ペロシ米下院議長 台湾訪問

ペロシ米下院議長 台湾訪問

中国の作戦 大失敗

中国に 脅されて 台湾に行かなければ
アメリカは 中国に屈したことになります
大国の面子 ぶつかり合い

ペロシ米下院議長 どうあれ 行くしかありません

 


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8/18/28/38/48/58/68/78/88/98/10・・・8/118/128/138/148/158/168/178/188/198/20・・・
 
 
 

 

●ペロシ米下院議長が台湾訪問を計画、中国反発「座視せず」 7/28
米国のナンシー・ペロシ下院議長(民主党)による台湾訪問計画を巡り、中国が「座視しない」と反発している。バイデン米政権は、中国との緊張関係が過度に高まらないよう慎重に対応しようとしている。
ペロシ氏の訪台は、英紙フィナンシャル・タイムズが18日、日本やシンガポールなどアジア歴訪の一環として「8月に予定している」と報じた。ペロシ氏は報道を肯定も否定もしていないが、21日の記者会見では、中国による軍事行動を抑止するためには「我々が台湾に対する支持を示すことが重要だ」と述べた。
下院議長は大統領が死亡したり、職務不能になったりした場合の権限継承順位が副大統領に次ぐ2位で、閣僚より上だ。訪台すれば1997年以来25年ぶりで、米台関係の緊密さをアピールできる。ペロシ氏は4月にも訪台を調整したが、新型コロナウイルスに感染し、実現しなかった。
中国国防省報道官は26日、「米側が独断専行するなら、中国軍は絶対に座視せず、いかなる外部勢力の干渉も『台湾独立』のたくらみも打ち砕く強力な措置を必ず講じる」とけん制した。
バイデン米大統領は20日、ペロシ氏の訪台について「軍は良い考えだと思っていないようだ」と記者団に語り、政権内に慎重論があることを明かした。台湾周辺では米中両軍が艦艇や航空機を頻繁に派遣し、緊張が高まっている。米紙ワシントン・ポストによると、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官や米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長らが、訪問のリスクについてペロシ氏側に説明してきた。米軍は安全確保のため、戦闘機や空母の派遣も検討しているという。
一方、野党・共和党上院トップのミッチ・マコネル院内総務は26日、「ペロシ氏が今訪問しなかったら、中国に勝利を手渡すことになる」と語った。訪問が中止や延期となれば、政権に対する「弱腰批判」が高まることは必至だ。
米中外交筋によると、中国は4月の時点で、非公式ルートを通じ、中国軍がペロシ氏を乗せた航空機の台湾着陸を阻止すると米側に警告していた。バイデン氏は、台湾に対する中国の武力行使を抑えるため、「台湾防衛の責務がある」という趣旨の踏み込んだ発言を繰り返してきた。トランプ前政権で国務長官だったマイク・ポンペオ氏が「台湾を主権国家として認めるべきだ」と発言するなど、歴代米政権が維持してきた「一つの中国」政策を逸脱する発言が相次いでいることにも中国は神経をとがらせている。中国軍の内情に詳しい関係筋は「ペロシ氏が訪台すれば、中国軍は台湾周辺で演習を行う用意がある。状況次第では更に強い対抗策をとる」と語る。
米調査研究機関スティムソンセンターのユン・スン上級研究員は、「 習近平シージンピン 国家主席にとって中国共産党大会が迫る中でのペロシ氏訪台は、メンツをつぶされることで受け入れられない。訪問には安全保障上の懸念がある」と述べ、今年後半の党大会後に訪問を延期すべきだとの考えを示した。
米ブルームバーグ通信は26日、関係筋の話として、バイデン氏と習氏が28日、会談すると報じた。電話かオンラインとみられ、ペロシ氏の訪台計画についても話題になる可能性がある。  
 
 

 

●米中首脳が電話会談、台湾巡り応酬 習氏「火遊び」とけん制 7/29
バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は28日、電話会談を行った。習氏は台湾情勢を巡り「火遊び」という言葉で警告し、ペロシ米下院議長が予定する台湾訪問に強い懸念を示した。
中国外務省によると、習氏は「火遊びをすればやけどするだけだ」とけん制。「米国側がこの点を明確に理解することを願う」と述べた。
また「一つの中国」の原則を堅持するよう米政府に求め、中国は台湾の独立と外部の干渉に断固反対すると強調した。
ホワイトハウスによると、バイデン氏は台湾に関する米国の政策に変更はなく、現状の変更もしくは台湾海峡の平和と安定を損なうような一方的な動きに強く反対すると伝えた。
両首脳による協議は今回が5回目。会談は約2時間20分行われた。
台湾外交部(外務省)は米中首脳の会談後に声明を出し、バイデン氏の台湾への支持に謝意を表明すとともに、安全保障に関する米とのパートナー関係をさらに深化させる考えを示した。
米政府高官によると、バイデン、習両氏は初の対面会談の可能性についても議論し、関係者に検討を指示した。
高官は記者団に対し、習氏は台湾を巡り以前にも同様の言葉を使ったことがあるとし、双方は40年来の異なる立場を認めたと指摘。「台湾に関する両氏の会話は直接かつ率直だった」と述べた。
バイデン氏は台湾を巡り対話の維持が重要だと強調したほか、気候変動や健康安全保障など協力拡大が可能な分野についても意見を交わしたという。
中国側によると、習氏は台湾問題に加え、米中がマクロ経済政策やサプライチェーン(供給網)、世界の食料・エネルギー安全保障について対話を続ける重要性も強調。
戦略物資の中国依存を解消しようとする米国の取り組みに言及し、「デカップリング(分断)や供給網を切り離そうとする取り組みは米経済の利益にならず、世界経済をより脆弱にするだけだ」と述べた。
バイデン政権はインフレ対策として対中関税を一部撤回すべきか検討してきたが、米高官によると、今回の会談で関税引き下げは話題に上らなかった。
一方、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、バイデン氏が中国における大量虐殺や強制労働の問題を取り上げたことを明らかにした。
在ワシントンの台湾代表機関は、バイデン氏が「台湾海峡の平和と安定という共通の利益の重要性を強調したことに感謝している」と述べた。
●米中首脳会談 台湾情勢めぐり意見対立際立つ 対話継続では一致  7/29
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席が電話による首脳会談を行い、台湾情勢をめぐってはバイデン大統領が一方的な現状変更に反対したのに対し、習主席はアメリカの干渉だと強く反発し、意見の対立が際立つ形となりました。一方で、両首脳は対話は継続し、今後、対面での首脳会談の時期を模索していくことで一致しました。
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は日本時間の28日夜、電話による首脳会談を行い、ホワイトハウスによりますと会談はおよそ2時間20分続いたということです。
ホワイトハウスは会談後、声明を発表し、台湾情勢について、バイデン大統領がアメリカの「1つの中国」政策に変更はないとしたうえで、「現状を変更したり、台湾海峡の平和と安定を損なったりする一方的な行動に強く反対する」と強調し、中国をけん制したとしています。
これに対し、中国外務省は会談後の発表で習主席が「火遊びをすれば必ずやけどをする。アメリカはこれをきちんと理解すべきだ」と強く警告したとしていて、台湾をめぐり意見の対立が際立つ形となりました。
またペロシ下院議長の台湾訪問が取り沙汰されていることに中国が強く反発していることについてバイデン政権の高官は「それは議長の判断だ」と述べるにとどめ、首脳会談の中でやりとりが行われたかどうかについても明らかにしませんでした。
一方、この高官は、両首脳は対話は継続し、対面での初めての首脳会談の時期を模索していくことで一致したとしています。
また中国外務省も「さまざまなレベルで意思疎通を維持し、協力を推進しなければならない」とした上で、安定したサプライチェーンやエネルギー、それに食料安全保障問題についても意思疎通を続けていくべきだとしていて、利益が重なる分野も含め対話を継続することを再確認しました。
●米中首脳会談 台湾めぐり意見対立浮き彫りに  7/29
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席が電話による首脳会談を行い、アメリカの下院議長の台湾訪問が取り沙汰されて中国が反発を強める中、台湾をめぐる意見の対立が改めて浮き彫りになりました。ただ、両首脳は対話の継続では一致したとしていて、高官レベルでの協議も続けていくとしています。
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は日本時間の28日夜、およそ2時間20分にわたって電話による首脳会談を行いました。
会談後、アメリカのホワイトハウスが声明で、バイデン大統領は台湾海峡の平和と安定を損なう一方的な行動に強く反対するとしたのに対し、中国外務省は「火遊びをすれば必ずやけどをする」と警告したとしています。
今回の首脳会談は、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問が取り沙汰されていることに中国が強く反発している中で行われ、台湾をめぐる意見の対立が改めて浮き彫りとなりました。
一方で、バイデン政権の高官は、会談で両首脳は台湾情勢をめぐって両国は立場の違いを40年以上にわたって乗り越えてきたことを確認したうえで、対話の継続は不可欠だとして、高官レベルでの協議も行いながら対面での初めての首脳会談の時期を模索していくことで一致したとしています。
また、今回の会談ではアメリカが中国からの輸入品に課している関税の一部引き下げについて議論が行われるか関心が集まっていましたが、バイデン大統領が中国の経済慣行が不公正だとして懸念を示したものの両首脳の間で具体的な議論は行われなかったということです。
木原官房副長官「米中両国の関係安定 極めて重要」
木原官房副長官は閣議のあとの記者会見で「米中両国の関係の安定は極めて重要だ。わが国は引き続き、同盟国であるアメリカとの強固な信頼関係のもと、さまざまな協力をしつつ、中国に対し大国としての責任を果たしていくよう働きかけていきたい」と述べました。
また、ことし9月に国交正常化から50年を迎える日中関係について「さまざまな課題があることは紛れもない事実であり、わが国として、引き続ききぜんと対応していく。習近平国家主席との会談は、現時点で決まったものはないが、さまざまなレベルでの対話は重要で、主張すべきは主張しつつ具体的に考えていきたい」と述べました。
●米中首脳会談、台湾巡りエスカレート回避 懸案は両者とも国内経済 7/29
バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は28日の電話会談で、台湾を巡るエスカレートした発言をおおむね避けて通った。米中経済がそれぞれ気がかりな状態にある今、両首脳ともに台湾海峡の緊張激化を望んでいない様子が見て取れる。
習氏は、米側が台湾を巡って「火遊び」をしないよう警告した。これは鮮烈な言葉遣いではあるが、昨年11月のビデオ会談における発言をほぼなぞっている。
米ジャーマン・マーシャル財団の中国専門家、ボニー・グレーザー氏は「台湾に関する対話の部分は、前回の会談と酷似していた。習氏の警告はエスカレートしていない」と話す。
記者団に対する米高官の説明によると、2時間余りに及ぶ両首脳の会談は台湾問題のほか、ロシアのウクライナ侵攻、気候変動など米中協力が可能な分野の3部分で構成された。
取り沙汰されているペロシ米下院議長の台湾訪問が話題に出たかどうかについて、米高官は明らかにしなかった。その代わり、バイデン氏は米国が「1つの中国」原則を維持していると伝えたと強調した。
新アメリカ安全保障センターのインド太平洋安保フェロー、ジェーコブ・ストークス氏は「私見では、両首脳が直接対話したことは、対話しなかった場合に比べて緊張をやや和げる効果があっただろう」とした上で、「両国関係の緊張の構造的原因は変わっていない。ペロシ氏が台湾を訪問する可能性も消えていない」と指摘した。
中国はペロシ氏が台湾を訪問した場合の影響について、これまでより強い警告を発した。民主党のペロシ氏は長年、特に人権問題を巡って中国を批判し続けている。
一部報道では、ペロシ氏は8月にも台湾を訪問する可能性がある。実現すれば米国による台湾への支持を示す劇的な出来事となりそうだ。現職下院議長による訪台は、1997年のギングリッチ氏(共和党)が最後。
一部の専門家は、米中関係が緊張している時に訪台すれば大きな危機を誘発し、不慮の衝突さえ起こりかねないと懸念する。
しかしヘリテージ財団の中国専門家、ディーン・チェン氏は「悪夢のような妄想が広がっている。彼らがペロシ議長の乗った飛行機を打ち落とすとか、議長の訪問中に台湾に侵攻するとか。トム・クランシーの小説でもあるまいに勘弁してほしい」と述べ、台湾を巡る一触即発説を退けた。
チェン氏によれば、もっと現実味の強い中国の対応は、台湾海峡の中間線上を飛行する軍機の増加、もしくは台湾周辺の航行といった軍事的示威行為だ。
ギングリッチ氏が訪台した1997年に比べ、中国は軍事的にも経済的にもはるかに強大になっている。ホワイトハウスによると、政府はペロシ氏の事務所と連絡を取り、「あらゆる前後関係」を踏まえて訪台の是非を判断するよう呼びかけている。
民主主義防衛財団(ワシントン)の中国プログラム担当シニアフェロー、クレイグ・シングルトン氏はメディア向けのノートで、米中はともに経済面で逆風に見舞われているため、バイデン、習両氏に対しては国内から米中関係の安定化を求める声が高まると予想した。
「今のところオンラインでも国内メディアでも、中国が現時点でさらに深刻な軍事行動を検討していることをうかがわせる公式声明はほとんど見当たらない。もっとも、この状況が変化する可能性はあるが」とシングルトン氏は記している。
●米中首脳が電話協議、台湾めぐり互いに警告 直接会談の可能性模索も 7/29
アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は28日、電話協議を行い、台湾をめぐり互いに警告を発した。協議は2時間以上に及んだ。
バイデン大統領は習主席に対し、アメリカは台湾の地位を一方的に変更しようとするいかなる動きにも強く反対すると述べた。
ただ、台湾をめぐるアメリカの政策に変わりはないとした。
一方、習氏はバイデン氏に対し「火遊びする者は身を焦がす」と警告し、「一つの中国」の原則を守るよう伝えたと、中国政府は説明した。
台湾をめぐる米中の緊張関係は、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問予定だとの観測が広がる中で高まっている。
米国務省は、ペロシ氏はいかなる訪問も表明していないとしている。だが、中国側は、そのような訪問があれば「深刻な結果」をもたらすことになると警告している。
バイデン氏は、ペロシ氏の台湾訪問について20日、「米軍はそれがいい考えだとは思っていない」と記者団に説明。同時に、中国側のレトリックは「明らかに助けにならないし、必要ない」と述べた。
下院議長は副大統領に次ぐ立場にある。ペロシ氏の台湾訪問が実現すれば、1997年のニュート・ギングリッチ下院議長(当時)以来となる。
直接会談の可能性探る
米政権幹部によると、バイデン氏と習氏は電話協議で、直接会談の可能性についても話し合った。電話協議は「率直」かつ「誠実」なものだったという。
バイデン氏は副大統領時代の2015年、アメリカを訪問した習氏をもてなしたことがある。しかし、大統領就任後は直接面会していない。
中国は台湾を、自国から分離した省で、統一されるべきだと考えている。そのための武力行使の可能性も排除していない。
「一つの中国」政策のもと、アメリカは外交上は台湾政府を承認していない。しかし、「台湾関係法」に基づき、台湾が自衛できるよう武器を販売している。
その他の議論
ホワイトハウスによると、両首脳は台湾問題のほか、気候変動や健康安全保障などさまざまな問題について議論したという。
バイデン政権はトランプ前政権時代に課した中国製品への関税の解除について検討している。関税の解除がアメリカで高まるインフレを緩和する可能性があるとみているためだが、米政府高官によると、この日の議題にはあがらなかったという。
BBCのバーバラ・プレット・アッシャー米国務省担当特派員は、両首脳があからさまな対立を避けたがっているとする複数のアナリストの見方を伝えた。ただ、両首脳は対立する主張を変えようとはしていない。このことは、電話協議に関する対照的な声明に改めて示された。
ホワイトハウスは短い声明の中で、「責任を持って相違に対処」し、「利害が一致する」部分で協力するための試みの一環だと、この日の協議を説明した。
一方で中国は、より長文の声明を発表し、両国の利害の多くは一致しているとした。しかし、両国の関係悪化の責任はアメリカにあるとし、バイデン政権が中国を「主要ライバル」で「最も深刻かつ長期的課題」とみなしていると批判した。 
 
 

 

●口角泡を飛ばした米中首脳会談、瓢箪から駒の結末へ 7/30
「病み上がり」バイデン氏が電話会談要請
ジョー・バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は7月28日、電話会談した。
米東部時間では午前8時半(北京時間同日午後9時半)頃から始まった会談は2時間17分に及んだ。
会談の要請は、バイデン氏の国家安全保障担当補佐官からカウンターパートの楊潔篪・外交担当国務委員を通じて習近平氏に出された。
バイデン氏は7月21日にPCR検査で陽性反応が出た。習近平氏は直ちに22日、見舞いのメッセージを送った。
バイデン氏は、27日、陰性になり職務復帰した。習近平氏との会談は「病み上がり」の初の外交になった。
通訳が訳さねばならない時間を差し引けば、両首脳の発言時間は正味約1時間。
1人30分間自らの言い分を一方的にしゃべりまくり、相手はその間、耳を傾けたということになる。
両者の間でやり合う場面があったのか。相手を遮って反論したのか。対面会談のように生々しいやり取りがあったのか。
(こればかりは分からない)
米中首脳の対話は3月のテレビ電話会談以来。2021年1月のバイデン政権発足以降は、オンライン形式なども含め5回目だ。
米メディアの前触れ記事では、最大の焦点は、ナンシー・ペロシ下院議長の8月台湾訪問を発端に燃え上がった米中間のレトリックの応酬をめぐって、両首脳がどう矛を収めるか、だった。
それでなくとも5月下旬、東京での日米首脳会談後の記者会見で、バイデン氏は台湾有事の際は米国が軍事関与すると明言した。
中国はこれに激しく反発。その緊張感がこれまでずっと尾を引いてきた。
台湾防衛をあいまいにしてきた歴代政権の政策修正と受け止められかねない発言で、今回の会談は、バイデン政権として踏襲していく方針を明確にする狙いもあったもようだ。
バイデン政権発足以降、米中は双方の言い分をぶちまけ、1月にはサリバン氏と楊潔篪氏とがアラスカで長時間にわたって激論を戦わした経緯がある。
皮肉なことだが、米中双方はテレビカメラが回っている中で罵詈雑言を浴びせ合い、双方の主張をぶつけ合った結果、相手の基本姿勢を知り尽くしている。
首脳会談は単に外交だけではない。よって立つ国内基盤が盤石でなければ外交も何もあったものではない。
翻ってバイデン氏、習近平氏にとっては、秋に向けて微妙な国内政治状況が待ち構えている。
バイデン氏には、負け戦になりかねない中間選挙が11月6日に控えている。
上下両院を野党・共和党に奪還されるかもしれない。負ければ、残りの任期2年は完全な「レイムダック」になってしまう。
一方の習近平氏にとっても、中国共産党総書記の継続を決める5年に一度の全国代表大会が控えている。
前回の全国代表大会は、2017年10月18日から24日までだった。今回もおそらくこの前後に開かれるはずだ。
党史上初の3期総書記になって毛沢東と並び称される指導者になろうとする同氏の野心がかかった秋になる。
米中新冷戦下で、両首脳に共通していることは2人とも現在超大国を治める権力者だということ。
お互いに波風を立てずに秋を迎えたいはずだ。
特に高齢のバイデン氏はパンデミックの最中に起こっている森羅万象(コロナ対策、ウクライナ危機、インフレーション)に対処し切れず、厳しい政権の舵取りを強いられている。
そうした中で春以来くすぶっていた「議会の女帝」であるペロシ下院議長の台湾訪問計画がにわかに再浮上、これに中国が激しく反発したのだ。
中国国防省は7月26日の報道官談話で「米側が(ペロシ氏の訪台を)独断専行すれば中国軍は決して座視せず、必ず強力な措置を取る」と威嚇した。
米メディアは台湾海峡で一触即発の状況になってきたと煽り立てた。
「台湾海峡をめぐる米中の軍事力による威嚇行動がペロシ訪台を機に一気にエスカレートした。まさに火に油を注いでしまった」(米主要メディアの外交記者)
ホワイトハウスは会談の詳細明らかにせず
今回の首脳会談ではこれについてどんなやり取りがあったのか。
会談後、ホワイトハウスが公表したリードアウト(会談内容を要約した公式声明)は200字未満の短いものだった。
一、バイデン大統領はウクライナ情勢に関する米国および同盟国のスタンスを説明した。
二、大統領は中国がウクライナ侵略を続けるロシアに物的支援を提供することで生じる結果について説明した。
三、大統領はウクライナ危機に対する外交的解決への支持を表明した。
四、米中首脳は、米中間の競争を管理・運用するために両者がコミュニケーションラインを維持する重要性について合意した。
五、大統領は米国の台湾政策には変化がないこと、現状維持を変えるいかなる一方的な変化には引き続き反対することを強調した。
六、両首脳は、今後重大な時期を迎える中で双方の政策チームに今日の会談をフォローアップするよう指示する。
一方、中国国営の新華社によると、習近平氏は台湾問題について以下のように述べた。
一、台湾問題の歴史的経緯は明白で、両岸が同じ一つの中国に属するという事実と現状ははっきりしている。「一つの中国」の原則は中米関係の政治的基礎だ。
二、台湾独立に向けた分離の動きと外部勢力の干渉に断固として反対する。
三、台湾問題に対する中国政府と中国人民の立場は一貫しており、中国の国家主権と領土保全を断固として守ることは14億人余りの人民の確固たる意志だ。
四、民意に背くべきでなく、火遊びは必ず身を焦がす。米国はこの点をよく認識することを望む。
共にペロシ氏の訪台計画について、どんなやり取りがあったかを公にしてはいない。
「行く行かないはペロシ氏が決めること」
バイデン大統領の国家安全保障会議(NSC)に新設の戦略広報調整官というポストがある。
国防総省スポークスマンだったジョン・カービー氏が、今年5月から同ポストに就任している。
そのジョン・カービー戦略広報調整官が米中首脳会談前に、ペロシ氏の訪台についてこう述べていた。
「ペロシ氏が台湾を訪問するかは自分で決める。同氏が外国を訪れる場合は、環境に応じた(安全に関する)情報を日常的に提供している」
「(大統領継承順位が副大統領に次いで第3位の)ペロシ氏の外国訪問時の安全は米国の安全保障にとって重要だ」
つまり、ペロシ氏が台湾に行く行かないについて大統領がうんぬんする立場にはない。しかし行くことを決めたらその身辺警護には米軍が責任をもって当たると言っているのだ。
ということは当然、大統領専用機か軍用機を提供するということになる。米中外交に携わってきた米国務省元高官はこの点についてこう推測する。
「ペロシ氏は中国のチベットやウイグル自治区での人権抑圧について批判してきたし、台湾に対する中国の軍事的脅威について警告を鳴らしてきた」
「だから今回、台湾を訪問すると言い出したのも思いつきではない。下院議長が訪台し、台湾の蔡英文総統と会うことの外交的意味合いも十分認識している」
「ペロシ氏は 米中首脳会談1週間前の7月21日の定例記者会見でこう述べていた。『私がいつ、どこの国を訪問するかは明かさない。国家安全保障上の理由からだ』」
「『ただわれわれは台湾をサポートせねばならない。われわれは台湾が(中国と分離した)独立国家だといったことは一度もない。それを決めるのは台湾だ』」
「ペロシ氏は『(自分の訪台について)バイデン大統領が言ったのは、私の搭乗した航空機が中国軍によって撃ち落とされるのを軍が心配したということでしょう』と述べた」
「訪台を断念する気はさらさらないようだ。もう一つ、同氏の訪台には、共和党が諸手を挙げて賛成・支持していることも織り込み済みだ」
「ドナルド・トランプ前大統領の側近だったマイク・ポンペオ前国務長官、マーク・エスパー前国防長官、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官らは、ペロシ訪台に賛成している」
「ペロシ氏にはもう一つの狙いがある。中間選挙を控えて共和党がバイデン民主党に対し物価高やインフレを批判している」
「中間選挙での焦点は経済。有権者の目を経済から逸らすために台湾問題を持ち出そうとする狙いも見え隠れしている」
「だとすれば、バイデン氏としても『米軍当局は(米中軍事衝突を招きかねない)ペロシ訪台を懸念している』などと嘯いているわけにはいかなくなってくる」
元国務省高官はさらにこう続ける。
「ペロシ氏は某同盟国経由で訪台する。ワシントンから同盟国までは米軍用機で行き、そこから台湾へは米民間航空機に乗り継いで飛ぶのだ」
「これまで台湾には米軍機は離着陸したことがない。『一つの中国』を堅持している以上、台湾に米政府管理下の航空機は離着陸させないという考え抜いた理屈だ」
「おそらく、バイデン氏はこうした理屈で習近平氏を説得したのではないだろうか。習近平氏にとっても党全国代表大会を前に米中軍事衝突といった事態は招きたくない」
「バイデン氏が『一つの中国』を堅持するというのであれば、ここは矛を収めざるを得ないだろう。それに今バイデン氏に恩を売るのも得策かもしれない」
「習近平氏には、反中強硬派のトランプ氏は米議会乱入事件で再出馬の芽はなくなったという認識があるのかもしれない」
そうした総合判断から、これならペロシ氏のメンツも習近平氏のメンツも立つという理屈になるとの分析だ。
フォローアップで対面会談に向けて弾み
ホワイトハウスの会談内容に関するリードアウトの最後の下りに注目する者もいる。
「両首脳は今後重大な危機を迎える中で双方の政策チームに今日の会談をフォローアップするよう指示する」
すべてがネガティブであったのならば「今日の会談をフォローアップ」する必要はないからだ。
無党派シンクタンクのスティムソン・センターのユン・サン中国政策ディレクターはこう指摘する。
「今回の電話会談のムードと成果がこの秋の対面首脳会談が実現するか、影響を及ぼすだろう」
「両者は2011年以来、副大統領、党軍事委副主席当時から顔見知りの間柄だ。11月にバンコクでASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議が開催される。バイデン、習近平両氏も出席するだろう」
習近平氏がめでたく第3期党総書記となり、バイデン氏が辛うじて中間選挙を乗り切った(?)後にバンコクで対面会談する可能性は十分あり得る。
「ペロシ訪台は米中軍事衝突の引き金?」と騒ぎ立てたメディアの予想とは裏腹に、事態は収まりそうな雲行きになってきた。
●中国、経済分断に反発 半導体法、新たな懸念に―米中首脳会談 7/30
中国の習近平国家主席とバイデン米大統領が28日に行った電話首脳会談では、経済安全保障の観点から中国経済とのデカップリング(分断)を進める米国の方針に、中国側が強く反発したもようだ。米議会では、中国の半導体産業への投資を規制する内容を含む新たな法案も可決されており、両国間の新たな懸念材料として浮上している。
「デカップリングを進め、サプライチェーン(供給網)を断つことは、米経済の活性化につながらず、世界経済をより弱くする」。習氏は首脳会談で、米国側の姿勢を強く非難した。
その半面、中国側は、米国による対中制裁関税の引き下げに期待を寄せていた。中国は習氏の3期目入りが懸かる共産党大会を秋に控えており、経済が悪化する中、政権基盤を安定させるためにも、対中制裁関税の引き下げを成果として勝ち取りたい考え。しかし、期待とは裏腹に今回の首脳会談では議題とならず、対話継続で両国が一致するにとどまった。
米上下両院では28日までに半導体関連法案が可決された。その狙いは、半導体分野で競争力を高める中国に対抗し、米国内の関連産業を強化することにある。バイデン政権は、経済面での対中依存度の低減を外交優先課題に掲げており、5月には中国を除外した新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明。経済面での対中包囲網を構築しつつある。
ただ、バイデン氏も、国内では高インフレを背景に支持率が低迷し、足元は不安定な状況。11月の中間選挙を前に日用品などの対中関税引き下げを求める声も出ており、両国間の交渉が今後一気に加速する可能性もある。
●米議長訪台計画、新たな火種に 中国猛反発、対立激化の懸念 7/30
米中関係の緊張が続く中、ペロシ米下院議長の台湾訪問計画が新たな火種となっている。バイデン米大統領と中国の習近平国家主席による28日の電話会談でも、主要議題となった。訪問を断行すれば、中国の反応次第で対立が一段と激化する恐れもある。
中国、強い言葉で警告
「火遊びをすれば、必ず焼け死ぬ」。習氏は電話会談で、バイデン氏に強い言葉で警告した。ペロシ氏の訪台計画をけん制する意図があるのは明らかだ。中国外務省の趙立堅副報道局長は29日の記者会見で「今回の対話は、ペロシ議長が訪台を計画している背景下で行われた」と述べ、習氏がペロシ氏の動向に直接言及した可能性を否定しなかった。
年に1度の共産党大会を今秋に控え、異例の3期目続投を目指す習氏にとって、三権の長の一角を占めるペロシ氏の訪台は看過しがたい。中国国防省は「米側が独断専行すれば、中国軍は決して座視せず、必ず強力な措置を取る」と強硬姿勢を示している。
歴代米政権は台湾有事の際に軍事介入するか明言しない「あいまい戦略」を採用してきたが、バイデン氏が5月、これを逸脱する形で台湾防衛を明言したことも中国の疑心暗鬼を誘った。習氏は会談で「米国は(中国本土と台湾は不可分とする)『一つの中国』原則を言行一致で順守すべきだ」と主張した。
大統領でも制御できず
バイデン政権は、ペロシ氏の訪台を全面支援しているわけではない。バイデン氏は20日、記者団に「米軍は良い考えではないと思っている」と苦々しさを隠さなかった。だが、三権分立原則の下、大統領といえども下院議長の行動を制御できない。
下院議長は大統領継承順位で副大統領に次ぎ2位の要職。訪台すれば、1997年のギングリッチ氏以来25年ぶりだ。ペロシ氏は当初4月に予定していたが、新型コロナウイルスに感染し延期した経緯がある。
中国軍は南シナ海などで挑発的行動を繰り返しており、米政府は「大きな事件・事故が起きるのは時間の問題」(ラトナー国防次官補)と警戒。訪台をきっかけに一触即発の事態を招きかねないことに、米専門家からも懸念が出ている。
ペロシ氏、29日出発
ペロシ氏は1月、オンラインで会談した台湾の頼清徳副総統に「将来再び会談したい」と訪台への意欲を伝達している。ロシアのウクライナ侵攻で「中国による台湾侵攻」への懸念が広がる中、米議会では与野党を問わず、米国の関与を示すペロシ氏の訪台を支持する声が多い。
米メディアによると、ペロシ氏は他の議員らと共に、29日に日本を含むアジア外遊へ出発する。日程表で台湾訪問は「未確定」とされ、実現するかはなお不透明だ。ペロシ氏自身は今のところ訪台計画に関し沈黙を守っている。 
 
 

 

●米ペロシ下院議長 アジア訪問を発表 台湾を訪問するか焦点に  7/31
アメリカのペロシ下院議長は、議員団を率いて日本や韓国、シンガポールなどを訪問すると発表しました。声明では、台湾への言及はありませんが、中国が反発を強める中でペロシ議長が台湾を訪問するのかが焦点となっています。
アメリカのペロシ下院議長は31日、声明を発表し、5人の議員団を率いてシンガポール、マレーシア、韓国、日本を訪問すると明らかにしました。
インド太平洋地域における安全保障や経済面での相互の協力と民主主義の下での統治が、ねらいの中心となるとしています。
ペロシ議長のアジア訪問をめぐっては、台湾も訪問すると一部メディアが報じ中国が反発を強めていますが、声明では台湾への言及はありません。
ただ、ペロシ氏はこれまで、みずからの海外訪問の計画について「安全に関わる問題なので明らかにしない」とも述べていて、一連のアジア訪問の途中に台湾を訪問するのかが焦点となっています。
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は28日、電話で会談し、中国外務省は会談後の発表で、習主席が台湾をめぐって「火遊びをすれば必ずやけどをする」と警告したとしていました。
一方で、バイデン政権の高官は、両首脳は対面での初めての会談を模索していくことで一致したとしています。
こうした中、仮に議長が台湾を訪問すれば台湾周辺での緊張が一気に高まりかねないとの指摘もあり、ペロシ氏の動向に関心が集まっています。
 
 

 

●「中国軍が断じて黙っていない」ペロシ米下院議長台湾訪問に中国政府警告 8/1
アメリカのペロシ下院議長が台湾訪問を検討していることについて、中国政府は「中国軍が断じて黙っていない」とあらためて警告しています。
現在、アジア各国を歴訪中のアメリカのペロシ下院議長をめぐっては、台湾を訪問するかどうかに注目が集まっていますが、これについて中国政府は「もし台湾に行くなら重大な結果をもたらす」と改めて警告しました。
中国外務省 趙立堅 報道官「中国は準備を整え、待ち構える。中国人民解放軍は断じて黙っていない」
中国外務省の趙立堅報道官はこのように述べた上で、「アメリカ側は中国側の伝えた明確なメッセージを十分理解したと信じる。アメリカ側のやるべきことは、ペロシ氏に台湾を訪問させないことだ」と繰り返しました。また、ペロシ氏が「いつどのような形で訪問しても中国とアメリカとの関係を深刻に破壊し、必ず政治的な悪影響をもたらす」とも主張しています。
 
 

 

●米ペロシ下院議長 今夜にも台湾訪問か 台湾メディア  8/2
アジアを訪れているアメリカのペロシ下院議長は2日、2番目の訪問国のマレーシアに入りました。台湾のメディアは、議長が中国の強い反対を押し切って2日夜にも台湾を訪問し、3日に蔡英文総統と会うと伝えています。
アメリカのペロシ下院議長は、議員団を率いてアジアを訪れていて、1日にシンガポールを訪問したのに続き、2日はマレーシアに入りました。
ペロシ議長がさきに発表した声明では、このあと韓国と日本を訪問するとされ、台湾への言及はありませんでしたが、台湾のメディアは議長が2日夜にも台北の空港に到着する見通しだと伝えています。
報道によりますと、議長は台北で1泊し、3日、蔡英文総統に会うということです。
また、台湾の議会にあたる立法院も訪問すると伝えています。
台湾当局は、ペロシ議長側が訪問計画を明らかにしないかぎり公に確認しない方針で、首相にあたる蘇貞昌行政院長は「外国からの賓客の訪問はすべて歓迎する。来訪の時間や方式は賓客の計画を尊重する」と述べるにとどめています。
ペロシ議長は、大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位で、現職の下院議長が実際に台湾を訪問すれば、1997年のギングリッチ氏以来25年ぶりとなります。
「台湾は中国の一部だ」と主張する中国政府は、ペロシ議長の台湾訪問に断固反対の立場で「もし訪問すれば、強力な対抗措置をとる。軍も決して黙って見ていない」と強くけん制しています。
中国軍 各地で軍事演習
中国軍は先月下旬以降、東シナ海や南シナ海などで相次いで軍事演習を行っています。
国営の中国中央テレビは先月30日、東シナ海を所管する東部戦区が最近、海上で実弾射撃訓練を行い、作戦能力を向上させたと伝えました。
中国当局の発表によりますと、先月30日には台湾の対岸に位置する福建省の平潭島付近の海域でも、実弾射撃訓練が行われたということです。
香港メディアは、軍事専門家の話として、一連の軍事演習は台湾への訪問が取り沙汰されるアメリカのペロシ下院議長への警告だとする見方を伝えています。
中国 軍や国営メディア 軍事関連の映像公開
アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問が取り沙汰されるなか、中国では、軍や国営メディアが、軍事関連の映像を公開しています。
中国軍で、東シナ海を所管する東部戦区は1日、「戦いの準備を整え待ち構えている」と題した動画を公開しました。
動画が撮影された詳しい日付や場所は明らかにされていませんが、台湾への関与を強めるアメリカをけん制するねらいがあるとみられます。
また、国営の中国中央テレビは、先月30日、中国軍の創設95年を前に公開した動画の中で、ミサイルが発射される映像を伝えました。
中国共産党系のメディア、環球時報は専門家の話として、このミサイルが極超音速ミサイル「東風17」とみられるということで、発射の映像が公開されるのは初めてではないかとしています。
また、空母などを標的とする「東風17」は既存のミサイル防衛網では迎撃するのが難しいとされ、ペロシ議長の台湾訪問が取り沙汰されるなか、あらゆる対抗措置をとることができるとアメリカに伝える意図があるとしています。
中国外相「越えてはならない一線だ」
中国外務省によりますと、王毅外相は2日、訪問先の中央アジアで台湾に対する立場を改めて表明しました。
それによりますと「『1つの中国』の原則は、中国の『核心的利益』の中の核心であり、越えてはならない一線だ」と強調したということです。
そのうえで「アメリカが台湾問題で信義に背くことは人々から相手にされなくなり、国家的な信用をさらに失墜させるだけだ。アメリカの一部の政治家はみずからの都合だけを考え、台湾問題で公然と火遊びをして14億の中国国民を敵に回しているが、これは決してよい結果にならないだろう」と述べ、アメリカを強くけん制しました。
中国外務省の華春瑩報道官は日本時間午後4時すぎからの記者会見で「中国はすでに何度も明確に原則的な立場を表明するとともに、何度もアメリカに厳正な申し入れを行っている。もしアメリカが強行するのであれば、中国は必ずや強力な措置をとる」と述べ、改めて反発しました。
また、華報道官は、アメリカの現職の下院議長が過去にも台湾を訪問したことに関連して「アメリカの個別の政治家の過去の間違った行動は前例にならないし、台湾問題においてアメリカが間違いを重ねる言い訳にもならない。台湾海峡の緊張をエスカレートさせる挑発的な行動をとっているのはアメリカであり、すべての責任を負わなければならない」と述べました。
アメリカでは大きな議論
ペロシ下院議長が台湾訪問を計画していると伝えられたのに対し、中国側が「訪問を強行すれば、中国は断固とした強力な措置をとる」などと強くけん制したことから、アメリカでは、大きな議論を呼んできました。
バイデン大統領は先月20日「軍は、いま行くのはよい考えだとは思っていない」と述べたほか、有力紙、ワシントン・ポストは、先月23日、バイデン政権は台湾海峡の緊張が一気に高まることを懸念し、ペロシ議長に対し、訪問のリスクを説明したと伝えました。
一方、トランプ前政権で国防長官を務めたマーク・エスパー氏は先月26日、シンクタンクのイベントで「自己抑止をすべきでない。脅しには立ち向かわなければならない」と述べたほか、共和党の議員や一部の民主党の議員からも訪問を後押しする声が上がっていました。
バイデン大統領と習近平国家主席は日本時間の先月28日、電話による首脳会談を行い、両首脳は対話を継続し、今後、対面での首脳会談の時期を模索していくことで一致しました。
バイデン政権の高官は、ペロシ議長の台湾訪問をめぐるやり取りが首脳会談の中で行われたか明らかにしませんでしたが、ペロシ議長が中国の反対を押し切る形で台湾を訪問すれば米中関係の悪化は避けられず、台湾海峡の緊張が高まることも懸念されます。
ロシア 報道官「挑発的で地域の緊張を高めるもの」
ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日、記者団に対し「ペロシ議長が台湾を訪問する可能性については、間違いなく挑発的であり、地域の緊張を高めるものだ。われわれは中国と連帯していることを強調したい。残念ながら、アメリカは対立の道を選んでいて、これは悪い兆候であり、われわれは遺憾の意を表明する」と述べ、アメリカの動きを批判し、中国側を支持する姿勢を強調しました。
米軍嘉手納基地 給油機が次々に飛来
沖縄防衛局によりますと、沖縄のアメリカ軍嘉手納基地には2日夕方時点で外部の基地からKC135空中給油機合わせて22機が飛来していたということです。空中給油機は、戦闘機などが長時間作戦にあたれるようにするため、飛行中に燃料を補給する機体で、これだけの数が嘉手納基地に集結するのは異例です。
2日午後8時すぎにはこのうち5機が離陸したのに続き、嘉手納基地に配備されているF15戦闘機8機も相次いで離陸しました。また、このおよそ2時間前には軍用機や軍事施設などが発する電子情報を集める能力があるアメリカ軍のEP3電子偵察機が離陸する様子も確認されました。
●ペロシ米下院議長の台北訪問を受け、香港・中国市場は大幅反落 8/2
米中関係の悪化が危惧され、香港・中国ともに大幅下落
アジア歴訪中のペロシ米下院議長が台湾訪問を決定すると発表されたのを受け、アジア市場は大幅反落、米中間の緊張が一段と高まった。ペロシ氏は本日、香港時間午後22時20分に台湾に到着する予定であり、あす蔡英文総統と会談すると伝えた。
一方、台湾を領土の一部と見なす中国は、ペロシ氏が訪台に踏み切れば「重大な結果」を伴うことになると警告するなど、米中関係の悪化が危惧された。
米憲法下によれば、下院議長は大統領継承順位で副大統領に次ぐ2位の要職で、米下院議長の訪台が実現されれば1997年以来、25年ぶりとなる。
2日の香港市場はハンセンが一時3%を超える大幅な下げとなり、サポートラインの20,000ptを割れた。同指数の年初来の下落率は約15%に達し、約2ヵ月半ぶりの安値水準となった。
中国・香港株はこのところ、不動産セクターの危機深刻化で売り込まれる局面が続いたが、米中関係悪化の懸念が、さらに投資家心理をネガティブに働かせた。
香港株式市場は幅広い銘柄が売られ、ハンセン指数の構成銘柄は1銘柄を除いてほぼ全面安の様相となった。不動産管理サービスの碧桂園服務(6098)は7.4%安、ガラス大手の信義玻璃(0868)は6.7%安、中国不動産開発大手の碧桂園(2007)は6.5%安だった。
ハイテク銘柄の比重が高いハンセンテック指数も前日比3.0%安と30構成銘柄は全面安だった。
中国の主要銘柄も売られ、インターネットサービスのテンセント(0700)は1.5%安、株価は290香港ドルまで下落し、3年半ぶりの安値水準を付けた。
そのほか、Eコマース大手のアリババ(9988)は5日続落し2.8%安、デリバリーサービスの美団(3690)は2.1%安、スマートフォンの小団(1810)は4.2%安だった。
一方、中国市場は上海総合指数が前日比2.06%安の3,186.27、CSI300指数は1.95%安の4,107.02で引けた。米中関係の緊迫化が警戒され、上海総合指数は約2ヵ月ぶりの安値水準に落ち込んだ。
香港市場はグローバル指数を大きくアンダーパフォーム
香港市場は相次ぐネガティブ材料からグローバル指数と比較してアンダーパフォームの流れが続く。
先月、米国では政策金利を決定するFOMCを終え、積極的な金融引き締めが後退したことを受けて米株式市場は大幅反発した。米国を代表するS&P500は節目の4,000ptを回復し、7月の安値から実に約10%近く上昇した。
一方、中国・香港市場は新型コロナウイルスのリバウンドに加え、7月下旬からは不動産危機が相次いで報告された。不動産セクターの信頼が損なわれたことはマーケット全体に波及し、ハンセン指数は前月の高値から約10%近くも下落した。
8月に入ってはアリババの米上場廃止の暫定リスト入りや、台湾をめぐる米中会談などで米中緊張が高まり、株式市場は下落に転じる場面が続く。年初来のパフォーマンスでは日経平均が4.16%安に対し、ハンセン指数は15.9%安とここ数日の下落が顕著に目立つ。
米中の動向次第によって状況は大きく変わる可能性も考えられるが、中国国内の景況感の悪化に加え、地政学的リスクの浮上が中国・香港市場の不透明な環境を映し出す結果となっている。引き続き指数の方向に注目が集まると思われる。  
●台湾政府サイトにサイバー攻撃 米下院議長訪問と関連か 8/2
台湾総統府の報道官は2日、総統府の公式サイトが海外からサイバー攻撃を受けたと明らかにした。中国が猛反発しているペロシ米下院議長の訪台に関連している可能性がある。
報道官によると、2日午後5時15分(日本時間同6時15分)、大量にデータを送り付けることで通信障害を起こす「DDoS攻撃」を受け、一時的に総統府の公式サイトが表示できなくなった。修復作業により20分以内に正常化した。報道官は「外の勢力からの継続的な情報戦に直面しており、政府の各機関は引き続き監視を強化する」と語った。 
 
 

 

●ペロシの台湾訪問、なぜ「最悪のタイミング」なのか 8/3
「ニューヨーク・タイムズ」のコラムニスト、トーマス・フリードマン氏は1日、ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問の可能性についてこのように評価しつつ、「それこそ無謀だ」と批判した。米国と欧州がウクライナ戦争に集中している中、ロシアを直接支援しているわけでもない中国をなぜ刺激するのかというのだ。
タイミングが悪い理由はその他にも複数ある。中国の習近平国家主席は、10月に行われる第20回中国共産党全国代表大会で、政権担当が2期で終わった前任者たちの伝統を破り、3期目の確定を狙う。政治的に敏感な立場にある彼にとっては経済状況も不安要素だ。コロナ封鎖などのため、第2四半期の国内総生産(GDP)の成長率は0.4%にとどまっている。
習主席はまた、「台湾統一」を「中華民族復興」に向けた一つの目標としてきた。しかし米国のジョー・バイデン大統領は就任後3度も、中国の台湾侵攻の際には直接軍事介入しうる旨述べている。ホワイトハウスはその度に発言を撤回しているが、台湾防衛をめぐり「戦略的曖昧さ」を放棄したような発言は、中国をさらに敏感にした。ニコラス・バーンズ中国駐在米国大使はこのような雰囲気について、米中が関係の正常化を模索し始めた1972年以降で、両国関係は「最低点」に達していると述べている。習主席が先週のバイデン大統領との電話会談において、台湾問題で「火遊びをすれば必ず焼け死ぬ」と言ったという中国外交部の発表も、このような雰囲気を代弁する。3期目を控えた習主席は弱い姿勢を見せたがらないだろうという観測は多いが、それは11月に中間選挙を控えたバイデン大統領も同じだ。
ペロシ議長には、1991年の北京訪問の際に同僚議員たちと共に天安門広場で、英語と漢字で「中国の民主主義のために命をささげた人々に」と記された横断幕を取り出したという前歴もある。中国政府が反逆者として扱うダライ・ラマに会ったり、チベット人の住む西蔵自治区の首都ラサを訪問したりしたこともある。
米国の外交問題評議会のデイビッド・サックス研究員は「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、「過去の危機の際、中国は米国との建設的関係の維持に最も重要な利害を持っていた」と述べた。1995〜96年の第3次台湾海峡危機、1999年の米軍によるユーゴスラビア中国大使館誤爆、2001年の中国戦闘機と米国偵察機の衝突がそのようなケースだった。しかし同氏は「関係が急激に悪化した今、習主席としては維持すべきものがあまり残っていないと考えられる」と述べた。
ペロシ議長の台湾訪問の既成事実化に対しては、中国側の反応もさらに激しくなっている。中国軍は南シナ海で2日から6日まで訓練を実施するとし、船舶の進入禁止を通知している。中国軍は先月31日に極超音速ミサイル「東風(DF)-17」と推定される飛翔体が輸送起立発射機(TEL)から発射される様子を撮影した映像も公開している。DF-17の発射実験シーンの公開は今回が初。
今後、中国がどれほど強硬に出てくるかをめぐっては、様々な見通しが示されている。大規模な軍事演習を実施する、台湾の防空識別圏に投入する軍用機を増やす、などの予想も出ている。中国軍は昨年11月、米国の議員が台湾を訪問した直後、27機の軍用機を台湾の防空識別圏に侵入させた。1996年の第3次台湾海峡危機の際のように、台湾海峡にミサイルを発射するという強硬な対応を取る可能性もある。最近、台湾海峡を国際水路と認めないとした中国が海峡封鎖に言及する、というシナリオすら提起されている。
しかし、大規模な政治イベントを前にして、習主席は状況を極端へと追いやろうとはしない公算が大きいと見られる。米中首脳は対面会談に向けて調整を進めることを決めている。しかし、台湾周辺に軍用機と艦艇を大規模に投入すれば、これに対応する台湾軍や米軍との偶発的な衝突の可能性は高まることになる。
●中国批判繰り返してきたペロシ氏、キャリア最後に訪台 8/3
米国で人権重視のリベラル派を代表するペロシ下院議長(82)は、中国政府への批判的な姿勢を貫いてきた。政治的信念に基づく訪台に対し、反発する中国側は臨戦態勢の構えをみせる。台湾を巡る米中対立が一気に悪化する恐れもある。
中国の民族弾圧を批判してきたリベラル派
ペロシ氏は中国に最も批判的な議員の一人で、中国の「天敵」として知られる。北京で天安門事件に抗議し、中国当局の怒りを買ったこともある。11月の中間選挙では所属する民主党の劣勢が伝えられ、82歳のペロシ氏は政治家として最後の年になる可能性もあり、訪台への意欲は強かったとみられる。
「台湾への支持を示すことが重要だ」。ペロシ氏は訪台計画が報じられた後の7月21日、報道陣に信念を語った。
民主党の政治家だった父の影響で人権重視のリベラル派議員として歩み、特に中国を強く批判してきた。下院議員に初当選した1987年の選挙では西部カリフォルニア州のチャイナタウンから運動を始め、中国の人権侵害から逃れてきた住民を含む中国人社会との結び付きを強めてきた。
91年には同僚議員とともに訪れた北京の天安門広場で、中国政府が民主化運動を武力弾圧した89年の天安門事件に抗議して「中国の民主化のために亡くなった犠牲者にささぐ」との横断幕を掲げた。その後も中国政府に厳しい立場を貫き、チベット自治区や新疆ウイグル自治区などでの民族弾圧を批判してきた。
米議会はペロシ氏を後押し 大統領でも止められず
下院議長は、大統領が職務を続けられなくなった場合の継承順位が副大統領に次ぐ要職。それだけに7月中旬に訪台計画が報じられると、中国政府からは強い警告が届き、安全保障上の懸念が高まった。下院議長の訪台は25年ぶり。
バイデン大統領は7月20日に、ペロシ氏の訪台について「米軍は良い考えだとは思っていない」と報道陣に不快感を示し、ホワイトハウス高官や軍幹部らはペロシ氏に訪台に伴う安全保障上の懸念を伝達。しかし、行政と議会、裁判所の三権分立が徹底されている米国では、行政トップのバイデン氏であっても、議会トップのペロシ氏に中止や延期を命じることはできない。バイデン氏は7月28日、中国の習近平国家主席との電話協議で「ペロシ議長は海外渡航について独自に判断する」と伝えた。
議会にはペロシ氏が訪台を見送れば国内外から「弱腰」と見られるとの懸念も強い。野党・共和党の上院トップ、マコネル院内総務は「いま訪台しなければ中国が勝利することになる」とペロシ氏を後押しした。
中国軍が軍事演習を実施へ 動画でも「命令あれば戦う」
中国側はペロシ米下院議長の訪台に対し、軍事行動すら辞さない強硬姿勢を示している。中国メディアによると中国人民解放軍は2日、台湾を包囲するような形の複数の空・海域で、実弾射撃を伴う「重要軍事演習」を4〜7日に実施すると発表。同軍の東部戦区は1日夜に「陣容を整え、命令があれば戦う」と題した動画を公開して、臨戦態勢を誇示した。
公開された動画は2分半ほどで、戦闘機や戦闘ヘリ、軍艦の出撃はじめ、戦車の砲撃、ミサイル発射の様子などを映し出した上で「侵犯したすべての敵を葬り、連戦連勝に向かって進め」とのスローガンで締めている。ネット上では「陣容を整え(厳陣以待)」という表現が、1969年にソ連と対立した際にも使われたとの指摘がある。
人民解放軍は先月末から東部沿岸一帯で複数の軍事演習を行っており、今月2〜6日は海南島東部海域で実施。空母「遼寧」「山東」がそれぞれ出港したとも伝えられた。これだけ軍事演習を短期間に集中させるのは異例で、米台を威嚇する狙いもあるとみられる。
1日は人民解放軍の創設95周年にあたり、中国共産党機関紙の人民日報などは「軍が強いからこそ国は安泰」などと軍備増強を正当化した。その直後となるペロシ氏の訪台は、軍のメンツに関わるとの事情もある。
●ペロシ米下院議長が台湾に到着 中国は「重大な挑発」と抗議声明 8/3
ペロシ米下院議長が2日夜、台湾に到着した。米国や台湾のメディアが一斉に報じた。下院議長の訪台は1997年以来25年ぶり。中国政府による人権侵害を批判してきたペロシ氏の訪台に、中国側は軍事的報復を含む措置をとる構えを見せており、台湾を巡る緊張は近年で最も高まっている。
ペロシ氏と米議員団は2日夜「台湾の活力ある民主主義を支援するという米国の揺るぎない約束を守る」との声明を発表。訪台が米国の「一つの中国」政策とは「何ら矛盾しない」とし、「現状を変えようとする一方的な取り組みには反対し続ける」と指摘した。
中国外務省は、ペロシ氏の到着直後に「重大な政治的挑発だ」とする抗議声明を発表。中国メディアによると中国軍は2日、台湾周辺で4日から軍事演習を行う計画を明らかにした。
台湾メディアによると、ペロシ氏は3日午前に台湾議会を訪問し、蔡英文総統とも面会する。ペロシ氏と台湾政府はコメントを避けている。中国外務省は「もし訪台すれば、重大な報いを受けることになる」と報復措置にも言及していた。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は1日の記者会見で、中国が台湾海峡へのミサイル発射や台湾の防空識別圏での大規模な戦闘機の飛行などの対抗措置をとる可能性があると指摘。中国に対し「緊張の高まりは世界中の国々のためにならない」と自制を呼びかけた。
またカービー氏は「下院議長が訪台したとしても、前例があり、新しいことではない」と強調し、「台湾を訪れる権利がある」とも述べた。一方で中国本土と台湾は不可分とする中国の方針に異を唱えない「一つの中国」政策に「変更はない」と訴えた。
ペロシ氏は7月31日にアジア歴訪を正式発表した。1日にシンガポールに到着し、2日にマレーシアを訪れた。韓国と日本も訪れる。一連のアジア歴訪は4月に計画したが、新型コロナウイルスに感染したため見送っていた。
●台湾沖に中国駆逐艦・空母出港の情報も…「メンツ」潰された習氏、強硬姿勢  8/3
台湾メディアなどによると、台湾南東部の蘭嶼島沖で2日朝、中国軍のミサイル駆逐艦の航行が確認された。中国軍の空母「遼寧」と「山東」が出港したとの報道もある。台湾海峡の中間線付近では2日、中国軍の戦闘機数機が飛行した。中国の習近平政権は立て続けの軍事行動で、米台を強く威嚇した。
また、台湾総統府のホームページは、2日夕にサイバー攻撃を受け、閲覧できない状況が20分間続いた。この日の攻撃回数は平時の200倍に達したという。
習国家主席としては、先月末のバイデン米大統領との電話会談の直後にペロシ氏が台湾に乗り込んだ形となり、メンツを潰された形となった。強硬な姿勢を打ち出す必要に迫られている。
米政府は、中国が今後、台湾海峡などでのミサイル発射や台湾の防空識別圏(ADIZ)への軍用機の大規模な進入、経済・外交的措置などで台湾への圧力を強めると予測する。台湾軍は2日、台東の空軍基地に戦闘機8機を増派するなど警戒態勢を強化している。
一方、習氏は異例の3期目入りを目指す共産党大会を控えている。河北省の避暑地・北戴河では意見調整に臨む党の現役指導者や長老らが現地入りしているとの情報がある。中国政府関係者によると、習氏は軍事的な示威行動は強めながら、米中両軍が衝突しかねない措置は回避する方向という。
「台湾が危険なのはペロシ氏が去ってから」との指摘もある。中国当局が通告した台湾周辺での実弾射撃訓練は、4日から始まる。
●王毅・中国外相、ペロシ米下院議長の訪台を激しく非難 8/3
中国の王毅・国務委員兼外交部長(外相)は8月3日、米国連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問したことについて談話を発表した。王外相は「(訪台は)『一つの中国』原則に背き、悪意を持って中国の主権を侵犯するものだ。公然と政治的な挑発を行い、中国人民の強い怒りを呼び起こし、国際社会の幅広い反対を引き起こした」と述べ、「米国は台湾海峡の平和と地域の安定にとって『最大の破壊者』だ」と激しく非難した。
王外相は「米国は、中国の統一を妨げることができるという幻想を抱くべきではない」として、米国がどのような方法で「台湾独立」を支持しようとも、無駄な努力に終わるとした。その上で、台湾問題は、当時の中国は国情が乱れ、国力が弱かったことが原因であり、民族の復興に伴って終結するものだという認識を示した。
また、米国は台湾問題を自国の地域戦略に組み入れており、地域の発展の流れに逆らい、アジア太平洋地域の人々の期待に背いているとした。その上で「一つの中国」原則は既に国際関係の基本ルールとなっており、第2次世界大戦後の国際秩序を構成するものとの認識を示し、「米国は直ちに国連憲章の趣旨と原則に背く行為を停止し、『台湾カード』でアジア太平洋地域をかく乱することをやめるべきだ」と強調した。
米国が「下院議長の訪台には前例がある」としていることについては、「過去の過ちは、今日の過ちを重ねることの言い訳にはならない」とした。米国では三権分立によって政府は議会を拘束できないとの見方については、「最も基本的な国際的ルールは、米国は国際的な義務を履行しなければならず、重要な政治的人物はなおさら悪事を働いてはならないということだ」との認識を示した。その上で「台湾海峡の安定のカギは『一つの中国』原則であり、中米の平和的共存のための真の『ガードレール』は3つの共同コミュニケ(注)だ」と強調した。(注)1972年、1978年、1982年に発表された中国と米国間の3つのコミュニケを指す。
●「必ず、散々な目に遭う」中国・王毅外相が非難 ペロシ下院議長の台湾訪問 8/3
2日夜、台湾に到着したアメリカのペロシ下院議長。3日午前に行われた台湾の蔡英文総統との会談は、カメラにむかってそろって手を振るなど、和やかな雰囲気で始まりました。
蔡総統はペロシ議長に勲章を授与し、スピーチで歓迎の意を表明。
台湾・蔡英文総統「ペロシ議長の訪問を歓迎します。台湾の民主的発展と国際参加に対する長年の支援に深く心から感謝します」
ペロシ下院議長は… 米・ペロシ下院議長「アメリカは台湾への関与を放棄するつもりはない。変わらぬ友好関係に誇りをもっている」「台湾と世界中で民主主義を守るというアメリカの決意は揺るぎない」と強調し、台湾を支持する立場を鮮明にしました。
25年ぶりとなるアメリカの現職下院議長の台湾訪問。中国がけん制する中、訪問が実現したことに中国のSNSには、こんなコメントが。
中国のSNS「中国は笑いものだ」「この世界は、やはりアメリカが決める」
中国政府は激しく反発しています。中国人民解放軍は2日夜、台湾周辺で軍事行動を開始したと発表。
王毅外相は… 中国・王毅外相「必ず、さんざんな目に遭う」
アメリカの現職下院議長として、25年ぶりに台湾を訪問しているペロシ氏。台湾の蔡英文総統との会談後、共同会見に臨みました。
米・ペロシ下院議長「アメリカは台湾が常に自由で安全であることを望んでいます。その両方から手を引くことはありません」
ペロシ議長は「『1つの中国』政策を尊重しつつ、台湾と自由を守るため、我々の連帯はこれまで以上に重要だ」として、台湾との連携を深めていく考えを強調。一方で、「アメリカは現状維持を支持している。武力によって台湾に何かが起きることは望んでいない」とも話しました。
こうした中、台湾国防部は、防空識別圏に2日、中国軍機がのべ21機進入したと発表。
中国は反発を強めていて、国営の中央テレビによりますと、中国外務省は2日深夜、中国に駐在するアメリカ大使を呼び強く抗議しました。新華社通信は、中国軍が4日から7日にかけて台湾を包囲するエリアで、実弾射撃を伴う「重要軍事演習」を実施すると伝えています。
さらに王毅外相は3日、改めて強い言葉で非難しました。
中国・王毅外相「アメリカはいわゆる『民主主義』を口実に、中国の主権を侵害する行為を行っている。火遊びする者に決して良い結末はなく、我が中華を犯すものは必ず罰せられる」
こうした動きに、アメリカ政府の高官は…
米・ホワイトハウス カービー戦略広報調整官「ペロシ下院議長には台湾を訪問する権利があります」
こう述べたうえで、「中国が台湾海峡などで軍事行動を強める口実にはならない」として、中国をけん制しています。
ロイター通信によりますとアメリカ海軍は、2日、台湾の東側のフィリピン海に空母「ロナルド・レーガン」を含む艦艇4隻を配備していることを明らかに。アメリカ海軍は「通常の」配備と説明していますが、台湾をめぐり緊張が高まっています。
●アメリカ ペロシ下院議長が台湾に到着  8/3
アメリカのペロシ下院議長が2日夜、台湾に到着しました。ペロシ議長は大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位の要職で、台湾訪問に中国政府は強く反対していて、地域の緊張がいっそう高まることが懸念されます。
アメリカのペロシ下院議長は2日夜、専用機で台北の空港に降り立ち、呉※ショウ燮 外交部長らの出迎えを受けました。※ショウは「かねへん」に「りっとう」
台北にあるアメリカの代表機関「アメリカ在台協会」によりますと、ペロシ議長は3日まで滞在し、台湾の指導者らと米台関係や平和・安全保障問題などについて意見を交わすということです。
台湾メディアはペロシ議長が蔡英文総統らと会うと伝えています。
ペロシ議長は大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位の要職で、アメリカの現職の下院議長が台湾を訪問するのは1997年のギングリッチ氏以来25年ぶりです。
「台湾は中国の一部だ」と主張する中国政府は、ペロシ議長の台湾訪問計画がイギリスの新聞フィナンシャル・タイムズで7月中旬に報じられた直後から、「断固反対する。訪問すれば強力な措置をとる」などと繰り返し表明していました。
中国政府が今後、軍事的な対抗措置をとるようなことがあれば、地域の緊張がいっそう高まることが懸念されます。
ペロシ下院議長「アメリカの揺るぎない関与を示すもの」
ペロシ下院議長は台湾に到着した直後に同行している議員らと声明を発表しました。
その中では「アメリカ議会の代表団の台湾訪問は、台湾の活力ある民主主義を支援するというアメリカの揺るぎない関与を示すものだ」とその意義を説明しています。
そして「世界が専制主義か民主主義かの選択を迫られる中で、2300万人の台湾の人々とアメリカの連帯はこれまでになく重要だ」としています。
そのうえで今回の訪問について「長年にわたるアメリカの政策と矛盾するものではない。アメリカは一方的に現状を変更しようとする試みに反対し続ける」として、アメリカの台湾政策に変更はないと強調しています。
また、ペロシ議長は有力紙ワシントン・ポストにも寄稿し「近年、中国は台湾との緊張関係を劇的に高めている」として、軍事、サイバー、そして経済のあらゆる面で中国が台湾への圧力を強めていると非難しました。
そのうえで「中国共産党が抑圧的な行為を加速させる中で議会の代表団の訪問は、アメリカは台湾とともにあるという明確なメッセージだとみなされるべきだ。われわれは中国共産党が台湾を脅かすのを黙ってみているわけにはいかない」としています。
米下院議長の台湾訪問は1997年以来
アメリカ連邦議会の現職の下院議長が前回、台湾を訪れたのは、25年前の1997年です。
当時の共和党のニュート・ギングリッチ議長は、アメリカが1979年に台湾と断交して以来、アメリカ連邦議会の下院議長として初めて台湾を訪れ、李登輝総統などと会談しました。
会談後の記者会見でギングリッチ氏は「中国が武力によって台湾を統一しようとすれば、アメリカはあらゆる手段で台湾を防衛する」などと述べ、中国側は「内政干渉だ」として強く反発しました。
訪問めぐりアメリカでは大きな議論に
ペロシ下院議長の台湾訪問をめぐっては、中国側が「訪問を強行すれば、中国は断固とした強力な措置をとる」などと強くけん制したことからアメリカでは、訪問前から大きな議論を呼んできました。
バイデン大統領は先月20日、「軍はいま行くのはよい考えだとは思っていない」と述べたほか、有力紙、ワシントン・ポストは、先月23日、バイデン政権は台湾海峡の緊張が一気に高まることを懸念し、ペロシ議長に対し、訪問のリスクを説明したと伝えました。
一方、トランプ前政権で国防長官を務めたマーク・エスパー氏は先月26日、シンクタンクのイベントで「自己抑止をすべきでない。脅しには立ち向かわなければならない」と述べたほか、共和党の議員や一部の民主党の議員からも訪問を後押しする声が上がっていました。
バイデン大統領と習近平国家主席は日本時間の先月28日、電話による首脳会談を行い、両首脳は対話を継続し、今後、対面での首脳会談の時期を模索していくことで一致しました。
バイデン政権の高官はペロシ議長の台湾訪問をめぐるやり取りが首脳会談の中で行われたか明らかにしませんでしたが、ペロシ議長が中国の反対を押し切る形で台湾を訪問したことで米中関係の悪化は避けられず、台湾海峡の緊張が高まることも懸念されます。
専門家 “中国は反発も衝突までには発展しない”
アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことについて、中国政治に詳しい専門家は中国は演習を行うなどして反発の意思は示すものの、軍事的な衝突までには発展しないとみられると指摘しています。
中国政治に詳しい早稲田大学の天児慧名誉教授は民主党のペロシ下院議長が台湾を訪問した背景について「アメリカがことし秋に中間選挙を控え、民主党が不利な状況に置かれているとも言われる中で中国に対する強硬な姿勢を国内向けに見せる。その材料として、台湾を訪問することによってアメリカが世界のリーダーシップを握っているということをアピールした」と指摘しています。
中国の受け止めについては「習近平国家主席としてはペロシ下院議長の台湾訪問を何も抵抗しないで見過ごすと、口だけの腰抜け外交などと国内から強い反発が出るため、強気の態度を示さないとならない。一方でアメリカとの対立に拍車をかける状態にすれば、コロナ禍で経済的な問題を抱えているなかで新たな火種を作り出すことになるので、非常に頭が痛いと思う」と話しています。
そのうえで中国の対応について「目立つけれど実害が出ないのは軍事的な威嚇を何回か続けるということだろう。しかしそれは威嚇であって攻撃をするわけではない」と述べ、演習などで反発の意思は示すものの、軍事的な衝突までには発展しないとみられるという認識を示しています。
●台湾訪問の米ペロシ下院議長 蔡英文総統と会談へ 8/3
昨夜、台湾に到着したアメリカのペロシ下院議長はきょう、蔡英文総統との会談に臨む予定です。
ペロシ下院議長はきのう夜、台湾に到着しました。現職下院議長の台湾訪問は25年ぶりで、台湾メディアによりますと、ペロシ氏は、きょう台湾の国会にあたる立法院を訪れた後、蔡英文総統らと会談するほか、記者会見も予定されています。
一方、中国国営の中央テレビによりますと、2日深夜、中国外務省は中国に駐在するアメリカのバーンズ大使を呼び、厳正な申し入れを行うとともに強く抗議しました。
これに先立ち、新華社通信は2日、中国軍は4日から7日にかけて台湾を包囲するような複数のエリアで実弾射撃を伴う「重要軍事演習」を実施すると伝えていて、軍事的な緊張が高まる恐れがあります。
●ペロシ米下院議長「中国の脅し座視できず」 米紙に寄稿 8/3
ペロシ米下院議長は2日、米紙ワシントン・ポスト(電子版)に寄稿し、自らの台湾訪問について説明した。軍事的威圧を続ける中国が「近年、台湾との緊張を劇的に高めている」と非難した。「中国共産党が台湾と民主主義を脅かしているのを座視できない」と訴えた。
米国で1979年に制定した台湾関係法は米国が台湾の自衛力強化を支援すると定める。寄稿では同法に関し「民主主義と自由、人権などの共通の利益と価値観に根ざした深い友好関係を育むものだ」と指摘。今回の訪問は歴代米政権が踏襲してきた「一つの中国」政策と矛盾しないと記した。
ペロシ氏は「米国防総省は中国軍が武力で台湾を統一する有事に備えている可能性が高いと結論づけた」と言及。「平和的手段以外で台湾の将来を決めようとする試みは地域の平和と安全に対する脅威であり、米国にとって重大な懸念だ」と説いた。
中国が台湾当局にサイバー攻撃をしかけていると断定。台湾と関係を維持する国や企業に関係を断つよう迫り、台湾を経済的に圧迫しようとしていると批判した。香港やチベットでの人権弾圧のほか、新疆ウイグル自治区でイスラム教徒であるウイグル族らに対してジェノサイド(大量虐殺)を実施していると断じた。
ペロシ氏は中国共産党が学生らの民主化運動を弾圧した1989年の天安門事件の舞台になった天安門広場を91年に訪れた。その場で犠牲者を追悼するため「中国の民主主義のために亡くなった人たちに」と書いた旗を掲げた。
寄稿では当時、自身が警官に追われた経緯に触れ「法の支配の無視は続き、習近平(シー・ジンピン)国家主席は権力による支配を強めている」と強調した。
●ペロシ米下院議長の訪台に「感謝している」 駐日台湾代表 8/3
米連邦議会のペロシ下院議長が台湾を訪問したことについて、台湾の在日大使館に相当する台北駐日経済文化代表処の謝長廷(シエチャンティン)代表は3日、「台湾の民主主義を肯定するいい友なので歓迎する。世界に対して台湾への支援を呼びかけていて、感謝している」と語った。
謝氏は自民党本部で開かれた党外交部会に招かれて講演。報道陣に公開された冒頭、ペロシ氏の訪台に言及した。中国が反発していることについては、「中国が圧力を強めるほど、世界が台湾に関心を持つ。もっと多くの世界の人が台湾を理解し支持してくれると思う」と語った。自民党の佐藤正久外交部会長は「ペロシ議長が台湾を訪問するのは、連帯を示す意味でもきわめて重要だ」と述べた。
●ペロシ氏訪台で米中に緊張 日本は注視、中国との「対話」重視 8/3
米国のペロシ下院議長の台湾訪問で米中の緊張が高まる中、日本政府は中国を刺激することは極力避けつつ、地域の安全保障環境に直接的な影響が出ないか見極める構えだ。4日にはカンボジアで日中外相会談が開かれる予定で、米中の軍事的な対立の動向を注視しながら、中国との対話を重視している。
松野博一官房長官は3日の記者会見で、中国軍が4〜7日に台湾周辺で実施すると発表した軍事演習の対象海域に日本の排他的経済水域(EEZ)が含まれていると明らかにし「実弾射撃訓練という内容も踏まえ中国側に懸念を表明した」と述べた。中台関係を踏まえ「改めて両岸問題の平和的な解決を強く促したい」とも強調したが、中国に対する非難は避けた。
ペロシ氏の訪台に関し、日本政府は「台湾海峡の平和と安定が重要だというのが日米間の認識で、そういう観点に立って注視していく」(岸信夫防衛相)との立場を説明している。米中間の緊張が高まった1995〜96年の台湾海峡危機のように事態が切迫しない限りは、状況を見守る姿勢を維持するのが基本的な方針だ。中国との対話を重ねることにより、緊張が過度に高まらないよう腐心している。
4日には林芳正外相と中国の王毅国務委員兼外相による日中外相会談を開催する予定だ。日中外相が対面で会談するのは2020年11月以来で、日中関係の安定化なども議題となる見通しだ。政府関係者は日中外相会談について「日中の対話は双方にとってプラスになるはず。今のような時期だからこそ、どんな時でも会って話し合えることが重要だという点を確認したい」と話した。
●台湾問題「中日の政治的根幹」 中国大使館が談話発表 8/3
在日中国大使館は2日、ペロシ米下院議長の台湾訪問に関する報道官談話を発表した。台湾問題について「中国の核心的利益と中日関係の政治的根幹に関わる」と強調した。「似たような事件の発生を断固として根絶し、『台湾独立』勢力に誤ったシグナルが送られるのを防止する」よう日本に求めた。
1972年の日中国交正常化の際に「台湾は中国領土の不可分の一部」とする中国の立場を日本が「理解し尊重する」と表明したことに触れた。「台湾問題における約束を順守」するよう求めた。「ペロシ氏訪台の政治的たくらみと重大な危害をはっきり認識し、問題を慎重かつ適切に処理」するよう訴えた。
●ペロシ米下院議長が台湾訪問、中国反発 軍事演習実施へ 8/3
アジア歴訪中のペロシ米下院議長が2日夜、台湾に到着した。米大統領の継承順位2位の下院議長による台湾訪問は25年ぶり。ペロシ氏は声明で、台湾に対する米国のコミットメントがこれまで以上に重要だと述べた。3日に蔡英文総統と会談する。
中国外務省は、ペロシ氏の訪台は台湾海峡の平和と安定を著しく損なうと非難。中国国防省は、ペロシ氏の台湾訪問を踏まえ、中国軍は厳戒態勢を敷き、「的を絞った軍事演習」を開始すると発表した。
蔡英文総統と会談、人権主義活動家との会合にも出席
ペロシ氏は他の6人の米議員と共に、米軍機でマレーシアから台北松山空港に到着。台湾のジョセフ・ウー外交部長(外相)らが空港で出迎えた。
ペロシ氏は到着後に声明を発表し、今回の訪台が「台湾の民主主義を支援するという米国の揺るぎないコミットメントを示す」とし、「台湾と米国の結束がかつてないほど重要になっている」と表明。「世界が独裁政治か民主政治かの選択に直面する中、2300万人の台湾市民と米国との連帯がこれまで以上に重要だ」とした。
また、台湾到着直後に公表された米紙ワシントン・ポストへの寄稿で、台湾の民主政治への取り組みを称賛する一方で、中国が近年、台湾との緊張を劇的に高めていると批判。「中国共産党による侵略加速に直面する中での米議員代表団の訪問は、米国が台湾を支持するという明確な声明としてみなされるべき」として訪台の理由を明かした。
台湾総統府によると、ペロシ氏は3日朝に蔡英文総統と会談。その後、昼食を共にする。
また複数の関係筋によると、ペロシ氏は3日に中国の人権問題に関連する活動家との会合に出席する。
米国のジョン・カービー報道官はペロシ氏の台湾到着後、今回の訪台は主権のほか、米国の長年の政策である「一つの中国政策」を損なうものではないと表明。「この訪問が危機や紛争に拍車をかける理由にはならない」とし、米国が中国の脅威や好戦的なレトリックに脅かされることはないと述べた。
ペロシ氏の訪台に合わせ、台北市内の超高層ビル「台北101」がライトアップされ、「ペロシ議長」「台湾へようこそ」などのメッセージを表示。ペロシ氏の車列に歓声を上げる市民の姿も見られた。
中国は非難、「的を絞った軍事演習」実施へ
中国外務省はペロシ氏の台湾到着直後に発表した声明で、ペロシ氏の台湾訪問で中米関係の政治的基盤が深刻な影響を受けると非難。米国に強い抗議を申し入れたと明らかにした。
また中国国防省は、中国軍は厳戒態勢を敷き「的を絞った軍事演習」を開始すると発表。人民解放軍東部戦区司令部も、2日夜から台湾周辺の空域および海域で合同軍事演習を実施し、台湾海峡での長距離実弾射撃などの演習を行う計画を示した。
これに対し台湾国防部(国防省)は、中国が今後数日間にわたり台湾周辺で軍事演習を行うと発表することにより主要な港や都市を脅かそうとしていると指摘。声明で、軍事演習は台湾市民を心理的に威嚇することを目的としているとしたほか、台湾軍は警戒レベルを「強化」しており、市民は心配する必要はないとした。
こうした中、関係筋によると、中国の軍用機数機が2日朝、台湾海峡を隔てる中央線の近くを飛行。台湾国防部は21機の中国機が2日に防空識別圏に入ったと明らかにし、台湾の軍隊は警戒レベルを「強化」したと表明した。
米海軍は原子力空母ロナルド・レーガンを含む4隻の軍艦を台湾東方の海域に配備。定期的な配備としている。
ロシア、「米国の挑発行為」を非難
ウクライナ侵攻で欧米と対立しているロシアは、ペロシの訪問を非難。ロシア外務省は、ペロシ米下院議長の台湾訪問は明らかな挑発行為であり、中国には自国の主権を守る措置を講じる権利があると表明。外務省のザハロワ報道官は「ロシアは『一つの中国政策』の原則を確認し、いかなる形であれ、台湾の独立に反対する」と述べた。
これに先立ち、ロシアはペロシ氏の訪台に関して中国を支持し、ペロシ氏が台湾を訪問すれば米国は中国と衝突することになると米政府に警告していた。 
●中国がペロシ米下院議長の台湾訪問に激怒する理由 8/3
世界が注視した台湾到着
ナンシー・ペロシ米下院議長が2日台湾時間22時45分(日本時間21時45分)、台北松山空港に到着した。マレーシア・クアラルンプールを飛び立ってからすぐに北上せず、南シナ海を回避してフィリピン東側を遠回りしながら飛んできたので、通常の最短コースより2時間ぐらい長くかかった。中国を挑発しないようにしたのか、あるいは中国の威嚇を避けるためだったのか。
ランディング前の台北上空でしばらく待機していたようだったのは、万が一を考えて、安全確認に時間をかけたのか。航空機の動きを追跡できるサイトflightradar24を最大70万人が見ている「世紀の着陸ショー」になった。
予想外に本格的な訪問日程
もともと訪問しても短時間になるかと目されていたが、台湾滞在時間が一泊二日になるという本格的な訪問日程になった。当然というべきか、ペロシ訪台は中国の強烈な反発を招き、世界のメディアから「ウクライナの再来か」と注目が集まった。
先週、台湾訪問の可能性を欧米メディアが報じてから、米中首脳会談で習近平国家主席がバイデン大統領に「火遊びすれば身を焦がす」という強い言辞で警告を発した。米政府内にも慎重論が広がり、一度はペロシ議長の訪問リストに台湾が入っていなかったこともあって、台湾訪問が立ち消えたかに思われた。
ペロシ議長は台湾着陸後、そのまま市内のホテルに移動し、3日は蔡英文総統と面会して昼食も共にすると台湾メディアは伝えている。台湾の議会にあたる立法会の訪問、台湾の人権関係施設の訪問などの予定も入り、3日夕方前に台湾を出発する。予想以上に充実した日程となり、中国をさらに刺激するだろう。
●4ペロシ議長ゆえの反発
今回、ペロシ訪台に中国が神経をとがらしているのには、いくつかの要因が複雑に絡み合っている。一つはペロシ議長という人物のバックグラウンドだ。
ペロシ議長は一議員とはいえ、大統領不在のときに副大統領の次に職務を代替できる立場にある。中国はゆえに「米政府第3の人物」と認定する。米議会の議長は、衆参議長が名誉職的な「上がりポスト」に近い日本と違って、実際に民主党議員団と米議会をリードし、大統領も無視できない力を持つ権力者だ。
中国はリアリズムを重視する国である。そんな重要人物の台湾訪問を気安く認めていては、大国のメンツが立つものではない。
天安門事件でも「騒動」
ペロシ議長は1991年に北京を訪問し、天安門広場で天安門事件の犠牲者への哀悼を示すという騒動を起こしたこともある対中強硬派として知られる。
近年の香港問題では、民主派の若手リーダーだったジョシュア・ウォンらを米議会の公聴会に出席させ、「香港人権民主主義法」の可決にも尽力した。ノーベル平和賞を受賞したチベットの精神的指導者、ダライ・ラマとも交流がある。
米議会のなかのリベラル・人権派であり、中国にとっては「目の中の釘」とも言える天敵である。
愛国世論への配慮
もちろん、中国の反発はペロシ議長の個人的要因だけではない。
何より米中首脳会談での直前の「警告」を無視されたことは、秋の共産党大会で三選を控えた習近平主席にとって、おいそれと放置できることではない。愛国主義化が著しい中国世論もペロシ議長の訪問には強い不満と関心を示している。
中国政府が何らかの形で米台に一定の制裁を加えない限り、不満がブーメランのように中国指導部に向けられることになり、三選に向けた党内説得にも影響を及ぼすだろう。愛国ネット民への配慮は、いまや中国政治の基本動作である。
米中新冷戦の「以台制華」
バイデン大統領は、ペロシ議長訪台に慎重だったと言われてきた。しかし、米中新冷戦といわれる対立構図が続くなか、ここ数年のトランプ前大統領からバイデン現大統領へと続く米政府による「以台制華」(台湾をもって中国を抑えこむ)という戦略を鑑みれば、バイデン政権の姿勢も実際は示し合わせた演技のエクスキューズにしか見えず、中国は米国にさらに強い猜疑心を抱くだろう。
いずれにせよ、ウクライナへのロシアの侵攻が起きてから、やや小康状態だった米中の対立関係に、再び火がつく可能性は否定できない。ペロシ議長は3日に蔡英文総統と会談するとき、2人の女性リーダーが高らかに「民主」や「自由」の価値をうたい、中国の「悪」を示唆する姿は、習近平主席をさらに苛立たせる絵になるに違いない。
これから始まる「報復」
中国外交部の華春瑩報道官は2日、ペロシ議長の訪台について尋ねられ、「台湾海峡の緊張の全責任は米国が負わなくてはならない」と述べ、「米国の政客は誤った行動で先例を作るべきではなく、台湾問題で米国が過ちの上に過ちを重ねてはならない」と、ペロシ議長と米国政府を非難した。
台湾近海での軍事演習が4日から7日までの間に行われるほか、台湾食品会社からの輸入を停止するなど、速いペースで中国の「報復」的な行動が始まっている。軍事紛争につながる物理的な攻撃を加えることは考えにくいが、ペロシ議長訪問をきっかけに台湾海峡が一触即発の緊張に包まれることは当分避けられないだろう。 
 
 

 

●王毅・中国外相、ペロシ米下院議長の訪台を「パフォーマンス」と批判 8/4
中国の王毅国務委員兼外交部長(外相)は8月4日、カンボジアのプノンペンで、米国連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問をあらためて批判した。王外相は8月3〜5日に開催されている、中国・ASEAN外相会議、ASEAN・日中韓(+3)外相会議、東アジア首脳会議参加国外相会議、ASEAN地域フォーラム閣僚会合に参加するためプノンペンを訪れている。王外相は既に8月3日に談話を発表し、ペロシ議長の訪台を激しく非難している。
王外相は「米国は国際法を踏みにじり、中米間の誓約に違反し、台湾海峡の平和を破壊し、分裂主義を支持し、陣営対立を鼓舞している。これは中国および平和を愛する地域の人々に対する公然たる挑発だ」とした。ペロシ議長の訪台は「パフォーマンス」と批判し、米国のインド太平洋戦略は、中国に対抗し危害を与えるためのもので、米国の国際ルールに対するダブルスタンダードを証明するものだとした。
中国側の対応については、「中国が、米国のこのような狂騒的で無責任で、非理性的な行為に断固とした抵抗をしなければ、主権と領土の完全性を尊重するという国際関係の原則は空文となってしまう」と、その必要性を主張した。また、「中国側は最大限の外交努力をした」との認識を示し、中国側の措置は必要かつ適時の防御措置だとし「国家の主権と安全を守るためのもので、国際法にも国内法にも一致するものだ」と正当性を強調した。
その上で、王外相は「それぞれが現在の危機の原因と本質をはっきりと認識し、米国の危険な行為と挑発に共同で反対し、中国の正当な立場と措置を引き続き支持し、地域と台湾海峡の平和を共に維持するべきだ」と、中国への支持を呼び掛けた。
●中国 王毅外相 “主権侵害”と批判 米ペロシ下院議長台湾訪問  8/4
中国の王毅外相は、カンボジアでASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国との会議に出席し、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことについて「中国の主権を侵害する挑発的な行為だ」と改めてアメリカを批判しました。
中国の王毅外相は、日本時間の4日午前開かれたASEAN加盟国の外相との会議に出席しました。
国営の中国中央テレビによりますと、この中で王毅外相は、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問について「中国の主権を侵害する挑発的な行為だ」と改めてアメリカを批判しました。
そのうえで「アメリカの冷静さを失った無責任で極めて不合理な行動に対して、中国が断固として抵抗しなければ、あらゆる分裂分子や過激派が激化し、地域の平和と安定は深刻な損害を受けることになるだろう」と主張しました。
一方、この会議に参加したインドネシアは、会議後、声明を発表し、この中で、台湾海峡などをめぐって米中の緊張がさらに高まることへの懸念を示したということです。
米中が対立する中、中国としては、経済的な結び付きを強めるASEAN加盟国からの支持を取り付けたいねらいがあるとみられますが、ASEAN加盟国の間では中国に対する立場の違いも出ています。
米 ブリンケン国務長官「一方的な現状変更の試みに反対」
アメリカのブリンケン国務長官は、ASEAN=東南アジア諸国連合との外相会議で「アメリカは台湾海峡の平和と安定に変わらない関心を持ち続けている。われわれは力による一方的な現状変更の試みに反対する」と述べ、中国をけん制しました。
そして、台湾をめぐるアメリカの政策に変わりはないと強調したうえで、「エスカレートは誰の利益にもならない不測の事態をもたらす可能性がある。私たちはこの数日、このメッセージを伝えるために政府のあらゆるレベルで中国側に働きかけている」と述べました。
●韓国・尹大統領、「夏休み」でペロシ米下院議長との対面会談見送り 8/4
韓国の尹錫悦ユンソンニョル大統領は4日午後、訪韓中のペロシ米下院議長と電話協議し、ミサイル発射を繰り返し、核実験の兆候を見せる北朝鮮への抑止力強化やインド太平洋地域での安全保障協力などについて意見交換した。ただ、対面の会談は行われなかった。ペロシ氏の台湾訪問に猛反発した中国を刺激する恐れがある対面会談を避けた可能性がある。
米下院議長の訪韓は2002年以来20年ぶり。両者が対面しなかったことについて、韓国大統領府高官は、尹氏が夏期休暇中で、ペロシ氏の対応相手は金振杓キムジンピョ国会議長であるためと強調した。
ただ、与党「国民の力」内部でも「尹氏が米韓同盟の強化を公約に掲げてきたのに、米国で大統領に次ぐ影響力を持つ議長に会わなかったのは判断ミスだ」との批判が強まっている。
ペロシ氏は4日午前、ソウルの国会で金氏と会談し、米韓同盟や経済安保協力について協議。終了後の共同記者会見で「米国と韓国は、安保、経済、ガバナンスの3分野で強固な関係を築き、互いに多くを学んでいる」と強調。金氏は「双方が北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる状況に憂慮を示し、(北朝鮮の)非核化実現に努力を続けることにした」と述べた。
●ペロシ米下院議長が台湾訪問、中国猛反発に透ける習政権の焦り 8/4
8月2日夜、ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。この動きに対して中国は猛反発。台湾周辺での大規模な軍事演習や経済制裁に踏み切った。強硬姿勢を貫く習近平政権の思惑とは。
「この醜悪な茶番劇において、民主主義はただのツールにすぎない。ペロシ氏は見世物にしたのかもしれないが、被害を受けているのは両国関係と地域の平和と安定だ」。中国外務省の華春瑩報道局長は8月3日の記者会見で、ペロシ米下院議長の台湾訪問を痛烈に批判した。
8月2日夜に台湾を訪問したペロシ氏。翌3日には台湾の蔡英文総統と会談し、「台湾の自由を守る米議会の決意を示した」との声明を出した。1泊2日の弾丸日程での台湾訪問を終え、次の外遊先である韓国へと飛び立った。
「火遊びすれば必ず自らの身を焦がす」
中国政府は、ペロシ氏の訪台が表面化した7月下旬以降、米国に対して計画の見直しを迫っていた。7月28日に開催された米中首脳による電話会談では、中国の習近平国家主席が米バイデン大統領に対し「火遊びすれば必ず自らの身を焦がす」と発言。中国外務省の趙立堅副報道局長も8月1日の記者会見で「中国人民解放軍は決して座視しない。必ず断固として強力な報復措置をとる」と強調した。中国共産党系メディアの環球時報の胡錫進前編集長がペロシ氏の訪台を「排除できないなら搭乗機を撃ち落とせ」とツイート、その後削除するなど“場外乱闘”も起きたほどだった。
だが圧力に屈せずペロシ氏が台湾訪問を強行したことで、中国政府は猛反発。訪台が伝わった直後の2日深夜に外務省や国防省などの複数機関が一斉に非難声明を発表した。外務省は「中米関係の政治的基礎に重大な衝撃を与え、中国の主権と領土保全を侵害し、台湾海峡の平和と安定を深刻に破壊し『台湾独立』分裂勢力に極めて誤ったシグナルを送った。中国はこれに断固反対し、厳重に非難する」と主張。米国のニコラス・バーンズ駐中国大使を呼び出して抗議した。国防省も「高度に警戒警備し、一連の軍事行動で対抗する」との声明を出した。
実際、対抗措置も矢継ぎ早に打ち出している。中国人民解放軍は2日夜から台湾周辺で合同演習を開始。4日から7日にかけては、台湾本土を取り囲む6カ所での軍事演習を進める予定だ。経済制裁も進めており、商務省は3日、台湾向けに天然砂の輸出を止めると発表。税関総署も同日、台湾からのタチウオや冷凍アジ、かんきつ類の輸入停止を打ち出した。
中国国内での関心も極めて高い。中国共産党機関紙の人民日報などは、外務省が2日に公表した公式声明の全文を公表。国営メディアの新華社通信は、台湾周辺での軍事演習について場所を詳細に記した地図とともに伝え、中国国営中央テレビ(CCTV)も軍事演習の映像を大々的に流している。国営メディアのほとんどは中国政府の声明や対抗策をつぶさに伝えており、中国検索サイト大手の「百度(バイドゥ)」や中国版ツイッターの「微博(ウェイボ)」の3日におけるホット検索ワードでは上位をほぼ独占した。・・・
●中国人民解放軍、台湾周辺で軍事演習 ペロシ米下院議長台湾訪問報復 8/4
中国人民解放軍は4日、台湾周辺で軍事演習を開始した。ペロシ米下院議長の訪台を受けた報復措置で7日までの予定。演習の区域設定や弾道ミサイルの発射実験など、さながら台湾侵攻を想定した内容となっている。
台湾対岸の福建省を管轄する東部戦区は4日、台湾北部と東部、南部の3海域に弾道ミサイル「東風」を撃ち込む演習を行い成功したと発表した。台湾国防部(国防省)によると、発射された東風は計11発だった。ミサイルの飛行経路は不明だが、香港紙「サウス・チャイナ・モーニングポスト」はミサイルが初めて台湾島の上空を越えたと伝えた。
東部戦区は「台湾海峡で遠距離火力の実弾射撃訓練を行い、海峡東部の特定区域に正確な打撃を与えた」とも発表。ロケット弾が台湾海峡の中間線を越えて台湾側に到達したものとみられる。人民日報系の環球時報によると、空母や原子力潜水艦も演習に参加するという。
中国国防部は今回の演習の目的を「米国と台湾の結託に厳正な脅威を与えることだ」と明言。演習区域の一部は台湾の「領海」に入っており、台湾の主権を否定しているとみられる。新華社電は解放軍国防大学幹部の話として、演習区域から、台湾の主要港を封鎖するほか、台湾東部の軍基地攻撃を想定したものと解説している。
●中国 アメリカペロシ議長の台湾訪問に猛反発 いったいなぜ? 8/4
「アメリカはみずからの過ちの代償を支払わなければならない」中国が、ペロシ下院議長の台湾訪問に激しく反発しています。中国軍は4日から台湾周辺で実弾射撃なども伴う「重要軍事演習」を行うと発表。なぜ中国はここまで強硬に反発するのか?そもそも中国と台湾の関係は?詳しく解説します。
ペロシ議長台湾訪問で中国は?
複数の機関が訪問を非難する声明を一斉に発表するなど、猛反発しています。中国外務省はアメリカのバーンズ大使を夜中に呼びつけるという異例の対応。「ペロシ議長は意図的に挑発を行い、台湾海峡の平和と安定を破壊した。その結果は極めて重大で決して見過ごすことはできない。アメリカはみずからの過ちの代償を支払わなければならない」と厳しく非難しました。中国側は、ペロシ議長が台湾に到着した直後の2日深夜、台湾を取り囲むように、あわせて6か所の海域と空域で、実弾での射撃なども伴う「重要軍事演習」を行うと発表。にわかに、地域の緊張が高まっています。
中国はなぜ強硬に反発するの?
「世界に中国は1つしかなく、台湾は中国の領土の不可分の一部で中華人民共和国が中国の唯一の合法的な政府だ」という「1つの中国」原則が中国政府の主張だからです。アメリカのバイデン政権は歴代政権と同様、「台湾は中国の一部だ」と主張する中国の立場を認識するという「1つの中国」政策をとっています。この「1つの中国」政策には、アメリカの国内法の「台湾関係法」なども含まれていて、台湾に武器を売却するなど、アメリカが台湾への関与を続ける根拠の1つとなっていますが、中国は「台湾関係法」に反対しています。アメリカからは近年、要人の台湾訪問が相次いでいて、中国側はこうした動きに神経をとがらせていましたが、大統領権限を継承する順位が副大統領に次ぐ2位のペロシ議長の台湾訪問は、「越えてはならない一線」を越えたと受け取ったわけです。 特に、ペロシ議長の台湾訪問は、習近平国家主席がバイデン大統領との電話会談で、台湾への干渉をやめるよう、直接警告した直後に行われ、中国にとってはメンツを潰された形となったことも、激しく反発する理由の1つとみられます。
中国はどうして台湾にこだわるの?
中国にとって、台湾の統一は、建国の父・毛沢東も成し遂げられなかった悲願だからです。中国大陸では、1949年、国民党との内戦に勝利した共産党が、中華人民共和国を建国しましたが、国民党は台湾に逃れ、「中華民国が中国の正統な政権」だと主張してきました。習主席も、「祖国の完全な統一という歴史的な任務は、必ず実現しなければならないし、実現できる」と述べ、統一に強い意欲を繰り返し示しています。
最近の中国と台湾の関係は?
台湾に2016年、「1つの中国」の原則を認めない民進党の蔡英文政権が発足して以降、緊張が続いてます。中国は巨額の支援や投資などをてこに台湾の友好国の切り崩しを図っていて、2021年までの5年間に中米・カリブ海で4か国、アフリカとオセアニアで2か国ずつ、あわせて8か国が台湾と断交し、台湾と外交関係をもつ国の数は14にまで減っています。
以前も下院議長の訪問はあった?
25年前の1997年に共和党のニュート・ギングリッチ下院議長が台湾を訪れています。このときの訪問は1979年にアメリカが台湾と断交して以来、アメリカの下院議長としては初めての訪問でした。ただ、オバマ政権などでアジア政策を担当したジェフリー・ベイダー氏は次のように分析しています。
オバマ政権などでアジア政策を担当 ジェフリー・ベイダー氏「当時のギングリッチ議長は野党・共和党の議員で、民主党のクリントン政権とは同一視されなかった。さらにギングリッチ議長は台湾とともに中国も訪問し、米中関係の重要性もあわせて強調しており、中国の反発の度合いは今回のペロシ議長の訪問のほうがより深刻だ」
前回と今回の中国側の違いは?
中国自身の変化、そして習主席にとって特別な年という2つの違いがあります。中国は25年前とは全く異なり、経済力、軍事力ともにいまやアメリカに次ぐ立場です。とりわけ軍事面においては空母や迎撃がより難しいとされる「極超音速ミサイル」といった最新兵器を保有するなど、アメリカに対抗する力をつけてきています。そして、もう1つは2022年後半に開かれる5年に1度の共産党大会です。習主席は党のトップとして異例の3期目入りを目指しているとされています。このため、「弱腰だ」と受け取られる行動はできず、みずからが「強い指導者だ」と示す必要があるのです。
今後の中国の出方は?
軍事面、経済面で台湾に対する締めつけを強めるものとみられます。 中国政府は3日、台湾との貿易で天然の砂などについて輸出入を暫定的に停止すると発表しました。また、台湾メディアは、中国軍が台湾を囲むように6か所で行うとしている軍事演習について、台湾が領海だと主張する海域も一部に含まれるとしています。これについては、日本政府も「軍事演習の対象地域として発表した海域には日本のEEZ(排他的経済水域)が含まれている」と懸念を示しています。元海上自衛官で中国の軍事情勢に詳しい笹川平和財団の小原凡司上席研究員は次のように指摘しています。
笹川平和財団 小原凡司上席研究員「6か所での演習はこれまでで最も多く、台湾を取り囲み封鎖するような演習を行うことが考えられる。米中両国とも軍事衝突という事態は望んでいないが、中国は、台湾に対して痛みを感じさせるような懲罰が必要だと考えるだろう。どの程度までの軍事行動なら台湾が痛みを感じるのか慎重に見極めながら行動をとっていくことになる」
●中国軍、台湾周辺海域で弾道ミサイル11発発射…台湾国防部発表  8/4
台湾国防部(国防省)は4日、台湾の北部、東部、南部の周辺海域で、中国軍が4日午後1時56分(日本時間同2時56分)から午後4時(同5時)までの間に、弾道ミサイル11発を発射したと発表した。この日から中国軍が台湾周辺の6か所で始めた軍事演習に伴うものとみられる。
●中国軍が「台湾封鎖」大規模演習開始…弾道ミサイル11発発射 8/4
中国軍は4日、台湾を取り囲む6か所の海空域で、弾道ミサイルなどの発射を含む「重要軍事演習」を開始した。ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問への対抗措置で、台湾封鎖などを念頭に置いた異例の大規模演習となる。日本政府によると、中国の弾道ミサイル5発が初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。演習は7日まで続く予定で、日本や台湾は警戒を強めている。
複数の中国メディアは4日正午、演習開始を一斉に伝えた。台湾国防部(国防省)は、中国軍が台湾の北部、東部、南部の海域へ弾道ミサイル11発を発射したと発表した。演習の中核となっている中国軍の「東部戦区」の報道官は、ロケット軍部隊が台湾東部沖に向けてミサイル発射訓練を行い、「すべて正確に目標に命中させた」と発表した。
防衛省によると、日本が確認したミサイル9発は4日午後2時56分頃から午後4時8分頃にかけて中国の内陸部と浙江省、福建省の計3か所から発射。浙江省からの1発と福建省からの4発が与那国島(沖縄県与那国町)南方の日本のEEZ内に落ちた。日本に最も近い落下地点は与那国島の北北西約80キロ・メートルのEEZ外だった。航空機や船舶への被害情報は確認されていない。福建省から発射された4発は台北周辺の上空を通過したとみられるという。
同戦区によると、演習には戦闘機や爆撃機など100機以上が出動し、駆逐艦や護衛艦10隻余りが周辺海域に展開した。陸軍部隊も長距離射撃訓練を行い、台湾海峡東部の指定海域に向けてロケット弾などを発射した。中国国防省報道官は「米台の結託へ強く威嚇するものだ」と主張した。
中国が2日に公表した6か所の演習区域は台北や高雄などの大都市に近く、本島沿岸部から約17〜60キロ・メートルしか離れていない。重要港湾への主要航路を塞ぐような位置であることから、台湾メディアは「台湾封鎖の演習」だと伝えている。
台湾の 蔡英文ツァイインウェン 総統は弾道ミサイル発射について「無責任で、台湾海峡の現状を破壊し、緊張を高めている。国際社会に台湾を支持し、一方的な軍事行動をやめるよう呼びかけたい」とする談話を出した。
中国軍は演習期間中、台湾有事の際の米軍艦艇接近を想定した対艦ミサイルの発射訓練なども行う可能性がある。ナンシー・ペロシ米下院議長の2日の訪台を前に、中国軍の空母「遼寧」と「山東」が出港しており、軍の内情に詳しい関係筋は「台湾海峡の北と南に分かれて演習を行う可能性がある」と明らかにした。
●訪台計画見直さないペロシ氏に米当局者は激怒、説得に応じずと関係者 8/4
ペロシ米下院議長の台湾訪問前、ホワイトハウスはペロシ氏自身が判断するとして、訪台に介入しない立場を表明していた。
しかし水面下では、中国との関係が極めて微妙な時期にペロシ氏がキャリアの頂点として訪台にこだわっていることにバイデン政権当局者は激怒していた。
事情に詳しい複数の関係者によると、訪台を先延ばしするよう説得するため、ホワイトハウスはペロシ氏と同氏のチームの元に米国家安全保障会議(NSC)のメンバーと国務省当局者を差し向け、地政学的リスクを説明させたという。
また別の事情に詳しい関係者らによれば、北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国に台湾を正式に指定することなどを盛り込んだ台湾支援強化法案について、ホワイトハウスは民主党上院議員に反対するよう働き掛けている。同法案には台湾の安全保障支援のための45億ドル(約6000億円)供与や国際機関加盟の支援も含まれている。
同法案は共に対中強硬派のメネンデス上院外交委員長(民主党)とグラム上院議員(共和党)が共同提案した。
上院外交委の民主党メンバー、マーフィー議員は「ホワイトハウスは強い懸念を抱いており、私も強く懸念している」と述べた。
同議員によると、外交委は同法案の審議を9月まで先延ばしし、法案は書き換えられる可能性がある。同委は投票を3日に予定していた。米国はブッシュ(息子)政権以来、台湾をNATO非加盟の主要同盟国として扱ってきたが今回の法案はそれを正式に指定する内容。
●米下院議長、訪台「妨げられない」 国際会議参加拒否で中国批判 8/4
ペロシ米下院議長は台湾訪問を終えた3日付で声明を発表し、中国が台湾による世界保健機関(WHO)などの国際会議参加を阻んでいると批判した上で、「世界の指導者らが台湾を訪問して繁栄する民主主義に敬意を表し、協力関係の継続を確認することは、誰であれ妨げることができない」と強調した。
ペロシ氏は2〜3日に米議員団を率いて台湾を訪れ、蔡英文総統らと会談した。声明は今回の訪問が、台湾への「米国の支持を強く示した」と指摘。一連の会談が「非常に前向きで生産的だった」と振り返った。 
●軍事演習「完全に正当」 日本に慎重な対応促す―駐日中国大使 8/4
中国の孔鉉佑駐日大使は4日、オンラインで記者会見し、ペロシ米下院議長の台湾訪問を受け、中国が台湾周辺の海域で軍事演習を行っていることについて、「米国と台湾が結託して挑発したのが先で、中国が正当防衛に動いたのは後だ」と強調し、「完全に正当、合法的」と主張した。演習の海域には日本の排他的経済水域(EEZ)も含まれるが、大使は慣例に基づき、事前に演習について警報を出したと説明した。
台湾は演習を「国際秩序への挑戦」と批判している。これに対し、大使は「台湾は中国の一部」と指摘し、「非難がどこから来るのか」と反論した。一方、「『一つの中国』の原則が挑戦され、破壊された時、台湾海峡は暗雲に覆われ、荒天になる」と警告した。
日本に対しては、「台湾問題の適切な処理は中日国交回復の前提と基礎だ」と言及。「米国に盲目に追随することをやめ、台湾独立の分離勢力に誤ったメッセージを送らないよう強く求める」と述べ、慎重な対応を促した。
●ペロシ下院議長の専用機 南シナ海通らず台湾入り 米メディア  8/4
アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問についてアメリカのメディアは、ペロシ議長を乗せた専用機が、中国との軍事衝突を避けるため、中国が海洋進出を進める南シナ海の上空を通らず、遠回りして飛行していたと伝えています。
これは旅客機の飛行コースを公開している、民間のホームページの情報をもとに複数のメディアが伝えたものです。
ペロシ議長を乗せた専用機は2日の午後、マレーシアを出発したあと、南シナ海の上空をさけるように飛行し、フィリピンの東側を北上して台湾に到着したとしています。
複数のメディアは南シナ海の上空を通る民間機の飛行時間と比べて、およそ3時間、遠回りしていたと指摘し、安全確保のためにう回するルートがとられたという見方を伝えています。
アメリカの有力紙・ニューヨーク・タイムズは「今回の飛行経路は近年、中国が軍事的な存在感を高める南シナ海で、アメリカと中国の軍事衝突の可能性が現実的であることを明確に示すものだった」と伝えています。
●中国、台湾との貿易を一部停止 米下院議長の訪台に報復か 8/4
香港(CNN Business) 中国政府は3日、台湾との貿易の一部を停止すると発表した。米国のペロシ下院議長が台湾を訪問したことに対する報復措置とみられる。
中国の台湾事務弁公室によると、台湾からの輸入を停止するのはグレープフルーツ、レモンなど柑橘(かんきつ)系の果物と冷凍アジなど一部の魚介類。
税関当局者らは別の声明でこれらの品目の輸入停止について、果物は「基準を超える残留農薬量」、魚介類は「新型コロナ予防」を理由に挙げた。
一方、中国商務省は天然砂の台湾への輸出を停止した。天然砂は半導体チップを製造するのに必要な素材。台湾はあらゆる電子製品に欠かせない半導体の供給で世界をリードしている。
中国は台湾にとって最大の貿易相手国。台湾政府によると昨年の両国間の貿易額は2730億ドル(約36兆円)で、これは台湾の対外貿易全体の33%を占める。
INGグループのアナリストらは3日、ペロシ氏の台湾訪問が「予想通り中国当局者の怒りを買った」と述べた。
これに対し台湾の複数の当局者らは、中国による天然砂の輸出停止の影響は「限定的」だと指摘。中国産の天然砂が需要全体に占める割合は「1パーセントに満たない」とした。
●中国、ペロシ氏訪台に過剰反応する理由なし=NATO事務総長 8/4
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は4日、中国はペロシ米下院議長の台湾訪問に過剰反応すべきでないという認識を示した。
ストルテンベルグ事務総長はロイターに対し「ペロシ氏の訪台は、中国の過剰反応や台湾への脅威、脅しのレトリックの理由にはならない」とし、「米国や他のNATOの同盟国の高官は長年にわたり、定期的に台湾に訪問しており、中国が過剰反応する理由はない」と述べた。
中国人民解放軍は4日、台湾周辺の空と海で実弾射撃を含む演習を開始した。ペロシ氏の台湾訪問への対抗措置。1996年の第3次台湾危機以来となるミサイル発射訓練も行い、台湾海峡での演習としては史上最大規模となった。
●筋金入りの対中タカ派 台湾訪れたペロシ氏 8/4
中国のかつてないほどの威嚇にもかかわらず台湾訪問を決行した米民主党のペロシ下院議長は、米政界でも筋金入りの「反中派」として知られる。
若手議員の時期から中国の人権問題を糾弾し、中国政府をいら立たせてきた逸話は数知れない。
ペロシ氏は天安門事件から2年後の1991年、北京の天安門広場を訪問。「中国の民主主義のために亡くなった方々へ」と書かれた横断幕を掲げ、共産党体制による民衆弾圧を批判した。2008年には、インドでチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談した。
中国政府によるウイグル族迫害をめぐっては昨年、北京冬季五輪に政府高官を派遣しない「外交ボイコット」を各国首脳に呼び掛けた。今年7月、米紙ポリティコのインタビューで「商業的利益を理由に人権侵害に立ち向かうことができないなら、人権について発言するあらゆる道徳的権威を失う」と語っている。
ホワイトハウスの懸念を押し切って訪台したのは、11月に控えた中間選挙も影響しているとみられる。複数の米メディアは、下院で与党民主党の過半数割れを予想。82歳と高齢のペロシ氏が下院議長という重要な立場で台湾を訪れる機会は、今回が最後という見方があった。
ペロシ氏は40年、東部メリーランド州ボルティモア生まれ。87年、西部カリフォルニア州のサンフランシスコ市を擁する選挙区で下院議員に初当選し、現在18期目。07年、女性で初めて下院議長に就任し、11年に退任後、19年に議長に返り咲いた。夫ポールさんとの間に5子をもうけ、9人の孫を持つ。 
 
 

 

●米、中国に台湾情勢巡る緊張緩和を呼びかけ 「過剰反応不要」 8/5
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は4日、中国に対しペロシ米下院議長の台湾訪問に過剰に反応しないよう呼びかけた。
カービー氏はMSNBCに対し「状況を注意深く見守っている。中国が過剰に反応しないよう引き続き呼びかけている。このような反応を示したり、緊張を一段と高めたりする理由はない」と述べた。
その上で「米国が行っているように、緊張を和らげるよう促す」とし、「一方的、もしくは強引な現状変更がないよう」取り組んでいくよう呼びかけた。
ペロシ米下院議長の台湾訪問を受け、中国人民解放軍は4日、台湾周辺の空と海で実弾射撃を含む演習を開始。1996年の第3次台湾危機以来となるミサイル発射訓練も行い、台湾海峡での演習としては史上最大規模となる。
●ペロシ米下院議長、日本を訪問し会見、「台湾孤立化は許さない」 8/5
米国のナンシー・ペロシ下院議長は8月5日、午前中に岸田文雄首相との朝食会に出席した後、在日米国大使館で記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。
同議長は、記者会見の冒頭で「アジア太平洋は安全保障、経済、統治など多くの分野において非常に重要」と述べ、今回の歴訪の重要性を強調した。歴訪中の中国の行動については、「初めから説明しているとおり、われわれはアジアおよび台湾における現状の変更を目的としておらず、台湾関係法などの法律や合意も、台湾海峡における平和のためだ。中国の行動はおそらく、われわれの台湾訪問を口実にしたものだろう」と語り、同国を批判した。また、同議長は、台湾が世界保健機関(WHO)の年次総会に参加できなかったことを例に挙げ、「中国は台湾を孤立化させようとしてきた」と主張し、「われわれはハイレベルの台湾訪問を継続し、中国が台湾を孤立化させることは許さない。米国と台湾の友好関係は強固だ」と語った。
また、今回の議員団一行(ペロシ議長のほかに、グレゴリー・ミークス外交委員長、マーク・タカノ退役軍人委員長、スーザン・ベルデネ歳出副委員長、ラジャ・クリシュナムルティ情報特別委員会委員、アンディー・キム軍事委員会委員)について、インド生まれのクリシュナムルティ議員、韓国出身の両親を持つキム議員、日系3世のタカノ議員に言及し、「われわれは、アジアの美しい多様性を表している」と述べ、訪れた全ての国で安全保障、経済、統治に関する前向きな議論ができたことを強調した。
岸田首相は、朝食会の後に記者団に対し、「(ペロシ議長と)台湾海峡の平和と安定を維持していくため、引き続き日米で緊密に連携していくことを確認した」と述べている。
●岸田首相、中国に軍事演習の即時停止を要求…日米連携を確認 8/5
岸田首相は5日午前、来日中のナンシー・ペロシ米下院議長と首相公邸で朝食をとりながら会談した。両氏は、台湾海峡の平和と安定を維持するため、日米で引き続き緊密に連携していくことを確認した。首相は、中国による大規模軍事演習を強く非難した。
首相官邸によると、会談は53分間行われ、木原誠二官房副長官や寺田稔、中谷元両首相補佐官らが同席した。首相は、首相官邸で記者団に会談内容を明らかにした。
首相は会談で、ペロシ氏の台湾訪問に反発した中国による「重要軍事演習」を取り上げた。弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)を含む近海に落下したことについて、「我が国の安全保障や国民の安全に関わる重大な問題だ。中国に対し、強く非難し抗議した」とペロシ氏に伝えた。その上で、「今般の中国側の行動は、地域や国際社会の平和と安定に深刻な影響を与える」と述べ、演習の即刻中止を求めたことを説明した。
また、首相は、日米同盟の強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、「ペロシ氏のリーダーシップと米国議会の支援を期待している」との考えを示した。核・ミサイル開発を進める北朝鮮や、ロシアによるウクライナ侵略についても協議した。首相の目指す「核兵器のない世界」への取り組みについても意見交換した。銃撃事件で死亡した安倍晋三・元首相に対するペロシ氏らの弔意への謝意も伝えた。
ペロシ氏の台湾訪問を巡っては、日本政府は「コメントする立場にない」(松野官房長官)と直接の評価を避けている。首相も記者団に対し、台湾訪問そのものには言及しなかった。
ペロシ氏は会談後、東京都内の在日米国大使館で記者会見し、中国による弾道ミサイル発射を受け、「中国は台湾を孤立させようとしている。私たちと台湾との友情は強固なものだ」と述べた。
ペロシ氏の来日は2015年5月以来、7年ぶり。ペロシ氏は議員団でアジアを歴訪しており、8月4日夜に来日した。5日午後には衆院本会議を傍聴し、細田衆院議長らと面会する。
松野官房長官は5日午前の記者会見で、「米中両国の関係の安定は国際社会にとって極めて重要だ。米国との強固な信頼関係の下、中国に大国としての責任を果たすよう働きかけていきたい」と述べた。
●岸田首相と米 ペロシ下院議長 会談終わる  8/5
岸田総理大臣は日本を訪れているアメリカのペロシ下院議長と会談を行いました。
ペロシ議長の台湾訪問にともなう米中間の緊張が日中間にも波及する中での会談となり、台湾情勢や中国との関係をめぐりどのようなやりとりが交わされたのか注目されます。
岸田総理大臣とペロシ下院議長は5日、総理大臣公邸でそろって記念撮影に臨んだあと、午前8時からおよそ1時間、朝食を交えながら会談を行いました。
会談では、日米同盟の抑止力と対処力の強化や自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力のあり方などのほか、中国や北朝鮮を含めた地域情勢やロシアのウクライナ侵攻などをめぐって意見が交わされたものとみられます。
アジアを歴訪中のペロシ議長は日本訪問に先立って現職の下院議長としては25年ぶりに台湾を訪れて蔡英文総統と会談しました。
中国側はこれに反発し、4日から台湾周辺で始めた軍事演習で弾道ミサイルを発射し一部は日本のEEZ=排他的経済水域内に落下したと推定されるほか、国際会議にあわせてカンボジアで予定されていた日中外相会談が見送られました。
岸田総理大臣とペロシ議長の会談は、米中間の緊張が日中間にも波及する中で行われ、台湾情勢や中国との関係をめぐりどのようなやりとりが交わされたのか注目されます。
●ペロシ米下院議長の台湾訪問が残した課題 8/5
台湾を訪れたナンシー・ペロシ米下院議長が3日、蔡英文台湾総統と会談した後、記者会見を開いた。その時、ブルームバーグ通信の記者は「あなたの今回の訪問による対価を相殺するだけの、どんな具体的な利益を台湾に約束できるのか」と質問した。
台湾を自国の領土だと主張している中国は、25年ぶりに行われた米下院議長の台湾訪問に「重大な主権侵害だ」と反発した。中国は台湾企業4社以上を制裁した。台湾産のかんきつ類やタチウオなどの輸入や、中国産天然砂の台湾輸出も禁止した。台湾は数百億ウォン(数十億円)の被害を受けると予想される。
この米国人記者の質問に、ペロシ議長は米国に半導体工場を建てる企業に税金面で優遇するCHIPS(チップス)法を例に挙げ、「米国と台湾の経済協力にもっと良いチャンスを提供する」と答えた。TSMCなど台湾の半導体企業が恩恵を受けるということだ。CHIPS法は韓国・日本・台湾の半導体企業に機会があるが、最大の受益者は米国だ。中核的な製造施設を自国に呼び込み、半導体供給を安定させ、中国をけん制できるからだ。中国市場をどうするかという難しい課題は韓国・台湾など外国企業が考えることだ。ペロシ議長の台湾訪問計画が決まった後、2%以上落ちたTSMCの株価がそれをよく現している。
中国はペロシ議長の訪問による「軍事行動」だとして、4日から台湾周辺で前例のない大規模な訓練に突入した。中国は台湾の主要港や軍事基地はもちろん、西太平洋や日本方面から米軍が台湾に接近する道を遮断した。台湾武力統一の予行演習並みだ。中国が訓練時間を72時間に設定したのも、米空母打撃群が台湾に接近する前に軍事作戦を終えるという意志の現れだとの見方がある。
台湾海峡で武力衝突が発生すれば、韓国がかなり深刻な政策ジレンマに陥るのは明らかだ。台湾問題に対する韓国の立場は「台湾海峡での平和と安定維持が重要だ」ということだ。昨年、文在寅(ムン・ジェイン)大統領とジョー・バイデン米大統領の韓米首脳会議の共同声明にこの表現が入った時、中国が強く抗議したという。台湾海峡問題で韓米が共同の見解を明らかにしたのが初めてだったからだ。韓国は米国と共に台湾に対する中国の軍事行動を批判するのだろうか。米国の同盟国である韓国は、在韓米軍戦闘機に参戦の便宜を提供したり、中国北海艦隊の南下を阻止する作戦に参加したりするのだろうか。中国は将来起こり得ることに関する計算に強い国だ。
称賛されるにせよ、非難されるにせよ、今回の台湾訪問で82歳のベテラン政治家であるペロシ議長は世界的なスーパースターになった。そして、それと同時に台湾海峡の状況はいっそう危うくなった。ペロシ議長の台湾滞在は19時間だったが、米中の争いのはざまにある台湾、そして韓国への影響は将来長い間にわたるものとみられる。韓国国立外交院のチェ・ウソン教授は今年5月に発表した報告書で、「台湾海峡軍事衝突のさまざまなシナリオを分析し、シナリオごとの対策を用意しなければならない」と述べた。ペロシ議長訪問が残した喫緊の課題だ。 
 
 

 

●ペロシ訪台でますます燃え上がる中国ネット世論 8/6
ペロシ米下院議長の台湾訪問を契機に、東アジアの緊張が高まっている。中国は台湾を封鎖するかのように台湾周辺を対象とした大規模な軍事演習を実施しているほか、新型コロナウイルス検出を理由に台湾からの海産物の通関差し止めを通達するなど経済報復にも手を広げている。台湾海峡の緊張は日本など周辺国を巻き込む国際問題となっているが、その一方で見すごせないファクターが中国国内世論≠セ。
中国共産党が頻発する「人民の感情」カード
ペロシ議長の台湾訪問は直前まで日程は正式発表されていなかった。バイデン政権も賛意を示していなかったこともあり、中国政府は訪問阻止をターゲットに強烈な圧力をかけた。外交ルートでの申し入れ、政府当局及び官製メディアの発表に加えて動員されたのが世論であった。
7月末以後、中国のネット世論はペロシ問題で沸き返っていた。「台湾を訪問すれば、人民解放軍は座視することはない」といった記事のコメント欄には「やってしまえ」「思い上がった台湾に制裁を加えるべき」といった過激な書き込みが並ぶ。蔡英文総統が勝利した2016年の台湾総統選でも中国ネット世論は過熱したが、その時と比べても今回のほうが圧倒的に過熱しているように感じられる。
ある知人からは「ペロシは本当に台湾に訪問するのか?」「戦争になったら日本は台湾に味方するのか」とチャットが飛んできた。随分長いこと没交渉だった相手で、前回の連絡といえば、「この日本製サプリメントを買おうかと思ってるんだけど、ニセモノじゃないかと気になって」という問い合わせであった。ちなみに日本では見たことがないエセ日本ブランドであった。
中国共産党が「人民の感情」をカードに使うことは珍しくはない。怒った人民が自発的にボイコット運動や抗議デモを起こすもので、12年の日本政府による尖閣諸島国有化の際には、人民の自発的な抗議運動、打ち壊しが起きたことは、多くの日本人にとって忘れられない記憶ではないか。
「中国人民の感情を傷つけた(傷害中國人民的感情)」という決まり文句があり、なんとウィキペディアにも項目が作られている。
香港大学中国メディアプロジェクトのDavid Bandurski氏によると、1959年から2015年にかけて、中国共産党の機関紙「人民日報」には143回にわたり、この文言が使われている。「人民の感情」カードを一番乱発するトピックは台湾で、28回を数えるという。
盛り上がった世論は止まらない
またまた「人民の感情」ですか、新鮮味がないですね……と当初は感じたのだが、予想以上のボルテージの上げ方には驚かされた。
秋に中国共産党党大会を控えており、習近平総書記にとってはなんとしてでも失点は避けたいタイミングであること、ペロシ議長の台湾訪問が公表されておらず圧力を高めれば中止に追い込めると中国側が判断したことなどが背景にあるが、中国人民のテンションをここまで上げてしまって大丈夫なのか。「ペロシ議長が台湾に到着した瞬間に戦争が始まる」と素直に信じていた中国人民も少なくないはずだ。
8月2日夜、ペロシ議長が台湾を訪問する直前にはいったいこれから何が起きるのだろうと、ネットに貼りついている中国人ユーザーが続出。大手ソーシャルメディアのウェイボーがアクセス数に耐えきれずダウンしたことも報じられた。
報道されているとおり、中国はかつてない大規模な軍事演習という報復措置を行った。日本や米国ではこうした動きに不安を感じる声が上がっているが、一方の中国人民はというと肩透かしを感じている人が多いようだ。
中国官製メディアは、軍事演習によって台湾の経済活動が阻害されている、台湾東部への弾道ミサイル着弾はミサイル防衛網をかいくぐって精密攻撃を加える能力があることを証明し、台湾への威嚇効果は大きく、報復がいかに効果的であるかを必死に説明している。しかし、テンションが上がりすぎた人民にその説明が届いているかははなはだ疑問だ。
8月3日の中国外交部定例記者会見では、ロイター通信の記者から「中国がペロシ議長台湾訪問阻止のために、より多くのアクションを取らなかったことを一部の中国ネットユーザーは失望している。今後、彼らネットユーザーがより理性的に米中関係の発展を見るよう、誘導するのか?」という、なんともいやらしい質問が浴びせられた。
華春瑩報道局長は「中国人民は理性的な愛国者である。自国が、自分たちの政府が、国家主権と領土の完全性を守る力があると信頼している」と反論してみせたが、痛いところを突かれたのではないか。
「愛国者」熱のはけ口は?
習近平体制成立から10年、中国共産党は強力なネット世論誘導能力を身につけてきた。胡錦濤体制下では政権の無能や政治の腐敗への批判がネット世論の中心的なトピックであったが、今ではそうした声が広がることはほとんどなくなった。
新型コロナウイルスへの対応でも、現行のゼロコロナ対策ではオミクロン株への対応は難しいことは明らかだが、中国国内では海外に比べれば中国政府はよくやっていると支持するムードがいまだに大勢を占めているようだ。
ならば、燃え上がらせたネット世論も簡単に鎮火できるのだろうか? テンションを上げるのも、理性的愛国者に戻すのも自由自在なのだろうか?
そこまでの統制はできていないのが現状だろう。むしろ、盛り上がりすぎた世論に押されて当局が譲歩せざるを得ないポピュリズム的な事例は少なくない。
昨年8月には遼寧省大連市にテーマタウン「盛唐・小京都」がオープンした。古代中国の都である長安や日本の京都に似せた街並みの商業施設が売り文句。地元政府肝いりの大型プロジェクトだったが、「満州国の一部だった大連市で日本風の街並みとは言語道断」といった批判を受け、オープン後まもなく休止に追いやられてしまった。
反政府分子の摘発はお手のものでも、正しい愛国者≠ノよる「もっと愛国を」という中国版ポリティカル・コレクトネスには政府もなかなかノーを言えないというわけだ。
さすがに脳天気なネット世論に押されて戦争勃発とまでは考えづらいが、排外ムードの高まりが外資招致など経済問題に影響することは十分考えられる。そもそも、近年の米中関係の緊張やウクライナの戦争もあって、中国のリスクを再評価しようという機運が高まっているタイミングである。
ここに台湾侵攻に向けてテンション爆上げの中国ネット世論は、中国事業の未来を憂いている企業担当者、外資招致のためにがんばっている地方政府担当者からすると、気が重くなる話であろう。
ペロシ議長台湾訪問という燃料を得て、ますます燃え上がる中国版ポリティカル・コレクトネス。このファクターが中国の政治、経済にもたらす影響は注視する必要がある。
●外交部がペロシ米下院議長の台湾訪問への8つの対抗措置を発表 8/6
ペロシ米下院議長が中国側の強い反対と厳正な申し入れを顧みず、中国の台湾地区を訪問したことに対し、外交部(外務省)は5日、次の8項目の対抗措置を取ると発表した。新華社が伝えた。
一 中米両軍戦区リーダー間の対話の中止
二 中米間の国防部(省)事務レベル会合の中止
三 中米間の海上軍事安全交渉メカニズム会合の中止
四 中米間の不法移民の送還に関する協力の停止
五 中米間の刑事司法協力の停止
六 中米間の国境を越えた犯罪捜査協力の停止
七 中米間の麻薬取締に関する協力の停止
八 中米間の気候変動問題に関する交渉の停止
●マルコス比大統領、米主張に理解 ペロシ氏訪台 8/6
米国のブリンケン国務長官は6日、フィリピンの首都マニラでマルコス大統領と会談した。ペロシ米下院議長の台湾訪問をめぐって米中の緊張が高まる中、中国寄りのドゥテルテ前政権下で隙間風が吹いた米比関係を立て直し、中国に対抗していく狙いがある。
会談でマルコス氏は、ペロシ氏の訪台について「率直に言って、(地域における)対立の激しさを深めたとは思わない」と発言。米国が台湾情勢の緊張を高めたわけではないとする米側の主張に一定の理解を示した。ブリンケン氏は米比相互防衛条約の重要性を強調し、「フィリピンと共通の課題に取り組むことを約束する」と述べた。
バイデン米政権は、南シナ海に艦艇を派遣して「航行の自由」作戦を実施するなど、中国による現状変更の動きを牽制(けんせい)している。6月のマルコス政権発足を機に、台湾にも近いフィリピンを民主主義陣営にしっかりと取り込みたい考えだ。
一方、マルコス政権は米中間でバランスを取ろうとしているが、南シナ海情勢をめぐっては「領土を1インチも渡さない」と強い姿勢を示す。安保面での米国との連携に期待しており、ブリンケン氏との会談では「(米比には)歴史的に特別な関係がある」と述べ、関係改善に意欲を示した。
 
 

 

●米ペロシ下院議長の台湾訪問に疑問の声「私にはなかなか理解ができない」 8/7
タレントの関口宏が7日、自身がMCを務める「サンデーモーニング」(TBS)に出演し、台湾を訪問したアメリカのペロシ下院議長に疑問を投げかけた。
番組ではペロシ氏が台湾を訪問したことで中国が猛反発していることを取り上げた。米中の緊張が高まった背景について説明。中国は今月から秋にかけて共産党の幹部が集まる会議や共産党大会といった目玉行事が控え、異例の3期目を狙う習近平主席にとっては重要な時期とあってペロシ氏の台湾訪問をやめるよう繰り返し警告していた。
一方のアメリカでは、11月に議会の中間選挙があり、バイデン大統領の与党・民主党の劣勢が伝えられるなか対中国で弱腰だと批判されること避けるためペロシ氏の台湾訪問を止めづらい事情があった。さらに中国の人権問題をライフワークとしているペロシ氏は下院議長在任中の訪問にこだわった見方もあったという。
明海大学の小谷哲男教授の「(ペロシ氏は)中間選挙で民主党が負けると下院議長でいられなくなるので今が議長として訪台する最後のチャンスと考えた。(中国の反発について)この時期の訪台によってメンツを潰された」とのコメントを紹介した。
解説を受けたうえで関口は「ペロシさんという方が、なんで急にこうしたのか私にはなかなか理解ができないところなんですが」と疑問を投げかけていた。
●ペロシ氏去った後に朴振外交部長官の訪中発表…「反中」尹政権が変わった 8/7
外交部の朴振(パク・チン)長官が8〜10日に中国で同国の王毅外相と会う。ペロシ米下院議長の台湾訪問で米中対立が激しくなった状況での外交部長官の訪中をめぐり「尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交的ポジショニングと関連した主要な契機になるかもしれない」との観測が出ている。
米中対決激化の中で発表された訪中
外交部は5日、「朴長官が王外相の招きで中国山東省青島を訪問し韓中外相会談をする。韓中関係、韓半島(朝鮮半島)と地域、国際問題など相互関心事について協議する予定」と明らかにした。会談日は前日に大統領室高位関係者が言及した9日だ。
両国外相の対座は先月7日にインドネシアで行われた主要20カ国(G20)会議から1カ月ぶりだが、高官クラスの公式訪中は自由民主主義を掲げ「価値外交」を明らかにしてきた尹錫悦政権になって初めてだ。
特に今回の会談は微妙なタイミングに訪中形式で行われる点で注目される。
王外相は4日にカンボジアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(韓日中)外相会議で台湾問題をめぐり日本の林芳正外相と正面衝突した。その余波で1年9カ月ぶりに開かれる予定だった韓日中外相会談は白紙となった。同日日本の排他的経済水域(EEZ)には史上初めて中国の弾道ミサイル5発が落ちた。
王外相は会議期間中に米国のブリンケン国務長官とは偶然の接触すら避けた。
この渦中で尹大統領は訪韓したペロシ米下院議長と会わなかった。台湾と日本を含むペロシ議長のアジア歴訪国のうち唯一だ。大統領室は当初「ペロシ議長と尹大統領の接見は予定にない」として急に電話会談の日程を決めた。さらにペロシ議長の入国時には韓国側高官が出迎えず、冷遇論まで自ら招いた。そしてペロシ議長が日本に出発した直後に朴長官の訪中日程が発表された。
尹「中国が誤解しないようにせよ」
当局者の間ではペロシ議長の訪韓動線と儀典混乱などと関連し「韓中関係を考慮した戦略的判断」という話が出ている。実際に尹大統領は先月の外交部の業務報告で「中国が誤解しないよう積極的な外交をしなさい」と指示した。  
 
 

 

●日本首相に「友情」語ったペロシ氏、訪韓所感は「米軍見てきた」 8/8
ペロシ米下院議長は5日、アジア歴訪を締めくくる記者会見で、韓国を訪問した理由について、在韓米軍激励と板門店(パンムンジョム)訪問を挙げた。
今回ともに訪問したシンガポール、マレーシア、台湾、日本については首脳との交流または会談に言及し、歓迎されたと明らかにしたのと差がある。ペロシ議長が1〜5日の5日間に5カ国を訪問しながら国家首脳と直接会えなかったのは尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が唯一だった。
ペロシ議長はバイデン米大統領のアジア政策を議会次元で後押しするために今回の歴訪を推進したと明らかにしたが、韓国訪問の感想は歴訪目的とややかけ離れて説明した。
「安全保障・経済議論…聞いて学んで観点共有」
ペロシ議長はこの日最後の訪問国である日本の米国大使館で記者会見を行った。ペロシ議長は「立派な(wonderful)日本訪問、生産的な(productive)訪問を可能にしたエマニュエル大使と職員に感謝する」と話し始めた。
続いて先週訪問したアジア5カ国を順に紹介した。
ペロシ議長は「シンガポールを訪問して首相と会い、大統領とも会った。女性大統領はわれわれには若干楽しくなることだった」と話した。引き続き「何より重要なのは安全保障、経済、ガバナンスを議論し、聞いて、学び、観点を共有したこと」と付け加えた。
ペロシ議長は1日にシンガポールのリー・シェンロン首相、シンガポール初の女性大統領であるハリマ・ヤコブ大統領とそれぞれ会った。
ペロシ議長は「それからマレーシアに行ったが、非常に肯定的な(positive)方法で歓迎された。私が歓迎されたというのはわれわれが代表する(バイデン)大統領のイニシアチブが歓迎されたという意味」と説明した。2日にマレーシアのイスマイル・サブリ首相と昼食会談をした。
ペロシ議長は「それから台湾に行った。やはり安全保障と経済、ガバナンス(を議論する)非常に肯定的な(positive)会談をした」と紹介した。3日に蔡英文総統と会談した。
「在韓米軍に敬意表わしに韓国に行った」
ペロシ議長は続けて「次に韓国に行った。そこにあるわが軍である2万8000人と彼らの家族に敬意を示し、彼らの勇気に感謝し、(韓国)政府に歓待(hospitality)に対する謝意を表するために行った」と話した。
また「われわれは板門店を訪問した。北朝鮮の攻撃性、攻撃の可能性の側面で北朝鮮の脅威に非常に焦点を合わせた」と紹介した。
韓国訪問を要約しながら、尹大統領との電話会談や金振杓(キム・ジンピョ)国会議長との会談に対する言及はなく在韓米軍激励と北朝鮮の脅威への対応を訪問の主目的と説明した。
「岸田首相と友情に関する肯定的会談」
ペロシ議長は「日本では非常に印象的な(impressive)会議をした」としながら「安全保障と経済とガバナンスの側面ですでに成功を収めている新しい首相を祝った。われわれの立場で印象的だった」と明らかにした。
ペロシ議長は「岸田文雄首相があなたの台湾訪問に支持を表明したか」という質問に「首相と交わした対話を漏らすことはないだろう。だがわれわれの友情に関する非常に肯定的な会談をしたと話したい」と答えた。
ペロシ議長は「(日本は)地球上で最も重要な地域にあるわれわれの最も親しい友達。われわれは首相の言葉を尊敬の気持ちで傾聴し、意見を交わした」と付け加えた。
ペロシ議長は今回のアジア歴訪はバイデン大統領が安全保障、経済、ガバナンスの側面でアジア地域に焦点を合わせていることに対する後続措置の性格だと規定した。
バイデン政権のアジア政策に協力するために議会ができる役割を探すためにきたと説明した。また、同盟の声を聞き、彼らから学ぶためだったと訪問趣旨を紹介した。
台湾訪問をめぐるホワイトハウスとの衝突説などを意識したようにバイデン大統領を「偉大な大統領」と呼び、アジア地域に対するバイデン大統領のリーダーシップに議会代表団が従うためにアジア歴訪をしたと明らかにした。
バイデン大統領は5月に就任後初めて韓国と日本を訪問しアジア政策を本格始動した。
●台湾訪問「非常に適切」 ペロシ氏同行の下院委員長 8/8
ペロシ米下院議長の台湾訪問に同行したミークス下院外交委員長は7日、米CBSテレビで、台湾が中国による軍事圧力に直面しているとして「今回の訪問は、地域にとって非常に適切だった」と述べた。同時に「挑発的なのは私たちではなく、中国政府だ」と強調した。
ミークス氏は、自身が過去に何度も台湾を訪問したことがあると述べた上で「習近平国家主席が私たちの行くべき場所や行ってはならない場所を指示することは許されない」と語った。
また、米国は台湾を支持していると言及。中国が現状変更を試みていると指摘し「今、必要なのは現状を維持することだ。それが緊張を緩和する最善の方法だ」と訴えた。
●ペロシ氏の台湾訪問で米中緊迫 地政学リスク高まり、相場の方向感定まらず 8/8
ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、米中間に一気に緊張感が高まった。地政学リスクが高まり、外国為替相場で米ドルは、一時1ドル=130円台半ばまで売られた。ただ、米国の金融政策はインフレと景気減速への懸念が交錯する状況。一定のレンジ(価格の範囲)の中で上昇と下落を繰り返して、相場の方向性は定まらない。
米ドルが再び高値を目指す動きになることも考えられ、2022年8月10日発表の米国の7月の消費者物価指数(CPI)などには要注意。 
●「中国の反発は織り込み済み」のペロシ訪台で、微妙な位置に立つ日韓 8/8
ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことに中国は猛反発しているが、その理由はペロシ氏が高位クラスであるということよりも、そのタイミングが重大な挑発行為と受け止められたからである。さらに微妙な位置に立たされた日本や韓国は、今後どう折り合いをつけていくのか。
新興国家が覇権国家に挑む際に生じる摩擦を表す言葉に、「トゥキディデスの罠」がある。米ハーバード大学の政治学者グレアム・アリソン教授による造語で、アテネとスパルタによるペロポネソス戦争を分析し、著書『戦史』にまとめた古代ギリシャの歴史家トゥキディデスの名前にちなんでいる。
8月、ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことに中国は猛反発し、中国軍は台湾を取り囲むようにして軍事演習を実施、弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内にも落下する事態となった。ペロシ氏の訪台によって、米中が「トゥキディデスの罠」に陥る可能性はあるのだろうか。日本や韓国などを含む関係国の動きを見ていると、微妙なバランスの上に成り立ってきた中台関係の前に、国家としての「立ち位置」をどう示すか苦悩している姿が浮かぶ。
訪台のタイミングは最悪だった
7月下旬にペロシ氏の訪台計画が伝えられて以降、中国政府は「強力な対抗措置を取る」といった警告を何度も発し、計画を見直すよう求めてきた。それでもペロシ氏が訪台を強行したのは、中国から圧力をかけられても、民主主義を守るという米国の軸はぶれないという明確なメッセージを国際社会に示す狙いがあったと考えられる。
米下院議長は、大統領死亡時などの権限継承順位が副大統領に次ぐ重責だ。だが、中国側が激怒したのは、ペロシ氏が高位クラスであるということよりも、そのタイミングが重大な挑発行為と受け止められたからと考えるべきだろう。
中国では、習近平総書記(国家主席)が3期目入りを目指す第20回共産党大会を秋ごろに控え、政治的に敏感な時期に入っている。河北省の避暑地・北戴河では8月初旬、現役幹部や党長老が意見交換するとされる非公式の「北戴河会議」が始まったとみられ、指導部人事などが話し合われているとみられる。
その最中にペロシ氏の訪台を許したのは、習氏のメンツに泥を塗ったことになる。7月末に習氏とバイデン米大統領が電話会談を行った際、習氏が訪台計画を念頭に「火遊びは自らを焼き滅ぼす。米側がそのことを明確に理解するよう望む」と強く警告したばかりだっただけに、激しい反発を招くこととなった。
ペロシにとって中国の反発は織り込み済み
電話会談では、バイデン氏が、中台が不可分の領土だとする「一つの中国」原則を留意する米国の政策に変わりはないと強調している。だが、一方でバイデン氏は5月の訪日時に、中国が台湾へ侵攻すれば米国は軍事介入する「義務がある」とも述べており、台湾統一を悲願とする習氏にとっては、米国の姿勢に警戒心を深めていたはずだ。そのことは、電話会談の際に、習氏がバイデン氏に台湾政策での「言行一致」を求めていたことからもうかがえる。
中国の人権状況を以前から批判してきた、筋金入りの「対中強硬派」であるペロシ氏にとって、中国の反発は織り込み済みだっただろう。香港の民主化弾圧や、ウイグル民族への政治的迫害などを重要な政治的問題として掲げているだけに、明確な意思表示を示したことになる。
だが、米下院議長が前回訪台した1997年と比べて、中国は経済力も軍事力も強化し、自らの論理に基づいた「自尊心」を強めている。「民主主義を守るため」の行動が、結果的に中台関係の緊張を高めてしまったとの見方は米政府内にもあり、米国として難しい対応を迫られている。
米大統領報道官は、三権分立を盾に「訪台は議長の判断だ」とし、バイデン氏も訪台の評価を示していない。ペロシ氏も、そうした空気を感じ取って、8月5日の記者会見で「米大統領には大統領としての中国国家主席との対話チャンネルがある」と述べ、バイデン氏の立場に理解を示している。
一方の中国も、緊張をエスカレートさせて暴発させることは、習氏にとってマイナスであるの考えから、強い態度で抗議をしながらも、制御を効かせた行動をとると考えられる。「中国は米国に弱腰ではなく、関係をコントロールできる」と国民に示すのが最優先で、当面は「攻めの姿勢」を見せつけるはずだ。
日本と韓国はどう動く
そうしたなかで、米中関係のバランスに苦慮しているのが日本と韓国だろう。
ペロシ氏は訪台の後、韓国を訪れたが、尹錫悦大統領は対面会談をせず、電話会談にとどめた。中国を刺激したくないという意図は明らかで、保守政権下でも中国との経済関係に配慮をしなくてはならない、という現実的判断がのぞく。
韓国の後に訪問した日本では、岸田文雄首相と会談し、ペロシ氏に対し「日米同盟強化の実現に向けた議長のリーダーシップと米国議会の支援を期待します」と述べたものの、訪台への支持表明は控えた。今年が日中国交正常化50年の節目の年であることから、この時期に関係悪化の材料を作りたくない、というのが日本政府の本音だ。
台湾をめぐり、中国と米国、日本、韓国がどう折り合いをつけていくか。腹の探り合いと、危険な軍事的挑発が当面は続くことになる。
●「安全を脅かす」島の近海にミサイルを落下させた中国に抗議 沖縄 8/8
沖縄県石垣市議会(平良秀之議長)は8日午前、臨時会を開き、ペロシ米下院議長の台湾訪問への対抗措置として中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、日本の排他的経済水域(EEZ)内の波照間島や与那国島周辺に弾道ミサイルを落下させたことについて、抗議決議と意見書を全会一致で可決した。
中国の一連の行動について「本市を含む地域および国際社会の平和と安定に深刻な影響を与えるものだ」と指摘。EEZへの着弾は八重山圏域の漁業者の安全な操業を脅かすものだ、などとして「断じて容認できない」と非難した。
その上で、日本としても厳重な抗議と、安全保障体制の強化を図り、八重山郡民が不安におびえることがないよう対策を講じることを求めた。
あて先は抗議決議が中華人民共和国国家主席、中華人民共和国外相、中華人民共和国駐日本国特命全権大使。意見書が首相、官房長官、外務相、沖縄担当相、県選出国会議員、県知事、地元選出県議。
 
 

 

●台湾海峡の現状変更に「口実」 米議長の訪問利用、弱腰見せられず 中国 8/9
ペロシ米下院議長の台湾訪問を阻止できず「メンツ」を失った中国の習近平政権は、これを逆に「口実」として利用し、台湾を取り巻く前代未聞の陣形で軍事演習に踏み切った。
海上封鎖や有事を想起させる4〜7日の演習は、「結託する米台を震え上がらせる」(中国国防省)のが狙い。台湾海峡の現状は変更され、軍事的威嚇行動の常態化が懸念されている。
習国家主席(共産党総書記)は台湾対岸の福建省勤務が長く、思い入れが強い台湾統一に向け武力行使も辞さない姿勢を取る。バイデン米大統領との7月28日の電話会談では、台湾問題で「火遊びをすれば必ず焼け死ぬ」と警告。ペロシ氏に訪台を断念させるため、説得するよう要求したとみられる。
だが、その直後にペロシ氏は訪台を決行。中国のインターネット交流サイト(SNS)には落胆の書き込みがあふれた。習氏の3期目入りが懸かる党大会を秋に控える「政治の季節」を迎え、習指導部は弱腰姿勢を見せられない。今回の演習は国内向けに軍事力をアピールし、国威発揚を図った面も否めない。
中国人民解放軍国防大学の孟祥青教授(少将)は国営中央テレビで、演習について「わが軍史上、空前の台湾島包囲」と誇示。中国軍機が台湾海峡で「『中間線』を徹底的に打破した」とも主張した。
ブリンケン米国務長官は5日、プノンペンでの記者会見で、中国の演習が「新たなレベルの危険行為」だと指摘。ペロシ氏訪台を「挑発行動の口実に利用してはならない」と中国を批判した。
これに対し、中国国防省は8日の報道官談話で「米側は危機をつくりながら、危機をコントロールする必要があると言う。誤った言動や挑発の口実を探している」と反論。ブリンケン氏の発言を逆手に取って非難した。
ただ、中国は米中両軍高官の対話中止などの対抗措置に出たものの、台湾への威嚇を強めたのと比べると、対米圧力は抑え気味だ。党大会を前に、国内外の「安定」を優先させたいという思惑も垣間見える。
中国は4日の演習初日、弾道ミサイルを発射。中国メディアによれば、使用したのは「東風15B」など短距離弾道ミサイルが中心だった。米軍艦を念頭に開発した「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」「東風26」を発射した形跡はない。 
●プーチンの失敗に学んだ習近平「48時間以内 電光石火の台湾制圧」目指す 8/9
ロシアがウクライナに侵攻した際、西側指導者が適切に対応するのに少なくとも2日間かかったことから、中国共産党が武力で台湾を統一する決断をした場合、西側に対応する時間を与えないよう電光石火の「48時間攻勢」を完遂することを目指していると、英高級紙デーリー・テレグラフ(電子版)が8月6日、英外交筋の話として報じた。
ウラジーミル・プーチン露大統領は、侵攻開始から48時間以内に首都キーウを制圧してウォロディミル・ゼレンスキー大統領の政権を打倒し傀儡政権を樹立することができなかった。
英外交筋によれば、これを目の当たりにした中国の習近平国家主席は、ウクライナに西側から武器や資金の供与を受ける時間を与えてしまったため、ロシアの計画は頓挫したと考えているという。
習氏「台湾問題の解決と祖国の完全統一実現は党の歴史的任務だ」
プーチン氏は2月4日の北京冬季五輪開会式に合わせて習氏と会談。共同声明で「特定の国家、軍事的・政治的同盟が他者の安全を害する一方的な軍事的利益を得ようと地政学的対立を激化させ、反目と対立を煽っている。北大西洋条約機構(NATO)のさらなる拡大に反対する」と米国とNATOを非難した。習氏はロシアが描く欧州の安全保障構想を支持した。
習氏は2019年1月、台湾に向け「武力の使用を放棄することを約束しない。一切の必要な措置を講じる選択肢を残している」と演説した。昨年7月の中国共産党創立100年に合わせ「台湾問題の解決と祖国の完全統一実現は党の歴史的任務だ」と強い意欲を表明する一方で、「平和統一プロセスを推進する」と武力行使をトーンダウンしたように装った。
米インド太平洋軍司令官「台湾への脅威は2027年までに顕在化する」
中国共産党が昨年11月に採択した歴史決議にも「一つの中国の原則と九二共識(中国と台湾の1992年合意)を堅持し、台湾独立と外部勢力からの干渉に断固として反対する。祖国の完全統一は必ず実現する」と明記した。「中華民族の偉大な復興」を実現する2049年の建国100年がそのデッドラインとみられている。
昨年3月、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は上院軍事委員会で「中国が侵略に関心があることを示すようなシステム、能力、態勢が整えられている。台湾は明らかに中国の野望の一つだ。この10年間に脅威は顕在化するだろう。実際のところ今後6年間が問題だ」との見方を示し、2027年を一つの期限として示した。
台湾自身の危機感はさらに強い。昨年11月、台湾の邱国正・国防部長は英国の中国問題専門メディアに「25年まで中国はコストと消耗を最低限に抑えるだろう。今すでに能力があるものの、他に多くのことを考慮しなければならないので簡単に台湾侵攻に踏み切ることはないだろう」と語っている。ひっくり返せば25年が台湾侵攻の分岐点になるということだ。
その時までに中国海軍はインド太平洋で米海軍を圧倒し、空母で3対1、多機能戦闘艦で54対6の優位に立つとの予測もある。
デービッドソン氏は「(中国が台湾に侵攻した際、米国が台湾を防衛するかどうかについて明言しない)戦略的曖昧さが40年以上にわたり台湾の現状維持に役立ってきたが、日常的に考え直す必要がある」と戦略の見直しを求めた。
米紙ニューヨーク・タイムズは今年7月25日「中国の指導者が今後18カ月の間に台湾に対して動き出すのではないか、米海軍の艦船が定期的に通過している台湾海峡の全部または一部を封鎖しようとするのではないかとバイデン米政権の関係者は危惧している」と報道。
ナンシー・ペロシ氏が米下院議長として25年ぶりに訪台した直後の8月4日には、米FOXニュースが米国と同盟国のインテリジェンスに詳しい現職や元職の政府高官の話として「中国は今後18カ月以内に台湾を侵略する恐れがある。今年秋の中国共産党大会から2024年11月の次期米大統領選までの間は特に『危険』な時期だと示唆した」と伝えた。
世界最大の兵員と海軍を誇る中国、だが乏しい実戦経験
ペロシ訪台への報復として、中国は8月4〜7日、台湾を取り囲むように実弾演習を開始。弾道ミサイル「東風(DF)」を発射し、一部が初めて台北の上空を通過、日本の排他的経済水域(EEZ)にも落下した。米領グアムを射程に収めるDFは「グアム・キラー」と呼ばれる。米空母を近づかせない脅しであるのは明らかだ。
中国の複数の戦闘機や艦艇が台湾海峡のほぼ中央に引かれた「中間線」を越えた。中国の軍用無人航空機(ドローン)も初めて台湾の金門島上空に出現、日本のEZZを通過して沖縄県宮古島近くにまで飛来した。
台湾国防部は8月7日「台湾本島への攻撃を想定した訓練だ」と非難。一方、中国は黄海で8月6〜15日に実弾射撃訓練、渤海でも8月6日と8日〜9月8日に軍事演習を行う。第4次台湾海峡危機に発展したとしても、米中軍事衝突が勃発する可能性は低いとみられる。
というのも中国では、今年秋の中国共産党大会を控え、最高指導部が河北省の避暑地・北戴河に集まり重要議題を話し合っているとみられる。最大の焦点は69歳の習氏が「68歳以上は指導部引退」とされる慣例を破り3期目続投が認められるかどうか。世界最大の兵員と海軍を誇る中国だが、米国に比べ圧倒的に実戦経験に乏しく、火遊びが自分の身を焦がすことは習氏も自覚しているからだ。
ではそのセンシティブな時期に、なぜ中国は米国との緊張を高める軍事演習を繰り返すのか。
シンクタンク、米ジャーマン・マーシャル・ファンドのボニー・グレイザー・アジア部長は「中国がこうした行動をとったのはレッドラインを強化するためだ。今後、米国がサラミを薄切りするような行動をとるのは極めて危険であり、米国と台湾は立ち止まるべきだというシグナルだ。米中関係が継続的に悪化しない道を両国が探ることを願う」と指摘している。
中国の台湾政策「4つのシナリオ」
ペロシ訪台と前後して中国が行った軍事演習を分析した結果、デーリー・テレグラフ紙は「中国は段階的かつ漸進的に軍備を増強する可能性が強い。台湾に残された唯一の選択肢が中国に協力するしかなくなるまで、大蛇が小さな獲物を締め上げるように台湾への圧力をかけるだろう」と分析しつつ、今後想定される4つのシナリオを示している。
(1)台湾封鎖
長期間の軍事演習で台湾を疲弊させる。軍事演習を口実に飛行禁止区域を設定して台湾を孤立させられる。中国国防関係者によると、ペロシ訪台に合わせて軍事演習が行われたのは台湾を封鎖し、外国の介入を阻止するカギとなる地域だ。中国は、台湾の防空識別圏(ADIZ)はもはや有効ではなく、台湾上空に入る航空機は中国の許可が必要だと言う恐れがある。
中国はこれまで重要な飛行ルートや商船航路を妨害することはなかった。ロシアが欧州を脅す武器に原油・天然ガスを使っているように、中国は、世界の半導体生産の6割以上を占める台湾が封鎖されたらどうなるかを今回の軍事演習で西側に思い起こさせることで台湾問題への西側の介入を思い止まらせる狙いがあるようにも筆者には思われる。
(2)金門島や馬祖列島への侵攻
台湾の金門島や馬祖列島は中国本土から10キロメートルも離れていない。米国など西側の決意を試すために中国はこれらの島々の一部または全部に侵攻することが考えられる。これらの島々への直接的な軍事支援や台湾の国防力を大幅に強化しない限り、2014年にロシアがクリミアに侵攻して併合したように中国はより冒険主義的な行動をとる恐れがある。
(3)台湾本土に限定的な空爆とミサイル攻撃
本格的な戦争リスクを最小限に抑えながら台湾を弱体化させるため、中国は空から沿岸防衛拠点やレーダーサイト、飛行場をターゲットに限定的な懲罰的攻撃を行う可能性がある。主要な人口密集地を標的にすることは避け、台湾に主権の譲歩を迫ったとしても効果は期待できない。通常、主権問題は決定的な軍事的な敗北によってしか解決できない。
(4)本格的な台湾侵攻
台湾に全面侵攻する場合、中国はミサイルと戦闘機の一斉攻撃で台湾の注意をそらし、海峡を横断して戦略的地点に部隊を上陸させるだろう。通信を妨害し、市民の間にパニックを引き起こすため大規模なサイバー攻撃が行われる可能性が高い。英外交筋によると、中国は西側が完全に対応できるようになるまでに48時間の猶予があると考えている。
米国の台湾防衛に対する本気度を試すリトマス試験紙
昨年1月、香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官は筆者の取材に、米国が実際に台湾防衛に汗と血を流すかどうかを試すリトマス試験紙として金門・馬祖のほか、南シナ海の台湾領プラタス諸島(東沙諸島)への事前侵攻を挙げた。環礁群に台湾海兵隊1個大隊程度約1000人が駐屯しているとみられるが、「中国が侵攻占拠すること自体は簡単」(香田氏)という。
「しかし米国がそれを許すのか許さないのかということが真の狙いだ。中国に簡単に取らせてしまうようだと次は確実に台湾に対する軍事侵攻が行われる。米国が直ちに対応して簡単に取らせないとなると、中国は台湾に対する侵攻には相当慎重にならざるを得ないだろう」(香田氏)
中国が実効支配し、フィリピンと台湾が領有権を唱えるスカボロー礁で埋め立てのための測量を実施する可能性もある。オバマ政権時代の2016年、中国は測量を開始したが、「米国が韓国から6機のA10攻撃機をフィリピンの基地に展開し、中国の測量船の真上を低空飛行させた。“怖気づいた”中国は以後一切の測量作業を中断した」(香田氏)という。
現時点で(3)台湾本土に限定的な空爆とミサイル攻撃、や(4)本格的な台湾侵攻――を想像するのは難しいが、2024年の台湾総統選で現在の副総統で「台湾独立」を主張する頼清徳(ウィリアム・ライ)氏が選ばれるようなことになれば、さらに状況がエスカレートする可能性は否定できない。
米専門家「私たちは新しい時代を迎えている」
中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」前編集長・胡錫進氏はペロシ訪台に先立ち「中国の戦闘機はあらゆる妨害戦術を展開すべきだ。それでも効果がなければペロシ氏の飛行機を撃墜してもいいと思う」とツイートした。規則違反としてブロックされ、削除したが、史上最大の70万8000人が運航追跡サイトでペロシ氏を載せた米軍機をウオッチした。
米シンクタンク、大西洋評議会グローバル・チャイナ・ハブのジョン・カルバー上級研究員は「私たちは新しい時代を迎えている。新常態だ。第三次台湾海峡危機の1990年代半ばとは話が違う。中国は南シナ海での軍事基地建設、東シナ海の尖閣、インドとの国境で現状を変更しようとしている。今回の問題がどのように終わるのか分からない」と言う。
2012年の尖閣国有化で日本が一線を越えたことへの反発を反日デモで示し、その後、領海侵入を常態化させたように、中国はペロシ訪台を口実に台湾を取り囲む軍事演習や、台湾上空や日本のEEZへの弾道ミサイル発射やドローン侵入を常態化させる可能性がある。サラミを薄切りするように既成事実を積み重ねているのは米国や日本ではなく、中国なのだ。 

 

●中国、台湾統一の白書を発表 武力行使を放棄しない意思を明確に 8/10
台湾海峡を巡る緊張が高まる中、中国政府は10日、台湾統一に関する白書を発表した。白書では「平和統一のための最大限の努力を継続する」と強調しながらも、武力行使についても放棄しない意思を改めて明確にした。
中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室などが「台湾問題と新時代中国の統一事業」とのタイトルで作成した。
白書は武力統一に踏み切る可能性について「全ての必要な選択肢を持ち続けるが、平和的でない方法は、やむを得ない状況の中での最後の選択だ」とも強調している。
一方、ペロシ米下院議長の台湾訪問などを念頭に「米国の一部の勢力は、台湾を使って中国をけん制しようとしており、中国の平和統一の努力を妨げ、中米関係に悪影響を与えている」と米国の対応などを非難した。
●米 ペロシ下院議長「台湾孤立は許さない」中国側の対応を批判  8/10
アメリカのペロシ下院議長は、自身の台湾訪問に反発する中国が台湾周辺で軍事演習を行うなど、圧力を強めていることについて「台湾を孤立させることは許さない」と述べ、中国側の対応を批判しました。
先週、台湾を訪問したアメリカのペロシ下院議長は9日、NBCテレビのインタビューに応じました。
この中でペロシ議長は、自身の台湾訪問に反発する中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行うなど、圧力を強めていることについて「台湾の総統が訪問を受け入れてくれ、人々も歓迎してくれた。中国政府は好ましく思わなかったかもしれないが、台湾を孤立させることは許さない」と述べ、中国側の対応を批判しました。
そのうえで、訪問は、台湾の民主主義への支持を示すもので、アメリカの政策を変えるものではないと改めて強調しました。
一方、今回の台湾訪問の判断が適切だったかと問われると、ペロシ議長は、「訪問は価値のあるものだった。中国が今していることは、彼らが従来からしていることだ」と述べ、訪問が緊張を招いたとの指摘はあたらないと主張しました。
中国「米が重大な挑発行為行えば必ず対抗」
これについて、中国外務省の汪文斌報道官は、10日の記者会見で「ペロシ下院議長の台湾訪問はアメリカと台湾の公的な交流を格上げさせる重大な挑発だ。アメリカが中国の主権を侵害し、内政に干渉する重大な挑発行為を行えば、中国は必ず対抗する」と述べ、けん制しました。
●米下院議長、台湾訪問を正当化 8/10
ペロシ米下院議長は9日、NBCテレビなどとのインタビューで「台湾を孤立させることは許さない」と述べ、軍事圧力を強める中国を非難した。自身の台湾訪問は民主主義の支持が目的だったと正当化し「価値があった」と強調。台湾情勢の緊迫化を招いたとの批判に反論した。
ペロシ氏がシンガポール、マレーシア、韓国、日本を含むアジア歴訪後、メディアの取材に応じるのは初めて。インド太平洋を重視するバイデン政権の方針とも軌を一にしていると訴えた。
中国軍による台湾周辺での大規模演習に関し、危機を演出する中国の姿勢は従来通りで、今回が特別ではないとの認識を示した。
 
 

 

●ペロシ米下院議長の訪台から見えた…日米の二つの「対中幻想」  8/11
ナンシー・ペロシ米連邦下院議長の台湾訪問に対し、米国や日本ではペロシ氏の行動を礼賛する声と、中国の反発を招いて地域を不安定にさせただけの益のないパフォーマンスだったとする批判が交錯する。
ペロシ氏の訪台を契機に行われた台湾周辺での中国軍の大規模演習が地域の不安定要因を増したことは間違いないにせよ、それを強行した中国を責める前に、中国を刺激した行為の方が悪いと考える発想の底流には、二つの「幻想」がある。
米国が中国に対して伝統的に抱いてきた性善説的な「幻想」と、日本が国際社会での平和を希求する際にしばしば示す理想主義的な「幻想」だ。
二つの「幻想」は、地域に平和と安定をもたらすどころか、中国の出方を見誤り、国際秩序や国際法に対する中国の挑戦に有効な対抗措置を講じることを遅らせかねない危うさをはらんでいる。
4月時点では静かだった中国
米国の「幻想」から、考えてみたい。
もともとペロシ氏は、2022年4月上旬にアジア歴訪の一環として、台湾を訪問する予定だった。
その時は、ペロシ氏が直前に新型コロナウイルスに感染したために仕切り直しとなったものの、「訪台予定は1週間ほど前から公表されていたが、中国からの事前の抗議やけん制はなかった」(周辺)という。
これに対し、当初の計画から4か月後となった8月2〜3日の台湾訪問については、ぎりぎりまで訪問が実現するかどうかさえ公表されず、メディアを通じた「見通し」が繰り返し報じられるだけだった。
その中で中国政府が、ペロシ氏の訪台前から「報復」を公言し、圧力をかけ続けた姿は、4月とは明らかに違った。
中国側の対応の「落差」の原因は
ペロシ氏自身、台湾から韓国を経て来日した後の8月5日、東京の米国大使館での記者会見で、「台湾訪問はかなり前から計画していたもので、COVID―19(新型コロナウイルス)によって実現しなかった時の計画について、中国が何かを言ってきたとは承知していない」と首をかしげている。
4月と8月の中国側の対応の「落差」の原因は何か。
ペロシ氏周辺には、米ホワイトハウスが米メディアに対するリークを通じてペロシ氏の訪台を妨害しようとし、それが中国を必要以上にあおる結果になったものだとする受け止め方がある。
米メディアによると、ジョー・バイデン米大統領や米政府高官は、米中関係の一層の悪化や台湾海峡情勢の緊張の高まりを警戒して、ペロシ氏に台湾訪問を思いとどまるよう働きかけていた。
バイデン大統領にしてみれば、ロシアによるウクライナ侵略が続く中、中国をロシア寄りにさせたくないという思惑もあったとみられる。
時期的にも、8月のペロシ氏のアジア歴訪は、バイデン大統領と習近平・中国国家主席の電話会談が7月28日に行われた直後に予定されていた。
米中首脳が少なくとも対話を維持する姿勢を国際社会に示した直後に、米国の「大統領継承順位」では副大統領に次ぐ2位の下院議長が台湾を訪問すれば、習主席のメンツをつぶした格好にもなる。
自らのレガシー残すため?
こうした点で、4月の台湾訪問計画の時とは、米中をとりまく環境が大きく異なっていた。
しかし、民主党出身の大統領の呼びかけに、同じ民主党出身の下院議長は耳を傾けなかった。
ペロシ氏の心境に関する批判的な見方としては、22年11月に控える米中間選挙で下院の多数派が民主党から共和党に移るとの観測が広がる中、下院議長の地位を失う可能性が高いと見て、自らのレガシー(政治的遺産)を残すため、国際関係への影響より下院議長のポストにあるうちの台湾訪問を優先させたというものがある。
ペロシ氏が台湾の民主主義を支援する米国の揺るがぬ姿勢を自身の訪問で示したいと考える背景には、リベラル左派としての政治信条がある。
人権重視を前面に出す米民主党の中でも、ペロシ氏の選挙区は、20年大統領選で共和党の現職ドナルド・トランプ大統領(当時)が得票率10%に届かなかったサンフランシスコにある。
リベラルな風土で当選を重ねてきた筋金入りの左派は、バイデン大統領の外交政策を、中国の人権問題や「非民主的な国家運営」に対する姿勢が弱腰だと見て、もともと気に入らなかった。
4年前の記者殺害事件
そうした不満に加え、バイデン大統領が22年7月にサウジアラビアを訪問したことがペロシ氏の中の不満を募らせ、台湾訪問を止める声を顧みない態度につながったとの指摘がある。
ペロシ氏の念頭にあったのは、18年に起きたサウジアラビアのジャマル・カショギ記者の殺害事件だ。
バイデン大統領は20年の大統領選の最中に、サウジアラビアのムハンマド皇太子がカショギ記者殺害に関与したとの見方に立ち、サウジアラビアとの外交関係に後ろ向きの発言をした経緯がある。
それだけに、22年7月のサウジアラビア訪問でムハンマド皇太子との会談を行ったことについては、バイデン大統領が筋を曲げたとする受け止め方も多かった。
これでは、いくらバイデン大統領が「会談冒頭でカショギ記者殺害の問題を取り上げた」と強調したところで、説得力は乏しい。
ペロシ氏周辺にくすぶる「ホワイトハウス陰謀説」
サウジアラビア訪問の狙いが、ロシアによるウクライナ侵略がもたらしたエネルギー危機を前に産油国の雄に石油増産を求めることにあったのは、誰の目にも明らかだった中で、「実利外交」と「人権外交」を絡める説明には無理があった。
ホワイトハウスもその矛盾は承知していたから、ペロシ氏の「大統領が人権問題ありと批判してきたサウジアラビアを訪問することを、連邦議会は止めなかった。だから、連邦下院議長の台湾訪問にホワイトハウスが口出しするのは筋違いだ」との主張に、真正面から反論できなかった。
とはいえ、指をくわえて下院議長の台湾訪問を見ているわけにもいかない。
そこで、「ホワイトハウスは、あえて曖昧にしていたペロシ氏の台湾訪問の予定と、それが東アジアの安全保障環境にもたらす悪影響をメディアに報じさせ、ペロシ氏を思いとどまらせようとした」というのが、ペロシ氏周辺にくすぶる「ホワイトハウス陰謀説」だ。
「知恵」も「駆け引き」も必要
ホワイトハウスには、米中の2国間関係にとどまらず、ペロシ氏のアジア歴訪中にカンボジアで開催されていた東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の外相会合への影響を懸念する声もあったという。
米国の同盟国である日本や韓国が中国との対話の機会を持つことにマイナスに作用するのではないかとの心配だ。
実際、調整されていた日中外相会談は、ペロシ氏の訪台に反発した中国の軍事演習をG7(先進7か国)が非難したことでキャンセルとなった。
こうして見れば、ホワイトハウス側の発想を単純に弱腰だと切り捨てるわけにはいかない。
国際関係を円滑にしていくには、「知恵」も「駆け引き」も必要だ。
それでも、春の時点では静かだった米国の世論が一変し、夏の訪台計画に対する後ろ向きの論調が広がったことが中国の対米批判を勢いづかせ、ペロシ氏の訪台後の激しい軍事演習につながったのだとすれば、バイデン政権のやり方が賢かったとは言えないかもしれない。
「中国はいつか民主化する」?
より根深い問題は、米国内、とりわけ民主党内にくすぶる中国に対する「幻想」が今なお、根強く残っていることだろう。
ペロシ氏の訪台をめぐるホワイトハウスと議会のちぐはぐな動きからは、「中国を必要以上に刺激しなければ、地域の安定は保たれる」という考え方がバイデン政権の対中姿勢の底流にあることが浮き彫りになった。
それは、米民主党が伝統的に抱いてきた中国観の名残であり、トランプ政権以来の党派を超えた米国の対中強硬姿勢を揺るがす可能性もあるという点で、厄介だ。
米民主党の中国に対する「幻想」の起源は古い。
1993年4月に宮沢喜一首相(当時)がワシントンを訪問し、ビル・クリントン大統領(同)と会談した際のやりとりには、既にその「幻想」が広く根を張っていたことが見て取れる。
当時を知る米民主党の知日派は、日米貿易摩擦をめぐるクリントン政権の対日要求の激しさばかりがクローズアップされる中で、両首脳が「中国観」をめぐって意見を交わす逸話があったと打ち明ける。
それによると、クリントン大統領が「中国に対する支援、関与を続けることによって、中国は民主的な国に変わっていく」と楽観的な展望を示したのに対し、漢詩をたしなみ、中国の歴史についても詳しかった博覧強記の宮沢首相は「中国は、今も昔も、そんな国ではない」と説いた。
結局、クリントン大統領は宮沢首相の話に納得せず、宮沢首相は米中関係の将来について周辺に懸念を漏らしていたという。
根拠の乏しい期待を膨らませても…
その後も米民主党には、こうした中国観を抱く実力者が常に存在し、政権の中枢で影響力を行使する場面がしばしばあった。
バイデン大統領は、共和党のトランプ政権が行ってきた「アメリカ第一主義」の政策を次々と否定し、国際協調路線を前面に出しながら、トランプ政権のもとで先鋭化した対中強硬姿勢は継続してきたという点で、クリントン政権やバラク・オバマ政権とは違って見える。
表面的に、その姿勢に大きな変化はない。
ペロシ氏の訪台を受けた中国の軍事演習に対しても、バイデン政権は厳しく批判している。
一方で、訪台が行われる前の段階で見せた、「中国を刺激しなければ、中国の融和的姿勢を引き出したり、中国の態度を変えたりできる」という発想が甘かったことも確かで、それこそ過去の民主党政権でも見られた「幻想」の産物だったように思える。
宮沢元首相の心配の核心も、中国を欧米的な民主主義という文脈で理解することは難しく、異形の大国だという前提で付き合わないと、結局は不毛な関係悪化を招くということにあったのだろう。
はじめから「価値観が違う」と切り捨てるのも不毛だが、根拠の乏しい期待を大きく膨らませたあげく裏切られて失望するのも、建設的とは言えない。
「平和を唱えていれば、攻められない」?
同じような中国に対する「幻想」が日本にもあることは、ペロシ氏の台湾訪問前後の日本国内の論調からもうかがえる。
日本の「幻想」とは、平和を唱えてさえいれば、抑止力を高めるための軍備増強をしなくても、ならず者国家が日本を攻めてくることはないというものだ。
中国が初めて台湾の東側に軍事演習の訓練区域を設定し、中国が演習で発射したミサイルが初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に打ち込まれた現実を前に、理想主義的な「幻想」は通用しない。
中国が大規模軍事演習を「ペロシ氏の台湾訪問に対する抗議」と説明しているのは、台湾侵攻をイメージした演習を行うための「口実」だとも言われる。
台湾海峡の緊張を高めているのは、こうした準備を着々と進めてきた中国の方であり、ペロシ氏の言動が緊張を高めたと批判を続けるのは、いささか倒錯している気もする。・・・
防衛費増額の議論にもみられる「幻想」
ペロシ氏の訪台がなかったとしても、中国は別の口実を見つけ、こうした演習を行っていた可能性はあったのではないだろうか。
防衛費の増額をめぐる議論を見ても、「幻想」を引きずった反対論が散見される。
日本の隣には、核兵器を保有する中国、北朝鮮、ロシアが存在する。
国際秩序や国際法にチャレンジするような動きをエスカレートさせてきた国と日本の間に摩擦や対立が生じた時、武力での威嚇、攻撃を思いとどまらせるためにも、防衛費を増やし、抑止力を高めておいた方がいいという意見は、ロシアのウクライナ侵略を受けて広がっている。
「安全保障のジレンマ」を根拠とする反論
これに対し、しばしば耳にするのが、「安全保障のジレンマ」を根拠とする反論だ。
抑止力を高めるという理由で一方が軍事費を増やせば、他方も力の均衡を求めて対抗的に軍事費を増やし、かえって緊張が高まるという考え方が、「安全保障のジレンマ」だ。
新疆ウイグル自治区で、軍を視察する習近平国家主席(7月15日)=新華社AP
果て無き軍拡競争が望ましくないことは理解できるものの、中国の軍事費増強が、日本や米国の防衛費、軍事費の増額によって引き起こされたのかと言えば、そうではない。
2000年代初頭にはほぼ 拮抗きっこう していた日中の防衛費・国防費は、2020年代に入ると中国が日本の4倍以上にまで伸びて、バランスは既に崩れている。
この間、日本では「構造改革」を旗印に財政規律を重視した小泉純一郎政権のもと、防衛費の削減が行われた時期もある。
日本が防衛費を減らす中で中国は国防費の増強を続けてきたのだから、中国を相手にした「安全保障のジレンマ」は、もともと存在していなかった。
「身の丈にあった」軍事増強を図っている中国
日本の防衛費がどうなろうと、米国の意図がどうであろうと、中国は中国の発想と戦略で、軍事費の増強を続けていると見た方が、今後の中国の動きを見誤るリスクを小さくできるように思える。
果て無き軍拡競争が続くという悲観的な展望も、中国が北朝鮮とは違い、「身の丈にあった」軍事増強を図っているという視点を持って分析すれば、いささか誇張されているように感じる。
軍事演習で台湾周辺を飛行する中国軍の軍用機(8月7日)=新華社AP
日本の4倍超に達した軍事予算は、金額こそ大きくても、国内総生産(GDP)比で見ると、ほぼ同じ比率を充当し続けているに過ぎない。
統計の正確性の問題はあるものの、中国の国民生活を切り詰めたうえで共産党政権が国防予算に資金を回しているとは言い難い。
中国の著しい軍拡は、中国の著しい経済成長の伸びに裏付けられてきたとも言え、中国の成長が鈍化し始める中、将来、どれだけの財源を国防費に回すことができるのか、冷静に見ていく必要がある。
「日本の防衛費増額は中国のさらなる軍拡を招く」という主張は、分かりやすい反面、粗すぎる。
「民主主義対権威主義」に分断する危うさ
民主主義をめぐっても、日米欧が共有する考え方と、中国流の“民主主義”のずれを見過ごすと、誤解が広がる。
中国の唱える「民主的な国家運営」と、選挙で選ばれた国会議員を中心に国の営みが行われる日本のような民主主義との間に大きな落差があることは間違いないにせよ、中国には中国の理屈がある。
ペロシ氏が台湾の蔡英文総統との会談で、「今日の世界は民主主義と権威主義(autocracy)の間の選択に直面している」と発言したように、国際社会を「民主主義と専制や独裁を含む権威主義の対立」と見なす傾向は、ロシアによるウクライナ侵略以降、強まっている。
問題は、各国が必ずしも同じ基準で「民主主義」を測っているとはいえない中で、日米欧のような考え方とは違う国々を「敵視」するようなものの言い方は、対立を先鋭化させる危うさをはらんでいることだ。
対立軸に置くべきは「国連憲章、国際法」
その観点から印象的だったのは、22年5月に国際会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)のために来日したシンガポールのリー・シェンロン首相の発言だ。
リー首相は、世界を民主主義対権威主義の対立としてとらえることに懸念を示し、「国連憲章、国際法に違反しているかどうか」を対立軸に置くべきだと訴えた。
シンガポールの外交官は「国際社会に発信したかったのは、まさにその点で、演説の中でももっとも時間をかけて練り上げた部分」と解説する。
ペロシ氏の台湾訪問が「中国を怒らせた」と騒ぐのは簡単だ。
そうした側面があることも、否定しない。
それでも、台湾海峡の緊張を高めているのは中国であることを忘れ、日米が静かにしていれば問題は起きないという態度をもたらす「幻想」は、そろそろ振り払った方がいい。
●ペロシ下院議長「常態化させない」と中国非難、訪台後初会見 8/11
ペロシ米下院議長は10日記者会見し、中国の反発を招いた自らの台湾訪問の目的について、「台湾の繁栄する民主主義を称賛するためだ」と述べ、訪台以降、中国が台湾周辺で軍事演習を実施し圧力を強めていることについて「ある種の新常態を作り出そうとしている。そのようなことは起こさせてはならない」と述べ、中国が台湾の現状変更を試みようとしている現状を非難した。
事前に明らかになった訪台計画についてバイデン大統領が「軍は良い考えと思っていない」と否定的な見解を示して波紋を呼んだが、ペロシ氏は「われわれは米軍、彼らの準備を誇りに思っている」と強調。「米軍は現実にわれわれの移動に対する中国の影響力を極小化させた。軍がわれわれに行かないよう話したことは全く記憶にない」と説明した。
また、中国がペロシ氏と家族を制裁対象にしたことについて、同氏は、中国が人権弾圧を続ける香港やチベット、新疆(しんきょう)ウイグル自治区を挙げながら「専制主義は平和的な場所ではない」としたうえで、「われわれが台湾に行ったのは、米国の友情を示し、『中国は台湾を孤立化できない』と話すためだった」と強調した。
●米、中国による台湾への圧力常態化を容認せず=ペロシ下院議長 8/11
ペロシ米下院議長は10日、中国による台湾に対する新たな圧力の常態化を米国は容認しないと述べた。
中国はペロシ氏の台湾訪問を受け、台湾周辺で約1週間にわたり軍事演習を実施。ペロシ氏は共に台湾を訪問した4人の民主党下院議員と記者会見し「中国は新常態を作ろうとしているが、容認できない」とし、「私たちは台湾との友好を示し、中国に対し台湾を孤立化させることはできないことを示すために訪問した」と述べた。
またラジャ・クリシュナムルティ下院議員によると、代表団は台湾への武器売却についても協議。下院外交委員長のグレゴリー・ミークス議員と共に、迅速に進めるための措置が議会で進められていると明らかにした。 

 

●米韓関係を侮辱?ペロシ下院議長に会わなかった韓国大統領… 8/12
尹大統領ペロシ氏との会談見送り 空港出迎えもなし
米国政界のナンバー3、ペロシ下院議長の台湾訪問に中国が激しく反発し、台湾海峡の緊張が一気に高まっている。
中国は台湾を取り囲む6つの海空域で軍事演習を展開、弾道ミサイル発射や台湾本島侵攻を想定した訓練が実施された。台湾国防部(国防省に相当)によれば、中国軍は演習初日の4日に弾道ミサイル計11発を発射。日本政府はこのうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したと発表し、中国政府に抗議した。
ペロシ氏は3日夜、台湾の次の訪問地・韓国に到着した。だが、韓国側の対応は緊張感に欠けるものだった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は夏休みを理由に面会せず、空港への出迎えにも韓国政府関係者の姿はなかったからだ。
今回のペロシ氏のアジア歴訪で、首脳が面会しなかったのは韓国だけだ。米国の同盟国である韓国が、台湾海峡危機に「我関せず」との態度を取ったのでは、中国に誤ったメッセージを送ることになりかねない。これには与党「国民の力」や保守層からも、批判が相次いだ。
「同盟国の米国の議会の最重要人物が訪韓したのに、大統領が会わないというのは理解できない」「米韓同盟の強化を主張してきたはずが、外交に一貫性がない」
こうした批判に大統領側は急きょ、ペロシ氏と尹大統領の電話会談を設定した。大統領室の広報首席はユン大統領がペロシ氏と会わなかったことについて「米国側に事前に説明し、ペロシ議長側も状況を十分に理解した」と釈明した。中国を意識したのではないか、との指摘に対しては「国益を相対的に考慮して決定した」と回答を避けた。
また、空港に政府関係者が出向かなかったことについては「ペロシ議長に関する儀典は(カウンターパートである)韓国国会が担当するのが外交上・儀典上の慣例」であり、「米国側が出迎えを断ったもので、双方の了解と調整ができている」と説明した。
「米韓関係を侮辱するもの」米国も懸念
米国側にも懸念が広がった。
米国務省で政策企画室長を務めたミッチェル・リース氏は、米政府系放送局「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」の取材に対し、尹大統領がペロシ氏に会わなかったのは「韓国と米国の関係を侮辱するもの」であり、大統領室側の「二重のミス」だと厳しく批判した。
また、米外交協会のスコット・スナイダー米韓政策局長は「尹大統領がペロシ議長に会わないと決めたのが休暇のためなら問題ないが、中国の顔色をうかがったのなら間違いだ」と苦言を呈した。
尹大統領は大統領選挙の公約に米韓同盟の強化を掲げ、6月末にスペインで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の演説でも、北朝鮮の非核化への協力を訴え、自由と平和を守るには国際社会の連帯が重要と強調してきた。
しかし、今回の対応は、韓国が米国の同盟国として中国の圧力にどこまで本気で対応する覚悟があるのか、疑問を抱かせる結果となった。結局、中国に配慮して台湾海峡問題にも消極的だった文在寅(ムン・ジェイン)前政権と変わらないのではないか、との疑念が生じている。
「韓国は台湾を助けられない」尹政権の本音
台湾有事で韓国側が最も危惧するのが、朝鮮半島における安全保障の空白だ。韓国軍や在韓米軍の目が台湾に集中し、韓国防衛が手薄になるのを狙って、北朝鮮が韓国に軍事侵攻する可能性があると見ているためだ。通常兵力では韓国軍にはるかに劣る北朝鮮だが、台湾有事のタイミングで奇襲やサイバー攻撃を仕掛ければ、韓国社会は大混乱に陥るだろう。米国も台湾と朝鮮半島の2正面作戦を強いられることになる。
尹政権のある外交ブレーンはこうした事態を想定し、「韓国の武器を台湾で使うことはできない。韓国は台湾有事の際に台湾を助けることはできない」と本音を語った。
ただ、中国軍が在韓米軍や在日米軍の基地を攻撃すれば、韓国も否応なく有事に巻き込まれることになる。
8日付の朝鮮日報は、中国が大規模演習を実施した5日、在韓米軍のU2偵察機が台湾海峡付近を飛行したと報じた。U2偵察機は在韓米軍の烏山(オサン)空軍基地に常駐している。烏山は台湾有事の際に米軍の拠点となる場所でもある。
北朝鮮の動向も気になるところだ。
ロシアのウクライナ軍事侵攻以降、北朝鮮はロシア・中国寄りの立場をより鮮明にし、すべての責任は「米国にある」と対米批判を繰り返してきた。
国連安保理では、ロシアの軍事侵攻や北朝鮮の弾道ミサイル発射に対する決議案は、中国やロシアの拒否権行使によって否決され、国連の機能不全があらわになっている。こうした状況を北朝鮮は「核・ミサイル開発の好機」ととらえており、朝鮮半島での「戦術核の使用」もちらつかせて米韓をけん制している。
ペロシ氏の訪台を機に北東アジアは緊張が高まっている。
中国は台湾近海での軍事演習を常態化させる構えだ。北朝鮮もウクライナや台湾海峡の情勢を読みつつ、中ロと連携を取りながら日米韓に揺さぶりをかけてくるだろう。
台湾有事は、まさに「日本有事」であり「韓国有事」である。日米韓が結束し、外交・安全保障のあらゆる面で対応を急がなければならない。
●習近平は動揺している…中国共産党の「プロパガンダ」から見えた「本音」 8/12
中国のホンネとタテマエが見える
ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問は、中国に激震を与えている。中国人民解放軍は8月8日、軍事演習の続行を発表し、中国共産党系の新聞、グローバルタイムズはいまも、ペロシ批判一色で紙面を埋め尽くしている。彼らはいったい、何を訴えているのか。
グローバルタイムズは、中国共産党系の「環球時報」の英語版だ。このコラムでも、たびたび紹介してきたが、英語で発信しているので、中国語版より読みやすく、私はすっかり愛読者になった。中国理解のために朝日新聞を読むくらいなら、私はこちらをお勧めしたい。
中国のタテマエ(裏側に潜むホンネも)がよく分かるし、朝日のように妙に気取って、ネジ曲がった「良心」を押し付けるようなところもない。自分の意見と違うのは当然だが、中国共産党の新聞と割り切れば、朝日と違って、べつに腹も立たない。
そこで、今回は8月7日時点で公開されていた記事(電子版)を紹介しよう。なぜかと言えば、この日は異様なほどペロシ批判の記事が満載されていたからだ。それは、読まれた記事のランキングに表れている。
ランキングの輝く第1位は「台湾海峡の緊張をめぐる中国に対する根拠のない非難について、米国は同盟国から限られた支持しか得ていない。それは『1つの中国原則』が国際的な共通理解になっている証明だ」と題する記事だった。
〈米国は、ペロシ下院議長の訪台を受けた中国の軍事行動を非難するのに、米国と同じスタンスをとるよう、同盟国に働きかけた。だが、限られた影響力しか発揮できていない。日本やオーストラリアは米国と歩調をそろえているが、欧州の同盟国や韓国は、はるかに慎重な姿勢だ〉
〈ドイツの外務省報道官は、いかなる非難もせずに「問題は平和的に、すべての関係国による合意で解決されるべきであり、地域の緊張緩和が必要」と述べた。別のスポークスマンは会見で「ドイツは1つの中国政策にコミットしている」と語った。これは少なくとも、G7の声明より中立的で、微妙な違いがある。韓国の外相も「1つの中国」政策を支持し「台湾をめぐる緊張激化に懸念」を表明した〉
〈中国外務省の報道官は会見で「ペロシ訪台の後、160カ国以上が訪問を深刻で向こう見ず、無責任な挑発と批判し、1つの中国原則への支持と、中国の主権と領土の一体性を守る努力を支持した」と語った〉
興味深いのは、日本の林芳正外相の名を挙げて「米国、オーストラリアとともに、中国を非難している」と批判した点だ。私に言わせれば、親中姿勢が顕著な林氏は、到底、米国やオーストラリアと同じとは言えない。だが、記事は同列に扱っている。
これは、林氏を「対中強硬派」として扱うことで、日本の世論を誘導する狙いだろう。林氏を中国自らが「親中派」と認定してしまったら、日本国内の保守派から反発を受けて、林外相の座が危うくなりかねない。そうならないよう、あえて「強硬派」として扱っているのだ。
中国らしい深謀遠慮である。逆に言えば、だからこそ、林氏は正真正銘の親中派と言える。中国に援護射撃してもらえるほど、彼らには大事な存在なのだ。
岸田政権への批判に隠された本心
ランキング第2位は「日本の不安心理は日本自身が作り出したものだ」と題した6日付の社説だった。これには、米国人を載せた人力車を一生懸命、日本人が引っ張っている風刺画が付いている。
〈ペロシ氏が韓国に登場したとき、彼女は一度も「台湾」という言葉を使わなかった。ところが、日本では一変して、注目を集める態度をとった。彼女は記者会見で、訪台は地域の現状変更を意味したものではなく、中国の「台湾孤立化」を阻止するためだ、と語った〉
〈この対照的な態度は、彼女が日本を「腹心の友」とみているからだ。だが、米国の政治家の腹心の友であることは、日本に恥辱と破滅をもたらすだけだ。岸田文雄首相は中国を名指しして、ミサイル演習を「日本の安全保障に衝撃を与える深刻な問題」と語った〉
〈地理的な近さから、日本が台湾海峡の平和と安定を懸念するのは、当然のように思える。だが、日本はペロシ氏の台湾訪問にしっかり反対すべきではなかったのか。当局者は「日本はコメントする立場にない」と言った〉
〈そもそも、日本には、台湾問題で発言をする資格がない。台湾を長い間、植民地支配しただけでなく、そのことを反省もしていない。日本が中日共同声明を含む4文書を無視しているのは、裏切りである。米国の戦略に歩調を合わせているのは、賢明ではない。日本が歴史の教訓に学ばず、平和と安定を望む地域の期待に応えないのは、道義に反する〉
この記事がランキング2位を占めたのは、それだけ、中国が日本の反応を気にしている証拠である。
ここでも、岸田首相の親米反中路線を非難しているが、これも岸田政権の「親中姿勢」を見抜いたうえで、そんな政権にできるだけ長続きしてもらうためには、中国があからさまに応援して、日本国内で反岸田世論が高まってもらっては困る。そう読んだうえで、あえて政権を批判してみせているのだ。
軍事面でも中米関係は悪化しているが…
続いて、第3位は何だったか。それは「台湾問題で米中軍事関係が4回も悪化したのは、米国の責任」という署名記事だった。以下のようだ。
〈ペロシ訪台を受けて、中国は8つの対抗措置を発表した。そのうち、3つは軍事関係である。すなわち、中国は米中戦域司令官協議と防衛政策調整協議、海上安全保障対話メカニズムの3つをキャンセルした〉
〈最近の中米関係において、両軍関係の安定は、中米関係が制御不能に陥るのを防止する「ブレーキパッド」の役割を果たしてきた。だが、ペロシ訪台にともなって、軍関係は急速に悪化している。これほど低下したのは、これで少なくとも4回目だ〉
〈最初は1995年から96年にかけて、当時の台湾の指導者、李登輝氏が訪米したとき。2008年10月には米国が台湾に60億ドル相当の武器を売却した。2010年1月にも、同じく64億ドル相当の武器を売却した〉
〈現場レベルの対話チャネルである防衛政策調整協議と海上安全保障対話メカニズムは、軍事的コミュニケーションを図るうえで、重要な役割を果たしてきた。だが、今回の措置によって機能不全に陥るだろう。誤解と予期せぬ出来事を招く可能性を高めるが、それは米国の責任だ〉
記事では、習近平総書記(国家主席)が7月28日にジョー・バイデン米大統領と電話会談した際の発言と同じ言い回しで、専門家が「中国の行動は米国に対する『火遊びをすれば、やけどする』という警告だ」と強調した。
ただし、最後に「中米軍事関係はどん底だが、すべてのコミュニケーション回路が閉じられたわけではない。ホットラインはいまも生きている。緊急時の対話は可能だ」と付け加えている。これが本心のように見える。
中国の宣伝戦の「したたかさ」
第4位は「ペロシ氏の訪台後、アップルが部品供給者に中国の関税ルールに従うよう求めた」という記事だった。これは日経アジアの記事の紹介だ。
アップルは中国が貿易制裁を強化する事態を懸念して、事前に台湾の部品供給者に対して、供給する部品には「made in Taiwan」を避けて「Taiwan,China」あるいは「Chinese Taipei」と表記するよう求めた、という。
記事は、これまであまりチェックは厳しくなかったが「中国の当局者が規則の執行を厳格にすれば、台湾からの部品が中国本土で没収される可能性がある」と報じた。
第5位は「台湾の緊張が沖縄の人々の懸念を高めている、と日本の研究者が指摘している」という署名入りの記事だ。この記事には、龍谷大学の教授で、政治活動家のM氏が実名入りで登場する。
M氏はグローバルタイムズに対して「台湾は中国の領土であり、日本のものでも米国のものでもない」ので、台湾問題に日本や米国が介入する権利はなく、歴史に批判されるだろう、とコメントしている。沖縄では「ペロシ氏の挑発的で危険な行動に対して、怒りが広がっている」そうだ。
記事には「軍事基地強化を絶対阻止しよう」と書かれたプラカードを手にしたデモ隊の写真が添えられていた。沖縄の米軍基地反対運動が「中国に都合がいい」のは、言うまでもない。
第6位は「パキスタンは『1つの中国原則』と、鉄の兄弟が主権と領土の一体性を守る努力を固く支持する」というパキスタンの駐中国大使に対するインタビュー記事だ。「鉄の兄弟」とは「パキスタンと中国は、鉄の団結を約束した兄弟」という意味だ。
以上6本の記事には、すべて「8月6日公開」のクレジットが入っていた。つまり、なんとトップから6位までが、軍事演習の真っ只中に書かれたペロシ訪台の関連記事なのだ。これを見ても、いかに中国がペロシ訪台に衝撃を受けたか、を物語っている。
しかも自国の専門家だけでなく、各国の反響、日本の政治活動家、日本のメディア報道も動員して、対日、対米批判を大展開したのだ。7日付電子版では、キューバの駐中国大使のインタビューやニューヨーク・タイムズの記事も紹介して、批判した。
日本も宣伝戦で負けてはならない。
●米高官「ペロシ氏台湾訪問後、バイデン大統領が対中関税を慎重に検討」  8/12
中国外交部(外務省)の11日の定例記者会見で、汪文斌報道官が米国の対中関税に関する質問に答えた。
【記者】レモンド米商務長官はブルームバーグのインタビューで、バイデン大統領がトランプ政権期の対中追加関税について非常に慎重な姿勢を取っており、現在様々な選択肢を吟味していると述べた。この問題は、ペロシ米下院議長の台湾訪問によって一層複雑化したという。これについて、外交部としてコメントは。
【汪報道官】我々がすでに繰り返し指摘してきたように、貿易戦争に勝者はいない。米側の一方的な追加関税は米国、中国、世界のいずれにも利益にならない。対中追加関税の早期の完全撤廃は米国、中国、世界のいずれにも利益になる。現在の台湾海峡情勢の緊迫化の因果関係は明確であり、理非曲直は一目瞭然だ。つまり、米側が自ら進んで挑発し、危機を作り出したのだ。米側は、ペロシ氏の台湾地区訪問の悪質性をしっかりと明確に認識し、そのもたらした重大な結果を深く再考し、直ちに過ちを正すべきだ。米国は、中国が自国の核心的利益を取引の対象とすることを期待してはならず、「一つの中国」原則と中米間の3つの共同コミュニケに誠実に立ち返るべきだ。
●米中貿易協議、めど立たず 関税見直し難航―ペロシ氏訪台 8/12
米中が双方からの輸入品に課している関税の見直しが難航している。ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけに両国間で緊張が高まっているからだ。米中はともに関税引き下げは経済効果があるとみているが、今秋に米国は中間選挙、中国は共産党大会を控えて互いに弱腰を見せられず、貿易協議再開のめどは立っていない。
「米中の地政学的状況は極めて複雑化した」。レモンド米商務長官は10日、米ブルームバーグテレビに対し、ペロシ氏訪台の影響についてこう分析した。バイデン米政権は物価高対策として対中制裁関税の引き下げを検討。中国にも対米報復関税を下げるよう求めてきた。だが中国は応じず、協議は「やや困難になっている」と明かした。
バイデン大統領と中国の習近平国家主席は先月下旬、ペロシ氏訪台前の電話会談で、台湾情勢をめぐり激しい応酬を繰り広げた。米高官によるとバイデン氏は、焦点の一つだった対中関税引き下げを会談で採り上げなかった。中国の譲歩なしに制裁を緩めるのは難しいと判断したとみられる。
中国が前例のない軍事演習で米台接近をけん制し、米政府は対中関税の見直しに慎重になっている。政権支持率に響いている高インフレの抑制策として、消費財への上乗せ関税を下げる一方、半導体など重要物資の関税は上げる選択肢を検討。だがロイター通信は「いったん保留した」と伝えた。
一方、ペロシ氏訪台に猛反発した中国は8項目の対抗措置を発表した。米中間の軍事分野や気候変動対策の交渉停止が含まれるが、貿易協議には言及していない。中国経済が悪化する中、米国による関税引き下げを成果として勝ち取りたい考えで、対話の余地を残したとも受け取れる。
トランプ前米政権が仕掛けた米中貿易戦争は、双方の経済にとって足かせとなっている。米中首脳は初の対面会談に向け調整を進めることでは合意しており、貿易協議の行方は予断を許さない。 
●ペロシ米下院議長の台湾訪問待っていた?中国の思惑とは 8/12
ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、米中対立がいっそう激しくなり、台湾有事も現実味を帯び始めている。台湾を内政問題と位置づける中国はペロシ米下院議長の訪問直前、当然のように強く反発し、米国を強くけん制していた。中国外務省はペロシ氏が訪問すれば断固たる対抗措置を取ると警告し、習国家主席もバイデン統領との電話会談で「火遊びをすればやけどをする」と ペロシ米下院議長の台湾訪問に強く釘を刺した。しかし、中国による米国へのけん制は効かず、習政権は完全にメンツを潰された格好になった。
中国が一連の事態に反対していたことは間違いない。これまでのところ、多くのメディアは“中国が反対”、“中国が反発”などという言葉で表現している。しかし、筆者には“反対”、“反発”という言葉以上に“待っていた”という言葉が脳裏に浮かぶ。つまり、中国は反発を示す一方で、今回のペロシ米下院議長による台湾訪問を待っていたということだ。
それは習政権が掲げる海洋戦略にある。簡単に説明すると、中国には第1列島線、第2列島線を超え、米国に対抗するため西太平洋で軍事的影響力を高めるという戦略目標がある。また、国家主席に就任して間もない習氏は2013年、訪米した際に当時のオバマ大統領に対して、「太平洋には米中がそれぞれ自由に活動できる十分な空間がある」という太平洋分割統治論を提唱した。
こういった戦略やビジョンを持つ中国からすれば、“今回米国のペロシにやりたいようにやられたのだから、我々も太平洋(に近づくため台湾周辺)で軍事活動を強化する”という言い訳が成立することになる。たとえば、ペロシ米下院議長の台湾訪問に強く反発してきた中国は当初、8月7日まで4日間の日程で軍事演習を実施する予定だったが、その後も軍事演習を続け、それを常態化させる様子を見せている。中国は日本政府が尖閣諸島の国有化宣言を行ったことをきっかけに、今日まで中国海警局の船を尖閣周辺で航行させる活動を常態化させているが、今回もペロシ米下院議長の台湾訪問を1つのトリガーとして、現状変更の常態化を狙う可能性が高い。
中国は、尖閣周辺や台湾周辺での軍事活動を常態化させることで米国をけん制し、自らの海洋勢力圏をどんどん東方へ延ばそうとしている。こう考えると、中国は米国にして、“やれるものならやってみろ!お前がやればこちらはそれを口実にあらゆる手段で対抗する”と思っていることは間違いない。むしろ、米国から圧力を掛けられることを待っているかのような態度だ。今後も同じようなことがあれば、中国は反発するだろう。しかし、狙いはただ反発するのではなく、中国はそういった事態を待って、それを口実に行動をエスカレートさせようとしている。
●ペロシ氏訪台と中国の激烈反応 弾道ミサイルEEZ着弾 反応薄い日本政府 8/12
ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問(2〜3日)と、それに激烈に反応する中国の言動。世界の耳目は先週、そこに集中したわけですが、日本の政府もメディアも当初、薄い反応しかしなかったことに驚きました。
世界中、とりわけ欧米の東アジア専門家はこぞって論考を発表し、メディアはペロシ氏の訪台を生放送で見届けました。
世界の航空機の動きを追跡するサイト「フライトレーダー24」は、ペロシ氏の専用機が直前の訪問地マレーシア・クアラルンプールを発つとアクセスが急上昇しました。2日夜、台北に到着するころには70万人以上が閲覧していました。フライトの一部を追跡した人は290万人以上でした。
この経路が注目です。クアラルンプールから台北に向かうには南シナ海を横切るのが最短ルートですがそうせず、まず真東に飛んでカリマンタン島を通過、フィリピン東方で北に変針して台北に向かいました。
台湾を発って韓国に向かう際も、東シナ海をまっすぐソウルに向けて北上するのではなく、南西諸島を沖縄本島周辺まで東に迂回(うかい)してから北上しました。
一連の航跡は、中国が主張する第一列島線と見事に重なります。すなわち、第一列島線が米中の勢力均衡点であり、日本は最前線に位置しているのです。まさに、「台湾有事は日本有事」です。
ペロシ氏訪台を受け、中国の大規模な軍事演習が4日から始まりました。設定された演習区域は、台湾封鎖であると同時に、日本にも強烈な脅しとなりました。
1995〜96年の「第3次台湾危機」では、台湾海峡周辺や中国沿岸が中心でしたが、今回は台湾海峡のみならず、沖縄県・与那国島を挟むかたちで南北2カ所、さらに台湾とフィリピンの間のバシー海峡でも演習を行いました。
仮に、台湾海峡とバシー海峡が演習で通れなくなった場合、日本へ向かう船舶は南シナ海からフィリピンの間を抜けてフィリピン海に至り、そこから北上していくことになります。時間もコストも相当上乗せされます。そうなると、原油や天然ガスがますます高騰するわけで、国民生活にどれほど打撃になるか。
与那国島などへの直接的な軍事的脅威だけでなく、日本国民の生活を人質にとったようなものです。この明確な威嚇に、どうして政府もメディアも大きく反応しないのか甚だ疑問です。
日本の排他的経済水域(EEZ)への弾道ミサイル着弾について、岸田文雄首相が翌日、「わが国の安全保障および国民の安全に関わる重大な問題だ。中国に対し強く非難し、抗議した。軍事訓練の即刻中止を求めた」と公表しましたが、なぜ当日のうちに声明を出さなかったのでしょうか?
臨時国会もあろうことか3日で閉会してしまいました。中国側に「脅せば黙る」という前例をつくることは、将来への脅威になると思います。

 

●ペロシ氏訪台前に、習近平氏「戦争する意図ない」とバイデン氏に示唆… 8/13
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は11日、中国の習近平(シージンピン)国家主席が7月28日にバイデン米大統領と電話会談した際、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問すれば対抗措置を取ると警告しつつ、米国と戦争する意図はないことを示唆したと伝えた。複数の関係者の話だとしている。
報道によれば、習氏は会談で、「今は本格的な危機を迎える時期ではない」との趣旨の発言をした。米中両国が平和と安全を維持する必要があるとの考えもバイデン氏に伝えた。
ペロシ氏訪台を受け、中国は台湾周辺で軍事演習を行い、米国との軍幹部同士の協議中止などの措置も発表した。報道は、秋の共産党大会を控えたタイミングでのバイデン氏との会談は、習氏にとって政治的に危険だったものの、米国との衝突リスクを最小限にするために実施を決断した、と指摘した。
●中国、台湾の現状変更の口実としてペロシ氏訪台を利用=米高官 8/13
米国家安全保障会議(NSC)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官は12日、中国はペロシ米下院議長の台湾訪問に「過剰に反応」し、台湾海峡の現状を変えようとする口実として利用していると述べた。
電話で記者団に対し「中国は過剰に反応し、その行動は挑発的で不安定かつ前例のないものであり続けている」とし、台湾に対する圧力強化の一環と指摘。中国の軍艦数隻が台湾周辺に残っており「今後数週間から数カ月にわたって展開し続けることが予想される」とした。
●米ホワイトハウス高官 中国に軍事分野での協議など再開求める  8/13
アメリカ・ホワイトハウスの高官は、中国がペロシ下院議長の台湾訪問への対抗措置として台湾周辺で軍事的な圧力を強めていることについて改めて批判するとともに、中国が中止するとした軍事分野での協議などを再開するよう求めました。
アメリカ・ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のキャンベル インド太平洋調整官は12日、電話会見を開き、中国がペロシ下院議長の台湾訪問への対抗措置として台湾周辺で軍事的な圧力を強めていることについて「訪問を口実に台湾海峡や、その周辺の平和と安定を脅かし、現状を変更しようとしている。彼らの目的が台湾に脅威を与え、威圧し、弱体化させることなのは明らかだ」と述べて中国を批判しました。
ただ、アメリカとしては従来の「1つの中国」政策を堅持するとともに台湾独立は支持しないことを改めて強調し、対話は継続していきたい考えを示しました。
その上で、中国が中止するとした軍事分野での協議などについて「大国の責任として世界が求めている」と述べて中国政府に対し協議の再開を求めました。
一方、バイデン大統領と中国の習近平国家主席がことし11月にインドネシアで開かれるG20=主要20か国の首脳会議にあわせ、初めての対面での会談を行う可能性について問われると「両首脳は会談の実施に向けて調整することで一致しているが、具体的な日程や場所について何も決まっていない」と述べました。
●米軍艦艇、台湾海峡通過へ=数週間以内、対中けん制 8/13
米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官は12日、中国による軍事的挑発を受け、米海軍の艦艇が今後数週間以内に台湾海峡を通過すると明らかにした。中国による台湾侵攻を容認しない姿勢を明確にするのが狙いだ。
1995〜96年の台湾海峡危機では、米海軍の空母が海峡を通過し、中国に対する軍事的優位性を誇示した経緯がある。ただ、中国軍はその後、質・量共に軍備を大幅に増強しており、海峡をめぐる緊張が一段と高まる恐れもある。 
キャンベル氏は記者団に対し、「国際法が許す限り、航行の自由に対するわれわれの長年の関与に基づき、海路・空路の航行を続けていく」と強調。「今後数週間以内に台湾海峡を通過する活動も含まれる」と述べた。
ペロシ米下院議長の台湾訪問を受け、中国は台湾周辺で前例のない規模の軍事演習を実施。台湾も実弾による射撃訓練を行うなど、海峡を挟んで緊迫度が増している。
キャンベル氏は、中国がペロシ氏の訪台に「過剰に反応し、それを口実に台湾海峡の現状を変えようとしている」と非難。10隻以上の中国軍の艦艇が台湾周辺にとどまっていると指摘し、「(軍事的挑発は)まだ終わっておらず、今後数週間、数カ月と続くだろう」との見方を示した。
●ペロシ訪台の余波。「1つの中国」という“踏み絵”を迫られる台湾芸能界 8/13
ペロシ米下院議長の訪台による波紋、いわゆる「ペロシ・ショック」は、様々な方面に影響を及ぼし、中国の軍事行動を正当化する口実にも利用されていますが、エンターテインメント業界にも大きく広がっています。
冒頭のニュースでは、ナナ(欧陽娜娜)、レイニー・ヤン(楊丞琳)、アンバー・クォ(郭采潔)など、台湾の芸能界で第一線で活躍する人たちが、自身のSNSで「中国はひとつだ」というハッシュタグを付けたと報道されています。
一方で、全く関係のない投稿さえも無理やりに政治的な問題にされてしまっています。以下、報道を一部引用します。
女性グループ「S.H.E」のメンバー、ヒビ・ティエン(田馥甄)のアカウントが炎上している。やり玉に挙げられたのは、2日に投稿したパスタを食べる写真で、ペロシ氏がイタリア系米国人であることから「ペロシ氏の訪台を支持している」として中国人ネットユーザーの怒りを買ったとみられる。この投稿はすでに削除された。
政治的なことに巻き込まれたくない芸能人は沈黙を保ったり、自身のSNSを閉鎖したりしていますが、沈黙さえも中国側からネットで叩かれてしまっています。以下、報道を一部引用します。
台湾出身の女性3人組アイドルグループ「S.H.E」のメンバー・田馥甄(ヒビ・ティエン)や台湾の人気男性アイドルグループ「飛輪海」のメンバーの炎亜綸(イェン・ヤールン)は、一つの中国原則を支持する発言を行わなかったため、炎上した。
台湾の芸能人が「ひとつの中国」を支持するかどうかの踏み絵を踏まされるのは今に始まったことではありません。台湾人に限らず、中国人や中国系韓国人など、中国と少しでも関係のある芸能人は、この踏み絵を踏まなければならない状況にあります。
かつては、中国の実力派女優ヴィッキー・チャオ(趙薇)が、何らかの政治的圧力を受けて芸能界から消えました。理由はいろいろ囁かれていますが、アリババグループの創業者ジャック・マーと親交があったことが大きかったと言われています。
中国政府に目をつけられた人物は、徹底的に叩かれ再起不能にされます。中華圏の人々はその恐ろしさを知っているからこそ、形だけでも「ひとつの中国」を支持するような行動を取るのでしょう。
香港の雨傘革命に参加した香港のポップス界のスター、デニス・ホー(何韵詩)は、中国大陸での活動を「封殺」されたため、「収入の8割を失った」とのことです。
彼女はその後台湾に渡り、台湾のメタルバンドでボーカルを担当すると同時に議員でもあるフィレディ・リム(林昶佐)とセッションをしたり、活動の場を台湾に移しています。
中国に媚びたい芸能人は、これ幸いに自身の政治的立場をアピールしています。中国国籍のK-POPアイドル「NCT」、「WayV」のメンバー「ウィンウィン」は、
SNSに「#一つの中国」というハッシュタグと共に中国CCTVニュース番組のキャプチャ画像をアップ。画像には大きな漢字で「中国」と書かれており、その上に「台湾」が小さく描かれています。
台湾、香港、中国という中華圏の芸能界は、かつては盛んに交流があり、未熟な中国のエンタテインメントを台湾や香港の関係者が支えるかわりに、大規模な中国市場を共有するというような現象もありました。
しかし、政治状況が変わった今となっては、中国での芸能活動をしたい人はまず踏み絵を踏むことを強要されます。避けて通れば、避けたことを非難され、中国での活動は不可能でしょう。
こうした事態は、早晩やってくるだろうとは思っていました。ペロシ氏の訪台は、その機運を表面化させたきっかけにすぎません。これからは、芸能界関係者もさらなる慎重な行動が求められることでしょう。ただし先週も述べましたが、今回のことは中国との付き合い方を変えるいいチャンスでもあります。
タイ、香港、台湾、ミャンマー、インドの若者たちによる民主化、反中国の連帯「ミルクティー同盟」などを意識して、新たな海外市場を目指すということも、チャイナリスクを避けるために考えるべきだと思います。
台湾アイドル1つの中国°藻ロで炎上! いずれ日本の芸能人にも「踏み絵」 8/9
中国人民解放軍が台湾周辺で4日から展開してきた大規模な「重要軍事演習行動」は7日、当初の日程を終えた。ただ台湾方面を管轄する東部戦区は8日も演習を継続。台湾への軍事圧力を常態化させる構えとみられる。
台湾を自国の一部と見なす中国は、先日のペロシ米下院議長の訪台が「内政干渉」に当たると猛反発し、対抗措置としての軍事演習を正当化。中国は今後、台湾への報復措置として経済制裁を徹底していくと予想される。ユーチューブチャンネル「地球ジャーナル ゆあチャン」で日中の情報を発信している中国人ジャーナリストの周来友氏はこう語る。
「報復措置には台湾への経済的圧力の他、台湾の人々を思想的に分断する誘導戦略もとられています。ペロシ氏の訪台を巡り、中国でも人気を博してきた台湾の芸能人たちが次々と封殺の対象となっているのです」
現在、ウェイボー(中国版ツイッター)では、中国でも活躍してきた台湾出身芸能人や香港出身の芸能人たちに対し、中国のネットユーザーたちから、政治的立場を明らかにするよう迫られる事態となっている。中国メディアやSNSで「一つの中国原則を表明しない台湾や香港のタレントは中国での活動を一切認めるべきではない」とする声が高まっているからだ。実際、中国で活躍している台湾や香港系の芸能人たちの中には「中国は一つしかない」という言葉をウェイボーに投稿し、中国に配慮する動きを見せている。
一方で、こうした政治問題とは距離を置くためSNSの更新を止めていたり、「中国は一つしかない」という言葉を投稿しなかった台湾の芸能人たちが、ネット上で叩かれている。
台湾出身の女性3人組アイドルグループ「S.H.E」のメンバー・田馥甄(ヒビ・ティエン)や台湾の人気男性アイドルグループ「飛輪海」のメンバーの炎亜綸(イェン・ヤールン)は、一つの中国原則を支持する発言を行わなかったため、炎上した。
周氏は「台湾問題は決して対岸の火事ではなく、日本にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。中国や台湾で活躍している日本の芸能人、日本企業などが今後、中国からこうした踏み絵を迫られる場面も増えてくるのではないでしょうか」と話している。
台湾芸能人「1つの中国」微博で相次ぎ表明 ペロシ氏訪台に中国猛反発で 8/4
ペロシ米下院議長の台湾訪問に中国が反発を強める中、中国で活躍する台湾の一部芸能人が中国のSNS「微博(ウェイボー)」を相次いで更新し、「1つの中国」への支持を表明している。
4日午後までに関連の投稿をしたのは、ナナ(欧陽娜娜)、レイニー・ヤン(楊丞琳)、アンバー・クォ (郭采潔)ら。ナナやレイニーは、中国の国営メディア「中国中央電視台(CCTV)」の投稿を転載し、「中国は1つだけ」というハッシュタグを付けた。
また、女性グループ「S.H.E.」のメンバー、ヒビ・ティエン(田馥甄)のアカウントが炎上している。やり玉に挙げられたのは、2日に投稿したパスタを食べる写真で、ペロシ氏がイタリア系米国人であることから「ペロシ氏の訪台を支持している」として中国人ネットユーザーの怒りを買ったとみられる。この投稿はすでに削除された。
NCT,WayVウィンウィン「一つの中国」支持投稿… 台湾情勢緊張で 8/3
米ペロシ下院議長が2日、台湾を訪問。米中間の緊張が高まる中、中国国籍のK-POPアイドルが「一つの中国」を支持するメッセージをSNSに掲載しています。
「NCT」,「WayV」のメンバー「ウィンウィン」は3日、SNSに「#一つの中国」というハッシュタグと共に中国CCTVニュース番組のキャプチャ画像をアップ。画像には大きな漢字で「中国」と書かれており、その上に「台湾」が小さく描かれています。
「一つの中国」は中国と台湾, 香港, マカオは不可分であり、合法的な政府は中国政府だけであるという主張です。多くのK-POP出身アイドルが香港民主化運動の時にも、この考えを支持する投稿をし、議論を呼んでいました。
「ウィンウィン」の投稿には1万2000件の「いいね」が付けられ、「オンリーワンチャイナ」「一つの中国万歳」とのコメントが殺到しています。
「ウィンウィン」以外にもK-POPアイドル出身の中国芸能人たちも同じようなメッセージをSNSに掲載。その中には、EXOレイ, EverGlowイロン, 宇宙少女ソンソ, Miss Aジア, f(x)ビクトリアなどがいます。
こういった中国アイドルのSNS投稿は韓国オンライン・コミュニティで話題に。ネットユーザーからは「SMもう中国人メンバー入れないで」「脱退してほしい」「NCTまたか」といったコメントが寄せられています。
中国に逆らえない台湾・香港の芸能人が追い込まれる「政治的な踏み絵」 2021/10
   ジャッキー・チェンの生きざまも翻弄する中国政治
今年5月、日本でジャッキー・チェン主演のアクション映画『プロジェクトV』が公開された。中影(上海)國際文化傳媒など複数の制作会社が絡んだ中国映画で、世界を股に掛けたボディーガード・チームの奮闘を描く、見どころ満載のジャッキー・アクションではあった。しかし、1970〜80年代に一世を風靡(ふうび)した往時の“香港のアクションスター”の姿は遠くかすむ。
「彼こそが中国のスターだ」と語る中国人ファンは少なくない。中国では成龍(チェン・ロン)の名前で活躍し、2010年に開催された上海万博では広報大使に任命され、2016年には中国共産党の国政助言機関である全国政治協商会議の委員に選ばれるなど、ジャッキーの軸足は確実に中国へのシフトを見せていた。
2014年、麻薬を使用した疑いでジャッキーの息子が北京市警察当局に逮捕されたが、薬物犯罪に厳しいとされる中国で、わずか6カ月の懲役で済まされたことも、中国法曹界で大きな波紋を呼んだ。同時に、「この事件以来、成龍は中国共産党に頭が上がらなくなった」という噂も流れた。
続いて今年6月には、香港ポップス界のスーパースター、デニス・ホーのドキュメンタリー映画「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」が日本で封切られた。この中では彼女のこれまでの音楽活動を軸に、自由と民主を守る闘いが描かれている。ホーもまた中国大陸で活動していた芸能人のひとりだが、2014年の雨傘運動に参加し逮捕されてからは、中国での仕事を打ち切られ、収入の8割を失ってしまった。その活動の軌跡は、ジャッキー・チェンとはまったく違う。
両者とも香港の大スターだ。しかし、中国の政治は一人の人間の生きざままでも容赦なく翻弄(ほんろう)していることが見て取れる。
   「けた違いの産業」に成長する中国コンテンツ
振り返れば、中国、台湾、香港の両岸三地のエンターテインメント業界には蜜月期もあった。今でこそ華やかな中国の芸能界だが、台湾や香港の芸能人や周辺産業の協力なしには発展できなかったと言っても過言ではない。
従来、中国のメディアといえば、専ら党を宣伝することがその目的であり、世界の潮流を取り入れることもなく、また大衆を楽しませるようなオリジナリティーにも欠けていた。80〜90年代は台湾や香港からドラマを買ってきて放送するなど、中国のテレビや映画は独自コンテンツがまだまだ限られていた時代だった。そのような中国のテレビ番組を大きく変えたのが、まさに台湾や香港の力だった。
日本でアジア関連番組を手掛けてきたフリーディレクターの植木康さん(仮名)は、「2000年代前後は、台湾や香港の制作者が中国に入り込んで共同制作した番組がヒットしたり、こうした流れの中で中国にこれまで見られなかったアイドル文化が生まれたりと、まさに台湾や香港が中国とともに芸能界を牽引した時代でした」と語っている。
徐々に開放が進み、2008年の北京五輪や2010年の上海万博などの節目を経て、中国のメディア業界は飛躍的に発展した。それどころか、テレビ業界は“けた違いの産業”へと驚異の成長を遂げたのである。
「中国のテレビ番組のクオリティーは非常に高いものになり、ドラマ制作に何百億円もかけるケースすら出てきました。逆に言えば、それほど投資マネーが集まるというわけです。お金をかければ質も上がるというのは当然の結果かもしれませんが、中国の番組制作者は世界のテレビ番組を実によく研究し、それをローカライズして制作できるようになりました。昔あったような“パクリ問題”も少なくなりました」(同)
例えば、2010年に中国で放映された『三国志 Three Kingdoms』(全95話)の総制作費は実に1億5000万元(日本円にして約25億円)。登場人物は280人、エキストラ数は延べ15万人を動員したという。そもそもこれだけの人を動かすロケ地を選定できることからしても、中国だからこそ実現できるスケール感だといえるだろう。
   中国・香港・台湾でコンテンツ共有される時代も見えたが…
急成長した中国のテレビ業界は、優れた脚本家や名俳優、演出家やスポンサーをそろえて成熟期に突入し、数知れないヒット作を世に送り出した。その一方で、視聴者の関心がインターネットに奪われる中、日本のテレビコンテンツが制作費の削減に泣かされているように、台湾や香港も“切実な台所事情”に窮するようになって行った。
同時に中国のテレビコンテンツは「輸入」から「輸出」へと転換を見せ、世界に輸出されるようになった。中国の歌番組である「中国好声音」「我是歌手」などが台湾のテレビでも放送されるようになり、香港や台湾でも評価されるようになったのである。
ちなみに、中国のテレビコンテンツは、オーディション、リアリティーショー、ドラマがその3本柱だと言われているが、植木氏は次のように話している。
「ドラマは言うまでもなく、中国のオーディション番組の審査員に台湾のトップスターが参加するようになったのも大きな変化でした。台湾や香港の大物たちが大陸のさまざまなバラエティー番組にまで続々と進出していく現象が起こったのです」
習近平政権による露骨な締め付けが行われる直前の両岸三地では、芸能人たちが融合し、中国・香港・台湾の視聴者に共有される“中華圏の一大コンテンツ”が開花しようとしていたのだ。
台湾や香港の芸能人たちが、チャンスをつかもうと中国市場を目指した背景には、こうした“胎動”を感じたためでもあるだろう。芸能人には見られてナンボ、売れてナンボという側面がある。これだけ大きい中国市場を捨てることはできない、というのは芸能人としての当然の心理でもあった。
   芸能人に政治的忠誠心を問うのは厳しい
しかし、台湾や香港の芸能人が今、直面しているのは政治的対立だ。たとえば台湾では、大陸融和派の国民党と、台湾独立志向派の民進党の対立が激化しているが、芸能人はファンから「あなたはどっちなの」と“踏み絵”を迫られている。芸能人として成功するには巨大市場を選びたいところだが、しかしそれは「故郷」との縁を断ち切ることにもつながる。
複雑な政治情勢の中で、台湾の芸能人はどう立ち回るのか。
芸能人たちに迫る“踏み絵”が、“二つの建国記念日”だ。中華人民共和国の建国記念日は10月1日で「国慶節」と呼ばれる。一方、台湾側は10月10日の「双十節」を建国記念日として祝っている。植木氏によれば「芸能人が祝賀メッセージを10月1日にツイートするのか、10日にツイートするのかで、ファンたちはどちらに忠誠心を示すのかを見極める」のだという。
しかし、中国に肩入れすれば台湾のファンから総スカンを食らい、台湾に肩入れすれば中国のファンから背を向けられる。世界中が中国と米国の対立にのみ込まれ、その重く苦しい悶絶と最前線で闘っているのはほかでもない香港や台湾の芸能人たちだ。そう簡単には割り切ることができない両岸関係であるだけに、植木氏は「職業としての芸能人に政治的忠誠心を問うのはあまりに酷だ」と嘆息する。
もっとも、中国共産党は“一大中華エンターテインメント”というソフトパワーを利用した“統一”をもくろんでいたのかもしれない。しかし時代は打って変わり、軍事的手段というハードパワーによる統一が現実のものとして迫りつつある。
ある意味で東アジアの安定を象徴した“一大中華エンターテインメント”だったが、その開花を待たずしてしぼんでしまうのか。今となっては、あの黄金期が惜しまれる。 

 

●ペロシ氏訪台「自制すべきは米国」に違和感 8/14
米国下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問したことが、米中関係に一石を投じている。今回の訪問は外交的に練られたものというよりは、氏の政治的なスタンド・プレーのようだ。中国からすれば、共産党大会を控えたタイミングの訪問は最悪で、習近平国家主席はバイデン米大統領に強い口調で警告したとされるが、大統領は三権分立を理由にペロシ氏を制止しなかった。こうしてメンツを潰された形の中国は、台湾を囲む形での軍事演習を強行した。今回は初めて中国人民解放軍が中台の中間線を越え、かつ日本の排他的経済水域(EEZ)にもミサイルを落下させるというかなり挑発的なものとなった。
今回のペロシ氏の台湾訪問に対して、中国は軍事力で応えた形となる。さらに言えば今後、中国は台湾周辺での軍事演習や、台湾対岸での部隊展開を常態化させる可能性もあり、訪問はその口実を中国側に与えたことになる。ただ今回の件がなくとも中国は台湾侵攻に向けた布石を着実に打ち続けており、焦点は米国やその同盟国が中国を抑止できるかにある。これに対して朝日新聞は「いたずらに緊張を高め、地域を不安定化させる行動は慎むよう日本は米国にも強く働きかけていく必要がある」とするが、緊張を高めているのは中国側であるため、米国に自制を求めるのは違和感を覚える。産経新聞や日経新聞が論じているように、日本としては米国と連携して中国を抑止する方向に進むべきだろう。
米軍は世界最強の軍隊であるが、東アジアに限定すれば、中国優位の状況になりつつある。今、中国が台湾に侵攻すれば、米軍がそれを押しとどめられるかは微妙だ。そこで米国は東アジア地域での軍事力の増強や同盟再編によって、対中軍事バランスを均衡させようとしている。6月には米上院議員2人が台湾支援強化法案を提出、台湾の防衛力強化を促した。また昨年9月には米英豪で軍事同盟となるAUKUS(オーカス)を結成し、豪州へ原子力潜水艦を供給することで、中国の海洋進出にも備えている。今後は、日本にもそれなりの軍事的貢献が求められることになるだろう。
今回、岸田文雄首相は訪日したペロシ氏と直接会談を行うことで、日本の旗幟(きし)を鮮明にした。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が直接会談を避けたのとは対照的だ。昨年、故安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」と発言し、中国側の怒りを買ったとされるが、われわれも台湾問題に対して真剣に向き合う時が来ている。
●ペロシ米下院議長の台湾訪問という愚策 8/14
8月2日から3日にかけて、アメリカのナンシー・ペロシ下院議長を含む5人の民主党議員は、周りの反対を押し切って台湾を訪問しました。ペロシ氏の台湾訪問が極めて大きな中国の反発を引き起こした理由は、ペロシ氏の地位にあります。
下院議長であるペロシ氏は、大統領の職務遂行が不能となった時の継承順位が、副大統領の次に指定されている高官で、台湾を訪問した要職者としては最高位であったからです。つまり中国側からみれば、アメリカを代表して台湾を訪問したと見えるわけです。
第4次台湾危機を引き起こすペロシ下院議長の台湾訪問
このペロシ氏の訪問を、トランプ前大統領は、集会で「Crazy Nancy Perosi」(狂ったナンシー・ペロシ)と批判したほか、ソーシャルメディア「Truth Social」上でも、「なぜ狂ったナンシー・ペロシが台湾にいるのか?」「いつもトラブルを起こす。彼女のすることは何一つ良いことはない」と、書き込みました。
トランプ氏の批判は、ペロシ氏の台湾訪問は、中国にエスカレートさせる口実を与えて、台湾の状況を悪化させるだけだ、というものですが、まさしくその通りの状況が起きています。
中国はペロシ訪台に猛烈に反発、台湾周辺空海域で軍事演習を始めました。1996年の台湾民主選挙に際して「第三次台湾危機」が起きましたが、今回は「第四次台湾危機」と呼ぶのがふさわしいと考えます。
中国の軍事演習区域の設定は事実上の海空封鎖
中国はペロシ氏の訪台に猛烈に反発し、台湾を取り囲むかたちで、6つの軍事演習区域を設定、8月4日から7日にかけて演習を行うとして同区域への海・空の進入禁止を公告しました。これは事実上の海上・航空封鎖であったと考えます。
しかも台湾を南北に挟んだ3箇所で、台湾の領海・領空が演習区域に含まれており、これは台湾への明白な主権侵害です。中国は軍事演習区域の一方的な設定を通じて、「台湾は中国の一部なので、その主権は中国に属しており、海上と航空の通過も中国当局の許可なしには許されない」というメッセージを送ったことになります。
現実に、各民間航空会社の台湾を離発着する国際便の全てで、飛行経路上に演習区域を含むため、多数の便がキャンセルになり、また飛行経路を大きく迂回せざるを得なくなりました。下記は一例ですが、台湾発名古屋行きの民航機(2022.8.5)をモニターしたところ、演習区域を避けるルートを飛行していました。
今回は演習区域のみが飛行禁止だったので、迂回が可能でしたが、中国の示したことは、「その気になれば台湾の海空を完全に封鎖する」という脅迫そのものであったといえます。
弾道ミサイル発射で米台日を恫喝
中国軍は8月4日、大規模演習を開始し、台湾の南北および東方海上の演習区域に向けて、11発の弾道ミサイルを発射しました。
これらのミサイルは、有事には多量の弾道ミサイルで台湾を攻撃するという恫喝であることは明らかですが、加えて、台湾に介入しようとする米軍や自衛隊への威嚇でもありました。
日本政府は9発の発射を確認しています(残りの2発は遠方で日本のレーダーには映らなかったと推定される)。そのうち5発は与那国島の南、約120km付近に着弾させており、有事には与那国島にある陸上自衛隊の警戒監視部隊(レーダー)や、宮古、石垣等の対艦ミサイル部隊を先制攻撃するというメッセージとも受け止められるものです。
なお中国のCCTVは、8月4日に発射した弾道ミサイルとしてDF-15Bの発射シーンの動画を公表していますが、このミサイルは着弾間際で機動が可能なため、ミサイル防衛を行うPAC-3の迎撃が困難になるとみられます。・・・

 

●米議員5人が台湾訪問、ペロシ下院議長に続き今月2回目 8/15
米民主党のマーキー上院議員率いる議員団が2日間の日程で台湾を訪問したことがわかった。米議員による訪台は今月2回目となる。
ペロシ下院議長が今月初めに台湾を訪問して中国の反発を買っていた。下院議長による訪台は25年ぶりだった。
今回台湾を訪問した議員は5人。マーキー議員の報道官は声明で、台湾訪問について、米国の台湾への支持を再確認し、台湾海峡の安定と平和を促進することが目的としている。
議員団の構成は、民主党4人、共和党1人となっている。
台湾外交部(外務省)によれば、議員団は蔡英文(ツァイインウェン)総統や呉サ燮(ウーチャオシエ)外交部長(外相)と会談するほか、台湾立法院(国会)の外交・国防委員会と安全保障や貿易問題について話し合いを行う。
台湾外交部は、議員団を歓迎するとし、米国の台湾への強力な支援の表明に謝意を示した。
中国はこれまでのところ、今回の議員団の訪台についてコメントしていない。
中国共産党は、台湾について、実効支配をしたことはないものの、自国の領土の一部とみなしており、必要なら武力の行使による「再統一」を行う考えを明らかにしている。中国はペロシ氏の訪台前に、繰り返し、訪台すれば深刻な結果を招くと警告していた。
●台湾総統、米議員団と会談 中国圧力下で連携確認 8/15
台湾の蔡英文総統は15日、訪台している米上下両院の超党派議員団と総統府で会談した。ペロシ米下院議長の訪台に反発した中国が台湾への軍事的圧力を強める中、訪問を通じて台湾に対する支持を重ねて示した米議会と連携を確認した。
●ペロシ氏の台湾訪問は民主を踏みにじるもの=外交部  8/15
外交部の汪文斌報道官は12日の定例記者会見で、ペロシ米下院議長の台湾地区訪問に関する発言を批判し、「ペロシ氏の台湾訪問は民主とは関係ない。民主を踏みにじるものであり、米国が私利を優先させて国際公義を蹂躙することの具体化だ」と表明しました。
ペロシ米下院議長をはじめとするアジア歴訪に参加した米議員らが先日記者会見を行った際、ペロシ議長は今回の訪問は台湾の民主に関わるもので、米国政府の一つの中国政策に合致しており、台湾海峡の現状変更を求めるものではないと主張しました。
汪報道官は「ペロシ氏の発言は、中国・台湾地区への訪問が『台湾独立』分裂勢力に対する容認と支持であることを証明した。中国の出発点は自らの主権と領土保全だ。内政不干渉という国際関係の基本準則を守り、台湾海峡の平和と安定を真に守ることが出発点だ。(中国には)米国の挑発に対して断固とした対抗措置を取る権利があり、そのことは全くのところ不可欠だ」と述べました。
汪報道官はさらに、「ペロシ氏は公然と台湾を『国家』と呼んでいる。これは一つの中国原則と中米の三つの共同コミュニケの定めに反する深刻な政治的挑発だ。民進党当局は台湾島内で『脱中国化』と『漸進的台湾独立』を大っぴら推し進めていており、国際的に『二つの中国』や『一つの中国と一つの台湾』を作り出そうと懸命だ。ペロシ氏はこのような状況にあって台湾を訪問し、しかも米国を代表すると声高に主張していることからは、今回の訪問は公的という性格を持つことが明らかだ。その狙いは両岸の対立を誘発し、中国の内政に干渉するためであり、極めて悪質なものだ」と非難しました。 
●米議会 超党派の議員団が台湾訪問 蔡英文総統などと会談  8/15
今月上旬、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問したことに中国が強く反発する中、アメリカ議会の超党派の議員団が台湾を訪れ、15日、蔡英文総統などと会談しました。
14日夜、台北に入った、アメリカのマーキー上院議員ら超党派の上下両院の議員5人は、15日、蔡英文総統や呉サ燮外交部長、それに台湾の議会・立法院の外交国防委員会のメンバーと会談しました。
台湾総統府によりますと、蔡総統は「このような重要な時に遠路はるばる来訪し、台湾への友情を行動で示してくれたことに、台湾の人民を代表して歓迎し感謝する」と述べました。
これに対し、マーキー上院議員は「この不確定さに満ちた時に、われわれは台湾の平和と安定を確保するため、より一層努力しなければならない。いかなる不必要な衝突も積極的に防ぐ道徳的な義務がある」と述べたということです。
アメリカ議会からは今月上旬、ペロシ下院議長が現職の下院議長として25年ぶりに台湾を訪問し、強く反発した中国が台湾周辺で弾道ミサイルの発射を含む大規模な軍事演習を行いました。
その後も連日、中国軍の航空機が台湾海峡の「中間線」を越えて台湾側の空域に入るなど、地域の緊張が高まっています。
2週間足らずでアメリカの別の議員団が訪れたことを、台湾当局は「アメリカの台湾への強い支持の表れだ」として歓迎していますが、今回は通常と異なり、蔡総統と議員団の会談の冒頭部分を事後にしか公開せず、中国を無用に刺激したくないという意図もありそうです。
中国外務省報道官「『1つの中国』の原則に公然と違反」
アメリカ議会の超党派の議員団が台湾を訪問したことについて、中国外務省の汪文斌報道官は15日の記者会見で「中国側の厳正な申し入れと断固とした反対にもかかわらずかたくなに台湾を訪問し『1つの中国』の原則に公然と違反して台湾独立勢力に誤ったシグナルを送った」と強く反発しました。
そのうえで「アメリカには、台湾に関する問題を慎重かつ適切に処理するよう改めて求める。アメリカの少数の政治家と台湾独立勢力が結託して『1つの中国』の原則に挑戦しようとたくらんでも身の程知らずであり、必ず失敗するだろう」と強調しました。
●台湾総統、米議員団と「確固たるパートナー」連携確認 ―中国軍は演習威嚇 8/15
台湾の蔡英文総統は15日、訪台している米上下両院の超党派議員団と台北市の総統府で会談し「台湾と米国は民主主義と自由の価値を共有する確固たるパートナーだ」と歓迎した。ペロシ米下院議長の訪台に反発した中国が台湾への軍事的圧力を強める中、訪問を通じて台湾に対する支持を重ねて示した米議会と連携を確認した。
中国軍は15日、台湾周辺の海空域で海・空軍など合同のパトロールや実戦化演習を実施したと発表し、威嚇した。台湾国防部(国防省)は同日、台湾周辺で活動を続ける中国軍機30機と軍艦5隻(いずれも延べ数)を確認したと発表した。そのうち15機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側を飛行した。
蔡総統は会談で「引き続き米国との協力を深め、インド太平洋地域の繁栄と安定を共に維持していきたい」と強調。これに対し米上院外交委員会のエド・マーキー議員(民主)は「米台の緊密な関係に疑いの余地はない」と応じ、持続的な関係発展に自信を示した。その上で「台湾の平和と安定を確保するため、われわれは一層努力をしなければならない」と語った。
今回の会談では、蔡氏が外国からの要人と会う際に通常行われる中継がなかった。会談内容を全面公開しないことで、中国への刺激を避けた可能性がある。
台湾外交部(外務省)によると、議員団はマーキー氏ら計5人で構成。立法院(国会)の外交・国防委員会なども訪れ、米台の安全保障や経済貿易関係について議論した。
台湾方面を担当する中国軍東部戦区は15日の報道官談話で、同日の演習目的について「引き続き政治的たくらみを弄(ろう)し、台湾海峡の平和と安定を破壊する米台を震え上がらせるものだ」と強調。中国国防省の呉謙報道官も談話で「『台湾独立』の分裂行為も外部による干渉の企ても断固粉砕する」と主張した。

 

●中国、台湾駐米代表らに制裁 「頑迷な独立分子」 8/16
中国共産党中央台湾工作弁公室は16日、蕭美琴駐米代表(大使に相当)ら7人を「頑迷な台湾独立分子」のリストに追加し、制裁を科すと発表した。ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けた措置。先に名指しされていた蘇貞昌行政院長(首相)、游錫※(方の横並びの下に土)立法院長(国会議長)、呉★(金ヘンにリットウ)燮外交部長(外相)の3氏らと共に、中国大陸への入国などが禁止される。
弁公室報道官は、「外部勢力と結託して独立を挑発し、台湾海峡の平和と安定を破壊した」と非難。ペロシ氏の訪台中に「独立を謀る頑迷な本性をさらけ出した」と主張し、「法に基づき生涯責任を追及する」と強調した。
●米プライス報道官、軍事演習行った中国を「過剰反応」と批判 8/16
米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で、中国がペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して軍事演習をしたことに関し「過剰反応だ」と批判した。プライス氏は議員団の訪台は「これからも続くだろう」と述べた。
プライス氏は「議員の平和的な訪問に軍事演習や挑発で対応するのは全く不要だ」と強調。米国側は台湾海峡の現状維持を求めているのに、中国が一方的に現状変更を試みていると非難した。
米国からはマーキー上院議員ら超党派の議員団も訪台し、15日に蔡英文総統と会談した。プライス氏はこうした訪問は「『一つの中国』政策と合致する」と述べた。
●中国は堂々とプーチンを支援する…ペロシ議長の台湾訪問は失策である 8/16
「さようならウクライナ、こんにちは台湾」
ペロシ米下院議長の台湾訪問に伴う米中関係の悪化を「歓迎」しているのがロシアだ。
クレムリンには、米国はウクライナと台湾で「二正面作戦」を強いられ、ウクライナ侵攻への国際的関心が相対的に低下するとの期待がある。ロシアのメディアでは、「中国はロシアにますます接近」「さようならウクライナ、こんにちは台湾」といった識者のコメントが飛び交った。
中国はロシアのウクライナ侵略戦争に距離を置いていたが、対米関係の悪化でロシアとの連携強化に動きつつある。中露共同の対日軍事圧力も強まりそうだ。
「訪台は不要な挑発」と中国を擁護
8月5日、カンボジアの首都プノンペンでの東アジアサミット(EAS)外相会議で、林芳正外相が演説を始めると、中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相がそろって席を立ち、別室で会談した。
ロシア外務省によると、ラブロフ外相はこの会談で、ペロシ議長の訪台とウクライナ情勢を提起し、「米国は機会主義的に世界各地で支配力を誇示しようとし、現実を無視して各国に脅威を与えている」と非難した。
王毅外相は、台湾問題へのロシアの立場は中露の包括的戦略パートナー関係の高さを示したと評価し、「台湾海峡の緊張が高まる中、中国はロシアとの戦略的協力を強化する」と応じた。両外相は国際舞台での影響力拡大や外交協力を図ることで一致した。
ロシアのペスコフ大統領報道官は、ペロシ議長の訪台を「まったく必要がなく、不要な挑発だ」と非難。中国の台湾周辺での軍事演習についても「中国の主権の範囲内の行動だ」と擁護した。ロシアはこれを機に、中露連携を再構築し、米中対立をあおる構えだ。
ロシアと距離を置いていた中国だったが…
2月に始まったロシアのウクライナ侵攻後、中露関係には不協和音が出ていた。
中国外務省報道官はロシアによるザポリージャ原発攻撃を「深刻に憂慮している」と指摘。キーウ郊外ブチャでの虐殺についても「真相究明と責任追及」を要求していた。
3月18日の米中首脳オンライン会談で、習近平国家主席はバイデン大統領に、「中国は戦争に反対する」「ウクライナに人道支援を行う」と述べた。バイデン大統領はロシアへの武器援助を行わないよう要求し、中国はそれを履行していた。
6月15日の中露首脳電話会談で、プーチン大統領が習主席の訪露を招請すると、習主席はコロナ対策を理由に拒否したという(7月4日付読売新聞)。
ロシアの野蛮な攻撃が国際的非難を浴びる中、中国はロシアと同列視されることを恐れ、距離を置いていた。
これで日台への八つ当たりは強まる
ところが、6月末の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が新戦略概念で中国を「体制上の挑戦」と明記すると、中国は「冷戦志向で、中国を中傷している」と反発。特に、岸田文雄首相の首脳会議出席を「NATOのアジア化だ」と非難した。
7月29日の米中首脳電話会談は、ペロシ議長の訪台を控えて台湾問題で応酬し、ウクライナ問題は議題に上らなかった。
秋の共産党大会で習主席が任期延長を目指す微妙な政治情勢の中、NATOが中国を敵視し、核心的利益とみなす台湾に米国が介入したことで、強硬姿勢をとらざるを得なくなったようだ。中国は再び「親露、反米」に転換した。
中国は本来の対応なら、訪台を仕掛けた米国に報復し、米領グアム島あたりの排他的経済水域(EEZ)にミサイルを撃ち込むのが筋だろう。しかし、米国と直接対峙(たいじ)するのは恐いので、抵抗しない台湾や日本に八つ当たりする構図だ。中国が親露姿勢を強めることは、ウクライナ情勢にも悪影響を与える。
皮肉にも「米国のオウンゴール」となった
ロシアはこの展開を歓迎している。評論家のセルゲイ・ミヘーエフ氏は「これはロシアの思う壺の展開だ。中国社会やエリートの間で反米感情が高まり、軍事オプションが避けられない可能性がある。その場合、ロシアという信頼できる支援者が必要になる。中国が対露制裁に加わる可能性もなくなった」とコメントした。
ロシアのニュースサイト「Pravda.ru」は、「中国はウクライナ戦争で米国とロシアの中間的立場をとり、二兎を追おうとしたが、ペロシ議長訪台で恥をかかされた以上、哲学を重視する中国は米国を許さない。今後、中露の友好同盟が強化され、中国はロシアへの武器援助に動くかもしれない」と指摘した。
国際問題専門家、アリョーナ・ザドロジナヤ氏は、「ペロシ議長のスキャンダラスな台湾訪問と米中関係悪化で、中国はロシアとの戦略的協力関係拡大に舵を切った」と述べ、「米国のオウンゴール」とする見方を示した。
「第2の冷戦」はもう始まっている
ラブロフ外相は最近、「新たな鉄のカーテンが降ろされた」と述べ、1946年のチャーチル英首相のフルトン演説さながら、新冷戦が始まったとの認識を示した。
西側と中露の2陣営が対立し、他の中立・非同盟諸国への浸透を競い合うとの認識だ。先の中露外相会談は、BRICsやG20(主要20カ国・地域)、上海協力機構(SCO)などの国際舞台で、協力と共同行動を拡大することで合意した。
ロシアは対露経済制裁を発動する日米欧など約40カ国を「非友好国」に認定し、エネルギーを武器に逆制裁で対抗。アルゼンチンやイラン、エジプト、トルコ、インドネシアなど地域大国を自陣営に取り込もうとしている。
この点で、米国の通信社ブルームバーグは「ロシアと中国を孤立させようとする米国の外交努力はうまくいっていない。多くの国が西側の説得に応じようとしない」と指摘した。
中国軍が北方領土に上陸するかもしれない
ロシアはアジアで最も厳しい対露制裁を発動した日本を目の敵にし、「サハリン2」国有化など制裁の倍返しをしており、今後、中国と連携して日本への外交・軍事圧力を強めそうだ。
ロシア軍は8月30日から9月5日まで、極東など東部軍管区で4年に1度の大規模軍事演習「ボストーク2022」を実施する。前回の2018年の演習は30万人規模の大演習となり、中国軍も参加した。
北方領土の国後、択捉両島も演習地とされており、中国軍の北方領土上陸があるかもしれない。中国は日中友好時代、北方領土問題で日本の返還要求を支持していたが、中国外務省報道官は2020年、「反ファシスト戦争勝利の結果は尊重されねばならない」と、ロシア擁護に転換した。
昨年10月の衆院選期間中、中露の軍艦計10隻が日本列島を一周し、今年7月の参院選でも中露の軍艦が日本近海で共同航海を行った。月末からの演習でも、中露艦船が再び日本を挑発する事態もあり得る。
岸田外交はコロナ禍やウクライナ侵攻で米国との「一枚岩外交」を強いられたが、中露離間に向けた「変化球外交」も期待したいところだ。 
●中国が台湾に制裁措置 米ペロシ下院議長の台湾訪問に対抗か  8/16
中国共産党は、アメリカにある台湾の代表機関のトップなど7人について中国訪問を禁じるなどの制裁措置をとると発表しました。アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問への対抗措置の一環とみられます。
中国共産党は、16日、少数の「頑固な台湾独立分子」が外部勢力と結託して台湾独立をはかろうと挑発したなどとして、制裁措置をとると発表しました。
具体的にはアメリカの首都ワシントンにある台湾当局の代表機関の蕭美琴代表や、与党・民進党の立法委員など7人を名指しして、▽香港とマカオを含む中国への訪問を禁止するほか、▽これらの人物の関連企業や資金提供者が中国で利益を得ることを認めないなどとしています。
そのうえで「アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪れた際に、『独立』をはかろうとする本性がさらにあらわになった」としていて、今回の措置はペロシ議長の台湾訪問への対抗措置の一環とみられます。
中国は去年11月、同じような理由で台湾の首相にあたる行政院長や外交部長などに対して中国訪問を禁じるなどの制裁措置を行っていて、台湾が欧米に接近する動きに神経をとがらせています。
また、15日もアメリカの議員団の台湾訪問への対抗措置だとして、台湾周辺で軍事演習を行ったと発表していて、さまざまな形で台湾への圧力を強めていくものとみられます。
台湾外交部 欧江安報道官「反感をさらに買うだけ」
この制裁措置の発表について、台湾外交部の欧江安報道官は16日の記者会見で「独裁政権の脅しは受け入れない」としたうえで「中国が、台湾の認知度をより高めようとする要人に打撃を与えたり、萎縮効果を狙ったりしても逆効果であり、台湾の人たちの反感をさらに買うだけだ」と批判しました。
ロシア プーチン大統領「周到に計画された挑発行為だ」
ロシアのプーチン大統領は16日のビデオ演説で「アメリカの台湾をめぐる冒険は単に1人の無責任な政治家による旅行ではなく、周辺地域と世界の状況を不安定にし混乱させようというアメリカの意図的な戦略の一部で、他国の主権と国際的義務に敬意を払わない厚かましい示威行動だ」と述べました。
この発言はアメリカのペロシ下院議長の台湾訪問を念頭に置いたものとみられ、プーチン大統領はさらに「周到に計画された挑発行為だ」と述べてアメリカを批判しました。
中国国防相「台湾独立には絶対によい結果ない」
中国国防省によりますと魏鳳和国防相はロシアで開かれている「国際安全保障会議」でビデオ講演し、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問を念頭に、「台湾独立には絶対によい結果はなく、外部勢力の干渉も絶対に成功しない。中国軍はこれまでいかなる敵も恐れたことはなく侵略してくる一切の敵を打ち負かす自信と勇気を持ち、強い決意、確固たる意志、強大な能力で国家の主権と領土の一体性を守る」と述べ、アメリカを強くけん制しました。
●ペロシ米下院議長訪問「歓迎」52.9% 台湾民間世論調査 8/16
台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が16日に発表した世論調査で、ペロシ米下院議長の訪台について、52.9%が「歓迎する」と回答した。「歓迎しない」の24.0%を大きく上回った。同会は「多くの台湾人がペロシ氏の訪問を歓迎した」と結論づけた。
ペロシ氏は2〜3日にかけて台湾を訪問し、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した。世論調査は8〜9日の2日間、20歳以上を対象に電話方式で実施され、1035人から回答を得た。訪台に反発した中国が軍事演習を続けていた時期にあたる。
内訳は「とても歓迎」が24.5%、「どちらかといえば歓迎」が28.4%、「あまり歓迎しない」が11.6%、「全く歓迎しない」が12.4%だった。政権与党・民主進歩党(民進党)の支持者は87%が歓迎すると回答した一方、最大野党・国民党の支持者は58%が歓迎しないと回答した。
台湾ではロシアのウクライナ侵攻を境に、有事の際の米軍派遣について懐疑的な見方が広がった。今回の調査で米軍派遣を「信じる」との回答は44.1%で、3月調査の34.5%を底に回復傾向にある。ただ、「信じない」との回答(47.5%)は下回った。
蔡総統の支持率は7月の前回調査から7ポイント強下げ、45.7%だった。民進党が11月の統一地方選に向けて北部・桃園市で擁立した候補者が、論文の盗作を指摘されたことが響いた可能性がある。同候補者は盗作を否定したが、12日に選挙戦からの撤退を発表した。
●米ペロシ下院議長の台湾訪問で中国激怒の背景に「中国共産党の長老たち」 8/16
ジャーナリスト池上彰さんが「今さら聞けない時事問題」にまつわる疑問をわかりやすい語り口で解説する「なんでもお答えしますSP」として8月15日に放送した毎日放送「よんチャンTV」。今回は岸田政権は何をしようとしているのか、安倍総理時代との違い、狙いを教えてもらいます。国論を二分している安倍前総理の「国葬」については「閣議決定されていることからもうやめられない」といいます。そして参列には海外の要人が予定されていますが、ほとんどが現役の政治家ではなく、外交的成果は期待できないのではとのこと。一方、緊迫度を増している台湾情勢について、アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問に中国が猛反発したのは、中国の長老たちが集まる会議を習近平総書記が強く意識したため、と中国側の“ウラ事情”を説明。そして8月15日終戦の日、池上さんは「戦争を始めるのは簡単、終わらせるのは大変」との言葉で締めくくりました。
内閣改造は2つの狙い「アベノミクス見直し」「分断の修復」
―――岸田総理は内閣改造で何をしたいのでしょうか?
「岸田さんがやりたいことは大きく分けて2つあるんじゃないかと私は思うんですね。その1つは“アベノミクスの見直し”です。いわゆるアベノミクスはデフレから何とか脱却しようじゃないかという時に、例えば国債を大量に発行して国の借金がどんどん増やしている状況でした。それに対して岸田総理は財政規律をしっかりしようと、つまり『借金が増えすぎるのはやめようじゃないか』と。これ以上は国債の発行を少しでも止めて増えないようにしようじゃないかと。借金をしずぎず収入と支出のバランスを取るということです。もう1つは“日本の分断の修復”です。やっぱりアベノミクスによって景気が良くなった部分があります。株価が上がったことによって株を持っている人は大儲けした人も結構いるんですよね。しかし、それに無縁の人は全然恩恵を受けなかったという所で、経済的な格差が出てしまったのではないか、あるいは政治的に様々な対立いわば分断というのが起きたんじゃないかと。岸田さんとしてはそういうことに対して何とか格差を減らしていこうじゃないか、あるいは野党の答弁にも一応ちゃんと答えましょう、聞く力があることを示そうじゃないかと。例えば安倍さん菅さんだったりすると野党の質問にちゃんと答えていなかったんじゃないか。特に菅さんの時には何かを質問すると、『ご指摘には当たらない』で質疑が終わっていたりするわけですね。その辺を『とりあえず話は聞きますよ』というところでなんとか分断を和らげようという思いをご本人は持っているんじゃないかということですね」
―――確かに岸田さんのその答弁を聞いていても非常に柔和でソフトなイメージがありますよね?
「実はそれは『検討します』で終わっているんですよね。政治の業界では『検討使』って言われているんですよ。『それじゃこれから検討しまして』って、結局検討して何するんだよっていうのが『検討使』と呼ばれているということです」
―――財政規律をしっかりしようというのは、アベノミクスに対しては逆のことだと思うのですが、話が出た時に安倍さんは岸田さんのことをどう見ていたんですか?
「これは猛烈に怒ってですね、『アベノミクスを否定することじゃないか』と言って、かなり注文をつけて。実は岸田さんが財政規律をするための会議を作ったら、今度は安倍さんたちが別にもう1つの会議を作って『どんどん国債を発行すればいいじゃないか』『それで景気を良くする方が優先だ』と実は対立していて、自民党の中で2つの流れが実はあったんですよね。それが今後、岸田さんとしては何としてもやはり財政規律を優先ということですね。これは役所で言うと『経済産業省』と『財務省』の対立であって、安倍さんの時には経産省がバックにいて『とにかく景気をよくしよう』というところがあって、一方で財務省は『そんなに借金が増えちゃったら困るよね』というのがあります。むしろ岸田さんのバックには財務省がついていて財政規律は借金が増えるのでやめましょうと。実は霞が関の役人たちの中での力の争いというのでもあるんですね」
岸田政権になり一番変わったこと「官僚たちがのびのび」
―――岸田総理になって一番変わったことは何なのでしょうか?
「一番変わったのは実は官僚たちの雰囲気です。よく『霞が関』って言い方をしますね。これは地名ですけど、霞が関には中央省庁がいっぱい集まっているわけですね。これまでに例えば安倍さん菅さんの時には総理あるいは官房長官が幹部人事を握っていたわけですよね。2014年に内閣人事局を設置して、官僚の人事というのも国民から選挙で選ばれた政治家がこれを把握しましょうと。これ自体は決して悪いことではないわけですね。ですが特に菅さんが官房長官の時には自分に逆らう人はポンと飛ばしたんですね。菅さんが本の中で自分に逆らった完了を飛ばしてやったと自慢していたんですね。そうなると霞が関の官僚たちもっかり菅さんに嫌われると自分も飛ばされてしまうんじゃないかとなって、ひたすら忖度をする。あるいは自分から何か言って怒られると嫌だから、『言われたことはやりますよ』となっていささか指示待ちになっていたんじゃないかと。一方で岸田さんは『とりあえず霞が関に任せますよ』『霞が関がどんどん知恵を出してください』という、逆に言うと官僚主導じゃないかという批判もあるんですが、官僚たちはとくにのびのびと仕事をするようになったと言われています」
安倍元総理の国葬…反対の声も多いが『後にはひけない』理由
―――安倍晋三元総理の国葬ですが、JNNの世論調査(8月6日〜7日に実施)では安倍元総理の国葬に賛成は42%、反対は45%と非常に拮抗している結果でした。反対の声が多い中、予定通り行われるのでしょうか?
 「これは今さらやめられないんですね。国葬に関する法律は実はないので法的根拠がないじゃないかという声も聞くのですが、実は『閣議決定』されているということなんですね。政治の世界で閣議決定は大変重いものなんですね。そもそも閣議決定というのは内閣の意思決定を決めるという閣議です。実は憲法でも、総理大臣だけで何かできることはほとんどないんです。『閣議あるいは内閣がやる』って憲法に書いてあることは、総理大臣1人ではなく、内閣・閣議で大臣たちがみんなで集まって決めましょうと。これが閣議決定というものなんですね。閣議決定で国葬をやるということになった以上、これはなかなかやめられない。閣議決定をひっくり返すことは大変難しいです。例えば政権交代して全く新しい政党がトップになった時に、前の閣議決定を見直しましょうやめましょうということはあるんですが、今の自民党内閣で岸田さんが総理大臣の下で閣議決定を取りやめることはまず考えられないです。むしろ責任問題になってしまうということなんですね。なので9月27日に日本武道館で行うということは予定通り進むということです」
―――多くの税金が使われる中でなぜ慎重な審議をせずに、閣議決定まで2週間というスピーディーな決定をしたのでしょうか?
「安倍元総理が銃撃されて殺害されてしまった衝撃ですね。あの衝撃の中でどうしたらいいんだろうかという思いの中で、国葬をするというのが一挙に決まってしまったというところだろうと思います。岸田さんは直後に記者会見で涙を浮かべていました。『何かやらなければいけない』という思いがある一方で、アベノミクスからの脱却などを含めて安倍さんや安倍派という清和会の人たちが岸田さんのやり方に不満を持っている人たちもいるわけですね。そうすると『何をやってるんだ』と言われるかもしれない。『国葬しますよ』と言えば安倍派の人たちも『それはいいじゃないか』と言って岸田さんに対して反対できないようにする。9月27日に国葬ってことは、それまで喪に服するんですね。実は今、政治の世界も喪に服していて、岸田さんを表立って批判するということがないんですね。岸田さんにしてみれば、そこで自分に有利なことをしていこうじゃないかと、時間をとったというところもあるんだろうと思いますけどね」
「これまで国葬といいますと吉田茂元総理が亡くなった際に行われました。吉田茂元総理に関しては、例えばサンフランシスコ平和条約あるいは日米安保条約を締結した。また『吉田学校』と言われるように、例えば佐藤栄作など次々に政治家を養成していったという実績を残しました。さらに言えば、吉田元総理は亡くなった時点では政治家ではありませんでした。なので歴史的な評価が定まっているから、この人に関しては国葬でいいじゃないかということになったんですね。しかしこの際にも国葬反対の声がありました。私は高校生の時だったからよく覚えているんですけど、この国葬が是か非かって日本国内で議論があったんですよね。一方で、その議論があったせいかどうかわかりませんけど、佐藤栄作元総理の時には国葬じゃなかったんですね。『国民葬』という形で政府・自民党・国民の有志が共同で費用を支出しましょうと。国も実はお金を出したんですけど国葬にしなかったんですね。一方で佐藤栄作元総理は沖縄返還を実現したわけですよね。あるいは非核三原則を提唱してノーベル平和賞を受賞しているので、これだけ実績のある人でも国葬ではなかった。となると今回の安倍さんの国葬は、佐藤さんですら国葬じゃなかったんだから、現役政治家で賛否両論ある人を国葬にしてもいいのかという批判の声は出てしまうということなんですね」
国葬時の弔問外交
―――国葬に海外からはどんな方が来られるのでしょうか?
「こういう葬式の時に世界から大勢の外交官あるいはトップクラスが来るというとこれは弔問外交というんですね。お葬式ですからじゃあ行きますよと世界中から色んな人が来れば、その人たちといろんな外交の話し合いができるんじゃないかということです。今のところ出ている名前では、例えばオバマ元大統領。あとトランプ前大統領は安倍さんと非常に仲が良かったですから来るかどうか。あるいはドイツのメルケル前首相、フランスのマクロン大統領です。現役なのは今のところマクロン大統領だけなんですね。つまり弔問外交といっても、有力者ではあるが前・元の人が大勢来るんですよ。現役じゃないんですよね。もしマクロン大統領が来れば唯一の現役になるか、それ以外のところから現役の人が来るかもしれませんけど。となると弔問外交といっても現役じゃない過去の人が来た時に、これが一体外交でどれだけの効果があるのかということにもなります。皆さんお忙しい中で来るわけなので実際に会うのは本当に大した時間じゃない、となるとそれで外交が動くのかということも実はあるんですね。日本は例えば海外でいわゆる国葬があった際には、現役を退いた人を派遣するのが一般的なんですね。特に日本の場合は、森喜朗元総理がいわば日本を代表して各国の国葬に参列するというのがごく一般的です。森さんはよくいろんなとこに実は行っていたということなんですね」
緊迫する台湾情勢…蔡英文総統「統一でもなく独立でもなく現状維持」
「台湾情勢が緊迫していて、特にアメリカと中国が台湾を巡って対立しています。日本への影響は大変気になるところですね。緊張する両岸関係にあります。台湾海峡を巡る対立というわけです。そして、中国・習近平国家主席は『台湾は中国の一部である』『対話について何か言うのは内政干渉である』『余計なことは言うな』『自分の国の問題だ』というのが中国の立場です。一方で台湾の蔡英文総統は元々は民進党という野党だったんですね。民進党は『台湾は中国とは違うんだ』『台湾共和国として独立すべきなんだ』という考え方はそもそも持っていたんですけど、それをそのまま総統になった時に主張すると本当に中国との関係が悪くなるので、ここはあいまいな言い方しているんです。『統一でもなく独立でもなく現状維持』が蔡英文総統の立場ということですね」
―――アメリカのペロシ下院議長が台湾を電撃訪問して蔡英文総統と会談をしました。なぜ中国はこれに対して怒っているのでしょうか?
「アメリカの下院議長というのは議会のトップと思ってしまいますが、実は大統領継承順位というのがあるんですね。大統領にもしものことがあったら副大統領、その次に何かあれば下院の議長ということになるんですね。だからナンバー3であると同時に大統領継承順位でいうとナンバー2になるんですね。そんなアメリカのトップクラスの人がなぜ台湾に来るんだと。元々中国は台湾は中国の一部だよと言って、アメリカもそれには反対しないと言っていたじゃないか、それなのになぜ来るんだということで怒ってるんですね」
「あとは一番大きいのはタイミングです。習近平国家主席にしてみれば顔に泥を塗られたという思いがあるんですね。どういうことかと言いますと、中国では『北戴河会議』というのがあるんですね。北戴河は中国北東部の避暑地です。ここに毎年、中国共産党の長老たちが集まって、党の方針や人事などを話し合うということなんですね。中国共産党の長老たち、例えば習近平氏は中国共産党のトップの総書記ですけど、それより前に総書記だった実力者がいるわけですよね。そういう実力者に、今後こういうことがやりたいですがよろしいでしょうか、とお伺いを立てる会議なんですよ。すごく偉い人たちなんですね。例えば株式会社で言うと、社長や会長を退任した後も相談役で残っている人たちがいるわけでしょう、そうすると社長が例えば、『次に専務取締役や常務取締役をこういう人にしたいんですけどいいでしょうか』と相談役にお伺いを立てる。実はそういう社会はやっぱりあるんですね。やっぱりアジアは長老にお伺いを立てるというのがあるわけですね。そして会議に行った参加メンバーが実は謎なんですよ。外国人記者が北戴河に行こうとすると追い返されるんですよ。コロナ対策という理屈で追い返されてしまい全然取材ができないんですね。ここで何が行われるかというと、実は習近平国家主席は共産党トップの総書記でもあります。これまでは連続2期で退任するはずが、どうも3期目を何とかやりたいと思ってるわけですね。その時に3期目をやりたいけどいいですかと長老たちからお墨付きを得たいわけですね。そういう意味では非常に大事な会議だというわけですけど。ここからははっきりとはわかりませんが、例えばペロシ議長が来たということになると、多分長老たちが習近平総書記に対して『お前なめられてんじゃないの?』『なんでアメリカの下院議長が来るのを阻止できなかったんだ』と言われるんじゃないか。例えばアメリカのバイデン大統領にしてみれば、三権分立で大統領は行政のトップだし、ペロシさんは下院ですから立法府で、立法府のことについては口を出せません。アメリカの三権分立でいえばそうなんですけど、中国は三権分立を理解できないわけですね。習近平国家主席や共産党のトップがこうしろと言ったらみんなそれに従う。だからバイデン大統領がやめろと言えばよかったのになぜそれができないと。バイデン大統領にしてみれば、三権分立だから議会のことなんか口が出せませんということですけど。それが中国共産党の長老たちにしてみれば、なぜバイデン大統領にやらせなかったんだ習近平お前なめられてるんじゃないのと、言われかねないわけですよね。よりによってこんな時に来たのかという思いで、本当にメンツを潰されて顔に泥を塗られたんだから怒っているんだぞということを示すために、非常に挑発的な軍事演習をやって怒りを見せたということだと思うんですね」
中国と台湾で軍事衝突が起きたら…どうなるの?
―――台湾と中国の間に何かあった際に日本への影響は?
「実は中国と台湾についてどうするのかという方針を新たにまとめて発表したんですね。台湾と中国は平和的に統一をするということを目指すけど平和的統一ができなかった場合は非平和的な方法を使う、つまり軍事力で台湾を併合するんだという方針を打ち出してるんですよね。だから例えば台湾が独立をする中国と一緒になるのは嫌だと言ったら軍事力を使いますよと中国は言っているんですね。中国や台湾と、沖縄県の与那国島・石垣島・魚釣島、いわゆる尖閣諸島というのが本当に近いわけです。今回、中国が軍事演習をした時に台湾の周りのぐるっと6か所で軍事演習をして、ミサイルを発射し、そのミサイルが日本の排他的経済水域内に落下するという状態になるわけですよね。もしここで本当に軍事衝突が起きると、近くの南西諸島にも影響が出てくるんじゃないかということですよね。実はアメリカは国内に『台湾関係法』という法律があるんですね。これは『もし台湾がどこかから軍事侵攻を受けるようなことがあればアメリカはそれに対して適切な対応をする』という曖昧な法律なんです。適切な対応ってなんだと。だから台湾の中には、いざという時はアメリカは助けてくれないんじゃないかと不安に思っている人もいるんですね。なのでペロシ議長は『いやいや何かあったらアメリカが必ず守りますよ』ということを言いに行ったんだということですよね。ということは、もし中国が台湾を攻撃するとなれば、アメリカは台湾を守ろうということになります。アメリカ本土から軍隊を送るのでは間に合わないですよね。となると、すぐ近くからアメリカ軍が出ていく際には沖縄にアメリカ軍基地がありますから、ここからアメリカ軍が出動するということがあり得るわけです。あるいは台湾の空軍の戦闘機が飛び立ったんだけど、台湾の基地が破壊されてしまい着陸場所がないとなると、沖縄のアメリカ軍基地に着陸したいとなった場合、アメリカ軍はおそらくそれを認めるでしょう。ということは、台湾の空軍機が日本の領空に入ってくるわけです。あるいは沖縄のアメリカ軍基地に着陸するということは日本の領土に入ってくるということになるでしょう。それを認めた場合、中国が『日本は台湾を支援してるんじゃないか』と言って、そこに対して攻撃をする可能性があるわけですね。今回は6か所で軍事演習しました。こういう形でいざという時は中国が台湾を封鎖してしまうんで一切そこに行けない形になります。台湾が本当に封鎖されてしまった時に、いろんな貿易もできなくなります。飛行機や船の行き来もできなくなってしまう可能性があることを私たちに知らしめたということですね」
「戦争を始めるのは簡単、終わらせるのは大変」
―――8月15日は終戦の日です。池上さん、何か伝えたいことはありますか?
「戦争を始めるのは簡単、終わらせるのは大変ということです。例えばかつて日中戦争もすぐ終わると言って始めたら泥沼になったわけです。太平洋戦争も真珠湾を攻撃すればアメリカがすっかり戦意を喪失して簡単に戦争が終わると思っていたら、アメリカが激怒して戦争が続いてしまったわけですね。今のウクライナに関しても、ロシアのプーチン大統領は簡単に終わると思ったら終わらなかったわけです。戦争を始めるのは簡単、終わらせるのは大変。早く何としても終わらせなければいけない。もし昭和20年の初めに戦争が終わっていれば、東京大空襲も大阪の空襲も広島も長崎もなかったわけですよね。ウクライナもとにかく早く終わらせないと犠牲者が増え続けるというわけです」

 

●1500万人の若者が失業…中国の建国以来の雇用危機が「日本有事」に 8/17
ペロシ米下院議長の台湾訪問を契機に、東アジアの緊張が高まっている。中国軍は8月4日から台湾周辺を対象とした史上最大規模の軍事演習を実施しており、日本など周辺国を巻き込む国際問題となっているが、今後の動向を読み解く際に見逃せないのは中国国内の世論の動向だ。
中国政府がペロシ氏の訪台を阻止するための措置をとらなかったことへの不満が噴出するという異例の事態になっている。ネット空間では「あまりにも恥ずかしい」「メンツが丸つぶれじゃないか」とのコメントが飛び交っている。
昨年9月の米国のアフガニスタンからのぶざまな撤退ぶりを目の当たりにして、多くの中国人は「現在の米国なら台湾を見捨てるだろう。千載一遇の好機が訪れた。台湾侵攻は間近だ」と考えるようになっており、今回の中国政府の弱腰ぶりに大いに怒っている。
こうしたネット世論を気にしてか、中国外交部は定例の記者会見の場で「中国人民は理性的に国を愛する(理性愛国)ものだと信じている」と述べているが、中国国民の愛国感情をあおり立ててきたのは、他国を攻撃的な言葉で厳しく非難する「戦浪外交」を展開してきた外交部自身に他ならない。
中国では今、ナショナリズムが猛烈な勢いで台頭しているが、ナショナリズムの風潮が強まったのは1990年代からだった。ソ連崩壊により「共産主義」という統治の根拠を失った中国政府が国民の支持を取り付けるためにナショナリズムを利用したのが始まりだ。中国のナショナリズムはリーマンショック後に中国が世界経済を牽引するようになると攻撃的なものに変わり、2012年に誕生した習近平政権が「中国の夢」を語るようになるとその傾向はさらにエスカレートした。
中国のナショナリズムは政府に奨励されてきたが、最近では国民の方が過激になっており、皮肉にも政府は自らつくりだしたナショナリズムを制御できなくなっている。
経済に赤信号
「弱り目に祟り目」ではないが、中国政府にとって頭が痛いのはもう一つの正統性の基盤である「経済の順調な発展」に赤信号が点滅していることだ。
GDPの4分の1以上を占める不動産セクターの不況は悪化の一途を辿っており、厳格なゼロ・コロナ政策の実施が経済活動全般に大きな足かせとなっている。
そのせいで中国政府が掲げる経済成長目標(5.5%前後)の達成は不可能になっており、雇用環境はかつてないほど悪化している。
労働力人口の約半分を吸収しているサービス業が大打撃を被っているばかりか、アリババなどのハイテク企業でもリストラの嵐が吹き荒れており、中国人民銀行は「足下の都市部家計の雇用信頼感指数は2008年のリーマンショック以来の水準に落ち込んだ」と警告を発している。
気がかりなのは「中国文明は世界で一番優れている」と信じ、ナショナリズムの傾向が強い若者の雇用危機が深刻なことだ。
16歳から24歳までの都市部失業率は6月、過去最悪の19.3%にまで上昇し、約1500万人の若者が失業している。今年大学を卒業する1100万人のうち、4月半ばまでに就職先が決まったのはわずか15%にとどまっているという有様だ。
若者は今のところ目先の就職活動に必死で政府への不満を口にすることは少ないようだが、この状況が今後も変わらないという保証はない。
歴代の中国政府にとっての最優先の政策課題は雇用の確保だった。
1970年代半ばまでの毛沢東統治下の中国では統制経済が敷かれ、働ける人全てが仕事に就くことができた。その後に行われた市場改革の時代に失業者は発生したが、高成長に恵まれたおかげで政府は雇用の場を提供することができた。
世界的な金融危機が起きた2008年の際にも積極的な財政金融政策を断行し、政府は雇用の確保をなんとか維持してきた。
だが、現在の政府に打つ手は限られている。これまでに膨大なインフラ投資を行ってきた反動で財政金融政策の効果は激減している。2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、経済を支えてきた輸出セクターも陰りを見せている。
中国政府は引き続き雇用の確保に尽力するだろうが、これまでのように国民全員に雇用の場を提供することはできなくなっている。中国は建国以来最悪の失業危機に直面していると言っても過言ではない。
日々の生活への不満が高まれば高まるほど、ナショナリズムがショービニズム(好戦的愛国主義)に変質するというのは過去の歴史が教えるところだ。
急速な少子高齢化が進む中国の国力が今後衰退局面に入ったことも要注意だ。衰退期が目の前に近づくと悠長に構えてはいられなくなるため、中国は今後、国際社会との間で深刻な対立を引き起こすとの懸念が生じている。
3期目の続投を目指す習近平指導部は5年に一度の共産党大会を年内に控え「台湾侵攻」というギャンブルに出る可能性は低いとの見方が一般的だが、窮地に追い込まれた中国政府が国民の不満をそらすために対外的な強硬手段に出る可能性がこれまでになく高まっていると言わざるを得ない。
軍事専門家が指摘するように、「台湾有事」は「日本有事」に直結する。日米同盟を強化していくのはもちろんだが、台湾有事をなんとしてでも回避するための日本の外交力の真価が問われているのではないだろうか。
●中国ミサイルの台湾通過にアメリカは「抗議すべき」=米司令官 8/17
中国が台湾上空を通過するミサイルを発射したことについて、アメリカはきちんと抗議する必要があると、米海軍の司令官が16日に発言した。
第7艦隊の司令官を務めるカール・トーマス中将は16日、中国を「誰もが触れなくない腫れもの」と呼び、放置しておけばこうした行為は常態化するだろうと述べた。
ナンシー・ペロシ米下院議長が今月、台湾を訪問して以降、中国と台湾、アメリカ間の緊張関係が高まっている。
中国は自治を行う台湾を、中国大陸と再び統一しなければならない自国の反抗的な領土だとみなしている。中国はペロシ氏訪台に抗議する形で台湾周辺で軍事演習を行ったが、ミサイルを直接台湾上空へ発射したとは認めていない。
今回のトーマス司令官の発言は重要な意味を持つ。第7艦隊は日本の横須賀米軍基地に司令部を置き、約50〜70隻の艦船や潜水艦を保有する。アメリカ最大の前方展開艦隊で、この地域で重要な軍事的存在となっている。
トーマス司令官はシンガポールで、「この手の事柄に抗議することが非常に大事だ。誰もが触れたくない腫れものが台湾上空にミサイルを放っていると知っている」と記者団に説明。「台湾を通過して公海にミサイルを落とすなど無責任だ」と述べた。
「こうした行為に抗議しなければ(中略)突然、今では前哨基地となった南シナ海の島々のようになってしまう。ミサイルが配備され、大きな滑走路や倉庫、レーダー、聴音哨などがそろった完全に機能する前哨基地だ」
中国軍が約1週間にわたって台湾周辺で軍事演習を行った結果、台湾では海と空の主要な航路が遮断され、実質的に封鎖状態となった。台湾はまた、中国政府が侵攻の準備として軍事演習を行ったと非難している。
台湾当局は、ミサイルはかなり上空を通過したため、脅威にはならなかったと説明している。国防部(国防省)は諜報活動上の懸念があるとして、ミサイルの軌道を公開していない。
日本の防衛省は、中国のミサイル4発が台湾上空を通過したと推定されると発表した。
アメリカをはじめとする国々は、台湾海峡と、中国が戦略的に重要としてる南シナ海で、自国の海軍の活動を活発化。これらの海域が公海だと強調している。
アメリカは台湾を正式に承認していない。しかし、台湾と強力な関係を維持しており、台湾が自衛できるよう武器を販売している。これが、中国の懸念材料となっている。 
●姿勢を示すのみで台湾有事への具体的な議論がない日米 8/17
ジャーナリストの佐々木俊尚が8月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。古屋議連会長の台湾訪問について解説した。
古屋議連会長が台湾訪問、蔡総統と会談へ
超党派の議員連盟「日華議員懇談会」の会長、自民党の古屋圭司衆議院議員が、8月22日〜24日の日程で台湾を訪問する方向で調整に入った。蔡英文総統や防衛当局と会談し、結束を確認する予定。
飯田)ペロシ米下院議長の訪問から、風雲急を告げるという感じになっていますね。
佐々木)古屋さんの訪問にしろ、ペロシさんの訪問にしろ、メリット・デメリットがあると思います。メリットは「我々はきちんと台湾を守りますよ」というアメリカや日本の意思を公に見せることです。実際、台湾の人はペロシさんの訪問にとても喜んだというニュースがありました。
飯田)ペロシ下院議長の訪問に。
佐々木)一方で、今回の議連の訪問にはあまり反応していませんが、中国側も対抗して、ペロシさんの訪問とその後の代表団の訪問に対し、軍事演習を行いました。あの軍事演習を見ると、「台湾と日本は近いのだな」と実感します。先島諸島からすぐですからね。あの空域・海域で軍事演習をされると、日本はまったくの無縁ではいられないということが改めてわかります。
台湾有事の場合、台湾在留邦人をどのように退避させるか
飯田)日本の排他的経済水域にもミサイルが5発撃ち込まれました。
佐々木)そうなのですよね。それが当たり前になってしまっている。「新常態」と言っていますが、日常的に台湾の領空を中国機が侵犯したり、日本の排他的経済水域にやってくることが当たり前になってしまうと、ジワジワと戦争の危機が高まることになります。
飯田)戦争の危機が。
佐々木)どう対応するのかを真面目に考えなければいけません。しかし、いまのところは「台湾を守りますよ」という意思を示しているだけであって、そこから先はどうするのかという具体的な議論はあまり進んでいない状況です。
飯田)そうですね。
佐々木)台湾には在留邦人が2万人以上います。もし台湾有事があったときに、2万人以上の在留邦人をどうやって避難させるのかなど、対策を立案しなければいけないのですが、できていません。
日本もアメリカも姿勢は示すが、台湾有事が起きた場合の具体的な対策はない
佐々木)いまのところ、日本にしろアメリカにしろ、姿勢を示すに留まっています。実際に有事が起きたら、日本は何をするのか。現状では、日本の自衛隊が防衛出動して参戦する可能性はあまりありません。台湾の世論調査を見ると、「米軍はいまひとつ頼りにならないので、自衛隊に助けにきて欲しい」という人が6割ぐらいいるという数字があったりします。期待感はすごいです。
飯田)日本の自衛隊に期待している。
佐々木)現状の日本の憲法と安全保障体制から言うと、それは現実的ではありません。米軍が出動し、それに対する空中給油や海上補給などの後方支援にまわるのが妥当なところだと思います。しかし、どのような役回りで行うのかなど、そこまで議論ができていないと思います。
日台米の3ヵ国で情報が緊密に流れるような体制になっていない
飯田)このお盆にシンクタンクがシミュレーションをして、そこには国会議員の方々も参加されたそうです。「いまどんなことが起きていて、それに対して我々に何ができるのか」という事態認定で時間が掛かったという話が出てきました。
佐々木)結局そういうことですよね。日台米の3ヵ国で情報が緊密に流れるような体制になっていないということです。
飯田)『シン・ゴジラ』の映画のように、書類をひっくり返して「この事態にここが認定できます」ということをやるつもりなのかと。
佐々木)いきなり首相官邸にコピー機を持っていくのかということですよね。そんな時代ではないと思いますが。
飯田)そこは考えなければいけないですよね。あってしかるべきということになります。
佐々木)公に触ってしまうと中国を刺激するので、どれだけ水面下で進められるのかという話になります。自衛隊も防衛省も考えてはいるのでしょうが、できれば密かに進めて欲しいと思います。
●習主席の3選危機と台湾有事 ペロシ氏訪台で過敏に反応 8/17
ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問を受けて、中国は大規模な軍事演習を行うなど過敏に反応した。問題の背景には、習近平国家主席の「3選阻止」を目論む「反習派」と、米民主党の暗黙の連携があったのではないかと国際投資アナリストの大原浩氏は指摘する。大原氏は緊急寄稿で、習氏の立場が危うくなれば、「台湾有事」に踏み切る恐れもあると警鐘を鳴らす。
米大統領承継において副大統領に次ぐ要職であるペロシ下院議長が訪台し、蔡英文総統と会談したことをめぐり、中国人民解放軍は台湾周辺で複数の弾道ミサイルを発射するなど大規模演習を行った。だが ペロシ氏が台湾を離れた後のことで、「負け犬の遠ぼえ」と言ってよいだろう。
習氏も、米国と真正面から事を構えて軍事的に勝利できると考えるほどの愚か者ではない。では、なぜ習氏が台湾問題に固執し、強硬な態度をとり続けるのだろうか。
そこに深く関わっているとみられるのが、上海を拠点とする浙江財閥などに支えられた「反習派」との「暗闘」だ。
つまり、反習派が「やれるものならやってみろ」とたき付けているのだ。中国共産党の核心的利益である「台湾」死守に弱腰であると受け取られたら、「経済よりもイデオロギー優先」の習政権の存在意義にも関わるから、米国に強気に出ざるを得ないことをお見通しなのだろう。
ペロシ氏の訪台は台湾問題で対中強硬姿勢をアピールし、11月の米中間選挙で集票しようとした狙いもあると思われる。だが、より本質的には、今秋に予定されている5年に1度の中国共産党大会で習氏の3選を阻止したい勢力との連携が行われた可能性があるのではないか。
米民主党と浙江財閥のつながりは、第二次世界大戦前にさかのぼる。フランクリン・ルーズベルト大統領が執拗(しつよう)に「日本いじめ」を繰り返し、真珠湾で手を出させたのも、日本が中国で利権を拡大することが脅威だったからだとも考えられる。
現在でも、イデオロギー優先の習政権は経済を収縮させ、中国大陸における民主党利権を脅かすから好ましくない存在だといえる。米民主党も習氏の3選を望まず、反習派に権力を奪還させようとしているのではないか。秋の共産党大会直前という絶妙なタイミングでの訪台にはそのような意図が見え隠れする。
現在の中国経済は火の車である。各地で「取り付け騒ぎ」が報道されているだけではなく、建設が進まないマンションの「ローン支払い拒否」も頻発している。ゼロコロナ政策も国民を苦しめ、中国経済はマイナス成長に陥っているとの見方も出てきた。
1958年から始まった「大躍進」は、当時の毛沢東主席が、経済の実態を無視した政策を遂行したことにより、人為的餓死者などの犠牲者が4000万人(西側推計)とされる大惨事だった。革命の英雄としてカリスマであった毛主席も責任を厳しく追及された。
当時と比べ、現在の中国の人々はケタ違いに豊かになっている。その果実を奪い、北朝鮮よりも貧しかった時代に逆戻りしようとしているのが、習氏のイデオロギー優先政策だ。一般国民も含めた反発は強権支配によって表に出てこないが、地下のマグマのようにたまっているはずである。
中国共産党の歴史を考えれば、「権力の座から引きずり降ろされた人物」には恐ろしい運命が待っている。習氏も多くの反対派を粛清してきた。窮鼠となった習氏が「台湾有事」を引き起こす可能性がある。日本はとばっちりを受けかねないことに注意しなければならない。
●党大会占う北戴河会議終了か 台湾対応の強硬姿勢、習氏に吹いた風は 8/17
中国国営新華社通信は、習近平(シーチンピン)国家主席が16日から遼寧省を視察していると報じた。動静が伝えられたことは、共産党幹部や長老らが重要政策や人事を議論する「北戴河会議」が終了したことを示唆する。ペロシ米下院議長の台湾訪問に軍事的威圧などで強い姿勢を示した政権の評価は高まっており、秋の共産党大会で3期目を見据える習氏に追い風が吹いている。
習氏は16日午後、国民党との戦いを記録した「遼瀋戦役記念館」や森林公園などを視察。市民と交流し「中国式現代化とは、人民全体の共同富裕(共に豊かになる)の現代化だ。我々は東北振興に自信を持っている」とアピールした。視察には、腹心である丁薛祥党中央弁公庁主任や劉鶴副首相らが同行している。
習氏の動静は7月末の党内会議以降、しばらく途絶えていた。ペロシ氏訪台を受けて中国軍が台湾周辺の空海域で実施した「重要軍事演習」などを指示しつつ、党大会への重要なステップである北戴河会議にも対応したとみられる。
●米軍艦の台湾海峡通過予告に中国反発 8/17
アメリカ政府の高官が台湾海峡で「航行の自由」作戦を実施する方針を示したことに対し、中国政府は「さらに大きな危機を作らないよう警告する」と反発しました。
アメリカのキャンベル・インド太平洋調整官は12日、ペロシ下院議長の台湾訪問を受けて中国が実施した大規模な軍事演習などについて「現状を変更する試みで台湾海峡の平和と安定を損なう」と批判しました。
そのうえで、軍艦や軍用機に台湾海峡を通過させる航行の自由作戦を数週間以内に実施する方針を明らかにしました。
これに対し、中国外務省は17日の会見で「先にアメリカが理不尽な挑発を行い、中国は自らの権利を守っているだけだ」と反発しました。
そのうえで「アメリカが軽率な行動を取り、さらに大きな危機を作らないよう警告する」と強調しました。

 

●「我々を過小評価するな」…駐米中国大使、米国に警告 8/18
駐米中国大使がナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問などをめぐり「中国を過小評価するな」と警告した。
秦剛駐米大使は16日、メディアブリーフィングで「(米国は)主権と領土の統合性を守るという中国政府と人民の強い決意を過小評価してはならない」と述べた。ペロシ議長ら米国議会代表団が今月2〜3日に台湾を訪問し、台湾に対する防衛の意志を強調したことを非難したのだ。
秦大使は「私はあらゆる手段とチャンネルを動員して(ペロシ議長の台湾訪問を)阻止しようとした」とし、「米国は台湾に関する誤った行動について考え、何が真の『一つの中国政策』なのかを振り返るとともに、緊張を高める行為を慎まなければならない」と述べた。また「ペロシが台湾を訪問した最後の下院議長であることを願う」と語った。秦大使は4日、「ワシントンポスト」への寄稿でも「ペロシの台湾訪問は14億の中国人の怒りを呼び起こした」と反発した。彼はエド・マキ民主党上院議員が率いる他の米国議会代表団が15日に台湾を訪れ、蔡英文総統に会ったことも「挑発的であり、プラスにならない」行動だと非難した。
秦大使は、米国が台湾海峡で「航行の自由」作戦を再開すると明らかにしたことについても、「自制し、緊張を高めるいかなる行為もしないことを米国に求める」と述べた。同大使は米軍が台湾海峡で「航行の自由」作戦を展開すれば「中国は対応するしかない」と述べた。これに先立ち、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル氏は、数週間内に台湾海峡に米軍艦艇と軍用機を送る作戦を展開すると明らかにした。
同日、鄭澤光駐英中国大使も「ガーディアン」への寄稿で、台湾は中国と英国関係における試金石だとしたうえで、「英国は米国の前轍を踏む理由がない」と強調した。また「『台湾独立』は戦争を意味する」とも主張した。
一方、米国防総省は同日、ペロシ議長の台湾訪問とこれに反発する中国軍の訓練に伴い、緊張がさらに高まることを防ぐために延期していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を実施したことを明らかにした。米国防総省は、カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から発射した大陸間弾道ミサイル「ミニットマン3」が、南太平洋マーシャル諸島の環礁に命中したと発表した。
●秋葉国家安保局長、中国外交トップ楊氏と台湾情勢などで意見交換 8/18
政府は18日、秋葉剛男国家安全保障局長が中国・天津を訪問し、17日に外交担当トップである楊潔チ共産党政治局員と最近の台湾情勢を巡る緊張など地域・国際情勢について意見交換したと発表した。
日本政府筋によると、秋葉局長は中国軍による台湾周辺での演習や、沖縄県の尖閣諸島(中国名:釣魚島)を含む東シナ海の地域情勢などに対する日本の立場を伝えた。
尖閣諸島は日本が実効支配し、中国も領有権を主張している。
双方は、昨年10月の日中首脳電話会談で認識を共有した「建設的かつ安定的な関係」に向けて努力していく必要があることで一致。対面による対話が価値あるものであることを再確認し、対話を継続していくことも申し合わせた。会談は計7時間にわたって行われた。
台湾海峡を巡っては、ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけに中国が大規模な軍事演習を行うなど緊張が高まっており、4日には中国が発射した弾道ミサイルが日本近海に落下。岸田文雄首相は5日、中国に対して強く非難し抗議したことをペロシ米下院議長に伝達した経緯がある。
●台湾東部の海域で訓練 米軍空母艦載機部隊が岩国基地に帰還 8/18
アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問で、周辺地域の緊張の高まりが懸念されるなか、台湾東部の海域で訓練などを行っていたアメリカ軍岩国基地の空母艦載機部隊が、17日、基地に帰還しました。
岩国基地に帰還したのは、神奈川県の横須賀基地を拠点にするアメリカ海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」の艦載機部隊で、17日は、戦闘攻撃機のFA18スーパーホーネットなどが駐機している様子が確認できました。
アメリカ海軍は、8月上旬にアメリカのペロシ下院議長の台湾訪問で周辺地域の緊張の高まりが懸念されるなかで、艦載機が台湾東部のフィリピン海で訓練などを行っていたことを明らかにしています。
「ロナルド・レーガン」の空母艦載機およそ60機は、在日アメリカ軍の再編に伴って、4年前に神奈川県の厚木基地から岩国基地に移転され、1年の半分ほどをアジア太平洋地域に展開して訓練を行っています。
一方、中国四国防衛局は帰還した艦載機の滞在期間や今後の運用については、現時点でアメリカ側から情報を得られていないとしています。
岩国市は、「岩国基地の騒音状況などは、空母艦載機が大きく影響を与えるところがあるので、今後の飛行状況などをしっかりと注視していきたい」と話しています。 
●中国を利しただけ?国内事情でも好都合だったペロシ米下院議員の台湾訪問 8/18
8月2日にアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。これに反発した中国は、台湾周辺の海・空域で4日から大規模な軍事訓練を実施した。一連の動きは、米中をはじめとする国際情勢にどのような影響を及ぼしたのだろうか。
アメリカに責任転嫁する形で演習実施 国内事情でも“好都合”
米中首脳電話会談が行われた7月28日、習近平国家主席はペロシ氏の台湾訪問について「火遊びをすれば火傷をする」と厳しく釘を刺した。
秋の党大会で安定的に3期目を迎えたい習氏にすれば、ウクライナ情勢、コロナ禍に続き、台湾問題でも騒ぎを大きくしたくないのが本音だっただろう。ペロシ氏の訪問を受けて中国が実施した軍事演習は、習主席のメンツを潰したアメリカへの報復だけでなく、国内向けに強気の姿勢を見せる必要があったためだとみられる。
一方で、この演習をアメリカに責任を転嫁する形で行えたのは、結果的に大きな成果となった。実際に武力統一に踏み切るかはともかく、中間線を越え、台湾を取り囲み、11発の弾道ミサイルを発射し、今後の演習を常態化することも示唆した。
既存の国際秩序を変える動きを公然と行い、実績にしてしまったわけだ。「数年かかって出来るかどうかという演習を、堂々とやれる口実を与えてしまった」(外務省幹部)というように、中国がメンツを潰されたのはひとつの側面にすぎない。
中国の国内事情から見ても、この演習は好都合だった。折しも新型コロナ対策の厳しい措置に市民の不満は高まり、指導部の求心力の源泉である経済成長にも陰りが見えていた。ペロシ氏の訪台は、そんな国内の不満の矛先をアメリカにそらし、「強い中国」を印象づける格好の材料になった。
「今回の演習は習主席の偉大な指導だと位置づけられるだろう」(外交筋)との指摘があるように、3期目を見据えた習主席、指導部としても、この“実績“を利用しない手はないだろう。
日本の安全保障にも重大な影響
一方でアメリカや台湾、日本にとってはどのような影響があったのか。
アメリカはペロシ氏個人のレガシー(遺産)になった側面はあるだろうが、「果たして今行く必要があったのか」(外交筋)という疑問の声も根強くある。中間選挙を控えた民主党にとって中国に譲歩したくない事情はあったにしても、「ペロシ氏にも中国にも強く出られないバイデン大統領に失望感が広がっている」(アメリカ関係筋)との声もある。
台湾は、ペロシ氏の訪問をきっかけに中国軍に島を囲まれ、現実的な脅威にさらされた。アメリカの関与を歓迎しつつ、他の選択肢がなかっただろう蔡英文政権にとっては複雑な思いがあるはずだ。蔡総統は15日にアメリカの議員団とも会談したが、映像の公開が一部にとどまり、配信される時間も遅れたのは中国を刺激したくない思惑もあったからではないか。
中国が発射した弾道ミサイルのうち、5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した(防衛省発表)ことは、日本の安全保障にも重大な影響を及ぼした。中国側が意図したものかはわからないが、これも明らかな現状変更の動きである。「日中関係は改善の兆しが見えていた」(日本大使館筋)というタイミングだけに、ペロシ氏の台湾訪問と弾道ミサイルの発射を含む中国の演習は、日中関係にも冷や水を浴びせる結果になった。中国外務省は岸田改造内閣の発足にあたり「両国が同じ方向に進むことを望む」と語り、日本への批判をいったんはおさめたかに見えるが、その先行きは不透明だ。
結局は中国を利するだけになったとみられる一連の動きだが、それはあくまで短期的なものだ。日米などと中国の距離が広がることは地域の不安定化を招き、不確定要素が増し、中国の孤立を深めることにもなるからだ。
日中国交正常化50周年の2022年、関係改善の兆しが見えないまま、外交当局者らの模索が続いている。
●プーチン大統領によるペロシ氏の台湾訪問非難は「正義の声」=外交部  8/18
ロシアのプーチン大統領がこのほどペロシ米下院議長の台湾訪問を非難したことを受けて、外交部の汪文斌報道官は17日の定例記者会見で、プーチン大統領のコメントは中ロのハイレベル戦略協力の体現であり、それぞれの核心的利益に関わる問題で両国が貫いている断固とした相互支持の現れであると表明しました。
報道によりますと、プーチン大統領は16日、第10回モスクワ国際安全保障会議で演説し、「ペロシ米下院議長の台湾訪問は、一人の無責任な政治家による無謀な行動ではなく、丹念に計画された挑発行為だ。地域と世界の情勢を不安定にし、混乱させるための米国の戦略の一部である。これは他国の主権を尊重せず、自身の国際的責任を無視した傲慢な表現方法だ」と指摘しました。
これについて、汪文斌報道官は「ペロシ氏が台湾を訪れて以降、170余りの国が正義の声を発し、一つの中国の原則を重ねて強調し、中国の国家主権と領土保全を守ることを支持している。中国は引き続き国際社会と共に、国連憲章の趣旨と原則を守り、地域および世界の平和と安定を維持していきたい」と指摘しました。

 

●米原子力空母が横須賀に帰港 台湾情勢警戒の任務終え  8/19
中国軍による台湾周辺での大規模軍事演習の警戒監視活動に当たっていた米海軍の原子力空母ロナルド・レーガンが19日、長期航海を終え、拠点とする神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地に帰港した。補給やメンテナンスが目的としている。
中国は、ペロシ米下院議長の台湾訪問に対抗して台湾海峡などで軍事演習を実施。レーガンを中核とする第5空母打撃群は台湾南東のフィリピン海に展開していた。
横須賀市によると、レーガンには約2800人が乗船し、5月20日に横須賀基地を出港。5月下旬に関東南方の太平洋で海上自衛隊と共同訓練、6月上旬に沖縄南東沖で韓国海軍と合同軍事演習を実施した。
●中国「台湾統一白書」を22年ぶりに発表、そのシナリオに武力行使はあるのか 8/19
8月10日、中国の国務院台湾事務弁公室が台湾統一に関わる「白書」を発表した。正式名称を「台湾問題と新時代の中国統一事業」というこの白書は、台湾の独立勢力と米国内の反中国勢力に対して強い牽制を示すものだ。1993年と2000年にも発表されたが、それらと比較しながら中国の態度の変化を考察し、台湾の人々の将来を考えてみたい。
「武力行使の放棄は約束するものではない」
8月3日のペロシ米下院議長の台湾訪問は、禁断の「パンドラの箱」を開けた。
その対抗措置として、人民解放軍は即座に演習を開始、他の船舶や航空機を排除し、台湾を半ば封鎖状態に追い込んだ。ペロシ氏の訪台は、少なくとも「中国による統一」を早めるための口実を与えることになったといえるだろう。「台湾は中国の手中にある」とアピールするかのような動きは、「統一」が間近に迫るかのような暗示となった。
中国人民解放軍が行った軍事演習は今月4〜9日に行われ、「白書」は演習終了直後の10日に公開された。
この「白書」は「台湾の独立勢力や外部勢力が挑発し、強要し、さらには超えてはならない一線(原文は紅線)を突破した場合は、措置を講じる必要がある」と強く牽制している。その内容を見ていこう。
江沢民政権時代から、「武力行使」をチラつかせていた
まず、「白書」は、中国と台湾の歴史について触れ、新中国建国からの中国と台湾の関係と、それに対して中国共産党が抱く“断固たる統一の決意”を掲げた。「民族の復興」は必然の要求であり、祖国統一は止められない動きであることを強調している。ここで繰り返し述べられているのは、「一国二制度」を前提とした「平和的統一」だ。
その一方で「武力行使の放棄は約束するものではない」とも書かれている。これは「武力行使もあり得る」と解釈でき、一部外国メディアも「いよいよか」と身構えた。だが、実はこの表現は江沢民政権時代にまとめられた2000年版の「白書」にもある。
1990〜2000年代にかけての中国と台湾の関係は、両岸の意思疎通のためのルートが設けられ、公式に接触する機会が拡大した時代でもあった。かたや当時は、台湾市民の間に独自のアイデンティティーが生まれ、台湾の総統に就任した李登輝氏(任期は1988〜2000年)が主張した「中華民国による台湾統治(「二国論」)」に対して、中国側が危機感を募らせた時代でもあった。
1993年版、2000年版の「白書」も中国と台湾の歴史から始まり、台湾問題の解決のための基本方針として「平和的統一」と「一国二制度」が前提であることを示しているが、それらの発行時期からも、目的は台湾独立勢力への強い牽制であることが見て取れる。
ちなみに、2000年3月の台湾総統選では「台湾は中華民国ではなく台湾そのものだ」と主張する民進党の陳水扁氏が当選しているが、「白書」はこのような“両岸関係の緊張の節目”に更新される傾向があるのだろう。
「武力行使」に話を戻せば、2022年版、2000年版ともに「武力行使の放棄は約束するものではない」との文言が掲載されている。このように強く脅しておきながらも、その標的は「台湾同胞ではなく、あくまでも台湾独立勢力と中国の統一に干渉する外部勢力に向けたものだ」と書かれている。
実際、台湾統一のシナリオに武力行使はあるのか。すでに台湾ではさまざまな臆測が飛び交っており、市民も「この手の議論には半ばうんざり」しているともいう。
他方、中国の公開資料から分析を進める台湾の公共政策の専門家は、台湾メディア「関鍵評論」で次のように推測する。
「台湾に武力侵攻する際は、中国は事前に告知を行い、台湾から住民を一時避難させるケースが考えられる。一方、台湾独立勢力に対しては、独立犯罪者をブラックリストに入れ、全中国のみならず全世界まで追いかけるだろう」
1993年版にはあったのに… “高度な自治”の内容が消される
中国政府が台湾問題に対して発表した初めての白書が、1993年版の「台湾問題と中国の統一」である。
「平和的統一と一国二制度は中国の特色ある社会主義を構築するための理論と実践だ」と位置付け、「一国二制度」の下での台湾における高度な自治、すなわち「台湾特別行政区」構想を打ち出していた。
2022年版でもこれを引き継いでいるが、明らかに「自治」の度合いは薄められている。
最新の「白書」では「台湾が平和的に統一された後、法律に従って高度な自主性を備えた、祖国とは異なる社会システムを実施することができる」としつつ、「『二制度』は『一国』に従属するものである」という説明を辞さない。1993年版にあった「台湾における行政権、立法権、独立した司法権と最終的な裁定権を有し、党、政府、軍事、経済、財政などを自ら管理、独自の軍隊を持ち、本土は軍隊や行政要員を台湾に派遣しない」という一文が2022年版ではバッサリ削除されているのだ。
代わりに、「統合的発展」が強調されていた。台湾同胞の正当な権益や利益を保護し、福利を満たし、平等な待遇を与えるというものだ。
もっとも、台湾を中国に統合するのは難しいことではない。前出の台湾の専門家が推測するのが、「大陸に進出する台湾企業に優遇政策を与える、中華人民共和国のパスポートを取得した台湾同胞に経済的恩恵を与える、新台湾ドルを一対一のレートで人民元に交換できるようにする」などの現実的な“取り込み作戦”だ。経済水準を中国にすでに超えられてしまった台湾にとって、一対一という破格の交換比率は、保有資産が増加することを意味する。
2022年版にある、「『台湾住民大陸往来通行証』を発行し、『居住許可証』を発行する」のくだりからは、台湾住民が本土への往来や移住をしやすくする環境づくりが進められていることが見て取れる。また、福建省では「両岸統合モデル地区」を建設するという。大橋や道路を開通させるなどのインフラ統合や、エネルギーなど資源供給で統合を目指すシナリオだ。
香港では「粤港澳大湾区発展計画(広東・香港・マカオベイエリア発展計画)」の下で、大陸と香港の間に橋が架かり、また香港・マカオの市民には内地に進出する機会が与えられたが、こうした“一体化計画”は台湾でも応用する腹積もりのようだ。
台北市の住民の一人は次のように話していた。
「中国と台湾の力関係は“ゾウvsネズミ”にも等しい。台湾を中国が統一しようと思えば、武力なしでできる。中国の戦闘機だって米国に見せるための演出にすぎないし、そもそもミサイルなんかに金をかける必要などないのです」
魅力を失う「一国二制度」
2022年版でも、「一国二制度」の下で「台湾特別行政区」を発展させる意向が示されている。
しかし、この「一国二制度」も今では色あせたものになった。1979年に、ケ小平が提唱したこの新たな制度に当時は国際社会も目を輝かせたが、2019年の香港での大規模デモをきっかけに「一国二制度」は有名無実となり、期待を託すことは難しくなった。
1990〜2000年代は中国には全世界を魅了するだけの未来があり、「中国市場への進出」も魅力あるものだったが、今はそれほどでもなくなった。そもそも、台湾の国民党時代にケ小平が呼びかけた「一国二制度」は、40年以上を経て現状にはそぐわないものになってきている。
それでも「統一」は避けて通れなくなってきた。
「中国建国100周年に当たる2049年までに」とも言われていたが、“2027年説”も出てきた。米国の動きに警戒を高める中国は、「台湾統一」に向けた、いわゆる“サラミ・スライス戦術”(小さな行動を積み重ね、既成事実化させる戦術)をより加速させてくるだろう。
●ペロシ議長訪台が米中関係やインド太平洋の安全保障に影響 8/19
米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は8月15日、ナンシー・ペロシ連邦下院議長の台湾訪問がもたらしたインド太平洋地域への影響について、一問一答形式のレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。レポートでは、ペロシ議長の訪台と、それに反発する中国の台湾海峡での大規模軍事演習により、第4次台湾海峡危機の可能性が取り沙汰されるなど、インド太平洋地域の安全保障に懸念が広がっていると指摘した上で、米中関係や台湾経済への影響について分析している。
(1)米中関係への影響
レポートでは、米中が互いにどちらの国が緊張をあおったかという議論の応酬になったと指摘した。中国は自国の主権と領土が侵害されたと主張したのに対し、米国は、ペロシ議長の訪台がこれまでの米国の台湾政策に何ら変化をもたらすものでもなく、中国の軍事演習は中国側の過剰な反応だと主張したとして、ペロシ議長訪台前後の米中論争を総括した。また、中国は麻薬取り締まりに関する協力、軍事対話、気候変動に関する交渉など多くの問題で米国との対話を停止すると発表(2022年8月9日記事参照)した一方で、バイデン米政権は対中追加関税維持を検討するなど、ペロシ議長の訪台を契機とした緊張の高まりが2国間関係の広範な分野に波及していると指摘した。
(2)台湾経済への影響
ペロシ議長の訪台が台湾経済に影響を及ぼすことは「ほとんどなかった」と結論づけた。台湾の株式市場はペロシ議長の訪台前後にやや下落したものの、通常の値動きの範囲内だったとした。また、緊張の高まりを受けて、台湾を発着する一部の航空便がキャンセルまたはルートが変更されたが、既に通常に戻っていると述べた。
(3)台湾有事の場合の影響
仮に戦争や禁輸措置(Embargo)が講じられた場合の台湾経済は「脆弱(ぜいじゃく)」と警鐘を鳴らした。レポートでは、台湾の輸出の42%は依然として中国向けで、輸入の22%は中国から(米国はそれぞれ15%、10%)として、「台湾の経済は中国に大きく依存しており、戦争や封鎖が起これば、壊滅的な打撃を受ける可能性が高い」と指摘した。一方で、中国も台湾積体電路製造(TSMC)や他の台湾企業に絶対的に依存しているとして、台湾有事の場合「中国経済への代償は計り知れないものがある」と指摘した。
(4)インド太平洋地域各国の受け止めや反応
日本について、中国の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したことを受けて、岸田文雄首相が8月5日のペロシ議長との朝食会で「日本の安全保障と国民の安全にかかわる重大な問題」と非難(2022年8月8日記事参照)したことを挙げ、「米国の同盟国の中で中国の軍事演習を非難することに最も積極的だった」と評した。
韓国については、ペロシ議長の訪台に「非常に慎重だった」として、これは台湾海峡問題が朝鮮半島に波及し、北朝鮮の非核化に対する中国の協力が損なわれることを懸念したためと理由づけた。
オーストラリアに関しては、同国の安全保障に対する台湾の戦略的重要性について議論が生まれつつあると指摘。ペロシ議長の訪台を受けた中国による軍事演習は、オーストラリア国内の議論や政権方針に影響を与える可能性があるとした。
ASEANについては、8月10日に開催された東アジアサミット外相会議とASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議の議長声明で中国や台湾を名指しせずに懸念を表明し、対話を促すとしたことについて、「いびつな共同声明」と指摘した。
一方で、フィリピンでは、地理的近接性から同国も当事者となる可能性が高いことから、中国に対する懸念は高まっていると指摘。また、米国とフィリピンは、台湾有事を想定した「率直な話し合い」を持ち始めているとして、関係性の変化を示唆した。
●「中国の夢」実現も正念場−共産党トップ3期目狙う習氏に難題山積 8/19
中国共産党の習近平総書記(国家主席)は2012年の就任直後、中華民族の偉大なる復興という「」を語った。それから10年、習氏は党トップとして自らの壮大なビジョンの実現に向けて最も困難な局面に入ろうとしている。
習氏の動静が今週伝えられ、現旧指導部が重要政策などを話し合う北戴河会議が終了したことを示唆した。内外で課題が山積しており、年後半に開かれる共産党大会で慣例破りの3期目続投という習総書記にとって最大の業績がかすむ事態は避けたいところだが、党大会の開催まで数カ月しか残されていない。
中国経済見通しを巡っては民間エコノミストの間でが相次いでいるほか、新型コロナウイルス感染も再拡大し、台湾問題では米国の攻勢も強く、週を追うごとに新たな危機が生じているように見受けられる。こうした状況から、習氏は自身の業績を宣伝したり、3期目入りの晴れ舞台に備えたりするのではなく、リスクの抑え込みや安定のイメージ演出に集中する必要に迫られている。
パンセオン・マクロエコノミクスの中国担当チーフエコノミスト、クレイグ・ボサム氏は不動産の救済基金やバブル方式なら生産を認めるゼロコロナ政策の合理化、売り上げ低迷にもかかわらず事業継続のための補助金拡大などを挙げ、状況悪化を食い止める政府の取り組みを示唆していると話す。
「共産党の権力維持に寄与する安定こそが目標になっている」とボサム氏は分析する。
「火消し」必要
共産党はこれまで党大会の開催時期について、年後半としか説明してこなかったが、具体的な日程を今月にも発表する可能性がある。習総書記は3期目入りへの明確な反対には直面していないが、弱いと受け止められれば主要人事の決定に影響が及んだり、後継候補に関するシグナルが発せられたりすることもあり得る。
習氏は建国100年となる2049年までに中国を「富強、民主、文明、調和が取れた」国家に発展させるという自身の夢を掲げたが、その実現に向けて中国が順調に歩みを進めていると主張するのは難しい状況にある。昨年ようやく、「小康社会(適度にゆとりある社会)」を全面的に実現したと宣言したばかりだ。
米国やその同盟国との対立激化は国内問題でもある。ペロシ米下院議長の台湾訪問を巡っては、中国側の初期対応に失望した愛国主義者から好戦的な反応がソーシャルメディアで出ており、習氏が高まるナショナリズムをいかに慎重に管理する必要があるかを浮き彫りにしている。
パンセオンのボサム氏は、安定を取り戻すには相当な「火消し」が必要になると分析。こうした状況を白鳥の水かきに例え、「水上では落ち着いていて穏やかだが、水面下では必死に足をバタバタさせているのだろう」と述べた。
●米中対立で変わる気候問題、消える「協力」の象徴  8/19
ナンシー・ペロシ米下院議長が今月台湾を訪問したことに中国が反発し、地球温暖化対策を巡る米国との協議を打ち切ったことで、気候政策が米中間の新たな争点に急浮上してきた。
インド太平洋地域における対立、民主主義的価値観と専制主義の衝突、半導体の覇権争いなど、米中関係に影を落とす多くの問題の中でも、台湾はもともと米中関係にとって難題となっていた。だがペロシ氏(民主、カリフォルニア州)が中国政府の警告を無視して訪台する前は、世界最大の温室効果ガス排出国である米中の関係が悪化する中でも、気候変動対策は協力が期待できる数少ない分野だった。
中国はペロシ氏の訪台後、台湾周辺に戦闘機や艦艇を展開して軍事演習を開始。5日には、国防当局間の対話や麻薬対策、国際犯罪など重要分野における米国との協力を中断または打ち切る方針を表明した。
中国の決定には気候変動問題に関する協議の中止も含まれており、地球温暖化対策は米中関係の悪化に巻き込まれることはないという希望はついえた。
アントニー・ブリンケン米国務長官は6日、「気候分野の協力打ち切りは米国に対する罰ではなく、世界、とりわけ途上国に対する罰だ」と言明。ジョン・ケリー大統領特使(気候変動問題担当)をはじめ米高官からも同様の見解が示された。
中国側の気候変動問題担当特使の解振華氏はこれに対し、世界と途上国を罰したのは中国ではなく米国だと反論。米政府の気候変動への取り組みには一貫性がなく、ドナルド・トランプ前大統領がパリ協定から離脱するなどして国際的な機運を「大きく損なった」と非難した。中国共産党傘下の英字紙チャイナ・デーリーに語った。
中国の秦剛駐米大使は16日にワシントンで、今回の決定を撤回するための条件について、米国は緊張をエスカレートさせるいかなる行動も控えるべきだと述べた。この前日に米国の議員団が台湾の蔡英文総統と会談すると、中国は新たな軍事演習を実施すると発表。秦氏は、訪台は挑発的で無益な行為だと批判した。
元米外交官でペンシルベニア州ビラノバ大学教授のデボラ・セリグゾーン氏(中国政治学)は、協議中断は短期的には両国の目標に影響を与えることはないと指摘する。目標は政策担当者が国内の圧力に対処するためのものであるからだという。
ただ、両国間の合意がなければ、11月にエジプトで開催される第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)で他の国により野心的な対応を促すのは難しいかもしれないとセリグゾーン氏は話す。
ジョー・バイデン米大統領は地球温暖化を抑制する取り組みであるパリ協定への復帰を決めるとともに、2030年までに温室効果ガス排出量を05年比で少なくとも半減させ、50年までに実質排出ゼロを達成することを公約した。
バイデン氏が16日に気候変動とクリーンエネルギー対策に約3690億ドル(約49兆8000億円)を拠出する「インフレ抑制法案」に署名したことで、米国は目標達成に一歩近づいた。
米国のニコラス・バーンズ駐中国大使は法案成立前、「米国は気候変動問題に対処している」とツイートし、中国に協議打ち切りを見直すよう呼び掛けた。
中国外務省はこれに対し「米国がそれを実現できるかが問題だ」とツイートした上で、途上国に気候変動対策の資金を提供するという約束を米国はまだ果たしていないと述べた。
中国は、二酸化炭素(CO2)排出量が2030年までに頭打ちとなり、60年までに排出量実質ゼロを達成するとしており、各分野の具体策を公表している。クリーンエネルギーへの移行では先行し、国営メディアによると、1-6月期に31ギガワットの発電能力を持つ太陽光発電設備を整えた。これは前年同期の2倍以上に当たるという。また、シリコン系パネルの生産量でも他を大きく引き離している。一方、水力発電所の出力は1-6月期に2割増加した(中国電力企業連合会調べ)。
CO2排出量を追跡するカーボン・モニターによると、中国の排出量は1-5月に前年同期比4.1%減少した。ただこれは主に、ゼロコロナ政策による景気悪化と不動産市場の不振によるものだった。同じ時期に米国の排出量は5.7%増加した。
米中の対話継続にどの程度正式な取り決めが必要かは不明だ。カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバルポリシー・ストラテジー学部のマイケル・デビッドソン助教授によると、ケリー氏と解氏は気候問題に関する作業部会が正式に立ち上がる数カ月前から話し合っていた。
2021年3月に米中外交トップが初の会談を行った翌月、ケリー氏と解氏は対面で会談し、11月に開催されたCOP26で気候問題に関する米中作業部会が正式に発足するまでほぼ隔週で話し合いの場を設けていた。それ以降も「8〜9日おきに」話していたと、解氏は5月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で語っている。
解氏が会談のための出張を許されていた数少ない外交官の一人だったことは、中国が気候変動問題を通じた外交を重要なチャンネルとみなしていたことを示唆している。金融データ会社リフィニティブのアナリスト、ヤン・ジン氏はこう指摘する。
だが今年は国内での制約が進展を阻んでいる。作業部会の下位組織をまとめるのに時間がかかったと関係者は明かす。
デビッドソン氏によると、話し合いは一部の技術的な問題に絞られ、貿易やテクノロジー、サプライチェーン(供給網)など気候変動対策には不可欠の幅広い問題には踏み込んでいない。
米政府は、気候変動を独立した問題として扱うべきだと主張している。新疆ウイグル自治区における人権侵害の疑いを理由に太陽光パネルに課した関税について、中国が引き下げを求めたものの拒否。中国は「オアシスの周りがすべて砂漠なら、遅かれ早かれオアシスは砂漠化する」とやり返した。
中国は、協議の中断がどのような意味を持つのか、またカリフォルニア州など連邦政府以外の米国内の取り組みにも影響が及ぶかどうかについては明らかにしていない。中国の黄潤秋・生態環境相は7月にワシントンを訪れた際、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事とも会談した。
中国が協議打ち切りを決めたことは、両者の信頼関係がどれほど大きく損なわれたかを示していると、協議の様子を知る別の関係者は指摘。トランプ前大統領の時でさえ、中国は気候問題を通じて米国に扉を開いていたという。
前出のセリグゾーン氏は「気候が両国関係を支えられないのは明らかだ」と指摘した。

 

●米大使、中国が不安定要因 8/20
米国のバーンズ駐中国大使は、ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発して軍事圧力を強めた中国について「台湾海峡を巡る不安定要因になった。誰の利益にもならない」と非難した。中国の謝鋒外務次官から呼び出され、抗議を受けた際のやりとりを振り返り、主張の正当性をぶつけ合う「激論」になったと明かした。CNNテレビが19日報じた。
謝氏からの抗議はペロシ氏が台湾入りした今月2日に受けた。バーンズ氏は「議長の訪台の権利や、台湾海峡で約60年間維持されてきた平和と安定の正当性を主張した」と述べ、平和と安定を推進するような行動を取るべきだと中国に伝えたと語った。
●バーンズ米大使、中国は台湾問題の「不安定化要因」でないことを示す必要 8/20
米国のバーンズ駐中国大使は19日、半年前に着任して以来初となるテレビインタビューに応じた。中国は自国が「不安定化要因」ではないことを世界に納得させ、台湾海峡で平和的に行動する姿勢を示す必要があると指摘した。
バーンズ氏はインタビューで、ペロシ米下院議長の台湾訪問に対する中国政府の反応に率直に言及した。中国はペロシ氏の訪台に対抗して台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、米国との主要な外交対話を停止している。
バーンズ氏は米大使館でCNNに対し、「ペロシ氏の平和的な台湾訪問で米中関係が危機に陥る必然性があるとは思わない。あれは中国政府がつくり出した危機であり、過剰反応だった」と述べた。
さらに、「中国政府は平和的に行動する姿勢を世界に示す責務を負っている」と指摘。「中国が台湾海峡の不安定化要因になったことを懸念する声が世界各地で出ている。これは誰の利益にもならない」と述べた。
バーンズ氏はキャリア外交官で、北大西洋条約機構(NATO)大使を務めた経歴を持つ。3月に北京に到着し、米国にとって間違いなく最も重要な外交ポストに就いた。中国の人権状況や貿易慣行、南シナ海での軍備拡張など、様々な問題できしんだ米中関係にうまく対処するという重責を担う。
中国の厳格な新型コロナウイルス対策の影響もあって、中国との間を行き来する外交関係者の数は減っており、バーンズ氏はこれまで以上に米中関係の最前線に立たされている。
こうした状況は8月2日の夜に浮き彫りになった。ペロシ氏ら議員団を乗せた航空機が台北に着陸するちょうどその時、バーンズ氏は中国の謝鋒外務次官との協議に呼び出されたのだ。
バーンズ氏は「とても活発な、論争的と言ってもいい協議だった」と振り返り、この時の議論の内容を初めて詳しく明らかにした。
「私はペロシ氏を擁護し、彼女の台湾訪問の権利を擁護した。60年近く続く台湾海峡の平和と安定を擁護した」(バーンズ氏)。バーンズ氏は謝氏に対し、中国政府が「平和と安定を促進する」行動を取ると保証するよう迫ったという。
だが、中国政府が取った対応は、台湾上空へのミサイル発射などで「台湾当局に脅しと威圧」をかけるというものだった。さらに、台湾海峡の安定を損なった責任は米国にあるとする「世界的なキャンペーン」を展開した。
バーンズ氏は「我々は(米国の政策の維持について)非常に明確にしてきた。問題は、ある一つの政府が攻撃的かつ暴力的に反応して平和を乱すのか、ということだ。これは世界全体にとって懸念すべきことだ」と指摘した。
米国は「一つの中国」政策を維持しているが、台湾に主権が及ぶとする中国共産党の主張を受け入れたことは一度もない。中国の攻撃があった場合に台湾を防衛するかどうかに関しては「戦略的曖昧(あいまい)さ」を保っている。
●挑発的な中国の72時間軍事演習によって「不沈空母=台湾」の認識が消えた 8/20
長年、台湾はその地形から他の侵略を許さない「不沈空母」と思われてきました。しかし、それは「過去の話」だということが今回の中国の軍事演習で明らかとなってしまったようです。台湾と中国の間に流れるピリピリとした空気の理由を、韓国在住歴30年を超える日本人著者が発行するメルマガ『 キムチパワー 』の中で詳しく紹介しています。
「台湾=不沈空母」の認識、崩れる
ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問で、台湾海峡に戦雲が漂っている。8月4日昼12時から7日昼12時までの72時間にわたって実施された中国人民解放軍の軍事演習は一段落したが、訓練を主管した解放軍東部戦区は8月8日、「台湾海域で訓練を続ける」と脅しをかけている。実際、8月9日にも45機の中国戦闘機が台湾海域に出没した。中国軍の軍事行動に対抗して台湾軍も8月9日から11日までの3日間、対抗軍事訓練に乗り出した。
1995年6月の李登輝前台湾総統の米国訪問に触発された「第3次台湾海峡危機」以来、27年ぶりの最大の危機だ。環球時報の総編集者は「台湾海峡危機が蔡英文総統の任期中ずっと日常になるだろう」という見通しまで出している。2020年に再選に成功した民主進歩党(民進党)蔡英文総統の任期は2024年5月までだ。
72時間の「台湾封鎖」で核のない台湾の国防力と地政学的弱点は余すところなく露出した状態だ。中国の軍事訓練初日の8月4日、中国軍が東風-15B系列弾道ミサイル11発を「飛行禁止区域」に設定した台湾周辺の東西南北6海域に打ち上げると、台湾の関門空港である桃園空港は3日間で64便の航空便が欠航し、1日数百便の航空スケジュールが調整された。台湾最大港湾である南部の高雄港をはじめ、首都台北の関門である基隆港も直ちに船舶の出入りに影響を受けた。
特に11発の弾道ミサイルのうち4発は台湾上空を東西に横切り、台湾東方海上に設定した作戦区域に落下した。このうち5発は、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落ちた。1996年台湾初の直選制総統選挙を控え、「台湾独立派」李登輝の当選を阻止するために造成された「第3次台湾海峡危機」の時でさえ、台湾本島の東側にはミサイルが落ちなかった。中国ミサイルが台湾上空を横切ったのは、1949年の国共内戦が事実上終了して以来初めてのこと。
国共内戦後、米国が台湾本島と中国本土の間の海上軍事境界線に引いておいた「海峡中間線」も事実上無力化した。27年前の「第3次台湾海峡危機」の時とは違って、中国軍は果敢に「海峡中間線」にわたって作戦区域を設定した。
過去、台湾軍はこの線を越える中国軍艦艇や戦闘機は敵対的意図を持っていると見なし、拿捕したり迎撃すると脅かしていた。しかし、中国軍は中国本土から台湾本島に最も近い福建省平坦島から「海峡中間線」に向かって長距離砲弾を発射した。平坦島から台湾本島までの距離は、ソウルから大田までの距離(140キロ)より近い126キロ(68海里)に過ぎない。
台湾国防部によると、殲11(=J11)戦闘機とH-6(轟炸六型、Hong-6)など戦闘爆撃機を前面に出した中国空軍機66機も3日間の作戦期間中に台湾上空を回ったが、このうち22機は「海峡中間線」を行き来した。このうちJ11戦闘機はロシア製スホイ(Su)27を中国が独自生産したモデルで、米国製F-16Vとフランス製ミラージュ2000-5を主力とする台湾空軍に様々な面で手強い相手だ。中国官営の中国中央放送(CCTV)は、J11戦闘機操縦士がH-6爆撃機とともに台湾海岸線と山脈を下に見下ろして編隊飛行する画面を流した。
合わせて解放軍東部戦区は中国海軍艦艇に乗った水兵が双眼鏡で台湾海軍護衛艦蘭陽号と台湾本島を狙う写真を官営新華社通信を通じて全世界に配布した。具体的な位置は公開しなかったが、ネチズンは写真の中に登場する地形・地物を根拠に中国海軍艦艇が出没した海域が台湾東部の花蓮付近という事実を明らかにした。
太平洋を眺めつつ地形が険しい花蓮には台湾空軍が200台余りの戦闘機を地下格納庫に隠した紫山空軍基地がある。ところが、中国本土と背を向けており、比較的安全だと考えていた台湾東方海域にまで中国海軍艦艇が出没したわけだ。
さらに、中国本土と近くで「第1・2次台湾海峡危機」の時、中国本土と砲弾を撃ち合った金門島にも8月4日から3日間、中国軍所属と推定される無人機(ドローン)が1日最大7回ほど出没した。無人機は台湾軍の信号弾警告を受けて退却を繰り返した。中国国防大学の孟祥慶教授は「解放軍の視野に“海峡中間線”は存在しない」と断言した。
「第4次台湾海峡危機」とも呼ばれる中国の今回の武力挑発に、台湾が受けた衝撃は相当なものだ。中国が台湾本島に爆弾を一発落とさずに周辺海上で武力デモを行うだけでも、事実上台湾の国家機能を麻痺させる可能性があるという事実が明らかになったためだ。
かつて台湾島は「不沈空母」と考えられていた。海と険しい山で保護される台湾特有の地形で、中国軍の上陸は事実上自殺行為と見なされていた。1949年に国共内戦で敗退した蒋介石・蒋経国前総統父子が台湾島を逃避先に選び後日を誓った理由もこのような理由からだ。
しかし、中国のミサイルと海・空軍戦力の飛躍的強化は「台湾=不沈空母」という従来の認識を根こそぎ崩している。「不沈空母」もやはり海上補給船が途切れれば無用の長物に過ぎないという事実が明らかになったためだ。3隻の空母戦力まで確保した中国海軍は、台湾南部に作戦区域を設定し、台湾本島とフィリピンのルソン島の間のバシ海峡まで事実上遮断した。
バシ海峡は北東アジアと東南アジアを最短距離で結ぶ台湾海峡が封鎖される場合、迂回航路の役割を果たさなければならない。中国海軍の太平洋進出の第1関門である「第1島連線」の一部でもある。ところが、中国海軍のバシ海峡封鎖で有事の際、米海軍の支援を受けることもままならないという事実が明らかになったわけだ。「島連線」とは、太平洋の島を鎖のように繋ぐ仮想の線で、中国海軍の作戦半径を意味するもの。
さらに、中国軍が今回「航行禁止区域」に設定した6か所の作戦区域のうち、3か所は台湾の12海里(22キロ)領海線と重なるように設定された。台北北部海上の作戦区域は12海里領海線に半分ほどかかっており、北部の知龍港一帯の作戦区域は10海里、南部の高雄港近くの作戦区域は9海里の外側に設定された。「第3次台湾海峡危機」の時は、中国軍は台湾本島12海里の内側に作戦区域を設定できなかった。台湾を国際法上、12海里の領海を持つ別の国家とは認めないという確実なシグナルを送ったわけだ。
台湾は中国の「第3次台湾海峡危機」以後、最大規模の挑発に事実上お手上げムードだ。「海峡中間線」が事実上無力化されるや、台湾国防部は「海峡中間線は過去70年間双方が同意してきた線」という糾弾声明を出すに止まった。
今年8月4日、中国軍が東風弾道ミサイルを発射した際、台湾西部の新竹県の海抜2,680メートルのルサン基地にあるペイブポーズレーダーはミサイル発射を早期警報するなど威力を発揮したが、警告に終わってしまった。
サード(THAAD=高高度ミサイル防衛システム)製作会社の米レイセオンのペイブポーズは、約5,000キロ前後の軍事行動まで探知できるレーダーだ。過去、北朝鮮が平安北道東倉里(ピョンアンプクト・ドンチャンリ)の発射場で打ち上げた長距離ロケットまで捉えている。
しかし、ペイブポーズの早期警報にもかかわらず台湾軍は台湾領空を東西に横切って島東方の海に落ちた中国の東風弾道ミサイル4発を目を開けたまま見守らなければならなかった。中国本土から台湾まで最も近い距離は126キロに過ぎない。台湾軍は台湾山岳の随所にパトリオット3ミサイルと台湾版パトリオットである天宮ミサイルで対空防御システムを構築しているが、近い距離から超音速で飛んでくる中国ミサイルを探知するという保障はない。
台湾側は中国の72時間(3日)軍事演習に対抗し、8月9日から11日まで72時間の軍事演習を実施したが、両岸間の戦力非対称だけを露呈したという酷評があふれた。中国軍の上陸阻止訓練を行うとして、曲射砲(155ミリ)と迫撃砲(120ミリ)などを持ち出したのだが、中国からは「国共内戦に使っていた骨董品大砲を持ち出した」という皮肉まで出た。
逆に、中国共産党の習近平総書記兼国家主席は3日間の「台湾封鎖」軍事訓練の結果、上陸作戦に伴う莫大な人命被害なしにも事実上台湾を「武力統一」できるという予想外の成果を確保することになった。今年秋の第20回中国共産党全国代表大会で3連任を控え、軍部の支持を固めるのにかなり役立つものと見られる。
これは「第3次台湾海峡危機」の時と似た流れだ。当時も軍経歴が浅い江沢民前総書記兼国家主席は「第3次台湾海峡危機」を助長し軍部の支持を引き出し、翌年の1997年、トウ小平の死後、トウの影を取り除き権力を強固にすることに成功した。このような内容は「米中国交正常化」の主役として第3次台湾海峡危機当時、水面下の仲裁に乗り出したヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の自叙伝でも詳細に紹介されている。
結局、ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問に触発された「第4次台湾海峡危機」は米国の有意義な介入があってこそ終了するものと見られる。李登輝元総統の1995年6月の米国訪問に触発された「第3次台湾海峡危機」は、米海軍がインディペンデンス級とニミッツ級の2つの空母戦団を台湾の北側と東側海域に急派してようやく一段落した。
中国側で最も神経を尖らせているのも、米海軍第7艦隊の動きだ。ジョン・カービー米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)戦略疎通調整官は8月4日、「米国は数週間以内に軍用機と軍艦を台湾海峡に通過させる」と明らかにした。中国環球時報は、米海軍ニミッツ級原子力空母ロナルド・レーガン号の航路を追跡した結果を知らせ、7月30日頃フィリピン近海にあったレーガン号が日本に北上した後、8月9日まで依然として沖縄北東の日本海域にとどまっていることを確認した。
中国海軍も東海(=日本海)艦隊管轄の台湾海域だけでなく、それぞれ北海艦隊管轄の黄海と南シナ海でも8月15日まで実弾射撃訓練を予告し、レーガン号の接近を源泉封鎖しようと躍起になっている。台湾海峡、風雲急を告げる様相となってきているが、これは尖閣諸島危機にも繋がる。中国の動きから目を離せない状況となっている。 
●「中国製ネット機器」の危険性を見くびってはいけない 8/21
8月初旬、ペロシ米下院議長の台湾訪問にあわせて、台湾各地で「サイバー攻撃」の報告が相次いだ。情報安全保障研究所首席研究員の山崎文明さんは「台湾国内にある複数のセブン‐イレブンでデジタルサイネージがハッキングされた。中国共産党は電気や水道など重要インフラへのハッキングも準備している恐れがある。日本は中国製ネット機器の排除を急ぐべきだ」という――。
デジタルサイネージに「鬼ばばあ」
米議会下院議長ナンシー・ペロシ氏と、台湾の蔡英文総統との会談が予定されていた8月3日の朝、高雄新左営駅の大型デジタルサイネージ(電子看板)に、簡体字で「老妖婆が台湾を訪れる」の文字が表示された。
「老妖婆」とは、残酷で無慈悲な老婆、すなわち「鬼ばばあ」を指す言葉で、ペロシ氏が好戦的人物であることを意味したものだ。
これは中国系ハッカーが大型スクリーンを乗っ取り、台湾の一般市民に対して警告を発したものである。
同様の乗っ取りは、南投県珠山郷役所の大型看板やセブン‐イレブンの店内モニターに対しても行われ、「戦争屋ペロシ、台湾から出て行け」などと表示された。
朝の混在する時間帯で、多くの人がセブン‐イレブンで朝食やコーヒーを買っていた。
突然店内の照明が切れ、真っ暗になった中に、電光掲示板に浮かび上がったメッセージを見て、恐怖心を覚えた人も多かったようだ。
その場に居合わせた女性は、「大統領府のウェブサイトがハッキングされたと聞いても、何も感じませんが、近くの画面にこの血まみれのテキストが表示されると、ショックを受けます」とオーストラリア国営放送のインタビューに答えている。
原因は「中国製の機器・ソフトウエア」
台湾鉄道管理局の調査によると、高雄新左営駅での事件は、何者かが広告会社の外部ネットワークから侵入して、デジタルサイネージの表示スクリーンに接続したものと判明した、としている。
デジタルサイネージは、2年前の時点で合計19の駅に設置されており、そのうち高雄新左営駅の1つだけが、中国のカラーライト(Colorlight)社製ソフトウエアを使用していた。
また、それとは別に、花蓮駅にもオフラインの中国製デジタルサイネージがあったが、停止中であったとしている。
残りの17駅のデジタルサイネージは、台湾製の製品やソフトを使用しており、サイバーセキュリティ上の懸念はないとしている。
台湾の国家通信委員会(NCC)も、予備調査の結果、広告会社のシステムが中国製のソフトウエアを使用していたことが判明した、と述べている。
デジタルサイネージのネットワークは、鉄道の内部ネットワークには接続されていなかったため、鉄道局の内部情報システムや、鉄道の運行には影響を受けなかったようだ。
また、南港駅公園の駐車場のシステムがハッキングされ、そのシステムがファーウェイ製であったと、市民がFacebookに投稿している。
このほか国立台湾大学や大統領官邸、外務省、国防省などのサイトがサイバー攻撃により書き換えられるという事態が発生した。
オーストラリア国営放送のインタビューに応じた女性の「セブン‐イレブンの店内照明が消えた」との証言が事実だとすれば、NCCは、その原因を追及すべきだろう。調査結果が待たれる。
中国共産党のハッカー集団「APT27」の脅威
台湾国防部は、8月6日に行われた中国軍の演習は、台湾本島を攻撃するための模擬演習だと発表した。
この発表に先立ち、8月3日にペロシ米下院議長の訪台に抗議するとしてハッカー集団「APT27」がYouTubeに41秒間の動画をアップしている。
APT27は、10年以上前からサイバースパイ活動などを行っている中国のハッカー集団で、他国の政府機関や、ハイテク、エネルギー、航空宇宙産業などが標的となっている。
中国共産党が公式に支援している、という疑いがあり、民間のハッカー集団を装った、人民解放軍隷下のハッカー集団と言っていいだろう。
軍の配下にあるハッカー集団が民間人を装うのは、万一その犯行が突き止められたとしても、「民間人のやったことで、軍としては関知していない」という言い訳の余地を残しておくためだ。
ロシアも、ファンシーベアと呼ばれる同様の民間ハッカー集団を軍の指揮下においている。
APT27は別名「アイアンパンダ」「アイアンタイガー」「ラッキーマウス」「ブロンズユニオン」など、さまざまな呼び名でも呼ばれている。
今年2月には、SockDetourと呼ばれるマルウエアを使用して、米国の防衛請負業者の侵入に成功している。
今回の攻撃では、APT27は、台湾国内の6万台ものインターネット接続デバイスをシャットダウンさせたと主張している。
だが、いまのところ、鉄道や電力、通信、金融といった重要インフラに目立った被害は出ていないようである。
これは、今回の攻撃は、デジタルサイネージを狙った一般市民に対する警告であって、本番の攻撃ではないことを意味している。
サイバー攻撃は、一度、攻撃を行うとその手の内を見せることになり、脆弱(ぜいじゃく)性対策などの防御措置がとられる。そのため、同じ手口での二度目の攻撃は成功しないといわれている。
だとすれば、本番に備えて重要インフラへの攻撃は温存しておいた、と理解するのが自然ではないだろうか。
総トラフィック量が過去の1日の最大攻撃量の23倍にも達した今回の攻撃は、中国の台湾侵略の模擬演習の可能性が高いのである。
「ファーウェイ製ルータ」が非難の的に
2020年、台湾行政院はデータ窃盗を防ぐために、台湾のすべての機関のすべての情報通信製品に、中国製品を使用しないよう要求する文書を発行している。
中国製のソフトウエアにはバックドアプログラムやトロイの木馬プログラムが含まれ、サイバー攻撃に利用される可能性がある。
しかし、華為技術(ファーウェイ)製ルータをいまだに使用していた台湾鉄道は、その警告を深刻に受け止めておらず、今回の侵入につながったと非難されている。
立法院の運輸委員会のメンバーであり、民主進歩党の議員であるリン・ジュンシャン氏は、近年、台湾鉄道で多くのセキュリティーインシデントが発生していると指摘。その上で、「戦争中にこれらのデバイスを使用して虚偽の情報を放送し、人々の心をかき乱した場合、その結果がどれほど深刻になるか想像してみてください」と述べ、今回のサイバー攻撃は「ストレステスト」だったとし、教訓を生かして改善してほしいとしている。
やっぱり必要だった「ファーウェイ製品排除」
中国製ソフトウエアやIT製品に、深刻な危機感を持っていなかったのは、台湾鉄道だけでなく、日本も同じだろう。
2019年4月に出された、政府の情報通信機器の調達に関する運用指針においても、中国を名指しせず「特定の企業、機器を排除することを目的としたものではない」と弱腰の姿勢である。政府がこの調子だから、民間企業に危機感を持てと言うのも、無理があるだろう。国防権限法に基づいてファーウェイなどを名指しで排除した米国とは大違いである。
日本の「複合機」技術が狙われている
中国の脅威は、サイバー攻撃だけではない。
習近平直轄の全国情報安全標準化技術委員会(TC260)が4月に公表した「情報セキュリティー技術オフィス設備安全規範(草案 2022年4月16日)」では、オフィス設備の安全評価について「国内で設計・生産が完成されていることを証明できるかどうかを検査する」と規定。この条件を満たすために、現地での設計・開発を行えば、技術が中国に漏洩しかねない。
日本のお家芸ともいえる、複合機の技術を中国が盗用しようとしているのは明らかだ。
コピー機能やスキャン機能、印刷機能、ファクス機能など複数の機能を統合した複合機は、日本のお家芸であり、先端技術の塊といってもいいものである。
コピー機能やスキャン機能の実現には光学の知見が、印刷機能の実現には化学の知見が、ファックス機能の実現には通信の知見が、そして歯車などの紙送り機能には機械工学、電気工学、電子工学、情報工学を融合させたメカトロニクスの技術が求められる。
そして、それら機能をまとめあげ、一つの製品に仕立てるためにはITの技術が必須であり、軍事転用可能な技術もそこには含まれている。
「何か起きてから気づく」では遅い
中国の「魔の手」は人材の獲得にも及んでいる。
特にファーウェイは、近年、日本の研究者や技術者の獲得に熱心だ。
ファーウェイは自動車分野に力を入れており、特に電動化の要となる車載パワー半導体に関する日本人技術者を大量に集めている。
日本の大手自動車メーカーでパワー半導体の研究開発を主導してきたベテラン技術者が、高額の報酬で引き抜かれているのだ。
パワー半導体は、半導体市場を失った日本が唯一、起死回生を図れる市場であるが、ハイブリッド車で培(つちか)った自動車の電動化技術が、やすやすと中国に持っていかれるのを政府は、ただ座視しているだけだ。
「物」「国家標準」「人」など、あらゆる面で戦略的に日本を攻略してくる中国に対して、早期に手を打つ必要がある。
今回のサイバー攻撃はストレステストだとし、警戒を強める台湾。その時が来て、はじめて気づく日本。
日本人にももっと危機感を持って、経済安全保障の重要性を理解してほしいものだ。 
●バイデン流「競争管理」:軍事軽視の危うさ 8/22
海空封鎖の常態化も
ペロシ米下院議長の台湾訪問に対抗して始まった中国の大規模軍事演習は、かつてないスケールで台湾を海空から完全封鎖する意図を見せつけたばかりでなく、米国や台湾の対応によっては演習を今後も「常態化」しかねない危機的情勢を残す結果となった。
ペロシ氏の訪台に関しては米国内でも賛否の声があるが、中国軍は今回の演習でこれまで中台間の暗黙の了解とされていた「中間線」を何度も越えて台湾本島に接近した。明らかに「現状を一方的に変更」する行動であり、今後何よりも問われるのは、バイデン政権が掲げる米中の「競争管理」のあり方ではないだろうか。
バイデン大統領は中国を「長期戦略的競争相手」と位置付けたトランプ前政権の対中姿勢や、日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略を大筋で継承したものの、米中関係を「管理」する対中アプローチに関しては、大きく方向を転換した。
トランプ政権は中国に対して「対決を辞さずに競争する」という「総力戦」の基本姿勢に立ち、例えば通商面では巨額の対中制裁関税を辞さず、軍事面では中国に対抗するために核搭載巡航ミサイルなどの再開発やインド太平洋に大幅な軍事予算を投入して「力の対決も辞さない」態勢を取った。これに対し、バイデン政権は「対決を避けつつ、競争する」という控えめな路線に退いて、対決を進んで回避するようになったのである。
台湾を含む米中関係を仕切るのは、国家安全保障会議(NSC)のカート・キャンベル・インド太平洋調整官だ。オバマ政権の国務次官補(東アジア太平洋担当)を務めたキャンベル氏は、バイデン政権入り目前の2020年末、「中国の挑戦は米国衰退を救う」と題する論文を米外交誌に発表し、「ソ連(ロシア)とは異なり、米中の競争は第一義的に経済と技術であった」とし、さらに「米中の競争に対決や第二の冷戦は必要ない」(※1)と説いている。
「対決なき競争管理」のリスク
そもそもバイデン氏と民主党は2020年大統領選当時から「中国がもたらす挑戦は第一義的に軍事的挑戦ではない」と規定した上で「自滅的で一方的な関税戦争や新冷戦のわなには陥らない」と、トランプ政権の対決型外交との違いを強調してきた。「中国の悪意ある行動は押し返すが、気候変動や不拡散などの相互に利益のある課題では協力を求め、対立が世界の安定にリスクをもたらさないようにする」(※2)と、地球温暖化問題などでは積極的に中国の協力を仰ぐ姿勢だ。「軍事よりも外交」を掲げ、対決を回避しようとするバイデン氏の基本姿勢は、キャンベル氏の路線ともぴったりとマッチしているのだろう。
確かに、米中の直接軍事対決という事態になれば、結果はロシアのウクライナ侵略どころではない。台湾や日本はもちろん、東南アジア、インド、中東にとっても軍事、外交、経済的な損失は計り知れない。その影響は世界全体を揺るがすだろう。バイデン政権が「対決なき競争」を志向することに一定の合理性が存在することは否定できない。
だが、「対決なき競争」が望ましいのは、あくまで結果においてであり、そこに至る経過において対決姿勢を放棄せよというのでは決してない。中国の力ずくの覇権的行動を抑止するには、重要な局面で対決を辞さない決然的対応を示してこそ、相手が身を引く余地も引き出せる。にもかかわらず、バイデン政権は中国を刺激するのを恐れて、予定されていた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験も延期してしまった(この実験は当初3月に予定されていたが、ウクライナを侵略したロシアを刺激しないために延期されたものである)。
現在の「対決なき」競争管理には、相手に身を引かせようとする厳しさも緊張感もうかがえない。中国側も「米国は力の対決に出てこないから大丈夫」と、バイデン政権の「競争管理」の内実を見切っている可能性がある。このままでは、限界を見極めるまで相手がますますつけ込んでくるリスクも懸念されよう。
オバマ政権以来のDNA?
対決なき競争管理の背景には、軍事問題を回避、忌避しがちなオバマ政権以来のバイデン氏の体質も関係しているのではないだろうか。このことは、米ロ関係にもあてはまるようにみえる。
2014年3月、ロシアのプーチン政権がウクライナのクリミア半島を武力でロシア領土に編入した際、オバマ政権は早々に「軍事的措置は視野にない」と、軍事介入を全否定する態度を示し、ウクライナ政府を支援しようとして緊急理事会を招集した北大西洋条約機構(NATO)の欧州同盟国を立ち往生させたことがある。当時、英国はロシア軍をけん制するために、せめて米欧合同演習をするよう米国に提案したが、取り付く島もなかったという。オバマ大統領の「軍事嫌い」は当時から批判されていたが、そのオバマ氏の外交指南役とされていたのがバイデン副大統領(当時)であった。
8年後に起きた今回のウクライナ侵略でも、バイデン氏が早々に「米軍は直接介入しない」と繰り返し言明してきたことがロシアの侵略行動を早めたとの指摘がある。大統領が「(軍事を含めて)あらゆる用意がある」といったけん制を繰り出しておけば、侵略を遅らせることもできた可能性がある。軍事を毛嫌いする傾向はオバマ、バイデン両政権に流れる共通のDNAなのかもしれない。
自由世界のリーダーとして、米国が今後も対峙(たいじ)を続けなければならない中国、ロシアはとりわけ「力」をよりどころとする国々である。理性に基づく説得だけでは役に立たないことは、ウクライナ侵略や今回の台湾を見れば一目瞭然だろう。バイデン政権の対応がともすれば弱腰に映る理由もそこにあるのではないか。
トランプ政権にも多くの欠点や反省すべき問題が指摘されるが、少なくとも「競争管理」に関しては、対決を辞さない姿勢と行動に裏打ちされ、その上で問題解決のための首脳会談などの直接交渉に乗り出すアプローチをとっていた。米中関係は「新冷戦」と呼ばれ、高い緊張感が維持されてはいたが、その分だけ中国の行動にも慎重さが見られた。大国間の相互抑止が機能するには、そうした厳しさが必要ということだろう。現在の米中関係にはそうした雰囲気が感じられず、米国が一方的にあおられているような印象がある。
さらに、バイデン政権では、大統領自身が「台湾防衛の責務がある」と語ったり、台湾有事の際の米軍直接介入の可能性を認めるかのような「放言」が繰り返されたりして、その都度、当局者が「米政府の政策に変更はない」と訂正に走らされてきた。不要な誤解や摩擦を避けるための無駄な労力を重ねる中で、中国の行動エスカレートを許している情勢について「戦略的曖昧性どころか、戦略的錯乱」(※3)と揶揄する声もある。
中国による今回の大規模演習では、日本の排他的経済水域(EEZ)にもミサイルが撃ち込まれた。台湾周辺を含む米中の軍事バランスは、オバマ政権時よりも一段と中国優位に傾いているとされ、現実に中国はその牙をむき出しにしつつあると言える。キャンベル氏やバイデン大統領がオバマ時代の対中イメージにとらわれているとしたら、大きな勘違いだろう。台湾をめぐる米国の対中競争管理のリスクは、日本にも他人事ではない。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 



2022/8