監視メディア 死滅

政権に尾っぽを振るマスコミばかり

監視メディア 死滅
政権の箍(たが)も 外れる

もしかすると 政治屋繁殖 政治家も死滅か
 


安倍長期政権週刊文春忖度メディア週刊新潮政治家・・・
前川喜平記者会見・・・

マスコミ自壊伝
 
 

 

NHK
公共放送 政府広報
収入は安定 受信料
 
 

 

電通
本業 民間企業の広告宣伝
副業 表向き 政府広報の下請け
政権の言葉遊び 支えました
 
 

 

民放テレビ
食い扶持 CM・広告宣伝 元受けは電通
電通の顔色を窺う (うかがう)
 
 

 

政権仲良しメディア
NHK テレビ朝日 読売新聞 産経新聞 日経新聞
パンとサーカス
政治から目を逸らさせる
 
 

 

監視メディア
朝日新聞 毎日新聞 東京新聞 中国新聞
箍のゆるみ
文春に連敗

 

政権批判キャスター抹殺 2016
テレビ朝日系「報道ステーション」 古舘伊知郎氏
 ●「権力を監視し、警鐘を鳴らすのが報道番組。全く中立公正はあり得ない」
 ●原発報道をめぐって「圧力がかかって番組を打ち切られても本望」と発言
TBS系「NEWS23」 岸井成格氏と膳場貴子氏
 ●
「安保法案は憲法違反であり、メディアとして廃案に向け、声を上げ続けるべき」
NHK「クローズアップ現代」 国谷裕子氏
 ●
番組に出演した菅官房長官に「憲法の解釈を簡単に変えていいのか」と突っ込む。
   官邸からクレームがついた。   
ニュースキャスターが消える

 

国民の耳目
マスコミの行方 発信力
振れ幅 密度 濃淡 霞のかかり具合
メディアの選択 自己責任か
おかしな世の中
変な時代

 

マスコミ 
メディアの仕事放棄 政権野放し
政治・中身の評価 中身なし
政治成果の検証 成果なし
怖いものなし  言葉遊び 何もしない安倍政権
政権支えた 何もしないメディア
忖度メディア

 

 
 
 

 

●安倍長期政権

 

●政策
キャッチコピー政治
中身なし
詭弁で税金ばらまく
第1次安倍内閣 2006/9/26-2007/8/27
「美しい国づくり内閣」
「創りあげたい日本がある。 美しい国、日本。」
「地域に活力。成長で活力。 暮らしに届く改革。」
「成長を実感に! 改革を貫き、美しい国へ。」
「戦後レジームからの脱却」
「改革実行力」
第2次安倍内閣 2012/12/26-2014/9/3
「日本を、取り戻す」 
「危機突破内閣」
(論評 / 「ちぐはぐ内閣」「先祖返り内閣」「盟友・重鎮、お友達内閣」「経済最優先内閣」「小泉構造改革再現内閣」「経済再生必勝内閣」「巨頭内閣」「必勝堅実内閣」「極右はしゃぎすぎ内閣」「フェイスブック宰相」)
「戦後レジームからの脱却」 2013/1/26
「アベノミクス」 
「三本の矢」
「積極的平和主義」
第2次安倍改造内閣 2014/9/3-12/24
「地方創生」「元気で豊かな地方の創生」
「女性の活躍を推進」
第3次安倍内閣 2014/12/24-2015/10/7
「一億総活躍社会」 
「新三本の矢」
第3次安倍第1次改造内閣 2015/10/7-2016/8/3
「マイナス金利」
第3次安倍第2次改造内閣 2016/8/3-2017/8/3
「働き方改革」
第3次安倍第3次改造内閣 2017/8/3-2017/11/1
「結果本位の仕事人内閣」「仕事師内閣」
第4次安倍内閣 2017/11/1-2018/10/2
「人づくり革命」
2019
「裁量労働制」
「働き方改革」「高度プロフェッショナル制度」
2020
「アベノマスク」
「Go To トラベル」

 

内閣人事局
忖度役人の誕生
出世の条件 記憶力がない 文書管理が下手 忖度力

 

国会軽視 お友達・順番こ大臣 
資質 能力 関係ありません
憲法 解釈で変更
集団的自衛権の行使
ばらまいた税金 
後始末
神棚の奥に鎮座 「財政健全化」 死語 
入管法改正案 
中身のない入れ物法案 中身は省令で定める
安い外国人労働者受け入れ 経団連大喜び
「外遊」外交 奥様との楽しい時間 
成果 トランプの尻馬に乗る
NHK会長 お友達人事
放送法改革 不都合な報道 口封じ
もりかけ 悪魔の証明 
忖度値引き 公文書 改ざん 交渉記録の破棄
首相 「獣医大学、いいね」   
桜を見る会問題
忖度役人 総理をお守りします
名簿「公文書」 廃棄 PCデータはゴミ箱(復元不可処理) 紙はシュレッダー  
暗黒政治 文科省 前川氏授業内容確認・調査
前川喜平
怪談 ・・・  2017年6月23日 新聞掲載の放送予定
PM2時半「海老蔵の会見」 PM5時「前川前文科次官の会見」  
ところが PM5時〜全局「海老蔵の会見」再放送に予告なく変更
忖度メディアの証明

 

●政権終末期
2019
厚労省の統計不正 2/7-
麻生副総理兼財務相 「子供産まぬ方が問題」 2/3
塚田国交副大臣 安倍と麻生を結ぶ道路事業が止まっている 「私はすぐ忖度」 4/1
桜田五輪大臣辞任 「・・・復興以上に大事なのは高橋さんです」 4/10
下村元文部科学相 セクハラ録音は「犯罪」 4/23
麻生財務相 「はめられた可能性」「セクハラ罪ない」 4/24 (福田事務次官辞任)
日本維新の会・丸山衆院議員 北方領土「戦争で奪還」 5/11
穴見衆院議員 がん患者に「いいかげんにしろ」 6/15
杉田衆院議員 LGBT「生産性ない」 7/1
森友問題 佐川氏ら10人再び不起訴 特捜部捜査終結 8/9 
消費税率8%から10% 10/1
二階幹事長 台風被害「まずまずに収まった」 10/13
萩生田文科相 受験生は「自分の身の丈に合わせて...」 10/24 
河野防衛相 「よく地元で雨男と言われた。防衛相になって既に台風が三つ」 10/28
河井法務大臣辞任 妻の参院選公選法違反の疑い 10/31 
「共産党か」総理のヤジ 11/8
2020
安倍首相 辻元幹事長代行質問に「意味のない質問だよ」とやじ 2/12
黒川検事長の500万円賄賂疑惑 3/8-
「新型コロナ対応・全責任は首相にある」 4/27
新型コロナ 25兆円超えの補正予算 4/30
アベノマスク配布 5/8
黒川元検事長の辞職 「批判を真摯に受け止める」 5/22
持続化給付金事業 不透明な受託経緯「電通とサービスデザイン推進協議会」 6/12-
国会強行閉会 6/18
河井克行前法相と妻の案里参院議員・逮捕 自民党から政治資金1.5億円支給 6/19
「Go To キャンペーン」 トラベル・スタート 7/22
辞任記者会見 8/28  

 

●麻生財務大臣
新聞を見ない
国民生活 理解できないボンボン
居座る お友達大臣
森友学園国有地売却を巡る決裁文書の改ざん
元理財局長佐川宣寿氏に責任転嫁 

 

●菅政権
安倍政権運営 踏襲
忖度メディア 優遇
刃向かうメディア 無視 冷遇 抹殺

 

●モリカケ桜 
変えて隠して疑惑逃れ…モリカケ桜の記録はどこへ 2020/8
辞任を表明した8月28日の会見で、安倍晋三首相は7年8カ月の在任中に残したレガシー(遺産)を問われ、こう答えた。
「国民の皆さん、歴史が判断していくのかと思う」
ちょうどテレビで会見を見ていた三宅弘弁護士は、この発言に首をかしげた。「だったら安倍政権は、これまで国民が判断できるだけの記録を残してきたのだろうか」。頭をよぎったのは、官僚による忖度や「お友達優遇」と指摘された数々の私物化の疑惑だった。
三宅氏は2018年まで政府の公文書管理委員会の委員を務めた。隠蔽、改ざん、廃棄ー。安倍政権下でずさんな公文書の運用に直面してきた。例えば、首相の妻の昭恵氏が名誉校長に就いていた森友学園への国有地売却問題。17年に格安の払い下げの事実が明るみに出ると、財務省は「保存期間1年未満」を理由に取引の交渉記録を「廃棄した」と述べ、事実確認を拒んだ。決裁文書については、首相が「私や妻が関係していれば首相も議員も辞める」と答弁した直後、昭恵氏に関する記述などを削る改ざんが行われていた。
首相の知人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設では、「総理の意向」との内部文書が報じられると、菅義偉官房長官は「怪文書」と強弁。政府側は国会で「記憶にない」「記録はない」と繰り返した。モリカケ疑惑を受け、政府は17年12月、公文書管理のガイドライン(指針)を改正した。
改正は当初、公文書管理委が手掛ける想定だった。ところが財務省にヒアリングを始める直前、首相直下の内閣官房から改正の原案が委員会に示される。突然の政府の方針変更に委員たちは驚いた。原案は、文書の保存期間を「原則1年以上」と定めながら、抜け穴も用意していた。日程表など軽微な文書は「1年未満」との例外を設け、何を軽微とするかは各省庁の判断に委ねられた。委員からは、1年未満の扱いを助長しないか懸念を抱く声もあった。2年後、首相主催の「桜を見る会」を巡り、委員の懸念は現実となる。公金で賄う行事に、安倍首相が多数の支援者を招いていたことが発覚。19年5月、野党が資料を要求したその日、内閣府は招待者名簿を廃棄した。招待客を取りまとめる内閣府は指針改正後、名簿の保存期間を1年から1年未満に変更していた。
三宅氏は「指針を改正しても体質は変わっていない。仏を作って魂を入れずとはこのことだ」と語る。
記録をゆがめ、あったことをなかったことにする。公文書管理において、最長政権が残したのは負の遺産だった。
点検「桜を見る会」見直し着手せず、消極的な政府 2020/7
安倍晋三首相が主催する「桜を見る会」は、首相の地元後援者が多数参加するなど招待基準が不明確なことや、経費が年々膨れ上がっていることなどが問題視され、政府は今年の開催を中止した。
来年以降は、招待基準の明確化や招待手続きの透明化、予算や招待客数の適正化など全般的な見直しを行った上で、開催を検討することになっている。だがその後、見直し作業は一向に進んでいない。
見直し作業について、首相は昨年11月の参院本会議で「私自身の責任で、幅広く意見を聞きながら行う」と意欲を見せた。菅義偉官房長官も、今夏の2021年度予算の概算要求までに行う考えを示していた。
発言とは裏腹に、政府内で有識者検討会を設置して見直し議論を公開で行うといった具体的な動きがないまま、今年の通常国会は6月17日に閉幕した。政府の消極姿勢は、見直し作業自体が野党の追及材料になることを嫌ったようにもみえる。
これに対し、参院決算委員会は通常国会最終盤の6月15日、桜を見る会の運営を「不適切」と認定し、政府に反省や運営内容の見直しを求める「措置要求決議」を全会一致で可決した。国会のこうした動きは、野党だけでなく、身内の与党にも桜を見る会に厳しい意見がある証しだ。
菅氏は6月26日の記者会見で、来年以降の桜を見る会について「今後検討していきたい」と指摘。現時点で見直し作業に着手していないことを事実上認めた。
「コロナ禍」への対応が最優先される中、安倍政権には桜を見る会を巡る問題はもはや過去のものとの意識も垣間見える。だが会の運営や後援者との懇親会、公文書管理を巡る問題は一切解決されていない。首相は、問題への説明責任を果たすだけでなく、国会で答弁した通り自身の責任で見直しについて結論を出さなければならない。 

 

 

 

 
 
  

 

●週刊文春

 

●なぜ『週刊文春』ばかりがスクープを取れるのか? 2016/2
政治家の金銭スキャンダルからタレントの醜聞記事まで、列島を震撼させるスクープを連発する『週刊文春』。その破壊力と影響力によって、いつからか“文春砲”と呼ばれるようになったのはご存知の通りだ。しかし、ここで素朴な疑問が浮かんでくる。「なぜ『文春』ばかりがスクープを取れるのか?」「他のメディアだって特ダネやスクープを血眼になって探しているはずなのに……」
そんな素朴な疑問を、自身もかつて文藝春秋の社員として『週刊文春』編集部に身を置き、昨年末に、スクープを追う男たちの姿を描いたノンフィクション『2016年の週刊文春』(光文社)を上梓した柳澤健氏にぶつけてみた。

まず柳澤氏が『週刊文春』の大きな特徴として挙げたのは、「編集部内の空気が明るく、風通しがいい」という意外にもシンプルな点。だが、優秀な外部スタッフを確保するのには最も重要なことだという。
「何年も前から、週刊誌に勢いがなくなったと言われています。『週刊現代』や『週刊ポスト』はお年寄り向け雑誌に方針転換してすっかり元気がなくなっちゃったし、写真週刊誌の『FRIDAY』や『FLASH』は推して知るべし。そんな中、腕っこきの記者たちはどこに活動の場を求めるか? 『週刊文春』か『週刊新潮』しかない。どちらを選ぶかといえば、勢いがあって雰囲気も明るい『週刊文春』にみんな行きたがるんです」
媒体としての信頼度が高いこともポイントだと柳澤氏は強調する。「スクープの9割は内部リークというのが業界の常識」(柳澤氏)であり、政治家や大企業の社長など、権力者のスキャンダル記事には、もみ消そうという強い圧力がかかる。告発者が圧力にすぐに屈してしまうメディアにネタを持っていくことはない。
典型例として柳澤氏が挙げるのは、2012年に掲載された「小沢一郎 妻からの『離縁状』全文公開」。小沢一郎の愛人や隠し子の存在に加え、震災時には放射能を怖がって地元・岩手から逃げたということを告発した衝撃的な記事である。
「『週刊文春』の記事が出ると、テレビ各局は追随しようとした。ところが小沢一郎サイドから強い圧力がかかった。『おたくの局がこのことを報道するなら、以後の協力は考えさせてもらう』とか『ほかの局は扱わないのに、おたくだけやっていいのか?』とか。結局、テレビ各局は沈黙したんです。芸能系のスキャンダルだって同じこと。タレントの写真集やコンサートのプログラム、関連書籍というあめ玉をもらっている出版社は、大手芸能事務所所属タレントのスキャンダルは扱いづらい。出版部から『余計な真似するな! あそこからは大きな仕事をもらってるんだ』も苦情が入るでしょうしね」
しかし、文藝春秋も総合出版社だ。女性誌もあれば、単行本の部署だって存在する。『週刊文春』の掴んだ“スクープ”を会社上層部から止められることはないのか。
「『週刊文春』でスポーツ選手のスキャンダルを出したことで『Number』で取材できなくなったなんて実際に何度もありましたよ。でも、文藝春秋では編集部の独立性が保たれている。『週刊文春』編集長がやると決めたことには、誰も口出しできない。
『週刊文春』はあらゆる圧力や忖度を撥ねのけてくれる、という信頼があるからこそ、告発する側も安心できる。リークする人っていうのは、第一に自分や家族の安全を確保したい。たとえば『会社の内部でこんなひどいことが行われています!』という内部告発が『週刊文春』に載ったとする、普通なら、原因究明と再発防止策を講じるところですが、巨大組織は往々にして必死に告発者捜しをする。逆にいえば、告発する人は『自分の身が危うくなるかもしれない』というリスクを負って週刊誌に情報を流している。そこにあるのは正義感です」
一般には誤解されがちだが、『週刊文春』はネタをお金で買ってきているわけではない。交渉にもそもそも応じていない。告発者側もお金欲しさに情報を流しているわけではないのだ。(※詳細は『2016年の週刊文春』を参照)
「たかが週刊誌が何百万円も何千万円も払えませんよ(笑)。20万円や30万円をもらったところで、会社を辞めさせられたら割に合わないじゃないですか。芸能系のスキャンダルだって、自分の友達を20万円や30万円で売ろうなんて普通は思わないでしょ? 100万円だろうが話は同じ。内部情報をリークするのは、『こんな不正を許してはならない!』という気持ちからですよ。カネの問題じゃない。
森友文書の改竄をやらされて、自殺に追い込まれた近畿財務局の赤木俊夫さんの遺書にしたって、あれを『文春』が載せなかったら世の中に出なかったかもしれない。果たしてそれでいいのか?  っていう話ですよ。文春の記者たちは『俺たちがスクープから下りてしまったらほかに誰がいるんだ?』というプライドを持って事件を追っている。記者クラブというなかよしクラブの中で権力者に従順に飼いならされている連中とは一緒にしてもらいたくない、と」
もちろん『文春』だって商業誌である以上、ビジネスという側面から逃れることはできない。広告主や作家の顔色を伺うこともあるだろう。しかし、最後はやはりジャーナリズムとしてのプライドの問題になってくる。
「JR東日本に喧嘩を売ってキオスクでの販売を拒否されるなんて、ビジネスの面からしたら愚の骨頂かもしれない。でも、労組が革マルに支配されて、革マルになびかない人間が散々嫌がらせを受け、いじめ殺された人もいると聞けば書くしかない。それが雑誌ジャーナリズムの根本です」
目先の損得勘定よりもはるかに大事なものがこの世にはある。下世話だと指摘されることも多い『文春』の報道姿勢だが、その実態は闘う男たちの矜持によって支えられていた。 

 

●過度な文春砲批判に「また何かあったときには手のひらを返すんだろうな」 2018/1
新潮社の出版部部長、中瀬ゆかり氏(53)が25日、TOKYO MX「5時に夢中!」(月〜金曜後5・0)に出演。音楽プロデューサー、小室哲哉(59)の不倫報道への批判からはじまった「週刊文春」たたきについて、「また何か今度あったときには手のひらを返すんだろうなと」語り、極端から極端に意見が変わる人に苦言を呈した。
中瀬氏は小室の引退会見について「私もすごく同情もした」としつつ、文春たたきや不買運動を行う人の多くは「たぶん“センテンススプリング”だの“文春砲”っていうときも、『わーい文春砲』と言って盛り上がっていた人とそんなに変わらないと思う」と指摘。
それまで文春を持ち上げていたにもかかわらず、突然その矛先を切り替えていることについて「二元論でものを考える、極端に『こっちが良い』『こっちが悪い』となる人ってとても怖くて…」と批判した。中瀬氏は「知性というのは思ったことを極限までに突き進めないことだ」という言葉を紹介し、「あるところで止められることが一種の知性だと思っている」と語った。
「一方的に、感情だけでカッとして、『だから廃刊にしろ!』とか『不買運動だ!』みたいになっている人たちは、また何か今度あったときには手のひらを返すんだろうなと思って見ています」と持論を展開した。それは文春だけでなく、自身のかかわる「新潮にだっていつ起こってもおかしくないこと」と語った。
新潮社の出版部部長という立場から、炎上に対して「いちいち『間違っていましたすいません』とか(謝罪を)やるくらいなら(スキャンダル報道を)やらないほうが良い」とし、記者についても「信念というか、雑誌の方針があってやっているということをね、みんな胸にその矜持はあると思う」と語った。 

 

●日本で最も恐れられる、「文春砲」が生まれた舞台裏
雑誌『週刊文春』は、いかにして「文春砲」を放つようになったのか。かつて編集部に在籍し、歴代の名物編集長、花田紀凱と新谷学の仕事ぶりを身近で見てきたノンフィクションライターの著者は、関係者への丹念な取材を基に、詳細をリポートする。
創刊は、1959年に遡る。先んじて1956年に創刊した『週刊新潮』の部数をようやく上回ったのは、花田が編集長を務めていた88年のことだった。当時、週刊誌は既に新聞社の社会部以上の取材力を備えていた。生命保険目当てに妻を殺害したと疑われ、世間を騒がせたロス疑惑を、84年に「疑惑の銃弾」というタイトルで真っ先に記事にしたのは『週刊文春』だ。
その後もスクープを連発し、2012年に新谷が編集長に就任すると、さらに勢いが加速する。現代のベートーベンと絶賛されていた「聴力を失った作曲家」が実は健常者でゴーストライターまでいたことを暴くなど日本中を騒がせる話題を次々と提供。ベッキーの不倫や甘利明元経済再生担当大臣の金銭スキャンダルなどのスクープを放ち、「文春砲」という言葉が定着したのが、題名に掲げられた16年。20年には、森友学園問題で決裁文書の改ざんに関与させられ、自殺した財務省職員の妻の告発でも世間をゆるがせた。
本書が明かすのは、『週刊文春』と文藝春秋という会社の歴史であり、出版メディア史、日本の社会史でもある。読者の興味を引くのはどんなテーマか、編集部員はどのように働いてきたか。社内抗争もたびたび起これば、記事に対する訴訟に立ち向かうこともある名物編集長たちの仕事術も圧巻だ。
最終章ではウェブの「文春オンライン」と雑誌『週刊文春』との棲み分けや収益構造に迫り、出版界の未来まで示唆するさまが見事だ。

 

●“過剰なわかりやすさ”を求めて、私たちが失ったものは?
言葉でなにかを伝える時に、わかりやすさが過剰に求められるようになっている。受け手側が理解できない、あるいは理解が難しい場合、理解力不足ではなく、説明する側を責めることが増えた。ニュース番組でもわかりやすい解説が視聴率につながるとされる。
これまで一貫して世間の「当たり前」に疑義を呈し、人の思考回路に新たな道を提示してきたライターの著者が本書で論じるのは、こうした「わかりやすさ」についてだ。「あらゆる物事はそう簡単にわかるものではない」と断じ、わかりやすさを求めることでこぼれ落ちていくものを示す。
たとえば、あるテレビ番組が取り上げていた「一家の財布は夫が握るべきか、妻が握るべきか」というテーマでは、選択肢はふたつだけ。夫婦で管理することもできれば、それぞれ財布を別にすることも可能だが、そうした選択肢は、提示されない。わかりやすさが優先されたからだ。
一家の家族構成やそれぞれの性格、労働状況も含めて論じることで、より議論が深まり、新たな発見が生まれることもあるのだが、そんな手間は視聴者から求められていない。
著者は、あらゆる物事の背景は複雑に絡み合い、それに向き合う私たちの頭の中も複雑にできているのだから、複雑さに耐えられるようにしておいた方がいいと繰り返し説く。
わからない状況をそのまま受け入れよう。他人を完全に理解することはできないと知っていれば、他人の言動に不用意に苛つかずに済む。世界には、自分の理解がおよばないことがたくさんあると気付けば、学びの楽しさは広がっていく。
わかりやすさに甘やかされることなく、自らの頭で考え続けることで、思考する力が身に付くのだ。困難に直面した時に必要なのは、こうした思考の体力ではないだろうか。 

 

●週刊文春がやっていることは本当に正しいことですか
女優・吉高由里子主演のドラマ「知らなくていいコト」は最高視聴率10.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の最終回で、有終の美を飾った。吉高由里子はスクープ追い続ける熱い週刊誌記者を演じきった。一方でドラマでは週刊誌報道についても登場人物がその正当性を主張しているように感じた。現実でも週刊誌は、東出昌大の不倫から大物の政治家の汚職事件まで、大衆の興味を誘うネタであれば、なりふり構わず記事にする。しかし彼らは一体どのように、蜜が滴る上質なネタを見つけてくるのだろうか。なぜベッキーと川谷絵音のラインのやりとりがそもそも流出したのか。現役週刊誌記者がその驚くべき実態を赤裸々に語る──。
週刊誌記者のネタの見つけ方
私は現在、とある女性週刊誌の編集部で記者として働いています。週刊誌といえば、吉本興業所属の芸人による闇営業問題などもわりと記憶に新しいでしょう。世の中の注目は薄れてはきているものの、引退しているのにもかかわらず入江慎也氏の自宅前にはいまだに張り込みをしている記者とカメラマンがいます。自宅を出てきた入江氏に対して、「最近どうですか?」といった質問をするのでしょう。
週刊誌の張り込みには、プライバシーの侵害などしばしば批判が起こることがありますが、実際にどのように張り込みが行われているかについては知らない人が多いはずです。はじめに、編集部の数だけその方法はあるということは断っておきます。今回は私が属している編集部で行われている張り込みについて、具体的な例を挙げながらお話ししたいと思います。
まず週刊誌の記者が普段、どんな生活をしているのかお話しします。私たちは基本的にひとつの編集部と契約を結び、業務委託という形で働いています。しかし、会社専属ではあるものの、毎日出社するわけではありません。各自、ネタ元さんとお会いしたり、ツテを頼って新しいネタ元さんを探したり。また進行中の取材を個人的に進めるなど、情報を集めています。良いネタがあれば随時編集部に持っていき、デスクと相談してページにするための会議を重ねます。
ピンポイントで写真を撮りに行きます
張り込みが必要になるかはネタによりけりです。例えば読者からの写真提供などですでに手元に写真がある場合は、事実確認の取材を終えたあとにターゲットに直撃するだけです。テレビ番組の収録終わりを狙ったり、関係者に現在ターゲットがいる場所を教えてもらったりしてピンポイントで写真を撮りに行きます。
よくドラマの撮影現場であったり、飲み会であったり、犬の散歩であったり、「芸能人のオフショット」が載っていることがありますが、大抵の場合は関係者が「誰が何時にどこに行く」という情報を教えてくれます。とあるテレビ番組の打ち上げを隠し撮りした際は番組ADが随時店内の状況をリアルタイムで伝えてくれました。某大手写真週刊誌の張り込み班は2〜3台の車で毎晩都内をグルグルと回り続け、常に芸能人を探しているそうです。
しかし、手元に写真がない状態で熱愛・不倫写真を撮るときはいつ終わるかもわからない張り込みが数日間、時には数週間続くことになります。
有名人が不倫もしくは熱愛しているという情報が入ったら、まずはターゲットのヤサ(自宅)割りをします。ある男性スポーツ選手の不倫を追ったときは、まず彼のチームの練習場へ見学に向かいました。まずは練習場の前でファンのふりをしながら入り待ちをして車のナンバーを判別します。そして練習が終わり、選手がロッカールームに戻ったタイミングで練習場の外で待機しているカメラマンの車に連絡します。車での尾行は1台だと怪しまれてしまうので、記者はタクシーを使い、ポジションを入れ替えながら2台態勢で追うことが多いです。
そんな仕事、タクシーの運転手が嫌がらないのか? 実はタクシーの運転手の多くは「待っていました!」と張り切って追ってくれるので助かります。某大手写真週刊誌の編集部は、尾行の際にバレないようにパン屋風に改装したトラックを所有していると聞いたことがあります。
ある女優の熱愛情報が入ったときには、彼女が登壇するイベントや記者会見に取材申請をして参加し、同じく外で待機しているカメラマンと一緒にヤサを割りました。ヤサ割り自体は難度がそこまで高くなく、1回で割れることがほとんどなので、特にネタがないときなどは旬の芸能人のヤサ割りをしながら1週間を過ごすこともあります。「そういえばこの前ヤサ割ったあの人、今日が誕生日だよな」という感じで家を張ってみると、ラッキーなことに恋人と手を繋いで帰ってきちゃうこともあるのです。
特にヤサを割りやすいのはアナウンサーです。タレントの場合、運転手が付いていたりテレビ局の地下の駐車場からタクシーで出てきたりするため、ヤサを割ろうにも割れないケースがあります。しかし、アナウンサーはテレビに出ている立場ではあるとはいえあくまで会社員なので、電車で通勤している人も多いのです。ニュース番組などは生放送なので退社時間がある程度読めることもその理由のひとつです。
ヤサを割ったらあとは交際相手なり不倫相手なりとお泊まりデートをするのをひたすら待つのみです。といってもターゲットに家族がいる場合は自宅を張っていても仕方がないので仕事終わりを尾行したり、相手が一般人だとしてもヤサを割ってそちら側を張ったりもします。ターゲットがひとりで帰宅した場合は、マンション全体が見える場所からベランダを監視し、部屋の明かりがついた部屋を確認します。そうすれば次回からはターゲットが在宅中か不在かが一目でわかるのです。
尾行の際の必須アイテムはハンズフリーのイヤホンです。ターゲットが車を降りれば当然こちらも車を降りて徒歩で尾行をします。電車に乗ればこちらも電車に乗ります。別の記者やカメラマンを車で先回りさせるなど連携を取らなくてはいけないので、常にグループチャットで会話を繋げながら尾行をしています。
ファンのふりして接近「今夜会わない?」
まずはヤサ割り。それと同時に関係者からの情報を集め、スクープ写真の撮れる確率の高い場所と時間を絞っていく。ある程度順序というものはありますが、正直撮れてしまえばなんでもいい。こちらからおびき寄せるような作戦を仕掛けることもあります。
不倫や熱愛で王道のパターンは、相手側と週刊誌が繋がることです。デートの日時と場所さえ教えてもらえばそれで完了。「これからホテル出ます」とまで教えてくれる人もいますし、「ギャラを弾むので寄り添いながら出てきてください」と言えばそのとおりにしてくれる人もいます。
ある男性タレントの不倫を取材していたときのことです。証拠はすべて揃い、あとは本人の言葉をもらうだけという段階だったのですが入稿までに時間がなく、地方営業先で直撃をすることになりました。しかし、営業先の構造上尾行もできず、出演者によって宿泊するホテルも変わるようで滞在先がわかりません。その男性タレントはファンに手を出すことで有名で、今回の不倫相手もファンの女性でした。
撮れればなんでもありなのです
そこで試しに女性ファンのふりをして彼の公式ラインに「今日のイベントとても楽しかったです」とメッセージを送ってみると、向こう側から「よかったら今夜会わない?」と連絡が来ました。聞き出したホテルの前で張り込み、出てきたところを直撃して完了です。結局のところ撮れればなんでもありなのです。
さてベッキーのゲス不倫はなぜラインのやりとりが文春にリークされたのでしょうか。関係者によれば、あれも単純。スマホにアクセスできる人が出版社にスクリーンショットを送った。ただそれだけです。
今思い返すと、「なんて倫理観のないことをしているのだろう」と自分でも思いますが、追っている最中は記者もカメラマンも感覚が麻痺しているのでしょうね。プライバシーの侵害になるとはいえ、ヤサを割ってでも、尾行をしてでも、相手を騙してでも、目の前にネタがあり現場にいる限りは写真を撮らない理由が見つからないのです。
それに、読者も嫌なら買わなきゃいいし、読まなきゃいいのに、一生懸命ネットで拡散してくれるでしょ。世の中難しい問題が山積みで、もっと国民が議論するべきニュースがほかにたくさんあるのに、東出昌大が不倫したらそっちのけで夢中になりますよね。
今の時代、いわゆるタレントさんは不倫したら暴かれることをわかって芸能界に入っていますよね。週刊誌報道も含め、エンターテインメントになっている。週刊誌報道を売名に利用する人もいくらでもいる。それなのに、テレビで週刊誌の不倫報道を批判する人はちょっと笑っちゃいますね。多分、その人もやっているのでしょうね。 

 

●天下の文春砲、不発弾の裏側 2020/11
ネットでも話題になった『週刊文春』(10月22日号)の二階幹事長IR関係の記事。和歌山放送ニュース(20日)によると
和歌山県が和歌山市の和歌山マリーナシティにカジノを含む統合型リゾート・IRを誘致していることをめぐり、衆議院和歌山3区選出で自民党の二階俊博(にかい・としひろ)幹事長の支援者が周辺の山林を購入しているという週刊誌の記事について、仁坂吉伸(にさか・よしのぶ)知事は「めちゃくちゃ」と述べ、記事の内容を否定しました。
知事は文藝春秋へ抗議に行かせたことも明らかにしました。県側も文春が喧嘩上等というスタンスであるのを承知の上でしょう。それでも抗議に至ったのはよほどの事実誤認があったのかと思われます。
記事を知らない人のためにポイントを列記しましょう。
2004年の段階でマリーナシティがカジノ候補地になると想定して周辺地を購入したことの妥当性。
和通は二階氏とズブズブの企業だが、二階氏の関与を示す証拠は何一つない。タイトルで煽りすぎ。
地元政界関係者が唐突に登場するが、本件との関連性が見えない。
同誌は「文春砲」と言われ数々のスクープをモノにしてきました。しかしこの記事ついては二階幹事長の関与を示唆しつつ、朝日新聞・高橋純子記者の如く「エビデンス? ねーよそんなもん」状態でした。
文春砲どころか、銀玉鉄砲ぐらい?
文春にしては脇が甘いという評がメディア関係者から漏れ伝わってきました。どうもよろしくない内情もあるそうで・・
週刊文春、言うまでもなく日本屈指の雑誌です。よく週刊文春あるいは新潮に対して「ゴシップ雑誌」という怒る人がいます。ところが成立を考えればむしろ「ゴシップですけど何か?」という程度でしょうか。この点は月刊総合誌『文藝春秋』(通常、本誌と言われる)を見ておく必要があります。
文藝春秋は作家、菊池寛が1923年に創刊しました。当時は島田清次郎ら作家のゴシップが中心。作家のスキャンダルはウケたのです。島田のゴシップについて知りたい方は漫画『栄光なき天才』などを読むと理解が深まります。
この系譜を継ぐ週刊文春ですから、ライバル誌新潮と合わせてゴシップが掲載されるのは歴史的にも自然な流れです。そして文春出身の言論人は沢山います。長年、雑誌ジャーナリズムを支えてきたのも事実。ところが雑誌文化が衰退する中で同誌も例外なく問題を抱えているようです。
強力な週刊文春編集部。実は、週刊文春の体制はプロパーの社員がとても少ないのです。新卒数年目とデスク以上の職以外はほぼ単年契約のフリー記者。これだけ聞くと労働運動の活動家は「正社員として雇用しろ」と激怒するかもしれませんが、フリー記者たちも納得の上で入社しています。他誌に移籍しやすく、「フリー」という立場からするとメリットもあります。
かつては名うてのフリーも在籍し、ここで編集者(正社員)たちはいろいろと学ぶことになります。
ところがここ数年、異変が起きたと言うのです。関係者によれば
「取材に行くのは外部記者、ライターたちで、編集者は外出禁止ということになりました」
おそらく取材経費節約でしょう。これはよろしくない。現場に出ていないと、取材相手の「温度」や「ネタの価値」が分からなくなります。
では傭兵部隊が超優秀なのかは疑問符も。昨今、新聞不況を受けて全国紙の新聞記者が週刊文春に記者として採用されているとか。条件は最低年収「500万円」を保証するというもので、決して好待遇ではありません。新聞が報道発表と感想文になる中で、志がある人が文春で一旗揚げたいというのはありえるでしょう。ただこうした記者たちは作業自体はそつなくこなすが、独自ネタを集めるという能力は乏しいとの評価です。
幕末で言えば非士族階級から構成される奇兵隊が強く、武家の正規軍が弱いというのに酷似していますって分かりにくいな。
とは言え新聞、テレビがツイッターやYOUTUBEの「まとめサイト化」しているのに対して、文春は刺激的な記事を掲載しているのも事実。例えば芸能人の不倫ネタだと当事者に「あてる」(直撃する)様子を映像化し、テレビ局に配信しています。これがだいたい一本「5万円」という話です。額の多寡については各々でご判断ください。ただ本誌で掲載し、なおかつネットでも配信した上で「5万円」なのだから悪い話ではないと思います。何よりも格好の広報、宣伝にもなる! 全国放送で文春のクレジットが出ることは大きいのではないでしょうか。
しかも利益率で言うとすでにWEB版の方が上回ったという中の人の話も興味深い。そこで編集部は週刊本誌とWEBの両体制になっています。ところが両者の連携が良くないとのこと。特にスクープはまずネット配信という方針があるそうで、速報性はもちろん効果的でネット住民たちは「さすが文春砲」となるわけです。
だがここが悩ましいところ。やはりスクープは紙、つまり誌面で!という記者は少なくありません。雑誌文化で育った私も痛いほど分かります。一方で「文春砲」というネットの称賛も意識せざるを得ない。ところがネット住民たちは「情報を買う」という意識が乏しく、万一「ネット配信やーめた」をしたら果たして記事を読むのかは…です。このあたり長年、紙媒体でやってきた伝統雑誌の痛し痒しでしょう。
なにしろ文春砲は秀逸なタイトルで読者の気を惹きますが、これからは不発弾、空砲が増えるかもしれません。 

 

●文春砲の落日 2018/10
テレビと世間はいつから文春砲に振り回されていたか
「文春砲」と呼ばれた週刊文春のスキャンダル記事。我々はいつの間にか、文春砲に振り回され、いいように操られるようになった。その要因が、テレビだったと思う。文春がスキャンダルを記事にすると、テレビのワイドショー・情報番組や時にはニュース番組がそれを取り上げ、他のネット上のメディアも巻き込んで大きな渦となる。そんなことが当たり前になっていた。
少し前まではここまでではなかったはずだ。いったいいつから我々は文春砲に支配されていたのか。テレビ番組をすべてデータ化するエム・データ社に頼んで調べてもらったら、かなりくっきりした結果が出てきた。それが上のグラフだ。テレビ番組の中で「週刊文春」「週刊新潮」がネタ元として表記された番組の数をグラフにしている。文春が青、新潮が橙色の線だ。
文春砲が放たれ世間が大騒ぎになるほどテレビが取り上げたのは、2016年1月に突如起こった現象だった。それまでにも小さな渦を巻き起こしてはいるが、比べ物にならないくらい少ない。この月から、スキャンダルの歯車が狂ったように回りはじめたのだ。
上のグラフは2008年1月から2018年9月までのデータだ。幅が広すぎてわかりにくいので、2014年以降に絞ってデータを精査してもらった。エム・データ社によれば、ここで言う精査とは「ニュースやワイドショーの中で明確に文春のテロップや誌面の紹介、文春デジタルの映像とテロップによる紹介があるもの」だそうだ。まちがいなく番組の中でネタ元として文春(そして新潮)の記事や映像が使われたかどうかを調べてくれている。
そのグラフがこれだ。
こうして見ると、2014年から2015年にかけて、予兆のように小さな山ができている。そして2016年に爆発したのだ。地震の予震と本震のようだ。そして2016年はブルーの線、つまり文春が何度も山を作っている。ところが2017年に入ると橙色の新潮が文春の向こうを張るように山を作りだした。2018年の文春は3月に山を作ったあと徐々に下がっており、新潮は4月に最後の花火を打ち上げるように山を高くしたあと、静かになった。
不倫を中心に立て続けにスクープを発信した文春
文春と新潮に分けて、もう少し詳しく見ていこう。文春のグラフの前半だけ切り出してみた。
2014年から2016年6月までの部分だ。
山ができている箇所にアルファベットを振った。それぞれの内容は下記だ。
•A:2014年5月 ASUKA覚せい剤所持容疑で逮捕
•B:2015年4月 上西小百合議員、本会議欠席旅行疑惑
•C:2015年8月 武藤貴也議員、未公開株トラブル
•D:2016年1月 ベッキー&川谷絵音、不倫報道
•甘利明経済再生担当大臣、収賄疑惑
•E:2016年2月 ベッキー&川谷絵音、不倫報道
•清原和博、覚せい剤所持で逮捕
•宮崎謙介議員、不倫疑惑
•F:2016年5月 舛添要一都知事、政治資金問題
2014年から2015年にかけては、文春がスクープをすっぱ抜いたからといってテレビに飛び火したのはわずかだ。ところが2016年1月から急に文春がスクープを連発し、テレビがそれを追いかけるようになった。文春の誌面を紹介すればワイドショーができてしまう。きっかけはベッキーと川谷絵音の不倫だが、そもそもスクープの数も多かった。
そして文春による世論リードの決定打が、舛添要一氏の政治資金問題だった。文春のスクープ連発によりテレビが大騒ぎしてついには、舛添氏が辞任に追い込まれた。この一件で文春への信頼度が極度に高まった。テレビは文春のスクープにしたがっていればいい、という状況になったのではないか。
続いて文春のグラフの後半だ。
2016年は小ぶりの山が続く。スクープがなかったわけではなく、小倉優子の夫の不倫、中村橋之助の不倫などが小刻みに報じられている。不倫報道に飽き飽きしたのを私も覚えている。
2017年に入ると、文春砲は衰えるどころかますます続けざまに大砲を打ち上げる。
•G:2017年6月 小出恵介、未成年女性と不適切関係
•NMB48 須藤凜々花が結婚発表
•下村博文幹事長代行、加計学園闇献金報道
•2017年7月 船越英一郎&松居一代、離婚騒動
•渡辺謙、不倫謝罪会見
•2017年8月 斉藤由貴、不倫報道
•宮迫博之、不倫報道
•2017年8月-9月 日野皓正、コンサート中にドラマーの中学生へ暴行
•2017年9月 山尾志桜里議員、不倫疑惑
•H:2017年11月 大相撲 日馬富士が貴ノ岩に暴行
•2017年12月 藤吉久美子、不倫報道
•2018年1月 小室哲哉、不倫疑惑
•I:2018年3月 伊調馨、栄和人強化本部長からのパワハラ被害騒動
•2018年4月 新潟県 米山隆一知事、女性問題で辞職表明
•林芳正文部科学大臣、公用車で「ヨガ通い」報道
•2018年5月 石原さとみ、交際報道
•日大アメフト悪質タックル問題で内田監督の音声データ公開
世の中にこんなにスキャンダルというものがあるものかと感心するが、その度にテレビは何の躊躇もなく文春をネタにし、追いかけてきた。時には文春が撮った映像まで使うようになり、テレビ局は取材をする気さえ失ったのかと思えたほどだ。
スキャンダルの方向性も、不倫一辺倒からパワハラの暴露のようなものへと広がってきた。それとともに、必ずしも最初が文春のスクープとは言えなくなってきた。2016年から2017年の文春の勢いに、2018年半ば以降、翳りが出てきたように思える。
文春に追いつけなかった新潮
今度は週刊新潮のグラフを見てみよう。単独で見ると、文春と比べて山がずいぶん少ない。2016年までの間は、2016年3月に「乙武洋匡氏、不倫認め謝罪」4月に「山尾志桜里議員、ガソリン代疑惑」がテレビで取り上げられ小さな山ができているが、大きな山ができるほどではない。そこで2016年7月以降のグラフを拡大したのがこれだ。
これも内容を箇条書きにする。
•J:2017年4月 中川俊直議員、女性問題で辞任
•K:2017年6月-7月 豊田真由子議員、秘書に暴行
•2017年7月 船越英一郎&松居一代、離婚騒動
•今井絵理子議員、不倫報道
•2017年8月 豊田真由子議員の政策秘書青森県板柳町 松森俊逸町議、金銭トラブル疑惑
•兵庫県神戸市 橋本健市議、政策チラシ架空発注疑惑
•2017年9月豊田真由子議員、元秘書への暴行暴言問題・新たな音声公開
•L:2018年4月 ビートたけし独立&オフィス北野内紛騒動
•財務省 福田淳一事務次官、女性記者へのセクハラ疑惑報道&音声公開
こうして見ると、実は週刊新潮はほとんど豊田真由子議員の騒動に終始しているのがわかる。新潮は文春に続いてスクープを連発し、テレビで続々取り上げられたイメージがあるが、実際には「豊田議員のスキャンダル、ほか」といった程度なのだ。豊田議員の件であの音声を入手したのはスクープだったが、それ以外、テレビを振り回すようなことはなかったと言っていい。豊田議員の件があまりにもセンセーショナルだったのと文春とセットで見られることで、新潮のイメージが肥大していただけなのだ。スクープを連発する文春に追いつけとばかりに頑張ったが、到底追いつけなかった、というのが実態のようだ。
文春の落日と、私たちのリテラシー
さて、文春の後半の方のグラフをもう一度見てもらうと、直近2018年10月にちょろりと山ができている。片山さつき大臣の疑惑報道だ。”ちょろりと”と書いたが、実感としてもテレビで大して取り上げられなかった。文春のスクープが不発を続けている。
あれほど毎週のように文春砲が放たれ、テレビが一斉にそれを報じていたのに、いったいどうしたことだろう。単純な話だと私は思う。文春はテレビに飽きられたのだ。“文春砲”とはもう呼ばれなくなっている。
テレビは結局、何もかもを飲み込みエキスを吸い尽くしてぽいと捨てるうわばみのような生き物である。それはとりもなおさず、我々の好奇心の写し鏡なのだろう。つまり、文春に飽きたのは、我々なのだ。文春に反省すべき点があるとしたら、あまりにも連発しすぎた。要するに、調子に乗りすぎたのだ。
文春は、デジタルもうまく使い映像にも手を出して新しいスキャンダルメディアとして生まれ変わる試みにトライしていた。だが結局は、紙の雑誌の部数減少は防げないし、紙を支えてきた団塊の世代に命運を握られている。だから最近は、文春でも健康ネタが増えてきた。気がつくと、オヤジ週刊誌はどれもこれも、健康ネタが満載だ。スキャンダル誌なんて、実はもう要らなくなっているのかもしれない。
ではテレビはどうするのだろう。テレビが文春ネタを取り上げなくなったのはもうひとつ、信頼性を取り戻すべきとの空気があるからだと思う。ようやくわかってきたのだ。メディアにとって信頼性ほど大事なものはないのだと。
それは我々が学んだからでもあると思う。なんだかんだ言って、我々のリテラシーは上がっているのではないか。フェイクニュースには気をつけろ。スキャンダルに振り回されるな。我々が新時代のメディア環境に慣れるために、文春砲に踊る日々は必要だったのだろう。だがもう、そのステップは卒業しようとしている。文春の落日は、そんなターニングポイントの象徴でもあるのだと思う。 

 

●文春砲はすぐそこまできている
文春砲でお馴染み『週刊文春』の歴史が一挙にわかる長大な一冊である。タイトルに2016年とあるが、名編集長の花田紀凱と新谷学を軸に創設者の菊池寛から始まる社史と言ってもいい。かなり読み応えがあった。
週刊文春のスクープといえば、協栄ジムの会長、金平正紀による薬物投与事件、三浦和義のロス疑惑、東京都足立区で起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件、最近だとベッキーと川谷絵音の不倫騒動、ショーンKの学歴詐称疑惑、東京高検検事長の黒川弘務の賭けマージャンにアンジャッシュの渡部健のテイクアウト不倫など、ざっと思いつくだけでもこれだけある。どれも強烈なものばかりだ。
人間叩けば誰でも埃が出るように、この世に清廉潔白な人間などいない。今や多くの公人や著名人が、いつ自分に文春砲がぶっ放されるのかビクビクしているに違いない。(me too)
正直なことを言えば、ここ最近の週刊文春の下世話なスクープネタにはお腹いっぱいになっているところもあった。他人のプライバシーを暴いたり、そのことによって人の芸能生活や選手生命が終わってしまったり。中には許されるべきではないものも確かにあるが、「収益をあげるためにそこまでやりますか?」と、現場にいる記者たちの道徳観に首を傾げることもあった。なぜなら下手したら自分のスクープで誰かが命を落とすこともあるからだ。だがしかし、本書を読んでいくうちに、いろいろと誤解も解けてきた。もしかしたらここまで公平性のある雑誌は他にないのかもしれないと思ったのだ。
自縄自縛
今のテレビ局や新聞など大手メディアはコンプライアンスという言葉で自縄自縛している。たとえば、朝日新聞はテレビ朝日と、読売新聞は日本テレビと、産経新聞はフジテレビとお互いに協力関係や提携関係にあるのは周知の事実だ。そうなると、いわゆる『忖度』というものが生まれやすくなり、自然と報道できることとできないことに分けられてしまう。
だがしかし、報道機関としてこれはおかしなことである。『表現の自由』は権利として守られているはずであり、本来なら電波は『公平かつ能率的』に利用されなくてはいけないのだ。結果、誰もがコンプライアンスを気にしてリスクを取らず、どのチャンネルを回してもニュースが横並びになってしまう。これは、非常に危険なことだ。なぜなら報道に"タブー"があるということは、言論統制されているということであり、臭いものには蓋をして、僕らは知らずのうちに洗脳されているということだからだ。
そういった状況を鑑みると、既得権益やしがらみに縛られず、公益性を重視し、忖度なく社会に目を光らせて誰にでも噛み付く『週刊文春』はメディアのあり方として実は一番公平な存在だと気づく。もちろんそこには当然リスクがあるし、文春砲が過去に不発に終わることもあった。だが、それでも誰かが火中の栗を拾いにいかなければ、得られない真実がこの世界にはあまりにも多いのだ。
2020年7月23日号
さて、ずっと他人事だと思っていたそんな文春砲が、去年とうとう僕の近くでぶっ放された。
マルシアに51歳再婚を決意させた50歳ドラマーの決め台詞
記事にはこうある。
「今年の冬頃から、マルシアさんの家に男性が出入りするようになりました。彼女のベンツを彼が運転して出かけたり、二人で散歩したり。一緒に暮らしているようです」歌手のマルシア(51)が、再婚を決意しているという。お相手は、氷川きよしや岩城滉一、浜崎あゆみ、テゴマスなど有名アーティストのバンドで活躍してきたドラマーの松本直樹(50)。(中略)記者がマルシアの自宅を訪ねると、既に表札には「松本」と書かれた白い紙が貼られていた。(中略)知人によれば、そんな松本が昨年末、マルシアに“決め台詞”を吐いた。「この手で君を守りたい」
ドラマーと紡ぐ、新たな人生のドラマ。
何を隠そうこのドラマーとは、我がバンドのサポートメンバーである松本“しーたま”直樹のことである。しーたまとは、魂のことで、彼が口癖のように使う愛言葉だ。リズム隊の要としても、精神的にも、いつも僕らのことを支えてくれる我々の兄貴的存在である。
僕らはずっと前からこの事実は知っていたのだが、兄貴が内緒にしておいて欲しいと言うので秘匿にしておいた。だが、楽屋で女史が興に乗ると「飛び入りさせて」と言うので現場では秘匿も何もなかった。
おそらく来ていたファンは突然の突飛なゲストに「なぜ?」と思っていたことだろう。なんせやっている僕らがそうだったのだから。そんな兄貴と女史だけは、お互いにステージ上で熱い眼差しを交わし合っていた。その日のライブの一番のハイライトがそこだったのは言うまでもないだろう。
かくして二人の関係は文春砲によって白日の下に晒された。
文春の網の目とはおそろしいものである。それにしてもまさか表札の上に白い紙で「松本」と貼っているとは思わなかった。今後は、いついかなるときも狙われると思って、表札だけはきちんとしたものを購入しておこうと思う。 

 

 
 
 

 

●忖度メディア
忖度メディア 跋扈
表面撫でて 目にした結果だけ報道
堀っくり返したりしません  

 

●マスコミが安倍政権への忖度を続ける不思議 2018/3
日本は今、大変なことになっている。
森友学園問題において公文書が改ざんされていたことが明るみに出た。もしもこれが韓国ならば、「打倒・安倍内閣」を掲げた100万人規模のデモが、連日のように繰り返されるだろう。日本でも首相官邸前でデモが行われたが、規模は1000人程度と非常に小さいものである。そういう意味では、日本人は非常に大人しいと言える。
もう一つ気になるのは、新聞各紙の報道の仕方だ。財務省が決済文章の書き換えを認め、調査報告書を国会に提出したのが12日(月曜日)。その翌日(3月13日)の主要紙に目を通すと、まるで安倍内閣に忖度しているのではないかと思わざるを得ないほど大人しい書きぶりだった。
僕は当然、森友学園の文書書き換え問題については、「麻生太郎財務相にも責任がある」「安倍内閣にも責任を問うべきだ」などという旨の見出しが並ぶだろうと思っていた。
しかし、3月13日付の各紙朝刊一面トップの見出しを見ると、朝日新聞は「財務省 公文書改ざん」、産経新聞は「森友書き換え 理財局指示」、読売新聞は「森友文書15ページ分削除」、毎日新聞は「森友14文書 改ざん」、そして日経新聞は「答弁に合わせ書き換え」──。僕には、すべて穏やかな表現と感じた。
これはどういうことなのか。今回の事件は、民主主義の根幹を揺るがす大事件である。問題は極めて根深く深刻だ。メディアはもっと批判すべきである。
なぜ、籠池前理事長は釈放されないのか
これについて麻生財務相は「文書の書き換えは理財局の一部の職員によって行われたものだ。責任者は当時理財局長だった佐川宣寿氏にある」と発言している。
昨年、佐川氏が国会で答弁した「森友学園とは事前の価格交渉はしていない」という話は、嘘八百だった。その後、森友学園と近畿財務局とのやり取りを録音した音声データが出てきてしまったのである。
では、なぜ佐川氏は公文書の改ざんを指示したのか。官僚に、公文書を書き換える個人的な動機などあるはずがない。これはやはり、大きな政治的な圧力が働いたとしか思えないのである。
そもそも森友学園の土地売却価格が、なぜ鑑定価格より8億1900万円も値下げされたのか。その経緯を記録した文書を、佐川氏は「破棄した」と言い張っていたが、保管されるべき文書をなぜ破棄したのか。
一番の問題は、安倍首相が国会で「森友学園問題の認可、あるいは土地売却に、私も妻(昭恵夫人)も全く関わっていない。もし関わっていたら、総理大臣も国会議員も辞める」と発言したことだ。これが今回の事件が大事になった理由の一つである。結局、改ざんされる前の文書には、昭恵夫人の名前も記載されていた。これはどう説明するのか。
もう一つ、大問題がある。森友学園の前理事⻑・籠池泰典氏が昨年7月に逮捕されて以来、いまだに拘置所に勾留されていることだ。僕は、これは明らかに人権蹂躙だと思う。彼をこんなに長い期間、拘留する必要など全くない。
なぜ、彼を拘置所から出さないのか。理由はただ一つ。拘置所から出せば、昭恵夫人の関与を発言してしまうと恐れているからだ。
僕は、籠池氏が逮捕される前に、あるテレビ局の番組でインタビューをしたことがある。その時、次のようなやり取りをした。
「2015年10月27日、あなたは昭恵夫人に電話をかけましたね?」と尋ねると、彼は「はい」と答えた。「何を頼もうとしたのですか?」と聞くと、「二つあります。一つは、10年の定期借地権を50年に延長できないかということ。もう一つは、国有地の価格があまりにも高すぎるから、これを何とか安くして欲しいということです」と話した。
ところが、昭恵夫人は外遊中で話すことができなかったから、この内容を留守番電話に入れたという。すると、経産省出身の夫人付職員から問い合わせがあったそうだ。そこで籠池氏は、依頼内容を詳しく書いた手紙を郵送した。
これに対し、夫人付職員からファックスで返事が届いた。「色々やってみたけれど、ご期待には添えなかった。申し訳ない。昭恵夫人にも報告している」。しかし、しばらく経ってから二度目のファックスが届いた。「今年度はご期待に添えないけれど、来年度にまたやってみます」という内容だ。
僕は籠池氏に「では、翌年度はどうだったのですか」と聞くと、彼は「(国有地売却価格の値下げについて)満額回答だった」と言った。さらに続けて、「これは安倍昭恵夫人のご尽力のお陰だ。私は、心から感謝したい」と述べた。しかし、テレビ番組では、なぜかこの部分は、放送されなかった。
籠池氏が釈放されたら、この件についてもっと詳しく話すだろう。安倍政権はこれを恐れている。拘留期間が長引いているのも、これが理由だろう。
麻生財務相は早急に辞任すべきである
すでに財務省の公開文書によって、昭恵夫人が少なからず関与していたことは財務省も認めている。先にも述べたように、安倍首相も、「私も妻もこの問題に関与していたら、総理大臣も国会議員も辞める」と言っている。今後は安倍首相の進退も問われるだろう。
ここまで大事になっているわけだから、当然のことながら、財務省トップである麻生太郎氏も責任を取るべきである。
僕は、(財務省が報告書を国会に提出した3月12日)月曜日の夕方には、麻生財務相は辞任すると思っていた。しかし、麻生氏はいまだに辞任について否定し続けている(3月14日18時現在)。僕は月曜日の晩、自民党の幹部3人に「麻生氏が辞任しないのはなぜか」と尋ねた。3人とも「自分も、麻生氏は辞任すると思っていた」と答えた。
麻生氏が辞表を出さないことで、下手をすると、影響が安倍首相にも及ぶ可能性がある。3人の自民党幹部たちは、それを心配していた。
麻生氏の周辺では、麻生氏が辞任しない理由として、世論の動向や内閣支持率を見た上で、最後の最後まで麻生氏の辞任カードを残しておき、安倍首相の延命を図るというシナリオなのではないかという見方が強い。
つまり、麻生氏が辞任すると、ドミノ式に安倍首相も辞任の可能性が高まるというわけだ。しかし、僕は辞任の回避は逆効果だと思う。
このまま嵐が過ぎ去ることはあり得ない。そんなことになれば、世界中から「日本の民主主義は機能しているのか」「日本のメディアは何をしているのか」という話になるだろう。言語道断である。
なぜ、新聞各紙は、これだけ深刻な事件について大人しい対応なのか。
3月9日、近畿財務局のノンキャリの職員が自殺していたことが明らかになった。彼は、本省(財務省)の指示で決裁文書を書き換えさせられたというメモを残しているという報道もある。
これが事実ならば、上からの圧力で、やってはいけないことをやらされたということだ。そして自責の念に駆られ、あるいは、上に対する抗議として命を絶ったのではないだろうか。
この問題の先に、どのような事態が予想されるか。僕は、下手をすると内閣総辞職もあり得ると見ている。少なくとも、9月に控える自民党総裁選挙は前倒しになる可能性が高い。安倍首相や麻生財務相はどのように説明し、責任を取るのか。
公文書偽造は、犯罪である。今、安倍政権には最大の危機が訪れていると言えるだろう。 

 

●池上彰がハッキリ語るメディアの政権への「忖度」と「空気」 2019/7
ジャーナリストの池上彰は、昨年より講談社のPR誌『本』で「伝える仕事」と題するエッセイを連載している。今年6月号の第15回では、「忖度と空気について考える」というサブタイトルを掲げ、権力に対するテレビや新聞などマスコミ業界の忖度の実態が語られた。書店で無料で配布されている小冊子での連載のためか、さほど話題にはなっていないようだが、テレビで人気を集める池上が、メディアにおける「忖度」の実態に言及したのは意義深いと思う。
「圧力」から「忖度」へ
池上はこの回でまず、忖度という言葉について《本来は相手の立場や気持ちを慮るという麗しい配慮を指す言葉だったはずなのですが、いまや上司や権力者の気持ちを勝手に解釈して、怒らせないようにしよう、喜ばせよう、と自主的に動くことを言います。とりわけ官僚の世界に、蔓延しているようです》と、近年になってその意味が変わってきたことを指摘している。そのうえで、自分が仕事をしているテレビの世界にも《忖度はあるのか。あるのです。かつてのような政治家からの露骨な圧力はなくなりましたが、圧力を受ける前に忖度し、結果的に圧力がかからないという状態になっているように思えます》と、はっきりと書く。
かつてテレビの世界では、政治家からあからさまな圧力を受けて、予定されていた番組の放送が中止されたり、ニュースキャスターが降板するということもあった。1968年には、TBSのニュース番組「JNNニュースコープ」でのベトナム戦争報道を「反米的」と捉えた与党自民党の幹部が、TBSの社長を党本部に呼びつけ、結果的にキャスターの田英夫が番組降板に追い込まれている。このとき、TBSの社長に対し、当時の自民党幹事長の福田赳夫(のちの首相)は、放送免許の剥奪すら匂わせたといわれる。
キャスターの降板というと、近年でも、2016年にNHKの「クローズアップ現代」のキャスターだった国谷裕子が番組を降板したことが思い出される。しかしそれは、田英夫のときのように政権からの圧力によるものではなかった。このケースでは、現場は抵抗したものの、上層部からの指示で交代が決まったとされる。NHKの元記者である池上が同局内の知人から得た情報によれば、《菅義偉内閣官房長官への国谷さんのインタビューについて「官邸が不快感を示している」という情報を知った幹部が「忖度」して国谷さんの降板を指示した》という。
池上によると、こうした忖度が発生するようになったのは、2006年の第1次安倍政権の誕生からだという。これ以降、《ニュース番組で政権に批判的なコメントが出ると、総理官邸のスタッフあるいは自民党から、局にひとつひとつクレームが入るようになりました。メディア報道を厳しく監視するようになったのです》。その後の民主党政権でも同様の動きはあったが、2012年に第2次安倍政権が発足すると、一段とチェックが強まり、「なぜ政権の言い分をしっかり伝えないのか」「内容にバランスを欠いている」などと細かい指摘が連日のように続くことになる。
池上は、テレビ局において政権への忖度が発生するメカニズムをこのように説明する。
《こんな抗議や注文があったからといって、放送局側がすぐに委縮することはないのですが、次第に「面倒だなあ」という空気が浸透します。抗議があるたびに誰かが対応しなければなりません。それが続くと、「抗議が来ると面倒だから、このコメントはやめておこう」といった配慮を現場が自主的にするようになってきたのです。忖度というよりは「面倒だからやめておく」という空気なのです。/こうなれば政権は、「我々は圧力などかけていない」と言えます。その通りだからです。でも、それでいいのか。外から見れば、「現場が委縮している」ように見えるのです》
こうした「面倒だからやめておく」という空気はいまやテレビだけでなく、新聞業界にも漂っているらしい。池上がある大手新聞社(原文では実名)の記者から聞いた話によると、その新聞社では、《安倍政権に批判的な集会があると知っても、「どうせ取材しても紙面に載らないか、小さな扱いになるだろう」と記者たちが考えて、取材に行かない》という。
このように、いまのメディア内部の状況を知ると、愕然とせざるをえない。権力の監視は、報道機関たるマスメディアが果たすべき大きな役割のひとつである。それが現状では、直接圧力を受けたわけでもないのに、メディアの側が自らその役割を放棄しているというのだから、権力側からすればこれほど御しやすいことはないだろう。
選挙特番で池上彰が心がけていること
池上彰は、政権側から抗議や注文を受けたことはないものの、省庁から「ご説明」が来ることはよくあるという。たとえば、数年前に、テレビ番組で「アベノミクスによって全国で公共事業が増え、東北復興のための工事の労働力が不足している」と解説したところ、国土交通省の担当者が「こういう対策をとっています。そのことを知っておいてください」と説明をしに来たという。こうした対応は、省庁の「世論対策」として、メディアを通じて社会的影響力を持つ人たちを対象に行なわれているらしい。これについて池上は次のように書く。
《人によっては、こうしたことを言外のプレッシャーを受け止めることもあるでしょう。「我々に不利なことは言うなよ。いつもコメントをチェックしているぞ」というわけです。/私は鈍いのでしょうか、これらを圧力とは感じません。さまざまな資料を先方が持ってきてくれるのですから、ありがたく頂戴します。省庁側の立場を知るいい機会です》
こうした姿勢こそ、池上の批評精神の源泉になっているのだろう。選挙のたびに特別番組でメインキャスターを務める池上は、候補者や各党の幹部に対し鋭い質問をすることから「池上無双」などと呼ばれて久しい。池上は、くだんの連載の別の回で、選挙特番での候補者へのインタビューで心がけていることも記している(「伝える仕事」第16回「選挙特番のキャスターになった」、『本』2019年7月号)。そこで彼は、候補者に対し「議員になったら、どんな仕事をしたいですか?」という一般的な質問はしてはいけない、と断言する。「お母さんたちが子育てしやすい環境をつくります」「待機児童をなくします」などといった、当たり障りのない答えが返ってくるに違いないからだ。これでは建前の話に終始してしまう。
池上はより具体的な質問をすることで、本人に自覚や気構えがあるかどうか視聴者に伝わるようにしている。たとえば、ある選挙では、かつて「消費税反対」を訴えて当選したことのあるタレント議員が、消費税引き上げに賛成する政党に鞍替えして公認で立候補した。そこで池上は、「消費税に対する考えが変わったのですか?」と問い質すと、「いや、政党から出てくれと言われたので出たので、政策については打ち合わせしていない」との答えが返ってきた。このやりとりからは、《この候補者の資質や、この候補者を引っ張り出した政党の無責任さが浮き彫りに》なったわけである(前掲)。池上はこうした質問を、とくに芸能人やスポーツ選手など、知名度だけで政党から出馬を要請されたようなタレント候補にぶつけているという。
もっとも、候補者の自覚や資質は、投票のあとよりも前に知りたいところではある。「池上無双」は、むしろ選挙前に特番を組んで発揮されるべきだという意見もあるだろうし、私もそれには賛成する。とはいえ、開票結果が出てすべてが終わるわけではない。当選した候補には当然ながらそこからがスタートであるし、私たち有権者にとっても、当選者たちが今後どんな仕事をするのか見守っていく必要がある。そのためにも、選挙特番で候補者たちの気構えを知ることはけっして無駄ではないはずだ。大切なのは、選挙のときだけでなく、日頃から政治の動向をチェックすることではないか。そのためにも、マスメディアには、政治家に対する忖度抜きで、権力を監視する役割をしっかりと果たしてほしいものである。
池上彰は、きょう7月21日に投開票が行われる参議院議員選挙でも、テレビ東京系の選挙特番「池上彰の参院選ライブ」(夜7時50分〜)でメインキャスターを務める。はたして今回は、どんな質問で候補者や自民党総裁である安倍首相をはじめ政党幹部に斬り込むのだろうか。 

 

●米国人記者が驚いた「日本メディア」の談合体質 2019/9
「質問を事前に伝える」謎習慣
日本ならではのシステムと言っていい、この記者クラブ制度という存在に何度も驚かされてきた。
たとえば2003年。私はAP通信からウォール・ストリート・ジャーナルへ移り、東京支局の特派員として取材にあたっていた。日本銀行の福井俊彦総裁の記者会見が開かれ、私もぜひとも取材したいと日本銀行広報部へ連絡を入れた。返ってきたのは意外な言葉だった。
「私どもではなく、記者クラブの許可を取ってください」
記者クラブは加盟しているテレビや新聞各社が、持ち回りで幹事社を務めている。幹事社の担当記者に連絡を入れると、記者クラブ加盟社ではないという理由でいきなり断られた。食い下がると、ある条件つきで出席を許可された。それは福井総裁へ質問をしないことだった。
日本の場合は総理大臣をはじめとする政府高官の記者会見において、質問を事前に通告する習慣が定着している。アメリカではありえないことだ。たとえばトランプ大統領の記者会見では何をぶつけてもいい。
自分が取材を受ける場合、事前に言われていれば、考え方を整理しておくうえでも助かると思う。それ自体は悪くはないと思うが、答える側にとって都合の悪い質問を除外することを目的にしているとすれば、悪しき習慣だと言わざるをえない。
実際、日本の政府高官の記者会見は判で押したような質疑応答になっている。質問する側の例外の一人が東京新聞の望月衣塑子記者だ。質問するという記者として当たり前の仕事をしているようにしか見えないが、その望月さんが浮いているという状況が、今の日本メディアを物語っている。
忖度と無縁だから独自取材ができる
話を記者クラブに戻そう。
国連特別報告者として世界各国の言論や表現の自由を調査しているデビッド・ケイさんが2016年4月に来日したとき、記者クラブの廃止に言及している。記者クラブはアクセスと排除を謳うたう存在であり、ゆえにフリーランスやオンラインのジャーナリストの不利益になっているという指摘はまさに的を射ていた。
ただ、記者クラブに加入していないからといって、ニューヨーク・タイムズ時代もウォール・ストリート・ジャーナル時代も、東京特派員として仕事がやりづらかったかと問われれば答えはノーだ。
ニューヨーク・タイムズは、政権に批判的なメディアというレッテルを官邸や外務省から貼られた。2009年に東京支局長に就き、官邸へあいさつに行ったときには前任者が書いた批判的な記事が取り上げられ、官邸で取材をする条件としてその前任者の記事を批判し、謝罪する文を官邸に提出するように求められたが、もちろん断った。忖度そんたくとも同調圧力とも無縁の環境だからこそ、調査報道や独自の取材に専念することができた。
「談合的」に記事が生み出される仕組み
記者クラブは公的機関や業界団体などに、中央や地方を問わずに存在している。
加盟することで得られるメリットを考えてみると、各種の会見や発表に関する連絡が確実に届くことで、記者がストレスを感じることなく仕事ができる点があげられる。当局側としても媒体ごとに個別に対応するよりも、記者クラブという窓口を介して一括に連絡できることで、仕事の煩雑さを避けることができる。
アクセス・ジャーナリズム(権力者から直接情報を得る手法)はアメリカにも存在するが、必要以上に依存度が深まればさまざまな弊害が生まれる。忖度や同調圧力が色濃く飛び交う雰囲気となり、暗黙の了解のもとで、ストーリーを決める権利を情報源に譲ってしまう。半ば談合的に生み出された記事に果たしてどのような価値があるのだろうか。
「脱ポチ宣言」を掲げた朝日の残念な撤退
朝日新聞は2011年10月、調査報道を専門とする特別報道部を東京本社内に立ち上げている。きっかけは東日本大震災および東京電力福島第一原発事故に関して、民主党政権や経済産業省、東京電力の発表を垂れ流す報道に終始して、信頼を失った苦い経験に対する深い反省だった。
記者は総勢30人。特別報道部のドアに「脱ポチ宣言」と書かれた紙を貼った。記者クラブの飼い犬にはならない——馴れ合い体質との決別を宣言する不退転のスローガンだった。
その後、数々のスクープを打った特別報道部が2014年5月20日の朝刊1面で大々的に報じた調査報道が、大きな波紋を広げた。
東京電力福島第一原発事故が発生した当時の所長、吉田昌郎氏が政府事故調の聴取に応じた際の記録で、約3年間にわたって非公開とされてきたいわゆる「吉田調書」のコピーを極秘裏に入手した。
約400ページにわたる文書のなかで特別報道部が注目したのは、福島第一原発に詰めていた所員の約9割にあたる約650人が、吉田所長が待機命令を出していたにもかかわらずに現場から撤退。結果として事故対応が不十分になった可能性があると言及されていた点で、見出しにはこんな文字が躍っていた。
〈原発所員、命令違反し撤退〉
しかし、朝日新聞は約4カ月後の9月になって、誤った記事だったとしてこのスクープを取り消している。さらには記事を書いた特別報道部の記者をデスクとともに処分し、木村伊量代表取締役社長も騒動の責任を取る形で同年末に辞任した。
内容的には正しかった。本来ならば見出しのなかの〈違反〉という言葉が誤解を招くとして、見出しの訂正が必要という程度だった。
おりしも朝日新聞は、激しいバッシングを浴びている渦中にいた。
吉田調書に関する記事を取り消す約1カ月前のこと。太平洋戦争中の済州島などで1000人を超える若い朝鮮人女性を慰安婦にするために強制連行したとする、吉田清治氏の証言に基づいた記事16本を取り下げると突然発表していた。
直後から激しい批判が浴びせられ始めた。ほかにも「吉田証言」を基にした慰安婦記事を掲載していた新聞が少なくなかったが、朝日新聞だけに批判が集中した背景には、ことあるごとに名指しで非難している安倍晋三首相の発言も大きい。
アメリカのような「横のつながり」がない
追い打ちをかけるかのように、8月下旬になると「吉田調書」記事を誤報だとする反論が他紙に掲載された。読売新聞や産経新聞も「吉田調書」のコピーを入手し、朝日新聞を徹底的に攻撃する。政権へのスタンスをかんがみれば、吉田調書のコピーは権力者側からリークされたと見るのが自然だろう。やがては朝日新聞と同じリベラル派の毎日新聞にも、共同通信が配信した朝日新聞への批判記事が掲載された。
アメリカではメディアに対して理不尽な攻撃を仕掛けてくるトランプ政権を前にして、場合によってはトランプ応援団のFOXニュースと批判的なCNNが共闘することもある。使命感や倫理観が共有されているからこそ、横のつながりが会社やイデオロギーの差異を乗り越える。
「ポチ」に戻ることを自ら選んだ
話を朝日新聞の「吉田調書」の件に戻せば、記事の取り消しや記者の処分以上に、ジャーナリズムを担う組織として重大な過ちを犯してしまった。
朝日新聞は特別報道部に所属していた記者の数を、いきなり半分ほどに減らしてしまった。部署こそ存続させたものの、金看板として掲げていくはずの調査報道に白旗をあげ、実質的に撤退した。
安倍政権や同業他紙、そして世論から非難の集中砲火を浴び、読者から寄せられていた信頼も著しく失墜。発行部数も激減していく危機のなかで、生き残るためには高いリスクを伴う調査報道を捨て、再びポチに戻ることを朝日新聞は自ら選んだ。
読者の期待を裏切ってしまった朝日新聞が、再びジャーナリズムの矜持きょうじを見せたのは2017年2月。森友学園問題の調査報道まで待たなければならなかった。
メディアは信頼を失い、レイシストが跋扈ばっこする
ジャーナリズムが本来の役割、つまり権力の監視役を果たしていない状態が続けばどうなるのか。本来は面白いはずの政治に対する無関心だ。
日本は、革命の歴史がない民主主義国家である。国民が自分たちの手で王室やアンシャンレージムを倒して、民主主義を手に入れたという経験はない。そのため、主権が国民にあるという、民主主義の最も基礎的な考え方を持っていない。日本の今の民主主義は、占領軍が持ってきたものだから、国家が自分たちのものだという意識も薄く、お上(官僚)国を任せてしまう。権力者を常に監視しないとダメだという意識さえ薄い。そのため、権力側の意向を忖度するような報道があっても、あまり違和感を感じない。
既存のメディアに対する不信感も増幅されていく。しかし、生きていくうえで情報を得る作業は欠かせない。そして、情報が一方的に発信されるだけだった新聞、テレビ、雑誌などの既存のメディアに取って代わる存在となったのがソーシャルメディアだろう。
もっとも、オンライン上でユーザー同士が双方向で情報を共有することで成り立つソーシャルメディアは、情報を不特定多数へ素早く伝えられる利点がある一方で、いわゆるフェイク・ニュースが拡散されやすい点で、諸刃の剣だ。
そうした背景が、極端に偏った主張や感情論をツイッター上などで繰り返すTroll(荒らしや)という新しい存在を生み出した。意見があまりにも攻撃的で、主張も際立っているがゆえに目立つ。
歪んだ人間関係のなかで匿名にて発信できるツイッターは、荒らす人にとって理想的なツールだろう。
「望まない圧力」にのみ込まれない人になる
いままで見聞きしたことのない状況に直面したときに、しっかりとした自分の考え方に添って物事をとらえ、行動していくうえで何よりも求められるのは正しい知識だ。新聞やテレビが自ら信頼性を放棄してしまったなかで、本来ならばアメリカのように新しいメディアが台頭してこなければいけない。
日本でも新しいメディアがようやく注目を集める状況が生まれている。早稲田大学ジャーナリズム研究所のプロジェクトとして2017年2月に発足し、1年後に独立した「ワセダクロニクル」は、調査報道を専門とする特定非営利活動法人(NGO)。編集長は朝日新聞出身だ。運営資金は寄付金でまかなわれ、発足と同時に開始されたクラウドファンディングでは4カ月で550万円超が集まった。
日本では企業をはじめとするさまざまな組織のなかに、家族の絆にも似たウエットな関係がもち込まれる手法が定着している。強い仲間意識のもとで、お互いを支え合う構造に居心地のよさを覚えるほど、自分なりの倫理観を貫きながら行動することが難しくなる。和を乱す、信頼できない人間というレッテルを貼られてしまうからだ。
自分が何をしたいのか。何をすることが正しいのか。ただ何となく生きるのではなく、強い覚悟と自尊心を貫けば、望まない圧力にのみ込まれることもない。
そのためにも、正確で公正な情報を届けてくれる、信頼に足るメディアを自分自身で選び、確保してほしい。時間と労力を要する作業になるが、無数の情報が飛び交うネット空間から自分の力で探し出すことが、頼もしい道しるべになるからだ。 

 

●週刊誌の「矜持」 甘利報道で健全さ示す 2016/2
甘利明(あまり・あきら)・経済再生担当相が1月28日夕、「週刊文春」が報じた金銭授受疑惑についての「説明責任会見」(NHK「ニュースシブ5時」がほぼすべてを中継)を開いた。この中で、「秘書の監督責任と政治家としての矜持(きょうじ)に鑑み、閣僚の職を辞する」と述べた。テレビ各局ともこの日の最大トピックとして扱い、翌日の新聞各紙一面にも「現金授受問題で閣僚辞任」などの見出しが躍った。
前回の本欄(1月20日付)では、同じように週刊誌が口火を切ったタレント、ベッキーさんの不倫スキャンダルやアイドルグループSMAP解散騒動という、世俗的問題をテレビや新聞が後追いしニュース枠で扱っていることに苦言を呈した。だが、今回の甘利氏の疑惑報道は、日本政界の裏面を「可視化」したという点で、価値ある社会的な教材となった。その立場から、今回は雑誌ジャーナリズムのプラス面について書いておきたい。
支持率も高く選挙にも強い安倍晋三政権の主要閣僚の金銭授受疑惑が、なぜテレビや新聞ではなく、週刊誌で最初に報じられたのか。ある全国紙の政治記者いわく「今の大手新聞社は、新聞への軽減税率の適用問題もあり、政権サイドからの情報取得が重要になっており、自社単独では書きにくい」という。
しかし、疑惑の告発者である千葉県の建設会社の総務担当者が、その証拠を新聞やテレビではなく週刊誌に持ち込んだ事実は、大手マスコミへの社会的信頼度が揺らぎ、深刻なメディア危機が進行しているためではないのか。
甘利氏は会見で、自ら総務担当者から現金を受領したことを認め、公設秘書らが供応を受け、現金を受け取り、その一部を私的に流用したことを明らかにした。
驚くべきは100万円、1000万円という金が、より大きな利益を求めて飛び交っていた事実だ。筆者もかつて日本セイシェル協会の理事長として、捕鯨や西インド洋でのマグロ漁をめぐり、水産業界といわゆる族議員と付き合い、今回のようなことを見聞きした。そして、業界と族議員は「阿吽(あうん)の呼吸」で、小さな案件は手土産や選挙時の協力で見返りを受け、「やばい」案件には、ひそかに現金が動くことを知った。
週刊文春はその過程をつぶさに報じたから、甘利氏も認めざるを得なくなった。一連のことは素人的にはどうみてもアウトだが、政権幹部からは甘利氏は「はめられた」といった弁護の声さえ聞かれた。
仮にそうだとしても、麻薬取引や売春の摘発では「おとり捜査」がよくある。そうした手法でも、本来は表に出ないことが雑誌によって公開されたことは日本のジャーナリズムがまだまだ健全な証拠でもある。
筆者の知人には何人かの週刊誌記者がいるが、芸能ネタはそれに興味を持って購入してくれる読者を想定した営業政策であり、甘利氏の案件のような新聞やテレビが報じない記事で社会浄化に貢献することこそが自分たちの「矜持」だという。
また、甘利氏の説明などで出てきた「記憶にない」という表現は、ロッキード事件で田中角栄(かくえい)元首相の盟友だった小佐野賢治(おさの・けんじ)氏が国会での証人喚問で繰り返して流行語になった。この事件も、月刊誌「文藝春秋」の1974年11月号で発表された評論家、立花隆(たちばな・たかし)氏による「田中角栄研究〜その金脈と人脈」に端を発している。
甘利氏だけでなく、“号泣”で有名になった詐欺罪などに問われた元兵庫県議、野々村竜太郎(ののむら・りゅうたろう)被告も裁判で「記憶にない」を連発した。これが「政治家型健忘症」とも呼ぶべき社会病理だ。
最後に、政治家の疑惑の度に使われる「説明責任」という言葉について考えてみたい。英語では「accountability」(アカウンタビリティー)に相当し、「責任の自覚と責務の履行」という意味である。具体的には「透明性、公正性、真実性、倫理性に基づいた対外説明。組織内部での改革実行」を指す。その点でも、今回の説明責任は笑止である。 

 

 
 
 

 

●週刊新潮

 

●週刊新潮とは何なのか?  2016/3
新潮社の週刊誌『週刊新潮』が、今年で創刊60周年を迎えた。同誌は1月、日本全土を揺るがしたSMAP解散騒動を真っ先につかんだといわれ、1月20日発売号ではメリー喜多川副社長の独占インタビューを掲載。連日の報道合戦で情報が錯綜する中、当事者の証言は強烈なインパクトを残した。最近では3月24日発売号で乙武洋匡氏の不倫を報じ、世間を驚かせた。
1956年に創刊され、最近では『週刊文春』と鎬を削る同誌。出版業界の荒波、熾烈な週刊誌戦争を60年間戦い抜いてきた軌跡は、現在の『週刊新潮』にどのような形で現れているのか。2009年から編集長を務める酒井逸史氏を直撃した。
週刊誌界でトップを走る"センテンススプリング"と対峙する『週刊新潮』の酒井編集長。その言葉からは、何層にも塗り重ねられた"週刊新潮の色"が見えてくる。前編では「3つの伝統」、後編では「少年法と実名報道」をテーマに絞った。
創刊から一貫している三題話
――最近は週刊誌の盛り上がりを感じているのですが、売り上げにはどのようにつながっていますか。
週刊誌を取り巻く状況は、今でも決して良くありません。出版不況といわれる中、週刊誌だけを見ても昨年だけで平均13.6%も売り上げが落ちています。もちろん各雑誌によって数字は違うわけですが、厳しい「冬の時代」であることには間違いありませんね。われわれは13.6%までは落ち込んでいませんが、しかしそれでも崩れ落ちていく雪崩の斜面につかまりながら、そこを何とか駆け上ろうとしているような感じです。
出版業界は1996年をピークに右肩下がりが続いています。1996年と今を比較すると、雑誌は部数でマイナス62%。金額ベースでも50%ほど減っている。96年はWindows95が発売された直後です。以後、発達してきたネットメディア、またはデジタルとの因果関係があるという推測は当たっているでしょう。
――今まで通りの「スクープ」では、多くの人々が週刊誌を手に取らなくなったということでしょうか。
そこまでシンプルな問題でもないと思います。総合週刊誌で90年代を引っ張ってきたのが、『ポスト』と『現代』。そこが1位、2位を争っていた頃、『新潮』も『文春』も後塵(こうじん)を拝していました。当時、読者をつかんでいたのは「ヘアヌード」。有名な写真家、プロデューサーが女優と交渉し、撮り下ろしの写真集を出版する際、その写真の一部を『ポスト』や『現代』が先に掲載することで多くの読者を獲得していました。ところが、その路線も長期化するにつれて陰りが見えてくるようになります。ヘアヌードが目新しさを失い、写真のファーストチョイスにも高いコストもかかるようになって、やがてヘアヌード時代は終わりを告げます。
『現代』は硬派に舵を切る一方、「死ぬまでSEX」という企画で盛り返し、『ポスト』もまた踏襲する。他方の『新潮』と『文春』は読者層が『現代』『ポスト』と異なっていて、女性もかなり多いので、だからこそ、ヘアヌードといったセクシャルな方向性は選べません。『週刊新潮』でいうと、「金」「女」「事件」という三題話の伝統があったことで、あまり形を変えずに60年間やってこられたわけです。
――創刊時から一貫しているんですか。
そうです。私が編集長に就任して7年経ちました。大きく変えようとは思っていません。われわれは伝統的にやろうと。担当役員をやっていた斎藤十一さんの言葉を借りると、「われわれは俗物だ」。だから時代が変わっても、俗物が求めるものを追いかけるわけです。人間の興味はどこにあるのか。新聞が書くことが難しい「本音」をベースに雑誌を作っていくのが、われわれの仕事だと思っています。
誌面で「スクープ」と謳わない
――そこで核となるのは、やはり「スクープ」ですか?
ネット配信の記事は他の部署がやっているので別ですが、実は『週刊新潮』は中吊りや新聞広告で自ら「スクープ」と謳ったことはないはずです。よその雑誌では「特大スクープ!」とかよく目にしますよね。なぜ、『週刊新潮』の本体が「スクープ」という言葉を使わないかというと……ちょっと自虐的で卑下した意味合いも含めてのことなりますが、「所詮、われわれは週刊誌」という意識があります。世間に向けて「スクープ」というのはおこがましいという感覚ですね。胸を張って「スクープ」というのは正直、気恥ずかしい。これもまた、変わっているというか、ひねくれているところでしょうね。
――そのような考えも代々受け継がれていると。
私が編集長を引き継いだのが53年目。その伝統を壊すわけにはいかないでしょう(笑)。それから、歴代の編集長の在籍期間がわりと長いのも特徴です。60周年を迎えて、私が6代目の編集長になります。これが次々に編集長が変わるようだと「伝言ゲーム」が増えて、徐々に変化していきそうですが、6人であればまだ「伝言ゲーム」がきちんとつながる範囲内。そういったことも伝統が受け継がれている背景にあると思います。
もちろん今は時代が違いますから、デジタルとアナログの融合などいろいろな問題があります。同じやり方ばかりを続けるのはよくありませんが、外からの見え方は「古民家」みたいなものでいいと思っています。どんなにしゃれた外観でも、人々が旅行で癒やされるのはひょっとしたら「古民家」ではないか。そこには新しい物はあまりないかもしれませんが、一度中に入ってみると意外とくつろげることに気づく。「スクープ」という言葉だけにとらわれず、そういう部分での伝統は守っていきたいです。
自前の記者、書くまでの下積み10年
――現状、その本体は何人体制で動いているんですか。
編集部で忘年会をやる話になると、80人ぐらいは参加しています。ただ、そこにはカメラマン、レイアウター、デザイナー、庶務の方もいるので……実際に記事を作っているのは50人、プラスアルファぐらいです。
――それはライターも含めてですか?
これもまたちょっと変わっているところですが、私らはほとんどライターを使いません。記事は、ほぼ自前の社員が書いています。フリーの方もいますが、人数的には1割強ほど。小さな会社なので、昔から社内でまかなう流れが今も続いています。それから、取材をする記者と原稿執筆者は必ずしも一致しません。そこが新聞と明確に異なるところ。分かりやすくいえば、新聞はペーペーの新人が原稿を書くこともありますが、私たちはペーペーには書かせない。
もう少し説明しますと『週刊新潮』は10年選手以上じゃないと、長い記事は絶対に書かせない伝統が残っています。もちろん、短い記事は経験が浅くても書くことはありますが……。20代のうちは、データマン(原稿の材料となる情報、資料を集める役割)として取材をきっちりやる。毎週毎週取材に行って、人の話を聞く。例えば、水崎さんを取材する場合、「マイナビニュース」とはどのような媒体かを調べた上で、データ原稿として水崎さんの一人語りを書いてデスクに提出する。そういうデータ原稿が集まって1本の記事が出来上がっています。デスクは軍曹というか、現場監督的なポジション。編集長はそこにテーマをあてがって、デスクはそのテーマに沿って、人を動かしていきます。
――いつも気になっていたのですが、特集記事の書き出しも独特ですよね。小説や詩、落語の引用、時にはクイズからはじまるものもありました。データマンを10年経験した書き手の裁量によるものなんですか。
「『週刊新潮』は文学的であれ」というのも1つの伝統です。旧約聖書に「日の下に新しき者あらざるなり」という言葉がありますが、この世に全く新しく起きることなど一つもない、という考え方ですよね。そういう風に考えると、どんな事件も一度起こった出来事の亜型であると見ることができます。もちろんディテールはそれぞれ異なりますが、人間の歴史は長いので、どこかで似たような出来事が必ず起こっている。例えば殺人事件の動機は事件ごとに千差万別であっても、大きく分類すればそんなに多くはない。同じ人間同士、同じような原因で事件に発展するケースばかりなのです。
新聞には「細かい一次情報を書き続ける」という使命があります。しかし、われわれは背景報道をしているわけです。背景について深く掘り、敷衍(ふえん)する。さらにそれらを寓話(ぐうわ)的な教訓として定着していきたいという思いもある。だからこそ、落語や小説、警句から文章を書き出したりするのです。それは、「人間の行いが今も昔と同じである」ということにもつながることですし、「文学的であれ」という伝統にもつながる。これも新潮ならではの芸風ですが、きっとよしとする人もいれば、もっと直裁的に書いてほしいという人も、もちろんいらっしゃるでしょうね。
目指すのは「老獪でタフな雑誌」
――『週刊文春』とはいつごろからライバル関係のようになったのでしょうか。
私はもともと写真週刊誌『FOCUS』にいて、『週刊新潮』にたずさわってまだ11年ほどしか経っていないのでその歴史はあまり分かりません。ただ、好敵手とは思っています。発売も同じ曜日ですから……。残念ながら、今年は文春さんのスクープの連発に冷や汗、脂汗をかかされることも少なくありませんでした。しかし「今に見てろよ」という思いがある一方で、他所は他所さまのことであり、必要以上に煽られることなく、私たちは週刊新潮独自の道を行こうとも考えています。おそらく、皆さんが想像するほどには意識していません。
――60周年を迎え、これからの『週刊新潮』をどのようにしてきたいですか。
ちょうど10年前に、私の一代前の編集長が50周年を迎えた時に、テレビレポーターから「あなたにとって『週刊新潮』は?」と問われて、答えたのが「謝らないこと」という言葉でした。どう解釈するかは難しいですが、私なりには、週刊新潮が取材を重ねた結果、「こうだ」と思って書いたときには、それが間違っていたとしても簡単に「謝罪しない」ぐらいの覚悟を持ってやらなければならない、逆に言えば、謝らなくてもいいぐらいの基礎のしっかりした記事を書け、そんな意味だったんじゃないかなと、受け止めていました。
そのニュアンスに近いんですが、私は「老獪な雑誌」にしていきたいと考えています。世間という池に石を投げて、大きな波紋、あるいは波を立てることを目的としているところもある。それは芸能人のスキャンダルであったり、事件の発掘だったり、政治的なスキャンダルだったりするかもしれませんけども、いずれにせよ世間にさざ波が立ちます。そのさざ波がどのような波紋を描くかということもあらかじめ考える。野卑な言い方をすれば、切った張ったの週刊誌稼業ですから、時と場合によっては返り血を浴び、相手と刺し違えることや斬ったつもりが斬られていたということもあるでしょう。でも決して慌てず、うろたえず、それすらも計算しているような、そんな老獪でタフな雑誌でありたいと思っているのです。
メディアに問う「思考停止」
――最近では、川崎市中1男子生徒殺害事件を実名で報じていました。あらためて、こだわり、思いをお聞かせください。
まず、少年法をどのように認識しているかということだと思います。私が編集長になってから名前を載せたケースはいくつかありますが、少年法の趣旨に真っ向から批判を加えているわけではありません(過去に実名で報じた少年犯罪…1999年光市母子殺害事件/2013年吉祥寺女性刺殺事件/2014年名古屋の女子大生による殺人事件/2015年川崎市中1男子生徒殺害事件 ※2009年から編集長に就任)。「少年の実名をさらしてしまうと更生の妨げになるのではないか」という趣旨はむろん理解できます。一方で、少年法に罰則規定がないということもある。だからといって、それをむやみに破っていいというわけではないことも分かっている。
ただ、「少年だから名前を書かない」ということだけをひたすら守るのは、メディアとしての思考停止ではないでしょうか。世の中、どんなことにでも「程度」というものがあるわけです。それから事件報道の基本は、「誰」が「何」をやったかということ。そこでの固有名詞はとても大事な要素です。法律の趣旨に鑑みて許容できる範囲であれば、それを認めるのもやぶさかではない。ただ、名前を載せるか否かを毎回考えないといけないんじゃないの? と私は問いたい。
従って、すべての少年事件で名前を載せようなんて、全く考えていません。繰り返しになりますが、通常は名前を報じることが更生の妨げになることもよく分かります。ただ、私たちが名前を載せた少年事件のケースは、非常に大きな影響を社会に与えた事件です。例えばこういうことではないでしょうか。私たちが名前を載せたことによって更生ができなくなるような、そんな程度の反省では「更生失敗」であるといえるような、そのぐらい深い反省を求められるような案件……、極めて重大な事件ばかりなのです。時折、少年法で規定されていた少年犯罪の範囲を超えているような事件が起きるわけです。世の中に与えた衝撃度、犯罪のありさま、本人の供述など、総合的に考えてみたとき、「名前を載せない」という判断に必ずしもならないケースもあるのではないかと思うわけです。そのケースに至ることが、時々、ごくごく稀にある。これが私のスタンスなのです。
メディアというものは、第四の権力としていろいろなものを批判するものですよね。それを私たちは私たちのやり方で少年法に疑義を呈しているわけです。その意味では、高市早苗総務相が「停波」発言をして、テレビ局が騒いでいるのと変わらないと思います。高市総務相にはみんな一斉に噛みつくのに、なぜ少年法という法律になると、全メディアが右へならえで、かたくなに「名前を報じてはいけない」の一辺倒になるのでしょうか。少年の更生が全てに優先するという理想主義なのか、あるいは、単に杓子定規に「法律に書いてあるからだめ」ということなのか。「少年は更生すべき」というのはもちろんです。でも、あまりにも杓子(しゃくし)定規にすぎませんか? われわれ『週刊新潮』は「本音のメディア」でありたい。だからこそ、私たちは名前を載せることがあり、その点でもちろんご批判も受けます。
ですので、重大な少年事件が起きた際、毎回丁寧に考えた上で、「載せない」という決断であれば、そこに問題はないと思います。しかし、毎度、同じ判子をつくように「載せない」と、考える前に判断するような風潮に疑問を抱いているわけです。だからこそ、私たちはその都度、呻吟(しんぎん)して載せるかどうかを判断しているつもりです。二十歳未満の犯人であると、機械的に実名を報じないというのは、やはりメディアの思考停止なのではないでしょうか。
独自で考えてこそのメディア
――どのような流れで「名前を載せる」と判断しているのでしょうか。
最終的にはすべて私の判断です。編集部に少年法ガイドラインがあって、それを頼りに決めているわけではありません。その点、恣意的ではないか、というご批判もあるでしょう。一企業が決めていいのか、一編集者が法律にそむくことをやっていいのかという批判も、当然、生じるでしょう。でも考えてみてください。すべての報道が完全なガイドラインの統制化にあって、それでよいのでしょうか。何を面白いと感じて、何を報じるか、どこまで報じるか、そもそもジャーナリストの主観から始まります。極論すれば恣意的なものなのですよ。
また、一私人が決められないとなると、メディアは国が決めたことで動かないといけないという逆説になる。でも、メディアは一番そこから遠いところにいなくてはなりません。だからこそ、一企業が決めたことでいいんです。週刊新潮は「国から決められたことだけをやってればいい」というメディアではありません。メディアは自分で考えなければいけない、と思っています。
さらに申し上げれば、売らんかなという批判もありますね。商業ジャーナリズムだというわけです。しかし、日本ではNHKを除けば、ほぼ全てが商業ジャーナリズムではないですか。
週刊新潮が突き進む「メディアの方向性」
――賛否両論がある問題だからこそ、会議を重ねて決めているものだと思い込んでいました。
編集作業において必要な良い会議もあると思いますが、一方で、会議は「結論が平均点」になる危険性もあります。少年法の問題に限らず、われわれは尖ったものを作ろうとしているわけですから、平均的な結論はありがたくないのです。トゲの部分にヤスリがかかって落ちていってしまうわけですね。角のとれた丸まったものを世に出しても仕方がない。一方で、単にセンセーショナルなものをひたすら追いかけまわすつもりもありません。しかし、提案したり、提言したりするときには、やはり波紋が起きるようなものを投げなければならない。ですので、実名報道に関して、編集会議で多数決をとるようなことはしませんでした。
一点、偽善的だなと感じたのは、川崎の事件を実名で報じたことで、弁護士会から抗議文を何通かいただいたことです。彼らの「更生の妨げになる」というご意見は承ります。ですが、一方で疑問に思うのは、ネットに氾濫している実名情報を彼らがどのように捉えているんだろうということです。私たちが書く前から、ネット上には犯人の名前、そして顔写真も出ていた。それについて彼らは、彼らなりの手を打ったのだろうか。掲載元を探って、抗議文を送ったり、足を運んだりして、デジタル空間に漂い続けることを阻止しようとしたのだろうか。
もし、弁護士会がそのような煩雑で報われることの少ない業務に本腰を入れていないのであるとすれば、それはどういうことなのでしょうか。手紙を書いて簡単に、そして必ず到達する相手が、われわれ『週刊新潮』です。手間がかかることはやらないが、手間がかからないことは形式的にやる。それは本当に「少年の更生」を考えているといえるのか。そういう仕事はプロフェッショナルじゃない、というのが私の言い分です。
――少年Aが『絶歌』を出版して、物議を醸しました。これについては、どのように受けとめましたか。
とんでもない話だと思いました。ご遺族が「2度殺された」とおっしゃっていましたね……。やはり、犯罪を赤裸々に暴露することによってお金儲けをすること自体については、大きな疑問を持ちます。太田出版がいくら出版することの意義を訴えても、そのことについては否定的です。出版する自由があると言われればその通りなんだけれども……。ただ、どうかとは思いますね。 

 

●日話 1
池田大作名誉会長は本当に生きている? 
「池田大作は生きているか死んでいるかわからない。間違いない!」。熱心な創価学会信者として知られる芸人の長井秀和がネタにして話題になったのですら、もう8年前のこと。創価学会・池田名誉会長が姿を消して10年。齢93にして近況は秘せられたまま……。
池田氏が最後に公の場に現れたのは、米大学からの博士号授与式典に出席した2010年の11月。毎月学会幹部を集めて行われる「本部幹部会」への出席も、その年5月以来パタッと止んだままだ。
「脳梗塞で倒れた」とか、「認知症が進んでしまった」などの噂が飛び交ったが、容体は明かされず。機関紙の「聖教新聞」には時折、本人執筆と称する会員へのメッセージが載るけれど、やたら雄弁な内容だから、大作ならぬ「池田代作」と揶揄される。創価大卒の長井ですら「死亡説」をネタにするのも仕方がないといったところだろうか。
「この間、酒場でネトウヨっぽい若者に絡まれましてね」と、さるメディア関係者。
「こっちが記者だと知ったら“池田大作はもう死んでるんですよね。でも政府は創価タブーに屈して隠してる”“遺体はミイラにして保管してあるけどマスコミもそれを知ってて報じない”などと散々。陰謀論も甚だしいが、確かにネットにはそんな情報が出回っているんですね」
言うまでもないが、この現代において、あれだけの“大物”の死を秘匿するなどまず無理だ。池田氏の動静は、今も警察や公安の最重要関心事項である。
「私もよく知り合いから、“ホントに生きてるんですか”と聞かれますよ」と言うのは「宗教問題」編集長の小川寛大氏。
「で、こんなこと言われてますよって、学会の幹部に聞いてみたことがあるんです。そうしたら“小川さん、武田信玄の時代じゃないんです。我々が一番恐れているのは、正式発表の前に他のマスコミに抜かれること。そうしたら、まず会員に報告すべきだろ、と信者の心が離れてしまいますよ。それが一番怖い。隠しても何の意味もない”と。確かにその通りだと思います」
試しに名誉会長の自宅の不動産登記簿を取ってみても、所有者はご本人のままで変わりなかった。
そこで気になるのは実際の容体だが、「我々の間でも窺い知ることはできません」と言うのは、学会幹部職員の一人。
「原田会長や長谷川理事長ら数名しか会うことができず、本当の状態はトップシークレット。しかも気になるのは、それまでは数週間に1度、必ず面会していた原田会長が3年程前から訪問の頻度が少なくなり、やがてほとんど行かなくなってしまったこと。職員の間では、もう会っても意味がない状態になられてしまっているんだろう、と解されています」
改めて創価学会に聞くと、「この種の質問にはお答えしておりません。(繰り返される死亡説は)迷惑です」
ちなみにまだ池田氏が元気な頃から、創価学会は遺体の保存を目指し、法的な可能性を探っていたのは知る人ぞ知る話。その意味で、「ミイラ説」はまったくの噂でもないが……。
Xデーに備え、各紙は訃報の予定稿を準備済みという。
みずほ銀行、4回のトラブルにあ然、原因は「金融界のサグラダ・ファミリア」
みずほ銀行で2週間の間に4度ものシステムトラブルが発生した。1回目は2月28日、全国のみずほ銀行が保有する現金自動預け払い機(ATM)の7割に当たる4318台が停止したうえ、キャッシュカードや通帳を吸い込む事例も5244件起きた。日曜日だったため、慌てた顧客が全国各地から電話で問い合わせた結果、コールセンターもパンク。ツイッターなどには、「みずほ銀行にカードを吸い込まれた」などの悲鳴が次々と書き込まれた。しかし、経営陣の反応は鈍く、全店への出勤指示が出されたのは午後2時半ごろだったという。
続いて3月3日には、29台のATMが停止。7日にはインターネットバンキングやATMで一時、定期預金の取引が円滑に進まない状態となった。さらに、11日深夜には国内の他行に向けた外貨建て決済約300件が停止した。これは、主に企業の顧客が依頼した取引であっただけに「みずほへの不信感は深刻」(他行幹部)との声が上がった。
みずほ銀行は2002年4月1日に、第一勧業、富士、日本興業の3行が統合して発足したが、その初日にも、東日本大震災直後の2011年3月にも大規模なシステム障害を起こしたことで知られている。それだけに今回のトラブルについては、「みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)は、過去の失敗から何も学んでいない」(同)といった厳しい指摘が少なくない。
みずほ銀行の藤原弘治頭取は、4度にわたるトラブルの関連を「現時点で見いだせていない」と説明するが、大騒ぎになった要因が最初の大規模ATM障害なのは間違いない。そこから浮き彫りになるのは、みずほのリスク管理力の低さだ。特に他行幹部が呆れているのは、みずほが月末にデータ移行を強行したことだという。大手紙経済部記者が説明する。
「みずほは1月に他のメガバンクに先駆けて、紙の通帳を有料化しました。それに合わせて長期間記帳されていない口座を、紙通帳不要の『デジタル口座』に移転する作業を開始し、この大規模なデータ移転の作業日を、2月最後の週末に割り当てていました。
ですが、月末は金融決済や定期預金の自動継続などの作業が集中する時期です。25日など給与支払い日も重なるため、システムに負荷がかかりやすい。そのため、普通は月下旬のデータ移行は避けるものです。それでも、みずほは月末処理に踏み切りました。というのも、紙の通帳は4月時点の発行数で1冊当たり200円の印紙税が課せられるため、“紙の通帳を少しでも減らして、税負担を減らしたい”というケチな考えがあったからでしょう。
多くの銀行関係者も、みずほは通帳の発行数を減らし、印紙税の支払いを圧縮しようとしていた。印紙税分のコストとシステム障害のリスクを天秤に掛ければ、普通はリスクを避ける判断になるはずだと、批判しています」
以前からみずほ銀行のシステム音痴ぶりは金融界では知られていた。第一勧業、富士、日本興業の3行が掲げた「対等合併」の理念も影響しているという。みずほ銀行、みずほFGの脆弱なシステムは、発足当初からということになる。
「3行はそれぞれレガシーな勘定系システムを持っていた上、銀行間の優劣を明確にすることを避けたため、“ワンみずほ”の名の下、継ぎはぎでシステムを一本化する道を選んだのです。11年に本格化した統合作業は2度の延期を経て、19年夏に終結しましたが、費やされたのは4000億円を越える資金と35万人月もの人員。銀行関係者の間では一時、完成までの建築作業が300年を要すると言われるスペイン・バルセロナの教会に喩え、“金融界のサグラダ・ファミリア”と揶揄されていたほどです」(前出の他行幹部)
統合されたシステムには今も、3行それぞれの旧来型設計が残っているという。本来ならば新たなITベンダーに一任し、全く新しいシステムを設計するべきだが、
「プライド高き興銀、富士、第一勧業の俊英たちは、ATMサービスが止まることをよしとせず、自前で継ぎはぎするかえって面倒な道を選んだのです」(金融庁OB)
自称IT通の英才たちに導かれ、「迷路のような統合システム」(大手コンサルティング会社幹部)は完成したが、「いつか崩れるのではないか」(他行幹部)と心配されていた。それを象徴するかのように、三菱UFJ銀行と三井住友銀行が19年9月に店外ATMを互いに開放する仕組みをスタートした際も、みずほ銀行だけはカヤの外だった。
「みずほは19年夏にようやく旧3行のシステムを完全統合させた直後で、それを理由に参加しなかった。しかし、他の2メガの関係者は、みずほのシステムを完全には信用できなかったと漏らしています。今回の連続トラブルで、これまでの懸念は現実のものとなってしまった。個人や法人の顧客もシステムへの不安は拭いきれず、取引を他行に切り替える動きが加速する可能性もあります」(他行幹部)
みずほは藤原頭取が交代する役員人事を凍結し、金融庁に原因と再発防止措置を報告するため調査を進めるというが、同庁が業務改善命令など厳しい処分を出すのは確実だ。
10年前のシステム障害での調査報告書では、《2002年のシステム障害を教訓としシステムの安定した稼動に組織として留意すれば、今回のシステム障害は防止することができたはず》と指摘されていた。長期・継続的な改善策の実行が求められていたにもかかわらず、みずほ銀行が02年、11年のシステム障害のいずれも教訓にできていないのは明らかで、業務改善命令は避けられないだろう。
だが一方で、米国や欧州、他のアジア諸国ではATM障害は日常茶飯事。ちょっとやそっとのことではニュースにはなり得ない。実際、これだけ大騒ぎするのは日本だけという見方もある。海外転勤と出張を繰り返してきた会社員は、
「米国でも南米でも北欧でも東南アジアでもキャッシュカードやクレジットカードを吸い込まれてきました。みずほの顧客もそんなに怒らなくても良いのに」
この会社員によると、吸い込まれたカードがすぐに返却されないのは、海外では当たり前で、「複数のカードを常に持ち歩き、すぐに決済を止められるように非常時対応の電話番号やメールアドレス、携帯アプリを用意している」と話す。そもそも日本でATM障害がニュースになるのは、紙幣への依存率がいまだに高い「キャッシュレス後進国」「デジタル後進国」だからに他ならない。みずほ銀行の体質は問題があるにせよ、奇妙な完全主義にとらわれるより、デジタル化を進めるきっかけになればいいのかもしれない。
バイデンの最後通牒を蹴り飛ばした文在寅 いずれ米中双方から“タコ殴り”に
米韓の間の亀裂が天下に知れ渡った。中国は大喜びだ。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。
鈴置:3月17、18日にソウルで開いた米韓の閣僚会議は両国の間に深い溝があることを世界に知らしめました。中国包囲網を作ろうとする米国が民主主義国家の側に立つよう求めたのに対し、韓国がソッポを向いたのです。
破綻が明白になったのは3月17日の米韓外相会談でした。会談の冒頭、A・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官は鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官を横に置いて、中国と北朝鮮の非道を強く非難したのです。
中国に関しては香港の自治侵害、台湾への圧迫、新疆ウイグル自治区とチベットでの人権侵害、南シナ海での国際法違反を、北朝鮮については同国国民に対する組織的で広範囲の人権侵害を指摘しました。原文を米国務省の資料から引用します。
・China is using coercion and aggression to systematically erode autonomy in Hong Kong, undercut democracy in Taiwan, abuse human rights in Xinjiang and Tibet, and assert maritime claims in the South China Sea that violate international law. And the authoritarian regime in North Korea continues to commit systemic and widespread abuses against its own people.
さらに「米韓同盟は価値を共有する」「人権と自由、法治を重視する自由で開かれたインド太平洋という未来を共に実現したい」「もちろん、米韓は価値を共有している」「我々は基本的権利と自由を求める人々の側に立ち、弾圧する側に反対せねばならない」などと、韓国に対し「民主主義の側に戻れ」と繰り返し要求したのです。
・ The alliance is unwavering, it’s ironclad, and it’s rooted in friendship, in mutual trust, and in shared values.
・We want to achieve our shared vision of a free and open Indo-Pacific, anchored by respect for human rights, for democracy, for the rule of law.
・And, of course, we’re standing together in support of our shared values.
・We must stand with people demanding their fundamental rights and freedoms and against those who repress them.
ハンギョレは「ブリンケン米国務長官、中国・北朝鮮に強硬発言…韓国に同調を要求」(3月17日、韓国語版)で、「会談場を凍りつかせた爆弾発言」と評しました。
――なぜ、「凍りつかせた」のでしょうか。
鈴置:文在寅(ムン・ジェイン)政権は中国と北朝鮮の顔色をうかがって、両国の非道を一切、批判しません。言及さえしないのです。
その韓国に対し米国の国務長官が「中朝を非難せよ」と公式の場で命じた。それも会談の冒頭、いわゆるメディア用語でいう「頭撮り」の時間ですから記者もカメラも入っている。
メディア含め韓国側は、公開の席で米国から立ち位置を明確にするよう求められるとは思ってもいなかった。そんなことになれば米韓の亀裂が世界に明らかになってしまう。米国にそこまでの覚悟はない、と甘く考えていたのです。
中央日報の「韓米外相会談、予想外の決心発言『北朝鮮の人権蹂躙に対抗せよ』(3月18日、日本語版)で、虚を突かれた韓国側の心情を吐露しています。
・この日の会談の冒頭発言はメディアに公開することで事前に合意していた。それをよく分かっていたブリンケン長官が冒頭発言でこのように中国を直撃したのは今回の訪韓で該当懸案を重要に扱うという意図を示したとみられる。
・ブリンケン長官の発言は予想より度合いが強いというのが外交街の見方だ。当初同盟の修復を強調するバイデン行政府は初対面のような会談で異見を呈するような議題は公開的には取り上げないだろうという見方が多かったためだ。
――ブリンケン長官はなぜ、公開の席で韓国を叱りつけたのでしょうか。
鈴置:文在寅政権にいくら「中朝にゴマをするのをやめ、米国側に戻れ」と言ってもらちがあかない。翌18日の2+2(外務・防衛担当閣僚会議)の後に発表された米韓共同声明にも、中国や北朝鮮への非難は盛り込まれませんでした。韓国が反対したからです。
そこでブリンケン長官は韓国メディアの前で「人権弾圧を批判しろ」と語ることで、韓国人に直接「米国をとるのか、中国か」と迫ったのです。
――米国も強引な手を使いますね。
鈴置:韓国に対しては特別です。韓国は会談内容を自分に都合よく発表するからです。会談の場でいくら米国が要求しても、韓国政府は「米国から要求はまったくなかった」などと発表します。
バイデン(Joe Biden)大統領が副大統領だった時に同じ手を使いました。2013年12月6日、朴槿恵(パク・クネ)大統領と会談した際の冒頭発言で「米国の反対側(中国)に賭けるな」と語ったのです(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。
日米韓の軍事協力を求める米国に対し、朴槿恵政権は「慰安婦など歴史問題で日本の態度が悪い」ことを掲げ拒絶していた。そこでバイデン氏は「日本の問題ではなく、本当は中国が怖いからだろ」と図星を突いたのです。
韓国記者の前で指摘することで「米国はすべてお見通し。つまらぬ言い訳はもうするな」と韓国民に直接伝えようとしたわけです。
もっともこの発言は短く、表現もやや抽象的だったので韓国政府は当初、「通訳のミス」と言い張りました。それが功を奏さないと次には「バイデンは失言王」などと宣伝、反米感情を掻き立て、国民の目を米国の怒りからそらすのに成功しました。
今回はさすがに韓国政府も誤魔化せませんでした。ブリンケン長官がくどいほど「民主主義の側に戻れ」と語ったからです。どんなに勘の鈍い記者でも韓国批判と気づきます。
――韓国メディアはブリンケン発言を隠さず報じたのですか?
鈴置:3月12日の国務省の定例会見では「慰安婦問題を蒸し返すな」との趣旨の報道官の発言を、ほぼすべての韓国メディアが無視するか、歪曲して報じました(「元慰安婦は今度は国務長官に抱きつくのか 米国の怒りを報じない韓国メディアの歪曲報道」参照)。
3月17日のブリンケン発言では韓国批判部分はきちんと引用しました。ただ、「アトランタ事件への哀悼」部分はほとんどの媒体が無視しました。
3月16日、米ジョージア州アトランタで起きた連続銃撃事件で、マッサージ・パーラーで働く女性が多数、殺されたのですが、うち4人が韓国系でした。
人種犯罪の可能性が濃いと見られたこともあったからでしょう、ブリンケン国務長官は冒頭発言で深い哀悼の意を表しました。普通だったら韓国メディアは「被害国民に米高官が謝罪した」と大々的に報じるはずですが……。
――「アトランタ事件への哀悼」が韓国で報じられなかったのは?
鈴置:殺されたのがマッサージ・パーラーで働く人だったためと思われます。韓国人は風俗産業の従事者を激しく差別します。遠い国で働く同胞がひどい目に会っても、職業故に同情しないのです。彼らを利用できる時は別ですが。
なお唐突ですが、「元慰安婦は今度は国務長官に抱きつくのか 米国の怒りを報じない韓国メディアの歪曲報道」で言及した、元慰安婦のブリンケン長官との面会は実現しませんでした。
その結果、「D・トランプ(Donald Trump)大統領に抱きつく元慰安婦」シーンは、ブリンケン長官では再現できませんでした。
――米韓亀裂を韓国紙はどう報じましたか。
鈴置:もちろん、保守系紙は「米国離れ」に警告を発しました。文在寅政権の「離米従中」を批判した中央日報の社説「韓米外交・国防長官会議で明らかになった米国の基調変化、直視するべき」(3月19日、日本語版)から引用します。
・米国務長官がソウルで北朝鮮人権はもちろん、香港・新疆の人権弾圧を具体的に取り上げて共同対応を要求したのは前例がないことだ。ブリンケン国務長官は本会談でも、北朝鮮・中国の人権に対する韓国の明確な立場表明と韓日関係改善を求めたことが分かった。
・韓国政府が従来の戦略的曖昧性だけを守って受け入れを避ける場合、大韓民国は同盟の蚊帳の外に置かれて仲間はずれの境遇に転落する公算が大きい。
朝鮮日報の社説は主に文在寅政権が「北朝鮮の非核化」を主張しなかったことに焦点を当て、その「従北」ぶりを非難しました。「文政権が韓米共同声明に『北の非核化』を盛り込まないよう動いた」(3月19日、韓国語版)のポイントを翻訳します。
・現在、韓米同盟の最大の懸案は北の核だ。しかし韓米共同声明のどこを見てもその言葉は見当たらない。「北の核・弾道ミサイル問題が優先的な関心事であり解決する」とあるだけだ。
・米国は日本との2+2の共同声明で「完全な北朝鮮の非核化」を明示した。韓米共同声明だけから「非核化」が抜けたのは、韓国側の要求と見るほかない。「なぜ、抜けたのか」との質問に、外交部は「分量制限のため」と答える。笑うべきなのか、泣くべきことなのか。
・こうして金正恩(キム・ジョンウン)ショーをもう一度やり、次の大統領選挙で勝つことがこの政権の目標であろう。彼らは遠からず北の核の黙認とほう助という本性を現すだろう。
両紙共に、今回の米韓2+2を通じ、中国と北朝鮮に言いなりの文在寅政権の本質が噴出した、と糾弾したのです。
――中国はさぞ、喜んだでしょうね。
鈴置:中国共産党の対外宣伝媒体、Global Timesは米韓共同声明が発表された3月18日の夕刻に、いち早く「China-free US-SK joint statement shows Seoul’s rationality, pragmatic consideration of geopolitical interest: analysts」を掲載しました。
見出しを見るだけで分かりますが「米国は米韓共同声明に対中非難を盛り込むのに失敗した!韓国よ、よくやった。褒めてやるぞ」と小躍りする記事です。
「米国側の駒を1枚、減らした」というだけではありません。「韓国抱き込みをテコに中国包囲網を崩す」作戦を展開できると中国は考えているはずです。
Global Timesは前日の17日にも韓国に関する評論を載せていました。「S.Korea ‘weak link’ of US strategy to encircle China」です。中国包囲網という鎖を断ち切るには、韓国という最も弱い輪から壊せばよい、との主張です。
日本企業をいじめる一方、韓国企業は大事にする。すると、日本の経済界から「反中陣営に加わったから我々が損をする」との声があがり、日本という「次に弱い輪」も崩れて行く――とのシナリオを中国は描いているでしょう。
米韓2+2が終了した直後、3月18日夕刻には中国を喜ばせるニュースがもう1つ発生しました。鄭義溶外交部長官が聯合テレビのインタビューで「米国は我が国の唯一の同盟国であり、中国は最大の交易国だ。米国と中国の間で両者から1つを選ぶのはありえないことであり、そんな接近法は不可能と考える」と語ったのです。
こうした発想は韓国では珍しくありませんが、外交部長官が米韓2+2の直後に言い放ったのにショックを受けた韓国人も多かった。「何と言われようと、中国包囲網には加わらない」と米国に向かって韓国政府が公式に宣言したのも同然ですから。
聯合ニュースの「鄭義溶、『我々にとって米国も中国もいずれも重要…二者択一は不可能』」(3月18日、韓国語版)で発言を読めます。
――米国は踏み絵を突き付けた結果、ソッポを向かれてしまいましたね。
鈴置:それは織り込み済みだったと思います。文在寅政権の中枢部は反米左翼が占めています。大統領自身も「米帝国主義が諸悪の根源」と断じる本を愛読し、国民にも勧めています(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。
「米国か、中国か」と踏み絵を突き付ければ、こうした反応が返って来るのは十分に予想できました。
――では、なぜ……。
鈴置:ブリンケン長官が踏み絵を突き付けた相手は文在寅政権ではなく、韓国の国民だったのだと思います。韓国人一人一人に「我々と肩を並べて中国と戦う覚悟があるか。中立という選択はないぞ」と言い渡したのです。
何を言おうが反米路線を変えない文在寅政権を相手にしても意味はない。それよりも1年後――2022年3月の大統領選挙で親米政権が誕生するよう画策した方が合理的なのです。
「中立を許さない厳しい米国」との姿勢を示せば選挙で反米左派候補の票を減らし、親米保守候補を後押しできます。現にブリンケン発言に驚いた保守系紙は「米国側に戻ろう」と叫び始めたではありませんか。
逆に、「離米従中にも怒らない米国」を続ければ、「二股外交も可能」と判断した韓国人は安心して左派候補に投票できる。「甘い顔をする米国」は、反米左翼政権の永続を助けることになるのです。
菅義偉政権も同じことを考えているようです。反米反日で確信犯の文在寅政権とは交渉などしない。「約束を平気で破る国」との交渉は意味がないからですが、仮に交渉するとしても、海洋勢力側に戻る可能性のある政権とせねば、敵に塩を送ることになるのです。
日米は「文在寅は相手にせず」で呼吸を合わせています。もし、米国が文在寅政権との間で話し合いを進めるつもりなら、日本に対し「韓国に譲歩してやれ」と言ってきてもおかしくなかった。
実際、韓国政府は今回の日米2+2で「韓国との話し合いに応じない日本を米国が叱ってくれる」と期待し、韓国記者にもそう説明していた。しかし現実は「日本を叱ってくれる」どころか、韓国に踏み絵が突き付けられてしまった。
――では、中国はぬか喜びに終わる……。
鈴置:中国も「米国の踏み絵」は予想していたと思います。米国同様に韓国を圧迫する方法を整えています。中韓2+2もその1つです。
――同盟関係にもない中韓が2+2という枠組みを持つのですか?
鈴置:韓国が発表しなかったので日本ではあまり知られていませんが、2020年11月に王毅外相が訪韓した際、康京和(カン・ギョンファ)外交部長官との間で2+2の開催に合意しました。中国外交部のサイト(2020年11月27日、英語版)で確認できます。
もし、韓国の大統領選挙で親米派候補が優勢になってきたら、中国は韓国に2+2の開催を要求、会談で――記者も聞く会談冒頭で「親米派が勝ったら韓国は大変なことになる」と脅し上げればいいのです。
――米国はどう対抗するのでしょうか。
鈴置:米国には奥の手があります。コロナ対策で各国が異常に通貨を増発したために、世界中でいつ激しい金融収縮が起きてもおかしくない状況です。
いざという時に米国がドルを貸さなければ、韓国は通貨危機に陥る可能性がある。その時、普通の韓国人も「反米のツケ」を理解するでしょう。日本にも手を回す必要がありますが今の日韓関係から見て、米国から回状が来なくとも日本は韓国にドルを貸しません。
先例があります。1997年のアジア通貨危機の際、米国の銀行は韓国からドル資金を引き揚げたうえ、米通貨当局は日銀を通じ邦銀の韓国へのドル融資をやめさせました(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。
――米韓両国は為替スワップを結んでいます。
鈴置:期限は2021年9月末で規模は600億ドルです。ただ、それでは本格的な通貨危機を防げません。為替スワップはドル不足に陥った韓国の市中銀行に対し、米連邦準備理事会(FRB)がドルを貸す仕組みです。通貨スワップのように、中央銀行である韓国銀行がドルを借りてウォンの買い支えに使えるわけではないのです。
通貨スワップに関しては面白い報道がありました。3月17日に米国のJ・イエレン(Janet Yellen)財務長官と、韓国の洪楠基(ホン・ナムギ)副首相兼企画財政部長官が電話協議しました。
中央日報の「米財務長官『韓国の危機克服に韓米通貨スワップ重要』」(3月18日、日本語版)によると、イエレン長官は「2008年のグローバル金融危機後、危機克服において韓米通貨スワップが重要だった」と語りました。
どういう意図での発言かは不明ですが、米韓の金融当局者の間に「韓国が通貨危機に陥る可能性を排除できない」との共通認識があるのは確かです。
なお、この電話協議に関する、米国側の公式発表は米韓同盟の重要性を謳い、韓国側の公式発表は金融面での協力を強調しましたが、いずれも「通貨スワップ」には言及していません。
――いずれにしても、韓国は米中双方からいじめられる……。
鈴置:二股外交とは、そういうものです。韓国の指導層は二股をかければ米中双方から大事にされると一時はほくそ笑んでいた。でも、状況が煮詰まると、双方からタコ殴りにされるのです。
支持率は過去最低 「文在寅が家賃難民を作った」
韓国の土地開発などを手がける公共機関、韓国土地住宅公社(LH)。その職員約10人が、ソウル近郊の地域が「新都市」に指定される前に同地域の土地を約100億ウォン(約9億5200万円)で購入したとの疑惑が持ち上がり、自殺者も出て波紋が広がっている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は徹底的な調査と厳正な対応を指示したが、国民の怒りはむしろ、これまでの文大統領による不動産政策の大失敗に向けられ、直近の調査で支持率は過去最低を記録した。
文大統領は疑惑が持ち上がった計画に関し、国土交通部とLH、関係公共機関の宅地開発関連部署の所属職員、家族らのすべての土地取引を調査するよう指示した。
こうしたなか、韓国土地住宅公社の職員の幹部2人が3月12日と13日に相次いで自殺。
文大統領は12日、一連の問題について、「現在まで表れたものは氷山の一角かもしれない」「公職者とLH役職員の家族、親戚を含め、借名取引の有無も徹底して捜査すべき」とし、「国民の怒りを直視して過去の問題を清算し、社会の公正を立て直すきっかけにしよう」と強調。
さらに文大統領は「投機の全貌をすべて明らかにする必要がある」「不正な投機利益を没収する方策も速かに講じなければいけない」と付け加えた。
もっとも、国民の怒りは今回の疑惑というよりはむしろ、文大統領の掲げた不動産政策がことごとく失敗に終わってきたことに向かっている。
そもそも不動産政策はどこで狂いだしたのか?
文政権の発足当初から不動産価格は上昇していたが、それは需要が増えたからだった。
入居希望者は目白押し。価格は青天井で跳ね上がった。
韓国に限らないことだが、この恩恵を受けたのは富裕層のみで、不動産などの財産を持たない庶民たちは不公平感を抱き始めた。
この状況を受けて文大統領は「住宅価格高騰で限られた者だけが果実を得るのは正義ではない」と訴えた。
市場経済の原理を「不公平」と主張するのは、ある意味で、人権派弁護士の大統領らしいとは言える。
ところが、問題は「正義」のための具体策だ。
文大統領の不動産政策の主たる狙いは、簡単に言ってしまえば供給を減らすことだった。こうすれば投機目的で買う者を減らせる、という理屈だろうか。
実際にソウル市のマンション供給戸数の推移を見ると、文政権以前に年間4万戸前後で推移していた住宅供給は、文政権に入り半分近くに減少した。
しかしこれで価格が落ち着くはずがない。当然、不動産価格はうなぎ上りで高騰していく。
そういった住宅価格高騰について、「投機家たちがむやみに行う不動産取引のせい」だと文大統領は分析し、不動産「供給減」政策を緩めることはしなかった。
3月15日、韓国国土交通部は「2021年 共同住宅公示価格(案)」を発表。それによると、文政権成立までは全国平均で、例年、前年比5%台の上昇で推移していた公示価格が、昨年1年だけで19.08%も上昇。
文政権発足時と比較すると、ソウルのマンションは72.83%も暴騰し、住宅平均価格はとうとう9億ウォン(約8700万円)を超えた。
そして今年2月4日、文政権になって25回目の不動産政策「2.4対策」が発表されたのだった。
これは過去最大規模の公共事業計画で、不動産「供給増」に舵を切るものだ。そして、事業を主導するのがLHなどの公社である。
これまでの文大統領の不動産政策は、「所有は1世帯1件まで、2年~5年の居住義務」を強いて不動産投機の抑制を旨としていたが、今回の「2.4対策」では、マンション建築に携わった組合員はその規制の外に置かれ優遇される。
他方、それ以外の国民が新規購入した住宅は「全額前金で現金精算」するように言い渡された。
マイホームを夢見て頑張って働いた国民の住宅融資に制限を設けて簡単に家を購入できなくし、国民や不動産業者に数多の規制をする反面、身内びいきで公共事業を拡大して民間の仕事を取り上げる。
文大統領の振りかざす「正義」は、国民にとっての「不公平」そのものだと非難されている。
大多数の国民が犠牲になり、一部の親文派が恩恵を受ける図式に国民には受け取められたのだ。支持率が過去最低を記録したのも当然のことだろう。
文大統領は苦境を挽回すべく、今回のこの土地投機疑惑を前政権で積み上がった「積弊」と規定し、職員への全数調査、事前予防と事後制裁、職員個人に対しても公職倫理から逸脱する行動をすれば厳しく責任を問うとした。
しかし、少なからぬ国民は、大統領に「何らかの思惑はなかったのか」疑っている。
事実、投機の始まりは2年前であり、大統領が価格高騰を懸念して新都市整備を掲げた時期である。国民は「公共」の「公」は「公務員」の「公」と嘆く有様だ。
韓国政府は4日から首相室主導で合同調査団を構成し、LH関連疑惑を調査すると発表したが、「対策は不十分」の声が後を絶たなかった。ただでさえ隠蔽体質が指摘されてきた文政権である。
そんな政権が捜査機関でもないのに合同調査チームに参加したところで、疑惑解明にはほど遠いと諦めムードが漂っている。すでに一部、大統領府の職員がLH勤務の家族と共に問題の土地を購入していたことがわかったが、「公的情報を悪用した例はない」と不問に付された。
文大統領は「不動産だけは安定させる」と公言してきた。
それを信じ、生涯に亘るローンを組んだり、親の年金までかき集めてソウルに家を購入したりした者も多かった。
今回の公示価格引き上げにより、ソウル市内に資産価値6億ウォン(約5800万円)以上のマンションを所有する者に対しては、平均30~50%の保有税が課税される。
それは毎年、数百〜1千万ウォン(約40〜96万円)近くの税金が徴収され続けることを意味する。圧倒的な富裕層を除いて、国民に「家を買うな」「家を持つな」と言っているようなものだ。
加えて、負担増は不動産取引に関連する税金に限らない。相続税、贈与税、健康保険料、基礎年金、障害者年金など、あらゆる方向で増税は不可避の情勢だ。
与党・共に民主党の次期大統領候補である李在明・京畿道知事もまた、「炭素税」「データ税」「土地税」などの新設を主張し、他方では一時的な付加価値税の引き上げを主張。とにかく増税の話が続く。
2020年、文政府は税制改正を行って、超高所得者の税率を拡大したが、40%に迫った「勤労所得者の免税比率」を減らす対策はとらなかった。
国民の10人に4人が税金を払っていない異常事態なのに、相対的に有権者数が多い勤労所得者には減免措置を維持したのだ。
しかし、そんな付け焼き刃のやり方では税収減を賄うには至っていない。
文政権になって、高所得者への税収依存度は過度に高い水準に達しているにもかかわらず、与党は更なる富裕層への増税を予告。
繰り返しになるが、文大統領自らの失政が富裕層と庶民との分断を生み、さらなる失政や汚職疑惑が民間と公共との分断を大きくしていると言える。
持ち上がったLHの疑惑は、国民感情を逆なでし、「頼むからもう何もしないでくれ」「あと1年我慢すれば」「文政権が家賃難民を作った」「早く政権交代してくれ」などと失望の声も上がっている。 

 

●日話 2
元嘉風「妻」が長女暴行で逮捕 
週刊新潮は2月10日発売号で、元関脇・嘉風(39)の妻による我が子への虐待行為を報じた。このたび警視庁は、妻である大西愛容疑者(42)を虐待の疑いで逮捕。彼女をめぐっては、ママ友との間で別の“事件”も浮上している。被害者側は弁護士を立てる事態に発展していた――。
元・嘉風こと中村親方は、現在、大西容疑者と離婚調停中。昨年12月発売の週刊新潮では、調停中にもかかわらず「婚活パーティー」に参加する大西容疑者の問題行動を報じてもいる。
そんな彼女とトラブルになっているのが、インスタグラマー・モデルとして活動する30代のある女性だ。彼女は5年ほど前まで、嘉風一家と同じ東京都内のマンションで暮らしており、娘と嘉風家の長女が同じ幼稚園だった縁から、大西容疑者と“ママ友”の関係になったという。
ところが現在、その関係はこじれてしまっているようだ。2人をよく知る関係者は、次のように証言する。
「嘉風さんと大西さんは2019年から別居していますが、ママ友の女性は自分がシングルマザーであることもあって、大西さんの結婚生活の相談に乗ってあげていたようです。タレント活動をしている方ですから、元生花デザイナーでもある大西さんとは、華やかな世界の住民同士で、意気投合したのだと思います。その後、女性の方は引っ越してマンションを出ていきましたが、大西さんと交流はつづいていたと聞いていました」
この関係者は、つい最近、ママ友の女性と話す機会があったという。すると女性は「子供たちは実家に避難させているの」「私はここ一カ月ほどホテル暮らしをしている」と打ち明け話を始めたのだという。
「理由をきくと『昨年末ごろから、大西さんに個人情報をバラされてしまっている。ネット上のどこでどう出回っているのか分からないから』だそう。何でも、彼女が通った病院の問診票が、流出しているというんです。そこには彼女の住所や電話番号のほか、過去の美容整形歴もふくまれているそうで、もしそれが世間に知られれば、これまでのようには活動も続けられないと、困り果てていました。個人情報の特定につながりそうな写真はインスタから消し、更新もできない状態になっているそうです」
なぜ、大西容疑者がママ友の個人情報を入手することができたのか。舞台となったのは、東京・中央区にある美容クリニックだった。
ママ友が関係者に解説したところによれば――このクリニックと大西容疑者はかねてより懇意にしており、これまで何人もの知り合いが、彼女を通じて足を運んだことがあった。このママ友の女性も大西容疑者の紹介を受け、昨年12月にこのクリニックを訪問。その際に受けたのはスキンケアだったが、施術にあたって、過去の美容整形歴を記入した。それをクリニックの看護師が撮影し、大西容疑者に送付、不特定多数に流出するに至ったという経緯のようだ。
インスタグラム上には、同クリニックの「ナース」を名乗るアカウントが存在する。PR目的なのだろう、そこには〈ご来院くださいました〉とのコメントと共に、有名女優や歌手モデルらとのツーショットがいくつも投稿されている。現在は削除されているが、投稿のなかには、大西容疑者の紹介を受けたママ友の女性が同院を訪れた旨の報告もあった。大西容疑者がママ友の女性を紹介したのも、本来はPRのためだったと目される。
「ママ友がクリニックを訪れたタイミングで、大西さんにまつわる週刊誌報道がありました。どうやら大西さんは、報道の情報源が、このママ友だと思っているみたいなんです。その“仕返し”として、彼女の個人情報を知り合いの間に流出させているとか。ママ友本人にそれを知らせた人がいて、本人は事態を知ったようです」
ママ友本人に取材を申し込むと、“流出”は事実と認めつつも、
「個人情報が出回って以降、不安障害を発症してしまい、通院中です。そっとしておいてください……」
代わって女性の弁護士が次のように答えた。
「大西氏は依頼者(※ママ友の女性)の個人情報を流出させる際、“つぶそっかなっておもってる”と、依頼者に対する攻撃的な発言をしていることを確認しています。警察からは避難を勧められており、住民票等の非開示請求措置がとられました。現在、引っ越しを検討しています。美容整形手術歴を含めた個人情報が流出したことで、タレント活動にも大きな支障をきたしています」
流出元となったクリニックには、損害賠償をふくめた対応を求める内容証明を12月末に送付したという。当のクリニックに取材を申し込むと、代理人弁護士は事実関係をおおむね認めたうえで〈解決を模索させていただいているところ〉と答える。
〈お客様の個人情報の一部を、ご紹介元であるお客様の申し出に応じて提供してしまったことは事実であり、被害に遭われたお客様及び当院を信頼してご来院くださっているお客様の皆様に、深くお詫び申し上げます。当該従業員については、当院就業規則に基づいた懲戒処分を行いました〉(回答書より一部抜粋)
一方、逮捕前の大西容疑者に取材を申し込むも、回答は得られなかった。
「天国と地獄」、絶賛された最終回
謎が謎を呼ぶ展開で視聴者を熱狂させたTBS「天国と地獄〜サイコな2人〜」。3月21日放送の最終回は世帯視聴率20・1%を記録した。今年のドラマの中で最高値だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。脚本を書いた森下佳子さん(50)のメッセージや狙いは何だったのか。
「天国と地獄」は入れ替わりものだったが、放送当初はそれを批判する声もあった。子供じみているという意見だった。
もっとも、森下さんは気にも留めなかったはず。かつて母校・東京大学の学生新聞の取材に対し、次のように答えている。
「書きたいものがたくさんの人にうけるという幸せなことが起こればいいなとは思いますね。でもうけるものを書くのも正義だと思う。『うける=みんなに喜んでもらえる』、ですよね。みんなに喜んでもらえなくて良いんだったら、じゃあ何でエンタメをやるの? っていう根源的な疑問にぶつかってしまいますよね」(東大新聞オンライン2016年4月1日)
ドラマは大衆のもの。選ばれた人間のために存在するわけではない。どんなに立派なメッセージが盛り込まれていようが、多くの人が楽しめなくては意味がないということだ。
その点、「天国と地獄」は入れ替わりを物語の前提と据えたことで取っつきやすくなり、出だしから高視聴率が獲得できた。エンタメ色の濃いヒューマンドラマに考察の面白さも加えられた。森下さんの骨太のメッセージもしっかり織り込まれた。TBSと森下さんにとっては理想的な展開だっただろう。
では、森下さんがこのドラマに織り込んだメッセージとは何か。いくつかは最終回でやっと鮮明になった。まず強者が弱者から奪う社会への疑問である。
日高陽斗(高橋一生、40)は二卵性双生児の兄・東朔也(迫田孝也、43)による3人連続殺害の罪を被ろうとした。自分が東より先に生まれていたら、それまでの過酷な半生は自分が背負うはずだったからだ。入れ替わっていた警視庁刑事・望月彩子(綾瀬はるか、35)を罪に問えないようにするためでもあった。
日高は「3人とも自分が殺しました」と強弁する。動機は3人が東を虐げたから。「あまりに兄がみじめでかわいそうだったので」。これに対し、取り調べに当たっていた河原三雄主任刑事(北村一輝、51)は怒声を上げた。
「じゃあ、なぜまた奪う! この殺人はお兄ちゃんの『声』じゃないのか。立場の弱い人間が、いかにたやすく奪われ続けるか。そして立場の強い奴らも最後には自らこういうふうに奪われることにもなる。そんなことが言いたかったんじゃないのか!」
日高もまた強者。弱者の東が罪を犯してまで訴えたかった怒りを、日高が奪ってしまうことが河原には許せなかった。弱肉強食社会への戒めに違いない。
このドラマは現代の地獄というものも示した。河原が取調室で日高に向かって読み上げた東の半生を、他人事のように聞けた人はどれだけいるだろう。
勤務先の上司だった田所仁志から強烈なパワハラを受け鬱病に。オーナー社長の息子・久米幸彦のミスを押しつけられての不当解雇。四方忠良から押しつけられた東家に負債……。
認知症の父・貞夫(浅野和之、67)の介護もあった。現代の地獄は身近にある。
強者への警鐘もあった。わが物顔をしようが、弱者から強い怒りをぶつけられたら、ひとたまりもない。「天国と地獄」は皮膜で隔てられているだけで簡単に逆転する。3人は東によって簡単に地獄に突き落とされた。強者は奢るべきではないという森下さんのメッセージだろう。
ちなみに森下さんは東大では文学部宗教学科に属した。善と悪、罪と罰については考え抜いた人である。「天国と地獄」は最も得意とする物語だったはずだ。
このドラマは東の出現により、第7話にしてタイトルがダブル・ミーニングであることが分かった。当初は第1話で入れ替わった彩子と日高の関係のみが「天国と地獄」と思われたが、双生児でありながら明暗が分かれた日高と東も「天国と地獄」であることが分かる。
やがて東と彼を虐げた四方ら3人との関係も「天国と地獄」だったことが明らかに。実はトリプル・ミーニングだった。タイトルにここまで意味を持つドラマは珍しい。
その上、このドラマは世界的巨匠である故・黒澤明さんの名画「天国と地獄」(1963年)へのオマージュでもあるはず。
映画版は当時の時代に合わせ、パワハラや不当解雇ではなく、麻薬禍やインターン生の窮乏を描いた。そのインターン生の竹内(山崎努、84)が、近所の裕福な会社重役・権藤(故・三船敏郎さん)の専属運転手の子供を誘拐し、共犯者を殺害する。
竹内は死刑になる前、権藤に犯行動機をこう語った。
「私のアパートの部屋は、冬は寒くて寝られない。夏は暑くて寝られない。その3畳間から見上げると、あなたの家は天国みたいに見えた」
一方、ドラマの第9話で東は日高に向かって、こう叫んだ。
「やっと入れた会社で田所にいびりまわされていた時、何してた! 久米に濡れ衣着せられて、オヤジがボケて途方に暮れてた時、おまえがあの会社作ったって、便所拭いていた新聞で知ったよ!」
行きすぎた貧困や格差は犯罪を誘発する。個人の問題で片付けられない点がある。天国を見せつけられる地獄側の人間の苦悩は計り知れない。黒澤監督、森下さんに共通するメッセージだろう。
ドラマは謎が謎を呼ぶストーリーだったが、最終回でも謎が残された。犯行とは無関係であるものの、彩子の同居人で便利屋の陸(柄本佑、34)はなぜ消えたのか?
おそらく、一度は日高の無実を証明するはずのSDカードを隠匿した後ろめたさからだ。陸はそのSDカードを東の遺品の中から見つけた。にもかかわらず、彩子が「SDカード見てない?」と尋ねると、「見たことないなぁ」と嘘をついた。
陸はどうしてSDカードを隠したかというと、彩子の頭の中が日高のことでいっぱいになっていたことへの嫉妬に違いない。
もっとも、やがて陸は自分の愚かさに気づき、「何やってんだ」とつぶやき、彩子宛に匿名でSDカードを送ったのはご存じの通り。後に彩子から「送ってくれたの、陸でしょう?」と問われたが、「違うよ」と否定し、彩子の前から永遠に去った。
真っ直ぐな青年だった陸は自分の振る舞いを悔い、正義の人である彩子にはふさわしくないと思ったのだろう。嫉妬心は大抵の人にあるはずだが、カトリックなどが定める7つの大罪の1つだ。森下さんだから、そこまで考えたのかも……。
このドラマは当初、愛が大きなテーマの1つになるという触れ込みだった。それはまず東と日高、日高の義父・満(木場勝己、71)らの家族愛。そして死刑になってまで彩子を助けようとした日高、何としても日高を守ろうとした彩子のアガペー(人間に対する神の愛)的な無償の愛だった。
陸も彩子に対し、日高と同様の感情を抱き続けていたが、それが恋愛になってしまい、エゴが生じたことを恥じたのだろう。
恋愛ドラマばかりが目立つ中、違った愛が新鮮だった。
海老蔵の地震予知発言、専門家は「全部ウソ」
人類が挑んでは跳ね返されてきた「地震予知」の壁。軽々そこを突破し、見事、先の福島県沖地震の予知に成功した、と宣(のたま)うのが市川海老蔵(43)である。しかも更なる大地震発生の予感も口にしているのだ。
地震予知の困難さは、広く知られている。
「10年前までは不可能と言われてましたけどね」とは、東海大学海洋研究所の地震予知・火山津波研究部門長、長尾年恭教授。
「ただ、東日本大震災の際、その40分前から震源地上空の電離層に電子密度の異常が起きていたことが確認され、他の大地震についても調査すると100%、同じ前兆現象が起こっていた。で、ようやく原理的には予知が可能ということがわかったのですが、とはいえ、今の段階では異常の確認・判断方法も確立されていません。またできたとしても揺れの数十分前です。予知はようやくスタート地点についたばかりなのです」
しかし、こうした研究者たちの遥かに先を行くのが、我らが海老蔵だ。
2月13日に突如、「なんとなくだけど、地震きて欲しくないなーとふと思う」とツイート。すると何とその10時間後、福島県沖で震度6強の大地震が発生した。
予知が的中、との盛り上がりを受けて翌日、ご本人はYouTubeの自身のチャンネルを更新し、「災害のサインを感じる人なだけです」「特別じゃない」と得意気。そして、「今年は何かいろいろありそうな気がする」と更なる地震の発生まで予言し、「すげー気になっている日がある」「それは5月」「仕事キャンセルして休もうとしている」。
繰り返しだが、地震予知は極めて困難だ。先の長尾教授はこう強調している。
「ですから、今地震を予知したと言っているのは、全部ウソです。つまり、そう言っている人は、詐欺師でなければ予言者か超能力者でしょう」
日本では地震予知連絡会を中心に毎年、予算を250億円以上もかけて研究に勤しんでいるのに、それを超えるのが海老蔵なのだ。過去にも震度4や5の地震を予知したことがあるというから、政府会議を超越する彼はきっと予言者。そんな男がなぜ半グレに灰皿テキーラを飲ませれば返り討ちにあうという程度のことを“予知”できなかったかは疑問が残るが。
成田屋に、深遠なる予知の秘訣を尋ねてみたが回答はなし。代わりに、「実は彼には“師匠”がいるんです」と教えてくれるのは、さる芸能デスク。
「彼の行きつけの渋谷のゲイバーのママです。海老蔵だけでなく芸能人も数多く訪れる店ですが、占いにも凝っていて、過去に大地震を当てたと吹聴している。お金を払えば運命を占ってもらうこともできますよ」
このデスク氏、かつて占いを頼んだこともあるが、「じっと手を握られるだけで少しも当たらなかった」
芸人の「ぐっさん」似と言われるそのママに「弟子」の予言について聞くと、「海老蔵が来てる? それはちょっと。当たる秘訣? 彼はもともとそういうの興味持っているんですよ」
このところオンラインサロンやYouTubeなど、副業にご熱心な海老蔵。これからは予知も新たな“サイドビジネス”に加わりそうだ。 

 

 
 
 
 

 

●政治家

 

●麻生太郎氏 「マスクいつまで?」
麻生氏が報道陣に逆質問「マスクはいつまでやることになってるの?」 3/19
麻生太郎財務相は、3月19日の閣議後の記者会見で、マスクをいつまでつけるべきか報道陣に質問した。毎日新聞などが報じた。1都3県の緊急事態宣言は21日で解除されるものの、新型コロナウイルスの感染拡大の収束が見えない状況に、苛立ちを募らせた格好だ。
黒いマスクをつけて会見した麻生氏は「マスクなんて暑くなって、口の周りがかゆくなって最近えらい皮膚科がはやっているそうだけど」と愚痴をこぼした。その上で、マスクについて「いつまでやるんだね?」と報道陣に逆に尋ねた。
その上で「真面目に聞いてるんだよ、俺が。あんたら新聞記者だから、それくらい知ってんだろ」と苛立ち気味に質問を続けた。報道陣から回答があったのかは不明。
TBS系の情報番組『ゴゴスマ』では、麻生氏の発言を伝えた上で、いつまでマスクをつけるべきか名古屋大医学部付属病院救急医局長の山本尚範さんに質問した。
山本さんは、アメリカのCDC(疾病対策予防センター)の見解として「ワクチンをつけた方同士であればマスクを外した状態で会ってもいいとしており、ワクチンを受けた方があまりリスクがない方を訪ねる場合にも外してもいいと言っています」と説明した。

麻生氏の発言全文 「(緊急事態宣言を)これくらい長くやっていると、なんとなく……。いわゆる……。なんだろうね。どれくらいやってるかね。マスクなんて暑くなって、口の周りがかゆくなって最近えらい皮膚科がはやっているそうだけど。(マスクは)いつまでやるんだね?真面目に聞いてるんだよ、俺が。あんたら新聞記者だから、それくらい知ってんだろ。いつまでやるの?これ。マスクはいつまでやることになってるの?」
副総理なのに…麻生大臣「マスクいつまで?」発言に批判殺到  3/20
「マスクなんて暑くなって口の周りがかゆくなって、最近えらい皮膚科がはやっているそうだけど。いつまでやるの?」
3月19日の閣議後に行われた会見で、記者に向けてにこう投げかけたのは麻生太郎財務大臣(80)だ。各メディアによると記者が緊急事態宣言解除後の景気について質問したところ、麻生大臣は「マスクはいつまでやることになってるのか、記者なら知っているだろう」と逆質問。その上で「景気の“気”の部分が直らないと、景気は直らない」と述べたという。
各紙によると米疾病対策センターでは8日、新型コロナのワクチン接種を完了した人に向けたガイドラインを発表。接種を終えて2週間以上経った人同士が屋内で集まる場合、「マスク着用やソーシャルディスタンスを取る必要はない」など制限が緩和されたという。
日本でも医療従事者向けのワクチン接種が始まったばかりだが、加藤勝信官房長官(65)は9日の会見で「日本では接種した人もマスク着用をはじめ、基本的な対策の徹底をお願いしている」とコメント。またマスクが不要になる時期については「専門家の意見を聞きながら検討する」と述べるにとどめたという。
加藤官房長官の意見とは逆行するような発言をした麻生大臣。そんな彼のマスク姿は、これまでも注目を集めてきた。
「フェイスガード姿はほぼ見かけなくなりましたが、麻生大臣はとにかくマスクの着け外しが多い。マスクを片耳にかけた状態で、他の大臣に話しかけるといった姿も確認されています。17日に行われた参院予算委員会では、マスクから鼻を出した状態で答弁をしていました。厚生労働省は正しいマスクの着用方法として、『隙間がないよう鼻まで覆う』と示しています。それだけに麻生大臣は、“悪い例の見本”のようです」(政治部記者)
政府は21日をもって、1都3県に出されていた緊急事態宣言を解除すると決定した。だが都内の感染者は4日連続で300人を超えるなど、リバウンドが懸念されている。
菅義偉首相(72)も18日の会見で、「これまでの経験から学んだマスク、手洗い、3密の回避などの基本的な予防策を社会全体で共有し、続けていただくよう、心よりお願いを申し上げます」と呼びかけたばかりだ。
昨年5月12日の参院財政金融委員会では、新型コロナを「これは風邪だから」「6月に何となく収まるのかな」とも発言していた麻生大臣。副総理の立場でもありながら、軽視し続ける姿勢に批判の声が殺到している。
《本当に他人事だよな。副総理なんだから、もう少し言葉選んで話せば? ワクチンもまだ供給不足なのにもうこんなこと言ってんのかよ》
《国の中枢にいる人がそんな愚痴言ってたら、誰も感染対策や自粛に協力しなくなる》
《仮にも蔓延防止に協力を仰ぐべき政府の人間が何も考えず平気でこの発言が出来るのが人として考えられん ずっと国民の神経を逆撫でして何がしたいんやろ?》  
玉川徹氏、麻生発言は「我々の政府は無能ですと言っているのと一緒」  3/22
22日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」(月〜金曜・午前8時)では、麻生太郎財務相(80)が19日の閣議後記者会見で新型コロナウイルス対策の長期化に絡み、「マスクなんて暑くなって口の周りがかゆくなって最近えらい皮膚科がはやっているそうだけど。いつまでやるの?」と話し、物議を醸している一件を取り上げた。
コメンテーターで出演の同局・玉川徹氏(57)は「これ、記者に言っているんですよ。何を記者に聞いているの?。一番、情報を持っているのは政府でしょ、感染対策とかに対して」とチクリ。
その上で「「記者に対して、どうするの?と聞いて、どうするの? 我々の政府は無能ですと言っているのと一緒じゃないですか。無能じゃないって部分が一切ないっていう政府ですからね、ずっと。図らずもそれが出たなって感じです、またも」と厳しく続けていた。
「これがザ・麻生さん。国民のことは全然、考えてない人ですから」  3/22
22日放送のTBS系「グッとラック!」(月〜金曜・午前8時)では、麻生太郎財務相(80)が19日の閣議後記者会見で新型コロナウイルス対策の長期化に絡み、「マスクなんて暑くなって口の周りがかゆくなって最近えらい皮膚科がはやっているそうだけど。いつまでやるの?」と話し、物議を醸している一件を取り上げた。
コメンテーターで出演の元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏(51)は「副総理ですからね…。感染対策でずっとマスクの着用を言っているので、麻生さんのこの発言は不適切と言ったら、不適切なんですけど、これが麻生さんなんですね」と苦笑。
「二階(俊博)さん、麻生さんと言うのは国民のことは全然、考えてない人ですから。永田町の中ではものすごい派閥を率いて、どうしても政権運営する上では頼らざるを得ない、ある意味、政治力を持った人。ただ国民のことは考えない。これがザ・麻生さんです」と続け、「永田町の中では雰囲気的にああいうのが通るんでしょうね。でも、見たらおかしいってのを誰かが言ってあげないと。麻生さんは自分が総理になって矢面に立った状況だった時には言葉で支持率がガタ落ちになりましたよね。だから、麻生さんの発言で菅さんの足を引っ張らないようにして欲しいと思います」と話していた。

 

●麻生副総理兼財務大臣・諸話
財政演説 予算案の早期成立へ協力求める 2021/1
麻生副総理兼財務大臣は、衆参両院の本会議で財政演説を行い、新型コロナウイルスの感染防止策を含む経済対策を速やかに実行するため、新年度=令和3年度予算案と今年度の第3次補正予算案の早期成立への協力を求めました。
この中で麻生副総理兼財務大臣は、11の都府県に緊急事態宣言が出されている現状を踏まえ「日本経済は依然として厳しい状況にある。持ち直しの動きがみられるが、内外経済を下振れさせるリスクに十分注意する必要がある」という認識を示しました。
そして、18日国会に提出した新年度=令和3年度予算案と今年度の第3次補正予算案について「国民の命と生活を守るため、感染拡大防止に万全を期すとともに、将来を切り開くため、中長期的な課題を見据えて着実に対応を進めていく予算としている」と述べ、新年度予算案と今年度の補正予算案の早期成立への協力を求めました。
そのうえで麻生大臣は「次の世代に未来をつないでいくためには、今回の危機を乗り越えるとともに、構造的な課題に取り組むことで、経済再生と財政健全化の両立を進めていく必要がある」と述べ、一段と悪化した財政の健全化に取り組むことの重要性を改めて強調しました。
麻生太郎のスピーチに「ブチギレ」の河野太郎…何が起きたのか? 2021/1
「出席者はいかにも『動員されました』みたいな地元企業の社員ばかりで、白けた雰囲気の会合でした」(自民党麻生派関係者)
新潟市の老舗ホテル「イタリア軒」に12月12日、麻生太郎副総理、そして河野太郎行政改革担当大臣の姿があった。次期衆院選で新潟1区から立つ、塚田一郎元参議院議員(麻生派)の「激励の集い」に出席したのだ。
ダブル太郎の揃い踏み。さぞ盛り上がったはず……と思いきや、会は異様な雰囲気だった。河野氏が終始、仏頂面だったのだ。
場が凍ったのは、挨拶に立った麻生氏が軽口を飛ばした瞬間である。
「目下売り出し中の太郎(=河野氏)と、まだそこそこ売れてる太郎(=麻生氏)、2人の太郎がやってきました」
だがニコニコしているのは麻生氏だけで、河野氏は愛想笑いさえも浮かべていなかった。
「反応していいのかどうか微妙な自虐ネタ。しかも前日には、菅総理がネット番組で『こんにちは、ガースーです』と言って顰蹙(ひんしゅく)を買ったばかり。そんな状況で、河野さんも笑うに笑えなかったということでしょう」(自民党新潟県連関係者)
実はこの日、河野氏は「ドタ参」。前日に急遽、麻生氏に呼ばれたのだ。そのため、来賓を示す胸の花も河野氏の分は用意されていなかった。
「行きたくもないのに呼ばれて行ったら、扱いは悪いわ、盛り上がらないわ……河野さんに同情します」(前出・麻生派関係者)
不機嫌だったのも当然かもしれない。
麻生太郎の「本音」が自民党内で話題になっているワケ 2021/3/17
「詭弁」とは、誤っていることを正しいと思わせるように仕向ける議論を意味する。
NTT幹部から接待を受けたかどうかを尋ねられ、「国民の疑念を招く会食はしていません」と質問の主旨を歪曲して答えた武田良太総務大臣の言葉もまた、「詭弁」だといえるだろう。
菅義偉首相も加藤勝信官房長官を通じて「国民から疑念を招くような会食や会合などに応じたことはない」と主張しているが、これも武田大臣の答弁と同じく「詭弁」だ。
「国民が疑念を抱くかどうか」は国民が決めることで、NTT幹部と会食した当の政治家が決めることではない。
そもそも菅首相や武田大臣が問われているのは「会食をしたかどうか」という“事実の存否”であって、「疑念を招く会食をしたかどうか」という“判断を含むもの”ではないのだ。
前原氏が問いかけたこと
3月16日に開かれた衆議院財務金融委員会で、国民民主党の前原誠司議員がその冒頭で「事前通告していないが」と断って質問したことは、まさにこうした「詭弁」についての問いかけだった。しかも問いかけた相手は麻生太郎副総理兼財務大臣で、菅首相でも武田大臣でもないことが“ミソ”だった。
「単純に考えると、会食に応じてなかったら『会食していません』で終わりなんですよ。こういう答弁をするということは、会食をしている事実があってね。だけども『大臣規範には触れていません』という言い方の答弁だと私は思うんです」
「私がひっかかりますのはね。(武田大臣は)総務省の役人については『徹底的に調べる』と言っているんですよ、会食したかどうか。自分の部下たちのことは『徹底的に調べる』と言って、自分のことは明確に言わない上司が果たしているのかどうか。これが私が一番引っかかる点なんですね」
前原氏はこう述べて金融庁を例として挙げ、「(仮に)金融機関が金融庁の役人に対してお願い事があって接待攻勢をかけていた。その時に麻生大臣がそういった事実を『徹底的に調べろ』とおっしゃって、『ご自身はどうですか』と聞かれてこういう答弁をしていたら、部下に示しがつかないのではないか」と尋ねたのだ。
委員会室に笑いが沸き起こった理由
これについて麻生大臣は以下のように答えたのだが、これがなんとも麻生氏らしく茶目っ気を混ぜた嫌味をたっぷり含んでいる。
「特定業者がどうたらこうたらとか、いろいろさっき予算委員会でやっとられましたけれども。『私どもとしてひとつひとつの答えを控えさせていただきます』と言うだけで、『やましいところはねえ』とかなんとか言って、『やましいことがあります』と言う人はいませんしねえ。
なんとなく(予算委員会のやりとり)聴いていて、聞いている方も聞いている方だけど、答える方も答える方だと思って。(「国民の疑念を招く会食はしていない」と)何回も言っているので、まあこんなのをテレビで見ていたら、どういうふうにとられるのだろうなあと思いながら、武田にちょっと言おうかなと思ったんですけど。あんまり仲が良くないので黙っておきました」
この時、委員会室にどっと笑いが沸き起こったのは、同じ自民党福岡県連に所属しながら麻生大臣と武田大臣が犬猿の仲であることが永田町では超有名だからだ。2人はこれまでも、鳩山邦夫元総務大臣の死去による2016年10月の福岡県第6区補選や2019年4月の福岡県知事選で、ぞれぞれ別の候補を立て争ってきた。
福岡県知事選で起きたこと
生前の邦夫氏と関係が良くなかった麻生氏は、衆議院福岡県第6区補選では当時県連会長だった蔵内勇夫県議の長男・謙氏を応援した。一方で鳩山家からは邦夫氏の次男で大川市長を務めた二郎氏が出馬し、麻生氏と関係が悪い武田氏を通じて、二階俊博幹事長の懐に飛び込んでもいる。
さらに遺族にとって有利な弔い合戦に加え、邦夫氏の「きさらぎ会」で顧問を務めた菅官房長官(当時)や同年7月の都知事選で初当選を果たして意気揚々の小池百合子知事の応援も得て、断トツの強さを見せて当選を果たしたのだ。二郎氏の約5分の1しか票を獲得できなかった蔵内氏は民進党候補の新井富美子氏にも及ばず、3位に甘んじた。
そして福岡県知事選では、麻生氏が新人で元厚労省官僚の武内和久氏を擁立し、党本部から推薦を出した。一方で武田氏が現職の小川洋知事を応援し、県内選出の自民党の衆議院議員11名のうち6名が小川知事側に付いたのだ。
結局、公明党福岡県本部も現職の小川知事を支援し、武内氏の4倍近くの票を獲得して圧勝。麻生氏にすれば、すっかりと顔を潰された結果となった。
しかし小川知事は体調不良のため、今年2月に辞意を表明。4月11日に県知事選が行われるが、麻生氏らがその後継としたのが県職員出身で知事代行も務めた服部誠太郎副知事だった。
これに対して総務大臣を務める武田氏は、総務官僚を中心に自分の息のかかった候補を擁立しようとし、まずは国交省出身の奥田哲也氏に白羽の矢を当てた。しかし東北新社やNTTによる接待問題で忙殺され、県知事選まで手がまわらなくなってしまったのだ。
一方で奥田氏は、永田町の議員会館で福岡県選出の国会議員の事務所を挨拶に回るなど出馬に向けて着々と準備を整えていたが、分裂選挙に反対する二階幹事長から出馬を見送ることを要請され、やむをえず断念。だがこれで収まらないのが自民党という政党だ。
福岡県知事選出馬を断念した奥田氏には、次期参議院選で福岡県選挙区からの出馬が打診されているという噂も伝わっている。もし実現すれば3年ごとに定数の3議席を自民党、立憲民主党、公明党で分け合っている参議院福岡県選挙区で、麻生氏に近い大家敏司参議院議員は奥田氏と自民党票を分け合わなければならなくなる。そうなれば麻生氏側にとって、かなり痛手になるはずだ。こうして身内同士の恨みと逆襲の連鎖は果てしなく繋がっている。
なお16日の衆議院財務金融委員会で、武田大臣の「詭弁」についてあえて麻生大臣に質問した前原氏が、このような事情を踏まえていたのかどうかは不明だが、図らずしも麻生氏の「本音」を引きだしてしまったことは事実である。
そして4月の福岡県知事選ではいったん休戦するものの、今年の衆議院選や来年の参議院選など、自民党の福岡県政を舞台にした“仁義なき戦い”はこれからも続いていく。  

 

 
 
 

 

●前川喜平 

 

●加計学園問題・前川前事務次官はなぜ安倍政権に「歯向かった」のか 2017/5
永田町に激震が走った。
文部科学省の事務方トップだった前川喜平前事務次官が、『週刊文春』(17年6月1日号)の取材に応じて、安倍晋三首相の意を受けた内閣府官僚らの圧力に負けて、首相の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園の獣医学部新設を許し、しかもその過程を綴った内部文書が「本物」であると認めたのだ。
問題となったのは、5月17日、『朝日新聞』が「新学部『総理の意向』」と、大見出しを掲げ、1面トップで報じた獣医学部新設に絡む記録文書。昨年9〜10月に文科省と内閣府のやりとりなどをまとめたA4版で8枚の文書である。
朝日は、これをもとに記事を作成、民進党は国会でこの問題を取り上げたのだが、菅義偉官房長官は、「名前も日時も記載されていない怪文書のようなもの」と、切り捨てた。
すると朝日は、翌18日、日時と氏名が記載された文書を、そのまま掲載。そこには、「平成30年4月の開学を大前提にして欲しい」と、内閣府の官僚が文科省の窓口に伝えたうえで、「官邸の最高レベルが言っていること」と、プレッシャーをかけている様子が記されていた。
前川氏は、この文書の存在も認めたうえで、「総理のご意向かどうかは確認のしようはありませんが、ここまで強い言葉はこれまで見たことがなかった」と、語っている。
プレッシャーをかけたのは内閣府の藤原豊審議官。「経産省からの出向者で、とにかく官邸の意向を大切にする人。国家戦略特区有識者議員で、特区選定の実力者である竹中平蔵・東洋大教授に可愛がられている」(内閣府関係者)という。
前川氏は、一連の文書が文科省のものであることは認めたものの、流出させたのが誰であるかに言及したわけではない。だが、菅官房長官はオフ懇の場で、「(流出させたのは)元最高責任者」と語っており、文科省内部でも「総理の威を借りて獣医学部新設をゴリ押しする内閣府と、特区という例外規定を突破口に、新設を図る官邸のやり方に批判的なOBが流したもの」と、目されていた。
では、そのOBは誰か。その際、本人かどうかはともかく、官邸に対してケンカを売るだけの度胸を持ち、事実、近年、官邸とぶつかることが多かった前川氏とそのチームではないか、というのは菅氏だけでなく霞ヶ関の了解事項だった。
前川喜平とは何者か――。
私は、審議官時代に自ら就職先あっせんの口利きしていたことが発覚して、今年1月に退任した前川氏の「華麗なる経歴と人柄」について、本サイトで配信(2月9日)したことがある。
祖父は前川製作所の創業者で妹は中曽根弘文元文相に嫁いでおり、本人も与謝野馨氏が文相時代に秘書官を務めており、経歴は事務次官コースを辿るに相応しかった。
一方で、小泉純一郎政権の「三位一体改革」に噛み付き、自らの名をもじった「奇兵隊、前へ!」と題するブログで政府方針に歯向かうなど型破り。そんな主張を通すところが、今回、「犯人説」が流れたゆえんだろう。また官邸とは、今回の加計学園騒動の前に新国立競技場建設をめぐって、ギクシャクしていた経緯もある。
●「面従腹背という前川前次官は官僚のクズ」 2017/6
「座右の銘」が「面従腹背」と語る前文科事務次官の前川喜平氏に対して、同じく元官僚で慶大大学院教授の岸博幸氏が「官僚のクズ」と厳しい言葉で批判した。
安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画をめぐり、内閣府が文部科学省に「総理のご意向」などと早期開学を促したとされる文書の有無が焦点となっている。
松野博一・文部科学相は6月9日、追加の調査をすると発表したが、この問題について「文書は間違いない」「行政がゆがめられた」と証言して、一躍メディアの注目を浴びるようになったのが前文科事務次官の前川喜平氏だ。「座右の銘」が「面従腹背」と語る前川氏に対して、同じく元官僚で慶大大学院教授の岸博幸氏が「官僚のクズ」と厳しい言葉で批判した。
前川氏は、1日放送のテレビ朝日系『報道ステーション』のインタビューで座右の銘について聞かれ、次のように語った。
『私ね、座右の銘が「面従腹背」なんですよ。あの、これは普通は悪い意味で使われるんだけど、役人の心得としてある程度の面従腹背はどうしても必要だし、この面従腹背の技術というか資質はやっぱり持つ必要があるので、ですから表向き、政権中枢に言われた通り、「見つかりませんでした」という結論に持っていくけれども、しかし、巷では次々にみつかっているという状態ということを考えたかもしれない。そういう面従腹背しきれなかったかというと、しきれたかもしれません。いま私、面従する必要がなくなったんでね。だからいま、「面背腹背」なんですよね。けしからんと思われる方もたくさんいると思うんです、「今になって」と。38年宮仕えして、初めて自由を獲得したんですよ。「表現の自由」をですね、本当に100パーセント享受できる喜びというのはね、これは大変なものですよ。多くの公務員はものすごく息苦しい中で、暮らしているわけですよね。もともと政治活動についてものすごく制限されていますし、物言えば脣寒しなんてどころじゃない。「辞めた人だから気楽でいいね」と言われるんですが、その通りなんです。』
ちなみに「面従腹背」とは、「表面では服従するように見せかけて、内心では反抗すること」という意味だ。
こういった発言をしている前川氏について、岸教授は13日付の産経新聞で「『総理のご意向』があるから逆らえなかったというのは間違っている」として、次のように非難した。
『安倍内閣が人事権を握っているから逆らえないともいわれるが、本当に日本のために必要だと思うなら、クビを恐れずにやればいい。(中略)人事権を握られたぐらいで何もできないなんて、その程度の志しかない人間が偉そうにモノを言うなと思う。前川氏の座右の銘は「面従腹背」だそうだが、論外だ。そんなことを正々堂々という官僚なんて官僚のクズだと思う。一時期とはいえトップを務めた人間がそんなことを言えば、文科省がそういう組織に見える。文科省の後輩たちに迷惑をかけると思わないのか。』
●前川・前事務次官に激怒して、安倍官邸が使った「秘密警察」 2017/6
黙って上に従うはずのエリート官僚が、絶対権力を謳歌する安倍官邸に堂々刃向かった。手加減すれば、政権が吹き飛ぶ――ガチンコの殴り合いが始まる。
中曽根康弘も親戚のエリート官僚
「公平、公正であるべき行政のあり方がゆがめられたと思っております」
「当事者の立場の中で、非常に疑問を感じながら仕事をしていた」
文科官僚の元トップが、安倍官邸に堂々と弓を引いた――。
前川喜平・文部科学省前事務次官。彼は5月25日の会見で、安倍総理の「お友達」加計学園の獣医学部新設について、「条件に合致しているとは思えない」と真っ向から異議を唱えた。
この1月、文科省の「天下り斡旋」問題で引責辞任したばかりの人物が突如起こした、まさしく「前川の乱」だ。
前川氏は奈良県生まれ。小学生の時に東京へ移り、麻布中学・高校を卒業、東大法学部へ進んだエリートだ。実家は大手冷凍機器メーカー「前川製作所」。
さらに妹は、「大勲位」中曽根康弘氏の長男で、自民党参院議員の中曽根弘文氏に嫁いでいる。霞が関官僚の中でも、毛並みのよさは抜群だ。
この前川氏のプライベートに関して、読売新聞朝刊に「奇妙な記事」が掲載されたのを覚えている読者も多いだろう。
〈前川前次官出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜〉
新宿・歌舞伎町、ネオンと看板に埋もれるように建つ雑居ビルの2階に、その「出会い系バー」はある。料金は前払い制で、1時間3500円、無制限で6000円。薄暗い店内では、造花のハイビスカスやヤシの木といった南国風のインテリアが目につく。
中央にあるカウンターの手前側には数人の男性が座り、奥側には女性が、男性たちに背を向けて座っている。壁に張られた鏡に、映りこむ女性の顔。男性陣はそれをじっと眺めて、品定めをしている。
「あの子……」と、一人の男性が店員に小声で話しかける。指名を受けた女性は、男性の隣に腰掛け、カクテルを頼んで乾杯する――。
「出会い系バー」とは、こうして店内で男女が交渉し、合意に至れば外に出て食事をしたり、ホテルに行ったりする仕組みの、広義の風俗店だ。
女性たちは表向き、自分の意思で店を訪れて、声をかけられるのを待つ「素人」である。前川氏は多くの女性に顔を覚えられるほど、数年前から毎晩のようにこの店を訪れていた。店の常連という20代の女性2人が、前川氏の写真を見て言う。
「この人、3月くらいまで、ほぼ毎日来てましたよ。いつも黒いスーツにネクタイ、メガネ。なぜかカバンは持ってなくて、手ぶらでしたね。不思議だったのは、いつもカウンターの端っこに一人で黙って座って、ロコモコ丼やベーコンエッグ丼を食べながら、じっと女の子の品定めをしてるんですよね。普通、常連は店員さんと話してイイ子がいないか情報収集するんですけど、身分を隠してるみたいっていうか。ネクタイも絶対に緩めなかったし」「『カネ持ってそうなオッサンだよね』って噂になってました。女の子とツーショットで2〜3回外出している姿を見たことがあります。飲みなのかワリキリ(注・金銭目的の『割り切った』セックス、つまり売買春)なのかはわかりませんけど。黒髪ストレートの清楚な子、しかも新規(入店)の子が好みみたいでしたね。でもそういう子ってめったにいないから、10回店に来て1回しか外出しない、って感じでした」
前川氏はこの店の他にも複数の「出会い系バー」で目撃されているが、目的については「貧困女性の売春の実態を知りたかった」と会見で語っている。
彼が買春に手を染めていたかどうかは判然としないものの、女性と連れ立って、夜の歌舞伎町に消えてゆくことが一度ならずあったのは事実だ。
朝日vs.読売の「代理戦争」
一方で、この読売新聞の唐突な報道について、永田町・霞が関の住人の見方は一致している。前川を潰せ――安倍官邸がそう指示を出して掲載させたものだ、と。
読売新聞OBで、ジャーナリストの大谷昭宏氏は、記事を一読して抱いた違和感をこう語った。
「前川氏が買春をしていたかどうか、その核心の事実が全く書かれておらず、誰の証言もない。もし名誉毀損で訴えられたら負けるでしょう。私がいた頃の読売社会部の基準なら、取材が甘すぎて絶対に掲載できない内容です。デスクに『誰に頼まれて書いてるんだ?』と一喝されるのが関の山ですよ。読売がこの記事を積極的に書いたとは思えませんが、もし何らかの指示や圧力があって掲載したのであれば、OBとして本当に恥ずかしく、情けなく思います」
安倍総理は、憲法改正に関する自身の立場と考えを国会で問われ、「読売新聞を熟読していただきたい」と答えて顰蹙を買った。これでは読売は、官邸の意に沿う情報だけを読者に知らしめる「広報紙」と思われても仕方がないだろう。
では、どのようにして官邸は、「前川潰し」のスキャンダルを入手し、読売に流したのか。
発端は、朝日新聞が5月17日朝刊でスクープした「加計学園の獣医学部開設に関する文科省の内部文書」。
文科省の大学新設担当部局である高等教育局へ、特区担当の内閣府から、加計学園の獣医学部開設について「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと、明白な圧力がかかっていたことを示すメモだ。
「総理は一切指示をしていない」「誰が書いたか分からない」「こんな意味不明のもの、いちいち政府が答えることはない」「怪文書みたいなもの」
菅義偉官房長官は同日の会見で、いつものごとく表情一つ変えず、めった斬りにした。だが内心、腸は煮えくり返っていたに違いない。背景について、自民党ベテラン議員が言う。
「件の内部文書は他でもない、当時事務次官だった前川氏の主導で作られ、朝日に渡ったものだったと聞いています。霞が関でそれほど強い発言力がない文科官僚にとって、大学の許認可は最大の利権です。『そう簡単に通すわけにはいかない』というプライドもある。そこへ官邸が手を突っ込んだんだから、頑なになるに決まっている。前川氏は、昨年に『加計学園ありき』の獣医学部新設計画が持ち上がった時点から、『文科省が抵抗したことの証拠を残せ』と、現場に逐一記録を取らせていた。つまり彼は、強硬な『反・加計』『反・安倍』だったのです」
天下り問題にはウラがあった
17日夕方に行われた菅氏の定例会見の直前、政権内部ではこんなやりとりがあった。文書のリークを知って慌てふためいた、文科関連の要職に就く政治家が、「官邸の最高レベル」の幹部のもとに相談に向かったのだ。
「あの文書、文科省のものに間違いないようです」
こう切り出した政治家に対して、官邸幹部は怒鳴り散らした。
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!どうすんだよ!役所の用箋でもないから、あれはただのメモだ。違うか」
会話はこう続く。
「でも、『違う』と言い切ってから後々証拠を出されると、森友学園よりもヤバくなりますよ」
「それで、出元は分かってんのか?」
「…………」
「お前らが弱腰でどうすんだよ!もう(菅)長官は怪文書だって筋で会見するつもりだ。それで通せよ、いいな」
「(官邸の)方針が決まってるなら……」
件の文書は安倍政権にとって「致命傷」となりかねないものだった。何しろ、安倍総理が加計学園に便宜を図ろうとしたことを裏付ける証拠が、初めて報じられたのだ。
だが、これまで4年半もの間、あらゆる不祥事を乗り切ってきた菅氏は、老練だった。官邸の「目と耳」――永田町、霞が関、そしてマスコミの隅々に網を張り巡らせる、内閣情報調査室(内調)と公安警察を駆使したのである。すべての元凶、前川氏を排除し、社会的に抹殺するために。
公安の内情に詳しいジャーナリストの青木理氏によれば、前川氏クラスの大物官僚は、平時から官邸の監視対象だという。
「警視庁公安部は、テロ組織や過激派以外にも、日常的に中央省庁幹部、次官・局長クラス、さらには問題を起こしそうな官僚や重要案件の担当者などの身辺情報を集めています。また、内調は事実上、公安の『官邸出先機関』のようなものです。彼らが日頃から蓄積していた前川氏の情報の中に『出会い系バー』の話があったのでしょう」
文科省内でもリベラル派として知られた前川氏は、小泉政権時代には自身の喜平という名をもじった「奇兵隊、前へ!」というブログを公開し、政権を批判するなど、霞が関でも目立つ存在だった。以前から、長年にわたりマークされていたとしてもおかしくない。
一方、「出会い系フーゾク」について、朝日新聞のインタビューで前川氏はこう答えている。
「昨秋、首相官邸幹部に呼ばれ、『こういう所に出入りしているらしいじゃないか』と注意を受けた」
官邸は、単に彼が変わり者だから監視していたのではない。前述の通り前川氏、そして高等教育局の幹部が、加計学園の獣医学部新設に対して強く反対していたからこそ、このような「警告」をあえて行ったのである。
官邸・加計学園と前川文科省の対立を示す「物証」も出てきている。昨年11月8日、高等教育局の職員数名で共有された、以下のメールだ。
〈先日に加計学園から構想の現状を聴取したことについて、昨日、大臣及び局長より、加計学園からに対して、文科省としては、現時点の構想では不十分だと考えている旨早急に厳しく伝えるべき、というご指示がありました〉(原文ママ)
この翌日には、国家戦略特区諮問会議が行われている。つまり文科官僚たちは、加計学園が獣医学部新設の「お墨付き」を安倍総理からもらうギリギリまで、「われわれは加計を認めていない」という抵抗の意志を示し続けていたのである。
そしてこの事実は、ある可能性も示唆している。
文科省内で「加計学園の件はおかしい」という認識が広がり始めたのと同時期の昨年秋、前川氏は官邸幹部から「警告」を受けた。そして年明けには、天下り斡旋問題が浮上し、スピード辞任に追い込まれた――。前出の自民党ベテランが言う。
「『天下り問題の責任を取らされた前川氏が、官邸を逆恨みして文書を流したのではないか』と見る人もいます。しかし、本当は順序が逆で、前川氏が加計学園に難癖をつけてくることを見越して、官邸が彼を追い落とすために天下り問題を報じさせたのではないか。どの省庁にも天下りはあるのに、文科省だけがなぜ、と不思議でしたから、そう勘繰りたくもなる」
「官邸のアイヒマン」出動
前川氏は文科事務次官の座を追われ、官僚としては命脈を断たれた。しかしその後、加計スキャンダルの核心を握る人物として、官邸に猛然と逆襲を仕掛けてきた。
「ただの人」となり、失うもののない前川氏を潰すには、「醜聞を出し『前川は信用ならない人間だ』と世間に強く印象付けるしかない」(与党幹部)。
朝日新聞が、文科省の内部文書について第一報を出してすぐ、菅官房長官は官邸に出入りする警察関係幹部と接触した。
内調を統括する内閣情報官で、ユダヤ人虐殺を指揮したナチスの将校になぞらえて「官邸のアイヒマン」とも呼ばれる北村滋氏と、第二次安倍政権発足時、菅氏の官房長官秘書官を務めた中村格警察庁組織犯罪対策部長だ。
「朝日のネタ元は分かってる。マスコミと通じているなんて、看過できないよな」
菅氏は彼らの前でこう呟いたという。前出の与党幹部の証言。
「この二人は、『いま安倍総理に最も近いジャーナリスト』といわれる山口敬之氏が、『週刊新潮』に『準強姦疑惑』を報じられたとき、『揉み消し』を依頼したとされる相手です。菅長官から『前川潰し』の依頼を受けた彼らが、『出会い系バー通い』の情報を流したと聞いています。中村氏は菅長官の覚えめでたく、次期警察庁長官の呼び声も高い。エリート中のエリート」
安倍政権に不利な内部情報を、マスコミに流す人物。彼に対して、官邸は狙い撃ちで身辺調査をかけた。そして、入手した「下半身情報」を別のマスコミにリーク、社会的抹殺を図った。戦前の特高も真っ青の、日本の「秘密警察」が、一人の男に牙を剥いたのだ。
前川氏は「文書は文科省で作られたものに間違いない」と断言している。しかし官邸と自民党は、かつて自らが任命した文科官僚の「前トップ」の言葉にもかかわらず、決してその信憑性を認めようとせず、野党が求める前川氏の国会参考人招致も拒否し続けている。
菅氏にいたっては「(前川氏は、文科事務次官の)地位に恋々としがみついていた」と、異常な個人攻撃を始める始末。
どんな手を使ってでも、安倍政権を守る――官邸の手段を選ばぬやり口が、白日のもとにさらされつつある。国民も、彼らを選挙で勝たせすぎた副作用、「数の論理」の恐ろしさに気づき始めた。

 

●記者会見 前川喜平 前文部科学事務次官 2017/6/23 
学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設をめぐって、「行政がねじまげられた」などと批判の声をあげた文部科学省の前川喜平・前事務次官が日本記者クラブの求めに応じて、記者会見を行った。「事務次官経験者による首相官邸批判」という前例のないニュースの「主人公」登場とあって、会見には 335人が出席した。
前川氏は、「獣医学部新設に関する規制に穴をあけたこと自体より、穴のあけ方に問題がある。官邸あるいは内閣府が、認可プロセスについて第三者組織による検証も検討すべき」と指摘、また自身のプライベートに関連する一部報道について「国家権力とメディアの関係について非常に不安を覚える」と述べた。
   公益社団法人 日本記者クラブ
司会=倉重篤郎企画委員(毎日新聞)

 

前文部科学事務次官の前川喜平さんの記者会見を始めたいと思います。私は、この記者クラブの企画委員をしております毎日新聞の倉重でございます。
まず、今回の会見が成立した経過を説明したいと思います。
この会見は、日本記者クラブが前川さんに申し入れしました。理由は 2 つあります。1 つは、いわゆる加計学園問題というものの重要性であります。国家戦略特区という政権の看板政策が実行に移される段階で、時の首相の親しい友人が結果的に特別の扱いを受けた、その過程で行政がゆがめられた可能性があるという非常に重要な事件だと思っております。
第二に、にもかかわらず、この問題を解明する場がない。国政調査権を持った国会は、皆さんご承知のとおりであります。最もこの問題に精通し、高い証言能力を持つ元政府高官が発言する場がないというのは、われわれにとっても非常に残念なことであり、であるならば、この日本記者クラブでそのかわりができないか、というふうに率直に前川さん側にお伝えしました。その結果、快諾を得て、きょうに至りました。それが先週の金曜日でありました。
きょう、この時間帯に設定されたのは、双方の物理的制約を調整した結果であり、特段この時間帯にセットした意図はほかにはありません。
日本記者クラブとしては、前川さんからも聞く一方で、やはりその逆の当事者である首相官邸に対しても、しかるべき人にここに来ていただいて、記者会見をしていただこうと思っております。
ここは、別に偽証罪が適用されるわけでもありませんし、証人喚問の場ではないですけれども、きょうは、前川さんには、その良心に従って、知り得る真実を思いのたけ語っていただきたいと思っております。
きょうの段取りでございます。まずは、前川さんから 10 分程度、いまの思い等をプレゼンテーションいただいて、その後、私が代表質問します。こういう問題の性質上、順を追って全体をお聞きすると思うので、多少時間をいただきます。30〜40 分と思っております。
その後、会場の皆さん方から質問をお受けします。できるだけ多くの方から質問を受けたいと思っております。時間としては、全体で 1 時間半、したがって 18 時 15 分ということをめどに行いたいと思いますが、多少の伸び縮みは可能でございます。
では、前川さん、よろしくお願いいたします。
前川喜平・前文部科学事務次官

 

前川でございます。きょうは、日本記者クラブにお招きをいただきましてありがとうございます。
前回、私が記者会見をさせていただきましたのは、ちょうど 1 カ月ほど前でございますけれども、この国家戦略特区における獣医学部の新設の問題をめぐりましては、その後もさまざまな動きがございまして、報道各社の皆様方からたびたびいろいろなお問い合わせもいただいていたということもございまして、この日本記者クラブのご依頼というのを一ついい機会だというふうに捉えまして、ご依頼に応じて会見をさせていただくということにしたわけでございます。
私には何ら政治的な意図はございません。また、いかなる政治勢力とのつながりもございません。安倍政権を打倒しようなどという大それた目的を持っているわけでもございませんので、その点については、ぜひご理解賜りたいと思っておりますし、都議選の告示日とたまたまきょうは重なってしまいましたけれども、これは単にスケジュール調整の結果でございまして、政局であるとか、選挙に何らかの影響を与えるというつもりは全くございません。
また、いろいろとお考えになる方々もいらっしゃって、文部科学省における再就職規制違反問題がありました。私はその責めを負って辞任したという経緯があるわけですけれども、この問題との関係を憶測する方もいらっしゃいます。あるいは、さらにその前にやっていた仕事でもありますけれども、新国立競技場の整備計画あるいはその白紙撤回や再検討といった問題、これとの関係があるのではないかと憶測される向きもあります。あるいは、私の親族が関与する企業とか、そういったところとの関係もあるのではないか、このような憶測もあるわけですけれども、これは全て、全く関係はございませんので、その点ははっきりさせておきたいと思います。
5 月 25 日に会見させていただきましたけれども、その際に私が考えましたのは、この国家戦略特区の獣医学部新設をめぐって、行政がゆがめられたという意識を私は持っておりまして、これにつきましては、やはり国民が知る権利があると思ったということ、またその事実が隠蔽されたままでは、日本の民主主義が機能しなくなってしまうのではないかという危機感を持っていたということでございます。
憲法の前文にもございますけれども、「国政は国民の厳粛な信託に基づくものであって、その福利は国民が享受する」と書いてあるわけでありまして、一部の者のために国の権力が使われるということがもしあるのであれば、それは国民の手によって正されなければならない、そのためには、その事実を知らなければならない、そこに私の問題意識がございます。本日も同じ問題意識のもとで、この会見に臨ませていただいております。
文部科学省は、最初は問題となっている文書について、存在が確認できないという調査結果を発表したわけですけれども、その後、国民の皆さんの声に押されて、いわゆる追加調査を行って、その文書の存在についても認めました。これによって、文部科学省は一定の説明責任を果たしたと思いますし、私は文部科学省の出身者として、文部科学省が何とかこういった追加調査を行うことによって隠蔽のそしりから免れたということはうれしく思っております。
松野博一文部科学大臣も大変苦しいお立場だと思っておりまして、その苦しいお立場の中で精いっぱい誠実な姿勢をとられたのではないかと思っております。その点については、敬意を表したいと思っております。
文部科学省が存在を認めたさまざまな文書の中には、私が在職中に実際に目にしたもの、手にとったものもございますし、また私自身は目にしたことのないものもございます。しかし、いずれも、私がみる限り、その作成の時点で文部科学省の職員が実際に聞いたこと、あるいは実際に触れた事実、そういったものを記載しているというふうに考えておりまして、ほぼ100%、その記載の内容については間違いないものだと評価しております。
こういった文書をそれぞれ現職の職員も行政のゆがみを告発したいという気持ちからだと思うんですが、外部に提供するという行為が相次いでいるわけですけれども、この現職の職員たちの勇気については評価したいと思っております。
こういった文書が次々と出てくることによって、国民の中にも、この問題をめぐる疑惑というのはさらに深まっているのではないかと思っております。文部科学省が 100%の説明責任を果たしているかと言えば、それはまだまだ100%とは言えないかもしれませんが、しかし、一定の説明責任は果たしつつあると思っております。
しかし、一方、その記載されている事実は、多くの場合、内閣府との関係、あるいは総理官邸との関係をめぐるものでありまして、これらの事実関係につきましては、さまざまな理由をつけて官邸あるいは内閣府は、その事実関係を認めようとしていないという状況にあるわけであります。そういった姿勢は、私からみれば、やはり不誠実であると言わざるを得ないと思っておりまして、真相の解明から逃げようとしていると評価せざるを得ないと思っております。
特に、文部科学省の文書の中に出てまいります、「官邸の最高レベルの言っていること」という文言とか、あるいは「総理のご意向」という文言、こういった文言を含んだ文書がございますけれども、これの内容につきましては、内閣府においては、いわば自分の口から発した言葉をみずから否定している、そういう状況でございますから、これはあり得ない話ではないかと思っておりますし、それから規制改革全般をスピード感を持って進めろという総理のご意思を反映したものだ、こういう説明をしようとするのも、これはかなり無理がある説明であると思っておりまして、そういったご指示があったとして、それをこの文書に書いてあるような記載事項のように取り違えるはずはないと思っています。
これらの文書に記載された言葉を素直に読めば、「官邸の最高レベルが言っている」こと、あるいは「総理のご意向である」という発言が何を指しているかといえば、今治市における獣医学部の開設時期を平成 30 年 4 月にしてほしい、この一点なのです。このことに言及している言葉であるということは、文章を読んでいただければ明らかであります。
また、それが加計学園のことであるということは、これは関係者の間では事実上公然の共通理解であったということが言えるわけであります。
こういった状況を踏まえて、官邸あるいは内閣府におかれては、この加計学園に獣医学部新設を認めるに至ったプロセスについて、やはり国民に対して本当の意味での説明責任を果たしていただく必要があるだろうと思っておりますし、そのためには、必要があれば、第三者性の高い組織を設けて、その政策決定プロセスを検証するというような方法も考えられてしかるべきではないかと思っております。
実は、私は文部科学省におりましたときに、そういった政策を検証するプロセスに携わったことがありまして、先ほどちょっと言及しましたが、新国立競技場の建設計画をめぐって、最初の計画が白紙に戻った後、その最初の計画がどうして建設経費が 3,000 億に達するようなものになってしまったのか、その経緯を検証し、その責任の所在を明確化する、そういう検証委員会を文部科学省の中に設けたのですが、その事務局長を務めておりました。
こういった方法で、アドホックな組織をつくり、政策決定プロセスを検証するということはできるわけであります。その際に諮問会議の議員でありますとか、内閣府の幹部職員からもヒアリングをするというようなこともできますから、そういった方法も考えられてしかるべきではないかと思っております。
月曜日の記者会見で総理が、「何か指摘があれば、その都度真摯に説明責任を果たしていく」とおっしゃっていますし、また「国民の皆様から信頼が得られるよう、冷静に、一つ一つ丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない」とも述べておられます。総理みずから先頭に立って説明責任を果たしていただきたいと私は思っている次第でございます。
この問題を、規制改革を進めようとする改革派と、岩盤規制に固執する、あるいは既得権益に固執する抵抗勢力という、いわば勧善懲悪のような構図でみようとする方もいらっしゃるわけですけれども、それはこの問題の本質を見誤る考え方だと思っております。
私自身のことを申しあげれば、私自身、規制改革そのものに反対しているわけではございません。必要のない、無意味な規制はいまでもたくさんありますし、そういったものは思い切って撤廃するということは当然だと考えています。ただ、それはきちんとした検討や検証の結果として判断されなければならないと思っております。
私が現職中で携わったもので言えば、例えば不登校の子どもたち。不登校の子どもたちというのはいまでも 12 万人超える規模でいるわけですけれども、いまの学校という仕組みになかなかなじめない子どもたちのために、学習指導要領によらない特別の教育課程を編成するという仕組みができました。これは、最初はやはり特区でできたんです。平成 16 年だったと思いますけれども、これは非常にいい特区制度で、この特区制度ができたおかげで救われた子どもたちはたくさんいましたし、この特区制度は間もなく全国的な制度として全国展開することになったわけです。これは本当に特区で始まり、全国展開した非常にいい一例だと思っております。
また、昨年の 12 月には、「教育機会確保法」という法律ができました。これも一種の規制改革の法律でございまして、学校外での不登校の子どもたちの学習というものを正面から認めていこうというもので、これまで継子扱いされているフリースクールを正面から大事な存在として認めていくという方向性を持ったもので、これも不登校の子どもたちにとっては一つの大きな一歩を踏み出す改革だったと思っております。こういった意味で、私自身も規制改革は必要だと思うものはたくさんございます。
今回の問題は、獣医学部の新設という規制緩和を進めるに当たって、その規制に穴をあけたことそのものよりも、穴のあけ方に問題があると思っております。
具体的に申しあげれば、私が「行政がゆがめられた」と申しあげておりますのは、今治市における加計学園の獣医学部開設を認めるに至るプロセスです。そこに、やはり不明朗で不公正なものがあるのではないか、そこに問題があると思っているわけです。
具体的に疑問点を申しあげれば、何といってもまず第一の点は、まず「加計ありき」だったのではないかという問題。初めから加計学園に獣医学部をつくらせるという結論があって、その結論に持っていくためにさまざまなプロセスを経由していったのではないか。また、そのために、最後の段階で、さまざまな条件がつけ加わったわけでありまして、そのつけ加えられた条件というのが、「広域的に獣医学部が存在しない地域に限る」という条件でありますとか、「平成 30 年 4 月に開学できるものに限る」といった条件ですね。こういった条件を付し、さらに最後には「1 校に限る」という条件を次々に設けていって、最終的に今治の加計学園しか該当しない形に持っていっている。
逆に言いますと、強力なライバルであった京都産業大学を排除するという結果になっている。これは規制緩和をしたようにみえますけれども、その規制緩和にさまざまな規制を乗せることによって、最終的に一つの主体だけが恩恵をこうむるという形になったわけであります。その根拠や手続が極めて不透明である。
それから、第二点としては、この検討を進めるべき責任を負っていた国家戦略特区諮問会議、及びその諮問会議のもとに設けられているワーキンググループ。本当にちゃんとした検討を行ったのかということです。そこに専門家や、あるいは関係者の意見を十分反映させるような審議をしたのかどうか、この点についても、非常に問題があるのではないかと思っております。
特に、国家戦略特区制度という制度のことを考えていただくとわかるんですが、国家戦略特区という制度は、特定の場所の、特定の主体に、特別なチャンスを与える、そういう仕組みなのです。その中で、特別な主体に対してだけ規制緩和の恩恵を与えるということになりますから、それだけに、その決定のプロセスにおいては、特に透明性や公平性の要請が高いと思いますし、透明性、公平性を十分確保しながら、きちんとした検討が行われるということが必要だと思っております。そういった十分な検討がされていないのではないか。そこに一つ問題があると思っております。
では、どういう検討が必要だったのかということですけれども、一つには、国家戦略特区の目的であります国際競争力の強化でありますとか、国際経済拠点の形成。これは国家戦略特別区域法という法律をごらんになれば、第一条に書いてあります。これはそもそもそういうことの目的のためにできている制度ですから、国際競争力を強化する、国際経済拠点を形成する、そういうものに資するものを特別扱いするということになっているので、本当にこの加計学園の獣医学部が国際競争力の強化、国際経済拠点の形成といったことに資するものなのか、という検証がされていたのかということです。
それから、国家戦略特区に関しては、2015 年6 月に閣議決定された「日本再興戦略改訂 2015」の 4 条件というものがございます。この 4 条件を満たしているということについて、きちんとした検証がされているかどうか。特に、獣医師が新たに対応すべき分野の人材需要が明らかにされているか、またその規模も明らかにされているのかということ。さらに、そういったものが、人材需要が明らかにされたという前提に立ったうえで、その人材養成は、既存の大学では対応ができない、対応が困難だという条件があるわけですけれども、この条件が本当に満たされているのか。逆に言うと、加計学園の獣医学部でしかできないことをするということになっているのか、ここの検証がされているかということです。
これは既存の大学だけではありません。同じく提案が出てきておりました京都府京都産業大学の提案と比べても、京都府京都産業大学の提案との間で十分な比較検討が行われたのかどうか、この点についても疑問が残るわけであります。
さらに、その人材需要について見通しを立てるというときには、獣医師という国家資格を所管する農林水産省の実質的な参画が不可欠なわけでありますけれども、農林水産省が本当に実質的に参画していたかというと、そこは私としては、実質的な参画はなかったと言わざるを得ないです。
さらに、ライフサイエンス等の新しい分野の人材需給ということであれば、厚生労働省の実質的な参画も得て検討すべきだったと思いますけれども、厚生労働省は終始一貫関与しておりません。そういったことから言って、このプロセスには非常に疑問が残るわけであります。
諮問会議の民間議員が記者会見を開いておられます。私もその記者会見の模様はつぶさに拝聴いたしました。その中で、5 人の民間議員の方々がペーパーをつくって提示しておられますし、記者会見の中でもご説明があったわけですけれども、その際に、八田達夫議員の言葉をかりれば、「このプロセスには一点の曇りもない」と発言しておられます。しかし、これは、私から言わせていただけば、一点の曇りもないという客観的事実ではなくて、この民間議員の方々から曇りがみえていなかったのではないか、あるいはみないようにしていたのではないか、あるいはみせられていなかったのではないか、そんなふうにしか思えないわけです。
一方で、八田議員は、この記者会見の中で、政治のプロセスは不透明だという発言もしておられます。その不透明な政治のプロセスの部分にまさに問題があるわけでありまして、その部分は、実はこの諮問会議ではスルーされているというふうに私は思います。
結果的に京都府京都産業大学の提案を排除する効果を持った 11 月 9 日の諮問会議決定の表現がございます。これは「広域的に獣医系養成大学等の存在しない地域に限り」という言葉が入ったわけです。これについて、諮問会議、民間議員の方々のペーパーを読みますと、「反対勢力の抵抗があったので、実現に向けて妥協点を探るためにこの文言を入れた」、こういうお話になっております。
さらに、このワーキンググループのサゼスチョンによって山本幸三地方創生担当大臣が入れた表現であって、これは「京都産業大学を排除する意図はなかった」とおっしゃっているんです。医学部新設のときの成田のほうの特区を引き合いに出されまして、「医学部新設が成田市に限定された、そういう極端な限定がされないような妥協策を提案しようというのが動機だった」、これは八田さんが記者会見でおっしゃったことであります。「京都産業大学をはじく意図はなかった」、これも八田さんがおっしゃったことです。
そうしますと、内閣官房、内閣府の方々の意図と、この諮問会議、民間議員の方々の意図とは大分食い違っていたのではないか、この文言をめぐってです。京都産業大学を排除するという効果を持つということを認識しておられないというふうに考えざるを得ません。
また、もう一つの条件として、「平成 30 年度開設」という条件もございます。これは、11月 18 日にパブリックコメントに付された共同告示案の中で出てくるわけですけれども、この30 年度開設という条件も、京都産業大学を排除する効果を持っていたわけですが、そのことについても諮問会議の民間議員の方々は全く認識を持っておられないように思われます。
結局、その政治的なプロセスの中で「広域的に」でありますとか、「平成 30 年度」という条件が加わったわけですけれども、それが実は京都産業大学を排除する効果を持つんだということを当の諮問会議の民間議員の方々が認識しておられない、という問題があるのではないかと思います。
では、なぜ今治に認めたのかということについては、諮問会議の民間議員の方々のご説明では、まず 1 校ということならば、長年提案をしてきた今治市、それから四国全域で獣医学部がないから、あるいは感染症の水際対策などのニーズがあるから、こういった理由で、まず 1 校というならば、最初は今治でいいんじゃないか、こういうお考えのようでございます。その前提としては、2 校目、3 校目、4 校目があるという前提なのです。ただ、それは本当に 2 校目、3 校目、4 校目があるのかという保障はないわけであります。
先ほど申しあげたように、国家戦略特区というのは、特別の地域の、特別な主体に、特別な恩恵を与える、こういう仕組みでありますから、本当に 2 校目、3 校目が認められるという保障はございません。しかし、民間議員の方々は、これは 1 校目なんだ、突破口なんだという意識しかなかったということなので、そこにもかなりわれわれの認識とのギャップがあるように思われます。
さらに、この民間議員の方々が発表した文章の中では、「総理が特定事業者を優先する意向を示した」、あるいは「内閣府がそのように文部科学省に伝えたという根拠はない」というふうに書いてございます。そのように断言されているわけですけれども、「そのように断言できる理由は」と問われて八田議員が何とおっしゃったかといえば、「私どもは一切知らない。こういったことはないと思う」、こういう根拠しか挙げておられないわけでありまして、知らないから「ない」ということではないですし、ないと思うから「ない」というわけでもないわけなので、この「ない」と断言される根拠は、実は極めて薄弱だと言わざるを得ない。
このような形で、私としては、この政策決定プロセスは改めて検証する必要があるのではないかと思っております。
もう一点つけ加えて申しあげると、獣医学部をめぐる問題について、私としての発言を 1 カ月前に行ったわけでありますけれども、この一件を通じて、全く別の問題として、認識を新たにしたのは、国家権力とメディアとの関係です。
ここにはメディアの皆さんが集まっておられる、むしろ日本を代表するメディアの方々が集まっておられるわけですけれども、一つは、私に対する個人攻撃だと思われる記事が 5 月22 日の読売新聞に掲載されました。これはもちろん私としては不愉快な話でございましたけれども、その背後に何があったのかということ、これはきっちりとメディアの関係者の中で検証されるべき問題だと思います。私は、個人的には、官邸の関与があったと考えております。
それから、この加計学園にかかわる文書の信憑性でありますとか、官邸からの働きかけといった問題について、私に最初にインタビューを行ったのはNHKです。ですが、その映像はなぜか放送されないままになっております。いまだに報じられておりません。
また、この真相をあらわす内部文書の中でも、非常に決定的なものであります 9 月 26 日の日付つきの文書がございますけれども、「官邸の最高レベルが言っていること」という文言が入っている文書です、これは朝日新聞が報じる前の夜にNHKが報じていました。しかし、核心の部分は黒塗りされていました。これはなぜなのだろう。NHKを責めているわけではないんですけれども。
それから、報道番組をみておりますと、コメンテーターの中には、いかなる状況証拠や文書が出てきたとしても、官邸の擁護しかしないという方がいらっしゃいます。そういう方のお名前は差し控えますけれども、森友学園のときも、そういうことが繰り返し行われていたわけですけれども、森友学園の問題で官邸を擁護するコメントを出し続けた方の中には、ご本人の性犯罪が警察によってもみ消されたのではないかという疑惑を受けている方もいらっしゃるわけであります。
こういったことを踏まえて考えますと、私は8いまの日本の国の国家権力とメディアの関係については、非常に不安を覚えるわけであります。その国家権力と「第四の権力」とまで言われるメディアの関係を、国民の視点から問い直すという必要性、またそのメディアの方々の中で、自浄作用が生じるということを私は強く期待したいと思っております。
私からは以上でございます。
質疑応答

 

司会 前川さんは随分全体をお話しになりました。私のほうから代表質問をこれからいたします。
今回の問題は、一つのポイントは、あることがないことにされかかった。文科省の中にあった資料が、国会答弁とか記者会見とか、日本の民主主義の最も重要なポジションの土俵で否定されかかったということだと思うんです。だが、それは前川さんの登場で覆され、あることはあるという当たり前の常識にようやく戻ったということだと思うんですね、今回の話は。
逆に言えば、あなたが登場しなければ、あることがなかったことになった可能性があったと思う。それは極めて深刻な事態だと思うんです。
いまメディアのことをおっしゃったけれども、メディアだけじゃないと思いますね、それは。霞が関のいまの人事権力に対する雰囲気、あるいは「安倍一強」と言われる自民党の政権内部での動き等々もあると思うんですが、前川さんからみて、今回、あなたがもしそういう発言をしなければ、この問題はどうなっていたと思われますか。
前川 それはイフ(if)の話なので、私もわからない部分はありますし、私が何か発言しなくても、誰かが発言してくれていたかもしれないんです。実際に現職の職員からもさまざまな情報提供が行われていますし、事実を語ろうとする動きも出てきております。それが何らかのきっかけで、私の発言だけではなくて、別のきっかけで出てきた可能性はあると思いますし、そこはイフの問題については、なかなかわからないんですけれども、やはり何事もなく過ぎていった可能性は高いだろうと思います。何事もなくということは、最終的につつがなく獣医学部は設置されて、文部科学省も内閣府も、総理官邸も平穏なままで、文部科学省の中で文書の存在をめぐって疑心暗鬼や混乱が起きることもなく、一見平穏な日々の中で事態が推移したということは十分考えられます。
ただ、その際に、文部科学省で設置認可のために大学設置審議会に諮問しているわけですけれども、大学設置審議会における審査に何らかの政治的な圧力が加わってしまうという危険性はやはりあったのではないかと思っておりますけれども、最終的には大きな問題もなく推移したという可能性は高いと思っております。
司会 今回の問題は、内部文書の問題ですね、それから前川さんに直接いろんな働きかけがあった、そのことが結果的に行政をゆがめたかどうかという問題だと思うんですね。
まず、文書の話から、前川さんが全体をおっしゃったので、一つ一つ確認していきますと、まず前川さん、9 月 26 日の内閣府の藤原豊審議官との打ち合わせのメモで、「官邸の最高レベルが言っている」という表現がありましたけれども、それはあなたが聞かれて、最高レベルとは誰だと思いますか。
前川 「最高レベル」という言葉は、よくわかりません。私があまり使う言葉ではないので。しかし、最高ならば総理だし、その次ならば官房長官。あるいは、総理か官房長官の直接の指示なり意向なりを受けた側近の人、そのあたりの話なのかなと、そういう漠然とした認識です。
司会 もう一つ、10 月 21 日に、萩生田光一官房副長官が常盤豊高等教育局長に対して行った発言メモがNHKのスクープで出てきました。これについて、前川さんはまだコメントされていないと思うんです。先ほど、100%正しいと思うとおっしゃったけれども、それについて、この信憑性について、まず一つ言っていただきたいのと、その中に、こういう言い方があります。「農水省は了解したが、文部省がおじけづいている」というときの、政策を進める方の認識が入っていますけれども、これについては、当時、そういう状況だったんですか。その 2 つについて。
前川 この 10 月 21 日の日付入りの「萩生田官房副長官ご発言概要」というペーパーは、私は現職中にはみておりません。最近になって、報道によって知ったわけであります。
おそらくこの文書は、私が想像するに、文部科学省の最高幹部に説明するためにつくられたのではなくて、局長が対面して萩生田さんから聞き取ったことをメモに残して、局長よりも下のレベルで情報を共有するためにつくった、そういう性格のものではなかろうかと思っておりますが、確かに読んでみますと、発言者が全て萩生田副長官ではないのかなという部分はございます。もともと、萩生田副長官が和泉洋人総理補佐官の言を引用している部分ももともとありますし、萩生田副長官の発言なのか、和泉洋一総理補佐官の発言なのかが曖昧な部分もありますし、またそれを聞いてきた常盤局長がみずからの発言で言っている部分もまじっている可能性もありますし、発言者が誰であるかということについては、精査して読む必要があるのではないかと思っておりますけれども、書かれている内容そのものはほぼ事実ではないかと思っております。
この文書を作成したと思われる課長補佐は私も十分知っている人物で、極めて優秀ですし、しっかりした人物で、もちろんあえて虚偽の内容を盛り込むことはあり得ませんし、聞き間違い、取り違いといったこともまず考えられない、そういう人物ですから、私は、ここにある記述そのものは、主語は誰であるかということはよく考えて読む必要がありますけれども、中身はほぼ間違いないことではないかと考えております。
また、その中で、いま倉重さんがおっしゃった「文部科学省がおじけついている」、こういう表現があるわけですけれども、これは萩生田副長官が和泉総理補佐官の言葉を引用している部分ですね、その中で農林水産省は了解したというお話だったんですけれども、農林水産省は、これは私が現職中の感覚としては、最後まで乗ってきてくれなかったわけです。
司会 必要なデータを……。
前川 ええ、必要なデータを出してくれなかったですし、つまり、了解したというのは、農水省はコミットしないから、勝手にやっていただいて結構ですよと。また、内閣府、あるいは官邸側も、農水省はコミットしなくていいから、とにかく文句は言うな、ということで了解した、こういうことなんだろうと私は思っております。
一方で、文部科学省は、最後の最後は大学の設置認可というところにたどりつくわけですから、これは農水省のように逃げようとしても絶対に逃げられない立場でございます。「おじけづいた」という表現は当たらないと私は思いますけれども、文科省としては責任ある立場を捨てられなかったということでありまして、加計学園が本当に国家戦略特区にふさわしい内容を持っているのか、あるいは閣議決定された4 条件を満たしているのか、あるいは京都産業大学よりもよい内容のものを提案していると言えるのか、そういったところについて十分な検討、検証が行われていない中で、最後は文部科学省が設置認可をするんだというところに持ってこられるわけですから、そこは慎重にならざるを得ないという状況があったと思いますので、文部科学省がそういうみずからの責任を自覚して、慎重な姿勢をとっていたことを「おじけづいていた」というふうに表現されたんだと思っております。
司会 もう一つ、文書で、11 月 1 日付ですけれども、これも藤原審議官との打ち合わせで、これは国家戦略会議、諮問会議の直前、決定を下す前の、その直前の会議の準備の段階で、設置条件を一つつけ加えて「広域的に」という文字を加えることによって、結果的に京都産業大学を落とす形になったという一つの手続変更がありますけれども、これは国会答弁で、その当時の藤原審議官が、自分が挿入したと。しかも、それを誰が指示したかと言われると、時の特区担当の山本大臣であったと。山本大臣もそれを認めている。
しかし、新たに出てきた文書によると、そこは萩生田官房副長官の介在が非常に色濃く書き込まれている部分があるんですが、その辺はどうやって理解したらよろしいですか。
前川 ここは、私は直接ファーストハンドの情報を持っておりませんので、最も正直なお答えは、わからないということなんです。
ただ、少なくとも特区を担当する責任ある大臣が山本大臣であることは間違いありませんので、11 月 9 日の諮問会議に提出する諮問会議決定の原案について作成の責任者というのは山本大臣だ、これは間違いないことだと思います。
ただ、山本大臣のもとでこの原案が作成された中で、そこに至るプロセスの中に萩生田副長官がどのように関与されたのか、されなかったのか、これは私からはわかりません。しかし、11 月 1 日付けのメールの中にそういった文言は出てきますので、これは文部科学省から内閣府に出向している職員が、文部科学省に情報提供として送ってきた中にあるわけなので、いいかげんな情報を提供することはないと思うんです。
確かに伝聞の形になっておりまして、「藤原審議官曰く」になっていますから、藤原審議官から聞いた話だということになっていますけれども、それにしても、萩生田副長官のお名前が出されているわけですから、何らかの関与、示唆なのか提案なのか、そういったものがあった可能性は高いと思っております。
また、こういった文言を加えることによって、四国全域で獣医学部がないのだから、今治につくっていいのではないか、こういう理屈になるわけで、これは 10 月 7 日のクレジットのある「萩生田副長官ご発言概要」というペーパーがございます。ちょうど 2 週間前に当たるんですけれども、その10月7日のペーパーの中でも、萩生田副長官は、四国にはないから、それが理由にできるんじゃないか、こういう示唆をしておられますから、10 月 7 日のご発言と平仄が合うんです。そういった意味でも一貫性はあるなと思っておりまして、私は、これは、ですからあくまでも想像なので、想像の域を出ないということを条件つきで申しあげれば、萩生田副長官の何らかの関与があったのではないかと思っております。
司会 文科省から、こういう決定的な文書がさらに出てくるとお思いですか。
前川 文部科学省からはまだ出てくる可能性はあると思います。しかし、文部科学省から出てくる資料は、どこまで行っても文部科学省の側からみた事実関係でありますから、ここは、やはり核心に迫るためには、内閣府の中の調査が必要だと思います。
司会 今回の一つの特徴として、前川さんに、事務当局の文書ではなくて、直接加計の問題について働きかけがありました。それは前川さん自身がお話しになっています。いろんな人物が出てくるんですけれども、やはりこの問題の総理周辺のキーパーソンは一体誰なのだ、誰が物事を進めて、中心的に動いたのかという整理をしていただきたいんですが、そういう意味で言うと、どなたになりますか。
前川 私の目からみますと、和泉総理補佐官が一番キーパーソンではないかなと思います。
司会 それはどうしてですか。
前川 まず、私に直接働きかけがあったのは和泉さんからなんです。9 月の上旬のことでございますけれども、和泉総理補佐官に官邸の執務室に呼ばれまして、そこで「特区における獣医学部解禁といった課題について、文部科学省の対応を早くしてほしい」というお話がございました。その際に、「総理は自分の口から言えないから、私がかわって言うんだ」、こういうお言葉もあったわけで、総理にかわっておっしゃっているということであれば、これはもう一番総理のご意思に近いところからお話が出ているというふうに思われます。
また、先ほど倉重さんがおっしゃった 10 月21 日の日付つきの萩生田副長官のご発言の内容をみても、萩生田さんは、和泉さんと話をした結果として、その結果を文科省に伝えています。したがって、情報発信源になっているのは和泉さんではないかと思われますので、私は和泉補佐官が一番全体のシナリオも書いて、全体の統括もしている、そういう立場にいらっしゃったのではないかと思っております。
司会 そうなると、この文書の中に出てくる萩生田副長官の役割は一体何だったんですか。
前川 これは文部科学省からみたときに、萩生田さんは大変頼りになる文教族の先生なんですね。10 月の初めのころの文部科学省の気持ちとしては、なかなか実質的に関与をしてくれない農水省や厚労省を引き込みたい、それからものすごく性急に事を進めようとしている内閣府に対して、もう少し時間の余裕を持って、ゆっくりと検討する時間をもらえないか、こういった気持ちを持っていたわけで、そのことを萩生田副長官のところに調整してもらえないかと頼みに行っているわけです。農水省、厚労省を引き込んでほしい、調整してほしいと。
司会 それは加計ありきで。
前川 そこは、全体の、確かに加計ありきという前提は、暗黙の前提としてはやはりその時点でもあったと思います。それにしても、農水省、厚労省が入ってくれないと、きちんとした説明がつかないし、それから、どうしても 30年 4 月開学というのは、かなり無理のある日程である、そこのところの調整を萩生田副長官にしてもらえないか、という気持ちを文部科学省は持っていたわけです。これは大臣も、副大臣も、事務方もみんな持っていたと思います。その状況は、10 月 7 日のペーパーにはみてとれるわけです。
10 月 7 日のペーパーというのは、私は実際に目にしておりましたし、現実に存在しているペーパーですけれども、文部科学省の追加調査でも、それは存在が確認されていないんですね。いないんですけれども、私は実際にみておりますから、私が引用することには問題ないと思うんですが、その10月7日のペーパーの中では、萩生田副長官は、「自分が調整する」とおっしゃっているわけですね。それは、文科省にとっては心強い話であって、農水省の協力が必要だなということもわかってくださっているし、「30 年 4 月は早いんじゃないか、無理だと思う」ともおっしゃっている。「私のほうで整理しよう」とおっしゃっているので、萩生田さんの官房副長官としての調整機能に期待していた。
ところが、10 月 21 日になりますと、話が違ってくるわけです。むしろ和泉補佐官とも話した結果として、とにかく早くやるんだ、30 年 4月開学は、総理がお尻を切っているんだとか、農水省の関与の仕方についても、和泉補佐官のところで仕切ったことを前提にして考えろ、こういうことになっていますから、文部科学省として期待した調整機能は果たしていただけなかったんだ、むしろ、10 月 21 日の時点では、文部科学省のほうを説得する側に回っているというふうに思われます。
司会 安倍総理からは、直接の働きかけはあったんですか。なかったんですか。
前川 これは、私にはございませんし、大臣などにあったかどうかも私はわかりません。
司会 菅義偉官房長官はいかがですか。
前川 それも私にもございませんし、私は何も知りません。
司会 今井尚哉秘書官はいかがですか。
前川 今井さんからも何も言われておりません。
司会 やはり一番大事なところは、行政がどうゆがめられたかということだと思うんですね。先ほど、閣議決定もした条件を十分に検証することなく、問題を前に進めたというお話をされました。
その中で、一つ、今回は例に出ませんでしたけれども、成田に国際福祉大学の医学部が新設された、それも文科省の許認可によって行われたと思うんですが、これと比較して、今回の獣医学部新設問題はどういうものだったかということをちょっとお話しいただけますか。
前川 成田市にできた国際医療福祉大学の医学部もこの 4 月に開学していますけれども、これもおっしゃるとおり、国家戦略特区制度の中で実現したものなんです。この経緯についても、国会で追及しようとする向きはあるんです。しかし、文部科学省としては、あるいは内閣府もそうだったと思いますけれども、これは特区で学部新設を認めるという意味では、一つの先例だったわけです。前例だったわけです。
成田の医学部の新設に関しては、まずかけた時間が、今回の獣医学部よりも長い時間をかけて検討はしております。さらに、決定的に違いますのは、厚生労働省が新たな分野の人材需給についての見通しの方針を立てたというところがありまして、国際的な医療人材の育成という新たな人材の需要があるんだ、こういう立場を明確にしたわけです。そのうえで、内閣府、文部科学省、厚生労働省の 3 府省による人材育成に向けた方針というものを作成しまして、その方針に従って特例を設けるんだ、こういう考え方に立っていたわけであります。だからこそ、一般的に禁じられている医学部の新設について、この部分についてだけは穴をあけられるという正当性が説明できたわけです。
ところが、今治の加計学園の獣医学部に関する限りは、責任ある省庁による人材需給についての責任ある見通しというものが示されていない。成田市の医学部の際につくられたような、3 府省による基本方針というものがつくられていないわけです。それは人材需給についての見通しが立てられていないからなんですけれども、その中で、獣医学部の新設を解禁するということについては、やはり文部科学省としては根拠がないのではないか、根拠が明らかにされていないのでないか、そういう疑念は払拭できなかったわけです。そこで、ずうっと躊躇していたという問題があります。
司会 あなたは行政が政治によってゆがんだとおっしゃっているけれども、安倍さんは、行政のゆがみを正したと言っておられます。どちらが正しいんですか。
前川 規制改革というのは、規制を守ろうとする役所に対して、その改革を迫るという意味で、「ゆがみ」と言えるかどうかわかりませんけれども、「かたくなさを是正する」、そういう側面はあると思いますね。私自身もずうっと役所の中にいて、役所の中のかたくなな前例踏襲型の融通のきかない部分というのは、役所の中にいても随分と経験しましたから、そういう意味で、規制改革が、ゆがみと言うのかどうかわかりませんが、よりよい形に行政を変えていく、そういう意味を持っている、そういう意味でおっしゃっているのであれば正しいのだと思いますが。
ただ、私がゆがみと思っているのは、「規制に穴をあけた」ということではなくて、「穴のあけ方」に問題があるということであって、その「穴のあけ方」に公平性や透明性がなかったのではないか、そこの問題なので、総理がおっしゃっている次元と、私が申しあげている次元とは、おそらく次元が食い違っているのではないかなと思います。
司会 今回の事態を大きくみた場合、これは単なるお友だち優遇だったのか、それとも一線を超えた利益誘導だったのか、どうでしょうか。
前川 そこについては、私としては、行政官の立場――いまは行政官の立場ではないんですけれども――退職公務員という立場からいけば、コメントできない部分ですね。そこはもう、国民の皆さんが判断される部分なんだろうと思います。
もちろん国民の一人としての私の判断というのはありますけれども、それは私の立場では、ここでは申しあげないほうがいいのではないかと思っております。
司会 今回のことは、たぶん周辺の方々の「忖度」によって成り立った部分が多いと思うんですけれども、単なる忖度でここまで、いまおっしゃったような、常識破りみたいなことができるんだろうかというふうに率直に思うんですよ。やっぱり忖度だったんですか。それとも、やはり何らかの指示があったんでしょうか。
前川 そこは、倉重さんも私も持っている情報は同じですから、倉重さん、どう思います。
司会 私は邪推します。何らかの指示があった。指示といっても、やってくれよというストレートのものがあったかどうかはわかりません。以心伝心というか、結果的にそういう趣旨の表明があったのではないかと私は邪推しております。
前川 私の立場では、邪推はなかなかできないので、ここは発言を差し控えたいと思うんですが、あえて申しあげれば、指示というものがあったとしてもおかしくはないと思います。
司会 先ほどメディアの話にも言及されました。例の 5 月 22 日付の読売報道について、「官邸関与があった」というようなこともおっしゃられた。その根拠は何ですか。
前川 もともと私がそういうバーに出入りしているということについては、官邸は承知しておられました。杉田和博副長官からご注意を受けたことがあるわけなので、まず最初に官邸で知っていた情報だということです。それがまず一つです。
それから、読売新聞の記事が出たのは 5 月 22日でございますけれども、5 月 21 日の日に読売新聞の記者から私にアプローチがありました。5 月 20 日にもございました。20 日と 21 日、両日にわたって私の私的な行為について、活動について報道するつもりがあるんだ、ついては私のコメントが欲しい、こういうアプローチが5 月 20 日と 21 日にありました。私は、それは答えませんでした。
正直申しあげて、読売新聞がそんな記事を書くとは思いませんでした。
同じ 21 日なんですけれども、一方で、先ほど来名前が出ております和泉総理補佐官から、文部科学省の某幹部を通じて、「和泉さんが話をしたいと言ったら、応じるつもりがあるか」、こういう打診がございました。5 月 21 日、日曜日です。私はちょっと考えさせてほしいと言ってそのままにしておいたわけです。
私は、何か報道が出たとしても、それは構わないというつもりでおりましたので、その報道が出ることについて、何かそれを抑えてほしいと官邸に頼もうというようなことは思っておりませんでしたので、私は読売新聞からのアプローチと、官邸からのアプローチは連動しているというふうに感じたわけです。それが一つの根拠なんですけれども。
もしこういうことが私以外の人にも起きているとするならば、それは大変なことだと思います。「監視社会化」とか、あるいは「警察国家化」とか言われるようなことが進行していく危険性があるのではないか。あるいはさらに権力が私物化されて、「第四の権力」と言われているメディアまで私物化されて、ということになっていったら、これは日本の民主主義が死んでしまう。その入り口にわれわれは立っているのではないかという危機意識を私自身も持ったんです。そのことがやはりこの問題の大きなインパクトだと思っております。
司会 私から最後の質問です。
加計問題と森友問題というのがありましたね。これはどんな関心でごらんになっていましたか。
前川 加計学園の問題と森友学園の問題は非常に構図が似ております。小学校と大学という違いはありますけれども、学校の設置認可、それから設置認可をめぐって公的な財政支援、この設置認可と財政支援とが絡まっている、その設置認可と財政支援の両方において、何らかの政治的な力が働いているのではないか、こういう疑惑が生じているという意味で非常に似ている。
森友学園の場合には、設置認可するのは地方のほうで、財政的な支援をするのは国のほうだということだったわけですけれども、加計学園の場合にはそれが逆転しておりまして、設置認可は国のほうだ、財政支援のほうは地方だという関係ですけれども、その両方がうまく平仄が合って、ペースを合わせないと最終的な学校の開設まで行かないという意味では、その全体を取り仕切るといいますか、全体を調整する機能がどこかに必要なんですね。
その地方と国、さらに国の中でも省庁をまたがる問題、森友であれば財務省と国交省、加計学園であれば内閣府と文部科学省と農水省、こういった複数の役所にまたがっている問題、そういった問題を 1 つにまとめて、1 つの結論に持っていく。森友学園であれば、小学校の開設はことしの 4 月を目指していたわけであります。加計学園の獣医学部であれば、来年の 4 月開学ということを目指していて、そこに全ての行政的な取り組みを収れんさせていく、こういうことは、私は、どこかに司令塔がなければできないと思うんですね。その司令塔の役割をどこかで果たしている人がいるだろうと思っております。そこに共通性があると思います。
共通でない部分はどこかと言えば、森友学園の場合には、一切の情報が出てこなかった。加計学園の場合は、これは文部科学省が脇の甘い役所だとおそらく霞が関では悪い評価をされているのではないかと思うんですけれども、次から次へと内部告発、情報の外部流出が出てくる、ここが大きく違うところではないかと思いますが、問題の本質は非常に近いものがあるだろうなと思っております。
司会 一つ、大事なことを聞くのを忘れました。大学設置審議会が 8 月に結論を出す段取りになっていますけれども、この結論はどうあるべきだと思われますか。
前川 大学設置審議会というのは非常に権威のある審議会でありまして、大学を設置するうえでの学問的、あるいは専門的、あるいは学校法人の経営という側面から、きちっとした審査をする場でございます。大学設置審議会が設置認可、「可」「不可」あるいは「保留」という判断をするわけで、この大学設置審議会の判断には、文部科学大臣といえども従う、というのが確立されたルールであります。このルールは崩されていませんので、設置審議会の結果が出れば、そのとおりの設置認可をするのが当然なんですけれども。
ただ、大学設置審議会は、あくまでもすでに存在している設置基準とか審査基準とかいうものに照らして、学術的、学問的、専門的な観点から審査をする。しかし、国家戦略特区で新設を認めた理由は、また別のところにあるわけでありますから、国家戦略特区としての制度の目的にかなっているのかどうか、先ほど申しあげた国際競争力の強化でありますとか、国際経済拠点の形成でありますとか、そういった目的にかなっているのか、ここは大学設置審議会は審査しません、本来は。
それから、閣議決定されている 4 条件に照らして、その 4 条件が満たされているのかどうか、これも本来的には大学設置審議会が審査する観点ではございません。そこのところについては、改めて問われなければならないと思います。大学設置審議会では審査できない部分があります。その部分は、例えば国家戦略特区諮問会議にもう一度、最終的な仕上がりの姿をみてもらって、「特区で認めてもよいというものになっているんですね」ということを確認してもらうということは、私は必要ではないかと思っております。
司会 差し戻しですか。
前川 差し戻しという言葉が正しいかどうかわかりませんが、特区で認めるに足るものだったのかどうかということについては、これは学校教育法上の学校の設置認可を超えている部分がございますから、その部分の判断は改めてしてもらう必要があるのではないかというのが私の意見です。
司会 はい、皆さん、お待たせしました。質問をお受けします。挙手してください。私が指名します。お名前と所属を明らかにしたうえで、簡潔にご質問ください。マイクを持っていきますので、その席から質問してください。できるだけ多くの方から質問をとりたいので、1 人 1問ということで、よろしくお願いいたします。
では、一番前列のあなた。
質問 今回、問題になりました「総理のご意向」などと書かれた文書についてですけれども、これは前川さんが報道機関に文書を流したとの指摘があります。これは前川さんが流したのでしょうか。
また、前川さんは特区の選定過程で、行政がゆがめられたと声を上げています。ただ、一方で、前川さんが事務次官に就任した際に、文科15省の歴代幹部が長年天下りをしていた実態を承知していたと思うんですけれども、このとき、なぜ省内のゆがみについて声を上げなかったんでしょうか。
前川 まず、情報の流出元については、私はコメントいたしません。ということでご理解いただくしかありません。
それから、2 つ目の質問は、私はちょっと意味がとれなかったんですが、天下りを承知していたのに是正しなかったのはなぜかというご質問ですか。
私は、天下りといいますか、今回の再就職規制違反の発端になった吉田大輔前高等教育局長の早稲田大学への再就職の経緯は、事務次官として人事課から報告を受けるまでは承知しておりませんでした。
また、その他の案件についても、違法な事例があるということは、その時点では承知しておりませんでした。再就職等監視委員会の指摘を受けて、改めて違法行為というものが明るみになって、その時点で私は違法行為についての認識をするに至ったということですから、知っていたのに是正しなかった、ということは当たらないと思っております。
司会 はい、続いてどうぞ。
質問 先ほど、キーパーソンは和泉首相補佐官だとおっしゃいましたけれども、和泉補佐官は、いままでの前川さんの発言を全て否定されています。否定というか、言っていないというのではなくて、「記録にない」とか、「記憶にない」とおっしゃっているんですけれども、「言った、言わない」になってしまっています。何かメモだとか、録音だとか、証明できるものというのはないでしょうか。
前川 それはもちろん、いまから考えれば、ICレコーダでも持っていればよかったのかもしれませんが、これはもう水掛け論にしかならないだろうということは覚悟しております。これは和泉さんから正直なことを聞いていただく以外にはないですね。
質問 獣医学部の決定過程について疑問だということを改めておっしゃられましたけれども、文科省がみずからの責任を感じてやっていた、農水省は答えを出してくれなかった、とおっしゃられました。
聞いていると、文科省は被害者だというような話に聞こえるんですけれども、私が取材をしていても、文科省だけが被害者だということではなくて、最後は結局、その新設に向けて一緒に動いているわけなので、加担はしていると思うんですね。
改めて、前回の会見のときも少しおっしゃられましたけれども、いま振り返って、文科省としてはできることはなかったのか、ご自身としてもトップの立場にいられた中でやるべきことはなかったのか、その点についてはいかがでしょうか。
前川 私は事務次官の立場でもっとできることはあっただろうと、それは私、いまの時点で反省はしております。
しかし、一方で、何らかのアクションを私が起こしたとしても、結果が同じだったのではないかという気持ちもあるわけです。
加担したというお話は、ある意味、正しいと思います。11 月 9 日に国家戦略特区諮問会議が開かれまして、そこで決定されることによって、事実上、今治の加計学園に獣医学部がつくられるということが決まったわけですけれども、そこに至る経緯においては、特にその 1 週間から 10 日ぐらい前の時点からは、文部科学省としては、いわば何といいますか、敗戦処理的な、それを「加担」と言われれば加担なんですけれども、どうしたらつじつまの合う形にできるかという方向性を持って考えていたのではないかと。それは明らかになっている文書の中からもうかがえるところがあると思います。
司会 はい、そちらの方。
質問 閣議決定の 4 条件では、大学をつくりたい側が需要を証明してください、という形になっていると思います。ところが、諮問会議で民間の議員さんたちがおっしゃっていたのは、規制をしている文科省の側が、その合理性を証明しなければならないと。つまり、挙証責任が180 度逆転していると思うのですが、この点について、どちらに正当性があるのか、お考えをお聞かせください。
前川 私は、政府の中で、どっちが挙証責任があるかという議論をするのは、実は不毛ではないかと思っていまして、やはり協力しながら、お互いの持っている情報を突き合わせて、どうするのが一番いいのかということを考えるべきなんだと思っていまして、何か裁判のように、挙証できなかったら負けだとか、挙証責任を負わないほうが正当性が推定されるんだとか、という論の立て方自体がちょっとおかしいのではないかと思っております。
しかし、確かに国家戦略特区の諮問会議あるいはワーキンググループは、そういう議論の仕方をされたんですね。大学設置の認可基準という告示を持っているのは文部科学省だと。確かにその告示によって医師、獣医師などの分野の学部新設を制限していると。それは確かにそのとおりなんですが、文部科学省として言えることは、そういうかなり多額の投資が必要な人材養成の分野においては、やはり一定の計画性を持って人材養成をする必要があるという考え方なんですね。それで、医師、歯科医師、獣医師、それから船舶職員、こういった特定の分野の人材養成については、それぞれ人材養成に 6年かかるというようなこともありますし、初期投資がものすごく大きく必要だという分野でもありますから、それぞれの国家資格を持っている役所、医師であれば厚労省、獣医師であれば農水省、船舶職員であれば国土交通省、そういったところと協議しながら、将来的に人材需要が増えるのか、減るのか、そういったことを考えながら新設を認めるか、認めないか、あるいは従来の学部の定員をふやすか、減らすか、そういった検討をしながらやってきた、これはもうこの何十年のやり方なので、そのやり方で、文部科学省はおかしくないというふうに思っていたし、獣医学部をつくるということであれば、新たな獣医師のニーズがあるということが明らかにならなければいけない。
その明らかになるというのは、私ども文部科学省の立場で言えば、獣医師の国家資格を所管している農水省がメインに立ってもらわなければいかんという気持ちは持っておりました。そこを、農水省はいいんだ、文部科学省の規制なんだから、文部科学省が挙証しなければ、それは規制緩和がオーケーだということだ、こういうかなり単純な理屈を諮問会議のワーキンググループのほうでは立てられたわけなので、そういうルールのもとで、文科省が挙証しなかったから負けというふうに言われたので、これはちょっと乱暴な判断の仕方ではないかと思っております。
司会 はい、どうぞ。
質問 大変個人的な質問になりますけれども、前川さんのお話を理解するうえにどうしても必要なことなので、あえて伺いますけれども、教育の問題です。
前川さん、お育ちの中で、ご家庭で、特にお父上からどういう教えが、いま前川さんの胸の中にありますでしょうか。あるいは心にとめておられる教えというのは何でしょうか。
前川 私の六十何年かの人生を振り返って、人間形成に影響を与えた人というのはいろいろいるとは思うんですけれども、いまのご質問は、父からの影響についてですか。
父からの影響ということを考えますと、やはり若いころから、少年時代から、仏教には非常に関心を持っておりました。私は大学時代は仏教青年会というものに入っておったんですけれども、仏教といっても特定の宗派ではなくて、仏教一般。特に、原始仏教とか根本仏教とか言われるもの、またそこから派生してきている大乗仏教の中でも禅仏教、そういったものに対しては非常に関心を持って、実際に座禅の修行をしたこともありますし、いまでもお寺を巡って歩くことが好きですし、仏教の学習を通じて学んだ、培った世界観とか人生観というものは非常に大きいと思っておりますし、それは父から受け継いだものが大きいと思っております。
司会 はい、ありがとうございます。はい、あなた。
質問 先ほど会見で、キーパーソンは和泉さんとおっしゃっていましたが、出てきた文書の中には、随所に萩生田副長官の名前が出てくるんですけれども、いままで出てきた文書以外で、特区過程のプロセスの中で萩生田副長官の存在を意識させるようなイベントというか、出来事はありませんでしたか。
前川 私自身は、ほとんど萩生田副長官との関係では意識したことはございません。
司会 はい、どうぞ。
質問 先ほど読売新聞の取材との関係で、5月 21 日の真意をもうちょっと詳しく伺いたいと思います。このときに、再度取材があって、コメントを求められたわけですね。そして、この日に、和泉さんから、話をしたいんだけれども、応じる気があるかという連絡があったんですか。それとも、直接あったんですか。それともどなたかを通して来たんですか。
そして、この連動性というのを意識されたのか。勘ぐれば、あなたが少し態度を変えれば記事をとめるよ、というようなことを示唆するのかなというような印象はお持ちになったんでしょうか。このあたりの事実関係と、時間の経過、どっちがどういう順番でそうなったのかについて、もう少し詳しくお聞かせください。
前川 読売新聞が取材をしたいという申し込みは、記事が出る前々日の土曜日、5 月 20 日からありました。5 月 21 日の日にも、詳しい質問などが送られてきていたんですけれども、これは私は対応しなかったんですけどね。
一方で、5 月 21 日の日曜日ですけれども、記事が出る前日ですね。より正確に記憶を呼び戻してみますと、文部科学省の私の後輩に当たる某幹部から、「和泉さんが話をしたいと言ったら応じるつもりはありますか」というような言い方だったと思います。そういう言い方で打診があった。私は「ちょっと考えさせてくれ」とだけ返事をして、そのままにしておいたわけです。
私自身の中では、この 2 つのアプローチは、読売新聞と和泉さんからの話は連動しているんだろうというふうに意識はいたしました。おそらく、私のこれも想像です、もちろん想像ですけれども、嫌な報道をされたくなければ、言うことを聞けば抑えてやる、こういうことを言われるのではなかろかなと――これは想像です――思いました。
司会 はい、そちらの方。
質問 前川さんは、現役職員の勇気を評価したいとおっしゃられた一方で、義家弘介副大臣は、文書の存在を証言した現役職員に関して、国家公務員法違反に当たる可能性があるという認識を示していますけれども、これに関して前川さんはどうお感じになられていますか。
前川 これは善意に解釈すれば、義家副大臣は文部科学省の職員を萎縮させようという明確な意図を持っておっしゃったのではないのではないかなというふうに思っております。国会で答弁されるのを拝見しておりましたけれども、書かれた紙を読んでおられたので、これは事務方がつくったペーパーをそのまま読んでしまったのではないのかなと。
守秘義務違反というのは、単に上司の許しを得ずに情報を出したからといって守秘義務違反になるものではないので。私が事務方であれば、ああいうペーパーはつくらないんですけれども、より秘匿性が高い、実質的に秘密として扱わなければならないものに限って守秘義務違反の対象になる情報だということだと思うので、あの答弁自体が不正確な答弁だったと思っております。
だから、私は、義家副大臣が意図的に職員を萎縮させようとされたのではないというふうに信じたいと思っています。
司会 はい、お隣、どうぞ。
質問 安倍さんは、いまの安倍首相は岸信介さんの孫ですね。かつて治安維持法という天下の悪法がありましたね。私は、戦争が終わったときに中学 1 年生でありました。治安維持法というのは、私の中学の先輩である加藤高明という人が総理大臣をやった。治安維持法というのは天下の悪法だというふうに言われたんですが、最初はそんな意図がないんだということを言っていましたけれども、一旦そういう法律ができると、どんどん変なふうに人権を抑圧するという方向に行って、それで大東亜戦争という戦争をしたわけですよ。
私がいまの流れをみておりますと、何か日本というのは知らず知らずのうちに右へ右へと傾きつつあるという感じを持つんです。これは私の皮膚感覚、実感です。
質問ということですから、ご所見をお伺いしたい、いまの……。
前川 私は昭和 30 年生まれでございまして、戦前の日本の社会や政治については、学校で勉強した、あるいは本で読んだ知識以外持ち合わせておりませんが、その知識に照らして考えて、私も同様な感じを持っております。それは世界的にそういうことが起こっているのではないかという気がいたしまして、一国中心主義的なものが広がり、またナショナリズムが強まって、テロ対策というような名目のもとで国民の権利や自由を制限するということが正当化され、内外に何らかの敵をつくることによって国民を統合していこうというような方向性とか、私はちょっと 1930 年代に近い状況が生じる危険性があるのではないかと。必ずそうなるというふうに思うわけではありません。それはとどめられると思いますけれども、その危険性があるのではないかと思っております。
司会 時間が限られてきました。いま手を挙げていらっしゃる方だけにとどめたいと思います。よろしいですね。
申しわけありません。順番に当てますので、よろしくお願いします。それでは、どうぞ。
質問 基本的なことを一点だけお聞きしますけれども、10 月 21 日の文書に関して、萩生田官房副長官が「何か問題があれば、加計学園の渡邉良人事務局長を文部科学省の担当官に派遣するから、行かせるから」という文言がありましたけれども、その後、渡邉事務局長が文科省に行ったというような話があるわけですが、そのとき、文科省に行って、どういう話を加計学園の事務局長が担当官と話をされたのか、その点について、当時、次官のところへ報告が上がってきていたのか、あるいはそれを後で確認されたのか、その点をお聞きしたいと思います。
前川 これは、私には上がってきておりませんでした。この時点では、大臣、副大臣と直にやっていたんだと思います。
質問 実際に会ってはいるんですね、担当……。
前川 そこも私は承知しておりません。いまの時点で、報道で知っているということでございます。
司会 よろしいですか。次の方。
質問 端的にお聞きします。この加計問題に限らず、ほかのことで、前川さんはいままだおっしゃっていない新しい事実、あるいは新しい情報をお持ちなんでしょうか。端的に言えば、何かほかにネタはありますか、ということでございます。
特に文科省と官邸、内閣府、経産省、その他省庁との間で何か持っておられるのか、あるのかないのか、言いたくないのか、ぜひお答えください。
前川 国家戦略特区における獣医学部の新設にかかわる情報としては、私はもう、私自身から提供できる情報は持っておりません。
まあ、よく記憶を呼び戻せば、あと一つ、二つあるかもしれませんが、ただ、事務次官という立場にいましたので、官邸とのいろいろな連絡調整には当たっておりましたから、官邸との関係でこんなことがあった、あんなことがあった、ということはありますが、それはこの国家戦略特区の問題とは直接かかわらない問題が多いので、そこは私がここでお話しするような話ではないと思っております。
司会 続いて、では、どうぞ。
質問 去年の秋に、杉田官房副長官から出会い系バーに出入りすることについて注意を受けた、そのときの状況について、一つ教えていだたきたいんですけれども、そのとき、口頭だけではなくて、前川さんが写った写真を提示されたという情報があるんですけれども、これは事実でしょうか。
前川 いや、そんなものはありませんでした。
質問 わかりました。
司会 ありがとうございました。では、そちらの方。
質問 一点、先ほど、11 月の上旬には、文科省も敗戦処理の状態のような気持ちになっていたというふうにおっしゃったんですけれども、そういうふうな気持ちに省内全体がさせられてしまった引き金というのは、やはりいまの政治状況といいますか、政権交代がなかなか起きそうにない、いわゆるわれわれが「一強」と呼んでいるような状況というのが官僚の皆さんの頭の中にあったんでしょうか。その辺を教えてください。
前川 この話は、政対官の話というよりは、政権中枢、官邸、内閣府対文部科学省みたいなところがあって、文部科学省といったときには、大臣も副大臣も含めて文部科学省なんですね。ですから、政治の世界と官僚の世界でいろいろ摩擦があったということよりは、政権の中で、政府の中でも中央と文科省の間の関係。
この問題は、推しはかるに、松野大臣も、義家副大臣も相当苦労されて、悩まれた話なんですね。しかし、最後は政治的なご決断だったと思うんです。文部科学省の立場として、松野大臣も、踏み切らざるを得ないだろうと。その政治的な判断の理由なりきっかけなりは何だったかというのは、これはちょっと私がご説明するのは、私ののりを越えていると思うんですけれども、しかし、あえて申しあげれば、10 月 23日の福岡 6 区の補欠選挙の結果でありますとか、それから、実質的に調整に期待をかけていた萩生田副長官も、やはり文部科学省の側に立って調整はしてもらえないということが大体明らかになったというようなところで、これはもう、あまりこれ以上の抵抗はできないというようなご判断になったのではないかなと思っております。
司会 それでは、次の方。
質問 先ほど質問の中で、現職中に声を挙げなかった理由について、私がアクションを起こしても何もならないんじゃないかということをおっしゃっていましたけれども、そういう思いに至った経緯をもう少し詳しく説明していただきたいのと、それならば、なぜ、この終わった後、5 月のタイミングなりに発言をされたかということと、あと文科省はいろいろと新設に向けて慎重な姿勢を説明されていらっしゃいましたけれども、獣医師会などの意向を受けて、52 年間も獣医学部を設置しないようにして、既得権益を守ろうとしていたのは文科省ではないかというふうに私は捉えているんですけれども、その点についてはどのようにお考えでしょうか。
前川 それは非常に単純な図式だと先ほど申しあげた話で、規制改革対岩盤規制の勧善懲悪の話ではないんだということなんですよね。
規制改革絶対反対と私、言った覚えもないですし、きちんとした議論をしたうえでの獣医学部新設ということであれば、それは結構なことだと思っておりますし。
ただ、そのときに、特定の主体は排除して、特定の主体だけに恩恵が生じるようにするということが行われたのではないか、そこに問題がある、「穴のあけ方」のところに問題がある、そこを問題視しているわけで、規制改革対岩盤規制、抵抗勢力という図式は、ためにする議論のすりかえだと思っております。
質問 前段の部分は。
前川 前段の部分は、私、もっと現職のときに、この問題については関与したほうがよかったと思っておりますが、最後は政治的な判断でしたから、先ほど申しあげたように、最後の判断は、これは私ではなくて、大臣がすることですから、文科省としては、結論は同じだったのではないかと思っております。
司会 はい、どうぞ。
質問 先ほどから話が出ている文書についてお伺いしたいんですけれども、10 月 21 日付の萩生田官房副長官発言内容という文書について、お聞きしたいんですが、この文書の中に、「総理は平成 30 年 4 月開学とおしりを切っていた」という記述があります。ところが、2 週間前、10 月 7 日付けの萩生田さんの発言内容には、「平成 30 年 4 月は早い、無理だ」となっていて、開学時期については明らかに変化がある。先ほどからギャップについてのお話がありましたが、この 2 週間の間で何が起きたんでしょうか。10 月 17 日に和泉補佐官から呼ばれて、早く決断を出せと言われていますよね。同じく 11 日に、京都産業大学が 21 ページの資料を提出しています。このあたりの動きと関係があるでしょうか。
前川 そこは、私もこれはわかりません。まさに内閣府なり、総理官邸の当事者の方々に説明していただかなければわからない部分ですね。ですから、あまり想像でお話しすることはできないと思うんです。
しかし、萩生田副長官のご発言がこの 2 週間の間に変わったことは事実で、その間に、獣医学部の開設の時期について、特にはっきりと30 年 4 月なんだというお考えを固められたということはみてとれるわけで、私もその理由はわかりません。そこはもう、私の説明の能力を超えております。
司会 はい、どうぞ。
質問 前川さんに伺いたいんですけれども、今回、たまたま文書が流出して、朝日新聞がああいう記事を書いたり、あるいは前川さんがある意味で身を挺してこのように、元次官という立場でありながら証言をされていることで、初めてこういうようなことがあったということが、まだはっきりとはしていないなりに表沙汰になった。では、文書も流出せずに、あるいは前川さんみたいな存在がなければ、わからなかた。われわれは外からみているとこういうようなことがいくらでもあるのではないか、つまり、ゆがめられていることがいくらでもあり得るのではないかということを逆にどうしても思わざるを得ないんです。次官まで務められた前川さんとして、そのようにゆがめられる余地というのが今あるとすれば、いまの日本の政府の仕組みの中に、どこに問題があって、そのような形でゆがめられるような余地があるのか。
あるいは、これは本当に特殊なケースなので、ほかにはあまりそういうことを考える必要がないのかという可能性も含めて、前川さんのお考えを聞かせてください。
前川 おそらく古今東西いつの世も、権力のもとで不正が行われているということは、多かれ少なかれあったと思うんですね。おそらく100%清潔な政府などというものは、どこの国にも、どこの時代にもなかったんだろうと思うので、そういった不正な部分、ゆがんだ部分をいかに少なくするか、いかにそれを起こりにくくするかという知恵が必要なんだろうと思いますし、人類の長いデモクラシーの歴史の中でそういう知恵を少しずつ育んできているんだろうと思います。
学校で勉強する三権分立というのは、まさにそういう権力を分けることによって、チェック・アンド・バランスで腐敗を防止するということだと思いますし、権力は 3 つに分ける必要はなくて、4 つでも 5 つでもあると思いますし、現実にはさまざまな独立した機関をつくることで、権力が一つに集中しないようにする、あるいはチェック機能が働く、そういった仕掛けはあるわけですね。
先ほどの天下りの問題で言えば、再就職監視委員会というのは非常に強力な第三者機関で、あの第三者機関が存在したおかげで――おかげと私が言うのは変ですけれども――文部科学省の不正な天下り問題が、法律違反という事案がたくさんえぐり出された。
正直に申しあげれば、われわれはここまでは大丈夫だと思っていたラインがあったんですが、それは違法だと言われて、たくさん違法行為が出てきたんですけれども、それは私どもは甘んじて受けなければいけないのだと思っています。その第三者機関がそういう判定をする以上はですね。そういったものがあって、チェックがされるんだろうと。
先ほど申しあげたような、この政策形成プロセスについても、何らかの第三者性のある組織をつくって検証するという方法はあるだろうと思いますし、そういう工夫をしていくということがこれからも必要なのではないかなと思っております。
司会 どうぞ。
質問 いま聞きたかったところのお答えが一部出たんですけれども、今回、先ほど利益誘導の質問が出ましたが、明確な回答は避けたいということでしたが、これは取材をすればするほど、首相が加計孝太郎理事長との間に金銭の授受関係等があれば、便宜供与、それから職務権限をあわせて贈収賄にもとられかねない、それだけ大きな疑惑がいま私たちの前で繰り広げられているように感じております。
しかしながら、再三、菅官房長官を取材させていただいていますけれども、今回、皆さんが実名告発、または職員が匿名で、おそらく身分は特定されていると思います、自分の身の危険を冒してでも匿名の告発と、それからいろいろな文書が出てきました。また、今治市が公開している情報は 8,000 枚に及んでおります。
一方で、これだけの客観的証拠がいろいろ出ながら、加計ありきが進んでいるんじゃないかとみえる中でも、一方で政府側の姿勢というのは、萩生田副長官は全く会見に出ません。今回10 月 21 日に出た衝撃な総理の言葉も含めて、これは正確性に著しく欠けているというご回答で、では、第三者委員会の調査とか、国会での招致を含めて、誠実にこの真相解明するための捜査機関、調査をしてくれないかということを繰り返し聞いておりますが、全く現状、その姿勢がみえません。
この状況で、どういうふうに私たちメディアが闘い、そしてどういうことを、先ほど第三者機関のことをおっしゃいましたけれども、どういうことをしていけば、事実が国民の目に明らかにされるのか、この点をもう一度、お考えがあるところがあれば、ご指摘いただきたいんですが。
前川 頑張ってください、としか言いようがないですね。
そうですね、重要な人物で、一切発言をしておられない人としては、加計孝太郎さんがいらっしゃると思うので、早くつかまえていただきたいなと思っています。
司会 次、どうぞ。
質問 前川さんは、内閣府、官邸はもちろんだけれども、文科省も 100%の説明責任を果たせていないというふうにおっしゃっていましたが、100%ではないとおっしゃる理由を、一連の流れの中で、どこで感じているのか、教えてください。
前川 文部科学省の中には、まだまだこの一件に関して文書はあるはずです。すでに表に出ている情報から推測される情報もたくさんありますから、そういったものはまだおそらくパソコンの中に眠っているものがあるんだろうと思われるんですね。それはまだ出てきていない。これから出てくる可能性もありますけれども。
これらの文書に対して、最初に私が申しあげたのは、松野大臣初め文部科学省の幹部の皆さんが精いっぱいの誠意は示していると思っているんです。非常に苦しい立場だと思うんです。萩生田副長官のご発言に関する 10 月 21 日の日付入りのペーパーについても、文部科学大臣あるいは副大臣が反省しているとか、謝罪するとかという言葉を口にしておられる、正確性に欠く文章だという理由でですね。
これも、そこはそう言わざるを得ない事情があるんだというふうに考えてあげたいなと思っていまして、何だかんだ申しあげても、総理官邸と文部科学省の関係はヘビとカエルみたいな関係ですから、ヘビににらまれたカエルは言いたいことは言えないんですよね。そういう意味で、松野大臣をカエルだと言っているわけではないんですけれども、言える最大のことをおっしゃっているんじゃないかなと私は思っております。
そういう意味で、100%にはなっていないけれども、力の及ぶ限りの 100%にはなっているのではないかと思っております。
司会 次、どうぞ。
質問 いま国会は閉幕中ですけれども、野党が臨時国会の招集を求めています。それについての与党の姿勢について、どう受けとめているか。
それと、国会が開かれた場合、もし招致がかかった場合、前川さんは答える準備があるかどうか、その点をお願いします。
前川 臨時国会を開くべきかどうか、閉会中審査をすべきかどうか、これはもう本当に国会の問題で、私がコメントするような問題ではないと思っております。
ただ、閉会中審査にせよ、臨時国会にせよ、国会が開かれて、証人喚問が行えるのであれば、私は喚問されれば応じる用意はもちろんございます。
司会 では、はい、どうぞ。
質問 成田市での医学部新設についてのお話もございましたけれども、この選定過程においても、同じように行政がゆがめられたとか、あるいは官邸主導で進められたというようなことをお感じになるような場面というのはありましたでしょうか。
前川 私は、文部科学省の中では、高等教育にはほとんどタッチしておりませんでした。全体を統括する文部科学審議官や、文部科学事務次官の立場になって初めてかかわるようになったわけで、それまでは初等・中等教育を担当しておったので、成田の医学部の新設の経緯は、十分承知しておりません。ですから、この件について、何らかコメントすることは、ちょっと私にはできないんですね。
司会 では、最後でございます。どうぞ。
質問 大変理路整然としたお話をありがとうございました。よくわかりました。
それで、一つ伺いたいんですけれども、先ほどのお話の中で、文部科学省の中で、政策がゆがめられたときに、プロジェクトチームをつくったことがあると、先ほどお話がございました。今回、具体的な日時を挙げていらっしゃいますけれども、いつごろから行政がゆがめられたとお感じになるようになったんでしょうか。そして、そのときに、そういうものを少なくとも文部科学省の中でつくってみよう、そういう考えはなかったんでしょうか。
司会 ありがとうございました。どうぞ。
前川 今回のこの国家戦略特区における規制改革というのは、主務官庁が内閣府であって、文部科学省はその協議にあずかるほうの立場なんですね。協議にあずかるほうの立場ではあるけれども、最後の最後は文部科学大臣が設置認可する獣医学部の話になってくるので、言ってみれば、平たい言葉で言えば、最後のツケは文部科学省に回ってくる話だ、しかし、いまの段階の問題は内閣府の問題だ、そういう構図があったわけであります。
その内閣府が進めている特区における規制改革のプロセスが非常に問題があるというふうにわれわれとしては思っていたわけで、これは文部科学省の中で起こっていたことではなくて、内閣府の中で起こっていたことであって、内閣府に対しては、文部科学省としては言うべきことは言っていた。それは単なるアリバイじゃなかったのかと言われれば、そのとおりの部分もあるんですけれども、このままでいいんですか、4 条件に照らしてちゃんとした判断をしていないんじゃないですか、こういう意見はずうっと言い続けていたわけですけれども、しかし、それを押し切られて、11 月 9 日の諮問会議での決定になってしまったという経緯でございます。
ですから、この経緯についてわれわれは、おかしい、おかしいという気持ちはずうっと持っていましたけれども、その最終的な責任は内閣府、内閣府の長というのは、担当大臣は山本さんですけれども、一番上の総理大臣ですから、その責任で行われたことだと。
ですから、これを検証するのであれば、内閣府に検証の場を設けなければいけないんだろうと思っております。
司会 すみません、お一人忘れていました。ごめんなさい。どうぞ。
質問 先ほど、ヘビとカエルのお話もありましたけれども、文科省の職員のトップとしていらっしゃったお立場でお聞きしたいんですが、10 月 21 日に、つくられた課長補佐の文書に関して、内容に不正確なものがある、あるいは 11月 1 日に文科省から出向されていた職員の方から、何か陰に隠れてのご注進のメール、というふうに大臣から指摘されたりというようなことがあり、「トカゲのしっぽ切り」ではないかというような指摘もあるようなんですけれども、この点に関してはどうお考えですか。
前川 これは想像の域を出ないので、私もやはり注意して申しあげなければいけないとは思いますが、情報を発信者の信用を失わせることによって、情報そのものの信用を失わせようという意図がどこかに働いているように思われます。
10 月 21 日付の文書をつくったと考えられる課長補佐のことは、先ほども言及しましたが、しっかりした人物で、うそを書いたり、取り違えをしたりすることはまず考えられないので、確かにタイトルが「萩生田副長官ご発言概要」となっておりますが、その発言者、話者としては萩生田副長官以外の話者、主語が入っている可能性はある。それは和泉補佐官かもしれないし、あるいは藤原審議官かもしれないし、話を直接聞いた相手である常磐局長かもしれないので、主語がもともと書いてない文が多いですから、主語を入れていくと、それぞれ違う人になる可能性はあるとは思いますけれども、しかし、誰かが話したことということについては、ほとんど間違いないだろうと思っております。
それから、11 月 1 日の内閣府から送られてきたメールにつきましても、不確かな情報を伝えてくるとは思えないので、やはり書かれている中身については、特に個人の名前を出して書いてある部分は、かなり確かさが高いのではないか、確実性が高いのではないかというふうに私は評価しております。
司会 よろしいですか。はい、ありがとうございました。
これで質問は終わりにしたいと思います。
そして、会見の前に、恒例どおり一筆書いていただきました。それをご紹介します。
「個人の尊厳、国民主権」とあります。これについて、一言、ちょっとお願いいたします。
前川 私は 38 年間、国家公務員をやりまして、国家公務員の身分からやっと解放されまして、一私人になっているわけですけれども、国家公務員として仕事をする中でずうっと感じてきたのは、国家公務員が自分を捨てて仕事をしているのではないか、「滅私奉公」のような、それではいけないんじゃないかということなんです。国家公務員の仕事をしているとはいえ、政治のもとで仕事をしているとはいえ、一人一人は一人の人間として、まず尊厳がある個人である、個人の尊厳を持った存在である、それを忘れないようにしなければいけない。自分の信念とか、思想とか、心情とか、良心とかいうものは、きちんと自分自身のものとして持っていなければいけない。これが個人の尊厳ということを訴えたい一つです。これは後輩の文科省の現役の職員にも伝えたい言葉なんですね。
もう一つは、国民主権、これもやはりそうなんですけれども、国家公務員として、全体の奉仕者として仕事をする、しかし、一方で、主権者である国民の一人でもあるわけで、主権者である国民だという立場も忘れてはいけない。主権者である国民の立場で、これはおかしいと思うことがあれば、それはおかしいということを何らかの形で伝えていかなければならないのではないか。いきなり「これはおかしい」と内部告発して、そこで首を切られても、そういうことでいいとは私は決して思わないので、そこは粘り強く、しなやかに、強靱にやっていく必要があると思うんですけれども、一人の個人であるということと、一人の国民であるということを忘れないようにしながら仕事をしてほしい。これは後輩の国家公務員の人たちに送りたい言葉なんです。
司会 今後、どういう人生を送られるんですか。
前川 これから考えます。天下りはしないと思います。(笑)
司会 ボランティアとか。
前川 ボランティアは楽しいので、いろいろやりたいと思っていますけれども。
司会 ありがとうございました。では、これで会見を終わります。
前川さん、ありがとうございました。(拍手)  

 

●松野文科相が加計問題で前川前次官に疑義 2017/7
松野博一文部科学相は11日の閣議後会見で、同省の天下り問題に伴い1月20日に引責辞任した文科省前事務次官の前川喜平氏(62)が辞意を申し出た時期について言及し、前川氏が主張する1月5日は「京都視察で10人近くが常に一緒にいた。込み入った話を受けられる状況ではなかった」などと述べ、前川氏の主張に疑義を呈し、事実上否定した。
前川氏は10日、参院の閉会中審査で、1月4日に辞任を決意し、翌5日に松野氏へ辞意を申し出たと説明していた。
松野氏は会見で「官邸内で前川氏の退職に関しどういったことがあったのか承知していない。1月の中旬までに前川さんから退職の意向があると聞いたことは事実」と指摘。その上で、5日は文化庁の京都市内の移転対象4カ所の視察に行き、朝から夕方まで視察をしていたと説明し、「文科省の幹部職員も参加し、確か前川さんもその視察にいた。おそらく10人近くが常に一緒にいる状況で、昼食時も多くの方々と一緒にとっていた。夕方また次の場所に向かった」などと記憶をたどった。
当時の日程を確認した理由について、「前川さんから弁護士を通じて1月5日に退職の意向を示したという文書がきたので確認した」と明かし、「前川さんが大勢の中でいつの時点で私にそういった意志を示されたのか、詳しくあの場所であの時点で伝えたと言っていただければもう一回考える」と違和感を示した。
さらに、前川氏が定年延長を申し出たとされることについては、「前川氏は再就職等規制違反の件で監視委員会の調査対象にあったので、文科省の事務方が違犯が仮にあった場合でも定年延長が可能かを事務方から内閣人事局か官邸かに事務的に問い合わせたと後日報告を受けた」と述べた。
閉会中審査では、前川氏が定年を迎える3月末までの在職を望んだとする菅義偉官房長官と、1月初めに辞任の意向を伝えたという前川氏の主張が対立した。
菅氏は1月上旬に文科省から官邸へ、通常国会が終わる6月まで先送りする話が伝えられたと指摘。これに対し、杉田和博官房副長官が前川氏に「事務方トップが責任を取ることを前提にしないといけない」と話したところ、前川氏は「定年の期限となる3月まで次官を続けたい」と答えたと説明。前川氏とのやりとりは、杉田副長官から菅氏に報告があったという。
これに対し、前川氏は「全く事実に反する。1月4日には引責辞任を決意し、文科省の親しい幹部に伝えた」と反論。5日に松野文科相へ辞意を申し出た後、杉田副長官にも引責辞任の意向を伝えたとした。
前川氏の辞任をめぐっては、菅氏は5月の記者会見で「地位に恋々としがみついた」と批判していた。
●前川喜平氏独白「NHKや読売新聞には同情する」 2017/9
今年1月、文部科学省で、違法な再就職のあっせんを組織ぐるみで行っていた天下り問題の責任をとる形で、文科事務次官を退任した前川喜平氏。今年5月には、一連の加計学園問題について記者会見を開き、「行政のあり方がゆがめられた」などと語った。日経ビジネス8月28日号・9月4日号の「敗軍の将、兵を語る」では2号にわたり、「天下り問題」と「行政のゆがみを正すことができなかった」ことなどについて前川氏が真摯に思いを述べている。日経ビジネスオンラインでは、敗軍の将に収録できなかったメディア対応の経緯やメディアへの思いについて、インタビュー形式で紹介する。
前川喜平(まえかわ・きへい) / 1955年奈良県御所市生まれ。79年3月東京大学法学部卒業後、文部省(現文部科学省)入省。大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、初等中等教育局長などを経て、2014年7月文部科学審議官、16年6月文部科学事務次官に就任。17年1月、天下り問題で依願退職。祖父の前川喜作氏は産業用冷凍機大手、前川製作所の創業者。

――5月の記者会見で、「総理のご意向」などと書かれた文科省の内部文書を「本物」と認め、「公平公正であるべき行政のあり方がゆがめられた」「あったことをなかったことにすることはできない」などと証言したことが、結果として、加計学園問題をここまで大きくしました。
前川 / まさか、この問題で国会に出て答弁することになるとは思っていませんでした。行きがかり上、こうなってしまったというか、乗りかかった船でここまできちゃったところがあります。
――周到に準備を重ね、覚悟を持って告発に踏み切った、というわけではなかったと。
前川 / もちろん、行政がゆがめられている、これは不当なことだ、おかしい、国民が知るべき真実なのではないか、という気持ちは確かに持っていました。だからこそ、記者会見の前の段階でいくつかのメディアからアプローチを受けた時に、いろいろなことをお話ししたわけです。私は、こういう事実があったんですよ、ということをありのままに述べておしまいだと思っていた。今でもそう思っているんですけれど、最初はそれを天下の公器であるNHKに話せばいいだろうと思っていました。
「黒塗り」で報じたNHKの意地
一連の加計学園問題は、「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと書かれた文科省職員が作成したとされる内部文書の存在が明るみになって以降、大きく発展していった。この内部文書を、分かりやすい形で最初に報じたのは、5月17日の朝日新聞朝刊1面。同記事は、「『獣医学部新設に係る内閣府からの伝達事項』という題名の文書には、『平成30年(2018年)4月開学を大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい』と記載。そのうえで『これは官邸の最高レベルが言っていること』と書かれている」と伝えた。しかし前川氏は、この文書を最初に“スクープ”していたのはNHKだったと話す。
前川 / 私へのアプローチが特に早く、一番取材していたのはNHKです。あれは、5月の大型連休前だったと思いますが、私の自宅前にNHKが待ち構えていて、私が家を出た時につかまえられ、そこで観念して、カメラの前で話しました。NHKの記者さんはかなり早い時期に、恐らく現役の職員から内部文書を入手していたようで、その後に朝日新聞が確認に来た時に持っていたものも、それよりももっと詳しいものも持っていたわけです。そこで私は、一部の文書は私が見たものと同じだと言いましたし、それから、個人名は出しませんでしたが、内閣官房の複数の人から獣医学部新設について働き掛けがあった、ということもお話ししました。それからしばらく時間が経って、NHKが初めて文書をちょろっとだけニュースに出したのが5月16日の夜。あれは、変なニュースでした。あのニュースは、加計学園の獣医学部新設に関して、文科省の大学設置審議会が審査しています。いろいろと課題があるので、とにかく実地調査をすることにしています。そんなニュースだったんです。これは国家戦略特区で認められたものです、というようなただし書きというか、説明が付いていたと思うんだけれど、その最後の映像に、ちらっと「9月26日」の日付入りの文科省の内部文書が映っている。映っているんだけれど、この文書が何であるかという説明はなくて、しかも、「官邸の最高レベルが言っている」という部分が黒塗りをされている。爆弾みたいな文書を、本当にさり気なくぱっと映したのです。
――なぜ、NHKは肝心の部分を黒塗りにして出したのでしょうか。
前川 / 出せなかったのでしょう。上からの圧力があったのでしょう。私に接触してきた記者さんは、ものすごく悔しがっていました。それで、社会部の取材してきた人たちが、せめてこれだけは映してくれと言って、最後にちらっと映したと。自分たちは取材で先行している、という意地ですよね。それをめざとく見ていたのが朝日新聞です。朝日新聞も私のところに来ていました。その段階で、(NHKが持っていた)日付入りの文書そのものは持っていなかった。でも、別のサマリー版の方は持っていました。それは、私も含めて広く省内に行き渡っていたものなので、文書の真正性について本物だというふうに証言しました。それを朝日は5月17日の朝刊の紙面で出したんですね。そうしたら、菅(義偉)官房長官はその日の記者会見で、日付も入っていない、誰が作ったのかも分からない、怪文書みたいなものだ、というふうに仰った。そこで、朝日は恐らく猛烈に取材したのでしょう。NHKが持っていた9月26日の日付入りの文書を入手して、翌18日の朝刊の紙面にそれを出した。今度は日付も入っている、誰が作ったのかも書いてある。しかしそれは、すでに16日の夜にNHKが映していたものと同じものだったのです。
NHKに頼まれた「記者会見」
ここまで、前川氏は各メディアの取材に協力をしていたものの、各紙の紙面に名前が踊ることはなかった。唐突に名前が踊ったのは5月22日の読売新聞朝刊。「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」と題された記事は、こう書き出している。「文部科学省による再就職あっせん問題で引責辞任した同省の前川喜平・前次官(62)が在職中、売春や援助交際の交渉の場になっている東京都新宿区歌舞伎町の出会い系バーに、頻繁に出入りしていたことが関係者への取材でわかった。教育行政のトップとして不適切な行動に対し、批判が上がりそうだ」前川氏はその3日後の5月25日、都内で記者会見を開き、「行ったのは事実」と認めた上で、「女性の貧困を扱う報道番組を見て、(出会い系バーに通う女性の)話を聞いてみたくなった」「実地調査の意味もあり、行政上、役に立った」などと話した。
――なぜ、歌舞伎町のその店舗に行ったのでしょうか。
前川 / テレビ番組で見た時に、関心を持ちました。番組で紹介されたお店があの店だったかどうかは定かではありません。だけど、ここかなと思い入ってみたら、こんな感じだったかなと。歌舞伎町を正面から入って目に付くところにある、分かりやすい場所です。実地調査というのはあまり適切な言葉ではなかったと思っています。でも、私の知らない世界をいろいろと知ることができる、様々な事情を抱えた女性のリアルな話が聞ける、という点で、非常に興味を持ちました。
――キャバクラやクラブではなく、出会い系バーだった理由は?
前川 / 私はキャバクラやクラブというのはあまり関心がなくて、要はすべてコマーシャルなものですよね。女の子が付いてその子が何か身の上話をしたとしても、結局それは商売ですよね。最後にはメールアドレスを教えてと言われ、教えた途端に毎週のように営業のメールが来るとかね。私も行ったことがないとは言いませんが、興味は持てません。
――出会い系バーへの入店自体が批判の的となりました。会見翌日の26日には、菅官房長官が「常識的に言って、教育行政の最高の責任者がそうした店に出入りして、小遣いを渡すようなことは、到底考えられない」とコメントしています。
前川 / まるで少女買春をしたみたいに言われていましたが、そんな事実は全くありませんし、この件については言い訳をするのも何かなと。法に触れるようなことをしたわけではなく、何が悪いんだと思っています。愉快か不愉快かと言われると、不愉快です。こういう形で人格をおとしめるというやり方は、やっぱり非常に問題があると思います。メディアが公人に対して、プライバシーにかかわることを根掘り葉掘りやるのはいかがなものかと思わないでもないけれど、市民目線や国民目線で指弾するのはまだ許せるというか、分かります。しかし、権力を持っている人間がそれをやるのはおかしいと思う。ただし、当初はこうした言い訳がしたくて記者会見を25日に開こうと決めたわけではありません。
――なぜ25日に記者会見をしたのか、という問いへの答えは端的に言うと何でしょうか。
前川 / それは、各メディアから求められたから、です。まず、NHKに頼まれました。数週間前に自宅前で応じたインタビューが放映されていなかったので、記者さんに「どうするのか」と聞きました(編集部注:その映像は未だにオンエアされていない)。すると、「記者会見をしてくれないと、NHKは今まで取材したことを出せない。記者会見があれば、それはどこのメディアも報じるので、NHKもニュースにすることができる。だから記者会見をしてください」と言ってきました。もう一つは、ちょっと話題になっている東京新聞記者の望月衣塑子さんからメディアを代表して頼まれた、ということもあります。
詩織さんのほうがよほど勇気がある
前川 / 読売新聞の記事が出た22日の夜あたりから、私の自宅前にメディアが殺到している状態になってしまっていました。ですが、その時点で私はもう自宅を抜け出して、ホテル住まいをしていたのです。本当にもぬけの殻で、私は父親と一緒に住んでいるんだけれど、父親もホテルに行くと言って、誰もいない状態でした。誰もいない家の前で各社がずっとこのまま待ちぼうけを食わされるのはたまらないということで、望月さんが私の自宅前にいる各社の合意を形成し、代表して(元文部省官僚で京都造形芸術大学教授の)寺脇研さんに電話をかけ、「前川さんに記者会見をするように伝えてくれ。メディアの総意である」と言ってきたのです。寺脇さんが私にそれを伝えてきたのが24日の朝だったと思います。翌25日というのは、私が取材に応じた「週刊文春」の発売日です。これに合わせて、25日の朝日新聞朝刊に私のコメントが載ることも、それから25日夜にTBSの「ニュース23」でインタビューが放映されることも決まっていました。それらが一斉に出るので、同じ日に記者会見もしましょう、ということがバタバタと決まっていったというのが実情です。だから、何か勇気を出して発言したとか言われているけれど、私は大して勇気を出していない。レイプ被害に遭った詩織さんという方が、官邸につながる警察の幹部を顔を出して告発されていますが、彼女の方が私よりも100万倍、勇気があると思います。私が現職中に加計問題を告発したとしても、それよりもよほど勇気がいることだと思いますし、彼女が問題提起をした権力の闇の方がずっと根深い気がします。
――一方で、NHKや読売新聞について、今、何を思いますか?
前川 / 残念に思う半面、現場の記者さんにはシンパシーも感じるんです。要するに、大きな組織の中では、組織の論理で動かざるを得ないという。自分に重ね、ちょっと、同情したところもあるんです。みんな、組織の中で四苦八苦しながら生きているんだなと。読売新聞の社会部長も、心の底から、あの解説を書いたのかどうかは分かりません。組織の中で仕事をしている以上、しょうがないというところもあると思うんです。私だって、心にもないことを国会で答弁したことはありますから。誰だって多かれ少なかれ、「面従腹背」で生きているわけです。ただ、面従腹背しているほうが、まだマシだと思います。身も心も組織にささげるというか、空っぽになって、言われるがままに動く。心を失ったロボットみたいになってしまっているような、そういう人も結構いますから。だから、それよりは、本当はそうじゃないと思い、苦しみながらも、苦しみを押し殺して仕事をしているような人のほうがいいな、と思います。
高校中退を防ぐことが貧困の解決に
――今は、何をしているのですか?
前川 / 福島市や神奈川県厚木市の自主夜間中学に、定期的にボランティアで通っています。それから、中退防止に力を入れている高校では、「キッズドア」という団体がやっている土曜学習の支援ボランティアをしています。ここは必ずしも成績のよくない生徒が来る高校なのですが、その生徒たちが自主的に自分たちの学力を高めたいと土曜日の午前中に集まってきて、勉強をしているわけです。その土曜日の学習会に参加して、生徒のいろいろな質問に答えてあげたり、分からないところを一緒に考えてあげたりする、そういうボランティアです。この高校は中退率がものすごく高かったのですが、キッズドアが支援するようになってからは、中退率が激減しています。やはり、自学自習のサポートが効いているんですよね。高校中退を防ぐことは、ものすごく大事なことだと思っています。98%以上の子供が高校に進学していますが、そのうちの5%くらいは卒業できずにドロップアウトしている。高校中退というのは1つの人生の転落の始まりで、出会い系バーで出会った女性も、かなりの割合で高校を中退しています。出会い系バーでは、両親が離婚していると、高校中退をする率が高いということにも気がつきました。やっぱり、高校中退をいかに防ぎ、卒業させて社会に出してあげる。少なくとも、そういうふうにしてあげることが、貧困問題の解決につながっていくのだと思っています。 

 

●前川前次官の講演、録音データ提供求める 文部科学省 2018/3 
名古屋市立の中学校で2月、文部科学省前事務次官の前川喜平氏が授業の一環で講演したことをめぐり、文科省が市教委に対し、前川氏を呼んだ狙いや講演の内容を問い合わせ、録音データの提供を求めていたことが15日、わかった。文科省が個別の学校の授業内容について調べるのは異例。
前川氏は文科省の組織的な天下りの問題に関与したとして、昨年1月に辞任し、その後は学校法人「加計学園」の獣医学部新設などをめぐって「行政がゆがめられた」と発言している。文科省教育課程課によると、総合的な学習の時間の授業で講演したことを報道で知り、前川氏が辞任したことや「出会い系バー」の利用が報道されたことを伝えたうえで、経緯や講演内容を尋ね、録音の提供を求めるメールを市教委に送った。市教委から講演内容は伝えられたが、録音の提供はなかったという。
教育課程課は電話で市教委に、前川氏を学校教育の授業に呼ぶことは「慎重な検討が必要だったのではないか」とも伝えたという。市教委に問い合わせることは文科省の初等中等教育局で判断しており、林芳正文科相ら政務三役は関わっていないとしている。
前川氏の講演を聞いた40代の ・・・
●前川前文科次官「加計ありき示す資料」 2018/4
加計学園の獣医学部新設を巡り、当時の首相秘書官が「本件は首相案件」と発言したことを記載した文書を、愛媛県が作成していたことについて、文科省の前の事務次官だった前川喜平氏が取材に応じ、「加計ありきだったことを示す決定的な資料だ」と述べた。
前川喜平前文科次官「これ決定的でしょう。2015年4月の時点で、すでに加計ありきだったということと、その時点から加計隠しが始まっていることを示す資料だと思う。隠さなきゃいけないと思う人がたくさんいるってことじゃないか。誰かのことを考えて隠そうとしているんじゃないか」
また、前川氏は文書で柳瀬元秘書官が「首相案件」と発言したと記録されていることについて、「総理の意思表示がなければ絶対こんなこと言わない」と述べ、事前に安倍首相から、了解や指示を得ていたのではないかと指摘した。
●首相答弁「事実に反する」 2018/5
加計学園の獣医学部新設をめぐり、安倍総理大臣が14日の予算委員会で京都産業大学の獣医学部の提案について、「文部科学省の前川前次官ですら、加計学園しかなかったとおっしゃっていた」などと答弁したことについて、前川氏は「事実に反する」として反論するコメントを出しました。
加計学園の獣医学部新設をめぐり、14日行われた衆・参両院の予算委員会で、安倍総理大臣は今治市と同じく獣医学部新設を目指していた京都産業大学の提案について、「文部科学省の前川前次官ですら、まだ熟度が十分でないという認識のうえに、加計学園しかなかったということをおっしゃっていた」などと述べ、選定プロセスに問題はなかったという考えを示しました。
この発言について、前川氏は「京都産業大学の提案内容は知らされておらず、加計学園と比較考慮することは不可能だった」としたうえで、「京都産業大学の準備や提案の熟度が十分ではないという認識を私が持っていたとする総理の発言は事実に反する。極めて心外だ」と反論するコメントを出しました。 

 

●前川元文科次官、実名ツイート開始 主張「正々堂々と」 2019/6
元文部科学事務次官の前川喜平氏(64)が実名でのツイッターを始めた。加計(かけ)学園問題が明らかになって以降、安倍政権に批判的な立場から講演や執筆活動を続けており、取材に「ツイッターでも正々堂々とやることにした」と話している。
前川氏によると、2012年12月にまず、「右傾化を深く憂慮する一市民」のアカウント名でツイッターを始めた。第2次安倍政権が発足したころで、当時は文科省官房長だった。安倍晋三首相が第1次政権で「愛国心」を盛り込む教育基本法改定を実現させたことなどから、「政権の右傾体質が再び教育政策を直撃すると予感した」という。
今月10日、「思うところあり、本日から本名を記し、公開ツイートにしました」とつぶやき、実名に変えた。直接のきっかけは、28日公開の映画「新聞記者」で、原案の著者である東京新聞・望月衣塑子記者や、日本新聞労働組合連合の南彰・中央執行委員長らと劇中の鼎談(ていだん)シーンで共演したこと。「みんな実名で(ツイッターを)やっていて、影響された」と話した。
匿名アカウントの時に付けていた閲覧制限も外し、2千人ほどだったフォロワーは現在約5万人。「年金は高齢者より若者の問題だ」(20日)など、連日つぶやき続けている。
●これが本当なら「現代の特高」…前川元次官が語る「官邸ポリス」 2019/6
元警察庁キャリア官僚がペンネームで書いた告発ノベルとされる「官邸ポリス」(講談社)が「リアルだ」と、霞が関で話題という。その中に出てくる文部科学省の「前田事務次官」は、警察出身の内閣官房副長官の指示で尾行され、弱みを握られる。これが現実なら、日本の「警察国家化」は相当進んでいることになる。「前田次官」のモデルが加計学園問題で安倍晋三首相に不利な証言をした前川喜平・元文科事務次官(64)なのは明らかだ。最近、「思うところあり」として本名でのツイートを始めた前川さんに本の感想を聞き、自身の体験を振り返ってもらった。・・・ 

 

●前川喜平氏(元文科次官)あれから3年、いま話せること 2020/2
公開前から話題を集めた映画「子どもたちをよろしく」が2月29日に封切られた。“ミスター文部省”寺脇研氏が企画・統括プロデューサーを担い、元文科事務次官の前川喜平氏も企画に加わった。前川氏は2017年1月に天下り問題で次官を引責辞任。政権を揺るがす加計学園問題で「加計ありき」を証言し、渦中の人となった。新宿・歌舞伎町の出会い系バー通いを報じられ、個人攻撃にさらされたこともあった。あれから3年、思うところを聞いた。
――映画は貧困、虐待、いじめに苦しむ中学生を主人公に子どもたちをめぐる問題を浮き彫りにした重い作品です。企画に参加したきっかけは?
先輩の寺脇さんに声をかけられたから加わった、に尽きますね。現実を見ると、社会の歪みが最も弱い子どもたちに過酷な形で押し寄せている。苦しんでいる子どもたちをどうすれば助けられるのか。寺脇さんもそうですが、僕も教育行政官としてずっと気にかけてきた課題でした。文科省は学校に対しては指導ができますが、家庭にはなかなか手が届かない。いじめや自殺といった問題を根本的に解決するにはどうしたらいいか。社会全体で子どもたちを支えるように、社会のあり方を変えなければならない時にきていると思います。
――映画は北関東で暮らす2家族を中心にストーリーが展開し、中心人物のひとりが義父から性的虐待を受けながらデリヘル嬢として働く優樹菜(鎌滝えり)です。前川さんの経験も反映されているんですか。
優樹菜はひどい状況の中でも、自分らしく生きたいという気持ちを持っている。歌舞伎町で出会った女性の中には、ここまでしっかりしてはいないものの、生い立ちがよく似ている女性がいました。ものすごく生きづらい中で生きている女性がたくさんいた。かれこれ3年ほど通いましたが、何回か顔を合わせるうちに、10人以上から個人的なことを聞く機会がありました。彼女たちのイメージはある程度は優樹菜に投影されていますね。
――どんな話を聞いたんですか。
家庭の事情のために風俗で働いているとか、子どものころに性的虐待を受けたとか。明治大学に合格したんだけれども、進学をあきらめて風俗に入ったという子もいました。母子家庭で母親が精神を病んでいて、その病院代や生活費も彼女が工面しなければならなかったんですね。2人の子持ちでキャバクラで働いている女性もいた。中学時代にレイプされ、17、18歳で結婚。20歳で子どもを2人抱え、21歳で離婚したという。いわゆる普通の生活を送っている人たちにすれば、全く違う世界の話に聞こえるかもしれません。ですが、同じ社会で暮らし、同じ空気を吸っている人たちです。彼女らの問題を自分たちの社会の問題だと考えてもらいたいですね。
――天下り問題で文科事務次官を引責辞任した3カ月後、読売新聞に新宿・歌舞伎町の出会い系バー通いを報じられました。
ものすごく不愉快でしたね。読売に書かれたのは2017年5月22日。その半年ほど前、現役次官だった時期に杉田和博官房副長官に官邸に呼ばれ、「立場上、こういうところには出入りしない方がいい」。役所の車で行っているわけではないし、役所の身分で行っているわけでもない。個人的な興味関心で行っていただけで、完全に個人行動。それをなぜ知っているのか不思議ではありましたが、能天気にも善意の忠告だと受け止めていたんです。ところが実際は、何らかの警告だった。当時、加計問題も天下り問題も顕在化していませんでした。僕が安保法制反対デモに加わったり、部下に「安保法制は違憲だ」と言っていたのが伝わったのかもしれません。デモ参加を官邸がリアルタイムで把握していたら、次官になっていませんからね。
――危険人物だとみなし、行動確認された。
文科省を辞めて1カ月ほど経った17年3月ごろ、杉田副長官から携帯に電話がかかってきたんです。「君の例の新宿のバー通いを週刊誌が書こうとしているから気をつけたまえ」と。その頃、僕は加計問題でNHKなどのメディアと接触していた。それが官邸に伝わって余計な真似をすると書かせるぞ、とクギを刺すつもりだったのか。そう想像するわけです。
――読売報道3日後に「加計ありき」を告発。内閣府から「総理のご意向」と言われたなどと記録した文科省文書の存在を認め、会見を開いた。
読売報道の前日、後輩の藤原誠初等中等教育局長(現文科次官)からショートメールがあり、「和泉(洋人首相)補佐官が会いたいと言ったら対応するつもりはありますか」と聞かれた。時間稼ぎのつもりで「ちょっと考えさせて」と返信したら、翌日あの記事が出た。これも想像ですが、あの時、和泉補佐官に会っていたら「読売を抑えてやる代わりに加計の話をするな」「これまで話したことは嘘だと言え」と取引を持ち掛けられたかもしれない。ICレコーダーを持って会いに行った方が良かったんじゃないか。そう思っています。
――和泉補佐官といえば、厚労省の大坪寛子大臣官房審議官との公金不倫疑惑が浮上しています。
和泉補佐官は切れ者ですよ。謀略家と言ってもいい。この7年間、政権にダメージを与えそうな厄介事をうまく解決している。上に立つ人からすると、使える人間。白紙に戻った国立競技場建設をめぐり、建築家の隈研吾さんと大成建設でまとめたのも和泉補佐官。上の意向を踏まえ、形にする能力に非常にたけている。構造改革特区で15回もはねられた加計学園の獣医学部新設を、国家戦略特区で実現する知恵を出したのは和泉補佐官だと思います。
――現役官僚時代は非公開だったツイッターを公開し、政権批判をかなり書き込んでいます。
安倍政権は弱肉強食の新自由主義的発想で、敗者は自己責任。労働法制の改悪で非正規労働者をどんどん増やしている。企画参加した映画「子どもたちをよろしく」の主人公の中学生・洋一(椿三期)は、父親・貞夫(川瀬陽太)と2人暮らし。ギャンブル依存症の貞夫はデリヘルドライバーで、給料を前借りしてはパチンコですってしまう。ネグレクトされている洋一は、ガスが止められた自宅アパートで袋麺をそのままかじる極貧生活です。同級生には「ゴミオ」と呼ばれていじめられ、どこにも居場所がない。
――フィクションなのに、児童福祉関係者から「リアルすぎる」との声が上がっています。
この作品に登場する大人はみな病気で、弱い人間ばかり。どうしてこんな家庭が放置されているのか、と思うかもしれません。しかし、現実に政治の歪みは家庭に及んでいます。学校があえて描かれていないのもポイントなんです。いじめや自殺といった問題が起きると、「学校は何をしていたんだ」と追及の矛先を向けがちですが、問題の構造は単純なものではない。学校は要因のひとつで、家庭の中に問題がある場合がある。同級生にいじめられても、自分を認めてしっかりと受け止めてくれる人がいて、ここでなら生きていけるという場所があれば救われる。子どもたちに関わる大人のあり方を意図的に再構築しなければいけないと思うんですよね。
――どうすれば?
社会全体が子どもたちを支えられるように、子どもたちに税金を使う仕組みを作らなければいけない。お金をかけて子どもたちに関わる大人を確保しなければならない。安倍政権の考え方は「家庭の問題は家庭で解決しろ」でしょう。自民党の憲法改正案にまで〈家族は、互いに助け合わなければならない〉と書き込んでいる。政権を支える日本会議もそうですが、戦前回帰を志向し、かつての家制度にこだわり、家庭に責任を押し付けようとする。かつて家庭が持っていた機能はどんどん失われています。大家族で暮らしている家庭はずいぶん減りましたし、2世代同居も少なくなり、ひとり親家庭が増えている。子どもたちにとって苦しいのがひとり親で、養育能力のない大人と暮らしているケースもある。
――少子化で子どもの数は減り相対的に大人の数は増えています。
それなのに、子どもの中に大きな格差が生まれている。作品タイトルは寺脇研さんが考えたものですが、子どもたちを社会全体で支えてくださいというメッセージが込められています。彼らが生きられるようにして欲しいとの思いを込めているんですね。しんどい映画です。見終わった後、非常に重い気持ちになりますが、見た人で話をしてほしいですね。
●杉田副長官、審議会人事に介入 前川元文科次官が証言 2020/10
菅義偉首相が日本学術会議の新会員候補6人の任命を拒否した問題に関し、前川喜平元文部科学事務次官は13日、立憲民主党などの野党合同ヒアリングに出席した。前川氏は事務次官を務めていた2016年の文化功労者選考分科会委員の選任の際、杉田和博官房副長官に人事案の差し替えを指示されたことを明らかにした。
前川氏によると、16年8月ごろに委員のリストを杉田副長官に提出したところ、1週間ほど後に呼び出され、2人の差し替えを命じられた。前川氏は「杉田氏から『こういう政権を批判するような人物を入れては困る』とお叱りを受けた」と証言し、実際に別の人物を選び直したと説明した。
●菅首相「6人排除」事前把握 杉田副長官が判断関与 学術会議問題 2020/10
日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人が任命されなかった問題で、菅義偉首相がこの6人の名前と選考から漏れた事実を事前に把握していたことが分かった。除外の判断に杉田和博官房副長官が関与していたことも判明した。関係者が12日、明らかにした。
首相は9日のインタビューで、会議側が提出した105人の推薦リストを「見ていない」と発言。99人のリストを見ただけだとして6人の排除に具体的に関与しなかったかのような説明をしたため、一連の経緯や理由、誰が判断したのかが焦点となっていた。首相が6人の除外を前もって知っていたプロセスが明らかになったことで、さらなる説明責任が求められる。
今回の人事を首相が最終的に決裁したのは9月28日。関係者によると、政府の事務方トップである杉田副長官が首相の決裁前に推薦リストから外す6人を選別。報告を受けた首相も名前を確認した。首相は105人の一覧表そのものは見ていないものの、排除に対する「首相の考えは固かった」という。
首相が105人のリストを見ていないと発言したことを受け、政府は12日、釈明に追われた。加藤勝信官房長官は記者会見で「決裁文書に名簿を参考資料として添付していた」と明らかにした上で、「詳しくは見ていなかったことを指しているのだろう」と説明。実態として把握していたとの認識を示し、首相発言を軌道修正した。
同時に「決裁までの間には首相に今回の任命の考え方の説明も行われている」と繰り返し、人事は首相の判断により決まったことを強調した。
日本学術会議法は会員について「(会議側の)推薦に基づいて首相が任命する」と定めている。政府が軌道修正したのは、首相がリストも見ていなかったとすれば、この規定に抵触しかねないとの指摘が出たのを意識したものとみられる。
立憲民主、共産両党などは12日、合同ヒアリングを東京都内で開催。首相発言について「明確に法律違反だ」と批判した。  

 

 
 

 

 
 
 

 



2021/3