当たるも八卦 日本経済 2022

当たるも八卦当たらぬも八卦
2022 日本経済はどうなる

少子高齢化
コロナ禍の影響
世界との関り

 


 
 
 
 
●22年度成長率、3.2%に上方修正 政府経済見通し 2021/12
政府は23日、2022年度の国内総生産(GDP)成長率を物価変動の影響を除いた実質で3.2%とする経済見通しを閣議了解した。7月に示した年央試算の2.2%から上方修正した。大規模な経済対策の効果に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で出遅れていた個人消費を中心に民需主導で経済が回復するシナリオを描く。
政府は毎年12月に経済見通しを作成し、次年度予算案で税収を見積もる前提にしている。政府見通しは平均で3.0%を見込む民間18社の予測より高い。生活実感に近い名目成長率は3.6%とした。
22年度は新型コロナの感染状況が落ち着き、GDPの5割強を占める個人消費の回復が鮮明になると予想する。国内需要のうち民需の寄与度が3.0ポイントと大半を占める一方、公共投資など公需は前年度も経済対策を講じていたため0.0ポイントとほぼ横ばいになる。輸出から輸入を差し引いた外需は0.2ポイントを見込む。
民需の内訳をみると、個人消費が21年度に大きく落ち込んだ反動で4.0%増を見込む。半導体や海外から調達する自動車部品の供給不足などが解消し、民間企業の設備投資は5.1%増を予測する。
11月に決めた財政支出が55.7兆円に上る経済対策も景気を下支えすると分析する。18歳以下の子どもを対象にした1人10万円相当の給付などの施策で、対策がなかった場合に比べてGDPを5.6%押し上げると試算する。このうち22年度は3.6%程度の効果があると説明する。
一方、21年度の成長率見通しは年央試算の3.7%から2.6%に下方修正した。新型コロナの感染拡大に伴い緊急事態宣言が9月末まで発令され、外出自粛や飲食店の営業時間短縮の影響で7〜9月期の実質GDPが前期比年率換算で3.6%減と大きく落ち込んだためだ。
政府は7月に年央試算を策定した際、GDPは21年中にコロナ感染拡大前の19年10〜12月期の水準を回復するとの目標を掲げていた。今回の経済見通しではコロナ前水準を回復する時期を22年1〜3月期に先延ばしした。
新型コロナの変異型「オミクロン型」の感染拡大や、米国や中国など海外経済が減速するリスクもあり、成長率が政府見通しよりも下振れする恐れもある。 
 
 
 
 
●2022年の日本経済見通し  2021/12
実質GDPは21年度が前年度比+2.7%、22年度は同+2.9%、23年度は同+1.2%を予想
日本経済の現状を確認すると、原材料価格の高騰といった悪材料はあるものの、新型コロナウイルスの感染者数が比較的抑制されているなか、個人消費はサービスを中心に回復基調にあります。また、企業活動については、自動車産業などでの供給制約による生産の下押し圧力も、徐々に後退しつつあります。なお、オミクロン型の感染は、国内でも報告されていますが、現時点で景気への影響は限定的となっています。
この先、オミクロン型の感染拡大はリスク要因ですが、経済活動の再開と感染対策の両立は可能と考えています。2022年は、経済対策による景気浮揚効果が4-6月期まで続き、7-9月期以降は効果の低下による成長ペースの鈍化が見込まれますが、回復基調は維持される見通しです。実質GDP成長率は、2021年度が前年度比+2.7%、2022年度は同+2.9%、2023年度は同+1.2%を想定しています(図表1)。
物価は低調な見通しだが日銀は緩和長期化の布石を打っており金融政策の枠組みを当面維持
消費者物価指数について、生鮮食品を除く総合指数は、2021年度が前年度比0.0%、2022年度は同+0.7%、2023年度は同+0.6%を予想しています。なお、2022年4月には、携帯電話料金引き下げの影響が一部剥落し、前年同月比の伸び率は、+1.0%程度まで拡大する見通しです。ただ、それ以降は、エネルギー価格の上昇による物価押し上げ効果が剥落し、前年同月比の伸び率は0%台半ばへ減速するとみています。
このように、国内の物価の伸びは力強さに欠け、日銀が掲げる2%の物価目標は、達成が難しい状況が続く見込みです。また、日銀は2021年3月、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検結果を公表し、貸出促進付利制度の創設や、長期金利の変動幅拡大などを決定しました。これらは金融緩和の長期化に対応するための布石と考えられ、少なくとも2022年は、現行の金融政策の枠組みが維持されると予想します。
長期金利はゼロ%近辺で推移を予想、財政政策ではオミクロンの感染拡大なら追加経済対策も
日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する限り、日本の10年国債利回りはゼロ%近辺での推移が続くと思われます(図表2)。なお、米国では、2022年に量的緩和の終了や利上げ開始が見込まれているため、長期金利が緩やかに上昇し、日本の10年国債利回りも連れて上昇する場面があると考えます。ただ、日銀が許容する変動幅の上限(0.25%)を超える公算は小さいとみています。
最後に、財政政策を確認しておくと、岸田政権は当面、景気配慮型の政策運営を続けると思われます。12月20日に21年度の補正予算が成立し、コロナ対策や経済活動の再開に向けた費用が計上されたことで、しばらくは不測の事態への対応が可能となりました。仮に、オミクロン型の感染が深刻化すれば、岸田政権は2022年夏の参院選を前に追加経済対策を打ち出し、一段の景気浮揚を図ることも予想されます。 
 
 
 
 
●2022年の日本経済見通し 2021/12
2022年における日本の実質GDP成長率は+4.0%と、欧米並みの高成長を見込んでいる。経済活動の再開や、岸田文雄政権が取りまとめた経済対策の効果もあって個人消費や設備投資の成長率が高まる一方、政府消費はコロナ危機対応策の必要性が低下することで伸び悩む見通しである。
ただし、景気の下振れリスクは小さくない。最大のリスク要因は新型コロナウイルスの変異株である。仮にオミクロン株が国内で流行し、感染予防率が30%pt低下すると、2022年に3回の行動制限の強化を余儀なくされる。同年の実質GDPは全国ベースで10兆円減少し、成長率は1.8%pt低下するだろう。また新たな変異株が出現する可能性もあり、とりわけ重症化予防効果を引き下げるタイプのものには警戒が必要だ。
米国ではインフレ懸念が強まっているが、足元で前年比+7%近いCPI上昇率は2022年10-12月期で同+3.0%まで低下する見込みである。だが、インフレが想定以上に加速し、米国国債市場が変調をきたす可能性は否定できない。仮に米国の長期金利が5%まで上昇すると、世界経済の成長率は5%pt低下する。世界経済への悪影響が2022年中に全て発現すれば、同年の世界経済はマイナス成長に陥るほどのインパクトがある。
中国の不動産市場は停滞感が強まっている。民間部門の債務残高対GDP比は、バブル崩壊を経験した日本、米国、スペインのピーク時を超えている。政府の政策余地の大きさもあり、当面のバブル崩壊リスクは限定的とみているものの、その動向には注意が必要だ。上記3カ国のバブル崩壊後の価格推移を機械的に中国に当てはめると、不動産価値の減少額は最大280兆元(可処分所得の4倍程度)に上る。中国でリスクが顕在化した場合、負の資産効果を通じて個人消費が大幅に抑制されることは避けられないだろう。 
 
 
 
 
●令和4年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度  2021/12
概要
• 2021年度(令和3年度)のGDP成長率は、実質で2.6%程度、名目で1.7%程度となり、GDPは年度中にコロナ前の水準を回復することが見込まれる。
• 2022年度(令和4年度)は、経済対策を迅速かつ着実に実施すること等により、GDP成長率は実質で3.2%程度、名目で3.6%程度となり、GDPは過去最高となることが見込まれる。公的支出による経済下支えの下、消費の回復や堅調な設備投資に牽引される形で、民需主導の自律的な成長と「成長と分配の好循環」の実現に向けて着実に前進。
1.令和3年度の経済動向及び令和4年度の経済見通し
(1)令和3年度及び令和4年度の主要経済指標
(2)令和3年度の経済動向
我が国経済は、長引く新型コロナウイルス感染症の影響の下にあるが、令和3年9月末をもって、全国の緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は全て解除され、行動制限も段階的に緩和されてきたこと等から、厳しい状況は徐々に緩和されており、このところ持ち直しの動きがみられる。
ただし、供給面での制約や原材料価格の動向による下振れリスクに十分注意する必要がある。また、新たな変異株の出現による感染拡大への懸念が生じていることから、新型コロナウイルス感染症による内外経済への影響や金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある。
こうした中、政府は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止、「ウィズコロナ」下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え、未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動、防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保を柱とする「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(以下「経済対策」という。)を策定し、令和3年度補正予算を編成した。
これを迅速かつ着実に実行することを通じて、足元の経済の下支えを図り、景気下振れリスクに対応するとともに、感染が再拡大した場合にも国民の暮らし、雇用や事業を守り抜き、経済の底割れを防ぐ。また、「新しい資本主義」を起動し、「成長と分配の好循環」を実現して、経済を自律的な成長軌道に乗せる。
こうした下で、令和3年度の実質国内総生産(実質GDP)成長率は2.6%程度、名目国内総生産(名目GDP)成長率は 1.7%程度となり、GDPは令和3年度中に感染拡大前の水準を回復することが見込まれる。また、消費者物価(総合)変化率は0.1%程度と見込まれる。
(3)令和4年度の経済見通し
令和4年度については、後段で示す「2.令和4年度の経済財政運営の基本的態度」に基づき、「経済対策」を迅速かつ着実に実施すること等により、実質GDP成長率は 3.2%程度、名目GDP成長率は 3.6%程度と見込まれる。GDPは過去最高となることが見込まれ、公的支出による経済下支えの下、消費の回復や堅調な設備投資に牽引される形で、民需主導の自律的な成長と「成長と分配の好循環」の実現に向けて着実に前進していく。また、消費者物価(総合)変化率は、0.9%程度と見込まれる。
ただし、引き続き、供給面での制約や原材料価格の動向による下振れリスクに十分注意する必要があり、また、感染症による内外経済への影響や金融資本市場の変動等の影響を注視する必要がある。
1実質国内総生産(実質GDP)
(@)民間最終消費支出
感染拡大防止と社会経済活動の両立が図られる中で、社会経済活動が正常化に向かい、また、雇用・所得環境の改善が進むことにより、増加する(対前年度比 4.0%程度の増)。
(A)民間住宅投資
緩和的な金融環境の下、おおむね横ばいで推移する(対前年度比 0.9%程度の増)。
(B)民間企業設備投資
「経済対策」の効果もあって、デジタル化・グリーン化の促進等に伴い、増加する(対前年度比 5.1%程度の増)。
(C)公需
過去の経済対策等の実施が進んだ一方で、「経済対策」に伴う政府支出や、社会保障関係費の増加等により、おおむね横ばいとなる(実質GDP成長率に対する公需の寄与度 0.0%程度)。
(D)外需(財貨・サービスの純輸出)
海外経済の回復に伴い、増加する(実質GDP成長率に対する外需の寄与度 0.2%程度)。
2実質国民総所得(実質GNI)
実質GDP成長率と同程度の伸びとなる(対前年度比 3.1%程度の増)。
3労働・雇用
社会経済活動が正常化に向かう中で、雇用者数は増加し(対前年度比0.4%程度の増)、完全失業率は低下する(2.4%程度)。
4鉱工業生産
内外経済の回復に伴い、増加する(対前年度比 5.0%程度の増)。
5物価
消費者物価(総合)は、経済の回復や前年度における携帯電話通信料の影響が剥落する下で、上昇する(対前年度比 0.9%程度の上昇)。こうした中でGDPデフレーターは上昇する(対前年度比 0.4%程度の上昇)。
6国際収支
所得収支の黒字が続く中、経常収支の黒字はおおむね横ばいで推移する(経常収支対名目GDP比 2.8%程度)。
2.令和4年度の経済財政運営の基本的態度
経済財政運営に当たっては、「経済対策」を迅速かつ着実に実施し、公的支出による下支えを図りつつ、消費や設備投資といった民需の回復を後押しし、経済を民需主導の持続的な成長軌道に乗せていく。
最大の目標であるデフレからの脱却を成し遂げる。危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期する。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。
経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組んでいく。
その上で、岸田内閣が目指すのは、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとする新しい資本主義の実現である。
成長を目指すことは極めて重要であり、その実現に全力で取り組む。しかし、分配なくして次の成長なし。成長の果実をしっかりと分配することで、初めて次の成長が実現する。
具体的には、「科学技術立国の実現」、地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」を3つの柱とした大胆な投資とともに、デジタル臨時行政調査会における規制・制度改革等を通じ、ポストコロナ社会を見据えた成長戦略を国主導で推進し、経済成長を図る。また、賃上げの促進等による働く人への分配機能の強化、看護・介護・保育等に係る公的価格の在り方の抜本的な見直し、少子化対策等を含む全ての世代が支え合う持続可能な全世代型社会保障制度の構築を柱とした分配戦略を推進する。
加えて、東日本大震災からの復興・創生、高付加価値化と輸出力強化を含む農林水産業の振興、老朽化対策を含む防災・減災、国土強靱化や交通、物流インフラの整備等の推進、観光や文化・芸術への支援など、地方活性化に向けた基盤づくりに積極的に投資する。年代・目的に応じた、デジタル時代にふさわしい効果的な人材育成、質の高い教育の実現を図る。2050年カーボンニュートラルを目指し、グリーン社会の実現に取り組む。
これまでにない速度で厳しさを増す国際情勢の中で、国民を守り抜き、地球規模の課題解決に向けて国際社会を主導するため、外交力や防衛力を強化する等、安全保障の強化に取り組む。
これまでの政府・与党の決定を踏まえた取組を着実に進めるとともに、財政の単年度主義の弊害を是正し、科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家課題に計画的に取り組む。
日本銀行には、感染症の経済への影響を注視し、適切な金融政策運営を行い、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標を実現することを期待する。  
 
 
 
 
●ウィズコロナ下での世界・日本経済の展望 2021/11
世界経済
世界経済は、国や地域によるばらつきを伴いつつも、総じてコロナ危機による落ち込みから回復を続けている。欧米先進国では、ワクチン接種完了者比率が人口の6割を超えつつあり、防疫と経済活動の両立が進んでいる。一方で、世界経済の回復ペースは21年4-6月期に比べて7-9月期は減速した。部品・原材料不足の深刻化、資源価格の上昇、中国の電力不足による生産減速などが背景にある。
22年にかけての世界経済は、経済活動の正常化に伴う雇用・所得や消費の回復本格化を背景に、コロナ危機下での政策効果に支えられた回復から、自律的な回復へのシフトが本格化するだろう。そのうえで、コロナ危機からの世界経済の回復パスを左右する注目点は、次の3点である。
第一に、供給制約の解消時期である。供給制約を引き起こしている複数の要因のうち、1海上物流の逼迫と、2新興国での感染拡大によるサプライチェーンを通じた供給制約は、22年入り後に段階的に緩和されていくだろう。一方で、3半導体不足と、4人手不足は22年末にかけても継続を見込む。半導体の供給能力不足も、人材のミスマッチも、短期的には解消が難しいためだ。
第二に、消費の回復力である。22年にかけて経済活動の正常化とともに雇用・所得の回復本格化が見込まれるなか、コロナ危機下で積み上がった貯蓄が消費に回ることが予想される。ただし、人材の需給ミスマッチの長期化による雇用・所得環境の回復の遅れ、供給制約の長期化による物価上昇などを背景に、実質所得の回復ペースが鈍いものにとどまれば、消費の下振れ要因となろう。
第三に、米国の利上げ時期である。22年半ばに終了するとみられる資産買入規模の縮小の後、FRBが1回目の利上げに踏み切るのは22年後半となるだろう。経済活動の正常化が進むなかで、労働参加率の段階的な改善が予想されるためだ。期待インフレ率が一段と上昇した場合や住宅価格など資産バブルへの懸念が強まった場合には、利上げ時期が早まるだろう。
これらを踏まえ、世界経済の実質GDP成長率は、21年が前年比+5.1%(前回8月見通しから0.3%ポイント下方修正)、22年が同+3.7%(変更なし)と予測する。
先行きのリスクは、第一に、市場の想定よりも早い米国利上げによる金融市場の混乱である。米国の株価収益率は1929年の大恐慌前の水準を既に上回っており、金利急上昇が米国の割高な株価調整の引き金となる可能性がある。また、米国の金利上昇とそれに伴うドル高は、新興国市場からの資金流出を加速させ、世界経済の下振れ要因となる。第二に、債務問題の深刻化による中国経済の失速である。信用不安が高まる不動産セクターの債務処理は、当局監視のもと慎重に進められる見通しだ。ただし、秩序だった債務処理に失敗すれば、不動産セクター以外の健全な企業にも、資金繰り悪化や倒産が連鎖的に広がる可能性がある。中国経済の失速、さらには世界経済の下振れ要因となりかねない点に注意が必要だ。
日本経済
日本経済は、10月の緊急事態宣言解除後も新規感染者数が低位で推移しており、飲食や宿泊など外出関連業種を含め、国内経済活動の再開が進んでいる。ワクチンの定期的な接種、無料のPCR検査の拡大、医療供給体制の強化などにより、外出関連の経済活動を本格的に再開させつつ、医療逼迫を回避できる可能性が高まっていくだろう。22年にかけては、経済活動の正常化に伴う雇用・所得環境の改善に加え、コロナ危機下で積み上がった約40兆円の過剰貯蓄の一部が消費に回ることもあり、潜在成長率を上回るペースでの回復を見込む。もっとも、半導体などの供給制約は、22年にかけても引き続き企業活動の抑制要因となると予想する。
実質GDP成長率は、21年度は同+2%台半ば、22年度も同+2%台半ばと予測する。コロナ危機前の水準(19年10-12月期)を回復する時期は、22年前半となろう。
米国経済
米国経済は、7-9月はデルタ株の感染拡大や深刻な供給制約によって回復ペースが鈍化した。21年の実質GDP成長率は、実績値の下振れに加え、供給制約や物価上昇圧力の高まりが景気回復の重しとなることから、前年比+5%台半ばと前回8月見通しから下方修正する。22年は、財政・金融政策による経済下支え効果の段階的縮小が予想されるものの、防疫措置の緩和により経済の自律的な回復力が高まるほか、供給制約も段階的に緩和に向かうとみており、同+4%台前半の高い経済成長を達成する見込み。コロナ危機下で積み上がった貯蓄(約2.6兆ドル)が消費に回ることも期待される。なお、FRBが1回目の利上げに踏み切るのは22年後半となるだろう。供給制約の緩和で物価の安定が見込まれるほか、経済活動が正常化するなかで労働参加率の改善も予想されるためだ。
欧州経済
欧州経済は、ワクチンが普及するなか、デジタルCOVID証明書を活用しながら経済活動を再開する動きが広がっており、7-9月期は景気の回復ペースが加速した。22年にかけては、半導体不足や資源価格上昇が景気回復の重しとなるが、全体としては経済活動の再開や雇用・所得環境の持ち直しを背景に、欧州経済は回復傾向を維持する見込み。欧州5カ国の実質GDP成長率は、7-9月期の成長上振れを反映し、前年比+5%程度と前回8月見通しから上方修正する。経済活動の正常化の進展により、22年も同+4%台前半と高めの成長を予想する。コロナ危機前の水準を回復するのは22年前半となる見込み。
中国経済
中国経済は、不動産投資の減速や、電力不足などの供給制約から成長が減速している。中国政府は、過剰債務削減に向けて不動産企業の資金調達基準を厳格化しており、恒大集団をはじめ不動産開発会社の信用不安が高まっている。不動産業界の債務削減は中長期的には金融リスクの抑制につながるが、短期的には不動産投資を慎重化させ、成長の抑制要因となる。21年の実質GDP成長率は、前年の反動もあり前年比+8%台前半の高い伸びを予想するが、前回8月見通しからは下方修正する。22年は金融リスクの抑制や脱炭素に向けた規制強化から、同+5%台前半への減速を予想する。
新興国経済
新興国では、デルタ株流行による感染拡大から、7-9月はASEANなどで厳格な外出規制が実施され、成長は大幅に鈍化した。新興国経済の成長率見通しは前回8月見通しから総じて下方修正する。今後、新興国経済は、ワクチン普及などによる先進国経済の段階的な正常化を背景に輸出主導での成長回復を見込むが、22年にかけて米国金融政策の出口への動きが本格化するなかで、新興国からの資金流出圧力が過度に強まれば、インフレや通貨防衛のための利上げを強いられ、経済の回復ペースが鈍化する可能性がある。  
 
 
 
 
●日本経済の中期見通し(2021〜2030 年度)
〜コロナ禍の教訓を活かせるかが中期的な成長力を左右する〜
要旨
○ 2022 年度中はコロナ禍の影響が残る可能性があるが、2023 年度には感染による経済活動への影響は収束し、アフターコロナ期に移行する。経済活動が正常化し、内外の人の移動もほぼコロナ前の状態に復帰し、インバウンド需要が急速に回復するであろう。こうした中で問題となるのが、第一に人手不足の深刻化である。コロナショックの発生直前まで、対面型サービス業を中心に、人手不足による供給制約に直面していたが、こうした業種ではコロナ禍において就業者が減少しており、再度増加させることは容易ではない。第二に、コロナ禍において先送りになった財政健全化と社会保障制度改革の問題が、高齢化が加速する中で、再び経済活動の重石となる可能性がある。
○ 2023 年度〜2025 年度には、労働投入量の減少ペースが加速する見込みで、コロナ禍の発生前から課題となっていた生産性向上に再度挑むことを余儀なくされる。幸いにも、本来は導入に時間がかかったと思われるテレワーク、業務のオンライン化、リモート化、無人化などの各種改革や規制緩和がコロナ禍で一気に導入、実用化された。この結果、労働生産性向上や労働参加率上昇の基盤が整ったと考えられ、これらコロナ禍で得られた成果や教訓の活用が始まる。なお、財政健全化、持続可能な社会保障制度の構築、世代間の不均衡是正のために、歳出見直しと消費増税が必要と考え、消費税率は 2025 年度に 12%、2030年度に 15%に引き上げられるとした。ただし、タイミングは後ずれする可能性があり、その際にはそれだけ財政健全化が遅れることになる。
○ 2021 年度〜2025 年度の実質 GDP 成長率は平均で+1.3%と高い伸びとなるが、コロナ禍の反動もあって2021〜2022 年度に高い伸びとなるためであり、2023〜2025 年度では平均で+0.5%と緩やかな伸びにとどまる。コロナショック後の経済正常化の過程における回復の勢いが一服し、人口減少、高齢化進展の影響が強まってくる中で持ち直しの勢いは鈍い。それでも、労働生産性向上や働き方改革の定着化によって供給能力の拡大は維持され、経済成長はプラス基調を維持する見込みである。
○ 2020 年代後半の実質 GDP 成長率は同+0.7%とプラス成長が続く。人口減少ペースが加速し、労働投入量の減少幅が拡大するといったマイナス効果が増大する一方で、生産性の伸びの確保、インバウンド需要の回復本格化などにより 1 人当たり GDP の伸びはこれまでと同テンポを維持できるであろう。
○ デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やカーボンニュートラル達成、環境対応のための設備投資、研究開発投資(R&D 投資)は、今後も増加していく見込みで、一定の経済の押し上げ効果は期待できる。ただし、国際的な競争が激しさを増す中で、どの程度成長率の押し上げに寄与するかは未知数であり、過度の期待は禁物である。
第1章 日本経済を取り巻く環境
(1)グローバル経済の行方〜アフターコロナ期も経済成長率は緩やかに鈍化していく世界の人口は増加を続けているが、そのペースは年々緩やかになっている。アフターコロナ期においてもこうした動きに変化はないと考えられ、今後も鈍化が続くと見込まれる(図表 1)。中国の一人っ子政策の転換などの動きはあるが、短期的な影響は軽微にとどまるであろう。生産年齢人口の動きをみると、全人口に占める比率はすでに 2010 年代前半にピークをつけており、人口増加が続いている中でも高齢化が進みつつあることがわかる。こうした人口動態を反映して、世界経済の成長率は緩やかに鈍化していくと予想される。
   図表 1.世界の人口増加率と生産年齢人口比率の予測
先進国の成長率については、高齢化の進展や新興国との競争の激化によって、鈍化傾向が鮮明になっていくと見込まれる。一方、世界経済の成長のけん引役として期待される新興国においても、コロナ対応のための歳出急増による財政悪化や人口の増加ペースの鈍化などから、経済成長のすう勢的な減速を余儀なくされよう。
今回の中期見通しでは、前提となる世界の実質 GDP 成長率を 2016〜2020 年平均の+2.0%に対し、2021〜2025 年を同+4.1%、2026〜2030 年を同+3.2%と予測した(図表 2)。伸び率が急速に高まっているのは、2020 年がコロナショックの影響で−3.1%と戦後最悪のマイナス成長となった反動によるものであるが、それを割り引いても世界経済の底堅さは維持される見込みであり、日本からの輸出にとっても追い風となろう。
この理由として、1AI や ICT 関連技術の進展によって生産性向上やイノベーションが各国で進むと期待される、2通信機能の強化、ロボットの導入、自動車の電動化、産業構造変化により半導体・電子部品デバイスのニーズが一段と強まる、3省エネ技術や再生可能エネルギー導入といった環境に配慮した投資の増加が予想される、4交通、物流などインフラ投資のニーズが強い、5貿易自由化の推進が続くことで、世界の貿易量の増加傾向が維持され、それが各国の経済成長を促していく、などの理由による。
   図表 2.世界経済の成長率予測(5 年平均)
(2)人口減少と高齢化の進展〜労働力の不足と制度の持続不可能性
日本経済は、中長期的にいくつもの課題を抱えているが、人口減少と高齢化がとりわけ深刻な問題となっている。
日本の総人口は、2008 年の 1 億 2808 万人をピークに減少が続いている。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来人口推計」(2017 年 4 月時点)を参考に、2020 年までの動きを加味した当社の推計によると、今後、減少ペースは加速し、2030 年には 1 億 1952 万人とピークから約 860 万人も減少する見込みである(図表 3)。
高齢化も今後着実に進行する。当社推計によると、2026 年には高齢化率が世界で初めて 30%を超えるとみられる。団塊世代は 2019 年に全員が 70 歳を迎えたが、さらに 2024 年には全員が後期高齢者となる(図表 4)。
人口減少と高齢化は、生産年齢人口の減少、ひいては労働力の減少をもたらす。さらには、人口構成の変化をもたらし、その結果、高齢化率が高まることで、現行の社会保障制度の持続可能性が脅かされる。年金、医療制度の改革は、徐々に進んではいるものの、未だ解決への道筋はついておらず、世代間不均衡を極力拡大させない形での諸制度の再編が急務となっている。
   図表 3.人口の予測
   図表 4.団塊世代の高齢化が進む
(3)厳しい財政状況〜消費税率の追加引き上げへ
財政悪化は、金利上昇による利払い負担の増加と財政破綻・日本国債のデフォルトのリスク、民間の資金需要の拡大を阻害する懸念、将来の財政支出の自由度を奪うリスクなどの点で大きな問題である。日本では財政赤字が続き、政府債務残高は増加しており、財政は厳しい状況にあると言える。もっとも、日本銀行の緩和的な金融政策により金利が非常に低い水準で推移しており、財政赤字が引き起こすと考えられる問題はこれまでのところは顕在化していない。
2020 年度に新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、歳出が大幅に増加し、その財源として 108.6 兆円の国債が新規に発行され、財政は大幅に悪化した。このような中、政府は 2021年 6 月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針 2021」において、国と地方を合わせた基礎的財政収支については 2025 年度に黒字化することを目指す一方、新型コロナウイルス感染症が経済財政に与える影響について検証し、その結果を踏まえて、目標年度を再確認するとしている。
緩和的な金融政策が続く中、黒字化の目標年度はこれまでにも先送りされていることを考慮すると、今後も財政健全化への取り組みを先送りする政府の姿勢に大きな変化はみられない可能性が高い。財政健全化に向けた本格的な議論が開始されるのは、1 人の高齢者を 2 人の現役世代で支えなければならない、つまり、老年人口指数が 50 を超え、社会保障制度の持続可能性への懸念が高まると考えられる 2023 年ごろになるだろう(図表 5)。
   図表 5.老年人口指数の予測
高齢化の進展とともに社会保障給付費は増加が続くと考えられ、社会保障制度の維持のために、本中期見通しでは消費税率が 2025 年度に 12%、2030 年度に 15%(軽減税率は 2030 年度に 10%)に引き上げられると想定している。また、歳出については、厳しい財政の下、社会保障給付費以外の増加率は抑制されると想定している。こうした財政政策の下、国と地方の基礎的財政収支は 2021 年度以降、改善が続くものの、2030 年度までに黒字化することは難しいと考えられる(図表 6)。
   図表 6.国と地方の基礎的財政収支の予測
2020 年度に新型コロナウイルス感染拡大に対応するために新規国債発行額が 108.6 兆円と過去最大になったことや名目 GDP の水準が落ち込んだことから、国と地方の長期債務残高の GDP比は大幅に上昇したとみられる(図表 7)。今後は、国と地方の基礎的財政収支の改善が続くことなどを背景に、長期債務残高の GDP 比の上昇に歯止めがかかってくると見込まれる。もっとも、新型コロナウイルス感染拡大前と比較すると、その水準は大幅に上昇したままであり、政府が目指している政府債務残高の GDP 比の安定的な引き下げは難しいだろう。
   図表 7.国と地方の長期債務残高の予測
第2章 アフターコロナ期における低成長を回避するために
(1)労働資源を最大限に活用する〜再び人手不足に直面する懸念
人口が減少することは、経済の需要と供給の両面にとってマイナス要因となる。日本の場合、需要不足による景気低迷の懸念がより強く意識されてきたが、コロナショックの発生直前には一部の業種で深刻な人手不足が発生し、需要があってもそれに十分に対応できない、いわゆる供給制約の懸念に直面していた。
その後、コロナショックの発生によって需要が一気に落ち込み、対面型サービス業を中心に労働力が余剰に転じるなど一時的に人手不足の状態は和らいだ。しかし、経済活動が正常化するに伴い、再び人手不足と供給制約の問題が深刻化することが懸念される。
供給制約を乗り越え、経済が低迷することを回避するためには、まず労働力の確保が重要となってくる。コロナ前から、長時間労働の是正、休暇制度・在宅勤務制度の拡充、非正規社員の処遇改善といった働き方改革が進められているほか、定年延長や子育て支援制度の充実が図られる中で、女性や高齢者の労働参加の増加によって労働力人口は増加している(図表 8)。
   図表 8.労働力人口と労働投入量の予測
こうした動きに加え、新型コロナウイルスの感染が急拡大したことで、働き方改革が加速し、自宅でのテレワーク推進や業務のリモート化をはじめとする各種の試みが、実証実験や細かいルール作りを省略していきなり実践に移されることになった。また、危機感をもって対応することで急速に浸透しつつあり、通信環境などのインフラの整備もあって、今や業務スタイルのスタンダードの一つとして定着しつつある。こうしたやむを得ず導入された制度や仕組みであっても、真に必要なものはアフターコロナ期においても定着していくと考えられる。
こうした動きは、労働への障害を減少させ、潜在的な労働力を掘り起こすことで、労働力人口を押し上げると考えられる。このため、総人口が減少する中においても労働力人口は 2024 年までは増加を続け、その後は緩やかに減少するものの、高い水準を維持しよう。
しかし、労働力人口の増加は労働時間の短い女性と高齢者が中心であるため、労働投入量(=労働者数×1 人当たり労働時間)は 2018 年をピークにすでに減少に転じている。今後、働き方改革の恩恵により通勤時間の短縮や兼業・副業の拡大などで業務時間の延長が可能となる部分もあるが、それにも限界があるだろう。
したがって、労働力人口の増加は、一時しのぎにはなるが、供給制約の根本的な解決にはつながらない。特に 2020 年代後半になると、労働投入量の減少ペースが加速していく見込みであり、景気に対する下押し圧力が増すことになる(図表 9)。
   図表 9.労働投入量の予測(5 年平均)
(2)求められる生産性の向上〜労働投入量の減少を補うために
このように労働投入量の減少が避けられない中で経済を拡大させるためには、1 人当たりの生産能力を高めるしか方法はない。しかし、日本の労働生産性は、バブル崩壊後に急低下した後、伸び率は低迷したままである。リーマンショック後の景気回復期において、やや持ち直す時期もあったが、その後は再び伸び率が鈍化しており、コロナ禍にあった 2020 年にはマイナスに転じたと見込まれる(図表 10)。
労働生産性を向上させるためには、少ない人数でより効率よく生産する方法か、付加価値の高い製品やサービスを生産する方法の大きく 2 通りの手段がある。
前者は、AI、IoT、ロボット、ビッグデータなどの導入や活用によって、機械で代替できるものは機械に任せ、可能な限り自動化、無人化、リモート化を進め、無駄を省き、業務の効率化を図っていこうとするものである。このためには、最新鋭の機械設備や情報機器などを導入することが不可欠であるが、多くの企業において、積極的に省力化のための投資や情報化投資を行い、IoT や AI の利用の可能性を探り始めており、一部には実用化されているケースもある。また、第 5 世代移動通信(5G)の商用化・普及が徐々に進展するなど、ICT 基盤の整備・活用が促進されつつあることも生産性向上に結び付くと期待される。
また、こうした状況になれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進され、そこからさらに ICT 関連業務の新たな需要が生み出され、そのニーズに対応するために技術革新が進むという相乗効果が飛躍的に高まると期待される。
   図表 10.労働生産性の推移
これらの技術の活用の多くは、本来は試行錯誤を繰り返しつつ、また複雑なルールや規制を改正・解除しつつ、徐々に実用化されるものであり、短期的に効果が上がることは期待しづらい。また、新たな技術を導入するにあたっては、これまでの手段や技能を否定するものになりかねず、抵抗や躊躇もあると考えられる。しかし、コロナ禍の逆境の下において、否応なく対応せざるを得なくなったことで、導入、使用に至るまでの時間が大幅に短縮された。今後、労働需給が再びタイト化してくれば、通信環境などのインフラ整備、AI など新技術普及、働き方改革の推進とも相まって、労働力人口の増加、余暇の創出、副業・兼業の広がりなどにつながり、それが労働生産性を向上させ、潜在成長力の底上げを促すなど多くの成果が期待されるであろう。
さらに、企業間の連携の強化・推進、業務の合理化や外部委託、事業の選択と集中、不採算事業からの撤退、シェアリングエコノミーの浸透など、業務の無駄を省き、スリム化する動きを継続することも必要である。こうした動きはこれまでも進められてきたが、コロナ禍において半ば強制的に推進され、ペースが加速した側面もある。
加えて、業界内で集約化や統合の動きが加速することも予想される。これにより、業務の効率を高めることが可能となり、結果的に労働力不足の解消にもつながるという面があるほか、1 社当たりの研究開発投資(R&D 投資)や省人化投資の負担が軽減される効果も期待される。コロナ前から業界再編の動きがすでに進みつつあったが、コロナ禍を経てその動きが活発化するとともに、国境を越えた形で進む可能性もある。
生産性を着実に向上させるためには、もう一つの方法である製品やサービスの高度化・高付加価値化の推進も必要である。この取り組みとして、自動運転や電気自動車の研究開発を進めている輸送用機械を筆頭に、研究開発投資の積み増しが行われているが、今後はこうした取り組みが多くの業種で進められていくであろう。
(3)製造業を中心に生産性は徐々に向上へ〜必要不可欠な労働力の円滑な移転
さらに、生産性向上によって余った労働力を他の業務に振り向けることや新規事業に投入することで、新たな付加価値を生み出していく必要がある。生産性の向上を単に業務の効率化にとどめてしまっては、経済規模を拡大させることはできない。
また、こうした取り組みを国全体で行っていく必要がある。これは、限られた労働力を産業間でいかに無駄なく、有効に配分できるかによって、国全体の供給能力が規定され、経済成長率の伸びが左右されるためである。
今後、再び労働力不足に直面すると懸念されるのが、医療・福祉・介護といった高齢化に伴って需要が一段と高まると予想される業種や、コロナ禍の発生直前までは深刻な人手不足の状態にあった宿泊・飲食サービス、慢性的な人手不足が続く建設、小売、情報サービスなどの非製造業である。一方、少人数であっても付加価値を獲得でき、労働力の減少にも技術面で対応する余地があるのが製造業である。すでに、製造業の就業者は減少に転じており、労働力の非製造業へのシフトは進んでいるが、今後はより円滑にシフトさせることができるかが供給制約のリスクを回避するうえでのポイントとなる。
そのためには、業種間での労働力の移動を促しやすい政策の導入や体制の整備が求められる。また、より生産性の高い産業の比率を拡大させ、生産性の低い産業の比率を縮小させるよう産業構造を大胆に変化させ、産業全体で効率化を図ることも必要であろう。
これらの結果、労働生産性は 2030 年度に向けて徐々に高まっていくと期待される(図表11)。中でも高い伸びが予想されるのが製造業である。足元の労働生産性は製造業で高く、非製造業で低い状態にある。海外景気の減速などの影響によって、製造業の生産性向上の動きが一服する可能性はあるものの、省力化投資など生産性の向上に向けた企業の取り組みの効果が次第に高まってくることや、製品やサービスの高付加価値化が進むこと、さらには企業の集約化や合理化が進むことで値下げ競争に巻き込まれることも少なくなり、生産性は次第に高まっていくと予想される。貿易の自由化推進を背景に、輸出における高付加価値化が進むこともプラス要因である。
一方、非製造業においても、時間はかかる可能性はあるが、コロナ禍で得た教訓を糧として、次第に取り組みの成果が高まってくるであろう。
   図表 11.労働生産性の予測(業種別)
第3章 中期見通しの概要
(1)潜在成長率の予想
潜在成長率は、2010 年代半ばをピークに低下し、新型コロナウイルス感染症の発生によって大幅な落ち込みを余儀なくされたが、感染が収束に向かうこともあり、予測期間中は緩やかに持ち直していくと予想している(図表 12)。2010 年代後半(2016〜2020 年度)の潜在成長率の平均が+0.2%程度であったのに対し、2020 年代前半(2021〜2025 年度)には+0.5%程度、2020 年代後半(2026〜2030 年度)には+0.7%程度と徐々に高まっていくだろう。
労働の寄与は、労働参加率の上昇が下支えとなっているものの、15 歳以上人口や 1 人当たり労働時間の減少を受けて足元ではマイナスとなっている。予測期間中も、女性や高齢者の労働参加を受けて労働参加率は上昇が続くとみられるものの、人口減少や働き方の変化等による 1 人当たり労働時間の減少を背景に、労働投入は減少していく見通しである。
一方、資本の寄与は、堅調な企業の設備投資動向を反映して、足元ではプラスとなっている。予測期間中も、省力化や情報化のための投資のほか、競争力の維持・強化に必要な研究開発投資、Eコマースの拡大を背景とした先進物流施設等の建設投資、脱炭素に向けた環境対応投資等、様々な投資が必要とされる中で、資本投入は増加が続くと考えられる。
また、生産性の寄与は、足元で縮小しているが、予測期間中は緩やかに持ち直していくであろう。人手不足から生産性の向上が一層求められるようになる中、企業においてテレワークをはじめとした柔軟な働き方が一般化していくとともに、設備投資が堅調に増加することで資本の新陳代謝が進むとみられることも、生産性を押し上げる要因になると考えられる。
   図表 12.潜在成長率の予測
(2)2025 年度までの日本経済〜アフターコロナ期に移行し、経済の正常化が進む
2020 年代前半の実質 GDP 成長率は、平均で+1.3%と高い伸びとなるが(図表 13)、これはコロナ禍の反動もあって 2021〜2022 年度に高い伸びとなるためである。2022 年度中には新型コロナウイルスの感染は収束し、それ以降は感染に経済活動や生活が制約されない状態に移行するものと想定しているが、こうしたアフターコロナ期にあたる 2023〜2025 年度では平均で+0.5%と、経済の正常化が進む中で緩やかな伸びとなる(図表 14)。コロナショック後の経済正常化の過程における回復の勢いが一服し、人口減少、高齢化進展などのマイナスの影響が強まってくる中で、持ち直しの勢いは鈍化するは避けられない。それでも、労働生産性向上や働き方改革の定着化によって供給能力の拡大は維持され、経済成長はプラス基調を維持する見込みである。
   図表 13.実質 GDP 成長率の予測(5 年平均)
   図表 14.実質 GDP 成長率の予測(5 年平均)
アフターコロナ期の景気のけん引役は、第一に個人消費である。労働需給のタイト化に合わせて賃金が緩やかに増加すること、および新型コロナウイルスの感染収束を受けて観光、レジャー、外食といったサービス関連の需要がコロナ前の水準に回復する過程で、伸び率が高まっていく。
第二に、設備投資が堅調な伸びを維持すると期待される。省力化投資、研究開発投資といったコロナ前から増加してきた投資に加え、政策的な後押しを背景としてデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やカーボンニュートラル達成や環境対応のための投資が活発化すると予想される。
そして第三に、輸出の増加が続く見込みである。新興国も含め世界経済が正常化するにつれて海外需要が持ち直すほか、貿易自由化の効果が徐々に浸透すると期待される。また、各国の経済活動が正常化することで、内外の人の移動もほぼコロナ前の状態に復帰し、インバウンド需要が急速に回復する。もっとも、輸入やアウトバウンド需要も同時に増加するため、成長に対する外需の寄与度はそれほど大きくはならない。
物価については、内外需要が持ち直していくことを背景に緩やかな上昇テンポで推移すると予想され、GDP デフレーターは、2021〜2025 年度では平均で+0.3%、2023〜2025 年度では平均で+0.6%とプラス圏での推移が続く見込みである。
アフターコロナ期においては、企業の SDGs への取り組みが本格化すると予想されるが、中でも環境への配慮や働き方改革の推進などを中心に、企業行動や投資活動に大きな変化が生じると考えられ、その変化を通じて実体経済にもプラス効果をもたらすと期待される。カーボンニュートラル達成や環境対応のための設備投資、研究開発投資は、今後も増加していく見込みであり、一定の経済の押し上げ効果が期待されるうえ、こうした投資が新たなビジネスチャンスや技術革新につながれば、需要や雇用の増加を促すであろう。
もっとも、国際的な競争が激しさを増す中で、どの程度成長率の押し上げに寄与するかは未知数であり、過度な期待は禁物である。進捗が遅延する可能性があるほか、各国との開発競争に後れをとることになれば、製品輸入や知的財産権等使用料の支払いばかりが増加し、GDP の押し上げにはつながらないためである。
(3)2026 年度から 2030 年度までの日本経済
これに対し、2020 年代後半の実質 GDP 成長率は、同+0.7%とややテンポが鈍る見込みである。もっとも、人口減少ペースが加速し、労働投入量の減少幅が拡大するといったマイナス効果が増大する割には、落ち込みは小幅にとどまる。これは、通信環境などのインフラの整備、AI など新技術の普及、業務のリモート化、情報リテラシーの向上、またそれらを使っての技術革新と各種ビジネスの誕生が、生産性の向上に寄与するほか、供給制約の問題への危機感をばねとした企業の様々な取り組みにおいて次第に成果が現れ始めることで生産性が高まり、人手不足による供給制約を回避することが可能になると期待されるためである。また、インバウンド需要の回復が本格化することや、限られた供給力の下でより付加価値の高い製品やサービスへの移行が進むことも、成長率の押し上げに寄与すると考えられる。
また、業務のオンライン化が進む中で、都市や地域の機能、サービスにおいて地域間格差が是正され、高度化されることも生産性を向上させる。
業種別の生産性についても、これまで低かったサービス業で、コロナ禍をきっかけに新しい技術が導入され、投資が促進されることによって生産性が高まると期待される。
1 人当たり実質 GDP 成長率の動きをみると、2016〜2020 年度の平均−0.2%に対し、2020 年代前半に同+1.8%(ただし、コロナ禍の影響を排除した 2023〜2025 年度では同+1.0%)に対し、2020 年代後半は同+1.3%の伸びを確保できる見込みである(図表 15)。これは、バブルの余韻が残っていた 1991 年度〜1995 年度の+1.0%、世界経済バブルの前半にあたる 2001 年度〜2005 年度の+1.1%を上回る高い伸びである。
物価についても、緩やかな上昇テンポが維持されると予想され、GDP デフレーターは平均で+0.6%とプラス基調が維持される見込みである。
   図表 15.1 人当たり実質 GDP 成長率の予測(5 年平均)
(4)貯蓄投資バランス
貯蓄投資バランス(IS バランス)は、企業を中心とする民間部門の貯蓄超過分が政府部門の投資超過分を埋め合わせる構図に今後も基本的な変化はなく、海外部門の投資超過(日本の経常黒字)は続くと予想される(図表 16)。しかし、政府部門の投資超過幅が消費税率の引き上げにともなって縮小(財政赤字が縮小)する一方で、家計部門では貯蓄超過幅が縮小するなど、個別部門では動きに変化があると見込まれる。
部門別の貯蓄投資バランスを概観すると、家計部門は、2020 年度に新型コロナウイルス感染拡大を背景として一人 10 万円の特別定額給付金が支給された一方、外食や旅行などの支出を行う機会が大幅に減少し、消費支出が落ち込んだことから、貯蓄超過幅は大きく拡大した。2030 年度にかけては、雇用・所得情勢は改善するものの、高齢化の進展によって貯蓄率が徐々に低下することや消費税率引き上げを受けて、貯蓄超過幅は縮小が続くだろう。
非金融法人企業部門では、利益が高水準で推移することから、大幅な貯蓄超過の状態が続く見込みである。
政府部門では、2020 年度に新型コロナウイルス感染拡大に対応するための歳出が大きく増加したため、貯蓄投資バランスは大きく悪化した。2030 年度にかけては消費税率引き上げによる歳入増加の一方で、社会保障費の自然増などを背景に歳出の増加が続くため、貯蓄超過に転じることはないだろう。しかし、将来的には消費税率が 15%に引き上げられることを想定しているため、2030 年度には投資超過幅はかなり縮小し、概ね財政再建に目途がついたとの評価が出てこよう。海外部門は、今後も投資超過(=国内部門の貯蓄超過、すなわち日本の経常収支黒字)が続くだろう。日本の経常収支黒字のほとんどは第一次所得収支によるものであり、黒字幅は第一次所得収支を中心に緩やかに拡大すると見込まれる。
   図表 16.部門別の貯蓄投資バランスの予測 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


2022/1

2022/1/28 NY-DOW と日経平均 直近1年の推移