レガシー

レガシー (legacy)
遺産
先人の遺物
時代遅れのもの

箱物 遺跡作りではありません


 
 
 
 
「言葉」も怒ります
安易な「レガシー」論議
お金は税金です
 
レガシー (legacy)
遺産。先人の遺物。時代遅れのもの。
オリンピック・レガシー
歴史的背景
レガシーは近年国際オリンピック委員会(IOC)が最も力を入れているテーマの一つです。IOCの憲法ともいえるオリンピック憲章には次のように記されています。
「オリンピック競技大会のよい遺産(レガシー)を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進する」
上記の規定が憲章に盛り込まれた契機の1つは、1998年のオリンピック招致を巡るIOC委員買収事件であったとされます。この事件により、オリンピック開催が負担となって招致を希望する都市が現れなくなるのではないかという懸念が生じました。また、近代オリンピックから記念すべき100年が経過というタイミングもあり、2002年11月IOC総会でレガシーに関する規定は盛り込まれたと言われています(間野義之『オリンピック・レガシー』参照)。以降、IOCはオリンピック・ムーブメントの一環としてレガシーを重視するようになり、2012年大会の開催都市決定プロセスから、開催都市として立候補する段階での言及が必要な項目とされるに至ります。
概念
IOCによれば、レガシーとは「長期にわたる、特にポジティブな影響」とされます。オリンピックの開催が決まると、開催予定都市において各種の施設やインフラの整備、スポーツ振興等が図られます。これによって生活の利便性が高まるなど人々の暮らしにさまざまな影響が出ます。こうしたオリンピック開催を契機として社会に生み出される持続的な効果がオリンピック・レガシーです。IOCは、オリンピック・レガシーの分野としてスポーツ、社会、環境、都市、経済の5分野を挙げています。
なお、レガシーの概念理解を深める際に重要な3つの軸があります。それは、1ポジティブなものか、ネガティブなものか、2有形のものか、無形のものか、3あらかじめ計画したものか、偶発的なものか、の3つでありこれらの軸で構成される六面体はレガシーキューブと言われています。これらのうち、ポジティブ・有形・計画的なもの(いわゆるインフラ整備等)に焦点が当てられがちですが、実は無形・ソフト等も含む多面的な幅広い概念です。
2020年東京オリンピック・レガシー
2020年に東京都を中心に開催される第32回夏季オリンピックおよび第16回パラリンピック競技大会後に残る有形無形のレガシー、すなわち「社会的遺産」(ソーシャル・キャピタル)・文化的財・環境財のこと。
定約と指標
国際オリンピック委員会(IOC)が2002年にオリンピック憲章に「To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and countries(オリンピックの開催都市ならびに開催国に遺産を残すことを推進する)」と書き加えたことによる。
その意図するところは、オリンピック開催に伴い整備したインフラストラクチャーを無駄にすることなく(物理的意義)、オリンピックを体感した若い世代の豊かな人間性の醸成を促す(精神的意義)ことにある。
具体的には、IOCが2013年に発表した『Olympic Legacy Booklet』という冊子に指針として記載されている。
1. Spoting Legacy(スポーツ・レガシー):Sporting venues(競技施設)、A boost to sport(スポーツの振興)
2. Socia Legacy(社会レガシー):A place in the world(世界の地域)、Excellence, friendship and respect(友好と尊崇)、Inclusion and Cooperation(包括と協力)
3. Environmental Legacy(環境レガシー):Urban revitalisation(都市の再活性化)、New energy sources(新エネルギー)
4. Urban Legacy(都市レガシー):A new look(新たな景観)、On the move(交通基盤)
5. Economic Legacy(経済レガシー):Increased Economic Activity(経済成長)
参考助言
ロンドン五輪大会関係者の談として、「有形無形の社会変化(レガシー)は大会時に突然生まれるものではない。事前にどれだけ人々の関心や機運を高め、機会を最大限生かすかで、その成果は大きく変わってくる」としている。
東京の対応
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会によると、
1 大会終了後に競技会場をスポーツ・エンターテインメント施設、選手村の跡地を文化・教育関連の拠点とする「物理的レガシー」
2 市民の間でスポーツをより身近なものにして、健康的なライフスタイルを促進させる「スポーツのレガシー」
3 2020年までに東京に新たな緑地を創出し、100万本の植樹を通して環境に配慮した町づくりを推進する「重要な社会的及び環境関連の持続可能なレガシー」
の三本柱を掲げ、加えて「復興・オールジャパン・世界への発信」も目的としている。
また、都のオリンピック・パラリンピック準備局が策定した「大会後のレガシーを見据えて」では、
1 競技施設や選手村のレガシーを都民の貴重な財産として未来に引き継ぐ
2 大会を機にスポーツが日常生活にとけ込み、誰もが生き生きと豊かに暮らせる東京を実現
3 都民とともに大会を創りあげ、かけがえのない感動と記憶を残す
4 大会を文化の祭典としても成功させ、「世界一の文化都市東京」を実現する
5 オリンピック・パラリンピック教育を通じた人材育成と、多様性を尊重する共生社会づくりを進める
6 環境に配慮した持続可能な大会を通じて豊かな都市環境を次世代に引き継ぐ
7 大会による経済効果を最大限に生かし、東京そして日本の経済を活性化させる
8 被災地との絆を次代に引き継ぎ、大会を通じて世界の人々に感謝を伝える
とする。
こうしたことから「多様性と調和」をテーマに、LGBTへの偏見・差別解消、パラリンピックによってバリアフリーの浸透やノーマライゼーションが広まることも期待されている。
具現化するレガシー
東京都は国土交通省などとともに2019年度までに東京の都市としての歴史と自動運転車や水素タウンといった近未来社会を先取る先端技術を東京の魅力として発信するPR展示施設を開設する。
食の安全を世界にアピールすべく食品衛生の管理を厳格化しHACCP導入を義務化することで、福島第一原子力発電所事故による風評被害を払拭し復興に貢献する。
IOCが定めるオリンピック病を中心に外国人受け入れのためタブレット問診や多言語通訳機材の導入が始まり、東京に暮らす外国人の医療分野における利便性が向上し、医療観光の促進にも結び付けられる。
国際オリンピック委員会が「タバコのない五輪」を掲げ、世界保健機関によるたばこ規制枠組み条約をうけ、厚生労働省が受動喫煙の被害防止を目指し、禁煙・分煙の強化を推進する。
観光立国を目指しオリンピックまでに訪日外国人旅行を2000万人にし、それを維持することで景気・経済の維持を図る。その一環として宿泊施設不足を解消すべく民泊が裁可された。
観光立国を目指し日本らしさを讃える地方の景観を五輪レガシーと位置づけ、景観整備(修景)や広報を政府として支援し、1.5流の観光地を一流の国際的名所に育てる「観光景観モデル地区」を国土交通省が推進する。
廃止されたレガシー
ザハ・ハディッドによる新国立競技場建設の白紙撤回により、予定していた併設するレガシー機能が失われることになった。
(1)可動式観客席
(2)8万人収容の観客席
(3)開閉式屋根
(4)フィットネス・コンベンション施設
(5)スポーツに関する博物館・図書館
負のレガシー
新国立競技場を安価なものとする新計画でも1625億円を擁し、オリンピック閉幕後は年間約35億円という維持費が必要との試算があり、人口減少社会に転じた日本において「負の遺産(Legacy of Tragedy)」(負荷・負担)になるのではとの危惧がある。
オリンピック需要を見越してホテルの新築・建て替えが都内随所で進行しているが、それに伴い日本の伝統美をちりばめたホテルオークラのロビーが解体されることを都市環境破壊の典型例として、オリンピックがもたらす負の効果であるとされる]。
過去のレガシー
オリンピックレガシーの実例としては、2012年のロンドンオリンピックが詳細な成果を報告している。
1964年の東京オリンピックでは、東海道新幹線や首都高速道路の整備、ホテルの開業に合わせた工期短縮目的で開発されたユニットバス、選手村での食事提供に用いられた冷凍食品、衛星放送の実現とカラーテレビ、ピクトグラムの普及などがレガシーとして現在に受け継がれている。
また、国立代々木競技場・東京体育館・日本武道館・馬事公苑など前東京オリンピックで用いられた競技施設を2020年のオリンピックで再利用することになり、これらがある山の手側を「ヘリテッジ(遺産)ゾーン」と呼ぶ。加えて国立代々木競技場を世界遺産に登録しようという建築家らによる運動も始まった。
1940年に開催予定で中止となった東京オリンピックでは、新幹線(山陽新幹線路線含む)の前身となる弾丸列車計画とそれに伴う対馬海峡・朝鮮海峡下を掘削する日韓トンネル計画が練られ、そこで蓄積された研究成果は戦後の高速鉄道や水底トンネル技術に活かされた。
1998年の長野オリンピックでも長野新幹線の開通がある一方で、負のレガシーとして滑降競技場設営問題のような環境破壊につながる事象もみられた。 
 
2020年後に残す 次代への「無形のレガシー」
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて、東京2020大会組織委員会では「アクション&レガシープラン」策定を進めている。スポーツ・健康、街づくり・持続可能性、文化・教育、経済・テクノロジー、復興・オールジャパン・世界への発信という分野の様々な活動で、次代を担う若者や子どもたちにレガシーを残そうとしている。中でも期待されているのは、文化や教育の分野で人々の心に残る「無形のレガシー」だ。
5つの柱について委員会を設置
―2020年の東京オリンピック・パラリンピックを機に、どのようなレガシーを残せるでしょうか。
オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典で、それに向けて盛り上げる努力が必要ですが、最近はむしろオリンピック・パラリンピック終了後に、社会にどんなレガシーを残すかが重要な課題になっています。
1964年の東京オリンピック・パラリンピックにも、もちろんレガシーがあり、その中心は新幹線や高速道路のような高度成長を支えた「ハードのレガシー」でした。一方、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年の日本では、ハードなインフラは既に完成しており、経済も成熟しています。
そのような中で残すレガシーは、「無形のレガシー」が中心となるでしょう。人々の心にどのようなレガシーを残すか、若者にどのようにして好影響を及ぼすかといった点が重要となります。別の言い方をすれば、特に文化や教育のような分野のレガシーが求められているのです。
私たちはレガシーを非常に重視し、5つの柱を立てています。それらは、(1)スポーツ・健康、(2)街づくり・持続可能性、(3)文化・教育、(4)経済・テクノロジー、(5)復興・オールジャパン・世界への発信、というものです。(5)の復興については、日本全体で被災地の復興を考え、復興の姿を世界に発信していきます。
さらに、テーマごとの委員会を設置し、専門家の方々に議論していただいています。また、若い人たちにも議論に参加してもらう機会をつくっています。
「アクション&レガシープラン」を2020年に向けて策定
―5つの柱に基づく取り組みには、具体的にどのようなものがありますか。
委員会での議論は「アクション&レガシープラン」としてまとめられる予定で、既に中間報告を出しています。また、リオオリンピック開催前に「アクション&レガシープラン2016」を発表予定です。今回作るプランは、それで完成というわけではなく、毎年作り直していきます。最終的には、2020年に全体の体系としてのプランを策定しようという遠大な構想です。
具体的な内容は、例えば「スポーツ・健康」の分野では、日本は世界一の高齢化社会です。このため、東京2020オリンピック・パラリンピックは、世界一の高齢化社会で行われる初のオリンピック・パラリンピックとも言えるかもしれません。
スポーツは高齢者にも愛されており、それが健康増進や病人が少ない社会にもつながります。私たちは、そのようなレガシーを期待しています。
また、「経済・テクノロジー」の分野では、現代はスマートフォンを持っていない人はほとんどいないような時代です。海外からオリンピック・パラリンピックに来る人たちも皆、持ってくるでしょう。東京2020オリンピック・パラリンピックはそのような意味でも、これまでにない情報テクノロジーの最先端を行く大会になると思います。
例えば、多言語のアプリで自分の観たい試合の開催時間や場所、行き方を調べられるようになるでしょう。また、触れれば言語が切り替わるような案内板も、街に溢れるでしょう。自動車に関しては、環境に優しい燃料電池車が選手村と競技会場を結ぶ主な交通手段となります。この機会に燃料電池車が普及すれば、2020年以降は、日本を走る車の多くが燃料電池車になっていくのではないでしょうか。
さらに、私たちはパラリンピックを重視しています。東京ではバリアフリーの街づくりが進んでいますが、残念ながら、まだ世界一のバリアフリー都市ではないと思われます。バリアフリーについては近年、ユニバーサルデザインという言葉が用いられています。これは障がい者だけでなく、老人や子どものような、若い成人とは身体能力が異なる人たちも対象にしています。それらの人々に優しい街づくりが、2020年を機に進められることを望んでいます。
他には、オリンピック・パラリンピックを機に、ボランティア活動も盛んになると考えられます。何万人ものボランティアが、世界中からやってくる外国人と自由に交流し、様々な夢が膨らんでいく社会になれば良いと思います。
日本流のおもてなしや優しい人間関係は心の文化
―オリンピック・パラリンピックでは、文化や教育、芸術も重要となります。
オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典で、人々は特にメダルの数に関心を持っています。一方、スポーツが文化や教育と結びついていることは、オリンピック憲章でも明確に謳われています。
特に、私たちは日本の文化をどのように世界へ発信していくかという点を重視しています。日本の文化というと、誰でも思い浮かぶのは歌舞伎や能、お茶のような伝統文化です。
また現代の日本文化のイメージは、アニメやポップ・カルチャーなどでしょう。日本はそのような発信力を持っており、これを一層、育てていくことが必要です。
他方で、文化の中には、日本流のおもてなしや日本人の優しい人間関係のような「心の文化」もあり、多くの外国人が、これに感銘を受けています。日本人の礼儀作法にも、価値があると思います。さらに、近年は日本の食生活に対する世界の関心が高まっています。健康志向もありますが、やはりおいしいからだと思います。私たちも日本文化を再認識し、自信を持って世界に発信していくべきです。
教育では、スポーツで戦うことへの理解やフェアプレーの精神といったものを若者に伝えていきます。また、私たちは「多様性と調和」と言っていますが、世の中には様々な考え方があり、多様な人々がいます。それらを許容した上で1つになれるということを教育し、若者の心に変化を生み出せれば良いと思います。そして若者たちが大人になる2030〜40年ごろに、日本社会がより良い方向へ向かうことを期待しています。
―オリンピック・パラリンピックは世界中からたくさんの人々が、日本を訪れる非常に良い機会です。
日本を訪れる外国人は、数年前には年間800万人でしたが、現在は2000万人に増加しています。さらに、2020年には4000万人に倍増すると予想されます。
東京だけでなく、全国各地を訪れるのですから、地域活性化にも貢献できるはずです。地方には様々な魅力ある文化や文物、食べ物、祭りなどの文化的価値があり、それらは観光資源です。日本の多様な観光資源に外国の人たちが触れれば、その後も繰り返し、日本を訪れてくれることにもなるでしょう。同時に、オリンピック・パラリンピックを機に、交通網や宿泊施設がさらに整備されます。
現在、地方の方々から聞かれていることの1つに、「事前キャンプ地に立候補したいが、どうすれば良いか」という話があります。リオオリンピックが終われば、各国の競技団体の目は一斉に日本へ向くはずです。私たちもできる限り、外国の競技団体に各地の魅力をPRし、それらの団体のニーズを地方に伝えるという情報のマッチングの場をつくりたいと思います。
開催の2020年を飛躍の年に
―近年の日本では閉塞感が続いてきましたが、東京2020オリンピック・パラリンピック開催決定後は雰囲気が変化したと感じます。
もしも、東京でオリンピック・パラリンピックの開催が決まっていなかったら、今の日本社会では、さらに閉塞感が蔓延していたでしょう。オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を飛躍の年にしたいと考えている方々は、個人でも企業でも多いと思います。私たちも2020年をスプリング・ボードとして、その後の日本社会をどう活性化していくのかを考えていきます。
「アクション&レガシープラン」については、2020年に集大成を出す予定です。組織委員会はその年に解散しますが、その後は地方公共団体や政府が、スポーツ行政や教育にオリンピック・パラリンピックの精神を活かしていくと思います。何十年後かに振り返ったとき、「今日の日本があるのは、あのオリンピック・パラリンピックのおかげだ」と言われることになれば、大変な成功でしょう。 
 
東京2020 五輪の遺産・レガシーを考える
リオデジャネイロで開催されたオリンピック・パラリンピックが終わり、あと3年と9か月で東京大会となります。資金面や競技施設の竣工などが心配されたリオ大会でしたが、大きな事件は無く、南米での初開催の歓喜につつまれつつ、大成功を収めました。きょうは2020年の東京大会のレガシーについて考えます。
レガシーとは日本語で「遺産」と訳されますが、東京大会が終わった後に遺すべき有形・無形の何かという意味です。
先日、私はリオ大会を見てまいりましたが、本当によかったとおもいました。彼らはぎりぎりの社会状況の中、必要最小限の範囲で運営していました。仮設の競技場、輸送・セキュリティーなどは、なんとか合格という感じでしたが、日本は満点を目指しています。しかしながら、もしかすると日本は満点の水準が見えなくなってしまっているのではないでしょうか。東京都の調査チームによれば、開催費用は3兆円を超える可能性があるといいます。リオ大会のようにやればやれないことがないにも関わらず、日本はオーバースペック・過剰投資をしがちなのだと改めて考えさせられました。確かに日本の最先端の技術をショーケースとしてみせていくことはそれなりに大切なのでしょうが、オリンピックの17日間が終わった後には、はるかに長い時間があるわけです。東京大会までのオリンピック・モードと、東京大会が終わったあとのレガシー・モードはきちんと峻別して、必要最小限のラインを見極める必要があるのではないのかと思います。これからは、レガシー・モードを意識した「引き算」のオリンピックを考えるべきだと思います。1964年以来、二度目となる夏季オリンピック・パラリンピックを迎える東京。とくにパラリンピックが同一都市で行われるのは世界で初めてとなります。これまで発展途上国では、道路や鉄道や競技施設などのハードが中心にレガシーとして遺るのですが、2000年のシドニーにしても2012年のロンドンにしても、成熟国家のレガシーはハードだけでなくソフト、つまり無形なものを創り遺していく時代に入っています。
シドニー大会では、開催後の市民アンケートで「パラリンピックの開催により障害者への理解が深まったこと」、あるいは「自国の文化を発信できたこと」が良かったことの上位となり、ソフト面でのレガシーを印象づけました。
ロンドン大会では、オリンピック・パークが最大のレガシーではありますが、同時に環境保護に十分に配慮するオリンピックとするために、持続可能性を考慮したイベントの国際規格である「ISO20121」を世界で初めて創りました。この国際規格は2020年の東京大会にも適用され、これもソフト面でのレガシーにあたります。ですから、1964年のよき思い出は大切にしながらも、当時と同じことをもう一度やるのではなくて、成熟国家として無形のレガシーを創り遺すことにも舵を切るべきです。競技施設などのハードには、終わった後のことも考えて必要最小限で対応していくという判断をしてもいいのではないかと思います。
オリンピック憲章には、IOCの使命と役割として「オリンピック競技大会の有益なレガシーを、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する」と明記されています。オリンピックが巨大化するにつれ、わずか数日間のためだけに使用される資源を「無駄遣い」ととらえる世論もあることから、IOCとしても持続可能なオリンピックを目指さしています。アテネや北京など世界の多くの「負のレガシー」を考えると、これからのオリンピックはそもそもスポーツ施設やインフラがそれなりに整備されている都市でなければ開催できない時代だともいえます。IOCが持続可能なオリンピックを掲げるなか、都市再開発の口実としてオリンピックを求める時代は終わり、招致活動の敗者も含めた世界全体の「オリンピック・コスト」の抑制を考える時代に向かっています。そうであれば今後は、都市整備やスポーツ施設などのハードだけを考えていれば良いのではなく、「ソフト・パワー」としてのオリンピック・パラリンピックのレガシー創りが、ますます求められるのではないでしょうか。そこで考えなければいけないのが、2020年東京オリンピックの開催意義です。1964年の東京オリンピックは、敗戦からの復興を広く世界に示して国際社会への復帰を果たすことに意義がありました。では、2020年の開催意義とは何なのか。なぜ、東京なのでしょうか。
私は「21世紀の国際社会において、課題解決先進国として、今後の世界が進むべき方向性を示すこと」―それが今回の東京大会の最大の意義だと考えています。そのために、東京大会の組織委員会では、レガシーを創り遺すためのアクションを推進していけるよう、様々な関係者が連携して、「アクション&レガシープラン2016」を6月に策定しました。
プランには5本の柱があり、「スポーツ・健康」、「街づくり・持続可能性」、「文化・教育」、「経済・テクノロジー」、「復興・オールジャパン・世界への発信」、5本の柱それぞれについて、日本全国そして世界全体に対し、ポジティブなレガシーを遺すことがまとめられています。例えば、私が担当している「街づくり・持続可能性」分野のうち、「街づくり」では4つのレガシーを提示しています。
一つめは「ユニバーサル社会の実現・ユニバーサルデザインに配慮した街づくり」。教育や日常生活・仕事を通じて、心のバリアフリーを浸透させ、多様な人々が助け合って生活する、いわゆる共生社会を日本全体で実現することです。
二つ目は、「魅力的で創造性を育む都市空間」。日本各地で、誰もが訪れたくなるような快適で親水性が豊かな自然環境に彩られた都市空間を充実させ、世界へ有用なモデルとして発信することです。
また、3つめは「都市の賢いマネジメント」。ICTなど、急速に発展している技術の活用により、日本各地で言語や属性に応じて必要な情報がスムーズに入手できるような、共通クラウド基盤を確立します。
そして最後の4つ目は「安全・安心な都市の実現」。東京大会時の安全確保計画を確立し、それを日本全体へ応用し、日本の防災力・減災力をより一層向上させ、災害に対して強くしなやかな国土・地域・経済社会をつくることをレガシーとしています。
他の4分野でも、それぞれにアクション&レガシーを計画しており、全体で30を超えるレガシー創りをめざしています。これだけの幅広い分野でのポジティブなレガシーを創り遺すためには、組織委員会だけでは出来ません。政府や東京都を含む全国の地方公共団体、全国のスポーツ団体、全国の経済団体などが、そして、国民ひとりひとりが東京大会の成功に向けて「オールジャパン」体制でアクションに取り組む必要があります。2020年大会を「他所ごと」「他人ごと」と捉えるのではなく、「自分ごと」「我々ごと」と、国民一人ひとりが東京大会を契機に日本や世界の未来に思いをめぐらせることが、最大のレガシーと言えるでしょう。
ここ数年で大きな自然災害に見舞われたなか、人々の絆の強さと忍耐力が世界中で評価されました。わが国全体で各地での復興に取り組みつつ、感謝を込めて世界と未来への思いをはせることが、本当の「おもてなし」につながるのではないでしょうか。わが国が世界に先駆けて直面する、人口減少、少子高齢化、持続可能性のある社会実現の必要性といった課題が山積する最先進国として、2020年までの締切り効果を利用し、それらの課題を鮮やかに解決して世界に示すことを、次の東京大会のレガシーと位置づけ、国民全体で取り組むことこそが重要だと考えます。 
 
「拡大」から「縮小」への都市戦略
 “オリンピック・レガシー”活かす住宅・まちづくり
近年の五輪開催にあたり重視されるのが、オリンピック・レガシーだ。オリンピック・レガシーとは、五輪開催都市や開催国が長期にわたり継承・享受できるオリンピックの社会的・経済的・文化的恩恵のことである。
2020年東京五輪の立候補ファイルにも『ビジョン、レガシー及びコミュニケーション』という項目があり、『包括的な一連の物理的、社会的、環境的、国際的なオリンピック・レガシーの取組が、2020年大会の東京開催から生まれる』と記載されている。
64年のオリンピック当時、日本は高度経済成長の中にあり、当時建設された都市インフラはその後の日本の経済成長の基盤となった。2020年五輪は64年大会のレガシーである既存施設を有効活用し、コンパクトな大会を目指している。前回の五輪から半世紀が経過して社会経済環境も大きく変化した今日、2020年五輪が新たに創造するオリンピック・レガシーとはどのようなものだろう。
昨年10月、舛添要一東京都知事が2020年東京五輪・パラリンピックのために、2012年の五輪開催都市ロンドンを視察した。視察目的のひとつは、オリンピックで使用された様々な競技施設が大会後にどのように活かされているか、オリンピック・レガシーの最新の状況を把握することだった。
ロンドンでは、東京の新国立競技場と同じ設計者が手がけた水泳場(アクアティクス・センター)が、今年3月、大会中の17,500名の観客席を2,500名の規模に縮小して再オープンした。オリンピック・スタジアムも8万席から54,000席に改修して2016年に再オープンする予定だ。こうして施設の利用実態の適正化を図り、維持管理コストを低減、オリンピック・レガシーの継承を目指しているのだ。
2020年東京五輪においても、施設整備費を削減し、大会後の維持管理コストを低減するため、既存施設の代替によるバスケットボール会場など3施設の建設中止や仮設建築物の採用が決まっている。また、水泳場やホッケー場などは、ロンドン大会と同様、大会後に観客席を大幅に縮小する「減築」が計画に盛り込まれている。大会後に「負の遺産」を残さないように競技施設をあらかじめ「減築」するという計画は、前回の64年大会当時には見られなかった手法ではないだろうか。
重要な都市戦略のひとつである住宅づくりも、人口増加から人口減少へと新たな局面を迎えている。日本では空き家率が上昇しているが、これは主に世帯構造と住宅がミスマッチを起こしているからだ。世帯人員が縮小する時代に、部屋数の多い家は住みづらく、維持管理も大変だ。世帯規模に合わせて「減築」するなど、縮小する住宅計画が必要になっているのである。
今や人口減少時代の住宅・まちづくりには、縮小政策が不可欠だ。近年、建築でもライフサイクルマネジメントが注目されている。建築ストックの時代には、単に建物の維持保全や老朽化に伴う建て替えを行うだけでなく、社会環境の変化に対応して、建築の竣工から解体に至るまでの適切なマネジメントが必要なのだ。
人間も痩せれば洋服を体にフィットするようにリフォームするが、住宅やまちも人口規模に合わせてリニューアルすることが重要だ。
従来の「成長=拡大」一辺倒から、「成熟=縮小」も選択肢に含めた政策フレームの転換が求められる。2020年五輪に向けた“オリンピック・レガシー”を活かした住宅・まちづくりは、人口減少時代の「拡大」から「縮小」への新たな都市戦略の試金石になるのではないだろうか。 
 
「東京2020オリンピックと良き遺産」
2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと4年を切った。12年前の開催都市「アテネ」の競技会場は今や全く使われず廃墟となっている。たった15日間しか使わなかった競技場に巨額の資金が使われ今や負の遺産に…。
「オリンピック憲章」には、大会の開催によって「良い遺産(レガシー)」を残さなければならないと明記している。社会に大きな影響を及ぼす大イベント「東京2020」日本はどんなレガシーが残せるのか?
前回の東京オリンピックが生み出した良い遺産とは?
前回1964年の東京オリンピックで生み出された遺産(レガシー)には、新幹線、首都高速道路などがある。
さらに戦後復興を成し遂げているという自信が社会全体に広まり、東京オリンピックの影響はとても大きかった。
それ以降の日本は、バブル崩壊、東日本大震災、少子高齢化による人口の減少と様々なことが起きた。2020年の東京オリンピック・パラリンピックについても次に残すべきレガシーは変わってくるはず…。
リオオリンピックのレガシーはどうだったか?
リオデジャネイロ市長、エドワルドパエス市長が解説。
リオオリンピックでは、負の遺産を残さないため「スリムな大会」を掲げた。
そのため、会場の座席は全て仮設、さらに会場への大きな通路なども鉄骨むき出しの仮設のものにし簡単に取り壊してもとに戻せるような状態にしてある。
さらに競技場も大会が終われば、簡単に改修して学校の施設などになる。
2004年オリンピックの開催地「アテネ」
アテネでは12年前に行った投資が今、負の遺産となって市民に重くのしかかっている。
会場は落書きだらけ、30億円かけたソフトボールの競技場は、ギリシャでソフトボールをする人が居ないため全く使われなくなった。
北島康介選手が「チョー気持ちいい!」と金メダルを獲得して言い放った有名なあのプールも現在は汚れ放題、椅子なども倒れたまま廃墟になっていた…。
アテネでは大会のために新しく17の競技場が建設された。主な建設費は以下の通り。
ビーチバレー … 約49億円
ウエイトリフティング … 約53億円
レスリング・柔道 … 約97億円
カヌー(スラローム) … 約47億円
ホッケー … 約49億円
バスケットボール・ハンドボール・フェンシング … 約122億円
ソフトボール … 約30億円
野球 … 約14億円
これら8箇所、合計460億円を投じた施設が現在全く使用されず「負の遺産」になってしまった。
なぜ負の遺産ができてしまったか?
建設計画を進めた、アテネ大会組織委員会の ペトロス・シナディノスさんが当時の様子を話す。
ギリシャでは、野球やソフトボールは人気がなく実際にチームもない。はじめは仮設の競技場にしてあとで壊せるようにしようと提案したにも関わらず聞いてもらえなかったと、ペトロスさん。
ペトロスさんの主張は、政治家や経済人によって覆された。
その結果、豪華な設備の建設に追われることになり目先の完成だけにとらわれてしまった。開催後の利用計画を充分に話し合うことがなくなり、現在は廃墟と化している。
オリンピック発祥の地として威信をかけた二度目のオリンピックは結果として多くの負の遺産を残した。
東京オリンピック・パラリンピックが終わったあと、負の遺産を残さないためにどうすべきなのかもう一度問われている…。
いっぽう、ロンドン大会では「レガシー重視」?
いっぽう ロンドン大会では、当初から50年後を見据えた投資を行って成功している。
複数のオリンピック会場があった場所は今「オリンピック・パーク」として今も新しい商業施設やマンションが建設されている。
ロンドン大会開発最高責任者の ジョン・アーミットさんは常に「のちの50年のことを考えてどんな役割をするのか?」を念頭に置きつつ開発したという。
ロンドン大会で取られた方法は…
民間の建設会社から代表を選びチームを作る
チームは3ヶ月毎に自分の担当する建物の建設状況とかかった費用をネットに公表
国民がいつでも公的資金がどれくらい使われているのかをチェック
その結果、2007年に作成した見積もり「93億2500万ポンド」よりも500億円下回った(89億2100万ポンド)という。
さらに、「レガシー開発公社(LONDON LEGACY DEVELOPMENT CORPORATION)」を作り、オリンピックの報道ルームだった建物をロンドン版シリコンバレーに改修し、別の用途に使用している。
レガシー開発公社の デイビッド・ゴールドストーンさんは「オリンピックは始まりに過ぎず、その後を見据えた開発を行っている」と話した。
東京都「小池百合子」都知事インタビュー
小池知事は「やはり都民のお金を活用させて頂く限りは納得していただけるような…、あとで廃墟のようになった競技場を見て「あれ、小池さんが作ったのよ」と言われないようにベストなソリューションで行きたい」と話した。
もちろん今までIOCの承認を通ってしまっているものもあるが、信頼を失わない範囲で見直しにトライする価値はあると考えていると小池百合子知事。
レガシーにならない部分はできるだけ安く済ませたい。またそうした情報を常に市民に公開し「見える化」していくことが知事に選ばれた使命だと話した。
東京大会組織委員会「森喜朗」会長
いっぽう、東京大会組織委員会の会長を務める 森喜朗会長もインタビューに応じた。
森喜朗会長は「全てがベストな案だとは言いませんが、みんなで2年もかけて協議して作った案。どっちが高く付くのか安くつくのかもう一度小池百合子都知事に吟味して欲しい、ボート会場についてもどうしたら安くつくのか考えて欲しい」と話した。
さらに「とにかく、次の世代の”人の心”に何か琴線に触れるようなことを残す。それがレガシーじゃないかと思っています。」と森喜朗会長。
心のレガシーについて
リオオリンピックでは、「ファベーラ」と呼ばれる貧困地域で無料のバドミントン教室を開いていた。この教室からは初めてオリンピック選手が誕生。ブラジル代表の、イゴルオリベイラ選手(19歳)。イゴル選手は惜しくも敗れたが、招待されたバドミントン教室の生徒達には将来への大きな希望「心のレガシー」が残された。
いっぽう、イギリスでも心のレガシーについて考えられていた。
2012年当時のイギリスの失業率は21.4%。ロンドン大会組織委員会のセバスチャン・コー会長は、オリンピックが「一過性ではない永続的な影響を与えたい」と考えた。
スポーツにはそうした永続的な影響があるという。
失業率の改善のため、大会の関連事業を手掛けた1500社に若者を雇用するよう要請
大会のボランティアに若者を優先的に起用。終わったあともその経験を活かしてもらうため集まった人々をNPO団体へ紹介
などの様々な取り組みを行った。そのうちの一人がインタビューに答えた。エミリー・イエーツさんはロンドン大会のボランティアをきっかけに、バリアフリー設備のコンサルタントを始めている。
リオデジャネイロパラリンピックでは、イエーツさんもリオ市内のバリアフリー化に協力している。さらに「スピリットオブ2012」という団体を設立し社会を変えようとする活動をイギリス全土から探し出し国内に広く伝える活動を行っている。
難民選手団が伝えたレガシーとは?
今回始めて結成された「難民選手団」。
内戦などで国を追われこれまでオリンピックに出場できなかった選手がチームを組んだ。
国連難民高等弁務官事務所の クロードマーシャルさん(84歳)。20年以上国連で難民の子どもたちへのスポーツ支援を続けてきた。
今回は、パスポートを持たない難民の選手たちに入国の交渉、オリンピック出場費用などを準備した。
オリンピック開会式だけでも15億人以上の人が見てくれたお陰で、難民のことをよく知らない人の目にもその存在を伝えることができたという。
東京2020「どんなレガシーを残せるか?」
オリンピック金メダリストの北島康介さんが登場。
これからもオリンピック選手を中心にして、多くのスタッフの支えがありそれを観戦する人々の沢山の注目を原動力にして輝けるような場にしたい。と話した。
また、国の境を超えてスポーツで繋がる「共通言語」として色んな場所や立場で一人ひとりが役割を持ち楽しめるものとして成功させたい。と語った。
また、サッカー日本代表元監督の、岡田武史さんは、東京大会が世界に目を向け社会を変革する絶好のチャンスだと話す。
また、せっかく日本でやるのだから、”今から”積極的に参加しメダルに至る過程も自分で見て経験し感じて欲しいという。
スポーツは社会に「気づき」「目覚め」の場を提供して「心のレガシー」生み出し、その後も生涯に渡って影響を残すような場が提供できると期待される。
東京2020に向けて私たちがどのように積極的に参加し心のレガシーを築けるのか今一度考えてみても良いのかもしれない…。 
 
オリンピック・レガシー
五輪アジェンダ2020
昨年12月にモナコで行われた国際オリンピック委員会、IOCの臨時総会で、今後のオリンピックの在り方を大きく変革させようとする「アジェンダ2020」が採択されました。40項目に及ぶ内容について論議され、すべてがほぼ満場一致で決まったそうです。日本でのニュース報道でも大きく取り上げられましたが、そのニュースバリューの高さを支えていたのは、野球やソフトボールなどの種目が2020年東京オリンピックで採用、復活する可能性が高まったことでした。40の採択項目の中で、最も注目されたのは、これまで28という競技数に大会規模の制限の基準を設けていたものを、競技数は問わず、310という種目数にその制限基準を変えた、ということです。つまり、すべての実施種目、例えば陸上競技の中の男子100mもひとつの種目ですが、こうした種目数の合計が310を超えず、大会組織委員会が実施を求める要請をIOCに対して行い、認められれば、その大会の限定した実施に限定はされるものの、晴れてオリンピックの正式種目として採用される、という訳です。ただし、その種目数の増加によるコスト増は、すべて大会組織委員会が負うことも示されています。
野球やソフトボールは、2008年北京オリンピックを最後に、オリンピックの正式競技からは外されました。世界的な競技の広がりやビジネス面での波及効果、特にテレビ視聴率などの成果が低い、ということが主な要因とされています。野球とソフトボールは、オリンピック復活を目指して、国際組織を統合。もし2020年で採用されれば、ひとつの競技で男女ふたつの種目の追加、ということになるでしょう。また、新採用を目指すスカッシュや空手は、悲願のオリンピック正式採用を狙っています。正式には、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会からIOCに対して採用要請を行い、7月のIOC総会で承認を得ることが条件となりますが、こうした変革を進めるIOCの真意とはどこにあるのか?。
今回採択されたの「アジェンダ2020」では、種目数の増加の容認と共に、競技の一部を国内の複数の都市で行うことも容認しています。サッカーは、競技の特性から、大会期間を超える日数が必要となるため、また、競技会場も複数必要であるため、元々複数都市での開催が当たり前となっています。サッカーだけ例外規定ということを、オリンピック憲章で規定しているかどうかは分かりませんが、サッカー以外は、原則として、オリンピック大会開催権を持つひとつの都市の中で行われることは、明確に規定されていました。ところが、この規定を順守すると、開催都市内に競技施設が十分に備わっていない場合、新たな建設しなければならず、ここ最近のオリンピックでは、特に冬季大会において、そのインフラ整備コストが開催都市の財政に重く圧し掛かっていました。直近のソチ大会や2008年の北京大会では、共産国としての国の威厳を示す国威発揚的な姿勢から、これまでとは比較にならない規模の財政投資が国の主導で行われたことは記憶に新しいところです。しかし、こうした開催規模の拡大傾向は、将来、オリンピックを招致しようとする国や都市の意欲を減退されていたことも確かです。事実、2022年冬季大会には、当初は多くの都市が関心を示していましたが、現在では、北京とカザフスタンの都市の一騎打ちとなっており、欧米の各都市は、財政問題やそれに対する市民感情に配慮してか、いち早く招致を断念するに至っています。そこで出てきたのが、既存施設を活用して開催コストを抑制するために、ひとつの都市だけでは不足する競技施設を、他の都市に求めることで問題を解決に導こうとする案です。よって、複数都市での開催を正式に容認すれば、輸送や選手の宿泊、大会運営上の要件の拡大も問題は新たに発生するものの、オリンピック開催都市として立候補し易くする効果は導き出せるわけです。
結果的には、「アジェンダ2020」で採択された多くの要件は、事前の視察の関する費用をIOCが多くの部分を負担することも含めて、立候補都市を以前のように増やしていくこと、オリンピック大会の開催価値を以前のように高めていく、というIOCの政治的な思惑が大きく作用していることに間違いはありません。種目数を増やして開催国の人気競技を取り入れることで、立候補に向かう国民感情を盛り上げる狙いも、まさにIOCの政治的な思惑以外にあり得ません。もちろん、国際競技連盟としても、オリンピックへの採用となれば、世界的な普及に繋がる効果を導き出せます。そのコストも開催都市や国の負担なのですから、否定する要素はどこにもありません。IOC臨時総会でほぼ満場一致で採択されたのも、彼らにとって痛みを伴う要素はどこにもないからです。しかし、新種目の追加や複数都市での開催というのは、これまでどの都市も経験していません。一体どれだけの開催コスト増になるのか、どんな問題や課題が潜んでいるのか、その現実を見た人は世の中に誰もいないのです。
一昨年の9月の2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定以降、「レガシー」ということが、様々な場で論議され、検証されています。その根源は、巨額な開催コストを支出しなければオリンピック大会を開催することが出来ない、ということにあります。東京とて、1964年大会で使用された競技会場は、老朽化していることもあり、そのままの姿で使用可能である施設は限られます。国立競技場は完全に建て替えられます。「レガシー」とは、日本語では遺産。オリンピック大会の開催を通して、市民や国民が得られる将来に向けて残されるものです。
レガシーって何でしょう
そもそも、「レガシー(Legacy)」という言葉の意味は、「遺産」。では、日本語の「遺産」に対する英語は?・・・・・、というと、「Leagacy」と「Heritage」という言葉があります。2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致段階の計画書には、1964年東京オリンピックで活用された多くの施設が残されている都心エリアを「Heritage Zone」と呼称していました。「Heritage」とは、代々受け継がれてきた財産、その他の有形・無形の価値。つまり過去から現在に受け継がれてきた遺産のことです。世界遺産を“World Heritage”というように、“Heritage”には文化的な遺産という意味もあります。先の述べたように、2013年1月に公開された2020年オリンピック大会の東京の招致計画書の中に1964年東京オリンピックの際に建設された競技施設が多数あるエリアを「Heritage Area」と表現していることからしても、2020年大会は、1964年大会の「遺産」を活用する趣旨を重要視しているようです。
一方で、IOCの「オリンピック憲章」の中に、2002年より、「レガシー(遺産)」という言葉が盛り込まれました。この条項は下記のように示されています。
[第1章「オリンピック・ムーブメントとその活動」第2項「IOCの使命と役割」]
14.オリンピック競技大会の良い遺産を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進すること。 (To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and countries. )
つまり、近年、IOCが力を入れているテーマである「オリンピック・レガシー」の「レガシー」とは、オリンピック競技大会の開催による有形、無形の効果を、後世に、より効果的に発展的に残していく、活かしていくことを意味しており、特に、オリンピック後の開催都市、開催国にとって意義あるものになるようにすることを示しています。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会によって生み出された「レガシー(Legacy)」は、やがて、その歴史を振り返る時代になった時、「ヘリテージ(Heritage)」となって語り継がれていくことになるのでしょう。では、IOCは、なぜ「レガシー(遺産)」という概念を、オリンピック憲章に明記してまで重要視しているのか?。その答えは、オリンピック大会の開催規模の肥大化や商業主義導入に伴う利権の存在が大きくなったことにあるようです。
IOCは、オリンピックの憲法とも言える「オリンピック憲章」の中で、オリンピック開催都市、開催国に「レガシー(遺産)」を残すことを推進する理念を明確に謳っています。この条項は、2002年のオリンピック総会で採択され、新たに加えられたものですが、では、なぜこの条項が加えられるに至ったのか?・・・・・。
その大きな要因とされているのは、以下の2つです。
2002年冬季オリンピック・○○○○大会の開催都市決定を巡る贈収賄事件(1998年に発覚)
近代オリンピック生誕から100年という節目の時代を迎えたこと
肥大化するオリンピック大会の開催規模は、ビジネスの側面を強くし、IOCは多額のマーケティング収入を手にすることが出来ました。同時に、そのオリンピック・マネーは、オリンピック大会開催都市、大会組織委員会にも多額の収入をもたらし、更には、開催都市独自のマーケティング収入を得る機会を拡大していきました。そうした背景から、オリンピック大会の開催を望む世界中の都市(国・地域)は、開催権を得ようと開催都市決定の投票権を持つIOC委員を買収するケースが頻発し、また、IOC委員の中にも、自らの権限を金で売ろうとする動きが出てきました。それが、1998年に発覚したIOCスキャンダルです。IOCはこのスキャンダルを契機に、オリンピック大会の開催都市決定に際して、厳密なルールを設けて、開催都市決定に関するプロセスの中に不正が蔓延らないようにしていきます。その最初の対象となった大会が、2008年北京オリンピックからです。しかし、IOCスキャンダル以降、時代は世界的な経済不況の中で、肥大化するオリンピック競技大会を開催するための巨額な開催費用を賄うための公的資金の投入に対して、市民から反発を招くようになります。そこで、IOCは、大会の開催規模の拡大を抑制する施策を取ると共に、オリンピック競技大会の開催を通して「レガシー(遺産)」を開催都市、開催国に残すことを強く推奨するようになります。これが、2002年にオリンピック憲章に新たに加えられた条項の意味するところです。
オリンピック競技大会の開催を実現できても、後に、大きな負の遺産を残す結果となった1976年モントリオール大会もひとつの反省材料になっています。モントリオール市がオリンピック開催によって負った負債額は、当時の為替レートで換算すると10億ドル。モントリオール市は、この巨額な負債を償還するために、様々な増税策を講じますが、完全に償還が終了したのはオリンピック大会から30年後でした。最も大きな原因は、大会直前に襲ったオイルショックによる物価高騰ですが、オリンピック開催に対する開催効果を問う声が少なかったことも、多額の投資を許容した要因の一つであったことは否めません。このことを契機に、夏冬を問わず、オリンピック開催都市に立候補しようとしていた都市は危機感を持ちます。それを救ったのが、1984年ロス大会での黒字化でしょう。
IOCが示すレガシーの真意
国際オリンピック委員会、IOCがオリンピック大会開催による「レガシー(遺産)」を、最も力を入れるテーマとして掲げるようになってきた背景には、IOCの使命であるオリンピック・ムーブメントを絶やすことなく、より世界的に拡大していくためには、オリンピック・ムーブメントの頂点であるオリンピック競技大会の価値を、現代に沿った形で示すことが重要である、と考えているからに他なりません。つまり、オリンピック競技大会を開催することが目的ではなく、オリンピックの開催によって、後世に何を残すか、何を残せるか、という理念と戦略を問うこと、各開催候補都市には強く求めるようになっているのです。IOCは、オリンピック・レガシー(Olympic Legacy)について、オリンピック競技大会の開催を契機として社会(開催都市、開催国、そして世界)に生み出される持続的な効果、と定義した上で、その効果具体的な指標として、以下の「5つの分野」を示しています。
   「スポーツ(遺産)」Sporting (Legacy)
   「社会(遺産)」Social (Legacy)
   「環境(遺産)」Environmental (Legacy)
   「都市(遺産)」Urban (Legacy)
   「経済(遺産)」Economic (Legacy)
これら「5つの分野」の「Legacy(遺産)」について、IOCは「IOC Olympic Legacy Booklet」に、その詳細について示されています。また、同時に、「IOC Olympic Legacy and Impact」において、「5つの分野」に対する各テーマ(分野)ごとにサブテーマを設定し、より具体的な指針を示しています。
では、2012年ロンドンオリンピックの具体的な事例で見てみると、以下のような内容が開催計画概要書の中に示されていました。
デザインとアクセス性
雇用と職能教育
平等と参画
安全性の確保
持続可能性
オリンピック・レガシーの活用(1908年、1948年にオリンピック大会を開催)
そして、上記6つの目標に基づき、新施設の建設、施設の大会後の活用、交通インフラ整備が計画されたのです。更に、2008年にイギリス政府によって発表されたプランは、む以下のような内容のものでした。
「レガシー・アクション・プラン」(2008年イギリス政府)
1 イギリスを世界をリードするスポーツ大国とする
2 ロンドン東部地域を変革(再開発)する※廃棄物・工業用地
3 若者世代を活性化する
4 オリンピックパークを環境に配慮した持続可能な生活を促進するモデルとする
5 イギリスが、ビジネスにも創造的で、誰もが参加し歓迎できる場であることを、内外にアピールする
では、この「レガシー・プラン」に対して、結果はどうなったのか?。オリンピック大会開催翌年の2013年に、イギリス政府とロンドン市が共同で発表した報告書には、下記のような内容が記述されていました。要点のみを抜粋すると、以下のようになります。
1 .[スポーツと健康生活] ・スポーツ選手への助成の増強(13%増), ・週に1回以上運動する人の増加(140万人以上), ・学校スポーツへの助成開始(年1.5億ポンドを2013年より開始), ・スポーツ国際交流(20ヶ国1,500万人の参加)
2. [ロンドン東部地区の再生] ・オリンピックパークおよび地域内施設の整備, ・交通インフラ整備への投資(65億ポンド), ・11,000戸の住宅整備, ・1万人の新規雇用創出
3. [経済成長] ・280〜410億ポンドの経済効果, ・62〜90万人の雇用創出(2020年までの見通し), ・失業者への雇用創出(7万人), ・観光客の増加(1%増)、および観光消費金額の増加(4%増)
4. [地域の活性化] ・ボランティア意欲の向上と参加者の増加(10万人の新規創出), ・文化プログラムへの参加促進(4,300万人の参加), ・環境対策の推進(オリンピックパーク地域の土壌汚染対策、ISO20121の認証取得)
5. [パラリンピック開催効果] ・障がい者のスポーツ参加機会の向上, ・障がい者スポーツへの支援助成の増加, ・交通および社会インフラ整備によるアクセス性の向上
次回は、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致ブックの内容を見てみたいと思います。
東京オリンピック招致ブックに見るレガシーの本質
オリンピック競技大会の開催地として立候補する都市が、IOCに提出する「立候補ファイル」に、「レガシー(遺産)」に関する記述を明記しなければならなくなったのは、正式には2012年大会からです。2020年のオリンピック招致の際にも、東京都が提出した「立候補ファイル」にも、「レガシー(遺産)」に関して明確な記載があります。この「立候補ファイル」は、IOCが示した質問項目に対する回答形式で作成されており、IOCの質問事項は以下のようになっています。
01.ビジョン、レガシー及びコミュニケーション
1.4 オリンピックの主要なレガシーの計画はどのようなものか。また、それがいかに貴都市の長期的な計画や目標に結びついているか、詳細を説明してください。
1.5 貴都市におけるスポーツのレガシーは何ですか。
1.6 貴都市でオリンピックを開催することによって、どのような形でオリンピック・ムーブメントに寄与できますか。
1.7 パラリンピック競技大会を開催することによって、貴都市のビジョンやレガシー全般にどのような形で寄与できるのかについて述べてください。
直接関連する質問事項は以上の4項目ですが、具体的な内容は、前項に示した5つの分野(スポーツ、社会、環境、都市、経済)に沿って、より具体的に回答する必要があります。では、これらの設問に対して、当時の招致委員会はどのような回答をしていたのか・・・・・。以下の通りです。
<1.4>に対する回答
「オリンピック・レガシー委員会」の設置(オリンピック・レガシーすべてについての評価と助言を行う組織)
有益な物理的レガシーを残す
・ 11の恒久施設(新設)が整備される(一部は財政的な理由から既に建設中止を決定)
・ 1964年大会時に建設された施設の有効活用
・ 競技会場の内、21会場は東京の新しい中心となる東京ベイエリアに設置される
・ 選手村の一部は大会後に国際交流プラザとなり国内外の文化、教育、スポーツ関連の期間が拠点を置く
・ 東京にイベント及びスポーツ技術科学機関を創設する
・ ISO20121イベントサステナビリティマネジメントシステム認証に沿って、新たな基準を遵守していく
<1.5>に対する回答
国際スポーツ振興プログラムの作成
新設競技会場は地域社会の中に統合され、人々に身近でスポーツを楽しむ機会を提供する
オリンピック大会前、大会後のスポーツや体育プログラムをロールモデルとして、体を動かすことの様々な恩恵に関する知識が社会に浸透する
<1.6>に対する回答
オリンピックの価値、スポーツや施設、精神を東京の中心に据えることで、地域にこれらの価値を浸透させ、オリンピック・ムーブメントとその発展に大きく貢献する
嘉納治五郎記念国際スポーツ研究交流センターは、スポーツと国際スポーツ交流を通して、若者を教育していくことによってオリンピズムの推進に貢献する
アンチドーピング教育の強化
オリンピックミュージアムを設立し、オリンピック・ムーブメントの発展に貢献していく構想を持っている
<1.7>に対する回答
積極的な障がい者スポーツの振興への取り組みを一層加速させる
障がいを持つ子供及び両親を対象にスポーツイベントやワークショップを開催し、人生の早い段階からスポーツの選択や機会に触れる機会を提供する
大会終了後もパラリンピック大会に関する教育プログラムを導入する
ユニバーサルデザインの考え方に基づく街づくりを促進するきっかけとなる(バリアフリー化など)
以上を見ると、招致段階での計画は、非常に深い理念の下、2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックをお手本として、良くまとめられているように思いがちですが、実際には、財政的な問題を前提として、競技会場の建設、配置等の計画は大きく変更されつつあり、また、ハコモノ行政的な内容が多々あるため、招致ブックに記載されている内容の大半は、志半ばで大きく変容しつつあるのです。開催計画は、よりよい計画にしていくために、変更はあるでしょう。しかし、開催理念の一つでもあるレガシーに関する記載にも及ぶ影響は、どう考えるのでしょうか?。
長野オリンピックが残した負の遺産の数々
1998年、長野市を開催都市として、日本で2番目となる冬季オリンピックが開催されました。当時、私はナイキジャパンに在職中で、このオリンピック対策チームを手伝う形で、長期間、長野市内に滞在していました。競技そのものを見ることよりも、街の様子や地域住民の姿に興味があったことで、滞在期間中は時間がある限り、市内の様子を見て回りました。そこで感じたのは、長野はなぜオリンピックを開催したかったのか、どんな効果を期待していたのか、ということです。お祭り騒ぎは別として、オリンピック開催都市の中には、何か作られた盛り上がりしかなく、個人的にはオリンピックという大会に対する過度な期待がありすぎて、かなり幻滅した印象を抱いていたことを思い出します。そして、その始末記とも言うべき様々な後日談が、オリンピック期間中から閉幕後に至るまで、メディアに掲載されています。以下は、その一部です。
イノシシも通らない閑散とした道路網
首都圏と直結する交通網を有する松本市とは異なり、県庁所在地である長野市は、首都圏と直結する交通網を持たず、陸の孤島とも呼ばれていた。1998年オリンピック冬季競技大会の開催を機に、長野市は、この課題を解決するために、大規模な交通インフラ整備を推進することになる。しかし、長野新幹線などの鉄道網の整備は、後に北陸新幹線として延長されるなどの効果はあったものの、各種有料道路を新設するための莫大な公費は、後に大きな恩恵をもたらすこともなく、「負の遺産」のひとつとして現在も問題視されている。また、この時の公共事業の増大は、県内の建設業に大きな利益をもたらすも、その後の公共事業の縮小から、数多くの企業倒産を招き、持続的な経済効果を後世に残すことはなかった。
施設の後利用が進まない大規模競技施設
スピードスケート会場の「エムウェーブ」、アイスホッケー会場の「ビックハット」、フィギュアスケート会場の「ホワイトリング」など、オリンピック開催を機に、長野市内には多くの競技施設が新設されたが、夏季冬季を通して、後利用の状況は、当初計画を下回り、多額の施設維持費に公金を投入せざるを得ない状況にある。また、白馬村に新設されたジャンプ競技場のノーマルヒル施設は、FIS国際スキー連盟のレギュレーション変更によって、国際大会の開催が出来ない状態に置かれている。
「環境との共生」における課題
1972年札幌オリンピック時にも問題視されたアルペン競技コースにおける環境保全問題は、長野オリンピックでも、ダウンヒルコースのスタート地点の設定で大会直前まで大混乱したように、再び、「環境との共生」が大きくクローズアップされた。アルペン競技以外にも、バイアスロン、ボブスレー会場では、保護動物、保護植物の保全や、氷の冷却装置に使われる各種冷却材の使用を巡って、大きな反対運動も呼び起こした。技術の進歩と共に、最善策はとられるものの、札幌ではいまだに後遺症が残っているなど、環境対策問題は今後も尾を引くであろう。
長野オリンピックに関しては、閉幕後にも様々に大会の開催の効果を評論する書籍が出版されていますが、その多くは非常に手厳しい批判が多いようです。それは、当時、日本のスポーツ界を牛耳り、西武王国の独裁的立場に君臨していた堤義明氏の所業の数々に始まり、彼を取り巻く政財官の人々の欲望渦巻く人間模様であり、まるでサスペンスドラマを見ているような気分に陥ります。では、この長野オリンピックiは、一体どれだけの税金が投入され、そして、どの程度の財務規模で行われたのかを見てみましょう。
大会運営費(総額1,142億円)
[収入]
1 事業収入774億円(入場料、スポンサー料、テレビ放映権料など) ※IOC分含む
2 開催地自治体負担318億円  
3 補助金等50億円
[支出]
1 事業費1,000億円(会場運営費、競技運営費、広報費、会場施設改修費など)
2 管理費141億円(大会組織委員会関係費、人件費など)
施設整備費総額1,363億円 ※大会組織委員会外予算(国、長野県、長野市)
1 大会運営施設関連509億円  
2 大会競技施設関連854億円 ※内訳 [エムウェーブ(スピードスケート) 348億円(年間維持費17億3千万円), ビックハット(アイスホッケー) 191億円(同 9億7千万円), ホワイトリング(フィギュア他) 142億円(同 6億9千万円), スパイラル(ボブスレー他) 101億円(同 6億3千万円), アクアウイング(アイスホッケー) 91億円(同 6億8千万円)]
交通インフラ整備関連費総額1兆2910億円※国、長野県
1 オリンピック関連道路整備費1,980億円  
2 高速交通網整備費1兆930億円 ※内訳 [長野新幹線 4,461億円, 長野自動車道2,079億円, 上信越自動車道の延伸分4,390億円]
以上ですが、レガシーなどとは名ばかりの、正に、ゼネコン・オリンピックだったことが如実に表れています。
私見
2000年代以降のオリンピック開催地の状況を鑑みると、2000年シドニー、2006年トリノ、2010年バンクーバー、そして2012年ロンドンは、世界有数の都市の中に含まれ、成熟期または成熟に向かう時期にある都市であることから、インフラ整備の視点で言えば、都市機能の再開発や新たな時代に向けての都市機能の整備、という先進国としてのオリンピック・レガシーの見い出し方が問われていたと考えます。これは、2008年の北京や2016年のリオデジャネイロが、1964年の東京や1988年のソウルが辿ってきた経済成長の糧としてオリンピック大会の開催を活かしてきたことに通じるところもあり、新興国と先進国の違いを現わしている、と言えるかもしれません。つまり、2020年の東京では、1964年時とは全く異なり、先進国として、また、成熟した世界的な大都市として、どのようなレガシーを創出できるのか、ということを、その先の時代のオリンピックの在り様を映す鏡として、しっかりと示す必要があるのです。
多くの研究者や教育者による論調は、非常に仮想的な内容が多く、それは、東京都がIOCに提出した招致ブックの内容から少し具体性があるものに留まっているように感じます。では、有形・無形は問わず、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるオリンピック・レガシーとは、どのように捉え、考え、そして具体的に示していくべきか。スポーツ・ビジネスの実務者の立場で、個人的な意見としては、以下のように考えます。
新たな時代のオリンピック・レガシーとは?・・・・・
1.スポーツのより高度な産業化による需要の創出
 →ビジネス領域の拡大、経済規模の拡大、雇用規模の拡大、雇用環境の向上など
2.先端テクノロジーの創出機会としてのマネジメントの具体化
 →先端テクノロジーとしてのショーケースとしてのオリンピックの活用
3.スポーツ界における組織、人材の機能と能力の高度化を成し遂げるための機会の創出
 →1と2を踏まえたスポーツ組織の経営能力の強化と、それを担う人材の育成
一般社会を捉える目線から、スポーツ界そのものにフォーカスした目線に絞り込むと、オリンピック・レガシーの捉え方は非常に狭義のものになりますが、産業化、ビジネス化が遅れている日本のスポーツ界では、いまや、ビジネスの戦場ともかしているオリンピックの舞台裏から、日本のスポーツ界の発展を目指して学ぶべき要素が数多くあります。そのひとつひとつの要素を、より確実に、より具体的に、日本のスポーツ界の発展に結び付けていくことこそ、オリンピック・レガシーなのではないか、と考えます。
産業化、つまり、より大きなお金が入ってくる市場に、日本のスポーツ界を変えていかなくてはなりません。そのキッカケが2020年であり、そこには、オリンピック大会開催を機に、全国から「ヒト」と「カネ」が集まります。更には、スポーツ産業を支える最大の基盤である競技施設が生み出されます。
また、世界最大のスポーツイベントの場では、多種多様な人材の育成の場が生み出されます。そこでは、そうした人材が、その後もスポーツをビジネスとして捉え、スポーツ市場拡大の担い手となるように、雇用、就業環境を整備、拡大していく必要があります。つまり、創出、育成された人材を、活かすべき場、機会を、より大きな市場の中で生み出していかなければならないのです。
更に、現在の日本のスポーツ界には、大きな「カネ」が入ってくる価値が、まだまだ高まっていません。オリンピックという世界最大のスポーツイベントには、その価値が十分にあり、オリンピック大会の開催を機に高まる価値を、持続的に日本のスポーツ界の中に残していくための施策が必要です。つまり、オリンピック大会の開催だけに留まらせないためのノウハウを、持続的に開発していく必要があるのです。

「日本のスポーツ界の産業化」、「最先端テクノロジーの創出機会のマネジメント」を踏まえて、オリンピック競技大会の開催を機に、特に日本のスポーツ界が後世に残すべきレガシー(遺産)とすべきものは、スポーツ界の組織機能の高度化と、その運営を担う人材の発掘と育成です。その試金石となるのが、2020年である、ということです。日本のスポーツ界には、より大きな「カネ」を生み出したり呼びこんだりする力がまだまだ不足しています。コンテンツとしての魅力がスポーツに備わったとしても、それを有効に活用する術に課題があります。
まず、スポーツ組織の運営機能をより高度化していくためには、高度化する技術や膨大な情報量をマネジメントしていく経営能力が必要となります。これは、一般の企業経営と何ら変わることはなく、競技団体のみならず、多くのプロスポーツチーム、クラブの経営にも波及させるべきものでしょう。これまで、スポーツという枠組みの中だけで、組織構築や人材の登用が当たり前のように行われてきた日本のスポーツ界は、オリンピックと言う世界最大のスポーツイベントをオペレーションし、マネジメントしていく機会を、より高度な経営能力、ノウハウを備えていくための機会として捉える必要があります。スポーツ界はある意味で閉鎖的で、特殊な社会構造を作り上げてきました。1964年の東京オリンピック当時にも見られるように、企業がスポーツの発展を支え、スポーツは国民の健康維持の最良の手段として生活の中に取り入れられてきた歴史があります。しかし、いまや、企業スポーツとは言え、その存在は企業経営にも影響するものでなくては存在価値を問われる時代になっています。また、プロスポーツの発展と多様化も進みつつある中で、経営という概念に対する考え方を重視する必要性も問われ始めています。日本のスポーツ界にあるすべての組織が、現代の社会的なニーズに沿って、経営と言う概念の下、オペレーションやマネジメントという経営技術をより高度なレベルで備えなければならない時代なのです。オリンピック競技大会の開催は、まさにその絶好の機会であり、そこから始まる改革の芽こそ、オリンピック・レガシーの一つとして捉えていくべきではないでしょうか。
更に、高度化する組織のオペレーション、マネジメントを担うための人材が不可欠であることは言うまでもありません。オリンピック競技大会こそが、その機会となり、現場となるのです。もちろん、新たな時代におけるコミュニティ形成という視点からも、スポーツボランティア組織の拡大、制度化の推進も必要不可欠となります。
最近のスポーツ界の一つの話題と言えば、バスケットボールにおける日本協会の国際連盟加盟資格停止処分に端を発する案件ではないでしょうか。これも、元を辿れば、人材の問題に行きつくことです。日本のスポーツ界、特に各スポーツ競技の普及、育成、強化を担う中央競技団体には、有能な人材がまだまだ少ない、と言われています。理由は単純で、ふたつ。ひとつは、職員の採用が競技を通じた縁故によって行われている風潮が蔓延っていること。もうひとつは、有能な人材を雇用できるほどの財力がないこと。このふたつの課題は、脈々と続けられてきた長い歴史的背景があり、一朝一夕では解決できる問題ではありません。そして、そこには根深い課題が横たわっています。IOCを始めとして、世界の国際競技連盟が、ビジネス感覚を重視した組織経営に舵を切っている中で、いまだにアマチュア主義的な感覚でしか組織運営、組織経営を担ってこなかったことです。中央競技団体の役員には、意外に多くの大企業の役員経験者が名を連ねています。世界的に有名な日本の冠たる大企業もズラリと揃っています。そうした世界と戦ってきたビジネスマンたちが、中央競技団体の執行部に居ながら、スポーツの世界のことになると、とたんに学生の感覚に戻ってしまうようです。出身校の派閥、先輩後輩といった上下関係、更には凡そビジネスマンとは見えない貧困な金銭感覚。助成金や補助金の不正受給の問題も過去にはありましたが、少ない事例ではありますが、そんなところにも、中央競技団体のマネジメント力の無さが象徴されているように思います。国際競技連盟は、世界的な市場を獲得、拡大していくために、数多くのビジネスマンたちを組織の中枢に招聘し、スポーツの世界とは異なる完全なグローバルビジネスの手法、ノウハウ、戦略を取り入れ始めています。かつては数多くの不正疑惑や汚職に揺れていた国際競技連盟も、いまではその闇の部分に起因して、オリンピックの舞台から消されてしまう可能性を現実的に感じ、本部組織はもちろんのこと、世界中の加盟各国協会、連盟に対しても、組織のガバナンスを重視した「経営」を求めつつあります。その過程の中で起こったのが、今回の国際バスケットボール連盟による日本に対する処置だった、と個人的には思います。世界は変わろうとしています。しかし日本は、良くも悪くも伝統というものを重んじます。ひとつの美徳ではあるでしょうが、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を間近に控えるいま、そんな感覚は通用しない、ということなのです。変わること、意識も考え方も行動も・・・・・。それが、希望あるレガシーを残していくための試金石ではないか、と思います。 

 
2016/12