国民の分断対立

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国民 分断対立

分断対立を煽る トランプ大統領
どんな社会 どんな国家 創りたい
 


 
 
 
 
 2020/6

 

●抗議デモ激化、それでも分断と対立を煽るトランプ 6/5
中西部ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系のジョージ・フロイドさん(46)が白人警察官に首を膝で押さえつけられて死亡する事件が起こると、その動画が瞬く間にSNSで拡散しました。その後、全国で抗議デモが起こり、暴徒化しました。その波は今、ホワイトハウスの周辺まで迫っています。
ドナルド・トランプ米大統領はこの暴動をどのように選挙利用しているのでしょうか。本稿では、トランプ大統領の言動から読み解きます。
「強さ」の保持
米メディアは5月31日、ホワイトハウス周辺で大規模の抗議デモがあった同月29日、トランプ大統領がメラニア夫人や息子のバロンさんとホワイトハウスの地下壕に1時間ほど避難したと報じました。トランプ氏はこの報道に怒ったというのです。
おそらく、トランプ大統領は有権者から「弱いリーダー」と見られるのを嫌ったのでしょう。トランプ集会に参加すると、トランプ氏は支持者に向かって拳を握って強さを表現するジェスチャーを必ずします。常に「強いリーダー」のイメージを保持したいという意識があることは間違いありません。
トランプ大統領は、「地下壕に逃げた」という弱いイメージを打ち消そうと、自身のツイッターで民主党大統領候補を確実にしたジョー・バイデン前副大統領をこう攻撃しました。
「寝ぼけたジョーは弱い(省略)。弱さは無政府主義者、略奪者、悪党を打ち負かすことはできない」
自分には「強さ」があり、暴動を鎮静化できる能力があるといいたいのです。トランプ大統領には自己イメージを傷つける報道に敏感に反応する特徴があります。
「神」まで利用するトランプ
トランプ大統領は暴徒を恐れない姿勢を示すために6月1日、ウィリアム・バー司法長官やマイク・エスパー国防長官等の幹部を引き連れて、徒歩でホワイトハウスの傍にあるセント・ジョーンズ教会を訪問しました。教会の前に立つと、右手で聖書を掲げて記念撮影を行いました。支持基盤であるキリスト教福音派に、「信仰心の厚い」大統領をアピールする狙いがあったことは明らかです。
ところが、ホワイトハウスの記者団が「それはあなたの聖書ですか?」と質問をすると、トランプ大統領は「聖書だ」と回答しました。自分の聖書ではなかったのでしょう。信仰心が薄いトランプ氏の選挙目的のパフォーマンスであった訳です。
この件に関して、オバマ支持者の女性は「ドナルド・トランプは教会を訪問したが、お祈りを捧げなかった。聖書も読まなかった」とリツイートしました。結局、トランプ大統領は教会を利用したといえます。一歩踏み込んで言ってしまえば、「神」を選挙に使ったのです。
大統領警護隊(シークレットサービス)の選挙利用?
ところで、この写真撮影を行うために、ホワイトハウス周辺で平和的デモ活動をしていた群衆に催涙ガスとゴム弾が撃ち込まれました。民主党のジェリー・コノリー下院議員(南部バージニア州第11選挙区選出)は、トランプ大統領のやり方に憤激して、大統領警護隊のジェームズ・マレー長官に書簡を送りました。
この書簡の中で、コノリー下院議員は、「大統領警護隊は米大統領を守るのが仕事だが、ファシズム(独裁的国家主義)の道具になってはいけない」と指摘しました。「米国民の憲法上の権利を侵害してはならない」とも述べています。アメリカ合衆国憲法修正第1条は、表現の自由及び平和的な集会の権利を定めているからです。
そのうえで、コノリー議員はマレー長官にトランプ大統領の教会訪問に関する関連資料の提出を要求しました。トランプ大統領が選挙のために大統領警護隊を利用したとみているからです。
「アンティファ(antifa)」を持ち出した本当の理由
トランプ大統領は全国規模の抗議デモの発端となった人種差別問題を「アンティファ」によるテロ問題にすり替えようとしています。米国民の目をアンティファにそらせ、自分は「法と秩序」を守る大統領であるという戦略に出ました。
アンティファは「アンチ・ファシスト(anti-fascist: 反独裁国家主義者)」の略で、極左グループです。反人種差別や反排他主義及び無政府主義を主張しています。1930年代にナチズムに対抗するために、ドイツで台頭したといわれていますが、米国ではトランプ大統領当選後に活動が活発になりました。
2017年8月に南部バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と抗議活動家が衝突し、女性の活動家が死亡する事件が発生しました。筆者は同年9月、今回の暴動のきっかけとなった事件が発生したミネアポリスで、トランプ支持者を対象にヒアリング調査を実施しました。このとき、白人女性がシャーロッツビルでの事件にアンティファが絡んでいると主張していました(「トランプが『白人至上主義者』に恩赦を出した理由」参照)。
今回トランプ大統領はアンティファをテロ組織に指定すると発表し、極右の白人至上主義者を喜ばせました。白人至上主義者はトランプ大統領の重要な支持基盤だからです。トランプ氏は「アンティファ対白人至上主義者」という対立構図を演出し、それを先鋭化させています。
全ては選挙のために
前述しましたが、ミネアポリスでフロイドさんが白人警察官に殺され、それが原因で同州で抗議デモが起こり、暴徒化しました。にもかかわらず、トランプ大統領は決してミネソタ州の州民を非難しません。それどころか、ミネソタ州の州民は偉大だと褒めたたえています。なぜでしょうか。
16年米大統領選挙においてトランプ大統領はヒラリー・クリントン元国務長官に対し、僅か1.5ポイント差でミネソタ州を落としました。20年の選挙ではミネソタ州は激戦州になると予想されており、トランプ氏は同州の選挙人獲得を目指しているからです。
トランプ大統領はバイデン前副大統領及び民主党を極左とレッテルを貼って非難してきました。もちろん、バイデン氏や民主党は暴力的ではないのですが、極左のアンティファとイメージを重ね合わせています。もうここまでくると、全てが選挙のためです。
あくまでも「分断」と「対立」
トランプ大統領は米国社会にある根深い人種差別問題に正面から向き合うのではなく、選挙を強く意識した言動をとっています。コロナ対応でもそうでした。
つまり、本質的な問題に取り組む意識が低いのです。「分断」と「対立」を煽って選挙に勝つという思考様式が変わらない限り、トランプ氏は根本的な問題解決に乗り出さないでしょう。
「経済」「コロナ」「人種」の3つの危機を、トランプ大統領はアンティファと「中国叩き」で再選にこぎ着けようとしています。 
●米黒人暴行死の抗議デモ激化 対抗する警察が使う武器とは? 6/12
米国各地の警察が黒人暴行死への抗議デモに対し、以下に解説するような様々な武器を使用している。デモの多くは平和的に行われているが、一部は暴動に発展、放火や略奪が発生し、警察と激しく衝突する事態になった。武器行使の対象は平和的なデモ参加者や報道関係者にも広がっている。致死性はないとされても、重傷を負わせたり、身体機能が奪われる障害が残ったり、場合によっては死を招くこともある。
化学性刺激物
催涙ガスやいわゆる唐辛子スプレーなどの化学性刺激物は、気道をひりひりさせ、痛みや炎症を引き起こす。公衆衛生や感染症の専門家は催涙ガスのような化学性刺激物の使用に強く反対している。オンライン上で公表された専門家の声明によると、こうした化学性刺激物は新型コロナウイルス被害のリスクを高める可能性がある。呼吸道が感染しやすくなるためだ。化学性刺激物は広く拡散し得るため、警察が狙っていなかった通行人や居合わせた人も巻き込む可能性がある。催涙ガスは警察がデモ参加者を追い散らす際に、幅広く、たびたび使用されてきた。CSガスないしCNガスと呼ばれる化合物の粉が、弾筒からまき散らされる。浴びると目や口が使えなくなる。デモ参加者は化学性刺激物から身を守るため、牛乳によって焼けるような痛みを抑えることがある。
唐辛子スプレーと唐辛子ボール
警察が使用する唐辛子スプレーは、携行用容器に入っているものと発射装置式のものとがある。化学成分は催涙ガスと異なるが、引き起こす作用は同様だ。目や肌に焼けるような痛みを与えたり、涙の流出を引き起こしたりする。唐辛子ボールが使われることもある。化学性刺激物が入っている小型の発射装置だ。内容物は唐辛子スプレーと似た痛みを起こすPAVAスプレーや、CSガスにすることもできる。発射筒や改造したペイントボール銃からも発射が可能だ。
ゴム弾・プラスチック弾
デモ参加者たちには、ゴム製、プラスチック製、スポンジ製などさまざまな弾丸が発射されている。その際は発射筒や銃が使用される。黒人男性の死亡事件が起きたミネソタ州ミネアポリスでのデモを取材中、ロイターの記者らは警察から40ミリの硬質プラスチック弾で撃たれた。ガルセッティ・ロサンゼルス市長は、市警察は今後、平和的なデモではゴム弾の使用を最小限に控えると述べた。英メディカル・ジャーナル誌に2017年に掲載された調査によると、こうしたゴム弾などによる負傷が死に至る確率は2.7%あるという。
木製弾
オハイオ州コロンバスの抗議デモの参加者らが、警察から木製弾を撃たれたと報じられている。オンライン上の映像によると、使われた木製弾はダボ(合わせくぎ)のような形の木製の棒を小さく削って弾丸状の発射体にしている。コロンバス警察は5月30日のデモで使用したことを認め、同警察では「膝撃ち弾」と呼ばれていると語った。
スティング・ボール弾
デモ参加者たちからは、警察がスティング・ボール弾を使っているとの報告が出ている。爆発すると、あたりに小粒なゴム弾がまき散らされる。ゴム弾と一緒に化学性物質が詰まっていたり、爆発時に閃光と爆音を出したりもする。
方向感覚を喪失させる武器
方向感覚を失わせる武器類としては、閃光弾や閃光発音筒などがよく知られている。閃光や爆音とともに爆発、デモ参加者を失神させたり、方向感覚を失わせたりする。至近距離で受けると、重度のやけどを負うこともある。通常の手りゅう弾と同じように組み立てられており、閃光や爆音で一時的に目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、平衡感覚を失ったりする。一部は破裂して、破片として飛び散ることもある。 
 
 
 
 
 2020/7

 

●トランプ米大統領、人種差別への抗議デモを非難−祝賀行事で演説 7/4 
トランプ米大統領は3日、歴代大統領4人の顔が山肌に刻まれたサウスダコタ州ラシュモア山で開かれた独立記念日の祝賀行事で演説し、人種差別に反対する人たちの抗議活動を非難した。
同大統領は「われわれの国が目にしているのは、われわれの歴史を消し去り、英雄を中傷し、われわれの価値観をぬぐい去り、子どもたちを教化するための残酷なキャンペーンだ」と述べた。ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドさんが警官に拘束されて死亡した事件をきっかけに広まった抗議運動は、公共の場所などから奴隷制や人種差別との関わりがある歴史的人物の銅像を撤去する動きにつながっている。
トランプ大統領はこうした動きについて「左翼の文化革命」の一環だと表現し、「彼らはわれわれを沈黙させようとしている。しかし、われわれは沈黙はしない」と語った。
参加者は新型コロナウイルス感染防止のためのマスク着用も社会的距離の維持も義務付けられなかった。トランプ大統領やその近くにいた人たちもマスクは付けていなかった。 
●米シアトルの抗議デモで衝突 45人拘束、警官21人負傷 7/26 
米西部ワシントン州シアトルで25日、人種差別に抗議する数千人規模のデモがあり、一部の参加者が建設現場に放火、排除に動いた警官隊とデモ隊との間で衝突が起きた。米メディアなどが伝えた。地元警察は45人を拘束し、警官21人が負傷したと発表した。
同州に隣接する西部オレゴン州のポートランドでは抗議活動を巡り治安介入に乗り出したトランプ政権に対する反発が高まっており、ポートランドのデモに呼応する動きが各地に広がっている。
シアトルのデモでは、一部の参加者が建物の窓を割ったり、拘置施設などの建設現場に火を放ったりした。警察は暴動に当たると判断。警官に危害を加えたり、解散命令に従わなかったりしたデモ参加者らを拘束した。
ポートランド中心部でも25日夜、数千人が抗議活動を行い、連邦当局の治安要員はデモ隊に向け催涙ガスを使用した。西部ロサンゼルス中心部でもデモ隊の一部と警察が衝突した。
南部テキサス州オースティンでは抗議デモが行われていた同日夜に銃撃事件があり、1人が死亡。当局は容疑者を拘束した。 
●米西部中心に黒人差別抗議デモ再び激化 7/28 
アメリカ西部を中心に、黒人差別に対する抗議デモが再び激しさを増しています。一部が暴徒化したり、警察と衝突したりしていて、多くの逮捕者が出ています。
カリフォルニア州オークランドでは先週末、人種間の平等や警察改革を求める抗議デモが行われ、一部の参加者らによって裁判所が襲撃されました。入り口付近に火がつけられたということです。
こうしたデモは、アメリカ西部の都市、シアトルやポートランドでも続いていて、シアトル警察はデモ隊が暴徒化したと宣言。地元メディアによりますと、少なくとも47人が逮捕されました。
デモの参加者らは、トランプ政権が鎮圧のために一部の地域で治安要員を投入していることにも強く反発しています。 
 
 
 
 
 2020/8

 

●米警官が黒人を背後から銃撃、抗議デモで州兵動員 ウィスコンシン州 8/25 
米ウィスコンシン州ケノーシャで23日夕、警官が黒人男性を背後から複数回銃撃する事件があり、市民数百人による抗議デモが続いている。州知事は24日、「治安」維持のために州兵を動員した。
警官に撃たれたのは、ジェイコブ・ブレイク氏(29)。
ケノーシャの警察によると、「警官が関与した銃撃」は23日午後5時過ぎに発生した。現場にいた警官たちがブレイク氏を「直ちに救護」したとしている。
ブレイク氏は重体で、ミルウォーキーの病院へ搬送された。報道によると、ブレイク氏の容体は安定している。
抗議デモが勃発、州兵を動員
ブレイク氏はケノーシャの路上で車に乗り込もうとした際に、警官から複数回撃たれたという。
その後すぐに抗議デモが勃発。当局は翌24日朝までの緊急の外出禁止令を出した。
さらに24日には、ウィスコンシン州のトニー・エヴァース知事(民主党)が、地元警察の支援のため州兵を招集した。
エヴァース知事は声明で、地元当局の要請を受け、法執行機関が「重要なインフラを守る」のを支援し、市民が安全に抗議デモが行えるようにするため、州兵を「限定的に動員」したと説明した。
「全ての人が、憲法修正第1条が保障する(表現の自由や平和的集会などの)権利を行使して怒りや不満を表し、安全ではないと恐れることなく行動を呼びかけられるべきだ」
新たな夜間外出禁止令は、24日午後8時から25日午前7時まで続く。
「警察の説明責任」に関する法案審議へ
エヴァース知事はまた、以前発表していた、警察の説明責任と透明性に関する法案を審議するため、31日に州議会の特別審議を求めた。
同知事は今年5月に隣のミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に首を押さえつけられて死亡した事件を受け、この法案を発表していた。
フロイド氏の死はアメリカの警察の残虐行為や人種差別を浮き彫りにし、世界中に抗議デモが広まった。
エヴァース知事は、自分がこの「常識的な政策」を発表してから2カ月もの間、議員たちは「行動を起こしていない」とツイートした。
さらに、「私は議会に対し、この事態に立ち向かうこと。そして、この瞬間に求められている、ウィスコンシン州の人々にふさわしい緊急かつ有効な取り組みを、特別審議で実現することを促している」と書いた。 
●米ウィスコンシン州の抗議デモで発砲、3人死傷 17歳少年を逮捕 8/27 
警官が黒人男性を背後から複数回銃撃した事件をめぐる抗議デモが続く米ウィスコンシン州ケノーシャで、25日夜から26日未明にかけて銃撃があり、2人が死亡、1人が負傷した。この死傷事件で17歳の少年が殺人容疑で逮捕された。
ケノーシャ警察のダニエル・ミスキニス本部長は26日の記者会見で、25日夜に発生した銃撃事件に絡み、イリノイ州アンティオーク在住の17歳の少年を逮捕したと発表した。
第1級殺人容疑で逮捕されたのはカイル・リッテンハウス容疑者。死亡したのは26歳と36歳で、負傷した26歳は回復する見込みだという。
この事件には、抗議デモ参加者とガソリンスタンドを守っていた武装した男らが関与していたとみられている。
抗議デモの発端となった事件は23日に発生した。ジェイコブ・ブレイク氏(29)は当時、ケノーシャの路上で車に乗り込もうとした際に、警官から複数回撃たれた。車の後部座席にはブレイク氏の子どもたちが乗っていた。
ブレイク氏は入院先の病院で回復しつつあり、意識はあると家族は明かしている。しかし弁護団は、「奇跡」が起きない限りブレイク氏は再び歩けるようにはならないとしている。
事件後に発生した抗議デモは度々、暴力的になっている。これまでに車両や建物が複数破壊された。
民間人が武装して自警か
ウィスコンシン職業警察協会の広報担当者はBBCに対し、ケノーシャ市内には法執行機関が広範囲に点在しており、かなり手薄だったため、市民やデモ隊らは各々のやり方で自警していたと説明した。
あるソーシャルメディア上の動画では、ライフル銃を持った男性が集団に追われ、地面に倒れた後に集団にむけて発砲しているように見える。別の動画では武装した民間人が複数の商店の外に集まっているのが確認できる。その多くは軍服姿で、商店を守っていると主張していた。
デイヴィッド・ベス保安官は、民間人が法執行機関を支援するのを許可してほしいとの要請が複数寄せられていたと明かした。
「昨夜(25日夜)起きた事が、私が許可を出さない紛れもない理由だ」とベス氏は述べた。また、確信はないとしつつ、17歳の少年が法執行機関の代わりを務めたいとしていたグループに属していたとみていると付け加えた。
ケノーシャで何が起きているのか
ブレイク氏が撃たれてから数時間後の23日夜、数百人が警察本部にむかって行進し、事件に抗議した。また、複数の車両が燃やされた。武装した人物による強盗事件が複数通報されたことから、夜間外出禁止令が出された。
デモ参加者によると、警察と州兵は催涙ガスやゴム弾、発煙弾を使っていたという。
25日夜にも数百人のデモ隊が市内を行進した。ある小規模集団は警察にむかって花火や水が入ったボトルを投げ付けた。警察はゴム弾や催涙ガスで対応した。
連邦政府の支援を受け入れ
ドナルド・トランプ米大統領は26日、ケノーシャに「連邦法執行機関と州兵」を派遣すると明かした。
「我々は町中での略奪や放火、暴力、無法行為は支持しない。私のチームは先ほど、エヴァース州知事との電話を終えたところだ。知事は連邦政府の支援を受け入れることで合意した(ポートランドもそうすべきだ!)」とツイートした。
トランプ氏のツイートから間もなく、ウィスコンシン州のトニー・エヴァース知事は、法執行機関の活動支援のために州兵500人の動員を許可したと明かした。
ケノーシャのジョン・アンタラミアン市長は米連邦捜査局(FBI)、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)、連邦保安官およびウィスコンシン州中の警察がすでに、騒乱を鎮めるために対応にあたっていると述べた。
アンタラミアン市長は26日に記者団に対し、「私は今日、2つの目的のためにここにいる。1つ目は、この暴力行為を今後も続けさせるつもりはないと、みなさんにお知らせするため」と述べた。
「そして2つ目は、我々のコミュニティーでの人種問題を解決するために我々が協力し、成功させるとお伝えするためだ」
新たな外出禁止令は午後7時から翌朝7時までで、30日まで続く。
事件をめぐる反応
ブレイク氏の母ジュリア・ジャクソン氏は25日の記者会見で、息子は「生きようと闘っている」としつつ、「暴力や破壊行為が続く限り、息子はまったく喜ばないだろう」と述べた。
11月の米大統領選の野党・民主党候補ジョー・バイデン前副大統領は、黒人男性が再び警察に撃たれたことに「吐き気がする」とし、「法の裁きが下されなければならない」とツイートした。
抗議デモはオレゴン州ポートランドやミネソタ州ミネアポリスなど各地に拡大している。
ミネアポリスでは今年5月、黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に首を押さえつけられて死亡したことを受け、アフリカ系アメリカ人の扱いや、社会における人種差別に対する疑念が拡大。
「白人と同じように黒人の命にも意味がある」という意味が込められた「Black Lives Matter」運動がアメリカ全土、そして世界各地へと広まった。
NBAでボイコットも
ウィスコンシン州ミルウォーキーに本拠を置く、米プロバスケットボールNBAのミルウォーキー・バックスはブレイク氏の事件を受け、26日夜のプレイオフ試合をボイコットした。同チームはオーランド・マジックと対戦予定だった。
今回の事件をめぐるスポーツ試合のボイコットは初めて。
ミルウォーキー・バックスのマイク・ブーデンホルザー・ヘッドコーチは、「私自身、選手たち、そして我々の組織はケノーシャで起きたことに非常に動揺している」と述べた。
「感謝の気持ちを持ち、変化を求め、ウィスコンシン州ケノーシャとミルウォーキーでこれまでとは違うより良いものを得たいと強く願い、それから試合をする。これはそういう大きな挑戦だ」
その後、NBAは26日に予定していたほかの2試合について延期を発表した。 
●米中西部の黒人銃撃抗議デモ激化 発砲で2人死亡 8/27
米中西部ウィスコンシン州で抗議デモが激化している。23日に黒人男性が警官に背後から発砲された事件を受け、抗議デモが発生。一部が暴徒化し、25日には銃撃で2人が死亡するなど緊張が高まっている。
SNS(交流サイト)に投稿された動画によると、同州ケノーシャで黒人男性のジェーコブ・ブレークさん(29)が車内に入ろうとしたところ、警官が背後から複数回発砲した。ブレークさんは病院に運ばれたが下半身がまひしたままという。現地では警察への抗議デモが広がり、武装した自警団もできている。
警察の発表によると、抗議デモが続くなか25日の深夜から未明にかけて発砲事件が発生。2人が射殺され、1人が重傷を負った。警察側は26日、17歳の少年を意図的な殺人の容疑で逮捕したと発表したが、詳しい内容は明らかにしていない。
現地では夜間の外出禁止令が発令されている。暴徒が商店や車に火をつけ、警官隊は催涙ガスなどで制圧する事態に発展している。ウィスコンシン州のエバーズ知事は24日、地元警察の支援と治安維持のために州兵を動員した。
米国では5月にミネソタ州で白人警官の暴行による黒人男性の死亡事件が起き、全米を揺るがす大きな抗議デモに発展した。今回の警官発砲を受け黒人差別に対するデモが再び広がる可能性がでている。 
●米大統領、州兵派遣を表明 黒人銃撃事件のデモ暴徒化 8/27
トランプ米大統領は26日、中西部ウィスコンシン州ケノーシャの警官による黒人男性銃撃事件に対する抗議デモが一部暴徒化したことを受け、現地に州兵などを派遣すると表明した。11月の大統領選に向けて「法と秩序」の維持を掲げて巻き返しを図っており、断固とした対応を示す狙いとみられる。
トランプ氏はツイッターで「略奪、放火、暴力、無法化を見過ごすことはしない」と強調し「ウィスコンシンの法と秩序を回復する!」と書き込んだ。現地ではエバーズ州知事の下で既に州兵が治安維持に当たっており、連邦政府による派遣規模は不明。
一方、25日夜にデモ現場で発砲があり、2人が死亡した事件で、警察当局は26日、殺人の疑いで中西部イリノイ州に住む白人の少年(17)を逮捕した。米メディアが伝えた。当時の状況を撮影した動画には、銃を持った人物がデモ隊に向けて発砲する様子が記録されているという。警察が動機を調べている。
ケノーシャでは25日夜から26日未明にかけ、デモ隊の一部が暴徒化。警官隊は催涙ガスなどを使用して鎮圧した。 
●「不寛容」に失望募らす米有権者 「誰が勝っても分断深まる」 8/29
深刻な格差や貧困… 明確な対策なく
米大統領選は共和、民主両党が候補を正式指名し、終盤を迎える。国民がそれぞれかたくなに正しいと信じる政策や価値観を巡り、折り合おうとしない不寛容の時代。それを象徴するように共和党トランプ大統領と民主党バイデン前副大統領の主張は激しく対立する。「誰が勝っても分断が深まるとしか思えない」(無党派の女性)。機能不全が指摘される米国政治に、有権者が期待を抱けない閉塞(へいそく)感が漂う。
「今夜は大統領のためにある。おまえたちはさっさと帰れ」。27日夜のトランプ氏の候補指名受諾演説直前、ホワイトハウス近くで拡声器を手にしたトランプ氏支持者の白人が叫んだ。
その場に集まっていたのはトランプ氏に抗議する黒人たち。「黙れ白人至上主義者」と言い返し、一触即発の状況となったが、警察官が制止し、暴力沙汰には至らなかった。
この日の抗議と、人種問題へのトランプ氏の対応を糾弾する翌28日のデモに参加するため、北東部の州から遠路駆け付けたマイクさん(71)は怒りをあらわにした。「憎悪に満ちた言動を続けるトランプ追放のためバイデンに投票する」
11月3日の大統領選に向け、対決ムードが高まる米国。「親トランプ」と「反トランプ」の対立は倫理観や価値観の面でも如実だ。トランプ氏支持の保守層は銃規制や人工妊娠中絶、温暖化対策に絡む環境規制などに猛反発。バイデン氏支持のリベラル層とは相いれない。
最大の争点である新型コロナウイルス禍でも、マスク着用を巡り、保守層は「個人の自由」を主張。リベラル層は政府による義務化を求める。「共和、民主がここまでぶつかり合うことは30年以上なかった。間違いなく歴史に残る選挙になる」。中西部の激戦州に住む共和党関係者(58)は興奮気味に話す。

トランプ政権の是非を巡って世論が大きく割れる今回の選挙については、既に8割程度が投票先を決めているとの調査結果がある。
ただ岩盤支持層を中心に4割の支持率を維持するトランプ氏であっても、保守層から全幅の信頼を得ているとは言い難い。特に物議を醸すツイッター発信には女性からの嫌悪感が強い。
従来、共和党は「小さな政府」を志向するだけに、新型コロナ対策で現金給付などばらまき政策を打ち出すトランプ政権には「民主党のようだ」(80代男性)との不満が漏れる。
一方、支持率でトランプ氏をリードするバイデン氏に対する民主党支持層の信頼度にも疑問符が付く。社会保障の充実など、政府の役割の大幅強化を訴える左派が党内で台頭する中、主流の穏健派はバイデン氏の左傾化を懸念。逆に、左派からはバイデン氏の改革への本気度をいぶかる声が尽きない。
トランプ氏が前回選挙で白人労働者から支持を得て勝利したことを踏まえ、バイデン氏は雇用増など中間層を強く意識した公約を掲げる。しかし前回選挙で民主党から、トランプ氏支持に転じた激戦州の元工場労働者の男性は「公約を言うのは簡単だが、労働者政策に熱心でなかった反省が全く感じられない」と一蹴する。

トランプ氏は27日の演説を「米国をこれまで以上に偉大にする」と締めくくったが、2期目に向けて明快な国家像を示せずにいる。政権奪還を狙うバイデン氏にも「既存政治家だけに、変革の実現には限界がある」との批判が絶えない。そんな両氏からは、米国でも深刻な格差や貧困といった幾多の課題にどう対処していくのかというメッセージが伝わってこない。
「どちらが勝つかも、選挙後の米国がどうなるかも分からないが、いがみ合う国民が融和に向けて折り合っていけるとはとても思えない」。中西部の郊外に住む50代の女性は大きなため息をついた。 
 
 
 
 
 2020/9

 

●2020年大統領選を前に苦悩する米国 / 多様性と反動の相克 9/17
「コロナ選挙」では現職不利に
民主、共和両党の全国大会も終わり、2020年の米大統領選挙もいよいよ最後の局面に入りつつある。現段階ではバイデン前副大統領がほぼ一貫して優位に立ちつつも、16年の状況が頭をよぎり、トランプ大統領再選はないとはなかなか言い切れない雰囲気が続いている。では、どのような状況になったらバイデン氏の勢いは止まるのか。それは、いくつかの要素が積み重なっていく場合が考えられる。
まずは、新型コロナウイルスが引き起こした状況への認識が変わることだ。劇的な改善は考えにくいまでも、死亡率が目に見えて減り、感染者の増加も緩やかになっていけば、トランプ再選に有利に作用する。18万人を超える死者を出した危機から少しでも人々の意識が別の方向にそれれば、トランプ陣営としては願ったりかなったりだ。陣営は、今回の選挙が「コロナ選挙」になることをなんとしても回避したいはずだ。そうなれば選挙は現職トランプ氏を信任するかどうかというレファレンダム(国民投票)になり、不利に作用するのはほぼ確実だからだ。
「分断・亀裂」の増幅望むトランプ氏
今回の選挙を「トランプのレファレンダム」にしないための方策は二つある。一つは、高齢であるバイデン氏の精神的能力(mental capacity)に対して疑義を呈することだ。トランプ氏はこれまでも政治的ライバルにあだ名をつけることによって数々の政治家を葬り去ってきた(Wikipediaには“List of nicknames used by Donald Trump”というエントリーがあるほどだ)。「エネルギーのないジェブ」、「嘘つきテッド」、「チビのマルコ」、「歪んだヒラリー」などがそれだ。トランプ大統領がバイデン候補を「眠たいジョー」と呼ぶ時、彼の認知能力に関する不安を引き起こそうとしていることは明らかだ。
確かにバイデン氏のふるまいを見ていると、時としてそうした不安を抱いてしまうような場面がない訳ではない。トランプ陣営としてはとにかくこの不安をあおることによって、選挙の「脱トランプ化」を図っている。ただし、これはもろ刃の剣だ。設定したハードルがかなり低いため、例えばバイデン氏のスピーチが特に素晴らしいものではなく、単に無難にこなしただけでも、バイデン氏を強く後押しするような力学を作り出してしまいかねないことだ。
しかし、選挙の「脱トランプ化」の決め手としてトランプ陣営が共和党全国大会でこれでもかというほど強調したのは、人種をめぐる騒動の激化と対立の先鋭化だった。
トランプという人は分断や亀裂に潜むエネルギーをかぎとり、それを増幅させ、政治的に動員していくことに関しては、天性の才能を有している。そのトランプ氏がある意味絶好の機会と捉えたのが、人種をめぐる対立の先鋭化だった。当然のことながら、白人警官によるアフリカ系の男性に対する暴力・殺害という事態は、トランプ陣営も許容することはできない。しかし、その暴力を個々の問題として処理するか、それとも構造的な性格の暴力として処理するかで、その問題に向き合う姿勢は大きく異なってくる。
一連の抗議運動のトリガーとなったジョージ・フロイド氏が亡くなった場面を思い返していただきたい。フロイド氏の首を押さえつけていた白人警官は、特に表情を変えることもなく、そしてフロイド氏が苦しがるのも特に気にせず、ただひたすら8分46秒、体重をかけ続けた。後者の立場に立つ人は、その「無表情さ」こそが「構造」であり、「システム」だと主張する。しかし、個々の問題として処理する人は、この白人警官こそが問題であり、基本的にはこの警官が引き起こした問題をどう処理するかという問題に帰着していく。
この二つの認識の間の溝は限りなく深い。トランプ大統領は、この埋めることのできない溝に潜むエネルギーを感じ取ったというわけだ。一度それを感じ取るや、トランプ氏は情け容赦なかった。
BLM支持の大きなうねり
少し前まではメインストリームをはみ出すラディカルな運動体としてしか見られていなかったブラック・ライブス・マター(以下、BLM)だが、現在、それはメインストリーム化し、全米を巻き込む抗議運動に発展している。
抗議運動はこれまでにない共感を呼び、1960年代の公民権運動に比肩するような重要な運動に発展していったという評価さえある。コロナ危機によるロックダウンが人々の閉塞感を極限まで高め、さらに未知のウィルスによっていつ命を奪われるかもしれないという状況に直面したことによって、脆弱性の感覚が今までにないような形で共有され、それがBLMを支持する大きなうねりに帰結していったといえるかもしれない。
しかし、その一方で、公民権運動を生み出した1960年代という時代が、60年代的状況に抗する運動を生み出していったこともまた事実で、それが最終的に68年のニクソン政権の誕生に帰結し、さらにその後のレーガン政権の誕生に連なる一連の保守主義運動台頭のきっかけとなったことも否定できない。そしてまさにそのニクソンのお手本をなぞるかのかのように、ただひたすら「法と秩序(Law and Order)」をトランプ陣営は強調している。決め手はペンス副大統領の発言、「あなたはバイデンのアメリカでは安全ではない(You won’t be safe in Joe Biden’s America.)」という一節だった。
「法と秩序」に潜む“わな”
ちょうど共和党全国大会が開催されている最中の8月23日、ウィスコンシン州ケノーシャで白人警官がアフリカ系男性を背後から銃撃する事件が起き、その抗議運動とともに、いくつかの騒乱が発生した。ウィスコンシン州が重要なスイング州だということも、事件の象徴性を増幅させた。「システムに埋め込まれた人種差別(systemic racism)」という議論を受け入れた民主党の、暴動化した騒乱に対する批判の言葉はやや歯切れが悪かった。
当然といえば当然かもしれない。前後にどのような事態があったにせよ、自分の子供が乗っていた車に乗り込もうとしていた黒人の男性を背後から複数発撃つという状況、そしてそうした事件が発生する頻度を考えると、これはもはや個人の問題ではなく「構造」の問題だと考えても不思議ではないだろう。しかし、問題を「構造」として特定してしまうと、具体的な解決策は遠のき、闘争が全面化していってしまう危険性がある。それは生活の細部が闘争化していくことをも意味する。
ここぞとばかりにトランプ陣営が「法と秩序」のメッセージをたたみかけてきたのは言うまでもない。ある論者は、このことを評して、民主党はまんまとトランプ陣営の仕掛けたわなに入り込んで行った、と評した。
「法と秩序」というメッセージが、コアなトランプ支持者を超えて大きな広がりを見せている兆候はまだない。しかし、人種をめぐる騒乱が先鋭化すればするほど、そして構造的暴力の告発が急進化していくほど、抗議運動と普通の米国人の感覚の乖離(かいり)は目立っていくだろう。さらに難しいのは、このBLMに代表されるソーシャル・ジャスティス派は、その目指すところが究極的には一歩も譲歩できないほど正しいという確信を持つがゆえの不寛容さを見せていることだ。若者が運動の主体を構成していることも、その傾向を加速させている。
若者を中心とした意識の変わりようは、BLMをはじめとするソーシャル・ジャスティス派にとっては追い風になっている。若者特有の正義感に基づいた不寛容さは懸念材料ではあるが、それはトランプ的な反動を押し返そうとする力でもある。しかし、この問題が解決する道筋を容易には描けないこともまた事実である。
米国に向く世界の視線は「哀れみ」?
米国が多文化主義的な社会を目指す中で体験している産みの苦しみと、それに対する反動の相克を、世界は注視している。しかし、それはかつてのように「アメリカという実験」に対する期待と不安、そして畏敬の念がないまぜになった視線ではない。それはむしろ哀れみにさえ近いものだ。新型コロナの被害は世界の中でも最悪レベル、しかも大統領はそれを認めず、そうした悲劇の最中に分断をあおる。それにとって代ろうとする対立候補も、本当に大丈夫なのかと思わずにいられない。
米国が自由で開かれた体制の下で、仮に多文化主義的な社会の建設に頓挫するか、その目的を放棄してしまえば、それは国際政治的な意味さえ帯びてくる。体制間競争を前に選択を迫られることになるであろう途上国は、もはやリベラル・デモクラシーを目指すべき到達点とは見なさないようになるかもしれない。
彼らの返答はこうだろう、「どっちでも、大して変わりないではないか」。米国にはなんとしても、この苦悩を乗り越えてもらわなければならない。 
 
 
 
 
 2020/10

 

●[米大統領選]分断と対立が衰退招く 10/6
民主主義が危機に瀕(ひん)している。そういう空気に覆われた選挙戦である。
米大統領選は、投開票まで1カ月を切った。
初の候補者直接対決となったトランプ大統領とバイデン前副大統領のテレビ討論は前代未聞の中傷合戦となった。
劣勢挽回を焦るトランプ氏は個人攻撃を激化させ、バイデン氏もこれに応戦、お互いに相手の発言を遮り、プロレスの場外乱闘を思わせるような激しい言葉が飛び交った。討論の最低限のルールさえ守られなかったのである。
新型コロナウイルス感染症対策が大きな焦点となる中、トランプ氏の感染、入院が明らかになった。今後の選挙日程への影響も指摘される。
大統領周辺で複数の感染者が出たことは、マスク着用など防止策を軽視してきた振る舞いと無縁ではないだろう。米国の死者数は累計で20万人を超え世界最多である。
ぶれ幅の大きいトランプ氏のコロナ対策は危うい。
選挙戦最大の懸念材料は民主主義の基本である選挙の信頼をおとしめるようなトランプ氏の言動だ。
選挙戦を通して米国内の分断と対立は深まっている。トランプ氏が接戦で敗れた場合、果たして結果を素直に受け入れるかどうか。
自身に不利な郵便投票を「不正の温床」と決めつけており、郵便投票の開票結果を待たずに勝利宣言したり、不正があったと主張し訴訟を起こす可能性も高い。
公正な選挙に疑義が生じる事態になれば、新大統領の正統性にも疑問符がつき、民主主義は根底から揺らぐ。

「トランプが分断と対立をつくったのではない。分断と対立がトランプを生んだのだ」
16年の大統領選後に多くの識者がそのような分析をしてみせたが、問題にすべきはその先のことだ。
トランプ政権で国防長官を務めたマティス氏は、人種差別反対の過激な抗議行動を鎮圧するため軍部隊を出動させることを示唆した大統領に怒りをあらわにし、「国民を結束させる努力をしない大統領」と厳しく批判した。
「われわれ対彼ら」という対立の構図をつくり出し、連射砲のように言葉を繰り出し、敵をたたく。不都合な事実を「フェイクニュース」と決めつけ、逆に対立をあおる。品位をかなぐり捨てた「あおる政治手法」が、分断と対立を深めているのである。
科学的な知見や事実が軽視され、まともな政策論争が成立しなくなった。

大統領選は今や、「トランプ対バイデン」というよりも、「トランプ対反トランプ」の様相を呈している。
大統領選に「失敗」すれば、米国の民主主義に対する国際社会の評価は地に落ちる。
超大国の民主主義の劣化は国際社会の不安定化に拍車をかけることになるだろう。
地球温暖化対策や核軍縮など世界が協調して取り組むべき課題は増える一方である。 米国はこの分野でこそ指導力を発揮すべきだ。その前提となるのは公正な選挙を通した民主主義の再生である。 
●なぜアメリカはここまで分断したのか 3つの「巨大なうねり」 10/6 
規範が崩れたのは2大政党が分極化しているからだ。支持者の間に強烈な敵対意識、恐怖、憎悪がある。1970〜80年代、民主党が共和党より左派という意味で政策に違いはあっても、双方が嫌い合うことはなかった。両党の支持者は当時、いずれも白人のキリスト教徒が大半を占め、文化的に似ていた。
ところが2000年代までに相手への恐怖と憎悪が深まった。もう一方の政党を敵や脅威と見なし、相手の動きを阻止するためにどんな手段でも使いたくなる。
規範破りが政治的に有効な手段だと気付いたのは、90年代の下院議長ニュート・ギングリッチだ。彼は共和党の指導層になり、党員に規範破りをするよう働きかけた。特に民主党を「裏切り者」「非愛国者」「反米」と呼ぶ論法を広めた。相互寛容の放棄だ。
際立ったのがオバマ政権の8年間だ。共和党の代表的な政治家までが、オバマを「非米国人」「社会主義者」などと呼ぶようになった。トランプが規範破りを始めたのではない。彼は規範が既に壊されていた中で政権を獲得したのだ。
分極化の背景には、この半世紀に2大政党の支持基盤に起きた三つの巨大な変化がある。1公民権運動後、南部の白人が共和党に移り、選挙権を得た黒人の大半が民主党員になった2中南米やアジアからの移民の大半が民主党員になった3両党に支持が分か規れていた福音派が、レーガン政権以来、圧倒的に共和党支持になったことだ。
両党が誰の利益を代弁しているか、違いが大きくなった。民主党は都市で暮らす教育を受けた白人と、ラティーノやアジア系、アフリカ系という人種的な少数派、性的少数派の混合体だ。
一方、共和党はほとんどが白人でキリスト教徒。彼らは(有権者として)多数派だっただけでなく、財界も政治も文化も支配していたが、それが劇的に変わり始めた。92年に有権者の73%を占めた白人キリスト教徒は、24年には50%を割る。支配的な地位を失うことは恐ろしいことだ。多くの共和党支持層が「生まれ育った頃の米国が奪われた」と口にしてきた。この認識が共和党の過激化をあおり、分極化を引き起こした。 
●大統領選でCNNが異例の高視聴率、トランプの「ヤジ」のおかげか 10/26
いよいよ4年に1度の米大統領選挙が近づいている。
今回の選挙は、歴史的にみても非常に重要な選挙だと言われている。アメリカの分断がこれまでにないほど如実に現れた選挙だからだ。人種間の対立だけでなく、新型コロナウイルスのパンデミックからの経済再開をどうするのかという点でも、国民の意見は割れている。さらには、極右と極左が顔を見せる暴力行為も起きている。
そんな混乱を煽っているのは、ほかでもないドナルド・トランプ大統領だ。彼はマスクを着用する人を揶揄し、死者が出ている危険なデモ行為を否定することもしない。それどころか、大統領選の討論会で白人至上主義者らを「鼓舞」するくらいだ。トランプ陣営は分断を煽ることで支持を伸ばそうとしているわけだが、これが行き過ぎると大統領選の投開票結果を受けて、8月にオレゴン州やウィスコンシン州で起きたような暴動が発生する危険性もある。
トランプは対立を生む大統領であり、多くのメディアがそのような彼の言動を批判しているが、ある意味では、その恩恵を最も受けているのもメディアだと言える。
例えば、朝から晩まで24時間ずっとトランプ批判を繰り広げている米ニュース専門チャンネルのCNN。平日のプライムタイム(日本のゴールデンタイム)の視聴者数は195万人に達し、昨年の同時期と比べて120%増加している。そのプライムタイムを担当しているのは、著名なジャーナリストであるアンダーソン・クーパー、ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモの弟でジャーナリストのクリス・クオモ、黒人アンカーのドン・レモン。3人とも見事なまでに反トランプである。
CNNのジェフ・ザッカー社長は現状について、「過去40年で最も多くの人が見ている」と語る。1980年の放送開始からこれまでで最も調子がいいらしい。最大の要因の一つは、言うまでもなく、CNNを常に「フェイクニュースだ」とヤジっているトランプ大統領のおかげである。
しかもザッカーは、「われわれはいろいろな調査を行っているが、どの調査でもCNNが最も信頼できるメディアだという結果が出ている」と言う。だがこれは言い過ぎだ。アメリカのシンクタンクであるピュー・リサーチ・センターの調査では、2014年に共和党員の33%がCNNを信用していないと答えていたが、それが2019年11月には58%とかなり増えている。ザッカーの言葉はトランプばりの大言壮語と言えるかもしれない。
もともとトランプとザッカーは家族ぐるみで友人同士であり、子どもたちはニューヨークの同じプライベートスクールに通っていたほど。ファーストレディのメラニアとザッカーの当時の妻は一緒にランチをするほどの仲だった。しかし、2016年の米大統領選でCNNが視聴率が取れるとしてトランプ叩きを激化させたことで、2017年にトランプ大統領はCNNを見切り、ライバルであるFOXテレビを贔屓にするようになった。
少し話が逸れたが、そのFOXテレビもトランプのおかげで視聴率は高い。調査会社ニールセンによれば、FOXニュースはニュース専門局ではここ20年にわたってトップを走っており、平均視聴者数は400万人を優に超える。CNNの倍以上だ。2019年に同局の視聴率は48%増になっている。
FOXニュースに次ぐ、ケーブルニュース局2位は、リベラル寄りのMSNBCだ。視聴者数は247万人で、2019年には視聴率が34%も高くなっている。
トランプのおかげで儲かっているのはテレビだけではない。「トランプ大統領が繰り返し『捏造記事を連発している』と非難するニューヨーク・タイムズ(NYT)の株価は今年、30%以上も上昇している」ようだ。また「同紙の有料購読者数は2011年の約39万人から、2020年には約570万人以上に膨らんだ。この調子で行けば2025年には1000万人を突破するかもしれない」という。
570万人という数字はデジタル版のみの購読者であり、紙の購読者も加えると、その数は650万人になる。ウォールストリート・ジャーナル紙も2020年2月にデジタル版の購読者数は初めて200万人を超えたと発表している(紙と合わせると280万人を超える)。つまりトランプ就任とともに終わったという説もある大手新聞社の「トランプ・バブル」は、デジタル版が引っ張る形になっており、終わってなかったということだろう。
もちろん新型コロナで自宅にいたり、これまで以上に自由な時間ができた人が多くなり、さらにデジタル化がこれまでになく進んでいることも、こうした数字を後押ししているだろう。それにしてもトランプが就任してから、数字が上昇しているのは間違いない。
では、もし民主党のジョー・バイデンが大統領選で勝利したらどうなるのか。おそらく今ほどは多くの人が政治に興味を持たないのではないだろうか。トランプほどの「パンチ」がないからだ。
ジャーナリストというのは権力の監視が使命であり、基本的に権力などに対して懐疑的な生き物である。アメリカの大学でも、ジャーナリズムの授業で最初に教えられるのは「クリティカル・シンキング(批判的思考)」である。
トランプが注目を集める大統領選の行方を、メディア側も複雑な目で追っているはずだ。 
●ある夫婦が「米大統領選」で激しく対立するワケ 10/31
新型コロナウイルスに感染しても3日で退院し、選挙集会を再開したドナルド・トランプ米大統領。激戦州に乗り込んで「20年前より元気がみなぎっている」と熱狂している支持者へ向かって叫び、敗北しても大統領選の結果を受け入れない、と宣言している。
一方、民主党の大統領候補ジョー・バイデン前副大統領は、国内の深刻な政治的対立について、「もし大統領に選ばれたら、人種を攻撃する発言も、分断をあおる発言もしない。結束を目指す」と約束した。
結婚や恋人関係にも悪影響を及ぼす大統領選
この2人の戦いは、アメリカの一般家庭の夫婦にも影響を及ぼしている。夫婦で支持政党が異なるケースも少なくない。これまで喧嘩したことのなかったカップルがトランプ大統領の発言をめぐって言い争いになってしまい、別居や離婚することも増えているのだ。
マーケティング会社のウェイクフィールド・リサーチ社が2017年、1000人を対象にした調査によると、アメリカ人の10人に1人以上(11%)、とくにミレニアル世代(1981年以降に生まれ、2000年以降に成人を迎えた世代)では、実に5人に1人以上(22%)がトランプ政権の誕生に伴う政治的な思想の違いをめぐって恋愛関係を終わらせているという。
また、ミレニアル世代の35%、全体では5人に1人以上(22%)が、同じ理由で結婚や恋人関係に悪影響が及んだカップルを知っているとの回答結果が出ている。
夫が共和党、妻が民主党支持という50代カップルに、リモート取材をしたところ、オバマ政権までは政治がらみの喧嘩はなかったが、トランプ政権になってからは喧嘩が絶えないという。妻が夫婦の“ある事件”について語ってくれた。
「友人から大統領選の投票用紙が届いたという話を聞いたので、夫にどうしてウチにはまだ届いていないのと聞いたら、『選挙資格の確認のための告知の郵便物だと思って捨てたかもしれない』と言われました。確かめたところ本当に捨てていました。問いただすとただの勘違いではなく、本物の投票用紙だと知って捨てたとのことで驚きました。
夫とは支持政党が違うので口論になることはありますが、まさか無断で捨てられるとは思いませんでした。これはトランプが郵便投票に猛反対しているせいだと気づき、余計に腹が立ちました。その後は5日間口を利かず、『これは犯罪だからね!』と糾弾し、また大喧嘩に。最後は謝ってきたので許しましたけど」
2重投票などの不正を防止するため、再発行にはかなり面倒な手続きが必要となるが、再送してもらい、投票ボックスで投票したという。トランプ氏の発言がきっかけで、一方が共和党トランプ支持者で、もう一方が民主党バイデン支持者のカップルの場合、口喧嘩では収まらず、法を犯すほどの騒動も現実に起こっているのだ。
アメリカ女性政治センター(CAWP)がまとめている10月3週目までの男女別の支持率の追跡データを見ると、トランプ氏、バイデン氏のそれぞれの男性の支持率はほぼ拮抗しており、週によってはトランプ氏の方が支持率が高い週も見られる。しかし、女性の支持率では圧倒的にバイデン氏支持が多く、その差がそのまま現在の両者の差となっていることがわかる。
すでに多くの州で大統領選の郵便投票や期限前投票が始まっているが、今年は新型コロナウイルスの感染防止のため、会場での投票を避ける傾向にある。例年なら当日、会場でタッチパネルやマークシート方式による投票が可能だったのだが、今年は希望者だけではなく、全有権者に投票用紙が送られている州もある。
また、タッチパネルでの期限前投票を実施している州では、ソーシャルディスタンスの奨励や、機械の除菌が不可欠になっている。
候補者はカニエ・ウェスト氏ら含め36人
日本ではほとんど報道されないが、大統領候補は2人だけではない。大統領選は政党に投票する意味合いが強いため、2大政党の候補者ばかりが目立つが、今年は全米で計36人が正式に認証されている。
各州で候補者になるための基準が違うので、全州で認められているのは、トランプ氏とバイデン氏の2人、リバタリアン党のジョーゲンセン氏とグリーン党のホーキンス氏のみだが、アメリカでも日本のようにさまざまな政党が存在する。
ちなみに有名ヒップ・ホップ・アーティストで、音楽プロデューサーでもあるカニエ・ウェスト氏は12の州で正式な候補者になっている。彼の政党名は「バースデー(誕生日)党」。自身が当選する日を新しい国の誕生日として祝いたいという理由からだ。
また、多くの州で(全米41州とワシントンD.C.)候補者以外の名前を書くことが認められているが(Write-inとある)、そのうち33州とD.Cでは、Write-in候補者として登録された名前以外は記入が認められていない。自分自身の名前など、誰の名前でも書けるのは、ニュージャージー州を含む7州だけである。
投票項目も大統領選挙だけではなく多岐にわたっている。州によって異なるが、ニュージャージー州のある町では、大統領選挙以外にも「上院議員、下院議員の改選」「嗜好用大麻の合法化の賛否」「市長選挙」「学区の教育委員会の選挙」「退役軍人の土地の減税の賛否」など、多岐にわたっての投票項目がある。
投票後は郵便局で仕分け機の出番となるのだが、最新の機械は封筒やはがきの表面にある切手や宛先を画像で確認するほか、コンピューターがデータベースの住所と照合し、自動的に高速で仕分けることができる。
期限内に投票用紙の集計が終わらない可能性も
今回の大統領選ではあらかじめ新型コロナの影響で、郵便投票の数がかなり多くなることが予想されたが、6月に郵政公社のトップになったルイス・ディジョイ総裁は、経費削減の一環という名目で雇用者を減らし、全米各地にある仕分け機械の数を大幅に削減する指示を出したのだ。そのため配達の遅滞がすでに起こっている。
トランプ大統領は投票権の無い人が票を入れたり、郵便物が廃棄されたりして不正を招く危険があるという理由で、郵便投票の拡大には反対してきたが、本当の理由は低所得者やヒスパニック系の浮動票がバイデン氏に流れることを恐れているためだと言われる。また、アメリカの郵政公社は慢性的な赤字で、ネット通販の影響で小包の量は増えているが、封書やはがきの量は減っているという背景もある。
「ルイス・ディジョイ総裁はトランプ大統領に近く、共和党の大口献金者でもあります。ディジョイ総裁は疑惑を否定していますが、民主党や組合などからは、トランプ大統領に忖度をしたのではないかとの疑いがかけられ、疑惑は晴れていません。また11月に入ると、クリスマス商戦もスタートするため、期限内に投票用紙の集計が終わらないのではないかということも危惧されています」(現地ジャーナリスト)
一方、反トランプで民主党支持の有名人は、自らの名前のEメールやSNSでバイデン支持のメッセージを送り、支持を求めている。
シンガー・ソングライターのテイラー・スウィフトがSNSで「トランプを大統領から落とす」とツイート、バイデン支持者なのは有名だが、俳優ではロバート・レッドフォード、ダスティ・ホフマン、ジョージ・クルーニー、アーティストではバーブラ・ストライサンド、キャロル・キング、シェリル・クロウなどが、民主党支持の献金者に直筆のサインが入った手紙やEメールを送って支援を求めているのだ。
日本ではスポーツ選手や俳優、アーティストが政治的な発言をすると「歌手は歌だけ歌ってろ」、「アスリートなんだから試合に専念しろ」と言われ、スポンサーを気遣って発言を控えざるをえないのが現状だ。しかし、アメリカではアーティストやアスリートが堂々と支持者や支持政党に対する意見を主張する。
分断を深めた選挙の行く末は
「今回は下院議員の435の全席の改選と上院議員の3分の1も選挙となりますが、現在の上院議員の割合は共和党53名、民主党47名(内2名は『インデペンダント』といって正式な党員ではない)なので、拮抗している選挙地では州を越えて献金する人も多いのです。それぞれの党の議員の数でアメリカの政治方針が決まってしまうことが多いので、自分の州や地区以外の選挙戦も人ごとでは済まないのです」(現地ジャーナリスト)
どちらが勝っても、すんなりと新大統領誕生とはならないだろうとの予測が多くを占めており、選挙後の暴動などの不安も隠せない。選挙が間近に迫った現在、両者の戦いは夫婦仲も引き裂き、国を分断するほどの大きな戦いになっているのが現状だ。
はたしてどちらが声高に勝利宣言を行い、どちらが潔く敗北宣言をするのか、アメリカ国民はその瞬間まで緊迫した日々を送ることになるだろう。 
 
 
 
 
 2020/11

 

●トランプ氏の早すぎる「勝利宣言」、各局の司会者が非難 11/5
ニューヨーク(CNN Business) 3日投票の米大統領選で共和党候補のトランプ大統領が早すぎる「勝利宣言」を行った件で、主要テレビ各局の司会者がその否定に追われ、トランプ氏を非難せざるをえない状況となった。
トランプ氏は4日未明、ホワイトハウスのイーストルームで支持者らを前に、まだ何百万もの未集計の票がある段階で、合法的な票の集計作業を「いんちきだ」と根拠なく批判。その後、選挙に「勝利した」とも発言した。
米主要テレビ局の全てがトランプ氏の会見を放映していたが、NBCニュースとMSNBCは途中から司会者が割り込み、トランプ氏がうその情報を発信していると注意を喚起する事態となった。
NBCニュースのサバンナ・ガスリー氏は「ホワイトハウスでの大統領の話を聞いていたが、いくつかの発言が率直に言って真実ではないため割り込まざる得ない状況となった」と伝えた。
MSNBCのブライアン・ウィリアムズ氏は視聴者に対して、大統領の話に割り込むのは気が進まなかったものの、その発言は「全く事実に基づいたものではない」と述べた。
その他の主要各局はトランプ氏の演説を最後まで放映したものの、演説終了後はファクトチェックに追われた。
CNNのジェイク・タッパー氏は「トランプ大統領が勝利宣言の中で述べたことのほぼ全てが真実ではない」と述べた。
第1回大統領候補討論会の司会も務めたFOXニュースのクリス・ウォレス氏は「ひどく炎上しやすい状況となっているが、大統領はそこにマッチを投げ入れた」「大統領はこれらの州でまだ勝利していない」と伝えた。
ABCニュースではテリー・モラン特派員が「これは法でも政治でもない。劇場だ」「率直に言って、権威主義の劇場だ」と話した。
CBSニュースのノラ・オドネル氏は、トランプ氏が「選挙結果という事実を骨抜きにする」罪をおかしたと述べた。
トランプ氏は過去数カ月にわたり、選挙は不正が仕組まれ民主党に盗まれるとの陰謀論や誤った主張を展開。特に新型コロナウイルス流行で急増した郵便投票に批判の矛先を向けていた。
各局ニュース幹部は、トランプ氏が選挙当日の夜に早すぎる勝利宣言を行うかもしれないと警戒していた。情報筋によると、そうした宣言が話の文脈のなかで放映される可能性を認識していたという。 
●真夜中の一方的なトランプ「勝利宣言」と「票の集計を止めろ」発言の真相 11/5
アメリカ大統領選の投開票日の真夜中、トランプ大統領は異例の記者発表を行った。
まず、開票結果が続々と発表され「勝利」を意識したのだろう。日付が変わった午前0時45分、トランプはこのようなツイートをしていた。
•今晩私は発表を行います。大勝利!(について)
その後、何百万もの投票がまだ未開票であるにもかかわらず、なんと午前2時30分という信じられない時間帯にホワイトハウスにて、トランプ大統領はメラニア夫人とペンス副大統領夫妻を伴って支援者らの前に現れ、異例とも言える一方的な「勝利宣言」と「集計差し止め請求」をした。
演説の概要 (数字はすべて、トランプ氏の記者会見時のもの)
「 歴史的な記録の投票数となり、素晴らしいムーヴメントだ。多くの人からの投票と支援に感謝をしている。
開票結果は素晴らしく、我々は多くの州で勝っている。今宵は大きな祝賀の準備をしているところだった。しかし突然、それらが停滞してしまった。権利を剥奪しようとする人々のことを非常に悲しく残念に思う。我々はそのような行為に屈しない。
我々は(激戦州である)フロリダ州で30万票の差で大勝した。オハイオも50万票(8.1%)の大差で勝った。そしてテキサスもそうだ。70万票の大差で勝った。
ジョージアでも11万票の差があり、残りはわずか7%と勝利が見えている。そしてノースキャロライナも7万7000票の差でリードし、残りは5%。アリゾナもそうだ。もはや(現段階で民主党が)巻き返せないくらい、私が勝っている。ペンシルベニアでも69万票も大差で勝っている。これは(開票率が)過半数を超えた数字なので、もはや接戦とは言えない領域だ。【会場から大きな拍手】
ミシガンでも、我々は勝利に近づいている(実際にはバイデンが4万票リード)。ウイスコンシンでも勝ちにいく(その後バイデン勝利が確定)。勝ったテキサスでは、知事から正式に祝いの言葉をもらった。
(このように現時点での数字が勝利を表しているため)もはやすべての開票をする必要はないと考えている。
しかし彼ら(民主党)は勝てないとわかって、我々を法廷論争に持ち込もうとしている。(我々が勝利した激戦州で)彼らは何千万枚もの(違法の)投票用紙を人々に送りつけた(さらなる投票を促し、今後続々と届く郵便投票の集計を不正に追加しようとしている)。勝ち目はないのに(私の勝利への)流れが突然止められてしまったのだ。
これは全米規模の大きな詐欺であり、国にとっての恥である。これは実に悲しいことだ。なぜなら、率直に言って我々はこの大統領選で「勝った」のだから。【再び大きな拍手】
今から我々はこの国の良心に訴えかけ潔白を晴らしていく。法による適正な裁きが必要であり、我々は連邦最高裁判所に判断を委ねる。我々はもうこれ以上の集計(違法に追加されるであろうバイデン票)の差し止めを求める。本来午前4時にこのようなことをしてほしくない。
我々は勝つ。皆さんのサポート、そしてこの問題への尽力に感謝する。【この後ペンス副大統領の挨拶】 」
トランプ氏のこの勝利宣言は、アラスカ州で最後の投票所が締め切られてから1時間以上経った後だった。
また同じ時間帯には、民主党のバイデン氏が支持者に勝利への自信があると語っていた。この「勝利宣言」を受けてバイデン陣営は、「アメリカ市民の民主的な権利を奪おうとする、とんでもない露骨な行為」と非難した。
「偽り」と米メディアの反応
CNBCニュースは、「トランプは2016年の勝利後も、選挙の不正行為があったと主張し続け、今年も郵便投票による不正行為があると主張している。連邦最高裁が最初の裁判の場となることはほとんどなく、まずは下級裁判所での判決が通例のため『最高裁に持って行く』というのは何を意味しているのか不明」と報じた。
ビジネスインサイダーも、結果が出ていない段階での勝利宣言は「偽り」だとして非難した。また、最高裁の主張についてはCNBC同様に「どのような理由か、法的根拠が明確ではない」とした。
今回の選挙に注視している一般有権者にも話を聞いたところ、このような反応だった。
「選挙戦を闘っている候補者たちは、自分が勝つことを信じているので、このような勝利宣言を早々にするのは珍しいことではないし、マラソンランナーのように長い闘いの終盤戦でそのように言いたい気持ちもわかる。しかし勝利については各紙で『真実ではない』『偽り』と報道されていて、現段階では勝利を確定する『証拠』がまだない。これは明らかに“Premature”(時期尚早)だと思う」
仮にトランプの言う最高裁に持ち込まれた場合だが、これまで報道されてきた通り、リベラル派のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去後、後任として保守派のエイミー・バレット判事が指名され、10月27日に就任したばかり。これで9人の判事のうち過半数は保守派の6人、リベラル派は3人になったということも、ここで追記しておく。
今回の選挙は非常に荒れそうだ。  
●「勝手に勝利宣言」で混迷!米大統領選めぐり分断加速 衝突で流血も 11/5
大統領選挙の開票が進むアメリカでは、分断を加速させる暴動の連鎖が警戒されている。
ホワイトハウス周辺の路上で白いトレーナーの女性ともみ合いになっていたのは、黒服姿の反トランプ派の一団。
すると… 白いトレーナーの女性:救急車を呼んで!刺された!たくさん血が出てる! 路上には血の跡。あってはならない事態だ。

トランプ大統領の一方的な勝利宣言から一夜。激戦州3つのうち、前回はトランプ氏が勝利したウィスコンシン州とミシガン州で民主党のバイデン氏が勝利を確実にし、過半数獲得に向け優勢を保っている。
残るペンシルベニア州では、投票終了から24時間後も開票作業を続けられている。開票所の周囲にはバリケードが張り巡らされ、多数の警察官が配置されていた。
勝敗の行方を左右する大票田・ペンシルベニア州では、州当局が「100万を超える郵便投票がまだ未開封」としていて、大勢の判明は遅れる見通し。
日本時間の5日午前6時ごろ、バイデン氏は記者会見で次のように述べた。
民主党・バイデン候補: 長い夜が明け、我々が過半数を得るため必要な州で勝利しているのは明らかだ。ゆるぎない勝利への自信。対するトランプ大統領はツイッターで不満をあらわにした。
「主要な州では確実にリードしていた。しかし、突然出てきた票が集計され始めたら、魔法のように次々と消えていった」
バイデン陣営の追い上げにつながった郵便投票に不信感を示すなどした投票日のツイートは16件。うち6件には、問題があるとしてツイッター社が警告を発した。
共和党・トランプ大統領: 最高裁に行き、投票を止めたい。
一方的に勝利を宣言し、郵便投票の集計中止まで求めるトランプ大統領の強硬姿勢には、共和党の一部からも反対の声が上がっている。

マスク姿で窓ガラスをたたく市民たち。ここはバイデン氏が制した激戦州の1つ、ミシガン州デトロイトの開票所だ。地元メディアなどによると、開票作業を見守るため約30人のトランプ支持者が集まったものの入場が認められず、ガラス窓をたたいたり大声を上げるなどして開票作業を妨害。警察官が出動する騒ぎとなった。
一方、バイデン氏の支持者も行動を起こしている。
ニューヨーク 新庄壮一記者:デモの参加者は「すべての票をカウントしろ」と口々に叫び、行進を続けています。
開票の中止を求めるトランプ氏に反発し、アメリカ国旗を振りながら抗議のデモ行進。自転車に乗って警戒に当たっていた地元警察との間で衝突が起きた。
出口の見えない混乱と深まる分断に、アフリカ系のアメリカ市民はやりきれない心境を明かした。
アフリカ系アメリカ市民: 失望している。どの党がということではなく、1人のアメリカ市民としてより良くしなければならないのに、現実はそうではない。
決着長期化? 日本への影響は
加藤綾子キャスター: 今回の大統領選挙の勝敗はどうなるのかということだけでなく、アメリカ国内の分断が大統領選後も尾を引いてしまったら、日本へも何かしらの影響を与えるのではないかという不安要素を表しているような状況ですね?
ジャーナリスト 柳澤秀夫氏:アメリカ社会の中でも今回の対立分断が、今後、SNSを通してフェイクやヘイトといったものに広がっていくと、日本や世界はアメリカから発信されたいわば不透明という衝撃、影響から無縁ではいられないということにもなりかねません。だから我々にできるのは、何が大切かといったらやはり融和だということをそれぞれの立場から発信していくことではないですかね。内政干渉というわけではなく、融和の大切さを言い続けることが必要なのではないでしょうか。 
●バイデン候補、早々の勝利宣言が意味すること 11/5
米大統領選挙の最終投票日である11月3日、民主党はまず下院を押さえ、上院をも共和党から奪う勢いである。その時点で、バイデン民主党大統領候補が予期せぬ行動に出た。
開票結果が完全に出そろう前に、「最後の一票が数えられるまで結果はわからない」と前置きしながらも、「勝利を確信している」とペンシルベニア州やミシガン州など重要未確定州における自己陣営に有利な票読みを披露し、事実上の勝利宣言を行ってしまったのである。
保守派のFoxニュースでさえ、早々と「伝統的に共和党州であったアリゾナ州を民主党が奪い返した」と伝えるなど、バイデン氏の票読みは演説時点における大勢と矛盾がなく、大きな逆転の流れが起こらない限り、青色が党のカラーである民主党が大統領職も奪い返し、ホワイトハウス・上下院をすべて勝ち取る「ブルーウェーブ」が実現する可能性が出てきたのだ。(【追記】その後、上院は共和党が維持する見込みが伝えられ、バイデン氏が大統領に就任しても思い通りの政策遂行が困難になるとの見方が優勢になってきた)。
これに対し、選挙結果に関して開票開始時から沈黙を保ってきたトランプ大統領が、「私が勝利した」「開票で詐欺行為があった」「バイデン氏は公式な発表が出る前に選挙結果をかすめ取ろうとしている」と猛反発をして、開票結果を受容しない旨の演説を行った。事実上、大統領選で投票した有権者の票を無効化する宣言であり、「民主主義の否定だ」として共和党内からも大きな反発が出ている。
いずれにせよ最終的な判断は、トランプ大統領が任期中に任命した3人の判事により保守化された米連邦最高裁判所に委ねられる。選挙候補の片方が潔く敗北を認め、当事者間で勝負の決着をつけることができないという、最も望ましくない展開だ。
今後の焦点はトランプ氏のメンツ
懸念されていた支持者同士の衝突や暴動が起こるかもしれない。選挙前のハロウィンで、米国人の大人たちが子供たちを喜ばせようと一生懸命に頑張っている姿を目撃し、「本当に暴動前夜であれば、ハロウィンどころではないはずだ」と考えた筆者の考えは甘かった。
トランプ大統領が投票日当日に先走った言動を行わず、おとなしくしていたため、筆者は「トランプは負けても、案外あっさりと敗北を認めるだろう」と楽観視していたのだが、バイデン陣営の「挑発」と、それに過剰反応をしたトランプ大統領の法廷闘争で事態は混沌としてきた。道徳的には、民主的なプロセスや手順を否定するという正当化できないやり方で挑発に乗ったトランプ大統領の負けだろう。
この先、実際の開票結果でトランプ氏が奇跡の巻き返しを見せる可能性もあるが、そうであるならば、焦って法廷闘争を宣言せずに、最後までどっしりと構えているべきであった。大統領の行動は、「負けると読んだから、裏口当選する道を選んだ」と見られても仕方がない。
ただし、落選後に不正や腐敗で追及されることを怖れるトランプ大統領にとって、すべては「トランプ劇場」というリアリティショーの演出に過ぎないことは肝に銘じておいた方がよいだろう。そこは虚実の駆け引きとはったりが入り混じった世界であり、予想もしなかった「法廷外取引」で幕引きが行われる可能性もある。トランプ大統領はメンツを重んじる男であり、それが今回の問題解決のカギになると思われる。
また、6対3の割合で保守化した連邦最高裁ではあるが、権力者の意向を受けて大統領選の結果を「操作」する判断を下すとは考えにくい。最終的には、最高裁が「バイデン勝利、トランプ落選」の判決を言い渡すと予想する。
中露や北朝鮮には天祐か
大統領選の期間を通してバイデン民主党候補は、分断された米国社会のいやしと団結を訴え、「私は民主党の大統領になるのではなく、共和党の大統領でもない。統一された(United)州の国(the United States)の大統領になるのだ」と主張していた。
しかし、そのメッセージは空しく消えそうだ。連邦最高裁がどのような判断を下そうと、米国人の心は次期大統領の下でひとつになるどころか、互いへの憎しみがさらに募ることになろう。トランプ大統領の支持者が、フランスのマクロン政権に対する草の根権力闘争である「黄色いベスト運動」のような行動を組織する可能性もある。「バイデン政権」は、国家の暴力装置による弾圧で応じるかもしれない。
これは、中国やロシア、北朝鮮にとっては願ってもない展開である。米外交問題評議会が5月に発表した『世界秩序の終わりと米外交政策』と題された報告書では、ロバート・ブラックウィル研究員らが、「米外交政策は、米国内の統治強化と米経済の競争力維持から始まる」と看破しているが、米国の内政が乱れれば連邦政府や米軍の指揮命令系統が混乱し、米国は「世界の警察官」の役割を果たしにくくなる。
これは、地政学上の現状変更を目指す国々に覇権拡張のチャンスや口実を与えることになりかねず、中国や南北朝鮮から軍事的な圧力を受ける日本の国防にも、少なからぬ影響を与えよう。米国に防衛の大きな部分を依存する日本としては、トランプであれバイデンであれ、まずは米国の内政が安定することが国益であるため、次期大統領がスムーズに就任できることを願うしかない。
さらに、米国内の混乱は、中長期的には米軍への依存を減らす自主的な防衛を目指す日本国内の動きを加速させるのではないか。
コミュニケーターとして疑問符がつくバイデン候補
情勢は流動的であり、米国時間の11月4日にどのような驚きの展開が起こっても不思議ではないが、今回の選挙で筆者が気付いた点を指摘して、本稿を終えたい。それは、民主的に選ばれるリーダーと民衆の距離である。トランプ・バイデン両候補の性格や、新型コロナウイルスの流行に対する考え方で対極的な違いが見られたからだ。
選挙期間中、精力に満ちあふれたトランプ大統領は、下品な「だみ声」で自身のストーリーをがなり立て、熱烈な支持者との息もぴったり合うコミュニケーションを披露した。
たとえウソであってもトランプ氏は、聴衆に「リーダーとの交流の満足感」を与えられていた。下手だがダンスも披露する。「リアリティショーの王者」は人の心をつかむことに長けており、民衆との距離を近く感じさせた。テレビ画面からも、弱々しく見える「寝ぼけたジョー」との勝負がついていることは明らかだった。
一方で、コロナ感染のゼロリスクを目指すバイデン候補は、「愛してるわ、ペンシルベニアのみんな!トランプを投票で追い出すのよ!」と熱唱するエンターテイナーのレディーガガという頼もしい助っ人なしには、あふれるエネルギーを伝えられず、観衆との距離も遠すぎて、コミュニケーターとして負けているように見えた。
バイデン氏が本当に民衆に近づいたのは、選挙当日にペンシルベニア州フィラデルフィアの投票所に現れ、数十人の人々と数メートルの距離で交流したイベントのみ。このコミュニケーターとしての「距離の遠さ」は、次期大統領に就任しても政策実行に対する支持を取り付ける際に問題になろう。国難にあって、国民の心をひとつにする能力には疑問符がつく。
最後に、大統領選の結果がどのようなものになっても、米国が混乱と困難の時代に突入することは間違いない。その中で、ますます日本の「真の自立」が必要とされるだろう。 
●アメリカ大統領選挙が日本も分断…対話なく憎悪煽る手法そのまま  11/5
トランプ、バイデン両氏の大接戦となった米大統領選。日本でも、共感する人たちがネットで火花を散らし、まるで超大国の分断が持ち込まれたかのようだ。多くの議論はかみ合わず、互いに一方通行。どちらが勝っても融和は難しそうで、米国の混乱は対岸の火事ではないと、専門家は指摘する。大阪都構想の住民投票でも見られた世論の分断は、なぜ深まっているのか。
ネット民激論
米大統領選は日本のネット世論も「トランプ派」「バイデン派」に二分した。会員制交流サイト(SNS)には「#(ハッシュタグ)」をつけて「トランプ大統領再選を断固支持します」「絶対バイデン氏に大統領になってほしい」など熱烈な投稿があふれる。一方、投稿者同士のバトルや、「トランプなんかが大統領になったら世界は滅亡」「バイデン氏当選なら中国支配の危機」などと相手陣営をたたくような過激な書き込みも目立った。
なぜ、アメリカ大統領選が日本の国民をも沸かせるのか。世界7位のフォロワー数を持つトランプ氏のツイッターの発信力のせいか。
「安倍さんと仲良し」効果
ネットに詳しいニュースサイト編集者の中川淳一郎氏は安倍晋三前首相との関係を指摘する。「簡単にいえば、トランプ氏が安倍さんと仲がいいから。派手なトランプ氏のパフォーマンス力は、強い日本を取り戻したいと語った安倍さんの支持者をも熱狂させた」と解説する。
中川氏によれば、米国在住で日本人のものらしいアカウントが「トランプ支持」の発信源となっているという。「彼らのフォロワー数はこの大統領選挙の間に一気に増えており、そこに安倍さん支持者らもぶらさがっている」
ネットの世界では「何を言うのかよりも、誰が言うのかが大事」なのだという。「日本のトランプ支持者も、バイデン陣営の投稿が不利になるとみればトランプ氏を擁護し、ばかな投稿を見つけたら徹底的にたたく。バイデン支持者は立憲民主党の支持者と重なるので、米国の大統領選が自民対立民の代理戦争のような構図。両陣営とも『擁護と敵の批判』はワンセット。熱狂的な支持者による過激な発言が切り取られ、それがSNSで拡散されるのを期待している」
「株価上がる」「国際協調」街の声はバイデン氏
街の声はどうか。
オフィスビルがひしめく東京・丸の内を訪ねると、コンサルタント会社の女性社員(22)は「バイデンさんは、ゴシップ情報がたくさんあふれているし、トランプさんは石油系の利権の話があってうさんくさい。どちらが大統領にふさわしいかと聞かれると、どっちもどっちという感じです」と漏らした。
しかし、全体的にはバイデン氏に期待する声が多かった。ベンチで遅めのランチを食べていたマーケティング会社の男性社員(35)は「全体的に株価が上がると言われているので、自分の懐を考えると、バイデンさんに当選してもらった方がいいんですけどね」とサラダをほおばった。
金融系コンサルタント会社の男性(24)は浮かない顔だった。全体の支持率で有利とされていたバイデン氏が勝利した場合、株価が上がると言われていたグリーンエネルギー系企業に投資しようと考えていたが、トランプ氏が猛追していたからだ。「今はまったく読めない状況になってしまった」と嘆いた。
ホテルの営業担当の男性(28)は「富裕層ならトランプの方が何かと恩恵が受けられるかもしれないけど、僕は富裕層ではないので…」と語った。トランプ政権は温室効果ガスの排出削減を取り決めた「パリ協定」、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、世界保健機関(WHO)と、次々に国際機関などからの離脱を決めた。「バイデンさんの方が議員歴もあって、ちゃんとしてそう。国際協調主義に戻るのではないか」
「差別助長」「優しくない」トランプ氏には辛辣
電気部品店やパソコンショップが立ち並ぶ東京・秋葉原に買い物に来た男性会社員(26)は「人々の心の奥底に眠る差別感情をトランプさんが刺激してしまったんですよね」と眉をひそめた。日本でもネットで外国人に対する排外主義的な言説があふれることに触れ、「なぜ、人を傷つけるような言葉を発するのか、理解に苦しむ。米国のように分断され、激しく双方が対立する状況は嫌」と願った。
杉並区の介護福祉士、辻本敏也さん(46)も「元々虐げられている人が、他人を虐げて分断が広がっていくのではないか。人に優しい政治をするのはどちらの候補者かを考えると、んー…、バイデンさんの方がいいのかな」と語った。
白人警官による黒人男性の暴行死事件で、人種差別問題が噴出する米国の状況に無関心のままではいられない。「米国のような激しい人種差別が日本で起きてほしくない。こういう感情が伝染しないうちに、早めに歯止めをかけてほしい」
日本の言論状況に詳しい専門家はどうみるか ・・・ 
●不安と不信と分断と、米大統領選に疑心暗鬼の有権者 11/5 
まれにみる激戦となった米大統領選は、投票締め切りから1日を経過した4日になっても結果が判明せず、共和、民主両党の有権者はいずれも疑心暗鬼になっている。
共和党候補のトランプ氏は4日、まだ複数の州で集計作業が終わっていないにもかかわらず一方的に勝利を宣言し、民主党候補バイデン氏の支持者の反感を買った。
バイデン氏の支持者は、トランプ氏は敗北しても結果を受け入れないのではないかと懸念を強めている。一方、トランプ氏の支持基盤である有権者の間では、選挙で不正が横行したとの根拠のない主張が広がっている。
ノースカロライナ州の銃所有権運動活動家でトランプ氏に1票を投じたジミー・ボイドさん(48)は「選挙は不正がはびこっている」と話した。地元の武装集団とかかわりのあるボイドさんは「左翼が都市全体を破壊」し、右翼の活動家は「人種差別主義者で恐ろしい異端」というらく印を押されてしまうのではないかと危惧している。
バイデン氏に投票したペンシルベニア州ベスレヘムのジュディー・モウエリーさん(60)も対立する政治勢力間の暴力沙汰を心配する。「たとえバイデン氏が勝っても―そうなるだろうと思っているけれど、―国としては敗北だ。思っていた以上に私たちの分断は進んでいる」と述べた。
デトロイトでは、共和党員がほとんどを占める選挙監視人約30人が、新型コロナウイルス感染阻止のための人数制限を理由に集計所に入るのを禁止され、緊張感が一気に高まった。監視人の動きを阻止するために警察が呼ばれた。
入場を阻止された人々の多くは会場の外で抗議の声を上げたり、「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌ったりした。また共和党員の監視人の中には、近くで輪になって祈ったり、「投票を止めろ」、「集計を止めろ」などのスローガンを叫ぶ人々もいた。
投票日から緊張状態が続き、耐えられなくなった人もいる。
オハイオ州コートランドのタニア・ボイチャクさん(39)は「トワイライトゾーンみたいだ」と話した。激戦州の結果が徐々に判明するのを見ながら、自宅でコーヒーを17杯も飲み、落ち着きなく歩き回っていることに気づいたという。
「トランプは恐ろしいし、早過ぎる勝利宣言にはぞっとした」という。ボイチャクさんは共和党員だが、今回はバイデン氏に投票した。
法律専門家によると、遅れて届いた投票用紙を集計に加えるかどうかなど、多くの問題を巡って州ごとに訴訟が起こされ、作業は進んでいない。
<広がる抗議活動>
集計作業を停止しないよう求める抗議活動が、カリフォルニア州オークランド、ペンシルベニア州ハリスバーグ、アトランタ、デトロイト、ニューヨーク市などで起きている。
ニューヨーク市では数百人がマンハッタンのミッドタウンでデモを行った後、ワシントン・スクエア・パークで集会を開き、米国の国旗や「最後の1票まで数えろ」と書かれたプラカードを振った。
学生のメイラ・ハリスさん(26)は「私たちの民主主義が確実に続くようにするのは非常に重要なことだ。今回の選挙はとても強い不安を引き起こした」と話した。
首都ワシントンのホワイトハウス周辺では、トランプ氏支持の極右組織「プラウド・ボーイズ」のメンバー3人が刺される事件があった。被害者は犯人が「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」と書かれたマスクをしていたと主張しているが、警察は確認が取れていない。
<緊張に背を向け畑仕事>
オハイオ州ギブソンバーグのトム・ヨンカーさん(74)はトマト畑の世話をすることで、選挙の開票結果を報じるテレビ番組を見ないようにした。地元の選挙委員会の委員を34年間勤め、自分の受け持ちの集計を終えてから数時間眠っただけだ。
バイデン氏に投票したヨンカーさんは「複雑な気持ちだ。シーソーに乗り、上がったり下がったりしているようだ。圧倒的勝利になると思っていたら、接戦になっている」と話した。
ペンシルベニア州マコネルズバーグの弁護士、スタンレー・カーリンさん(66歳)はトランプ氏に投票した。まだ数え終わっていない同州の大量の票が正確に集計されるとは確信が持てないが、それでもまだ多くの票が集計されておらず、トランプ氏の勝利宣言は早過ぎた、と話した。
旅行代理店を経営するアリゾナ州のマリッサ・ルトゥラールデさん(32)は、大統領選が僅差の結果になれば、党派にとらわれず、イデオロギーを統一する流れが進むと期待する。「ある程度正気や仲間への敬意を回復できると思う。再び礼節を取り戻し、違う考え方をお互いに尊重する必要がある」と話した。 

 

●アメリカ大統領選挙、84%が「全票集計まで勝利宣言すべきでない」 11/6
ロイター/イプソスの世論調査によると、米大統領選を巡り超党派の米国人の過半数はトランプ大統領の勝利宣言を受け入れておらず、大多数は全ての票が集計されるまで待つべきだと考えていることが分かった。
調査は4─5日に実施。それによると、共和党候補であるトランプ氏の勝利宣言を受け入れるとした回答割合は16%だった。党派別では民主党員の7%、共和党員の30%となった。
その他の84%(民主党員の93%、共和党員の70%)は「各候補は全ての票が集計されるまで勝利宣言をすべきではない」と回答した。
また、米国人の3分の2は、地元の選挙当局が誠実に職務をこなしていると信頼しているとした。
調査は全米でオンラインを通じ英語で行われた。民主党員524人、共和党員417人を含め、米国の成人1115人から回答を得た。信頼区間(許容誤差)は約6%ポイント。 

 

●トランプ氏「勝利宣言するな」とバイデン氏にけん制 11/7
勝利宣言するなよ−。トランプ米大統領は6日、ツイッターで、開票が進む大統領選で優位に立つ民主党のバイデン前副大統領に対し「大統領職を奪取したと誤った宣言をするべきではない。私だって宣言できるのだから」と書き込んでけん制した。勝敗の鍵を握る東部ペンシルベニア州などで逆転されたことに焦りを募らせているようだ。
トランプ氏は、ペンシルベニアなどでバイデン氏が票を伸ばしているのを念頭に「投票当日の夜までは私が大差で先行していたのに、不可解なことにリードが消えていった」と主張。郵便投票の有効性などを裁判で徹底的に争う姿勢を示した。
トランプ氏は大統領選で不正があったと根拠を示さないまま一方的に主張、正当な票だけ数えれば自分が勝っていると訴え続けている。 

 

●健康不安説に法廷闘争、米大統領就任式へ深まる混迷 11/8 
米大統領選は民主党のバイデン前副大統領(77)が勝利を確実にした。投票日から5日目の7日(日本時間8日)、地元の東部デラウェア州ウィルミントンで「国民は明確な勝利をもたらした」と史上最高齢となる次期大統領は勝利宣言した。共和党のトランプ大統領(74)は「勝者は私だ」と、ツイッターに投稿し、法廷闘争に持ち込む姿勢を崩していない。来年1月20日予定の大統領就任式へ向け、さらに混迷は深まる。
異常なまでに過熱した激戦の大統領選はバイデン氏勝利で決着がついた。バイデン氏は勝利宣言とともに「分断ではなく結束を目指す大統領になる」と深刻さを増した分断、混乱の収束を訴えた。青い州(民主党支持)、赤い州(共和党支持)で対立した全国民に「敵ではない。同じ米国民だ」と融和、団結を訴えた。
7日、米主要メディアはペンシルベニア州でバイデン氏が勝利したことを速報した。これで全50州と首都ワシントンに割り当てられた選挙人538人の過半数を獲得して当選を確実にした。ネバダ州でも勝利し、214人でとどまっているトランプ氏を引き離し、279人を確保している。
史上最高齢の米大統領が誕生する。バイデン氏は20日に78歳の誕生日を迎え、来年1月20日に予定されている大統領就任時で史上最高齢となる。これまでの最高齢は17年1月に70歳で就任したトランプ氏だったが最高齢のバトンリレーは法廷に持ち込まれる可能性が出てきた。
副大統領は史上初の黒人女性かつ、初のアジア系のルーツを持つハリス上院議員が就任する。分断が深まる米国の多様性を反映する大きな存在として注目されている。有色人種として史上初のカリフォルニア州司法長官にも就任したハリス氏は、トランプ氏が仕掛ける法廷バトルをどうみるのだろうか。バイデン氏は高齢であるがゆえに、健康不安説がつきまとう。バイデン氏が在任中に職務遂行ができない事態に陥った場合には史上初の女性大統領という可能性もある。
全米で新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が過去最多の13万人台に達し、累計約980万人(死者23万6000人以上)と世界最大の感染国となった。コロナ禍対策が急務だが選挙戦で深刻化した分断や対立、トランプ氏の法廷闘争による混迷、混乱の収束が見えない状況だ。  
●バイデン氏、勝利宣言 「分断でなく団結させる大統領に」 11/8 
米大統領選では7日午前(日本時間8日未明)、民主党のジョー・バイデン副大統領(77)の当選が確実になった。バイデン氏は同日夜、勝利宣言をし、「分断でなく団結させる大統領になる」と誓った。一方、共和党のドナルド・トランプ大統領(74)は、勝ったのは自分だと主張。選挙で不正があったとして裁判で争う姿勢を示しているものの、ホワイトハウスは同日夜、「大統領は自由で公平な選挙の結果を受け入れる」との声明を出した。
BBCは7日午前、激戦州のペンシルヴェニア州(選挙人20人)でバイデン氏が勝利し、当選に必要な選挙人270人以上を獲得する情勢となったと報じた。ほかにも米CNNやAP通信など、複数の主要メディアが、バイデン氏の当選確実を伝えた。保守系フォックス・ニュースも日本時間8日午前1時40分ごろ、バイデン氏の当選確実を伝えた。
ペンシルヴェニア州での勝利でバイデン氏が獲得する選挙人は273人に上り、全ての州の合計538人の過半数を超える情勢になった。3日の投票日から4日たって、ようやく当選者が固まった。
その後、西部ネヴァダ州(選挙人6人)でもバイデン氏の勝利が確実になり、獲得した選挙人の数は279人に達した。
バイデン氏が勝利宣言
バイデン氏は7日夜(日本時間8日午前)、地元デラウェア州ウィルミントンで演説し、「この国の人々は、明確で説得力のある勝利をもたらしてくれた」と勝利を宣言した。
そして、「私は分断するのではなく団結させる大統領になると誓います。赤と青に分かれた州ではなく、団結した州(合衆国)を見る大統領に、国民全員の信頼を勝ち取るために全身全霊で努力する大統領に」と語ると、聴衆から大きな歓声があがった。
さらに、「豊かな心としっかりした手で、アメリカとお互いを信じ、国を愛し、正義を渇望しながら、自分たちがなれると分かっている、そういう国になりましょう。結束した国、力を増した国、癒やされた国に」と呼びかけ、分断した国の修復が重要だと重ねて強調した。
女性として初の、またアフリカ系・アジア系としても初の副大統領に就任することが確実となったカマラ・ハリス上院議員(55)も登壇し、「みなさんは希望、結束、良識、科学、そしてそう、真実を選びました」、「みなさんは次期アメリカ大統領にジョー・バイデンを選んだんです」と演説した。
また、「私は最初の女性副大統領になるかもしれませんが、私が最後ではありません。これを見つめている全ての小さい女の子が、この国は可能性の国だと理解するからです」と述べた。
バイデン氏は来年1月の就任時には78歳になっており、アメリカ史上最高齢の大統領になる見込み。
一方、トランプ氏は「自分は圧勝した」とツイートし、投開票に不正があったと主張しているものの、ホワイトハウスはバイデン氏の勝利宣言に先立つ7日夜、「大統領は、自由で公平な選挙の結果を受け入れる」、「トランプ政権はあらゆる法定要件に従っている」との声明を出した。
現職大統領が再選されないのは、1992年大統領選でジョージ・H・W・ブッシュ大統領が敗れて以来となる見込み。
BBCは、開票が終了した州の非公式の結果と、開票が続いている州の結果予想を総合して、バイデン氏が当選確実になったと判断した。
今回の選挙では、新型コロナウイルスのパンデミックや投票所での混乱への懸念などから、1億人以上が郵便などで期日前に投票した。米フロリダ大学のマイケル・マクドナルド教授(政治学)たちが運営する選挙データサイト「U.S. Election Project」の集計によると、投票率は66.4%の記録的なレベルに迫っている。
バイデン氏の得票数はすでに、バラク・オバマ氏が2008年に記録を作った得票数6940万票を上回り、過去最多の7400万票を超えている。トランプ氏のこれまでの得票数は約7000万票超とされる。全国的な得票率は日本時間8日未明現在でバイデン氏50.6%、トランプ氏47.7%という。
「すべてのアメリカ人の大統領に」
バイデン氏は、日本時間8日午前2時前にツイッターで、「アメリカ。この偉大な国のリーダーとして私を選んでくださって、光栄です。これからの道は厳しいものになりますが、これは約束します。私はすべてのアメリカ人の大統領になります。私に投票したかどうかを問わず。私に託してくださった信頼に応えます」と表明した。
また、今はアメリカが「ひとつになって、癒やす」時期だとし、「選挙戦は終わった。怒りと激しい言葉も終わりにして、国としてまとまる時だ」と述べた。
さらに、アメリカが「過去に例のない困難」に直面する中で、投票率が記録的な高さとなったことは、民主主義が「アメリカの心髄で息づいている」ことを示したと話した。
ハリス氏は、「この選挙はジョー・バイデンや私のことより、はるかに大きいものです。アメリカの魂と、そのために闘おうというみんなの意欲のための選挙でした。これからやるべきことはたくさんあります。さあ始めましょう」とツイートした。
ハリス氏はさらに、バイデン氏に祝福の電話をかけている様子の動画をツイートした。「やった、やりましたよ、ジョー! あなたが次のアメリカ大統領ですよ!」と喜んでいる。
ジル・バイデン夫人は、バイデン氏と共に「ここにはバイデン博士とバイデン大統領が住んでいます」と看板を手に(「副」の文字を手で隠している)、「この人はすべての家族のための大統領になります」と投稿した。
バイデン氏が副大統領を務めたときの大統領だったバラク・オバマ氏も、ツイッターで祝福。「次期大統領のジョー・バイデンと次期ファーストレディのジル・バイデンにおめでうと言う。これほど誇らしいことはありません。そして、カマラが次期大統領に画期的な形で当選したことについて、カマラ・ハリスとダグ・エムホフにおめでとうと言う。これほど誇らしいことはありません」とコメントし、「経験したことのない状況での今回の選挙で、アメリカ人はかつてないほどの規模で投票した。すべての票を数えた時点で、バイデン次期大統領とハリス次期大統領は歴史的で決定的な勝利を収めることになる」とした。
接戦のジョージア、アリゾナ、ノースカロライナ、アラスカの各州では開票が続いており、まだ勝者が予想されていない。しかし、仮にトランプ氏がこれら全ての州で勝利しても、獲得する選挙人でバイデン氏に及ばない。
今回の大統領選は、米国内で新型コロナウイルスの感染者と死者が増え続ける中で開かれた。トランプ氏は、バイデン政権になればロックダウンが実施され、経済が落ち込むと主張。一方、バイデン氏は、現政権の感染対策が不十分なため流行が拡大したとトランプ氏を非難した。
トランプ氏は敗北認めず
バイデン氏当選確実を各社が伝えた時点で、トランプ氏はワシントン近郊のゴルフ場にいたという。
米主要メディアなどの「当選確実」を候補者らが受け入れ、敗れた側は敗北宣言をするのが通例だが、トランプ氏は7日、敗北を認めないと表明した。
トランプ氏は7日朝、「大統領選があった火曜日午後8時以降に何万もの票が不法に受け付けられ、ペンシルヴェニアや他の僅差の州の結果を完全かつ簡単に変えてしまった。それとは別に、何十万もの票について開票の立ち会いが不法に認められなかった…」とツイート。開票結果を受け入れない考えを改めて示した。
またトランプ氏はバイデン氏が当選確実になる前、すべて大文字で「自分がこの選挙に大勝した!」とツイートしていた。
トランプ陣営は声明を発表し、「この選挙はまだまだ終わっていない」と反発。「月曜日から我々は、選挙の法律が完全に守られ、正当な勝者が確実に当選するよう、法廷で訴えを追求していく」と主張した。
トランプ氏の名前による声明は、証拠を示すことなく、バイデン陣営がどのような不正票でも集計を望んでいると主張。「バイデンは何を隠しているんだ? アメリカ国民が与えられるべき、そして民主主義が要求する正直な開票結果が得られるまで、私は休まない」と力説した。
各地の開票所で開票作業に立ち会っている立会人や選管職員は、開票作業に広範でまとまった異例や不正は見つかっていないと繰り返している。
期日前投票が急増
トランプ氏は4日以降、開票作業が続く中で、一方的な勝利宣言を繰り返してきた。激戦州などの投開票で不正があったと根拠を示さずに主張し、少なくとも4州で裁判を提起。ただ、その多くは棄却されている。
ペンシルヴェニア州では選挙前の裁判で、投票日かそれ以前の消印が押されている郵便投票は、投票日以降に届いても集計できるとの判断が示されている。
3日の開票当初は多くの主要州でトランプ氏が優勢だったが、投票所で投じられる票の後に郵便投票の開票が始まると、バイデン氏が徐々に票数を伸ばした。
パンデミックの渦中の今回の選挙では、期日前投票が増大したほか、開封から集計まで手続きが多い郵便投票が一気に増えた。開票所の中でも様々な感染対策が必要な状態状況で、接戦になればなかなか大勢が判明しないのは、あらかじめ分かっていたことだった。
また、以前から郵便投票は不正につながると根拠なく主張し、支持者に郵便投票をしないよう呼びかけていたトランプ氏に対し、バイデン氏は感染対策として郵便投票や期日前投票を活用するよう促していた。そのため、郵便投票はバイデン票に傾くだろうと、これも前もって言われていた。
結果確定はまだ先
開票結果の確定までは、数週間かかるとみられる。ジョージア州では再集計が予定されており、トランプ氏はウィスコンシンでも再集計に持ち込みたい考え。
開票結果について争う場合は、州裁判所に訴訟を提起する。州裁判所が訴えを認め、再集計を命じた場合、これを不服とする側は連邦最高裁に撤回の決定を求めることができる。
12月14日には、選挙人が大統領選の正式な当選者を決める投票が開かれる。各州はそれまでに、開票結果を確定させる必要がある。
新たな大統領の任期は来年1月20日に始まる。同日には首都ワシントンで就任式が開かれる。
各国首脳らが祝福
バイデン氏が当選確実となったことを受け、各国首脳が相次いで祝福のメッセージを寄せた。
ボリス・ジョンソン英首相はツイッターで、「合衆国大統領に当選したジョー・バイデンさんと、歴史的な偉業を達成したカマラ・ハリスさん、おめでとうございます。アメリカは私たちにとって最も重要な同盟国です。気候変動から貿易、安全保障に至るまで、両国が共有する重要課題について、緊密に連携するのを楽しみにしています」と祝意を発表した。
カナダのジャスティン・トルドー首相は、「ジョー・バイデンさん、カマラ・ハリスさん、おめでとうございます。私たち両国は親しい友人であり、パートナーであり、同盟国です。我々には世界のひのき舞台で唯一無二の関係性があります。一緒に仕事をし、あなた方2人とそれを築き上げていくことが本当に楽しみです」とツイートした。
アイルランドのミホル・マーティン首相はツイッターで、バイデン氏を同国の「真の友人」と呼んだ。「アメリカの次期大統領を祝福したい。ジョー・バイデンさんは生涯を通じてこの国の真の友人であり、今後数年間、彼と一緒に仕事ができるのが楽しみです。事情が許せば、彼をアイルランドに喜んで迎え入れたい」。
英スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相は、「ジョー・バイデン次期大統領と、歴史に残るであろうカマラ・ハリス次期副大統領にスコットランドから祝福を送る」とツイート。英最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首は、バイデン氏が「私たちがイギリスで共有している良識、誠実さ、思いやり、強さという価値観」に基づいて選挙キャンペーンを展開した」とツイートした。
3度目の正直
バイデン氏にとって、今回の大統領選は3度目の挑戦だった。
1988年に立候補した際には、英労働党のニール・キノック党首(当時)の演説を盗用したことを認め、撤退した。
2008年も、民主党候補争いの途中で断念。オバマ氏の副大統領候補となった。
副大統領だった8年間には、医療保険制度改革法(オバマケア)などオバマ政権の功績とされる主要政策の実現に貢献した。また、上院外交委員会の委員長をたびたび務めた経験を生かして、オバマ政権の外交政策にも大きく関わった。
デラウェア州の上院議員に初当選したのは1972年で、以降6期務めた。
議員時代の初期には、南部の人種隔離主義者に同調したこともある。人種融和のための公立学校に、裁判所がスクールバスの運行を命じたことに反対した。この点については、大統領選の民主党予備選でハリス上院議員が批判を重ね、バイデン氏は人種融和の方法として異なる学区間に異なる人種の子供を通わせるスクールバス政策そのものに反対したのではなく、それを連邦政府が全国的に命じることに反対したのだと説明していた。
また、1994年に成立した暴力犯罪取締り及び法執行法を強く支持。同法は刑罰を長期化し、多くの人を刑務所に送ったと、左派が批判した。バイデン氏は同法を支持したことについて、大統領選中に「間違いだった」と認めている。
バイデン氏が私生活でたびたび悲劇に見舞われたことは、アメリカでよく知られている。
1972年には、最初の妻ニーリアさんと、赤ちゃんだった娘ナオミさんを自動車事故で亡くした。初めての上院議員の宣誓式を、同じ自動車事故で負傷した幼い息子ボーさんとハンターさんの病室で行ったことも、広く知られている。
2015年には長男ボーさんが46歳で脳腫瘍で死去した。バイデン氏は、2016年大統領選に立候補しなかったのは、ボーさんの死去が影響したと述べた。 
●バイデン氏、勝利演説で「結束」誓う ハリス氏は女性の可能性語る 11/8 
米大統領選で当選確実となったジョー・バイデン氏は7日夜(日本時間8日午前)、地元デラウェア州ウィルミントンで「次期大統領」として初の演説をし、勝利を宣言した。同時に、アメリカを「分断するのではなく結束させる」と誓った。
バイデン氏は、ドライブイン形式の会場に車で集まった大勢の聴衆を前に、「今はアメリカの癒やしの時だ」と述べた。
バイデン氏は3日投票の大統領選で、現職のドナルド・トランプ氏を激戦の末に破った。
トランプ氏はまだ敗北を認めていない。敗北の見込みをメディアが報じた時にはゴルフをしていたが、その後に公の場では発言していない。ツイッターでは自分が圧勝したと主張し、不正選挙だと非難を続けている。
「分断ではなく団結」
バイデン氏はこの夜の演説で、「私は分断するのではなく団結させる大統領になると誓います。赤い州や青い州を見るのではなく、団結した州(合衆国)を見る大統領に、国民全員の信頼を勝ち取るために全身全霊で努力する大統領に」と宣言。
「私はアメリカの魂を取り戻するため、この国の根幹である中流層を立て直すため、アメリカを世界からもう一度尊敬される国にするため、国民を結束させるために大統領に立候補した」と述べた。
また、記録的な投票率となった今回の選挙で、対立候補に投票した人たちには自分も落選したことがあるので「いまどれだけがっかりしているか分かります。けれども、お互いにチャンスをあたえましょう」と述べた。
さらに、双方の支持者に「今は辛らつな物言いをやめて、温度を下げるべきときです。互いに向き合い、互いの言葉を聞くべきときです」、「前に進むため、対抗する相手を敵として扱うのをやめなくてはなりません」と呼びかけた。
今回の大統領選でいまのところ、バイデン氏は得票数約7500万票(得票率約51%)、トランプ氏は得票数約7080万票(得票率約48%)となっている。
バイデン氏はさらに、新型コロナウイルスの対策委員会を発足させ、来年1月の大統領就任直後から、決めたことを実行できるようにすると表明した。
アメリカでは新型ウイルスのパンデミックにより、世界最多の23万7000人以上が亡くなっている。バイデン氏は選挙戦で、新型ウイルスの感染拡大を抑えると強調していた。
「準備できている」とハリス氏
バイデン氏に先立ち、女性、黒人、アジア系アメリカ人として初の次期副大統領となったカマラ・ハリス氏が登壇した。
ハリス氏は、「今回の選挙ではこの選挙では民主主義そのものが問われていました。アメリカの魂そのものが危険にさらされていました。世界中が見守る中、皆さんがアメリカの新時代を招き入れたのです」と演説。
「みなさんは希望、団結、謙虚さ、誠実、そしてそう、真実を選びました」、「みなさんは次期アメリカ大統領にジョー・バイデンを選んだんです」と語りかけた。
そして、「この先の道のりは楽ではないでしょうが、アメリカは準備ができています。ジョーと私も準備ができています」と言葉に力を込めた。
ハリス氏はまた、今回の選挙結果がもたらした歴史的な瞬間についても言及。「私は副大統領になる最初の女性かもしれませんが、最後ではありません。今夜これを見ている全ての小さい女の子が、アメリカは可能性の国だと理解するからです」と述べた。
会場には演説が始まる前から、興奮状態の人々が大勢詰め掛けた。
トランプ氏の反応は
トランプ氏はバイデン氏の当選確実が報じられて以降、公の場で発言していない。ただツイッターで、圧勝したのは自分で、選挙で不正があったとのこれまでの主張を繰り返した。ツイッター社はそれらの投稿に、「異議が唱えられて」いると注意書きを付けた。
トランプ氏は今回の選挙で、米大統領選史上で2番目に多い7000万以上の票を獲得した。
開票作業がまだ続く中、一方的に勝利を宣言。さらに、証拠を示すことなく、集計で不正行為があったと主張した。
バイデン氏の当選確実が報じられた後も、強気の姿勢を維持。バイデン氏について、「不当に勝者として振る舞っている」とし、選挙は「終わりにはほど遠い」と訴えた。
ホワイトハウスはバイデン氏の勝利宣言に先立つ7日夜、「大統領は、自由で公平な選挙の結果を受け入れる」、「トランプ政権はあらゆる法定要件に従っている」との声明を出した。
トランプ陣営は、さまざまな州で裁判を起こしている。
共和党の有力議員らは沈黙している。共和党全国委員会のロナ・マクダニエル委員長は、「選挙の勝者を決めるのはメディアではない、投票者だ」とツイートした。
ただ、トランプ氏に批判的な同党のミット・ロムニー上院議員(2012年大統領選の共和党候補)は、バイデン氏とハリス氏を祝福。ロムニー氏と妻は、「2人が善人で立派な人格の人だと承知している」と述べた。
これからどうなる
大統領選では、米主要メディアなどの「当選確実」を候補者らが受け入れ、敗れた側は敗北宣言をするのが通例だが、トランプ氏は開票結果について争うと表明している。
ジョージア州では再集計が予定されており、トランプ氏はウィスコンシンでも再集計に持ち込みたい考え。選挙不正があった証拠を示さないまま主張しており、連邦最高裁まで争う構えを見せている。
開票結果について争う場合は、まず州裁判所に訴訟を提起する。州裁判所が訴えを認め、再集計を命じた場合、これを不服とする側は連邦最高裁に撤回の決定を求めることができる。
現在もいくつかの州で開票作業は続いており、最終的な認証がなされない限り、公式の確定結果は出ない。確定結果が出るまで、各州とも数週間かかる。
12月14日には、選挙人が大統領選の正式な当選者を決める投票が開かれる。各州はそれまでに、開票結果を確定させる必要がある。
新たな大統領の任期は来年1月20日に始まることが、合衆国憲法で決まっている。 
●バイデン氏、力強く融和語る 「世界で再び尊敬される国に」  11/8 
「世界で再び尊敬される国に」。米国がしばし忘れていた「品位」を取り戻そうとするかのように、融和と結束への決意を繰り返した。米大統領選で7日に勝利宣言を行った民主党のバイデン前副大統領(77)。落ち着きながらも力強い語り口に、分断と対立で疲弊した超大国を背負う覚悟がにじんだ。
会場は地元の東部デラウェア州ウィルミントン。ダークスーツ姿のバイデン氏が小走りで壇上に現れると、車の中などで待ち構えていた支持者の歓声と祝福のクラクションが夜空に響き渡った。
バイデン氏は「分断ではなく、融和を目指すことを誓う」「意見の異なる人を敵とみなすのはやめよう」と訴えた。 

 

●バイデン陣営、政権発足を見据え計画を発表 11/9 
米大統領選の勝利演説から一夜明けた8日、ジョー・バイデン次期大統領の側近チームは、新型ウイルス対策を最優先事項とするなど、新政権発足を見据えた計画を発表した。一方、ドナルド・トランプ大統領は、選挙結果を争う姿勢を取り続けているが、情報の取り扱いについて混乱もみられる。
バイデン氏のチームはこの日、政権移行計画における最初の取り組みを発表。新型ウイルスの検査を無料化して増やすとともに、国民に自宅外でのマスク着用を呼びかけるとした。また、州知事ら各地の自治体当局に、マスク着用の義務化を進めるよう求めるとした。
さらに9日朝には、医療や公衆衛生の専門家を集めてパンデミック対策を助言する諮問グループのメンバーを発表した。米政府当局で新型ウイルスのワクチン開発を主導していたものの、トランプ大統領の対応に懸念を抱き、保健福祉賞監察官に問題を指摘したところ、更迭されたと議会証言していたリック・ブライト氏も諮問グループの一員となった。
この発表から間もなく、米製薬大手ファイザーと独ビオンテック(BioNTech)は9日、治験の予備解析の結果、開発中のワクチンが90%以上の人の感染を防ぐことができることが分かったと発表した。
発表を受けてバイデン陣営は次期大統領の声明を発表。「私の公衆衛生顧問たちは昨夜、この素晴らしい知らせを受けました。この突破口をもたらし、これほど希望を抱ける理由を与えてくれた素晴らしい人たちに、お祝いを申し上げたい。それと同時に、COVID-19との闘いの終わりはまだ数カ月先のことだと理解するのは大事なことです」として、引き続きマスクの着用や社会的距離の維持、手洗いなどの感染対策の重要性を強調した。
アメリカでは7日、新型ウイルスの感染者が3日連続で12万5000人以上確認された。死者も5日連続で1000人を超えた。これまでの死者は23万7000人を超えている。冬の到来とともに、状況の悪化が懸念されている。
バイデン氏はまた、経済、人種差別、気候変動の問題に力を入れて取り組む予定だ。新型ウイルスで大打撃を受けた経済の刺激策を計画。黒人など少数派の住宅事情や待遇、給与などを改善するほか、黒人男性ジョージ・フロイドさんらの死亡事件につながった、警察による首を強く押さえる逮捕手法を禁止することなどを検討している。
一方、ドナルド・トランプ大統領はまだ敗北を認めていない。大統領選のいくつかの重要州ではまだ開票作業が続いており、バイデン氏は「当選確実」の状態のままとなっている。
路線変更の大統領令
バイデン氏は来年1月の大統領就任に向けて、さまざまな計画の策定を進めている。米メディアによると、トランプ政権下で論議を呼んだ諸政策を変更するため、以下のような大統領令も検討しているという。
・地球温暖化対策の国際的な枠組みの「パリ協定」に復帰する。アメリカは4日、同協定を正式に離脱した
・世界保健機関(WHO)から脱退する決定を覆す
・イスラム教徒が多い7カ国からの入国禁止を打ち切る
・子どものときに不法に入国した人を合法移民とみなすバラク・オバマ政権の救済制度(DACA)を復活させる
バイデン氏は7日、次期大統領として初の演説で、今はアメリカを「癒やす時」であり、「分断ではなく結束」させると誓った。また、トランプ支持者らに向けて、「対抗する相手を敵として扱うのをやめなくてはならない」と訴えた。
バイデン氏とカマラ・ハリス次期副大統領は、政権移行のためのウェブサイトを開設している。
選挙不正の主張を継続
一方、トランプ陣営はさまざまな州で、選挙で不正があったとして裁判を起こしている。選挙管理当局は、不正があったことを示す証拠はないとしている。
トランプ氏は8日夕にツイッターで、同日午後8時から右派ラジオ番組に出演し、司会者マーク・レヴィン氏と郵便投票の不正について話をすると発表。しかし、番組に出演することはなかった。
トランプ大統領は7日午前にペンシルヴェニア州フィラデルフィアの「フォーシーズンズ」で「弁護団が大きい記者会見」をするとツイート。その後に、「フォーシーズンズ・トータル・ランドスケーピングで会見する」とツイートし直した。これに対してフォーシーズンズ・ホテルは、この場所は自分たちとはまったく関係がないとツイートした。
トランプ氏の顧問弁護士、ルディ・ジュリアーニ氏たちが会見した場所は結局、「フォーシーズンズ・トータル・ランドスケーピング」という名前の造園会社の駐車場だった。
ブッシュ元大統領がバイデン氏を祝福
そうした中、共和党元大統領のジョージ・W・ブッシュ氏が8日、バイデン氏の当選を祝福した。大統領選が基本的に公正に行われ、結果は明白であることを、アメリカ国民は確信できるとした。同時に、トランプ氏の選挙戦での健闘をたたえた。
ブッシュ政権の大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と国務長官を歴任したコンドリーザ・ライス氏も8日、「ジョー・バイデン次期大統領とカマラ・ハリス次期副大統領、そして記録的な人数で投票して私たちの民主主義の力強さと活力を示したアメリカ人、おめでとう」とツイートした。
しかし、共和党の他の有力者は、選挙結果の受け入れを拒んでいる。連邦下院のケヴィン・マカーシー院内総務は8日の米フォックス・ニュースで、全ての再集計と法廷闘争は最後まで続けられるべきだと主張。「そうなって初めて、アメリカは誰が選挙の勝者かを決める」と述べた。
トランプ陣営の広報担当ティム・マーター氏は同日、ツイッターで、「メディアが大統領を選ぶのではないことを思い出させる」と投稿。一見すると保守系米紙ワシントン・タイムズのものに見える紙面を壁に貼り巡らせた、選対本部の様子と思われる写真を投稿した。
2000年11月8日付となっている紙面には、「ゴア大統領――ゴアが僅差の過半数で勝利」との見出しが出ている。同年の大統領選では、民主党のアル・ゴア候補が共和党のジョージ・W・ブッシュ候補に、法廷闘争の末に敗れた。
しかし、ワシントン・タイムズはツイッターで、こうした紙面を制作したことはないと否定し、写真は加工されたものだとした。その後、マーター氏のツイートは削除された。 
●バイデン氏が米大統領選に勝利 市場関係者はこうみる 11/9 
接戦となった米大統領選は民主党候補のバイデン前副大統領が当選確実となり、共和党候補トランプ大統領の再選を阻んだ。勝利宣言から一夜明けた8日、バイデン氏は新型コロナウイルス危機への対応や大きく分断された社会の修復など緊急の政策課題への取り組みに動き出している。
一方、共和党のトランプ大統領は依然として敗北を認める姿勢を見せず、法廷闘争を進める構えだ。議会の共和党トップも8日の時点でまだバイデン氏の勝利を認めておらず、バイデン氏が来年1月20日の大統領就任後に共和党との連携で困難に直面する可能性を示唆する格好となった。
バイデン新政権の誕生による市場への影響について識者に聞いた。
ドル107円台への反発ありうる 
<大和証券 チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄氏>
米選挙期間を通じた米国の株高やドル安は結局のところ、米国の過剰流動性がもたらしたものだと見ている。当初は民主党政権なら増税で株安との見方が多かったものの、実際にそうはならなかった。カネ余りの下、株式と金利収入が得られる債券は買いたい、というニーズは小さくなかったのだろう。
103円前半まで下落したドルの目先のターゲットは、3月安値の101.18円。業績不振の輸出企業が手元資金確保のために海外資産を一部取り崩したり、コロナ禍で海外企業の買収戦略が見直しを迫られていることに伴う日本発の円買いが、円相場を引き続き押し上げるだろう。
しかし、年末が近づいてきたこともあり、さらにドルを積極的に売り込むのは、投機筋が中心となる公算が大きい。投機の売りは積み上がればその分、将来の買い戻し圧力が強まることになる。ドルは100円割れには至らないだろう。
年内にワクチン開発が成功し、速やかに認可される可能性もある。そうなれば株価は上昇、米金利にも上昇圧力がかかり、ドルを売り込むのは難しくなる。年末に7月高値の107円台まで反発する可能性もあり得るとみている。
自治体への財政支援、信用力支える 
<ティー・ロウ・プライス 債券部門最高投資責任者(CIO) Mark Vaselkiv氏>
バイデン氏は、経済が最も脆弱で、かつ歳入急減により必要な公共サービスの縮減を回避するには支援が必要な、財政悪化に苦しむ州やその他の地方自治体に対する追加的な財政支援に取り組むとみられる。
このことは、地域経済が今後コロナ禍の痛手から立ち直るまでの何年間にもわたって、そうした地方自治体が発行する債券(デット)の信用力を安定させ、支えることにつながる。
米大統領選は民主党候補のバイデン前副大統領が当選確実となり、共和党候補トランプ大統領の再選を阻んだ。一方、トランプ大統領も議会の共和党トップも8日の時点でまだバイデン氏の勝利を認めていない。写真は当確の報を受けて支持者たちの前で快哉を叫ぶバイデン氏(中央)ら。米デラウエア州ウイルミントンで11月8日に撮影。(2020年 ロイター/Jim Bourg)
バイデン氏が掲げる増税については、クレジット(社債)市場よりも株式市場の方により直接的なインパクトがあると考えている。恐らく、巨額の利益を上げている巨大テック企業の株式に最も大きな打撃を与えるだろう。
米企業業績および米国経済は総じて、クリントン、オバマの両政権下においては増税後も拡大を続けており、必ずしも、増税が成長を阻害することにはならないはずだ。
株式、今後の閣僚人事など控え様子見に 
<みずほ証券 シニアテクニカルアナリスト 三浦豊氏>
バイデン氏が当選確実と伝えられ、米株先物は上昇し、日経平均も年初来高値を更新した。トランプ大統領は法廷闘争を続ける意向を示しているが、マーケットは逆転勝利は難しいと捉えており、バイデン氏へのいわゆる「ご祝儀相場」のような状況だ。
ただ、米国株が9月の高値近辺を超えるような動きになってくると、さすがに「いいとこどり相場」の様相が強まり、今後は見極め姿勢が強まるのではないか。
米国の大統領選という一つの大きなイベントが終わり、今後は米国内の新型コロナウイルスの感染状況や、それに伴う経済の先行きに焦点があたる。バイデン政権は新型コロナの抑え込みが最優先の政策になるが、経済活動の停滞や景気回復が鈍化するなど、警戒感は必要だ。
今週中で戻り相場は終わり、その後はバイデン政権の閣僚人事や上下両院のねじれなど、外部環境をにらみながらもみあい相場になると予測する。
日本の懸念は円高、ドル安志向の可能性 
<シティグループ証券 チーフエコノミスト 村嶋帰一氏>
米国は本質的に変わらないだろう。トランプ氏と共和党が予想以上に善戦しており、一致団結は期待しにくい。民主党的な考えと共和党的な考えが交わることはないだろう。分断の状態が続くのではないか。
米議会も「ねじれ」が続く可能性が大きいとみられている。当面は、経済政策面でも増税や環境インフラ投資などバイデン氏の政策がそのまま通ることはなさそうだ。
対中国の姿勢も大きくは変わらないだろう。覇権争いをしている両国であり、人権や先端技術に関して、態度を軟化させるとは考えにくい。
同盟国にさえ関税争いを仕掛ける政権から、国際協調路線の政権に代わることで、日本との関係はひとまずは良好になることが期待される。ただ、環境インフラ投資などバイデン氏の政策がすぐに通らないとみられることから、経済面での日本への影響は当面大きくないだろう。
もっとも影響が出る可能性があるのは為替だ。政策面で手詰まり感が出た場合、一段とドル安志向になる可能性がある。財務長官が誰になるかが注目される。
ただ、1ドル100円を割る程度では、日銀は副作用が大きいマイナス金利の深掘りに動かないとみている。急激に95円まで進むような円高になった際に、深掘りを検討するのではないか。 
●中国、バイデン氏の勝利認めるに至らず 米大統領選 11/9 
中国は9日、米大統領選をめぐり、開票結果が未確定であるとして、勝者としてジョー・バイデン(Joe Biden)氏への祝意表明を差し控える姿勢を示した。
現職のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は敗北を認めておらず、複数の法的措置を講じているが、中国やロシア、メキシコなどを除く多くの国の首脳が、バイデン氏、そして副大統領候補のカマラ・ハリス(Kamala Harris)氏に祝意を伝達している。
4年間のトランプ政権の対中政策では、大きな損失を生んだ貿易戦争とその関係の冷え込みが目立った。また両国は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の責任や、新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)や香港における人権問題などについて、非難の応酬を繰り広げている。
中国外務省の汪文斌(Wang Wenbin)報道官は定例会見で、「バイデン氏が大統領選で勝利宣言をしたことは認識している」と述べる一方で、「選挙結果は米国の法と手続きにのっとって確定すると、われわれは理解している」と話した。
報道陣から繰り返し質問を受けたにもかかわらず、バイデン氏の勝利を認めるに至らなかった汪報道官は、「米国の新政府は、中国と歩み寄れることに期待する」と述べるにとどまった。  
●メラニア夫人も「敗北」促す=トランプ氏は連日ゴルフ―米大統領選 11/9 
バイデン前米副大統領の勝利が確実になった大統領選で、CNNテレビは8日、トランプ大統領のメラニア夫人と娘婿のクシュナー上級顧問が、トランプ氏に「敗北」を受け入れるよう説得していると伝えた。一方、長男ドナルド・ジュニア、次男エリックの両氏は、受け入れ拒否を主張しているといい、身内でも温度差が広がっているもようだ。
トランプ氏は8日、前日に続いて首都郊外のゴルフ場で過ごした。また、ツイッターで「選挙が盗まれた」などと主張する声を引用するとともに、「いつからメディアが次期大統領を決めるようになったんだ」と投稿し、不満を表明した。  

 

●米大統領選挙 勝利宣言のバイデン氏 政権移行に準備加速  11/10 
アメリカ大統領選挙で勝利を宣言した民主党のバイデン前副大統領は差し迫った課題となっている新型コロナウイルスの対策チームを発表したほか、カナダのトルドー首相と電話会談を行うなど、政権移行に向けた準備を加速させています。一方、トランプ大統領は選挙で不正があったとして法廷闘争を続ける姿勢を崩していません。
アメリカ大統領選挙で勝利を宣言した民主党のバイデン前副大統領は9日、新型コロナウイルス対策で助言を行う13人の専門家チームを発表しました。
バイデン氏は「選挙は終わった。われわれはウイルスを倒すという共通の目的で団結する」と述べ、国民に融和を呼びかけました。
その上で、バイデン氏は「誰に投票したかや、党派は関係ない。マスクをしてくれれば何万人もの命を救うことができる」と述べ、マスクの着用などの感染対策の徹底を目指す考えを強調しました。
また、バイデン氏はカナダのトルドー首相と電話で会談し、新型ウイルス対策などに連携して取り組む方針を確認したということで、政権移行に向けた動きを加速させています。
一方、トランプ大統領は、9日、ツイッターでエスパー国防長官の解任を発表しましたが、これまでのところ、公の場に姿を見せていません。
アメリカメディアは、トランプ大統領に任命された連邦政府の部門のトップが政権移行に向けた手続きに必要な文書に署名しておらず、政権移行が遅れるおそれがあると報じていて、不透明感も漂っています。
アメリカの首都ワシントンでは、大統領選挙をめぐる混乱に備えて、建物の窓に木の板が取り付けられていましたが、混乱が起きていないことから板の撤去が進められています。
首都ワシントンでは、大統領選挙をめぐる混乱や、それに便乗した略奪や破壊行為が懸念されたため、投票日を前に、ホワイトハウス近くの多くの建物の窓には木の板が取り付けられました。
しかし、混乱や略奪は起きておらず、行政当局が板を取り外しても問題はないという見解を示したことから、9日、中心部のオフィス街では、板の撤去が進められています。
このうち、カフェなどが入る建物では、作業員が工具を使って板を固定していたネジを外し、1枚ずつ取り外していました。
近くで働く26歳の女性は、「とても安心しました。選挙のあとに何か起きるかもしれないと思い怖かったですが、何も起きなくてよかった」と話していました。
また、近くに住む46歳の男性は、「選挙前は心配していましたが今はとてもリラックスしています。街の中も少しずつ平穏を取り戻してきていると思います」と話していました。 

 

●バイデン氏の勝利は世界にとって何を意味するのか 11/11 
数日間の混迷の末に、米大統領選で野党・民主党のジョー・バイデン次期大統領が当選確実とBBCは報じた。ドナルド・トランプ氏の大統領就任後の4年間で、アメリカと世界との関係は大きく変化した。中国・北京からドイツ・ベルリンに至るまで、世界中で取材するBBCの特派員たちが、バイデン氏の勝利が各国でどのように受け止められているのか、そしてこの勝利がアメリカと主要各国との関係にどのような意味を持つのかを解説する。
中国
ジョン・サドワース特派員は、バイデン氏の勝利は中国の体制に新しい困難を突きつけると説明する。
トランプ氏を見送ることになり、中国は喜んでいると思う人もいるかもしれない。トランプ氏は中国批判の第一人者として貿易戦争を仕掛け、懲罰的な制裁を次々と発表し、新型コロナウイルスのパンデミックの責任を中国に押し付けてきたのだから。しかし、中国首脳陣は密かに残念がっているのではないかと指摘する専門家もいる。トランプ氏の方が良かったというわけではないが、トランプ氏がもう4年間ホワイトハウスにいれば、待ち焦がれていた大きな報酬が手に入るからだ。国内は割れ、外交的には世界から孤立しているアメリカ……トランプ氏こそ、中国がかねて期待するアメリカ衰退を招く張本人になると、中国政府は期待していた。国営テレビの速報は、この論調に終始していた。大統領選そのものよりも、アメリカ各地の抗議運動や対立、そして増え続ける新型ウイルス感染者数について、しきりに報道していた。もちろん中国側も、気候変動などの重要課題について、バイデン氏の協調路線に活路を見い出そうとするだろう。しかしバイデン氏は、アメリカの同盟関係を修復するとも約束している。トランプ氏の単独路線よりもむしろバイデン氏の国際協調路線のほうが、超大国を目指す中国の野心抑制に効果的かもしれない。さらに、民主政治の制約が一切ない中国の政治体制にとっても、バイデン氏の勝利は厄介な問題だ。政権移譲はそれ自体が、アメリカの価値観の衰退どころか、アメリカの価値観の力強さを示すことになるからだ。
インド
カマラ・ハリス次期副大統領は、母親がインド出身だ。インド国内ではこれを誇りに思う人が多いが、インドのナレンドラ・モディ首相に対するバイデン政権の姿勢は、トランプ政権よりも冷ややかなものになるかもしれない。ラジニ・ヴァイディヤナザン特派員が解説する。
インドは長年、アメリカの重要なパートナーだ。両国の基本的な方向性は、バイデン政権になっても変わることはないだろう。南アジア最大の人口を擁するインドは、中国の台頭を抑えるアメリカのインド・太平洋戦略や、世界的なテロとの戦いにおいて重要な同盟国だ。とは言うものの、バイデン氏とモディ首相の個人的な相性は、複雑なものになりそうだ。ムスリムを差別していると言われがちなモディ首相の国内政策について、トランプ氏は特に批判してこなかった。しかし、バイデン氏はそうはいかない。インド政府は昨年8月、実効支配するカシミール州の自治権をはく奪したが、バイデン陣営はウェブサイトで、同州住民全員の復権を要求してい。さらに、ムスリムを差別する「国家市民権登録制度(NRC)」や「インド市民権改正法(CAA)」を批判している。母親がインド人のハリス氏も、インド政府のヒンドゥー国家主義的な政策を批判してきた。それでも、ハリス氏の当選にインドは祝賀ムードに包まれている。チェンナイで生まれ育ったインド人女性の娘が、ホワイトハウスの副官になる。これはインドにとって、とてつもなく誇らしいことなのだ。
朝鮮半島
北朝鮮はかつて、バイデン氏を「狂犬」と呼んだことがある。しかしローラ・ビッカー特派員は、最高指導者の金正恩朝鮮労働党委員長は、次期大統領を怒らせる前に慎重に計算するだろうとみている。
金委員長は、トランプ氏の再選を望んでいただろう。トランプ氏と金氏は、異例の会談を繰り返した。歴史書で映える写真を撮る機会としては素晴らしかったが、中身はほとんどなかった。アメリカも北朝鮮も、求めたものをほとんど獲得できなかった。北朝鮮は核兵器を作り続け、アメリカは厳しい制裁を科し続けた。一方でバイデン氏は北朝鮮に対し、核開発計画を放棄するつもりがあると示すまでは、金氏と会談するつもりなどないと述べている。バイデン陣営がかなり早い時期に北朝鮮との会談に着手しなければ、両国関係には「炎と激怒」の日々が戻ってくると、多くの専門家が考えている。金氏は、長距離ミサイル実験を再開してアメリカ政府の気を引こうと思うかもしれない。しかし、ただでさえ貧困にあえぐ自国が追加制裁を受けるほどの事態まで、緊張を高めようとは思っていないだろう。一方の韓国はすでに、北朝鮮に挑発的な態度を取らないよう警告している。韓国はトランプ氏と関わり続けるため、大変な思いをしたかもしれない。しかし文在寅(ムン・ジェイン)大統領は70年にわたる朝鮮半島の戦争の終結に意欲的で、米朝会談を「勇気ある行動」と評価していた。バイデン氏に果たして金委員長と会談するつもりがあるのか、韓国はこれから慎重に見極めることになる。
イギリス
ジェシカ・パーカー政治担当編集委員によると、バイデン政権では英米の「特別な関係」の重要性が格下げされてしまうかもしれない。
民主党のベテラン政治家バイデン氏と、イギリスの欧州連合(EU)離脱を推進した、何かと大げさなボリス・ジョンソン英首相。この2人が仲良くなって当たり前とは、誰も思わないはずだ。今後の関係がどうなるかについて知るには、まず過去を見てみるといいだろう。特にトランプ氏が大統領選に勝利し、イギリスが国民投票でブレグジット(イギリスのEU離脱)を決めた2016年を。当時、副大統領だったバイデン氏とバラク・オバマ前大統領は、ブレグジットは否決が好ましいと、態度を鮮明にしていた。英政府の最近の動きを、米民主党幹部や米アイルランド系ロビー団体は決して歓迎していない。ここで言う民主党幹部には、バイデン氏も含まれる。バイデン氏は、自分が大統領になった場合、北アイルランド和平が「ブレグジットの犠牲」になる事態は決して許さないと表明。北アイルランドの和平を決めた「ベルファスト合意」が尊重されなければ、将来的な英米通商協定は結べないとも述べていた。加えて、トランプ氏はかつてジョンソン首相を「イギリスのトランプ」と呼んだことがある。バイデン氏もこれには同意しているようで、ジョンソン首相をトランプ氏の「肉体的、そして感情的なクローン」と呼んだことがあるという。つまり、バイデン氏はイギリスよりもEUやドイツ、フランスとの対話に積極的になる可能性があるということだ。「特別な関係」はレベルダウンしてしまいそうだ。一方で、バイデン氏とジョンソン氏にも一定の共通項は見つかるかもしれない。特に安全保障や情報面の面で、両国は深く結びついてきた。ジョンソン首相は10日、バイデン氏の当選を祝う電話の中で、英米の「パートナーップ強化」を楽しみにしていると伝えた。さらに、イギリスとアイルランドの和平合意「ベルファスト合意」がブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)によって損なわれないことを保証した。バイデン陣営はこれに対して、ジョンソン首相がベルファスト合意への支持を再度断言したと発表。英米の「特別な関係」を強化し、公衆衛生上の安全保障や民主主義の推進といった懸念事項で「協力をより強化する」ことに意欲を示したと述べた。
ロシア
バイデン氏の勝利でアメリカ政府の動きは予測しやすくなった。ロシアにとってのせめてもの朗報は、これくらいかもしれないと、スティーヴン・ローゼンバーグ特派員は指摘する。
バイデン氏は最近ロシアのことを、アメリカにとって「最大の脅威」と呼んだ。ロシア政府はもちろんこれを、明確に聞き取っている。ロシア政府は記憶力も良い。2011年に副大統領だったバイデン氏は、もし自分がウラジミール・プーチン大統領だったら再出馬しない、それは国のためにも自身のためにもならないと話していた。プーチン大統領はこれを忘れていないだろう。バイデン氏とプーチン氏の相性は決して良くない。バイデン政権になれば圧力と制裁が増えるだろうと、ロシア政府は懸念している。ロシア政府は2016年米大統領選に介入し、民主党候補だったヒラリー・クリントン候補の当選を妨害しようとしたと言われている。あらためて民主党政権が発足したあかつきには、ロシアは4年前のつけを払われるのだろうか?トランプ政権下で米ロ関係は「海底まで」低下したと、ロシアの地元紙は最近書いた。その記事はバイデン氏のことを、海底から「さらに深堀り」する「浚渫(しゅんせつ)船」と描写した。ロシア政府もさぞかし落ち込んでいることだろう。一方で、ロシアにとってはせめてもの朗報もある。ロシアの有識者の間では、少なくともバイデン政権はトランプ政権よりは予測しやすいはずだと言われているからだ。たとえば、来年2月に期限が切れる米ロ間の新戦略兵器削減条約(NEW START)などの重要課題について、バイデン政権の方が合意形成はしやすくなるかもしれない。ロシア政府はトランプ時代から先へ進み、新しいホワイトハウスとは一緒になって仕事ができる関係性を築こうとするだろう。成功する保証は全くないが。
ドイツ
ドイツにとってアメリカは重要な友好国だ。トランプ氏がホワイトハウスを去った後には、かつての順風満帆な関係に戻りたいとドイツは願っているはずだとデイミアン・マクギネス特派員は見ている。
今回の結果に、ドイツはほっと胸をなでおろしている。米ピュー研究所の調査によると、トランプ氏の外交政策を信頼していると答えたドイツ人はわずか10%だった。世界13カ国での世論調査で、トランプ氏の不人気はドイツで特に顕著だった。ドイツでは、ロシアのプーチン氏や中国の習近平国家主席の支持率の方が、トランプ氏より高かった。トランプ氏はドイツが経済的に依存している自由貿易を妨害し、多国籍機関を解体させたとして非難を浴びている。中国との貿易戦争でドイツの輸出業者を不安にさせたほか、アンゲラ・メルケル独首相との関係が最悪だったことはよく知られている。トランプ氏とメルケル氏ほど、倫理観や性格がかけ離れている首脳同士は、なかなか想像しにくい。ドイツの政治家や有権者は、トランプ氏の傲慢で無礼な態度や事実軽視の態度、そして度重なるドイツの自動車業界への攻撃にショックを受けた。それでもアメリカはドイツの最大の貿易相手で、両国関係は欧州の安全保障にとって不可欠だ。それだけに、トランプ政権との関係は困難続きだった。トランプ氏が大統領選の開票を止めるよう求めたり、選挙に不正があるという立証されていない主張を重ねていることを、ドイツの複数の閣僚が非難している。アンネグレート・クランプ=カレンバウアー国防相は、現状を「一触即発」だと評している。とは言うものの、たとえバイデン政権になっても、さまざまな政策をめぐる両国の食い違いがなくなるわけではない。それはメルケル政権も気づいている。しかし、ドイツ政府は、多極間協力を重視する米大統領とのやり取りを楽しみにしている。メルケル氏は10日の演説で、長年の知己のバイデン氏が当選したことを祝福し、内政や外交の長年の経験を称賛。「ドイツと欧州をよく知っている」と歓迎し、バイデン政権のアメリカは気候変動やパンでミック、テロや通商など重要課題について、欧州と協力しながら取り組むだろうと述べた。また、カマラ・ハリス次期副大統領とも早く会って知り合いになりたいと期待を示した。
イラン
BBCペルシャ語のカスラ・ナジ特派員は、バイデン氏勝利によってイランは再び交渉の席に着くことができるかもしれないと指摘した。
トランプ氏は米大統領選の数週間前、再選の暁に最初に電話してくるのはイランの首脳で、交渉のお願いをしてくるはずだと、いささか楽観的に語っていた。もしトランプ氏が勝利していたとしても、そんな電話は絶対にかかって来なかっただろう。イランがトランプ政権と交渉するのは、あまりにも屈辱的で不可能なことだ。トランプ政権がイランに科した制裁と最大限の圧力によって、イランは経済崩壊の寸前に追い込まれた。トランプ氏はイランとの核合意から離脱した。さらに悪いことにトランプ氏は、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の近しい友人だったイラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官の殺害を命じた。イランの強硬派にとって、ソレイマニ将軍殺害の報復はなお最優先事項となっている。バイデン氏が当選確実になったことで、イラン政府ははるかに交渉の席に着きやすくなった。トランプ氏に対するようなわだかまりを、イラン政府はバイデン次期大統領には抱いていない。しかもバイデン氏は、外交を通じてイランとの核合意にも復帰したい考えだ。しかしイランの強硬派はそうそう簡単に交渉には応じないはずだ。米大統領選の3日、ハメネイ師はこの選挙がイランの政策に与える影響は「全くない」と発言。「イランは米政府の性質が変わっても影響されないような、計算された妥当な政策を取ってきた」と述べている。しかし、イラン国民の多くは、そうは思っていない。自分の将来は米大統領選の結果次第だと思うからこそ、数百万人が違法の衛星放送で選挙の行方を静かに見守ったし、バイデン氏当選による制裁緩和を期待しているのだ。
イスラエル
トム・ベイトマン特派員によると、トランプ氏の中東政策の大半がリセットされると多くのイスラエル国民は予想している。
トランプ氏は中東で、アメリカの伝統的な味方を徹底的に応援する一方で、敵対するイランを徹底的に孤立させようとした。両極に対してそれぞれ、徹底的な対応をしたわけだ。これに対してバイデン次期大統領は、オバマ政権の中東政策に立ち返ろうとするだろう。イランに対するトランプ政権の「最大限の圧力」政策を緩和し、2年前に離脱した2015年核合意に復帰しようとするはずだ。イスラエルやサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸国にとっては、恐ろしい展開となる。イスラエルの閣僚の1人はバイデン氏当選確実の事態を受けて、「我々は行動に打って出るしかなくなる。その結果、イランとイスラエルの暴力的な対決につながる」という見方を示した。バイデン氏の勝利により、アメリカのイスラエル・パレスチナ問題へのアプローチも劇的に変わる。トランプ氏はイスラエルに大いに肩入れし、イスラエルが実効支配するヨルダン川西岸について併合の機会を与えようとしているとみられていた。この方針は後に棚上げされ、最近ではイスラエルとアラブ諸国の歴史的な国交正常化を仲介する方法に切り替わっていた。中東地域の関係「正常化」推進は、バイデン政権でも続く可能性がある。しかし、バイデン氏は批判の多い湾岸諸国への武器輸出を減速させるかもしれないし、おそらくイスラエルにはこれまで以上の譲歩を求めるだろう。イスラエルによるヨルダン川西岸併合の見通しは完全になくなったようだし、バイデン氏はイスラエルによる入植地での建物建設推進にも反対するだろう。一方で、パレスチナ自治政府が求める「完全なUターン」にはならない。アメリカ政府の言い分は伝統的な「二国家解決」の文脈に戻るが、瀕死状態のイスラエル・パレスチナ和平に大きな進展が出る見通しはほとんどない。 
●バイデンの米大統領選「勝利」は、日本経済にプラスかマイナスか 11/11 
米大統領選の投票が終了した。現状ではジョー・バイデン氏が有利だが、長引く可能性もある(編集部注:11月7日にバイデン候補の当選が確実となったが、トランプ大統領は結果の受け入れを拒否している)。アメリカはもちろん、日本の行く末も左右する重要な節目となるだろう。
2017年のドナルド・トランプ大統領の誕生で、アメリカの国際的な立ち位置は大きく変わった。従来のアメリカは、圧倒的な経済力と軍事力を背景に、善くも悪くも国際社会をリードしてきた。共和党と民主党で多少のスタンスの違いはあったが、フランクリン・ルーズベルト(32代、在任期間1933〜45年)以降、同国が世界のリーダーとして振る舞う方針に異を唱える大統領は存在しなかった。
だが、トランプ氏はアメリカ・ファーストを掲げ、一気に自国中心主義に舵を切った。中国からの輸入に高関税を課し、事実上の貿易戦争を行うとともに、欧州や日本に対しても多国間交渉より2国間交渉を優先するなど、自由貿易主義からは距離を置く姿勢を鮮明にしている。
各国はトランプ氏の奇抜な言動もあり、アメリカの変化に驚いたが、もともとアメリカはモンロー主義(欧州との相互不干渉)を掲げていた孤立主義的な国家であることを考えると、昔の姿に戻っただけとも言える。
だが、経済のIT化やグローバル化が進み、脱炭素が国際的なコンセンサスとなりつつある今、アメリカが国際社会に背を向け、石油依存を続けることになれば、国際社会のパワーバランスが大きく崩れるのは間違いない。このままトランプ政権が続いた場合、世界は米国圏、中華圏、欧州圏の3つに分断される可能性が高く、アメリカとの同盟関係を軸に、自由貿易のメリットを最大限享受してきた日本は変化を迫られることになる。
トランプ氏が勝利した場合、減税を軸にした経済政策が続き、中国との貿易戦争も激化する可能性が高い。短期的には現状維持なので株価にはプラスだろうが、中国との分断が進むので、中国を経由した日本の対米輸出はさらに減少する。日本の製造業という観点では、トランプ政権の継続はマイナス面が大きい。
一方、バイデン氏は自由貿易体制への復帰や雇用回復を公約に掲げている。7000億ドルを投じて製造業を支援するとともに、4年間で1000万人規模の雇用を創出するとしている。再生可能エネルギー分野に4年間で2兆ドルの投資を行うほか、国民皆保険制度であるオバマケアを拡充し、低所得者や高齢者向けの公的支援も拡大する方針だ。
一連の施策には巨額の財源が必要となり、場合によっては増税が行われるので、短期的には株価にマイナスだが、長期的には中間層の消費が回復し、持続的な成長が期待できる。従来と同様、製造業の輸出を軸に日本経済を回していくのであれば、自由貿易体制の維持を掲げるバイデン氏のほうがメリットが大きい。
この原稿を書いている11月4日時点では最終的な結果は判明していないが、トランプ氏が再選された場合、世界経済のブロック化が相当なレベルまで進むと考えられる。バイデン氏が勝利すれば製造業は一息つけるだろうが、他国の選挙に自国産業が振り回されるのは望ましいことではない。
どちらが勝つにせよ、輸出依存の体制を見直すタイミングが到来しているのは間違いなく、アメリカがさらに孤立主義に傾いても大丈夫なよう、日本は内需主導型経済への転換を急ぐべきだろう。 

 

●トランプ氏、記者団への発言なし…バイデン氏勝利確実後初の公式行事 11/12 
米大統領選で勝利を確実にした民主党のジョー・バイデン前副大統領は「退役軍人の日」の11日、ペンシルベニア州で開かれた記念式典に出席した。ツイッターで、退役軍人らに向けたメッセージを発信し、「あなた方の犠牲に敬意を表し、奉仕を理解し、皆さんが勇敢に戦って守った価値観を決して裏切らない最高司令官になる」と強調した。
11日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、退役軍人の日の記念式典に出席するバイデン氏とジル夫人(右)=AFP時事11日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、退役軍人の日の記念式典に出席するバイデン氏とジル夫人(右)=AFP時事
バイデン氏は大統領選中の9月、トランプ氏が米兵の戦没者を「負け犬」と呼んだなどとする疑惑が報じられた際、「もし兵士に敬意を示さないなら、彼らを率いる資格はない」と非難した。その後もたびたび疑惑を取り上げていた。トランプ氏との違いを印象付ける狙いもあり、全米で退役軍人をたたえる日にあわせて次期最高司令官としての決意を明確に打ち出したとみられる。
11日、米ワシントン郊外のアーリントン墓地で記念式典に出席するトランプ大統領(ロイター)11日、米ワシントン郊外のアーリントン墓地で記念式典に出席するトランプ大統領(ロイター)
一方、トランプ大統領は、ペンス副大統領とともに、ワシントン郊外のアーリントン墓地を訪問し、記念式典に出席した。バイデン氏の勝利が7日に確実になって以降、トランプ氏が公の行事に参加するのは初めてだが、記者団への発言はなかった。
トランプ氏は大統領選で不正があったとして、敗北を認めず、法廷闘争を続けている。この日のツイッターの投稿でも「我々は勝利する」と訴えた。 
●米共和党全国委員長、大統領選のバイデン氏勝利を示唆するツイート 11/12 
米共和党全国委員会(RNC)のロナ・マクダニエル委員長は11日、トランプ大統領の選挙敗北を認めたかのようなツイートを投稿した。
マクダニエル氏は、民主党が上院の過半数議席を獲得する可能性について言及。「民主党が上院を支配した場合」との書き出しで各委員会の委員長に誰が就くかの予想を列挙し、ジョージア州で来年1月に行われる2組の上院選決選投票で民主党が勝利すれば「カマラ・ハリス氏が決定票を握る」と書き込んだ。
上院が賛否同数となってハリス氏が決定票を投じるという状況は、同氏が副大統領となっている場合のみ。つまり、その時の大統領はトランプ氏ではなく、バイデン氏が就任していることを意味する。
マクダニエル氏は当該ツイートを数時間後に削除した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 



2020/11