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●一般社団法人サービスデザイン推進協議会 1 |
2016年5月16日、広告代理店電通、人材派遣会社パソナ及びITアウトソーシング会社トランス・コスモスによって設立された団体である。
事業受託実績に、以下のものがある。
● 2016年8月 経済産業省中小企業庁「サービス産業海外展開基盤整備事業(おもてなし規格認証)」 - 4700万円
● 2017年度 経済産業省中小企業庁「中小企業・小規模事業者人材対策事業『カイゼンスクール』実施」 - 400万円
● 2018年2月 経済産業省「サービス等生産性向上IT導入支援事業(事務局運営業務)に係る補助事業者」〔一者応募〕 - 8億7800万円
● 2019年2月 経済産業省中小企業庁「平成30年度第2次補正予算『事業承継補助金』の事務局」〔一者応募〕 - 37億7700万円
● 2019年3月 経済産業省「サービス等生産性向上IT導入支援事業(事務局運営業務)に係る補助事業者」〔一者応募〕 - 38億5700万円
● 2019年4月 経済産業省「平成31年度『女性起業家等支援ネットワーク構築補助金』事務局に係る補助事業者」
● 2019年4月 経済産業省「平成31年度『女性活躍推進のための基盤整備事業(女性起業家等支援ネットワーク構築事業)』」
● 2020年2月 経済産業省「先端的教育用ソフトウェア導入実証事業事(事務局運営業務)に係る補助事業者」〔原文ママ、一者応募〕
● 2020年5月 経済産業省中小企業庁「持続化給付金」 |
あまり参考にならない情報だが、当団体のwebサイトの「事業内容」欄では『「新たなサービスデザインとその市場創造」を目的に各種事業を行う』などと謳われており、その下に5つほどの項目が列記されている。
● 実態の無い「代表理事」
なお「代表理事」の笠原英一は、共同通信の取材に対しても「この案件(=「持続化給付金」)の執行権限がなく、細かいことは分からない。元電通社員の理事に委任している」と答えた。なお、TBSのサンデージャポンが当団体で「代表理事」として名前が挙げられている笠原英一に直接、電話取材を行ったところ、当の笠原英一は『私はあくまで「お飾り」です』、『私は、サービスデザイン推進協議会が持続化給付金の仕事を受注していたなんて、全然知りませんでした』と答えた。
● 決算公告の不実行
当団体は、法律でやらなければいけないと定められている決算公告を、設立以来(2020年夏まで)ただの一度も行っていなかった。
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●一般社団法人 サービスデザイン推進協議会 2 |
経済のサービス化、デジタル化が急速に進む経済社会において、様々なサービス産業のデザインの付加価値を高め、より効率的なものとするデジタル化を推進し地域の新たな成長と発展を創造してまいります。
設立 2016年5月16日
代表理事 笠原英一 (2018 - 2020)
主要機関 理事 8人
本部 中央区築地3丁目17番9号 興和日東ビル2階
目的
経済のサービス化等経済的社会的環境の変化から生じる市場経済の課題解決に向け、新たなサービスデザインとその市場創造を目的とし、その実現のため、次の事業を行う。
1) 経済のサービス化等の市場経済の課題解決に向けた社会的に必要とされる先進的な技術・製品・サービスを活用したサービスデザインとそれによる生産性向上や市場創出を図るために、民間サービスや市場の調査・分析、課題を抽出する事業
2) 新たなサービスデザインとそれによる生産性向上や、市場創出に向けて課題を解決するために必要な規格や認証制度等を含む政策や施策、仕組み、プラットフォーム等を立案・設計・運用する事業
3) 前各号を実行するために専門領域や専門分野を超えて官民が連携して必要な事業やプロジェクト、ファイナンス等を組成する事業
4) 前各号の事業を通じて得られた知見を用いた、新たなビジョン・事業モデル等の提唱・構築、企業・団体等への知見提供及びコンサルティングに関する事業
5) 前各号に掲げる事業に附帯又は関連する以下の事業 1情報の収集、分析、管理及び情報処理サービス業
2 各種マーケティング業務
3 広報に関する企画及び制作業務
4 イベント、セミナー等の企画、制作、実施運営の業務
5 コンサルティング業務
6 民間企業の事業開発の企画、立案業務
7 基金の設置、運用、管理業務
8 協議会、委員会、コンソーシアムの組成、運用業務
9 国内外関連機関との交流、連携、共同事業の実施、事業運営及び業務の受託
10 前各号に掲げる事業に附帯又は関連する事業
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●「持続化給付金」事務局の謎めいた正体を考える |
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●一般社団法人サービスデザイン推進協議会とは何者か 5/2
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●はじめに
2兆3,176億円という壮大な予算額を計上し、2020年5月1日より受付が開始された政府の「持続化給付金」。所管は経済産業省(正確にはその外局たる中小企業庁)ですが、経産省はその執行にあたって「民間団体等に委託する」旨を、当初から明らかにしてきました。
民間団体への委託規模としては、類例を見ないほどに巨額のお金(しかも国費)が動く、今回の持続化給付金。しかも委託先にはその事務費(手間賃)として約769億円が支給されます(記事の5をご覧ください)。政府による布マスク配布事業の2倍近いお金が、一団体に流れ込むというのです。
令和2年補正予算案のもう一方の目玉であった10万円の一律給付(特例定額給付金/総務省所管)については市区町村を介しての給付となりましたので、民間委託はこちらのみ。委託先はどこが選定されるのか、(わたくしどもの)注目を集めておりました。
明けて2020年5月1日。
持続化給付金 公式ページがオープン。申請方法の案内・電子申請のガイダンス等などの情報を見つつ、トップページをスクロールしていくと、一番末尾に委託先の表示がありました。
そこに表示された持続化給付金の政府委託先の名は「一般社団法人 サービスデザイン推進協議会」。経産省肝いりの「おもてなし規格認証」の元締め(認定団体)として知られる民間団体です。これまた経産省肝いりの「IT導入補助金」の事務局として、過去数年間にのべ数十万社の中小企業を相手としてきた経験があり、数百万の中小企業および個人事業主を相手とするであろう、今回の事業については打って付けの選定とも思われます。
ただ、この団体は不思議な組織で、これだけ大規模な委託事業を手がけながら、団体自身の公式HPを持っておりません。service-design.jpの名でURLを見てみると、そこにあるのは上述の「おもてなし規格認証」の公式ページ。軽く調べてみても、組織自体が一体どういう構造なのかが全く判然とせず、狐につままれた様な思いでした。
この記事では、謎めいた政府委託先「一般社団法人 サービスデザイン推進協議会」について、その正体を考えていこうと思います。
※5月10日、<第二弾>「資金の流れから一般社団法人サービスデザイン推進協議会の実態を考える」を公開しました。
※5月16日、<第三弾>「一般社団法人サービスデザイン推進協議会の裏側に潜むもの」を公開しました。
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●公開情報から見る一般社団法人サービスデザイン推進協議会
まずは公開情報から見て参りましょう。社団法人、財団法人、営利法人(株式会社など)の別を問わず、最も頼りになる公開情報は会社/法人登記簿です。法務省の法務局(登記所)へ行けば無料で見られますが、このご時世に三密きわまる法務局へ行くのは避けたいところ。民事法務協会の登記情報提供サービスで有料閲覧をすることにしました。
・・・さぁて、理事の欄は誰かなぁ?
本当は設立時社員(設立者。普通の会社でいう発起人)の項目が見られれば良いのですが、残念ながら登記簿には記載されません。そこで理事(普通の会社でいう取締役)の構成から、出資者を想像していくことになります。
「株式会社電通(東京都港区)」は複数人、「トランス・コスモス株式会社(東京都渋谷区)」や「日本生産性本部(東京都千代田区)」の出身者も見受けられ、これだけで既に理事の過半数を占めています。・・・やぁみなさん。雁首を揃えていらっしゃいますねぇ。
つまり、一般社団法人サービスデザイン推進協議会とは、各社の共同によって設立されたJV(ジョイント・ベンチャー)であると言うことが出来そうです。公共事業その他の建設業ではよく見かけるJV方式ですが、純然たる公共政策分野でもJVが存在するとは、新鮮な驚きでした。
たしかに「サービスデザイン推進協議会」で検索してみると、代表理事こそ笠原英一博士(アジア太平洋マーケティング研究所)ですが、一般の企業におけるCOOに当たる業務執行理事には電通の平川健司氏が就いており、そのことは経産省×事務局のインタビュー記事(画像3)や電通報(画像4)からも確認できます。
また、サービスデザイン推進協議会の職員について調べてみますと、グループ長として「株式会社パソナ(東京都千代田区)」の吉田達志氏の名前を見ることが出来ます。
そしてインターネットにおける「.jp」アドレス(JPドメイン)の管理団体であるJPRSのWhoisページで「service-design.jp」のドメイン情報を照会してみると、またしても、見たことのある企業名が出てきます。
ドメイン名や管理者情報をそのまま貼るのは望ましくないため、画像は貼りませんが、検索タイプを「ドメイン名情報」、検索キーワードを「service-design.jp」として、検索いただければ一発です。
表示されるサーバー名、何とは申しませんが、www.dentsu-em1.co.jp が公式HPアドレスであった「電通イーマーケティングワン(現:電通デジタル)」を強烈に想起させるお名前ですね。委託もしくは再委託でもお受けになったのでしょうか。
なるほど各社は社員(普通の会社における株主)としての活動のみならず、その構成員を派遣したり、再委託を受けたりするなど、運営にもしっかりと関わっている模様です。
では、ちょっと深掘りしてみましょう。 |
●過去の情報から見る一般社団法人サービスデザイン推進協議会
人物や法人について調べる際、ポイントとなるのは対象者の来歴を遡ることです。出来うる限り古いデータ、最古の情報を見つけ出し、これを起点として現在に至る経緯を見ていくことが重要になります。
サービスデザイン推進協議会の様な法人の場合、最古の情報となるのは、人間で言う生年月日に当たる「設立年月日」です。そして、それは平成28年(2016年)5月16日のことでした。国税庁の法人番号公表サイトによると、その二日後、平成28年5月18日には法人番号が指定されている様です。
それでは2016年の設立当時の情報がどこかに残っていないか、探してみましょう。ここで頼りになるのはアメリカのNPO「インターネットアーカイブ」が全世界に提供しているサービス WayBack Machineです。ウェイバックマシーンの中には、実に4,000億を超えるウェブページの履歴(スナップショット)が収集保存されています。
これでサービスデザイン推進協議会を見てみると・・・。
ビンゴ!2016年の設立当時の情報が出てきました。
これによると「本サイトは、平成27年度サービス産業海外展開基盤整備事業費補助金(おもてなし規格認証に係る認定機関及び認証機関立ち上げ・運営支援)を受けて一般社団法人 サービスデザイン推進協議会が運営しています。」との注意書きがあります。
フムン。「平成27年度サービス産業海外展開基盤整備事業費補助金」ですか・・・。
この事業について調べてみると、経済産業省の平成27年度補正予算案の概要の中にその名前があるため、間違いなく経産省の事業であることが分かります。そして「平成27年度サービス産業海外展開基盤整備事業費補助金」については(海外情報発信事業)など他の種別については現在も経産省のサイト内に掲載データが残っている一方で、種別(おもてなし規格認証に係る認定機関及び認証機関立ち上げ・運営支援)については、創業手帳のサイトなどに公募情報のログがあるにもかかわらず経産省のサイトからは削除されています。
何か後ろ暗いことでもあるのかしらん・・・と下衆の勘繰りをしつつ、再びウェイバックマシーンの出番です。時間を2016年5月まで巻き戻し、経産省のサイトを見てみると・・・・ありました。
平成28年5月16日付公募情報「平成27年度補正予算「サービス産業海外展開基盤整備事業(おもてなし規格認証に係る認定機関及び認証機関の立ち上げ・運用支援等)」の公募について」です。
これによると、その公募期間は「平成28年5月16日(月曜日)〜平成28年6月14日(火曜日)」とされており、「募集要領で定める条件を満たす者」から選考されるということでした(画像8)。取り立てて言うことのない、一般的な公募の様式と言えそうです。
しかし、その公募期間の始期を見て、一瞬、情報をクロールする手が止まりました。「平成28年5月16日」ですって!? 元号を西暦に置きなおすと、つまりは「2016年5月16日」。それは他ならぬ、サービスデザイン推進協議会の設立年月日です。
その日に生まれたばかりの法人が、国家官庁の公募に応募し、見事一発合格。しかも、その公募の開始日は設立年月日と同一。公募終了の翌日には補助金の交付も受けないうちに、早々とドメインを取得しています。
中央省庁の入札に参加したことがある方ならお分かりでしょうが、応札や応募には、ばく大な書類と計画の立案が必要です。三菱総合研究所や野村総合研究所といった第一線級のシンクタンクなら別段として、生まれてゼロ日の法人が、1ヶ月も無い公募期間のうちにすべての書類を備え、しかも公募を勝ち抜くことなど、到底考えられないことです。
しかし、その考えられないことが現実に起きました。もしかしたら応募者全員合格的なユルユルの公募だったのでしょうか?・・・さにあらず。補助金の交付先については、情報公開を行うことが求められていますが、経産省の場合、予算執行に関する情報開示のページで情報公開を行っています。
この内、(おもてなし規格認証に係る認定機関及び認証機関立ち上げ・運営支援)の予算が執行されるのは、公募期間終了後の平成28年7月ですから、開示されている「平成28年度4月〜9月」のエクセルファイルを見てみると以下の通りです。
(おもてなし規格認証に係る認定機関及び認証機関立ち上げ・運営支援)事業には「サービスデザイン推進協議会」ただ一者のみが選定され、4,680万円に及ぶ補助金が交付されています。図の上に、福島第一原発事故で警戒区域に指定され、避難を余儀なくされた「福島県広野町」や「福島県楢葉町」への交付金が載っていますが、広野町が1,314万円、楢葉町が2,628万円であることに比べると交付金額は雲泥の差です。
額のことは兎も角、公募初日に設立された団体が、みごと補助金を獲得するという奇妙な現象が生じていることは明らかになりました。一体全体、そんな偶然があるものでしょうか?
これについて参考となるのが、おもてなし規格認証がはじまる以前、その助走として経済産業省部内で開かれていた「おもてなし規格認証(仮称)に関する検討会」(平成27年11月〜平成28年3月)です。その議事要旨や配布資料は、経済産業省の審議会・研究会のページ「ものづくり/情報/流通・サービス」にて見ることが出来ます。
最終回となった第4回の配布資料を見てみましょう。資料4 事務局説明資料では、この規格が民間規格として運用されるべきこと(p.7)、その規格の管理者兼認定機関は複数の機関ではなく1機関が担うべきこと(p.8)、今後認証の手引きを準備すること(p.9)に続いて、p.10には「認定機関に求められる要件」を設定することが書かれています。
「認定機関に求められる要件」とは、この2ヶ月後、平成28年5月に公募され、サービスデザイン推進協議会が選定されることになる(おもてなし規格認証に係る認定機関及び認証機関立ち上げ・運営支援)の審査基準のことですが、さて、この審査基準や検討会の資料を準備していくのは一体誰でしょうか?
霞が関における人手不足は深刻で、何らかの政策を立ち上げ、いざ実行しようとしても官僚だけでは(国会対応その他に追われて)賄い切れないのが現状です。恨むべきは行財政改革であったり、それを支持した国民なのかもしれませんが、それはともかく、慢性的な人手不足を補うために、各省庁はシンクタンクその他の機関へ委託を出し、政策立案に当たっての調査や資料作りを手伝ってもらうことが常態化しています。
その現状は長年ブラックボックスの中でしたが、谷垣禎一財相時代に発出された財務省通達「公共調達の適正化について(平成18年8月25日付財計第2017号)」により、調達過程の透明化や公表が図られるようになりました。経済産業省の場合は「入札結果・契約結果」のページから、誰が、どんな金額で請け負っているのかを見ることが出来ます。
例えば「落札情報」のページを開いていただき、「物品役務等」の様目や「契約の相手方」の項目をご覧ください。この現状をご存じない方におかれては、想像以上に多くの調査や事業が国からアウトソーシングされており、名だたる企業がそれにぶら下がっている状況に驚かれることでしょう。
そして見知った企業の名前が、よりにもよって「おもてなし規格」に直結する事業の委託先として登場することに気づいた時、「あっ!」と声を上げてしまうかも知れません。
「平成27年度補正サービス産業海外展開基盤整備事業(おもてなし規格認証(仮称)に係る普及促進及び当該規格認証に関する実態調査等)」。契約日は「2016年3月24日」。受託者は「株式会社電通」。認定機関の公募開始よりも50日以上前のことです。
この時点で電通は、おもてなし規格認証(仮称)について知り得る立場にありました。
おもてなし規格認証の淵源は、日本生産性本部の60周年記念パーティにおける安倍首相の発言「サービスの質を「見える化」する仕組みも広げていきます。」(首相官邸の首相動向ページ)に求めることが出来ますが、日本生産性本部が他ならぬ経産省の所管団体であったことに鑑みると、当然ながら経産省の政策が考慮されていると解釈するのが自然です。
経産省と電通の委託契約から約100日後。そんな"国策"の推進機関として、電通出身者が理事の大分を占める一般社団法人が選定されました。
これは限りなく「出来レース」に近いと言う他無い事態であり、公募という形態を取る趣旨や、補助金の公正な使用を求めた補助金適正化法第3条第1項に反するとも捉えられかねない事態ですが、仮に「出来レース」であった場合、それを主導したのは誰か。
電通をはじめとした各社か、それとも経産省主導による「官製談合」まがいの行為なのか。首謀者は誰であるのか、気になるところです。
そこに登場するのが、一般社団法人サービスデザイン推進協議会の定款でした。
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●定款は語る
定款とは、法人の設立時に必ず必要となる、その法人の基本プログラムの様なものです。株式会社の場合は会社法第26条以下、合名会社、合同会社、合資会社の場合は会社法第575条以下、一般社団法人の場合は社団財団法の第10条以下、一般財団法人の場合は社団財団法の第152条以下に定めがあります。
一般社団法人サービスデザイン推進協議会の場合、親切なことにおもてなし規格認証の運営者情報のページで定款を公開してくれておりました。
そのリンクには「定款(平成28年12月13日制定)」と書いてあります。しかし設立は「平成28年5月16日」だったはず。これは如何に?と思われるかも知れませんが、その疑問を解く鍵は国税庁にあります。
上記は国税庁法人番号公表サイトにおける一般財団法人サービスデザイン推進協議会の公表ページです。これによると、平成28年12月22日に「本店又は主たる事務所の所在地の変更」を行っており、東新橋(港区)から築地(中央区)へと移転しています。確かに設立当初の記載(画像6)と上記画像17を見比べていただくと、その通りに移転しているのです。
定款には主たる事務所の所在地の記録が必要(社団財団法第11条3号)ですので、リンクにある「平成28年12月」の制定日とは、事務所の移転に先立って定款を改めたもの、と言うことができそうです。
実際、定款を開いてみると第3条に「当法人は、主たる事務所を東京都中央区に置く。」との記載があるのでした。
本題はここからです。
もし、この記事をご覧の方が、スマートフォンではなくPCで閲覧中の場合、ブラウザによっては、ダウンロードによらず、ブラウザ上で定款のPDFを見ることが可能なはずです。もし貴方がWindows10のPCをお使いで、ブラウザがChromeである場合には、こう見えることでしょう。
そう、「補助金執行一般社団法人(仮称) 定款(案)」というタイトルが・・・・。
※(2020年5月6日追記)上記PDFが差し替えられ、タイトルも作成者名も全てのデータが削除されました。でも、もう遅いんだよなぁ・・。ウェイバックマシーン上に保存されている2018年当時の運営者情報ページへのリンクを張りおきます。定款のPDFデータも生きているため、データ改ざん前の情報をご覧いただけるはずです。
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●補助金執行一般社団法人のインパクト
補助金執行一般社団法人(仮称)定款(案)。当たり前の話ですが、一般社団法人とは単なる民間団体に過ぎず、公共分野が国民の税金を元に支出する補助金(それは紛れもなく血税の塊です)を執行する権限など持ち得てはいません。それにもかかわらず。
にもかかわらず、です。「定款(案)」を作る段階、つまり法人の設立準備段階において、自らを補助金執行団体と言い放つ傲慢さに半ば呆れつつも、慄然とする思いでした。
「小泉改革」以来、その政策を主導した竹中平蔵を会長に迎えたパソナグループや電通が「政商」と揶揄されるようになって久しいですが、しかし、これほどまでに傍若無人な定款を作るようになるとは・・・・。呆れたり、怒ったりしつつも、基本的には「欲望に正直すぎるが、でも、それは営利企業の性(さが)だしな・・・」と失笑混じりにそのタイトルを見ておりました。
しかし、その笑いは直に凍りつくことになります。
もしPCのブラウザから定款をご覧の場合には、右端か左端のタブを押して「文書の情報」か「プロパティ」を。ブラウザでPDFを開けない場合には、一旦、定款のpdfをダウンロードしてファイルを右クリックし「詳細情報」か「プロパティ」を見てみて下さい。スマホからは見れないかも知れませんが、PCやMacからであれば、上記の様な情報が表示されているはずです。
※(2020年5月6日追記)定款のPDFデータが差し替えられたため、現在はタイトル・作成者名などの情報を確認することが出来ません。しかしウェイバックマシーン上に当時の定款PDFデータが残っておりました。これをブラウザ上、またはダウンロード後に確認いただくことで、上記と同じ情報が確認いただけます。
タイトルは従前通り「補助金執行一般社団法人(仮称)定款(案)」。そして作成者には「情報システム厚生課」という記載があります。わたしが衝撃を受けたのは、定款の作成者の名前でした。これこそが首謀者と目される存在です。
「情報システム厚生課」でググっていただければ一目瞭然ですが、情報システム厚生課とは、経済産業省大臣官房に属する純然たる内局組織です。その内局、官庁の中の官庁が、なにをどうしたことか民間団体の定款を作成している。しかも自らが所管を有する所の「補助金」について、本来は公募による厳正な審査が行われなければならないにも関わらず、その審査も公平性も何もかもをすっ飛ばして、好き勝手に「補助金執行団体」と位置づけている。
行政の公平性だとか透明性(行政手続法第1条第1項)、公僕(パブリック・サーヴァント)といった謳い文句が何の意味も持たず、むしろ行政自体がそれを蹂躙する現実に、言葉にならない程のショックを受けたのでした。
これが意味する事実はただ一つ。つまり、サービスデザイン推進協議会の設立とは、電通をはじめとした企業群による思惑である以上に、経済産業省による思惑が強いということです。官製談合、談合という言葉が不適切であれば、官製の隠れた「外郭団体」の創設にほかならないということでした。まさか21世紀に入って20年も経ってから、こんな古典的な「悪」に相まみえるとは思わず、驚きのあまり目を白黒させてしまいました。
しかも「巨悪」にはなれない「小悪党」らしい杜撰さと言うべきか、おそらくマイクロソフト・オフィスの仕様を知らなかったのでしょう。WordなどのOfficeソフトから書き出したPDFには、PDFのファイル名を変えたとしても、元ファイル(Wordであればdocまたはdocxファイル)のタイトル名や作成者が保存されることを知らず、委託先にファイルを渡してしまったのです。
そして委託先もまた、それに気づかず、PDFのファイル名(SDEC_AOI_20161213)、つまり2016年12月13日分のSDEC(Service Design Engineering Council/サービスデザイン推進協議会)のAOI(Articles of Incorporation/基本定款)をつけただけで、タイトルと作成者情報をそのままにして、ワードからPDFを書き出してしまいました。
なお、画像に作成日・更新日として記録されている「2018/1/25, 16:34:56」はPDFの書き出し日であると考えられます。
そのおかげで、と言うべきか、公表された定款を見れば一目瞭然。真の作成者が経産省の内局であることも、元のタイトル名が「補助金執行一般社団法人」の定款案であることも分かってしまいます。なんというか、IT導入補助金の執行団体とは思えぬデジタルリテラシーの無さです。
愚かといえば愚かなのですが、その愚かさ故に事態の全容が把握できました。これは煽り抜きで言うのですが、経産省の担当者およびサービスデザイン推進協議会の担当者には御礼申し上げたい気持ちすらあります。
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●持続化給付金にかかる事務費
経済産業省は4月8日に「令和2年度補正持続化給付金事務事業」の一般競争入札を公示し、これに複数社が応札。そしてご承知おきの通り、サービスデザイン推進協議会が落札者となりました。
入札情報の閲覧や結果、落札額の確認は、政府電子調達(GEPS)システムの調達ポータルから可能ですが、こちらは認証とセットアップが必要なため、誰もがアクセス可能なNJSS(入札情報速報サービス)の画面を引用いたします。
後に経産省の「入札結果・契約結果」のページで公開されるはずですが、現時点では令和2年2月分までしか公表されていないため、その内容を予め述べてしまうと、経産省が今回の持続化給付金事業に関する事務費として計上した額は約700億円。パソナの昨年度売上高(1,513億円、2019年度)の半分に迫る額です。
もちろん競争入札ですので、入札額はこれより低いのですが、それでも約695億円。ほとんど遜色ない価格がサービスデザイン推進協議会へと流れています。なお、実際の支給時には、これに消費税等が加算されます。
※(2020年5月6日追記)中小企業庁のサイトで入札結果が公表されました。契約金額は769億208万4807円。落札価格(契約金額)では入札価格に消費税等が加算されますので、まさしく上記のとおりです。
公表前ではありますが、これらの落札情報は元より財務省通達のもとで省庁側に公表義務があるものですし、既に川内博史衆議院議員(鹿児島1区)がTwitter上で明らかにされているため、公知かつ既知の情報と考えてよろしいでしょう。
そして、その事業費は非課税です。これは事業会社ならぬ、社団法人ならではの節税テクニックと申せます。定款をご覧ください。
公表された定款によれば、サービスデザイン推進協議会は剰余金を分配せず(第43条)、残余財産は国または公益法人に帰属させる(第44条)ため、法人税法第2条第9号の2のイの「非営利型法人」、国税庁のお知らせp.2でいうところの「非営利性が徹底された法人」として税制優遇(非収益事業への非課税)を受けることが出来ます。
剰余金、つまり利益が分配されないのであれば、社団法人の社員(出資企業)も利益を受けられないのではないかと思われそうですが、さにあらず。確かに、事業会社の株主のように直接利益が受けられることはありません。しかし、間接的に利益を与える形での委託は可能です。
事業の実施において再委託が禁止されていないのであれば、人材の調達やコールセンターの設置は例えばパソナに、ITシステムの設計運用は例えばトランス・コスモスに、広報やUI、運用のマネジメントは例えば電通その他の営利企業に再委託することが出来、再委託を受けた側は、その利益に預かることが可能なのです。
つまり、国→民間団体(補助金執行一般社団法人)→民間企業、というお金の流れが完成されます。しかも非課税なので民間団体を受け皿として、お金をプールできる。国が直接の規律を及ぼせるのは民間団体までですので、国にやる気があったとしても再委託を行う先まで監視し切ることは困難です。だから上記の再委託先が公開されることはなく、あくまで「例えば」なのですが、とはいえ、電通社員が理事を務める団体が博報堂に広告を依頼するかというと、実際どうなのだろう、という思いがあります。
どの程度に配分がなされるのか。あとは関係各位の良心に期待する他ありません。
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●現代に蘇る「外郭団体」
プライバシーマーク(Pマーク)などが代表例ですが、経産省の手法には一種独特の癖があります。それは「1一旦、民間規格を立ち上げ、2その規格の取得を国や地方公共団体における補助金交付や入札参加の条件等に設定し、3規格を半ば強制的に取得させることで、4当該規格の参加者(とりわけ管理者兼認定機関)に経済的なインセンティブを与えつつ、5政策目的をも達成する」という手法です。
当然ながらこの「民間規格」とは純然たる民間規格ではなく、省庁の意向が大いに反映された規格です。それは、おもてなし規格の策定運用が経産省と受託者の間で行われたことからも明らかでしょう。そして、その「民間規格」の管理者兼認定機関もまた、純然たる民間団体というには無理がある程度に、省庁の影響が入っていました。例えば、Pマークの元締めである一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の代表理事は杉山秀二氏。元経済産業省事務次官です。ワァ、スゴイグウゼンダナァ・・・。
もちろん、いわゆる「天下り先」の確保ということが唯一の目的とは言えません。「民間規格」という名目のもとで他省庁(Pマークであれば総務省、おもてなし規格であれば国交省・観光庁)の所管に堂々と進出できるため、経産省が得意とする領海侵犯的な行為の橋頭堡にできるという省益的な利点がありました。
こうした「外郭団体」方式はてっきり減少傾向にあると思っていたのですが、民間企業のコンソーシアム(一般社団法人)という形で、新たな「外郭団体」と目される「補助金執行一般財団法人」を作り出す方法があるとは。その知恵の冴え渡りぶり自体には驚かされました。悪知恵かも知れませんが・・・。
ともかくも同じ官製(らしき)団体とはいっても、今回の「補助金執行一般財団法人」には、これまでの「外郭団体」とは異なる性質があることにも留意の必要があります。かつての「外郭団体」が曲がりなりにも官公庁OBによって構成されていた(いる)こととは異なり、今回の「補助金執行一般財団法人」は特定企業のコンソーシアム(共同事業体)として誕生しました。
つまり、特定企業との癒着や利益誘導に当たらないか、これまで以上に注意が必要なのです。
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●想定される問題点
政府のマンパワーが深刻な不足をきたしている以上、その業務の一部を外部へ委託することそのものは致し方ありません。問題は、その設定方法と資金の流れにあると言えます。
省庁が決め打ち的な形で「補助金執行一般財団法人」を作り出し(あるいは作り出すように仕向け)、名ばかり(としか思えない様子)の公募を行って、そこへ(特定企業群に)お金を流し込むのは果たして適切でしょうか。公平と平等を旨とする全体の奉仕者(憲法第15条第1項)であるはずの公務員が取るべき手法と言えるでしょうか。
しかも、今回流し込まれた金額は税抜で約700億円という巨額に上っています。持続化給付金の対象とされる中小企業は約300万社。個人事業主を含めればもっと増えますが、仮にその三分の一が「収入半減」要件を満たし、その要件を満たした全ての会社から申請があるとして、一社あたり7万円のマージンが得られることになります。
膨大な事務作業が待ち構えていることから、当然ながら人件費を要し、マージンがかかることは仕方ないにしても、それが実際に審査に当たる方々や相談を受け付けるコールセンターの方々の給与にどこまで反映されるのか。ブラックボックスであることを良い事に中間搾取はされないのか。福島第一原子力発電所の廃炉作業で起きた事例(労働問題)が思い起こされます。
福島第一原発の事故においては、除染が環境省の所管となった一方で、イチエフの廃炉等の対策事業は経産省の所管となりました。それは当初、事故を起こした東京電力への管理監督という形で作用していましたが、徐々に直接関与に切り替わっていきました。2012年7月の東電の実質的国有化以降は、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」による資金供給にシフトし、その融資額は国有化当時の1兆円を遥かに超える9兆円超の額が当てられています。その調達には国債のほか、国民の税金等を元手とした政府の債務保証付債権が当てられているのが現状です。
つまり廃炉作業に当たっては、国→機構→東電→委託事業者という形でお金が流れている訳ですが、所管庁(経産省)の監督不足か、東電の見過ごしか、日当10万円(危険手当込み)のはずが実支給(手取り)はわずかに8千円となるような、凄まじい中抜きが行われたことが報告されています(日弁連「原発労働問題シンポジウム」)。それと同様の事態が、今回生じたとしてもおかしくはないのです。
一案件あたり7万円の費用そのものは仕方がないかもしれません(高すぎる気もしますが・・・)。しかし、その費用の是非の検証と同じくらい、その費用の配分にも気を使う必要があります。その原資が国費であれば、なおさらです。
もしこの事務費が中抜きされた上、特定企業群の帳簿へと垂れ流しされてしまったり、まったく必要性の無さそうな広告費に費消されてしまったとしたら。それは悲劇であると同時に惨劇であるのです。
厚生労働省が丹精込めて作り上げた同一労働・同一賃金制度が今年4月から稼働し始めた以上、サービスデザイン推進協議会から仕事を受ける派遣会社や委託事業者各位におかれても、どうかそれを守ってほしいところですが・・・。
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●まとめ
官庁が自ら定款案までつくり、出来レースを疑われかねない状況で補助金を与えた一般財団法人が、いまや国民生活の最後の砦である「持続化給付金」の執行団体になっている。
彼らは民間団体でありつつも官製団体に近い性質を持ち、かつての「外郭団体」にも似ているが、かつての「外郭団体」とは異なり、特定企業の共同事業体と思料される形で誕生している。そのため、これまでの「外郭団体」以上に、特定企業との癒着や利益誘導について注視しなければならない。
彼ら、一般財団法人サービスデザイン推進協議会は「持続化給付金」の交付事業に関し、2兆3,176億円の執行権を実質的に有するに至り、税抜で700億円に迫る委託料を得ました。消費税等を加算した実際の支給額(契約価格)は769億円を越えています。まさに「補助金執行一般財団法人」の面目躍如です。
「持続化給付金」が事業者に対するライフラインとして機能しはじめた以上、機関車を止める訳にも行かないのですが、関わった人間への事実確認など、後の検証は必要となりましょう。その参考資料としてこの記事を書き置きます。
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●資金の流れから一般社団法人サービスデザイン推進協議会の実態を考える 5/10
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●はじめに
前回の記事を受けた一般社団法人サービスデザイン推進協議会の反応はビビッドで、定款から経済産業省の関与を裏付けるデータが速攻で削除されました。とはいえ、そうなることは織り込み済みでしたので、前回の記事は対応版にアップデートし、彼らの削除したデータをアーカイブから閲覧できる様にしております。
GW中にも関わらず、情報の削除・破棄(シュレッディング)に勤しむ彼らの熱意には頭が下がりますが、出来ればその熱意を公益に生かしてほしかったな…。
さて、今回は一般社団法人サービスデザイン推進協議会が過去に実施してきた補助金事業を取り上げ、その資金(補助金として国から支出された金銭)の流れを把握し、組織の規模や実態を考えようという試みです。法人情報から入って参りましょう。
日本国政府の公式(.goドメイン)による法人情報サイトgBizINFOでは、各種法人のプロフィールを公開しているのですが、該当ページを見てみると、これまで一般社団法人サービスデザイン推進協議会に流れ込んだ補助金等の情報を見ることが出来ます。
前回の記事では一般社団法人サービスデザイン推進協議会の定款作成者が経済産業省の内局であり、同法人は実質的には"官製"の補助金執行一般社団法人ではないか、ということを書いてきましたが、それを裏打ちする様な情報です。
全9件の全てが経済産業省による支出であり、その総額は1170億2464万3403万円に及ぶ。しかし、この算定には誤りがあります。
一部の補助金については交付決定と実際の交付が二重計上されており、全く同じ費目が入ってしまっているのです。「平成28年度サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金」の100.0億円や「平成29年度中小企業・小規模事業者人材対策事業費補助金(カイゼン指導者育成事業(2))」の445.8万円はその例です。
また補助金の当初予算額と、実際の決算額がこれまた二重計上されております。「平成28年度サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金」の100.0億円と96.8億円、「サービス等生産性向上IT導入支援事業費」の499.9億円と272.8億円がその例です。
しかも「サービス等生産性向上IT導入支援事業費」の決算額については、なぜか算出途中のものが計上されており、実際には301.0億円であったところ(後述)、謎の272.8億円が計上されています。
今回の記事では、その辺りを解きほぐしつつ、サービスデザイン推進協議会に実際に流れ込んだお金の額や現実の支出先(誰が利益を得たか)について考えていきましょう。
前回と同様、用いるものは全て公開情報です。
平成27年度の「おもてなし規格認証」については前回の記事で触れたので、今回は平成28年度以降を見ていきましょう。鍵となるのはIT導入補助金、正式名称「サービス等生産性向上IT導入支援事業」です。
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●概説:IT導入補助金(誕生〜平成29年度補正予算)
IT導入補助金は経済産業省の平成28年度補正予算(第二次補正)で初めて登場した補助金事業です。中小企業等のITシステム導入に際し、一定額を補助し、その普及を促進することで、労働生産性の向上につとめる。至極まっとうな目的のもとで誕生した補助金でした。
それは当初、経産省の「地域未来投資推進事業」の一つとして位置づけられており、そのことは平成28年度経済産業省関連第2次補正予算(PR資料)からも明らかです。
IT導入補助金の正式名称は、平成28年度補正予算の当時から令和2年度補正予算の現在に至るまで、「サービス等生産性向上IT導入支援事業」で統一されています。上のポンチ絵における分類は2(1)でした。その予算は「地域未来投資推進事業」1001億円のうち100億円です。
ご注目いただきたいのは資金の流れで、国から民間団体等に定額補助が与えられ、この補助金を原資に、民間団体等が中小企業等に補助を行うことになっています。いわゆる「定額補助」方式です。
「定額補助」とは予め決まった額(例えば予算額が100億円であれば100億円)を事務局となる「民間団体等」に交付し、「民間団体等」はその額の限度で補助金の対象者である「中小企業等」に補助金を交付し、かつ、自らの事務費も賄うという方式です。
(官庁の支出は原則「後払い」ですが、補助金の場合は昭和22年勅令「予算決算及び会計令」第57条第10号および第58条第4号を根拠として「前払い」および「概算払」が可能なのです)
いわば一つの財布から自分の生活費と相手への支援費を賄うという方式で、財布の中身がブラックボックスになるため、実際に支援を必要とする人にお金が行き渡っているのかが分かりづらく、中間に入る「民間団体等」がネコババしてしまうのではないか、との懸念もありました。
現在では民主党政権に導入された行政事業レビューの公開シートにより、その内訳額を追うことが出来ます。行政事業レビューの公開シートについては後ほど詳しく触れましょう。
平成28年度のIT導入補助金は、その高い補助率(2/3補助)や補助上限額の高さ(100万円)もあって好評を博し、ほぼ予算の満額が使い切られました。行政事業レビューの公開シートによれば、その執行率は97%に及びます。
何しろ150万円の買い物をすれば、そのうち100万円は国(によって採択され、その実質的な執行権を有するに至ったサービスデザイン推進協議会)が補助してくれます。飛びつかない方が損というものです。それに手応えを感じた経産省は積極策に出ました。
平成29年度補正予算では「サービス等生産性向上IT導入支援事業費」単独で項目立てを行い、一挙に前回の5倍、500億円の予算を計上しました。
対象とするのは実に13万社超。電通出身の平川健司業務執行理事や経済産業省サービス政策課の守山宏道課長(当時)も登場するインタビュー記事を配信するなど、積極的な広報が行われましたが、この試みは無惨な失敗に終わります。巨額の予算を幅広く分配すべく、補助率を下げ(2/3から1/2)、上限額を大幅に引き下げた結果(100万円から50万円)、2018年10月、すなわち執行開始から半年が経った段階でも全体の20%少ししか執行できず、実に400億円近くが余ってしまったのです。
その様子は日経クロステックの記事「IT導入補助金が400億円余る、経産省の誤算」(清嶋直樹記者)からも伺うことが出来ます。さすがに意気消沈、というかここまで余ると、確実に予算編成の槍玉に挙げられますので、経済産業省は再びの方針転換を図ります。
その手法は現行事業の「予定通りの終了」と新事業への統合でした。
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●概説:IT導入補助金(平成30年度補正予算〜現在)
運営上の危機に瀕したIT導入補助金。そこで経産省が編み出したのは、現行事業の「予定通りの終了」と新事業への統合という手法でした。
上記は平成29年度補正予算分の事業後における行政レビューシート(エクセル直リンク)ですが、今年度限りで「予定通り終了」とすることで外部有識者に突っ込まれることを回避(書面点検の対象外と)し、別の事業に溶け込ませることにしたのです。
ちなみにこちらは平成28年度補正予算分の事業後における行政レビューシート(エクセル直リンク)。もちろん外部有識者の所見も承っており、今後の方針も「現状通り」とノリノリな様子です。それがどうして一年で・・・。
労働生産性は27%向上から13%向上へと半減。なんだか大本営発表と戦略的転進を見るような気分でした。
さて、装いも新たに「中小企業生産性革命推進事業」を設け、傘下の中小企業庁の事業も溶け込ませた形で1,100億円の予算を計上した経済産業省。
一括パッケージとなったことで、「3.サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)」に当たる額がわからなくなってしまったのですが、幸い中小企業庁が「1.ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」、いわゆる「ものづくり補助金」について予算額が800億円であることを事前予告しておりました。
そのため、最大でも「中小企業生産性革命推進事業」の予算1,100億円から800億円を引いた300億円以下であることが明らかだったのですが、平成30年度補正予算の成立後に公表された経産省「平成30年度補正予算「サービス等生産性向上IT導入支援事業」の事務局公募について」の公募要領において、その予算が約100億円であることが確認されました。
補助率こそ1/2で据え置かれたものの、上限額はA類型は150万円、B類型では450万円まで引き上げられることになります。
IT導入補助金には、改善対象となる業務プロセスが規定されているのですが、A類型は必須項目1プロセスを含む2プロセス以上、B類型は必須項目3プロセス以上を含む5プロセス以上を目的とした場合に対象となります。
比較的少額をばらまくよりも、大規模な額を集中的に投入したほうが事業の芽が生える。切り捨てとも言い得ますが、その判断には合理性があると申せましょう。
明けて令和元年度補正予算では資金の流れが複雑になります。
ここで注目いただきたいのは下記の部分です。
これまでは国から直接定額補助金が交付されていましたが、間に独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が入り、資金の流れが複雑になりました。令和元年度補正予算として計上された3,600億円は一旦、中小機構に渡り、そこからサービスデザイン推進協議会そのほかの「民間団体等」へ分配されるのです。
また、今般の情勢を受けて特別枠(C類型)が設けられ、3,600億円に700億円が積み増しされています。経済産業省関係令和2年度補正予算の事業概要(PR資料)のp.14で確認することが可能です。ただし一括パッケージとなった結果、2020年度のIT導入補助金の予算額がいくらであるかは分からなくなってしまいました。
中小機構においても「サービス等生産性向上IT導入支援事業」に係る事務局の公募」が実施。例によって一般社団法人サービスデザイン推進協議会が事務局として採択されました。補助金の交付者は変われど事務局は変わらず。実に4回連続の採択です。
ところで、この補助金は全額が事務局の懐に入るものではありません。「定額補助」の際にも申しましたが、一つの財布から「実際の対象者への補助金」と「事務局の事務費」の二つが支出されるのです。
では補助費用のうちの「事務局の事務費」は、どのようにすれば分かるのか。ここで参考になるのが、行政事業レビューシートです。実際に見ていきましょう。
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●行政事業レビューシートは語る(平成29年度=2017年度の場合)
「行政事業レビュー」とは民主党政権下で開始され、現在の自民党政権下でも引き継き実施されている、閣議決定を根拠とした行政事業最適化の試みです。閣議決定の改廃の際に「事業仕分け」という言葉が削除されたのですが、なぜか経済産業省だけは頑なに「事業仕分けの内生化・定常化」という言葉を使い続けています。なにか拘りがあるのかしらん。
行政事業レビューは評価と公開に重きを置き、約半年かけて行われるのですが、大きなイベントとしては府省別に行われる「公開プロセス」と全体検証が行われる「秋のレビュー」があります。この間に、行政事業レビューシートは初期版から中間公表版、中間公表版から最終公表版へと公開&ブラッシュアップされてゆき、最終版の結果は翌年度の予算編成(概算要求)へと反映されることになります。
いろいろと批判の多かった民主党政権ではありますが、情報公開制度の点からすれば、彼らが政権を担当した4年間の功績は目覚ましく、その点については評価に値するものと言えましょう。
さて、経産省の公開している行政事業レビューシートを見ていきましょう。初年度(平成28年度補正予算=平成29年度実施分)の結果や内訳については、翌年の平成30年行政事業レビュー最終公表のページから見ることが出来ます。
補正予算は「当年度計上・翌年度執行」が常ですから、1年づつずれていくことにご注意下さい。図を見ると、なるほど、執行率(20列目)は97%、100.00億円の予算の内、96.82億円を執行しています。優秀な成績です。
gBizINFOにあった額とも一致しています。
では、これにかかった事務費は如何ほどか。一般社団法人サービスデザイン推進協議会の取り分を見てみましょう。すると、740列目から「資金の流れ」の概要が記載されています。
そして、779行目以降にはその詳細(費用の内訳/費目・使途)がありました。
96.82億円の執行額のうち、実際に応募者へ支給された額の合計(事業費)は88.03億円。その他の額、外注費・人件費・補助員人件費・食料及び賃料の合計8億7900万円が一般社団法人サービスデザイン推進協議会の事務費(取り分)となっています。
なお「実際に応募者へ支給された額」については、国が直接支給するものではなく、中間団体を介して支給することから「間接補助金」と呼ばれます。その合計が事業費88.03億円という訳です。
概要図の一番下の四角には「中小企業等(13,338件)」として、間接補助金の交付件数が明記されていますので、これで事務費を割ると、一件の交付あたり6万5902円のマージンがかかっていることになります。おおむね、持続化給付金で予想される一件あたりのマージン(約7万円)と同額の手間賃です。
それにしても凄まじいのは外注費が占める割合です。サービスデザイン推進協議会本体の事務経費・人件費は3500万円で全体の3.99%、残りの96.01%が外注費として費消されています。
前回の記事では一般社団法人サービスデザイン推進協議会が新時代の「外郭団体」と考えられること、それが特定企業群によるコンソーシアム(共同事業体)と目されることを論じ、特定企業群との癒着や利益供与への警鐘を鳴らしました。
その危険性は、まさにこういった場合に明らかになります。この96.01%がどこの誰へ流れたのか、我々には知るよしがないのです。
8億円超の行き先は、理事の出身母体である電通か、トランス・コスモスか、あるいは職員の出身母体であるパソナか。はたまた全く別の第三者か・・・。全てはブラックボックスの中で、霧の中。
とはいえ、これは幾分かマシな事例でした。現実の歪みが最悪の形として現れるのは、執行率が低い場合です。その歪みを見に参りましょう。
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●行政レビューシートは語る(平成30年度=2018年度の場合)
では、定額補助の断層面が明らかとなる平成30年度の事業報告、平成31年行政事業レビューの最終公表版を見ていきましょう。
20列目をご覧ください。平成30年度事業の最終的な執行率は60%、約500億円(499.98億円)が計上されましたが、301億円の執行に留まりました。約200億円が余ってしまったわけです。
この余った額については、担当事務局から国庫へ返還されますので問題はありませんが、問題は事務費です。500億円の予算を執行するつもりで体制を組み、委託先にお金を流し込んだ結果、「事務費:事業費(間接補助金)」の比率がメチャクチャなことになってしまいました。
301億円のうち事業費(間接補助金)に当たる額は262.43億円。301億円ー262.43億円=38億5700万円が一般社団法人サービスデザイン推進協議会の取り分、事務費となります。
ここで注意いただきたいのは、事業費と事務費それぞれの額の伸び率です。中小企業等への間接補助金の総額が前回の88.04億円から262.43億円への2.98倍の伸び率に留まっている一方で、サービスデザイン推進協議会が得た事務費の額は8.79億円から38.57億円へと増加。その伸び率は、実に4.39倍となっています。
本来の予算は前回の5倍でした。しかし、現実の支給実績は3倍以下。それにも関わらず、事務局側は事業費の伸びを遥かに超える額を受け取っており、しかも、その倍率は本来の予算の伸び率(5倍)に近しい。業績に関わらず、その実態(実績)を反映しない額が事務局へと流れ込んでいるのです。
そして、事務局に流れ込んだ金銭を得たのは誰なのか、その詳細は次の図で明らかとなります。
事務費38億5700万円のうち、37億1100万円が外注費改め「委託費」として支出。事務費全体に占める割合は前回を上回り、96.21%に達します。つまり、またしても外注先にお金が流れ込んでいるのです。
ちなみに、これを事業費との対比で見れば、事業費に締める事務費の割合は14.7パーセントに達します。1万円を支払うために1470円のマージンを請求される、銀行家もビックリの比率です。約15%、まるでグレーゾーン金利みたいなことになっています。
もちろん、事務局を開設する以上、準備が必要ですし、システムや人員確保も必要ということは分かります。今回が前回比5倍の予算を計上する以上、それに対応するために一定の事務費がかかるのは当然のことです。今回の様に予想外に需要がなかった場合には、これが上増し分の主要因となることも理解できます。
しかし、実際に支出した事業費と比べれば、あまりに多過ぎではないか。上限を50万円まで減らし、補助率も切り下げたはずなのに、実際の事務費(マージン)は1件あたり6万円を越えており、前回と殆ど変わっていません。しかも需要の減少があったにも関わらず、外注費の比率が減るどころか増加しており、調整弁としての機能を果たしていないことが気になります。
本来、公募事務や委託事業とは、その採択者や受託者が主体として事業を行うもので、外注や再委託はあくまで副次的な調整弁として機能するはずのものでした。それは財務省通達平成18年8月25日「公共調達の適正化について(財計第2017号)」が2(1)において「一括再委託の禁止」を明示し、総務省が「再委託等に係る手続の適正化の推進」において「あらかじめ再委託を行う合理的理由、再委託の相手方が再委託される業務を履行する能力等について審査し、承認を行う」としていることからも明らかです。
上記の通り、外注や再委託とはあくまでも例外的なものでした。実際の事業遂行主体を偽って利益の分配を図るような、「ペーパーカンパニー(ダミー会社/ダミー法人)」方式は原則的に許されないものだったのです。
しかし現実には「その趣旨原則は貫徹されなかった」と申せましょう。外注費は、その額どころか比率をも前回を上回り、37億1100万円が追跡困難な彼方へと消えてしまいました。採択事業者と外注先の主従は完全に逆転し、外注費が壊れた蛇口となって、国費を垂れ流しているのです。
なんとも歪んだ構造です。かなしいかな、「いやしくも国民から不適切な調達を行っているのではないかとの疑念を抱かれるようなことはあってはならない。」と述べた谷垣禎一(自民党第24代総裁)氏の言葉がすっかり有名無実化したことに、目眩を覚えるのでした。
通常のビジネスでは到底考えられない垂れ流し経営を続けても、そのリスクや負担は国民に押し付けて、あぐらをかけてしまう。経済的な責任を問われることが(ほぼ)無い公共事業において、官庁と特定企業群が結びつく危険性は、まさにこの部分にあるのです。
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●まとめ
さて、現在の公開情報、取り分け「行政事業レビューシート」の内訳から判明した事実を述べれば、「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」それ自体には大規模な事業を行うだけの業務遂行能力はなく、業務遂行に当たっては、もっぱら外注先や再委託先に頼っているということが分かりました。今風に言えば「ファブレス補助金執行法人」とでも申せましょうか。
「IT導入補助金」にかかる人件費は平成28年度補正で3000万円、平成29年度補正で7000万円となっておりますが、それぞれの職員の出身母体やその給与水準を加味すれば、その専任人員数は、最大でも20人程度、下手をすれば1桁となりましょう。
平成30年度の終了後、すなわち2019年4月から現在までの1年少しの間に驚くほどの変化がない限り、その構造には変化がないと考えられます。そして、その構造に変化がないことは、同法人が平成28年(2016年)以来、「本店又は主たる事業所の所在地」を移していないことが傍証となりそうです。もし業務に見合っただけの機能を拡張するならば、予算比で20倍の増強が必要であり、まず間違いなく本店か主たる事業所を移転する他ないでしょうから。
これまでに一般社団法人サービスデザイン推進協議会が自らの取り分として受け取った資金の額をまとめると以下の通りです。
平成27年度補正「おもてなし規格認証」4680万円
平成28年度補正「IT導入補助金」事務費8億7900万円
平成29年度当初「カイゼン指導者育成事業」445万8519円
平成29年度補正「IT導入補助金」事務費38億5700万円
平成30年度補正「IT導入補助金」事務費不明(予算額からすれば約9億円と推定される)
令和元年度補正「IT導入補助金」事務費不明(予算額も不明)
不明なものを除いて47億8725万8519円、推定されるものを含めれば約57億円が流れ込んでいることが明らかとなりました。
そして明瞭なもののうち、その9割超を占める45億5500万円がサービスデザイン推進協議会をハブとして外部へと流出しています。真の事業者はサービスデザイン推進協議会ではなく外注先の企業(あるいは同法人の設立時社員として参画した企業等の特定企業群)ということが出来そうです。
新時代の「外郭団体」であり、かつ、本体は受け皿機能と調整機能を持つのみの「補助金執行一般社団法人」。「おもてなし規格認証」については自法人で事業を行っている可能性がありますが、大半を占める「IT導入補助金」については、そういった実態が垣間見えます。
今回、持続化給付金の事務費としてサービスデザイン推進協議会に支払われる額は769億208万4807円。仮に従前通りでいけば、そのうちの96%、738億2600万1414円が外注費として支払われることになります。これまでの四年間に外部へと流れた額の15倍強にも及ぶ巨額が、1年で流れ込むのです。
もしこの仮定が正しければ、補助金・給付金事業の処置としては、史上稀に見る額での再委託・外注が行われた(現に行われている)ことになります。ちなみに769億円とはスポーツ庁の予算(306億円)の2倍強、金融庁の予算(256億円)の3倍、会計検査院の予算(171億円)の4.5倍にあたる額です。それだけの国費が、「公募」の名のもとで特定企業群に流し込まれているとしたらどうでしょう。
一般企業が再委託や外注を行うかどうかは、その企業の専権です。しかし公共分野においては、公共調達の適正化と行政による委託先の適正な管理監督を趣旨として、再委託の禁止が要請されてきたところでした。残念ながら「IT導入補助金」においてはその趣旨は貫徹されず、96%におよぶブラックボックスが生まれてきたのが現状です。
もしそれが中央省庁や国家機関の年額予算を超える規模で再現されるとすれば、その影響は計り知れません。
これら資金の行く先(外注先や再委託先)を確認することは困難ですが、しかし、手がない訳ではありません。つまり、各事業において事務局から官庁に提出される事業報告書と計算書類に対し、情報公開請求(行政機関の保有する情報の公開に関する法律 第4条)を掛けるという手段が考えられます。
これだけ巨額の予算ですから、事後の後払いというより、事前の概算払がなされているはずで、その辺りの書類が開示されれば、早い段階で持続化給付金に関する外注費の行き先を知ることも不可能ではない気はいたします。
昨今の公開事例を見る限り、情報公開請求の一発で全てが開示されるという可能性は期待が薄く、その場合には第18条や第21条への段階的移行を考えねばなりませんが・・・。
ともあれ、前回の記事を受けた一般社団法人サービスデザイン推進協議会の反応はビビッドで、経済産業省の関与の証左となりえる定款の「タイトルデータ」や「作成者データ」は、まるごと削除されました。
しかし物理媒体と違ってデジタルデータはシュレッダーにかけることが出来ません。元のデータについてはインターネット・アーカイブ上に保存データ(魚拓)がありますので、そちらからご覧いただけます。
すると以前と変わらず、「タイトルデータ」が「補助金執行一般社団法人(仮称)定款(案)」であることも、その「作成者」が経済産業省大臣官房の「情報システム厚生課」であることも、確認可能という訳です。
定款の定める通り、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が経済産業省の主導による「補助金執行一般社団法人」である場合、再委託禁止の趣旨に反することも、それが特定企業群との癒着に当りかねないことも織り込み済みの上で、経産省は、その実行に着手したということになります。
「IT導入補助金」の96%超という圧倒的な外注率(委託率)が複数年に渡って連続するという事実は、そんな連想を誘うものでした。
前回の記事と同じく、一般社団法人サービスデザイン推進協議会に流れ込んだ資金とその内訳についても、後の検証の参考資料として、この記事を書き置きます。96%外注費というのは、やはり凄いよ・・・。 |
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●一般社団法人サービスデザイン推進協議会の裏側に潜むもの 5/16
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●これまでのあらすじ
「持続化給付金」の事務局に選定され、事務費として約769億円の支給が決まった一般社団法人サービスデザイン推進協議会。同法人は「民間団体」とされていたが、実際に定款を見てみると、経済産業省の内局により創設された「官製」の組織であり、新時代の「外郭団体」と考えられることが明らかになった。
(第一回:一般社団法人サービスデザイン推進協議会とは何者か。)
一般社団法人サービスデザイン推進協議会に流れ込む資金の流れを追っていくと、同法人には殆ど実体がなく、国から支出された事務費のうち約96%が外注費・委託費として外部に消えていることが明らかになった。財務省や総務省(旧・行政管理庁)が再委託の禁止を義務付けているにも関わらず、経済産業省は、この垂れ流し状態を複数年に渡って黙認し、その総額は45億円を超えている。
(第二回:資金の流れから一般社団法人サービスデザイン推進協議会の実態を考える。)
では、外部に消えた資金はどこに流れ込んだのか。それを探るのが今回の記事です。
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●設立時社員を考える
第一回の記事では、法務局で公開されている「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」の法人登記簿をみることで、その理事の構成を確認しました。サービスデザイン推進協議会の理事には、「株式会社電通(東京都港区)」出身者が複数名おり、「トランス・コスモス株式会社(東京都渋谷区)」出身者の理事が確認された他、「株式会社パソナ(東京都千代田区)」出身の職員の名前も見受けられました。
後に確認して気づいたことですが、パソナ出身の理事も存在しています。
ただし、理事とは普通の企業における取締役、つまり役員の様なもので、理事の構成からその一般社団法人に影響を持つ企業の存在を推し量ることは出来ても、そこから利益を受けるものであるかを確定させることは出来ません。真にその一般社団法人のオーナーを知りたければ、設立時社員(普通の企業における発起人)が分からねばならないのです。
ところで、その設立時社員については、以前こんなツイートをしておりました。
これは決して言いがかりという訳ではなく、かつて「おもてなし規格認証」が同法人を事務局として始まった当初、初期の定款に記載されていた「設立時社員」欄の記憶を元にしています。現在、公開されている定款は「平成28年12月13日制定」のものですが、これは事務所移転に伴う定款変更を行ったためで、かつては「平成28年5月16日」の法人設立日に合わせた定款が公開されていました。
つまり、こういうことです。国税庁の法人番号公表サイトが記録している通り、平成28年12月22日にサービスデザイン推進協議会は「港区東新橋」から「中央区築地」へと移転しましたが・・・。
その改正版の定款が公開される以前には、平成28年5月16日当時、すなわち設立時社員を記載した初期定款が公開されており、そこには電通、トランス・コスモス、パソナの3社の名前がありました。実際、当時のおもてなし規格認証を取られた方のページでは、それを思わせる記述がございます。
3社の名前を挙げ、かつ、住所を記載。この書き方は定款や契約書など、法的な文書において、当事者を明示するときに行われる作法で、設立時社員が3社であったことを強く推認させます。
とはいえ、まだ決定打ではありません。先程の私のツイートも当時の記憶を頼りに書いているものであり、やはり確定した事実とは言い切れません。この記載や記憶を「確定した証拠」とするためには、一般社団法人サービスデザイン推進協議会自身に初期定款を提示してもらう必要がございます。
そこでどうするか。ヒントとなるのは、現在公開されている定款のURLです。
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●URLから考える
現在公開されている一般社団法人サービスデザイン推進の定款のURLは、以下のとおりです。
・・・
元々、第一回の記事を公開した際のURLの末尾は「SDEC_AOI_20161213.pdf」でしたが、このURLは無効化され、代わりに「SDEC_AOI_20161213_20.pdf」となりました。
上記は元々のURLですが、リンクを押していただくと「404 Not Found」が表示され、当初のファイルが抹消された後、新しい(情報をシュレッディングした後の)ファイルに差し替えられたことが分かります。改ざんするなら改ざんするで、同じファイル名にして証拠を隠滅すれば良いものの、なぜこうも詰めが甘いのか・・・。
ともあれ、定款の作成者が経済産業省の「情報システム厚生課」であることや定款の真の名前が「補助金執行一般社団法人(仮称) 定款(案)」であることを指し示すデータは、ネット上から削除された様にも思われました。
しかし、デジタルデータは紙ファイルの様な物理的な媒体とは異なります。名簿の様に、一旦シュレッダーにかければそれで追求が不可能になるということはなく、作成当時の情報の保存先を見つけられれば再びの追求が可能となるのです。そしてインターネット・アーカイブ上に保存されたサービスデザイン推進協議会の2018年当時のデータには、そのプロパティ欄に「情報システム厚生課」の名前も「補助金執行一般社団法人(仮称) 定款(案)」の名称もクッキリと残っているのでした。
さて、本題に戻りましょう。URLの構造を見て行きます。
この情報からは、HPのサーバーには、/files/というルート・ディレクトリ(第一階層)があり、そこには/user/というサブ・ディレクトリ(第二階層)があり、その中に/omotenashi/というディレクトリ(第三階層)が、さらにその中に/pdf/というディレクトリ(第四階層)があるという五重の入れ子構造を読み取ることが出来ます。
つまりはPCにおけるフォルダの構造と同じです。「files」という大きなフォルダ(親フォルダ)の中に「user」という子フォルダがあり、子フォルダの中には「omotenashi」という孫フォルダがあって、孫フォルダ内にはひ孫フォルダ「pdf」がある。これらは「service-design.jp」の中にあり、今回のURLでは「pdf」に入っている「SDEC_AOI_20161213_20.pdf」というPDFファイルを呼び出している。このURLは、そういった意味を持っています。
SDEC_AOIとは、SDEC(=Service Design Engineering Council/サービスデザイン推進協議会)のAOI(=Articles of Incorporation/基本定款)という意味ですが、上記のURLでは、その内の2016年12月13日制定のver.20にアクセスしているという訳です。
すると、改変前の「SDEC_AOI_20161213」は消されてしまいましたが、元々公開していた初期の定款については、このディレクトリ「/files/user/omotenashi/pdf/」の中に残っているかも知れません。
過去の例を見る限り、一般社団法人サービスデザイン推進協議会の定款は、実際に登記される日の10日ほど前に制定されております。事務所の移転登記は「平成28年12月22日」でしたが、制定日そのものは「平成28年12月13日」でした。その例を敷衍すれば、設立登記日の「平成28年5月16日」の10日前である「平成28年5月7日」辺りの定款PDFファイルを持っていないか、サービスデザイン推進協議会(のサーバー)に聞いてみれば良いということになります。
聞いてみる方法は簡単で、ブラウザのアドレスバーに気になるURLを入力し、当該URLへの移動をリクエストするという手法で足ります。
ここで検索対象とすべきは、「SDEC_AOI_20160507」から「SDEC_AOI_20160516」の10ファイルと言えます。少し余裕を持って「SDEC_AOI_20160505」あたりまで、お尋ねしてみましょう。
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●リーガルチェックで考える
さて、では始めるか。と思って、ブラウザのアドレスバーにURLを打ち込み、当該URLへ移動しようとした際、ふとリーガルチェック(法的確認)の必要性に思い当たりました。
サイバー犯罪の議論が盛んな昨今。この行為に違法性がないか、法的問題の有無を確認する必要があるのです。
検討すべきは1「刑法」のうち業務妨害の規定(刑法第233条ないし第234条の2)、2「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」の規定、3「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」により新設された不正指令電磁的記録の規定(刑法第168条の2および第168条の3)の三つです。
1については最高裁判所の判例(昭和28年1月30日)があり、「業務を妨害するに足りる行為」について威力業務妨害罪(刑法第234条)が成立するとされています。その特則である電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2)についても同様の趣旨が言えますから、結局のところ、その行為が「業務を妨害するに足りる行為」に当たるか否かで判断されるという訳です。
これを今回の事例で見ますと、「おもてなし規格認証」だけで数万件、「IT導入補助金」で数十万件、「持続化給付金」に至っては数百万件のアクセス・リクエストを捌いている一般社団法人サービスデザイン推進協議会の公開しているサーバーに、わずか12件のリクエストを、しかも手動で送ろうというのです。無いなら無い、有るなら有るという応答が返ってくるだけ。この行為が「業務を妨害するに足りる行為」に当たるとは到底言えないと申せましょう。
3については令和元年7月5日付けの答弁(答弁者は安倍晋三 内閣総理大臣)があり、そこでは政府の解釈として「本罪は、電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼を保護法益とする」と明示されております(答弁書の「二について」をご覧ください)。コンピューターウイルスを作成する様な行為は別段、今回の様に、サーバーにリクエストを送信する様な行為は、むしろ電子計算機のプログラムが正常に動作してくれなければ意味のない行為であり、保護法益を犯すものであるとも言い得ないものでしょう。
問題は2です。不正アクセス行為の禁止等に関する法律、通称「不正アクセス禁止法」は、その第2条第4項において、禁止される不正アクセス行為を定義しています。
もはや呪文めいた定義規定ですが、これを解きほぐすと、第2条第4項第1号は「他人の識別符号を入力して・・・制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為」とされており、「他人の識別符号」つまり他人のパスワード等により不正なログインをして制限機能を利用する行為、いわゆる「識別符号窃用行為」を定義し、第3条で禁止しています。今回は他人どころか自分のパスワードも必要ないお話ですから、これには当たりません。
第4項第2号と第3号は、俗に「セキュリティ・ホール攻撃」と言われるものです。これはなかなか難解な規定なのですが、困ったときは取締り当局である警察庁に聞いてみましょう。
参照するのは、サイバー犯罪の取締り部門である警察庁の生活安全局情報技術犯罪対策課が、総務省および経済産業省のサイバーセキュリティ部門と共に発行している年次報告「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」です。
同報告の別紙1「不正アクセス行為の発生状況」よりp.5の注記欄を引用します。ここでは「識別符号窃用行為」と「セキュリティ・ホール攻撃」について注9と注10で定義されています。注9も注10もその行為の対象(標的)について「アクセス制御されているサーバ」と明示されていることが確認いただけましょう。
「アクセス制御されているサーバ」とは、IDやパスワードなど特定権限の保有者にのみアクセスを認めるサーバーのことを言います。公開されているサーバーとの間はファイアウォールやルーターで遮断され、行き来を制限・制御されています。対義語は「公開サーバー」です。
今回のHPのサーバーの場合、「おもてなし規格認証」の申請者向けメニューを除いては、全て公開サーバーと思料されます。実際、定款PDFの「SDEC_AOI_20161213_20.pdf」や元のアドレス「SDEC_AOI_20161213.pdf」へアクセスした際にも、何らの認証も求められませんでした。
とはいえ、万が一、認証要求メニュー等のアクセス制御が表示された場合には、即時撤退をすることにしましょう。触らぬ神に祟りなしです。
さて、やっとアクセス・リクエストを送ることが出来ます。
ここで行ったLegal Reviewは、実は海外では20年近く前に結論の出ている話です。イギリスのロイター通信社が、スウェーデンのIT企業インテンシアの公開サーバー上のデータ(財務レポート)をすっぱ抜いたIntentia vs Reuters(2002)事件では、インテンシア側の「リンクが無いということは公開サーバー上でもアクセス制御下にあるのだ」といった刑事告訴の主張は一顧だにされず、ロイターの行為の合法性が認められました。
事件終了後の担当検察官のコメントが奮っており、インテンシアに更なる追い打ちをかけています。それは「(公開サーバー上の推定可能な)情報へのアクセスは非常に簡単であり、結局の所、インテンシアは情報を保護しようとしていなかった」という一言に集約されます。
日本での先行研究が見当たらなかったため、日本法に基づくリーガルレビューをした訳ですが、まぁ同様の結論となりましょう。20年近く前の事件で明示されたリスクを、まさか「IT導入補助金」の事務局が対応を怠っている様なことは無いよな・・・と思いながらリクエスト実行に入りましょう。
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●リクエスト実行
さて、決定的な証拠が出てくれという気持ちと、IT導入補助金事務局としての誇りを見せてくれといった気持ちが、ない混ぜになりながらリクエスト実行を開始です。
一般社団法人サービスデザイン推進協議会の設立日である「2016年5月16日」を起点に、時間をさかのぼって行きましょう。
想定していた通り、認証要求メニューは表示されず、公開サーバーの中でした。従って、法的問題に直面することなく、合法に調査を進めることが可能となります。
そうです。かくあるべきです。PDFのプロパティデータを消し忘れるほどデジタルリテラシーに欠けたところがあるとしても、過去のデータを、しかも自らの団体の出自を決定的に証明づける様なデータを、誰もがアクセス可能な公開サーバーに置き忘れたり、放置する様なことはさすがに無いよなぁ、と思い始めた時のことでした。
ブラウザの読み込み表示が動き出したのです。つまり「SDEC_AOI_20160513.pdf」のリクエストが通ったということ。一般社団法人サービスデザイン推進協議会、「IT導入補助金」の事務局にして、「持続化給付金」事務局のサーバーは、リクエストにレスポンスを返し、いまや猛然と私のPCへデータを送り込んできます。
そこに表示されたものとは。
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●初期定款はすべてを語る
「平成28年5月13日制定 一般社団法人サービスデザイン推進協議会 定款」
正真正銘、一般社団法人サービスデザイン推進協議会のサーバー上に保存されている設立時の初期定款です。上記リンクのURLを確認いただき、それをクリックしていただけば、全てが分かることでしょう。
さすがにここまでデジタルリテラシーに欠けていることは想定しておらず、はじめに私が発した言葉は「(証拠を見つけて)やった!」ではなく、「なんで(放置しているんだ)・・・」という呆然としたため息でした。
持続化給付金については、初日に申請した方が2週間以上経ってもなんの音沙汰もなく振込もない一方で、途中に申請した方が早々と給付金を受け取っているという声もあり、その情報処理の不均衡や遅さ・足りなさを指摘する報道があるところですが、それも頷ける情報取り扱いの杜撰さです。
果たしてその様な組織に、数百万に及ぶ中小企業・個人事業主の売上その他の枢要な情報を扱わせ、その生命線となる「持続化給付金」の事務処理を行わせることが適切かどうか。設立経緯のみならず、情報セキュリティの観点からも疑問に思われるところですが、ともあれ証拠は揃いました。
一般社団法人サービスデザイン推進協議会の裏側に潜むもの、その正体を見ていきましょう。
まずはページ数です。「SDEC_AOI_20161213.pdf」では全9ページであるところ・・・。
初期定款「SDEC_AOI_20160513.pdf」では、全10ページとなっています。つまり5月から12月までの7ヶ月の間に、何らかの条項が削除されたのです。
何の条項が削除されたのか。それは、両定款を見比べるとすぐに分かります。9ページの「第9章 附則」第47条以降の存在です。
現在公開されているバージョン、20161213制定版では第47条より後は存在しないものの・・・。
初期定款では第50条までの条文が存在し、「設立時社員の氏名又は名称及び住所」「設立時理事及び監事」「設立時の主たる事務所の所在場所」のそれぞれが定められています。
そして設立時社員、すなわち一般社団法人サービスデザイン推進協議会のオーナーとは。画像を表示し、文字に起こしましょう。
「第48条 設立時の社員は以下の者とする。
(本店) 東京都港区東新橋一丁目8番1号(商号) 株式会社電通
(本店) 東京都渋谷区渋谷三丁目25番18号(商号) トランス ・コスモス株式会社
(本店)東京都千代田区丸の内一丁目5番1号(商号)株式会社パソナ 」
以上の3社なのでありました。
もちろん設立時から現在に至るまでに、社員が変わっている可能性は否定出来ないのですが、「現在の登記簿に記載の理事」と「初期定款に記載された設立時理事」の構成に大きな変化がないことから、その可能性は非常に低いと結論付けられます。
特に設立時理事(全3名)のうち、電通出身の平川健司氏、トランス・コスモス出身の浅野和夫氏の2名が現在に至るまで留任していること、パソナ出身の有村明氏が退いた後も、同じくパソナ出身の杉山武志氏が理事の地位を引き継いでいることは大きな証左と申せましょう。
電通出身の理事は更に加わり、経済産業省の所管団体であった日本生産性本部も理事を1名派遣しています。
監事(全1名)については、みずほ銀行出身の古椀裕章氏が退いた後も、やはり、みずほ銀行出身の河野優加氏が継いでいる点もポイントです。
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●フーダニット(誰がやったのか)
電通、トランス・コスモス、パソナ、経済産業省、みずほ銀行。
揃いも揃ってビッグネームばかりですが、では、その絵図を描いたのは一体誰なのか。その首謀者を探るべく、初期定款「SDEC_AOI_20160513.pdf」のプロパティ欄を見てみましょう。文書の情報を開いてみます。
タイトル名:「補助金執行一般社団法人(仮称) 定款(案)」
作成者:経済産業省「情報システム厚生課」
「情報システム厚生課」でググっていただき、その後、「"情報システム厚生課" 電通」「同 パソナ」「同 トランスコスモス」「同 みずほ銀行」で検索いただければ一目瞭然ですが、令和2年(2020年)4月現在、この様な名称を持つ組織は、一般社団法人サービスデザイン推進協議会の設立に関わった五者のうち経済産業省しか存在しません。
経産省HPにおけるその紹介を見ると以下の通り。
よりにもよって「公文書類の審査」を所掌する部署が、なにをどうしたことか、民間団体の定款を作っている。しかも、その作成日は「2016/5/13」。2016年5月16日の設立時点より前のことです。
設立のさらに後、補助金の交付決定がされた後に「補助金を執行するんだから、こういう定款を用意してね」と行政が指導するならば、まだ分かります。その可能性が否定出来ないからこそ、第一回の記事では「(経産省が)首謀者と目される」とすこしボカした書き方をしてきました。
しかし、これでは言い逃れできません。経済産業省は明らかにサービスデザイン推進協議会の設立前から、団体の創設に関わっています。しかも団体の名称には「補助金執行一般社団法人」という、国民も民間も、他の公的機関までも愚弄する様なタイトルをつけているというのです。
補助金は本来、国費から出捐されるという性質上、官庁が直接事務を行うことが原則とされ(補助金適正化法第26条)、例外的に委託が可能とされています。もし、例外的に外部へ事務局を委託するにしても、それは関係者の責務を定めた補助金適正化法第3条の規定する通り、「公正かつ効率的に使用されるように努めなければならない」とされています。
そしてこれを踏まえた省庁間合意「公益法人等との随意契約の適正化について」では、競争入札(公募)が前提とされ、随意契約(決め打ち)は例外とされています。下記は内閣官房の資料です。
それにも関わらず、経済産業省は「補助金執行一般社団法人」という補助金執行事務の対象を決め打ちした名称を与えて、設立前から受動的に関わるどころか、法人におけるOS(オペレーティング・システム)というべき設立時定款、初期定款すら自分で書くなど、能動的かつ積極的に関わっている。
しかも事業の実施にあたっては、形だけの公募を行い、実質的には随意契約を行うことで、法の趣旨と省庁間合意の本旨に堂々と背いている。「公募」を実施し「審査」が終わった後は、該当ページをしれっと削除。ルールを守らせる側がルールを潜脱しているのですから、アンフェアにも程があります。これを首謀者と言わずして何というのでしょう。
他の行政機関の公正であろうとする努力を無下にし、国民の「行政の公平性」への信頼を土足で踏みにじる、とんでもない背信行為です。
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●たったひとつの確かなこと
ともかく、この情報から確実に言えることが一つあります。
一般社団法人サービスデザイン推進協議会がその誕生ゼロ日目に、初めて応募した「おもてなし規格認証に係る認定機関」の公募が経産省で始まるのは、2016年(平成28年)5月16日のことでした。
その公募開始以前、平成28年5月13日までの間に情報システム厚生課で作成された初期定款の内容を見てみましょう。
法人の目的を定めた定款第2条の(2)によれば「新たなサービスデザイン・・・に必要な規格や認証制度・・・の運用」と記載され「おもてなし規格認証」を決め打ちする形が既に作られていることが分かります。
この事に鑑みれば、公募前に経産省から情報が漏れていることはもちろんの事、それどころか経産省が公募の事前に交付先まで決めていた(形だけの公募を行い、実質的な随意契約を行うことで、補助金適正化法の規制に違背する意思を固めていた)ことは確実と言えます。
他の平成27年度補正予算の公募ページがまだ生きている(例えば「海外情報発信事業」のページ)のに対し、なぜか「おもてなし規格認証」のページは削除されていることを不思議に思っていたのですが、これで合点がいきました。なるほど、このページと定款の情報を総合すれば、国家公務員法第100条(秘密を守る義務)「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」に反する立派な犯罪行為(同法第109条第12号により懲役又は罰金刑)の証拠となってしまいます。
さらに、これらの行為は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(いわゆる官製談合禁止法)」第2条第5項(上図)の定義する「入札談合等関与行為」の第2号から第4号に該当するため、これに関わった職員は刑事罰のほか、国からの損害賠償請求の対象(同法第4条参照)となり得ます。まさしく一大事です。
なるほど担当者としては証拠を隠そうとするよな、と思ったのですが、天網恢恢疎にして漏らさず。まさかアメリカのインターネット・アーカイブ上に保存されているとは夢にも思わなかったことでしょう。
そして2回目の記事で論じてきた通り、一般社団法人サービスデザイン推進協議会にこれまで流れ込んできた補助金の類は、すべて経済産業省が支出したものでありました。
まさに一般社団法人サービスデザイン推進協議会は、経済産業省の「補助金執行一般社団法人」として機能してきたのです。しかも単なる「外郭団体」ならまだしも、その構成員は特定企業群に限られます。「公募」や「一般競争入札」の名を借りて、特定企業群に複数年に渡って国費が流れることを許容してきた経済産業省の態度は一種異様なものがあります。
記事で検証し、行政事業レビューシート(例として「IT導入補助金」の平成31年行政事業レビューシート(excelファイル)の最終版への直リンクを貼りおきます)で公開されていた通り、流れ込んだ事務費等の総額は47億8725万8519円。その内の9割超を占める45億5500万円が「外注費・委託費」の名目で組織の外部へと消えていったのでした。
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●「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」問題の現時点における全容
そして令和2年5月。持続化給付金 事務局に選定された一般社団法人サービスデザイン推進協議会は、公募が公示される2日前に取得していたドメイン「jizokuka-kyufu.jp」を用いて業務を開始しました。中小企業庁の発表によれば、同法人に対し、実に769億208万4807円の事務費が支給されることになります。
これは持続化給付金本体の2兆3,176億円とは別立ての予算であり、この事務費の殆どが一般社団法人サービスデザイン推進協議会の取り分となる見込みです。従前通りの「外注費・委託費」割合であれば、実に738億円を超える資金が外部へと流出することになります。
この金額が、会計検査院の年間予算(171億円)の4倍強、金融庁の年間予算(256億円)の3倍、スポーツ庁の年間予算(306億円)の2倍強といえば、どれだけの巨費かはご理解いただけましょう。
そして、その流出先、資金を受け取るのは・・・もうお分かりですね。非常に高い蓋然性で、特定企業群の皆さんです。
このスキームを描いた経済産業省内の組織として考えられるのは、定款の作成者である経済産業省 大臣官房 情報システム厚生課、そして「おもてなし規格認証」「IT導入補助金」を所管する経済産業省 商務情報政策局 商務サービスグループ サービス政策課です。
なるほど、行政の迅速性や効率性を重んじ、早急なリソースの調達を目論むならば大手広告会社や大手IT企業、大手人材派遣会社と官庁が組み、メガバンクを隣に据えて「補助金執行一般社団法人」を作り上げることは合理的です。しかし、あまりにも行政の公平性を疎かにしてはいないか。特定企業群と癒着することの危険性を、その利益誘導がもたらす不均衡を、あまりにも軽視してはいないか。
既に持続化給付金制度が動き出し、実際に支給を受けている方々がおられる以上、いまさらサービスデザイン推進協議会を持続化給付金の事務局から外せとは申しません。しかし、然るべき公的な監視を行い、その資金が目的外のものへと流出しない様に監督し、業務そのものにおいても適切な遂行を促していくことは今後の対応として必ず肝要となりましょう。
第一回の記事をアップロードして以来、万を超える方々に問題意識を共有することが出来、大変ありがたく思っています。note様からは「先週もっとも多く読まれた記事」の一つであるとのご連絡をいただきました。3週4万字に渡って、報告を続けることが出来たのは、ひとえに皆様のご愛読のおかげです。
歴史上類例を見ないほどに巨額の事務費が民間へと直接支給される持続化給付金事業。事務局の謎めいた正体は、誰もが把握できる形で白日のもとに晒しました。次に行われるべきは、事務局の管理監督の徹底と、ことの検証です。このバトンを引き継いでくれる方がいることを祈りつつ、後の検証の参考資料として、この記事を書き置きます。(了)
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●「サービスデザイン推進協議会」とは? |
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●電通や経産省との関係がヤバい! 5/27-6/2
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新型コロナに対する経済対策の柱である「持続化給付金」。コロナで減収となった事業者のために、法人で最大200万円、個人事業主(フリーランスを含む)で最大100万円の現金を給付する超重要な補助金です。しかし、募集開始初日のシステム障害や入金の遅れなど、多くのトラブルが発生しています。この持続化給付金の事務局が「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」です。週刊文春の取材では、なんとこの協議会が、実態のない”幽霊法人”だというのです。さらに調べてみると、電通や経産省とヤバい関係にあることも判明しました!
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●「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」は”幽霊法人”?
●持続化給付金の事務局を国から受託
持続化給付金には、2兆3,000億円という莫大な予算が付いています。そして、この莫大な予算を管理するために、経産省から事務局を受託している団体のが、「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」です。持続化給付金事務局に要する経費として、769億円ものおカネを国から受け取ることになっています。
●文春砲:実体のない”幽霊法人”?
200RT トラブル続出 コロナ「持続化給付金」を769億円で受注したのは“幽霊法人"だった 持続化給付金スクープ速報 週刊文春
協議会の所在地は、「東京都中央区築地3丁目17番9号」の興和日東ビルの2Fです。しかし、この小さなビルの1室には、補助金関係の膨大な事務を処理するスペースはなく、抜け殻状態になっています。そして、協議会の代表理事を務める笠原英一氏(アジア太平洋マーケティング研究所所長)からは、驚きの発言が!
「私は電通の友人に頼まれて、インバウンドの研究をやろうと思って入った。何にも活動がないから。いつも会議は電通さんでやっていました。電通さんに聞いた方がいい。」 ん、なぜいつも会議は電通なのでしょうか?
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●「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」と電通の関係がヤバい!
●電通・パソナ・トランスコスモスによる補助金事務局の「受け皿団体」
「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」は、769億円もの事務費を国から受け取るにもかかえわらず、公式HPも持っていません。そして、社団法人の理事をみてみると、次のような企業の出身者が続々と登場。
電通:広告代理店
パソナ:人材派遣
トランスコスモス:IT運営
協議会は、これらの企業がコンソーシアム(共同事業体)を作って、国から補助金事業の事務局を引き受けるための「受け皿団体」なのです。実際には、電通が「国の業務を間接的に請け負うための隠れ蓑」として設立した、という実態があります。そして、電通などの民間企業が直接国と契約するのではなく、協議会をトンネル団体として介在させているわけですが、これにより様々な問題点が生じます。裏を返すと、これらを狙って電通は協議会を設立したのではないか、という疑惑が出てくるわけです。
●問題点1:外注費・委託費の支出先がブラックボックス
同じく経産省の補助金である中小企業向けの「IT導入補助金」では、協議会が事務局を受託しています。しかし、この補助金では、実際には、国から受け取った資金の96%が外注費・委託費として外部に流出しています。しかし、情報が開示されておらず、そのおカネが、電通やパソナなどにいくら流れたのかわからないのです。持続化給付金についても、同様に769億円のほとんどが外注費・委託費となるはずですが、それをどの企業がいくら受け取るのかがわらかない、ブラックボックスになってしまいます。
●問題点2:実際の受託企業が法律の適用を回避
国の補助金については、その公正な使用を担保するために、「補助金等適正化法」という法律の厳格な規制が設けられています。しかし、その適用対象になるのは、国から受託した先、つまり、「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」までです。協議会を介在させることにより、電通など、実際の受託企業が、補助金等適正化法の適用を回避することができてしまうのです。
●問題点3:実際の受託企業が節税に利用可能
協議会は、営利性のある事業を行わない一般社団法人として、非課税の優遇措置を受けることができます。これにより、直接国と契約する場合と比べて、実際の受託企業が節税に利用することが可能になってしまいます。いや、この場合、むしろ脱税と呼ぶべきでしょうね。
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●「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」と経産省の関係がヤバい!
さらに、「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」と経産省との関係にも、疑惑が山積みです。協議会は、元々、2016年5月16日設立されましたが、その設立は、実質的に経産省主導で行われました。本来的には、補助金の事務局は厳正な競争入札で選ばれる必要があります。しかし、協議会の当初の設立時には、なんと、経産省自身が協議会の憲法に当たる定款を起案していたことも判明しています。そして、公募は形だけで、実質的には決め打ちの随意契約として、経産省から事務局を受託しています。「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」の首謀者は、実質的には経産省なわけです。では、なぜ経産省は、協議会にここまで肩入れするのでしょうか。実際の受託企業との関係も含めて、天下りや癒着の疑惑を拭えません。原資が税金の補助金については、公明正大な取扱いが求められます。しかし、経産省と「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」との関係は、そうした理念を踏みにじるものと言わざるを得ません。
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●意見
こうした電通や経産省と「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」とのヤバすぎる関係には、野党からの追及も始まっています。立憲民主党の川内博史議員に調査によれば、なんと持続化給付金1件当たりの手数料は5万円です!実際に現場で作業している方の給与は高くないのが通例ですから、電通などの間に入っている企業が多額の中抜きをしている、と推測されます。早期に申請をしたにもかかわらずまだ振込みを受けられずに苦しんでいる多くの事業者からすれば、許せない話でしょう。
5/26(火)代議士会での報告 「川内博史議員 持続化給付金は、電通、パソナ、トランス・コスモスが設立した一般社団法人サービスデザイン推進協議会が、ほぼ100%の事業を受託。1件当たりの手数料が5万円で法外な事務委託費ではないか。しかも会社住所に行くと誰もいない。ほぼ丸投げで電通に再委託。— 立憲民主党」
補助金制度への信頼性を確保するためにも、経産省や電通には、しっかりとした説明を強く求めます。「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」については、東京蒸溜所 蒸溜日誌さんが驚くほど詳細な調査をされています(一体何者なのかと、つい想像してしまいます)。
<追記(5月30日)>
その後の調査で、「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」から電通に749億円で再委託されていることが判明。なんと、給付金業務に係る事務費769億円のうち749億円ですから、なんと97%を電通に再委託していることになります。その不透明な実態に、国民の批判が一層高まっています。 |
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●笠原代表理事の経歴! 電通との関係は? 6/1-6/2
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持続化給付金の事務局を担う一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」。募集開始初日のシステム障害や入金の遅れなど、多くのトラブルが発生し、批判が殺到。さらに、実態のない”幽霊法人”で、事務局の仕事を電通に丸投げしていることが判明しました。国から受け取る事務局経費769億円のうち、97%に当たる749億円を電通に再委託していたのです。その批判の最中にある「サービスデザイン推進協議会」の代表理事を務めるのが、笠原英一です。笠原英一の経歴は?持続化給付金を巡る電通の関係は?この記事では、こうした疑問についてまとめます。
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●笠原英一の経歴
●現職
笠原英一は、「アジア太平洋マーケティング研究所」というコンサルティング会社の所長です。また、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科(MBAコース)の客員教授も務めています。
●学歴
早稲田大学大学院の博士後期課程を修了し、「国際経営」の博士号を取得しています。また、アメリカのアリゾナ州にあるサンダーバード国際経営大学院を修了し、MBA(経営学修士)を取得しています。
●職歴
元々は、日米の機関投資家に、ファンド・マネージャーとして勤務。その後、1989年に、富士総合研究所(現在のみずほ情報総研)に入社します。総研では、一部上場企業、国内外のベンチャー、成長中小中堅企業などに対するコンサルティング業務を行います。1995年には、通産省(中小企業庁)をクライアントとして、中小企業やベンチャー育成支援に関する政策提言を行うプロジェクトに関与しました。このころから、経産省と接点があったようです。現在、アジア太平洋マーケティング研究所では、次のような分野のコンサルティングを行っています。
「研究開発、事業開発からマーケティング、販売、財務 (IPO、M&A)、企業コミュニケーション(CI、IR)、エグゼキュティブ・トレーニング等に関する機能横断的な問題解決支援を行なう」 |
●持続化給付金を巡る電通の関係は?
●「サービスデザイン推進協議会」代表理事に就任した理由
笠原英一は、電通の友人に頼まれて、インバウンドの研究をやろうと思って代表理事に就任した、と説明しています。この電通の友人というのは、笠原英一の元教え子ということです。「研究アドバイザーをお願いします」という依頼とのことで、元々、代表理事は名目的なものだったようです。実際、笠原英一は、代表理事の役割について「協議会に所属する企業(7-8社)に、IT(情報技術)を使った業務改革の技術指導をすることで、年に一度か二度、対面で行っていた」と説明しています。交通費を含め報酬は受け取っていない、ということです。しかし、外部の学者を招いても、交通費や最低限の報酬は支払うのが普通でしょう。名目的とは言え、代表理事に対して、交通費を含め報酬を一切支払わない、というは不思議な話です。
●「サービスデザイン推進協議会」代表理事を辞任する理由
笠原英一は、5月28日、自社(アジア太平洋マーケティング研究所)のHPで、6月8日に「サービスデザイン推進協議会」の代表理事を辞任する、と表明しています。
「一部の報道について この度報道がありました「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」につきまして、わたくしは2018年に「サービス業のDX(デジタルトランスフォーメーション)による強化」という協議会のミッションに共感し、かつ、サービス業をDXを通して強化・促進する研究のため、代表理事をお引き受けいたしました。代表理事という立場ではございますが、この度の大きな社会変動のための持続化給付金事業に関しましては、別途、業務執行及び執行責任ともに事務局組織が担っておりますことを書き添えておきます。なお、就任前のビジョンの達成をもち、本年6月8日の社員総会において理事任期終了をもって代表理事を辞任する予定でおります。最後になりますが、当協議会におけるわたくしの活動費につきましては、報酬は一切受け取っておらず、あくまでも社会貢献のために参加させていただきましたことを念のため付記しておきます。 アジア太平洋マーケティング研究所 所長 笠原 英一」
辞任の理由については、「持続化給付金の受託とは無関係に、任期満了の6月に辞任することは決まっていた」と説明しています。ただし、タイミング的に、持続化給付金を巡って炎上しているから辞任するのではないか、という疑念を招いてしまいますね。
●持続化給付金を巡る電通との関係
笠原英一は、「サービスデザイン推進協議会」の持続化給付金事務局としての役割について、次のように繰り返しています。
「応札の経緯を含めて、運営体制を一切知らない。法人の設立に関わった理事に聞いてほしい(実態を知っている)理事と、協議会としてコメントを出すかどうかを相談する」
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●意見
笠原英一は、「サービスデザイン推進協議会」の単なる名目的な代表理事で、組織の運営には一切関与していませんした。もちろん、そうした取扱いが一般社団法人として適切だったのか、という問題はあります。しかし、それ以上に、やはり「サービスデザイン推進協議会」を動かしているのは、電通、パソナ、トランスコスモスといった企業であることが明らかになりました。補助金の事務局を引き受ける際の「隠れ蓑」として、実態のない”幽霊法人”である「サービスデザイン推進協議会」を利用していた、ということを裏付けています。
国から受け取る事務経費769億円のうち、電通に再委託した749億円を除く20億円は、「サービスデザイン推進協議会」に残ります。このうち、持続化給付金の銀行振込み手数料に関する部分は、最大でも13.5億円程度。残りの少なくとも6.5億円程度は、実態のない「サービスデザイン推進協議会」の利益になるわけです。こうした不透明な取扱いの実態を、しっかりと明らかにしてもらわないと、国民の怒りは収まりませんね。システムトラブルや入金の遅れにより、必要な人に、必要なおカネが届いていないわけですから。 |
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●電通の疑惑をわかりやすく解説 6/2-6/3
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新型コロナに対する経済対策の目玉である「持続化給付金」。コロナで減収となった事業者のために、法人で最大200万円、個人事業主(フリーランスを含む)で最大100万円の現金を給付するものです。しかし、募集開始初日のシステム障害や入金の遅れなど、トラブルが続出。さらに、国(経産省)から持続化給付金の事務局を受託している一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」や密接な関係にある電通を巡って、様々な疑惑が浮上しています。この記事では、持続化給付金を巡るサービスデザイン推進協議会と電通の疑惑について、わかりやすく解説します。
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●「サービスデザイン推進協議会」の疑惑を巡る前提知識
●国(経産省)と「サービスデザイン推進協議会」の関係
「持続化給付金」には、令和2年度1次補正予算で、2兆3,000億円という莫大な予算が付いています。新型コロナ対策の予算のうち、一人当たり10万円を配る「特別定額給付金」については、地方自治体(市区町村)が、審査や給付の事務を行います。これに対して、経産省が所管するビジネス関係の補助金については、審査や給付の事務について、民間に委託しています。
経産省から、持続化給付金に関する事務局の仕事を受託している民間団体が、一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」なのです。協議会は、事務経費として、769億円という多額の資金を国から受け取ることになっています。
●「サービスデザイン推進協議会」と電通との関係
「サービスデザイン推進協議会」は、2016年5月に設立されています。そして、一般社団法人である協議会の理事のリストには、次のような企業の名前が挙げられます。
●電通:広告代理店
●パソナ:人材派遣
●トランスコスモス:IT運営
「サービスデザイン推進協議会」は、こうした企業がコンソーシアム(共同事業体)を作って、国から補助金事業の事務局を引き受けるための「受け皿団体」なのです。実際の事務処理については、協議会から、こうした企業に再委託が行われています。持続化給付金については、協議会が国から受け取る事務経費(769億円)の97%に当たる749億円が、電通に再委託されています。
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●疑惑1:協議会が事務経費「20億円」を中抜き
「サービスデザイン推進協議会」は、実態のない”幽霊法人”と言われています。実際、野党が協議会の住所を突撃しても、オフィスはもぬけのからでした。
「持続化給付金の事務委託団体「サービスデザイン推進協議会」を訪問。アポイントを求めていましたが、不在でした。渡辺議員「20億円の委託料を中抜きされている。持続化給付金を、1件当たり100万円出せるとしたら、2000件出せた。国民の血税と時間を無駄にしたのではないか」— 立憲民主党」
現在、「サービスデザイン推進協議会」には、理事・監事9名と職員14名が、(少なくとも形式的に)在籍しています。国から受け取った事務経費769億円のうち、電通に再委託した749億円を除く20億円を、協議会が「中抜き」しているわけです。経産省は、20億円の内訳は、1持続化給付金の振込み手数料と2事務管理の経費に充てられる、と説明しています。しかし、1の振込み手数料(150万件と試算)については、最大でも13.5億円程度です。つまり、協議会は、2の事務管理のために、少なく見積もっても6.5億円程度を「中抜き」しているわけです。しかし、実態のない”幽霊法人”である「サービスデザイン推進協議会」が、どのような「事務管理」を行っているのか、極めて疑問です。また、協議会の代表理事を務めている笠原英一が、疑惑の中で辞任する、という話題も出ています。「サービスデザイン推進協議会」の実態の解明が求められます。
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●疑惑2:電通への「749億円」の不透明な再委託
電通は、749億円で再委託を受けた仕事の内容について、「経産省の事業なので、回答は控える」と説明しています。しかし、本来は、国から直接委託を受けた先が実際の仕事を行うのが、公共調達の原則です。にもかかわらず、形式的に「サービスデザイン推進協議会」を介在させることで、余計な階層が増えてしまっています。そして、電通が表に出ないことにより、予算の執行が不透明になり、無駄遣いがされやすい構造になってしまっています。電通がコールセンター等のすべての事務を自前でやっているはずがないので、再々委託も行われているでしょう。しかし、こうした実態も、まったく開示されていません。その他にも、次のように、電通が不当な利益を得ているのではないか、という疑惑が高まっています。
(ア)再委託を巡る支出の内容が不透明に(ブラックボックス問題)
(イ)電通が「補助金等適正化」による厳格な規制を回避
(ウ)一般社団法人を介在させることで、電通が節税可能
実際、持続化給付金を1件入金するためにかかる手数料は、5万円と試算されています。持続化給付金については審査が簡素化されている下で、あまりにも高過ぎます。この分を給付金の本体に回せば、その分だけ、救える中小企業・個人事業主が増えるわけですから。
「5/26(火)代議士会での報告 川内博史議員 持続化給付金は、電通、パソナ、トランス・コスモスが設立した一般社団法人サービスデザイン推進協議会が、ほぼ100%の事業を受託。1件当たりの手数料が5万円で法外な事務委託費ではないか。
しかも会社住所に行くと誰もいない。ほぼ丸投げで電通に再委託。 — 立憲民主党」
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●これまでに判明した持続化給付金の委託費の流れ
野党の追及等を受けて、徐々に持続化給付金に関する委託費の流れの全体像が明らかになってきました。
6月2日までに、やはり、電通から、同じく「サービスデザイン推進協議会」の理事を務めるパソナ(申請受付け業務)やトランスコスモス(コールセンター業務)に対して、業務の外注(再々委託)が行われていたことが判明しています。また、持続化給付金の振込み業務も、電通の子会社である電通ワークスに外注していました。さらに、「サービスデザイン推進協議会」の職員が、電通・パソナ・トランスコスモスをはじめとする設立に関与した企業からの出向者であることも明らかに。こうした出向者の給与は、協議会と出向元の企業の双方から出ているとのことです。やはり、法人の実態はなく、電通やパソナが国からの事務委託費を分け合うための「隠れ蓑」と言わざるを得ない状況です。
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●意見 持続化給付金の迅速かつ適切な執行を!
民間に委託するメリットとして、国と比べて進んだテクノロジーを利用できる点が挙げられます。地方自治体が事務を行う10万円給付金では、オンライン申請で多くのトラブルが報告されています。しかし、実際には、持続化給付金についても、申請初日のシステム障害やその後のトラブルが続出しており、非常にお粗末です。審査や入金の遅れにより、必要な人に、必要なタイミングで、必要なおカネが届いていないわけです。電通という一流企業に、極めて高額の費用を払って任せているメリットが、まったく感じられません。
立憲民主党をはじめ、野党は、「サービスデザイン推進協議会」や電通の持続化給付金に関する疑惑を、さらに徹底的に追及する姿勢を示しています。民間委託の望ましい方法も含めて、補助金の迅速かつ適切な執行に向けた議論が深まることを期待したいです。(了) |
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●Go To キャンペーン |
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●Go To キャンペーン事業とは?
「Go To キャンペーン事業」とは、新型コロナウイルスの影響で経済的に大打撃を受けた観光業や飲食業、イベント・エンターテインメント事業などを支援し、さらに需要を喚起するために行われる取り組みです。
災害等により旅行客が減少した地域の活性化のために行われた「ふっこう割」と同じような施策で、今回は日本中を対象としてこれまでにない予算規模で実施されます。
Go To キャンペーン事業は、以下の4つに分かれます(2020年6月現在)。
・Go To Travel キャンペーン
・Go To Eat キャンペーン
・Go To Event キャンペーン
・Go To 商店街 キャンペーン
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●Go To Travel キャンペーンの内容は?いつから始まる?
「Go To Travel キャンペーン」は、旅行会社や旅行予約サイト等を通じてキャンペーン期間内に旅行予約をした場合に、その代金の2分の1に相当する金額がクーポン等で付与されるというもの。付与される金額の上限は、1泊1人あたり最大2万円分が予定されています。補助代金の7割は宿泊料金の割引、残りの3割は旅行先での飲食や観光施設、地域産のお土産を購入する場合に使えるクーポンなどとして付与されます。
なお、キャンペーンの対象となるのはパッケージツアー、宿泊を含む手配旅行となるため、注意しましょう。
2020年5月25日に緊急事態宣言が解除されて以降、段階的に外出自粛の緩和が進められています。
観光については、6月中旬までは県内の移動に限定、以降は県をまたいでの観光も可能……というように徐々に緩和され、8月以降に全国的に移動制限が緩和される見通しです。これにあわせ、Go To キャンペーンも7月下旬頃からの開始が検討されています。
ただし新型コロナウイルスの感染状況を見ながら進められるため、時期が延期になる可能性も充分あります。
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●Go To Travel キャンペーンでどれくらい安くなる?
Go To トラベル キャンペーンで、旅行はどれくらいお得になるでしょうか?現時点で分かっている情報を基に、具体例としてご紹介します。
例えば旅行会社を経由して1泊2日、30,000円のパッケージツアーを予約した場合、半額に相当する15,000円分が補助されます。15,000円の内の7割にあたる10,500円が旅行代金から割引、残りの4,500円が現地で使えるクーポンなどで付与される計算になります。
もし1泊2日で50,000円のツアーを予約した場合、旅行代金の半額は25,000円ですが補助額は1泊の上限である20,000円分。ただし、2泊3日で50,000円のツアーの場合は1泊あたり25,000円となるため、その半額の12,500円×2泊で25,000円が補助されます。
日帰り旅行の場合は、補助金額の上限が1万円になります。8,000円の日帰りバスツアーに参加した場合、半額に相当する4,000円分が補助。4,000円の内の7割に当たる2,800円がツアー代金から割引、残りの1,200円がクーポンなどで付与されます。
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●そのほかのキャンペーンはどんなもの?
●Go To Eat キャンペーン
キャンペーン期間内にオンライン飲食予約サイトを利用して飲食店を予約、来店した場合に、飲食店で使えるポイントが一人あたり最大1000円付与されるもの。登録飲食店で使える、2割相当にあたる割引券がついた食事券も発行されます。
●Go To Event キャンペーン
チケット会社を利用して、期間中にイベント・エンターテインメントのチケットを購入した場合に、2割相当分の割引・クーポンなどが付与されます。
●Go To 商店街 キャンペーン
商店街でイベント開催や観光商品の開発など、新たな取り組みが行われます。
2020年5月26日現在の情報です。今後さらに詳しい情報が待たれますね!
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●Go To Travel キャンペーンで旅行へ行こう!
2020年4月の緊急事態宣言発令後、1ヶ月半にわたり外出自粛生活が続きました。旅行だけでなく、外食や趣味などのお出かけもままならない日々は、ようやく終わろうとしています。
とは言ってもまだ新型コロナウイルスの感染が終息したわけではなく、外出自粛の緩和は段階的となります。感染者が増加すれば再び緊急事態宣言が出され、外出できない生活に戻る可能性があります。
手洗いの励行とマスクの着用はもちろん、人との距離を保つ、感染状況を常にチェックするなど、引き続き感染を広げない行動を心がけましょう。
そしてGo To Travel キャンペーンが始まったら、また楽しく旅行に出かけましょう!
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2020年6月5日現在の情報です。情報は変更となる可能性があるため、経済産業省や国土交通省、各自治体などが発表する情報に加え、各旅行会社の公式サイト等で最新情報を必ずご確認ください。
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●「Go To キャンペーン」は経済回復の切り札になれるか? 6/10 |
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●事務経費3000億円は「高すぎる」野党… 「Go To キャンペーン」 6月17日に会期末が迫る終盤国会で、野党が激しく追及している「Go To キャンペーン」。総事業費約1兆7000億円という巨大事業だが、野党は、キャンペーンに直接使用されない事務経費が約3000億円と2割近くに当たるのは「高すぎる」として、「税金の無駄だ」と批判している。このGo To キャンペーンとは、いったいどのようなキャンペーンなのか。
新型コロナウイルスの拡大を受けて、政府が4月に閣議決定した緊急経済対策は、感染が終息するまでの「緊急支援フェーズ」と、感染が終息した後の「V字回復フェーズ」という2段階に分かれている。
そして、2段階目の「V字回復フェーズ」で、屋外活動の自粛などにより甚大な被害を受けている観光・運輸・飲食・イベントなど様々な事業を対象に、官民挙げて「Go To キャンペーン(仮)」を行うとしているのだ。
具体的には、「キャンペーン期間中の旅行商品を購入した消費者や飲食店を予約・来店した消費者、飲食店で使える食事券を購入した消費者、イベント・エンターテインメントのチケットを購入した消費者に対し、割引・ポイント・クーポン券等を付与する」という。
つまり、Go To キャンペーンとは、感染終息後、旅行や外食、イベントなどを、税金を使って割引し、お客さんを増やして事業者を支援することで、経済回復につなげようというものだ。現時点でわかっている内容は以下の通りだ。
●観光キャンペーン
旅行宿泊や地域産品、飲食等に割引やクーポン等を付与する。ただし、クーポン等の上限は代金の2分の1相当で、1人あたり1泊につき最大2万円を目途とする。
●飲食キャンペーン
オンライン予約等による飲食店の予約や食事券の購入に割引やポイント等を付与する。ただし、ポイントや割引などの上限は1人あたり最大1000円分、または2割分を目途とする。
●イベント・エンターテインメントキャンペーン
チケット販売業者経由で購入されたイベント等のチケットに割引やクーポン等を付与する。ただし、クーポン等の上限は1人あたり最大2割分を目途とする。
●商店街キャンペーン
上限を300万円とし商店街等におけるイベントやキャンペーンの実地。複数商店街等の広域での実地の場合は500万円の上乗せも可能とする。
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●7月下旬から開始予定・・・委託先公募いったん中止で暗雲が
大手の旅行代理店などは早速、特設ページを作り、「旅費の“半額”補助」などの見出しとともに大々的な広告を展開している。
西村経済再生担当相は、全国で緊急事態宣言が解除された5月25日、Go To キャンペーンを7月下旬から段階的に開始する方針を表明した。
しかし、約3000億円の事務委託費をめぐる野党の批判を受け、政府は、6月5日、委託先の公募をいったん中止した。これにより事業開始が7月下旬からずれ込む可能性が出ている。先行きに暗雲が立ちこめてきた。
そして、Go To キャンペーンの懸案はこれだけでない。
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●一番きつい地域・業界が回復できるのか・・・自民党議員の懸念
「一番きつかった地域、一番きつかった業界が、やっと立ちあがってきたところで、もうお金がありませんということになりかねない」
こう語ったのは、自民党観光立国調査会の武井俊輔・事務局次長だ。
武井氏は、「早く回復できる地域と早く回復できない地域、早く回復できる業種と時間がかかる業種がある」と指摘し、再開が遅れた事業者が十分な恩恵を受けられないことに懸念を示した。
「有名テーマパークに行く人が事業費をみんな使ったら、キャンペーンは終わっちゃうんですよ」
キャンペーンは「早くやった方がいい」とする武井氏だが、感染拡大の状況が地域や業種ごとに違うので、開始前にきちんとした制度設計の議論をしなければならないと主張する。 |
●本当にきつい人に届くのか・・・今後の制度設計が課題
制度設計では、いかに感染拡大の影響を受けた事業者を支援できるかが問われる。
観光業界からの不安や懸念の声を多く聞いてきた武井氏が、“心配な業種”として、まず例にあげたのが貸し切りバスだ。貸し切りバスは、「飛行機や新幹線に比べると、代替率が高い」。つまり、貸し切りバスは、旅行の際の移動手段として、自家用車やレンタカーなど別の選択肢が多いため、影響が大きい。制度設計で目配りが必要だ。
さらに、武井氏は「いい旅館から埋まるんですよ」と苦笑いする。
「今まで2万円で高いなと思っていたところが1万2000円で泊まれれば、ちょっと行ってみようと。普段8000円のところが3000円だというインセンティブに比べると、はるかにそちらの方が高い」
“お得感”による利用施設の偏りという問題点も考慮すべきだというのだ。
キャンペーンを実施する事業者の状況は千差万別だ。武井氏は、宿泊施設の予約について、「電話を受けたとメモ帳に書くとか、壁掛けカレンダーに誰々様と書くだけみたいな所もある」と話す。予約から支払いまで全てインターネット上で行うOTA(=オンライントラベルエージェント)を利用した場合から、直接ホテルに電話をして予約し現地で支払う場合など、様々なケースを想定する必要があると指摘する。制度設計は簡単ではない。
さらに「キャンペーンの終わらせ方」も大切な視点だという。こうしたキャンペーンは、予算を使い切れば終わるものだが、キャンペーンを前提にしていた利用者が突然施設側から「キャンペーンが終わったので正規料金がかかります」と告げられたら、どうだろうか。武井氏は「結局、施設が割引分を被らなければいけないだろう」と現場の空気を語る。
そうならないためにも、キャンペーンの進捗状況を管理する仕組みや、不公平なくキャンペーンを終わらせる道筋を議論し、制度に盛り込むべきだというのだ。
「だからこそ官公庁や事務局の腕の見せ所だ」。
課題を指摘してきた武井氏は最後にこう語り、キャンペーンへの期待感を滲ませた。
走り出す前から不穏な空気に包まれているGo To キャンペーンではあるが、「国内の人の流れと街の賑わいを作り出す」というキャンペーンの理念の元、見事完走してほしいものだ。 |
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