政管理予算局は、年内にウクライナ支援の資金が枯渇すると表明している。
●「輸出ルートを復活させる」海上封鎖に苦しむウクライナ海軍に英国が支援 12/13
イギリス国防省は2023年12月11日、黒海におけるウクライナ海軍を支援するために、サンダウン級機雷掃討艇2隻をウクライナに提供すると発表しました。
ロシアの侵攻を受けているウクライナは海上でもロシア海軍による黒海封鎖にも苦しんでおり、重要な輸出品を海上輸送する能力が著しく低下しています。
そのため、特にロシア軍の機雷の脅威に対抗するため、今回の掃海艇提供が決まりました。イギリス国防省はは「これらの水雷掃海艇は、海上での人命救助に役立つとともに、プーチンが違法な全面侵攻を開始して以来、著しく制限されていた重要な輸出ルートを開放する」としています。
なお、サンダウン級機雷掃討艇は船体をガラス繊維強化プラスチック(GFRP)をとした掃海艇で、イギリス海軍のほか、サウジアラビア海軍やエストニア海軍でも使用されています。
またイギリス国防省は同艇提供を伝えるプレスリリースで、ノルウェーと共同してウクライナ海軍の戦力向上を図ることも発表。「ウクライナが海軍を変革し、西側同盟国との互換性を高め、NATO(北大西洋条約機構)との相互運用性を高め、黒海の安全保障を強化するための長期的な支援となる」と発表しています。
具体的な支援内容としては、黒海における海上部隊の強化及び、2023年5月に海軍から独立したウクライナ海兵隊の継続的訓練の支援、沿岸および内陸水路を防衛するための河川巡視船などの開発支援などを行うとのことです。
●ウクライナの若き英雄 16歳でマイダン革命に参加、24歳でロシアとの戦死 12/13
タラス・ラトゥシュニーさんは、息子のローマンさんから受けた電話を今でも覚えている。それは2013年、死者も出たウクライナのマイダン革命の最中にかかってきた。
「僕は無事だ、(キーウのマイダン広場から)友達と家に帰るところだ。心配しないで。おやすみ」と、電話口でローマンさんは言った――だがタラスさんの耳には、同じ声がテレビからも聞こえていた。そこでは当時16歳の息子が、抗議デモ隊は建物内に突入するつもりだと宣言していた。
ウクライナ国内に広がり、欧州とロシアのどちらにつくかという存続をかけた戦いの象徴となった抗議活動は、国の未来は自分たちで作ると覚悟を決めた若い世代を駆り立てた――その最前線にいたのがローマンさんだった。
ある意味、ローマンさんの政治的決意はマイダン革命のずっと前から始まっていた。両親は2人とも元活動家で、ジャーナリストの経歴も持っていた。作家で詩人でもあった母親のスビトラーナ・ポバリャイェーバさんは、2人の息子とともにマイダン革命に参加していた。
だがローマンさんが成人するにつれ、そうした道筋は明確になった。ちょうどロシアがクリミアを違法に併合し、東部ではウクライナ軍と親ロシア派分離主義勢力が激しい戦闘を繰り広げている最中だった。
22年にはローマンさんもすでに環境運動や反汚職運動の活動家として名を知られ、賛同者やファンのフォロワーを抱えていた。
やがて、ロシアがウクライナに侵攻した。
ローマンさんは父親や弟とともにすぐさま軍に入隊した。マイダン革命の勃発から9年、ローマンさんは再び国の未来のため、同世代の若者の多くが抱く民主主義への希望のために前線で戦っていた。
だが、生きて帰れないかもしれないことは本人も承知していた。その年の5月には、ボロディミル・ゼレンスキー大統領の言葉を借りれば、ウクライナは1日で最大100人の死者を出す劣勢に追い込まれていた。
同じ月、ローマンさんは――タラスさんいわく「行動を起こす際にはいつも計画を立てるタイプだった」――A4用紙の両面に遺書と声明をしたためた。
そこには葬式の仕方、使用する音楽、コサックの十字架を模した墓碑といった葬儀の希望が書かれていた。母親の詩も引用されていた。両親や祖父母、そして自身が生まれ育った街への熱い思いもしたためられていた。「キーウよ、遠く離れた地で、お前のために僕は逝く」
2週間後の22年6月8日、ローマンさんはウクライナ東部ハルキウ州のイジューム近郊で、任務遂行中に戦死した。24歳だった。
タラスさんは先日、ローマンさんが眠るカシの木に囲まれたキーウ市内の墓地を訪れた際に、「息子は真のヒーローだ」とCNNに語った。その日はマイダン革命からちょうど10周年だった。タラスさんは1日だけ帰郷を認められ、翌日には戦場に戻ることになっていた。「息子はふだんから英雄だった」
欧州の未来をかけて
マイダン革命のきっかけは、当時のビクトル・ヤヌコビッチ大統領が欧州連合(EU)との貿易協定を突然破棄したことが始まりだった。協定を支持していた人々は、ウクライナと西側との関係が緊密化し、経済成長がもたらされ、国境を越えた交易が始まるだろうと期待を寄せていた。
ところが、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領はロシア政府の方を向き、ウラジーミル・プーチン大統領と新たな協定を結んで、EUとの関係強化という反対勢力の夢を打ち砕いた。
怒りに燃えた数千人のデモ隊は、キーウのマイダン広場、別名「独立広場」を占拠した。数カ月のうちに抗議活動の規模は拡大し、民主主義志向や親EU路線に加え、ヤヌコビッチ大統領の政策、政府内に蔓延(まんえん)する汚職、警察の暴挙に対する国民の反感も反映するようになった。
こうした抗議活動では必ずローマンさんの姿があった。当時16歳のローマンさんを見つけたければ「(衝突が)一番激しいところに行く」のが一番だったとタラスさんは言う。「(あの頃は)99%の確率で現場にいた。残り1%は、力尽きてどこかで睡眠を取っていた」
暴動が激しさを増すにつれ、ローマンさんもたびたび衝突に巻き込まれた――だがその後父親がCNNに語ることになる、理想主義的な情熱の兆しも育まれていた。
歴史学者のマーシ・ショア氏は、ローマンさんに革命について尋ねた時のことを振り返った。抗議活動に参加して母親は戸惑っているのではないかという質問に対し、10代のローマンさんはこう答えたという。「母はフルシェフスキー通りで火炎瓶を作っていたよ」
その後政府による弾圧はエスカレートし、14年2月20日にはついに警察と政府軍がデモ隊に実弾を発砲した。革命の期間中に約100人が命を落としたと言われている。最終的にヤヌコビッチ大統領は退任し、ウクライナ国外に逃亡した。
抗議運動を皮切りに、ウクライナではクリミア併合や東部ロシア国境付近での紛争など一連の出来事が混乱をもたらした。だが同時に数々の政治改革も行われ、変化を待ち望んでいたウクライナの若者に希望がもたらされた。
「木を見て森が見えないのと同じように、マイダンに参加していた僕らには、革命がウクライナの歴史全体におよぼした影響が今はまだ見えないかもしれない。だが、重大な影響を与えたのだと僕は思いたい」。14年、革命記念日を前にユーチューブにアップロードされた動画の中でローマンさんはこう語った。
「僕にとっては、すべて無駄ではなかった」とローマンさんは続けた。「この国では数多くのプラスの変化が起きている。それもマイダンあってこそだ」
「私の青春、私の人生、私の戦い」
22年に戦争が勃発すると、不動産開発からキーウの緑地を守る活動でその名を知られていたローマンさんは、キーウの戦いに参戦して首都からロシア軍を撤退させた。
その後は第93独立機械化旅団に入隊し、ロシア占領地から町を解放したり、ウクライナ北東部スーミ州で戦闘に加わるなどした。
ローマンさんはこの間ずっと、インスタグラムに自分や仲間の画像を随時投稿した――処刑されたウクライナの知識人ミハイル・セメンコの詩を投稿したこともあった。
「私が死ぬのは、死期が訪れたからではない/人生を生きたからだ」「万物が物言わず成長する時、私は旅立つだろう/最後の嵐の夜を前にして――/死が私の心臓を止めると同時に、忽然(こつぜん)と/私の青春、私の人生、私の戦いを止めた瞬間に」(ウクライナ系米国人作家のボリス・ドレイリュク氏の翻訳から)
一方、父親はローマンさんが置かれていた危険な状況を考えないようにしていた。
「元気か? 困っていることはないか? そう尋ねることしかできない。はるか遠く離れ、息子の置かれている状況に何もしてやれない父親の愚かな問いかけだ」。11月に墓地を訪れた際、タラスさんはこう語った。
22年6月に戦死した後、ローマンさんの遺体はキーウに運ばれ、市長を含む数百人が参列する中で葬儀と追悼式が行われた。独立広場にも大勢が追悼に駆け付けた――13年、この先輝かしい人生を控えた若き抗議参加者が、まさに戦ったその場所で。
あれから1年以上が経過し、ローマンさんが遺(のこ)した足跡とマイダン革命の記憶は今もウクライナ人の心に響いている。戦争が2年目の冬に突入する中、ウクライナは全力でEU加盟を目指している。
この長年の夢は11月、実現に一歩近づいた。欧州委員会が具体的なウクライナ加盟交渉を年明けから始めるべきと勧告したのだ。
CNNがローマンさんの墓を訪れた際にも、2人の若い女性が墓参りに来ていた。ローマンさんの遺影のそばには、手向けられたばかりの花束とキャンドルが置かれていた。
「息子が自分たちを誇りに思ってくれたらうれしい。(息子の死から)1年以上経つが、ほぼ毎日何かしらローマンに関連することが起きている」とタラスさんは感情をあらわに語った。「息子の名のもとに大勢のウクライナ人が戦場へ向かい、息子の偉業を引き継ごうとしている。私の目には今でもローマンの雄姿が見える」

 

● ロシア プーチン大統領 外国メディア招く記者会見など実施へ 12/14
ロシアのプーチン大統領は、日本時間の14日夜に外国メディアも招く記者会見と、国民からの質問に直接答える恒例のイベントを合わせて行う予定で、来年からの次の任期も見据えた内政や外交の方針、そしてウクライナ侵攻をめぐる発言が焦点となります。
ロシアのプーチン大統領は14日、日本時間の14日夜、首都モスクワのクレムリン近くで外国メディアも招く大規模な記者会見と、テレビを通じて国民からの質問に直接答えるイベントを合わせて行う予定です。
プーチン大統領は、これらのイベントを恒例の行事として毎年行ってきましたが、ウクライナへの軍事侵攻を始めた去年は、見送っていました。
国民との対話イベントについて、国営メディアは、13日までに国民から電話やメールなどで、大統領に対するおよそ200万の質問が寄せられたとしています。
独立系の世論調査機関は、今月5日、プーチン大統領に質問したいテーマとして「特別軍事作戦」が最も多かったと明らかにし、ウクライナでの戦況や見通しに対する関心が高いとしています。
プーチン大統領は、来年3月に行われる大統領選挙に立候補する意向を今月8日、明らかにしていて、次の任期も見据えた内政や外交の方針、そしてウクライナ侵攻をめぐる発言が焦点となります。
プーチン大統領としては、国内外の記者や、国民からの質問にも幅広く答える姿勢を示すことで、戦時下のロシアを率いる指導者としての存在感を示したい思惑もあるとみられます。
●「ロシアは戦争に投入された地上軍の87%、戦車の3分の2を喪失」 12/14
ロシアはウクライナ侵攻前に保有していた地上軍兵力の87%、戦車の3分の2を失った。米議会に報告された機密解除情報を基に関係筋が明らかにした。米CNNテレビが13日に報じた。
ただしロシアのプーチン大統領は兵力や装備の大規模損失にもかかわらず、来年2月で丸2年を迎えるウクライナ侵攻を今後も続ける構えを明確にしている。そのためこの関係筋は「ウクライナは今も脆弱(ぜいじゃく)」と警告した上で「期待されたウクライナの反転攻勢に大きな成果がなく、米国はウクライナが今後も大きな成果は得られないと予想している」と伝えた。
今回機密解除された情報は今月11日に議会に提出されたが、それでも共和党の一部議員らはバイデン政権が求めるウクライナへの追加の資金援助に応じようとしない。
今回機密解除された情報によると、ロシアは契約兵士や徴兵した兵士などウクライナに投入した36万人の兵力のうち、31万5000人を失った。また3500両の戦車のうち2200両を失い、さらに歩兵戦闘車両や装甲車は1万3600両のうち4400両が破壊され、その損失率は32%に達している。
さらに11月末時点でロシアは侵攻前の地上軍装備備蓄量の4分の1以上を失ったと試算されている。ウクライナ侵攻は2022年2月に始まったが、この損失規模はこれまでロシアが大きな成果を得られない要因となっている。
●北欧5カ国、ウクライナを「必要な限り」支援 ゼレンスキー氏電撃訪問 12/14
北欧5カ国首脳は13日、ウクライナのゼレンスキー大統領とオスロで会談し、ロシアとの戦争において「必要な限り」ウクライナを支援すると表明した。
ゼレンスキー大統領は12日にワシントンでバイデン米大統領や議員らと会談した後、ノルウェーの首都オスロを電撃訪問した。
ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランドの5カ国は共同声明で、ロシアによる2022年2月のウクライナ侵攻以来、合わせて約110億ユーロに相当する支援を提供しており、今後も軍事、経済、人道面での支援を継続する用意があると表明。「北欧諸国は、ウクライナが必要とする限り、ウクライナに協力する。ロシアは侵攻をやめ、国際的に承認された国境内のウクライナ領土から直ちに無条件で軍を撤退させなければならない」とした。
これとは別に、デンマークのフレデリクセン首相はデンマーク政府が今週、10億ユーロ(10億8000万ドル)規模のウクライナへの追加支援策を議会に提出すると述べた。
これに先立ち、ゼレンスキー大統領はウクライナの防空技術強化の重要性を強調。ノルウェーのストーレ首相との共同記者会見で「われわれは今日、数千、数万のウクライナ人の命を救うことができ、侵略者への圧力を高めることができるような具体策について協議した。今後も協議していく」と述べた。
ストーレ首相は、ノルウェーがウクライナに30億クローネ(2億7300万ドル)を寄付すると指摘。これは以前、ノルウェー議会が承認した今後5年間での750億クローネの支援の一環という。
ストーレ首相は声明で「われわれは、自由と民主主義を求めるウクライナの戦いを支援するため、的を絞った長期的な支援を提供する」と述べた。
●アウジーイウカ攻防戦で新局面 ロ軍、夜間のドローン攻撃で補給線遮断 12/14
ロシア軍がこの2カ月、ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ軍の重要な防御拠点、アウジーイウカに対して続けてきた猛攻は、峠を越したようだ。
だが、それはロシア側がアウジーイウカの攻略を断念したということではない。ロシア軍は、ウクライナの南部・東部各地での反撃にリソースを移しつつ、アウジーイウカを直接攻撃せずに包囲することを狙っているとみられる。
この戦略で鍵を握るのが、夜間飛行可能な新型の攻撃ドローン(無人機)だ。こうしたドローンによってロシア側がアウジーイウカへの補給線の遮断に成功すれば、戦車や歩兵による攻撃に持ちこたえてきたウクライナ軍の守備隊は、退却に追い込まれるおそれがある。
ただし、ウクライナ側が、南部の部隊がしているように電波妨害(ジャミング)でドローンの飛行を不可能にすれば、アウジーイウカを引き続き保持できるかもしれない。
「(アウジーイウカの)ウクライナ軍部隊の全般的な状況は安定している。ロシア軍の攻勢はピークに達したようだ」と分析グループのフロンテリジェンス・インサイトは12日の戦況分析で述べている。「ロシア軍部隊は積極的に攻撃する意欲を失っており、作戦装備の数も著しく減っている」
「一方で、アウジーイウカのウクライナ軍部隊の兵站状況はさらに悪化している」とフロンテリジェンス・インサイトは続けている。「ドローンの攻撃を避けるため夜間に補給が行われてきたが、現地からの報告によると、ロシア軍部隊はサーマル暗視カメラを備えたFPV(1人称視点)ドローンを使い出したようだ。このため夜間も補給が難しくなっている」
FPVドローンは航続距離の短い小型ドローンで、操縦士が無線通信で操縦する。操縦はVRヘッドセットを装着して行うことも多い。500g程度の爆薬を詰め込んだ重量1kgほどのFPVドローンは、人間が誘導する精密誘導弾のように機能する。費用は500ドル(約7万1000円)くらいだろうか。
ロシアがウクライナで拡大して22カ月目に入っている戦争で、ウクライナ軍もロシア軍も、1000km近くにおよぶ前線に大量のドローンを配備している。ドローンはいたるところで飛んでいるが、必ずしもいつも飛んでいるわけではない。大半のドローンは赤外線カメラを搭載していないため、操縦士が目標を捕捉しにくい夜間はあまり役に立たないのだ。
ロシア側の人海戦術は限界に達した可能性
したがって、夜の闇はドローン攻撃からの隠れ蓑になる。ウクライナ軍の補給部隊もそれに紛れて、弾薬やその他の物資、補充兵を幹線道路00542号線や、より細い未舗装路を通ってアウジーイウカに運び込んできた。ロシア軍部隊は、ここの幹線道路から1.5kmくらいしか離れていない場所に展開している。
ウクライナ軍が2カ月にわたるロシア軍の波状攻撃からアウジーイウカを死守できたのも、これらの重要な補給線が確保されてきたからだ。
10月、ロシア軍の連隊や旅団はアウジーイウカを南北から側面攻撃するために、戦車をはじめとする戦闘車両を集結させた。しかし、これらの車両がウクライナ軍の陣地に対する攻撃の開始地点に入るためには、ウクライナ側の火砲やドローンが狙いをつけているキルゾーンを抜けなくてはいけなかった。
ロシア軍は突撃を続けた結果、車両を数百両、人員を数千人失った。しかも、大きな前進は遂げられなかった。
11月に入り、ロシア軍の指揮官は戦術を切り替えた。各連隊は車両での攻撃に代えて、歩兵部隊を徒歩で送り込むようになった。これらの歩兵部隊には、最近徴兵され、訓練の不十分な動員兵(モビク)を中心とした「ストームZ」部隊も含まれていた。
下車戦闘するロシア軍の歩兵は、ウクライナ軍が夏の反転攻勢の失速後、南部から配置転換した旅団の戦車にまみえることになった。ロシア軍はさらに数百人ないし数千人の死者を出した。それでも、アウジーイウカの北で1.5km程度、南では町の郊外まで前進することに成功した。
国民が「黙認」しているために、ロシアの政権は、自由社会の政府ならとてももたないほどの大きな損害を戦争で出しても、ものともしない。とはいえ、ロシア人も死ねる数には限りがある。2カ月で何千人もの死者を出したあと、アウジーイウカを直接攻略しようとするロシア軍の試みは終わりつつあるようだ。
だが、間接的に攻略する試みが始まりつつある。「ロシア軍の攻撃は継続するだろうが、当初の計画どおりにこの町に対する強襲や全周攻撃を追求するのではなく、防御側の(補給を断つ)包囲にアプローチが変化する可能性がある」とフロンテリジェンス・インサイトはみている。
ウクライナ側に対策はあるが、注意すべき点も
その場合、赤外線カメラを搭載した使い捨てのFPVドローンが決定的に重要な役割を果たすことになる。FPVドローンに暗視機能を追加するとコストが倍増する可能性があるため、ウクライナ軍では「バーバ・ヤハ」と呼ばれる、繰り返し使える比較的大型のドローンに赤外線カメラを搭載することを優先している。
ロシア軍は、たとえFPVドローンの1機あたりのコストが2倍に跳ね上がっても、24時間運用可能になることでウクライナ軍の補給路を塞げるのなら、追加コストは見合うものと判断するかもしれない。
激戦の末に陥落した東部ドネツク州の港湾都市マリウポリを例外として、ウクライナ軍は普通、最後の一兵になるまで戦い抜くということはしない。むしろ、ロシア軍が前進するごとに人員や装備に損害を与えながら、将来のために場所を放棄することが多い。
言い換えると、ウクライナ軍の守備隊は、孤立化する危険が迫れば撤退する。東部ルハンスク州のリシチャンスクやセベロドネツク、あるいはドネツク州バフムートでもそうした。ロシア軍の夜間飛行ドローンによって補給が不可能になれば、アウジーイウカでも撤収を選ぶだろう。
ロシア側が夜間のドローン攻撃に重点を移しつつあるらしいことに関して、もし朗報があるとすれば、それはウクライナ側がドローンに対抗する方法を知っているということだ。電子戦、具体的には、電波妨害装置によってドローンと操縦士の通信を遮断するというものだ。ウクライナの海兵隊が10月、南部でドニプロ川の渡河作戦に成功できた裏にも、こうした電波妨害作戦による入念な準備があった。
もっとも、高価な電子戦器材は不足している。また、電波妨害装置は敵のドローンだけでなく味方のドローンも飛べなくしてしまいやすいので、ウクライナ側が防御のために電波妨害作戦を実施する場合、攻撃能力に支障が出かねない点も考慮する必要があるだろう。
空とりわけ夜の空に警戒しなくてはならない。アウジーイウカの守備隊にとって、対車両、対徒歩兵に続く第3の戦いはそこで繰り広げられるかもしれない。それは、アウジーイウカ攻防戦の勝敗を決する戦いになる可能性がある。
●新設の「シベリア旅団」が訓練 既に東部戦線で実戦を経験 12/14
ウクライナ領土防衛部隊の外国人軍団に新設されたシベリア旅団が、首都キーウ近郊の訓練施設で義勇兵の訓練を実施している。
半年前に新設された「シベリア旅団」は、祖国ロシアと戦おうというロシア市民で編成されている。
最近までアルメニアに住んでいたという、モスクワ出身の「カラバス」という呼び名の義勇兵は「ロシアが戦争をしているのなら、自分はロシアと戦わなければ」という理由で、旅団に加わったという。
旅団はロシア連邦出身者で編成されており、義勇兵の中には、チュルク系のヤクート人や、モンゴル系のブリヤート人といった民族もおり、入隊が許可される前に、約1年間の徹底的な検査を受ける。
シベリア出身という義勇兵は、「現ロシア政府は、国民から膨大な機会と未来を奪った」と入隊の理由を教えてくれた。
ウクライナ軍によると、旅団は既に東部戦線の激戦「アウディーイウカの戦い」を経験しているという。さらに、旅団は今後数カ月で数百人の戦闘員を抱える見通しだという。
●「原子力が地球温暖化を救う」という話は信頼できるのか?―独メディア 12/14
2023年12月10日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、原子力発電が地球の温暖化を救うという考え方は信頼できるのかと題した記事を掲載した。
アラブ首長国連邦のドバイで開かれている国連気候変動対策会議(COP28)で、欧州と北米を中心とする20カ国が、50年までに原子力発電能力を現在の3倍にまで増やす承諾書に署名を行ったと紹介。これが実現すれば、世界の全電力に占める原子力発電の割合は現在の10%から約33%にまで上昇することになると伝えた。
そして、署名国が「原発拡大なくして世界の温室効果ガス排出をゼロにすることはできない」との認識を示し、世界原子力協会も承諾について「非常に意義深い」と称賛していると伝える一方で、原子力発電容量を3倍にするには新規プロジェクトの認可を加速させ、多額の資金を拠出する必要があるものの、現在の原子力プロジェクトは往々にして建設遅延に直面し、予算をはるかに上回るコストで実施されているため、多くのアナリストは最新の公約に懐疑的だと指摘した。
また、核廃棄物処理という未解決の問題があるにもかかわらず、欧州連合(EU)が昨年に原子力発電をクリーンなエネルギー源として位置づけたことが、原子力産業にとっては大きな福音であると紹介。気候変動における原子力の重要性に対する理解の増進に取り組む活動団体Nuclear for Climateの広報担当者であるマッティア・バルドーニ氏が「近年、核廃棄物管理には大きな進歩と革新があり、核廃棄物の総量は非常に限られている。世界初となる地下深くの処分場が数年以内に稼働する。これらの事実は、すべての放射性廃棄物を安全に保管できることを示している。原子力は最も安全なエネルギー源の一つであり、今後ますます安全性が高まるだろうと考えている」との見解を示したことを伝えた。
文章は、ドイツ政府がこの春、国内最後の原発3基を停止させて数年前に打ち出した「非核化」の公約を果たしたと紹介する一方、脱原発の取り組みは昨年始まったロシアとウクライナの戦争によって引き起こされたエネルギー危機のため、現在大きな議論を呼んでいるとした。そして、独原子力運動組織「ヌクリアリア」のライナー・クルート会長が「原子力発電を止めたことで、ドイツはグリーンエネルギーへの移行と同時に石炭発電の量を増やさなければならなくなった」と指摘するとともに、原発停止による電力価格の高騰は輸出業界に打撃を与えており、「企業が倒産したり、エネルギーの安い国に移転したりすれば、雇用も税収も繁栄も失われる」と論じたことを紹介している。
● 増える難民、移民にいかに対応するか 12/14
・戦争や宗教、部族の違いを理由にした迫害などのため、住む場所を追われた人の数が世界で1億人を超えた。世界人口の74人に1人という多さだ。
・増加の原因の一つは、終わりが見えないロシアによるウクライナ侵略だ。タリバンが権力を奪回したアフガニスタンでは「国内避難民」らが増えている。
・難民・移民の受け入れ国側の寛容さが減っている。経済発展の阻害要因と見られ、欧米では、選挙の都度、締め出しを主張する右派政党が台頭する。
・日本は昨年、過去最多の202人を難民と認めた。難民や移民にどう対応するべきなのか、今後、国民的議論を深めていく必要があるだろう。
戦争や宗教、部族の違いを理由にした迫害などのため、住む場所を追われた人の数が世界で1億人を超えた。世界人口の74人に1人という数字だ。より豊かな生活を求め、アフリカ大陸から地中海を越え、欧州を目指す動きも加速する。気候変動の影響などを受け、今後ともこの傾向は続くだろう。一方で、世界各地で難民・移民への寛容さはすり減っている。
74人に1人
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今年6月、2022年末に戦争や国内紛争、宗教や部族の違いに起因する人権侵害などのため故郷を追われた人が1億840万人に達したと発表した。前の年から1年間だけで1910万人増えたという。
内訳は、(1)国外に脱出した難民3530万人(2)国境は越えないが、自宅にとどまれず、国内で別の場所に移ることを余儀なくされた国内避難民(Internally Displaced People=IDP)6250万人(3)難民認定申請者540万人(4)主にベネズエラから逃れた人を指す、「難民には該当しないが、保護が必要な人」520万人―となっている。
増加の原因の一つは、終わりが見えないロシアによるウクライナ侵略だ。昨年2月以来、戦禍を逃れたウクライナ人は570万人に達した。
イスラム原理主義組織タリバンが21年8月、権力を奪回したアフガニスタンでも566万人が自宅にいられなくなった。2001年のアフガン戦争後、約20年間、続いた親米政権に協力した疑いをかけられれば、命に危険が及ぶ。タリバンは再び、女性の就労や教育を禁じ、女性の生活難や閉塞感は深刻だ。
UNHCRによれば、23年7月現在で、人口の7割にあたる2830万人が人道支援を必要とするが、タリバン政権下のアフガンに対する欧米からの支援は激減した。国連や民間活動団体(NGO)の活動は制限され、アフガン内に何とか入れた支援物資を必要な人に届ける作業は困難を極める。
一方、最も多くの難民やIDPを出しているのがシリアで、650万人に達する。2011年に始まった内戦は、13年目に入った。
先が見えない悲しみ
難民・IDPキャンプでの生活は、当然ながら厳しい。どれほど古くても建物に住めれば上等だ。テントがあれば良い方で、棒を地面に突き刺し、ビニールをその上にかけ、かろうじて強い日差しや雨風をしのぐ場合もある。
水洗トイレは贅沢だ。急ごしらえの排泄場所で、順番待ちを余儀なくされることも、しばしばだ。
国連は1日1人あたり1900キロ・カロリーの食べ物の提供を目指すが、カロリー摂取が最優先で、味など二の次だ。医師は恒常的に足りず、基本的な医薬品も滞りがちだ。
教育環境も不安定だ。教師は、難民の中からボランティアを募るのが普通で、質や数の問題がつきまとう。
だが、旧ユーゴスラビアやスーダンなどの難民キャンプを取材して、私が辛かったのは、彼らから共通して感じられる不安と無力感だった。いつ家に帰れるのか。離ればなれになってしまった家族、親族に再会できるのか。子どもたちに何らかの明るい将来はあるのか。自分はいつの日か、元の生活に戻れるのか。
実際、キャンプで鬱病状態になる人も少なくないと聞いた。
命がけの地中海渡航
より、ましな生活を求め、命がけの脱出を図る人も急増中だ。その全体像はつかめておらず、1億840万人に含まれないケースも少なくないと見られている。
今年6月、タイタニック号の見学ツアー中の潜水艇事故で、パキスタン人富豪ら5人が死亡しことが世界で大きく報道された陰で、ギリシャ沖で約750人が乗ったと見られる船が沈没、半数近くが溺死した。乗船者の多くはパキスタン人やシリア人で、リビアから地中海を渡って、イタリアを目指していたとみられる。
全長40メートル程度のおんぼろ船に、法的な定員を超えた乗船者がひしめき合っていたのをギリシャ当局が視認している。同当局は、違法な密航斡旋(あっせん)を行った容疑でエジプト人9人を逮捕した。しかし、アフリカ大陸の地中海沿岸で暗躍する悪徳業者を頼ってでも欧州に渡ろうとする人は後を絶たない。
英BBC放送が伝えた、ある青年の話がある。ガンビア出身の仮名スマ(18)は貧困から逃れようと、まず、隣国マリへ行き、そこで密航斡旋業者に接触、アルジェリア経由で、地中海のリビアを目指すことになった。業者から殴られ、食事は与えられず、手足を縛られるなどの虐待を受けながら移動、リビアにたどり着いた。業者が運営する粗末な宿で地中海を渡る小型ボートに乗船する順番を待つ。費用は、このボート代だけで3500リビア・ディナール。日本円にして約10万円だ。欧州に渡った後の仕送りを期待する義理の父親などから掻き集めたお金だ。危険があるのはわかっている。しかし、「欧州にたどりつきさえすれば、より良い生活が待っている」と話したという。
だが、現実は甘くない。「欧州にたどりつく」前に、不法移民として拘束されたり、もっと悪ければ地中海で命を落としたりすることがあり得る。
欧州国境沿岸警備隊によれば、欧州連合(EU)域内に不法入国を試み、拘束された人は22年、前年比64%増の32万7131人に上った。23年は1月から7月の間だけで17万6100人に上る。
最も頻繁に利用されるのが、同隊が「地中海中心部ルート」と呼ぶ、アフリカ大陸からイタリアやギリシャを目指す航路で、すでに8万9000人以上を拘束したという。一方、国際移住機関(IOM)によれば、地中海を渡航する過程で今年1月からの7か月間で2060人の消息がわからず、安否が懸念される。
同隊は、「リビアやチュニジアで密航斡旋を行う犯罪組織は増え続けており、この結果、渡航費用の値引き競争が始まった」と指摘し、今後、一層、密航者が増えることを懸念している。
より豊かな国を目指し
密航者にとって、EU域内にたどり着けば、旅が終わりというわけではない。EUには、最初にたどりついた国で難民申請を受け付けるという「ダブリン規則」がある。仮に、ルーマニアやクロアチア、あるいはギリシャなど域内でも経済発展が遅れている国が欧州でのスタート地点となれば、密航者の多くは、そこからより賃金が高い国を目指し、当局の目を回避しながらの移動を続ける。
英政府は、彼らの多くが自国を目指していると警戒を強める。中東やアフリカの旧植民地出身者は英語を話せる確率が高い。英国は物価が高く、肉体労働にしても、賃金は割高だ。
英国に渡るルートとしては、欧州大陸の西端フランスの海岸から小型ボートに乗ることが一般的という。BBC放送によれば、18年以降、10万人以上が小型ボートで英仏海峡を越え、英国に入国した。この数字は22年だけで4万5755人に上るという。
夏場は英仏海峡の波が比較的穏やかな上、バカンスのためフランス側の海岸警備が手薄になり、「狙い目」と見られているという。今夏も斡旋業者に金を払っては、粗末なゴムボートに乗り、海峡越えを試みる人が絶えないが、ボートの転覆などによる溺死者も出ている。
気候難民
さらに、これから増加しそうなのが、気候変動のために故郷を捨てる人だ。日本は今夏、過去100年で最も暑くなったが、世界各地でも異常気象が観測された。「地球沸騰」(グテレス国連事務総長)時代、砂漠化、干ばつ、海面上昇やサイクロンなどによる水害が頻発する。
世界銀行は21年、気候変動のために50年までに2億1600万人が、国内避難民(IDP)になる可能性があると警鐘を鳴らした。内訳はサハラ以南のアフリカ大陸で8600万人、東アジアと太平洋で4900万人、南アジアで4000万人などとなっている。
極端な乾燥や異常な暑さのため干ばつが発生し、水不足になれば、農作物が育たなくなり、家畜も死ぬ。アフリカや中東では、家業だった農業や牧畜を放棄せざるを得なくなり、地方から都市部に流れるケースが多発する。
UNHCRはこれを、「自然災害による強制移動」と定義するが、彼らを保護するための国際法上の根拠は現状、希薄だ。
1951年に採択された難民条約は、「人種や宗教、政治的意見、特定の社会的集団に属することから迫害される恐れのある人」を難民と定義し、加盟国に保護の義務を負わせる。逆にいえば、異常気象のために、故郷を離れて外国に出ることを余儀なくされても、「難民」と認定されるかは微妙だ。
「ソマリアでは放牧民の水場は、それぞれの部族によって決まっている。気候変動のため、特定の水場が干上がったことが原因で、部族どうしの争いとなり、国を追われれば、難民と認定され得るだろう。つまり、気候変動にその他の要因が複合的に絡んで、初めて認定されるケースが多い」(UNHCR幹部)ということになる。
UNHCRのグランディ高等弁務官は「気候変動を理由とする人の移動に、今すぐ、備えなければならない。何もしないという選択肢はあり得ないのだから」と指摘する。
紛争の長期化
移民や密航者がより豊かな国を目指すのに対し、実は難民の70%は近隣諸国にとどまっている。なるべく自分の国、住んでいた共同体の近くにとどまり、いつの日か帰還することを期待してのことだ。難民を受け入れている国の76%はトルコ(約360万人)、イラン(約340万人)、コロンビア(約250万人)といった、豊かとはいえない中・低所得国だ。近年、難民の帰還に時間がかかる状況が定着し、これら受け入れ国の負担感は増している。
UNHCRは「中・低所得の国に逃れた難民が5年以上、連続して帰還できない状況」を「長期化した難民」と定義するが、22年末でその数は2330万人。前の年から710万人、増えた。
旧ユーゴ、シリア、ソマリアなど数多くの紛争地で難民支援にあたってきたUNHCRの伊藤礼樹・駐日事務所代表は、「私が仕事を始めた1990年代にはボスニア・ヘルツェゴビナであれ、アフリカであれ、難民の帰還事業が仕事の一つの柱だった。ところが今は、帰還事業が本当に少なくなった」と嘆く。
2022年に自国に戻った難民は、UNHCRの帰還事業とは別に自主的に帰った33万9300人にとどまる。最大は、ウガンダなどから南スーダンに帰国した15万1300人だ。裏を返せば、国内の状況がある程度落ち着けば、難民は帰国を目指すということだ。
しかし、シリアやアフガンが示すように、今世紀に入って、紛争は長期化している。背景には、既存の国際システムの揺らぎがある。
米国を盟主とする民主主義陣営と中露などの権威主義陣営の対立が激化し、紛争を仲介できる存在が少なくなった。紛争の調停を主要任務とする国連安全保障理事会も機能不全が指摘されて久しい。
伊藤氏は「これまでの難民・IDP支援の『ビジネスモデル』のようなものが崩れつつある」と見る。冷戦終結後、しばらくは紛争のため人道危機が生じると、西側が資金を拠出し、紛争地の近くの中・低所得国に難民キャンプを作り、集中的に支援した。しばらくすると、大国や地域主導で和平協定が始まり、人々の帰還につながった。
ところが今や仲介者が出ない。西側諸国の経済力は落ち、難民・IDP支援のための拠出金は減る一方だ。「しかも、『難民条約を順守しよう』と他国に呼びかけてきた欧米諸国自らが、同条約に背くような行動を取り始めた。これが、国際社会全体の意識低下につながっているように感じる」と伊藤氏は指摘する。
この状況を受け、UNHCRは数年前から、「難民問題を経済開発とからめて考えよう」とアピールしている。難民を、いずれはいなくなる一時的な存在として隔離するのではなく、共同体に受け入れる。難民キャンプを作らずに、共同体の教育や医療を受けられるようにする。難民がいずれ就職すれば労働力となり、納税するようになれば、「その国の経済発展にもつながり、人道支援に頼る必要も減る」という発想だ。
失われる寛容性
しかし、難民・移民の受け入れ国側には寛容さが減るばかりだ。
UNHCRの呼びかけに逆行するかのように、中・低所得国では特に、着の身着のままやってくる外国人は経済発展の阻害要因と見られがちだ。欧米に目を転じれば、移民は選挙の都度、一大争点となり、締め出しを主張する右派ポピュリスト政党の台頭に直結している。
先進7か国(G7)を見ても、イタリアでは極右出身で移民排除を掲げたジョルジャ・メローニ政権が22年、誕生した。フランスでも反移民を前面に打ち出す極右政党「国民連合」がじわりじわりと影響力を増す。
ナチス・ドイツ時代のユダヤ人迫害への反省もあり、寛大な移民政策をとってきたドイツは、現在でも先進国では最多の210万人の難民を受け入れる。しかし、そのドイツでも排外主義を隠そうともしない極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が今夏の世論調査で、支持政党2位(20%)に浮上した。公共放送ARDの調査で、支持の理由として65%が「移民・難民政策」を挙げた。
英国のスナク政権は、難民の受け入れ施設の費用などで、年間約30億ポンド(約5520億円)を費やしているとして、アフリカのルワンダに不法移民をまとめて移送する計画を推進した。投資という見返りを約束され、ルワンダ側もこの話に乗ったが、結局、英国の裁判所が違法との判断を下した。
24年11月に大統領選を控える米国でも、ホワイトハウス奪還を誓う共和党各候補が、中南米からの不法移民締め出し策の強硬さを競う。迎え撃つ民主党のバイデン大統領は、共和党の最有力候補トランプ前大統領の移民政策を転換することを公約にしたが、不法移民の急増を懸念する世論を前に、迷走中だ。
寛容さの代名詞と目された北欧にも反移民の嵐が吹く。スウェーデンでは昨年9月の総選挙で、極右の反移民政党「民主党」が第2党に躍進し、右派政権に閣外協力中だ。フィンランドでも今年4月の総選挙で反移民政党「フィン人党」が第2党となり、連立政権入りした。デンマークでは、中道左派の与党が昨年秋の総選挙では一転して強硬な移民政策を打ち出し、何とか政権を維持した。
背景に共通するのが、アフガンやシリアなどから受け入れた移民のため、「治安が悪化し、国家としてのアイデンティティーが保てなくなっている。移民は、我々の福祉政策にただ乗りしている」といった国民感情の広がりだ。
日本の対応
それでも、少子化対策が先進国の喫緊の課題となる中、外国人を積極的に受け入れて、より良い人材を獲得しようとする動きはある。
多文化主義を掲げるカナダは、少子化対策に移民を積極的に活用する政策を取る。22年には43万人を受け入れ、25年には年間50万人を目指す。「移民の国」を自負する米国は、21年だけで約100万人の外国人を受け入れた。
外国人受け入れに及び腰とされた豪州も22年、前年の4倍となる1万7300人を難民認定した。アフガン(9600人)、イラク(2500人)、シリア(1500人)などからだ。
それでは日本はどうか。
日本は昨年、過去最多の難民を認めたが、その数は202人にとどまる。認定率を見れば2%という低水準だ。
日本の受け入れ体制には限界が指摘される。ブリュッセルの研究機関が欧米、アジア、中東など52か国の移民統合政策を比較した20年の調査MIPEXによれば、統合が進むトップ5にはスウェーデン、フィンランド、ポルトガル、カナダ、ニュージーランドが入った。日本は35位で「社会に平等に参画する権利も、機会も十分に与えられない国」に分類された。MIPEXが判断基準とする労働、家族呼び寄せ、国籍取得など8分野のうち、特に差別、政治参加、教育が低く評価された。
難民問題に詳しい、立教大の長有紀枝教授は「総論として、日本政府は『より多くの外国人を受け入れる』という大方針を示し、人道的見地と少子化対策を含めた経済的見地から国民的議論をもっと盛り上げていくべきだ」と指摘。「難民、移民にとっての脱出先として、日本はより開かれた、魅力的な国になっていかなければならない」と話す。
●バイデン米大統領、ウクライナ大統領と会談、支援予算の議会交渉は難航 12/14
米国のジョー・バイデン大統領は12月12日、首都ワシントンでウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。同大統領の訪米は、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するという米国の決意を強調するため、バイデン大統領が招請した。
ホワイトハウスの発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、両大統領は会談で、ロシアの侵略に対抗するウクライナの2024年の計画も含めた自衛策について協議した。バイデン大統領は、ウクライナへの新たな軍事支援外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを伝え、ウクライナを継続的に支援するために米国連邦議会の早急な行動が必要だとあらためて強調した。ゼレンスキー大統領は、ウクライナによる黒海回廊を利用した穀物などの輸出が、世界の食糧安全保障の懸念を緩和し、ウクライナの課税基盤に貢献していると説明した。
バイデン政権は10月、連邦議会に対し、ウクライナ支援のための614億ドルを含む追加予算を要請した。政権はウクライナ支援予算が2023年内に底を尽くとの見通しも示している。しかし、共和党は予算承認の条件として移民政策の厳格化などを要求しており、議会交渉は難航している状況だ。ゼレンスキー大統領は今回、上下院の民主・共和両党の指導者らとも会い直接支援を訴えたが、共和党議員からは議会が国境対策で合意することが先決などと伝えられたとされる(ブルームバーグ12月12日)。
バイデン大統領はゼレンスキー大統領との会談後の会見で、追加予算がなければ、ウクライナを支援できなくなると訴え、あらためて議会に追加予算の承認を求めた。バイデン政権は上院の民主、共和両党と議論し、移民政策の変更と国境警備への予算手当ての両面で超党派の妥協点を見いだそうとしていると説いた。共和党に歩み寄りを呼びかけた格好だが、マイク・ジョンソン下院議長(共和党、ルイジアナ州)はゼレンスキー大統領との会談後、ウクライナへの支持を表明しつつも、同国勝利のための戦略の明確化や国境対策の改革が必要と強調し、バイデン政権側に対応を迫った。また、上院のミッチ・マコーネル少数党院内総務(共和党、ケンタッキー州)は、たとえ追加予算に合意できたとしても、2023年内に法案を成立させるのは「事実上不可能」との考えを示し(政治専門紙「ザ・ヒル」電子版12月12日)、交渉の行方は不透明となっている。 
●プーチン氏、ロシアの戦争勝利を決意−年末記者会見で表明 12/14
ロシアはウクライナでの軍事目標達成を決意していると、プーチン大統領が明言した。米国と欧州はウクライナ支援を巡って分裂しており、侵攻を撃退するウクライナの能力が脅かされている。
プーチン氏は14日、テレビ放送された長時間の記者会見で、「ロシアが目標を達成した際に、平和は訪れる」と発言。ロシアの目標は「変わらない」とし、いわれのない侵攻は「ウクライナの非ナチ化と非武装化、中立的地位」の確保が目的だとの従来の主張を繰り返した。
かつては年末の恒例だったこの記者会見を、プーチン氏は2022年2月のウクライナ侵攻以来初めて開催した。今週明らかになった米情報当局の見積もりによると、侵攻によるロシア軍兵士の負傷者数は31万5000人に上る。当初は数日で勝利できると見込んでいた戦争は、今や22カ月目に入った。それでもプーチン氏は、この戦争に市民の幅広い支持を得ている。
昨年30万人の予備役を招集し不評を買ったこともあり、プーチン氏は今のところ再度の動員をかける可能性はないと語った。ロシア人記者からの質問に対し、プーチン氏はこれまでに政府の目標を上回る48万6000人が入隊の契約を済ませ、志願兵と合わせればその数は年末までに50万人に達するだろうと説明。「どうして動員をかける必要があるだろうか。その必要はない」と述べた。
ウクライナでの戦況は実質的に膠着(こうちゃく)状態に陥り、ロシアはウクライナ東部と南部の占領地域の支配を固められることに自信を持っている。
プーチン氏が記者会見を始める数時間前にも、ロシアはここ1週間で3回目となるドローンと地対空ミサイル「S-300」による攻撃をウクライナに仕掛けた。記者会見が始まった頃、ウクライナでは全土で空襲警報が鳴り響いていた。
●プーチン氏、WSJ記者の釈放「合意したい」 12/14
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、同国が拘束しているウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシコビッチ記者(32)について、釈放に向けた合意を望んでいると語った。同記者はスパイ容疑で収監されているが、本人、WSJ、米政府は容疑を断固として否定している。
米バイデン政権は先週、ゲルシコビッチ氏と米海兵隊の退役軍人で企業幹部のポール・ウィーラン氏の釈放に向けた新提案をロシア政府が退けたと明らかにしていた。プーチン氏は14日の記者会見で、これに関し質問を受けた。
プーチン氏は「彼らの返還を拒んだわけではない」とし、「われわれは合意に達したい。互いに受け入れられ、双方の納得できる合意にする必要がある。この点について米国側と連絡を取っており、対話を継続している」と話した。
さらに「たやすいことではない。詳細には触れないが、だいたい互いに理解できることばを話しているようだ。解決策が見つかることを期待する」と語った。
これに先立ちロシアの裁判所は14日、ゲルシコビッチ氏の裁判前勾留を来年1月30日まで延長することを支持する判断を下した。
ゲルシコビッチ氏は、ロシア連邦保安局(FSB)の要請を受けた先月の勾留延長の判決に対する控訴のために出廷した。控訴が棄却されたため、同氏の裁判前勾留は10カ月に及ぶこととなる。
米国籍のゲルシコビッチ氏は3月29日に、ロシアのエカテリンブルクを取材で訪れた際に拘束され、モスクワにあるレフォルトボ刑務所に勾留されている。
裁判前勾留は5月29日に終わる予定だったが、再三にわたり延長されている。ロシアの捜査当局は、同氏のスパイ容疑を裏付ける証拠を公に提示していない。
弁護団はこれまでにゲルシコビッチ氏の自宅軟禁への切り替え、同氏の行動制限への同意、または保釈を認めるよう求めていたが、裁判所はいずれも退けている。
リン・トレーシー駐ロシア米大使は14日、裁判所の外で「エバンの試練は250日以上に及んでいる」とし、「米政府は引き続きエバンの即時釈放に加え、海外で不当に拘束されている米国民の釈放を求めていく」と述べた。
冷戦終了以降、ロシアにスパイ容疑で起訴された米国人ジャーナリストはゲルシコビッチ氏が初めて。米政府は同氏の拘束について、政府として幅広い取り組みが可能になる「不当拘束」と認定し、即時釈放を求めている。
●プーチン大統領、ロシアの五輪参加容認すべきとの認識示す 12/14
ロシアのプーチン大統領は14日、「スポーツと政治は無関係だ」と述べ、ロシア人選手はウクライナ侵攻と関係なく五輪参加が認められるべきだとの認識を示した。年末記者会見で述べた。
プーチン氏は、各国で非難が広がっているイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザへの攻撃に関わりなくイスラエル人選手は五輪に参加できるべきだとし、「ロシアの選手についても同じだ」と強調した。
ロシア人選手に、国歌や国旗の使用を禁じた個人資格の中立選手として来夏のパリ五輪参加を認めるとした国際オリンピック委員会(IOC)の決定については、原則としてロシアの選手が出場すべきだと考えるが「条件を慎重に分析しなければならない」と述べた。
●ウクライナ戦争、ロシア経済に打撃 米財務省が分析=FT 12/14
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、米財務省はウクラナ戦争がロシア経済に多大な影響を及ぼしているとの見解を文書草案で示した。
国内物価が値上がりしているほか、国家予算の3分の1を国防に充てることを余儀なくされているという。
同省の制裁担当チーフエコノミスト、レイチャル・リンガス氏は、ウクライナ戦争を開始していなければロシア経済は5%以上拡大していたと指摘。ロシア経済のパフォーマンスは米国など他のエネルギー輸出国を下回っているとの認識を示した。
FTによると、ロシア政府は今年、歳出総額の3分の1近くに相当する1000億ドル以上を国防に充てている。
●ロシアの今年インフレ率は約8%、経済はプラス成長へ=プーチン氏 12/14
ロシアのプーチン大統領は14日に開いた年末記者会見で、今年のインフレ率が約8%になる可能性があると述べた。15日には中央銀行が物価高騰を抑えるために再び金利を引き上げると見込まれている。
「残念なことにインフレが高進している」と指摘。「しかし、中銀と政府は必要な措置を取っている」と述べた。
一方、今年の経済成長率が3.5%と見込まれていることは昨年の落ち込みから回復したことを意味するとして、「最も重要な指標は経済成長だ」と語った。
●ロシア軍、東部激戦地で前進と米シンクタンク ウクライナは撃退主張 12/14
米シンクタンク、戦争研究所は13日の戦況分析でロシア軍が東部ドネツク州の激戦地アブデーフカやマリンカ周辺で前進したと指摘した。ウクライナ軍は両市で撃退を続けていると発表している。ウクライナ軍のタルナフスキー司令官は13日、通信アプリに声明を投稿し、マリンカで「防衛が続いている」と主張した。
同氏はマリンカをロシア軍が完全に制圧したとの情報がロシア側から出ているとして「挑発だ」と否定した。ロシアは州全体の制圧を目指し、アブデーフカやマリンカで攻勢を強めている。
ウクライナのクリメンコ内相は14日、ロシア軍のミサイル攻撃により南部ヘルソン州で1人が死亡したと明らかにした。南部オデッサ州では無人機攻撃で11人が負傷。ウクライナ空軍は14日、ロシア軍が一晩で発射した無人機42機のうち41機を迎撃したと発表した。
ウクライナのイエルマーク大統領府長官は13日未明にあった首都キーウ(キエフ)へのロシア軍の攻撃について、重要インフラを狙ったとの見方を通信アプリに投稿した。最新鋭地対空ミサイルS400が使用された可能性があるとした。迎撃されたミサイルの破片が複数の場所で落下し、50人以上が負傷した。
●EU首脳会議で親露のハンガリーが暗雲 ウクライナ支援に単独反対 12/14
欧州連合(EU)は14日、ブリュッセルで首脳会議を開催する。2日間の日程で、ロシアの侵略を受けるウクライナのEU加盟交渉入りや4年間で最大500億ユーロ(約7兆7500億円)に上るウクライナ支援の予算案を協議。ロシア寄りとされるハンガリーのオルバン首相が交渉開始や長期的な支援に反対しており、先行きには暗雲が垂れ込めている。
EU加盟交渉の開始やウクライナ支援予算案の決定にはEU加盟27カ国の全会一致が必要だ。ハンガリーを翻意させられない場合、ウクライナ侵略戦争をめぐるEUの結束は大きく揺らぎ、その能力が問われる。
ハンガリーはロシア産天然ガスの供給に頼っており、オルバン氏はプーチン露大統領と親密だ。オルバン氏はウクライナの汚職対策や、ウクライナに住むハンガリー系住民の権利保護が不十分だと主張し、加盟交渉開始や予算案に反対してきた。13日も「(交渉開始などは)加盟国の利益にならない。EUは過ちを犯そうとしている」と改めて強調した。
欧州メディアによると、明確に異議を唱えているのはハンガリーだけだ。オルバン氏は「他の26カ国が異なる見解を示したとしても(決定を)阻止しなければならない」と強硬姿勢を崩していない。
ウクライナでは戦況が膠着(こうちゃく)し、米議会では野党・共和党の反対でウクライナ支援の予算案が通っていない。ウクライナにとって、EUが加盟交渉や長期支援の道筋を示すことは「苦境を乗り越える一手」(欧州の安全保障の専門家)として重大な意味を持つ。
それだけに、ウクライナのゼレンスキー大統領はオルバン氏の説得をEUに強く要求している。ゼレンスキー氏は13日、オルバン氏が「(加盟交渉入りを)阻止する理由がない」と批判。アルゼンチンで10日にオルバン氏と立ち話をした際に「反対する理由を教えてほしい」と直接問いただしたことも明らかにした。
EUはハンガリーで「法の支配」が損なわれているとして同国への補助金支給を見送ってきたため、これをオルバン氏懐柔に利用する構えだ。
EU欧州委員会は13日、ハンガリー向け補助金の凍結を一部解除し、最大102億ユーロ(約1兆6千億円)の支給を認めると発表した。オルバン氏の政治顧問は、残りの補助金も凍結が解除されれば、ウクライナ支援予算案について「拒否権を撤回する用意がある」との考えを示した。
だが、ハンガリーの改革を十分に検証せずに凍結を解除すれば、「他国も拒否権を乱用し、EUは弱体化する」(加盟国議員)という懸念も出ている。
●英国防相、ウクライナ海軍支援で展望「将来、連携できるように」 12/14
英国のシャップス国防相が14日、東京都内の在日英国大使館で記者会見した。ロシアの侵攻を受けるウクライナの海軍に対し、英国は今月中旬、ノルウェーと共同で支援する計画を発表。これに関し、長期目標として「ウクライナ海軍を北大西洋条約機構(の基準)に即して現代化し、我々の海軍と連携できるようにしたい」と展望を語った。
露海軍は黒海を封鎖し、ウクライナ南部の港湾都市オデッサなどからの海運を妨げている。シャップス氏はこの現状について、「(露海軍の)黒海艦隊はウクライナの絶え間ない攻撃にさらされ、オデッサ港からの穀物輸出も再開しつつある」と説明。露艦隊が「前ほどは自由に活動できていない」と分析した。英国はウクライナに機雷掃討艇2隻を供与し、海上輸送ルートの安全確保に役立てる計画だという。
一方、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘によってパレスチナ自治区ガザ地区で深刻化する人道危機について、「イスラエルは国際人道法を順守し、市民の危険を最小限にする必要がある」と指摘。ガザ地区への人道支援物資の搬入を加速させるようイスラエルに求めていると述べた。
シャップス氏はこの日、木原稔防衛相、イタリアのクロセット国防相と都内で会談し、3カ国による次期戦闘機の共同開発計画を管理・運営する政府間機関の設立で合意した。この意義として「欧州大陸での戦争や(国際秩序に挑戦する)中国といった大きな課題がある中で重要だ」と語った。

 

●欧米側の軍事支援「終わりつつある」 プーチン大統領が主張 12/15
ロシアのプーチン大統領は14日に行った年末の記者会見などのイベントで、ウクライナに対する欧米側の軍事支援について「終わりつつある」とした一方で、ロシア側は60万を超える兵力を展開するなど有利な情勢だと強調しました。
ロシアのプーチン大統領は14日、年末の記者会見と国民からの質問に答えるイベントを行いました。
この中でプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻について「ロシアが目標を達成すれば平和が訪れる。目標は変わっていない」と述べウクライナの「非軍事化」などを目標に侵攻を続ける姿勢を改めて示しました。
そしてプーチン大統領は、ウクライナに対する欧米側の軍事支援について「いずれ終わるだろうし、終わりつつあるようだ」とした一方で、ロシア側についてはおよそ62万の兵力を展開するなど有利な情勢だと強調しました。
今回プーチン大統領は、4時間余りにわたって外国メディアの記者や前線で戦っている兵士、それにロシア各地の住民からの質問に答えました。
プーチン大統領としてはウクライナで戦死する兵士が増えていることが国民の間にも知られるなか、戦況が好転していると強調し、軍事侵攻の長期化に対する理解を得たいねらいもあったとみられます。
ウクライナ大統領府顧問は強く批判
ロシアのプーチン大統領が年末の記者会見で「ロシアが目標を達成すれば平和が訪れる」などと述べたことについて、ウクライナのポドリャク大統領府顧問は14日、SNSに「プーチン大統領は戦争を続け、殺りくと征服を続けることをまたも表明した」と投稿し強く批判しました。
その上で「プーチン大統領に民主主義陣営は抵抗の準備ができておらず、待っていればいずれ妥協が成立すると希望を持たせるのはやめなければならない。すべては白か黒で、それ以外にはない」と書き込み、ウクライナが戦い続ける姿勢を強調しました。
AI作成の“プーチン大統領”が質問「影武者がいるのは本当か」
プーチン大統領が国民からの質問に答えるイベントでは、ロシアの大学生がAI=人工知能で作成したというプーチン大統領の映像から質問される場面がありました。
プーチン大統領の映像は、本人に対し「あなたには影武者が何人もいるというのは本当ですか。また、私たちの暮らしにAIがもたらす危険についてどう思いますか」と問いかけました。
これに対しプーチン大統領は「私に似せて、私の声で話す人はただ1人にすべきだと決めた。それは私にする」と応じました。
そのうえで「これが私の最初の影武者だ」と述べ、プーチン大統領には「影武者」がいるのではないかといううわさが絶えないなか、冗談めかして答えた形です。
またAIがもたらす危険については「AIの発展は止められない」としたうえで「人類に危険をもたらすような状況を生まないようトップの間で話し合うことが必要だ。核エネルギーが核爆弾になり、保有国の脅威となることが理解されたときに話し合いが始まった。おそらくAIもそうなるだろう」と述べました。
エネルギー輸出「日本は拒絶せず受け取っている」
またプーチン大統領は、ロシアからの天然ガスなどエネルギー輸出についての発言のなかで日本にも言及し「日本は拒絶せずに受け取っている。今後もそれを続けていこう。われわれは気にしない」と述べ、日本へのエネルギー供給の継続に期待を示しました。
●ロシア、ウクライナ目標達成まで戦闘継続 プーチン氏年末記者会見 12/15
ロシアのプーチン大統領は14日開いた年末恒例の大規模記者会見で、 ウクライナでの「特別軍事作戦」の目標は変わっておらず、「目標を達成すれば平和が訪れる」と述べた。
プーチン氏は首都モスクワで開いた今年の大規模記者会見で、報道各社のほか、ロシア各地の国民や前線で戦うロシア軍の兵士の質問に約4時間にわたり回答。ロシアがウクライナの「非武装化」、「非ナチ化」、「中立化」を確保するまで、ウクライナがこれらの目標を達成する協定を受け入れない限り、戦い続けると表明した。
その上で、 ロシア軍はほぼ全ての戦線で陣地を強化していると主張。予備役の追加招集は必要ないとした。昨年招集された30万人に加え、これまでに約48万6000人が自発的に応募しており、応募の「流れは衰えていない」とした。
また、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大がロシアを戦争に追い込んだと改めて主張。「ウクライナをNATOに加盟させ、国境に忍び寄らせようとする野放図な欲望がこの悲劇を招いた」と述べ、米国に対し「制裁と軍事介入」ではなく、歩み寄りを模索することで問題を解決するよう呼びかけた。
西側諸国のウクライナに対する軍事、財政支援の熱意が薄れつつある兆候を察知しているとしたものの、現時点ではウクライナに対する支援は継続されるとみていると語った。
●プーチン大統領 4時間にわたり年末会見と国民対話 侵攻継続の姿勢 12/15
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻後初めてとなる年末の大記者会見と、国民との対話イベントを実施し、「ロシアの目的が達成されれば平和が訪れる」と述べ、侵攻を続ける姿勢を改めて示しました。
プーチン大統領「ロシアが目的を達成すれば平和が訪れる。ウクライナの『非ナチ化』や『非軍事化』『中立化』だ」
プーチン大統領は14日、モスクワ中心部の会場でおよそ4時間にわたり、国内外のメディアや国民からの質問に答え、この中で、ウクライナの反転攻勢は失敗したと主張し、侵攻を続ける姿勢を改めて示しました。
戦闘地域ではロシア軍の兵士ら61万7000人が展開し、兵力は不足していないと強調。国民の反発が予想される追加の動員は現時点で必要ないと述べました。
また、今年のGDP=国内総生産はプラス3.5%との見通しを示し、制裁下でも経済は好調だと誇示しました。
会見では、AI=人口知能技術を使って作成されたという“AIプーチン”からこんな質問も。
プーチン大統領「(Q.プーチン氏に影武者が多いのは本当ですか?)私と同じような見た目や話し方をする人は1人であるべきだ。それが私だ。この映像が私の最初の影武者だ」
最後に選ばれた質問は、プーチン氏による自らの政権の評価についてでした。
ロシアメディア「(1期目の大統領となった)2000年のプーチン氏に言葉を送ることができるとすれば、何を伝えたいですか?」
プーチン大統領「皆さん、あなたたちは正しい道を歩んでいる」
会見はロシア全土に生中継され、来年3月の大統領選で通算5期目を目指すプーチン氏としては強い指導者像をアピールし、国民の支持を取り付ける狙いがあるとみられます。
●プーチン氏、拘束の米紙記者ら交換へ「合意望む」 ロの条件も強調 12/15
ロシアのプーチン大統領は14日、同国で拘束されている米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシコビッチ記者と元米海兵隊員ポール・ウィーラン氏について、米国と拘束者交換で合意できることを望むが、米側がロシアの条件を聞く必要があると述べた。
年末恒例の大規模記者会見で「合意を望む。互いに受け入れ可能で、双方に適したものでなければならない」と述べた。
この問題を巡り米国との接触は続いているとした上で「単純ではない。詳細には踏み込まないが、互いに理解できる言葉を話しているように思える」とし、解決に期待を示した。ただ「米国がわれわれに耳を傾け、ロシア側に合った適切な決定を下さねばならない」とも強調した。
一方、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、協議は継続中だが、米の真剣な提案をロシアが拒否したと述べた。
米国務省のミラー報道官も「プーチン氏が真剣なら、われわれが誠意を持って示した重要な提案を検討すべきだ」と述べた。
●反転攻勢「成果なし」と強調 12/15
ロシアのプーチン大統領は14日の記者会見で、ウクライナ軍が今年6月に開始した反転攻勢は大きな犠牲を出しながら「何の成果も得なかった」と述べ、前線での優位を強調した。ロシアの勝利に改めて自信を示した。
プーチン氏は、ウクライナ東部・南部の占領地にロシア軍が展開している兵員は約61万7千人だと述べた。ウクライナ側は反転攻勢開始後だけで戦車747両と各種装甲車約2万3千両を失ったと主張。欧米の支援疲れを念頭に「ウクライナは自分で何も生産していない。他人からもらうカネも尽きつつある」と指摘した。
●アウジーイウカ攻撃のロシア軍、1平方km占領ごとに1300人死傷 12/15
ロシア軍はウクライナ東部のわずか数kmの1つの戦場でこの2カ月に、ウクライナで戦争を拡大してから最初の2カ月にウクライナ全土で出したのに近い数の死傷者を出した。
ウクライナ軍の損耗人数はもっと少なく抑えられている。
ロシア軍は戦争拡大後の最初の数週間以来、途方もない損害を被り、ここへてきて損害はさらに拡大しているが、大きな前進は遂げていない。半面、これほどの損害を出しながらも、ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンの体制が崩壊しそうにないのも確かだ。
ジョー・バイデン米政権が今週、機密解除された情報評価文書で明らかにしたところによると、ウクライナ東部ドネツク州アウジーイウカのウクライナ軍守備隊に対する2カ月の攻撃で、ロシア軍はおよそ1万3000人の死傷者を出した。アウジーイウカはロシアが支配するドネツク市の数km北にある町だ。
一方、米国防総省は先に、ロシアがウクライナに全面侵攻した2022年2月からウクライナが半年後に反転攻勢を始めるまでに、ロシア軍の死者は2万人、負傷者は5万〜6万人にのぼったと推定している。
機密解除された文書によれば、戦争拡大から22カ月後、ロシア軍の死傷者は31万5000人に膨れ上がった。アウジーイウカでの犠牲者もそれに含まれる。ロシア軍の兵力は戦争拡大時点で現役と予備役を合わせ290万人だった。その後、兵士を40万人募集している。
ウクライナ軍の死傷者については、ニューヨーク・タイムズ紙が今年8月、米当局者の話として20万人近くと報じていた。ウクライナ軍の兵力は2021年末時点で110万人で、以後130万人に増えている。
米政府によるロシア軍の死傷者数の推計は多すぎると思えるかもしれないが、ウクライナ側による見積もりはもっと多い。ウクライナ軍の集計では、2022年2月から2023年12月までのロシア軍の人的損失は約34万人となっている。
ロシア軍の損害の大きさについては傍証となるような証言もある。アウジーイウカ周辺で戦うあるロシア兵は最近、攻撃を始めた時には仲間の兵士が70人いたが、うち56人を失ったと語っている。
バフムートに続き、人命を軽視した人海戦術で死屍累々に
ロシアの損害に関してとりわけ愕然とするのは、その見返りである。ロシア軍はウクライナ軍が今年6月上旬に始めた反攻を地雷原で遅滞させ、ウクライナ軍の旅団を2つの主攻勢軸で15〜20km程度の前進に抑え込んだ一方、この間、自軍側も大きな前進はできていない。
実のところ、ロシア軍にとっては、膨大な犠牲を出して「肉挽き機」状態となっているアウジーイウカ戦が、5月のドネツク州バフムート制圧以来、最も成功した作戦になっている。とはいっても、ロシア軍の連隊はアウジーイウカの北と南で1.5km程度しか前線できておらず、獲得した領域も10平方kmほどにとどまる。アウジーイウカ自体は落とせていない。
ロシア軍はアウジーイウカ周辺で、支配領域を1平方km広げるごとに1300人の死傷者を出している計算だ。大半はウクライナ軍の砲兵旅団の餌食になっている。ウクライナ軍の砲兵将校、コールサイン(無線通信時のニックネーム)「アーティ・グリーン」は、各旅団は突進してくるロシア軍の縦隊を互いに競い合うように砲撃していると述べている。
ロシア軍がウクライナでウクライナ軍よりもはるかに多くの死者を出し、その見返りも小さいのは明らかだ。だが、この不均衡さが問題になるのかどうかはそれほど明らかではない。
ウクライナは民主主義国であり、その主要な支援諸国もそうだ。これらの国の決定は民意に従う。一方、ロシアは名ばかりの民主主義国であり、プーチンに逆らうのは違法も同然で、信頼できる対抗者はたいてい死ぬか投獄されている。
ロシアの主要な仲間である中国、イラン、北朝鮮も権威主義国である。暴力をともなう革命でも起きない限り、これらの国で世論はあってないようなものだ。「ロシアにも不満をもっている人はたくさんいるが、それを吐き出すのはますます難しくなっている」と、ジャーナリストのローランド・バソンはインターナショナル・ポリティクス・アンド・ソサエティー誌への寄稿で書いている。
ロシアは何万人も徴募し、犠牲をいとわずウクライナに送り込むことができる。人的損失がかさんでも、戦争努力が損なわれることはない。他方、ウクライナ軍の反攻が予想ほど進んでいないことで、米議会のロシア寄りの共和党員らは、今後の対ウクライナ支援の拒絶を正当化するのに必要な理由を手にした。
プーチンは最近、ウクライナに「未来はない」と言い募った。「われわれには未来がある」とも。だが、プーチンの言う「われわれ」とは、自身がウクライナで起こした戦争で命を落とした大勢のロシア人のことではない。プーチンにとっては、ウクライナ人の命がどうでもいいように、ロシア人の命もどうでもいいものなのだ。
●ウクライナ加盟交渉を協議 EU首脳、支援承認も難航 12/15
欧州連合(EU)は14日、ブリュッセルで首脳会議を開いた。ロシアの侵攻を受けるウクライナのEU加盟交渉開始の是非と、同国に向けた500億ユーロ(約7兆7千億円)の支援承認が主要議題。全会一致の決定が求められる中、いずれもハンガリーが反対する構えを見せており、協議は難航しそうだ。会議は2日間の日程。
加盟交渉の開始が決まれば、多くのウクライナ国民が切望するEU加盟に向けて一歩前進する。長年、ウクライナのEUへの接近阻止を図ってきたロシアのプーチン大統領にとっては新たな失点となる。
●プーチン大統領「ロシアの目標達成まではウクライナに平和はない」 12/15
ロシアのプーチン大統領がロシアの目標を達成するまでは、ウクライナとの戦争を止めないと明らかにした。
プーチン大統領は14日(現地時間)、モスクワのゴスティーニ・ドヴォルで記者会見兼国民疎通行事である「今年の結果」を開いた。プーチン大統領が大規模な疎通行事を開いたのはウクライナ侵攻後初めてだ。
プーチン大統領はこの日、「『特別軍事作戦』の目標を変える計画はなく、この目標が達成されてこそウクライナに平和が訪れるだろう」と明らかにした。そしてロシアの目標は「ウクライナの脱ナチ化や非軍事化、中立的地位」と説明した。
現在61万7000人のロシア軍兵力が作戦地域に配置されており、戦線の長さは2000キロを超えるとし「ほぼすべての戦線に沿ってロシア軍の位置が改善されている」と主張した。
ウクライナ軍がクリミア半島進撃のためにドニエプル川左岸に拠点を確保しようとすることに対しては「ウクライナの最後の試み」として切り下げた。
プーチン大統領は現在、2回目の動員令を下す計画はないと明らかにした。昨年9月、ロシアが部分動員令を発令した時、ロシアの若い男性の多くが拒否感を示し、海外に流出したことがある。
そして、「昨年、動員令を通じて募集した30万人の兵力のうち、24万4000人が戦闘地域で戦っており、48万6000人が自ら入隊を志願するなど戦線に出るという人々が減っていない」と強調した。
ウクライナに対する西側の支援については「無料支援はいつかは終わるだろう」とし、ウクライナのゼレンスキー大統領が西側に物乞いをしていると皮肉った。
米国に対しては「重要で必要な国」とし、関係を構築する準備ができているとしながらも、米国の帝国主義政治が関係を妨害すると話した。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の記者がスパイ容疑で拘禁中のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のエバン・ゲルシコビッチ記者と米海兵隊出身の企業保安責任者ポール・ウィラン氏の送還について質問すると、プーチン大統領は「米国と対話中」と明らかにした。
だが「互いに理解できない言葉で会話しているような感じ」として「解決策を探りたいが、米国側が我々の声に耳を傾け、私たちも満足できる決定を下す必要がある」と述べた。
プーチン大統領はイスラエルとパレスチナ武装政派ハマスが戦争を繰り広げているガザ地区に「災難」が起きているとし「ウクライナにはそのようなことはない」と強調した。
同日の行事は約4時間にわたって行われた。ウクライナ戦争で2022年疎通行事を省いたプーチン大統領が今年再開したのは来年の大統領選挙の出馬を予告した中で戦況に対する自信を表わしたものという分析が出ている。
●第3四半期GDP、前年同期比9.3%増で2期連続の大幅プラス成長 12/15
ウクライナ国家統計局の発表(12月11日)によると、同国の2023年第3四半期(7〜9月)の実質GDP成長率は前年同期比9.3%だった。前期(2023年9月28日記事参照)の伸び率と比べて10.2ポイント減少したが、2期連続の大幅なプラス成長となった。前期比(季節調整済み)では0.7%だった。
2023年通年のGDP成長率見通しについては、ウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)が、8月時点の2.9%から2.0ポイント上方修正し、4.9%のプラス成長と予想した(NBU発表11月2日)。NBUは経済回復の要因として、戦時下における企業および国民の高い適用力、予想を上回る農作物の豊作、輸出代替ルートの拡大、予算支出の増加を挙げている。2024年の成長率は3.6%と、2023年8月時点の3.5%とほぼ同等とし、2025年は最大6%と2023年8月時点の6.8%から下方修正した。
IMFも、ウクライナのマクロ経済と金融の安定は維持されているとし、同国の2023年のGDP成長率見通しを従来の1〜3%から4.5%に引き上げた(2023年11月10日付プレスリリース)。IMFは、ウクライナ経済の強靭(きょうじん)さが経済の回復や、インフレ率の急激な改善をもたらしたほか、十分な外貨準備を背景にNBUが固定相場制から離脱(2023年10月6日記事参照)したものの、安定した外国為替市場につながっていると評価した(2023年12月11日付プレスリリース)。なおIMFは、戦争の継続により、2024年の成長率は3〜4%に若干鈍化すると予想した。
経済の見通し改善の流れは、政策金利の引き下げやインフレ率が改善していることからも裏付けられる。NBUは2023年10月26日、主要政策金利を20%から16%に引き下げると発表し、翌日27日から適用した。また、2023年12月末時点のインフレ率見通しを10.6%から5.8%に引き下げた。NBUはこの見直しの主な要因として、農作物の豊作による食料品価格への影響を挙げている。
他方、NBUは、2024年のインフレ率見通しを従来の8.5%から9.8%に引き上げている。引き上げの要因として、比較基準となる2023年の食料品価格が低いことに加え、安全保障リスク見直しによるビジネスコストの上昇圧力、賃金の上昇、公定価格引き上げの加速を挙げている。
●EU、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉開始へ ハンガリーは採決を棄権 12/15
欧州連合(EU)加盟国は14日の首脳会議 (サミット)で、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉を正式に開始すると決定した。併せて、ジョージアを正式な加盟候補国とした。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「これはウクライナにとっての勝利だ。欧州にとっての勝利だ。動機を与え、活力を与え、強さを与える勝利だ」と述べた。
欧州理事会のシャルル・ミシェル議長の報道官は、この決定は全会一致で決まったと説明した。
ウクライナの加盟交渉開始をめぐっては、ハンガリーが長らく反対していたが、拒否権は発動しなかった。
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、採決の際に一時的に会議場から退出。残る26か国の首脳が採決に臨んだ。オルバン氏の退出について関係者は、あらかじめ合意された建設的なふるまいだと話している。
オルバン氏はその後、フェイスブックにビデオメッセージを投稿。「ウクライナのEU加盟は悪い決定だ。ハンガリーはこの悪い決定に参加したくないので、今日の決定から離れた」と述べ、他の首脳らから距離を置いた。
ウクライナとモルドヴァは、2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した直後にEUへの加盟申請を行った。その後、今年6月に加盟候補国として承認されていた。ジョージアも同時期に申請したが、この時は加盟候補国にならなかった。
モルドヴァのマイア・サンドゥ大統領は、ウクライナとEU加盟への道を共有できたことを光栄に思うと発言。「ロシアの残忍な侵略に対するウクライナの勇敢な抵抗なくして、今日の我々の姿はなかった」と述べた。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、モルドヴァは、ロシア政府がスパイ行為や国内の反対勢力の支援を行っていると非難している。
今年2月には、ロシアが外国の「破壊工作員」を使い、モルドヴァでクーデターを起こそうとしていると警告。7月には、ロシアの外交官や大使館職員など合わせて45人を「非友好的活動」を理由に国外退去させた。
欧米からの支援に苦慮する中での政治的勝利
EU加盟候補国は、法の支配から経済まで幅広い基準の順守が求められるため、国内で一連の改革法案を通過させる必要がある。だがEU執行部はすでに、ウクライナ政府が司法と汚職への取り組みを90%以上完了させたとたたえている。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、加盟国が「支持への強い意志」を示したことを称賛。ウクライナとモルドヴァが「欧州の家族」の一員であることは明らかだと述べた。
外交筋によると、決議のためにオルバン氏に退場を促したのはショルツ氏の提案だったという。
EU加盟交渉には数年かかる可能性もあり、今回の決定はウクライナの加盟を保証するものではない。
だが、約22カ月に及ぶロシアとの戦争と、欧米からの軍事・財政援助の確保に苦闘を続けているウクライナにとっては、待望の朗報だ。
ゼレンスキー氏は今週初めにアメリカを訪問し、共和党議員に阻まれている610億ドルの軍事費拠出を可決するよう、米議会を説得しようとした。
ロシアの占領軍に対するウクライナの反転攻勢は、冬の始まりとともに停止状態にある。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日の演説でウクライナをあざけり、西側の支援はもう限界だと主張した。 「下品な言い方で申し訳ないが、すべてが『ただ』で提供されている。しかし、その『ただ』もいつかは尽きるかもしれない」と、プーチン氏は語った。
しかしゼレンスキー氏は少なくとも、今回の政治的勝利を、ウクライナが徐々にパートナーから見放されているわけではないという証拠にできるとみられる。
欧州理事会のミシェル議長は、これは「ウクライナの人々に、我々は彼らの味方だと示す非常に強力なシグナルだ」と述べた。
アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、EUの「歴史的な」動きを歓迎。ウクライナとモルドヴァの「EUおよび北大西洋条約機構(NATO)加盟の願望を実現するための重要な一歩」だと述べた。
ジョージアにとって「記念すべきマイルストーン」
今回、加盟候補国となったジョージアのサロメ・ズラビシヴィリ大統領は、EUの決定は「記念すべきマイルストーン」だと述べた。
ジョージア国民は親EU派が多いものの、政府はロシアと複雑な関係にあり、ウクライナ侵攻が始まって以降も、対ロ制裁を実施していない。
10月には、ジョージアの独立分離派が実効支配しているアブハジアに、ロシアが海軍基地を建設する予定だと報じられた。
2008年のロシアとジョージアとの紛争の際、ロシアはアブハジアの独立を承認。ジョージアは、アブハジアがロシアに占領されているとしている。
ミシェル欧州議会理事長はさらに、ボスニア・ヘルツェゴビナが加盟基準を満たせば交渉を開始する用意があると述べた。ボスニア・ヘルツェゴビナは1年前に加盟候補国としての地位を与えられたが、先月の報告書では、選挙制度と司法改革でさらに必要とされる措置が列挙されていた。
●ロシア軍による無人機攻撃続く インフラねらった攻撃強化か 12/15
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア軍は、前日のミサイル攻撃に続いて14日にかけては南部を中心に40機以上の無人機による攻撃を行い、これまでに11人がけがをしました。冬の寒さが厳しくなる中で重要インフラをねらった攻撃を強めているとみられます。
ウクライナ空軍は14日、ロシア軍が無人機42機で攻撃し、このうち41機を迎撃したと発表しました。
ほとんどの攻撃は南部オデーサ州が標的だったということで、州知事によりますと撃ち落とした破片が住宅地に落ちるなどして子ども3人を含む11人がけがをしたということです。
ロシア軍は、13日にも首都キーウに向けてミサイル10発を発射し53人がけがをしていて、ウクライナのイエルマク大統領府長官はSNSへの投稿で「重要インフラをねらったものだ。彼らが何を標的にしているかわかっている」として冬の寒さが厳しくなる中でロシア側がインフラ施設への攻撃を強めているとの見方を示しています。
こうした中、ウクライナのウメロフ国防相は日本の松田邦紀大使と会談したとSNSで明らかにし、ウクライナ支援の国際的な枠組みで日本が「地雷除去」と「IT」の分野に参加したことを歓迎しました。
その上で日本の企業に対しロボットやハイテクの分野でウクライナの防衛産業との協力を呼びかけたとしていて、日本との連携を一層強めたい姿勢を示しています。
●次々撃墜されるロシアのミサイル、ウクライナ防空網はアイアンドーム並み 12/15
ウクライナによる地上軍の反転攻勢は、「うまくいかず膠着している」といわれている。
一方で、「苦しい戦いではあるが膠着はしていない」と言う人もいる。
ロシア地上軍は東部戦線のアウディウカとバフムトに戦力を集中して攻撃している。それは、戦術などほとんどない肉弾攻撃であり、領土の目標線を確保するために、突撃させられているのである。
戦闘は、地表の地上戦の戦いばかりではなく、空中戦も行われている。
その中の戦闘機の戦いについては、JBpress『地上戦から空中戦へロシア軍が戦術変更、困惑するウクライナ軍』(2023.11.23)で述べた。
今回は、ロシア軍のミサイル攻撃とウクライナ軍の防空、そしてそれらの結果について焦点を当てて解説する。
まず、ミサイルの種類を詳細に区分して紹介する。
その理由は、ウクライナ空軍の防空能力が高くなるにつれて、撃墜できるミサイルの種類が多くなっていること、またウクライナの自爆型の無人機や無人艇の攻撃により、ロシア軍がミサイルの発射位置に制約を受けてきているからである。
ミサイル発射のデータについては、ウクライナ空軍司令部公式HPおよびウクライナ軍参謀部HPを参考にした。
1. ロシア軍によるミサイル攻撃の概要
ロシア軍は侵攻以来、ウクライナ本土の都市や軍事施設を狙ってミサイル攻撃を行っている。
その手段には、爆撃機と戦闘機で空中から、艦艇と潜水艦で水上・水中から、移動発射台(TEL)で陸上からのミサイルがある。
ミサイルには、爆撃機から発射される巡航ミサイルと弾道ミサイル、戦闘機からの空対地ミサイル、艦艇と潜水艦からの巡航ミサイル、地上からは弾道ミサイルと地対地ミサイルがある。
ウクライナ空軍は、ロシアから発射されるミサイルの種類について概ね公表している。
種類によっては、発射母体(例えば爆撃機)や飛翔速度などの性能が似ていて、レーダーだけで識別できないものや戦闘の混乱で正確な記載ができない場合もあるようだ。
例えば、爆撃機が発射する「Kh-101コディアック」と「Kh-555ケント」を合わせ、あるいは、2022年まではこれらの2種類に水上艦や潜水艦が発射する「3M-54カリブル」を合わせて算定している場合がある。
このために、ミサイルの種類を詳細かつ正確に区分ができない場合がある。それでも、できる限り詳細に区分して説明する。
ロシア軍がミサイル攻撃に使用しているのは、主に遠距離航空軍の戦略爆撃機からの巡航ミサイルである。概算で3分の2以上だ。
その次に多いのが水上艦と潜水艦(艦艇)から発射される巡航ミサイルである。
爆撃機と艦艇等からの発射の比率は正確に算定できないが、報告によっては、爆撃機からが70発と艦艇等から20発の場合、爆撃機から17発と艦艇から8発の場合がある。
これらのミサイルは速度が遅く、遠距離の飛翔であることから、撃墜される数が多い。
そのほかに、まれに1日に多数発射の時や10発前後の時に、空対地ミサイルや弾道ミサイルの発射がある。
これらのミサイルは、高速で飛翔距離が短いために、撃墜するのが難しいようだ。
だが、空中と地上から発射される弾道ミサイルは、パトリオットミサイルが供与されたため、ほとんどが撃墜されている。
2. 各種巡航ミサイル攻撃とウクライナの防空
ロシアの巡航ミサイルは、射程が2000〜3000キロであり、中には5500キロのものもある。つまり、ウクライナから遠く離れた基地に所在する爆撃機や艦艇から攻撃されているのである。
巡航ミサイルは、地形に沿って、あるいは設定した位置を通過するように、大きく方向を変えることができる。
途中までは高高度を飛翔し、目標に近づくと超低空(10〜15メートル)を飛翔して、GPS誘導で目標に命中させる。
レーダー反射面は比較的小さいが、ミサイルの巡航速度はマッハ0.7前後(輸送機のレベル)で遅い。
Kh-555ケント(射程3500キロ、Kh-55ケントの改良型)、Kh-101コディアック(射程4500〜5500キロ)が戦略爆撃機「Tu-95ベア」、「Tu-160ブラックジャック」、「Tu-22バックファイア」および戦闘爆撃機「Su-34フルバック」から発射されている。
   図1 ロシア軍遠距離航空軍基地の位置(極東地域を除く)等と発射方向
ウクライナ空軍発表の日々のミサイル発射情報を分析していると、ウクライナ空軍の捜索レーダーは、これらの爆撃機の離陸から接近飛行航跡の情報を解明している。
また、ウクライナ本土から離隔している位置から発射されたり、飛翔方向を大きく変更したりしている場合でも、速度が遅いためにその飛翔航跡を早期に判明し、撃墜することが多かった。
そのため、ロシアには巡航ミサイルを簡単に撃墜されないような特異な飛翔をしたものもあった。
例えば、2023年2月10日、黒海から発射されたミサイル2発は、ルーマニアからモルドバに接近するようにして飛翔し、本土を攻撃した。
主に海上・水中からは、「3M-54カリブル」(射程2000〜2500キロ)が、陸上からは「イスカンデルK」(射程2000〜2350キロ、弾道ミサイルのイスカンデルMとは異なる)巡航ミサイルが発射されている。
カリブルミサイルは、黒海やアゾフ海という比較的遠距離からの遅い速度で飛翔してくるので、撃墜できることが多い。
黒海からのミサイル発射については、2023年7月26日までの発射が記録されているが、これ以降の記録はない。
ロシアセバストポリの艦艇が、ウクライナの無人艇に攻撃されて、ノボロシクスへ撤退したことによって、黒海からの発射はなくなったものと考えられる。
ロシアが1日に30発以上発射した場合の巡航ミサイルの発射数と撃墜数を算出し、その撃墜率を算定してみた。
数値が不明な部分もあって正確ではないが、概ねの数値を算定できた。
米欧の防空ミサイルが供与される以前(2022年9月〜2023年4月)は約75%、供与後(2023年5月以降から現在まで)は約95%であった。
米欧の防空ミサイルや機関砲を攻撃されそうな地域に配備すれば、ロシア軍の巡航ミサイルはほとんど撃墜できることが判明した。
巡航ミサイル実際の発射と撃墜記録
 (米欧の防空ミサイル整備前)
2022年11月5日:巡航ミサイル90発とその他の6発発射で77発撃墜
同年11月23日:巡航ミサイルだけ70発発射で51発撃墜
同年12月5日:巡航ミサイルとKh-22など合計70発発射で60発撃墜
同年12月15日:巡航ミサイル70発発射で60発撃墜
 (米欧の防空ミサイル整備以降)
2023年5月8〜9日:巡航ミサイル25発発射で25発撃墜
同年5月29日:巡航ミサイル40発発射で36発撃墜
同年6月6日:巡航ミサイル35発発射で35発撃墜
同年9月21日:巡航ミサイル44発発射で36発撃墜
巡航ミサイルは撃墜されることが多いので、それを防止するために飽和攻撃を実施し、1日に多数弾を発射する場合が多い。
その理由の第1はロシアがミサイルを大量に保有しているからである。
第2の理由は、少ない数を発射すればほとんど撃墜されるからである。
他のミサイルと併せて大量に発射することにより、ウクライナがミサイルを撃ち漏らす可能性を高めたのである。
ロシアは大量の巡航ミサイルを発射しているが、月約100発を生産しているという情報もある。
3. 空対地ミサイルの攻撃とウクライナの防空
ウクライナに撃ち込んでいるロシア軍の空対地ミサイルには、
(1)高速で比較的長射程の戦略爆撃機Tu-22バックファイアに搭載の「Kh-22キッチン」(射程750キロ)、この改良型の「Kh-32」(射程1000キロ)
(2)高速で比較的短射程の戦闘機Su-27/30、「MiG-29」などに搭載の「Kh-31クリプトン」(射程110キロ)、「P-800オニキス」(射程450キロ)
(3)低速で短射程のSu-27/30に搭載の「Kh-59オーヴォト」(射程200キロ)がある。
ウクライナ空軍発表の記録を見ると、(1)と(2)のミサイルは撃墜されていない。(3)は撃墜されていて、例えば、2023年1月14日には10発発射されて7発撃墜されている。
特に、(1)のKh-22は弾頭重量が1000キロであり、その被害はウクライナに撃ち込まれているミサイルの中で最も大きい。
テレビ映像にあった地面に深さ約10メートル、幅30メートルほどの弾痕があったり、大きなビルが1発で破壊されたりしているのは、恐らくこのミサイルである。
ウクライナに撃ち込まれているミサイルの中で最も脅威なのが、Kh-22とKh-32ミサイルだ。
2023年8月15日ソルツイ基地とミヤンコフカ基地のTu-22×6機が、4発のKh-22 を発射したが、ウクライナが撃墜した記録はない。
この2種類のミサイルが撃墜されたという記録は一度もない。実際に撃墜できてはいないのだろう。
この実績から、ウクライナが採ったのは、地上に駐機してある爆撃機破壊の計画だ。
ウクライナは2023年8月19日、ロシア西部ノヴゴロド州のソルツイ空軍基地に係留してあったTu-22×2機を自爆型ドローンを突入させて破壊した。
この結果、ロシアは、ソルツイ空軍基地にあったTu-22(機数不明)を約1200キロ離れたコラ半島ムルマンスク州のオレネゴルスク基地に後退させた(図1参照)。
ウクライナの無人機攻撃の後、Tu-22によるKh-22ミサイル攻撃は、11月22日の1回1発だけである。それも、このミサイルは目標に到達することができなかった。
これまで撃墜されたことがないTu-22からのKh-22ミサイルの攻撃をロシアが行わない理由は不明である。
結果として、ウクライナによる自爆型無人機2機の攻撃が功を奏したといえる。
4. 空中・地上からの弾道ミサイル攻撃とウクライナの防空
ウクライナに撃ち込んでいるロシア軍の弾道ミサイルは、地上発射型の「9K720 イスカンデル-M」(射程500、飛翔速度マッハ5.9)と空中発射型の「Kh-47M2 キンジャール」(射程3000キロ、飛翔速度マッハ10)だ。
地上発射型は、クリミアなどのロシア軍占領地やロシア領土から発射されている。空中発射型は、シャイコフカ基地やソルツイ基地からTu-22が発進して、発射されている。
今年(2023年)4月に、ウクライナにパトリオットミサイルが配備されるまでは、100%撃墜できなかった。
だが、配備された地域では100%あるいはこれに近い比率で撃墜できている。当初の配備はキーウだけであったが、オデーサにも配備された。
ロシアは、この2地域を外してミサイル攻撃を行うようになった。
弾道ミサイルの実際の発射と撃墜記録
2023年5月15〜16日:キンジャール×6発、イスカンデルM×3発と巡航ミサイルの複合射撃18発のすべてを撃墜
同年5月29日:キーウに向けて発射されたイスカンデルMと巡航ミサイルの合計11発のすべてを撃墜
同年6月16日: キーウに向けて発射されたKh-47キンジャール×6基とカリブル巡航ミサイルのすべてを撃墜
同年7月26日:フメリニツキー(ウクライナ西部の州)に向けて発射されたKh-47キンジャール×4基については、撃墜の有無の記述なし
   図2 各種ミサイルの攻撃要領イメージ
5. ロシアのミサイル攻撃は制約を受けている
ウクライナは、米欧の防空兵器の供与を受けて防空網を整備してきた。
その結果、ロシア空軍戦闘機による空爆はこの防空網の外からだけの攻撃となった。
ロシアのミサイルは、ウクライナの都市や軍事施設を攻撃しているが、撃墜される率も高くなっている。
パトリオットミサイルが配備されてからは、キーウやオデーサを攻撃する弾道ミサイルは、100%近く撃墜されている。
ロシアは撃墜されるのを避けるために、パトリオットミサイルが配備されていない地域を狙うようになった。
ウクライナの防空部隊が撃墜できないミサイルもある。
それは、戦略爆撃機Tu-22から発射されるKh-22とKh-32だ。
この攻撃を阻止するために、自爆型無人機を使ってソルツイ基地のTu-22爆撃機を破壊した。
この影響を受け、その地から1200キロ離れたコラ半島の基地まで後退させた。そして、ミサイルの爆撃は極端に減少している。
黒海の艦艇からのミサイル攻撃に対しては、自爆型無人艇でセバストポリ港の水上艦艇や潜水艦を攻撃し、ノボロシクスに後退させた。
現在では、黒海からの巡航ミサイルの攻撃はなくなっている。
以上のように、ウクライナはロシアが発射するミサイルを撃墜できることが多くなってきた。そのため、ロシアのミサイル攻撃が成功する率は、大幅に減少している。
このことは、ウクライナ軍の地上作戦にも、間接的に良い影響を与えてくるはずだ。
●停滞する米国のウクライナ支援 バイデン政権は内政と外交の板挟みに 12/15
米国ではウクライナ支援への関心が大きく低下
ウクライナのゼレンスキー大統領は、米国のウクライナ支援を呼びかけるため訪米し、12日にはバイデン大統領と会談、さらに与野党の議会指導部と面会した。バイデン政権は10月に614億ドルのウクライナ支援の追加予算を議会に要請したが、野党共和党の反対で予算成立のめどはたっていない。ゼレンスキー大統領は、追加支援を共和党指導者に直訴したが、共和党幹部はクリスマス休暇までの予算可決は「事実上不可能だ」と明言している。
ゼレンスキー大統領の訪米は、2022年12月以来1年ぶりであるが、米国側の対応はこの1年で大きく変化してしまった。ゼレンスキー大統領が前回予告なしに訪米した際には、米議会に招かれて演説し、上下両院の民主・共和双方の議員から大きな歓迎を受けた。
それから1年たち、議会の受け止めだけでなく、ウクライナ問題に対する世論の関心も大きく低下した。ピュー・リサーチセンターの調査によると、共和党支持層では、ウクライナ支援が「行き過ぎ」との回答が、2022年3月には9%だったが、2023年12月には48%まで上昇した。回答者全体でも同時期に7%から31%へと高まった。
米国や他の先進国によるウクライナ支援を受け今年6月に始まった反転攻勢が上手くいかなかったことが、米国民の大きな失望を生んでいる。さらに、米国民の関心が、イスラエルによるガザ地区攻撃に向いていることも、ウクライナ支援への関心を低下させている面があるだろう。
ウクライナ支援の予算は年内に底を付く
バイデン政権は、ウクライナ支援の追加の予算が成立しない場合、今年年末に予算が底を付く、と警鐘を鳴らしている。実際には、米軍が現在確保している弾薬・装備品をウクライナ支援に回すこともできるが、それは他地域での米軍の軍事力低下につながりかねず、一時的な対応でしかない。
米国防総省によると、12月12日までに対ウクライナ予算は10億ドルを切った。ロシアによるウクライナ侵攻開始以降に米国が決めた軍事支援は合計で計442億ドルだが、今年11月頃から支援の規模が小さくなっているという。
バイデン政権は、ゼレンスキー大統領の訪米のお礼、あるいは土産に、ウクライナの防空能力の強化や砲弾の追加など最大2億ドル相当の軍事支援を発表した。しかしこれは、1年前にゼレンスキー大統領の訪米にあわせて発表した支援額の10分の1に過ぎず、資金面からウクライナ支援に大きな障害が出ていることをうかがわせるものだ。
内生と外交の板挟みで定まらないバイデン政権の政策対応
下院共和党トップのジョンソン議長は、イスラエル支援の追加予算を承認するには、1)米国境警備の強化策、2)ウクライナが戦争で勝利する戦略、の2点を示す必要がある、と話している。
同氏は、南部国境の不法入国は1日当たり1万2千人に上っており、政権の政策の不備によって国境は破滅的状況にある、と批判している。そして、厳格な国境警備策が追加予算承認の条件であるとしている。さらに共和党は、国境警備対策の強化に加えて、難民制度の厳格化なども必要と主張する。ウクライナ支援など外国に巨額の資金を送るなら、まずは米国民の安全確保にお金を使うべき、というのが共和党の見解だ。
バイデン大統領は当初、ウクライナ支援を共和党が阻んでいるとの構図を国民にアピールしようとしてが、それが上手くいかないことから、国境警備の強化などで共和党に対して一定程度譲歩することで、追加予算の成立を目指している。
しかし、共和党に譲歩し過ぎれば、民主党リベラル派からの反発を受けてしまうだろう。ただし、大統領選本選を睨めば、不法移民対策強化によって、無党派層の支持を得ることができるのかもしれない。
ウクライナ支援を主導してきた米国で支援が滞れば、他の先進国からは強い批判を浴びるだろう。ただしバイデン大統領は、2024年の大統領選挙もにらんで、対応を決めざるをえない。
他方イスラエル支援では、親イスラエルの国内世論を受けてイスラエル支援を続けてきたが、それが国際的な批判を浴びており、米国の国際的なプレゼンス、リーダーシップを損ねない状況となっている。
ウクライナ支援でも、イスラエル支援でも、バイデン政権はまさに内政と外交の板挟みに直面しており、方針が定まらない中、政策の推進力が削がれてしまっているのが現状ではないか。
●アメリカ、125兆円超の国防権限法成立へ インド太平洋を重視 12/15
米連邦下院は14日、2024会計年度(23年10月〜24年9月)の国防関連予算の大枠を約8863億ドル(約125兆8000億円)とする国防権限法案を310対118の賛成多数で可決した。上院でも13日に可決されており、既に賛意を示しているバイデン大統領の署名を経て年内に成立する。
総額は前年度より約3・3%増加し、過去最高額を更新した。物価高(インフレ)を反映して、米軍兵士の5・2%昇給も盛り込まれた。
インド太平洋地域での米軍の態勢を増強する「太平洋抑止イニシアチブ(PDI)」には前年より30億ドル以上多い約147億ドル(約2兆800億円)を配分した。自衛隊が24年度に常設統合司令部を設置するのに対応して、在日米軍の指揮構造の見直しを検討するよう国防総省に要求。在日・在韓米軍を含めてインド太平洋地域全体の米軍の態勢に関する研究・調査も求めた。
ロシアの侵攻を受けるウクライナに関しては、共和党を中心に支援の使途の検証を強化するよう求める声があるのを踏まえて、国防総省や国務省などの特別監察官に議会への状況説明を随時行うよう求めた。24、25両会計年度の各3億ドル(約425億円)の対ウクライナ軍事支援も盛り込まれた。
バイデン政権は通常の予算とは別枠で総額614億ドル(約8兆7000億円)の対ウクライナ支援を確保するよう求めているが、共和党は国境管理や移民受け入れの大幅な厳格化を条件としているため、審議は難航している。下院は15日からクリスマス・年末年始の休会期間に入る予定だが、バイデン政権は「支援の資金が年内に枯渇する」と警告している。
一方、下院共和党の保守強硬派は、人工妊娠中絶が規制された州で勤務する女性軍人らが他州で中絶手術を受けるための旅費支給や休暇取得などの支援策の廃止を国防権限法案に盛り込もうとした。しかし、超党派の協議で法案から除外されたため、14日の採決では一部が反対に回った。 
●プーチン氏、侵攻の目的達成すれば「ウクライナに平和訪れる」 12/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日、首都モスクワで、ウクライナ侵攻開始後初めてとなる年末恒例の記者会見や国民対話のイベントを開き、ウクライナの平和は「我々が目的を達成したとき」にしか実現しないと述べた。
記者会見と、国民からの質問に答えるイベントで、プーチン氏はジャーナリストやロシアの一般市民からの質問に答えた。
イベントは大部分に演出が施され、内容のほとんどは、プーチン氏が「ウクライナでの特別軍事作戦」と呼ぶ軍事侵攻に焦点をあてたものだった。
プーチン氏は、前線全体で状況が改善しつつあると主張した。
プーチン氏との「直接対話」の様子を伝える番組は、ロシアのほとんどの主要チャンネルで4時間以上にわたり放送された。
番組冒頭でプーチン氏は、「我が国が主権を持たずに存在するのは不可能だ。(主権がなければ)この国はただ単に、存在しない」と国民に語り掛けた。
さらに、ロシア経済は戦時下にしては好調だと付け加え、話題はすぐにウクライナのことに移った。
「61万7000人のロシア人がウクライナで戦っている」
プーチン氏は「我々が目的を達成すれば(ウクライナに)平和が訪れる」と述べた。ウクライナにおける「非ナチス化と非軍事化、中立化」という「目的は変わらない」とした。プーチン氏は開戦当初からこの両方を、重要テーマとしてきた。
大統領は、ウクライナで現在戦っているロシア兵が61万7000人に上るとも明らかにした。また、昨年招集された30万人に加え、さらに48万6000人が自発的に契約軍人として契約したと主張した。
「武器を手に祖国の利益を守ろうとする兵士の数は、減っていない」とプーチン氏は述べた。「(契約軍人の数は)今年末には50万人弱になるだろう。動員など必要ない」。
プーチン氏は死亡した兵士の数は明かさなかったが、自分と「親しい」人たちの子供たちがいわゆる民間軍事会社のために戦い、「自分に近い」人たちが多数死んだと述べた。
アメリカ政府の機密諜報報告書は今週、開戦以来31万5000人のロシア兵が死傷したと推定している。この人数は、侵攻開始時にロシアで軍人だった人数のほぼ90%にあたるという。
プーチン氏に対しては、ロシア人記者や外国人ジャーナリストがその場で質問するほか、ロシアの一般市民からの質問も200万件寄せられ、事前に入念に精査された。
ロシア軍に占領されているウクライナ東部ルハンスクを拠点にするロシアの日刊紙イズヴェスチヤの記者は、ウクライナ軍が最近、ロシア占領下のドニプロ川東岸に足場を築いたことについて質問した。
プーチン氏はウクライナ軍が「小さな地域」で軍事的成功を収めたことを、クリミア半島への突破口を開こうとするウクライナの最後の必死の挑戦だとし、ロシア軍は「我が国の若者を救うために」森林地帯へ数メートル退くことを決めたのだと説明した。
「なぜそんなことをするのか、私にはわからない。(ウクライナは)確実に殺される状況に自国民を追い込んでいる。ウクライナ軍にとっては片道切符だ。これには政治的な理由がある。ウクライナの指導者たちは、外国に援助を懇願しているからだ」
●ロシア・プーチン大統領 2年ぶりに4時間超の大記者会見 12/15
ロシアのプーチン大統領が14日、ウクライナへの侵攻以降、初めて年末恒例の記者会見を行いました。会見は4時間を超え、国民や外国メディアも参加。アメリカメディアの質問を後回しにしたり、影武者について質問される場面も飛び出しました。プーチン大統領はどう答えたのでしょうか。
プーチン大統領 2年ぶり“大記者会見” 米メディア質問を後回し  “影武者”の言及も
拍手で迎えられたロシア・プーチン大統領。2年ぶりとなる、年末の“大記者会見”です。
ロシア プーチン大統領「ロシアの防衛力と安全保障を強化する」
会場には、一部の欧米メディアを含む国内外のメディアが参加。“開かれた会見”を誇示する狙いが伺えます。
5年前の大記者会見では、記者たちは質問の機会を得ようと、プラカード掲げて猛アピール。さらには、バラの花を手にしたり、民族衣装を着た記者の姿も。そして、質問はプライベートなことまで。
記者「あなたの健康を気遣う人がいないですね。何かお手伝いすることは?」
ロシア プーチン大統領「あとで話しましょう」
時には笑いに包まれる大記者会見ですが、2023年は目立った衣装の記者はごくわずかで、掲げられたプラカードの中には、「ウクライナ」「クリミア」などの文字が。
記者たちが気になるのは、ウクライナ侵攻についてです。
司会者「どうしたら平和が訪れる?」
ロシア プーチン大統領「軍事作戦の目的を達成すれば、平和が訪れる」
プーチン氏は会見の冒頭、「特別軍事作戦の目的は変わらない」としたうえで、「目的を達成すれば平和になる」と主張。ロシアの軍事記者からは…
ロシアの軍事記者「ドローンはまだ前線に不足していて、いま兵士が助けを求めています」
ロシア プーチン大統領「足りなくなることもあるし、必ずしも全てがうまくいかないです。おそらく…おそらくではなくて、間違いなく納入が間に合わないこともあるでしょう」
さらにプーチン氏は、戦闘地域にいるロシア軍の兵士らの人数を61万7000人と明かしたうえで、“兵士の不足はない”と強調しました。
ニューヨーク・タイムズ記者に「わたしはオープンな人間だ」
質問者を選ぶ際には、こんな場面も。
「ニューヨークタイムズ紙の記者が手を挙げたようだが」
ロシア プーチン大統領「いや、まずは新華社通信で、次にニューヨーク・タイムズ紙が質問だ」
司会者がアメリカ・ニューヨーク・タイムズを選ぼうとしたところ、プーチン氏はさえぎって中国メディアを指名。後回しにされたニューヨーク・タイムズの記者は…
ニューヨーク・タイムズ記者「西欧メディアが主要なイベントに参加できていないんですが…」
ロシア プーチン大統領「それはペスコフ大統領報道官のせいです。わたしはオープンな人間だ」
会見では、“国民との対話”イベントも同時に開催。地元メディアによると、事前におよそ200万件の質問が寄せられたそうです。
子どもからはこんな質問が…
アリーナさん「プーチン大統領こんにちは。わたしの名前はアリーナ8歳です。学校で人間がロボットに置き換わると教わりました。私や家族みんながロボットになっちゃうのが怖いんです」
ロシア プーチン大統領「アリーナさん、これが唯一の真実です。誰も置き換わったりはしませんよ」
さらに大学生からは…
大学生「プーチン大統領の影武者が何人もいるというのは本当ですか?」
ロシア プーチン大統領「私と同じ見た目や話し方は1人しかいません。それが私です」
来年3月の大統領選に立候補を表明しているプーチン氏。国民へのアピールは成功したのでしょうか。
【解説】プーチン氏 侵攻後初の年末記者会見と国民対話の狙い 次の大統領選の“圧勝”向け強い指導者アピール
ウクライナ侵攻後初めてとなる年末の記者会見を開いたプーチン大統領。政権にとっては次の大統領選での「圧勝」が絶対条件で、戦時下での強い指導者像をアピールする狙いがあるとみられます。
去年は見送った年末の記者会見を今回実施したのは、プーチン氏が戦況などへの自信を深めていることが背景にあるとみられます。
ウクライナの反転攻勢が思うような成果が出ていないと指摘されるなか、「ロシアが目的を達成すれば平和が訪れる」と侵攻を継続する姿勢を示しました。
中東情勢の悪化もあり、欧米のウクライナへの軍事支援にも限りがあるとみなし、長期化はロシアにとって有利に働くと考えているとみられます。一方で、国民の反発が予想される追加動員については必要ないと強調し、制裁下での経済の好調ぶりもアピールしました。
来年3月の大統領選は有力な対立候補がおらず、プーチン氏の5選が確実視されていますが、事実上の信任投票になるともいえ、政権は80%という高い得票率を目標に据えているとされています。
侵攻によるロシア軍の被害拡大も指摘されていて、政権としては選挙で圧勝し、国民の総意としての侵攻継続を演出したいものとみられます。
「プーチン大統領もそんなに油断はできない」
小川彩佳キャスター「ウクライナ侵攻後、2年ぶりの記者会見は4時間以上にわたったということですが、力強さを見せつけるような姿もありましたね。」
小説家 真山仁さん「やっぱり余裕を見せたいんでしょうね。平常運転をするよと。別にやせ我慢じゃなくて、パレスチナの問題などで、多分世界はあっちに注目するだろうとか色々なことを考えての、この辺は長年政治家としてやってる人らしいですね。」
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん「プーチン大統領が余裕があるように見せているのは、おそらくアメリカが今、非常に苦しい状況にあるからだと思うんですね。ウクライナ支援の予算を議会が通してくれないということ。それからもう一つは、アメリカがイスラエル・ハマス戦争の方に勢力を取られて、正面作戦を強いられていて、アメリカにとって非常に苦しい展開なんですが、そうは言っても、バイデン大統領はこれから反転攻勢があって予算についても通そうとしますし、実はヨーロッパや日本に対しても経済支援など色々な装備の支援を求めているんですね。もし、その辺がうまく動き出してくるとすると、プーチン大統領もそんなに油断はできないと思いますね。」
●五輪=プーチン氏、ロシア選手の中立参加「条件を慎重に分析を」 12/15
ロシアのプーチン大統領は14日、来年のパリ五輪でロシア選手が「中立」の立場で個人参加することが認められたことに対し、支持する一方で反発も示した。
国際オリンピック委員会(IOC)は8日、ウクライナに侵攻しているロシアとその同盟国ベラルーシの選手について、中立選手としてパリ五輪に出場できると表明。ただ国旗、国歌、エンブレムの使用は禁じられるほか、出場できるのは個人競技のみで、団体競技には参加できない。
プーチン大統領は年末恒例の会見で選手の五輪参加には賛同するものの、中立の立場という意味合いに関して「IOCが提示した条件を慎重に分析する必要がある」とコメント。「IOCの人為的条件がロシアの優秀な選手を排除し、五輪でロシアのスポーツが死につつあると描写することが目的なのであれば、そもそも五輪に出場するべきかどうか決断する必要がある」とけん制した。
IOCの条件下では、ウクライナ侵攻の支持を明確にしている選手や、ロシアやベラルーシの軍に所属している選手などは個人資格での参加も認められない。プーチン大統領は自国選手に対する制限は五輪の精神に反しているとして激しく抗議している。
●プーチン氏がIOC批判、ロシア勢のパリ五輪条件付き参加めぐり 12/15
ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は14日、国際オリンピック委員会(IOC)がロシア選手の2024年パリ五輪出場に条件を課したことについて、五輪ムーブメントを脅かすものだと批判した。
IOCは先日、ロシアのウクライナ侵攻を積極的に支持しないことを条件に、ロシアとベラルーシの選手がパリ五輪に参加することを認めた。
これを受けてプーチン氏は、「彼ら(IOC)がこのような行動を続けていれば、五輪ムーブメントは葬り去られる」と主張。世界のスポーツ関係者は「西側のエリートによる圧力の下」で行動していると批判した。
その一方で、ロシアの選手がパリ五輪に参加すべきか聞かれると、明確な回答を出さずに「行くか、行かないか? …それは条件を詳しく分析する必要がある」と述べるにとどめた。
「それが政治的な動機によるもので、われわれ(政府)の指導者たちを切り離したり、わが国の選手団を弱体化させたりするための人為的な条件であるならば、スポーツ省とロシア五輪委員会(ROC)は情報に基づいた決断を下す必要がある」
●プーチン大統領が2人?恒例イベントで“本物”困惑 国民と対話… 12/15
ロシアのプーチン大統領が14日、国民らの質問に答えました。偽プーチン氏が本人に質問する場面もありました。

大統領選に出馬を表明した直後というタイミングで、国民らの質問に答える“恒例イベント”に登場したプーチン大統領。ウクライナ侵攻を始めた去年は開催を見送っていました。
イベント中、画面に映し出されたのは2人のプーチン大統領? 「たくさんの影武者がいるというのは本当ですか?」と質問していたのは、AI(=人工知能)で生成された“偽のプーチン大統領”です。本物のプーチン大統領はやや困惑した様子も見られました。
プーチン大統領「私に似ていて、私の声で話す人物は1人しかいない。それは私だけだ。これは私にとって初めての影武者だ」
そして、ウクライナ侵攻については――
司会者「最も重要な質問です。いつ平和が訪れますか?」
プーチン大統領「平和は私たちの目標を達成した時に訪れる。(目標とは)ウクライナの非ナチ化・非武装化・中立化だ」
軍事作戦の継続に改めて強い意欲を示しました。
ゼレンスキー大統領が今年6月に宣言したウクライナ軍の反転攻勢については、“大きな犠牲を出しながら成果は出ていない”と強調しました。
プーチン大統領「西側諸国が約束した支援の全て、それ以上をウクライナは手に入れた。しかし、いわゆる反転攻勢以降、我々は747両の(ウクライナ軍の)戦車を破壊した」
その一方、ロシア軍は犠牲をいとわぬ猛攻で、すでに死傷者が31万人を超えたとも伝えられています。(ロイター通信)プーチン大統領は、追加の動員については志願が相次いでおり、追加動員は不要だと話しました。
プーチン大統領「武器を手に祖国の利益を守ろうとするロシアの男性たちの流れは、途絶えることを知らない」
また、大統領選挙を意識したのか、国民に寄り添う姿勢も見せ「卵が高すぎる」と不満を話す女性に対して謝罪しました。
プーチン大統領「需要は増えたが生産量は増えなかった。輸入も適切に開始されなかった。この件についてはおわびする。政府の仕事に問題があった」
来年3月にせまったロシアの大統領選挙。有力な対抗馬が不在で、プーチン大統領の当選は確実とみられています。

こうした中、不可解な動きも。反プーチンの急先鋒で服役中のナワリヌイ氏は、先週から所在が不明になっています。プーチン大統領の「落選運動」を始めた支持者グループの電子看板も、わずか1日で見られなくなっていました。
ウクライナ侵攻に反対する野党からは「人々が野党候補を支持できる状況ではない」との声も出ています。
リベラル系野党「ヤブロコ」創設者 ヤブリンスキー氏「(野党候補への署名を)みんな恐れている」
署名には個人情報の提出も求められるため、反体制派として政府ににらまれる恐れも。大統領選へ向け、“戦時下の強い指導者”を演出したプーチン大統領。ウクライナの戦況や中東情勢も追い風に、圧勝に向けた環境が整いつつあります。
●AIプーチン大統領が本人に質問「影武者はいる?」 12/15
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(71)が14日、年末恒例の大規模記者会見と国民との対話で、人工知能(AI)を使って生成された自らの画像と対面し、「影武者はいるのか?」と質問され一瞬驚いた様子を見せた。
大画面に映し出されたAI画像はプーチン氏に対し、「プーチンさん、こんにちは」と語り掛け、「あなたにはたくさんの影武者がいるというのは本当ですか?」と尋ねた。
プーチン氏は笑って、「あなたは私そっくりで、私の声で話すこともできるのは分かった」と返答。「だが、私の姿や声を持つ人は一人だけでいい」と付け加え、微笑んだ。
AI画像の音声を入力したのは、サンクトペテルブルクの学生だったという。
プーチン氏は幼い子どものビデオ質問にも回答。祖母がAI画像に取って代わられるのではないかと心配する子どもに対し、「誰もあなたのおばあさんの代わりにはなれない、これは確かだ。そんなことは不可能だ」と答えた。
●外交部 プーチン大統領の中露関係についての発言を賞賛 12/15
外交部の毛寧報道官は15日の定例記者会見で、ロシアのプーチン大統領が前日の記者会見で、ロシアと中国の協力は未曾有の高さに達したと評価した上で、ロシアと中国は軍事や経済、人道分野で協力するが、如何なる同盟関係も結ばず、第三者を標的にしないとコメントしたことついての記者からの質問に答えました。
毛報道官は、「中国側はプーチン大統領の中露関係に対する積極的な評価に留意しており、これを賞賛する」と述べた上で、「中露関係は、両国首脳の戦略的なリーダーシップの下で、健全かつ安定した発展を続けている。双方は一貫して同盟せず、対抗せず、第三者を標的にしないという原則を堅持しながら、相互尊重と平等互恵という土台に立脚して両国関係や諸分野における協力を発展させ、両国民に現実的な利益をもたらし、世界の共同発展と進歩の促進に積極的な役割を果たしている」と説明しました。
●ロシアのガスプロム、英・オランダ領の北海ガス田から利益 約70億円 12/15
ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムが昨年、北海のガス田から4500万ユーロ(約70億円)の利益を得ていたことが、会計記録から明らかになった。
ガスプロムは2020年以降、イギリスとオランダの領海にまたがるシリマナイト・ガス田で活動している。オランダ沖200キロの地点にあり、ガスプロムと独同業ウィンターシャルの合弁企業が運営。採掘されたガスはオランダに運ばれている。
このビジネスに違法性があるとの示唆はないものの、イギリスやアメリカ、欧州連合(EU)は厳しい経済制裁を敷くことで、ロシアがエネルギー輸出から利益を得る能力を制限し、ウクライナでの戦争の資金にならないようにしようとしていた。
最高経営責任者(CEO)のアレクセイ・ミレル氏を含むガスプロム幹部の多くは、イギリス政府の制裁対象となっている。一方、ガスプロム自体は制裁の対象になっていない。同社はなおパイプラインを通じて欧州各国にガスを供給しているが、その量は開戦以降、大きく減少している。
イギリスでは野党や活動団体から、政府のロシア産ガスへの対応に批判の声が上がっている。
イギリス政府は、ロシアへの「経済的圧力を強める」としている。
支社からガスプロムへ利益
会計記録によると、同ガス田の約20%株を保有しているガスプロム・インターナショナルUKは2022年、税引き前利益が4500万ユーロだった。
同社は直系のオーナー会社であるオランダのガスプロム・インターナショナル・プロジェクツに、配当として4100万ユーロを支払っている。今年6月にはさらに、170万ユーロが支払われた。
この企業の最終的なオーナーは、モスクワに拠点を置くPJSC(ロシアの公共会社)ガスプロムだ。
ガスプロムは、ロシア政府が過半数株を保有している。国営タス通信によると、納税額は800億ドルと同国最大。また、ウクライナの最前線で戦う独自の民兵を雇用し、資金を提供している。
イギリスの野党・自由民主党のサー・エド・デイヴィー党首は、イギリス領海のガスが「プーチン氏のウクライナに対する違法な戦争」を支援していることは「まったく容認できない」と述べた。
国際NGOグローバル・ウィットネスは、「ロシアの石油・ガスに対するイギリスのアプローチを告発するものだ」と述べた。
「イギリス政府は戦争を非難する一方で、ウクライナで自前の民兵を戦わせているロシアの国営企業の子会社が、北海からプーチン政権を潤すことを許すのは馬鹿げている」
イギリス政府の報道官は、「ロシアが21世紀の戦争を行う能力を制限するため、同国が戦争に使う可能性のある我々の商品や技術へのアクセスを拒否するために、我々のパートナーと共に協力し続ける」と述べた。
また、「プーチンとその支持者は、ウクライナへの違法な侵略の代償を払わなければならないし、払うことになるだろう」と付け加えた。
「ウクライナが勝利し、平和が確保されるまで、我々は経済的圧力を強め続け、あらゆる迂回(うかい)行為に厳しく対処していく」
ガスプロム・インターナショナルUKは合わせて2900万ユーロの税金を支払っており、イギリスとオランダ政府が分割している。これには、イギリスがウクライナ戦争による価格高騰を受けてエネルギー企業に課した超過利潤税が400万ユーロ、オランダでの同様の税が500万ユーロ、含まれている。
会計記録によると、同社の収入は全て、イギリス国外での売り上げによるものだという。また、今年9月にはウィンターシャルへのガス販売契約を終了しており、代わりにスイスに拠点を置く貿易会社ガンバーと契約を結んでいる。
ガスプロムの対英エネルギー供給事業は昨年、親会社の経営危機に伴い、ドイツ政府が国営化している。同事業は現在、SEFEエナジーと改名した。
●ハンガリー、EUの対ウクライナ支援パッケージで拒否権発動 約7.8兆円 12/15
欧州連合(EU)首脳会議(サミット)は14日夜、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援について採決を行ったが、ハンガリーが拒否権を発動したため、否決された。サミットでは数時間前、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉開始が決まったばかりだった。
ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相はサミット後、「今夜の仕事の概要は、ウクライナへの追加資金を拒否したことだ」と述べた。
ウクライナは、ロシアとの戦争でEUとアメリカの資金に大きく依存しているが、追加支援の確保に苦慮している。
EU首脳らは、支援をめぐる交渉を年明けに再開するとしている。
オランダのマーク・ルッテ首相は「我々にはまだ時間がある。向こう数週間でウクライナの資金が尽きるわけではない」と話した。
「26カ国が合意している。ハンガリーのオルバン氏はそれができなかった。来年初めには合意できると自信を持っている。1月末になるとみている」
15日の記者会見でミシェル議長は、1カ国を除く全加盟国が、支援パッケージと、より広範囲のEU予算案に合意したと認めた。ただし、スウェーデンは自国議会での諮問が必要となる。
「来年早々にもこの問題を再検討し、全会一致を目指したい」と、ミシェル議長は述べた。
ウクライナはまた、アメリカの610億ドル(約8.9兆円)相当の支援パッケージを切実に求めているが、民主党と共和党の間で大きな意見の相違があるため、その決定も遅れている。
ロシアの占領軍に対するウクライナの反転攻勢は冬の始まりと共に停止した。このままではロシア軍が、砲弾の数でウクライナに勝り、そのまま勝利するのではないかと懸念されている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の妻オレナ・ゼレンスカ氏は先週、BBCのインタビューで、西側諸国が財政支援を継続しなければ、ウクライナ人は見殺しにされる「死の危険」にさらされていると警告した。
加盟交渉の是非では採決を棄権
この採決の前には、ウクライナの加盟交渉の是非が問われた。ロシアと強いつながりを維持しているハンガリーはこれにも反対していたが、拒否権は発動しなかった。
ウクライナとモルドヴァは、2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した直後にEUへの加盟申請を行った。その後、今年6月に加盟候補国として承認されていた。
オルバン首相は、採決の際に一時的に会議場から退出。残る26カ国の首脳が採決に臨んだ。オルバン氏の退出について関係者は、あらかじめ合意された建設的なふるまいだと話している。
欧州理事会のシャルル・ミシェル議長の報道官は、この決定は全会一致で決まったと説明した。
ゼレンスキー大統領は、「これはウクライナにとっての勝利だ。欧州にとっての勝利だ」と述べた。
モルドヴァのマイア・サンドゥ大統領は、ウクライナとEU加盟への道を共有できたことを光栄に思うと発言。「ロシアの残忍な侵略に対するウクライナの勇敢な抵抗なくして、今日の我々の姿はなかった」と述べた。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、モルドヴァは、ロシア政府がスパイ行為や国内の反対勢力の支援を行っていると非難している。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、加盟国が「支持への強い意志」を示したことを称賛し、ウクライナとモルドヴァが「欧州の家族」の一員であることは明らかだと述べた。
アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、EUの「歴史的な」動きを歓迎。ウクライナとモルドヴァの「EUおよび北大西洋条約機構(NATO)加盟の願望を実現するための重要な一歩」だと述べた。
一方、ハンガリーのオルバン首相はEUの同僚らから距離を置き、「ウクライナのEU加盟は悪い決定だ。ハンガリーはこの悪い決定に参加したくないので、今日の決定から離れた」と述べた。
オルバン氏はまた、ウクライナはEUの一員ではないため、EUから多額の資金を得るべきではないと主張している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は14日の演説でウクライナをあざけり、西側の支援はもう限界だと主張。「下品な言い方で申し訳ないが、ウクライナに持ち込まれる何もかも、おまけ、無料の景品みたいなものだ。しかし、もらえる景品もいつかは尽きるかもしれない。実際、徐々になくなりつつあるようだ」と語った。
EU加盟交渉には数年かかる可能性もあり、今回の決定はウクライナの加盟を保証するものではない。
EU加盟候補国は、法の支配から経済まで幅広い基準の順守が求められるため、国内で一連の改革法案を通過させる必要がある。だがEU執行部はすでに、ウクライナ政府が司法と汚職への取り組みを90%以上完了させたとたたえている。
●政治家だけじゃない… 世界の権力ある男性は、女性にもっと子供を産んで 12/15
ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩総書記はいずれも、「女性はもっと出産すべき」という点で意見が一致している。
3人はそれぞれ声明を発表し、女性により多くの子孫を残すよう訴えている。
女性にもっとたくさんの子どもを産ませようと訴えているのは、政治指導者だけでなく、イーロン・マスク氏といった力のある男性たちもだ。
世界で最も力のある一部の男性たちは「女性はできるだけ多くの子どもを産むために働かなければならない」という点で意見が一致している。
ロシア、中国、北朝鮮の指導者はいずれも声明を最近発表し、女性に子どもを産んで国のために尽くすよう促した。
中国の習近平国家主席は10月、共産党の下で運営されている中華全国婦女連合会の指導部との会合で、女性は「家族の新潮流」を確立するために貢献しなければならないと語った。
その上で、 中国人には「結婚・出産に関する新しい文化を積極的に育成し、若年層の結婚・出産・家族観に対する指導を強化」してもらいたいとした。
11月28日にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領がロシアの女性に対し、自分たちの原点に回帰し、「祖母や曽祖母」のように「7人、8人、あるいはもっとたくさんの子ども」を産むよう求めた。
「この素晴らしい伝統を守り、よみがえらせよう。全てのロシア人の生き方として、大家族が当たり前にならなければならない」とプーチン大統領はモスクワで開催された全世界ロシア民族大会議で語った。
その上で「ロシアの人口を維持、増加させることがこれからの数十年、さらには数世代先のわたしたちの目標だ。これがロシアの世界、千年の歴史を持つ永遠のロシアの未来なのだ」と付け加えた。
そして12月4日、北朝鮮の金正恩総書記もこの国の少子化を珍しく認め、北朝鮮の女性たちにもっと子どもを産むよう強く呼びかけた。
Pyongyang Timesによると、第5回全国母親大会での演説で金総書記は、北朝鮮の女性たちの「宝石のような愛国心と貴重な汗」と「不十分かつ困難な日々の中で、多くの子どもを産み育ててきた骨身を惜しまぬ努力と功労」を称賛した。
その上で「全ての母親がたくさんの子どもを産むことが愛国心だとはっきりと理解し、それを積極的に実行することで、強力な社会主義国家を築くという我々の大義を加速させることができる」と付け加えた。
政治家だけではない
子どもをもっと増やすことを提唱してきたのは政治家だけでなく、他の分野の権力者たちもだ。その中で最も声高に唱えてきたのは、かつて良い父親でいられる限りは生殖を続けるつもりだと語っていたイーロン・マスク氏だろう。
「人口減少による危機を救うために全力を尽くす。出生率の崩壊は文明が直面する最大の危機だ」と3人の母親との間に10人の子どもがいることが知られているマスク氏は2022年7月にツイートしていた。
マスク氏は先週、DINKs(ディンクス) ── ダブルインカム(共稼ぎ)、ノーキッズ(子なし) ── の「倫理性」についても言及した。
「意図的に子どもを作らない人々にはひどい倫理観がある。彼らは事実上、他人の子どもに自分の老後の面倒を見てもらうことを要求しているのだ」と同氏は12月5日、X(旧Twitter)に投稿した。
「めちゃくちゃだ」
●終わりが見えないウクライナ戦争…多発戦争時代への対応を 12/15
ポスト脱冷戦時代の序幕を知らせたウクライナ戦争が22カ月目に入り、開戦初期とは異なる様相に展開している。ロシアは当初、ウクライナを占領して親ロシア政権を樹立しようとしたが、ウクライナの強い抵抗と西側の支援で失敗に終わると、北部・東部・南部で占領地域を拡大した。昨年下半期にはウクライナが反撃し、ロシアが占領したウクライナ領土27%のうち北部・南部で10%ほど奪還した。
しかし今年6月に始まった夏の攻勢は塹壕戦の様相で、戦線が膠着したまま機動が難しい冬に入り、長期消耗戦に向かった。西側の武器供与遅延、ウクライナ軍の統合作戦遂行能力不足と戦力分散による攻撃力低下、ロシアの防御ライン構築と戦術改善効果が重なった。ウクライナのザルジニー総司令官が最近「破格的な突破はないだろう」と述べたように、双方ともに当分は勝機をつかむのが難しい局面を迎えている。
戦争は国家の総体的力量が決定
戦争が長期化し、双方の兵力と武器の損失は大きく膨らんだ。ロシアは兵士およそ20万人が死亡し、囚人まで動員した。第2次世界大戦当時の武器・弾薬まで使用しているが、それでも足りず、イラン・北朝鮮からも調達している。ウクライナも兵力約7万人が死亡し、今では40代の国民まで動員しなければならないほどだ。
紛争の拡大やロシアの核使用を懸念している西側は、ウクライナの攻勢に必要な長距離砲・タンク・装甲車・対空武器・砲弾・戦闘機・電子戦武器などの支援をためらう姿を見せた。またロシアがウクライナ国民の士気を落とそうと電気・水道・暖房インフラを破壊したため日常生活が難しくなり、海外の難民・避難民は人口の30%の1250万人にのぼる。ウクライナ経済は戦争後25%ほど縮小し、戦後復興費用が7500億ドル(約110兆円)と推算されるほど被害が大きい。
戦争の行方は戦闘現場を越えて交戦国の総体的力量で決まるだろう。ロシアは西側の強力な制裁の影響を懸念する。西側の制裁が中長期的にロシア経済を圧迫し、若いエリートの国外脱出で国力の衰退に向かうだろうが、短期的に重要な石油・ガス輸出は中国・インド・トルコなどの迂回路確保で大きな支障はなく、戦時経済転換で武器の生産も増えている。ワグネルの首長プリゴジン氏の反乱はすぐに終わり、プーチン大統領の国政掌握力に特に影響はなく、権威主義統治で国民の抵抗もほとんどない。
グローバルサウス世論、プーチンに友好的
戦争の目的を「親露ウクライナ政権樹立」から「親西側ウクライナの失敗国家化」と「西欧との永遠の戦争」に転換し、長期戦態勢を固めながら時間を武器化している。グローバルサウスに対する宣伝戦でも優位に立つ。最近の欧州外交評議会の世論調査で、グローバルサウス主要国の世論はウクライナ戦争を米国とロシアの代理対決と見なし、西側とウクライナが平和にさらに障害になっているという認識を表した。
ウクライナは厳しい状況だ。西側に戦争疲れが表れ、支援の持続と強度に赤信号がついた。キール世界経済研究所の集計によると、今年7月までの支援額は欧州連合(EU)が1419億ドル、米国が748億ドル、英国・ノルウェーなどその他の国が393億ドルで、欧州が米国の倍を超える。しかしこれは複数年の計画を含む数値で、短期支援では似た金額だ。軍事支援の重要性と実際の執行基準で見る場合、米国の支援がはるかに重要だ。
米国では保守層のウクライナ戦争支持低下、一部の共和党議員の支援反対、国境統制予算との関連で、年内予算枯渇リスクが台頭している。来年11月の大統領選挙で戦争早期終結を主張するトランプ前大統領の当選の可能性が高まり、動力が落ちている。
特にハマスのイスラエル攻撃で触発したガザ地区事態が国際世論の関心を分散し、実質的にも砲弾・ミサイル支援と財政支援に影響が出ている。欧州もハンガリー・スロバキア・オーストリアなどが支援に否定的であり、連帯に亀裂が生じている。欧州経済を率いるドイツも財政赤字限界遵守に関する憲法裁判所の判決で財政運用に制約があり、困難が予想される。欧州経済が振るわない中、国粋主義右派勢力が強まっているのも負担だ。
●ゼレンスキー氏の愛する「平和の公式」 12/15
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、同国の和平について話し合う「平和の公式(Peace Formula)」国際会議の第4回会合を来年1月14日にスイスのダボスで開くと明らかにした。ゼレンスキー大統領が自身のX(旧ツイッター)アカウントで明らかにした。同国際会議は来年1月15日に開催される慣例の「世界経済フォーラム」(WEF)年次総会(ダボス会議)に合わせて開かれるという。
同会議はウクライナとスイスが共同で主催し、ウクライナがロシアとの戦争を終わらせるために提唱した和平案「平和の公式」を中心に協議する予定だ。
「平和の公式」は2022年10月11日、ゼレンスキー大統領が主要7カ国(G7)諸国の首脳に対し、ロシアの脅威を克服するために発表したものだ。10項目から成る「公式」は、クリミアを含むすべての占領地からのロシア軍の即時撤退などを要求している。
以下、同「平和の公式」を小川洋子著の「博士の愛した数式」に真似て、「ゼレンスキー氏の愛する『平和の公式』」と呼ぶことにする。ウクライナ政府のオフシャルサイトから同公式の10項目の概要を紹介する。
   1 放射線と原子力の安全
   2 食糧安全保障
   3 エネルギー安全保障
   4 全ての捕虜と追放者の釈放
   5 国連憲章の履行とウクライナの領土保全と世界秩序の回復
   6 ロシア軍の撤退と交戦の停止
   7 正義
   8 環境の即時保護
   9 エスカレーションの防止
   10 終戦の確認
次に10項目の内容を簡単に紹介する。
1 核兵器の使用で放射能が拡散することを防げなければならない。ロシアのプーチン大統領がこれまで何度か核兵器の使用を示唆し、威嚇してきたからだ。同時に、ウクライナにある欧州最大の発電所ザポリージャ原子力発電所の安全操業問題がある。ロシア軍はザポリージャ原子力発電所を一時的に占拠しているからだ。ウクライナはロシア軍の撤退、原発を直ちに国際原子力機関(IAEA)とウクライナ職員の管理下に移管させ、発電所と送電網の通常の接続の回復を要求する。
2 世界の穀倉地ウクライナは穀物イニシアチブでアジア、アフリカ、ヨーロッパの国々に3,280万トンの食料を輸出することができた。ロシアが協定から離脱したことで世界の何百万もの人々に穀物を輸出できなくなっている。穀物イニシアチブとウクライナの農産物輸出は回復されなければならない。
3 重要な民間インフラへの攻撃は容認できない。ウクライナの発電所、送電線、その他のエネルギーインフラは適切に保護されなければならない。エネルギー資源が兵器として使用されないようにするため、ロシアのエネルギー資源に対する価格制限などの基本的な措置を導入すべきだ。
4 軍人・民間人合わせて数千人のウクライナ人がロシアに捕らわれている。子供を含む多くの人が強制送還された。現在、多くの人が残忍な拷問や虐待を受けている。ウクライナは捕虜の釈放と、ロシアに不法移送されたすべての子供と大人の釈放を要求する。
5 国連憲章第2条には、「全ての加盟国は、国際関係において、いかなる国家の領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の行使を控えなければならない」と定められている。ロシアはウクライナに侵攻することで、さまざまな国際協定、法律、原則に違反した。
6 敵対行為を停止するには、ロシアはウクライナ領土からすべての軍隊と武装組織を撤退させなければならない。国際的に認められているウクライナの国境に対する完全な支配権を回復する必要がある。
7 いかなる犯罪も処罰されないまま放置されるべきではない。2023年8月の時点で、ウクライナはロシア軍が犯した100万件以上の戦争犯罪を記録している。
8 環境と野生生物への甚大な被害は、森林の焼失、地雷の原野、汚染された水、動物の殺害など、ロシアの侵略によって引き起こされた。ロシアによるカホフカ水力発電所のダム爆破による環境被害だけでも約15億ドルに上るが、今後数十年にわたって生態系を変えた被害を数字で表すのは難しい。
9 ウクライナはどの同盟にも加盟しておらず、ブダペストの覚書は実際には国の安全を保証できていない。したがって、現在のロシアの侵略を撃退する場合には、その再発やさらなるエスカレーションのあらゆる可能性を阻止することが不可欠だ。これは、ウクライナに対する適切かつ効果的な安全保障の保証と、ウクライナを含む欧州大西洋空間における戦後の安全保障構造の刷新によってのみ達成可能である。
10 敵対行為が停止し、安全と正義が回復したら、当事者は戦争の終結を確認する公式文書に署名する必要がある。
「平和の公式」の最後には、「この和平計画に代替案はない。公正で持続可能な平和がどのようなものであるかを定義できるのは、この侵略戦争と戦っている国であるウクライナだけだ。したがって、平和的解決に向けた他の国のすべての取り組みは、ウクライナの和平方式に基づいてのみ行うことができる。ただし、侵略国を除くすべての国家および国際機関の参加は非常に歓迎される。ウクライナは各国に対し、この計画を支持し、できるだけ早く実施するよう支援することを求める」と記述している。
最後に、「ゼレンスキー氏の愛する『平和の公式』」について当方の感想を述べたい。
10項目とも当然の要求であるが、それが実行可能かという点からいえば、いずれの項目も容易ではない。特に、6は現時点では非現実的だ。同時に、6は「平和の公式」の核心だ。ゼレンスキー氏が6を絶対に譲らないとすれば、「平和の公式」はウクライナの一方的な願望を羅列したペーパーに終わるだろう。
戦争はロシア軍の侵略から始まった。正義、公平はウクライナ側にあることは間違いない。正義の側にあるウクライナがその正義、公平の回復に拘る限り、プーチン大統領のロシアとの戦いは更に長期化せざるを得なくなる。ロシア側だけではなく、ウクライナ側にも更なる犠牲が出てくることは避けられない。
イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は「『平和』(peace)と『公平』(justice)のどちらかを選ぶとすれば、『平和』を選ぶべきだ。世界の歴史で『平和協定』といわれるものは紛争当事者の妥協を土台として成立されたものが多い。『平和』ではなく、『公平』を選び、完全な公平を追求していけば、戦いは終わらず、続く」と述べている。ハラリ氏の主張は誤解されやすいかもしれないが、世界の歴史に精通する同氏の歴史からの教訓だろう。
●COP28、「化石燃料からの脱却」合意 危機感共有、一層の排出量削減 12/15
今年は「史上最も暑い夏」になるのは確実とされ、地球温暖化の影響とみられる異常気象が世界で頻発、熱波や干ばつ、豪雨などによる被害が相次いだ。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで11月30日から開かれていた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は会期を1日延長した12月13日、パリ協定の目標に沿って産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えるために「化石燃料からの脱却をこの10年間に加速する」などと明記した成果文書を採択し、閉幕した。
過去の会議で合意した「石炭火力発電の段階的削減」から、対象を世界がエネルギー源として頼ってきた石油や天然ガスを含む化石燃料全体に広げて前進した。合意された成果文書には再生可能エネルギー(再エネ)の世界の設備容量(発電能力)を2030年に3倍にすることも盛り込まれた。会議は今回も後半から終盤にかけて各国の利害が対立して交渉は難航したが、最終局面で温室効果ガスを多く排出する化石燃料からの脱却に向け合意した。
ただ、国連環境計画(UNEP)が現在の各国の排出削減目標が実行されても今世紀末には3度近く気温が上昇してしまうと警告するなど、世界の対策は不十分とされる。各国は合意文書に基づいて新たな排出削減目標をつくる作業に入る。「脱却」という表現も抽象的で、気候変動による深刻な被害をどこまで軽減できるか、危機感を背景にした各国の本気度が問われる。
合意文書は「19年比で30年に43%減目標」を確認
COP28には約200カ国の政府代表のほか、会期期間中さまざまなイベントに参加した環境研究機関、環境団体のメンバーらも合わせると約8万5000人が参加した。成果文書は現地時間の13日昼前(日本時間午後4時ごろ)に採択された。
会議に参加した政府関係者らによると、最後まで難航したのは、削減対象を化石燃料全体に広げた削減に関する文言だ。当初案にあった「段階的廃止」の表現に対してサウジアラビアなど産油国が激しく反発した。こうした動きに対し、一時「廃止」を強く求めた島しょ国や欧州諸国なども反発。結局「脱却」という表現で合意に至ったという。
合意された成果文書は、まず今年が記録上最も暑い1年になることに深刻な懸念を表明。現状ではパリ協定の「1.5度目標」には到底実現できないとした。その上で世界の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにするためには19年比で30年に43%減、35年に60%減と、大幅に減らす必要があると明記している。
会議の初めに「有志国」がまとめた「世界の再エネの設備容量を30年に3倍にする」との目標も取り込んだ。公正で秩序ある公平な方法により、エネルギーシステムの化石燃料からの脱却をこの10年間に加速し、エネルギー効率も2倍に改善するとした。一方で、化石燃料の中でも石炭火力発電については排出削減対策が講じられていない施設の「段階的削減に向けた努力を加速する」とする従来の方向を踏襲し、多くの国が求めた「廃止」には至らなかった。
成果文書は、一部の国が求めた原子力発電の活用や、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留技術などの活用も盛り込み、非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止をできるだけ早く行うとした。発展途上国が求めていた対策支援基金について文書には「損失と被害基金」の始動を明記し、先進国はさらなる貢献をすることを呼びかける文言も盛り込まれた。
会期中、有志連合の宣言、誓約相次ぐ
COP28では全締約国による交渉と並行して個別の目標を共有する複数の有志国が独自の宣言、誓約などを公表する場面が目立った。今回会議の特徴でもあり、これらの宣言、誓約の多くは開幕直後から会期の前半に公表された。まとめ役を務めた議長国UAEとしては有志国の動きを全締約国に広げ、前向きな雰囲気を演出する狙いがあった。
まず、議長国が中心となって世界の再エネの設備容量を2030年までに3倍にするとの有志国誓約を会期早々にまとめた。閉幕までに米国、日本など、会議参加国の半数を大きく上回る130カ国が参加した。誓約は「1.5度目標」達成に向けて、再エネの設備容量を22年比の3倍に当たる1万1000ギガワットにするほか、エネルギー効率の改善などを盛り込んだ。岸田文雄首相は首脳会合が開かれた1日に演説し「再エネ3倍に賛成する」と表明している。
フランスや米国が主導して石炭火力発電からの転換を加速させることを目指す有志国連合も発足した。連合には欧州連合(EU)、カナダ、インドネシア、マレーシア、英国などが参加した。日本も一時参加する方向で調整したが、最終的に見送った。岸田首相は演説で、排出削減対策が取られていない新規の石炭火力発電所の建設を終了していく方針を表明したものの、終了年限は示さなかった。
有志国宣言の中でも注目されたのが「原発3倍」宣言だった。「気候変動対策に原子力は重要な役割を果たす」と明記。「小型モジュール原子炉」など、次世代の開発を進めて世界の原発の発電能力を2050年までに3倍に増やすという内容で、米国、日本のほか、カナダ、フランス、フィンランド、韓国、ウクライナ、英国などが参加したが、その数は20程度にとどまった。この宣言に対しては国内外の環境団体が連名で批判するコメントを発表している。
気候変動の適応策の柱の一つとされる食料・食糧生産を強化することを目指す宣言もまとまり、158カ国が賛同した。発展途上国では食料・食糧の確保が危機に立たされているとして途上国支援の重要性を強調している。気候変動の影響を受けやすい疾病のまん延などを防ぎ、健康リスクを下げるための対策を強化する宣言も出され143カ国が参加した。2つの宣言には日本も名を連ねた。
UNEP、気温も排出量も過去最高と警告
国連環境計画(UNEP)はCOP28開催を前にした11月20日、世界の2022年の温室効果ガス排出量が増え続けていると警告する報告書を発表した。「排出ギャップ2023」と題し、副題は「壊れたレコード」。壊れたレコードのように同じことを繰り返し言うことを意味しているが、温室効果ガスの排出削減が一向に進まない実態を皮肉ったともとれる。
報告書はまず、今夏の世界的な猛暑に言及して「9月は過去最高値を0.5度上回って平均気温は産業革命前と比べ1.8度高かった。パリ協定が目指す『1.5度』を上回った日が年間86日を数えた。史上最も暑い夏になり、壊滅的な異常気象が発生した」などと指摘。22年の世界の排出量は前の年から1.2%増えて過去最多となり、CO2換算で574億トンの最高値を記録したと明記している。
各国が掲げている削減数値を基にすると、世界の排出量は30年時点で520億トン、35年時点で510億トンになると予測。このままではパリ協定の「1.5度目標」が達成できる可能性が低く、達成確率は「楽観的シナリオでも14%しかない」と推計した。各国の現在の対策では今世紀末までに気温上昇が2.5〜2.9度、今後の対策の遅れによっては3度を超えてしまう可能性もあるという。
UNEPのアンダーセン事務局長は報告書の中で「強烈な気候変動の影響を見るにつけ、現在各国が出している削減目標(による気温上昇予測の結果)は望ましくない。世界は不十分な行動の溝から脱して排出量削減などで新たな記録を打ち立てなくてはならない」と訴えている。
脱炭素社会への転換に猶予ないことを共有
COP28は、気象災害が続発して世界中がかつてない異常気象を実感した一方、ロシアのウクライナ侵攻に始まった両国の戦争に加えてパレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘も激化し、世界の各国間の分断が深まる中で開かれた。
温室効果ガスは国境を超えて地球上の大気に広がる。気候変動対策は国際社会が一丸とならないと効果を発揮しないが、最近の厳しい国際情勢はCOPの場にも影響した。会議参加者によると、首脳級会合でヨルダンのアブドラ国王は「戦争による破壊で気候変動の悪影響は増大する」と警告したという。演説を予定していたイスラエルのヘルツォグ大統領は登壇しなかった。バイデン米大統領は会議出席を見送っている。
会議後半はこうした最近の緊迫した国際情勢が影を落とした上に、これまでのCOP同様、先進国と発展途上国の対立構図が色濃く出た。しかし、世界の気候変動の激化に歯止めがかからず、深刻な危機が顕在化している現実がある。多くの参加国は各国の当面の利害に縛られながらも脱炭素社会への転換に猶予がないとの認識を共有し、何とか合意に至った。UAEのスルタン・ジャベル議長は成果文書採択の直後、「みんなで取り組むことが会議の核心だった。困難な日々の中で私たちは成長した」と述べている。
排出量の8割占め、責任大きいG20
「化石燃料から脱却」の表現は難航した交渉の妥協の産物だ。現在の世界の不十分な取り組みから方向転換する一歩とも言えるが、重要なのは今回合意された「再エネ3倍」の目標を各国が国内事情の限界を超えていかに確実に実行するか、その進捗(しんちょく)が今後の鍵を握る。だが、国際エネルギー機関(IEA)はCOP28会期中に「再エネ3倍」の誓約が全て実施されても「1.5度目標」の達成には遠いとする分析を発表している。現在の気候変動対策がいかに厳しい状況に置かれているかを示すデータだ。
COP28では気候変動を抑えるのに必要な排出削減の水準と各国の目標数値に大きな開きがあることが確認され、成果文書にもその現実が明示された。厳しい現実を前にパリ協定に参加する各国は今後、35年までの排出削減を見通す次期目標の策定に入る。
日本の電力構成に占める最近の再エネ比率は約20%(20年度実績)。日本政府は現行のエネルギー基本計画で、その比率を30年度に36〜38%に到達させることを目指している。来年は国連に提出する次期の排出削減目標の土台となり、基本計画の改定作業も始まる。今回会議の合意内容を次期基本計画に反映させる必要がある。
先進国のほか新興国も含めた20カ国・地域(G20)の排出量は世界の排出量の76%を占めている。COP28では異常気象の被害にさらされる「脆弱(ぜいじゃく)国家」である発展途上国から今回悲鳴にも似た危機感が表明された。温室効果ガスの大半を排出するG20の政府や国民の責任は大きい。
多くの気象の専門家は現在の各国の排出削減ペースでは今後の気候変動による気象の極端化や熱波、干ばつの一方、暴雨といった異常気象被害の激化は避けられないと指摘する。対策はいよいよ待ったなしだ。国連のグテーレス事務総長はCOP28の閉幕に際して「危機の最前線にいる人々に気候を守る正義を届けるためにはまだ多くのことをしなければならない。世界は遅れ、優柔不断、中途半端な対策が許される余裕はない」と強調している。

 

●プーチン記者会見 放送禁止用語をうっかり流したロシアメディア 12/16
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2年ぶりに行った年末の恒例イベント・大記者会見。
ウクライナとの戦争前は多くのメディアが入場できたが、今回は大統領府からの招待制だった。
西側からは米国やフランスのメディアが参加した。
日本についてはほとんど無視
ドミトリー・ぺスコフ大統領報道官がニューヨーク・タイムズを指名しようとしたところ、プーチン氏が中国の新華社通信を優先させたシーンでは笑いが漏れた。
一方、日本メディアは会場に入ることさえできなかった。
会見の中で日本が出てきたのは、天然ガスのアジアへの供給に話が及んだ際、日本がまだロシアのガスを買っているというところくらいである。
今回は「今年の総括」と題したイベントの枠内で、「大記者会見」と国民との「直接対話」を同時並行で行った。
本来、この2つは別のイベントで、例年であれば時期をずらして開催していた。
今回は両者を混ぜこぜにしたため、いつもにも増して話題があちこちに飛んだ。
トルコのジャーナリストと国連の役割について話したかと思えば、一般市民から卵や鶏肉、高速道路の通行料が高すぎるというクレームが出たりする。
話のスケールが瞬時に変わるので、ずっと集中して聞いているだけでも大変だが、4時間以上答え続ける方も大変だろうと思う。
言葉に詰まるシーンが全くないわけではなかったが、それでもこれだけの会見をこなすのは、十分プーチン健在のアピールになっただろう。
西側に対する外交姿勢に関しては、これまでの主張と大きく変わるところはなかった。
米国は重要な国だが他国をもっと敬え
発言をまとめると、ロシアが生き残っていくために大事なのは主権強化であり、米国との関係は「米国は重要であり必要な国だが、米国が他国を敬うようにならない限り、関係復活の条件は整わない」と考えている。
また、欧州の多くの国は、かなりの程度まで主権を失ってしまったとプーチン氏は考えている。
ウクライナ戦争については「ウクライナにおける平和は、ロシアが目的を果たしたときに訪れる」として次のようにのべた。
「ウクライナにおける非ナチ化は、現実の課題として残っている、彼らはカネをせびりに外に出ていき、その目的のために反転攻勢があたかも成功しているかのように見せている」
このように、外交分野で何も新しい話題がなくても、プーチン氏の支持者はそれを喜んで、むしろ大きな変化がないことに安心感を持ちながら見ている。
生粋のプーチン・ファンの男性に聞くと、欧米への敵対を通して、ロシア国民であることの誇りを感じているらしい。
その気持ちは、世界の超大国であったソ連を彷彿とさせるのだという。
日本の読者から「ものすごい数の犠牲を出して、勝てるか分からない戦争をしているじゃないか」と言うツッコミが入りそうであるが、そのことは、誇りを感じる阻害要因にはならないようだ。
そして彼は、プーチン氏が「オデッサはロシアの町である」と言ったことと、ノルド・ストリームの爆破について「やったのはおそらく米国」とはっきり述べたことについて、大いに満足していた。
特にオデッサは、ソ連にノスタルジーを感じる、一定以上の年代のロシア人のハートを掴んだと思う。
影武者についての質問には不快な様子
クスッと笑えたのは極東・マガダンのジャーナリストとのやり取りである。質問に立ったのは人目を引く容姿の男性だった。
彼は飛行機の運賃について質問した際、自分は子供もいないし障害者でもない、もう22歳だから若者料金も使えないと話した。
プーチン氏は笑って「じゃあ子供を作ってください」「あなたは若いし、エネルギーにあふれているし、ハンサムな青年じゃないですか」と応じた。
マガダンは小さな町なので、彼は明日から地元で、プーチン大統領も認めたイケメンとして認知されるだろう。
そしてAIを駆使したプーチン氏のそっくりさん、匿名希望のサンクトペテルブルク大学の学生がビデオメッセージに出てきて「あなたの影武者はたくさんいるのですか?」と質問した。
会場は沸いていたが、プーチン氏本人はあまりお気に召した様子ではなかった。
会見はつつがなく終わったが、その後、国防省傘下のロシアメディアで「米国から日本まで:どのように全世界がプーチンの『今年の総括』を見たのか」という記事が出た際、筆者は思わず笑ってしまった。
日本語で放送禁止用語が流れているのを発見したからである。
その記事の内容は、プーチン氏はニュースメーカーであり、世界の数々の主要メディアで記者会見が取り上げられた、というものだ。
記事には動画が添えられていて、その最後に「日本では同時通訳付きの生中継で8000人が視聴した」とナレーションが入り、実際の同時中継画面が数秒間表示されている。
読者の罵詈雑言が画面に次々と
しかしその中継サービスは、視聴者が感想を書き込むことができ、コメントが画面上部にどんどん流れてくる仕様になっていたため、ロシアでなら公共の電波で絶対に流すことのできない罵り言葉がカタカナで書き込まれていた。
ロシア語というのは罵り言葉の宝庫で、その多くはうまく日本語訳するのが難しい。
ロシアのカルチャーをよく知っている人が書き込んだのだろう。
そしてその放送禁止用語の後には「お笑い番組?」とのコメントが流れてきた。
これを国営メディアが見せてしまっているというのは、確かにお笑いかもしれない。
●反プーチン派幹部、ロシア国内からの変革訴える ロンドンで会見 12/16
ロシアのプーチン政権打倒を目指すロシア人武装組織「自由ロシア軍」幹部のイリヤ・ポノマリョフ氏(48)が15日、ロンドンの英外国特派員協会で記者会見し、「ロシアの変革はロシア人が行うべきだ」と述べ、国内から体制を変革する重要性を訴えた。
ポノマリョフ氏はロシアの元下院議員。2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合した際、下院の採決でただ一人、併合に反対票を投じた議員だった。その後は米国やウクライナで事実上の亡命生活を送り、国外から「自由ロシア軍」を指揮する。
ポノマリョフ氏は現在、ウクライナに加えロシア国内でも反プーチン勢力を増やしていると説明。ロシアが軍事目的で使うインフラの弱体化を計画し、11月に「バイカル・アムール鉄道」のトンネルや橋で起きた爆破にも関与したと語った。
ポノマリョフ氏は、急にプーチン大統領が死亡・失脚した場合、後継者候補としてミシュスチン首相とメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)の2人が有力だと述べたが、西側と和解するためにはこうした従来の指導層ではなく「別の選択肢が必要」との見解を示した。
また、ロシア国民の関心が高いのは医療、教育といった内政課題であり、外交、軍事については「流されやすい」と指摘。現在の国民は「国営テレビなどのプロパガンダに洗脳されている」と主張した。
●ロシア中銀、予想通り1%利上げ 総裁は引き締め完了示唆 12/16
ロシア中央銀行は15日、主要金利を予想通り1%ポイント引き上げ16%とした。利上げは5会合連続。7月以降、ルーブル急落を受けた8月の緊急利上げを含め、8.50%引き上げたことになる。ナビウリナ中銀総裁は利上げサイクルは完了に近づいている可能性があると示唆した。
ナビウリナ総裁は会合後の記者会見で、今回の会合で1%ポイントの幅での利上げのほか、金利据え置きが中心に討議されたが、一段と大きな幅での利上げの提案も一部あったと言及。同時に「われわれの基本シナリオに基づくと、利上げサイクルは終了に近づいている。ただ全ては状況次第となる」と語った。
中銀は、今年末時点のインフレ率を7─7.5%の目標レンジの上限との予想を維持。来年末については4.0─4.5%になると予想した。
ナビウリナ総裁は物価情勢について「インフレ期待は何年にもわたり高止まりしている」とし、大きな懸念事項になっていると指摘。インフレ率が目標を下回るより、高くなるリスクの方がはるかに大きいとの認識を示した。
中銀は、中期的なインフレリスクは依然大きく、インフレ率を目標の4%近辺で安定させるには高金利を長期間維持する必要があると指摘。予想を上回る政府支出もインフレリスクを高めるとした。
中銀は、ロシア経済にとって労働市場の状況が供給サイドの主要な制約要因となっており、特に製造業では依然大幅な労働力不足に悩まされていると述べた。
しかし、融資と賃金の上昇に後押しされた内需が寄与し、経済成長は今年は従来予測を上回り3%を超えると予想した。
景気回復は、来年3月の大統領選再選を目指すプーチン大統領にとって追い風となる。
プーチン大統領は14日の会見で、今年のインフレ率が約8%になる可能性があると述べた。年金受給者から卵の値段について不満を聞かされ、異例なことに謝罪した。
来年最初の政策会合は2月16日。
市場の予想分かれる
キャピタル・エコノミクスの新興市場シニアエコノミスト、リアム・ピーチ氏は「インフレ圧力が高まるにつれ、さらなる引き締めが行われると考えている」と述べ、来年には政策金利が17%に上がると予想した。
一方、JPモルガンのアナトリー・シャル氏は、政策金利の水準は過度ではないもののすでに十分に制約的だとし、今回の利上げで引き締めサイクルは終了した可能性が高いと指摘。政策金利は来年末までに10%近辺まで引き下げられるとの見方を示した。
●ロシアに勝った「日本」と、「ウクライナ」はいったいなにが違うのか 12/16
ロシア・ウクライナ戦争を日露戦争から見る
ウクライナをめぐる情勢が厳しい。夏から開始した反転攻勢が、目に見えた成果を出せなかった。すでに冬になり、戦局は膠着状態が固まっている。
頼りにしている欧米諸国のウクライナ支援の気運がしぼみがちになっている。特に誤算だったのは、アメリカの議会が、なかなか予算を通してくれないことだ。
さらにガザ危機をめぐって、米国がイスラエルとともに国際世論で孤立している。世界の大多数の諸国はイスラエルに批判的であり、欧米諸国の「二重基準」に不信感を抱いている。ゼレンスキー大統領が親イスラエルの立場のイメージが強いことは、国際世論対策における不安材料だ。
ロシア政府高官は、戦場で反転攻勢を退け、国際世論で欧米諸国が少数派に転落しているのを見て、優位に立ったかのような発言を始めている。あらためてウクライナの中立・非同盟・非武装を要求し、ロシアの領土併合を認めることも要請している。これらの条件をのんでしまったら、ウクライナ国内の世論の反発が激しくなることは必至だ。また、ロシアの再侵攻を防ぐ手段を放棄してしまったら、再侵攻の可能性も高める。簡単に停戦を語ることもできない。ウクライナとしては非常に苦しい状況である。
筆者は、そもそも昨年のロシアの全面侵攻開始時から、「軍事評論家の見立ては、ウクライナの敗北は不可避、歴史家の見立ては、ロシアの敗北は不可避」といった言い方で、ロシア・ウクライナ戦争を見てきている。
独立国家としてのアイデンティティを強固に持ったウクライナの人々を、プーチン大統領が完全に屈服させることはできないだろう。首都キーウ攻略を狙った当初の野心は、挫折が約束されていた。しかし、蓄積された軍事力と、資源や人口の規模などによる長期戦への対応能力を考えると、ウクライナがロシアを圧倒することは、非常に難しい。
かつてロシアと単独で戦ってきた国で、それなりの成果を上げたのは、日露戦争時の日本だ。日本は、ちょうど18か月の戦いの後、有利な条件で講和条約を結んだ。
いったい今のウクライナの対ロシア戦争と、当時の日本の対ロシア戦争では、何が異なり、違う結果が出ているのか。
言うまでもなく、そもそもの前提となる所与の条件が違うため、簡単な比較はできない。仮に比較するとしても、所与の条件を無視して、どちらが優れている云々といった安易な結論は導き出すべきではない。
だがそれでも、現状の評価を行うために、過去の類似の事例と比較することは、有益な場合がある。現在の戦争の特質を明らかにすることができるからである。
戦争の行方を決するのは、もちろん戦場の動向だ。これまでもそうだったし、これからもそうだろう。したがって戦争の状況分析の中心になるのが、戦場の分析であることは、言うまでもない。しかし、戦場だけが全てか、と問えば、それは必ずしも、そうではない。
日露戦争においては、日本海海戦における艦隊決戦主義に持ち込んだ日本が功を奏したことなどが、大きな意味を持った。しかし、長期戦になれば圧倒的に日本が不利である条件が、それによって変わったわけではない。そこで戦場以外の要素も、日論戦争では、大きな意味を持った。
敵国に対する工作の不発
第一に、敵国の国内情勢への働きかけの要素がある。長期戦になれば圧倒的に有利であることに間違いはなかったロシアが、日本優位の情勢での和平に応じた背景には、国内情勢の不穏があった。戦争の継続が、仮に戦場での動きについてだけ見れば合理性があったとしても、ロシア皇帝ニコライ2世の統治体制の継続という観点から見ると合理的ではなかったため、和平に応じた。
日露戦争開始後のロシアでは、革命勢力が活発化し、血の日曜日事件や戦艦ポチョムキン反乱事件などの騒乱が相次いだ。その背景に、スウェーデンに拠点を構えて、ロシア国内の様々な抵抗運動組織と連絡を取り、資金や銃火器を渡し、デモやストライキ、鉄道破壊工作などのサボタージュの展開を促進していた明石元二郎らの工作活動があったことは、有名である。明石らの活動は、ロシア国内の反政府活動を支援するだけでなく、満州におけるロシア将兵への檄文等を通じた戦意喪失の工作や、ロシア軍の後方攪乱活動などにも及んだ。明石の活動は、日本が外国において行った最大の諜報工作活動の成功例として知られる。
翻って現在の様子を見ると、ウクライナは、ロシア国内での政治工作に失敗している。ロシアの全面侵攻当初こそ、ゼレンスキー大統領がロシア語でロシア人に語り掛けるなど、プーチン統治体制とロシア国民を切り分け、ロシア国民の反戦の気運を喚起する工作に関心を持っているように見えた。またロシア人の反政府武装組織の蜂起と、直接は関わらないと述べながら、連動性を保っていこうとする動きも見られた。いずれも現在は霧消している。これらのロシア国内の工作の失敗の明白化は、戦場での成果の停滞と、軌を一にしている。
現在のウクライナ側の様子は、ミサイル攻撃で相手のどこそこの施設を破壊した云々といった突発的な成果に一喜一憂する余り、相手の政治情勢に影響を与える手段を考える、という視点を、むしろどんどん希薄化させている。プーチン体制の強固さに直面して、政治工作を諦めた結果であるようにも見えるし、ロシア政府の挑発的なプロパガンダに反応して、ロシア国民全体を悪魔化する方向にウクライナの世論が誘導されてしまったようにも見える。
モスクワやその他のロシア国内での反政府的な動きの欠落だけではない。ロシアが占領している地域における反占領運動やサボタージュ、輸送能力の損傷を狙った破壊活動なども、全く見られない。せめて占領の政治的負荷が大きくなれば、プーチン政権に占領統治の合理性を疑わせる大きな材料になるが、それが全く見られない。
さらにはロシアから欧米系の企業を撤退させる運動をすることに躍起になり、ロシアと欧州の経済を切り離させることに多大な関心を持っていることが観察できる反面、ロシア国内世論に影響を与えるための経済制裁の効果を向上させる方法を精緻にする議論を深めようとしているようには見えない。
結局のところ、プーチン大統領に侵略を諦めさせるには、個々の戦場での細かな勝利だけでは不足していることは、自明である。長期戦に持ち込めば総合的に国力で上回るロシアが圧倒的に有利である。それは、当初から織り込み済みの事実である。ウクライナが戦争の行方を有利に運ぶためには、プーチン大統領に、戦争の継続が、自らの政治体制の継続に阻害的な要因になっている、ということを感じさせなければならない。そのためにはロシア国内の政治動向や、少なくとも占領地における政治動向に、モスクワから見て負荷を感じさせるものを作り出さなければならない。ウクライナ側は、これに失敗しただけでなく、もはや関心すら失っているように見える。
普仏戦争の文脈で用いられた「目的はパリ、目標はフランス軍」という言葉がある。プロイセン軍が、最終的にパリを軍事的に制圧したため、相手の首都の制圧に目的を見定めた軍事作戦を奨励する思想として理解されている。
念頭に置くべきなのは、個々の戦場の動きに気を取られすぎず、敵の中枢意思決定機能を見失ってはならない、という点でもあるだろう。ロシア・ウクライナ戦争の文脈で言えば、どれだけ個別の戦場での戦闘に勝利しても、プーチン大統領に戦争継続には合理性がない、と感じさせなければ、戦争は終わらない。仮にウクライナ軍がクリミアを含めて領土の全てを軍事的に奪還したとしても、なお戦争は終わらない。
ウクライナは、欧米諸国の武器供与を懇願するあまり、戦場での具体的な装備品によって戦争の最終的な帰趨が決定される、という思想に拘泥しすぎているように見える。奪われた領土の奪還を至上命題にするあまり、領土を回復することができてもなお、戦争は終わらない、という視点を、軽視してしまっているように見える。
ザルジニー総司令官が、反転攻勢の停滞を認めるインタビュー記事が公開され、大きな話題を呼んだ。そこでザルジニーが述べたのは、戦場でロシア兵の被害を高めれば、ロシア国内の反戦の気運に影響を与えることができるのではないか、という期待が、空振りに終わった、という観察だった。それはロシアが独裁体制だから、という理由で説明される事情だ。それはそうなのかもしれない。だがいずれにせよ、何らかの国内工作で、その状況を突破しないと、戦局を有利に進めることは、著しく難しい。占領地における政治工作ですら、成果がないことは、大きなポイントである。
調停者の準備の不足
第二に、第三者調停による戦争終結の道筋の準備である。日露戦争の場合、ロシアの膨張主義に警戒する他の海洋国家であるイギリスとアメリカが、日本に親和的だった。日本は、イギリスとは日英同盟を結び、明確に同盟国としての支援を依頼する体制を作った。アメリカには、形式的に第三国としての中立的立場を維持してもらいながら、望ましいタイミングで調停に入る役を、実態として期待した。その計算通りに、アメリカの調停で、ポーツマス講和条約が結ばれた。
この時の調停者としてのアメリカの果たした役割が決定的であったことは、日本の政治外交関係者にとっては、自明であった。ただし陸軍部指導者は、アメリカの役割を認めることに否定的で、その後、満州の権益を始めとして、大陸での影響力を日本で独占することを画策する行動を繰り返した。そして米英の不信を買い、結果として太平洋戦争の惨禍を招いた。
現在のロシア・ウクライナ戦争をめぐる構図で言うと、日露戦争時のアメリカに最も近い立場にあるのは、トルコだろう。それは穀物輸出合意の際に示された。ウクライナやロシアからの穀物の輸出に大きく依存して食糧需給を賄っている諸国がある。
2022年7月に成立し、23年7月にロシアが離脱するまでの間、3,200万トンを超える穀物等の黒海沿岸部からの輸出に貢献した。この穀物合意の成立に、調停者としてのトルコは大きな役割を果たした。トルコは、単にウクライナとロシアの双方と一定の関係を維持し続けているだけではない。黒海の南側沿岸を独占する地域大国で、黒海の外海との唯一の接合点であるボスポラス海峡も管理する特別な位置づけを持っている。
だが現在のウクライナが、トルコとの連携を重視して戦争の帰趨を管理しようとしている様子は見られない。現在のウクライナ外交は、EU加盟・NATO加盟を国家の達成目標にすえ、欧米諸国からの武器支援の質と量を上げることを最重要視して、動いている。もちろん支援国の体制を固めることが何よりも重要であることに疑いの余地はない。しかし、たとえば10月7日のハマスのテロ攻撃後に、感情的なまでのイスラエル支持を打ち出したゼレンスキー大統領の視界に、地中海世界の雄としてガザに多大な思い入れを持ち、一貫してイスラエルを強く非難し続けてきているトルコの立ち位置に対する配慮が働いていたようには見えなかった。
ゼレンスキー大統領の振る舞いは、地中海世界の情勢であっても、全てをヨーロッパの民族史の観点からのみ理解してているように見えてしまうものだった。それは、広範な国際世論対策の面で、重大な意味を持っている。
国際世論対策の不足
この点は、第三の問題としてのウクライナの国際世論対策の姿勢にもつながる論点を含んでいる。日露戦争時の日本は、大国の南下政策に苛まれるアジアの新興国のイメージを徹底し、海洋国家群の支持のみならず、世界の非欧米世界の絶大な信奉を集めた。世界の大多数の人々が、日露戦争を、欧州の帝国主義に抗するアジアの新興国の苦闘、という図式で捉え、日本に好意的な視線を送った。国際世論への働きかけを有利に進めたことは、当時の日本に大きな道義的な力を与え、その権威の向上に役立った。
ウクライナも、国連総会におけるロシア侵略非難決議(2022年3月・23年2月)で141カ国の賛同を集めるなど、国際世論への働きかけでは、おおむね上手くやってきてはいる。しかし実際には、総会決議の採択前には、決議文の内容をさらにいっそうロシアに厳しいものにしようとするウクライナと、賛同国の数を増やすことを重視する欧米の支援国の間で、ぎりぎりの折衝が繰り広げられたと言われる。
主要なウクライナ支援国が孤立しているガザ危機をめぐる一連の決議では、ウクライナは一貫して棄権し続けてきて、イスラエルに配慮を見せている。しかしたとえば12月12日のガザ停戦要請決議には、国連加盟国の4分の3以上の151カ国が賛同している。わずか10カ国の反対票を投じた国々の中に、ウクライナ支援の筆頭国であるアメリカが入っている。本来は、イスラエルが占領国で、ガザが被占領地である。ウクライナも占領政策には反対してきた。それにもかかわらず、自国がロシアに侵略された後に、ウクライナが国際社会の大多数が同情しているガザに同情を見せていない、という印象を与えるのは、国際世論対策の観点からは、望ましくない。
ウクライナ外交においては、本来は自国の安全と発展の手段でしかないはずのNATO加盟とEU加盟が、ほとんど自国目的化して絶対化されているように見える。この外交姿勢は、非欧米世界に対してウクライナが無関心だという印象につながる。
ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ政府高官の発言において、ロシアを悪魔化する描写に終始するものが、非常に目立ってきている。侵略対象とされた自国への同情を喚起する意図を持つ発言よりも、欧州を守るために戦う英雄としてウクライナを描写する意図を持つ発言が増えてきているように見える。この姿勢では、ロシアとの敵対関係を持たない非欧米世界の諸国の人々に、ウクライナから距離を取る心理を働かせる。また、欧米諸国の中においても、支援しても支援しても支援の不足の不満を説教調に聞かされる、といった印象を持つ人々を作り出してしまう。
改善の道筋
日露戦争時の日本の経験と比せば、ウクライナは、もう少し軍事的勝利至上主義を中和するべきであるように思われる。もっとロシア国内の勢力への工作に力を入れ、有利な調停へとつなげる和平プロセスを構想し、欧米偏重主義に陥らない国際世論対策を行っていくことにも力を注いでいくべきであるように思われる。
もちろん戦場の流れを有利に進めるための軍事力の強化は、引き続き行っていくべきだし、軍事的成果を出すための工夫の余地も常に探っていくべきだ。だが軍事力の向上だけの方法でロシアを完全に圧倒して追い払い、再侵攻も継続的に防ぎ続ける、というシナリオを描くのは、必ずしも現実的ではない。
過去1年半でのゼレンスキー大統領の風貌の変化が激しい。欧米諸国の支援疲れを批判的に参照する機会が増えてきているが、ゼレンスキー大統領自らが、戦争による拭い難い疲れの深さを見せてしまっている。最高指導者の仕事は、快活さを失わず、柔軟な姿勢で、大局的観点から政策を判断することだ。不安を覚える。
●“ウクライナ支援打ち切るより継続がコスト減” 米 戦争研究所 12/16
アメリカのシンクタンクは、ロシアがウクライナに勝利するとアメリカは、再び高まるロシアの脅威からヨーロッパを防衛する必要が生じるなどとしてウクライナへの支援を打ち切るよりも続けたほうが有益でコストを抑えられることになると指摘しました。
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日、西側諸国の支援を受けたウクライナ側は、ロシア軍の90%近くの兵力を壊滅させたものの、その後、ロシア側は損失を補い、戦前の能力をはるかに上回る速度で軍需産業の基盤を強化しているとしています。
アメリカがウクライナへの軍事支援を打ち切り、ヨーロッパ各国も追随すれば、ロシアによるウクライナ全土の征服は決して不可能ではないと指摘しています。
一方、ロシアが勝利すると、アメリカは、再び高まるロシアの脅威からヨーロッパや東ヨーロッパを防衛する必要が生じ、地上軍や空軍を駐留させるなど多大な費用がかかるとしています。
ウクライナ支援を巡っては、アメリカで与野党の対立などを背景に滞っていますが、「戦争研究所」は、支援を打ち切るよりも続けたほうが有益で、コストを抑えられることになると指摘しました。
ウクライナ兵士「軍事支援なければ事態は本当に悪くなる」」
ウクライナへの欧米による軍事支援が停滞する中、支援の継続を訴える前線の兵士たちの声をイギリスの公共放送BBCが14日、伝えています。
それによりますと、激戦地の1つ、東部ドネツク州のバフムト近郊にいる部隊は、防衛線を突破しようとするロシア側の攻撃を欧米から供与された自走式りゅう弾砲などを使って撃退しているということです。
ただ、弾薬不足が大きな課題になっているとしています。
部隊の兵士はロシア側との砲撃の割合について「反転攻勢が進んでいた数か月前までは同程度かそれ以上で、われわれが有利だった。しかし、今はロシア側が4発か5発撃つのに対してわれわれは1発だ」と述べウクライナ軍が砲撃の規模で劣勢になっていると証言しました。
BBCは、前線では双方が要塞化を進め「陣地戦」ともいえる状況になっていて砲撃の役割がいっそう重要になっているため、弾薬の供給が生命線になっていると指摘しています。
兵士の1人は「西側からの軍事支援がなければ事態は本当に悪くなる」と述べ欧米各国に対して軍事支援を継続する必要性を訴えました。
●プーチンはなぜウクライナ侵攻をやめないのか…こだわり続ける「謎の信念」 12/16
なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 
地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは? 
地政学は役に立つのか?
ここ数年、「地政学」という言葉がタイトルに入った本が増えている。
そもそも、地政学は役に立つのだろうか。
〈地政学の視点を持つことは、構造的な要因で発生してくる傾向を知ることである。その有用性は、傾向を知ったうえで情勢分析を行うことにある。
構造的な要因による傾向をふまえて分析を行うほうが、それをふまえずに分析を行うよりも、重要な要素を取りこぼすことなく適切な分析を行える蓋然性が高まる。
その範囲において、地政学の視点は、有用である。〉(『戦争の地政学』より)
「構造」が生み出す「傾向」を知ることができるということだ。
ロシア・ウクライナ戦争と地政学の世界観の衝突
では、地政学の視点でロシアによるウクライナ侵攻を見てみると……。
〈有名になったプーチンの2021年の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」論文によれば、そもそもロシア人とウクライナ人は民族的一体性を持っており、つまりウクライナはロシアの一部であるべきだとされた。翌年の軍事侵攻へとつながる2021年の重要論文は、汎スラブ主義と呼んでもいいし、ユーラシア主義と呼んでもいい、ロシア人を中核にした広域民族・文化集団がユーラシア大陸の中央部に存在する、という信念が、プーチンをはじめとするロシア人の思想の中に根深く存在していることを、あらためて示した〉(『戦争の地政学』より)
〈プーチンは、戦争の原因は欧米諸国側にある、と繰り返し述べている。確立された国際秩序に反した世界観を振り回し、その世界観を認めない諸国はロシアに罪深いことをしていると主張するのである。それは、確立された国際秩序を維持する側から見れば、身勝手なわがままでしかなく、認めるわけにはいかないものだ。〉(『戦争の地政学』より)
ロシア・ウクライナ戦争は、英米系地政学と大陸系地政学の世界観の衝突という性格を持っている――地政学の視点はそのことを教えてくれるのだ。
●フィンランド、米軍常駐に道を開く防衛協定締結へ 米露せめぎ合い 12/16
4月に北大西洋条約機構(NATO)に加盟した北欧フィンランドのバルトネン外相は16日までに、同国に米軍が常駐することに道を開く米国との防衛協力協定を18日に締結すると発表した。フィンランドと国境を接するロシアは猛反発しており、北欧地域での米露のせめぎ合いが激化するのは必至な情勢だ。
新たな協定は、フィンランドの主要な軍港である南部のポルッカラ海軍基地や内陸部の空軍基地、北極圏のロバヤルビにある欧州最大の砲撃演習場など、国内の計15の軍事施設を米軍が使用できるようになる。
協定の下で米軍部隊のフィンランド常駐や定期演習の実施が可能となるが、同国政府高官が欧州メディアに語ったところでは、国内に恒常的な米軍基地を置く計画はないとしている。
協定の発効には両国議会の承認が必要。バルトネン氏は「協定はフィンランドの国防と安全保障に極めて重要だ」と強調した。
協定は、ロシアとフィンランドとの間で軍事衝突が起きた場合に米軍が同国に迅速に展開できるようにするのが最大の狙いだ。
フィンランドはまた、NATO軍がロシアとの国境地帯に援軍や物資を迅速に送れるよう、沿岸部から国境地帯に至る鉄道インフラの強化を進めている。
NATOを主導する米国は8月、フィンランドへの多連装ロケットシステムなど総額約3億9500万ドル(約570億円)規模の売却を承認するなど、これまでもフィンランドの防衛力強化に向けた支援の先頭に立ってきた。
米国はまた、近くNATOに正式加盟する見通しのスウェーデンとも今月5日、同様の防衛協力協定を結んだほか、ノルウェーとも協定を締結済み。ロシアをにらんだ米国の軍事的プレゼンスが北欧で拡大していくのは確実だ。
一方、ロシアのペスコフ大統領報道官は15日、米国とフィンランドとの協定に関し、同国とロシアとの緊張を激化させるとして「遺憾の意」を表明した。
ペスコフ氏はまた「NATO軍がフィンランドに入れば、わが国にとり明白な脅威となる」と訴えた。
ロシアと長大な国境を接するフィンランドは昨年2月からのウクライナ戦争を機に、ロシアが自国に対しても領土的野心を抱いているとの危機感を強め、従来の軍事的中立政策を転換してNATOに加盟した。 
●ゼレンスキー氏、軍トップと摩擦 「戦況こう着」発言が波紋 12/16
ロシアの侵攻を受けるウクライナで、ゼレンスキー大統領と軍トップの摩擦がささやかれている。
発端は、対ロ反転攻勢がうまくいかず、戦況が「行き詰まった」と吐露したザルジニー総司令官の発言。「前進」をアピールしてきたゼレンスキー氏の信用に傷が付けば、次期大統領選で足をすくわれかねず、政権は内部からの批判に神経をとがらせている。
選挙延期も
ザルジニー氏の発言は、11月1日の英誌エコノミスト(電子版)のインタビューで飛び出した。6月からの反転攻勢が戦果に乏しいことは「公然の秘密」だが、西側諸国の「支援疲れ」が指摘され、パレスチナ情勢に国際社会の関心を奪われる中、政権は苦戦を認めるのに及び腰。停戦圧力が強まることを恐れ、ゼレンスキー氏は「こう着ではない」と否定した。
折しも来年予定の大統領選を行えるかが焦点となっており、ザルジニー氏の発言は「政権批判」として政治性を帯びた。総動員下、ウクライナ国民は「運命共同体」の軍に信頼を寄せているとされ、同氏の人気は高い。8月に再選出馬の意向を示していたゼレンスキー氏は一転、選挙の延期に言及した。
現地メディア「ストラナ」によると、政権は大統領選で「ザルジニー氏が出馬しないという確約が必要」と認識。従わなければ、総司令官解任も選択肢に入れているという。仮に出馬すれば、ゼレンスキー氏との決選投票にもつれ込むと予想する世論調査結果も報じられている。
ロシアは注視
「ザルジニー氏は真実を語った」。首都キーウ(キエフ)のクリチコ市長は今月2日、スイス・メディアのインタビューで政権に苦言を呈した。「終戦まで大統領を支えなければならない」と前置きしつつ、最終的に「(ゼレンスキー氏が)成功と失敗の責任を負う」と警告した。
大統領選を巡っては、1月に辞任したアレストビッチ元大統領府顧問が出馬の意向を表明。捜査を受けて出国したため、ゼレンスキー氏の対抗馬になる可能性は低いが、かつての「身内」に反旗を翻されたのは政権にとって逆風だ。
「(西側諸国で)ゼレンスキー氏の後継者が検討されている」。ロシアは隣国の混乱をチャンスとして注視。プーチン大統領側近のナルイシキン対外情報局(SVR)長官は今月11日、ウクライナ大統領候補としてザルジニー氏やアレストビッチ氏、クリチコ氏らの名前を挙げた。「一枚岩」を崩せば戦況に有利に働くとみて、ウクライナを揺さぶっている。
●ロシアの最新重量級ICBM「サルマト」は東シベリア配備 米国をけん制か 12/16
ロシアのカラカエフ戦略ミサイル部隊司令官は16日付のロシア国防省機関紙「赤い星」(電子版)のインタビューで、最新の重量級大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」が近く東シベリア・クラスノヤルスク地方の南西ウジュルの部隊に実戦配備されると述べた。
サルマトはミサイル防衛(MD)網を突破して米国本土を攻撃できるとされる次世代型ICBM。ウクライナ侵攻で対立を深める米国をけん制する狙いとみられる。
国営宇宙開発企業ロスコスモスのボリソフ社長は今年9月、サルマトが実戦配備されたと述べたが、配備場所には触れていなかった。
サルマトは射程約1万8000キロ。10個以上の弾頭運搬が可能とされる。
カラカエフ氏は、老朽化したICBMの更新が全体の88%まで進んだと説明。来年に演習などの目的で予定しているICBM発射は7回だと明らかにし、24時間以上前に必ず米国側に発射を通告していると述べた。
プーチン大統領は今年2月、米国との核軍縮協定「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を表明。核関連施設の相互査察は停止されている。
●ロシアICBM、東シベリア配備 最新重量級の「サルマト」 12/16
ロシアのカラカエフ戦略ミサイル部隊司令官は16日付のロシア国防省機関紙「赤い星」(電子版)のインタビューで、最新の重量級大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」が近く東シベリア・クラスノヤルスク地方の南西ウジュルの部隊に実戦配備されると述べた。
サルマトはミサイル防衛(MD)網を突破して米国本土を攻撃できるとされる次世代型ICBM。ウクライナ侵攻で対立を深める米国をけん制する狙いとみられる。
国営宇宙開発企業ロスコスモスのボリソフ社長は今年9月、サルマトが実戦配備されたと述べたが、配備場所には触れていなかった。
サルマトは射程約1万8千キロ。10個以上の弾頭運搬が可能とされる。
●「我々の職務を全うする」 国際刑事裁判所の赤根判事 プーチンに逮捕状 12/16
ICC=国際刑事裁判所の赤根智子判事は、2023年3月、ウクライナ侵攻をめぐり、ICCがプーチン氏に逮捕状を出した際の判断に加わりました。逮捕容疑は、占領地域のウクライナの子どもたちをロシアに移送したことが“国際法上の戦争犯罪にあたる”というものです。
逮捕状が出て以降、プーチン氏は国際会議への参加を見送らざるを得ないなど、外交政策に一定の影響が出ています。反発を強めるロシアは、5月、赤根判事らICCの判事3人を指名手配する報復措置に出ました。
赤根判事は、プーチン氏に逮捕状を出した経緯や意義、ロシアからの指名手配についてどう考えているのか。ニューヨークの国連本部でインタビューしました。
●プーチン氏、「ガザでのようなことウクライナではなし」と主張 12/16
ロシアのプーチン大統領は16日までに、ウクライナ侵略とパレスチナ自治区ガザ地区での軍事衝突を対比し、民間人への人道的な被害はガザではるかに多いとし、ウクライナとは異なるとの見解を示した。
年末恒例の内外の報道機関向けの記者会見で述べた。ウクライナ侵攻をロシアが独自に呼称する特別軍事作戦とガザの状況との違いへの認識を求めながら、「ウクライナではガザでのようなことは何も起きていない」と主張した。
ガザの問題についてロシアは、戦闘休止を求める国際社会に足並みをそろえている。
プーチン氏は会見で、エジプトと接触を続けガザ危機の打開策を模索していると説明。イスラエル指導者との折衝も加え、パレスチナ住民を救済するためロシアが関与する病院をスタジアム内で開設する可能性を話し合っているとも明かした。
ただ、安全管理の問題も含め開設案が両国の支持を得て実現するのかどうかは当面、不透明になっているとした。
大統領はまた、イスラエル政府の要請に応じガザへの備品や医薬品の供与を増やす方向にあるとも指摘した。
●ついに発売されたサイバートラック、テスラの新たなヒーローカーになれるか 12/16
意外とおとなしかった納車セレモニー
テスラは、11月30日、テキサス州オースティンの工場でサイバートラックの納車開始セレモニーを実施しました。ボディの外板に、白刃のような光を放つステンレススチール合金を採用して、鋭角的で独創的(異様?)なデザインで衆目の引いたプロトタイプが発表されてから丸4年。「最も強靭」で「未来的」なピックアップトラックは、ようやく市場にその姿を現しました。イーロン・マスク会長が第3四半期の決算発表で、「墓穴を掘った」と認めたほど製造の困難を伴ったサイバートラックは、同じようにステンレススチールのパネルを使った「デロリアンDMC-12」のように一部のカルトカーで終わるのでしょうか。それとも成長に翳りが見える同社の新たな牽引車になるのでしょうか。
サイバートラックの納車セレモニーは、従来通りテスラファンや「X(旧ツイッター)」のパワーユーザーが注視する中、マスク氏がサイバートラックを運転して登場し、ポルシェ911を凌ぐ加速性能や「スペースX」社のロケットエンジンを軽々と引っ張る牽引能力、9ミリのマシンガンの銃弾を貫通させない強固な外板パネルなどをアピールした後、最初の10人の顧客に納車して40分足らずで終了しました。
今回の納車式は、これまでのテスラの発表イベントと比べると幾分大人しい印象で、紅潮した顔のマスク氏もいつもよりテンションが低い印象を受けました。10月中旬の第3四半期決算の発表時に、サイバートラックは量産が非常に難しく「墓穴を掘った」と吐露し、「25万台規模のフル生産に達するのは2025年で、当面は収益に寄与しない」との発言を受けて株価は10%以上下落しましたが、今回の納車開始のニュースを受けても株式市場の反応は鈍く、今年の最高値の299ドルから2割低い240ドル前後でグズついたままです。
マスク氏の言動にまつわる風評も影を落とす
マスク氏をめぐっては、2022年に買収した「X(旧ツイッター)」でいきなり大規模なリストラを行って反発を呼びましたが、先月は「アンチ・セミティズム(反ユダヤ主義)」と取れる発言を支持する投稿をしたとして、ディズニーやアップルなどの大手企業が同サイトでの広告を停止するなど「X」は試練の渦中にあります。
また、スウェーデンでは、テスラが労働者組合との団体交渉協定を結ばないことに対し、港湾の物流作業者がテスラ車の陸上げや配送をボイコットするストライキが10月から続いており、デンマークやノルウェーでもこれに同調する動きが広がっており、ここでもテスラの反組合の方針が反発を受けています。
マスク氏は、テスラの他に、「スペースX」、「スターリンク」、「X」、「ニューラルリンク」、地下トンネル掘さくの「ボーリングカンパニー」などありとあらゆる最先端分野で事業を展開しており、今年は自身のAI開発会社「xAI」を立ち上げてチャットGPTのような生成AIボット「Grok(グロック)」を発表しています。
ウクライナ戦争では、スターリンク衛星の接続供与がウクライナ軍に死活的に重要な役割を果たし、大国の元首からはテスラ工場誘致をめぐって個別会談を所望され、「X」のフォローワーはD.トランプ前大統領の倍の1億6千万人もいるなど、その一挙手一投足がこれほど注目される実業家はこれまで例がありません。
サイバートラックは生まれた時期を間違えた?
2019年にお披露目された当時は、その奇抜なスタイリングが賛否両論を巻き起こし、瞬く間に30万人の予約を獲得したサイバートラックですが、販売開始は約束されていた2021年から2年遅れ、価格も4万ドルを切る予定が60,990ドルからと50%以上高くなりました。遅れた間には、新型コロナパンデミックが世界で猛威を振るい、2022年2月にはロシアのウクライナ侵攻から戦争が始まり、さらに今年10月にはパレスチナで悲惨な戦闘が始まりました。こうした社会状況の変化が、サイバートラック発売に対する世間の反応に影を落としているように思われます。
「bullet proof」ボディに銃弾を打ち込んでその強靭さを示す映像は、ウクライナやガザの戦闘を想起せずに見ることは難しく、荒れ果てた砂漠や岩陵を走る映像は、月や火星の地面を走行する未来というよりも、荒涼とした戦場を軍用車が侵攻するシーンに重ねてしまうのは、筆者だけではないでしょう。「未来のように見える未来のクルマ(Cybertruck is the car of the future that looks like the future)」というコンセプトの下に生まれたサイバートラックですが、20世紀の遺物と思われていた国家間の全面戦争と破壊の現場に引き戻された2023年末の世界においては、その存在は「未来的」というよりもマスク氏自身が示唆したように「黙示録的」だと思えます。
ステンレススチールボディに最も苦労した
マスク氏が「墓穴を掘った」というボディの製造は、発売が遅れた最大の理由です。無類の強度を実現するために、スペースXのロケットに採用したステンレス特殊合金を使うことを前提にデザインされたサイバートラックは、エクステリアパネルに骨格としての強度を持たせる「エクソスケルトン(exoskeleton)」構造を持ちます。アルミスペースフレームやカーボンモノコックといった構造が、アウディA8のような一部の高級車やマクラーレンのようなスーパースポーツカーには採用されていますが、ステンレススチール合金を使った量販車はほとんど例がありません。(かつて映画「バックトゥーザフューチャー」で有名になったデロリアンDMC-12くらいです)
英国の人気自動車番組である「Top Gear」は、発表と同時にロサンゼルス近郊でサイバートラックの試乗やテスラのデザイナーやエンジニアにインタビューする機会をえた数少ないメディアで、その動画(Tesla Cybertruck DRIVEN!)は10日間で380万回以上再生されています。2人の開発者によれば、サイバートラックは、「最も頑強で、見たことのないようなピックアップトラック」を開発するというコンセプトの下、初期のスタイリング検討では、ジェームズ・ボンド映画で潜水艇にもなったロータス・エスプリのようなイメージを求め、実際に映画の撮影に使われたクルマをマスク氏が100万ドル近く出して購入し、デザインセンターに置いたそうです。
「シンプルで角張った」フォルムを目指して、他にもランボルギーニ・カウンタック、スティルスF-117戦闘機なども参考にしながらデザインスタディを重ねましたが、金属材料に造詣の深いマスク氏が、スペースXロケットに採用しようとしていた特殊なステンレス合金を使うことを提案し、それを想定して製作された1/1クレイモデルを見たマスク氏が、「これで行こう!」と瞬時にデザインが決まったそうです。
スチールやアルミニウムを素材としたボディも試されましたが、特殊なステンレス合金(スチールにクロムやニッケルなどを混ぜたもの)を採用することで、捻り剛性は45キロNmと通常のフルサイズピックアップトラックの3倍、スーパーカーに匹敵するレベルの強度が達成されたのです。
曲がらない素材の故、ボンネットやルーフ、ドアやサイドパネルは基本的に平たく真っ直ぐですが、空力性能のため一部曲げる必要がありました。クルマのスチール鋼板は通常0.7mm程度のところを厚さ3mmもあるステンレス合金のゆえプレスすることは不可能で、曲げるために特殊な装置で高圧の空気で押さえて加工したということです。また、鉄板のように折り曲げて合わせるヘム(縁)がないため、各パネルはダイヤモンドのカット面のように精密に合わせる必要があったと、その製造の苦労が語られています。
衝突安全性については議論が沸き起こる
このように強靭なステンレス合金のボディを持つサイバートラックの衝突安全性については、今年4月にテスラが前面フルラップ衝突テストの映像を公開して以来、大きな議論が起こりました。ネット上では、この動画をフォードF-150ピックアップなどの他のフルサイズピックアップトラックや大型SUVの衝突試験映像と比較して、ステンレスは固く衝突エネルギーを吸収しないので、乗員の受ける衝撃がはるかに大きいという批判や、他のモデルの映像はオフセット衝突のもので対等な比較にならないなど、喧々諤々の議論がされています。
米国道路交通安全局(NHTSA)や米国道路安全保険協会(IIHS)など第三者機関による衝突テストはまだ実施されておらず、テスラも頭部損傷係数(HIC)などの傷害値を公表していないので判断できませんが、米国の衝突安全基準で他車に劣るような開発はしていないでしょう。
特に安全の専門家が問題視しているのは、衝突した他車や歩行者などの安全性で、EUのように歩行者安全性保護の法律やテストが存在する地域では、サイバートラックは販売できないだろうと開発者も認めています。鋭利な角は極力なくしたとはいうものの、パネルが接合するボンネットの端などにぶつかれば、相当なダメージを負いそうな視覚的な威圧感は十分あります。批判的な専門家の一人は、サイバートラックは、「3トンを優に超える重量による慣性エネルギーと、Formula1カーのようなスピード、それに加えて危険な自動運転システムを搭載して、まるで誘導のないミサイル兵器のようだ」と酷評しています。
また別の動画(AI driver)では、サイバートラックの衝突安全性への懸念もさることながら、4トンを超える重量で0→100km/hを3.3秒で加速するGMCハマーEVにはそれほどの批判がなかったことや、そもそもの話、猛烈な加速力のクルマや6.5トンの巨大なトラックを、18歳以上が普通免許だけで運転できることが危険極まりないと指摘しています。
技術的には注目度大。トラックとしての機能も秀逸
サイバートラックは、テスラとして初めて動力系に800V高電圧システムを、通常12Vの低電圧電装系に48Vシステムを採用するなど、外側だけでなく内側も革新的だとマスク氏は胸を張りました。推定122kWhのバッテリーと3モーター(前1+後2)を搭載した「サイバービースト」は845馬力で、最速のスーパーカーも顔色を失う0→60マイル時の加速2.6秒という超弩級のパフォーマンスを誇ります。また、5.6mの巨体の取り回しを容易にすべく後輪操舵やステアバイワイヤなどを搭載、17インチ(42cm)のグラウンドクリアランスを確保するエアサスペンションを装備するなど機能性にも優れています。
牽引性能においても、ライバルのF-150ライトニング(EV)や最強のディーゼルピックアップトラックF-350、リヴィアンR1Tなどを圧倒する牽引力を動画で紹介しました。
カーゴベッドも少々荒っぽく扱っても塗装した鉄板のように傷つくことはなく、ドアやフェンダーは金属製ハンマーで叩いても凹みません。カーゴスペースの電動トノカバーもついており、240VのACコンセントから、電気コンロや溶接機が使え、住宅にも「パワーウォール」経由で給電できます。これらはトラックとして使い倒すには素晴らしい機能でしょう。サイバートラックのデザインの好き嫌いは別にして、トラックとしての頑強さと実用性、スーパーカー並みのパフォーマンスを一台に詰め込んだ点は、ユーザーにとっても十分魅力的といえそうです。
果たしてサイバートラックは売れるか?
さて、常識破りのデザインから、動力性能、耐久性まで全てスーパーなサイバートラックはどのくらい売れるでしょうか。テスラは予約が200万件とも言っていますが、当初の予約金はわずか100ドルでしたから、興味半分の人も多いでしょう。価格的には、約束された4万ドル以下は空手形で終わりましたが、6万ドルから13万ドルの価格はライバル車と真っ向からぶつかります。
すでにネット上には、サイバートラックのドアに蹴りを入れたり、F-150ラプターR(5.2L V8 SC付700馬力)とのドラッグレースの動画などが掲載されており、これから同様の情報がネット上に溢れるでしょう。それがサイバートラックへの興味とカルト的人気を煽り、年間25万台の販売を難なく達成することになるのか。さらに、不振が伝えられるF-150ライトニングやシボレー・シルバラードEVなどフルサイズピックアップEVの販売の起爆剤になるのでしょうか。
もしくは逆に、サイバートラックの歩行者や対向車への安全上の脅威や、決して地球環境に優しいとはいえないその重量や過剰な性能への批判が高まるのか。米国外の住人である私たちは、FSD(フルセルフドライビング)のケースと同様、これからもネット上に溢れるであろうサイバートラックに纏わる毀誉褒貶と喧騒を眺めることになりそうです。

 

●露・プーチン大統領が無所属で大統領選に出馬へ 12/17
ロシアのプーチン大統領が、2024年3月の大統領選挙に無所属で出馬することが確定した。
プーチン氏の推薦人団体は16日、モスクワ市内で初めて会合を開き、無所属の候補として支持することを決めた。
会合には政権与党の「統一ロシア」の幹部も出席し、この決定を支持したことで、プーチン氏の無所属の出馬が確定した。
ロシアの選挙法では、無所属で出馬するには500人以上の有権者で支援団体を立ち上げ、ロシア全土で30万人以上の署名を集める必要がある。
ロシアメディアによると、推薦人団体は映画監督や俳優など700人以上で発足した。
●ロシアがウクライナを攻撃し続けるシンプルな理由… 12/17
なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 
地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは? 
「プーチンの頭脳」の思想とは
ロシアのウクライナ侵攻は、なぜ、いまだに続いているのだろうか。
この戦争において、ロシアのプーチン大統領に大きな影響を与えた人物として、アレクサンドル・ドゥーギンが注目された。
「プーチンの頭脳」とも称されるドゥーギンの思想とは――。
〈2022年のロシアのウクライナ侵攻後も、ドゥーギンによって代表される「ユーラシア主義」の思想の影響が取りざたされた。ドゥーギンは、過激なウクライナ併合主義者である。
ユーラシア主義の思想によれば、ユーラシア大陸の中央部に、共通の文化的紐帯を持つ共同体が存在する。ユーラシア大陸の中央に、ロシアを中心とする広域政治共同体が存在する。
この信念にしたがうと、中央アジア諸国やコーカサス地方の諸国のみならず、ウクライナのような東欧の旧ソ連圏の諸国は、ロシアを盟主とするユーラシア主義の運動に参加しなければならない。あるいは参加するのが本来の自然な姿だ、ということになる。〉(『戦争の地政学』より)
ウクライナはロシアの一部であるべきだというプーチンの論文が話題になったこともあるが、その背景には何があるのだろうか。
ロシアに罪深いことをしている?
冷戦後、ロシアは「生存圏」を失った。だから、取り戻そうとしている。
そうしたなかで、欧米諸国などがロシアの生存圏/勢力圏の回復を認めないのであれば、不当であるとプーチンやロシア人の多くが考えている。
簡単にまとめるとこういうことだ。
〈プーチンは、戦争の原因は欧米諸国側にある、と繰り返し述べている。確立された国際秩序に反した世界観を振り回し、その世界観を認めない諸国はロシアに罪深いことをしていると主張するのである。それは、確立された国際秩序を維持する側から見れば、身勝手なわがままでしかなく、認めるわけにはいかないものだ。〉(『戦争の地政学』より)
ロシア・ウクライナ戦争は、これからどうなるのだろうか。
●プルシェンコ氏がプーチン大統領を称賛「全世界でナンバーワンの政治家だ」 12/17
ロシアのフィギュアスケート界で皇帝≠ニ称されるエフゲニー・プルシェンコ氏が、ウラジーミル・プーチン大統領の現状を称賛した。
ロシアメディア「ニュース」は「来年春に行われる大統領選挙にウラジーミル・プーチン氏を指名するための主要グループの会合が行われた。そこで、フィギュアスケートで五輪を2度制覇したエフゲニー・プルシェンコ氏がプーチン氏を世界最高の政治家だと考えていると語った」と報じた。
ウクライナ侵攻が続く中、プルシェンコ氏はプーチン大統領の現状について熱弁。「この国は成長し、立ち直りつつある。我々が指導者のもとに結集し、支持し、肩を並べて歩むことを皆さんに祈りたいと思う。そして、そうした状況はさらに良くなるだろう。プーチン大統領は全世界でナンバーワンであり、本当に最高の政治家だ!」と蜜月関係にあるプーチン大統領を称えた。
プルシェンコ氏はプーチン大統領と盟友関係にあり、ウクライナ侵攻に対するスポーツ界の制裁が広がる中でも、再三にわたってプーチン大統領への忠誠を誓う投稿を発信するなど愛国心を前面に押し出してきた。侵攻後には、これまで自身がプロデュースした愛国アイスショー≠何度も開催するなどフィギュアスケート界でもプーチン大統領の支持を広げるべく活動している。
ロシアフィギュアスケート界の皇帝は、プーチン大統領との関係強化に躍起になっているようだ。
●米国、ウクライナ支援予算処理遅延に…「来年夏には敗北するかも」 12/17
米下院でウクライナ支援予算案処理が遅れており、ウクライナが敗北しかねないとの懸念が大きくなっている。
CNNが15日に伝えたところによると、米国と欧州の同盟国政府当局者は米国の支援なくウクライナが戦争でどれだけ長く持ちこたえられるかを分析している。
米国防総省高位当局者は、予算案が通過されなければ、数カ月間深刻な影響が続き、さらに来年夏ごろにはウクライナが敗北するかも知れないと話した。
これに先立ちホワイトハウスは10月、ウクライナに対する614億ドル(約8兆7258億円)規模の軍事支援などが含まれた安全保障予算案を議会に提出した。だが下院を掌握する共和党が協力せず処理が遅れている。
こうした姿に一部戦線ではロシア軍が5〜7発の砲弾を撃つ時にウクライナ軍は1発しか発射できない状況が起きていると米国とウクライナの当局者は伝えた。
合わせて、米国が手を引くならば欧州各国も相次いで支援を先送りしたり中断する可能性があることがさらに問題だ。米民主党所属のマイク・クイグリー下院議員は「われわれの状況が良くなくなればわれわれの同盟も同じことになるだろう」と警告した。
西側当局者は、ウクライナに対する外部支援が途絶えるならば、ロシアの侵攻に対抗する上で核心的な武器がますます減り危機に陥るだろうと予想した。長射程ミサイルに続き地対空ミサイルと砲弾、携帯用対戦車・対空武器などが不足するものとみられる。
米国防総省高位当局者は「われわれがいるからと必ず勝つという保障はないが、われわれがいなければ彼らは確実に滅びるだろう」と話した。
昨年2月24日から2年近く続いてきたウクライナ戦争がロシアの勝利で終わるならば欧州の安全保障と米国の世界戦略に深刻な打撃になると予想される。
エストニアのカーヤ・カラス首相は「いまは戦争疲れをいう時ではない。われわれが屈服するならばロシアのプーチン大統領が勝利することになり、これはみんなに災難となるだろう」と警告した。
●中国軍シンクタンク元副院長「台湾と尖閣は同時にもらう」発言の真意 12/17
かねてより台湾侵攻の準備を着々と進めていると伝えられる中国。そんな中にあって、中国軍シンクタンクの元副院長による物騒な物言いが注目されています。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、明らかに「台湾と尖閣を同時に奪う」と受け取れるその発言を紹介。さらに日本が中国と「和解」を進めるべき戦術的理由を解説しています。
プーチンと同じ穴の狢。台湾・尖閣の次に沖縄も取りに来る習近平
全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。
皆さん、気づいておられるでしょうか?最近、日本、アメリカ、欧州、オーストラリアなどが、中国との和解を模索しています。11月15日の米中首脳会談、11月26日の日中韓外相会談などを見て、「なんか変わってきたな」と思われた方も多いでしょう。なぜそうなっているのでしょうか?
今、ロシアーウクライナ戦争、イスラエルーハマス戦争が起こっています。アメリカは、ウクライナとイスラエルを支援している。「二正面作戦」です。
ここで中国が台湾に侵攻し、北朝鮮が韓国に侵攻すれば、「四正面作戦」になってしまいます。だから、中国が今台湾に侵攻すると困る。それで、欧米と日本は、一体化して中国懐柔に動いているのです。
一方中国は、不動産バブルがはじけ、外資が大挙して逃げ出して、経済がボロボロになっています。だから中国は、欧米と仲よくして、制裁を解除してほしいし、外資に戻ってきてほしい。それで、中国側にも、日本や欧米と仲よくしたい動機があります。
皆さんご存知のように、私は全然親中ではありません。『中国に勝つ日本の大戦略』という本を出しているぐらいですから。しかし、いつでもどこでも中国に対し強気ならいいというわけではありません。
習近平が、「アメリカは今、ウクライナ支援、イスラエル支援で二正面作戦をしている。台湾を助ける余裕はないだろう。今なら侵攻できるぞ!」と確信したらまずい。だから今は、日欧米豪などと仲よくしたほうが「お得」ですよと思わせる必要があるのです。
日本には平和ボケの人がたくさんいて、「中国が台湾に侵攻しても、日本は関係ないじゃないですか???」などと言う人がいます。そんな人は、中国軍シンクタンク軍事科学院の何雷・元副院長(中将)が何を語っているか知るべきです。『共同』12月9日付。
日中関係が不安定化する要因について、台湾問題を挙げ「中国の核心的利益に干渉するのは許されない」と語った。尖閣を「台湾省」の一部だとする中国の主張に基づいて台湾統一と尖閣奪取を同時に行う可能性について問うと「(中国主張の)道理からすればそうだ」と答え、否定しなかった。
どうですか、これ?中国の主張は、以下のようになります。
   尖閣は、台湾の一部である
   台湾は、中国の一部である
   よって、尖閣は中国の一部である
   だから、中国が台湾を武力統一する際、当然(台湾の一部である)尖閣もいただく
というわけで、中国による台湾侵攻は、日本領への侵攻でもあるのです。
尖閣に続き確実に沖縄を奪いにくる習近平
こう書くと、ホリエモンさんみたいに「尖閣、中国にあげちゃえば!」なんて人がでてきます。しかし、中国に尖閣をあげたら、次は「沖縄も中国に返せ!」と必ずきます。なんといっても、中国は、「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言しているのですから。
プーチンは、2014年にクリミア半島を奪いました。それで彼は、止まりましたか?2022年には、ウクライナから、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、へルソンを奪いました。
そのプーチンと習近平は、明らかに「同じ穴のムジナ」です。尖閣を奪った習近平は、その後沖縄に侵攻する可能性が極めて高いのです。
日本は今、中国との和解に動いています。既述のように、アメリカが三正面作戦、四正面作戦になるのを避けるために。しかし、私たちは現在の和解が「戦術的なもの」であることを理解しておく必要があるのです。
中国と戦術的和解を進めながら、一方で、軍備増強(防衛増税なしでもできます)と、アメリカ、欧州、インド、オーストラリア、東南アジアなどとの安保面での協力関係を、より強固なものにしていく努力が必要なのです。
●アウジーイウカ攻防は「ドローン戦」に ロ軍、中隊を2日で35回攻撃 12/17
ロシア軍は、ウクライナ東部アウジーイウカの防衛を支援しているウクライナ軍第53独立機械化旅団の1個中隊の陣地に向けて、爆薬を積んだFPV(一人称視点)ドローン(無人機)を2日間で35機も突入させた。
100人ほどの兵士が保持する陣地周辺に、900g程度の機体に450gほどの爆薬を載せたドローンが、82分に1回のペースで襲撃したということだ。
「ドローン戦争になっているわけですね」と、ウクライナ人の戦場記者ユーリー・ブトゥソウは、11月に行われたとされるインタビューで、ザムという第53旅団の中隊長に問いかけている。
「そうです」とザムは答えている。
第53旅団は今年春、アウジーイウカに配置された。アウジーイウカは、ロシア軍の支配下にあるドネツク市のすぐ北西にあるウクライナ軍の防御拠点だ。10月上旬、ウクライナ北東部のロシア野戦軍がアウジーイウカに攻勢をかけるため、戦車などの戦闘車両を周辺に集結させると、第53旅団は防御線に就いた。
2カ月にわたる攻撃で、ロシア軍はアウジーイウカの北と南でそれぞれ1.5kmかそこら前進し、最近は町の南東にある工業団地も占領した可能性がある。しかし代償は大きく、ロシア軍は車両を数百両失ったほか、米情報機関の推計では1万3000人が死傷した。
損害が積み重なったことで、ロシア軍の指揮官は戦術を変更した。1カ月にわたってウクライナ側の地雷や砲撃、ドローン攻撃によって戦車やその他の戦闘車両を失い続けたあと、ロシア側は残存する車両の多くを温存し、歩兵を直接徒歩でアウジーイウカに向かわせるようになった。
ただ、これらの歩兵はウクライナ軍の戦車やM2ブラッドレー歩兵戦闘車にまみえ、撃滅されることもあった。そこでロシア軍の指揮官は、空からの攻撃に重点を移し、さらに多くの自爆ドローンや、擲弾を投下する大きめのドローンを投入するようになった。
ザムによると、インタビュー当時は後者のような爆撃ドローンの飛来は少なくなり、代わりにFPVドローンが増えていた。FPVドローンによる攻撃があまりに多いので、第53旅団は陣地に向かってくるドローンの飛行経路で、ロシア側の操縦士を判別できるほどになっている。「飛ばし方で操縦士を見分けられます」とザムは言う。
第53旅団の陣地を狙うFPVドローンの大半は、兵士らがいる場所の近くに突っ込むものの、彼らが負傷するほどの近さではないという。だが、それも変わるかもしれない。ロシア側は500ドル(約7万1000円)ほどのFPVドローンをさらに多く製造し、前線に配備しているからだ。戦域によっては、ロシア側はウクライナ側の数倍のFPVドローンを保有している。
ザムは、第53旅団がドローン戦への対応に苦慮していることを認めている。所属する大隊には専属のドローンチームがあるものの、自身が率いる中隊専属のドローンチームはない。民間人の志願者が短期間、中隊専用のドローンで支援してくれていたが、のちに前線を離れた。空からの監視にできた穴を埋めるため、下士官のひとりが監視用にDJI製のドローン「Mavic」を要望し、手に入れることができたという。
このMavicは、ザムの中隊がロシア側の攻撃ルートを監視するのに役立っている。しかし、代えのきかない監視ドローン1機で、何十機、あるいは何百機という自爆ドローンに対処しなくてはならないのが実情だ。
もちろん、ウクライナ側もFPVドローンを保有していないわけではない。アウジーイウカ守備隊は、少なくとも5つの独立ドローンチームに支援されている。それでも、ロシア側による空からの攻撃に圧倒される危険が常につきまとっている。
明白な解決策がある。「電子戦がもっと必要です」とザムは訴えている。具体的な装備で言えば、電波妨害(ジャミング)装置のことだ。ロシアがウクライナで拡大した戦争では、双方が相手のドローンを飛べなくするために電波妨害装置を用いている。
12月上旬には、ウクライナ側がアウジーイウカで、ロシア側のドローンの大群を封じ込めながら、一時的にせよ、自軍のドローン運用者に空域を支配する機会を与えるのに十分な電波妨害装置を、ようやく配備しつつある兆候があった。
もっとも、もしウクライナ側が電波妨害面でこうした優勢を確保できているとしても、それをどのくらい保てるのかは不透明だろう。
アウジーイウカの空をめぐる戦いが激しくなっている。味方のドローンを飛ばし続け、敵のドローンを飛べなくした側が、地上で圧倒的に有利になる可能性が高い。
●西側戦車を生け捕ったら…とんでもない報奨金! ロシアの本音 12/17
ウクライナ侵攻の初期は、ウクライナが西側兵器を要望しても、欧米はなかなか応じませんでした。理由のひとつはロシアに鹵獲されることを恐れたから。ロシアでは、西側兵器を稼働状態で鹵獲した者に莫大な報奨金を与えるとしています。
報奨金の額、平均給与のほぼ10年分も!?
「レオパルト2、M1エイブラムス、チャレンジャー2なら1両当たり50万ルーブル(約80万円)。高機動ロケット砲システムHIMARSなら30万ルーブル(約47万円)。ほかの旧式戦車なら10万ルーブル(約16万円)」  これはロシア兵が、これらの兵器を撃破したら支払われるとされる報奨金の額です。さらにレオパルト2、M1、チャレンジャー2を稼働状態で鹵獲(ろかく)したなら、50万ルーブルは1200万ルーブル(約1900万円)に跳ね上がります。これはロシア人の平均給与のほぼ10年分に相当します。
このほどロシア軍が鹵獲したアメリカ製M2ブラッドレー歩兵戦闘車を検分、解説する動画がSNSに投稿されました。このM2は稼働するということで、画面には鹵獲に成功して「勇敢勲章」を授与されたロシア軍兵士も登場しています。彼らは偵察チームとエンジニアチームで編成されたユニットのようで、鹵獲の準備や訓練をしていたようです。 西側諸国の戦車を鹵獲したら報奨金を出すという話は、2023年初めに欧米の戦車や装甲車がウクライナに供与され始めた頃に出てきます。石油生産資材を扱うロシア企業「フォレス」は、ロシア兵やロシア側で戦う戦闘員がM1やレオパルト2を無傷で鹵獲した場合、500万ルーブル(約800万円)の報奨金を支払うと発表しました。この金額はロシア人の平均年収の4倍です。 続いて、ウクライナ南部でロシア軍とともに戦っているパヴェル・スドプラトフ志願兵大隊が「フォレス」の報奨金を倍掛けし、稼働可能な状態のレオパルト2、M1、チャレンジャー2を鹵獲すれば1両につき1200万ルーブル(約1900万円)を支払うことを提示しました。
政府もついに支払いを表明
ロシア政府もこれらの報奨金を支持し、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「これらの戦車は我が軍によって破壊されることになるだろうが、(中略)このようなインセンティブがあれば、より兵士の士気は上がるだろう」と述べています。 ついにロシア政府も報奨金を出す意向を示し、シベリア南部ノボシビルスクの市長室がロシア国防省の報奨金だとして、レオパルト2、M1、チャレンジャー2戦車の破壊に対して50万ルーブル(約80万円)、HIMARSと地対地ミサイル「トーチカU」発射装置の破壊に対して30万ルーブル(約47万円)、ヘリコプターに20万ルーブル(約32万円)、旧式戦車に10万ルーブル(約16万円)を提供するとSNSに投稿しています。
戦場では、敵の兵器を鹵獲することは普通に行われており、性能を調査研究したり、再整備して自国戦力に組み入れたりすることもあります。最新のロシア戦車であるT-90Aもすでに複数が鹵獲されており、取り付けられていた反応装甲(ERA)の中身の映像はSNSで拡散。ウクライナは積極的に鹵獲戦車を修理して自軍で使っています。 ロシアは鹵獲したM2をSNSに晒すだけでなく徹底的に分析するでしょう。特に注目するのは搭載されている25ミリ機関砲「M242ブッシュマスター」で、あえて自軍装備に試射し、装甲の改良や対策を練る資料としています。
「本当に支払うかは問題ではない」政府の本音とは
ウクライナに供与されている西側兵器は、少なくとも2030年まで北大西洋条約機構(NATO)で第一線として活躍することになります。ロシアにとって、鹵獲を通じて兵器の装甲やそのほかの特性、部品などを研究することは、NATOの兵器とどのように戦い、対抗するにはどういった装備が必要になのか重要な研究材料になります。 そういった意味ではウクライナ戦争は研究素材を手に入れる絶好のチャンスでもあり、ロシアにしてみればM1やレオパルト2ならどんな報奨金を出しても手に入れたいところでしょう。 欧米がウクライナの強い要請にも関わらず戦車の供与に躊躇してきたのは、鹵獲されるリスクがあったのも理由のひとつです。ゆえにウクライナへ供与されたM1やレオパルト2は最新バージョンではありませんし、チャレンジャー2は鹵獲されないよう、とにかく前に出さない、孤立させない、放棄させない、さらには民間軍事会社の奪還特殊部隊まで用意するという、本当に使わせる気があるのか疑いたくなるような制約付きです。 M2を鹵獲したロシア兵に勲章が授与されるというのは、それだけ論功に値するということです。もっともM2の報奨金がいくらで実際に支払われるのかは明らかではありません。
しかしながら、報奨金は実際に出すつもりはなくても、兵士の士気を上げるという効果は期待できます。当局にしてみれば最も安価な士気向上策です。実際に砲撃や地雷、対戦車ミサイルや無人機が交錯する戦場で、敵戦車を破壊、鹵獲した功績を特定の兵士に認証することがどれだけ実際的でしょうか。鹵獲した戦車を操縦して味方戦線まで戻って来ない限り、確証を得るのは困難でしょう。古今東西において戦場の論功行賞は難しい問題です。 しかし戦車生け捕りの危険性と年収10年分と比べたら、どう見ても割の良い稼ぎには思えません。実際に士気向上効果があったのか知りたいところです。
●“米の支援停止で ウクライナ 大規模後退か敗北も”米メディア 12/17
アメリカのCNNはアメリカ軍の高官の話として、ウクライナヘのアメリカなどからの支援が停止した場合、最悪、来年夏までに大規模な後退か敗北もありうるとの見方を伝えました。
CNNは15日、アメリカやNATO=北大西洋条約機構の支援が停止した場合、ウクライナがどれくらいの期間持ちこたえられるかを、西側諸国の情報機関が推定しようとしていると報じました。
この中で、アメリカ軍の高官の話として、最悪、来年夏までにウクライナ軍の大規模な後退か敗北もありうるとの見方を伝えました。
支援が停止した場合、現場で最初に底を尽くのがまず長距離ミサイル、次に防空システムのミサイル、そして砲弾や対戦車ミサイル「ジャベリン」などが続くとしています。
また、アメリカとウクライナの政府関係者の話として、すでに弾薬の不足によりウクライナ軍はロシア軍の5分の1以下しか砲撃できず、ウクライナ側の犠牲者が増える原因になっていると伝えています。
アメリカ議会では野党 共和党の一部からウクライナへの支援の継続に消極的な意見が出ていて、戦況を大きく左右する支援が維持されるのかどうか、注目が集まっています。
●海洋安保、経済で連携強化 日本とASEANが特別首脳会議 12/17
日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の首脳らは17日、東京都内で開いた特別首脳会議で、法の支配の尊重や海洋を含む安全保障協力の強化を盛り込んだ共同声明を採択した。サプライチェーン(供給網)確保など経済安保分野の連携拡大にも言及した。軍事、経済両面で覇権主義的な行動を強める中国をにらんだ対応。岸田文雄首相は、ASEANへの民間投資を後押しすると表明した。
首相は会議後の記者発表で「世界が複合的な危機に直面する中、日本は『自由で開かれたインド太平洋』の要であるASEANと共に立ち向かう」と強調。共同議長のインドネシアのジョコ大統領は「ASEANと日本は信頼できるパートナーだ。地域の平和と安定を維持する」と述べた。
会議では共同声明のほか、文化交流や農業支援など約130項目にわたる分野での具体的な協力実施計画も採択した。 
●インフラ施設に攻撃強化 首都キーウに“極超音速ミサイル 12/17
米シンクタンク・戦争研究所によると、ロシア軍は12日夜から13日にかけて、ウクライナの首都キーウにあるインフラ施設を標的としたミサイル攻撃を実施した。ウクライナ軍の防空システムにより、無人機10機、弾道ミサイル10発すべてが撃墜されたが、落下した破片で市民53人が負傷した。この攻撃に先立ち、ロシア軍は12日、ウクライナに対する大規模なサイバー攻撃を行っており、約2400万人が携帯電話やインターネットの利用ができず、また、ネットで配信される空襲警報システムが停止するなどの影響が出ていた。14日には、ロシア軍は無人機42機と長距離地対空ミサイル「S-300」6発で、南部オデーサ州の港湾インフラなどを攻撃、また、首都キーウに極超音速ミサイル「キンジャール」3発を発射したが、ウクライナ軍により迎撃された。英国防省は13日、ウクライナへのロシアによるインフラ攻撃について、ロシア軍は大型戦闘機「MiG-31K」を国内5カ所から、出動させていたことを明らかにした。
ドネツク州の東部要衝アウディイフカを巡り、ロシア軍は猛攻を仕掛け、ウクライナ軍は徹底抗戦するなど、両軍による戦闘が継続している。ウクライナの英字ニュース「ユーロマイダンプレス」は13日、ロシア情報筋の話として、「ロシア軍が南部工業地帯の防衛線を数百メートル突破し、ウクライナ軍が市内に後退した可能性がある」と報じた。戦争研究所は14日、ロシア軍がアウディイフカ北西のステポベ付近にある鉄道線付近に進軍した」と指摘した。ウクライナ軍タブリア方面軍のタルナフスキー司令官は「ロシア軍はアウディイフカ方面で、最大20人の兵士で構成する突撃グループが、装甲車により攻撃をしている」と明らかにした。米CNNによると、米国家安全保障会議のワトソン報道官は13日、「ロシア軍は10月の攻勢以来、アウディイフカとノボパブリフカの間で、1.3万人以上の死者を出し、戦闘車両約220台以上を失っている」と甚大な損失を厭わないロシア軍の状況を明らかにした。
ゼレンスキー大統領は米議会に対し、既にバイデン米大統領が要請していた610億ドル(約8.9兆円)規模のウクライナ支援予算の承認を直訴した。あわせて、連邦議会のジョンソン下院議長(共和)と会談したが、ジョンソン下院議長は支援の重要性を認めたものの、予算可決への協力的な姿勢は示さなかった。ジョンソン下院議長は、「バイデン政権が求めているのは、多額の追加予算であるが、予算執行の監視体制も明確な戦略もない」と述べ、慎重な姿勢を崩さなかった。バイデン米大統領は12日、ゼレンスキー大統領とホワイトハウスで会談し、2億ドル(約290億円)相当の武器と装備を提供する追加軍事支援を表明した。バイデン米大統領は12日、ゼレンスキー大統領との共同会見に臨み、「米国が引き続きウクライナに向けて、重要な兵器及び装備を可能な限り供給する」と支援を約束した。バイデン大統領は従来、米国によるウクライナ支援を今後も「必要なだけ」持続していくと宣言していたが、12日の発言で、この約束には「可能な限り」という文言が加えられた。バイデン大統領の発言の変化は、米国の対ウクライナ追加支援の承認に大きな逆風が吹く現状を示したものと見られる。ウクライナのクレバ外相は14日、外交専門誌の寄稿で、「ウクライナに対する国際的支援の継続により、ロシア軍を徐々に壊滅させ、プーチン大統領の長期戦計画を阻止することが可能だ」と訴えた。

 

●ロシア大統領選へ政権与党 プーチン大統領支持 全会一致で決定 12/18
ロシアで来年3月に行われる大統領選挙に向けて、政権与党の「統一ロシア」は17日、プーチン大統領への支持を全会一致で決定しました。
ロシアのプーチン大統領は今月8日、来年3月の大統領選挙に立候補する意向を表明しました。
無所属で立候補する方針です。
こうしたなか17日、与党「統一ロシア」は党大会を首都モスクワで開き、党首のメドベージェフ前大統領は「万全の準備で大統領選挙に臨まねばならない。プーチン大統領の勝利が完全に正当であり、議論の余地がないものにしなければならない」と述べ、党としてプーチン大統領を支持することを全会一致で決定しました。
このあと演説したプーチン大統領は、ウクライナへの軍事侵攻に参加する兵士らをたたえるとともに、欧米への批判を繰り返した上で、「どんな困難な課題に対してもわれわれは結束し、対応しなければならない」と述べ、みずからのもとでの結束を訴えました。
一方、今回の大統領選挙でプーチン政権は軍事侵攻によって一方的な併合を宣言したウクライナの4つの州でも選挙だとする活動を強行するかまえです。
これについてイギリス国防省は17日「侵攻の正当性を示すためにも、ロシア当局が『正しい』とする結果を確実に出すだろう。プーチン大統領を圧勝させるため不正や有権者への脅迫などの手法を使うことは確実だ」と警告しています。
● プーチン氏、深刻な物不足に陥った旧ソ連時代の例えまじえ演説… 12/18
ロシアのプーチン政権を支える与党「統一ロシア」の党大会が17日にモスクワで開かれ、来年3月の大統領選に無所属で出馬するプーチン大統領への支持を全会一致で決めた。
露大統領府の発表によると、党大会で演説したプーチン氏はウクライナ侵略で対立を深める米欧などを念頭に、「我々は歴史的な挑戦に直面している。すべての愛国的勢力を結集しなければならない」と団結を訴えた。「ロシアは他の国々のように、ソーセージと引き換えに主権を放棄し、どこかの国の衛星国になることはできない。ロシアは主権国家であるか、全く存在しないかのいずれかだ」とも強調した。
ソーセージのたとえは、旧ソ連時代の深刻な物不足を意味する。日米欧などが科す経済制裁に対抗するとともに、ウクライナを自国の領土の一部とするロシアの一方的な主張を譲らない姿勢を改めて示したものとみられる。
タス通信によると、統一ロシア党首のメドベージェフ前大統領も演説し、大統領選でのプーチン氏の勝利に向け、「党はあらゆることをする」と述べた。
●プーチン氏、NATO攻撃否定 バイデン氏発言は「ナンセンス」 12/18
ロシアのプーチン大統領は17日、バイデン米大統領がウクライナ戦争に勝利すればロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国を攻撃する恐れがあると発言したことについて、「全くのナンセンスだ」と否定した。
バイデン氏は今月6日に演説した際、「ウクライナを掌握したとしてもプーチン大統領はそこでストップしないだろう」と述べ、ロシアがその後、NATO加盟国に攻撃を仕掛け、米国を戦争に引きずり込む恐れがあると警告した。
プーチン氏は国営テレビとのインタビューで、バイデン氏の発言は「全くのナンセンスであり、バイデン氏もそれを認識していると思う」と述べた。
「ロシアがNATO加盟国と戦う理由や利益が経済的にも軍事的にも地政学的にもない」と説明した。
一方、今年4月のフィンランドのNATO加盟について、ロシア北部の国境付近に特定軍事部隊を集中的に配備させることになると述べた。
●プーチン氏会見 侵略を成功させてはならない 12/18
国際法の明確な違反であるにもかかわらず、ロシアは、ウクライナ侵略を完遂して属国化を目指すことを示した。
暴挙を成功させてはならない。国際社会は結束を強めるべきだ。
プーチン露大統領が、年末恒例の記者会見と「国民との対話」を行い、ウクライナ侵略について「ロシアの目的が達成されれば、平和が訪れる」と述べた。目的はウクライナの「中立化」と「非軍事化」だと改めて強調した。
欧米と協調するゼレンスキー政権を倒し、武装解除を進め、ウクライナがロシアの勢力圏に入るまで侵略を続ける考えを示したものだ。主権と領土の尊重を明記した国連憲章の原則を否定する暴論である。到底容認できない。
プーチン氏は「ほぼ全ての前線で露軍が優位に立っている」と語った。ウクライナの反転攻勢が成果を上げていないのは事実だが、ロシアが優勢なわけでもない。戦線は 膠着 状態が続いている。
プーチン氏には、「優位」をアピールしなければ、侵略に対する国民の不満が高まりかねないという危機感があるのではないか。
年末の会見は、侵略が始まった昨年は中止になっていた。来年3月には大統領選があり、プーチン氏は今回の会見の直前に、出馬の正式表明も行っている。再選に向けて「戦果」を誇示できるよう、攻勢を強める可能性が大きい。
ロシアは、侵略に成功すれば、さらにバルト3国や東欧のポーランドにも勢力を広げようとする恐れがある。中国の力による現状変更の動きも加速しかねない。
各国は、ウクライナの存亡に世界全体の平和と安定がかかっていることを認識し、ロシアの侵略を失敗に終わらせねばならない。
欧州連合(EU)は、ウクライナが切望しているEUへの加盟に向けて、交渉を開始することを決めた。実際に加盟するまでには、ウクライナが汚職体質から脱却するなどの改革が必要だが、交渉開始の決定自体は前進だ。
EUがロシアの脅しに屈せず、ウクライナを支援し続けるという力強いメッセージと言える。
懸念されるのは、米国のウクライナへの軍事支援が枯渇しかかっていることだ。米下院で多数派の野党・共和党の反対により、追加予算案の承認が遅れている。
ウクライナの苦戦は、米欧の武器支援が不十分だからだと指摘されている。米国は政争を自制し、超大国としての責任を自覚して支援を最優先してもらいたい。
●トランプ氏「移民者は米国の血を汚す…」…バイデン氏が批判 12/18
米国共和党の有力大統領選候補であるドナルド・トランプ前大統領が再び移住民に向かって「米国の血を汚している」としてヘイト発言を吐き出した。
ロイター通信とCNN放送などによると、トランプ前大統領は16日(現地時間)、ニューハンプシャー州で行われた選挙遊説で支持者数千人が集まった中でこのように述べた。
また、南米だけでなくアジア、アフリカ出身移民者も米国に流入するとし「彼らは全世界からわが国に押し寄せてきている」と非難した。
該当発言は遊説前にマスコミに事前配布された資料にはない文句だとロイターは報じた。
9月、右派系ウェブサイト「ナショナルパルス」とのインタビューでも移民者を狙って「(米国の)血を汚染させる」という表現を使った。
米国内ではトランプ前大統領のこのような発言に対して、過去のナチス政権のユダヤ人抹殺主張と似ているという指摘まで出た。
米イェール大学のジェイソン・スタンリー教授は、アドルフ・ヒトラーが『我が闘争』で「ドイツ人の血がユダヤ人によって汚染されている」と主張したことを連想させると話した。
スタンリー教授は「彼(トランプ氏)はこの言葉を集会で繰り返し使っている」とし「危険な発言が繰り返されれば、それが正常に扱われ、勧められる慣行が生じる」と懸念を示した。
トランプ前大統領はイスラム圏国家出身者に対する入国禁止の拡大など移民政策の強化を主要公約として掲げている。
トランプ前大統領は遊説で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長を「非常に良い人」と評価した。
トランプ前大統領は「彼は(金正恩氏)この政権があまり好きではないが、私のことは好きだ」と述べた。
また、ロシアのプーチン大統領も自分(トランプ氏)の起訴を政治的迫害とし、「米国の政治システムが腐っていることを示している」と批判したと述べた。
バイデン大統領はトランプ前大統領のヘイト発言に対して批判した。
バイデン大統領選挙キャンプの報道官は声明で、「ドナルド・トランプ氏はアドルフ・ヒトラーを真似し、金正恩氏を称賛し、プーチン氏を引用して自分のロールモデルを見せた」とし、「同時に、彼は独裁者として統治するという大統領選挙公約を掲げ、米国の民主主義を脅かしている」と指摘した。
●ウクライナ戦争では一儲けしたが…中国が中東で遭遇した悪材料 12/18
中国産業界が苦悶に陥った。欧州輸出の核心通路である紅海−スエズ運河路線がイスラエルとパレスチナの武装組織ハマス間の戦争で事実上遮断されてしまったためだ。欧州と中東で起きた「2つの戦争」のうちウクライナ戦争では経済的特需を享受した中国がイスラエル戦争では費用増加という悪材料にぶつかったという評価だ。
中国官営「グローバルタイムズ(GlobalTimes)」は最近、「イスラエル戦争で多くの貨物船が中国から欧州連合(EU)に向かう核心物流ルートであるスエズ運河を迂回している」と報じた。中国貨物船が選んだのは南アフリカ共和国の喜望峰を回り大西洋を経由して欧州に向かうルートだ。スエズ運河路線に比べると航行距離が9000〜1万キロほど長い。
中国市場情報機関「CIBリサーチ」の王正成研究員は、中国経済専門紙「財新」に対して「中国自動車を欧州に輸出するのにかかる時間は(スエズ運河路線より)2週間、費用にして2割増しとなる」としながら「その他に船舶保険料、保安費用なども大幅にかさむだろう」と分析した。
フーシ反乱軍の脅迫に…紅海回避する中国船舶
時間と費用が追加でかかるにもかかわらず遠回りをするルートを選んだのは、スエズ運河から直線距離で200キロにもならないパレスチナ・ガザ地区で起きている戦争のためだ。
米国中央軍司令部は16日(現地時間)、紅海で作戦中だった駆逐艦「カーニー」がイエメンの親イラン組織フーシ反乱軍が飛ばした無人機(ドローン)14機を成功裏に撃墜したと明らかにした。同日、英国駆逐艦「HMSダイヤモンド」も商船を狙ったドローン1機を撃墜した。英国海軍が空中の標的を撃墜したのは1991年湾岸戦争以来初めてだ。
これに先立ってフーシ反乱軍は14日、オマーン南部からサウジアラビア・ジッダに向かって航海中だった香港国籍の貨物船「マースク・ジブラルタル」もミサイルで攻撃した。11日と13日にもフーシ派は紅海を通過するノルウェーとマーシャル諸島国籍のタンカーをそれぞれミサイルで攻撃した。3日にも米海軍の軍艦1隻と商船の複数隻が紅海でフーシ派の攻撃を受けた。
フーシ派は先月19日、紅海を航行中だった日本海運会社所属の船舶「ギャラクシー・リーダー」を拿捕してから、紅海を通過する船舶に相次いで攻撃を加えている。名分はイスラエルがガザ地区を攻撃したことに対する報復だ。フーシ派側は9日、「ガザ地区が必要な食糧と医薬品を受けることができないなら、国籍とは関係なくイスラエルの港に向かう紅海上のすべての船舶がわが軍の標的になる」と警告した。
紅海−スエズ運河路線は全世界の海上コンテナ物流量の30%、海上貿易量の12%を占める。中国だけでなく韓国や日本にとってもこの路線は欧州輸出の主要ルートだ。フーシ派の攻撃に東アジア3国の悩みが深いのはこのためだ。
韓日米とは違う…軍事対応を避ける中国
だが、中国は韓国や日本とは事情が異なる。韓日は自国船舶の保護のために軍事資源を活用する米国のやり方に同調する可能性が高い。
米軍は紅海地域で多国籍艦隊を拡大する方針だ。米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は15日、「我々は、必須の関門であり国際水路である紅海で自由な交易がもっと安全に行われるようにする」としながら「海洋機動部隊に関連し、数日内に具体的な内容を明らかにすることができると思う」と述べた。
これに先立ち、国防総省のパトリック・ライダー報道官は12日、紅海とアデン湾で活動する連合海上部隊(CMF)配下の機動部隊「CTF−153」に言及した。ライダー報道官は「CTF−153参加国拡大のために国際同盟およびパートナーと引き続き緊密に協議している」と述べた。CMFは中東地域の海上安全保障を果たすために米国が主導して立ち上げた多国籍海軍連合体だ。韓国や日本をはじめ計39カ国が参加している。韓国清海(チョンへ)部隊はCMF傘下の別の部隊「CTF−151」で活動している。
だが、米国の対抗馬を自任している中国はCMFに加入していない。中国が中東海上で軍事行動に出ることを避けているという分析もある。韓国峨山(アサン)政策研究院中東センター長のチャン・ジヒャン氏は「中国はイスラエルのガザ地区攻撃を批判してきた立場で、同じような名分を掲げるフーシ反乱軍と軍事的に衝突するのは気まずい」としながら「フーシ派を後援するイランとの友好関係も考慮したはずだ」と説明した。実際に、イランのアシュティアニ国防相は14日、米国のCTF−153拡大の動きに関連して「彼らがそのような非理性的動きを見せるならば、彼らは驚くような問題に直面することになる」と警告した。
●橋頭堡攻撃のロシア空挺師団「桁外れの大損害」 ウクライナは反攻の芽残す 12/18
ロシア空挺軍の第104親衛空挺師団は、ウクライナ南部ドニプロ川左岸(東岸)でロシア側の作戦を救援するはずだった。
ところが、新たに編成されたこの師団は「初の戦闘で桁外れに大きな損害を被り、目標の達成に失敗した」可能性が非常に高いと英国防省は分析している。
2カ月前、ウクライナ海兵隊の第35海兵旅団の海兵たちはドニプロ川をボートで渡り、砲兵やドローン(無人機)、そして周到な電波妨害による掩護を受けながら、左岸沿いの集落クリンキに橋頭堡(きょうとうほ)を確保した。クリンキ一帯以外、ドニプロ川左岸はロシア軍が支配している。
クリンキ方面はこの戦争の新たな前線になった。ウクライナ側はロシア占領軍をウクライナ南部から押し出していくために、いずれここを有効に活用したいと考えている。
ロシア海軍歩兵隊の部隊は陸軍の自動車化連隊の増援を受けつつ、ウクライナの海兵部隊を駆逐しようとしたが、失敗した。そこで投入されたのが第104師団だった。第104師団は9〜10月に急いで訓練されたあと、ウクライナ南部に配置され、クリンキ方面の戦いを主導することになった。
通常は4個師団体制のロシア空挺軍は、ロシアが拡大して22カ月目になる戦争の初期に大きな損害を出していた。新編の第104師団はそれを埋め合わせるはずだった。
だが、2000人規模の第104師団もまた大きな損害を出し、消耗戦にさらに拍車をかける格好になった。「第104師団は航空戦力や砲兵による支援を十分に受けられなかったと伝えられ、兵士の多くは未熟だった可能性が非常に高い」と英国防省は指摘している。
クリンキや周辺の森林に現在、ウクライナの海兵が何人くらいいるのかはよくわからない。ロシア側の情報筋は、上陸部隊は200〜300人規模ではないかと推測している。
これら数百人の海兵部隊は、ドローン部隊や砲兵部隊、電子戦部隊とともに、数千人のロシア軍部隊に対して持ちこたえてきた。相手にしてきたのは、最初は第810海軍歩兵旅団の海兵、次に第70自動車化狙撃師団の兵士、そして第104師団の空挺兵である。
南部での突破はまだ遠いが、反攻に向けた選択肢を確保している
数で著しく劣り、地上と空から容赦のない砲撃や爆撃にさらされながら、橋頭堡のウクライナ軍部隊がどのように持ちこたえてきたのかは、もはや謎ではない。海兵の渡河に先立って、ウクライナ軍の砲兵とドローン操縦士はドニプロ川左岸のロシア側の電波妨害(ジャミング)装置を破壊し、電子戦の専門兵はウクライナ側の電波妨害装置を設置したのだ。
その結果、クリンキ上空ではロシア側のドローンは飛べなくなり、ウクライナ側のドローンが自由に飛び回れるようになった。ロシア軍の車両や歩兵は姿を見せると数分のうちに空から攻撃を受ける。「クリンキ方面の状況はわれわれ側が悪化の一途をたどっている」とロシア側の観察者は嘆いている。
もっとも、ウクライナの海兵たちがクリンキを保持し、第104師団を打ち負かしているからといって、近いうちにヘルソン州南部で突破を成し遂げ、クリミアに向けて進撃しそうにはない。ウクライナ軍は南部での反戦攻勢がピークに達してから数週間後、攻勢のための戦闘力を使い果たし、攻勢から守勢に転じた。
一方、ロシア側は攻勢に出ており、補給線が短い東部では、鉄道で人員や装備を何百kmも移動させなくてはならない南部より成功している。
それでも、ウクライナ側はクリンキを保持することで、ゆくゆくはこの橋頭堡から反攻を開始するという選択肢を確保している。
この選択肢がウクライナ軍参謀本部にとって非常に重要なのは明らかだ。ウクライナ軍指導部は明らかに、保有する最高の電波妨害装置の多くや、爆薬を積んだドローンのかなりの数をクリンキ方面の戦いに投入している。そのために、ロシア軍の猛攻を受けてきたドネツク州アウジーイウカをはじめ、東部戦域の防衛努力を犠牲にしている可能性もある。
●10年後「消えるアパレル」「生き残るアパレル」の差 12/18
コロナ禍、世界的なインフレ、ウクライナ戦争やパレスチナ問題、そして気候変動の急速な悪化……。地球規模で起こる事象を受け、アパレル業界はいま、グローバルで大きく変化している。
2000年代から世界を席巻した「大量生産・消費のファストファッション」は、地球環境に配慮する「サステナブルファッション」に移行しつつある。欧米を中心に規制やガイドラインが整備され、消費者の意識・行動も変わりはじめた。
結果、「新品市場」が伸び悩み、「中古品市場」や「デジタルファッション市場」に注目が集まっている。
グローバルでファッションの潮目が大きく変わる中、日本のアパレル企業は生き残ることができるのか?
著書『2040年アパレルの未来──「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』を上梓したコンサルタントの福田稔氏がアパレル/ライフスタイル領域の企業が今、何をすべきかを解き明かす連載3回目。「10年後に『消えるアパレル』『生き残るアパレル』の差」について解説する。
10年後「生き残る企業」「淘汰される企業」の違いは?
現状のアパレル業界は、インフレや二極化の影響を受け、新品市場が伸び悩む一方で中古衣料品が伸びるなど、市場環境が大きく変化しています。
また、深刻化する気候変動に対応するため、世界中のアパレル企業がカーボンニュートラルに向けた対応に迫られています。
今後は上場企業でなくても、気候変動をはじめとするサステナビリティに対する取り組みへの圧力は増していくでしょう。
このような流れを受けて、10年後に生き残れる企業、淘汰される企業の違いはどこにあるのでしょうか?
過去を振り返ると、アパレルに限らずさまざまな消費財において、上位企業によるシェアの拡大が起こってきました。
市場の成長が縮小傾向にあれば、DXなど勝ち残りに向けて必要な投資は増えつづけます。また、大手企業によるM&Aや合従連衡も起こり、結果として上位企業のシェアが拡大する傾向にあります。
アパレルでも「やっぱり大手企業が有利」な理由
市場が細分化されているアパレル業界もご多分に漏れず、2017年から2022年にかけ、上位10社による市場シェアは2ポイント上昇し、12%となりました。
ラグジュアリーでは、LVMHグループによるティファニーの買収や、コーチを擁するタペストリーがヴェルサーチェを擁するカプリ・ホールディングスを買収するなど、上位企業による大型のM&Aが起こったのも記憶に新しいでしょう。
消費財で広く見られる上位企業のシェア拡大ですが、今後はアパレルのように環境負荷の高い消費財業界ほど、その速度が速まるのではないかと見ています。
その理由は大きく分けて3つあります。
1つめは、「環境負荷を下げるために必要なコスト」が大きいことです。
理由1「環境負荷を下げるために必要なコスト」が大きく、環境対応の取り組みができない企業は淘汰される
カーボンニュートラルをはじめとするサステナビリティ対応を成し遂げるには、多くの人的リソースとマネーが必要です。
たとえば、自社の環境負荷を製品単位で可視化し、CO2排出量や水使用量など、それぞれの削減計画を立て、アクションプランに落とし込み、実行していくためには、大変な労力がかかります。実際グローバルSPAの大手では、それらを担う組織に数十人単位の人員を割いています。
現実問題として、このような投資を行える企業は一部に限られます。
「成長が見込めない状況」で起こることは…
理由2「市場のレッドオーシャン化」で競争が激化する
2つめは、市場成長が止まる中で、企業間競争の激化が進むことです。
コロナ禍を経て、アパレル市場は名目ベースでは回復基調にあるように見えますが、インフレの影響を除く実質ベースでは、コロナ禍以前の状況には回復しておらず、成長はあまり見込めない状況です。
伸び悩む市場では、企業の成長は限られたパイの奪い合いにより達成され、レッドオーシャン化が進みます。必然的にM&Aや企業の合従連衡も進むでしょう。
このような中、ニッチ戦略をとることで中小アパレルが生き残る戦略も考えられますが、一定の規模がある中堅企業ほど、競争激化の影響を受けやすい構図になります。
3つめの理由は、インフルエンサーやD2C(Direct to Consumer)の増加による「多極化」の進行です。
理由3多様化にともない、「ニッチなアパレルビジネス」が増加する
すでに、多くのアパレルD2Cが市場で台頭していることは、みなさんもよくご存じでしょう。最近では「P2C(Person to Consumer)」と呼ばれる、個人を起点としたアパレルビジネスも増えています。
ライブコマースが活況の中国では、著名なインフルエンサーがP2Cで数百億円のアパレル事業を展開するようなケースも出てきています。日本でも、芸能人やインフルエンサーが個人でアパレルビジネスを展開しているのをよく耳にするでしょう。
これら個人や中小のアパレル事業にサステナビリティの規制をかけることは当面難しく、社会のデジタル化が進む中で、D2CやP2Cは今後も増えることが予測されます。
このように、デジタルを効果的に活用し、ニッチなビジネスをうまく展開できれば、中小企業であっても生き残る戦略がとれます。
同時に、このようなビジネスの影響を受けやすいのも、低〜中価格帯で一定規模のアパレルビジネスを営む中堅企業であることを忘れてはいけません。
今後の戦略によって「10年後」が大きく変わる
2040年までの長期の時間軸で見ると、3つの要因が重なることで、アパレル業界でも「大手によるシェア拡大」と「中堅企業の淘汰」が進んでいくと考えられます。
その結果、現存するアパレルブランド(企業)が、10年後にはなくなってしまうという可能性も十分あるのです。
日本のアパレル企業は、競争環境の変化に耐え得る規模拡大を目指すのか、特定の市場にフォーカスしたニッチ戦略をとるのか、はたまたグローバルに活路を見出すのか、戦略的な判断が必要な局面に来ています。
特に上場企業においては、上場の継続可否も含めたダイナミックな戦略的判断が必要となる転換期とも言えるでしょう。
●ウクライナにとって最悪の1週間、原因は米国と欧州 12/18
ウクライナは「溺れているのに、手を振っていると勘違いされる」問題を抱えつつある。戦況がどれほどひどいのか明言できずに苦労している。
戦況が劣勢に向かっていると率直に公言すれば、結果として士気の低下や支援の先細りを招きかねないため、得策とは言えない。オバマ大統領(当時)がアフガニスタンに増派した際には、戦争の行方について現実主義が欠如していたこともあり、年を追うごとに世論の支持が低下した。
ウクライナが自分たちの置かれている状況をここまで上手く伝えられないのは、同盟国の視野の狭さが主な原因だ。
米下院議会の一部で見られる理解の欠如は驚くべきものだ。ある下院議員は先週、ウクライナは具体的な金額と明確かつ簡潔な目標を提示するべきだと発言した。米国は20年間で2度も自ら戦争を招き、数兆ドルをも費やしたというのに、議会の物忘れの激しさと理解力の乏しさには唖然(あぜん)とする。
代わりにウクライナ政府は、ここまでの戦果と今後の目標を強調する。昨年ロシアに奪われた領地の約半分を奪還し、黒海のロシア軍に戦略的ダメージを負わせた。詳細は明かせないものの、2024年に向けた計画も練っているとゼレンスキー大統領は発言した。
だが実際、ウクライナ政府にとって、最も有効な見出しは、前線が筆舌に尽くしがたいほど厳しい状況だというものだ。どこを見てもほぼ暗鬱(あんうつ)な知らせばかりだ。ロシア軍は東部の都市アウジーイウカの一部に集結し、わずかな重要性しかないにもかかわらず、ロシア政府は大量の兵士を送り込んで満足しているようだ。反転攻勢の中心だったザポリージャの前線では結局、遅々として戦果を挙げることができず、ロシア軍が盛り返し、ウクライナ側に多くの犠牲が出ている。ウクライナは血気盛んに(あるいは無鉄砲に)ドニプロ川を渡り、わずかながらロシア側の戦線に進入した。だが人的代償は大きく、補給線に問題を抱え、見通しは暗い。
現在首都キーウは毎晩のように巡航ミサイルの攻撃を浴びている。ウクライナ政府当局によれば、大半は防空システムで迎撃しているという。このまま守り切ることができれば、インフラも無傷な状態で春を迎えられるかもしれない。だがバイデン政権によれば、米国の財政支援が枯渇すれば、真っ先に影響が出るのはおそらく防空システムだろう。
ゼレンスキー大統領にとってはさんざんな1週間だった。大統領一行は欧州連合(EU)加盟交渉という象徴的勝利を声高に叫び、ゼレンスキー氏も「飽くことなく自由のために戦う人々が歴史を作った」証しだと述べた。だが、実際にEUに加盟するには戦争を終わらせなければならない。それもウクライナが国家として存続した形でだ。今のところ、どちらも実現する確証はない。
むしろゼレンスキー大統領は、4日間で2度直面した緊急支援の危機にも強気の姿勢を見せなければならない状況だ。EUではハンガリーが550億ドル(約7兆8000億円)の対ウクライナ支援に拒否権を発動すると決定した。これに対してEU当局は、1月上旬には全会一致で賛成票が得られるとの見通しを示す。だが、戦争犯罪の容疑で逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領を手放しで歓迎する右派ポピュリスト、ハンガリーのオルバン首相が欧州の不和のきっかけを作った。西側の結束がここまで持ちこたえたこと自体が意外だった。欧州各地で行われる選挙やその先に待ち受ける動揺次第では、戦争の終結方法を巡って外交努力や答えを求める声はますます高まるだろう。
ゼレンスキー大統領のワシントン訪問と胸を打つアピールはどちらも失敗に終わった。年明けに米政府が支援再開にこぎつけられたとしても、すでにウクライナは痛手を負った。欧州の北大西洋条約機構(NATO)同盟国を1940年代以来最悪な地上戦に引きずり込ませないために必要不可欠な支援は、戦場での失速と政治情勢により党派的な駆け引きのコマにされてしまった。
米下院の議論で争点となっているのは、対ウクライナ戦争政策や、ウクライナ政府の実効性、反転攻勢が失敗した理由ではない。それよりもはるかに軽薄だ。米国内の国境政策との交換条件にされ、その上ウクライナには今後の戦況を予測しろと理不尽な要求を突きつけている。米外交政策の失態に、開いた口がふさがらない。その余波はこの先数十年に渡って影響を及ぼすだろう。1枚の紙きれを手にナチスとの交渉は可能だと主張した英国のネビル・チェンバイン首相以来、これほど多くのことが危機に瀕している。
ウクライナにとって厳しい軍事状況は、米議会がウクライナ支援に待ったをかける前から始まっていた。来る冬の戦いに専念している人々の胸には、この先に待ち構える障害、NATOの支援なしでウクライナがロシアと対立する可能性が大きくのしかかっている。
「支援がなければ我々は終わりだ」とは、14日に取材したウクライナの衛生兵の言葉だ。何カ月も兵士を手当てして戦場に送り出し、夏には仲間の1人を失ったという。他の兵士はなんとか平静を保ちながら、他に選択肢はないのだから戦い続けると繰り返す。だが間違いなく、米国やEUからの財政支援がなければ、あるいはどちらか片方が脱落すれば、今後2年でウクライナの大半がロシアの占領下に入るだろう。
そうなれば、好戦的で、たっぷり充電され、復讐(ふくしゅう)に飢えたロシア軍は勢いに乗り、NATOとの国境に迫ってくるだろう。そうなれば即、米国の問題だ。なぜか。共同防衛というNATO協定の外では、端的に現実レベルでみれば、欧州で安全かつ自由を謳歌(おうか)する民主主義国とは、すなわち米国の主要貿易国だからだ。米国の世界的影響力の基盤もここにある。
ゼレンスキー大統領は、政治的に分断して無知な米国で、支援者を目の前にしながらも、状況がそれほど悪くないふりをしなければならない。ウクライナが苦境に立たされていると認めれば、負け犬に資金援助をする理由はないという主張を助長する。ウクライナが優勢だと言えば、なぜ追加支援が必要なのかと問われてしまう。膠着(こうちゃく)状態だと言えば、戦争勃発から2年が経過したわりにはそれほど悪くはないと言われるのは確実だ。
共和党少数派の中には、つねにロシアが勝利するのだから、支援を継続してウクライナ人が殺されるのを先延ばしにする必要ないだろうと言い張る者もいる。ウクライナにノーを突きつけようとする人々に口実は要らない。だがそれは、より重苦しい問いを先延ばしにしているに過ぎない。最終的にロシア政府にノーを突きつけるのはいつなのか。いったいどれほどのウクライナ領、おそらくその先には欧州の隣国を、プーチン氏にみすみす占領させ、破壊させるつもりなのか。耳にタコができるほど聞かされた問いではないか。
●欧州は防衛力強化必要、30年までに軍事的脅威の可能性=独国防相 12/18
ドイツのピストリウス国防相は、2030年までに新たな軍事的脅威が生じる恐れがあるとして、欧州は防衛能力の確実な強化を急ぐ必要があると述べた。
同氏はドイツ紙ウェルト日曜版とのインタビューで、ロシアはウクライナ侵攻継続のため兵器を大幅増産する一方、バルト海諸国やジョージア、モルドバに脅威をもたらしていると指摘。さらに、米国はインド太平洋地域に焦点を合わせていくため欧州に対する軍事面の関与を縮小する可能性があると分析した。
そのうえで、「われわれ欧州諸国はわれわれ自身の大陸の防衛を確保するため、取り組みを強化しなければならない」と述べた。
ただ、欧州での兵器増産には時間がかかるとも指摘。「軍、産業、社会において、追いつくには5─8年程度かかるだろう」と述べた。
また欧州は、米国で新たなウクライナ支援の合意が成立しなかった場合欧州が埋め合わせる必要が生じる可能性があると認識していると述べた。
●渡河作戦は「自殺任務」 ウクライナ軍の兵士証言 12/18
米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は16日、ウクライナ軍が南部ヘルソン州で本格化させたドニエプル川の渡河作戦について、犠牲が大きく「自殺任務だ」と訴える複数のウクライナ兵の証言を伝えた。ウクライナ軍は戦果を強調するが、多くの兵士が逃げ場のない川岸や水中でロシア軍の攻撃を受け、死亡しているという。
ウクライナ外務省は11月中旬、ロシア側が支配するドニエプル川の東岸に複数の拠点を確保したと表明。しかし兵士らは同紙に「そこに拠点を築くのは不可能だ」と明かし、発表は誇張されていると指摘した。
●「アウディーイウカの戦い」 東部戦線でロシア軍に損失 12/18
ウクライナ東部ドネツク州の戦略的要衝アウディーイウカを巡る戦いで、ロシア軍の損失を示す空撮映像をAP通信が入手した。
アウディーイウカの北にあるステポベ村で今月撮影されたドローン映像には、並木の後ろに身を隠そうとしたロシア兵の遺体が散乱する、黙示録的な光景が広がっている。
畑の境界に植えられた樹木は焼け焦げ、村は跡形もなく破壊されており、畑には砲弾やドローンからの爆弾の着弾跡が至るところに残されている。
映像はAP通信がウクライナ軍第110独立機械化旅団から入手したもので、12月6日に撮影されたというが、ステポベ村の周辺で撮影された150を超えるロシア兵の遺体は、数週間放置されていたという。
遺体のほとんどはロシア兵の戦闘服を身にまとっているが、中にはウクライナ兵の遺体も混じっているという。
ロシア軍は10月からアウディーイウカに対する攻勢を仕掛けており、多大な損害を出したにもかかわらず、大きな成果は上げられていない。
●「ウクライナ、敗戦の可能性」…結束が揺らぐ米・EUの援助遅延 12/18
ウクライナに対する米国と欧州連合(EU)の支援に支障が生じている中、米国防総省の一部では来年夏ごろウクライナがロシアに敗戦する可能性があるという最悪のシナリオに言及されている。海外メディアは実際にウクライナが敗戦する場合、「民主主義に対する権威主義国家の新たな侵略時代の序幕が開かれるだろう」と予想した。
ワシントンポスト(WP)やCNN・BBC放送などは16日(現地時間)、現在のウクライナに対する米国の援助遅延が今後ウクライナの国防力に及ぼす潜在的な影響と戦争敗北の長期見通しなどを米国・欧州政府の関係者が分析中だと伝えた。
米国・欧州の軍事支援が停滞…ウクライナの弾薬が枯渇
これに先立ち米下院は、ホワイトハウスが10月に提出したウクライナに対する614億ドル(約8兆7300億円)規模の軍事支援などが含まれた安保予算を共和党の反対で阻止した。14日のEU首脳会議ではハンガリーの反対でウクライナに対する500億ユーロ(約7兆7500億円)相当の予算支援が拒否された。
ウクライナに対する米国と欧州同盟国の援助が中断すれば、ウクライナが持ちこたえられる時間は長くないという見方が多い。匿名の米国防当局者はウクライナの敗戦の可能性に言及しながら、敗戦時点を「来年夏ごろ」と予想した。続いて「我々がいるからといってウクライナが必ず勝つという保証はないが、我々がいなければ彼らは確実に敗れるだろう」と話した。
CNNは西側の追加支援がなければ、ウクライナはまず武器不足に直面すると伝えた。長射程ミサイル、地対空ミサイル、砲兵の弾薬、携帯用対戦車ミサイルのジャベリン、スティンガー対空ミサイルの順序で砲弾が枯渇するという見方を示した。
BBCはすでにウクライナが砲弾不足状況に追い込まれていると伝えた。南部戦線のウクライナ指揮官の1人はメディアに「反攻がピークだった時期はロシア軍と我々の砲兵の射撃比率が1:1で、我々が有利だった」とし「しかし今はロシアが4、5発撃つ時、我々は1発を撃つ状況」と伝えた。
第22旅団の砲隊長は「我々に砲弾がもっとあれば今ごろバフムト付近のクリシェイフカをはるかに越えて多くの領土を奪還していたはず」と強調した。別のウクライナ軍人は米国が支援した曲射砲などを指しながら「良い武器だが、弾薬がなければただの屑鉄にすぎない」とBBCに伝えた。
ウクライナ当局はEUが提供することを約束した100万発の砲弾のうち、実際に到達したものは3分の1にもならないと主張した。CNNは米国とEUのどちらか一方の支援が中断すれば、ウクライナ領土の大半が今後2年以内にロシア占領下に入る可能性が高いと予想した。
大統領選挙控えたロシアが攻勢強化…「ロシアの勝利は世界の災難」
半面、ロシアはすでに戦時経済に転換した状態だ。西側は来年のロシア政府の支出の40%が国防と安全保障に集中していると伝えた。これはロシアの保健および教育予算を合わせたものより大きい規模だ。これを受け、最前線でのロシアの攻勢も強化された。BBCはロシアが来年3月の大統領選挙を控え、プーチン大統領の圧勝のためにウクライナ戦線での圧力を強化すると予想した。
これに対し欧州外交官は「ウクライナの敗戦が実際に意味することを人々はよく知らないようだ」とし「ロシアの無慈悲な人種清掃、完全な破壊が広がるということで、ブチャ虐殺のようなことがウクライナの全国土で再現されるだろう」と警告した。
WPはウクライナの敗戦は単純にウクライナの恐怖だけでなく、米国と欧州にも戦略的災難になると強調した。「ロシアの勝利」というシナリオは西側の名声と信頼度に打撃を与え、「衰退した民主主義」に対する「統制されていない権威主義国」の新たな侵略時代の開始を見ることになるとも伝えた。エストニアののカーヤ・カラス首相首相は「屈服はプーチンの勝利を意味し、これは全世界により多くの戦争と葛藤を招くはず」と強調した。 
●プーチン大統領、NATO加盟フィンランドに「問題起こり得る」… 12/18
来年の大統領選挙で5選に挑戦するロシアのプーチン 大統領が、北大西洋条約機構(NATO)に今年加盟したフィンランドに「問題が起こり得る」と脅迫し、ロシア軍を国境付近に集中配置すると明らかにした。
17日(現地時間)のAFP通信・CNN放送などによると、プーチン大統領はこの日、ロシア国営放送のロシア1のインタビューで、4月にNATOに加盟したフィンランドを公開的に非難した。プーチン大統領は「今まで我々がフィンランドと紛争をしたことがあるだろうか。20世紀半ばの領土問題を含むすべての紛争はすでにかなり以前に解決した」とし「西側がフィンランドをNATOに引き込んだ」と批判した。
続いて「フィンランドには問題がなかったが、今はある」とし「なぜなら我々はレニングラードに軍事区域を作り、そこに軍隊を移動させるため」と警告した。フィンランドはロシア西北部と国境1340キロを挟む。このうちロシアの第2の都市サンクトペテルブルクがあるレニングラード州に軍部隊を集中的に配置する考えとみられる。
プーチン大統領のこうした発言は、フィンランドが先月ロシアとの国境を閉鎖し、18日にフィンランドが米国と国防協力協定を締結するなど両国間に緊張感が高まった中で出てきた。
ロイター通信によると、フィンランドは紛争時に米軍の迅速な軍事的接近と支援を認めるために米国と国防協定を結ぶと明らかにした。これを受け、米軍はフィンランドからロシア国境につながる鉄道の近隣に軍事装備や弾薬などを貯蔵するなどフィンランド内15カ所の軍事地域と施設に接近できる。
ただ、プーチン大統領はNATOを先に攻撃することはないと強調した。今月初めの「ロシアがウクライナを掌握すればNATO国家を攻撃する可能性がある」というバイデン米大統領の発言について、プーチン大統領は「全くのたわ言」と一蹴した。
続いて「ロシアが地政学的、経済的、軍事的な利害関係でNATO国家と戦う理由も関心もない」とし「NATO国家との関係を壊そうという意図はなく、むしろ関係を発展させることに関心がある」と主張した。
プーチン「自給自足強大国を築く」
一方、来年3月17日に行われるロシア大統領選挙で5選を狙うプーチン大統領はロシアの主権を強調しながら、自給自足の強大国にすると約束した。
プーチン大統領はこの日、モスクワ北部の全ロシア博覧センター(VDNKh)で開かれた統一ロシア全党大会で「我々はロシアが主権国、自給自足国家にもなり得て、存在しない国にもなり得るということを決して忘れてはいかない」と強調した。
続いて「我々は外国の助言を受けず自ら決定をする」とし「ロシアは他の一部の国のようにソーセージで主権を放棄して誰かの衛星国になることはできない」と述べた。また、ウクライナとの戦争で西側と対立する状況については「ロシアはすべての愛国勢力の団結を要求する歴史的課題に直面していて、ロシアの利益のためにやるべきことが多い」と強調した。
これに先立ち前日、プーチン大統領は支持者およそ700人で構成された推戴グループにより大統領選の無所属候補に指名された。プーチン大統領は2000、12年の大統領選挙では統一ロシアの候補として出馬し、2004・18年の大統領選では無所属で当選した。プーチン大統領に対するロシア国民の信頼度は大統領選出馬宣言以降、小幅上昇の79.3%になったと、ロシア世論調査センターVTsIOMが明らかにした。
●ロシア・プーチン政権批判のナワリヌイ氏 所在不明が続く 長期化か 12/18
ロシアでプーチン政権批判の急先鋒として知られるナワリヌイ氏の行方が分からなくなってから13日が過ぎました。行方不明の状態が長期化する可能性が出てきました。
ナワリヌイ氏の審理を行っているウラジーミル州の裁判所は18日、ナワリヌイ氏の審理の延期を発表しました。
次回の期日は来年1月11日と16日に予定されています。
ナワリヌイ氏の陣営は、裁判所は連邦刑務所に対してナワリヌイ氏の所在を明らかにするよう義務付けるべきで、今回の決定には「法的根拠がない」と批判しています。
このままナワリヌイ氏の所在がつかめないままの状況が長期化する可能性があります。
ナワリヌイ氏は弁護士が面会を拒否された今月6日以降、所在不明となっています。
7日に予定されていたオンラインでの審理にもナワリヌイ氏は姿を見せませんでした。
刑務所側は「電気の不具合によるもの」だと説明していましたが、その後も弁護士の面会は実現しませんでした。
11日にはナワリヌイ氏がこれまで収監されていた刑務所の収監者リストから外れていることが分かりました。
別の刑務所に移送されたとみられ、弁護士が18日までにロシア全土の200以上の刑務所や拘置所に問い合わせていますが、所在は今も明らかにされていません。
●ロシア経済はウクライナ戦争の影響を克服も、中銀は物価安定に苦慮 12/18
15日、ロシア連邦中央銀行は定例の金融政策委員会を開催して5会合連続となる利上げの一方、引き上げ幅を100bpと10月の前回会合時点(200bp)から縮小させて主要政策金利を16.00%とする決定を行った。ロシアを巡っては、昨年からのウクライナ侵攻の終局が依然として見通せない状況が続いている。一方、ウクライナ侵攻をきっかけとする欧米などの経済制裁強化を受けて景気は一時的に大きく下振れする事態に直面したものの、足下の実質GDPはウクライナ侵攻前の水準を回復するなど底入れが進んでおり、欧米などの経済制裁の影響を克服している様子がうかがえる。この背景には、欧米などがロシアに対する経済制裁を強化する一方、中国やインドをはじめとする新興国によるロシア産原油の輸入拡大、中国やトルコ、中央アジア諸国などとの迂回貿易や並行貿易の拡大により制裁の影響が相殺されたほか、サウジアラビアなど主要産油国が減産実施により国際原油価格が下支えされたことも重なり、実質的にロシア経済の下支え役となったことが影響している。一方、景気底入れが進む背後では戦争の長期化による労働力不足に加え、国際金融市場における通貨ルーブル安に伴う輸入インフレも重なり、足下のインフレ率は加速して中銀目標(4%)から乖離する展開が続いており、中銀にとっては物価安定が急務となっている。しかし、戦争に伴う軍事費増大に加え、プーチン政権は戦争長期化に伴い国民の間に不満が高まる事態を抑えるべく様々なバラ撒き政策に傾くなど幅広く歳出増大圧力を強めており、結果的にインフレ圧力が鎮静化しない一因になっているとみられる。さらに、プーチン大統領は来年3月に実施予定の次期大統領選での再選を目指して出馬する意向を示すなか、政府もこれを後押しすべく大幅な歳出増を見込むなど『大盤振る舞い』に動く構えをみせており(注1)、足下において加速の度合いを強めているインフレが一段と上振れする可能性もくすぶる。こうした事態を受けて、中銀は戦争中であるにも拘らず7月以降だけで累計850bpもの大幅利上げを実施するなど難しい対応を迫られている。中銀は会合後に公表した声明文において、物価動向について「インフレ圧力は依然として高く、中期的なインフレリスクも大きい」との認識を示す一方、景気動向について「想定以上のペースで拡大が続いている」との見方を示すとともに、先行きの政策運営について「引き締め状態が長期間に亘って維持されることが想定される」との見通しを示している。また、会合後に記者会見に臨んだ同行のナビウリナ総裁は今回の決定について「100bpの利上げか据え置きを中心に協議されたが、一部に大幅利上げの提案もなされた」としつつ「基本シナリオに基づけば利上げサイクルは終了に近付いているが、すべては状況次第」として利上げ局面の終了を示唆する考えをみせた。その上で、物価動向について「何年にも亘ってインフレ期待は高止まりしている」とした上で、「上振れリスクの方がはるかに大きく、インフレ目標の実現には高金利を長期間に亘って維持する必要がある」との考えを示すとともに、「想定を上回る政府支出もインフレリスクを高めるほか、労働市場を巡る状況が供給サイドの主な制約要因になっている」との認識を示している。なお、足下においては米ドル高の動きに一服感が出ていることを反映して調整局面が続いたルーブル相場の動きに一服感が出ているものの、先行きの動きについては外部環境次第といった状況は変わらない。また、14日に年末記者会見に臨んだプーチン大統領は、物価動向を巡って年金受給者から不満が呈されたことに対して謝罪する異例の対応をみせたほか、中銀と政府が物価抑制に尽力している旨を説明した。確かに中銀は物価抑制を目的に金融引き締めに動いているものの、上述したように政府はバラ撒き志向を強めている上、戦争が長期化するなかで歳出増圧力がくすぶるほか、供給サイドによるインフレ圧力が強まる可能性を勘案すれば、中銀は来年末時点のインフレ見通しを4.0〜4.5%との見方を示しているものの、一段の金融引き締めを迫られることも考えられる。上述したように足下の景気が底入れの動きを強めていることは、3月の次期大統領選での再選を目指すプーチン氏にとって追い風となることが期待される一方、プーチン氏は無所属で出馬する予定ながら政権与党の統一ロシアはプーチン氏の支持を表明している上、同氏のほかに有力な候補が出馬することが出来ない事実上の『出来レース』となっていることを勘案すれば『信任投票』的な意味合いが強いものと捉えられる。他方、先月末に開催されたOPECプラスの閣僚会合ではロシアを含む『有志国』が来月から3ヶ月間の自主減産に動くことで合意したものの(注2)、実質的に減産幅の縮小に繋がるとともに、世界経済の減速が意識されるなかで足下の原油価格は頭打ちの動きを強めており、ロシア経済にとって足かせとなる懸念が高まっている。その意味では、先行きのロシア経済、プーチン政権にとっては必ずしも『安泰』とは呼べない展開となる可能性に留意する必要があると考えられる。
●ウクライナ東部で激戦続く ロシア首相は19日から中国訪問へ 12/18
ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナでは、東部ドネツク州の拠点をめぐって1日で27回に上る攻防があったとウクライナ側が発表するなど激戦が続いているもようです。こうした中、ロシアのミシュスチン首相が19日から中国を訪問して習近平国家主席などと会談する予定で、中国との関係強化を一層進めたい考えです。
ウクライナ軍参謀本部は18日、ロシア軍が東部ドネツク州の拠点、アウディーイウカを包囲しようと周辺地域で攻撃を繰り返し、その数は1日で合わせて27回に上ったと明らかにしました。
イギリス国防省は15日の分析でアウディーイウカから南西およそ30キロのマリインカとその周辺でロシア軍が攻め込んでいると指摘していて、ドネツク州の前線で激しい戦闘が続いているもようです。
こうした中、ロシア政府は18日、ミシュスチン首相が19日から2日間の日程で中国を訪問し、習近平国家主席や李強首相と会談すると発表しました。
会談では両国の経済協力の拡大を目指すとしています。
中国にはプーチン大統領がことし10月に訪問したばかりで、欧米との対立を深める中でプーチン政権としては中国との関係強化を一層進めたい考えです。
中国外務省の汪文斌報道官も18日の記者会見で「今回の会談で双方は2国間関係と実務協力、それにともに関心を寄せる問題について踏み込んだ意見交換を行う」と述べ、協力関係の強化に期待を示しました。
●ロシア、ウクライナですでに「併合」した4州以外にも占領地を広げる新計画 12/18
ロシアがウクライナに侵攻してからまもなく3年が経つ。そんな中、ロシアが占領地の拡大に向けた新たな計画を立てていると報じられた。アメリカのシンクタンク、戦争研究所(ISW)は12月15日、この計画はロシアの戦争長期化に備えたこれまでの動きと一致するとの分析を示した。
ロシアはこれまでにウクライナのドネツク州、ヘルソン州、ルハンスク州、ザポリージャ州を一方的に「併合」。
最近では、ウクライナ軍の激しい抵抗を受けてきたドネツク州の都市アウディーイウカでも、少しずつ包囲の輪を狭めている。ロシアが攻撃を始めた10月10日以降、今回の戦争でも有数の激しい戦闘を繰り広げている。
ドイツのビルト紙は先に、ロシアが「(違法に)併合した4州以外のウクライナの領土を2024〜26年の間に占領する」計画を立てていると報じた。
同紙が情報筋の話として伝えたところでは、ロシアは24年末までにドネツク州とルガンスク州の全域の占領と、ハルキウ州のオスキル川まで前進することを計画しているという。
プーチンは拡張主義的な発言に「回帰」
これについてISWは以下のように指摘した。「このたび報道されたロシアの2026年までの計画は、ロシアが長期的な戦争に向けた準備を続けていることと軌を一にする」「ロシア軍司令部は戦略備蓄を形成するため、(軍の)長期的な再編と拡大を続けている。またロシアは、長期的な戦争を維持するために徐々に防衛産業基盤の動員を進めてきた」
この分析で、ISWはビルトの伝えた新しい計画は十分に現実味があるとの見方を示した。理由はロシアのウラジーミル・プーチン大統領が先ごろ、「ロシアの領土」からのウクライナ部隊の撤退が戦争終結の必要条件だとする「拡張主義的な発言」を行っていたからだ。
「ロシアが(違法に)併合した4州を超えて占領を拡大しようとしているという中長期計画も、ウラジーミル・プーチン大統領を含むロシア高官が最近、拡大主義者的な発言を再び始めたことや、ロシア軍がハルキウ州の占領地を拡大すべく攻撃を続けていることを考えると、現実味のある話だ」とISWは指摘した。
またISWはこうも述べた。「ロシア高官は声明で、現在の前線および併合された4州を超えてウクライナの領土をさらに併合する意図を示している」
EUの大型支援にはハンガリーが拒否権
この分析が出る直前には、ロシアとウクライナが互いに数十機のドローンを使った攻撃を受けたと明らかにしたほか、EUの500億ユーロ(約7兆8000億円)のウクライナ支援に対しハンガリーが拒否権を行使している。
AP通信によればウクライナ空軍は16日、夜のうちに国内11の地域に向けて飛来したドローン31機のうち30機を撃墜したと発表。ロシアも15日夕、ウクライナの複数回にわたるドローン攻撃を迎撃したと明らかにした。
ビルトによればロシアの計画の次の段階は、2025〜2026年にザポリ-ジャとドニプロ、ハルキウの各州の大部分を占領することだという。
●対日領土論争「終わった」 ロシア外相、日本の反発必至 12/18
ロシアのラブロフ外相は18日の政府系テレビ「第1チャンネル」のインタビューで、ロシアにとって日本も含めた他国との「すべての領土を巡る論争は終わった」と述べた。ロシア外務省が映像を公開した。
日ロ関係最大の懸案である北方領土問題をこれ以上交渉する考えがないとの姿勢を示したと受け取れ、日本側の反発を招くとみられる。
ラブロフ氏は、ウクライナ侵攻で対立する北大西洋条約機構(NATO)加盟国とロシアの間に領土問題はないとしたプーチン大統領の最近の発言を引き合いに「NATO側とは、いかなる領土の争いもない。一般的に、われわれには既に日本も含めたどの国とも領土論争は存在しない」と明言した。
ロシア外務省は昨年3月、ウクライナ侵攻を理由に対ロ制裁を科した日本の対応を非友好的として、北方領土問題を含む平和条約締結交渉を中断すると表明した。
ロシアのルデンコ外務次官はインタファクス通信が16日に報じたインタビューで、日本が対ロ制裁を科す現状では友好協力に関する条約の交渉は不可能だと述べていた。
●新冷戦と温暖化対策の行方 12/18
地球規模の協力、困難に
米ソ冷戦の終了と地球温暖化問題は密接な関係がある。米ソ冷戦は1991年のソ連崩壊で終わり、国連気候変動枠組み条約が締結されたのは92年である。ほぼ同じタイミングだったのは偶然ではない。米ソ冷戦が終結に向かうにつれて、世界では民主主義が勝利した、地球規模での協力が可能になる、といったユートピア的な高揚感が生まれた。この気分は米政治経済学者フランシス・フクヤマ氏の著書の題名『歴史の終わり』という言葉が象徴していた。
揺らぐ「50年脱炭素」
米ソ冷戦時代にはそもそも不可能であった地球規模の協力が実現した。中でも気候変動問題は過去30年の間に次第に国際政治の中で優先順位を上げ、2019年の英グラスゴーでの気候変動枠組み条約締約国会議(COP)でその頂点に達した。世界全体で気温上昇を産業革命前からの1・5度Cに抑えることがおおむね目標とされ、先進諸国は50年までに二酸化炭素(CO2)排出をゼロにすると約束した。
1992年の気候変動枠組み条約では、単に「危険のない水準に大気中のCO2濃度を安定化」すると言っていただけであり、97年の京都議定書でも先進国のみが数%のCO2排出削減を約束しただけだった。過去30年でゴールポストは大きく動き、2050年脱炭素という実現不可能な極端な数値目標が掲げられるようになった。
この原動力になったのは環境運動であるが、これも冷戦と関係がある。冷戦終了を受けて、西側にいた共産主義者・社会主義者はソ連というロールモデルを失ってしまった。そこで彼らは環境運動に転向した。欧州の環境運動は、反資本主義運動にルーツがある。テーマは反核から始まり、反原発、反公害、動物愛護などを経て、やがて気候変動が最も大きなテーマにあった。
環境運動家はメディア戦略に集中し、英国やドイツなどでは洪水などの自然災害が起きるたびに地球温暖化の悪影響であると報じられた。これで国民レベルでの恐怖が高まり、政治を動かし、行政が追随した。商機を見いだした産業もこの運動に加わった。科学的知見は、過去30年の間、あまり変わっていない。観測データを見る限り、災害の激甚化や生態系の破局などは示されていない。予測には不吉なものがあるが、使用されている数値モデルは過去の再現すらあまりできず、将来予測は計算者によって答えが大きく違う。
最優先課題から格下げ
22年にロシアがウクライナへ侵攻したことで世界は新冷戦に突入した。民主主義先進国はロシアに経済制裁を課し、ロシアは中国に接近した。これにイラン、北朝鮮を加えて反米・反民主主義の勢力圏が出来上がった。世界が新冷戦の時代に突入したことで、地球規模での協力は困難になる。気候変動問題も国際政治の課題として優先順位が下がることは必定だ。
以下では新冷戦の構図を3枚の図によって示そう。
図1を見ると、ロシアへ経済制裁をしているのは先進国だけであることが分かる。よくロシアが世界的に孤立しているかのような報道があるが、事実は全く異なる。ロシアの稼ぎ頭である石油については、G7諸国はかなり輸入を制限しているものの、中国とインドはそれぞれ輸入量を大幅に増やし日量200万バレルに達している。他にも、多くの国が、液化天然ガス(LNG)、食料、武器などをロシアから輸入し続けている。
図2では、独立シンクタンクV-DEMによる民主主義指数が示されている。世界人口のうち72%は専制国家に住む。新冷戦を民主主義対専制主義の戦いとみるならば、実は民主主義の方が少数派である。
図3を見ると、貿易パートナーとして、中国の方が米国より重要な国が世界の多くを占めることが分かる。
このように、G7対中国・ロシアの新冷戦の構図においては、G7側が優勢だとは全く言えない。これからG7は長く辛い戦いを続けることになり、世界の分断は何年、何十年と続きそうである。
グローバルサウス、先進国の責任追及
23年も先進7カ国首脳会議(G7サミット)、20カ国・地域首脳会合(G20サミット)に続いて、11月30日から12月12日まで第28回の気候変動枠組み条約締約国会議(COP)が予定されている。結果はもちろん予断できないが、だいたいは見えている。G7において先進国は50年CO2ゼロを公約し、グローバルサウス(南半球を中心とした途上国)にも同様の公約を求めたが、G20で拒絶された。COPにおいても同じことが起きるだろう。ロシアへの経済制裁という先進国にとっての最重要アジェンダ(検討課題)ですら途上国は同調しなかったのだ。グローバルサウスが先進国の意のままになるという時代ではない。
バイデン米大統領や、ポルトガルの政治家であるグテーレス国連事務総長など、先進国や国連の首脳は、ハリケーンや山火事などの災害があるたびに、それが気候変動の影響であり、CO2排出の結果なので、50年CO2ゼロが必要だ、と事あるごとに発言してきた。
だがそれでグローバルサウスがどう反応したかといえば、自然災害を引き起こしたのは先進国の歴史的なCO2排出が原因であるから、それを賠償すべきであり、また防災やCO2削減のための投資についても先進国が費用負担すべきだ、とした。
先進国は、科学的には全く正しくないにもかかわらず、今の世界の自然災害がことごとく過去の先進国のCO2のせいだと自ら言ってしまったために、その責任を追及されているという格好だ。このような論争になってしまうと、途上国の側の言い分に圧倒的に理がある。
先進国はこれまで、途上国の防災とCO2削減のために年間1000億ドル(約15兆円)を拠出すると約束し、主に世界銀行などの国際開発機関の資金を脱炭素目的に振り替えることでこの金額をおおむね達成してきた。だが途上国は、これでは全く資金が足りないとし、賠償まで含めて年間1兆ドルを拠出するように先進国に要求している。現在の先進国の経済状態を考えるとこれは不可能である。
23年のCOPは、実質上は物別れに終わり、水素や再エネの開発に関する拘束力のない約束などといった形で取り繕われると予想する。24年以降も、COPにおいて実質的な前進がみられることは当分ないのではないか。
新冷戦が始まって、世界は分断を深める。気候変動が世界政治の最優先課題である短い時代は終わり、安全保障、それと密接に関わる経済が最優先事項となる。南北対立で地球温暖化の国際交渉は行き詰まっている。米国ではケネディ・ジュニア氏の立候補で民主党の票が割れ、大統領選では共和党が勝利しそうだが、そうすると、誰が大統領でも米国の脱炭素政策は180度変わる。
日本はグリーン・トランスフォーメーション(GX)関連の法律が5月に成立し、政府は脱炭素政策の制度化の作業を進めている。だが数年後に同法が本格施行される頃には世界情勢は大きく変わっているだろう。方針転換ができないような形で性急な制度化をすべきではなかろう。
企業も、新冷戦の始まりが地球温暖化問題に与える根源的な影響をよく理解する必要がある。今後も欧州などでは脱炭素目的の補助金や規制の強化が続くので、そこで商機を狙うことは一つの方向性であり続ける。他方で、グローバルサウスや米国を筆頭に、ほとんどの国で高コストな温暖化対策は実施されないようになるのではないか。そうであれば温暖化対策としても、それ自身で安全保障上ないしは経済的なメリットのある事業以外は成立しなくなる。

 

●対立候補選び大詰め プーチン氏「無風」も競争不可欠―大統領選まで3カ月 12/19
ウクライナ侵攻を続けるロシアで、来年3月に行われる大統領選まで3カ月を切った。プーチン大統領(71)は今月8日に通算5選出馬を宣言し、18日に中央選管に正式に届け出た。事実上の無風選挙で「いかに圧勝するか」が焦点。それでも政権の正統性を主張するには形式的でも「競争」が不可欠で、対立候補の選定が大詰めを迎えている。
今回も無所属で
「万歳」。16日に開かれた推薦人団体の会合で、プーチン氏の出馬が全会一致で支持されると、会場に歓声が響いた。政権与党「統一ロシア」は17日に推薦を決めた。
西側諸国から「権威主義的」「独裁者」と批判されるプーチン氏にとって、得票数で「民意」を示すのが至上命令。それには対立候補との競争を演出して、投票率を引き上げる必要がある。さらに、超党派の支持を集めるため、今回も無所属で出馬する。
50歳未満は不可
一方、圧勝へのお膳立ても抜かりない。独立系メディア「メドゥーザ」は8月、大統領府が対立候補の条件を「50歳以上」に設定したと報道。「プーチン氏が年寄りに見えないように」という配慮だ。
プーチン氏が最初に大統領になったのは47歳。当時は若さが「売り」の一つだった。政権を批判してきた反体制派指導者ナワリヌイ氏(47)は、2018年の前回大統領選で立候補を却下され、今や獄中にあるが、年齢でも出馬の道を閉ざされることになる。
民主的とアピール
13日付の経済紙ベドモスチは、政権に従う「体制内野党」の候補が固まりつつあると報道。最大野党・共産党は20年前に出馬したハリトノフ下院極東・北極圏発展委員長(75)、極右・自由民主党は党首のスルツキー下院外交委員長(55)を月内の党大会で擁立する見通しという。
左派「公正ロシア」は前回と同様、独自候補を立てずプーチン氏を推薦する方針だ。
「対立候補と競い、国内法に合致する形で行われなければならない。内政干渉も阻止する」。プーチン氏は15日、体制内野党の幹部らと会談。ナワリヌイ氏ら反体制派弾圧で国際社会の批判を浴びる中でも「民主的な選挙」をアピールした。
●ロシア外相「領土めぐる論争は存在せず」強硬姿勢改めて示す 12/19
ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアのラブロフ外相は、ロシアメディアのインタビューで「日本を含むどの国とも領土をめぐる論争はもはや存在しない」と述べました。北方領土問題を含む平和条約交渉の中断を一方的に表明するなかで日本への強硬姿勢を改めて示した形です。
ロシア外務省は18日、ラブロフ外相がロシア国営の「第1チャンネル」に応じたインタビューを映像とともに公開しました。
この中でラブロフ外相はNATO=北大西洋条約機構の加盟国を攻撃する意図はないとするプーチン大統領の最近の発言を引用しながら「NATO諸国と領土をめぐる争いはない」と述べました。
その上で「全体として、われわれにはもはや日本を含むどの国とも領土をめぐる論争は存在しない。すべて終わっている」と強調しました。
ロシアはウクライナ侵攻開始後の去年3月、日本が厳しい制裁措置を講じたことに反発して北方領土問題を含む平和条約交渉を中断すると一方的に表明しました。
日本などアジア太平洋地域を担当するルデンコ外務次官も今月16日にロシアのインターファクス通信が報じたインタビューで、日本との平和条約交渉などを続けるのは難しいとの認識を示していました。
ラブロフ外相の発言は日本への強硬姿勢を改めて示した形です。
●ウクライナ"戦争疲れ"国民は士気を維持できるか 12/19
ウクライナ軍の反転攻勢は成果が得られないまま戦争が長期化し、ウクライナ国民の間には“戦争疲れ”が広がっているとの指摘も出ています。国際安全保障担当の津屋尚解説委員の解説です。
Q:ウクライナに大きな暗雲が垂れ込めていますね。
A:半年をかけた反転攻勢の作戦は思うような成果を上げられず、ウクライナ軍は前進できないまま戦闘は膠着状態に陥っています。そして今後の戦いにも不透明感が漂っています。
Q:どういうことですか?
A:最大の軍事支援国アメリカでは、ウクライナ支援の予算が、野党共和党の反対で議会の承認を得られず、年内に枯渇してしまう事態が現実味を増しています。
また、戦争の終わりが見えない中で、徹底抗戦を支えてきた「兵士たちの士気」と「国民の抵抗への意志」にも“戦争疲れ”が見え始めています。現地は厳しい冬を迎え、最前線で戦い続ける兵士たちは極度の緊張と疲労にさいなまれ、弾薬の不足に直面する部隊も出てきています。戦場から離れた都市でも、ロシアのミサイル攻撃などで犠牲になる市民が増え続けています。世論調査では、ウクライナ国民の大半が「勝利するまで戦い続けるべき」と答えていますが、1年前と比べるとその割合は徐々に減る傾向にあります。戦時下のウクライナでは60歳以下の成人男性は出国が禁じられていますが、これまでに2万人以上が国外に逃れようとして身柄を拘束されたと報じられているほか、賄賂を使って徴兵逃れをはかるケースも後を絶ちません。戦争が長期化する中で、兵員の確保も大きな課題です。
Q:こうした状況の中で、ロシアはどう出てくるでしょうか?
A:ロシアは、ミサイルやドローンを使って、電力など市民生活に欠かせないインフラへの攻撃を再び激化させています。市民を疲弊させ、戦意をくじく狙いです。
ウクライナの兵士と国民が士気を保って、ロシアの侵略と戦い続けられるかどうは、力による現状変更を許すかどうかという世界の秩序にも関わる問題です。
この冬はウクライナにとっても、支援国にとっても、正念場の冬になりそうです。
●ウクライナ、新設の戦車旅団にレオパルト1A5戦車を配備 12/19
ウクライナ軍が編成したばかりの戦車旅団は、どうやら最新の戦車を運用しているようだ。
最新というのは、ウクライナが新たに入手した戦車という意味だ。
ウクライナ軍に関するオープンソース・インテリジェンス(OSINT)のアグリゲーターであるミリタリーランドが12月13日にX(旧ツイッター)に投稿した映像には、ウクライナ軍の戦車兵が今年の秋にドイツで同国製のレオパルト1A5戦車で訓練している様子が映っている。
「興味深いことに、撮影者はこのグループが第5戦車旅団に所属していると主張している」とミリタリーランドは指摘した。
レオパルト1A5と米国製のM1エイブラムス戦車は、今秋ウクライナに到着し始めた。前線に配備された最新の西側製の戦車だ。
公式には、第5戦車旅団はウクライナ中部のクリビーリフに駐屯している。実際には、同旅団は数カ月前までほぼ存在せず、ようやく新兵の訓練を開始したところだった。
第5戦車旅団がようやく編成されるまで、ウクライナ軍が擁する戦車旅団はわずか4個だった。ウクライナ軍の100個ほどの地上戦闘旅団の大半は、少なくとも数両の戦車を保有している。通常、中隊や大隊はそれぞれ10数両から30両の戦車を運用するが、戦車旅団だけは1つの指揮下に多くの戦車を持つ。
ウクライナ軍が第5戦車旅団にレオパルト1A5を十分に配備すれば、ドイツ、オランダ、デンマークの3国が共同でこれまでにウクライナへの軍事支援として供与を約束していた約200両の戦車のうち、半数以上を同戦車旅団で運用することになる。
重量40トン、乗員4人のレオパルト1A5は、1960年代に生産が始まったレオパルト1を1980年代に改良したものだ。乗員らはレオパルト1A5の優れた機動性と、精度の高い105mm主砲の高速な射撃管制を称賛している。
だがレオパルト1A5には1つ大きな欠点がある。装甲が薄く、最も厚いところでもわずか70mmしかないのだ。ウクライナでの戦争に投入されている主要戦車の中で最も防御力が低い。
レオパルト1A5に追加の防御が必要であることをウクライナ軍がそれまでに認識していなかったとしても、レオパルト1A5を初投入した戦闘はその必要性を強く思わせるものだった。最初に供与された数十両のレオパルト1A5は、すでにウクライナ東部に配備され、第44機械化旅団の大隊に装備されている。
同旅団は11月末、1両のレオパルト1A5を危うく失うところだった。この戦車はどうやら地雷を踏んで動けなくなったところを、ロシア軍の砲撃にさらされた。ウクライナ軍は修理のために損傷したその戦車を回収したと伝えられている。
レオパルト1A5の装甲を強化
ウクライナ軍は現在、レオパルト1A5の装甲を強化している。ウクライナのテレビ局ICTVは「装甲強化の問題は、ウクライナのエンジニアによってすでに解決されつつある」と報じた。
解決とは、爆発反応装甲(ERA)の追加を意味するようだ。ある戦車兵は「私が知る限り、強力な追加防御を施す計画がある」とICTVに語った。ERAの層は火薬が炸裂するタイプの強力な弾丸に対してレオパルト1の防御力をおよそ倍に高める可能性がある。
第5戦車旅団を装備することで、ウクライナ軍は戦力構成に強力な攻撃力を加えることになる。だがウクライナ軍がこの新しい攻撃力をいつ使うのかわからず、その機会があるのかどうかさえも不明だ。ロシアがウクライナに対して仕掛けた戦争の約1000kmにわたる前線の全域で、ウクライナ軍は防衛態勢にシフトしている。
今年前半になんとか編成した予備の戦闘部隊をすべて投入した夏の反攻作戦が一段落した後では、そうせざるを得ない。
新たに編成した戦車旅団1個と、今のところ装備不足の5個の機械化旅団を加えても、2024年に攻勢をかけるための戦闘力としてはおそらく十分ではない。ウクライナ軍は今年の攻勢のために、十分に装備した旅団を少なくとも12個編成した。
さらに重要なことに、ウクライナ軍は、ロシア軍のドローン(無人機)を飛行不能にし、ロシア軍が地雷をばら撒いた野原を進むルートを確保するためには、新しい電子戦装備と地雷除去装備を多く手に入れ、それらを活用する計画を立てなければならない。
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は11月に、同盟国からこれらの特殊装備を大量に確保することが最優先事項のひとつだと指摘した。
だが、米連邦議会の親ロシア派の共和党議員が妨害をやめ、ウクライナ支援に追加で610億ドル(約8.7兆円)を注ぐというジョー・バイデン大統領の提案を承認しない限り、こうした装備の購入はおそらく不可能だろう。
戦争を行っている軍なら、運用するのがたとえ軽装備の戦車であっても、新しい戦車旅団は1個でもほしい。だが、ウクライナ軍の第5戦車旅団は単独では大したことはできない。
●米国の政界を跋扈するプーチンの良き友たち 12/19
戦略的な気分の急変と言えば、ウクライナに対する米国の外交政策エスタブリッシュメント(支配階級)に勝る好例はそうないだろう。
1年前には、彼らはロシアの分割とウラジーミル・プーチンを戦争犯罪で裁判にかけることについて議論していた。
ところが今、ウクライナへの支援をめぐって米議会が揺らぐなかで、ワシントンは西欧の崩壊に身構えている。
驕りとパニックは1枚のコインの表裏だ。経験に基づく冷静さが著しく欠けている。
ワシントンで高まるウクライナ支援反対論
それでも冷静な状況評価は、西側が支援を継続できない限り、地上戦の形勢がプーチンに有利な方向に傾くことを教えてくれる。
ウクライナにおけるジョー・バイデンの目標は今も2本立てだ。一つはウクライナが自国を防衛できるようにすること。もう一つは米国がロシアとの戦争に巻き込まれるのを防ぐことだ。
バイデンは最初から、核兵器使用についてのプーチンの脅しを過大評価してきた。
その結果、ウクライナはまだ片手を背中に縛られた状態で自国を守ることを余儀なくされている。
プーチンは今、もう片方の腕も使えなくなるようにするために、米国の「ウクライナ疲れ」を利用している。
そしてロシアの独裁者は、ますます大胆になる米国のシンパ軍団の助けを当てにできる。
この軍団には、かつては保守派と呼ばれたが、今では極右ポピュリスト(大衆迎合主義者)と描写した方がふさわしい資金潤沢な米ヘリテージ財団が含まれる。
ヘリテージはウクライナ向けの新規支援を阻止するよう共和党に露骨に働きかけているオルバン・ビクトルのハンガリーを温かく迎え入れた。
彼らは短期的には成功するかもしれない。
共和党は今、揺るぎないウクライナ支持者と、孤立主義者と露骨なプーチン派の寄せ集めに割れている。
オハイオ州選出の上院議員のJ・D・バンスは後者2つが入り混じったような人物で、先日次のように語った。
「この街には社会保障制度を削減し、我々の祖父母を貧困に追い込まなければならないと言う人がいる」
「なぜか。ゼレンスキーの閣僚の一人がもっと大きなヨットを買えるようにするためか?」
ウクライナ支援と台湾防衛を混同
ウクライナ支援に反対する議論の大半は検証に堪えない。
大半の米国支援は、ウクライナではなく、米国内で米国製の兵器に使われている。ウクライナ向けの支援は米国の連邦予算の1%にも満たない。
財政支援として実際にウクライナ政府に与えられる米国の資金は厳重な監査の対象になっており、スーパーヨットに使われるようなお金はない。
また実際に戦っている米国人が一人もいないため、ウクライナ戦争に対して国民が疲弊する理由はほとんどない。
最も大きな謳い文句は、米国がウクライナに1ドル費やすごとに、台湾の防衛に向けられるお金が1ドル減るという説だろう。
現実はその反対に近い。
中国とロシアは米国の弱体化を目指す「限界なき」パートナーシップを結んでいる。
これを達成する最も効果的な方法は、ウクライナにおけるロシアの勝利だ。そうなれば北大西洋条約機構(NATO)の士気が下がり、欧州の穀倉地帯がロシアに転がり込むことになる。
軍事戦略家が1世紀以上も前から指摘していたように、ウクライナを制する者がユーラシアを制する。
同じように、米国がウクライナへ送り込む大砲一門一門が、中国が台湾についてよくよく考える新たな理由になる。
共和党に侵入するプーチン・シンパ
では、プーチン・シンパはなぜ、共和党にこれほど深く入り込んでいるのだろうか。
なぜならプーチンはバイデンの敵であり、敵の敵は味方だからだ。
実際、そんなに複雑な話ではない。確かに米国の極右には正真正銘のプーチン支持者がいる。
だが、米国にいるプーチンの旅の友の大半は、ドナルド・トランプのように悪意を抱く日和見主義者だ。
バイデンに害を及ぼすものは何であれ、彼らにとって良いものだ。かくしてウクライナの敗北は共和党にとって良いことになる。
悪用できる米国の分裂はバイデンに対する優位性をプーチンに与えてしまい、これがロシアに対する米国の巨大な優位性をしのぐようになる恐れがある。
米国経済はロシア経済の13倍以上の規模を持つ。米ドルは世界の準備通貨であり、米国は技術面で決定的にリードしている。
ロシアと異なり、米国は数十カ国の同盟国を擁する。
それにもかかわらず、もしプーチンが米国の内なる政治的憎悪をうまく利用できれば、こうした優位はすべて無に帰す。
バイデンがプーチンを痛めつけようとしても、ロシア国内にこれと同じことをやる道具がない。
実際、ロシアで最も有名な野党の大物のアレクセイ・ナワリヌイは最近、ロシアの刑務所の記録から消えた。
バイデンはプーチンを阻止できるか
バイデンには、プーチンを阻止する明らかな方法が2つある。
1つ目は、バイデンが必要としている例の600億ドルを米議会から獲得することだ。
共和党はウクライナ向けの支援を、米国の国境警備費の大幅増額と米国の難民制度の厳格化とセットにするよう要求している。
共和党の一部は本気でこれを望んでいる。一方で、ウクライナへの支援を拒否する口実として利用している人もいる。
共和党内には今でも、バイデンが双方を含む合意をまとめられる程度の前者のタイプが存在するはずだ。
次に、バイデンは米国が供与した大砲と飛行機の使用について、ウクライナに課している制約を解除することができる。
ウクライナはロシア領内の軍事施設を攻撃する手段を持っているべきだ。
自国の領土内で侵略者と戦うことに作戦行動が限定されれば、戦争に勝つことは不可能であり、有利な紛争解決に持ち込めるだけの前進を遂げることもままならない。
成功ほど見事に成功するものもなければ、失敗ほど見事に失敗するものもない。成否の違いを決めるのは、まだバイデンの胸一つだ。
●EU、新たなロシア制裁採択 ダイヤモンド禁輸など 12/19
欧州連合(EU)の最高意思決定機関である欧州理事会は、ロシアからのダイヤモンド輸入禁止などを盛り込んだ対ロシア制裁第12弾を採択した。欧州委員会が18日、発表した。
今回の制裁措置はこれまでの制裁の迂回行為への対処や抜け穴の閉鎖に重点が置かれており、液化石油ガス(LPG)の新たな輸入禁止措置なども盛り込まれた。
このほか、ロシアの軍事・防衛産業やIT産業の関係者らを含む140の個人と団体を新たに資産凍結の対象とした。
欧州理事会は先週、同制裁案を発表したが、オーストリアが同国の主要行ライファイゼンが「国際的な戦争支援者」のリストから除外されるまで承認を拒否していた。オーストリアは週末の間に制裁措置を承認。欧州委はこの件に関してコメントしていない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は恒例のビデオ演説で、EUの新たな制裁措置はロシアの戦争資金の縮小につながるとし、「欧州が科した制裁措置が世界的に機能するよう、パートナーと共に引き続き取り組んでいく」と述べた。
ロシア在外公館はEUの新たな制裁について、ロシアに対する懲罰的措置が失敗したことを示していると指摘。「ロシア経済は引き裂かれたわけではなく、国際社会でロシアを孤立させようとするEUなどによる取り組みは失敗し、戦略的敗北を与えるという目標は達成されていない」とした。
ロシア外務省は声明を発表していないが今後制裁に対応するとしている。
●ウクライナにおける行き詰まり打開には米ロの直接交渉が必要 12/19
カザフスタンの首都アスタナで14日、「平和のための新しい方式:変革を遂げつつある世界」をテーマとするアスタナクラブの第7回会合が開催されました。
すべての議論の中心はウクライナの戦略的膠着状態でした。
カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領は、クラブ会合でのスピーチで、かつてウクライナの紛争解決プロセスに直接参加したことがあると述べました。
ナザルバエフ氏は「私は2014年のウクライナ危機のさなかに、ミンスク合意会合の開催に尽力しました。当時、ロシアとウクライナの首脳が顔を合わせて対話することは初めてでした」「ミンスク合意は交渉と妥協への道を開きました。残念ながら、それはうまくいきませんでした。いま、私たちはその結果を知っています」と述べました。
同氏の意見によると、現在の戦場の現実は、ウクライナの行き詰まりを打開する方法は交渉によってのみ可能です。
同氏は、「私の考えでは、欧州の中心で起きているこの深刻な紛争は、大国である米国とロシアが、もし彼らの側に意志と望みがあれば、他の指導者たちを対話に招くことによってのみ止めることができます。そしてもちろん、ウクライナの利益を常に考慮することです」と述べました。
クラブの参加者は、現在の戦争の行き詰まりについて、このビジョンを共有しました。
例えば、外交問題評議会シニアフェローのチャールズ・カプチャン氏は「私たちは、この戦場における有効な手段を持っていません。ロシアは2023年に成功を収めることはできないし、ウクライナも同様だ。また、米国がウクライナへの支持を維持するのはかなり難しくなるだろう」と述べています。
清華大学の著名な中国軍事専門家であるZhou Bo上級大佐は、この紛争に対する中国のアプローチを考慮し、北京が現在の立場を採用したことを非難すべきではないと強調しました。
「もし中国がロシアの立場を支持していれば、第三次世界大戦の勃発は決まっていたでしょう。しかし中国は平和的解決を支持しており、独自の提案を行っています」と同氏は述べました。
スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ元首相など参加者全員が、中立的な交渉の場を持つことの重要性を述べました。多方面にわたる外交政策を持つカザフスタンは、ウクライナ危機を解決する絶好の場所になりえます。
●大統領が「年末イベント」で見せた勝利への余裕 「愛国ごますり政策」の嵐 12/19
年末恒例の「特大記者会見」と「国民との対話イベント」を2年ぶりに開催したプーチン大統領は、終始、余裕の笑みを浮かべていた。ロシア国内ではこの1年で反戦の声はすっかり鳴りを潜めてしまったという。「度重なる弾圧と愛国ごますり政策に疲れ、愛国思想へ転向する若者も増えている」と現地在住の日本人ジャーナリストは語る。
街から消えた「反戦」の声
「あなたの影武者が大勢いるというのは本当か」
12月14日に開催された「国民との対話イベント」に登場したのは、プーチン氏そっくりのAIだった。当の本人は藪から棒のこの質問にこう言って退けた。
「私の顔と声を真似ているようだが、この声で話せる唯一の人物は私だ」
昨年はイベント自体を中止したプーチン氏が、一転、こんな手の込んだ芝居まで打てるようになったのも、戦局がロシア有利に進んでいるからだろう。ウクライナは6月から大規模反転攻勢に打って出たものの、全く領土を奪還できていない。10月から続くイスラエルとパレスチナの間で起きた紛争も、欧米各国の関心をウクライナからそらす効果をもたらす追い風だ。
この情勢に「国内に潜む反戦派は争う気力を失いつつある」とモスクワ在住の日本人ジャーナリストは語る。
「数カ月以上、反戦デモのニュースを見かけていません。戦争が始まってしばらくは、若者たちが消えるSNS『テレグラム』などを使って反戦集会をよく呼びかけていましたが、そんな話題もすっかり耳にしなくなりました。デモをやっても主催者はすぐに捕まり長期間拘束されてしまう。それが繰り返されるうちに呼びかける人がいなくなってしまったのです。6月に『プリゴジンの乱』が鎮圧されてからは反戦派の国民はみな気力を失ってしまった」
ごますり政策を提唱する政治家・官僚たち
代わって台頭してきたのが「愛国思想」である。国民への洗脳を後押ししているのが、プーチンのご機嫌取りに必死な政治家や官僚たち。彼らは戦争が始まってから、競うように「愛国法案・政策」を導入してきた。
わかりやすいプーチンごますり政策の最たるものが愛国教育。教育省が音頭を取って9月から導入した新しい歴史教科書には、ウクライナ侵略を正当化する文言やロシアに制裁を課す欧米批判が盛り込まれている。15〜18歳を対象にした基礎的な軍事訓練も始まった。子供たちは実際に自動小銃や軍用ドローンを手に取って実技も学ぶ。
内務省は外国人にまでロシア政府に忠誠を求める法案の提出を準備中だ。「ロシアに入国する外国人に『忠誠宣誓書』のようなものにサインをさせる内容になるらしい」(前出・ジャーナリスト)。今もモスクワに支局を置く大手メディアは、今後はロシア国内でプーチン政権に批判的な記事を書けなくなるのでないかと懸念している。
今年6月には「対日戦勝法案」が可決された。ロシアでは9月3日を「第2次大戦終結の日」としてきたが、その名称を「軍国主義日本への勝利と第2次大戦終結の日」に変更するというもの。プーチン派の議員が昨年6月にロシアに制裁を課した日本への対抗措置の一つとして法案を提出した。
愛国的でないと村八分にされる
7月には性転換を禁止する法律が成立。これまでもプーチン氏はLGBTを反体制につながる自由な思想と捉えて敵対視してきたが、戦争を機に摘発対象とする方向に大きく舵を切った。11月30日には最高裁判所が「国際的なLGBT市民運動」を過激派組織に指定し、国内での活動を禁止。ロシア国民の半数以上が信仰しているロシア正教会がもともと同性愛を否定しているとはいえ、完全に欧米社会との敵対姿勢を強めている。
ロシア情勢に詳しい専門家は、「プーチン氏を取り巻く政治家や官僚たちが同氏に気に入られようと忖度して動いている。プリゴジンの乱が鎮圧されて以降、ロシア国内でプーチン氏を脅かすような声は全く聞かれなくなった」と語る。
前出のモスクワ在住の日本人ジャーナリストは、周囲が徐々に愛国思想に染まっていく変化を感じると話す。
「戦争が始まった初期は、若者たちの多くが戦争に反対していた。ただ反戦を口にすれば、家族や友人、職場などでも軋轢ができてしまう。弾圧によって賛同は全く広がらず徒労感に襲われる。最初は沈黙から始まり、やがて周囲に合わせた方が楽だと考え、転向してしまう人も多い。プーチンと取り巻きがが進める愛国政策は、愛国的なでないと村八分にされるという強迫観念を国民に植え付けることに成功しています」
●令和6年1〜3月期の配合飼料供給価格改定について 12/19
全国農業協同組合連合会(JA全農)
令和6年1〜3月期の配合飼料供給価格については、飼料情勢・外国為替情勢等を踏まえ、令和5年10〜12月期に対し、全国全畜種総平均トン当り約2,800円値上げすることを決定しました。
なお、改定額は、地域別・畜種別・銘柄別に異なります。飼料情勢は以下のとおりです。
1.飼料穀物
とうもろこしのシカゴ定期は、9月には480セント/ブッシェル前後で推移していましたが、ウクライナ情勢の悪化などにより、10月には490セント/ブッシェル前後まで上昇しました。その後、米国産地での収穫が順調にすすんだことなどから軟調な展開となり、現在は480セント/ブッシェル前後で推移しています。
今後は、南米産の作付けや生育状況などに左右される相場展開が見込まれます。
2.大豆粕
大豆粕のシカゴ定期は、9月上旬には440ドル/トン前後でしたが、米国産大豆の収穫が順調にすすんだことなどから軟調に推移し、10月初めには410ドル/トン台まで下落しました。その後、高温乾燥による南米産大豆の作柄悪化懸念などから急騰し、一時500ドル/トンを超える水準まで上昇しましたが、南米での天候改善予報を受け、現在は450ドル/トン前後で推移しています。
国内大豆粕価格は、シカゴ定期の上昇および為替円安の影響などから値上がりが見込まれます。
3.海上運賃
米国ガルフ・日本間のパナマックス型海上運賃は、8月初旬には50ドル/トン台前半で推移していましたが、 10月30日にパナマ運河庁が、干ばつの影響による運河の水位低下のため、例年は1日あたり約40隻であった運河の通航数を11月以降段階的に減少させ、来年2月には1日あたり18隻程度に制限すると発表したことなどから高騰し、現在は60ドル/トン前後で推移しています。また、パナマ運河の通航制限により、スエズ運河や喜望峰(南アフリカ)を経由した東回りの航路へ変更となり、航海日数が増加することから増嵩運賃が生じています。
パナマでは1〜4月は乾季となり運河水位の改善が見込めず、運河の通行制限は継続される見通しから、今後の海上運賃は堅調に推移することが見込まれます。
4.外国為替
外国為替は、9月上旬には146円前後で推移していましたが、日本が金融緩和政策を維持するなかで、米国では経済指標が好調なことから利上げを実施し、日米金利差が拡大した状況などから11月上旬には一時151円台まで円安がすすみました。その後、米国の経済指標の悪化により利下げ観測が高まったことや、日本の金融政策の修正観測の高まりなどから、現在は143円前後で推移しています。
今後は、日米金利差は引き続き円安要因となるものの、金融引き締めによる米国経済の景気悪化も懸念されることなどから、一進一退の相場展開が見込まれます。
以上から、とうもろこしのシカゴ定期は下落したものの、前期に比べ海上運賃の上昇や為替の円安などによりとうもろこし・大豆粕価格が値上がりすることなどから、令和6年1〜3月期の配合飼料価格は前期に比べ値上げとなります。
●「ウクライナ軍事支援が最後の1回に…」アメリカ高官、議会に警告 12/19
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は18日の記者会見で、ロシアの侵攻が続くウクライナに対して兵器や軍装備品を供給する追加の軍事支援を年内に発表すると明らかにした。しかし、米軍の余剰在庫から実施する支援の予算は今回で底を突く見通しで、米議会が緊急予算案を成立させなければ最後の支援になる恐れがあると警告した。
国防総省は15日付で上下両院の軍事委員会などに対して書簡を送付。米軍の即応態勢を維持しつつウクライナへの支援を実施するためには「(余剰在庫から)あと1回しか支援は行えない」と指摘した。カービー氏は会見で「ウクライナの自由のための戦いは米国の国益だ」と議会に早期の予算承認を求めた。
バイデン政権は10月に614億ドル(約8兆7700億円)のウクライナ支援を含む総額約1060億ドルの緊急予算を議会に要求している。しかし、共和党の保守強硬派は巨額の支援に反対しており、支援継続の条件として米南部の国境警備や不法移民対策の強化をバイデン政権に求めている。
このため、上院の民主・共和両党で交渉を担当する議員らが国境警備強化策などについて協議しているが、調整は難航。共和党の重鎮、グラム上院議員は17日、NBCニュースのテレビ番組で「(交渉の)合意にはほど遠い。来年に持ち越されると思う」と述べている。
バイデン政権は12日に、ウクライナに対する砲弾や弾薬など最大2億ドルの追加軍事支援を表明した。ロシアの侵攻が始まった2022年2月以降、これまでに442億ドルを超える軍事支援を公表している。ウクライナの最大の後ろ盾となっている米国の支援が滞れば、戦況に甚大な影響を及ぼすことになる。 
●プーチン大統領 国防省の会合で演説 核戦力を誇示 12/19
ロシアのプーチン大統領は国防省の会合で演説し、核戦力を誇示してウクライナや欧米をけん制するとともに、軍事侵攻を続ける構えを強調しました。
ロシアのプーチン大統領は19日、首都モスクワで開かれた国防省の会合で演説しました。
この中で、「戦略核部隊の戦闘準備態勢を最高レベルに維持しなければならない」と述べたうえで、複数の核弾頭を搭載できるICBM=大陸間弾道ミサイルの「ヤルス」や極超音速兵器だとする「アバンガルド」の実戦配備が進んでいると主張し、核戦力を誇示してウクライナや欧米を改めてけん制しました。
また、「欧米はロシアを抑え込む戦略やウクライナでの野心的な目標を放棄していない。それならばわれわれも目的を放棄するつもりはない」と持論を展開し、軍事侵攻を続ける構えを強調しました。
そのウクライナでの戦況についてプーチン大統領は「われわれが主導権を握っていると断言できる。敵は反転攻勢の成果を西側に見せようとして備蓄の大半を浪費している」などと主張しました。
一方でプーチン大統領は「防空能力の向上が必要だ。小型の無人機など、以前は気にも留めなかったが、決して見過ごしてはならないことがわかった」と述べ、ロシア国内で相次ぐ無人機攻撃に神経をとがらせていることをうかがわせています。
ウクライナでの戦況「主導権を握っている」
また、ウクライナでの戦況についてプーチン大統領は「われわれが主導権を握っていると断言できる。敵は反転攻勢の成果を西側に見せようとして備蓄の大半を浪費している。西側の軍備の不敗神話も崩れた」などと主張し、ウクライナや欧米をけん制しました。
一方でプーチン大統領は「防空能力の向上が必要だ。小型の無人機など、以前は気にも留めなかったが、決して見過ごしてはならないことがわかった」と述べ、ロシア国内で相次ぐ無人機攻撃に神経をとがらせていることをうかがわせています。
●プーチン大統領、ロシア核戦力の近代化を誇示−「海軍でほぼ100%」 12/19
ロシアは保有する戦略核兵器ほぼ全てを近代化させたと、プーチン大統領が19日表明した。ウクライナでの戦争でロシアが優勢になったとの見方を示し、核兵器への言及を再開した。
プーチン氏はモスクワで開かれた国防省の会合で、「新たな軍事的・政治的リスクが台頭」する中、勢力均衡を確保するための核兵器の役割は陸海空のロシア軍において「著しく増大した」と発言。核戦力における近代兵器の割合は今年「95%に達し、海軍ではほぼ100%になった」と述べた。
同氏は米国や北大西洋条約機構(NATO)諸国がもたらす安全保障への脅威に対抗するためにウクライナ侵攻を命じたとするこれまでの主張を繰り返し、ロシア軍は戦場で「主導権を握っている」と語った。
その上で「われわれの行動は必要であり、望まれていることだと考える」とし、「ウクライナは大きな敗北に苦しんでおり、予備役の大半を無駄にしてしまった」と付け加えた。
●「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最凶部隊「ストームZ」 12/19
もう10年ほど前のことだが、泥沼化するシリア内戦にアメリカが介入し、反政府派の勢力に武器の供与を決めたとき、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は真顔でカニバリズム(人肉食)への嫌悪感を表明し、こう言った。
「殺した敵の腹を裂き、その臓物を食べ、その行為を動画で公開するような連中を支持する理由などない」。そしてアメリカ人に、こう呼びかけた。
「こんな奴らを、諸君は助けるのか? こんな奴らに武器を送るのか?」
だがプーチンは、その後の歳月でカニバリズムを許容するようになったらしい。彼は旧ソ連のスターリン時代の流儀に倣って大量の殺人犯を監獄から解き放ち、ウクライナの戦場に「肉弾」として送り込んでいるが、その中に少なくとも2人、過去に人肉を食べた者がいる。
2022年2月24日に隣国ウクライナへ侵攻を開始して以来、ロシアは何万もの受刑者を軍隊に編入し、通称「ストームZ」部隊の一員として最も危険な前線に送り込み、使い捨ての歩兵として利用している。
ロシア政府はストームZの存在を認めておらず、軍隊に編入した囚人の数も明らかにしていない。だが本誌の知り得た限りでも、ウクライナで半年間の軍務に就くことを条件に釈放された受刑者は10万人を超えている。しかも、そのほぼ半数は生き延びて祖国に戻り、大手を振ってロシアの街を歩いている。
本誌は軍隊に編入された囚人リストの一部を入手したが、そこには定年過ぎの人も含まれていた。また受刑者の人権擁護団体「檻の中のロシア」のオリガ・ロマノワによれば、その半数以上はロシア民族以外の少数民族だ。
そうであれば、彼らはまさに使い捨て。あるロシア兵は去る10月、ロイター通信の取材に応じて「奴らは単なる肉弾」だと語り、ストームZの部隊は通常100〜150人規模で、恩赦を得た受刑者と軍規違反に問われた正規兵で構成されると明かした。スターリン時代のソ連の服役者軍団と同じだ。
悪魔崇拝者も社会復帰
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)はロシアのある軍事ブロガーの書き込みを引用する形で、ウクライナ東部のアウディーイウカやバフムート周辺に配備されたストームZの部隊は実戦で数日しか持たず、兵員の40〜70%が失われていると指摘した。
受刑者を軍隊に編入し始めたのは、ロシア軍が深刻な兵員不足に陥ったとされる時期だ。都会の若者を大量に動員すれば政府への風当たりが強まりかねないので、大統領による恩赦と破格の報奨金を餌に受刑者を勧誘することで兵員の補強を図った。
しかし、そうやって集めた新兵の中には殺人犯やレイプ犯もいたし、人肉を食らった者もいた。悪魔崇拝の「儀式」で10代の若者4人を殺害した罪で服役中の男もいた。いずれも無事に兵役を終えれば社会復帰を許される。
21年に開設されたロシアの調査サイト「アゲーンツトバ」によれば、世間で注目を集めた殺人犯のうち少なくとも17人が22年と23年に恩赦を受けて軍隊に入り、ウクライナでの戦闘に参加している。同サイトによれば、なかにはロシアに戻ってから再び犯罪に手を染めた者もいる。
悪魔崇拝のカルト団体のメンバーであることを認め、「儀式」で10代の若者4人を殺害した罪で懲役20年を言い渡されたニコライ・オゴロビャクも、プーチンによる恩赦を受けた1人だ。
オゴロビャクは10年7月、殺人、強盗、死体損壊の罪で有罪となった。ロシアのメディア「76.ru.」が引用した法廷記録によると、オゴロビャクはアパートの自室で悪魔崇拝の仲間と共に、被害者の臓器を揚げて食べたという。
オゴロビャクの父親が同メディアに語ったところによれば、オゴロビャクはストームZの隊員として6カ月の兵役を務め上げ、23年11月2日にウクライナからロシアに生還した。現在は母親と暮らしているという。
少なくとも4人を殺害し、このうち1人の肉を食べたとされるデニス・ゴーリンも、ウクライナでの戦闘参加を条件に恩赦を受けた。極東サハリン州出身のゴーリンは、殺人罪で3度も有罪判決を受けている。最初に有罪となったのは03年。7年後に仮釈放されたが、その後に拘置所で同房だった男の親族を刺殺し、刑務所に戻っていた。
捜査当局によると、ゴーリンは被害者の脚を切断したことを認めている。それを洗って冷蔵庫に保管し、後に食べたとされる。
プーチンが恩赦を与えた犯罪者には、22年に23歳のタチアナ・レクティナをレイプし、殺害した罪で懲役20年の刑に処されたアルテム・ブチンもいる。この男は8月にウクライナの前線に送られたが、11月に故郷に帰還している。
27歳のタチアナ・メレヒナを絞殺し、遺体を肉ひき機にかけた罪で懲役11年の判決を受けたドミトリ・ゼレンスキーもウクライナで戦い、この夏に無罪放免となった。しかし、こうした殺人鬼の赦免にはロシア国内でも異論があるようだ。
例えば、23歳の元恋人を殺害した罪で服役中だったウラジスラフ・カニウスの場合だ。カニウスは20年にシベリア西部のケメロボ州でベラ・ペクテレワを殺害したとして、22年7月に懲役17年の刑を言い渡され、重警備刑務所に収監されていた。
「彼女を殴っていたとき、叫び続けるのが気に入らなかった。だから黙らせたかった」。カニウスは被告人質問でそう述べている。法廷記録によれば、被害者には顔面を含めて111の刺し傷があった。
この男の赦免には世論が激しく反発し、SNS上に批判が噴出した。しかしプーチン政権の報道官ドミトリ・ペスコフは11月10日に、こう言い放っている。この者たちは刑罰を免れたのではなく、「戦場で突撃し、銃弾の下、砲弾の下で、自らの罪を血であがなっている」のだと。
プーチン自身も、「彼らは祖国に命をささげることで免罪された」と述べている。
スターリン時代と同じ
英王立統合軍事研究所(RUSI)国際安全保障研究ディレクターのニール・メルビンによれば、プーチンは24年3月の大統領選を控え、大規模な追加動員令で評判を落とす事態を避けるため、刑務所から人材を調達して兵士を増やす方法を採っている。
プーチンは12月8日に大統領選への出馬の意向を表明した。しかもウクライナ戦争の前に憲法を修正しているから、当選すればプーチンは最大で36年まで政権を維持できる。
「プーチンが選挙で負ける心配はないが、政府としては選挙中に不満が噴き出したり、戦争反対の声が上がる事態は避けたいだろう」。メルビンは本誌にそう語った。
「だから国内でも西部の大都市に住む有権者にまで影響を与える大規模な動員はやれない。その代わり東部の辺境に住む人や少数民族、そして囚人から兵員を調達している」
この1年間、受刑者がロシア軍の「人海戦術」に投入される兵士の主な供給源となってきたのは事実だ。運よく生き延びて生還した者は恩赦を受け、社会復帰を果たすが、彼らの再犯率は高いとメルビンは言う。「なにしろ前線でのトラウマや心理的なストレスはひどい」からだ。
スターリン時代には「主に政治犯と弾圧された人々が刑務所にいて」、そういう人が戦場に駆り出された。囚人を前線に送り出した刑務所は空っぽになったという。
「ロシア軍は人命の損失など気にせずに戦う。戦場に大量の兵士を送り込み、壊滅したら新たな部隊を投入する。それなりに人口が多いから、命の値段は軽くなる」とメルビンは付け加えた。
「そういう戦術だから、ロシアの指導者たちは受刑者を、大きな政治的リスクなしで利用できる資源と見なしている」
ちなみにウクライナ軍は、刑務所にいる犯罪者を入隊させることを認めていない。しかし「プーチン政権は、誰がカラシニコフ銃を手にし、誰が塹壕に籠もっていようと気にしない」。ウクライナ軍の元兵士でジャーナリストのビクトル・コバレンコは本誌にそう語った。
「これは優れてロシア的な戦い方で、スターリン時代の第2次大戦以来の伝統だ。プーチン政権は多くの点で、残忍で無慈悲なスターリン政権と似ている」ともコバレンコは言った。
「大規模な動員令でロシア社会に動揺が走るのを防ぐため、プーチンは犯罪者を兵士に仕立てている」
だが戦場を生き延びて自由の身となった凶悪犯が街に戻ったとき、その代償を払わされるのは一般の国民だ。
●いったい何事!? ロシアで極超音速ミサイルの科学者10数人が相次ぎ粛清─ 12/19
マッハ5を超える極超音速ミサイルの開発に携わったロシアの科学者のうち少なくとも12人が、これまでに国家に反逆した容疑で逮捕されているという報道が浮上した。彼らの多くは、2022年2月にウラジーミル・プーチン大統領がウクライナへの本格侵攻を開始した後に身柄を拘束されたといわれる。
ノボシビルスクにあるソベツキー地方裁判所の議長代理を務めるエレーナ・ネフェドワは12月15日に地元メディア「T-invariant」に対して、当局が2016年からロシアの極超音速ミサイル開発計画に携わってきた物理学者のウラジスラフ・ガルキンの身柄を拘束したと語った。ノボシビルスク州はシベリア最大の都市であり、ロシア国内の科学分野の研究機関がここに集まっている。
国家反逆罪で有罪となった場合、終身刑になる。「反逆」にはスパイ行為、国家機密を外国または国外組織に提供する行為などが含まれる。金銭や物資、助言の提供なども、これが国家の安全保障に対する直接的な脅威となる場合には反逆罪と見なされる。
この一年で、ロシアでは極超音速飛行の分野の著名な科学者が何人も逮捕されている。ロシアの独立系英字新聞モスクワ・タイムズ紙は、ロシア科学アカデミー(RAS)のシベリア支部に所属する少なくとも16人が刑事訴追の対象となっていると報じた。
死の床にあった物理学者は逮捕の2日後に死亡
ガルキンはトムスク工科大学の准教授で、RASシベリア支局の理論応用力学研究所が発表した研究論文の共著者でもある。同研究所の主任研究員であるバレリー・ズベギンツェフも反逆罪に問われている。
本誌はこの件についてロシア外務省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。
ズベギンツェフは5月に、同じく科学者のアナトリー・マスロフとアレクサンデル・シプリュクと共に反逆罪の疑いで逮捕された。3人はいずれも、極超音速ミサイルの開発に携わっていた。
理論応用力学研究所の同僚たちは当時、3人の逮捕を批判する公開書簡を発表。「これからどうやって仕事を続けていけばいいのか分からない」と述べ、3人は海外で開かれた会議や国際的なプロジェクトに参加していただけであり、定評ある学会誌に論文を発表していたと主張した。
ノボシビルスクの報道機関は、マスロフは国家機密を中国に提供した疑いがかけられていると報じた。
2022年6月には、物理学者のドミトリー・コルカー(54)が国家反逆罪の疑いでシベリアで逮捕された。コルカーはすい臓がんを患っていたにもかかわらずモスクワに移動させられ、逮捕から2日後に死亡した。
息子のマクシム・コルカーは当時、ロシアのソーシャルメディア「フコンタクテ」に「ロシア連邦保安局(FSB)が父を殺した」と投稿。「彼らは父がどのような状態かを十分に認識していながら、病院から引きずり出した。家族に別れを告げることさえ許さなかった。ノボシビルスクの判事であるモロゾフ捜査官、そしてロシアの国家機構全体が責任を問われるべきだ」と書き込んだ。「彼らはたった2日で一人の人を殺した。私たち家族は父親を失った」
さらに9月には、ロシアの市民セルゲイ・カバノフが、アメリカにミサイル技術を密輸したとして国家反逆罪で有罪となった。
ロシアの独立系通信社インタファックスが伝えたFSBの説明によれば、カバノフは「ロシア軍のミサイル技術に使用されている製品を米国防総省の管理下にある米企業ビクトリー・プロキュアメント・サービス(アラバマ州ハンツビル)に送った」疑いで捜査を受け、禁錮12年半の判決を受けた。声明の中でFSBは、カバノフは米情報機関の指示に従い、「ロシアの軍事製品をアメリカに供給する密輸ルート」を組織したと主張している。
●ウクライナ、軍事作戦の規模縮小 外国からの援助減少で 12/19
ウクライナ軍の高官は、外国からの軍事援助減少がすでに戦場に影響しつつあり、作戦の規模縮小を余儀なくされていると話した。
18日付のロイター通信の記事によると、オレクサンドル・タルナフスキー将軍は、ウクライナ軍は前線の全域にわたり砲弾が不足しており、「大問題」なのだとインタビューで話した。
タルナフスキー将軍は、特に旧ソヴィエト連邦時代の兵器で使える砲弾が不足していると話した。「どれだけ必要かという実態に照らすと、今の手持ちの量では足りない。なので、(砲弾を)再配分している。予定したタスクを練り直し、規模を縮小している。実施に必要な装備を確保しなくてはならないので」。
外国からの軍事援助減少が、すでに戦術の変更など実際の戦場に影響しているとも将軍は述べた。
「場所によっては防衛に切り替え、ほかの場所では攻撃作戦を継続している」
「今後の大規模な作戦行動のため、予備役を訓練している。意志は残っている。変わったのは行動と戦術だけだ」
欧米がウクライナに提供してきた軍事支援が、このところ後退している。アメリカでは6日、野党・共和党が連邦議会上院で600億ドル(約8.6兆円)規模の軍事援助法案を否決した。欧州連合(EU)では14日、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援についてハンガリーが拒否権を発動した。
アメリカのバイデン政権もEU首脳も、ウクライナ支援の継続を表明している。しかし、ウクライナに実際に届く砲弾の数は以前から不足気味で、ウクライナは対応に苦慮していた。EUは2024年3月までに砲弾100万発を送ると約束しているが、すでに提供した、あるいは間もなく提供する数は48万発にとどまっている。
アメリカはこれまでにウクライナに対して、西側製の発射システムで使う155ミリ弾を200万発以上、提供している。しかし、その影響で自軍の備蓄が減少したため、今年夏にはクラスター弾の提供を決定した。
ウクライナはすでに、協力国が提供できるペースより速く、砲弾を消費している。エストニア国防省の報告によると、ロシアに対して有意に対抗できる状態を維持するため、ウクライナは毎月少なくとも20万発の砲弾を必要としているという。
「このペースを維持すれば欧州とアメリカの備蓄は2024年に底を尽きるし、外国から相当な量の砲弾買い入れが必要になる」と、エストニア国防省は指摘している。
●米防衛各社、戦争長期化で利益見通しが改善 12/19
ロシアのウクライナ侵攻直後に米国防総省が世界最大級の防衛企業各社を会合に招いて生産を増強するよう伝えた際、ある最高経営責任者(CEO)は躊躇した。言葉にしたのは、戦闘が停止したときにロケットの在庫の山を抱えたくはない、という本音だ。事情に詳しい3人の消息筋が語った。
それから約2年が経過。米国と同盟国がロシアと中国からの一段と攻撃的な行動を想定して高額の兵器類や軍需品の調達を増やす中、大手防衛企業の見方は変わってきており、数社は来年に需要が強まると予想している。
計算は単純だ。例えば、ミサイル防衛の需要を満たすため、米陸軍向けのパトリオットインターセプターの生産は年間550基から650基に増える。単価を約400万ドルとすれば、1つの武器システムだけで年間売上高が4億ドル増える可能性がある。
旧式システムの増産は、高い投資費用を伴う新型システムの生産増強よりも収益性が高いため、需要が強まれば企業の利益を即座に押し上げる。
このような状況を踏まえた金融市場関係者の予想では、過去2年間でS&P総合500種と大きくアウトパフォームしてきた最大手級防衛企業の株価は今後も上昇し続ける。ロッキード・マーチン(LMT.N)、ゼネラル・ダイナミクス(GD.N)、ノースロップ・グラマン(NOC.N)の株価は向こう2年間で5―7%上昇すると見込まれている。
米大手防衛企業が加盟する業界団体、航空宇宙工業協会(AIA)のエリック・ファニング最高経営責任者(CEO)は、米国の武器在庫はロシアのウクライナ侵攻前には「満杯ではなかった」と指摘。「敵国はわが国の在庫が減り始め、底を突きつつあるのを見届けていた」と語った。そして結果的には、中国の威圧的行動や、ロシアによる侵攻への不安、中東における同盟国への支援によって需要が押し上げられたという。
パトリオットとロケットモーター
パトリオットシステムの生産は細かく分けられ、基本的製品の販売がいかに幅広い企業に影響するかが分かる。
レーダーと地上システムを手がけるRTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)(RTX.N)は発射装置と制御システムの生産を年間12基に引き上げた。発射装置とレーダーを合わせた単価は約4億ドル。
ボーイング(BA.N)は、パトリオットミサイルを誘導するために使われるセンサーのアラバマ州ハンツビル工場における生産能力を向こう数年で30%余り増強すると発表した。
またロシアのウクライナ侵攻以降、多様な武器に使われる固体ロケットモーターの受注残高からも需要の強さが読み取れる。
米ロケットモーター大手のノースロップ・グラマンとL3ハリス・テクノロジーズ(LHX.N)はいずれも、需要が増えているという。
ノースロップ・グラマンは、増産の多くはウクライナで大きく使われている誘導多連装ロケットシステム(GMLRS)の弾頭とロケットモーターの需要に起因していると説明した。 
ロッキード・マーチンは年間1万基のミサイルを生産しており、生産量を1万4000基に増やす方針だ。陸軍の資料によると、同社のミサイルは平均単価が14万8000ドル。ロイターの分析では、これまでに6100基超がウクライネへ送られている。
パトリオットインターセプターやGMLRSを手がけるロッキードのミサイル・ファイアーコントロール事業責任者、ティム・ケイヒル氏はロイターのインタビューで「毎日発射される武器が実質的な在庫の必要性を強めている」と指摘。その必要性が「低下するとは考えられない」と語った。
ロケットモーターを生産する企業の幹部は、バイデン政権は2024年度の国防総省予算要求で軍需品を優先すると指摘。この幹部は、総額8860億ドルの国防権限法案の通過を受けて受注を開始すれば、受注残高が大きく増えると予想している。同法案は先週に米議会で承認され、バイデン大統領が近く署名して成立する見通しだ。
●ロシア優勢で変わる空気感 「第3次世界大戦」へと向かい始めた国際社会 12/19
終わりの見えないウクライナ戦争に、一般市民への虐殺が続くガザ紛争。アジアでは中国の脅威が増大し南米でも戦火が上がる寸前まで事態が悪化するなど、国際社会を取り巻く環境は厳しいものとなっています。日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、かような状況にある世界において日本が果たすべき役割を考察。さらに日英独が中心となって「NATOに代わる民主国の組織」を作り上げる重要性を説いています。
第3次世界大戦に向かう世界
世界情勢が大きく変化している。ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の他に、南米でもベネブエラがガイアナの7割の土地を自国領土と主張している。中国も南シナ海でフィリピンのEEZ内を自国領土として、フィリピンの船に放水するなど、世界各地で紛争を起こしている。この現状と今後を検討しよう。
ロシアが優勢になると、世界の雰囲気は大きく変化する。南米でもベネズエラが、「2015年に海底油田が発見されたガイアナ」のエセキボ地域の領有をベネズエラに併合するとした。このエセキボ地域は、小国ガイアナの国土の3分の2以上を占める。
米軍は12月7日、ガイアナへの協力を表明した。ブラジルも軍をガイアナ国境近くに移動させている。このため、ベネズエラとガイアナの首脳は14日、エセキボ地域を巡る論争で、互いに対して武力を行使しない方針を明らかにし、合同委員会を創設し、領土問題の解決に当たることで合意した。しかし、解決できないと軍事力行使もまだ可能性としてある。
このため、ベネズエラのマドゥロ大統領は、エクソンモービルなどにエセキボ地域から3ヶ月以内の撤退を要求してきた。米国の死守すべき米国圏内でも戦争が起きる可能性が出ている。
米国の戦争研究所も、ロシアがウクライナに勝利すると、米国は再び高まるロシアの脅威から欧州や世界を防衛する必要が生じるなどとしてウクライナへの支援を打ち切るよりも続けたほうが有益でコストを抑えられることになると指摘した。
中国もフィリピンの南シナ海で領土を主張しているので、火が付く可能性があるが、共産主義国との戦争をしないようである。
中国とベトナム両政府は12日、両国関係について従来の「包括的戦略的パートナーシップ」を深化させ、戦略的運命共同体を構築すると合意した。中国の習近平国家主席が訪問先のベトナム・ハノイで同国共産党の最高指導者チョン書記長と会談して確かめた。
中国は、不動産バブル崩壊し、金融危機に向かっている。11月下旬、中国の大手資産運用会社の中植企業集団(中植)は自社が「深刻な債務超過」に陥ったと発表した。約2,000億元(約4兆600億円)の保有資産に対し負債は推定4,600億(約9兆3,400億円)という。
地方政府職員の給与も半年なしだという。次には年金基金が底を突き、高齢者層の貧困化が始まり、国民の不満がピークになる可能性が高い。この状況でも中央経済工作会議では、有効な対策が出てこなかった。そして、中国政府は、経済への批判的論評なども処罰するというので、経済不振も隠すようである。
それでも、不満は出ることで、この不満を解消させるには、国民の目を外部に向けていく必要がある。
中国は、当面南シナ海と台湾、インド、ブータンなどを狙い、ベトナムとは問題を起こさないようである。
しかし、第3次世界大戦をアジアまで引き込む必要はない。外務省幹部の一人は「日本が米国よりも強硬になる必要はない。安全保障面でも対話を増やしていく必要がある」と語るが、それでも、中国から戦争を仕掛けられた時の対抗処置は準備する必要がある。
その意味でも、このアジア地域の共同防衛構築は、日本の役割なのであろう。
そして、民主国の中心が米国であったが、2024年11月トランプ氏が米大統領になると、米国はモンロー主義になり、自由民主陣営は中心を失うことになる。米上院は、上院の承認なしにNATOから脱退することを禁止する法案を承認した。これで、トランプ大統領になっても、少なくともNATOからの脱退は簡単にはできないことになった。
しかし、米国の代わりに、この中心的な役割をドイツ、日本、英国が担うしかない。戦略は英国が担い、アジアを日本、韓国、台湾が、欧州をドイツとフランス、イタリアが担うことになる。このドイツ、日本、英国とその他の民主国の組織として、NATOの発展的な組織を作り、親ロ政権のハンガリーを排除して、中ロに対抗できる組織を作るしかない。
それも、2024年11月前には組織を作り、米国の孤立化宣言前には、移行することだと思う。
しかし、日本の憲法改正議論の遅れが気になる。集団安全保障の枠組みを可能にする法体系が必要である。同盟国に対する武器輸出も可能でなければならない。
●地政学的な自立に、中国との貿易関係の恩恵を上回るメリットはあるのか? 12/19
イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦争が激化するにつれ、世界の関心はウクライナよりもパレスチナ自治区ガザに移っている。
無理もないが、ウクライナ問題を簡単に忘れてはならない。
ロシアが侵略戦争を始めて間もなく2年になる今、ロシアへの前例のない制裁がそれほど成果を上げていない原因を押さえておくことは極めて重要だ。
おおかたの予想に反して、ロシア経済は制裁によって崩壊などしていない。伸び率は下がったが、成長を続けている。
とにかく輸出品の需要が依然として旺盛で、特に石油と天然ガスは手堅い。欧州諸国が背を向けても、インドや中国などが進んで買っていく。
ただし、輸送が困難な天然ガスには別の事情がある。
ウクライナ侵攻以前、ロシアはEU域内で使われる天然ガスの40%以上を供給していた。
開戦からおよそ半年後の2022年夏には、供給停止という「逆制裁」を試みた。その結果、世界のガス価格は短期間だが急騰し、欧州諸国としてはロシア以外の国との取引が大幅に増した。
だが、欧州経済への影響はそれほど深刻ではなかった。
ドイツでは国内の天然ガスの消費が約20%減ったが、生産高は減らなかった。この強靭さの一因は、エネルギー効率の向上と代替燃料への転換政策の組み合わせが功を奏したことだろう。
しかも、天然ガスの価格は侵攻前の水準に戻った。
ロシアはガス輸出を武器として使おうともくろんだが、欧州向けと想定されていた天然ガスが他国に簡単に売れることはなかった。
「現実的でないシナリオ」のコスト
ロシアに対する欧米の制裁も、ロシアによる対抗策も限られた成果しか得られなかった。
決して驚くことではない。
貿易を武器とする策の結果はまちまちだ。
例えば中国は、オーストラリアへの「経済的威圧」(欧米側が「制裁」の言い換えとして使いたがる言葉だ)で、失敗を重ねている。
しかも国際市場には、大抵の中国製品の代わりがある。
中国がEUや西側に制裁を科そうとしたとき、主要メーカーが中国側に付く可能性は低い。特に半導体について、欧州諸国は主に中国以外から調達している。
「経済的威圧」の脅威は誇張されがち
欧州委員会は電気自動車(EV)に対する中国の国家補助金を調査して輸入を制限しようという構えだが、それは戦略としてほとんど意味がない。
太陽光パネルや風力タービンといった、グリーンな社会に欠かせない製品については特にそうだ。
おまけにアメリカでは、中国との通商関係について理性的な議論をすることが難しい。
米バイデン政権の公式な立ち位置は、一部の分野に厳しい規制を課しながら、大部分の貿易関係の維持を目指すというものだ。
この戦略について、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は「小さな庭」を「高い柵」で囲うと表現している。
ただし実際は中国製品に対する反発が大きいため、「小さな庭」は広がっている。
中国による「経済的威圧」の脅威は誇張されがちだ。
大抵は対処可能なのに、西側諸国はリスク軽減策として貿易障壁を維持している。
中国による経済的威圧の効果は限定的と考える人々でさえ、台湾侵攻時に想定される包括的な制裁に備えて対中貿易を制限すべきだとしばしば主張する。
これでは西側諸国は、あまり現実的ではないシナリオのコストを負担し続けることになる。
政策立案は臆測に頼らず、経験と健全な経済的議論に基づいて行われるべきだ。
中国との貿易関係を維持する恩恵は、中国に対して戦略地政学的に自由であることの利点をはるかに上回る。
●経済・金融で連携強化 中ロ首相、北京で会談 12/19
中国の李強首相は19日、北京でロシアのミシュスチン首相と会談し、経済・貿易やエネルギー分野での協力強化について協議した。
ミシュスチン氏の訪中は20日までの2日間で、習近平国家主席とも会う。ロシアが侵攻を続けるウクライナ情勢も議題となる見通しだ。
中ロのメディアによると、李氏は「中ロの政治的相互信頼は強化されている」と友好関係を強調。ミシュスチン氏は「両国の包括的パートナーシップと戦略的協力関係は最高レベルにある」と述べたほか、18日深夜に中国甘粛省で発生した地震の犠牲者に「深い哀悼の意」を表明した。
首相会談に先立つ18日には、両国の財務相が会談し、金融分野での協力などで合意した。西側諸国による対ロ制裁が続く中、中ロ間の貿易総額は過去最高を更新しており、米欧は制裁の「抜け穴」につながるとして懸念を強めている。
●中国不動産バブルが崩壊した場合 世界情勢を悪化させるシナリオ 12/19
12月19日の「おはよう寺ちゃん」では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、中国で不動産バブル崩壊など金融危機が起きた場合の経済見通しについて意見を交わした。
今日明日で解決する問題ではない!
日本経済研究センターは、中国で不動産価格の急落に伴うバブル崩壊など金融危機が起きた場合の経済見通しを発表した。物価変動を加味した実質で1%台の低成長が定着し、「2035年までの名目GDP倍増」という長期目標の実現が厳しくなる。
中国経済、不動産不況が2年を超えた。中国政府は不動産企業への資金支援を強化する方針ではあるが、金融システムに過大な負担になりかねないと言われている。
「これは田中さん、どうご覧になりますか?」(寺島アナ)
「不動産市場が一旦萎縮して、金融面にも大きな影響を与えたと。これは日本のバブル経済崩壊とほぼ同じですよね。そうなるとリカバリーに時間がかかる」(田中氏)
田中氏は、日本のバブル崩壊のときの政策と経済の動きと比較する。
「日本のバブルが崩壊して見かけが良くなるまで5年くらいかかったんですよ。1995年に一段落ついたんで、金融緩和をやめて財政支援もやめて、政策を緊縮よりにしたことで1997年に経済は大崩壊しちゃったわけですよ。不動産市場と金融システムが一旦おかしくなると、経済にとっては深いダメージを抱えることになります。中国も、今日明日に解決する問題ではないと思います」(田中氏)
中国の習近平指導部は、2035年までに名目GDPを倍にして、一人当たりの名目GDPを中程度の先進国並みに引き上げる長期目標を掲げている。中国で不動産価格の急落に伴うバブル崩壊など金融危機が起きた場合、その目標実現が厳しくなり、さらに中国経済の失速によって他の国の成長も鈍る。
「日米韓など、海外の経済成長も押し下げることになるわけですが、こうした悪影響を田中さんはどうご覧になりますか?」(寺島アナ)
「現状、中国経済は悪いので世界経済の足を引っ張るのはシナリオに入っちゃってますよね。今の雰囲気でこれ以上悪化するのは無いと思いますけどね。中国の共産党がそこまで愚かではないと思いますけど、でも愚かかもしれない……? 『共同富裕』路線で富裕層を懲らしめる露骨なことは流石にやらないと思いますが」(田中氏)
田中氏は、中国経済崩壊と世界情勢への影響を考える。
「今は不動産市場を立て直して金融システムを維持することを救急としているので、中国よりもアメリカの経済が本当に失速し始めたときに金融緩和が遅れる可能性があると思います。あとは中東の政治情勢の不安定化。ウクライナがアメリカやEUから資金援助を得られないことで、ウクライナが事実上敗戦となる可能性が一部で言われています。そういった世界情勢の不安定度の方が心配です」(田中氏)
●政府、迎撃ミサイル「パトリオット」を米国に輸出へ 新運用指針適用 12/19
政府は、米国企業のライセンスに基づき国内で生産している地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC2、PAC3)を、米国に輸出する方針を固めた。政府が22日にも見直す防衛装備移転三原則とその運用指針に基づく措置。2014年の三原則の制定以降、直接的に人の殺傷や物の破壊を目的とする武器の完成品を輸出するのは初めてとなる。近く国家安全保障会議(NSC)を開き、方針を承認する見通し。関係者が19日、明らかにした。
現行の三原則の下で、装備品の完成品の輸出は、フィリピンへの防空レーダーのみで、装備移転政策の大きな転換となる。
現行ルールは、海外企業に特許料を支払い、日本で製造する「ライセンス生産品」を厳しく制約。米国のライセンスで生産した装備品の「部品」に限って米国やそれ以外の第三国に輸出でき、完成品は米国を含め輸出できない。自民党、公明党の実務者協議の提言を受け、政府は22日にも、ライセンス元の国へ完成品を含め輸出できるよう運用指針を改正する見通し。
政府は指針改正を経た上で、レイセオン社とロッキード・マーチン社のライセンスで三菱重工がそれぞれ生産している地対空誘導弾「PAC2」と、弾道ミサイル迎撃に特化した「PAC3」の米国への輸出に着手する方針だ。まずは自衛隊の保有在庫から移転する見通し。
米国は、ウクライナ支援に加え、中東情勢の緊迫化でイスラエル支援にも力を入れている。台湾への武器売却も進めており、装備品の慢性的な在庫不足から、同盟国に協力を求めていた。日本は同盟国・米国を支援することが日本の安全保障にも貢献すると判断。米軍の在庫を支えることでウクライナへの間接的な支援につながるとの判断もあるとみられる。
運用指針の見直しでは、ライセンス元の国から第三国への移転も認める方針だが、「現に戦闘が行われている国」への移転は認めない方針。そのため、今回のパトリオットの輸出についても、日本で生産されたパトリオットそのものがウクライナへ移転することは認めない考えだ。
●ロシア軍に主導権 ウクライナ反攻遅れで―プーチン氏 12/19
ロシアのプーチン大統領は19日、モスクワで国防省幹部会拡大会合を開き、ウクライナ侵攻で「ロシア軍が主導権を握っている」と主張した。ウクライナ軍が今年6月に開始した反転攻勢に遅れが指摘される中、戦況はロシア側が優位だという現状認識を述べた。
侵攻2年目となった今年、ロシア軍の「問題も浮き彫りになった」とも説明。不足するドローンを増産するとともに、防空システムを強化する必要があると訴えた。
プーチン氏は会合の演説で「(ウクライナの非軍事化や非ナチ化の)目標を諦めるつもりはない」と改めて発言。来年3月の大統領選で通算5選を目指し、無風選挙で圧勝が予想される中、ウクライナ侵攻の長期化を視野に国民に覚悟を求める意図もありそうだ。

 

●ロシアの国益「諦めず」、ウクライナ巡り協議の用意も=プーチン氏 12/20
ロシアのプーチン大統領は19日、ウクライナや欧米諸国が望むのであれば、ロシアにはウクライナの将来を巡り協議する用意があると述べた。同時にロシアの国益を「諦めない」とも強調した。
プーチン大統領は国防省関連の会合で「ウクライナや欧州、米国で、ロシアに対し攻撃的な人々が交渉を望んでいるのであれば、そうさせればよい。しかし、われわれは国益に基づき交渉する」と語った。
さらに、ロシア軍が戦場で主導権を握っているとし、「われわれは特別軍事作戦の目標を放棄しない」と述べた。より優れた軍事通信や偵察、衛星能力などが必要という認識も示した。
西側諸国がロシアに対し「ハイブリッド戦争」を仕掛けているとも主張し、ロシアは核兵器を増強し、戦略部隊の臨戦態勢を最高レベルに維持すると述べた。
また、米国は自国の利益のために欧州を搾取していると非難。同時に、ロシアは欧州に対する戦争を計画していないとした。
ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟については、「ロシアにとり、10年後も20年後も受け入れられない」という認識を示した。
●プーチン氏出馬 侵略で政権維持図るな 12/20
ロシアのプーチン大統領が来年3月の大統領選に出馬する意向を表明した。ウクライナ侵略を正当化し権力維持を図ることは到底容認できない。無益な侵略戦争に即刻幕を引くよう重ねて要求する。
見え透いた芝居のような出馬表明だった。侵攻に加わる軍人の叙勲式の後、戦死者の遺族が出馬を口々に求めたのに応えて、プーチン氏は「いろいろ迷ったが、今は決断の時だ。私は立候補する」と述べた。
戦争は軍も支持し、続投は国民も望んでいるという演出をしたのは、抑え込んでいる国内の厭戦(えんせん)気分が気になるからでもあろう。
プーチン氏は年末恒例の記者会見では、侵略の目的をウクライナの「非ナチ化」と「中立化」だとあらためて指摘し「ロシアの目的が達成されれば平和が訪れる」と述べた。制圧するまで戦争を続ける意思表示である。
ただし戦況は膠着(こうちゃく)状態が続き、出口が見えない。ロシア、ウクライナどちらにとっても泥沼だ。
プーチン氏自身が言い出した2020年の憲法改正で大統領任期の条項を改め、プーチン氏の通算5期目の出馬が可能になった。4期23年に及ぶプーチン独裁体制の下で政敵排除が進み、侵略以来、言論締め付けも一層強化された。公正な選挙は望めまい。政権は結果を「圧勝」に仕立てるだろう。
一方的に併合したウクライナ東・南部4州でも投票は行われる予定だ。支配を既成事実化するためだが、占領地域での投票は国際法に違反する。
現在71歳のプーチン氏はロシア人男性の平均寿命の68歳(19年・世界保健機関)を超えている。改憲で任期は最長で2期12年になった。プーチン氏がこれを全うすれば36年まで政権の座にとどまれる。そうなればプーチン氏は83歳になる。事実上の終身大統領だ。
独裁の長期化がもたらした社会の閉塞感は、続投で一層強くなる。いつかは爆発する。行き詰まりを打開する展望をプーチン氏は持っているのだろうか。独裁延命が自己目的化しているようにしか見えない。
●100万機のドローン生産へ ゼレンスキー大統領年末会見 12/20
ウクライナのゼレンスキー大統領が、2023年を総括する会見に臨み、2024年もロシアとの戦いは続くとして、攻撃型ドローン100万機を生産する計画を発表した。
ゼレンスキー大統領は19日、国内外のメディアを招いた年末会見で、現状の戦局について、「ロシアはことし、戦場で何も目標を達成していない」と認識を示した。
そして、2024年も年末までロシアとの戦闘は続くとしたうえで、2024年の1年間に100万機のドローンを生産する計画だと発表した。
一方、ロシアのプーチン大統領は、国防省の会議で、軍事侵攻は「ロシア軍が主導権を握っている」と主張。
ショイグ国防相は、目標達成まで軍事作戦を続けることが2024年の最優先課題だと表明した。
●プーチン氏「欧米兵器の無敵神話が崩壊」 侵略完遂に意欲 12/20
ロシアのプーチン大統領は19日、モスクワでショイグ国防相ら露国防相幹部との会議に出席した。
ウクライナ侵略について「欧米側の兵器は無敵だという神話は崩壊した」と述べたほか、「前線では露軍が主導権を握っている」と主張した。「欧米はロシア封じ込めという目標を放棄していないが、ロシアも特別軍事作戦の目標を放棄しない」とも述べ、軍事作戦を完遂する意思を改めて示した。
プーチン氏は最近、ウクライナ軍が6月に着手した反攻は「失敗した」と繰り返し主張。この日の発言は露軍が勝利できるとの自信の表れだとみられる。
プーチン氏はウクライナが模索する北大西洋条約機構(NATO)加盟について「歴史的観点やロシアの国益に照らし、10年、15年先でも容認できない」と指摘。ウクライナを降伏に追い込み、NATO加盟を断念させる思惑を示唆した。ロシアに軍事侵攻を開始させた責任はウクライナを取り込もうとした欧米側にあるとの持説も展開した。
プーチン氏は露軍の増強にも言及。今年中に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤルス」や極超音速弾頭「アバンガルド」を搭載したミサイル15基が実戦配備に就くほか、最近、弾道ミサイル「ブラワ」を装備した原子力潜水艦などが露海軍に引き渡されたとした。
ロシアは昨年2月、ウクライナの親欧米派勢力を排除する「非ナチス化」や、NATO加盟を断念させる「非軍事化」などを掲げて軍事侵攻を開始した。
●「米は裏切らないと確信」ゼレンスキー「国のため最後まで突き進む」プーチン 12/20
ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカの軍事支援が途絶える懸念があることについて、「アメリカが裏切ることはない」との認識を示しました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領:「アメリカは我々を裏切ることはない。両国が合意した内容は完全に履行されると確信している」
ゼレンスキー大統領は19日、アメリカ議会でウクライナへの軍事支援を含む緊急予算の承認が滞っている問題で「我々は熱心に取り組んでいる」と話し、支援の継続に期待感を示しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は19日、ウクライナで戦った兵士らの表彰式で「国を守るため、私も含め全員が力を合わせ最後まで突き進む」と述べ、「特別軍事作戦」を完遂する姿勢を示しました。
また、これに先立ち開かれた国防省での会合では、ウクライナとの停戦交渉について「ロシアの国益に基づいてのみ交渉する」と条件を示しました。
●ウクライナ軍、「45万〜50万人」追加動員要請 ゼレンスキー氏 12/20
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は19日、同国軍が「45万〜50万人」の追加動員を要請していると明らかにした。
ゼレンスキー氏は、要請を受け入れるにはさらなる議論が必要だと述べた。
ウクライナ軍関係者はAFPに対し、再び攻勢に転じたロシア軍と戦う新兵の補充に苦労していると述べた。
昨年2月のロシアによる侵攻開始当初から戦い続けている兵士もいるが、疲弊している。一方、死傷者を補うための志願兵は減少しているという。
ゼレンスキー氏は新たな動員について、「極めて慎重に扱うべき」問題であり、公正を期す必要があると指摘。さらに、大勢を動員する財政的な余裕はない可能性もあるとして、兵士1人を支えるには約6人の納税者が必要になると説明し、「どうやって来年1月から新たに300万人の納税者を見つけるのか」と問い掛けた。
女性の動員は否定したが、男性の徴兵対象年齢を27歳から25歳に引き下げる案に同意する可能性を示唆した。
一方、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は、戦闘地域に兵士ら61万7000人を展開していると明らかにした上で、新たな動員は必要ないとの考えを示している。
●ウクライナ軍、兵士50万人追加動員を提示 大統領「慎重に検討」 12/20
ウクライナのゼレンスキー大統領は19日、軍がロシアとの戦闘で45万─50万人の追加動員を提案したと明らかにした。
年末の記者会見で、「非常に慎重に扱うべき」問題であり、軍と政府が議論して議会に提示するかを決定すると語った。
ウクライナでは昨年2月のロシアによる侵攻以降、戦闘が続いている。双方は死傷者数を国家機密として扱っているが、米政府当局者は数十万人と推定している。
ウクライナ軍兵士の数は不明だが、同国は過去に約100万人と述べている。ロシアは兵力を増強しており、19日には兵士を150万人に増やす計画を明らかにした。
ゼレンスキー氏は、追加動員を支持する論拠がさらに必要だとし、「人の問題であり、公平性や防衛能力、財政の問題でもあるからだ」と指摘した。
ウクライナでは徴兵プロセスを改善する方法が何週間にもわたって水面下で議論されてきた。
ゼレンスキー氏は、追加動員には5000億フリブナ(約135億ドル)の追加予算が必要になるとし、ロシアと戦うために兵力をどのように使うのか、さらなる詳細を求める意向を示した。
ロシアとの戦争がいつ終わるかは誰にも分からないが、ウクライナが回復力を維持すればより早期に勝利することができるという見解も示した。
米国が軍事支援を保留することにより、ウクライナを「裏切る」ことはないと確信しているとした。
和平に関する次回会合はスイスのダボスで開かれるとしたが、日程については明らかにしなかった。
ウクライナの議会選挙については、ロシアとの戦闘中は実施できないとの認識を表明した。
●アウジーイウカ守備隊の弾薬枯渇 逃げるロシア兵を苦渋の傍観 12/20
12月15日、ウクライナ東部アウジーイウカの周辺には霧が立ち込めていた。ロシア軍は好機とみて、市の南方面を防衛しているウクライナ軍部隊に急襲を仕掛けた。
攻撃は例によって失敗に終わった。だが、攻撃に参加したロシア兵の多くが生き残った。ウクライナ側の迫撃砲弾、擲(てき)弾、自爆型FPV(一人称視点)ドローン(無人機)が枯渇しているためだ。
「言っておかないといけないのは、われわれには弾薬が不足しているということだ」とウクライナ軍のあるドローン操縦士はソーシャルメディアで認めている。
ロシア側は今回、2つのチームで攻撃してきた。どちらも戦車1両とBMP歩兵戦闘車1両のペアだった。こうした小規模な部隊による攻撃は、ロシア軍による2カ月にわたるアウジーイウカ攻略戦の最近の傾向とも合致する。
軍事アナリストのトム・クーパーは18日、アウジーイウカ方面の先週の戦況について「ロシア軍の攻撃は継続しているが、強度は低下した」と評価している。「(攻撃の)波は減っている。波は以前は15〜20人の兵士から成っていたが、現在は6人に減っている」
霧がかかる中、ロシア軍部隊はさらに煙幕を張ったうえで、白昼、アウジーイウカに向けて突入してきた。
ウクライナ側は、予想される突撃ルートを上空からドローンで監視していた。しかし、煙と霧のため、接近するロシア軍部隊はほとんど見えない状態だった。
だが、ウクライナ側に幸運が訪れる。先導していた戦車が地雷を踏んだのだ。攻撃は頓挫した。「ロシア軍部隊は退却し始めた」と前出のドローン操縦士は説明している。「誰が最初に逃げ出したか。ご想像のとおり、戦車の乗員だった」
さらに、こちらもおそらく地雷が原因とみられるが、2つ目のチームの戦車とBMPも立て続けに行動不能になった。生き延びたロシア兵たちは、何もさえぎるものがない中を徒歩で急いで撤収した。
上空から監視していたウクライナ軍のドローンは、生き延びたロシア兵らの姿を克明に捉えていた。通常なら、ウクライナ軍の40mm擲弾やFPVドローンの格好の目標になっていたはずだった。
しかし「大隊の主要兵器である迫撃砲やMk19(擲弾発射器)用の弾薬がない」とドローン操縦士は嘆いている。使えるFPVドローンもなかった。「これがわれわれの砲兵の置かれている現状だ。われわれはドローンも常に必要としている」と訴えている。
ロシア軍が10月以来、アウジーイウカ周辺で出した1万3000人の死傷者と異なり、これらのロシア兵は陣地に無事生還できたようだ。「ロシア兵が罰を受けずに歩き去るのを見るのは虫酸が走る」とドローン操縦士は吐き捨てている。
米議会のロシア寄りの共和党議員らは、ジョー・バイデン米大統領がウクライナの戦争努力を支えるために提案している610億ドル(約8兆8000億円)の援助を滞留させている。
交渉は続けられているものの、上院は休会期間に入っており、再開は1月上旬になる。バイデン政権がこの予算を執行できないかぎり、ロシア兵たちはアウジーイウカ周辺で引き続き幸運に浴するかもしれない。アウジーイウカをすぐに奪うことはできなくても、生き延びてそれを試み続けるかもしれない。
●現代自動車、ロシア工場売却し撤退…価格は1万6千円 12/20
韓国の現代自動車が戦争で稼動を停止したロシアの工場を1万ルーブル(約1万6千円)で売却し、撤退することにした。
現代自動車は19日、臨時取締役会を開き、ロシアのサンクトペテルブルクにあるロシア工場(HMMR)の株式を売却する案件を承認した。現代自動車は、ロシア現地メーカーのアートファイナンス(Art-Finance)に工場を売却することを決め、具体的な条件を交渉していると明らかにした。現代自動車はロシア現地の状況を考慮し、すでに販売された車に対する事後管理(AS)運営を続ける方針だ。ロシア工場は、ロシアとウクライナの戦争で昨年3月から稼動中止となっている。
現代自動車側の発表によると、工場の売却価格は1万ルーブルだという。工場の帳簿上の株式価値は2873億3700万ウォン(約317億310万円)だが、現代自動車は戦争の影響で稼動しなかった約2年を考慮すれば、これまで1兆1300億ウォン(約1247億8900万円)の被害を受けたと集計した。
売却対象の工場は2010年に建設したサンクトペテルブルク工場と2020年に買収したゼネラルモーターズ(GM)の工場だ。それぞれ最大年間20万台と10万台を生産できる。
ただし、現代自動車はロシア工場の株式を買い戻すことができる「バイバック・オプション」を契約書に盛り込んだと明らかにした。現代自動車の関係者は、「ロシア政府のガイドに従って、2年内に(権利を)行使することができる。ただ、買い戻せるかどうかは明らかではない」と説明した。
これに先立ち、日産やルノー、マツダなど他の自動車メーカーも一定期間内に資産を買い戻すことができる条件付きで、現地資産をロシア政府や国営企業、現地合弁会社などに渡して撤退した。ルノーは20ドル、日産とマツダはそれぞれ1ドルで資産を渡した。
現代自動車も今年初めからカザフスタンの企業と工場の売却を調整中だという報道が相次いだが、ロシア財務省が「非友好国」の投資家が事業体を売却する場合、市場価値の最大10%の税金を払わなければならないと釘を刺したことで、カザフスタンの企業との売却が失敗に終わった。
●プーチン、ウクライナに派兵された兵士らの表彰式で“軍事侵攻”完遂を強調 12/20
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナに派兵された兵士らの表彰式で「国のために全員で最後まで突き進む」と述べ、軍事侵攻の「完遂」を強調しました。
プーチン大統領は19日、ウクライナで戦った兵士らの表彰式に参加し「ロシアの英雄」として兵士らにメダルを授けました。プーチン大統領は兵士らを前に「ロシアの国益を守るため私も含め全員が力を合わせ最後まで突き進む」と述べ、「特別軍事作戦」を完遂する姿勢を示しました。
これに先立ち開かれた国防省の会合では、ウクライナとの停戦交渉について協議する用意があるとした上で、「ロシアの国益に基づいてのみ交渉する」と条件を示しました。また、ウクライナのNATO(=北大西洋条約機構加盟)については、「10年後も20年後も受け入れられない」という認識を示しました。 
●プーチン大統領「最後まで突き進む」特別軍事作戦“完遂”を強調 12/20
ロシアのプーチン大統領はウクライナに派兵された兵士らの表彰式で「国のために全員で最後まで突き進む」と述べて軍事侵攻の「完遂」を強調しました。
プーチン大統領は19日、ウクライナで戦った兵士らの表彰式に参加し「ロシアの英雄」として兵士らにメダルを授けました。
プーチン大統領は兵士らを前に「ロシアの国益を守るため、私も含め全員が力を合わせ最後まで突き進む」と述べて「特別軍事作戦」を完遂する姿勢を示しました。
これに先立ち開かれた国防省の会合では、ウクライナとの停戦交渉について協議する用意があるとしたうえで「ロシアの国益に基づいてのみ交渉する」と条件を示しました。
また、ウクライナのNATO=北大西洋条約機構加盟については「10年後も20年後も受け入れられない」という認識を示しました。
●ロシア、侵攻長期化視野に兵力増強 ウクライナに62万人 12/20
ロシアがウクライナ侵攻の長期化を見据え、兵員の増強を進めている。プーチン大統領は14日、契約軍人など「志願兵」との契約が2023年は50万人近くに達すると明らかにした。ウクライナの戦闘地域には現在約62万人の兵力を展開しているともいい、プーチン氏は体制強化をアピール。24年3月の大統領選を前に「強いロシア」も誇示する。
プーチン氏は、14日に開催した国民との直接対話と記者会見で、23年に入り48万6000人が契約軍人となり、現在も増加基調が続いているとした。「祖国の利益を守ろうとする動きは衰えていない」とも強調した。
ウクライナに展開する約62万人の兵力のうち、動員による兵士は24万4000人。主力は、「志願兵」として参戦した契約軍人や民間軍事会社の戦闘員などが占めるとみられる。兵員の増強には、動員ではなく、志願兵の確保が欠かせない。
ウクライナの戦闘長期化に伴って、ロシアは兵士の総数も増やしている。プーチン氏は1日、ロシア軍の兵士の総員を23年1月時点から17万人(15%)増やし132万人規模とする大統領令に署名した。
ロシア軍の総員は、ウクライナのクリミア半島を一方的に併合した後の16年に、従来比で1割強減の100万人規模となった。その後は微増にとどまっていたが、ウクライナ侵攻開始後の23年1月に115万人に増加し、今年は1年弱で再度の兵員増の計画となった。
ただ、30万人超の予備役を招集した昨年9月の部分動員令では、発令後に招集を回避しようとする人の出国が相次いだ。国民の多くは動員令への不安感が依然として強い。そのため、プーチン氏は現時点で「追加動員は必要ない」と懸念払拭に努めている。
兵力の増強を狙う一方、ウクライナ侵攻の長期化で軍の損耗は進んでいるようだ。英国防省は4日、ロシア側の死傷者について、死者は民間軍事会社の兵士を含めて7万人、負傷者は22万〜28万人との推計を公表した。
ロシア軍は兵士に支払う報酬を手厚くし、人材不足を補う考え。国防省系のメディアによると、軍高官は10月に兵士の月給が21万ルーブル(約33万円)からだと明らかにした。ロシアの平均月収の3〜4倍程度の水準となる。
地方などでの採用を増やしているとみられるほか、ロシアメディアによると、兵士の確保に向け、ロシアのパスポートを保有する旧ソ連諸国からの移民を、軍事務所に連行し、契約を強いる動きが起きているという。
受刑者を兵士に登用、前線に投入する動きも続いている。米紙ワシントン・ポストは10月、ウクライナ侵攻前に約42万人と推定されたロシアの受刑者数が、約26万6000人にまで減少したと伝えた。
ロシアのプーチン大統領(右)は8日、軍人らを前に次期大統領選への出馬を表明した=タス共同
プーチン氏は19日の国防省幹部らが出席した会合で「我々の軍隊が主導権を握っている」と述べた。ロシア軍は東部ドネツク州では主要都市ドネツクにつながるアブデーフカ周辺などで攻撃を継続し、徐々に前進しているとみられる。
英国防省は10日、ロシア軍がウクライナのエネルギー施設を標的としたミサイル攻撃を始めたと分析した。冬の寒さが厳しさを増す中、暖房などに使う施設を攻撃することでウクライナ側の戦意喪失を狙ったものとみられる。
こうした状況下、ロシアの民間世論調査会社レバダセンターが8日発表した直近の国民への調査結果によると、「軍事行動を継続するべきか、和平交渉を開始すべきか」との質問に対し、57%が「和平交渉の開始」と回答した。23年に入ってからは最も高い調査結果となった。一方、「軍事行動の継続」は36%と低下基調が続いた。
プーチン氏は戦時下での「国民の団結」を強調しており、独立系メディアによると、同氏は来年の大統領選で、得票率80%以上の「圧勝」を目指す方針だ。
●プーチン氏、独・オーストリア社の権益押収命じる ガス事業巡り 12/20
ロシアのプーチン大統領は同国の北極圏におけるガス採掘プロジェクトを巡り、数十億ドル規模の権益をドイツのウィンターシャルDea(WINT.UL)とオーストリアのOMV(OMVV.VI)から剥奪するよう命じた。
19日夜に公表された大統領令によると、両社が保有するユジノ・ルスコエフィールドとアチモフプロジェクトの権益は新たに設立されたロシア企業に移される。
大統領令は、ロシア資産に関して西側諸国の違法かつ非友好的な行動を受ける中で国益を守るための措置と説明。ウクライナ侵攻後、ロシアにおける外国資産の押収としては最大となった。
ウィンターシャルDeaは、独化学品大手BASF(BASFn.DE)とロシア富豪ミハイル・フリドマン氏の投資会社レターワンとの合弁会社で、ロシアからの撤退を進めている。OMVは昨年撤退した。
今回の大統領令は、BASFとウィンターシャルDeaが1月以来表明してきた支配権の喪失を正式に裏付けるものとなる。
●ロシア、ウクライナと和平交渉を行う根拠は今のところ一切ない 12/20
ロシアは22カ月に及ぶウクライナでの戦争終結に向けて交渉する根拠は今のところないとみている。同国大統領府のペスコフ報道官が明らかにした。
現地の報道によると、ペスコフ氏は20日、「われわれにとって交渉という考えは重要ではない」と発言。「このような協議を行う根拠は一切ないとこれまでも繰り返し表明してきた」と述べた。
2022年2月のウクライナ侵攻を命じたロシアのプーチン大統領は、ウクライナの非武装化および北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止のための中立的地位を確保するという戦争の目的を譲らないと主張している。
●中国 習国家主席 ロシアの首相と会談 関係強化の考え示す 12/20
中国の習近平国家主席はロシアのミシュスチン首相と会談し、両国の国交樹立から来年で75年となるのに合わせて関係を強化していく考えを示しました。
中国の首都・北京を訪れたロシアのミシュスチン首相は20日、習近平国家主席と会談しました。
この中で習主席は「プーチン大統領と共同で設定した年間貿易額の目標2000億ドルが先月、予定より早く達成できた」と述べ、2024年までとしていた貿易額の目標を1年前倒しで実現できたことを歓迎しました。
そのうえで「来年の国交樹立75周年を新たな出発点に、両国のハイレベルな政治的関係がもたらすプラスの効果を引き続き増幅させたい」と述べ、関係をさらに強化していく考えを示しました。
ロシア国営のタス通信によりますと、ミシュスチン首相は会談の中で、およそ32兆円に相当する80の共同プロジェクトが両国の間で実施されているとしたうえで、このうち90%以上がドルではなく、両国の通貨である人民元とルーブルで取り引きされたと述べたとしています。
ロシアによるウクライナ侵攻後、中国とロシアはともに対立するアメリカを念頭にハイレベルでの会談を重ね、政治や経済の分野で結束を強めています。
●英国防省 ロシア軍のミサイル「キンジャール」精度低いと分析 12/20
ウクライナ空軍が12月14日にキーウ周辺で迎撃したとするロシア軍のミサイル「キンジャール」について、イギリス国防省は、ことし8月以降では初めて使用されたとの分析を明らかにするとともに、精度が低いとの見方を示しています。
ウクライナ空軍は20日、ロシア軍が首都キーウや南部オデーサ州などに対して、19機の無人機による攻撃を仕掛け、このうち18機を撃墜したと発表しました。
けが人や被害は出ていないということですが、南部の都市ヘルソンでは、子ども4人を含む9人がけがをしたということです。
一方、ロシア軍が極超音速ミサイルだとする「キンジャール」について、ウクライナ空軍が12月14日に、3発のうち1発をキーウ周辺で迎撃したと発表したことについて、イギリス国防省は19日に新たな分析をまとめました。
それによりますと、ことし8月以降では、キンジャールが初めて使用された可能性が高いとしています。
「キンジャール」は、プーチン大統領が2018年に発表した6つの新型兵器の1つで、ロシア側は最大マッハ10の速さで飛行できると主張しています。
イギリス国防省は、重要な標的を攻撃するために限定的に使用されてきたミサイルだとした一方、命中の精度が低いか、ウクライナ側に迎撃されているとの見方を示しています。
●BRICSに中東・アフリカ諸国が加わることの意味――エジプトを事例に考える 12/20
2023年8月、南アフリカのヨハネスブルグでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の第15回首脳会議が開催され、加盟国として新たに6カ国を招待することで合意した。2024年1月1日をもって、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、アルゼンチンの6カ国がBRICSに加わるのである。サウジアラビア、UAE、イランが加わることで、BRICSは世界の原油生産量の41%、人口の46%、国内総生産(GDP)の36%を占めることになり、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカからなる主要7カ国(G7)の経済規模を上回ることになる。
世界の多極化が進むなか、中東やアフリカ諸国がBRICSに加わることになった背景には何があるのだろうか。本稿では、エジプトがBRICSに参加することで何を得ることができるのかを考えることで、その答えを探っていく。
BRICSとグローバルサウスの関係
BRICSは2009年、アメリカ主導の世界秩序に対抗し、多極的な世界秩序を形成するために、非西欧の新興経済大国によって結成された。BRICS設立の直接的な契機となったのは、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマンショック)である。この世界金融危機は、1929年の世界恐慌以来最悪の景気後退であり、世界経済に深刻な影響を与えた。なかでも低所得の発展途上国は、金融危機の原因とは無関係にもかかわらず深刻な景気後退を経験するなど、他国よりも大きな打撃を受けた。これ以降、欧米型資本主義経済モデルは多くの批判にさらされるようになる。BRICSが設立当初に要求したのも、世界的な金融システムの再編や欧米主導の国際金融機関における発言力の強化であった。
2023年のBRICSサミットも、国際機関やグローバル・ガバナンスの改革を求める声が再燃するなか開催されたことで注目を集めることになった。2018年にドナルド・トランプ米大統領が始めた米中「貿易戦争」につづき、2022年にはロシアがウクライナに侵攻して戦争状態に陥った。これに対して欧米諸国はロシアに対する経済制裁を発動した。ロシアの中央銀行の資産を凍結したり、ロシアの銀行を国際決済ネットワークの国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除したりするといった形で、ドルベースの世界金融が武器として利用されている。この2つの「戦争」は、世界経済のさらなる地政学的分断を引き起こしている。さらに、アメリカの積極的な金融政策が招いたドル高は、食料品やエネルギー価格を上昇させ、グローバルサウスの新興市場により深刻な影響を与えている。
アフリカ、アジア、ラテンアメリカに位置するグローバルサウスのほとんどの国は、ウクライナ戦争や米中貿易摩擦に対して中立的な立場である。これらの国々は、世界の地経学的重心が西欧諸国から中国・アジアに移りつつあることを知っている。彼らは、ウクライナ戦争は「我々の戦争ではない」という姿勢で一貫している。彼らが懸念しているのは、ウクライナ戦争がエネルギーや食糧の需給にどのような影響を与えるかであり、どうやって国民を守り、気候変動に適応していこうかという点なのである。
政治的には、BRICSは米ドル以外を使った貿易を増やすことで、新興経済国の米ドル依存を下げたいと考えている。また、欧米のシステムから独立した、あるいは補完する金融システムの確立を目指している。2022年6月、ロシアのプーチン大統領は、BRICS加盟国の通貨バスケットに基づく新たな準備通貨を開発すると発表した。それに先立つ2014年には、BRICS加盟国によって上海を本部とする「新開発銀行(NDB)」が設立されている。NDBは、現地通貨によってインフラ・プロジェクトの資金調達を行うことを目的に、世界銀行に代わるグローバルサウスのための銀行として設立された。このNDBには現在、エジプト、バングラデシュ、UAEといったBRICS以外のメンバーも加盟しており、ウルグアイも加盟を申請中だ。
BRICSは、欧米に挑戦するグローバルサウスの国際協議体であると自らを位置づけてきた。そうした方向性は、現在の国際的な権力構造から置き去りにされてきたと感じている多くの発展途上国の共感を呼んでいる。しかし、BRICSが今後直面すると思われる課題もある。ひとつは、BRICS加盟国がグローバル・ガバナンスに求める改革とは一体何なのかを明確にできるかどうか。もうひとつが、BRICS域内の貿易を前例のない方法で促進するために協力できるかどうか、である。
さらに、BRICSが拡大するにつれ、現メンバーと新メンバーの間に深刻な亀裂が生じる可能性もある。例えば、ロシア、中国、イランといった国はアメリカと対峙する立場をとっていて、アメリカによる支配やアメリカの外交政策上の利害や目標に正面から対抗する姿勢を鮮明にしているのに対し、インド、ブラジル、エジプト、サウジアラビア、UAEといった他のBRICSメンバーは、欧米との良好な関係や同盟関係を維持しようとするかもしれない。G7とは異なり、BRICSメンバーには民主主義という共通の政治システムも、自由主義といった共通のイデオロギー的基盤もない。これらの国々に共通しているのは、欧米主導の世界秩序への依存度を下げ、世界の政治・経済・金融システムを再構築しようという点なのである。しかし、拡大したBRICSが、加盟国間でそれぞれ異なる野心、願望、態度を抱えながらどのように運営できるかは、まだはっきりしていない。
BRICS新規加盟国に中東諸国が選ばれた理由とは?
2023年のBRICS議長国である南アフリカによると、40カ国以上がBRICSへの加盟に関心を示し、20カ国以上がBRICSへの加盟を申請していた。2023年8月のサミットには71カ国の代表が招待された。加盟審査のための基準はないが、中東とアフリカの国々がBRICSの新規加盟国に選ばれたのには、いくつかの理由がある。まず最大の理由は、新メンバーがそれぞれの地域で地政学的・地経学的に重要な国であるということである。BRICSは、そうした地域大国をメンバーに加えることで世界的な影響力の拡大を図ろうとしている。
中東からは、サウジアラビア、UAE、イランという産油大国が加わったことが大きい。これら3カ国は石油輸出大国であるという点で重要だが、長らく敵対関係にあったイランとサウジアラビアが同時に加盟したことの意味も重要である。この両国は2023年4月に国交正常化を果たしたが、そこで極めて重要な役割を果たしたのが中国である。これら3カ国のBRICS加盟は、中東地域の安定に対する中国のコミットメントを強調することにもなった。
一方、湾岸協力会議(GCC)諸国も、近年、地域秩序の安定のためにアメリカだけに依存するという考え方に疑問を抱くようになっていた。これら中東の国々は、冷戦終結後、アメリカがアフガニスタン、イラク、リビアに侵攻しながら地域紛争を悪化させ、パレスチナ・イスラエル紛争を含む地域問題の解決にことごとく失敗してきたことをみてきた。GCC諸国は、アメリカがもはや中東における支配的な覇権国ではないことを認識するようになったのである。それは、ビル・バーンズCIA長官の2023年7月の以下のような発言を聞けば容易に分かることである。
「もはやアメリカだけが地政学上の大国である世界ではない。……中立的なミドルパワーの重要性が増している。民主主義国か独裁国か、先進国か発展途上国か、グローバルサウスかどうかを問わず、どの国々も戦略的自律性を拡大し、自らの選択肢を増やすために、外交関係を多様化しようと躍起になっている。これらの国々は、単一的な地政学的関係にはほとんどメリットがなく、リスクが大きいと考えている。」
中東に強力な軍事的プレゼンスを有するアメリカは今後もGCC諸国に安全保障を提供する存在であり続けるであろうが、一方でGCC諸国は、中国やインド、韓国、シンガポールなどのアジア諸国が台頭したことに対応する形で、何年も前から「ルック・イースト」政策をとってきた。これらアジア諸国も、石油や天然ガスの必要性から、貿易や投資などを通じて中東に接近してきた。アメリカがエネルギー自立化を進めていることから、GCC諸国は西側諸国ともBRICS加盟国とも関係を深めることで利益を得ようと考えているのである。
BRICS新規加盟国にアフリカ諸国が選ばれた理由とは?
今回、アフリカからは北アフリカを代表するエジプトと、「アフリカの角」1と呼ばれる地域を代表とするエチオピアが新たに加盟した。南アフリカにこの2カ国が加わることで、アフリカはBRICSにおいて大きな発言権を持つことになった。
エジプトの重要性は、その地政学上の位置とスエズ運河を所有しているところにある。中東・北アフリカ地域には地球上で最も重要な貿易ルートが通っているが、とくに地域貿易と世界貿易にとって重要なのは、地中海と紅海、インド洋を結ぶスエズ運河である。世界の輸送コンテナのおよそ30%がスエズ運河を通過し、これは世界貿易の約12%を占めている。スエズ運河の南、紅海からアラビア海に入るところには、イエメン沖のバブ・エル・マンデブ海峡という戦略的要衝があり、毎日600万バレル以上の石油がここを通過している。エジプトがBRICSに加盟することで、スエズ運河の安全保障に対する懸念が和らぐのである。
また、人口1億人を超えるエジプトは、巨大な消費財市場として成長を続けており、ビジネスや投資にとっても魅力的である。このため、GDPが他の加盟国合計の2倍以上あるBRICSの大国・中国にとってエジプトは重要な存在となっている。過去10年間で、エジプトと中国の関係は、「一帯一路」構想(BRI)、港湾開発や運営への中国企業の参画、軍事協力など各方面で顕著に拡大してきた。
同様に、人口1億人を超えて急成長中のエチオピアは、中国がインフラ・プロジェクトに数十億ドルの資金を提供していることに表れているように、BRIの戦略上、東部アフリカにおける最重要国である。アフリカ連合(AU)の本部もエチオピアの首都アディスアベバに置かれている。そのうえ、エチオピアは、国際河川の上流域にあることから水力発電の大きな潜在力を持っており、東アフリカ全域に政治的影響力を及ぼしうる存在でもある。
BRICS加盟におけるエジプトの狙い
エジプトは基本的に西側寄りの国家である。ただし、中東と北アフリカにおける地政学的中心に位置するため、政治指導者は域外国の間でバランス外交を展開し、大国間競争をうまく利用することができた。エジプトの外交政策は、自国の経済的弱点や海外援助(特に融資)への依存という問題にどう向き合うかという問題と密接に関連している一方、地域の安全保障と政権・政治エリートの安定をどう確保するかという問題とも絡み合ってきた。
エジプトは、BRICSに加盟することで国際金融機関へのアクセスを拡大し、外国投資の流入を増やし、深刻化する外貨不足と経済危機を緩和しようとしている。近年では、ロシアのウクライナ侵攻が、小麦価格の高騰、輸入コストの上昇、外貨準備高への圧迫といった問題を引き起こし、エジプト通貨の価値に大きな影響を与えている。2022年3月から2023年8月にかけて、エジプト・ポンドは対ドルで約50%も減価した。このような経済的に厳しい状況のなか、エジプトは、BRICSに加盟することによって、投資機会を増加させることができると考えているのである。
エジプトにとって最大の貿易相手国でもあり投資国でもある中国は、新行政首都、スエズ運河特別経済区、発電所などインフラ建設のための投資や融資を数十億ドルの規模で行っている。エジプトとBRICS創設国および新規加盟国との貿易は、同国の対外貿易総額の3分の1以上に達する。エジプトの中央動員統計局(CAPMAS)によると、2022年にエジプトの輸出先国としてBRICSの中で1位だったのはインドで、2位が中国だった。CAPMASのデータによると、BRICS諸国からエジプトへの投資は、2020/2021会計年度の6億1090万ドルから2021/2022会計年度には8億9120万ドルへと45.9%増加した。
エジプトは、BRICSに加盟すれば、NDBを通じてより容易に資金調達を行えるようになることも期待している。なぜなら、NDBはインフラ建設や開発プロジェクトを実施する加盟国に対して、国際通貨基金(IMF)よりも緩やかな条件で借款(ソフトローン)を提供してくれるからである。エジプトの政治指導者たちは、将来的にBRICS加盟国との間で自国通貨建ての貿易が増えれば、外貨圧力が低下し、米ドルに対する需要が減少することも期待している。2023年8月にはインフレ率が前年同月比で40%という過去最高を記録し、食料品・飲料品価格だけでみれば71.9%を記録したが、BRICSに加盟することによってこうしたインフレも抑え込むことができるかもしれない。
エジプトは世界最大の小麦輸入国で、その80%近くがロシアとウクライナから輸入されている。その小麦を原料とするパンの値段は、エジプトでは非常に重要な問題である。人口の30%以上が貧困ライン以下で生活していることもあって、政府は何十年もの間、パンに対して補助金を出し、その価格をきわめて低く抑えてきた。パンの価格を引き上げることが社会不安につながるということは、1977年の「パン蜂起・暴動」2ですでに証明されている。エジプトを30年近く支配したホスニ・ムバラク大統領を失脚させた2011年の大衆蜂起のスローガン(パン、自由、尊厳)の最初の言葉がパンだったのも偶然ではない。エジプト、ロシア、インドは、小麦や米を自国通貨で取引することについて話し合っている。このような措置が実施されれば、エジプトはBRICSを通じて戦略物資の基本的ニーズを満たすことができるようになる。前回のBRICSサミットでエジプトは、食料安全保障を確保し、戦略的な備蓄を維持するために、国内に世界的な穀物貯蔵センターを設立する提案を行ってもいる。
エジプトの進むべき道
中東と北アフリカの国々が、多極化が進む世界にあわせて外交政策を調整することは当然である。西側諸国との強固な関係を維持すると同時に、アジアやグローバルサウスで生まれつつある新たな機会を活用しようとしているのだ。これが、エジプト、サウジアラビア、UAEがBRICSに加入する背景となっている。エジプトのメディアや世論は、BRICS加盟を自国の経済危機を解決するための政治的勝利と見なしている。
しかし、BRICSに加盟するだけでは、苦境にあるエジプト経済の解決策にはならない。エジプトは過去10年間に借金を繰り返した結果、2015年に400億ドル以下だった対外債務は2022年12月には1629億ドルにまで増えてしまった。エジプト・ポンドは2022年3月以降、対ドルで50%以上も減価している。現在エジプトは、約50億ドルの新規融資に向けてIMFと協議中だが、大きな障害となっているのが通貨管理だ。基本的に、IMFや他の債権国は、エジプトがさらに通貨を自由に変動させることを望んでいる。しかし、これはインフレを悪化させ、エジプト国民が食料品やその他の基本的必需品を買うことを困難にさせるのである。
エジプトは、外貨獲得手段として、スエズ運河からの収入、海外で働くエジプト人からの送金、そして観光業に大きく依存しているため、世界的な経済危機や地域の混乱に対して脆弱である。エジプトがBRICS加盟から有意義な結果を得るためには、慢性的な貿易赤字(財輸入は財輸出のほぼ3倍)、外貨不足、対外借入金が過去8年間で4倍になった結果として積み上がった多額の対外債務返済といった問題を解決しなければならない。BRICS加盟国への輸出額は約50億ドルだが、BRICS加盟国からの輸入額は260億ドルを超える。つまり、BRICSに加盟することによる輸出や投資の機会を活かすためには、エジプトは製造業の力を構築し、BRICS加盟国のサプライチェーンとの統合を進めることで競争力を向上させ、BRICS加盟国との貿易バランスを再構築する必要があるだろう。

注1 「アフリカの角」とは、インド洋と紅海に向かって「角」のように突き出ているアフリカ大陸東部地域のことを指す。この地域は、紅海とアデン湾への主要な入り口であるため、世界で最も戦略的に重要な地域のひとつと見なされている。
注2 1977年1月、小麦粉、食用油やその他の生活必需品の価格を値上げするという政府の決定が引き金となり、エジプト全土の主要都市でこの決定に反対する民衆の暴動が起きた。政府は軍の支援を受けて、暴動を容赦なく鎮圧し、多数の死傷者が出た。政府が食糧補助金を復活させ、補助を拡大したことで、「パン蜂起・暴動」は終結した。
●ロシア大統領選挙と戦争 12/20
来年三月投票のロシアの大統領選挙にプーチン大統領が通算五期目を目指して立候補を表明しました。ウクライナとの戦争の中での大統領選挙となります。1000キロを超える前線では今も砲弾が降り注ぎ多くの兵士が戦死しています。しかしプーチン大統領は、戦争目的は変わらないとして軍事侵攻をあくまで継続する強硬な姿勢を示しています。一方ウクライナは、プーチン大統領が選挙を政治的な圧力に利用してくることを警戒しています。戦争の中で行われるロシア大統領選挙について考えてみます。
プーチン大統領は、17日与党・統一ロシアの党大会で、次のように述べて、欧米への対決姿勢を鮮明にするとともに、ロシアの独自性を強調しました。
「ロシアは、他のどこかの国ようにソーセージの代わりに主権を売り渡し、誰かの衛星国となってはならない。我々は子々孫々までこの一点を肝に銘じなければならい。ロシアは主権を持ち、自己充足的な大国であるか、それとも存在しないかだ」
主権という言葉はプーチン大統領にとって特別な意味を持ちます。他国の影響を排除し、自らが決定できる権利という意味で、欧米、特にアメリカへの強い対抗心を意味する言葉です。ロシアが独自の文化と歴史を持ち、主権を維持する大国でありたいと思うこと、それ自体は、異論はありません。しかしそのことが隣国ウクライナの主権を冒し、領土を奪うことを正当化する理由には全くなりません。
さてロシア大統領選挙は来年2024年3月15日から17日までの3日間投票が行われます。プーチン大統領は与党の代表としてではなく、無所属で立候補します。国民全体の大統領という点を強調するためです。投票率70%、得票率80%という極めて高い目標での圧勝を狙っています。
12月8日プーチン大統領は、クレムリンでウクライナでの特別軍事作戦に参加した兵士らに英雄勲章を授与した後、特別軍事作戦の参加者や戦死した兵士の母らの要請に応えるという形で立候補を表明しました。
「私は、我々が再統一した領土であるドンバス全土を代表して、あなたに選挙への立候補をお願いします。あなたは我々の大統領であり、ロシアもあなたを必要としています」
「今は決断を下すことが必要な時だ。私は大統領選挙に立候補する」
この軍人はドネツク出身で、親ロシア派の司令官だった息子が去年5月に戦死し、息子に代わって部隊の司令官となっています。ロシアの大統領選挙に占領したウクライナの領土を組み込むことで、ロシアが実効支配していると誇示するとともに、占領地がロシアの“不可分の領土“だとロシア国民に意識させようという意図を感じました。
プーチン大統領は今回の選挙を、5期目を目指す自らへの信任とともに、ウクライナへの軍事侵攻への信任投票とする意図があるように思えます。極めて戦時色の強い選挙となるでしょう。
では戦争は選挙に影響はしないのでしょうか。ロシアでも戦死者の数が増え続けています。豊かなモスクワでは見えませんが、日本で言えば県庁所在地にあたる都市でも、街の英雄として戦死者を讃える記念碑が目立って増えてきています。極東サハリン州のリマネンコ知事は州内から派兵した兵士が亡くなるたびに追悼のSNSを投稿していますが、去年は毎月平均八人だったのが、今年に入ってから増加して10月には36人、11月には43人と急増しています。地方では戦争の影がじわじわと濃くなってきているのです。
プーチン氏にとって追い風となっているのは、ロシア経済がIMFの見通しでもプラス2.2%の成長に転じていることです。しかしこの経済成長は戦争に注ぎ込む資金が経済を回しているという側面があります。契約兵に支払われる給与は20万ルーブル、日本円で32万円前後、ロシアの地方にとっては非常に良い給与です。契約兵への給与がいわば直接給付金のような役割を果たし経済に寄与しているという残酷な現実もあるのです。
ではウクライナはこのロシアの大統領選挙をどのように見ているのでしょうか?
ロシアが一方的に併合を宣言したドネツクやヘルソンなど東部南部の4州、そして2014年に同様に一方的に併合したクリミアというウクライナの領土で大統領選挙を強行することに強い憤りを感じています。ウクライナ外務省は、「国際法に違反し、不法であり無効である」との声明を発表しました。
さらに問題なのは、ロシアの中央選挙管理委員会がウクライナパスポートを持っている人つまりロシアパスポートを所持していない住民にも大統領選挙の投票を認めるとしたことです。ウクライナの主権の明白な侵害であるとともに、おそらくこの地域の投票で大規模な投票結果の操作が行われることの前触れであるように思えます。
実はウクライナも戦争が無ければロシアと同じく、2024年3月に大統領選挙が行われることになっていました。ロシアの侵略によって国土が占領され、戒厳令を敷く中、ゼレンスキー大統領は選挙の延期を決断しています。
プーチン大統領は、自らは民意を問うたのに対してゼレンスキー大統領は民意の信任を得ていないとして、その正当性に疑念を持たせるような言説で圧力をかけてくるでしょう。今は東部でロシアは攻勢に転じています。しかし選挙戦の中でロシアの側から平和攻勢をかけてくることもあるかもしれません。ウクライナはロシアの選挙を利用した政治的圧力と偽の“平和攻勢“をかけてくることを警戒しています。
ではこうしたプーチン大統領の戦略に死角はないのでしょうか。私はあると思います。
ロシアの独立系世論調査機関によりますと平和に向けた交渉の開始を支持する人は57%に上り、大統領に聞きたいことの第一の質問も戦争がいつ終わるかです。
プーチン大統領は14日の国民との対話で平和がいつ来るかと言う質問に「ロシアの戦争目的が達成された時だ」と戦争継続を明言し、質問に直接は答えませんでした。
私が注目しているのは獄中にいる反プーチンのリーダーナワリヌイ氏の動きとその呼びかけにロシア国民がどの程度応えるかです。ナワリヌイ氏は大統領選挙を利用して、周囲の10人を説得して反プーチンに、そしてプーチン大統領以外の候補者に投票するように呼びかけています。戦争に否定的な候補者も立候補する動きを見せています。こうした候補者が立候補するためには30万人の署名が必要であり、こうした署名活動に協力することで戦争反対の意思を示そうと呼びかけているのです。
ナワリヌイ氏は2012年の大統領選挙で同じような戦略を取り、反プーチン層を結集させ、プーチン氏の得票率を64%まで大きく引き下げました。今も世論調査では、戦争支持が75%と多数派を占めていますが20%前後の戦争反対の世論は存在しており、2012年の再現を狙っているのです。
ただ自由の身だった2012年と比較して今はナワリヌイ氏は牢獄の中、さらに監獄から監獄に移動中という理由で弁護士との連絡さえここ10日以上途絶されています。非常に厳しい状況です。しかしナワリヌイ氏の呼びかけは彼の同志や支持者によってSNSで拡散しています。この声にロシア国民の勇気がどの程度反応するのか、私は注目しています。
茶番とも言われる大統領選挙の中で押さえつけられていた戦争反対の声がどの程度出てくるのか、そして万全とも見られるプーチン体制を少しでも揺るがすことにならないのか、私は社会の内面の声に耳を傾け見守りたいと思っています。
●一極支配の世界の終わり…日本は「米国のポチ」のままでいられるのか? 12/20
米英イスラエルなどによる世界一極支配が行き詰まりを見せています。国連総会は今月12日、イスラエルがパレスチナのガザに進行する戦闘について、緊急特別会合を開催。そこで「人道目的による即時停戦」決議を、153か国の賛成で可決しました。これに反対したのは、イスラエルや米国など10か国にとどまり、世界がイスラエルの強硬姿勢に反発を表明するようになりました。そのなかで日本は、いつまでも第二次大戦の敗北に引きずられ、「米国のポチ」でいるわけにはいきません。
世界一極支配に「行き詰まり」
米英イスラエルなどによる世界一極支配が行き詰まりを見せています。
国連総会は今月12日、イスラエルがパレスチナのガザに進行する戦闘について、緊急特別会合を開催。そこで「人道目的による即時停戦」決議を、153か国の賛成で可決しました。
これに反対したのは、イスラエルや米国など10か国にとどまり、世界がイスラエルの強硬姿勢に反発を表明するようになりました。
この世界的世論の動きを見て、米国のバイデン大統領もこれまでのイスラエル全面支持の姿勢を修正。一般市民の犠牲者を増やさないよう、配慮を求めました。イスラエルのネタニヤフ首相との距離感が目立つようになりました。
ねじれる2つの戦争
現在、ウクライナとイスラエルとで、2つの戦争が同時進行しています。
ウクライナ戦争はNATOの東進が刺激となってロシアがウクライナ・NATO連合軍を相手に戦っています。そして今年10月7日にはハマスがイスラエルを急襲、イスラエルはこれを機に「ハマスせん滅の戦争」を開始しました。
これらの戦争、ある意味では米英やイスラエルを中心とした「世界一極支配勢力」と、ロシアやアラブなど多極化グループの闘いとも言えます。世界一極支配勢力は、世界の分断・紛争を利用して自らの世界支配を進めようとします。
ウクライナ戦争では彼らがウクライナを利用してロシアを戦争におびき出した面があり、ロシアの力を疲弊させようともしました。
イスラエル戦争では一極支配勢力が裏でハマスに武器弾薬と情報を与え、イスラエルを急襲するよう仕向け、イスラエルはそれを承知の上で犠牲者を出し、怒りと怨念をエネルギーとしてハマス、したがってパレスチナ人の一掃を企てた、との見方があります。ハマスを凶悪なテロ組織とあおって、そのせん滅を正当化しようとしました。
このうち、先に始めたウクライナ戦争が、意図に反してウクライナ・NATO連合の苦戦となり、NATOにウクライナ支援疲れが見える一方、ロシアが勢いを強めています。分断・紛争で世界を不安に陥れるまでは作戦通りでよかったのですが、核保有国ロシアを追い詰めてはいけないと配慮する間に、ウクライナ・NATO連合が劣勢となっています。
一時はロシアの劣勢が盛んに報じられ、ロシアの敗退は時間の問題との認識が広がり、ウクライナ市民の悲劇報道は限られました。このため、イスラエルに対するものと異なり、人道的観点からロシアを非難する動きは高まらず、逆にロシア支援の国も少なくありません。米国は共和党の反対でウクライナ支援の予算が組めず、「金の切れ目が縁の切れ目」になりかねなくなりました。
ウクライナ戦争の行き詰まりから、世界支配勢力は舞台をウクライナからイスラエルに移した面もあります。「9.11」や「パールハーバー」にならって、ハマスをテロ組織に仕立て上げ、これを一掃する戦争を正当化しました。そして、圧倒的な軍事力の差からイスラエルが圧勝の状況となりました。
つまり、世界一極支配勢力からみると、ウクライナ戦争は劣勢となり、イスラエル戦争では圧勝と、「ねじれ」現象が見られます。しかも、イスラエルの圧倒的軍事力からパレスチナの一般国民が多数犠牲になる状況が連日報じられ、イスラエルが逆に世界から敵視されるようになりました。
行き詰まった一極支配
結局、ロシア対米国、イスラエル対ハマスの闘いは、世界一極支配勢力対多極化勢力との戦いで、前者は多極化のロシアが、後者では一極支配の米イスラエルが優勢という「ねじれ」の形になっています。しかも、イスラエル戦争では米国がイスラエルの強硬路線についてゆけず、チームの分断も見られます。それだけ一極支配が行き詰まった形に見えます。
少なくともイスラエル戦争では国連総会での特別停戦決議に153か国が賛成し、イスラエル・米国など10か国の反対で、一極支配勢力は苦しい立場となりました。一極支配勢力も英国では時のジョンソン首相がすでに退き、バイデン大統領とネタニヤフ首相の関係にも溝ができました。そしてバイデン大統領の再選も厳しくなりました。
米英などの一極支配勢力は、米英の力の衰退のなかで、中国習近平体制を看板にして世界支配を進めようとしましたが、習近平国家主席がその任にあらずということが判明し、このシナリオも行き詰まりました。
中国はイスラエルともイスラム勢力ともうまくいっていません。中国は一極支配勢力にかつがれて動くことは難しくなり、むしろロシアなどとともに、アジア・ユーラシアでの多極化の一端を担う可能性があります。
問われる日本の立ち位置
バイデン政権の保護のもとに成り立ってきた日本の岸田政権はこれまでのどの政権にもまして米国盲従の姿勢でしたが、米国の安倍派たたきのあおりを受け、岸田政権自体の基盤が揺らいでいます。
岸田政権が生き残ったとしても、一極支配のバイデン政権の支援にも限度があり、米国が共和党政権となれば、岸田政権は存立基盤を失います。そうなると改めて日本の立ち位置が問われます。安倍派のキックバック問題を機に、自民党、日本の政治自体が「ガラガラポン」を迎えようとしています。
これまでのしがらみ、膿を出し切った後は、新しい世界の中でまだ一極支配勢力に加わるのか、はたまた縄文古来の日本の行動様式にのっとり、多極化の中で日本が1つの大きな安全地帯になるのか、分岐点に差し掛かっています。
日本の外交を考える時
争いは好まず、地球資源を皆で共有し、利用させてもらい、万物に神が宿るとする縄文日本は、好戦的な多民族からは煙たがれ、ついには第二次大戦でとことんたたかれました。
しかし、アイヌや沖縄の先住民のみならず、彼らの系譜を引いた日本民族は、世界から見れば異質ながら、一目置かれる存在でもあります。
いつまでも第二次大戦の敗北に引きずられ、「米国のポチ」でいるわけにはいきません。一極支配勢力にも多極化勢力にも属さない日本が、世界平和のリーダーとして世界で動く余地が大きくなったことを自覚して、日本の外交を考える時です。
●EU首脳、ウクライナとのEU加盟交渉開始合意も、追加支援策の承認持ち越し 12/20
欧州理事会(EU首脳会議)が12月14〜15日にブリュッセルで開催され、ウクライナ支援や、中東情勢、EU拡大・改革、多年度財政枠組み(MFF)、安全保障・防衛、移民政策などに関する総括を採択した(プレスリリース)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。
EU拡大に関し、欧州委員会が11月に勧告したウクライナとの正式な加盟交渉の開始(2023年11月10日記事参照)は欧州理事会で承認された。モルドバの加盟交渉の開始と、保留となっていたジョージアの加盟候補国の認定も承認された。ボスニア・ヘルツェゴビナの加盟交渉の開始に関しては、欧州委から2024年3月までに加盟基準の順守状況の報告を受けて決定するとした。このほかの加盟交渉に関して、北マケドニアに対しては法改正への取り組み、西バルカン諸国に対してはEUのルールと基準に基づいた改革への取り組みをそれぞれ加速するよう呼びかけた。
会談後の記者会見で、欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は、加盟国拡大は平和、安全保障、繁栄への投資であり、この決断はEUや加盟候補国の市民、世界に対する強い政治的メッセージだとした。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長も、EUとしての有言実行の姿勢を示し、民主主義への大きな投資だとした。一方、現地報道によると、ウクライナとの加盟交渉開始に反対していたハンガリーのオルバーン・ビクトル首相は採決の際、一時退席するかたちで「棄権」し、その他の加盟国による「全会一致」での合意だった。
ウクライナ追加支援策を含むMFF修正案は合意できず
欧州委が6月20日に発表したEUの2021〜2027年中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF)の修正案(2023年6月27日記事参照)に関しては、ハンガリーを除くEU加盟26カ国が支持した。フォン・デア・ライエン委員長は、MFF策定時には想定されていなかった複数の危機への対応には追加予算と予算の組み替えが必要で、合計646億ユーロに上る新たな優先事項に関し、26カ国の支持を得したとした。第1の優先はウクライナへの継続的支援(500億ユーロ。うち補助金170億ユーロ、融資330億ユーロ)。次いで、移民対策・難民支援(96億ユーロ。うち移民・国境対策20億ユーロ、難民支援など76億ユーロ)。域内産業の競争力を強化するための「欧州戦略技術プラットフォーム(STEP)」の下での欧州防衛基金(15億ユーロ)、特別財源(20億ユーロ)、連帯・緊急援助準備金(SEAR)(15億ユーロ)が続いた。ミシェル常任議長は、2024年初めに特別欧州理事会を開催し、全会一致での合意を目指すとした。
このほか、前回10月の欧州理事会(2023年10月30日記事参照)で明記したロシアへの追加の経済制裁に関しては、第12弾パッケージを採択することを支持した。中東情勢については、パレスチナ自治区ガザ地区への人道的支援を最優先すると確認したものの、新たな声明の発表には至らなかった。現地報道によると、アイルランド、ベルギー、スペイン、スロベニアは人道的停戦の必要性を訴えたものの、加盟国内で意見はまとまらず、先の声明を維持するかたちとなった。
●「国民支援は蔑ろ」ウクライナに6500億円追加支援表明にネット民の不満爆発 12/20
12月19日、先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議がオンラインで開催された。議長を務めた鈴木俊一財務相(70)は会議終了後、日本政府として総額45億ドル(約6500億円)のウクライナへの追加支援を行う用意があると表明。支援の財源は2023年度補正予算や24年度予算から捻出する考えで、鈴木氏は記者団に対し「国際社会の中で貢献ができたのではないか」と振り返った。
安倍晋三元首相の時代から、フィリピンに5年間で1兆円規模の支援実施を決めるなど、国外への経済支援は数多く実施されてきたが、岸田政権に対しては「海外で資金をばらまいている」という批判が特に目立つ。財務省の4月の発表によると日本の’22年のODA実績は、円安で目減りしたものの円ベースでは前年比18.7%増の2兆2,968億円と、米独に次いで3位となっている。
「岸田政権になって以降、経済支援が活発になっているのは事実です。背景には、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、世界的な食料・エネルギー価格の高騰など支援する理由が増えたこともあります。国際情勢が安定することは日本にとっても国益となる上に、国際社会での日本の立場を考えれば必要なものではあるでしょう。
とはいえ、物価の高騰や実質賃金が18カ月連続で低下するなど、庶民の生活は厳しさを増しています。租税負担率と社会保障負担率を合計した “国民負担率”は約5割にのぼり、働いても税金や社会保険料で可処分所得が増えない。さらにショボい所得減税政策を打ち出したと思ったら鈴木財務相が”財源はない”と言い出し、トドメは自民党の巨額のウラ金問題。海外への支援は必要ですが、あまりにも国民生活が軽視されている現状で、不満が加速するのは避けられないでしょう」(経済部記者)
SNS上では、海外への支援金に対する怨嗟の声が溢れている。
《ホントいい加減にしろよ。納税してる自国民が苦しくなっているのに、他国支援する余裕あるのか?》
《国民支援は蔑ろにして更に増税、海外支援は積極的にバラマキ大盤振る舞い。こんな馬鹿げた政治、さっさと終わらせないと暮らしが立ち行かなくなる》
《岸田内閣と自民党を支持してる16〜7%の人たちで支援しろよ ふざけんなクソ自民》
《貧乏国なのに金持ちヅラして、ふざけるな、です》
《今の日本政府に金の使い道を決めて欲しく無い。出来る事なら納税すらしたくないよ》
《日本国民から取り上げて海外にはバラマキ キックバックでもあるのか》
もはや国民は爆発寸前だ。

 

●EU裁判所、ロシア富豪アブラモビッチの訴え棄却 制裁は「正当」 12/21
欧州連合(EU)司法裁判所の一般裁判所は20日、ロシアのウクライナ侵攻を巡って科されたEUの制裁に異議を唱えていたロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチの訴えを棄却した。
ルクセンブルクにある同裁判所は、アブラモビッチがロシアで最も多くの税金を納めている企業の1つである鉄鋼大手エブラスの大株主であることから、EUがアブラモビッチを影響力のある実業家として制裁対象に加えたのは正当だと判断。アブラモビッチの資産を凍結し、EU域内への渡航を禁止する制裁を支持した。また、制裁は自身の権利を侵害しているというアブラモビッチの主張を退けるとともに、風評被害に対する損害賠償請求も棄却した。
ロイター通信によると、原告の代理人は、アブラモビッチが判決に失望していると説明。「ロシアを含むいかなる政府の意思決定にも影響を与える能力はなく、(ウクライナ)戦争から利益を得たことなど断じてない」と言明し、アブラモビッチがロシア政府から恩恵を受けたという考えを否定した。
今回の判決を不服として上訴することもできるが、アブラモビッチの今後の対応については今のところ分かっていない。代理人は、EU理事会が提示したアブラモビッチの制裁対象入りを支持する複数の論点について、裁判所は考慮していないと指摘した。「アブラモビッチ氏に対する制裁を維持するという裁判所の決定は、裁判所が純粋にアブラモビッチ氏を『ロシアの実業家』と定義したことに基づいている。これは今日の極めて広範なEU規制の下では、たとえ戦争とは無関係の事業部門の単なる受動的株主に過ぎなかったとしても、制裁を継続するには十分だということだ」
アブラモビッチは、ウクライナ侵攻を巡りEUを含む西側諸国から制裁を受けた数多くのロシアの著名人の1人だ。西側の政府が科す制裁の多くは渡航禁止や資産凍結を含んでおり、ロシアの要人に対する圧力を強め、同国政府の財源を締め付けることを目的としている。
EUは制裁を科した際、アブラモビッチはロシアを代表する実業家であるとともに「ロシア連邦政府の実質的な収入源」だと指摘。さらに、アブラモビッチは「クリミア併合やウクライナの不安定化に責任を負うロシアの意思決定者」とのつながり、とりわけウラジーミル・プーチン大統領との「長く密接な関係」から利益を得ており、それによって「かなりの富を維持する」ことができたと主張した。アブラモビッチはプーチン大統領が推し進めるウクライナ侵攻から利益を得ていることを強く否定しているが、英政府からも標的にされ、最終的には20年近く所有していた英サッカー・プレミアリーグの強豪チェルシーの売却を余儀なくされた。
フォーブスは、アブラモビッチとその家族が所有する資産額を90億ドル(約1兆3000億円)相当と推定している。資産の多くは、鉄鋼大手エブラスと金属大手ノリリスク・ニッケルへの出資から得られるもので、アブラモビッチはロシアで最も裕福な人物の1人となっている。
●ロシア国籍取得…直後に軍への召喚状 手渡される様子の映像公開 12/21
ロシアでロシア国籍の取得を希望する人が、宣誓式の直後に軍関係者から召喚状を手渡される映像が、20日に公開されました。
公開されたのはサンクトペテルブルクの内務局で行われたロシア国籍を取得するための宣誓式の様子です。内務局によりますと、近隣諸国の出身者11人がロシア国籍の取得を希望し、国民になるための式典に出席しました。
映像では、希望者が書類を提出した後、「ロシアに忠誠を誓う」との宣誓文を読み上げ、直後にロシア軍の関係者から、軍への召喚状を手渡される様子が映っています。
ロシア軍の兵士をめぐってはショイグ国防相が19日の会議で、「毎日1500人以上が兵役を志願している」「ロシア側で戦おうとする外国人志願兵の数は7倍に増加した」などと述べていました。
また、プーチン大統領も14日の会見で「第二次の動員は必要ない」と説明していました。
●ロ大統領選、女性議員が立候補届け出=リベラル派初、プーチン氏に挑戦 12/21
来年3月のロシア大統領選に向け、独立系の女性地方議員エカテリーナ・ドゥンツォワ氏(40)が20日、立候補を届け出た。書類を受理した中央選管は、5日以内に出馬の可否を判断。認められた場合、無所属での立候補に必要な30万人分の署名集めに移る。
届け出は通算5選を目指すプーチン大統領に続くもので、リベラル派からは初。現在はモスクワ北西のトベリ州ルジェフ市議を務めている。
最近までほぼ無名で、現地メディアは「3児の母、法律家、ジャーナリスト」と紹介。ロシアのウクライナ侵攻に反対しているほか、「(プーチン氏の政敵の元石油王)ホドルコフスキー氏に支援されている」(ロシア通信)といわれ、出馬を認められるかは不透明だ。
●ウクライナ戦闘継続に暗雲、米議会が年内の支援承認を断念… 12/21
米議会は19日、ロシアの侵略を受けるウクライナに対する支援に関する追加予算の年内承認を断念し、ウクライナの来年以降の戦闘継続に暗雲が漂っている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日、キーウで開いた記者会見で「レジリエンス(回復力)を維持すれば、戦争を早く終わらせることができる」と国民を鼓舞した。「米国は裏切らないと確信している。(支援が)どう(戦況に)影響するか彼らはよく分かっている」と最大の支援国への信頼を強調した。
しかし、この記者会見の後、米議会の「断念」が伝わり、ウクライナの苦境が浮き彫りになった。
独調査機関「キール世界経済研究所」によると、各国のこれまでのウクライナ軍事支援(10月末現在)の総額980億ユーロ(約15・5兆円)のうち米国が5割弱を占める。米国の支援が止まればウクライナの「回復力」が大きく損なわれるのは確実だ。
軍事面以外でも財政支援に頼っており、「医師や救急隊員の給与も払えず、国家の機能がマヒする」(国会議員)との悲観的な見方が広がっている。
支援の遅れの影響はすでに前線に出始めている。反転攻勢を指揮するオレクサンドル・タルナフスキー司令官は18日のロイター通信のインタビューで「弾薬不足は、全ての前線で存在する大きな問題だ」と窮状を訴え、一部の部隊は作戦縮小を余儀なくされていると語った。
兵の補充も課題だ。侵略当初は志願兵が殺到したが、最近は人員の確保が困難になっているためだ。
ゼレンスキー氏は会見で、軍が45万〜50万人の追加動員を提案したと明らかにした。「国民(がどう思うか)や軍の防衛能力、財政に関わる問題で、議論が必要だ」と悩みを吐露した。
動員の組織的な問題を指摘する声もある。ウクライナメディアによると、軍トップのワレリー・ザルジニー総司令官は、今年8月に各地の徴兵責任者が大量解任され、「(動員の)やり方を知っているプロがいなくなった」と指摘した。解任は、汚職撲滅を理由にゼレンスキー氏が指示したもので、ザルジニー氏の発言は大統領を暗に批判したとの臆測が広がった。
プーチン氏「主導権握った」
課題が山積するウクライナとは対照的に、ロシアのプーチン大統領は19日、露国防省の会合で「(ウクライナとの戦闘で)ロシア軍が主導権を握っている」と自信をにじませた。米欧の支援を受けるウクライナ軍に対し、優位にあるとして「西側兵器は無敵だという神話を破壊した」と誇った。
プーチン氏は「我々は(ウクライナでの)目標を諦めることはない」と軍事侵攻を継続する構えを示した。国際情勢の変化で陸海空軍が核兵器を持つ「核のトライアド(3本柱)の重要性が高まっている」と述べ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や原子力潜水艦の追加配備が進んでいることを強調し、米欧をけん制した。
●米“ロシア産石油製品 上限価格設定の制裁措置 監視を強化” 12/21
アメリカの財務省は20日、G7=主要7か国などが実施しているロシア産の石油製品の国際的な取り引きに上限価格を設定する制裁措置について、監視を強化すると発表しました。
G7とオーストラリア、それにEU=ヨーロッパ連合は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの資金源を抑えこむため、ロシア産の石油製品の取り引きについて制限を設けています。
具体的には、ロシアから海上輸送される原油について、去年12月から国際的な取り引きの上限価格を1バレル60ドルに設定しているほか、その後、ディーゼル燃料や重油なども制裁対象に追加しました。
アメリカの財務省は20日、この上限価格をこえて取り引きする制裁逃れが行われている疑いがあるとして、G7などが監視を強化すると発表しました。
ロシア産の原油を取り扱う場合、荷揚げや積み込みの際に取引価格の証明書を示すことを義務づけるなどとしています。
アメリカの財務省は、ロシア政府の石油や石油関連製品の税収が、ことし1月から先月までで、前の年の同じ時期と比べ32%減少するなど効果がでているとしています。
一方、財務省はUAE=アラブ首長国連邦や香港の事業者が上限を超えた価格の取り引きに関わっていたとしています。
●ドイツ軍リトアニアへ 第2次大戦後初の国外常駐 12/21
ドイツは、2027年末までにバルト3国のリトアニアに文民を含めて5千人規模の軍部隊を常駐させることで同国と合意した。第2次大戦後、ドイツ軍部隊の国外常駐は初めてとなる。両政府が18日に合意した。ドイツ軍はこれまでイラクなどに駐留しているが、常駐はなかった。
ウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)は東部防衛を重視。ロシアの飛び地カリーニングラードとベラルーシに接するリトアニアにドイツ軍が常駐することで、防衛力と抑止力の強化を図る。
ロシア外務省のザハロワ情報局長は20日の定例記者会見で「NATOの現行の計画を超え、軍事的緊張のエスカレートを招く」と批判。 
●ロシア人の45%、来年の期待に「ウクライナ侵攻の終結」 世論調査 12/21
ロシア人の45%が2024年にウクライナ侵攻が終結することを期待している――。
こんな世論調査結果を、政府系の「全ロシア世論調査センター」が21日発表した。一方、ロシアでウクライナ侵攻を指す「特別軍事作戦」を今年の重要ニュースに挙げた人は22%と、昨年の62%から3分の1に減り、侵攻への関心の低下傾向も示した。
調査によると、回答者の45%が、来年への期待として、「特別軍事作戦の終結」を選んだ。次いで、プーチン大統領の勝利が有力視される来年3月の「大統領選」が26%、「経済成長と生活水準の向上」が13%だった。
今年の重要ニュースで侵攻に続いて2位となったのは、経済成長やインフレ、制裁対策、利上げといった「経済関連」だった。
回答者の63%は来年について、「ロシアにとってよい年になる」と確信。一方で、懐疑的なのは33%だった。
調査は8〜16日に実施され、全国で18歳以上の1600人が回答した。
●米中「相互確証破壊」時代の到来――日本に高まる「核の脅し」のリスク 12/21
中国は2035年頃までに現在の米ロに匹敵する「第三の核大国」となる可能性が高い。それは相互脆弱性の前提に立った米中が戦略レベルの安定性を目指す時代の到来だが、一方でその安定性が逆用され、中国が戦域レベルでリスクを厭わない行動に出る可能性が増す時代でもある。インド太平洋地域の安全保障環境に生じるこの「安定・不安定のパラドックス」に、日本はどう備えることができるだろうか。
2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻から、まもなく1年が経とうとしている。多くの専門家は、この戦争を「冷戦終結以来、核兵器の使用が最も懸念される戦争」と見ているが、幸いなことに本稿執筆時点でロシアによる核使用は行なわれていない。
2022年9月に行なわれたハルキウ反攻において、ロシア軍は歴史的な大敗北を喫したにもかかわらず、ウラジーミル・プーチン大統領は戦局を打開するために核使用に踏み切ることはなかった。この決断の背景には様々な要因が考えられるが、米国による(核)報復の可能性と、その後のさらなるエスカレーションのリスクがプーチンの計算に少なくない影響を与えたことは間違いない。
一方、段階的にウクライナに対する軍事支援のレベルを上げつつある西側も、当初はHIMARS(高機動多連装ロケットシステム)やM1エイブラムス(米製)、レオパルト2(独製)のような主力戦車など、ロシア軍に深刻な打撃を与えうる兵器の提供には及び腰であった。また、開戦以前からジョー・バイデン大統領が明言していたように、米・NATO(北大西洋条約機構)の直接的な軍事介入は依然として行なわれていない。つまり、懸念の度合いに波はあれど、米国をはじめとする西側諸国にも、核エスカレーションのリスクが戦争初期段階での大型武器供与や直接的な軍事介入を思いとどまらせる形で働いている。
西側とロシア双方にある程度の自制を促しているもの――それこそが、本稿が取り上げる大国間の戦略的な核バランスである。
冷戦期の欧州と類似し始めているインド太平洋地域の安全保障環境
歴史を振り返ると、1960年代後半から70年代にかけて行なわれたソ連の急速な対米核戦力の増強によって、米ソはどちらか一方が先制核攻撃を行なったとしても、生き残った相手の核戦力(第二撃能力)により、先制攻撃を行なった側も壊滅的な報復を受けて共倒れとなるような状況が確立されるようになった。いわゆる「相互確証破壊(MAD: mutual assured destruction)」である。この結果、米ソ(ロ)間では大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機など互いを攻撃しうる戦略戦力に量的制限を設けたり(戦略兵器制限交渉〔SALT〕、戦略兵器削減条約〔START〕、 新戦略兵器削減条約〔新START〕等)、互いの本土を守るミサイル防衛の配備地点や規模に制約を課す(弾道弾迎撃ミサイル〔ABM〕制限条約)など、複数の軍備管理枠組みによって相互脆弱性を意図的に固定化することで、互いにとって先制攻撃の誘因が働きにくい状況(戦略的安定性)を維持することが試みられてきた経緯がある。
これまで、こうした相互脆弱性を前提とする戦略関係は、他を圧倒する核戦力を有する米ソ(ロ)二国間だけに可能な、特殊な関係だと考えられてきた。しかし今、米ロが世界の核兵器シェアを独占していた時代は終わりを迎えつつある。
2021年、複数の民間の研究者が行なった商用衛星画像の分析を通じて、中国が最新型のICBM・DF-41用と見られるサイロを300箇所以上建設していることが明らかになった。DF-41は1基あたり最大10発もの核弾頭を搭載しうるように設計された多弾頭ICBMとされている[ただし、DF-41が実際に10発の核弾頭を搭載できるかどうかは弾頭の軽量化技術等に拠る]。米国防省によれば、現在中国が保有・配備しうる核弾頭数は400発を超えたと見積もられているが、今後はその製造ペースをさらに加速させ、「2027年までに最大700発」「2030年までに少なくとも1000発」「2035年までに1500発」保有する可能性があると予想されている。現在、新STARTが米ロに課している戦略核弾頭の配備上限が1550発であることを踏まえると、中国は2035年頃までに、現在の米ロに匹敵する規模の「第三の核大国」となる可能性が高いということである。
このことは、インド太平洋地域の安全保障や、日本に差し掛けられる拡大抑止の信頼性にどのような影響を与えるのだろうか。
すでに述べたように、相互脆弱性を前提とした戦略関係は、長らく米ソ(ロ)間でも築かれてきたものであり、それ自体が新しい現象というわけではない。しかし、これは日本にとっては新しい問題である。
冷戦期の欧州において、ソ連に対して通常戦力面で劣勢に立たされていたNATOは、戦術核兵器や戦域核兵器をエスカレーションの比較的早い段階で使うことをも辞さない戦略をとることで、ソ連の通常戦力優位を相殺しようとしていた。一方当時の日本において、米ソの相互確証破壊状況の確立による地域の不安定化の問題は、それほど深刻に捉えられていたわけではない。なぜなら、陸上戦力のバランスが重視されていた欧州と異なり、冷戦期のアジアでは日米が航空・海上戦力の優位を維持していたからである。言い換えれば、冷戦期のアジアにおける米国の核兵器の役割は、ソ連の通常戦力優位を相殺することではなく、ソ連が米国の通常戦力優位を相殺するために、核使用に走ることを抑止することにあった。
ところが、今日のインド太平洋地域の安全保障環境は、冷戦期の欧州と類似し始めている。中距離ミサイルを中心とする中国の圧倒的な戦域打撃能力は、日本やグアム、さらには西太平洋地域に展開する空母などの伝統的な前方展開戦力を脅威に晒し、日米を通常戦力面で不利な状況に追い込んでいる。そしてこの通常戦力優位は、中国海警局などの準軍事組織が平時やグレーゾーンの段階において、より大胆な行動に出ることを助長しかねない、いわゆる「安定・不安定のパラドックス(逆説)」の影響を強める可能性が出てきているのである。
「相互確証破壊」状況に近づく米中
中国はこれまでにもDF-5のようなサイロ配備式ICBMや、DF-31などの移動式ICBMを配備することによって、核攻撃を受けた後でも米国本土に一定程度の損害を与えうる「最小限抑止」態勢をとり続けてきた。この事実は以前から米国政府も認めており、実際の政策に取り入れられている。例えば、オバマ政権が2010年に発表した弾道ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review: BMDR)では、「地上配備型ミッドコース防衛システムは、ロシアや中国の大規模なミサイル攻撃に対処する能力を持っておらず、これらの国との戦略バランスに影響を与えることを意図していない」とされている。この方針はトランプ政権やバイデン政権のミサイル防衛見直し(Missile Defense Review: MDR)でも踏襲されており、「米国は、大規模で技術的に洗練された大陸間ミサイルシステムを採用したロシアや中国の潜在的な核攻撃を防ぐことについては、核抑止力に依存している」と説明されている。
しかしながら、300を超えるICBMサイロを建設し、2035年までに1500発の核弾頭を製造・配備する潜在能力を持つ中国の核戦力は、もはや「最小限」とは言い難い。仮にこうした状況が実現する場合、中国は米国の主要都市や産業に対して壊滅的な打撃を与えうるだけではなく、米国本土のICBMサイロ(400箇所)、戦略爆撃機の主要拠点(3箇所)、戦略ミサイル原潜(SSBN)の母港(2箇所)に対する先制的なカウンターフォース攻撃が可能な規模の核戦力を有することになる。これは相互脆弱性の究極の形である「相互確証破壊」状況である。
これまで米国の歴代政権は、中国との間に(米ロ間にあるような)相互脆弱性が存在することを公式に認めたことはない。しかし、中国の急速な核軍拡を前に、米国の戦略コミュニティでは、戦略的安定性に関する対話を始める前提として、中国との間にも相互脆弱性が存在することを公式に認めるべきではないかとの議論が出始めている。
では日本にとって、米国が中国との相互脆弱性を公式に認めることに具体的なメリットはあるのだろうか。
もし米国が中国との相互脆弱性を認める場合には、単なる口約束ではなく、これまで米ロ間で行なわれてきた軍備管理と同様に、戦略戦力やミサイル防衛に関して量的な配備上限を設けたり、相互査察などの実効的な検証措置を伴うことが考えられる。その結果として、米中間の戦略レベルでの軍拡競争に一定程度の歯止めをかけることができる可能性はある。例えば、戦略核戦力に対する過剰な投資は抑制されるであろうし、中国からの本格的な戦略攻撃を防ぐことを想定した米国本土のミサイル防衛への追加投資も不要になるだろう。そうなれば、これらへの投資を節約する代わりに、米国はインド太平洋地域に展開するための通常戦力への投資を相対的に増やすことができる、という考え方もできなくはない。
こうした方向性は、核兵器の役割低減を掲げるバイデン政権にとって、魅力的なオプションに映っているようにも見える。実際、2022年版の核態勢見直し(Nuclear Posture Review: NPR)では、中国との間で戦略的リスクを軽減するための実際的措置について議論する必要があるとされており、「能力と行動の相互抑制に関する追加的な議論のための基礎を築きうるような措置も含まれる」との記述がある。
日本にトレードオフで浮上するリスクとは
しかしながら、これにはいくつかのトレードオフがあることに注意しなければならない。
第一に、理論上、3カ国以上で戦略的安定性を同時に維持することは困難である。米国はすでに新STARTを通じて、ロシアとの間で戦略核戦力の量的均衡を維持しており、その戦略核配備弾頭数は1550発に制限されている。新STARTは2026年に失効することになっているため、その後の見通しは不透明であるものの、仮に米国が現在の水準を維持するとすれば、2035年に米国は、中ロ合わせて約3000発の核を抑止しなければならない状況に直面する。無論、中ロは日米のような同盟関係にあるわけではない。しかし、両国が既存のルールに基づく国際秩序に挑戦しようという共通の目標を持っていることに鑑みれば、中ロが戦略的連携を深める動機は決して過小評価するべきではない。
第二に、米国が抑止すべき核武装国は中ロだけではない。先に述べたように、米国が中国との相互脆弱性を認める場合には、かつてのABM条約のように米国の本土防衛用ミサイル防衛を量的に制限するというオプションが視野に入ってくる可能性がある。だが、米国本土のミサイル防衛は、「北朝鮮やイランなどからの限定的なICBM攻撃による脅しを防ぐこと」を目的に配備されてきたものだ。その北朝鮮は、今や米国本土を射程に入れる世界最大の移動式ICBMの開発・製造を始めており、核開発にも全く歯止めがかかっていない。さらに、金正恩が複数個別誘導再突入体(MIRV)の開発を進めるとも言及していることに鑑みれば、中国ほどにではないにせよ、北朝鮮が米国に向けて投射できる核弾頭の数は当面増加傾向が続くと考えなければならない。つまり、北朝鮮の対米打撃能力はもはや「限定的」ではないのである。
北朝鮮の対米打撃能力が増強されていることを踏まえれば、本来米国本土のミサイル防衛は一層強化されなければならないはずである。しかし、「北朝鮮の対米打撃能力に対しては強固だが、中国の対米打撃能力を脅かさないミサイル防衛態勢」を両立させることは可能なのであろうか。中国との相互脆弱性を維持するためにミサイル防衛を制限した結果、北朝鮮のICBMに対して米国本土が脆弱になってしまえば、それは北朝鮮との間でも相互脆弱性を認めることと実質的な違いはない。そうなれば、北東アジアにおける米国の拡大抑止の信頼性は大きく損なわれ、日本と韓国はより強い不安を感じることになるだろう。この点に関して、バイデン政権がNPRと同時に公表した2022MDRでは、オバマ政権の2010BMDRおよびトランプ政権の2019MDRで継続して示されてきた、「ミサイル防衛に関するいかなる制限も受け入れない」とする記述が削除されていることには注意を要しよう。
第三に、「安定・不安定のパラドックス」がもたらす悪影響が増大するリスクがある。すなわち、米国が中国との相互脆弱性を認めることで、台湾有事などの危機において、中国は米国の核使用を抑止できるとの自信を強め、その結果、通常戦争やグレーゾーンにおいて、よりアグレッシブな行動に出ることを厭わなくなるという可能性である。
これについては、「近年中国がアグレッシブな行動を厭わないようになったのは、米国の核抑止力が相対的に低下しているためではなく、純粋に中国の通常戦力や法執行機関などの準軍事能力が高まっていることに原因がある」、従って「核抑止力を強化しても、グレーゾーンや通常戦争の抑止には役に立たない」という反論もありうるだろう。もちろん、核抑止力はあらゆるレベルの挑戦に対する万能な抑止力というわけではない。例えば、「中国公船が日本の領海に侵入してきた場合には、核で報復する」という脅しはあまりに非現実的であり、抑止力として信憑性がないことは明らかだ。
しかし、異なるレベルの抑止力は、独立して作用しているわけではなく、むしろ相互に連関している。
例えば、次のようなケースを考えてみよう。今日の東シナ海では、中国公船が日本の接続水域を航行する行為が常態化しており、領海侵入が試みられることも少なくない。こうした中国公船の活動は、中国海空軍の通常戦力によって間接的に支えられている。東シナ海における中国の通常戦力優位が強まるほど、仮にその対立が法執行機関同士の睨み合いから、通常戦力のぶつかり合いにエスカレートしたとしても、中国側は状況のエスカレーションを主体的にコントロールできると自信を持つはずである。そうなれば、中国公船はより低いリスクで、より頻繁に領海侵入を繰り返したり、日本の漁船や海上保安庁の巡視船に対して危険な接近を試みるといった、よりアグレッシブな行動をとることができるようになる。つまり、日本の海上保安庁は中国の「通常戦力の影」がちらつく中で、その活動を常に抑制されるリスクを負っているのである。
これと同様に、中国は対立が通常戦力同士のぶつかり合いにエスカレートしたとしても、戦略核レベルの安定性が保たれていれば、より低いリスクで通常戦力による作戦を強行できるとの自信を強める可能性が出てくる。先に述べたように、インド太平洋地域に短期間のうちに投射可能な打撃力という点に限って言えば、中国はすでに通常戦力優位を確立しつつある。
さらに見落とされがちなのは、中国は戦域核戦力に関しても優位に立っているという点だ。ここに第四の問題、すなわち戦域核戦力レベルでの潜在的な不安定性が存在する。2019年に中距離核戦力(INF)全廃条約が失効してもなお、米国は西太平洋地域に地上配備型の戦域核戦力を配備していない。もっとも、米国には本土やグアムから戦略爆撃機を展開するというオプションは残されている。また、あくまでも潜在的な可能性ではあるが、米国は一部の欧州諸国が配備しているような核兵器と通常兵器の両方を搭載できる戦術攻撃機を、日本や韓国などの同盟国に前方展開させるオプションを否定していない。しかし、中国や北朝鮮の戦域打撃能力が非常に高精度になっていることを踏まえると、これらの航空機を前方の航空基地に展開する際の脆弱性は従来よりも格段に高まっている。また、遠方から飛来する航空機は飛行速度が遅く、即時性に欠ける。
唯一の例外的オプションは潜水艦配備型の戦域核戦力であるが、トランプ政権期に一部の戦略ミサイル原潜に配備された低出力水中発射型弾道ミサイル(SLBM)は数が非常に限られている。そしてトランプ政権が開発を検討するとした海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM-N)は、バイデン政権によって計画が中止されてしまった。
一方で、中国がすでに大量に配備している中距離ミサイル戦力のほとんどは核・非核両用である。かつての中国には、ミサイルの命中精度の低さを核弾頭によって補うという合理性があった。しかし現在は、DF-21DやDF-26といった高い命中精度を有する対艦弾道ミサイル(Anti-Ship Ballistic Missile: ASBM)をすでに量産配備している。にもかかわらず、人民解放軍ロケット軍の一部の部隊では、通常弾頭と核弾頭を前線で素早く交換する「ホットスワップ」訓練を行なっている様子が確認されており、依然として戦域射程のミサイルに核・非核両用任務を付与し続けている。これらを踏まえると、中国は西太平洋地域において、ロシアと同様のエスカレーション抑止(escalate to de-escalate)のような、先行的かつ限定的な核使用を行ないうるオプションを備えていると考えざるをえない。
このような状況に直面した場合、中国の強圧的な行動を相殺するために、米国が使用できる対向的核オプションは非常に限られている一方で、中国は米国との間の戦略レベルの安定性を逆用して、戦域レベルで核の脅しを行なうハードルを下げるということが可能になりつつあるのだ。
エスカレーション・ラダーに「隙間」を作ってはならない
エスカレーション・ラダーの上位レベルの戦力バランスは、下位レベルの戦力バランスに影を落とし、その影はエスカレーション・ラダー全体に影響を及ぼす。このことに鑑みれば、「安定・不安定のパラドックス」によって引きこされる問題は、日本にとって決して過小評価すべきものではない。つまり、宣言政策の観点から言えば、米国が中国との間で相互脆弱性を認めることは、日本にとってデメリットが大きい。
しかし一方で、相互脆弱性は政治指導者の認識の問題であると同時に、軍事態勢に裏打ちされた客観的な状態でもある。今後中国が対米打撃能力を強化していけば、米国がいくら相互脆弱性を宣言政策の上で否定しようとも、中国は1970年代のソ連と同様に、米国を脅かすことができるとの自信を次第に強めていくだろう。こうした状況が訪れるのは遅ければ遅いほどよいが、米中間に軍事的な相互脆弱性が生じるのは時間の問題であるという現実を、我々は覚悟する必要もある。
そうであればこそ、米国の拡大抑止を含む日米の抑止力は、平時からグレーゾーン・レベル、通常レベルから戦域核、戦略核レベルに至るまでが途切れのないよう、今まで以上にきめ細やかに繋ぎ合わせておかなければならない。そのためには、軍事能力・態勢(ハードウェア)と、その運用に関する制度・協議枠組み(ソフトウェア)双方のアップデートが必要となる。
ハード面での強化策としては、第一に、グアムを中心に西太平洋地域における戦略爆撃機や低出力SLBMを搭載した戦略ミサイル原潜の哨戒・寄港頻度を増加させる必要がある。射程1万kmを超えるトライデントSLBMを搭載する戦略ミサイル原潜は、たとえ米国の西海岸付近に展開していたとしても、30分以内に中国の目標を攻撃することが可能である。しかしながら、これらの戦略アセットが西太平洋地域に頻繁に展開していることを目に見える形で示すことは、中国が限定的な核使用を試みようとする誘惑への抑止力となるだけでなく、日本国民に対しても安心をもたらす効果が期待できる。また、低出力SLBMを実際に使用するという極限状況において、前方展開による飛翔時間の短縮は、移動式ミサイルなどの目標を攻撃する際に決定的に重要な要素となる場合もある。
一方で、中国の戦域打撃能力が向上していることに鑑みれば、これらの貴重な戦略アセットを日本に着陸ないし寄港させることは、リスクが高いと言わざるを得ない。とりわけ、一度離陸したステルス機や潜航した潜水艦の探知が困難であることを踏まえると、これらのアセットが基地に駐機・停泊しているタイミングは、中国からすれば絶好の攻撃機会であり、かえって先制攻撃を助長する恐れがある。こうした抑止効果と脆弱性とのバランスを考慮すると、爆撃機の場合であれば日本周辺での空中哨戒、戦略原潜の場合はグアム周辺での寄港・哨戒にとどめるのが最適であろう。
第二に必要なのは、米国が開発している非核の長距離極超音速兵器(Long-Range Hypersonic Weapon: LRHW)を日本国内に受け入れるとともに、今後日本が取得・配備する各種スタンドオフ防衛能力と一体的な運用を行なう態勢を整えることである。米陸軍が開発を進めているLRHWは「長距離」という名称がついているものの、その射程は2800km程度とされており、グアムに配備した場合でも中国本土には届かない。つまり、LRHWはいずれかの段階で日本やフィリピンなどの同盟国に前方展開させなければ、戦略上意味をなさないミサイルである。他方、LRHW は2023年末までにプロトタイプの初期運用能力獲得を目指しており、米国が開発している地上発射型中距離ミサイルの中では実用化までのタイムラインが最も早いシステムとなりつつある。これは、日本の島嶼防衛用高速滑空弾の能力向上型(射程延伸型/ブロック2)の開発・配備スケジュールを数年上回ることになろう。
一刻も早く中国とのストライク・ギャップを埋めるという観点からすれば、中距離ミサイルの国内配備開始時期は早ければ早いほどよい。米国が開発している地上発射型中距離ミサイルは、LRHWを含めて全て通常弾頭ミサイルであるが、中国の大半のミサイルが核・非核両用であることを踏まえると、彼らのミサイル関連システム等を攻撃対象とする場合には、自ずと核エスカレーションのリスクが生じる。つまり、たとえ通常戦力による攻撃作戦だとしても、日米間の緊密かつシームレスなエスカレーション・コントロールが必要不可欠なのである。核使用に伴う米軍の作戦は、インド太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権を持つとともに主要な計画立案を行なっており、その細部に関与するハードルは著しく高い(これはNATOでも同様である)。しかし、日本のスタンドオフ防衛能力の保有を通じて、米国が有する非核の打撃力との一体化を進めていくことで、日本はエスカレーション・コントロールを主体的に行なう責任と権利を持つと同時に、米国の核作戦計画に関与していく段階的な足がかりを得ることが期待できる。これは核・非核両用の航空機とB61核爆弾に基づくNATO型の核共有メカニズムを安易に模倣するよりも、日米が互いに求め合う時代的・能力的要請に即している。
逆に、米国が中距離ミサイルを用いた作戦計画に日本が関与することを拒むようなことがあれば、日本は国民に対する説明責任の観点からも、配備受け入れを拒否することを躊躇すべきではない。エスカレーション・コントロールに直結する作戦の計画立案と指揮統制は、それほど重大な問題であると日米双方が認識する必要があろう。
第三に、SLCM-Nの開発中止について米国に納得のいく説明を求め、それが解消されない場合には代替手段の開発・配備を要請すべきである。低出力SLBMが事実上の戦域核戦力として重要な抑止力を提供していることは事実である。しかし、低出力SLBMの配備数は極めて少ない。またバイデン政権内には、弾道ミサイルであるが故に、相手から戦略核攻撃と誤認されかねないことなどを理由に、低出力SLBMの配備に反対してきた人物がいる。武装解除を目的とする一斉攻撃と、限定核使用に反撃することを目的とした単発のSLBM発射では、早期警戒能力に捉えられる兆候が異なるため、相手が戦略核攻撃と低出力SLBMによる攻撃を誤認する可能性は必ずしも高いわけではない。
しかし、バイデン政権内でそうしたリスクを深刻に捉える声があるのだとすれば、限定核使用を抑止するために、弾道ミサイルとは異なる非脆弱な低出力核オプションが必要なはずである。SLCM-Nは、そうしたエスカレーション・ラダーの隙間を埋めるためのアセットであった。この隙間を埋めるための方策としては、先に述べた低出力SLBMを搭載した戦略ミサイル原潜を西太平洋地域により頻繁に前方展開させることなどが考えられるが、配備数の制約を踏まえると、戦略ミサイル原潜を柔軟抑止オプションとして用いるには限界がある。こうした点については、日米拡大抑止協議の中でSLCM-N開発中止の影響を明らかにし、懸念を払拭する必要があるだろう。
求められる次官級・大臣級のコミットメント
一方、ソフト面を強化する第一の策としては、日米拡大抑止協議を現在の次長級から大臣級協議(2プラス2)に格上げして、よりハイレベルな政治的コミットメントを引き出し、自衛隊を含むあらゆる政府組織に対して米国の核作戦に関与しうるマンデートを与えることが挙げられる。1月11日に行なわれた日米2プラス2において、拡大抑止についてよりハイレベルな協議を通じて議論していくことが確認されているのは、前向きな方向性と言える。
第二に、拡大抑止協議のスタッフレベル会合と日米ガイドラインの共同計画策定作業とを連関させ、台湾有事(および朝鮮半島有事)を想定したグレーゾーンから核使用を含む高次のエスカレーション・ラダーをシームレスな形で構築するとともに、米国から核オプションのより具体的な形での保証を促す必要がある。この一環として、米戦略軍に外務・防衛当局者と自衛官を派遣して、核作戦に関する計画立案・実行プロセスについての教育機会を設けるべきである。
第三に、上記の日米共同作戦計画を基に、在日・在韓米軍、インド太平洋軍、戦略軍などを交えた日米共同の実働・机上演習を繰り返し、実戦上の課題を常に点検・共有するべきである。オバマ政権では、ロシアによるバルト諸国への侵攻をきっかけとする限定核使用シナリオを題材とした机上演習が行なわれているが、同演習は現職の長官級・次官級スタッフの参加を得て実施された。日米が実施すべき台湾・朝鮮半島有事の政策シミュレーションも同様に、次官級・大臣級のコミットメントを得る形で実施される必要があろう。

 

●卵の価格が急騰、ばら売りに市民が行列…大統領「政府の失敗」認め謝罪 12/22
ロシアで鶏卵の価格が急騰し、プーチン政権が価格の沈静化に躍起になっている。鶏卵価格を巡っては、プーチン大統領が今月14日の国民との「テレビ対話」で「政府の失敗」を認めて陳謝したばかりだ。露政府は国民の不満がプーチン氏本人に向かわぬようにトルコなど周辺国から卵の輸入を増やすなど対応に追われている。
独立系メディア「メドゥーザ」によると、今年11月の卵の全国平均価格は、前年同月比で40・3%値上がりした。地方都市では、卵が1個ずつばら売りされ、市民が行列を作っている。ロシアのウクライナ侵略に伴う米欧の経済制裁で 家禽 用飼料の仕入れ先が限定され、生産コストが上昇したという。
タス通信によると、露政府はトルコやアゼルバイジャンから輸入を拡大し、卵の輸入関税を半年間、ゼロにする措置を取ることを決めた。露当局は、一部の鶏卵業者が価格をつり上げるカルテルを結んだ疑惑があるとして捜査も開始しており、鶏卵業者に責任を転嫁する姿勢もにじむ。
●ロシア軍参謀総長「ウクライナ軍の反転攻勢は失敗」と主張 12/22
ウクライナへの軍事侵攻の指揮を執るロシア軍のゲラシモフ参謀総長は、モスクワに駐在する各国の武官を前に「ウクライナ軍による反転攻勢は失敗に終わった」と主張し、ウクライナ側の士気をくじくねらいもあるとみられます。
ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は21日、首都モスクワで各国の駐在武官に対して、ことしの活動を総括し、この中でウクライナ軍がことし6月に開始した大規模な反転攻勢について「大きな損失を出すだけで失敗に終わった」と主張しました。
ウクライナの反転攻勢に対してロシア軍は防御陣地を固め、戦況はこう着していて、プーチン政権は反転攻勢は失敗したと繰り返しています。
ウクライナ東部でロシア軍が兵士の犠牲をいとわず攻勢を強める中、ゲラシモフ参謀総長としてはロシアが前線で主導権を握っていると主張しウクライナ側の士気をくじくねらいもあるとみられます。
また、ゲラシモフ参謀総長は、グローバル・サウスと呼ばれる新興国や途上国との防衛協力を強化し、中国やインドと戦略的な関係構築を進めていると説明した上で「北朝鮮とも包括的な協力関係を積極的に築いている」と述べ、北朝鮮との関係強化を強調しました。
一方、ウクライナ空軍の報道官は21日、地元メディアに対して、ロシアは軍事侵攻の開始以降、ウクライナに向けておよそ7400発のミサイルを発射し、3700機の無人機で攻撃を仕掛けてきたと明らかにしました。
このうちミサイルおよそ1600発と無人機2900機を撃墜したとしていますが、さらに防空能力を強化する必要があると訴えています。
●ロシアがウクライナに勝利すれば、アメリカは中国に大きく門戸を開くことになる 12/22
・アメリカがウクライナを見捨てれば、ロシアの勝利は悲惨な結果を招くだろうと戦争アナリストは指摘している。
・アメリカが手薄になる一方で、中国が力を伸ばし、他国に侵攻する可能性もあるという。
・シンクタンクの戦争研究所(ISW)によると、アメリカは人々が考えている以上に、この戦争に「はるかに高い利害関係がある」という。
ウクライナに対するアメリカの軍事支援が滞り、ウクライナがさらなる支援を求める中、あるシンクタンクが警鐘を鳴らしている。
ロシアの勝利はウクライナの終わりを意味するだけではないと、アナリストは警告している。
それは中国に弱体化したアメリカに力を誇示する"青信号"を与えることになり、アメリカの納税者は国防費強化のために「天文学的な」金額を負担することになるという。
ワシントンD.C.に拠点を置くシンクタンクの戦争研究所(ISW)は、ロシアが勝利すれば、アメリカは米軍とステルス機を東ヨーロッパに移さざるを得なくなり、アメリカは手薄になって、中国が台湾の領有権を主張し、領土や影響力を拡大する可能性があると警告している。
12月14日に公表されたアセスメントの中でアナリストたちは、アメリカはロシアのプーチン大統領によるウクライナとの2年近くに及ぶこの戦争に「多くの人が考えているよりもはるかに高い利害関係がある」と指摘している。
アナリストたちは、もし西側諸国のウクライナ支援が突然打ち切られるようなことがあれば —— アメリカの共和党の議員たちがいま脅しているように —— それは「遅かれ早かれ、ウクライナがロシア軍を撃退する能力を崩壊させ」最終的にはプーチン大統領がウクライナを支配することになると主張している。
そして、欧米の軍事支援を通じてウクライナがロシアとの戦線を維持するのを助けることは、ウクライナがこの戦争に負けるよりもアメリカにとって「はるかに有益でコストが抑えられる」という。
アメリカの連邦議会の共和党議員はウクライナへの追加支援を阻止していて、バイデン大統領はアメリカとメキシコの国境に関する「極端な共和党の協議事項を強行する」ために予算を「人質」に取っていると非難している。
共和党議員の中にはウクライナを支援する代わりに、移民政策や国境警備を強化するための予算を増やすよう求める声もあるが、ウクライナへのこれ以上の資金援助を否定する右派議員もいる。
ISWによると、アメリカが全ての軍事支援を打ち切り、ヨーロッパもそれにならえば、ロシアによるウクライナ全土の占領は「決して不可能ではない」という。
「そのような結果になれば、黒海から北極海にかけて、ボロボロになりながらも勝利したロシア軍がNATOの国境へ迫ってくることになる」と専門家らは指摘している。
そうすると、アメリカは「ロシアの完全な勝利の後、その新たな脅威を抑止し、防衛する」ために地上部隊の「かなりの部分」を東ヨーロッパに配備せざるを得なくなるだろうという。
さらに、ロシアはNATOの国境に直接防空システムを移動させることができるため、アメリカはヨーロッパに多数のステルス機を駐留させなければならないとISWは述べている。
「これらの戦闘機の製造と維持には確かに膨大なコストがかかる。そして、急いで製造することが難しいため、アメリカは台湾や他のアジアの同盟国を守るためにアジアに十分な数を確保するか、NATOの同盟国に対するロシアの攻撃を抑止または撃退するか、恐ろしい選択を迫られることになるだろう」とISWは指摘している。
莫大な費用がかかり、それがいつまでも続く可能性があるとアナリストたちは警鐘を鳴らしている。
そして、中国が台湾に侵攻した場合、これが台湾を防衛するアメリカの能力を低下させることになるという。
「重要なステルス機群をヨーロッパに投入する必要性は、中国の台湾侵攻に効果的に対応するアメリカの能力を著しく低下させる可能性がある。なぜなら、台湾をめぐる全てのシナリオはヨーロッパを防衛するために必要となるのと同じステルス機に大きく依存しているからだ」とISWは指摘している。
その上で「こうした防衛手段にかかるコストは天文学的なものになり、米軍がロシアと中国のどちらか、あるいは両方を同時に対処するための準備や態勢を十分に整えられない、非常にリスクの高い時期を伴うことになるだろう」と付け加えた。
●TIなど米企業の半導体がロシア流入、主に香港経由で−輸出規制に穴 12/22
ロシアの軍事関連企業に対する米国の輸出規制にもかかわらず、テキサス・インスツルメンツ(TI)やアナログ・デバイセズを中心とした米企業の半導体が今年も引き続きロシアに流れている。
米非営利組織(NPO)、先端国防研究センター(C4ADS)が提供したロシアの税関データによると、米国の半導体の出荷は今年前半に増加しており、その多くが香港を経由してロシアに入っている。ロシアのウクライナ侵攻を受け、プーチン大統領率いる同国軍への技術流出を阻止する取り組みが損なわれている。
TIとアナログ・デバイセズの担当者は、香港企業に直接半導体を販売しておらず、両社とも2022年にロシアとの取引を停止したと説明した。それにもかかわらず、両社の半導体はロシアに引き続き流入しており、米国の技術流出を阻止することの難しさを示している。
ブルームバーグ・ニュースのデータ分析によると、ロシアの200社余りの企業が1−5月にTI製半導体1万7000個を受け取った。これらの出荷総額は2500万ドル(約35億5000万円)。現在制裁対象になっているロシア企業に出荷された半導体は、ロシアの軍事関連企業に供給したとして10月に制裁を科された香港企業2社によって取り扱われていた。
ロシアに流れたTIの半導体の価値は、同社の年間売上高約180億ドルの一部にすぎない。ブルームバーグ・ニュースと情報を共有し、分析に協力したC4ADSによれば、これらは香港からロシアに流入する大量の半導体の一部だという。C4ADSは税関データを含む公的に入手可能な情報に基づいて調査を実施した。
●中ロ貿易は28兆円超に拡大、習氏がロシアとの協力称賛 12/22
中国とロシアの今年の貿易額が2000億ドル(約28兆円)を超える中、両国が毎年年末に開く会合では幅広い分野での関係強化が表明され、両国間の協力が際だった1年となった。
習近平(シーチンピン)国家主席は20日、ロシアのミシュスチン首相との会談で、貿易額が11月までに2000億ドルを超えたと語った。習氏とロシアのプーチン大統領が2019年に立てた目標を前倒しで達成する形となった。
両氏は24年までに貿易額を2000億ドルに増やす目標を掲げていた。ロシアによるウクライナへの全面侵攻以降も貿易は拡大を続け、昨年は約3割増の1900億ドルと過去最高額に達していた。
実家の遺品整理。丸ごと依頼するといくら?【2023年料金】 (Red Gobo)
今月公表の中国税関のデータによると、今年11月までの貿易額は2182億ドル。ただ、中国の貿易総額は5兆4100億ドルで、ロシアとの貿易はその4%に過ぎない。
習氏は貿易額から「(協力の)強じんさと幅広い展望」が示されると述べ、両国が「政治的な相互信頼の利点を完全に発揮し、経済、貿易、エネルギー、接続性の協力を深化させる」べきだとの認識を示した。
中国はロシアにとって、欧米から貿易の中止や制裁措置を受ける中で重要な経済上のライフラインとなっている。中国はロシアの戦争を後押ししているとの批判に対し、戦争では中立を保ち和平を呼びかけていると主張する。
中国指導部はロシアを敵対的な欧米の対抗勢力と位置づけ、西側の制裁を批判してきた。国連ではロシアを非難する決議に賛成せず、ロシアからのエネルギー購入を増やす一方で孤立したロシアに消費財を輸出する重要な供給源となっている。
●弱体化が進む米国の軍事力、直面しかねない「3正面同時作戦」の危機 12/22
青天の霹靂「イスラエル・ガザ戦争」は米軍にとっても悪夢
史上最強のアメリカ軍が「3正面作戦」への対応に四苦八苦している。
「台湾や南シナ海をめぐる中国」「ウクライナなど欧州を舞台にしたロシア」「イランを中心にした中東」が3正面で、既存の中露に加え、新たにイランがアメリカに対する脅威レベルを高めているからだ。
2023年10月にイスラム武装勢力ハマスとイスラエルとの激突、いわゆる「イスラエル・ガザ戦争」が勃発し、ハマスを援助するイランと、イスラエルを全面支援するアメリカによる代理戦争の様相も呈している。
実際、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など、他の親イラン武装勢力がハマスに呼応し、シリア・イラク駐留の米軍部隊や紅海で警戒中の米軍艦をドローン攻撃するなど、きな臭さを増している。
今のところ米軍は撃退に成功して損害はないが、今後死傷者が出ればアメリカは大規模な報復作戦に打って出るのは確実で、イランとの全面対決へと発展する可能性も否定できない。
アメリカはこれまでも2正面作戦に対応するため、同盟国・友好国との軍事連携を強化している。2019年に事実上発足した日米豪印4カ国の「QUAD(クアッド)/日米豪印戦略会議」や、2021年に締結した米英豪との軍事同盟「AUKUS(オーカス/三国間安全保障パートナーシップ)」はその代表格である。
空前の規模で軍備増強をアピールするバイデン政権
またガザ紛争の報道に隠れてあまり注目されていないが、米議会は2023年12月中旬に、2024会計年度(2023年10月〜2024年9月)の国防権限法案を通過、バイデン大統領の署名で正式決定する見込みだ。
次年度の国防予算の大枠を決めるもので、総額は8837億ドル(約127兆円)に達し、前年度比で3%増。もちろん空前の規模で軍備増強の意思を内外にアピールしている。
ちなみにこの金額は、日本の防衛予算の実に20倍以上にも達し、世界2位の中国(約2175億ドル/2023年度)の4倍、ウクライナ侵略戦争で軍事費を大幅アップする同3位のロシア(約1188億ドル/2024年度)の7倍以上で、中露さえも大きく引き離す。
世界200カ国あまりの国防費を総計した額の実に約4割をアメリカ1国で占めており、札束で考えれば間違いなく“超軍事大国”と言える。
この法案の中身は、中国の台頭に敵対心を燃やす下院の多数派・共和党の意向が強く反映している。
軍拡を背景に海洋進出・現状変更を図る中国・習近平政権をけん制するため、インド太平洋地域での基地増強など軍事インフラの充実や、同盟国・友好国との軍事訓練強化を図るため、「太平洋抑止構想(PDI)」という名の軍資金を147億ドル(約2兆2000億円)も注ぎ込む。
在日米軍の体制も大幅に見直す計画で、陸海空、海兵隊4軍の一元運用や、日本の自衛隊との連携強化に着手するようだ。
大幅削減・撤退がたびたび俎上にあがる在韓米軍(現在約3万人)も、ほぼ同規模の2万8500人で維持することや、台湾への武器供与やサイバー防衛の協力拡大など“対中シフト”を露骨に打ち出す。
対露戦略に関してもロシア・ウクライナ戦争を念頭に、「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)」によるウクライナへの武器供与を2026年末まで延長すると明言。イスラエル・ガザ戦争についても、イスラエル国民を守るため軍事援助を行う必要性を訴えている。
日本の防衛予算の10年分を1年で費やした「テロとの戦い」
だが、ある軍事ジャーナリストは、世界最強の軍隊のアキレス腱を指摘する。
「アメリカの国防費は絶大だが、実際に動かせる主要兵器の絶対数、つまり『持ち駒』が想像以上に少なく、全体の駒数は冷戦時代に比べて50〜60%のレベルまで落ちている。核兵器以外の通常戦力では戦車や戦闘機、軍艦、各種ミサイルなどが代表格だが、仮に3正面で同時に緊張が起きた場合、現在の兵器の絶対数では米軍は単独でまったく対応できない」
さらに、別の軍事アナリストはこんな懸念を口にする。
「冷戦終結後『平和の配当』とばかりに米軍は大胆なリストラを実施したが、2001年に『9.11』が起こり、報復として『テロとの戦い』をアフガニスタンやイラクなどで展開した。しかし予想に反して長期戦となり、2021年にアフガニスタンから米軍が完全撤退するまで実に20年間に及んだ。
米将兵の戦死者が7000人に達し大きな犠牲を被ったが、それ以上に深刻なのが、8兆ドル(1100兆円超)という天文学的数字の戦費で、1年あたり平均約55兆円は日本の防衛予算の実に10年分に匹敵する」
「テロとの戦い」の軍資金を捻出するため、中露など仮想敵国の軍隊に対峙する際に必須な、戦車や軍艦、戦闘機、各種ミサイルといった、伝統的な“重厚長大型”の兵器の充実・更新には、目をつぶらざるを得なかった。
一方、対テロ・ゲリラ戦で主役となる特殊部隊用や軽歩兵部隊が使う“軽薄短小型”の兵器・装備の開発・調達には、惜しげもなく予算が注ぎ込まれた。
特にアフガニスタンやイラクの戦場では軍艦が活躍する場面が少なく、陸・空両軍、海兵隊に比べても海軍に対する「軍艦削減」の圧力は強かったようである。
データで見る、冷戦期と比較した米軍の“痩せ細りぶり”
冷戦末期の1989年と直近2022年の主要兵器数(核兵器を除く)を、英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」が毎年発行する『ミリタリーバランス』を参考に比較すると、米軍の“痩せ細りぶり”は目を疑うほどである(別掲表参照)。
まず総兵力だが、30年あまりの間に212万人から136万人と約4割も減っている事実に驚く。ただし中国も320万人から203.5万人へ、ロシアも398.8万人(旧ソ連)から119万人と大胆な“人減らし”を行っている。
特筆すべきは軍艦数だ。アメリカが第2次大戦後に「7つの海」での覇権を握り続けて来た「屋台骨」が、強大な海軍力であることに異論はないだろう。専門用語で言う「戦力投射(パワー・プロジェクション)」で、有事の時にどんな場所にも一定規模の兵力を迅速に展開できる能力だ。
長距離爆撃機や大型輸送機、戦闘機・攻撃機などに飛行しながら燃料補給する空中給油機なども含まれるが、多数の戦闘機・攻撃機を積載する空母や、ヘリコプターや歩兵部隊(海兵隊)を多数乗せ、着上陸作戦を強行できる強襲揚陸艦の「隻数」が、やはりパワープロジェクションの肝となる。
その海軍の兵力も前述の総兵力と連動する形で約59万人から約34.6万人と4割以上も削減。同様に主要軍艦も大幅に縮小し、空母は14隻から11隻、(核)弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は34隻から14隻、攻撃型原潜(SSN)は91隻から53隻、その他大型水上戦闘艦(巡洋艦、駆逐艦、フリゲート)は202隻から111隻といった具合に、ほぼ半減された。
余談だが、1989年には「戦艦」が4隻在籍していたが、これは第2次大戦時に日本の戦艦「大和」「武蔵」に対抗するために建造された「アイオワ」級の4隻。巨大な艦砲や巡航ミサイル「トマホーク」を連続発射する“浮沈艦”として大戦後も朝鮮、ベトナム、湾岸の各戦争に参戦したが、維持費が膨大なため1990年代に退役している。
4海域に1隻ずつ配置するのが精いっぱいの「空母」
そして、某軍事専門家が注目するのが、SSN、空母、その他大型水上艦の激減ぶりだ。
「現在の軍艦のほうが性能ははるかに優れ、隻数の多いほうが戦力的に勝るとは一概に言えないが、地球規模で展開する米軍にとっては、ある意味“数は力”の部分がある。ある程度数が揃わなければ、派遣できる軍艦が少なくなったり、1隻も出撃できなかったりといった弊害が生じる。
例えばアメリカの軍事力のシンボルといえる空母の場合、主に『実戦展開』『帰路・訓練』『整備』の3隻でローテーションを行い、常に最低1隻の実戦配備を実現し、非常事態への即応に備えている。現在空母数は11隻のため、即応可能な数は計算上3〜4隻と意外に少ない。単純に西太平洋、インド洋・中東方面、地中海、大西洋に各1隻配置するのが精いっぱいだ。
30年あまり前は14隻あり、4〜5隻が常に即応の状態で、空母2隻を仮想敵国の沖合いに急行させることも簡単だった。この抑止力は絶大で、空母艦上機は戦闘攻撃機を中心に150機を超え、中小国の空軍力を軽く上回っていた」
SSNや巡洋艦、駆逐艦、フリゲートなど大型水上艦はさらに深刻で、同様に前述の4海域に実戦配備できる隻数は、平均してSSNが4〜5隻、その他大型水上艦は9〜10隻と寂しい限りだ。
実際は中国の海洋進出への対抗を考慮して、西太平洋・インド洋を守備範囲にする米海軍第7艦隊に手厚く配備すると考えられるが、仮に前述の数字の2倍だとしても、常時即応体制に置ける艦艇数はSSNで9〜10隻、その他大型水上艦で20隻前後が限界と考えられるだろう。
「第4の正面」になるかもしれない反米国家ベネズエラの動き
一方、「テロとの戦い」というドロ沼にはまり身動きが取れないアメリカの状況を、中露は好機と捉えているだろう。特に中国はこの20年の間に、海洋進出の必須アイテムである海空軍戦力の拡大に血道を上げてきた。
その結果、2022年における主力艦(潜水艦、空母、大型水上艦、揚陸艦)の数はアメリカの約260隻に対して中国が約240隻と肩を並べるまでに急膨張している。
しかも世界最大の造船能力を背景に中国は空母をはじめ主力艦を今後も続々と建造する模様で、米連邦議会などが数年前から中国海軍の強大化に警鐘を鳴らし続けている。
これに対しトランプ前大統領は「大海軍の建設で偉大なアメリカを再現する」と掲げるとともに、「主要艦355隻体制」をぶち上げた。しかも、2017年には「海軍力を強化して国土を保全する法律」、通称SHIPS法により軍艦増強が義務化されたが、現在は前述の約260隻に加え「355隻体制」にカウントされる掃海艦、戦闘補給艦、その他支援艦艇を加えても約300隻のレベルで、まだ50隻以上も足りない状況にある。
これに危機感を抱いたのか、2020年末に米海軍は今後30年間の軍艦建造計画を立案。2050会計年度に主要艦を405隻まで増やすとぶち上げている。
次期駆逐艦(実態はより大型の巡洋艦クラス)の「DDG(X)」や新型フリゲート「コンステレーション」級(2026年就役予定)など、新型艦の開発・建造にも本腰を入れて量産を目指す模様だが、前述した掃海艦や戦闘補給艦など含めた「主力艦」の数え方によれば、中国海軍はすでに390隻に達するとも見られ、一部の欧米メディアは「中国の軍艦建造スピードを考えると、米中の主力艦の数の差はますます広がるばかり」と懸念する。
その一方で、前出の軍事専門家はこんな見方もする。
「楽観は禁物だが、海軍は軍艦の数で優劣をつけてもあまり意味がなく、長年蓄積してきたノウハウや、艦隊全体をシステムとして操る運用力、さらには電子技術などがものを言う世界で、急激に膨張した中国海軍に果たしてこうしたものが備わっているのか疑問だ。特に米海軍の空母艦隊(空母打撃群)の総合力は圧倒的で、空母をサポートするイージス艦や静粛性を誇る原潜の能力も、まだまだアメリカが中国を凌いでいる」
とは言うものの、3正面に対応するには、やはり現状の規模では極めて難しく、海軍はもちろん、全軍の主要兵器の実数を早期に増強する必要があるだろう。
しかも、米軍の弱体ぶりを見越したように、南米の反米国家ベネズエラが、隣国ガイアナの領土の大半を「自国領だ」と言い出し、武力侵攻の恐れも出てきており、「アメリカにとって第4の正面になるかもしれない」(別の軍事専門家)ともささやかれている。
「アメリカの裏庭」とも揶揄される中南米での侵略戦争を許すようでは、アメリカの沽券に関わるが、「米軍の抑止力が効かない表われかもしれず、仮に座視した場合、『米軍は出動しない』と誤ったシグナルを中国側に送る結果となり、予期せぬ軍事衝突に発展する可能性は否定できない」(別の軍事専門家)とも見られている。
「世界の警察官」の地位をかなぐり捨てたとはいえ、世界の軍事的覇権の維持に努めるアメリカの次なる一手は。
●ロシア「軍事計画に減速」の兆候=ウクライナ大統領 12/22
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ウクライナはロシアの軍事計画と活動が減速しつつある兆候があるという認識を示した。
ゼレンスキー大統領は恒例の夜のビデオ演説で、こうしたことはウクライナ軍事情報機関(HUR)の報告書に記載されているとし、「敵の計画やロシア国防(産業)の取り組みなど、減速を示す兆候がある。われわれは(ロシアの)減速を後押しし続ける」と語った。ただ、詳細については語らなかった。
ゼレンスキー氏がロシアの防衛産業に関して述べたのか、それともより広い意味でのロシアの戦術や目的について述べたのか、現時点では明らかになっていない。
ウクライナ軍参謀本部はこの日の夕方に発表した報告書で、1000キロメートルにおよぶ前線に沿ってロシア軍の攻撃が止む気配はないと指摘。また、ウクライナ南部タウリヤ地区の軍司令官は20日、ロシア軍による砲撃が激化していると報告している。
●ウクライナ、国外居住の男性国民に兵役に就くよう要請へ 12/22
ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は、国外に住む25〜60歳のウクライナ人男性に兵役に就くよう求める方針を示した。ドイツのメディアなどが21日報じた。
ウメロフ氏は独メディア「ヴェルト」と「ビルト」、米政治ニュースサイト「ポリティコ」のインタビューで、兵力の増強について語った。兵役は「罰ではなく」、「名誉」だと述べた。
そして、「自発的に応じない場合にどうするかは、まだ議論中だ」とした。
ウメロフ氏は兵役の求めを「招待」と表現した。だが、応じない人は制裁を受けると示唆した。
国防省は打ち消し
このインタビューが報じられると、ウクライナ国防省は打ち消しに動いた。
現地メディアによると、同省のイラリオン・パヴリュク報道官は、「国外からの招集については議論していない」と説明。いかなる強制もしないとし、ウメロフ氏のインタビューについて「ポイントがずらされた」と述べた。
また、「大臣はウクライナの全国民に対し、どこにいるかに関係なく、軍に加わるよう呼びかけている」と強調。「招集令状が届かないからといって、ウクライナにとっての脅威がなくなったわけではない。国外にいるウクライナ人にも同じことが言えるのか? もちろんだ」と話した。
ウクライナは国外に兵士募集のセンターをもたない。ウクライナ当局は誰に対しても、軍への参加を強制できない。
一方で、ウクライナからは多くの成人男性が国外に出ている。
BBCウクライナ語は、欧州連合(EU)の統計機関ユーロスタットが11月に発表したデータを分析。昨年2月にロシアの本格侵攻が始まってからウクライナを出国した18〜64歳の男性は、EU加盟国に向かった人だけでも約76万8000人に上ることが分かった。
兵士の休暇は年10日
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日の記者会見で、軍が45万〜50万人の新兵を必要としていると述べた。同時に、その達成はデリケートな問題だとした。
ゼレンスキー氏はまた、ロシアとの戦いの前線には現在、50万人のウクライナ兵がいると示唆。ローテーションや休暇も問題になっているとした。
現在の招集兵と志願兵は、終戦まで兵役に就くことが義務づけられている。休暇は年に10日しか認められていない。
これに対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今週、ウクライナでの「特別軍事作戦」に参加しているロシア兵は61万7000人だと述べた。
BBCはこれらの人数が正しいか独自に確認できていない。
●窮地に立つゼレンスキー大統領、「軍が50万人を追加要請…資金調達?」 12/22
米・EUの支援が行き詰まり、国際社会の関心も薄れる
「毎日、我が軍の戦士たちに変わらぬ感謝の意を伝える。国を守るために戦っている人々に、訓練をしている人々に、命を救って治療している人々に、必要な武器を製造している人々に…。我々は必ず国と主権を守る」
来年には勃発から3年目を迎えるロシアとの戦争で、窮地に追い込まれているウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が20日、再び勝利への決意を固める国民向け演説を行った。昨年2月末に始まった戦争の長期化に伴い、国際社会の関心と支援が薄れ、国民の負担は大きくなる状況を突破しようとする意志を示したのだ。ウクライナは6月初め、ロシアの南東部占領地を2つに分割するため、大々的な反転攻勢を始めたが、目立った成果を上げられていない。さらに10月初めにガザ戦争が始まり、国際社会の関心は全て中東に注がれている。
ウクライナを最も当惑させる変化は、国際社会の支援熱気が冷めたことだ。米上院のチャック・シューマー民主党院内総務とミッチ・マコネル共和党院内総務は19日、ウクライナへの追加支援が含まれた予算案について「上院の来年の早い行動を希望する」という内容の共同声明を発表した。ジョー・バイデン大統領が10月20日に議会に提出したウクライナ支援予算614億ドル(約8兆7400万円)を含む計1059億ドル(約15兆円)規模の緊急支援予算の今年中の処理を諦めるという宣言だった。
欧州連合(EU)がウクライナに支援するため500億ユーロ(約7兆8300万円)規模の支援予算も14日、ハンガリーの反対で阻まれた。欧州連合の予算案の決定には加盟国の満場一致の賛成が必要だ。ドイツのキール世界経済研究所の集計によると、今年8〜10月の間にウクライナに対する世界各国の新規支援は戦後最低水準に落ちた。反転攻勢を率いるウクライナ軍のオレクサンドル・タルナウスキー准将は18日、ロイター通信とのインタビューで「すべての戦線」で砲弾が不足しているとし、「一部の地域では我々は防衛に転じている」と語った。
これに比べ、ロシアは戦時経済への移行に拍車をかけている。英国のBBCは西側当局者の話として、来年ロシア予算40%ほどが国防・安保分野に配分される見通しだと報じた。ロシアは昨年末、1カ月に長距離ミサイル約40発を生産できたが、今は西側の経済制裁にもかかわらず、1カ月で100発余りを生産できるほど生産能力を拡大したものと推定される。 ロシアのウラジミール・プーチン大統領は19日に開かれた国防総省会議で、ウクライナとの戦争と関連して、ロシア軍が「主導権を握っている」とし、「特別軍事作戦(ウクライナ侵攻)の目標を放棄する考えはない」と述べた。
これに対抗し、ゼレンスキー大統領は19日、場所と時間を一般に公開せず、国内外メディアとの記者会見で、兵力50万人を追加動員する可能性を示唆した。ゼレンスキー大統領は「彼ら(軍首脳部)が45万〜50万人の追加動員を提案した。私はもっと多くの討論が必要だと答えた」と語った。ウクライナ軍兵力は現在100万人程度だが、半分近く増員するという話だ。ゼレンスキー大統領は、追加動員にかかる費用も5000億フリブナ(約1兆9千億円)に及ぶとし、「どこからその金をねん出するのか、首相と財務長官に答えを聞きたい」と述べた。
●EUの脱炭素政策と脱ロシア政策の両立は可能か 12/22
はじめに
欧州連合(EU)は現在、世界の気候変動対策を牽引しながら、2050年までに域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロ(net-zero)にするカーボンニュートラルの実現に取り組んでいる。脱炭素政策と同時に、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に、エネルギー面でのロシア依存からの脱却も図っている。
こうした中、気候変動対策の国際協議の場である国連気候変動枠組条約締約国会議の第28回会合(COP28)が2023年11月30日〜12月13日まで、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)で開催された。EUはCOP28で地球温暖化対策の重要性を訴えつつ、次世代エネルギー分野で主導権を握れるような、成果文書の採択を目指した。
本稿は、EUが気候変動対策に注力する理由や、エネルギー面での脱ロシア政策の進捗状況、そしてCOP28の成果文書から見えるEUのエネルギー政策の見通しについて考察する。
EUにとっての気候変動対策
地球温暖化による影響が深刻化していく中、EUは温室効果ガスの削減のため、気候変動対策で主導的な役割を果たしてきた。1994年、EU(当時は「欧州共同体(EC)」)は国連気候変動枠組条約(UNFCCC)に加入し、2002年には、先進国を対象に温室効果ガスの排出削減義務を定めた「京都議定書」を批准した。2005年に域内の排出量取引制度をいち早く導入し、2015年にパリで開催されたCOP21では、先進国のみならず途上国にも温室効果ガス削減・抑制目標の策定を義務付ける「パリ協定」の採択に尽力した。2018年に「カーボンニュートラル」長期戦略を打ち上げ、2019年には脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」を発表した。
EUが気候変動対策を推し進める背景として、1環境問題の政治化が進展していること、2通商分野での影響力を維持するうえで効果的なこと、が挙げられる。
まず、EU域内で環境問題の政治化が進み、気候変動対策がますます重要性を帯びている。欧州議会において環境会派「緑の党・欧州自由連合」の議席数が過去20年で43議席から74議席まで増加し、存在感を強めている。また、ドイツやオーストリア、フィンランドなどでは緑の党が連立政権に加わり、政権与党として環境政策を推進している。緑の党の発言力の高まりを受け、他政党もより踏み込んだ環境政策を提言せざるを得なくなっている。そして、EU市民の環境意識が高いことも、各政党が環境政策を取り上げる理由である。欧州委員会が2023年5〜7月に実施した世論調査「ユーロバロメーター」によれば、EU市民の4分の3以上(77%)が、気候変動は現在非常に深刻な問題であると回答した。また、67%が自国政府の気候変動対策の取り組みが十分できないと考えている。
次に、外交・軍事面では主に各加盟国が権限を握るため、EUとして行使できる権限は乏しい。一方、約4億5000万人の巨大経済市場を擁す点から、EUは域内市場への参入条件や関税を通じて、通商分野で影響力を保持している。気候変動対策でも、EUは規制パワーを使って、国外の企業にEU市場のルールを守らせるだけでなく、場合によっては相手国の政策変更を求めるまでになった。また、EUが各国に先んじて厳しい規制を打ち出し、企業側が製品やサービスをその規制に合わせることで、やがてEUの基準がグローバルスタンダードになる流れがある。こうした現象を、米国コロンビア大学のブラッドフォード教授は「ブリュッセル効果」と名づける。
環境政策と自立的なエネルギー政策の両立
カーボンニュートラルの実現を目指すEUは、ウクライナ危機により、エネルギー面での課題に直面した。EUはロシアの戦費につながる資源収入を断つため、対ロシア制裁を強化し、ロシア産化石燃料への依存からの脱却を試みている。2022年12月に海上輸送による原油輸入を停止したほか、2023年2月に石油製品の輸入も禁止した。また、ロシア産のガス輸入抑制を目的に国内消費量の15%削減に努めながら、2027年までに全てのロシア産化石燃料を禁輸する計画だ。
脱ロシア政策のカギを握るのが、2022年5月に発表された「REPowerEU(リパワーEU)」計画である。主な目的は、ロシア産化石燃料への依存を減らすと同時に、クリーンエネルギーへの移行を早急に進めることである。これにより、EUは気候変動対策に関連する目標数値を更に引き上げた。再生可能エネルギー(再エネ)の導入は、2030時点の最終エネルギー消費の割合で従前の40%から45%まで上昇し、次世代エネルギーとして期待されるグリーン水素については、製造量、輸入量とも1000万トンに設定された。
REPowerEUの進捗状況は、米国コロンビア大学国際公共政策大学院グローバル・エナジー・ポリシー・センター(CGEP)によれば、表1の通りである。
   表1:REPowerEUの進捗状況(2023年11月時点)
   2022年の短期目標 / 達成可否
   LNG輸入の500億立方メートルの追加輸入 / 目標達成(※ロシア産も含む)
   ロシア以外のパイプライン経由天然ガス輸入で100億立法メートルの追加調達 / 目標達成
   バイオメタン生産を350億立方メートルに拡大 / 未達成
   130億立方メートルの自主的なガス消費節約 / 目標達成
   2030年までの長期目標 / 進捗状況
   2027年までにロシア産天然ガスの輸入依存度をゼロ / 順調
   2030年までに350億立方メートルのバイオメタン生産 / 停滞
   2030年までに水素消費量を2000万トンに拡大 / 停滞
   2030年までに510GWの風力発電設備容量の導入 / 停滞
   2030年までに592GWの太陽光発電容量の導入 / 概ね順調
   2030年の最終エネルギー消費量を予測基準値比で13%削減 / 順調
長期目標では、2027年までのロシア産ガス依存からの脱却に見通しが立ちつつある。他地域からの代替調達が進む中、再エネ比率の上昇といった電源構成の多様化が重要な役割を担っている。気候変動対策として推奨されてきた太陽光発電の導入スピードは脱ロシア政策も相まって、更に加速している。EU各国の太陽光発電の総設備容量は2027年までに、2022年比で2〜3倍の増加が予測される(図1)。
   図1:EU加盟国の太陽光発電の総設備容量の推移及び予測
EUは再エネ比率を高めることで、まずは発電部門で脱炭素化を図っている。輸送部門については、2023年3月、ガソリンなどで走るエンジン車の新車販売を2035年に全面的に禁止する方針を転換し、環境に良い合成燃料を使うエンジン車に限って認めると表明した。電気自動車(EV)へのシフトを進めつつ、再エネ由来のグリーン水素と二酸化炭素から製造される合成燃料「e―Fuel(イーフューエル)」を使用するエンジン車を普及させていく計画だ。
化石燃料の扱いをめぐるCOP28
EUは脱ロシア政策を進めながら、脱炭素政策にも取り組んでいる。しかし、世界的な気候変動対策の観点では、EU以外の国が化石燃料を利用し、温暖化係数の高い二酸化炭素を排出し続けている状況は変わりない。こうした中、COP28が、産油国でありながら脱炭素政策を牽引するUAEで開催され、化石燃料の扱いをめぐる協議に注目が集まった。
COP28は従来通り、主に欧米諸国と小島嶼国連合が化石燃料の「段階的廃止」を主張する一方、石油輸出国機構(OPEC)を中心とする産油国が化石燃料全般に対するいかなる規制にも反対した。OPEC側は、化石燃料の消費・生産を抑えるのではなく、温室効果ガスの排出量抑制に重点を置くべきだと主張した。最終的に、「化石燃料からの脱却」という文言に修正することで最終合意に至り、COP28の成果文書は採択された。EUは当初求めていた段階的廃止からのトーンダウンを余儀なくされたものの、石油・天然ガスも含めた化石燃料全般の扱いに言及した初の合意にこぎつけることに成功した。産油国がこれまで一切譲歩してこなかった経緯を踏まえると、化石燃料全般の扱いをCOPの議題に乗せることができた今次会合は、EUにとっては意義あるものであったと考えられる。
COP28の成果文書には、EU主導の下、再エネの拡大に関する誓約も盛り込まれた。各国は再エネの発電設備容量を2030年までに現在比の3倍に拡大させることとなる。EUは既にRePowerEU計画を通じて太陽光発電の導入に着手済みであり、こうした発電部門のクリーン化の動きが世界に広がれば、排出量削減の効果が期待できる。また、世界各地で再エネ由来のグリーン水素の増産が見込まれる。現在、EUは世界に先駆けて水素市場の構築に努めているため、この先、諸外国で作られたグリーン水素を積極的に受け入れていくと予想される。こうして、EUが世界に先行して水素の一大市場を形成し、ルール作りを主導することができれば、次世代エネルギー分野での影響力を握ることが可能となるだろう。 
●プーチン氏「ロシアが戦いの主導権を握っている」…大統領選を有利な形に 12/22
防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事と東大先端科学技術研究センターの小泉悠准教授が22日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、ロシアによるウクライナ侵略について議論した。
プーチン露大統領は今月19日の会合で、ロシアが戦いの主導権を握っていると述べた。兵頭氏はこの発言について、プーチン氏が来年3月の大統領選に出馬することから、「国民に『特別軍事作戦』が順調に進んでいると述べ、選挙運動を有利な形で展開したいのだろう」との分析を示した。小泉氏は「ウクライナ軍の反転攻勢の失敗で、露軍が主導権を握りつつある」と語った。
●プーチン氏側近、プリゴジン氏暗殺に関与か 主翼下部に爆発物 米紙 12/22
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が8月に死亡した件で、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は22日、プーチン大統領の側近であるパトルシェフ国家安全保障会議書記が承認した暗殺だった、と報じた。
プリゴジン氏ら10人が乗ったジェット機は、今年8月23日に墜落。ロシア政府は一貫して関与を否定し、プーチン氏は10月、機内で手投げ弾が爆発したことが原因だと示唆していた。
一方、WSJは複数の西側諸国の情報当局者やロシアの元情報当局者の話として、プリゴジン氏の暗殺は墜落の2カ月前から計画され、主翼の下部に小さな爆発物を設置して実行したと報道。ロシア政府高官は事件の数時間後、「彼は排除されなければならなかった」とある欧州人に語っていたという。
プリゴジン氏率いるワグネルは6月、ロシア南部の軍司令部などを占拠し、モスクワに向けて進軍した。WSJによると、パトルシェフ氏はこれ以前から、プリゴジン氏の影響力の高まりについてプーチン氏に警告。「反乱」を暗殺の機会ととらえたという。
WSJはパトルシェフ氏について「巨大な官僚機構のレバーを握っている」と指摘。プーチン氏に極めて近い後継者候補で「ロシアで2番目に強大な権力を持つ人物だ」と伝えている。
●ロシア大統領選 リベラル系女性議員が立候補 早くも政権から圧力 12/22
来年3月のロシア大統領選挙を巡り、ウクライナ侵攻に反対するリベラル派の無所属候補が台頭しています。早くも政権による圧力を受けていると訴えています。
来年3月の大統領選への立候補を今月20日に届け出たエカテリーナ・ドゥンツォワ氏(40)は21日、届け出書類を作成した公証人に対して法務省の調査が突然入ったと明らかにしました。
届け出書類の信憑(しんぴょう)性を当局が傷付けようとしていると訴えています。
ドゥンツォワさんはホームページ上で「少なくとも10年間、この国は間違った道を進んできた」とプーチン政権を批判しています。
「この国には一刻も早い変革が必要だ」とし、侵攻の停止や民主化、政治犯の釈放を求めています。
ドゥンツォワ氏はモスクワ北西のトベリ州ルジェフ市で独立系地方局の編集長を務めたほか、地方議員として活動していましたが、全国的にはほぼ無名でした。
プーチン大統領の対立候補の擁立を模索する運動「ナーシ・シュタープ」の支援を受けて11月に立候補を表明すると急速に支持を拡大しました。
そして今月17日、モスクワで集会を開き、届け出に必要な500人の推薦人を集めました。
無名の候補の台頭に対して国営メディアは、プーチン大統領の政敵である元石油王のホドルコフスキー氏が支援していると指摘しています。
一方で、リベラル派の一部からは市民の不満のガス抜きのためにプーチン政権が裏で操っている候補者だと警戒する声も出ています。
ドゥンツォワ氏は21日、野党系のユーチューブ番組に出演し、ホドルコフスキー氏と直接的な関係はないと報道を否定しました。
ドンツォワ氏の届け出が受理されるかは不透明です。
受理されれば無所属での立候補に必要な30万人の署名集めに移ります。
期限は1月末までで厳しい状況ですが、事実上の選挙運動になるとみられます。
●ロシアリベラル「最後の生き残り」ナジェージュジンに希望はあるか? 12/22
2024年3月、ロシアで大統領選挙が予定されている。現状では、ウラジーミル・プーチン大統領の5選が確実だが、政府も「ロシアは民主主義」だと言えるよう、野党系に立候補を促している、と伝えられる。
そのせいか、モスクワ市議会議員でリベラル系のボリス・ナジェージュジン(ロシア語のできる筆者でも舌をかむ発音だ)が、立候補の意向を明らかにしている。これまで所属政党を気軽に変えてきたが、いずれもリベラル系。過去にはリベラルの巨頭ボリス・ネムツォフ第1副首相(15年暗殺)の補佐官を務めている。
今年60歳。その家系には代々、音楽家が多く、彼自身ギターを抱えて歌う吟遊詩人スタイルで4枚のCDを出している。全国数学オリンピックで2位になったこともあり、コンピューターゲームにも興ずる。テレビ討論番組の常連で、昨年5月には「プーチンが辞めなければ、ロシアは欧州に戻れない。24年の大統領選挙は、プーチン以外なら誰でもいい」と、大胆なことを言っている。
「ロシアのインテリ」は、18世紀初めにピョートル大帝が貴族のひげを剃り落とさせ、上層部の西欧化を図った時に生まれた階層だ。トルストイの『戦争と平和』にあるように、自宅でもフランス語を使い、西欧で年の半分も過ごすような貴族から、チェーホフの戯曲に登場する医師、教師などの貧乏インテリまでさまざま。ただ絶対少数で、大衆の海の中では浮いている「余計者」的存在だ。
大衆から嫌われるリベラル
彼らはソ連の時代も西欧文明と自分を同一視し、西欧の自由と民主主義に憧れた。1960年代のフルシチョフの「雪解け」、85年からのゴルバチョフのペレストロイカ、そしてエリツィンによる無秩序な自由化の時代に、彼らはやっと自分たちの時代が訪れたと思い、そのたびに裏切られてきた。
彼らはもともと絶対少数の存在だし、90年代には極端な自由化に走って経済、社会を混乱の極みに導いた張本人だと思われて、大衆に嫌われている。全てが国営だったロシアでは、今でも大多数が政府、国営企業に雇われているから、反政府主義者は異分子になる。「自由と民主主義は混乱の元」はロシアの公理なのだ。
ウクライナ侵攻でリベラルは散り散りに
この社会構造を公安警察KGBの後身FSBが津々浦々に張ったネットワークで監視する。00年、そのFSBを力の基盤とするプーチンが権力の座に就くと、リベラル分子は権力から遠ざけられた。
そして22年2月にウクライナ侵攻が始まり、リベラル・インテリは西側の友人との交信もはばかられる時代となった。モスクワに勤務した筆者にとって、彼らとの付き合いが一番面白かったが、今では彼らはロシア至上主義に走ったり、「ロシアをこんな国にした責任はアメリカにある」と恨み言を述べたり、と散り散りになった。
ナジェージュジンはそのような、裏切られたリベラルの最後の生き残りだ。ロシア当局が彼の大統領選立候補を認めるかどうかまだ分からないが、認められたとしても、リベラル嫌いの大衆は彼に投票するまい。投票したとしても、ロシアの電子集票システムがそれをきちんとカウントするかどうか......。
ナジェージュジンという名は「希望」というロシア語から派生している。次の選挙でも、リベラルの希望はつぶされることになるだろう。
●米国、対ロシア「二次制裁」発動へ−決済支援した銀行が対象 12/22
米国はロシアの軍産複合体による資金決済に関与した銀行を対象とする新たな制裁措置を講じる。ウクライナ侵略を続けるプーチン政権に手を貸す資金の流れを断つ取り組みの一環だ。
バイデン米大統領は22日、2本の大統領令を修正し、ウクライナでの戦争を巡りいわゆる「二次制裁」を米国として初めて発動できるようにする。記者団に説明した政府高官が匿名を条件に明らかにした。
これにより、すでに関連の制裁を受けている企業と取引をした場合、銀行に対し金銭面での厳しい罰則が科せられることになる。取引相手がロシア絡みの制裁を受けていることについての認識の有無にかかわらず制裁の対象になる。
米国の銀行はすでに制裁違反にならいようコンプライアンス(法令順守)対応で多額の資金を投じており、新たな制裁措置をさらなる頭痛の種と捉える銀行もあるとみられる。
国際的な銀行の多くはロシアとの直接取引はすでに行っていないが、ロシアとの貿易に関係する金融活動を続けている第3国の金融機関向けにコルレス銀行業務を行うことはあり得る。
イエレン米財務長官は声明で、制裁の「迂回(うかい)・回避を意図的もしくは意図せずして手助けすることがないよう金融機関があらゆる取り組みをすると見込んでいる」とし、ロシアの戦争に絡み便宜を図った金融機関に対し断固たる措置を講じるため今回の大統領令で認められた「新たな手段の活用をためらうことはない」と表明した。
米当局は今後数週間にわたり、米国と欧州の銀行に大統領令について説明し、制裁違反にならないよう対応する必要があると警告する予定。
●「もっと兵士を産め」 ロシアで中絶阻止の動き強まる 12/22
ロシアではウクライナ侵攻開始以降、急激に保守化が進み、国民の暮らしも変化した。影響が及んでいる問題の一つが、女性の中絶権だ。
宗教色のより強い多くの西側諸国とは違い、ロシアでは何十年も前から中絶は合法で、この問題で社会が分裂することもあまりなかった。だがここ数か月で雲行きが変化している。
各地ではロシア正教会の要求に屈し、民間クリニックでの中絶を規制しようとする動きが相次いでいる。一方、国営クリニックを運営する保健当局は政府の方針を強化し、女性たちに中絶を思いとどまらせようとしている。
当局は出生率の向上が目的だとしているが、権利運動家たちはウクライナ侵攻後の広範な弾圧の一環だとみている。
ジョージアに亡命中のフェミニスト活動家、レダ・ガリーナ氏は「戦争中の国家には、この種の法律が常につきまとう」と指摘した。今回の措置はロシア人女性に対し、「家にいて、もっと兵士を産め」という明確なメッセージだとAFPに語った。
中絶をめぐり、ウラジーミル・プーチン大統領(71)は先週、禁止には反対するものの、中絶は国益に反すると発言。人口問題を解決するために、女性には「子どもの命を守ってほしい」と訴えた。
1990年代以降、人口減少が急速に進む中、プーチン氏は出産を促すための経済的奨励策を掲げてきた。だがウクライナ侵攻以降、そこに新たな意味が生まれた。
「国家の存続」
政治アナリストのタチアナ・スタノバヤ氏は、中絶は今や「国家の存続問題と見なされている」と説明する。 
またプーチン氏が政府方針に抵抗するあらゆる社会的立場について、西側諸国の策略だとみているとも指摘した。「中絶もその一部だ。女性に中絶させることは、ロシアの人口問題を悪化させようとする西側の策略だと考えている」
政府系のクリニックでは長年、女性に中絶を思いとどまらせるために「相談会」を実施してきた。だが保健省が新たに発表した医師向けの勧告は、もっと強引な方法を推奨している。
人口学者のビクトリア・サケビッチ氏は「女性たちにプレッシャーをかけ、脅し、(中絶を)止めさせようとする態度だ」と批判した。中絶を回避させた医師に報奨金を支給する地域もあるという。
もしも民間クリニックでの中絶が禁止されれば、中絶薬の闇市場や違法な中絶処置が広がりかねないとサケビッチ氏は懸念する。
さらなる規制の可能性
ロシアの中絶反対派はかつては少数派だった。だがウクライナ侵攻によって、以前よりも過激な提言ができる「政治的環境」が生まれたと、スタノバヤ氏は言う。
政治学者のエカテリーナ・シュルマン氏は、来年3月に大統領選を控えて「戦争や経済状況について話すことができない」時期に、ロシア国民に意図的に与えられた話題が中絶をめぐる議論だと指摘。
さらに、当局は「女性にもっと子どもを産ませようとするのではなく、人口減少の主要因となっている男性の早世を解決すべきだ」と批判した。
しかし、若者から壮年期まで非常に多くの男性がウクライナの戦場へ送られている今、男性の寿命に関する話はタブーだ。
ロシア人の人口学者で、フランス・ストラスブール大学に所属するセルゲイ・ザハロフ氏は、「さらなる禁止、さらなる規制が予想される」と警告している。
「中絶の規制を含め、あらゆる手段で出生率を上げようとする」ことは、スペインのフランシスコ・フランコやイタリアのベニト・ムソリーニといった独裁者がやったことだとザハロフ氏は批判する。「こうしたやり方が成功したためしはない」
●プーチン高笑い!弾薬尽きて軍部も国民もソッポのゼレンスキー「自滅」 12/22
日本政治が自民党のキックバック問題に揺れ、世界ではイスラエル軍によるイスラム組織ハマスへの攻撃が注目を浴びるなか、ロシアとの睨み合いが続くウクライナがエライことになっている。1年前、90%近くの国民の支持率を集めノーベル平和賞の呼び声さえあったゼレンスキー大統領が、2024年春の大統領選挙で「敗北」する可能性が囁かれているのだ。
その最大の理由とされているのが、ゼレンスキー氏とウクライナ軍トップのザルジニー総司令官の対立だ。日本の公安関係者の話。
「発端は11月、対ロ反転攻勢を『多少なりとも前進』としてきたゼレンスキーに対し、ザルジニー氏が英国のエコノミストによるインタビューで『ウクライナ軍の反転攻勢はうまくいかず行き詰まっている』などと断言したこと。これで国民の間でゼレンスキー氏に対する疑心暗鬼が生まれたんです」
それを裏付けるように、ゼレンスキー氏の支持率も急落。キーウ国際社会学研究所が国民に行った最新の世論調査では、ゼレンスキー氏を「信頼する」と答えた人は62%。1年前の84%から22ポイントも落ちている。
仏シンクタンク研究員もこう言う。
「総動員下、命をかけ最前線で指揮するザルジニー氏はいま、国民から絶大な人気を得ている。彼への支持があってこそ、ゼレンスキー政権がもっていると言えます。しかも、ザルジニー氏には大統領選への出馬まで囁かれていおり、ゼレンスキー氏は亀裂を否定するのに必死です」
ゼレンスキー氏は11月あたりから非常事態を理由に大統領選の延期を示唆しているが、これにも国内では不満が高まっているのだ。
先の日本の公安関係者は言う。
「戦況ではアメリカとEUからの支援が暗中模索状態で、アメリカなどは議会で多数を占める共和党の承認が得られずまったくメドが立たない。そんな中で、ただただゼレンスキー氏が『国境の完全回復を目指す』と言うだけでは、国民の理解は得られない」
一方、ロシアのプーチン大統領は来年の大統領選での再選を確信したかのように、年末恒例の世界中のメディアを招いての大規模記者会見では上機嫌だった。19日、「軍が最大50万人の追加動員を求めている」と会見で訴えていたゼレンスキー氏だが、今のウクライナ国民にその声が響くかは疑問。その先にはロシアの一斉侵攻の地獄が待っている。
●ショルツ政権「予算措置」違憲判決で、三党連立政権分裂・選挙前倒し? 12/22
ドイツでは12月中旬になると街角にクリスマス・マーケットが開かれ、歳末ムードが深まる。だが2023年の師走は、多くの政治家、中央省庁の官僚たちによって「最悪のクリスマス」として記憶されるだろう。
その引き金は、11月15日に連邦憲法裁判所が下した判決である。この日第2法廷のドリス・ケーニヒ裁判長は、「ショルツ政権が22年初頭に、コロナ・パンデミック向け特別予算の内、余っていた600億ユーロ(9兆6000億円・1ユーロ=160円換算)を、コロナと無関係の経済の脱炭素化やデジタル化のための『気候保護・エネルギー転換基金(KTF)』に流用したことは違憲」と断定した。この予算措置を含む21会計年度の第二次補正予算は無効とされた。
ドイツ版GX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)のための予算の内、600億ユーロの国債発行権が突然使えなくなった。連邦憲法裁の判決に対しては控訴や上告ができない。ショルツ政権は、KTFから補助金を投じて、化学メーカーや製鉄所の熱源の化石燃料から水素への切り替え、再生エネルギー発電設備の建設の加速、老朽化した鉄道インフラの整備、EV(電気自動車)充電設備の増設、外国の半導体工場の誘致などを予定していた。多くのプロジェクトが宙に浮き、産業界で不安が強まっている。
判決の背景にあるのは、憲法(基本法)の債務ブレーキという規定だ。16年以来連邦政府は、この規定により国内総生産(GDP)の0.35%を超える財政赤字(新規債務)を禁じられている。だが連邦政府は、20年のコロナ・パンデミックと22年のロシアのウクライナ侵攻という想定外の危機に対処するために、多額の財政出動を迫られた。このため連邦議会は政府の求めに応じて、20〜22年の3年間を緊急事態に指定して、連邦政府が追加的な国債を発行できるようにした。
21年12月に就任したオラフ・ショルツ首相は、コロナ・パンデミックのための特別予算「経済安定化基金(WSF)」の内、国債発行権600億ユーロが使われずに残っていたことに着目した。彼はこの600億ユーロを、新政権が予定していたグリーン化・デジタル化プロジェクトなどに流用させた。
連邦憲法裁は、「ショルツ政権は、なぜコロナ・パンデミックのための国債発行権を、脱炭素化など他の目的に流用できるのかについて、十分に国民に説明しないまま、予算の付け替えを行った」と批判し、600億ユーロを他の財源によってまかなうよう命じた。
財務大臣にとって最大の打撃
この判決によって最も深い傷を負ったのは、自由民主党(FDP)の党首、クリスティアン・リントナー財務大臣である。予算の一部が裁判所によって無効と判定されたのは、ドイツの歴史でも例がない。リントナー大臣は判決が言い渡された日、KTFだけではなく正規の連邦予算からの支払いをも停止させた。また11月24日、連邦財務省でコロナ対策用の国債発行権をKTFに流用する政策の責任者だったヴェルナー・ガッツァー財務次官を、12月31日付で休職処分(事実上の解雇)にした。
23会計年度中に、予算の穴埋めのために増税したり歳出をカットしたりすることは不可能だった。そこでリントナー大臣は、11月23日に23会計年度について補正予算を組み、20〜22年と同じく緊急事態と見なして、事後的に債務ブレーキを解除することを提案した。
リントナー大臣にとって、この決定は「敗北」を意味した。彼が率いるFDPの支持基盤は企業経営者であり、同党は政府が過度な借金を行わないように債務ブレーキを堅持することを党是にしているからだ。大臣自身もこれまで繰り返し、「債務ブレーキをゆるがせにしてはならない」と発言してきた。彼は、コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争が起きた20〜22年は、例外中の例外だと考えた。
リントナー大臣の苦悩は、11月23日に行った数分間の短い記者会見に表われていた。彼はこの際に「23会計年度について補正予算を組む」と言ったものの、「23年についても債務ブレーキを解除する」とは言わなかった。債務ブレーキという言葉は、財務省が数時間後に発表した広報文の中で初めて使った。彼は、20〜22年に続いて23年も債務ブレーキの解除に追い込まれたことを屈辱と感じ、記者会見の中でこの言葉を使うのを避けたのだろう。違憲判決が出て予算の穴埋めができなくなった末に、苦し紛れに23会計年度を再び緊急事態と見なすという決定については、会計検査院が「法律的に問題がある」と批判している。
EV購入補助金も前倒しで廃止へ
24会計年度の予算については、違憲判決の結果170億ユーロ(2兆7200億円)が不足した。社会民主党(SPD)と緑の党からは、「エネルギー転換を予定通り進めるために、24年についても債務ブレーキを解除するべきだ」という意見が出た。緑の党のロベルト・ハーベック経済気候保護大臣は、「2019年までの10年間のように、ドイツが安い天然ガスや原油を輸入でき、景気が好調だった時代には、債務ブレーキは有効に機能した。しかし45年までにカーボンニュートラルを達成するという大事業のために、政府による大規模な投資が必要な時には、債務ブレーキは足かせになる。したがって、債務ブレーキを廃止するか、未来のための重要な政府の財政出動については、債務ブレーキの解除が許されるべきだ」と主張した。
これに対し、リントナー財務大臣は債務ブレーキの解除や廃止に頑として反対。彼は逆に、長期失業者への生活保護(市民援助金)を来年1月1日から12%引き上げるという計画の中止など、社会保障支出のカットを要求した。これには緑の党とSPDが反対した。FDPは企業経営者たちの意向を汲んで増税に反対しており、富裕層などへの特別課税も難しい。
ショルツ首相、リントナー財務大臣、ハーベック経済気候保護大臣は連日の協議の結果、12月13日の記者会見で「24年には債務ブレーキを解除せず、歳出削減によって対応する。使える金が少なくなったのだから、歳出を一部減らすのは止むを得ない」と発表した。首相は、24年については原則として債務ブレーキを適用すると発表し、リントナー財務大臣の面目がつぶれるのを避けた(ただし21年の洪水被災者の援助基金については債務ブレーキを除外する他、将来ロシア・ウクライナ戦争がエスカレートした場合には、債務ブレーキの解除があり得る)。
政府は、現在2118億ユーロ(33兆8880億円)であるKTFの予算規模を27年までに約450億ユーロ(7兆2000億円)減らす。産業界や家庭の暖房設備の脱炭素化には予定通り助成金を交付するが、24年末に予定されていたEVの購入補助金廃止を今年12月17日に前倒しした他、太陽光発電関連のの助成金を減らす。
さらに政府は自動車と暖房の燃料にかかっている炭素税率の引き上げを前倒しにしたり、国内で運航される旅客機向けのチケット税を導入したりするほか、プラスチック賦課金や農業従事者のディーゼル車両用軽油補助金など、二酸化炭素削減の原則に反する補助金を廃止する方針だ。
総体的に見ると気候保護プロジェクトにとって最も重要な財源であるKTFに大ナタが振るわれて、ここを所管するハーベック大臣が「負けた」形だ。再エネ業界、電力業界や自動車業界、農民たちから強い不満の声が出ている。また連邦議会は12月15日に閉会してクリスマス休暇に入ったので、24会計年度の予算を今年中に連邦議会で可決させることは不可能になった。
連立与党への支持率が軒並み下落
違憲判決による混乱は、政権党に対する国民の不信感を増幅した。ドイツの世論調査機関INSAが11月25日に発表した世論調査の結果によると、SPDへの支持率は、21年9月26日の連邦議会選挙での得票率に比べて9.7ポイント下がった。緑の党への支持率は2.8ポイント、FDPへの支持率は5.5ポイントそれぞれ減った。3党の支持率を合わせても34%にしかならず、過半数に達しない。
逆に野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)への支持率は過去約2年間に5.9ポイント、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)への支持率は11.7ポイントも増えた。
最も苦しい状況にあるのは、リントナー財務大臣だ。ドイツでは小政党の乱立を防ぐために、得票率が5%に達しない政党は、連邦議会で会派として議席を持つことができない。FDPへの支持率は低空飛行を続けており、今後の予算危機の展開によっては、次の総選挙の得票率が5%台を割る危険もある。
しかもFDPの一部の党員は、「我々は緑の党とSPDに対して、環境問題などをめぐって譲歩し過ぎているために、支持率が低下している」として、連立政権から離脱することを求めている。彼らは500人の党員の署名を集め、FDP執行部に対して、連立政権から離脱するべきかどうかについて、党員に対する意見調査を実施することを要求した。党の規約によると、執行部は500人分の署名が集まった場合、党員に対する意見調査を行わなくてはならない。この意見調査の結果には、拘束力はない。つまり仮にこの意見調査で半数を超える回答者が連立政権から離脱するべきだと答えても、党執行部が離脱を強制されるわけではない。ただし、そのような結果が出た場合、リントナー財務大臣への圧力がさらに高まることは確実だ。
次期総選挙ではCDU・CSUが政権に?
一方、連邦憲法裁の判決は、野党CDU・CSUにとって追い風となった。同党の連邦議会議員団は、22年1月にショルツ政権が提出したWSFのKTFへの流用を含む補正予算案について、「憲法違反だ」と反対したが、議席の過半数を占めていた連立与党の議員たちに押し切られた。このためCDU・CSU議員団は、連邦憲法裁に違憲訴訟を提起し、勝訴した。同党は、ショルツ政権に痛烈な打撃を与えたのである。
CDUのフリードリヒ・メルツ党首は、違憲判決後最初の連邦議会の本会議で、与党席のショルツ首相に面と向かって「あなたは首相を務める器ではない。首相の職務は、あなたには荷が重すぎる」と述べ、予算危機を引き起こした責任を追及した。
姉妹政党CSUのマルクス・ゼーダー党首は、「連立与党は、国民の信頼を失った。25年に予定されている連邦議会選挙を前倒しして、来年実施するべきだ」と主張している。CDU・CSUはショルツ政権が実施しつつあるエネルギー転換についても、「市民に頭ごなしに命令するのではなく、市民の理解を得ながら行うべきだ。違憲判決は、緑の党のエネルギー政策の破綻を意味する」と発言した。CDU・CSUは、ショルツ政権が今年4月15日に最後の3基の原子炉を停止したことも、「誤りだった」と批判しており、小型原子炉などを使った原子力エネルギーへの回帰を目指している。
またCDU・CSUは難民政策もこれまで以上に厳しくする予定だ。同党は、EU(欧州連合)への亡命を希望する外国人について、まずEU域外の第三国の審査センターで亡命資格があるかどうかをチェックし、資格がない外国人はEUに入域させずに出身国へ追い返すことを提案している。たとえばアフリカや中東から地中海を船で渡ってイタリアに到着し、ドイツに来て亡命を希望する外国人も、まずEU域外の第三国の審査センターに移送・収容される。審査センターの候補地としては、アフリカのガーナなどが挙がっている。その理由は、ドイツに亡命する資格がないのに、病気や家族の事情などを理由に国外退去を免れ、この国に居残っている外国人の数が約21万人にのぼるからだ。
ドイツでは今年に入ってから、暖房の脱炭素化に関する法律など、緑の党の環境保護最優先路線に対する市民の批判が強まっていた。難民に寛容な緑の党の姿勢も、CDU・CSUとは際立った対照を見せていた。
その流れが連立与党への支持率を引き下げ、CDU・CSUとAfDへの支持率を押し上げていた。今回の違憲判決は、連立与党の次の総選挙での敗北、CDU・CSUの勝利の可能性を大幅に強めたと言うことができる。リベラル勢力にとっては冬の時代が訪れた。
ただしCDU・CSUの支持率は30%台であり、単独過半数には程遠い。つまり他の政党との連立が必要になる。CDU・CSUは、「政策の違いが大きすぎるので、緑の党とは連立しない」と宣言している。CDU・CSUがAfDと連立すれば過半数には達するが、政治的にはリスクが高い。メルツ党首は原則としてAfDとの連立・協力を禁じている。AfDには、ネオナチまがいの発言を憚らない政治家が少なくない。AfDのテューリンゲン州支部・ザクセン州支部・ザクセン=アンハルト州支部は憲法擁護庁から「極右団体」と指定されている。このような党と連立した場合、CDU・CSUにイスラエルやユダヤ人団体から厳しい批判が集中する可能性が高い。AfDはユーロ圏からの脱退を要求しているが、ユーロ圏脱退は為替リスクの復活によって、ドイツ経済に何兆円相当もの損害をもたらすと予想されているため、CDU・CSUには受け入れがたい。したがって、CDU・CSUがAfDと連立する可能性は低い。
最後に残る可能性は、CDU・CSUとSPD、FDPによる連立政権だ。CDU・CSUとFDPの間では、政策の相違点も比較的少ない。この二党だけでは過半数に達しないが、SPDを加えれば50%を超える。最も現実性が高いのはこの組み合わせだろう。
来年は台湾の総統選挙、米国の大統領選挙、欧州議会選挙と重要な選挙が目白押しだが、今後の予算危機の展開によっては、ドイツで連邦議会選挙が行われる可能性もある。
●COP28「勝者」はロシア 天然ガス想定の「移行燃料」確保を合意に成功 12/22
先に幕を閉じた国連気候変動枠組み条約第28回締約会議(COP28)の成果文書に「化石燃料からの脱却」を盛り込んだことは「目くらまし」で、今回のCOPの最大の勝者はロシアだったとの見方が浮上している。会議全体の焦点は、「化石燃料の段階的廃止(phase-out of fossil fuels)」の文言を盛り込むかどうかの綱引きだったとされる。だが、実は同文言をめぐる綱引きはある意味で想定された「出来レース」で、同文言の取り扱いに関係者がヒートアップしている隙を縫うようにして、「移行燃料(Transitonal fuels)」の文言が入った。移行燃料は天然ガスを前提にしており、最初の発案者はロシアというから驚く。しかも同文言の盛り込みをEUが陰で支援したらしい。
歴史的合意か、抜け穴だらけか
年末までわずかとなった現時点で、各国の環境NGOや企業、研究機関等は、今回のCOP28の総括、成果評価等を行っている。COPを成功と讃える向きは「化石燃料の脱却」に合意したことは歴史的成果だ、と強調する。同合意の対象となる「化石燃料」は「fuels」と複数形で記載されているので石炭だけでなく、石油・ガスも含まれる、と解説する「識者」もいる。
懸念を示す向きは「脱却」と「廃止」の違いが不明で、「廃止」の表現を退けて「脱却」の表現に代えたのだから、化石燃料全体の廃止につながるものではなく、化石燃料だけに依存する構造からは脱却するが、同燃料の使用を否定するものではない、との解釈を示す。その依存と脱却の程度は、国によって異なることになる。では、今と、どれくらい変わるのだろか。
スウェーデンの環境活動家のグレタ・ツゥーンベリさんは「成果文書は『歴史的な合意』なんかではなく、抜け穴だらけの極めて曖昧で水増しされた文書の新たな一例でしかない。1.5℃目標を維持し、気候正義を確保するのに十分とは到底、言えない。化石燃料の段階的廃止は最低限必要なこと」とバッサリ切って捨てるコメントをSNSで発信した。
議論が集中するのが、最後の取りまとめでもめたとされる「パラグラフ28」の文言だ。各国に対してグローバルな努力(貢献)を求める8つの項目を列挙している。2030年までに再生可能エネルギー発電能力を3倍増、省エネ改善を倍増する合意も盛り込まれている。ここに盛り込む項目とその項目の文言をめぐって各国代表たちが激しくやり合ったわけだ。
だが「28」をめぐる議論の錯そうの間に、次の「パラグラフ29」の扱いが不自然な動きをしていたという。同パラグラフは「移行のための燃料(transitional fuels)は、エネルギー安全保障を確保するとともに、エネルギー移行(energy transition)を促進する役割を果たしうることを認識する」という表現だ。英メディアClimate Home News(CHN)の検証によると、「移行燃料」という表現は、ロシアが2月の段階に国連に提唱した新たな文言とされる。
天然ガスをめぐるロシアとEUの微妙な関係
世界第二位の天然ガス産出国のロシアは、EUに対しても、ガスの供給を通じてEUのロシアのエネルギー依存度増大を高めてきた。ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアのガス依存率の高いEUの国々、特にドイツ等は、対ロ経済制裁としてロシアからのガスの輸入停止を盛り込む一方で、代替エネルギーの確保に苦吟し、グローバルなエネルギー価格上昇の大きな要因にもなった。
長引くロシア・ウクライナ戦争の現時点においても、EUはロシアからのガスの直接輸入の停止は継続するものの、ロシア産LNGの輸入は制裁対象から外している。LNGも制裁対象にすると、EU自体のエネルギー逼迫の悪化につながる懸念があるためだ。ロシアのLNGに依存しつつ、形ばかりの経済制裁を続けながら、一方でウクライナに軍事支援を続けるEUーー。
ロシアは、EUへの実質的なガス供給の継続にとどまらず、COP28を睨み、天然ガスをネットゼロへの「移行燃料」としての国際的な評価を得るための画策を続けてきたとされる。その成果は、10月にCOPの技術専門家チームがまとめた技術サマリーに「天然ガスの効果的な移行燃料としての役割を理解する(recognise role of natural gas as an efficient transitional fuel)」との表現が入る等の形で浸透していった。
天然ガスを、同じ化石燃料の、石炭、石油とは別扱いにしようとのスタンスは、EU自体にも強くある。2022年のサステナブルファイナンス・タクソノミーの「委任法案」の制定に際して、大騒動を展開した結果、原発とともにガスを「移行事業」に位置付けた。ロシアに対する経済制裁を実施しながら(LNGの抜け穴はあるが)、EU自体のネットゼロ実現に向けたエネルギー戦略上の帳尻合わせも必要との判断だったようだ。
そうした「現実対応」をとるEUの立場は、ロシアにも見透かされていたといえる。あるいは、両者の間で、何らかの調整があった可能性も考えられる。少なくとも、EUは天然ガスを前提とした「移行燃料」の概念をCOPの場で認知させようとするロシアの動きに、暗黙の支持を与えてきたといえる。
「移行燃料」支持派は、EUだけでもなかったようだ。COP28の最後の各国間調整において、カリブ海の島嶼部諸国アンティグア・バーブータの代表、Diann Black-Layne氏は「『移行燃料』の言葉は危険な抜け穴だ。ガスだけでなく、石炭、石油もすべての化石燃料が含まれる可能性がある。われわれはすべての化石燃料から脱却しなければならない」と指摘、「移行燃料」の文言を入れることに反対を表明した。
一方で、同じカリブ海のバルバドスの気候大使の Avinash Persaud氏は「電力網の移行化を考えれば、ネットゼロの電力網ができるまで、既存の電力網を途中段階まで使わざるを得ない」と理解を示したうえで、メディアに対して「『移行燃料』の表現については、少なからぬ国々が支持した。ロシアだけではない」と明かしている。
一時的に、抜け落ちた「29項目」
Cop28の各国交渉の終盤の局面で、ロシアの代表は改めて「天然ガスのような低炭素のフットプリントを有する燃料の役割を強調したい。それらは『移行燃料』であり、温室効果ガスの効率的な削減を可能にする」とアピールした。これらの議論を受けて、議長国のアラブ首長国連邦(UAE)は当初の議長案に「天然ガス」の言葉を抜いた形で、「移行燃料」に言及した案を盛り込んだとされる。ただ、その3日後の議長案バージョンでは、文言はすっぽり抜け落ちていたという。
参加国の関心は最終日を目指して、「化石燃料の段階的廃止」を盛り込むかどうかに集中した議論となっていた。だが、その議論に「移行燃料」の扱いを絡めた議論はなかった。なぜなら、議長案からその文言が一時的に消えたためだ。交渉団もメディアもNGO等のステークホルダーも、移行燃料を想定しないまま、12日の最終日に臨んだ。ところが、最終案の調整の中で、同日午後8時段階の文書案に「パラグラフ29」が、再び、そっと差し込まれたという。多くの交渉担当者は、疲労の中、「29」の再登場に気づかないまま、議論を続け、翌日午前7時に最終文書が発行されて初めて気づいた関係者も少なくなかったようだ。
「移行燃料」の議論を避けたのか、あるいは「段階的廃止」の議論に参加者を集中させようとしたのか。その意図はわからない。ただ、ロシアが主導し、EUも暗黙の了解を与え、島嶼部諸国を含めた「現実論者」の「やむを得ない」との判断も入り混じる中で、「移行燃料は、エネルギー安全保障を確保するとともに、エネルギー移行を促進する役割を果たしうることを認識する」(パラグラフ29)で合意したという経緯は、ほぼ上述のようだ。
移行燃料の表現から天然ガスの言葉は消えた。だが、ガス以外の石炭、石油を「移行燃料」扱いにする国はまず、いない。日本政府だけが石炭火力をアンモニア混焼やCCUS等で移行手段として維持しようとしているぐらいだろう。移行燃料の評価について、エネルギー安全保障とエネルギー移行の促進、という二つの要因をあげたが、両要因は、エネルギー多産出国以外のすべての国に該当する。そう考えると、天然ガスのネットゼロまでの延命はほぼ決まったともいえる。
こうした合意を「歴史的合意」といえるかどうか。ドイツの外相のAnnalena Baerbock氏は、COP28の最終文書を踏まえた会見で、「EUとしては最終テキストを十分に吟味する時間はなかったが、このパラグラフは正直なパラグラフ(honest paragraph)だ」と述べたという。EUは前回のCOP27で自らは天然ガスを使いながら、他の国には再エネにシフトするよう要請する『偽善者』だ、との批判を受けた。それに比べると、今回は自らもガス使用を移行燃料として認める合意に賛同したことで、「正直」に本音を述べたということのようだ。
そのうえで、同氏は「こうしたこと(移行燃料の使用)は次から次に起きることではなく、ゆっくり起きることだ。ガスは移行のための『橋』のようなもの。すべての橋には渡り終えた先があるように、移行を終えれば役割は終わる」と「正直」に語った。移行を終えれば、だが、化石燃料を国家安全保障上の理由やエネルギー移行を条件として使用し続けていると、いくら歩いても橋を渡り切れず、移行の途中で行き詰まるリスクに直面した場合には、どのように備えるつもりなのだろうか。「正直」に語ってもらいたい。
●揺れるウクライナ 国内結束 維持できるか 12/22
ウクライナ支援をめぐる欧米の結束が問われていますが、ウクライナ国内でも政権内の結束が問題となっています。「国際報道2023」油井秀樹キャスターの解説です。(12月21日放送)
今週、再び、注目されたのが、ゼレンスキー大統領と軍のトップ、ザルジニー総司令官の関係です。
これまでもザルジニー総司令官が「戦闘はこう着状態」という見方を示したのに対してゼレンスキー大統領が「こう着状態ではない」と否定し、両者の間の不和が指摘されてきました。
今週、新たに表面化したのが、ゼレンスキー大統領のある決断に対するザルジニー総司令官の不満でした。
その決断とは、ゼレンスキー大統領がことし8月、徴兵逃れの汚職が相次いでいるとして、すべての州の徴兵事務所の責任者を解雇したことでした。
これに対してザルジニー総司令官が、今週、「解雇された責任者たちは、プロフェッショナルだった。仕事のやり方をわかっていたが、彼らは今、いない」
こう発言したと報じられたのです。
再び注目された2人の関係ですが、ゼレンスキー大統領は今週、記者会見で聞かれ、こう発言したのです。
「ザルジニー総司令官とは一緒に働く関係にある。戦場で起きていることは、彼と参謀本部に責任がある」
不和を否定しているような、でも責任をおしつけているような、微妙な言い方ですね。
ゼレンスキー大統領はこの会見で、「軍が40万人から50万人の追加動員を要求している」と明らかにする一方、「慎重な議論が必要だ」と述べ、直ちに承認はしない考えを示していて、追加動員をめぐって大統領と軍の間で意見の違いが生じている可能性もありそうです。
大統領と総司令官の関係は関心が高く、キーウの調査機関が今月、市民に世論調査を行い、「ザルジニー総司令官の解任に賛成か反対か」質問したところ、72%が反対。賛成は2%にとどまったということなのです。
さらに、2人の信頼度については、88%がザルジニー総司令官を信頼していると答え、62%が信頼していると答えたゼレンスキー大統領を大きく上回る結果だったのです。
一方で、ウクライナ政府が懸念しているのがロシアが2人の関係を利用しウクライナの分断をあおる可能性です。
現に、ロシアの対外情報庁のナルイシキン長官が今月、「西側諸国の間でゼレンスキー大統領に代わる後任を議論していて、ザルジニー総司令官など複数の名前が挙がっている」と発言したとロシアの複数のメディアで報じられ、ウクライナ側は警戒を強めているのです。
欧米の結束と国内の結束、その双方を維持できるのか。来年はゼレンスキー大統領にとって試練の年となりそうです。

 

●プーチン大統領の側近が暗殺指示か ワグネル創設者プリゴジン氏の墜落死 12/23
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が死亡したことをめぐり、プーチン大統領の側近が暗殺を指示したとアメリカメディアが報じました。
これはアメリカのウォールストリート・ジャーナルが22日、西側の情報当局者とロシアの元情報当局者の話として伝えたものです。
パトルシェフ安全保障会議書記はプーチン大統領の側近で、かねてからプーチン氏にウクライナ侵攻でワグネルに依存すればプリゴジン氏の影響力が増し、政権に脅威をもたらすと警告。6月のプリゴジン氏の反乱を受けて8月初めから暗殺の計画を練り始め、プーチン氏は計画に反対しなかったということです。
また、墜落当日、プライベートジェット機の翼の下に小型爆弾が仕掛けられたとしています。
報道を受け、ロシアのペスコフ大統領報道官は「パルプフィクション=安っぽい作り話だ」とコメントしています。
●砲弾降り注ぐウクライナの最前線、死と隣り合わせの街に住む人々 12/23
終わりが見えないウクライナ戦争。その実態を取材するため、10月下旬、激戦が続くウクライナの前線を訪ねた。
避難したくてもできない事情
前線取材のなかで私が驚いたことの一つは、砲弾がいつ落ちてくるかわからない危険な土地に今もなお多くの人々が暮らす現実だった。
ウクライナ南部ザポリージャ州。ロシア軍との一進一退の激しい戦いが続く最前線から6キロの地点にフリアポレという町がある。砲弾が直撃したのか、鉄骨がむき出しになった集合住宅、ドアや窓が爆風で吹き飛ばされた商店が道路沿いに並ぶ。ロシア軍の砲爆撃で町の建物の半数が破壊され、いたるところががれきの山だ。
この日は冷たい雨が降っていた。砲撃音がとぎれぬ町の通りに人影が見えた。雨合羽を着て自転車で荷物を運ぶ60歳代の女性だった。
廃墟と化したこんな町に人がいることに驚き、なぜ避難せずに町に残っているのか尋ねる。彼女は「わずかな年金しかないので避難できない」という。
年金は月に日本円で2万円弱。避難すれば公的な支援があるが、大人一人につき初めの3カ月が約2万3000円、4カ月目からはわずか約8000円だという。これでは避難先で暮らしていけないというのだ。
戦争への対応は、「自己責任」が基本なのだと知る。たとえ自宅に砲弾が落ちても、戦争は保険の免責事項だから補償はない。
経済的に余裕のある人は国外に逃げることもできるが、家が破壊されながら土地を離れられない人もいる。戦争という非常時には、命の格差も露わになる。厳しい現実である。
フリアポレの住民1万3500人のほとんどは避難したが、まだ住み続けている人が1800人ほどもいるという。
地下シェルターで暮らす人々
地上の危険を避けて地下に住む人々がいると聞き、訪ねてみた。集合住宅の地下室に、上の階の住民8人が共同生活を送っていた。全員が年金暮らしの高齢者である。
その一人、アウグスチナさんは「一人で住んでいた部屋がミサイル攻撃で破壊されたのです。ここに暮らして1年になります」と言う。
この一帯は停電しているはずだが電灯がついている。太陽光発電の電気を車のバッテリーに蓄電して使っていた。ボランティアから寄贈されたストーブでお湯を沸かし、料理を作っている。「おいしいですよ。食べますか」と鍋のふたを開けると赤いボルシチが入っていた。
食糧や生活必需品は月に一度行政から配布されるが、足りないところはボランティア団体の支援に頼っている。冬に備えて大量に仕込んだピクルスの瓶を見せながら、「勝利するまでの辛抱ですよ」と気丈に言うアウグスチナさん。祖国の勝利を信じているが、戦争が長引いているのが心配だという。
町に残った住民の便宜をはかるため、地下シェルターが半年前にオープンしていた。町で唯一発電・暖房設備をもち、シャワー、ランドリー、理容室などの住民サービスを行う。また食糧や日用品を無料で提供するなど、町民の「命綱」となっている。
大型テレビでドラマを見たりスマホを充電しながら、顔見知りと雑談する姿もあり、長引く戦時下の暮らしのなかで気分転換と憩いの場にもなっているようだ。
ロシア軍はこの地下シェルターも標的にしている。近くのオリヒウという町では、8月のミサイル攻撃で地下シェルターが完全に崩壊していた。地下シェルターの場所が特定されるのを避けるため、私たちは外の風景を撮影しないよう厳しく注意された。生活基盤を狙って攻撃してくるロシア軍に、住民は強い恐れと憎しみを口にしていた。
砲撃音が轟く町で住民に支援物資を配る学生ボランティア
私たちは、前線近くでマックスという20歳の市民ボランティアにめぐりあった。ロシア侵攻時は大学でITを学ぶ学生だったが、戦火を逃れて避難してくる人々を助けているうち、支援活動に専念しようと決意。大学を休学し一人でNGOを立ち上げたという。
マックスに頼み込んで、前線から3.5kmの集落で住民に食料品を配る活動を撮影させてもらった。前線に近すぎてジャーナリストも入れない場所だが、住民支援活動に同行するという名目で取材が許された。
マックスの車についてしばらく進むと、道路の両側はドクロマークの看板がつづく地雷原になる。道の真ん中には、ロシア軍のロケット砲であいた大きな穴があった。
集落に着くと、ドーン、ドーンと砲撃音が響くなか、マックスは家々をまわって村人に来訪を告げ、段ボール箱に入った食料品の詰め合わせを届けた。行政の手が届きにくい前線近くの村々を、マックスは週2回から3回のペースでまわっている。
ここでの食料配付を終えると、マックスはもっと先の集落に残っている住民を探しに行くという。そこは前線からわずか1500メートルしか離れていないと聞き、危険すぎると判断、私たち取材隊はついていかないことに決める。
待つこと30分、無事に戻ってきたマックスを見てほっとした。遊び盛りの若者が、この危険極まりない活動をつづけていることに驚異の念を持った。
活動をTikTokで発信、活動金を募る
この2日後、マックスは別の村で、迫撃砲弾が自分から30mのところに着弾して危うく怪我を負うところだったという。それでも活動をやめる気はない。「だって、ここは僕の国です。僕の家族や同胞、この国の子孫のために、自由を失うわけにはいきません」とマックスはたんたんと言う。
IT先進国ウクライナの若者らしく、マックスは自らの活動をSNSの動画サービスTikTokで発信し、オンラインで寄付を募っている。彼の献身的な活動に感銘を受けた人たちが、国内はもちろん国外からも支援金や物資を送ってくるという。
後日、ウクライナ第4の都市、東部のドニプロ市にマックスを訪ねた。事務所は他の市民団体とのシェアスペースにあり、前線の兵士に贈る冬用の靴下や使い捨てカイロ、止血帯、医薬品などがところ狭しと置かれている。マックスは住民だけでなく、軍部隊の兵士をも支援していたのだ。
ちょうどマックスの友人たちが手伝いにきて、ナッツやドライフルーツ、キャンディなどを詰め合わせた兵士用のスナック袋を作っていた。戦闘の合間に食べるよう高カロリーのスナックにしたという。どうやって兵士に届けるのかと聞くと、「ドローンで前線の塹壕まで運んで上から投下します」とのこと。
ボランティアが奮闘しなければならない理由
市民ボランティアが、なぜそこまでして軍隊を支援しなければならないのか。マックスは「汚職ですよ」と苦笑しながら言う。「軍需品や装備など、途中で消えてしまって前線に届かないのです」。
前線を取材して、軍部隊が物資不足であることは感じていた。ウクライナ政府の財政がひっ迫している事情もあるのだろうが、主な原因は官僚たちの軍需品の横流しや行政とつるんだ業者の利権なのだと国民の多くが信じている。
汚職の蔓延は、ウクライナがEUに加盟できない大きな理由でもある。「腐敗指数ランキング(2022年トランスペアレンシー・インターナショナル)」によると180カ国中、清潔度でウクライナは116位とかなり下位。なおロシアも137位と汚職大国だ。ゼレンスキー大統領は汚職撲滅を最重要政策に掲げるが、まだまだ改善されていないと国民の目は厳しい。9月にはレズニコウ国防大臣が解任され、これも軍内部の汚職の責任をとらされた人事だと噂されている。
ウクライナの調査会社、キーウ国際社会学研究所(KIIS)が10月31日に発表した世論調査では、ウクライナ政府への信頼度は39%。また、9月下旬から10月中旬にかけて行った世論調査で、ロシアとの戦い以外で何が問題か尋ねたところ「汚職」を挙げた人が63%と最も多くなった。一方、同研究所が10月24日に発表した世論調査で、回答者の86%がミサイル攻撃が続いてもロシアと戦い続ける必要があると回答したという。政府を信頼していなくともロシアとは戦い続けるというのが多くの国民の思いのようだ。
「ぼくたちは政府も大統領も当てにしていません」というマックス。前線の軍の窮状を自らの力で支えようとする市民ボランティアの姿に、かつてナチスと戦った欧州のレジスタンス運動が重なって見えた。ウクライナの祖国防衛戦争は、民衆の自由への強い意思に支えられた国民総抵抗運動として展開されている。
●ウクライナ侵攻2年 紛争地で「中立」の支援活動 日本赤十字社 12/23
ロシアによるウクライナ侵攻開始から、来年2月で丸2年を迎える。今年10月には、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスによるパレスチナ自治区ガザでの戦闘が新たに勃発するなど、世界各地では紛争の被害が絶えない。こうした紛争地で活動する団体の一つが、災害時の救援活動などでも知られる日本赤十字社だ。現地にスタッフを派遣し、医療や負傷者のリハビリなど「中立」の原則に立った支援を続けている。
空襲警報の中で
「自然災害の被災地とは異なり、戦地では恨みや怒りなどの感情で興奮状態になる人もいる。そうした緊張感も感じながらの活動だった」
そう語るのは、ウクライナ西部で医療支援活動を行った同社の矢田結さん(33)。昨年5〜6月と今年1〜2月の2回、主にウクライナ西部で活動に従事した。
侵攻開始から間もない最初の活動では、ウクライナ西部の都市、ウジホロドに仮設の診療所を設置。人口の2倍の20万人とも言われる避難民が東部から押し寄せ、現地の病院で対応しきれなくなっていた慢性疾患などの医療ニーズに対応した。
中長期的な支援を模索し始めた2回目の派遣では、リハビリテーションセンターの運営や、山間部などに避難した人々への巡回診療を支援。頭部外傷で半身不随になり、懸命にリハビリに取り組む負傷兵とも出会った。
戦線から離れた西部でも、空襲警報は定期的に鳴り響いた。東部から避難してきた人たちの「ロシアなまり」の言語を聞くだけで、感情的になる住民もいた。矢田さんは「私たちの目的は、あくまで周辺国も含めた人道危機支援。その対象には、ロシアの西側にいる人も含まれる」と説明。そうした活動理念が理解されず、「なぜロシア人も助けるのか」と言われたこともあったという。
7つの原則
人道、公平、中立、独立、奉仕、単一、世界性−。赤十字には「基本7原則」と呼ばれる7つの指標がある。矢田さんは「自分たちの活動の前提となる原則や理念を、ぶれずに、繰り返し説明することで理解してもらうしかない」と話す。
スイスの実業家、アンリー・デュナンが、戦争で傷ついた人を「敵味方の区別なく」保護するための国際的な救護団体の必要性を訴え、1864年に誕生した国際赤十字。組織は現在、191の国と地域に広がっている。
日本では明治10年、政府要人の佐野常民らが西南戦争をきっかけに、日本赤十字社の前身となる博愛社を設立。以来145年以上にわたり、国内外で自然災害や紛争により被害を受けた人々への救援活動などを行っている。
皇室と縁、大規模災害でも
組織は皇室とのつながりも深い。明治天皇、昭憲皇太后が活動を支援したほか、昭和22年に香淳皇后が名誉総裁に就任して以降、平成では上皇后さま、そして令和では皇后さまがご継承。毎年5月に行われる全国赤十字大会で、国内外で活動に貢献した個人や団体をねぎらわれている。
海外に派遣された職員は、平成24〜令和4年度で延べ576人にのぼる。急性期の緊急救援から、被災者の生活再建を支える復興支援まで息の長い活動を行っており、ウクライナでは、現在も人道危機支援を継続。日本赤十字社の活動資金は寄付金などによって賄われているが、担当者は「紛争が長期化する中で人々の関心が低下し、必要とされる支援の継続が難しくなることも考えられる」と懸念する。
また現在、同社はパレスチナ自治区ガザで発生している人道危機に対しても動き出しており、「国際赤十字と調整しながら、医療資機材の送付や医療要員の派遣などを検討中」としている。
●死亡2万人のうち74%が子どもと女性…血の止まらないガザ地区 12/23
ガザ戦争が始まって74日で、イスラエル国防軍(IDF)の無差別攻撃で死亡したパレスチナ人が2万人を超えた。死亡者のうち、女性と子ども、高齢者の割合が70%を上回っており、イスラエルに向けた国際社会の非難の声が高まるものとみられる。
幸いイスラエルとハマス間の交渉が始まったものとみられるが、休戦方式をめぐる隔たりがあまりにも大きく、早期に合意に達するのは難しい見通しだ。
パレスチナ中央統計局(PCBS)は20日(現地時間)、10月7日にガザ地区で戦争が始まって以来、死亡者が2万人を超えたと発表した。ガザ地区全体の人口230万人のうち1%が今回の戦争によって死亡したわけだ。
しかも死亡者の74%は子ども(8000人)や女性(6200人)、高齢者(682人)などの弱者だった。また6700人に及ぶ行方不明者のうち女性や子どもは4700人だという。彼らの多くがイスラエル軍の無差別攻撃によって倒壊した建物の下敷きになっているものと推定されており、実際の死亡者数は同日の集計よりさらに多いものとみられる。負傷者は死亡者より2.6倍多い5万2586人だった。
国連人道問題調整事務所(OCHA)も同日に公開した「ガザ地区とイスラエル内の敵対行為74日目の報告書」で、「ガザ地区全域でイスラエル軍による陸・海・空の三面における砲撃と激しい地上戦が繰り広げられており、ハマスのロケット発射も続いている」とし、「前日、ガザ市の5階建ての建物が襲撃され、100人以上が死亡し、50人が倒壊した建物の残骸の下敷きになり行方不明になった」と明らかにした。実際、ガザ地区保健省部が同日に集計した地域内の一日死亡者数によると、19日の一日だけで300人を超える住民が死亡した。
イスラエルは2007年にハマスがガザ地区を占領して以来、継続して武力紛争を繰り広げてきたが、短期間でこれほど多くの人々が犠牲になったことはなかった。OCHAの統計によると、2008年から今回の戦争直前までの15年間にわたる紛争過程で亡くなった人は6589人だった。2カ月ほど続いた戦争で死亡した人の数が15年間の死者数の3倍に達したわけだ。
昨年2月から1年10カ月にわたり全面戦争を繰り広げているウクライナとロシアの戦争と比べても、ガザ地区内の人命被害は深刻な水準だ。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は9月現在まで、ウクライナ戦争における民間人死亡者は9701人、負傷者は1万7748人だったと集計した。
国際社会はガザ地区の悲劇に歯止めをかけられずにいる。国連安保理は10月16日、ロシアが出した決議案を皮切りに、6回にわたりイスラエルとハマスの即時休戦または一時的な戦闘中止を骨子とする決議案を提出した。
しかし、米国がイスラエルの自衛権を認めなければならないとして拒否権を乱発しており、理事会を通過したのは、先月15日にマルタが一時的な戦闘中止を求めて提出した1件だけだった。同決議案が出た後、イスラエルは11月24日から12月1日まで続いた7日間の一時的な戦闘中止に合意した。一方、米国が出した決議案には中国とロシアが拒否権を行使した。
国際社会は現在進行中の「第2次休戦」交渉に期待をかけているが、見通しは明るくない。ハマスの指導者イスマイル・ハニヤ氏は20日、ハマスの高官級代表団を率いてエジプトに到着し、エジプト総合情報局(GIS)のアッバス・カメル局長らと休戦交渉に乗り出した。カタールに拠点を置いて活動するハニヤ氏が直接エジプトに移動し交渉に乗り出すほど、戦況が悪化した状況だ。
イスラエルも民間人の犠牲を止めるべきという国際社会の圧力が高いうえ、130人余りにのぼる人質(約20人は死亡したと推定)問題を解決しなければならないという国内の批判に直面している。イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は19日、イスラエル駐在80カ国余りの大使を招待し、「人質解放のために2度目の人道主義的(交戦)中断と(ガザ地区に)追加の緊急支援を行う準備ができている」と述べた。
しかし、両者の隔たりがあまりにも大きく、早期に合意が出るかどうかは不透明だ。イスラエルは第1次のような「一時的な戦闘中止」には応じられるという立場だが、ハマスは「永久休戦」を望んでいる。さらに、最終決定権を持つイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「ハマスのすべてのテロリストは降伏と死、二つの選択肢しかない」とし、「ハマスの撲滅、人質の解放、ガザ地区における脅威の終息などの目標を達成するまで戦闘を止めない」という強硬な立場を貫いている。
米国のジョー・バイデン大統領も20日、休戦の見通しを尋ねる記者団に「(交渉を)進めているが、現時点では妥結を期待していない」と述べた。現地メディア「タイムズ・オブ・イスラエル」は21日、イスラエル側が約40人の釈放を条件に1週間ほどの休戦を提案したが、ハマス側がこれを断ったと報じた。 
●米紙「プリゴジン氏死亡は暗殺 プーチン大統領の側近が指示」 12/23
ことし8月、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏が自家用ジェット機の墜落で死亡したことについて、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルはプーチン大統領の最側近が指示した暗殺だったと伝えました。
ウォール・ストリート・ジャーナルは22日、ことし8月にロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏が乗っていた自家用ジェット機が墜落して死亡したことについて、西側の複数の情報機関やロシアの元当局者の話として、プーチン大統領の最側近が指示した暗殺だったと報じました。
暗殺を命じたのはパトルシェフ安全保障会議書記で、2か月かけた計画にもとづいてプリゴジン氏の自家用ジェットがモスクワの空港で離陸前の安全確認のために待機している際に主翼の下に小型爆弾が仕掛けられたとしています。
計画を知らされたプーチン大統領は反対しなかったということです。
パトルシェフ書記はウクライナでワグネルの果たす役割が大きくなるにつれてプリゴジン氏の影響力が拡大することに警戒感を強めていたということでことし6月にプリゴジン氏が起こした武装反乱を暗殺の「機会」と捉えたとしています。
この報道についてロシア大統領府のペスコフ報道官は22日「残念ながら、ウォール・ストリート・ジャーナルは安っぽい小説を考えつくのが好きなようだ」と述べて完全に否定しています。
●プリゴジン氏の暗殺を「プーチン氏の腹心が命令」と米報道 12/23
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が8月に死亡したことに関し、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は22日、プーチン大統領の側近、パトルシェフ安全保障会議書記が暗殺を命じたと報じた。西側諸国の情報機関や、ロシアの元当局者の話としているが、ロシア政府は関与を否定し続けている。
報道によると、暗殺は6月から計画され、パトルシェフ氏が8月に承認。プーチン氏は後から計画を知らされ、反対しなかった。8月23日にプリゴジン氏が搭乗する小型機の主翼下に爆発物を仕掛け、墜落させた。パトルシェフ氏は、以前からロシア政府がワグネルに依存していることに危機感を覚え、プーチン氏に警告していたという。
プリゴジン氏は、ロシアが侵攻するウクライナの最前線に投入されるワグネル兵の待遇に不満を持っていたとされ、6月下旬に武装蜂起。モスクワに向かったものの途中で断念した。8月にワグネルのメンバーらと搭乗した小型機が爆発して墜落し、死亡が確認された。
米政府はロシア政府の関与を疑ったが、ロシア政府は否定。ロイター通信によると、今回のWSJの報道についても、ペスコフ大統領報道官は「質の悪いフィクションだ」と全面的に否定した。
パトルシェフ氏は旧ソ連の国家保安委員会(KGB)出身で、後継機関のロシア連邦保安局(FSB)前長官。
●ロシアでスターリン容認拡大 ウクライナ侵攻背景、戦勝を評価 12/23
ウクライナ侵攻を続けるロシアで、ソ連の独裁者スターリンを容認する空気が広がりつつある。侵攻作戦を、第2次大戦に次ぐ「国の命運を決める戦い」と位置付けてプーチン政権が国民の結集を図る中、当時の指導者で大戦を勝利に導いたスターリンの「功績」が見直されているようだ。
スターリン生誕144年の今月21日。ロシア共産党のジュガーノフ委員長らがモスクワの「赤の広場」脇にあるスターリンの墓に献花した。
侵攻を支持するジュガーノフ氏は「戦争に勝つには社会的公正を実現し国民を団結させなければならない」と指摘。スターリン時代の工業化と核戦力の増強が「今も国民を守っている」と強調した。
●リベラル系女性候補の立候補を認めず、ロシア大統領選で中央選管 12/23
ロシア中央選挙管理委員会は23日、来年3月のロシア大統領選への立候補を目指す女性ジャーナリストでリベラル系のエカテリーナ・ドゥンツォワ氏について、届け出書類に不備があったとして、無所属での立候補を認めないと決めた。ロシアの独立系メディアが伝えた。
ドゥンツォワ氏については大統領選の候補者リストに登録されたとの報道もあったが、名前のスペルの間違いなど書類に100以上の誤りがあったとされ、最終的に登録を拒否された。
ドゥンツォワ氏は中央選管の決定を不服として裁判に訴える可能性があるほか、リベラル系野党「ヤブロコ」から立候補を目指すとの報道も出ている。
ロシア大統領選は来年3月15〜17日に実施。政権を支持する「体制内野党」のロシア共産党も候補者の擁立を決めたが、プーチン大統領の通算5期目の当選が確実な情勢となっている。
● ロシア軍が制圧地域拡大か、米紙「戦場の大半で主導権」… 12/23
ロシアがウクライナ侵略を開始してから24日で1年10か月となる。米紙ニューヨーク・タイムズは22日、露軍が東部の戦線に人的犠牲をいとわず兵力を投入しており、「ロシアが戦場の大半で主導権を握っている」との見方を伝えた。ウクライナは防衛態勢を強化して露軍の攻勢をしのぐ構えだ。ウクライナにとっては試練の冬となっている。
同紙によると、露軍は東部ドネツク州アウディーイウカやバフムト、ドネツク州に隣接するハルキウ州のクピャンスク方面の戦線で、わずかながら制圧地域を拡大している。ウクライナ最高会議(議会)の幹部は「現在、前線の状況は困難で徐々に悪化している」と劣勢を認めた。「米国の砲弾がなく、我々は今夏に苦労して奪還した領土を失い始めている」とも語った。ウクライナ軍が大規模な反転攻勢を仕掛けた南部ザポリージャ州一帯の戦線でも露軍の逆襲に直面しているとの情報もある。
ウクライナは昨年8月後半以降、ほぼ一貫して戦闘の主導権を握ってきた。だが、今年6月に南・東部で着手した反転攻勢に失敗したことが響いているようだ。
オランダのマルク・ルッテ首相は22日、18機の米国製戦闘機F16をウクライナに送る準備を進めていることをSNSで明らかにした。米政策研究機関「戦争研究所」は22日、「ウクライナが年末までに受け取る可能性が非常に高い」と指摘した。実際に供与すればオランダが初めてとなる。
一方、ウクライナ空軍は22日、南部でロシアの爆撃機「Su(スホイ)34」3機を撃墜したと発表した。

 

●プーチン大統領「現在占領の地域維持で停戦交渉の用意あり」米メディア報道 12/24
ロシアのプーチン大統領がウクライナ側と停戦交渉に応じる用意があり、西側諸国にシグナルを送っているとアメリカメディアが報じました。
ニューヨーク・タイムズは23日、プーチン大統領が非公式な外交ルートを通じて停戦交渉に応じる用意があると伝えていると報じました。
ロシア大統領府関係者やアメリカの外交官らの情報だとしています。
現在、占領している地域を維持することがプーチン大統領が示している条件だということです。
撤退しない姿勢を見せることでロシア国内に対して勝利を印象付ける狙いだとみられます。
こうしたメッセージは9月以降、外交ルートを通じて伝えられていて、ロシア政府は西側諸国によるウクライナ支援が減少している今がロシアにとって有利な交渉のタイミングだと考えているということです。
一方で、ニューヨーク・タイムズは国土の一部を失う形での停戦交渉にウクライナ側が応じることは難しく、前線の状況次第でプーチン大統領が考えを変える可能性もあると指摘しています。
●「戦争が止まらない原因」はアメリカにあった...ウクライナ 12/24
連日、止まらないウクライナ戦争やイスラエルによるガザ攻撃に関するメディア報道が続いている。その内容や解説に耳を傾けると一定の理解が得られる一方で、誰もが抱く大きな疑問、「なぜ民間人の惨たらしい死につながる戦争が止まらないのか」「人命尊重と言いながらアメリカはなぜ真逆の行動を取っているのか」「そもそも最強のはずのアメリカは何をしているのか」―といった素朴な疑念について、明快な答えが語られることはなく、私たちはいつもやきもきさせられている。
そうした、現在起きている世界情勢の真実を理解する鍵として、「戦争の経済的な側面」から見えてくる真実について、評論家の塩原俊彦氏に解説いただいた。
ポール・ポースト著『The Economics of War』の日本語訳は2007年に刊行された。この『戦争の経済学』を一読して痛感したのは、「戦争で失われた人命の価値」を、(戦争による死者数)×(戦争時点での1人当たりの人命価値)として求める経済学の「冷たさ」であった。
それでも、戦争に経済コストはつきものであり、経済負担の重さが戦争抑止手段の一つなのはたしかだろう。その意味で、戦争の経済的影響を冷静に評価する試みを否定すべきではない。
巨大な軍需産業の意図にかなった「下準備」とは
ポーストは、戦争の経済的影響を評価するためのポイントとして、
 1.戦争前のその国の経済状態
 2.戦争の場所
 3.物理・労働リソースをどれだけ動員するか
 4.戦争の期間と費用、そしてその資金調達法
の4つをあげている。これらは、戦争が与える心理的影響と、戦争にかかる実際の資金という現実的影響を考えるうえで役に立つ。
このポーストの分析手法で重要なのは、現実的影響だけでなく、心理的影響に注目している点だ。たとえば、ウクライナ戦争の勃発が人々におよぼした心理的影響は、人々を「怖がらせる」とか、「怯えさせる」という「効果」をもち、安全保障関連の支出増大を促す。世界中で武器や軍備への歳出が増え、それによる軍需産業の利益は莫大になる。逆にいえば、戦争を起こせば、大いに得になると皮算用する連中が世界の片隅にたしかに存在する。そうした連中が多いのは巨大な軍需産業を抱えるアメリカだ。そして、彼らの目論見は成功しつつある。
ウクライナでいえば、2014年2月21日から22日に起きた、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を武力で国外に逃亡させた事件(米国の支援する反政府勢力によるクーデターだが、欧米や日本のメディアは「マイダン革命」とほめそやしている)以後、クリミア半島がロシアに併合され、東部ドンバス地域で紛争状態に陥ると、むしろ米国の政治家や諜報機関などの中には、ウクライナとロシアの紛争の火種を大きくし、戦争を巻き起こそうとする連中がたしかにいた。
たとえば、「2015年以来、CIA(中央情報局)はウクライナのソヴィエト組織をモスクワに対抗する強力な同盟国に変貌させるために数千万ドルを費やしてきたと当局者は語った」と「ワシントン・ポスト(WP)」は報道している。このCIAの関与はロシアとの戦争のためであり、ウクライナ戦争をアメリカが準備してきた証でもある。ロシアがウクライナ戦争を領土侵略のために起こしたとみなすのは、あまりにも短絡的な思考なのだ。
「ウクライナ支援」は「米国内への投資」?
ここでは、このポーストの分析手法をヒントにして、アメリカの行う「ウクライナ支援」の経済的側面に注目したい。理由は簡単だ。このところ、ジョー・バイデン大統領や国防総省は、「ウクライナ支援」が「米国内への投資」とさかんに言い始めているからだ。「投資」であるならば、どう儲かるかについて分析する必要があるだろう。
その前に、バイデン大統領の発言を確認しておきたい。EU米首脳会議の前夜に当たる2023年10月20日、バイデン大統領はアメリカ国民に向けた演説『Remarks by President Biden on the United States’ Response to Hamas’s Terrorist Attacks Against Israel and Russia’s Ongoing Brutal War Against Ukraine』で、「明日(10月21日)にイスラエルやウクライナを含む重要なパートナーを支援するための緊急予算要求を議会に提出する」とのべた直後に、「これは、何世代にもわたってアメリカの安全保障に配当金をもたらす賢明な投資であり、アメリカ軍を危険から遠ざけ、我々の子供や孫たちのために、より安全で平和で豊かな世界を築く助けとなる」と語った。
さらに、11月18日付の「ワシントン・ポスト」において、彼は、「今日のウクライナへのコミットメントは、われわれ自身の安全保障への投資(investment)なのだ」と明確にのべている。
ほかにも、国防総省はそのサイトに11月3日に公表した「バイデン政権、ウクライナへの新たな安全保障支援を発表」の中で、「ウクライナへの安全保障支援は、わが国の安全保障に対する賢明な投資(smart investment)である」とはっきりと書いている。
どうして「ウクライナ支援」が「賢明な投資」なのかというと、実は、「ウクライナ支援」といっても、実際にウクライナ政府に渡される資金は米国の場合、ごくわずかだからだ。米戦略国際問題研究センターのマーク・カンシアン上級顧問は、2023年10月3日、「「ウクライナへの援助」のほとんどは米国内で使われている」という記事を公表した。
それによると、これまで議会が承認した1130億ドルの配分のうち、「約680億ドル(60%)が米国内で使われ、軍と米国産業に利益をもたらしている」と指摘されている(詳しい分析は拙稿「「米国内への投資」を「ウクライナ支援」と呼ぶバイデン政権」〈上、下〉を参照)。
12月20日の記者会見で、アンソニー・ブリンケン国務長官は、米国のウクライナ支援の90%は国内で使用され、地元企業や労働者の利益となり、米国の防衛産業基盤の強化にもつながっていると説明した。
アメリカがウクライナ戦争の継続を望む真の理由
米軍のもつ古い軍備をウクライナに供与し、国内で新しい軍備を装備すると同時に、欧州諸国のもつ旧式軍備をウクライナに拠出させ、新しい米国製武器の輸出契約を結ぶ。こうして、たしかに米国内の軍需産業は大いに潤う。
それだけではない。戦争への防衛の必要性という心理的影響から、諸外国の軍事費は増強され、各国の軍需産業も儲かるし、アメリカの武器輸出も増える。
他方で、「ウクライナ支援」に注目すると、欧州諸国や日本はウクライナへの資金供与の多くを任されている。どうやら、これらの国は「ウクライナ支援」が本当の意味での「援助」になっているようにみえる。この「支援」が「投資」か「援助」かの違いこそ、米国が「ウクライナ支援」に積極的な理由であり、ウクライナ戦争の継続を望む「本当の理由」と考えることができるのだ。
「ウクライナ支援」の美名のもとで、本当の「援助」は欧州や日本にやらせ、米国だけは「国内投資」に専念するという虫のいいやり口が隠されている。それにもかかわらず、欧米や日本のマスメディアはこの「真実」をまったく報道しようとしない。
では、アメリカは具体的にどのように「戦争の長期化」に寄与するように働きかけたのか。そこには巧妙な「ナラティブ」が存在した。
和平を拒んだのはアメリカ
こう考えると、なぜウクライナ戦争の和平が実現されず、長期戦になっているかが理解できるはずだ。現に、バイデン政権は過去に二度、ウクライナ和平の契機を潰した(これも、米国に気兼ねしてメディアが報道しないため、あまりに無知な人が多い)。米国内への投資のためにウクライナを援助する以上、ウクライナ戦争を停止するわけにはゆかないのだ。なぜなら軍需産業の雇用が増え、バイデン再選へのプラス効果が出ているからである。再選のためなら、バイデン大統領は手段を選ばない。
第一の和平の契機は、2022年3月から4月であった。ウクライナとロシアとの第1回協議は2022年2月28日にベラルーシで行われ、第2回協議は3月29日にイスタンブールで行われた。ここで課題となったのは、
 1.ウクライナの非同盟化、将来的に中立をどう保つのか
 2.ウクライナの非軍事化、軍隊の縮小化
 3.右派政治グループの排除という政治構造改革
 4.ウクライナの国境問題とドンバスの取り扱い
である。
第2回会合の後、双方が交渉の進展について話し、特にウクライナは外部からの保証を条件に非同盟・非核の地位を確認することに合意した。たしかに和平に向けた話し合いが一歩進んだのである(なお、プーチン大統領は2023年6月17日、アフリカ7カ国の代表に18条からなる「ウクライナの永世中立と安全保障に関する条約」と呼ばれる文書を見せた。TASSによれば、文書のタイトルページには、2022年4月15日時点の草案であることが記されていた。保証国のリストは条約の前文に記載されており、そのなかには英国、中国、ロシア、米国、フランスが含まれていた。つまり、相当進展した条約が準備されていたことになる)。
しかし、2022年4月9日、ボリス・ジョンソン英首相(当時)がキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談、英首相はウクライナに対し、120台の装甲車と対艦システムという形での軍事援助と、世界銀行からの5億ドルの追加融資保証を約束し、「ともかく戦おう」と戦争継続を促した。
この情報は、ウクライナ側の代表を務めたウクライナ議会の「人民の奉仕者」派のダヴィド・アラハミヤ党首が、2023年11月になって「1+1TVチャンネル」のインタビューで明らかにしたものだ。もちろん、ジョンソンの背後にはバイデン大統領が控えており、米英はウクライナ戦争継続で利害が一致していた。
それは、ゼレンスキー大統領も同じである。戦争がつづくかぎり、大統領という権力は安泰であり、2024年3月に予定されていた選挙も延期できる。だが、戦争継続は多くの市民の流血を意味する。そこで、和平協定を結ばないようにするには、理由が必要であった。
「ブチャ虐殺」が与えた影響
こうした時系列と文脈の中でブチャ虐殺を考えると、興味深いことがわかる。ここでは、ロシアの有力紙「コメルサント」(2022年4月6日付)の情報に基づいて、ブチャをめぐる「物語」(ナラティブ)を紹介してみよう。
ロシア軍がブチャから完全に撤退したのは3月30日のことだった。その翌日に撮影されたビデオをみてほしい。アナトリー・フェドリュク市長は、同市の奪還を喜びながら宣言している。だが、なぜか集団残虐行為、死体、殺害などには一切触れていない。むしろ、明るい表情でいっぱいであることがわかるだろう。
ところが、ロイター電によると、ブチャ市長は、4月3日、ロシア軍が1ヵ月に及ぶ占領の間、意図的に市民を殺害したと非難したと報じた。これらの時系列が真実だったとして、なぜ、撤退直後ではなく数日後に急に虐殺を非難しはじめたのか。ロシアとの戦争継続のための理由づけとして、ブチャ虐殺が利用されたと一面的には考えることもできる。和平交渉を停止して、戦争を継続する理由としてブチャ虐殺は格好の題材となる。少なくともこんな「物語」(ナラティブ)を想定することができるのだ。
これに対して、2022年4月4日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、キーウ近郊のブチャで民間人が殺害されたのは、ロシアの兵士が町を離れた後であったというロシアの主張に反駁するための衛星画像を報じた。これが正しい見方であったとして、しかし同時にこれらの資料が市民殺害の実行犯までを特定することもできないのも事実だ。そしてロシア軍によるブチャ虐殺という物語が伝播するにつれて、ロシア代表が何を言っても、国連安全保障理事会で彼の主張に耳を傾ける者はほとんどいなくなった。
信憑性が疑われているイスラエル政府の主張
その後は実際にわれわれが目撃した通り、バイデンおよびゼレンスキーの訴えた物語は欧米の人々の心を強く打ち、和平交渉の話どころではなくなってしまった。
ここで注意喚起しなければならないのは、イスラエルがガザ最大の病院、アル・シファ病院に軍隊を送り込んだ理由としてあげた、
 1.五つの病院の建物がハマスの活動に直接関与していた
 2.その建物は地下トンネルの上にあり、過激派がロケット攻撃の指示や戦闘員の指揮に使っていた
 3.そのトンネルは病棟の中からアクセスできる
といった情報の信憑性が疑われている点だ。これらに関する「ワシントン・ポスト(WP)」の報道によると、
 1.国防軍が発見したトンネル網に接続された部屋には、ハマスが軍事利用した形跡はなかった
 2.五つの病院の建物は、いずれもトンネル・ネットワークとつながっているようにはみえなかった
 3.病棟内部からトンネルにアクセスできたという証拠もない
という。
つまり、イスラエル政府が提示した証拠は「不十分であった」のだ。つまり、イスラエル政府は「嘘」をでっち上げたと考えることができるのであり、同じことはウクライナ政府においても、どの政府にとっても可能である。少なくとも国際社会でまことしやかに報道される「物語」が、完全なる真実だと信じることはできないのだ。
統合参謀本部議長の和平提案を無視したバイデン
第二の和平の契機は、2022年11月、停戦交渉の必要性を示唆したマーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)の和平提案をバイデン大統領が無視した出来事に示されている。
ウクライナ軍が南部の都市へルソンからロシア軍を追放し終えた直後の11月6日に、ミリーはニューヨークのエコノミック・クラブで講演し、「軍事的にはもう勝ち目のない戦争だ」と語った。
さらに、翌週、ミリーは再び交渉の機が熟したことを示唆した。記者会見で彼は、ウクライナがハリコフとヘルソンからロシア軍を追い出すという英雄的な成功を収めたにもかかわらず、ロシアの軍隊を力ずくで全土から追い出すことは「非常に難しい」とまで率直にのべた。それでも、政治的解決の糸口はあるかもしれない。「強者の立場から交渉したい」とミリーは言い、「ロシアは今、背中を向けている」とした。
だが、バイデン大統領はこのミリーの提案をまったく無視したのである。ウクライナの「反攻」に期待した「ウクライナ支援」が継続されたのだ。その結果、2022年のロシア侵攻以来、ウクライナでは1万人以上の市民が殺害され、その約半数が過去3カ月間に前線のはるか後方で発生していると国連が2023年11月に発表するに至る。
もう一度、はっきりと指摘したい。バイデン大統領は「米国内への投資」のために「ウクライナ支援」を継続し、ウクライナ戦争をつづけ、同国市民の犠牲をいとわない姿勢をいまでも堅持している。彼にとっての最重要課題は、彼自身の大統領選での勝利であり、そのためには、米国の軍需産業を儲けさせ、雇用を拡大することが優先事項なのである。
その後のアメリカのさらに不可解な選択は、現在のウクライナ戦争やガザでの状況につながっている。
●「確実に失敗するウクライナの反転攻勢にこだわった」…バイデンの人命軽視 12/24
反攻作戦の失敗は自明だった
こうなるとゼレンスキー大統領もバイデン大統領も和平を望んでいないように思えてくる。まず、ゼレンスキー大統領はあえて自ら和平への道を断った。2022年9月30日、ウクライナ国家安全保障・国防評議会の決定「プーチン大統領との交渉が不可能であることを表明すること」を含む決定を同日、ゼレンスキー大統領は大統領令で承認したのである。この段階で、彼は自ら和平交渉への道筋を断ち切ったのである。
他方、バイデン大統領は負ける公算の大きかった反攻作戦にこだわった。だからこそ、2022年11月段階でのミリーの提案を無視したのである。反攻作戦がだめでも、とにかく戦争を長引かせれば、米国内への「投資」を継続し、米国内の労働者の雇用を増やすことができるからである。大統領再選につながるのだ。
2023年9月3日付で、ジョン・ミアシャイマーは、「負けるべくして負ける ウクライナの2023年反攻」という長文の論考を公開した。なお、彼は私と同じく、2014年2月にクーデターがあったことを認め、そこに米国政府が関与していたことをはっきりと指摘している優れた政治学者だ(「2014年2月22日、アメリカが支援し、親ロシア派の指導者を倒したウクライナのクーデターは、モスクワと欧米の間に大きな危機を招いた」)。
この日の出来事をクーデターであったと早くから的確に指摘しているのは、日本では私くらいだろう[拙著『ウクライナ・ゲート』社会評論社, 2014])。この尊敬すべきミアシャイマーがなぜ反攻が「負けるべくして負ける」と主張しているのかというと、過去の電撃戦と呼ばれる戦い方法の比較分析から導かれる結論だからである。
ここで強調したいのは、「ウクライナ軍で電撃戦を成功させる任務を負った主要部隊は、訓練が不十分で、特に機甲戦に関する戦闘経験が不足していた」点である。とくに、開戦以来イギリスが訓練してきた2万人のウクライナ兵のうち、わずか11パーセントしか軍事経験がなかった点に注目してほしい。「新兵を4〜6週間の訓練で非常に有能な兵士に変身させることなど単純に不可能」であり、最初から負けはみえていたと考えられるのだ。
だからこそ、2023年7月23日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「ウクライナの武器と訓練不足がロシアとの戦いで膠着状態に陥るリスク 米国とキーウは不足を知っていたが、それでもキーウは攻撃を開始した」という記事を公表したのである。
人命を顧みないバイデン政権
バイデン政権が人命を顧みないことは、2023年12月8日、ガザでの即時人道的停戦を求める国連安全保障理事会の決議案に拒否権を発動したことによく現れている。2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に対して、イスラエル軍が過剰な自衛権を行使する事態に陥っているにもかかわらず、あくまで「イスラエル支援」をつづけるバイデン政権はパレスチナの市民の人命を軽視している。
表面上、救援物資の輸送などで人道支援への努力をしているようにみせかけながら、他方で、国務省は12月8日の午後11時、議会の委員会に対し、1億600万ドル以上に相当する戦車弾薬1万3000発のイスラエルへの政府売却を推進すると通告した。この武器輸出は迅速化され、議会にはそれを止める権限はない。
国務省が中東への武器輸送のために緊急事態条項を発動したのは、2019年5月にマイク・ポンペオ国務長官がサウジアラビアとアラブ首長国連邦への武器売却を承認して以来はじめてのことであり、この動きは議員や国務省内部の一部のキャリア官僚から批判を浴びた。
『戦争の経済学』という視角からみると、パレスチナやウクライナの人命価値はアメリカ人のそれよりもずっと低いのだろうか。少なくとも、バイデン大統領はそう考えているようにみえる。そんな身勝手な判断ができるのも、アメリカが覇権国として傍若無人な態度をとりつづけているからだ。世界の警官である覇権国アメリカには、逆らえないのである。
覇権国アメリカの「悪」
『戦争の経済学』のいう心理的影響は、もちろん、日本にも波及している。2022年に国家安全保障戦略、 国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を策定した岸田文雄政権は、反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化といった威勢のいい方針を打ち出している。
2023年度〜2027年度の防衛力の抜本的強化のために必要な5年間の支出額は、約43兆円程度とされる(円安を考慮すれば、大阪万博よろしく60兆円にも70兆円にもなりかねない)。たとえば、日本政府はアメリカから巡航ミサイル「トマホーク」なども購入する予定だ。気になるのは、1980年代前半に運用されているトマホークにはさまざまな種類があり、在庫のトマホークを大量に買わされるリスクが大いにある点だ。
オーストラリア政府は、海軍のホバート級駆逐艦のために、米国から約13億ドルで200発以上のトマホーク巡航ミサイルを購入することを決定した。そのトマホークについて、2023年12月に公表された米海軍研究所の論文は、「速度が遅く、射程距離も比較的限られているため、戦時中は一斉射撃の回数が増え、艦の弾倉をすぐに使い果たしてしまう可能性がある」とはっきりと指摘している。豪州も日本も、米国の軍需産業の絶好の「餌食」になっているのである。
それだけではない。日本政府は、12月22日にも改正する防衛装備移転3原則と運用指針に基づき、国内で製造する地対空誘導弾パトリオットミサイルを米国に輸出する。レイセオン社からライセンスを受けて、米軍のパトリオット用のミサイルを製造している日本側は、数十基のパトリオットミサイルを米国に輸出し、その分を米国からウクライナに輸出する。これは、軍需産業が政府と一体化して儲けを優先している(ウクライナ戦争で武器需要を高め、ウクライナへの直接輸出をいやがる日本のような国の意向を米国政府が調整し、事実上、ウクライナへの武器輸出を増やす。つまり、日米政府は武器製造の増加で協力し、国内の軍需産業を儲けさせている)証拠といえるだろう。
●消耗戦での勝利目指すロシア、戦車温存のため歩兵だけで突撃 12/24
ロシアがウクライナとの戦争で、1カ月当たりに失える戦車の数は50両までだ。だが10月には、100両以上を失った。その大半はウクライナ東部ドネツク州アウジーイウカへの数週間にわたる攻撃での損失だった。
この大規模な損失は、ロシアがウクライナとの消耗戦に勝つために立てている新戦略を危うくした。11月にロシア軍の連隊が戦車などの装甲車両の前線投入を控え、歩兵を徒歩でアウジーイウカへの攻撃に送り込んだのはそうした理由からだ。
歩兵は多数が殺害された。10〜11月にアウジーイウカ周辺では1万3000人のロシア兵が死傷。だが、12月に入っても攻撃は続いている。ロシアの上層部にとっては、車両よりも人間の方が替えが利くようだ。
おそらく合計で4万人の兵士と数千の車両から成る12個前後の旅団や連隊が10月10日、アウジーイウカのウクライナ軍守備隊に対して決死の攻撃を開始した。
アウジーイウカを包囲し、守備隊を全滅させることを目的に、ロシア軍の突撃部隊はアウジーイウカの南北に進んだ。どちらの方面でも、地雷原、そして攻撃を予期していたドローン(無人機)や大砲によるキルゾーン(撃破地帯)がロシア兵を待ち受けていた。多くの血が流れた数週間で、アウジーイウカの少数のウクライナ軍の旅団は、ロシア軍の車両を少なくとも211両破壊。これはアウジーイウカ周辺に展開したロシア軍の車両の10%にあたる。
この損失は長くは耐えられないものだった。ロシアがウクライナに侵攻した2022年は激しい戦いとなり、ロシア軍は侵攻前に保有していた4000両の戦車のうち約1500両を失った。2023年になってからは、ロシア軍は戦車の損失を月平均50両程度になんとか抑えている。
ロシア軍が機械化部隊を徐々に弱体化させることなく、大破または鹵獲(ろかく)による戦車の損失に耐えられるのは、1カ月に50両までだ。つまり、ロシア軍が長い消耗戦に勝つために放棄できる戦車は月に50両ということになる。
これは、ロシアの産業がおそらく年間1500両程度の戦車を生産、または長期保管から回収しているとみられるためだ。ただし、スウェーデンのあるアナリストはロシアの戦車の生産はずっと少ないと考えている。
開戦前に比べて戦車の生産と近代化が大幅に強化されたことになるが、それでも旧ソ連時代の年間生産数にははるかに及ばない。2023年に毎月生じている損失を補填し、最終的に前年の損失を埋め合わせるだけの数だ。
最近のロシア軍全体の規模拡大に合わせて戦車部隊を増強することは、長期的なプロジェクトとなる。
冷戦時代の戦車がまだ何千両も保管されており、複数の車両工場が24時間体制で稼働しているため、ロシアはあと数年間は3000〜4000両の戦車を持つ装甲部隊を維持できるはずだ。
戦場への投入数が増えているT-80やT-72、T-62などの古い戦車が、生産に時間がかかっている新型戦車T-90を補っているため、ロシア軍の戦車の「平均年齢」が上がり続けることは確かだ。だが、ロシアがウクライナに仕掛けたこの戦争では大砲やドローン、地雷が戦場を支配するようになっており、戦車の新旧はあまり重要ではなくなっている。
ロシア軍は、甚大な犠牲を出したいくつかの攻撃で、戦車による歩兵支援を行わなかった。これは、戦争を長期的に続けられるよう作戦を調整していることの表れだ。一方、ウクライナがこのような消耗戦を続けられるかは、はっきりしない。
ウクライナは資金と兵器を外国の同盟国に大きく頼っている。そして最大の同盟国である米国は政治危機の真っただ中にある。米国の共和党議員らは、ウクライナにさらにもう1年軍事支援を行うための610億ドル(約8兆7000億円)の予算案の承認を数カ月にわたり拒否している。
● 軍事侵攻開始から1年10か月 ウクライナ東部南部で激しい戦闘 12/24
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して24日で1年10か月になります。ウクライナ軍は23日、東部ドネツク州の拠点、アウディーイウカの周辺でロシア軍が30回余り攻撃を繰り返すなど、東部や南部で激しい戦闘が続いていると明らかにしました。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して24日で1年10か月になりますが、ことし6月に大規模な反転攻勢に乗り出したウクライナ軍と、防御陣地を固めるロシア軍との攻防は、こう着状態に陥っているとも指摘されています。
こうした中、ウクライナ軍は23日、東部ドネツク州の拠点、アウディーイウカの周辺でロシア軍が30回余り攻撃を繰り返すなど、東部や南部で激しい戦闘が続いていると明らかにしました。
また、ウクライナ各地でロシア軍による空爆などの攻撃があり、民間人にもけが人が出ているとしています。
ウクライナ側では、戦闘の長期化で兵員の確保が課題になっているほか、アメリカによる支援の先行きが見通せない状況が続いて弾薬不足への懸念も強まっています。
ゼレンスキー大統領は22日、オランダからウクライナへのF16戦闘機の引き渡しに向けた準備が始まったと明らかにしていて、航空戦力の強化を急いで戦況の打開につなげたいねらいがあるとみられます。
一方、イギリス国防省は23日、前線の状況についてSNSに投稿し「大量のネズミが発生して、双方に被害が出ている可能性が高い。ネズミは車両や防御陣地に入り込み、兵士の士気に影響を与える」と指摘しました。 
● シングルマザーの大統領選立候補を拒否、プーチン政権 支持の広がり危惧 12/24
ロシアの中央選挙管理委員会は23日、来年3月のロシア大統領選への出馬を目指していた無所属の女性候補エカテリーナ・ドゥンツォワ氏(40)の立候補届け出の受理を拒否した。ドゥンツォワ氏がSNSで明らかにした。
AP通信によると、書類に人名の誤字など約100の不備があったことが理由だという。ジャーナリストで子供3人を育てるシングルマザーのドゥンツォワ氏は「平和で友好的なロシア」の実現を訴えており、ウクライナ侵略に批判的な動員兵の母親や妻らの間で支持が広がることをプーチン政権が危惧したとの見方がある。
ドゥンツォワ氏は中央選管の決定を不服として、最高裁に異議を申し立てる予定だ。リベラル系野党のヤブロコに対し、公認候補としての支援を要請するという。ただ、独立系メディア「メドゥーザ」によると、ヤブロコは今回の大統領選に候補者を擁立しない方針を示している。
一方、タス通信によると、プーチン大統領の体制を容認する「体制内野党」で最大野党の共産党は23日、ニコライ・ハリトノフ下院議員(75)を候補に選出した。ハリトノフ氏は、選挙戦でプーチン氏の批判をしないと明言している。左派系野党「公正ロシア」は同日の党大会で、無所属で出馬するプーチン氏への支持を決めた。
中央選管によると、23日までに29人が大統領選への立候補を届け出た。
●“プーチン大統領が停戦に向けた協議に関心示している” 米紙 12/24
ロシア軍によるウクライナ侵攻が続く中、アメリカのメディアは、プーチン大統領がことし9月以降、仲介者を通じて停戦に向けた協議に関心を示してきていると報じました。ただ、相手を惑わせる試みにすぎないとするアメリカの政府関係者の懐疑的な見方も伝えています。
ウクライナ空軍は24日、ロシア軍が南部のミコライウ州やザポリージャ州に無人機15機で攻撃を仕掛け、このうち14機を撃墜したとSNSで発表しました。
また、南部ヘルソン市の当局者はロシア軍の砲撃で3人が死亡し、8人がけがをしたとしています。
ロシア軍による攻撃が続く中、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは23日、ロシア政府の元高官やアメリカなどの当局者の話として、プーチン大統領が少なくともことし9月以降、仲介者を通じて停戦に向けた協議に関心を示してきていると報じました。
具体的には米ロ両国と関係を持つ外国政府を含む複数のルートでアメリカなどに伝えられ、キーウを首都とするウクライナの主権を認めるかわりに現時点でロシア軍が支配している20%近いウクライナの領土をロシア側が維持することを提案しているということです。
ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領はすべての領土の奪還を訴えているうえに、記事ではアメリカ政府関係者の話として「ロシアがよくやる相手を惑わせる試みで、本当にプーチン大統領が妥協しようとしているものではないだろう」とする懐疑的な見方も伝えています。
●停戦ちらつかせ軍事支援の意欲そぐ狙いか…プーチン、アメリカに伝達と報道 12/24
米紙ニューヨーク・タイムズは23日、ウクライナを侵略するロシアのプーチン大統領が最近、ウクライナ東・南部4州の占領地域を維持した上での「停戦」に関心を持っている兆候があると報じた。第三国を通じて、米国側にも伝えられているという。
プーチン氏は、〈1〉戦況の停滞〈2〉ウクライナの反転攻勢の失敗〈3〉米欧の支援疲れ〈4〉中東紛争によるウクライナへの関心低下――の4点により、停戦の機会が生まれたと考えているという。米露の当局者らによる情報としている。
ロシアは現在、ウクライナの4州にまたがる地域を占領しており、露本土とクリミア(2014年に一方的に併合)を陸路で結ぶことが可能となっている。露国内向けには、これを戦果として宣伝する可能性もある。
同紙は、米露の双方とチャンネルを持つ複数の国の政府を通じ、プーチン氏のメッセージが米側に送られているとした。ただ、露側が示している条件は、ウクライナが受け入れ可能なものではないという。露側の真意は、停戦をちらつかせることで米欧の軍事支援への意欲をそぐことにあるとの指摘もある。
ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官は、記事について「内容が不正確だ」とコメントした。
●祖国と戦うロシア人志願兵部隊 ウクライナ軍創設、数百人規模に 12/24
ウクライナ軍が、プーチン政権の打倒を目指して祖国を離れたロシア人志願兵を中心とする通称「シベリア部隊」を創設した。24日までに共同通信など一部メディアに訓練を公開した。一部は既に激戦地に投入された。今後数カ月のうちに数百人規模の部隊が訓練を終える見通しだ。
ウクライナでは、数万人規模の外国人がロシアとの戦闘に参加しているとされる。欧米諸国に加え、日本を含むアジア、南米などからも義勇兵がウクライナ軍の指揮下で参戦している。
部隊の報道官によると、今年6月ごろからロシア人部隊の創設準備が始まった。入隊に際しては、ロシアのスパイが潜り込む恐れを考慮して徹底的に身元調査を行い、うそ発見器を用いた面接を複数回繰り返して、入隊が許可されるという。
兵士の95%はロシア国籍保有者で、モンゴル系などの少数民族が含まれる。残りの5%が中央アジアのキルギスやカザフスタンなどの出身者という。多くが東欧などの第三国を経由してウクライナ入り。30人単位の小隊が既に訓練を終え、実戦に投入されている。

 

●来年3月のロシア大統領選、プーチン氏の当選が確実な情勢 12/25
来年3月のロシア大統領選挙に向け主な政党の党大会が終わり、立候補者がほぼ出そろいました。プーチン大統領の当選は確実な情勢です。
プーチン大統領「ご支援をお願いします。ありがとう」
プーチン大統領は17日、与党「統一ロシア」の党大会で無所属での立候補を表明し、党は推薦を決めました。ウクライナ侵攻をめぐり、幅広い支持を集める狙いとみられます。
また、野党も24日までに相次いで党大会を開きました。
東郷達郎記者(NNNモスクワ)「野党ロシア自民党の党大会にきています。前回同様、候補は擁立するのだそうです」
野党第3党の極右「ロシア自由民主党」は、党首のスルツキー氏を公認候補に決めました。スルツキー氏はウクライナ侵攻を支持し、会見では「プーチン氏が勝つ」などと述べました。
ロシア自由民主党・スルツキー党首「私はプーチン大統領の票は狙わない。プーチン大統領はこれまで以上に得票して勝利するだろう」
野党第1党の「ロシア共産党」、野党第4党の「新しい人々」も同じ考えで、公認候補は立てましたが侵攻を支持。野党第2党の左派「公正ロシア」は候補を立てずに、プーチン大統領を「推薦」するなど脅かす存在ではありません。
一方、侵攻に反対する無所属候補も立候補を届け出ました。
リベラル系 無所属・ドゥンツォワ氏「これ(立候補)は人々にとって重要です。選択肢がなければなりません。私にとって、子供たちにとって、家族にとって重要です」
リベラル系のドゥンツォワ氏について中央選挙管理委員会は、書類に不備があるとして23日、届け出を棄却しました。
反体制派は選挙への参加自体が難しい状況で、プーチン大統領の通算5期目の当選は確実な情勢です。
●ロシア選管、反体制元ジャーナリストの大統領選立候補認めず 12/25
ロシア中央選挙管理委員会は23日、来年3月の大統領選に立候補を届け出ていた反体制派の元テレビジャーナリスト、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏(40)について、提出書類に「多数の違反」があるとして立候補を認めないことを決めた。
決定は全会一致。選管のパムフィロワ委員長は決定後ドゥンツォワ氏に「あなたはまだ若く、未来は洋々としている。いかなるマイナスもプラスに転じることができる」と述べ、理解を求めた。
一方、ドゥンツォワ氏は通信アプリのテレグラムに「今回の政治的な決定は、われわれが自分たちの代表を擁し、当局の攻撃的論調とは異なる見解を表明する機会を奪うものだ」と投稿。選管の決定の撤回を求めて最高裁に提訴する考えを示した。
選管の今回の決定で、野党としての立場が明確な人物が3月の大統領選に立候補するのは認められないことが明らかになった。
ロシア大統領府は、プーチン氏は支持率が80%近くあり、社会の幅広い層から心からの支持を得ているため選挙で勝利するとしている。
また大統領選を巡ってロシアのメディアは、中道右派「市民イニシアチブ」が23日の党大会でプーチン氏に批判的なボリス・ナデジディン氏の擁立を決めたと報じた。
●“ロシア国内で労働力不足 深刻化” 国内経済へ打撃との指摘も 12/25
ロシアの有力紙は、ロシア国内で労働力不足が労働力人口全体の6%余りに上り、来年も深刻な不足が続くと伝えました。ウクライナへの軍事侵攻が1年10か月と長期化する中、国内経済への打撃になるという指摘も出ています。
ロシアの有力紙「イズベスチヤ」は24日付けの電子版で、ロシアの研究機関の調査結果を引用しながら、ことしの労働力不足は480万人に上る見通しだと報じました。
ロシアの労働力人口全体の6%余りに相当し、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁が先月(11月)「製造業や化学工業などで深刻な人材不足を引き起こしている」と懸念を表明していたのが数字で裏付けられた形です。
ウクライナへの軍事侵攻に伴って兵士として多くの人々が動員されているほか、国外へ逃れた人が多いことも背景にあるとみられ、記事では来年もIT分野や工学系の専門職、医師や運転手など幅広い職種で深刻な労働力不足が続き「制裁下の経済の立て直しを困難にする」という専門家の指摘を伝えています。
ロシアのプーチン大統領は今月行った年末の記者会見などで、欧米などによる制裁を受けても経済は安定し、失業率は2.9%と歴史的に低くなったと誇った上で来月(1月)から最低賃金を18%引き上げるなどと強調しました。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して24日で1年10か月と長期化する中、来年3月の大統領選挙で圧勝をねらうプーチン大統領は、国民の不安の払拭を図っているとみられます。
●ロシア経済統計にみる不都合な真実。国民はなぜ卵を買うために行列か 12/25
2023年のロシア経済は、統計上は回復の動きが見られたが、その裏ではさまざまな構造変化が生じた一年だった。例えば、最新2023年7-9月期の実質GDP(国内総生産)は前期比0.9%増と、5期連続でプラス成長となった(図表1)。また同期の実質GDPの水準は、それまでのピークだった2022年1-3月期を上回り、景気は「拡張局面入り」した。
   図表1 ロシアの実質GDPの推移
他方で、実質GDPの動きを主な需要項目別に確認すると、個人消費の回復が遅れる一方、政府支出の急増が顕著だった。特に2023年1-3月期の政府支出は前期比9.3%増と、増勢は2022年10-12月期(同2.9%増)から急加速した。その反動で翌2023年4-6月期は同9.5%減と大幅マイナスとなるが、政府支出は膨張したままだ。
政府支出の膨張は、
(1)ウクライナとの戦争に伴う軍需(戦争に伴う需要)の急増
(2)国内向けの経済対策費の急増
の2つの要因からもたらされたものだ。つまり2023年のロシア経済は(1)を中心とする公需(政府の需要)が成長をけん引したが、一方でそれが民需(民間の需要)を圧迫し、(2)も効果が乏しかったため、景気が浮揚感を欠いて当然だった。
直感的にいえば、ロシアは経済成長で得た果実を国民に配分するのではなく、戦争の遂行に費やしたことになる。ロシア経済の最大の武器は原油に代表される資源であり、本来ならその資源を輸出して得られた所得は、国民に配分されなければならない。しかしロシアは戦争の遂行にそれを注ぎ込んだ。景気が浮揚感を欠くのは当然といえる。
ロシアで食品の値上げが止まらない
民需が圧迫されている様相は、食料品の価格高騰も招いている。
ロイター通信は11月17日付の記事で、ロシアの深刻な食料品価格の高騰を伝えている。またニューズウィーク誌は12月14日付の記事で、真冬の寒中、鶏卵を購入するために行列ができている様子を伝えた。欧米日による経済制裁や通貨の下落が、食品価格の高騰につながっている。
実際に公式統計から食品価格指数の動きを確認すると、ロシアの食品価格(総合)は2022年2月のウクライナ侵攻直後に10%ほど上昇し、その後は安定していた(図表2)。しかしながら、2023年後半からは再び上昇トレンドとなっている。そして、価格変動の激しい生鮮食品を除く食品価格も、ほぼ同様の動きで上昇している。
   図表2 ロシアの食品価格
ロシアは世界有数の穀物生産国であるため、ロシアには食品が溢れているというイメージを持つ人も一定数いるだろう。それはある面では正しいが、間違いでもある。
穀物の多くは輸出に回るし、穀物以外に関しては、外国からの輸入品に頼ってきたのが実態だ。特に野菜などの生鮮食品は、温暖な国々からかなりの量を輸入してきた。
そのため、食品価格は通貨ルーブルの動きに左右される。
2023年初め、ルーブルの対ドルレートは1ドル=70ルーブル前後だったが、その後は下落が進み、8月と10月には100ルーブルを割り込んだ。こうしたルーブル安の影響は徐々に顕在化するため、2023年後半からのロシアにおける食品価格の再上昇も、基本的にはルーブル安の影響と考えられる。
ところでロシアでは、少なくない国民が「ダーチャ」と呼ばれるセカンドハウスを郊外に保有している。そこで自家消費用の野菜を作るわけだが、当然、収穫できるのは夏季から秋季に限定される。そのため年間を通じて考えると、野菜も相応の量を輸入せざるを得ず、そのため生鮮価格もまた、為替レートの動向を受けざるを得ない。
2024年のロシア経済は成長が鈍化
本来、ロシア経済が統計通り回復過程であれば、ロシア国民が食品価格高騰に、これだけ苦しむことなどありえない。
結局のところロシアで起こっている今の食品価格の高騰は、国富の流出であり、モノ不足を反映した現象だ。軍需を満たすことを最優先に、民需を圧迫した結果が、食料品価格の高騰を通じて、ロシア国民の生活を圧迫している。
こうした状況下で、ロシアは年明け3月に大統領選を実施する。
ウラジーミル・プーチン大統領の再選が確実視されているが、一方でロシア政府は物価高に対する警戒感を強めており、ロシア中銀に対応策を要請している。政府の意向を受けて、ロシア中銀は12月15日の会合で、政策金利(キーレート)を16%にさらに引き上げた。
ロシア中銀は11月7日に公表した『金融政策レポート』の中で、インフレ抑制のためには、高金利政策を今後しばらくの間は維持する必要があるという見解を示している。そして高金利政策を維持する結果、ロシアの2024年の実質GDP成長率は0.5-1.0%増と、2023年の2.2-2.7%増から大幅に低下すると、ロシア中銀は予測している。
実質GDP成長率そのものが低下する一方で、ウクライナとの戦争が継続する以上、ロシアの軍需は引き続き旺盛なままとなる。そのため、民需はさらに強く圧迫されることになるため、 2024年のロシアの景気の実勢は、実質GDPの数字が持つ印象よりも、停滞感が強いものになると考えるべきだろう。
大統領選を控えたロシア政府は、本来なら追加の大型経済対策を実施して景気を加速させたいところだ。しかしウクライナとの戦争が長期化し、深刻なインフレも継続しているため、ロシア政府に大型の経済対策をとるだけの余裕はない。プーチン大統領の再選が確実なことも、追加の大型経済対策の必要性を低下させたのかもしれない。
戦争が続く限り国民は疲弊する
ロシアとウクライナの戦争がはじまってから、すでに2年近くが経過している。ロシア国民は着実に疲弊しているが、ロシアは引くに引けない状況となっている。それはウクライナも同様だ。
いずれにせよ、戦争は中長期にわたって膠着状態が続くと考えられる。当然、ロシアの軍事費は急増が回避できたとしても、軍需が民需を圧迫する構図が今後も続くはずで、当然、ロシア国民の生活は苦しいままとなる。
仮に原油価格が上昇し、ロシアの輸出が増えたとしても、それで得た所得が経済の発展に充てられずに戦争の継続のために浪費されるなら、元も子もない。
こうした状況を、ロシアは2024年も続けることになる。このままでは、モノ不足に伴うインフレが生鮮食品以外にも拡がり、行列を目にする機会が増えてくることになるのかもしれない。
●イエメン・フーシ派による紅海での船舶攻撃で、世界の物流が混乱 12/25
紅海、スエズ運河経由は海上コンテナ輸送全体のおよそ10%
11月以降、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が、紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返している。彼らは、イスラエルと関連があると判断した船舶に、無人機やミサイルによる攻撃を行うとしている。これが、世界の物流を混乱させ、また物価上昇リスクを高めている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、イランの準軍事組織が、フーシ派にリアルタイムで情報提供を行い、それを用いてフーシ派はドローン(無人機)やミサイルで船舶を標的にしていると報じている。
紅海はアジアと欧州を結ぶ重要な水路で、船舶交通の要所であるエジプトのスエズ運河を経由する輸送は、海上コンテナ輸送全体のおよそ10%を占めるという。海上コンテナは世界の物資輸送の3割を占め、輸送金額は年間1兆ドルに上る。
また紅海は、石油・天然ガス輸出の大動脈の一つと言える。米エネルギー情報局(EIA)によると、航海を経由するエネルギー輸送は、2023年1−6月期の海上石油貿易全体の12%、液化天然ガス(LNG)の世界貿易の8%をそれぞれ占めていた。
スエズ運河の輸送量は、ウクライナ紛争後に増加している。経済制裁を受けたロシアの原油輸出先が、欧米から、スエズ運河を経由してアジアに向かうようになったためだ。インドのロシア産原油輸入量は、ウクライナ戦争が始まる前の2021年には日量9.7万バレルだったが、今年の1月−11月には日量163万バレルまで増加している。
また欧州も、ロシアが昨年停止したパイプラインでのガス供給の代替先として、カタールからの紅海経由でのLNG輸入への依存度を高めている。
S&Pグローバルによると、スエズ運河経由の石油輸送量全体は、今年1〜11月に日量平均472万バレルとなり、前年同期比で46%増加している。
世界の海上輸送能力が20%減少との分析も
22日のロイター通信などによると、フーシ派による紅海での相次ぐ船舶攻撃のため航路を変更したコンテナ船は、少なくとも158隻にのぼるという。これらコンテナ船の貨物の金額は、コンテナ1個あたり5万ドルとすると、合計で1,050億ドルに達する。
紅海はスエズ運河を通って地中海につながっているが、紅海航路を利用できず迂回する場合には、コンテナ船はアフリカ南端の喜望峰を回ることになる。スイスの物流大手「キューネ・アンド・ナーゲル」によると、スエズ運河を経由してアジアとヨーロッパの間の輸送にかかる日数は通常30日から40日程度であるが、アフリカの喜望峰を経由するルートを通る場合には、スエズ運河経由と比べて片道で10日から15日、往復では3週間から4週間余計にかかる可能性があるという。さらに「キューネ・アンド・ナーゲル」は、航行時間が長くなることで、世界の海上輸送能力が20%減少することが予想される、としている。
各種物流コストが上昇
こうした物流の混乱は、物流コストの上昇をもたらしている。韓国の中央日報によると、21日時点で中国の上海から英国へ向かう40フィートのコンテナ運賃は、前週の2,400ドルから1万ドルまで一気に4倍にも上がったという。
さらに海上貿易路に支障が生じた結果、陸路への切り替えが起こり、中東地域のトラック運送料金が倍以上になるなど、物流運賃が上昇している。また、航空輸送へのシフトから、航空輸送のコストも上昇している。中国−北欧航空配送料金は前週から13%上昇したとの指摘もある。
最悪の事態はホルムズ海峡の閉鎖
2021年にスエズ運河で起きたコンテナ船の座礁事故でも生じたことだが、紅海での船舶攻撃は、世界の物流を混乱させ、また物流コストの上昇を通じて、世界経済に打撃となっている。
ただし、現時点では、世界経済と物価に大きな影響を与える原油価格の急騰にはつながっていない。原油価格の急騰をもたらすのは、紅海、スエズ運河での物流の混乱よりも、イランによるホルムズ海峡閉鎖などである。
ホルムズ海峡では日量約2,000万バレルの原油・石油製品が行き交うが、これが止まれば、OPECプラスの原油生産全体の日量4,300万バレル(9月時点、IEA)の半分程度の海上輸送がストップしてしまう計算となり、原油価格への影響は甚大だ(コラム「中東情勢悪化で原油価格が急騰する条件」、2023年10月13日)。
紛争の拡大が、そうした最悪の事態につながることがないかどうかは、引き続き金融市場の大きな懸念として残る。
●完全に見捨てられたウクライナ...世界は「絶望しかない時代」に突入した 12/25
国際社会が注視する中、さらなる人道危機の悪化が懸念されるイスラエルによるガザ地区侵攻。しかし世界には、ほとんど顧みられることがない数多の紛争が存在していることもまた事実です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、そのような「見捨てられる国と人々の悲劇」が作り出される構図を詳しく解説。さらに今現在の国際社会には、もはや平和的な状況は存在しないとの個人的な見解を記しています。
安定と平和の世界が終わるとき−ガザ・ウクライナ対応の失敗がもたらす地獄絵図
「これまで30年にわたり続くコンゴ東部を主戦場とする戦いで、600万人が命を失い、100万人以上のコンゴ人が国内を明日知れない恐れに駆られながら流浪している」
「コンゴではアメリカのフロリダ州より少し大きいくらいの地域で、100を超える武装勢力が自身の優位性を訴えるために、日々互いに殺戮を繰り返している」
「そのような状況下にも関わらず、コンゴの地下に眠るレアメタルを目当てに外国資本がコンゴに殺到しているが、誰もコンゴ国内で起きている悲劇には目もくれない」
12月19日付のニューヨークタイムズが、アフリカ地域の首席特派員であるDeclan Walsh氏の記事を掲載し、上記のような状況を伝えました。まずWalsh記者とこの記事を掲載したニューヨークタイムズの勇断・英断に敬意を表します。
実際この記事にどれほどの読者、そしてリーダーたちが注目し、具体的な対策を考え、実施に移すのかは分かりませんが、イスラエル・ハマスの戦いやガザにおける人道的危機、ウクライナの市民がロシアからの攻撃に晒される恐怖と悲劇に比べると、欧米諸国とその仲間たちの国々に暮らす私たちの注意を引くことは少ないのではないでしょうか?
ロシアによる侵攻と攻撃を受けて命を落としたり、家を追われたりしたウクライナの市民。
イスラエルからの猛烈な攻撃に晒されて、ガザという非常に狭い折の中で生命を無差別に奪われた2万人超の市民。
ハマスによる攻撃によって人質に取られ、人間の盾に使われているイスラエル市民と外国人。
これらすべての人たちに対し、哀悼の意を表するとともに、即時停戦と人質の即時解放を訴えます。
しかし、この他の地域において同様、またはそれ以上の恐怖に晒され、いつ終わるともわからない地獄に直面する人々はどうでしょうか?
シリアではわかっているだけでも50万人が戦いの巻き添えになり、命を奪われました。
イエメンでは、イランとサウジアラビアの代理戦争と言われる戦いを通じ、これまでに分かっているだけでも37万7,000人以上が命を奪われています。
アフガニスタンでは、アメリカが完全撤退してから、今年起きた大地震による死者を除き、タリバンとその他の武装勢力との間の戦闘で少なくとも24万人ほどの一般市民が亡くなっています。
ごくたまにニュースに登場するスーダンの内戦では、ここ1年ちょっとの間に少なくとも50万人の市民が亡くなっていますし、イラクではアメリカ軍の撤退後、30万人以上が亡くなったという情報が入っています。
そして先ほど紹介したコンゴでは、死者数は600万人を超えましたが、これまで30年間、国際社会からの関心はほぼ皆無と言えます。
戦争の種となる「もっと、もっと」という心理
ここまで挙げた例は、数だけを見ても惨劇・悲劇という表現が合うかと思いますが、残念ながら「国際社会」は、抗議の声を上げることなく、沈黙を保ち、悲劇は繰り返され、拡大しています。
でも同じ“私たち国際社会”は、イスラエルとハマスの戦いに巻き込まれて命を失った2万人ほどのガザの市民の死とそれを招いたイスラエル軍とハマスに対して激しく怒りの声を上げ、ロシアによるウクライナ人への蛮行に対しても涙し、ロシアに対する抗議の声を上げ、自らの日常生活に支障をきたしても、ロシアへの制裁の悪影響を甘受しつつ、「ロシア派かウクライナ派か、それとも傍観者か」と互いを責め立てて、“国際社会”を分断させています。
ロシアによるウクライナ侵攻に始まった対ロシア制裁の数々は、グローバル化の下で成し得てきた世界の物流網の連帯性をぶった切り、エネルギー・資源・食料などの供給危機を引き起こしています。
そこにイスラエルとハマスの戦いが加わり、ハマスを支持するフーシー派が主導して紅海における船舶への攻撃をおこなったことによって、次々と海運会社が紅海ルートの中止を表明し、その結果、海運網が途切れ、さらなる状況の悪化が予想されます。スエズ運河から紅海ルートは、世界の原油・天然ガスの15%が通過する海域ですが、ここを避けて、タンカーなどが遠回りすることで、運搬する資源やエネルギー源の価格高騰に連結する懸念が高まります。
ただでさえ高いエネルギー料金、供給網が狂ってしまっている食糧、世界の穀倉庫ウクライナが生産不能に陥った後、供給源として注目されたはずのアメリカも、バイデン政権によるエネルギー政策の結果を受けて、飼料用のトウモロコシ価格が暴騰し、バイオエタノール転用により失われる家畜用トウモロコシの供給がひきおこす畜産・酪農セクターへの大打撃…。いろいろな危機が今後、同時多発的に起きて、事態が急激に悪化する可能性が多方面から指摘されています。
その影響をもろに受けるのが南アジア諸国、島嶼国、サハラ以南のアフリカ諸国と言われていますが、その悪影響はすぐにグローバル化された世界を通じて先進国にも押し寄せてくることになります。
私が紛争調停官という仕事にこれまで携わってきたなかではっきりと見えてきているのが、【戦争は宗教や民族の違いによって起きるのではなく、隣人のものを少しでも欲しいと考えて、自分の欲を満たすために起こすもの】という悲しい現実です。
言い換えると“もっと、もっと”の心理が戦争の種となります。
リーダーは常に国民や社員を喜ばせなくてはなりません。今のままでも十分に素晴らしいはずなのに、国民や社会、消費者はすぐに持っているものに飽きてしまい、もっともっとを欲する私たちの性が、リーダーたちを戦争に掻き立ててしまいます。
その傾向は、国際政治学や地政学の分野でよく用いられるランドパワーの国々でも、シーパワーの国々でも共通して存在します。
「ロシアや中国のような陸続きで隣国が多数存在する国にとっては、それらの国々から攻められず、自国民を満足させるためには、隣国を攻めて拡大する他ないのだ」というのは、ランドパワー理論でよく語られるもので、確かによく特徴を捉えているなと感じます。ただこのランドパワー理論に分類される勢力の特徴は、良くも悪くも“隣接しないもの・国に対しては、直接的な関心を、本気で抱かない”というものですので、あまり“国際紛争”に武力介入という形式で、首を突っ込んできません。
「アメリカの政策的な関心の度合い」に左右される国際社会
ロシアにとって直接的な安全保障上の関心は、ロシアと陸続きで国境を接する16の国々(ウクライナ、ベラルーシ、モンゴル、アゼルバイジャン、北朝鮮、中国、カザフスタン、ジョージア、ラトビア、エストニア、フィンランド、ノルウェー、ポーランド)との力関係です。
国境という意味ではここに海峡を隔ててアメリカ合衆国と日本が加わりますが、海峡の存在は、互いにとって防御壁として存在するため、ランドパワーの直接の脅威としてではなく、別のカテゴリーになることが多くなります。
ロシアは、影響力の拡大という観点から中東やアフリカ、中南米諸国にも手を伸ばしていますが、軍事的なものというよりは、経済的なつながりの構築と強化が主眼であるため、ハードコアな安全保障上の利害では動いていません。
これに対し、シーパワーの典型例とされる英国と米国は、海が自然の要塞として機能するため、影響力拡大のターゲットを遠方に求めやすくなります。
アメリカの場合、カナダとメキシコとは地続きではありますが、両国ともアメリカにとっての国家安全保障上の脅威となるほどの強国ではないため、アメリカは外に目を向けやすくなっています。とはいえ、今、米国内で政争の具になっており、見事にウクライナも煽りを食らったのが“メキシコからの移民の流入はアメリカの国家安全保障上の脅威”という主張の存在ですが(主に共和党)、この場合には傍目には理解できないほどの過剰反応を見ることが出来ます。
このシーパワーの皆さんの特徴をあえて過剰に一般化しますと、他国・他大陸のことにやたらとちょっかいを出したくなります。
口を出し、手を出し、欲しいものは取ってきて、場合によっては自らの考え方や文化的な習慣を置いてきて、押し付けます。ゆえに現地からすると異物として捉えられ、大いに嫌われる対象になりやすいのが特徴です(あえて悪いところばかり見ていますが、シーパワーによる影響力拡大が結果としてグローバル化を進め、私たちの生活を便利にしたのは確かです)。
今、起きている国際社会の分断は、この趣を異にするランドパワーの皆さんと、シーパワーの皆さんがぶつかり争うフロントと、それには巻き込まれず、どちらの利点も享受したいグローバルサウスの皆さんという構図だと表現できるのではないかと思います。
このような分類は、実は少し前まで存在した国際協調時代にもあったのですが、大きく変わったのは、シーパワーの皆さん、特にアメリカが、問題が起きたら、いいか悪いかは横に置いておいて、あちらこちらに直接出て行かなくなったことでしょう。
その結果、関心の度合いがアメリカの政策的な関心の度合いによって差別化され、アメリカに“関係がある”“利害がある”国や地域については大騒ぎしますが、その他については、一応、口は出すが手も金もサポートも出さないという図式が出来上がったのではないかと、若干、強引な気もしないでもないですが、考えています。
それが、イスラエルが絡む問題には国内の議論を二分し、国際世論も二分することを厭わずに介入したり、大嫌いなロシアや中国が何かをすると声を大にして介入したりする半面、アフリカ内で起きていることやアジアの片隅で起きていることには関心を持たず、商業的・経済的な利益の拡大と確保のために、そこに存在する政治・社会における不都合な真実を黙認するか無視するという方針を、アメリカも欧州も、そしてその仲間たちも、今やシーパワー的な側面も持とうとしている中国も、ロシアも選択しています。
「見捨てられる国と人々の悲劇」が作り出される構図
グローバルサウスの皆さんも、それぞれ国内政治的には問題を抱えているところが多いとされていますが、そこには互いに目をつぶり、それぞれの実利に基づいて判断する傾向があるため、自国が直接的に影響を被らない案件にはあまり真剣に首を突っ込んではきません。
この特徴は、紛争の調停役という観点からは望ましい部分もあるのですが、調停・仲介を行う際には、対象国や案件に対してやはり何らかの“関心の存在”が必要ですので、正直なところ、紛争調停の観点からはあまり期待できません(インドの場合、もしロシア的に「アフリカ諸国にはインドから渡ったインド系の同胞がたくさんいるのだから、同胞を保護するために介入する」という強引な観点を取るのであれば積極介入もするでしょうが、実際にはインドはそこからは距離を置いているようです)。
このような戦略的無関心と選択的関心の構図が、今の世界の分裂の構図の一因となり、“見捨てられる”国と人々の悲劇を作っているのではないでしょうか。
コンゴでは600万人の死者が出ながらも30年にもわたって紛争が続いているのを黙認し、武装勢力が割拠し、血で血を洗う戦いを繰り返している傍らで、豊富に産出されるレアメタルの争奪戦を繰り広げる欧米諸国と中国の存在があります。
時折コンゴの案件は国連安保理の場にも出され、継続する武力紛争への懸念が述べられ、状況の改善と即時停戦が叫ばれるのですが、実質的な行動もとられず、またサポートもありません(私も何度か紛争調停の任でコンゴに赴きましたが、あまりにも当事者が多く、その聴取と調整は困難の度合いを極め、実質的には調停不成立となってしまい、今も継続案件です)。
シリアの案件は、アサド政権の蛮行を糾弾する間は関心が続いていましたし、欧州では人道支援の拡大が叫ばれましたが、欧州国内での治安状況の悪化や、生活環境の違いなどから、欧州に押し寄せ、受け入れてもらったはずの難民が迫害対象になってしまうという事態が進むにつれ、トルコとの外交的なカードにも使われましたが、シリア問題から目を背けるという政策的選択が欧州各国で行われたがゆえに、50万人を超えるとされる死者を生む悲劇は急速に関心を失いました。
それはアフガニスタンも、イエメンも、スーダンも、イラク、そしてミャンマーも同じです。
どこかで紛争が起こり、悲劇が報告される度に関心が高まり、支援の声も挙げられますが、次の何かがどこかで起きると(ほとんどの場合、自国の安全保障には関係がない)、そのことを忘れて、次の新しい危機に熱狂する。
この傾向は、ロシアによるウクライナ侵攻、ハマスによるイスラエルへの同時攻撃と人質事件、それに対するイスラエルからの苛烈な報復とガザ地区における非人道的な攻撃へと移行しているのが分かるでしょうか。
今、世界各地でイスラエル軍による無差別攻撃に反対する抗議デモが起こり、同時にハマスによる凶行を非難するデモも起きていますが、ところであれほど激しく行われていた“ロシアによるウクライナ侵攻に対するデモ”や“Stand with Ukraine”の集会はどこにいってしまったのでしょうか?
対ウクライナ熱は残念ながら冷めてしまっているようです。
その証拠にゼレンスキー大統領とウクライナに対する各国政府の関心は著しく低下しています。
イスラエル・ハマスの問題だけが理由ではなく、ウクライナの反転攻勢が期待はずれだったことや、ロシアが想像以上に強いまま残っていること、反ロシア包囲網が思うように形成されておらず、親ロシアまたは中立的な立場を保つ国々が多いこと、そしてウクライナの後ろ盾となった国々が、ウクライナ国内にある完全なる3分割の構図を理解しきれていなかったことなどがあります。
ウクライナ国内で揺らぎ始めたゼレンスキー大統領への支持
ワシントンを訪問し、バイデン大統領をはじめ、連邦議会の幹部とも面会し、対ウクライナ支援の継続と強化を依頼しましたが、バイデン大統領からの空約束は得られたものの、実質的に予算を握る下院からは支持を得られず、すでに議会がクリスマス休暇に入ったという時期的な不運もあり、対ウクライナ支援の予算が枯渇する前に、その予算の延長も拡大も行われず、実際には打ち止めとなるという事態に直面しています(民主党・共和党の別なく、実際には議会において「ウクライナに対しては、あと1年は持ちこたえられるだけの財政・軍事支援は行ったはず」という認識が広がっているようで、新規・追加の支援には後ろ向きという背景も存在するようです)。
続いてブリュッセルに赴き、EU加盟交渉を開始するという“成果”を得たものの、それは先述のように、ゆうに10年以上かかることから、実際には欧州各国からの支援の打ち切り通告の代わりに、“希望”を持たせるためだけのリップサービスだったのではないかと思われます。
実際には欧州の支援の要のドイツは、国内の予算調整が与野党で困難を極めており、現時点でウクライナに対する追加支援の実施はほぼ不可能な状況と言われていますし、これまでウクライナに寛容だったはずのフランス政府も、ウクライナをヨーロッパとは見なしていないことに加え、ロシアへの配慮から、あまり積極的な支援の輪には加わるつもりはないようです。
そしてUNの場では、安全保障はもちろん、開発や気候変動などの議論が行われる場で、途上国の代表から公然と“ウクライナやイスラエルにシンパシーを表明して湯水のように迅速に支援を提供するのに、もっと多くの人命にかかわる問題に対しての支援には後ろ向きなのはどうなのか”という非難の対象としても使われ始め、これ以上、実効的な支持をウクライナがUNの場で受けることはなさそうな気配です。
極めつけはウクライナ国内でゼレンスキー大統領への支持が揺らいでいます。ウクライナ国民を困難な際にも鼓舞し続ける姿はカリスマとして称えられた時もありましたが、その後、度重なる閣僚や軍幹部の更迭、汚職疑惑などに襲われ、戦線も膠着状態にあることから、その指導力に疑問符が付けられ始めています。
そしてロシアによるウクライナ侵攻以降、武器弾薬はもちろん、政府機能の維持、教育、医療、年金などを維持するために欧米諸国とその仲間たちからの支援が使われていることと、戦争による破壊により実質的に穀物や鉱石などの収入源を失っていることもあり、欧米頼みの国家運営に対する不安と不満の矛先が、プーチン大統領とロシアだけでなく、ゼレンスキー大統領にも向かいつつあると言われています。
自国と自国民を支えるための支援を欧米諸国とその仲間たちから引き出してこれなくなったことで、一旦は延期を提案した来春の大統領選挙を予定通りに実施してゼレンスキーを追い出すべきとの声も、反対派から起きていると言われています。
そして大統領と統合参謀本部議長との確執と権力争いが表ざたになってきたことで、内政上の危機も訪れていると言われています。
国際社会から次第に煙たがられ、国内でも支持基盤の揺らぎが出てくる中、もし欧米諸国とその仲間たちがウクライナ支援から手を退くようなことがあれば、これは確実にウクライナを見捨てることとなり、プーチン大統領による蛮行を、間接的に容認する結果に繋がります。
今のところ、大方の見方は時間がプーチン大統領とロシアの味方となっており、対ウクライナ戦が長引くほど、ロシアは軍事面でも経済面でも体勢を立て直し、ウクライナに対してend gameをしかける可能性が高まるとされています。
非常に危険な状態に追いやられている国際社会
今、ロシア・ウクライナに加え、イスラエル・ハマスの問題を抱え、その背後ではかなりの数の国際紛争を抱える世界は、言い換えると多くの世界戦争の引き金となりかねない案件を同時に抱え込み、安全保障環境維持のための仕組みが機能不全になりつつあると考えます。
ロシア・ウクライナ、イスラエル・ハマス、そしてアフリカで数多く継続している紛争、アゼルバイジャンの報復と野望、コソボで再燃するセルビアとアルメニアの主導権争い、不穏なアフガニスタン情勢、激しさを増すミャンマー情勢、トルコとシリア、イラク、イランが抱えるクルド人問題…どこかの火の粉が他の紛争に火をつけ、その戦火が広がり、延焼するような事態になった場合、もう安全保障体制の崩壊の炎の広がりをだれも止めることが出来なくなると思われます。
包括的な国際安全保障体制は、常に非常にデリケートなバランスの下、何とか和平と安定が保たれています。
どこかで火の手が上がれば、迅速に協力して火を消し、争いの理由・原因を一旦キャンセルアウトして、何とか安定的な状況に戻すという作業が通常は行われてきましたが、これだけ大きな紛争が世界各地で勃発してくると、このバランシング機能が動かなくなり、危機的な状況に陥ります。
「どの紛争からまず停止すべきか」
そのような質問をよくいろいろな場で尋ねられるようになりましたが、私からはあえて自身の考えを述べることは避けています。
それは答えを持っているからというよりは、恐らく私自身もわからないからだと思います。
武力によらずに戦争を解決できる状態を私は“平和”と呼びますが、少なくとも今はその平和的な状況はもう存在せず、非常に危険な状態に私たちは追いやられているように感じています。
もちろん、そのような中でも調停グループはしっかりと力を尽くします。
● ウクライナでクリスマス・イブの礼拝 ロシアへ反発 暦を変更 12/25
ウクライナに多くの信者がいるウクライナ正教では、軍事侵攻を続けるロシアへの反発から、これまで1月に祝っていたクリスマスが、ことし正式に12月25日に変更され、24日、クリスマス・イブの礼拝が行われました。
ウクライナ正教会は、これまで旧暦に従ってロシアと同じ1月7日をクリスマスとしてきましたが、ロシアへの反発から、12月25日をクリスマスとする暦にことし正式に変更し、24日、各地でクリスマス・イブの礼拝が行われました。
このうち、首都キーウ中心部にあるユネスコの世界遺産のキーウ・ペチェルシク大修道院では午後5時から礼拝が始まり、人々が次々に訪れ、祈りを捧げていました。
この修道院は、軍事侵攻の前までロシアの強い影響下にあると指摘されてきましたが、ことしのクリスマス・イブの礼拝ではウクライナ語が使用されていました。
ウクライナではロシアによる侵攻が長期化する中、宗教や文化の面でもいっそうロシア離れが進んでいます。
修道院を訪れた44歳の女性は「クリスマスの日程を変えるのは、とても重要なことだと思います。ロシアや彼らの祝日から離れることが出来ます」と話していました。
女性の夫で、ふだんは兵士として前線で戦っている50歳の男性は「願いは早く勝利することです。すぐにでも勝つことが出来れば、機関銃を置いて、歩いてでも家に帰りたいです」と話していました。
●厳しさ増す来年のウクライナ経済、西側援助の持続性に黄信号 12/25
ウクライナ経済は、外国からの援助が到着するまでの今後数カ月間を乗り切ることはできるだろう。しかし、来年が今年より厳しくなることは確実であり、政府は今よりも自国の資源に依存する必要が出てきそうだ。
ウクライナは来年予想される430億ドルの財政赤字を、主に海外からの資金援助で埋めたいと考えている。欧州連合(EU)からは185億ユーロ、米国からは重要な軍事支援を含めて80億ドル余りの支援が期待される。
今のところ、EUの支援策はハンガリーによって、米国の支援策は共和党によって阻止されているが、エコノミストや外国の外交官らによれば、最終的には承認されるはずだ。もっとも米国の金融支援には疑問が残るという。
2022年2月にロシアが侵攻して以来、ウクライナは歳入の全てを国防と軍備につぎ込み、年金から社会保障費まで、その他のあらゆる支出は数百億ドルに上る外国からの援助でまかなってきた。
ドラゴン・キャピタルのチーフエコノミスト、オレナ・ビラン氏は「ウクライナは2024年、数十億ドルの資金不足に陥る可能性があるが、不足額が100億ドルに達すれば、マクロ経済の安定と国際通貨基金(IMF)の融資プログラムに支障を来すだろう」と述べた。
IMFは今月、融資枠から9億ドルの拠出を新たに承認したが、ウクライナが今後1年間の資金を手当てできると確約することを要求している。つまり外国からの資金援助が大幅に減少すれば、IMFのプログラムに疑問符が付きかねないのだという。
キーウのシンクタンク、経済戦略センターのシニアエコノミスト、ユリイ・ハイダイ氏は「政府は1月と2月分の流動性を確保している」と語った。
だが、ドラゴン・キャピタルのビラン氏によると、ウクライナは予算の穴を埋めるために増税を余儀なくされる可能性があり、そうなれば経済に逆風が吹く。「お金を刷る」可能性さえあるが、それもリスクを伴う。
ウクライナ中央銀行のピシュニー総裁は、紙幣増刷は究極の方策であり、今年はそうした手段に訴えるつもりはないと明言している。
また、ウクライナは来年、約200億ドルの対外債務の再編方法を見い出す必要がある。債権者らと2022年8月に合意した2年間の返済凍結が期限を迎えるからだ。
マルチェンコ財務相は、政府が2024年に外国からの資金援助を全額確保したい考えだと述べた上で、戦争が長引けば「新しい状況に適応する必要が出てくるかもしれない」と付け加えた。
経済は成長するがリスクは高い
ウクライナ経済は昨年、30%程度のマイナス成長に陥ったが、今年は5%前後のプラス成長が見込まれている。インフレ率は1桁台に低下し、外貨準備高は歴史的な高水準にあり、外国からの援助は今年も定期的に届いている。
ウクライナ企業と外資系企業は戦時下の新たな現実に適応しており、戦闘が行われている東部や南部の工業地帯から遠い中部や西部での生産施設新設を発表する企業さえある。
ネスレ(NESN.S)は、西部ボリン州の新施設に4000万スイスフラン(約4600万ドル)を投資。ドイツの医薬品・農薬大手バイエル(BAYGn.DE)は2023年以降、中部ジトーミル州でのトウモロコシ種子生産に6000万ユーロを投資する計画を立てた。
もっとも、1次産品主導のウクライナ経済は今年、緩やかな回復の兆しが見られるとはいえ、戦前に比べると経済規模は縮小したままで、リスクや制約要因も依然として多い。
数百万人のウクライナ国民が今なお海外に退避しているため、多くの企業が労働者、特に熟練労働者の不足を訴えている。
ロシアによる黒海封鎖の試みも、ウクライナ経済の足かせとなっている。ただ、今夏に対抗策として開設されたウクライナの航路は1次産品の輸出に役立っており、来年の成長を目に見えて押し上げる可能性があるとエコノミストは指摘している。
戦争の行方はなお不透明で、輸出のための物流は混乱している。国立農業経済研究所によると、物流の混乱により、11月の農産物輸出は前年同月比で7%減り、輸入食品価格を押し上げた。食品はウクライナの輸出の60%を占めている。
キーウの投資会社ICUは、成長率は今年の5.8%から来年は5.0%に減速し、インフレ率は再び上昇するとみている。ドラゴン・キャピタルの成長率予想は今年が5.2%、来年が4%だ。
エコノミストによると、ウクライナが外国からの資金援助に依存し続けるのは確実だ。ところが、西側からの援助は縮小するかもしれない。
ICUは調査ノートで、外国からの援助や融資を勘案しないベースの財政赤字は「少なくとも2027年まで国内総生産(GDP)の10%を超え続け、30年以降になってようやく5%を下回るだろう」と予想した。
今年1―10月の貿易赤字は、過去最大の223億ドルに膨らんだ。輸出が低迷する一方で輸入が急増していることを物語っている。
マルチェンコ財務相は今月、ニュースサイトLB.UAが掲載したコメントで、輸入品の消費を減らすよう国民にこう呼びかけた。
「戦時体制に合わせて現実を修正する必要がある。つまり市民の消費を制限するのだ。われわれが決心しなければ、経済が勝手に結論を出すものだ。非常に素早く、痛みを伴う形で」と述べた。
●真冬に集中するロシアのミサイル攻撃、今季は大きな変化 12/25
ロシア軍によるウクライナ本土への長射程ミサイル攻撃が続いている。
巡航ミサイル、弾道ミサイル、空対地ミサイルである。それらのロシア長射程ミサイルについては、
1枯渇してきている。
2ミサイルに使用される半導体が第三国を通じてロシアに輸出されているので継続的に製造できている。
3酷寒の冬に攻撃するために温存しているといった情報が流れている。
これらについて、ロシアのミサイル攻撃状況の推移を見れば、どれが最も的確な答えなのかが判明すると考える。
1.ミサイル枯渇か、製造十分か
ロシアが保有するミサイルは枯渇してきているという情報がある。
ウクライナ大統領や軍総司令部の情報によれば、ロシアは巡航ミサイルなどを2022年7月までに3000発以上、2023年2月までに約5000発を撃ち込んだという。
ウクライナ国防省情報総局は2023年2月27日、次のように指摘した。
「ロシア軍が保有する高精度の巡航ミサイルは現在、100発以下にまで減少している」
「ロシア軍はすべてのミサイルを合わせると数千発を保有しているとみられるが、古いミサイルが多く実戦で使用可能な巡航ミサイルは一部だ」
「ロシアのミサイル製造能力は月30〜40発以下で、製造量以上にミサイルを使い果たしている」
この情報の趣旨は、毎月30〜40を製造している量と保管している量を併せても、30〜40発を超えて発射すれば、保管の量は次第に枯渇し、毎月30〜40発しか発射できなくなるだろうということである。
したがって、米欧が制裁を厳しくしていけば、製造量も減少し、発射数を減らせる可能性がある。
ロシアのミサイル攻撃状況を確認(グラフ1、次ページ)すると、ウクライナの情報総局の見方よりも多くのミサイルが発射されている。
そのため枯渇しているのか製造できているのかを分析する必要がある。
2.半導体は十分でミサイルを継続製造?
ミサイルの保有量が枯渇するという情報の一方で、2023年6月22日の日経電子版(出所は、インド・エクスポートジーニアス2023年1月27日)によると、米国メーカーの半導体が香港49%、中国26%、トルコとモルディブそれぞれ6%、アラブ首長国連邦(UAE)4%、およびその他経由でロシアに輸入されているという。
米国半導体の輸入額は、侵攻前の2.8倍であったという。
この情報が示すところは、ロシアは侵攻以前よりも多くのミサイルを製造できる可能性が高く、これにより継続してこれまで以上に多くのミサイルをウクライナに撃ち込むことができるということである。
3.ロシアが撃ち込んだミサイル数
ロシアがウクライナに長射程ミサイルを撃ち込んでいる現状と推移はどうなのだろうか。
ミサイル攻撃の総量を見ると、ウクライナ軍参謀部の情報では2023年2月までに約5000発を撃ち込んでいる。
その後の発射数量を見ると約2200発である。
ということは、ロシアはウクライナに、これまで約7200発のミサイルを撃ち込んだ勘定になる。
ミサイル撃ち込みの月ごとの数量は、データが公表されている2022年9月から12月まで、つまり冬季に向かう4か月間は、220発から400発に上昇している。
その後、今年(2023年)になって一時的に下降し、ウクライナ軍が反転攻勢する時期には300発を超える数量を撃ち込んでいる。
さらに、7月以降には、徐々に減少し、11月には月間150発までに減少し、12月は11月と同じ数量になりそうだ。
   グラフ1 ロシアによるミサイル発射数の推移(月毎)
極寒の冬に近づく4か月を昨年と今年の数量を比較すると、昨年9〜12月までの数量は1212発、今年同時期の数量は701発であり、今年は昨年の約58%である。
42%の減少である。つまり輸入量が不足していること、製造能力が低下していることが重なって大幅な減少傾向にあると言える。
4.冬季直前のミサイル発射数比較
ロシアはウクライナの都市をどのように集中的に攻撃し、国民を殺傷しインフラを破壊しようとしているのか。
また、そのためのミサイルが十分にあるのか。
それを判断するために、2022年11月11日から12月20日のまでの40日間と2023年の同時期の期間におけるミサイル攻撃回数を比較してみた。
2022年の40日間に、60回以上の攻撃発射が5回あった。
寒くなりつつある時期、また酷寒の直前に多数のミサイル攻撃があった。ウクライナのエネルギーインフラ施設を攻撃して、破壊した。
ウクライナの国民を寒さで打撃を与えるためだ(グラフ2)。
ロシアは今年の同時期にも、同じことを実施するのではないかと懸念する情報が多かった。
だが、グラフ3にあるように、60回以上は一度もない。20回を超えるのが1度だけである。
この期間の合計回数では、2022年が約600回、2023年が約200回であり、昨年に比して3分の1である。
   グラフ2 ロシア軍ミサイル攻撃回数(2022年11月11日〜12月20日)
   グラフ3 ロシア軍のミサイル攻撃回数(2023年11月11日〜12月20日)
今年のこの時期にロシア軍のミサイル攻撃回数が少ない理由は何か。
グラフ1にあるように、7月から減少傾向の流れの延長線上にあることから、保有量が枯渇しているのではないか。
あるいは、12月末から来年の2月の最も酷寒の時期を狙ってミサイル攻撃を実施するため、この期間の使用数を減らしているのではないかと考えられる。
最も寒い時期に集中して攻撃する効果的は高いが、その効果の持続性を考えると、11月から攻撃するのが通常だろう。
ロシアがウクライナの防空の穴を探している途中なので、本格的な攻撃を控えているという情報もある。
しかし、それならばこれまでの2年近くの攻撃で目的は達成しているはずだ。
この期間のミサイル攻撃数が減少しているのは、保有量が枯渇してきている可能性が高いと考えられる。
5.今年のミサイル攻撃の特異性
今年のミサイル攻撃の特色は、1発射数量が減少していること、2弾道ミサイルの攻撃がやや増加していることである。
12月11日に8発、13日に10発、合計18発をこの2日間に集中して、首都キーウに対して攻撃している。
この1年で、最も多い弾数を発射しているのである。この時期に極端に多いのは、特別な理由があるからだ。
それは、高速飛翔により打ち落としにくいとされる地上発射の「イスカンデルM」ミサイル、空中発射型の「キンジャール」ミサイルを1日に集中して発射し、キーウのエネルギーインフラを破壊したかったのだろう。
保有する各種ミサイルが少なくなってきているので、効果が高い弾道ミサイルで集中的に攻撃したのだろう。
ほかにも理由がある。それは、この時期に弾道ミサイルを多国から得ることができたからだ。
イスカンデルMやキンジャールミサイルを保有しているのは、世界ではロシアのほかに、ベラルーシ、シリア、北朝鮮だけだ。
ベラルーシは、もっと早い時期に供与している。シリアは、イスラエルを攻撃するために、自国で保有している。
北朝鮮は今、ロシアの要請を受けて弾薬を供給しているが、その中に、イスカンデルMを入れて供与(変換)している可能性が高い。
ロシアは、北朝鮮からイスカンデルM弾道ミサイルが供与された今、それが寒くなる直前でもあり、キーウを集中的に狙って撃ち込んだと考えるのが最も妥当である。
6.ウクライナのミサイル防衛の苦しい部分
「パトリオットミサイル」配備がないウクライナの都市では、ロシアのミサイルを撃墜できないのが、ウクライナの苦しい部分である。
ロシアがイスカンデルMやキンジャール弾道ミサイルをウクライナに撃ち込んでいる数量とその推移は、グラフ4のとおりである。
撃墜できたのが青色の棒グラフ、撃墜できなかったのは茶色、明らかにされていないのが灰色である。
撃墜できた都市は、パトリオットミサイルが配備されているキーウなどで、撃墜できていない都市は、パトリオットミサイルが配備されていなかった都市(軍事施設も含まれる)である。
ウクライナへの弾道ミサイル攻撃を止めるには、多くの都市をパトリオットミサイルの防空網で覆いかぶせるようにすることだ。
米欧日は、このための協力を惜しむべきではない。
   グラフ4 ロシアによる弾道ミサイル攻撃数と推移
12月20日の報道によれば、日本政府は、弾道ミサイルを迎撃できる「パトリオット」ミサイルを米国に輸出し、その後、米国から欧州など第三国への移転を認める案を検討するという。
今、ロシアは、パトリオットミサイルが配備されていないウクライナの地域に弾道ミサイルを撃ち込んでいる。
そこでは、ロシアの弾道ミサイルは全く撃ち落とせていない。
その都度、多くの市民が殺傷され、エネルギーインフラなどの重要施設が破壊されているのだ。
ミサイルで攻撃されているウクライナの悲惨な状況は今、メディアでは全く報道されていない。世界の関心も薄くなっている。
今こそ、早急に弾道ミサイル攻撃を防ぐことができる「パトリオットミサイル」を提供すべきだ。
7.ウクライナもロシアも正念場続く
ロシアが保有するミサイルの量は減少し、枯渇しつつあるようだ。
今、ロシア軍は地上戦を最優先に戦っている。それで地上部隊の戦闘を支援する近接航空支援のための爆弾の生産を重視し、都市攻撃用のミサイルの製造を後回しにしているのかもしれない。
この地上戦も予想を超える犠牲を出している。
ミサイル攻撃の実態を見る限り、ロシアは余裕をもって攻撃できているわけではない。
武器を生産するために、軍需産業に不可能と思われるような目標を与え生産させ、制裁を回避するために第三国を仲介して輸入するなど、かなり無理をして戦争を遂行している。
ウクライナは戦争のための兵器供給支援が十分に得られず、苦しい戦いを強いられている。
ロシアにとっても、ウラジーミル・プーチン大統領やセルゲイ・ショイグ国防大臣自らが、これまで格下として対応していた北朝鮮の金正恩委員長にも頭を下げなければならないほど、厳しい戦いを強いられているのが現実だ。 
●ロシアの女性たち、夫や恋人の復員求め抗議−予備役招集から1年余り 12/25
ロシアのプーチン大統領がウクライナでの戦争に動員する予備役30万人を招集してから1年余りが過ぎ、兵士の家族らが復員を要求し始めた。
クレムリン(大統領府)に対する抗議活動を開始したのは、愛する人を戦争から早く帰還させるよう求める予備役の妻や母親、恋人らだ。昨年9月に招集された予備役の帰還を訴える運動「ザ・ウェイ・ホーム」は、通信アプリのテレグラムでフォロワー3万7000人余りを集めた。
これまでのところ、この運動を巡る当局の対応は、抗議行動をしないよう警告する警察の派遣程度にとどまっている。
女性たちのこうした運動は現時点ではまだ小規模だが、プーチン大統領が出馬を表明した来年3月の大統領選を控え、政権運営に影響を与える可能性もある。
2022年2月に始まった戦争は終わりが見えないまま2年近く続く。だが、ウクライナ侵攻へのロシア国民の支持は圧倒的というのが当局の主張だ。
「輪番配備ではなく、完全な動員解除を求めている。私たちが経験したような苦しみを誰にも味わってほしくない」と言うモスクワ在住の活動家マリアさん(26)は、「個人的に軍事作戦が終わることを望んでいる。毎日人が死に、誰かの遺体が畑でネズミに食べられているというのに、どうしていい気分になれるのか」と話す。
マリアさんは当局の報復を恐れて、姓を明かさないこととボーイフレンドを特定しないことを条件に取材に応じた。
彼女は軍が6カ月後と1年後にボーイフレンドをウクライナから帰国させると思っていたという。今は「当局が男たちを私たちの元に戻すつもりはないということを完全に理解した」と打ち明けた。
総動員懸念
クレムリンにとって、予備役の動員は微妙な問題だ。プーチン大統領が部分的な招集を命じたことで、戦争に対する国民の不安をあおることになり、徴兵を逃れようと数十万人が国外に脱出した。
クレムリンは第2次動員の可能性を否定。プーチン大統領は今月の記者会見で、ロシア兵61万7000人がウクライナに展開していると述べたが、新たな徴兵に対する国民の懸念を「火急の問題」と認めた上で、追加徴兵の必要はないと主張した。
モスクワに本部を置くレバダ・センターの調査によれば、ロシア人の約4分の3がウクライナ侵攻を支持すると答えているが、約60%は戦争が総動員につながるのではないかと懸念している。過半数が紛争終結のための和平交渉に賛成だ。
今年ジェット機墜落事故で死亡した民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、ウクライナ戦線で6カ月生き延びれば、ロシアの刑務所から集められた新兵数千人に自由を与えると約束していた。ロシア国防省は復員までの期間に期限を設けていない。
「ロシアの軍事エリートは動員解除に反対」しており、プーチン大統領が戦争で子どもを亡くした人々との会合で5選を目指すと表明したことは重要だと、政治コンサルティング会社R・ポリティクの創設者タチアナ・スタノバヤ氏は指摘。クレムリンは女性たちの抗議活動への支持が広がるのを阻止するため、地方行政トップによる「火消し」を望んでいるとの見方を示した。
クレムリンのペスコフ報道官とロシア国防省はコメント要請に応じなかった。
抗議運動のメンバーは今月、動員を「合法化された奴隷制度」だと非難し、予備役が帰国するまでの兵役を最長1年に制限するよう要求する動画を公表。動員された予備役が 「自発的に戦闘地域」にいるかどうか疑問だとしている。
●ロシアとウクライナ、アフリカ諸国へ穀物輸出合戦 途上国の取り込み狙う 12/25
ロシアとウクライナが食料価格高騰に苦しむアフリカ諸国などへの穀物輸出競争を繰り広げている。ロシアは最近、アフリカ諸国への穀物の無償供与を開始。ウクライナもアフリカへの穀物輸出を拡大する構えだ。両国は穀物輸出を通じてグローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)内に自国への支持を高めたい思惑だとみられる。
「穀物合意」ロシアが離脱
プーチン露大統領は11月下旬、「無償の露産穀物を積んだ最初の船がアフリカに向け出航した」と明らかにした。ロシアは今年末までに穀物計20万トンをブルキナファソやジンバブエ、マリなどに送るとしている。
ロシアからアフリカへの穀物無償供与は、7月下旬にロシアで開かれた「ロシア・アフリカ首脳会議」でプーチン氏が発表した。ロシアはこの直前、国連やトルコを仲介役に、ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する手続きを定めた「穀物合意」からの離脱を表明。ウクライナ産穀物の輸出の先行きが不透明となっていた矢先の発表であり、ロシアによるアフリカ取り込み策の一環だと指摘された。
国営ロシア通信によると、パトルシェフ露農相は12月中旬、「ロシアは穀物合意の延長に関心がない」と発言。ロシアは従来、対露制裁の解除など自身の要求が満たされれば穀物合意に復帰するとしてきたが、事実上、合意復帰の可能性を否定した形だ。
「飢餓を武器化」とロシアを非難
一方、世界有数の穀物輸出大国であるウクライナは合意の失効後、ロシア抜きで穀物を輸出する枠組みの構築に着手。ロシアが手出しできない黒海西岸の東欧諸国の領海などを利用した代替輸送ルートを8月に設定した。ウクライナ政府は12月4日、これまでに代替ルートを通じて運搬船200隻が農産物500万トンを含む計700万トンの物資を輸送したと発表。19日には輸送物資の合計が約1千万トンに達したと公表した。
ウクライナは11月下旬、穀物輸出をテーマとした首脳会議を首都キーウ(キエフ)で開催。ゼレンスキー氏は演説で「飢餓を武器化している」とロシアを非難した。ロシアの妨害にもかかわらず、ソマリアやエチオピア、イエメンなどに計17万トン超の穀物を送り、現在もナイジェリアへ40万人分の穀物を運搬する準備をしていると表明した。
ゼレンスキー氏が非難する通り、ロシアは合意失効後、ウクライナの穀物輸出の拠点である南部オデッサ州の港湾施設へのミサイルやドローン攻撃を激化。11〜12月にも同様の攻撃が相次いでいる。ウクライナや欧米諸国は、ロシアが自国産穀物の価値を高めるためにウクライナの輸出を妨害していると非難している。
●ロシア軍部隊、ドローンで化学兵器投下を認める 12/25
ウクライナ南部に展開しているロシアの黒海艦隊の陸戦部隊が、ドローンを使って化学兵器をウクライナ兵の頭上に落としていることを、ロシア軍が事実上認めた。
ロシアの黒海艦隊に所属する第810海軍歩兵旅団は12月中旬以降、ヘルソン州南部ドニプロ川の東岸の村クリンキの周辺で、ドローンから手榴弾を落とす戦術へと「根本的に転換」したと22日、テレグラムへの投稿で明らかにした。
ウクライナ軍は10月半ば以降、ロシア軍が支配していたドニプロ川東岸に渡河してロシア軍の勢力を少しずつ削り、クリンキなど複数の集落で局地的に領土を奪い返している。
そこで第810海軍歩兵旅団は、「K-51手榴弾をドローンから敵の陣地に投下する戦術で、要塞化した陣地から敵をいぶり出すために使っている」という。
アメリカのシンクタンク、戦争研究所(ISW)も23日、同旅団がK-51がウクライナで使われている様子と見られる動画を公表したと指摘した。
ISWによれば、K-51には暴動鎮圧などに用いられることが多いCSガスという催涙ガスの一種が封入されている。ISWは、ロシアがドネツク州東部で2022年11月にK-51をウクライナに対して使ったとの指摘もしている。
もしその公表された映像が本物であれば、1997年に発効した化学兵器禁止条約(CWC)の違反に該当する。CWCは化学兵器の使用を禁じるとともに、保有する化学兵器の廃棄および化学兵器製造施設の破壊を定めており、ロシアも締約国だ。
上気道に強い刺激
本誌はロシア国防省に電子メールでコメントを求めたが回答は得られていない。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、両国間では相手が化学兵器を使用しているとの非難の応酬が続いている。
ウクライナ海軍は2022年12月、ロシア軍兵士がクロルピクリンという化学物質の入ったK-51を使ったと公表した。また、CNNが19日にウクライナ当局者の話として報じたところによれば、ウクライナ南部に展開するロシア軍部隊はウクライナ軍に対しCSガスを使っているという。
クロルピクリンは土壌のくん蒸消毒に使われる農薬だが、その蒸気を浴びると皮膚や目、上気道が強い刺激を受ける。過去の戦争でも化学兵器として使われてきた。
ウクライナ軍は5月にも、ドネツク州の町アウディーイウカ周辺でロシアがドローンを使って化学兵器を投下したと主張。この町では10月以降、今回の戦争でも有数の激しい戦闘が繰り広げられている。
ウクライナは使用を否定
ウクライナからの独立を一方的に宣言した「ドネツク人民共和国」の顧問は今年に入り、壊滅的被害を受けた東部の町ソレダルやバフムトの周辺でウクライナが化学兵器を使用していると主張したが証拠は示されておらず、ウクライナ側は否定している。
「ウクライナ軍部隊が化学兵器を使っているとの敵の非難は事実ではない」と、ウクライナ軍高官は2月、ロイター通信に語った。
ロシア連邦安全保障会議の書記を務めるニコライ・パトルシェフはウラジーミル・プーチン大統領の古くからの側近でもあるが、11月の初めにこう述べている。「核兵器や化学兵器、生物兵器が使われるリスクは高くなりつつある」
2022年後半に行われた1回目の反転攻勢では、ウクライナはヘルソン州で大きな戦果を上げた。ロシア軍はドニプロ川東岸まで後退し、今年のヘルソン州における戦いはドニプロ川周辺が前線となった。
ロシア第810海軍歩兵旅団がクリンキに到着したのは10月初め。この地域に展開していたロシア第18諸兵科連合軍と交替したとみられると、ISWは以前、指摘していた。
● ロシアのLNG開発プロジェクト 日本など外国企業が参画停止か 12/25
ロシアの有力紙は、日本企業も出資する、ロシアのLNG=液化天然ガスの開発プロジェクトについて、日本など外国企業が参画の停止を表明したと伝えました。将来の日本へのLNGの供給にも影響が出る可能性があるとみられます。
ロシアの北極圏で進められているLNGの開発プロジェクト「アークティックLNG2」は、ロシアのほか、フランス、中国、そして日本からも大手商社の「三井物産」とJOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構が出資しています。
ロシアの有力紙「コメルサント」は25日、ロシア政府関係者の話として、「アークティックLNG2」の事業について日本など外国企業がプロジェクトの参画の停止を表明したと伝えました。
この事業については、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、アメリカ政府が11月に開発プロジェクトの事業会社を制裁の対象に加えていて、こうした制裁による影響で、事業の停止が「不可抗力」になったとしています。
「コメルサント」は、日本側などはアメリカ政府に対して制裁の対象外になる可能性について問い合わせてきたとしていますが、開発プロジェクトの先行きが不透明になれば、将来の日本へのLNGの供給にも影響が出る可能性があるとみられます。

 

● ロシア プーチン政権批判のナワリヌイ氏 北極圏の刑務所に収監 12/26
ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、今月、所在が不明となっていた反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏について、支援団体は北極圏にある過酷な環境の刑務所に収監されていると明らかにしました。
アレクセイ・ナワリヌイ氏は、ロシア政府の関与が疑われる毒殺未遂事件に見舞われ、2021年、療養先のドイツから帰国した際に過去の経済事件を理由に逮捕され、実刑判決を受けてモスクワ近郊の刑務所に収監されていました。
ナワリヌイ氏の支援団体は今月6日以降、ナワリヌイ氏との連絡が途絶え、所在が不明となっていると訴えていましたが、25日、ナワリヌイ氏がロシア北部のヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所にいることがわかったとSNSで明らかにしました。
弁護士が刑務所でナワリヌイ氏と面会し、元気だとしています。
ナワリヌイ氏は今月上旬、来年3月のロシア大統領選挙に向けて、支援団体を通じて、プーチン大統領以外の候補者に投票するよう呼びかける運動を始めたばかりで、安否を懸念する声が上がっていました。
ナワリヌイ氏が新たに移送された刑務所は、極寒の北極圏にあるロシアで最も厳しい施設の1つとされ、ナワリヌイ氏の側近はSNSで「手紙を送ることすらほぼ不可能で世界から最も隔離された場所だ」としてナワリヌイ氏の状況に懸念を示すとともに、プーチン政権を批判しています。
●プーチン政権批判の急先鋒・ナワリヌイ氏の消息 20日ぶりに明らかに 12/26
ロシアでプーチン政権批判の急先鋒として知られる、ナワリヌイ氏の消息が20日ぶりに明らかになりました。ロシア極北の刑務所に収監されていました。
ナワリヌイ氏の広報担当のキラ・ヤルミシュ氏は25日、ナワリヌイ氏の消息が明らかになり、弁護士が面会したとSNSで明らかにしました。ロシア極北に位置するヤマロネネツ自治管区の刑務所に移送されていて、体調には問題がないということです。
ナワリヌイ氏の側近レオニード・ボルコフ氏は「手紙を送ることさえほぼ不可能だ。可能な限り世界から孤立した場所だ」と述べています。
ナワリヌイ氏は、モスクワから約240km東にある刑務所に収監されていましたが、12月6日に弁護士との面会が拒否されて以降、消息が途絶えていました。ナワリヌイ氏の陣営がロシア各地の刑務所に照会し、探し出したとみられます。
●ロシア大統領選 反プーチン候補者ら出馬できない状況に 12/26
2024年3月のロシア大統領選挙をめぐり、反プーチンを唱える候補者らが選挙のスタートラインに立てず、出馬できない状況に追い込まれています。
ロシア中央選挙管理委員会は23日、リベラル系のエカテリーナ・ドゥンツォワ氏が提出した書類に不備があるとして候補者登録を拒否しました。
ドゥンツォワ氏は「この国には一刻も早い変革が必要だ」として、ウクライナ侵攻の停止やロシアの民主化などを掲げていました。
また、ウクライナ侵攻に関して強硬な立場からプーチン大統領の戦略を批判している元軍人のイーゴリ・ギルキン氏も当局の介入によって、立候補の書類が揃えられないとみられています。主張に関わらず有力な対立候補に対する当局の締め付けが厳しくなっている様子です。
●ロシア大統領選 反プーチン候補は出馬のスタートラインに立てず… 12/26
来年3月のロシア大統領選挙を巡り、反プーチン政権を掲げる候補者らが選挙のスタートラインに立てないまま出馬断念に追い込まれています。
ロシア中央選挙管理委員会は今月23日、リベラル系で無所属での出馬を届け出たエカテリーナ・ドゥンツォワ氏が提出した書類に不備があるとして候補者登録を拒否しました。
ドゥンツォワ氏は「この国には一刻も早い変革が必要だ」として、ウクライナ侵攻の停止やロシアの民主化などを掲げて立候補を表明していました。
ドゥンツォワ氏はSNSで届け出書類の提出後、法務省の抜き打ち調査が入るなど行政的な圧力を掛けられたと主張しています。
一方、2014年にウクライナで起きたマレーシア航空機撃墜事件に関与したとして、オランダの裁判所から終身刑を言い渡されていたロシア軍元大佐のイーゴリ・ギルキン氏、通称ストレルコフ氏の陣営も立候補届け出の書類をそろえられず、事実上、立候補は厳しい状況に追い込まれています。
当局による介入があったものとみられます。
ドゥンツォワ氏はプーチン政権の路線を変え、停戦や政治犯の釈放を訴えています。
一方、ギルキン元大佐はウクライナ侵攻の強硬派で、プーチン大統領の戦略を痛烈に批判しています。
両者は完全に異なる立場からプーチン政権の方針に反対していますが、当局は反プーチンを掲げる候補者の出馬を事実上、阻止しているとみられます。
●ロシア主導「ユーラシア経済同盟」イランと自由貿易協定に調印 12/26
ロシアのプーチン大統領は、ロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」の首脳会議を開催し、中東イランとの間でFTA=自由貿易協定に調印しました。経済面の連携を拡大させることで、経済制裁を強化する欧米諸国に対抗する構えを鮮明にしています。
プーチン大統領は25日、第2の都市サンクトペテルブルクで、ロシアが主導し旧ソビエトの5か国が加盟する「ユーラシア経済同盟」の首脳会議を開きました。
この会議に合わせて、ユーラシア経済同盟はイランとの間で関税の引き下げなどを定めたFTA=自由貿易協定に調印しました。
プーチン大統領は「イランとの関係強化において非常に重要な意味を持つ」と述べ、経済面の連携を拡大させる方針を示しました。
プーチン大統領は今月7日、首都モスクワにイランのライシ大統領を招いて関係強化を強調したばかりで、両国への経済制裁を強化するアメリカなど欧米諸国に対抗する構えを鮮明にしています。
また首脳会議には、「ロシア離れ」も指摘されていた加盟国アルメニアのパシニャン首相も出席し、プーチン大統領と握手を交わしました。
パシニャン首相は最近、ロシアが主導する一連の首脳会議を欠席していて、係争地のナゴルノカラバフをめぐって、ことし9月、隣国アゼルバイジャンの軍事行動に敗北した不満を後ろ盾のロシアに示しているとみられていました。
プーチン大統領は26日には旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議をサンクトペテルブルクで開催する予定で、アルメニアも含めロシアが勢力圏とみなす国々の結束の引き締めを図りたい思惑とみられます。
●ウクライナ東部の激戦地制圧とプーチン大統領に報告 “戦果”アピールか 12/26
ロシアのショイグ国防相は、ウクライナ東部の激戦地マリインカを完全に制圧したとプーチン大統領に報告しました。その様子は国営テレビで流されています。
ショイグ国防相は25日、プーチン大統領と面会し、ウクライナ東部の中心都市ドネツクの西にある激戦地マリインカを完全に制圧したと報告。プーチン氏は戦略的に重要な拠点だとして祝意を示し、その様子は国営テレビで放送されました。
こうした報告の形は去年春、南東部マリウポリを制圧したと発表して以来で、来年3月の大統領選挙に向けロシアが攻勢を強めていると国内外にアピールする狙いがあるとみられます。
この日、プーチン氏は出身地のサンクトペテルブルクで行われた旧ソ連諸国でつくる「ユーラシア経済同盟」の首脳会議に出席し、加盟国とイランとの間で自由貿易協定が締結されたとして「大きな意義を持つ」と強調しました。
会議には隣国アゼルバイジャンとの紛争に事実上敗北したことをめぐって、ロシアへの不満を抱いていると指摘されていたアルメニアのパシニャン首相も出席していました。
一方、ウクライナメディアによりますと、ロシアがマリインカを制圧したとしていることにについてウクライナ軍報道官は「正しくない」と否定。
「マリインカをめぐる戦いは続いている」と話したということです。
●怒りのプーチンは「核兵器」の「先制攻撃」も辞さない…来年の経済予測 12/26
岸田内閣の楽観的なシナリオ
年末恒例となっている経済予測の公表だが、戦争や軍事行動といった大き過ぎるリスクが存在し、来年度ほど予測が難しい年は珍しいのではないだろうか。
そうした中で、そういう冷徹な見方とまったく無縁なのが、岸田内閣が先週木曜日(12月21日)に閣議了解した「政府経済見通し」だ。政府経済見通しは昨年度(2022年度)まで5年連続で結果が予測を下回る“水増し”予測が常態化しているが、今回も来年度(2024年度)の実質GDP(国内総生産)見通しを前年度比で1.3%増と日本経済の実力と比べると高めの成長を維持するばかりか、所得が3.8%増と、物価のそれ(2.5%増)を上回るとする楽観的なシナリオを描いて見せた。
この実質GDPの予測は、民間平均(0.88%)の5割増しだ。エコノミストの視点で見ても、岸田内閣の政府見通しはバラ色の予測と指摘せざるを得ない。
ただ、来年度に限っては、政府や民間エコノミストが想定外にしている大きなリスク要因の存在を見逃せない。例えば、ガザ地区へのイスラエルの軍事行動の他地域への飛び火と、ロシアのウクライナに対する侵略戦争のエスカレートの問題や、来年11月に迫った米国の大統領選挙の行方などが、そうした巨大リスクに相当するはずだ。
いったい、来年度はどんな年になるのだろうか。この連載も今回が今年最後なので、ベストシナリオと標準シナリオ、そしてリスクシナリオの3つに分けて考えてみたい。
まず、来年度のベストシナリオを考えてみたい。
政府経済見通しと言えば、政府予算の税収見積もりを算定するために算出されるものだが、すでに述べたように、当たらないことで知られている経済予測だ。時の政権がバラ色の予測を公表したがる嫌いがあり、いつも高めの予測を出すからである。過去20年あまりをみても、結果が予測を上回るケースは3割ほどしかなく、結果が民間予測を上回るケースが6割を超えているのと比べても、いびつな当たらない予測と目されている。
厳しく精査した場合は…
公表済みの様々な来年度経済予測を見ても、政府見通しを上回る民間予測は乏しいので、本稿では、政府経済見通しを来年度予測の最も楽観的な見通し、つまりベストシナリオとみなすこととし、その概要をみておこう。
来年度の実質GDPを1.3%増とする最新の政府経済見通しは、今年7月時点の見通しを0.1ポイント上方修正したものだ。個人消費や設備投資が伸び、GDPの実額が568兆円と過去最高になるという内容で、今年度(政府の実績見込みは1.6%)ほどではないものの、日本経済が引き続き、新型コロナウイルス感染症危機の終焉以来の緩やかな回復・成長軌道を辿るというシナリオを描いている。ちなみに、来年度の名目GDPは615兆円と初めて600兆円台になるという。
楽観シナリオの背景にあるのは、個人消費が今年度0.1%(政府の実績見込み)から来年度1.2%に、設備投資が同0.0%(同)から3.3%にそれぞれ大きく拡大するという予測だ。この結果、内需が同0.2%増(同)から1.4%増と加速し、経済全体の成長を後押しするというのである。
ちなみに、個人消費が大きく伸びるのは、引き続き、高い水準の賃上げが続くほか、岸田内閣が総合経済対策に盛り込んだ4万円の定額減税が所得を底上げすることから消費が勢い付くと見込んでいるからだ。読者から1度限りの減税で、防衛費の拡大のため数年内の所得増税が内定しているのに、消費より貯蓄に回す人が多いのではないかといった批判が聞こえてきそうだが、政府は定額減税がストレートに消費の拡大に寄与すると説明している。
一方、昨年度の前年度比0.5%減(政府の実績見込み)から今年度1.4%増と拡大に転じ、今年度の成長を下支えした外需は0.1%減と息切れする。小幅ながらマイナスに転落し、成長の足を引っ張るとの見方を示している。
次に、本稿は、ESPフォーキャスト調査(民間の老舗シンクタンクである日本経済研究センターが民間エコノミスト38人・機関の予測を集計したもの)を、来年度の日本経済予測の標準シナリオとし、その内容を概括しておきたい。
ESPフォーキャスト調査の特色は、内需を政府経済見通しよりも厳しく精査した点にある。具体的に言うと、実質GDPの成長率は、今年度の実績見込みが1.53%増に対し、来年度は0.88%増にとどまるとした。その背景として、消費や設備投資を合わせた民需が今年度の0.1%増から来年度は0.8%増と、政府経済予測ほど伸びないとみていることがある。結果として、内需は今年度の0.4%増から来年度は0.8%増に膨らむものの、政府経済見通しの1.4%増には届かないというのである。
その一方で、外需については、0.1%減と政府経済見通しと同程度の縮小を見込んでいる。
想定外のリスク
3番目に、リスクシナリオを考えよう。ベストシナリオと標準シナリオでは想定外となっているリスクがいくつかある。
その最悪のものは、ロシアのウクライナに対する侵略戦争がエスカレートするリスクだろう。現在のところ、この戦争の戦況については、今年6月に開始したウクライナの反抗が当初の目標を達成できず、膠着状態に入ったとか、長期化は避けられないといった見方が多い。
しかし、欧米の専門家の一部には、ロシアがベラルーシに配備したものを含めて核兵器を使用するリスクを取り沙汰する向きがある。そのきっかけは、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟論議が現実味を増す事態だ。ロシアが今回の戦争に踏み切った動機の中で最大のものは、NATOの勢力拡大を阻止することだっただけに、ウクライナがNATOに加盟することは最も嫌うところであり、プーチン大統領はその阻止のためとあれば、第3次世界大戦の引き金になりかねない核兵器の先制使用も辞さないと西側筋はみているのである。
実際のところ、外電によると、ロシアのプーチン大統領は今月(12月)19日のロジア国防省の会議で演説、改めて、NATOが拡大を続けていると欧米諸国を批判したうえで「核による威嚇」を繰り返した。具体的には、ロシアの戦略核の95%以上が最新の兵器に更新されたと誇示したばかりか、核弾頭を搭載可能なICBM「ヤルス」と、ミサイル防衛網を突破できるとする極超音速兵器「アバンガルド」の実戦配備が進めていると主張したのだ。こうした発言は、将来、プーチン大統領が西側とウクライナに対して十分な警告を発したという根拠にされかねないという。
もう一つのキナ臭いリスクは、ガザ地区でイスラエルの執拗な軍事行動を受けているハマスを支援するという名目で、イエメンの反政府勢力フーシ派が無人機や弾道ミサイルを使って、紅海を航行する輸送船やタンカーなどに対する攻撃を繰り返している問題などだ。イスラエルの対する報復が他の地域に飛び火した形だが、米国防総省が12月19日の公表した声明によると、フーシ派はこれまでに10隻の商船を標的に100以上の無人機や弾道ミサイルによる攻撃を行ったとされている。
この前日には、英蘭石油大手のBPが「治安の悪化を受けて、紅海を経由するすべての海上輸送を一時的に停止する。海上輸送のルートをアフリカ南端の喜望峰を回るルートに変更する」と発表したばかりだった。紅海は、スエズ運河に通じる航路で、この航路は世界の貿易量の10%に相当する年間1万7000隻の船舶が通航するとされているだけに、日本郵船、商船三井、川崎汽船も一部の船舶の航路変更や運航取り止めを始めているというが、こうした動きが本格化すれば、世界経済は計り知れない影響を受けることになる。
そして、23日。さらなる飛び火が取りざたされる事件の勃発も明らかになった。米国防総省によると、インド西岸沖のインド洋において、リベリア船籍で、日本の会社が保有し、オランダの会社が運航する化学薬品タンカーが無人機による攻撃を受けたというのだ。
さらに、紅海やインド洋における商船への攻撃には、情報提供などの形でイランが関与しているとの報道もあり、欧米諸国との対立が激化するリスクも否定できない。
3つ目の大きなリスクは、来年11月の米国の大統領選挙の行方だ。現職の民主党バイデン大統領と、共和党のトランプ大統領の2人を軸に選挙戦が進むとの予想が多い。が、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏が返り咲いた場合には、反ロシア・反中国で結束してきた日米欧の結束に再び、亀裂が入る可能性が大きい。ウクライナ戦争の戦況はロシア優位に傾き、中国は台湾統一の野望を膨らませかねない。そうなれば、やはり、世界の安定と経済に激震が走る懸念がある。
3つのリスクは滅多に起きないが、起きた時の影響が計り知れない類のリスクだ。万が一、起きた時は、来年度の日本の成長率がマイナスに転落するのは確実だ。いずれも杞憂に終わってほしいリスクだが、それでも、どれも絶対に起きないとは断言できないリスクなのである。
●ウクライナ東部マリンカ「制圧」=ロ大統領、選挙前に戦果誇示 12/26
ロシアのショイグ国防相は25日、プーチン大統領と会い、ロシア軍部隊がウクライナ東部ドネツク州の集落マリンカを完全に制圧したと報告した。プーチン氏は「戦果だ」と制圧を誇示し、作戦に関わった部隊に「祝意と謝意」を伝えてほしいと応じた。
マリンカは、親ロシア派が占拠する州都ドネツクの西約30キロに位置する。国営メディアは大々的に報じており、プーチン氏が通算5選を目指す来年3月の大統領選の「追い風」にする意図がありそうだ。
英国防省は今月5日の戦況報告で「ロシア軍がマリンカの大半を制圧したようだが、ウクライナ軍は西端をわずかに死守している」と分析。ロシア軍の作戦は「ドネツク州で支配できていない地域への勢力拡大を最優先する秋の攻勢の一つだ」と指摘していた。
現地メディアのウクラインスカ・プラウダによると、ウクライナ軍当局者は25日、「まだ戦闘は続いている。われわれはマリンカの行政区域にいる」と述べ、ロシア軍の完全制圧の情報は誤りだと主張した。
● ローマ教皇 クリスマスメッセージ 紛争の平和的な解決を訴える 12/26
ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇は、恒例のクリスマスメッセージで、ガザ地区での軍事衝突やウクライナ情勢の平和的な解決を訴えるとともに、「世界中で紛争に直面している人たちに思いをはせ、寄り添おう」と呼びかけました。
フランシスコ教皇は25日、バチカンのサンピエトロ広場で、恒例のクリスマスのメッセージを読み上げました。
この中で教皇は、イスラエルとイスラム組織ハマスとの間で軍事衝突が続いているガザ地区の情勢について、「人質の即時の解放と、無実の民間人の犠牲を増やし続けている軍事作戦の終結を訴える」と述べ、一刻も早い停戦を求めました。
そして、「人道支援に門戸を開き、絶望的な人道状況の解決を図らねばならない」と述べ、支援の拡大が必要だと訴えました。
また、フランシスコ教皇は「ウクライナの平和を懇願する。世界中で紛争に直面している人たちに改めて思いをはせ、寄り添おう」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対して、戦闘の停止を呼びかけるとともに世界各地で起きている紛争の平和的な解決を訴えました。
さらに、「戦争に『ノー』と言うことは、兵器に『ノー』と言うことだ。兵器の生産や販売が増加しているときに、どうして平和について語ることができるのか」とも述べ、世界中の軍事産業が紛争を激化させていると指摘し、規制が必要だという認識を示しました。
●ウクライナ、砲弾不足で作戦放棄も…「あとどれくらい持ちこたえられるか」 12/26
ロシア軍の侵攻に対抗して戦っているウクライナ軍の砲弾不足がますます厳しくなっている。
米国ワシントンポストは24日(現地時間)、ウクライナ軍が砲弾不足のため一部の戦線で計画していた作戦を放棄するなど、軍事的困難が深刻化しているとして、このように報じた。
ウクライナ南西部のザポリージャ戦線の第128山岳攻撃旅団の関係者は同紙に「目標物が小さい場合、例えば迫撃砲で砲撃するほどの目標物であれば、せいぜい合計で5発か7発程度しか供給を受けられない」と述べた。この関係者は「兵士たちは非常に疲れている。今でも戦おうとする意志は強いが、意志だけでは戦争に勝つことができないのが現実」だとしたうえで、「兵器については数的優位を守れず、状況が悪化した場合、私たちがどれくらい持ちこたえられるか確言できない」と述べた。
155ミリ曲射砲を運用する第148砲兵旅団の砲兵は最近、ザポリージャ戦線から東部戦線に移動した後、劇的な差を感じていると語った。その砲兵は「かつては1日に敵の目標物1個あたり平均50発、多い時は90発ずつ撃ったとすれば、今は10〜20発しか撃てない」と語った。また「1日に砲弾10発で何ができるのか。この程度では、敵の陣地を攻撃するどころか、相手からの攻撃に効果的に対応するにも足りない」と述べた。
実際、ウクライナ軍は昨年2月のロシアの侵略以来、砲弾不足に苦しめられ続けてきた。ところが最近、米国と欧州ののウクライナ支援が停滞しており、砲弾不足がよりいっそう激しくなっている雰囲気だ。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今月の初めに米国を訪問し、米国のジョー・バイデン大統領が約束した600億ドル(約8兆5000億円)規模の支援を急いで履行するよう要請した。しかし、米国共和党が議会でウクライナ支援が含まれる予算案について、議論の多い米国南部の国境を強化する措置と連係して処理するという方針を固守しているため、予算案の今年中の通過は難しくなった。欧州連合(EU)でも、ハンガリーのビクトル・オルバン首相が14日にEU首脳会議で反対し、500億ユーロ(約7兆8000億円)規模のウクライナ軍事支援案は通らなかった。
このように米国と欧州の支援が遅れ、ウクライナ軍の活動が停滞する間、ロシア軍の攻勢は続いている。南部と東部の戦線でロシア軍に対抗しているウクライナ将兵たちは「ロシア軍がウクライナと同じように砲弾不足に陥っているという感じは受けない」と口をそろえている。
ロシアは、米国と欧州の経済制裁にもかかわらず、様々な密輸組織などを通して禁輸措置が取られている重要な兵器の部品などを持ち込み、軍需産業を運営して前線に兵器を供給しているとみられる。ロシアはまた、北朝鮮との軍事協力を通じても、一部の軍需物資を調達していることが分かった。駐北大西洋条約機構(NATO)米国大使のジュリアン・スミス氏は先週、北朝鮮がコンテナで1000個に達する軍事装備と砲弾、弾薬をロシアに支援したことを把握していると述べた。
もちろん、ウクライナに対する西側の軍事支援が途絶えたわけではない。オランダは最近、F-16戦闘機18機をウクライナに支援することを明らかにした。日本も22日、米国にパトリオットミサイルを輸出できるよう「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正した。米国はこの物資を受け取る代わりに、自国が保有するミサイルをウクライナに支援する。日本がウクライナを「迂回支援」できるようになるわけだ。
ウクライナ軍の第24独立突撃大隊の公報将校であるイバン・ザドンチェウ氏は「部隊の砲撃量が昨年夏に比べて90%も減った」とし、「(今)砲弾を支援することが、ウクライナが崩壊した後にポーランドとバルト海の諸国を武装するより費用が安いことを理解してほしい」と述べた。
●ロシア軍の侵攻をウクライナが押し返せた最大の要因にCIAの秘密工作か 10/27
ウクライナの破壊工作の実態
その秘密の多さから接触が最も難しいとされる「情報機関」の活動を知る、ウクライナや米国、他の西側諸国の関係者を20人以上も取材し、ウクライナの戦いに米中央情報局(CIA)がどう関与していたか。つまり、どう助けていたのかの詳細を米紙『ワシントン・ポスト』が初めて明らかにした。
同記事では同時に、ウクライナ側の情報機関による対ロシア秘密工作、とくに要人暗殺や破壊工作など、ダーティな活動をも明らかにした。そのうち、今回初めて報道された工作内容は以下のとおりだ。
・昨年8月、モスクワでロシアの著名な戦争推進派の車に爆弾を仕掛け、偶然乗車していた娘の戦争推進派ジャーナリストを爆殺したのは、ウクライナの国内治安情報機関「保安庁」(SBU)
・今年7月、ロシア南西部のクラスノダールでジョギング中だったロシア海軍元潜水艦艦長を射殺したのはウクライナ国防省の情報工作機関「情報総局」(GUR)
・今年4月、サンクトペテルブルクのカフェで軍事ブロガーを爆殺したのもウクライナ機関
・過去20か月の間に、SBUとGURは数十件の暗殺を実行
・GURは無人機でロシア国内を何十回も攻撃した。モスクワの高層ビルに命中したのも、クレムリン屋上で爆破したのもGURの作戦――。
また、昨年9月にバルト海のパイプライン「ノルド・ストリーム2」が爆破された工作について、米国や他の西側情報機関は、ウクライナ機関が関係していると結論付けているという。なお、こうしたSBUやGURによる秘密工作は、ゼレンスキー大統領の了解がなければ実行されないとのことである。
ウクライナの情報機関を支援しているCIAなど西側の情報機関は、こうした破壊工作に基本的には参加しておらず、特に直接的な暗殺には西側情報機関は関わっていないとのことだ。
もっとも、一部の破壊工作の計画を事前に知らされることはあり、CIAがロシア側の反応を警戒してウクライナ側に懸念を伝えることもあった。ただ、黒海でロシア艦艇を水上ドローンで攻撃した際には、ロシア側の過剰反応の懸念が少なかったため、西側情報機関が作戦に協力しているという(※筆者注/おそらく遠隔操作用の通信手段を提供)。
CIAによるウクライナ情報機関の能力強化
今回のポスト紙の記事については、日本の主要な報道各社も伝えている。
しかし、いずれも冒頭に紹介した「モスクワでの暗殺はウクライナ機関が実行していた」という点に焦点を置いたものだ。たしかに新しい情報なので報道する価値はあるが、実はこの記事の注目情報はさらりと書かれた別の部分にある。
それは、なんと2014年のロシアのクリミア侵略の時期からCIAが介入してSBUやGURを育成し、最新の情報収集用機材・施設を提供し、それが昨年のロシア軍の攻撃に対し、戦力に劣るウクライナ軍の善戦に繋がったというのだ。
ウクライナ軍の善戦に貢献した西側諸国の支援については、武器の供与がこれまでずっと大きく報じられてきた。しかし、実際はそれだけではない。ロシア側の情報を収集するウクライナ側の活動を支え、同時にロシア情報機関からウクライナ側を守る、いわゆる「情報戦」でCIAが決定的な役割を果たしていた。
この情報支援については、ときおりメディアでも推測されていたが(※筆者も自分なりの分析でこのテーマの記事を複数のメディアで発表している)、実際の詳細は最高機密情報であり、確認が難しかった。それが今回、初めて明らかになった。
CIAはこれまで数千万ドルを投じて、ウクライナの情報機関の能力強化を進めてきた。まず、元ロシア連邦保安庁(FSB)ウクライナ支部だったSBUにはロシア側の内通者がいる懸念があったため、新たに第5局という部局を作り、そこから支援を始めた。その後、イギリスの情報機関のMI6と連携する第6局という新部局も作られている。
そこから信頼できるSBU工作員と連携し、強化していった。CIAによる訓練施設はキーウ郊外に設置された。目的はウクライナ東部の親ロシア派支配地域で情報収集し、敵陣営に情報提供者を獲得するために、敵地に潜入して活動できる要員を育成することだった。ロシア側の電話や電子メールを傍受する機器を供与したほか、潜入用の敵陣営の制服まで準備した。
対ロシア戦でのCIAの暗躍ぶり
こうした支援を得て、ウクライナのSBUはロシア側の情報を入手する手段をある程度、獲得した。
そのため、昨年のロシア軍侵攻の後も、SBUはロシア側の重要な標的について決定的な情報入手に成功し、数人のロシア軍司令官を殺害した。ゲラシモフ参謀総長を間一髪で逃した攻撃も、作戦の一環だったという。
ただ、戦場以外での非軍人への多くの暗殺工作を実行することもあり、CIAとは適度な距離感を保ちつつ、現在も協力関係は続いている。キーウにはいまだにCIAの工作員がおり、充分に活動しているとのこと。なお、昨年、SBUは自分たちの通信網にロシア製モデムが使用されていることを発見し、大規模な撤去作業を行ったという。SBU自身、いまだにロシア情報機関の標的なのだ。
一方、ウクライナのGURとCIAの関係はもっと密接だ。
GURの将校は若手が多く、ロシアの内通者がいる懸念はほとんどなかった。若手中心のため、CIAは将校たちを一から育成し、要員をウクライナと米国の両方で訓練した。高度な監視システムに加えて、各部局にはそれぞれ設備の整った本部施設を供与したという。SBUよりはるかに少ない5000人以下の陣容だったので、部隊の整備も容易だったようだ。
そして、この少数精鋭のGURが実戦で大活躍した。
まず、CIAはかねてGURの電子戦部隊専用の施設を建設しており、そこでは毎日、ロシア軍とFSBの25万〜30万本の通信を傍受してきたという。もちろんGURだけですべての分析は無理なので、そのデータは米国に送られ、CIAと米国防総省の信号情報機関「国家安全保障局」(NSA)の分析官が解析した。つまり、現場で情報を集めるのはウクライナの要員だが、ロシアとの情報をめぐる戦いに米情報機関は直接、参戦していたことになる。
そうなれば、IT技術力で優る米国の圧勝。ウクライナ軍はロシア側の筒抜けの情報を随時入手し、戦場で有利に戦うことができた。なお、GURに供与したものには、たとえばロシア支配地域の回線に設置できるモバイル機器だとか、あるいはモスクワからロシア占領地を訪問するロシア政府高官の携帯電話に仕込むマルウェアのツールなどもあった。
ハイテク機器だけではない。CIAはGURの若い将校に、敵陣営でスパイを獲得する手段の訓練を施している。実際、FSBを含むロシア治安機関内に独自の情報網を構築したという。
ポスト紙がここまで公表してしまって大丈夫なのかと心配になるくらいだが、供与した最新機材・施設もほとんど無傷で運用されており、対ロシア戦でのCIAとウクライナ情報機関の共同戦線は今後も盤石なようだ。 
●ロシア主導の経済連合 イランと自由貿易協定締結で合意 12/26
ロシアなど旧ソ連の5カ国で構成される経済同盟、ユーラシア経済連合は、イランと自由貿易協定を締結することで合意しました。
EAEU(=ユーラシア経済連合)は、ロシアのほか、旧ソ連のベラルーシやカザフスタンなど5カ国で構成される経済同盟です。25日、ロシアのサンクトペテルブルクで首脳会議が行われ、プーチン大統領は「今年、加盟国すべてが安定した経済成長を遂げていることに満足している」と述べ、加盟国の経済発展を称賛しました。さらに、イランと関税の引き下げなどを定めた自由貿易協定を締結したと発表しました。
EAEUを主導するロシアは、イランから無人攻撃機(=ドローン)を大量購入するなど、両国の関係はより緊密になっていますが、経済協定の締結で関係を深め、ウクライナ侵攻で対立する西側諸国に対抗する思惑があるものと見られます。
●セルビア首都でデモ、市議会に突入図る 「盗まれた」選挙に抗議 12/26
東欧セルビアの首都ベオグラードで24日、数千人が集結する反政府デモが起きた。先に行われた総選挙の無効を求めている。国際的な監視団体はこの選挙を「不公正」なものとみなしていた。
デモ参加者らはベオグラードの市議会に入ろうと、旗棒や岩で建物の窓を破壊した。しかし暴徒鎮圧用シールドと催涙ガスを使用した警官隊がこれを撃退した。地元のCNN提携局N1が報じた。
N1によると、24日に発生したデモでは少なくとも35人が逮捕された。議会選と地方選の後、抗議デモは6日間連続で発生していた。
与党・セルビア進歩党は47%の得票率を記録し、解散総選挙に踏み切ったブチッチ大統領は10年に及ぶ自身の権力支配を強化した。セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指す一方、ロシアとの緊密な結びつきを維持している。
国際的な監視団体によれば、今回の選挙は「不公正な状況」で行われた。具体的にはメディアの偏向、ブチッチ氏の不適切な影響力、そして「票の買収を含む有権者への威嚇と圧力」があったという。
中道左派の野党連合のメンバーも24日のデモに複数参加し、ブチッチ氏が選挙を盗んだと非難。結果を無効とするよう訴えた。
デモに呼応する形で行った24日夜の演説で、ブチッチ氏はセルビア国民に心配しないよう呼びかけた。「革命が起きることはない」というのがその理由だった。
またデモ参加者の誰も傷つけることのないよう、穏やかに対応していることを示唆した。セルビア国内のメディアが伝えた。
クレムリン(ロシア大統領府)のペスコフ報道官は25日、記者団の取材に答え、ベオグラードでの抗議デモは外国勢力により引き起こされているとの見方を示した。セルビアの不安定化が目的だとしたが、外国勢力を特定はせず、関与の証拠も示さなかった。
プーチン大統領は25日、ブチッチ氏に祝福のメッセージを送った。内容はセルビア国民の「平和と繁栄」を願うものとなっている。

 

●プーチン大統領 旧ソビエト首脳会議を開催 勢力圏引き締めか 12/27
ロシアのプーチン大統領は、旧ソビエト諸国の首脳を集めた会議を開催し、結束を訴えました。今回の会議にはロシアへの不満を強め、欧米に接近する姿勢も示すアルメニアの首脳も出席し、プーチン大統領は勢力圏とみなす国々の引き締めを図るねらいがあるとみられます。
ロシアのプーチン大統領は26日、第2の都市サンクトペテルブルクで、旧ソビエト諸国でつくるCIS=独立国家共同体の非公式の首脳会議を開催しました。
ロシアは来年、CISの議長国を務める予定で、プーチン大統領は各国首脳に対し「われわれがかつて統一された国として歴史的に歩んだことは偶然ではない。ロシアは旧ソビエト諸国の緊密な関係を維持、強化し、友好を発展させることを最優先の任務と考えている」と述べ、結束を訴えました。
一方、今回の首脳会議には、加盟国のひとつ、アルメニアのパシニャン首相も出席しました。
アルメニアはことし9月、隣国アゼルバイジャンが係争地ナゴルノカラバフで起こした軍事行動に敗北し、パシニャン政権はアルメニアが軍事同盟を結び後ろ盾としてきたロシアが役割を果たさなかったとして、不満を強めていました。
パシニャン首相は、最近、ロシア主導の首脳会議への参加を見送る一方、欧米に接近する姿勢も示していました。
プーチン大統領としては、今回の会議を通じて、アルメニアも含めロシアが勢力圏とみなす国々の引き締めを図るねらいがあるとみられます。
●侵略戦争のつけ重く ロシアの勢力圏が揺らぐ 12/27
バルト3国を除く旧ソ連圏内の「共通語」はロシア語である。外交行事でもロシア語が話される。ところが、カザフスタンのトカエフ大統領はこの11月、ロシアのプーチン大統領との共同記者会見の冒頭、カザフ語を使った。プーチン氏はじめロシア側外交団は慌てて同時通訳のイヤホンを装着した。
ロシアは旧ソ連圏を「近い外国」と呼び、自分の勢力圏と見なす。いわば縄張りである。だが、ウクライナ侵攻は旧ソ連諸国にロシアへの警戒と不信感をかき立てた。ロシア系住民の保護が侵略の大義名分になるのなら、次は自分が標的になるかもしれない、と各国は身構える。
共同会見でトカエフ氏がとった行動は、カザフは独立国家でありロシアの属国ではない、と暗に意思表示したものだという臆測を呼んだ。
プーチン氏はかつて「カザフ人は一度も国を持ったことはなかった」と発言したことがある。トカエフ氏は忘れていないだろう。プーチン発言は事実とは異なる。15〜19世紀にカザフ民族によるカザフ・ハン国という遊牧国家が中央アジアに存在した。
トカエフ氏はロシアによるウクライナ南・東部4州の併合を認めず、侵攻をめぐってプーチン氏に面と向かって苦言を呈したこともある。
ただし、トカエフ政権が反ロシアに転じたわけではない。カザフは北のロシアとは7600キロ余の国境で接する。ひところよりは減ったとはいえ、全人口の18%はロシア系だ。巨大な隣人との付き合い方は慎重を期さないと、虎の尾を踏みかねない。
カザフをはじめ旧ソ連圏の中央アジア各国は中国やトルコ、さらには米国などとも関係を進めるバランス外交によって、ロシア・リスクの回避に努めようとしている。
あからさまにロシア離れを図った国もある。カフカスのアルメニアだ。アゼルバイジャンに敗北を喫したナゴルノカラバフ紛争で、頼みとするロシアが支援に乗り出さなかったことに強い不満を持っている。アルメニアは国際刑事裁判所(ICC)への加盟を決めた。ウクライナの子どもを連れ去った戦争犯罪容疑で、ICCから逮捕状が出ているプーチン氏への反抗であることは明らかだ。
32年前の1991年末にソ連が解体し、11カ国のソ連構成国が独立国家共同体(CIS)の創設協定に調印した。帝国崩壊に伴う混乱を避けるため、新興独立国家による緊急避難的な共同体だった。2年後にはジョージア(グルジア)も加盟した。
ところが、ロシアと軍事紛争を起こしたジョージアは2009年に脱退し、ウクライナもロシアによるクリミア併合を機に事実上脱退した。
この10月に開かれたCIS首脳会議には、親欧米路線を強めるモルドバとアルメニアの両国首脳が欠席した。ロシアが盟主を自任するCISは空洞化が進む。
●ウクライナ軍幹部、徴兵担当部門への不満表明 兵力増強示唆 12/27
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は26日に行った記者会見で、徴兵担当部門への不満を示し、ロシアとの戦争で兵力を増強すべきだとの考えを示唆した。
ウクライナ議会は前日、徴兵の対象年齢下限を27歳から25歳に引き下げるよう定める法案をウェブサイトに掲載した。
法案の公表はソーシャルメディア上で論争を巻き起こし、ザルジニー氏はそれに対応するため記者会見を行った可能性がある。
会見でザルジニー氏は「私は現在(徴兵担当部署の)仕事に満足していない。もし、私が満足していれば、ここでこの(動員に関する)草案を議論することはなかっただろう」と説明した。
ロシアのウクライナ侵攻が始まった直後の数カ月は何万人もの志願兵がいたが、戦争から22カ月経過した現在、そうした機運は薄れている。
ゼレンスキー大統領は19日に開いた年末の記者会見で、軍がロシアとの戦闘で45万─50万人の追加動員を提案したと明らかにしていた。
ザルジニー氏はまた、ウクライナ軍が東部ドネツク州の激戦地マリンカの端まで撤退したことを認めた。ロシアのショイグ国防相は前日、マリンカを完全に制圧したとプーチン大統領に伝えていた。
ザルジニー氏は2024年は23年とは異なる戦況になるとの見方を示し、戦場には常に革新的なテクノロジーがもたらされていると説明した。
●ウクライナ政府が追加動員法案 年齢引き下げ、50万人要求 12/27
ウクライナ政府は25日、追加動員に関する新たな法案を最高会議(議会)に提出した。地元メディアによると、徴兵の対象となる最低年齢を27歳から25歳に引き下げ、動員回避への対応を厳格化する。ゼレンスキー大統領は19日の記者会見で、軍から45万〜50万人の追加動員を求められたと明らかにしていた。
ウクライナでは現在、18〜60歳の男性の出国を原則として禁じ、徴兵に備えるよう義務付けている。戦争が長期化する中、動員拡大の動きに波紋が広がっており、欧州連合(EU)首脳会議を取材するため許可を受けて出国した著名ジャーナリストは今月、帰国しないと宣言した。
●霞むウクライナ支援とアメリカの姿勢 12/27
ウクライナ問題は同国とロシアの戦いでありますが、実質的には欧米、特にアメリカの後ろ支えがあっての戦いになっています。ゼレンスキー大統領が必死にアメリカに支援を訴えるのはアメリカがその生命維持装置を外せば極めて厳しい状況に陥るのが目に見えているからです。
ところがウクライナ支援に関してはアメリカには二つの「国」があり、その二つの国が双方、一定の妥協をしない限り、支援の道が閉ざされるところまで変化してきました。年初あたりには支援の予算が尽きます。実際には既に費消した予算を通じて武器をウクライナに輸出する分があるので細々とですが春ぐらいまではどうにか戦いらしきことはできると思います。しかし、その後については現状、厳しいと言わざるを得ません。
プーチン大統領はそこが分かっているので綱引きで押しも引きもしない状態を意識的に維持しています。時間がプーチン氏に味方するだろう、そういう判断です。プーチン氏は春にロシア大統領選挙を控えており、国内向けに世論形勢を行い、一応は支援を得なくてはいけません。その戦略とは核兵器など強力な武器を使い、相手をせん滅させるのではなく、ロシア兵は粘り強いのだ、という誇示をするために時間をかけて取っ組み合いを続けることが良策だと考えているのでしょう。飛び道具を使えば世論の反感を買うリスクも計算したかもしれません。個人的にはプーチン氏への支持は驚異的な数字を示すとみています。
また、汚れ仕事は北朝鮮からの労働者に任せる、ぐらいも考えているでしょう。ロシアに行けばお分かりになりますが、白人のロシア人と共にモンゴロイド系人種が非常に多く、北朝鮮の労働者がいても全然違和感がないのがロシアであります。今般、金正恩氏は弾道ミサイルの発射成功に関してロシアの技術支援を受けた恩もあり、また労働者の派遣再開は同国にとって望むところでしょうから同国はロシアとの関係を強化するかと思います。
ではウクライナを支援するアメリカはどういう立場か、と言えば支援支持派が民主党、支援懐疑派が共和党とされますが、共和党内部でもその温度差があります。トランプ氏支持層は強い懐疑派であります。共和党は議会でウクライナ追加支援予算を可決するには移民政策をより厳しくするといった条件をつけていますが、バイデン大統領がそれを飲めるとは思えず、時間だけが過ぎ、予算が底をつくという状況にあります。
「ウクライナもウクライナ」という点も当初からわかっていました。祖国防衛が自国完結型ではないのです。例えば日本が日露戦争をした時は資金こそ戦争国債に依存し、あるいは一部の資源は外国に依存したものの戦争の用具は原則自国で準備しました。203高地の戦いでは鉄砲の玉不足になりかけましたが自力で賄ったわけです。
戦争とは基本はそういうもので同盟国は側面支援はするも同盟国による実質的全面支援が功を奏することはあまりないのです。イラクやアフガン、ひいてはベトナムや朝鮮戦争などはアメリカが果敢に関与しましたが、良い結果をもたらさなかったのは戦争当事者との意識の差の問題なのだと思います。
イアン・ブレマー氏は最新の寄稿「弱まるウクライナ支援の危険性」で「ウクライナへの西側諸国の支援が弱まることで、24年はより破滅的な戦局に陥る懸念がある」と意見しています。私もこれに同意です。アメリカは24年は選挙イヤーであり、選挙は外交より内政が勝負どころなのです。極端な話、外交が華やかであることは構わないものの面倒なことは選挙が終わるまで先送りしたい、それぐらいの感じになります。よって個人的には選挙イヤー故に外交が動かない2024年を前提とするならばブレマー氏が指摘する破滅的戦局=ウクライナの敗戦がないとは言えなくなります。
プーチン氏は自身の大統領選挙が3月に終わればフリーハンドになり、仮に圧倒的支持を得れば国威発揚はしやすくなること、アメリカは11月まで選挙で忙しいことからその約半年は力関係が明白に変わる点は戦略上大きな意味を持つことになるでしょう。
その上、アメリカはイスラエルのこともどこかで収拾させねばならないでしょう。こちらは個人的にはさほど遠くないうちに停戦ないし、休戦になるとみています。ただ、その後、1月の台湾総統選の結果次第ではそちらへの外交的エネルギーを注ぎ込む必要に迫られる可能性もある点からバイデン氏の手腕をこれ以上期待するも難しいだろうという気がしています。
最近のバイデン氏は老化が進んだ気がします。気力で大統領の職務をこなしていますが、現実問題としてはこれほどの高齢の方にあれだけの激務をさせてはいけないでしょう。民主党は代替候補すら出せないところに弱みがあるともいえそうです。
●「西洋の没落」の不可避と日本の高齢者が招く混乱 12/27
オスヴァルト・シュペングラーが『西洋の没落』を著したのは、1918年だった。第一次世界大戦が、物理的な荒廃だけでなく、文化的な卓越性をも、「西洋」から奪ったことを、多くの人々が感じていた時だった。そのため、『西洋の没落』は広く読まれた著作となった。
シュペングラー自身は敗戦国・ドイツ帝国の人物だった。そのため少し偏見があったことは確かかもしれない。しかし「西洋の衰退」はまやかしだった、その後も「西洋」が影響力を持ち続けた、と考えるのは、誤りである。
シュペングラーが論じた歴史的な意味での「西洋」は、第一義的には、欧州のことである。欧州の影響力が、19世紀までの権勢と比べて、20世紀になって衰退したことは疑いのない事実だと思う。
20世紀に世界を主導した二つの超大国であるアメリカとソ連は、いずれも厳密な意味では欧州ではない。とはいえ、確かに、両者を「広い意味での西洋」の一部とみなして、それをもって「西洋の衰退」は二つの超大国によって防がれた、と論じることは可能ではあるかもしれない。しかし20世紀末にソ連は消滅した。アメリカもまた、その力を衰えさせている。
国際政治学の領域では、アメリカがベトナム戦争から敗走した後の1970年代などに、アメリカの衰退を論じる華やかになった。だが反論も多くなされた。冷戦終焉後に「自由民主主義の勝利」の物語とあわせて、世界で唯一の超大国となったアメリカの「単独主義」が語られるようになって、「アメリカの衰退」は間違いであったかのように総括されることが多くなった。
だが長期的な傾向からすれば、19世紀から20世紀にいたる時代の流れで欧州が衰退したのが疑いのない事実であるのと同様に、20世紀から21世紀にいたる時代の流れで米国もまた衰退しているのは否定できない事実であるように思われる。「アメリカの衰退はブラフだ」の主張は、そもそも非常に怪しいうえに、少なくとも限りなく通用する法則のようなものではない。
1960年に世界経済全体の40%を占めていたアメリカのGDPは、2019年の統計で24%にまで落ちている。欧米諸国という言い方で、「西洋」を考えた場合であっても、あるいはさらにその友好国である日本を加えた場合でも、世界経済全体における「西洋」の割合は下落の一方だ。現在の経済成長率、及び人口動態の数値を見れば、さらなる「西洋の衰退」が不可避的な長期的傾向であることは、火を見るより明らかな現実である。
文化的な影響力を測定するのは難しいが、たとえば政治現象を見ると、欧米諸国に芳しくない状況が広がっていることは明らかだ。冷戦終焉後一貫して増え続けていた「民主主義国」の数は、近年、減少に転じた。欧米諸国主導の軍事介入はもちろん、和平努力すらも、失敗か停滞に直面している場合がほとんどである。
もっとも西洋の「没落」というよりは「衰退」であり、かつてほどの影響力はなくなった、という意味である。そしてかつてよりも影響力を高めた諸国からの追い上げにさらされている、ということである。
2021年アフガニスタンからのアメリカの敗走は、「グローバルな対テロ戦争」の一つの暗澹たる帰結を示したのみならず、アメリカの衰退・西洋の衰退を、強く印象づける事件であった。その後、ロシアのウクライナ全面侵攻を見て、欧米諸国は団結して勇敢に戦うウクライナを支援することによって、威信を回復させようとした。しかしそこで得たある種の貯金も、ガザ危機をめぐる混乱で、喪失の危機にさらされている。
こうした状況で、日本外交が考えるべきなのは、現実を受け止めたうえで、なお同盟国・友好国と、よりよき国際秩序を維持発展させていくためにできることを一緒に考える態度だ。
西洋からアジアへ、のような安易な乗り換えは、ありえない。現実的ではない。ただ、いずれにせよ、日本国内では、西洋からアジアへ、といった左派的なスローガンは、すでに勢いを失っているように見える。アジアでは中国の影響力が圧倒的で、日本はもはや主導的な役割を、少なくとも思うようには、発揮できないからだろう。様々な意味で、現代日本はもはや第二次世界大戦時の大日本帝国ではなく、そのようなものになりうる国ではない。
現代日本で目立っているのは、むしろ復古主義的に日本の国力を誇張する極右勢力である。日本の国力が衰退している現実を受け止めず、移民排斥的な傾向にも走る。高齢視聴者に訴える扇動ユーチューバーとその取り巻きの「政党」関係者が、常軌を逸した行動に出ていることが話題を呼んでいる。背景には、日本の衰退と自己の社会的地位の実情を受け入れられない高齢者層がいるようである。
訴訟ネタになる行動に走る層を、特異なSNS界生息高齢者群と考えるとして、その外周にいるのは「西洋の没落」を受け入れられない層である。ガザ危機で、イスラエル政府の大本営発表をそのまま拡散すれば自分も安全保障の専門家になれると信じているような層、あるいは、結局は中東情勢の行方はアメリカが決めるのさ、と呟いていれば自分も安全保障の専門家になった気分に浸れる、と考えているような層である。
超少子高齢化社会とは、時代の趨勢を受け入れられない高齢者が社会を支配し、現役世代をSNSで恫喝し、若者を委縮させる社会のことである。
少なくとも自らの衰退に極めて自覚的な欧米社会では、少子高齢化社会の弊害を防ぐための努力が多々なされている。
その意味では、「西洋の衰退」の自覚なき日本の方が、より危険が大きいかもしれない。 
●プーチン政権「カトリックは侵略者だから禁教に」 ウクライナ占領地域で弾圧 12/27
ロシアのプーチン政権が、侵攻したウクライナの占領地域で、カトリック教会を弾圧している。ロシア正教会を含む東方正教会と対立してきたカトリックを「侵略者」と位置付け、国民を結束させる狙いがある。400年余に及ぶキリスト教の東西対立が蒸し返されている。
「宗教施設に武器を保管している」
インタファクス・ウクライナ通信は7日、ロシア当局が併合を宣言したウクライナ南部の州で、キリスト教カトリックの総本山バチカン(ローマ教皇庁)の傘下にある「ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会」(UGCC)の活動を禁じたと報じた。宗教施設に武器を保管し、「反ロシア暴動を画策している」のが理由という。
UGCCはソ連時代の1946年にも禁教とされ、政府の管理下にあるロシア正教会への統合が進められた。ソ連崩壊後に復興したが、UGCCにとってロシアは長年の仇敵(きゅうてき)であり、侵攻を命じたプーチン大統領を厳しく非難し、徹底抗戦を訴えてきた。
東方正教会 / キリスト教の一派でビザンツ帝国の国教として発展し、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの源流となる国家「キエフ・ルーシ」は988年に受容した。ギリシャ、東欧、旧ソ連圏で信者が多い。11世紀にローマを拠点とするカトリックと分裂した。正教とカトリックの折衷型であるウクライナ・ギリシャ・カトリック教会は「帰一教会」「東方典礼カトリック」「ユニエイト」とも呼ばれ、信者数は数百万人規模とされる。
現地の宗教事情についての著書もある角茂樹・元駐ウクライナ日本大使によると、UGCCは近代以降、ウクライナにとってアイデンティティーのよりどころとなり、ウクライナが民族としての独自性を主張する根拠となってきた。ソ連時代にウクライナの分離独立を目指した民族主義者ステパン・バンデラ(1909〜59年)の父親もUGCCの聖職者だったという。
16世紀にさかのぼる対立
ウクライナでの宗教対立は、カトリックの東方拡大にさかのぼる。
カトリックは16世紀、ルターらによる宗教改革によって生まれたプロテスタントに対抗し、イエズス会などを通じて日本を含むアジアや東欧で布教を強化した。現在のウクライナ、ベラルーシ領を含む中世の大国ポーランド・リトアニアでは、正教徒をカトリックに改宗させる動きが強まった。
こうした過程で、正教会の典礼(儀礼)を維持したままローマ教皇の権威を認めるUGCCが誕生。ベラルーシ西部グロドノの宗教博物館によると、「カトリックとともに、ウクライナやベラルーシに西欧の文化が流入した」という。
ウクライナの西欧化を警戒
ロシアは勢力圏とみなす東欧が西欧の文化に取り込まれることを嫌っており、東欧で加盟国を広げる軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)とカトリックをともに「ロシアを脅かす存在」と位置付けてきた。
ロシアのラブロフ外相は10月、NATOの東方拡大やウクライナへの支援を「米国が率いる十字軍が、ロシアを攻撃している」と非難した。中世にカトリック勢力の第4次十字軍が、東方正教を保護したビザンツ帝国を攻撃した史実を踏まえた発言とみられる。またプーチン氏は性的少数者(LGBTQ)や同性愛を容認する西欧を「信仰を失い、堕落した社会」と糾弾している。
反体制派として知られるロシア正教会の聖職者アンドレイ・クラエフ氏の話 プーチン政権が、NATOの東方拡大を十字軍による東方世界の破壊に例えるのは、哀れなプロパガンダ(政治宣伝)だ。ロシアの右派は西欧のキリスト教が堕落して悪魔崇拝に陥り、ウクライナとロシアを戦争に陥れたと信じている。プーチン大統領は、ロシアが聖なる国であり、キリスト教本来の信仰を保持していると主張している。プーチン政権が「ロシアと西欧の宗教対立」を叫ぶのは理由がある。植民地のように扱ってきたウクライナに対して、苦戦している現実に我慢できないからだ。「敵はウクライナではなく西欧全体」と印象付けることで、国民の不満を和らげるつもりだろう。
●ウクライナ部隊、ロが制圧主張のマリンカに残留=総司令官 12/27
ロシアが制圧したと主張しているウクライナ東部ドネツク州の激戦地マリンカについて、ウクライナ軍のザルニジー総司令官は26日、同軍がまだこの地域にとどまっていると述べた。
ロシアのショイグ国防相は25日、プーチン大統領と共にテレビ向け動画に登場し、マリンカを完全制圧したと述べていた。
ザルニジー氏は記者団に対し、マリンカが廃墟になっていることを認めた上で、ウクライナの部隊をまだ当地域の北部に配備していると説明。「わが部隊は、この地域の外側に防衛線を準備してきた。ただ、この地域はもう存在していないと言っていい」と語った。
一方でザルジニー氏は、ウクライナ軍は領土のどの一角についても守り抜く決意だと改めて強調した。
ロシアがマリンカを制圧したとすれば、5月以来で最大の戦果となる。
●ショイグ国防相「ロシアはウクライナで今年の目標を達成した」 12/27
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は12月26日、ウクライナでの戦争におけるこの一年のロシア政府の目標は「成功裡に完了した」と述べた。もっとも、この過酷な戦争が来たる新年には終結するのか、という肝心な点についてはほとんど言及しなかったのだが。
2023年を通じたロシアの「主たる」目標は、「ウクライナ軍の反転攻勢を妨害する」ことだった。ショイグは、12月26日にロシアメディアが公開した声明のなかでそう述べている。
「その任務は成功裡に完了した」とショイグは述べた。
ウクライナは2023年6月上旬、同国南部と東部で、ロシア軍に対する反転攻勢を開始した。ロシア軍に占領された領土を全面的に奪還するのが狙いだった。
ウクライナはすぐに、反転攻勢を開始するのが意図していたよりも遅かったことを認めた。その間にロシア軍は塹壕を掘り、強固な防御を築き、ウクライナ軍の通り道に徹底的に地雷を仕掛けることができた。ウクライナ政府は、反転攻勢が遅れたのは西側からの支援が遅れたせいだとしている。
ロシア軍に恥はかかせたが
ウクライナ軍の前進は、期待したようには実現しなかった。前線沿いの少数の村を奪還することには成功したし、クリミア半島におけるミサイルと無人機(ドローン)による一連の攻撃は、ロシア軍に恥をかかせるに十分な戦果を上げた。だが、いまや戦況は膠着状態にあると見る向きもあり、ウクライナはそれを打ち消そうと躍起になっている。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は12月、「われわれは、もっと早く結果を出したかった。その観点からすると、残念ながら、望んだ成果は得られなかった」と認めた。そのいっぽうでロシアも、支配下にあるクリミア半島に対するウクライナ軍の攻撃をかわすのに苦労しており、戦争で疲弊した国内では人材や資源が急速に失われている。またウクライナ軍は、長らく前線となってきたドニエプル川東岸での地上作戦も開始し、南部ヘルソン州のロシア支配地域に切りこんでいる。
冬には、機械化部隊による作戦の多くが停止を余儀なくされる。それに先駆けてロシアは、東部ドネツク州のアウディーイウカに対する猛攻を開始し、厳重な守りが敷かれたこの町に犠牲をいとわず兵力を投じている。アウディーイウカは、10年近く前線の位置にあるウクライナの重要拠点であり、この町の奪取に成功すれば、ロシアにとっては戦術的にも象徴的にも大きな勝利となるはずだ。
ザルジニーが撤退を示唆
アウディーイウカをめぐる攻防で、ロシアは膨大な数の人員を損耗し、途方もない装備の損失を出しているとみられるが、町の周辺でじりじりと前進してきた。ウクライナはこの町を守るために激しく戦っているが、やはり大きな犠牲も払っていると見られている。
ワシントンDCを拠点とするシンクタンク、戦争研究所(ISW)によれば、ロシア軍は12月24日、アウディーイウカのすぐ北に位置するステポベ村の東まで到達したという。
ウクライナ軍は12月26日、兵士たちはまだ「しっかり守りを維持している」と述べ、アウディーイウカ周辺において、過去1日で40回、ロシア軍の攻撃を撃退したと付け加えた。
ウクライナ軍が26日に述べたところによれば、ドネツク州のマリンカ周辺でも、ウクライナは6回にわたってロシア軍の攻撃を撃退したという。
ロシア政府は25日、瓦礫と化したマリンカの町をロシア軍が完全に制圧したと述べ、ロシア国防省も26日、南部の部隊がマリンカを掌握したと述べた。複数のウクライナ当局者はこれを否定し、「破壊しつくされた」町で、まだ戦闘が続いていると述べた。
だが、ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は26日、ウクライナ軍がマリンカ郊外まで後退したことを認めたとみられる、とウクライナ・メディアは報じている。ウクラインスカ・プラウダによれば、ザルジニーは、ウクライナ軍をマリンカ北の郊外に移動させたとして、撤退を示唆した。
●クリミア半島に攻撃を受けたロシア、ウクライナ鉄道駅を爆撃…複数の死傷者 12/27
ロシアがウクライナ南部ヘルソン州の鉄道駅を空襲し、複数の死傷者が発生した。ウクライナがクリミア半島でロシアの大型揚陸艦をミサイルで攻撃したことに対する報復性の空襲だ。
現地当局によると、26日午後(現地時間)、最前方のヘルソンの鉄道駅で避難民およそ140人が集まって列車を待っているところ、ロシアから爆撃を受けた。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの日午後の定例演説でこれを伝え、「現場には民間人が多数いて、死者と負傷者の数を把握中」と話した。
ウクライナのクリメンコ内相はこの日、ロシアの空襲で警察官1人が死亡し、警官2人と民間人2人の計4人が負傷したことが把握されたと明らかにした。続いて「これはロシアのもう一つの戦争犯罪」とし「故人の遺族に弔意を表す」と述べた。
これに先立ちウクライナはこの日午前、ロシアが占領中のクリミア半島南部の港町フェオドシヤを空襲した。ロシアは1人が死亡、2人が負傷し、自国海軍の黒海艦隊の揚陸艦「ノボチェルカスク」が破損したと明らかにした。
●ウクライナ軍が黒海で戦果 ロシアの大型揚陸艦・ノボチェルカスクを爆破 2/27
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナが黒海で、攻勢を強めている。ウクライナ空軍が26日、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島南東部フェオドシヤで、ロシア軍の大型揚陸艦ノボチェルカスクを爆破したと通信アプリで発表した。昨年に沈没させた黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワに次ぐ戦果だと強調。ロシアが誇る黒海艦隊の艦船の20%が破壊されたという分析もある。
ゼレンスキー氏は通信アプリに、「占領者にとって安全な場所は一つもない」と投稿した。ロシア国防省も26日、揚陸艦の損傷を認めた。
ウクライナは6月に反攻を開始したが、戦況の膠着(こうちゃく)が指摘されている。こうした状況で、ウクライナは黒海艦隊に積極攻勢を展開。9月には、クリミア半島の主要都市セバストポリの同艦隊司令部を攻撃して「成功した」と発表している。
英国のグラント・シャップス国防相は26日、ロシア軍の大型揚陸艦爆破について、「ウクライナの戦争が膠着していると信じている人々が、間違っていることを示した」とX(旧ツイッター)に投稿し、「過去4カ月で黒海艦隊の艦船の20%が破壊された」との見方を明らかにした。
●「ゼレンスキー氏がヨット購入」親ロ派の流言 米軍事支援への影響 12/27
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、アメリカからの援助金で豪華ヨット2隻を購入した――。そんなうわさを、ロシア在住の元米海兵隊員が立ち上げたウェブサイトがあおった。
これは虚偽の主張だが、偽情報の計画は成功した。この主張はインターネットを駆けめぐり、軍事費に関して重要な決断を下す米連邦議会の議員たちの間でも、同じような話が聞かれるようになった。
内容は信じられないものだ。ゼレンスキー氏が顧問2人を代理人にし、ヨット2隻に7500万ドル(約107億円)を支払ったというものだ。
ウクライナ政府はこの話を全面的に否定している。そもそも、問題のヨット2隻は売れてすらいない。
しかし、虚偽にもかかわらず、この話はアメリカの議員にも伝わった。米議会の幹部らは、ウクライナへの追加支援の決定は来年まで延期されるだろうとしている。
さらなる支援に猛反対する議員もいる。
共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員はX(旧ツイッター)に、「ウクライナへの資金提供に投票する人は、わが国の歴史上、最も腐敗した対外戦争に資金を提供することになる」と投稿。ヨットのうわさに触れている記事のリンクを添えた。
一方、ウクライナへの軍事援助を支持している共和党のトム・ティリス上院議員は、先に上院議員らがゼレンスキー氏と非公開の会合を開いた直後、米CNNのインタビューで、こう言った。
「汚職という概念が話題になった。援助金でヨットを買う者がいるから(支援は)できないという意見が出たからだと思う」と、ティリス氏は話した。
「ゼレンスキー氏は、そのような考えを払拭した」
ティリス議員は、同じく共和党のJ・D・ヴァンス上院議員と対立している。ヴァンス氏もまた、ゼレンスキー氏とヨットについて語っている。
ヴァンス氏は、ドナルド・トランプ大統領の顧問を務めたスティーヴ・バノン氏のポッドキャストに出演。予算の優先順位について語りながら「社会保障を削減し、祖父母を貧困に陥れようとする人々がいる。なぜか? ゼレンスキーの側近の一人がもっと大きなヨットを買えるようにするためか?」と述べた。
ヨットのうわさは虚偽だ。しかしBBCは、この主張を主にあおっているのが、ワシントンに拠点があると見せかけた、ロシアと関係のあるウェブサイトだと突き止めた。
研究者らによると、このウェブサイトは「ロシア政府とつながりのある、物語ロンダリングのために作られた可能性の高いツール」だという。
ロシアにルーツのある「ワシントンの」ウェブサイト
このうわさが最初に出現したのは11月末、怪しげなユーチューブのチャンネルでだった。数えるほどのフォロワーしかおらず、投稿された動画は一つだけだった。
この動画は次の日、「DCウィークリー」というウェブサイトに取り上げられた。そこには「ラッキー・ミー」と「マイ・レガシー」という2隻のヨットの写真も掲載されていた。さらに、ゼレンスキー氏の関係者にヨットが売却されたことを認めるとされる書類も出ていた。
しかし、この2隻を売り出している高級ヨットブローカーは、この疑惑は虚偽だと述べている。販売書類は偽造のようだ。そもそも、「ラッキー・ミー」と「マイ・レガシー」は両方とも、ゼレンスキー氏にもその側近にも購入されておらず、まだ売りに出されている。
DCウィークリーの記事に対して、インターネット上ではさまざまな憶測が飛び交った。複数のソースからリンクが張られ、また、複数のプラットフォームで記事が引用された。
しかし、このサイトは名前のように週刊誌(ウィークリー)が運営しているのではなく、アメリカの首都(DC)に拠点を置いているわけでもない。
米クレムゾン大学で偽情報を研究しているダレン・リンヴィル氏とパトリック・ウォレン氏の調査によると、DCウィークリーは、ジョン・マーク・ドゥガン氏という人物によって開設された。ドゥガン氏は元米海兵隊員で元フロリダ州警察官という経歴を持ち、2016年にロシアに移住している。
ドゥガン氏はパームビーチ郡の保安官事務所で3年間、保安官補を務めていた。そして退職後の2009年、かつての雇用主らについてのうわさを広めるウェブサイトを開設した。
ロシアに移住してからはジャーナリストを自称し、ウクライナへの侵攻について活動。さまざまな虚偽や根拠のない主張を広めてきた。たとえば、ロシアはウクライナにある生物兵器研究所を破壊しようとしている、といった内容だ。
クレムゾン大学の研究者らは、DCウィークリーの記事について、他のウェブサイトからコピーし、人工知能(AI)エンジンで書き直したものばかりだと突き止めた。同ウェブサイトの「記者」の名前は偽名で、顔写真もインターネットのどこからかコピーされたものだった。
こうした書き直しの記事が同サイトをまともなものに見せる一方で、怪しげなオリジナル記事も紛れ込んでいる。
そのうちの一つが、ヨットに関する主張の始まりだ。研究者らは、DCウィークリーがこの記事を掲載した後、この話がどのように広まったかを追跡した。
研究者らが集めた証拠によると、DCウィークリーは、ドゥガン氏が管理する他の複数のウェブサイトと同様のサーバーに接続され続けていることがうかがえる。BBCヴェリファイ(検証チーム)はまた、DCウィークリーの一部のホスト元が、モスクワにあるサーバーだと突き止めた。
ドゥガン氏は今年初め、ロシア外務省が支援するアカデミーでの講演で、DCウィークリーのコメンテーターだと紹介されていた。
クレムゾン大学のウォレン氏は、「ドゥガン氏が長い間DCウィークリーに関わり、その背後にあるインフラとつながっていることは、私の目には明らかだ」と述べた。
ドゥガン氏はテキストメッセージで、「これらの主張を断固として否定」し、数年前にDCウィークリーを3000ドルで売却したと述べた。売った相手のことは覚えておらず、また、対ロ金融制裁によって決済プラットフォームから追い出され、電子メールアカウントへのアクセスを失ったため、書類は紛失したとした。その上で、現在のサイトの運営とは何の関係もないと述べた。
研究者らは、DCウィークリーはより大きな親ロシア・プロパガンダ組織の一部だと指摘する。
「この特定の個人が背後にいるかどうかは、実際にはあまり問題ではない」と、ウォレン氏は述べた。
「重要なのは、これが非常に実質的かつ効果的な、親ロ的な影響力を強める活動の重要な要素であることだ。そのことは暴露され、理解される必要がある」
ウクライナ大統領府はDCウィークリーの記事について、「この記事の情報は全て偽物だ。ゼレンスキー氏とその家族は過去も今も、ヨットを所有していない」と述べた。
BBCは、米議会のティリス上院議員とグリーン下院議員にもコメントを求めている。
ヴァンス上院議員の広報担当者は、「西側諸国の誰もが、何年も前から、ウクライナが世界で最も腐敗した国の一つだと認識していた。しかし、ウクライナに何十億ドルもの対外援助を送り始めた途端、そのことを忘れてしまった」と述べた。
ゼレンスキー氏の妻をめぐっても
ヨットの偽情報は、ウクライナで長年問題になっていた汚職への懸念の上に成り立っていた。欧州連合(EU)をはじめとする西側機関への加盟に向け、ウクライナは汚職対策をはじめとする数々の試練に立ち向かっている。
国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が公表している各国の腐敗認識指数(CPI)では、ウクライナは180カ国中116位につける。しかし、ここ数年の努力により、その順位は大きく改善している。
だが、偽の文書や怪しいソーシャルメディア・アカウントに裏付けされた、虚偽の主張をめぐるインターネット上の会話に比べれば、現在進行中の汚職問題に向けられた注目は穏やかなものだった。
今年10月、ゼレンスキー大統領が米ニューヨークの国連総会で演説をしている間に、妻のオレナ・ゼレンスカ氏が宝飾品に大金を費やしたという主張が、ソーシャルメディアで広く共有された。
この主張はヨットのうわさと同様、数人のフォロワーしかおらず、動画が1本しか投稿されていないユーチューブ・チャンネルから始まった。この動画には、ニューヨーク5番街にある宝飾店カルティエで働いていると主張する、ベナン出身だという女性が映っている。
女性は動画の中で、9月22日付のレシートを見せる。レシートにはゼレンスカ氏の名前と、ブレスレットやイヤリング、ネックレスなどで110万ドルが支払われた旨が記載されている。
顔認識ツールを使ったところ、この動画の女性と、ロシアのサンクトペテルブルクに住んでいるという女性のSNSのプロフィール写真に大きな一致があった。このSNSの女性の写真を検索すると、動画内の女性と同一人物のようだった。
この主張はフェイスブックやTikTok、テレグラムなどで拡散された。在英ロシア大使館も、「イギリスの税金の最高の使い道」というコメントと共に、この主張を共有した。
だが、このレシートは明らかに偽物だ。ゼレンスキー氏とゼレンスカ氏夫妻は、9月21日までにニューヨークを離れ、カナダへと移動している。
このうわさを広める中心となった英語ウェブサイトが、DCウィークリーだった。
BBCヴェリファイとクレムゾン大学の研究者らは、今年8〜12月にDCウィークリーに投稿された多くの記事が、同じようなパターンであることを突き止めた。
偽の記事の中には、「英王室のヨーク公アンドリュー王子がウクライナを極秘訪問した」、「ウクライナがイスラム組織ハマスに武器を提供した」、「アメリカのNGOがウクライナで臓器摘出を行っていた」、「ゼレンスキー政権がウクライナの農地に有害廃棄物の投棄を認めていた」、といったものがあった。
DCウィークリーの記事は、ユーチューブで疑惑の動画が出た数日後に掲載されることが多かった。
また、ヨットや宝飾品を含む偽情報は、DCウィークリーだけでなく、他の親ロ派の英語ウェブサイトや、「有料広告記事」を受け入れているアフリカの正規ニュースサイトにも掲載されていた。
偽情報のいくつかは、他のニュースメディアやアカウントにも拾われている。しかしDCウィークリーの背後にいる人々は、このヨットに関する記事で、以前には考えられなかったレベルの成功を収めたように見える。このうその疑惑は、米議会の有力者たちに繰り返されたのだから。
● ロシア 原油 石油製品輸出 欧州激減 中国 インドで80%以上に 12/27
ロシア政府は、主要産品である原油や石油製品の輸出のうち、40%程度を占めていたヨーロッパ諸国が激減し、ことしは中国とインドの2か国だけで80%以上に上るという見通しを示し、ウクライナへの軍事侵攻後、エネルギーの輸出先が大きく変化していることを明らかにしました。
ロシアでエネルギー政策を担当するノバク副首相は27日に放送された地元メディアとのインタビューでロシアの2023年の原油や石油製品の輸出で中国向けが45%から50%を占めたと明らかにしました。
さらに、ノバク副首相は「インドへの輸出はこれまでほとんどなかったがこの2年間で40%まで増えた」と述べ、中国とインドの2か国で輸出全体の80%以上を占めているとしています。
一方、ウクライナ侵攻前は40%から45%占めていたヨーロッパについては「4%から5%を超えることはない」と述べロシアのエネルギーの輸出先が大きく変化していることを明らかにしました。
アメリカ財務省はG7=主要7か国などによる制裁措置で、ロシア政府の石油などの税収は取引価格の下落などによってことし1月から11月までで、前の年の同じ時期と比べ32%減少したとしていますが、輸出先の変化が制裁の効果にどのような影響を及ぼすか、注目されています。
●「丸亀製麺」の評価は最低、「くそマズい」「味は確実に悪くなった」 12/27
国内最大手のうどんチェーンで、米国や台湾、東南アジアなど海外8カ国に進出している丸亀製麺。実は、ロシアでも店舗展開をしていたが、ウクライナへの軍事侵攻が始まった翌月の22年3月に現地の7店舗を閉鎖した。
「呼び名は『マル』。しかも、外観や内装は基本的に変えておらず、丸亀製麺のロゴが入った食器をそのまま使っています。唯一変えたのは、店の入口にあったロシア語での丸亀を意味する『MAPУKAMЭ』の文字看板などから『KAMЭ』の4文字を外したくらいですね。本家・丸亀製麺は提供システムや設備の使用などをいっさい認めていませんから、もはや『パクリチェーン』と言ってもいいでしょう」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
味はどうかと言えば、同店を訪れた日本人客からの評価は最低だ。ロシア旅行の際に実食ルポを行った旅行系ユーチューバーの中には、「くそマズい。うどんじゃない」と動画の中で酷評する者もいる。実際、「パクリチェーン」になってから複数回食べに行ったというモスクワ駐在員の男性も「味は確実に悪くなった」と語る。
「天ぷらなどの揚げ物はそこまで変わったという印象はありません。でも、麺は讃岐うどんらしいコシがなく、給食のソフト麺を劣化させたような感じです。なにより本家と違って茹で上げではなく、あらかじめ茹でてあるうどんがどんぶりに入ってカウンターに並んでいました」
さらに、汁に関しても丸亀時代に比べると別物だと、アサ芸ビズが報じている。
●「くそマズい!」という酷評も…ロシアの「パクリ丸亀製麺」は汁も麺も別物 12/27
国内最大手のうどんチェーンで、米国や台湾、東南アジアなど海外8カ国に進出している丸亀製麺。実は、ロシアでも店舗展開をしていたが、ウクライナへの軍事侵攻が始まった翌月の22年3月に現地の7店舗を閉鎖した。
だが、同社とフランチャイズ契約を結んでいた現地企業は「MAPУ」と名前を変え、現在も営業を続けているようだ。
「呼び名は『マル』。しかも、外観や内装は基本的に変えておらず、丸亀製麺のロゴが入った食器をそのまま使っています。唯一変えたのは、店の入口にあったロシア語での丸亀を意味する『MAPУKAMЭ』の文字看板などから『KAMЭ』の4文字を外したくらいですね。本家・丸亀製麺は提供システムや設備の使用などをいっさい認めていませんから、もはや『パクリチェーン』と言ってもいいでしょう」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
味はどうかと言えば、同店を訪れた日本人客からの評価は最低だ。ロシア旅行の際に実食ルポを行った旅行系ユーチューバーの中には、「くそマズい。うどんじゃない」と動画の中で酷評する者もいる。実際、「パクリチェーン」になってから複数回食べに行ったというモスクワ駐在員の男性も「味は確実に悪くなった」と語る。
「天ぷらなどの揚げ物はそこまで変わったという印象はありません。でも、麺は讃岐うどんらしいコシがなく、給食のソフト麺を劣化させたような感じです。なにより本家と違って茹で上げではなく、あらかじめ茹でてあるうどんがどんぶりに入ってカウンターに並んでいました」
さらに、汁に関しても丸亀時代に比べると別物だという。
「ロシアは寒いから塩分多めの味を好む人が多い。だからアレンジしたのもしれませんけど、かなりしょっぱくなりましたね。以前は毎回飲み干していましたが、MAPУになってからは残しています。でも、モスクワでうどんと天ぷら、飲み物が付いて1000円前後で食べられるお店は貴重だし、仕方なく通っている状態です」(前出・駐在員)
しょせんはパクリ。本家のクオリティを再現することは不可能なのだろう。

 

●モディ首相、24年にロシア訪問へ プーチン氏が招待 12/28
ロシアのプーチン大統領は27日、インドのジャイシャンカル外相とモスクワで会談した。同氏はプーチン氏の招待に応じて、モディ首相が2024年にロシアを訪れる意向だと述べた。
ロシア大統領府によると、プーチン氏は「アジアの伝統的な友人であるインドとの関係が進展している」と経済面などでの連携強化を強調した。モディ氏をロシアに招待すると述べた。
ジャイシャンカル氏はモディ氏が「24年のロシア訪問を望んでいる」と応じた。日程は今後詰める。両国間の貿易拡大や、原子力分野の協力にも言及した。
インドはウクライナ侵攻を続けるロシアの行動をあからさまに非難はしていないが「今は戦争の時ではない」などと戦闘の終結を繰り返し呼びかけてきた。
ジャイシャンカル氏はプーチン氏との会談に先立ち、ラブロフ外相とも27日に会談した。同氏は会見で「近代兵器の共同生産を含む軍事技術協力の展望について話し合った」と述べ、インドでの兵器の生産をロシアが支援する意向を示した。
●インド首相の訪露招請 プーチン大統領 12/28
ロシアのプーチン大統領は27日、モスクワを訪問したインドのジャイシャンカル外相と会談し、モディ首相の訪露を招請した。タス通信などが報じた。インドは、ロシアが来年の議長国を務める新興5カ国(BRICS)の加盟国。ウクライナ侵攻を非難し制裁を科す欧米と一線を画し、非欧米諸国との関係を強化するロシアの重要な相手国となっている。
会談でプーチン氏は、ウクライナ危機の外交的解決を唱えるモディ氏の立場を「知っている」と述べ、ロシアの立場をさらに詳しく説明すると述べた。ジャイシャンカル氏はモディ氏の親書を渡した。
プーチン氏は両国の貿易拡大を評価。ロシア原油輸出や高度技術協力などを重要分野に挙げた。
ジャイシャンカル氏はこれに先立つ同日、ロシアのラブロフ外相とも会談した。
●プーチン氏止めなければ欧州に高い代償、モルドバ大統領が訴え 12/28
モルドバのサンドゥ大統領はロシアのプーチン大統領によるウクライナ戦争を止めなければ、欧州全体が高い代償を払うことになると警告した。インタビューの内容が27日に報じられた。
同氏はプーチン政権をウクライナに隣接するモルドバの最大の脅威と位置付けている。
ルーマニアのメディアグループ、ベリディカに「プーチンを止められない限り(自ら)止まらないことを理解する必要がある」と述べた。
「プーチンを止めなければ、その代償はわれわれ全員にとってはるかに大きなものになる。最大の犠牲を払っているのはウクライナだ」と指摘した。
ウクライナへの援助継続は、同国とモルドバだけでなく全ての人の利益になるとし「世界の民主主義国の団結を信じている。ウクライナが必要とするあらゆる支援を受け続けることを願っている」と語った。
●「勝利は学校で培われる」ロシア大統領、教育見直し強調 12/28
ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は27日、「われわれの勝利の基盤は全て学校で培われる」とし、教育分野に一層力を入れる必要性を強調した。上下両院議長や地方知事らでつくる国家評議会の会合で述べた。長期戦の構えを示した発言とみられる。
プーチン氏は、学校こそが社会と国家を形成する基礎だと指摘。「勝つためにはもっと学校教育に注意を向けなければならない」と述べ、教員の待遇改善などを関係閣僚らに指示した。
今年が大統領令で指定された「教員と指導者の年」だったことに触れ「これは始まりに過ぎない」と強調。地方知事らが教育現場の改善に積極的に関わるよう求めた。
●ロシア最高裁が独立系候補の訴え棄却、大統領選出馬認められず 12/28
ロシア最高裁判所は、来年3月の大統領選について中央選挙管理委員会から立候補を認められなかったことに異議を申し立てた独立系の女性ジャーナリスト、ドゥンツォワ氏の訴えを棄却した。ドゥンツォワ氏が27日、通信アプリへの投稿で明らかにした。
中央選管は、無所属で出馬するために必要な推薦人団体の登録に関する書類に不備があったとして、ドゥンツォワ氏の立候補を受け付けなかった。
ウクライナ侵攻に反対しているドゥンツォワ氏は今後、「平和と自由、民主主義」を望む人々のための新しい政党を立ち上げる方針を表明。この構想は、現在代弁されていない何千万人ものロシア国民の声をくみ取る上で魅力的だとの見方を示した。
●ユーラシア経済連合とイラン、本格的な自由貿易協定を調印 12/28
ユーラシア経済連合(EAEU)とイランの自由貿易協定(FTA)が12月25日、ロシア・サンクトペテルブルクで開催された最高ユーラシア経済評議会(注)の会合で調印された。ユーラシア経済委員会(EEC)のミハイル・ミャスニコビッチ委員長、イランのアッバース・アリーアーバーディー産業・鉱山・貿易相、ロシアのアレクセイ・オベルチュク副首相のほか、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアの代表者が署名した。本FTAは、EAEU加盟各国とイランでの批准をもって発効する。2019年10月に発効した現行の暫定的なFTAに代わるものとなる(ユーラシア経済委員会ウェブサイト2023年12月25日)。
EECのミャスニコビッチ委員長によると、現行の暫定FTAでは関税引き下げもしくは撤廃の対象がごく一部の農産物と工業製品に限定されているが、新FTAでは全品目の約90%で関税が撤廃され、これら製品は相互貿易の95%以上を占める。暫定FTAの発効により、EAEUとイランの貿易額は2019年の24憶ドルから2022年の62億ドルへと大きく伸びたため、今回の本格的なFTA調印により一層の拡大が期待される。同委員長は、協定の全当事者にとりEAEUとイランの関係発展は優先事項であることを考えると、本FTAは近い将来、発効するだろうと述べた。
EECのアンドレイ・スレプニョフ理事(通商担当相)は、本協定によりEAEU加盟国は農業、鉱工業分野の幅広い製品をイラン市場に供給する有利な条件が得られるだろうと述べた。また、ロシアや中央アジアとイランを結ぶ南北国際輸送路(2023年5月12日記事参照)の開発の重要性にも言及した。イランのアリーアーバーディー産業・鉱山・貿易相は、本FTAが関係国間の貿易振興だけでなく、観光業発展の前提条件を作り出すことにも期待すると述べた。
なお、本FTAの調印に関しては、2023年12月7日にモスクワで行われたロシアのウラジーミル・プーチン大統領とイランのイブラーヒーム・ライーシー大統領の首脳会談の際にも協議され、2023年内の調印が予定されていた。
(注)EAEU加盟国首脳により構成され、毎年年末に総括の会合が開催される。
●ロシア黒海艦隊 すでに20%の損失!? 英国防相「確実な勝利めざす」 12/28
イギリスのグラント・シャップス国防相は2023年12月26日、ウクライナとの戦闘でロシア黒海艦隊の消耗率が20%に達していると強調しました。
この発言は、2023年12月26日未明に、ロシア占領下にあるクリミアのフェオドシヤ湾で、ロシア海軍のロプーチャ級揚陸艦「ノヴォチェルカスク」が攻撃を受けたという報道の後に、同国防相の公式X(旧:Twitter)に投稿されました。同艦は、イギリスやフランスから供与を受けた空中発射型のスタンドオフ巡航ミサイル「ストーム・シャドウ/SCALP-EG」による攻撃で、大きな炎をあげたと報じられています。
ウクライナは過去4か月間、黒海艦隊への攻撃を強めており、その攻撃は航行中、停泊中だけではなく、造船所で建造中の艦艇も含まれています。
損傷を受けたとされる艦艇も、今回の「ノヴォチェルカスク」と同じくロプーチャ級揚陸艦である「ミンスク」のほか、キロ級潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌー」、アドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲート「アドミラル・マカロフ」、情報収集艦の「イワン・クルス」、建造中だったカラクルト級コルベット「アスコルド」など多種多用となっています。
このような状況を受け、シャップス国防相は「ウクライナ戦争が膠着状態にあると信じている人々が間違っていることを証明している。彼らは過去4か月間にロシアの黒海艦隊の20%が破壊されたことに気づいていない」と公式Xで発言しています。
さらに、今後はイギリスとノルウェーが主導する新しいウクライナ海軍支援も始まっているということで「ウクライナが海上で確実に勝利できるよう支援している」と述べました。
●米、ウクライナに最大2.5億ドルの兵器提供 防空弾など=国務長官 12/28
ブリンケン米国務長官は27日、ロシアの侵攻を受けているウクライナに対し、防空弾や大砲弾などを含む最大2億5000万ドルの兵器を提供すると表明した。今年最後の支援となる。
ブリンケン氏によると、今回の支援策には高機動ロケット砲システム「ハイマース」用弾薬や対装甲弾薬などを含む1500万発以上の弾薬が含まれる。
これに先立ち、ホワイトハウスはウクライナに追加的に2000万ドルの支援を提供する計画を発表した。
●世界各国の混乱、責任は西側諸国に ロシア外相が批判 12/28
ロシアのラブロフ外相は、優位性を失いつつある西側諸国が世界を混乱に陥れようとしていると非難した。タス通信とのインタビューで述べた。
ラブロフ氏は「世界中で嵐が続いているが、その理由のひとつは西側の支配者層が他国民を犠牲にして自分たちの問題を解決するために国境から何千キロも離れた場所で危機を引き起こしていることだ」と指摘。「西側諸国が失われつつある優位性に固執しようとしている状況を踏まえると、誰も西側の地政学的陰謀から身を守ることはできない」と説明した。
また、中東情勢の緊張緩和を呼びかけ、テロ行為も「集団的懲罰」も「容認できない」と強調。「暴力の連鎖を断ち切り、何世代にもわたってパレスチナ人が苦しんできた不公正を無くすことが重要だ」と述べた。
ロシアが「特別軍事作戦」と主張するウクライナとの紛争について、ウクライナ側が和平協議に消極的だと再度批判した。
●スウェーデンのNATO加盟が一歩前進、トルコ外交委が承認 12/28
スウェーデンがNATO加盟に一歩近づいた。12月26日、トルコ議会の外交委員会が1年におよぶ遅延の末、西側軍事同盟への北欧国家の歴史的加盟を認める法案を承認した。トルコメディアが伝えている。ロシアによるウクライナ侵攻の中、スウェーデンが長年にわたる中立状態を終えるための一歩だ。
この後、トルコ議会の本会議が決定を承認する必要があるが、採決の日取りは決まっていない。
スウェーデンのトビアス・ビルストレム外相はX(旧ツイッター)に、同国がこのニュースを歓迎し、NATOのメンバーになることを楽しみにしていると投稿している。
NATO加盟のためには、加盟する31カ国が全会一致で承認する必要がある。トルコとハンガリーのみがスウェーデンの加盟に反対しており、ハンガリーはスウェーデンの申請を承認する手続きをまだ開始していない。
スウェーデンと同じ北欧のフィンランドはともに、ロシアによるウクライナ侵攻の後、歴史的な中立的立場を捨て、2022年にNATOへの加盟を申請した。フィンランドは2023年4月に加盟が認められたが、スウェーデンの加盟申請はトルコとハンガリーがそれぞれ手続きを遅延したため承認が遅れている。
トルコのエルドアン大統領はスウェーデン、フィンランド両国の加盟に反対し、特にスウェーデンに関してはトルコがテロリストと認定しているクルド人グループに寛容すぎることを懸念していた。昨年、トルコ、フィンランド、スウェーデンの3国は、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟し、スウェーデンが新たな反テロリズム法を施行することで合意した。しかし、スウェーデン国内の反イスラム、反トルコ抗議運動の中、承認は18カ月以上停滞した。エルドアン大統領は、米国がトルコにF-16の購入を認めれば、スウェーデンのNATO加盟を承認することを示唆している。
ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は先週、ハンガリー議会にスウェーデンのNATO加盟に関する採決を急ぐ「強い意志はない」と語ったとロイターが報じている。ハンガリーの首脳らは、スウェーデンがハンガリーに対し、民主的権利をむしばんでいると不当に批判し、ヴィクトルの権威主義的な傾向をしばしば批判してきたと発言した。ハンガリー議会は、2月中旬に再開すると報じられている。
スウェーデンの加盟が承認されれば、32カ国がNATO加盟国となる。 
●ミハルコフ氏ら選挙運動へ プーチン大統領陣営が登録 12/28
ロシア中央選挙管理委員会は28日、来年3月の大統領選に無所属で立候補するプーチン大統領を支持する選挙運動代理人計346人の登録を受け付けたと明らかにした。映画監督ニキータ・ミハルコフ氏やビオラ奏者バシュメット氏ら世界的に著名な文化人が名を連ねた。タス通信などが伝えた。
ほかに、ウクライナ侵攻後に愛国的な流行歌「俺はロシア人」で人気を得た歌手シャマン(本名ヤロスラフ・ドロノフ)氏、フィギュアスケート男子で2006年トリノ冬季五輪金メダリストのプルシェンコ氏らも登録された。
大統領選挙法によると、候補者は自身に代わって選挙運動ができる代理人を600人まで指名できる。
●「ロシアに領土割譲で戦争終結を」と、ウクライナに提言 12/28
ドイツの著名な政治家がウクライナに対し、ロシアとの戦争を終結させるために「一時的な」領土の喪失を受け入れるよう求めている。
ミヒャエル・クレッチマー・ザクセン州首相は12月20日、独誌『シュピーゲル』に対し、停戦と引き換えに東部4州などを占領された現在の国境をそのまま凍結することを検討するようウクライナ政府に提案し、23カ月に及ぶ戦争を「最終的に解決する時が来た」と訴えた。
「停戦の場合、ウクライナはまず、特定の領土に一時的に手が届かなくなることを受け入れなければならないかもしれない」と、クレッチマーは言う。「ウクライナの領土がロシア領になることはない。しかし、他の主要な紛争と同様、最終的な解決策を講じる時が来た」
クレッチマーはまた、対ロシア政策に関してドイツ政府に「Uターン」を促し、ロシアはドイツにとって「危険で予測不可能な隣人」であり、ドイツが立場を弱めれば「さらなる紛争の基礎を築くことになる」と警告した。
「侵略はウクライナで止まらない」
「残念ながらドイツ政府の基本姿勢は、交渉はしない、ただ武器を配れ、というものだ」とクレッチマーは述べた上で、アメリカの議員たちは状況をもっとよく理解し、「この方法では戦争に勝てない」ことを理解していると示唆した。
これに対しウクライナ外務省のオレフ・ニコレンコ報道官は、12月27日のフェイスブックでクレッチマーの発言を非難し、領土で譲歩すればロシアからの「さらなる侵略を招くだけだ」と主張した。
「ウクライナが一時的にでも領土を失うことになれば、ロシア軍はドイツ、特に東の端のザクセン州に近づくだろう」と、ニコレンコは言う。「領土の割譲は必然的にロシアのさらなる侵略につながり、それは間違いなくウクライナの国境を越えていく。ヨーロッパの平和はロシアの敗北にかかっている。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は昨年、ウクライナのドネツク、ヘルソン、ルハンスク、ザポリージャの4州を併合すると発表した。国際的には認められていないが、戦争が続く中、これらの州はすべてロシアの支配下にある。
またニューヨーク・タイムズ紙は12月23日、プーチンは停戦のための「取引をする用意がある」と報じた。プーチンは外交的な裏ルートを通じて、国境を現在の位置のまま凍結する条件で戦争を終結させる意向を示しているとされる。
ウクライナは、自国の領土を少しもロシアに渡す気はないと明言している。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、2014年にロシアが不法に併合したクリミア半島も含めてすべてを奪還するまで戦争は終わらないと繰り返し宣言している。
●ウクライナ外相「ヨーロッパ諸国は戦争戦い方知らない」不満も 12/28
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナのクレバ外相は、地元メディアとのインタビューで欧米からの軍事支援に感謝の意を示した一方、「ヨーロッパ諸国は戦争の戦い方を知らない」などと述べて不満も示し、支援の強化を求めました。
ウクライナ空軍は28日、南部ザポリージャ州などでイラン製の無人機8機によるロシア軍の攻撃をうけ、このうち7機を撃墜したと発表しました。
一方、ウクライナのクレバ外相は地元メディアの「キーウ・インディペンデント」が27日に掲載したインタビューで、欧米からの軍事支援に改めて感謝の意を示しました。
そのうえで「ヨーロッパ諸国は戦争の戦い方を知らない。残念ながら私たちの友人は武器や弾薬の生産をいつ、どのように増やすかを議論することに、あまりにも多くの時間を費やしてしまった」と述べて不満も示し、軍事支援の強化と迅速な対応を求めました。
ウクライナ軍は、砲弾が不足していることや最新鋭の兵器が足りていないなど軍事支援が十分でないことでロシア軍との戦闘で戦術の変更も余儀なくされるなど、不利な状況に立たされているとしています。
一方のロシア側は兵力や無人機を含む兵器の増強を進めていて、クレバ外相の発言はアメリカによるウクライナ支援の先行きも見通せない中で、いらだちを示すとともに改めて支援の強化を訴えた形です。
●厳しさ増す冬の戦い〜ウクライナは戦い続けられるか 12/28
ウクライナ軍は反転攻勢の作戦で成果を上げられず、戦闘は今こう着状態に陥っています。ウクライナの兵士や国民の間にも「戦争疲れ」が見え始め、アメリカからの軍事支援が途絶えてしまうことへの懸念も強まる中で、厳しい冬を迎えたウクライナの戦いはこれからどうなるのか。ウクライナの戦いの現状と課題を考えます。
不発に終わった反転攻勢
2023年6月から半年をかけたウクライナ軍の反転攻勢の作戦は、欧米から供与された兵器などで武装した大規模な地上兵力がザポリージャ州を一気に南下してロシア軍を東西に分断する計画でした。しかし、前進できたのは極わずか。現地は厳しい冬を迎えて戦況はこう着状態に陥って、東部ではロシアが攻勢を強め、ウクライナ軍が後退を余儀なくされるところもでています。
こう着打開に向けた課題
戦闘の現状について、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は先月、公表した論文の中で、「戦場は、互いに塹壕から砲撃しあう“陣地戦”に陥っており、これを脱しなければ戦争は長期化し、国力でまさるロシアが有利になっていく」と訴えました。
ウクライナが保有する欧米の主力戦車などは、部隊が素早く移動しながら攻撃する“機動戦”でこそ威力を発揮しますが、動きが止まってしまっては、強みは失われてしまうのです。
論文は、反転攻勢が失速した要因も具体的に指摘していて、それはどれも、こう着状態を打開する上でウクライナ軍が乗り越えるべき課題でもあります。最大の課題とされたのは、▽ウクライナの想定を大きく超える規模の“地雷原”の存在です。中には幅20kmにもわたって続く地雷原もあり、処理をしてもすぐに別の地雷が敷設されてしまいます。
そして、「航空優勢」(いわゆる制空権)がとれないことも苦戦の理由です。制空権がない中では、ウクライナの地上部隊は味方の戦闘機から援護をえられず、ロシア軍からの砲撃にさらされて、前進ができないのです。
また、「欧米からの軍事支援の遅れ」も苦戦の要因です。各国の供与決定の判断が遅く、 必要な時に兵器が届きませんでした。その最たるものが、F16戦闘機です。
ウクライナ軍の主力ミグ29がロシア軍最新のスホイ35などと対峙した場合、ミグが搭載できるミサイルは射程が短いため、危険をおかしてロシア側の射程圏内に入らなければ相手にミサイルは届きません。これがF16なら、相手の射程圏外からミサイルを発射でき、ロシア軍の拠点なども効果的に攻撃できる可能性が高まります。F16はオランダやデンマークが8月に供与を決め、最近になってようやくオランダが18機を引き渡す準備を始めました。今も続くパイロットの訓練がいつ終わり、F16がいつ実戦に投入できるのか注目されます。
さらに、大量の兵士を捨て駒のように使う、いわゆる「人海戦術」もウクライナ軍を苦しめてきた要因です。突撃兵が波のように次々と押し寄せることで、迎え撃つウクライナ兵は疲弊し、弾薬の消耗を強いられるのです。自軍の兵士の犠牲をまったく意に介さないロシア側の戦術にどう対応するかも課題になっています。
“戦争疲れ”を克服できるか
さて、戦争に終わりが見えない中で、ロシアに対する徹底抗戦を支えてきた兵士や国民の間には、“戦争疲れ”が見え始めています。塹壕にこもるなどして戦い続ける兵士たちは、極度の緊張と疲労にさいなまれています。弾薬不足も深刻で、戦闘の現場からは、「すべての戦線で砲弾が足りなくなっている」「守勢に転じざるをえない」といった声がメディアを通じて伝えられています。ウクライナに送られるはずの弾薬がイスラエルに送られていることが影響しているとの指摘もあります。
こうした中、ウクライナ国内では、賄賂によって徴兵逃れをはかるケースや成人男性の国外逃亡も後を絶たず、ウクライナ軍は兵員の確保という課題にも直面しています。ウクライナの60歳以下の成人男性は原則、出国が禁じられていますが、開戦以来2万人以上が不法に国外に逃れようとして身柄を拘束されたとイギリスBBCは伝えています。戦争の長期化に備えて兵力を維持するには、50万人規模の追加動員が必要との指摘もあり、ウクライナ政府は、徴兵の最低年齢を27歳から25歳に引き下げる法案を議会に提出しました。ただしこれは、国民にとって非常にセンシティブな問題です。
一方、戦場から遠く離れた都市部もミサイル攻撃にさらされ続け、戦況も好転しない現状は、国民の心理にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
ウクライナで今月行われた最新の世論調査によると、「戦争の長期化などにつながるとしても、決して領土を手放すべきではない」との回答が74%でした。国民の大半は依然として、クリミアを含め侵略された全ての領土の奪還まで戦い続けることを支持しています。しかし、過去1年の推移をみると、今年2月の87%をピークに徐々に減り続けています。「領土の一部放棄もありうる」との回答は1年前の2倍以上の19%と、交渉による解決を望む声が少しずつ増える傾向にあります。
市民の苦境に追い打ちをかけるように、ロシアはこの冬再び、ミサイルやドローンを使って、都市や電力などのインフラへの攻撃を強めています。ウクライナ国民は侵略に抗う強い意志を持ち続けることができるのか、試練の冬です。
鍵握るアメリカの軍事支援
仮にウクライナの人々が意志を保てたとしても、手段がなければ戦い続けることはできません。そこで最大の鍵は、“支援疲れ”も指摘されるアメリカからの軍事支援の行方です。
最大の支援国アメリカは、600億ドル(およそ8.6兆円)という巨額のウクライナ支援予算案が野党共和党の反対で議会の承認が得られないまま年を越します。
ブリンケン国務長官は、年内最後の軍事支援の発表にあわせて、「議会は可能な限り迅速に行動することが緊急の課題だ」と述べ、予算承認を重ねて求めました。
ゼレンスキー大統領は「アメリカは裏切らないと確信している」と述べていますが、このまま議会の承認がえられなければ、支援の予算は枯渇します。そうなれば、アメリカからの軍事支援が途絶え、ウクライナは戦争の継続が極めて難しくなります。
それは、この戦争でロシアが勝利することを意味します。
「ウクライナ敗北の高い代償」
そのような結末は、世界にどのような影響を及ぼすでしょうか。
戦況の分析を続けるアメリカの戦争研究所は今月、『ウクライナ敗北の高い代償』と題する報告書を発表しました。その中で「欧米が支援を打ち切り、ロシアが勝利した場合、ロシア軍の兵力がNATOとの境界線にまで迫る恐れがある。アメリカは大規模兵力のヨーロッパ配置を余儀なくされ、そのコストは天文学的なものとなるだろう」と指摘しました。さらに「世界でアメリカの抑止力は低下し、中国の台湾侵攻が起きた場合のアメリカの対応能力も大きく損なわれるほか、ロシアが勝利すれば、アメリカに敵対する国々に有利な世界秩序が再形成されることになる」と強く警告しています。
世界の秩序に関わる問題
年を越して続く戦いの行方を見通すのは難しく、ロシアの侵略に抗おうとするウクライナの人々は今、極めて厳しい状況に直面しています。そうした中でもウクライナは戦い続けることができるのか。それは、世界の将来や秩序にも関わる問題です。他国の国土を蹂躙し残虐行為を続ける側が勝者となる事態を避けるためにどう行動するのか、アメリカをはじめ国際社会の対応が問われています。
●パリ五輪「団結と平和の象徴に」 IOCバッハ会長が期待 12/28
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は28日、新年へ向けたメッセージ動画を公開し、夏に迎えるパリ五輪について「世界的な団結と平和の象徴として、大きな自信を持っている」と期待を込めた。
IOCは今月、ウクライナに侵攻したロシアと同盟国ベラルーシの両国勢について、個人の「中立」選手としてパリ五輪への参加を容認した。また、パレスチナ自治区ガザ情勢が緊迫するなど、国際社会の分断が深まっているとして「五輪が平和的な競争の中で全世界を一つにすることを切望している」と述べた。
コンピューターゲームなどの腕を競う「eスポーツ」の新設大会にも意欲を示した。
●首相、G7議長としてFOIP推進 新興国と緩やかな連携 政治回顧2023外交 12/28
今年、岸田文雄首相は先進7カ国(G7)議長を務めた。ロシアによるウクライナ侵略が長期化する中、法の支配を柱とする「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進し、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国を引き寄せて連携の輪をつなぐことに注力した。中国は覇権主義的な動きを強め、中東情勢も深刻化している。国際秩序の維持に向けた日本の取り組みは今後も続く。
「各地で分断と対立が深まり、世界が複合的な危機に直面する中、日本は『自由で開かれたインド太平洋』の要であるASEAN(東南アジア諸国連合)とともに立ち向かっていく」
今月17日、首相は都内で開催した日ASEAN特別首脳会議後、共同議長を務めたインドネシアのジョコ大統領とともに記者会見に臨み、こう強調した。
共同声明は、日ASEAN双方が「(民主主義や法の支配などの)原則を堅持する世界を目指す」と明記した。政府関係者は「ASEANには中国への依存度が高く、中国に気を使わなければならない事情を抱える国もあるが、原則や思想的な部分で一致できた」と語る。
首相は今年、FOIPの再浸透を図った。ロシアのウクライナ侵略で国際秩序が揺らいでいるにも関わらず、グローバルサウスの国々の国連などでの対応はロシアとの距離感を反映し、ばらつきがあったからだ。
「FOIPの考え方は、さまざまな声を受け入れて柔軟な形で発展してきた。国際社会を分断と対立ではなく協調に導くという目標に向けて、従来以上に重要になっている」
首相は3月、訪問先のインドでFOIPの新たなプランを打ち出した。インドを不可欠なパートナーと位置付けた上で、太平洋島嶼(とうしょ)地域などとも共通認識が持てるよう、気候や国際保健といったテーマを新たに強調した。
首相はインドでの日程を終えると、同行記者団の目をかいくぐって極秘裏に移動し、ポーランド経由でウクライナを電撃訪問した。首都キーウでゼレンスキー大統領と会談し、連帯と揺るぎない支援を伝えた。
上半期のハイライトは、5月に自身の地元で開いたG7首脳会議(広島サミット)だろう。
インドのモディ首相やブラジルのルラ大統領、ジョコ氏らグローバルサウスの国々の首脳とともに、ゼレンスキー氏を招待した。ウクライナ問題に関しては欧米とグローバルサウスには温度差があり、G7首脳の中には対立を懸念する意見もあった。だが結果的に、招待国も含め、法の支配に基づく秩序の維持という点で合意でき、メッセージを打ち出すことに成功した。
サミット後、首相が個別に各国首脳と会談した際には「広島サミットはグローバルサウスのアプローチもゼレンスキー氏を招いたこともよかったといわれた」(外務省幹部)という。
首相は8月にはバイデン米大統領の招きで、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領とワシントン郊外の大統領山荘キャンプデービッドを訪れ、日米韓首脳会談を開催。安保協力を「新たな高み」に引き上げることで一致した。
一方、下半期の焦点が対中外交だった。
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に反対する中国は、処理水を「核汚染水」と称して、国際会議などで対日批判を展開。海洋放出開始後、日本産水産物の輸入停止措置に踏み切った。
首相は11月、米サンフランシスコで中国の習近平国家主席と約1年ぶりに会談し、科学的な根拠に基づく冷静な対応と日本産食品輸入規制の即時撤廃を強く求めた。処理水を巡る問題については、対話で解決を目指す方向で一致したが、専門家による協議の枠組みはまだ設定されておらず、両国の事務レベルで引き続き協議する。
首相は来年1月に南米訪問を検討していた。だが、自民党派閥パーティー収入不記載事件もあり、取りやめる方向だ。来年の外交を戦略的に展開するためには、政権の安定が欠かせない。

 

●ロシア大統領選、「反戦」候補を中央選管が登録 10万人署名集めへ 12/29
ロシア中央選挙管理委員会は28日、反戦を訴えてロシア大統領選への立候補を届け出たボリス・ナジェージュジン氏の陣営を登録した。ロシアの経済紙コメルサントなどが伝えた。ウクライナ侵攻を「致命的な誤り」と批判し、今後、正式な立候補に必要な10万人の署名集めを目指す。
ナジェージュジン氏は23日、中央右派の政党「市民イニシアチブ」で大統領選の候補者に選ばれた。登録が認められたことで、銀行口座を開設し、政党からの立候補に必要な10万人の署名集めが可能になる。
コメルサントによると、ナジェージュジン氏は「プーチン氏は(政権を)去る必要がある」とプーチン大統領を批判。ウクライナでの軍事行動を致命的な誤りだとして、「軍国主義と孤立の道を進む国には、未来の計画が必要だ」と主張している。
ロシア大統領選の投票は来年3月15〜17日に実施され、現職のプーチン氏の当選は確実な状況だ。リベラル系のエカテリーナ・ドゥンツォワ氏も立候補を届け出たが、中央選管は23日、書類に不備があったして陣営の登録を拒否していた。
●プーチン大統領 インド外相と会談 欧米に対抗する構え鮮明に 12/29
ロシアのプーチン大統領はインドの外相と会談し、欧米諸国が制裁を強める中でもインドとの経済関係を強化する考えを示すとともに、モディ首相をロシアに招待しました。ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、欧米に対抗する構えを鮮明にしています。
ロシアのプーチン大統領は27日、モスクワを訪問したインドのジャイシャンカル外相と会談し、「両国の貿易は拡大している。第1に原油や石油製品などエネルギー関係だが、それだけにとどまらない」と述べ、欧米諸国がロシアへの制裁を強める中でもインドとの経済関係を強化する考えを示しました。
そのうえで、プーチン大統領は「友人であるモディ首相とロシアで会うことをうれしく思う。両国関係の発展について話し合えるだろう」と述べたのに対し、ジャイシャンカル外相も「モディ首相は来年、ロシアを訪問したいと心から思っている」と応じました。
プーチン大統領はインドなど新興国や途上国、いわゆるグローバル・サウスの国々との関係強化を目指していて、ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、欧米に対抗する構えを鮮明にしています。
また、ラブロフ外相はロシア外務省が28日に公開した国営タス通信のインタビューの中で、「ウクライナ軍の反転攻勢は失敗したにもかかわらず、欧米側はウクライナに兵器を投入し続けている」と批判しました。
そして、ロシアがことし2月に一方的に履行を停止し、2026年に失効するアメリカとの核軍縮条約「新START」をめぐり、「アメリカが反ロシア政策を放棄しないかぎり対話は不可能だ。アメリカやその同盟国はロシアに戦略的な敗北を与えるという意図を隠そうとしていない」と述べ、現状では米ロの間で新たな核軍縮条約について交渉ができる環境にないとしてアメリカ側をけん制しました。
●謎に包まれたロシア兵器生産能力 プーチン大統領が増強指示 12/29
冬期を迎える中、ウクライナ紛争はどうなっていくのか?鍵を握るとされる機甲戦力と損害、さらにロシアの戦車生産状況を中心に専門家が分析した。
1) 消耗戦の鍵 謎に包まれたロシアの「兵器生産能力」専門家が分析
ウクライナの戦いで鍵を握るのが、戦車や歩兵戦闘車などの機甲部隊だ。
欧米が提供した戦車と圧倒的な数を誇るロシア軍の戦車がどう戦いに影響するのか?
ウクライナ軍は、欧米から提供された「レオパルト2」91台、「チャレンジャー2」28台、「M1エイブラムス」も一部が届いているとみられ、保有台数は1577台、約3分の1は欧米が提供した戦車とされる。一方、ロシア軍は「T-90」や「T-80」など旧ソ連時代の古い戦車を含め保有台数は3417台と見られる。
性能で優位だと期待されていた欧米の戦車は、戦場で活躍できたのか?
元統合幕僚長の河野克俊氏は次のように分析する。
「ウクライナは欧米の戦車の支援を期待して攻勢をかけたが、結果として攻勢は進まなかった。大平原での戦車同士の戦闘では性能のいい方が勝つが、一方が防御し一方が攻撃する“非対称戦”は性能よりも物量や戦地の状況次第となる。戦車本来の能力を発揮できず、期待したほどの成果が上がっていないのが現状だ」
長谷川雄之氏(防衛研究所米欧ロシア研究室)は、
「西側の戦車は装甲が厚く、ウクライナ軍の人員の損耗を防ぐという成果を挙げた面はある。今回の紛争はドローンで戦車を上から攻撃するなど現代戦の複合的な要素があり、西側の戦車も初めて経験する戦闘様相なのかもしれない」と指摘した。
2) 両軍の戦車の損失はとロシアの戦車の生産体制は?
オープンソースのデータによると戦車の損失状況は、ウクライナ軍は1577台中701台、約44%を失い、ロシア軍は3417台のうち2571台、約75%を失ったとみられている。歩兵戦闘車はウクライナ軍が約26%の損失、ロシア軍が約84%の損失とみられる。
長谷川氏は、「開戦当初からロシア軍側は非合理的な軍事作戦を展開し損耗率は非常に高い。しかし旧車輌のストックなどを大量に保有し、また軍事産業も再び活性化しており、再び前線に配備してくる可能性がある」と分析する。
ドローン攻撃により両軍の戦車の消耗は加速しており、戦車の生産が重要となる。ロシアの軍事産業に詳しいジャーナリストのマリンズ氏は、ロシアの軍事企業が生産を拡大し損失を補填しているとして、
「ロシアは今年、旧式の改修を含めると500〜550台の戦車を生産した可能性がある。装甲車などを含めると戦線に2000台の車両を配置したことになる」と指摘している。
マリンズ氏が特に重要だと指摘する企業が次の3社だ。
「ウラルワゴンザボート」はロシア最大の戦車メーカーで「T-72」や「T-90」、最新の「T-14アルマータ」など主力戦車のほとんどを製造している。
同社の関連会社でシベリアに本部を置く「オムスクトランスマシュ」は冷戦時代の「T-80」製造で知られている。
両社で、今年、220から280台の戦車を製造した可能性があるとされる。
さらに、ロシア唯一の歩兵戦闘車メーカー「クルガンマシュザボート」は、雇用を1000人増やしたとの情報がある。
マリンズ氏は、「わずか4年前には、ロシアの軍産複合体の80%以上が破産手続き中だった」が、「ウクライナ侵攻後、120億から150億ドルを超える多額の投資を行い生産体制を強化した」と指摘している。
12月23日に兵器工場を視察したプーチン大統領は、「軍産複合体の最も重要な任務は我々の部隊に必要なすべての「武器」「装備」「弾薬」「物資」を必要な量だけ求められる品質で可能な限り短期間で提供することだ」と発言、さらに「現在 多くの企業が実質的に3交代制で働いており、特に高度な資格を持つ専門家が不足していることは私たちも理解しているし皆さんもおそらくご存知だろう。いくつか取り組むべきことがある。まずは賃金が魅力的でなければならない」とした。
また、政府の要求に応えられない企業に罰則も設けたという。
朝日新聞論説委員の駒木明義氏は、「ロシアはここまで大量の戦車を使う戦闘は想定しておらず戦車の生産能力が落ち込んでいた。しかし来年の国防予算では軍事生産能力の増強にかなり力を入れている。予算や工場生産体制や軍の定員を増やすということは目標達成までは長期的な戦時体制を築いていくという姿勢が表れている」と分析した。
長谷川氏は次のように分析した。
「2020年の新型コロナ時の政治体制からウクライナとの戦争までの連続性がある。ロシアのミシュスチン首相は実務的能力が高い人物で、モスクワのソビャーニン市長と共にコロナ対策チームを率いており、今回の戦争で「調整会議」という形で引き継がれている。彼らは以前から地方の首長とも連携しながら、ワクチンやマスクの用意など戦時に近い医療提供体制を構築してきた。
さらに大統領に付属する「軍需産業委員会」をプーチンの信頼があつく非常に優秀なバントゥーロフ産業通商大臣が率いている。調整会議と軍需産業委員会が連携して1年10か月で生産体制を強化してきている」
3) ロシアの兵器の性能は?
一方で、ロシアの兵器の問題も指摘されている。
「T-80戦車」は1975年に生産を開始し1991年にいったん新規生産が終了しているが、ロシア政府が生産再開を指示したと報じられた。しかし、新規に0から生産するのはかなり難しいという指摘があり、現在は倉庫にストックされた車体や部品を組み合わせて生産しており、照準器の部品はフランス企業から調達しているとも報道されている。
アメリカの雑誌「フォーブス」は、ロシアが制裁を回避してフランス製の部品を入手したか、旧式の質の低い照準器を取りつけているとして、性能が落ちている可能性があると指摘している。
長谷川氏は、「ロシアは設計図通りではない質の低いものでも製造し戦場に送りこもうとしており、またおそらく第三国を経由して西側の軍需製品や、軍需転用可能な製品が入ってきているのだろう」と指摘する。
河野氏は、「装備の近代化は、古い装備を一気に近代化することはできず新旧が混在しながら徐々に近代化させていくのは世界各国でみられる状態だ。一方でウクライナ軍もF-16戦闘機もパイロットなどを訓練中の状態で、まだ西側の新鋭兵器や装備を使いこなすには時間はかかる状態だ」と述べた。
ジャーナリストの末延氏は、「日本も国連安保理決議案で北朝鮮に制裁をかけているが、日本の部品が北朝鮮に入ったり自衛隊が廃棄した装甲車が東南アジアで使用されたりという抜け道は必ずあるのだろう」と述べた。
4) ウクライナ侵攻でロシアが失ったものとは?
2023年も終わるなか、小泉悠氏(東京大学先端研究所准教授)は今回のウクライナ侵攻で、プーチン大統領とロシアが大きなものを失ったと指摘した。
「プーチン大統領が失ったものは、ロシアの将来。ロシアの衰退がとてつもなく急激に進んだ。中国やインドとかの関係はもっているが、本来一番大切なパートナーである西側との関係が壊れた。これはプーチン大統領のせいでロシアが失ったものだ」
駒木氏は次のように分析した。
「ロシアは未来を失った。特に若い人たちが今のロシアに住み続けて、どう未来を描き希望が持てるのか。欧州はロシアから石油やガスを買うことはもうできず、ロシアは中国やインドに売らざるを得ない。プーチンは中国との関係を築いたと誇るが、中国は安く資源を売ってくれる自国に都合のいい存在だとみている。カザフスタンやアルメニアは失望し、モルドヴァはEUに向かっている。旧ソ連の勢力圏の国々の信頼も完全に失ってしまったといえるだろう」
2024年はアメリカやロシアでは大統領選も実施される。
長谷川氏は今後のウクライナ情勢を次のように述べた。
「グローバルな戦略環境がどう動いていくのか。アメリカもロシアが弱体化していると認識し、中国に集中する可能性がある。すると米中関係が主になり、ウクライナが陰に隠れていく。ウクライナにとって米国の軍事支援は今一番重要なものだ。今後数カ月、アメリカが今の支援の水準を維持していくのかに戦局はかかっているのではないか」
●親プーチンの政治家、自宅の中庭で遺体発見 西シベリア 12/29
ロシア中部、西シベリアのチュメニ州トボリスクで、プーチン大統領率いる与党「統一ロシア」の政治家が死んでいるのが見つかった。
現地のメディアが28日に報じたところによると、死亡したのはトボリスク市議会のウラジーミル・エゴロフ副議長(46)。27日に自宅の中庭で遺体が見つかったとされる。
ロシア経済紙コメルサントは州捜査当局者の話として、事件性を示す外傷などはなかったと伝えた。死亡時の状況に関する情報は未確認で、司法解剖が進められているという。
国営タス通信も死因は捜査中と報じた。
一方、トボリスク市議会はSNSを通し、エゴロフ氏が事故で亡くなったと発表。ウクライナへの「特別軍事作戦」に参加する軍要員や家族を支援してきた業績などをたたえた。
ロシアでは著名な政治家、実業家らの自殺や不審死が相次いでいる。
●「プーチン氏和平望んだ」と証言 交渉団参加のウクライナ元次官 12/29
ロシア紙RBK電子版などは28日、ロシアの侵攻を受けるウクライナの外交官として、停戦を模索する昨年3〜4月の交渉団に参加していたオレクサンドル・チャルイ元外務次官が、プーチン大統領は当時「本当に和平合意を望んでいた」と証言したと報じた。
ロシアとの交渉を拒むゼレンスキー政権の対応に、ウクライナ側でも懐疑的な見方があることを示した。
チャルイ氏は今月スイス・ジュネーブで行われた討論会で、昨年4月末に戦争終結の合意に非常に近づいたが「何らかの理由で延期された」と述べた。
同3月末にトルコ・イスタンブールでまとまった和平合意案はプーチン氏の指示によるものだったとした。
●「戦争で軍人が命を賭けているのに」…ロシアのセレブ「半裸パーティー」 12/29
戦争中に「半裸パーティー」を楽しんだロシアの有名人が政界や世論から激しい非難を浴びている。
27日(現地時間)、英国BBC放送によると、ロシアのブロガーで放送人のNastya Ivleevaは20日、モスクワのあるクラブで「半裸」をコンセプトにしたパーティーを開いた。
パーティーは非公開で行われたが、扇情的なコスチュームでパーティーを楽しむ参加者の様子はソーシャルメディア(SNS)で共有されて世論の公憤を買った。
特にウクライナ戦争を支持する政府寄りのブロガーや政治家、活動家は「軍人が戦場で命を賭けている最中に有名人がこのようなパーティーを楽しんでいる」と言って非難の声を高めた。
当局の制裁も世論に続いた。裸に長い靴下をまいただけの姿でパーティーに出席したラッパーのVacioは風紀紊乱容疑で15日間拘禁された。また「非伝統的な性関係を助長」したという容疑で20万ルーブル(約31万円)の罰金が言い渡された。
一部の市民はパーティーを主催したNastyaがウクライナ戦争参戦者後援団体「祖国の守護者財団」に10億ルーブル相当を寄付するよう要求して集団訴訟まで起こした。現在この訴訟には20人ほどが原告として参加した状況だとBBCは伝えた。
パーティーに出席した他の有名人も予定されたコンサートが中止になるか広告の契約が打ち切りになった。31日に放送される予定だった新年特番の事前録画から出演分量が編集される場合もあった。これに対して一部参加者は公開的に謝罪したり、自分は半裸の服を着ていなかったなどと説明したりした。
パーティーの主催者であるNastyaはインスタグラムを通じて「ロシア国民の皆様にもう一度機会をくださるようお願いしたい」とし「もしこれに対する答えが『NO』なら、私に対する大衆の処罰を受ける準備ができている。恥ずかしい退き方はしない」と話した。
BBCによると、世論から袋叩きにされた有名人はプーチン大統領が導く現政権とウクライナ戦争を支持しながら今までロシア内で問題なく活動してきた人々が大部分だ。
ロシアから亡命した野党圏活動家のマクシム・カッツ氏は今回の事態に関してSNSに「過去には今回のパーティー参加者のような人々に対して『国家に忠誠を尽くす限り、やりたいことは何でもしていい』というような社会的合意があった」とし「だが今はもう(ロシア人の)生き方はこれ以上パーティーではない。戦争を行っている国では軽率にパーティーを開くことはできない」と投稿した。
●ウクライナ侵攻 欧米政府の焦点は「完全勝利から戦争終結交渉に」 米報道 12/29
アメリカメディアは、長期化するロシアによるウクライナ侵攻について、欧米政府がウクライナの「完全勝利」から戦争終結交渉に焦点を移しつつあると伝えました。
アメリカの政治メディア「ポリティコ」は、バイデン政権高官と欧州外交官の話として、ウクライナが目標とするロシアから全ての領土を奪還する「完全勝利」への支援について、欧米政府が見直しを検討していると報じました。
欧米政府は、戦争終結に向けた交渉でウクライナを優位に立たせることに焦点を移しつつあると伝え、「これはウクライナが領土の一部を明け渡すことを意味する」としています。
また、反転攻勢で苦戦するウクライナ軍を東部に再配置し、ロシア軍への防御態勢をより強化することも議論しているということです。
一方、ロシアのラブロフ外相は28日、「西側諸国はロシアに戦略的敗北をもたらすことに完全に失敗し、戦略を変えつつある」と言及しています。
●厳しい経済制裁でもロシア経済が悪化しないワケ 2/29
日本経済のGDP(国内総生産)が50年ぶりに順位を落とし、ドイツに次いで4位へランクを下げるという。これはあくまでドルベースで比較した数字である。
著しい円安によって、日本経済の衰退は、世界ではその実態より低く見られている。円ベースで考えると実は上昇していて、600兆円近くになっている。日本の円換算で見ると、経済はわずかだが成長しているともいえる。
もっともGDPという指標は、受験生の偏差値が本当の学力を意味しないように(少なくとも試験の内容が違う外国では通用しない、日本だけの学力ともいえる)、国の本当の経済力を意味しているわけではない。
国力はかさ上げできる
アメリカのように基軸通貨ドルを発行し続ける国は、いくらでもGDPをかさ上げすることができるし、ドル高調整を行うことも可能だ。国際的ランキング比較の好きな日本人にとって、毎年公表されるGDPランキングは、大学入試の偏差値のように一喜一憂する格好の材料ではある。
しかし、GDPだけ見てその経済力を比較すると思わぬ落とし穴に落ちることになる。あくまでも、これはある側面だけを切り取っている経済力にすぎず、本当の実力とはいえないからだ。
日本の偏差値が、国際社会で通用しないように、国際社会での経済力は、ランキングの上下で決まるようなものではない。国家の経済力は、きわめて多様な要素が重なりあった、いわば単純な強さのランキングではないのだ。
40年以上前、私は東欧のある社会主義国に留学していた。ドルベースの為替レートで計算すると、その国の1人当たりの所得は、日本人の所得の5分の1以下にすぎなかった。
しかし、生活水準のレベルで考えると、日本に比べてそれほど劣っているわけではなかった。この国の中だけで暮らせば、結構水準の高い生活を維持できていた。もちろん海外に出たり、海外から輸入品を購入すると、その支出は高額なものとなり、生活レベルは急激に落ちていく。
国内製の製品でまかなえば、自動車も電機製品もその質はともかく、一応そろっていた。もちろん、ガソリンやコーヒーなどの海外でしか生産できないものは代替不能で、そのぶん当時ドル高による原料価格の高騰に悩まされていた。
この当時のソ連東欧のコメコン(経済相互援助会議)がアジアやアフリカまで拡大し、ドルではなく、すべてルーブルで購入できるほど範囲が拡がっていれば、石油もコーヒーも安価で買えたのだろう。
だが、ドルが国際通貨であったため、アメリカと西欧は、ソ連と東欧にドル不足という厳しい経済的締め付けを行ったのだ。それがアメリカのレーガン政権による利子率上昇であった。
利率が高いことでアメリカのドルが強くなり、借りていた借金の利子が増え、何も輸入できないという現象が起こったのだ。これは一種のアメリカによる経済制裁であった。
1990年代、世界がルーブル決済できていたら? 
これによってソ連・東欧経済は崩壊するのだが、もしソ連・東欧が中国・インド・ブラジル・トルコなどと、当時ルーブル決済できていたらどうなっていたのであろうか。
もしルーブル決済で当時のGDPを測れば、日本との5倍のGDPの1人当たりの格差も実際は2倍弱となり、ソ連・東欧諸国はGDPランキングが劣位の後進的地域ではなかったということになる。
まさにこの問題こそ、アメリカと西欧によるロシアや中国への経済制裁が現在まったく機能していない原因であるし、ロシア経済は弱体で、ロシア軍も弱体で、すぐにウクライナが勝利を収めるであろうという西側の楽観的な臆測が幻に終わった原因であったといえる。
西欧の楽観的観測だが、ウクライナに膨大な西欧の資金援助がそそがれ、ロシアへの経済制裁が強化されれば簡単にロシアは崩壊しウクライナはすぐにでも勝利するであろうと、欧米は当初踏んでいた節がある。
ある意味これは、単に机上の空論(ナラティブ)にすぎないのだが、大方この線に沿って、西側の政府もメディアもロシアの経済力やロシア軍の兵力を試算し、安易な勝利図を描いていた。
もっとも、アメリカでも元大量破壊兵器監察官スコット・リッター(1961〜)のように、ソ連に滞在し1980年代のソ連の工業力や兵器生産の現状を知悉していた元軍人は、このような楽観的な計算に警告を発していた。
ロシア経済は、ドルで計算したGDPなどで理解できる世界ではない。かつて冷戦時代西側の経済学者はソ連のルーブルの価値、ソ連の生産力をあれやこれやと論議し、ソ連の実際のGDPは粉飾されたものであり、実際は相当低いものであり、恐れるに足らぬものだと予測したことがあった。
なるほど、ソ連・東欧は簡単に西側の圧力によって、社会主義体制を崩壊させてしまった(自壊といったほうがいいのだが)。「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」という傲慢が、その後西側世界にはびこるのは当然だったのかもしれない。
しかし、ここで実際の生産力そして国力というものを本当に、ドルの為替ベースで見たGDPなどで知ることができるのであろうかということを、考えてみるべきである。
ロシアをめぐる世界経済の輪
これでみると、今でもロシア経済のGDPは2兆ドルしかなく、アメリカの10分の1以下、人口の少ないカナダやイタリアのレベルにしかすぎない。しかし、これはあくまでもドルベースでの計算であり、本当の実力を示すものではない。
実際は日本やドイツ並か、ものによってはそれ以上の力があると思ったほうがいい。ロケットや航空技術など西側の模倣技術ではない最先端の技術が多くあるのだ。
地政学の専門家だけでなく、ソ連経済や東欧の経済を学び、ウクライナを含む東欧地域に暮らしたものならば、そこにはロシア(旧ソ連)の制度、もっと昔に遡ればオスマントルコの制度が残存し、ソ連崩壊以後の30年という月日だけで簡単に西欧型のシステムに変わりえるものではないことは、理解できるはずである。
もちろんそれと同じく、歴史的にこれらの地域はある意味一蓮托生であり、黒海にそそぐドナウとドニエプルの両大河でしっかりと結びあっているということである。そしてそれは、宗教的にも正教会のみならず、中東のイスラム教やユダヤ教徒の結びつきも強い世界である。
東欧諸国の多くは、西欧だけでなく長い間ロシアや中東と結びついて発展してきた。かつて東欧製の製品はロシアや中東で気に入られ、よく売れていたのだ。確実にそこに市場をもっていた。
それはEUに入った今でも変わらない。歴史を簡単に変えることはできない。彼らの経済がかつて比較的安定していたのは、この枠の中で動いていたからである。そこから出ることは、不安定と危機をもたらしたのである。
ロシアが西側の圧力に屈しないのは、ロシアの周りに、ロシアの仲間の国々が多くいることである。インド、トルコ、中国、イランなどの大国は、ロシアの仲間である。
一国の経済力は、友好国の存在を抜きに語れない。人口、技術、生産力など、こうした友好国との生産システムが構築されているからである。かつてソ連下ではコメコン諸国内での分業があったが、それと同じようなものが今築かれつつある。
国家と国家との戦争は、1対1に限ったわけではない。周りにいる友好国が何らかの形で参加していれば、その国は強い。まして強い農業と工業に欠かせない原料や燃料をもち、実際にものをつくる工業力をもつ国が周りにあれば無敵ともいえる。
EUは安定した経済圏なのか
そもそも16世紀から始まる西側資本主義はかつてこうした、無敵のシステムを構築していた。西欧諸国によるアジア・アフリカの支配は、原料と燃料を一手に押さえ、ブロック経済圏なるものをつくっていた。
西欧の経済の背景にアジア・アフリカの後背地があり、そこでその国にないものを生産していたのである。宗主国といわれる西欧諸国は、植民地といわれるアジア、アフリカを抜きにして繁栄することはなかった。
それから数百年が立ち、西欧諸国の原料供給基地であった植民地は、独立し、産業も発展し、かつてのように西欧に盲従することはなくなっている。今では、西欧諸国の手を借りないで経済発展ができるところまで来ている。
確かに今でも、アジア・アフリカの国々のドルベースでのGDPは高いとはいえないが、たいていのものを作る技術はすでにもっている。海外貿易にドルを使わず、アジア・アフリカの通貨を使えば、ドルベースで計算するよりも、GDPは当然高くなるであろう。
ロシアや中国の最近の強さは、まさにこうしたアジア・アフリカの非ドル通貨圏の環をもっていることである。今は、ドルで世界の経済力のランキングを測れなくなっているともいえる。
西欧と東欧は今ではEUによって統一されているように見える。そこにウクライナなどが入ることで安定した経済圏をつくろうというわけだが、本当にそうであろうか。
東欧は残念ながら今でも、西欧諸国の後背地としての人員供給と原料供給、そして工場の役割だ。東欧独自の商品市場は、西欧にはあまりない。むしろトルコや中東、そしてロシア、中国にある。
EUがアメリカに接近しすぎたことで、東欧はどんどん本来の歴史的市場を失いつつある。それが今回のウクライナ問題でもある。ウクライナ経済はロシアや東欧、そして中国やトルコなどを抜きにしては考えられない。
かつての「非同盟」という存在
東欧諸国は、西欧とロシアの板挟みにあって、もだえ苦しんでいる。東欧は、どちらにも属さず中立を通すほうがいいのではないだろうか。
1960年代に「非同盟」ということばがあったが、もういちどユーゴスラビアの指導者チトー(1892〜1980)とインドの初代首相ネルー(1989-1964)が提唱した非同盟ということばを思い返して欲しい。
ウクライナが非同盟ならば、ウクライナ戦争の和平は成り立つだろう。ウクライナを含めた東欧諸国と中東諸国などが、非同盟組織をつくれば、この地域の戦争の可能性も減るであろうし、経済もより発展するだろう。
歴史を振り返るとき、もう一度、1961年に旧ユーゴのベオグラードで初めて開催された非同盟諸国首脳会議が果たした役割は顧みられるべきであろう。
●ヒョンデのロシア撤収 12/29
グローバル主要自動車企業のロシア大脱出が続いた。わずか2ルーブル(約5円)。フランス自動車会社ルノーが昨年5月、ロシア国内の子会社をロシア政府に売却した価格だ。ルノーはロシア市場への依存度が高かった。2014年にロシア国営自動車会社アフトワズを買収して以降ロシア市場に集中してきただけに喪失感は大きかった。利子および税金を除いた全体利益(EBITA)基準の約8%がロシアで生じていた。
日産も降伏した。昨年10月、日産はロシア国営自動車開発研究所(NAMI)にロシア法人と生産施設を売却した。わずか1ユーロ(156円)で、ルノーよりやや高い価格だ。
わずかな金額の象徴的な価格に何の意味があるのか。今月、ヒョンデ(現代自動車)がロシア市場からの撤収を断行した。現地輸出はもちろん工場までが停止してから相当な時間が経過した後に選択した苦肉の策だ。サンクトペテルブルク第2工場の量産を目前にしていた。売却金額は1万ルーブルであり、ルノーや日産に比べて高い。ヒョンデはルノーや日産のように売却後2年以内に買い戻せるバイバックオプションを付けた。ロシア−ウクライナ戦争が終わればロシアに再進出する可能性を残しておいたのだ。
ロシアの自動車市場規模はかなり大きい。150万台の乗用車が売れ、商用トラックとバスを含めると180万台ほどになる。グローバル主要自動車企業が事実上撤収した状況で、政治制裁がもたらした経済的な反射効果を直視してみよう。これら企業が撤収したところを中国自動車ブランドがロシア資本と結託して掌握したのが現実だ。2022年に中国自動車企業のロシア市場シェアが初めて2けたになった後、高速成長を繰り返している。
ロシア−ウクライナ戦争長期化が中国企業の競争力を高めた。1年が終わろうとするこの時期に切なさを感じる。政治経済学の苦々しさだ。
●韓国防衛産業、世界9位に急浮上…ハンファ「K9自走砲」受注が急増 12/29
世界防衛産業界がウクライナ戦争などの影響で受注量が過去最大に近づくなど好況を迎えている。
特に韓国のハンファエアロスペースは2年間に受注残高を6倍以上に増やし、世界の主要防衛産業企業のうち増加率1位になった。これを受け韓国は世界武器輸出国10位内に入った。
英フィナンシャルタイムズ(FT)が世界15大防衛産業企業の業績を分析した結果、これらの受注残高合計は昨年末を基準に計7776億ドル(約110兆円)と、2020年末に比べ10.9%増加した。今年もこれら企業の受注残高は上半期末基準で7640億ドルと高い水準だ。
このうちハンファエアロスペースはK9自走砲のポーランド輸出などで受注残高が2020年末の24億ドルから昨年末には152億ドルへと6倍以上に増えた。これは分析対象企業のうち最高の増加率。これを受け、韓国の武器輸出国順位は2000年の世界31位から昨年は世界9位に浮上したと、FTは説明した。
防衛産業株に対する世界投資家の関心が高まり、モルガンスタンレーキャピタルインターナショナル(MSCI)の世界防衛産業業種株価指数も12カ月間に約25%上昇した。特に欧州のストックス航空宇宙・防衛株価指数は同じ期間に50%以上も上がった。
こうした流れは各国政府の軍事費拡大傾向が続くという投資家の見方を反映していると分析される。実際、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が集計した昨年の世界各国の軍事費支出は前年比3.7%増の2兆2400億ドルと、過去最高となった。
特に欧州の軍事費支出増加率は約30年ぶり最高となった。欧州各国は弾薬・砲弾と戦車など軍事装備をウクライナに支援し、減少した在庫を補充するために注文を増やしている。ただ、世界100大防衛産業企業の武器販売・サービス売上高の合計は昨年5970億ドルと、前年比3.5%減少した。
英金融リサーチ企業エージェンシーパートナーズのアナリストはFTに「武器の製造販売の場合、政策決定と予算配分、注文にかかる期間が長く、約2年前に始まった(ウクライナ)侵攻がようやく注文に影響を与えていて、売上高にはほとんど反映されていない」と説明した。続いて「防衛産業業界の新規受注量が引き渡し量より多く、当分は受注残高が増えるだろう」と話した。
●英、哨戒艦をガイアナに派遣へ 同国侵攻を狙う隣国ベネズエラに対抗 12/29
英国防省は、南米ベネズエラと領土問題を巡って軍事的緊張が高まる旧英植民地のガイアナに英海軍の哨戒艦1隻を今月末までに派遣すると発表した。29日にもガイアナ沖で警戒行動を始める。ベネズエラの反米左派マドゥロ政権は、隣国ガイアナのエセキボ地域の領有権を主張して同国への軍事的威圧を強めており、哨戒艦の派遣は英政府としてガイアナ支援の立場を打ち出すと同時に、ベネズエラを通じて中南米での影響力拡大を図る中国とロシアを英米の連携で牽制(けんせい)する狙いがある。
英国防省によると、ガイアナに派遣されるのは哨戒艦「トレント」(排水量約2千トン)。同艦は今月、別の任務でカリブ海に入っていた。
ベネズエラのマドゥロ政権は、エセキボ地域に関し、今月3日の国民投票で「95%以上がベネズエラ編入に賛成した」と主張し、5日にはガイアナ国境に1個師団を配置すると発表した。
一連の動きをベネズエラによる軍事侵攻の準備と見なした米南方軍は、ガイアナ軍と合同で警戒飛行を実施したほか、両国に隣接するブラジルも国境地帯に軍部隊を増派した。ブリンケン米国務長官とキャメロン英外相は、ガイアナの主権と領土保全を支持する声明をそれぞれ発表した。
ベネズエラとガイアナは14日の首脳会談で「紛争の平和的解決」を確認したものの、緊張緩和への具体的な動きは出ていない。
ベネズエラがここへきて領土的野心を露骨に示しているのは、中国やロシアの後ろ盾があるためだ。
中国は、インド太平洋地域への関与強化を掲げる米英を欧州や大西洋地域にくぎ付けにする思惑を込め、ウクライナ戦争でロシアを支援する一方、米国の裏庭である中南米や、英領や英連邦加盟国の多いカリブ海で経済・軍事的影響力の拡大を図ってきた。
中国はアルゼンチンで海軍基地の建設を目指しているとされるほか、アルゼンチンに1982年の英国との紛争で占領に失敗したフォークランド諸島の再上陸を扇動しているとの指摘もある。
欧米の経済制裁に対抗してベネズエラと協力関係を深めるロシアもまた、エセキボをめぐる緊張が高まれば、ウクライナへの米英の関心が一層低下すると期待しているのは確実で、中露に後押しされたベネズエラが冒険的行動に打って出る恐れは否定できない。

エセキボ / ガイアナの国土の約7割を占める同国の西部地域。広さは北海道の約2倍にあたる約16万平方キロメートル。1899年の国際仲裁協定で当時英領だったガイアナの領土と認められたが、ベネズエラはエセキボの東を南北に流れるエセキボ川を国境とすべきだとして仲裁裁定は無効と主張している。国連のグテレス事務総長は2018年、ガイアナの要請を受けて紛争の解決を国際司法裁判所(ICJ)に付託したが、ICJの結論は出ていない。
●「もっと兵士を産め」 ロシアで中絶阻止の動き強まる 12/29
ロシアではウクライナ侵攻開始以降、急激に保守化が進み、国民の暮らしも変化した。影響が及んでいる問題の一つが、女性の中絶権だ。(写真は、ロシア・モスクワ中心部の赤の広場を訪れた、愛国運動「青少年軍」に加入している子どもたち〈資料写真〉)
宗教色のより強い多くの西側諸国とは違い、ロシアでは何十年も前から中絶は合法で、この問題で社会が分裂することもあまりなかった。だがここ数か月で雲行きが変化している。
各地ではロシア正教会の要求に屈し、民間クリニックでの中絶を規制しようとする動きが相次いでいる。一方、国営クリニックを運営する保健当局は政府の方針を強化し、女性たちに中絶を思いとどまらせようとしている。
当局は出生率の向上が目的だとしているが、権利運動家たちはウクライナ侵攻後の広範な弾圧の一環だとみている。
ジョージアに亡命中のフェミニスト活動家、レダ・ガリーナ氏は「戦争中の国家には、この種の法律が常につきまとう」と指摘した。今回の措置はロシア人女性に対し、「家にいて、もっと兵士を産め」という明確なメッセージだとAFPに語った。
中絶をめぐり、ウラジーミル・プーチン大統領(71)は先週、禁止には反対するものの、中絶は国益に反すると発言。人口問題を解決するために、女性には「子どもの命を守ってほしい」と訴えた。
1990年代以降、人口減少が急速に進む中、プーチン氏は出産を促すための経済的奨励策を掲げてきた。だがウクライナ侵攻以降、そこに新たな意味が生まれた。
「国家の存続」
政治アナリストのタチアナ・スタノバヤ氏は、中絶は今や「国家の存続問題と見なされている」と説明する。
またプーチン氏が政府方針に抵抗するあらゆる社会的立場について、西側諸国の策略だとみているとも指摘した。「中絶もその一部だ。女性に中絶させることは、ロシアの人口問題を悪化させようとする西側の策略だと考えている」
政府系のクリニックでは長年、女性に中絶を思いとどまらせるために「相談会」を実施してきた。だが保健省が新たに発表した医師向けの勧告は、もっと強引な方法を推奨している。
人口学者のビクトリア・サケビッチ氏は「女性たちにプレッシャーをかけ、脅し、(中絶を)止めさせようとする態度だ」と批判した。中絶を回避させた医師に報奨金を支給する地域もあるという。
もしも民間クリニックでの中絶が禁止されれば、中絶薬の闇市場や違法な中絶処置が広がりかねないとサケビッチ氏は懸念する。
さらなる規制の可能性
ロシアの中絶反対派はかつては少数派だった。だがウクライナ侵攻によって、以前よりも過激な提言ができる「政治的環境」が生まれたと、スタノバヤ氏は言う。
政治学者のエカテリーナ・シュルマン氏は、来年3月に大統領選を控えて「戦争や経済状況について話すことができない」時期に、ロシア国民に意図的に与えられた話題が中絶をめぐる議論だと指摘。
さらに、当局は「女性にもっと子どもを産ませようとするのではなく、人口減少の主要因となっている男性の早世を解決すべきだ」と批判した。
しかし、若者から壮年期まで非常に多くの男性がウクライナの戦場へ送られている今、男性の寿命に関する話はタブーだ。
ロシア人の人口学者で、フランス・ストラスブール大学に所属するセルゲイ・ザハロフ氏は、「さらなる禁止、さらなる規制が予想される」と警告している。
「中絶の規制を含め、あらゆる手段で出生率を上げようとする」ことは、スペインのフランシスコ・フランコやイタリアのベニト・ムソリーニといった独裁者がやったことだとザハロフ氏は批判する。「こうしたやり方が成功したためしはない」
●ロシア軍 キーウやハルキウなど一斉攻撃 避難シェルターも損傷 12/29
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナでは29日、ロシア軍が首都キーウや東部の都市ハルキウなど各地を一斉にミサイルなどで攻撃しました。
このうち、ハルキウ州の知事などは、ロシア軍による20発以上のミサイル攻撃で病院や住宅などが被害を受け、1人が死亡し8人がけがをしたと発表しました。
また、キーウのクリチコ市長はSNSで、避難シェルターとして使われている地下鉄の駅の施設がロシア軍による攻撃で損傷するなどして、7人がけがをしたと明らかにしました。
ウクライナ非常事態庁によりますと、南部オデーサでは29日、ロシアの無人機による攻撃があり、撃墜された無人機の破片が高層ビルに落下して火災が発生したということです。非常事態庁が公開した映像には、煙が充満した建物の中にマスクをつけた救急隊員が入る様子や、避難する子どもなどの姿が映っています。
ウクライナのイエルマク大統領府長官は「民間人をねらった大規模なテロ攻撃が行われた」として、ロシア側を強く非難しました。 
●ロシア軍、ウクライナで「甚大」な損失 独軍高官 12/29
ドイツ軍でウクライナ支援を統括する高官は、29日付の独紙に掲載されたインタビューで、ロシア軍はウクライナで人的・物的に甚大な損害を被っており、終戦後の弱体化は避けられないとの認識を示した。
ボリス・ピストリウス(Boris Pistorius)国防相の顧問も務めるドイツ軍のクリスティアン・フロイディング(Christian Freuding)氏は南ドイツ新聞に対し、「西側情報機関のまとめによると、ロシア兵30万人が、死亡したか再動員が不可能なほどの重傷を負った」と述べた。
今月流出した米国の機密情報によると、侵攻開始以降、ロシア兵31万5000人が死亡もしくは負傷したとされる。
フロイディング氏は、「ロシアの人的・物的損失は甚大だ」と述べた。
ロシア軍はまた、数千両の戦車と歩兵戦闘車を失ったとされる。
「この戦争が終わった時、ロシア軍は物的にも人的にも弱体化した状態に陥っているだろう」との見方を示した。
一方で、ロシア軍は「受刑者の動員を含め」、新兵の確保には成功していると指摘した。
ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は先日、今年は48万6000人が入隊し、来年には兵力の増強を加速させると表明した。
フロイディング氏は、侵攻開始当初に西側諸国が想定していたよりも、ロシアはより強い「回復力」を見せていると認めた。

 

●ウクライナ各地に「ミサイル110発」、ロシアが最大規模の攻撃 31人死亡 12/30
ロシアは29日、ウクライナに最大規模のミサイル攻撃を実施。ウクライナ当局者によると市民31人が死亡し、160人以上が負傷した。首都キーウ(キエフ)や南部、西部で住宅が、東部では産科病棟が攻撃を受けたという。
ゼレンスキー大統領は「ロシアは全兵器を投入して攻撃した。約110発のミサイルが発射された。大半は撃墜された」とテレグラムに投稿した。
バイデン米大統領は「この壊滅的な戦争が始まってから約2年が経った今も、プーチン大統領の目的が変わっていないと世界に痛感させた」とし、プーチン氏を「止めなければならない」と言明した。
ウクライナ外務省は、西側諸国による今後のウクライナ支援に不確実性が漂っているが、今回のミサイル攻撃はロシアと「休戦について協議すべきではない」ことを示していると指摘。クレバ外相は「今日、数百人ものウクライナ人が大きな爆発音で目を覚ました。ウクライナでの爆発音が世界中に聞こえることを願っている」とし、同盟国に対し長期的な軍事支援の継続を求めた。
当局者によると、キーウでは倉庫や住宅などが攻撃され少なくとも9人が死亡、30人が負傷した。
ウクライナ空軍のオレシュチュク司令官は「空からの最も大規模な攻撃」とテレグラムで述べた。空軍によると、ロシアが発射した合計158発の空中の「標的」のうち、巡航ミサイル87機とドローン(無人機)27機を撃墜したという。
ウクライナのウメロフ国防相は、今回のミサイル攻撃は戦略爆撃機18機が関与した「この戦争で最も大規模な空襲」と述べた。
ザルジニー総司令官は、重要なインフラや産業・軍事施設が標的になっていると述べた。
ウメロフ国防相はフェイスブックで、ロシアのミサイル保有量を考慮すれば「このような攻撃を継続できるし、今後も継続することは明らかだ」とした。
ウクライナ外務省は、今回のミサイル攻撃はロシアが2022年2月に侵攻を開始して以来、「ウクライナの都市や村に対する最大規模のミサイル攻撃の1つ」とした。
エネルギー省によると、南部オデーサ(オデッサ)、北東部ハリコフ、中部ドニエプロペトロフスク、キーウで停電が起きている。
ゼレンスキー大統領は最前線で最も激しい戦闘が行われた東部のアブデーフカを訪問。「防衛状況や基本的なニーズについて指揮官と話し合った」とした。
こうした中、英国防省は29日、ウクライナに約200発の防空ミサイルを供給すると発表した。
ロシア国防省は、12月23日以降にウクライナに対して「大規模な」攻撃を1回行ったと発表したが、詳細は明らかにしなかった。
広範囲にわたる被害
ウクライナ内務省は死者数を30人と発表しているが、各地の発表によると少なくとも31人が死亡している。
南東部のザポロジエ市では8人が死亡、13人が負傷した。民間のインフラ施設も攻撃を受けたという。
ドニエプロペトロフスク州では、ショッピングセンターや民家、集合住宅をミサイルが直撃し6人が死亡。この攻撃により産科病棟で火災が発生したという。
黒海の港湾都市オデーサでは、ミサイルが住宅を直撃し4人が死亡、子ども2人を含む少なくとも22人が負傷した。
ポーランドと国境を接する西部リビウ州では、重要インフラ施設にミサイルが着弾したと大統領府が発表。リビウ市では1人が死亡、30人が負傷した。3つの学校と幼稚園も被害を受けた。
北東部のハリコフ市では、倉庫や工業施設、医療施設、輸送拠点がミサイル攻撃を受け、3人が死亡、13人が負傷した。
また、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドはロシアのミサイルがポーランド領空で約40キロ飛行したもようと発表。3分以内にウクライナ領空に戻ったという。ロシア政府は現時点でコメントしておらず、NATOは引き続き「警戒」するとした。
●ロシア軍がウクライナ各地に一斉攻撃、侵攻後最大規模 少なくとも30人死亡 12/30
ロシアは29日朝、ウクライナの首都キーウをはじめとする各地の都市をミサイルなどで一斉に攻撃し、少なくとも30人が死亡した。ウクライナは、昨年2月の軍事侵攻開始以来、最大規模の砲撃だとしている。
ロシア軍はこの日、ウクライナの首都キーウや南部オデーサ、東部ドニプロペトロウシク、北東部ハルキウ、西部リヴィウを攻撃。合わせて160人以上が負傷した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアが「保有するほぼすべての種類の兵器を使用して」複数の住居と産院1棟を攻撃したと述べた。
ウクライナ空軍は、これほど多くのミサイルが一度に発射されたのは初めてだとした。
ウクライナの防空能力はここ数カ月で劇的に改善されていたが、29日の攻撃の数には対応しきれなかった。
ウクライナ空軍の報道官によると、ロシアは迎撃が難しい「X22」ミサイルを含む、極超音速ミサイルや巡航ミサイル、弾道ミサイルを使用した。「これほど多くの標的が同時に攻撃されたのはこれまでにない」と、報道官は付け加えた。
同空軍は、ミサイルとドローン(無人機)を使った158発の攻撃のうち114発を撃墜したと発表した。
ウクライナではこの日、爆撃された複数の場所から黒煙が上った。私たちはそのうちの一つに向かった。キーウ市ポディルスキー地区では、建設会社が所有する全長200メートルの倉庫が標的にされた。
倉庫は爆撃で大破。ミサイル直撃に特有の破壊の規模だった。この数カ月というもの、ウクライナの人々が絶えず恐れていたのは、主に破片の落下による被害と人命の喪失だった。しかし今や、はるかに大きな脅威が戻ってきた。
そこから数キロ離れた場所でも別の攻撃があり、高層ビルの片側のガラスが衝撃で吹き飛ばされていた。空は煙に覆われて暗くなりつつあった。キーウ市内を車で移動してこのような光景を目にするのは、全面侵攻の開始直後以来のことだ。
キーウでは9人が死亡した。防空シェルターとして使われている地下鉄の駅も、攻撃された。
今回もまた、被害はキーウに限られなかった。ウクライナ当局は、10機以上のイラン製ドローン「シャヘド」と、ミサイル15発が西部の都市リヴィウを標的にしたとしている。
ウクライナ北部のロシア国境に近いスーミ州コノトップ市もミサイル攻撃を受けた。また、オデーサではドローン攻撃を受けた高層ビルで火災が発生したと、当局が発表した。6歳と8歳の子供2人を含む4人が死亡、22人が負傷したという。
北東部の都市ハルキウではロシアの侵攻後、ミサイル攻撃は決してめずらしいものではないが、29日朝のように20発も集中的に飛来してくることはめったにない。イホル・テレホフ市長によると、一連の攻撃で病院1棟と複数の集合住宅が被害を受け、3人が死亡、13人が負傷した。
東部ドニプロペトロウシク州のセルヒイ・リサク知事は、同州ドニプロ市のショッピングセンターと産院が標的にされ、6人が死亡、28人が負傷したと発表した。南部ザポリッジャではインフラへの攻撃で8人が死亡、13人が負傷した。
ウクライナ領内の標的を狙ったロシアのミサイル1発が、ポーランド領空に一時侵入する事案も発生した。
国連のウクライナ人道支援調整官、デニース・ブラウン氏は、29日の攻撃は「破壊、死、そして人間の苦しみという爪痕を残した」とし、「容認できない、ぞっとする現実の新たな一例」だと述べた。
では、なぜロシアは今、今回のような攻撃を実施したのだろうか。
ロシアのミサイル備蓄量は以前ほどではないが、ウクライナ人を抑圧する戦術を維持したいというロシア政府の意向が、今回の攻撃で示された。身の危険をウクライナ人が感じれば、戦意喪失につながると、ロシア政府は期待しているのだ。
この1週間、ウクライナを後押しする動きも見られた。ウクライナは26日、ロシアが占領しているウクライナ南部クリミアでロシアの軍艦を破壊した。27日には、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が、今年最後の支援となる、2億5000万ドル相当の軍事支援をウクライナに提供すると発表した。
しかしこれは、現在米議会での党派対立により承認が阻止されている500億ドル相当のウクライナへの軍事支援策に比べると、比較的小さな変化といえる。
29日の攻撃について、ジョー・バイデン米大統領は、「この壊滅的な戦争が2年近く続いてもなお、プーチン氏の目的に変化がないことを世界にはっきりと思い出させるものだ。彼はウクライナを消し去り、その国民を服従させようとしている。彼を止めなければならない」と述べた。
今回のミサイル攻撃は報復か、あるいは新たな声明なのだろうか。ロシア国防省の報道官は、「指定された軍事目標はすべて攻撃された」と述べるにとどまった。
ウクライナ全土は常にロシアの攻撃にさらされているが、ウクライナはこれまで、侵略者による全土へのドローン攻撃やミサイル攻撃の大半から国を守ってきた。
ただ、今後もその能力を維持できる保証はない。
●「ほぼ全種類の武器使用」とゼレンスキー氏 12/30
ウクライナは29日朝、ロシアによる大規模なミサイル攻撃を受け、少なくとも31人が死亡、150人以上が負傷した。ウクライナ外務省は昨年2月の侵攻開始以降、最大規模の空からの攻撃としている。
がれきと化した各地の現場では依然、捜索活動が続けられている。
外務省によると、攻撃を受けたのは首都キーウ(キエフ)や西部リビウ、中部ドニプロ、南部オデーサ、東部ハルキウ、西部フメリニツキーなど広範にわたる。
一斉攻撃で50軒近くの住宅やアパート、学校、ショッピングモールなどが損壊した。ドニプロでは産科病院も攻撃を受け、大きく損傷した。
ゼレンスキー大統領は「ロシアは保有する、ほぼ全種類の兵器を使用した」と攻撃を非難。ゼレンスキー氏がSNS「テレグラム」で明らかにしたところによると、計110発のミサイルが発射され、大半は撃ち落とされたという。
また、ロシアは攻撃に弾道ミサイルのキンジャルや地対空ミサイルのS300、巡航ミサイル、ドローン(無人機)を使用したと指摘した。戦略爆撃機からX101やX505と呼ばれるミサイルも発射されたという。
ウクライナのクレバ外相はX(旧ツイッター)への投稿で、「今日ウクライナで聞こえた大きな爆発音が、ウクライナへの追加支援を現在議論している主要国の議会などにも届くことを願っている」などと書き込んだ。加えて「ロシアのテロを抑え込めるのは、ロシアを上回る兵器だけだ」と述べ、各国にさらなる支援を求めた。
ウクライナ空軍によると、29日午後も攻撃が続いた。チェルカーシ州への連続ミサイル攻撃があり、同州スミーラに1発着弾した。ロシアのクルスク州からウクライナ北東部スーミに向かうミサイルも探知された。
●ロシア、民間人攻撃を否定 ウクライナは支援継続訴え―国連安保理 12/30
ロシアがミサイルやドローンでウクライナ各地に大規模攻撃を仕掛けたことを受け、国連安保理は29日、ウクライナなどの要請に基づき緊急の公開会合を開いた。日米英仏など多くの理事国が攻撃を非難したが、ロシアは民間人への攻撃を否定した。
ウクライナのキスリツァ国連大使によれば、産科病棟や教育施設、ショッピングモールや高層マンションなどが攻撃を受け、少なくとも市民30人が死亡した。ミサイルは隣国ポーランド領空も通過したとして、同国のシュチェルスキ国連大使は「領空侵犯についてロシアに説明を求める」と訴えた。キスリツァ氏は「ロシアは近隣諸国にとっても脅威だ。これを防ぐ唯一の方法は、ウクライナの防衛力強化を支援し続けることだ」と強調した。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は「ロシア軍は軍事施設を標的にした」と主張。ウクライナの防空システムの誤射や迎撃されたミサイルなどの破片が住宅街に落ちたことが民間人の犠牲を引き起こしたと述べた。
●プーチン大統領に逮捕状を出した日本人…「職務を全うする」赤根智子判事 12/30
ICC=国際刑事裁判所の赤根智子判事は、2023年3月、ウクライナ侵攻をめぐり、ICCがプーチン氏に逮捕状を出した際の判断に加わりました。
逮捕容疑は、占領地域のウクライナの子どもたちをロシアに移送したことが“国際法上の戦争犯罪にあたる”というものです。
逮捕状が出て以降、プーチン氏は国際会議への参加を見送らざるを得ないなど、外交政策に一定の影響が出ています。反発を強めるロシアは、5月、赤根判事らICCの判事3人を指名手配する報復措置に出ました。
赤根判事は、プーチン氏に逮捕状を出した経緯や意義、ロシアからの指名手配についてどう考えているのか。ニューヨークの国連本部でインタビューしました。(取材:23年12月6日)
逮捕の検討過程は「プーチンさんであろうが、他の人であろうが全く変わらない」
――プーチン大統領に対する逮捕状を出される判断に加わっておられましたけれども、プーチン大統領個人に逮捕状を出されるということで、それはどういった経緯で、どういう意味合いがあるのか
ウクライナは、私達はシチュエーション自体と呼んでますが、私達のいるプリトライアル、予審部の担当になっていまして。
ですからICCの検察が誰かに逮捕状を出したいと思う時には、我々に逮捕状請求書が来るんですよ。
その段階で初めて、どんな逮捕状の事実になっているか、どんな証拠があるかということが分かるわけです。
私達はそういう段階で、2月でしたかね、2023年の2月に、逮捕状請求書と証拠をもらって、それを大体1か月弱ぐらい検討しまして、逮捕の理由と、逮捕の必要性があると。逮捕をめぐる「事実と証拠」を合わせたものとですね、それから「逮捕する必要性」の二つを検討して出したと。
ですから逮捕の必要性があるなっていうことですよね。証拠と事実から、ということです。
――その逮捕状を出されても、当然、まだ逮捕されてないわけですけれども。そういったことによって、どういった意味が?
裁判官なので、政治的な意味合いとかですね。将来プーチンさんがどうなるとかそういうことを考えて(逮捕状を)出すわけではないんですよね。
ですから出した結果としていろんな波及効果があったというのは聞いていますけれども、それは後で聞くことであって、(逮捕状を)出す時には、逮捕の必要性があるかどうか、事実の裏付けの証拠があるかどうかだけで判断していまして、これはプーチンさんであろうが、他の人であろうが全く変わらない検討過程になります。
逮捕状のニュースを聞いた時は「『あ、そうか』という感じ」
――プーチン氏が逮捕されるという事態はなかなか想像しづらいんですけども、その辺りの可能性や、期待することは?
それも可能性なのでね。我々としては逮捕なんかできないと思って(逮捕状を)出すわけではないので。
日本の逮捕状なんかだと、有効期間7日間とかいう形で、更新しないとバリッド(有効)じゃなくなるんですけれども、ICCの場合は、基本的には
彼なり、彼女なりが生きてる間はずっとバリッドなので、どういう可能性があるかというのは、大体想像がつくかなと思いますけど。
――逮捕状が出ている状況の中で、どういったことを今、プーチン氏に求める?
いや、それもう、裁判官としてはありませんね別に。
ただ、みんな言われてることですけれども、ローマ規定に入ってる国というのは、そこの国に、もしそういう逮捕状が出ている人が行ったらば、逮捕する義務がありますので、それだけは皆さんにお知らせはしていますね。
――ロシア側から赤根さんを指名手配するという、抗議の意味があるんだと思うんですけれども、そういったお話を聞かれてどう感じる?
私達、出すときから予想はしてましたよ。当然のことながら。
そういうことも含めて裁判官っていうのは何があっても中立で、かつ、我々の職務を全うすると、それを考えるだけということですし、逮捕状のニュースを聞いたときも、「あ、そうか」という感じでしたね。
ただ国内的には、敵に対して逮捕状を出したりとかそういう話は聞きますので、当然そういうことはあり得るだろうなっていうぐらいですね。
――それによってヨーロッパとか例えば国連にいらっしゃることはできるんでしょうけれど、生活や業務に影響などは?
これは、ちょっとセキュリティの問題がありますので、ちょっと申し上げにくいんですよ。やはり気をつけてはいますし、いろんな手当もあります。
ですから、それはちょっと言うとですね、やはり自分だけではなくて、同じ様に、逮捕状を出されている他の人もいますので、それはちょっと勘弁していただきたい。
「裁判官は仮に1人が死んだとしても、いくらでも替えが利く」
――率直に恐怖というか、怖いなと思ったりはしないのですか?
いや、我々はあの法律の執行者なので、そういうことが絶対ないとは言いませんけれども、そういうメンタリティがちょっと無いですね。
我々は仕事をしていると。裁判官は仮に1人が死んだとしても、いくらでも替えが利くものですから。
そういう意味では、別に狙う価値がないわけですよね、と私は思いますけどね。
――ロシア側から指名手配が出たという報道があって以降、ロシアから何か物が届いたとか、知らせがあったとか、ロシア側から何かアクションは?
個人ですか。それは…どうでしょうね。ちょっと言えないですね。
――指名手配したよ、という知らせが来るものなんですか?
いや私は報道で知りましたので、NHKさんのテレビで知りました。
――ご自身にはそういうものは来ない?
それは来ないです。
――指名手配後、ご自身で気をつけていることなどは?
まぁ気をつけてます。知らない人とご飯を食べに行かないとか。
元々気をつけていますので、ICCの場合は、いろんな国の事件をやっていますので、日本の中にいた時、自分が検事をやってた時とは全然違うので、どんな国かわからない国が多いですよね。
ですから、そういう人たちがこっそり入り込んでるってことも十分ありえますので、今まででも同じように注意はしてます。

NY支局 大橋純記者
国際刑事裁判所の判事という一般にはなじみのない職業。
赤根判事の立場上、コメントできない事柄も多いはずだが、答えられる質問には明確な回答がある。
自分自身の仕事の定義と信念がはっきりと定まっている印象だ。
「事実と証拠」に基づき「我々の職務」を全うするだけだと語るが、それができる人は多くはないだろう。
淡々とした言葉の端々にプロフェッショナルとしての矜持を感じた。
●ロシアGDP、22年は1.2%減 予想ほど落ちまず 12/30
ロシア連邦統計局が29日発表した2022年国内総生産(GDP)は前年比1.2%減少した。前回発表では2.1%減だった。
22年2月のウクライナ侵攻開始以降、西側諸国によるロシアに対する経済制裁が続いている。
21年のGDPは5.9%増と、前回発表の5.6%増から上方改定された。
ロイターがまとめた23年のGDPの市場予想は3.1%増。プーチン大統領は今月14日、成長率が3.5%に達するとの見通しを示した。
23年は軍事生産などの政府支出がとりわけ大きく上昇し、ロシア経済は大幅に回復している。
24年GDPのロイターの市場予想は1.1%増。政策金利の上昇が経済の重しとなり、成長率が鈍化するとみられている。
23年第3・四半期のGDPは前年同期比5.5%増。前年同期は3.5%減少していた。
●EUの「ウクライナ支援」予算案 ハンガリーが“拒否権”発動で難航… 12/30
長期化するロシアによるウクライナ侵攻。ロシアによる「侵略」を食い止めるべく、これまで欧米諸国は、ウクライナへの軍事支援を積極的に行ってきた。しかし、戦闘の長期化と、ウクライナによる反転攻勢の停滞などを受けて“支援疲れ”も叫ばれる中、EU=ヨーロッパ連合では、親ロシア政権のハンガリーがウクライナ支援のための予算案に拒否権を行使。2023年内に予算案は合意に至らず、2024年のウクライナの軍事態勢への影響を懸念する声が大きくなってきている。
そんな中、EU内では、ウクライナ支援を継続するべく、代替案「プランB」が水面下で調整されている。その驚きの中身とは?
EU加盟交渉は前進も肝心の予算案が暗礁に…
23年12月、ベルギーのブリュッセルで行われたEU首脳会議。注目の議題は、ウクライナなどのEU加盟交渉と、500億ユーロ(=およそ7兆8000億円)にのぼるウクライナ支援の予算案だった。巨額の予算案をめぐり、当初、東ヨーロッパを中心に数か国が反対するのではないかという観測もあったが、蓋を開けてみれば、明確な反対は、ハンガリー1か国のみ。ただ、予算承認には加盟27か国すべての合意が必要だ。
ハンガリーのオルバン首相は23年10月にロシアのプーチン大統領と会談し、「ロシアと対立しようと思ったことはない」と話すなど「親ロシア」を鮮明に打ち出している。会議では、そんなオルバン首相への説得交渉が続けられた。
ハンガリーは司法の独立性に疑義があることなどから、EU側から予算執行を停止されている。ハンガリー側が求める停止解除と引き換えに、ウクライナ支援予算案への協力を求める交渉が行われたが、合意には至らず、ハンガリーは反対の姿勢を崩さなかった。
後述する“秘策”によって、ウクライナのEU加盟交渉に関してはハンガリーは拒否権を行使しなかったものの、予算案については拒否権を行使したため、23年内の承認は得られなかった。
暗礁に乗り上げた予算案だが、EU各国は今後、24年初頭から交渉を再開し、早ければ1月末から2月初旬にも再び首脳会議を開いて合意を得たい構えだ。
EU内で進む「ハンガリー・オルバン首相対策」 “コーヒー休憩で退席”に続く「プランB」とは?
実は、ウクライナなどのEU加盟交渉について、オルバン首相は同意していなかった。政治ニュースサイトの「ポリティコ」によると、首脳会議でも他国の説得にオルバン首相は耳を貸さず、反対の姿勢を貫いていたといい、「全会一致」での合意に向けて、ある“秘策”が行われたという。
それは、ドイツのショルツ首相が、オルバン首相に対して「会議場の外で、コーヒーでも飲んで休憩されたらいかがですか?」と水を向けたというもの。オルバン首相がこれを受け入れ、会議場を後にしたところで、ハンガリー抜きで採決を行い、「全会一致」での合意を演出したというのだ。
こうした形を含む「オルバン首相対策」はEU内で水面下で進められている。ハンガリーが予算案に対して拒否権を行使し続けることを想定し、再び“コーヒー休憩”などを装う形でオルバン首相に退席を促し、形式上はハンガリーが賛成することなく「全会一致」での承認を目指すという報道も…。
一方、24年初頭から再開するという予算承認に向けた交渉では、ハンガリーの反対を織り込み済みの「プランB」が調整されているという。複数の欧米メディアによると、「プランB」はハンガリーを除く加盟26か国が、それぞれウクライナと二国間の協議のもとで支援を続けるというもので、「ハンガリーが反対を続けるのであれば、24年の初頭は一旦、この案で乗り切るのだろう」という見方が出てきている。
米議会もウクライナ支援予算成立が見通せず…支援途切れれば「春先には戦闘に影響」「夏にはウクライナ敗北」の声も
一方、アメリカ議会でも、ウクライナ支援を含む緊急予算成立の見通しが立っていない。共和党はアメリカ国内で「ウクライナ支援は過剰だ」との声が広がりつつあることなどを受けて反対の姿勢を崩しておらず、23年内の予算成立はかなわなかった。与野党での調整が引き続き行われる見通しだが、成立への見通しは不透明なままだ。
ウクライナ側の反転攻勢は、当初の期待通りの成果は上げられずに停滞し、すでに弾薬不足などが叫ばれている。こうした中で、もしアメリカやEUの軍事支援が滞った場合に、戦況への影響はどうなるのだろうか。
NNNの取材に対し、ヨーロッパのウクライナ支援を牽引してきたイギリス国防省の関係者は「EUの支援の有無にかかわらず、イギリスはウクライナへの軍事支援を継続する」と主張。その上で、「EUの支援が継続されることを望んでいるが、もしアメリカやEUの予算が途切れた場合、24年春には戦況に大きな影響を及ぼすだろう」と指摘する。
さらに、「具体的には長距離ミサイルなどが底をつき、ロシア側に対抗するすべがなくなっていく危険性がある」として「アメリカが支援を停止した場合、ヨーロッパでもそれに追随する動きが出て、支援停止の流れが大きくなる恐れがある」と懸念を示している。
アメリカのCNNも、アメリカ軍高官の話として「アメリカなどの支援が停止した場合、最悪のケースでは24年夏までにウクライナの大幅な後退や敗北もあり得る」と報じるなど、戦況へ影響が出る恐れを指摘する声が上がり続けているのが現状だ。
こうした事態に、ウクライナ外務省は「EUがウクライナに対する財政支援を継続するという、明確なシグナルがある」などとして、楽観的な見方を示しているが、欧米の支援に向けた予算の行方次第では、ロシアによる侵攻に対する戦略そのものを大きく見直さざるを得ない可能性も出てきている。
●バイデン大統領、米議会はウクライナ支援に同意を−大規模攻撃を受け 12/30
バイデン米大統領は、ロシアが28日深夜から29日未明にかけてウクライナに大規模な空爆を行ったことを受け、ウクライナへの追加軍事支援にこれ以上遅れることなく同意するよう議会に促した。
バイデン大統領は29日の声明で、議会が新年に行動しなければ、ウクライナが必要とする兵器や極めて重要な防空システムを米国は継続して送ることができなくなると主張。
ロシアによる夜間の攻撃は、プーチン大統領の戦争目的に変わりがないことを世界に思い起こさせたと指摘した。
●バイデン大統領 ウクライナ主要都市攻撃受け声明「プーチンを食い止める」 12/30
アメリカのバイデン大統領は29日、ロシアによるウクライナ主要都市への大規模攻撃について、非難する声明を発表し、「プーチンを食い止めなければならない」と訴えた。
バイデン大統領の声明では、ロシア軍の攻撃によって、病院や住宅地などが被害にあったとし、「プーチンはウクライナを消滅させ、国民を服従させようとしている」と非難した。
そのうえで、バイデン大統領は「プーチンを食い止めなければならない」と訴えた。
一方で、バイデン政権が求めているウクライナ支援の予算案について、「必要な武器や防空システムを送り続けることはできない」と指摘し、早期の予算案の可決を求めた。
●政治家の「本音」は「嘘」より危険 12/30
長期シリーズとなった米TV番組「スーパーナチュラル」(Supernatural)では霊が現れ、人々に本当のことを喋らせる魔法をかける。すると、人々は自身の本音や思いを語り出すから、家庭、会社、社会は大混乱する。人は通常、平気で嘘を言う。相手を騙すために、相手を傷つけないために、「嘘」を言う。内心考えていることや感じていることをズバリいえば、人間関係は険悪化することがある。「嘘」を賛美するつもりはないが、「嘘」にも一定の役割があることは間違いない。
ところで、一国の指導者、政治家が会合相手に対して本音や人物評を語れば、険悪な関係に陥ることにもなる。最悪の場合、外交問題にまで発展する。世界の指導者は結構、記者会見や私的な会合の場で自身の本音や暴言を吐いているのだ。
政治の世界では、敵対関係の国の政治家と会合する時にも相手に対して一定の礼儀をもって接するし、それなりのプロトコールを守るのが通常だ。その慣習を破って、敵対している国の指導者に対して、ズバリ「本音」を吐けば、まとまる話や商談まで破綻するケースが出てくる。
最近では、トルコのエルドアン大統領が27日、アンカラでの演説の場で、イスラエルのネタニヤフ首相を「ヒトラーと変わらない」と酷評した。この発言は、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザで砲撃や空爆を繰り返し、多くのパレスチナ人を殺害していることに言及して、飛び出したものだ。ただ、イスラエルの首相を名指しで批判し、ユダヤ人を600万人虐殺したヒトラーと同列視する発言はやはり誤解を生むだろうし、イスラエル側からの強い反発が予想された。実際、ネタニヤフ首相はトルコ大統領の発言が伝わると、「お前(エルドアン大統領)はクルド人(トルコの少数派民族)を虐殺しているではないか」と反論している、といった具合だ。
エルドアン大統領には本音発言が過去にも結構あった。フランスのマクロン大統領は2020年9月1日、訪問先のレバノンでの記者会見で、「(わが国には)冒涜する権利がある」と強調した。同大統領は、パリの風刺週刊誌シャルリー・エブドがイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載、イスラム過激派テロの襲撃テロを誘発したことに言及し、「フランスには冒涜する権利がある」と弁明したのだ。
マクロン大統領の発言を受け、エルドアン大統領は同年9月24日、同国中部のカイセリで党支持者を前に、「彼(マクロン大統領)は今、何をしているのか知っているのだろうか。世界のイスラム教徒を侮辱し、イスラム分離主義として酷評し、イスラム教を迫害している。彼は宗教の自由を理解していない」と指摘し、「彼は精神的治療を受ける必要がある」と罵倒したのだ。
それに対し、パリの大統領府は、「国家元首に対するエルドアン大統領の発言は絶対に甘受できない。無礼だ。われわれは侮辱を受け入れることができない」と反発し、駐アンカラのフランス大使を帰国させた。
もちろん、本音を吐く政治家はエルドアン氏だけではない。ウクライナのゼレンスキー大統領も今月19日の記者機会見でロシアのプーチン大統領を「病人だ」と吐き出すように語っている。プーチン氏は数多くの戦争犯罪を行ってきた政治家だ。ウクライナ大統領としては受け入れがたい人物だが、「彼は病人だ」という発言はやはりきつい。一般的に見れば、プーチン氏は正常な思考の持ち主ではないことは間違いない。
独自の歴史観、世界観を有し、ウクライナをロシア領土と理解している。そして非武装化、非ネオナチ化を掲げてウクライナに侵攻していったわけだが、それをゼレンスキー氏は「プーチン氏は精神的な病にある」と診断したわけだ。理想的には、多くのメディアが書いているように「プーチン氏は自身のナラティブ(物語)に酔いしれている政治家」という表現に留めておくべきだった。相手を病人扱いにすることはその人間の尊厳を傷つけることになる。そのうえ、自身を酷評する相手と同レベルにおいて反論することになるから賢明ではない。
バイデン米大統領は失言と危言を吐く政治家で有名だ。今年11月15日、中国の習近平国家主席との会談後の記者会談で習近平氏を「独裁者だ」との人物評を追認している。バイデン氏から「独裁者」呼ばわりされた習近平主席としては気分が悪いに違いない。中国外務省は即抗議している。ただ、バイデン氏は「中国は我々の政治形態とは全く異なる共産主義国だ。その国を治めている指導者・習近平氏はやはり独裁者だ」と説明している。バイデン氏らしくない(?)冷静な説明だ。
政治家が記者会見や私的な場所で本音を語れば、その影響は内容の是非は別として大きな反響が出てくる。インターネット時代に生きる今日、発言内容は本人の意向とは全く別に解釈されて拡散する危険性もある。
2024年は台湾総統選、ロシア大統領選、欧州議会選、自民党総裁選、米大統領選など重要な選挙日程が続く。それだけに、世界は政治家の発言に注目する、その時、政治家が「本音」を語れば、大きな波紋が出てくる事態も予想される。政治の世界では「本音」は「嘘」より危険だからだ。
●中国EU首脳会談 4年前とは一転、欧州との亀裂が鮮明に 12/30
中国と欧州連合(EU)は12月初旬、2019年以来4年ぶりとなる対面での首脳会談を終えた。しかし、前回のような友好的な雰囲気や協力の呼びかけはなく、両者の険悪な関係が浮き彫りとなった。
中国政府はこの会談を利用して、米国とEUの間にくさびを打ち込むつもりだったに違いない。だが、そうはいかなかった。今回の会談では、EUの対中姿勢が米国のそれとほぼ一致していることが示された。
2019年の会談を振り返ると、4年という歳月がいかに大きな違いを生み出すのかを感じさせられる。前回の会談では写真撮影の際に笑顔があふれ、両者の協力全般、特に鉄鋼分野での協力を含む3000語におよぶ共同声明が発表された。声明には、高速大容量通信規格「5G」網の共同開発や、南シナ海と東シナ海の緊張緩和に向けた取り組みなどが盛り込まれた。EUも中国も、ロシアとウクライナの意見の相違を交渉するに当たってミンスク合意を支持し、中国の新疆ウイグル自治区を含む世界中の人権問題を巡って協力すると表明していた。特に2019年の首脳会談の直前にEUは中国を「制度上の競争相手」と指定していたため、会談の友好的な雰囲気は、両者が親善と協力を継続する証として受け止められた。
ところが今回の首脳会談に関する報道では、4年前の言葉がまるで別世界のものであるかのように聞こえる。会談の規模は大幅に縮小され、中国側からは習近平国家主席と李強首相が、EU側からはシャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)とウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長の4人だけが顔を合わせた。また、4年前の首脳会談を飾った参加者全員の笑顔の写真撮影もなかった。
習首席はEUを通商関係や技術協力における「重要な相手」と呼び、互いを「競争相手」と見なす必要はないと主張したが、一方のEU側は経済・外交上の問題点を中国側に突きつけた。欧州はすでに論調を変えるための舞台を整えていたのだ。EUは新疆ウイグル自治区での人権侵害疑惑を巡って中国に制裁を科すとともに、関税の賦課につながりかねない中国政府による電気自動車生産への補助金についても調査すると事前に発表していた。欧州随一の経済大国であるドイツは、中国の華為技術(ファーウェイ)を5G網から追放すると警告していた。
今回の首脳会談でフォンデアライエン欧州委員長は、EUの対中貿易赤字が過去2年間で倍増し、4000億ドル(約56兆5400億円)に達していると強調。さらに、中国政府が外国企業の市場参入を制限しながら国内事業を優遇していることや、中国国内の過剰生産能力によって欧州企業が弱体化する例もあると指摘した。同委員長の姿勢は、ドナルド・トランプ前米大統領が中国製品に関税をかけた2018年以降の米政府とほぼ完全に一致していた。米国と同様、欧州は中国との貿易を縮小する必要があると述べたが、米政府が「切り離し」という言葉を使ったのに対し、同委員長は「リスク回避」という言葉を選んだ。
会談では貿易にとどまらず、より慎重に扱うべき外交問題も議題に挙がった。EU側の両首脳は習首席に対し、ウクライナ紛争の早期解決に向け、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に影響力を行使するよう迫った。その上で「中国政府がこの紛争でロシアを軍事面で支援したり、ロシアの制裁逃れを手助けしたりすれば、EUと中国の関係は取り返しのつかない損害」を被る恐れがあると警告。また、新疆ウイグル自治区での人権侵害に触れ、台湾への武力行使をけん制した。一方の習首席が自国の「一帯一路」構想とEUが並行して進める「グローバル・ゲートウェー」計画との協調を提案した際も、EU側は冷静な態度を崩さなかった。なぜなら、EUの計画はまさに中国の一帯一路に代わるものとして実行に移されたからだ。
もし中国政府が欧州との友好関係を築くことで、米国の強硬な対中姿勢に水を差すことを期待していたとすれば、それは失敗に終わった。EUは米国と同じく貿易や投資を巡る中国への不満や非難を表明し、人権や台湾を巡る問題についてはさらに強い言葉を使うことで、中国の野心に疑念を抱いていることを示した。中国政府が常に望んでいる欧米の分断という印象は打ち出せず、逆に欧米の一致団結とまではいかないまでも、西側諸国が中国に対して抱く共通の敵意という構図が露わになった。 
●声を上げるロシア動員兵の家族 再選狙うプーチン政権の圧力 12/30
ウクライナへの軍事侵攻が長期化するなか、動員された兵士の家族が反対の声を上げ始め、プーチン大統領が圧力を強めています。
“AIプーチン” 「あなたには多くの影武者がいるというのは本当ですか?」
プーチン大統領が14日、2年ぶりに実施した国民の質問に答える「直接対話」。これまでとは違い、政権にとって不都合な質問も飛び出しました。しかし、これはすべて演出だと言います。
モスクワタイムズ 「国民にクレムリンにタブーはないと印象付けることが狙い」
例えば、武装反乱を起こして死亡したプリゴジン氏や反体制派の指導者、ナワリヌイ氏の名前は決して上がりませんでした。そして、この人たちも無視されました。
動員兵の家族 「私たちは動員兵の親族であり、ロシアの国と国民の運命を案ずる者たちです。完全な動員の解除を求めます」 動員兵の妻 「プーチン大統領との直接対話でもちろん私たちの質問には触れられませんでした。触れたくないのでしょう。どうやら彼らにとってこの問題は不快なようです」
ウクライナへの軍事侵攻で職業軍人と志願兵では足りず、去年、動員に踏み込んだプーチン政権。
あれから1年以上が経過し、終わりの見えない事態に不満を持った家族が声を上げ始めたのです。
志願兵とは違い、強制的に参戦を余儀なくされた動員兵はおよそ30万人。反対の声はロシア全土に広がっています。こうした声はプーチン政権にとって脅威になりかねません。
今月、志願兵を増員する方針も示した一方、声を上げる人への圧力も一層厳しくなっています。
動員兵の妻たちが情報交換をするSNSは11月末から「フェイク」と表示されるようになりました。
「プーチン大統領、動員兵の除隊はいつですか?」とプラカードで訴える女性たち。顔を隠すのにはこんな理由が。
「(私がインタビューを受けた後)特別軍事作戦の中で、私たちの親族は強い圧力を掛けられ、侮辱を受け始めました」「私の夫は勝利するまで帰らないというビデオを撮影させられました」
身元が割れると、戦地にいる夫の安全が脅かされる恐れがあるのです。
ロシアの独立系メディア「インサイダー」は「地方行政はいかなる犠牲を払ってでも動員反対への抗議活動を阻止するよう政府から命令されている」と指摘しています。
そうしたなか、兵士の母親たちは家族の帰還を求めて2月に国際会議を企画しています。
しかし、来年3月の大統領選挙を前にプーチン政権の圧力が強まるなか、会議が開催できるかは不透明です。
●バイデン大統領、ウクライナへの“最大規模”の空爆を非難 12/30
ロシア軍はウクライナに対し、首都キーウをはじめ、各地で大規模な攻撃を行いました。アメリカのバイデン大統領は非難声明を出しています。
ロシア軍は29日、ウクライナの首都キーウや南部オデーサなど、各地を一斉に攻撃しました。
ウクライナ軍は「空からの最大規模の攻撃だ」としていて、ロイター通信によると、全土で死者は31人、負傷者は160人以上にのぼっています。
アメリカのバイデン大統領は声明で攻撃を非難し、「ウクライナを消滅させようというプーチンの目的は変わっていない。彼を止めなければならない」と強調。アメリカなどが供与した防空システムでウクライナが迎撃に成功したとし、ウクライナ支援のための追加予算の可決を急ぐよう議会に求めました。
また、NATO=北大西洋条約機構の加盟国であるポーランドの軍はロシアのミサイルが領空を一時、通過したと発表しました。
これについて、アメリカ国家安全保障問題担当のサリバン大統領補佐官はポーランドの安保担当の高官と電話会談し、バイデン大統領が注視していると説明したということです。
●ロシアの大規模攻撃 ウクライナの防空システムを試す“攻撃の集大成” 12/30
アメリカのシンクタンクはロシアが行った大規模攻撃について数ヶ月かけてウクライナの防空システムを試してきた攻撃の集大成だったと分析しています。
29日のロシアの攻撃についてウクライナ側は軍事侵攻以来、最大規模の空からの攻撃だったとしていて、死者は39人に上ると伝えられています。
この攻撃についてアメリカのシンクタンクは、ウクライナの防空システムを試すため、数ヶ月かけて無人機やミサイルを組み合わせて行ってきた攻撃の集大成だったとしています。
また、大規模攻撃を継続的に行う兵器の備蓄量はないとみられるもののウクライナ側の戦意喪失を狙い無人機やミサイルを組み合わせた攻撃は今後も続くと分析しています。
こうしたなかロシア国防省は30日モスクワ近郊などで無人機を撃墜したほか黒海で無人艇を破壊したとしています。ベルゴロド州でも砲撃で10人が死亡したということでウクライナが反撃にでている可能性があります。
●ロシア軍がウクライナ各地に一斉攻撃、侵攻後最大規模 39人死亡 12/30
ロシアは29日朝、ウクライナの首都キーウをはじめとする各地の都市をミサイルなどで一斉に攻撃した。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、死者が39人に上ると明らかにした。ウクライナは、昨年2月の軍事侵攻開始以来、最大規模の砲撃だとしている。
ロシア軍はこの日、ウクライナの首都キーウや南部オデーサ、東部ドニプロペトロウシク、北東部ハルキウ、西部リヴィウを攻撃。合わせて160人以上が負傷した。
ゼレンスキー大統領は、39人が死亡し、160人近くが負傷したと述べた。ロシアが「保有するほぼすべての種類の兵器を使用して」複数の住居と産院1棟を攻撃したという。
ウクライナ空軍は、これほど多くのミサイルが一度に発射されたのは初めてだとした。
ウクライナの防空能力はここ数カ月で劇的に改善されていたが、29日の攻撃の数には対応しきれなかった。
ウクライナ空軍の報道官によると、ロシアは迎撃が難しい「X22」ミサイルを含む、極超音速ミサイルや巡航ミサイル、弾道ミサイルを使用した。「これほど多くの標的が同時に攻撃されたのはこれまでにない」と、報道官は付け加えた。
同空軍は、ミサイルとドローン(無人機)を使った158発の攻撃のうち114発を撃墜したと発表した。
ウクライナではこの日、爆撃された複数の場所から黒煙が上った。私たちはそのうちの一つに向かった。キーウ市ポディルスキー地区では、建設会社が所有する全長200メートルの倉庫が標的にされた。
倉庫は爆撃で大破。ミサイル直撃に特有の破壊の規模だった。この数カ月というもの、ウクライナの人々が絶えず恐れていたのは、主に破片の落下による被害と人命の喪失だった。しかし今や、はるかに大きな脅威が戻ってきた。
そこから数キロ離れた場所でも別の攻撃があり、高層ビルの片側のガラスが衝撃で吹き飛ばされていた。空は煙に覆われて暗くなりつつあった。キーウ市内を車で移動してこのような光景を目にするのは、全面侵攻の開始直後以来のことだ。
キーウでは9人が死亡した。防空シェルターとして使われている地下鉄の駅も、攻撃された。
今回もまた、被害はキーウに限られなかった。ウクライナ当局は、10機以上のイラン製ドローン「シャヘド」と、ミサイル15発が西部の都市リヴィウを標的にしたとしている。
ウクライナ北部のロシア国境に近いスーミ州コノトップ市もミサイル攻撃を受けた。また、オデーサではドローン攻撃を受けた高層ビルで火災が発生したと、当局が発表した。6歳と8歳の子供2人を含む4人が死亡、22人が負傷したという。
北東部の都市ハルキウではロシアの侵攻後、ミサイル攻撃は決してめずらしいものではないが、29日朝のように20発も集中的に飛来してくることはめったにない。イホル・テレホフ市長によると、一連の攻撃で病院1棟と複数の集合住宅が被害を受け、3人が死亡、13人が負傷した。
東部ドニプロペトロウシク州のセルヒイ・リサク知事は、同州ドニプロ市のショッピングセンターと産院が標的にされ、6人が死亡、28人が負傷したと発表した。南部ザポリッジャではインフラへの攻撃で8人が死亡、13人が負傷した。
ウクライナ領内の標的を狙ったロシアのミサイル1発が、ポーランド領空に一時侵入する事案も発生した。
国連のウクライナ人道支援調整官、デニース・ブラウン氏は、29日の攻撃は「破壊、死、そして人間の苦しみという爪痕を残した」とし、「容認できない、ぞっとする現実の新たな一例」だと述べた。
では、なぜロシアは今、今回のような攻撃を実施したのだろうか。
ロシアのミサイル備蓄量は以前ほどではないが、ウクライナ人を抑圧する戦術を維持したいというロシア政府の意向が、今回の攻撃で示された。身の危険をウクライナ人が感じれば、戦意喪失につながると、ロシア政府は期待しているのだ。
この1週間、ウクライナを後押しする動きも見られた。ウクライナは26日、ロシアが占領しているウクライナ南部クリミアでロシアの軍艦を破壊した。27日には、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が、今年最後の支援となる、2億5000万ドル相当の軍事支援をウクライナに提供すると発表した。
しかしこれは、現在米議会での党派対立により承認が阻止されている500億ドル相当のウクライナへの軍事支援策に比べると、比較的小さな変化といえる。
29日の攻撃について、ジョー・バイデン米大統領は、「この壊滅的な戦争が2年近く続いてもなお、プーチン氏の目的に変化がないことを世界にはっきりと思い出させるものだ。彼はウクライナを消し去り、その国民を服従させようとしている。彼を止めなければならない」と述べた。
今回のミサイル攻撃は報復か、あるいは新たな声明なのだろうか。ロシア国防省の報道官は、「指定された軍事目標はすべて攻撃された」と述べるにとどまった。
ウクライナ全土は常にロシアの攻撃にさらされているが、ウクライナはこれまで、侵略者による全土へのドローン攻撃やミサイル攻撃の大半から国を守ってきた。
ただ、今後もその能力を維持できる保証はない。

 

●新年も祝賀ムード遠く 岸田首相にまたメッセージなし―プーチン氏 12/31
ロシア大統領府は30日、プーチン大統領が各国首脳らに対し、クリスマスや新年を祝うメッセージを送ったと発表した。だが、29日にウクライナ各地に大規模な空爆を行った結果、30日にロシア西部ベルゴロドに報復とみられる攻撃を受けたばかりで、祝賀ムードとは程遠い。
送付したメッセージの数は、ウクライナ侵攻で1年前から激減したまま。日本の岸田文雄首相を含め、対ロ制裁を発動している「非友好国」の先進7カ国(G7)現職首脳宛ては、今回もなかった。
個人的な友人と見なすフランスのサルコジ元大統領、ドイツのシュレーダー元首相には送ったが、前回リストにあったイタリアのベルルスコーニ元首相は2023年6月に世を去った。2年前は生前の安倍晋三元首相にも送っていた。
●軍総司令官も認めるウクライナ軍の苦境、砲兵火力は露軍のわずか5分の1 12/31
「24年は23年とは違う年になる、そうしなければならない」
ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は12月26日、約30分間にわたって記者会見を開いた。
「より効果的に行動するための、より多くの人々を救うための解決策の90%を見つけた。兵器開発がもたらす戦術の変化により2024年は23年とは違う年になる、いや、そうしなければならない」
そう言って膠着するウクライナ戦争を戦い抜く決意を示した。
ザルジニー総司令官が会見するのは22年2月にロシア侵攻が始まって以来初めてのことだ。
「敵はわが軍に追いつきつつある。ウクライナ東部ドネツク州の激戦地マリンカは2年近く持ちこたえてきたが、通りごと、家ごとに敵に破壊されてきた。今日わが軍は町の北部に留まり防御線を準備しているが、この集落はもはや存在しないに等しい」
そう語り、ザルジニー総司令官は苦しい状況を明かした。
「わが軍は力の限りアウディーイウカを守るつもりだが、もし守る力が十分でないなら兵士たちの命を救う方が重要だ。バフムートであろうとアウディーイウカであろうと私たちは自分たちの領土を大切にしている。その力がある限り私たちは領土を守る。しかし、それが十分でない場合、兵士たちを救う方がいい」
ドネツク州の激戦地バフムートだけでなくアウディーイウカもマリンカも露チェチェン共和国の首都グロズヌイと同じように廃墟になりつつある。ザルジニー総司令官は「2〜3カ月後にはアウディーイウカもバフムートのようになるかもしれない。侵略を止めるため敵兵の損失が何人必要か予測するのは難しい。敵があきらめるまで損失を増やし続ける必要がある」という。
繰り返される「ゾンビラッシュ」
最前線では相変わらずロシア兵は「ゾンビラッシュ」と呼ばれる肉弾波状攻撃を繰り返している。
「死体の山が築かれ、誰も運び出そうともしない。死体は毎日増え続けている。これが自国民へのロシアの態度だ」
ザルジニー総司令官は自軍の50万人新規動員について「500人とも400人とも言っていない。決まるまで一定の時間がかかる」とだけ述べた。
「国家を守る機能を果たすため、武器弾薬、人的資源の要請は継続的に行われている。参謀本部は来年に向け、数字を弾き出した。兵員配置の範囲、新たな部隊の編成、24年の損失予測が考慮されている。軍事機密のため、指標や数字を公表することはできない」(ザルジニー総司令官)
反攻が不発に終わり、ウクライナ軍の劣勢は明らかになっている。
兵員だけでなく作戦に使用できる弾薬でもウクライナ軍はロシア軍に後(おく)れを取る。軍事シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」の陸戦専門家ジャック・ワトリング上級研究員は英紙ガーディアンへの寄稿で「ウクライナ軍はまだロシア軍を打ち負かすことができる。しかし、それには欧州からのさらなる支援が必要だ」と強調している。
ワトリング研究員によると、23年3月、欧州連合(EU)は1年以内に100万発の砲弾をウクライナ軍に提供すると約束した。しかし実際に送られた砲弾は30万発に満たない。ウクライナ軍は23年夏、1日最大7000発の砲弾を撃ち、ロシア軍の兵站に打撃を加えて砲兵火力の能力を1日約5000発にまで低下させた。
ロシア軍の砲兵火力はウクライナ軍の5倍に達した
しかし今ではウクライナ軍は1日2000発の砲弾を発射するのがやっとだ。北朝鮮の支援を受けるロシア軍の砲兵火力は1日1万発に達した。砲兵火力は「戦場の神様」とも言われ、地上戦の勝敗を決するほど重要だ。
「この差はウクライナ軍の相対的な物資不足を物語っており、ドローン(無人航空機)などの分野でも数の劣勢は明らかだ」(ワトリング研究員)
9月13日、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地に北朝鮮の金正恩総書記を招き、ともに視察したプーチン大統領(写真:朝鮮通信/共同通信イメージズ)
「ロシア軍は24年には動員された武器弾薬の生産、イランや北朝鮮からの供給、在庫を利用して約500万発の砲弾を撃ち込める。ロシアは北大西洋条約機構(NATO)全軍を上回る数の砲弾を生産している。ウクライナは数カ月間にわたって大幅な供給増を見込めない。クレムリンは26年までに勝利できると信じている」とワトリング研究員は指摘する。
独大衆紙ビルト紙(12月14日付電子版)は、ロシアは軍需産業を動員し、年10万人以上の兵員を失いつつも24年末までにドネツク、ルハンスク両州全土とハルキウ州のオスキル川までを占領し、25〜26年にザポリージャ、ドニプロペトロウシク、ハルキウ3州の大部分を占領する計画だと報じた。
南部ではウクライナ軍がクリミア半島に進攻するのを阻止することを優先して、ドニプロ川沿いのヘルソン州の前線を現状のまま維持する考えだという。ロシアは停戦交渉に応じるふりをしながら侵略を継続する計画だ。米シンクタンク「戦争研究所」はビルト紙の報道は長期的な軍事行動に備えるロシア軍の状況と一致していると分析する。
ロシア軍がウクライナ西部の国境まで押し寄せてくる恐れも
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は戦略的予備軍を構築するため長期的な再編と増員に取り組み、国民の反発を買わないよう徐々に動員を行っている。
一方、米国では「1日でウクライナ戦争を解決できる」と言い放つドナルド・トランプ前大統領が24年大統領選で返り咲く可能性がある。そうなればウクライナ戦争を取り巻く状況は一変する。
戦争研究所の分析では、プーチンらロシア当局者が最近、拡張主義的なレトリックに回帰し、ロシア軍がハルキウ州での攻撃作戦を継続しているという。そのことを考えるとビルト紙が報じたロシア軍の計画はもっともらしく聞こえる。
西側のウクライナ支援が途絶えれば、ロシア軍の侵略を食い止めるウクライナ軍の防衛能力が崩壊する可能性が強い。
トランプ氏はプーチンに性的スキャンダルを握られ、思いのままに操られているとの疑惑はいまだに払拭されていない。
戦争研究所は「そうしたシナリオではロシア軍は最終的にウクライナ西部の国境まで押し寄せてくる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。実際、ロシア政府高官も現在の前線を越えてさらにウクライナ領土を占領・併合する意向を表明している。
ワトリング研究員は「ロシアの敗北を確実にすることは可能だが、それにはいくつかの重要なステップが求められる。まずウクライナ軍が24年前半にロシア軍の攻撃を鈍らせることができるよう武器を安定的に供給する必要がある。米国からの十分な支援だけでなく、欧州のNATO加盟国からの供給も増やさなければならない」と強調する。
「24年後半、25年がどうなるかは欧州が決められる」
ワトリング研究員によると、ウクライナ軍の戦力を維持するには欧州各国は軍需産業に投資して生産能力を高めることが決定的に重要だ。反攻に失敗した教訓を生かすため、訓練の改善が最優先されなければならない。ウクライナ軍は5週間の訓練を受けるのが限界で、中隊(百数十人)以上の規模で集団訓練が実施されることはほとんどなかった。
「25年にインド太平洋の緊張がエスカレートすれば、米国は中国を抑止するため、空中給油、兵站、防空といった重要な軍事能力をシフトさせる可能性があり、欧州の安全保障は大きなリスクにさらされる。しかし24年後半、25年がどうなるかは欧州が決められる。これは勝てる戦争なのだ」とワトリング研究員は力説する。
米欧はウクライナ軍に「ロシア軍に負けない支援」を行ったものの、核戦争へのエスカレートを恐れて「勝てる支援」をしてこなかった。期待された電撃戦による反攻は失敗に終わり、いま「負けない支援」を継続することさえ怪しくなっている。そして国際社会の関心は膠着したウクライナ戦争よりイスラエル・ハマス戦争に移る。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)期間中、プーチンは原油価格の下落を防ぐためUAEやサウジアラビアを訪れた。会場に設けられたウクライナ・パビリオンで案内役をしていたキーウの国立食品技術大学博士課程のアレクサンダー・カイさんは「自分の祖父を殺したプーチンがドバイにいるというのは許せない」と吐き捨てた。
期間中、 気候変動問題担当のジョン・ケリー米大統領特使や欧州各国の閣僚が同パビリオンを訪れたものの、昨年のような一般市民の強い関心は感じられなかった。
COP28でウクライナ戦争は忘れ去られ、若者たちはイスラエルに即時停戦を求める抗議活動を行った。
カイさんは「ロシア軍がドローンの暗視装置を使い始めたというニュースが流れた。彼らは武器を更新している。対露制裁が機能していないことを浮き彫りにしている。ロシアは多くのパートナーを持っており、それが制裁を回避するのに役立っている」という。
●バイデン大統領の支持率低下、24年の「もしトラ」でプーチン大統領の高笑い 12/31
いよいよ、今年も残すところあとわずかになってきたが、2024年は世界の多くの国々で、国の将来を左右する大きな選挙が行われる、いわば選挙イヤーだ。1月の台湾総統選を皮切りに、3月にはロシア大統領選、4〜5月はインド総選挙、そして11月には、いよいよ全世界が注目するアメリカ大統領選が予定されている。
「アメリカ大統領選は、来年1月にアイオワ州で指名争いの初戦である党員集会が行われ、3月には、各州の予備選が集中するいわゆる、『スーパーチューズデー』。そして、7月には共和党、8月には民主党の候補が決定し、11月5日に投開票という形で進んでいくことになります。前回同様、今回もバイデンVSトランプの決戦が濃厚ですが、支持率低下に歯止めがかからないバイデン氏に対し、4年を経てもなお、共和党支持者の間で絶大な人気を誇るトランプ氏ですからね。このままの流れで行けば、トランプ氏が大統領に返り咲く可能性も十分考えられることから、今から大いに盛り上がりを見せています」(国際部記者)
18日に米ニュージャージー州のモンマス大学が発表した世論調査によれば、バイデン氏の支持率は9月の38%から12月は34%にまで低下しており、これは過去最低で現状、トランプ氏に完全にリードを許す形となっているが、その支持率低下の最大要因が今回のガザ情勢を巡る対応にあったという。
「ガザで連日多くの人命が失われる中でも、イスラエル寄りの立場を崩さないバイデン氏に対し、彼を支持していたZ世代の若者層や、リベラル派の人々が一気に離れてしまったんですね。一方、強力な岩盤支持層を持つトランプ氏は、多少のことがあっても、その絶対的支持は揺るがないため、相対的に見た場合、トランプ氏が有利という推測が成り立ってしまうというわけなんです」(同)
言うまでもなく、アメリカの大統領選挙は一国の代表を決める選挙に留まらず、「世界の将来を左右する」といっても過言ではない戦いだ。そのため、バイデン氏が勝利すれば、これまでの4年間の基本方針をさらに4年間継続することになるだろうが、もしトランプ氏が再選した場合は、すべてがひっくり返る可能性は十分考えられる。
「元々、米国の利益にならないことは軽視するというスタンスをとってきたトランプ氏のこと。ウクライナ支援も、再選したら停止すると明言していることから、スパッと打ち切る可能性もなくはないでしょう。ただウクライナ支援は米国主導で行ってきたものですから、それを一方的に放棄するとなれば、欧州諸国からの反感を招くことは必至。信頼関係が崩れ、なんとか保ってきた東欧諸国とロシアとの間の安全保障上の懸念が強まることは間違いない。そんなこともあり、トランプ氏の返り咲きを誰よりも熱望しているのが、ロシアのプーチン大統領だと言われているんです」(同)
実際、自国の利益にしか頭がなく、諸外国の問題には基本興味がないという点では、この2人の思考は共通しており、プーチン氏としても、バイデン氏よりははるかに交渉しやすい相手とみている、との話もある。19日に米・アイオワ州で行われた決起集会で「バイデンはアメリカ史上最悪で最も無能で最も腐敗した大統領だ。みんなの投票でこの国を地獄から取り戻そう!」と声高に訴えたトランプ氏。いよいよ「もしトラ」(もしもトランプ氏が大統領になったら)が現実になろうとしている。
●ロシア南西部の州都攻撃され20人以上死亡とロシア政府 子供3人含まれる 12/31
ロシア政府は30日、ウクライナと国境を接する南西部ベルゴロド州の州都ベルゴロド市にウクライナ軍の攻撃があり、20人が死亡し110人以上が負傷したと発表した。死者には子供3人が含まれるという。
ロシア・ベルゴロド州のヴィヤチェスラフ・グラドコフ州知事は通信アプリ「テレグラム」に、「ウクライナ軍による砲撃は、過去2年間で最悪の被害をもたらした」と書いた。
ロシア国防省は、ウクライナ政府が「前線での敗北から注意をそらそうとしているほか、我々を挑発しようとしている」と反発し、「この犯罪は必ず処罰を受ける」と警告した。
ロシア国防省によると、ベルゴロド州全域でミサイル13発を破壊したほか、ブリャンスク、オリョール、クルスク、モスクワ各州でドローン32機を撃墜したという。
ブリャンスク州のアレクサンドル・ボゴマズ州知事は、国境沿いの2つの村がウクライナに砲撃され、子供が1人死亡したと「テレグラム」に書いた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官は、ベルゴロド攻撃について大統領は報告を受けていると明らかにした。
ウクライナ治安当局は、ベルゴロド攻撃の標的は軍事インフラのみだったと主張している。治安当局筋はBBCに対して、「ロシアがウクライナの都市や民間人に対してテロ攻撃を行ったことへの反応として」、ロシアの標的にドローン(無人機)70機を仕向けたのだと話した。
ベルゴロドの被害状況についてウクライナ関係者は、民間人に死傷者が出ているのは「ロシアの防空システムが無能だからだ」として、ロシアが迎撃したドローンの破片が地上に落下しているのだと述べた。
ブリャンスク州への攻撃についてはウクライナ・メディアが情報機関関係者の情報として、ロシア軍の備品を製造していた電子機器工場が標的だったと伝えている。
ベルゴロドへの攻撃の一部を撮影した動画には、複数の車両が衝突状態で映り、一部は炎上している。少なくとも1人の人が路上に横たわり、身動きしないのも見て取れる。BBCは、動画がベルゴロド攻撃を映したものだと確認したが、掲載は控えている。
金属をたたく大きな音や車のクラクションが、動画では絶えず響いている。地面に倒れている人を助けようと別の人が走り寄る様子も見えるが、画面はその後、黒煙で覆われた。
29日にはウクライナ全土がロシアの砲撃を受けた。開戦以来最大規模の全土攻撃で、30日夜までに39人が死亡し、160人近くが負傷した。
チェコ製の武器使用とロシア非難
ロシア政府は30日のベルゴロド攻撃について、ウクライナが自国製「オルハ」ロケットやチェコ製「ヴァンピール」ロケットなど、複数の種類の武器を使用したと述べた。
ウクライナがチェコ製の武器を使用したというロシアの主張を、BBCは独自に確認できていない。
米ニューヨークの国連本部では30日、ロシア代表の要請で安全保障理事会の緊急会合が開かれた。ロシア代表はチェコ代表の出席を要請したが、チェコは「ロシアに呼び出されてどこかに出席させられるなど、受け入れがたい」と反発し、「侵略者のうそに毒されたプロパガンダに奉仕するつもりはない」と一蹴した。
安保理の緊急会合ではロシアのヴァシリー・ネベンジャ国連代表がウクライナについて、「民間の標的に対して意図的で無差別な攻撃」を実施したと非難。これに対して米英をはじめとする諸国代表が、ロシア国民の死亡に責任があるのは、そもそも紛争を始めたプーチン大統領だと反論した。
国連のモハメド・ハレド・キアリ事務次長補は、双方の攻撃を「明確に非難」するとして、民間人や民間インフラへの攻撃は「国際人道法に違反するもので、容認できず、ただちに停止しなくてはならない」と述べた。
ウクライナへの砲撃続く
30日夜には、ウクライナ南西部ヘルソン州のオレクサンドル・プロクディン州知事が「テレグラム」で、集合住宅がロシアに砲撃され、1人が死亡したと明らかにした。
ウクライナ北東部ハルキウ州では、ロシアのロケット砲6発で民間インフラが被害を受け、19人が負傷したと、オレグ・シネグボフ州知事が「テレグラム」に書いた。負傷者には子供2人と外国人が含まれるという。
ハルキウ市内では、中心部にあるハルキウ・パレス・ホテルがロシアに砲撃され被害を受けた。同ホテルは、外国メディアが取材拠点にすることが多い。
●ロシア、ウクライナからの攻撃で市民21人死亡と発表 西部ベルゴロド 12/31
ロシアは30日、西部ベルゴロド州の州都ベルゴロド市がウクライナ側からの砲撃を受け、子ども3人を含む少なくとも21人が死亡、110人が負傷したと明らかにした。
国営タス通信は非常事態省の話として、市中心部に激しい砲撃があったと伝えた。約40の民間施設が損壊し、これにより10カ所で火災が発生した。
西部ブリャンスク州のボゴマズ知事によると、同州でもウクライナ側からの砲撃で子ども1人が死亡したという。
国防省は声明で「この犯罪は罰せられる」「ウクライナは前線での敗北から注意をそらそうとしており、我々に同様の行動をとるようけしかけている」と述べた。
これより前に、28日から29日にかけてはロシア側からウクライナに、ロシアが昨年2月に全面侵攻して以来、最大規模の攻撃があり、40人が死亡、150人超が負傷した。
ウクライナ側から国境付近のロシア領土への攻撃は1年以上にわたってほぼ毎日あり、市民が犠牲になることもあるが、今回の攻撃は死者が最も多いものの一つとなった可能性がある。
ルゴロド州のグラドコフ知事によると、同州は29日夜も砲撃を受けており、民間人1人が死亡、子ども1人を含む4人が負傷した。
国防省は30日、ブリャンスクやオリョール、クルスク、モスクワ各州の上空でウクライナ軍の無人航空機(UAV)32機を破壊したとSNS「テレグラム」で明らかにした。
ロシア大統領府によると、プーチン大統領はベルゴロドへの攻撃について報告を受けた。保健省と非常事態省の救助・支援チームを送るよう指示したという。
ウクライナは今回の攻撃について公にコメントしていない。これまでもロシアに対する攻撃の声明を出すことはほとんどなかった。 
 
 
 

 



2023/10-