不動産バブル

懐かしい 不動産バブル
日本 1990年ごろ崩壊

人の本性 強欲 
お金 不動産 資産 名声 出世 権力

バブルは弾けるもの
ところ変わっても  人の本性は同じ 
中国 不動産バブル 弾けそう

 


8月下旬9月上旬・・・9/10・・・
9/11・9/129/139/149/159/169/179/189/199/20・・・
9/219/229/239/249/259/269/279/289/299/30・・・
10/110/210/310/410/510/610/710/8 中国恒大集団10/910/10・・・
10/1110/1210/1310/1410/1510/1610/1710/1810/1910/20・・・
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11/1・・・強欲自粛する日本人謙虚な人・・・
 
 
 
 8月下旬

 

●中国恒大株が6年ぶり安値、EV部門は3割近い下げ−危機懸念強まる 8/23
資金難が続いている中国の不動産開発大手、中国恒大集団の株価が23日の香港株式市場で約6年ぶりの安値となった。電気自動車(EV)部門の株価は3割近く下げ、投資家が恒大の流動性危機に対する懸念を強めていることがうかがえる。
恒大株は前週末比12%安で引け、2015年9月以来の安値を付けた。中国恒大新能源汽車集団の株価は27%安と、15年10月以来の下落率となった。不動産サービス部門の恒大物業の株価は9%余り下げた。

●中国恒大集団、上期は最大39%減益の見通し 株価下落 8/26
多額の負債を抱える中国の不動産開発大手、中国恒大集団は25日遅く、上期の純利益が前年比で最大39%減少するとの見通しを示した。販売価格の下落と経費増加が背景。
上期の純利益は90億元(13億9000万ドル)─105億元となる見通し。不動産部門で40億元、電気自動車部門で48億元の損失を計上することも響いた。
中国恒大集団の株価は、序盤の取引で一時5%下落。電気自動車部門の中国恒大新能源汽車集団は12%以上下落し、2020年3月31日以来の安値を付けた。今年の下落率は80%に達している。
ただ中国恒大集団は、一部の保有株売却やインターネット子会社の恒騰網絡集団の評価替えで185億元の利益を計上することで、損失を一部相殺したと表明した。
恒騰網絡集団の株価は6%以上下落。
中国恒大集団は、金融機関や取引先への債務返済のため、資金調達を急いでいる。規制当局や市場関係者の間では、同社が経営危機に陥れば国内の銀行システム全体に余波が及びかねないと懸念している。
同社は31日に上期決算を発表する予定。
 
 
 
 9月上旬

 

●恒大集団問題は中国経済の爆弾 9/5
中国の大手不動産ディベロッパーである恒大集団が、巨大な負債のため破綻しそうな状況に陥っている。負債額・従業員数ともに巨大すぎるこの企業が破綻したら、中国経済に与える影響はとてつもなく大きいと予想されるため、中国当局は警戒を強めている。
恒大集団は1996年に創業され、その後中国の経済的発展とともに大きく成長してきた。そして不動産だけではなく、テーマパークの経営、プロサッカーチームの経営、ミネラルウォーター、EV(電気自動車)などいろいろな事業にも進出してきた。
しかしここ数年、恒大集団は莫大な負債を抱え常に破綻の危機が騒がれるようになった。恒大集団とそのグループの負債額は、2021年9月現在で日本円にして30兆円以上あるとも言われている。
ではなぜそこまで負債が膨らんできたのか?それはもともと同社のビジネスモデルが、借り入れを前提としたものであるためと見られる。恒大集団は資金を借りて高層アパートなどを建て、それを販売することで利益を上げるビジネスを、中国各地で多く行ってきた。
とはいえ中国は経済発展とともに不動産価格も高騰してきている。特に2020年以降の世界的な金融緩和や低金利政策、さらにパンデミックによる住宅需要の増大で、その傾向に拍車がかかった。
結果として中国の庶民層から「家が買えない」という不満が高まっている。さらに不動産価格高騰は単に庶民の問題として無視できない事情があった。中国では最近になって少子化が深刻化しており、長年実施してきた一人っ子政策を解除しても子供の数が増える気配がない。
その背景に、若い低中所得層の夫婦が家を買えない現状があると見られる。家族で住めるいい家が買えなければ、子供を持ちたいと思わない夫婦が増えても不思議ではない。中国は少子化解消のためにも、不動産の高騰を抑制するしかなくなっていた。
そのため都市部で不動産取引に当局が介入したり、中古住宅へのローンを停止、あるいは不動産取引に資格制を導入するなど不動産価格抑制政策を実施し始めている。
不動産価格の高騰が抑えられつつあることで、恒大集団の財務状況は悪化してきた。財務状況改善を目指して昨年2〜3月には中国全土で不動産の販売価格を25%ほど割引したり、9月にも同様に30%割引するなど苦肉の策を取ってきた。それに加えて恒大集団への債権が回収できないことで、恒大集団を提訴する動きも中国全土で増えている。
そして株価も暴落している。香港市場に上場している恒大集団株は、ピークの2017年10月には30香港ドルをつけていた。しかしその後は下げが続き、今年9月3日の終値は3.9香港ドルとピーク時から85%以上の価値を失った。グループのEV企業も似たようなもので、今年4月には7.5香港ドルだった株価は、9月3日には0.8香港ドルと90%近く下落した。
最近になって格付け会社のS&Pも、恒大集団を立て続けに数回格下げした。かなり破綻リスクが高まっている同社だが、破綻したら中国経済にとっては大きな爆発となるだろう。

●中国恒大、銀行融資の利払い延期へ 9/8
中国の不動産開発大手、中国恒大集団は、9月21日に実施予定の銀行2行からの借り入れの利息支払いを一時停止する予定。金融情報サービスのREDDが、銀行から説明を受けた4人の話として伝えた。
REDDによると、恒大は信託会社数社への支払いが遅延しているほか、同社の理財商品への支払いも8日から全て停止する可能性がある。ロイターは恒大のコメントを得られていない。

●中国の不動産市場、過熱抑制策で「バブル崩壊」か 9/9
中国の不動産市場は、政府の過熱抑制策を受けて調整局面に入った。政府は昨年夏頃から不動産企業の過剰投資・過剰債務、住宅価格の高騰を警戒し、住宅ローン総量規制や住宅購入規制、不動産企業の資金調達条件の厳格化などの対策を講じてきた。この結果、住宅の売れ行きは本年春頃に鈍化し始め、夏には落ち込みが鮮明となった。不動産企業による値下げの動きも増えている。一部では、政府の抑制策が不動産バブルの崩壊を招くという見方もある。しかし以下の3点を背景に、今のところ、不動産価格の急落や不動産開発投資の急減といった深刻な調整が起こる状況にはないと考えられる。
第1に、総じて不動産価格と所得の伸びに大きな乖離(かいり)は生じていない。不動産価格が所得の伸びと乖離して大きく上昇していれば、何らかのきっかけで不動産価格が急落しても不思議ではない。だが、政府が不動産市場を抑制してきたため、近年の住宅価格の伸びは所得と同等のペースだ。コロナ禍に対応した金融緩和も小規模にとどまり、米国ほどの住宅価格の高騰はみられない。
第2に、近年では不動産開発投資は経済成長に見合った水準に抑制されている。リーマン・ショック後の数年間、不動産市場への資金流入に歯止めがかからず、不動産開発投資は経済成長を大きく上回るペースで拡大し、その反動でいずれ不動産開発投資が急減するリスクが当時は懸念された。もっとも、2013年頃から住宅購入規制など一連の需要抑制策が導入されたことに加え、シャドーバンキング(影の銀行)への規制によって不動産企業の資金調達が抑制されたため、経済全体に占める不動産開発投資のシェアは横ばい圏内にコントロールされている。
第3に、都市化や所得上昇に伴う住宅の質の高度化が住宅需要の堅調な拡大を下支えするとみられる。農村部から都市部への人口流入により全人口に占める都市人口の比率は64%へ上昇したが、今後も一段と上昇する余地がある。また、所得水準の上昇に伴う潜在的な住み替え需要も大きい。
このように、中国不動産市場は政府のコントロールの下で調整期に入り、軟着陸に向かうとみられる。ただ、中長期的な視点からみると、課題は多い。中国では出生数は大きく減少しており、人口が減少に転じるタイミングが前倒しとなる可能性が高い。また、固定資産税や相続税の導入が遅れ、大きな資産格差が生じている。中国の不動産市場が持続的に、バランスよく成長するためには、こうした構造問題を解決していかなければならない。

●中国恒大株、一時11%下げ15年7月以来の安値−香港市場 9/9
中国恒大集団の株価が9日の香港株式市場で一時11%下げ、2015年7月以来の安値を付けた。不動産開発会社としては世界最大の債務負担を抱える同社の財務を巡り、懸念が一段と強まっている。 
同社株は2009年の新規株式公開(IPO)価格(3.5香港ドル)を下回る水準での推移となっている。ムーディーズ・インベスターズ・サービスとフィッチ・レーティングスが相次ぎ中国恒大を格下げしていた。
またリスク・イベントドリブン・アンド・ディストレスト・インテリジェンス(REDD)によると、中国恒大は21日に期限を迎える銀行2行からの借入金の利払いを一時停止する計画。2025年償還のドル建て債は8日に売られ、最安値を更新した。
 
 
 

 

●中国の不動産バブル崩壊か…業界2位の不動産会社が破産の危機 9/10
中国で第2位の巨大不動産開発企業が、3000億ドルを超える膨大な負債で破産に追い込まれている中、中国の不動産市場の「バブル崩壊」が始まるのではないかという見方が出ている。今回の危機の背景には、「共同富裕論」を掲げ不動産市場に対する強力な規制を示した習近平国家主席の「政治的判断」があり、今後の中国政府の対応に関心が集まっている。
米国の格付け会社フィッチは8日、中国で第2位の不動産開発会社・中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)の格付けをCCC+からCCへと2段階引き下げ、同社の格付け危機が「非常に高い水準」と明らかにしたとロイター通信などが報じた。フィッチは中国恒大が「破産の可能性がある」と明らかにした。前日、別の格付け会社ムーディーズも中国恒大の格下げに踏み切り、「破産の可能性がある、または非常に近づいている」と評価した。中国恒大の負債は現在、1兆9700億元(3040億9700万ドル)にのぼる。
2日にわたって格付けが下がった影響で、中国恒大の株価は9日、香港証券市場の取引開始直後に10%も急落した。中国恒大の株価は今年75%も暴落し、2009年の上場価格を下回る3.5香港ドル前後で取引されている。深セン証券市場は、同社の債券価格がこの日午前20%も急落すると、取引停止命令を下した。
中国恒大の破産の危機は、負債の多い他の不動産開発会社へと広まっている。クレディ・スイスとシティバンクは、花様年控股集団(ファンタジア・グループ)など過度な負債を抱えている中国の不動産開発会社の社債を担保として受け入れることを停止したと「ブルームバーグ」が報じた。オンラインマーケット取引のプラットフォームのIGは、中国恒大が「伝染の危機」を造成していると評価した。金融情報会社のREDDは、中国恒大が21日満期の2つの銀行からの融資に対する利子返済を止めるだろうと報告した。これにより、21日が中国恒大の破産を決定する「重大な岐路」となりそうだ。
中国の不動産業界が危機に陥ったのは、経済的理由だけではない。習近平国家主席は、中国内の不動産バブルが大きくなりオンラインプラットフォーム企業が巨大化する中で、「持続可能でない」経済成長に対する警告を送ってきた。大手プラットフォーム企業への規制を強化する一方、不動産資金源を締め付けた。みんなが一緒に豊かに暮らそうという、いわゆる「共同富裕論」だ。その影響を受け、中国不動産市場の新規住宅価格は、今年第1四半期にピークに達した後、20%も暴落し、土地価格も急激に下落している。
中国恒大は1997年に許家印会長が広東省広州で創業した不動産開発会社で、環境を重視する革新的なデザインとサービスで人気の旋風を起こした。創業3年目にして広東省の1600あまりの不動産開発会社の中で10位圏に成長した後、2009年に香港証券市場に上場、7億2200万ドルの資金を確保した。その後、不動産バブルが膨らみ、許会長は一時、アリババの馬雲氏やテンセント(騰訊)の馬化騰氏と共に、中国の3大富豪に名を連ねた。しかし、過度な借入経営や電気自動車など、四方に広げた事業拡大による流動性不足で困難が大きくなった。
中国恒大が21日の返済日を破った場合、中国当局が本当に破産を容認するかどうかはまだ不透明だ。「ガーディアン」は経済アナリストの話を引用し、、同社の破産は中国経済に深刻なショックを与えると警告した。
 
 
 

 

●中国「恒大集団」破綻危機はリーマンショック級の大問題 9/12
中国の不動産開発大手「恒大集団」が破綻危機にあり、リーマン・ショック級の大問題となる可能性が出てきました。しかし、なぜか金融市場ではあまり話題になっていないことが不思議でなりません。
バイデン政権で中国リスクは落ち着いた?
数年前チャイナショックで元安が進んだ時には、金融市場は大騒ぎで、とくに為替はこの影響を受けて大きくドル円が下落するなどの動きに直面したものです。
またトランプが大統領に就任してからは連日、中国と貿易交渉を巡ってやり合う姿や発言のツイートが登場し、その都度、アルゴリズムが反応して連日相場の乱高下の材料になったものでした。
しかし、バイデン政権になってからは、それなりに中国と渡り合う姿が見られたものの、トランプ政権時代と比べれば圧倒的に情報が少なく、相場もそれにならされるように中国ネタで動くことは極めて少なくなりつつあります。
そんな中で今、中国国内で大問題になろうとしているのが、大手不動産ディベロッパーである「恒大集団」の破綻危機です。
負債総額30兆円を超える超リスク不動産企業
恒大集団は、1996年に設立された企業で、中国の不動産価格の上昇とともに大きく成長してきました。
日本で言うならば往年のダイエーのように、借金をしては不動産投資を行い、中国各地で高層アパートの販売に勤しみ、それで得られた利益をさらに再投資するという典型的な高度成長依存の借金雪だるま型の経営を行ってきた企業といえます。
この手のバブル系企業は、お決まりの多角経営に乗り出すもの。同社の場合もその枠組みを踏襲しており、テーマパークからプロサッカーチーム、ミネラルウォーター、電気自動車開発まで幅広い領域に手をだしています。
しかし、こういったビジネス収益の基本は、借金をして手に入れた不動産価格の上昇に依存しています。
そのため、マンション価格が大幅に下落する中にあっては、資産も収益もがた減りで、株価はすでにピーク時から85%下落、なんの価値もなくなって暴落する仮想通貨のような状況に陥っています。
習近平が見捨てればデフォルト一直線、中国版リーマン・ショック発生か
これまで中国の企業、とくに不動産系などについては、破綻が起きても中国国内の問題として済まされてきました。
また、現実にはほとんどの負債を抱えた企業も中国政府が融資をしたり救済したりすることで、決定的なデフォルトを回避するような動きが見られたものです。
しかし、どうも足もとでの民間企業の粛清は、これまでにないほど厳しそうな状況。
そうでなくても、IT系企業は驚くべき規制をかけられるようになっていますから、もはや小手先の計画的な経済成長など、どうでもいいような動きが加速していることが非常に気になるところです。
中国経済のことですから詳細はわかりませんが、恒大集団が完全にデフォルトとなれば、海外から投資してきた向きにも、相当な被害が出ることは間違いなさそうです。
ジョージ・ソロスも中国経済に危機感
果たして米国を中心とした西側の市場に、どれだけの影響を与えるのか。非常に注目される状況になりつつあります。
直近では、ジョージ・ソロスも中国の状況を危惧するようなコメントを出し始めています。
このまま問題がより顕在化すると、いきなりアルゴリズムやAIが材料視することで、相場下落の大きな材料になることも考えられます。
それだけに、ここからの恒大集団の動向はつぶさにチェックしておく必要がありそうです。
 
 
 

 

●中国大手銀、不動産向け融資悪化 当局の締め付け影響 9/13
中国大手銀行の不動産関連融資が悪化している。中国当局が過剰債務企業への監視を強めているためで、中国工商銀行の不動産業向け不良債権比率は6月末に4.29%と前年同期の1.41%から急上昇した。不動産大手、中国恒大集団の経営危機が金融市場を揺さぶるなか、当局は格差是正にむけた資産価格の抑制と不良債権問題というジレンマを抱えている。
大手行の2021年1〜6月期の業績は新型コロナウイルスからの経済回復を受けて改善した。工商銀、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行の純利益はそれぞれ前年同期比9〜12%増えた。
4行合計の不良債権残高は6月末に1兆325億元(約18兆円)と20年末に比べて3.3%増だった。1年で22%増えた20年に比べて増加ペースが鈍った。不良債権比率は平均1.47%と、20年末に比べて0.08ポイント低下した。
工商銀の王景武副行長はオンライン会見で「感染状況が正常化する中、信用リスクの管理を強化した。返済猶予額の伸びも鈍ってきた」と説明した。
もっとも、改善はまだら模様だ。不動産業向けに限ると、中国銀の不良債権比率は4.91%と1年前の0.41%から跳ね上がった。リスク管理を担当する劉堅東氏は「海外資産には一定の劣化圧力がかかる。コロナの影響を大きく受ける航空や不動産、輸出企業に注意が必要だ」と話す。
中国当局は不動産の投機的な取引を取り締まるため、融資制限など開発業者への締め付けを強めている。米ジェフリーズのアナリスト、陳姝瑾氏は「当局の姿勢はかつてなく厳しく、影響が長引きそうだ。景気悪化に不動産の締め付けが重なれば、来年は厳しい状況になる。全体の不良債権比率が上がる可能性がある」と指摘する。
格付け会社フィッチ・レーティングスも「一部の開発業者は流動性や借り換えのリスクに直面する」と警告した。銀行の融資姿勢が厳しくなり、開発業者の経営悪化が不動産価格の下落につながる可能性もある。中国当局は不良債権の受け皿会社、中国華融資産管理の経営悪化を受けて、金融リスク管理に神経をとがらせる。
地域ごとの傾向も一様ではない。遼寧省や吉林省など経済成長が遅れる東北部で資産内容の劣化が目立つ。工商銀の場合、東北部の不良債権比率は3.9%と、広東省など珠江デルタ(0.96%)より突出して高く、20年末の3.38%に比べても悪化した。
地場企業向け貸し出しが多い中小金融機関も厳しい。香港紙・東方日報によると、香港上場の中国本土銀行のうち4割が、6月末の不良債権額、比率の両方が20年末に比べて悪化した。遼寧省錦州市を拠点とする錦州銀行の不良債権額は半年で22%増えた。不良債権比率も不動産(7.7%)や個人ローン(27%)などが高い。
習近平(シー・ジンピン)指導部は「共同富裕(ともに豊かになる)」を旗印に、格差是正を進める。高騰する不動産価格の抑制は優先課題の1つだ。半面、急激に締め付ければバブルが崩壊し、経済全体への悪影響は避けられない。
日本経済の長期停滞の起点となったバブル崩壊も、引き金を引いたのは旧大蔵省が1990年に導入した不動産融資の総量規制だった。金融機関に対し不動産向け融資の伸び率を総貸し出しの伸び率以下に抑えることを求め、金融機関が一斉に抑制に動いたことで貸し渋りや貸しはがしにつながった。
中国の金融監督当局も21年1月から銀行の住宅ローンや不動産会社への融資に総量規制を設けた。過剰債務を抱える開発業者にも厳しい目を向ける。中国当局は過度に経済を冷やさずに、バブルをおさえ込む難しいかじ取りを迫られている。
 
 
 

 

●“恒大集団破産”は悲劇の序章。富裕層を粛清する習近平 9/14
「共同富裕論」が中国住宅バブル大崩壊をまねく当然の理由
中国不動産開発第2位「恒大集団」が倒産の瀬戸際に立たされている。今年に入ってから習近平は何度も「共同富裕論」に言及し、富裕層を叩いてきた。これは不動産バブル崩壊をなんとか回避しようとする習近平の悲鳴である。
中国「不動産バブル」は弾ける寸前?
中国不動産開発企業で第2位の規模である中国恒大は、倒産の瀬戸際に立たされている。現状は、手持ち資産の切り売りで何とか命脈を保っている状態だ。金融市場は、すでに倒産を前提にしている。株式や債券の相場も、目一杯売られている。中国における不動産開発は、地方政府の財政と密接に絡んできた。地方政府は、土地国有制を背景にして、不動産開発に不可欠な土地売却収益を主要財源にしてきた。こうして、不動産開発ブーム(正しくは、不動産バブル)によって、地方政府も大きな利益を得てきたのである。これが、不動産バブルを極限まで拡大した理由である。政府も、バブルの当事者であったのだ。地方政府はどの程度、土地売却利益によって財源を得てきたのか。一般的には、約5割強とされてきたが、野村の推測では2020年の土地売却益の割合は30.8%としている。従来の約5割が、2020年に約3割へと減少すれば、大きな財源不足に直面しているはずだ。習近平氏が最近、「共同富裕論」を取り上げて、富裕層に寄付金を強要している背景がこれである。貧すれば鈍するのだ。
「先富論」だけが暴走した社会
習近平氏による「共同富裕論」は、現在の中国政治の流行語になっている。ケ小平が唱えた「先富論」は、先に富む者から富み、後に平等な分配で「共同富裕」を実現するものだった。現実は、「先富論」だけが先行して公平な分配を棚上げし、大きな不平等を生む結果となった。これは2012年以来、政権を担当してきた習近平氏の責任である。習氏は、国家主席就任に当り国有産業中心を唱えて、「紅二代」(革命次世代)の支持を取りつけ、同時にGDP拡大によって米中の覇権交代という夢を掲げてきた。これが、中国経済に大きな禍根を残しており、もはや修復不可能な事態を招いている。具体的に言えば、次のような問題である。1)国有産業の合併を積極的に行って、非効率・低生産性をもたらした。これによって、「紅二代」の権益を確保した。この「紅二代」の習近平支持によって、習氏は安定した政権運営が可能になった。2)GDP拡大主義は、インフラ投資と不動産開発投資が担ってきた。高い経済成長率を実現して、米中経済の逆転を狙う大胆な政策に打って出たのである。インフラ投資では、人間の住まない地域にまで高速鉄道を張り巡らし、厖大な債務を抱えている。不動産開発では、高値継続の住宅ブームによって、恒常的な住宅投機を引き起した。共産党幹部になれば、2〜3軒の住宅投機が普通の事態を生んでいる。この裏では、固定資産税も相続税もないという「無税天国」が、住宅投機を側面から支援したのである。今になって、習氏は「共同富裕論」を唱えているが、それは習氏自身が負うべき責任として降りかかった問題である。
「共同富裕論」では、私営企業の経営者が過剰所得を上げて社会的な不均衡をもたらしたと、糾弾されている。経営者の過剰所得問題は、所得税率を引き上げれば簡単に解決可能である。ならば、固定資産税も相続税もない「無税天国」の扱いはどうするのか。習氏は、この部分は「紅二代」や共産党員の利害関係に絡むゆえ、無言である。言論の自由がない中国では、この問題をタブー視する。こうして、中国の矛楯は深まるのだ。習氏の政権維持には、目に見えない膨大な埋没コストが潜んでいる。
「共同富裕論」は習近平が突然に言い出したアドバルーン
習氏による「共同富裕論」は、習指導部発足後の最初の8年間、散発的にみられただけである。それが、昨年からより頻繁に言及されるようになり、そのペースに弾みがついている。習主席は昨年の演説と会合で共同富裕に30回触れたが、今年はこれまでに既に65回も言及している。これは、『ブルームバーグ』の調査によって判明した。2012年以来、現在までの「共同富裕論」言及回数は次のようだ。
2012年:5回 / 2013年:5回 / 2014年:9回 / 2015年:10回 / 2016年:16回 / 2017年:12回 / 2018年:10回 / 2019年:6回 / 2020年:30回 / 2021年:65回
前記の「共同富裕論」への言及状況を見ると、昨年以降に急増していることが分かる。それ以前の習氏は、それほど関心を持っていなかったことを示している。逆に言えば、中国経済が深刻な状態に陥っているとの認識は昨年からなのだ。習氏を危機感に向かわせたのは、不動産バブルが限界を超えたという結果であろう。要約すれば、次の3点である。
1)住宅ローンが、家計を圧迫して個人消費支出は落込む危険性を高めていること。
2)不動産開発企業が、過剰債務を抱えて返済不可能な事態であること。
3)地方財政が、土地売却益低下で維持が不可能になってきたこと。
以上の点について、私は一貫して不動産バブルの危険性を指摘してきた。それは、日本経済のバブル崩壊をジャーナリストとしての目で観察した経験に基づくものだ。日本のバブルと中国のバブルでは、質的にどちらが「悪質」か、と言えば不動産バブルの期間の長かった中国が、はるかに危機的である。地方財政を巻き込んでいるのだ。中国では、土地売却益が地方政府の主要財源になっていたのだ。税制が未整備であったことが、安易な土地売却益依存=不動産バブル依存、という事態を招いた。これから急速化する高齢社会=社会保障費増加の財源をどこから捻出するのか。調達できる見通しはないのだ。増大する軍事費とのバランスも取れるはずがない。早晩、習近平氏の責任が問われる事態になろう。
不動産業者の倒産続出で高まる銀行の信用不安リスク
「共同富裕論」とは、住宅価格高騰を止めることで、社会不平等感を是正しなければならないのだ。それが、投機目的で複数の住宅を保有する層へは大きな打撃になる。また、住宅価格値上りを前提にした不動産開発企業にとって、債務返済が不可能な局面を強いるであろう。「共同富裕論」は、言葉は美しく桃源境を示唆するが、そこへ至るには「死屍累累」という悲劇が生まれるに違いない。日本も、そういう茨の道を経てきたのである。中国指数研究院の調査によると、不動産会社の債務返済ピークは次のようになっている。
今年9月:約1.42兆円 > 来年3月:約1.77兆円 > 来年4月:約16.01兆円
中国メディア『時代週報』によると、今年度に入ってから中国不動産会社274社が倒産している。毎日、平均1社が倒産している計算という。こうして、容易ならざる事態へ突入しているが、前記のデータによれば、9月末の要返済額は約1.42兆円である。この債務状況で、すでにこれだけの倒産会社を出している。来年4月の債務返済額は、約16.01兆円に達する。この9月末の11.3倍にもなるのだ。これでは、1日平均1社の倒産で済むはずがない。不動産業界は、総破産状況になろう。問題はその場合、銀行が累増する不良債権として抱えるので「信用不安」リスクも高まる。事態が、そこまで進展したならば、想像するのも恐ろしいほどの局面になろう。調査会社ウインドが追跡した中国30都市のデータによると、デベロッパーによる住宅販売件数は8月、前年同月比で21%減となった。相当の落込みである。住宅販売件数が減る状況では当然、販売価格も低下しているはず。それは同時に、既存の住宅価格を引下げる作用をする。不動産は、中国の家計にとって最大の資産である。中国政府は、外貨準備高の減少を恐れて、資本取引の自由化を認めずにきた。だから、資産形成手段は住宅投資が主体だ。その住宅価格が暴落する事態になれば、政府への信頼はガタ減りとなろう。
永久政権を狙う習近平氏にとって、とんだ災難になる。住宅市場崩壊による資産への影響は、既に減速している個人消費へ、さらに深刻な影響を及ぼす。習氏にとって、まさに巌頭に立たされる状況であろう。中国第3位の商業銀行である中国銀行では、6月の不動産の不良債権比率が4.91%(前年同月は0.41%)になった。今のところは管理可能に見えるものの、不動産価格の下落や雇用市場の低迷で住宅ローンの返済が滞り始めれば、一段と大きな問題になる。中国本土における中国銀行の融資では、不動産、建設、住宅ローンが41%を占める。住宅ブームを背景に家計の借り入れは大幅に増加した。6月時点でGDPの62%を占めたが、5年前は44%だった。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月8日付)が伝えた。中国銀行の不良債権比率は、6月で5%未満である。だが、これ以上の増加になると銀行経営に響く段階に来ている。中国大手の商業銀行でも、経営的に限界状況にあるのだ。中国銀行の融資では、不動産、建設、住宅ローンが41%を占めている。経営的に、不動産バブルと強く関連していることを浮き彫りにしている。中国銀行ですらこの状況である。他の弱小金融機関についは推して知るべし、だ。こういう状況で、習氏は「共同富裕論」を掲げている。悪役として、高騰する住宅価格問題が上がっている。そこで、不動産開発企業への融資が絞られているのだ。
<中国の不動産開発融資残高(前年比)>
2006年 3月31日 37.8%(ピーク) > 2008年12月31日 10.3%(ボトム) > 2010年 3月31日 31.15%(ピーク) > 2012年 3月31日 6.30%(ボトム) > 2015年 3月31日 24.08%(ピーク) > 2017年 3月31日 7.41%(ボトム) > 2018年 9月31日 24.5%(ピーク) > 2021年 6月30日 2.8%(ボトム)
上記データで「ボトム」を見ると、今年の6月末が前年比2.8%増と厳しく抑え込まれていることが分かる。ここまで融資残高が抑え込まれると、大抵の企業は倒産危機を迎えるほかないだろう。日本の不動産バブル崩壊過程では、日銀の厳しい不動産融資規制をヤリ玉に上げる向きもいた。だが、中国も同じことを始めているのだ。「共同富裕論」を実現するには、住宅高騰を放置できないという政治的要因が大きくなっているのだろう。それは、過去の「ピーク」がそれを証明している。習氏が政権を握った後も、「ピーク」は前年比24%台まで増加させて目一杯、バブルの恩恵に与ったのである。今になって大慌てで引締める。賢明な政策マンのやることではない。愚策そのものだ。
中国の理想郷は老子の思想「大同主義」に
中国伝統社会においては、「共同富裕論」が極めて受け入れやすい理念であることに触れておきたい。それは、「大同主義」が、中国古典思想の上位概念として認識されていることだ。老子の思想である。次のような内容だ。「王位は世襲によらず選挙で決める。親は、子どもを自身の子だけを愛することなく、他人の子どもも等しく愛する。子ども・寡婦・老人は社会が扶養し、労働は己の利益に奉仕せず。国家は、権力の国家ではない」としている。ここには、理想社会が描かれている。この大同主義こそ、「共同富裕論」の最終的な帰着点になる。ただ、覇権国家を目指さないという点では、習近平氏に受入れられないだろう。習氏は、「共同富裕論」によって現在の矛楯に満ちた中国社会の立直しを意図している。これによる戦線整理を済ませて再び、米国覇権へ挑戦する意図であろう。日本経済もそうであったが一度、バブルにまみれると、そこからの再出発は不可能であることが分かる。歴史に残るバブル経験国は、オランダ、英国、米国、日本、中国である。この中で、唯一の立ち直り国は米国だけである。それは、徹底した市場経済中心と民主主義による政治が、車の両輪になって経済再建を可能にしたもの。中国は、この2つの条件を欠いている。中国が、古典思想の「大同主義」に立ち返るにならば、覇権主義を捨てることだ。それができなければ、「共同富裕論」も実現不可能に違いない。 
 
 
 

 

●「不動産バブルいよいよ崩壊か」と懸念も・・・中国「日本から学べ」 9/15
何度も取り沙汰されてきた中国の不動産バブル崩壊説。これまで現実のものとなることはなかったが、中国不動産業界はここにきて暗雲が立ち込めてきていると言えるだろう。業界2位の中国恒大集団に債務リスクが浮上しているためだ。
一部では中国の不動産バブルがいよいよ崩壊するのではないかと懸念する声も高まっているが、中国メディアの百家号は10日、「日本のバブル崩壊から中国が学べること」と題する記事を掲載した。
記事は、日本で過去にバブル経済が発生し、崩壊したことについて、中国では「日本政府が自ら崩壊させた」という論調があることを紹介する一方、こうした論調は正確ではなく、バブルのソフトランディングはそれほど簡単なことではないのだと強調。当時の日本政府にとって「進退窮まった結果」としてバブルが崩壊したのであり、その結果が「失われた20年」あるいは「失われた30年」とも言われる低成長の時代であると指摘した。
続けて、日本でバブルが生じた理由や崩壊した理由は複数の要素が絡み合っており、その点で中国の不動産バブルとは違いが大きいものの、日本の先例から中国が学べることは「バブルは絶対に崩壊させてはならない」ことだと指摘し、時間をかけてソフトランディングに持っていくことが必要だと強調した。
記事は、中国の経済成長率は過去に比べてずいぶんと落ち着き、「不動産価格が暴騰するような時代はもう終わってしまったのだ」と指摘する一方、中国政府が行おうとする規制は「経済成長の効率を犠牲にするが、公平さを守るための良心ある政策」だと主張。若者が家を買いやすくなるという意味でも「若者に希望を与える政策だ」と論じた。
中国は「共同富裕論」により不動産など大企業への締め付けを図り、富裕層や大企業の「犠牲」のうえに国の安定を図りたい考えのようだが、ここまでのテコ入れを図らなければ、日本に二の舞になるという危機感があるのかもしれない。
 
 
 

 

●ユーロ129円付近まで下落、中国恒大集団の債務問題を懸念 9/16
14:28 ユーロ129円付近まで下落、中国恒大集団の債務問題を懸念
ユーロ/円は129.00円まで下落し3週間ぶり安値を付けた。ドル/円は109.24円付近できょうの安値圏。過剰債務と資金繰り不安に揺れる中国不動産開発大手、中国恒大集団を巡る懸念から中国株や香港株が弱く、リスク回避の円買いが広がっている。市場では「ドル/円については、きのうも109.11円で踏みとどまったので同水準がサポートとなるかもしれないが、ユーロ/円が129円を下回って走るようであれば、ドル/円にも下げ余地が出てくる」(アナリスト)とみられている。米ゴールドマン・サックスは15日、 中国恒大の不動産開発事業に一段の混乱が生じた場合、国内の不動産購入者や投資家のセンチメントに非常に悪い影響を与え、その影響は不動産セクター全体に波及する可能性がある」と指摘した。また、JPモルガンは、同社を巡る状況は悪化しており、他のセクターに影響が及ぶことを防ぐために政府による追加措置が必要だとした。
12:03 正午のドルは小幅安の109円前半、リスク回避の円買い優勢
正午のドルは、前日NY市場終盤(109.36/39円)に比べて小幅にドル安/円高の109.28円付近で推移している。米長期金利の低下に加え、中国の不動産開発大手、中国恒大集団の過剰債務問題への警戒感からリスク回避の円買いがやや優勢になった。ドルは一時109.22円付近まで下落した。中国恒大集団の子会社、中国恒大地産集団は16日、債券の格下げを受け、上海上場債券の取引を1日停止することを申請したほか、再開に当たっては取引メカニズムを変更すると明らかにした。中国恒大集団を巡る問題について、市場からは「まだ中国政府がどのように対応するか現時点では分からず、マーケットには不透明感が広がざるを得ない」(国内信託銀行)との声が聞かれた。午前の取引でドル/円はリスク回避の円買いが進んだが、「円高がどんどん進行する雰囲気ではない」(同)との指摘もあり、目先は109円付近が下値めどとして意識されているという。ユーロ/ドル1.1817ドル付近、ユーロ/円は129.16円付近で、いずれも朝方の水準からほぼ横ばい圏での推移となっている。
11:28 豪ドルが小幅下落、雇用統計と中国リスクが重しに
豪ドルが小幅ながら下落している。現在、豪ドル/米ドルは0.7329ドル付近、豪ドル/円は80.05円付近で推移。豪連邦統計局が16日発表した8月の雇用統計によると、就業者数は前月比14万6000万人減と、市場予想(9万人減)よりも大幅な落ち込みとなった。市場からは、「就業者数の落ち込みに加えて、中国の不動産開発大手、中国恒大集団を巡る報道が豪ドルの重しになった」(国内信託銀行)との意見が聞かれた。中国恒大集団の主要子会社、中国恒大地産集団は16日、債券の格下げを受け、上海上場債券の取引を1日停止することを申請した。
09:15 ドル109円前半で小動き、米金利上昇には反応薄
ドル/円は109.40円付近と、朝方の水準からほぼ横ばい圏で取引されいてる。米10年債利回りは足元1.3%台を回復したが、ドル/円相場への影響は限定的となっている。米金利の上昇にもかかわらずドル/円の上値が重いことについて、市場では「昨日の海外市場では米長期金利とドル/円の相関性が薄れていることが確認された」(FX会社関係者)との声が聞かれる。米金利の動向よりも、米連邦準備理事会(FRB)の早期テーパリング(量的緩和の段階的縮小)開始期待の後退がドル/円相場の重しになっているという。目先のドル/円についてじゃ「短期的にはポジション調整が絡んだドル安が続く可能性があり、さらなる下落にも警戒が必要」(外国証券)との指摘もあった。
07:50 ドル109.00─109.80円の見通し、上値重い 中国リスクに警戒も
きょうの予想レンジはドル/円が109.00―109.80円、ユーロ/ドルが1.1790─1.1850ドル、ユーロ/円が128.70―129.70円付近。現在、ドル/円は109.35円付近、ユーロ/ドルは1.1819ドル付近、ユーロ/円は129.24円付近で推移している。前日のNY市場では、14日公表の米消費者物価指数(CPI)が予想を下回ったことから米連邦準備理事会(FRB)の早期テーパリング(量的緩和の段階的縮小)期待が後退したことを背景に、ドルが下落した。きょうの為替市場でドル/円相場は、上値の重い展開が予想されている。ドルが109円前半で推移していることから、「押し目買いも入り、109円を下回るリスクは低い」(上田東短フォレックス・営業推進室長、阪井勇蔵氏)との見方が出ているものの、110円台までドルが上昇する可能性は低いという。また、中国の不動産開発大手、中国恒大集団を巡る過剰債務問題が市場では警戒されている。「さらにセンチメントが悪化すれば、リスク回避の円買いにつながるとみられ、ドル/円やユーロ/円の円高圧力が強まりそうだ」(阪井氏)との声が聞かれた。

●サッカー中国代表が崩壊危機! 中国恒大の経営難でカネ払えない 9/16
中国の不動産大手・中国恒大集団の経営危機が、カタールW杯出場を目指すサッカー中国代表にも大打撃を及ぼしそうだ。
巨額の負債を抱え、前例のない危機に直面している中国恒大。直接影響を受けるのが、同社が親会社を務める広州FC(前・広州恒大)だ。豊富な資金力を武器にアジアチャンピオンズリーグ(ACL)を2度制覇し、中国スーパーリーグも8回優勝した強豪。しかし「新浪体育」など複数のメディアは、今後同社がクラブ運営から手を引き、広州政府が株式の約10〜15%を、残りの株式は地元の国有企業が取得する形で支援する可能性を報じている。
政府が管財人となると、最大の魅力だった豊富な資金は望めそうもなく解体≠ヘ必至。特に、心配されているのが中国代表を支える帰化軍団の動向だ。
現在、カタールW杯出場を目指す中国代表のFWエケウソンら4人を含め、広州FCには6人の帰化助っ人がいる。中国メディア「捜狐」は6人の年俸が税抜きで最低でも4900万ユーロ(約64億円)と報道したうえで次のように指摘。「彼らの高額な給料を払っているのは中国恒大。彼らが帰化したのも高額な金が大きいだろう。非常に現実的な問題として、彼らが高額な給与を得られなくなっても、喜んで『中国の選手』になりたいと思うだろうか。彼らの心が変化すると、中国代表チームはどうなるのか。中国クラブを去れば(海外クラブ所属の)武磊のように何度も招集できるだろうか?」
金の切れ目が縁の切れ目≠ニばかりに、中国代表から消えることを懸念。新たなサポート役の必要性を説いている。
現在、同クラブで監督を務める元イタリア代表のカンナバーロ氏も、現在休暇中のイタリアから中国に戻らないという報道も出るなど、中国恒大問題の影響が出始めている。今季は蘇寧グループの経営危機で江蘇FCが運営停止するなど、金満経営のツケを払わされている中国サッカー界。代表チームも打撃を食らうとなれば、大幅な改革が必要となりそうだ。
 
 
 

 

●不動産バブルと産業規制強化 高まる中国リスクに警戒 9/17
見えないコロナ禍の出口と世界景気の行方
感染力の強いデルタ型の登場で、新型コロナウイルス感染拡大の終わりが見えなくなっています。8月に発表された米中の経済指標は、市場予想を下回る結果が続きました。中国では工業生産をはじめとする7月の指標が軒並み弱い内容でした。米国ではミシガン大学が発表した8月の消費者態度指数が、約10年ぶりの低水準に沈むネガティブサプライズとなりました。
一般に中国の経済指標は先行指数(数カ月先の景気の動きを示す)、日本は一致指数(景気の現状を示す)、米国は遅行指数(半年から1年遅れで反応する)といわれています。製造業中心の中国、製造業とサービス業が混在する日本、サービス業が多い米国では、データが数字に表れる時間軸が異なるからです。
今回の結果は、コロナ禍による落ち込みからいち早く回復していた中国をはじめ、世界中で景気の減速懸念が強まっていることを示しています。これらが物語っているのは、ワクチンの普及により世界経済が正常化に向かうという、昨年秋の「ワクチン相場」が期待だけで終わったということです。現にワクチンの接種率は50%まで持っていくのは簡単でも、それ以上に引き上げるのは難しいとされています。ワクチン効果でパンデミック(世界的大流行)が終わるという楽観的な見方の後退が、現在の相場の弱さの背景にあると言えるでしょう。
米国株式市場ではダウ工業株30種平均株価が最高値圏で推移していますが、これは指数連動型の「パッシブ運用」での売買が多いためです。実際、上昇基調にあるのはGAFA(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などに代表される一部の銘柄のみで、他の多くは下落が目立っています。足元でSPAC(特別買収目的会社)経由や従来のIPO(新規株式公開)が増えたことで、新規上場銘柄に資金を振り向けるため、保有株を売却する動きが出たことも相場の重荷となっています。
中国の不動産バブル崩壊のリスク
株式需給が悪い中、中国では2つの「相場急落サイン」が出始めています。
一つは不動産バブルです。これまで開発にしのぎを削ってきた不動産開発業者は今、同国で巨額債務を抱えています。中国不動産大手の中国恒大集団は、銀行から十分に資金を調達できず、資金繰りが厳しくなりました。株価は昨年末比で約7割下落しています(8月末時点)。
同国では不動産市場が飽和状態にあり、以前のように不動産ビジネスで収益を稼ぐことが難しくなりました。開発業者が事業を縮小せず、様々なビジネスに手を出し始めた結果、拡大路線が裏目に出て財務体質が悪化。中国の不動産市場は、かつての日本の不動産バブル崩壊前と似た状態になっています。
社債市場では外貨建てハイイールド債の利回りが足元で急速に上昇(価格は急落)。格付け会社のフィッチ・レーティングスなどが中国恒大集団の格付けを引き下げたことも、追い打ちをかけました。社債のデフォルト(債務不履行)は増加の一途をたどっており、いずれリーマン・ショックのようなインパクトを世界に与えるリスクもあるとみています。
テック企業への規制に警戒
2つ目は中国政府によるテック企業(IT分野などを専門として開発・運営をしている企業)への規制、中でもインターネット企業への規制強化です。ネット企業は個人情報など膨大なビッグデータを掌握しており、国家の競争力をも左右します。海外に上場する中国企業は多く、政府は、対立する米国などへのデータ流出を強く警戒しています。
中国のネット企業はEC(電子商取引)大手アリババ集団や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)などを除けば、海外で外国人向け事業に力を入れている企業は多くありません。
それよりも中国政府にとっては台湾問題などの地政学リスクが悪化し、半導体の供給網が閉ざされることの方が問題です。半導体は、スマートフォンやパソコン、テレビなどの電子機器だけではなく、軍事転用もできる最先端技術だからです。事実、中国政府の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する対応は、アリババ集団やネット大手の騰訊控股(テンセント)など、ネット企業への対応とは大きく異なります。中国当局は巨額の補助金で半導体事業を育成するなど、半導体製造やEV(電気自動車)、代替エネルギーを重要業種として位置付けているのです。
規制強化は今やネット企業だけではなく、教育業界などにもわたっています。対象はさらに広がる可能性が高いでしょう。
習近平(シー・ジンピン)国家主席が8月、貧富の格差縮小を目指す「共同富裕」を強調したことも懸念材料です。欧州市場では発言を受けて、「グッチ」などを持つ仏ケリングや仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、独ポルシェや伊フェラーリの株価が下落する場面がありました。所得再分配を促す同国の制度改革は、富裕層への締め付けを強め、高級品の消費意欲を減退させるでしょう。日本でも新型コロナウイルスの感染収束後のインバウンド(訪日外国人)消費に影を落としそうです。
中国リスクが経済や株価にグローバルに影響を及ぼす可能性に警戒しておく必要があるでしょう。

●中国恒大、「大きすぎてつぶせない企業」でない 9/17
中国国営メディア「環球時報」の胡錫進編集長は16日、巨額の債務を抱える不動産開発大手、中国恒大集団について、「大きすぎてつぶせない企業」ではないとし、政府の救済を当てにせず、市場の手段を活用して自力で立て直しを図るべきと指摘した。
国営メディアが政府による同社救済に疑問を投げ掛けたのは初めて。
胡編集長はソーシャルメディア(SNS)「微信(ウィーチャット)」への投稿で、中国恒大が経営破綻してもリーマン・ブラザーズのような金融システムを揺るがす大混乱をもたらすとは思わないと述べ、同社が不動産開発会社で、中国では不動産の頭金の比率が非常に高いことを指摘した。
政府ではなく、市場に救済を求めるべきだとの認識を示した。
環球時報は、中国共産党機関紙「人民日報」系のタブロイド紙だが、同紙の見解は必ずしも中国当局の公式見解を反映するわけではない。
当局は、中国恒大の主要債権銀行に利払いの延期や返済期限の延長を認めるよう促しており、市場では政府が直接、同社を救済する可能性は低いとの見方が広がっている。
関係筋がロイターに明らかにしたところによると、中国恒大の海外の社債保有者グループは、未払いが発生した場合に約200億ドルに上るドル建て債を中心とした債務再編を進めるため、投資銀行のモーリスと法律事務所のカークランド・アンド・エリスをアドバイザーに選定した。
中国恒大は23日に2022年3月償還債の利払い(8350万ドル)、29日に24年3月償還債の利払い(4750万ドル)を行う必要がある。30日以内に利払いができなければ、デフォルト(債務不履行)となる。
17日の中国恒大株は13%下落し、11年10月以来の安値。23年10月償還のオフショア債は10%下落し、16.125セント。
主要債権銀行の一つである中国民生銀行の株価は4.6%下落し、上場来安値を付けた。

●リーマン以来の脅威? 中国恒大とは何者か 9/17
菅義偉総理の総裁選不出馬観測や、新型コロナウィルスのワクチン摂取の進捗に伴う新規感染者数の減少によって株式市場は再びリスクオンの様相を呈し始めた。14日には日経平均株価がバブル崩壊後の最高値を1円更新して一時3万795円まで上昇するなど、早くも新政権の発足期待に向けた“ご祝儀ムード”が漂った。
しかし、株価が好調になるとなぜか悪いニュースも飛び込んでくるものである。翌15日には、中国の大手不動産デベロッパー会社である中国恒大(エバーグランデ)の子会社が、1億4500万ドルに及ぶ金融商品の保証義務を履行できなかったとして、中国の投資家の間で不安が広がっていることが、複数のメディアを通じて報じられた。
このニュースに日経平均株価も反応し、一時3万347.3円まで値を切り下げた。とりわけ、アリババグループの株式を多く保有するソフトバンクグループが一時5.8%も下落したことからも、いわゆる“チャイナリスク”が意識された様子がうかがえる。
一部では「リーマンショックを上回る脅威」ともいわれている中国恒大集団だが、私たちにとってはあまり馴染(なじ)みのない会社だろう。同社は2021年7月の時点で20年の高値である20.4ドルから10ドルまで株価が暴落し、そこから8月に半額の5ドル、そして9月には2.81ドルと月を追うごとに株価がおよそ半分になっている状況であった。
中国外の人々にとっては「寝耳に水」の事態かもしれないが、中国恒大が上場する香港市場では中国恒大の不穏な動きを以前から織り込んでいたようだ。香港市場の株価指数であるハンセン指数は3月から下落基調であり、足元では2万4951香港ドルと、年初来高値の3万1000香港ドルから20%も株価が下落している。
 
 
 

 

●ありえる「中国発」日本の不動産バブル崩壊 9/18
不動産業界の人と話す機会は多い。彼らはなぜか私のことを「未来が見える」と思っている。よく聞かれるのは「このバブル、いつ終わるのですか」ということ。この手の質問には、もう1000回くらいは答えたかもしれない。結論を言えば、「分かりません」となる。しかし、確実なのは「そのうち必ず終わります」ということだ。先日、同年代の不動産業者たちと歓談した。われわれの世代はあの平成バブルを経験した最後の世代。20代半ばから後半がバブルの最盛期だった。同じ質問でも、あの平成バブルを知っている方々には説得力のある説明ができる。今回のバブルが終わるとすれば、それは中国発になりそうだ。こんな風に言う。「現在、北京や上海の一等地のマンション価格は利回りが1%か、それ未満になっています。あり得ない水準でしょ。すでに中国で最大手の不動産デベロッパーのデフォルト(債務不履行)が迫ってきています。その会社の負債額は日本円で9兆円規模らしいですよ」
中国では土地がすべて公有。マンションの場合、日本で言えば、最長70年の定期借地のような権利形態で売買されている。それで賃貸運用の利回りが1%ということは、普通に考えてあり得ない。完全なバブルである。そういうことを説明すると、同年代の業者さんの一人が若い頃の経験談を話してくれた。彼は20代の頃に当時イケイケの株式公開企業に勤めていた。ビルやマンションを1棟ごと売買するような会社だった。ある時、エイヤーの勢いで購入したビルの賃貸利回りを計算すると2%だったという。それで上司に「利回りは2%になります」と報告したら、驚かれたという。「2%もあるのか。それはいい買い物をした。すぐに1.5%にして売れ」
バブルとはそういう時代だった。彼のいた会社も、取引先のほとんども、その後数年の間にキレイに業界から消えたという。北京や上海の不動産価格は異様である。ついでに言えば香港や台北も、私に言わせれば普通ではない。ところが、意外なことに東京はまだ「普通」なのだ。都心のビルは今のところ3%台。ちょっと郊外に行けば5%もある。
だから東京の不動産価格が盤石かというと、そうでもない。中国で不動産バブルが弾けて、その不安感が伝播してくれば、今の東京の安寧感も一気に崩壊する。そもそも不動産は金融商品ではない。本来の価値以上に値上がりしている部分はバブルである。本来の価値とは、その不動産を利用することによって得られる経済利益に見合っているかどうかで決まる。最も分かりやすいのは賃料収入だ。それが今の東京都心では3%台。災害や事件・事故などさまざまなリスクがある不動産の運用利回りが3%というのは、やはり低すぎる。いつかは是正されるだろう。前回は米国発のリーマン・ショックだった。今回は中国発での清算ということになるかもしれない。

●中国恒大集団のデフォルト危機はリーマンショックの再来を招くのか 9/18
巨額の負債を抱える中国の不動産デベロッパー「中国恒大集団(China Evergrande Group)」。その債務がデフォルトの危機に瀕している。中国の金融システム危機、ひいては不動産市場の暴落につながるのではないか、リーマンショックのような危機の世界への連鎖を招くのではないかと懸念されている。みずほ証券チーフクレジットストラテジストの大橋英敏氏にポイント解説をしてもらった。
――中国恒大集団のビジネスと、何が問題になったのか、簡単に解説をお願いします。
住宅、マンションを中心とする不動産デベロッパーで、中国の不動産最大手の一角。大規模な都市開発プロジェクトを進めてきた。少ない資本で借金を膨らませる高レバレッジと自転車操業状態を前提とした急激な業容拡大が注目されてきた。例えば、理財商品(高利回り短期の投資信託のような商品)を使った資金調達もしていたが、それを開発プロジェクトには使わず運転資金に流用していたとの噂があったり、EV(電気自動車)開発会社を子会社に持っているものの、実態は既存のEV会社を買収するための「空箱」だったりという話だ。2021年6月末で有利子負債残高は5718億人民元(約9.8兆円)、純有利子負債で4101億人民元(約7.0兆円)にのぼる。銀行借り入れが多いが、社債も192億3600万USドル、1.01億香港ドル、合計で約2.1兆円の発行残高がある。
――中国は不動産バブルのソフトランディングを目指し、問題企業の整理を進めてきていたはずです。ここへ来て中国恒大集団のデフォルト懸念が高まった理由は? 
昨年8月に中国政府が打ち出した「3つのレッドライン」という財務改善要求が遠因だ。1資産負債比率(Liability to Asset)を70%以下とする、2ネットの資本負債比率(Net DER)は1倍以下、3現預金短期有利子負債比率(Cash Coverage of ST Debt)を1倍以上とする、という3つの指標だ。これらいずれも満たせていない企業の1つが中国恒大集団だった。これまで中国恒大集団は3つの指標を順調に改善させてきた。しかし、デレバレッジ(負債削減)が収益悪化をもたらし、株価が下落し続けたことで信用不安が高まり、金融機関による繰り上げ返済の要請や子会社資産の凍結など、資金繰りが急速に悪化した。多くの開発案件で工事がストップしたことも、国民の不安心理をあおることになった。
――デフォルトは避けられない情勢ですか。社債や融資債権は誰が保有しているのでしょうか。
格付けはデフォルトを織り込むCCC(トリプルC)以下に転落し、社債の価格も年限に関係なく額面の30%程度であるため、債務のデフォルトを既に織り込んでいる。社債に関して言えば、長年シングルB格のハイイールドもの(ジャンク債扱い)なので、金融システム上重要な銀行や保険会社などはほとんど保有していないはずだ。買っていたのはディストレスバイヤーと呼ばれる投資家や個人だろう。アルケゴス・キャピタル・マネジメントで話題になったレバレッジ取引(保有資産を担保にした借り入れで投資額を膨らませる、ハイリスク・ハイリターンな手法)を行う投資家も、この格付クラスの社債を担保に用いることはまずない。金融機関が担保として受け入れないからだ。一方、融資債権については100を超える銀行が保有しているとされ、基本的には政府系の国有銀行や地方政府系金融機関の残高が多いとみている。多数の銀行によって保有されているため、例えば国有銀行が5000億円程度の融資残高を持っているとしても、発生する損失を期間収益で吸収できるレベルだろう。仮にそれ以上に多額の損失が発生し資本不足が懸念されるような状況であれば、中央もしくは地方政府による公的資金注入、実際は株主による増資が行われるだろう。民間金融機関の場合は、資本注入の有無は不透明ながら、もし、金融システム不安に発展するようなリスクがあれば、即座に公的資金が注入されるだろう。逆にいえば、システムに懸念がない範囲では損失や資本の毀損はありうる。
――「3レッドライン」は日本のバブル崩壊のきっかけともなった総量規制を思わせますね。不動産市場や金融システムへの影響は? 
確かに「3つのレッドライン」の導入で、中国の不動産開発会社には逆風が吹いているが、「3つのレッドライン」は不動産デベロッパーへの規制強化が主目的というよりも、不動産価格上昇を抑制すること、そのために不動産デベロッパーが乱開発できないようにすることが目的であり、さらに何よりも重要なのは、不動産開発大手の経営危機が生じれば社会的影響が大きいとされたために導入された。政府が不動産価格下落を容認しているとの論調も多いが、リスク要因に対する先行手段として実施されたことを理解したい。主要統計を見る限り、国全体の不動産価格、特に住宅価格が下落しているわけではない。「3つのレッドライン」にはバブル潰しとは逆に、不動産市場を安定化させる狙いもある。安定した価格で良質な住宅はこれからも供給していかなくてはならないというのが中国政府の考えで、不動産市場の暴落は望んでいない。中国政府は1990年代の日本のバブル崩壊の過程も研究し尽くしている。結論から言えば、この企業そのものはなくなっても、資産負債の整理を行って、金融システムへの波及や不動産市場の暴落といった事態は避けるだろう。秩序立った債務再編と企業再編を進めるということだ。保有不動産が強制売却されたり、それによって不動産市況が悪化することは起きても、局所的、限定的とみている。結局、中国の国内問題として処理され、国際市場に波及するリスクは小さい。
――中国政府の狙いと裏腹に国際金融市場が反応して混乱する可能性はありませんか。
⼀時的な市場混乱は否定しない。むしろ、グローバル金融市場が今のところ冷静で、中国の景気引き締めに対しても鈍感なのが気になっている。グローバル金融市場は中国の動向に対し基本的には鈍感でありながら、いったん懸念し始めると過度に「悲観的」に振れる傾向がある。2021年以降は中国のクレジット・インパルス(総債務残高対GDP比の前年差)がマイナスに転じている。政策的に与信引き締めが行われ、これによる景気減速を政策として容認しているとみるべきだ。クレジット戦略の観点で見れば、市場価格が大きく変動した場合でも、リーマンショックのようなことが起きる可能性は低く、逆張り投資の好機とみている。しかし、中国の景気減速の世界経済への影響は侮れない。すでに不動産以外の分野でも、与信引き締めを通じた影響は出始めている。中国の財政・金融政策、マクロ経済指標、金融システムの安定性はつねにウォッチしておく必要がある。
 
 
 

 

●恒大集団(エバーグランデ)破綻で中国不動産バブル崩壊か 9/19
中国の最大規模の不動産会社である中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)が破綻寸前である。深センに本社を構え、香港市場に上場している。負債総額は約34兆円、株価はすでに1年前の10分の1ほどになっている。
恒大集団がこのような危機に陥った理由は、中国政府が不動産バブル抑制のために銀行が不動産関連企業に融資する金額を総融資残高の40%までに規制するなど、さまざまなバブルつぶしを行ってきたからだ。最近、中国政府は、巨大IT企業などを締め付けているが、市民の不満が溜まっていた不動産価格の上昇を抑えたいこともあり、こうした不動産業者も締め付けるターゲットであろう。恒大集団が保有している不動産は、現金を確保するために次々と売り出されており、この点では中国政府の狙い通りである。
問題は、あまりにも巨大なため、中国金融市場全体の問題になるシステミックリスクを引き起こすかどうかである。また、それが2008年のリーマン・ブラザーズ破綻の時と同様に、世界経済に及ぼす影響も危惧される。
しかし、この点について、驚くほど市場は無反応となっている。あくまで恒大集団とその債権者の問題と市場は捉えているようだ。
筆者は恒大集団の債務を細かく調べたわけでも、どの金融機関がどれほどのエクスポージャーがあるのかも特に調べているわけではない。しかし、中国の不動産バブルつぶしのやり方が、日本の土地バブル崩壊の引き金となった当時の大蔵省の総量規制にも似ているし、リーマン・ブラザーズ破綻の前も市場参加者はいたって平静で、サブプライム問題など深刻に受け止めていなかったことを、つい思い出してしまう。
また、香港の筆者の知り合いが、プライベートバンクから勧められて恒大集団の債券が大量に含まれている高利回り仕組債(複雑なデリバティブなどの金融商品)にかなりの金額をつっこんだことを小耳に挟んでおり、彼がどんだけ損するのかとても心配している。
 
 
 

 

●中国経済が"自爆"へ…大手不動産開発が「デフォルト寸前」 9/20
高まるデフォルト懸念
足元の中国の債券市場で、不動産開発大手の中国恒大集団(エバーグランデ)の債務不履行(デフォルト)懸念が高まっている。9月17日時点で、同社が発行した2022年3月償還のドル建て社債の価格は、額面1ドルに対して30セント前後で推移している。同社の債券価格の下落はつづいており、一部の金融商品に対する投資家の取り付け騒ぎも起きている。エバーグランデのビジネスモデルは、債務等の発行によって多額の資金を調達し、それを元手に不動産開発や海外資産投資を行って収益を得ることだった。ところが、ここへ来て共産党政権による不動産規制の強化や、新型コロナウイルスの感染再拡大による中国の景気減速など複数の要因が重なり、エバーグランデの経営体力が急速に失われ資金繰りが悪化している。今後の最大の注目点は共産党政権の対応だ。共産党の権限をもってすれば、エバーグランデを救済し、信用収縮が中国内外の金融市場に伝播する展開を回避することは可能だろう。その一方、政権が救済に乗り出さないと、同社の資金繰りはさらに悪化することが懸念される。仮に同社が破綻に追い込まれるようなことになると、その影響は中国国内だけではなく世界の投資家にも波及することになるだろう。同社の急速な成長は中国の貧富の格差拡大の象徴にも映る。公的な救済は、共産党政権への批判増加につながる可能性がある。今後の共産党政権の対応によって、チャイナリスクの一部が顕在化する可能性が高まっているとみるべきだろう。
懸念されるエバーグランデの現状
2020年末時点で、エバーグランデの負債は約1.95兆元(33.1兆円)、そのうち有利子負債が約7165億元(12.2兆円)だった。昨年7月以降、資金繰りの悪化懸念が高まり、株価は大きく下落している。その背景には、共産党政権による不動産関連の融資規制の強化、さらには感染再拡大による景気減速などが影響している。中国の不動産バブルの状況は、1980年代末から1990年代初頭のわが国経済の状況を彷彿とさせる。エバーグランデは資金繰りを確保するために、傘下の電気自動車(EV)メーカーや銀行、物流、不動産管理業などの資産を次々に売却している。しかし、債務返済や日々の業務運営に必要な資金をカバーするには至っていない。すでに、一部の住宅建設が停止するほど資金繰りは悪化している。9月14日に、エバーグランデは資金繰りが一段と悪化するとの見通しを示した。同社のデフォルトのリスクは一段と高まっている。資金繰りが悪化した結果、エバーグランデは、販売した投資商品である“理財商品”の償還に対応できなかった。どういうことかといえば、同社は自社のローンなどを組み入れる理財商品を組成し、最大で年13%程度の高利回りで富裕層などに販売することによって資金を調達した。借り入れを行ってエバーグランデの理財商品を購入した投資家もいると聞く。理財商品のデフォルトに抗議する人々が本社ビルに集まり、警備員が厳戒態勢を敷く事態も起きた。エバーグランデは、理財商品のクロスデフォルト(1つのデフォルトが、他のすべての債務のデフォルトを引き起こす)リスクに言及した。その本質的な意味は、“灰色のサイ”と呼ばれる中国の債務リスクが一段と上昇していることだ。エバーグランデの信用不安が他のデベロッパーや金融機関、個人に伝染し、中国経済全体で信用収縮が発生するリスクは軽視できない。それは、世界経済、および金融市場にとって大きな負の要因だ。
今後の展開は共産党の判断次第
今後の展開は、中国共産党政権の対応方針に左右されるだろう。灰色のサイ問題は“チャイナリスク”の一部だ。今後の共産党政権の対応次第で、チャイナリスクの一部が顕在化する可能性が急速に高まっている。共産党政権は、債務再編のアドバイザーを雇ったと報じられている。その目的は、当局が、エバーグランデのデフォルトの発生確率や、それが起きた場合に債務の減免がどの程度になるかを把握するためだ。エバーグランデの信用リスクは政治問題と化している。今後の展開として2つのシナリオが考えられる。まず、公的支援が実施されるケースだ。その場合、公的資本の注入やモラトリアム(債務返済を一定期間猶予する措置)によって、一時的に混乱は回避される可能性がある。その上で、迅速に不良債権を処理する体制が整備されるか否かが問われる。ただし、救済の実施を境に、中国共産党政権は民間企業への締め付けや財務内容の監視を一段と強め、実質的に国家の管理下に置かれる企業は増える可能性がある。2つ目のシナリオは、救済が見送られ、大規模なデフォルトが発生する展開だ。その場合、不動産セクターを中心に中国の他の企業、金融機関、個人などにデフォルトが連鎖し、信用収縮が発生する恐れがある。足許の中国経済は感染再拡大などの影響によって減速が勢いづいている。夏場の感染再拡大や変異株の発生によって、世界経済全体の持ち直しペースも軟化した。その状況下、チャイナリスクの一部が顕在化すれば、世界の金融市場と実体経済へのショックの波及は避けられない。不動産投資は中国のGDPの2割を占めるといわれる。共産党政権は、不動産バブルの軟着陸を図りたいはずだ。しかし、表向き、貧富の格差拡大を是正する姿勢を強めている共産党指導部にとって、エバーグランデ救済は弱者の負担で富裕層を助けているとみなされ、世論の批判や社会心理の悪化を招く恐れがある。共産党政権は、かなり難しい判断を迫られている。
 
 
 

 

●中国の不動産大手の流動性危機、リーマン金融危機とは異なる 9/21
中国の不動産開発で国内第2位の中国恒大が3000億ドルの債務不履行危機に直面している。負債規模は同国国内総生産(GDP)の2%にあたり、破たんは、秩序のあるものであっても、経済への影響は免れないと警戒されている。ただ、エコノミストは、中国不動産大手の流動性危機が2008年のリーマン危機のような世界的な金融危機に波及する可能性は少ないと見ている。
リーマン危機ではなく、1980年代の日本の住宅バブル崩壊、または、1998年のヘッジファンドLTCM破たん危機に類似しているとの指摘が多い。LTCM危機では、連邦準備制度理事会(FRB)や主要金融機関の対応により、短期解決している。
中国恒大の破たんは、「too big to fail」で、破たんするには規模が大き過ぎるため、経済を保護するため、最終的には中国政府による救済や再編などが進められることになり、中国経済や世界経済への影響は限定的になると見る。また、同業の不動産会社が救済する可能性も報じられている。
中国市場が22日に再開したときの地元投資家の動きや中国人民銀行による流動性供給などの行方が市場参加者の今後の注目となっている。

●中国の不動産バブルははじけたのか 9/21
中国の習近平国家主席は次の課題として、経済面でこれまでで最も難しい離れ業に挑戦しようとしている。それは経済の崩壊を避けながら不動産バブルに穴を開けることだ。
危険を感じ取るには、不動産大手の中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の状況を見てみるのがいいだろう。深圳市に本社を構え香港市場に上場している同社は、中国最大級の不動産開発業者だ。同社の負債総額は3000億ドル(約32兆9000億円)前後に上る。このケタ数はタイプミスではない。同社は債務の返済方法が分からないようで、返済計画を作成するため外部のアドバイザーを招き入れている。
・・・ こうした事態が生じた背景には、習氏の経済戦略がある。その戦略とは、共産党による企業支配を強化し、貧富の格差を解消するというものだ。貧富の格差は、共産党自体が持っていると考える党の存在の正当性を損なうとみられているからだ。中国政府は昨年、この2つの目標達成に向けて不動産市場に対する新しい規制を導入した。
この新規制には、住宅ローンと不動産業者向け融資を銀行の総融資残高の40%までに抑制することや、恒大集団のような開発業者に対して、新規借り入れの条件として既存債務の返済を義務付けることが含まれている。こうした規則には、過剰債務を抱える開発業者にお灸をすえるとともに、政治問題になりかねない住宅価格の上昇を抑制する狙いがあった。15日に発表されたデータによれば、8月の住宅販売は、金額ベースで前年同月比19.7%減少しており、この数字から判断する限り、政府の規制には効果があった。
これは経済全体に信用面の規律を課そうとする幅広い取り組みの一環だ。中国政府は今年上半期に過去最高となる180億ドルのデフォルト(債務不履行)発生を容認した。2021年通年でも新記録を打ち立てるとみられている。デフォルト状態となった企業には国有企業が複数含まれている。
恒大集団は一部の債券や銀行融資についてデフォルトを認められる可能性があるが、中国政府には恐らく同社の全面的な崩壊を回避できる能力があるとみられる。中国は金融システムが比較的閉鎖されており、国有銀行が多くあるほか、法の支配が緩いこともあり、政府が企業再編の指揮をとりシステミックな崩壊を回避することが可能だ。しかし、この比較的明るいシナリオでも、経済は党が歓迎しないような痛みを感じる可能性がある。
主な問題は、どこに危険があるかを理解することだ。恒大集団の890億ドルの借り入れと債券発行による債務は、問題の一部に過ぎない。それよりはるかに大きいのは、同社がサプライヤーに負っている債務だ。債務の一部は現在、中国のグレーな金融市場を循環しているはずだ。そうした市場では、売掛金などの資産の売却が、普通の銀行融資の代わりになっている場合がある。
恒大集団はまた、新築物件を多くの個人購入者に引き渡さなければならない。購入者はまだ完成していない物件について一部ないし全額を支払っており、購入のためにお金を借りた可能性もある。恒大集団絡みで誰がどれほどのリスクを負っているかを当局が理解するには、時間とかなりの労力が必要となるだろう。
一部の債権者たちは我慢できなかった。中国各地の恒大のオフィスでは、債権の返済を要求するサプライヤーや住宅購入者の抗議行動が起きた。抗議した人々の中には、恒大によって保証された資産運用商品である、いわゆる「理財商品」の投資家も含まれていた。この商品は、銀行の低金利な普通預金の代わりに家計部門が投資してきた規制の緩い金融商品である。現在、中国当局は抗議行動を抑え込む手段を持っているとはいえ、これは中国政府が恐れるある種の社会不安だ。
北京の住宅市場の冷え込みが続く中で、トラブルに直面する可能性が大きい他の不動産業者が出てくることで問題が何倍にもなり、それに加えてこうした事業者のサプライヤー、所有する物件の価格下落が見込まれる住宅購入者、融資を行った銀行も巻き込まれることを想定してみよう。中国版の「リーマン・モーメント」、つまり2008年の米リーマン・ブラザーズ倒産をきっかけとする金融市場の崩壊と景気後退に似た状況が起きるという説は時期尚早だ。しかし、中国政府が打ち出した信用部門の修正は、共産党中枢の政策立案者が考える以上に対処が難しい可能性がある。

●33兆円負債の「中国恒大」救済は反発も 9/21
総額33兆円を上回る巨額負債を抱える中国不動産大手「中国恒大(こうだい)集団」の経営危機が、「第二のリーマン・ショック」になるか世界の金融関係者が警戒を強めている。経営破綻に追い込まれれば、中国の金融システムや不動産市場全体にも打撃を与えかねず、習近平政権の出方が注視される。
恒大は、1996年に広東省で創業した。不動産市場の活況を追い風に各地でマンション開発を展開し、サッカークラブ運営や、電気自動車(EV)開発など事業多角化も進めた。それが裏目に出て、取引先への未払い金などを含めた負債総額は1兆9665億元(約33兆3千億円)。当局による不動産会社への引き締め強化も逆風となり、資金繰りが一気に悪化した。
緊張が高まっているのは、恒大が発行した社債の利払い日を相次ぎ迎えるためだ。ロイター通信によると、計約131億円相当の利払いを23日に控える。その後も年末まで複数の利払い期日が到来するが、事業売却などによる資金調達は思うように進んでいない。
中国政府による救済が望み薄とみられることも不透明感を強めている。習政権は、「共同富裕」を掲げて貧富の格差解消に重点を置く。庶民の生活を苦しめる不動産バブルの抑制にかじを切っており、恒大救済に動けば反発を招きかねない。共産党機関紙、人民日報系の環球時報の胡錫進編集長はソーシャルメディアで、恒大問題について「市場の手段によって自らを救うべきだ」と政府による救済を疑問視している。

●日経平均終値660円安、2週間ぶり3万円割れ…中国恒大集団の危機 9/21
連休明け21日の東京株式市場は、中国の不動産大手の経営危機をきっかけとした世界的な株安を受けて、全面安の展開となった。日経平均株価(225種)の終値は前週末比660円34銭安の2万9839円71銭だった。3万円台の大台を割り込むのは9月7日以来、2週間ぶり。
巨額の負債を抱える中国の不動産大手、中国恒大集団の資金繰りが悪化するとの懸念から、金融システムや中国経済の先行きへの警戒感が強まり、投資家がリスク回避の姿勢を強めている。海運や鉄鋼など景気の動向に敏感な業種を中心に売り注文が広がった。日経平均は31年ぶりの高値水準で推移しており、投資家の株高への警戒感も背景にある。
ただ、市場では、今回の経営危機の影響は限定的との見方もある。SMBC日興証券の牧野潤一・チーフエコノミストは、「恒大集団の有利子負債は、中国の商業銀行の純利益や自己資本からみれば(規模が)小さい。中国での金融危機や世界的な金融危機につながる可能性は低い」と指摘する。「日経平均は短期的な下落後、再び3万円を回復する」(野村証券の池田雄之輔・チーフ・エクイティ・ストラテジスト)との予想も出ている。

●瀬戸際に立つ中国の企業帝国、恒大集団について知るべき5つのこと 9/21
香港(CNN Business) 中国の巨大複合企業「恒大集団」が資金の行き詰まりによる債務不履行(デフォルト)の可能性について改めて警告したことを受け、同社の問題がメディアで大きく報じられている。専門家は、同社の苦境は中国政府にとって大きな試練になると指摘。この問題が「中国版リーマン・ショック」に発展して、世界第2位の経済大国に衝撃が広がるリスクを指摘している。恒大集団にとっては今週が正念場になりそうだ。米ブルームバーグ通信によると、20日は一部の銀行融資の利払い予定日だった。同通信は、中国当局が主要行に対して支払いは受けられないと伝えたと報じた。恒大集団はこうした支払いについて現時点でCNN Businessの取材に応じていない。金融情報会社リフィニティブによると、今週後半には、同社の2つの社債に関する計1億ドル超(約110億円)の利払いが控えている。以下に恒大集団について知っておくべき情報や、現在の状況に至る経緯をまとめた。
恒大集団とはどんな企業か?
恒大集団は中国最大級の不動産開発会社の一つ。米誌フォーチュンが選ぶ世界企業番付「グローバル500」に名を連ねており、売り上げベースで世界最大の企業の一つとなっている。香港に上場し中国南部・深センに本社を置く同社は、約20万人の従業員を抱える。これ以外にも、年間380万人以上の雇用の維持に貢献している。同集団を設立した中国人富豪、許家印氏は一時、中国で最も裕福な人物となっていた。恒大集団は住宅用不動産の開発で名を上げた企業で、中国各地の「280以上の都市で1300以上のプロジェクトがある」と主張する。ただ、その事業は不動産をはるかに超える分野に広がっている。住宅以外では、電気自動車やスポーツ、テーマパークに投資。飲食事業まで手がけ、ボトル入りの水や日用品、乳製品などの事業を中国各地で展開している。2010年には、「広州恒大」の名称で知られるサッカーチームを買収した。同チームはその後、世界最大とみられているサッカースクールを創設したが、これには恒大集団が1億8500万ドル(約200億円)を負担した。恒大集団はテーマパーク部門の「恒大童世界」を通じて観光客相手のサービスも手がけている。中でも有名なのは、海南島で進む巨大プロジェクト「海花島」だ。熱帯地域にかかる海南島は「中国のハワイ」と呼ばれることが多い。
同社が問題を抱えた経緯
恒大集団は多様な取り組みの資金を借り入れで調達しており、近年は債務が膨れ上がっていた。同集団は中国で最も債務を抱えた不動産開発業者として有名で、負債総額は米ドル換算で3000億ドル(約33兆円)を超える。この数週間、同社は早急に資金調達できなければ債務不履行に陥る可能性があるとして、投資家に資金繰りの問題を警告してきた。先週には証券取引所への提出書類で、一部資産の買い手を見つけるのに苦労していると明かし、こうした警告が強調される結果となった。専門家によると、ある意味では同社の積極姿勢が苦境を招いたとも言える。英誌エコノミスト調査部門の中国部門責任者、マティー・ベキンク氏は、同社が「中核事業から大きく逸脱したことが今回の混乱に至る一因になった」と話す。ゴールドマン・サックスのアナリストらは、同社の構造も「(会社の)建て直しの状況をより正確に把握するのを難しく」させていると指摘。最近のメモで「恒大集団の複雑さや、資産と負債に関する十分な情報の不足」に言及した。ただ、恒大集団の苦境は中国における根本的なリスクをも象徴している。「恒大の話は、債務に関連する中国経済の深い、(そして)構造的な課題の話だ」とベキンク氏は語る。これは全く新しい問題ではない。中国では昨年、複数の中国国営企業が融資を返済できなくなった。成長を支えるために債務中心の投資に依存する中国の現状に懸念の声が広がった。中国政府が海外進出を目的に多額の借り入れをする企業の取り締まり乗り出すなか、18年には、富豪の王健林氏が自身の手がける大連万達集団の縮小を余儀なくされた。英調査会社キャピタル・エコノミクスの主任アジアエコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏は先週、恒大集団の破たんは「中国の金融システムがこの数年で直面する最大の試練になるだろう」と指摘した。同氏はさらに「恒大集団の問題の根源は、中国の居住用不動産に対する需要が持続的な減少期に入ったことにある」「恒大集団の進行中の破たんで、不動産開発業者のデフォルトの波が中国の成長に及ぼす影響に注目が集まることになる」とも述べた。
恒大集団は今後どう進む?
恒大集団は14日、状況の評価の支援を得るため、ファイナンシャルアドバイザーを雇ったと公表した。こうした外部のアドバイザーは「実行可能なすべての解決策」を探る役割を担うが、恒大集団は何も保証されているわけではないと警告する。同社は出血を止めるために、電気自動車や不動産サービス事業の一部の買い手を探そうとしたが失敗した。証券委への提出書類によると、投資家探しで「何も大きな進展はない」状況で、「こうした売却を実現できるかは不確実だ」としている。恒大集団は15年に16億ドルで購入した香港の同社オフィスビルの売却も試みている。だが、売却が「予想するスケジュール内に完了していない」という。
投資家の反応は?
恒大集団の問題は先週、深センの道路上に出現した。ロイター通信によれば、同市の本社前に抗議する人々が数十人集まり、同社の代理人とされる人物に言葉を投げかける様子が見られた。だが、株主は数カ月前から警戒感を強めている。同社の株価は今年80%以上下落した。欧州系格付け会社フィッチと米格付け会社ムーディーズは今月、資金の流動性の問題を理由に恒大集団の信用格付けを引き下げた。フィッチは最近の注釈で「ある種のデフォルトが起きる可能性があると見ている」と記述した。今回の事態はより広範に中国の投資家を動揺させるものになるとみられる。こうした投資家はすでに、中国政府によるテック企業を中心とする民間企業への締め付けに揺らいでいる。香港株式市場のハンセン指数は20日、3.3%下落し、過去2カ月近くで最悪の下げとなった。中国の銀行や保険、不動産企業の株価が下落した。ゴールドマン・サックスのアナリストは「我々の見解では、恒大集団の信用ストレスがどう解決されるかが市場心理を動かすだろう」と発言。信用市場やより広範な経済に言及し、中国の債券市場が打撃を受け、信用の喪失がより幅広い不動産業界に波及する可能性もあると付け加えた。米ウォールストリートは海外まで影響が及ぶリスクについて、より楽観的に見ているようだ。ムーディーズ・アナリティクスの主任エコノミスト、マーク・ザンディ氏は先週、CNN Businessに対し「恒大集団の破たんや、より広く言えば中国の不動産企業の財務問題が米国の経済や市場に跳ね返ってくるとは思わない」と発言した。
次に何が起きうる?
アナリストらは、もし恒大集団がデフォルトに陥ったら、中国政府がその余波を抑えるために介入すると見ている。当局が監視を強めているのは明らかだ。中国国営メディアによれば、同国の国家統計局の付凌暉報道官は先週「いくつかの大きな不動産企業」の苦境を認識していると述べた。付氏は恒大集団には直接言及しなかったが、中国の不動産市場は安定しているものの、業界全体の発展に関する最近の出来事の影響は「監視が必要だ」と発言した。前述のキャピタル・エコノミクスのウィリアムズ氏は、もし大きなデフォルトのへの不安が強まれば、中国の中央銀行が流動性の支援で介入するだろうと予測する。当局は既に行動を始めていると言われている。ブルームバーグ通信は14日に匿名の情報筋の話として、規制当局が恒大集団の財務状況の精査のために国際的な法律事務所の「金杜律師事務所」に協力を求めたと報じた。この報道によれば、恒大集団の本拠地、広東省の当局者は恒大集団の設立者からの支援要請を断った。広東省、同社のいずれもコメントの要請に応じていない。だが、恒大集団を救うにはもう遅すぎると指摘する声もある。中国メディアは恒大集団の財務問題を「巨大なブラックホール」になぞらえて広く報道し、どんな量の資金もこの問題を解決できないと暗示してきた。前述のベキンク氏は「究極的には、政府が恒大集団の件に介入すると予想する。同社のデフォルトが銀行システムへと波及するのを許さないためだ」との見方を示し、「恒大集団による大きなデフォルトの影響は特筆に値する」とも語った。
 
 
 

 

●中国恒大、社債利払い実行へ デフォルト懸念打ち消す 9/22
中国不動産大手、中国恒大集団のグループ会社は23日に社債の利払いを実行すると22日発表した。資金繰り悪化により社債のデフォルト(債務不履行)が懸念されていた。ひとまず足元の危機を乗り越える構えだ。
恒大傘下の主要不動産会社が発表した。利払いの規模は2億3200万元(約39億円)となる。恒大は23日以降、他にも社債の利払いなどが相次ぐ。デフォルトから経営破綻に向かうとの不安感が完全になくなるかは不透明だ。
恒大は、住宅バブルを防ごうとする当局の引き締め政策や景気低迷で経営が悪化。6月末時点の負債総額は日本円で約33兆円相当に上る。

●中国恒大、社債利払いを一部実施へ 9/22
総額33兆円の巨額負債を抱えて経営危機に陥っている中国不動産大手「中国恒大(こうだい)集団」は22日、期日を23日に控えた社債の一部の利払いを実行すると発表した。資金繰り悪化により社債のデフォルト(債務不履行)が懸念され、世界的な株安を招いていた。
22日の上海株式市場は、代表的な指標である上海総合指数が前営業日比0・40%高で取引を終えた。市場関係者の警戒感が和らいだとみられる。
利払いを実施するのは、深圳(しんせん)証券取引所で取引されている人民元建ての社債。利払いの規模は2億3200万元(約39億円)となる。ただ、23日に期日を迎える米ドル建て社債の利払い8353万ドル(約92億円)については対応を明らかにしていない。
恒大は、年末に向けて相次ぎ利払い期日が到来する。事業売却などによる資金調達は思うように進んでいないとみられ、不透明感が依然漂う。同社経営トップの許家印氏は21日の従業員向けメッセージで「恒大は早期に最も暗い時から抜け出すことができる」と強調した。
恒大の負債総額は1兆9665億元(約33兆3000億円)にのぼる。習近平政権は「共同富裕」を掲げて貧富の格差解消に重点を置いており、中国政府が同社の直接支援には乗り出さないとみられている。恒大が経営破綻に追い込まれても世界経済や中国経済に与える影響は「リーマン・ショック」ほどではないという見方が根強い一方、中国の不動産市場に悪影響を与える恐れも指摘される。

●グッチのバッグやダイソン家電 中国恒大の理財商品、派手に販促 9/22
利回りはなんと12%、ダイソンの空気清浄器やグッチのバッグまでもらえ、中国随一の不動産開発会社による保証付き――。こうした条件に誘われ、何万人もの投資家が中国恒大集団の資産運用商品「理財商品」を購入した。
その多くは今、投資資金が返ってこないのではないかと恐れている。同社が資金難に陥って一部投資家への債務返済を中止し、世界中に警報を響かせたからだ。
恒大集団は18日から、現金に代わって割引されたアパートやオフィス、店舗、駐車場での返済を始めたが、一部投資家は受け入れを拒否し、同社オフィスに詰めかけて抗議している。
「エレベーターで広告を見て買った。恒大集団は米誌フォーチュンの「グローバル500」に載っている企業だから信頼したのだ」と語るのは、同社の不動産を所有する広東省のドゥーさんだ。恒大集団は同省に本拠を構える。
利回りが7%を超える同社の理財商品に昨年65万元(10万0533ドル)をつぎ込んだドゥーさんは、「汗水垂らして稼いだ金を返さない恒大集団は道義に反する」と憤った。
恒大集団傘下のエバーグランデ・ウェルスは2016年、個人間で資金を融通する「ピア・ツー・ピア(P2P)」のプラットフォームとして発足し、当初はその収益を不動産プロジェクトに充てていた。エバーグランデ・ウェルスの営業担当者によると、過去5年間に恒大集団の従業員、その家族や友人、同社の不動産所有者を含む8万人以上の人々が同社の理財商品を買い、その総額は1000億元を超えた。現在の残高は約400億元だという。
中国で祝日にあたる21日、恒大集団にコメントを求めたが返答はなかった。
3000億ドル余りの負債を抱えた恒大集団の流動性危機は今週、世界中の市場を揺るがした。同社は理財商品の投資家に返済を行うと表明している。
<クリスマス商戦>
中国政府が数年前から経済全体の債務を圧縮する取り組みを強めた結果、企業は資金手当てのために簿外商品に手を出さざるを得なくなった。政府は昨年、不動産開発会社の債務上限をさらに厳格化。恒大集団など借金を抱えた業者は資金繰りのために新たな資金源を探す必要に迫られ、従業員やサプライヤー、顧客にコマーシャルペーパー(CP)や投資信託、理財商品を売って現金を入手する道に走った。2019年、規制当局の取り締まりによってP2Pセクターが崩壊すると、エバーグランデ・ウェルスは個人向けに理財商品を売り始めた。前出の営業担当者と、理財商品を購入した恒大集団の従業員が明らかにした。投資家を引きつけるため、この営業担当者は昨年のクリスマス商戦で、300万元以上の理財商品を購入した人全員にダイソンの空気清浄器やグッチのハンドバッグといったプレゼントを提供した。営業担当者が見せてくれた小冊子では、理財商品は「着実なリターンを求める保守的な投資家」にぴったりの固定利付き商品、と位置付けられている。
<事実上、恒大の商品>
青島市のある建設会社は昨年11月、2種類の金融商品を販売した。1つは利回りが7%、もう1つは7.8―9.5%で、それぞれ1000万元と2000万元を調達する狙い。目論見書には、資金が建設会社の運転資金に充当されると記されていた。目論見書によると、返済資金は発行体の利益で賄うか、もしくはエバーグランデ・ウェルスを運営する恒大集団の子会社が出すことになっている。発行体が返済できない場合でも、この子会社が元本と利息をカバーすると約束している。前出の営業担当者の話では、青島市のこの会社は恒大集団のプロジェクトに関わっており、投資家への返済には同社からの支払いを充てる。つまり「事実上、恒大集団の商品だ」。広東省の理財商品投資家らは、さまざまな政府機関に出した嘆願書で、恒大集団が自社プロジェクトに回すべき資金を不適切に利用し、リスクを十分に開示しなかったと訴えた。恒大集団の許家印主席が2019年の中国建国70周年式典で堂々と座る姿に惑わされた、とも指摘。嘆願書には「投資家は共産党と政府への愛と信頼から恒大集団を信じ、恒大集団の理財商品を買った」と記されている。

●市場を揺るがす中国の恒大集団の問題とは何か 9/22
20日の欧米市場ではリスク回避のような動きとなり、株価は下落し国債は買われた。このきっかけとされたのが、中国の不動産開発大手、恒大集団(Evergrande Group)が、巨額の債務を抱えて経営破綻の瀬戸際に追い込まれているとの観測からである。
ただし、突発的に経営破綻の話が出てきたわけではない。21日、22日のFOMCを控え、テーパリング観測も出ていることで神経質ともなっていた。そして、米国株式市場ではここにきてやや調整局面ともなり、上値が重くなっていた。ダウ平均の日足チャートをみても下に抜ける懸念があり、恒大集団の経営破綻の懸念でアジア株が下落し、欧州市場も動揺を見せたことで、米国市場も大幅な下落となったとみられる。
そのきっかけとなった中国の不動産開発大手、恒大集団であるが、何が問題となったのであろう。
恒大集団とは中国国内での最大級の民間複合企業である。280以上の都市で事業を展開し、20万人の直接雇用と380万人の間接雇用を創出しているとされる(20日付けAFPBB News)。
中核は不動産業だが、近年は多角化を進めサッカークラブの広州FCの運営母体でもある。ミネラルウオーターや食品の販売も手掛け、観光業、インターネット関連サービス、保険、ヘルスケアにも投資し、テーマパークも建設しているとか。
恒大集団は中国国内の不動産バブルを追い風に買収を積極的に行ってきたが、9月に入ってから、負債総額が1兆9700億元(約33兆5000億円)に膨れ上がり、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクがあると警告した。
異業種進出が次第に足かせとなっていたところに、コロナ禍が不動産業界を直撃、そして最も影響があったとみられるのが、習近平政権の動きであったように思われる。
中国はコロナ禍によって経済格差がますます拡大し、カネ余り現象が大都市圏の不動産価格の高騰を生んでいた。このため、中国政府は昨年、「三道紅線(3本のレッドライン)」政策によって、不動産開発業界への締め付けを決定した。今年1月からは、住宅ローンや不動産企業への融資に総量規制を設けるなど規制を強化させたのである。
恒大は資金繰りが回らなくなり、大きな負債を抱えていたところ、大型マンション開発プロジェクトやテーマパークの工事がストップする事態となった。請負業者に対し、現金ではなく未完のマンションで支払い始めたともされた。
8月10日に恒大は資産売却計画を発表したが、いざとなれば資産を売れることを示し、市場の不安を払拭しようとしたが、むしろ不安を煽ったような格好となった。
8月17日には、グループの総帥として君臨してきた許家印董事長が辞職。19日に恒大集団は、中国人民銀行、中国銀行保険監督管理委員会との面談を受け入れた。それでも恒大関連株の株価は下落し続けた。
中国恒大が抱える3000億ドル(約33兆円)もの債務履行を巡る不安が市場を揺るがしたのである。
中国住宅都市農村建設省は先週、中国恒大の主要債権金融機関に対し、同社が20日に融資の利払いを行えない見通しだと伝えた。
中国恒大の発行済みドル建て債13本のうち1本は、世界で最も広く取引されている銘柄の一つとされる。
ただし、海外投資家への影響は限られたものとなりそうである。あくまで中国国内での影響が極めて大きい。それでもそれが中国国内の金融危機を誘発すると海外市場、つまり欧米や日本の市場にもインパクトを与えかねない。
これには中国政府がどのように対応するのかが最大の注目点となる。大きすぎて潰せないとするのか、それとも、のし上がってきた民間企業に対しては冷めた対応をしてくるのか。アリババなどへの中国政府の対応をみると、後者になる可能性もないとはいえないかもしれない。 

●NY株、一時300ドル超高 中国恒大巡る懸念後退 9/22
22日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は反発して始まり、前日からの上げ幅が一時300ドルを超えた。経営難に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団が発行した社債のデフォルト(債務不履行)への懸念がひとまず後退し、買いが先行した。
午前10時現在、前日比305・60ドル高の3万4225・44ドルをつけた。ハイテク株主体のナスダック総合指数は続伸し、29・05ポイント高の1万4775・45。

●ドル、109円台前半=中国恒大への警戒感で下落 9/22
22日朝の東京外国為替市場のドルの対円相場(気配値)は、中国恒大集団の経営危機への警戒感からリスクを回避する流れが継続し、1ドル=109円台前半に下落している。午前9時現在、109円15〜15銭と前日(午後5時、109円63〜63銭)比48銭のドル安・円高。
前日の海外市場では、109円70銭付近から109円10銭台までじりじりと値を下げる展開になった。米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を控えて様子見ムードが強まる中、中国恒大集団の経営危機が金融市場に及ぼす影響が不安視され、安全資産の円を買う動きが優勢だった。きょうの東京時間は早朝から、米国時間終盤の水準を引き継いで109円10〜20銭台でもみ合っている。
23日以降に社債の利払い期日が到来する中国恒大集団については、「中国政府が危機回避に対処するはず」(国内シンクタンク)との楽観的な見方がある一方、「中国政府の対応がはっきりしない」(外為仲介業者)などと警戒感も根強い。こうした中、きょうの東京時間は中秋節に伴う休場が明けた中国株の動向も注目される。中国株安のあおりを受けるなどして日経平均株価が大幅に続落した場合、「ドル円が109円を割り込むことも想定される」(大手銀行)という。
ユーロは対円で下落、対ドルでほぼ横ばい。午前9時現在、1ユーロ=127円95〜128円02銭(前日午後5時、128円54〜59銭)、対ドルでは1.1722〜1722ドル(同1.1726〜1726ドル)。

●中国恒大・債務危機の着地点―― 9/22
中国恒大集団の債務危機が連鎖拡大するのではないかという不安が世界に広がっている。習近平が描いているであろう着地点を考察するとともに、中間層がなぜ不動産獲得にここまで狂奔するのか、社会背景を読み解く。
中間層が不動産購入に狂奔する理由「その1」:入学時に要求される不動産証明書
江沢民時代からリーマンショック直後あたりまでは、党幹部などを含む富裕層が投機的に不動産を購入する傾向が強く、不動産価格の高騰を煽ってきた。中間層が増えるにしたがってディベロッパーは「今買わないと来年にはもうこの値段では買えませんよ」と消費者心理を煽り、不動産購入層は中間層へとシフトしていった。その最大の原因が優良な公立小学校に入学するときさえ「不動産所持証明書」が要求されるという事実を知っている人は少ないだろう。2014年まで中国では義務教育である小学校も中学校(初等中学=初中)も入学試験があり、優良な小学校に入るためには学校側に賄賂を渡す習慣が常識化していた。学校側は心得たもので、多少入試成績が悪くても賄賂が多ければ手心を加え、公立だというのに肥え太っていった。金を集めるためには良い教師がいなければならない。教師の一本釣りも流行り、一流の小学校に入れない者は「一流の塾」に法外な授業料を払って、14億人が「高学歴」へと突進していったのである。試験があるために賄賂が動くという「腐敗構造」が義務教育である公立小学校にさえ存在することに対して、反腐敗運動に出ていた習近平は「義務教育入学時の試験を撤廃せよ」という通達を2014年に発布し、住んでいる場所によって入学する小学校や中学を決める「学区域制」にした。ところが、上に政策あれば下に対策あり。ならば、入試は免除するが、その代わりに入学審査は「不動産保有の有無によってランク付けしていく」という、信じがたい手に出始めたのだ。たとえば2021年における<上海市嘉定区義務教育入学生募集実施意見>をご覧いただければわかるように、2014年9月1日から2015年8月31日までに生まれた満6歳の学齢期児童から、「不動産証明」を提出した者を優先的に入学させるというランク付けによって選抜することになったのである。これは各地区によって異なるが、中国は都市を第一線都市(大都会)、第二線都市、第三線都市・・・とランク付けしており、第一線あるいは第二線くらいまでは、こういった状況にあると考えていいだろう。8月11日のコラム<中国金メダル38でもなお「発展途上国」が鮮明に>で書いたように、中国の一般家庭の「高学歴への渇望」は尋常ではない。恒大問題を考察するときには、こういった中国の根本的な社会背景を直視しなければ真相解明には至らない。
中間層が不動産購入に狂奔する理由「その2」:一人っ子政策がもたらした「剰男」
長いこと実施してきた「一人っ子政策」によって、男尊女卑の強い農村では、お腹の子が女の子だと分かると早い時期に堕胎し、男の子を生んだ母親(使いたくない言葉だが「農家の嫁」)を高く評価する傾向にあった。そのようなことが累積して、2020年11月1日に始まった第7回国勢調査の結果では、男性の方が女性より「3490万人」多いというデータが出ている。そのうちの結婚適齢期の男性が結婚相手を見つけることができないという現状にある。中国語では「結婚できない男性」を「売れ残った男性」とみなして「剰男(センナン)」と呼ぶことが多い。本人に結婚願望がなければ、この範疇には入らないだろうが、「独身男性」は肩身が狭いという傾向にある。同様に「結婚できない女性」を「売れ残った女性」とみなして「剰女(センニュイ)」と称したりしたが、今は「剰女」は少なくなってきた。そもそも女性にも結婚願望が強くない現象があるので微妙ではあるが、結婚願望のある男性や、独身男性を抱える父母は気が気ではない。結婚してみようかという女性の側は、「結婚したければ『家あり、車あり、高学歴』という条件を揃えなさいよ!」と強気だ。「剰男」の両親あるいは「剰男」自身が、結婚のために、なけなしのお金を搔き集めてマンションを購入するという状況は、中国の庶民の間でよく見られる日常風景なのである。
習近平が恐れるのは中間層の社会動乱:「6個の財布」を使い果たして
中国には「6個の財布」という言葉がある。一人っ子の両親と、その両親のそれぞれの両親の6人を合わせた「財布」を全て合わせるという意味で、「一つのマンションを購入する」ときには、この「6個の財布」を必要とする。車の価格はマンションとは比較にならないほど安いので、世代を超えた、なけなしの財産である「6個の財布」はほとんどの場合、「不動産購入」に充てられている。習近平が最も恐れるのは、この「6個の財布」を搔き集めて不動産を購入した中間層の反乱だ。これを抑えなければ社会不安をもたらして、非常にまずい。習近平は2017年、2018年と立て続けに「家は住むためのものだ。投機のための不動産購入をやってはならない」という通知を出し続けているが、しかし富裕層は相も変わらず投資のための購入をしている。投資は必ずリスクを伴うものなので、たとえ恒大集団が倒産して大損をしたところで、富裕層自身が損をするだけで習近平にとっては大きな問題ではない。そもそも富裕層は「自分が儲けそこなった」として動乱を起こしたりはしない。彼らは「叩けばホコリの出る身」。騒がずに他の投資対象を探せば済む話だ。習近平が動くとすれば、人数的には最も多いであろう中間層の購入者への配慮からだろう。
習近平は恒大を救済するだろうか?
すでに多くのニュースで語られているので繰り返したくはないが、基本情報だけ書くと、中国不動産大手の中国恒大集団の負債総額は今年6月末時点で、日本円で約33兆円相当に上る。その負債を巡り、資金繰りへの懸念が高まり、倒産するのではないかという不安が全世界を覆っている。そこで注視されているのが「習近平は果たして恒大を救済するか否か」という一点だ。この点に関して言うならば「救済しない」と言っていいだろう。なぜなら昨年8月20日、中央行政省庁の一つである「住宅城郷建設部」や中国人民銀行などの関係部局が、恒大を含む大手不動産企業12社ほどを呼びつけて、彼らを前にした座談会を開いた。そのときにディベロッパーたちに「お灸をすえるように」以下の「三道紅線(3本のレッドライン)」を提示している。
1.不動産企業の前受け金を除いた後の総資産に対する負債比率は70%を超えてはならない。
2.不動産企業の自己資本に対する純負債率は100%を超えてはならない。
3.不動産企業の現金対短期負債比は「1」未満でなければならない(=短期負債より多い現金を持っていなければならない)。
この「3本のレッドライン」を守れない不動産企業は、「その違反の度合いに応じて銀行からの融資規模などを制限するので、そう心得よ」と厳しく言い渡した。なぜ「三道紅線」指針を出したかというと、上述のような原因で不動産価格の高騰を招き、それによってディベロッパーも不動産価格高騰に期待して過剰融資し自転車操業をするものだから、不動産バブルがどんどん膨れ上がってしまい、いずれバブルが崩壊するかもしれないという危機感を政府が抱いたからだ。これはまだ正式な政府通達という形で発布はされていないが、しかし今後の中国政府すなわち習近平政権の指針を示すものとして強いインパクトを与えたと思われる。特に恒大は、この3つのすべてに違反している。きっと震え上がったにちがいない。もし習近平が恒大を救済などしたら、単に指針に反するだけではなく、不動産価格の高騰を加速させバブルがますます膨れ上がっていく。したがって習近平としては「救済しない」ということができる。
恒大を倒産させるのか?
ならば、恒大が倒産するのを黙って見ているのかと言ったら、答えは「否」だろう。上述の社会動乱を抑えなければならないので「いきなりは倒産させない」と見るべきだ。この「いきなり」か否か、が重要だ。「救済はしないが、倒産はさせない」というのは、矛盾しているように見えるが、中国が「特色ある社会主義国家」であることを考えると、そうでもない。恒大の最も大きな資産は土地備蓄だ。中国では土地は国家のものなので、ディベロッパーは地方人民政府が保有している土地の「使用権」を購入して、そこにマンションなどを建てている。もし倒産してしまったら、清算するときにこれらの土地備蓄が大量に市場に出回るので土地の価値が下がり、地方政府は大きな損失を被る。そのようなことを中央政府が認めるはずがない。だから「倒産はさせない」。また倒産してしまったら、高い頭金を支払い、ローンを組み、すでに利子も含めて大きな支出を負ってきたマンション購入者が必ず動乱を起こす。習近平は不動産バブルを防ぐために「不動産を購入できないようにする目的」で、不動産購入時の金利を「6%〜6.5%」と非常に高く設定し、頭金も不動産価格の「30〜50%」を支払うことと設定している。そこまでしてでも不動産を購入させまいとしてきたために、購入者はすさまじい負担を強いられているのだ。もし倒産したら、「家」として手に入れることができなくなるので、中間層の怒りは爆発するだろう。だから「倒産はさせない」ということが言える。
どのようにして「倒産させないように」するのか?
では、どのようにして倒産しないようにすることができるのか。その方法はいくつかある。まず、国有の不動産企業に深圳や上海など第一線都市の資産価値の高い土地使用権を購入させる。恒大はこの資金を債務返済の一部に充てる。やや「長期」にわたってこれらを繰り返せば、恒大の資産も減っていくだろうが負債も減っていくはずだ。こうして「かなり長い期間」をかけて恒大の負債を減らさせていき、しかし資産も減らしながらも建物だけは完成させて、購入者の手に渡るようにする。このようにして、「恒大を救済せずに、倒産させず、購入者が動乱を起こさない」方向に「長〜い」時間をかけて持って行く。これが、習近平が描いている着地点であろうと推測される。なお、「共同富裕」との関係においては別途論じるかもしれないが、基本は『習近平 父を破滅させたケ小平への復讐』に書いた精神に基づいて習近平は動いている。この背骨を理解しさえすれば、かなり正確に習近平の政策を分析することができるようになると信じている。

追記:「長〜い時間」を掛けるのは恒大問題がフェイドアウトしていくまでの時間であって、購入者が「完成した家」を手にするまでの時間を指しているわけではない。もともと、たとえば2021年5月に購入した人がいるとすると、その人に「完成した家」を引き渡すのは2024年5月頃となっていた。最初から3年ほど待たなければならない契約になっている。この3年間が、たとえば半年間ほど延びて3年半になろうと、それはそれほど大きな問題ではなく、「完成した家」が入手できなくなることの方が遥かに大きな問題なので、倒産さえしなければ、購入者は動乱を起こすほど激怒することはないと推測される。延期された分に対する謝罪の意味での補填は、恒大集団のCEO許家印が個人の資産から払うべきだろう。彼は3兆円ほどの個人財産を持っているので、無一文になるまで支払えばいいと思う。

●恒大債務問題「中国版リーマン・ショック」が誤解と言える明確な理由 9/22
中国の不動産大手、中国恒大集団(以下、恒大)の巨額債務問題に神経質な相場が続いている。メディアを通じてさまざまな見方が紹介されているが、現在入手可能な情報を総合して考えると、この問題を理解するポイントは、(1)中国政府が恒大を公的救済する意思があるかどうか、(2)恒大の抱える債務の拡散度合いとその規模、の2点に尽きる。メディアの見出しに「中国版リーマンショック」などの仰々しいフレーズが飛び交っている理由は、(1)の公的救済について中国政府にその意思がないと伝わったからだ。中国政府の意思を強く反映する共産党系メディア『環球時報』の胡錫進編集長がSNSに「国が産業の構造を変えようとしているときは、いくら企業の問題が深刻だからといって、国がその企業を保護することはない」と投稿したことが市場に動揺をもたらしている。中国政府は国内の格差拡大と社会不安の因果関係を重く見る姿勢を強めており、今夏から「共同富裕(ともに豊かになる)」のスローガンのもと、所得再分配政策に軸足を置くことを宣言している。そのように「富裕層から貧困層への所得移転」を公言しているなかで、政府が恒大に公的救済の手を差し伸べるとしたら、社会に対してどんなメッセージになるだろうか。恒大は不動産開発の資金調達手段として、国内の投資家や住宅購入者など富裕層に対して高利回りの金融商品を販売してきた経緯がある。つまり、恒大の公的救済は国が富裕層を救済するのと同義であり、「共同富裕」を自ら否定することになる。こうした巨大企業の債務問題は、当局が公的救済の意思を表明して迅速に鎮圧するのが最善の手だ。しかし、国全体の舵取りと大きく矛盾するため、今回ばかりは躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない難しさがある。しかし、そうも言ってはいられない。問題はすでに金融市場に動揺をもたらしている。1997年11月の日本における三洋証券の破たん、2008年9月のアメリカにおける大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破たんは、いずれも「破たんは制御可能なので自己責任で処理せよ」という行政の判断が瞬(またた)く間に市場参加者の疑心暗鬼を生み、金融危機へと発展した事例だ。どちらも明らかに政治の失敗と認識されており、同じ過ちがまたくり返されるのではとの恐怖心が、市場に満ちている。
リーマン・ショックの教訓は生きている
ただし、今回も「瞬く間に市場参加者の疑心暗鬼を生み、金融危機へと発展」するかどうかは、冒頭で指摘したポイント(2)恒大の抱える債務の拡散度合いとその規模、次第だ。恒大の有利子負債の多くは、中国の銀行部門ないしノンバンクに散っているとの見方が多い。8月中旬に中国銀行保険監督管理委員会が発表した2021年第2四半期(4〜6月)の銀行業主要監督管理指標によれば、6月末時点の貸倒引当金残高は5.4兆元(約92兆円)。それに対し、現在報じられている恒大の債務総額は2兆元(約34兆円)。したがって、もし恒大の債務がすべて不履行になっても、中国の銀行部門で吸収できる。中国国外の大手機関投資家が恒大の社債を保有しているとの報道もあるが、その規模も(現在明らかにされている分に限れば)国際金融システムを瓦解させるほどではない。例えば、ロイター通信(9月21日付)は世界最大の資産運用会社である米ブラックロックが2021年1〜8月に恒大の社債を3130万口購入したと報じているが、それは総額17億ドル(約1870億円)のファンドの1%に相当する分(つまり20億円弱)だという。恒大の破たんがリーマン・ショックのように世界の金融危機の引き金になる理由は現時点では見当たらず、軽々しく「中国版リーマン・ショック」といった扇動に乗ることは控えたい。リーマン・ショック後の10余年をかけて、国際金融システムへの自己資本規制は過剰と言えるほど厳格なものに仕上がっている。今回のような一企業の問題が世界金融危機の再来につながらないよう、あえてそうしてきた経緯がある。もちろん、相対取引が基本となる不動産売買は、どの国であっても実態把握が容易でない。情報の透明性が極端に低い中国では一段とその度合いが強まる。本当は何が起きているのかわからない、という漠とした不安が市場心理を脅かす現在の状況は理解できる。それでも、金融市場における歴史的な大事件であるリーマン・ショックまでたとえに持ち出すのは、さすがに了承できない。
「延焼」のもたらすリスク
ただし、ここまで示した筆者の基本認識には「破たんが恒大1社で済めば」という前提が付く。三洋証券の破たんもリーマン・ショックの破たんも、その後同業他社の経営不安という形で「延焼」した。2010年代前半の欧州債務危機もギリシャに始まり南欧全土に拡がった。延焼が始まれば、鎮火には時間を要する。金融機関の与信能力低下、実体経済における消費・投資意欲の低下はいずれ物価低下につながり、それに対応するために中央銀行が金融緩和を強いられ、金利低下が促される。日米欧で嫌というほど見てきた光景だ。事業会社や金融機関の破たんに向き合う行政の「誤った最初の一手」は、市場の猜疑(さいぎ)心を膨張させ、最終的にはファンダメンタルズ(財務状況や業績)がさほど悪くない対象にまで被害をおよぼすことがある。速やかな処理を怠り、「取引相手を信じられないから金を出さない」という態度が同時多発すれば、実体経済の心臓である金融システムは停まってしまう。企業や国家は赤字それ自体で破たんするわけではない。必要な流動性が獲得できなくなった時点で破たんするのである。極論すれば、安定的に黒字を出しても、流動性(=資金調達)が止まれば破たんする可能性はある。歴史に倣(なら)えば、中国では今後も第二、第三の恒大を疑う事案が出てくる可能性が高い。日米欧いずれもそうだった。恒大以外の同業他社や周辺業種で同じような高利の金融商品を提供しているケースを、市場は血眼になって探すことになるだろう。そうなってしまえば、公的救済の是非など議論する余裕もない。だからこそ、そうなる前に救済によって完全に鎮火し、恒大1社の問題として収束させるのが、日米欧の教訓から得られる最善手と考えられる。ただひとつ、中国政府が習近平国家主席の肝煎り政策として掲げた「共同富裕」の旗印がそうはさせない、というのが非常に厄介な状況だ。
中国経済の減速に無影響とはいかない
恒大の巨額債務問題が実体経済にもたらす直接の悪影響も当然のことながら想定される。不動産開発会社として資金が枯渇している以上、進行中の計画などがとん挫する可能性がある。例えば、購入したマンションが引き渡されないといった事案がそれにあたる。中国では、個人金融資産の多くを住宅に費やす傾向もよく知られており、恒大の破たんがストレートに個人消費を直撃する展開も想定される。また、国際金融システムを揺るがす大事件に発展しなくても、恒大が巨額債務を抱えて破たんすれば、(ダメージを吸収する)中国の銀行部門を毀損しないことはあり得ない。その結果として、日常的な経済活動に対する銀行の貸出態度の悪化などが懸念される。もちろん、それは景気を悪化させる展開と言える。「中国版リーマン・ショック」という触れ込みは大げさに過ぎるとしても、中国経済の減速を招来するイベントとしては確度が相応に高い。それがアメリカの金融政策の既定路線をどの程度修正させる結果になるのか、差し当たりその点が問題になってくるだろう。

●中国恒大は「構造上の問題」、デフォルト依然あり得る−JPモルガン 9/22
中国恒大集団の問題は「構造的」なものだとJPモルガン・チェースのアジア・パシフィック・エクイティー・リサーチ責任者ジェームズ・サリバン氏が指摘した。中国恒大のデフォルト(債務不履行)はなおあり得るとの見方も示した。
同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、中国恒大の苦境は不動産セクターにとどまらず、中国の経済成長と政府の歳入にも影響すると予想した。不動産開発大手の中国恒大は巨額の負債を抱え、資金難にあえいでいる。
また、中国恒大は依然、デフォルトする公算が大きいとした上で、重大な影響が波及するリスクがあるとは考えていないと述べた。中国の商業用および住宅用不動産向けローンの大きな部分がデフォルトすると仮定しない限り、中国恒大は「システミックリスク」ではないとも語った。
中国不動産開発セクターへの商業銀行の融資残高は約10兆元(約170兆円)だが、銀行の貸倒引当金は約5兆4000億元で、毎年2兆元ずつが積み増されていると説明した。
JPモルガンは、借り入れがそれほど大きくなく在庫水準も低めの不動産開発会社に投資機会の可能性を見いだしているという。

●中国恒大に96億円投資 年金運用「直ちに影響ない」 GPIF 9/22
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が中国の不動産開発大手で経営危機に直面している中国恒大集団とグループ企業に投資していたことが22日、分かった。
2021年3月末時点で株式と社債を合わせて約96億円保有。GPIFは「長期的観点で分散投資しており、直ちに年金運用への大きな影響はない」と説明している。 
 
 
 

 

●中国恒大集団の債務問題、中国特有のもの=FRB議長 9/23
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は22日、資金繰り難に陥っている中国の不動産開発大手、中国恒大集団の債務問題は中国特有のものだとし、米国企業への直接的な影響は限定的の見解を示した。
連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で「米市場への影響という意味では、米国への直接のエクスポージャーは多くない。中国の大手銀行もそれほど大きな影響を受けていない。ただ、世界的な信用供与チャネルを通じて世界の金融情勢に影響が及ぶようなことは懸念される」と語った。その上で「米国の企業部門と同列に考えることはない」とした。
中国恒大集団のデフォルト懸念は20日の市場で米株式の急落を招いたほか、米ハイイールド債のスプレッドも拡大した。

●恒大集団の経営危機は「中国の不動産業の問題」 日銀・黒田総裁 9/23
日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は22日、中国の不動産大手・中国恒大集団の経営危機問題について「国際金融市場に及ぼす影響も含め、状況を注視していきたい」と述べた。中国恒大を巡っては世界の主な金融市場で株価が一時急落するなどし、世界的な金融危機に発展する恐れが指摘されている。
金融政策決定会合後に開いた記者会見で答えた。黒田総裁は「株式市場を中心に国際金融市場で神経質な動きが見られ、そのリスクは認識されている」と指摘。ただ、「あくまでも当該企業、中国の不動産業の問題として捉えるのが適切」とも述べ、同様の問題が他に起こる可能性は今のところ低いとの見方も示した。
日銀は22日の金融政策決定会合で、現在の大規模な金融緩和の維持を決めた。国内の景気判断も「新型コロナウイルスの影響で引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している」とし、これまで通り維持した。黒田総裁は景気判断を据え置いた理由について「感染力が強いデルタ株の流行で個人消費は足踏み状態となっているが、企業部門は輸出や生産の増加を受けて収益が改善し、設備投資の持ち直しにつながるという前向きのメカニズムが働いている」などと説明した。
日銀はこの日、気候変動対策につながる金融機関の投融資を支援する新たな枠組みについて、12月下旬に始めることなど制度の詳細も決めた。

●中国当局、中国恒大にドル建て債で目先のデフォルト回避を指示 9/23
中国の金融規制当局は、深刻な資金難が続く不動産開発会社、中国恒大集団に対して幅広い指示を発した。建設中の物件を完成させることと個人投資家への債務を返済することに集中的に取り組むとともに、ドル建て社債で目先のデフォルト(債務不履行)回避に全力を尽くすよう求めた。
当局は中国恒大の担当者との最近の会合で、デフォルト回避のため先を見越して社債保有者と連絡を取るよう指示したが、具体的な助言は与えなかったと、事情に詳しい関係者1人が述べた。中国恒大はドル建て社債で8350万ドル(約92億円)のクーポン支払いが23日に期限を迎えるが、30日間の猶予期間がある。
当局が支払いに関する資金支援を提案したのか、またオフショア債権者に最終的に損失を負わせるべきだと考えているかどうかは不明だ。当局は中国恒大債の保有者について情報を集めていると、慎重に扱うべき情報だとして関係者が匿名を条件に述べた。
この当局指導は中国恒大問題の結末がどのような形になるのか手掛かりにはなりにくいが、金融市場を揺るがし成長の足かせとなり得る同社の破綻を政府が当面は回避したい考えであることはうかがわれる。中国恒大に債務危機解決の時間を政府が与える兆候が見られれば、中国内外の投資家の不安は和らぐ可能性がある。
中国恒大のドル建て社債を保有する2者は、香港時間23日午後5時の時点で同日が期日のクーポン支払いをまだ受けていないと明らかにしている。
中国当局が中国恒大について沈黙を守っているため、同社の運命は不透明だ。ダウ・ジョーンズ通信(DJ)は23日、当局が地方レベルの政府機関と国有企業に、中国恒大が秩序立った問題解決ができない場合に最後の瞬間にのみ介入するよう求めたと報じた。当局は中国恒大救済を避けたい考えを示唆したと、協議について知る当局者を引用して伝えた。
中国恒大の苦境は不動産業界の過剰債務圧縮を促すと同時にモラルハザードを避けようとする習近平政権の政策が一因だが、経済および社会の安定を脅かす無秩序なデフォルトを政府が座視する公算は小さい。中国人民銀行(中央銀行)のここ数日の大量資金供給は、当局が既にセンチメント改善を重視していることを示唆する。
中国恒大と人民銀、金融および住宅規制当局はコメント要請に応じていない。
中国恒大は22日、翌日が期日となる人民元建て債のクーポン支払いについて、「クリアリングハウス外での交渉によって解決された」と発表した。デフォルトと定義されることなく支払いを延期することで本土債の保有者と合意した公算が大きいとアナリストらは推測している。
ドル建て債保有者と同様の合意ができるかどうかは分からない。同社債の一部は富豪で中国恒大創業者の許家印会長およびその知人が保有している可能性が高いが、保有者には世界的な運用会社なども含まれ、支払いを巡る不透明な取り決めに加わることは望まないかもしれない。

●中国当局、中国恒大の破綻の可能性に備えるよう地方政府に指示−報道 9/23
中国当局は、深刻な債務危機に陥っている不動産開発会社、中国恒大集団が破綻する可能性に備えるよう地方政府に指示したと、ダウ・ジョーンズ通信(DJ)が事情に詳しい当局者の話を基に報じた。
当局者らによると、地方政府への指示は「起こりうる嵐に備えよ」という意味合いのもの。地方レベルの政府機関と国有企業は、中国恒大が秩序立った問題解決ができない場合に最後の瞬間にのみ介入するよう求められているという。
地方政府は会計士と法務専門家を集め中国恒大の事業に関する財務を調査するとともに、現地の国有および民間の不動産開発業者に中国恒大のプロジェクトを引き継ぐ準備をさせ、市民の怒りと抗議行動を監視するための治安部隊を組織するよう要請を受けた。
中国恒大の広報担当と中国国務院新聞弁公室はDJのコメント要請に応じていないという。ブルームバーグ・ニュースはDJの報道について中国恒大にコメントを求めたが応答はない。

●恒大問題で揺れる中国不動産開発業界、米事業抱える大手も経営難 9/23
金融界は現在、深刻な資金難に陥っている中国の不動産開発大手、中国恒大集団の債務問題を注意深く見守っているが、同国では経営難に直面する不動産開発大手が他にも存在する。この企業はマンハッタンとロサンゼルス、ハワイでのプロジェクトに関連し、今後も計画を継続できるかどうかの瀬戸際に立たされている。
中国泛海控股集団(チャイナ・オーシャンワイド・ホールディングス)傘下で香港拠点の不動産開発会社は今年に入り、規制当局への届け出で、債務再編やポートフォリオの一部売却といった財務強化の計画を完了できない場合、「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)」として事業活動を続けられない可能性があると警告している。
また中国泛海の別の子会社もサンフランシスコでのプロジェクトを一時停止。同社はサンフランシスコで2番目に高いビルの建設を目指しているが、プロジェクト停止により地面に穴が開いたままの状態となっている。全て合わせると、中国泛海では35億ドル(約3830億円)規模の米国のプロジェクトが一時停止、ないし完成には程遠い状況となっている。
中国泛海はパートナーとなり得る企業と幾度も協議を行ったが不調に終わり、中国不動産業界に動揺が広がる中で融資の継続や現金確保に取り組んでいる。
このところ世界の金融市場では、中国恒大に対し抗議を続ける顧客や投資家を落ち着かせるため中国政府が救済措置を講じるかどうかに注目が集まっている。中国恒大を巡る政府の対応は、中国泛海によるプロジェクト存続への取り組みを助け、主要な米不動産市場にもたらし得る打撃を回避しようという投資家と金融機関の意欲に影響する可能性がある。

●中国恒大は依然、デフォルトする公算が大きい 9/23
中国恒大集団の問題は「構造的」なものだとJPモルガン・チェースのアジア・パシフィック・エクイティー・リサーチ責任者ジェームズ・サリバン氏が指摘した。中国恒大のデフォルト(債務不履行)はなおあり得るとの見方も示した。
同氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、中国恒大の苦境は不動産セクターにとどまらず、中国の経済成長と政府の歳入にも影響すると予想した。不動産開発大手の中国恒大は巨額の負債を抱え、資金難にあえいでいる。
また、中国恒大は依然、デフォルトする公算が大きいとした上で、重大な影響が波及するリスクがあるとは考えていないと述べた。中国の商業用および住宅用不動産向けローンの大きな部分がデフォルトすると仮定しない限り、中国恒大は「システミックリスク」ではないとも語った。
中国不動産開発セクターへの商業銀行の融資残高は約10兆元(約170兆円)だが、銀行の貸倒引当金は約5兆4000億元で、毎年2兆元ずつが積み増されていると説明した。
JPモルガンは、借り入れがそれほど大きくなく在庫水準も低めの不動産開発会社に投資機会の可能性を見いだしているという。
 
 
 

 

●中国恒大、23日の利払い実行困難に 米時間で期限迫るも説明なし 9/24
中国の不動産開発大手、中国恒大集団3333.HKの資金繰り問題を巡り、債権者の一部は23日の期限に利払いが実施されるとは期待していないことが、関係者の話で分かった。
中国恒大集団はこの日、20億ドルに及ぶオフショア社債の利息として8350万ドルを支払うことになっている。また、来週には4750万ドルのドル建て債利払いが控えている。
事情に詳しい関係者によると、一部の債券者は23日の利払いが実行される期待を捨てたという。あるドル建て債保有者は、アジア時間の23日深夜になっても利払いを受けていない。また、米東部時間でも利払い期限が迫る中、中国恒大から何の情報もなく、広報担当者からのコメントも得られていない。
債権者からは、来月にかけて何らかの説明を期待するとの声が上がっている。
ブルームバーグ・ローは23日、中国当局が同社に対し、当面ドル建て社債のデフォルトを回避するよう指示したと報じた。
報道によると、当局は恒大集団の経営陣との会合で、デフォルト回避に向けて債権者と積極的にコミュニケーションを図るべきと述べた。ただ、具体的な指針は示さなかったという。
ゴールドマン・サックスのアジア新興市場責任者、コナー・ユアン氏は、「当局は今すぐデフォルトを望んでいない」と指摘。「30日間の猶予期間があることを考えると、きょう利払いが実行されない可能性は非常に高く、今後30日間で行う可能性がある」と予想した。
一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは23日、関係筋の話として、中国当局が地方自治体に対し恒大集団の破綻に備えるよう求めていると報じた。
また、これとは別にブルームバーグは、恒大集団の電気自動車(EV)部門が従業員への給与とサプライヤーへの支払いを停止していると報じている。
BNPパリバUSAのジャン・イブ・フィリオン最高経営責任者(CEO)は23日、CNBCに「中国恒大は深刻な状況にあるが、セクターという点では主に中国国内の不動産部門とその取引先に集約されている」とし、「歴史的に中国政府はこの種の状況に対処し、解決してきた。中国恒大の状況と堅調な米株市場との関連性はあまり大きくないと考えている」と述べた。
中国恒大の許家印主席は22日夜の社内会議で、同社の理財商品の投資家への償還が最優先事項だと述べたほか、確実な不動産の引き渡しを幹部に指示した。これを受け、株価は一時30%上昇した。
オスカー・アンド・パートナーズ・キャピタル創業者で最高投資責任者のオスカー・チョイ氏は、中国恒大が警戒しているのは建設事業が進められず、作業員に給与を支払えず、個人投資家が損失を被ることで社会的緊張をあおることだと指摘。こうした優先事項が解決できれば、同社は他の債権者と協議を行うと予想し、「そうでないと、数十万人が政府と争うことになる」と述べた。

●恒大集団の債務問題、中国への投資意欲を阻害せず=スタンチャート 9/24
英銀行大手スタンダード・チャータード(スタンチャート)のハルフォード最高財務責任者(CFO)は23日、中国の不動産開発大手、中国恒大集団の資金繰りを巡る懸念について、同行の中国に対する投資を抑制するものではないとの見解を示した。
同行はアジアや中東、アフリカを中心に融資を行っている。中国恒大集団に対する直接的なエクスポージャーはなく、間接的なエクスポージャーも「ごくわずか」だとした。
同氏は「現時点で中国経済の一部門が少し影響を受けているとしても、中国経済の成長は世界の他の地域と比べても非常に堅調であり、今後も、中国に対する熱意を失わないようにしたい」と述べた。同氏の発言は、恒大集団の債務問題が英銀に及ぼす影響を懸念する投資家を安心させるものとなった。

●NY株、500ドル高 中国・恒大集団の利払い表明を好感 9/24
米ニューヨーク株式市場で23日、主要企業でつくるダウ工業株平均が500ドル超値上がりした。前日まで開かれた米国の金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)が想定通りの内容だったことや、中国の不動産大手・中国恒大集団の経営問題への懸念が後退したことで株式が買われた。
ダウの終値は、前日より506.50ドル(1.48%)高い3万4764.82ドル。恒大集団が23日を期日とする人民元建て社債の利払いを表明したことで、投資家に安心感が広がった。この問題への懸念から20日にダウは614ドル下落したが、22、23日の2日間で計840ドルほど値上がりした。

●東証10時 急上昇は一服 中国恒大問題「実体経済への影響注視」 9/24
24日前場中ごろの東京株式市場で日経平均株価は急速な上昇が一服し、前営業日比500円ほど高い3万0100円台での一進一退となっている。中国不動産大手、中国恒大集団の債務問題を巡る懸念後退を受けた、短期筋による株価指数先物への買い戻しは一巡したとみられ、新たな材料待ちの状況。節目の3万円を上回る水準では実需の投資家による戻り待ちの売りも出ており、上値が重くなっている。
中国恒大問題について、ピクテ投信投資顧問の田中純平ストラテジストは「『リーマン・ショック』のようなシステマティック・リスクにはならないとの見方が広がった」と指摘する。もっとも「今後の実体経済への影響は注視すべきで、中長期勢はまだ積極的にリスクを取りづらい」とみていた。
10時現在の東証1部の売買代金は概算で1兆1715億円、売買高は4億8826万株だった。郵船が年初来高値を付けた。第一生命HDが高い。ソニーGも買われている。一方、スギHDが売られている。味の素が軟調。

●「必ず保証すると言ったじゃないか」「自殺したい」…苦慮する習近平政権 9/24
経営危機に陥っている中国の不動産大手・中国恒大集団に対する債権者らの抗議が各地で続発している。債務不履行(デフォルト)の危機がささやかれる中、返済のめどが立たないためだ。中国政府が安易に恒大の救済に乗り出せば富裕層優遇との批判を招きかねず、倒産させれば社会不安につながる。習近平(シージンピン)政権は板挟みの状態だ。
上海市中心部にある恒大のビルでは23日朝、金融商品を購入した住民約100人が抗議に押し寄せた。「必ず保証すると言ったじゃないか」「責任者を早く出して説明しろ」 社員らに怒号を飛ばす住民を警官6人が懸命になだめている。社員に詰め寄っていた60歳代の男性は「50万元(約850万円)を投資した。返金されるまで諦めない」と憤った。恒大の負債総額は6月末時点で、1兆9665億元(約33兆4000億円)の巨額に上る。広東省深セン市の本社では23日、多数の警官が抗議再発に備えて警戒に当たっていた。今月上旬から「金を返せ」と抗議する人々が詰めかけて、警察が公共の秩序を乱したとして一部を連行しても、各地の抗議の動きはやまない。恒大は18日、事態の沈静化に向け、投資者らに対し、滞った返済金をマンションの部屋などの提供で相殺する措置を始めた。だが、広東省広州市の対応窓口では22日時点で「一時停止」の看板が出されるなど、手続きに進展はないようだ。
恒大が全国で手がけるマンション建設も、途中で放置されるケースが相次ぐ。広東省仏山市の建設現場では7月に建設が止まって以降、作業員は一人も戻っていない。近くの女性清掃員(51)は「作業員への給料未払いで、労働争議も起きていた」と語った。投資目的でこのマンションの一室を五十数万元(約1000万円)の一括払いで購入した40歳代の男性会社員は、他の購入者らとの情報交換のためSNSのグループチャットに加わった。「結婚のために買った家だった。自殺したい」と投稿した人もいるという。
恒大は23日、8353万ドル(約91億円)の社債の利払いを控えていた。米ブルームバーグ通信は、社債の保有者の話として、夕方時点で支払いが行われていないと伝えた。29日も追加の社債の利払いがあるなど、年内に米ドル建てだけで合計6億3110万ドルの利払いを予定し、デフォルトの危機が今後も待ち受ける。習政権にとっては、恒大を救済せず倒産という事態になれば、抗議の激化が確実視されるうえ、大量の失業者も生みかねない。来年の共産党大会を前に、習国家主席が最重要視する「社会の安定」を損なう事態を招くおそれがある。一方で、習氏は、貧富の格差を解消して全国民が豊かになることを目指す「共同富裕」を打ち出しているだけに、乱脈経営を行った恒大の救済に乗り出せば、習氏の号令は看板倒れと受け取られかねない。中国紙関係者によれば、宣伝当局は官製メディアに対し、恒大の経営危機を巡り独自報道を禁じる通達を出したという。  
 
 
 

 

●中国恒大、社債利払いできず ドル建て、猶予期間入り 9/25
複数の米メディアは24日、経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団が23日の期限までにドル建て債券の利払いをできなかったと報じた。
30日間の猶予期間内に支払えなければ、正式に債務不履行(デフォルト)となる。関係者の話として伝えた。
中国恒大は、23日までに8350万ドル(約92億円)の利払いをする予定だった。同日に期限を迎えた人民元建て社債の利払いは、保有者と交渉して履行したというが、現金で支払ったのかなど詳細は不明。29日には、別のドル建て社債で4750万ドルの利払いを控えている。 

●中国恒大、利払いできず 資金繰り不安続く 9/25
経営危機に陥った中国の不動産大手、中国恒大集団が、23日が期日だった米ドル建て社債の利払いを延期していたことが分かった。米紙ウォールストリート・ジャーナルなどが25日までに報じた。利払いは30日間の猶予があるものの、恒大の資金繰り不安は続きそうだ。
23日にドル建て社債の8353万ドル(約92億円)の利払い日を迎えていた。恒大は同じ日が期日の人民元建て社債の利払い2億3200万元(約40億円)については支払い実施を発表したが、ドル建て社債の対応には触れていなかった。
今後は30日間の猶予期間を過ぎてデフォルト(債務不履行)となるかが焦点。金融情報会社リフィニティブによると、29日の4750万ドルなど、他にも利払い期日が迫っている。10月までの利払い額は200億円を超えるとみられる。

●恒大集団側と投資家が交渉開始 地方政府も収拾へ 9/25
経営危機に陥っている中国の「恒大集団」が、投資家と話し合いを始めたほか、一部の地方政府も事態の収拾に乗り出しました。
抗議する投資家「恒大は金融詐欺だ。政府よ解決して下さい」
恒大集団を巡っては、販売した金融商品に対する利払いが滞り、投資家らが抗議活動を続けています。こうしたなか、安徽省では恒大集団側と投資家の話し合いがもたれ、利払いなどの交渉が始まりました。一方、広東省では地方政府の建設局が恒大集団に「収入のすべてを送金せよ」と指示する通知を出すなど、事態の収拾に向けた動きも出始めています。

●恒大、ドル債券利払いできず…中国当局は破産に備え指示 9/25
最悪の流動性危機でぐらついている中国2位の不動産開発大手の恒大集団(エバーグランデ・グループ)が、ドル建て債券の利子を払えないことが伝えられた。350兆ウォン(約33兆円)台の負債を抱える恒大の破産憂慮がますます拡がっている。
24日のロイター通信などの報道を総合すると、恒大は額面20億3千万ドル規模のドル債券に対する利子8350万ドルを前日までに支払わなければならなかった。だが恒大のドル建て債券を保有する外国人投資家らはこの日午前まで利子を受け取れなかった。
複数の消息筋は「利払いがされず、恒大側は利子の支払いに関連した質問に返事もない状態」と伝えた。ただし、債券契約により利子の支給予定日から30日間の猶予期間が設定されているため、直ちに債務不履行(デフォルト)宣言がなされはしない状態だ。
恒大側もこの日支給しなければならない中国元建て債券の利子2億3200万中国元(約39億6千万円)問題を「解決」したと前日明らかにした。だが、恒大が利子をまともに支払ったのではなく、債権者との交渉を通じて一部だけ支払ったり期間を延長したという観測が優勢だ。これに先立って恒大は今月13日に、現金分割返済、実物資産返済、住宅購入残金相殺返済などを債券返済方案として提示している。
中国当局は、恒大に対する直接支援の代わりに、金融市場の安定化に集中している。ブルームバーグ通信は「恒大事態で不安感が増幅された金融市場の安定化のために、人民銀行はこの日だけで700億中国元(約1兆2千億円)の短期流動性を供給した」として「ここ5日間で人民銀行が金融市場に投じた資金は合計4600億中国元(約7兆8千億円)に達する」と伝えた。
これと関連して同通信は、内部の消息筋の話を引用して「中国金融当局が最近、恒大側に対し、現在進行中の不動産開発事業を早く終え、個人投資家の債権を積極的に返済する一方、短期的にドル債券の債務不履行(デフォルト)を避けるためのすべての措置を取るよう促した」と報道した。だが、債務履行のために金融当局が恒大側に財政的支援をするとみられる情況はなかったと伝えた。
ウォールストリートジャーナルも前日「中国当局が地方政府と国有企業側に、恒大が秩序ある方式で問題を管理できなくとも、介入は最後の瞬間にするよう指示した」と伝えた。当局次元の直接支援ではなく、恒大破産の“後の混乱”に備えるもようだ。
同紙は「国務院金融安定発展委員会(委員長:劉鶴副首相)が今月初めに地方政府側に実務陣を設け、恒大事態と関連した社会・経済的不安の点検を指示した」として「特に地方政府別に会計・法律の専門家を中心に実務陣を構成し、当該地域で恒大が進行中の事業の金融状況を点検し、地域の国営企業と民間企業側も恒大の事業引き受けの可能性に備えるよう指示した」と付け加えた。
恒大は、現在中国の200都市余りで約800件の不動産開発事業を進行中だが、納品業者に対する代金未支給などにより一部の工事はすでに中断されたと伝えられた。

●恒大集団の下落は単なるきっかけ、世界の株バブル崩壊が・・・ 9/25
9月20日から22日にかけて、中国以外の世界の主要株式市場が一時急落した。きっかけは、中国不動産最大手の一角、恒大集団の破綻懸念だった。
「今後も株価は大丈夫」とは言えない
久々の大幅下落で、市場よりもメディアが騒ぎ立てた。中国の巨大な不動産バブルがこれで崩壊するのか?  リーマンショックのようなことになるのか?  世界株式市場の大暴落がやってくるのか? 
結論から言えば、中国不動産バブルは、いますぐには崩壊しないだろう。リーマンショックのような世界金融システムへのリスクはない。だから、今は世界的な株価大暴落とはならない。「なーんだ、たいしたことないのか。じゃあ、株価はまだまだ上昇し続けるのね」ということでいいのだろうか。
いや、それは間違いだ。ここで、バブルはいきなりは崩壊しないが、世界株式バブルの崩壊の第一歩はついに始まったのである。中国も金融システムも問題なくて、株価も下がらないのに、なぜ、バブル大崩壊の一歩なのか?  それは、今回、株価が反転したからである。それこそが、大バブル崩壊の兆候なのだ。
中国の恒大集団の破綻懸念とは何を意味するのか? 第1に、中国の不動産市場は明らかなバブル、それも相当のバブルだ、ということである。第2に、その事実を世界中の投資家は知っている、ということだ。第3に、このニュースはネガティブであることは間違いがないが、そのインパクトの量的な判断についてはコンセンサスがない、ということである。
これがそのまま株価の動きに現れた。つまり、中国の不動産会社の破綻懸念が出た、これはネガティブだ、そしてそれを誰もが知っている、だからみんな売るだろう。ならば、自分もとりあえず売っておこう、そういう思考プロセスである。
しかし、これがバブルの完全崩壊につながるかどうかわからない。なぜなら、自分もこのニュースのインパクトがサイズとしてはわからない。ということはほかの投資家にもわからないだろう。だから、投げ売りになるかどうかはわからない。したがって、様子を見ながら売ってみよう。こんな具合だ。
この結果、20日のアメリカの株式市場は、寄りつきから下げたが、下げを拡大して行ったのである。取引時間中に、とくに新しいニュースは出ていない。それなら、ファイナンス理論どおり、ニュースはすぐに株価に織り込まれるなら、寄りつきでみんな売って、その後はモミ合いになったはずだ。
急落後の21日が小動きになったワケ
だが、当日は、ほぼ1日ずっと下げ続けた。そして、引け際に買い戻しが入り、少し戻して終えた。最後の戻しは、デイトレード的に空売りを仕掛けた人々が手仕舞いしたことによると思われるが、ほぼ1日下げ続けたのは、ほかの投資家がどれほど売りたがっているかが不透明だったので、それを確認しながら少しずつ売ったというところだろう。
すなわち、このときに重要なのは、恒大集団の深刻度合いではなく、ほかの投資家がどれほど売りたがっているか、ということがすべてであったのである。
したがって、不動産危機の深刻度、というファンダメンタルズに関する情報は重要ではなく、投資家たちがどれほど売り意欲があるか、およびどれほど「売り」という行動に動くか、ということが重要だったのである。
そして、それは1日でわかった。となると、翌日からは、あまり不安はない。ただ、みなが売ってから翌日に話し合いの結果売ってくるような「動きの遅い」機関投資家もいるから、その様子を見ることが必要だった。それが、21日の小動きとなった。
さらに、もうひとつの大きな要因として、アメリカでのFOMC(連邦公開市場委員会)の声明が22日に公表される、ということがあった。アメリカの中央銀行であるFED(連銀)のテーパリング(緩和縮小)の開始時期、利上げの開始時期、これに関する情報が市場ではもっとも重要だった。その情報が22日に出てくるのをみな待ちたかった。それが動きのなさにつながったのである。
そして22日。予想以上に、FOMCの声明はタカ派だった。普通ならこれで売られそうなものであるが、今回はともかくFOMCが終わった、ということ、そしてほかの投資家たちも今は投げ売りをするのではなく、少しだけ売ったことがはっきりしたので、売った分を買い戻す動きになった。
今回の急落の理由は「株を売りたい」がすべて
つまり、今回の世界的な株価の急落は、中国の不動産業界の状況とはまったく無関係で「株をそろそろ売りたい」という投資家がほとんどであったことが理由のすべてだ。そして、誰もがネガティブだと思う、コンセンサスが明らかに成り立つニュースに反応して、ほとんどの投資家が売ったということである。
とにかく不動産のニュースや状況の中身はどうでもよかった。だからこそ、どこまで売るかは、ほかの投資家がどこまで売るか、すなわち、どのくらい下がるか、にかかっていたのである。だから、投資家同士のにらみ合いになり、2日間かけて下落幅を確認していったのである。
そして「中国の不動産」というのは、きっかけや合図にすぎないから、本当に重要なニュースは、アメリカの中央銀行であるFEDの意向であった。だから、そのニュースを待ったのである。
そもそも株価はなぜ下がるのか? それは、誰かが売ったからである。株価下落の理由はこれ以外ありえない。それなら、その次の質問は、なぜみんな売ったか? ということであるが、これも答えはひとつしかない。株価が上がってきたからである。
下がる理由はひとつ。その前に上がったからである。上がった後しか下がらない。下がり続けているときは、誰も「なぜ下がった?」と聞かないから、下がった理由を探しているときであれば、その答えは必ず「その前に上がっていたから」ということになる。これまた、これ以外の答えはありえない。
この2つの大原則。これが、行動ファイナンスにおいて、私が考える最も重要な原理である。「そんなの当たり前だ」とみなさんは言うかもしれない。だが、それはまったく違う。当たり前でないのだ。
下がったときは、誰かが売った。誰が売ったのか。それを徹底的に知る必要がある。その次には、彼らが売った理由を徹底的に考える。この2つを行えば、相場はすべてわかる。
今が「バブルの後半の後半」である理由
今回はどうだろう。売ったのは誰か?  ほぼ全員である。だから急落になったのである。
売った理由は何か? これまで上がって来たからである。つまり、ほとんどすべての投資家が「これまでだいぶ上がったから、いつ売ろうかな」と考えていた、ということである。これが相場の現状の本質である。すなわち、これはバブルの後半の後半、末期あるいはそれに近い時期であることを示している。みんなが売りたがっている。これまで上がったから売るタイミングを探している。そして、きっかけのニュース、号砲がなったら、とりあえず売る。これはバブルの後半の後半にしか見られない現象である。
さらに、私が「末期の可能性がある」と判断した理由は、FOMCで株価が下落しそうなニュースであったにもかかわらず、上昇したことにある。これは「受け入れたくない現実からの逃避行動」と考えられる。冷静な時期であれば、ニュースを逆向きに解釈することはない。ポジティブ、ネガティブ、その方向性については、間違えようがないのである。常に問題なのは「ネガティブだがどの程度か」ということのはずだからだ。
しかし、今回のFOMCは、中国不動産問題を受けて、少しテーパリングの時期を遅らせるだろう、ましてや利上げの時期を示唆するようなことは打ち出さないだろうと誰もが思っていた。しかし、FOMCはまったく逆で、次回11月頭にテーパリングの開始を決定することがほぼ確実であることを示唆した。
さらに驚いたことに、いわゆるドットチャートで、2023年から利上げが始まるとFOMCの投票権を持つ理事たちは示していたのが、2022年の半ばからに前倒しになったのである。これは明らかに「事件」であり、株式投資家たちがもっとも恐れていたニュースである。それにもかかわらず、株価は上昇した。これは、投資家たちが目先、受け入れたくない事実を無視したことを意味する。
一方で、リーマンショック時とは大きく異なることも事実だ。なぜなら、銀行システムは、リーマンショック後、欧米では規制が強化され、かなり保守的に運用されているからである。しかし、銀行システムの破綻がなくとも、株価は簡単に暴落する。上がりすぎたものは大きく下がる。2000年のテックバブル崩壊と同じことである。
しかも、テックバブルは経済社会へのダメージが小さかったことと異なり、今回、もし暴落すれば影響はとてつもなく大きくなるだろう。なぜなら、金融バブルが崩壊すると、経済や市場のいちばん弱いところから破綻していくからだ。リーマンブラザーズは破綻したが、結局は同じ金融大手でもゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは破綻しなかった。ただし、サブプライム問題でも2006年にはすでに問題を来していたが、プライム市場は破綻しなかった。大手金融も当初は大丈夫だった。サブプライム関連企業とサブプライムローンを借りていた質の悪い借り手が破綻しただけであった。しかし、それが翌2007年のパリバショックになり、2008年のリーマンショックへと連なり、強いはずの別の業種の企業まで破綻していったのである。
今、もっとも弱っているのは政府・中央銀行
今回は、コロナバブルにより、格差はあらゆるところで広がった。ワクチンがすすんでない途上国、弱小国は回復が大きく遅れている。その多くの国は通貨も財政も弱いから、アメリカの回復により金利が上昇し、通貨安となり、負債返済に行き詰まるだろう。そして世界的に不況が広がっていく。
中国は、特殊な部分もあるが、不動産のバブルは大きすぎて、必ず、どこかのタイミングで、破綻がやってくる。そのときには、先進国も影響を受けるだろう。常に弱いところからやられるのだから、先進国も弱いところからやられるだろう。
問題は、今、先進国でいちばん弱っているセクターはどこか? ということである。それは、金融緩和を大規模に行い、巨額の財政出動をしている政府である。つまり、先進国に危機が波及したときに、やられるのは、政府か中央銀行のどちらか弱いほうであり、しかも政府と中央銀行の関係性からいけば、片方がやられれば、もう片方も沈没するのは必然である。
したがって、私は、今回のバブルは、銀行セクターが比較的頑健で、なかなか世界的な銀行危機にはならないが、その分、バブルはさらにふくらみ、そのしわ寄せが、政府や中央銀行に津波のように押し寄せ、リーマンショックよりも遥かに大きなバブル崩壊になると予想している。

●中国恒大、社債の利払いを延期 資金繰り不安が続く 9/25
経営危機に陥った中国の不動産大手、中国恒大集団が、23日が期日だった米ドル建て社債の利払いを延期していたことが分かった。米紙ウォールストリート・ジャーナルなどが25日までに報じた。利払いは30日間の猶予があるものの、恒大の資金繰り不安は続きそうだ。
23日にドル建て社債の8353万ドル(約92億円)の利払い日を迎えていた。恒大は同じ日が期日の人民元建て社債の利払い2億3200万元(約40億円)については支払い実施を発表したが、ドル建て社債の対応には触れていなかった。
今後は30日間の猶予期間を過ぎてデフォルト(債務不履行)となるかが焦点だ。 

●中国恒大、なぜ経営危機? 政府の方針転換に翻弄―ニュースQ&A 9/25
中国不動産開発大手の中国恒大集団が経営危機に陥った。負債は国内総生産(GDP)の2%に相当する約33兆円。国内外で不安が広がっている。
――どんな状況なの。
恒大は23日にドル建て社債の利息を支払う約束だったが、米メディアによると、資金不足で支払うことができなかった。
――今後どうなる。
期日を過ぎても、30日以内に支払えば大目に見てもらえる。ただ、それもできなければ、元本も返せない「デフォルト(債務不履行)」状態に陥ったと見なされ、信用を失う。銀行取引などは難しくなり、経営破綻の可能性が高まる。
――倒産しそう?
恒大は電気自動車(EV)事業や、香港に保有するオフィスビルなどを売却して資金を確保し、利息の支払いに充てようとしている。売却交渉は行われているが、30日以内にまとまるかどうか分からない。
――危機の背景は。
中国政府は経済成長の重要な担い手として、不動産業界の発展に力を入れてきた。ただ、住宅価格が高くなり過ぎたため、業界への融資を抑えるよう、国内の銀行に指示した。恒大は新たな借り入れができなくなり、資金繰りが悪化した。政府の方針転換に翻弄(ほんろう)された格好だ。
――影響はどうなの。
大半の建設工事がストップし、住宅購入者に物件を引き渡せなくなっている。また、恒大がお金を集めるために販売した高利回りの投資商品は利払いが滞り、商品購入者が本社に詰め掛ける騒ぎも起きている。
――問題は広がる?
恒大と同じように多額の借り入れに頼ってきた不動産開発会社が行き詰まっている。万一破綻が相次ぐと、融資した銀行の経営も悪化しかねない。景気への影響も心配だ。
――「リーマン・ショック」みたいになるの。
専門家の間では、世界中を巻き込む金融危機にはならないとの見方が優勢だ。中国指導部は、極めて重要な共産党大会を1年後に控えて社会の安定を最重視している。金融危機は全力で阻止するだろう。ただ、これだけ巨大な不動産会社の経営危機は中国で過去に例がなく、政府の対応がどうなるか不透明だ。

●中国・恒大集団の投資家向け説明会で怒号飛び交う 9/25
巨額の債務を抱え、経営危機に直面している中国の不動産大手・恒大集団は23日、デフォルト(債務不履行)の懸念が高まっていた一部の社債の利払い日を迎えました。一部については利払いを実施すると発表しましたが、中国各地で開かれている投資家向けの説明会では混乱が続いています。緊迫する会場内の様子をとらえた映像をテレビ東京が独自に入手しました。
「このまま抗議が続けば会社の信用はなくなる。株価はまた下がる」
怒りの声を上げる人たちが、担当者を囲んで抗議を続けます。集まっていたのは恒大集団が発行した高い利回りの金融商品を購入した個人投資家たちです。投資家たちは「9月には契約した2つの投資資金が満期になる。多くはないが十数万元(170万円以上)入れた」「90万元(約1530万円)投入した。80万元は12月に、残りは来年1月に満期。返済してくれると望んでいるが可能性がない」と口にします。
その2時間ほど前。上海市内にある恒大集団には、説明会が開かれることを聞きつけた数十人が集まっていました。ところが、何時から始まるのかについてはっきり示されておらず、中には5時間以上待った人もいました。会場には警察官の姿もあり、疲れた様子の投資家をなだめています。
しびれを切らした投資家たちが事務所に乗り込もうとしたところ、ようやく説明会が始まるという知らせが来ました。不動産などの現物で投資した資金を返還する可能性について、深センの本社から来たという担当者は「午前中に恒大地産(不動産部門)に資産リストはまだ整理中と確認がとれた。9月30日まで待ってほしい」と話しました。
明確な説明は今月末に先送り。その一方で担当者は「皆さんに言いたいのは投資の初心を忘れないでほしい。今は恒大の困難な時期で確かに資金・現金の困難がある。でも経営者は屈服し逃げているわけではなく努力している」と、投資は自己責任であることを暗にほのめかし、理解を求めました。これに対し投資家からは「みんな苦労して稼いだ金をあなたたちの商品に投じた」「本当に解決する気があるなら誠意を見せてほしい」と怒りの声が上がりました。
広東省深セン市にある恒大集団の本社前でも、債権者らによる抗議デモに備えた警察車両がずらりと並んでいました。22日深夜、恒大集団の創業者、許家印主席は「工事や販売を全力で再開し、回復させる」と事業継続に努めるよう社員らを激励したと報じられています。
人民元建て社債の利払いを23日に実行すると22日に発表したことで、債務不履行への懸念が後退。香港株式市場で恒大集団の株価が一時、前の営業日と比べて32.2%高くなりました。ただ不安はまだ続いています。
恒大集団は現在所有するサッカーチームのための新たなスタジアムを建設中です。プロサッカーチーム広州FCの本拠地となる予定のスタジアムは、総工費およそ2000億円。世界最大規模で10万人が収容できるといいます。さらにスタジアムの隣にはマンションを建設中と、周辺一帯の開発を進めていますが、現場を見ると工事が進んでいる様子がありません。一部中国メディアによると、この開発プロジェクトは国有企業に既に売却されたと報じられています。
マンションのモデルルームを訪ねると恒大集団の従業員は「(プロジェクト売却の話は)噂にすぎない。恒大集団はまだ何も正式に発表していない。ここはまだ恒大集団が運営している。私たちは恒大集団がこの経営危機を乗り越えられると信じている。マンションの販売に何の影響もありません」と報道を否定しました。
予断を許さない恒大集団をめぐる問題。今後どうなっていくのでしょうか。
中国の政治や経済に詳しいAISキャピタルの肖敏捷さんは、デフォルトや倒産も想定しておくべきかとの質問に対し「恒大集団は大きすぎてつぶせないかもしれないが、毎日中国では中型や小型の不動産会社が倒産したり閉鎖している」と答えます。
9月29日には4750万ドル(約52億円)の利払い日を迎え、さらに10月12日、19日、30日にも利払い日を迎えます。
「おそらく金融機関のサポート、新規融資あるいは返済猶予がなければ、恒大集団も自力ではこれだけの規模は難しい」(肖敏捷さん)
一方で、国際的な信用のためにも習近平国家主席は、今回の問題に真剣に向き合うのでは、と言います。
「不動産は過去30年間、中国経済を支えてきたと同時に、さまざまなバブルを生み出しながら誰も本気でつぶせなかった。今回あえて習政権はこのパンドラの箱を開けた。3期目の任期を狙っている中で、国民の目に見えるような成果を出したい」(肖敏捷さん)
 
 
 

 

●住宅建設資金の流用防止 地方政府が専用口座 中国恒大 9/26
経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団をめぐり、中国の地方政府が同社の住宅建設向け資金について、債務返済などへの流用を防ぐため、資金を管理する専用口座の開設を進めている。ロイター通信が26日、中国メディア・財新の報道として伝えた。
専用口座は、恒大の住宅プロジェクトが数多く進められている江蘇省や安徽省など少なくとも8省・自治区と広東省の一部都市で8月下旬以降に開設。住宅購入者が支払った資金を保全し、確実に建設工事に充てられるようにするのが狙い。広東省の深セン市や珠海市などでは中央政府の住宅都市農村建設省も資金の監視に関わっているという。 

●中国恒大、子会社が一部事業停止 デフォルト懸念 9/26
総額33兆円の巨額負債を抱える中国不動産大手「中国恒大(こうだい)集団」の経営危機が続いている。電気自動車(EV)事業などを手掛ける恒大の子会社が26日までに、資金繰り悪化を理由に一部事業の停止を発表した。恒大集団自体も29日に約52億円の利払いが迫るなど、今後もデフォルト(債務不履行)の危機が懸念される。
中国恒大新能源汽車集団(恒大汽車)は24日、高齢者向け施設の関連プロジェクトなどが停止したと発表した。必要な費用の支払いが滞っているためとみられる。保有資産の売却などによる資金手当てを目指すが、実際に買い手が見つかるかは不透明だ。
中国メディアによると、恒大汽車は元々「恒大健康産業」の名称でヘルスケア事業が中心だったが、社名を変更して主力業務をEV事業に切り替えた。ただ、現時点でEVの販売には至っておらず、資金繰り悪化がEV事業にも影響を与える可能性がある。
恒大集団は、事業多角化の一環でサッカークラブ「広州FC(旧・広州恒大)」を保有しているが、経営危機がクラブ運営にも影を落としているもようだ。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)によると、広州FCは元イタリア代表主将のカンナバロ監督との契約解除を26日までに決めた。同紙は「恒大集団の財務危機のため」と伝えている。
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、恒大集団は23日が期日だった米ドル建て社債の利払い8353万ドル(約92億円)を延期していた。利払いは30日間の猶予があるが、それを過ぎてデフォルトになるかが焦点だ。29日には別のドル建て社債で4750万ドル(約52億6千万円)の利払いも控え、当面は綱渡りの状態が続くとみられる。
 
 
 

 

●恒大問題で揺れる中国経済、電力不足が次の危機に発展も−生産抑制で 9/27
深刻な資金難に陥っている不動産開発大手の中国恒大集団の経営危機で揺れる中国経済だが、今度は電力供給面のショックが直撃する恐れがある。
中国政府による電力消費の取り締まりは、電力需要の高騰や石炭・天然ガス価格の高騰、温暖化ガス排出抑制に向けた厳しい政府目標が背景にある。その影響はまず同国の巨大製造業界に及んでおり、アルミニウム精錬所から大豆加工施設まで広範な工場が稼働水準の抑制や停止に追い込まれた。
23省のうちの半分近くは中央政府が求める厳しいエネルギー強度目標を達成できず、電力消費量の抑制を迫られている。特に状況が厳しいのは、製造業が盛んな江蘇、浙江、広東の3省だ。
野村ホールディングスの陸挺氏らエコノミストはリポートで、「市場の注目は現在、恒大問題や中国政府による前例のない不動産セクター締め付けに集中しており、別の供給サイドの大型ショックが過小評価されているか、見落とされている可能性がある」と警告。中国経済は7−9月にマイナス成長になるとの予測も示した。
中国の電力不足は、欧州市場をすでに混乱させている世界的なエネルギー需給逼迫(ひっぱく)を反映している。新型コロナウイルスを受けたロックダウン(都市封鎖)からの景気持ち直しで家計や企業のエネルギー需要が高まった一方で、鉱山会社や掘削企業による投資減少で生産は抑制されている。
中国のエネルギー危機は自らが招いた側面もある。中国政府は来年2月の北京冬季五輪に向け青空を確保すべく取り組んでいる。

●中国恒大危機で英HSBCやスタンチャートに損失も=JPモルガン 9/27
米金融大手JPモルガン・チェースは中国不動産大手、中国恒大集団の債務危機で、英金融大手のHSBCホールディングスとスタンダード・チャータード(スタンチャート)銀行に余波が及び、損失を被る恐れがあるとの調査リポートを公表した。
他の金融機関や保険会社も、手数料収入の減少や投資対象の評価損といった間接的影響を受ける可能性があるという。
リポートでは、HSBCとスタンチャートは中国や香港で大きな利益を上げており、不動産開発業者向けシンジゲートローンの引き受けでも、外資系の中で最も深く関与してきたと指摘。このため、二次的な悪影響が直ちに及ぶ公算が大きいと分析した。
一方、HSBCとスタンチャートは、恒大関連で保有する直接的なリスク資産は限定的だと説明している。同リポートについてコメントは控えるとした。

●利払い、また利払い…中国恒大、子会社一部事業停止 今後もデフォルト懸念 9/27
総額33兆円の巨額負債を抱える中国不動産大手「中国恒大(こうだい)集団」の経営危機が続いている。電気自動車(EV)事業などを手掛ける恒大の子会社が26日までに、資金繰り悪化を理由に一部事業の停止を発表した。恒大集団自体も29日に約52億円の利払いが迫るなど、今後もデフォルト(債務不履行)の危機が懸念される。
中国恒大新能源汽車集団(恒大汽車)は24日、高齢者向け施設の関連プロジェクトなどが停止したと発表した。必要な費用の支払いが滞っているためとみられる。保有資産の売却などによる資金手当てを目指すが、実際に買い手が見つかるかは不透明だ。
中国メディアによると、恒大汽車は元々「恒大健康産業」の名称でヘルスケア事業が中心だったが、社名を変更して主力業務をEV事業に切り替えた。ただ、現時点でEVの販売には至っておらず、資金繰り悪化がEV事業にも影響を与える可能性がある。
恒大集団は、事業多角化の一環でサッカークラブ「広州FC(旧・広州恒大)」を保有しているが、経営危機がクラブ運営にも影を落としているもようだ。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)によると、広州FCは元イタリア代表主将のカンナバロ監督との契約を26日までに解除した。同紙は「恒大集団の財務危機のため」と伝えている。
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、恒大集団は23日が期日だった米ドル建て社債の利払い8353万ドル(約92億円)を延期していた。利払いは30日間の猶予があるが、それを過ぎてデフォルトになるかが焦点だ。29日には別のドル建て社債で4750万ドル(約52億6千万円)の利払いも控え、当面は綱渡りの状態が続くとみられる。

●新たな利払い期日迫る 資金調達は難航―中国恒大 9/27
経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団は、ドル建て社債の新たな利払い期日を29日に迎える。23日が期日だった別の社債の利払いができなかったとされる中、資金調達は難航しているもようで、事態のさらなる悪化は避けられない状況だ。
恒大は期日から30日以内に利払いができなければデフォルト(債務不履行)となる。29日には社債の利息4750万ドル(約53億円)を支払う必要があり、未払いとなった23日の利息8350万ドルと合わせ、負担が重くのしかかる。
一方、中国人民銀行(中央銀行)は27日、「住宅市場の健全な発展と消費者の合法的な権利と利益を守る」と表明した。恒大の住宅購入者の不安を和らげる狙いがあるとみられる。
恒大は資金調達に向け、電気自動車(EV)と不動産管理の子会社2社の株式のほか、香港に保有するオフィスビルを売却する意向を示している。
ただ、香港証券取引所に上場する子会社2社の株価は、恒大の株価急落に押されて低迷。一部事業の停止を発表したEVを手掛ける中国恒大新能源汽車集団(恒大汽車)の株価は半年間で約30分の1となるなど、持ち株の売却による多額の資金確保は困難になっている。
2015年に125億香港ドル(約1800億円)で取得した香港のオフィスビル売却については、米メディアが先月、中国企業との協議が行われており、恒大は20億ドル(約2200億円)以上を提示したと伝えている。しかし、現時点で交渉が進展しているとの情報はない。
恒大は新たな出資者の獲得も模索しているものの、大株主の香港不動産大手・華人置業集団は23日、恒大株の売却を進めており、持ち株すべてを手放す可能性もあると発表、冷や水を浴びせた。恒大に対する逆風は強まる一方だ。

●巨大不動産企業「中国恒大集団」デフォルト危機の"深層" 9/27
デフォルト危機
9月20日の週、世界の金融市場では一時、中国恒大集団(エバーグランデ)のデフォルト懸念によってリスクオフが進む場面があった。特に、20日には、同社の社債利払いが実施されずデフォルトが発生するとの懸念が高まり、世界的に株価が下落し、米国などで非投資適格(ジャンク)級社債の価格も下落(利回りは上昇)した。21日以降は中国共産党政権が何らかの救済措置をエバーグランデに実施し、中国経済全体に深刻な打撃が波及する展開は食い止められるとの観測が増えた。そのため、リスクオフは続かなかった。その上で、22日にエバーグランデが人民元建て社債の利払いを行ったことが株式投資家の安心感を高めた。ただ、利払い実施=エバーグランデの債務危機の解決と考えるのは早計だろう。エバーグランデのドル建て社債価格の推移を確認すると、価格は下落トレンドを続けている。最終的にエバーグランデの債務問題に決定的影響を与えるのは、共産党政権のさじ加減ということになる。破綻リスクを過小評価するのは適切ではない。
エバーグランデ債務問題の現状
23日の香港市場の開始直後、エバーグランデの株価が前営業日の終値から30%超上昇する場面があった。その理由は、同日に同社が人民元建て社債の利払い(2億3200万元(約39億円))を実施したからだ。また、支払いに猶予期間があるドル建て社債の利払いについては、中国当局がデフォルトを回避するようエバーグランデに指示したと報じられている。ひとまず、人民元建て社債の利払いによってデフォルトへの警戒は減ったようだ。例えば、9月15日頃から20日にかけての為替市場では、エバーグランデがデフォルトした場合、中国経済に相応の影響が出るとの懸念が増えた。その結果、中国経済への依存度の高い韓国のウォンが対ドルで売られた。その後、人民元建て社債の利払いの実施が報じられるとウォンは買い戻された。利払い実施は主要投資家のリスクテイクを支え、世界的に株価も反発した。一部の主要投資家は、エバーグランデの利払い実施を共産党政権による本格的支援の兆しと解釈したようだ。エバーグランデのデフォルトは中国不動産セクターなどでの信用リスクを上昇させ、金融システム不安を引き起こすリスクを内包する。それは、中国の実体経済にかなりの打撃を与えるだろう。23日の利払い実施によって、貧富の格差解消に取り組む共産党政権がそうしたリスクを冒すことはないだろうと考える投資家が増えた。しかし、今回の利払いに安どするのは早計だ。社債や銀行借り入れ、取引先への未払い金など同社の債務規模は33兆円を超える。債券市場では2022年3月から2023年1月に償還を迎えるエバーグランデのドル建て社債の利回りが高止まりしている。主要な債券投資家はエバーグランデの債務リスクを客観的に評価しているといえる。その最大の要因は、共産党政権が本格的な救済を実施する方針を表明していないことだろう。
最も重要な要素は共産党政権の意思決定
エバーグランデが無秩序なデフォルトを回避し、事業を継続できるか否かは、共産党政権が救済(ベイルアウト)を実施するか否かにかかっている。理論的に考えると、救済が行われる可能性は高い。また、救済はなされるべきだ。債務返済能力が低下した企業や金融機関への公的資金の注入などは、個社の信用リスクが金融システム不安につながり、実体経済に深刻な負の影響が波及するリスクを抑えるために欠かせない。救済の有無は中国の雇用に大きく影響し、最終的には共産党政権の求心力に関わる問題といえる。その一方で、共産党指導部が救済に消極的、あるいは慎重である可能性を示唆する報道もある。一部では指導部が地方政府にエバーグランデの債務リスクを精査し、最終的に債務返済が困難になった場合には管轄地域における同社の事業を引き継ぐ準備をするように指示したとの報道がある。見方を変えれば、貧富の格差の解消に取り組む共産党指導部は、地方の共産党幹部の責任としてエバーグランデの救済を検討している可能性がある。中国では地方政府傘下の投資会社である融資平台(LGFV)のデフォルトリスクが高まっており、地方政府の対応力には不安がある。すでに広東省政府はエバーグランデによる救済要請を受け入れなかったと報じられた。習近平主席をトップとする共産党指導部が、エバーグランデへの本格的な救済をどう考えているか、現時点で判断は難しい。共産党政権の意思決定は明確にはなっていない。万が一にも、本格的な救済が実施されない可能性は排除できない。当面、楽観と悲観が交錯し、エバーグランデの株価はかなり不安定に推移する可能性がある。少し長めの目線で考えると、エバーグランデの債務問題を境に、共産党政権による民間企業への締め付けが一段と強まる展開も想定される。

●中国恒大 2度の「文革」が翻弄する創業者の半生 9/27
「住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない」中国政府の不動産融資に対する規制強化が引き金となり、巨額の負債を抱えている中国の不動産大手、中国恒大集団が経営危機に陥っている。取引先への未払い分などを含めた負債総額は1兆9665億元(約33兆4000億円)。経営破綻して全世界に深刻な経済危機を引き起こしたリーマン・ブラザーズの負債総額6130億ドル(約63兆8000億円)の半分に相当する金額だ。9月23日以降、立て続けに米ドル債や人民元債の利払い日を迎える予定で、債務不履行の可能性が高まる。香港、欧州、米国、日本。9月20日、世界の株式市場は総崩れとなった。恒大が巨額債務を抱え破綻する可能性が視野に入ってきたからだ。恒大の株価は年初から8割ほど下落しており、市場では経営危機そのものについてはある程度織り込んできた。それなのに、ここに来てさらに下落しているのは一部で期待されてきた中国政府による救済の可能性が減ってきており、ハードランディングした時の影響が読み切れないという懸念によるものだろう。1996年に創業し、わずか四半世紀でその破綻リスクが世界経済を揺るがすまでに巨大化した恒大とは一体どのような企業なのか。創業者である許家印氏の半生をたどりながら見てみよう。
文化大革命で高校卒業後は農業に従事
許氏は58年、河南省周口市にある貧しい村に生まれた。生後すぐに母親を敗血症で亡くし、父親の男手1つで育てられたという。同年は毛沢東主席が「大躍進運動」を進めた年である。科学的知見がない政策を強要されて農村経済が大混乱に陥り、深刻な飢饉(ききん)が発生。大勢の餓死者が出た。66年、毛主席は中国共産党内の権力闘争から文化大革命を発動した。大学入学試験が廃止されていたため、高校を卒業した許氏は農作業などに従事することになる。77に大学入試が再開されるが準備不足で受験に失敗。78年にやっと武漢鋼鉄学院(現・武漢科技大学)に入学した。82年から河南省の鉄工所に勤めた後、92年に貿易などを手掛ける深圳中達集団に入社した。同年、ケ小平は「南巡講話」を行い、中国は改革開放路線に明確にカジを切った。
鉄鋼労働者から中国一の富豪に
転機は94年に訪れた。上司を説き伏せて広東省広州市で不動産事業の会社を立ち上げたところ、大成功を収めたのだ。不動産ビジネスに商機を見いだした許氏は96年独立し、広州市に恒大地産集団(現恒大集団)を設立。それから快進撃が始まった。2009年、香港市場に上場。10年にはサッカークラブを買収し広州恒大(現広州FC)へと名称を変更した。同クラブはそれから中国スーパーリーグを8回、アジアチャンピオンズリーグも2回制覇する強豪クラブとなる。許氏は中国調査会社の胡潤研究院がまとめる中国富豪番付で2017年に首位になった。2位は騰訊控股(テンセント)の馬化騰(ポニー・マー)氏、3位はアリババ集団の馬雲(ジャック・マー)氏ファミリー。一介の鉄鋼労働者から不動産王へと上り詰めたのだ。13年からは中国の国政助言機関である全国政治協商会議(政協)の常務委員を務めている。当然のことながら政治とのパイプは太く、今年7月1日に北京の天安門広場で開催された中国共産党創立100年の祝賀式典にも招かれ、天安門の上に立つ許氏の写真がニュースで流れた。ちなみに現在、中国共産党ににらまれているとされるアリババの馬氏は、同祝賀式典に姿を見せなかった。ここ数年は、電気自動車(EV)事業に参入し欧州のEV関連会社などの買収を積極的に進めている。今年4月の上海モーターショーでは巨大なブースを構えて高級EV「恒馳」9車種を並べ、来場者の目を引いていた。25年にEV生産能力を100万台にする計画もぶち上げている。香港市場に上場しているEV部門の時価総額は一時約9兆5000億円に達し米フォード・モーターを抜く場面もあった。恒大の成長の方程式は極めてシンプルだ。不動産などを担保に銀行融資を受けて不動産開発やM&A(合併・買収)などに積極投資するというもの。中国の不動産価格高騰のトレンドに乗り業容を拡大していった。恒大の20年12月の資産負債比率は1327.9%に膨れ上がっている。巨大な自転車操業とも言えるが、不動産価格の上昇期待と融資が継続する中で成長は続いた。中国政府は口では不動産バブルを懸念しているというが、経済的な影響が大きすぎて十分に有効な手段はとれないのではないか。そんな見方も恒大の成長を下支えしていた。だが、20年8月に不動産市場の空気は一変した。
恒大を追い込む3つのレッドライン
「三条紅線」(3つのレッドライン)。中国政府は不動産融資を規制する新たな政策を打ち出した。3つのレッドラインとは「資産負債比率70%以下」「自己資本に対する負債比率100%」「短期負債を上回る現金保有」の3つを指す。この条件に抵触する不動産企業をランク付けし、銀行融資を制限させるという内容だ。不動産価格抑制に本気で取り組む姿勢を示したといえる。中国政府は新型コロナウイルスの封じ込め成功に自信を持ったタイミングで、この政策を打ち出した。中国銀行保険監督管理委員会の郭樹清主席は当時、「不動産バブルは金融安全に対する最大の灰色のサイだ」と指摘した。灰色のサイとは、高い確率で深刻な問題を引き起こすと考えられるにもかかわらず、軽視されているリスクを指す。融資規制の対象となった恒大は20年9月、「全国で不動産を3割引で販売する」というキャンペーンを打ち出して在庫の現金化に走った。中国の不動産販売には「金九銀十」という言葉があり、9月と10月は販売が集中する時期として知られる。その後も当局は不動産価格抑制に向けて手を緩めない。中国共産党の中央経済工作会議は20年12月、習近平指導部がこれまで繰り返してきた「不動産は住むものであって投機の対象ではない」という文言を改めて強調。中国金融監督当局は同年12月末、「21年1月から銀行の住宅ローンや不動産企業への融資に総量規制をかける」と発表。今年7月には政府8部門が連名で「不動産市場の秩序の乱れを是正する通知」を出した。資金繰りのために恒大が販売した理財商品は償還されなくなっており、中国各地で投資家の反発が広がっている。恒大は現物資産との交換を提案しているようだ。9月23日には2億3200万元の人民元債と8353万ドルの米ドル債の利払いが迫る。恒大が破綻した場合の影響はどれほどのものなのか。現時点では、リーマン・ショックのような金融システム全体に波及するとの見方には否定的な意見が多い。当時のように各種の金融商品に複雑に組み込まれているという状況ではないとされ、金融機関の健全性も当時より厳しく管理されているからだ。
政府は救済に乗り出すのか
もちろん恒大のような巨大企業が破綻すれば、中国経済への影響は非常に大きい。恒大の従業員は16万人を超える。住宅購入契約者、取引先の建設業者や資材納入企業、商社などへの波及は避けられず、破綻に追い込まれる企業も出てくるだろう。それでも、中国共産党機関紙「人民日報」系メディア「環球時報」の胡錫進編集長は9月16日、ソーシャルメディアへの投稿で「恒大は大きすぎてつぶせない企業ではない」として、市場の手段を活用して自力で立て直しを図るべきだと指摘した。米ブルームバーグは「中国当局は主要債権銀行に対し、(恒大は)9月20日が期限の利払いを行わないと伝えた」と報じており、銀行に利払い延期などを受け入れさせているようだ。中国政府は「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を掲げて様々な政策を打ち出すようになっている。社会主義的な価値観を前面に打ち出した強権的手法でIT、教育、ゲーム、芸能などの産業に統制の網をかけていく様は、かつての文革を想起させることから「新文革」とも評される。不動産価格の高騰は教育費とならび家計に大きな影響を与えており、非婚化と少子化の原因にもなっていた。学習塾業界は教育費高騰の責めを負わされ、容赦なく非営利に強制転換させられている。それを考えると住宅価格上昇の原因とみなされている不動産企業の救済に、政府が直接乗り出す可能性はそれほど高くなさそうだ。いずれにせよ、恒大には返済猶予や事業売却などできる限りの手を尽くすことが求められる。現在警戒すべき最大のリスクは、中国の不動産市場価格の暴落だ。米ブルームバーグは、恒大が社員や個人投資家に販売した資産運用商品「理財商品」の返済において、現金の代わりに不動産資産を約3〜5割値引きして提供する手続きを始めたと伝えた。事実上の大幅値引き販売といえる。他の不動産企業も融資規制で厳しい経営環境にあることは変わらず、価格下落の連鎖が起きる可能性がある。銀行ローンの担保価値や、土地使用権譲渡を主な収入源の1つとしている地方政府の財政にも悪影響を与えかねない。「灰色のサイ」が暴走し始めるかが、中国政府が動くか否かの分かれ目となる。

●「負債にもとづく成長」の限界露呈した中国恒大 9/27
中国の不動産業者である恒大集団が破産の危機に直面している。これは一企業の問題であるにとどまらず、グローバル経済が直面する負債にもとづく成長の限界を意味する。
各国の政策当局は財政や通貨政策を積極的に用いて、2008年のグローバル金融危機や2020年の新型コロナウイルス経済危機を克服してきた。しかし、この過程で各経済主体の負債が急増した。国際決済銀行によると、2007年に14兆5962億ドルだった世界の負債は、2020年には30兆4563億ドルと2倍以上に増加している。国内総生産(GDP)比でも同期間に274%から398%へと急増している。すべての国の負債が増えているが、特に中国の企業負債と米国の政府負債の増加は目立って速かった。
2008年に米国で始まった金融危機は全世界に広がり、2009年には世界経済が停滞した一方で、中国経済は9.4%も成長した。その後も2019年までの中国経済の成長率は、年平均7.6%と非常に高かった。企業の投資増加が経済成長に大きく寄与した。しかし、成長過程で企業の負債は大幅に増加した。2008年にはGDP比で94%だった企業の負債比率は、2020年には161%へと高まった。金額で見れば、同期間に4兆3838億ドルから24兆8495億ドルへと急増している。2020年に中国の企業負債が世界の負債に占める割合は30%で、新興国の企業負債の71%にのぼる。
米国は政府負債が大幅に増加している。米国は果敢な財政政策によって経済危機を克服してきている。2020年には4回に渡りGDPの17%に当たる3兆6000億ドルを支出し、今年3月にもさらに1兆9000億ドルにのぼる景気刺激策を実施した。これによりGDPに対する政府負債比率も、2007年の61%から2020年には131%にまで急増している。
その他の国も負債によって成長している。韓国も2020年のGDPに対する企業負債比率は110%と、1997年の通貨危機の際の水準(107%)を超えており、家計負債はGDPの103%と急速に増加している。世界の負債がこのように急速かつ広範に増加する現象は史上初めてのことだ。
歴史を見ると、負債の急増の次に来るのは金融危機や深刻な景気低迷だった。1970年から1989年にかけては、主に南米諸国で政府負債が増加し、これらの国々が危機に直面した。1990〜2001年には東南アジア諸国で企業負債危機が発生し、この危機はロシアとトルコにまで拡散した。2002〜2009年にも負債が急激に増加したことで、結局は米国を中心として世界経済が金融危機とともにマイナス成長に陥った。
負債が生じるのは経済が成長する過程においては必然だ。その過程では負債が生産的資源に投資され、経済成長率は負債増加率より高くなる。しかし、経済成長が鈍化したり停滞したりすれば、負債問題があらわになる。決められた期間までに元金を返済しなければならないというのが負債の本質だ。これが恒大集団の問題であり、世界経済が克服しなければならない課題だ。ウォール街の「ドクター・ドゥーム」と呼ばれるニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授の「負債の罠とベアマーケット」の警告が現実となりうるということだ。

●日本株が一時急落したのは中国恒大のせいなのか 9/27
前回のコラム「『日経平均3万円超』で、今すぐに株を買うべきか」(9月13日配信)では、日経平均株価について、急騰したが年末の予想値である日経平均の高値メド3万1000円は変える必要がないと述べた。さらに、今後も日経平均が上がり続けるとは考えておらず、むしろ短期は下振れ(3万円を割れて、場合によっては2万9000円も割る)し、そこから「年末までに本格的な3万円超えを再度達成する」という見通しを示した。短期的に株価指数が下振れすると見込んでいたのは、主に以下の2つの見方による。
(1)国内の政治動向は日本株の売り材料ではないが、とくに大きく買い上げる材料にもならない
(2)これまでの日本株の急騰は、海外長期投資家が本格的に日本株を買っているわけではなく、先物の買い戻しやプログラム売買による機械的な買いがまず先導し、その後に株価上振れに泡を食った一部投資家が慌てて買ったことによるもので、こうした買いは長続きしないだろう
というものだ。また、海外市場の動向として、「多くの内外投資家の目が日本株の急伸に奪われているところ、アメリカの株価指数の頭が極めて重くなってきたことのほうが、筆者は気にかかる」とも指摘した。
なぜ日本株は一時的な調整に入ったのか
実際の相場を振り返ると、日経平均は9月14日までは何とか単なる勢いで年初来高値を更新した。だがその後は調整に入り、いったん3万円を割れた。先週末の24日は3万円を再奪回して引けているが、今週以降また下値探りに向かうものと考えている。「気にかかる」と述べたアメリカの株価も、8月半ばには3万5600ドルを超えたニューヨークダウ平均は、一時3万4000ドルを割れ、そこから反発はしているものの、3万5000ドルに届いていない。とくに日本株がどうして調整に入ったかといえば、「日本の政治情勢の変化が大きく株価を押し上げている」「海外の長期投資家が本格的に買っている」「日本株は大相場に入った」という言説がすべて誤りであったため、その誤りが訂正されているだけだろう。「日本株の割安さが根本的に見直されている」との声もあるが、日本株が今割安だとすれば、1カ月前も2カ月前も割安であったはずだ。最近までちっとも割安だと考えなかった投資家たちが、ある朝起きてみたら突然割安だと思い直した、などといったことはありえない。ただ、「誤りが訂正されつつあることが株価調整の主因である」ということは、別の言い方をすれば、株価が一段と下落しても、政治情勢や景気や企業業績などに何かとても悪いことが起こっているわけではない。さらに、日経平均が2万9000円を割れるかもしれないとは言ったものの、2万9000円という水準は14日の終値3万0670円からわずか5%強下でしかない。「これから日経平均は3万1000円、3万2000円、3万3000円と、どんどん上がるんだ〜、わ〜い、わ〜い」とはしゃいでいた向きからすれば、2万9000円台への下押しは「すさまじい下落」と感じられるのかもしれないが、とくに騒ぐようなものではない。同じ意味合いで、現在の日本株やアメリカ株の水準は別にバブルではないし、この先、日米の株価が下振れしたとしても、それは別にバブル崩壊でもない。単なる“よくある株価”の上下動にすぎまい。
日本株の下落は「中国恒大集団のせい」なのか
筆者は、多くの方がご存じの通り、性格が「邪悪」なこともあり、しばしばご批判をいただく。このように、足元の株価調整は「誤りの訂正」だと語ると、「いや、そんなことはない。実際の株価反落は、中国恒大集団(以下、恒大)の債務問題を懸念して、アメリカの株価が反落し、それに日本株が引きずられたのだ。恒大の問題さえ噴出しなければ、日経平均はどんどん上昇したに違いない。馬渕さんの短期株価調整見通しは、まぐれ当たりしただけだ」というご意見を頂戴しそうだ。しかし、同社の問題は、別にここ数週間の間に突然発覚したわけではなく、だいぶ前からささやかれていたことだ。それが日米の株価を押し下げた本質であれば、例えば日経平均が14日に年初来高値を更新したことを説明できない。とはいっても、恒大の債務については「中国では大問題である」ことには異論がない。まず同社の債務総額そのものが2兆元弱(日本円で33兆円強)と、中国の名目GDPの2%にも相当すると報じられている。その債務が一部でも返済不能になると、銀行からの融資が不良債権化する、社債がデフォルト(債務不履行)に陥る、などの問題が生じよう。だが、同社向けに融資を行なっている企業が、「理財商品」と呼ばれる金融商品の形で投資家に貸し出し債権を転売しており、そうした商品への投資家も打撃を受けるだろう。恒大が直接投資家に理財商品を売って資金調達した、との報道もある。加えて、恒大の債務の約半分が買い掛け債務であるとのことだ。取引業者から恒大が建築資材などを購入した際に、その代金を後日支払うとしている額が買い掛け債務に相当する。もしそうした買い掛け債務までが毀損すると、一般事業会社にも直接悪影響が及ぶだろう。
恒大は見せしめになるのか
中国政府は、恒大そのものの救済はするまい。最近の中国政府の動きの背景には「共同富裕」があるようだ。つまり、中国の一般庶民は「IT企業やその経営者はぼろ儲けしてずるい」「株式や不動産への投資家は濡れ手で粟とばかりに儲けてずるい」「お金持ちで子供を高級な塾に入れ、高学歴を得させる家庭はずるい」といった怨嗟を抱いている。政府はそれに応えて、さまざまな産業を規制し叩こうとしている。すると、恒大だけではなく、ほかの不動産企業も巨額の負債を抱えているが、それで破綻しても“見せしめ”とし、庶民の留飲を下げることを優先するだろう。23日には恒大が中国元建て社債の利払いを行なったと報じられたこともあり、24日にかけて主要国の株価は持ち直した。だが、同日に期限が来たアメリカのドル建て社債の利払いは行われていないようだ。そもそも、そうした目先の利払いを乗り切っても、これから次々と利払いや償還の期限を迎えるため、安堵するのは早計すぎる。しかしながら、中国経済全体が混乱することは、中国政府も望んではいまい。このため、必要であれば中国人民銀行が流動性(現金)を潤沢に供給するなど、マクロ的な景気対策は打ち出されるだろう。つまり、中国政府は産業規制を次々と打ち出しても、経済全体は何とか支えられるという自信を持っているようだ。ただ、それこそが「自信過剰」であって、経済運営に失敗するリスクは否定できない。恒大を含めた中国全体の債務問題がリーマンショックの再来となる、との言説もよく聞く。実際、BIS(国際決済銀行)によれば、中国の民間非金融部門の債務(銀行、証券、保険を除く企業と家計の債務合計)は、今年3月時点で経済規模(名目GDP)の2.2倍を超えている。アメリカでリーマンショック直前に最も民間非金融部門の債務が膨らんだ時点でも、同国の名目GDPの1.5倍に達していなかった。中国の現状の深刻さがうかがえる。
「日本株浮上のカギ」は何か
しかし、リーマンショックがまた来るかのように騒ぐのは、いきすぎだろう。まず、アメリカの金融市場が広く世界に開かれ、同国の金融の動揺が世界に伝播したのとは対照的に、中国の金融市場はかなり閉鎖的で、世界的な負の連鎖は起こりにくい。またリーマンショックの本質は、住宅ローン債務の劣化であるが、当時は同ローンの中で質が悪いサブプライムローンが証券化され、投資家に転売されていた。それだけでなく、証券化ローンをほかの証券とまとめて証券化したCDO(債務担保証券)が販売され、さらにCDOを組み入れたCDO、さらにそれを組み入れたCDOと、金融商品が複雑化した。その結果として、もともとのサブプライムローンが多く劣化した際に、その損失を複数のCDOを経由して最終的にどこの誰が負担するかがわからなくなり、突然どこかの投資家(金融機関を含む)が破綻するかもしれない、との恐怖が伝播して、市場がパニックに陥った。それに対して今の中国では、確かに「理財商品」として一度は融資が転売はされていたようだが、とくに中国以外に金融商品という形で転売が広がっているとは考えにくい。とすれば、恒大を含む債務問題は中国にとっては大きな問題だが、それ以外の国にとっては限定的な影響を受けるにとどまりそうだ(ただし過度に楽観視するのは危険)。このため、日本を含む諸国(中国を除く)の経済や企業収益、株価については、中国の経済が大きく混乱するのかどうか、その影響が他国にどの程度間接的に及ぶのかを、見極めていくことになるだろう。残念ながら、中国と地理的に近く経済的な関係も深い日本の株式が、世界の投資家から欧米株などを上回る買いを集めるとは期待しがたい。日本株の浮上のカギは「脱中国」だろう。
 
 
 

 

●経営危機の中国「恒大集団」 最大の懸念は「ジャンク債」バブルの崩壊 9/28
不動産セクターは中国経済の4分の1
9月20日、中国恒大集団の経営破綻への懸念で世界の株式市場は同時安となった。
3050億ドル(約33兆7000億円)の負債を抱える恒大集団は、香港市場に株式を上場する中国第2位の不動産開発会社だ。昨年の売上高は約12兆3000億円、日本最大手の三井不動産の年商の6.5倍に匹敵する。
この巨大企業が苦境に陥った理由は、中国政府が昨年8月に打ち出した不動産融資制限政策にある。恒大集団は銀行やノンバンクなど100社以上と取引があったが、金融引き締め政策のせいで資金の確保が困難となってしまった。
恒大集団の今後は不明だが、中国の不動産開発業界が改革開放以来、最大の危機を迎えることは間違いない。昨年だけで500社以上の不動産開発企業が倒産しており、恒大集団のように財務内容が良くない大手・中堅の不動産開発会社は60近くもあるという。中国経済の4分の1を占める不動産セクターが機能不全になれば、中国経済が急減速する可能性は高い。
世界を牽引する存在になった中国経済に異変が生じたため、最近ニューヨーク市場の関係者の間で、「リーマン・モーメント」という言葉が語られることが多くなった。長らく続いてきた金融市場の力学が崩れる局面を指す言葉だが、もちろん、念頭にあるのは2008年9月に起きたリーマン・ショックだ。
「中国特有のもの」
21世紀初頭の米国では、リスクの高い住宅融資(サブプライム・ローン)による不動産バブルが生じていた。サブプライム関連債権が複雑に組み込まれた金融商品が世界中で売り買いされていたが、米国の不動産市場がいったん不調になると、投資家たちは手元にある金融商品の投げ売りを始めた。そのあおりを受けたリーマン・ブラザーズが破綻(負債総額は約6000億ドルと世界最大だった)すると、さらなる「パニック売り」が生じ、世界規模の金融危機にまで発展してしまった。
思い起こせば、2007年後半、「サブプライム・ローンの規模は大きくない。いざとなれば金融緩和で対応できる」といった楽観論が広がっていた。
負債規模が巨額な恒大集団が破綻したとしても、リーマン・ブラザーズの時のような大混乱を直ちにもたらす可能性は低いだろう。だが将来の金融危機を引き起こす導火線に火を付けてしまう恐れがある。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は22日、「恒大集団の状況は非常に中国特有のもの」としながらも「世界の金融環境に影響を与える可能性がある」と述べた。
ジャンク債バブルの崩壊は? 
筆者が懸念するのは「リーマン・ショック以降、米国をはじめ世界で急増したジャンク債(格付けの低い社債)バブルの崩壊が起きる」ことだ。
巨額の債務を抱える恒大集団が発行しているジャンク債の残高は266億ドル(約3兆円)、米ドル建てジャンク債は195億ドル(約2兆1500億円)に過ぎない。資産運用世界最大手のブラックロックや英国のアシュモア・ファンドなどが保有している程度だ。
だが9月中旬、米国の市場関係者は中国のジャンク債の流通利回りが、11年ぶりの高水準になったことに懸念を抱いていた(9月17日付ZeroHedge)。
中国ではこのところ米ドル建て社債市場が急成長している。総額4250億ドル(約47兆円)のうち、ジャンク債は1030億ドル(約11兆4000億円)、それぞれ米国に次ぐ世界第2位の規模だ。
米ドル建てジャンク社債の利回りが、中国政府による特定業界への締め付け強化のせいで急上昇していた矢先に、恒大集団の破綻懸念がこれに輪をかけたことから、「米国のジャンク債市場にも悪影響が飛び火する」との警戒感が高まった。「ジャンク債の利回り上昇懸念が20日の世界同時株安を招いた一因だ」とする見方もある。
「炭鉱のカナリア」と呼ばれるハイリスク商品
リーマン・ショック後の金融緩和政策で、米国のジャンク債市場は急拡大した(米国のジャンク市場の規模は約1.6兆ドル)。米国を世界一の原油生産国に復活させたシェール企業の主な資金調達先はジャンク債市場だった。
ジャンク債市場は近年停滞気味だったが、新型コロナウイルスのパンデミックのおかげで再び活況を呈するようになった。FRBのゼロ金利政策の復活により、高利回りを提供するジャンク債への需要が高まったためだ。FRBが行った新型コロナウイルス対策のうち、社債購入プログラムでジャンク債の一部が買い取り対象となったことも追い風となった。リスク分散の観点からジャンク債は個別ではなく、ETF(上場投資信託)などの形で購入するのが一般的だ。
足元の状況は「ジャンク債バブル」と言っても過言ではないが、ジャンク債はもともとハイリスク商品であり、「炭鉱のカナリア」と呼ばれている。これは資金回収が困難になるケースが多いことから、経済の見通しが悪くなるとすぐ売られてしまうことに由来する。ジャンク債に対する足元の警戒感は低いが、一朝事あればサブプライム関連商品のように投げ売りされる事態になりかねない。今年5月、FRBは「価格高騰が続くジャンク債などの高リスク資産が世界の金融リスクの中核にある」と警告していた。そのリスクが今回の騒動で顕在化し、ついには世界規模の金融危機に発展する可能性は排除できない。
リーマン・ショックの場合、米国政府が果断な政策を迅速に実行したおかげで、世界恐慌は回避された。だが次の危機では、世界経済が短期間にV字回復できる保証はない。
また、リーマン・ショックのときはサブプライム関連商品の保有が少なかった日本の金融機関への影響は軽微だったが、米国をはじめ世界経済への依存が大きい輸出産業がダメージを受け、結果的に日本経済の大幅な景気後退につながってしまった。グローバル化が進んだ現在、金融危機がどこで起きたとしても、日本はその悪影響から逃れることはできないだろう。

●「共同貧困」に陥る恐れも、中国恒大が示す「共同富裕」に潜むリスク 9/28
中国が数カ月にわたり推し進めている「共同富裕」(共に豊かになる)政策は、所得格差の縮小と富裕層の抑え込みを意味している。中国で今盛んに言いはやされているのは株主資本主義ではなく、顧客や従業員、そして地方政府までもが企業に対しどのように事業を行い、利益を分配するかに口を出すステークホルダー(利害関係者)資本主義だ。
中国共産党の習近平総書記(国家主席)が社会主義の原点回帰を促す前にすでに1人の富豪がそれについて語り、行動を起こしていた。不動産開発会社としては世界最大の負債を抱え、破綻の危機に瀕している中国恒大集団の創業者、許家印氏だ。35年余り前から共産党員である許氏は2018年のスピーチで、スローガンとして共同富裕を使っていた。同氏は医療研究といった名目で多額の寄付を行い、数年にわたり中国で最も慈善事業に貢献していた人物と評価されていた。
中国恒大が資金不足に陥った際、同社は従業員もステークホルダーになってほしいと考えた。今年に入り中国恒大は従業員に自社の金融商品を購入するよう促し、そうでなければボーナス(賞与)を失うリスクがあると伝えた。中国恒大が販売した住宅の購入者はパニックに陥っているが、今では多数の同社従業員も住宅購入者と共に中国恒大に資金の返還を要求している。
中国の不動産事業は常に若干のステークホルダー資本主義的な要素があった。開発会社は土地購入のため信託会社から資金を借り入れることが多いのだが、信託会社はそのプロジェクトを担当する開発会社の上級管理職にそうした信託商品の投資家になるよう要請。5年前の現地報道によれば、中国恒大のプロジェクトに投資した信託商品は年利30%の提供が可能だった。
だが中国恒大が一段と大きくなり、財務の逼迫(ひっぱく)が進むと、こうした「共同投資」は中間管理職に、そして最終的には一般社員にまで広がった。金融商品の条件も悪くなった。中国恒大が売った「理財商品」の利回りは5−10%。加えて、こうした商品は社員が関与している住宅事業と必ずしも関連するものではなかった。つまり、社員は自らが投資した商品の質について何も分からないのだ。
企業は債務再編時でも普通に営業できる。債権者と株主が話し合いを続けている間、従業員は賃金が支払われ解雇されない限り、働き続けることができる。だが、中国恒大の強引な説得はこうした働き手の人生を変えた。今は中国恒大の債権者でもある社員は強力な銀行に対して不利な状況で、自分の立場さえはっきりしていない。街頭で抗議活動を行うのも無理はない。
共同富裕の支持者は、企業は従業員とある程度の利益を共有する必要があると言う。立派な考えだが、中国の政策立案当局は債務依存の企業文化にも注意を払うべきだ。中国恒大は顧客や従業員、供給業者を含めあらゆる相手から借金をしている。共同富裕がすぐに「共同貧困」に転じる可能性もある。

●中国恒大についての教訓なら日本にある 9/28
中国恒大集団をめぐる一連の出来事は、2008年の投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻に似ているのだろうか。それとも、同じ年に行われた保険大手AIGの救済の方が似ているだろうか。いや、1998年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済だろうか――。中国第2位の不動産グループである恒大が、3000億ドル超の債務(米ドル建ての社債200億ドルを含む)と熱気を失いつつある国内不動産市場という重荷に苦しむ様子を見て、投資家たちはそんな疑問を口にしている。
だが筆者に言わせれば、考慮すべき過去の事例はほかにもある。今から24年前、貸出資産750億ドルの10%以上が不良債権となった時に経営破綻した日本の北海道拓殖銀行のケースである。一見すると、これは奇妙な比較に思えるかもしれない。恒大は不動産会社であり、銀行ではない。しかしこの2社は、1997年に日本にはびこり、今日では中国金融界を脅かしている1つの疑問によって結びついている。資産価値を支える信頼の柱石は一体何なのか、政府の支援なのか、それとも投資家が独立した立場で行う決算書の精査なのか、そうした柱石は機能するのか――という疑問だ。
柱石が崩れた時に破綻した拓殖銀行
なぜこの疑問が重要なのかを理解するために、日本の歴史の一部をざっと振り返ってみよう。第2次世界大戦後の20世紀半ば、日本政府は国内の銀行に対し、国民の貯蓄を特定の業種に低利で融通するよう指示した。経済の復興を促すのが狙いだった。この戦略は奏功し、国内総生産(GDP)は急増した。だが、子供が成長すると靴がきつくなるように、日本経済のその後の成熟とともに、銀行を中心とするシステムも実情に合わなくなった。
そこで日本は、西側から資本市場の仕組みを一部取り入れた。会計の透明性や企業としての真の独立性は十分ではなく、銀行や不動産会社がその決算書からうかがえる価値を本当に持つかどうかを投資家が判断することはできなかった。しかし、政府が支援していたり、「ケイレツ」と呼ばれる企業グループの支援を受けられたりする企業であれば破綻することはあるまい、と見なされるのが常だった。そのため、1990年代の初めに不動産バブルが崩壊し、金融システムは多額の不良債権を抱えているのではないかとの疑念が広がっても、投資家はすぐにはパニックに陥らなかった。言い換えれば、政府の柱石が資産価格を支えてくれるという信頼がある間は、パニックに陥らなかった。ところが、1997年に日銀が「(北海道拓殖銀行)は資金繰りが行き詰まるに至った」と明言した時、この柱石は崩れ落ちた。決算書もこれに代わる信頼の柱石を打ち立てることができなかったため、投資家が抱いていた信頼感は消え失せた。
中国で同じことが繰り返される恐れ
この展開が中国でも繰り返される恐れがある。中国も、高度成長を促すために銀行中心の金融システムを政府が支配する形を採用してきた。だが中国経済の拡大・成熟に伴い、この発展モデルでは間に合わなくなり、株式市場、企業業績の開示制度、格付け会社など資本市場システムの一部を取り入れてきた。だが、不動産価格の乱高下と、政府のプロジェクトへの融資における資金配分の過ちのために、山のような不良債権が生じてしまった。中国人民銀行(中央銀行)はその処理に何度も取り組み、時には思い切ったこともした。中国最大の不良債権処理会社、中国華融資産管理などの企業にも厳しく接した。
しかし、中国企業の借入残高がGDPの160%相当額にまで膨らんだ今、システムの脆弱性を懸念する(至極もっともな)声が上がるようになっている。また、資産価値が政府支援の柱石によって支えられている一方で、中国人民銀行は「三道紅線(3本のレッドライン=譲れない線)」という新しい規制を通じて債務残高と高すぎる不動産価格とを引き下げ、恒大をその一例にしたがっているように見える。その結果、中国の投資家たちは誰を、何を信用したらよいのか分からなくなってしまっている。ひょっとしたら、中国人民銀行は政府の柱石を修復すべく介入してくるのかもしれない。9月22日には、恒大が国内債のデフォルト(債務不履行)を回避する方法を見つけたようだとの情報から市場が上昇した。ドル建て債のデフォルトを回避する短期的な資金調達の手段も見つける可能性がある。同じく22日には中国人民銀行が市場に900億人民元の流動性資金を注入しており、伝染のリスクを低下させているようにも見える。
日本では長いデフレに
しかし、たとえ深刻な事態が短期的に回避されても(回避できる見込みはあまりないが)、長期的には次のような疑問が残る。中国人民銀行は、本当は市場を下支えする政府の柱石を取り除きたがっているのではないか、という疑問だ。そして、もしそうするつもりでいるのなら、企業の透明性がそれに取って代わることができるのか、という疑問が浮上してくる。恐らく、取って代わることはできないだろう。
今日の投資家は、中国人民銀行が先日実施したストレステストの結果や信用格付け会社のリポートなどを吟味することができる。10年前の中国では(1990年代前半の日本でも)想像できなかったほど詳しく個別企業について調べることも可能だ。実際、恒大がトラブルに陥った理由の一つは、今年に入って同社が公表した財務状況が中国人民銀行の「三道紅線」を越えていたためだった。これは進歩だ。だが、中国企業の透明性は確かに改善しているものの、一様に改善しているわけではない。そして、北海道拓殖銀行の例でも見られたように、政府支援の柱石に対する市場の信頼は、ひとたび崩れてしまうとその修復や交換に長い時間がかかる。日本では1997年の金融ショックの後、投資家の不安とデフレがはびこる時代が長く続いた。中国の政府当局はこの歴史を詳しく研究してきたし、その二の舞は避けたいと思っている。しかし、避けられるかどうかは、まだ分からない。恒大の社債の真の価値について不確実性が漂っているのはそのためだ。市場実勢では額面1ドルにつき30セントに満たないが、本当のところはどうなのか。「クレジット」で賭けてみたらいいだろう。といっても後払いの賭けではなく、信頼を意味するラテン語でのクレジットだ。

●中国恒大が債務危機、習近平「富裕層救済」の決断が招きかねない大波紋 9/28
中国の不動産大手・中国恒大集団(エバーグランデ)のデフォルト(債務不履行)リスクが高まっている。習近平国家主席をトップとする共産党指導部が、同社を全面的に救済するかは不透明だ。公的資金を用いて救済するとなると、富裕層である民間企業の創業経営者を助けることになる。それは、習氏に対する世論の反発が増える要因になるだろう。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
公的資金を用いて救済すると 世論の反発が増える要因に
中国の不動産大手・中国恒大集団(エバーグランデ)のデフォルト(債務不履行)リスクが高まっている。今後、多額の利払い期日が訪れる予定で、同社はその利払いを行うことが難しいとの見方が有力だ。同社は中国を代表する不動産会社で、多額の負債を抱えることから、このまま破綻が現実のものになると、その影響は中国国内のみならず海外の金融市場にも多大な影響を及ぼすとみられる。
最も重要なポイントは、習近平政権が同社の問題をどのように収拾するかだ。結局のところ、共産党政権がエバーグランデを救済するか否か。それによって、同社の債務危機が世界経済に与える影響は大きく変わる。理論的に考えると、共産党政権が救済を実施する可能性は高い。
ただ、習近平国家主席をトップとする共産党指導部が、エバーグランデを全面的に救済するかは不透明だ。公的資金を用いて同社を救済するとなると、富裕層である民間企業の創業経営者を助けることになる。それは、習氏に対する世論の反発や批判が増える要因になるだろう。同社を巡る事態のカギは、共産党政権が握っていることになる。
不動産バブル対応で 実力を試される共産党政権
足元の中国経済を俯瞰的に考察すると、1989年頃のわが国経済によく似た事象が発生している。その象徴が不動産バブルだ。リーマンショック後、中国経済は投資主導の経済運営を重視した。その中で、エバーグランデなどは借り入れを増やして大規模にマンション建設などを進め、不動産価格は上昇した。
急速な金融引き締めなどによってバブルを崩壊させたわが国の教訓をもとに、中国は不動産バブルの温存を図った。具体的に、共産党政権は住宅価格の上下に合わせて金融政策や不動産向け融資などに関する規制を調整した。その結果、不動産投資はGDP(国内総生産)の2割程度を占めるまでに増えたと指摘する中国経済の専門家もいる。
しかし、借り入れに依存した巨額の投資(投機)は未来永劫(えいごう)続くものではない。エバーグランデの債務規模は約33兆円(名目GDPの約2%)にまで増加した。同社は中国不動産バブルの膨張を象徴する存在といえる。中国の非金融民間部門の債務残高もGDPの200%を超えた。日本は89年後半のバブル絶頂期、非金融民間部門の債務残高はGDPの2倍に達した。
中国不動産バブルはピークを迎えつつあるといえるだろう。その危機感から昨年夏以来、共産党政権は、「灰色のサイ」と呼ばれる債務問題の深刻化を警戒し、「三条紅線」(3つのレッドライン)を示して不動産業者の債務増加を抑制し始めた。その結果、エバーグランデは新規の借り入れによる利払いや債務の返済が困難になり、デフォルト懸念が高まっている。
わが国は90年代に入り、バブル崩壊後の不良債権処理などを迅速に進めることができず、経済は長期の停滞に陥った。エバーグランデの債務危機の本質は、共産党政権が不動産バブルとその後始末にどう対応するか、その実力が試されている。
中国版リーマンショックの発生はあるか
エバーグランデの債務がどう処理され、その影響がどの程度、中国および世界経済に広がるかは、共産党政権の判断が決定的な影響を持つ。共産党政権の行動が中国発の金融危機のリスクに影響するといえる。
世界経済の歴史を確認すると、本格的な救済がなされたか否かを基準に、金融危機は2つに分類できる。本格的な救済がなされた代表的ケースが98年の「LTCMショック」だ。それは、当時の米有力ヘッジファンド、ロング・ターム・キャピタル・マネジメントがロシア国債のデフォルトなどによって巨額の損失を発生させ、経営危機に陥ったことをいう。それとは反対に、本格的な救済がなされなかった典型例が2008年9月のリーマンショック(当時の米投資銀行大手リーマン・ブラザーズの経営破綻)だ。
LTCMショックとリーマンショックの共通点は、低金利環境と過度な成長への楽観が続く中で、借り入れを増やして(レバレッジをかけて)投機的な取引を増やしたことだ。その後、投資の失敗や資産価格の急落によってLTCMもリーマンも経営体力を失った。
そして、その後の救済の有無が、経済全体への波及を左右した。
1998年のLTCMショックでは、米FRB指揮下で民間金融機関が救済融資に応じた。その結果、LTCMショックの影響は金融セクターに抑え込まれ、経済全体に深刻な影響が及ぶ展開は回避された。FRBは利下げも行った。
一方、2008年のリーマンショックでは、金融緩和は行われたが本格的な救済がなされなかった。リーマン・ブラザーズの経営破綻の結果、米国を震源地に世界的に金融システムが混乱し、金融の目詰まりが起きた。その結果、雇用や生産、消費など実体経済にショックが波及した。
「大きくてつぶせない」と言われる企業のデフォルトや破綻は、金融システム不安を引き起こし、実体経済に負の影響が波及する。それを防ぐために公的資金の注入などによる救済は欠かせない。
理論的には救済されるが… 習政権の「意思決定」次第
今後の展開として、エバーグランデは救済され、同社の債務危機はLTCMショックのような展開に向かう可能性がある。理論的に考えると、中国経済にとって、エバーグランデは「大きくてつぶせない」企業に位置付けられる。共産党政権は債務再編の専門家を起用したと報じられている。一時的に中国の不動産や金融セクターに影響が出たとしても、ドミノ倒しのように経済全体に深刻なショックが波及する展開は防がなければならないと考えているようだ。そうした見方から、9月中旬時点で、中国政府がエバーグランデを救済し、ショックは短期的かつ限定的な範囲に抑え込まれると考える投資家は多かった。
ただし、そうなるとは限らない。共産党政権の対応方針が明確になるまで、救済が実行されない可能性は排除できない。
特に、貧富の格差が拡大した影響は大きい。エバーグランデの経営陣の中には、前倒しで理財商品を償還し、自分の資金を回収した者がいた(のちに撤回)。貧富の格差が拡大する状況下、共産党指導部がエバーグランデを救済するとなれば、世論の共産党指導部批判は一段と激化する恐れがある。
問われているのは、習政権の実力だ。つまり、不動産バブルとその後始末にしっかりと対応して金融市場と経済の混乱を食い止めつつ、民衆の不満が高まらないようにできるか否かだ。共産党政権が世論の批判を避けようとするあまり、エバーグランデへの公的資金の注入など救済が遅れる展開は排除できない。万が一にも、救済が実施されなければ、世界経済には無視できない下押し圧力がかかる恐れがある。
理論的に考えればエバーグランデは救済されるべきだ。それは、大規模な混乱が中国内外の金融市場に広がる展開を防ぎ、中国をはじめ世界経済がそれなりの安定を維持するために欠かせない。それが実現するか否かは、共産党政権の意思決定次第だ。 

●恒大集団の危機は中国バブル崩壊の引き金になるか 9/28
<恒大の問題は、高利を謳って従業員や取引先に売りつけた投資信託など帳簿外の負債が多いことだ。既に債務超過であるとすれば、経営悪化が自己責任であるだけに当局も破産させざるをえない。中国経済への波及は止められるのか>
中国の大手不動産会社、恒大集団の経営危機が世界の株式市場を動揺させている。9月23日に恒大集団が社債の利払いを行う直前には、利払いができなくなるのでは、という見方が広がり、世界の株価が下がった。しかし、その後利払いが行われたため、世界の株価も少し戻した。しかし、この先恒大集団は年末までに700億円以上の利払いが控えている。そのどこかでデフォルトに陥る可能性は「99.9%」だとみられている(『財新周刊』2021年第37期)。実は、恒大集団をはじめとする中国の大手不動産会社の経営は2018年頃にもかなり危険な様相を見せていた。表に示したように、恒大集団の負債総額は2014年末の3621億元から2017年末には1兆5195億元に急拡大し、負債の資産に対する比率(負債総資産比率)も86.3%とかなり高くなった。同様の状況は他の大手不動産会社でも起きていた。
投げ売り連鎖のシナリオ
この数字が直ちに経営の破綻を意味するわけではないものの、中国各地で建設途上の住宅団地が目立つようになったこととも合わせて考えると、不動産会社が売れない住宅をいっぱい抱え込んでいるようであった。こうなると、不動産会社は資金繰りが行き詰ってマンションを投げ売りするようになり、マンション価格が値崩れする可能性が高い。住宅価格全体が下がると、不動産会社の資産の価値が目減るので、多くの不動産会社で資産の額が負債を下回って債務超過になり、経営破綻する......。こういう恐ろしいシナリオが見えていた。しかし、2018年にはそういうことは起きなかった。この年から恒大集団の債務の拡大にブレーキがかかり、負債総資産比率も少し下がりはじめていた。だが、このたびの恒大集団の危機はまさに恐れていたシナリオが始まったことを示す。恒大集団が破産に向かうことはほぼ確実であろう。問題はその影響がどこまで広がるかである。中国の不動産価格全体が値崩れするだろうか。そうなれば、金融や住宅関連資材など他の産業に打撃が及び、中国経済全体が大きなダメージを受ける可能性も高い。そこで、中国の経済誌『財新』の記事をもとに、恒大集団の危機が起きた理由を掘り下げてみていきたい。日本のマスコミでは、恒大集団の負債が1兆9665億元(約33兆円)に上ることが強調されている。しかし、負債額が大きいことが直ちに問題であるというわけではない。より重要なのは負債と資産の大小である。仮にあなたに1億円の借金があったとしても、銀行に1億2000万円の預金があるのであれば、それは借金苦ではない。中国の不動産会社の場合、資産の多くは建設中ないし完成したがまだ売れていないマンションであり、比較的現金化しやすいものなので、資産が負債を上回っているようであれば、とりあえず問題はないはずである。恒大集団の負債総資産比率をみると、2017年末の86.3%から2021年6月末の82.7%へやや下がっている。もし不動産価格が急落したりしたら、資産の額が減って負債を下回ってしまうので、やや危うい感じはあるものの、この数字を見る限り、恒大集団の経営が破綻しているようには見えない。中国の不動産業の場合、負債比率が高くなるのは宿命といってよい。不動産会社は都市に広い土地を取得し、そこにいくつもの高層マンションが建てて売る。住宅団地が完成して売却が終わるまで、不動産会社の帳簿には、資産としては未完成のマンション群、負債としては銀行からの借金、未払いの工事代金や資材代金が載り続け、資産も負債も大きくなる。
前受け金が少ない
中国の不動産会社は、マンションが完成する前に売り出すことも多い。その場合、不動産会社が買い手から受け取った前受け金は不動産会社にとって負債となるが、資産の側には売約済みだがまだ買い手には渡していないマンションが計上される。こうした債務は、マンションを完成させて買い手に渡しさえすれば消えていくので、仮に増えたとしてもさほど気にする必要はない。そこで、中国の不動産会社の経営状況を見る際には、負債から前受け金を除き、資産からも同額を除いたうえで負債総資産比率を計算することが多い。この指標でみると、恒大集団は2021年6月末で81.0%で、政府がガイドラインとする70%を上回っているとはいえ、危機的とまでは言えない水準である。恒大集団の問題は、帳簿上の負債が多いことよりも、一つは負債の構成、もう一つは帳簿外の隠れ負債の多さにある。中国の不動産業界で売り上げトップの碧桂園の場合、負債のうち41%が買い手から預かった前受け金である。一方、恒大集団の場合、負債のうち前受け金の割合は11%にすぎない。恒大集団は、北京市、上海市といった発達地域よりも四川省、重慶市、安徽省といった相対的に所得水準が低い地域での住宅開発が多いため、他社と比べて前受け金をあまり集めることができないようである。もし住宅が完成する前に前受け金が入ってくれば、その金で残りの工事をして買い手に住宅を渡すだけだが、恒大集団の場合は前受け金が少ないので、銀行からの借金など他の手段によって資金を調達して住宅団地の完成にこぎつけるしかない。しかし、2017年以降、銀行もいろいろと厳しい条件をつけてきて、恒大集団にはなかなかすんなりとは貸してくれなくなった。恒大集団が2017年に中信銀行深圳支店から借金した時、中信銀行は恒大集団の幹部たちも自ら住宅開発プロジェクトに出資して、そのプロジェクトに賭ける姿勢を見せてほしいと要求した。そこで、恒大集団は子会社の恒大財富を通じて社員向けの投資信託を発行した。これは年利率25%で、2年で元本も利子も償還される、というとんでもない好条件の投資信託であったが、最低購入単位が300万元(約5200万円)だったので、従業員でグループを組んで購入した。この投資信託を買うことが恒大集団の社員にノルマとして課せられ、ノルマが達成できない社員はボーナスを差し引かれた。恒大集団は、住宅団地の工事を請け負う業者に対しても、工事代金の1割程度は恒大財富の投資信託を買うように求めた。こうして投資信託を売って得た資金は、恒大集団に材料などを供給するメーカーに融資するという触れ込みだったが、実際には、恒大集団の住宅団地の建設に使われているといわれる。恒大集団は2016年に瀋陽の盛京銀行の筆頭株主となったが、その目的も盛京銀行から住宅建設の資金を引き出すことだったとされる。
自力再建は不可能か
以上のように、恒大集団は、同社の会計帳簿に記載されている銀行からの借金、発行した社債、建設業者や資材サプライヤーに対する未払金、そして住宅の買い手から預かった前受け金といった負債以外に、従業員や関係者に対して子会社を通じて発行した投資信託、盛京銀行から引き出した資金、さらに関連会社が銀行から借りた資金などの隠れた負債がある。その合計額は、恒大集団の帳簿上の純資産(4110億元)を超えている可能性がある。もしそうであれば恒大集団の経営はすでに自力では再建できない。いったん破産して、債務の一部を免除してもらう必要がある。恒大集団は投資信託を売ったり、盛京銀行を取り込むなど、住宅建設の資金をさまざまな手段でかき集めてきたが、今年6月頃から急に行き詰まり始めた。まず、住宅の売り上げが6月から月を追って激減し、8月には6月の半分ほどにまで落ち込んだ。売上金が入ってこないので、住宅開発の資金がショートして建設が中断してしまう。9月初旬の時点で、全国で800のプロジェクトが進行中だったが、うち500が資金不足のために中断していた。また、年利率25%をうたって従業員や出入りの業者に買わせた投資信託も、実際には年4〜5%の配当しか出せなかった。しかも、投資信託を売った時には恒大財富は2年で償還するといっていたのに、実際には10万元以上投資した人には5年に分けて償還すると9月9日に発表した。これには、投資信託を買わされた元従業員や出入りの業者が怒り、9月12日には、各地で恒大集団の支社の幹部たちが抗議する人々に取り囲まれる事件が起きた。そこで恒大集団が翌13日に発表した新たな返済案では、3か月おきに元利の10%ずつを償還するか、または恒大集団が作った団地のマンションや駐車スペースなどの現物で返すという。その際にはマンションの値段を48〜72%も割り引く。実質的には売れないマンションの叩き売りといってよいが、多くの債権者は納得せず、現物での償還を拒否しているという。このように、恒大集団の不動産事業がもはやにっちもさっちもいかない状況になっていることは明らかである。こうなったうえは資金力と販売力のある他の不動産会社に、建設中の住宅団地を債権も債務もまるごと引き取ってもらう以外にない。実際、恒大集団は万科、中国海外発展など他の大手不動産業者や、広東省と深圳市の国有資産監督管理委員会などに接触し、所有する不動産を売却する交渉を進めてきた。しかし、不動産には銀行や建設業者への債務だけでなく、投資信託で集めた金などが複雑に絡んでいるため、売却交渉はうまくいっていない。恒大集団は深圳市の旧市街の改造プロジェクトという優良資産を持っているが、これに対しては、許家印総裁が「他社に足元を見られて安く売るようなことはするな」と厳命しているため、やはり売却交渉は進んでいない。恒大集団はすでに自力で経営を立て直すことが難しい状況にあるとみられる。近い将来に社債のデフォルトと破産という道をたどる可能性が高い。
多角化失敗の経営責任
恒大集団の問題を報じたNHKのニュースに登場した専門家は、恒大集団は「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」企業なので国有化されるだろう、との見方を示していたが、そうした寛大な措置が採られる可能性は低いと筆者は考える。恒大集団の経営状況がここまで悪化した原因は、借金や社債や投資信託といった外部資金に過度に依存して不動産業の急激に拡大したこと、そしてその儲けを電気自動車やサッカーチームや住宅・自動車の販売網といった収益性の低い多角化事業に投入した無謀さに求められる。つまり、経営悪化の原因は、何らかの外部要因、あるいは一時的要因に基づくものではなく、恒大集団の経営自体にある。とするならば、同社の経営陣には責任を取って退陣してもらうしかない。そしてすでに負債が資産を上回る状況にあるとすれば、会社を破産させたうえで、債務を整理する必要がある。無謀な事業に資金を貸し込んだ銀行や、高利の投資信託に投資した人々にはある程度の損失を飲んでもらう一方で、マンションの代金を前払いした人々には着実にマンションを手にできるようにし、工事代金をもらっていない建設業者や、資材代金を受け取っていない材料メーカーには代金を支払う必要がある。問題は恒大集団の破産の影響が不動産業全体、ひいては中国経済全体に与える影響をどう最小化するかである。恒大集団は債務を返済するために所有する不動産をすでに投げ売りし始めているが、これがエスカレートすると、他社の不動産の価格にもマイナスの影響を与える。他の不動産業者も資産価値が下がって債務超過に陥る。そうなると、不動産業に融資している銀行も不良債権を抱えることになる。こうしたバブル崩壊のシナリオが目の前にある。恒大集団は退出させつつも、経済全体のバブル崩壊をもたらさないよう、恒大が所有する不動産は資金力と販売力のある同業他社への売却を進めていく必要があろう。また、盛京銀行が破綻したら遼寧省の地域経済に対する影響が大きいので、他の銀行に合併するなどの慎重な整理が求められよう。恒大集団は中国の不動産業界で売り上げが第2位ではあるが、同社の2020年の売上額7038億元(12兆円)は、中国の不動産業トップ100社の売上13兆元(225兆円)の5.4%にすぎない。20万人もの従業員を抱える恒大集団が破産すれば、その影響は従業員、銀行、建設業者、資材メーカーなど広範囲に及ぶのはたしかだが、不動産業界のなかで、恒大集団が開発中の住宅団地を買い取って消化することは可能であろう。恒大集団は「大きすぎてつぶせない」企業だとはいえない。
 
 
 

 

●保有株を1700億円で売却 経営危機の中国恒大 9/29
経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団は29日、子会社の保有する盛京銀行(遼寧省瀋陽市)の株式を約100億元(約1700億円)で売却すると発表した。
恒大はこの日、ドル建て社債の新たな利払い期日を迎えたが、調達資金が利払いに充てられるかは不明だ。
恒大は既に23日が期日だった別の社債の利払い8350万ドル(約93億円)が実行できておらず、29日にも新たに4750万ドル(約53億円)を支払う必要があった。期日から30日以内に利払いができなければデフォルト(債務不履行)となる。ロイター通信によれば、恒大はこのほか、年内にドル建て社債の利払いが計5億ドル(約560億円)分、残っている。
恒大が香港証券取引所に提出した公告によると、恒大の全額出資子会社が保有する盛京銀の株式約17億5300万株を国有企業の瀋陽盛京金控投資集団に売却することで28日に合意。売却額は1株5.7元としている。盛京銀は恒大に対し、売却で得る資金全額を同行への債務返済に充てるよう求めている。
今回の株式売却については、恒大の経営危機が中国の金融システムに波及するのを懸念する当局が手を打ったとの見方も出ている。 

●中国恒大、盛京銀行株を1700億円で売却 9/29
中国の不動産大手、中国恒大集団は29日、傘下の地方銀行、盛京銀行の株式19.93%を売却すると発表した。売却額は約99億元(約1700億円)。遼寧省瀋陽市政府系の国有企業、瀋陽盛京金控投資集団が買い取る。
盛京銀行は中国東北部を拠点とする地方銀行で、恒大が34.5%の株式を保有する筆頭株主だ。恒大の経営不振が盛京銀行を通じて中国の金融システムに波及する恐れがあり、当局が事実上株式売却を後押ししたとみられる。恒大は「国有企業を大株主とすることで、盛京銀行の経営安定につながる」としている。
恒大は29日に海外市場で発行した米ドル債の利払い4750万jを控える。2022年からは多額の満期償還を予定しており、資金繰りは厳しさを増している。
取引先への未払い分などを含めた恒大の負債総額は1兆9665億元(約33兆4000億円)と中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する。

●中国恒大が再び利払い期限 53億円、資金繰り不安募る  9/29
経営危機に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団が29日、4750万ドル(約53億円)の米ドル建て社債の利払い日を迎えた。23日が期日の社債利払いのうちドル建て分を既に延期しており、恒大の資金繰り不安は募る一方だ。
前回は22日に人民元建て社債の利払いを実行すると発表したが、今回は直前まで沈黙を保った。
ロイター通信によると、恒大本社がある広東省深セン市の金融当局は、同社グループの投資商品について投資家に払い戻すよう圧力をかけている。中国各地の政府は、恒大が本業の住宅事業の資金を流用しないよう管理を強化しているとも伝わった。
今回乗り切っても、10月にかけて利払い日が相次ぐため、デフォルト(債務不履行)への懸念は続く。

●中国恒大集団危機は「第二のリーマンショックにはならない」と断言できる 9/29
先週、株式市場では中国の不動産大手、中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念から株価が急落、世界同時株安の様相を呈する場面がありました。
その後、中国恒大集団が23日に期日を迎える人民元建て債の利払いを実施すると発表したことで市場は安堵し、FOMCの結果が想定内だったこともあって株価は急反発しました。ダウ平均は急落する前の水準に戻り、日経平均も3万円の大台を回復しました。
しかし危機的状況は変わっていません。23日期日の人民元建て債の利払いは行われましたがドル建て債は利払いが行われなかった模様です。ただし30日の猶予期間があるためすぐにデフォルトとはなりません。
その後も続々と利払い期日が到来し、年内の社債の利払い額はおよそ円に換算すると700億円にのぼります。来年からは社債の元本の満期償還も迎えます。果たして恒大集団は負債返済のキャッシュを確保できるのでしょうか。
取引先への未払い分などを含めた恒大の負債総額は1兆9665億元(約33兆4000億円)と中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する規模です。これだけの負債を抱えた企業が倒産すればその影響は計り知れません。
一部では「第二のリーマンショックとなるのでは」と危惧する声も聞かれます。ですが筆者はそうなるとは考えていません。今回はその理由を解説します。
第一の理由はリスクが見えていることです。この点がリーマンショックとは決定的に異なる点です。
リーマンショックは信用の低い人への住宅ローン、いわゆるサブプライム・ローンを複雑な仕組みで証券化したCDOというデリバティブが世界中にばらまかれ、しかもそれらは何重にもレバレッジがかかる構造になっていたために、どこにどれだけのリスクがあるか誰も把握できなかったのです。
そのために人々は疑心暗鬼になり、カウンターパーティー・リスクを極度に恐れ、信用収縮が急激に起こりました。金融市場では流動性が一気に枯渇して健全な企業も資金を調達することができなくなってしまったのです。
それに対して今回の問題は恒大の債務だけの問題で、負債額は巨大でも「見えている」だけに恐怖感はそれほど大きくありません。中国の銀行全体として恒大に過剰融資などはおこなっていないため債権者も広く分散しています。
また、仮にこの問題が飛び火したとしても中国の不動産セクターに限られるでしょう。全容まではわからないものの、どこにどれだけのリスクがあるかは、だいたいのところ把握できます。したがってリーマンショックのような極度の信用収縮は起こらないと思われます。
恒大の債務リスクは中国の国内問題にとどまるという点も、グローバル金融危機に発展したリーマンショックとは異なる点です。
日銀の黒田総裁は、「あくまでも当該企業、中国の不動産業の問題として捉えるのが適切」と述べ、同様の問題が他に起こる可能性は今のところ低いとの見方を示しています。FRBのパウエル議長も「中国恒大の状況は非常に中国特有のものと見受けられる」と異口同音に述べています。
この問題が「リーマンショックの再来」とならない理由の根本は、(トートロジーに聞こえるかもしれませんが)中国政府が「リーマンショックの再来」とならないようにコントロールするからです。リーマン・ブラザーズ証券の破綻はグローバル金融危機の象徴的事象に過ぎません。それでも、それをきっかけに危機が本格化していったことは確かで、無秩序な破綻は危機を招くということを中国政府は学び、しっかりと認識しているでしょう。
今後、中国では2022年2月に北京冬季五輪、そして同年秋には5年に1度の共産党大会と重要イベントが続きます。2018年3月の憲法改正により、国家主席・国家副主席の任期は撤廃され、習近平氏は2022年の共産党大会で終身国家主席となることを狙っています。そのためには経済的、社会的混乱はなにより避けたいはずです。
ここで恒大を突き放して破綻させては、混乱は必至です。そうならないように政府が介入し、債務の延長や銀行に債権放棄をさせたりしながらソフトランディングを図るでしょう。
Bloombergのシニア・エディター、ジョン・オーサーズ氏によれば、中国恒大が本拠を置く広東省の規制当局は会計や法律の専門家を派遣したが、その中には事業再編を専門とする法律事務所キング&ウッド・マレソンズが含まれるといいます。当局主導による債務再編がメインシナリオだと思います。

●中国 恒大グループ 地方銀行株を売却 資金繰りの改善 焦点に  9/29
巨額の負債を抱えて経営難に陥っている中国の不動産大手「恒大グループ」は、保有する地方銀行の株式を日本円で1700億円余りで国有企業に売却すると発表し、資金繰りの改善にどこまでつながるかが焦点です。
中国の不動産業界2位の恒大グループは29日、保有する地方銀行「盛京銀行」の34%余りの株式のうち、19%余りを国有の投資会社に売却すると発表しました。
「盛京銀行」は中国東北部の遼寧省瀋陽を拠点にする地方銀行で、売却額はおよそ100億人民元、日本円で1700億円余りになるということです。
恒大グループは「国有企業の関与によって銀行の経営が安定化する」などとしていて、市場関係者からは今回の問題の影響が金融システムに波及することを防ぐため、中国の当局が売却を後押しした可能性があるとの指摘も出ています。
巨額の負債を抱えて経営難に陥っている恒大グループは、29日も日本円でおよそ50億円のドル建て社債の利払いが期限となるなど、相次いで巨額の利払い期限を迎えていて、株式の売却で資金繰りがどの程度、改善するかが焦点です。
一方、中国の不動産業界をめぐっては、この問題をきっかけにほかの大手企業の経営状況にも市場で厳しい目が注がれており、中国経済や金融市場などへの影響がどこまで出るか、なお予断を許さない状況です。 
 
 
 

 

●中国恒大集団に何が起きようと、誰も人民元をショートしたくない理由 9/30
中国の不動産開発大手、中国恒大集団の危機は世界中の市場を動揺させているが、人民元はその影響を免れるとアナリストらは確信している。
人民元はほとんどショート推奨の対象になっていない。中国の貿易黒字の拡大とショートポジションのネガティブキャリー、恒大が破綻した場合に中国人民銀行(中央銀行)が介入する可能性を背景に、弱気派のアナリストの間でさえ、元安に直接賭けることを勧める声はほとんど聞かれない。
JPモルガン・チェースのアナリスト、ティファニー・ワン氏は先週、「恒大集団を巡る騒動は持続的な元安を引き起こす要因というより、元相場のセンチメントに短期的に与える打撃で済む可能性が高い」と指摘した。
この見方は直感に反しているように思われるかもしれない。恒大が抱える3000億ドル(約33兆6000億円)を超える債務は、中国の国内総生産(GDP)の2%余りに相当する上に、国内の市場やさまざまな業界のサプライヤーに影響を及ぼす可能性があることは言うまでもない。しかし同社が初めて期日までに利払いを行わなかった際、その前の4営業日でオフショア人民元は0.9%下落したものの、それ以来値を戻しており、1カ月インプライド・ボラティリティーは今月前半の水準に戻っている。
元相場が安定を取り戻した主な理由として、急落の場合に人民銀が介入する可能性が高いことを、モルガン・スタンレーのチェタン・アーヤ氏が率いるアナリストらは23日発表の調査リポートで指摘した。
大部分のアナリストは、中国の貿易黒字に助けられて人民元は今回の危機を乗り切ると考えている。貿易黒字は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって以来、12カ月ローリングベースで50%余り拡大している。
ブルームバーグ・インテリジェンスの趙志軒氏は、「新型コロナ禍と世界的なサプライチェーンの混乱状況が長引く限り、中国の貿易黒字は引き続き人民元の押し上げ要因となるだろう」と分析した。

●薄氷の中国恒大集団、政府、個人にも影響が大きい 9/30
中国恒大集団の債務危機は長引きそうだ。社債の利払いの延期や簿外の理財商品のデフォルトが起きており、資産売却も進めているが、年明けには社債の償還期限も迎える。中国政府としては年内にメドをつけることが望ましいが、舵取りは難しい。クレジット、不動産を含む国際金融市場に詳しいマネックス証券専門役員でチーフアナリストの大槻奈那氏に話を聞いた。
まるでエンロン、あらゆる分野に進出
――すでに実態的にはデフォルトの状態にありましたが、9月29日、グループの保有する盛京銀行の株式を国有企業に100億元(約1700億円)で売却すると発表しました。
9月23日に国外社債8353万ドル(約93億円)については利払いが延期され、30日間の猶予期間に入っていた。9月29日には別の社債の利払い期日も予定されていたので、資金調達が必要だった。形式上は債務不履行になっていないが、営業上の支払いも滞っている模様だ。この後も利払いは続く。銀行であれば、金融システムを守るという観点から、国有企業が買いやすかったのだろう。ただ、来年に入ると元本の償還期限が来る。3月、4月に集中している。まだまだ先は見通せない。気になるのは、売掛金の大幅な増加だ。昨年12月末から今年6月末まで5000億円程度だったのが、2.5兆円規模に急に増えている。現金化できていない可能性が高い。資本金は1.6兆円程度なので、超ハイレバレッジだ。簿外で売られた理財商品などでは、不動産を7割引きといったディスカウントで渡すという代物弁済が試みられているが、それでも、債権者のデモが発生するなど合意を得ていない。
――バランスシートの規模や実態は?
連結ベースでのバランスシートの規模は33兆円にのぼり、決算資料で見ると、「簡略化」されたグループ組織図だけで4ページにもわたるなど、かつてのエンロンみたいに、さまざまな分野に手を出してしまっている。どこからほころびが出るか、わからない。業務をまず整理する必要がある。不動産も玉石混淆で、広州は庶民的で北京は高級路線、などともいわれるが、その実、非常に質の悪い物件もあるようだ。床が薄くて歩いただけで下の階に響くなどとも指摘されている。とにかく業容がスピードをもって拡大し、日本の三菱地所、三井不動産、住友不動産を束にしたよりも大きい。実は巨大不動産会社は意外に破綻しない。財務力が弱いと資金繰りがつかないので、そもそも成長できないためだ。不動産会社最大の経営破綻は、2009年のアメリカのジェネラルグロースプロパティーズだが、総資産は3兆円強(約290億ドル)と、恒大の10分の1だ。恒大については国がこれまで放置してきたのが問題だ。
――そうした野放図に拡大した中国恒大集団自体をどうするか、不動産市場をどうするのか、金融システムをどう守るか、ということですが、政府の姿勢をどう見ていますか。
不動産の暴落、それによる金融システム不安が連鎖するシステミックリスクは避けたいが、完全救済はありえない。その舵取りをどうするか。これまでは売れる物は何でも売りましょうということでやってきた。しかし、創業者で会長の許家印氏が会長を退き、最近財務アドバイザーが決まった模様だ。つまり、国が全面支援ではないが、側面支援しつつ、とりあえず、契約に従って秩序だった返済・リスケ交渉を行って、年末へ向けてじわじわとアメリカのチャプター11のような形、つまり、資産負債を整理し、再建策を探っていく形になるだろう。EV(電気自動車)会社の中国恒大新能源汽車集団(恒大汽車)は国営企業のシノペック・グループ(中国石油化工集団)と6月に戦略的提携を発表したが、直近で事業と資金調達の一部停止を発表しており、このあたりも国の関与があるのだろう。
不動産会社である恒大そのものは救済しない
昨年、法的破綻して、再建に向かっている中国海航集団などの例がイメージしやすい。ただし、銀行や航空会社などと異なり、会社自体を救済するわけにはいかない。中国政府は不動産価格の上昇の抑制と不動産会社のリスク拡大を抑えるため、昨年8月、「三道紅線」いわゆる「3つのレッドライン」という不動産会社を対象とした規制を導入した。政府は中国恒大集団が3つの基準を満たしていないことはわかっていたので、一定のシナリオを想定していたと思う。銀行規制も厳しくしていたので、銀行が貸せないこともわかっていた。したがって、中国恒大集団に3レッドラインに反するようなあからさまな支援をすることは難しいだろう。
<3つのレッドライン> 1資産負債比率(Liability to Asset)を70%以下とする、2ネットの資本負債比率(Net DER)は1倍以下、3現預金短期有利子負債比率(Cash Coverage of ST Debt)を1倍以上とする、という3つの指標。
政府は「共同富裕」という格差是正方針を掲げており、不動産でぼろ儲けした人を救うつもりはない。不動産会社の国有化はせず、金融機関が危なくなったら、金融機関に公的資金を入れる形だ。理財商品も保護しないという姿勢が明確だ。
――日本のバブル崩壊でも個人が損失を被りました。
「共同富裕」の筋を通すとしたら、10%を超える利回りにグッチのバッグや空気清浄機をつけるなど、ぼろ儲けをうたった投資で損をするのも仕方ないという考え方だろう。その意味で、23日を通過したあと、株価が回復し中国恒大集団の株価も一時30%も上がってしまったのは気になる。創業家は7割の株式を保有しているので、また儲けた形になってしまう。
国内不動産市場の舵取りはナローパス
政府は、市場や投資家の動揺を抑えようと、27日、「健全な不動産市場を守る」と表明した。とはいえ、何事もなかったように金融市場が反応すると、また不動産価格も上昇してしまう。不動産価格の上昇を抑制したい政府としては困った話だ。そもそも、中国では不動産需要が強く、4割の人が2戸以上の住宅を持っているとも言われる 。購入規制を免れるために偽装離婚するぐらい。そういうことを考えると、中国恒大集団は見せしめ的に潰して、不動産価格も冷やしたい。しかし、暴落は避けたい。不動産価格を上げも下げもしたくないというのは非常にナローパスだ。
――投げ売りが発生することの不動産市場への影響は?
もともと中国では大幅な値引きが横行しており、売れそうにないと大規模物件でも破壊してしまうことも行われている。今年に入り、毎日1社不動産会社が潰れているともいわれ、それ自体は日本で思うほどのインパクトにならないかもしれない。ただ、理財商品の投資家が7万人以上いて、これらの人々に不動産の代物弁済で対応しているとなると、物件数で1万単位になる。これを7割引きといった価格にするなら影響はさすがに大きくなりそうだ。また、3つのレッドラインを満たしている不動産会社はS&Pの試算だと全体の6.3%にすぎない。他の会社も投げ売りをすることが懸念される。
――サブプライム融資の証券化商品が国際的に広がっていたリーマンショックのケースとは異なり、国際市場に直接的に波及するリスクは小さいといわれています。
国外の投資家のエクスポージャーは限定的なので、リーマンショック型になる懸念は小さい。中国恒大集団の借入残高一覧が出回っている。公式発表ではないが、これらによると、海外の銀行や債券の合計は2兆〜3兆円にすぎない 。日本の1990年代の不動産バブルの崩壊と同じで、影響は国内に限られるだろう。
国と地方の総収益の5割超が不動産売却益
一方、中国の不動産会社は、日本と違ってマンション建築計画発表の「青田買い」の時点で、購入者がローンを組んででも全額近くを支払っている。つまり、不動産会社は巨額の資金を個人などから預かるという、若干金融機関的な側面も持っている。中国恒大集団の6月末のバランスシートを見ても、工事関係支払い等を合わせた1年以内の支払い債務は16兆円に上る 。もし、同規模の不動産会社が相次いで倒れるようなことがあれば、国内の個人やさまざまな下請け企業への影響は必至だ。個人が保有する不動産価格の下落によって個人消費に大きな影響が出るリスクもある。
――直接的に債務のデフォルトを通じてつながるリーマンショック型ではないけれど、中国国内の不動産バブルの崩壊、個人消費の落ち込み、ひいては中国景気の大幅な落ち込みにつながると、間接的な影響は大きいですね。
日本の1990年代の金融危機と同様に、金融機関が不動産業界に貸さないと資金が回らず、不動産が暴落する、これが成長に影響する。中国では一昨年に地方の小規模な金融機関が潰れただけで話題になった。地方政府の不動産売却収入への依存度も高く、国と地方を合わせた総収入の5割超が不動産売却益だ 。成長率も6%台からどこまで落ちるのか。引き続き注目しておく必要がある。

●恒大危機など序の口、中国不動産バブルの恐るべき深度と規模の全体像 9/30
恒大集団バブルはこうして膨らんだ
日本のマスコミでも連日に報じられているように、中国の代表的な不動産開発大手の恒大集団が33兆円にものぼる巨額な負債を抱えて、今やデフォルト寸前の窮地に立たされている。恒大集団は1996年に、創業者の許家印氏の下で社員数わずか十数名で立ち上がった零細企業であったが、創立から25年間、今は従業員数が20万人、年間売上が7000億元(約12兆円)のマンモス級巨大企業に成長してきている。創立当時から不動産開発を主業とする恒大集団の驚異的な急成長の背後にあるのは当然、1990年代半ばから始まった中国の不動産市場の急成長とそれに伴う不動産バブルの膨らみである。まさに恒大集団創立の前後において、中国では国家による住宅配給制度の廃止を骨子する住宅改革が実施された。そのことの結果、十数億の国民の多くが家を買って「不動産」を持つようになった。この巨大な需要を背景にして国内の不動産開発業がゼロから興って、中国経済を支える一巨大産業に成長してきた。そしてそれに伴って、中国版の不動産バブルは信じられないほどのレベルにまで膨らんできているのである。恒大集団はまさにこのような時代の流れの中で急成長を成し遂げたから、ここではまず、「恒大危機」の背後にある、中国の不動産開発業の成長と不動産バブルの実態を、一連の数字を通して見てみよう。
中国経済の支柱、不動産開発
中国の不動産開発業は以前から、「中国経済の支柱産業」だと呼ばれているが、実際の数字を見てみるとまさしくその通りである。例えば2019年、中国全国で行われた不動産投資の総額は13.2兆元にも上って、当年度の中国の国内総生産(GDP)の13%以上を占めている。一国の国内総生産の十数%が不動産投資によって創出されているとは世界の経済史上で稀に見る奇観であって、不動産業は「中国経済の支柱産業」だと呼ばれる所以はまさにここにある。日本の場合と比べてみれば、中国の不動産業がどれほど巨大化しているかが良く分かる。2019年の中国の不動産投資総額が13.2兆元であることは前述の通りだが、それを今の為替レートで日本円に換算すれば何と226兆円、世界第3位の経済大国日本の国内総生産の4割以上に相当するものである。ちなみに、2019年度における日本全国の商業用不動産投資の総額が4兆1441億円であって、同じ年の中国の不動産投資のわずか2%程度である。言い換えれば要するに、中国はこの1年間、日本の50倍の不動産投資を行って高層ビルや住宅を作った訳である。そして2022年には、中国全国の不動産投資総額はさらに増えて14.14兆元(約242兆円)に上った。問題は、年々のようにこのような莫大な不動産投資を行うと、住宅を含めた国内の不動産の総量がいずれか需要を超えて過剰になるのではないのか。実際、すでに建造済みの住宅はおよそ34億人の居住需要を満たすほどの量になっている、というびっくり仰天の数字が近年では国内で広く流布されている。それは政府の発表した公式の数字ではないが、見識者・ジャーナリストなどが中国経済を論じる際に普通に使う数字の1つとなっているから、おそらく実態に近いものであろう。中国の不動産市場はすでに、国民の実際の住居需要をはるかに超えた超飽和状態となっていることがおよその事実である。
投機によって膨張を続ける
そうすると次の問題は要するに、住宅がそれほど余っているのに、どうして不動産投資は依然として伸びているのかであるが、その理由は実に簡単である。この二十数年間、富裕層は言うまでもなく、普通の公務員でもサラリーマンでも皆、自分の住む家以外に、持ち家や分譲住宅の2軒目、3軒目をまさに投資あるいは投機のために買っておくからである。実際、筆者の国内の親戚や友人は皆同じことをやっているから、今の中国では、不動産の2軒、3軒を持っていない人はまさに「人にあらず」という雰囲気である。つまり今の中国の不動産市場は完全に、実際の住居需要とはほぼ無関係の投資・投機市場となっているのだ。その一方、投資・投機が盛んになっていることの背後にあるのは不動産価格の継続的上昇であり、そして投資・投機的購買行為はまた、不動産価格を上昇させる大きな原動力ともなっている。そしてそのことの結果、中国の不動産価格はすでに、信じられないほどのレベルまでに高騰してきている。例えば、住宅平均価格が年収の何倍かを示す数値を見てみると、東京やニューヨークは普通9〜14倍であるのに対し、上海ではそれが59倍、深圳や北京でも50倍を超えているという(如是金融研究院)。「年収50倍」は、日本の普通のサラリーマンの感覚からすればおよそ数億円の大金になろうが、中国の上海では、普通の人が普通の住宅をこのような価格で買わざるを得ないのである。
中国の金融安全を脅かす灰色のサイ
投資と投機によって不動産価格がそれほどまでに高騰している状況は、まさに不動産バブルであり、バブル以外の何ものでもない。というよりもむしろ、今の中国の不動産バブルの規模と「バブル度」は、1980年代の日本とリーマンショック以前のアメリカのそれをはるかに超えていると言って良い。史上最大の不動産バブルは今の中国で膨らんでいる最中である。それほどの不動産バブルは、金融機関からの借金で成り立っている面がある。2021年6月末時点で、中国の各金融機関が不動産向けに行った融資の残高が50兆7800億元(約873兆円)に達している。それは過去10年で約5倍に膨らみ、中国の国内総生産(GDP)の約半分に相当する規模になっている。つまり中国の不動産バブルは金融バブルの上で成り立つものであるが、これに対して大変な危機感を覚えたのは中国の金融行政である。日本の失敗経験からも分かるように、金融機関からの融資を頼りにした不動産バブルが一旦崩壊すれば、それは金融機関と金融業全体に多大な打撃を与えるからである。2020年11月、中国金融行政のトップに当たる人物の口から、不動産バブルに対する警告の言葉が発せられた。中国人民銀行党委員会書記・中国銀行と保険業管理監督委員会主席の郭樹清氏はある経済関連のフォーラム席上、「不動産バブルは今、わが国の金融安全を脅かす最大の“灰色のサイ”となっている」と発言したのである。「灰色のサイ」というのは中国では近年に強く使われる言葉の一つである。動物のサイは普段は大人しくして見えるが、一旦暴発したら何をするかが分からない。郭樹清氏はこの比喩的言葉を使って語ったことの意味は当然、中国の不動産バブルが一旦弾けていたら、それが恐ろしい破壊力を持って金融を襲ってくることである。そして2020年3月、上述の郭氏はさらに、「多くの人々が住むためではなく投資・投機のために不動産を購入、極めて危険だ」と発言して、バブルを作り出した投資・投機的な不動産購入に警告を発した。それでも人々が彼の警告にいっさい耳を貸してくれなかったのか。今年の6月10日、業を煮やした郭主席はやがて、「不動産価格が永遠に下がらないことに賭けている人々は大きな代価を払うこととなろう」と、まるで恫喝のような強い言葉で再度の警告を発した。もちろんそれは当然、金融安全を守る視点からの、不動産バブルの膨らみに対する中国政府の強い危機感の現れである。
3条件融資規制、そして恒大の転落
不動産バブルにそれほどの危機感を募らせていると、政府としては当然、さまざまな政策手段を用いて不動産バブルの抑制に躍起になっている。2軒目の不動産購入に対する制限は全国各地で以前から実施されているが、政府の制限措置はやがて、作る方の不動産開発業者に向けるようになった。中国人民銀行(中央銀行)は20年夏、大手不動産会社に対して守るべき財務指針として「3つのレッドライン」を設けることにした。それは順番に、1.総資産に対する負債(前受け金を除く)の比率が70%以下、2.自己資本に対する負債比率が100%以下、3.短期負債を上回る現金を保有していること、の3つである。この3つの条件を満たさない開発業者に対しては融資の制限を行うのは人民銀行の新たな政策措置のポイントである。実は、この「3つのレッドライン」の設定こそは例の恒大集団の転落の始まりである。今までの不動産バブルにおいて、恒大集団はずっと、借金して不動産を作って事業拡大を図り、さらに借金して以前の負債を返済しながら事業拡大をやるという「負債経営」の路線を走ってきているが、このようなビジネスモデルが成り立つ前提は2つがある。1つは作った不動産は常に高値で売れること、もう1つは金融機関からお金を常に借りられることである。しかし、2020年あたりから流石の不動産バブルにも陰りが見え始めた。不動産の分譲物件が売れなくなったり価格が下落したりする現象は全国各地で見られて、恒大集団の不動産販売も一部では以前の勢いを失った。そしてその中で、人民銀行が上述の「3つのレッドライン」を各不動産業者に突きつけてくると、恒大集団は直ちに窮地に立たされた。当該集団の場合、この「3つのレッドライン」の1と3をまったく満たしていないため、金融機関による融資制限の対象になったからである。それ以来、恒大集団の資金繰りはだんだん苦しくなって、今や債務の不履行で生きるか死ぬかの岐路に立たされているが、実は目前の「恒大危機」は単なる恒大1社の問題に止まらずにして、それは見事に、長年の中国不動産バブルの崩壊を兆すような歴史的大事件となりうるのである。
背筋が寒くなる不動産販売の減少
ここでは一度、今年に入ってからの中国の不動産市場に関するさまざまな数字を見てみよう。まずは今年1〜8月、国内各金融機関の不動産業者への融資は前年同期比で6.1%減となったこと、全国で不動産業者による土地購買面積は前年同期比で10.2%減となったこと、そして着工面積は3.2%減となったことは記しておくべきであろう。不動産業者に対する金融規制の強化や不動産市場の冷え込みがそこから見えてきている。今年8月、全国住宅販売面積は前年同期比で17.6%減となった、というショッキング的な数字は最近出ているが、盛夏の季節とは裏腹に、不動産市場の冷え込みがより一層進んでいる。そして9月下旬になると、9月19〜21日という「中秋節」を挟んで3連休の不動産販売の実績が関係者に背筋の寒さを感じさせるのに十分である。例年では不動産がよく売れたこの3連休では、北京市内住宅販売面積は前年同期比で64%減、上海69%減、深圳49%減、蘇州75%減、福州81%減と、全国大中都市では不動産の販売面積は平均にして7割も激減したわけである。これは明らかに、「恒大危機」からショックを受けて投資・投機者たちが一斉に不動産市場上から手を引いてしまったことの結果であるが、このような状況は今後も続いていれば、不動産市場の冷え込みは極限にまで進んでいくこととなろう。そして不動産が徹底的に売れなくなると、恒大も含めて大量の負債を抱える国内の不動産開発業者たちは資金繰りがますます苦しくなってデフォルトの危機にさらされることとなるが、生きていくためには彼らは、手元にある不動産在庫を値下げして売り捌くしかない。そしてそれが、不動産価格の急速な下落を招くのは必至のことである。そして不動産全体の価格が一旦下落する方向へ向かうと、2軒目・3軒目の不動産を財産として買っておく全国のサラリーマンや公務員たちは黙って見守ることは絶対しない。毎日座っているだけで自分の財産が減っていくこととなるである。そうなると、今までの不動産バブルを支えてきた彼らは一斉に物件を売り出して逃げるのかもしれない。そしてそれは間違いなく不動産価格の暴落を招き、不動産バブルの崩壊となるのである。その際、中国政府は例えば「不動産売買禁止令」を出して不動産市場を凍結することによって価格の暴落を止めることもできるが、しかし不動産市場の凍結はすなわち不動産市場の死。そして不動産市場が死んでいれば、中国の国内総生産の十数%を占める不動産開発業も死んでしまうのである。

●中国恒大の株価乱高下、ドル建て債利払いが再び遅延の恐れ 9/30
30日の香港株式市場で、経営危機に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団が乱高下している。米国時間29日の期日までにドル建て社債の利払いが実施されないのが確実となっており、先週に続く遅延となる。来月には追加で1億8000万ドルの利払い期限が控える。
株価は高く寄り付き、一時5.21%上昇したが、その後下げに転じて7.17%まで下げ幅を拡大した。恒大グループの不動産管理会社、恒大物業集団は4.2%下げた後、下げ幅を0.6%まで縮めた。電気自動車(EV)部門の中国恒大新能源汽車集団は19.4%急落。直近は8.6%安となっている。
29日は2024年3月償還のドル建て社債(表面利率9.5%)に対する4750万ドルの利払いの期日だった。オフショア市場の同社債の保有者は匿名を条件に、アジア時間30日午前時点で、恒大から何の情報もないと明かした。米国時間でも期限は迫っている。
BCAリサーチの中国担当チーフストラテジスト、ジン・シマ氏は調査ノートで「債務がどのように再編されたとしても、恒大の株やオフショアドル建て社債の保有者は大規模な損失を被ることになる」と指摘した。
同社は先週23日が期限だった8350万ドルの利払いも実行していない。
23日と29日が期日の利払いはどちらも、30日間の猶予期間が設けられている。
恒大はさらに、10月30日までにオフショア市場で1億6238万ドルの利払いと人民元建て債に対する1億2180万元(1884万ドル)の利払いの期日を迎えることになる。

●マラソン・アセット、中国恒大債を購入−「確実なチャンス」とCEO 9/30
ディストレスト債が専門の米資産運用会社マラソン・アセット・マネジメントは、債務危機に直面する中国の不動産開発会社、中国恒大集団の社債を購入している。共同創業者のブルース・リチャーズ最高経営責任者(CEO)がブルームバーグテレビジョンとのインタビューで明らかにした。
リチャーズCEOが29日語ったところでは、マラソンは中国恒大集団の社債を初めて今週買い入れ、今の低い価格で購入を続ける方針だ。29日の米高利回り債市場で、2023年満期の中国恒大債(表面利率10%)は額面1ドル当たり23.875セントと、2.375セント安で取引された。
同CEOは、中国恒大が当面の債務の支払いを一部行うことで問題を「先送りする」しようとするかもしれないが、最終的には再編が必要になるだろうと発言。住宅購入者とサプライヤー、中国の債券保有者がオフショア投資家より先に支払いを受けるとの見通しを示した。
リチャーズ氏は中国恒大から「確実にチャンス」が生まれていると指摘し、「それは中国と同国の住宅市場、これに依存するセグメント全体にとっての問題だ。関係する多くの仕事、多くの取引が存在する」と語った。

●中国恒大、広東省で建設作業再開−約20の住宅プロジェクト 9/30
資金難が続く中国恒大集団の本土不動産部門、恒大地産集団は、広州や仏山、汕頭など広東省の都市で約20件の住宅プロジェクトの建設作業を再開した。同社がソーシャルメディア「微信(ウィーチャット)」への投稿で発表した。広東省の住宅購入者に住宅引き渡しを7月から開始したことも明らかにした。

●中国SNS微信、恒大債権者のグループチャットを制限 9/30
中国の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)が運営する対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で、経営危機に陥っている不動産開発大手、中国恒大集団の債権者が利用する少なくとも8つのインスタント・メッセージング・グループの機能が制限された。
グループのメンバーが明らかにした。
各グループには約200−500人が参加し、請求や抗議活動について議論していたが、28日午前から新しいメッセージを送れなくなったという。
中国恒大を巡っては、住宅購入者や個人投資家がここ数週間、複数の都市で抗議活動を展開。多くの債権者がウィーチャットなどのソーシャルメディアを通じて不満を訴えている。
ウィーチャットのユーザー2人によると、29日には「関連規則に違反したため、このグループに制限が加えられました」とのエラーメッセージが出た。
別のユーザー3人は、ウィーチャットのアプリからグループが削除されたと証言。別の2人はグループにアクセスできなくなったと述べた。
テンセントはコメントを控えている。中国サイバースペース管理局(CAC)のコメントは取れていない。
グループのメンバーだった2人の元には26日、法執行当局の関係者が訪れ、集会参加など違法行為に関与しないとの誓約書への署名を求められたという。

●中国恒大、ドル建て債の利払い再び遅延 9/30
経営危機に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団のオフショア債保有者の一部が、期日の米東部時間29日深夜までに利払いを受けられなかったことが分かった。事情に詳しい関係筋2人がロイターに明らかにした。利払いの遅延は今月2回目。
29日は2024年3月償還のドル建て社債(表面利率9.5%)に対する4750万ドルの利払いの期日だった。恒大は先週23日が期限だった8350万ドルの利払いも実行していない。恒大の広報担当者からは今のところコメントを得られていない。 
 
 
 

 

●中国恒大集団、外国債の利払いを再び見送り 10/1
重債務に陥っている中国の不動産大手・中国恒大集団が9月30日、外国投資家向けの債権の利払いを再び見送った模様だ。中国恒大集団は29日に4750万ドル(約53億円)を支払う予定だったが、ロイター通信やブルームバーグが取材した投資家らは、支払いがなかったと語っている。投資家との合意により、中国恒大集団が正式に債務不履行(デフォルト)になるには30日間の猶予がある。この件について、中国恒大集団は正式なコメントを発表していない。かつて中国随一のディベロッパーだった同社は、現在3000億ドル超の債務を抱えている。一方で、社会不安への懸念から、中国国内での投資商品の利払いを優先しているという。
先週も利払いを見送り
ディベロッパーとしては世界最大の債務を抱える同社の危機に、世界の株式市場が注目している。中国恒大集団は先週、外国債の利払い8350万ドル相当を見送った。しかし、国内投資家への3590万ドルの利払いの期限も同時に迎えていた。29日は、同様の外国債の利払い期限だった。ロイター通信によると、中国恒大集団の債権所有者にはこの件について、支払いも連絡もなかったという。ブルームバーグが取材した債権所有者も、30日朝になっても支払いはなかったと話している。一方で中国恒大集団はこの日、国内のリテール商品の元本10%の支払いを行った。
銀行株を大量売却
中国恒大集団はこれまでに3000億ドル以上の債券を発行し、中国最大規模の企業に急成長した。しかし中国政府が、大手ディベロッパーが借入できる金額を制限する法律を導入したのをきっかけに、同社は事業継続のために不動産を割引して提供するようになった。そして現在、債権の利払いが難しい状況となっている。資金繰りに奔走する中国恒大集団は今週に入り、商業銀行の保有株式15億ドル相当を売却すると発表した。投資家らは、同社がさらなる混乱を引き起こしながら破綻(はたん)するのか、管財人の管理下で解体するのか、それとも可能性は低いものの、中国政府による救済措置が実施されるのか、事態を注視している。

●中国恒大問題は習体制の縮図、絶対統治の前触れか 10/1
中国の温家宝前首相は14年前、中国経済は「不安定で不均衡、協調が取れておらず、持続不可能」だと述べた。中国がいずれ巨額の不動産バブル、過剰投資、債務の過剰蓄積、ぐらつく信用システムに悩まされることを温氏が予見していたかどうかは定かでないが、これらは現実と化した。
経営危機に見舞われた不動産開発企業、中国恒大集団は長年、こうした不均衡の交差点に立っていた。習近平国家主席は同社が危機に陥るお膳立てをしたことにより、困難に正面から立ち向かう覚悟を示した。中国のバブル経済がはじけると、習氏による絶対統治という新たな経済体制がそれに取って代わるだろう。
世界金融危機の前、中国の経済成長を押し上げていたのは輸出の急増と、それに関連する工場・製造業への投資だった。リーマン・ブラザーズの破綻後、中国政府は借金による巨額の景気刺激策を発動。その後数年間、とどまることを知らない投資と与信の拡大が中国経済をけん引した。このブームの中心にあったのが不動産市場だ。中国の不動産は幾多の難局を乗り越え、「無敵」の評価をものにした。昨年出た本のタイトルにもある通り、「決してはじけないバブル」だったのだ。
ほとんどの中国高官らと異なり、習氏が不動産市場の高騰に心を奪われることはなかった。不動産ブームは質の低い、もしくは「架空の」成長をもたらす、と習氏は述べた。ここ数年、中国の投資リターンは急低下し、成長率の伸び(1人当たりの生産)は2007年水準の半分に下がった。習氏はまた、不動産ブームは社会を分断させるものだと見なした。土地開発は、習氏が根絶を目指す公務員の汚職をあおった。住宅価格の上昇により格差が悪化し、若者は住宅に手が届かなくなった。世界の土地成り金の約半分は中国出身者だ。投資家が所有する何万件もの物件が空き家のままとなっている。
昨年のパンデミックで、中国の住宅市場は過熱した。政府はここに至って「三条紅線(三本のレッドライン)」と呼ばれる規制を導入し、不動産開発業者の債務に制限を課した。これが最終的に恒大を瀬戸際に追いやることになる。
住宅販売は最近急減した。これは危うい動きだ。キャピタル・ダイアレクティクスのスチュワート・ペーターソン氏によると、中国の住宅の総価値は国内総生産(GDP)の約3.7倍に達する。中国の債務は大半が不動産を担保としている。経済活動の3分の1近くが直接、間接に不動産開発に関係している。
深刻な不況を招かずに不動産バブルをしぼませることに成功した国はない。多くは金融危機も併発する。現在の中国は、30年前の日本のバブル崩壊と重なる部分が多い。中国の不動産総額の対GDP比は、日本の1990年代のピークとほぼ一致する。中国における信用拡大は、日本の1980年代よりも極端だ。日本は利上げによって投機ブームが収束。厳しい金融危機が訪れ、「失われた10年」に苦しんだ。労働人口の減少がデフレ圧力に拍車をかけた。今日の中国も同様の苦境にある。
しかし中国政府は、日本よりもバブル崩壊の影響をうまく管理できると信じている。おそらく国営の開発業者と地方政府が恒大などの業者から住宅プロジェクトを引き継ぐだろう。不良債権の処理方法が契約法にのっとり決まることはない。不良債権は中国の不透明な信用システムの中をあちこち移動し、誰が損失を吸収するかは当局が決めることになる。中国は対外債務が比較的少なく、この点は有利だ。
バブル崩壊によって中国経済が減速するのはほぼ間違いない。よく言われるように、中国共産党による支配は、経済成長の達成によって担保されている。しかし、習氏はGDP目標の達成よりも「共同富裕」と「強靱さ」に強い関心を抱いている。習氏の第一目標は経済ではなく国家の「再生」だ。その目的を達成するため、目先の経済成長を犠牲にする用意がある。習氏の政治基盤は強固なため、バブル崩壊によって最も苦しむ既得権益層に挑むことが十分可能だ。
しかも習氏には将来のビジョンがある。「2025年経済開発計画」は、人工知能(AI)からロボットまで多岐にわたる新技術で中国が支配的地位を確立する構想だ。国民の行動に報酬と罰を与える「社会信用システム」が、従来の信用システムを補完するだろう。暗号資産(仮想通貨)は排除し、代わりに中国人民銀行(中央銀行)が発行するデジタル人民元が従来の通貨を補う、あるいは取って代わる存在にさえなるだろう。経済のデジタル化も進む。そしてインターネットと数億台の監視カメラがもたらすビッグデータが習氏の監視社会を支える。
西側の投資家はさまざまな点を熟慮する必要がある。不動産市場の悪化は足元でデフレ的な影響をもたらす。投資主導の成長からの転換は、世界の原材料需要を減少させる。債務問題を和らげるために人民銀行が通貨の発行を増やせば――その可能性は高そうだ――人民元レートは下落するかもしれない。資本逃避も元安に拍車をかける可能性がある。それでも中国が安い余剰製品を大量に輸出すれば、貿易紛争が再燃するだろう。
中国は外国人投資家にとって、より危険な場所になりつつある。中国政府による情報技術(IT)企業や教育関連企業に対する最近の措置は、全ての中国企業が株主よりも国家の利益を優先せざるを得ないことを見せつけた。不良債権問題が持ち上がれば、最も貧乏くじを引くのは外国人債権者だろう。
ケ小平氏が1970年代に始めた「改革開放」以来、「チャイナドリーム」は蘇った。中国の巨大人口による需要が外国に多くの利益をもたらすという夢だ。しかし夢は今ついえた。代わりに習氏が語るのは「チャイニーズドリーム」、つまり国威を発揚し、習氏が党を完全掌握する集産主義者のプロジェクトだ。「中国の特色ある社会主義」は、旧弊な共産主義的様相を強め始めている。過去と違うのは、技術がもっと進歩していることだけだ。

●中国の「特殊な不動産信仰」は恒大危機で変わるか? 10/1
中国の不動産大手、恒大集団が経営危機に陥っている。中国を代表する大企業のニュースとあって、国内外で大きな関心を集めている。また、中国では長年、不動産価格は上昇を続けてきた。「不動産」は中国人にとって、非常に重要な財産である。それだけに、今回の騒動が不動産市場に与える影響を危惧する声が少なくないのだ。今回は中国ならではの特殊な「不動産事情」について紹介する。
恒大経営危機で高まる 「不動産バブル」崩壊の懸念
ここ数日、中国の不動産大手、恒大集団の経営危機問題について日本でも大きく報道されている。同社の負債額は1兆9700億元(約33兆4000億円)に上り、フィンランドの年間GDPを超えるほどの額であるといわれている。そのため、世界の主な金融市場で株価が一時急落した。当然のことながら、中国国内ではこの話題が大きな関心を集め、SNSでさまざまな意見が飛び交っている。
不動産は、常に中国人の生活の中心である。中国人民銀行の調査によれば、都市部に住む世帯の住宅保有率は96%に上るという。多くの中国人は、持ち家にこだわり、その方が「安心」だと考えている。それだけに、多くの人が今回の経営危機騒動に高い関心を持って、行く末を見守っている。
急速な経済成長を遂げた中国。これに伴い、都市部への人口流入が活発化した。そうした影響が、都市部の不動産価格を押し上げている。20年前に500万円で買ったマンションが、今では1億円を超えているというケースも決して珍しくない。20倍の価格上昇である。今、北京や上海などの都会では、築20年以上のボロボロのマンションでも1億円は下らない。ほかの投資手段に比べて、不動産投資はお金持ちになる一番近道であることを歴史がはっきりと証明しているのだ。
また、投資手段としてだけではなく、「持ち家があること」は中国人にとって一種のステータスだといえる。中国では「1人が家を買うため、6人のポケットからお金を出す」という言葉がある。つまり、我が子が家を買うために両親と祖父母6人から資金を出し合うのだ。家を買うというのは、それくらい、一家の一大イベントなのである。結婚の際は男性が持ち家を用意する習慣があり、お見合いの場では、まず「マンションを持っているか?」と質問される。
「持ち家信仰」が今も根強い中国では、マンションを持つことが多くの若者にとって一生をかけての夢である。住宅価格が平均年収の40倍を超えるほどに達していようとも、無理をしてローンを組み、家を買うのだ。「房奴」(住宅ローンの奴隷)という言葉が誕生するなど、不動産にかかる費用は中国で生活する上で非常に大きな重荷となっている。
不動産価格の高騰により物件が買えずに苦しんでいる人がいるだけでなく、すでに買った人も、もし失業してローンの返済ができなくなったら……と強い危機感を抱く。また、不動産を何戸も持っている人は、バブルが崩壊し資産価値が一気に下がることを懸念している。このように、中国では多くの人が不動産に翻弄されてしまっているのが実情だ。
「不動産」は主要な資産 偽装離婚して購入する人も
こうした中、政府は過熱した不動産市場を鎮静化すべく、2010年から度々制限政策を実施してきた。例えば、一世帯において現有の住宅以外の新規購入は1戸までと決められている。
しかし、こうした規制の目をすり抜けるように、「偽装離婚」をする人が続出。まさに「上に政策あれば、下に対策あり」といったところだ。
ただこの場合、購入が成功すれば復縁する人がほとんどだが、以前から夫婦間で何らかのもつれがあった場合、復縁せずそのまま別れる人もそれなりにいるという。愛情より不動産を選ぶ人も少なくない。
不動産価格の高騰は、多くの悪い影響をもたらした。不動産のための費用が家計を圧迫するケースは少なくない。家計に余裕がないため、たとえ結婚しても子どもを作らない夫婦もおり、少子化にも間接的につながっているといえる。
中国人民銀行が、2019年10月に全国30の省・市の3万世帯に行った調査によると、都市の世帯総平均資産は317.9万元(約5400万円)だった。資産の内訳を見ると、自宅の不動産は59.1%と約6割を占める。ちなみに、純金融資産はわずか20.4%だ。
また、負債を抱える世帯は56.5%に上り、そのうち75.9%は不動産ローンによるものだという。調査では、不動産を1戸(自分の住まい)所有している世帯が58.4%、2戸所有する世帯が31%、3戸以上は10.5%に上り、世帯平均の不動産所有数はおよそ1.5軒であることが明らかとなった。
これらのデータで示されているように、不動産は多くの中国人にとって最も重要な財産である。その価格の動向は、人々の生活を大きく左右する。
これまで筆者も度々体験してきたが、とにかく皆、不動産の話が大好きだ。友人や知人との集まりや数年ぶりの同窓会など、人が集まるときはまるで挨拶のごとく、「マンションを買った?」という話が出る。不動産情報を共有し、盛り上がるのだ。
余談だが、日本では勤め先企業名や役職などが人の成功を語る上での指標になることがよくある。一方で、中国ではもっぱら、その人が持っている不動産が話題に上る。「○○さんは、上海にマンションを〇戸持っている」「こんな高い物件を買った」「これだけ家賃収入がある」など……良い物件(資産)をたくさん持っている人が、成功している人とみなされる傾向にある。
マンションを買ってからも一苦労… 水回り、騒音トラブルも
また、「マンションを買う」までも一苦労なのだが、買ったからといって安心できるわけではない。買ってからもまた、大変なのだ。
中国の新築マンションは、一部を除き、内装工事が施されていない状態での引き渡しが一般的となっている。内装は、契約者自らホームセンターで建材を購入し、施工業者(地方からの出稼ぎ労働者が多い)に工事を依頼する。その上、自分自身が現場監督を務めなければならないのだ。これは施工業者が手抜き工事をしたり、建材を横領したりすることがないように監視するためだ。
そんなこんなで、ようやく家の内装が終わってめでたく新居に入居しても、なかなかくつろぐことができないというケースも多々ある。隣や上下の階で、内装工事による騒音が昼夜を問わず鳴り響くのだ。マンションの売買が活発化している中で、住人が変わる度にリフォーム工事が行われ、常にどこかしらで工事をしている……ということも珍しくない。騒音をめぐる住人同士のトラブルも日常茶飯事だ。
また、住宅の質が価格に見合っていないこともある。中国では、それほど年数がたっていないマンションでも、水道やトイレの配管が詰まったり、天井から水が漏れたりするなど、水回りのトラブルが絶えない。
今年5月、あるニュースが人々に衝撃を与えた。イノベーション先進都市として世界でも注目され、中国国内でも不動産価格の上昇がとりわけ著しい深センでの出来事だ。深センの南山地区にある超高級マンション群(1戸の価格2億円以上)で、連日の暴雨により、排せつ物が含まれる汚水が水道の配管を逆流。水を使った住民が、「シャワー後に、体から変な臭いがした。沸かした水を飲むときに異臭がしていた。下痢や湿疹の人が続出している」などと訴えたのだ。
ほとんどの住民が浄水器を使っており、なんとか臭いは抑えられたというが、それでも約1000世帯の住民たちが2カ月間も汚水を薄めた水を生活用水として使っていたと思うとゾッとする。
これ以外にも日本の不動産の常識と、中国のそれは大きく異なることが多々ある。例えば、中国の住居用マンションの土地は国が所有し、借地期間は70年とされている。また、マンションの販売価格は、建築面積で表すのが一般的だ。建築面積で100平方メートルの物件は、専有面積だと60〜70平方メートルほどになる。
一方で日本の場合は、土地の所有ができ、価格は専有面積で示される。当たり前のように感じられるかもしれないが、すでに内装が済んでいることも中国人にとってみれば、大変魅力的な要素の一つだ。日本の物件を見ると皆、「こんな品質でこの値段?安い!うらやましい!」と、口をそろえる。
“不動産神話”は続くか それとも途絶えるのか
今回の恒大集団の経営危機騒動を受け、中国の不動産バブルが崩壊したり、価格が下落したりすることを懸念する声は大きい。当然ながら、現在不動産を所有しており、価格高騰の恩恵にあずかってきた人たちはそれを望まないだろう。
深センでは先日、建設予定の2億円を超える高級マンションを契約した人たちが集団で不動産開発会社に解約を求めたという。表向きは建設計画と実態が異なっているという理由なのだが、SNS上では「不動産価格が上がると見込んでいたのに下がるなら解約したい」思惑があるのではないかと指摘されており、「わがまますぎる」と批判が殺到している。
多くの中国人たちは、「不動産価格は永遠に上がるものだ」という“不動産神話”を信じてきた。今回の騒動により、国民の夢は暗転してしまうのか、あるいはこの局面を乗り越えられるのか。緊張感のある日々が続いている。 

●シンガポール大手3行の恒大への保有債権を調査 10/1
シンガポールの金融規制当局は国内大手銀3行に対し、中国恒大集団へのエクスポージャーに関する情報を報告するよう求めたことが、事情に詳しい関係者の話で明らかになった。シンガポール当局も他国と同様に中国恒大の債務危機がもたらし得る打撃を警戒している。
非公開情報を話す権限がないとして匿名を条件に述べた同関係者によれば、シンガポール通貨庁(MAS、中央銀行)は先週、DBSグループ・ホールディングス、オーバーシー・チャイニーズ銀行、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)の3行に情報を要求した。関係者の1人は、これはMASによる定期的な銀行監視業務の一環だと話した。3行はいずれも中国本土と香港で業務を行っている。
DBSのピユシュ・グプタ最高経営責任者(CEO)は27日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、同行は中国恒大へのエクスポージャーはなく、同社の債務危機がアジアの銀行業界にとってシステミックリスクになるとは考えていないと述べた。
 
 
 

 

●恒大債権者の交流制限 抗議・団結封じ―中国当局 10/2
中国不動産開発大手・中国恒大集団の経営危機で、個人の債権者らが交流目的で利用するスマートフォンのアプリ機能が制限されたもようだ。アプリ上では恒大への抗議活動などに関して情報交換が行われていた。社会不安の増大に神経をとがらせる中国当局が、債権者の連帯や団結を封じようと規制に乗り出した可能性がある。
ロイター通信によると、制限が加えられたのはインターネットサービス大手・騰訊(テンセント)の人気対話アプリ「微信(ウィーチャット)」。恒大の債権者らがアプリ上に設定した少なくとも八つの「グループ」で、9月28日以降にメッセージを投稿できない状態となった。
これらのグループには200〜500人が参加。同じ境遇の者同士で、購入した住宅が引き渡される見込みの有無や、恒大の社債など金融商品の元利払いについて情報共有したり、抗議行動の実施計画を練ったりしていたとみられる。
しかし、制限後はアプリのグループにアクセスしようとしても、「関連規定に違反しています」と表示され、拒否。グループ自体がアプリから抹消されたケースもある。
また、グループに参加した2人を当局者が訪問。「いかなる集会や違法な活動にも参加しない」とする誓約書への署名を要求したという。
6月末時点で総額1兆9670億元(約34兆円)の巨額負債を抱えた恒大をめぐっては、債権者らが9月中旬ごろから、本社のある広東省深セン市など複数の都市で抗議を展開。ウィーチャット上でも多くの不満の声が上がっていた。一方、中国国内ではネット上に掲載された恒大関連のニュースが削除され、報道規制とみられる動きが出ている。

●中国恒大集団問題がリーマン・ショック級の金融危機になる可能性は? 10/2
経営破綻の危機に瀕している中国恒大集団。この問題を契機にリーマン・ショックのような金融危機に発展するのではないかとの声も一部でささやかれているが、実際のところ、どうなのだろうか?そんな「中国恒大集団問題」についてこのほど、三井住友DSアセットマネジメントが以下のレポートにてまとめた。
先週は、中国恒大集団の債務問題に対する懸念が強まり、主要国の株価指数が大きく下落する場面がみられた。恒大は1996年に広東省広州市で創業、その後の不動産ブームに乗り、従業員10人弱の小さな会社から国内の不動産開発大手へ急成長を遂げた。しかしながら、中国当局が2020年夏に「三道紅線」(3つのレッドライン)と呼ばれる不動産融資規制を導入したことを機に、経営環境が大きく変化した。3つのレッドラインとは、1総資産に対する負債比率が70%以下、2自己資本に対する負債比率が100%以下、3短期負債を上回る現金の保有、という3つの財務指針。これらを守れない不動産業者は、銀行融資の規模などが制限されることになる。恒大は複数の指針に抵触しているとされ、市場では融資規制による恒大の債務不履行(デフォルト)や経営破綻の警戒がくすぶっている。
恒大の負債総額は、取引先への未払い分などを含めると、1兆9,665億元(約33兆4,000億円)に達するとみられ、これは中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する金額だ。今月下旬以降、社債の利払いが集中し、年内の利払い額は社債だけでかなりの金額にのぼる見通し。また、2022年からは利払いだけでなく満期償還を迎える予定だ。なお、恒大の債務問題が、リーマン・ショックのような金融危機に発展するのではないかとの声も一部に聞かれるが、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングスによると、中国の銀行総融資額のうち、恒大向けは0.3%強にとどまるとのこと。そのため、仮に恒大がデフォルトに陥っても、中国の金融システム全体が動揺する恐れは小さいと思われる。
ただ、海外の投資家は、恒大の米ドル債を約195億ドル保有している模様で、特定の社債がデフォルトとなった場合への影響が懸念される。また、中国国内では、恒大の「理財商品」を保有する個人投資家が、償還を求めて抗議する動きもみられる。このほか、同業の不動産会社に債務問題が連鎖することも想定されるため、この先、信用リスクの広がりには注意が必要だ。なお、直近では、香港と米国の金融当局が、域内の金融機関に恒大向けの債権額を報告するよう求めたと報じられているが、これは信用リスクの顕在化に備えた動きと思われる。当面、恒大の債務返済状況や中国政府の対応が、市場の焦点になるとみているが、弊社は恒大について、債務再編は避けられないものの企業清算は回避され、中国当局は直接支援ではなく銀行を通じた間接支援で債務再編を支えると考えている。

●中国不動産バブル確実に崩壊「経営危機の中国恒大集団、破綻へ」 10/2
2021年10月、経営危機が叫ばれていた、中国恒大集団の破綻は確定した。負債総額は1兆9700億人民元(約33兆5,000億円)と見られている。中国政府は直接救済を見送り、間接的な部分的救済にとどまる見通しだ。9月30日に償還期日を迎えた個人投資家向け債権は、10%の金額を返金したと会社側は発表したが詳細は非公表だった。
専門家は「恒大集団は、地方政府から開発用地の使用権を購入して、マンションやリゾート物件を開発して急成長をし、約20万人の従業員を抱える大手グループになりました。途中までは順調でしたが、多くの中国国民に悪夢を見せる結果に終わりました。不動産価格は、必ず上昇すると信じた国民が、自ら住む住宅の他に、2軒目、3軒目のマンションを購入。転売して利ザヤを稼ごうとの投機目的だったのです。この3〜4年はその夢から目覚めた中国国民は、損切をして売却に走りました。多くの人が銀行ローンで購入していたため、値上がりが見込めないほとんどの物件は担保割れとなり、金融機関の不良債権はドンドン増える見込みです。ちょっと考えれば、少子化の中国で不動産価格が高騰すること自体、道理に合わなかったのですが。集団催眠・集団心理で、バブルの速さと大きさは日本以上でした。この20年で20倍以上に値上がりした極端なケースも。そこには日本同様に利益を確保したい不動産会社の優れたセールストークがありました。恒大集団の高利回り債権も6月ごろからは大口の買い手が見つからず、資金難に喘ぐ状況に陥り、恒大集団の社員や取引先にも、ノルマを課し購入者を探すように指示。それができなければ自ら購入するよう命じられていました。中国は、社会インフラの整備が遅れており、大雨が降れば各地で河川の氾濫、また電力不足での停電など。さらに大気汚染も深刻で不動産に魅力がある国ではありません。恒大集団の事実上の破綻は、中国不動産バブル本格崩壊への序奏で中国経済に大きな悪影響が出ると思われます」と話す。

●習近平にも嫌われて…「恒大集団」トップ、“成り上がりから転落”まで 10/2
中国の不動産最大手である「中国恒大集団」が経営危機に陥り、「第二のリーマン・ショック」が起こるのではないかと世界の市場関係者が固唾をのんで見守っている。
恒大集団の創業者である許家印氏(62歳)は、中国中心部・河南省の貧しい村で生まれた「成り上がり」だ。
奨学生として通った大学を卒業後、河南省の鉄鋼工場に就職するが、'92年に深センの貿易会社へと転職。'96年に10人足らずの仲間と恒大を創業する。低価格の分譲マンションに目を付けたことで、中国の民間不動産業者の先駆けとしてめざましい成長を遂げていった。
昨年の恒大集団の売上高は約12兆3000億円と、日本の三井不動産の6・5倍に上る。
「彼の経営の特徴は、カネをばらまいて現場を鼓舞する点です。かつて長江沿いのリゾートホテル建設の工期が遅れていた時、突然現場に現れて『工期が間に合えば作業員全員に臨時ボーナスを支給する』と演説したのです。
工期は無事に間に合い、約1万人の作業員全員に、約束通り3万元(約50万円)のボーナスが支給されました」(全国紙外信部のデスク)
大衆に対しては質素な暮らしをアピールしてきた許氏だが、接待用のメモがネット上に流出したことで、化けの皮がはがれてしまった。
「滞在するホテルに対し、フルーツは日本産など輸入品しか食べない、部屋の湿度は常に50%以下で保ち、専用のシガーボックスをセットしておくことなど、十ヵ条以上の要求を出していたことが明らかになったのです。
秘書やボディーガード以外の男性は自分に近づかせないなど、異常なこだわりとわがままぶりが露呈しました」(前出・外信部デスク)
「共同富裕」をテーマに格差解消を目指す習近平国家主席には、格好のターゲットだ。
「許氏は習氏の政敵である李克強総理との距離が近く、『異分子』として目を付けられていたようです」(同・デスク)
許氏が虎の尾を踏んだのは間違いない。「帝王」に成り上がった時以上のスピードで転落することは間違いなさそうだ。

●これは習近平の経済自爆戦術か、行き着く先は巨大な北朝鮮 10/2
9.23は越えたが1ヵ月後は?
共産主義中国の大手不動産会社である中国恒大の債務問題がここのところ世間を騒がしている。注目されていた9月23日の利払いについて、「一部支払いをする」と伝えられたが、実際に耳をそろえて返済したわけでは無いようだ。一部の債権者と「支払い猶予の合意」がなされただけで、その他の債権者に対してはそのような話さえ無いようである。このまま、30日間の猶予期間内に支払えなければ、正式に債務不履行(デフォルト)となる。少し前までは、負債総額が33兆円に及ぶとされる中国恒大は「大きすぎてつぶせない」から、習近平政権は「結局最後は救済する」との見方があった。しかしながら、現在の当局の対応を見ていると、この見方はかなり楽観的であったようだ。消息筋の話として「中国当局が地方政府に対し、中国恒大集団が経営破綻した場合に備えるよう要請した」との報道もある。これが確かであれば、習近平政権は中国恒大の救済に後ろ向きであり、同社の破綻は免れないということだ。たぶん、習近平政権は「秩序ある破綻」を目指しているのであろうが、私の知る限り「バブルが秩序だって破綻」したことは無い。大手金融機関や大企業が単独で破綻しても経済に波及しないことはしばしばあるが、それは「経済全体がバブルで膨れ上がっていなかった」だけにすぎない。振り返れば、2008年のリーマンショックから13年が経過した。過去、1997年のアジア通貨危機など、おおよそ10年単位での「通貨・金融危機」を我々は何回か目撃している。そのため、私は2017年頃から、かなり警戒感を持って市場をウォッチしている。これまでの数年間は「危機」と言えるほどの出来事は無かった。中国・武漢発のパンデミックは、社会・経済の危機であったが、金融・投資市場の反応はそれほどでもなく、バラマキで隅々までいきわたった資金で、市場が活況になったほどだ。むしろ、社会・経済の危機が落ち着いて人々が冷静になった時が「金融市場の危機」の始まりになるかもしれない。「市場の危機」がより大きな「パンデミックの危機」で覆い隠されていたというわけである。しかし、このバラマキによる「危機の先延ばし」がこれからやってくるであろう「本格的危機」を深刻化し、谷の底を深くすると考える。これまで世界中で超低金利政策がとられ、それに加えてパンデミック時のバラまきを行ったことで、これ以上の「金融緩和」による経済の下支えは困難である。9月27日公開「トヨタの半導体在庫の増加はデフレ経済の終わりを意味するか」、4月30日公開「いよいよ『大転換』の時代に突入…『インフレ』と『金利上昇』はすぐそこまで来ている!?」など多数の記事で述べてきた「インフレの脅威」が迫っている中では、むしろ金利を引き上げる必要に迫られる。そのような状況の中で、我々が警戒しなければならないのは、「習近平政権」が「意図的に中国経済を崩壊させ、その影響を世界に及ぼそうとしている」かのように見えることである。
意図的に中国経済を崩壊させている?
信じ難いことだが、現状を見る限り、習近平政権は意図的に「中国経済崩壊」を引き起こそうとしていると思える。中国恒大問題が、2008年のリーマンショックのように世界市場に壊滅的な打撃を与えるのか、それとも中国経済は「九死に一生」でなんとか命脈を保つのか、現時点では断定できない部分がある。だが、たとえ中国恒大が「秩序ある破綻」を迎えても、要は「問題の先送り」が出来るに過ぎない。3月29日公開「『金の卵を産むガチョウ』を絞め殺す習近平政権に未来は無い」など多数の記事で述べてきたように、「中国の抱える経済問題」は極めて根深いものであり、たとえ中国恒大の問題をクリアしても、次から次へと問題が噴出するからだ。しかし、「中国経済崩壊=習近平政権崩壊」という図式は必ずしも正しい考えではないと思う。確かに、中国恒大の問題については、習近平政権における事の重大性の認識が足りない可能性もある。リーマンショックの際も、「リーマン1社くらいつぶしても大丈夫だろう」という米政府・金融当局の甘い判断が惨劇を招いた。だが、これまでの習近平政権の「アリババを始めとする国内民間企業へのバッシング」や「テスラをはじめとする外資系企業への嫌がらせ」などの政策を見ていると、習近平政権は「意図的に中国経済を崩壊させている」としか思えないのだ。
経済の繁栄よりも「政治闘争」
考えられる目的のひとつは、江沢民派(浙江財閥)などの徹底的な粛清である。江沢民派がケ小平の改革・開放路線を受け継ぎ、2019年1月9日公開「客家・ケ小平の遺産を失った中国共産党の『哀しき運命』を読む」で述べたように「中国の繁栄の最大の貢献者」であることは、習近平政権にとって「不都合な真実」である。だから、彼らが築き上げた経済的繁栄もろとも葬り去ってしまおうと考えているのではないだろうか? もちろん、それにより習近平派は返り血を浴びるどころか、跳ね返った刀で自分自身の肉まで傷が達するかもしれない。だが、彼らは「国営企業」を中心とした「国家主導の計画経済」によって共産主義中国を再び盛り立てることが可能だと考えている節がある。非効率な国営企業(計画経済)はすでにソ連邦を崩壊させているだけではなく、毛沢東時代の中国が北朝鮮よりも貧しかった原因でもある。しかし、それでも「習近平氏の言うことを聞かない民間エクセレントカンパニーよりも、言いなりになる国営ボロ会社」の方が望ましいと考えているのであろう。極度に中国が貧しかった大躍進・文化大革命時代の毛沢東の権力は絶大であったし、同様に世界の最貧国の一つである北朝鮮は、金一族が3代にわたって絶対権力をふるい、自分たちだけが喜び組を侍らせぜいたくの限りを尽くしている。毛沢東回帰を明確に宣言している習近平氏が「国民を貧しくしても、自らの権力を拡大する」路線を突き進むのはある意味当然だ。
中国がすでに世界に組み込まれている
そのような「習近平の中国」がかつての毛沢東「冷戦」時代のように竹のカーテンを引いてくれれば、日本は一安心である。実際、毛沢東時代の中国はそのような状態であり、日本に大した害は及ぼさなかった。毛沢東時代の中国は、1971年のキッシンジャーの中国訪問、72年のニクソン大統領の訪中を経て、79年のカーター大統領の時に国交がようやく正常化されている。貿易どころか、米国との国交さえなかったのであるから、日本を含む世界経済に与える影響はほぼゼロと言ってよかったのだ。1978年末頃から改革・解放が始まり、2001年のWTO加盟によって中国経済が世界に組み込まれることになった。これは、毛沢東時代と異なった極めて、日本や世界にとっての深刻な事態である。
CPTPP加盟申請の本当の意図は?
そして、突如共産主義中国からCTPTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、いわゆるTPP11)への加盟申請が提出された。もちろん、共産主義中国は、加盟条件など殆ど満たしていないから笑止千万なパフォーマンスとも言える。あるいは9月22日夜に加盟申請を発表した台湾の動きを察知した先制攻撃かもしれない。だが、思い返すべきは、2001年に中国がWTOに加盟したときもきちんと条件を満たしていたわけではなく「将来条件を満たすという約束」によって加盟が認められたということだ。その後20年たつがこの約束は完全に反故にされていると言ってよい。この悪しき先例と、中国がお得意様であるマレーシアが加盟を支持し、シンガポールも歓迎の意思を表明したことには要警戒だ。さらには、ベトナムも加盟支持の立場のようだ。このCPTPP加盟問題については、「習近平が目指すのは朝貢貿易か? 中国TPP加盟という暴挙を認めるな」を参照いただきたいが、自らが加盟することよりも、中華民国(台湾)の加盟を阻止し、CPTTPでの先進国の自由貿易の発展を(政治闘争を持ち込むことによって)阻害することが本来の目的と考えられる。共産主義中国自身が加盟しなくても、マレーシア、シンガポール、さらにはベトナムなどを通じてCPTTPを操ることができると習近平政権は考えているのであろう。繰り返すが、彼らは加盟し貿易の発展によって豊かになろうと考えているのではない。世界の中で中国だけが貧しければ、習近平政権の基盤が揺らぐが、世界全体が貧しければ習近平政権は安泰だ。だから、TPPに加盟して「世界経済を中国と一緒に奈落の底に落とす」のが目的だと考える。中国恒大をはじめとする中国の国内経済政策も、その発想の延長上で行われていると考えてよいだろう。
世界銀行よ! お前もか!?
世界銀行が9月16日、毎年公表していた「ビジネス環境ランキング」で中国の順位が不正に引き上げられるなどの操作があったと発表した。その当時、世銀の最高経営責任者だったクリスタリナ・ゲオルギエバ国際通貨基金(IMF)専務理事も関与したとされている。しかし、これはあくまで氷山の一角だと考えられる。例えば、中国に恭順の意を示すように見える韓国の潘基文氏が事務総長を務めた国連。そして武漢研究所かもしれないウイルス発生源特定を妨害したと言われるWHOのテドロス氏。さらには、まともな証拠もなく「南京大虐殺」を世界記憶遺産に登録したユネスコなど、多くの国際機関に共産主義中国の影響が及んでいると考えられる。さらに、2001年に加盟したときの「約束」を事実上反故にしたままでWTOに居座ることができるのも、共産主義中国の影響の大きさを物語る。このような国際機関への強大な影響力を駆使し、「自爆覚悟」のテロ攻撃で、「世界経済を破綻させ、その混乱に乗じて共産主義中国が覇権を握る」のが目的であるとしたら、これほど恐ろしいことはない。中国が「巨大な北朝鮮」となり、「核ミサイル」ならぬ「(経済)破綻ミサイル」で世界を脅迫するということだ。
バイデンのアメリカでは勝てないかも
このような習近平氏に対して、「バイデンのアメリカ」は、一族の汚職・選挙不正疑惑に始まって、8月21日公開「サイゴン陥落のデジャブ『アフガン大返し』でバイデン3日天下?」で述べた大失態を演じた。さらには、米軍トップであるマーク・ミリー統合参謀本部議長が、「大統領に内緒で」中国の李作成参謀長(中国共産党中央軍事委員会連合参謀部)に2度の極秘通話で、「米国は中国を攻撃しないと約束」していたことが明らかになり、全米が騒然となっている。しかしながら、ジョー・バイデン氏はミリー氏に対して、「絶大な信頼」を寄せていると「寝言」を述べている。米政府が極秘裏に個人のインターネット利用や通話の記録を収集していた問題を暴露した、米国国家安全保障局 (NSA) および中央情報局 (CIA) の元局員であるエドワード・スノーデン氏は、国家反逆罪に問われる可能性があるが、彼が暴露した米政府の行為そのものにも問題があったのは否定できない。しかしミリー氏の場合は、暴露された内容が真実であれば、「上官である米国大統領の意図に逆らって、密かに敵国と通じていた」のであるから、当然反逆罪となる。辞任程度で済む問題ではない。このような、大混乱の「バイデンのアメリカ」の足もとを見るように、「(経済)破綻ミサイル攻撃」を習近平氏が仕掛けてくると考えるのは、杞憂なのだろうか?  
 
 
 

 

●中国恒大集団、投資顧客に元利金10%のみ支給、返済問題解決せず 10/3
350兆元にわたるの負債を抱えて債務不履行危機に追い込まれている中国2位の不動産開発会社恒大集団は、銀行融資や債券利息のほか、金融子会社を通じて販売した投資商品の元利金の大半を、顧客らに支払うことができなかった。
1日、第一財経などによると、恒大集団の金融系列会社は、満期の投資商品保有者に元利金の10%だけを支払い、残りの90%は支払うことができなかった。
恒大集団は子会社を通じて高い収益率を提示したファンドと類似の金融投資商品を売って確保した資金で、各自の建設プロジェクトや電気自動車など新事業分野に投資してきた。 中国金融当局の厳格な統制権の外にある「影の金融」の領域にあたる。
最近、恒大集団は資金事情が急激に悪化し、先月30日、満期が到来した商品から正常な返済ができなくなったと宣言した。恒大集団は顧客に元利金10%だけを優先的に支給し、残りの金額は順次支給するか、建設中のマンションや商店街など現物で代替するという計画を明らかにしている。
恒大集団は先月から、一部銀行の融資利子もきちんと払えずにいる状態だ。恒大集団は先月23日と29日に予定されているドル債券利子8350万ドル、4750万ドルが支払えずにいる。
恒大集団は先月29日、保有している盛京銀行の持分19.93%を国有企業に売却する契約を交わしたと明らかにした。 しかし、この資金の全額は盛京銀行から受けた融資の返済に使われ、結果的に当面の債権利息の返済問題の解決には役立たなかった。
一方、市場では国有企業の盛京銀行持分の買収をきっかけに、中国当局が事態を管理するという意志を示唆し、無秩序な金融リスクの転移へと拡大する最悪の状況が発生する可能性はやや低くなったという見方が出ている。 

●香港の銀行、中国恒大へのエクスポージャー「ごくわずか」 10/3
債務危機に見舞われている中国恒大集団への香港の銀行セクターのエクスポージャーは「ごくわずか」であり、「いかなるシステミックリスクも引き起こすことはない」と香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が陳茂波(ポール・チャン)財政官の発言を引用して伝えた。
香港の銀行セクターの中国恒大へのエクスポージャーは全体で約140億香港ドル(約2000億円)で、合計資産の0.05%だという。同財政官によると、香港当局の認可を受けた金融機関が有する資産は6月21日時点で26兆5000億香港ドル。
システミックリスクを懸念する香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)は域内の金融機関に対し、巨額の負債を抱える中国恒大へのエクスポージャーを報告するよう求めたと、ブルームバーグが先週、事情に詳しい関係者からの情報を基に報じていた。
 
 
 

 

●中国恒大は前座!後に控えるリーマン級危機に世界は対処できるのか 10/4
中国恒大は氷山の一角
中国恒大問題については、10月2日公開の「これは習近平の経済自爆戦術か、行き着く先は巨大な北朝鮮」や9月29日公開「習近平が目指すのは朝貢貿易か? 中国TPP加盟という暴挙を認めるな」4ページなどで、たびたび触れてきた。本稿執筆時点では、まだ9月23日に実行すべきであった利払いの猶予期間である30日が経過していないので断定はできないが、債務不履行になる公算が高いと考える。前記記事で述べたように、習近平氏は、「わざと中国経済を崩壊させて、世界貿易などを通じて他の国に「(経済)破綻ミサイル攻撃」」を行おうとしているのではないかと考えるからだ。しかし、私の見立てが杞憂であって、「習近平政権は全力で中国経済の崩壊を食い止めようとしている」場合でも、結局結果は同じであると考える。問題は中国恒大だけにあるのではない。日本の1980年代バブル期と同じように、ほとんどの中国の不動産会社が身の丈に合わない事業拡大をおこなっており、それらの企業群の危機も控えているから、中国恒大だけを救済しても焼け石に水に過ぎないのだ。天を覆いつくす風船のように膨れ上がった中国の不動産業界全体を救済することなど到底不可能であり、たとえ習近平政権がバブル崩壊を恐れているにしても、救済せずに「秩序ある崩壊」に導くしかないと言える。だが、政府があの手この手で「秩序ある崩壊」を実行することなど簡単ではない。しかも、市場原理を無視し「毛沢東路線回帰」を鮮明にしたうえで、「経済よりもイデオロギー優先」の習近平政権が、そのような高度な技を披露できるはずもない。さらに、中国恒大集団傘下でEVの開発・生産を手掛ける中国恒大新能源汽車集団は、9月24日、迅速な資金注入がなければ資金繰りが破綻すると発表した。この自動車会社は、EVブームに乗っただけの(実質的な機能が無い)単なる「見せかけの箱」とも評される。それにも関わらず、今年の春には米国フォード・モーターの時価総額を抜いていたとも伝えられるのだ。不動産だけではなく、あらゆる分野のバブルが崩壊しつつあるのが、共産主義中国の実態である。また、中国当局が暗号資産(仮想通貨)に関連する全ての取引と採掘(マイニング)を禁止すると発表している。この理由については、色々と論評されているが、真の狙いは「人民元(国内資金)の持ち出しをストップさせる」ことにあるのではないだろうか? 「上に政策あれば下に対策あり」が中国の伝統だ。民間企業たたき、外資系いじめ、さらには「経済崩壊黙認」の習近平氏の「政策」に対して、庶民が「国外への資金持ち出し」という「対策」をかなり積極的に進めているのだと考える。また、中国恒大の米ドル建て社債の利払いが行われていないのは、実は公式統計では潤沢にあるはずの(米ドル)外貨準備が、(巷でうわさされるように)枯渇しているからなのかもしれない。中国恒大問題は、中国経済崩壊を知らせる「坑道のカナリア」のような気がする。
中国恒大は何匹目のゴキブリか?
4月20日公開「『ドルが紙くずになるかもしれない』時代に考えるべき、これからの金の価値」で、アルケゴスやグリーンシルの問題に触れたのは半年ほど前のことだが、その後日本や世界で余りにも色々な事件が起っているので、読者はもう忘れていたかもしれない。だが、世界経済に対して半年前に、カナリアが親切にも我々に危険を教えてくれていたのである。昨年3月29日公開「バフェットの師匠が教える『粉飾決算の見分け方』」、同7月15日公開「ワイヤーカード・スキャンダルは実はエンロン事件並みの衝撃かも」8ページ「ゴキブリが1匹だけのはずがない」などで述べたように、投資の神様バフェットは、「1匹目のゴキブリ」を見つけた時に対処すべきだと述べている。ゴキブリが目の前の1匹だけではなく、流しの奥の配管の陰に巨大な巣をつくっていると考えるべきなのだ。そして、今回の恒大問題を見ると、やはり「ゴキブリは1匹だけではなかった」ということである。グリーンシル、アルケゴス、さらにはワイヤーカード以外にも、すくなからぬ数の「ゴキブリ」がこれまで目撃されており、中国恒大が最初のゴキブリというわけではない。したがって、配管の裏から「ゴキブリの大群」がそれほど遠くない将来にやってくる可能性が高いように思える。
いつ目の前に現れるのか?
問題は、いつ「ゴキブリの大群」が我々の目の前に登場するのかということである。それが「明日」である可能性は否定できないが、バブル崩壊のパターンを振り返って見ると、アルケゴス、グリーンシルや中国恒大のようなはっきりしたサインが出ているのに「それはそれ、市場全体に影響はないさ!」という楽観論が支配的であることが多い。したがって、事の重大性に比較して、市場は堅調に推移するわけだ。「見たくないものはできるだけ見ないようにする」人間心理がそのような行動をとらせるのであろうが、遅かれ早かれ「真の姿」を直視することを迫られる。そのある一定の瞬間に「オセロの盤面が白から黒に変わる」ように、「強気」が一瞬で「弱気」に変わるのが過去のバブル崩壊の典型だ。「事実」よりも「人間心理」の与える影響が大きいから、行動経済学的に考えるべきだが、「人間心理の変化」を合理的に言い当てるのは難しい。だから、バフェットが述べるように「常に危機に備えるべき」だ。そして、現在は南の島で台風が発生した段階ではなく、日本本土のど真ん中を直撃するコースを驀進している段階といえよう。「台風が我が家を直撃する」と考えて備えるべきだ。
サブプライム危機後のリーマンショック
今回の中国恒大問題が、リーマンショックのような事態につながるのではないかという話が出ているが、私はむしろサブプライム危機と比較するべきではないかと思う。サブプライム(住宅ローン)危機とは、2007年末から2009年頃を中心として米国で起きた、住宅購入用途向けサブプライム・ローンの不良債権化のことをさすが、この問題が表面化した2007年頃から株式市場にもかなりの影響があった。しかし、世界経済・市場に超ド級の影響を与えたのは、翌年、2008年秋のリーマンショックであることは読者も周知の通りである。恒大問題も、「過剰な借金によって不動産を購入して値上がりを待つパターンの崩壊」という点ではサブプライム危機に近い。たぶんこれから、中国の不動産市場を中心とした混乱が長引くであろうが、実はそれが前座でしかないのではないかと恐れている。引き金は中国の不動産市場ではあるが、数か月から1〜2年の間に欧米でも次々と新たな問題が噴出して、おおよそ1世紀ぶりに「世界大恐慌クラス」の大激震が世界にはしる可能性を否定できないと思う。
1929年株式大暴落は当時の新興国米国から始まった
私が不気味な一致だと考えているのは、世界大恐慌の震源地であり、1929年にNY株式市場大暴落を経験した米国が、当時の「巨大な新興国」であったことだ。第1次世界大戦で自国の(国土の)被害が無かった米国は、国土が荒れ果てた英仏などの戦勝国に多額の貸し付けを行っていた。ドイツが巨額の賠償金を背負わされたことがナチス台頭の原因となったことは良く知られているが、フランスなどがドイツに巨額の賠償金を要求したのは、彼らが米国に多額の借金をしており返済しなければならなかったからだ。欧州の没落を横目に米国だけが我が世の春を謳歌していたのだが、それが1929年に突然終わった。それだけではなく、その余波は世界中に広がって、第2次世界大戦が終結するまで世界はその影響から逃れることが出来なかった。「恒大ショック」がどのように厳しいものであっても、「世界恐慌」につながらなければ恩の字だ。これまで我々が経験してきたリーマンショックなどのおおよそ10年ごとの危機と同様に、数年以内には立ち直るであろう。だが、「世界恐慌クラス」の激震となれば、少なくとも10年、場合によっては20年も30年も我々は苦しめられることになる。1929年当時の米国同様、強大な新興国・中国の経済的破綻が世界に与える惨劇は巨大なものになるかもしれない。
13年もたっている
「世界恐慌」は、最悪のシナリオとして、概ね10年ごとに起こってきた世界的金融危機が13年間起こっていないのは事実だ。2021年初頭からのパンデミックによるバラマキが下支えしたともいえる。9月16日公開「東大寺の大仏を建立した『厄病退散』文化復活でコロナ禍を乗り切れ」で述べたように、おおよそ3年でパンデミックが沈静化した時の方が恐ろしいかもしれない。私が「次にやってくる危機」に身構えているのは、世界的に超低金利政策やパンデミック対策のバラマキが派手に行われたおかげで、「金融緩和」という「伝家の宝刀」を抜くのが難しくなっているからである。以前から述べていることだが、政府や金融当局は一体どのような手段で危機に立ち向かおうというのだろうか? 最近、「リーマンショック型」なのか「LTCM型」なのかという議論がなされる。LTCMとは、1997年に発生したアジア通貨危機とその煽りを受けて1998年に発生したロシア財政危機などによって瀬戸際に立った、ノーベル経済学賞受賞者なども参加したファンドである。この危機の際に、FRB議長アラン・グリーンスパンは、FF(短期金利)レートを1998年9月からの3ヵ月間で3回引き下げるという急速な対応をとり、拡大した金融不安の沈静化を図っている。しかし、現在の超低金利環境では利下げの効果がほとんど期待できないし、そもそも恒大危機の本質は「1社だけの問題ではない」というのが私の見立てである。結局、どのように転んでも「大型の危機はやってくる」と考えるべきだ。明日なのか、1〜2年後なのかはわからないが、我々は雨戸を閉め、庭に放置された道具などを片付けて大型台風に備える時期に来ているということである。

●中国恒大EV工場は鉄骨野ざらし 「成長」のからくりは 10/4
世界が息をのんで見守る不動産大手、中国恒大集団の経営危機。その実態を知るために避けて通れない重要なグループ企業がある。経営トップの許家印氏が「3〜5年で世界最大の電気自動車(EV)メーカーとなり、10年後には年産500万台を目指す」と宣言したEV事業会社、恒大新能源汽車集団だ。誰もが「実現は困難」と感じるいかにも大風呂敷な目標だが、恒大のビジネスモデルを解読すると、許氏がそう言うしかなかった「事情」が見えてくる。9月下旬、中国江蘇省南通市にある恒大新能源汽車集団の工場用地を訪れると、目の前には奇妙な光景が広がっていた。だだっ広い敷地に無数の鉄骨が立ち、野ざらしになっている。作業員も建設機械も見当たらず、周囲は静寂に包まれていた。事情を聞こうとプレハブの建物の前で呼びかけてみたが、応える人はいない。恒大汽車は9月26日夜、上海証券取引所の新興ハイテク市場「科創板」における人民元建て株式の発行計画を断念したと発表。同24日には高齢者向けリゾート施設に関するプロジェクトを一部中断したことを明らかにし、「資金注入がなければ資金繰りが破綻する」と投資家に警告していた。恒大汽車は以前の社名を恒大健康産業集団といい、病院や老人ホームなどの経営を手掛ける会社だった。今回一部中断を発表した高齢者向けリゾート施設のプロジェクトは、その名残だ。かねてEV事業への参入意向を見せてきた恒大集団は、新興EVメーカーの米ファラデー・フューチャーに出資したが紛争に陥り、2018年末に和解。19年にスウェーデンのサーブを源流に持つNEVSを恒大健康が買収して、念願のEV事業に参入した。
老人ホームからEVメーカーへ
恒大健康は20年9月、恒大汽車へと社名を変更。同月、騰訊控股(テンセント)や滴滴出行(ディディ)、アリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)氏の雲峰基金、米セコイア・キャピタルなどからの資金調達に成功したと発表している。香港市場に上場しており今年4月16日には時価総額で9兆5800億円となって米フォード・モーターを上回る局面もあった。経営危機が表面化し、株価は暴落した。なぜ、恒大集団はEV事業にここまで執心したのか。そこには、2つの理由がありそうだ。1つ目の理由は分かりやすい。中国政府が不動産価格抑制の方針を打ち出す中で、不動産以外の事業の柱をつくる必要に迫られていたことだ。中国の国策でもあるEV事業なら資金を集めやすい上に、海外市場へと打って出る可能性も開ける。もう1つの狙いは、中国独特の事情を利用し、不動産事業とのシナジー効果が見込めたことだ。冒頭の工場用地からクルマで10分ほど行くと、恒大の名を冠したマンション群が見えてきた。だが、建設工事が進んでいる様子はなく、販売事務所にも人影がない。展示用に造られたとみられる庭園の池に、事前には予想困難だが起きたときは非常に大きな衝撃をもたらす出来事を示す「ブラックスワン(黒い白鳥)」が2羽泳いでいたのは偶然だったのだろうか。周辺のマンションの守衛に聞いてみると「しばらく前から工事は止まっている」と教えてくれた。恒大汽車は19年7月、グループ会社を通じて南通市内に「住宅用地」3カ所を取得している。総額は8億4300万元で「最安値に近い価格」だと報じられた。注目すべきは取得条件。「3カ月以内にEV工場の建設に取りかかり、36カ月以内に基本的に完成すること」という内容が含まれていた。果たせなかった場合は5億元の違約金が発生する。恒大汽車はEV工場を建設することと引き換えに、地方政府から交通の便が良い住宅地を安価に提供してもらい、その土地をグループのマンション開発に活用する。中国では土地の所有は認められていないため、厳密には地方政府にお金を払って土地の使用権を認めてもらうことになる。地方政府にしてみれば、地元にEV工場ができて税収や雇用が生まれる上に、恒大がマンションを建ててくれて土地使用料も得られるという魅力的な提案だ。不動産とEVというはた目に不自然な組み合わせは、恒大にとってはシナジーを生むベストな組み合わせだったといえる。恒大はわずか2年間で中国国内に広州、上海、青島、広西チワン族自治区、天津、鄭州、瀋陽、貴陽、西安などに続々と生産子会社を設立した。これらの工場全てを建設することは現実的ではないが、違約金を払わないために着工した形を取る必要がある。こうして、冒頭のように鉄骨だけを建てておき、資金繰りにメドが付くまで放置するという状況が生まれたわけだ。「年産500万台」という野心的な販売目標を掲げることは、工場建設計画との整合性をとるためにも必要だった。
売却先探しも難航
複数の中国メディアによれば現時点で工場の体をなしているのは天津と上海、広州だけだ。その中でNEVSから引き継いだ経緯がある天津工場のみが当局からEVの製造許可を得ているという。まだ1台もEVを販売できていない恒大はできる限りのリソースを天津工場に振り向けており11月中旬に生産開始する目標を立てているようだ。中国政府が安易に救済に乗り出す可能性は低いとみられる。恒大集団は事業を売却して資金を捻出する必要に迫られており、恒大汽車については売却先を見つける必要がある。恒大汽車は8月、EV事業に参入したスマートフォン大手の小米(シャオミ)と初歩的な交渉をしたと明らかにしている。ただし、北京市当局はシャオミに北京宝沃汽車(北京ボルクヴァルト)を買収させようとしてきたとされる。シャオミにとっても恒大汽車が保有する資産はいかにも重すぎる。中国の経済システムに深く食い込み、地方政府と二人三脚で業容を拡大してきた恒大。それだけに経営危機の解消に向けて問題を解きほぐす作業は一層難しくなっている。

●中国恒大保証の社債、4日が事実上の償還期限 10/4
中国恒大集団は既に銀行や納入業者、中国本土の投資商品保有者への支払いが遅れており、先日期日を迎えたドル建て社債のクーポンについても支払いを行ったかどうかを明確にしていない。
債務危機に陥っているこの中国不動産開発会社にとって、次の大きな試練は3日以降に訪れる可能性があり、既に緊張状態にあるクレジット市場のリスクが増幅する。
事情に詳しい複数の関係者によれば、ジャンボ・フォーチュン・エンタープライゼズという会社が発行したドル建て債、2億6000万ドル(約290億円)相当を中国恒大が保証している。この社債の償還期限が3日。当日は日曜日のため、実際には4日となる。
同社債には一般的な猶予期間が設けられていないため、元本を償還できなければデフォルト(債務不履行)となり得る。事情に詳しい関係者によると、技術的ミスなどで償還できなかった場合は5営業日の猶予が与えられている。この社債の目論見書は開示されておらず、取引所では売買されないため、中国恒大による保証の詳細は広く知られているわけではない。ブルームバーグインテリジェンスのアナリスト、ダニエル・ファン氏は、ジャンボ・フォーチュン債の償還ができなかった場合、中国恒大の他の社債がクロスデフォルトとなるリスクがあると指摘している。

●東京為替見通し=ドル円、米国債務上限と中国恒大集団への警戒感 10/4
1日のニューヨーク外国為替市場でドル円は、米10年債利回りが1.45%台まで低下し、格付け会社フィッチ・レーティングスが「米債務上限が引き上げ、もしくは停止されなければ米国債は現在の最上位信用格付け『AAA』を失う可能性がある」と警告したことで110.91円まで軟調に推移した。ユーロドルは欧州時間発表の9月ユーロ圏HICP速報値が前年比で予想を上回ったことから1.1607ドルまで堅調に推移した。
本日の東京外国為替市場のドル円は、先週末のダウ平均が上昇していることはリスク選好の円売り要因だが、米10年債利回りが1.46%まで低下しており、連邦債務上限や中国恒大集団への警戒感などで上値が重い展開が予想される。
ユーロ圏9月のインフレ率が13年ぶりの高水準を記録し、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ指標と注視している米8月個人消費支出(PCE)価格指数も前年比+4.3%となり、7月の前年比+4.2%から上昇していたことで、ラガルドECB総裁やパウエルFRB議長の見解「インフレ高進は一時的」が揺らぎ始めている。
米10年債利回りは、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング(資産購入の段階的縮小)が開始される可能性が高まり、原油価格が上昇したことで1.56%台まで上昇した後、1.46%台まで低下している。米10年債利回りの一目均衡表・転換線は1.43%だが、ここは住宅ローン担保証券(MBS)市場でのコンベクシティヘッジのトリガーポイントになっている。すなわち、9月22日のFOMC声明とパウエルFRB議長の会見を受けて、米10年債利回りはコンベクシティヘッジにより1.43%を上抜けて1.56%台まで上昇しており、ドル円も109円台から112円台まで上昇した。もし、トリガーポイントで一目・転換線の1.43%を下回った場合、10年債利回りは低下し、ドル円も109円台まで下落する可能性が高まることになる。さらに、9月のFOMCで2022年の利上げを予想していたタカ派の9名の内、カプラン米ダラス連銀総裁とローゼングレン米ボストン連銀総裁が倫理規定違反で辞任となり、クラリダFRB副議長も倫理規定違反が報じられていることで、9月の雇用統計が8月のようなネガティブサプライズだった場合、11月のFOMCでのテーパリング開始の可能性が低下することになる。
連邦債務上限の引き上げ、あるいは2022年12月までの適用停止を巡る米上院の協議は難航することが警戒されており、イエレン米財務長官が警告したXデイである10月18日、TB利回りが示唆するXデイの10月28日に向けた駆け引きを見守ることになる。格付け会社フィッチ・レーティングスが「米債務上限が引き上げ、もしくは停止されなければ米国債は現在の最上位信用格付け『AAA』を失う可能性がある」と警告しており、2011年8月の米国債格下げショックの再現に要警戒となる。
ジョージ・ソロス氏が「中国版リーマン」と警鐘を鳴らしている中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)リスクに関しては、米ドル債の利払いが履行されず、30日間の猶予期間に入っていることで、Xデイは10月23日付近となる。また、本日償還のドル建て債には猶予期間が設けられていないことで、クロスデフォルトの可能性が警戒されている。 
 
 
 

 

●恒大の株取引停止。中国政府は海外投資家にどの程度配慮を示すのか 10/5
ドル建て債の利払いがなされず沈黙が続く
10月4日の香港市場では、経営危機に直面する中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の取引が突如停止となった。理由は不明であるが、当局の対応についての市場の疑心暗鬼をさらに強めることになっている。流動性不足が深刻な恒大集団の保有株売却と関係しているとの見方がされている。
ところで、恒大集団のドル建て債の利払い不履行が続いている。9月23日に期限を迎えた8,350万ドル(約93億円)のドル建て債の利払いは履行されなかった。また29日に期限を迎えた4,500万ドルの利払いも履行されなかったのである。いずれについても、中国恒大集団は沈黙を続けている。
ただし、恒大集団の未払いが正式にデフォルト(債務不履行)の事象に相当すると判断されるまでには、30日の支払い猶予期間(グレースピリオド)があるため、すぐにデフォルトとはならない。30日の猶予期間が切れるまでの、中国恒大集団そして中国政府の対応が、世界の金融市場の大きな関心となっている。
他方、これとは別に、恒大集団が保証している会社のドル建て債2.6億ドルの償還期限が10月3日であった。今のところ償還されてない模様だが、これについては5営業日の支払い猶予しかない。今週中に償還、あるいは債券保有者との間で何らかの合意が得られなければ、恒大集団はクロスデフォルト(債務者がある1つの債務の返済を履行できずにデフォルトとなった場合、その債務者が負う他のすべての債務に関してデフォルトとみなされること)となるリスクがある。正念場は今週かもしれない。
恒大集団のドル建て債を保有する海外の有力投資家
モーニングスターによると、中国恒大集団のドル債を保有する海外の資産運用会社には、ブラックロック、フィデリティ、UBS、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ傘下のブルーベイ・アセット・マネジメント、アシュモア・グループなど大手が含まれている。
中国恒大集団は190億ドルのドル建て債を発行しているが、このうちUBSが約2億8,300億ドル、アシュモア・グループは1億4,600万ドル保有しているという。他方、HSBCと、運用会社TCWはそれぞれ9月と8月にドル建て債を売却したという。またクレディ・スイスも、中国恒大のドル建て債をすべて売却したとフィナンシャル・タイムズ紙が報じている。
中国恒大集団が海外で発行したドル建て債の大半には、支払い不履行に関する信用契約の条項がある。債券保有者は30日の猶予期間が過ぎたら、債券の受託者である米金融大手シティグループ傘下シティコープ・インターナショナルに書面を送付することで、デフォルトを宣言することができる。
利払いが履行されていない中国恒大のドル建て債の価格は、デフォルトリスクを織り込んで、足元で額面1ドル当たり0.3ドルを割り込んで取引されている。
中国恒大集団の債務でドル建て債の比率は6.3%
中国恒大集団のドル建て債を保有する海外投資家は、中国政府がどのような着地点を考えているかに注目している。中国政府、人民銀行は、中国恒大集団の経営危機の問題で、地方政府や銀行に対して、事態の収拾に向けた協力を求め始めている。こうした動きは、海外債権者の利益に配慮した対応もなされるのでは、との期待を高めている。
一方で、中国恒大集団のサプライヤーや住宅購入者といった中国国内での債権者と比べて、海外債権者の利益を守ることの優先順位が、中国政府にとって高くないことも彼らは十分に理解している。同社は約3,040億ドル相当(約33.7兆円)の債務を抱えているが、このうちドル建て債は190億ドルで、その比率は債務全体のわずか6.3%に過ぎない。
猶予期間が切れるまでの30日間が試金石に
しかし、中国恒大集団のドル建て債が無秩序なデフォルトとなれば、同様にドル建て債を発行する中国の不動産会社、あるいはその他の業種の企業にも、資金調達面で大きな打撃となってしまう。国際決済銀行(BIS)によると、中国の非金融部門は5,450億ドルものドル建て債務を抱えており、リーマン危機前から15倍も増えている。
そのため、優先順位は高くないとしても、海外のドル建て債について、中国政府が債務リストラの交渉に乗り出してくることを、海外投資家は期待して待っているのである。ドル建て債の利払いや償還は来年にかけても続くが、当局の姿勢を占ううえでは、当面の対応が重要だ。
その対応は、この先、中国経済、企業が成長を続けていく中で、海外からの資金調達がどの程度重要であるかについての中国政府の認識を推し量る試金石ともなるだろう。
 
 
 

 

●中国恒大集団の問題は氷山の一角… 10/6
・中国恒大集団が市場を不安に陥れているが、世界経済はその他にも回復を妨げるさまざまな脅威に直面している。
・エネルギー価格の高騰が製造業を混乱させており、その背景にはアメリカと中国の緊張関係がある。
・成長が鈍化し、物価が数年来の高水準に達していることから、経済学者らは「スタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)」という言葉を口にしはじめている。
2021年、「中国恒大集団」という会社は2008年のリーマン・ブラザーズと同じくらい有名になった。この巨大な中国の不動産デベロッパーは、現在非常に不安定な状態にあり、中国国外の市場まで脅かしている。しかし、同社が約33兆円もの巨額の負債を抱えてデフォルト(債務不履行)に陥る可能性は、世界経済が抱えるリスクのごく一部に過ぎないかもしれない。
世界経済は今、価格の上昇、出荷の遅れ、品不足の広がりに苦しんでいる。それらがさらに重なると大きな苦境に立たされることになるだろう。

●中国「恒大集団」ショック、習近平の“リスクとの戦い”はこれから激化する 10/6
「安定成長」でも多難な中国経済の見通し 労働力人口の減少で未曽有の事態に
中国恒大集団は広東省を拠点に、許家印氏が一代で築き上げた、不動産事業を中核とする企業グループです。多額の借り入れと積極的な投資で急成長し、最近では電気自動車(EV)や、運営するプロサッカークラブに高額年俸で有力選手を引き抜くなど、派手な多角化が注目を集めていましたが、6月末時点の負債総額が1兆9670億元(約33兆3000億円)に膨らみ、債務危機に陥りました。
これが、2008年のリーマンショック並みに世界の市場を数年間、凍り付かせるほどの危機となる可能性は、現時点では低いとの見方が多いようです。
しかし、中国経済は2020年代後半には、年間5%以上の成長率を謳歌してきた高度経済成長期から、年間3%前後の安定成長期へと移行する可能性が高いとみられています。中国社会はこれまで高度成長を前提に成り立ってきたため、低成長への移行に伴う経済環境の変化は極めて大きく、中国社会を揺るがしかねません。具体的に、何が起きるのでしょうか。
まず、出生率の低下は人口減少をますます加速させます。中国の人口ピークはかつて、2029年に訪れるといわれていましたが、最近では4年早まり、2025年に訪れるとの見方が強まっています。
高齢化が進む一方、労働力人口が減るわけですから、社会保障費の増大で政府の財政負担が増え、消費の伸びが鈍化し、労働者の賃金は上昇します。これが、中国の今後の経済をスローダウンさせることにつながります。
都市への人口流入鈍化が不動産業を直撃  課題に十分取り組めなかった習近平政権
同時に、これまで続いてきた農村部から都市部への人口流入が鈍化します。2007年の段階で、中国で第1次産業(農林水産業)に従事する人の割合は全労働人口の41%を占めていましたが、2027年には13%程度まで低下する可能性があります。日本の経験から見て農村人口が10%程度に近づくとそれ以下には下がりにくくなるでしょうから、これまでのような都市部の人口増加による需要の拡大は望めません。
都市部の人口増加のスローダウンは、恒大集団のように都市部のマンション販売で成長してきた不動産会社の事業を直撃することは、言うまでもありません。加えて、家電製品や内装工事といった耐久消費財の需要も伸び悩むことになります。
加えて、大都市間をつなぐ高速鉄道や高速道路といった大型インフラの整備も主だったものは2020年代半ばでおおむね完成しますので、その後は大型案件が減少します。
中国当局は当然、こうした経済トレンドの変化を10年前から予測し、対策を考えてきました。しかし、構造改革以外にも国内外の喫緊の課題が山積し、十分に取り組むことができなかったのが実情です。
ここで、習近平国家主席の2012年就任からの経緯を振り返ってみましょう。就任直後は、自身の政権基盤を固める意図もあって「反腐敗運動」を展開、大物政治家を失脚させました。
2010年代半ばになると、経済は、約30年間にわたって年率10%程度を保持し続けた成長率を維持できなくなったことが明らかとなり、期待成長率が低下。設備投資の伸び鈍化傾向が止まらなくなりました。この間、輸出も元高の影響で減少に転じたことから、金融緩和を拡大しました。2015年夏場には為替が不安定化し、株式市場もミニバブルが形成されたのち急落しました。こうした株式市場の混乱を収拾するため、政府の指導の下、金融機関や大手国有企業などが株式市場に上場されている株を買い取り、塩漬け状態にしました。その後しばらくの間、株式市場の正常化が遅れたこともあって、芳しい政策効果は見られていませんでした。
しかし、中国の内需が拡大したことで、欧米からの輸入が伸び、2016〜17年にかけて欧米の経済が回復。その結果、中国から欧米への輸出も伸び、中国経済も16年末には底を打ったといえます。
そのように比較的安定的な経済情勢の中、2017年の共産党大会が開催され、そこでようやく、財政金融リスクの防止、貧困撲滅、環境改善の3大改革に取り組む方針が表明されました。ところが、翌18年以降は、米国のトランプ大統領が主導した貿易摩擦への対応に苦慮し、2020年には新型コロナウイルス対策に忙殺されて、経済の構造転換に十分に取り組むことができませんでした。
高速鉄道の工事が停止、要因は? 日本のバブル崩壊を学んだ中国だが
中国は昨年来、国民の徹底した行動制限で新型コロナを抑え込み、製造業やIT企業を中心に企業活動を再開させましたが、感染再発のリスクが完全に消えたわけではなく、消費は十分に戻りきらないままです。
つまり習近平政権は、経済成長の鈍化があと数年後に迫っているのに、米中対立や新型コロナなど目の前のリスク対応に追われ、十分な対応ができないままだったのです。その間、投資マネーは不動産市場に流入し続け、恒大集団がやってきたような借金に頼った不動産開発が進められてきました。この数カ月、経済がようやく安定してきたので、本来実施すべきだった厳しい措置に着手したということではないでしょうか。
不動産だけではありません。最近では長江以北の地域を中心に、多くの場所で高速鉄道の工事が止まっていると聞きます。工事の計画を決めるのは中央政府ですが、その資金は地方政府が負担します。
財政事情が苦しい地方政府に対しては、過剰な債務負担を負わないよう、借り入れや地方債発行等に関するリスク審査を、中央政府がこれまでより厳格化しています。このため、財政基盤の脆弱な地方政府は十分な資金調達ができなくなり、工事を停止せざるを得なくなったというのが要因です。
それでもやはり当局が最大限の警戒をしているのは、不動産バブルの崩壊です。そして、その教訓としているのが日本の経験なのです。
1978年、当時のケ(トウ)小平国家副主席が主導して始まった改革・開放政策は、日本の戦後の経済発展をモデルにしていました。日本は、目覚ましい経済発展を達成してもなお、欧米と比べて国民の経済格差が小さく、安定した社会を実現したからです。
日本企業も先の大戦への贖罪意識から、中国の経済発展のために無償と言っていいほどの姿勢で製造業の技術指導や日本企業の進出などを通じて協力しました。
しかし、90年代に日本のバブル景気が崩壊。日本企業のグローバル市場におけるプレゼンスが低下傾向をたどります。経済の長期停滞により1人当たり国内総生産(GDP)の順位もOECD加盟国中3位(2000年)から18〜20位(2010年代以降)へと急速に下がり、世界経済の中で存在感を失いました。
それでも日本はバブルが崩壊した時点で先進国の仲間入りをしていた上、国民の平均的な教育レベルが高いため安定した社会を維持することができました。しかし、現在の中国社会はそこまで成熟していません。この状態のまま低成長経済に突入し、仮に不動産バブルが崩壊するような事態に陥れば、社会不安を惹起し、国家の安定を維持することが難しくなるリスクを中国政府は恐れているのです。
不動産税、相続税の導入は可能か アリババ、滴滴たたきの狙いは?
とはいえ、不動産の価格や取引を抑制することには困難が伴います。中国では株式市場の機能回復が遅れているほか、海外への投資が制限されており、行き場を失った富裕層のマネーが不動産に向かわざるを得ないのです。
政府も手をこまねいていたわけではありません。例えば蘇州、北京、南京、深セン、武漢等の主要都市では中央政府の意向を受けて2016年から17年にかけて、新築マンションの価格に上限を設けました。すると、需給で価格が決まる中古マンションが新築の上限価格を大きく上回るといった事態が起きました。最近は広東省、浙江省などで中古マンションの上限価格を制限する動きも見られています。ただし、こうした対策は「もぐらたたき」的な対症療法にすぎず、抜本的な解決策ではありません。
恒大集団以外にも、金融や航空、不動産を手掛ける海航集団も昨年経営破綻しており、9月下旬にはトップが警察に拘束されました。恒大集団の危機は今に始まった話ではなく、債務不履行リスクは昨年から指摘され、株価が乱高下していました。経営規模が大きいため当局も慎重に対処してきたと考えられますが、政府の不動産投資抑制政策に対する同社の対応が不十分だったため、厳しく対処せざるを得なくなったのでしょう。
では今後、対症療法ではない抜本的な解決策として、中国政府はどのような手を打つと考えられるのでしょうか。
まずは、そのものずばりの不動産保有税、日本でいうところの固定資産税の導入です。さらに、不動産や株式の売却益に課税するキャピタルゲイン課税も俎上に上がるでしょう。
その次のステップは相続税や贈与税の導入です。さらにその先は個人所得税の累進性を強化することが想定されます。しかし、経済格差を抜本的に是正するこれらの改革には、富裕層が強く抵抗しています。習近平主席は共同富裕の目標達成に向け覚悟を決めて、これらの難題に取り組むことになると思います。
なお、恒大集団など負債を抱えた企業への対応が厳しさを増していることに加え、アリババグループや滴滴出行などIT大手への政府の圧力について、今後はこれら民間企業が後退し、国有企業が前面に出て中国経済をけん引する、中国政府がそれを目指しているとの見方が欧米の専門家の間で広く共有されています。しかし、これは事実と異なると思います。
中国がTPP参加表明した本当の理由 「外圧」まで利用する習近平主席の決意
アリババが4月、市場の支配的な立場を取引先に乱用したとして当局に科せられた罰金は、日本円でわずか2916億円であり、同社の利益水準(2019年の営業利益は570億元=約9700億円)から考えれば大した金額ではありません。
中国の一般庶民の間では同社の創業者であるジャック・マー氏ら億万長者の企業経営者は怨嗟の対象となっており、こうした「もぐらたたき」は支持されています。格差を縮小して共に豊かになろうという「共同富裕」を掲げる習政権がこうした企業に圧力を加えるのは、来年秋の第20回党大会を控えて、政治的なパフォーマンスの性格もあるといわれています。
これまで長期にわたり中国経済の持続的成長をけん引してきた主役は民間企業であり、それを外国企業が支えてきました。国有企業の経済全体に占める比率は、かつての8〜9割から2〜3割へと大幅に低下しました。今後もそのトレンドを変えることはできません。政権として牽制はしつつ、今後も引き続き、民間企業を中国経済の成長エンジンの主役に据え続けるはずです。
一方で国有企業は、鉄鋼、石油化学など旧態依然とした重厚長大産業が中心で、一部の例外を除き相変わらず非効率な経営が続いています。2030年のカーボンピーク達成のためにもこうしたエネルギー多消費型産業の見直しは急務です。習近平政権はむしろここにメスを入れ、再編することを目指しています。
中国が9月16日に突如、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を表明したことは、多くの場合、地政学的な観点から米国に対抗することが狙いであると語られています。確かにそうした面もあると思います。しかし、それだけではありません。私の見方では、むしろ旧態依然とした国有企業やその背後にある地方政府に改革を迫るための「外圧」として、TPPを利用しようとしているとみています。国有企業や地方政府が構造改革に強く抵抗しているからです。
日米欧の報道や中国ウオッチャーの間ではどうしても、中国の軍事的脅威に関する議論が強調されます。人民解放軍が装備を近代化し、世界でもトップクラスの軍事力を目指しているのは間違いありません。
かといって、習近平主席が軍事力増強ばかりに気を取られているのかというと、そうは思えません。むしろ、国内のさまざまな構造改革をいかに早く実現するかという重要課題に追われていると考えた方が良いでしょう。
今から数年後に経済成長率の低下が加速すれば、新たに債務返済が滞って立ち行かなくなる巨大企業、いわば第2、第3の恒大集団が浮上してくることが予想されます。中国経済の危機はむしろ、これから深刻化する恐れがあり、習近平主席の心配は強まっていくはずです。

●中国恒大集団の株、3日連続取引停止 不動産業界への不安高まる 10/6
香港証券取引所で6日、経営危機に陥っている中国不動産大手、中国恒大集団の株取引の停止が続いた。停止は3日連続となった。中国では他の不動産大手も債務の返済ができなくなったことが判明し、業界全体に対する市場の不安が高まっている。
恒大と、傘下の不動産管理会社、恒大物業集団の取引は4日に停止した。「重要な取引」に関する発表待ちとしている。中国メディアは、中国不動産大手、合生創展集団に恒大物業の株式51%を売却すると報じた。合生の取引も停止が続いている。

●中国恒大を提訴、香港の不動産仲介大手2社が手数料支払い求め 10/6
香港の不動産仲介大手2社は、経営危機に陥っている中国不動産大手の中国恒大集団を未払いの手数料を巡って提訴している。裁判資料やメディア報道で明らかになった。
裁判資料によると、中原(センタライン)は9月、未払い手数料310万香港ドル(39万8196米ドル)の支払いを求めて中国恒大を提訴。また、香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、美聯集団(ミッドランド・ホールディングス)は香港の2件の開発プロジェクトに関する未払いの手数料4345万香港ドルの支払いを求めている。
センタライン中国部門の幹部はロイターに対し、中国南部・広州の裁判所でも中国恒大を相手取った訴えを起こしており、期限が来ているという数億元の支払いを求めていることを明らかにした。
センタラインはロイターに対して、香港で先月提訴したことを認めたものの、それ以上のコメントは避けた。
 
 
 

 

●中国恒大、保証先がデフォルト懸念 10/7
米ブルームバーグ通信は7日、経営危機に陥った中国不動産大手「中国恒大(こうだい)集団」の傘下企業が出資する合弁企業が発行した米ドル建て社債2億6千万ドル(約290億円)が、満期を迎えても元本の支払いが行われていないと報じた。このままデフォルト(債務不履行)と確定されれば、支払いを保証する恒大集団までデフォルトとみなされる可能性があるという。
総額33兆円の巨額負債を抱える恒大集団の資金繰りは綱渡り状態が続く。今回は新たな懸念が生じている形で、さらに状況が悪化する可能性がある。
ブルームバーグによると、問題となっている社債は3日に償還期限を迎えたが、複数の債権者が支払いを受けていない。恒大集団は同社債の支払いを保証しているため、連鎖的にデフォルトに陥る可能性が生じているという。
恒大自身も、9月23日と29日に米ドル建て社債の利払いを見送ったとみられる。それぞれ30日間の猶予期間があるが、デフォルト懸念がくすぶる。年末に向け相次ぎ社債の利払い期限を迎えるため、保有資産の売却などによる資金手当てを目指している。

●難しい中国政府の「中国恒大集団」への対応 〜「共同富裕」とバブル崩壊 10/7
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月30日放送)に朝日新聞編集委員で元北京・ワシントン特派員の峯村健司が出演。巨額負債で経営危機に陥っている中国不動産大手「中国恒大集団」について解説した。
巨額負債で経営危機に陥っている中国不動産大手「中国恒大集団」は9月29日、傘下の地方銀行、盛京銀行(遼寧省瀋陽市)の株式を99億9300万元(約1700億円)で売却すると発表した。
飯田)このところマーケット等々でも話題になっている中国恒大集団。9月29日に利払いの期限が1つありましたが、乗り越えましたね。
峯村)結果的には、国有企業が一部株を売却する動きもあったりして、資金調達をしているので、いまのところはぎりぎりのところで乗り切っている状況です。
(※注 10月4日、香港証券取引所で中国恒大集団の取引が停止になった)
飯田)この先はどうなりそうですか?
峯村)これで終わりではなく、次々と債務返済の期限が来るので、その度に「大丈夫か」という話にはなります。先日、中国のシンクタンク当局者に取材をしました。「デフォルトしてバブル崩壊はあるのか」と聞くと、「そこについては絶対に起こさない」とは言っていました。
飯田)日本のバブル崩壊を教訓として見ているところがあるのですか?
峯村)あると思います。中国自体はバブルがかなりの程度で深刻になっています。中国のいま家の価格の平均が、平均年収の約50倍です。当時の日本のバブル期では、だいたい年収の10倍くらいでした。50倍となるとローンも組めませんよね。となると、「もう家を買えないではないか」という状況なのです。
飯田)そうですよね。
峯村)しかし、日本と違って中国の場合、男性は持ち家を持っていないと結婚すらできないというくらい、家はマストなのです。「家が買えない、結婚もできない。どうなるのか」と、一般市民の不満は高まっているのです。
峯村)そんな状況のなか、恒大集団はある種、人身御供になっているのではないかと見ています。
飯田)見せしめですか?
峯村)見せしめの1つだと思います。実は今回の危機は起こるべくして起こっているものです。発端は、中国政府が恒大集団のような不動産デベロッパーに対する資金提供を40%まで抑え込んだことなのです。
飯田)資金提供を。
峯村)当然、業界でいちばん大きなところがダメージを受ける。特に恒大集団の場合、サッカーチームや電気自動車の事業など、手広く経営していたので、影響をもろに受けてしまった。それを考えると、中国政府としてはある程度、折り込み済みの結果だったのではないでしょうか。
飯田)「共同富裕」というキーワードで、みんなで仲よく富んで行こうということをやっているではないですか。濡れ手に粟のような感じで、バブルに乗って成長した企業をおいそれと助けるわけにもいかないというのは、事情としてあるような気もしますが。
峯村)そこが難しいポイントです。中国の経済政策というのは、ケ小平氏以来、改革開放路線を敷いてきました。その重要な考え方の基礎となっているのが、「先富論」つまり、「先に豊かになる人は金持ちになってね。あとから追いかけるから」というものです。
飯田)先富論。
峯村)それを「一部が豊かになっているだけではないか、貧乏は貧乏なままではないか」ということで、習近平さんが格差を是正する政策を行っているなかで、不動産というのはある意味、「金持ち、腐敗、権力」の象徴なわけです。
飯田)不動産は。
峯村)ですので、「それを叩きのめすのだ」というやり方は、いまの中国政府にとって、民衆の関心を得るにはよい方法なのです。一方で、いま飯田さんがおっしゃった通り、「バブル崩壊が起こるからまずいね」と言って、公的資金や税金を突っ込むとなると、国民の反発を招いてしまうため、難しいグリップが求められています。

●恒大ショックが示唆する「ほんとうの中国問題」 10/7
中国恒大集団(チャイナ・エバーグラン・グループ)のデフォルト(債務不履行)危機は依然、予断を許さない状況。同集団傘下の不動産会社が買収される見込みも取り沙汰されています。一方、ニューヨークや香港の金融関係者からは、悲観的な声があまり聞かれません。恒大ショックが示唆する「ほんとうの中国問題」とは何なのか、今回解説していきます。
恒大集団への監督と指導を強める中国当局
レポートで、習近平(シー・ジンピン)政権として、生かすか(救済)、殺すか(破産)という両極端ではないやり方で、今回の事態を「軟着陸」させようとしていること。一方で、習近平新時代の特徴からすれば、恒大集団が政権の「餌食」になるのは必然的であるということ。矛盾しているように見えますが、それが中国市場の実態であり、中国問題をめぐる真実なのだという私の考えを述べました。
現時点でも、恒大集団のデフォルト危機は予断を許さない状況が続いています。
9月下旬、米ドル債への利払いが相次いで先送りされました。30日間の猶予期間中に支払えるかどうか。同集団にとって、利払いが期限を迎える社債が続々と襲い掛かってきます。事業や資産の売却を通じて、あらゆる手段を講じつつ資金を調達していかなければ、同社のデフォルトが現実味を帯びてきます。
目下、同集団を直接的に監督、指導する政府機関は、主管部門の住宅建設部ではなく、中国人民銀行(中銀)と中国証券監督管理委員会です。これは当局として、恒大ショックがもたらし得る悪影響やリスクが、不動産業界を越えて、金融システムや実体経済にまで波及する事態を懸念している状況証拠と言えます。
そして私から見て、もう一つ、恒大集団が当局の監督、指導の下で企業再建や資産売却を進めていることを示す状況証拠があります。
それは、9月29日、恒大集団が、傘下の地方銀行・盛京銀行(遼寧省瀋陽市)の発行済み株式19.93%分を約100億元(約1,700億円)で売却すると発表した事実。同市にある国有企業・瀋陽盛京金控投資集団が買い取ることになります。
これらの事象がすなわち恒大集団の「国有化」を意味するわけではありませんが、中国当局としては「党や政府の支配が直接及ぶ国有企業に働きかけ、恒大集団の資産を買い取らせることで、同集団の資金繰りを実質下支えしつつ、グリップする」(中国大手国有銀行幹部)ことをもくろんでいるようです。私も、当局は引き続きそのように動いていくと考えています。
恒大集団の資産売却、香港での取引停止は何を意味するか?
ここに来て、恒大集団の「次」をめぐって、もう一つの関連ニュースが飛び込んできました。
同集団の不動産管理子会社・恒大物業集団の過半株式を、50億ドル(約5,500億円)超で同業のホプソン・デベロップメント・ホールディングス(合生創展集団;0754、香港)に売却する可能性が浮上。実現すれば、恒大集団にとって過去最大規模の資産売却となり、この資金調達により、向こう6カ月の外貨建て債の支払いを賄うことが理論上可能となります。
10月4〜5日にかけて、恒大、合生両集団の香港市場における取引は共に一時停止されています。理由は明らかになっていませんが、「次」へ向けた布石と見るべきで、今後の動向が注目されます。
もちろん、50億ドルという額は、同集団が抱える負債総額3,000億ドルの60分の1に過ぎません。従って、同集団の資産売却はまだまだ序の口といったところで、中国当局もその前提で引き続き、同集団への指導を行っていくでしょう。
一方、私が本件に関して話を聞いた米ウォール街、香港金融界の関係者たちは、同集団の香港における取引停止を総じてポジティブに受け止めているようでした。
理由は、「現状維持」ではデフォルト危機を免れないであろう恒大集団が、資産売却に後ろ向きにならず、「売却先の選定も理にかなっている」(米国駐香港投資銀行勤務ブローカー)というもの。
そして、彼らが声をそろえて評価するのが、恒大集団の動きが合理的であるとして、それを中国政府の監督や指導がなせる業だと認識している点なのです。
ほんとうの中国問題、私たちも「共犯」
先々週のレポート「中国当局は恒大集団債務危機をどう“軟着陸”させようとしているか?」の最終部分にて、次のように結論付けました。
私の分析によれば、中国当局は、恒大債務危機への対処を通じて、対自国民、海外投資家へのアピールという意味でポイントを稼げると踏んでいます。
あれから2週間がたちましたが、中国当局が恒大ショックに対処する上での姿勢、および戦略的目標は何ら変化していません。そして、前述のウォール街や香港から中国市場を眺める海外投資家たちの現状認識は、中国当局からすれば「狙い通り」だと解釈できるのです。
時間軸、空間軸をやや広げて考えてみます。
ちまたで、今回の恒大ショックを「中国版リーマン・ショック」だと揶揄(やゆ)する声が散見されるように、私たちは、多かれ少なかれ、米中関係、米中対立、米中競争という視角から本件を捉えることがあります。実際に、私が議論をしたウォール街関係者数人が、「米国当局のリーマン・ショックへの対処に比べて、中国当局の恒大ショックへの対処のほうが優れている」「世界的金融危機を引き起こしかねないような事態に陥った場合、中国のガバナンス体制のほうが力を発揮する、危機管理に適している」と語っています。
私から見て、このような米中比較は決して氷山の一角ではなく、一定の普遍性を内包するものです。実際に、1970年代後半以降、改革開放の歴史を簡単に振り返ってみると、天安門事件、アジア通貨危機、SARS(重症急性呼吸器症候群)、四川大地震、リーマン・ショック、米中対立、香港問題、新型コロナウイルス、そして今回の恒大ショックなど、経済、社会、政治、外交的要素が複雑に絡む分野で、中国共産党のガバナンス(統治)は歴史の審判にかけられてきました。そのたびに、市場や世論では「中国崩壊論」が声高く叫ばれました。
しかしながら、中国は崩壊しなかった。それどころか、年を追うごとに、危機に直面するたびに、国力や影響力を向上させてきた。「チャイナモデル」(中国語で「中国模式」)「ベイジン・コンセンサス」(中国語で「北京共識」)といった概念が取り上げられ、もてはやされ、皮肉られるのは、マルクス主義、社会主義を堅持する中国が共産党一党支配体制の下、あらゆる危機を乗り越え、“期待”を裏切り、追い抜く対象として残るは米国だけという現在地にまで登り詰めてきた証左でもあるのです。
中国共産党は、恒大ショックという、国にとっては局地的な危機と言える今回の事態に臨むにあたっても、これまでと全く同じ姿勢と目標を持っているというのが私の理解です。
端的に言えば、ショックへの対処を経て、中国共産党一党支配体制、中国の特色ある社会主義、習近平新時代、チャイナモデル、ベイジンコンセンサス(言葉は何でもいいですが)などの、とりわけ米国に対する優位性を内外に見せつけ、結果的に、中国共産党の正統性維持と強化という最大の国家目標を担保することにほかなりません。
そして現状は、上記のように、資本主義世界に生きる海外投資家の多くが、中国共産党の思惑に沿った形で現状を認識しているように私には映ります。
他方、米中関係は引き続き緊張状態にあり、自由や人権、香港や新疆ウイグル問題などをめぐって、来年2022年2月の北京冬季五輪に向かって、西側と中国の間の摩擦や矛盾は激化していくでしょう。西側の中国に対する不信や不満の根幹には、中国の特色ある社会主義、習近平新時代が横たわっているのです。
このように見てくると、西側資本主義・民主主義世界において、政府と民間、戦略界と実業界の間の「中国観」はかなりバラバラであり、そもそも中国問題とは何なのか、をめぐっても、全くコンセンサスが取れていない。そして、中国共産党はそこを突いてくる。自国の政治体制や発展モデルに対してますます自信過剰になり、「戦狼外交」を繰り広げ、西側諸国との国家間関係は悪化、相互不信は助長されます。経済や市場への悪影響・リスクは当然生じます。悪循環です。
これこそがほんとうの中国問題、というのが、本稿で最も主張したいことです。
「これ」とは、中国問題とは、中国の当局や企業の言動によってのみ生ずるのではなく、それらと付き合う側、すなわち私たちにも原因があるということです。
もちろん、全てのステークホルダーが同じ方向を向いているなどと言うことはありません。全体主義は不健全です。
ただ、官民や業界の垣根を越えて、「恒大ショックの何が問題か?」「中国問題とはそもそも何なのか?」という根源的な部分にまで踏み込んだ上で、中国という強大経済・巨大市場を捉え、付き合っていく必要があるのではないか。理解を示すもしかり、注文を付けるもまたしかり、です。
さもなければ、健全な圧力を受けない中国は不健全に膨張し、結果的に私たちの利益をもむしばむ悪循環さえ招きかねません。ブーメラン現象です。その意味で、恒大ショックを前にして、私たちも試されている。中国に関わる全てのステークホルダーは「共犯」だということです。
 
 
 

 

●中国恒大など不動産大手、数十億ドル規模の簿外債務 10/8
JPモルガンの推定によると、経営危機に陥っている中国恒大集団など中国不動産大手の多くが数十億ドル規模の簿外債務を抱えている。これらを考慮するとレバレッジ比率が急上昇するという。
JPモルガンの中国・香港担当不動産アナリストは、このような手法は昨年導入された新たな借入上限ルールを順守しているように見せるために活用された可能性が高いと指摘。ただ、中国恒大は最も極端なケースだとした。
「中国恒大はデレバレッジ(債務圧縮)の代わりに有利子負債の一部をオフバランス化したようだ」とし、これには公式には負債と見なされないコマーシャルペーパー(CP)や財テク商品などが含まれるとした。
JPモルガンの推定によると中国恒大のレバレッジ比率は上半期時点で少なくとも177%。決算数値は100%だった。
その他の不動産大手では、広州富力地産が決算数値の123%に対しJPモルガンの推定が139%、融創中国が87%に対して138%、碧桂園が50%に対して76%となっている。

●中国恒大、関連企業の社債償還されず 高まる不履行懸念 10/8
不動産大手、中国恒大集団が債務不履行(デフォルト)に陥る懸念が一段と高まっている。米ブルームバーグ通信は7日、恒大が債務保証する関連会社のドル建て社債が4日の期限を過ぎても償還されていないと報じた。デフォルトが確定すれば、他の恒大の社債もデフォルトと認定される可能性がある。
償還されていないのは恒大の関連会社とされるジャンボ・フォーチュン・エンタープライゼズが発行した2億6千万ドル(約290億円)の社債。事実上の償還期限である4日を過ぎても、一部の債権者は返済を受けていないという。記事によると、この社債には猶予期間がついておらず、技術的な支払い遅れは5営業日許容される。
格付け会社フィッチ・レーティングスによると、恒大が中国本土外で出したオフショア米ドル債には「クロス・アクセラレーション」と呼ばれる条項がつく。ある債務がデフォルトとなり資金が予定よりも早く回収される場合、同条項がついた他の債務もデフォルトとみなす規定だ。ジャンボ・フォーチュン債がデフォルトになれば、恒大のドル建て債にも影響する可能性がある。
恒大は9月23日と同29日に米ドル債の利払いを見送り、30日間の猶予期間に入った。来週には別の社債の利払い期日が到来する。
足元では厳しい資金繰りが続いているようだ。香港市場に上場する恒大と傘下の不動産管理会社、恒大物業集団の株式は8日まで5日連続で売買停止となった。同業による恒大物業の買収観測が出ているが、8日午後時点で正式な発表はない。
ロイター通信によると、JPモルガンの不動産アナリストは恒大が巨額の簿外債務を抱えていると推計するリポートを出した。恒大の自己資本に対する負債比率は6月末時点で177%と、公表値の100%を大きく上回るという。
香港市場では恒大に絡む損失を公表する企業が相次ぐ。投資会社の中誉集団は7日、4〜9月期の関連株式などの評価損が4億3100万ドルに上ったと明らかにした。藍河控股も11億香港ドル(約160億円)の損失見込みを発表した。

●香港不動産開発の華人置業、非公開化を計画 中国恒大株で損失 10/8
香港(CNN Business) 香港の不動産開発企業、華人置業集団は6日、同社の株式を非公開化する計画を明らかにした。華人置業株は中国の不動産大手、中国恒大集団の経営危機の影響で下落していた。
中国恒大集団が破たんの瀬戸際に立つなか、華人置業の株価は年初来44%下落し、ここ20年近くで最低の水準に落ち込んだ。華人置業は恒大の創業者である許家印氏に次ぎ、同社の第2位の株主となっている。
華人置業は6日遅くに証券取引所に提出した書類で、「取締役らは中国恒大集団が資金繰りに関して行った一部の情報開示を含め、同社の最近の動向を警戒し懸念している」と述べた。
華人置業は今回、同社株25%を保有する少数株主に19億1000万香港ドル(約270億円)を支払って非公開化することを提案。これは9月28日の終値に約83%上乗せした金額となる。華人置業株は28日を最後に取引停止となった。
華人置業は香港の富豪・劉鑾雄氏と妻の陳凱韻氏が支配する企業で、長年にわたり恒大集団と協力関係にある。恒大集団が香港に上場した2009年以降、何度も社債や株式の売り出しに応じ、同社を資金的に支えてきた。中国本土でも恒大と共同で不動産プロジェクトに取り組んでいる。
年次報告書によると、昨年末の時点で、恒大の社債や株は華人置業の総資産の3分の1以上を占めていた。債務危機の深刻化で恒大株が下落するなか、華人置業は投資で大きな損失を被る結果となった。
華人置業は先月23日、過去3週間で3200万ドル相当の恒大集団の株を売却したと発表。残りの株も手放す計画で、一連の処理による損失額は合計で104億香港ドル(約1500億円)に上ると予想している。
非公開化により、短期的な市場の期待で振り回されず、長期の戦略的な目標を見据えて動く柔軟性が会社に与えられる可能性がある。華人置業は取引が再開した香港市場で7日、株価が32%上昇した。
恒大の債務危機はこのところ世界の投資家を動揺させており、中国の経済や金融市場のより広い範囲に影響が及ぶ可能性に懸念が高まっている。今週には同業他社の花様年控股集団が債務不履行(デフォルト)に陥った。比較的小規模な企業は社債利回りの上昇に苦しみ、資金は枯渇し、不動産の買い手は慎重姿勢を強めている状況だ。

●中国恒大の債務再編に備えシティが法律事務所起用−ドル債受託会社 10/8
米銀シティグループの1部門は、中国の不動産開発会社、中国恒大集団の債務再編をにらみ法律事務所のメイヤー・ブラウンを起用した。事情に詳しい関係者が明らかにした。同部門は中国恒大のドル建て債の大きな部分について受託会社となっている。
中国恒大は過去2週間に、2銘柄のドル建て債についてクーポン支払いを行わなかった。保証を付けていた3日期限のドル建て債も償還していない。
中国恒大保証のドル建て債、償還まだと関係者−3日が期限
営業時間終了後に中国恒大に電子メールでコメントを求めたが応答はない。メイヤー・ブラウンも返答せず、シティはコメントを控えた。
関係者によれば、一部のドル建て債保有者のアドバイザーらはニューヨーク時間8日午前6時30分(日本時間午後7時30分)から電話会議を予定している。カークランド・アンド・エリスとモーリスが助言するこの債権団は約25億ドル(約2800億円)の債券を保有しているという。

●中国恒大の「デフォルト近い」 10/8
中国不動産開発大手・中国恒大集団の経営危機をめぐり、同社の社債を保有する海外債権者のグループが8日、電話会議を開いた。
グループの顧問企業は「デフォルト(債務不履行)が差し迫っている」と警告した上で、恒大に対し、情報を開示するよう求めた。ロイター通信が伝えた。
恒大は先月23日と29日に期日を迎えたドル建て社債の利息計1億3100万ドル(約146億円)を支払えなかったとされる。期日から30日以内に利払いができなければデフォルトとなる。今月12日には新たに1億4800万ドルの利払い期日が迫っており、資金繰り懸念が一段と高まっている。 
 

 

●中国恒大集団 
●1 中国不動産市場、「最後は政府が助ける」神話が歪みの温床に
中国の不動産大手「恒大集団」の債務危機が世界を揺らしている。「政府はどう対応するのか」「リーマン・ショックのようになるのか」など複数の論点を巡って有識者がさまざまな見解を示しているが、中国政府や地方政府は今のところ明確な方向性を示しておらず、恒大は綱渡りの経営を続けている。
本連載では問題の全体像を把握するために、恒大の債務危機の背景と中国不動産業界の構図、歴史を3回にわたって解説する。1回目は、EV(電気自動車)への投資など多角化を進めていた同社が、なぜ短期間で窮地に陥ったかを振り返る。
巨額債務は当たり前だった不動産業界
恒大の債務危機は突然勃発したわけではない。不動産企業が規模拡大、多角化にまい進し、投資の原資を借り入れに頼るのは当たり前のことだった。2010年代前半は、同業他社に勝つため、或いは海外展開のため、不動産購入規制が強化された2010年代後半は次の稼ぎ頭を育てるため、どの企業も債務を膨らませていった。
2017年には不動産市場の黄金時代は終わったとの認識が広がっていたし、巨額債務も認識されていたが、危機感は薄かった。
状況が変わったのは2020年夏だ。市場の過熱を抑えるため中国人民銀行が「3つのレッドライン」と呼ばれる3指標(負債の対資産比率70%以下、純負債の対資本比率100%以下、手元資金の対短期負債比率100%以上)を示し、基準をクリアできない企業の資金調達を制限した。総額33兆円規模の負債を抱える恒大は3指標ともオーバーしており(直近では2指標が引っ掛かっていると推定される)、短期間での債務圧縮を迫られた。
同社は昨年9月、期間限定で全ての不動産物件の30%値引きに踏み切り、現金の確保を急いだ。時を前後して、中国のSNSで「恒大が地方政府へ支援を求めた」との情報が飛び交い、同社株が大幅下落した。恒大は即座に否定したが、その後、工事業者への支払いが滞っている、引き渡しが大幅に遅れているなどの声も各地で上がるようになった。
年内の社債利払い額700億円超
今年に入ると、恒大のデフォルト(債務不履行)を懸念した投資会社が格付けを引き下げたり、銀行が借り換えを拒否するようになる。また、当局の不動産企業に対する財務健全化の要求も一層厳しくなった。
そして8月、恒大が決算でデフォルトリスクに言及したことで、経営不安が一気に高まり債権者がオフィスに押し寄せ始めた。
同社は9月13日に「未曽有宇の危機にある」と声明を発表し、公的に危機を認めた。数日後には恒大の幹部6人が社債を前倒し償還受けていたことが判明し、「そこまで危ないのか」と事態の深刻さが認識された。
恒大は9月下旬から12月末まで、過去に発行した社債の利払い日が集中しており、社債にはドル建ても含まれている。デフォルトリスクが迫り、恒大のニュースは9月中旬に国外でも報道されるようになった。同社の年内の利払い額は社債だけで総額700億円を超える。政府が救済しなければ、デフォルトはほぼ免れない。
政府から見た機会とリスク
つまり、恒大の危機は1年前からくすぶり続けていた。それが最近になって大ニュースになっているのは、財務状況が市場の予想より深刻だと分かったことに加え、中国政府が沈黙を続けているからだ。
中国の住宅相場は一本足で上昇を続け、北京、上海、深センといった一級都市に至っては価格が平均年収の50倍を超える。当局が2軒目の取得の制限や頭金比率の引き上げなど、住宅購入規制を強めて過熱感を抑えようとしても効果は見られず、不動産の転売で富を得る人がいる一方で、ホワイトカラーの共働き夫婦でも手が届かない水準になっていた。
人々が投機に走り、銀行が融資を続け、バブルが膨らんだのは「企業の経営が危なくなっても最後は政府が助けてくれる」という共通認識があるからだ。
それが分かっているからこそ、「共同富裕」を掲げて格差是正に本腰を入れ始めた政府は難しいかじ取りを迫られている。
政府が動くに動けないもう一つの理由は、これが恒大一社の問題ではないからだ。不動産業界向けシンクタンク「焦点研究院」によると、今年前半時点で3つのレッド全てに引っ掛かっている企業は恒大を含め11社ある。準大手の華夏幸福は今年2月、融資52億6000万元を延滞していると認め、経営危機を明らかにした。同社は9月下旬に株式取引が停止され、30日に資産売却などにより2192億元の債務返還計画を発表した。
このように、3つのレッドに引っ掛かっている企業は多かれ少なかれ危機に瀕しており、日本の「メジャー7」並みの大手企業である恒大が破たんすれば、準大手クラスの企業はより厳しい立場に立たされる。
中国当局は恒大危機の影響が業界全体に及ぶのは食い止めたいはずだ。住宅を購入した消費者や工事を請け負った企業が損失を被る事態も避けたいだろう。ただし、早い段階で救済に動けば、「政府が何とかしてくれる」神話が継続し、不動産業界の歪みを正す機会も逸してしまう。
中国は10月1日から1週間の国慶節連休中だが、地方政府の職員を名乗る人物がブログに「恒大問題の件で、休み返上で対応している」と投稿するなど、水面下では誰を救って、誰に損をかぶってもらうか、大詰めの調整が行われているとみられている。

●2 貧困農家出身、勤務先追放、広州で起業…
中国の不動産大手・中国恒大集団の債務危機が大きく報じられ、同社の規模感や「第二、第三の恒大」となりそうな企業があることが広く認識された。また、9月下旬には同じく大手の融創中国が、地方政府に支援を求めたと報道された(同社は否定)。3回連載の2回目は、業界4強の「中国恒大」「碧桂園」「万科企業」「融創中国」の成長の要因や共通点を解説する。
ランキング激変した2010年代
中国の不動産企業を年間不動産販売額で見ると、上位5社の顔ぶれは2017年以降固定している。ただし、10年前と比較するかなりの変動がある。2010年のランキングのトップは万科企業で、恒大は5位。碧桂園は9位で、2003年に設立された融創は上位30社にも入っていない。
万科は不動産企業を初めて株式会社にしランキング激変した2010年代た業界のパイオニアで、2000年前後にはテレビ番組でレノボや中国最大の民営自動車メーカー、浙江吉利控股集団のトップと対談するなど、中国経済界の敏腕経営者として知られていた。この万科と上海に拠点を置く緑地集団、そして国営企業の保利集団が2010年代前半までトップ3を占め、特に万科は2015年まで不動の首位に君臨していた。
恒大の債務危機が露見した後、中国の消費者がすぐに「碧桂園と融創は大丈夫か」と連想したのは、3社が2010年代に勢力を急拡大した下克上企業だからだ。地方政府に支援を求める文書を送ったと報じられた融創中国は、後継者不足や経営不振などの問題を抱える同業他社を救済し、陣容を広げてきた。
不動産4強には他にも共通点が多い。恒大、碧桂園、融創の創業者はいずれも貧困農家の出身だ。万科の創業者・王石氏は父がサラリーマンで3人ほどの厳しさはなかったが、それでも家庭の経済環境は平均以下だったという。
天津に本社を置く融創以外の3社が、改革開放を号砲にいち早く発展した広東省で起業しているのも興味深い。
これらから見えるのは、中国の高度成長が始まり、インターネットが中国に上陸する前の時代、不動産業界は「持たざる者」にとって最もチャンスが大きい空間だったということだ。
大学入試再開で農村脱出のチャンス
恒大創業者・許家印氏が貧困農家出身で早くに母を亡くしていることは、今回の騒動を機に広く知られるようになったが、碧桂園、融創の創業者の出自もなかなか強烈だ。
碧桂園を創業した楊強国氏は農家の6番目として生まれ、17歳まで靴を履いたことも、新しい服を着たこともなかった。同氏は資産の多くを家族に移しているため、長者番付の上位に顔を出すことはないが、不動産会社を成長させるため「開発区域に私立学校を誘致し、市場価値を上げる」手法を業界で最初に取り入れ、富を得た後は貧しい子供の支援に力を入れている。許氏以上の「中国ドリーム」の体現者だ。
融創の孫宏斌氏は農作業を手伝いながら勉強を続け、1978年に15歳で武漢市の大学に合格、22歳で清華大学の修士を修了した。中国は文化大革命で大学入試が10年間中断したため、入試が再開した1977年、2年目の1978年には受験生が殺到し、この2年の合格率は数パーセントだった。恒大の許家印氏も1976年に高校を卒業し、1978年に武漢市の大学に入学している。許氏は後年、「大学入試の再開で自分の人生が開けた」と語っており、改革開放政策によって機会をつかみ、生まれ育った環境から脱出できた2人は、時代の申し子であるとも言える。
碧桂園、融創、万科は「3つのレッドライン」のうち1つが引っ掛かっている。恒大に比べリスクは低いが、経営への疑念が高まっている。
3人は社会に出てからも苦労している。楊氏は碧桂園を創業するまで建設作業員をしていた。
大学で冶金技術を学んだ許氏は鉄鋼会社に就職したが、1990年代に不祥事で会社を追われ、急速に発展した深センで就活をして商社に拾われた。同氏は長者番付で中国首位に立った翌2018年、失業者だった自身を拾ってくれた商社の上司を夫婦で訪問している。
幼少時から頭脳明晰だった孫氏は新卒でレノボに入社し、同社創業者の柳伝志氏の右腕として異例の昇進を遂げたが、その後、柳氏から忠誠心を疑われて追放され、公金横領の罪で4年間投獄された。ただし同氏は潔白を主張して後に罪は取り消され、柳氏からは融創の創業資金を援助してもらっている。
万科の王石氏にも触れておこう。同氏は高校卒業後、新疆などで5年間従軍し鉄道エンジニアになった。その後、広東省に移って政府職員として投資の誘致に従事、トウモロコシの貿易、日本企業との貿易を経て、1984年に深センで万科の前身企業を設立した。1988年には中国で初めて募集株式を発行し資金調達しており、経歴を見ても先見性があったかがうかがえる。
成長期は巨額債務も好意的な受け止め
4人の創業者は何もないところからキャリアをスタートさせ、自身の才覚だけを頼りに大企業を育て上げた。その生き方は、戦後復興から高度経済成長期、バブル期に渡って流通戦争の主役となったダイエーの中内功氏(故人)を連想させる。許氏がサッカーやEVに大金を注ぎ込んだのに対し、ダイエーはプロ野球経営に参入し、福岡でツインドーム構想をぶち上げた(バブル崩壊で実現しなかった)。
彼らはこれぞという事業には集中的に投資をし、経済の追い風が吹いているときには、過剰債務も「成長への種まき」として前向きに受け止められた。一方で、ゲームのルールが変わると全てが逆回転した。
中国メディアの報道によると恒大の許氏は2018年に碧桂園、万科、融創の創業者を会食に誘い、「不動産の黄金時代は本当に終わった」と確認しあったという。しかしその後も、借り入れに頼って巨額投資を行う手法は変えられなかった。
ダイエーをはじめ、バブル崩壊後に窮地に陥った日本の小売り企業の多くは、イオングループに救済された。
中国の不動産業界もこの10年で窮地に陥った大手・準大手が何社かあり、より大きな企業の支援を受けたが今はどこも自社の経営健全化に手一杯で、経営が悪化した同業企業を救済する余裕がない。

●3  「史上最速で転落」した不動産王・万達を教訓にできなかった恒大 
中国の不動産大手・恒大集団のデフォルト懸念が高まり、業界全体に危機が波及する中、今になって「負けるが勝ち」と思い出されているのが大連万達集団(ワンダグループ)だ。創業者の王健林氏は海外事業の爆買いで名を馳せ、2015、2016年に中国長者番付トップに立ったが、政府の投資規制によって瞬く間に凋落し、「史上最速で転落した企業と起業家」となった。翌2017年の長者番付で王氏に代わってトップに立ったのが恒大の創業者・許家印氏だったことは、万達の失敗を目の当たりにしても、業界に漂う「金がないなら借りるまでだ」(当時の王氏の発言)という空気が変わらなかったことを示している。
ブランディングが課題だった恒大
中国で最初に不動産規制が導入されたのは2010年。その前の10年間で、既に価格が高騰し、投機的な動きも起きていた。今の状況が「不動産バブル」ならば、それは20年にわたって続いている。
2000年代に中国の消費力は急速に向上したが、質やブランドを追求する余裕はまだなく、不動産も自動車も「持つ」ことがステータスだった。恒大も地方都市で低価格の物件を大量に販売して成長し、2009年に香港証券取引所に上場した。
2010年の不動産販売実績をみると、恒大の販売額は業界トップの万科企業の半分にとどまった一方、販売面積は拮抗していた。翌2011年、恒大の不動産販売額は4位、販売面積は1位だった。恒大の売りは「価格の安さ」であったことが分かる。
不動産規制は2011〜2022年にかけて全国に広がり、業界は一旦冬の時代に入った。各社が次の一手を探る中で、恒大が取り組んだのはブランディングだ。
恒大は2013年に不動産販売額で7位に後退したが、これは習慣化していた値引き販売をやめ、「低価格」ポジションから抜け出す取り組みの結果と言えよう。
同社は2010年には、八百長問題などでスポンサーが撤退した広州のクラブチームとスポンサー契約を結び、チーム名を「広州恒大」に変更。国内外から有力選手を爆買いして一気に強化した。許氏は、チームが強くなってニュースで取り上げられれば、CMより安くつくと考えたようだ。
投資効果はすぐに現れ、杭州恒大は2011年から中国スーパーリーグで7連覇、2013年、2015年にアジア一を決めるAFCチャンピオンズリーグで優勝した。日本で「恒大」の名前がまあまあ知られているのは、このサッカーチームのおかげでもある。
米国、東南アジア、欧州で爆買いに走った2010年代
スポーツをブランディングに使うのは新興企業の王道と言える手法で、恒大だけでなく多くの不動産企業がサッカーチームのオーナーになった。
だが、より大きな名声、利益を求める企業は中国での不動産購入規制を機に、政府の海外進出戦略「走出去」「一帯一路」に合わせて海外進出を選択し、中国企業の勢いを世界に見せつけた(バブル期に米国の不動産を爆買いした日本企業のようでもある)。
当時の業界トップだった万科は2013年、米不動産大手とサンフランシスコの高級タワーマンション建設で契約し「サンフランシスコ最大のマンションプロジェクト」と話題になった。
現在の業界トップである碧桂園は2011年、マレーシアでで高級コンドミニアムプロジェクトに着手し、「マレーシアの深セン」をつくる取り組みと騒がれた。
いずれも、急速に増えていた中国人富裕層・高所得者層の購入を見越したプロジェクトだったが、海外投資に舵を切った不動産企業の中で最も注目されたのは、大連万達集団による、創業者個人の野望を前面に押し出したエンターテイメント・スポーツの爆買いだった。
中国東北部に本社を置き、ショッピングセンターと映画館の経営で業績を拡大した万達の王氏が目指したのは「不動産王」ではなく「エンタメ王」だった。2012年に米映画館チェーン大手、AMCエンターテインメント・ホールディングスを26億ドル(約2900億円)で買収したのを皮切りに、ハリウッドの映画スタジオやスペインのサッカークラブに次々に巨額の投資を行った。2016年に開業した上海ディズニーランドへの対抗心も隠さず、「トラ1頭ではオオカミの群れにはかなわない」と国内13カ所にテーマパークを開業した。
2014年にグループの不動産企業と中国最大の映画館チェーンが上場したことで、王氏の資産は2015年までの1年間でアイスランドのGDPに匹敵するほど増え、2015年、2016年に2年連続でフォーブスの中国長者番付首位に立った(同氏は中国人として初めて、世界上位20人にも入った)。
余談だが、王氏の長男・王思聡もインフルエンサー兼投資家として有名になり、絶頂期は愛犬に8台のiPhone(iPhoneも当時のトレンド最先端だった)をプレゼントする写真を投稿したり、脱税で巨額罰金を命じられた女優・ファン・ビンビンのファンと大ゲンカをするなど、話題を振りまいた。
こうして国内外で「成り上がり」「中国人富裕層」を強烈に印象付けた王健林氏(とその息子)だったが、絶頂期は3年で終わった。2017年夏、外貨流出を懸念した中国政府が、金融機関に対し万達など海外M&Aを活発に行っていた複数企業への融資を制限するよう通達したのだ。
万達は借入金返済と現金確保のため、買い込んだ資産の放出を迫られた。国内のホテル76棟と13のテーマパークは、それぞれ同業大手の富力地産と融創中国に計1兆円で売却した。
不動産販売ランキングで2013〜2015年までトップ5にいた万達は、今は50位以内にも入っていない東北部のローカル企業に戻り、王健林、思聡父子も「かつてないスピードで転落した元セレブ」になってしまった。
絶頂期には巨額債務も「積極投資」と評価
万達の“三日天下”時代には、業界トップの万科も、無名の投資会社に敵対的買収を仕掛けられ、2年にわたって混乱に陥った。万科が投資会社とその背後にいる企業との攻防に明け暮れる間に、恒大が万科の株式を買い進め、いつの間にか約14%を保有する第3株主になっていたこともあった。
2015〜2017年にかけて、トップを争っていた万科と万達が失速したことで、恒大、碧桂園、融創が4強の座を得た。恒大が2016年に不動産販売額で初めて首位に立てたのは、“敵失”に助けられた面が少なからずある。
だが、当時の勝者はいずれも苦境にある。万達からホテル事業を引き継いだ富力はそれから間もなく経営が悪化し、従業員を半分に削減した。融創のトップ、孫宏斌氏は万達から資産売却の相談を受けた際、「自分が引き受けるから恒大には相談するな」と即答したとされるが、今は「第二の恒大」とささやかれている。
万達が経営危機に陥った際、不動産部門の負債額が2000億元(約3.4兆円)に上ることが判明し、「とんでもない巨額債務」と驚かれたが、恒大が抱える債務額はその10倍だ。
業界と企業の絶頂期には債務は「積極的な投資」と見なされ、政府も黙認する。しかし、政府の姿勢が変われば、それは自力では立っていられないほどの逆風として降りかかる。
不動産企業の戦国時代が「勝者なき競争」であるなら、たしかに早く負けた方が救いがあるのかもしれない。 
 

 

●中国恒大のデフォルト「目前に迫る」、海外債権者が懸念 10/9
経営危機に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団の社債を保有する海外投資家は、中国恒大の債務不履行(デフォルト)が近いことを懸念しており、同社からのより多くの情報と透明性を求めていると、海外投資家のアドバイザーが述べた。
中国恒大は先月、総額1億3100万ドルの利払いを実行できなかった。中国恒大からのドル建て社債の利払いに関する発表はなく、国内債権者を優先しているため、海外投資家は先月の利払いの30日間の猶予期間が終了した時点で大きな損失を被るのではないかと危惧している。
債権者グループはアドバイザーとして、投資銀行モーリスおよび法律事務所カークランド・アンド・エリスを選定。モーリスのマネジング・ディレクター、バート・グリセル氏は、海外債権者は中国恒大と「建設的に」関わることを望んでいるが、情報不足を懸念していると指摘。8日に行われた債権者との電話会談で「海外向け社債のデフォルトが目前に迫っており、短期間のうちに発生するだろう」と述べた。
また、中国恒大側との電話会議を数回行ったが「有意義な対話や情報提供」はなかったとした。
カークランド・アンド・エリスの香港事務所のリストラクチャリングパートナー、ニール・マクドナルド氏は、債権者は一段の透明性を求めており、中国恒大が株式上場規則に基づく情報開示義務を果たすことを望んでいるほか、中国恒大の一部事業の売却計画やそれで得られる資金の使途についてより多くの情報を求めているとした。
中国恒大はロイターのコメント要請に応じていない。来週には約1億5000万ドルの海外債権者への利払い期日を迎える。
モーリスとカークランド・アンド・エリスは現在、中国恒大の50億ドル相当の海外向け社債を保有している債権者を代表しているという。
関係筋によると、中国恒大のドル建て社債の社債管理会社であるシティは、法律事務所のメイヤー・ブラウンを法律顧問に起用した。両社はコメントを控えている。

●中国恒大のオフショア債保有者、緊急時対応計画に取り組む 10/9
法務事務所カークランド・アンド・エリスとニューヨーク拠点の投資銀行モーリスは、中国の不動産開発大手、中国恒大集団のオフショア債保有者と緊急時対応計画に取り組んでいる。
カークランドとモーリスはこれまでのところ恒大のオフショア債計25億ドル(約2800億円)規模を抱える6投資家を含むグループに対しアドバイス業務を行っている。モーリスのマネジングディレクターが債券保有者との8日の電話会議で明らかにした。9月16日以降、恒大の状況に関する情報と解決策が協議されている間は経営陣がオフショア資産の売却を見送るとの言質を求める書簡を送り、恒大および同社のアドバイザーと連絡を取り合おうと努めている。
ただ、カークランドの1人のパートナーが電話会議で語ったところによると、これまでのところ意味のある返答は得られていない。同会議には記者らがモニターとして招かれていた。
 

 

●中国恒大問題、アジア不動産会社に波及 社債や株価下落 10/10
アジアの不動産会社から投資マネーが引き揚げている。社債の利回りが上昇(価格は下落)し、株価や不動産投資信託(REIT)の価格は下落した。中国恒大集団の経営危機が中国の不動産価格の下落を招き、香港など経済的な結びつきが強いアジアの不動産市況も揺るがしかねないとの警戒感が高まっている。
社債市場ではアジアの不動産会社の利回りが軒並み上昇している。リフィニティブによると、タイなどで商業施設やオフィスビルなどを保有するセントラル・パタナの7年債が10月8日時点で1.4%台と、8月末から約0.2ポイント上昇した。
シンガポールに拠点を置き、中国など各国で10兆円以上の不動産を保有するキャピタランドの10年債は0.1ポイント強上昇して1.6%台となった。中国恒大の信用不安の拡大とともに社債の売り圧力が強まり、利回りが上昇した。
中国恒大の経営危機の背景には、当局による不動産過熱の引き締め策がある。不動産会社に過剰債務の圧縮などを求め、乱開発の抑制に乗り出した。不動産は中国の国内総生産(GDP)の4分の1を占める主力産業。米ゴールドマン・サックスのアンドリュー・ティルトン氏は不動産市況の軟化をきっかけに「中国の経済成長に悪影響が出る」と指摘する。
こうした懸念がアジア不動産への投資マネーに波及するとの見方が出ている。シンガポールなども産業構成に占める不動産の比率が高く、成長期待からアジア不動産に投資する欧米ファンドは増えていた。米大手投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は2021年1月、アジア太平洋地域向け不動産ファンドを計17億ドルで立ち上げた。
中国の不動産価格が下落すればアジア不動産ファンドの運用成績が低下し、海外投資家のアジアへの投資余力は損なわれる。中国本土からアジアへの投資マネーが逆回転する懸念もある。国内不動産の下落で損失を出した中国の投資家が、アジアに保有する不動産を売却するとの見方がある。
不動産株も振るわない。香港の恒基兆業地産(ヘンダーソンランド)が8月末比で8%安、新世界発展が7%安と売られた。中国当局が香港の住宅不足解消へ影響力を発揮するよう求めたことから、住宅価格の抑制圧力が強まるとの警戒が高まった。
海外からマネーを集めるアジアのREITにも逆風が吹く。運用対象が道路などのインフラに限られるなど、当局による管理の度合いが強い中国国内のREIT価格が底堅いのと対照的だ。
高成長が見込めるとして中国本土の物件を取得してきた香港REITの下落が目立つ。広東省などの物流施設に投資する順豊房地産投資信託基金は16%安、本土の商業施設やオフィス、ホテルなどに投資する匯賢産業信託は10%安になった。
アジア不動産市況の焦点になるのは、中国恒大問題の広がりだ。ほかの中国不動産でもデフォルト(債務不履行)が相次ぎ、金融機関などの損失が膨らめば投資マネーが収縮してアジアの不動産の打撃となる。一方で中国当局が実体経済への影響を抑える対策に乗り出せば、利回りが高いアジア不動産会社が見直される場面がありそうだ。 
 
 
 

 

●中国恒大の幹部6人、自社投資商品の早期償還で得た資金を返還 10/11
経営危機に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団は9日、自社の投資商品の早期償還を受けていた幹部6人が資金を返還したと発表した。
中国恒大はこれまで、債券保有者に対する最近の利払い見送りについて公式に説明していない。発表文によると、8日までに全額返金されたという。同社は既に6人の責任を問い、処罰したとしたが、詳細については明らかにしなかった。幹部6人は5月1日─9月7日、12の投資商品について、早期償還を受けていた。幹部の氏名や商品の詳細については公表していない。

●「中国不動産の連鎖倒産が止まらない」 習近平政権 最悪のシナリオ  10/11
“デフォルトの連鎖”の懸念が高まっている
足許で、中国の不動産大手の恒大集団(エバーグランデ)が、本格的な破綻に向かうとの懸念が高まっている。同社の米ドル建て社債の価格の推移を確認すると、2022年3月に償還を迎える債券も、2025年6月に償還を迎える債券も7〜8割の債務減免を織り込んでいる。9月23日と29日に期限を迎えた2本のドル建て社債の利払いは実施されず、30日間の猶予期間に入った。中国の不動産業界では、エバーグランデ以外にもデフォルト懸念が高まる企業が増えている。中国経済は投資に依存した成長の限界を迎え、共産党政権の経済運営に対する不透明感が増している。返済能力が低下しデフォルト懸念が高まる不動産業者をどう救済、再編するかは共産党政権の意思決定にかかっている。今後、エバーグランデの経営破綻が、2008年のリーマンショックのような世界的な金融危機につながる可能性は低い。ただ、同社のデフォルトを発端に中国の不動産市況が悪化すれば中国国内の理財商品の価値は棄損され、経済の減速はより鮮明化するだろう。それは、世界経済にとって無視できないリスク要因だ。
切羽詰まった中国の不動産市場
中国経済の成長を支えた不動産市場は、かつての輝きを失い窮地に陥りつつある。その象徴の一つが、約33兆円の負債を抱えるエバーグランデのデフォルト懸念だ。重要なポイントは、エバーグランデ以外にも、資金繰りが逼迫して債務の返済能力への不安が高まる大手、準大手の不動産デベロッパーが急速に増えていることだ。状況は切羽詰まっている。9月には、物件販売面積で第4位の融創中国(サナック)の資金繰りが悪化し、同社が浙江省紹興市に支援を要請したとの観測が浮上した場面もあった。また、広州富力地産(ガンジョウR&Fプロパティーズ)や花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)などのデフォルト懸念も高まっている。報道によると、2021年の年初から9月5日までに中国では274社の不動産関連企業が経営破綻した。今後、デフォルト、あるいは経営破綻に陥る不動産業者、その取引先企業などは増加するだろう。
資産バブルに沸いた80年代日本と似ている
それは不動産や道路などのインフラへの投資によって経済成長を実現し、求心力を維持してきた中国共産党政権にとって重大な意味を持つ。エバーグランデなどの債務問題の深刻化は、借り入れを増やして投資を行い、それによって経済成長を目指す共産党政権の経済運営が限界を迎えつつあることを示唆する。不動産業界での債務問題の深刻化は、共産党政権の権力基盤を不安定化させる要因になりかねない。政治体制や金融システムの違いなどはあるが、足許の中国経済は、1980年代末、資産バブルの絶頂期を迎えたわが国経済の状況に似ている。わが国の教訓にもとづくと、共産党政権は不良債権処理を進め、必要に応じて金融機関などに資金を注入し、その上で新産業の育成に取り組まなければならない局面に差し掛かっている。不動産バブルの後始末に対応し、新産業の育成を進めることができるか否か、共産党政権は正念場を迎えていると言ってよい。
「共同富裕」を掲げる習政権は救済するのか
共産党政権の債務問題への対応は、共同富裕(国全体で平等に豊かになろうという考え)が大きく影響する。習近平政権はアリババや滴滴出行(ディディ・チューシン)など民間のIT先端企業の創業経営者への締め付けを強めている。それによって共産党政権は貧富の格差の拡大を食い止める姿勢を世論に示したい。特に、ディディに関しては一時、北京市人民政府が同社に出資し政府の管理下に置くことが検討されているとの見方が浮上した。共産党政権がエバーグランデを救済すれば、それは富裕層である同社創業者の許家印氏を助けることになり、世論の不満や批判を買うだろう。その展開を避けるために、共産党政権がエバーグランデ全体を救済することは考えられない。それよりもエバーグランデは共産党政権の指揮の下で事業を切り売りし、維持できる部分に関しては存続させるだろう。その場合、国有・国営企業、あるいは政府系の金融機関などが資産取得に参画することによって、エバーグランデの存続事業は政府の管理下に置かれる可能性がある。
民間の金融機関に打撃を与えるおそれも
その一方で債務返済のめどが立たない事業に関しては整理(清算)されるだろう。その際に共産党政権は債権者に対してかなり強硬に、大幅な債務の元本削減をのませる可能性がある。それは、民間の金融機関などに相応の打撃を与えるおそれがある。そのショックを抑えるための方策の一つとして、中国は国有の金融資産管理会社(AMC)を活用して不良債権を処理する可能性がある。1999年に中国は4つのAMCを設立してアジア通貨危機の発生によって増加した銀行の不良債権を買い取った。2020年には21年ぶりに5社目のAMCである“銀河資産管理”の開業が認可された。それは、エバーグランデをはじめとする債務問題への対応を念頭に置いた共産党政権の行動といえる。ただし、10月上旬の時点で共産党政権は猶予期間に入ったドル建て社債の利払いをはじめエバーグランデなどへの対応指針を明確にしていない。今後の展開は決め打ちできない。
国外よりも心配な中国国内への影響
中国経済をめぐる不透明な要素は増えている。ポイントは、エバーグランデのデフォルトが世界経済にどの程度の影響を与えるかだ。基本的には、同社のデフォルトなどがリーマンショックに匹敵する世界的な金融危機に直結する展開は考えづらい。その点に関しては、中国の国外と国内の投資家への影響の2つの視点から考えるとよいだろう。まず、中国国外の投資家は、主にドル建ての社債を保有している。エバーグランデのドル建て社債の発行残高は約2兆円だ。保有主体も分散されており主要先進国の金融システムが損失を吸収することは可能だろう。エバーグランデのデフォルトの発生自体は、中国経済内部の問題にとどまる可能性がある。ただし、中国国内の投資家への影響を考えると、楽観はできない。最大の注目点は、中国国内の理財商品市場への影響だ。エバーグランデのデフォルトは、債務不履行や企業倒産が増加するトリガーとなり、中国の個人投資家の資産を棄損する恐れがある。そのインパクトは軽視できない。
予想される最悪のシナリオは
そのリスクに関して、共産党政権は信用不安の拡大を回避しつつ不動産業者などの債務問題に対応し、国内の理財商品市場を守ることは可能と考えているようだ。しかし、9月には、複数の投資家がエバーグランデの本社ビルに詰めかけ、返金を求めた。理財商品の価値下落におびえる個人投資家は増えている。理財商品の価値が守られるか否かは、今後の習近平政権の意思決定次第だ。
もし、共産党政権の債務問題への対応が十分ではない場合、一つのシナリオとしてエバーグランデはクロスデフォルトに陥り、中国経済内部では信用不安が急速に伝播する恐れがある。その場合、中国の不動産市況は悪化し、理財商品の価値は一段と下落するだろう。
その結果、消費や投資は減少する。不動産業者の取引相手などの企業の債務不履行も増えて中国の銀行システムにストレスがかかる恐れもある。それは中国経済の減速を一段と鮮明化させる要因だ。そうした展開が現実のものとなれば、中国経済とのつながりの強いわが国やアジア新興国をはじめ世界経済にもマイナスの影響が波及するだろう。
 

 

●中国恒大また利払い遅延 167億円、株取引停止続く 10/12
経営危機に陥っている中国不動産大手の中国恒大集団が、1億4800万ドル(約167億円)の米ドル建て社債の利払いを実施しなかったことが12日分かった。ロイター通信が報じた。利払い遅延が繰り返され、デフォルト(債務不履行)懸念が高まっている。香港証券取引所では恒大株の取引停止が続いた。
ロイターによると、米東部時間の11日中に投資家らが規定の利払いを受け取れなかった。恒大は9月にも2回、米ドル建て社債の利払いを行わなかったとみられるが、いずれについても沈黙を保っている。
恒大の株取引は4日に停止された。

●中国恒大集団のEV部門、来年のEV生産着手を表明 10/12
経営危機に陥っている中国不動産大手、中国恒大集団傘下で電気自動車(EV)の開発・生産を手掛ける中国恒大新能源汽車集団は11日、来年のEV生産着手を目指すと発表した。
同社は先月、迅速な資金注入がなければ資金繰りが破綻すると警告。戦略的投資や資産の売却がなければ、従業員やサプライヤーへの支払い、および自動車の量産能力に影響が及ぶだろうとしていた。
ただ、同社はこのほど部品会社や地元当局などとの会合を開催。ウェブサイト上の発表によると、経営陣は来年の量産開始を確実に達成するとした。 
 
 

 

●中国経済のファイナンス活動、9月に減速−恒大問題で不動産低迷 10/13
中国経済のファイナンス活動は9月に減速した。中国人民銀行(中央銀行)は与信拡大の安定化を約束したが、中国恒大集団を巡る問題の影響で不動産市場が低迷し、資金調達や融資活動が鈍った。
人民銀が13日発表した9月の経済全体のファイナンス規模は2兆9000億元(約51兆1000億円)と、前月の2兆9600億元から縮小した。前年同月は3兆4700億元だった。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想の中央値では3兆500億元だった。
9月の新規融資は1兆6600億元と、前月の1兆2200億元から増加した。エコノミスト予想は1兆8100億元だった。

●中国広東省、住宅購入巡り消費者にリスク警告 10/13
中国広東省の住宅規制当局は13日、消費者に対し住宅購入に関する警告を出した。不動産開発大手の中国恒大集団が過去3週間で債券の利払いを3回見送ったほか、一部企業がデフォルト(債務不履行)の可能性を警告したことが背景にある。不動産開発業者が政府以外のエスクロー口座に資金を預けるよう住宅購入者に求めることをリスクとして挙げた。また一括支払いや共同購入などにより、平均的な市場価格よりも明らかに安い価格で住宅を販売したり、政府の登録価格よりも高い値段で販売したりすることも消費者へのリスクと指摘した。

●世界のドル建てディストレスト債、ほぼ半分が中国不動産セクター 10/13
各国・地域の中央銀行が講じた金融緩和で不安の多くが取り除かれた世界の債券市場にあって、中国不動産開発会社のトラブルが際立っている。
ブルームバーグが12日にまとめたデータによると、ディストレスト水準で取引されているドル建て債1390億ドル(約15兆7900億円)のうち、46%が中国不動産セクターの社債だ。利回りがベンチマーク金利を10ポイント以上上回る債券は、ディストレスト債と見なされる。
中国不動産セクターでは債務返済圧力が高まりデフォルト(債務不履行)が増えていることから懸念が広がっており、中国の発行体による投資不適格級(ジャンク)格付けのドル建て債は、利回りが約10年ぶり高水準に達している。
業界大手の中国恒大集団が先月、社債利払いを怠り、続いて花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)が予想外のデフォルトに陥った。新力控股集団は、今月18日に期限を迎える社債を償還できるとは見込んでいないと発表した。

●経営危機の中国恒大、社債利払い見送り 過去3週間で3度目 10/13
経営危機に陥っている中国の不動産大手、中国恒大集団は12日、社債の利払いを再び見送った。過去3週間で3回目の利払い見送りとなる。恒大集団は1億4800万ドル相当の利払いを海外の債権者に行う予定だった。同社は3000億ドル以上の負債を抱えており、これには約200億ドルのオフショア債が含まれる。同社は国内の債権者を優先している。しかし経営破綻を巡る懸念が高まり、中国の不動産業界全体に影響を与えている。
別の中国不動産開発会社、当代置業(モダン・ランド)は、債務返済の延長を要請。新力控股(シニック・ホールディングス)は、2億5000万ドル相当の社債について、デフォルト(債務不履行)となる可能性が高いと発表した。新力控股の株式は先月に90%近く下落した後、取引停止となっている。恒大集団の株式は先週取引停止となり、トレーダーは売買ができないでいる。上海証券取引所のデータによると、12日午前の取引で上場債券の騰落率トップ5はすべて不動産会社が発行したものだった。

●恒大ショックで中国経済は危機に陥るのか? 10/13
中国の不動産大手「中国恒大集団」の経営危機がにわかに注目を浴びている。2021年9月20日、同社のデフォルト(債務不履行)懸念を受け株価が急落。ショックは欧州、米国、そして連休明けの日本にも波及し、世界同時株安の様相を呈した。
恒大集団が公表した報告書によると、6月30日現在の負債総額は1兆9665億元(約33.8兆円)と巨額だ。中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する負債を抱える企業が無策のまま破綻すれば、その影響は計り知れない。
10月12日には、ここ3週間で3度目となる社債の利払い遅延の報道もあった。
そのため一部では、「第2のリーマン・ショック」、「中国経済崩壊」を懸念する声も聞かれる。恒大ショックで中国経済は危機に陥るのだろうか。
流出した恒大集団の負債リスト
まずは概要を見ておこう。中国恒大集団は、1996年に広東省広州市で、董事局主席(会長)の許家印氏が創業した不動産開発企業だ。
中国の不動産市場はまだ若い。中国には「分房」という言葉があるが、「房子(住宅)を分配する」という意味で、以前は勤務先などから住宅を分けてもらうというのが慣例だった。不動産取引が始まったのが、90年代後半。土地は国有であるため、デベロッパーは国から「使用権」を購入し、その土地にマンションやオフィスビルを建設し、土地の使用権と建物の所有権をセットにして販売している。
2000年代の中国経済の拡大とともに、黎明(れいめい)期にあった不動産市場は急拡大。そのブームに乗って恒大も急成長を遂げた。
2009年には香港証券取引所に上場し、経営の多角化を始める。翌2010年に、プロサッカーチーム「広州恒大(現・広州FC)」を買収。アジア・チャンピオンズリーグを2度制覇する屈指の強豪チームにまで育て上げ、恒大の知名度は高まっていった。近年では、新エネルギー車や映画、ヘルスケアなどの事業にも進出している。
不動産開発には多額の資金が必要な上に、経営の多角化を進めるために、さらなる借り入れや外債を中心とした債券発行を行った結果、同社の負債はみるみる増加していった。
2020年8月、恒大集団が広東省政府に提出した内部報告書が流出し話題となった。そこに記されていたのが、国内外の金融機関が関わる同社の有利子負債の実態だった。具体的には、2020年6月30日における有利子負債総額は8355億元(14.2兆円)で、その内、国内ノンバンク向けが3676億元(44.0%)、国内銀行向けが2159億元(25.8%)、海外債券1852億元(22.2%)、国内債券496億元(5.9%)であった。また、民生銀行293億元、中国農業銀行242億元、浙商銀行113億元、光大銀行105億元、中国工商銀行103億元など、具体的な金融機関に関する情報も記載されていた。
時を同じくして、中国政府が規制強化へとかじを切る。
不動産規制強化がショックの引き金
中国政府は2020年8月、デベロッパーに対し資金調達の制限に関する指導を行なった。そこで示されたのが、「三条紅線(3つのレッドライン)」と呼ばれる基準だ。
1 (物件前売りで得る資金を除く)資産負債比率が70%以下
2 自己資本に対する負債比率が100%以下
3 短期債務を上回る現金保有(現金÷短期債務>1)
この3つの基準の達成数に応じて、デベロッパーを「緑(3つ達成)」「黄(2つ達成)」「オレンジ(1つ達成)」「赤(全て未達)」の4グループに区分し、年間の有利子負債の増加額を、「緑」は15%以内、「黄」は10%以内、「オレンジ」は5%以内に抑え、「赤」は増加を認めないという内容だった。
この基準を一つも達成できていなかった恒大は「赤」に分類され、資金調達が困難となる。
中国では、デベロッパーが外部資金を使って不動産を開発、物件完成前に販売し、そのお金で借金を返済するのが一般的だ。少ない資本で金融機関からの借入金を増やす高レバレッジ経営を続けてきた恒大集団は、今回の規制によって運転資金が確保できなくなってしまった。
さらに同年12月31日に出された、銀行の不動産関連融資に対する規制も追い打ちをかける。銀行の資産規模に応じて5グループに分け、総融資残高に占める住宅ローンや不動産企業への融資残高の上限比率をそれぞれのグループで定めた。例えば、住宅ローンの上限比率は、最大手グループで32.5%、最も小さいグループで7.5%としている。
これにより、銀行で住宅ローンが組みにくくなった消費者が不動産を買い控えるようになり、恒大は販売面でも苦境に立たされた。
このような中、2021年8月に入ると同社を巡る様々な問題が表面化し始める。8月19日には、金融当局が恒大集団の幹部を呼び出し指導を行った。同月31日の中間決算発表において、同社自身がデフォルトリスクを示したことで、さらに不安が広がった。9月12日、資金調達手段として社員や投資家に販売していた「理財(財テク)商品」の返済が滞り、数百人が広東省深圳市にある本社ビルに押し寄せ抗議活動が行われた。これを機に、日本メディアでも広く報じられるようになった。
経済危機は起こらない
恒大の従業員数は16万人を超える。また、不動産業は関連産業の裾野が広く、恒大のような巨大企業が破綻すれば、その影響は多くの企業に波及するだろう。
中国政府は恒大集団を救済するのだろうか。
中国では、過去において、政府が企業や金融機関を救済したことで、「最後は政府が助けてくれる」という考えが広がった。この「暗黙の保証」というモラルハザードは、中国政府も問題視しており、解決に向けた措置がとられてきた。また、自分たちがなかなか買えない不動産で大もうけしているデベロッパーのことをよく思っていない国民も多い。血税を投入して恒大を助けたとなると、国民からの反発は必至だ。したがって、無条件での政府支援はないと思われ、デフォルトの可能性は十分考えられる。
問題はその処理方法だ。
考えられるのが、「破産重整」と呼ばれる法的整理である。会社を清算せず、債権者の同意を得て債務カットを行い、企業活動を継続しながら再建を目指す。つまり、恒大自身だけではなく、国内外の金融機関や投資家を含むステークホルダーも共に痛みを負うこととなる。
当然、金融機関にも影響を及ぼすが、それが金融システム全体にまで波及するとは考えられない。中国政府は、このような事態が起こり得ると想定し事前に準備をしてきたからだ。
2017年から重大リスクの防止、中でも、金融リスクの防止を一丁目一番地の政策として取り組んできた。「システミックリスクを発生させない最低ラインを守る」という呼びかけの下で、これまで銀行セクターでも十分な引き当てを積んできており、6月末時点の貸倒引当金残高は5.4兆元(約91.8兆円)に上る。また、中国人民銀行が9月3日に公表した「金融安定報告」では、不動産開発向け貸し出しと住宅ローンの不良債権比率をそれぞれ15%と10%増加させたシナリオのストレステストを実施しているが、銀行全体の自己資本比率は十分ショックに耐え得るとしている。
9月29日、恒大集団傘下の地方銀行、盛京銀行の発行済み株式19.93%を約99億元(約1700億円)で、遼寧省瀋陽市政府系の国有企業に売却すると発表した。親会社の破綻リスクが、同銀行を介して金融システムに波及することが懸念されていたが、これを事前に食い止めた形だ。真っ先に傘下銀行の切り離しを政府主導で進めたことからも、「金融市場ルート」を通じた危機の伝播(でんぱ)を抑えるという意図を読み取ることができよう。
「不動産市場ルート」はどうか。一部では、連鎖的な不動産価格の暴落による市場崩壊を懸念する声も聞かれる。しかし現時点では、このような事態の発生も考えられない。その最大の理由が「剛性需求(硬直的需要)」、現役世代の住宅に対する強い実需の存在だ。
中国では一般的に、結婚前に男性側の方で住宅を準備する慣習がある。私が勤務する大学の卒業生などに話を聞くと、結婚前の住宅購入は、少なくとも大卒者の間では共通認識となっているようだ。そして、不動産の潜在的買い手である大卒者も近年急増している。中国教育部の統計によると、2020年には870万人(大学生797万人、院生73万人)が大学を卒業している。
実際に、北京のある商業銀行で住宅ローンを担当している私の元教え子に話を聞くと、「現在は国の政策によって住宅購入に踏み切れない人が一定数存在する。『剛性需求』は依然として強く、価格が下がればすぐに買いが入る」という。
中国はいまだ発展途上にあり、先進国と比較すると都市化率も高くない。新型コロナ禍で導入されたテレワークも、中国では結局定着せず、勤務スタイルはコロナ前の状態に戻ってしまった。一時的に低下したオフィス需要も徐々に回復していくだろう。
恒大集団の今後については依然として不透明だ。マーケットの混乱は覚悟しておく必要がある。しかし、同社の混乱が引き金となって、中国経済全体が危機に陥る可能性は極めて低いであろう。
 

 

●中国恒大新能源汽車、天津工場の改修工事中断か 支払いに遅れで 10/14
巨額の債務危機に陥っている中国恒大集団傘下の電気自動車(EV)メーカー、中国恒大新能源汽車について、一部設備業者への支払いが遅れていることで、天津工場の生産ラインの改修工事がストップしているようだ。中国恒大新能源汽車は11日にサプライヤー各社との会合を催し、4月の上海モーターショーで発表した新型スポーツ多目的車(SUV)「恒馳5」を2022年初に天津工場でラインオフさせるとの見通しを示していたが、スケジュール通りに生産を開始できない可能性がある。『香港経済日報』が14日伝えた。
一方、上海や広州、天津の一部従業員が10月下旬まで休暇とする旨の通知を受け取っていたが、人力資源社会保障局が中国恒大新能源汽車に確認したところ、作業量の減少により一部従業員を自宅待機としたものの、11月1日には全員出勤とすることを明らかにした。
中国恒大新能源汽車は上海や広州、天津の工場で複数モデルの生産を計画していたが、資金繰りが悪化し、「恒馳5」と「恒馳6」の2モデルに絞っていた。うち「恒馳5」の進展が比較的早く、広州工場で生産する予定だったが、ゴーサインが下りず、天津工場での生産に計画を変更していた。

●恒大問題、中国政府に選択の時  10/14
中国の不動産開発大手・中国恒大集団がじりじりと崩壊に向かう中で、政府が包括的な対応策を用意しているとすれば、それはアジアで最もよく守られている秘密の一つと言えよう。習近平国家主席の率いる政府が介入し、少なくとも恒大の一部債権者の保護に動くことは明らかだ。ただ、誰がどのような形で優遇されるのか不透明なことは、もうひとつのリスクである。
恒大が3000億ドル(約34兆円)以上の負債の管理面で問題を抱えていたことは、投資家や中国の政策担当者の間では何カ月も前から知られていた。今年8月以降、同社は国外の投資家向け債券の3件の利払いを期限内に履行できなかった。ただ30日間の猶予期間のおかげで、まだデフォルト(債務不履行)には陥っていない。
中国政府がどんな対応を考えているのかは誰も知らない。恒大の現行の形態を維持する形での直接的な救済は考えにくい。同社の苦境の一因は、不動産価格を低下させるとともに不動産開発業界の債務を減らすという中国政府の広範な取り組みにある。また、債権者の法的優先順位に基づく欧米型の秩序ある破綻手続きが同社に適用されることもないと思われる。こうした手続きが取られれば、投資家は中国の法の支配について安心感を持つだろう。・・・
 

 

●中国恒大集団巡り人民銀が沈黙破る、金融システムへのリスク制御可能 10/15
中国人民銀行(中央銀行)は、債務危機にある不動産開発会社、中国恒大集団について沈黙をついに破り、同社が金融システムに及ぼすリスクは「制御可能」で影響が拡大する可能性は低いとの見解を明らかにした。
人民銀の金融市場部門責任者の鄒瀾氏は15日の記者会見で、中央と地方の当局は「市場志向と法の支配の原則」に基づいて状況を解決しつつあると説明。人民銀と銀行監督当局は銀行に、不動産セクターへの「安定的かつ秩序ある」与信を続けるように求めたと述べた。
習近平国家主席が不動産市場を冷ますための厳格な措置を維持する中、中国恒大の流動性危機が他の不動産開発会社に波及することが懸念されている。花様年控股集団の突然のデフォルト(債務不履行)や新力控股集団のデフォルト警告が懸念をさらに深めた。
鄒氏は中国恒大について、「事業を正しく運営し市場環境の変化の中で慎重に営業することを近年怠ってきた」と指摘した。3000億ドルを超える負債を抱える恒大が、「やみくもに拡大し経営を多角化した」とも批判した。
人民銀は不動産会社とその利害関係者に対し、債務を履行するよう促していると述べ、不動産会社のドル建て債が値下がりしているのはデフォルトに対する自然な反応だとも語った。
鄒氏はまた、当局は中国恒大の建設プロジェクトが再開されるための金融支援が確実に提供されるようにすると述べた。同社の急拡大が「財務指標の大幅な悪化につながり、最終的にリスクが暴発した」と語った。
中国恒大の金融負債は債務総額の3分の1に満たないとも指摘。中国の不動産開発会社の大半は財務が健全だとも述べた。

●中国恒大、香港本社ビル売却が白紙に 買い手が計画撤回 10/15
中国の国有不動産開発会社、越秀地産は経営危機に陥っている同業の中国恒大集団が保有する香港本社ビルを17億ドルで取得する計画を撤回した。2人の関係筋が明らかにした。
恒大の財務状況への懸念が強まったことが理由という。資金調達難に直面している恒大に痛手となる。
同筋によると、越秀は8月に同ビルの買収で合意する寸前だったが、恒大の債務問題により取引を円滑に実行できない恐れがあるとして越秀の取締役会が反対した。
恒大は2015年に同ビルを同業の華人置業集団から125億香港ドル(16億1000万ドル)で取得した。関係筋の1人によると、恒大は取得費用の大部分を100億香港ドル以上の証券化商品で賄っており、売却で得られる現金は限られる。
越秀の取締役は恒大の将来が不透明なため、取引が確実に実行されるか疑念を抱いたという。また越秀が本社を置く広州の政府からも8月下旬に買収を保留するよう指導されたとしている。
別の関係者は、資産売却で得た資金の使い道を理解するために、まず恒大の全体的な財務状況を確認したいと広州政府は考えたと明らかにした。

●緑地、易居、花様年、当代置業......中国・恒大集団発の不動産ドミノ 10/15
中国の不動産部門は混乱が続いており、ロイター通信によれば、格付け会社S&Pグローバルが新たに、緑地控股集団と易居中国の大手2社の信用格付けを引き下げた。
これに先立ち、世界最大級の負債を抱える中国2位の不動産開発業者、中国恒大集団が再び社債の利払いを見送っていた。過去3週間で3度目だ。
一部の専門家は、恒大集団が近いうちに経営破たんする可能性を警告。さらに花様年控股集団と当代置業の2社についても、破たんの可能性があるとしている。花様年控股集団は先日、信用格付けが「部分的なデフォルト(債務不履行)」に引き下げられ、当代置業は投資家に社債の償還延期を要請した。
不動産関連部門が中国のGDPに占める割合は28%にのぼるという推定もあり、中国において不動産業界は、経済を支える上で諸外国のそれよりも中心的な役割を果たしている。
コンサルティング会社ローディアム・グループの中国市場調査担当ディレクターで、米シンクタンク戦略国際問題研究所の客員研究員でもあるローガン・ライトは、不動産関連部門の重要性を考えると、今回の問題は中国政府の手に負えない事態にまで拡大しかねないと言う。
「資金調達に苦慮する不動産開発業者が増えており、既に中国の金融市場に影響が広まっている」とライトは本誌に語った。「問題が制御可能だということと、実際に制御できることとは別だ。市場の混乱への対処が遅すぎれば、それが政策上のミスになりかねない」
中国政府にとって、問題はきわめて深刻だとライトは指摘する。習近平国家主席は最近、西洋式資本主義の影響からの脱却に向けた措置を取り、地方政府に対して恒大集団の経営破たんに備えるよう要請した。だがその間にも、不動産部門ではますます多くの問題が露呈している。
「中国の金融システム内では、しばらく前から信用ストレスが高まっていた」とライトは本誌に語った。「だが最近になって不動産部門の問題に注目が集まったことでそのストレスが増幅され、国内全域で不動産販売が減少した。このことが原因で、不動産開発業者がさらに資金繰りに窮し、デフォルト(債務不履行)が引き起こされる可能性が高い」
中国政府はかつて、主に銀行などが規制回避のために「シャドーバンキング(影の銀行)や非公式な機関」からの借り入れを行って、不動産開発業者などに迂回融資を行う行為を規制する方針を決定した。
だが2020年前半には、不動産業者向けの融資を抑制して監視を強化する、新たなシステムが導入されたと、ライトは2020年9月の報告書に書いている。このシステムではまず、資産負債比率やギアリング比率(財務の健全性を測る指標)、現金預金比率を基に、不動産開発業者を複数のカテゴリーに分類した。その結果、トップ30社の大半がこれら3つの基準値を達成できず、銀行から受けられる追加融資が制限されることになった。
ライトはこれらの規制の下、信用モメンタムが減速し、建設活動が減るだろうと予測している。恒大集団は未完成物件が続出し、債務を返済するのに十分な現金を調達するのに苦慮している。中国政府の対応で、一連の問題の拡大をどれほど食い止めることができるのか。それはしばらく後にならなければ分からないだろう。

●空き室あふれる中国の「ゴーストタウン」、ドイツの全人口住める規模に 10/15
この数週間、資金繰りに窮する中国の不動産開発企業、中国恒大集団の話題が各国のメディアの見出しを飾り、投資家は同社の抱える巨額の債務が今後どうなるのか固唾(かたず)をのんで見守っている。ただ恒大の崩壊以前から、中国不動産市場の冷え込みを示唆する危険信号は灯っていた。全国各地に存在するとみられる膨大な数の売れ残り物件がそれだ。
近年、問題は悪化の一途をたどっている。キャピタルエコノミクスのアジア担当チーフエコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏の試算によると、中国不動産市場は依然として約3000万件の売れ残り物件を抱える。8000万人が暮らせるだけの住居が余っている計算で、これはドイツのほぼ全人口に相当する。
さらに、購入はされたものの実際には誰も住んでいないとみられる物件が1億件ほど存在し、ざっと2億6000万人分の空き室を生み出している。こうしたプロジェクトにはこの数年で厳しい目が注がれるようになっており、中国の「ゴーストタウン」というあだ名までついている。
元々中国において不動産とその関連部門は、国内総生産(GDP)の3割を占める重要な産業だ。建設業とそれに付随する業務の割合は「他の主要な経済国よりはるかに高い」と、ウィリアムズ氏は指摘する。
過去数十年にわたり、これらの分野が牽引(けんいん)する形で中国経済は急速な成長を維持してきた。
ただ最近では、これらの産業が抱えるリスクへの疑念も浮上。各社が開発計画の資金を莫大(ばくだい)な借金で賄っていることなどが理由とされる。
負債が3000億ドル(約34兆円)を超える規模に膨らんだ恒大は持続不可能な成長をしてきた企業の典型だが、「苦しんでいるのは恒大だけではない」と、ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、クリスティーナ・チュー氏は強調する。
同氏の最近の報告によれば、今年の上半期で中国の不動産会社12社が債務不履行に陥った。焦げ付いた資金の総額はおよそ192億人民元(約3400億円)に上るという。
これは1〜6月期に中国本土の企業が支払えなくなった債務の20%近くを占める。全産業で最も高い割合だとチュー氏は語る。
新型コロナのパンデミック(世界的流行)から経済が再開する中で、建設業界もある程度は上向いたものの、好調が長く続くことはなかった。
この数カ月で価格上昇率や住宅着工件数、住宅販売といった指標は著しく低下したとチュー氏は分析。8月には床面積を基準にした不動産販売が前年同月比で18%の減少を記録したほか、新築住宅価格も同3.5%増と、パンデミックからの回復後最も小さい上げ幅にとどまったという。
さらに、未完成物件の問題がある。中国の新築物件の約9割は完成前に販売が完了する。もし開発業者に問題が生じれば、その影響は買い手を直撃することになる。ウィリアムズ氏はこうした状況が「当局が破たんした開発業者を再構築させながら、継続中のプロジェクトを進行させようとする強い動機となっている」と語る。
この数週間、政府もこの危機の波及を食い止め、市民を守る姿勢を見せている。中央銀行も不動産市場の健全な発展を維持し、消費者の権利と利益を守ると誓って、金融システムに資金を供給している。
ただ、すべての企業が破たんの差し迫っている状況にあるわけではない。キャピタルエコノミクスの中国担当のエコノミスト、ジュリアン・エバンズプリチャード氏は、「大半の開発業者はデフォルトの危機にはない」として、危機波及の懸念から来る一時的な借り入れ費用の増大をしのげるとの見方を示す。
だが、長期的にはそうした安心感はあまり意味をなさないかもしれない。「これから来る10年間の構造的な住宅需要の減退をうまく切り抜けられるかどうか。そちらの方が難しい問題になるだろう。業界の統合が延々と続き、何年も経過する公算が大きい。開発業者が今すぐにも軒並み破たんするというシナリオは、比較的現実味が薄いように思える」とエバンズプリチャード氏は語った。 
 

 

●中国不動産バブルの危険度を、さらに増幅させる3つの「隠れたリスク」 10/16
ここ数週間の世界の株式市場の下落は、中国の不動産大手・中国恒大集団が抱える莫大な債務に対する懸念が一因だと指摘する声は少なくない。その懸念を払拭して投資家の信頼を回復するためには、万が一、中国恒大がデフォルト(債務不履行)に陥ったとしても、中国政府は経済へのダメージを最小限に抑えるためにありとあらゆる措置を取るというサインを市場に送る必要がある。
中国恒大の中核事業は、中小都市における集合住宅の建設・販売だが、最近は電気自動車の開発などにも手を出してきた。その負債総額は1兆9665億元(約33兆円)と、中国のGDPの約2%にも相当する。
見方によっては、問題はこの数字が示唆するほど深刻ではない。中国恒大は、土地(厳密にはそこに建物を建てる権利)、建設済みマンション、そして建設途中のマンションなど多くの有形資産を保有しているからだ。その資産価値は負債総額を上回ると、同社は主張している。
だが、中国恒大がデフォルトに陥った場合、中国経済に与える衝撃は、2兆元の損失どころではないだろう。まず、中国恒大は向こう数週間〜数カ月に利払いや償還の期限を迎える債務を大量に抱えている。その支払いをするためには、流動性の低い不動産ではなく、現金が必要だ。このため中国恒大は、資産の投げ売りを余儀なくされるかもしれない。
ほかにも3つの不透明性が、中国経済全体に与える影響を増幅する恐れがある。第1の不透明性は、中国恒大と同じように借金頼みの成長を遂げてきた不動産開発業者への影響だ。金融機関は不動産業界全体の失速を懸念しており、それが貸し渋りにつながれば、こうした不動産開発業者も資金繰りが悪化して、債務返済に窮するかもしれない。
それは中国の金融システム全体を揺さぶる恐れがある。中国恒大が破綻すれば、鉄鋼やセメントなどの建築材料や、住宅機器のサプライヤーなども打撃を受け、自らの債務返済に行き詰まる恐れがある。幅広い業界で融資の焦げ付きが増えれば、金融機関の経営にも不安が生じる。
一方で、中国恒大はシャドーバンキング(銀行簿外での金融取引)も幅広く利用していた。その借り入れの一部は、本体の決算に含まれない関連会社に移し替えていたようだ。こうした簿外取引の規模やどのような管理がされていたかは不透明で、問題を肥大化させる恐れがある。
第3の、ひょっとすると最も重要な不透明性は、中国恒大の問題が中国全体のシステム危機に発展した場合、政府が全面的な金融メルトダウンを阻止できるかどうかだ。
対GDP比で見た中国の政府債務は約70%で、アメリカ(約133%)や日本(約256%)、フランス(約115%)と比べればずっと少ないから、政府が潜在的な危機に対処する余力は十分にある。中国人民銀行(中央銀行)も、信用収縮が起きた場合、市場に大量の流動性を供給するツールと能力を持つ。
だが問題は、中国当局がこうした介入措置に前向きかどうかだ。中国恒大は国有企業ではないし、政府は格差解消運動「共同富裕(みんなで豊かになろう)」を本格化している。そんななかで中国恒大を救済して、その創業者で支配株主であり大富豪である許家印も救うのでは市民に示しがつかない。
中国当局が取り付け騒ぎを防ぎ、資本市場を安定化するために取れる措置は2つある。第1に、政府が中国恒大のステークホルダー(許を除く)を救済する意思を明確に示すことだ。対象は、関係する金融機関と従業員、そして中国恒大のマンションの購入契約をしたのに、まだ引き渡しを受けていない消費者。これは中国恒大の資産を他の会社に買い取らせることで可能になるはずだ。
第2に、政府は中国恒大の経営破綻に備えて、さまざまな余波を防ぐ緊急対策を用意していることを発表するべきだ。各金融機関の中国恒大へのリスクの割合を公表して透明性を確保するとともに、財政措置と金融措置を組み合わせて、何があっても金融システムを支えるという政府の意思と能力を強く示すのだ。
当局は既に、こうした措置を準備しているかもしれない。だが、その計画を公表すれば、政府の準備態勢と行動能力に対する不安を払拭して、市場のパニックに終止符を打つことができるはずだ。
 

 

●中国指導部 恒大集団の経営危機で軍・警察に「第1級厳戒態勢」を発令 10/17
中国不動産開発大手、恒大集団が巨額な債務を抱えて経営破綻の危機に陥ったことに関して、マンション購入者らが購入代金の返還などを求めて混乱や暴力を伴う集団的な衝突が頻発しかねないとして、中国共産党指導部が中国人民解放軍や武装警察部隊などに対して「第1級厳戒態勢」を発令していたことが明らかになった。
これは恒大集団が20万人の社員や380万人の間接雇用者、全国280都市で1300の不動産建設案件を抱えているためで、恒大集団が経営破綻した場合、全国的に大きな動揺を招くことが予想されるからだ。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
恒大集団は1兆9700億元(33兆7461億円)という巨額の負債を抱えており、債務不履行は避けられないとみられている。そうなれば、恒大集団だけでなく、不動産関連の鉄鋼、アルミ、建設業界にも影響が及び、民衆の不満が爆発する可能性がある。
実際に、恒大集団の本社がある広東省深セン市では数百人のマンション購入者らが集会やデモを行って、「金を返せ」などと叫んで、警官隊と衝突するなど、一時、本社前は騒乱状態になったこともあった。
このため、中国政府は9月下旬、全国の地方政府や国有企業に対して、「恒大集団の倒産によって起こりうる暴風雨に備えなければならない」とする文書を通達。「恒大集団が法的に秩序だった管理ができなくなった場合、最後の場面で介入しなければならない。最も重要なことはマンション購入者や失業など経済全体の連鎖反応を阻止し、社会的動揺を防ぐことだ」などと指示した。
地方政府は法律家や会計士の専門家グループを組織したほか、警察などの政法部門を中心に集団暴動に対処する体制を整えている。
また、党中央指導部の命令を受けた中央軍事委員会は全国の5大戦区の各部隊宛てに「第1級厳戒態勢」を発令し、休暇の取り消し、全隊員の待機、緊急時の出動に備えるよう命令した。これは「暴動や無差別殺傷事件など今後も不測の事態が発生する可能性がある」として、新疆ウイグル自治区やチベット自治区に継続的に出されている厳戒態勢と同じレベルだ。
RFAは北京の識者の話として、「習近平国家主席ら最高指導部は地方の暴動が首都北京や上海などの大都市に波及することで、一党独裁体制が揺らぎかねないとの危機感を抱いているようだ」と報じている。
このため、国際的な信用格付け機関であるフィッチ社は、住宅投資は中国の国内総生産(GDP)の約10%を占めており、他の産業にも大きな波及効果をもたらしているとして、「住宅着工件数が減少し、財政圧力が不動産投資を圧迫していることから、今年の中国の経済成長率の見通しをこれまでの8.4%から8.1%に下方修正する」と発表。また、バンク・オブ・アメリカも来年の中国の経済成長率予測を6.2%から5.3%に引き下げている。  
 

 

●中国GDP成長率 減速鮮明 不動産投資冷え込む 10/18
GDP(国内総生産)の成長率が4.9%と景気減速が鮮明となった中国。不動産大手「恒大集団」の経営危機も加わって不動産への投資冷え込みが顕著ですが、その現場を取材しました。日本円でおよそ33兆円の巨額の負債を抱え、経営危機に陥っている恒大集団。取り付け騒ぎに、工事の停止・・・。いわゆる“恒大ショック”は、中国の不動産市場への不信感を一気に高めています。
記者「北京で建設中の恒大とは別のマンションです。20階と見晴らしのいいこちらの部屋、127平米で、価格はおよそ1億2000万円です」
これは、恒大集団とは別の不動産会社が今年3月からおよそ250戸を販売しているマンション。売れたのは、5分の1程度にとどまっているとみられます。民間の調査会社のデータでは、不動産業界全体の9月の物件の販売額は去年の同じ時期に比べ、36%あまり減少し、3か月連続のマイナスと急ブレーキがかかっているのです。そこに追い打ちをかけたのが“恒大ショック”なのですが、現場にはこんな影響が。
マンション販売企業 担当者「恒大の事件は不動産市場の価格に一定の波紋を広げている」
中国の投資家「180万元(約3200万円)の部屋を160万元(約2800万円)に下げたりしている。多かれ少なかれ、恒大の影響を受けている」
不動産会社は銀行から借り入れた金を使って地方政府から土地の使用権を購入し、開発するのが一般的なのですが、販売が落ち込むなか、銀行への返済のためにマンションを値下げして現金化する必要に迫られています。
北京市民「(値下げの)影響はもちろんあります。将来、投資の目的で不動産を買うことに慎重になる」「不動産に頼って国の経済全体を引き上げる可能性は低くなります」
きょう発表された中国の今年7月から9月までのGDP成長率は去年の同じ時期に比べ、4.9%のプラスでした。しかし、前期(今年4〜6月)と比べると、3ポイントのマイナスです。要因について、中国経済の専門家は。
丸紅中国・経済調査総監 鈴木貴元氏「第一の要因は、投資の停滞ということ。不動産業界の失速というのが一番寄与していると思います」
去年1年間の中国の不動産開発投資はおよそ14兆元で、不動産業界はGDPのおよそ14%を占めています。鈴木氏は、「不動産業界の低迷は規制緩和などにより、来年の夏には解消される」との見通しを示す一方で、依然としてリスクはあると指摘します。
丸紅中国・経済調査総監 鈴木貴元氏「他の大手企業にも販売の不振が広がってくると、予想外に不動産市場の冷え込みが大きくなって、予期せざることが実現してしまうということは有り得る」
景気の減速が一層鮮明になった中国。当局は今後、どう対応していくのでしょうか。

●中国「恒大危機」で経済の主力エンジンが止まる日 10/18
中国政府は、負債が危険なまでに膨らんだ住宅市場の熱を冷まそうとしている。住宅市場の過熱が以前にも増して国家的な脅威と見なされるようになったのだ。しかし、3000億ドル(約34兆円)の負債を抱える不動産開発大手・中国恒大集団がもたらす危機の封じ込めを進める中で、中国政府は経済成長の主力エンジンを傷つけるおそれがある。そのエンジンとは、ホー・チエンさんのような住宅購入者だ。中国の不動産市場を楽観視していたホーさんは、問題の恒大集団からマンションを購入。その後、自らも不動産仲介業者となり、同社のマンションを何百戸と販売した。
「人々はもう不動産を買う気分ではない」
ホーさんは最近、かなり悲観的になっている。中国南部の岳陽市出身の彼は、自身が購入したマンションにまだ入居できていない。恒大集団が建設を中断したためだ。住宅購入に神経質になっている人があまりにも多いため、以前の自動車販売の仕事に戻ることを考えているという。「人々はもう不動産を買う気分ではない」とホーさん。ホーさんのような現役世代を魅了した中国の不動産ブームは目下、劇的な修正局面を迎えている。一時は購買意欲が熱狂的に高まり、販売開始から数分で物件が売り切れる状況が続いていた。投機的な購入によって物件価格は高騰。一部の推計によると、中国の経済成長に対する不動産市場の貢献度合いは25%を超えるレベルにまで拡大し、中国では住宅が家族の主な資産形成手段になった。今では、中国における世帯資産のおよそ4分の3が不動産と結びついている。不動産市場に対する信頼の喪失は、自動車や家電製品の販売減に波及し、経済にさらなる打撃を及ぼす可能性があるということだ。中国の小売売上高の減速はすでに始まっており、消費者が不安を募らせている兆候がうかがえる。人々が住宅の購入を敬遠する中、不動産市場に介入し債務を抑制するという政府の決定は経済全体の成長を危うくしかねないと専門家らは指摘する。「不動産市場は現に深刻な落ち込みを示している。価格、販売、建設活動は低下しており、今後数四半期にわたって経済成長の足を引っ張る可能性が高い」と独立調査会社ガベカル・ドラゴノミクスのマネージング・ディレクター、アーサー・クローバー氏は語る。
高級不動産会社もデフォルト
恒大集団はかつて中国不動産ブームの象徴だったが、最近では経営危機のニュースで世界の市場を揺るがす存在となった。ここ数週間だけでも、外国人投資家に対する重要な利払いをいくつも見送っている。恒大問題は世界各国の中央銀行トップがコメントを発し、アメリカの国務長官が中国に「責任ある行動」を求める事態にまで発展している。不動産業界のデータ企業・中国房産信息集団(CRIC)によると、中国の不動産企業上位100社の9月売上高は前年比で3分の1以上減少したもようだ。10月初旬には高級マンションで知られる不動産開発企業・花様年控股集団(ファンタジア)が予想外のデフォルト(債務不履行)を起こし、金融市場に衝撃が広がった。恒大危機は9月にもっと深刻なものになっていた可能性もある。恒大集団は投資家に対し、売上高の「著しい落ち込みが引き続き」見込まれると警告。中国のあらゆる都市で同社物件の建設は停止しており、約160万人のマンション購入者が待ちぼうけを食らって、にっちもさっちも行かない状況に置かれている。以前は不動産の購入に興味を示していたホーさんの知人や隣人は、決して完成することのないマンションに頭金を支払うことになるのではないかという不安を口にするようになった。以前は多くの家族を引き寄せていた恒大集団の洗練された営業所も、今では人々から避けられるようになっている。ホーさんは、このような人たちを責める気にはなれない。自分が買ったマンションの建設も6月にストップしたからだ。このほかにも、ホーさんの住む町では恒大集団が進めていた3つの大規模プロジェクトの建設が停止したか、停止する見通しだ。建設業者への支払いが滞ったためとされる。地元住民の声を吸い上げる目的で政府がオンライン上に用意した掲示板は、恒大集団からマンションを購入した人々からの怒りのこもった苦情であふれかえっている。完成もしていない物件に対し住宅ローンを払い続ける必要があるのか、恒大集団が倒産したら全財産が「水の泡」になるのか、といった疑問をぶつける人もいる。ある住宅購入者の一団は広州の掲示板で、恒大集団が頭金で得た資金を、地方政府の管理下で厳格に管理されているのとは違う私的な口座に入れていることがわかったと述べた。四川省眉山市の別の住宅購入者は掲示板を使って、当局者に「国民のために正義を!」と訴えた。
当局の沈黙がもたらす景気の沈滞
恒大集団の倒産は2008年に世界金融危機の引き金を引いたリーマンショックの中国版になるのではないか——。そうした疑問が著名な投資家らの間で浮上しているにもかかわらず、中国政府はほぼ沈黙を貫いている。「大きすぎて潰せない」とみられてきた企業であっても救済の対象とはならない、というスタンスだ。そのため地方政府は、住民のいら立ちに孤立無援で対応しなければならない状態となっている。恒大集団をはじめとする不動産開発企業の建設継続や巨額債務対応を支援するという明確なメッセージが中国政府から発せられない中、多くの国民は現金にしがみつき、住宅購入を先延ばしするようになった。ホーさんはまだ、恒大集団から購入したマンションの完成予定を聞けていない。同社から遅延の通知は来ていないとはいえ、建設が数カ月前に止まったのは見ればわかる。ホーさんは来年5月に結婚する予定だが、それも見直さなければならない状況だ。本来ならマンションは年末までに完成する予定で、結婚式の一環として華々しく披露できるよう内装に手を加える時間も十分に確保できるはずだった。ホーさんが言う。「建設が遅れたから、結婚式も延期だね」

●中国不動産大手、花様年集団が債務不履行 トップは曽慶紅元副主席の姪 10/18
中国では不動産業界最大手の恒大集団の債務不履行危機が注目を浴びているなか、不動産大手の花様年集団も10月初旬、約2億ドル(約226億円)の社債を返済できなかったと発表し、事実上の倒産に追い込まれたが、同集団の創業者である曽潔氏は曽慶紅元国家副主席の姪であることが明らかになった。
曽慶紅氏と習近平国家主席は少年時代から親しく、習氏は曽氏を「お兄さん」と呼ぶほどだった。まだ地方幹部だった習氏が中央政界に進出し、中国の最高指導者に就任したのも、当時の江沢民主席に次ぐ実力者だった曽氏のバックアップがなければ、実現しなかったともいわれている。
しかし、今回の花様年集団の経営破綻で、両者の関係が悪化していることが裏付けられた形だ。
曽潔氏は1996年に花様年集団を創設。2020年の中国不動産企業ランキング「100強不動産企業」で第51位だった。しかし、恒大集団の債務不履行問題が表面化すると、借金経営体質が投資家から警戒され、資金繰りが悪化し、債務不履行に追い込まれたとみられる。
しかし、花様年集団はこれまでも何回か、経営危機を乗り越えてきたが、そのつど、曽潔氏が頼りにしてきたのが叔父の曽慶紅氏だった。
曽潔氏の父、曽慶淮氏は曽慶紅氏の弟。兄の政治力からか、中国文化部(省)の特別巡視員、中華民族促進会副会長、文化部駐香港特派員などを務め、中国国内や香港の芸能界を牛耳っていたとされる。また、曽慶紅氏が習氏と親しいことも、曽慶淮一家にとっては頼みの綱だった。
習氏と曽慶紅氏は義兄弟のような親密さで、清華大学を卒業して党中央軍事委員会で働き始めたばかりの習氏は曽慶紅氏のことを「慶紅兄さん」と呼んでいたほどで、2人は助け合ってきた仲だった。
最高指導者だった江沢民氏の腹心であった曽慶紅氏は、習氏を強力に推薦。習氏は2007年10月の第17回党大会で党政治局常務委員に選出され、翌3月には国家副主席に就任するなど、最高指導者への足掛かりを得てきた。
米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」などの米メディアによると、習氏は曽慶紅氏の姪である曽潔氏が起業した花様年についても、経済官庁の幹部に対して、経営上のアドバイスをするよう指示するなどしていたという。
しかし、それも習氏と曽慶紅氏の関係が良好だったころまでのことで、習氏が最高指導者に就任した2012年秋の第18回党大会以降、習氏は反腐敗闘争を展開し、江沢民氏を中心とする上海閥の幹部を汚職などで軒並み逮捕すると両者の関係も悪化していったとされる。
さすがに、習氏は「お兄さん」と呼んでいた曽慶紅氏を逮捕するようなことはしなかったが、いまでは顔を合わせることもない状況になっているという。

●中国恒大の財務諸表など調査、財務報告局 10/18
香港財務報告局(FRC)は15日、深刻な経営危機に陥っている中国本土の不動産開発大手、中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)について、経営の持続可能性を調査すると発表した。同社は香港取引所(HKEX)メインボード上場企業。直近の財務諸表などを調べる。
調査の対象は、中国恒大の2020年12月期決算と21年6月中間期決算の財務諸表、および大手会計事務所の英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が中国恒大の20年12月期決算に際して実施した監査の内容。FRCは市場の監視活動を通じて、これらの決算や監査報告に経営の持続可能性の開示面で問題が見つかったと説明した。
20年12月期決算では1,590億人民元(約2兆8,300億円)の現預金があったとしているが、これは1兆5,070億元の流動負債を到底カバーできない額だったことなどを問題点として挙げた。またPwCが同決算の監査報告で、中国恒大が経営の持続面で重大な不確実性があったにもかかわらず、そのことを指摘しなかったことも問題視している。
FRCは今後、必要に応じて調査に関する情報を公表して投資家の利益を守るとともに、市民の金融市場や監査担当会計士に対する信頼の維持を図ると説明した。 

●中国不動産の佳兆業、16日期日の利払い実施 22日分も実行へ 10/18
中国の不動産会社、佳兆業集団は18日、10月16日が期日のドル債利払い3940万ドルを実行したとロイターに明らかにした。10月22日期日の3585万ドルの利払いについては、債券保有者の口座に21日に送金する予定だと説明した。佳兆業のオフショア債は上昇、2024年6月償還債は6%超上昇した。
ただ、格付け会社ムーディーズは同社のコーポレート・ファミリー格付け(CFR)を「B1」から「B2」に引き下げ、厳しい資金調達環境下で今後6−12カ月に流動性の低下と借り換えリスクの高まりが予想されるとして、全格付けを引き下げ方向の見直し対象とした。
中国恒大集団の債務問題が、中国不動産業界全体の問題の様相を呈しており、デフォルト(債務不履行)の見通しを示したり、利払いが実施されない事例が相次いでいる。
 

 

●恒大集団巡り中国人民銀行総裁が沈黙を破る 10/19
中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は17日、中国恒大集団の問題が同国経済や金融システムに及ぼすリスクを当局は封じ込めることができると述べた。グループ・オブ・サーティ(G30)が開いたバーチャル形式の会合で発言。
易総裁は、中国恒大の問題は「若干の懸念をもたらす」とした上で、「全体として、われわれは恒大のリスクを封じ込めることが可能だ」と話した。
人民銀の金融市場部門責任者の鄒瀾氏は15日の記者会見で、中央と地方の当局は「市場志向と法の支配の原則」に基づいて状況を解決しつつあると説明していた。
恒大の負債は金融システム内の多くの企業や機関に分散しており、「それほど集中していない」と、易総裁は指摘。「債権者や株主の権利および利益は、法に厳密に従って完全に尊重される。こうした債務の優先順位も法律で明確に示されている」と語った。
易氏はさらに、中国の生産者物価指数(PPI)は「数カ月にわたって高止まりし、年末には上昇圧力が弱まる」とし、「消費者物価指数(CPI)は緩やかな伸びが続く」との見通しを示した。
9月のPPIは前年同月比で10.7%上昇と市場予想を上回り、1995年11月以来の高い伸びとなった。こうした伸びは原材料コストの上昇によって「おおむね説明できる」と、易氏は述べた。
易総裁は今年の経済成長率を約8%と予想。「成長のモメンタムは幾分か落ち着いた」とした上で、「経済成長はやや減速したが、景気回復の軌道は変わっていない」と続けた。

●「チャイナショック」が再来?中国不動産バブル崩壊が世界にもたらす激震 10/19
10月に入り中国の不動産業界では、恒大集団(エバーグランデ)などが発行してきたドル建て社債などの元利金の支払い遅延が日増しに増加している。過去、世界各国で起きたバブル崩壊の事例では、まず不動産業界で資金繰りに行き詰まる企業が増え、本格的なデフォルトが発生する。中国経済が急減速すると、2015年に起きた「チャイナショック」の再来というべき負の影響が、世界的に波及すると予想される。
中国の不動産業界が下降局面 世界経済にマイナス要因
中国の不動産業界で、いよいよバブル崩壊が現実味を帯びてきた。大手の恒大集団(エバーグランデ)に続き、いくつかのデベロッパーのデフォルト懸念が一段と高まっている。これまで経済成長を支えた不動産業界が、下降局面を迎えることは、中国経済全体にとって潮目が変わることになるだろう。それは、世界経済にとっても無視できないマイナス要因になるはずだ。
今後、エバーグランデなどが本格的なデフォルトに陥り、中国内外の社債投資家、国内の理財商品などにマイナス影響が及ぶ恐れがある。その影響は、二つの経路を通って世界経済に影響を及ぼすと考えられる。
一つは、エバーグランデなどのデフォルトが直接的なトリガーとなって、リーマンショックのような世界的な金融危機が発生することだ。ただ、詳細は後述するが、現時点ではその可能性は低いだろう。
もう一つの経路は、デフォルトの増加により中国経済が急減速し、世界経済の足を引っ張ることだ。それが現実のものになると、2015年に起きた「チャイナショック」の再来というべき負の影響が、世界的に波及すると予想される。
現実味を帯びる エバーグランデなどのデフォルト
エバーグランデなどのデフォルトが現実味を帯び始めた。10月に入り中国の不動産業界では、エバーグランデなどが発行してきたドル建て社債などの元利金の支払い遅延が日増しに増加している。エバーグランデは、9月23日、29日に続き、10月11日のドル建て社債の利払いも実施できなかった。
加えて、当代置業(モダン・ランド・チャイナ)が、10月25日のドル建て社債の償還を延期するよう投資家に要請した。中国共産党政権が不動産への投機抑制のために導入した「3つのレッドライン」によって、これまで借り入れを増やして投資を実行してきた不動産デベロッパーの資金繰りは一段と悪化している。
共産党政権は、経営問題を抱えるデベロッパーなどへの救済にかなり慎重な姿勢を維持している。例えば9月下旬、融創中国(サナック)が浙江省紹興市当局に支援を求めたと報じられた(会社側は後に否定した)。中国の不動産業界では、資金繰りの悪化、住宅価格の下落などによって、事業継続が困難になる企業が増加している。それでも、共産党政権はデベロッパーへの公的資金注入を行っていない。
過去、世界各国で起きたバブル崩壊の事例では、まず不動産業界で資金繰りに行き詰まる企業が増え、本格的なデフォルトが発生する。そして不動産デベロッパーは、資産の売却によって債務の返済を行おうとするが、一方で急速に不動産などの価格が下落して不良債権が増える。その結果、債務再編や経営破綻に追い込まれる企業が増え、金融システムにストレスがかかる恐れがある。
半導体、自動車、工作機械 IT機器、鉱物資源が落ち込む恐れ
中国の不動産市場の先行きは楽観できない。エバーグランデなどの本格的なデフォルトが起きれば、世界経済にさまざまな経路でマイナス影響が波及することになる。
まず、経営破綻に陥った中国企業の社債などを保有する、主要先進国の金融機関が直接、損失を被るリスクだ。ただ、今回のケースでは、もともと格付けの低い中国の不動産会社の債権を保有している欧米企業は限定的とみられ、その損失は限られた範囲にとどまるだろう。エバーグランデなどのデフォルトが、リーマンショックに匹敵する世界的な金融危機を発生させる可能性は低い。
一方、世界経済に対して間接的な影響は軽視できない。デベロッパーのデフォルト発生は、中国経済を支えてきた不動産市況を悪化させる。それによって、中国経済の減速は一段と鮮明化するだろう。その展開が現実のものになると、中国の個人消費は減少し、設備投資も落ち込む。日本をはじめドイツや韓国、アジア新興国など、中国経済に依存する国の経済は大きく足を引っ張られ、世界全体でGDP成長率が低下する恐れがある。
具体的には半導体、自動車、工作機械、産業用ロボット、パソコンなどのIT機器、鉱物資源、中国から海外への観光需要などが落ち込む恐れがある。世界経済における中国の存在感が大きくなってきただけに、中国経済の減速が世界経済に与える負の影響は軽視できない。
世界経済を取り巻く 不確定要素は増えている
今後の展開として懸念されるのは、15年夏に起きたチャイナショックの再来だ。当時、カネ余りに支えられて上海株などが大きく上昇していたところ、急落した。中国人民銀行は人民元切り下げや金融緩和を実施したが、景気は減速し、世界経済全体で景況感が悪化した。
当時と比べると、現在の世界経済を取り巻く不確定要素はむしろ増えている。「エネルギー危機」と呼ばれるほど、天然ガスや石炭、原油などの需給がひっ迫し価格が高騰している。それに伴いインフレ懸念が高まっている。国ごとに違いはあるが新型コロナウイルス感染再拡大によって物流・人流が絞られた影響も残り、世界的に供給制約が深刻だ。
そうした状況下、中国の不動産バブルが崩壊し中国経済が急減速すると、チャイナショックと同様のマイナス影響が世界に波及するだろう。デフォルト増加で中国国内の理財商品の価格が下落すると、個人の金融資産が毀損(きそん)し消費は減少するだろう。中国事業を強化してきた主要国の企業業績は悪化し、世界経済が減速する可能性がある。
その場合、共産党政権はインフラ投資の積み増しや金融システムへの流動性供給などによって、景気減速を食い止めようとするだろう。それは一時的に景気を下支えするだろうが、インフラ投資が一巡した現在、景気刺激効果は限定的になる可能性がある。
長期の傾向として中国では資本効率性が低下し、投資に依存した経済成長は限界を迎えつつある。一時的な効果があったとしても、需要が飽和しつつある中でのインフラ投資の積み増しは、結果的に経済全体での過剰投資を増加させ、債務問題は深刻化する恐れがある。バブル崩壊後のわが国の教訓をもとに考えると、いかにして成長期待の高い新産業を育成して新しい需要を創出するか、共産党政権の経済運営の実力が問われる。
エバーグランデのデフォルトなどに端を発する中国経済の減速リスクは、わが国をはじめ世界経済に逆風だ。不確定要素が増える中、岸田新政権が経済のパイ拡大につながる政策を迅速に実施できるか、中長期的なわが国経済の展開に大きく影響することになる。
 

 

●中国恒大、株式売却できず 利払い猶予期限迫る 10/20
経営危機に陥った中国不動産大手、中国恒大集団は20日、傘下の不動産管理会社の株式を売却する話し合いが成立しなかったと発表した。巨額の債務を抱える恒大は、株式売却による資金調達を模索している。米ドル建て社債の利払いの猶予期限が迫る中、調達の道の一つが絶たれたことで、資金繰りが一段と厳しくなる。
恒大は、傘下の恒大物業集団の株式50・1%を同業の合生創展集団に売却する計画だった。
売却交渉中のため、規定に従って香港証券取引所での恒大と恒大物業の株取引は4日から停止していた。売却の不成立を受け、恒大は21日から取引は再開するとしている。

●中国の新力控股、ドル建て債償還できず−恒大危機が不動産業界に波及 10/20
中国で不動産開発大手、中国恒大集団が期日を過ぎたドル建て債利払いを今週履行するかどうか投資家の注目が集まる中、同業の新力控股集団が一部債務のデフォルト(債務不履行)に陥った。
新力が18日期日のドル建て債2億5000万ドル(約285億円)相当の利払いと償還を怠ったのを受け、米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは同社の格付けを「CC」から「選択的デフォルト(SD)」に引き下げた。19日の発表資料で明らかにした。
新力は今月、ドル建て債の償還ができるとは見込んでおらず、その他2銘柄でクロスデフォルトを招く恐れがあると警告していた。同業の花様年控股(ファンタジア・ホールディングス・グループ)も今月早くにデフォルトに陥っている。中国当局が不動産業界のレバレッジ抑制やバブル防止を目指す中、不動産市場は恒大危機で大きく揺さぶられている。
恒大は複数のドル建て債で30日間の利払い猶予期間が今週終わることから、デフォルト観測が強まっている。

●IMF当局者「恒大リスクは食い止められている」中国経済への影響で 10/20
国際通貨基金(IMF)当局者は中国恒大集団の債務危機が中国経済に及ぼすリスクについて、今のところ「食い止められている」との認識を示した。
IMFの中国責任者、ヘルゲ・バーガー氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「この先リスクを封じ込める手段が中国政府にあると理解されている」と発言。不動産セクターのリスクは、現時点で同セクターに限定する形で抑え込まれているが、事態悪化に備えて当局は状況を引き続き注視すべきだとした。
バーガー氏は中国の不動産セクターが高度にレバレッジに依存しているとした上で、デレバレッジに向けた当局の動きは歓迎されるが、速すぎたり遅すぎたりすることのないよう慎重を要すると指摘した。
IMFは19日、新型コロナウイルスのデルタ変異株感染拡大とワクチン接種の遅れを理由に挙げ、今年の中国およびアジア太平洋地域の成長率見通しを下方修正した。中国については、新型コロナのクラスター発生が続いていることや財政政策の引き締め、不動産セクターの問題を反映させ、従来の8.4%から8%に引き下げた。 
 
 
 

 

●経営危機の中国恒大 傘下の株式売却協議不成立と発表 10/21
経営危機に陥っている中国不動産大手の「恒大集団」は、傘下の不動産管理会社の株式売却の話し合いが成立しなかったと発表しました。
「恒大集団」の傘下の不動産管理会社「恒大物業集団」をめぐっては、香港メディアが4日、中国国内の同業他社に株式の過半数が売却される予定だと報じていました。しかし「恒大集団」は20日、株式の売却についての話し合いは成立しなかったと発表しました。
「恒大」と「物業集団」の株式は報道以降、「合併と買収に基づく規定」によって香港市場での売買が停止されていましたが、再開される予定です。
「恒大」は日本円でおよそ33兆円もの巨額の負債を抱えて経営危機に陥るなか、傘下の会社の株式売却などで資金を調達する考えでしたが、今回の計画が成立しなかったことで債務不履行の懸念がさらに高まっています。
「恒大」は先月と今月に期限を迎えたドル建て債券の利払いを相次いで遅延しているとみられます。

●中国恒大、不動産管理子会社の株式売却が頓挫 条件で合意至らず 10/21
経営危機に直面している中国の不動産開発大手、中国恒大集団は20日、不動産管理子会社である恒大物業集団の50.1%の株式を香港上場の不動産会社、ホプソン・デベロップメント・ホールディングス(合生創展集団)に200億4000万香港ドル(25億8000万米ドル)で売却する取引が頓挫したと発表した。
ロイターは19日、関係者の話として恒大物業集団の株式売却が保留されていると報じていた。
中国恒大は20日遅くに証券取引所に提出した資料で、ホプソンが恒大物業集団の株式売却に関する前提条件を満たしていないと信じるに足る理由があったとした。詳細は不明。
また別の提出資料で、中国恒大は保有する盛京銀行株式の売却以外に資産売却に関する大幅な進展はなかったと指摘。「流動性の問題を緩和する」措置を引き続き実施し、債権者との返済猶予などの交渉に向け最善の努力を行うとしたが、流動性改善を巡る不確実性などを考慮すると、「中国恒大が財務上の義務を果たすことができる保証はない」とした。
中国恒大の情報開示に先立ち、中国政府の当局者らは相次ぎ、不動産部門の債務問題が大規模な金融危機に発展することはないとの認識を表明し、住宅購入希望者や金融市場の懸念払拭に務めた。
劉鶴副首相は20日、北京のフォーラムで、国内不動産市場のリスクは全般に管理可能で、不動産業者の資本需要はかなりの部分が満たされているとの認識を示した。
中国証券監督管理委員会(証監会)の易会満主席は同じフォーラムで、当局はデフォルト(債務不履行)リスクに適切に対処し、より広範に過剰債務の抑制を目指すと語った。
「『高レバレッジ』を通じた過剰な資金調達を回避するため、借り入れによる資金調達を制限する仕組みの効果を高める必要がある」と語った。
中国恒大は既に期日を迎えた2022年3月償還債の利払いを実行しておらず、猶予期間が終了する25日までに利払いを行わなければ、正式にデフォルトに陥る。

●中国 恒大グループ 傘下企業の株式売却できず  10/21
巨額の債務を抱えて経営難に陥っている中国の不動産大手恒大グループは、傘下の企業の株式を売却する交渉が成立しなかったことを明らかにしました。売却によって資金繰りを改善させるねらいでしたが、経営はさらに苦しくなるとみられます。
中国の不動産大手恒大グループ傘下の不動産管理会社は20日、別の不動産会社に株式を売却する交渉が成立しなかったと発表しました。
交渉相手の会社によりますといったんは株式の50.1%をおよそ200億香港ドル、日本円で2900億円余りで買い取ることで合意したものの、条件が折り合わなかったということです。
この交渉のために香港証券取引所では恒大グループなどの株式の取り引きが停止されていましたが、21日から再開される見通しです。
巨額の債務を抱えて経営難に陥っている会社は9月23日以降、ドル建ての社債の利払い期限を相次いで迎えていますが、現在は30日間の猶予期間にあると説明しています。
ただ、傘下の企業の株式売却が不調に終わったことで、猶予期間の終了が迫る中、資金調達の手段の1つを実現できなかったことになります。
これに関連して会社は「困難さや不確実性などから、財務上の義務を果たせるか保証できない」として、厳しい状況にあることを認めていて、経営はさらに苦しくなるとみられます。
 

 

●中国恒大、ドル債利払い資金を送金 土壇場でデフォルト回避 10/22
中国不動産開発大手の中国恒大集団は、9月23日に期限を迎えていたドル建て債利払いの資金を今月21日に受託者の口座に送金した。関係筋が22日、ロイターに明らかにした。翌23日が30日間の利払い猶予期間の期限で、土壇場でデフォルトを回避することになる。
21日にドル建て債の利払いとして8350万ドルをシティバンクの受託者口座に送金したという。これにより、全ての社債保有者が利払い猶予期間が終了する23日までに利払いを受けられることになる。利払い資金の送金については中国政府系の証券時報が先に報じていた。
一部社債保有者の担当弁護士は「(恒大は)短期的なデフォルトを回避したようで、流動性を何とか確保したことは若干の安心材料だ」とした上で、「ただ債務の再編は必要だ。今回の利払いは、恒大が厳しい再編手続きを前に利害関係者に責任感のようなものを示したとも考えられる」と述べた。
恒大は、ロイターのコメント要請に応じていない。シティはコメントを拒否した。
恒大を巡っては21日、支払いを見送っていた2億6000万ドル相当の社債の償還期限延長で保有者側と合意したと金融情報サービスのREDDが伝えていた。
中国当局者からはここ数日、債権者の利益は保護されるといった不安緩和を狙った発言が相次いでいたが、利払い実行のニュースは市場参加者には驚きだった。
高騰国際資産管理の運用担当者は、デフォルトを予想する人が多かったため、ポジティブサプライズだったと述べ、今回の利払いを受けて次回以降も実行されるとの見方を示した。
恒大は9月23日と29日、10月11日が期日だった計2億8000万ドル弱のドル建て債利払いを見送っていた。
22日の取引で恒大のドル債は急伸。デュレーション・ファイナンスのデータによると、2022年償還債と23年償還債は10%以上上昇した。
株価は一時7.8%急伸。同社株は2週間余りの取引停止を経て前日に再開されたばかりだった。恒大のニュースを受け、香港のハンセン本土不動産株指数は4%超急騰。本土市場でもCSI300不動産指数が6.5%の大幅高となった。
恒大にとって次の重要局面は、9月29日に実行しなかったドル債利払いの猶予期間が切れる10月29日。

●中国 恒大グループ 期限が迫る約95億円の社債の利払い実施か  10/22
巨額の負債を抱えて経営難に陥っている中国の不動産大手「恒大グループ」をめぐって、複数の中国メディアは、最終的な期限が間近に迫っているドル建ての社債の利払いを、会社が実施する方針だと伝えました。実施されれば、債務不履行に陥るのをひとまず避けられることになります。
中国の恒大グループの経営問題をめぐっては、相次いで期限を迎えている社債の利払いが行われるかが当面の焦点となっています。
これについて、共産党系のメディアを含む複数の中国メディアは22日、先月23日に期限が過ぎ、その後、30日間の猶予期間に入っている8300万ドル余り、日本円でおよそ95億円のドル建て社債の利払いを会社が実施する方針だと伝えました。
すでに21日に必要な送金の手続きを行ったとしています。
支払いが実施されれば、デフォルト=債務不履行に陥るのをひとまず避けられることになります。
ただ、恒大グループは、ほかにも利払いの期限を過ぎた社債を抱えているうえ、傘下の不動産管理会社の売却交渉も不調に終わり、資金繰りが抜本的に改善するめどは立っていません。
中国の当局は、このところ、今回の経営問題の影響が金融システムに波及するリスクは抑えられるとの立場を示していますが、市場では中国経済などに与える影響がなお懸念されています。

●中国恒大、ドル建て社債利払いへ  10/22
中国メディアは22日、経営危機に陥った不動産大手、中国恒大集団が、23日に期限を迎える米ドル建て債の約8350万ドル(約95億円)の利払いを実行すると報じた。資金繰りの悪化でデフォルト(債務不履行)の懸念が高まっていたが、ひとまず回避する可能性がある。ただ同社は巨額の負債を抱えており、経営の先行きは不透明だ。
複数の中国メディアによると、恒大は債権者に支払うための銀行口座に送金を済ませたという。
本来の期日だった9月23日に利払いできず、猶予期限である10月23日までに支払えるかが焦点になっていた。

●ハイテク主導で反発、中国恒大の利払い報道で一時29000円に迫る 10/22
日経平均は反発。96.27円高の28804.85円(出来高概算10億5000万株)で取引を終えた。朝方は売りが先行して始まったものの、75日線が支持線として意識されるなか、その後はリバウンドに流れに。さらに、中国メディアが「中国不動産大手、中国恒大集団がドル建て債の利払いを実施した」と伝わると、中国不動産業界の債務問題への警戒感がひとまず和らぐ格好となり、日経平均は一時28989.50円まで上昇。ただし、29000円は回復できず、次第に週末の持ち高調整の動きから、こう着感の強い展開に。
東証1部の騰落銘柄は、値下がり銘柄数が1100を超え、全体の過半数を占めた。セクター別では、精密機器、機械、電気機器、海運など10業種が上昇。一方、非鉄金属、鉱業、鉄鋼、証券・商品先物など23業種が下落した。指数インパクトの大きいところでは、東エレク<8035>、アドバンテス<6857>、ソフトバンクG<9984>、エムスリー<2413>、ダイキン<6367>がしっかりだった半面、ファーストリテ<9983>、KDDI<9433>、電通グループ<4324>、中外薬<4519>、リクルートHD<6098>が軟調だった。
米インテルは10-12月期の売上高見通しが市場予想に届かなかったとして、時間外取引で下落したことから、売り優勢の展開だった。ただし、米長期金利が上昇する中でSOX指数は上昇するなど、業績への期待感の方が勝っていた。これを受けて東エレクやアドバンテスなど半導体関連株に値を上げる銘柄が目立っていたが、前場中盤に、中国恒大の利払い実施報道を受けて、投資マインドが幾分改善。昨日の商いに対するリバランスの動きが一段と強まる格好に。
日経平均はひとまず反発したものの、心理的な節目である29000円台回復には至らなかった。中国恒大の債務問題は年内まで続くうえ、総選挙を受けた国内政府の動向も気がかり材料。また来週から本格化する国内主要企業の決算の内容を確認したいと考える向きが多く、積極的に上値を買い上がる雰囲気にはつながっていない。このため、全体の方向性よりも、個別の企業業績に対する関心が集まりやすいだろう。 
 

 

●中国恒大、綱渡りの利払い実行 期限続く 10/23
経営危機に陥った中国不動産大手、中国恒大集団が23日、米ドル建て社債の8353万ドル(約95億円)の利払い期日を迎えた。中国の複数メディアによると、恒大は利払いを実行しており、デフォルト(債務不履行)はいったん回避されたもようだ。だが今後も利払い期限が相次ぎ、予断を許さない状況が続く。
利払い期日は本来は9月23日だったが、資金繰りがつかずに支払えず、30日間の猶予期間に入っていた。中国メディアによると、恒大は今月21日、受託者である米シティバンクに利息を送金した。
だが、恒大は29日にも米ドル建て社債の利払い4750万ドルの猶予期日を迎えるほか、年末にかけ、さらに複数の利払い期日が控えている。支払えずに、格付け会社がデフォルトと認定すれば、国際的な信用不安につながる恐れがある。 
 

 

●一部住宅で工事再開 「引き渡しに全力」 中国恒大 10/24
経営危機に陥っている中国不動産開発大手・中国恒大集団は24日、広東省内の6都市で進めている10件以上の住宅プロジェクトについて、中断していた工事を再開したと明らかにした。
住宅の完成と購入者への引き渡しを求める政府の要求を「全力で実行する」と強調している。
同社は販売中のプロジェクトを6月末時点で1236件抱えるが、資金繰り難から多くの工事が停止状態と伝えられている。工事再開の公表は購入者の不安や不満を和らげる狙いがあるとみられる。
恒大は対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の公式アカウントで、工事再開の様子を写真付きで紹介。同省深セン市などの一部プロジェクトは既に内装工事に入っており、間もなく引き渡すとしている。 
 

 

●中国恒大、複数の不動産プロジェクトで建設再開 10/25
中国不動産開発大手の中国恒大集団は24日、深センを含む6都市における10件以上の開発プロジェクトで建設を再開したと明らかにした。恒大は中国各地の自社プロジェクト1300件のうち何件で建設停止を余儀なくされたか明らかにしていない。8月31日には、サプライヤーや下請け業者への支払い遅延が理由で一部プロジェクトが停止になったとし、再開に向けて交渉中だと述べていた。
同社は24日、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」への投稿で、建設を再開した一部プロジェクトが内装段階に入ったほか、最近建設が完了した建物もあると明らかにした。また、建設を保証する取り組みによって市場の信頼感が強化されるとし、日時が表示された複数の建設現場の作業員らの写真を投稿した。
関係筋によると、恒大は9月23日に期限を迎えていたドル建て債の利払いとして、今月21日に8350万ドルを受託者の口座に送金した。今月23日が30日間の利払い猶予期間の期限だったことから、土壇場でデフォルトを回避したとみられる。

●中国恒大、複数の不動産プロジェクトで建設再開 10/25
中国不動産開発大手の中国恒大集団は24日、深センを含む6都市における10件以上の開発プロジェクトで建設を再開したと明らかにした。
恒大は中国各地の自社プロジェクト1300件のうち何件で建設停止を余儀なくされたか明らかにしていない。
8月31日には、サプライヤーや下請け業者への支払い遅延が理由で一部プロジェクトが停止になったとし、再開に向けて交渉中だと述べていた。
同社は24日、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」への投稿で、建設を再開した一部プロジェクトが内装段階に入ったほか、最近建設が完了した建物もあると明らかにした。

●中国恒大集団、南部でマンション工事再開 10/25
中国の不動産大手、中国恒大集団は24日、広東省など南部の都市でマンション工事を再開していると発表した。資金繰りの悪化を背景に、これまで一部物件で作業が停止するケースが出ていた。
恒大はSNS(交流サイト)上で、広東省の広州市や仏山市などで建設中の40件超のマンション工事が順調だとアピールし「(購入者への)引き渡しは業務の核心」とする声明を発表した。住宅に財産の大半をつぎ込む市民は多く、中国政府は建設計画が宙に浮くことを強く警戒している。
資金繰りに窮する恒大はマンション建設の頓挫のほか、債務不履行(デフォルト)の可能性も懸念されている。直近に猶予期限を迎えた米ドル債は利払いを実施し、ひとまずはデフォルトを回避したもようだ。
一方で一部資産の売却を検討している不動産管理会社や電気自動車(EV)会社は現時点で買い手が見つかっておらず、抜本的な資金確保のめどは立っていない。

●中国恒大、綱渡りの利払い実行 次は29日…期限続く 10/25
経営危機に陥った中国不動産大手、中国恒大集団が23日、米ドル建て社債の8353万ドル(約95億円)の利払い期日を迎えた。中国の複数メディアによると、恒大は利払いを実行しており、デフォルト(債務不履行)はいったん回避されたもようだ。だが今後も利払い期限が相次ぎ、予断を許さない状況が続く。
利払い期日は本来は9月23日だったが、資金繰りがつかずに支払えず、30日間の猶予期間に入っていた。中国メディアによると、恒大は今月21日、受託者である米シティバンクに利息を送金した。
だが、恒大は29日にも米ドル建て社債の利払い4750万ドルの猶予期日を迎えるほか、年末にかけ、さらに複数の利払い期日が控えている。支払えずに、格付け会社がデフォルトと認定すれば、国際的な信用不安につながる恐れがある。

●中国恒大の社債利払い、一部保有者の口座に入金 10/25
資金繰り難に陥っている中国の不動産開発大手、中国恒大集団のドル建て2022年3月償還債(表面利率8.25%)の利払いを巡り、一部の保有者が利息を受け取った。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。この利払いは本来9月23日が期日で、30日間の猶予期間の終了も迫っていた。
非公開情報だとして匿名を条件に話した関係者によると、少なくとも2人の保有者が今月23日までだった猶予期間内に口座で利払いを受けた。
 

 

●中国当局、恒大創業者に個人資産での債務返済を促す 10/26
深刻化する中国恒大集団の債務危機を緩和するため、中国当局は同社創業者で富豪の許家印氏に対し、個人資産をなげうつよう指示した。事情に詳しい関係者が明らかにした。
非公表の情報だとして匿名を要請した関係者によると、恒大がドル建て債の利払いを当初の期限である9月23日に履行できなかったことを受け、当局はこの指示を許氏に通知した。中国各地の地方政府は恒大の資金が未完了の住宅プロジェクトの完成に確実に使用され、債権者への支払いに回ることがないよう同社銀行口座の監視を続けているという。
恒大の債務危機は他の不動産開発企業にも波及し、不動産市場の地合いを悪化させている。同社の債務返済に個人資産を活用するようにとの要求は、中央政府がそれでも救済に乗り出す意欲が薄いことを示す。習近平国家主席は資産格差の縮小を目指す「共同富裕」の一環として、富裕層に対する締め付けを強化している。
恒大の債務削減にある程度の寄与ができるほど許氏の資産が大きく、流動性があるかは定かではない。ブルームバーグ・ビリオネア指数の見積もりによると、許氏の資産は2017年の420億ドル(約4兆7900億円)から約78億ドルにまで減少したが、この数字にはかなりの不確実性がある。
恒大の債務は6月時点で3000億ドルに膨らんでいた。中国最大級の債務再編があるとの投資家の見方を反映し、同社のドル建て債は額面に対し大幅なディスカウントで取引されている。
公表されている許氏の資産の大半は、恒大の株式と、同社が2009年に香港市場に上場して以来支払われた現金配当が占める。ブルームバーグの試算によると、恒大の手厚い配当政策のおかげで許氏は過去10年間に約80億ドルの配当金を受け取った。この配当金を許氏がどのように再投資したかは明らかでない。
許氏は恒大を通じて行ったコメントの要請に今のところ応じていない。中国人民銀行(中央銀行)もコメントの要請に応答していない。
恒大にとって、次の難関はドル建て債利払いで30日間の猶予期間が終わる今月29日。これを乗り越えても、2022年にはオンショア債とオフショア債で合計約74億ドルの支払い期限を迎える。

●中国当局、不動産大手指導 社債利払いを厳命 10/26
中国の国家発展改革委員会は26日、主要な業界の企業を集めて会合を開き、外貨建て社債の償還や利払いを着実に履行するよう求めたと発表した。中国メディアによると、招集されたのは不動産大手の幹部ら。中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念を受け、引き締めを図ったもようだ。
改革委は、各企業から経営状況と社債の返済計画の説明を受け、「財務規律と市場ルールを順守するよう要求した」としている。
恒大は23日が期限の米ドル建て社債の利払いを実施したとされ、デフォルトはいったん回避した。ただ29日に別の米ドル建て社債の利払い4750万ドル(約54億円)の猶予期日を迎えるほか、年末にかけ、さらに複数の利払い期日が控えている。支払えずに、格付け会社がデフォルトと認定する可能性があり、市場の緊張感は続いている。

●中国主要メディアから「恒大」の文字が消えた理由 10/26
中国の大手不動産開発会社・中国恒大集団に経営破綻の危機が迫る中、ソーシャルメディアには住宅購入者が抗議する様子を映し出す動画が大量にアップされている。政府のオンライン掲示板は不満と、政府による恒大集団救済を求める声であふれかえっている。だが中国メディアのトップページからは、中国経済を脅かすこの問題を知ることはできない。ここ数週間は、中国の主要国営メディアが「恒大」の名に言及することはほとんどなくなっているためだ。恒大問題は世界の金融市場を揺るがす要因となっているにもかかわらず、同社をめぐる最近のトラブルを報じているのは一握りの経済メディアにすぎない。中国のネット空間で恒大危機に対する不安が飛び交うようになってから1カ月以上が経過した10月15日になって、中国の中央銀行はようやく「恒大」の社名を口にした。しかも、その内容は「状況はコントロール可能」と述べるにとどまるものだった。
「問題企業は救済しない」という暗黙の脅し
こうした情報空間の分断は、恒大問題に対する中国共産党の対処戦略が微妙なバランスの上に成り立っていることを示している。恒大集団は3000億ドル(約34兆円)の負債にあえぐ巨大不動産会社であり、その危機は大きすぎて完全には封じ込められない。同社の破綻懸念の広がりから中国の住宅市場は低迷し、経済全体に連鎖するおそれが出ている。中国国家統計局は18日、不動産市場の冷え込みや電力不足などから、第3四半期の経済成長率が大幅に鈍化したと発表した。一方で当局は、恒大危機が大きく報道されることで国民がパニックを起こす展開は何としても避けたい考えだ。また当局は、恒大問題について沈黙を守ることで、放漫経営に堕した企業経営者らに「自らの行動の報いを受けよ」というメッセージを送ることもできる。これは、民間セクターの統制強化に動いている中国指導部の方針に沿った動きだ。香港大学新聞学院(ジャーナリズムスクール)で講師を勤める石婷氏は、中国政府の発想とは、次のようなものだと語る。「(問題企業を)救済するつもりだと、なぜ教える必要があるのか。そもそも、救済しない可能性だってあるのだ。今この段階で、手の内を見せるつもりはない」これまでのところ、この手法はうまくいっている様子だ。石婷氏によると、恒大の今後に対する臆測は現在でもソーシャルメディアで強い関心を集めるトピックであり続けているが、議論に過度な動揺は見られない。その証拠に、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が10月初旬、恒大問題の世界的な影響に触れて中国に「責任ある」行動を求めたときも、中国版ツイッターのウェイボー(微博)では「ブリンケン氏は恒大に投資しているに違いない」といった冗談が飛び交っていた。
「恒大たたき」から「問題かき消し」へ
恒大問題に対する国営メディアの報道は、危機の拡大とともに変化している。問題が今ほど注目されていなかった夏の段階では、国営メディアも恒大の経営に警鐘を鳴らしていた。国営テレビ局の中国中央電視台(CCTV)と中国共産党機関紙の人民日報は、負債問題について話し合うため中央銀行担当者が恒大幹部を呼びつけたと8月に報道。国営ラジオ局の中央人民広播電台も、恒大の一部建設現場で工事が止まっており、建設会社への支払いが滞っていると伝えていた。ところが9月に恒大倒産の噂が広まると、それまで比較的狭い範囲にとどまっていた懸念が一気に世の中に広まった。恒大の投資家、従業員、取引業者が何百という単位で中国の各都市に集まり、返金を迫った。抗議活動の様子はソーシャルメディアで広く共有され、中には抗議活動への参加を呼びかけるユーザーもいた。こうした動きが過熱する中、恒大は「長引くネガティブな報道」のせいで住宅購入者が遠ざかり、資金繰りの悪化に拍車がかかっているとする声明を発表。政府の検閲が始まったのは、このあたりからだ。ソーシャルメディアからはデモの呼びかけが消え、抗議活動について報じる国営メディアも事実上ゼロになった。「財新」などの独立系経済メディアは恒大のリスキーな資金調達構造に関する記事を発表してきたが、これらの記事は対話アプリのウィーチャット(微信)上では検閲の対象になった。声高にナショナリズムをあおる人民日報傘下のタブロイド紙「環球時報」は、「西側メディアは、中国のささいな問題を誇張して危機に仕立て上げるのがお好き」という見出しの記事を掲載し、こう書いた。「違う、わが国は“リーマン・ショック”に直面しているわけではない」
今度は微妙に国民をなだめる戦略に
とはいえ、規制の網は粗い。ネット上には恒大のオフィスを占拠するデモ隊の画像が残っているし、ウェイボーでも「包囲される恒大本社」というハッシュタグのついた投稿が何百と見つかる。財新の記事はウィーチャットからは検閲によって削除されているが、財新のウェブサイトでは今も閲覧可能だ。政府のオンライン掲示板には、「前金を支払ったマンションの建設工事はいつ再開されるのか」といった投稿が全国から書き込まれるようになっている。中国のメディア事情を研究している香港中文大学の梁麗娟氏は、不満の表出をある程度認めることは一種の安全弁として機能すると指摘する。危機が制御不能になった場合に、抗議活動の巨大化を抑える効果が期待できるというわけだ。「あらゆるものを封じ込めてしまうと、恒大問題が一気に大規模化したときに人々が現実を受け入れるのが難しくなる」(梁氏)実際、恒大問題に対する国民の不安が高まり、住宅市場が不調となる中、当局のプロパガンダ戦略は、ここに来て再び微妙な変化を見せるようになっている。9月下旬、中国の中央銀行は恒大の名を伏せたまま「住宅購入者の正当な権利と利益の保護」を約束する声明を発表し、人民日報がすぐさまこれを報じた。そして15日には、中央銀行幹部が初めて恒大の社名に言及。金融市場局の鄒瀾局長は記者会見で、恒大がもたらすリスクは「コントロール可能」であり、全体としての不動産市場は健全だとコメント。止まっている建設は地方政府によって確実に再開されるようにすると述べた。

●中国「不況なき経済」の終わり 米著名投資家マークス氏 10/26
不動産大手、中国恒大集団の経営不安はどんな中国経済の未来を示唆しているのだろうか。米投資会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者、ハワード・マークス氏に話を聞いた。同氏はこれまで不況知らずだった中国経済は今後、米国や日本と同様に好不況の景気サイクルを経験するようになり、得意とする不振企業への投資の好機が訪れるとみている。
Howard Marks 米オークツリー・キャピタル・マネジメント共同会長。米シティコープ・インベストメント・マネジメントなどを経て1995年にオークツリー創業。資産運用総額1560億ドル(約17兆円、6月末時点)の投資会社に育てた。破綻懸念など危機下の企業の社債や不良債権に投資する「ディストレスト投資」の先駆者でもある。米著名投資家のウォーレン・バフェット氏はマークス氏の著書を必読書の一つに挙げた。
――恒大の債務不履行(デフォルト)危機をどう受け止めていますか。
「中国は資金調達のしやすさと多額の資本投下によって、非常に高い成長を続けてきた。資本投下には本来必要のないビルの建設も含まれる。恒大の経営問題はこうした状況が持続不可能であることを示した。どこかの時点で中央銀行に頼らない経済に移行しなければならなくなる」
「中国の一般人や個人投資家は、政府が巧みに不況を回避してくれると思っていたかもしれない。過剰な自信や過剰な信頼があるからこそ、サイクルが生まれるのであって、それが高すぎると修正される。そして過剰な恐怖と過剰な恐慌が起こり、再び修正される。すべては最終的に循環する」
――中国人民銀行の幹部は恒大問題について「制御可能」と述べました。
「中国政府は最終的に何でもできる。有権者や議会の承認を得る必要がない。最近では営利目的の教育は不要と言い放ち、あっという間に産業がなくなった。恒大を救済したければ『我々は負債をすべて買い戻すつもりだ』と言うこともできる。ただし彼らはこうした措置をとらないだろう」
「中国は約30年間、不況を経験せずに成長を続けてきた。一方、先進国は一本調子に成長することはなく、好不況を繰り返す。私は浮き沈みのサイクルを『経済のリアリティー(現実)』と呼んでいる。巨大な痛みや危機は、中国経済が『現実』に移行する契機になる。中国は賢いので(一連の対応を通じて)『恒大の投資家をすべて救済するつもりはない』と言っているように思う」
――誰が救われて、誰が救われないとみていますか。
「個人が購入した商品は何とかするだろう。中国国内の社債保有者はわからない。国外の社債保有者は救済対象にならないだろう。そもそも債権者の救済とは経済の現実を否定することだ。経済システムには創造的破壊がつきものであり、今回はターニングポイントになる」
――日本企業は1990年〜2000年代初頭、株価や不動産価格の下落に直面すると、負債圧縮に走り、経済の縮小均衡を招きました。中国が日本と同じような状況に陥る可能性はありますか。
「中国にはまだそれほど多くの中産階級が存在しない。中産階級の拡大と、彼らの国内消費によって今後も経済成長が期待できる。世界平均以上の成長率を維持できそうだ。単なる印象にすぎないが(年率の経済成長率は)3〜6%のどこかになると思う。米国なら2%以上でハッピーだ」
――オークツリーは15年から中国でディストレスト債投資を始めました。今後の投資機会をどうみていますか。
「中国の融資は景気サイクルを前提にしたものになっていなかった。好不況の循環が現れるようになれば、より多くの不良債権が発生するようになる。我々はこれまでのところ良い経験を積んできた。契約は守られ、予見可能性の高いプロセスも確保されている。投資を続けない理由はない」
――米中の政治対立が続いています。投資活動で不都合は生じてませんか。
「何の妨害も受けていない。中国は上海や北京を世界の金融センターにしたい。そのためには法律が一貫して公平に適用されなければならない。中国は今後もそうするだろう」
「たまに(塾禁止令の出た)教育分野や、(子供のゲーム時間制限で監督強化の対象になった)騰訊控股(テンセント)のような事例が出てくるかもしれない。我々としては中国政府と認識を共有すること以上に、政府が望むことをするのが重要だ」
「私は試したことはないが、もし可能なら習近平(シー・ジンピン)国家主席が何に反発しそうか考えてみよう。前もって把握できて、そのような行動を避けられたら素晴らしい。我々は敵ではなく、パートナーになるような投資を心がけてきた」
――ウォール街は長年、中国と良好な関係を築いていますね。
「お互いさまの関係にある。中国は金融大国を目指している。我々は中国で良いビジネスをしたい。2つの目標は一致させることができる」
ディストレスト債投資の草分けであるマークス氏は、究極のバリュー投資家といえる。経営危機に陥った企業の債権などを安値で買い、高い収益を狙う。最高の買い場は市場参加者が過剰な悲観に陥った瞬間に訪れる。マークス氏が市場サイクルの見極めを重視するゆえんだ。ディストレスト債投資家は近年、買い場に恵まれていなかった。米連邦準備理事会(FRB)の長引く金融緩和策によって市場にマネーがあふれ、借り手優位が続いたからだ。新型コロナウイルス危機でも政府とFRBの大規模な財政・金融政策によって米国の景気後退期はわずか2カ月で終わった。米国の投資機会が限られるなか、中国経済の変調はオークツリーにとって願ってもない展開だろう。中央銀行や政府による下支えはいつか限界を迎える――。マークス氏はそんな信念の下に2015年から中国で不良債権投資を始め、当局とのパイプを築いてきた。バリューハンターはもうけの機会を虎視眈々と狙っている。

●FRBも懸念、中国不動産業界でドル建て債務急増の理由 10/26
中国不動産会社の繁栄を長く支えてきたのは大量のドル建て債発行だ。だが今年、そのゆがみがあらわになった。業界最大級の中国恒大集団が流動性危機に陥る中で、こうしたドル建て債の価値が3分の1ほど低下。恒大危機が他の不動産会社に波及したり、市場全体に連鎖したりするかもしれないという恐れが生じ、米連邦準備制度理事会(FRB)でさえそうした可能性に懸念を表明している。
1.中国不動産開発会社のドル建て債残高はどのくらいか
ブルームバーグが10月25日時点で集計したデータによれば、不動産開発会社のドル建て債残高は2070億ドル(23兆5800億円)と、中国全体の約4分の1を占める。恒大は192億ドルと債務残高が最大だ。中国の不動産会社が発行するドル建て債の大半は、高利回り債か投資不適格(ジャンク)級格付けと見なされている。こうした格付けは一般的に債務返済が滞るリスクが高めであることを意味しているが、国債など比較的安全とされる資産の利回りがマイナスとなる中で、 世界中の投資家がこうした高利回り債を買い入れた。恒大が発行したドル建て債の1本、表面利率8.75%の2025年償還債はかつて、世界で最も広く取引されていた社債の1つだった。
2.中国は他の市場と違うのか
中国企業が発行した高利回りドル建て債から成るブルームバーグ指数で、半分余りを占めるのが不動産開発会社だ。他国では不動産業の割合はずっと小さい。米国の高利回り債指数、それに中国の発行体も含むブルームバーグ新興国市場高利回りドル建て債指数における不動産業のウエートは4%程度だ。
3.なぜこうした事態に至ったのか 
中国で増えていった中間所得者層(ミドルクラス)が数少ない安全な投資先の1つとして住宅の購入を進めたこともあり、中国が一段と市場主導型経済に移行する中で不動産セクターが急拡大した。住宅価格は高騰し、投機と需要拡大をあおった。急成長に伴う大きな資金調達ニーズを賄うため、不動産開発各社は銀行ローンに加え、世界のドル建て債市場を活用。高利回りに飢えていた投資家がこうした社債を購入した。中国勢が借り換えを進める中で債務が積み上がり、ブルームバーグがまとめたデータによると、こうした社債の年間発行額は09年の6億7500万ドルから20年には647億ドルに急増し、世界中で発行されたドル建てディストレスト債のほぼ半分を占めるに至っている。
4.なぜそれが問題か
中国当局は債務急増がいずれ危険な金融メルトダウンを引き起こす恐れがあると警戒し、債務増大ペースを鈍らせようと何年もの間、取り組んできた。その一環として、当局は昨年、無謀な借り入れを減らすため不動産会社を対象に資金調達ルールを厳格化。多くの不動産会社は借入金を返す必要な十分な資金がなく、借り入れを増やせなければ既存債務の返済が難しい状況にある。恒大の流動性危機に伴うリスク上昇を補うため、借り入れコストは約10年ぶりの高水準となっており、これが企業の新発債発行の制約になっている。大手の格付け会社は中国の不動産開発会社を記録的ペースで格下げしており、デフォルト(債務不履行)も今年、記録を塗り替えた。
5.どこに向かうのか
中国の劉鶴副首相と中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁はいずれも、不動産市場のリスクはコントロール可能だと10月に述べ、市場を落ち着かせようとしている。ただ、中国の不動産会社は多くの指数で大きな割合を占めているため、デフォルトが広がり始めれば、衝撃波は地域の金融市場全般に広がり得る。住宅ローンの頭金が支払われた住宅の建設工事が進まない事態となれば、社会不安が起きる恐れもある。恒大や花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)など多数の中国不動産会社を取り巻く危機で社債発行は減速している。
 

 

●中国恒大、珠江デルタの32事業を予定通り納入へ 10/27
多額の債務を抱える中国の不動産開発大手、中国恒大集団は、珠江デルタ地域の40件のプロジェクトで建設を再開し、このうち32件については年末までに予定通り完成して引き渡しできる見通しという。南方都市報など複数の現地メディアが26日、報じた。

●「恒大集団」経営危機で習近平主席が陥る“ジレンマ”とは? 10/27
Q 世界市場に影響も……中国の「恒大集団」ってどんな会社?
中国の不動産大手「中国恒大集団」の経営危機がにわかに注目を浴びています。9月20日には同社のデフォルト(債務不履行)懸念を受けて株価が急落し、世界でも同時に株安になるなどの影響がありました。この中国恒大集団とはどういう企業なのでしょうか。また、かつてのリーマンショックのように、世界各地に影響を及ぼすようなことはこれから起こってしまうのでしょうか。(30代・男性・会社員)
A 貧しい農村出身者が一代で築いたというチャイナ・ドリームの典型です
深圳に本社のある巨大不動産会社「中国恒大集団(グループ)」は、「恒大」という名称でも大学ではありません。「恒に大きくなろう」という意味が込められています。その名の通り、大きくなろうという野心が強すぎで挫折してしまったようです。
この巨大企業は、2016年には売上高で世界最大の不動産企業に上り詰めたこともあります。現在も不動産販売面積で中国2位。去年の売上高は日本円で約8兆5000億円にも上っています。電気自動車事業にも乗り出し、強豪のサッカークラブ「広州恒大」(現広州FC)も所有しています。全従業員は20万人に上ります。
この企業は、貧しい農村出身者が一代で築いたというチャイナ・ドリームの典型です。立志伝中の人物、それが許家印会長です。中国富豪者ランキングで10位です。
許氏は1996年に中国恒大を創業しました。当初は低価格の小型マンションの建設・販売でしたが、中国の不動産ブームに乗って大躍進しました。
いち早くマンションを購入した人は、瞬く間に財産を築き、ブームに乗り遅れた人との格差が拡大しました。こうなると、庶民の不満が高まります。
そこで中国政府は、格差をなくすためには、不動産投資で金儲けができなくしようと考えます。打ち出した方針が、不動産業界が金融機関から借りられる金額の規制です。消費者のマンション購入も規制を受けるようになりました。
その結果、不動産が売れなくなり、不動産会社の資金繰りは急激に悪化。中国恒大の建設中のマンションは次々に建設がストップしたというわけです。
ただし、いまのところ問題は中国国内に留まっているので、世界経済への影響は軽微ではないかと見られています。
ここでジレンマに陥っているのが習近平主席です。中国恒大が経営破綻したら、中国国内の金融機関が不良債権を抱え込むことになり、中国経済への打撃になります。でも中国恒大を救済したら、「金持ちは助けるのか」という不満が爆発するでしょう。格差是正のために社会を安定させるのは難しいのです。

●中国 不動産各社に“債務支払い”厳命 10/27
中国当局は26日、不動産会社などを集めた会合を開き、債務の支払いを徹底することなどを求めました。「恒大集団」の債務不履行に懸念が強まる中、不動産業界への不安を打ち消す狙いがあります。
中国メディアによりますと、経済政策を束ねる国家発展改革委員会は26日、不動産開発の大手企業8社の幹部らを招集し、会合を開きました。会合では、各社から経営状況や社債の支払い計画について聴取したほか、社債の償還や利払いの準備を確実に進めるよう要求したということです。
ただ、会合の参加企業の中には、経営不安が続く業界2位の「恒大集団」の名前はあげられていません。
中国の不動産業界をめぐっては、「恒大集団」以外にも資金繰りの悪化や債務不履行の懸念を指摘される企業が続出しています。
中国当局としては、大手各社に確実な支払いを厳命することで、不動産業界全体に対する不安感を払拭する狙いがありそうです。
 

 

●香港豪邸を抵当に 40億円超調達―中国恒大会長 10/28
28日付の香港紙・信報によると、経営危機に陥っている中国不動産開発大手・中国恒大集団の許家印会長が、香港に所有する豪邸を抵当に入れた。これによる金融機関からの借入金は最大3億香港ドル(約44億円)で、恒大の債務返済に充てるとみられる。
邸宅は香港島の高級住宅地にあり、市場価格は約7億香港ドル。以前は許氏と家族が住んでいたが、土地登記当局の記録によると、今月19日に抵当に入った。
巨額の負債を抱える恒大は6月以降、傘下の電気自動車(EV)会社や不動産管理会社の株式売却などを通じた資金調達を目指してきたが、買い手との交渉がまとまらず、多くは実現していない。恒大が香港で保有するオフィスビルの売却も頓挫したと伝えられる。

●債務危機の中国「恒大集団」が経営再建計画を発表 10/28
深刻な債務危機の渦中にある中国の不動産大手の恒大集団(エバーグランデ)は、10月22日、自助努力による経営再建計画を発表した。同社が手がけるプロジェクトの建設・販売の再開をテーマに開催した会議で、経営トップの許家印・董事局首席(会長に相当)が自ら説明した。
それによれば、恒大集団は(工事代金の未払いなどで)建設が中断しているプロジェクトの工事再開や、顧客への物件の引き渡しに全力を尽くすとともに、今後は不動産開発の規模を大幅に縮小。10年以内に電気自動車(EV)などの「新エネルギー車」へと主力事業の転換を図るとした。
恒大集団が8月末に発表した2021年1〜6月期の決算報告書によれば、6月末の時点で竣工済みまたは建設中の物件数は合計1236件に上る。10月22日の会議で許氏は、これらの販売方法に関して、今後は(購入客の不安を払拭するため)物件が竣工した後の販売に切り替えると述べた。
中国の不動産業界では、ほとんどのデベロッパーが物件の完成前に販売を行う。契約を結んだ購入客が支払う頭金や住宅ローンを、その物件の建設費用や別のプロジェクトの開発資金に回すためだ。それを竣工後の販売に切り替えれば、開発資金の回収期間は格段に長くなる。ただでさえ資金繰りが苦しい恒大集団にとって、この方法が機能するかは疑問が残る。
再建計画によれば、物件竣工後の販売に移行した後、新規の不動産開発を大幅に縮小する。恒大集団が2020年に結んだ販売契約の総額は7232億5000万元(約12兆8750億円)。今後10年間以内に、それを年間2000億元(約3兆5603億円)前後まで減らすと、許氏は見通しを述べた。
もっとも、物件の建設工事を再開できなければ、竣工後の販売にも移行できない。多額の工事代金の未払いにより、恒大集団は数百件のプロジェクトが中断に追い込まれている。同社の関係者によれば、その後に販売を再開できた物件は多くはないという。
許氏はまた、10年以内に主力事業を不動産開発から新エネルギー車に転換すると宣言したが、現実的とは言い難い。そもそも恒大集団は8月10日、資金ショート回避のための資産売却の一部として、自動車事業の子会社である恒大新能源汽車集団の株式を部分的に売却する計画を発表していた。
さらに10月20日付の投資家向け情報開示でも、「資産売却に大きな進展はないが、今後も継続して推進する」と表明している。
 

 

●中国恒大、再び期限切れ直前に利払い 創業者は邸宅を抵当に 10/29
中国メディアは29日、巨額債務で経営危機に陥っている中国不動産大手、中国恒大(こうだい)集団が同日に猶予期限を迎える米ドル建て債の利払いを行ったと報じた。同日分については債務不履行(デフォルト)を免れたものの、年末に向けて相次ぎ利払い期日を迎えるため引き続き予断を許さない状況が続くとみられる。
恒大集団は、本来は9月29日が期日だった4750万ドル(約54億円)の利払いを実行せず、30日間の猶予期間に入っていた。同社は、今月23日が猶予期限だった別のドル建て債の利払いも直前になって履行している。事業売却が難航するなど、資金繰りは綱渡り状態が続いているとみられる。
中国メディアによると、中国政府は26日に不動産大手各社に対し、外貨建て社債の償還や利払いの確実な履行を求めていた。海外投資家からの懸念が強まっていたほか、10月上旬にはブリンケン米国務長官が、恒大問題の悪影響が世界経済全体に波及しないよう「責任ある行動」を中国政府に求めていた。
一方、香港メディアは29日までに、恒大集団創業者の許家印(きょかいん)氏が香港に所有する邸宅を抵当に入れたと報じた。これによる金融機関からの借入金は最大で3億香港ドル(約44億円)程度になるといい、恒大集団の債務返済に充てる考えとみられる。
米メディアは、中国当局が許氏に対し、債務削減のために個人資産を使うよう求めたと伝えていた。中国当局による圧力が強まっているとみられる。

●中国恒大、ドル建て債利払い 猶予期限直前で再びデフォルト回避 10/29
中国不動産開発大手の中国恒大集団は9月29日に期限を迎えていたドル建て債(2024年3月償還)の利払いを履行した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
猶予期間の10月29日までに4750万ドルの金利を支払う必要があった。支払いができなければ同社が国際市場で発行している190億ドルの債券が全てデフォルト(債務不履行)したと見なされる「クロスデフォルト」となる恐れがあった。
恒大は先週も、9月23日に期限を迎えていたドル建て債利払いの資金8350万ドルを受託者の口座に送金し、土壇場でデフォルト(債務不履行)を回避したばかり。
9月23日と29日、10月11日にドル建て債の利払い期限が相次ぎ到来したが、計約2億8000万ドルの支払いが見送られ、30日間の猶予期間に入っていた。
11月と12月にも別のオフショア債の約3億3800万ドルの利払い期日が控えている。
恒大は取材の要請に応じていない。
ロイターは今回の利払いに使われた資金の出どころを特定できなかった。ブルームバーグ・ニュースによると、中国政府は恒大の創業者、許家印氏に対し、個人資産で債務を返済するよう求めていた。
恒大の株価は香港市場で一時上昇していたが値を消し、直近は0.8%安となっている。
デュレーション・ファイナンスのデータによると、恒大の23年1月債は9%超、24年1月償還債は約8%それぞれ値上がりした。ただ依然として額面を75%以上下回っており、23年償還債の利回りは190%近くとなっている。
ある社債保有者は恒大が利払いを行ったことについて「時間稼ぎをしているとしか思えない」と語った。
香港の建銀国際の趙文利チーフストラテジストは、「恒大は流動性問題の解決に最善を尽くしているが、全ての債務を返済するのに十分な資金を調達するのは多少困難だ」と指摘。恒大と債権者による何らかの交渉が行われると予想し、ヘアカット(債務削減)の可能性はなおあると指摘した。
債務危機
中国恒大の債務危機は中国の他の不動産業者の財務悪化を招いており、一部は正式なデフォルトに陥っている。
今月、ドル建て債のデフォルトを起こしたのは、花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)、新力控股(シニック・ホールディングス)、中国地産集団(チャイナ・プロパティー・グループ)と当代置業(モダン・ランド・チャイナ)。
中国国家発展改革委員会(NDRC)と国家外為管理局(SAFE)は今週、不動産業者との会合で、多額のオフショア債が満期を迎える企業は返済リスクを評価し、問題があれば報告するよう指示した。
NDRCはまた、不動産業者にオフショア債務を履行し、企業の評判と市場の秩序を維持するよう求めた。
DBSのストラテジストはリポートで「オフショア市場での選択的デフォルトは当局にとって決して受け入れられない」と指摘し、「今週のNDRCの説明は海外投資家も国内投資家と同様に公平に扱われるという安心感を与える」との見方を示した。

●中国恒大危機が第2のリーマン・ショックにならない理由 10/29
中国不動産大手・恒大集団の債務危機が金融危機につながるのではとの懸念が広がる。だが、その可能性は小さい。中国政府の意図は不健全企業の淘汰だからだ。ただし、不動産投資の減退は7〜9月期のGDPを下押しし、2022年の消費の足まで引っ張る可能性がある。不動産がもたらす貧富の格差は中国国民の大きな関心事で、不動産税の導入を推す声は8割にのぼる。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹に聞いた。
瀬口清之研究主幹(以下、瀬口):今回は、中国の2021年7〜9月期の経済動向と、不動産大手・中国恒大集団の問題が及ぼす影響についてお話しします。実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比4.9%増。直前の予想は同5%増だったので、ほぼ想定通りの数字だったといえます。この数字を急減速とする見方があります。同1〜3月期が18.3%増、4〜6月期が7.9%増だったのと比較してのことです。この見方は誤りといえます。いずれの時期も、2020年の各期の“ウラ”を反映したものだからです。2020年1〜3月期が6.8%減。4〜6月期が3.2%増と急速に回復しました。そのため、前年同月比でみると、今年の数字が期ごとに減速するように見えるだけです。2019年のそれぞれの時期からの2年平均の伸び率を見ると1〜3月期が5.0%増、4〜6月期が5.5%増、7〜9月期が4.9%と安定的に推移しています。
投資の寄与度が0%というレア事態
――外需や消費、投資といった項目別に分けてみると、どうでしたか。
瀬口:GDP成長率4.9%増への寄与度をみると、外需が1.1%、投資が0%、消費が3.8%という具合でした。外需は予想以上に大きく寄与しました。新型コロナ禍から抜け出たことで国内経済が回復し、それに伴い輸入が拡大しました。しかし、それ以上に輸出が伸びました。まだ新型コロナ禍から抜け出られず生産が滞っている諸外国から委託されて中国企業が生産を引き受けている。この代替生産が依然として続いているためです。一方、投資はかなり弱い状態でした。寄与度が0%というのは、中国では極めて珍しいことです。データが公表されている2015年以降で寄与度がプラスにならなかったのは、新型コロナ感染症の拡大でダメージを受けた2020年1〜3月期(GDP伸び率への寄与度1.4%減)しかありません。ただし、中国政府はこの事態を冷静に受け止めています。成長率を重視していた2016年までなら、公共投資によってインフラ建設を拡大し、景気下支えに走ったでしょう。しかし、2017年の第19回党大会で、国家の経済政策の主要目標を量(成長率)の拡大から質の向上に転換しました。この新たな方針を揺らぐことなく取り続けています。投資は製造業による設備投資、不動産投資、インフラ投資の3つに分けられます。全体の約3分の2を占める設備投資は堅調でした。設備の稼働率は通常75%前後。これが昨年の第4四半期以降77〜78%で推移しており、これほどの高水準で高止まり状態を維持することは、この統計が公表され始めた2013年以降一度もありません。これが投資意欲を押し上げているのです。
不健全な不動産企業を淘汰
伸びなかったのは不動産投資。その震源となったのは、いま社会の耳目を集めている中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念です。この懸念が不動産業全体に対して広がったため、買い控えが起こり、不動産価格の低下を促しました。不動産市場の変調は恒大集団問題が注目され始める少し前から始まっていました。中国政府は2017年ごろから不健全な不動産企業を淘汰すべく対策を講じてきました。海航集団がすでに2月、破産法の管理下に置かれています。この政策の手がついに業界トップである恒大集団に届いたのです。
――不健全とはどういうことですか。
瀬口:放漫経営です。例えば恒大集団は不動産業にとどまることなく、電気自動車のビジネスにも進出しようとしました。一部の不動産企業はもともと高いリスクを取る傾向があります。その中に、政府の許容範囲を逸脱し、金融機関からの借り入れなど外部資金に依存して非常に高いリスクを取る企業が存在します。2017年秋の党大会での方針転換を機に、中国政府はそれ以降、金融・財政リスクの防止を特に重視し、不健全な不動産企業を淘汰すべく、金融機関の不動産向け融資に対する管理を強化しました。このため、資金力に乏しくレバレッジ依存度の高い不動産企業の経営破綻が始まっていました。健全な不動産企業にまで影響が及ぶ恐れが少ないのは、業界2位で財務基盤が安定している万科企業などの経営が不安視されていないことから明らかです。中国政府は融資の引き締めを2020年の前半にいったん緩めました。新型コロナ禍が広がり、経済の先行きに不安が生じたためです。しかし、これが上海や深圳で不動産のミニバブルを招いた。このため20年8月以降、再び引き締めに転じ、秋から2021年年初にかけてそれをより厳しくしてきました。この再引き締めが恒大集団にも影響を及ぼしました。7月には「恒大集団から購入した家が建たないのでは」という不安の声が上がり始め、9月には恒大集団による債券の利払いが不安視されるようになったのです。
不動産価格が下がった4つの理由
――不動産価格が低下したのはなぜですか。恒大集団など不健全な不動産企業の資金繰りが滞り、建設が進まず、不動産の供給が減ると、価格は上昇するのでは。
瀬口:理由は4つあります。第1は、不動産企業側の事情。資金繰りに窮した不動産企業は、手持ちの物件を販売しないと、次の物件を建設することができません。それゆえ、これまでより低い価格で物件を売却しようと動きました。第2は、これまで投機目的で不動産を購入していた人々が、価格が今後上がらないことを見越して手を休めたこと。第3は、政府が不動産バブルを懸念して、住宅ローンに制限を設けていたことです。金融機関の多くで、今年1年分として割り当てられていた住宅ローン枠の大部分が、年前半だけで使われてしまいました。ローンで不動産を購入しようとする消費者は、新たなローン枠が設定される来年初めまで待たされています。第4は、政府が不動産価格の急落を問題視して、これを抑えるべく最低価格制を導入したことです。地方政府が開発した不動産を販売するため入札をする際に下限価格を設けた。この価格より安く売ってはならないというものです。これが裏目に出ました。政府が設定した最低価格は、市場の実勢価格よりも高いものが多くありました。これを嫌った不動産企業が応札せず、札流れが各地で起きてしまったのです。これが不動産需要の弱さを象徴する動きと受け止められ、価格下押し圧力になっています。以上のことから考えて、不動産市場が復調するには時間がかかると思います。需要は年が明ければある程度回復するでしょう。新年度の住宅ローン枠が新たに設定されますから実需の部分は動き出します。しかし、不動産企業が不動産開発投資を再開するためには、まず手元の物件を売却して資金を確保しなければなりません。また、実需の部分は動いても、投資目的の需要は値下がり懸念から動かない可能性が十分考えられます。
不動産の不振がインフラ投資に飛び火
――不動産企業も大変ですが、地方政府も不動産の入札ができない状況が続けば収入の道を閉ざされることになりますね。
瀬口:それが地方政府によるインフラ投資を止めることになりました。これまでには見られることがなかった現象です。インフラ投資が復調するかどうかは、政府の発展改革委員会が専項債の発行をどれだけ許可するかにかかっています。政府としても、まともなインフラ開発が滞るのは本意ではありません。そのため、その資金を賄うための専項債発行枠を設定して備えています。しかし、政府はその一方で、新たなインフラ投資が不良資産化することがないか、警戒を緩めていません。最近は、長期的に採算が取れないような非効率なインフラ建設には建設許可を与えないようになっています。今日の状況においても、同委員会が厳しい審査方針を変えなければ、専項債の発行が認められず、地方政府のインフラ建設が滞る可能性が残ります。
プチクラスターが消費の足を引っ張る
――消費はどうだったのでしょう。
瀬口:寄与度は3.8%で弱めでした。8月に、新型コロナ感染症の小規模なクラスターが各地で発生したことが原因です。北京では、市外に出ないよう市民に要求することがありました。このため飲食、旅行、これらに伴う衣服の需要などが伸びず、8月単月では前年同月比2.5%増という低い伸びにとどまりました。ちなみに、7月は8.5%増、9月は4.4%増です。消費はこの後も不安が付きまといます。不動産市場がパッとしないため、それと連動する家電、家具、内装などの需要が伸び悩みそうです。
――電力不足や半導体不足の影響も心配です。
瀬口:電力不足による各地の工場生産の停止は9月後半が最悪でした。その原因は、今年上期の景気回復により、電力消費が前年比15%増と急増した一方、石炭の供給が不足したことにあります。脱炭素重視から炭鉱の閉鎖が続いていたほか、オーストラリアに対する経済制裁で石炭の輸入が止まっていました。中国の電力供給の7割が火力発電で、その大部分が石炭火力という構造がこの問題の背景です。しかし、10月以降、中国政府は脱炭素にはしばらく目をつぶって、電力の安定供給重視にかじを切り、閉鎖した炭鉱の再開、オーストラリア産石炭の輸入再開などに着手したので、状況は改善に向かっています。ただし、先行きの不安材料として冬季の寒波が懸念されており、春先まで気が抜けない状況が続きそうです。自動車業界の半導体不足の問題は新型コロナの影響で、独ボッシュが運用するマレーシアの工場からの半導体部品供給がストップしたことが主因でした。日本企業もこれに依存していました。こちらも、マレーシアの新型コロナ感染の落ち着きとともに改善しつつあります。ただし、自動車向け以外の半導体需要が予想以上に増加しているため、この問題が長期化する懸念も指摘されています。多くの日本企業は、これらの問題はいずれも短期的に解決されると認識しているため、これらを理由に中長期の対中投資計画を下方修正する動きはみられません。
恒大集団発のシステミックリスクはない
――今後の展開について伺います。恒大集団のデフォルト危機が中国のマクロ経済に及ぼす影響をどうみますか。
瀬口:この問題が、中国の金融システム全体に波及する心配はないと考えます。恒大集団が利払いできないのではとの不安が広がった9月20日、米ニューヨーク証券市場などで株価が暴落しました。
――同日のダウ工業株30種平均は、前週比614ドル41セント安の3万3970ドル47セント。7月以来の大幅な下落でした。
瀬口:「中国で最大の不動産企業がデフォルトするかもしれない」「より小規模な不動産企業はもっと危ない」という懸念が広がったからです。しかし、デフォルト懸念は一部の不健全な不動産企業の問題であって、中国の不動産企業全体の問題ではないことがしだいに理解され、株式市場は安定を取り戻しています。比較的早く安定を取り戻した理由は大きく2つあります。 ・・・
 

 

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●中国恒大の話題
関心の方向が変わったようです
 

 

●中国の不動産会社、今月20億ドルの支払いに直面−恒大の子会社も6日 11/1
債務危機にある中国の不動産開発会社、中国恒大集団は6日に再び重大な支払期限を迎える。資金繰り難に見舞われている同業界全体では月内に20億ドル(約2280億円)余りの支払いが控えている。
恒大の子会社の景程は2本のドル建て債のクーポン、計8250万ドルを6日に支払う必要がある。恒大のドル建て債の保有者は先週、遅れていた利払いを猶予期限切れぎりぎりで受け取り、恒大はデフォルト(債務不履行)宣言を回避したが、今月は支払いが遅れている別の1億4800万ドルの利払いで猶予期間が終了する。
中国のジャンク級(投機的格付け)ドル建て債の利回りは10月に急上昇し一時20%に達した。信用不安の中で借り換えはほぼ不可能な状況だが、ブルームバーグがまとめたデータによれば、本土債とドル建て債を合わせて11月に支払いが必要な額は20億ドルを超える。先月は少なくとも4社がデフォルトし、中国恒大は2回、ぎりぎりでデフォルトを回避した。 
11月は6日の景程の計8250万ドルのクーポン支払期限のほか、中国恒大の6890万ドル、4250万ドル、3675万ドルの利払いの猶予期間がいずれも10日に終了。
社債がディストレスト債の水準にある陽光城集団は傘下の陽光城嘉世国際などのクーポン支払いが10日と12日、17日にある。陽光城集団の人民元建て債6億300万元(約107億円)は19日が償還日。
格下げが相次ぎ苦境にある佳兆業集団は11日と12日にクーポン支払いがある。

●追い詰められた「不動産の雄」 中国恒大は生き残れるのか? 11/3
経営不振に陥っている中国不動産大手、中国恒大集団の先行きが世界の注目を集めている。同社は度重なる社債の利払い期限を何とかしのいできたが、中国当局が明確な支援に乗り出さない中、どこまで延命できるか予断を許さない状況だ。不動産バブルの波に乗り、我が世の春を謳歌していたはずの「不動産業界の雄」にいったい何が起きているのか。
日本や米欧と違い、社会主義の中国では土地は公有だ。ただし、「使用権」の形で1998年から都市部の家や土地を売買できるようになった。経済成長や都市住民の増加を背景に不動産ブームが盛り上がり、市民の間にも「不動産は値上がりし続ける」という神話が定着。不動産業界では土地を担保に金融機関などから大量の融資を受けてマンション開発などに回し、そこで得た利益を再び大型投資に充てる好循環が続いていた。
しかし、それはやがてバブルへとつながっていく。上海や北京など大都市部を中心に、将来の値上がりと転売を狙った投機が目立ち始め、一般の市民には手が届かないほど住宅価格が高騰。中国当局は「家は住むためのものだ」と散々警鐘を鳴らしてきたが、バブル抑制の効果は乏しかった。・・・

●英EV事業を売却 資金繰り改善か―中国恒大 11/4
経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団は、グループ傘下の電気自動車(EV)関連会社、英プロティアン・エレクトリックを英企業ベデオに売却することを決めた。ベデオが4日、買収を発表した。売却額は非公表だが、恒大の資金繰りがある程度改善される可能性もある。
プロティアンは2008年創業で、モーターなどの技術開発を手掛ける。恒大が19年に買収した。

●中国恒大集団の自動車部門、傘下の英プロティアンを売却 11/4
中国不動産開発大手、中国恒大集団の自動車部門である中国恒大新能源汽車集団は、英スタートアップ企業のプロティアン・エレクトリックを英電気自動車(EV)メーカーのベデオに売却する合意に近付いている。ブルームバーグ・ニュースが3日、事情に詳しい複数の関係筋の話として伝えた。
報道によると、売却は早ければ4日に発表される可能性がある。売却額は今のところ確認できていないという。報道はまた、プロティアンの取得はベデオにとってアジアや米国への事業拡大に資すると指摘した。
恒大はインホイールモーターを生産するプロティアンを2019年に買収した。
ロイターは恒大、ベデオ、プロティアンにコメントを求めたが、今のところ回答を得られていない。

●中国恒大が傘下企業株を売却 デフォルト回避へ資金調達 11/5
経営危機にある中国不動産大手の中国恒大集団が傘下のインターネット関連会社の株式の一部を売却したことが5日、明らかになった。売却額は約7億香港ドル(約100億円)。恒大は今後も続く社債の利払いや投資商品の償還などに充てるとみられる。
香港取引所が5日に開示した通知で明らかになった。売却するのは、恒騰網絡集団。動画配信サイトの運営や映画製作などの事業を持つ。売却先は同社の合弁相手であるIT大手のテンセントで、株式の売却によって筆頭株主は恒大からテンセントに移る。
恒大は6日、10日と立て続けに米ドル建て社債の利払いや猶予の期限が来る。資産売却によって債務不履行(デフォルト)を回避したい狙いがある。

●中国恒大の債権者、許会長の個人資産に照準−危機脱出に「誠意」必要 11/5
債務危機にある中国の不動産開発大手、中国恒大集団の創業者、許家印会長が所有する全長約60メートルのスーパーヨット「イベント」は、香港の「ゴールド・コースト」ヨットクラブでもひときわ目立っている。
恒大の巨大集合住宅プロジェクトの1つから徒歩約15分の港に停泊しているこのヨットは許氏の個人資産の一端にすぎないが、同社が3000億ドル(約34兆円)を超える債務の履行に苦戦する中、こうした資産にますます厳しい視線が注がれている。
中国当局は恒大の債務危機を緩和するため、許氏に個人資産をなげうつよう指示。同社がいつまでデフォルトを回避できるかを見極めようとしている債券投資家にとって、許氏の個人的なバランスシートは主要な不確定要素となっている。同氏の資産の多くが企業や関連会社の複雑なネットワークを通じて所有され、最終的な所有者が覆い隠されている可能性があることを考えれば、同氏の財力を推し量るのは容易ではない。

●中国恒大、利払い期日 資金調達は一部進展か 11/6
経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団は6日、ドル建て社債の新たな利払い期日を迎えた。恒大はデフォルト(債務不履行)回避に向けて資産売却を加速。資金調達の動きは一部で進展しているもようだが、利払いが実行されるかどうかは不透明だ。
期日が到来したのは、恒大の中核子会社・恒大地産集団が発行した社債の利息8250万ドル(約94億円)。恒大側が期日から30日の猶予期間内に債権者に支払えば、デフォルトの事態は免れる。ただ、恒大は別のドル建て社債も利払いの猶予期限が間もなく終了する。資金繰りは当面の間、綱渡りが続く見通しだ。

●子会社株再び売却 デフォルト回避で資金調達―中国恒大 11/8
中国紙・証券時報(電子版)は8日、経営危機に陥っている不動産開発大手の中国恒大集団が同日、傘下のインターネットサービス会社・恒騰網絡集団の株式を再度売却し、4億730万香港ドル(約59億円)を調達したと伝えた。恒大は未払いとなっているドル建て社債の利息の支払い猶予期限が10日に切れることから、デフォルト(債務不履行)回避に向けた資金調達の動きとみられる。
同紙などによると、恒大は4、5両日にも恒騰株を売却しており、8日分と合わせた調達額は11億2460万香港ドル(約164億円)に達した。社債の未払い利息は1億4810万米ドル(約168億円)と、ほぼ同額で、調達資金は利払いに充てられる可能性がある。

●中国恒大、子会社が利払い遅延か 11/8
ロイター通信は8日、経営危機に陥っている中国不動産大手、中国恒大集団の子会社が米ドル建て社債の利払いを期日の6日までに実施しなかったと報じた。30日の猶予期間に入ったが、恒大を巡るデフォルト(債務不履行)懸念が続いている。
ロイターによると、子会社の「景程」が計8249万ドル(約94億円)の利払いを行う必要があった。しかし一部の投資家が支払いを受けられなかったと、関係者が証言したという。
恒大は11日にも1億4813万ドルの米ドル建て社債の利払いが猶予期限を迎える。支払いを実行できなければ、格付け機関からデフォルト認定される恐れが強まる。

●中国恒大問題、米国に波及も 金融システムに打撃―FRB報告 11/9
米連邦準備制度理事会(FRB)は8日公表した金融安定報告で、経営危機にある中国不動産開発大手の中国恒大集団をはじめ同国不動産業界が苦境に陥っていることについて、中国の金融システムが傷み、米国にも波及する可能性を「短期的なリスク」に挙げた。
報告は、中国では企業や地方政府の債務が膨大で、特に中小銀行が高いリスクを抱えていると分析。こうした中、突然の不動産価格急落や投資家のリスク回避を通じて、金融システムの動揺を招くと指摘した。その上で、中国の経済や金融システムの規模、他国との幅広い貿易上のつながりを踏まえれば、「投資家心理の悪化により世界の金融市場に影響し、世界成長へのリスクとなり、米国に影響し得る」と警告した。

●中国恒大、ついに迎えた最大の正念場を乗り越えられるか 11/10
流動性危機の兆候が5カ月前に表れた中国の不動産開発大手、中国恒大集団が最大の正念場を迎えている。
中国恒大は3本のドル建て債のクーポン1億4810万ドル(約170億円)を期日に支払わず、デフォルト(債務不履行)宣言されるまでの30日間の猶予期間が10日に終了する。
中国の信用市場ストレスは投資不適格(ジャンク)級の不動産開発会社以外にも広がり、投資適格のドル建て債も数カ月で最悪の売りを浴びた。大手不動産会社と経済全体への影響について、投資家は懸念を深めている。
中国恒大が支払いをしないとは限らないものの、支払いができない場合は同社の192億ドルのドル建て債でクロスデフォルト条項が発動され債権者は一段の交渉材料を得る可能性がある。
中国恒大はコメント要請に応じていない。
同社はこれまでのところ、猶予期間が終了する瀬戸際で延滞したクーポンを支払い、デフォルトを回避してきた。中国恒大傘下企業の一部社債保有者は6日が期限だった2件のクーポン支払いを受けていない。いずれも30日間の猶予期間があるものの、12月にはさらに2本のドル建て債で利払い期日が来る。
投資家は最終的な債務再編を想定しており、中国恒大のドル建て債はディストレスト債の水準で取引されている。中国政府は創業者の許家印会長に私財を投じて中国恒大の債務返済を支えるよう促した。
債務危機の影響は最近まで主にジャンク級の不動産開発会社に限られていたが、9日には4月以来の激しい売りに見舞われた。中国のジャンク級ドル建て債の利回りは23%を超えており、借り換えは事実上不可能になっている。

●中国恒大のEV会社、70億円を調達 開発費などに 11/10
中国恒大集団傘下の電気自動車(EV)会社、中国恒大新能源汽車集団は9日、新株の発行により5億香港j(約70億円)を調達すると発表した。研究開発や生産に関わる費用に充てる。グループの経営が悪化するなかでも新たな事業の軸としてEVの量産を目指しており、資金の確保が焦点となっている。
中国恒大集団と関連会社は恒大新能源汽車の発行済み株式の6割超を保有している。今回まず関連会社の保有分のごく一部を第三者に売却し、その上で新株を発行して関連会社が引き受ける。恒大グループは今回の新株発行後でも、若干の変動はあるが6割超の保有比率を維持する。
恒大新能源汽車のブランド「恒馳」で多目的スポーツ車(SUV)の一部車種は9日までに工業情報化省が管理するリストに登録された。工業情報化省は関係機構とともに登録車種を審査し、一般意見も募ったうえで生産・販売を認めるか判断する。恒大新能源汽車はグループのウェブサイト上で、恒馳の量産第1号車について2022年初めの組み立て完了を目指していることを明かしている。
 
●中国恒大、再びデフォルト回避の見込み−社債3本の利払い履行 11/11
中国の不動産開発大手、中国恒大集団は債務危機が表面化して以来最大の正念場を迎えていたが、デフォルト(債務不履行)宣言を再び回避できる様子だ。
国際証券決済機関クリアストリームの広報が明らかにしたところでは、同機関の複数の顧客が恒大の支払期日を過ぎていたドル建て債3本の利払いを受け取った。また同債の2本を保有する投資家2人は支払いを受けたことを確認した。公に話す権限がないとして匿名で明らかにした。
ドル建て債3本のクーポン1億4810万ドル(約169億円)の30日間の支払い猶予期間が10日に終了することから、投資家は同社が支払いを履行できるかどうか注目していた。同社の支払期日を過ぎたドル建て債は2022年償還債(表面利率9.5%)、23年償還債(同10%)、24年償還債(同10.5%)など。
恒大は10月にもデフォルト宣言の瀬戸際に立たされたが、猶予期間終了前に利払いを履行していた。しかし同社は3000億ドル超の負債を抱えており、危機収束には程遠い現状だ。
債務を増強剤にした中国経済の拡大期が終わり、投機・レバレッジ規制が進む中、他の不動産開発会社も相次いで苦境に陥っている。その影響はクレジット市場の他の分野にも波及しつつある。
また、恒大傘下の景程が発行したドル建て債の保有者2人が8日、期日だった6日までに利払いを受けられなかったと明らかにしている。この社債についても30日間の利払い猶予期間が設けられる。
恒大の担当者に営業時間外にコメントを求めたが、これまでに回答は得られなかった。
中国当局は不動産市場の混乱の影響拡大阻止に取り組んでおり、中国人民銀行(中央銀行)は金融システムへの流動性供給を進めている。10日の中国市場では不動産開発セクターの株と債券が上昇。中国紙の証券時報が、中国不動産企業による人民元建て債券発行に関連する政策が緩和される可能性が高いと報じたことが材料視された。
しかし懸念は収まっていない。不動産企業のデフォルト宣言や格下げはなお続いており、中国の発行体のドル建てジャンク債利回りは24%超と、少なくとも過去10年で最高水準となっている。

●恒大創業者、オリックスに自宅を抵当へ 11/11
中国の不動産大手、中国恒大集団創業者の許家印氏が香港の自宅をオリックスの抵当に入れたことが10日、分かった。香港のネットメディア「香港01」が報じた。高級住宅地・山頂(ピーク)にある一戸建てで、市場価値は8億香港ドル(約116億円)という。
オリックスは「個別の事案にはコメントできない」としている。恒大は米ドル債の利払いを相次いで見送るなど資金繰りに窮している。
これまでも許氏が保有する別の邸宅を中国建設銀行の抵当に入れ、資金を確保したと報じられていた。
報道によると、今回抵当に入れた戸建ては許氏が2010年に購入し、自宅として使っていたことがあるという。

●厳しい資金繰り続く デフォルト回避の中国恒大 11/11
経営危機に陥っている中国不動産開発大手の中国恒大集団は、未払いとなっていたドル建て社債の利息を11日までに支払い、デフォルト(債務不履行)を回避したもようだ。
ただ、別の社債の利息が未払いになっているほか、来月以降も利払い期日が相次いで到来するなど、資金繰りが厳しい状況に変わりはない。
恒大はこれまでに2回、30日間の未払い猶予期間が終了する直前に利払いを実施し、辛うじてデフォルトを避けてきた。米ブルームバーグ通信などによると、今回は1億4800万ドル(約170億円)の未払い利息について、猶予期限ぎりぎりの米東部時間10日に支払いを行ったとみられる。
恒大は保有資産の切り売りで急場をしのいできたが、来年3月には社債償還に伴う元本と利息計21億1000万ドル(約2400億円)の支払いが控えるなど、資金繰りの改善には主要事業・資産の売却が不可欠だ。同社は不動産管理と電気自動車(EV)の両子会社、香港のオフィスビルを売却対象に挙げるものの、交渉の先行きは見通せない。
一方、住宅価格の高騰を背景に政府が導入した不動産業界への融資引き締めに関し、緩和の兆しが見え始めた。共産党機関紙・人民日報系の証券時報は10日、「不動産業界の資金調達環境は徐々に回復している」として、一部の不動産会社が銀行間市場での債券発行による資金調達を計画していると報道。銀行など機関投資家からの「輸血」を得られることで、資金繰りの悪化に歯止めをかけられるとしている。

●中国恒大、複数の債券保有者に利払い からくもデフォルト回避 11/12
経営危機に陥っている中国不動産開発大手、中国恒大集団の複数の債券保有者が利払いを受けていたことが、関係筋の話で分かった。かろうじてデフォルト(債務不履行)を回避した格好だが、中国の不動産セクターに対する投資家の懸念は払拭されていない。
国内メディアの財聯社はこれに先立ち、複数の債券保有者が3つのドル建て債で利払いを受け取ったと報道。総額で1億4800万ドル超となる利払い期限は先月に迎えていたが、今月10日までの猶予期間に入っていた。この猶予期間内に支払いができなければ正式にデフォルト(債務不履行)となっていた。
中国恒大の香港上場株は前場の中盤時点で9%超上昇した。
中国恒大からはコメントを得られなかった。同社はこの数週間、利払いで綱渡りの状況が続いている。12月28日には総額2億5500万ドル超の利払い期限も迎える。
市場は別の不動産開発会社である佳兆業集団にも注目。11日と12日に総額5900万ドル超の利払い期限を迎える。同社は中国不動産開発会社の中では中国恒大に次いで大きなオフショア債務を抱えている。

●中国が抜く伝家の宝刀「固定資産税」、格差解消どころか深刻なリスクも 11/12
10月下旬、中国の不動産保有者らに激震が走った。全国人民代表大会常務委員会が、「房産税」のテスト運用を認める決議をしたからだ。「房産税」とは、日本でいう固定資産税のことで、中国では反対の声もあり、一部の地域以外では導入されていなかった。中国恒大集団の経営危機などで大揺れする不動産市場だが、中国ではどんな反応が起きているのだろうか。
不動産の市況が厳しい今、なぜ固定資産税?
「房産税」は、中国で不動産の保有に課税される税金であり、日本の固定資産税に相当する。日本のそれと異なるのは、中国では土地はすべて国家の所有とされているため、厳密には土地の使用権者と建物の所有権者に課税される税金だということだ。この「房産税」(以下、本稿では「固定資産税」と称する)は、2011年に上海市と重慶市で導入されたが、今後は実施拠点を増やし、5年のテスト運用期間を経て全国的な運用を目指すのではないかといわれている。今年9月、中国70都市の半数以上を占める36都市で、前月比の新規分譲住宅の価格が下落した。国家統計局による販売価格の変動報告は毎月行われているが、前月比の下落は8月で20都市、その前の7月は18都市にとどまっていた。大手不動産仲介企業の安居客が公開した報告書によれば、「新規分譲住宅の購入意欲は10月に入っても冷め続けている」という。秋は中国でも住宅購入のベストシーズンといわれるが、今年の市況は冷めている。市況の冷え込みは、中国恒大集団の経営危機などの要因もあるだろうが、固定資産税の導入への警戒感も反映されている可能性がある。実際、中国では今年5月に財政部が議論を始めたことから、その後の動向に注目が集まっていたのだ。
格差是正のため、避けて通れない固定資産税導入
長期的な影響さえも懸念される固定資産税の導入に政府が踏み切るのは、習近平指導部が固定資産税を「共同富裕の実現に欠かせないもの」だと捉えているからだ。中国共産党の媒体「求是」(10月15日)で発表した「共同富裕の着実な取り組み」からは、不公平な分配を排除するため、不動産に関する税法や改革を推進し、高所得者や企業が蓄えた富を社会に還元させようという固い決意が垣間見える。ここに来て始まった固定資産税導入の動きに、WeChat(中国のメッセンジャーアプリ)では、「ついに保有にまで手を出した」「財政はよほど逼迫(ひっぱく)しているのだろう」「将来的な不動産の取引需要の減少を見越した対策だ」などのツイートが飛び交っていた。しかし、焦点となるのはむしろ「持てる層」と「持たざる層」の格差緩和である。過去20年間、中国は不動産という富の偏在が社会格差を拡大させてきたが、これを是正するには、もはや固定資産税の導入は避けて通れないという認識に達したことがうかがえる。固定資産税を徴収すれば、不動産の保有コストを増加させ、結果として投機需要を減らすことにつながる。また富裕層が余剰不動産を売却して市場の供給を増加させれば、高騰し続けた住宅価格を下落させることにもつながるという期待がある。中国の不動産の専門家の間でも、固定資産税を導入すれば富の再分配を促すという論調が強い。
忖度しすぎて効果がなかった固定資産税
実は、中国は固定資産税について1986年の早い段階で立法化していた。しかし、その後、不動産に関わる税金は「取得時」と「売却時」における課税で終始し、「保有時」には課税しないままでいた。ところが、2010年の上海万博前後に空前の住宅価格の上昇が起き、上海市ではついに「保有への課税」が始まった。2011年に上海市と重慶市に限定し、固定資産税の試験運用が始まったが、「自己居住用住宅」への課税はされなかった。ちなみに、上海では税率を0.4%と0.6%に分け、非居住用の住宅を対象に課税が実施された。上海で固定資産税の試験運用が行われた当時、筆者は不動産を専門とする上海財経大学の教授に意見を求めたことがあったが、「こんな微々たる金額では効果がない」と税率の低さや特例措置の多さにあきれていた。当時は「市況に影響を与えたくない」とする政府側の意図もうかがえた。もっともそれ以上に忖度(そんたく)したのは、党や政府内からの反発だろう。この時代、公職に就く多くの者がその利権を乱用し、許認可と交換に、開発業者から住宅を提供させるなどして私腹を肥やした。その一方で、上海市民の不満は小さくなかった。それは「自分たちが買った不動産は所有権ではない」という認識から来る反発で、「70年間の土地使用権に対して、なぜ固定資産税を払わねばならないのか」というものだった。ここでいう使用権とは、日本で言うなら借地権に相当するが、「多額の頭金やローンを組んで手に入れたにもかかわらず、使用権の期限である70年を経過すれば、土地も建物も没収されて国家のものとなってしまうといわれているのに、その間にも税金(固定資産税)を課すのは矛盾する」(上海市在住の会社員)という議論は、今なお根強いものがある。固定資産税が導入されたにもかかわらず、上海市の住宅価格は、その後10年間、天井知らずの上昇を続けた。上海市における固定資産税の導入は、どこか中途半端なものがあったのだろう。中国の不動産専門家の論評を見ると「たいした効果はもたらさなかった」というものもある。それどころか、この10年で中国全体に取り返しのつかない格差社会を定着させることになったのである。上海市閔行区に在住する陳紅さん(仮名)も、10年前に行われた固定資産税の導入に顔色を変えた1人だった。その陳さんは10年後の今、習指導部が振るう“大ナタ”に「早晩、上海では、投資用の住宅のみならず、自己居住用の住宅についても課税されるだろう」と身構える。だが、その一方で、この“大ナタ”により周辺相場が下がれば、我慢して住み続けてきた老朽住宅からの買い替えもできるのではないか、という希望も持っている。
ついに抜いた伝家の宝刀
中国では、高騰する住宅価格の記録が更新されるたびに、住宅ローンを組むための頭金の割合や金利の調整など「小手先」での価格抑制策を繰り返してきた。しかし、今回ついに習指導部は “禁断の固定資産税”に目を向けた。これに対し、都内私大で教壇に立つ中国出身の教授は「本気で取り組めば“世直し”にもなる。外地出身の都市部在住者にとって、適正価格でのマイホーム取得の夢が、いよいよ現実味を帯びてくるだろう」と前向きに捉える。今回の固定資産税は、真っ先に沿海部の都市で実施されるといわれているが、この影響がじわじわと出てきている。中国人留学生で広東省出身の趙志龍さん(仮名)は、「父親は最近、手持ちの事業用住宅3戸を売りに出した」と明かす。早晩、固定資産税が導入されるだろうという見込みから売却に踏み切ったのだが、なかなか購入希望者は現れないという。習指導部の狙い通り、固定資産税は「持てる層をターゲットに、営利的な不動産を放出させる」ことには一定の成果を出すかもしれない。しかし、その先の再分配につながるのか否かは不透明で、むしろ中国の住宅市場が膨大な在庫物件を抱えて停滞する危険性すらはらんでいる。「格差是正の大改革」は、なかなか一筋縄ではいきそうもない。

●鉄鉱石と金属相場が上昇−中国の不動産業界巡る混乱緩和に期待高まる 11/12
鉄鉱石先物は11日に下げが止まった。金属需要に打撃を与えてきた中国不動産業界の混乱緩和への期待が高まった。ロンドン金属取引所(LME)のアルミニウム相場は供給のタイト化を背景に上昇した。
中国国営メディアは主要記事として、中国恒大集団の危機を管理する措置の可能性や、不動産業界への広範な支援策を追求する可能性について相次いで伝えた。
中国の不動産業界規制、有力証券3紙が緩和観測高める−銀行融資増
鉄鉱石先物はシンガポール市場で5%余り値上がり。LMEのアルミ相場は3%余り上昇した。中国が引き続きエネルギー使用を抑制する中で、自由に利用可能なアルミ在庫は2005年以来の低水準となった。
LMEのアルミ相場は前日比3.2%高の1トン=2660ドルで終了。中国のエネルギー使用抑制策や環境汚染防止措置が支援材料となっている。亜鉛を除く他の全ての金属も上昇した。

●怒りの矛先は当局にも−中国各地で不動産運用商品の投資家が抗議 11/12
抗議は紫禁城(故宮)の南東で起きた。多くの人々が北京の役所に押しかけ中に入れろと叫んだ。10月下旬のことだった。資金繰りに苦しんでいる不動産開発会社の中泛控股(チャイナ・オーシャンワイド・ホールディングス)を巡る抗議活動だ。
大規模なデフォルト(債務不履行)の瀬戸際にある業界大手の中国恒大集団で始まったことが、中国国内で広がり出している。
数万人の中国人投資家に「理財商品」と呼ばれる資産運用商品を販売した不動産開発会社少なくとも4社が期限までに資金を返済することはできないと明らかにしており、こうした企業、これらを監督する当局に対する激しい怒りが膨らみつつある。
中国不動産市場の亀裂は、住宅所有者のみならず不動産開発会社が販売した複雑な投資商品を買い入れた多くの投資家の間にもパニックを引き起こしている。これら企業に関連する少なくとも700億元(約1兆2500億円)の理財商品で支払いが遅れたか、返済スケジュールの見直しを迫られている。
理財商品を巡る抗議活動が暴動に転じたような様子はないが、街頭での抗議行動が珍しい中国であっては目を引く出来事だ。広東省深圳では何百人もの怒れる投資家が中国恒大と佳兆業集団の本社に押しかけた。北朝鮮国境に近い遼寧省瀋陽でも同じような抗議が繰り広げられた。
不動産開発各社は最終的には返済すると請け負うことで、理財商品の買い手をなだめようとしているが、中泛の理財商品保有者は同社が見直し後の返済計画を既に守っていないと指摘しており、投資家は政府の介入を期待している。
監督当局は理財商品など中国の13兆ドル(約1485兆円)規模に上るシャドーバンキング(影の銀行)に関連する規定を数年にわたり厳格化している。だが不動産開発会社絡みの投資商品の主な供給源を抑制しようと動いたのはつい最近のことだ。事情に詳しい2人の関係者によれば、当局は今年に入り地方の店頭取引所が不動産を裏付け資産とする理財商品を発行することを禁止した。
中国証券監督管理委員会(証監会)のデータによると、店頭取引所の理財商品残高は2019年7月時点で約8520億元。少なくともその半分は不動産開発会社向けの資金融通だと関係者の1人が語った。
中泛と証監会はいずれもコメント要請に応じていない。北京市公安局東城区の報道担当室には取材できていない。

●UBSのマネーマネジャー退社、恒大債保有のアジア債ファンド不振 11/13
スイスのUBSグループで30億ドル(約3400億円)規模のアジア債券ファンドの運用を担っていたロス・ディルケス氏が退社する。同ファンドは資金繰り難に見舞われる中国の不動産開発大手、中国恒大集団に対するUBSのエクスポージャーの大部分を保有している。
ディルケス氏(シンガポール在勤)はUBSの資産運用部門で約16年勤務。約9年前に運用開始したアジア・ハイイールド・ファンドでリードマネジャーを務めている。UBSの広報担当は同氏の退社を確認したが、理由は明かさなかった。同氏に取材を試みたが、コメントは得られていない。
ブルームバーグの集計データによると、ディルケス氏のファンドは年初来の運用成績がマイナス18%前後で、組み入れ銘柄の半分程度が不動産関連で占められている。恒大の債務危機で中国不動産セクターへの懸念が強まる中、同ファンドの運用資産は9月初め以来、約5億ドル目減りした。
同データでは、UBSは9月末時点で恒大債を約2億7400万ドル相当保有。その中には顧客資金を運用するアジア・ハイイールド・ファンドなどの組み入れ分も含まれている。同ファンドは中国不動産開発の融創中国や佳兆業集団でもかなり大きなポジションを持つ。
 
 
 
 
 

 

 
 
 

 

●強欲
欲が非常に深いこと。また、そのさま。
非常に欲が深いこと。また、そのさま。「——な高利貸し」「——非道」
欲がひじょうに深いこと。また、そのさま。ひどいよくばり。貪欲(どんよく)。貪婪(どんらん)。大欲(たいよく)。
非常に欲深いさま、度を越した欲張り、を意味する表現。際限なく、何が何でも、自分の欲望を満たそうとするさま。「悪徳」としてネガティブなニュアンスで用いられることが多く、また「異常」や「醜悪」といったニュアンスを込めて用いられることも多い。
“欲が深い”ことである。キリスト教における七つの大罪のひとつにも数えられている。また、キリスト教に限らず日本においても強欲は戒めるべき感情として扱われてきた。昔話を紐解けば、『花坂爺さん』の意地悪爺さんや『舌切り雀』の大きいつづらを開けてしまったおばあさんなど、強欲に駆られひどい目にあった人物が多数登場している。昔話に限らず、ものを際限なく欲しがるということは余計な衝突を引き起こすことが多い。それを避けるために強欲な行為は極力控えるべきである。
「貪欲」とは、欲深く、どれだけ欲しいものを手に入れても満足しないことです。「貪欲」である対象として、金銭や物の他、知識などがあります。古くは「とんよく」とも読まれていました。「貪欲」の「貪」には、「むさぼる、欲張る」といった意味があります。常用漢字の1つですが、日常会話の中で使う頻度としては、「強欲」の「強」よりも少ないです。そのためか、「貪欲」よりも「強欲」の方が言葉として広く使用される印象があります。「強欲」との違いは、否定的な意味だけでなく、肯定的な意味でも使うことです。例えば知識に対して「貪欲」である場合には、知的好奇心を純粋に追求し、知識を増やしていく良い意味として使用されます。「貪欲」は、良い意味でも悪い意味でも使います。「強欲」は、悪い意味でしか使いません。
欲が過剰になり、他人の都合を省みずにそれを満たそうとする様。そうした状態に陥った人間の悪性・罪を指して言うこともある。同じ七つの大罪に属する暴食や色欲とは違い、対象を問わない。一般的には金銀財宝やカネといったものに対する物欲の強い様子を表す、とされることが多い。が、実際は前述の通り対象を問わず欲しがることを指すため、モノに限らず、あれもこれも欲しがるのならばそれは立派な強欲である。食物や異性に対する欲といった生理的(本能的)なレベルのものから、名誉や愛といった社会的・愛他的な高次なものに対する欲まで含まれる。とは言え、そのうちのどれかに特化した欲であれば、さすがに強欲とは言わず大食・色欲・傲慢などと呼ばれることになるだろう。かのガキ大将が口にした「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という言葉や、某ホムンクルスが言った「金も欲しい! 女も欲しい! 地位も! 名誉も! この世の全てが欲しい!!!」という言葉が強欲という罪の本質を突いていると言えよう。

●三毒 1
仏教において克服すべきものとされる最も根本的な三つの煩悩、すなわち貪・瞋・癡(とん・じん・ち)を指し、煩悩を毒に例えたものである。三毒は人間の諸悪・苦しみの根源とされている。ブッダの説いた根本仏教、大乗仏教を通じて広く知られている概念である。例えば、最古の経典と推定される南伝パーリ語のスッタニパータに、貪・瞋・癡を克服すべきことが述べられている。更に中部経典においては「三不善根」として記され、3つがまとめて論じられている。三毒(三不善根)は悪の根源であり、それが展開されて十悪となる。
大乗仏教でも妙法蓮華経譬喩品第三の、いわゆる「三車火宅のたとえ」に「ブッダは、衆生の生老病死、憂い、悲しみ、苦悩、無知、混乱や三毒から解放する為に三界に姿を現したのだ」と説かれ、三毒などの煩悩を家についた火に喩えている他、般若経・華厳経にも記載がある。存覚が「貪欲を生じ瞋恚(怒り)をおこすことも、そのみなもとをいえば、みな愚痴(愚かさ)よりいでたり」と述べるように、三毒の根源は癡(愚かさ)であるとされる。なお、別に三惑ともいうが、後世の天台宗学における三惑(無明惑・見思惑・塵沙惑)を指して呼称するようになったので、現在は三毒と呼称するのが常となっている。『大乗義章』五に「三毒通じて三界の一切煩悩を摂し、一切煩悩は能(よ)く衆生を毒すること、それ毒蛇の如く、また毒龍の如し(三毒は三界の一切の煩悩を包んでいる。一切の煩悩が人々を毒するのは、毒ヘビや毒龍のようなものだ)」とある。また『法界次第初門』巻上には「毒は鴆毒を以て義とす。(中略)出世の善心を壊すを以ての故に(三毒の毒とは鴆毒すなわち毒薬の意味である。解脱しようとする善の心を壊してしまうからだ)」とある。
三毒の誤解​ / 俗に、「妬む、怒る、愚痴る」を「仏教の三毒」として紹介することがあるが、そのような用例は仏典にはなく、誤りである。これらも仏教では煩悩として克服すべきものだと考えられているが、この三つは大局的には瞋に包摂される煩悩である。また、癡は日本語での「愚痴をこぼす」ということではなく、もっと根源的な人間の「愚かさ」を表す概念である。チベット密教では「嫉妬」(妬み)は「無明」と「悪見」の二つを併せたものとされる。

●三毒 2
三毒とは、仏教において人が最も克服されるべき対象であるとされる三つの煩悩のこと。仏教において、最も克服されるべき対象である、人間の諸悪・苦しみの根源とされ、可能な限り取り払うべき煩悩であり、それぞれ『貪』(とん) 『瞋』(しん) 『癡(痴)』(ち)の三つに大きく分けられる。三毒の内の『貪』と『癡』の多くは『瞋』に結びついており、『瞋』をしっかりと捉えれば『貪』と『癡』にもアプローチできるようになるとされている。煩悩の数は、俗に108個あり、最大では84000個あるとされるが、最少ではこの三毒のみとされており、他の煩悩は全てこの根本たる3つから派生したものとされている。
貪 / 『貪欲』(とんよく)とも言われ、必要以上に求める・貪る心。ありとあらゆる深い欲・欲望のことである、『強欲』の感情。象徴する動物は豚
瞋 / 『瞋恚』(しんに)とも呼び、基本的には怒りのことされるが、仏教においては『憎悪』『軽蔑(軽視・蔑視)』『嫉妬』、更には『不安』なども怒りの表れとされている。象徴する動物は蛇
癡 / 『愚癡』(ぐち)とも呼ばれ、仏教における世の真理『法(ダルマ)』(『無常』など)を理解できておらず、『無知』であることを意味する。象徴する動物は鶏

誤解がないように解説すると、これらは感情が「過剰に持っている」または「支配されている」から罪になるのであって、一切持ったり感じたりしてはいけないわけではない。むしろこの世で生きていくためには、必要最低限は必要である。 例えば欲が無ければご飯を食べたいなどと思えなくなるし、怒ることができなければ人を叱ったり出来ない。 逆に言えば必要最低限以上は持ち合わせるべきではないということである。
悪いのは、それらの感情を過剰に抱き、それに執着して支配されてしまうことであり、『三毒』とはそうした状態を指したものとも言える。仏教において『執着』は最も大きな障害とされ、過剰な欲は強欲となり、過剰な怒りは軽蔑心や嫉妬心となって、やがて他者のことなどを何も考えなくなって蔑み見下すようなり、人やこの世に害をなす存在になり下がって、そのために引き起こる逃れられない苦しみを受けてしまうことになる。
この三つの煩悩は密接に繋がっており、例えば過剰な怒りは、軽蔑心や嫉妬心となると、その対象を貶めたり苦しめたりすることで、優越欲や支配欲に浸るという強欲を作り出す。強欲も、独占欲や優越欲に執らわれることで、自分より劣っている、自身から何かを奪おうとしていると感じた相手に対して見下しや蔑みという軽蔑心を生み出してしまう。
更にそれらに執着してしまうことによって、この世のあり方・真理(法(ダルマ))に盲目(無知)になり、悪い生き方・いい加減な生き方になってしまい、その結果起こりうる苦しみに苛まれることになる。
特に怒りの感情は大変コントロールが難しく、ほんの些細なことでも抱いてしまいやすい。しかし、逆に言えば怒りさえ上手く抑制してコントロールし、克服してしまえば、強欲や無知を克服するのも楽になるということでもある。

●三毒・貪瞋痴(とんじんち) 3
三毒とは|貪瞋痴(とんじんち)の意味を解説
三毒とは仏教において「苦しいの原因」となる煩悩の中で、最も根源的なものを意味します。煩悩の数は108あると言われますが、特に重要視される三毒の意味やそれにまつわる教えについて今回は解説します。
三毒と言う煩悩「貪瞋痴」
三毒は、「貪瞋痴(とんじんち)」という言葉で表現されます。貪瞋痴はそれぞれ、貪欲・瞋恚・愚痴(愚癡)と言う煩悩を意味する言葉です。貪瞋痴の読み方や意味については後程解説していきます。
仏教では三毒・煩悩をなくすことができると
仏教では三毒に代表される煩悩をなくすことは、「苦しみの原因」を消滅させることと教えます。つまり、煩悩をなくすと苦しみから解放され安らかで楽しい人生を歩めるようになるのです。それでは、具体的に三毒や貪瞋痴の意味について解説していきます。
三毒の意味|貪瞋痴とはどんな煩悩か
三毒という言葉自体の意味をまずは解説します。三毒とは、毒のように私たちの心を蝕み、清らかな心を失わせる原因となる三つの心の動き・煩悩を表します。三毒によって毒された心では、私たちはこの世の苦しみにただただ苦しむだけの存在になってしまうのです。三毒は私たちの様々な善いことをもたらす善根の真反対であり、三不善根とも言われます。それでは、三毒という私たちを苦しめる原因となる、貪・瞋・痴について詳しく解説していきます。
三毒の貪|貪欲(どんよく)
三毒の貪は、貪欲の貪を意味します。貪り(むさぼり)とも言われます。貪欲とは、現代でも使われる言葉ですが、「欲しいものなどに対して、執着する心」を意味します。私たちが人生を苦しいものだと感じるのは、私たちがあらゆるモノに執着するという煩悩が故です。お釈迦様はこの世の真理を正しく見抜くことができるようになり、あらゆる物事に執着する心を捨てることができれば、苦しみから解放されると悟られました。貪欲は煩悩の中でもあらゆる苦しみにつながる根源的なものと言えます。良い服を着たい、良い生活をしたい、ささやかなもの事にでも、執着をするものがあるからこそ、それらが手に入れられない時、失った時に苦しいという感情が生まれるのです。この世は諸行無常と諸法無我であるという真理に即して、物事を見ることができるようになれば、そういった貪欲も無くなるのだと言うのです。ちなみに、三毒の貪欲の読み方は「どんよく」とも、「とんよく」ともどちらでも構いません。
三毒の瞋|瞋恚(しんい)
三毒の瞋は、瞋恚の瞋です。瞋はいかりとも読みます。瞋恚とは、「怒ること、腹を立てること」を意味します。仏教では、相手がどんなにひどいことをしてくるような人間であっても、腹を立ててはいけないと教えます。仏教の教える、四苦八苦という人生の大きな苦しみの一つに「怨憎会苦(おんぞうえく)」という言葉がありますが、他人の中には理解できないような腹を立ててしまうような人も存在しています。私たちは相当なことがない限り、他人とかかわらないと生きていけない生き物ですのでそういった理解できないような腹の立つ人間と出会うことも避けられません。そんな人に出会ったとしても、腹を立てず、耐え忍ぶことが重要なのだとお釈迦様は教えています。
三毒の痴|愚痴/愚癡(ぐち)
三毒の痴は癡とも書き、愚痴(愚癡)を意味します。痴はおろかとも読まれます。愚痴とは、「真理を知らず、物事の理非の区別がつかないこと」を意味します。現代では、愚痴と言うと「愚痴をこぼす」などとも言い、仕方のない不平などを言うことの意味ですが、仏教での愚痴の意味は「真理を知らないこと」になります。貪欲の時にも出てきた真理という、この世の絶対的なルールを知らないことで、愚かな考えや、行動を起こすのだと言います。例えば、若い自分でいたいという欲はほとんどの人が持っているものだと思います。若さというものに執着する心、貪欲です。この貪欲という毒によって、白髪が増えたり、しわが増えたりと老いていく自分を見て苦しみを覚えてしまいます。しかし、そもそもこの世は諸行無常、どんな存在も変化していくという絶対的な真理があります。もし、この真理を悟っているならば、そもそも自分の若さに執着する心は出ず、老いていく姿を見たとしても苦しみが生まれるということはありませんつまり愚痴であるがゆえに、苦しみが生まれているということです。
貪瞋痴(とんじんち)の意味するところ
三毒・貪瞋痴が意味するのはいずれも私たちの心が自然と持ってしまっている心の動きなのです。意識をしなければ、心はすべて三毒を中心に煩悩にまみれたものとなってしまいます。この煩悩まみれると言うのを、毒と表現して三毒と表記しますが、他にも「心が垢にまみれる」と表現され、三毒は三垢(さんく)とも表記されます。煩悩にまみれると、人生はさらに苦しみばかりのものになるので、仏教では煩悩をいかにして抑え込むのかということを教えてくれるのです。
三毒をなくす方法
三毒をなくす方法ですが、現実では三毒を完全になくすことは人間にとって、ほぼ不可能でしょう。仏教の本来の教えでは、三毒や煩悩はなくすと考えるのではなく、それらを抑える、制御すると考えます。仏教では、四諦という根本的な教えの中で、滅諦(めったい)といい苦しみから解放されるには、その原因となる「煩悩を滅する」ことでこの世の苦しみから解放されると教えています。しかし、それらの教えを書いた経典や般若心経などで「滅」が書かれた部分は、サンスクリット語だと「制する」と本来訳される言葉が使われています。(参考:般若心経 金剛般若心経 中村元 紀野一義 岩波文庫)滅すると制するではかなり違いがあります。心に三毒が生じることがあっても、滅することができていないと悲しむことはなく、三毒が生じたときに、それが広がらないようにしっかりと”制する”ようにするのです。三毒を抑える方法は、言ってしまえば、仏教の根幹であり、文字で簡単にまとめられるようなものではありません。また仏教とひとまとめに解説していますが、そもそも日本の仏教は大乗仏教と言い、タイやミャンマーなどの上座部仏教とは煩悩を抑えるための教えも違いがあります。さらにお釈迦様が教えていたであろう頃の初期仏教からも、今の仏教の教えはかなり変化していると考えられますので、あくまで一例として、日本の仏教で三毒・煩悩を抑える方法の一つとして行われているものをご紹介します。それが、「護摩行」です。私たちの煩悩を焼き祓い、取り払ってくださる不動明王の前で、大きな火を焚き、そこに護摩木を投げ入れて自らの煩悩を焼き祓ってもらうというものです。護摩行はその煩悩を焼きはらうだけでなく、心願成就のご利益にも預かれるというものです。
三毒/貪瞋痴(とんじんち)にまつわる話
三毒、貪瞋痴に関わる仏教の教えなどをご紹介いたします。
三毒煩悩と鬼
三毒とは、私たちの心に巣くう鬼であるという教えがあります。節分に行う豆撒きは、そんな心の中の鬼を外に追い出すものだという解釈もあります。
三毒を動物で表現すると
チベット仏教においてなどでは、三毒を動物で表して、
貪→鶏
瞋→蛇
痴→豚(猪)
という絵が描かれています。その絵では、私たち人間が三毒を根源とする煩悩によって苦しみの世界を輪廻していると表現されています。
三毒と五欲
五欲とは、私たちの根本的な欲求を意味します。五欲とは、食欲、財欲、色欲、名誉欲、睡眠欲。上記のような欲求が無くなってしまったら、生きることも、生きるために頑張ることもできなってしまいます。ただし、三毒のように、欲求はひとたび制することが無くなればどんどんと大きくなり歯止めが利かなくなります。なくすのが目標ではなく、欲求を持つことも人であることを認識し、中道といい「ちょうどいい」状態を保つのが大事です。つまり、これらの欲求に飲み込まれないようにするのと同時に、欲求をなくそうとしすぎないというのが良いということです。
三毒と十悪
十悪とは、人間が自分の身(行動)、口(言葉)、意(考え)で作ってしまう悪のことを言います。実は三毒の貪瞋痴の内の2つは十悪にも属しているのです。
十悪とは、
殺生(せっしょう):命あるものを殺すこと
偸盗(ちゅうとう):盗みを働くこと
邪婬(じゃいん) :浮気すること
妄語(もうご)  :他人をたぶらかすこと
両舌(りょうぜつ):二枚舌を使うこと
悪口(あっく)  :他人をののしること
綺語(きご)   :飾り立てた意味のない言葉を使うこと
貪欲(どんよく)
瞋恚(しんい)
邪見(じゃけん) :この世の真理、因果の道理を無視すること
この世の中は、良いことをすれば、良い結果になり、悪いことをすれば、悪い結果になるという因果の世界に成り立っています。三毒などの煩悩を制し、良いこと言動や考えを持つようになれば、自然と良い結果が生まれるのです。愚痴である私たちはそういった因縁の世界(縁起の法)を知らないがゆえに悪を行い、苦しみと言う結果を招いているのです。

●心の三毒「貪・瞋・痴」  4
「煩悩」とは、人間の心を乱す、不幸の原因となるものです。人間の煩悩は108つあるとされていますよね。煩悩の中でも代表格となるのが貪とん・瞋じん・痴ちです。これを「心の三毒」といいます。
•貪:むさぼり・必要以上に求める心
•瞋:怒り・憎しみ・妬みの心
•痴:おろかさ・愚痴・無知
三毒によって害を受けるのは、それを起こしている本人です。二人の人が同じものを見ていたとすると、毒におかされている人だけは地獄の光景を見ているんです。なので仏教では、煩悩は排除すべきものとしてとらえています。そしてその煩悩を焼いてくれる仏様が不動明王なのです。
貪:「他人との比較」から生まれる煩悩
「貪」は「貪欲」ともいわれ、欲深く、際限なく欲しがる心です。外部のものに価値があると思って執着してしまうんですね。その根本的な原因となっているのは他人との比較。これがキーワードです。欲を持つこと自体は悪いわけではありません。健全な欲は人間を成長させますから。高級品、ぜいたく品を買うのもOKです。問題はその動機です。
理想の状態と低い自己評価
人は、「理想の自分」を考える一方、自己評価もしています。問題は、自己評価があまりにも低く、最低限こうありたいという状態にも届かない時に起こります。低い自己評価をごまかすために、武器を得ることで背伸びしようとするのです。これが「貪」の始まりです。例えば、「有名な大学」というだけで、その大学で具体的な何かを学ぶという目的もないのに目指すとか、「ブランド」というだけでそれを選んでみたりとか。そのような「貪欲」の背景には「他者との比較」があります。他人にどう思われるかを気にしすぎて、軽んじられないように防衛反応が働くのですが、防衛のために何かを得ようとするのは「心が不健全」な状態です。他者との比較を第一に生きると、本当は自分に必要ではないのに求めてしまったり、何かを手に入れても、もっと良いものを手に入れなければと躍起になります。どこまでも他人に良く思われたいという焦燥感にかられて欲してしまうのです。まさに、「欲深く、際限なく欲しがる心」です。むさぼる心を持つと、自分の本当の価値が見えなくなってしまいます。大切なのは、人の評価はどうあれ、自分にふさわしいと思えるもの、好きだと思えるものを選択することです。
謙遜は心のバランスを崩す
また逆に、「私にはふさわしくない」という謙遜。こちらは、武器は欲していませんが、むさぼりの変形といえます。適度な謙虚さは必要ですが、こちらがせっかく褒めているのに、必要以上に、「いえいえいえ、私はダメです。」と、褒めたことを全力で否定してくる人っていますよね。そう言っておけば、期待される結果から外れた場合の防衛線をはることになります。最初からハードルを下げておけば、非難されないと無意識に信じてしまっているんです。そのような心もまた、価値観の低い自分を防衛する心なので、むさぼりと同じ心の構造を持っています。自分にふさわしいものを選択することと同じくらい、等身大の自分に素直になれることも大切です。
瞋:「自己中心的な考え方」から生まれる煩悩
「瞋」は「瞋恚しんに」、「瞋いかり」ともいうのですが、「怒り」の他にも、心の中の憎しみ、恨み、妬み、嫉みも含まれます。どんなに功徳(人間として行うべき良い行為)を積んでも、1回の瞋りで台無しになってしまうといわれていますので、仏教の修行者には怖れられています。キーワードは自己中心的です。
「他人のせい」「社会のせい」にしだしたら、自分を見つめなおす時
「瞋り」の難しいところは、瞋る側が「自分が悪い」と思っていない点です。悪いことをしようと思ってやる人はそういませんから、あくまで被害者なんです。でも、行き過ぎると加害者になってしまうんです。例えば「叱る」と「怒る」の違い。親として未熟な人は「叱る」ではなく「怒る」になってしまう場合があります。「叱る」は、時として子供を成長させる必要なものなのですが、「怒る」は感情の問題です。子供が騒がしかったり、散らかしたり・・・「叱る」の場合は、そういう「行為」が良くないということを言い聞かせたり、子供のためを思って知ってもらおうとする姿勢です。しかし「怒る」の場合は、自分の不快感を解消するために、感情的に怒鳴ったりするわけです。なので平気で人間否定をしちゃったりします。自己中心的な思いが人を傷つけてしまうんです。子供のためではない、というのが「叱る」との違いです。ただ、「叱る」を意識していても、いつの間にか「怒る」に変化していることがあります。気をつけたいところですね。
「怒り」と「悲しみ」は表裏一体
「怒り」の感情の裏側には「悲しみ」や「情けなさ」があります。「悲しみ」と「怒り」は表裏一体なんです。「何故この子はそうなの?」という怒りの裏には、「できない」という悲しみがあるのですが、「できない」が続くと「しまいには情けなくなる」となり、それも積もり積もると「どうせ...」となって、行き場のない怒りが噴出するわけです。表裏一体なので、悲しみの裏に怒りが生まれる場合もあります。例えば可愛がっていたペットが死んでしまった時、「なんで死んじゃったの?」と悲しむのですが、理不尽な死に対する怒りが次第に沸いてきたりします。そういう怒りの裏には「何で自分にこんなに寂しい思いをさせるの?」という思いがあったりします。ペットの辛い思いをくみとるのではなく、自分に不快な思いをさせていることに怒っているわけで、自己中心的ですよね。自己中心的な思いから発展した「瞋り」は、目の前の世界を歪んで見せます。そうなると真実を見誤ってしまいますので気をつけたいところですね。しかし、ただ単純に、怒らないように、悲しまないようにしなければいけない、というわけではありません。怒りや悲しみの気持ちを一切押さえていたら、我慢しすぎで人間はおかしくなってしまいますので、時には必要な感情なのです。時間がたてば怒りも薄れてきますから。でも、怒ってしまうと功徳が台無しになってしまうのが痛いところ。じゃあ、どうするか?そのやり場のない怒り、悲しい思いを不動明王に預けて祈るのです。
痴:「歪んだモノの見方」から生まれる煩悩
「愚痴」というと、一般的には不平不満を口にすることをいいます。仏教用語ではそれだけでなく、「愚かさ」ということまで広げた意味になります。ここでのキーワードは、「歪んだモノの見方」。「痴」は「瞋」よりも難しい煩悩です。なぜなら、人は自分がやっている行動を「愚か」だと思っていないから。自覚のなさが「瞋り」以上なので、厄介なのです。ダイエットをしたいと思いながらも食べてしまう・・・という風に一時のことを優先して食べてしまう人、多いでしょう。「わかっているんだけど・・・」という人もいるかもしれませんが、思っている以上にわかっていないのです。だから、「自覚がない」ということなんですね。
「愚痴」を言っていると、本質が見えなくなる
不平不満を言う「愚痴」という言葉は「愚か」という字が使われていますが、なぜ「愚か」なのでしょうか?「グチというのは、因果をわきまえず、現在の困難が我が身でしたことの結果であることを知らないのだ」とのこと。「因果」というのは、「原因」があって「結果」がある、その関係性のことです。すべての結果(体験したこと)には必ず原因があります。引用した文を考えると、愚痴の原因は自分にもある、ということになります。「そんなわけない!」と思いたくなりますよね。外的な要因が原因になっていることもあると思いますが、必ずしもそればかりではなく、知らないところで自分が愚痴の原因を導いていたり、助長していることだってあるのです。それがミックスされると、紐を解くのは非常に難しい。私たちの行動は「観念」によって支配されています。「観念」というのは、自分は世の中をこんな風に見ている、つまり「自分が認識している世界」です。
•「〇〇をするような人はすばらしい。」
•「〇〇することはみっともない。」
•「〇〇すべきだ。」
•「〇〇すべきでない。」
といった価値観や道徳観は、人それぞれ持っています。人生がうまくいかないときは、その観念が間違っている場合があるのです。自分の観念と間違っていると、他人が正しい行動をしていても愚痴を言いたくなります。例えば上司にものすごい見幕で叱られた場合、「そんな言い方をしなくても・・・」と、機嫌を損ねることがあると思います。誰でも叱られるのは嫌なので、気持ちはわかるのですが、いつまでも「言い方」のせいにしていると、なぜそんな言い方をされてまで叱られたのか、本質が理解できません。「怒らずに丁寧な言い方を心掛けるべきだ」という観念が先立ってしまい、自分の行動やクセに問題があったから言われたにもかかわらず、それを放置してしまうのです。でも、直すべきところを直さないと、今後自分を苦しめますよね。
行動に移さないのも愚痴
愚痴を言う人は、うまくいかない理由を挙げることが得意です。うまくいきたいのなら、問題点を改善して次につなげることが必要ですよね。でも、人間の中には変化を嫌う心があります。なぜなら、今まで体験したことが安全なやり方であって、同じ体験をすればそれ以下になることがないと信じているからです。人は、高いレベルに登れないことよりも、レベルが下がることを恐れるんです。新しいことに挑戦すると、成功するか、失敗するかわかりません。ものすごいエネルギーも必要です。それがよいかどうかの確証はないので、前に進むのは怖いですよね。しかし、そこで環境の変化が迫られると、できない理由を探してしまう・・・愚痴ばかりの人は、悪い点を見つけることは得意なのです。しかしそれを放置したままにすると、次も失敗することは目に見えています。なのに「他人のせい」「社会のせい」ばかりにして、自分は動こうとしない。これが「愚痴」は「愚か」だという所以です。前に進まないのは、現状にしばりつけ、進歩を拒む行為。愚痴を口に出さなくても、そのような行為も愚痴の一つの姿なのです。
煩悩を焼き尽くす不動明王
このように、「貪・瞋・痴」は、持ち続けると真実を見誤り、自分で自分の首を絞める結果を招いてしまいます。そのような状態から救ってくれるのがお不動さんなのです。お不動さんの持つ剣は三毒の煩悩を一刀両断にする智慧の剣。そして、背後にゴーゴーと燃え盛る「迦楼羅炎かるらえん」で煩悩を焼き尽くしてくれるのです。「許せない怒り」「忘れられない悲しみ」などは、お不動さんに預けてしまいましょう。ただし、なんでもかんでもお不動さんに任せておけば何とかしてくれるものではありません。お不動さんが厳しい顔をしている理由、それは、自分自身で煩悩と立ち向かえるようにしてあげたいという父性いっぱいの愛情なのです。お不動さんに祈れば、どんなに厳しい状況でも後ろから見守ってくれるといいます。そう思えば、歪んだものの見方をし始めたらハッと我に返りますし、心強いですね。

●七つの大罪
キリスト教において罪の根源とされる7種類の悪しき感情、欲望などを指す語。一般的には「傲慢」、「嫉妬」、「憤怒」、「怠惰」、「強欲」、「暴食」、「色欲」の七種が数えられる。
キリスト教で、人を死に至らしめる七つの欲望。傲慢(ごうまん)・貪欲(どんよく)・邪淫(じゃいん)・憤怒(ふんぬ)・貪食(どんしょく)・嫉妬(しっと)・怠惰(たいだ)。
キリスト教において罪の根源とされる、七つの悪しき感情・欲望を指す言葉。原語の通り訳すと「七つの死に至る罪」であり、「七つの罪源」ともいわれる。一般的に、「傲慢」「嫉妬(ねたみ)」「憤怒」「怠惰」「強欲(貪欲)」「暴食(貪食)」「色欲」の七つのことをいう。聖書に記されているものではなく、4世紀頃に神学者によって提示され、後にローマ教皇(カトリック教会)が取り入れたことにより、キリスト教圏に広まり現代にまで伝わることとなった。七つの大罪というモチーフは、様々な映画・マンガ・ゲーム・小説・音楽などに使われてきた。特に1995年の米国の映画「セブン」(デヴィッド・フィンチャー監督、ブラッド・ピット/モーガン・フリーマン主演)は、七つの大罪の一つ一つに沿って物語が展開するサイコ・サスペンスで、世界中で大ヒットした。
キリスト教において,他のもろもろの罪の原因となると考えられた7項の罪。これは初期キリスト教の修道生活の考え方に由来する。 (1) 虚栄あるいは尊大,(2) 貪欲,(3) 法外かつ不義なる色欲,(4) 暴食および酩酊,(5) 憤り,(6) 嫉妬,(7) 怠惰をいう。
七つの大罪は、4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作に八つの「枢要罪」として現れたのが起源である。キリスト教の正典の中で七つの大罪について直接に言及されてはいない。八つの枢要罪は厳しさの順序によると「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」である。6世紀後半には、グレゴリウス1世により、八つから現在の七つに改正され、順序も現在の順序に仕上げられた。「虚飾」は「傲慢」に含まれ、「怠惰」と「憂鬱」は一つの大罪となり、「嫉妬」が追加された。13世紀のトマス・アクィナスも、その著作の中で、キリスト教徒の七つの枢要徳と対比する形で七つの「枢要罪」をあげている。現代のカトリック教会のカテキズムでは、七つの罪源について、ヨハネス・カッシアヌスやグレゴリウス1世以来伝統的に罪の源とみなされてきたものとして簡潔に言及されている。
七つの大罪の意味
1 嫉妬(しっと)
嫉妬は、他の人の成功や良いところをうらやましがり、失敗や不幸を願うことです。自分に自信がない人や劣等感が強い人が陥りやすく、恋愛などでも抱きがちですよね。聖書には、こうあります。
「互にいどみ合い、互にねたみ合って、虚栄に生きてはならない。」(ガラテヤ人への手紙5章26節)
まあ、僕はいつも周りに嫉妬される側ですけどね!!・・・嘘です、はいすみません。これは聖書でいうと、同じく創世記の“カインとアベル”のお話が当てはまるでしょう。
「日がたって、カインは地の産物を持ってきて、主に供え物とした。 4アベルもまた、その群れのういごと肥えたものとを持ってきた。主はアベルとその供え物とを顧みられた。 5しかしカインとその供え物とは顧みられなかったので、カインは大いに憤って、顔を伏せた。」(創世記4章3〜5節)
兄弟のカインとアベルは、それぞれ神様に捧げ物をしますが、弟アベルの捧げ物だけが神様に受け入れられ、兄カインの捧げ物は受け入れられませんでした。これに嫉妬したカインは、ある時にアベルを呼び出し殺してしまいます。嫉妬の感情は、人類初の殺人をもたらしてしまったのです。
2 傲慢(ごうまん)
傲慢は、自分は他人よりも優れているとおごり高ぶってしまう状態のことです。つまり、謙虚さをなくしてしまっている状態ですね。聖書にはこうあります。
「互に思うことをひとつにし、高ぶった思いをいだかず、かえって低い者たちと交わるがよい。自分が知者だと思いあがってはならない。」‭(‭ローマの信徒への手紙‬ ‭12:16)‬ ‭
ここでは、高ぶって傲慢になることに警鐘を鳴らしていますね。旧約聖書の創世記の中に“バベルの塔”という有名なお話があります。
「時に主は下って、人の子たちの建てる町と塔とを見て、 6言われた、「民は一つで、みな同じ言葉である。彼らはすでにこの事をしはじめた。彼らがしようとする事は、もはや何事もとどめ得ないであろう。 7さあ、われわれは下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、互に言葉が通じないようにしよう」。 8こうして主が彼らをそこから全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめた。 9これによってその町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を乱されたからである。」(創世記11章5〜9節)
天より高い塔を建てようと考えた人々が塔を建て始めましたが、それが神の怒りに触れ言語をバラバラにされてしまいました。その結果、連携が取れなくなり塔の建設はできなくなってしまいます。これはまさに人間の傲慢さがもたらした悲劇です。
3 怠惰(たいだ)
怠惰は、働きもせずにぐうたらと堕落(だらく)した生活を送ることです。今やニートや引きこもりと呼ばれる人が日本にもたくさんおり、現代の社会問題とも結びついていますね。ソロモンは、聖書でこう語っています。
「怠りは人を熟睡させる、なまけ者は飢える。」‭‭(箴言 19:15)‬
イエス・キリストが語られた有名なたとえ話に、“放蕩息子(ほうとうむすこ)”というものがあります。これは、父親から遺産を分けてもらい旅立つも、すぐに遊び呆けてお金を使い果たしてしまったどうしようもない息子のお話です。
「それから幾日もたたないうちに、弟は自分のものを全部とりまとめて遠い所へ行き、そこで放蕩に身を持ちくずして財産を使い果した。」(ルカによる福音書15章13節)
結果的に、実家に戻った息子を父親は温かく迎え入れますが、この息子は私たち人間のことを指しています。人間というのは、どうしようもなく怠惰な生き物なんですね。このお話では”神様の憐み深さ”が描かれていますが、だからといってそれに甘えて、ナマケモノ生活をするのは避けたいですね!
4 憤怒(ふんぬ)
憤怒は、我を忘れて怒り狂うことです。“短期は損気”なんていいますが、怒りっぽい人は大きなトラブルを起こしやすいですよね。聖書にもこう書かれています。
「愛する兄弟たちよ。このことを知っておきなさい。人はすべて、聞くに早く、語るにおそく、怒るにおそくあるべきである。」(ヤコブの手紙1章19節)
聖書で怒りっぽい人物といえば、やはりイエス・キリストの12弟子である大ヤコブとヨハネの兄弟でしょう。2人とも気性の荒かったことから”雷の子”という異名が付けられるほどでした。
「村人は、エルサレムへむかって進んで行かれるというので、イエスを歓迎しようとはしなかった。 54弟子のヤコブとヨハネとはそれを見て言った、「主よ、いかがでしょう。彼らを焼き払ってしまうように、天から火をよび求めましょうか」。」(ルカによる福音書9章53、54節)
この2人は、サマリア人の村に伝道に行った際に、歓迎されなかったことに怒り狂い、彼らを焼き滅ぼしてしまいましょうか。と発言し、イエス様にたしなめられたほど気性が荒かったんだとか。イエス様も、よく彼らを扱えたなと思いますが。
5 強欲(ごうよく)
強欲は、自分の身の丈以上の大きな欲望を持つことです。人間の欲望は尽きることがなく、それは時に身を滅ぼします。聖書にはこうあります。
「人が誘惑に陥るのは、それぞれ、欲に引かれ、さそわれるからである。 15欲がはらんで罪を生み、罪が熟して死を生み出す。」(ヤコブの手紙1章14、15節)
ここでは、欲望は罪を生むと書いてあり、まさに七つの大罪の定義そのものですね。初の人類である“アダムとエバ”はまさに、巨大な欲望に負けてしまった好例です。
「女がその木を見ると、それは食べるに良く、目には美しく、賢くなるには好ましいと思われたから、その実を取って食べ、また共にいた夫にも与えたので、彼も食べた。」(創世記3章6節)
エバはヘビの姿をしたサタンから、これを食べれば神様のようになれるよ!と誘惑され、欲望を強く刺激されました。その結果、神様から禁じられていた果実に手を出し、エデンの園から追い出されてしまったのです。神様のようになろうとするなど、まさに自分の身の丈を大きく上回る欲望の極み。そう考えると、人類の罪は強欲から始まったと言っても過言ではありませんね。
6 色欲(しきよく)
色欲は、他人に対して良くない性的な欲望を持つことです。浮気や不倫なんかがまさに代表的なものですよね。テレビを見ていると、芸能人が不倫したみたいなニュースが連日報道されています。それくらい色欲というのは世の中にはびこっていて、私たちにとって身近なものなんです。聖書のモーセの十戒には、こう記されています。
「あなたは姦淫してはならない。」(出エジプト記20章14節)
姦淫とはつまり、浮気や不倫のこと。こんなに大昔から、聖書は私たちに色欲の危なさを知らせてくれていたのです。イスラエルの英雄として名高いダビデ王は、様々な偉業を成し遂げましたが、その生涯で1つ大きな失敗を犯しました。それが“バト・シェバ事件”です。
「そこでダビデは使者をつかわして、その女を連れてきた。女は彼の所にきて、彼はその女と寝た。(女は身の汚れを清めていたのである。)こうして女はその家に帰った。 5女は妊娠したので、人をつかわしてダビデに告げて言った、「わたしは子をはらみました」。」(サムエル記下11章4、5節)
ある日、ダビデは水浴びをしていたバトシェバに恋をしてしまいます。しかし、バトシェバには既にウリヤという兵士の夫がいました。ところが、ダビデの色欲は既に燃え上がってしまっていました。何とダビデはバトシェバと性的関係を持っただけでなく、夫のウリアを戦場に送り出し殺してしまったのです。これはダビデの生涯における最大の失敗でした。あんな偉大な人物でさえ、色欲には勝てなかったんですね。
7 暴食(ぼうしょく)
暴食は、必要以上に食べ物を食いちらかすことです。これは正直、七つの大罪の中でも最も罪につながるとは考えにくいものではないでしょうか。だって、うわー、お腹がはち切れるまでご飯食べちゃったよ。神様ごめんなさい。!って普通はならないですよね?まあ、太ってしまうことへの罪悪感はあるかもしれませんが・・・しかし、聖書にはこう書かれています。
「酒にふけり、肉をたしなむ者と交わってはならない。 21酒にふける者と、肉をたしなむ者とは貧しくなり、眠りをむさぼる者は、ぼろを身にまとうようになる。」(箴言23章20-21節)
何と、暴食をする者は貧しくなるから関係を持つな、とまで書かれているのです。暴食がなぜいけないのかというと、自分を制御できなくなるからでしょう。確かに、食の乱れとメンタルの乱れには少なからず関係がありそうですよね。預言者のダニエルは、自分が仕える王様から毎日お肉とお酒を与えられていましたが、それを拒否しました。
「ダニエルは王の食物と、王の飲む酒とをもって、自分を汚すまいと、心に思い定めたので、自分を汚させることのないように、宦官の長に求めた。」(ダニエル書1章8節)
なぜなら、それらが神の前に正しい食べ物ではなく、体が汚れてしまうと考えたからです。そして、なんと野菜と水だけで誰よりも健康的に過ごすことができました。これはまさに、自分を制御し食の欲望を遠ざけている素晴らしい例ですよね!暴食に負けて自分を制御できなくなれば、欲望に呑み込まれていき神様から離れることにも繫がってしまいます。自制心を持って、マナーよく食事をしていきたいですね 。

●欲望論
神様が人間に与えたものの中で、最善最高のものが何であるか、ご存知でしょうか。それは、ほかならぬ欲望です。欲望を否定的に語る人は、偽善者です。人間は欲望があるからこそ、努力向上もし、苦悩もするのです。どちらも人間が人間らしくなるために、不可欠なことです。
人間の欲望の主なものと言えば、金銭欲、名誉欲、権力欲、色欲、物欲などがありますが、そのどれ一つとして、悪いものはありません。欲が悪いのではなく、たいていの場合、欲の追いかけ方が悪いのです。
お金が好きな人は、不正のない正攻法で、大いにお金を儲けるべきなのです。お金は汚いものであるなどと、分かったようなことを言う人は、自己を欺いています。何億円か儲けてから、そういうのなら分りますが、本当はお金に未練があるくせに、世捨て人みたいなことを言っても、負け惜しみに過ぎません。
名誉がほしい人は、それなりの実力を身につけて、大いなる地位と名誉を手に入れるべきです。その結果、その空しさを知るとすれば、それが最上の智恵なのです。ほんとうは名誉が欲しいのに、「おれはそんな俗人じゃない」と拗ねたような生き方をするのは、単に臆病者です。
お金や名誉に限らず、何でも欲しいものがあるのなら、それを正々堂々と手に入れるべきです。そのためには、命がけの努力をしなくてはなりません。「ジブンはほんとうに欲しいものを手に入れた!」という達成感に至らずして、中途放棄するのは、人間の魂にとって、いいことではありません。
それを手に入れるまで、死に物狂いで努力するわけですから、当然のことながら躓きや挫折もあります。そこで、人間は賢くなっていくのです。そしてそれこそが、神が望むことなのです。
人間のくせに、欲がないのは、ヨクナイのです。色欲の強い人は、卑怯な方法ではなく、相愛の異性と思い存分、欲情を果たすべきなのです。それを中途半端な道徳論を持ち込んで、本能を抑え込んでしまうから、色ボケした老人になるのです。本人は気づいていないのでしょうが、傍から見れば、じつに見苦しいものです。
仏教でいう菩提心も、一種の欲望であり、それが人一倍強い人が立派な宗教家になっていきます。学者が理論を追及するのも知的な欲望であり、それが弱ければ、残念ながら学問的功績をあげることができません。
しかし、精神的あるいは知的な欲望が、色欲や物欲よりも高尚なものと考えるのは、間違っています。欲望は、その人にとって、いちばん相応しい形で現われてくるだけです。ですから、神様の回し者である欲望に、私たちは敬意を払うべきなのです。「大欲は無欲に似たり」という言葉が示すように、できるものならデカイ欲をもって、世のため人のために尽くしたいものです。
何しろ欲望には際限がありませんから、欲に目が眩み、身を持ち崩すこともあります。そこが欲望の恐ろしいところですが、その結果、失敗するのも、目覚めに至る最良の道なのかもしれません。人生を達観したければ、それなりに痛い目に会わなくてはならないのです。
タバコも酒も、周囲からいくら止めろと言われても止めないのは、自分で懲りていないからです。懲りるまで、やればいいのです。そのうち嫌になるか、病気になります。それで、やっと健康の有り難さが身に沁みてきます。もし手遅れだったら、潔く死ぬまでです。来世は、もう少し賢くなっているでしょう。
「煩悩即菩提」という仏教の言葉を正しく理解できる人は、徹底的に煩悩の世界に沈み込んだ経験のある人のみです。恐ろしい目に会わずして悟れるほど、人間は賢くはないのです。一休和尚が「仏界入り易く、魔界入り難し」と言ったのは、本当の悟りが仏界でなく、魔界の奥座敷にこそ隠されていることを、彼が知っていたからです。
ナントカ塾みたいなものを開いて、○○先生がこう言ったとか、○○経にこう書いてあるとか、人に向って、もっともらしいことを説教する前に、自分自身の人生に決着をつけてからにしてほしいと思います。失礼ながら、六十歳を越えて、他人の言葉ばかり引用して得意がっている人は、ゴマカシの人生を生きてきたと考えるべきでしょう。
孔子やら仏陀やらイエスやら、でなければ安岡正篤やら森信三やら松下幸之助やらをダシにして、宗教や道徳を語るのは、ドロボー同然です。そういう人物にかぎって、前回述べた「幼児性思考」が顕著なのです。神を語る人間がいちばん神から遠く、道徳を教える人間が、いちばん道徳を知らない人間です。
思想は、借り物では通用しません。智恵の扉は、自分の手でしか開くことができなのです。だからこそ欲望に駆られ、目標に向って汗だくになりながら、あくせく働く人間こそが尊いのです。強欲な人間が、いちばん悟りに近いことを納得して頂けたでしょうか。
 
 
 

 

●自粛する日本人が、強欲の必要性を説いたマンデヴィルに学ぶべきこと
日本人には「自己中さ」が不足していて、なぜか政府に自己主張する時だけは、いい人になって国民の立場を離れる人が大勢いる――コロナ禍をめぐって日本国民はどう振る舞えばよいのか、京都先端科学大学講師の甲田太郎氏が、18世紀英国の思想家マンデヴィルの思想から読み解きます。
仲間に「自粛」を求める異様
「自粛してほしいなら補償して!」という当然の欲望を一般国民が抑え込み、対価を求めず思いやりだけで自粛しても、政府を甘やかすだけで、国民にとっては害悪の方が大きいのです。
補償もせず、強制もせず、政府が緊急事態宣言という呪文を唱えただけで、国民が個人的欲望を抑え、仲間であるはずの他の国民に対して「自粛警察」を始めるというのは異様です。
ちなみに、前回の記事に対するみなさんのコメントを見ると、「どうしても(補償なしで)自粛してほしかったら、法律で強制すべき」という私の(結論ではない)コメントを誤解し、危険視した人がいらっしゃるようです。
私は海外のロックダウンを想定し、あくまで論理的帰結を申し上げただけです。今回の話をお読み頂ければ、法律で強制するという行為が政府の選択肢の一つに過ぎず、どちらかというと愚策であることも多いとお分かり頂けることでしょう。
このたびご紹介する18世紀英国の思想家バーナード・マンデヴィルであれば、私が推奨していると一部の人に誤解された「自粛を法律で強制する」という案に対して、あわれみも含む皮肉な笑みを浮かべて、こう言ってくることでしょう。なんて下手な統治手法なのだと。
誤解を正すため、本件に関して私がマンデヴィル的見地から答えるなら、「自粛してほしいなら、国民が喜んで自粛したくなる政策を考えるのが、政治家の仕事である」、と申し上げることとしましょう。
彼の考える政治家の「巧みな管理」は、法整備だけでなく、国民の利己的情念を前提とした、様々な誘導政策が含まれているのです。
私悪すなわち公益
マンデヴィルの主著『蜂の寓話』は、痛烈な皮肉に富んだ風刺詩とその注釈から成り立っています。以下、私の言葉で簡単にまとめてみましょう。
「 国力に富み、学問も産業も盛んで、贅沢に暮らす者も大勢いる「蜂」の社会には、さまざまな悪徳がありました。詐欺師や博打打ち、やぶ医者や占い師のような仕事で生計を立てる者もいて、医者や弁護士もよこしまな心でいっぱいだったのです。もちろん犯罪で裁かれる者も多くいて、悪徳はどこにでもありましたが、社会全体ではみんなが利己心を無理に抑え込まず自由に動ける、天国とも言える状態でした。ところが、この社会から善意で悪徳を一掃した結果、多くの人々が仕事を失い、贅沢がなくなったために社会全体が貧しくなり、「蜂の巣」は衰退に向かっていくのでした。『蜂の寓話』の副題の通り、「私悪すなわち公益」だったのです。 」
いかがでしょうか。マンデヴィルが言いたいことは、日本のみなさんが歴史の授業で習った、松平定信の寛政の改革を批判した狂歌のようなものですね。魚の住む汚れた水をきれいにしたら、きれいすぎて魚が住めなくなってしまった、というようなことです。
マンデヴィルが述べた具体例はより示唆に富んでいます。
贅沢を廃したら社会が貧しくなってしまうというのは今日の経済学的知識でも理解できますが、人々が完璧な道徳心を身に付けてしまったら警察の仕事がなくなるとか、金持ちのドラ息子が贅沢のし過ぎで破産するおかげで社会が潤うとか、なかなか同意するのに勇気が要る考察もあります。
マンデヴィルの文章は皮肉に満ちているため、彼の真意がどこにあったかは研究者の永遠のテーマですが、マンデヴィルが「必要悪」の有効性を指摘していることははっきりしています。
「悪徳」の定義は時代や環境によって変わりますが、この世の「悪徳」を一掃したところで、豊かな社会秩序が維持できるというわけではないのが、人間社会の難しいところなのです。
巧みに誘導するのが政治家の仕事
さて、コロナ禍の話に戻って考えてみましょう。
政府の自粛要請に従わない人は、新型コロナウイルスの感染を抑えたい人々にとっては害悪そのものです。
しかし、そうやって自粛を「破っている」(法律違反ではないので「」付きとします)人がいるからこそ、政府も「そういう人の出現をどうすれば防げるか」に知恵を絞り、自粛の対価として給付金を検討することとなり、結果として国民も得をすることになるのです。
マンデヴィルが我々に教えてくれる人間社会の真実の一つを簡単に言うならば、「社会はバランスの上に成り立っている」ということではないでしょうか。悪役がいない映画が成り立つのが難しいように、人間社会で「悪」に見えるものにもそれぞれ、何らかの役割があるのです。
彼は同時に政治家が巧みな管理・調整・誘導をする必要性を述べています。それは、まやかしの道徳によって教化された後であっても必要です。
ただ法律や権力で国民を縛るのではなく、利己心に溢れた国民の方向性を巧みに誘導するのが、政治家の仕事なのです。なお、国民は本質的には利己的ですが、ちゃんとまやかしの道徳によって教育されてもいますので、そこはバランスが鍵となります。
自負心は捨てられない
マンデヴィルは豊かな社会秩序を維持する上で、「強欲」の必要性を説いています。
「あなたは強欲ですね」と言われて喜ぶ人はいないでしょう。しかし、強欲だからこそ、人は一生懸命働いて豊かになろうと頑張る。工夫を重ねて産業を発展させるのです。
人間の強欲な性質と、自由や財産の保証という概念は親和性があるとマンデヴィルは考えています。今日の社会秩序を形作っているものは、人間が天使のような思いやりに溢れた利他的な存在だから得られたものではないのです。
ここには、政府のご都合を慮って、自己利益を主張せずに政府の立場で考える、風変わりな国民は登場してこないことに注意しましょう。
政治家や宗教家・哲学者の知恵によってまやかしの道徳を吹き込まれた国民であっても、日々の行動は相変わらず利己的なのです。道徳心は社会秩序のバランスを保つためにのみ発揮されていると考えられます。
また、マンデヴィルは質素な高僧や命を捨てる英雄が、他者からの称賛を得たいという欲望を覆い隠していることを暴露したりもしています。真に有徳で高潔な宗教者もどこかにはいるかも知れませんが、人間の本性として、他者から称賛されたいという自負心は捨てられないものなのです。
ここまで進むと、ちょっと読んでいて不愉快になる優しい人もいらっしゃるかも知れませんね。しかし、マンデヴィルは別に巷の優れた人々の化けの皮を剥がそうと頑張っていたわけではありません。
変に政府に気をつかう日本人
マンデヴィルは18世紀英国の社会状況をあるがままに見つめようとしていました。
当時、貨幣経済の発達によって富の蓄積が容易となり、富裕層は贅沢が可能になりました。その一方で、詐欺、賭博、姦通、売春、酔っ払いなど、いわゆる「不道徳」が横行し始めます。
このような状況で風紀改良協会という運動組織が起こり、著述や説教の中で不道徳の社会的告発の必要性を訴えた結果、あちこちで一般市民による告発が起きます。また、第3代シャフツベリー伯爵は、人間が自然的情動において有徳な存在であり、悪は病のように治療が可能であるという人間観を唱えましたが、これは悪にまみれつつある社会状況を直視しているとは言い難いものでした。
マンデヴィルはこのような風潮に対して、経済的観点や統治的観点から現状分析を踏まえて反論したと言えるでしょう。
「あるべき」ではなく「あるがまま」を見つめることの重要性を彼は説いています。
その上で、国がどのように豊かになり、それを維持していくか、そのために政治家は何をすべきかを考えていたのです。
こういった視点で見れば、マンデヴィルの考察には有用な部分が多いことが分かるでしょう。国民の自己中な本性を知った上で、政治家は彼らの様々な情念をうまく誘導して統治すべきだ、というのがマンデヴィルの考えなのです。
ですから、マンデヴィル自身は、国民にあれをしろ、これをしろとは言っていません。ただ、政治家が「自己中な国民」を前提とすべきというマンデヴィルの主張は直視しなければいけません。
そして、政治家がそう動くためには、現代日本の、一般国民が政府に変な思いやりを持って遠慮した発言をしてしまう風潮を変える必要があるのです。
前回私が書いた、「日本のみなさんは自己中さが不足しています」という話に対する反論も見られました。
確かに、利己心の塊のような人によるトラブルも日々報じられています。しかし、なぜか政府に対する自己主張の時だけは、随分といい人になってしまう、国民の立場をなぜか離れてしまう人が大勢いるのが日本の特徴だと私は考えています。
政府に感情移入したり、自分の利害ではなく社会全体の利害みたいなことを一生懸命考えたりする役割は、国民には求められていません。
学者や一部の風変わりな人ならともかく、今の日本のように多くの国民がいつも政府の懐事情を慮り、「あれがほしい」「これをやってくれ」と言う際に妙な現実感覚が要求されるのは、健全ではありませんし、政府を甘やかすだけなのです。
シンプルな欲望の表明
自分一人だけの利害を叫ぶコメントが、日本ではほとんど見られません。
政府に感情移入したり、社会全体の幸福をじっくり考えたりしたコメントは、確かに上品で慎ましいかも知れませんし、それだけ真面目に勉強している国民が多いということでもあるでしょうが、そのような個人的危機感のないコメントを政府の方が読んでも、あまり大きな効果はないと思います。
私はこれがほしい。こうしてほしい。そんなシンプルな欲望の表明こそが、今の日本には必要なのです。日本のみなさんは、まやかしの道徳教化は基本的に完了しているのではないでしょうか(笑)。
自分がコメントをしている時、このコメントが広まり、政府にそのコメントを見てもらえた時に、自分個人に何の得があるのか。そんな人間という動物として当たり前のことを考えて頂きたいのです。
さて、前回の私の主張に比べると、今回私が紹介したマンデヴィルの示唆は、皮肉に富んでいるだけでなく、両立の難しい矛盾をはらんだものに見えるかも知れません。
国民をまやかしの道徳でだませるなら、政治家による調整は要らないのではないか。逆に、政治家が国民を管理できるなら、国民に道徳を教えても仕方ないのではないか。
ゼロか百かの思考で考えてしまうと、これは確かに矛盾でしょう。しかし、そんな両極端な国民も政治家も、現実の世界にはいないのではないでしょうか。
完璧な善人も悪人も、めったに見かけるものではありません。だからこそ、マンデヴィルの思想は我々に大きな示唆を与えてくれるのです。
3世紀分の開きがある、大きなタイムラグの中でマンデヴィルの思想の真髄を極めるのは研究者の仕事と言えますが、彼の思想から我々一般国民が示唆を得ることはできますね。
 
 
 

 

●謙虚な人に共通する9つの特徴
謙虚な人って、なんだかんだで、みんなから好かれている。目立たないけど、人当たりも良くて嫌がられない。自分もあんなふうになりたいな、と思ったことはありませんか?謙虚な人の特徴を把握して、どうしたら謙虚な人と言われるのか、研究してみましょう。あなたも真似をするだけで、誰からも好かれる人になれるかもしれません。
1. 自分の話をあまりしない
謙虚な人は、自分が話をすることよりも、むしろ、相手の話を聞くことに重きを置いています。自分の話を人に聞いて欲しいと思う気持ちよりも、人の話を聞いてあげたいと思う気持ちのほうが強いのです。自然と人の話を注意深く聞くようになるので、意見やアドバイスも的確なものとなり、人から頼られることが増えます。
2. 頭を下げることをいとわない
頭を下げるということは、社会人になると誰も彼もが行っているように思われますが、実はプライベートでもきちんとそれができる人は少なくありません。会社ではしきりに頭を下げている人でも、プライベートになると、家族や友人に対して急に態度が尊大になる人もいます。謙虚な人はそうではありません。
3. 不運な出来事を他人のせいにしない
不運な出来事は、いつでも、どこでも、誰にでも起こりうるものです。そんなとき、謙虚な人は、その出来事を他の誰かのせいには決してしません。「おまえのせいでこうなった」というようなことを決して口には出さず、時には自分自身が泥を被り、事態の収拾、処理改善に努めるのです。
4. たいてい自分はいつでも後回し
謙虚な人は、たいていいつでも、自分のことは後回しです。オレがオレがと自己主張をして、自分が一番いい思いをしようということは考えていません。むしろ、自分は後でもいいから、自分の大切な人たちに、いい思いをしてもらいたいと考えているのです。ですから、「いつでもビリ」は謙虚な人あるあるです。
5. 基本的に我慢強い
謙虚な人のほとんどが、あり得ないほど我慢強いことが多いようです。理不尽なことがあってもキレない、多少貶められることがあってもスルー……。謙虚の度合いが強いほど、ちょっとやそっとのことでは腹も立たず、我慢をしなくてもスルーできるようになってきます。
6. 実はプライドが高い
謙虚な人は、怒ることが少ないので、プライドが低いと思われがちです。しかしそうではありません。謙虚な人は、図々しく振る舞うべきではないという気持ちを強く持っており、図々しくないことに対して高いプライドを持っています。
7. 見返りを求めない
謙虚な人が謙虚に振る舞っているからといって、何らかの見返りを求めているわけではありません。むしろ、一切の見返りを求めないからこそ、周囲から「あの人って謙虚だよね」という評価を得られるわけで、常に見返りを求めている人は誰からも謙虚だと思われていません。
8. 時に謙虚すぎて頑固者である
謙虚な人は遠慮がちです。「いえいえ」とか、「まさか私なんて」という、他人から一歩引いた状態を常に続けています。時折、誰かが謙虚な人に気を遣って優先させてあげようとしても、「いえいえ、私は後でいいですよ」と頑固なまでに遠慮をしてしまいます。だからこそ、あの人は謙虚だと言われるに至るわけで、ちょっとくらい「お先にどうぞ」と言われて、「ハイ、ありがとう」と言うような人では、謙虚だという評価は得られません。ただ、謙虚な人に本当に何か譲ってあげたいなら、2・3度「是非」と勧めると、(喜んでもらえるかな)と思い直し、素直に譲られるのです。
9. ちょっとだけ人生損してる自覚がある
謙虚な人の人生は、人望が得られる反面、常に人の下に流れる損な立場でもあります。謙虚な人は、実はちょっとだけ、自分でも「損してるよなぁ……」と思うことがあります。それでも、明日も謙虚に振る舞って、「まぁ、いいか……」と損をし続けるのが謙虚な人なのです。謙虚な人の9つの特徴をご紹介致しました。謙虚な人が基本的に考えていることは、「相手の幸せ」です。総じて、謙虚な人には、「いい人」が多いと言えるでしょう。 
 
 
 

 



2021/9