「国難」 とんずら総理

2017年 詭弁 「国難」解散
税金 時間 無駄遣いしました

本当の 「国難」 
コロナ第二波 到来の危機
日本漂流 旗を振らない 国のリーダー 

とんずら総理 国会閉じたまま
自民党公明党 マスコミ 黙認ですか 不思議な ・・・ 国
 


冥途の飛脚夕つげ鳥阿呆鳥とんずらむしずがはしる・・・
総理の動向 / 2020/8月7月6月5月4月3月2月1月 ・・・ 2019年2018年2017年・・・
新型コロナ分科会黒川弘務山口敬之・・・
黒川検事長500万円賄賂疑惑・・・
 
 
 

 

●冥途の飛脚
予備費 10兆円懐に
「冥途の飛脚」 よろしく
   「めでたいと申そふか、お名残り惜しいと申そふか、千日云ふてもつきぬこと」
   「エ、その千日が迷惑」と、ゆふつげ鳥に別れ行く、
   栄耀栄華も人の金、果は砂場を打過ぎて、
   跡は野となれ大和路や、足に任せて ・・・  
とんずら総理と あっきー
越後屋の遊女梅川に通い詰める大阪・淡路町の飛脚問屋の養子忠兵衛。江戸から届いた武家屋敷に届けるはずの三百両の為替金を持ったまま梅川に逢いに行きました。そこで、友人八右衛門が、金を貸している忠兵衛の行く末を案じ、店の人達に忠兵衛を店に寄せ付けないように頼んでいました。それを外で立ち聞きしていた忠兵衛は、八右衛門が自分の悪口を梅川に言っているものと思い違いし逆上し、懐の為替金の封印を切ってしまい、その金で梅川を身請けしてしまいました。公金を横領したからには死罪です。はじめは喜んだ 梅川も真相を聞き、二人は手をとって、生きるだけ生きよう添えるだけ添い遂げようと忠兵衛の生まれ故郷、新口村へ逃げてゆきます。
ミナミの 道頓堀には墓地(千日墓地)も造られた。大阪での市中引き回しの刑は、牢獄から千日前刑場までを引き回した。途中、三度休憩場所があり、三度目の休憩場所から「三休橋」と名付けられた。千日前刑場は、法善寺の少し南、千日前通を渡ったところ。今のサウナビルの前が首切り場で、家電量販店の前にさらし首が置かれていた。角座の二階の楽屋の窓からさらし首が見えたとの証言が残っている。千日前の語源は、法善寺(別名・千日寺)の門前だから。ミナミにはたくさんのお寺が集まり「お寺文化」の町だったが、ほとんど廃寺となり、三ツ寺(三津寺)と法善寺しか残っていない。
封印切の中で周囲に「めでたいと申そうか、お名残惜しいと申そうか、千日言うても尽きぬこと」と声をかけられるのに対して忠兵衛が「その千日が迷惑」とこたえます。千日=千日前刑場を連想した忠兵衛は不吉な予感がして「迷惑」といった訳です。  
●夕つげ鳥 

 

   花の都は夜をこめて、逢坂の、ああこりゃこりゃ
   夕つげ鳥に送られて、こちや、名残をしくも、大津まで、こちやえ、こちやえ。
これは東海道五十三次の道中歌で、「下り唄」の最初、京都を立って逢坂山を越えて大津に至るときの歌である。夕つげ鳥は夕告鳥とも書くが、その鳥に送られて、といっても、夜間に歩くのではないのだろう。夕告鳥は、もとは「ゆふつけ鳥(木綿着け鳥)」といっていたのを、夕方を告げる鳥と解釈されてできた言葉だと辞書の説明にある。
平安時代の初め、世の中の騒がしいときに公の行事として「四境の祭」が行なわれ、鶏に木綿を付けて都の東西南北の境に至って祭った、ということが「伊勢参宮名所図会」に書かれる。四方から悪霊が入り込まぬようにお祓いをするということなのだろう。鶏なので鳴いたのはやはり暁だろうと思う。
鶏に付けた木綿とは、注連縄(しめなわ)に下げたりする木綿紙垂のことだろう。鶏には悪霊を退散させる力があるのである。「こぶとりじいさん」の出逢った鬼たちも、鶏の鳴き声とともに帰っていった。
四方の関とは、東は逢坂山、北は有乳山(若狭路)、南は龍田(大和)とあり、西の穴生とはどこなのかちょっとわからない。  (谷川健一氏の本に、「北は逢坂、東は鈴鹿、南は龍田、西は須磨」とも書かれる)
   たがみそぎゆふつげ鳥かからごろも 龍田の山におりはえて鳴く 大和物語
龍田山でゆふつけ鶏の鳴く声を聞いて、誰の禊(みそぎ)だろうと歌っている。公のお祓いだけでなく、個人の行事としてもあったことがうかがえる。百人一首にも清少納言の歌がある。
   夜をこめて鶏のそら音ははかるとも、世に逢坂の関は許さじ  清少納言
(史記では孟嘗君が真夜中に鶏の鳴き声を真似させて函谷関を開けさせたといいますが、たとえそんなことをしても、男女が逢うという逢坂の関は、お通しすることはできません。……夜に男の誘いを断るときの機知の歌であるという)
逢坂山でも実際に鶏は鳴いたのである。
   逢坂は人越しやすき関なれど 鶏も鳴かねば明けて待つかな  行成
さて「木綿着鳥は京都四境の祭の牲(ニエ)なり」と地名辞書にあるが、柳田国男翁が鶏について語ったときよくそういった話が出てくる。 
●阿呆鳥 

 

近松門左衛門の「世話浄瑠璃」である『冥途の飛脚』には義理人情は描かれているのでしょうか。世話浄瑠璃は当時の身近な事件を題材にしているのですから、当時の人々の好奇心を満たすに十分だったことは想像に難くありません。ここにはたしかに事件が描かれています。でもこれは義理人情の話なのでしょうか。江戸の民衆はそんな風に受け取ったかもしれないし、そんな風に受け取りたかったのかもしれません。たぶんそうなのでしょう。でも、それにしては作者の近松門左衛門はずいぶん冷淡です。近松の世話物に接すれば接するほど、そう思わざるを得ません。主人公にそれほどの思い入れがあるとも思えません。近松は、罪人となってしまうであろう主人公に犯罪を犯す深い理由を与えもしないし、結局のところ、主人公を救い出そうともしません。放ったらかしです。『冥途の飛脚』でもそれは顕著だし、とりわけ際立っています。後の作者によって近松の浄瑠璃が改作されたのは、当時の凡庸な戯作者たちが、たぶんその点をどう考えればよいのかわからず、もっとコマーシャリズムの御涙頂戴のほうがいいのではないかと思ったからだと思います。無理もありません、と言えばいいのでしょうか。たぶんそのほうが受けたというのはたしかでしょう。いつの時代もそういった消息は変わりません。『冥途の飛脚』をもとにした『傾城恋飛脚』はそんな風にして改作された作品だと思われます。だけど一方、原作者である近松自身には、なんというか、頑固一徹な厳しさのようなものがあったと思います。
『冥途の飛脚』の主人公である忠兵衛は、どこにでもいるような、いいかげんなヤサ男です。養子になった飛脚問屋でそれなりにうまく商売をやっています。それから、人並みに手広くやっている大坂の商人なら珍しくはなかったはずですが、廓遊びにも通います。そこで好きになった傾城、遊女が梅川という女性です。そして、これまたご多分に洩れず、忠兵衛は梅川を身請けしたいと考えます。これは恋なのでしょうか。たぶんそうなのでしょう。しかし近松門左衛門はそのへんの事情をまったく詳(つまび)らかにしません。そして、これまた珍しくないことですが、廓遊びのせいで忠兵衛は金に困るのです。そのあげく、梅川を身請けするために、飛脚の日々の仕事で預かった人の銀子をちょろまかすという「封印切」をやらかしてしまうのです。これは獄門に値する犯罪です。死罪です。しかし近松はこの忠兵衛の犯罪の裏側について、誰にでも覚えがあるようで、しかし不条理な心情については何も語ろうとはしません。なぜ忠兵衛が、前後の見境もなく、身を持ち崩すほどキレてしまい、そのあげく封印切をしてしまうのかを。たしかにキレる前から、忠兵衛はふらふらしていました。あっちに行こうか、こっちに行こうか。その後の、逮捕をまぬがれるための死出の道行きも珍しくはありません。梅川のほうがむしろ毅然としています。もし浄瑠璃の大夫の声が聞こえていないならば、物語は平板であるとしか思えません。何ということでしょう。近松は最後まであくまでも冷淡なままなのです。作家として、ほとんど何の感情移入もありません。これは、物を書けばわかるのですが、作家としてはかなり異常なことです。主人公である忠兵衛は最後までうろうろしたままです。「一度は思案二度は無思案(ぶしあん)、三度飛脚。戻れば合はせて六道の、冥途の飛脚と」。うろうろする忠兵衛について、そうなる前から、近松はこんな風に不吉なこともさらりと書いてのけています。忠兵衛には未来はなかったかのようなのです。
物語? 近松は、事実にほかならないエピソードを積み重ね、物語をなぞることによって、少なくとも物語の箍(たが)を外しにかかっています。この場合の物語という言葉は、外国語がそうであるように、歴史という意味であり、歴史という言葉と同義です。歴史にはもはや教訓など見出すすべはないと言っているみたいです。歴史には義理人情の入る余地はないのだ、と。世話浄瑠璃と時代浄瑠璃がことさらに違いを強調するかのように設定された理由はこのへんにあるのでしょう。その意味において、以前この文楽かんげき日誌で述べたように、近松はその度し難さにおいて、リアリストなのだと思います。リアリズムと言っても、いろんなリアリストがいるし、ここではたいして意味はありません。それよりももっと先に進んで考えれば、一見、ただ事実をなぞるような近松の見事な筆致において、歴史=物語は破綻するのです。破綻という言葉が強すぎるなら、物語の綻(ほころ)びと言い換えてもいいでしょう。ともあれ、このいきさつは、人を考え込まさせるものを持っています。物語のなかの物語の破綻などつゆ知らない江戸時代に、近松はそれをやっているとしか思えません。虚なのか、実なのか。近松自身が言うとおり、虚実は薄い膜で隔てられているだけなのです。
近松門左衛門という人は特異な人です。あの時代、作家としてのあの境遇にして、不思議な人です。これほどの文章家なのに、ロマンチシズムに傾くこともありません。文章は第一級です。これは現代の作家、ジャーナリストその他の書生たち、私自身を含めて、見習わなければならないことでしょう。現代作家たちよ、精進あるのみです。皮肉な近松はそう言っているかのようです。心せよ、現代作家ども! そうでないなら、作家など何ほどのものでしょう。忠兵衛と同じように、ただのいいかげんな穀潰しです。
余談にもならない脱線ですが、この作品に「鳥」がしばし出てくるのが妙に気にかかりました。やはり近松は凄腕の文章家です。
「封印切の段」はこんな風に始まります。
「ゑいゑいゑい烏がな烏がな、浮気烏が月夜も闇も、首尾を求めてな、逢はう逢はうとさ 青編笠の紅葉して、炭火仄(ほの)めく夕べまで思ひ思ひの恋風や、恋と哀れは種一つ、梅芳しく松高き、位はよしや引締めて哀れ深きは見世女郎…」。
烏の鳴き声である「逢はう」は、「阿呆」に聞こえます。近松は忠兵衛を阿呆だとさらりと言ってのけているのです。
今回の公演では上演されなかった近松の原作の最後の段の最後は、こんな風に終わっています。
「腰の手拭、引絞りめんない千鳥百千鳥、鳴くは梅川川千鳥水の流と身の行方。恋に沈みし浮名のみ難波に。残し留まりし」。
またしても鳥です。鳥は水の上に浮かんでいます。目の見えない鳥、夜の鳥は、難波のほうに向かって鳴いているのでしょうか。鳥を殺さないで下さい、と言っているのでしょうか。
難波といえば、こんなことも浄瑠璃にあります。
「めでたいと申さうか、お名残惜しいと申さうか、千日言ふても尽きぬこと」
「その千日が迷惑」
迷惑なのは獄門に処せられる恐れがあるからです。千日は迷惑。迷惑どころではありません。つまり千日前の処刑場に引っ立てられたくはないということです。さるにても、現在の大阪の文楽劇場がかつて処刑場のあった千日前からさほど遠からぬところにあるのは、偶然なのでしょうか。偶然ではないと言いたくなります。
自らの死期を悟った近松門左衛門は、ある日、辞世文をしたためました。そこにはこんなことが記されていました。
「代々甲冑の家に生まれながら、武林を離れ、三槐九卿につかへ、咫尺(しせき)し奉りて寸爵なく、市井に漂て商買しらず、隠に似て隠にあらず、賢に似て賢ならず、ものしりに似て何もしらず、世のまがいもの、からの大和の教ある道々、妓能、雑芸、滑稽の類まで、しらぬ事なげに、口にまかせ、筆にはしらせ、一生を囀りちらし、今はの際にいふべく、おもふべき真の一大事は、一字半言もなき倒惑、こころに心の恥をおほひて…」。
先祖代々の武家に生まれながら、武士の世界を捨て、身分ある公卿たちに身近に仕えても、何の身分もなく、庶民のあいだで呑気に暮らしても、商売も知らず、隠者のようで隠者でなく、賢者のようで賢者でなく、物知りのようで物知りでなく、世の中によくいるできそこないである、唐や大和の教えであるさまざまな学問、芸能、いろんな芸、お笑いの類いにいたるまで、知らないことはないとでもいうように、口からでまかせ、筆の走るままに書き散らし、一生、喋り散らしてきたが、今際の際に言わねばならぬ、考えねばならぬ、ほんとうに大事なことは、ほんの少しの言葉もなくて当惑するばかり、心中ひそかに恥じ入っている…。
この辞世文をどう受け取ればいいのでしょう。私でなくても、少しは唖然としてしまいます。もちろん、これは自戒や反省などではありません。そんな風に考えるのは馬鹿げています。近松ほどの作家がこの場に及んで中学生の作文のようなものを書くはずがありません。文章もやはり見事です。しかも自嘲ですらないと思います。もっと潔い感じすらします。なんとも近松門左衛門は複雑です。近松には何かしら激しさと言えるものがあると思います。私には彼が怒っているようにも思えます。この激しさとはいったい何なのでしょうか。
その後、「それでも辞世は?」と問う人があれば、こう詠んでおきましょう、とあります。どんでん返しです。人を食っています。
「それぞ辞世 去ほどに扨(さて)もそののちに 残る桜が花しにほはば」
すべてが終わって、それでも桜の花の香りがするならば、それこそが辞世である。
つまり自分の書いた浄瑠璃が残っていれば、それこそが辞世であり、それだけが辞世なのだ、ということなのでしょう。マルクスの言い方を借りれば、「近松は言った、そして魂を救った」です。ずいぶんな辞世です。これは、自分は浄瑠璃を命がけで書いたのだ、自分の書いた作品すべてが辞世と言えるものだ、という自負なのでしょうか。しかし最後にはこうあります。
「のこれとはおもふもおろか うづみ火の けぬまあだなる くち木がきして」
口の端も乾かぬうちに、近松は言います。埋もれ火の消えない間に、朽ちた木に彫った浄瑠璃が残ってほしいなどと心に思うのは、愚かなことである、と。
自分の浄瑠璃作品が、それでも後世に伝えられたいなどと思うのは愚か者の考えである。……! なんとも言いようがありません。かっこいいでは済みません。これが畢生の作家が書いた第一級の辞世であるとしなければ、なんなのでしょう。そういうわけで、私は近松門左衛門のファンであることを認めないわけにはいかないのです。  
●とんずら 

 

逃げることをいう俗語。犯罪を犯した者が逃げる場合などに特に用いられる。以下を組み合わせた合成語である。とん - 遁(とん)、逃げることを意味する。遁走など。ずら - ずらかる、逃げ出すことを意味する俗語。
《「とん」は遁、「ずら」は「ずらかる」の略》逃げること。ずらかること。「当番をさぼってとんずらする」
〔「とん」は遁走、「ずら」はずらかるの意から〕 逃げることをいう俗語。 「風をくらって−する」
トンズラとは、逃げることを言う俗語。遁走の「とん」に、ずらかるの「ずら」を続けた言葉と言われる。犯罪者組合の規定では、「ずらかる」は犯行現場から立ち去る正式な方法だが、「トンズラ」は組合の義理を欠いたり面目を失ったりして逃げることで、「あの野郎、トンズラしやがった」などと仲間内でなじられる逃げ方を言う。 
●むしずがはしる    
虫唾(虫酸)が走るの「虫唾(虫酸)」とは、吐き気をもよおしたときなどに口に逆流する胃液を、「虫のよだれ(虫唾)」あるいは「虫が出す酸っぱい液体(虫酸)」と表現したものらしい。 したがって、「虫唾(虫酸)が走る」とは、吐き気がするほど不快でたまらないという意味の例えである。
胸がむかむかするほど不快である。「顔を見ただけで―・る」
吐き気がするほど不快でたまらない。 「声を聞くだけで−・る」
非常に不快であること。「虫酸が走る」は、非常に不快な気持ちになることや、胸がむかむかして嫌でたまらなくなることを表すことわざです。吐き気を催すような、非常に強い嫌悪感を意味する言葉なので、日常的に感じるような不快さを表現するときには使用しません。「虫唾が走る」と書くこともできます。
腹がへって、むしずが口の中に逆流する。※黄表紙・啌多雁取帳(1783)「金十も物も食はずに飛びあるきし故、虫唾(ムシズ)も走りしまひ」。口中にむしずが出て、吐き気を催す。多く、ひどく忌み嫌うたとえにいう。 ※浄瑠璃・菅原伝授手習鑑(1746)三「わが頬構(つらがまへ)を見る度々にゲイゲイと虫唾(ムシズ)が出る」。 ※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)初「思ひだしてもむしづがはしる」。
「胸がむかむかするほど不快になる」で、吐き気を催してしまうくらい強い嫌悪感がニュアンスとして含まれています。「空腹から不快な酸っぱい胃酸が口の中に逆流する」という意味もありますが、「胸がむかむかするほど不快」の意味合いで使われる方が多いです。「虫酸」と「虫唾」の2つの漢字表記があるのには、異なる語源が関係しています。「むしず・むしづ」は“胃酸過多によって胃から口に上がってくる酸っぱい液”を指し、「走る」はこのことわざでは“口に出てくること”を表しています。この“酸っぱい液”には、“寄生虫によって生じた液”と考えた「虫の酸」と、“胃の中に寄生している虫の唾液”と考えた「虫の唾」という2つの説があり、これが「虫酸」と「虫唾」の2つの漢字表記の語源と言われています。「虫酸が走る」の類語には、「反吐が出る(へどがでる)」と「胸糞が悪い(むなくそがわるい)」があります。「反吐が出る」には「飲食した物を吐く」という意味の他に、「(吐きそうになるほど)不愉快になる」といった意味があります。「吐く」といった行為からわかるように、「虫酸が走る」よりも強い嫌悪感を表現するときに使われます。「胸糞が悪い」には「胸がむかむかするほど不快」や「非常に腹立たしい」という意味があり、「虫酸が走る」とほぼ同じ意味を持っています。「糞」という言葉が入っているので、「虫酸が走る」よりも品のない表現です。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 2020/8

 

●安倍首相の会見、「辞任を受け入れざるを得ない」と思わせる練られた言葉 8/31 
8月28日、安倍総理が突然、辞任表明をする記者会見を開きました。健康不安説は流れていましたが、多くの人は驚きをもってこの辞任会見を見たのではないでしょうか。総理の入念な準備、珍しい質問、手厳しい質問、上から目線の質問や非礼な服装、そして報道官の配慮など見どころが多くありました。
28日の昼すぎには、辞任会見になることが広まり、17時からの会見に集まった報道陣は辞任会見であることがわかっている状態でした。会場を見て最初にあれっと思ったことは、プロンプターがなかったことです。いつもと違うことが感じ取れました。そして、会見全体の時間は1時間。総理の最初の言葉は10分ほどで、いつもよりは少なく、多くの時間を質疑応答にあてた形での配分でした。つまり、十分質問に回答する時間を作ろうとする方針があったことがわかります。内閣報道官も「あと数問で」「あと2問で」「あと1問で」と時間の細かいアナウンス。配慮があり、穏やかに終えたいという気持ちが出ていたように思います。
さて、内容ですが、前半はコロナ対策に取り組む人達への感謝、亡くなった方への哀悼、医療従事者への感謝に続き、新型コロナウイルスの現状説明。「社会経済活動との両立は可能」「40代以下の致死率は0.1%以下、亡くなった方の半分以上が80代以上」「重症化リスク対策に重点を置く」と方針を述べました。重症化リスク対策は繰り返してきた言葉ですが、「0.1%以下」「80代以上」といった数字の出し方に、むやみに恐れるな、日本を担う世代は経済活動せよ、といったメッセージがあったように思います。そして、新型コロナウイルスをSARSやMERSといった2類感染症以上の扱いから、運用を見直すと明言。経済活動シフトを明確にしたといえます。
次に安全保障に言及し、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威と置かれている厳しい環境を述べ、ご自身の健康と辞任の理由に話をつなげました。概要は次の通り。
潰瘍性大腸炎の持病があり、13年前にその持病が原因で1年で辞任し国民の皆様にご迷惑をかけた。その後新しい薬が効いて、再就任してからのこの8年近くの間は問題なく全力投球できた。しかし、今年6月から兆候があり、8月に再発してしまった。任期までのあと1年何とかできないかと1か月悩みぬいたが、政治判断を誤ってはいけない、7月から感染拡大が減少に転じた、冬に実施すべき対策がまとまった、新体制移行の前のこのタイミングしかないと判断して辞任を決意。
「任期まであと1年、まだ1年を残し」と繰り返した部分に無念な思いが見て取れました。総理だけでなく、私を含め多くの国民が共有した気持ちであろうと思います。「体調が万全ではないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはならない」「国民の負託に自信をもって応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の職にあり続けるべきではないと判断」は、受け入れざるを得ない判断だろうと思います。よく練られた言葉です。
その理由は、記者からの珍しい質問で明らかになりました。「なぜ、今日はプロンプターがないのか」。回答は「ぎりぎりまで原稿が決まっていなかった。自分も推敲していたから」。つまり、今回は総理ご自身が直前まで言葉を練り、思いを込めた内容であったということです。プロンプターはイベントではよいのですが、直前まで内容を練るような記者会見には不向きなのです。このような質問はめったにありませんが、やはり報道陣も違和感をもっていたのでしょう。
報道陣の質問は、過去の評価と課題として残ったこと、引き継ぎに集中しました。違和感を持ったのは質問の仕方と内容。2月の新型コロナウイルス会見からずっとそうなのですが、これまでの「反省」は?こうしておけばよかったという「後悔」は?そして同じような質問ばかり。そもそも「反省」「後悔」を促す言葉は上から目線です。批判する際でも相手に対する尊重心は必要だと感じていたところ、ジャーナリストの江川紹子さんが「原因」という言葉を使いました。
「新型コロナの感染者情報を集約するデータベースで発症日とか職業などのデータを把握できないというようなことが起きているというニュースがありました。・・・・このコロナ禍で日本がいかにIT後進国であるかということが露呈してしまったわけです。安倍政権では、2013年に新IT戦略を立てられて、今年までに、2020年までに世界最高水準のIT活用社会を実現するということを目標にして、首相自身も世界の後塵(こうじん)を拝してはならないと宣言されました。ところが、今、正に世界の後塵を拝しているのは明らかで、安倍さんも本当に非常に不本意だというふうには思うのですけれども、こうなってしまった原因はどこにあると考えておられるか・・・・」
質問は手厳しい内容でしたが、聞いていて嫌な感じがしませんでした。総理も唯一「江川さん」と名前を呼び、自ら「反省点である」と言いました。このように、自分で反省という言葉を使う方が自然です。ジャケットを着用し丁寧な態度で厳しく質問する。受ける側は謙虚に反省。見ていて気持ちがよいと思いました。
報道陣の服装も気になりました。赤シャツ、カジュアルすぎる服装で質問マイクの前に立つ姿に相手への敬意が感じられませんでした。国民の声を背負う特別の立場であるなら、それ相応の緊張感ある服装で立ってほしいと思います。総理大臣がネクタイとスーツであれば、報道陣もせめてジャケットを着用するといったマナーがあってもよいのではないでしょうか。
このタイミングでの辞任会見、さまざまな意見があるでしょうが、日本にとって良い決断であったと評価します。最初に辞任表明の話が流れた時には、「またか」と思いましたが、記者会見を見て納得しました。これでコロナ一辺倒の報道が次の総理に向かい、それが経済再生の道筋になるのではないかと予測が立ったからです。通常の会見であったのなら、国民が混乱しているこの時期にはもっと頻繁に記者会見をすべき、とコメントする予定でしたが、辞任は全てをかき消すほどのインパクト。安倍総理は無念でしょうが、この1年留まってもコロナ問題が重く総理がやりたかった拉致問題、日露平和条約、憲法改正の取り組みはできないでしょう。今は落ち込んだ経済を立て直す時期であり、エネルギッシュな新しいリーダーが日本には必要です。今回、このタイミングでの辞任表明は英断です。  
●安倍内閣総理大臣記者会見 8/28 
猛暑が続く中、国民の皆様にはコロナウイルス対策、そして熱中症対策、ダブルの対策に万全を期していただいておりますこと、国や地方自治体から様々な要請に対して、自治体の様々な要請に対して御協力を頂いておりますことに心から感謝申し上げます。
コロナウイルス対策につきましては、今年の1月から正体不明の敵と悪戦苦闘する中、少しでも感染を抑え、極力重症化を防ぎ、そして国民の命を守るため、その時々の知見の中で最善の努力を重ねてきたつもりであります。それでも、残念ながら多くの方々が新型コロナウイルスにより命を落とされました。お亡くなりになられた方々の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
今この瞬間も患者の治療に全力を尽くしてくださっている医療従事者の皆様にも、重ねて御礼申し上げます。
本日、夏から秋、そして冬の到来を見据えた今後のコロナ対策を決定いたしました。この半年で多くのことが分かってきました。3密を徹底的に回避するといった予防策により、社会経済活動との両立は十分に可能であります。レムデシビルなど、症状に応じた治療法も進歩し、今、40代以下の若い世代の致死率は0.1パーセントを下回ります。他方、お亡くなりになった方の半分以上は80代以上の世代です。重症化リスクが高いのは高齢者や基礎疾患のある方々であり、一人でも多くの命を守るためには、こうした皆さんへの対策が最大の鍵となります。
冬に向けてはコロナに加え、インフルエンザなどの流行で発熱患者の増加が予想されます。医療の負担軽減のため、重症化リスクの高い方々に重点を置いた対策へ今から転換する必要があります。まずは検査能力を抜本的に拡充することです。冬までにインフルエンザとの同時検査が可能となるよう、1日20万件の検査体制を目指します。特に重症化リスクの高い方がおられる高齢者施設や病院では、地域の感染状況などを考慮し、職員の皆さんに対して定期的に一斉検査を行うようにし、高齢者や基礎疾患のある方々への集団感染を防止します。医療支援も高齢者の方々など、重症化リスクの高い皆さんに重点化する方針です。
新型コロナウイルス感染症については、感染症法上、結核やSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)といった2類感染症以上の扱いをしてまいりました。これまでの知見を踏まえ、今後は政令改正を含め、運用を見直します。軽症者や無症状者は宿泊施設や自宅での療養を徹底し、保健所や医療機関の負担軽減を図ってまいります。コロナ患者を受け入れている医療機関、大学病院などでは大幅な減収となっており、国民のために日夜御尽力いただいているにもかかわらず、大変な経営上の御苦労をおかけしております。経営上の懸念を払拭する万全の支援を行います。インフルエンザ流行期にも十分な医療提供体制を必ず確保いたします。以上の対策について順次、予備費によって措置を行い、直ちに実行に移してまいります。
コロナ対策と並んで一時の空白も許されないのが、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境への対応であります。北朝鮮は弾道ミサイル能力を大きく向上させています。これに対し、迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。一昨日の国家安全保障会議では、現下の厳しい安全保障環境を踏まえ、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を協議いたしました。今後速やかに与党調整に入り、その具体化を進めます。
以上、2つのことを国民の皆様に御報告させていただいた上で、私自身の健康上の問題についてお話をさせていただきたいと思います。
13年前、私の持病である潰瘍性大腸炎が悪化をし、僅か1年で突然、総理の職を辞することとなり、国民の皆様には大変な御迷惑をおかけいたしました。その後幸い新しい薬が効いて、体調は万全となり、そして国民の皆様から御支持を頂き、再び総理大臣の重責を担うこととなりました。この8年近くの間、しっかりと持病をコントロールしながら、何ら支障なく総理大臣の仕事に毎日、日々、全力投球することができました。
しかし、本年6月の定期検診で再発の兆候が見られると指摘を受けました。その後も薬を使いながら全力で職務に当たってまいりましたが、先月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました。そして、8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました。今後の治療として、現在の薬に加えまして更に新しい薬の投与を行うことといたしました。今週初めの再検診においては、投薬の効果があるということは確認されたものの、この投薬はある程度継続的な処方が必要であり、予断は許しません。
政治においては、最も重要なことは結果を出すことである。私は、政権発足以来、そう申し上げ、この7年8か月、結果を出すために全身全霊を傾けてまいりました。病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断いたしました。
総理大臣の職を辞することといたします。
現下の最大の課題であるコロナ対応に障害が生じるようなことはできる限り避けなければならない。この1か月程度、その一心でありました。悩みに悩みましたが、この足元において、7月以降の感染拡大が減少傾向へと転じたこと、そして、冬を見据えて実施すべき対応策を取りまとめることができたことから、新体制に移行するのであればこのタイミングしかないと判断いたしました。
この7年8か月、様々な課題にチャレンジしてまいりました。残された課題も残念ながら多々ありますが、同時に、様々な課題に挑戦する中で、達成できたこと、実現できたこともあります。全ては国政選挙の度に力強い信任を与えてくださった、背中を押していただいた国民の皆様のおかげであります。本当にありがとうございました。
そうした御支援を頂いたにもかかわらず、任期をあと1年、まだ1年を残し、他の様々な政策が実現途上にある中、コロナ禍の中、職を辞することとなったことについて、国民の皆様に心よりお詫(わ)びを申し上げます。
拉致問題をこの手で解決できなかったことは痛恨の極みであります。ロシアとの平和条約、また、憲法改正、志半ばで職を去ることは断腸の思いであります。しかし、いずれも自民党として国民の皆様にお約束をした政策であり、新たな強力な体制の下、更なる政策推進力を得て、実現に向けて進んでいくものと確信しております。もとより、次の総理が任命されるまでの間、最後までしっかりとその責任を果たしてまいります。そして、治療によって何とか体調を万全とし、新体制を一議員として支えてまいりたいと考えております。
国民の皆様、8年近くにわたりまして、本当にありがとうございました。 
●安倍首相が検査後の会見で「これからまた」と言い直した訳 8/27 
さて今日このコラムをお読みの8月26日水曜日の段階で、安倍総理はまだ総理としてその任を遂行しているであろうか。
事ほどさように、永田町には刻一刻と流動的な政局の噂が飛び交っている。
原因は総理の健康不安。「持病の潰瘍性大腸炎の悪化」とか「いや別の重病が見つかった」などの噂が流れ、24日の月曜日にもまた午前中に病院で検査。早期退陣説も流れ、何か動きがあるのではと待ち構えた記者に、午後から官邸に赴いた総理は、意外にも「まだこれからも公務を頑張る」と宣言した。そもそも今の体調不良は「147日間休まず働いた」疲れということに総理の周りはしたいらしいが、この記録は6月の話であって、それから2カ月も経って疲れが出るというのも不思議。何かほかの原因がありそうだ。
最初永田町で語られていた臆測のひとつは、早晩、安倍総理は体調不良を理由に降板する。そしてひとまず後任は副総理である麻生さんが引き受ける。そしてあまり時間をかけずに菅官房長官に禅譲する。菅さんは今の内閣を危機管理内閣として、改造せずに引き継ぐ。総裁選などしている場合ではないということにして石破さんの登場を阻み、二回(二階ではない、ややこしい)総理大臣をやった事実で麻生さんも勲章がもらえて納得という一石何鳥もの作戦だ。
そこで注目したいのは病院から帰った月曜日のぶら下がりで安倍総理の発言だ。
総理は「これからも」と言いかけて言い直し、「これからまた」公務を頑張ると発言した。普通なら訂正するほどの違いではない。
ではなぜ言い直したのか。「これからも」には「これからずっと」というニュアンスがあるので、思わず本音が出て訂正してしまったのではないだろうか。
……と書いていたらまたニュースが入ってきた。28日に何やら会見があるというのだ。ここでまた裏情報。
安倍総理は17日、慶応大病院で「検査」を受けたことになっているが、検査ではない。実際には持病の潰瘍性大腸炎がかなり悪化していて、5時間にわたって血液を入れ替える大治療が施されていた、というのだ。この治療は毎週1回、計5〜10回必要だというから、総理は毎週、慶応大病院に行かなければならなくなる。当然、その日は公務は一切できない。そこでこんな見立ても出回っている。
立憲と国民民主の結党イベントが9月1日に行う方向で内々調整されており、それをかすませるために安倍総理が内閣改造・党役員人事をぶつけてくる公算があるという。9月の早めに最後の人事を断行し、タイミングをみて辞任する。麻生臨時代理が当面引き継ぎ、総裁選で名実ともにポスト安倍体制を確立する。これを受け新生自民党による解散・総選挙は来年度予算審議前の年末から年明けが濃厚とみられる。選挙で予算を人質にして業界団体を縛り付けるためなのだとか。うーん。それもありそう。
28日には病状説明と続投宣言となるのだろうか。 
●安倍首相、連続在職最長 残り1年余、問われる成果 8/26 
安倍晋三首相の第2次内閣発足以降の連続在職日数が歴代最長となった。第1次内閣を含めた通算在職は既に憲政史上最長となっていたが、連続在職は大叔父の佐藤栄作元首相を抜いてのことだけに安倍首相も感慨深いに違いない。
ただ、安倍首相には、沖縄の本土復帰を実現させた大叔父らに比肩できる実績は見当たらないとの評が専らだ。健康不安説も取り沙汰される中、自民党総裁としての残り任期1年余で、どう成果を出し締めくくるかが問われる。
首相は先週に続き2度目の慶応大病院訪問後、記者団から連続在職最長への受け止めを問われ「政治においては、その職に何日間在職したかではなく、何を成し遂げたかが問われると思うが、この7年8カ月、国民の皆さまに約束した政策を実行するため、結果を出すために一日一日、日々、全身全霊を傾けてきた」と神妙な面持ちで語った。
首相が「国民に約束した政策」を振り返れば、功罪相半ばではないか。「功」でいえばアベノミクスにより株価や雇用など経済指標が好転し、閉塞(へいそく)感に覆われていた日本経済を上昇気流に乗せたことだろう。
ただ、新型コロナウイルスによりアベノミクスの果実は一気に蒸発。コロナ禍対策を巡っては首相の「頼りなさ」を感じている国民も少なくないはずだ。科学的な根拠もなく学校に休校措置を要請したり、アベノマスクに巨額の予算を使ったりしたことなどには批判が噴出した。
「罪」を挙げれば、特定秘密保護法や安全保障関連法、「共謀罪」法など国論を二分した政策を数の力で強行突破してきた。「国民に約束した政策」とは言えない側面があり、異論を封じ疑問に真正面から向き合わない姿勢は社会の分断を招いたとの指摘もある。
行政監視機能を有する国会の軽視も「罪」の最たるものだ。森友、加計学園問題や桜を見る会など自身にまつわる疑惑を積極的に晴らさず、人事権を握られた官僚が忖度(そんたく)し、禁じ手の公文書の改竄(かいざん)や廃棄に手を染めるという、前代未聞の事態となった。
首相は6回の国政選挙に大勝したが、その都度、掲げた「一億総活躍」「地方創生」「女性活躍」などは実現を度外視した看板の掛け替えにすぎない。閣僚らの不祥事に「任命責任はある」、自身の問題にも「丁寧に説明する」などと常とう句を繰り出すだけで実践したとは言い難い。
首相は残る任期でまずはコロナ対策に全力を傾けなければならない。さらには7年8カ月を謙虚に省み、改めるべきは改めるなど、記録にふさわしい宰相像に近づくよう努力を重ねる必要があるだろう。 
●安倍首相がもう一人の祖父「安倍寛」のことを口にしない理由 8/26 
祖父は「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介・元首相、父は「政界のプリンス」こと安倍晋太郎──。安倍晋三・首相(65)の華麗な血脈はつとに有名だ。しかしその一方で、父方の祖父である「安倍寛(かん)」の名が語られることは少ない。その「もうひとりの祖父」は、戦時中に反戦・反骨を貫いた政治家だった。なぜ安倍首相は祖父・寛について沈黙を貫くのか。父・晋太郎の番記者だったジャーナリストの野上忠興氏が、豊富な証言から読み解く。

総理大臣・安倍晋三の地元、山口県下関市の北部に、日本海に浮かぶ風光明媚な角島(つのしま)がある。今年3月に合併のため廃校になった角島小学校の旧校長室に、その肖像写真は今も飾られている。
〈材木商 安倍寛氏〉写真の人物は晋三の父方の祖父にあたる寛だ。小学校のホームページには、こんな説明がある。
〈なぜ、安倍氏の写真が角島小学校にあるかというと、焼失した初代の学校校舎を新築した際に、その材木の調達を一手に手がけられた方だからだそうです。角島の方は受けた恩義を忘れない人達なので、こうしてずっと写真を引き継いで来られたのでしょう。いろんなところで、いろんな人とつながっているのですね。
ご縁があるから、安倍首相も閉校式にちょっと来てくださればいいのに…。お忙しそうだから無理でしょうね、やっぱり〉
新型コロナのために3月8日に予定されていた閉校式は中止され、角島小は終業式をもって創立146年の歴史に幕を閉じた。下関市教育委員会によると、晋三には特に式典や閉校の案内は出していなかったという。
安倍寛は角島の隣の旧日置村(現在は長門市油谷)で多くの田畑や山林を所有する地主(庄屋)の家に生まれ、戦前、日置村長や山口県議、衆院議員を歴任、1946年(昭和21年)1月に議員在職中のまま病気のため死去した。享年51。戦後の第一回総選挙に出馬を準備しているさなかだったとされる。
角島小の旧校舎が建て替えられたのは45年(昭和20年)3月であり、寛の“最後の仕事”だった。当時、長男の晋太郎は20歳。晋三が誕生する9年前のことだ。
晋三は「政治家としてのルーツ」として母方の祖父・岸信介のことは折に触れて熱く語ってきた。著書『美しい国へ』(文春新書)でも、岸との思い出が多く語られている。ところが、「昭和の吉田松陰」「今松陰」とも呼ばれたもう一人の祖父・寛については、ほとんど語ったことがない。幼い頃から可愛がってもらった岸と違って、寛は自分が生まれる前に亡くなっていたという事情があり、それはある意味自然かもしれない。
しかし、それだけが理由とは思えない。
晋三の父で外務大臣や自民党幹事長など要職を歴任した晋太郎の番記者を長く務めた筆者は、晋太郎時代から安倍家に仕えたベテラン秘書がこう嘆くのを聞いたことがある。晋三が父の後継者として旧山口1区から衆院選に出馬した時のことだ。
「選挙区の古い後援者には岸さんより寛さんのほうが、はるかに人気があった。それなのに晋三君は岸さんのことばかり。だから、本人に『あんたは岸のことばかりいうが、安倍家のおじいちゃんは寛さんだ。戦争中、東條英機に反対して非推薦を貫いた偉い人だ。もう少し寛さんのことも言ったらどうか』と何度も伝えたのだが、頑として言おうとしないんだな」
それどころか、晋三が祖父・寛の存在から目を背け続けた結果、現在、山口では寛の足跡を研究することさえ“タブー視”されるようになっているという。地元の有力な郷土史家が匿名を条件に語ってくれた。
「安倍寛は東條英機に立ち向かった8人衆の1人で、山口の偉人としてもっと脚光を浴びてもいい人物です。しかし、以前に朝日新聞系の出版物で寛が取り上げられ、それを読んだ安倍総理が怒ったという話が伝わって、県内では歴史に残る人物としては扱われていない。研究者もいないし、地元のメディアも、首相への忖度でこの人物を取り上げるのはタブーになっている」
同姓の祖父の歴史上の足跡が消されようとしているというのである。
「反戦」を貫いた政治家
安倍寛とは、どんな政治家だったのだろうか。寛について触れた数少ない出版物の一つに、昭和期に活躍した山口県出身の794人の業績をまとめた小伝集『昭和山口県人物誌』がある。そこでは、寛が短くこう紹介されている。
〈県営畑堰工事、農民修練場の誘致、農士園の開発、入植などの業績をのこす。昭和十年山口県議、十二年衆議院議員当選。十七年再び当選。商工省委員・外務省委員などを務め中央政界において活躍〉
しかし、この記述だけでは人物像が浮かんでこない。
筆者はかつて、安倍晋三の評伝執筆のため、晋三の乳母兼養育係を務めた久保ウメに複数回ロングインタビューをしている。生家が安倍家と近く、晋太郎と小学校の同級生だったウメは、寛に可愛がられたことをよく憶えていて、こう述懐したことがある。
「(寛さんは)とてもハンサムでね。上京するたびに当時は珍しかった生のパイナップルなど色々なお土産を持ってきてくれたものでした」
寛は写真でもわかるように垢抜けていた。若い頃から脊椎カリエスや結核に苦しみながら、地元の要請で村長になり、地域の高等小学校の講堂を寄附したり、隣村の角島小学校の校舎再建に力を尽くすなど、地元に貢献した篤志家として語り継がれている。だが、その政治家としての真骨頂はなんといっても戦時中に“反戦”を唱えたことだろう。
1937年(昭和12年)の総選挙に「厳正中立」を掲げて無所属で初当選した寛は、国会で新人代議士とは思えない大胆な行動をとった。翌38年、近衛内閣の国家総動員法の審議で西尾末広(戦後の民社党委員長)が、「ヒトラーのごとく、ムッソリーニのごとく、あるいはスターリンのごとく、確信に満ちた指導者たれ」と賛成の演説をした時のことだ。
筆者と同時期、福田赳夫率いる福田派(清和会)を担当していた畏友・木立眞行氏(元産経新聞記者)が書いた晋太郎の評伝『いざや承け継がなん』の中で、国会で寛と行動を共にしていた赤城宗徳(元農相)がこう述懐している。
〈そのときアベカン(寛のニックネーム)は、“反対”と叫んで議席をポンポン飛んで、議長席に駆けあがったんだ。カリエスで、コルセットを巻き、歩くのがやっとだというのに、どこにそんな力があったのかねェ……〉
そして代議士2期目となる1942年の総選挙では、大政翼賛会の推薦候補が大多数を占める中、東條内閣に反対して翼賛会「非推薦」で立候補し、特高警察に監視される中で当選を果たす。筆者は息子だった晋太郎から、この時の選挙の苦しさを聞いている。
「旧制中学4年生だった俺も、親父の選挙事務所に寄ったりすると警察官からしつこい尋問を繰り返し受けた」
とりわけ晋太郎が多としていたのは、父・寛が選挙後にとった毅然たる行動だ。
当選した寛に旧知の大政翼賛会の大物議員から当選祝いとして3000円の電報為替が送られてきた。巡査の初任給が月給45円だった時代、現在価値で1000万円を超える大金である。
「家には選挙をするのも大変なほどカネはなかったが、親父は『非推薦なのに祝いはもらえん。お前、返してこい』と受け取らなかった」(晋太郎)
晋太郎は郵便局に行き、為替を送り返したことを明かしていた。
信介と寛、両祖父の邂逅
寛は政界で同じ非推薦の三木武夫(元首相)や前述の赤城らと行動をともにしたが、戦時下の国会では非推薦議員は質問や発言の機会をほとんど与えられなかった。
その頃、東條内閣の商工大臣として飛ぶ鳥を落す勢いだったのが安倍のもう一人の祖父・岸信介である。岸は寛より2歳年下だ。政治的立場が正反対だった寛と岸は、戦況が悪化していた1944年秋に会っている。
その頃、東條と政治路線で対立した岸は内閣改造を失敗させて東條を退陣に追い込むと、野に下って「防長尊攘同志会」を組織し、地元の山口県内を遊説して回っていた。その途中で、病気療養中の寛を見舞ったのだ。商工次官、大臣を務めた岸と、同じ山口県選出の代議士で衆院商工省委員だった寛は、以前から顔見知りだったとされる。
ただし、このとき2人が意気投合したという記録はない。前掲書『いざや承け継がなん』には同席者のこんな証言が記されている。
〈お見舞いにすぎなかったような気がする。その時はまさか、寛の息子と岸の娘が一緒になると思わなかった〉
では、岸の目には、寛はどんな政治家に映っていたのだろうか。後年、岸は回想録『岸信介の回想』で寛についてこう記している。
〈この安倍寛というのは“今松陰”と称せられた気骨のある人で、ただ結核で五十くらいで亡くなった。とにかく三木、赤城は安倍の子分だ。だから三木武夫が総理のときもわざわざ安倍の親父の寛の墓参りまでしてくれたよ〉
「反戦」より「父への反発」
岸と寛が会談した前後、晋太郎は東大法学部に入学(1944年9月)と同時に海軍滋賀航空隊に飛行専修要務予備生徒として入隊し、翌1945年春、全班員とともに特攻隊に志願する。
家族に別れを告げるために帰省した晋太郎は、寛から「戦争は負けるであろう」という見通しを伝えられた。「敗戦後の日本には若い力が必要になる」とも。その後も、寛は特攻に志願した一人息子に会うために病をおして何度か滋賀航空隊に面会に出向いている。
出撃前に終戦を迎えて生き残った晋太郎は、1951年に岸の娘・洋子と結婚。1954年に晋三が生まれる。そして、寛の死から12年後に、その遺志を継いで代議士となり、1974年に父の盟友だった三木武夫内閣で農相として初入閣する。岸が「三木がわざわざ寛の墓参りをしてくれた」と語ったのは、この時のことだ。
バランス感覚に優れた晋太郎は「俺は外交はタカだが、内政はハトだ」と常々話していたが、生涯、「岸の娘婿」と呼ばれることを嫌い、「俺は安倍寛の息子だ」と誇らしげに語っていた。
筆者は特攻隊に志願した時のことを振り返った晋太郎から、「二度と戦争をしてはいけない。平和は尊い。それが生き残った我々の責任だ」と聞かされた言葉が、強く耳に残っている。
自らの体験と「反戦政治家」である父・寛の背中を見て育ったことが晋太郎の〈政治の原点〉になるのは必然の流れだったであろう。
岸信介は東條内閣の閣僚として「宣戦の詔書」に署名し、戦後は総理として日本の自立と復興に力を尽くした。一方、安倍寛は反東條の立場で戦争に反対した。この2人の祖父を持つ「政治的ルーツ」は、晋三にとって戦後日本の指導者として誇りになり、武器にもなるはずだ。
父・晋太郎からも、祖父・寛の政治家としての覚悟や行動を聞かされて育ったはずである。それなのに晋三は、「岸の孫」であることは強調しても、「寛の孫」であるとは決して口にしようとしない。タカ派政治家としての立場から、いわば「反戦リベラル」的な思想の持ち主だった寛を“政治的ルーツ”と認めたくないからだろうか。そうとは考えにくい。
なぜなら、冒頭で紹介したベテラン秘書の証言のように、晋三はまだ右も左も定まらない“政治家の卵”だった初出馬のときから、選挙戦で「安倍寛の孫」とアピールすることを拒否していたからだ。
筆者には、父・晋太郎に対する反発が、父方の祖父・寛の否定につながっているように思えてならない。
安倍父子の微妙な関係については、拙著(『安倍晋三 沈黙の仮面』・小学館)に詳しいが、晋太郎は幼い頃に両親が離婚、若い頃に父を亡くして育ち、愛情表現が不器用だった。息子・晋三も自分の考えを押し付けてくる父に反発し、距離を置いているように感じられた。
そのことが、父が受け継いだ祖父・寛の反戦思想への反感につながっているのではないか。
晋三が若き日の共著『「保守革命」宣言』(1996年刊)の中で岸と晋太郎について書いた文章からその一端が読み取れる。少し長くなるが引用する。
〈父は大学以前の教育は戦前ですけれども、それ以降は戦後です。そうすると、戦争というきわめて悲劇的な経験をしていますから、そのことが非常に大きく思想形成に影を投げかけていたわけです。どうしてあんな戦争になってしまったのかとか、それに対する世代的な反省とか、そういう懐疑的な所がやはり多かった。
けれども祖父の場合は、先の大戦に至る前の、ある意味では日本が大変飛躍的な前進を遂げた〈栄光の時代〉が青春であり、若き日の人生そのものだった。だから、それが血や肉になっている。その違いが実に大きかったわけです〉
晋太郎の戦争体験を「非常に大きく思想形成に影を投げかけていた」と捉え、岸の青春時代を〈栄光の時代〉と呼んで憧憬を隠さない。そのうえで岸への傾倒の理由を、こう書く。
〈わが国の形として、祖父はアジアの国としての日本が、皇室を中心とした伝統を保って、農耕民族として互いに一体感を持ちながら強く助け合って生きていくという国のありようを、断固として信じていました。そのためには、自分は相当のことだってやるぞという感じがいつもあふれていた。それに強い感銘を覚えたことは事実です〉
岸と同世代の政治家として、日本が戦争に向かう中で官憲ににらまれながら「反戦」を唱えた寛の思想や存在は、どこにも言及がない。
「私は確かに安倍晋太郎の次男です。しかし私は私として、今から一政治家として生きていく決意です。ぜひ、ご支援、ご支持をお願いします」
初出馬のとき、晋三は父の後援会メンバーを中心とする集会で、ことさら父との違いを主張してみせたものだった。
そのときすでに、本来なら岸とともに誇るべき祖父・寛の思想も、父の中の「思想形成の影」の部分として切り捨てていたのかもしれない。
旧角島小学校の校長室に残る寛の肖像写真の背広の襟には、議員バッジがつけられている。
山林地主ではあっても、材木商を生業にしてはいなかった寛の肩書きが、代議士兼村長ではなく、「材木商」となっていることも、この政治家の真の業績が地元でも忘れられつつあることを物語っているような気がした。 
●韓国や一部国内とは正反対、超高評価の安倍首相 8/26 
安倍晋三総理大臣が8月24日、第2次政権発足後の連続在職日数が歴代単独1位となった。
折しも、その安倍総理が8月中旬から数回にわたり、東京・信濃町の慶応大学病院で検査を受け、健康不安説が広がっている。
自民党内には新型コロナウイルス対応などで疲労が重なり、持病の潰瘍性大腸炎が悪化したとの見方が出ている。
すわ、ポスト安倍を巡る与党内議論が流動化している。
安倍氏が後継者として期待してきたとされる岸田文雄政調会長か。各種世論調査で人気の高い石破茂元幹事長か。
それとも継承順位2位の麻生太郎財務相兼副総理か。あるいは菅義偉官房長官の一時的なリリーフ登板か・・・。
米国は大統領選に向けての民主、共和両党の全国党大会たけなわ、ということもあり、米メディアは安倍総理の健康不安説まで気は回らない。
だが、米国務・国防両省や民間のジャパノロジストたちは安倍氏の「健康不安説」に強い関心を示している。
安倍氏の「無二の親友」ドナルド・トランプ大統領の耳にもこの情報は間違いなく入っているに違いない。
そうした中、アッと驚くようなタイトルの本が出る(発売日は11月1日)。『The Iconoclast: Shinzo Abe and the New Japan』。
「Iconoclast(アイコノクラスト)」とは、「聖像破壊者」。
8世紀から9世紀、中世ヨーロッパのカトリック教会で起こった聖人の画像礼拝慣習を打破しようとした人のことをいう。
そこから「因習打破を唱える人」を指す言葉になっている。安倍総理を「因習打破を唱える人」と大いに持ち上げた本である。
著者は、目下新進気鋭のジャパノロジストとして注目されているトバイアス・ハリス氏。
同氏は、政治戦略コンサルティングの「ティニオ・インテリジェンス」(本社ニューヨーク)の日本政治アナリスト。
米マサチューセッツ州にあるブランダイス大学を経て、英ケンブリッジ大学で哲学修士号を取得後、フルブライト奨学研究生として東京大学社会科学研究所で日本政治を研究する傍ら、浅尾慶一郎参議院議員(当時)のスタッフを務めたこともある。
無論、日本語はペラペラ。日本の政界の情報はハリス氏の元に淀むことなく届いていると見ていいだろう。
拉致問題で一躍「主要政治家」に
ハリス氏はこう言い切る。
「一度政権を放り投げた安倍氏が第2次政権を樹立、その後『ジュニア・ポリティシャン』(下位の政治家)から一躍脚光を浴びる『シニア・ポリティシャン』(主要政治家)になった最大の要因は何か」
「それは安倍氏が北朝鮮による日本人拉致問題を取り上げた最初の日本人政治家だったからだ」
「2020年9月、当時の首相、小泉純一郎氏とともに平壌に乗り組んだ安倍氏(当時官房副長官)に対し、金正日朝鮮労働党書記(故人、肩書は当時)は北朝鮮が日本人を拉致したことを認めた。これは世界にショックを与えた」
「この平壌でのドラマと拉致された生存者とその家族の運命は安倍氏を変身させた」
「今まで表舞台で取り上げられてこなかった拉致問題を政治の優先課題にさせることで安倍氏は、もはや若いジュニア・ポリティシャンから勇気に満ち満ちた行動する政治家になったのだ」
「安倍氏は、それまで拉致問題には関心を示そうとしなかった(与野党の)日本政界のエスタブリッシュメント(既成体制)に挑戦したのである」
それ以前の安倍氏はどうだったのか。ハリス氏は第1次安倍政権の失敗の要因についてこう分析する。
「安倍晋三氏は、祖父・岸信介元総理の政治理念に大きく影響を受けている。岸氏は天皇中心の軍事力を備えた独立した、(戦争責任などについて)弁明しない国家観を持っていた」
「安倍氏はこの国家観に感化されていた。安倍氏は2006年に総理大臣に就任した時、米国との軍事同盟強化を強く望む自民党の戦後世代のリーダーだった」
「その一方で同氏の修正主義的歴史観は中国や韓国の反発を生み、緊張関係をもたらした」
「安倍氏は保守派の極右の考えを持っていたことから、日本社会の多くの人たちの懸念や怒りを増幅させていた」
「政治経験の少なさに加え、イデオロギーについて語りすぎた。さらに年金問題をはじめ数々のスキャンダルに見舞われた。安倍氏は空気が読めなかったのである」
最大の功績:官僚人事を官邸主導へ
「ところが2012年に政権に返り咲いたた安倍氏は、第1次政権での失敗から多くのことを学んだ」
「以前の自分は、まさに『the Economy, stupid(経済を知らないバカ)』だということに気づいた」
「安倍氏は経済専門家たちの助言に耳を傾けた。そして12月12日、いわゆる『アベノミクス』(金融緩和と財政出動と成長戦略)の3本の矢を放ったのだ」
「さらに国内政策では、官僚人事を総理官邸が一括して管理する『内閣人事局』を新設させた」
「これは安倍政権で最も重要な法改正だった。これにより総理大臣が日本政府を牛耳っている官僚トップの人事をコントロールできるようになり、官僚たちは所属する各省庁よりも総理大臣に忠誠を誓わざるを得なくなった」
「もう一つは野党の激しい反対を押し切って特定秘密保護法を作ったことだ」
「この法律は、日本の安全保障に関する情報のうち、特に秘匿する必要がある情報を指定し、取扱者の適性評価の実施や漏洩した場合の罰則を定めたものだ」
「これにより日本は米国をはじめとする同盟国に対し、これまでできなかった支援が可能になった」
「こうして数々の成果を挙げてきた安倍氏は、歴代自民党政権が目指してきた憲法第9条改正を目指した」
「しかし、世論には改正反対が依然として支配的だ。少なくとも安倍政権での改正には強く反対している」
「安倍氏としては、1年延期された東京五輪とパラリンピックを総理大臣として滞りなく終え、「安倍政治のレガシー(遺産)」を支えに後継者へのバトンタッチを、と考えていた」
「そこに新型コロナウイルスが直撃したのだ」
「外的脅威から日本国民の生命と財産を守る強いリーダーとしての安倍氏の名声は、コロナ禍により劇的、かつ回復不能なダメージを受けている」
「何事にも動じない、世界に冠たる国家だと信じてきた日本国民の信念はコロナ禍の前には弱弱しくなり、長期的に日本の経済力もコロナ禍以前に戻る見通しは立たなくなっている」
「安倍政権はいつまで続くのか。世論調査の安倍氏への支持率も急落し、同氏の健康問題も浮上し、後継者争いもにぎやかになってきた」
こうした状況下で、安倍氏が首相を辞める前にどうしてもやらねばならない「仕事」が一つあるとハリス氏は書いている。
「それは新しいものを再び作り出せる新しい指導者にスムーズに政権を渡すこと、それを確かなものにすることだ」
「安倍氏はプラグマティックでリスクを恐れないステーツマンシップを発揮した。安倍氏はその意味では確かにアイコノクラスト(因習を打破する人)だった」
ボーゲル氏が絶賛:「岸信介から安倍晋三に至る日本政治史」
ハリス氏の新著は米国の日本政治研究者の間で早くも高い評価を得ている。
書評用に発売前に一部関係者に配布されたアドバンス・コピーを読んだ何人かのジャパノロジストは以下のようなコメントを出している。
   エズラ・ボーゲル・ハーバード大学名誉教授
「日本政治史上最も長期政権を担当している安倍晋三氏の素晴らしい一代記だ。それだけではない。岸信介氏から安倍晋三氏に至る日本の政治史を調べ上げ、明瞭に書き記している。偉大な業績だ」
   ジェラルド・カーチス・コロンビア大学名誉教授
「史上最長政権を達成している安倍晋三氏の政治と政策を包括的に記録した素晴らしい年代史だ」
   マーチン・ファクラー元ニューヨーク・タイムズ東京支局長
「ハリス氏は21世紀で起こった政治的カムバック物語の一つを巧みに描いている。それは安倍晋三氏のカムバックというのではなく、日本自身のカムバックのストーリーにもなっている」
「ハリス氏はカラフルな逸話と洞察に満ちた分析で、著名な政治家一族の安倍晋三がアイコノクラストとして、いかにしてこれほど見事なまでに挽回の第2幕目を演じ切ったかを描いている」
「いかにして安倍晋三がタブーに挑戦し、壁を破ることで世界における日本の立ち位置を示し、自信を取り戻すのに貢献したかを描いている」
安倍総理の自民党総裁としての任期は2021年9月末まで。残りの任期が1年あまりとなった現在、日本のメディアは競って安倍政権7年半年の業績がすべて水泡に帰したような報道をしている。
「公約に掲げたデフレ脱却はいまだ実現せず、新型コロナウイルスの影響で経済は急激に縮小。アベノミクスの果実は水泡に帰しつつあり、経済再生には構造改革が急務だ」(時事通信)
「安倍総理は、当面、新型コロナウイルスを最重要課題に上げ、4月には特別措置法に基づく緊急事態宣言を初めて発令。足元では感染が再拡大する『第2波』の懸念が出ている」
「東京五輪・パラリンピックは2021年夏に1年延期されたが、開催の可否は国内だけでなく、海外の感染状況も関わってくる」
「改憲について自民党は、第9条への自衛隊明記を含む4項目の改憲案をまとめたものの、衆参両院の憲法審査会での議論は停滞している。政府・与党内で首相の体調を懸念する声も出ている」(日本経済新聞)
ハリス氏が言い放った「安倍晋三はアイコノクラストだ」という評価とはあまりにも対照的だ。
最も扱いづらい米大統領2人を手玉に
日本にも駐在したことのある元国務省高官の一人A氏と元大手新聞東京特派員だったB氏にハリス氏の新著をたたき台に安倍氏の政治について採点をつけてもらった。
A氏は「全般的な印象として(Impressionistically)」、政治的スキルは「A」をつけた。
「これだけの長い期間政権の座についていること。総理官邸に権力を集中させ、新しい国家安全保障ストラクチャーを作り上げた」
「憲法上、法改正での何が達成できるかを査定したことは歴代政権は成し遂げられなかった業績だし、その政治的手腕は素晴らしい」
「(政権復帰後)2回の衆院選、3回の参院選では勝ち続けた*1。選挙で勝ったから政権を維持したのだが、なぜ勝ったのか」
「野党が弱いこともあるが、政策や政治理念が国民の共感を呼んだから選挙に勝てたのだ」
*1=安倍氏は自民党総裁としては衆院選で3回勝利しているが、最初の1回は野田佳彦首相(民主党政権)が衆院を解散し、安倍・自民党が勝利して政権に返り咲いた選挙。
B氏は外交政策では「Aマイナス」ないし「Bプラス」をつけた。
「これだという成功例はない。対韓国外交は不十分。無論相手がどうしようもないこともあるだろうが・・・」
「対ロシアではウラジーミル・プーチン大統領と歴代首相としては最も多く会談したが、北方領土問題では何の成果もなかった」
「もっとも日本国民のほとんどは北方領土が戻ってくることなど期待していないはずだ」
「対中外交も習近平国家主席の独善外交のあおりを受けて先行き不透明な状況が続いているが、つかず離れずの状態で安定しているのではないのか」
「対米外交では安倍氏はバラク・オバマとドナルド・トランプという最も扱いづらい大統領をどう扱うかにたけていた」
「全体的に見ると安倍氏は世界中の国々(韓国を除けば)から日本はポジティブな国だというイメージを確立した」
そして経済は、A氏、B氏ともに「B」ないし「Bマイナス」をつけた。
「どの国の指導者もファンダメンタルズが現状のような状態であれば、どんな政策を実施しても結果はさほど変わりはないだろうから・・・」
そしてコロナ禍対策は、「C」ないし「Cマイナス」だった。
百年に一回あるかないか、の新型コロナウイルスの奇襲を受けて連日連夜の激務を続けてきた安倍総理。
一寸休んだだけで、やれ健康不安だ、持病がまた出た、悪化した、と大騒ぎする日本のメディア。
誰一人として「しばらく、休養されてはいかが」と優しい言葉を一言でも言えないのは「日本のポリティカル・カルチャー」なのか。
ハリスという今最高に冴えわたっているジャパノロジストからの「安倍アイコノクラスト」論。
その新著の紹介がてら、総理の一日も早い回復を異郷の地から祈っている。 
●安倍首相「147日不休」は盛り過ぎだ! 8/24 
騒動のきっかけは、安倍晋三首相の「盟友」のこんな一言だった。
「ちょっと休んでもらいたい。(安倍首相は)責任感が強く、自分が休むことは罪だとの意識まで持っている」
8月16日、フジテレビの番組に出演した自民党の甘利明税調会長はこう発言し、かねて噂されていた安倍首相の体調問題に自ら言及した。テレビ局関係者の間では、安倍首相の健康に関する質問はタブーというのが不文律だったという。永田町に激震が走ったのは、この数時間後のことだった。
「明日、安倍首相が慶応義塾大学病院に検査に行き、そのまま入院する」
そんな情報が流れたこの日はお盆休みの最終日。総理官邸は出入りする官僚の姿もなくひっそりとしていたという。ベテランの政治記者はこの一報を聞いた時、ある「政変」が頭をよぎったと話す。それは13年前の夏、8月に体調を崩した安倍首相が9月に退陣を表明、その後総選挙で自民党が大敗し民主党政権が誕生した出来事だ。
「これまでも体調不安説はあったので、いよいよ来たなと思いました。しかし一方で、本当に容体が悪く、緊急を要するのであれば極秘入院するはずで、首相サイドがわざわざマスコミにリークするはずがない。『これは何か思惑があるな』というのが第一印象でした」
翌17日朝、東京・信濃町にある慶応大学病院前にはメディアが押しかけた。同病院には安倍首相の主治医がいて、入院を要する緊急の事態であれば、この病院だというのは以前から認識されていた。
30台近いカメラが居並ぶ中、安倍首相を乗せた車は3台の車列をなして予定されていた10時28分に到着。マスク姿で表情こそ確認できなかったが、安倍首相は自分の足で病院に入っていった。
結局、安倍首相は約7時間滞在したが入院はせず、自宅へ戻った。その際、集まったマスコミに「お疲れ様」と一言だけ口を開いた。自らの健康については何一つ語らなかったが、その後、病院側が「6月13日に受けた人間ドックの追加の検査」と検診理由を発表。あくまで検査に過ぎないことを強調したが、首相の「健康不安説」はむしろ強まる結果となった。
マスコミに情報を流し、病院に出入りする姿を「撮らせて」まで演出された、この騒動の政治的な目的は何だったのか。永田町を取材すると聞こえてくるのは、コロナ終息に向けて全く道筋が立たない安倍政権の相当ないらだちだ。
決定打は景気の指標となる4〜6月期のGDPが戦後最大の落ち込みを見せ、各社の内閣支持率がNHKの34%など、相次いで過去最低になったことだった。ある自民党幹部はこう分析する。
「感染対策と経済の両立を全く舵取りできない責任は、間違いなく安倍首相にある。野党は国会を開けと息巻いているが、国民感情としても、なぜ責任者が何の説明もしないのか、という声は多い。しかし、当の本人は体調面でも、精神面でもそれに応える余裕はなく、そのことを正当化するには首相はがんばっている、という世論の形成しかない。そうすることで感染終息までの時間稼ぎをしようという、安倍首相をおもんばかる周囲の作戦でしょう」
実はこのシナリオは、安倍首相の最側近3人で演出された。今井尚哉総理補佐官と前出の甘利氏。そして、安倍首相に万が一のことがあれば代行として采配をふるう立場の麻生太郎副総理だ。安倍首相は12日に甘利氏、15日に麻生氏と相次いで二人きりで会談している。
安倍首相は17日に病院を経て自宅に帰り、19日午後、再び官邸に姿を見せた。安倍首相が病院に入った日、その健康状態について記者からコメントを求められた麻生氏は、首相をかばうようにこうぶちまけた。
「あなたも147日間休まず働いてみたことありますか? ないだろうね、だったら意味分かるじゃない。140日休まないで働いたことないだろう。140日働いたこともない人が、働いた人のこと言ったって分かんないわけですよ」
麻生氏の言う147日とは、1月26日〜6月20日の期間。確かにこの間、朝日新聞の首相動静によると「公務なし」の休日がなかった。
だが足もとの状況はかなり違う。首相動静によると、7月1日〜8月19日の間、安倍首相が終日自宅で過ごした日が6日あり、午前中を自宅で過ごした日も16日あった。特に7月下旬からは帰宅時刻が目立って早くなり、ほぼ毎日のように午後6時台に首相公邸ではなく東京・富ケ谷の自宅に戻っていることが読み取れる。
帰宅後に家で仕事をすることがあったとしても、「午前は自宅、午後は散髪」(8月2日)や「午前は自宅、午後はジム」(10日)という日もあり、さすがに「首相は不休で働きづめだ」というイメージを付けるのは「盛りすぎ」だろう。
「国難突破」と気勢を上げ、危機をあおって「緊急事態条項」を持ち出すなど強権的な発言を続けてきた安倍首相。だが別の自民党幹部は「コロナへの対応でもわかるとおり、本当の危機には体力面でも精神面でも強くない」と指摘する。
「健康が理由で一度は政権を投げ出してしまっているので、『安倍さんは弱いな』と言われることを必死に避けようと強気に振る舞う。だから本音を言える人は限られていて、前出の3人がまさにそう。甘利さんの『休んでもらいたい』という発言は本心で、決してうわべだけの物言いではなかったと思います」 
●安倍首相、史上最長の在職で残した成果は…。 8/24 
安倍晋三首相(第2次安倍政権以降)の連続在職日数が8月24日で2799日となり、憲政史上で最長となった。これまでのトップは安倍首相の大叔父で沖縄返還を実現した佐藤栄作(任1964〜1972)だった。
第1次政権も合わせた通算在職日数でも、2019年11月に明治・大正期に3度組閣した桂太郎の記録を更新している。現役首相の退任目処となる自民党総裁としての任期は2021年9月までだが、残り1年の先行きには不安が頭をもたげる。
「アベノミクス」で経済は良くなったか。
自民党内に有力なライバルがいない中、第2次安倍政権は大型の国政選挙での勝利を背景に「安倍一強」と評される官邸主導の政治を取り仕切ってきた。
ただ、その政治をめぐっては評価は分かれる。読売新聞オンラインは「経済政策『アベノミクス』を進めながら、日米関係を基軸とした外交や安全保障政策で成果を重ねてきた」(2020年8月24日)と論評。経済界も、経済最優先の政策をおおむね評価している。
確かに企業の「経常利益」は48兆4000億円(2012年度)から過去最高の83兆9000億円(2018年度)に拡大。有効求人倍率も0.82倍(2012年12月)から1.64倍(2018年9月)で45年ぶりの高水準をマークした。なお、コロナ禍前の2019年12月は1.57倍だった。
実際、人々は好況を実感できていたのだろうか。総務省の家計調査によると、総世帯のうち勤労者世帯の実収入は1カ月平均46万7774円(2012年)から51万2534円(2018年)となり実収入は増加傾向だ。
厚生労働省の国民生活基礎調査でも、1世帯あたりの年間平均所得は537.2万円(2012年)から552.3万円(2018年)と14万円ほど増えた。
ただ、所得の分布状況では平均所得金額以下の世帯は60.8%(2012年)から61.1%(2018年)に。新型コロナ禍で中間層がさらに沈み、貧富の格差が一層拡大することも懸念される。
安保政策をめぐっても評価は分かれる。「積極的平和主義」を標榜する安倍政権は、これまでの憲法解釈を変更。集団的自衛権の一部行使を容認する「安全保障関連法」を成立させた。
これは「戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認」(憲法9条)を憲法で謳った戦後日本にとって、安保政策の大きなターニングポイントとなった。
新型コロナ禍への対応、「真水」は足りているか?
経済最優先の政策も、新型コロナウイルスでブレーキが掛かった。目下の懸案は、コロナ禍への対応だ。
安倍首相は事業規模で233.9 兆円の対策パッケージについて「GDPの4割に上る世界最大の対策によって、100年に1度の危機から日本経済を守り抜く」と記者会見で自信を見せた。
だがエコノミストは、そのうち融資枠などを除いた「真水」は「61.6 兆円程度」と指摘する。
緊急事態宣言でさまざまな業種に「自粛」を要請した一方、必要とされる十分な「補償」が行き渡っていないという不満はなおもくすぶる。
感染拡大の第2波と前後して旅行喚起策「GoToトラベル」の実施に踏み切ったことも、その恩恵が末端に行き届くのかという指摘も含めて、評価は分かれる。
8月のNHK世論調査では「いったん中止すべき」が62%に上った。与党支持層でも53%となり半数以上が「いったん中止にすべき」と回答している。
GDPは年率換算マイナス27.8%、戦後最大の下げ幅に。
4月〜6月のGDPは年率換算でマイナス27.8%。リーマンショックを超えた戦後最大の下げ幅となった。帝国データバンクによると、全国の新型コロナウイルス関連倒産は8月21日現在で458件にのぼる。
生活不安も続く。新型コロナ禍で有効求人倍率は6カ月連続で悪化し、今年6月には1.11倍に。2014年10月以来、5年8カ月ぶりの低水準となった。
消費税は2014年に8%、19年には10%に引き上げたが、増税からほどなく新型コロナ禍が発生。消費喚起の観点から減税を求める声はいまだ根強い。
全世帯に2枚ずつ配布される布マスクをめぐっては、「アベノマスク」と揶揄されたことは記憶に新しい。
相次ぐ議員の逮捕、長期政権の「ゆるみ」か。
衆院の任期満了を2020年10月に控え、総選挙の可能性も政局報道で取り沙汰され始める中、党内の国会議員からは逮捕者が相次いでいる。
側近だった河井克行元法相と妻で参院議員の案里氏が2019年の参院選をめぐり地元首長や県議らを現金で買収したなどとして公選法違反の疑いで6月に逮捕、起訴された。(※2人は逮捕前に離党届を提出、受理された)
IR・統合型リゾート施設の汚職事件で逮捕・起訴されていた秋元司衆院議員(離党後は特別会員として自民党二階派に所属)も証人を買収したとして、8月に組織犯罪処罰法違反の容疑で再逮捕された。
歴代最長となった長期政権ゆえか、「首相自身や妻の関与が追及された森友・加計学園問題や、自身が主催する『桜を見る会』をめぐる疑惑が表面化」(朝日新聞デジタル・2020年8月24日)と「ゆるみ」を指摘する声もある。
給付金めぐる混乱、支持率下降… 「安倍一強」に陰りも。
今年に入ってからは「安倍一強」と評された安倍首相の求心力、官邸主導の政治手法にも「陰り」が見て取れる。
記憶に新しいのは検察庁法改正案をめぐる混乱だ。検察幹部の定年延長を盛り込んだ世論の強い反発を招き、改正を断念した。
対コロナ経済策である現金給付をめぐっても、当初の「減収世帯に限った30万円給付」案を土壇場で変更。連立与党を組む公明党の圧力に屈し、一律10万円の「特別定額給付金」を支給することになった。
今年5月のNHK世論調査では、安倍内閣を「支持する」が37%、「支持しない」が45%に。不支持が上回ったのは、2018年の6月の調査以来だった。その後も支持率は下落し続け、8月調査では「支持する」が34%、「支持しない」が47%だった。
首相の健康不安説と「ポスト安倍」の活動活発化
安倍首相は8月17日に東京・信濃町の慶應義塾大学病院で日帰りの検査を受けた。政界では首相の健康状態を不安視する声もでている。
この週末には、新聞・テレビ局の政治記者の間で「首相が在任連続最長記録の更新を受けて24日に退任の意向を示すのでは」「総裁選までのつなぎは副首相の麻生財務相」という噂も出回った。
これと前後して「ポスト安倍」とされる面々も活動を活発化させている。
菅義偉・官房長官は8月21日、テレビ朝日「報道ステーション」に出演。GoToトラベルが早すぎたのではという声について「やらなかったことを考えたら、大変なことになっていた」と必要性を説いた。一方、自身が総理大臣を目指すかを問われると「考えていない」と否定。
ただ、週刊文春の単独インタビューに応じ、小池百合子知事のコロナ対策に不満を呈するなど、メディアへ露出はしている。なお、公選法違反容疑で逮捕・起訴された河合元法相は、「菅派」とも呼ばれる無派閥議員の中心人物の一人だった。
「初当選の頃から首相を目指してきた」と語る河野太郎防衛相も、陸上配備型の弾道ミサイル迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画停止を表明して以降、存在感を高めつつある。
8月14日には日本経済新聞のインタビューで米・英中心の機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」への連携意欲を見せるなど、対中包囲の外交連携策を主張。23日には自身のYouTubeライブで、女系天皇を含めた皇位継承の新たなあり方について検討する必要性を提起した。
一方、陰が薄いのは岸田文雄氏だ。党三役の一つ「政調会長」で自民党の名門派閥「宏池会」の会長でありながら、自身が取りまとめたコロナ対策「困窮者への30万円給付案」が首相の鶴の一声で卓袱台返しの憂き目に合って、顔に泥を塗られた。
昨夏の参院選では岸田氏の地元、自民党広島県連が推薦した現職候補が党中央の肝いり候補との「同士討ち」で落選。この肝いり候補こそ、河合案里氏だった。岸田氏は、安倍首相から2度も泥を塗られている格好だ。
岸田氏は安倍首相からの「禅譲」を視野に入れていると伝えられるが、首相の求心力低下もあり、岸田氏周辺は次期総裁候補としてのアピールに苦心しているという。
こうした顔ぶれをおさえて、世論調査で上位にランクインしたのが、安倍首相と総裁選で3度戦った石破茂・元幹事長だ。安倍政権に対して党内から度々苦言を呈し、2012年の総裁選の地方票では安倍首相を上回り、決戦投票に持ち込んだ。
過去に自民党を一度離党し復党した経緯があることから、国会議員の間では不人気の石破氏だが、ここにきて党内人気が上昇傾向だと伝えるメディアもある。そこには次の総選挙を見据えて「反安倍」の石破氏を担ぎたいという思惑が透けて見える。
なおも残る政治課題…北方領土、東京五輪の行く末は
第2次内閣の発足からおよそ7年8カ月、安倍首相は歴代の内閣総理大臣の中で史上最も長くその職にあった人物として歴史に名を残すことになったが、なおも政治課題は残る。
ロシアのプーチン大統領との間で「私たちの時代で終止符を」と意気込んだ北方領土問題は棚上げとなり、「(東京)オリンピック・パラリンピックが開催される2020年、日本が大きく生まれ変わる年にするきっかけとしたい」と豪語した憲法改正も実現は難しいだろう。
そもそも、来年の五輪開催すら危ぶまれている状況だ。
時事通信によると、安倍首相は24日午前中に慶應義塾大学病院を再び訪問する調整に入った。病院側から検査結果を聴取するためという。
安倍首相の自民党総裁としての任期は2021年9月までと残り1年あまり。
その頃、この国はどんな道を歩んでいるのだろうか。  
●小池都知事「大変大きな成果」 安倍首相の連続在職日数最長 8/24 
東京都の小池百合子知事は24日、安倍晋三首相の連続在職日数が歴代最長になったことについて「これまで政権を維持し、発展してこられたことは大変大きな成果だ」と評価した。また、「今も元気だとは思うが、引き続きのご活躍を期待している」と首相の体調を気遣った。都庁で記者団の取材に答えた。 小池氏は、首脳会議をはじめ国際的な会合では「イニシアチブを取り、新しいリーダーを迎えるなどの役目を果たされてきたことは日本にとってプラスだ」と述べた。  
●安倍首相の夏休み、中ぶらりん コロナ禍で定まらず 8/13 
お盆シーズンが本格化する中、安倍晋三首相の夏休みが中ぶらりんの状態になっている。
地元の山口県入りを検討していたが、新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、東京都の小池百合子知事が旅行や帰省の自粛を都民に呼び掛けたことで立ち消えになった。こうした状況で東京を離れれば批判を招きかねないとの懸念もあるようだ。
首相は12日、午前中は東京・富ケ谷の私邸で過ごし、午後1時すぎに首相官邸に出勤した。夏休みの日程が固まらないため、やむなく「午前休」(官邸関係者)でつかの間の休息を取った形だ。
首相は例年この時期に地元で墓参りし、13日に開かれる花火大会に参加するのが習わしだ。政府は帰省自粛を求める立場ではないため、首相は今年も同様の日程を描いていた。だが、首相周辺によると、小池氏が真逆の立場を打ち出したことから、取りやめざるを得なくなったという。
首相が今年の夏休みのスケジュールをキャンセルしたのはこれで2回目。7月に4連休を利用して山梨県の別荘訪問を計画した際も、小池氏が不要不急の都外への移動自粛を要請したため、諦めるしかなかった。首相周辺は「毎回、小池氏に邪魔されている」と悔しがる。
「批判の集中砲火で疲れている」。首相の近況を周辺はこう明かし、15日の終戦記念日後は例年通り別荘に滞在して、英気を養えないかと気をもんでいる。ただ、「優雅な静養は国民から反発を浴びる」(自民党ベテラン)との声もあり、二の足を踏んでいるのが実情だ。  
●安倍首相のコロナ対応「最低」 6カ国世論調査  8/13 
新型コロナウイルスに関する日米欧六カ国の国際世論調査で、自国のリーダーがコロナ危機へ適切に対応できているかを聞いたところ、日本は新型コロナ感染症の死者数が米欧に比べ少ないにもかかわらず、安倍晋三首相の国民からの評価が六カ国で最も低かった。一方で経済的な不安を感じている人の割合は、日本が最も高かった。
調査は、米独のPR戦略会社「ケクストCNC」が七月十〜十五日に、日本、米国、英国、ドイツ、スウェーデン、フランスで千人ずつ、計六千人を対象に行った。
自国リーダーのコロナ危機対応の質問では、「うまく対応できている」と答えた人の割合から「対応できていない」と答えた人の割合を引いて数値化した。安倍首相はマイナス34ポイントだった。次に低かったのはトランプ米大統領でマイナス21ポイント。六カ国で唯一、肯定的な評価を受けたドイツのメルケル首相はプラス42ポイントだった。
政府の経済支援策への評価では「企業が必要とするビジネス支援を提供できている」と回答した人の割合が、日本の23%に対し、他の5カ国は38〜57%。リーダーだけでなく政府全体に対しても、日本は評価が最も厳しかった。
日本は、経済的不安に関する質問で「失業するのではないかと懸念している」との回答が38%、「勤務している会社が倒産しないか心配」との回答が36%に上り、ともに6カ国の中で最も高かった。
日本の調査結果について、ケクストCNCのヨッヘン・レゲヴィー日本最高責任者は「政府のビジネス支援策に対する非常に強い不満が、安倍首相への否定的な評価につながった一因ではないか」と分析している。 
●これだけ経済縮小していても、安倍首相が“安閑”としていられるワケ 8/13 
首相、やる気を示さず
新型コロナウイルスの蔓延による自粛で経済活動が大きく収縮し、企業決算も赤字に陥るところが続出している。ところが、霞が関や永田町を歩いていると、不思議なほどに危機感がない。
「事業規模230兆円、GDP(国内総生産)の4割に上る、世界最大の対策によって雇用と暮らし、そして、日本経済を守り抜いていく」と安倍晋三首相が言うように、政府の対策が奏功して経済の底割れは起きないと見ているのか。あるいは、自分たちのやれることはすべてやっているという自負の表れなのか。
広島と長崎での原爆忌の式典に参列した安倍首相は、およそ50日ぶりとなる記者会見に臨んだが、いずれも十数分の短いもので、質問も事前に幹事社に提出させたもの以外、ほとんど質問に答えずに会見を打ち切った。食い下がって質問しようとした記者を官邸の職員が制止してトラブルになった。
新型コロナへの対応や経済への現状認識、安全保障問題、外交問題など、国民からすれば首相の口から聞きたい話は山ほどあるが、ほとんどまともに答えない。担当大臣が会見している、というのが自らは矢面に立たない理由らしい。
6月、消費は急回復した
なぜ、安倍首相はそこまで安閑としていられるのか。
興味深い統計数字が8月7日、総務省統計局から発表された。6月分の「家計調査」である。
2人以上の世帯の「消費支出(季節調整値、実質)」は4月に前年同月比11.1%減、5月は16.2%減と大きく落ち込んでいたが、6月はマイナス1.2%にまで急速に戻したのである。
6月は、国内外の旅行費用など「教養娯楽」への支出が実質21.2%も減少、交通機関への支出や自家用車関連の支出など「交通・通信」も6.0%落ち込んだ。海外旅行が事実上できなくなっているのに加え、県境を越えた国内の移動にも慎重になった人が多いことを示している。
ところが、一方で、「家具・家事用品」が27.4%増、「住居」が6.5%増と大きく増えたのだ。在宅ワークの広がりでパソコンを購入する人が増えたほか、エアコンやテレビなどへの消費も増加。住宅の設備修繕なども増えている。その結果、トータルで前年同月に比べて1.2%減という微減にとどまったのだ。
なぜ、人々が消費を戻しているのか。その理由を示すさらに興味深い数字がある。同時に発表されている「勤労者世帯の実収入(実質)」という統計数字だ。
4月は0.9%増だったものが、5月には9.8%増、6月には何と15.6%増に急増しているのである。収入が急増しているのだ。内訳を見ると定期収入や賞与などはむしろ減っていて、給与が増えているわけではない。
理由は、政府が配ったひとり一律10万円の定額給付金とみていいだろう。
なんと定額給付金は効果があった
すったもんだの末、4月上旬に決めた定額給付金は、なかなか配布されないなど、当初は不評だったが、5月以降、振り込みが実施された。これが5月、6月の収入増につながったとみられる。6月の可処分所得は18.9%も増えたから、その一部が消費に回ったということだろう。
もちろん、これは全体の統計の話なので、実際には仕事を失って給与が激減し、定額給付金をもらっても収入が減った人たちもいる。だが、大企業などでは残業代は減ったとしても収入が激減するところまでは現状では至っておらず、定額給付金が「余禄」になったと考えられる。
ましてや景気に関係なく給料が支払われる公務員にとっては、丸々「収入増」になったわけだ。
もしかすると、これが、霞が関に危機感がない、大きな理由かもしれない。身につまされる事態に陥るどころか、定額給付金など政府の対策が効果を上げていると感じさせることになっているのではないか。
定額給付金が決まった当初は、職員に受け取り辞退を促す県知事もいたが、批判を浴びて撤回している。収入が激減している人だけでなく、困っていない人にもお金が回ったことを統計は物語っている。
もちろん、それが消費に回れば、経済を下支える効果もあるわけで、定額給付金は政策的に効果があった、という見方もできそうだ。
余った分は株に回ったか
もっとも、実収入が大幅に増えているにもかかわらず、消費はマイナスのままだとすると、その差額はどこに行っているのだろうか。
もしかすると、家計の余剰資金が株式市場に流れ込んでいるから、景気の悪化とは裏腹に株価が底堅いと言えるのかもしれない。
実際、米国では、失業手当を受け取った人たちが、証券投資に参入、それが株高を支えているという見方が出ている。小口の初心者がアプリを使って株取引できる新興ネット証券「ロビンフッド」を使う個人投資家が象徴的だとして、「ロビンフッド族」と呼ばれる。
日本でもそうした個人投資家のお金が流れ込んでいることが株価を下支えしている可能性はある。
日本取引所グループがまとめた「投資主体別売買動向」を見ると、7月は海外投資や事業法人が売り越している中で、個人投資家は買い越している。
楽観していられる状況ではない
問題は、そうした「収入増」が長続きするかどうかだ。
企業業績が大幅に悪化する中で、今後、年末の賞与が大きく削られたり、リストラなどが広がれば、当然、全体の収入も減少に向かうことになる。
5月、6月に定額給付金が配られたのは、様々な支払いができなくなる資金繰り破綻を防ぐ意味で一定の効果があったとみていいだろう。問題は今後、本格的な収入減が表面化した段階で、政府はどんな対策を打つかだ。
ドイツは生活者を守るために、電気料金の引き下げや、消費税率の引き下げなどを行っている。日本がそうした対策に乗り出すのかどうか。
霞が関や永田町の危機感が乏しいことで、先を見据えた議論が後手に回り、対策が遅れることだけは避けなければいけない。 
●「安倍首相が靖国参拝を強行したら…」韓国メディアが懸念 8/13 
2020年8月13日、韓国・デイリーアンは「安倍首相は日韓関係のレッドラインを超えるか」とのタイトルで、安倍首相の15日の終戦記念日の靖国神社参拝の可能性を分析した。記事は「安倍首相が参拝した場合、元徴用工問題や輸出管理問題で対立が続く日韓間の破裂音はさらに大きくなる」と懸念している。
靖国神社参拝について、安倍首相は「もちろん考えなければならないが、その時の状況もある」との考えを示しているが、記事は「安倍首相が新型コロナウイルス事態や健康不安説で守勢に立たされている中、参拝強行は日本内で批判より支持を受ける可能性が高い」と指摘。さらに「安倍首相の主要支持勢力も靖国神社参拝を繰り返し要求している」と伝えている。日本の調査機関が最近行った調査では、有権者2059人のうち58%が「首相が靖国神社を参拝するべきだ」と回答し、「参拝するべきではない」(37%)を大きく上回っている。
一方で「韓国など周辺国から批判を受けることが明らかである上、日本は習近平(シー・ジンピン)国家主席の訪日を準備している状況のため、参拝を見送り玉串料の奉納にとどめる可能性もある」とも指摘している。世宗研究所のチン・チャンス研究員は「今参拝をしても得られる利益はなく、米国との間に紛争を起こすだけ」と話している。国民大日本学科のイ・ウォンドク教授も「安倍首相は13年以降一度も参拝していない」とし、「当分の間は同じ姿勢を維持するだろう」と予想したという。
これについて韓国のネットユーザーからは「コロナ事態で世界が協力しなければならないときにそんなむちゃなことはしないはず」「安倍首相が日韓関係に配慮したことなどない。参拝するだろう」などさまざまな意見が上がっている。
また「安倍首相が参拝しても日韓関係は大丈夫だよ。なぜなら韓国には親日議員が多いから」「韓国の親日派が参拝しに行くから安倍首相は心配しなくて大丈夫」など韓国の議員に対する皮肉交じりの声も。
その他「中途半端なことをしていないで、参拝するか靖国神社を撤去するかしてくれ」「そもそも安倍首相はだいぶ前から日韓関係のレッドラインを超えている」などの主張も寄せられている。 
●安倍首相の健康問題に視線集中…「7カ月ぶりにスポーツジム」報道 8/12 
日本の安倍晋三首相の健康異常説が急速に広がっている。日本のある週刊誌が先月「安倍首相が血を吐いた」と報じたのに続き、9日には別の週刊誌が首相官邸関係者の話として「安倍首相の健康状態が急速に悪化している」と伝えた。
匿名のある関係者は「コロナ失政に対する国民の冷たい視線が首相を刺激し、ストレスが極度に達した。持病の潰瘍性大腸炎だけでなく、胃の状態もおかしくなり、食欲も低下して食べても下痢が続くなど、体力も気力も失われているようだ」と説明した。体調が悪化してすぐに疲れるようになり、仕事をする意欲も失われているというのだ。
このような状況で読売新聞は11日、安倍首相が7カ月ぶりに東京六本木のホテル内にあるスポーツジムを訪れたと報じた。安倍首相が最後にこのジムを訪問して運動したのは今年1月3日だった。昨年は少なくとも1カ月に1−2回ほどはこのジムを利用していたが、今年に入ってからコロナ事態の影響で利用していなかったという。安倍首相がジムを利用したことがニュースになるほど、日本メディアは安倍首相の健康状態を注視している。 
●安倍首相「支援策に取り組む」 黒い雨訴訟控訴で 8/12 
安倍晋三首相は12日、広島地裁が広島市への原爆投下に伴う「黒い雨」を浴びた原告全員を被爆者と認定するよう命じた訴訟で、広島県などが控訴したことについて「広島地裁の判決内容は、これまでの最高裁判決と異なる」と述べた。首相官邸で記者団の質問に答えた。
首相はまた、国の援護対象区域外で黒い雨を浴びた人たちの救済策について「広島県、広島市の要望も踏まえ、厚生労働省で『黒い雨地域』の拡大も視野に入れ、検証することにした」と語った。その上で「被爆という筆舌に尽くしがたい経験をされた皆さまに対する支援策にしっかりと取り組む」と強調した。 
●首相、7か月ぶりにスポーツジムで汗…正月休み以来  8/10 
安倍首相は10日、東京・六本木のホテル内にあるフィットネスクラブを訪れ、7か月ぶりにスポーツジムでの運動で汗を流した。
首相の1日の行動を記録した読売新聞の「安倍首相の一日」によると、最後のジム訪問は正月休み中の今年1月3日だった。
首相は昨年までは、ストレス解消などを目的に月に1〜2回程度のペースでジムに通っていた。しかし今年は、新型コロナウイルスの感染拡大への対応や、ジムがクラスター(感染集団)の発生場所の一つとなったことなどから、訪問を見合わせていたとみられる。
首相は趣味のゴルフにも1月4日以来、行っていない。 
●安倍首相の被爆75周年あいさつ、広島と長崎で“ほぼ同じ”だった。 8/9 
太平洋戦争で原子爆弾が投下されてから75周年になる今年、広島と長崎で平和祈念式・式典が開かれた。安倍首相は例年通りあいさつに立ったが、その内容が広島・長崎とともに「ほぼ同じ」だとネットで指摘されている。
2020年を比べると
安倍首相のあいさつ全文は首相官邸がアップしている。記事作成時点では広島市で行われたもののみだが、長崎市のあいさつ全文も各報道機関が掲載している。それを見比べてみると、類似性は明らかだ。地名や式典名を除き、読み始めから以下の部分は共通している。
(以下引用)
本日ここに、被爆75周年の(※式典名)が挙行されるに当たり、原子爆弾の犠牲となられた数多くの方々の御霊に対し、謹んで、哀悼の誠を捧げます。そして、今なお被爆の後遺症に苦しまれている方々に、心からお見舞いを申し上げます。新型コロナウイルス感染症が世界を覆った今年、世界中の人々がこの試練に打ち勝つため、今まさに奮闘を続けています。
   その次から、広島と長崎で異なる。
広島
75年前、一発の原子爆弾により廃墟と化しながらも、先人たちの努力によって見事に復興を遂げたこの美しい街を前にした時、現在の試練を乗り越える決意を新たにするとともに、改めて平和の尊さに思いを致しています。
長崎
75年前の今日、一木一草もない焦土と化したこの街が、市民の皆様のご努力によりこのように美しく復興を遂げたことに、私たちは改めて、乗り越えられない試練はないこと、そして、平和の尊さを強く感じる次第です。
   しかし、そこから似た文章が続く。以下は広島市の式典で読み上げられたあいさつだ。長崎市との違いがある部分を(※)で示していく。なお、広島と長崎で「取組」「取り組み」などと表記揺れがあるが、割愛する。
広島と長崎(※長崎と広島)で起きた惨禍、それによってもたらされた人々の苦しみは、二度と繰り返してはなりません。唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向けた国際社会の努力を一歩一歩、着実に前に進める(※進めていく)ことは、我が国の変わらぬ使命です。
現在のように、厳しい安全保障環境や、核軍縮をめぐる国家間の立場の隔たりがある中では、各国が相互の関与や対話を通じて不信感を取り除き、共通の基盤の形成に向けた努力を重ねることが必要です。
特に本年は、被爆75年という節目の年であります。我が国は、非核三原則を堅持しつつ、立場の異なる国々の橋渡しに努め、各国の対話や行動を粘り強く促すことによって、核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取組をリードしてまいります。
本年、核兵器不拡散条約(NPT)が発効50周年を迎えました。同条約が国際的な核軍縮・不拡散体制を支える役割を果たし続けるためには、来るべきNPT運用検討会議を有意義な成果を収めるものとすることが重要です。
我が国は、結束した取組の継続を各国に働きかけ、核軍縮に関する「賢人会議」の議論の成果を(※も)活用しながら、引き続き、積極的に貢献してまいります。
   そして、後半部分も大きな変化はない。
「核兵器のない世界」の実現に向けた確固たる歩みを支えるのは、世代や国境を越えて核兵器使用の惨禍やその非人道性を語り伝え、継承する(※承継する)取組です。我が国は、被爆者の方々と手を取り合って、被爆の実相への理解を促す努力を重ねてまいります。
被爆者の方々に対しましては、保健、医療、福祉にわたる支援の必要性をしっかりと受け止め、原爆症の認定について、できる限り迅速な審査を行うなど、高齢化が進む被爆者の方々に寄り添いながら、今後とも、総合的な援護施策を推進してまいります。
結びに、永遠の平和が祈られ続けている、ここ広島市(※長崎市)において、核兵器のない世界と恒久平和の実現に向けて力を尽くすことをお誓い申し上げます。原子爆弾の犠牲となられた方々のご冥福と、ご遺族、被爆者の皆様、並びに、参列者、広島(※長崎)市民の皆様のご平安を祈念いたしまして、私の挨拶といたします。
   あいさつの文言が単純に違うから良い、同じだから良くない、というわけではないかもしれない。しかし、ツイッターではこのことが指摘されると、「誠意がないのでは」などと疑問を呈する声も上がった。
過去はどうだったのか
では、過去数年はどうだったのか。首相官邸の記録をもとに、第2次安倍政権が始まり、最初の平和祈念式典が行われた2013年から見ていく。
2013年は原爆の悲惨さと、復興に向けたあゆみ、そして犠牲になった方へ思いを馳せる前半部分は異なっていた。一方で、日本が国連に提出した核軍縮決議が可決されたことの報告や、原爆症の認定を待つ人へ最善を尽くすとした後半部分は共通していた。(平成25年:広島長崎)
2014年も構造は同じ。出だしは異なる内容だったが、中盤の「人類史上唯一の戦争被爆国として、核兵器の惨禍を体験した我が国には、確実に、『核兵器のない世界』を実現していく責務があります」からはほとんどが一緒だった。(平成26年:広島 長崎)
あいさつ原稿は2015年以降も似た形状で、前半はそれぞれ違う内容だが、中盤の核廃絶に向けた政府の取り組みからは同じ言葉が目立つ。(平成27年:広島長崎)
2016年はオバマ米大統領(当時)が広島を訪問した歴史的な年。安倍首相のあいさつはこのようになっている。
広島
七十一年前のよく晴れた朝、一発の原子爆弾の投下によって、十数万とも言われる貴い命が奪われ、広島は一瞬にして焦土と化しました。
惨禍の中、一命をとりとめた方々も、耐え難い苦難を経験されました。
しかし、広島は、市民の皆様のたゆみない御努力により、見違えるような復興を遂げ、国際平和文化都市としての地位を見事に築き上げられました。
本年五月、オバマ大統領が、米国大統領として初めて、この地を訪れました。核兵器を使用した唯一の国の大統領が、被爆の実相に触れ、被爆者の方々の前で、核兵器のない世界を追求する、そして、核を保有する国々に対して、その勇気を持とうと、力強く呼びかけました。
長崎
今から七十一年前の今日、この地に投下された原子爆弾によって、当時、七万ともいわれる、幾万の貴い命が一瞬にして失われました。
惨禍の中、一命をとりとめた方々にも、言葉にできない苦しみをもたらしました。
しかし、市民の皆様の並々ならぬ御努力によって、長崎は焦土から立ち上がり、長い歴史が息づく国際文化都市として、見事に発展を遂げられました。
被爆七十年の昨年十一月には、パグウォッシュ会議世界大会がここ長崎で開催され、「長崎を最後の被爆地に」という長崎宣言が国際社会に発信されました。
本年五月、オバマ大統領が、米国大統領として初めて、広島を訪れました。核兵器を使用した唯一の国の大統領が、被爆の実相に触れ、被爆者の方々の前で、核兵器のない世界を追求する、そして、核を保有する国々に対して、その勇気を持とうと、力強く呼びかけました。
(平成28年:広島長崎)

2017年以降も、中盤以降は同じ内容になる傾向は変わらない。2020年のNPT運用会議に向けた抱負の部分は、長崎市のあいさつでは「昨年十二月(2016年)、ここ長崎で開催された、核兵器廃絶に向けた国際会議での真摯な議論も踏まえながら」という一文が加わっている。(平成29年:広島長崎)
2018年は読み始めの部分と、日本や海外の有識者が核軍縮について議論する「賢人会議」へ言及する部分以降、違う内容となった。(平成30年:広島長崎)
昨年、2019年は冒頭部分や「国際平和文化都市」「国際文化都市」などの文言を除き多くの部分が一致していた(令和元年:広島長崎)。
民主党政権でも
ただ、広島と長崎のあいさつが類似するのは安倍政権だけではないようだ。第2次安倍政権が誕生する事になる2012年夏、当時の野田佳彦首相のあいさつは、冒頭以降は広島・長崎共通して以下の内容だ。

人類は、核兵器の惨禍を決して忘れてはいけません。そして、人類史に刻まれたこの悲劇を二度と繰り返してはなりません。
唯一の戦争被爆国として核兵器の惨禍を体験した我が国は、人類全体に対して、地球の未来に対して、崇高な責任を負っています。それは、この悲惨な体験の「記憶」を次の世代に伝承していくことです。そして、「核兵器のない世界」を目指して「行動」する情熱を、世界中に広めていくことです。
被爆から六十七年を迎える本日、私は、日本国政府を代表し、核兵器の廃絶と世界の恒久平和の実現に向けて、日本国憲法を遵守し、非核三原則を堅持していくことを、ここに改めてお誓いいたします。
六十七年の歳月を経て、被爆体験を肉声で語っていただける方々もかなりのお年となられています。被爆体験の伝承は、歴史的に極めて重要な局面を迎えつつあります。
「記憶」を新たにする社会基盤として何よりも重要なのは、軍縮・不拡散教育です。その担い手は、公的部門だけではありません。研究・教育機関、NGO、メディアなど、幅広い主体が既に熱心に取り組んでおられます。そして、何よりも、市民自らの取組が大きな原動力となることを忘れてはなりません。被爆体験を世界に伝える、世界四十九か所での「非核特使」の活動に、改めて感謝を申し上げます。政府としては、これからも、「核兵器のない世界」の重要性を訴え、被爆体験の「記憶」を、国境を越え、世代を超えて確かに伝承する取組を様々な形で後押ししてまいります。

このあと、長崎では国連大学との共催で「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」が開かれるとの報告をし、広島では軍縮・不拡散イニシアティブの外相会合が2014年に広島で行われるとしているが、それ以外は一致していた。 
●首相記者会見、2問で終了 8/9 
安倍晋三首相が9日に長崎市で行った記者会見は質問2問で終了した。地元記者と同行記者から1問ずつ質問を受ける予定通りとなった。会場から「まだ質問があります」との声が複数上がったが、追加は受け付けず、首相はそのまま立ち去った。
会見時間は約18分間。新型コロナウイルスの国内感染状況に対する現状認識と対応方針を巡る説明に約10分を費やした。
6日の広島市での会見では、追加質問で会見を長期間実施しなかった理由を問われ「節目、節目において会見を考えている」と答えた。

予想されていたこととはいえ、ここまで露骨だと、「舐めてんのか」と悪態のひとつもつきたくなろうというものだ。何かって、広島と長崎の平和祈念式典での初老の小学生・ペテン総理の挨拶のことだ。なんと、今年もまた地名以外はほぼ同じ文面のコピペだったってね。
スピーチライターに文章力がないってこともあるんだろうけど、ようするにペテン総理にとっては原爆もただのルーティンってことを意味してるってことだ。そんなんだから記者会見も性懲りもなくやらせの質疑応答になっちまうんだね。ところが、なんと長崎での記者会見ではカンペがカメラに捉えられちゃって、そんな予定調和の記者会見に手を貸しちまうメディアにも批判の目が向けられる始末だ。
で、その記者会見なんだが、ペテン総理のやる気のなさはハンパじゃありません。その白眉が特措法についてのこの発言だ。
「事態が収束した後に、より良い仕組みとなるよう検討していく」
バッカじゃなかろか。コロナ対策に有効な「より良い仕組み」とするために緊急で法改正が必要なのに、「事態が収束した後に」なんて悠長なこと言ってる場合か。家が燃えてるのに、効果的な消火法は家が燃え尽きてから考えよう、って言ってるようなもんなんだね。
ようするに、特措法改正するには国会開かなくちゃいけないから、こんな馬鹿丸出しの発言しちゃうのだろう。コロナで青息吐息の飲食店のことなんか頭の隅にもありはしません。
そんなに国会が嫌なら、もう辞めなはれ。コロナ対策の最善の一手は内閣総辞職、これだろう。そうすれば、「コロナにイソジン」なんてアホ抜かすどこぞの知事みたいなのもいなくなるんじゃないのか。 
●森元首相、蔡総統と会談 李登輝氏弔問は安倍首相の意向 8/9 
蔡英文(さいえいぶん)総統は9日、李登輝元総統に弔意を示すため訪台した森喜朗元首相らと台北市内の総統府で面会した。森氏は李氏の弔問のための訪台は安倍晋三首相の意向だったことを明かした。
蔡総統は一行に謝意を伝えるとともに、李登輝元総統が退任後も、日本との関係促進に取り組んでいたことを紹介。また、新型コロナウイルスの影響で延期となった東京五輪・パラリンピックが来年、成功することを願うとの立場を示し、それに向けて台湾は全力で支援すると語った。
森氏は、李氏への弔意を示すため、台湾に派遣する人選について安倍首相から相談があったと明かし、、「安倍先生が私に行けと言っているんだなということがすぐ分かりました」と語った。
弔問団は日本の対台湾窓口機関、日本台湾交流協会と超党派議員連盟「日華議員懇談会」(日華懇)が派遣。安倍首相の実弟、岸信夫衆院議員など与野党の議員が複数参加しており、李氏の死去後、海外から派遣された最初の弔問団となった。団長を務めた森氏は首相在任中の2001年、訪日を希望した李氏へのビザ(査証)発給を決めていた。  
●幹事社と司会者の演出が姑息 50日ぶりの安倍首相のやらせ会見 8/7 
あれが会見と言えるのかどうか。50日ぶりで会見らしきものをやった安倍首相だが、危機感もコロナに対応しようとする意気込みも何も感じられなかった。しかも、最後に記者に(まだ)質問があると言われたら、司会者が遮って質問をさせないようにしている。私は、ユーチューブの動画ですべてを見たが、あれは酷かった。
>記者「総理、質問があります!」
>司会者「予定の時間を過ぎておりますので、これで終了させていただきます」
>記者「なぜコロナ感染拡大で国民の不安が高まっている中で、なぜ50日近く会見を開かないんでしょうか」
>司会者「当初ご案内しております通り、予定の時間を過ぎておりますので、これにて代表質問を終了させていただきます」
その前も、追加質問どころか、事前に提出させた幹事社の代表質問に対して、事前に用意してもらった原稿を読みまくるだけ。しかも、お互いに読み上げるだけの本当に一問一答。会見とは名ばかりの予定調和のやらせだった。
あざとい事に、追加の質問をされないように、自己主張のための言いっぱなし時間を目一杯取っているようだ。追加質問をさせないために、官僚が時間を計って原稿を書いているのかもしれない。本人は、自己PRに忙しくてダラダラと前に聞いた心に何も響かない文言の積み上げ。
挙句、司会者が「予定の時間を経過しました」だと。オイオイ・・・幹事社の代表質問だけで、耳に痛い追加質問は「予定の時間を経過しました」と言って打ち切りってなんなのか。安倍首相に対して耳に痛い質問が来ないように、官邸が精いっぱい演出をしている。
この国は安倍王国か。どうも、その代表質問はやたらサンケイや読売が多いらしくて、毎日や朝日など指名が極端に少ないと言う。安倍首相の最後の文言が振るっている。
>安倍首相「あの、今回もですね、コロナウイルス感染症について、わりと時間をとってお話しもさせていただきましたし、節目節目において会見をさせていただきたいと考えておりますし、また日々、西村担当大臣、また菅官房長官からもお話しさせていただいていると思います。ありがとうございました
ほとんど、自分アピールと、予定調和の代表質問しか受け付けないのに、「わりと時間をとってお話しもさせていただきました」はあ?どこが割と時間を取ったんだよ。耳に痛い質問は何も受け付けなかったくせに。自民党も公明党も、こんな誠意のかけらもない、しかも無能と来ている人間にいつまで総理をやらせているのか。もはや、自公政権が国難レベルで続けば続くだけ日本が壊れていく。 
●安倍首相「緊急事態宣言出す状況にない」、経済との両立を強調 8/6 
安倍晋三首相は6日、全国で感染が拡大する新型コロナウイルスについて、緊急事態宣言を出す状況ではないと述べ、経済活動との両立を図る考えを示した。安倍首相が記者会見するのはおよそ1カ月半ぶり。
広島市の平和記念式典に出席後に会見した安倍首相は、重症者数や死者数、確保済みの病床数の違いなどを挙げ、4月に緊急事態宣言を出した前後とは状況が異なると説明。「直ちに緊急事態宣言を出すような状況ではない」と語った。
その上で、治療薬やワクチンの開発と確保を進め、「感染拡大をできるだけ抑えながら社会経済活動との両立をしっかり図っていきたい」と述べた。
9月に自民党役員が任期を迎え、合わせて内閣改造をする考えがあるかどうかを問われた安倍首相は、「政府を挙げてコロナウイルス対策に全力で取り組んでいる。人事の話はまだ先と考えている」と語った。
このほか、事実上の敵基地攻撃能力の保有検討を求めた提言を与党・自民党から受け取ったことについて、「新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していく」と述べた。  
●タブー恐れず忖度しない「攻めるテレビ」の期待 8/6 
人種的偏見を拡大する放送がダメなことは、放送局で働く人間なら百も承知のはず……なのにNHK「これでわかった!世界のいま」(6月7日放送回)で、米国の黒人差別をわかりやすく伝えようと作成した「怒る黒人」の解説アニメが人種差別と批判を浴びて炎上、NHKは全面謝罪した。
この問題はなぜ起きたのか? 筆者はニュースを解説する報道番組だったことが背景にあると見ている。多くの報道番組は、VTR後にキャスターらが「正しいこと」を短めにコメントするだけのスタイルがほとんどだ。要は一方通行で、双方向の議論はない。「どのように考えるべきなのか」や「ほかにどんな考え方があるのか」について十分に時間をかけて話し合い、視聴者に考えさせるような過程がない。考えない→思考停止→想像力の欠如。それが制作者側にも広がっている背景なのだと思う。
「なぜなのか?」を考えず、結論だけつまみ食いして済ませようとする思考停止。前向きな結論をと、予定調和ばかり優先させる番組づくり。こうした安直な作業を繰り返してきたツケで、どういう表現ならば差別や偏見につながらないのかというデリケートな問題を考えられなかったのではないか。もしも「世界のいま」の番組スタッフが2月にNHK Eテレが放送した「バリバラ〜障害者情報バラエティー〜」(以下、「バリバラ」と記す)の「BLACK IN BURAKU」を見て差別について思いをはせたなら、格差にあえぐ黒人をマッチョで暴力的なキャラとして描く表現を避けられたはずだと、筆者は思う。
建前でなく本音でテーマに迫る
この「バリバラ」のような、「視聴者に考えさせるテレビ」は最近では珍しい。だが、稀少でも存在感を発揮している。それらは“タブーに挑戦する”ことをいとわないという共通点がある。形式張った報道番組ではない。情報番組ですらない。バラエティ形式で深刻な問題も「笑い」に包み込み、議論して本質に切り込むのが特徴だ。建て前でなく本音でテーマに迫る。
その代表格は「バリバラ」と、TBSテレビの「サンデー・ジャポン」。両番組とも、「やらかした芸能人」も「やらかした政治家」も「ジャーナリスト」も「生きづらさを抱えた人」も、そして出演者たちもみな同じ等身大の人間として扱い、自虐の笑いに包み込む姿勢で一致する。政治も芸能も社会ネタも、温かいユーモアを交えていろいろな視点を提供し、差別される側など弱い者の立場を「大真面目に考える」というのが特徴で、こうした「攻め」の姿勢を貫いている。
かつてそこらじゅうにあった「井戸端会議」をテレビで復活させ、テレビが本来持つジャーナリズムの精神を、報道番組よりも発揮する回がある。時には下品な下ネタも交えつつ、予定調和ではない知的でスリリングなトークの空間が誕生する。
筆者は勝手に「攻めるテレビ」と呼んでいるが、テレビがコンプライアンスを気にし、周囲に忖度し、攻めの姿勢を喪失するなかでの希望の灯だと感じている。「攻め」の姿勢がないテレビなら、本音で勝負するネット全盛の時代に視聴者が離れていくのは自明の理だ。“忖度せず”の姿勢で議論を活性化し、「攻め」に徹して本質的なテーマにズバリと切り込むバラエティ番組の存在意義を、ここでは「バリバラ」を例に考察したい。
徹底した批判精神の塊である 「バリバラ」
「バリバラ」は、「『生きづらさを抱えるすべてのマイノリティー』にとって“バリア”をなくす」というコンセプトの「みんなのためのバリアフリー・バラエティー」(同番組HPより)だ。身体障害、聴覚障害、視覚障害、知的障害、精神障害、性的少数者、性暴力の被害者、引きこもり、在日コリアン、外国人、少数民族などさまざまなマイノリティが本音で思っていることを臆せずに発言するのが売り物になっている。
筆者がこの番組のファンとして高く評価する理由は“タブーを恐れない”ことだ。例えば、愛を語りながら性を語らないのは不自然なはずだ。性に触れるなら性欲を語ることも人間の生理だし当然の流れだろう。
それなのにテレビはいつしかこうした当然の流れを排除する傾向を強めた。何か不祥事があると「上から目線」で論評しながら、自分たちをどこか安全圏に置いて、自己批判しない番組も目につく。しかし「バリバラ」にはテレビ業界や自分たちがいる局にさえ気兼ねしない奔放さで、堂々と批判する自由な気質がある。決して自分たちは関係ないという高みに逃げ込まず、「自分ごと」として考える姿勢は徹底している。
ニュース・報道番組が、ともすれば自分たちのことは「さておいて」、神の視点から見下ろすかのような視線に立ちがちなのと対照的だ。そんなウソっぽさや綺麗事に終わりがちな点が、実はテレビ全般への不信感につながり、結果的に「テレビ離れ」につながっていることをテレビ人はそろそろ意識したほうがいい。
「バリバラ」には自分たちを対象化して相対化する健全な批判精神がある。2016年、「バリバラ」は日本テレビが「24時間テレビ」を放送する時間にパロディ番組「笑いは地球を救う」を生放送した。本家同様に出演者も黄色いTシャツ姿で登場した。
年に一度、「24時間テレビ」で障害者のさまざまな現状がテレビで大きく露出するタイミングに合わせ、「テレビが清く正しい障害者像を描いて感動話に仕立て上げているのではないか?」と、「感動ポルノ」という言葉を使って問題提起した。
→一方的な「24時間テレビ」批判ではなく自分たちも自己批判しながら
「24時間テレビ」にも出演した、難病の筋ジストロフィー患者が「バリバラ」にも出演し、本家では本人が思った以上に「重度の障害を抱えてがんばって生きる」ような“感動のヒロイン”に仕立て上げられたと、当の本人が一部始終を暴露したのは痛快で、本質を突いていた。
ただ「バリバラ」は、「24時間テレビ」を一方的に批判するのではなく、自分たちも障害者を「感動ポルノ」として消費している面があるかもしれないと、自己批判しながら出演者たちもコメントしていた。
「バリバラ」の真骨頂は“下ネタ”での共感
「バリバラ」の笑いは、“下ネタ”が目立つ。「障害者の性」は毎年のように特集される鉄板ネタでもある。2012年度にギャラクシー賞選奨に選ばれた「障害者の性1セックスの悩み」では、下半身が不自由な女性が介護ボランティアの力を借りて相手と「同じベッド」で性行為を果たすための「練習」をしたエピソードなど涙ぐましい実話が、腹がよじれるほど可笑しかった。
肉体的な「合体」ができないカップルが互いに想像力を膨らませて行う「エアセックス」もほほえましく、生々しいリアルさも漂わせていた。最終的には、「性」は「愛」につながるものなのだと教えてくれる。こうした実話を、何より障害を抱える当事者が自ら語り、自虐の笑いへと昇華させることで差別的な視点は皆無だ。
2019年も「24時間テレビ」をパロディにした「2・4時間テレビ 愛の不自由、」を放送。言葉を発するたびに顔が大きくゆがんでしまう脳性マヒの男性が介助ボランティアの女性に好意を打ち明け、「僕とセックスできますか」という質問をぶつけて断られた実話のトークは切ない笑いだ。自虐の下ネタは障害の有無を超え、共感できる普遍性を獲得していた。
本家の「24時間テレビ」では「愛は地球を救う」を大々的なキャッチフレーズにしつつも、障害者にとって切実な「性」を扱わない。障害者が性欲を持っていないような一種のファンタジーが描かれる。これも一種の「感動ポルノ」と言えるだろう。障害者の性を直視したくない「健常者の視点」が透けて見える。
他方「バリバラ」は、障害者の切実な性欲さえも障害者自身が自虐の笑いに転化させて共感性の高いトークを展開していた。障害者の性はリアルな実情なのに、それをタブーにして覆い隠す他のテレビ番組の「後ろ向き」が際立つ。
さて、歴代内閣と比べても総理官邸に権限が集中する権力の歪みが明らかになってきた「安倍一強政治」。モリカケ、桜を見る会など、事件の名前こそ違っても文書改ざんなどで官僚が政治家のためにウソを強いられる構図は同じだ。4月に二度にわたって放送した「バリバラ 桜を見る会」も秀逸だった。
「内閣総理大臣 アブナイゾウ」「副総理大臣 無愛想太郎」などのキャラクターが寸劇で登場。漫才でも「言ってはいるけど発言はしてない」など、「ごはん論法」と批判される安倍首相の答弁を皮肉ったギャグ。シュレッダーで参加者名簿を廃棄するパロディなどが笑いを誘った。
差別の本質を考えさせる
だが、こうした「政権批判」は表面的な仕掛けにすぎない。この番組が「攻めている」と本当に感じさせたのは、元TBS政治部記者による性暴力被害で実名と顔を出して相手を訴えた伊藤詩織さんを登場させ、彼女の本業である「ジャーナリスト」としてコメントさせた点だ。
彼女に対する性暴力事件が刑事では立件されなかったのは、元記者が安倍首相にきわめて近い存在だったことや、首相側近の官邸官僚だった警察幹部による異例の働きかけがあったのでは? という疑惑が今も払拭されていない。
伊藤さんは自ら訴えたことで味わった差別や偏見の苦しさを伝えながらも、在日コリアン3世で「ヘイトデモ」などの被害に遭ってきた崔江以子さんとともに、「それでも顔と実名を出して訴えることが大切」と訴えた。私たちも名前をもった人間なのだと知らせることが大事だと……。匿名のSNSで誹謗中傷が飛び交う時代に、差別の背景にある問題を考えさせる番組だった。
「バリバラ」は、地上波テレビで今やほとんど扱われない「部落差別」の問題にも正面から切り込む(前述の「BLACK IN BURAKU」)。大阪のかつての被差別部落を米国出身の黒人たちが訪ねて取材。スタジオでも若者世代の部落出身者とアフリカ系米国人とが差別について語り合った。
結婚や就職などで今も事実上残っている根深い部落差別。さらに警官による黒人男性暴行死で怒りが湧き上がった米国の黒人差別。この2つには地域の衛生格差、教育格差、行政による地域振興策等で生まれる「逆差別」に対する反発など、共通の課題もあった。
部落出身の若者が「SNSで部落の固有名を出すと、『ここは何割が〇〇組のヤクザが住人』などというデマが氾濫して悩まされる」と語ると、米国の黒人大学院生が「メディアが黒人を暴力的に描きがち」と応じる。ネガティブな情報のほうが広がりやすいことでは黒人も部落も同じ、という結論で一致した。
圧巻は食文化だ。奴隷制度があった時代の米国で、白人が食べなかった手羽先を黒人奴隷が油で揚げて食べたことがきっかけでフライドチキンが生まれたという歴史。関西で肉牛を解体した後に部落住民が売り物にならないホルモンの部分を揚げて食べた「油カス」というメニューの歴史。日米の食文化の共通点は実に興味深かった。
かつて穢多・非人と呼ばれた被差別部落住民が革製品や食肉生産の仕事に従事してきた歴史を学んでいくと、部落差別と人種差別、障害者への差別と、実は根っ子が同じだと気づかされる。歴史をしっかりと学ぶことの大切さを考えさせる番組だった。教育現場でもマスメディアでも部落問題を触れる機会がどんどん減るなかで、「こうしてテレビ番組が触れることに意義がある」と部落出身の若者がスタジオで感想を話していた。
この特集は大きな話題になった。なぜならテレビで部落問題を取り上げることはほとんどないからだ。
障害=バリアを考えるとき、障害を「その人の欠けた部分」や「できないこと」と見るのでなく、「障害は社会の側にある」とする考え方が広がっている。同様に「合理的配慮」を求める障害者差別解消法も2016年に施行された。障害者に限らず、さまざまな少数者にとって「社会の側にあるバリア」が社会参加を制約し、生きづらさにつながるなら、そのバリアを無くす必要がある。部落問題も同じ線上にある。
コロナの差別と偏見が広がる実態も
「バリバラ」は、4月の「桜を見る会」の回でも新型コロナウイルスの感染拡大に伴って世界中で差別と偏見が広がる実態について、伊藤詩織さんや崔江以子さんが「差別を受ける側の気持ち」を、実体験から発言していたのが印象的だった。
「バリバラ」は基本的なスタンスとして「当事者主義」を貫く。当事者の声に耳を傾けることが制作のスタート地点になっている。
差別の本質について考えていくことの必要性を示し、テレビ全体に猛省を促した「バリバラ」。マイノリティの立場で差別について考えさせる。手を替え品を替え、思考停止に陥らず、タブーに挑戦しながらモノを言い合う。
これからもそんな「攻めるテレビ」であり続けてほしい。 
●帰省に関する考え方、菅長官と西村大臣に齟齬ない=安倍首相 8/4 
安倍晋三首相は4日夕、官邸で記者団に対し、お盆休み期間中の帰省について政府の考え方は統一されているとの見解を示した。
西村康稔経済再生相が帰省による感染拡大を懸念、菅義偉官房長官は帰省の一律規制はしない、とそれぞれ記者会見で表明しているが、首相は「菅長官と西村大臣の見解は同じと言ってもいい。政府の考えに齟齬はない」と説明した。
首相は同日、自民党ミサイル防衛検討チーム座長の小野寺五典元防衛相らから、敵基地攻撃能力の保有を含めた抑止力向上を求める提言を受け取ったとし、「憲法の範囲で新たな方向性を議論していく」と述べた。
政府は提言を踏まえ、国家安全保障会議(NSC)を開催し、9月中に方向性を示す予定。  
●菅官房長官、安倍首相の健康不安説を否定 8/4 
菅義偉官房長官は4日の記者会見で、安倍晋三首相の健康不安説について「私は連日お会いしているが、淡々と職務に専念しており、全く問題ないと思っている」と否定した。首相は第1次政権末期に持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、約1年で退陣した経緯がある。
永田町では新型コロナウイルスへの対応が長期化し、豪雨災害も重なったため「首相が疲れている」との観測が出ている。4日発売の写真週刊誌「FLASH」は、首相が7月6日に首相官邸内の執務室で吐血していたとする情報を掲載した。  
●首相“アベノマスク”着用やめ新たなマスク 8/3 
安倍首相は、4月に全世帯への布マスク配布方針を示してから、いわゆる「アベノマスク」を着用していましたが、1日から、新たなマスクの着用を始めました。
安倍首相「現在、お店でもいろんなマスクが手に入るようになりましたので、ぜひ国民の皆さまにも、外出にはマスクを着用していただくなど、感染予防にご協力をお願いしたいと思います」
安倍首相は1日から、いわゆる「アベノマスク」ではない布製のマスクを着用しています。1日、着用していたマスクは、福島県で作られたもので、復興支援も兼ねているとみられます。
政府関係者によりますと、マスクの転売規制が解除される見込みとなるなど、市場にマスクが戻っている状況を受けてのことだということです。
いわゆる「アベノマスク」をめぐって安倍首相は、これまでマスク不足への対応策として「きわめて有効」とアピールしてきましたが、「予算の無駄遣いだ」などと批判の声が上がっていました。 
●政権批判を繰り返す朝日の記者が、それでも首相との会食を続ける理由 8/3 
権力を監視する立場にある政治記者は、なぜ政治家との会食をやめないのか。朝日新聞の南彰記者は「食事をともにする中で、政権の重要なやりとりが明かされることもある。まとまって話ができる会食は、貴重な取材の場になってきた」と指摘する--。
「桜を見る会」疑惑中に首相と会食
「桜を見る会」の疑惑追及のさなか、メディアへの不信感を招く「事件」が起きた。
2019年11月20日の夜、安倍晋三首相と、新聞・通信社・TVの官邸記者クラブキャップがそろって「懇談」の名で会食したからだ。
官邸周辺の中華料理店で行われた懇談は1人6000円の会費制だ。安倍首相におごられたものではない。毎年2回ほど定期的に行われているもので、毎日新聞を除く社は、通常どおり参加した。疑惑の渦中にいる安倍首相やその側近が、どんな表情で、何を語るのか。その場で質問したり、観察したりしたい気持ちはわかる。
しかし、この時点で官邸記者クラブは、安倍首相に「記者会見」という公の場での説明を求める要請を正式に行っていなかった。それにもかかわらず、「記事にしないこと」が前提のオフレコの懇談を優先したことは、外から「なれあい」と映った。
安倍首相の「懇談」は続いた。19年12月17日夜には、首相の動静を追いかけ、「総理番」と呼ばれる各社の若手記者を対象にした懇談が東京・神田小川町の居酒屋で開催された。会費は4500円。毎日新聞と東京新聞は参加しなかった。
読者から「なぜ必要なのか」と質問があっても…
年が明けても、20年1月10日に東京・京橋の日本料理店で各社のベテラン政治記者ら7人で安倍首相を囲んだ。
政治ジャーナリストの田崎史郎氏(元・時事通信解説委員長)のほか、曽我豪・朝日新聞編集委員、山田孝男・毎日新聞特別編集委員、小田尚・読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員、島田敏男・NHK名古屋拠点放送局長、粕谷賢之・日本テレビ取締役執行役員、石川一郎・テレビ東京ホールディングス専務取締役が参加していた。
官邸記者クラブとの懇談を欠席していた毎日新聞の参加者もいたことで、ネット上では「毎日が頑張っているので購読を始めたが、毎日も参加していることを知り解約した」と失望の連鎖が広がった。そうしたなか、1月24日付の朝日新聞朝刊にある読者投稿が載った。
兵庫県の76歳の女性は「記者の基本的な姿勢に対して読者に疑問を抱かせる。私はダメだと思う」と指摘したうえで、同月12日付のコラム「日曜に想う」で懇談の話題に触れなかった曽我編集委員にこう呼びかけた。
〈自民党総裁4選を辞さないのか、任期満了までに改憲の道筋をどう描くのか。夕食をともにしながら、曽我編集委員はどんな感触を得たのだろう。なぜ、首相との会食が必要なのか。費用の負担はどうなっているのか。そして、どんな話をしたのか。読者として知りたい。「日曜に想う」でぜひ書いてほしい。曽我編集委員、期待しています〉
しかし、その後も「日曜に想う」で安倍首相との会食に触れられることはなかった。メディア関係者と首相の会食は、安倍政権になって始まったことではない。保守、リベラル問わず、脈々と続けられてきた。
朝日編集委員は「直接取材が不可欠」とコメント
日本マス・コミュニケーション学会が20年6月に計画していたワークショップ(新型コロナの影響で延期)の提案文書では、「世論の反発があるにもかかわらず、メディア・エリートの側は、なぜわざわざ首相と食事をともにするのでしょうか」と問題提起。首相との懇談について、「日本のメディア・エリートたちにとって、業界トップにのぼりつめたことを意味する象徴的儀式のようにも見てとれます」と指摘していた。
朝日新聞は首相との会食問題を検証する記事を2月14日付の朝刊に掲載。「独善に陥らず適正な批判をするには直接取材が不可欠だ。権力者が何を考えているのか記事ににじませようと考えている」と主張する曽我編集委員のコメントを紹介した。
官邸担当の政治部デスクは同じ記事のなかで、「間近で肉声を聞く、葛藤しつつ取材尽くすため」と題して、次のように理解を求めた。
肉薄しつつも疑い、葛藤を抱えながら取材している
〈政治記者とは矛盾をはらんだ存在だと思います。政治家に肉薄してより深い情報をとることを求められる一方、権力者である政治家に対しての懐疑を常に意識せねばなりません。厳しい記事を書けば、当然取材先は口が重くなる。しかし、都合の良いことばかり書くのは太鼓持ちであって新聞記者とは言えません。また、取材の積み上げがなければ記事は説得力を持ちません。政治記者が葛藤を抱えつつも重ねた取材結果が、朝日新聞には反映されています。
政治家と時に会食することに、少なくない人々が疑いのまなざしを向けています。取り込まれているのではないかという不信だと思います。官邸クラブの記者が首相との会食に参加したことへのご批判はその象徴だと受け止めています〉
〈私自身、かつて官邸キャップとして内閣記者会と首相の会食に参加しました。オフレコで直接の記事化はできないルールであっても、間近に顔を見て話を聞くことで、関心のありかや考え方など伝わってくるものがありました。
今回の首相との会食への参加には、社内でも議論がありました。桜を見る会をめぐる首相の公私混同を批判しているさなかです。しかし、私たちは機会がある以上、出席して首相の肉声を聞くことを選びました。厳しく書き続けるためにも、取材を尽くすことが必要だと考えたからです。取り込まれることはありません。そのことは記事を通じて証明していきます〉
深夜の懇談で重要なやりとりが明かされることも
これを書いたデスクは、官邸記者クラブのキャップを務めた時代にも、安倍官邸に与することなく厳しく対峙してきた人である。この説明は痛いほどわかる。
自分自身が政治部記者として参加してきた様々な会食を思い浮かべた。
私的な領域である食事をともにすることを通じて、取材相手が「公」の仮面を脱ぐ。永田町を生き抜く相手の本音を探ろうとしてきた。特に、国会周辺の取材では取材相手も分刻みのスケジュールで動いているため、まとまって話ができる会食は、貴重な取材の場になっていた。複数の番記者で囲む会食も多い。
深夜のオフレコ懇談の席で、政権幹部間の重要なやりとりが明かされることも少なくなく、その懇談を設定したり、あるいはその懇談の枠組みから外されたりしないようにすることが、政治部記者として生きていくうえで求められる資質の一つだった。
同調圧力を生む要因になっていく
「南さんがいると、厳しいことを言って、相手の機嫌が悪くなる」
ある時、同じ政治家の番記者に陰口をささやかれたことがあった。「相手」の政治家とは、1対1で話している時に普通に情報を聞けていた。ほかの政治記者から伝えられた時に笑って受け流したが、もし陰口をささやいていた記者が懇談を設定していたら、その枠組みから外されていたのだろう。
「懇談」というものが、同調圧力を生む要因になっていく。公人の匿名発言を助長し、責任を希薄化する側面もあり、記者会見の形骸化にもつながっている。
ある自民党重鎮の番記者を務めていたころだ。
私はこの政治家の地元での取材を重ねた連載を執筆しており、その原稿のなかで、「身内へ受け継がせる環境が整うまで、一代でつかみ取った政治家という『家業』を簡単に放すわけにはいかないのだ」と書いた。表向き世襲を否定していたが、のちに起きた長男への世襲を予言する内容だった。すると、ほどなくして先輩の政治記者とこの重鎮の会食に呼ばれた。
「まあ、あんまり下品なことは書かないもんだよな」
会話の途中で、先輩記者がつぶやいた。政治家本人は何も言わない。その後も連載は続いたが、懇談を中心とする政治取材文化について深く考えさせられる出来事だった。
元政治部記者の筑紫哲也さんが心掛けていたこと
朝日新聞政治部記者からTBSのキャスターに転身したジャーナリストの故・筑紫哲也さんは生前、「自分で心がけてきたのは、何よりもジャーナリズムというのはウォッチ・ドッグ、監視、権力、力を持っている者に対する監視役が大事だということ。もう一つは、一つの流れにダーッと動きやすい傾向が強い社会の中で、いかに少数意見であろうと恐れないこと」と語っていた。
「ジャーナリストと政治家との線の引き方はとても難しい」とも吐露し、だからこそ、首相に手紙を書くのは就任時の1回という線を引いていた。つきあいの長かった小泉純一郎首相には、「これきりですよ」「こちらは権力を監視する側であるし、ですから、これから遠慮なくいろいろなことを言うときが来ると思います」と書いたという。
2007年に肺がんと宣告された後、亡くなるまでの1年間に「残日録」と題して、ノートに様々なことを書き付けていた。そのなかには、親しかった福田康夫首相への手紙もあった。そこにはこんな一文があった。
「目の前の相手とだけ闘論していると思わないで下さい」
メディアにいる私たちにとっても、目の前にいる取材先と向き合うことは、その先にいる読者・視聴者・市民のためであるということを投げかけているように感じられた。  
●「政局秋の陣」をにらむ自民各派 8/2 
コロナ第2波への不安が募る中、自民党内では「政局秋の陣」に向けた各派閥の動きが活発化している。まず、7月16日に党内第2勢力の麻生派が政治資金パーティーを決行、他派閥も8月のお盆明け以降に、それぞれ研修会やパーティーを計画している。各派とも、秋口とみられる党・内閣人事やその後の衆院解散の有無、さらには来年9月の安倍晋三首相(自民党総裁)の任期切れに向けたポスト安倍レースをにらみ、派の結束や軍資金確保を目指す。ただ、「今後の展開はすべてコロナ次第」(自民長老)だけに、各派の活動には政局的思惑も交錯する。
先陣を切る形となった麻生派パーティーでは、首相の盟友で各派領袖との活発な個別会談も続ける麻生太郎副総理兼財務相が「政権のど真ん中で(首相を)しっかり支えていきたい」と派の結束を訴えるとともに、憲法改正の必要性を力説。ビデオ出演となった首相も「任期中に憲法改正を成し遂げたい」と、早期改憲実現で足並みを揃えた。
麻生氏は、パーティー開催に先立つ15日に、党内第4勢力の二階派を率いる二階俊博幹事長と両派幹部も交えて会談するなど、ここにきて政局を意識した動きが目立っている。このため、党内では「解散時期も含めて、首相の意向を受けた動き」(閣僚経験者)との憶測も広がり、麻生氏と首相のあいさつが注目されていた。しかし、麻生氏は持論の今秋解散説には全く言及せず、首相も政局絡みの発言を避け、出席者には拍子抜けの表情も目立った。
各派のパーティーは春から初夏にかけての開催が通例だが、今年はコロナ禍の影響で、いずれも夏以降に延期された。東京の新規感染者急増もあって、16日の麻生派パーティーは、検温・マスク着用に加え、参加者を3会場に分散させ、着席で飲食なしの講演会形式とすることなどで感染防止策を徹底した。
一方、麻生派以外はパーティーに先立ち研修会を開催する予定だ。すでに3派閥が日程を決めており、最大勢力で総裁派閥の細田派が8月23〜24日、竹下派と石破派が9月7〜8日に、それぞれ所属議員などによる研修会を開催する。さらに9月中旬から、石破派(9月17日)、細田派(同28日)、岸田派(10月5日)、二階派(同7日)、石原派(同8日)、竹下派(同30日)の順でパーティーを開催する予定だ。
この中で政界が注目するのは、細田派の日程だ。8月のお盆明けに研修会、9月末にパーティーという設定は「秋口解散を意識した日程」(岸田派幹部)とも見えるからだ。自民との選挙協力体制を組む公明党が細田派パーティー前日の9月27日に党大会を開くことも、「何やらきな臭い雰囲気」(自民長老)を醸し出す。その一方で、岸田派など4派閥のパーティーがいずれも10月となっているのは「秋口解散はないとの読みから」(閣僚経験者)との見方が多い。
麻生氏による今秋解散説について、永田町では「3前の法則」が噂されている。首相の解散断行は(1)晩秋から予測されるコロナ感染再拡大の前(2)米国の政権交代もあり得る大統領選の前(3)東京五輪開催中止の検討が進む前──が前提との見立てだ。たしかに、コロナ“第2波”だけでなく、米大統領選では首相の盟友のトランプ氏の苦戦が予想され、国際オリンピック委員会(IOC)が秋以降に五輪中止の本格検討に入れば、「政権への逆風」となる可能性が大きい。首相サイドは「首相は解散など考えていない」と煙幕を張るが、10月にパーティーを設定した各派は「状況次第では日程前倒しも」と身構えているのが実態だ。  
 2020/7

 

●田崎史郎氏と若狭勝氏が東京都医師会の尾崎治夫会長の発言を巡り対論 7/31
31日放送のフジテレビ系「とくダネ!」で、東京都医師会が30日に会見を行い、新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、夜の繁華街など感染の震源地を徹底的に抑え込む必要があるとして、法的強制力のある休業要請ができるよう特措法の改正を求めたことを報じた。
東京都医師会の尾崎治夫会長は会見で「休業をお願いする形では日本全体がどんどん感染の火だるまに陥っていく。特別措置法を改正して法的な拘束力のある休業要請、そしてこれには休業補償をちゃんとつける、これをしっかり、全国でエピセンター化していると思われるところすべてにおいて、同時に進めていくことが大事」と述べた。 
さらに、「エピセンター」と呼ばれる感染拡大の震源地への対策として、休業補償とともに、法的強制力を持った休業要請を地域を限定して14日間程度行い、その地域で一斉にPCR検査を実施すべきと訴え、「コロナに夏休みはない」と警鐘を鳴らし、「東京だけの問題ではなく、国で対策を練る問題」だとして、直ちに国会を召集し、特措法を改正するよう強く求めた。
スタジオで政治ジャーナリストの田崎史郎氏は尾崎会長の提言に「尾崎さんの発言について僕は引っかかるんで、申し上げておきますけど」とした上で「東京都医師会の上部団体である日本医師会はきょう10時半から開かれる分科会にも代表者を出しているわけです」と指摘した。その上で「本来、東京都医師会がご意見があるならば、日本医師会にあげて日本医師会の代表者がその分科会で主張すればいいんであって、各都道府県の医師会がいろいろ言われていくと日本医師会ってのは組織の体をなしてないと思われますよ」とコメントしていた。
この意見に元衆院議員の若狭勝氏は「尾崎会長のご指摘は正論だと思う」とし「そういう正論を言うのは今、この時期、危機的な日本の状況下においては正論をきちんと言う人がどんだけいるかだと思うんです」と指摘した。さらに「この時に組織がどうのこうのとか今までの平時の時の話をしても話が進まない」とし「やむにやまれず言うんですよ、という心中を察するに崖っぷちなんだというところで言っているんだと思うんで、私は素晴らしいスタンスだと思う」と反論していた。 
●「直ちに国会召集を」の提言に「法律改正ができないことで実害が出てきた」 7/31
30日放送のTBS系「news23」(月〜木曜・後11時、金曜・後11時半)で、東京都医師会が会見を行い、新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、夜の繁華街など感染の震源地を徹底的に抑え込む必要があるとして、法的強制力のある休業要請ができるよう特措法の改正を求めたことを報じた。
東京都医師会の尾崎治夫会長は会見で「休業をお願いする形では日本全体がどんどん感染の火だるまに陥っていく。特別措置法を改正して法的な拘束力のある休業要請、そしてこれには休業補償をちゃんとつける、これをしっかり、全国でエピセンター化していると思われるところすべてにおいて、同時に進めていくことが大事」と述べた。 さらに、「エピセンター」と呼ばれる感染拡大の震源地への対策として、休業補償とともに、法的強制力を持った休業要請を地域を限定して14日間程度行い、その地域で一斉にPCR検査を実施すべきと訴え、「コロナに夏休みはない」と警鐘を鳴らし、「東京だけの問題ではなく、国で対策を練る問題」だとして、直ちに国会を召集し、特措法を改正するよう強く求めた。
スタジオでアンカーの星浩氏は、尾崎会長の国会召集の提言を受け、国会を閉じているため「法律改正ができないということで実害が出てきたということなんです」と指摘した。具体的には「特措法を改正して拘束力をもたせるとか、そういうことは改正しなければいけない。最近、風営法に基づいて警察官が感染防止を大丈夫ですか?ってチェックしているんですけど、これ本当は風営法を改正しなくちゃいけない話なんですけど、これもできていない。それから、一連の水害の対策の議論も進まない」と例を挙げた上で「こういう議論を本格化させるためにも、ただちに国会を開いて本格的な議論。法改正に着手すべきです」と提言していた。 
●コロナ・豪雨、首相追及狙う 野党、臨時国会要求を決定 7/31 
立憲民主党など野党4党は30日、国会内で党首会談を開き、新型コロナウイルスの感染再拡大や豪雨災害への対応を安倍晋三首相にただすため、憲法53条に基づく臨時国会召集を求める方針を確認した。安倍内閣は2015年に53条に基づく要求に応じなかったことがあるが、6月の那覇地裁判決は「内閣には国会を召集する憲法上の義務がある」と指摘。勢いづく野党は早期召集を迫っており、政権の対応が問われる。
「お盆休みを返上してでも、国会が役割を果たすべき状況だ」。立憲の枝野幸男代表は会談後、記者団にこう強調した。国会の閉会中審査で首相が出席する審議がなかったことに「総理が1カ月以上も説明しない。責任、役割を放棄している」と批判した。  ・・・  
●野党4党、臨時国会召集の要求書を衆院議長に提出 7/31 
立憲民主、国民民主、共産、社民の4党と無所属議員の有志は31日、憲法53条に基づき臨時国会の召集を求める要求書を、大島理森衆院議長に提出した。
新型コロナウイルス感染症の再拡大や相次ぐ豪雨災害を受け、野党は、安倍晋三首相に国会審議の場で説明責任を果たすよう再三呼び掛けてきた。しかし首相は、閉会中審査への出席を拒み、通常国会閉会翌日の6月18日を最後に、記者会見も開いていない。
53条は衆参両院いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣が臨時国会の召集を決定しなければならないと定めている。だが、いつまでに召集するかの定めはない。実際に国会を開くかどうかは政権の意向が影響し、要求に応じなかった事例もある。
第2次安倍政権の発足以降、野党は2015年と17年、憲法に基づき臨時国会の召集を要求した。政府は15年10月の召集要求に応じず、17年6月の要求には、9月28日に臨時国会を開き、首相はその日に衆院を解散した。
立民の安住淳国対委員長は要求書の提出後、「首相がこのまま説明責任を果たさないのなら、安倍政権はコロナ対策を放棄したと断じざるを得ない」と記者団に語った。
菅義偉官房長官は31日午前の記者会見で「国会のことであるので、与党とも相談してまず対応したい」と述べるにとどめた。 
●東京都医師会「コロナウイルスに夏休みはありません」国に法改正を訴え 7/30
東京都医師会が7月30日、記者会見を開き、尾崎治夫会長が新型コロナウイルス感染症に関する対策について「(新型インフルエンザ等対策)特別措置法を改正し、法的拘束力と休業補償のある休業要請をするべき」「今が感染拡大を抑える最後のチャンス」と訴えた。 
尾崎会長は冒頭、感染者を病院やホテル、自宅で隔離するという現在進められている方法については「かなり効果があると思っている」と評価。一方で、感染者が多く報告されている接客を伴う飲食店に関する対策は「うまく行っていない」とした。
都は4月から休業要請を行っているものの、東京都の感染拡大防止協力金50万円では「家賃にもならないと要請に応じてもらえない」と指摘。愛知県や大阪府、福岡県でも接客を伴う飲食店での感染例が相次いでいるとし、「休業をお願いするだけでは日本全体が感染の火だるまに陥っていく」と危機感を示した。
その上で、「特別措置法を改正し、法的拘束力のある休業要請を行い、休業補償をつける。全国のエピセンター(感染拡大の震源地)化した地域で同時に進める」ことを提案。
休業期間は14日程度設け、その間に地域一帯でPCR検査を行い、感染者を把握すべきだとも訴えた。その際、保健所中心の検査だけでなく、研究所や大学などの設備も使うべきだとした。
尾崎会長は「今が感染拡大を抑えるための最後のチャンス」とし、国に対し「コロナウイルスに夏休みはありません」と、こうした対策の早期の実現を訴えた。
「一刻も早く国会を開いて、国ができること、しなければならないことを国民に示してください。これは我々がいくら頑張ってもできません。これは政治の役割であります。国がどう感染症に立ち向かうか。そういう日本としての姿勢をぜひはっきりさせて、国民・都民を安心させてください」  
●「いまが最後のチャンス」 コロナ拡大に東京都医師会長が警鐘 7/30
東京都医師会の尾崎治夫会長は30日、記者会見し、新型コロナウイルスの感染確認者が全国的に増加していることに触れ、これを収束させるためには(1)法的拘束力のある休業要請を可能にする(2)研究にしか使えないPCR検査を実用化させる――ことなどが必要だと主張した。
尾崎会長は、そのためにはコロナ対策の特別措置法などの法改正が必要だと指摘。「東京都医師会から本当にお願いしたいのは、いますぐに国会を収集して、法改正の検討していただきたい。ここ何日間かの流れを見ていると、人口比で東京をはるかに上回る感染確認者が愛知、大阪、福岡、沖縄でも出ている。是非こうしたことを、夏休み中だからどうこうではなくて、本当にこういうことを、国会を開いて議論してもらいたい。私は今が感染拡大の最後のチャンスだと思っている」と語気を強めて訴えた。
尾崎会長は、休業補償とセットの法的拘束力のある休業要請を可能にするよう特別措置法を改正する必要があると指摘。また、PCR検査についても「保健所のPCR検査ではエピセンター(感染の震源地)化した地域・次期を限定して一斉にPCRを行うことは能力的に無理だろう。例えば研究所や大学とかいま研究にしか使えないPCRを動員してしっかりやっていくことが必要。これも感染症法の改正が必要になるかも知れないがこういったことが必要になってくる」と説明した。
その上で、「例えば14日間くらい休業していただければ、そこでの感染は理論的には収まるはず。その間にきちっとPCRを地域の検査能力を結集して一斉にPCRを行う。こういうことで、そこにおける感染者がどのくらいいるのかきちっと把握して対策を練ることが必要なんではないかと思っている」と語った。 
●「法的拘束力ある休業要請を」 特措法改正を要求 「火種消す唯一の方法」 7/30
東京都医師会の尾崎治夫会長は30日、記者会見し、感染拡大が続く新型コロナウイルスを収束させるには法的拘束力のある補償を伴う休業要請を可能にする必要があるとの見解を示し、特別措置法の改正が必要だと訴えた。尾崎会長は「(お願いをするという)いまのやり方では限界がある。愛知、大阪、福岡、夜の街を中心にエピセンター(感染の震源地)化が進んでいる。このままでは日本全体がどんどんどんどん感染の火だるまに陥っていくと考えている」と述べた。
尾崎会長は、クラスター(集団感染)が確認されたキャバクラやホストクラブなどに対して休業要請しても応じてもらえない状況が続いていると指摘。「エピセンター化していると思われるところ全てにおいて、同時に(休業を)進めていくことが大事だ」と述べた。
休業を全国的に進めるためには国が主導する必要があるとも言及し「それが日本全国に広がっている火種を消していく唯一の方法だと思っている。いままの通り各都道府県にお任せして『休業お願いします』、『できれば検査もしてください』、ではもう無理だと思っている」とも語った。 
●PCR検査 医療機関1400か所まで増やす方向で検討 東京都医師会  7/30
東京都医師会が記者会見を開き、新型コロナウイルスのPCR検査を受けられる医療機関を都内で1400か所まで増やす方向で検討していることを明らかにしました。尾崎治夫会長は「感染が拡大している地域では、法的強制力を持った補償を伴う休業要請が必要だ」と述べ、政府に特別措置法の改正などを求めていく考えも示しました。
この中で東京都医師会の尾崎会長は「感染が集中して発生する地域が東京だけでなく、愛知や大阪など各地に形成されつつあり、今のやり方では限界がある」と述べ、医師会として唾液を使ったPCR検査を受けられる地域の医療機関を、都内で1400か所まで増やす方向で検討していることを明らかにしました。
そのうえで「これらの地域で法的強制力を持った補償を伴う14日程度の休業要請を行っていく必要がある。今が感染防止の最後のチャンスだと考えている。東京だけの問題ではなく国がきちんと対策をとらないといけない。国民を安心させてほしい」と述べ、政府に特別措置法の改正などを求めていく考えも示しました。
さらに尾崎会長は、介護施設などで集団で感染者が発生した時には、現地で集中的にPCR検査を行うために、医師会が所有するPCR専用車を派遣することも明らかにしました。  
●コロナ第2波でも死亡率低下から見える2つの事実と、あるべき対策 7/30 
新型コロナ感染陽性者の急増で「第2波到来」といわれている。新聞やテレビなどメディアが感染者数を毎日センセーショナルに報道する一方で、重症者数や死亡者数は4〜5月ごろとは様変わりの低位な水準にとどまっている。SNSや各種のネット媒体では、感染症の専門家から評論家や素人筋まで巻き込んで、感染対策優先の主張と経済活動回復優先を唱える主張が鋭く対立している。
その対立の構図を大くくりにまとめると、感染対策優先を唱える方々は、足元の感染者急増がタイムラグを伴いながら重症者や死亡者の増加を結果し、このままでは大変な事態になると警告する。一方、経済活動優先を説く方々は、重症者数や死亡者数が極めて低位に推移していることを一つの根拠に、感染防止策の強化が経済活動回復を妨げることのデメリットを強調している。
そうした意見の対立を背景に、陽性者数の再急増にもかかわらず、人工呼吸器を装着する重症患者数や死亡者数が低位で推移している事実の解釈も大きく分かれている。経済優先論者は「ウイルスの変異による弱毒化の可能性」「日本人の自然免疫対応強化の可能性」「PCR検査対象者拡大による軽症・無症状の陽性者の増加(若手・中堅年齢層の陽性者増加)」などをあげ、感染者数の増加のみに目を奪われるべきではないと主張している。
反対に、感染対策優先論者は、弱毒化説や自然免疫強化説などは科学的に検証できる根拠がなく(特に感染症の専門家の多くはそのように指摘している)、重症者数や死亡者数はこれから増えるのだと(重症化・死亡の遅延説)危機感を強めている。
陽性者急増でも重症者・死亡者は低位のまま
果たしてどちらが正しいのだろうか。筆者は金融系のエコノミストであり、もとより感染症は専門外であるが、この点について一般に公表されている限られたデータに基づいて、粗いながらも検証した結果を紹介しよう。
結論から言うと、6月以降PCR検査の陽性者数の再急増にもかかわらず、重症者数、死亡者数とも極めて低位に推移している最大の要因は、検査対象者拡大の結果生じた陽性者の年齢分布の若年化、つまり年齢要因だ。
弱毒化説も免疫対応の強化説も多くの感染症の専門家が言う通り、現段階では根拠がない。おそらく重症化・死亡の遅延説も主要因ではない。従って、求められる政策対応は、この点を考慮した年齢層別の対応と経済活動回復とのバランスである。
まず事実認識として、検査陽性者数と死亡者数の関係性を見てみよう。図表1は東京都が公表している日別の陽性者と死亡者の発生数を散布図にしたものだ。日別のデータはバラツキが大きいので、双方とも7日間移動平均値を取った。
また、陽性が判明してから死亡するまでに当然タイムラグが生じる。計測したところ3週間前後のタイムラグがみられる。そこで死亡者数データに3週間のタイムラグを設定して各時点の陽性者数とマッチングしてある。
図表1を見て明らかな通り、データが利用可能な3月4日から6月12日までの期間(青い分布)では、陽性者数(横軸)が増えると死亡者数(縦軸)も3週間遅れて増える極めて高い相関関係がある(決定係数0.79、最大値が1.0となる正の相関係数0.89)。分布の近似線の傾きは0.0432だ。これは100人の陽性者が発生すると、そのうち平均4.3人が3週間後に死亡していることを意味している。
ところが6月上旬(図表では13日)を境に分布の形状が様変わりしている(緑の分布)。両者の関係性はやや低下しているが(決定係数0.492、相関係数0.702)、近似線の水準が低位でかつ傾きが著しく水平に近づき、傾きを示す係数は0.004になっている。これは100人の陽性者発生に対して3週間後に0.4人しか死亡していないことを示している。
つまり東京都では陽性者数に対する死亡率が4〜5月と6月以降では約10分の1に下がったのだ。この傾向が変わらなければ、東京都の一日の陽性者が仮に1000人になっても(7月26日時点の過去7日間平均は258人)、一日の死者数は4人にとどまる。
陽性者数と重症者数の散布図は省略するが、やはり6月初頭を境に、分布の近似線が低い水準で水平化する明瞭な変化がみられる(陽性者数と重症者数のタイムラグは2週間前後だ)。もちろん、重症者数と死亡者数の間にも3月以降現在まで高い相関関係がある(タイムラグは1週間、決定係数0.753、相関係数0.868)。
増える若手・中堅年齢層の陽性者、減る重症者と死亡者
それでは、なぜ6月から死亡する(あるいはその前段階として重症化する)人が、劇的に減ったのだろうか。この点で注目すべき事実は2つある。
第1は、検査対象の拡大だ。当初東京都では(そして全国的にも)それまで一定日数の発熱など感染が懸念される症状がないとPCR検査の対象にされていなかった。しかし5月以降PCR検査のキャパシティー(受け入れ能力)が次第に拡大されるに伴い検査要件も緩和され、無症状や軽症状の者も積極的に検査対象にされるようになった。その結果、検査対象の年齢層が症状の明瞭な高齢者から症状の微弱な若手・中堅年齢層にまでシフトし、陽性判定となる者も若手・中堅年齢層の比率が急増したのだ。
実は小池百合子都知事は、陽性者数が増加に転じた当初からこのことを記者会見でコメントしているのだが、データに基づいて納得できる形で説明していないため、「言い訳を言っているだけだろう」というイメージで受け止められてきたようだ。
第2の事実は、比較的早期からいわれていた通り、新型コロナ感染で重症化、あるいは死亡する比率は年齢別に見ると高齢者層に著しく偏っていることだ。
以上2つの事情を重ね合わせれば、重症化率、死亡率の劇的な低下は、検査対象者・陽性判定者の年齢分布が若年齢化したことが、少なくとも要因の一つとして働いていることは、感染症の専門家でなくても分かる。
一例をあげると、感染症専門医の忽那賢志氏は自らのブログで、陽性者数の急増にもかかわらず重症者・死亡者が低位で推移している要因として、「弱毒化説」には科学的な根拠がないと退けた上で、次の3つをあげている(補注1)。
(1)第1波のときよりも軽症例を含めて診断されている(結果として若年・中堅年齢層の増加という年齢要因)、(2)ハイリスク患者が重症化するのはこれから(遅延仮説)、(3)治療法が確立してきている。
問題はどの要因が重症化・死亡率の低下という変化にどの程度に寄与しているかなのだが、忽那氏はその検証まではされていないようだ。
筆者が注目する「年齢要因」がどの程度働いているかを検証するためには、陽性者数の年齢層別内訳の時系列データと年齢層別の死亡率が必要だ。筆者が検索したところ「東京都オープンデータサイト」に基づいて作成された東京都の年齢階層別陽性者比率が、4月、5月、6月、7月(7月26日時点)と月ベースでNHKのサイトで公表されていた(補注2)。
詳しくは末尾の補注2に記載したサイトをご覧いただきたいが、4〜5月は60歳代が約30%を占めていたが、5〜6月は高齢者比率が8.5%に低下し、若手・中堅年齢層がその分増えている。
また年齢層別の陽性者数と死亡者数は全国ベースで7月22日までの累積ベースでのデータを利用した(補注3)。
そこで、上記の月次の年齢階層別陽性者比率に各年齢層の死亡率を乗じれば、各月の死亡率(陽性者数に対する死亡者数の比率)が推計できる。この推計値が図表1で示した実際の計測値に近似すれば、6月以降の重症化・死亡比率の低下は年齢要因が主であると判断できるだろう。反対に目立った乖(かい)離が生じれば、それは年齢以外の要因が強く働いていることを意味する。
年齢要因で大半が説明できる
その結果を示したのが図表2である。陽性者の年齢要因のみで計算した死亡推計値は4〜5月平均で4.8%、6〜7月平均は1.2%となった(減少幅3.6%)。これは陽性判定から死亡まで3週間のタイムラグを設定して計測した実際の死亡率、4〜5月5.4%、6〜7月1.2%と非常に良く近似している。そして図表1で示した通り、6月13日以降の死亡率はさらに0.4%に低下しているのだ。
このように考えると、6月以降の死亡率低下の最大の要因は検査対象の拡大によって生じた陽性者年齢の若年化と判断してほぼ間違いなかろう。そもそも科学的に検証ができていない「ウイルス弱毒化説」や「免疫強化説」は出る幕がない。
それ以外の要因で可能性があるのは、高齢者層の行動変容、つまり感染不安で外出を避け、自宅にこもる高齢者が増えたため、高齢者の感染も減った可能性がある。また前掲の忽那氏も語る「治療方法改善説」と「重症化・死亡までのタイムラグ延長説」だろうが、主たる要因ではないと言えるだろう。
年齢階層別の対応こそ合理的
そうなると私たちが行うべき対応は、一律の活動自粛でもなければ、ましてや都市封鎖でもない。年齢階層別の対応こそが合理的だと言える。具体的には重症化・死亡する確率の高い70歳以上の高齢者層は自宅に閉じこもり、高齢者の養護施設などでは外部との出入りを厳しく管理・規制して感染から保護する必要がある。
一方、若手・中堅年齢層は、外出時にはマスクを着用し、いわゆる「3密」をできるだけ回避するような防御をしながらも、平常に近い経済活動や教育・学習、スポーツ活動に復帰できる。もし症状が出て検査で陽性と判定された場合のみ、症状に合わせた医師の指示に従って自宅、施設、病院などで隔離・待機すれば良いということになる。
ただし医療現場の医師などが指摘するように、重症者はあまり増えなくても、入院治療を要する中症者が増加すれば、医療サービスが逼迫(ひっぱく)し、新型コロナ以外の医療サービスの供給も滞る危険がある。このことは都道府県単位で注意と準備が必要だ。あとは政府が研究開発を支援しながら治療薬やワクチン開発・実用化を待つだけだ。
メディアには日々の感染者数のみを強調する一面的な報道姿勢を改め、重症者数や死亡者数の推移にも注意を向ける多面的な報道を望むが、期待はしていない。
最後にもう一点、極端な経済優先論者から、このまま感染防止優先で経済活動を抑制すると「失業率はピーク時に6.0%〜8.4%に到達して、累計自殺者数は約14万人〜27万人増加する可能性」という主張がなされている(補注4)。こうしたシナリオも前提の設定次第なのだが、ひどく誇張されていると筆者は思う。
失業率と自殺者数(実は男性自殺者数)との間には確かに長期にわたって高い相関関係がある。筆者が1970年から2017年の年次の長期データに基づいて計測した結果では、失業率が1.0%上がると男性自殺者は10万人当たり年間4.8人増える。人口の半分は男性なので日本全体では年間3000人自殺者が増える(女性自殺者数の変化は失業率とほぼ無関係だ)。
従って、失業率が昨年平均の2%台から戦後最高だった2000年代初頭の5%台まで3%ポイント上昇すると自殺者は年間約9000人増える推計となる。そんな不況が仮に10年続くような極端な想定をしても、自殺者の増加累計で9万人だ。10万人を大きく越える自殺者の増加は、信じられないほどの悲観的な想定の下でしか成り立たない推計だ。
私たちが新型コロナの感染終息と経済活動の回復という不確実性を伴う難しいトレードオフの上にいることは確かなことであり、こうした状況においては、データに基づく合理的な判断と中庸のバランスこそが肝心だと言えるだろう。 
●蓮舫氏「説明責任」明言も沈黙の安倍首相に国会開催求める 7/30 
立憲民主党の蓮舫副代表が30日、ツイッターに新規投稿。新型コロナウイルスの感染拡大や豪雨災害への対応など国会で審議すべき課題が山積していることを受け、野党側が31日にも臨時国会の召集を求めるというNHKニュースを添付し、安倍晋三首相が「説明責任を果たす」と明言しながら具体的な説明のないまま沈黙を続けていることに「一月以上、有言不実行です」と苦言を呈した。
蓮舫氏は「臨時国会を」と切り出し、「感染症対策」「災害対策」「補正予算の使い方」「河井夫妻逮捕の案件」と課題を列挙し、「説明責任を果たす、と安倍総理は閉会直後の会見で述べました。一月以上、有言不実行です」と問題視。「説明する場、国会を求めます」と訴えた。
同氏は「臨時国会の開催を求めます」のハッシュタグを掲げ、「与党の反応をまずは待ちます」とした。
国難とも言える状況の中で臨時国会を招集すべきという声が高まり、立憲民主党など野党側は憲法53条の規定に基づいて臨時国会の召集を求めることを決める方針だが、与党側は否定的な反応のままとなっている。 
●顔見えぬ安倍首相 最高指揮官の責務果たせ 7/30 
安倍晋三首相が半分夏休みモードに入っているという。1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数が全国で初めて千人を超え、国民の不安は膨らむばかりというのに、最高指揮官の顔が見えないままでは不誠実というほかない。
首相は国会の閉会中審査への出席に加え、記者会見にも1カ月以上応じていない。顔が見えたのは記者団の前で一方的にコメントする数分間だけだ。コロナ禍の危機管理を指揮するトップリーダーの責任を果たしているとは到底言い難い。
この間、コロナ情勢は一変。今月に入って東京都を中心に新規感染者が急増し、大阪や愛知、福岡など大都市部だけではなく、その他の府県でも1日当たりの感染者数が過去最多になるなど、緊急事態宣言下の4月を更新する事態となっている。福井県でも昨日、6人の感染が確認された。
問題は、政権が前倒しまでしてスタートさせた観光支援事業「Go To トラベル」で感染に拍車がかからなかったか否かだ。地方や野党などから異論が出ていたのにもかかわらず、制度設計も生煮えのまま見切り発車させてしまった。
東京を除外したものの、その理由や根拠も示さず、控えるよう求めた若者や高齢者の団体旅行の線引きも曖昧だ。1兆3500億円の巨額の予算を巡っては、地方などから直接、観光業者を支援したり、感染が広まっていない隣県同士の旅行割引に使ったりすべきとの声も上がっていた。
首相は22日の感染症対策本部で「十分に警戒すべき状況」と述べつつも、重症者が少なく、医療体制も逼迫(ひっぱく)していないことを挙げ、「4月の緊急事態宣言時とは大きく状況が異なっている」とした。ただ、以降も感染は急拡大しており、現状をどう捉え、どう収束させようというのか、首相の生の声を聞きたいと思う国民は少なくないはずだ。
にもかわわらず、首相はここ1週間は私邸で過ごす時間が増えているという。さすがに、山梨県の別荘での静養は、東京発着の旅行の除外を受けて控えたようだが、夏休みモードなのは明らかだろう。
西村康稔経済再生担当相や菅義偉官房長官、知事らに任せっぱなしにするだけでなく、首相自らが説明責任を果たさなければならない。それには閉会中審査への出席が欠かせないし、野党の求める早期の臨時国会開会も視野に入れるべきだ。
6月の会見で「感染リスクをコントロールしながら、しっかりと経済を回していく」と表明した以上、具体的な対策など十分な情報開示が必要だ。全国的な感染拡大に加え、相次ぐ豪雨災害の対応も急務であり、首相は先頭に立つ気概と姿勢が問われている。 
●安倍首相、「1カ月半ぶり会見」で狙う反転攻勢 7/29
新型コロナ第2波襲来への不安が強まる中、安倍晋三首相が「魔の8月に怯えている」(自民長老)との見方が政界に広がっている。
各方面からの反対論を押し切り、政府はGoToトラベル事業を7月下旬に見切り発車させた。この政府主導の観光旅行奨励がコロナの感染拡大につながったのか、8月上旬に判明するからだ。
仮に全国的な感染再拡大につながったことが裏づけられれば、経済優先で事業の前倒し実施を決断した安倍首相の政治責任は免れず、「政局秋の陣を前に、政権危機が加速する」(閣僚経験者)ことも避けられない。
野党側は「感染拡大なら総辞職もの」(立憲民主幹部)と、安倍首相を糾弾すべく手ぐすねを引いている。6月に国会が閉幕してから記者会見を行わず、国会での閉会中審査にも出席しない安倍首相に対し、「巣ごもりによる逃げ恥作戦」などと揶揄してきた経緯もあり、安倍首相の明確な説明を求める声が強まるのは間違いない。
そうした中、安倍首相は例年通り、8月6日に広島、同9日に長崎で開催される原爆忌式典への出席が見込まれている。それぞれ現地で会見するのが慣例で、それまでに官邸などでの公式会見がなければ、約1カ月半ぶりの会見となる見通しだ。
8月に入っても感染拡大が続いていれば、お盆期間中のGoToトラベル事業見直しや、感染拡大阻止のための地域指定の緊急事態再宣言の必要性もテーマとなり、安倍首相自身の見解も当然求められる。これまでの会見のように「専門家の判断」などを隠れ蓑にすれば、「トップリーダーとして失格」との批判も免れない。
安倍首相が最後に記者会見したのは国会閉幕翌日の6月18日。当時は感染第2波の兆候もなく、「真夏になれば収束」との淡い期待もあった。しかし、7月に入るころから東京で感染が再拡大し、GoToトラベルの東京除外を決断した同16日の東京の感染者数は、過去最多となる286人を記録。同23日には366人まで急増し、国民の恐怖感をかき立てた。
このため、旅行客を迎える観光地に不安が広がり、対象外とされた東京都の小池百合子知事だけでなく、大阪府の吉村洋文知事からも開始時期の見直しや地域限定での緊急事態再宣言などの注文が相次いだ。
その一方で、安倍首相や事業の推進役となった菅義偉官房長官は、「ここでやめたら事業そのものができなくなる」(政府筋)との焦りから、感染防止より観光業救済による経済回復を優先したのが実態だ。
全国的な感染再拡大を受けて、安倍首相は7月24日、官邸で記者団のインタビューに応じた。感染拡大阻止に向けて「まずは徹底検査」と強調したうえで、緊急事態宣言の再発令については「高い緊張感をもって注視しているが、あの時(4月の宣言時)とは状況が異なり、再び今、緊急事態宣言を出す状況にはないと考えている」と否定的な考えを示した。
安倍首相の言う全国的な徹底検査を実施した場合、感染者数は「早晩、東京で600人超、全国で2000人突破は確実」と専門家も予測する。東京で過去最多となった7月23日の検査数は5000件近くだったが、その後は検査数が1000件程度に対して感染者が200人以上となるなど、陽性率も跳ね上がりつつある。
感染者数が倍増すれば、それに伴って入院者・重症者数が急増し、全国レベルでの医療態勢逼迫につながる可能性も指摘されている。
そうした中、安倍首相らが注目するのはに木曜日に東京の感染者が増えていることだ。東京で過去最多を更新した7月16日、同23日はいずれも木曜日。政府部内では「もし、小池知事が検査数を意図的に調整すれば、次の木曜日の7月30日、その次の8月6日の最多記録更新もあり得る」(政府筋)と勘繰る向きもある。
コロナ担当の西村康稔経済再生相は7月26日、7月30日にもコロナ対策の分科会で専門家の意見を聞いたうえで、8月5日に有識者会議を開催する方針を示した。東京や全国での感染者急増を念頭に置いた措置とみられるが、状況次第では5日の有識者会議の分析を受けて「同日中に首相記者会見を開くための環境整備」(自民幹部)とのうがった見方も出る。
その一方で、8月6日と9日に想定される首相会見は、従来通りの質問時間制限は可能だが、感染再拡大が続いていれば安倍首相の政治責任を問いただす質問が予想され、「首相にとっても重要な会見」(政府筋)となる可能性が大きい。
8月のお盆前後には公選法違反で起訴された河井克行前法相、夫人の案里参院議員の東京地裁での公判も予定されている。河井夫妻は議員辞職せずに法廷闘争を続ける構えで、検察側が自民党本部からの1億5000万円の使途も含めた捜査結果を明らかにすれば、改めて安倍首相や二階俊博幹事長らへの批判が強まりそうだ。
今後の政治日程をみると、8月末に予定されるG7サミットへの出席が安倍首相にとって久しぶりの晴れ舞台となる。安倍外交をアピールできれば、政権浮揚の材料となるが、感染再拡大で日本が混乱していれば、自ずと存在感は薄れる。
また、その後に想定される党・内閣人事も難題だ。現状では「国難突破のための挙党一致内閣」を狙うのが常道とみられているが、麻生太郎副総理兼財務相や二階、菅両氏ら政権の3本柱を続投させるようであれば、期待外れになりかねない。
安倍首相が「政権最大のレガシー」と切望する来夏の東京五輪開催も、日本の早期感染収束が困難となれば、秋口から再延期や中止論が勢いを増しそうだ。併せて、麻生氏が唱える今秋解散・総選挙も見送らざるをえず、反転攻勢の材料も失う。
安倍首相は7月25、26日を自宅で完全休養した。「山梨県の別荘に行って、ゴルフを楽しむ予定だった」(政府筋)とされるが、感染再拡大で断念せざるをえなかったとみられている。例年、お盆前後に大型夏休みをとり、それに合わせて地元山口へお国入りしていたが、コロナ対応を理由に見送る方向だ。
ここにきて各種世論調査での内閣支持率は3割強に踏みとどまっているが、後継者不足や多弱野党による消極的支持が目立っており、「いったんたがが外れれば、支持率は一気に2割台の政権危機レベルに落ち込む」(調査専門家)とのリスクもはらむ。
安倍首相にとってまずは8月をどう乗り切るかが最大の課題だ。SNS上で「♯さよなら安倍総理」がトレンド入りしたように、コロナへの不安で国民の心も荒み、それが政権批判と安倍離れにつながる兆しもある。8月上旬に想定される久しぶりの記者会見で、自らの言葉で国民の心をつかめるのかが安倍首相による「魔の8月」克服のカギとなりそうだ。 
●会見開かず、国会出席も拒む中…安倍首相「半休」2日連続 7/29
安倍晋三首相は27、28の両日、午前は東京都内の私邸で休息し、午後のみ官邸へ出勤した。29日も同様の日程を想定する。首相周辺は「本来なら夏休みのはずだったが、新型コロナウイルスの感染再拡大で出ることにした」と話すが、国民への説明不足が指摘される中での半休には異論もある。
28日は定例の閣議も取りやめ、首相は午後1時すぎに出勤。豪雨災害とコロナの感染状況の報告を受けた以外、特に面会はなく帰宅した。4連休の後、29日まで休暇を取り、山梨県の別荘にも滞在する計画だったが、コロナや災害対応で断念した。
政府高官は「首相が疲れているのは間違いない。休める時は休んだ方がいい」と理解を求める。だが感染が再び広がっても6月18日を最後に記者会見を開かず、野党が求める国会出席も拒み続けている。
立憲民主党の枝野幸男代表は28日の党会合で「全く顔が見えず、もはや統治の意思を失っていると判断せざるを得ない」と批判した。  
●地元入りは?別荘で静養は?「夏休み」で悩み深める首相官邸 7/29
新型コロナウイルスの感染が全国で再び広がる中、安倍晋三首相の「夏休み」の取り方を巡り首相官邸関係者が悩みを深めている。例年はお盆期間中に地元・山口県に入り墓参するほか、山梨県鳴沢村の別荘で静養してきた。だがコロナ収束の見通しが立たない中で例年通りに行動すれば批判を浴びかねない。地元入りは見送り、8月後半に別荘に赴くかどうかも慎重に見極めている。
首相は、広島市の平和記念式典(8月6日)や長崎市の平和祈念式典(同9日)、東京都内で開かれる全国戦没者追悼式(同15日)には出席する方針だ。  ・・・  
●体調不安説の安倍首相 周辺で新たなスキャンダル噴出か 7/28 
安倍晋三首相(65)が新型コロナウイルス感染拡大が深刻化しても説明する機会を持たない状況に、自民党内から健康不安≠心配する声が上がっている。
新型コロナの取材対応には自ら先頭に立つこともなく、菅義偉官房長官(71)と西村康稔経済再生担当相(57)に丸投げ状態の安倍首相。連立を組む公明党の山口那津男代表(68)からは「もっと発信してもらいたい」と注文が付けられた。
安倍首相は6月に国会が閉会した後、新型コロナ感染者数が増加の一途をたどっても官邸内で報道陣の問いかけに短く答えることはあっても、記者会見を開いて国民に説明したことはない。
「4連休は1勤3休でした。公務を入れず、自宅で過ごしていたそうだが、厚労省職員が休日返上で対応する中でトップがこれでいいのか。党内では『持病の潰瘍性大腸炎が再発したのか』と疑う声が出ています」(自民党参院議員)
国会では閉会中審査が行われており、野党側は「コロナと戦う本気度があるのか。緊急事態宣言を再度出さない根拠を示すべきだ」と安倍首相の出席を求めているが、要求に応じる気配を示していない。
政界関係者は「官邸スタッフは安倍首相の体調に関して気を使って、対応しています。健康不安説が流れても仕方ない状況でしょう。近く安倍内閣に関して、スキャンダル報道が出るという噂が流れています。本当だった場合は、安倍首相の任命責任が追及され、さらにストレスがかかることになるでしょう」と話している。 
●安倍首相、1カ月超会見なし GoTo混乱も「閣僚が説明」 7/25 
安倍晋三首相の記者会見が、6月18日を最後に1カ月以上も途絶えている。首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染が急拡大する中、政府の「Go To トラベル」キャンペーン迷走で日本中を混乱させているにもかかわらず、対応は担当閣僚らに任せきり。首相自身が説明を尽くすよう求める声にも、沈黙を続けている。
「検査能力にはまだ余裕がある。専門家も言っているように、(緊急事態宣言を発令した)あの時とはまだ状況が異なる」。首相は24日、首相官邸を出る際、記者団の質問に答え、再発令を否定した。やりとりは約1分。首相はその足で東京都内の私邸に帰った。
首相は2月29日に、新型コロナへの政府対応を説明するため会見。これ以降、緊急事態宣言の発令や解除など節目ごとに会見に臨み、説明不足を批判されれば1時間を超えて質問に答える場面も珍しくなくなった。
だが、通常国会閉幕を受けた6月18日の会見以降は一度も応じていない。国会答弁も同15日の参院決算委員会が最後で、野党が繰り返し要求する閉会中審査への出席も実現しないままだ。
「アベノマスク」とやゆされた全世帯への布マスク配布に象徴される新型コロナへの政府対応は、メディアやインターネットで酷評された。首相周辺はこうした批判を念頭に「会見して良いことは何もない」と逃げ腰だ。政権内からは、秋の臨時国会召集にも消極的な声が漏れるほどだ。
官邸のこうした姿勢を見かねた公明党の山口那津男代表は22日、日本記者クラブでの会見で「首相が先頭に立って国民に分かりやすく説明するのは大事だ」と苦言を呈した。
野党は「都合が悪いと巣ごもりする」(立憲民主党幹部)と反発を強めている。立憲の枝野幸男代表は24日、福岡県久留米市で記者団に「これだけの感染者数でも大丈夫だと言うならもっと説得力ある説明をしなければいけない。その責任から完全に逃げている」と首相の対応を批判。「まず首相が会見し、現状がどういう状況なのか説明することが必要だ」と主張した。  
●安倍首相“雲隠れ”1カ月超 課題山積 国会で説明責任果たせ 7/24 
感染拡大が続く新型コロナウイルスへの対応、政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」事業をめぐる迷走、豪雨災害の被災者救援と復旧…。安倍晋三首相自らが説明責任を果たすべき問題が次から次へと起きている中、安倍首相の姿が見えません。6月17日の通常国会閉会後、閉会中審査には一度も出席せず、記者会見も翌18日を最後に1カ月以上開かれていません。首相の“雲隠れ”は許されません。
安倍首相は22日、新型コロナ感染症対策本部での自らの発言をテレビで放映させる一方で、記者会見を開かず、感染拡大についての質問を受ける場をつくりませんでした。緊急事態宣言解除(5月25日)までは、たびたび対策本部開催後に会見を行っていました。
コロナとGoTo
東京都で23日に新型コロナへの新規感染者366人を確認。首都圏でも急増しています。名古屋市や大阪市でも過去最多を記録しました。安倍首相は多くの国民が抱える不安にこたえようとはしません。PCR検査体制の拡充やひっ迫する医療提供体制への支援、補償と一体での地域と業種を限定した休業要請などの必要な対策を、安倍政権は打ち出さないままです。一方で安倍政権は22日、「Go To トラベル」事業を前倒しで開始しました。直前には東京発着の旅行を対象外にすると方針を転換。補償しないとしていた解約料も補償する方針を示すなど二転三転しました。感染拡大のさなか、そもそもなぜ前倒しを決定したのか。方針転換の経過は?――首相の説明が求められます。
買収事件と「森友」
河井克行・案里両被告が、大規模買収事件で国会閉会翌日の6月18日に逮捕されました。自民党本部から両被告側に1億5千万円もの資金が渡り、その前後の時期に克行被告と首相が面会していたことや、同時期に安倍首相の秘書が案里陣営の関係者と一緒に選挙運動をしていたことが明らかになりました。東京地検特捜部は7月8日、河井夫妻を公職選挙法違反で起訴しました。大規模買収事件への首相の関与について説明が求められます。財務省が国有地を不当に値引きして売却した「森友学園」問題では、公文書の改ざんを強制され自殺したとされる財務省近畿財務局の赤木俊夫さんの妻・雅子さんが国を提訴し、15日に第1回口頭弁論が行われました。雅子さんは、「首相は自分の発言が改ざんの発端になったことから逃げているのでは」と訴えました。安倍首相には、この叫びを受け止めて真相を明らかにする責任があります。梅雨前線の影響による豪雨が九州をはじめ各地に大きな被害をもたらしました。被災者救援と復旧は急務です。コロナ禍と豪雨の「二重の打撃」をうけており、従来の枠を超えた直接支援が求められています。閉会中も予算委員会や災害対策特別委員会理事懇談会などで審議が行われていますが、安倍首相の姿は一切ありません。
陸上イージス破綻
国会閉会直前の6月15日、政府が突如発表した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田、山口両県への配備停止問題でも、説明から逃れ続けています。しかも破綻の責任を明確にしないまま、政府・自民党は代替案として「敵基地攻撃能力」の保有を議論し始めました。先制攻撃は「許されない」としてきた憲法上の立場を蹂躙(じゅうりん)するものです。通常国会の閉会前、日本共産党と、立憲民主党、国民民主党などの共同会派は、新型コロナ対応や疑惑の説明など審議すべき課題は山のようにあるとして、会期の大幅延長を一致して要求しましたが、与党は延長を拒否しました。野党国対委員長連絡会は22日、閉会中審査に出席しない安倍首相に、国会で説明責任を果たすよう求めることで一致しました。
相次ぐ失策や疑惑で内閣支持率が低迷する中、国会で追及されれば、さらに支持率が落ち込み苦境に陥ると恐れているのでしょうが、国会での説明は国政を担う首相の最低限の責任です。 
●首相の「不在」 国民から逃げてないか 7/23 
新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、国民の間に不安が広がっているというのに、安倍首相の顔が見えない。国会の閉会中審査には出てこず、記者会見もやらない。行政府の長として、説明責任から逃げているとみられても仕方あるまい。
通常国会の閉会から1カ月が過ぎた。新型コロナへの対応に万全を期すため、国会は開いておくべきだと野党は求めたが、安倍政権は会期の延長に応じなかった。この間、衆参両院で週1回ずつ閉会中審査が開かれているが、首相が答弁に立ったことは一度もない。
先週は行政監視の主舞台となる予算委員会が両院で開かれた。政府が1兆3500億円を投じる観光支援策「Go To トラベル」の是非が最大の論点だったが、野党が求めた首相の出席を与党は拒んだ。NHKが中継し、国民に直接、メッセージを伝える機会であったにもかかわらず、説明はすべて西村康稔担当相に丸投げされた。
首相は5月に緊急事態宣言を解除した際、「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で、流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」と胸を張った。しかし、東京のみならず、全国に再び感染が広がる今、このまま「日本モデル」で乗り切れると考えているのか、首相の認識を聞きたいという人は少なくなかろう。
また、感染防止と経済回復の両立という難しいかじ取りには、幅広い国民の理解と協力が欠かせない。首相が自分の言葉で、丁寧な説明を尽くすべき局面ではないのか。
首相は2〜5月に計8回、コロナ対応をテーマに記者会見を行った。しかし、国会閉会翌日の先月18日を最後に、1カ月以上、会見は開かれていない。首相官邸への出入りの際に、記者団の質問に応じたことは何度かあるが、やりとりは短く、首相が一方的に話して立ち去ることも多い。
きのうは、混乱の中で始まった「Go To キャンペーン」について、国民に自ら説明する考えはないかと記者団に問われ、「こういう機会に、今説明している」、西村担当相や菅義偉官房長官が「ほぼ毎日説明している」などと述べた。率先して国民に向き合う気はないということだろうか。
首相の説明責任が厳しく問われているのは、コロナ対応だけではない。政権が異例のてこ入れをするなかで起きた河井克行前法相夫妻の公職選挙法違反事件しかり。自ら命を絶った近畿財務局職員の妻が再調査を求める森友問題しかり。国会が閉会中なのをいいことに、だんまりを決め込むことは許されない。 
●語らない首相 国民から逃げる無責任 7/22 
安倍晋三首相が通常国会が閉会した翌日の6月18日を最後に、一定の時間を取って質問に応じる記者会見を開いていない。
野党の要請にもかかわらず、国会の閉会中審査にも出席しないままだ。「沈黙」はすでに1カ月以上に及んでいる。
この間、河井克行前法相と妻の案里参院議員が公選法違反(買収)で起訴された。観光支援事業の「GoToトラベル」では政府の迷走が続いている。
新型コロナウイルスは首都圏など大都市で感染が再び広がり、地方にも拡散しつつある。
いずれも、安倍首相が政府の考えを説明するべき問題だ。会見に応じず、国会にも出席しないのは、追及されるリスクを避けているとしか思えない。「逃げ」の姿勢を続けるのは責任放棄である。
観光支援事業では政府の方針は二転三転している。
最初は8月上旬の開始予定だったのを22日に前倒しした。感染拡大が明確になると東京都を対象から除外。きのうは当初「考えていない」としていたキャンセル料を政府が補償する方針に転換した。
これでは旅行を考えていた国民や旅行業者は混乱するだけだ。
共同通信の世論調査では「全面延期すべき」が63%、「ほかの感染拡大地域も除外」が17%に上る。国民の意見は明確だ。
事業が盛り込まれた緊急経済対策の閣議決定は、実施時期を「拡大が収束し、国民の不安が払拭(ふっしょく)された後」としていた。国会もそれを前提に審議した。いま実施する理由と、感染再拡大のリスクに対する認識を、国民と国会に明らかにするのが首相の義務である。
感染再拡大への政府の対策も示すべきだ。PCR検査は今後どう増やすのか、休業の再要請や補償は考えていないのか。国民の関心はそこにある。
それなのに政府は国民に注意を呼びかけるだけで、主体的な対策はほぼ取っていない。首相は現状の認識と対策方針を明確に語らねばならない。
河井夫妻の公選法違反事件では逮捕された当日に開いた会見で「任命責任を痛感」と述べ、「党総裁として説明責任を果たす」と言及した。それが起訴された8日に2分間だけ応じた取材では、説明責任を果たすのは「自民党」と発言を後退させた。自ら詳細を話す意思はないのか。
野党は「首相は都合が悪いと官邸に巣ごもりする」と批判している。国民から目を背けていては信頼をさらに失うだけだ。  
●なぜマスコミ幹部は首相との会食をやめないのか? 7/22 
黒川弘務前検事長と産経新聞、朝日新聞の記者らが賭け麻雀をしていたことへ批判が高まる等、マスメディアに対する人々の不信感は、かつてない程高まっている。それでなくでも、記者クラブ制度の閉鎖性やメディア幹部と首相の会食などの権力との癒着は、批判を浴び続けてきた。ネット上では「マスゴミ」と揶揄され、マスメディア不要論まで叫ばれる始末だ。
こうした中、有志のメディア関係者による「ジャーナリズム信頼回復のための提言」チームが、ジャーナリズムの再建、信頼回復のための提言をまとめ、今月10日付で、日本新聞協会に加盟する新聞・通信・放送129社の編集局長・報道局長に送付した(関連情報)。
また、この提言をもとに、今月18日には、現役のメディア人や研究者、市民活動家をゲストに報道のあり方を問うオンラインイベント「ジャーナリズムがやるべき6つのこと」が開催され、筆者も議論に加わった(関連情報)。
本稿では、18日のイベントでの論議を踏まえながら、日本の報道の再建のための私見を述べたい。
現役記者達がメディア改革を提言
「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」は、新聞労連委員長で朝日新聞記者の南彰氏、時事通信記者の中村進午氏、京都新聞東京編集部長・編集委員の日比野敏陽氏ら、現役の記者達がメディアOB/研究者達と共にまとめた。その全文は、本記事の末尾に転載しているが、この提言の中でも、筆者がとりわけ重要だと考えるのは「報道機関は権力と一線を画し、一丸となって、あらゆる公的機関にさらなる情報公開の徹底を求める」という部分だ。
18日の議論の後、筆者は、改めてメディア不信の本質はなんだろう、と考えてみたが、一言で言えば、現在の大手メディアは、多くの市民から「私達のためのメディアではない」と思われている、ということだろう。権力やスポンサーにベタベタせず、本当に市民によりそっていれば「マスゴミ」と罵られないはずなのだ。
18日の論議でも、「賭け麻雀」に象徴されるネタ元である政治家や官僚から情報を得るため、記者が「癒着」と見られるような過剰に「親密な関係」をつくることの是非が問われ、黒川氏と麻雀していた記者らに対し、「よくそこまで食い込んだ」と評価する向きすらあったことが問題提起された。一般の市民の感覚からはかけ離れた感覚であるが、横並びの報道から一つ頭を抜きん出るため、ネタ元にいかに接近し、信頼関係をつくれるかは、現在のマスメディアにおいて記者の評価基準となっている。だから、記者達にはネタ元と会食や麻雀、ゴルフ、場合によっては風俗といったものを共にすることは珍しくないのだという。
なぜ、メディア幹部は首相との会食をやめないのか?
ただ、筆者が記者達の麻雀等より許し難いと感じるのは、メディア上層部が頻繁に安倍晋三首相など政権中枢の面々と会食を行っていることだ。上層部がそういう感覚だから、記者達だって、本来、緊張関係も必要な取材相手と馴れ合うことになる。しかも、「桜を見る会」をめぐって政権への批判が高まっていた矢先にもが安倍首相と会食していたのだから呆れるしかない。
「年が明けても、2020年1月10日に東京・京橋の日本料理店で各社のベテラン政治記者ら7人で安倍首相を囲んだ。政治ジャーナリストの田崎史郎氏(元・時事通信解説委員長)のほか、曽我猛・朝日新聞編集委員、山田孝男・毎日新聞特別編集委員、小田尚・読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員、島田敏男・NHK名古屋拠点放送局長、粕谷賢之・日本テレビ取締役委員、石川一郎・テレビ東京ホールディングス専務取締役が参加していた」(「政治部不信」南彰著)
メディア上層部の安倍首相との会食は「首相動静」等により一般の人々も知ることとなり、ツイッター等ネット上では批判が相次いだ。これについて、朝日新聞は今年2月14日付の記事「首相と会食、権力との距離は 記者ら、飲食ともにする『懇談』」の中で、首相とメディア幹部の会食に対して批判的な読者や識者の意見を紹介する一方、「独善に陥らず適正な批判をするには直接取材が不可欠だ。権力者が何を考えているのか記事ににじませようと考えている」という曽我・編集委員のコメントも紹介した。また、同記事の中で、朝日新聞の円満亮太・政治部次長は、以下のように語っている。
「今回の首相との会食への参加には、社内でも議論がありました。桜を見る会をめぐる首相の公私混同を批判しているさなかです。しかし、私たちは機会がある以上、出席して首相の肉声を聞くことを選びました。厳しく書き続けるためにも、取材を尽くすことが必要だと考えたからです。取り込まれることはありません」(朝日新聞2020年2月14日 首相と会食、権力との距離は 記者ら、飲食ともにする「懇談」)
呆れた「特権階級」の奢り
つまり、取材の一環だから仕方ない、取り込まれることはない、というものだが、フリーランスの筆者から言わせれば、これこそ「特権階級の奢り」そのものである。マスメディア上層部だからこそ首相と会食できるのであって、言い換えれば首相から利用価値があると思われているから会食できるのだ。そうした非公開の場で重要な情報がもたらされるのであれば、しかも話された内容がオフレコで記事化できないのなら、政府の情報発信のあり方として、著しくフェアネスに欠ける。会食等の非公式な場で、「権力者にご意見をうかがう」というマスメディアの慣習こそが、権力者を甘やかし、会見等の公式な場での説明責任を軽んじさせることになっていないか。例えば、首相会見でマスメディアの記者達は更問い(質問への回答が不十分である場合に、さらに質問を重ねて追及すること)すら、ろくにせず、事実上、安倍首相の言いっぱなしを許しているのに「取り込まれることはない」と胸を張られても、失笑するしかない。更問いをしないという昨今の風潮は「会見時間が限られているから、記者も躊躇する」との意見もあるが(関連情報)、主権者たる人々の「知る権利」を保障し、政府としての説明責任を果たす場である会見は、最重要の公務だ。本来であれば、メディア上層部と会食する時間があるくらいなら、首相は会見に十分な時間を確保すべきであるし、またメディア側もそれを強く求めるべきなのだ。しかも、首相動静をみると会見の後に比較的早い時間に私邸に帰り、来客もなしというパターンも少なくない。「時間が限られている」というのは口実とならない。結局のところ、安倍首相は公式な場での説明責任を軽んじているし、それをメディア側も助長しているのである。
「密着取材」で、自主規制
政治家や官僚への非公式な場での取材偏重と、そのための「仲良しクラブ」的な馴れ合いが、人々の「知る権利」のために役立っているのならまだしも、どうも報道における自主規制につながっているのでは、と疑わざるを得ない話が筆者の耳にも入ってくる。例えば、とある民放キー局関係者から聞いたことであるが、番組の中で政権に批判的な内容があると、真っ先に怒鳴り込んで来るのが同じ局の政治部長なのだという。また、2016年に国連「表現の自由」特別報告者のデビット・ケイ氏が日本のメディア関係者に聴取した際、ケイ氏が当惑したのは、「(権力側の直接の圧力というよりも)メディア側の自主規制が深刻」という訴えの多さだった。官房長官会見における東京新聞の望月衣塑子記者への質問制限及び、それを内閣記者会が黙認しているのも、「仲良しクラブ」的な会見の空気に馴染まない異分子を排除する傾向があるからだろう。
メディア全否定も危険
ただ、悪しきマスメディアの慣習や奢りを批判していくことは必要であるものの、一方で「マスゴミ」という言葉に象徴されるマスメディア全否定も危険である。現在の社会で流通する情報のほとんどが、新聞やテレビ、雑誌等の既存メディアが発信しているもの(ネットの情報もそのソースは既存メディアの報道がほとんどだ)。まっとうな読者・視聴者の多くがマスメディアを見放し、マスメディアが衰退していけば、いよいよ世に出回る情報は全て「大本営発表」となり、政権に都合悪いことは現在以上に隠蔽されるようになる。それは主権在民の民主主義社会が機能しなくなることに等しい。だからこそ、マスメディアの健全化が極めて重要であり、今回、73人もの現役のマスメディア関係者(研究者やOBをふくめれば141人)が実名で「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」への賛意を示したことは非常に有意義かつ大いに評価されるべきことだろう。現在のマスメディアのあり方について、その構造的な問題の改善・改革を訴えるマスメディア関係者がいることが可視化され、それが一大勢力となった時に、日本のメディアのあり方も変革されていくのかもしれない。実際、「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」には、その後、500人以上のメディア関係者が賛同*し、その熱い思いを吐露している。
「"入社4年目の記者です。メディア内部の慣習・常識と、社会の常識の乖離を感じます。受け取り側の信頼あってこそのメディア。いち早く変わらないと、メディアの存在意義を失うのではないかという危機感を抱いています"(新聞社記者)
"賭け麻雀問題を受け、なにかやらなければと痛感して同期と話しながらも、何もできていませんでした。提言に感謝します"(通信社記者)
"事件や災害の被害者・遺族への取材、捜査機関からの情報に過度に依存する事件報道、訂正に消極的な姿勢ーーなど、提言に書かれていること以外にも今の報道機関が抱えている大問題は山積みです。 現実的に変えていくためには、現場から代案を提示して、実践していくことも必要だと感じています。「今の状況が続くなら新聞社にいられるのもあと少しかもしれない」と思うほど深刻に考えているので、今回の行動が、問題意識を共有する同業者たちが連携していくきっかけになることを期待して署名します"(新聞社記者)」(賛同500人突破!賛同した現役記者の声は…)
こうした健全なジャーナリズム精神を持ち、その責務を果たそうとしている良心的な記者達を孤立させない上で、重要なのが、やはり読者・視聴者のサポートだ。「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」のような動きを、市民もまた支えていくことが必要なのである。十羽一絡げに「マスゴミ」と全否定し、マスメディアの健全化の芽を無視することは、結局のところ、民主主義社会全体の不利益となる。筆者は一介のフリーランスにすぎないが、立場を超えて「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」を掲げる有志のメディア関係者らの動きを注視していきたい。
「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」全文
報道機関は権力と一線を画し、一丸となって、あらゆる公的機関にさらなる情報公開の徹底を求める。具体的には、市民の知る権利の保障の一環として開かれている記者会見など、公の場で責任ある発言をするよう求め、公文書の保存と公開の徹底化を図るよう要請する。市民やフリーランス記者に開かれ、外部によって検証可能な報道を増やすべく、組織の壁を超えて改善を目指す。
各報道機関は、社会からの信頼を取り戻すため、取材・編集手法に関する報道倫理のガイドラインを制定し、公開する。その際、記者が萎縮して裏取り取材を控えたり、調査報道の企画を躊躇したりしないよう、社会的な信頼と困難な取材を両立できるようにしっかり説明を尽くす。また、組織の不正をただすために声を上げた内部通報者や情報提供者が決して不利益を被らない社会の実現を目指す。
各報道機関は、社会から真に要請されているジャーナリズムの実現のために、当局取材に集中している現状の人員配置、およびその他取材全般に関わるリソースの配分を見直す。
記者は、取材源を匿名にする場合は、匿名使用の必要性について上記ガイドラインを参照する。とくに、権力者を安易に匿名化する一方、立場の弱い市民らには実名を求めるような二重基準は認められないことに十分留意する。
現在批判されている取材慣行は、長時間労働の常態化につながっている。この労働環境は、日本人男性中心の均質的な企業文化から生まれ、女性をはじめ多様な立場の人たちの活躍を妨げてきた。こうした反省の上に立ち、報道機関はもとより、メディア産業全体が、様々な属性や経歴の人を起用し、多様性ある言論・表現空間の実現を目指す。
これらの施策について、過去の報道の検証も踏まえた記者教育ならびに多様性を尊重する倫理研修を強化すると共に、読者・視聴者や外部識者との意見交換の場を増やすことによって報道機関の説明責任を果たす。 
●国会出席応じぬ首相「極めて無責任」 7/21 
日本共産党の小池晃書記局長は20日、国会内での記者会見で、「Go To トラベル」キャンペーンなどをめぐる政府の迷走が続くなかで、安倍晋三首相が通常国会閉会翌日(6月18日)の記者会見以来、野党が求める国会出席にも応じないなど、国民へのまともな説明を行っていない実態について問われ、「極めて無責任だ」と厳しく批判しました。
小池氏は、安倍首相がこの間、記者会見にも一切応じていないと指摘。新型コロナウイルス感染の急速な再拡大や「Go To キャンペーン」をめぐる大迷走に加え、深刻な豪雨災害が国民を襲い、衆参両院の予算委員会での閉会中審査も開かれたのに首相が出席しなかったことに対し、「許しがたい態度だと言わざるをえない。直ちに国民の疑問に答えるために国会を開け、国会から逃げるなと言いたい」と強調しました。
とくに「Go To トラベル」キャンペーンをめぐっては、助成対象からの東京発着旅行の除外やキャンセル料の国庫負担をめぐる迷走は政権が引き起こした混乱だとして、「政府が国民に説明しなければならない問題だ」と主張しました。
その上で、16日の参院予算委で野党議員が同キャンペーンの見直しを求めたのに対し、西村康稔経済再生担当相が「専門家の意見を聴く」というだけだったにもかかわらず、質疑終了後に西村氏が首相官邸で安倍首相や赤羽一嘉国土交通相と協議し東京発着除外を決めた経緯に言及。「国会を愚弄(ぐろう)し、国民を無視する対応だ。総理も入って東京除外を決めたことは明らかであり、国会で一連の経過を説明をするのは、総理大臣としての最低限の責任ではないか」と重ねて指摘しました。 
●官邸にこもる安倍首相はすでにやる気なし?ネット「職務放棄だ」 7/21 
18日付の北海道新聞に掲載された安倍晋三首相に関する記事が波紋を呼んでいる。同紙は安倍首相が「通常国会閉会翌日の6月18日を最後に1カ月間、記者会見せず、国会の閉会中審査にも出席していない」ことについて詳細に触れているが、多くの人を驚愕させたのは次の一文。「首相は周辺に『秋の臨時国会は開きたくない』と漏らす」と報じているのだ。
官邸にこもりっきりの安倍首相
先月18日に国会が閉会して以降、安倍首相は首相官邸でのぶら下がりには応じているものの、閉会中審査に出席するどころか、記者会見を開くことすらしていない。目の前からぱたりと消えてしまったという印象だ。
安倍首相の行動を記録した、時事通信の首相動静を見てみると、集中豪雨被害を受けた熊本県の被災地を訪れた日はあるものの、朝9時台に東京・富ケ谷の私邸を出発して官邸に入り、夜7時台には官邸を出て私邸に帰るという毎日を送っている。
誰よりも規則正しい。一国の首相のはずなのに、まるで公務員のようだ。
もちろん官邸にいる間は大臣やら他の国会議員やら官僚やらさまざまな人が安倍首相のもとを訪れている。しかし、それは内向きなことであり、外向けには首相自ら何も発信していない。
国会閉会後の安倍首相の行動を見てみると、北海道新聞が報じた冒頭の一文、「首相は周辺に『秋の臨時国会は開きたくない』と漏らす」が全てを物語っている。安倍首相は野党などから追及を受けることに疲れ果て、身内の人間だけを相手に進めていきたいのだ。誰にも会いたくないというのが本音だろう。
この報道を受け、著名人たちからも呆れるような声が上がっている。
首相は「秋の臨時国会は開きたくない」と周辺に漏らしていると北海道新聞が報じる。国会に出たくないなら、お辞めなさい。退陣しなさい。議員もお辞めになればいい。そうすれば国会に出なくってもいいのだから。なんでそんな単純なことができないの(怒)
「国会を嫌がる国会議員は辞めるべきです。」
秋の解散はあるのか?
官邸に巣ごもり状態になっている安倍首相。秋の臨時国会は開きたくない、閉会中審査にも出たくない、記者会見もやりたくない…となれば、もう総理大臣の椅子に長く座っていたいという気持ちはないということなのだろうか。
そうなると、現実味を帯びてきそうなのが、いわゆる「秋解散」。ポスト安倍に名を連ねている候補者たちをはじめ、自民党の権力者・二階幹事長、さらに派閥の領袖たちが動きを活発化させているが、実際に解散風は吹いているのだろうか。
自民党の岸田文雄政調会長は19日に出演したテレビ番組の中で、「解散・総選挙の雰囲気を感じる動きはない」と平静を装ったが、安倍首相がこのような状態であれば、解散へ一気に傾き始めることも十分に考えられるといえそうだ。
SNSで上がる安倍首相批判の声
新型コロナの感染拡大、集中豪雨による河川氾濫災害、Go To トラベルキャンペーンによる混乱など、安倍首相は官邸にこもっている場合ではない。今こそ国民の前に立ち、指揮を執るべきなのではないだろうか。この安倍首相の動向について、ネット上でも批判する声が多く上がっている。
「安倍首相、すでに一か月会見無し。どうした?国のトップとしての責任は?」 「さて、この期に及んで安倍総理は何やってるんですかねー?と思ったら何もしてなかったですと。「さらに首相は周辺に「秋の臨時国会は開きたくない」と漏らす。」早く辞めてくれないかな。そのずるずるが非常に迷惑。」 「無責任一代男 コロナによる感染が拡大しているのに安倍首相は1カ月間会見なし ついでに新型コロナの委員会も欠席した。不真面目過ぎてお話にならない。『会食』だけが首相の仕事か? なんでもいいから国会を開け‼」 「こんな時だけ逃げる安倍さん あなたの政権がGoToキャンペーン見切り発車したのではないのか 肝心な時に雲隠れする責任者など不要、税金の無駄」 「説明する能力がないから所詮無理がある。安倍やめろ 安倍首相、1カ月間会見なし 委員会も出席せず 感染再燃、GoTo方針転換…説明責任果たさず(北海道新聞)」 「職務放棄かぁ。辞職してゆっくり休むと良いのではないでしょうか。安倍首相、1カ月間会見なし 委員会も出席せず 感染再燃、GoTo方針転換…説明責任果たさず(北海道新聞)」 「国民には説明していくって言ってたよね?質問出尽くすまで、毎日会見開いてもいいんじゃない?全然表に出ないんだし時間もあるんじゃない?」 
●安倍首相、1カ月間会見なし 委員会も出席せず …説明責任果たさず 7/19 
安倍晋三首相が通常国会閉会翌日の6月18日を最後に1カ月間、記者会見せず、国会の閉会中審査にも出席していない。この間、首都圏を中心とした新型コロナウイルスの感染再拡大や、政府の観光支援事業「Go To トラベル」の方針転換など大きな課題が浮上したが、説明責任を果たさない逃げの姿勢が浮き彫りになっている。
首相は「Go To トラベル」で東京発着の旅行を対象外としたことについて、16日に「現下の感染状況を踏まえて判断があった」と述べただけ。追加の質問には答えず、17日も質問を受ける場面はなかった。
首相は国内で新型コロナ感染が拡大した2月以降、9回記者会見したが、国会閉幕を受けて行った6月18日を最後に途絶えている。現在、首相の説明は官邸の出入りなどの際に記者団が質問を投げかけ、応じる場面にほぼ限られる。答えることもあるが、一方的に話して立ち去ることも多い。
通常国会閉会後、東京など首都圏を中心に新型コロナ感染者が増加に転じ、今月17日には東京で過去最多の293人に上った。道内でも札幌・ススキノのキャバクラでクラスター(感染者集団)が発生するなど、政府が進める感染防止策と社会経済活動の両立に不安と関心が高まっている。
だが、首相は記者会見に加え、週1回のペースで開かれている国会の委員会の閉会中審査にも出席していない。政府・与党が拒んでいるためで、さらに首相は周辺に「秋の臨時国会は開きたくない」と漏らす。コロナ対策などを巡って求心力のさらなる低下がささやかれる中、できる限り説明の機会を少なくすることで野党などの追及を避けたい思惑が透ける。 
●Go Toトラベル 立民 国会閉会中審査で予算委の集中審議求める  7/17 
政府の消費喚起策「Go Toトラベル」について、立憲民主党が東京を除外した理由などを安倍総理大臣にただす必要があるとして、国会の閉会中審査で予算委員会の集中審議を行うよう求めたのに対し、自民党は持ち帰って検討する考えを示しました。
政府の消費喚起策のうち、旅行を対象とした「Go Toトラベル」について、政府は東京発着の旅行を対象外にしたうえで、今月22日から予定どおり実施する方針を決めました。
これを受けて、立憲民主党の安住国会対策委員長は自民党の森山国会対策委員長と会談し、東京以外でも新型コロナウイルスの感染が拡大しており、実施を延期すべきだという考えを伝えました。
そのうえで、安住氏は東京だけを除外した理由などを安倍総理大臣に直接ただす必要があるとして、来週、衆参両院で予算委員会の集中審議を行うよう求めました。これに対し、森山氏は持ち帰って検討する考えを示しました。
また、両氏は今回の豪雨災害を受けて、今月28日に災害対策特別委員会で質疑を行うことで合意しました。
安住氏は記者団に対し、「この先、感染者数が増加すれば国家的危機になる可能性がある。感染が拡大している中で本当に正しい政策なのか、国民は疑念を持っている。安倍総理大臣は説明責任を果たしたほうがいい」と述べました。
自民党の森山国会対策委員長は、記者団に対し「『Go Toキャンペーン』は所管している国土交通大臣から説明された経過もあるし、専門家から意見を伺ったうえでの方針決定だったと聞いており、予算委員会の集中審議の開催は、かなり難しいのではないか」と述べました。 
●「西村大臣が安倍首相の尻拭い」めぐり紛糾も 7/16 
国会では15日、衆議院予算委員会の閉会中審査が行われ政府が観光支援などのために来週22日から始める予定の「Go Toキャンペーン」の是非を巡って論戦が交わされた。
野党が、新型コロナウイルス感染者の増加をふまえ、今やるべきではないなどと批判したのに対し、西村経済再生担当相は、感染状況について16日に専門家の意見も聞いたうえで、国土交通省で適切に判断すると説明した。
また、安倍首相の出席なしでの審議になったことを野党が批判したのに対し、委員長が野党も合意のうえであると言及したことから、紛糾する場面もあった。
国民民主党・馬淵元国交相「Go Toトラベルキャンペーンの(4月の)閣議決定では、(実施の時期は)明確に『国民の不安を払拭した後』、『コロナ感染症拡大が収束した後』であります。(今回の実施は)この決定を覆していることになりませんか」
西村大臣「国民の皆さんの不安を払拭しながら、配慮しながら進めるのは当然のことです。専門家のご意見をしっかりお聞きして、あす分科会も開いたうえで適切に判断してされていく」
馬淵議員「閣議決定を変更したということですか。そうではなくて(コロナ感染が)収束したと判断したということですか」
西村大臣「その閣議決定は生きています。従って大きな流行は収束させたと判断し緊急事態宣言を解除したところです。足元の感染状況はきめ細かく分析して、専門家の意見を聞いて適切に判断していくことになる」
馬淵議員「テレビをご覧の方々は、(政府が)こういう決定をしておいて、今非常に中途半端な状況におかれていることに不安を感じますよ。不安の払拭どころじゃないですよ、不安の増幅ですよ。なぜ今なのか、なぜ移動を促進させていいのかの二点です」
西村大臣「感染状況、それからご指摘のあった国民の感情、心情にもしっかりと寄り添いながら、国交省において検討され適切に判断されると考える」
馬淵議員「閣議決定で責任は総理です。安倍総理は対策の時には『前代未聞』、『世界トップクラス』等々のさまざまな修飾語を付けここまでやったと言われるが、その後の尻拭いは西村大臣に押しつけているのでは。なんでここに来ないんですか」
棚橋予算委員長「本日の委員会は参考人質疑で、国務大臣は西村大臣のみの出席と言うことで全会派一致している」
立憲民主党・本多議員「委員長は先ほど与野党合意できょうは西村大臣だけだと発言されたが、われわれはやむなく合意しているだけなんですよ。総理の考えもしっかり聞きたいことたくさんあるんですよ。その中で安倍総理が逃げ、与党は安倍総理を隠している」
棚橋委員長「理事会で全会一致で参考人質疑として合意し、西村大臣だけ出席となった」
本多議員「そんなことはわかったうえでやむを得ずといっているんですよ」(場内騒然)
本多議員「緊急事態宣言を出すようなことになったらGo Toキャンペーンは一時中止にするということでいいか」
西村大臣「当然、緊急事態宣言を発出したら、そういった状況ではなく、それぞれの皆さんに自粛をお願いしたり、休業をお願いしたりする状況になる。当然そういったこと(Go Toキャンペーン)はできないと思う」
本多議員「世界でコロナの最中に旅行推進キャンペーンを政府がお金を出してやっている国はどこかあるか」
西村大臣「お金を出しているかは承知していないが、観光を推進している国はあると承知している」
本多議員「お金を出しているかどうかが大事なんですよ。この波が起こったときにこんなことやるのは、本当に見直しを真剣に検討していただきたい」
16日は参議院の予算委員会で審議が行われ、引き続きGo Toキャンペーンの是非などが議題となる。 
●安倍政権は、ホントはどこが「ダメ」で、どこが「良い」のか…? 7/15 
新型コロナウイルスの感染拡大は、様々な国の「トップの政治力」を試すことになった。ドイツのメルケル首相などは決断を次々断行して評価を上げたが、翻ってニッポンの安倍政権はどうだったのか。これまでの感染防止策の成果と失敗を検証したうえ、第二波、第三波への課題を見極める必要があるだろう。
そこで今回、新作小説「よこどり」で日本的組織の課題を独自の視点で描き出した作家の小野一起氏と、元財務官僚で気鋭の政治学者である竹中治堅政策研究大学院大学教授が緊急対談。安倍政権の新型コロナ対策の成果と課題を徹底的にあぶり出した――。
安倍政権の「正体」
小野 竹中さんは、現在の「第4次安倍晋三政権」は、非常に強い政治的な基盤を持った政権だと指摘されています。その強い政権の時に日本は、たまたま新型コロナの感染拡大という、未曾有の危機に直面しました。この危機を安倍政権で迎えたことは日本にとって良かったのか悪かったのか。政権の基盤の強さと危機対応力の関係について考えてみたいと思います。
まず、竹中さんは安倍政権の「強さ」の背景についてどう分析していますか。
竹中 閣僚人事権が強まっています。例えば、麻生太郎副総理・財務大臣、菅義偉官房長官は発足当初から今のポジションにいます。加藤勝信厚労大臣も15年10月に入閣してからずっと閣内にいます。高市早苗総務大臣も14年9月から総務大臣を3年程度勤めてから、19年9月に復帰しています。
茂木敏充外務大臣は12年12月から14年9月まで経産大臣、17年8月から2年間、経済財政担当大臣を務めた後に現職。河野太郎防衛大臣も17年8月から外務大臣を務めた後現職。つまり首相に近い人が長期にわたって同じ大臣を務めたり、横滑りしているということです。これは同時に他の人が大臣になる機会が減っているということを意味します。
首相の権力が強まっているからこういう人事ができるわけです。
党首の「力の源泉」
小野 日本やイギリスのような議院内閣制の場合、そもそも議会で多数を握っている政党が与党なので内閣提出の予算案や法案を議会で通しやすい。一方でアメリカのような大統領制の場合、大統領に予算案や法案の提出権がなく、出身政党に出してもらうほかない。
大統領の出身政党と、上院、下院で多数を握っている政党がねじれていると、政権運営はとたんに難しくなります。そもそも大統領制は、三権分立が明確で、議会や司法が大統領をけん制する仕組みが組み込まれています。そう考えると新型コロナ対策のように大型の補正予算の編成や法改正が必要なケースでは、政治制度的には議院内閣制の方が、より迅速でスムーズな対応が可能ですね。
竹中 1994年の選挙制度改革で小選挙区・比例代表制が導入され、党首は選挙での公認権を通じて、党内に大きな力を持てるようになった。小選挙区制は1人しか当選しない仕組みなので、二大政党制を形成しやすい。大政党が有利な仕組みで、政党の公認候補になれるかどうかを握れる党首により権力が集中します。
ただ、1年ごとにくるくる首相が交代しているのでは、権力もうまく行使できません。安倍政権が長期政権となったことで、小選挙区という政治制度が生み出す党首の強さが存分に発揮できるようになった。ようやく議院内閣制が持つ力が開花したと言えるかも知れません。
しかも、安倍政権は公明党との連立政権で、参議院でも過半数を握り、ねじれもありません。安倍政権は、日本の現代史で見ても稀にみるレベルで強力な政治基盤を持った政権と言えるでしょう。
小野 今回の感染防止策では、強力な指導力を持った国、私権の制限をともなう措置に大胆に踏み込めるような国の方が、感染症を抑え込んでいる印象があります。
竹中 確かに、いくつかの国ではそういう面もあります。ただ、非民主主義的ともいえる「権威主義的」な政権の国でも経済成長を達成している国とそうでない国があるのと同じように、感染対策でも国によって成否が分かれます。
安倍政権の「失敗」
竹中 例えば、中国、ヴェトナム、シンガポールは、いずれも権威主義的な国ですが、経済成長の面でも感染症対策の面でもうまく対応しています。ただ、権威主義的な国の中でもロシアや中東諸国は感染が、どんどん拡大していますからね。ポイントは、ガバナンス(統治)の仕組みがきちんと整備されているかという点だと思います。
小野 では、安倍政権の強さは、今回の新型コロナの感染拡大への対応策で、どのように発揮されたのでしょうか。
竹中 フェアに見て迅速な意思決定はできていると思います。強力な政権だからこそ、この危機になんとか対応できているとも言えるでしょう。
ただ、コロナ危機の場合、厚生労働省と病院の関係、地方自治体との関係など、政権では簡単にコントロールできない部分があった点は重要だと思います。
それに、なかなか思うようにならないこともあります。例えば検査体制の不備です。首相は4月6日PCR検査能力を1日2万件まで増強するという数字をあげましたが、なかなか実際の検査数は伸びていきません。保健所の電話がつながらず、検査がなかなかうけられず、ようやく検査が受けられたと思ったら検査の結果を待っている間に亡くなってしまったというケースも報じられています。
首相の力は強くなりました、しかしながら、限界があります。厚労省が官邸の期待通りに動くのは難しいです。また、インフル特措法、感染症法、地域保健法などの法制度のもとでは都道府県知事や市長、特別区の区長が感染症に対応するための権限を持っており、首相が直接指示を下すあるいは関与することが難しいという問題もあります。
検査体制の改善が進まないのは問題です。私は全員にPCR検査をしろとまでは言いませんが、疑わしい人や集団を集中して検査する体制の構築は必要です。また、長期戦になる以上、経済対策として感染の可能性を感じる人、不安に感じる人が検査にアクセスできる仕組みを整えることが必要です。
ただ、厚生労働省は次の二つの方針を堅持しています。一つは感染が疑われる症状を持つ人を検査すること。もう一つは積極的疫学調査、すなわち、感染の拡大の可能性がある場合、一定の条件をみたす対象者にしぼって検査をすると言う方針を堅持しています。結局、日本全体の検査のキャパシティーが足りないということなのかもしれません。
竹中 それから、帰国した人を一定期間、留め置く「停留」に厚生労働省が反対したため、行なっていません。自主的に2週間の自宅隔離をお願いしているだけです。現場を持っている役所が反対すると、強い政権が言っても突破できないのだと感じています。厚生労働省は停留できる能力を懸念していることが想像できますが、感染防止策としては後手に回っている印象は否めません。
さらに緊急事態宣言が出るのが遅かったですね。これは、おそらく経済の落ち込みを気にしたのでしょうが、やはり危機の深刻さを考えると東京、大阪での感染拡大の防止の観点でより早い段階で宣言を発令すべきでした。
「入国制限」は法的にギリギリだった…
小野 一方で、強い政権だからこそ迅速に対応できたのは、どんな点でしょう。
竹中 まず入国制限ですね。1月31日の段階で、入国申請時から14日以内に中国武漢市を含む湖北省に滞在歴のある外国人を「当分の間、入国を拒否する」として入国制限に踏み切りました。世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言を受け、水際対策を即座に強化しました。これは法的にはぎりぎりの措置で、現場の官僚から上がってくる政策ではありません。
それから、一斉休校でしょう。政府は2月25日、学校設置者に適切な休校実施を求める基本方針を決定。2月27日には3月2日から春休みまで、全国の小中高や特別支援学校などに一斉休校を要請しました。
一斉休校には批判もあります。ただ個人的には、入国規制も一斉休校も感染防止の観点に立てば、効果を発揮したと考えています。さらに言えば、良し悪しは別にして、迅速に入国規制や一斉休校に踏み切れたのは政権の強さがあったからでしょう。
例えば、55年体制でも感染症に対して考案された必要な対策メニューは同じだったかもしれません。しかし、現在は首相の権力が強くなっているので実行するスピードが違っていたのは間違いないでしょう。感染症対策はもちろんですが、政策を実行する場合、スピードは決定的な意味を持ちます。
良い「強さ」と、悪い「強さ」
小野 仮に、中選挙区時代の派閥のバランスを基盤にした政権や、1年で交代するような脆弱な政権だったら、早いタイミングで入国規制や一斉休校に踏み切れなかったでしょうね。中国との外交関係を懸念する外務省や、学ぶ機会が奪われることを気に掛ける文部科学省の発言が首相の意思決定に大きな影響を及ぼすということでしょう。つまり、官邸より霞が関が強いと、意思決定の迅速さは損なわれるということですね。
竹中 そうですね。確かにそういう面があるのは、その通りです。ただ、より本質的な指摘をしておくと、日本はかつて官僚が強かったと言われていますが、そんなことはなくて、党が強かっただけです。
例えば農水族議員と農水省、文教族議員と文科省が一体となっていて、まるで官僚が力を持っていたかのように見えますが、実体は違っていたと思います。つまり党と官邸のどちらが強いかということで、安倍政権では官邸が強くなっていると整理した方が妥当でしょう。
それから、中国からの入国規制について言えば、入管法を前例のない形で解釈して、実現しました。入管法5条1項14号が「日本国の利益又は公安を害する行為を行う恐れがある」人の入国の拒否を認めているということを広く解釈し、国家安全保障上の問題と位置付けて、入国規制を実施しました。事務レベルから話を始めていたら内閣法制局との調整で時間を要したかもしれないです。
小野 そういう意味で言えば、例の「検察庁法の改正」も含めて、この政権は、かなり強引なことをやろうとする政権だと言えるでしょう。良く言えば「前例に囚われない」、悪く言えば「強引な見切り発車」をするわけです。その背景には、安倍政権の強さがある。強さには、良し悪しの両面があるということですね。 
 2020/6

 

●通常国会閉会 政権の国民軽視が過ぎる 6/18 
新型コロナウイルス感染の再流行が懸念され、国民生活はいまだに不安定な状態にある。それなのに政府、与党は論戦の場を閉じた。国民に背を向け、責務を放棄したと言うほかない。通常国会が17日閉幕した。ウイルス対応のため野党が年末までの大幅な会期延長を申し入れたが、政府、与党は反対した。
安倍晋三首相は現状のウイルス禍を「100年に一度の危機だ」と繰り返し答弁してきた。そう認識しながら、なぜ延長に応じないのか。2011年3月の東日本大震災では通常国会が8月末まで延長され、9月召集の臨時国会につないで国難に対応した。
一方、今回与野党は、当面週1回、衆院の関係委員会で閉会中審査を行う方針で合意した。だがウイルス対策を巡って疑念が次々と浮上しながら、明確な答弁が得られなかったことを踏まえれば、週1回程度の審査で十分とは言えないだろう。ウイルス対策では中小企業を支援する持続化給付金の委託問題で、不明朗な金の流れが指摘されたままだ。
10兆円の巨額な予備費については、感染の再流行に機動的に対応できると政府は主張している。しかし国会審議を素通りして政府に一任することに、国民が納得しているわけではない。通常国会ではほかにも、首相主催の「桜を見る会」の私物化疑惑や、黒川弘務前東京高検検事長の定年延長問題などが論戦になったが、疑問は置き去りにされている。
政府に欠落しているのは、国民にしっかりと説明し、信頼を得る姿勢だ。首相には疑問に答える責任があることを肝に銘じてもらいたい。
国会閉会直前にはまたも重大な問題が明らかになった。政府は15日、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画の停止を表明した。安倍首相は「日本を守り抜くために必要な措置を国家安全保障会議(NSC)で議論する」と今後の方向性を強調したが、計画停止に至る経緯には不明な点が残されている。
17日には、河井克行前法相と妻の案里参院議員が、昨年7月の参院選を巡る公選法違反事件に絡み、自民党を離党した。公示前に党本部が案里氏陣営に送金した1億5千万円が買収に使われた疑いがある。
いずれも本来なら国会審議を通じて国民の疑問に答えるのが筋だ。支持率の低下を懸念して野党の追及を避けるために会期延長に応じなかったのだとすれば、身勝手にもほどがある。
今国会では北朝鮮による拉致問題を審議する特別委員会が、実質的な質疑をしないまま閉会した。あまりにもお粗末だ。拉致被害者横田めぐみさんの父、滋さんは再会を果たせぬまま今月、87歳で他界した。無念だったに違いない。拉致問題を巡る日朝交渉は長年、進展がないままだ。世論を喚起し解決へ向けて動かすためにも、国会は最前線で力を尽くすべきだ。 
●桜に始まりコロナで終わる 翻弄された国会の150日 6/17 
国会は、新型コロナウイルスに翻弄された… 特別措置法や、補正予算、そして3密対策。異例ずくめの150日を経て幕を閉じた国会と、残した課題をふり返る。
野党は会期延長を要求も…
会期末の6月17日、野党側は、会期を12月28日までの194日間延長するよう申し入れたが、与党側などの反対多数で否決された。自民党の森山国会対策委員長は、次のように閉会する理由を語った。「一番大事なのは、予算成立後、政府にしっかりと執行に向けて頑張ってもらうことだ。国会は開いていると経費もかかる」 政府・与党としては、第2次補正予算が成立したことなどから、給付金の支給など経済対策の実行を急ぎたい考えだ。これに対し、野党側は、感染の第2波に備えた対策などの議論を続けるべきだとして、会期の大幅な延長を求めていた。立憲民主党の安住国会対策委員長は、次のように批判した。「政権の支持率が落ち、逃げるように国会を閉じてしまうのは認められない。『国会を止めるな』と強く求めたい」 150日間の国会で、最後のヤマ場となった。会期の延長が否決されたあと、自民党と立憲民主党の幹事長らが協議。閉会後、週に1回、新型コロナウイルス対策に関係する委員会を開催することで合意し、内閣不信任決議案の提出は見送られた。国会を閉会しても、万全の対応ができるのか。使いみちが決まっていない10兆円の予備費のチェックは。多額の事業が一般社団法人に委託された「持続化給付金」の問題。「一般社団法人」という仕組みそのものも問われた。まさに非常時だからこそ、立法府の果たすべき役割が試されている。
当初は「桜」
国会が召集されたのは1月20日。夏に、東京都知事選挙や、当時はオリンピック・パラリンピックがあるものと考え、当初から会期の延長はないという見方が大勢だった。政府は、提出法案を、通常国会の会期中に衆議院が解散された場合を除いて、これまでで最も少ない52本に絞り込んだ。自民党の議員は、「大きな対決法案はない」と話し、前半戦の焦点は、去年相次いだ台風など一連の災害からの復旧・復興の費用などが盛り込まれた補正予算案と、新年度予算案とみられていた。このころ、野党側が追及のテーマに挙げていたのは、「カジノ」や「桜」などだった。自民党に所属していた議員が逮捕されたIR=統合型リゾート施設をめぐる汚職事件。そして、去年の臨時国会から追及が続く総理大臣主催の「桜を見る会」。衆議院予算委員会の審議で、立憲民主党の議員の質問が終わったあと、安倍総理大臣が「意味のない質問だ」とやじを飛ばし、野党側が反発。謝罪する場面もあった。
コロナで状況一変
永田町では「一寸先は闇」とよく言われるが、まさにその言葉通りだった。何より予想しなかったのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。このころ、中国では、新型コロナウイルスの感染が広がりを見せていた。国会召集前には、日本国内でも初めて感染が確認。中国・湖北省武漢から日本人をどう帰国させるかや、横浜港に入港したクルーズ船への対応など、国会でも、新型コロナウイルス対策が論戦の主要なテーマに変わっていった。2月27日、安倍は政府の対策本部で関係閣僚に対し、感染の拡大を抑制し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小にするため必要な法案を早急に準備するよう指示。政府は、緊急事態宣言を可能にする特別措置法の整備に向けた検討を始めた。一部の野党から私権の制限に懸念も出る中、3月4日、安倍は法案の早期成立を図るため、野党5党の党首らと個別の会談を行い、協力を呼びかけた。安倍が野党の党首と個別に会談し、協力を要請するのは、熊本地震への対応を協議した2016年4月以来のことだった。そして3月13日、特別措置法は可決・成立した。さらに3月17日には、与野党の幹事長や書記局長らが会談。経済対策などを協議するため、政府と与野党の連絡協議会を設置することを決めた。東日本大震災の際にならった枠組みだった。野党側は、新型コロナウイルス対策では協力し、「提案型」の姿勢を示すことで存在感を高めたい考えだった。一方、ある与党幹部は、「野党側も巻き込むことで、今後、提出される補正予算案の審議に協力が得られる」と、連絡協議会設置の思惑を話した。
国会も3密対策
このころ、国会も感染防止対策という初めての課題に直面していた。議員や職員は、マスクを着用し、手を消毒。衆議院本会議で質疑が行われる際は、密集した状態にならないよう、半数程度が議場から出ることにした。また、登院する議員を減らすため、1日に開催する委員会の数も絞り込まれた。一部では、休会を求める声も上がったが、与野党ともに、「非常時こそ、立法府の果たすべき役割は大きい」などとして、対応を工夫しながら国会審議は続いた。
初の緊急事態宣言
しかし4月に入ると、東京都内の1日あたりの感染者数が100人を超えるなど、緊迫感が高まっていった。政府は、4月7日、初めて緊急事態宣言を出した。宣言は事前に国会に報告することになっており、安倍が衆参両院の議院運営委員会に出席し、各党の質疑が行われた。議院運営委員会は、議長らも出席して本会議の議事日程などを決める委員会で、国会関係者の間では、「格式高い場」とされている。総理大臣が出席して質疑を行うのは珍しく、45年ぶり。安倍が質疑に臨むのは初めてだった。その後は、西村経済再生担当大臣が出席することになったが、議院運営委員会への報告と質疑は、宣言の拡大や延長、そして、解除のたび、この国会中、あわせて6回にわたって行われることとなった。
異例の補正組み替え
国会では、異例の事態が相次ぐことになる。補正予算案の組み替えもその1つだ。4月16日、それは急転直下で決まった。当初、補正予算案に盛り込まれていた、収入が減った世帯への30万円の給付について、公明党が「対象が限定され、不評だ」として、10万円の一律給付に変更するよう要求。自民党との激しい議論の末、緊急事態宣言の全国への拡大とあわせて、見直された。補正予算案の提出を翌週に控えたタイミングでの前代未聞の事態だった。
9年ぶりの休日返上
これによって、補正予算案の審議は1週間ずれ込むことになる。4月29日は、「昭和の日」だったが、休日返上で審議が行われた。国会では、通常、土日や祝日には、委員会や本会議を開かないことが慣例となっており、休日に国会審議が行われるのは、異例のことだ。衆参両院の事務局によると、審議が深夜まで及び、日付をまたいだケースを除いて、休日に審議が行われるのは、2011年4月末から5月1日にかけて、東日本大震災の復旧に向けた補正予算案を審議した予算委員会や本会議以来、9年ぶりのことだった。補正予算は、大半の野党も賛成して、4月30日に成立した。
検察庁法で攻防も
一方で、与野党の激しい攻防も繰り広げられた。検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案だ。ツイッター上で抗議の投稿が相次ぎ、野党側も徹底抗戦の構えを見せた。5月18日、安倍は「国民の理解なくして、前に進めていくことはできない」として、この国会での成立を見送る考えを表明した。その後、事態は、東京高等検察庁の検事長の緊急事態宣言中の賭けマージャンによる辞職にまで発展した。
宣言解除、そして2次補正
5月25日には、全国で緊急事態宣言が解除された。政府は、追加の経済対策を講じるため、今年度に入ってわずか2か月で2度目となる補正予算案を編成。第2次補正予算案は、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、事業者の賃料の負担軽減や、雇用調整助成金の拡充などが盛り込まれ、追加の歳出は一般会計の総額で31兆9114億円と、補正予算としては過去最大に。国会最終盤の6月12日、賛成多数で成立した。補正予算関連の法案などの追加提出もあり、この国会で政府が提出した法案は59本になった。このうち4本の成立が見送られ、成立率はおよそ93%だった。
国会改革なるか
新型コロナウイルスの感染予防策を講じながら、150日にわたって審議が続けられてきた中で、国会そのものの課題も浮かび上がった。この会期中、幸いにも議員本人の感染は確認されなかったが、今後もそれが続く保証はない。衆参両院で感染がまん延した場合、どう立法府の役割を果たし続けるのか。新型コロナウイルスは、各国の議会のあり方に変化をもたらした。イギリスの議会下院では、およそ700年の歴史で初めて、テレビ会議形式による審議が導入され、議員が自宅などから質問。アメリカ議会上院では、公聴会がオンラインで行われるようになっている。日本でも、各自治体の条例で議事のあり方を定めることができる地方議会の委員会を中心に、オンライン化が可能だとして、導入の動きが出ている。ただ国会では、抜本的な改革が進んでいるとは言いがたい。そもそも議員は、憲法で国会への「出席」が必要とされる。これが、議員が議場内に実際にいなければならないとされるゆえんだ。若手議員を中心に、国会でもインターネットを活用して審議や採決を行うべきだという意見が出ているが、ベテラン議員の間では、「議員は出席して審議の様子を聞いた上で、法案の賛否を決めるべきだ」という伝統的な考え方も根強くある。国会運営の中枢に身を置いた衆議院議院運営委員会の与党側の筆頭理事を務める自民党の岸信夫議員も、感染予防と国会の機能維持の両立の難しさに苦しんだ胸の内を明かした。「コロナの中でも、国会だけはほとんど毎週やっていた。衆議院本会議にいたっては、およそ500人が1か所に集まる。コロナ対応が非常に難しかったのも国会の実情だ」 新型コロナウイルス対策に翻弄された国会。しかし、これで終わりではない。ウィズコロナ、アフターコロナと言われる中、求められる新しい国会のあり方。国会の「3密」対策をめぐる議論もまた次の国会に持ち越されることになる。 
●安倍政権が「国会閉じるな」の声を無視して強行閉会!  6/16 
新型コロナという「100年に一度の国難」(安倍首相)の只中にあるというのに、国権の最高機関であり唯一の立法機関である国会を、与党は明日、閉会させる見込みだ。
東日本大震災があった2011年、民主党政権は通常国会を8月31日まで延長し、9月と10〜12月に臨時国会を召集したが、新型コロナ対応にあたるいま、1年を通して審議がおこなわれるよう国会を開けておくことは当たり前の話だ。
しかし、安倍首相にはその「当たり前」が通用しない。安倍首相自身が「夏になったからと言って安心できない」などと第2波を懸念しているというのにどうして国会を閉じるのか、その理由はただひとつ、「追及を受けたくない」からだ。
世論調査では軒並み内閣支持率が下落しているが、これまでも安倍首相は国会閉会によって追及から逃げることで低下した支持率を持ち直させ、森友・加計疑惑や「桜を見る会」問題を有耶無耶にしてきた。今回も同じように、新型コロナ対応の追及を封じ込めようというわけだ。
実際、いま国会が閉じてしまえば、追及がおこなえなくなる問題は山のようにある。
そのひとつが、電通への再委託が問題となっている「持続化給付金」だ。事務を受託したサービスデザイン推進協議会をめぐっては入札に参加したデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社のほうが応札額が低かったことや、第二次補正予算に盛り込まれた「家賃支援給付金」でも支給事務をリクルートに約942億円という巨額で委託することが判明するなど、追及・検証が必要な問題が数々出てきている。
だが、さらに重要なのは、「申請から支給まで2週間程度」と謳われていた「持続化給付金」が、2週間以上経っても支払われていない人が数多くいるということだ。しかも、申請開始の5月1日から11日のあいだに申請を受け付けた約77万件のうち、約5万件が1カ月経っても支給されていないというのである(6月12日時点)。
中小・零細企業にとって「命綱」であるこの給付金が1カ月経っても支給されない──。申請しているこの約5万件の事業者、そして雇用されている人たちのことを考えれば、どうしてこんなことになっているのか、安倍首相にはしっかり国民に説明する必要がある。
だが、安倍首相は15日の参院決算委員会で「この1カ月間で150万件に支払いをしている」「現場がぼーっとしていて何もやっていないのではまったくない」などと主張。挙げ句、5月1日に申請した人たちにまだ支給されていない問題について、こんなことを言い出したのだ。
「申請する方もですね、人間ですから、これ、何にもまったく問題がなくて、受ける側がですね、受ける側が、全然、これ怠慢でですね、できてないというのでは、これは、これは明確に申し上げなきゃいけないんですが、それではないんですよ。そこをはっきり申し上げておきたいと思います。それはやはり、書類のなかにですね、さまざまな課題や、課題というか問題があったのは事実なんですよ」
「申請者に連絡を取ったら、また、なかなか(連絡が)つかなくなってしまった、あるいはまたですね、申請しても『こうこうこうしてください』と言っても、なかなかそうなってないのもあるんですよ、正直に申し上げまして」
「一人ひとり、相当ていねいに、これ、やっているんで、残ったのは少しですから。でも、それ以外は、これだけ進んでいるんですから、そこはですね、一生懸命やってるっていうことは評価もしていただきたいし、すべてがですね、経産省側の手落ちで、ということでもないわけであります」
少なくとも約5万件もの事業者が1カ月も支給されないままにあることを「残ったのは少し」と発言すること自体が信じられないが、もっと酷いことに、申請者に対して「提出してきた書類に問題があった」「連絡がつかなくなった」「指示しても指示通りにしてこない」など一方的に文句をつけ、「経産省は一生懸命やっている。経産省は悪くない」と主張したのである。
国会で繰り広げられた、この絶句するような安倍首相の答弁。だが、重要なのは、国会は野党による追及によって安倍首相のこうした姿勢をあぶり出し、メディアがそれを報じ、国民が批判の声をあげて問いただすことができるということだ。その機会が奪われるということは、独断専行の安倍首相の暴走や怠慢を直接、追及する場を失うということなのである。
実際、一律10万円給付にしても、国民が批判の声をあげた結果、安倍首相を方針転換させることができたが、いまだに全世帯の4割程度にしか給付されていない状況にある。さらに、10兆円という前代未聞の予備費がまたも隠れ蓑を通じて電通のような安倍政権に近い大企業に流れる可能性だって十分にある。今後、国会が開かれなければ、こうした問題を安倍首相に直接追及することができるのは、安倍首相の気分で開催が決まる記者会見くらいになってしまうのだ。
国民の命・生活を守るための議論より自己保身を優先し、逃げることを「恥」とも感じていない安倍首相。しかも、ここにきて河野太郎防衛相がイージス・アショアの配備計画の停止を表明したが、停止の理由であるブースターの落下地点の問題はこれまでさんざん指摘され、一方で政府は「安全に配備・運用できる」と説明してきたものだ。当然、その説明の食い違いについて徹底追及されなければならないが、肝心の国会は閉会してしまう。つまり、追及を避けるために閉会直前のタイミングを狙って配備計画停止を打ち出したのではないか。
繰り返すが、このまま国会を閉じるということは、新型コロナの感染が再び拡大したときに新たな補正予算や立法を伴う対策や、またその追及もできず、これまでよりももっと杜撰な対応がとられかねないという危険な問題を孕んだものだ。立憲民主党と国民民主、共産、社民の野党4党は年末までの国会延長を要求、閉会日となる明日にも国会に延長動議を提出するとし、Twitter上では「国会延長を求めます」「国会を止めるな」というハッシュタグが生まれている。国民から背を向けようという安倍首相のトンズラを、けっして許すわけにはいかない。 
●安倍首相「大衆迎合的ご都合主義」の原点は北朝鮮拉致問題 6/16 
北朝鮮による拉致問題の膠着は安倍首相の過去の言動に重大な責任
6月5日、北朝鮮によって拉致された横田めぐみさんの父・横田滋さんが亡くなった。安倍晋三首相は参議院本会議の答弁で「横田滋さんがご存命の間にめぐみさんとの再会を実現できなかったことは断腸の思いであり、まことに申し訳なく思っている」と述べた。
安倍首相は続けて、「安倍内閣で拉致問題を解決するとの決意はまったく変わりない」と、北朝鮮拉致問題の解決に取り組む考えを強調した。しかし、第2次安倍政権で拉致問題はまったくといっていいほど進展していない。
ドナルド・トランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長の間で史上初の「米朝首脳会談」が開催され、朝鮮半島の融和ムードが高まった時には、安倍首相が日朝首脳会談の実現に意欲を見せたことがあった。しかし、結局それ以降、首相は何の動きも起こしていない。
拉致問題は長年の政治課題であり、第2次安倍政権だけの責任ではない。だが、安倍首相がいつものように「うまくいくのは安倍政権の成果、うまくいかないものは民主党政権の責任」の「民主党政権悪夢論」で片付けることはできない。そもそも拉致問題の膠着は、安倍晋三という政治家の言動に重大な責任があるからだ。
拉致被害者を北朝鮮に戻さない決断は周到な準備があって然るべきだった
あえて言えば、安倍晋三という政治家が首相になれたのは、北朝鮮拉致問題があったからである。
1990年代の「政治改革」の時代、石原伸晃や塩崎恭久、石破茂、田中真紀子、前原誠司、枝野幸男、小池百合子ら同世代の政治家が次々と台頭した。そんな中、お坊ちゃま然とした世襲議員で、政策通でもなかった安倍氏は元々、目立つ存在ではなかった。
自民党政権の「年功序列」ならぬ「年序列制」の中で「清和会のプリンス」としてそれなりに出世はするだろうが、まさか首相になるほどの器とは期待されていなかった。そんな安倍氏が政界で注目され、台頭するきっかけとなったのが、北朝鮮拉致問題だった。
2002年9月の小泉首相の訪朝に随行した安倍官房副長官(当時)が、「安易な妥協をするべきではない」と強硬な姿勢を示したことが報道され、国民の支持を多く集めるようになったのだ。だが安倍氏は、実は「小泉訪朝」までの北朝鮮との極秘交渉には入っておらず、蚊帳の外だったようだ。
「小泉訪朝」は、田中均外務省アジア大洋州局長(当時)が、“北朝鮮のミスターX”と極秘に交渉を進めて実現したものだ。この“ミスターX”の存在を知り、交渉の経緯を把握していたのは、小泉首相、福田康夫官房長官、古川貞二郎官房副長官、竹内行夫外務事務次官、平松賢司北東アジア課長、そして後に川口順子外相が加わったとされる(肩書はいずれも当時)。しかし、安倍氏は交渉過程に関係していないという。
だが、安倍氏が「ポスト小泉」の一番手として台頭する決定的なきっかけとなる出来事が起こる。「小泉訪朝」による「日朝平壌宣言」に基づいて、2000年10月に5人の拉致被害者が日本に「一時帰国」したのだ。北朝鮮との「約束」で、5人は一旦北朝鮮に戻ることになっていた。
安倍氏は、独り強硬に反対した。最終的に5人が官房副長官室に集まって、彼らを「北朝鮮に戻さない」という決断をした。これが、国民の支持を得て、安倍氏に対する評価を高めることになったのだ。
筆者は、この時一時帰国した拉致被害者5人を北朝鮮に戻さないという政治決断自体は支持している。国家は、国民の生命と安全を守るためにある。理不尽にも外国に拉致されてしまった国民が帰国したとき、国家が彼らを保護するのは当然だ。それは、どのような外交的な利害よりも優先されねばならない。
だが一方で、この5人の家族や、その他の拉致被害者が北朝鮮に残ったままだ。北朝鮮との外交的な「約束」を一方的に破り、“ミスターX”との信頼関係を壊して交渉のパイプを失ってしまうと、彼らを取り戻す方法がなくなってしまう。
「約束」を破ったことのダメージをできる限り軽減し、北朝鮮のメンツが立つように話をまとめ、なんとか残る拉致被害者や家族を救出するための交渉ルートを維持する。この難題に対して徹底的に知恵を絞って、準備をしておかなければならなかった。
一時帰国した5人が「北朝鮮に戻りたくない」と言い出すことは、容易に想像できたはずだ。だが、残念ながら日本政府にはその準備なかったのだろう。だから、実際に北朝鮮との交渉に当たっていた田中外務審議官(当時、前アジア大洋州局長)や福田官房長官は、強硬に安倍氏の主張に猛然と反対したのだ。結局、世論に敏感な小泉首相は、安倍官房長官の主張を取り入れて、拉致被害者5人を北朝鮮に戻さないという決断をした。
残念ながら、これは感情的で世論に迎合しただけの、後先考えない決断だったと言わざるを得ない。北朝鮮の態度を硬化させ、さらに拉致問題を交渉するためのパイプはなくなった。特に、「約束破り」を主導した安倍氏に対する北朝鮮の不信感は根強い。北朝鮮を交渉のテーブルに着かせること自体が困難なままとなってきた。
小泉首相は自らの任期中 安倍氏の人気を使い尽くした
もちろん、この決断の全責任が当時の安倍官房副長官にあるわけではない。重要な意思決定に関与していたわけではなく、最後の場面だけに登場し、感情的に国民世論を煽っただけの若手政治家――。むしろ問題は、安倍氏本人よりもそんな彼の人気を利用した小泉首相らにある。
03年9月、小泉首相は安倍氏を自民党幹事長に起用した。49歳での幹事長就任は、47歳だった田中角栄、小沢一郎両氏に次ぐ、史上3番目の若さ。さらに、閣僚も党の要職も未経験での起用という異例の大抜擢だった。当時、衆議院解散を控えており、北朝鮮拉致問題で国民的人気を得た安倍氏に、自民党の「選挙の顔」を期待したのだ。
また、05年の郵政解散総選挙で大勝した後、小泉内閣の内閣改造・党役員人事で安倍氏は内閣官房長官として初入閣した。そして、小泉首相の「後継指名」を得て、自民党総裁選に出馬して勝利。06年9月に首相に就任し、第1次安倍政権が発足した。
だが、安倍氏は一度も省庁の大臣に就任せず、巨大な官僚組織を率いる経験を持たないまま首相になった。小泉首相は、安倍氏の国民的人気を自らの任期中、徹底的に使い尽くした結果といえる。
小泉首相が、安倍氏を本気で「ポスト小泉」として考えていたなら、財務相や外務相、総務相などの主要閣僚に就け、修行させることができた。だが、それはしなかった。小泉首相は「政治家とは、使い捨てられるもの」と、どこか達観した考えを持っていたように思う。安倍氏を育てる気などまったくなかったのだろう。それでつぶれるならば、そこまでの器量と、淡々と考えていたのかもしれない。
拉致問題を「支持率の調整弁」と捉えている?
しかし、威勢のいい言動だけで周りに担ぎ上げられて首相になった安倍氏は、自分は何でもできると勘違いしたようだ。第1次安倍政権時、「戦後レジームからの脱却」という威勢のいいスローガンを掲げて、歴代自民党政権が成し遂げられなかった「教育基本法改正」「防衛庁の省昇格」「国民投票法」など「やりたい政策」の実現に突き進もうとした。
だが、政治家としての経験が乏しい首相は、「お友達」と呼ばれる盟友ばかりを主要閣僚や補佐官に起用し、政権の意思決定は混乱した。国会では野党との調整がうまくできずに「強行採決」を乱発。国民の反感を買ってしまった。
また、「消えた年金」問題や閣僚の不祥事・失言など、さまざまな問題が噴出した。野党の厳しい追及に対し、日替わりのようにクルクル変わる首相の軽い発言とパフォーマンスが、国民の怒りの火に油を注ぐかたちとなり、07年7月の参院選で、安倍自民党は惨敗した。
結局、安倍首相は首相在任365日目に、突如「病気」を理由に政権を投げ出してしまった。この突然の辞任は、「敵前逃亡」「政権放りだし」などと散々に酷評された。
12年12月に首相に復帰した安倍氏は、第1次政権の失敗に懲りたのか、最初は威勢のいい言動が影をひそめた。その代わり、「高支持率」を維持するために世論受けがいい政策を並べるようになった。
経済政策は、公共事業や金融緩和を「異次元」規模で派手に断行する「アベノミクス」を打ち出した。「失われた20年」で長年にわたるデフレとの戦いに疲弊し、「とにかく景気回復」を望む国民の声にダイレクトに応えた。
選挙に関しては14年12月の選挙で、安倍首相が誰も反対しようがない「消費増税延期の是非」を争点化しようとしたことが特筆される。これはさすがに露骨すぎて批判が噴出したため、首相は「アベノミクスの是非」が争点と言い換えた。だが、アベノミクスこそ誰も反対しない政策の羅列であった。
一方安倍首相は、国論を二分する集団的安全保障や特定秘密法などの重要政策については、選挙で徹底的な「争点隠し」をし、真正面から野党と論戦をしなかった。ところが、選挙に勝利した後、「私のすべての政策が国民の承認を得た」と主張した。都合のいいところだけを切り取って威勢良く主張し、強引に押し通すのは、この当時から安倍首相の常とう手段となってきた。
そして、安倍政権の世論・支持率重視、都合のいい部分だけを威勢よく主張する姿勢を象徴する存在が、加藤勝信厚生労働相だ。現在、新型コロナウイルス対策で陣頭に立っている加藤氏はかつて、「働き方改革担当相」「一億総活躍担当相」「女性活躍担当相」「再チャレンジ担当相」「拉致問題担当相」「国土強靱化担当相」「内閣府特命担当相(少子化対策男女共同参画)」と、実に7つの閣僚職を兼務していた。
これらは、まるで一貫性がなさそうだが、全て「国民の支持を得やすい課題」だという共通点があった。つまり、加藤氏は事実上「支持率調整担当相」であり、首相官邸に陣取って、支持率が下がりそうになったらタイミングよく国民に受ける政治課題を出していくのが真の役割だった 。
言い換えれば、安倍政権は国民生活に密着する重要な政策課題を解決するために真剣に取り組む気などないのだ。やっているふりを国民に見せて、支持率が上がればいいとしか考えていないのである。そして、この「加藤支持率調整担当相」が兼務した閣僚の1つが「拉致問題担当相」だったことは忘れてはならない。
コロナ対策で「日本モデルの力を示した」 首相として軽すぎる発言
安倍首相は、政治家として重要な課題に正面から取り組んで解決した経験を持たないまま、威勢のいい言葉を放つだけで周囲にチヤホヤされ、首相に二度も担ぎ上げられた。そんなお坊ちゃま政治家は、新型コロナウイルス感染症対策という「未曽有の国難」にあっても、国民ウケや支持率維持しか考えることができないようだ 。
安倍政権は、さまざまな専門的な情報や知識が入ってきても、「政治決断」をするときに最も重視する基準が結局「国民に受けるかどうか」なのだ。だから、コロナ対策で専門家が連日議論し、「クラスターつぶし」という日本独自の戦略を編み出した結果、一定の成果を挙げているように見えるのに、突如として「アベノマスク」など科学的根拠のない対策がポンと出てくるのだ。
何より驚かされたのは、新型コロナウイルス感染症の重症者数・死者数が欧米諸国と比べて2桁少ないという事実について、安倍首相が「まさに『日本モデル』の力を示した」と力強く述べたことだ。
安倍政権が迷走に迷走を重ねているように見える一方で、現場で陣頭指揮する地方自治体首長や、自粛・休業に協力するさまざまな業者・個人の頑張りで何とかやってきたのだ。それを重症者・死者数が少ないという部分だけを切り取って自らの成果と誇るのは、首相としてあまりにも軽すぎる発言だ。
威勢のいいことを言えば国民が拍手喝采し、周囲が持ち上げてくれる――。安倍晋三という政治家は、骨の髄からそう思っているのだろう。このお坊ちゃま政治家の不思議なほどの楽観性は、本人だけの問題ではない。それをずっと「神輿」として利用してきた政治家が、もっと悪い連中だ。
そして新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の国難を受けて、それは日本の将来に取り返しのつかない禍根を残すことになるのかもしれない。
2次補正予算で自民党に懸念 財政出動のタガが外れていないか
6月12日、新型コロナウイルス対策の20年度第2次補正予算案が参院本会議で可決し、成立した。一般会計の歳出総額は補正予算として過去最大の31兆9114億円となった。そして、次のような支援策が含まれることになった。
(1)自粛要請などで売り上げが激減した中小企業・個人事業者の事業継続を下支えするため、固定費の中で大きな負担となっている家賃の一部を支給する、給付額最大600万円の「家賃支援給付金」
(2)勤務先の資金繰り悪化などで休業手当を受け取れない人に国が休業手当を直接給付する「休業支援金」の創設
(3)雇用を維持するために従業員を休業させる企業に対し、休業手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の上限額を1日当たり現行の8330円から1万5000円に引き上げ
(4)中小企業・個人事業者に最大200万円を給付する「持続化給付金」の対象拡大
(5)無利子・無担保融資の大幅拡充などの支援策
補正予算について筆者が1つ指摘したいのは、「1次補正」と「2次補正」の順番が逆であるべきだったのではないかということだ。この連載では、「平時の経済をV字回復させる」ような経済対策は、新型コロナウイルスの感染拡大が収束してから行うべきで、まずは「戦時体制」のような予算を編成すべきだと主張した。ウイルスとの戦いは、「家にいて人に会わないこと」が基本であり、「国民にどんどん外出して消費してもらって、経済を活性化する」という平時の経済対策が通用しない状況だからだ。
まずは、国民に家で耐えてもらうために現金給付を十分に行う。ウイルスの感染が一旦収束すれば、通常の消費喚起の経済政策に戻すという順番が大事だ。
ところが、日本の緊急経済対策は、1次補正では平時の感覚で各省庁の「予算分捕り合戦」が行われた。その結果、コロナ対策とはどう見ても関係のない施策が多数盛り込まれることになってしまった。
一方、2次補正では上記の通り、企業や個人に対する支援金が多数盛り込まれた。これは、現金給付・休業補償が少ないという国民からの厳しい批判の声に応えたものだろう。応えないよりはマシだが、1次補正での現金給付が十分に進まない状況だ。相変わらず、手続きが煩雑だという不満の声が出ている。2次補正が国民に行きわたるのはいったいいつになるのか。それまで、企業や個人事業主は耐えることができるのだろうか。
何より問題なのは、経済財政政策の運営に関して、自民党はタガが完全に外れてしまったように見えることだ。1次補正で、国民の厳しい批判に対応して実施した「一律10万円の現金給付」は、必要なことだとは思う。だが、自民党は伝統的に「自助」の考え方に立ってきた。国民への直接的な援助よりも「国民が仕事をして稼ぐことで自立を促す」という政策を取ってきたのだ。
しかし、自民党にとっては「禁断の果実」だった、「一律10万円」の直接的援助という大衆迎合政策に一度踏み込んでしまった。今後はまったく歯止めがかからなくなる懸念がある。
1次補正で現金給付、休業補償をしっかりやって、2次補正で経済活性化策を打てば、歯止めがかからなくなることはないだろう。だが、この順番が逆になってしまい、しかも国民の強い不満を受けての支援金拡大なので、一気に歯止めが失われることになるのだ。
いわば、「カネが切れたら、またカネがいる」の繰り返しで、国民がカネを出せと訴えるたびに、それを止めることができず、際限なくバラマキを行うことになってしまうのではないか。今回の2次補正の支援金の数々が、その始まりとならないことを祈りたい。
お坊ちゃま政治家を神輿に担いで、威勢のいい「アベノミクス」をやらせてきた自民党の政治家たちが、遂に軽い神輿を放り投げて、際限のないバラマキを始めたということではないことを願いたいのだ。そのツケを払うのは、すべて若者・将来世代なのだから。 
●河井案里参院議員が逮捕直前に語ったこと 2020/6 
〈人生は辛いですね。〉
河井案里参院議員が私のスマホにメッセージを送ってきたのは、今年6月15日午後9時15分。彼女が参院選広島選挙区の公職選挙法違反で逮捕される3日前である。マスコミから「説明責任を果たしていない」と糾弾され続けていた逮捕目前の国会議員は、思いのほか饒舌だった。
〈私たちは、汚いお金で勝ったのではありません。私はそれを主張しなければなりません。〉
〈多くの人が、汚名を着せられているのを、私はそのままにはできません。〉
「決意表明」と思しき文章は、夜中の15分間にいくつも送られてきた。
あれから5か月後。案里氏の被告人質問が11月13日の午前10時から東京地裁で始まり、一連の裁判はヤマ場を迎えた。8月25日から同日まで25回を数えた公判の中で、案里氏に発言の機会が与えられたのは、裁判長との短いやりとりや不規則発言を除けば、無罪を主張した初公判以来初めてだ。
案里氏は、逮捕直前の6月5日に私が行った独占インタビューで「私は裁判で勝てます」と自信たっぷりに語った。彼女が3時間にわたって私に話したことは、逮捕当日(6月18日)に発売された「週刊文春」6月25日号に掲載した。
彼女は10月27日夜に保釈され、132日ぶりにシャバに戻った。だが、開会中の臨時国会に姿を現すことはなく、マスコミの取材にも一切応じていない。自民党離党後も二階派に特別会員として籍を置く関係で、二階俊博幹事長との面会を望んでいるが、それもかなっていないようだ。
絶体絶命に追い込まれながらも、議員バッジをつけて被告人質問に臨んだ案里氏。胸元をVの字に開け、体の線を見せつけるようにタイトな黒いジャケットを羽織り、静かな法廷内にハイヒールの音を響かせながら被告席に向かった。ズボンではなく、スカートを履いて裁判所に現れたのは、25回行われた公判の中でも初めてだ。
平成政治史に残る大型買収事件を引き起こした「渦中の女」が御白州で語るタテマエ論の奥に、どんなホンネがあるのか――。
6月の「週刊文春」に掲載したロングインタビューの全文を、ここに再び公開したい。
「はぁい、どーもー」
6月5日、午後0時50分。参院議員会館2階の自らの事務所に、本会議を終えたばかりの河井案里参院議員(46)が、真っ白なジャケットに紺碧のワンピースといういで立ちで現れた。
会議室に一人で入ってきてマスクを取ると、テレビの映像で見る数カ月前の表情よりも、ほっぺがふっくらして血色も良かった。
「早速回していいですか」
私がそう言いながら目の前にICレコーダーを置くと、彼女は笑顔で、あっけらかんと“自殺未遂”について語りだした。
「私、3月に自殺を図ったでしょ(3月28日に体調不良で病院に搬送されたと報じられていた)。鬱病があるんで、すごく強い睡眠薬を持っているんです。それを多めに口に含んで。ワインや日本酒……家にあるいろんなお酒で飲んだんです。普段は全然飲めないんですけどね。でも、薬の量が足りなかったみたい。7〜8錠だったから。
別に、そんなに積極的に死のうとは思わないけど、私のような鬱病の人間は、どちらかというと“死”が近くにあるんですよね。薬が目の前にあったので、もう、意識を失くしてしまいたいって気持ちがあって」
「そろそろ会いません?」「いいよ」
私は昨夏、参院選直後に週刊文春の依頼で、「『代議士の妻』が国会議員になる時」という特集記事のために、案里氏にインタビューした。ポスト安倍の一人、岸田文雄氏の地元・広島での自民分裂選挙で、首相官邸や党本部の異例の梃入れによって勝ち抜いた彼女に興味を覚え、取材を重ねた。
昨年末、汚職で有罪になっても当選し続ける異色の政治家・中村喜四郎を描いた自著を渡すと、数時間後にスマホに長い感想文を寄越した。広島地検の捜査が進む中、コロナ禍で直接会えない状況でも“リモート”でやりとりを繰り返した。
いよいよ立件間近、夫婦W逮捕かとも囁かれる中、電話で「そろそろ会いません?」と申し込んだ。すると彼女は「いいよ」と言って即断即決。翌日のお昼の時間帯を指定してきた。
家庭内不和があったので
――夫とは赤坂議員宿舎で、一緒に住んでいるんですよね。薬を飲んだ時は?
「ちょうど、宅配便がピンポンと来た瞬間に気が遠のいていったんですよ。主人は家にいたんですけど、別の部屋でバタンと倒れた音で気が付いたみたい。すぐに救急車を呼んでくれて、目が覚めたら病院でした。十何時間も眠っていて、起きたのが真夜中。主人を見て、私、すごく怒ったんです。救急車を呼ぶとは何事か、って。政治家が家に救急車なんか呼んだら、政治生命にかかわるじゃないの、って。全身に管がいっぱいついていて、あちこち痛いし、頭もぼうっとしてるんだけど、眠れない。それで看護師さんに『すみません。ペンと紙ください』と言って、紙一枚にバーッと書き始めたんです。一つはエッセイみたいな子ども時代の思い出、あとは家族コメディみたいな小説の冒頭をひと息で書いたんです」
――どうしてそんな時にコメディ小説を書こうと?
「私、生きているって証明したいと思ったんです。こんな最悪の状況なのにコメディを書く力がある、生きる力があるんだっていうことを。自殺未遂は一度だけですが、正直、死んでしまいたいと思うことは何度もありましたね。だって分からないから。(自分の選挙事務所で)何が行われたのか。これから検察の取り調べや裁判のなかで何が明らかになって、どう判断されるのか、何も分からない。すごく不安だったんです。
4月はひと月ほど精神科に入っていました。精神科って初めてだったけど、入院してだいぶ良くなりましたね。世の中と離れるのが鬱病には良いんです。
うちは昔から両親同士や、姉と親の仲が悪かったり、家庭内不和があったんです。だから小さな頃からいろんなことを考える子でした。私が“和”をつくる役を一人で背負っちゃって。一家団欒というものを知らないんです。で、大学院を出る頃に、鬱病になっちゃった。ずっとカウンセリングを受けて、自分を直視して、だいぶ克服してきたんですけどね」
海外ピアニストの音色を聴くことで気持ちを静める
案里氏は、1973年宮崎県生まれ。父は建築家で飲食業にも進出、愛車のポルシェで娘を学校に送ることもあった。一方の母は元声楽家。その影響で案里氏もクラシック音楽に詳しく、疑惑発覚以降は海外ピアニストの音色を聴くことで気持ちを静めようとしてきた。
県立宮崎大宮高から慶応大総合政策学部に入学。同大大学院を経て、科学技術振興事業団に入職したが、27歳の時に10歳上の克行氏と結婚し、広島市に転居。仲人は橋本龍太郎元首相。息子の岳氏(現厚労副大臣)は大学時代の友人だった。
2003年、29歳で広島県議に初当選。県議通算四期、09年には広島県知事選で敗れた経験もある。
19年7月に参院広島選挙区から自民党公認で出馬し、同党岸田派のベテラン・溝手顕正氏らを破り初当選。二階派に入会した。克行氏との間に子どもはいない。
「さっき言った通り、家庭内不和があったので、子育てをする自信がなかったんですね。あんな苦労はしたくないから将来は子どもはいらない、結婚もしない、と思っていました」
――夫婦仲はどうなんですか?
「政治家の家って、どうしても仕事が中心になってしまうでしょ。結婚してすぐの頃から2人とも政治活動してきたから、普通の夫婦よりも仕事でつながっている部分が多いんですよ。それが、この7カ月間、一緒に家にこもっていたことで夫婦の関係もだいぶ変わりました。子ども時代の問題も、前から話していたつもりだったんだけど、彼のなかにストンと入ってきたのは、ごく最近だと思う」
――夫はスキャンダルが多い。例えば文春が報じた秘書への暴行やパワハラ疑惑。どう見ていました?
「こんなこと書かれてバカね、って。私は『あんたがちゃんとしないからだめじゃない』みたいなことを言って、叱りましたよ」
――女性記者の身体を触るなど、セクハラ疑惑も過去に報道されました。
「あれには怒った。『ちゃんと最後までやらないからこんなことになるのよ。途中でやめちゃダメ』って」
部屋着をパーッと脱いで、「ナプキンの中も調べたらいいでしょう」
――自殺未遂の前、検察がホテルに押し掛けてひと悶着あった。案里議員が全裸になったという記事も複数の週刊誌に出ました。
「あの時は、弁護士がニューオータニの部屋を取ってくれて、そこに主人と一緒に泊まっていたんです。3月3日の深夜、11時半ぐらいでした。主人に『そろそろ寝ようか』と言っていたら、ピンポンされて。私、ルームサービスかなんかが来たのかなと思って、『はーい』と言ったんだけど、もう、私の返事が言い終わらないうちに、ドンドンドン、開けろ! って。何を言ってるのか分からなかった。『おらあ! ばかやろう』って怒声が聞こえてきて。主人がドアののぞき穴から見たら、黒い服の男がいっぱいいて、中には坊主頭の人もいた。一瞬ソッチの筋の人か、文春の記者かが来たのかと思ったんです。扉をこじ開けようとするから、主人が押しとどめようとした。そしたら、U字型のドアチェーンを壊して入ってきた。令状を出して、『検察だ!』って言うから、『ちょっとなんですか、あなたたち。こんなやり方はないんじゃないの』って言って、主人も、『ちょっとあんまりだよ』って話になりました。
15人くらいはいましたね。女性が2名ほど、あとは全員男性です。なんかもうホントに空疎な、権威主義の馬鹿馬鹿しさを感じました。この人たち、刑事ドラマの見過ぎじゃないのって感じ。今風に言うと“イキってる”。『調べさせてもらう』と言うので、『そんなに言うなら全部調べれば』と言って、私は部屋着をパーッと脱いで、生理中だったから、『ナプキンの中も調べたらいいでしょう』って、ポンと投げたんです。皆さん、なんか、見ないようにしていましたよ。だから言ったんです。『膣の穴でも、お尻の穴でも見ればいいじゃない?』って。で、女性の一人が私にストールを羽織らせようとするから『ちょっとやめて、汚れるんで』って言ったりして。あんまり馬鹿馬鹿しいんで、『まあ、皆さん、興奮して暑いでしょうから』って言って、みんなにルームサービスでペットボトルの飲み物を取ってあげたんですよ。私も一本をもらって、持っていた睡眠薬をちょっと多めに飲んで、『じゃあ、後はよろしく。好きにして』って一人で寝室に行って寝たんです。で、起きたら朝。よく眠れたんで、すっきりしました。スマホが持っていかれていましたけどね」
合計2000万円を超す現金を配ったとされるリストを押収
その後、事情聴取は3月に4回。GWにもあり、計6回行われたという。一回当たり6〜7時間。案里氏の担当検事は2人。夫とは常に別々に行われる。場所は、都内のホテルの一室だ。
「事情聴取をしたのは、あの日の(押し入ってきた)15人とは違う検事だったみたい。でも私、わざと聞いたんです、取り調べの前に。『あの夜、オータニに来られた方?』って。
聞かれるのはいつもウグイスのことでした。いくら私が知らないと言っても、『知らない』ということを証明はできないし。だから不毛な取り調べでした」
ウグイス嬢の違法買収については、6月16日に第一審の判決が出て、案里氏の公設秘書、立道浩被告が有罪判決を受けた。この捜査の過程で河井夫妻の自宅から、100名以上の県議や首長らに合計2000万円を超す現金を配ったとされるリストが押収され、広島地検はさらに、公職選挙法違反(買収)の疑いで、河井夫妻2人の逮捕を目指してきた。4月には案里氏の地元後見人だった元広島県議会議長、檜山俊宏県議の事務所にも家宅捜索が行われる一方、安芸太田町長が克行氏からの20万円の受領を認めて辞職するなど動揺が続く。
「検察がむりくり、絶対に主人がお金を渡した、と言っているんですよ。例えば檜山先生には、たとえ陣中見舞いでも、何かを差し上げること自体、(目上の人なので)無礼に当たるって感じです。検察は買収と言われている件について、まだ私たちには当ててこないんですよ。今後、身柄を取って本格的に調べるのかもしれませんね。でも、私は、身柄を取られるようなことはまったくしていない」
一般論として、例えば自民党国会議員の政党支部から同党地方議員の政治団体などへの「寄付」は政治資金規正法上、認められている。河井夫妻が現金を配ったとされる時期が昨春の統一地方選の前後のため、陣中見舞い、当選祝い、という理屈が成立すると見る識者もいる。一方で、金銭授受の時期が案里氏の参院選直前でもあり、しかも直接、現金を配る手法だった今回のような例は、公選法で禁じられた「買収行為」の疑いが濃いとする指摘もある。
1億5000万円は「きれいなお金」
「(安芸太田町長の件は)主人がやっていることなので、私自身は知らないんです」
――ただ、案里議員が数名の地方議員に封筒を持っていったとも報じられている。
「私はあの、そういう、説明できないようなことは何もしていませんよ。ただ、(金銭の)やりとりについては先方のこともあるし、私が今ここで言うべきことではないので。それぞれの方の収支報告書にも載るでしょうから(昨年分はこの11月に公開される)」
――選挙資金となった1億5000万円については。
「あれは党からのお金です。党からの振り込みで通帳にも記録が残っている。まったくきれいなお金です。皆さん1億5000万円という数字に恐れをなして、うがった見方をしているようですが、人件費、事務所経費、印刷物、全戸配布のポスティングなどで、使い切りました。全戸配布なんて3回もやりましたから。1億5000万円を原資に(県議らを)買収したなどと言われていますが、一切そんなことはない」
「まあ、もらい事故って感じですよ」
――では、裁判で徹底的に争うのか?
「もう争うのも馬鹿馬鹿しいというか、本当は次の人生を歩んだほうがいいに決まっている。でも、今回これを買収だと私たちが認めてしまったら、日本の選挙のやり方そのものを変えることになるし、公選法の精神をも変えてしまう。ちゃんと争わないと他の人が困るって言われているんですよ。(地方議員への)陣中見舞いや当選祝いを自分が出る選挙の前に持っていけば全部『買収』となる、というのであれば、他のみんなも(選挙違反で)やられてしまう。だから、たとえ私が身柄を取られても、別に私は裁判で勝てますよ。検察もやったらいいと思う。
まあ、もらい事故って感じですよ。自分は、まったく(違法行為に)手を染めていないので。だから、説明責任を! とマイクを突きつけられても、本当に申し訳ないんですが、説明できることがないんです」
――ただ、克行議員が現金を渡していたことについて、夫婦なら当然、情報共有していると普通は思われます。
「そう疑われても、しょうがないよね。検察もそういうストーリーでやってくるんでしょう。でも、この(法相辞任からの)7カ月、2人で一緒にいても、主人は全然言わないですね。『あなたが知らない方がいいこともある』と言って。弁護団も別々ですし。ウグイスの3万円も、どういう会計処理をしているのかすら、全然知らないんですよ。なんで3万円だったのかも。秘書に任せっきりでしたので」
――案里議員の報道対応も批判されました。疑惑発覚から2カ月半後の1月15日の囲み会見まで、ずっと説明せず雲隠れした。
「私は早く取材対応したかったけど、私の弁護士にも自民党の顧問弁護士にも絶対ダメだと止められました」
――あの時「日本を変えたい(から議員を続ける)」と言ったのはなぜですか?
「あれは記者の方が小動物みたいな純粋な目で“なんで辞めないんですか?”って聞いたんですよ。まだ、私が辞めるような流れじゃなかったから、“え、この人は何を言っちゃってんの?”と思って、ちょっとからかいたくなっちゃった。ちゃめっ気のつもりだったんですけど、みなさん真に受けて、批判されて。でも、実際この仕事をしていたら、みんな“日本を変えたい”と思っているわけですし」
――会見終了後、宿舎に戻る際、笑顔がテレビに映され、これもまた批判された。
「あれは朝日新聞の男の子が追ってきて、“案里さん!”って呼んだんですよ。パッと振りむいて、もう職業柄、条件反射で笑顔が出ちゃうんです。元々広島支局にいた知ってる記者だったし“どうもありがとう”って言ったら、その瞬間が撮られて流された。もうこういう流れになると、しょうがない。何をやっても、すごく悪い感じで報じられるので。私にはどこかで、期待に応えなくちゃっていう気もあって、できるだけ黒い服を着て、悪い感じを演出したりもしています」
〈私は今回の事件では、大将です〉
案里氏と話していると、強がりなのか、以前に聞いた話と食い違う時がある。例えばこの日、「小説を書く時、プロットは作らない」と言った。ところが、会う直前に本会議場で文春に撮られた彼女の写真を見ると、手元のノートに登場人物やプロットが書いてあった。後日改めて聞くと、「新作からは作ることにした」と言う。
また、朝日新聞の記事を私に郵送してきたこともあった。そこには、ウグイス嬢への「3万円」は違法だが、“全国的な相場”である旨が書かれていた。彼女は電話でも「マスコミが報じている『河井ルール』って、『広島ルール』なの」と説明し、広島選出の大物議員らの例を語った。だが、この日、再度確認すると、そうした話は「私、知らない」と言った。
芝居がかったセリフも多い。自殺未遂2日前のメールにはこう書いてあった。
〈私は今回の事件では、大将です。家臣が良かれと思って行った戦術でたとえ敗けが込んでも、武将の勝敗として歴史に残ります。それが大将というものです〉
――昨夏の初当選から疑惑発覚までの3カ月間を今振り返ると?
「あの頃はとにかく疲れていました。選挙後も体中が痛いし、もう、目を開けていられないんですよ。5月の連休から2カ月以上、2500カ所で街頭演説をやって眼球が焼けちゃったから。毎日眼科に飛び込んで、麻酔を打ってもらっていたんです。そこまでやって、選挙に通ったのに、こんなことで足をすくわれるんだっていう、悔しい想いがやっぱりある。10月27日の党広島県連のイベントで、今度の文春に何かが出るらしいって聞いた時も、きっと私じゃなくて主人のことだろうと思っていたんで。もう壇上で寝ちゃったくらい、疲労困憊でした」
「セクハラなんて、甘い、甘い」
その4日後、10月31日に文春が発売されて以降、彼女は大きな渦に飲み込まれた。党内でも四面楚歌を強いられ、男性議員からは露骨に煙たがられたという。
彼女は以前、自民党の体質を私にこう語っていた。
「セクハラなんて、甘い、甘い。男性議員の本当の恐ろしさとは、気に入らない女性を政治的、社会的に抹殺しようと、束になって潰しにかかってくることです」
また、黒川弘務・前東京高検検事長が賭けマージャン問題で辞職した直後の5月24日夜、彼女は意味深なメールを送ってきた。
〈検察は今、大変なようですね。黒川さんも私も同じように権力闘争のおもちゃにされてしまって、権力の恐ろしさを痛感します〉
公設秘書も一審で有罪判決を受け、連座制による彼女の失職も秒読み段階に入った。今後の人生をどう考えているのか――。
二人きりのやりとりが3時間を回る頃、訊ねた。
「ミラノにファッションの勉強に行こうと思っていた」
「ここでひと区切りにして、ドロドロした政界と距離を置きたいなと。ホントは私、(昨年春に)県議を辞めて、ミラノにファッションの勉強に行こうと思っていたんです。でも結局、参院選に出ることになっちゃった。だから、自分がなんとなく、消費されているなという意識があって。岸田(文雄)さんと菅(義偉)さんの覇権争い、岸田派と二階派(案里氏の所属派閥)の争い、検察と官邸の対立……。そういう中で“消費される対象”として擦り減っちゃった。だから、自分を取り戻したいっていう気持ちがある。私、今までは、世の中のためになるかどうかという尺度だけで、自分の仕事も生活も計ってきたんです。でも、これから時間ができたら、小説を書くことに没頭したいと思います」
私の手元に一編の未発表小説がある。題名は『ことばの部屋』。案里氏が5月中に丸5日をかけて綴った。選挙違反を疑われた女性政治家が事情聴取中に検事をなじり、挑発し、かみ合わない問答を続ける約2万字の「処女作」(案里氏)だ。
彼女は私に、「これは実話じゃない」と強調したが、描かれた内容は、現実のものになろうとしている。
このインタビューを手掛けた私は8月の初公判から約3か月半、週に2〜3度のペースで東京地裁に足を運び続けてきた。案里被告の公判を見るため、傍聴希望者の長い列に並び、抽選で当たった時には必ず被告席に一番近い最前列の傍聴席に座った。
法廷闘争が始まった当初は緊張した面持ちで、終始うつむき加減で臨んでいた案里氏だったが、夫の河井克行氏との審理が分離された9月頃から一変。時に「ふふふ」と不敵に笑い、時に膝の上でピアノの鍵盤を弾くような仕草も見せた。
一方で、証人が検察の主張に沿った証言を続けていると後ろに座る3人の弁護人にメモを渡すようになり、法廷で再会した現役女性秘書が案里氏に不利な発言をすると背後からギロッと睨みつける場面もあった。
私はその目つきを見て、ハッとした。「これは、滝尾小百合そのものじゃないか」 滝尾小百合とは、案里氏が未発表小説『ことばの部屋』で描いた「疑惑の政治家」。エリート検事からの追及を高飛車な態度でことごとく跳ね返す妙齢の女だ。
『ことばの部屋』には、滝尾が逮捕された後のストーリーは書かれていないが、私は法廷で時折、無言の挑発を繰り返す案里氏の様子を見ながら、彼女があの続編を自ら演じているようにも思えた。
第1日目を終えた被告人質問は、11月17日と20日にも予定されている。12月には結審を迎え、年明けには判決が下される。 現実は小説よりもシビアだ。科される罪の軽重は、案里氏自らが創作することはできない。
 2020/5

 

●G7→隔離→夏休み…トンズラ首相 5/30 
米トランプ大統領は6月下旬にワシントンでG7各国が集まってサミットを開きたいと言いだした。マクナニー大統領報道官は「大統領はG7の開催以上に『偉大さへの移行』を示す大きな例はないと考えている」とした。気持ちは分かるとしながらも各国首脳は慎重姿勢を崩さない。27日、カナダのトルドー首相は「対面式の会議を行うには、サミットから帰国後に自主隔離を行うかといった多くの問題が伴う」とし、「参加を約束する前にまだ多くの問いに答える必要がある」と述べた。同日ドイツのメルケル首相の報道官は対面形式で参加するかまだ分からないとし、英国のジョンソン首相の報道官は「検討中」としている。
いずれも集まることの意義は認めながらもトランプの大統領選挙のための写真撮影に付き合うだけでワシントンに向かい、帰国してから2週間の隔離に付き合うほど暇ではないとの認識だろう。さて官房長官・菅義偉も「検討中」としているが、25日の会見で首相・安倍晋三は「諸般の事情が許せば出席する」と極めて前向き。行きたくてしょうがないのだろう。また長官は日本政府が帰国者全員に求めている2週間の隔離待機を「仮定の話に答えることは差し控える」と妙な言い回しでかわした。
自民党幹部が言う。「首相はもう国会を開いていて黒川問題やコロナ問題で矢面に立つのが嫌なんだろう。6月17日までの国会を会期延長をせずに閉じたいのでサミットに行き、2週間隔離されて、そのまま夏休み。秋もできるだけ国会を開かず党内の批判は内閣改造をほのめかしてかわす。いつもの手法が続くのだろう」。野党も2次補正予算案に使途を明確にせずに済む予備費の10兆円を計上したことに反発。共産党委員長・志位和夫は「財政支出の3分の1が予備費というのは国会軽視というより国会無視だ」。国民民主党代表・玉木雄一郎も「よっぽど知恵がなかったんだろう。3分の1が予備費とは民主主義の観点からどうなのか」と批判した。国民がこれから苦難の道に突入する時に国会を閉じて外遊、そのまま夏休みとはトンズラ首相としか言いようがない。 
●吉村知事の名前はタブー、支持率急降下「安倍官邸」7年半で最大ピンチの元凶 5/30 
歴史にifはないけれど、本来なら、オリパラに向けて国民が何となくソワソワし始めて、気持ちの高ぶりを抑えきれない、そんな季節になるはずだった。しかし現実は厳しく、コロナ禍でのチョンボが続き、支持率はダダ下がり。政権始まって以来のピンチを迎えた安倍晋三首相。官邸内の誰が何をどう間違えたのか。
毎日新聞の5月23日の調査によると、支持率は前回から13ポイント急落して27%。朝日新聞の23、24両日の調査は29%で、第2次安倍政権発足以来最低を記録している。
「民主党から政権を奪取した2012年12月から7年半経過しましたが、その中で一番のピンチと言ってもいいと思います」
この間ずっと安倍官邸を見続けてきた永田町関係者の話だ。
「安倍さん以下、今井さん(尚哉首相補佐官)ら側近は頭を抱えています。まだ届かないアベノマスクにまつわるゴタゴタ、公明党からの強い圧力で10万円の一律給付への電撃シフト、星野源動画との勝手にコラボでの見事なスベり方、そして検察庁法改正案から黒川検事長の賭けマージャン問題まで、よくもこんなにミスができるなってくらい続いている。だから、支持率低下は仕方ない面がある。これに乗じて維新の支持率は上がってますけど、吉村さん(洋文大阪府知事)の名前は聞きたくないって感じでしょう」
官邸内の余裕のなさを象徴するような話だが、もっとも、
「WHOにホメてもらうくらい、新型コロナウイルスの封じ込めには現時点で相当成功しています。現実には成果をあげているわけですから、もう少し政権に対する評価があってもいいとは思うんですが、先に触れた失政のダメージがあまりに重く、世間の目は極めて厳しいですよね」
その理由は様々あるだろうが、コロナ禍での政策提案は主として今井補佐官が行うことが多く、おのずと失政を重ねていることになる。
「たとえば現金給付については、所得制限したりすると手続きに時間がかかりますからね。スピード勝負という意味でも『一律』は悪くなかった。ただ、そこに口を挟んだのが今井さん。リーマン・ショックで麻生さんの時に出した定額給付金を持ち出して“意味ないですよ。貯蓄に回りますよ”と。で、安倍さんも一律は見送ろうとしたら今度は公明党が噛みついてきてひっくり返されたという流れです。結果論かもしれないけど、リーマンの時に1万2000円給付したことと今回とは同じ土俵では考えられないでしょう」
読売新聞は、5月26日付の朝刊に、〈[政治の現場]危機管理(1)首相の決断 菅氏不在〉という記事を掲載している。要するに、安倍首相と菅義偉官房長官との間に距離ができつつあるという指摘だ。
《安倍と菅の二人三脚から、安倍の独壇場へ。こうした官邸内力学の変化は、「ポスト安倍」をめぐる安倍と菅の温度差がもたらしたと見る向きもある。安倍は来年9月末の自民党総裁任期切れをにらみ、盟友である副総理兼財務相の麻生太郎とともに、自民党政調会長の岸田文雄に期待を寄せる》
《一方の菅が、政治家としての岸田を見る目は厳しい。安倍が麻生、岸田との間だけで減収世帯への30万円給付という目玉政策を構想し、菅を絡ませなかったのも、そうした背景からだとする見方もある》
《安倍が2月下旬に学校の一斉休校を打ち出した際も、菅は蚊帳の外だった》
「“安倍さんと菅さんに溝がある”と書かせて、誰が得するのかを見ていくと、やはり今井さんなのかなという感じがしますね。いや、今井さんしかいない(笑)。菅さんじゃなくて今井さんあってのこの内閣だというアピールができることになりますからね。この記事にあるように、一斉休校について菅さんは知っていたけれど、“あの日にやる”ことは聞かされていなかったようです」
今井補佐官が首相の側で権勢をふるうことに問題があるというよりはむしろ、それが諸刃の刃になりかねないということが危惧されるのだという。
「アベノマスクひとつとっても決まるまでに癒着だ利権だと言われて、決まったら決まったで安くできたはいいけれど、8割は配られないままになっている。世帯に2つを配るにあたって、“とにかく早く集めろ”の大号令はかかったけれど、その後の流れがうまくいっていないですよね。それに今年の夏は暑いと言われていて、それでも”withマスク”は続けなくてはならないわけで、だったらアベノマスクは諦めて夏用の麻のマスク(アサノマスク)に注力するとか、そういうアイディアがあってもいいと思うんですが……。結局ユニクロとかMUJIとかそういうところが先を行くことになるでしょう」
「これまでの安倍官邸は菅さんと杉田(和博)官房副長官が危機管理を取り仕切ってきたわけですが、それが今井さんと北村さん(滋・国家安全保障局長)にシフトしている部分があります。今井さんが首席秘書官から補佐官に、北村さんが内閣情報官から現職に“出世”して以降その傾向は強まっていますが、霞が関からは、嫉妬も少なからずあるけれど、“2人は確かにワーカホリックで安倍さんに尽くしているけど、安倍さんだから仕事をやらせてもらっているだけ。他の人が宰相ならここまで続いていないでしょう”と冷ややかな声はあがっています」
「『安倍退陣』とか面白おかしく言われていますが、安倍さんが辞める理由はない。ただ、打開策がないのは事実。通常国会の会期が切れる6月17日まで、安倍批判は止むことはないですが、その後に、河井克行前法相の逮捕とかG7とかで風向きが変わることがあるのか、暗中模索というところじゃないですかね」 
●安倍政権の終わりの始まり!? 5/23 
安倍内閣は、国家公務員法等改正案の今通常国会での成立を断念した。法案に含まれる検察庁法改正案に世論の批判が強まったからだ。2020年度補正予算の一律給付金に続く土壇場の方向転換で、安倍晋三首相の指導力に陰りが生じたと言えよう。同首相は、9月新学年制度の導入などを大義名分に年内の解散・総選挙を実施、巻き返しを図る意向なのではないか。
検察庁法改正案がSNSを含む世論の反発を生んだのは、検事総長などの役職定年に関し、3年間の延長を可能とする部分だろう。法改正により、人事を通じて司法に対する政治介入の可能性を指摘する声は少なくないようだ。
もっとも、この検察庁法改正案は、「人生100年時代」の下、年金制度改革と連動した国家公務員の定年延長の一環だ。従って、検察庁法改正案における役職者の定年延長は、国家公務員法改正案との整合性を意識したものになっている。主な違いは、定年延長の要件について、国家公務員法が「人事院の承認」としたのに対し、検察庁法改正案は「内閣の定めるところ」とした点だ。これは、検察庁の歴史的経緯による判断で、政府に特段の意図はなかったと見られる。
そもそも、検察庁は内閣総理大臣を頂点とする行政府の一組織で、検察庁法により検事総長、次長検事、検事長の任命権者は現行規定でも内閣に他ならない。また、法務大臣は、個別事案に関しても検事総長への指揮権を有している。つまり、検察庁に対する政治側の権限を強化するため、あえて検察庁法を改正する理由は見当たらない。
新型コロナウイルスによる経済の失速を受け、4月30日に2020年度補正予算が成立したが、この時も土壇場で公明党が国民一律10万円の給付を主張、安倍内閣は国会への補正予算再提出に追い込まれた。検察庁法改正に関する批判が誤解に基づくものだとしても、同じ国会で2度目の方向転換であるうえ、法改正とは無関係にせよ、1月に定年を延長した黒川弘務東京高検検事長が辞任した。安倍首相のリーダーシップには大きなダメージと言えよう。
NHKが5月15〜17日に実施した世論調査によれば、安倍内閣の支持率は前月比2ポイント低下の37%、不支持率は7ポイント上昇の45%になった(図表)。2018年6月以来、約2年ぶりに支持率と不支持率が逆転した背景には、検察庁法改正案への世論の反発と見られる。 
 2020/4

 

●コロナ禍により引き起こされる? 吉本興業「政権批判はタブー」の崩壊 4/28 
1世帯2枚配付の『アベノマスク』、『お肉券、お魚券』、『条件付き一世帯30万円給付』などの政策や、星野源がインスタグラムにアップした『うちで踊ろう』とのコラボなどがことごとく炎上してしまった安倍政権。
新型コロナウイルスに関連した政策に、海外のロイター通信社は《臆病でナメクジのように遅い》と皮肉っている。
そして国内では、馴染みのある芸能人たちが次々と政府の愚策を批判し始めた。それももともと現政権に対して批判的な人たちではなく、およそ政治的発言に縁がなさそうな人たちまでもがだ。
現政権とは“ズブズブ”の関係
22日放送された『バイキング』(フジテレビ系)でも、おぎやはぎの小木博明は「ゴムの長さも違うし、左右で。めちゃくちゃですよ」と配布予定の“アベノマスク”をイジった。また、司会の坂上忍は1人10万円と決まった給付金について、「申請しないと、(その分の額が)国に残っちゃうのが何か嫌ね」と指摘すると、小木も税金の使途について「まぁ、ろくなもんに使わないですからね、国は」と皮肉った。
そして特筆すべきはコロナ禍によって「吉本興業と政権批判」のあり方にも変化が訪れたことであろう──。
これまでもSNSなどで政権批判を繰り返している吉本芸人といえばウーマンラッシュアワーの村本大輔や星田英利(旧芸名:ほっしゃん。)の名が挙げられよう。以上のふたりは明らかにテレビなどでの露出が減っている、いわゆる“干され”状態にあるといっていい。その理由についてキー局プロデューサーは、
「吉本興業といえば吉本新喜劇に安倍首相をサプライズ出演させたり、所属芸人が官邸を訪問したり、松本人志が首相と会食するなど、現政権とズブズブの関係にあると言ってもいいでしょう。
それだけではないです。吉本は昨年からNTTグループと共同で“教育コンテンツ”を発信する事業を展開中。政府の公的ビジネスに食い込み、最大で100億円近い巨額出資を段階に受けることになっている。大崎洋会長は、政府の沖縄の米軍基地跡地利用に関する有識者懇談会メンバーにも選ばれています」
そうした状況なだけに、所属芸人が政権批判をするなど、もってのほかなのだという。
「ことあるごとに辛辣な政権批判をしている村本さんは会社から注意を受けているようですし、舞台以外、ほとんど仕事がない状態になりました。星田さんはツイッターでずっと発信していることからか、最近はテレビで見ることはまったくなくなりましたね」
吉本芸人が政権を批判するのはタブーだということがよくわかる。
だが今回の新型コロナにおける政府の対応に、心ある吉本芸人は黙っていられなくなったのだろう。とりわけ安倍首相の『星野源とのコラボ動画』には怒りの声が多数上がっている。
オール巨人を皮切りに若手の不満も……
まず、たむらけんじが、持ちネタの獅子舞で、安倍首相の“星野源コラボ動画”のパロディを披露。これは皮肉といううより、モノマネの域かもしれないが、続いて登場したオール阪神・巨人のオール巨人が投稿したツイッターは、痛烈だ。
《とにかく、国はお金が有るんだし捻出は出来るんだから○(お金の絵文字)先ずは真水で20兆円、給付したらどう! 大人10万子供5万全国民に、所得が高くて貰わなくてもやれる人は、確定申告でその分、返したら良いのでは! 絶対こんな気持ちで、待てません○(怒った顔の絵文字)》
笑いのポイントも忘れてはいない。ツイートに添えられた4点の画像の1点目は、カジュアルなシャツと白いパンツを着て自宅ソファに座った巨人が、茶色い犬を抱いてじゃれあうもの。次にマグカップを手にする姿。3点目はリモコンを手にテレビをザッピングする様子。そして最後は、読書をしている一枚。まさしく安倍総理がアップした動画を完コピしたかたちだ。
なかでも目を引いたのは、4点目の読書姿。読んでいる本の表紙に《安倍晋三 この空虚な器》というタイトルがある。彼が手にしていたのはワイドショーなどでコメンテーターを務める藤井聡・京都大学大学院教授が編集長を務めている『表現者 クライテリオン』という雑誌だ。
スパイスのきいた芸の細かさには脱帽せざるを得ないが、彼は大御所芸人で吉本の重鎮。彼のような芸人が会社の意向を無視して、あからさまに政権を批判し始めたとことである変化が起こりそうなのだという。
「吉本の上層部としては村本やほっしゃんさんには言えても、大御所の巨人師匠の発言にはなかなか口を挟めず、内心苦々しいと思っているようです。また、巨人さんを皮切りに後輩芸人たちがこぞって声をあげるのでは、と心配もしているとか。
なんせ、“緊急事態宣言”により、劇場や営業を中心として活動している若手はただでさえ少ない給料が一気に減るわけですから、不満も爆発寸前だといいます」(吉本興業関係者)
海外と違い日本の芸能界はいまだに“政治的発言はNG”という空気が漂っている。しかし、社会をよりよくするために声を上げるのは当然の権利と言えよう。芸能人はよくも悪くも影響力がある。彼らが何かを発信することで、多くの人の意識を良い方に変えられるなら、それは願ってもないことだ。 
●歴史に「もし」はタブーだが…… 4/22 
それでも「もし」を考える
最近、なぜか昔のことをよく夢に見る。まだ若い父や母が出てきたり、幼いころの兄や姉、弟までも現れる。会社の同僚や一緒に仕事をした人たちが、まるで脈絡もなく出てくる。やっぱりぼくが年を取ったせいだろうな。そろそろ人生のラストランか……。
「週刊金曜日」(4月17日号)に、上野千鶴子さんのインタビューが載っていた。なかなか面白かったが、その中で上野さんは「人生なんて一度でたくさんだ」と言っていた。ふむふむ、その気持ち、今のぼくにはよく分かる。でも、かつて井上陽水さんは「人生が二度あれば……」と歌っていた。あの頃は、ぼくもそう思っていた……。
あなたは、もしあの時、別の選択をしていたら……などと考えたことはないだろうか。もし、あの日、あそこへ行かなければ…なんて。
「歴史に『もし』はあり得ない」と言われるが、小説や映画では、「もし……だったら」という設定は珍しくない。
例えば「もし、信長が明智光秀に殺されていなかったら」とか「もし、坂本龍馬が生きていたら明治維新は……」、「もし、第2次大戦で日本が勝利していたら……」。外国だって「もし、南軍がアメリカの南北戦争で勝利していたら……」などなど、たくさんの「もし」がエンターテインメントとしてぼくらを愉しませてくれている。
まあ、個人的なことなら、頭の中の妄想じみた「もし」を楽しむこともできるだろう。だが、これが政治や社会のこととなると、そうもいかない。このところの政治を見ていると、ぼくはつい「もし」を考えてしまうのだ。
もし東京オリンピックがなかったら
新型コロナウイルスの蔓延は、そう簡単には止まりそうもない。なぜ日本はこんな状況に陥ってしまったのか。
そこで思ってしまうのだ。もし「東京オリンピック」の招致がなかったら…と。
あの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、安倍晋三首相は厚顔無恥の極みの「原子力発電所の事故は、アンダーコントロールされている。『復興五輪』としての東京オリンピックを」と訴え、見事に成功したわけだ。しかし原発事故は収束などしておらず「原子力緊急事態宣言」はいまだに発令中である。なにが「アンダーコントロール」なものか!
まさに強引な招致だった。当初から、酷暑の東京の夏はアスリートにも不評だった。こぢんまりとした費用低減の大会にする、などとウソをつきまくってもいた。しかし、最初は数千億円とされた開催費が、あれよあれよと思う間に2兆円規模に膨らんだ。それでもまだ足りない分は、これからさらに積み増しされるだろう。
そこへ新型コロナウイルスが襲いかかった。だが、どうしても「オリンピック開催」に固執する安倍首相。なにしろ歴史に残る長期の名宰相として、首相引退劇の花道を飾りたかったのだ。
小池百合子東京都知事もまた、オリンピック成功を、この7月に予定されていると知事選挙のアピールに使う腹だった。同じ穴の狢である。ところがどっこい、そうは問屋が卸さなかった。新型コロナウイルスの来襲だ。
ここで「もし」だ。
もし、「東京オリンピック開催」が決まっていなければ、もっと早く対策の手は打てたはずだ。だが、オリンピックに執念を燃やす安倍首相は、なんだかんだと言い訳しつつ、PCR検査を徹底的に遅らせてしまった。検査を増やせばそれだけ多くの感染者が見つかってしまう。オリンピック開催に水を差すようなことだけは、なんとしても避けたい。
素早く実施すれば、なんとか水際で防げたかもしれぬのに、検査がなされないまま感染者はうなぎ上りに増えていく。
感染が広がって、もはや手の施しようがないところまで追い込まれて、やっと「東京オリンピックの1年先送り」をIOCと合意できた。だがそれも、中途半端な「1年延期」だった。ウイルスはグズグズの安倍政権を尻目に蔓延の一途をたどっている。
小池都知事も同罪である。それまでダンマリを決め込んでいたくせに、3月24日にオリンピック延期が決まると、翌日から突然の百合子劇場。もたもたする安倍政権を尻目に次々と「都独自の考え方」とやらを発表し始めた。それができるなら、なぜもっと早くやらなかったのか、との批判などどこ吹く風。間近に迫った都知事選を視野に入れた動きだろう。
中央も都も政治先行のいやらしさ。
今回のウイルス蔓延を止められていない原因のひとつが、この「東京オリンピック」にあることは間違いない。もし東京オリンピック招致がなければ、もし「アンダーコントロール」というウソがなければ……。
もし公明党が与党でなかったら…
右往左往するばかりの安倍政権の醜態は、数え上げればきりがない。あの「あごだし布マスク」2枚の全戸配布のバカらしさ。続いて「30万円現金給付」の圧倒的な不評。手続きのわずらわしさと給付が全世帯の20%にも及ばないことが判明。しかも給付時期が7月か8月以降になるとの観測。これでは、生活防衛にはとても間に合わない。
大不評に耐えきれず、今度は全員一律への10万円給付に舵を切った。しかし、これにも麻生太郎財務相は「手を挙げた人に」という留保をつけた。つまり「自己申告制」にしたいとの意向だ。どうしても、すんなりと全員一律には給付したくないということ。まるで、自分のカネのように思い込んでいるみたいだ。税金は、お前たちのカネじゃない!
これを実現させたのは公明党山口那津男代表の進言だったと、公明党は鼻高々の勝利宣言。だが実は、これはかなり前に野党各党が合同で提出していた案だったのだ。高額所得者には、のちに所得税に上乗せして払い込んだ分を回収するという条件まで付いていた。公明党がうまく利用したに過ぎない。
このところ、支持母体である創価学会から、公明党のあまりの安倍ベッタリ路線にかなりの不満が出ていた。それに焦った山口代表が、安倍首相へ直談判。もし拒否されれば、連立離脱をちらつかせることで圧力をかけようとしていたという。連立政権の屋台骨がぐらついている。
ここで考えてしまう。
もし、公明党が自民党の“下駄の雪”になっていなければ、こんなに安倍政権が続くこともなかっただろう……と。
もし原発事故の際、安倍政権だったら……
さらに、安倍ツイートが炎上! 4月12日、星野源さんの『うちで踊ろう』の曲を利用して優雅な自身の休日の動画を配信したのである。ぼくもそれを見て、思わず「このバカ」と呟いてしまった。
まったく緊迫感のない不謹慎な動画だ。当然、ものすごい反発を食らった。当初は「この動画には賛否両論が寄せられている」などと、相変わらずの感度に鈍さを露呈していたマスメディアも、ついには「首相ツイートに大きな批判」と書かざるを得なくなった。コロナ禍で収入激減、苦しんでいる人たちの批判はそれほど大きかったのだ。
こんな状況を見て、こんな「もし」が言われている。
もし「3・11」の福島原発事故の際に、安倍政権だったらどうなっていただろうという「もし」だ。
当時の菅直人首相は、自分の身を賭して、放射線汚染の度合いも分からぬ現場へ乗り込んだ。批判はあったけれど、あれはあれで首相としての在り方だった、という再評価がツイート上でなされていた。当然、比較して「もしあのとき、安倍政権だったら」ということになる。それが優雅に自宅でコーヒーブレイクを楽しむ安倍動画への批判になって炎上したというわけだ。
あの原発事故の際、もし安倍晋三氏が首相だったら、今の日本はなかったかもしれないと、ぼくは真剣にそう思う。多分、当時の班目春樹原子力委員会委員長と同じように「アチャー!」と叫んで頭を抱えたまんまじゃなかったか。そんな様子が目に浮かぶ(まったくのぼくの想像です)。
ほんとうに、安倍首相の危機感のなさにはイライラする。他の閣僚は誰も使わないあの“あご丸出しの布マスク”に固執しているのも、意地になっているガキにしか見えない。
ぼくらは、ガキの支配下にある。つらい話だ。
最後の「もし」は?
だから、最終的な「もし」は、もし今、安倍政権でなければどうなっていただろう、ということだ。
この期に及んでも安倍内閣支持率は、各社の調査では40%前後だ。さすがに不支持率のほうが支持を上回ってはいるようだが、それでも僅差。ぼくにはとても理解できない。
しかも毎度おなじみ、支持の理由のトップは「安倍さんに代わる人がいない」だという。
えー加減にせえよ! と思う。
ぼくはもう、安倍でなければ誰でもいい……という心境に近い。どんな人物だって、もう少し中身のある答弁を考えるだろうし、他人の(他党の)悪口のヤジを飛ばすことはしないだろう。森友学園問題で自殺した赤木さんへだって、少しは哀悼の意を示すだろう。
もし、安倍政権でなければどうなっているんだ……と問われれば、少なくとも今よりはいいだろう、とぼくは答える。
「もし」のオマケです……
「もし」のオマケ。
もし、安倍晋三氏が昭恵氏と結婚していなければ、こんなに悩まされることもなかっただろうに。
ホント、すごいよね、あの人。自粛なんかなんのその。レストランでタレント集めて花見をしても、首相「あれは公園の花見ではない。レストランの庭だから問題はない」。
次はスピリチュアル系のお医者さんと一緒に、50人の団体さんで大分県までひとっ飛び。それでも首相「あれは神社参拝で3密には当たらないし、全国規模の緊急事態宣言をアタクシが出す前のことだったから問題ない」。
奥さまが何をやっても「問題ない」。苦しいなあ。
だけど、アッキーさん、少しは夫の迷惑も考えないのかしら?
ご本人たちはどう思っているか知らないけれど、いつもアッキーさんの尻ぬぐいでワケの分からぬ言い訳を強いられる晋三さんを、そこだけはぼくは同情するんだ。 
●日本の新聞は科学的な分析よりも政権批判が優先か! 4/6 
新型コロナウイルスによる感染が国内外で深刻を極めている。この感染問題に対する日本の新聞報道をどう評価したらよいか、あれこれ考えているうちに、ひとつの重大な特徴に気付いた。科学的なリスクを的確に伝えることよりも、安倍政権への批判が優先している点だ。いわば科学と政治の混同だ。いったいどういうことか。
安倍首相を「科学軽視」と批判
ここでの考察は日頃、安倍政権に批判的なスタンスを貫く毎日新聞と朝日新聞を対象とする。私がまず驚いたのは、安倍首相が2月27日、全国の小中高校の一斉休校を要請したことに対する毎日新聞社の論調だ。
毎日新聞社は3月10日付けの社説で「首相は科学的分析尊重を」の見出しで科学的分析という言葉を3回も織り交ぜて科学的分析の重要性を指摘した。その一部を紹介する。
「全国の小中高校の一斉休校の要請も、中韓を対象とする入国規制強化も、安倍首相は専門家会議の意見を聞かずに打ち出した。・・科学的分析に基づかない判断は大きな副作用を招く恐れもある。・・政府の対策本部は拙速な判断を避け、科学的分析を踏まえて今後の対応を決めてほしい」
日頃、多くの新聞メディアは科学的分析をさほど重視して報道しているとは思っていなかったので、新聞が時の首相に向けて「科学的な分析を尊重せよ」という言論はとても新鮮であり驚きであった。
日本が一斉休校を要請した当時、英国は休校措置を取っていなかった。これを受けて、毎日新聞は「英国は入国制限や学校閉鎖の措置を取っていない。科学的な根拠に基づき政策決定しようとする英国とは対照的な(日本の)姿勢に、専門家は『科学が政治に負けた』と憤る」(3月18日付)と書いた。その紙面では英国のジョンソン首相の「スポーツイベントの禁止は、感染拡大防止には効果が小さいというのが科学的助言だ」との言葉も紹介している。
メディア自らは科学を重視してきたか?
これを読んで、そこまで安倍首相を批判するほど日本の新聞は過去に科学的分析を重視してきたのだろうかと大いに疑問を抱いた。
私は毎日新聞の記者(東京本社で1986年〜2018年)として、科学的なリスクにかかわる様々な問題を追いかけてきたが、首相の言説に対して、新聞社が「もっと科学的な分析を尊重せよ」と厳しく迫った論調は記憶にない。
この首相への科学軽視批判は、別の言い方をすると「私たちメディアは科学的な分析を重視して報道しているのに、安倍首相は軽視している」という物言いである。
では、過去の新聞のリスク報道はどうだったのだろうか。
福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質のリスク。BSE(牛海綿状脳症)の感染リスクと全頭検査。子宮頸がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンのリスクとベネフィット(便益)。福島第一原子力発電所のタンクにたまるトリチウム水のリスクと放出問題。遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品の安全性に関する問題。放射線を当てて殺菌する照射食品の問題。
これら一連の問題を振り返ると、政府がいくら科学的な分析・根拠を尊重したリスクを示しても、新聞メディア(もちろん新聞社によって濃淡はある)は、消費者の不安を持ち出したり、異端的な科学者の声を大きく取り上げたりして、常に政府を批判していた。決して科学的分析を尊重してこなかった。
新聞はコミュニケーターの役割を果たしていない
例を挙げよう。いくら政府の科学者たちがゲノム編集食品は従来の品種改良と変わりなく安全だと科学的に説明しても、朝日新聞や毎日新聞はどちらかといえば(同じ紙面でも社会面、経済面、生活面、科学面でやや異なるものの)、科学的な側面を軽視して、「それでも消費者は不安だ」「本当に安全か」などと書いてきた。
もし本当に新聞社が科学的な分析・根拠を重視する姿勢をもっているなら、そうした分析結果を分かりやすく解説して、消費者にしっかりと理解してもらうのが科学者と市民の間をつなぐコミュニケーターとしてのメディアの役割だろうと思うが、そういうリスクコミュニケ—ションはしていない。
日ごろは科学をさほど尊重していないのに、安倍首相を批判するときには「科学的な分析を尊重せよ」とカッコよく言われても面食らってしまう。
結局、新型コロナウイルスでも、子宮頸がん予防のHPVワクチンでも、メディアは科学的な事実を正確に伝えようとする姿勢、つまり、科学的なリスクを的確に伝えるコミュニケーターとしての役割を果たしていないことが分かるだろう。
これはおそらく政府を批判することが記者の使命、記者の正義だと思い込んでいる意識が多くの記者にあるからだろう。もちろん政治の問題で政府を批判することは大いに必要だが、科学的な分野は別のはずだ。
緊急事態宣言では科学を度外視!
このメディアの政治と科学を混同する姿勢は、3月14日に緊急事態宣言を可能にする新型インフルエンザ等対策特別措置法改正が参議院本会議で可決されたときにも如実に現れた。
朝日新聞はさっそく「新型コロナの蔓延時などに、首相が緊急事態宣言を出し、国民の私権制限もできるようになる」(3月14日付一面トップ)と書き、感染拡大を抑えるリスク削減効果よりも、安倍政権による私権制限に危機感を抱かせるようなトーンに重きを置いた。
同じ朝日新聞の3月20日付の「耕論」ではコメディアンの松元ヒロさんを登場させ、「独裁的な首相に、こんな権限を与えて大丈夫でしょうか。歴史を振り返ると戦時に歌舞音曲が禁止されました・・」などの見方を紹介した。
リスクの問題がなぜ政治の話になるのだろうか。
読売新聞が緊急事態宣言を「都道府県知事の行政権限を強めることが可能になる」(3月14日の一面トップ)と解説したのと対照的だ。
いま重要なのは新型コロナウイルスの感染リスク拡大をいかにして食い止めるかである。そのような極めて科学的な判断が真剣に試される究極の場面でも、なお時の政権を批判することに重点を置いた論調を展開する。これでは科学を正しく伝えられないのではないか。読者が知りたいのは緊急事態宣言でどの程度感染リスクが削減されるかだ。
感染症に対する緊急事態宣言(※旧民主党政権が新型インフルエンザに対してつくった極めて制限の緩い法律を踏襲した内容であることを知っておきたい)は戦前の治安維持法ではない。国民の健康、安全をどう確保するかという極めて科学的な分析を要するリスクコミュニケーションの問題である。それに徹した科学報道を期待したいが、朝日新聞と毎日新聞はどうも政権への批判が優先しているようだ。
もちろん大手2紙にも良いところはたくさんあり、このコロナ報道だけで新聞の良し悪しを判断してはいけないことは承知している。ただ、科学と政治の問題を分けて報道することが大事だと強調したい。
一斉休校は良い意味で予防原則だった
話題を冒頭の科学的な分析の話にもどそう。毎日新聞が安倍首相を批判した当日の3月18日、ジョンソン首相は20日から学校を休校すると発表した。英国の判断のほうが甘かったのである。この休校問題に限れば、安倍首相の唐突な決断が結果的には、科学無視と批判されるような愚かなものではなかったことになる(もちろん、休校にかかわるさまざまな副作用は発生したが)が、それをフォローする記事は出てこない。「科学的分析を尊重せよ」は一時の首相批判に持ち出された道具に過ぎなかったようだ。
「一斉休校」という安倍首相の決断は、善意に解釈すれば、科学的な判断が難しい場合に市民団体や野党の議員たちがよく口にする大好物の「予防原則」にのっとったものだった。しかし、嫌いな安倍政権が予防原則を実行するとメディアは「科学的根拠がない」と批判し、安倍首相が予防原則を実行しないときは逆に「早く予防原則を実行すべきだ」と迫る。結局いつも政権批判である。
それほど科学的な分析・根拠が大事だというなら、新聞社自らが多数の専門家の意見を聞き、科学的な分析を駆使して、「感染を食い止めるためにはいまこそ、科学的な意味での緊急事態行動が必要だ」と具体的な対策項目を前面に押し出して国民に訴えればよいだろうと思うが、そういうリスキーなことはしない。
政府が何をやっても「後手、後手だ」と批判するような野党的な感覚でリスク報道をされたのでは、読者はいつまでたっても的確な科学的情報を新聞からは得られない。
福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウム水のタンク。安倍首相に「科学的分析を尊重せよ」と訴えた誇り高き姿勢をこの問題でも示してほしいものだ。
緊急事態宣言は6日か7日にも出されそうだ。安倍首相は専門家の意見を尊重して、ぎりぎりまで科学的根拠を重視していた。
まさか「遅かった緊急事態宣言」と書かないだろうね! 
●昭恵夫人 大分旅行でFBに批判コメントまた! 4/16 
安倍晋三首相の昭恵夫人が国内で新型コロナウイルスが感染が拡大していた3月中旬、大分県を旅行していたと文春オンラインが15日に報じた。昭恵夫人は3月にも週刊ポスト電子版で「花見写真」を報じられている。昭恵夫人のFacebookには批判的な声が多数寄せられた。
経済活動の自粛を要請され、生活に困る人々もいる中での旅行判明とあり、「お金に困らない夫人はいいよねー。私らシングルマザーは解雇され死に物狂いで次の仕事を探してます」「貴方ファーストレデイですよね?国民は失業する手前で明日が見えない生活してるんですよ」などと悲痛な声も。また、「長年の自民党支持者です」という人物からは「野党時代も変わらず、自民党を支持してきました。民主党政権時代の東日本大震災の時には、少なくとも与野党間の対立よりも、国難に立ち向かう政治の姿勢が感じられていたと思います。今、震災時に匹敵するであろう難局に際して、あなたの行動を報道している内容が事実であるならば、あまりにも、不安の中で時を過ごしている国民の気持ちから、かけ離れているとしか思えません」と支持者としての無念な思いがあった。
また、「何でこの時期に大分に50人もの団体で来るのですか!?ウイルスを持ち込む恐れがあるし、持ち帰る恐れもあると思います!」と移動による危険性を指摘する声もみられた。 
 2020/3

 

●国民の不安を煽るだけの安倍首相  3/2 
2月29日、安倍晋三首相は新型コロナウイルス対策について初めて記者会見を開いた。その内容をスピーチのプロはどう見たか。コミュニケーションストラテジストの岡本純子氏は「なにが伝えたいのがわからず、国民の不安を煽るだけだった。ニュージーランドやシンガポールの首相とは対照的だ」という――。
2月29日、安倍晋三首相は新型コロナウイルスの対策について、初めて会見を行った。この「国難」を乗り越えるため、国のトップのスピーチはどうあるべきか。他国の事例を踏まえながら考えたい。
まず、このタイミングで「初の会見」というのが驚きだった。トップがきっちりと直接メッセージを発するというのは危機管理の定石だ。なぜ安倍首相が率先して迅速な情報開示を行わなかったのか。
この間、安倍首相は感染症の専門家や実務家とコミュニケーションを密にとっていたわけでもなかった。1月30日になって「新型コロナウイルス感染症対策本部」が設置されたが、当初の会議時間は10分〜15分程度。また夜は懇意にしている評論家や作家、経営者らとの会食を繰り返し、身内の議員の誕生会に出席することもあった。
オフタイムにはしっかり休養を取るというのも重要だ。だが、不眠不休で身を挺して働いている現場はそれをどう受け止めるか。その関心と興味は半径10メートル以内の近しい人々のみ、という印象さえ受ける。
そして国民は完全に取り残されている。マスクはない、除菌スプレーもない、おまけにパニック状態にあるからなのか、トイレットペーパー、ティッシュ、おむつ、生理用品、飲料水なども店頭から消えている。
学校現場は、突然3月2日からの臨時休校を言い渡され、混乱を極めた。休講を告げられて喜ぶ子供も多かったようだが、休みが長引くにつれて「外に出てはいけない」という事態に戸惑っている。しかも友達にしっかりと別れを告げることもないままに、卒業式という一生に一回の晴れの機会も奪われてしまった。親たちは、遊び盛りの子供たちの面倒をどう見ればいいのか途方に暮れ、仕事と育児の両立に悩んでいる。
それだけではない。続々と仕事がキャンセルになり、「自粛」「自粛」と連呼され、一体、これから、どうやって生活を成り立たせればいいのか。国民の間には不安が広がっている……。
われわれは「当たり前の日常」を失った。その一方で、2月28日の衆院総務委員会では立憲民主党の議員から「会食が相次いでいる」と指摘されると、「何かいけないことなのか」と開き直る。その様子をみると、国民や医療現場の痛みや悲鳴が首相の耳に届いているようには思えないのである。
今回の会見の内容もそんな「ひとごと」のような言葉が並んでいた。
この会見には多くの問題点があった。左右に置いたプロンプターを振り子のように順番に見ながら、一言一句漏らさず読み上げたために、自身の言葉という感じがまったくしなかった。首相の「気持ち」が伝わってこないのだ。
記者会見は約36分間だった。そのうち19分間は安倍首相のスピーチ。質疑応答は残りの17分間だけで、しかも事前に提出されていた5つのメディアに応じるだけだった。安倍首相は国民の疑問には答えず、一方的に説明するだけで、すぐさま私邸へ引き上げた。
最大の問題点は「いったい何を伝えたいのかがわからない」ということだ。
経営者や政治家などのスピーチで重要なことは、伝えたい「キーメッセージ」を明確にすることだ。それができていなければ、メッセージを聞き手に刷り込むことができない。
木に例えると、幹(キーメッセージ、結論)があって、枝(根拠、ポイント)があって、最後に葉(具体的事例)がある。この会見では具体性の乏しい無数の葉が、だらだらと羅列されただけだった。
イベントの中止、学校休止、事業者への話、おくやみ、PCR検査、治療体制……。ずらずらと話は続いたが、1問題→2原因→3解決法→4展望→5アクション、というロジカルスピーキングの基本にのっとって説明すれば、もっとわかりやすくなったはずだ。
つまり、12しっかりと現状説明し、現在わかっている原因・背景を簡潔に述べる→3その解決策として、例えば、A:教育現場での対策、B:経済施策、C:医療体制といったようにポイントを分け、順番に話す→4それにより収束するという展望を見せる→5そのために、「ですから皆さんぜひ、●●をお願いします」と協力を呼びかける、という格好だ。
しかし安倍首相のスピーチは、このロジカルスピーチの基本がおろそかになっていた。最初に現状説明をしなければいけないのに、それは省かれており、いきなり「躊躇なく対策を講じてきた」と胸を張る。すべてが後手後手に回ったと思っている聞き手の耳には、その先の言葉が入ってこない。
また、解決法については、「盤石な医療体制を構築していきます」「未来を先取りする変革を一気に進めます」「努めてまいります」「増強されます」「整えます」とどれもぼんやりした未来形だった。「ということは、今まで何もやってこなかったのか」という絶望感にとらわれた人もいたはずだ。
会見は「キーメッセージ」が見えないまま進んだが、その途中で「自分はその最前線に立っている」とでもいうような勇者めいた発言があった。
「今回のウイルスについてはいまだ未知の部分がたくさんあります。よく見えない、よくわからない敵との戦いは容易ではありません。政府の力だけでこの戦いに勝利を収めることはできません」
これでは不安を煽るだけだ。続けて、「一人ひとりの国民の皆さんのご理解、ご協力が欠かせません」と呼びかけた。一体なにを理解して、なにに協力すればいいのかわからない。戦時中の「欲しがりません勝つまでは」を彷彿とさせる根性ワードが散りばめられ、聞き手にはモヤモヤ感だけが残る。
首相は「さまざまな課題・不安・意見」と繰り返したが、これは「いろいろありすぎて、整理できていない」と言っているのと同じだ。
われわれは日本のリーダーである首相に寄り添ってほしかったし、不安をしずめてもらいたかった。しかし、国民の不安を分かち合おう、軽くしようという気概は微塵も感じられなかった。
ここで、ほかの国のリーダーの例を見てみよう。
例えば、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相。2月29日に、最初の感染者が出たことを受け、会見でこう話した。
「私が訴えたいのは、ニュージーランドはこうしたシチュエーションに適切に対応できるということです。公衆衛生に携わる官僚や専門家(の知見)は世界でもトップクラスであり、医療施設も十分に準備できています」
アーダーン首相は相談センターの電話番号を書いたパネルの前で会見し、何度も何度も「prepared(準備はできている)」と繰り返した。
また、シンガポールでは、2月8日、リー・シェンロン首相がスピーチという形でこんなメッセージを出した。
「今日はあなた方に直接、今の状況、そして何が待ち受けているのかをお話したいと思います。われわれは17年前にSARSを経験しており、コロナウイルスに対応できるよう、しっかりと準備ができています。われわれは十分な量のマスクと個人用の保護用品を確保しており、医療施設も拡張し、改善させてきました。ウイルスについて、より高度な研究能力を実現し、医師・看護師はさらに訓練されており、心理的にも準備ができています。シンガポール人は何を予期し、どのように対応するのかを知っているのです。何より大事なのは、SARSを克服し、私たちはこの問題を乗り越えることができることをわかっていることです」
国民の不安をやわらげようと、語り口はとてもやさしく、聞き手を勇気づけるものだった。さらに、「頻繁に手を洗い、目や顔に触れないように」、「医師に相談するように」、「インスタントラーメンや缶詰、トイレットペーパーを買う必要はない」などの具体的なアドバイスをしたうえで、「団結して解決をしていきましょう。 良識ある予防策をとり、お互いに助け合い、落ち着き、私たちの生活を続けていきましょう」と結んだ。
シンガポール在住で現地の会社役員を務める日本人女性・簡 希実子さんは、こうした対応を手放しで評価した。
「旧正月のころ(1月の終わり)のずいぶん早い時点から政府(健康省)が段階的に厳しくいろいろと規定を発令したので、そろそろ収束への道が見えてくる予感がする。マスクが入手できなくなるパニックを避けるためにも対策が練られるなど、徹底的な対策がとられてきた。首相のスピーチは、国民がパニックに陥らないようにと、助け合いと一体感を呼びかけており、一連の対応は機敏で、本当に素晴らしい。あっぱれだ」
筆者は長年、コミュニケーション研究家として、安倍首相の伝え方戦略を中立の立場からウォッチし続けてきた。これまで安倍首相は、アメリカ議会での英語演説やリオ五輪閉会式でのパフォーマンスなど、徹底的に「見せ方」を意識し、スピーチにはこだわりを見せてきた。
しかし、そういう「お祭り」ではそれなりに人々に訴えることができても、「国難」というここぞのときのスピーチはおざなりな印象をもつ。これは超長期政権のレイムダック(死に体)を意味しているのかもしれない。それほどまでに生気もやる気も感じられないのだ。
世界的危機の中で、一国のリーダーが友人との会食ごっこをしている時間はないはずだ。この国難には全国民が一丸となって立ち向かうしかないのだから。 
●記者会見なのに「説明責任」を果たさない安倍晋三首相 3/1 
2月29日、新型コロナウイルスへの政府の対応に関する安倍晋三首相の記者会見が行われた。
土曜日の夕方という比較的国民が視聴しやすい時間帯に記者会見をセッティングしたことから、何か思い切った施策発表や丁寧な説明がされるのかと思いきや、実際は具体性に欠け、令和元年度予算の予備費として残っている2700億円以上を活用した第2弾の緊急対策は今後詳細を詰めるということであった。
突然の休校要請については、「十分な説明がなかった。それは確かにそのとおりだ」と認めたが、記者会見の時間はわずか35分程度、「まだ質問があります」という声が記者席から挙がっているにも関わらず、司会の長谷川栄一内閣広報官は「以上をもちまして記者会見を終わらせていただきます」と打ち切り。
一体何のための記者会見だったのか。
その後よっぽど重要な公務があったのかと首相動静を見たら、自宅に帰宅したらしい...。
   午後6時から同36分まで、記者会見。
   午後6時57分、官邸発。
   午後7時12分、私邸着。
   午後10時現在、私邸。来客なし。(了)    首相動静(2月29日)
当然、現場にいた記者からは批判の声が挙がっている。
「まだ質問があります」と声を挙げたジャーナリストの江川紹子氏は、ツイッターに連続投稿。
「安倍首相の記者会見、一生懸命「まだ聞きたいことがあります」と訴えたけど、事前に指名されて質問も提出していたらしい大手メディアの記者に対して、用意されていた原稿読んで終わりでした。」
「安倍首相の記者会見、一生懸命「まだ聞きたいことがあります」と訴えたけど、事前に指名されて質問も提出していたらしい大手メディアの記者に対して、用意されていた原稿読んで終わりでした。」
「専門家会議では議論してない全国一斉休校要請について、他の専門家に相談したのか、今回の判断した根拠やエビデンスは何か、それに伴う弊害やリスクとの検討はどのようにやったのか、期待される効果や獲得目標は何か…その他いろいろ聞きたいことはあったんだけど」
「専門家会議では議論してない全国一斉休校要請について、他の専門家に相談したのか、今回の判断した根拠やエビデンスは何か、それに伴う弊害やリスクとの検討はどのようにやったのか、期待される効果や獲得目標は何か…その他いろいろ聞きたいことはあったんだけど」
首相動静を引用して「うちに帰るだけなら、もう少し答えてくれてもいいじゃん」と嘆いた。
また、ジャーナリストの神保哲生氏は、フリーのジャーナリストに質問させない現状を長年許している記者クラブも批判した。
「独演会ならまだいいんですよ。すべて官邸官僚が事前に用意した答弁をベタ読みしているだけなところが問題なんです。しかも質問まで官邸官僚が事前に取りまとめて、その答えも用意し、当てる順番まで決まってる。でも一番の問題はそれに唯々諾々と従ってる内閣記者会の記者たちです。」
「官邸官僚たちが予め時間を計りながら原稿を用意しているはずですが、総理がそれを早く読みすぎて時間が余るとやばいんです。事前に質問を取りまとめてない記者を当てるわけにはいかないから。以前、時間が余った時、私しか挙手してないのに内閣広報官は手を挙げていなかったNHKの記者を当てました。」
「僕は手を挙げ続けても当てられない7年間の前に、会見に入ることさえできない20年がありますから、これくらいは大したことないって思えますけど。その間にフリーでも記者クラブと対等に質問ができた民主党政権の3年間がありますが、それが既存メディアを安倍政権に走らせる一因にもなってるわけです。」
相変わらずの「説明責任」の無さ
こういった「説明責任」の無さは今に始まったことではない。2019年を振り返る記事で書いたように、特に昨年以降顕著になっており、政治不信が高まる一方となっている。
首相が記者会見で度々言及していた「結果責任」に関しては、今後の経過を見届けていくことしかできないが、論語に「民信無くば立たず」という言葉があるように、国民の信頼と協力なくして、政治は成り立たない。
そのためには、情報公開と透明性が最も重要であり、記者からの質問に答えることは最低限の振る舞いであろう。
今回の危機に際して評価を高めている政治家・首長は、自ら前面に立って、SNSも駆使しながら説明に努めており、千葉市の熊谷俊人市長は、個別のリプライ(質問)に対して回答までしている。
1億人規模の国の宰相であり、SNSで国民とコミュニケーションを取るべき、とまでは言わないが、国民への説明を重視していない、そんな姿勢がよくわかる安倍首相の記者会見であった。 
 2020/2

 

●安倍「なんでもあり」政権が民主主義を破壊する 2/29 
「今や安倍政権はなんでもありだ」
最近、こんな言葉が永田町や霞が関に広がっている。
森友学園や加計学園問題に始まり、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」、さらには検察官の定年延長問題と、政権中枢が関わる問題が表面化すると、場当たり的な説明で切り抜けようとし、それが破たんすると関連する公文書を改ざんしたり、廃棄したり。揚げ句の果てには法律解釈を強引に変更したりと、やりたい放題だ。
目の前の問題を処理するために、歴代内閣が積み重ね、作ってきた手続きや法秩序をいとも簡単に無視し続けているのだ。
失われつつある独立機関の政治的中立性
為政者が政権維持のために短期的な成果を上げようと強引な手法をとりたがるのは、安倍政権に始まったことではない。だからと言って手続きや法律などを軽視すれば、法秩序が揺らぎ、倫理観が壊れ、社会全体が混乱するなど、中長期的にはより大きな公益が失われる。
ゆえに、政権の行う政策などが公平さや公正さを保っているか、法律に抵触していないかを常にチェックする必要があり、そのために内閣からある程度独立した組織が政府の中にも作られている。具体的には会計検査院や人事院、内閣法制局などだ。広い意味では日本銀行なども独立性が認められている。
ところが今、これら独立性の高い組織が本来の役割である行政のチェックを行うどころか、安倍政権が起こす問題の対応に巻き込まれ、政治的中立性を失いつつある。
コロナウイルスとともに国会で大きな問題となっている東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題では、人事院と内閣法制局が重要な役割を果たしている。森雅子法相は、定年が近づいてきた黒川氏の定年延長を認めるため、1月17日に法解釈の変更を「口頭」で決済し、その後、内閣法制局や人事院と協議し、了承を得たと説明している。
この説明をすんなりと受け入れられないのは、2月12日の国会審議で、人事院の松尾恵美子・給与局長が「現在まで特に、(検察官の定年をめぐる)議論はない」と答え、検察官には国家公務員法の定年制は適用されないという従来からの政府の法解釈について、「同じ解釈が続いている」と答弁しているからだ。この答弁を見る限り、人事院が中立的な立場から内閣の対応にくぎを刺していると受け止めることができる。
「口頭」で法解釈を変更
ところが、松尾局長の答弁の翌13日、安倍首相が衆院本会議でいきなり「法解釈を変更した」と発言した。ここから人事院の姿勢が一変する。
松尾局長は12日の発言を「言い間違えた」と取り繕った。ところが、法解釈変更の決裁について、松尾局長は「内部で決裁をとっていない」と発言している。このあたりに心の揺らぎが見て取れる。一方の森法相は「口頭で決済した」と強弁している。
そして、もう1つの独立機関である内閣法制局は、近藤正春長官が安倍首相にしっかりと歩調を合わせて答弁をしている。さらに人事院や内閣法制局との協議の記録がないとしている。
法律の解釈を変更してやりたいことをやるというのは、安倍政権の好む手法のようで、すでに憲法9条の解釈を180度転換し、集団的自衛権の行使を容認している。今回の法解釈変更というのは法律の世界では非常に重要なことであり、その目的や必要性、それが合理的であるかどうかなど説明ができなければならない。
当然、内閣法制局などとの協議の経過や最終的な決済などの文書がなければならないが、それが「口頭」というのである。まさに「なんでもあり」状態である。
人事院は自らの組織について、「国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関として、内閣の所轄の下に設けられた」(人事院ホームページ)と説明している。
為政者が政治的目的などのために人事を歪めたりすることをチェックすることも、人事院の重要な役割なのである。松尾局長の初期の答弁には人事院の「矜持」を感じたが、安倍首相の本会議発言を機に一変してしまったのは残念としか言いようがない。
内閣法制局は官邸の追認機関になった
一方、内閣法制局は内閣に付属する機関ではあるものの、「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べる」(内閣法制局ホームページ)ことが業務の1つである。
憲法解釈をはじめ、法解釈の最終的なゲートキーパーの役割を果たし、歴代首相と言えども内閣法制局を無視して好き勝手な解釈を振り回すことはできない。それゆえに為政者から嫌われることの多かった組織でもあった。
ところが周知のとおり、安倍首相は外交官出身の小松一郎氏を強引に長官に起用した。小松氏は安倍首相の意向に沿った形で憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権を容認する姿勢を示して実現させた。この人事がターニングポイントとなって、今や内閣法制局は独立性を弱め、首相官邸の意思決定の追認機関となってしまっている。当然のことながら今回の検察官の定年延長問題でも、中立的立場からの発言は見られない。
会計検査院の変質も見逃せない。森友問題に関して会計検査院は国有地売却に関して説明がつかないほど価格が値引きされていること、あるいは関連する公文書が改ざんされていることにいち早く気づいていた。にもかかわらず、そのことを指摘しなかった。
会計検査院は国会や裁判所と同じように憲法に定められた極めて独立性の強い組織である。
ホームページには組織の責務を「この国のお金が正しく、また、ムダなく有効に使われているかどうかをチェックする機関です。会計検査院は、このような重要な仕事を他から制約を受けることなく厳正に果たせるよう、国会、内閣、裁判所いずれの機関からも独立しています」と高らかに紹介している。ところが実態は、積極的に政権に物申すことができなくなっている。
「安倍一強」と言われる政治状況のもとで、中央省庁は本来期待されていたボトムアップの政策の企画立案の役割が縮小し、主要な政策が官邸主導のもとトップダウンで決められ、役所はその下請け機関、執行機関となっている。その結果、官僚の士気は下がり、転職者が増え、モラルも低下していると言われている。
繰り返される思いつきの政策
であれば余計に、首相官邸が打ち出す政策などについて第三者的組織のチェックが重要になるのだが、すでに述べてきたように会計検査院や人事院、内閣法制局などの独立性の高いはずの組織が、本来の役割を果たせないばかりか、安倍一強のもとにひれ伏しているかのような状況になっている。
長く政権を維持してきた自民党だが、歴代首相でここまで統治システムの根幹部分に手を突っ込み、独立性の強い組織の主体性を奪ったケースはないだろう。
その結果、安倍首相やその周辺の一部の人間が思いついた政策などが専門的な知識もなく、時間をかけた慎重な検討もなく打ち出されている。そして、何か問題が見つかると、場当たり的な理屈を作って切り抜けようとする。その際、関連する公文書が改ざんされたり、廃棄される。今回のように、突然法律解釈が変更されることも起きた。
それを会計検査院などの組織がチェックし問題点を指摘しなければならないのだが、逆に政権の意向に沿って追認を繰り返している。これが今の安倍政権である。これでは権力の中枢から法秩序も倫理観も消えてしまい、統治システムの混乱は避けられない。そういう意味で今、日本はまさに危機的状況にあるといえる。 
●安倍よ、ただで済むと思うな…菅官房長官「最後の逆襲」が始まった 2/20 
政権の終わりが見えてきたと思ったら、一枚岩だったはずの政権幹部たちの関係が異様なまでに軋み始めている。自分が死ぬか、相手が死ぬか。五輪まで半年、永田町で本格抗争の号砲が鳴った。
総理に呼ばれなくなった
「もう、あの人も終わりだよな」
ある自民党のベテラン議員が言う。官房長官・菅義偉のことである。官邸の守護神と言われたのも今は昔。
定例の記者会見では、記者の質問にもまるで上の空。「すみません、もう一回言って?」を繰り返すシーンは、毎度のこと。回答に窮し事務方からペーパーを差し込まれることも増えた。
この4ヵ月、菅はさんざんだった。菅原一秀や河井克行といった「側近」を無理矢理入閣させたものの、一気にスキャンダルに見舞われた。
重用してきた官僚が不倫騒動に追い込まれ、自分が肩入れしてきたIR問題でも、10年ぶりの国会議員逮捕という騒動に巻き込まれた。すべて菅の周りで醜聞が出たことから、「菅潰し」の声が囁かれた。
総理候補など夢のまた夢、スキャンダル処理にほとほと疲れた菅は、「このままやけくそで辞任するんじゃないか?」と噂を立てられる始末だ。
安倍総理との関係も決定的に軋みだした。昨年末から、菅が安倍に呼ばれる機会が減った。もちろん、朝、官邸で顔は合わせるものの、安倍は視線を合わせない。
要人との同席回数や接触時間は、かねてから菅との不仲が囁かれる今井尚哉秘書官のほうが格段に多くなった。
安倍に嫌われたのか。自分を嵌めたのは、今井ではなくて、安倍なのではないか。疑心暗鬼が、菅の胸中を交錯している。
官邸に2つあった危機管理ラインのもと、菅と今井は、修復不能な関係に陥った。今井は「菅さんは信用できないよ。総理の寝首をかく男だしね」と公言し、菅も「総理にぶら下がり会見なんてやらせて、本当にあのバカ」と今井を批判。だが、安倍は今井を選んだ。
「今井が官僚だからですよ。政治家とちがって、主君に取って代わろうとすることはありえない。総理にとって菅さんは不気味だが、今井は安心して使える。その結果、安倍総理と菅さんは『官邸内別居』状態になってしまった」(安倍側近)
このままでは、菅の政治家生命は終わる。頻繁に行っていた夜の会合も鳴りを潜め、菅の側近議員も「まったく誘われなくなったね。何をしているんだろう」と言う。表情も乏しくなり、抜け殻のようだ。
だが、これは演技だ。
『仮名手本忠臣蔵』に出てくる大星由良之助の一力茶屋のシーンを覚えているだろうか。連日酒を飲み、昼行灯そのものの大星は、ここで敵を油断させ、討ち入りのタイミングを見計らう。
慎重に五感を働かせていれば、どんなときにも運は巡ってくる――後ろ盾もない横浜市議から出発した叩き上げの菅は、それがわかっているのだ。俺をバカにして、ただで済むと思うなよ。「逆襲」への兆しはかすかに出てきている。
1月21日、廃棄していたはずの「桜を見る会」の3年分の資料が、突然見つかった。
会場設営の契約書などが、内閣府総務課に残っていたというのだ。これまでの説明とはまったく異なるが、これは菅を後押しする官僚の「反乱」だった可能性が高い。官邸職員の証言。
「桜の件は、けっきょく安倍さん自身の問題なわけです。安倍後援会が850人も招待され、昭恵枠まで膨大にあった。すべて『廃棄』でウヤムヤにするつもりが、ここでわざわざ資料が出てくるというのは、菅さんに世話になった官僚が、菅復権のために、あえて出したとしか考えられない」
ぜんぶ、俺のせいか?
最近の「菅潰し」は、人事権を握ってきた菅に恨みを持つ官僚が荷担してきたという見方がある。一方で、アメとムチを使い分ける菅に「人事で世話になった」と感謝の感情を持っている官僚も多い。前出の職員が言う。
「菅さんにとっては、資料が突然出てきたのは大きな援軍でしょう。総理が追及されるきっかけになるし、『桜』対応を振り付けてきた今井氏にとっても失点となります」
菅が入閣させた前法相・河井克行と妻の案里についてはどうか。すでに広島地検は家宅捜索だけでなく秘書をはじめ30名以上の事情聴取まで行っている。しかし、もともと、河井夫妻は安倍総理との関係が深い。
「河井氏は『菅銘柄』と言われてきましたが、実際には河井さんは『安倍派』といっていい。案里氏の出馬も、対立候補の溝手顕正元参院議員を、安倍総理が大嫌いだったことからごり押ししたもの。菅さんは後から従っただけ」(自民党代議士)
だが河井が法務大臣を辞任する段になると安倍は「菅さんが大丈夫といったから」「菅さん自身が何度も選挙区に入ったでしょう。だから問題ないと思っていた」と菅に責任転嫁している。
そのような事情があるからこそ、週刊文春が報じた「参院選前、1億5000万円が自民党から河井陣営に振り込まれていた」という事実は、菅にとっては有利に働く。
カネの主体は党なのだ。官房長官である菅には関係ない。むしろ安倍銘柄であることがクローズアップされていくだろう。
二階とのタッグ
「さらに、次期検事総長と目されてきた東京高検検事長の黒川弘務氏が、2月8日の誕生日をもって定年退官する可能性が高まってきたのが、菅氏にとって追い風です。
『官邸の門番』としてさまざまな政治案件を握りつぶしてきた黒川氏が消えれば、菅氏も『黒川がいなければ、私も手を出せません』と堂々と安倍総理に言える。
稲田(伸夫)検事総長は、『黒川がやめれば、8月の任期までバンバン事件をやる』と語っているため、河井夫妻の立件は確定的になるでしょう」(政治部デスク)
大臣経験者の逮捕となれば、政権への打撃は大きい。菅と安倍のどちらがダメージを受けるか?安倍のほうだろう。
IR問題についても、実は安倍のなかでは危ない時限爆弾がある。逮捕された秋元司が、細田派の有力議員の名前を具体的に挙げ、カジノ企業との癒着を検察に話しているという。
「具体的に、安倍に近い現職大臣の名前と、その人物が受け取った2000万円という金額も話している」という噂で永田町は持ちきりだ。
これまで挙げてきた「追い風」は、今のところ、静かなさざ波にすぎない。どう活かすかは、菅次第。しかも、先手を打たれるかもしれない。
「総理には、年内に内閣改造を行って、菅さんを閣外に出すという思いもあるようだ。後任には甘利明氏の名前が上がってきている」(安倍側近)
実際には、「菅以外に、安倍さんの防波堤がつとまる政治家はいない。安倍さんとしては、菅に内閣を守らせつつ、力だけは着実に削いでいくという戦略だ」(閣僚経験者)という見方が強い。
いずれにせよ、菅は座して死を待つことはできない。チャンスがくれば、官房長官を辞任し、派閥を立ち上げるだろう。
援軍は多い。なにせ、睡眠時間まで削って会合を行い、飼い慣らしてきた「隠れ菅派」の議員は優に50人を超える。いまの菅を支えるのは、幹事長の二階俊博である。
「二階さんは今年になっても、何かにつけて菅さんの携帯に電話を入れて、ねぎらったりアドバイスをしたりしています。総理は、去年9月の人事で、いったん本気で二階幹事長更迭を計画しましたから、二階さんは安倍への警戒心を募らせているのです」(自民党幹部)
安倍に切られそうになった実力者2人が、タッグを組み始めているのだ。
目下、安倍が4選を狙わないかぎり、岸田文雄への総理禅譲はほぼ確定的だとされる。
「岸田さんと犬猿の仲である菅さんは、ついに『タダの人』になる。そうなるくらいなら、自分が総裁選に出馬するか、あるいは同じ神奈川選出の河野太郎か小泉進次郎を担いで政権をつくり、幹事長に就き『キングメーカー』として生きながらえるしかない」(菅派議員)
隠れ菅派に加え、二階派はもちろん、岸田を見捨てた古賀誠率いる宏池会の古賀グループ、さらに竹下派や石破派も戦列に加わる――。人数的には、不可能ではない。針に糸を通すような繊細なやり方で、最後の一手を下す。
裏切られたなら、裏切り返すだけ。菅はいま、牙を研ぎ続けている。 
●「成果がない」と焦る安倍首相 2020/2 
桂太郎を抜き、総理在職歴代最長となった安倍晋三首相だが、歴史に残るような目立った成果がない。北方領土返還交渉は行き詰まり、北朝鮮トップとの会談および拉致被害者の帰還問題の見通しは立っていない。憲法改正の議論も進まない。そこで、首相が今、期待しているのが、中国の習近平国家主席を国賓として迎え、新たな文書を締結して日中新時代を演出することだ。しかし、野党だけでなく、自民党内保守派からも反対論が噴出するなど、習氏の国賓待遇での来日を歓迎しないムードが広がりつつある。
安倍首相は昨年11月20日、日露戦争を勝利に導き、明治、大正期に首相を3回務めた桂太郎の総理在職日数を抜き、単独で一位に躍り出た。その後も記録の更新を続けているが、来年9月の任期末が近づいているのも確かだ。
「祖父の岸信介首相は日米安保改定という大仕事を成し遂げた。長期政権だからといって、それでは何をしたのかと問われると首相には何もない。悲願である憲法改正のメドも立たない。最近、首相は実績づくりを焦っているようだ」と自民党本部職員は指摘する。
そこで首相が期待しているのが、中国の習近平国家主席を4月上旬にも国賓として日本に迎え、歴史的な第5の政治文書を締結することなのだ。日中両国はこれまで国交を正常化した1972年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約、98年の平和と発展のための友好協力パートナーシップ確立を打ち出した日中共同宣言、2008年の戦略的互恵関係の包括的推進をうたった日中共同声明の4つの政治文書を締結したが、第5の新文書はその先をいくもので、両国間関係にとどまらず、経済や環境など世界の課題を見据え両国で解決に向け貢献していこうといったより高次元の内容になるものとみられている。
首相は1月20日の施政方針演説でも、「日本と中国は、地域と世界の平和と繁栄に、ともに大きな責任がある。その責任をしっかり果たすとの意志を明確に示していくことが、今現在のアジアの状況において国際社会から強く求められている」と強調した。しかし、香港でのデモやウイグル族への弾圧、国際法を軽視して日本の安全保障を脅かしている諸行動について一言も触れなかった。
こうした首相の対中姿勢に野党側から厳しい批判の矢が飛んだ。国民民主党の玉木雄一郎代表は22日の衆院本会議での代表質問で、「『国賓待遇』で接遇することによって、世界に対して、中国の覇権主義、国際法や民主主義の基本的価値やルールに反する行動を容認するといった誤ったメッセージを送ることにならないか」と迫った。中国公船による我が国の領海侵入やウイグル自治区での弾圧などの懸念を列挙して首相に問いただした。
立憲の枝野幸男代表は、代表質問の場では取り上げなかったが、別の席上、「国賓としてお招きするのに、『いかがなものか』という声が国内外にあることについて私は十分理解する」と指摘。日本維新の会の片山虎之助共同代表も「国賓として迎えることは、国民の間でも国際社会からも、中国政府の香港やウイグルに対する行為を日本政府が認知することになるという心配論がある」と24日の参院本会議での代表質問で語った。
1月の党大会で16年ぶりに党綱領を一部改定し、中国を念頭に大国主義・覇権主義を批判する内容を盛り込んだ日本共産党も、「弾圧が、中国の最高指導部の承認と指示のもとに行われていることは、極めて重大といわなければならない」(山下芳生副委員長)とし、中国に対して厳しい立場を鮮明にした。
それだけではない。自民党内の保守系有志40人が参加する議員グループ「日本の尊厳と国益を護る会」(代表幹事・青山繁晴参院議員)らが国賓待遇での来日に反対。佐藤正久前外務副大臣は、「香港問題」「邦人拘束問題」「尖閣問題」「日本食品の輸入規制問題」の「4つのトゲを抜かないと国賓というわけにはいかない」と述べた。
一方、安倍首相は1月28日の衆院予算委員会で、習主席の国賓来日に関し、「(日中間に)問題があるからこそ首脳会談を行わなければいけない」と述べ、理解を求めた。首相は、これまでの習主席との会談で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での中国公船による領海侵入や、新疆ウイグル自治区での人権問題、香港問題などを習氏に指摘していると説明。「両国は世界の平和と安定に責任を有している。(国賓来日は)その責任を果たす意思を内外に示す機会にしたい」と述べた。
だが、国賓は天皇陛下との会談が予定されている。人権侵害国家のトップと天皇陛下の談笑シーンは悪夢だなどといった声が出ており歓迎しないムードに広がりがみられる。
そうした中、中国で発生した新型コロナウイルス感染による肺炎拡大が習主席の外交日程を狂わせる可能性が出てきた。
外交問題に詳しい自民党幹部は「感染による死者は武漢市にとどまらず北京市でも出た。貿易協議をめぐりトランプ米大統領が3月に訪中する予定だが、これがキャンセルされるかもしれない。ウイルス終息宣言を出すまでに4、5カ月かかるとすれば習主席の訪日も危うい。延期される可能性は否定できない」と指摘する。そうなると、首相にとっての実績づくりも先送りということになる。
同幹部は「首相が何らかの成果を残したいと思っているのは確かだろう。だが、その焦りの顔色を見て北朝鮮やイラン、ロシアなどが米国との切り離しを狙って、さまざまな甘い罠を仕掛けてくるかもしれないが、それに飛びついてはならない。日米同盟が外交の基軸という原則を崩すことは禁物だ」と忠告する。 
 2020/1

 

●世襲3代目の政治家が滅ぼしてきたこの国に未来はあるのか  1/16 
日本国首相安倍晋三と副首相兼財務相麻生太郎のゾンビ・コンビが壊してきたこの国の救いがたい実情、今日2020年1月16日朝刊の「朝日と日経のコラム記事」を拾って読むだけでも、その事実に納得するしかなく、破壊しつくされたと形容されていいほど、この2人の「世襲政治屋」を擁する「自民党政権が日本を溶融させてきた」
要点:1 なにをやっても効果なし、なにをいっても恥さらしにしかなっていない「安倍晋三と麻生太郎」の「世襲3代目の大▲カ政治屋」コンビが、この「美しい国」を壊してきた経緯や結果など
要点:2 地獄の底へ国民たちを誘導している、その日本国の首相や副首相など
要点:3 売り家と唐模様で書く三代目ということわざがあったが、この程度の優雅さすらもとより備えていなかった有害無益の世襲3代目のボンクラ政治屋が闊歩してきた日本の政界、前途は真っ暗闇 
1 「〈経済気象台〉世も末です」『朝日新聞』2020年1月16日朝刊12面「コラム」から
新〔2020〕年度の予算編成を評して、引退した公共族の超大物政治家が「バラマキがひどい。国に対する過剰な依存心を抱かせないことも為政者の大事な心構えのはずなんだが」と語ったという。公共族でさえ心配するほどタガの外れた予算だ。
もともと明確な哲学とか経済政策の体系を感じさせない政権ではあったが、それでも一定の方向感はあったように思う。しかし一昨〔2018〕年、昨〔2019〕年と政策以外のところでガバナンスの低下とおごりが露呈して、いよいよ政権維持が自己目的化、「総無責任体制」になっている。
そもそも景気対策で大型補正を組む、というのが20世紀の発想だ。大型補正をなんども繰り返して財政赤字の傷を深くしたことを忘れたのか。中身もひどい。財政投融資で高級ホテルをつくるだのIR(統合型リゾート)の基盤整備だの、国の金でやることか?
さらに、財政の見栄えのため、ばらまき歳出を補正に回して当初予算の歳出をスリム化。他方で税収見積もりを上ぶれさせ、前年度剰余金を借金返済にも補正にも充当せずに当初予算の歳入に組みこみ、公債依存度を小さくみせている。
私もさまざまな予算のやりくりをみてきたが、ここまでルール無視の「みせかけの国債発行削減」は初めてだ。もはや財務省主計局の官僚も共犯だ。彼らがボスに加担していっしょに悪知恵をめぐらさなければこんな芸当はできない。
補注)つぎにかかげる図表は、本日〔2020年1月16日『日本経済新聞』朝刊に出ていた記事から紹介するものである。この図表を出していたこの記事(19面「マーケット総合2」)の見出しは「ポジション日銀、長期国債購入減に拍車『年80兆円めど』形骸化 2%物価目標前の水準」というものであった。この図表は国債残高増加額(⇒ 正確には、長期国債の年間購入額に関して「毎月末の保有残高の前年比増加額」)を表わしているが、安倍晋三政権下の奇怪な経済政策「いわゆるアベノミクス」のその奇怪さそのものを、文字どおり直截に表現している。すでに野垂れ死にしたも同然である、このアホノミクスの「ウソノミクス・ダメノミクスのデタラメ」が “明確に” 黙示されている。
〔本文引用に戻る→〕 さらに重症なのは、各省官僚や財務省を取材する記者だ。このからくりのひどさは分かっていても、役人は誰1人表立って声をあげないし、マスコミの報道も腰が引けている。正月早々申しわないことだが、もはやこの国、どちらを向いても救いがない。(呉田)(引用終わり)
このコラム:経済気象台の執筆者「呉田」はペンネームかもしれないが、「タガの外れた予算」を2020年度に向けて組もうとする安倍晋三政権は「いよいよ政権維持が自己目的化、『総無責任体制』」になっている」、しかも「財務省主計局の官僚も共犯だ。彼らがボスに加担していっしょに悪知恵をめぐらさなければこんな芸当はできない」とまで、相当痛烈に批判している。
安倍晋三の専制的独裁主義にもとづく、この私物化「忖度主義」政権の財務相が麻生太郎であった。2020年には東京オリンピックが開催されるというが、この仕掛け花火を最後に、とうとう安倍政権は死亡広告を出すことになるかもしれない。いや、それ以前にこの政権は息絶えるかもしれない。
とにもかくにも、なにやかやいったところで、2012年12月26日に発足した第2次安倍政権からの7年間(以上)が、いよいよこの日本国を実質的にご臨終へと向かう道筋に入りこんできたことは、否定できない。2020東京オリンピックの開催は、日本国が先進国から脱落(転落?)するにさいしての記念行事になりそうである。
安倍晋三や麻生太郎のような「世襲3代目の大▲カ政治家」集団が、自民党内には大勢跋扈跳梁してせいで、もはや日本国の命運は「風前の灯火」化している。子どもの宰相が自分の気分だけでは1人前(一丁前)に為政を担当しているつもりであった。しかし、「3・11」の発生した2011年あたりからも踏まえて回顧するに、この日本はいったいどういうふうに21世紀を生きていけばよいのかと問うたところで、この首相と副首相の堕落・腐敗コンビがいるかぎり、完全に絶望的だという判断しか導き出せない。
日本はいま「少子高齢社会」を突きすすみつつあり、その関連では緊急事態にあるといってよい現状のなかで、麻生太郎は「子どもを産まない下々の者ども」がただ悪いみたいな暴言を吐いていた。だが、そのような妄言・駄弁をあの歪んだ顔面の表情で得意になって放っている最中も、2 以下に述べていく難題が未解決のままというか、安倍晋三と麻生太郎の「単なる悪ガキ的世襲政治家のコンビ」によって、この日本の政治社会の矛盾:難局は、ますます深化させられていくばかりである。
2 「〈社説〉産後ケア 地域格差の解消を急げ」『朝日新聞』2020年11月16日朝刊分
昨〔2019〕年の出生数は90万人を割りこみ、想定を上回る速さで少子化が進む。重層的な対策が課題になるなか、出産後1年未満の母子を対象に、心身のケアや育児支援をすることを市町村の努力義務と定める改正母子保健法が、先の臨時国会で成立した。
こうした産後ケアにかかる費用を国が補助する事業は、すでに4年前に始まっている。だが手を挙げた自治体は、昨〔2019〕年度で3分の1強にとどまる。法律の裏づけができたことによって、首長や担当者の認識が深まり、地域間の格差が解消されるよう期待したい。
出産後に母親が経験する心や体の不調は、しばしば深刻なものがある。親族や周囲の援助をえられず、孤立や不安に直面して苦しむ人も少なくない。
厚生労働省研究班の調査によると、2015〜16年の2年間で、妊娠から産後1年までに亡くなった母親357人のうち、自殺が102人でもっとも多かった。初産婦の産後に限れば25%に「うつ」の症状がみられるとのデータもある。また、虐待で死亡した子のうちもっとも多いのは0歳児で、加害者は母親というケースも数多く報告されている。
産後ケアでは、保健師や助産師が悩みに向きあい、授乳の仕方などの技術的な助言にとどまらず、心身の回復を手助けし、場合によっては専門的な手当てをする。泊まりがけで対応するタイプから日帰り型、外出の負担を考慮して保健師らが自宅を訪ねる方式まで、個々の事情に応じたサービスを提供できるようにしたい。事業を展開している市町村のなかには、旅館・ホテルの空き部屋を利用したり、地域の病院や助産院と提携したりしているところもある。
大切なのはみずから悩みを訴えられない人へのアプローチだ。産後健診の制度などを通じて状態を把握することが欠かせない。初産婦のみならず、幼い兄姉を抱える人のフォローも求められるし、国会審議では、子育ての当事者として父親も支援対象にすべきだとの指摘が出た。
ここでもカギを握るのはカネとヒトだ。知識や経験のあるスタッフを確保する必要があり、関係者からは「赤字覚悟」との声も聞こえてくる。厚労省は普及の妨げとなっている原因を探り、対策を講じてもらいたい。
3年前には、妊娠期からの切れ目のない支援をうたい、「子育て世代包括支援センター」の設置が市町村の努力義務となった。しかしこちらも、実現したのは全国の半数強にとどまる。法律を制定しても現場がついてこなければ意味がない。どこで暮らしても安心して子育てができる環境を着実に整える。それが政治の務めだ。(引用終わり)
ところが、安倍晋三という首相や麻生太郎という副首相は、毎日、豪華な晩餐に舌鼓を打ったり、銀座あたりの高級バーに通いつめては1年に2千万円ものカネと使っているではないか。少子化高齢社会がとても心配であり、これをなんとかしなければいけないと考えている〔だと思いたい〕このご両名なのであるが、いっていることとやっていることとが、まったく整合性がない。
いまのところ、少子化の基本趨勢に歯止めをかけられる国家次元の有効と思われる基本対策が、十分に準備されるような気配は、まだみられない。軍事予算の増長だけはしっかり・テイネイに手当てしているが。
3 「〈憲法季評〉桜を見る会と改憲 『定義』を放棄するならば」、蟻川恒正・寄稿『朝日新聞』2020年1月16日朝刊15面「オピニオン」 ※「ありかわ・つねまさ」は1964年生まれ、専門は憲法学、日本大学大学院法務研究科教授。著書に『尊厳と身分』『憲法的思惟』
a) 各界で功労・功績があった人を招待して、毎年4月に開かれる首相主催の「桜を見る会」への支出が、第2次安倍晋三内閣成立後の2013年以降、膨張の一途をたどっている。このことについて野党議員が国会質疑のために招待者名簿の提出を請求したところ、内閣府は、その約1時間後に名簿を廃棄したという。これは、膨れ上がった支出の大きな部分が首相推薦枠、とりわけ首相の地元後援会関係の参加者増加によるものであることが表沙汰になるのを恐れたためだったのではないかという推測が広がっている。
招待者名簿のバックアップもないとされ、データの復元はできないの一点張りで、野党の要請を受けても内閣が各官庁に調査を命じもしない構図は、首相が「身内」を優遇したことの証拠が出ないように官僚がなりふりかまわず後始末に奔走した森友・加計問題と共通である。
だが私が注目するのは、昨〔2019〕年12月17日の野党合同ヒアリングで、安倍後援会関係者を含むすべての招待者に功労・功績があったのかと尋ねられた内閣官房参事官が、「功労・功績といったものの定義がなかなかむずかしい」と答えた点である。ここに、現政権のもつ大きな危険性がはっきりと顔を覗(のぞ)かせているからである。
b) 問題は、言葉の定義にかかわる。今回、反社会的勢力に属すると思(おぼ)しき人物が桜を見る会に参加していたとみられることから、反社会的勢力の定義も問題となった。内閣は「反社会的勢力の定義については、その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定し、これが批判を浴びた。第1次安倍内閣は、2007年、反社会的勢力を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団・個人」と規定していたからである。
政府からすれば、2007年の規定は、定義ではなく指針であって、定義は問題領域ごとに具体的に考えられるべきだといいたいのであろう。たしかに、反社会的勢力の安易な定義は人権侵害のおそれも生む。
〔だが〕今回の閣議決定をめぐる政府の対応の問題性は、反社会的勢力の定義の困難さというそれじたいは一定程度正当な事情を、明白に不当な招待者選定の免罪符にした点にある。
c) 正当性に欠ける行為を正当化しようとする者は、しばしば定義の困難さを持ち出す。安倍内閣は、
2013年5月、「国際法上の侵略の定義については……確立された定義があるとは承知していない」とする答弁書を閣議決定し、
2015年3月には再び、「『植民地支配』および『侵略』の定義はさまざまな議論があり、答えることは困難だ」とする答弁書を閣議決定した。
だが、国連総会は1974年、「侵略の定義に関する決議」を採択し、侵略の公的な定義を下している。それをないという国家は、これから侵略を始める国家か、さもなければ、過去にした侵略を侵略ではないといおうとする国家である。
では、定義に対し、われわれは、どう向きあえばよいのか。
第1に、政府が国民の間に区別を設けて、そのうちの一方を規制し、他方を規制から免除しようと企てるとき、または、一方のみを優遇して他方に優遇を与えないことを企てるときは、どんなに定義が困難であっても、区別の基準となる指標を、政府は定義しなければならない。
第2に、区別の指標を定義すべく努力した結果、定義不可能となったときは、どんなに魅力的な企てであっても、政府はその企てを断念しなければならない。
d) 今回政府がしたことは、この正反対のことである。国民の一部のみを国費で優遇するのであれば、対象者を選定する基準(「功労・功績」)を定義する必要がある。にもかかわらず、その定義をせず、一部の者の優遇を断念もせず、それどころか、問題が国会で追及されると、定義の困難さを理由に、それ以上の追及から免れようとさえしたのである。
そもそも内閣官房参事官が、功労・功績の定義が困難であると答えたのは、首相が昨〔2019〕年11月8日の答弁で例示した「自治会」や「PTA」の活動をも功労・功績としなければならないとみずからを追いつめたからである。政府は功労・功績の定義の困難さを口実に、招待者の恣意的選定の問題をうやむやにしようとしているが、本来は困難ではなかったはずの功労・功績の定義を困難にしたのは、ほかならぬ首相自身である。
e) われわれは、言葉を交わしあうことによって約束をし、無数の約束事の上に現在の世界を作ってきた。この世界において、定義は、あらゆる制度の土台をなすものである。法もまた、言葉を媒介とする社会運営の制度である以上、定義は法の土台でもある。土台が揺さぶられたら、その上に組み立てられるすべての約束事は、砂上の楼閣となる。
われわれが今日直面しているのは、社会と国家の基本的な約束事を取り決める憲法の条文を、言葉の定義をないがしろにする政権が変えようとしている事態である。定義を弄(もてあそ)ぶ政権は、およそ法を扱わせるにはもっとも危険な政権である。現政権が主導する憲法改正に対しては、政治的党派性を超えて、このことに留意する必要がある。(引用終わり)
安倍晋三の “いかさま将棋” はすでに詰まっている。21世紀の現在、日本の政治・経済・社会はミゾウユウ(未曾有)の動揺・不安・危機に直面している。安倍晋三や麻生太郎が「首相や副首相・大臣」を担当している事態そのものが、すでに緊急危険事態を意味していた。実際にこの種の事態が現象させられてきたのが、第2次安倍政権7年間の「政治過程」そのものであって、その「実績の軌跡」は負の業績として明確に記録されてきた。
いまごろになって、アベノミクスのことなど言及に値すると評価する専門家はほとんどいない。むろん、皆目いないわけではないとはいえ、そう試みる関係者がいたとしても、まさしく「木に選りて魚を求む」ごときでなっており、様になっていない。また、アベノポリティックスのほうを採点しろといわれても、これに付けるべき点数じだいがどだい用意できず、せいぜいマイナス点ならば与えられる程度であった。
4 「〈春秋〉」『日本経済新聞』2020年1月16日朝刊1面 
世間を騒がせるニュースや風評もやがて鎮火する。「人の噂も七十五日」とはよくいったものだ。江戸時代の為永春水の人情本や、河竹黙阿弥の歌舞伎にも、このセリフが登場する。噂話が大好きで物見高い半面、飽きっぽい江戸っ子の気風をあらわす慣用語であろう。
○ この夫婦が仲よく雲隠れしてから2カ月あまり。およそ75日後の強制捜査である。広島地検は昨日〔1月15日〕、河井克行前法相と妻の案里参院議員の広島市の事務所などを捜索した。案里氏の陣営が昨年7月の参院選で、運動員に法定上限を超える報酬を支払った疑いが浮上し、市民が公職選挙法違反(買収)で地検に告発していた。
○ 克行氏は、週刊誌が疑惑を報じた直後の昨〔2019〕年10月31日に法相を辞任。「私も妻もまったくあずかりしらない。今後、しっかりと調査して説明責任を果たしてまいりたい」と述べていたはず。自民党の先達に倣ったのか。その後、夫妻は公の場から姿を消していた。ほとぼりが冷めるまで、だんまりを決め込むつもりだったのか。
補注)その「自民党の先達」とは誰か? 大勢いるゆえ、誰だといって特定はしにくいものの、安倍晋三や麻生太郎に代表させとおけば、ひとまず無難な解答になりうる。
○ 年もあらたまり、忘却のかなたに−−。と期待していたとすれば、なんとも不穏な検察の強制捜査であろう。政権トップは「任命責任を痛感する」「説明責任を果たす必要がある」と壊れたレコーダーのよう。夫妻は昨日、深夜に会見して「捜査にしっかり協力する」と繰り返した。その言葉は、有権者の心に響いただろうか。(引用終わり)
「捜査にしっかり協力する」と繰り返したこの夫婦であるが、その間のトンズラに関する説明はまともになされていない。現政権は頭のてっぺんからつま先まで全部腐りきっているゆえ、これをまだなんとかしてでも、どうにかしようなどと考えることじたい、止めたほうがいい。
この政権トップはすでに「壊れたレコーダー」にたとえられていた。しかし、「壊れているこの安倍「1強〔凶・狂〕政権」に向かって『ただちに退陣せよ』とはいえないのが、この『日本経済新聞』のコラム「春秋」であった。なんとまあ腰の抜けていること……。その一言を、あとのある時期になって付和雷同して発するよりも、いうのはまさに「いまでしょうが」。
安倍晋三や麻生太郎たちの自民党政権は、すでに十分にこの国を破壊してきた。公明党はもともと、その破壊を平然と指をくわえてみているだけの「下駄の▲ソ」であった。
いまの日本において「政治の善し悪し」を図る尺度:判断基準があるとしたら、これは、少子高齢社会の問題に歯止めをかけるために「最大限の努力を傾注する意図」があるかどうかに求めればよい。その上でさらに、なにかをしようとする政権の登場が、この国の命運を変えることができる。
子どもの人間的な再生産は、目先の政策ではなにも始まらない。「教育は百年の大計」といわれるが、これは新しく子どもたちに対して「教育をほどこす話:課題」である。それなのにそれ以前に、その子ども出生数じたいがどんどん減っている。
安倍晋三や麻生太郎がはたして、百年先を眺望して為政にとりくんだことがあったか? この人たちは、今日の晩飯はどんなオイシイものを食らうか、あるいは高級バーでどの名酒をたしなむかという程度でしか、自分の人生を考えていない。彼らの本心では国民たち(下々)のことなど、それこそ「ク▼、食らえ」くらいにしか扱ってこなかった。高潔さや克己心、自制心などとは無縁の連中であった。
この2人は国民たちを地獄に誘っているつもりか? 為政者としてはもっとも適性のない連中が、いまだに首相だとか大臣だとかをやっている。いまや日本は末世……。 

 

 
 2019

 

●安倍晋三の成績表:景気刺激策、対米対中外交、防衛力強化... 2019/12 
<スキャンダルの証拠は全部シュレッダー行き? だが世界での日本の存在感を高めた功績は大きい。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>
アメリカ史上最高の大統領になれたはずなのに、チャンスがなかった──。ビル・クリントン元米大統領はかつて、そんな泣き言を吐いたとされる。理由は、在任中8年間に、全米を震え上がらせるような脅威も、世界的な危機も起きなかったから。
安倍晋三首相も約8年間の通算在任期間中に、世界大恐慌や世界大戦並みのピンチには直面してこなかった。だが、その間に日本の国際的プレゼンスを高め、自衛隊の足かせを取り除き、長く停滞していた経済を活性化させ、高齢化対策を進めるなど、一貫した戦略目標を掲げてきた。
こうした野心的な目標は、いずれも十分達成されたとは言い難い。それでも安倍は、日本が抱える根本的問題をはっきり認識し、総じて一貫した政策目標を掲げ、国際政治の大転換期に(とりわけ黄海の対岸に中国という巨人が台頭するなか)、日本を正しい方向に導いてきた。
優れたリーダーは、流れに身を任せるべきときと、リーダーシップをとるべきときのタイミングを心得ているといわれる。さらに、達成可能な戦略目標を定め、そのために行動を起こすべきタイミングを知っていることも、リーダーの重要な資質だと筆者は思う。その点、安倍は日本の史上最高の首相かもしれない。
安倍は、「古き良き日本を取り戻す」ことに政治家人生を費やしてきた。それは日本を戦後体制(それは国際的な舞台では一貫して消極的で、世界の覇権国家アメリカにひたすら従順な同盟国であることを意味する)から解放することにほかならなかった。
アメリカをつなぎ留めて
2006年に初めて政権を握ったときは、功績と言えるほどのものはなかった。憲法の改正手続きを推し進め国民投票法を成立させたが、求心力が低下するスキャンダルもあり短命政権に終わった。
それでも2012年に首相の座に返り咲いたとき、安倍は「ナショナリストで、ともすれば軍国主義者なのでは」といった内外の懸念を無視。第2次安倍政権発足の1年後には、靖国神社参拝を敢行した。
安倍は防衛費を10%以上増やし、インドと軍事的な戦略的パートナーシップを締結。2018年には、海上自衛隊の潜水艦を南シナ海に極秘派遣した。気まぐれで無知なアメリカ大統領が、何度も日本を見放しそうになるなか、日本の安全保障にとって必要不可欠な日米安保条約の維持にも努めた。
さらに安倍は、これまでになくキレやすくなった中国とも一定の良好な関係を築いてきた。これは日本のあらゆる首相にとって極めて重要な課題だ。その一方で、中国のアフリカにおける猛烈な投資攻勢に対抗して、独自の開発援助や外交によりアフリカ諸国の取り込みを図ってきた。
世界的な政治問題でも、安倍は日本の関与を積極的に拡大してきた。6月には、核合意をめぐるアメリカとイランの対立を解決するため、自ら仲介役を買って出てイランに乗り込み、ハサン・ロウハニ大統領と会合を持った(とはいえ当初の目標は達成できなかったが)。
安倍が8年がかりで進めてきた軍事力の強化と、国際的な影響力拡大は今、日本にとってこれまでになく重要な意味を持つようになった。アジアで中国が強大な影響力を持ち、アメリカの地盤沈下が進むなか、日本は戦後75年で初めて、真の意味での「独り立ち」を迫られている。その意味で、安倍は最高司令官として高い評価に値する。
無駄なオリンピック誘致
安倍にとって第2の戦略的重要課題は、経済の活性化であり、20年にわたる低成長およびデフレとの決別だった。ここでも安倍は金融緩和と積極財政により景気を刺激し、規制緩和を進めるという明確な戦略を示した。そして日本経済を復活させるために、伝統的な手法は全て試した。
さらに安倍は、この10年で外国人労働者の受け入れ数を倍増させ(これだけでも日本にとっては革命的な措置だ)、少子高齢化と労働力の減少という人口動態の危機を食い止める措置に着手した。その結果、日本は戦後最長の景気拡大を経験してきた。
ただ、2020年東京オリンピック開催に向けた莫大な投資は、せっかくの積極財政の効果を一部台無しにしてしまった(いつになったら国家首脳は、オリンピック開催など虚栄心を満たすだけで、国内経済のためにはならないと学ぶのだろう)。2度にわたる消費税引き上げは、そのツケと言えるかもしれない。
安倍は景気回復のためにさまざまな措置を取ってきたが、それらは総じて十分野心的とはいえなかった。アメリカは2008年のリーマン・ショック後に大不況に見舞われたとき、もっと積極的な金融緩和と税制措置、そして規制緩和を進め、一貫して強い成長を生み出した(もちろんアメリカは日本のような少子高齢化に直面していないという違いはあるが)。
それでも日本は、安倍という先見の明があり、一貫した戦略的ビジョンを持つリーダーを持つことで、大きな恩恵を受けてきた。おかげで日本は、世界の舞台でより大きな役割を担い、重要な同盟関係を維持し、自衛隊の活動範囲を拡大し、少なくとも部分的には経済を再活性化することができたのだ。
これはかなり高い成績に値するといっていいだろう。 
●「『桜を見る会』だけじゃない!安倍総理のやった法律違反!」 2019/11 
「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」主催の『安倍首相による政治の私物化を許さない!安倍政権の退陣を要求する官邸前緊急行動』が11月18日、首相官邸前で行われた。「公選法違反の首相は辞職!」「安倍政権は今すぐ退陣!」などのシュプレヒコールを皮切りに、戦争をさせない1000人委員会・藤本泰成がマイクを握り、「菅原一秀経産大臣・河井克行法相ら閣僚の相次ぐ辞任に対して全く責任を感じていない、一国の指導者として不適格」と安倍総理を語気鋭く批判した。
次に登壇した立憲民主党・杉尾秀哉参議院議員は、「今回は国民民主・立憲民主・共産・社民・無所属の会など野党が、力をあわせて安倍政権に大きな大きな一撃を食らわせている」と「桜を見る会」追及チームの成果を挙げた。
さらに「異論反論を排除し、自分に降りかかった様々な疑惑には説明せず、あったことをなかったことにし、そのための書類は全て廃棄もしくは廃棄したと嘘をついて官僚に嘘をつかせて、その挙げ句の史上最長じゃなくて史上最悪の政権」と続けると言葉の端々で聴衆から「そうだ!」と歓声が上がった。
「桜を見る会」追及の先陣を切った共産党・田村智子参議院議員からの、「安倍総理のやったことはほとんどが法律違反であることは明らか。国民の代表者たる国会議員の質問に予算委員会でしっかり答えてもらいたい。政治を私物化する安倍総理に政治を任せるわけにはいかない。一日も早く退陣させるため、市民と野党の共闘でなんとしてもこの政治を動かしていこう」との言葉にも聴衆から応援の言葉が投げかけられた。
また当日の朝に安倍総理のお膝元の山口県まで「桜を見る会『前夜祭』」の調査に向かい、戻ったばかりの立憲民主党・柚木道義衆議院が「ホテルでの饗応・接待は全て安倍事務所が仲介している以外に考えられない。こんなデタラメな政治を終わらせて皆さんの表現や言論の自由と平和を守って皆さんの税金が正しい使われ方をするように戦い続ける」と報告すると、これに対しても大きな歓声が上がった。
次にスピーチに立ったのは、精神科医の香山リカ氏。「台風災害・消費増税により、生活で苦労されている方・社会の中で抑圧されている方が増えている一方、そうした生活不安の中でも市民は助け合い、ボランティアにも大勢の方が参加してきた中で、今回の『桜を見る会』及び『前夜祭』問題により、一部安倍政権の中枢にいる方・応援する方・安倍総理の友達だけがいい目を見ていることが明らかになった。私たちをバカにするなという思い、市民をなめるなという思いを安倍政権にぶつけて、励まし合って我慢して、努力した人々が報われる社会を作っていきたい」と熱く語ると、聴衆の歓声はさらに熱気を帯びていった。
市民の方々からも、「個の意思表示をすることで人は強くなる。粘り強い運動を続けていけば必ず勝つ」「モラルハザード内閣は総辞職すべき」「怒りの声を上げて桜散る解散を実現させよう」との言葉が語られ、シュプレヒコールで幕を閉じた。 
●安倍政権を、誰が支えているのか 2019/11 
「安倍さん、辞任するって!」2007年9月。当時、自民党担当だった私は、騒然とした記者クラブ内の様子を今でもよく覚えている。それほど突然の辞任だった。あれから12年。なぜ、安倍政権は復活でき、しかも「最長」となったのか。今回、その裏側を当事者の話で明らかにしたい。
こうして安倍は「復活」した
2007年、第1次安倍政権は1年で幕を閉じた。その後、福田、麻生、鳩山、菅、野田と、どの政権も1年前後の短命で終わった。
なぜ、長きにわたる政治の混乱の、引き金を引いたような安倍政権が復活できたのか。それを身近に見て、復活にも手を貸してきた「盟友」がいる。自民党税制調査会長を務める甘利明だ。
「2012年の総裁選挙は勝つべくして勝ったわけじゃない。3番手からスタートし、逆境を跳ね返した。その結束力が、政権の土台に根付いていることが1番だろうね」
甘利が「逆境」と表現するのも当然だろう。2007年9月12日、安倍は辞意を表明し、翌日、病院に入院した。
安倍は、7月の参議院選挙で大敗しながらも続投を表明。2日前に行った所信表明演説に対する代表質問に臨む、まさにその日の辞意表明だった。
政権を放り出した格好となり、与党内からも、「理解しがたい」「とまどいを通り越して、悲しみさえ覚える」などと、厳しい批判が浴びせられた。
2012年。安倍は、政権復帰直前の自民党総裁選に再び立候補した。
これには、永田町でも驚きの声があがった。
自民党の総裁経験者が再び総裁に就いた例はないうえ、5年前のあの時の辞め方だ。
はじめに菅が…
なぜ、立候補したのか。その始まりは菅義偉だった、と甘利は語った。総裁選挙の半年ほど前のことだ。
「菅さんが私のところに相談に来て、『安倍さんをどうしても、もう1回表舞台に引っ張り出し、この国の指揮を執ってもらいたい』と。わたしも、どん底まで落ちた人がまたトップになるのって痛快だな、これ以上の再チャレンジってないだろうなって」
承諾した甘利と菅は、連日、甘利の事務所で打ち合わせを重ねた。その後、麻生が加わり、3人のチームが誕生する。しかし逆風は想像以上だった。
「ウチの秘書もけっこう怒鳴られたし、親しい県議会議員に頼んでも、『いやあ、今回は勘弁してくれ』などという話もあった。『何とか2番を取れ』と必死だった」
“内閣主導でいく”
9月の自民党総裁選挙。5人が立候補し、1位は石破、安倍は2位。
いずれも過半数に届かず、決選投票の結果、安倍が逆転し、総裁に返り咲いた。
そして12月の衆議院選挙で圧勝し、自民党は政権を奪還した。喜びに沸く自民党の開票速報本部で、甘利は安倍から政権構想を明かされる。
「2人きりになった時、『人事どうします?』と聞いたら、ひと呼吸置いて、『甘利さん、閣内で経済の指揮を執ってくれ』と。『党はどうします?』と言ったら、『閣内に人材を集めたい。内閣主導でいきたい』という話だった」
安倍は、ことば通り、麻生、菅、甘利を、それぞれ副総理兼財務大臣、官房長官、経済再生担当大臣と、内閣の骨格ともいえる枢要なポジションに配した。
そのうえで、石原伸晃や林芳正ら総裁選で戦った相手も閣内に集めた。
そして内閣発足当日の夜、安倍は初閣議で緊急経済対策の策定と補正予算案の編成を指示。
年明けには、休眠状態だった経済財政諮問会議を再開させ、経済再生に向けた検討を始めるとともに、日銀と政策協定を結び、新たな金融緩和策が始まった。いわゆる、アベノミクスだ。
「3人組」
麻生、菅、甘利の3人は、結束を維持するため、菅の提案で2か月に1回程度、ひそかに食事をともにした。
甘利は、こう自負する。
「長期政権につながる人事配置は、はじめからできていた。つくづく思ったのは、『実力がそこそこあるやつが3人そろったら、政権って維持できるな』ということだね」
ところが、甘利の当時の秘書が建設会社から現金を受け取っていた問題が浮上。(最終的には不起訴処分)2016年1月、甘利は責任を取って辞任し、3人組の一角が崩れた。
「『トライアングル』というのは、それぞれ協力し合ったり、けん制し合ったりする良い距離が取れるけれども、麻生、菅、2人の関係がうまくいくといいなと。俺が間に入れなくなったんで、総理に2人の間に入る役までやらせてしまった…」
甘利が去って以降、麻生と菅は、衆議院の解散戦略などをめぐって、たびたび意見を異にし、永田町では2人の不協和音がささやかれることになった――
情報は「制服組」から
安倍が「最も信頼する自衛官」がいたことをご存知だろうか。
河野克俊。2014年に自衛隊トップの統合幕僚長に就任し、3度も定年を延長。安倍と歩みを同じくするように、「歴代最長」となるおよそ5年の任期を務めた。
河野は、ある分野での情報共有のシステム化が、政権の安定に寄与した、と語る。「外交・防衛が一緒のテーブルに着くシステムを作ったのは非常にいい。これまでそういう機会はなかったから」
どういうことか?総理大臣の1日の動きをまとめた記事「総理動静」には、週に1回程度、外務省、防衛省、自衛隊の幹部の名前がそろって登場する。
外務省総合外交政策局長、防衛省防衛政策局長、そして自衛隊の統合幕僚長だ。「ブリーフィング」と呼ばれる会合で、外交・安全保障に関する最新の動向を総理大臣に説明するものだ。
こうした仕組みができたのは、実は、第2次安倍政権からだという。それまでは、いわゆる「制服組」と呼ばれる自衛官が、総理大臣に接する機会は限られていた。
「戦前の軍の二の舞を避けるため、自衛隊を極力、政治から遠ざけてきた。それがシビリアンコントロールだと」
「でもわたしの報告があるので、安倍総理は、自衛隊の動きが頭に入っている。そういう総理は初めてだと思う。日本もその意味では、諸外国並みになってきたと思いますね」
イラン情勢が緊迫する中、政府はことし10月、中東地域への自衛隊派遣を検討することを決定した。政府内では、ホルムズ海峡の中で活動すべきだという意見もあったが、活動範囲はホルムズ海峡外側のオマーン湾やイエメン沖などを中心にするとした。関係者は、安倍が、イランとの関係を考慮しただけでなく、自衛隊の運用や現場部隊に及ぶリスクまで把握したうえで行った判断だと話す。
また別の関係者は、自衛隊や各国の軍事動向を把握することが、首脳会談の際、通訳だけを同席させるいわゆる「テタテ」や夕食会など、用意されたペーパーを読むことが難しい場面で役立つと語る。例えば、ヨーロッパの首脳に対し、地中海付近での中国軍艦船の動向を教えると驚かれることもあったという。
官邸の「意思決定」は誰が
安倍政権以降の政治状況は、「官邸主導」「政高党低」などと言われる。
官邸内の意思決定はどのように行われているのか。ことし9月の内閣改造で就任した官房副長官、西村明宏に尋ねた。
第2次政権の発足以降、衆議院議員では4人目となる副長官だ。
官邸では、秘書官などを交えた闊達な議論が行われていると説明する。
「政権が長いから、秘書官の皆さんも気心が知れていて、総理に言いたいことをけっこう言っている。非常に自由な議論が行われ、その中で総理が決断するプロセスがある。みんなで同じ方向を向けるのが、政権の強さの源ではないか」
このうち政務担当の今井秘書官は、第1次政権でも事務秘書官を務めた。経済産業省の出身だ。
さらに下の写真、安倍の向かって左に控えるは、やはり経済産業省出身の佐伯秘書官。第1次政権では秘書官付きの事務官だった。安倍の右につくのは外務省出身の鈴木秘書官。第2次安倍政権の発足以降、一貫して務めている。
安倍、菅、3人の官房副長官と秘書官は、原則として、毎日1回、一堂に会し、食事などを取っている。いわば「チーム安倍」ともいえる存在だ。
しかし、安倍の周辺だけで政策を決め、自民党全体での議論が乏しいのではないか。
「党側と官邸はきちんと意思疎通をしている。ただ、その意思疎通が記者団に見えないから、国民には分かりづらいかもしれない。実際、私も党の方と毎日行き来しながら話しているから」
与党も野党も…「しかし次は」
因縁の相手にも聞いてみた。小沢一郎だ。
安倍が総理就任後、初めて臨んだ国政選挙だった12年前、2007年の参議院選挙。小沢は当時の民主党代表として対決し、自民党を歴史的な大敗に追い込んだ。
自民党は、結党以来初めて参議院の第1党の座を失い、国会は「ねじれ状態」となった。安倍の退陣につながっただけでなく、のちの民主党への政権交代にもつながる大きな転換点だった。
長期政権の理由として、何よりもまず野党が結集できていないことを挙げた。「政局的に言えば、1つは、野党が結集できていないことが大きい。2007年は党が基本的に1つだった。共産党などはいたけども、リベラル・中道は1つになっていたから。その違いだ」
そして、自民党内の状況も要因だと指摘した。「もう1つ、自民党内の活力が全くなくなっていることもある。つまり与野党ともに、官邸権力に対抗するだけの力がなくなっている。もう政治家の資質の問題だな。自民党も、陰でぶつくさ言っているけど、表向きは、安倍を公然と批判する議員はほとんどいない。大きく言えば日本社会全体に言えることで、絞って言えば、政治家の資質の問題だ」
野党がまとまれば、与党に勝利できると主張する小沢。この7年間で、与党に警戒感を抱かせた瞬間があった。2年前、2017年衆議院選挙の「希望の党」設立だ。
「希望の党」が発足する前、小沢は、野党結集に向け、水面下で小池知事や当時、民進党の代表を務めていた前原誠司と会談を重ねていた。
小沢は、野党勢力を幅広く結集させることを望んだが、果たせなかった。「ひとときのドラマみたいなものだった。でも、あれは小池が本気になったら十分勝てたよ。小池が衆議院選挙に出て、各党が1つになって、『排除』なんてバカなことを言わなければ」
小沢が、もっと勝てる可能性を感じていた選挙がある。さらに1年さかのぼる2016年の参議院選挙だ。
小沢は、当時、民主党の代表だった岡田克也に対し、野党の結集を呼びかけていた。
小沢が、各党の比例代表候補の名簿を統一する方法を提案したのに対し、岡田も真剣に検討したという。しかし岡田は、「統一名簿方式」は、各党ごとの復活当選がある衆議院選挙では適用できないことなどから、小沢の提案を最終的に断念。
結果的に野党の結集はかなわず、与党が勝利した。
「3年前の参院選は本当に残念だった。もう少しだったんだよ。統一名簿方式で連合もオッケーのところまでいったんだよ。岡田君だけが反対してダメになった。絶対勝てたはずだ」
次の選挙、野党がまとまる見通しは?「100%まとまる」
“小泉流”からの脱却
第1次政権と第2次政権との違いとして、“小泉流”からの脱却があると言うのは、一橋大学大学院教授の中北浩爾だ。
「小泉さんは派閥を否定したけれども、安倍さんは派閥をうまく使って党を掌握しています。かつての自民党の統治システムに、一連の政治改革で強化された総理・総裁の主導権をミックスしていて、非常に強固な安倍総理のトップダウンが実現していると考えていいと思います」
甘利が長期政権の要因に挙げた、「チーム安倍」の結束力を中北も指摘した。
「安倍さんは、非常に固い結束力を持つチームを作っているのが最大の強味で、第1次政権で失敗し、第2次政権で復活するプロセスの中で、さらに強固に再編された。これをつくれる政治家はしばらく出ないんじゃないでしょうか」
しかし、長期にわたる政権運営の中で驕(おご)りや緩みも出ているのも確かだ。
総理主催の「桜を見る会」をめぐっては、参加者や予算が年々増え、総理や官房長官、与党などに招待者の推薦枠があり、後援会関係者や知人も招待されていた。
また「加計学園」をめぐる問題では、当時の「チーム安倍」の一員だった総理大臣秘書官が、学園や自治体の関係者と事前に会っていたにもかかわらず、国会で「記憶の限り会ったことはない」などと否定し、安倍に近い人への優遇が疑われた。
中北も、政権の規律が失われている面があると指摘する。
「安倍政権は強固に安定しているから、それに対するチェックが効かない。権力の驕りも出れば緩みも出る。これは善し悪しだが、『悪し』の部分が目立つのも事実じゃないか」
長期政権の「驕り」は
麻生・菅・甘利の3人、秘書官らで構成する官邸の「チーム安倍」、そして制服組などからの情報網。政権維持の「骨格」はこうして形づくられた。
そして安倍は、消費税率引き上げの先送りなど、大きな決断を行う際には衆議院を解散して信を問い、勝利することで求心力を高めてきた。
一方で、政権から規律が失われつつあるのだとすれば、意外と早く崩れていく可能性もある。
安倍の自民党総裁としての任期は残り2年弱。歴代最長任期を更新した11月20日、安倍は、「薄氷を踏む思いで、緊張感を持って歩みを始めた初心を忘れずに政策課題に取り組んでいきたい」と述べた。
安倍が驕りや緩みをそのままに政権を去るのか、緊張感を取り戻し、経済再生や拉致問題など残された重要課題に道筋をつけるのか、厳しい目が注がれている。 
●安倍政権の支持率がずっと下がらないのはなぜか? 2019/11 
憲政史上最長の在任期間となった安倍晋三総理大臣。
11月23日、東洋経済オンラインの『安倍内閣の支持率はなぜ下がらないのか 不祥事続発でも「支持率安定」の摩訶不思議』という記事が話題になっていた。
記事を簡単に要約すると、不祥事による大臣辞任や英語の民間試験導入の延期、「桜を見る会」などの問題が連発しているにもかかわらず、「なぜか」支持率は全く下がらず、その理由は硬派な伝統メディアの報道が国民に届いていないのではないか、という話だ。
この記事の筆者、薬師寺克行東洋大学教授は元朝日新聞社の政治部長であり、伝統メディアの関係者は特にそう感じているかもしれない。
なぜ国民は安倍政権の実態(ひどさ)を知ろうとしないのか?知りさえすれば、政権が変わるはずなのに、と。
「となると、政治家の倫理観の欠如などの問題を、硬派メディアがいくら力を入れて説いたところで、多くの国民には届きようがない。そもそも基本的な事実関係さえ十分に伝わっていない可能性がある。その結果、多くの国民にとって、永田町や霞が関は、何も見えない別世界になっているのではないだろうか。そういう人たちを対象に行うマスコミの世論調査の結果はいかなる意味を持つのだろうか。少なくとも内閣支持率に実態が伴っていないことは間違いないだろう。 (東洋経済オンライン)」
11月19日にも、NHKオンラインで『安倍政権は、なぜ続くのか』という記事が出るなど、度々言及されているテーマであり、さまざまな意見があるだろうが、報道で出ているこの種の記事はどれも的を得ていないように思える。
というのも、その安倍政権の支持率が下がらない最大の理由は、報道の中身自体にあり、「伝統メディア」が自身を批判しなければならないからだ。
各社世論調査の「安倍内閣を支持する人の理由」をみると、「他の内閣より良さそうだから」という理由を挙げる人が多くを占め、NHKの調査結果だと、2017年3月以降、支持する人の40%〜50%にまで増えている。
多くが「消極的支持者」であり、あくまで「他の政党(政権)」と比較して、ということである。
つまり、冒頭で紹介した記事では野党について全く触れられていないが、そもそもまず問うべきは、「なぜ野党の支持率が上がらないのか?」である。
重要なのはスキャンダルより生活
ではどうすれば、野党の支持率が上がり、現政権の支持率は下がるのだろうか?
まず、スキャンダル追及で野党の支持率が上がることはない。
当然ながら、一般の有権者が重視しているのは日々の生活であり、政権運営能力だからだ。
冒頭で紹介した記事中で、鳩山由紀夫内閣の急激な支持率低下について触れているが、失策の内容が外交・安保(普天間基地移設問題)やマニフェストの未達成だったからであり、お金などのスキャンダルではない。
そもそも、2009年に政権交代したのはマニフェストへの期待の高さであった。
当時、民主党は「子ども手当1人月額2万6000円」「農家の戸別所得補償の導入」「高校教育の実質無償化」など生活を大きく変えるマニフェストを打ち出し、民主党支持者の89%がマニフェストを「評価」した。
この頃は、世論調査で「国民の支持が得られなければ、実現にこだわる必要はない」が74%となっており、比較的公約の達成、政権運営能力は軽視されていた。
それまで、抜本的には政権運営者が変わらない、「党内政権交代」が可能な中選挙区制だったことを考えると、当然の結果である。
しかし、自民党に戻った2012年の衆院選以降は、「政権運営能力」が重視され、公約の達成度を意識する有識者が増えている。
つまり、民主党政権の「失敗」を経て、有権者はますます現実的な公約と政権運営能力を重視するようになってきているが、スキャンダル追及ではこれらが見えてこない。
55年体制と変わらないマスコミ報道
ではなぜ、マスコミはいまだにスキャンダル追及を大きく取り上げるのか?
結論から言えば、政治改革によって小選挙区制に移行したにもかかわらず、その変化に対応できていないからだ。
周知の通り、中選挙区制から小選挙区制に移行したのは、政治腐敗を防ぐためである。
同じ党から複数候補者が並ぶ中選挙区制の場合、政党中心よりも、候補者中心の選挙戦となるため、政党以外に支援を求め、それが政治腐敗を招きやすいという批判であった。
そのため、中選挙区制下では、報道も、政策よりも、「政治と金」が中心となり、実際それで何度も政権交代が起きている。
一方、政党本位の小選挙区制に移行してから重要になったのは、政策と政権運営能力である。
「期間限定」で権力を集中させるからこそ、政策の効果や実現性を問う「検証」が重要であり、「実績」を求めなければならない。
選挙時に、「わかりやすい」公約の違いがあれば、もっと投票先が変わるかもしれないが、小選挙区制では、特定の組織・団体の支持だけでなく、無党派層からも支持を得ようと互いの政策が似通う傾向があるため、表面的に大きな違いを見出すことは難しい(米国のように人種・経済状況的にわかりやすい違いがあれば明確にターゲットを分けられるが、日本国民は比較的近似している)。
そのため、各党の違いを見つけるためには、政策の裏付けや政治家本人の能力を日頃から見る目を国民が養わなければならない。
その時に重要になるのは、もちろんマスコミであり、各党の政策や議員にどのような違いがあるのか、生活に直結するテーマでの政治家・専門家同士の論争を見る機会が増えなければならない。
しかし、現状の民放テレビでそうした番組を見る機会はほとんどない。
今国会で重要法案となった日米FTAや与野党で協議して修正が決まった会社法、消費増税時の軽減税率の導入是非、それらを与野党の議員や専門家を交えながら、政策論争の機会を作った民放テレビはどのくらいあるだろうか?
選挙期間にはある程度その種の報道もされているが、日本の選挙期間は短く、「公平性」重視の観点から深掘りもされないため、普段のイメージを覆すほど、十分な量・質ではない。
政治家を育てる視点を
上述したように、中選挙区制から小選挙区制へと移行していく中で、求められる報道も、「政治と金」中心の報道から、「政策本位」の報道に変わった。
にもかかわらず、その変化に追いついていないのは「伝統メディア」である。
そして、SNSが発展した現代では、ファクトチェックが疎かになりがちであり、信頼性の高い情報を流すマスコミの重要性は増すばかりである(その意味で、政治的素人である芸能人が政治トピックに感想を述べる番組では、事実誤認のコメントも多く、何の価値があるのかわからない)。
他方、「権力監視」ももちろん重要な役割であるが、政治家を育てることもマスコミの重要な役割である。
11月20日に日本若者協議会が主催した、「国会改革・官僚の働き方を考える」国民民主党との意見交換会にて、国民民主党の古川元久衆議院議員が「イギリスでは、逐条審査における自由討議が政治家の登竜門になっており、そこで実力が足りない議員は副大臣、大臣に上がれない評価の仕組みになっている」と紹介していたが、国会だけではなく、政治報道に関わる報道関係者が、政治家を競わせる、本当に実力のある政治家を評価する、そうした観点が決定的に欠けているのではないだろうか?
そうして、互いに切磋琢磨をさせなければ、野党の支持率も上がらないし(≒政権の支持率も下がらない)、「不祥事」ばかりで政権交代が起きても、一向に生活が改善せず、国民にとっても不幸である。
日本は至るところで減点方式が採られているが、政治報道も、「減点方式」から「加点方式」へと、転換すべきである。
そこで仮に、野党が評価を高めれば、結果的に政権の支持率は下がり、政権交代は実現するだろう。 
●「なんもしない人」安倍晋三 2019/11 
私はこれまでの言説を修正しなければならないと、本気で悩み始めている。
これまで私は、「自民党の最大支持勢力は、創価学会・公明党である」と主張してきた。第2次安倍晋三政権に限れば、そのように見えてきたのも確かだ。しかし、麻生太郎内閣は創価学会・公明党の支持があったにもかかわらず、鳩山由紀夫民主党に惨敗した。国民が「鳩山民主党でも構わないから、麻生自民党は嫌だ!」と本気で怒ったら、創価学会・公明党が味方になってくれても何の役にも立たないほど脆弱なのが、自民党の実態だ。
そして約3年後、「誰でもいいから、景気を回復してくれ。民主党を倒してくれ」との国民の声にこたえて、安倍晋三が政権に返り咲いた。そして本日、憲政史上最長の政権になった。
この間、創価学会・公明党も安倍内閣を支えた。自民党も支えた。7年の間に、「かつての三角大福の時代なら即死」のような危機が何度もあったが、すべて乗り越えた。果たして、創価学会や公明党、あるいは安倍側近や自民党の力だけで可能だろうか。ここまでの長期政権を築いた功労者は他でもない。「野党」であろう。
もちろん「野党」とは、常に安倍内閣の「よりによって正しいことだけを批判してくれる勢力」のことである。この人たちが「野党」の地位に居座ってくれれば、特に野党第一党の地位にふんぞり返ってくれれば、絶対に安倍自民党は選挙で負けない。
思えば、「野党」は綺羅星の如く人材が豊富だった。海江田万里、岡田克也、蓮舫、そして枝野幸男。第2次安倍政権期の、歴代野党第一党党首である。いかなる安倍批判者であろうとも、この人たちに日本の運命を任せようとは思わないだろう。実際に有権者は、そういう選択をしてきた。圧倒的多数の日本国民は、何でもかんでも安倍批判に結びつける「アベノセイダーズ」を白眼視し続けてきた。
だが、それは「安倍首相」に対する一切の批判を許さない「アベノシンジャーズ」を増長させてきた。安倍さん以外に誰がいるのか? 自民党の他に政権担当能力がある政党があるのか? 確かにその通りなのだが、安倍内閣や自民党が、それほど威張れるほど能力があると思っている時点で、「アベノシンジャーズ」は度し難い。
では「野党」よりマシだとして、自民党にいかほどの政権能力があるのか。
かつての民主党は、官僚の言いなりになってはいけないことだけは分かっていた。「だけ」は。一方の自民党は、官僚の振り付けで踊る能力だけはある。選挙で選んだ政治家が官僚の言いなりなら、選挙などやめてしまえばよいではないか。選挙がある限り、官僚は責任を国民に押し付けた上で、やりたい放題ができる。自分は陰に隠れて、権力を振るうだけでよい。選挙が忙しくて政治の勉強をする暇がない政治家を、洗脳してしまえばよいだけだ。
自民党の政治家は、朝から晩まで勉強している。涙ぐましいほど勉強している。料亭で夜な夜な会合を重ねるなど、政局が近いときの幹部くらいだろう。大半の自民党議員は、絶望的なまでに熱心に、勉強をしている。
何が絶望的なのか。自民党議員の勉強とは、何か。「官僚から情報を貰うこと」である。官僚とは、絶対にポジショントークから逃れられない生き物である。自分の所属する官庁の立場から離れたら、それは官僚ではない。
例えば、である。今は知らないが、少し前までの財務省は、内部では上司部下関係なく、対等の議論が許された。ただし、外部に対しては、組織で決まった結論以外を出してはならない。だから、「内部では消費増税に反対している官僚が、政治家に対する説得工作で増税を熱弁する」ということも、あり得る。そういう場合、政治家が「官僚の言うことだから正しい」と最初から信じ込んでいたらどうなるか。
そもそも、自民党は官僚機構をシンクタンクとして活用している。この時点で、根本的に間違っている。シンクタンクとは、官僚機構に対抗する知見を政治家が身に付けるために存在するのだ。自民党には、「官僚と会う前に、頭を作っておく」という発想がない。
たとえ話をしよう。東京から新幹線で岡山駅に行くとする。東京駅から、東海道新幹線に乗れば一本だ。だが、今は上野駅にいる。ならば、山手線なり、京浜東北線で東京駅に向かえばよい。ところが、東北新幹線に乗るべきか、はたまた常磐線に乗るべきかを議論している。
常にマヌケな議論をしているのが、自民党だ。
平成の30年間は不況で暮れた。不況を克服しなければならない。これは自民党全員の総意だ。どこまで真面目かの温度差はあるが、建前として景気回復などしなくてよいと言い切れる自民党政治家はいない。そうした自民党がとった施策は三つだ。消費増税、財政出動、金融緩和だ。
増税をした政権は竹下登、橋本龍太郎。岡山県に行くのに、東北新幹線に乗ったようなものだ。景気回復から劇的に遠のいた。財政出動をした政権は、小渕恵三と麻生太郎。山手線をぐるぐる回っていただけだ。ついぞ東京駅で乗り換えることはなかった。金融緩和をした政権は、小泉純一郎。こだま号で西に向かったが、名古屋あたりで列車を止めてしまった。
第2次安倍政権は、この三つすべてをやっている。最初は「黒田バズーカ」で一気にのぞみ号にのって品川まで来たが、突如として山手線に乗り換え東北新幹線に乗るがごとく消費増税8%を断行した。思い直して東京駅まで戻ってきたが、必死の全力疾走を続けて、ようやく新横浜駅までたどりついたにすぎない。そして、またもや10%の増税である。日本経済は、再び戻って「ただいま品川駅で停車中」というところか。
何をやっているのか? 確かに民主党に任せておけば東京駅に爆弾を仕掛けかねないが、では自民党に政権担当能力があると言えるのか? いずれも、合格最低点を切った政治にすぎない。安倍政治とは、よりマシな政治でしかないのだ。
証拠を上げよう。絶望的なまでに、実績がない。先の参議院選挙でも「民主党の悪夢に戻っていいのか」と絶叫していたが、本当にそれしかないのだろう。
安倍政権と比較するのも失礼だが、これまでの史上最長政権だった桂太郎内閣の業績は目覚ましい。第1次内閣で日英同盟と日露戦争の勝利、第2次内閣で日韓併合と条約改正の達成である。どれか一つでも歴史に残る偉業だが、桂その人は「第2次内閣の実績は第1次に劣る」と、厳しく自己評価していたほどだ。
戦前の偉大な政治家と比較するのは、安倍に酷だとしよう。では、戦後の首相と比べるとどうか。
   ●吉田 茂…サンフランシスコ条約。占領下にあった状態から、独立を回復
   ●鳩山一郎…日ソ共同宣言。シベリアに抑留されていた50万人の日本人を奪還
   ●岸 信介…日米安保条約。完全な軍事的従属関係を脱却
   ●池田勇人…高度経済成長。日本国の指針を確立
   ●佐藤栄作…小笠原、沖縄返還。戦争で奪われた領土を奪還
いずれも、教科書に残る事績と評価してよい。
さて、安倍内閣には何が残るか? 景気は緩やかな回復軌道にあった。オバマ民主党だろうがトランプ共和党だろうが、アメリカとの友好関係を維持している。
だから、どうした?
安倍も気にしているのか、ときどき思い出づくりを試みる。憲法改正、北朝鮮拉致被害者奪還、北方領土交渉。だが、いずれも官僚が敷いたレールの上を走る行政ではなく、道なき道に自ら道を作るべき政治課題だ。官僚が差し出す時刻表、しかも絶対に目的地に着かない時刻表を眺めているだけの総理大臣に何ができるか。
安倍内閣は、「野党」よりマシなだけだと自白している。よりマシな政治家を選べば、安倍自民党内閣にならざるをえなかった。
だが、「野党」が本当に野党だったのか。
再び問う。海江田、岡田、蓮舫、枝野が一度でも安倍内閣を潰しにいったのか? むしろ最初から政権を担う気などなく、無責任な立場で言いたい放題を言える野党第一党の維持こそが目的だったのではないか。
この人たちは野党ではなく、体制補完勢力、すなわち体制の一部ではなかったのか。さも選挙を行い、「安倍か野党か」と選択肢が二つあるように思わせる。しかし、実際は一択だ。消費増税の問題一つとっても、野党も増税賛成だ。
かつても長期政権で腐敗した時代があった。官僚を従える桂が、衆議院で万年第一党の立憲政友会と談合して、政権を独占していた。しかし、桂は政争に敗れて憤死、政友会の増長が甚だしかった。これに、引退していた元老の井上馨が激昂、鉄槌を下して政友会を結党以来初の第二党に叩き落したことがある。国民は熱狂的に支持した。
史上最長政権となった以上、安倍は歴史の法廷で被告人となる覚悟をした方がよいだろう。 
●安倍首相は“軍事的タブー”を突破すべき 2019/6 
令和年間30年間で人口4000万人の減少、基幹産業の空洞化、他方、隣国・中国の国民を挙げての大国への怒濤(どとう)のような発展と成長−。私はここまでの連載で、私たちが直面している「亡国的な危機」を素描してきた。
連載第2回にも書いたが、平成元(1989)年、世界企業の株価総額ランキング50位の中に、日本企業は32社ランクインしていた。それが今や35位にトヨタ1社という惨状だ。
一方で、平成元年には、GDP(国内総生産)も軍事費も、日本の半分に満たなかった中国が、今やいずれも日本の5倍を超えている。
中国共産党への賛否がどうあろうと、日米欧の民主主義国のマスコミが政府攻撃を繰り返し、リベラリズムを国民に刷り込む中で、中国が一貫して強国化を追求し、国民もおおむねそれを支持して今日に至っているのは間違いない。
人口や資源力など潜在的な国の規模の差は別にして、日中両国の明暗が、「国力」という国民的な幸福の基盤への真摯(しんし)な取り組みの有無によって生じたことは認めねばならない。ここでまた、民主主義のコスト論などに時間を空費する余裕は私たちにはない。
産業空洞化への対処についてはすでに触れたが、もう1つ、外堀としての軍事についても、国策を明確に転換すべき時に至っている。ここでは具体的な安保政策以前の重要ポイントを2点指摘しておきたい。
第1は、軍事学の確立である。
戦後、軍事研究はタブー視されてきたが、がんを研究せずにがんを克服できないように、戦争を研究せずに戦争を回避し続けることは不可能だ。日本に狙いを定めた大国が隣にいる以上、戦争回避への真摯で全面的な取り組みからこれ以上逃げ続けてはならない。
戦争論、戦略論研究を、主要大学・独立研究施設において本格的に始動し、国家存続の長期シナリオを立て、人材育成にかじを切るべきだ。官邸直属の研究機関設置も、自民党内における本格的なシンクタンクの設置も実現が阻まれてきたが、もはや猶予はない。
第2に、情報機関の設置も同様だ。安倍晋三政権は当初、日本版NSC(国家安全保障会議)とともに、日本版CIA(中央情報局)の創設を検討していた。これも立ち消えになっているが、諜報能力は最もコストの低い戦争回避手段である。
これらを政府予算で設置しようとすれば、マスコミは総攻撃を仕掛けてくるだろう。
だが、そうであればこそ、安倍首相はそれらの攻撃を迎え撃ち、軍事的タブーを突破すべきではないか。長期政権の信任は、そうした「真の勝負」のためにある。安倍首相よ、政権安定運営の時期は終わった。勝負に出てほしい。 
●田原総一朗が憲法9条で安倍首相を斬る 「“改憲した総理”になりたい」 2019/6 
日本を代表するジャーナリスト、田原総一朗氏。テレビ朝日の「朝まで生テレビ!」は、政治家から識者、視聴者を巻き込んだ論争を常に喚起してきた。そんな彼が今、夏の参院選を前に提起しているのが憲法改正問題だ。
日本国憲法9条2項は、戦力と交戦権の保持を否定している。一方で日本には自衛隊という世界有数の“軍事力”がある。戦後長らく結論が出ずに棚上げされてきた問題に、田原氏は「今の憲法と自衛隊の存在は矛盾している」と言い切る。
4月には、法哲学の第一人者である井上達夫・東京大学教授と、国連などで紛争解決の現場に携わった伊勢崎賢治・東京外語大学教授と共に『脱属国論』(毎日新聞出版)を世に問うた。いずれも改憲を主張する第一線の論客だ。
今夏の参院選で安倍政権は公約に「自衛隊の明記」などの改憲案を盛り込んでいるが、田原氏はこの案に対しても批判的だ。85歳の田原氏はなぜ今、改憲問題に切り込むのか。田原氏自身がITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。
「憲法と自衛隊は矛盾」
――今回の著作で田原さんたちは、戦力と交戦権を否定している憲法9条2項の撤廃や、日米安全保障体制の在り方の見直しを論じています。選挙の争点の1つとはいえ、多くの国民にとっては税金や年金問題などと比べて、「実感がわきにくい」話ともいえる改憲論議に、なぜこだわるのですか?
田原: つまりはね、今の憲法と自衛隊の存在は、明らかに矛盾しているんですよ。大矛盾です。
自衛隊ができたのは1954年。自由党と日本民主党が一緒になって自民党になったのが55年です。最初の総理大臣が鳩山一郎。鳩山さんは自主憲法を想定し、憲法を改正しようとしていた。「自衛隊と憲法は矛盾しているから変えよう」と。その次の(短期間だった石橋湛山首相を挟んで)岸信介さんも憲法改正(論者)でした。
ところが、その次の(首相の)池田勇人さん、佐藤栄作さんと誰も憲法改正を言わなくなった。「なぜだ、ごまかしているよ」と思い、71年かな? 宮沢喜一さんに聞いたの。「なぜ池田さん以降は、憲法改正と言わなくなったのか」と。
宮沢さんの説明が非常に分かりやすくて、僕は同感しました。宮沢さんは「日本人というのは、自分の体に合った服を作るのは下手だ。(ところが)押し付けられた服に体を合わせるのはうまい」と。“自分の体に合った服”を作ろうとして、満州事変、日中戦争、大東亜戦争(太平洋戦争)と、いずれも失敗した。
――本著でも「第一次世界大戦の後、日本はヨーロッパのまねではなく、主体性が必要になった」と論じています。戦争の道を選んで失敗した戦前と逆に、戦後の日本は良くも悪くも「押し付けられた」体制の下、平和を維持したということですね。
田原: 「押し付けられた服」というのが憲法です。46年、アメリカが憲法を押し付けた。そこで日本政府は、「こんな憲法を押し付けたのだから、日本は自分の国を守るわけにいかない。だから日本の安全保障はアメリカが責任を持て」とした。憲法を逆手にとって、アメリカの戦争に日本が巻き込まれない(ようにした)。
65年、ベトナム戦争(注:米国による北爆開始)が起きる。佐藤栄作首相の時です。アメリカが「日本よ、ベトナムで一緒に戦おう」と言うわけ。日本は対米従属だから、「ノー」と言えない。そこで、「もちろんベトナムに行って一緒に戦いたい。しかし、あなたの国がこんな難しい憲法を押し付けたから、戦いに行けないじゃないか」と。それ以降、憲法を逆手にとってアメリカの戦争に一切巻き込まれず、平和や安全保障はアメリカに責任を持たせる。これが「宮沢理論」です。
「戦争知る人間が政治家である限り、戦争はしない」
――自衛隊が戦えない、“軍隊でない軍隊”であることで戦後日本は平和を維持した、という言説は広く聞かれます。
田原: 竹下登さんが総理大臣の時、僕は「日本の自衛隊は戦えない軍隊だ、こんな戦えない軍隊でいいのか」と聞いた。竹下さんは「戦えないからいいんだ。戦っちゃうと大東亜戦争(太平洋戦争)だ、負けるに決まっている。戦わないから日本は平和なんだ」と言った。
大東亜戦争(太平洋戦争)を知っている政治家はみんな、「戦えないからいいんだ」と言いました。田中角栄さんも僕に何度も言った。「あの戦争を知っている人間たちが政治家である限り、日本は戦争をしない」と。
問題は、冷戦が終わった時のことです。冷戦時の日本の敵はソ連だよね。ソ連と戦争して勝てるわけがない。だから、(日本にとっての)安全保障とは、憲法を逆手にとってアメリカの戦争に巻き込まれないことでした。
だが、冷戦が終わってソ連(ロシア)が敵でなくなった。リベラルを中心に当時、「対米従属をやめて日本は自立すべきだ」という意見が出た。朝日新聞もややそういう意見でした。これがいまいちリアリティーが無かったのです。鳩山由紀夫さんは「米軍は日本から全部撤退してもらい、必要な時だけ来てもらう」という、「常時駐留なき安保」を唱えていた。でも、アメリカが撤退して日本だけで守れるのかと。
冷戦の時になぜアメリカが日本を守ったのか。日本を守ったのではなく、東西冷戦の時に日本は西側の極東部分だった。そこをアメリカが守ったのが日米安保です。でも、アメリカは極東を守る責任が無くなった。だから下手を打つとアメリカから捨てられる可能性がある。
日米安保は片務条約です。日本が襲われたら日本をアメリカが守る。でも、アメリカが襲われても日本は守らない。それでは捨てられる可能性があるので、片務から双務にすべきだと。アメリカが攻められた時に日本も(アメリカを)守る。これをやったのが2014年の安倍内閣の集団的自衛権(の行使容認)です。保守系の学者がこの主張を支持し、安倍さんにやらせた。
これに対して当時の民主党は反対だと言いましたが、これもインチキでした。もしも彼らが政権を取りたいなら、対案を出すべきだと。(当時の)前原誠司さん、枝野幸男さん、細野豪志さんが対案を作ろうとした。ところが中でもめて対案ができない。朝日新聞なんかも集団的自衛権には反対だと。「ではどうするんだ」と言っても(対案が)無い。だから今、リベラルが弱い。今の野党の弱さでもあります。
安倍首相「大きな声では言えないけれど……」
――一方、安倍さんは改憲を唱えていますが。
田原: 16年夏に参院選があって、自民と公明で(議席の)3分の2をとった。安倍総理に僕は「衆議院も3分の2とった。参議院もとった。いよいよ憲法の改正だね」と言いました。安倍さんは、「大きな声では言えないけれど、田原さん。憲法改正をする必要は全く無くなった」と言った。「なぜ」と聞いたら、安倍さんは「集団的自衛権の行使を認めるまでは、アメリカがやんややんやとうるさかった。『日米同盟はこのままでは続けられない』と言うまでうるさかった。集団的自衛権の行使を(安倍内閣で)認めたら、何も言わなくなった。だから憲法改正をする必要はない」と。
――ただ、今回の参院選の公約で自民党は改憲を掲げていますね。
田原: 17年の憲法記念日に、安倍さんが憲法改正を打ち出したわけね。「自衛隊を明記する」と。僕はこれは、インチキだと思う。だって、鳩山一郎さんや岸信介さんが言っていた矛盾が解消されてないからね。
自民党のある責任者に僕が、「自民党が本気で憲法改正をするというなら、『日本の国や国民生活のここが(その影響で)良くなる』とちゃんと説得してやるべきだ。僕が見る限り、自民党議員はみんな憲法から逃げている。議員が憲法から逃げて、国民がOKするわけないじゃないか! 本当に憲法改正したいなら、改めて僕のところに言ってこい」と言った。(その後)何も連絡はないね(笑)。
――本著では井上さんと伊勢崎さんが、単なる「自衛隊の明記」ではなく、憲法9条2項を削除する必要性について踏み込んだ議論をしています。
田原: ハト派中のハト派である井上さんと伊勢崎さんが、憲法改正を言い出した。なぜする必要があるか僕が彼らに聞いたら、「日本は憲法9条2項で戦力と交戦権を持たないと言っているから、自衛隊はどこまでやっていいのか、どこからはやってはいけないのか、『戦力統制規範』というものが作れない」と言う。逆に言うと、自衛隊は何でもできる危険極まりない存在である。日本が戦争を起こす際に、国会で事前に承認を得る必要があるとか、(法律を)いっぱい作らなくちゃいけないのに、何もできていない、ということです。
さらに、伊勢崎さんは「自衛隊には軍法という物が無い。軍法会議も無い。もし自衛隊員が外地で事故を起こしても裁く法律が無い。存在自体が国際法違反だ」と言った。僕はリアリティーがあると思いましたね。
“自分の体に合った服”を作ろうとする
――田原さん自身、井上さんと伊勢崎さんの主張同様、本質的な改憲がなされるべきだと考えていますか?
田原: だって、鳩山一郎さんが言うように、憲法と自衛隊は矛盾しているんだもの。僕は、井上さんと伊勢崎さんの主張は、なかなか難しく一般的にはならないかもしれないが、リアリティーがあると思う。やっぱり国民の多くは“宮沢さん流”です。「あのような憲法を押し付けられたんだから、安全保障はアメリカに任せ、アメリカの戦争に日本は巻き込まれない。それでいいんだ」と。
でも、井上さんのように言うと、日本が戦争に巻き込まれたとき、日本をアメリカが助けるかは分からない。(助けなくても)何の矛盾も無いのです。
――日米安保で、むしろアメリカは得をしていると井上さんは主張していますね。
田原: 日本にいる米軍の75%の金(駐留経費)を日本は出している。
日本人の主体性とは何か。抑止力というものをどう考えるのか。日本は考えてこなかった。
――主体的に国を守るという問題を考えることから、リベラルも保守も逃げてきたと。
田原: この「主体性」という物を考える際に、「また昭和の戦争に戻ってしまう。“自分の体に合った服”を作ろうとすることになるから、怖い」と、戦争を知っている世代は思うわけです。でも、戦争を知らない世代が出てくれば、やはり主体性を考えるべきだと僕は思います。
政府は「日本はアメリカが核の傘で守ってもらえる」と言うが、(本当に)守ってもらえるかは分からない。本当にそれが抑止力になっているのかは分からないのです。ところが、守ってもらえると思い込んでいるわけね。本当に守ってもらえるのかどうか、日本の主体性をどうするかと考えること自体が、これから(必要なの)です。
――ただ、田原さん自身は戦前生まれの世代です。幼少時に、新たに発布された日本国憲法を読んで「しびれた」という逸話もありますね。
田原: 僕は戦争を体験した世代だから、宮沢さんや田中さんに近い。
――「アメリカに守ってもらえる」という考えも、あったと。
田原: 要はアメリカに押し付ければいい、ということ。
――でも今まさに、「本質的な」改憲を提議していますね。
田原: 本当は、こういうことを考えなくてはいけないと、僕は思っている。難しい問題だけれど。本当に本質的で大事な問題なんだよ。
僕は数年前までは、野党が政権を取らなくてはいけないと思っていた。でもどうも、僕が生きている間は野党は政権を取れない。だから今、自民党を変えなきゃいけない。18年暮れから、「自民党を変える会」を作ったりしている。
自民党議員は改憲から逃げている
――先ほど「自民党議員は改憲から逃げている」と言いましたが、なぜ彼らは逃げるのでしょうか。
田原: 怖いから。(改憲を)言い出すと選挙に落ちる。
――メディアも逃げている気がします。沖縄基地問題といった政治の硬い話題は、テレビで視聴率が稼げないという話も聞きます。
田原: 逃げている。完全に逃げているね。
――朝日新聞を始めとしたリベラル系だけでなく、保守系のメディアもですか。
田原: 保守のメディアは、どちらかというと安倍さんに乗っかっている。なぜ安倍さんが憲法改正を言い出したかと言うと、安倍さんの応援団である日本会議、百田尚樹さんとかがみんな憲法改正を打ち出したから。言わないと(安倍さんは)捨てられると。だから憲法改正なのです。
――彼らもまた、田原さんたちのような本質的な9条改正の議論はしていない、と。
田原: していないね。
――田原さん自身は、9条改正についてはどんな形がベストだと考えますか。
田原: 9条2項があるから、(自衛隊についての)議論ができないんだよね。一切、議論ができない。
――やはり「2項の削除」案を取るというわけですね。ちなみに田原さんは4月、安倍首相への単独インタビューを行いました。日米安保の話題も出ましたが、今の安倍さんに改憲について、どれだけ本質的な取り組みを期待できると感じますか? 
田原: 恐らく、「戦後初めて憲法改正した総理大臣」になりたい、そんなものじゃない?(改憲の)中身は関係ない! 
 2018

 

●憲法改正はタブー、反安倍カルトよりヤバい「増税ハルマゲドン」 2018/9 
2017年初頭から始まった、いわゆる「モリカケ問題(森友・加計学園問題)」で、安倍晋三首相夫妻に何か「汚職」めいたものがあることをにおわし、それをあおったマスコミの報道は、要するにこの政権の改憲志向を許容できない勢力の政治的な動きであったと思う。当面は、自民党総裁選や来年の参院選での安倍政権の終焉(しゅうえん)、百歩譲って首相の政治的求心力の低下を図るのが、この反安倍勢力の目指すところだろう。
取りあえず、総裁選は、安倍首相が3選を果たしたが、この総裁選を契機にして安倍政権のレームダック(死に体)化が始まるとする観測や、石破茂元幹事長の善戦をしきりに報道するメディアや識者が多い。それらは、実は総裁選前から仕込まれたネタでしかないだろう。つまり、「何が何でも反安倍」という価値判断から出てくるものでしかない。
こう書くと、反安倍系の人たちはすぐに「安倍擁護」「安倍御用」なる批判をするのであるが、筆者は、残念ながら安倍政権のマクロ経済政策の骨格に積極的評価を与えているだけである。政策ベースでの評価でしかないのに、それで「御用」と見なすならば、批判する側がカルト化しているだけだろう。
そんな良識もないままカルト化したり、そして特に確証もなくいまだにモリカケ問題の「疑惑」が解消されないと信じている世論が一部で存在している。反安倍系マスコミや識者の生み出した負の遺産は深刻である。
今回、筆者は安倍3選の報道を、少し空間的に距離を置いて台湾から見ていた。その台湾の蔡英文総統や米国のトランプ大統領らが、安倍3選にツイッターで積極的な賛辞を贈る中で、安倍政権に対する日本のメディアのゆがんだ報道にはやはりあきれ果てるしかなかった。
総裁選前夜のテレビ朝日『報道ステーション』では、安倍政権への支持を占うには、党員票が55%を超えることが注目点であると、ジャーナリストの後藤謙次氏が発言していた。要するに、この55%を超えないと党員(世論の一部)と永田町(国会議員)の間に政治的意識の開きがあることになり、また石破氏の今後の政治生命にも関わるだろう、というのが報ステの伝え方であった。
ふたを開ければ、国会議員票は石破氏73票に対し、安倍首相332票と、首相の占有率は81・8%に上った。また、党員票は石破氏181票で、224票であった安倍首相の占有率は55・3%を占めた。この「党員票55%」というのは、安倍政権に批判的なマスコミや識者が設定した高めのハードルだったと思われる。
ところが、このハードルを安倍首相が超えても、日本のマスコミでは石破氏の善戦や、党員票獲得で首相側が苦戦したと伝えるものが多かった。客観的に見てもダブルスコアの得票差であり、まさに首相の地すべり的勝利と言っていい。
しかし、それを一切認めないのが日本のマスコミと、それに誘導されている世論の一部、特にテレビのワイドショーなどの影響を多く受ける人たちであろう。本当にあきれるばかりである。安倍政権を批判するならば、もう少し首尾一貫してほしいと思うのは筆者だけではないだろう。
さらに「安倍政権レームダック論」も根強い。これは総裁選前から筆者の周囲でも至るところで見かけた発言だ。それが、3選後にはマスコミでも積極的に取り上げられている。安倍政権への印象操作以外で「レームダック論」の真意を挙げるとすれば、やはり来年の参院選における与党敗北、そして憲法改正もできぬまま、安倍首相が退陣するというシナリオが前提になってのものだろう。本当に徹頭徹尾の世論操作である。
確かに、安倍首相が今回の総裁選で意欲を示していた憲法改正は、ハードルが極めて高い。演説で主張するのは簡単だが、まだどのような改憲案が憲法審査会に提出されるかさえも、はっきりしない。
安倍首相の演説だけを読み解くと、憲法9条に第3項を追加して自衛隊の存在を明記することと、教育の無償化がまず挙げられていた。しかし、自民党の改正草案には、財政規律の明示化など、筆者のような経済学者からしても無視することが到底できない条項が入っている。
これは財務省的な緊縮政策を志向する条項であり、防衛費も十分なインフラ整備や防災、教育支出さえも、この条項が入ることで大きな制約に直面するだろう。いわば「日本弱体化条項」である。このような経済関係でもトンデモ条項が入っているのだが、この草案をそのまま出すのか、それとも首相が総裁選で言及した項目だけなのか、それもまだ不透明だ。
さらに憲法改正には、憲法審査会による議決、国会での発議、そして国民投票が必要であり、これら一連の流れを考えても、やはり政治的ハードルが高い。具体的な動きも、早くて来年になる可能性が高い。
今までの反安倍マスコミのやり口では、憲法改正の議論を広く国民に訴えるよりも、何がなんでも言論封殺的な動きに出てもおかしくはない。その一端が、実はモリカケ問題であったはずだ。
筆者は、憲法改正を政治の最優先課題にするには反対の立場である。だが他方で、国民が広く憲法改正を議論する意義はあると思ってもいる。当たり前だが、憲法改正が言論のタブーであっていいわけはない。しかし、それが長い間認められなかったのが日本のマスメディアの空間だった。
筆者は上記の通り、憲法改正を最優先する安倍政権の戦略は正しいものとは思えない。最優先すべきは、経済の安定と進歩である。これがなければ、どんなに憲法を変えてもわれわれの生活は貧しくなるだけである。
現状の日本経済を見れば、ようやくデフレ停滞の影響からほぼ脱した段階にある。これからが本当のリフレ過程になるのである。
リフレ過程とは、バブル経済崩壊後の日本経済が失ってきた名目経済価値(代表的には名目国内総生産(GDP)の損失分)を回復するための動きを指す。具体的には、国民の一人ひとりの名目所得が、前年比4%以上拡大しなければならない。しかも、その期間は何十年にも及ぶものにしなくてはいけないのだ。
現状では、そのリフレ過程にまだいたっていない。金融緩和政策を主軸にし、積極財政政策でアシストすることで、このリフレ過程に乗せる必要がある。安定的にリフレ過程に乗せれば、マクロ経済政策の優先度は自然と後退していくだろう。だが、今の日本で政策優先度は第1位である。
そのためには、来年の消費増税について、事実上の凍結を狙うことが最優先であろう。だが、今のところ消費税凍結などの動きは、安倍政権には見られない。デフレ脱却完遂を目前にしながらの増税などという、緊縮政策への転換はどんな事態を引き起こすか、言うまでもないだろう。
ところで、最近「消費増税したら日本経済終焉=ハルマゲドン」という極端に悲観的なトンデモ論をよく目にする。この説がもし正しければ、税率を8%に引き上げた2014年4月で終焉していただろう。
もちろん、消費の大幅な落ち込みとその後の経済成長率の鈍化、インフレ目標達成の後退(金融政策の効果減退)が消費増税でもたらされたことは確かだ。しかし、この「消費増税したら日本経済終焉」論者たちは、その後も雇用改善が持続していることを無視しているか、「雇用改善は人口減少のおかげ」といったよくある別なトンデモ論を信奉しているだけである。
では、なぜ消費増税の悪影響が出ても、日本経済は「終焉」せずに、歩みが後退しながらも持続的に改善していったのか。その「謎」は、そもそも日本の長期停滞が日本銀行の金融政策の失敗によって引き起こされたことを踏まえていないからだ。
現状では、改善の余地は多分にありながらも、日銀の金融緩和は継続している。つまり、問題があるとはいえ、長期停滞脱出の必要条件を満たしている状況を、このハルマゲドン論者たちは見ていないのだろう。もちろん消費増税に筆者も全力で反対である。だが、それは消費増税を日本破滅のように信じている極端論者(それは事実上、金融政策を無視し財政政策中心主義に堕しているに等しい)とは一線を画すということもこの際、マイナーな論点だが注記したい。
では、消費増税をわれわれでは阻止することができないのか。そんなことはない。今の政治家やマスコミ、官庁もみなインターネット上の世論の動きを見ている。
例えば、官僚組織の一部では、識者のネット上の発言でリツイートの多いものを幹部で回覧しているという。彼らはネット世論を無視できないのだ。識者の発言へのリツイートや「いいね」をするコストなどないに等しいだろう。つまり、誰でも簡単に行うことができるレベルでも、国民が消費増税に抗する手段になるのである。 
 2017

 

●平成ニッポンのタブーを語ろう 2017/11 
あの「炎上事件」の真相
武田: 今回は、森さんの新著『FAKEな平成史』の刊行記念対談ということで、まずは最近、しきりに問題視されるフェイクニュースをはじめとした、ネット上での「フェイク」について聞いていきたいと思います。
なぜならば、たびたび炎上を経験されてきた森さんが、先日、なかなか大規模のフェイク≠ネ炎上を経験されたと。安倍晋三首相が記事に対してFacebookで「いいね!」したこともある、彼の熱烈な支持層に愛されるまとめサイト「保守速報」で、森さんのインタビューを元にした記事が燃え盛ったという。読んでみましたが、いくつも不可解な点がありますね。
森: いきなりその話から入るのか(苦笑)。……えーと、これまでも炎上らしきものは何回もありましたが、今回は規模が大きかったですね。保守速報に記事が上がってしばらくは、金正恩、トランプ、安倍晋三などに関する記事をぶっちぎって、森達也についての記事がアクセス数トップ。リツイートは、最後に確認した時点で4000を越えたのかな。
武田: 4000RTということは、記事を拡散するツイート自体はおそらくウン十万人が目にしていることになりますね。
森: そんなに? 参ったな。
武田: ことの次第を簡単に説明すると、昨年の参院選の際に、森さんが雑誌「週刊プレイボーイ」のインタビューに答えた。この記事が「週刊プレイボーイ」のウェブ版に、雑誌発売とほぼ同じタイミングで掲載された。で、この記事掲載から一年経った今になって、保守速報がこれを取り上げました。しかも、タイトルを変えて。
「週刊プレイボーイ」のウェブに掲載された時のタイトルは「映画監督・森達也が新有権者へメッセージ『棄権していい。へたに投票しないでくれ』」だったのに、「保守速報」が付けたタイトルは「映画監督森達也 自民党に投票するバカは迷惑だから、投票にいかないでほしい」でした。
元々のタイトルもインタビュー内容を的確に拾い上げたタイトルとは言い難かったけれど、保守速報のタイトルでは、森達也が今回の選挙で自民党に投じようとしている人達を丸ごと侮辱したように伝わる。すると、森さんへのバッシングがコメント欄やツイッターに積もっていき……。
森: たぶんほとんどは僕よりも年下だと思うのだけど、なぜか「こいつ」とか「このバカ」と呼ばれます。「こいつは選民思想だ」とか「このバカ、大学をクビにしろ」とか。
最初は放っておこうと思ったのだけど、家族に危害を加えることを示唆したリプライも来たりしたので、自分のサイトで、そんな意図では話していない。元の記事を見れば分かるはずだ、と否定するメッセージを公開しました。まあでも、脊髄反射でリツイートしている人は読まないだろうな。
保守速報は、一応は公開された記事をソースにしているけれど、タイトルという看板を付け替え、刺激的な文言で、ネトウヨを煽ってアクセス数を稼いでいる。記事を読めばタイトルとはだいぶ違う内容だとわかるんだけども、もとの記事を読む人はほとんどいないんでしょうね。あらためて、ネットのリテラシーというものがいかに脆弱かということを、身をもって知りました。
武田: 実際に掲載されたインタビューを読むと、「バカ」だとか「迷惑」だなんて一言も言っていない。そもそも元記事に当たれば、インタビューは一年前のものだとすぐわかる。
でも、彼らは元記事を当たるという、ワンクリック、ツークリックをしてくれない。文句を言う時に、その対象が何を言っているかを通読するのは当然のことだと思いますが、これまで前提とされていた最低限のリテラシーを持ち合わせていない。
森: それにしても、僕にリプライを飛ばしてきた人たちは、どんな人たちなんだろう。多くの人がアイコンに日の丸を付けていたけど。一回きちんと、対面で、たとえば公開イベントなどで話してみたいね。
武田: 昨年出版された『ネット炎上の研究』(田中辰雄、山口真一著)を読むと、炎上って世の大半が騒いでいるように見えるけれど、炎上参加経験者はネット利用者の0.5%だったという。限られた人たちが、常に新しいターゲットを探して燃え上がらせている。森さんのインタビューは、たまたまそこら辺に転がっていた焚き木にすぎません。
森さんは件のインタビューで、若者の投票をテーマにこんな話をしています。森さんが学生20人ほどに支持政党を聞くと、その9割ぐらいが自民党支持だった。しかし、憲法改正について聞くと、半分以上の学生が「憲法はこのままでいい」と答えました。そこがちぐはぐしているレベルなら投票に行かなくてもいい、これが森さんの意見でした。
森: 投票するならせめて、どの党が改憲でどの党が護憲なのかくらいは把握してから投票してくださいというのが本旨です。
武田: (対談が行われた投票日3日前の)現時点での衆議院選挙に向けた世論調査(朝日新聞)を見てみますと、比例で自民党に投票するとした人は34%。年齢別で見ると、18〜29歳では41%が自民と答え、60代は27%。立憲民主党に投票するとした人は、60代が20%だったのに対して、18〜29歳では6%です。若い世代の「このままでいいよ傾向」は興味深いテーマです。
皮肉や批評はどこに消えた?
森: 若い世代の興味の半径がどんどん短くなっている。だから政治も、彼ら彼女らの半径からはみ出してしまって、関心が持てない。もちろん、いまの若者が自民党を支持するのを否定しているわけではありません。確かに就職状況は数年前に比べれば良くなっている。その意味で、自民党支持は理解できる。まあ、就職状況の変化も政策ではなく、現役世代の人口減少と年配層の大量退職による影響の方が大きいのだけど……。
でも、「最近の若者は」という爺さんに自分がなるのは面白くないけど、今の若者は素直で真面目だからこそ、一歩枠の外から出て物事を見る、ということをしない。社会に組み込まれたら枠の外に出ることは難しくなる。今体験しないならば、その視点を獲得できないまま人生を過ごすことになる。それはもったいないと思う。
話しながら思い出したけれど、この春に台湾国際桃園映画祭に呼ばれました。ドキュメンタリー映画の審査員を依頼されて、候補作は10本くらい。審査員は、僕の他には台湾のフィルムメーカーや評論家たちです。
特に印象に残った作品のタイトルは『進擊之路』と『機器人夢遊症』。前者は、若手弁護士たちと国家権力との闘いを描いている。そして後者は、台湾の最先端IT企業の非人道的な雇用状況を激しく告発している。この二作は共通して、権力と対峙する市民を描きながら、大学生たちが重要な被写体となっている。
『進擊之路』では、弁護士たちが支援する「ひまわり運動」(2014年3月、台湾の学生と市民が国会を占拠したことに端を発する社会運動)の大学生たちが数多く登場します。あらためて映像で見るとすごい。だって現役の大学生たちが国会をバリケード封鎖して武装した機動隊と対峙するのだから。結局は学生たちのこの運動がきっかけのひとつとなって、中国に急接近していた国民党政府は支持率を大きく低下させる。
『機器人夢遊症』も、最先端IT企業の組合運動を応援するためデモ活動に参加する大学生や市民たちが被写体です。グランプリはこのどちらかだと思ったのだけど、他の審査員たちの評価は低い。「森さんがそこまで言うなら、3位か4位にしておきましょう」とは言われたけれど、それでは納得できない。
そのとき、日本でも映画『生命』が公開されて何度も来日している呉乙峰監督から、「おまえは日本人だから驚いたのかもしれないが、俺たちは大学生たちのデモや政治活動は、テレビニュースなどでさんざん観ている。台湾では当たり前のことなんだ」と言われました。
武田: 森さんがこの時点で衝撃を受けている事自体がおかしい、と。
森: ああ、そういうことかと合点がいきました。でもね、香港では大学生が主体となった雨傘運動があったし、韓国では市民と大学生たちが主体となってパククネ大統領の罷免を街で激しく訴えた。アラブの春だって主体は若い世代です。なぜ日本の若者はこれほど保守化してしまったのか。
時おり市民集会などに呼ばれるけれど、参加者の平均年齢は絶対に60歳をはるかに超えている。愚痴るつもりはないけれど、その理由やメカニズムは考えないと。……結局は愚痴っているかな(笑)。
武田: 批評家の大澤聡さんが『1990年代論』という本を編著で出されて、つい先日、大澤さんと「90年代とはどんな時代だったのか」をテーマに対談したのですが、話していくうちに「皮肉、アイロニーが保たれていた時代だった」との話になりました。
『進め!電波少年』などのバラエティ番組はどこまでも徹底的にひねくれてみる執着に面白さがあったし、自分が学生時代に耽読していた古谷実の漫画『行け!稲中卓球部』はシニカルな笑いの応酬です。
そして、自分がこういったライターの仕事をする上で影響を受けたのがナンシー関さんで、彼女が週刊誌コラムで活躍していたのが90年代です。芸能界を中心に、テレビの中から感知したわだかまりに突っ込んでひっくり返すコラムを書き続けていた。暴力的にではなく、テクニカルに揚げ足を取ることに、世の中も、そしてメディアも寛容でした。
けれど現在は、あらゆる媒体から真っ先に皮肉や批評が削ぎ落とされていく。「揚げ足をとる」ってある種批判するための前提だとすら思うけれど、その前提を刈るように「揚げ足をとるな!」が積み重なり、それを止めてしまう。
森: そうですね。
国民がメディアを抑えつけようとする奇妙
武田: 森さんも繰り返し書かれていますが、バラエティ番組では、笑う時に顔の前で拍手しながら、時に立ち上がりながら笑う。「ここは笑う場面だよ」と全員で同調するのが面白い笑い、だからみんなもここで笑ってくれ、という伝達になっている。
先日、あるお笑い芸人とラジオで共演したのですが、そういう同調性が笑いのパターンを狭めているのではないか、笑いのポイントを強制しているのではないか、といった話を投げると、納得しつつも苦笑いされていた。特定の人物や事象を皮肉るという観点が、いたずらに暴力的なことと処理され、同調して安堵する笑いが増えていますよね。その同調性こそがイジメっぽい笑いを作り上げるわけですが。
森: 政治も一緒ですよね。
武田: そうですね。たとえば麻生太郎が失言しました、と報じられれば、信奉者は必ず「揚げ足をとってどうするんだ」「彼の真意を聞かなければいけない」と切り返してくる。
いや、そうじゃない。言葉に責任を持つべき立場の人が発言したのであれば、それを批判するのは当たり前の行為だ、と思うわけだけど、皮肉や批判をぶつけた時に、エラい人になんてこというんだ、などとクソ真面目に潰してくる、ということがとても多い。「全文を読め」という回避もあるけれど、全文読んでも変わらないことが多い。
森: 芸能でも政治でも、アイロニーやパロディが有効にならなくなった。
武田: 求められていないんですね。
森: 結果として失言や舌禍が多くなる。たとえば、安倍首相が解散の際に記者会見で「民主主義の原点である選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されるようなことがあってはなりません。むしろ私は、こういう時期にこそ選挙を行うことによって、この北朝鮮問題への対応について国民の皆さんに問いたいと思います」と言いました。
これ、意味わかる? 後段と前段の趣旨がまったく逆です。だって今回の選挙は、まさしく北朝鮮の脅威が自民党の追い風になったわけですよ。
投票前に記者クラブで党首討論やりましたよね。そこで安倍首相が朝日の坪井ゆづる論説委員の質問に対して、「朝日新聞は八田(国家戦略特区ワーキンググループ座長)さんの報道もしておられない」と返し、質問した坪井記者が「しています」と反論すると、「ほとんどしておられない。しているというのはちょっとですよ。アリバイ作りにしかしておられない。加戸(前愛媛県知事)さんについては、証言された次の日には全くしておられない」と発言しました。
この少し前、国会で加計問題についての審議をしていたとき、加戸前知事の話が、朝日新聞にはまったく載っていないとネットで盛り上がっていた。ソースは産経新聞です。おそらく、安倍首相もこういうネット上の意見を参考にしていたんじゃないかな。朝日の紙面を見れば明らかです。どちらも何度も記事として掲載されています。
武田: たしか10回くらいは載せていたんですよね。
森: 八田さんの記事は12回です。産経新聞の阿比留瑠比論説委員は党首討論の翌日、「朝日がいかに『(首相官邸サイドに)行政がゆがめられた』との前川喜平・前文部科学事務次官の言葉を偏重し、一方で前川氏に反論した加戸氏らの証言は軽視してきたかはもはや周知の事実」と首相発言を擁護する趣旨の記事を掲載しました。でも産経は八田さんの発言についての記事は4回だけしか掲載していない。朝日の三分の一。何なんだろこれ。産経はもはや新聞とは言えないんじゃないか。
武田: 愕然とします。
森: この党首討論では、終わってから日本記者クラブに、朝日と毎日の記者に対しての抗議の電話が殺到したらしい。内容は「首相に対して失礼だ」「あんな質問を許していいのか」だったそうです。電話をかけてくるのは年配の世代でしょうね。若い世代はネットに書いているんだろうけど、メディアが最高権力者に質問することが失礼であるとの感覚が前面に出てきている。
独裁国家なら無理やりにメディアを押さえつけるけれど、この国では国民がメディアを押さえつけようとする。こうして独裁的な体制が民主主義的手続きで完成する。不思議です。でもナチスドイツもそうでした。
武田: 森達也が気に食わないから、アイツに文句を言いたい……だからまとめ記事を作って炎上させる。自分で、ではなく、みんなで一緒になって文句を言いたい。繰り返しますが、そのソースが1年前で、誰もそのことを指摘しないというのが異様です。しかし、何十万人も見ているのだったら、自著のAmazonリンクを貼るなどすれば販促活動になるかもしれませんよ(笑)。1年前の記事だとすら気付かない人達のいくらかが、うっかり買ってくれるかもしれない。
森: 『FAKEな平成史』のAmazonの評価欄に、保守速報の記事をそのままコピペされています。評価は星一つ。あれは営業妨害だなあ。
とても残念な出来事
武田: そうか、今日はその本の中身の話をするんでしたね(笑)。本書は、今まで作ってきた森さんのドキュメンタリー作品を、第三者の目線を入れながら、振り返るという一冊ですね。
森: 平成が始まる少し前、テレビの仕事を始めました。最初はもちろんADだから、ただ番組制作のために駆け回っていましたが、まずは昭和天皇崩御があって、ベルリンの壁が崩壊して、天安門事件が起きて……これ全部、平成元年です。
昭和天皇崩御による「自粛」から平成が始まり、そして、阪神大震災、地下鉄サリン事件……それらの事件を、自分が作った映像作品についての記憶を縦軸にしながら、平成という時代を振り返っても面白いかなと思ったんです。自分で書くのは面倒だから(笑)、いろんな人へインタビューをして構成しました。
武田: 最初の章では、「放送禁止歌」をテーマに、ピーター・バラカンさんと対話されている。そこで触れられている「P!nk」という女性のシンガーソングライターが発表した「ディア・ミスター・プレジデント」という曲の存在を初めて知りました。「親愛なる大統領、ちょっと一緒に歩きませんか ごく普通の人間として」と始まる曲は、アメリカによるイラク侵攻後に発表された楽曲です。
僕はピンク・フロイドが好きなんですが、今、そのメンバーであるロジャー・ウォーターズがソロツアーをしていて、彼はライブ会場に大きな豚の風船を飛ばし、その豚にドナルド・トランプの顔をプリントして揶揄している。ライブの最後に撒かれる紙吹雪には、その一枚一枚に「抵抗せよ」と書いてある。
政治色が強い、というか、ほぼ全て政治色です。こういうことができる大御所ミュージシャンが欧米には平然といます。日本の音楽界にはごく一部を覗けばメジャーなフィールドにいませんね。
森: まったくいないわけではないけれど、表には出てこない。求められないから、淘汰されて少なくなるのもあるでしょう。少なくともメジャーの世界にはいない。
でも、海外ではニール・ヤングだったり、ブルース・スプリングスティーンだったり、ビッグネームが公然と政権を批判する。日本で言えば、サザンであったり、ユーミンであったり、中島みゆきであったり、その人たちが、反体制的な歌をテレビで普通に歌うようなものであって。日本でそれをやったらどうなるのか。
武田: 2014年の年末、桑田佳祐がライブで、その年に受賞した紫綬褒章をポケットからひょいと取り出してぞんざいに扱ったり、紅白歌合戦の中継でちょび髭を付けて登場したことが問題になりました。所属事務所前で抗議デモが行われた事も影響したのか、本人が謝罪文を出しました。
謝罪文の中には「つけ髭は、お客様に楽しんで頂ければという意図であり、他意は全くございません」という文言がありました。その一年前に発表された楽曲「ピースとハイライト」のPVでは、安倍首相や朴槿恵大統領のお面をかぶった人を登場させ、その映像をこの日のライブでスクリーンに流していた。明確なメッセージです。
でも謝罪文ではそのような「他意は全くございません」と言う。なぜこのような文言を出したのか、とても残念な出来事でした。
森: 首相に批判的な質問をすれば失礼だと抗議が来る。でも欧米の記者クラブでは、メディアが政治権力と対峙することは当たり前。同じ構造かな。ロックは体制批判して当たり前。でもこの国では、音楽に政治を持ち込むなとの意見が正論になってしまう。
音楽だけじゃない。『FAKEな平成史』でピーター・バラカンさんが言っているけれど、アメリカでは権力を茶化すトーク番組がたくさんある。若い世代はそうした番組をゲラゲラ笑いながら見て、同時に政治や社会に興味を持つ。「ザ・ニュースペーパー」とか松元ヒロさんのコントのような芸が、もっと普通にテレビで観ることができる社会のほうが、ずっと健全だと思います。
世論調査はなぜ増えているのか
武田: そういえば、少し前に「週刊金曜日」で「松本人志と共謀罪」という特集が組まれました。松本人志は今「ワイドナショー」という番組のMCを務めていて、政権寄りの発言を繰り返しています。
安保法制に反対する高校生たちのデモの様子に「(反対している人は)単純に人の言ったことに反対しているだけであって、対案が全然見えてこない」と言い、共謀罪について「僕はもう、正直言うと、いいんじゃないかなと思っている」と賛成の姿勢を示し、「(共謀罪によって)冤罪も多少はそういうことがあるのかもしれないですけど……」と冤罪の発生を半ば容認した。多少の冤罪があってもいい、には愕然としました。それらの言動に突っ込んだ特集です。
森: ありましたね。
武田: その中で、元・吉本興業幹部で竹中功さんという、35年前に芸人養成学校に応募してきたダウンタウンを初めて面接し、以降、長年付き合ってきた方がインタビューに答えています。「ワイドナショー」に安倍晋三が出演した時に、松本人志が首相を起立して出迎え、そして見送ったことに、「僕はショックでした」と語っています。
2025年大阪万博の誘致アドバイザーをダウンタウンが務め、松井一郎大阪府知事や、二階俊博自民党幹事長と並んで発足式に臨んでいます。為政者であろうが誰であろうが、どんな相手であっても茶化しつつ笑いに変えてきた人たちが、むしろ従順の見本になっている。竹中さんは「松本のような、緻密なことをずっと考えてきた男」と称した上で、その現在について、懸念を表明されていた。
森: この国では皆が自由だし、政権寄りの芸人がいてもいいと思う。もちろん、政権を批判する芸人がいてもいい。しかし今は、批判すると視聴者からの抗議で仕事がなくなってしまう。松尾貴史さんくらいじゃないかな、明確な言葉遣いで批判しているのは。
その松尾さんも、竹中さんと同じように言っているけれど、「僕たち芸人は本来、権力を茶化したり批判したりするものだ」と。それがどんな権力であろうと、自民党であろうと民主党であろうと、共産党だって、権力を批判しなければいけない。なんでそれができなくなってしまったのか。
武田: テレビやエンタメ業界のトップの人達がこういう振る舞いだと、これからその世界で活躍したいと入ってくる人たちは、あらかじめその「空気」を察知し、その作法を得てから登場するわけです。自分が芸能界で生き長らえるためにはどうするべきか、これはしていけないことだと把握する。私、従順ですので、と宣言して入ってくる。
森: また森が同じことを言っている、と思われるかもしれないけど、やはり「集団化」が起きている。全体で一緒に同じ動きをしたいという気持ちが強くなっている。その動きに乗り遅れたら排除される、ネットで叩かれてしまう。要するに、つねに回りを気にしながら、同じ動きをしなければいけない。がんじがらめになって、ゆとりがどんどんなくなっていく。
たとえば、それは世論調査の数にも現れています。安倍政権の支持率、選挙でも政党の支持率がさかんに報道されました。でも、思い出してください。十数年前には、世論調査をこんなにやっていなかったですよ。
武田: たしかに選挙前になれば、毎週のように知らされている気がします。
森: いま、とても世論調査の回数が多い。なぜ多いかと言えば、読者や視聴者が求めるから。回りの動きをみんなが気にしている。たとえば自分が立憲民主党を支持しているけど、まわりはどうなのか。昔であれば、まわりは関係なく、自分の考えで投票していた。しかし、いまは回りが気になって仕方がない、そんな動きが加速しているからこそ、世論調査がこれだけ行われている。「マジョリティはこうなのか」――それを知って、安心する。
武田: 神戸大学の小笠原博毅さんが編者となり、『反東京オリンピック宣言』という興味深い本を作っています。誘致の際の買収疑惑すら放置されている現状ですが、この本のなかで、東京五輪をなんだかんだで「成功」という言葉でまとめさせるのは、「困難を乗り越えて頑張れ」派でも「手放し礼賛」派でもなく「どうせやるなら派」という人たちだ、と書いている。
つまり、「オリンピックってやる必要ないよね」「しかも何か怪しい事ばっかりやってんじゃん」と最初は思っていたけど、所属するコミュニティの中などで「オリンピック、やっぱりやったほうがいいよ」と何となく方向が定まってきた時に、「うんうん、どうせやるならしょうがない」と勝手に譲歩してしまう。
「もう間近だし」「せっかくやるんだから」「いつまでも文句言ってないでさ」と、諸問題が一掃されていく。この一掃って、五輪に限らず全ての問題に言えることだと思います。
森: なるほど、「どうせやるなら派」…これも自発的な隷従ですね。人間は「馴致能力」が高い動物です。馴致とはつまり慣れる、適応するということ。アマゾンのジャングルでも砂漠地帯でも極北でも、その環境に自分を合わせて暮らしていく。人類は馴致能力が強いから、これほど繁栄できたんです。
それは言い換えれば、今の状況に自分をカスタマイズしてしまうこと。最初は世の中に違和感があっても、それではやっていけないから、自分を合わせていく。こうしていつのまにか前提が作られる。それが積み重なったのが、今の日本なのかもしれない。自分が何を考えているか、ではなく、社会が作り上げたようにみえるものに依存している。
平成が終わろうとするなかで、メディアをはじめ、社会はもう大きく良い方向には変わっていかない。平成という一つの時代を振り返った今、そう感じています。僕が見たところ、どうあがいても、この状況が加速するだけ。ドラスティックな変化は、もう起きないんじゃないのかな。あんまり、楽しい話じゃないですけど。 
●安倍首相、独裁の本性がさっそく全開! 国会を開かず議論からトンズラ 2017/10/27 
予想通り、選挙に勝った安倍首相がさっそく暴走をはじめた。特別国会が11月1日に召集されるが、野党から要望が出ていた臨時国会には応じず、特別国会では所信表明演説もおこなわないというのだ。このままでは、実に半年以上も国会議論がなされないことになってしまう。
安倍政権は安保法制を強行採決させた2015年にも、憲法53条に基づいて野党から要求されていた臨時国会召集を無視。臨時国会が開催されなかったのはこのときが2005年以来だったが、05年は特別国会が約1カ月おこなわれている。それが今回、安倍首相は臨時国会を召集しないばかりか、実質、数日間の特別国会では所信表明も代表質問も拒否しようというのだから、国会軽視の横暴そのものだ。
だいたい、安倍首相は解散することを発表した記者会見で、森友・加計学園問題について「国民のみなさまに対してご説明もしながら選挙を行う」と言っていた。それが街頭演説ではものの見事にスルーし、挙げ句、党首討論では「国会で説明する」と言い出した。そして、今度は「臨時国会は開かない」……。どこまでも森友・加計学園問題の追及から逃げおおせようと必死だが、これは国民への背信である。
しかし、安倍首相が選挙中と選挙後で手のひらを返したのは、これだけではない。選挙戦で訴えていたことを、投開票から1週間も経たないうちに安倍首相はどんどん反故にしようとしているからだ。
その最たるものが、社会保障の問題だ。25日に開かれた財務省の財政制度等審議会で飛び出したのは、社会保障費をカットする見直し案。たとえば、75歳以上の患者の自己負担の割合を現在の1割から2割へと段階的に引き上げるという案や、介護報酬および診療報酬の引き下げ、所得が高い世帯への児童手当支給廃止などが提案されたのだ。
一体どういうことだ。安倍首相は今回の選挙で「子育て、介護。現役世代が直面するこの2つの大きな不安の解消に大胆に政策資源を投入する」「社会保障制度を全世代型へと大きく転換します」と宣言していたが、これでは全世代に身を切らせるものではないか。
とくに深刻さを増す介護問題では、安倍首相は「介護人材の処遇改善」「介護職員の賃上げ」を謳っていた。だが、前回の介護報酬引き下げによって介護事業者の倒産が相次いだように、さらに引き下げれば処遇改善もままならず、人材の確保がより難しくなるのは間違いない。また、75歳以上への自己負担額増が実施されれば、受診抑制が起こり病気が重症化する危険が懸念される。命にかかわる重大な問題だ。
選挙では聞こえがいい話を並び立て、実行しようとするのは国民の生活を顧みない逆をゆく政策……。安倍首相が社会保障を削減する一方で防衛費を過去最大に注ぎ込んできたことを考えればハナからわかっていたことだが、あまりにも酷い。
しかし、もっとも今後の安倍政権の強権性を露わにしたのは、やはり憲法改正についてだ。
安倍首相は森友・加計問題と同様、街頭演説において憲法改正にはついにふれなかった。だが、選挙結果が出た翌日23日の記者会見で、改憲についてこう言及した。
「合意形成の努力は(野党)第1党であろうと、第2、第3、第4党であろうとおこなわなければならない。しかし、政治なので当然、みなさんすべてに理解いただけるわけではない」
選挙中の党首討論では「憲法審査会のなかにおいて各党が案をもち寄り、建設的な議論が進んでいくことをぜひ期待したい」と述べていたのに一転、「野党の合意が得られなくてもやる」──。これは野党第一党であり、違憲の安保法制を追認する憲法9条の改正に反対している立憲民主党を意識した発言であることは明白であり、早くも改正反対派の主張には「耳を貸さない・取り合わない」と宣言したも同然だ。
同じ会見で「謙虚」という言葉を何度も口にしながら、その言葉とは裏腹に「傲慢」さを全開にした安倍首相。しかも、今月中に出される見通しだった加計学園の認可について文科省大学設置審議会による結論は台風の影響で来月に延期されたが、国会審議から逃亡する安倍首相は、トランプ大統領の来日および横田早紀江さんとの面会によって加計の話題を消し、支持率を高めることを企てている。
だが、国民は選挙で安倍首相の政治の私物化を認めたわけではけっしてない。安倍首相がまやかしを、その都度、俎上に載せていかなくてはならないだろう。 
●前代未聞のトンズラ総理! ヤジを怖れて街頭演説をドタキャン 2017/10/6 
かつて、このような「トンズラ総理」がいただろうか。安倍首相は昨日、神奈川県の小田急線・新百合ヶ丘駅前で17時から街頭演説をおこなう予定だったが、土壇場でキャンセル。なのに、17時にはなんと4駅先の向ヶ丘遊園駅前に登場し、そこで演説をおこなったのだ。
このドタキャンによって、安倍首相の遊説が事前告知されていた新百合ヶ丘駅前は混乱。自民党関係者と思われる男性が「諸般の事情により、安倍総裁の演説は中止となりました。」と書かれた紙を持って集まった有権者に頭を下げる事態に。だが、ここで演説をおこなう場所が向ヶ丘遊園駅前に変更されたことは告知されなかったという。
なぜ、安倍首相は演説先を急に変更したのか。その背景について、毎日新聞はこのように報じている。
〈場所変更のきっかけは、地元の自民前職の事務所が、新百合ケ丘駅への首相来援をホームページで告知してしまったこと。告知を受けてツイッターに「行ってヤジりたい」などの書き込みがあった。前職の事務所関係者は「首相に批判的な方々が来る情報があり、安全に演説できるか懸念があった。首相の警備のため、最後まで場所変更を(新百合ケ丘駅の聴衆に)伝えられなかった」と明かす〉
つまり、「批判を受けたくない」「ヤジられたくない」その一点で、いきなり安倍首相はそそくさと遁走してしまったのだ。
そもそも「ホームページで告知してしまった」ってうっかりミスみたいな扱いになっているが、演説をより広く多くの人にきいてもらうために告知するのは当たり前のことだろう。一国の首相ができるだけ人に知られないように演説するって、それ、いったい誰のためのなんのための演説なのか。
このトンズラ劇の背景には、前日のこともあったのだろう。4日、安倍首相は茨城県の水戸駅前で遊説をおこなったが、「この国難を国民のみなさまの信任を得て......」と話すと、聴衆からは「お前が国難だ!」というヤジがあがったのだ。
選挙の街頭演説で時の総理大臣がヤジを受けることは、けっしてめずらしい光景ではない。いかに国民からの「怒り」を受け止めるか。街頭演説はそうした場でもある。にもかかわらず、安倍首相は都議選の応援演説で「安倍やめろ!」コールを受けて、あろうことか批判する国民を指差し「こんな人たちに負けるわけにはいかないんです!」と逆ギレ。そして、今回の選挙では、街頭での批判を恐れて直前まで遊説先を告知しないという手に出たのだ。
あらためて言うまでもなく、今回の選挙は、森友・加計学園疑惑の追及から逃げたい一心の安倍首相が、大義もなく職権を濫用して解散した自分勝手極まりないものだ。その上、街頭演説でもヤジから逃げることを最優先するなど、無責任にも程がある。
しかも、安倍首相は解散会見で「森友・加計の疑惑追及の回避ではないのか」という記者からの質問に対し、こう語っていた。
「追及回避どころか、こうした批判も受け止めながら、そこで国民のみなさまに対してご説明もしながら選挙を行う」
だが、臨時国会冒頭解散した先月28日、やはりゲリラ的に突然おこなわれた渋谷での街宣に始まり今日にいたるまで、安倍首相は演説のなかで一度も森友・加計問題にふれていない。「ご説明」をする様子はまったくなく、北朝鮮問題を「国難」だと煽り、野党の悪口を言い、自己正当化をつづけている。
またも平気で国民との約束を破り、批判から逃げようとする安倍首相。しかし、こうした「分が悪いと逃げる」ということは、これまで安倍首相が何度も繰り広げてきたことではある。
たとえば、昨年の参院選では、投開票日までの約2週間、党首討論に応じなかった。これは異例な事態で、民進党や共産党など野党4党は谷垣禎一・自民党幹事長(当時)に首相へ対応を見直すよう進言することを求めた。しかし、『報道ステーション』(テレビ朝日)で党首討論の問題を突きつけられた当の安倍首相は、「たとえば菅政権のときにですね、『報道ステーション』のときに、菅さん出なかったじゃないですか!」などと発言。だが、民主党政権時の参議院選挙で菅直人首相(当時)がテレビ朝日の番組への出演を拒否していたというのはまったくの大ウソで、菅氏は2010年7月1日に出演している。
また、2015年7月、安保法制の議論時には『報ステ』に安倍首相が生出演することになっていたが、安倍首相はこれをドタキャンしていたことを本サイトがスクープ。しかも、ドタキャンした理由がまた情けない。当初、安保法制の賛成派として外交評論家の岡本行夫氏が、反対派として憲法学者の木村草太氏が出演する予定だったのが、岡本氏が出演を辞退。あれだけ「集団的自衛権の行使は合憲だ」と言い張っていたのに、憲法解釈を専門とする木村氏との対決に恐れをなして、安倍首相は「敵前逃亡」してしまったのだ。
嘘まででっち上げて党首討論から逃げ、さらには批判を受け止められず国民からも逃げる。あらためて、今回の選挙でこの「国難総理」に見切りをつけなければならないだろう。  
●解散、あの人が名付けたら トンズラ・もやもや… 2017/9/27 
安倍晋三首相が28日に踏み切る衆院解散。「疑惑隠し」や「大義なし」と野党が批判するなか、首相は少子高齢化と北朝鮮情勢への対応が必要だとして「国難突破解散」と名付けた。識者たちはどう見るのか?
コラムニストの小田嶋隆さん(60)は、疑惑の説明責任から逃げているとして「トンズラ解散」と名付けた。「森友・加計学園問題の追及を何とか避けたい、さらし者になるのは耐えられない、ということだろう」
安倍首相が設定した「与党で過半数」という勝敗ラインも疑問だ。「過半数を保てれば説明責任を果たした、国民の信任を得た、と言いたいのだろう。みそぎは済んだというお墨付きが欲しいだけではないか」
首相や内閣の権限に詳しい上田健介・近畿大学教授(憲法)は「もやもや解散」と表現する。「1カ月ほどの国政の空白というデメリットはあるが、民意を反映させる肯定的な面もある」と解散に理解も示す。ただ、「北朝鮮情勢が不安定な中、争点は安全保障なのか、経済か、憲法改正なのかが不明確。選挙を経て政治をどう進めようとしているのか」と指摘。「選挙戦では与野党ともに有権者に説明を重ね、『不透明さ』を解消することが大事だ」と強調する。 ・・・  
●疑惑隠しのためにトンズラした安倍「深く反省」は大嘘! 2017/7/5 
「深く反省」は大嘘! 安倍政権が“忖度官僚”佐川理財局長を国税庁長官に抜擢、税務調査で批判マスコミに報復
歴史的大惨敗を喫した都議選の結果を受け、「深く反省」「丁寧に説明する」と語った安倍首相。だが、実際にはこの男はそんなことはつゆほども思っていない。あいかわらず都合の悪いことは蓋をし、批判を強引に封じ込めようと、悪あがきを続けている。
そのひとつのあらわれが、「安倍首相抜き」の閉会中審査だ。加計学園問題を追及する閉会中審査の開催と、前川喜平前文部科学事務次官の参考人招致が今月10日に決定したが、安倍首相が「7・8日に開かれるG20出席などのために5日から12日まで欧州に外遊予定」であることを理由に、「首相不在」で開催されることが確定してしまったのだ。
もちろんこれは、安倍首相が閉会中審査に出席したくないため、官邸が無理やりこのスケジュールを打ち出した結果だ。
「3日午前の党役員会の後、安倍首相も含む自民党の役員が話し合い、“閉会中審査に応じざるを得ない”との認識で一致したため、自民党は当初、首相が外遊から帰国したあとのスケジュールを調整していた。ところが、3日夜になって、官邸から首相の外遊中にやれ、という指示が来たため、竹下亘国対委員長があわてて民進党に“首相抜き”を提案することになった。民進党は拒否したが、官邸がこのスケジュール以外の閉会中審査には、頑として首をふらず、そのまま押し通してしまった。おそらくいま、安倍首相が閉会中審査に登場したら、火に油を注ぐ結果になるため、“安倍隠し”をはかったということでしょう」(全国紙自民党担当記者)
本来、疑惑の張本人抜きの審議などあり得ない話だが、安倍首相は恥も外聞もなく、疑惑隠しのためにトンズラしてしまったのである。  

 

 

 

●尾身茂・新型コロナ分科会 
●政府 分科会「感染状況を4段階に」東京・大阪は「感染漸増段階」 7/31
新型コロナウイルスの感染が全国で拡大する中、政府の分科会は感染状況を4つの段階に分け、状況が悪化する前に重症者数などの指標を踏まえ必要な対策を講じるべきだとする考え方をまとめました。分科会の尾身会長は、感染者が増加する東京や大阪などは、医療提供体制への負荷が蓄積しつつある2段階目の「感染漸増段階」にあたるという認識を示しました。
7月31日に開かれた政府の分科会のあと、西村経済再生担当大臣と尾身茂会長が記者会見し、新型コロナウイルスの感染状況を4つの段階に分け、必要な対策を検討していくとする考え方をまとめたことを明らかにしました。
具体的には、感染者が散発的に発生している状況を「感染ゼロ散発段階」、感染者が徐々に増加し、医療提供体制への負荷が蓄積しつつある状況を「感染漸増段階」、感染者数が急増し、医療提供体制に支障が出ている状況を「感染急増段階」、爆発的な感染拡大が起き、医療提供体制が機能不全に陥っている状況を「感染爆発段階」としています。
そのうえで、状況が悪化して次の段階に移行する前に重症者数や医療提供体制などの指標を踏まえて、必要な対策を講じることが重要だとしています。
尾身氏は、感染者が増えている東京や大阪などは2段階目の「感染漸増段階」にあたるという認識を示しました。
また、西村大臣は、感染状況を判断するための指標について、「今後、医療提供体制や、60代以上の感染者の数、重症者の数、新規感染者の数をどう見ていくのか、さらに議論を詰めていただきたい。全国共通の指標としてお示しすることを念頭に置いている」と述べました。
一方、西村大臣は、感染者に対する偏見や差別などが指摘されているとして、専門家などによるワーキンググループを新たに設置し、対策を検討する考えを示しました。
感染状況を4段階に分類
政府の分科会は、感染状況について感染者が少ないほうから、「感染ゼロ散発段階」、「感染漸増段階」、「感染急増段階」、「感染爆発段階」の4つの段階に分けるとする考え方を示しました。
それによりますと、感染が最も少ない「感染ゼロ散発段階」は、感染が起きていないか、散発的に起きているものの医療提供体制に特段の支障が出ていない状況です。
現在、感染者数が少ない地域はこの段階にあるとしています。
2段階目の「感染漸増段階」は、感染者の集団、クラスターが発生するなど、感染者が増え、重症患者も徐々に増加することで対策にあたる保健所や医療提供体制への負荷が高まりつつある状況です。
分科会の尾身茂会長は感染者が増えている東京や大阪などはこの段階にあたるという認識を示しました。
3段階目の「感染急増段階」は、クラスターが多発して、感染者が急増することで医療提供体制への負荷がさらに高まって一般の医療にも大きな影響が出ている状況を指すとしています。
現在、この段階にある地域はないとしています。
そして、感染状況が最も深刻な4段階目の「感染爆発段階」は、病院内など大規模なクラスター感染が連鎖して起きることで、爆発的な感染拡大につながった状況を示すとしています。
高齢者や持病のある人など重症化リスクの高い人たちが多く感染し、保健所や医療提供体制が機能不全に陥っている状況です。
悪化の予兆把握へ対策と指標
分科会は、それぞれの段階で感染の状況が悪化し、次の段階に進んでしまう前にいち早く予兆をつかんで必要な対策を講じることが重要だとしています。
そのための指標は、具体的には、今後検討するとしていますが、医療提供体制のひっ迫具合を見るために、確保できている病床数や、重症患者の数、それに60歳以上の感染者数などを踏まえ判断するとしています。
また、PCR検査で陽性と判定される割合、「陽性率」や感染経路が不明な人の割合なども検査体制や対策を行う公衆衛生への負荷を見るうえで重要だとしています。
さらに分科会は、感染状況が悪化し、段階が進むのを防ぐ対策についても考え方をまとめ、このうち、「感染漸増段階」から「感染急増段階」への移行を防ぐためには、ガイドラインを守っていない酒を提供する飲食店への休業要請や、3密を徹底的に避けること、それに、病床や宿泊療養施設の追加での確保など、現在行われているような対策を進めることが大事だとしています。
また、「感染爆発段階」への移行を防ぐためには、全面的に人と人との接触機会を減らす必要があるため、「緊急事態宣言」など強制力のある対応を検討せざるをえないとして、外出自粛やイベントの開催自粛の要請、軽症者は原則、宿泊療養とするなど、入院治療が必要な重症者を徹底的に優先するなどといった対策を示しています。
尾身会長「早いうちに数値など具体的な指標を示す」
尾身会長は記者会見で、「これから1週間ほどかけてなるべく早いうちに数値など、さらに具体的な指標を示したい。指標は、対策を行う都道府県にとって納得感のあるものでないといけないので、しっかりと連携しながら作っていきたい」と述べ、次回の分科会までにより具体的な指標を提案する考えを示しました。
鳥取 平井知事「国民の思いとかい離ないよう議論を」
全国知事会を代表して出席した鳥取県の平井知事は、分科会終了後、記者団に対し、感染状況のレベル分けの議論について、「病床が満床にならないようにするための指標になっているが、国民の『感染者の数がこれだけ増えても大丈夫か』という思いとかい離がないようにすべきだ。レベル分けの議論をするのであれば、どうなれば『Go Toキャンペーン』の対象外にするかなど、明確な基準をつくるべきだ」と述べました。
また、平井知事は、都道府県知事による休業要請などの権限行使について、休業補償も含めて、実行力のある政策が打てるよう、新型コロナウイルス対策の特別措置法を改正するよう求めたことも明らかにしました。
平井知事によりますと、東京都の小池知事や大阪府の吉村知事などからも同様の提案があったということです。
安倍首相「高い緊張感持ち注視 必要な対応講じる」
安倍総理大臣は7月31日夜、総理大臣官邸を出る際、記者団に対し、「現在の感染状況を高い緊張感を持って注視している。まずは徹底検査であり、陽性者の早期発見、早期治療を進めていく。また、重症化予防が極めて重要だ。リスクの高い基礎疾患のある方や高齢者への感染を防がなければならない。病院や施設での検査を徹底していく。そして、国が取り組まなければならないこととして、治療薬やワクチンの開発と確保に努めていく」と述べました。
そして、「きょうも専門家から意見をうかがったが、地方自治体としっかりと連携を取りながら、必要な対応を講じていく」と述べました。  
●「発症日ごとのデータ」政府分科会が初めて公開 「徐々に拡大」 7/22
新型コロナウイルス対策の政府の分科会で、感染の状況を正確に分析するために必要とされる患者の発症日ごとの人数を示したデータが、緊急事態宣言の解除後、初めて公開されました。
分析した専門家は現在の状況について「爆発的な感染拡大には至っていないが、徐々に拡大している」と評価し、政府に対して基本的な感染対策の徹底をさらに呼びかけるなどの対応を求めました。
政府の分科会が初めて示した「発症日ごとのデータ」
以下5点:いずれも政府の分科会資料より / それぞれ上段は「発症日ごと」下段は「診断日もしくは確定日ごと」
感染状況の正確な把握に必要とされる「発症日ごとのデータ」
感染者数のデータは、感染が確定した人数を各自治体が連日、発表していますが、報告の遅れなどによって日ごとの数が上下することから、感染状況を正確に把握するためには、患者が発症した日ごとのデータを分析する必要があるとされています。
7月22日の分科会では、緊急事態宣言の解除後、初めて、患者の発症日ごとのデータが示されました。
発症者が対象のため、無症状の人は含まれませんが、たとえば東京では、患者数は感染が確認された日ごとのデータで見るより、数日早く、5月下旬から増え始め、7月上旬以降は150人を超えるなど数は多いものの、増え方は3月から4月にかけて感染が拡大したときの方が急になっています。
現在の感染状況「徐々に拡大 実効ある対策が求められる」
専門家は、全国の状況を分析した上で、現在の感染状況について感染者の8割以上は二次感染を起こしていない一方、3密の環境では数十人単位のクラスターが起きていて、中高年への感染拡大が懸念されるとしています。その上で、「爆発的な感染拡大には至っていないが徐々に拡大していて、増加している地域では社会経済に十分配慮した上で実効ある対策が求められる」と評価しました。
そして、政府が現時点で取り組むべき対策として病院や福祉施設などでのクラスターの防止や早期封じ込め、3密を避けるなど基本的な感染予防対策の徹底を求めました。
医療体制「早急に病床などの確保に取り組むことが必要」
医療体制については、ひっ迫する状況ではないものの重症者の数は感染者数が増加した20日ほど後に増加する傾向があるとして、早急に病床や宿泊療養施設の確保に取り組むことが必要だとしています。
分科会 尾身会長「より適切なデータもとに状況分析できた」
分科会の尾身茂会長は記者会見で「今回はより適切なデータをもとに、状況の分析や対策について提案できた。爆発的感染にならないとも限らないので、政府には速やかに対策を実行に移してもらいたい」と話しています。 
●「爆発的な感染拡大に備え対策を」 政府分科会で専門家 7/16
政府が設置した新型コロナウイルス対策の分科会の会合で、メンバーの専門家は、今後の感染状況に応じた対策の考え方の案を示し、感染者数が緩やかに増加する場合には、すみやかに対象地域や業種を絞ったきめ細かい対策を行う一方、あらかじめ爆発的な感染拡大に備えた対策を検討すべきだと訴えました。
7月16日、分科会のあと行われた記者会見で、尾身茂会長は、政府に対して今後の感染対策の在り方について提案を行ったことを明らかにしました。
それによりますと、現在の感染状況について「面的な市中感染は見られない」としたうえで、各地で発生しているクラスターでは「3つの密」が見られるため、改めて3密を回避する重要性を強調して呼びかけるべきだとしています。
そして、現在のように爆発的な感染拡大には至らないものの、感染者数が緩やかに増加する場合などには社会や経済への影響を最小限にすべきだとして、東京都が行っている接待を伴う飲食店の対策をさらに進め、すみやかに、地域や業種を絞ったきめ細かい対策を追加して行うべきだとしています。
一方、今後爆発的な感染拡大が起きることも想定し、具体的にどんな状態になったらどのような対策を行うか、あらかじめ対策を検討しておくべきだと提案しています。
尾身会長は「専門家の合意のうえで、基本的な考え方を示した。爆発的な感染拡大に備え、どんな事態にどんな対策をとるか、専門家としても早急にまとめていきたい」と話しています。 
●新型コロナ分科会初会合「PCR検査拡充など議論を」経済再生相 7/6
新型コロナウイルス対策の専門家会議を発展的に移行させるとして、政府が新たに設置した分科会の初会合が開かれ、西村経済再生担当大臣は、感染状況の分析や、PCR検査の拡充の在り方などについて議論するよう要請しました。
政府は、新型コロナウイルス対策を話し合う専門家会議について、感染防止策と社会経済活動の両立が対策の主眼となったとして体制を見直し、経済学者や知事なども加えた「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を新たに設置しました。
7月6日の初会合で、西村経済再生担当大臣は「それぞれの専門性や経験に基づいて、幅広い観点から議論をいただきたい」と述べ、感染状況の分析や、7月10日に予定されている、経済社会活動の段階の引き上げへの評価、それに、PCR検査の拡充の在り方などについて議論するよう要請しました。
また、加藤厚生労働大臣は「東京都の医療提供体制は、現在のひっ迫度はそれほど高くないが、高齢者などの感染拡大には注意が必要だ。今後求められる対応について積極的で建設的な議論をたまわりたい」と述べました。
これを受けて、分科会長を務める地域医療機能推進機構の尾身茂理事長は「社会経済活動と感染拡大防止策をいかに両立させるかが、国民的な課題になっており、この会議への関心や期待は極めて高い」と指摘し、水際対策の在り方なども含め、議論の成果を政府に提言する考えを示しました。
この分科会は、新型インフルエンザ対策のために設けられた「閣僚会議」の下にある有識者会議の分科会の1つに位置づけられています。
政府は、これとは別に、最新のスーパーコンピューター「富岳」やAIを使って、感染防止策の効果を評価するため、京都大学の山中伸弥教授らをメンバーとする有識者会議も設け、感染の再拡大に備えた対策の検討を進めています。
「イベント制限緩和予定どおり実施」
西村経済再生担当大臣は、分科会のあと記者会見し、東京都などの感染状況について、専門家からは、若い世代の感染者が多く、重症者も少ないことから、医療提供体制はひっ迫しておらず、ことし4月上旬とは状況が異なるという認識が示されたことを明らかにしました。
一方で、感染経路が不明のケースも一定程度含まれており、中高年の感染者も増えつつあるとして、危機感を共有したとしています。
そのうえで、7月10日に予定している、イベントの開催制限の緩和については「感染防止策の徹底に合わせて、入場者の名簿の作成や接触確認アプリの導入などの対策を取ることを前提に了解いただいた。各都道府県にも通知を出して周知徹底を図っていきたい」と述べ、予定どおり緩和を実施する考えを示しました。
また、西村大臣は、専門家から、PCR検査について、一定の割合で偽陽性や偽陰性が出ることも踏まえた検査の在り方を検討するよう求める意見や、各地での感染者の情報が迅速に共有されていないとする指摘が出されたことを受けて、分科会のメンバーと連携しながら、対応を検討する考えを示しました。
尾身分科会長「検査の拡充について戦略を早急にまとめなければ」
分科会長を務める地域医療機能推進機構の尾身茂理事長は、分科会のあとに行われた記者会見で、感染症対策や経済などの専門家がまとめた検査についての考え方を会合の中で示したことを明らかにしました。
それによりますと、症状の有無などによって3つのグループに分けて考えるとしていて、症状のある人には、唾液を使ったPCR検査や抗原検査を行うとしています。
また、症状のない人については、感染しているリスクによって対応を分け、たとえば、1例でも感染が確認されたことがある病院や高齢者施設の濃厚接触者や、夜の街のクラスターに関わる人は、感染しているリスクが高いため徹底したPCR検査を行うとしています。
一方で、たとえば、社会経済や文化の活動を進めるために、検査を受けたいという人は感染しているリスクが低いことから、検査は簡便でコストが低いものであるべきで、誤った結果が出ることがあることも踏まえて、実施するかどうか、国民的な合意を得る必要があるとしています。
尾身会長は「検査の拡充は、多くの国民の一致した意見だと思うので、政府には、早急に議論を進め、実行に移してもらいたい」と話しています。  
 

 

●黒川弘務
●安倍政権を直撃、黒川検事長の500万円賄賂疑惑 2020/3
黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題が、「桜を見る会」問題、IR汚職、新型コロナウイルスへの杜撰対応と共に、いよいよ安倍政権にとって確実にダメージとなるなか、本紙の元にその定年延長問題で決定打にもなり得るようなネタが飛び込んで来た。
「黒川氏に、事件もみ消しのために500万円渡した」との告発が本紙に寄せられたのだ。
安倍内閣が法解釈を曲げてまで黒川氏の定年を半年延ばしたのは、黒川氏を検事総長にするため。それは、黒川氏が安倍内閣のイエスマンだからだ。
自民党と対立する小沢一郎衆議院議員を徹底追及した「陸山会」事件、甘利明経済再生担当相(当時)の“口利き賄賂”疑惑の不起訴処分も、黒川氏が“黒幕”といわれる。さらに、安倍内閣を直撃した森友・加計問題でも内閣に忖度したとの声もある。
そのため、本紙は黒川氏の定年延長を許すまじと告発、併せて、森雅子法務大臣に黒川氏罷免の勧告の発動を申し立てたことを知ってのことか、本紙に寄せられたこの黒川氏の事件もみ消し、賄賂疑惑は決していい加減なものではない。
まず、もみ消しを頼んだ事件とはいかなるものか。
18年10月、警視庁は「ホステスを引き抜いた」などと因縁をつけ、対立する東京・六本木のキャバクラ店を襲撃したとして店のオーナーA氏ら16名を傷害容疑で逮捕した。
「トラブルがあったのは事実。しかし話し合い時、小競り合いがあった程度で傷害事件に問われるまでのことをAらはしていない。それにも拘わらず、告訴が受理されたのは、相手側にあの安藤英雄が付いていたからと見たAらは危機感を持ち、対抗して和解話を進めてくれる有力者を捜したのが事の起こりです。安藤は芸能界、裏社会、そして警察にも顔が効く大物として知られている。久間章生元代議士、平沢勝栄代議士との関係は有名です」(告発者)
いろんな方面に声をかけた結果、神戸山口組の山健組臥龍会の藤本淳蒔若頭が連れて来たのが「根来浩司」なる70代の人物だった。
ところがこの根来氏、仲介を頼むはずが、「仲介して逆に揉めたらまずい。自分は当局にコネがあるから事件潰しの方で行こう」といい出し、そこで名前を挙げた1人が黒川氏(当時は法務大臣を補佐する法務省事務方トップの法務省事務次官)で、いかに黒川氏が凄いか熱弁したという。
また、この根来氏、自分は大手食肉卸会社「ハンナン」(現・ハニュ―フーズ)の元秘書とも。しかも、あの浅田満ハンナン元会長(81)が「BSE牛肉偽装事件」(補助金詐欺など)で逮捕された際に奔走し罪を軽くしてあげた(最高裁で一部無罪となり、懲役7年が同6年8月に減刑。浅田は16年11月から服役中)と自慢していたとも。
ハンナンの浅田元会長といえば、同和と山口組をバックに公共事業を操り巨万の富を得、最後の大物フィクサーともいわれた人物。その影響力は本業の食肉に関する農水属議員・官僚に止まらず政・官・実業界全体にまで及んでいたのはご存じの通り。
政治家でいえば、特に鈴木宗男参議院議員(元北海道・沖縄開発庁長官。維新の会)、太田房江参議院議員(元大阪府知事。自民党)、松岡利勝元農水大臣(故人)との蜜月関係は有名だ。ちなみに、浅田が公判中の代理人弁護士は元大阪地検特捜部検事だった。
こうした発言、人脈関係からA氏らは根来氏を大変な人物と信じ、いわれるまま事件もみ消しの方で依頼することに。
となると、当然、黒川氏らに渡すカネがいるということで、A氏らは2017年8月下旬、JR「東京駅」近くの高級ホテル「A」のラウンジで根来氏ら(前出・藤本若頭同席)と会い、その場でまず1100万円を手渡ししたという。
その内訳は黒川氏500万円。もう一人、警察庁長官(当時)の坂口正芳氏に500万円。残りの100万円は仲介者手数料。
その結果、ほどなく根来氏から話が付いたとの連絡が。「ただし、完全なもみ消しは無理なので、部下2人を用意しろ。逮捕はするが10日勾留で終わらせる」と。そして、自分への成功報酬として300万円を要求。
その結果、A氏らは9月中旬、今度は六本木の高級寿司店「R」で根来氏らに会い(この時も藤本若頭同席)渡したという。
さらにそれ以降、根来氏に顧問料として毎月50万円の振り込みをするように。
ところが、18年10月、オーナーのA氏自身も含め、トラブル現場にいた計16名全員が逮捕に。そして、A氏は起訴され執行猶予付きながら有罪判決を受けたという。
当然ながら、A氏側は話が違うと抗議。前出の藤本若頭にも計200万円など、総額約2500万円を払わされているのだから無理もない。
もっとも、根来氏は抗議に対し一転、「キチンとカネは(坂口氏、黒川氏両氏に)渡した。しかし、Aは(半グレの)関東連合と関わりがある反社会勢力ということで、さすがに看過できなかったといわれた」と言い出したという。
これだけ聞けば、根来氏の黒川氏らに人脈があるという詐欺話にA氏らはすっかり乗せられただけの話と思われるかも知れない。
しかしながら、事が事なので現段階では詳細はお伝えできないが、根来氏は自分が黒川氏らの名を勝手に語り、カネを自分の懐に入れていない証拠として、いつ、どこで、黒川氏と会ったというような詳細を話しており、その記録もA氏側は保管している。
そして、別の告発者はこう断言するのだ。「自分らもこれだけのカネを出したんですから、何度も根来には確認したんです。
そして、そういう内容、その際の態度などからも、私は黒川氏にもカネが行っているのは間違いないと思っています」
いざとなれば、これら日時、場所の黒川氏のアリバイを国会で追及するのもどうかというのだ。
この告発者がそこまでいう一つには、少なくとも根来氏はまったくの「いうだけ詐欺師」ではないからだろう。
実はA氏、国家公安委員長を務めたことがある2人の元大臣経験者のパーティー券を買わされたり、勉強会に出席させられてもいる。ただの詐欺師なら、そんなことはせず、前述のような顧問料を取る(しかも根来氏の会社に銀行振り込みされており、A氏との間に金銭支払いがあったことは疑いようがない)ことなどせずさっさとトンズラするはずと見る。 
また、根来氏の会社「コムテック西日本(代表・根来啓熙)」(大阪市西区)の前の住所の10階建ビルは約3年前まで自分がオーナーの会社が所有。そのビル9階には「企業コンプライアンス協会」という企業の危機管理を謳う任意団体があるが、根来氏はここの向敏志夫理事長と懇意。何しろ、A氏は根来氏の頼みでこの向氏にも毎月30万円の顧問料をしばらく払わされていたという。そして、その向氏は大阪府警OB。パートナーに多数の弁護士がいるし、また顧問には中山泰秀衆議院議員(自民党)が就いているのだ。
さらにいえば、根来氏がオーナーの前出の息子の会社は確かにハンナンが得意先である。また、同社はかつてマザーズに上場していたコイン制遊園地運営会社「ネクストジャパンホールディングス」(Jトラストが12年に吸収合併)の大株主に名を連ねていたこともある。
こうした事実関係からも、A氏はハンナンの浅田元会長ほどではないにしろ、根来氏も裏から表の世界まで幅広い人脈を持つそれなりの人物と信じたし、今も黒川氏にもカネが渡ったと信じているという。  
 

 

●山口敬之 
安倍御用記者・山口敬之レイプ疑惑がまさかの不起訴相当に! 2017/9/22 
到底承服できない不当議決だ。今年5月、"安倍官邸御用達"ジャーナリストで元TBS記者・山口敬之氏からのレイプ被害を受けた詩織さんが、異例の実名顔出しで記者会見に臨み、真相究明を訴え検察審査会に不服申し立てをおこなっていたが、昨日、東京第6検察審査会が「不起訴相当」と議決していたことがきょうわかった。
議決書では、〈不起訴記録及び申立人(詩織さん)の提出資料を精査し、慎重に審査したが、不起訴処分の裁定を覆すに足りる理由がない〉(朝日新聞より)としているというが、詩織さんは弁護士を通じて「判断をしっかり説明していただきたかった」とコメントを発表。まったくその通りで、審査ではどんな理由がなかったというのだろう。
これまで何度も指摘してきたことだが、そもそもこの事件には、目撃証言や防犯カメラ映像などといった証拠がしっかりとある。
詩織さんは山口氏と会食した際、それまで酒で酔いつぶれた経験もないのに突然、記憶を失ったという。最初に問題を告発した「週刊新潮」(新潮社)も、事件当日、山口氏と詩織さんをホテルまで乗せたタクシー運転手からこんな証言を得ている。
「女性は何度か"駅の近くで降ろしてください"と訴えていたのですが、男性が"何もしないから。ホテルに行って"とそれで、結局、2人をホテルに連れて行ったのですが、到着しても彼女はなかなか降りようとしませんでした。けれど最終的には彼女は体ごと抱えられて、座席から降ろされたんです」
さらに、ホテルの防犯カメラを捜査員とともに確認したところ、そこには詩織さんを抱えて引きずる山口氏の姿が映像に残っていた。このほかにも、ベルボーイの証言やDNA鑑定の結果も出ており、こうしたことから捜査を担当した高輪署は山口氏の逮捕状を請求、発行もされた。
意識を失った女性をホテルの部屋に引きずり込み、性暴力を働く。これは準強姦罪(準強制性交等罪)に該当する犯罪だ。これだけの証言・証拠があるにもかかわらず、今回、検察審査会が「不起訴相当」と議決したことはまったく理解できない。いや、性犯罪に対するこの国の司法の"甘さ"には、怒りを覚えずにはいられない。
しかも、この事件は許しがたいレイプ事件という側面だけではなく、安倍官邸が関与して捜査を握り潰した疑惑まである重大事件だ。
高輪署の捜査員は被疑者を逮捕するため、山口氏がアメリカから帰国する日に成田空港で待ち構えていた。ところが、その直前、上層部からストップがかかった。決裁したのは警視庁の中村格刑事部長(当時)。捜査ストップが中村氏の判断であったことは、「週刊新潮」の直撃に対し、中村氏本人も認めている。所轄が扱い逮捕状まで出た準強姦のような事件に、警視庁刑事部長が介入するのは異例中の異例であるが、この中村氏は"菅義偉官房長官の子飼い警察官僚"なのだ。
実際、中村氏は第二次安倍政権発足時に菅官房長官の秘書官を務め、菅官房長官から絶大な信頼を得ている。その証拠のひとつが、古賀茂明の証言だろう。
詳細は本サイトの既報を読んでほしいが、古賀氏が明かしたところによると、2015年、『報道ステーション』(テレビ朝日)で「I am not ABE」発言をおこなった古賀氏に対し、官邸は大激怒。中村氏はこのとき、番組放送中に報道局ニュースセンター編集長に電話をかけ、さらには「古賀は万死に値する」という内容のショートメールを送りつけたのだという。つまり、中村氏はテレビ局に直接圧力をかける"菅官房長官の片腕"であり"実行部隊"なのだ。
一方、山口氏は「安倍首相にもっとも近いジャーナリスト」と呼ばれる、TBS時代から安倍首相とズブズブの関係を築いてきた御用記者。安倍首相と昵懇の見城徹氏率いる幻冬舎から安倍PR本『総理』を出版し、本格デビューを果たした人物だ。しかも、この『総理』が発売されたのは、2016年6月9日。これは不起訴処分の決定が下される前のことだ。
この点について、鋭い指摘をおこなっているのが、芥川賞作家の中村文則氏だ。
〈そもそも、首相の写真が大きく表紙に使われており、写真の使用許可が必要なので、少なくとも首相周辺は確実にこの出版を知っている(しかも選挙直前)。首相を礼賛する本が選挙前に出て、もしその著者が強姦で起訴されたとなれば、目前の選挙に影響が出る。〉
〈でも、山口氏の「総理」という本が16年6月9日に刊行されているのは事実で、これは奇妙なのだ。なぜなら、このとき彼はまだ書類送検中だから。
しかもその(『総理』発売日の)13日後は、参議院選挙の公示日だった。だからこの「総理」という本は、選挙を意識した出版で、首相と山口氏の関係を考えれば、応援も兼ねていたはず。そんなデリケートな本を、なぜ山口氏は、書類送検中で、自分が起訴されるかもしれない状態で刊行することができたのか。〉(毎日新聞7月1日付愛知版)
そして、それは、山口氏がなんらかのルートを使って、起訴がないことを事前に把握していたからではないか、と中村氏は分析する。
〈山口氏が、絶対に自分は起訴されないと、なぜか前もって確実に知っていたように思えてならない。それとも、起訴にならない自信があった、ということだろうか。でも冤罪で起訴されることもあるから、一度は所轄が逮捕状まで取った事案なのだから、少なくとも、自分の不起訴処分が決定するまで、この種の本の刊行は普通できないのではないだろうか。〉
この指摘は重要だろう。事実、「週刊新潮」によると、同誌の取材をうけて、山口氏はある人物にこんなメールを送っていたからだ。
〈北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。〇〇の件です。取り急ぎ転送します。 山口敬之〉
黒塗りの〇〇は詩織さんの苗字が記されていたというが、問題はメールの宛名の「北村さま」だ。「週刊新潮」はこの「北村さま」が北村滋内閣情報官のことだというのである。北村氏は総理直属の諜報機関・内閣情報調査室(内調)のトップで、"官邸のアイヒマン"との異名をもつ安倍首相の片腕的存在。山口氏は「(北村というのは)民間の人物でご指摘の人物ではない」と否定していたが、北村内閣情報官は「週刊新潮」の直撃に「お答えすることはない」といっただけで否定はしておらず、状況から見て、北村内閣情報官以外にはありえない。
このように、山口氏と、警察官僚の中村氏や内調トップの北村情報官との関係を考えると、裏で官邸が動き、首相のお友だちである山口氏にいち早く不起訴を知らせていた(あるいは不起訴になるようにもっていった)可能性は十分あるといえるだろう。
しかし、事件自体に数々の証拠が揃っていながら、検察審査会はなぜかこの問題に蓋をしてしまった。じつは検察審査会では、安倍政権絡みの事件での不起訴に対する不服申し立てについては、同様の「不起訴相当」の議決がつづいている。かなり悪質だった甘利明・元経済再生相の金銭授受問題でも、証拠隠滅のためハードディスクをドリルで破壊した小渕優子・元経産相の政治資金事件も「不起訴相当」という議決だった。
検察審査会の審査員は、有権者からくじ引きで選出されるため恣意性があるとは思えないが、会議は非公開のため、どのように判断がなされたかはわからない。そのため、こうして疑問が出てくるのだが、もしかすると政治案件は起訴したくないという空気がここでも蔓延しているのだろうか。
ともかく、いずれにしてもこのまま有耶無耶に終わらせてはならない。森友・加計学園問題では、安倍首相および昭恵夫人による政治の私物化が浮き彫りになったが、もし、安倍首相の御用ジャーナリストのレイプ事件の捜査を官邸主導で握り潰し、不起訴処分という結果につながっていたとしたら、これはとんでもない問題だ。国家権力の関与によって、逮捕されるべき人が逮捕されないという異常な自体が起こっているのならば、もはやこの国は法治国家ではなくなるからだ。
卑劣なバッシングに晒されることを覚悟の上で告発した詩織さんの勇気を、けっして無駄にしてはいけない。 
「日本の秘められた恥」  伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送 2018/6/29 
BBCは28日夜、強姦されたと名乗りを上げて話題になった伊藤詩織氏を取材した「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」を放送した。約1時間に及ぶ番組は、伊藤氏本人のほか、支援と批判の双方の意見を取り上げながら、日本の司法や警察、政府の対応などの問題に深く切り込んだ。制作会社「True Vision」が数カ月にわたり密着取材したドキュメンタリーを、BBCの英国向けテレビチャンネルBBC Twoが放送した。
番組では複数の専門家が、日本の男性優位社会では、被害者がなかなか声を上げにくい状況があると指摘した。伊藤氏はその状況で敢えて被害届を出し、さらには顔と名前を出して記者会見した数少ない日本人女性だ。
伊藤氏は2015年4月に著名ジャーナリストの山口敬之氏に強姦されたと、警察に被害届を出した。最初の記者会見を開いたのは、2年後の2017年5月。山口氏の逮捕令状が出たにもかかわらず逮捕が見送られ、証拠不十分で不起訴処分となったことへの不服を検察審査会に申し立てたという発表だった。
番組は、伊藤氏が「すごい飲み方」で泥酔して吐いた、ホテルでのその後の性行為は同意の上でのことだった――という山口氏の主張や反論とあわせて、伊藤氏自身が語る2015年4月の経緯を、現場となった都内のすし店やホテルの映像などを差し挟みながら、詳細に紹介した。当時以来初めて現場のホテルを訪れた伊藤氏が、こわばった表情でホテルを見上げた後にしゃがみこみ、「これ以上ここにはいられない」と足早に立ち去る姿も映している。
ニューヨークでジャーナリズムを学んでいた伊藤氏は2013年秋、当時TBSワシントン支局長だった山口氏とアルバイト先のバーで知り合った。インターンの機会がないか問い合わせると、山口氏からプロデューサーの職を提供できるので就労ビザについて帰国中に相談しようと呼び出しがあったという。
日本酒を少し飲むと「気分が悪くなり、トイレで意識を失った(中略)激しい痛みで目が覚めた。最初に口にしたのは『痛い』だったかもしれない。それでも止めてくれなかった」と語る伊藤氏は、その後、ベッドの上で山口氏に覆いかぶさられ息が出来なくなった際に「これでおしまいだ、ここで死ぬんだと思った」と涙を流して語った。さらには、抵抗する自分に山口氏が「合格だよ」と告げたのだとも話した。
首相に近い人物
番組では山口氏について、事件当時は日本の有名テレビ局のワシントン支局長で、安倍晋三首相を好意的に描いた人物伝の著者だと紹介した。伊藤氏と山口氏を取材した記事を昨年12月に発表した米紙ニューヨーク・タイムズのモトコ・リッチ東京支局長は、山口氏と安倍首相の近い関係から「この事件に政治的介入があったのではと大勢が指摘している」と話した。
山口氏は疑惑を全て否定している。番組は、山口氏が出演したネット座談会を紹介。山口氏はそこで、伊藤氏が泥酔していたため仕方なく宿泊先のホテルへ招いたと話した。また番組は、性行為はあったが合意の上だったという同氏の主張も伝えている。
番組はその上で、日本の刑法では合意の有無は強姦の要件に含まれていないと説明。暴力や脅迫があったと証明しなければ日本では強姦とは認められないことにも言及し、性暴力の被害者の多くが実際には恐怖で身がすくんで抵抗できず、助けを呼ぶこともできないことにも触れた。合意のない性行為はたとえ知人相手でも強姦なのだという、欧米では徐々に常識となりつつある考え方について、日本の大学生が教わったことがないというやりとりも紹介した。
また、日本の強姦罪(現・強制性交等罪)は2017年の法改正まで100年以上変わらず、強姦は窃盗より刑罰が軽かったなど、日本社会で性暴力が軽視されてきたことも法律の専門家などのコメントを通じて語った。
番組はさらに、日本で性暴力の被害者が事件後にいかに苦しむかも、伊藤氏や、伊藤氏が訪問した別の日本人女性を通じて紹介した。
伊藤氏は番組で、都内唯一の性暴力被害者の支援センターを訪問した。自分の被害直後に電話をしたが、直接来なければ相談を受け付けられないと言われた場所だという。番組によると、この被害者支援センターは東京都の人口1300万人に対して担当者が2人体制と人員不足が目立ち、暴行直後に法医学的証拠を残すための「レイプキット」も提供できていない。
番組はこのほか、警察の問題にも触れている。日本の警察における女性警官の割合はわずか8%で、伊藤氏が事件直後に被害届を出した際も男性警官に被害の詳細を証言しなくてはならなかったこと、複数の男性警官の前で警察署内の道場のマットに横になり、等身大の人形相手に事件を再現させられたことなどが取り上げられた。
「男性警官が人形を私の上に乗せて上下に動かし、こういう様子だったのかなどと確認された」と伊藤氏は話し、番組は、警察のこの捜査手法をセカンドレイプだと非難する声もあると指摘した。
女としての落ち度
2017年5月、伊藤氏は検察審査会に不服を申し立てるとともに、記者会見でこの事実を公表した。それ以降、伊藤氏がソーシャルメディアなどで激しい中傷や非難を受け続けていることや、伊藤氏の家族も中傷にさらされていることなども、番組は紹介した。伊藤氏が簡易版の盗聴探知機を買い求め、自宅内を調べてみる様子も映し出した。
一方で番組は山口氏を擁護する人物として、自民党の杉田水脈議員を取材した。杉田議員は、ネット座談会などで伊藤氏を強く批判している。
番組の取材に対し杉田議員は、伊藤氏には「女として落ち度があった」と語った。
「男性の前でそれだけ(お酒を)飲んで、記憶をなくして」、「社会に出てきて女性として働いているのであれば、嫌な人からも声をかけられるし、それをきっちり断るのもスキルの一つ」と杉田議員は話している。議員はさらに、「男性は悪くないと司法判断が下っているのにそれを疑うのは、日本の司法への侮辱だ」と断言。伊藤氏が「嘘の主張をしたがために」、山口氏とその家族に誹謗中傷や脅迫のメールや電話が殺到したのだと強調し、「こういうのは男性のほうがひどい被害をこうむっているのではないかと思う」と述べた。
番組はその一方で、山口氏と安倍首相との関わりから、野党議員の一部が警察捜査を疑問視して超党派で「『準強姦事件逮捕状執行停止問題』を検証する会」を立ち上げたことも触れた。野党議員が国会で安倍首相に、逮捕中止について知っていたかと質問し、首相が個別案件について知る立場にないと反論する映像も紹介した。
「黙っているよりはずっといい」
個別案件ではなく、日本政府の性暴力対策全般について、番組は指摘を重ねた。
政府は昨年、初となる性犯罪・性暴力被害者支援交付金を設置し、今年度は1億8700万円を振り向けると発表した。しかし番組によると、日本の半分の人口しかない英国では、被害者基金の予算はその40倍だという。
日本政府は2020年までに各都道府県に最低1カ所の支援センターを設置する方針だが、20万人当たり1カ所という世界基準に沿うならば、日本には635カ所必要になる。
伊藤氏が内閣府男女共同参画局を訪ね、これについて質問すると、内閣府の職員は「検証が必要だろうと思う」と答えた。
2017年9月に検察審査会が山口氏を不起訴相当としたため、山口氏の刑事責任を問うことは不可能になったことも、番組ははっきりと伝えた。不起訴相当の知らせを受けた伊藤氏や家族の反応、その後さらに民事訴訟で損害賠償を求めていく様子も伝えている。
それでも、昨年秋に米映画プロデューサー、ハービー・ワインスティーン被告(強姦および性的暴行罪で逮捕・起訴)への告発から広がった「MeToo(私も)」運動を機に、伊藤氏への支持が日本国内でも広がったことを番組は説明。伊藤氏も変化を感じていると番組で話した。
「何か動きを起こせば波が起こる(中略)良い波も悪い波も来るが、黙っているよりはずっといい」 
 
 
 

 



2020/7
 
●これが黒川検事長500万円賄賂疑惑の証拠録音記録 2020/3 
日本タイムズ・本紙は3月号で「安倍政権を直撃、黒川検事長の500万円賄賂疑惑」なるタイトル記事を報じた。
東京・六本木のキャバクラ女性引き抜きを巡り発生した傷害事件は別件、同じ「ハンナン浅田元会長の秘書」だった根来浩司氏が加害者側から工作を依頼され、安倍政権にとって大きなダメージの一つになっている定年延長問題で渦中の黒川弘務東京高検検事長にも500万円渡すといわれ支払ったという重大疑惑。
本紙が加害者側のこの証言を信じ、報じたのは、根来氏が松原仁衆議院議員(元国家公安委員長)を介して黒川氏に会ったなどと言っている、今回公開する録音記録などを入手していたからだ。
ただし、この録音記録に出て来る「500万円」は、キャバクラ女性引き抜きを巡り発生した傷害事件とは別件、同じ18年に事件化した東京医科大学に便宜を図る見返りに文部官僚の息子を裏口入学させた贈収賄事件で、贈賄罪に問われた臼井正彦理事長(当時)が、文部官僚同様に逮捕ではなく、在宅起訴にしてもらったお礼に根来氏が出したとされる金額。なぜ、500万円を臼井理事長ではなく、根回しに動いた根来氏が出したかといえば、根来氏からすれば心臓病手術で臼井理事長は命の恩人だからだ。
この録音記録は、前述の傷害事件で根来氏が上京し、根回しに動くなか、依頼者側関係者が運転手を務めており、その運転手と根来氏の2人だけの車中の会話。依頼者側と2人だけの密室、また東京医大の贈収賄事件が世間を騒がせてほどない時期だけについ気が緩んで話したのではないか。
しかし、本紙は他の証拠、傷害事件での依頼者側の証言の信ぴょう度などを精査した結果、信じるに足ると判断。もちろん、公益性があることはいうまでもなく、この約16分の録音記録の主要部分をここに公開する。
複数の関係者への取材結果で、根来氏が法務省にかなりの人脈を持つことは明らか。その点も加味し、根来氏の「戯言」との言い分は言い逃れに過ぎないと判断した。  
「松原代議士を介して黒川氏に接触」 
(前略)
根来: ともかく10日しか先生(=松原仁。編集部注。以下、先生はすべて同)アカンヨ言うた、そうでなかったらずっと逃がすで、したら俺聞かんかったことにしてくれ。
●●: あー、やっぱりそういいますよね、先生。
根来: 聞かんかったことにしとくれと、先生 10 日で出してくれ、出すからそれ交渉してくれいうた、それも含めて話しすると、とにかく冤罪事件つくったらあかんやないかと、コイツどうしようもないらしいわいうたら。
●●: 上田(検事。*編集部注) 。
根来: 上田、それどうしようもないやつらしいよ言うたら、それも話すると、誰とは言えへんかったけどな、考えて俺と会うわって言うとったから、多分黒川(弘務。当時は法務省事務次官。*編集部注。以下、黒川同)。
●●: あ、松原先生が誰と名前は言わないということですか?
根来: 言わなかったけれども、黒川いうのおるやんか。
●●: さっき言ってた、、、 。
根来: うん。
●●: 法務・・・偉い人、
根来: 一番やこれ以上偉いのおれへん、日本中探してもおれへんのやんけ、あの〇〇〇のものすごい警戒しとる、書いたもんでもな、名前、何々様とか、だから俺も書いてない、あれ消してくれ言うねん。
●●: はあ・・・ 。
根来: あれは書いてなかったからええんやで、あの、これ事実だから、たとえば松原先生とか、根来とか、いうのはもう消してくれいう、だから FAX あかんよいう。
●●: 名前が出るから?
根来: 残るやろ、ほんで来てくれ言うんや、前はそれでも良かったんや、いまはゴッツイ警戒してる、なんでか言 うたらな、万が一こういうことがあったときに、蓋空いたときに自分たちもいかれるやん。  
「証拠が残らないように携帯を預けて」 
●●: 蓋が空いた時に自分たちもいかれる、何か不正が暴かれる。
根来: そうそうそうそう、議員の場合は請託とかいろいろあるやんか、やってはいけないこと、請願はええんやで、受けるやつはええんやで、人の悩みを聞くことは、政治家やからね、それを圧かけてやったらいかんということや、それがなんだかでバレタ時は自分の首が飛ぶという、黒川さんなんか特に役人やからな、俺らと飯 食うてても、こんなんやで、携帯、いま録音できるやろ、預けてくれいうてん。
●●: ええ?
根来: 預けてくれいう。
●●: 携帯を?
根来: うん、預けてくれって自分もやで、本人も。
●●: ええええええええ。
根来: いまそんなんやで、食事するときでも、料理屋で飯食うやんか。
●●: はい、何処に誰に預けるんですか?
根来: そこへや。
●●: すごいですね。
根来: いまそんだけ警戒すんねんて。
●●: 証拠が残ったらいかんからですか?
根来: いま録音なんか簡単にできるやんか。
●●: もういま、こういう腕時計でもできますね。
根来: ああそう。
●●: ピィっと押したらもう。
根来: だからもうそんなんね。
●●: 腕時計、会長ボールペンあるじゃないですか、ボールペン置いとってカチってやったらそれで録音できるんです。
根来: ああそう。
●●: はい、気を付けてください。
根来: 俺いまこないだな、紀尾井町のその角あるやん、ニューオオタニの角の、あそこの料理屋で松原先生と黒川さんと、飯食うたんや。
●●: そうなんですか。
根来: おお、その時言われたんや、全員がやで、俺だけじゃないよ、黒川さんもそうやし、松原さんもそう、俺 もそう、こんな箱あるやんか。
●●: はいはいはいああ、貴重品入れみたいな。
根来: そうそう、これに悪いけど入れて。
●●: そんなんですね。
根来: ねえ先生、こんなんしてせな飯食わな、いまそうなったんよ。
(中略)  
「東京医大裏口入学巡る贈収賄事件」 
根来: 今度行くときそれ(=小さな録音機。*編集部注)持ってくわ(笑 こんなん言うんやで、なにもね、お互い疑ってるわけじゃないよいうて、だけど、瑕疵が残らんように。
●●: はい?
根来: 瑕疵、傷が残らんようにお互いにしましょうや。
●●: でもそんなの食事に行ってるとこメディアに撮られたら終わりですよね?
根来: 関係あらへん、飯食うの。
●●: 内容が分からなかったら良い?
根来: そうそう。
●●: これお願いしますよとか話じゃなかったら・・ 。
根来: いやいや雑談やんか、飯食いながら雑談 。
●●: ああ・・・。
根来: 俺は仕事の話したよ、だけど、それが瑕疵がない、後に残ったら困るということや、せやから俺は良いですよ、結構ですよ言う、松原さん言うた、いまうるさいんやー言うて、あのね、このあいだの東京医大の谷口 いうてな、あいつがみんな飯の時のテープ録っとったんや、それで検察に捕られてもうたんや、ほんで起訴されたんや。
●●: 食事行っただけでですか?
根来: 食事行った時の内容や。
●●: 内容録られてたんですか?
根来: 谷口いうのおるんや、医療ブローカーが、コイツがみんな録っとったんや、京王プラザでな、上で飯食うたんよ、臼井さんと、事務の官房長や、文科省の、それと谷口が飯うた、それテープ録っとったんや、それ検 察に押収されてん携帯、逮捕された時にな、携帯押収されてそのテープや。
●●: ああ、そん時の会話が。
根来: 会話、その時に、うちの息子な、どこの大学行ったら一番ええかなて言うてんのよ、文科省が、臼井さんが、うちの大学入れたらどうって?うちの大学受験したらどうって言うた、それしかないんや会話。
●●: もうそれでダメなんですか?
根来: それで入ったやん裏口で。
●●: それがアウト?
根来: それが結局点数足らんのに入って、で予算を取ったと、東京医大に、それやん、贈収賄、テープだけやん ほんでこの谷口いうやつ、こいつものすごいしっかりしとって、調書1枚もとってない、で、起訴されてもうた、証拠それしかない。
●●: その携帯だけで?
根来: 録音、喋ってることがな、文科省の息子がな、前川ちゃう、なんていうたかな、この人が NO3 や文科省の、ほんならその自分の息子な、うちで入れてもらうために、予算を取ったと、こういうことや、ここに弘中いう弁護士入っとるんや、こいつな、西の後藤か東の弘中いうて無罪とる弁護士やねん、ひょっとしたら無罪 なるかもわからん。
●●: ええええええ、臼井さんがですか?
根来: 臼井はならへん。  
「逮捕のところを在宅起訴のお願い。黒川氏と食事」 
●●: 臼井さんは自分で言ってるんですよね?
根来: 言うてない、在宅にしてくれって頼んだ、認めるからいうて、認めるんで在宅や、逮捕されてないよ。
●●: 起訴された奴が無罪になるかもわからんと?
根来: なる可能性ある、臼井さんはならへんで、自分で認めてんのやから、認めるんで在宅でお願いします言うたんや、で、在宅にしてもろうたんよ、パクれへんかったんや、臼井さんそれでええって言うから、逮捕されてな、もうこれ90日、もう100日やいま、未だに接見でけへん、否認してるからや。
●●: しんどいですね。
根来: そりゃ覚悟のうえやろ、俺臼井さんに電話したら根来さん俺認めるんで言うからな、認めるんやったら俺お 願いするとこあるんで、在宅で頼みますわ言うたら、根来さん是非そうしてくれ言うから、ほんで在宅に、ゼーンブ逮捕されへんのやから。
●●: すごいですね、逮捕されないっていうのが、あれだけの報道が出てあんだけんなって在宅でするってのがす ごいことですね。
根来: それが黒川さんがしてくれたんや、その時や俺飯食ったの。
●●: そうなんですか。
根来: お願いします言うて。
●●: そんな力があるんですね、、、。
根来: そりゃ法律家の一番やもん。
●●: でもあんなテレビで大々的にやったことをそんな在宅にしたら、何かの力が働いたいうの誰でもわかること、、、。
根来: 誰でもわかるけど、誰がやったかわからいえん。
●●: そんな無理をそんな偉い人が聞いてくれるんですね、、、。
根来: 俺の頼みやったら聞いてくれへんで、松原が一緒で、やったってくれやー言うて、その時も言うた、無理言うなよー言うたんや、無理言うなよー・・・て言われた、無理言うなよー仁ちゃんて言われたんや、何とかお願いします言うた、それが飯食う、その時にあれやんけ、携帯預けてくれて言われた。
●●: あああ、そんなもん残ったら大変ですもんね。  
「命の恩人なので、自分が500万円だけ払った」 
根来: 自分の首飛ぶやんけ、それで紀尾井町の飯屋で飯食うたんや、その時の正直な話な、臼井さんから俺は金貰うてないねん、俺の命の恩人やから、俺命助けて貰うた先生やねん、その時も俺 500 万しか持って行ってないんや。
●●: 会長がお金出したんですか?
根来: 俺出したよー、臼井さんが礼させてもらう言うてくれてんで、いや、もう結構や言うて、あの時も痛かったよー俺、そやけどな、俺命を救ってくれた先生やねん、この人は、ほんまやったら俺死んどったんよ、この先生に助けてもろうたんや。
●●: もう本当に死ぬ、、、。
根来: 死ぬ間際や、それ東京医大で助けてくれたんや、その時まだ、臼井先生学長の時やねん、東京医大の、それが理事長にまで上り詰めて、その代わり一瞬にして終わったやんけ、今度で、いままでやってきたキャリア 飛んでもうたんや。
●●: 勿体ないですね、、、勿体ないいうても、、、もうどうにもなりませんもんね、、、。
根来: そやけど本人は物凄い喜んでんねんで、根来さんのお陰や言うてな、本人が特捜に呼ばれたんやいうて息子から電話あってん、臼井の息子から、これも医者やねん、で分かったいうて、先生の携帯言うたら、もう携帯な、盗聴されてるか分からんて言うて、で、息子がお父さんの家行って、それで代わって俺と話しとった んや、ほんでもう全部認めますんでーて、本人がやで、もう聞かれてることやバッジのことと、聞かれてるんで、もう全部正直に話ししますんで、ほんならわしあれですわ、先生を在宅取り調べで、その代わり毎日 呼び出しきたら行かなあきませんよ言うて、検察庁へな、そういうことでお願いできますわ言うて松原さん に頼んで、面会あの、黒川さんと飯食うて欲しいんや言うて、頼んだんや。
●●: やっぱり松原先生ってそんな話聞いたらメチャクチャ力あるんですね、、、 。
根来: あのね、力あるってこれだけやで、警察と、法務省だけ、他はないよ。