検察の良心 

検察には日本の良心が残っている
「検察は不偏不党 公平でなければならない」

黒川東京高検検事長の定年延長問題
総理の安全 最優先
そんなソロバン 許される政治ですか
 


 
 
検事正
検察官の職階の一。地方検察庁の長として庁務を掌理し、その庁および管内の区検察庁の職員を指揮・監督する。 
検事正の仕事
検事正は地方検察庁(地検)の最高責任者ですから、捜査・公判という刑事事件の処理や、検察官や事務官で構成される検察庁の組織運営といった面で、あらゆる決裁を通じて最終的に責任を持つ立場であり、大変重い責務を担っています。
個々の仕事については、各職員が責任をもって仕事に取り組み、次席検事や事務局長を始めとする幹部がまずは指導・決裁を行いますので、検事正は方向性や結論に誤りはないかといった大局的な見地から最終的な指導・決裁を行うというのが役割となります。
事件処理の指導・決裁も同様で、事件を担当する主任検察官が事件記録を読み込み、被疑者からも直接話を聞いているので、主任検察官の意見を十分に尊重しますが、捜査経験の差などから主任が問題点に気づいていない場合もあり、そのときには誤った方向にいかないように指導をします。私はもともと弁護士志望でしたが、司法修習生のときに真相解明の奥深さに魅せられ、また、被疑者の更生や再犯防止に関与できるのは実は検察官ではないかとの思いから、検事に任官しました。そこでこの2つの観点からも、主任検察官に対してはいろいろな角度から質問をするなどし、検察官の育成を図ることができるよう日夜努めているところです。
検事正の対外的な役割
地検は都道府県に1庁だけ設置されていますので(北海道は4庁)、各都道府県における地検の責任者として、いわば地検の「顔」としての対外的な役割も担っています。
そこで、関係機関が主催する様々な行事、例えば保護観察所や人権擁護委員連合会、警察本部、公安委員会等が主催する定時総会、協議会などに出席して祝辞を述べたり、意見交換を行ったりしています。また、地方・家庭裁判所長、県弁護士会長と検事正の法曹三者が集まる会合、刑務所長、保護観察所長、法務局長などの法務省関係者が集まる会合、日銀の支店長や地元の経済界等の幹部が集まる会合などに定期的に参加し、地元の情勢について情報交換なども行っています。  
 
 
●「黒川氏が望ましい」定年延長問題 
黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題だ。安倍首相は2月13日の国会で安倍内閣として解釈を変更したことを明言した。
『定年延長は、政権に近く「お庭番」とやゆされる黒川氏の検事総長登用のためとされるが、弁護士出身の法相や法務省、人事院の答弁が、安倍晋三首相の主張に沿う形で迷走し、虚偽答弁の指摘も受けている。』
黒川検事長が定年延長になれば次期検事総長の道も開けてくる。読売新聞には今回の答えが書いてあった。
『政府関係者によると、次期検事総長の人選は、昨年末から官邸と法務省との間で水面下で進められた。同省から複数の候補者が提案されたが、安倍首相と菅官房長官は黒川氏が望ましいとの意向を示したという。』
安倍首相と菅官房長官の意向。この「逆算」にあわせるために周囲がドタバタしているとしか見えない。モリカケとまったく同じ構図。ちなみに「黒川弘務」の名は先ほどの籠池氏の本にも出てくる。
「8億円値引きと公文書改ざん」の件で財務省が告発されていた頃のこと。「不起訴」になるというメモ情報が法務検察から事前に漏れていたという。共著者の赤澤氏が取材報告として、 『わたしが、東京、大阪の両特捜部で働いたことのある元検事に聞いたところ、彼はこの「法務省」について、「これはズバリ黒川さんだよ」と言い切りました。このメモが出された当時、法務省事務次官だった黒川弘務氏のことだと言うのです。』
これを受けて籠池氏は  
『安倍さんの覚えめでたい黒川弘務氏は現在、東京高検検事長。法務検察の序列ではナンバー2である。事務次官から東京高検検事長というラインはエリートコースであり、黒川氏は次期検事総長の最有力候補なのだという。つまり日本最強の捜査機関のトップに立つ可能性があるのだ。ただただ暗澹たる気持ちにならざるを得ない。 』 と書いている。
見事に現在までつながっている。 
 
 
 2020/2
●黒川弘務・東京高検検事長の定年延長 2/13 
異例の人事が発表された2日後の日曜日。渦中の“官邸の守護神”はこの日も朝の日課を欠かさなかった。自宅から姿を現した黒川弘務東京高検検事長に「週刊文春」記者が声を掛けると一旦は駆け出したものの、やがて大型犬を連れて歩き始めた。
――今回の定年延長は検事総長就任含みですか?
「……」
――「安倍政権ベッタリ」と言われる黒川さんが検事総長になって部下の検察官はどう思うのでしょうか?
「……」
――“黒川検事総長”で政界捜査はできるんですか?
「……」
黒川氏は「取材は法務省を通して下さい」と答え、こう付け加えた。
「あなたのせいで僕の趣味の犬の散歩ができなかった」
黒川氏を巡る“横紙破り”の人事発令の衝撃は、コロナウイルス禍で揺れる霞が関に瞬く間に広がった――。
政治介入を許さない“聖域”だったはずが……
1月31日、政府は2月7日に63歳の定年を迎える黒川氏を8月7日まで勤務延長とする閣議決定を行なった。検察庁法は検察トップである検事総長の定年を65歳、ナンバー2である東京高検検事長以下の定年を63歳と定めている。法務省側はこの規定に従い、黒川氏を退官、後任に黒川氏の同期で名古屋高検検事長の林真琴氏を据える人事案を練っていたが、これを官邸が土壇場でひっくり返したのだ。
「次期検事総長に黒川氏を起用するために国家公務員法に基づく定年延長の特例規定を持ち出した形です。林氏は今年7月30日の誕生日で定年を迎えるため、検事総長の目はほぼ消えた。現検事総長の稲田伸夫氏も7月には検事総長の平均在任期間の2年を迎えます。稲田氏が退官すれば今夏には安倍政権寄りの黒川検事総長が誕生する可能性が濃厚になった」(司法記者)
法務省は、政官界の不正に捜査のメスを入れる検察庁という特別機関を抱えており、検察首脳人事はこれまで政治介入を許さない“聖域”とされてきた。政権側も検察組織の中立性を尊重し、法務検察側の人事案を追認してきたが、その不文律を踏みにじる前代未聞の事態に、ある検事総長経験者もこう危惧する。
「この人事で官邸は『法務検察も聖域ではない。いつでも人事権を行使できる』と言いたいのかもしれません。ただ、今回の件は将来に禍根を残す。ルールを曲げてまで黒川氏を残せば、官邸に嫌われると総長にはなれないという、ご都合主義が罷り通ってしまう」
折しも昨年12月25日にはIR汚職で東京地検特捜部が秋元司衆院議員を逮捕。“最強の捜査機関”が10年ぶりにバッジを挙げ、息を吹き返したとされる中、官邸と法務検察との間で何が起こっているのか。
菅官房長官と黒川氏は“相思相愛”
官邸関係者が明かす。
「黒川氏は菅義偉官房長官から絶大な信頼を寄せられ、いまも定期的に会食をする仲です。また、官房副長官の杉田和博氏とは菅氏以上に近しい関係で、頻繁に電話で連絡を取り合い、時には捜査の進捗状況などの報告を行なっているとみられています。杉田氏は中央省庁の幹部人事を握る内閣人事局長を兼務しており、黒川氏の人事発表後にも『国家公務員の定年延長はよくあること』と囲み取材で語るなど、今回の人事のキーマンでもあります」
黒川氏は今でこそ安倍政権ファーストの“官邸官僚”として知られるが、若き日の彼を知る特捜OBの弁護士はこう振り返る。
「黒川氏の同期のなかには、のちに特捜部長になった佐久間達哉氏もいました。当時検事になったばかりの黒川氏と佐久間氏が先輩の特捜検事の部屋に『僕らも将来特捜部に行きたいんです』と教えを請いに行っていた姿を覚えています」
1997年、念願の特捜部に配属された黒川氏は故新井将敬代議士の証券取引法違反事件などを担当。証拠を集め、冷静に相手から供述を引き出す手腕は高く評価されたが、翌年には法務省が彼を引き上げた。それ以降、彼は“本省の人”とみなされ、刑事局総務課長、大臣官房秘書課長を経て、エリート法務官僚としての地歩を固めていくのだ。
「菅氏との接点は今から約15年前のことです。当時振り込め詐欺が増加し、そのツールとして足が付きにくいプリペイド携帯の悪用が問題化していました。菅氏は振り込め詐欺撲滅ワーキングチームの座長として議員立法でプリペイド携帯の販売禁止法案の提出を目指していたのですが、これに携帯業界などが反発。そこで購入の際に本人確認を厳格化し、転売を封じる“規制法”として成立に漕ぎつけたのですが、この時、菅氏の意向を汲んで動いたのが黒川氏でした。菅氏は周囲に『凄くできる奴がいるんだよ』と手放しの褒めようで、それ以来、法務省案件で何かあると『黒川がやりますから』が常套句になった。一方の黒川氏も『次の総理は菅さんしかいない。役人とは違うスピード感がある』と相思相愛です」(政治部記者)
12年末に第二次安倍内閣が発足し、菅氏が官房長官に就くと、その関係はより強固になっていく。
「法務省官房長になった黒川氏は与野党議員などへのロビイングで本領を発揮。議員への法案説明ひとつとっても、資料の作り方もうまいし、説明に行く議員の順番やタイミングまですべて彼の差配でした。野党にも豊富な人脈があり、警察が絡む党内のトラブル案件の相談も受けていました。ある野党議員は黒川氏から『大丈夫です。政治案件は本省マターですから』と暗に立件の可能性を否定してもらい、ホッとしたと話していた」(法務省関係者)
政権中枢の疑惑を立件せず
16年1月、「週刊文春」は安倍政権の屋台骨を支えていた甘利明経済再生相の口利き疑惑を当事者の生々しい証言で詳細に報道。あっせん利得処罰法違反の疑いは明白だったが、特捜部は甘利事務所への家宅捜索さえ行なわず、不起訴処分とした。
「14年の小渕優子元経産相への捜査ではハードディスクを電動ドリルで破壊する悪質な隠蔽工作まであったが、議員本人までは立件せず。いずれも黒川氏による“調整”と囁かれました。そして政権中枢の疑惑を立件しなかった論功行賞といわんばかりに、官邸は同年夏に黒川氏の事務次官昇格人事をゴリ押しするのです」(同前)
法務検察は、黒川氏と同期の林氏を将来の検事総長候補と位置付け、黒川氏を地方の検事正として転出させ、林氏を事務次官とする人事案を作成。ところが官邸側はこれを蹴り、露骨に人事に介入してきたのだ。
「官邸は過去3度廃案になっている『共謀罪』の成立を見越して、黒川氏の調整能力が欠かせないと判断し、彼の次官昇格を求めたのです。翌年の共謀罪の国会審議では答弁が心許ない金田勝年法相に代わり、刑事局長だった林氏が矢面に立ち、法案成立のために粉骨砕身した。ところが、17年夏の人事では再び官邸が介入。裏で汗をかいた黒川氏の留任が決まるのです」(同前)
そして18年1月。林氏は三たび、官邸に法務事務次官就任を阻まれ、名古屋高検検事長に転出することになったのである。
「きっかけは大臣官房に“国際課”を創設するにあたっての省内の軋轢でした。当時の上川陽子法相はハーバード大出身のグローバル志向で、海外で活躍できる法曹家の育成を目指す“司法外交”をテーマに掲げていました。その司令塔として官房に国際課を置くことは、黒川氏の構想とも合致した。一方で、省内で絶大な権力を持つ刑事局にはかねてから国際課があり、その名称と機能を官房へと移すことに、局長の林氏が異を唱えたのです。『きちんと説明した』『いや、聞いていない』という応酬で、大臣官房vs.刑事局の対立構図になった。結果的に刑事局の国際課は『国際刑事管理官室』に名称を変更。グローバル化に舵を切った上川氏は林氏の次官就任を拒み、官邸の×印がついた」(同前)
片や黒川氏は「自分から事務次官になりたいと言った訳ではない」と嘯(うそぶ)き、検事総長ポストにも執着していないかのような言動を繰り返してきた。
犬の散歩以外の黒川氏の趣味は麻雀とカジノ
「黒川氏は『自分が総長にならない方がいい。自分はこれまで“安倍政権べったり”などと散々悪口を言われてきた。新任検事や若手の検事がトップをみて、士気が下がるのが怖い』と敢えて意欲を隠してきました。ところが、その言葉とは裏腹に、昨年9月の内閣改造では菅氏に近い河井克行氏が法相として入閣。黒川氏の総長就任への布石だとの見方が広がり、河井氏が公職選挙法違反の疑惑で辞任した10月以降、検察首脳人事は再び迷走を始めるのです」(検察関係者)
現総長の稲田氏は、今年4月に京都で開催される「国連犯罪防止刑事司法会議」に出席し、そこでの講演を花道に退官する予定だったが、官邸の意を受けた辻裕教法務次官から黒川氏の63歳の誕生日までに退官するよう暗に迫られ、“焦り”を滲ませていた。
「その意趣返しか、事件捜査に慎重だった稲田氏が年末年始を挟んで河井夫妻の徹底捜査を指示。担当する広島地検には岡山や山口、そして大阪地検特捜部からも応援検事が入り、1月15日の一斉家宅捜索に繋がったのです。稲田氏は河井捜査で菅氏側にプレッシャーを掛けたともっぱらでした」(同前)
さらに1月下旬には、IR汚職の捜査で新たに「500ドットコム」とは別の大手カジノ事業者日本法人にも家宅捜索が入ったことが明らかになった。一連の捜査に、菅官房長官は「正規の献金までやり玉に挙がっている」と不快感を示し、杉田副長官も「あまりに荒っぽい。特捜はどこまでやるんだ」と周囲に危惧を漏らしているという。そんな最中に両氏と近しい黒川氏を次期検事総長に内定させるかのような史上初の定年延長を発令すれば、捜査現場に与える心理的影響は計り知れない。それこそが安倍官邸の狙いではないのか。
「皮肉なことに黒川氏の犬の散歩以外の趣味は麻雀とカジノ。休日にはマカオや韓国にカジノに出掛けることもあるそうで、カジノの内情を知る彼はIR捜査に一見積極的だった。河井氏についてもかつて法務副大臣だった頃の高圧的な態度が我慢ならなかったようで、捜査にはっぱをかけていた。つまり、彼は捜査を煽る一方で、官邸には調整役として恩を売る。彼が“腹黒川”と揶揄される所以で、そうして自分の存在意義を高め、総長の座をほぼ手中に収めたのです。
禁じ手人事の見返りに、黒川氏は今後官邸側から、河井捜査だけでなく、菅原一秀議員の公選法違反の捜査でも議員らを無罪とするための役回りを負わされかねません」(同前)
特捜部を率いる森本宏部長は2月に地方の検事正に転出する見込みだったが、5月まで在任期間が延びたとされる。17年9月からの異例の長期態勢を率いるエースの後ろに最後まで君臨するのも黒川氏となった。
官僚の忖度を数多招いてきた安倍長期政権に、最後の“聖域”も膝を屈した。  
●検察には日本の良心が残っている 2/24
黒川検事長定年延長問題の非を鳴らしたのは、静岡地検の神村昌通検事正。
紙を手にした、神村氏は黒川氏の定年延長を念頭に法務大臣が発することができる検察庁法で定められた「指揮権発動」についての条文を読み上げたという。
「今回の(定年延長)ことで政権と検察の関係に疑いの目が持たれている」「国民からの検察に対する信頼が損なわれる」「検察は不偏不党、公平でなければならない。これまでもそうであったはず」「この人事について、検察庁、国民に丁寧な説明をすべき」
この神村さんという人、林真琴名古屋高検検事長と親しいとも報じられるが、言っていることは全部正論。むしろ、法務検察の総意を代弁していると考えるべき。
安倍内閣が汚職隠しに検事総長人事に介入しようとした。少なくとも、疑惑を持たれても仕方がないいかがわしい行動をとっている。今が恐るべき事態だと気づいている日本人は少ない。ただし、マスコミにも検察にも、心ある人はいる。  
●安倍内閣と法務・検察、どちらかが叩きのめされるまで続く死闘が始まった 2/24
絶句してしまった。この世に、これほど間違った内容を伝えるジャーナリストがいるのか。もはや、ここまで間違っていると、ジャーナリスト生命の危機ではないかと、他人事ながら心配になる。普通は人間のやることに100点も0点も無いものだが、今回は極端な例外だ。特に恨みはないので名は秘すが、何もかもが間違った発信で世を惑わし、当方にまで迷惑がかかってきた。  
曰く、「黒川弘務東京高検検事長の定年が、誕生日直前になって延長されたが、首相官邸は政治介入などしていない。事実は、法務省が林真琴名古屋高検検事長を次期総長に推したら、官邸からは返事が無かった。そこで官邸の意向を理解した法務・検察が黒川氏を次期総長に推す案を検討したが、これに現職の稲田伸夫総長がカルロス・ゴーン逃亡事件の責任を取らされたと思われるのが嫌で駄々をこねた。そこで黒川氏の定年を延長し、稲田氏が夏の定期異動まで居座れるようにしたのだ。むしろ、黒川氏の昇進阻止、林氏の出世を望む朝日新聞が意図的に歪曲報道をしている。朝日新聞こそ、検察への人事介入をやめろ!」云々。  
このジャーナリスト氏の言い分が事実だとしたら、首相官邸は「林総長案」を蹴り、人事介入をしているではないか(失笑)。また、安倍首相はメディアや野党の攻撃を甘受してまで法務・検察に配慮してあげた、お人よしということになる。贔屓の引き倒しだ。そして、稲田現総長だけが悪者になる。眉に唾を大量につけて聞かねばならない、与太話だ。  
ところが、ネトウヨ相手の商売など、チョロイものだ。こんなタワゴトを根拠に「お前の言っていることは自分が聞いた話と違う!」と私に抗議してくる人間がいる。「お前の信じている人間こそ全部デタラメなのだから仕方が無かろう」としか言いようがないのだが。  
ネトウヨ界隈なら、「安倍首相は100点、安倍さんに逆らうパヨクは0点!」程度の言論で済むのだろうが、次元が低すぎる。  
しかし、罪なものだ。愚かなネトウヨとて、最初から愚かなネトウヨだった訳ではない。世の中のことを知りたいと思って、騙された哀れな存在なのだ。そして、純真な人間を騙して食い物にする人間が、いわゆる保守論壇には溢れている。そろそろ、一掃すべきか。  
さて、今回の首相官邸の検察人事への介入は大事件である。首相官邸の主である安倍内閣と法務・検察、どちらかが叩きのめされるまで続く死闘が始まったのだ。
法務・検察は特殊な組織である。検察庁は法務省の「特別の機関」と規定されている(法務省設置法第14条)。だが、力関係は逆で、司法試験合格者の検事が集まる検察は、法務省のことを「ロジ」と呼ぶ。ロジスティックスのロジ、後方の意味だ。他の役所と違い、法務・検察の頂点は、法務事務次官ではない。検事総長だ。その検察庁のトップである検事総長をめぐり、林真琴・黒川弘務の両氏は、激しく出世競争をしていた。二人とも司法修習所35期の同期、同じ昭和32年生まれである。ただし黒川氏は2月8日、林氏は7月30日生まれである、検事の定年は63歳だが、検事総長のみ65歳だ。だから、総長になれなければ、法務・検察を去るしかない。本来は。
林氏は、「検察のエース」「保守本流」と目されていたが、安倍首相と菅官房長官に嫌われ続けた。逆に黒川氏は、引き立てられてきた。一説には甘利明氏や小渕優子氏らの疑惑事件を黒川氏が揉み消した論功行賞とも言われるが、よくわからない。  
林氏の出世が阻まれること、三度! 首相官邸は、この4年間、林氏を徹底的に嫌い、黒川氏を重用し続けた。だが、誕生日のみは変えられない。  
2月7日までに稲田検事総長が辞めて譲ってくれなければ、黒川氏は法務・検察を去るしかない。これが検察では誕生日が重要となる理由であり、人事を操作する奥義だ。これが、首相官邸の人事介入を受け続けた検察の奥の手だった。  
長年、二人の競争を追い続けたウォッチャーは皆、「とうとう黒川氏も時間切れか」と決着を見届けようとした。5日には、検察庁内で黒川氏の送別会まで用意されていたと聞く。そんな時、青天の霹靂の如く、黒川氏の定年が半年延長された。史上初の椿事である。  
検察官には定年延長の規定が無い(検察庁法第22条)。ところが安倍内閣は、国家公務員法の規定を適用した。検察官も国家公務員であるとの理由だ。こんな解釈、法制局が通したのか?  
当然、国会で問題視される。国家公務員法は一般法。検察庁法は特別法。特別法は、一般法に優先する。ところが森まさこ法務大臣は「一般法は特別法に優先する」と言い切ってしまい、野党の反論になすすべがない。当たり前だろう。森法相は弁護士出身で、たまたま所管大臣に当たってやらされたが、自分がしでかした事の意味を分かっているだろうし、良心の呵責に苦しんでいるだろう。答弁はしどろもどろで、目が泳いでいる。  
ちなみに菅官房長官の答弁に至っては、日本語の会話として成立していない。  
安倍内閣は、黒川氏定年延長の大義名分に、「業務遂行中の必要性」などと謎の理由を掲げている。こんな子供じみた言い訳を信じるなど、よほどの安倍信者、アベノシンジャーズの中でも狂信者くらいだろう。
IR事件は、政界にどこまで捜査が及ぶのかと戦々恐々だったが、一気に幕引きにかかっている
では、1月30日に黒川氏の定年延長が閣議決定されて何が起きたか。  2月3日、IR事件に関し、秋元司容疑者以外の国会議員5人の捜査を打ち切るとの報道が、一斉に流れた。「12人リスト」と呼ばれる文書が出回り、政界にどこまで捜査が及ぶのかと戦々恐々だったが、一気に幕引きにかかっている。  
さらに2月12日、その秋元被告人の保釈が認められた。検察が起訴した後、罪状を否認している被告人が、わずか49日で保釈が認められるのは異例である。検察の異議を裁判所は退けた。これは文明国として当然なのだが、ずいぶんと物分かりがいい。SPA!連載でおなじみの佐藤優氏などは512日も勾留されている。  
裁判所も、検察に力なし、と見くびっているのだ。  
この状況を検察が打開する方法はただ一つ。倒閣だけなのだ。  
生き残るのは、どちらか。 
●黒川検事長の定年延長問題 検事正の乱「国民からの信頼が損なわれる」 2/24
「急な発言で何を言い出すのかと思ったら、黒川検事長の定年延長問題の公然と批判する意見を検事正が言い出した。本当にびっくりした」(法務省関係者)
東京高検の黒川弘務検事長(63)の定年延長問題をめぐり、19日に法務省で開かれた全国の法務・検察幹部が集まる「検察長官会同」で、冒頭のような爆弾発言が飛び出した。森雅子法相や稲田伸夫検事総長らも、出席したこの会議。その席上には当事者である黒川検事長もいた。
森法務相、稲田検事総長の訓示や挨拶などがあり、その後、日産自動車元会長、カルロスゴーン被告の逃亡を巡って、保釈制度など検察運営の論議に移った。
「ゴーン被告の逃亡を受けて、法律改正が見込まれる中でその説明などがありました。そこで、意見はないかとの声がかかり、挙手して発言したのが、静岡地検の神村昌通検事正でした」(前出・法務省関係者)
紙を手にした、神村氏は黒川氏の定年延長を念頭に法務大臣が発することができる検察庁法で定められた「指揮権発動」についての条文を読み上げたという。
「今回の(定年延長)ことで政権と検察の関係に疑いの目が持たれている」 「国民からの検察に対する信頼が損なわれる」 「検察は不偏不党、公平でなければならない。これまでもそうであったはず」 「この人事について、検察庁、国民に丁寧な説明をすべき」
こうした趣旨の意見を述べたという。それに対して法務省の辻裕教事務次官は、「定年延長は必要であった」と述べるにとどまったという。
黒川氏はその場では表情を変えずに聞いていたという。その隣には黒川氏の定年延長がなければ、次期検事総長とみられていた、名古屋高検の林真琴検事長が座っていた。
「会場は凍り付いたのようになった。黒川氏は内心は腹立たしかったんじゃないのかな。神村氏は、林氏に近いという声も内部ではありますからね」(前出・法務省関係者)
それに対して神村氏と司法修習が同期の元東京地検検事、落合洋司弁護士はこう話す。
「神村氏は昔からすごく真面目で正義感が強い。黒川氏の定年延長は、めちゃくちゃですよ。検察内部でも定年延長を批判する意見を言う人は多々います。今回の検察長官会同で、黒川氏批判の意見を述べたことは、神村氏らしい。黙ってられなかったのだと思いました。神村氏の言ったように、検察の信頼が失われているのは事実ですよ。そういう意見に検察は耳を傾けてほしいと思いますね。それと同時に、意見した神村氏が左遷されたりしないようにと願うばかりです」
安倍官邸が関与した黒川検事長の定年延長が検察の統率を崩し始めているようだ。 
 
 
 2020/3
●「政権の守護神」定年延長の“怪” 3/8
「新型コロナ」や「桜を見る会」で与野党攻防が激化する中、安倍晋三首相の政権運営の新たな“火種”として耳目を集めているのが、検察ナンバー2の「突然の定年延長」だ。政府は定年退官直前の黒川弘務東京高検検事長の定年延長での続投を、1月31日に閣議決定した。ただ、黒川氏が「首相官邸の覚えがめでたい“政権の守護神”」(閣僚経験者)とみられているだけに、永田町でも「首相が強引な人事で検察ににらみを利かせ、黒川検事総長実現も狙った」(自民長老)との憶測も広がり、野党からは「官邸の露骨な司法介入」(立憲民主幹部)との批判が噴出した。
昨年秋以来、首相の公選法・政治資金規正法違反問題が絡む「桜を見る会」疑惑をはじめ、IR(統合型リゾート)汚職事件や河井克行前法相と妻の案里参院議員の公選法違反疑惑などの連続的不祥事で、主要野党は「安倍政権はスキャンダルまみれ」と猛攻撃。そんな中での、今回の黒川氏定年延長だけに「疑惑捜査のカギを握る検察当局に忖度を迫るような官邸の横暴」(自民長老)と受け止められれば、「司法の政治からの独立が崩壊する」(立憲民主幹部)との批判は避けられない。しかも、検事長定年延長に平仄を合わせたように、「政権の絡む疑獄事件」への発展も噂されたIR汚職事件を捜査してきた東京地検が、昨年末に逮捕した秋元司元内閣府IR担当副大臣(衆院議員、自民を離党)を2月初旬に追起訴しただけで捜査を事実上終結させたことで、「官邸に忖度した対応」(共産党幹部)との疑念も増幅している。
そうした中、野党側が厳しく追及しているのが、黒川氏の定年延長を閣議決定した際の手続きの法的正統性だ。そもそも、検察官の定年は(1)検事総長は65歳(2)その他は63歳──と検察庁法で定められており、2月8日が63歳の誕生日となる黒川氏は「自動的に退任」(司法関係者)とみられていた。ところが政府は、国家公務員の定年延長に関する規定を検察官にも援用できるとして、退任直前だった黒川氏の半年間(8月7日まで)の定年延長を閣議決定した。黒川氏は“赤レンガ派”と呼ばれる法務省エリートで、同省中枢ポストの官房長、事務次官を約7年間も続け、昨年1月に検事総長就任に直結する検察ナンバー2の東京高検検事長に就任した。その間、安倍政権下で起こった森友学園問題に絡む財務省の公文書改ざん事件で、関与した同省幹部らを不起訴処分とするなど、「政権寄りの判断を主導したのが黒川氏」(立憲民主幹部)とされてきた。それだけに与党内でも「怪しげな定年延長」(閣僚経験者)との声が出る一方、主要野党は「恣意的な違法人事」(共産党)と、首相や森雅子法相の責任を追及しているのだ。
検察官の定年については「国家公務員の定年延長規定は検察官には適用外」という、1981年の政府答弁が存在する。これを野党側から指摘された首相は「今般、解釈を変更した」と答弁した。このため、その数日前に「(81年の政府解釈を)現在まで引き継いでいる」と国会答弁した人事院給与局長が、首相答弁後に「つい、言い間違いをした」と、異例の答弁撤回を余儀なくされた。しかも、森法相が国会で「決裁した」と明言した解釈変更手続きを、法務省がその後「文書でなく口頭で行った」と説明するなど、政府の対応も支離滅裂。自民党からも「検察への信頼確保のためにも、しっかり説明してほしい」(岸田文雄政調会長)との注文が付き、野党側も法相辞任を求める事態となり、与党内からは「時期をみて黒川氏を辞職させるしかない」(閣僚経験者)との厳しい声も出始めている。 
●検事長定年延長 支離滅裂の決定を見直せ 3/21
無理なつじつま合わせの連鎖が招いた異常な事態と言えるのではないか。ボタンを掛け違えたのなら当然、最初に戻って掛け直すのが筋であろう。
黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題のことだ。検事総長への起用を視野に首相官邸が検察幹部人事に介入したのではないか、と野党は追及している。
森雅子法相は9日の参院予算委員会で「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から最初に逃げた」などと答弁した。11日に野党が「発言内容は事実か」とただすと、法相は「個人の見解で、不適当だった」と認めた。国会が空転し、安倍晋三首相が法相に対して異例の厳重注意をする一幕もあった。
法相の唐突な発言は「なぜ、検察官も定年延長できるように法解釈を変えたのか」という質問に対する答弁で飛び出した。法相は「社会情勢の変化」を挙げ、「例えば」と切り出したのが問題の答弁だった。もはや支離滅裂というほかない。
政府が東京高検検事長の定年延長を閣議決定したのは1月末のことだ。検察庁法で検察官の定年は63歳(検事総長のみ65歳)と定められているのに、なぜ黒川氏に限って延長したのか。法相は当初「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため」としていた。
ところが、国家公務員法の定年延長は検察官には適用されない−という1981年の人事院の国会答弁を野党が突き付けると、首相はその後「今般、国家公務員法の解釈を変更した」とこれまた唐突に認めた。
すると、従来の解釈を引き継いでいると明言していた人事院の給与局長は答弁修正を余儀なくされ、「つい言い間違えた」と釈明した。苦し紛れの言い訳としか聞こえない。
看過できないのは国会答弁が二転三転しているのに、政府が国家公務員の定年を段階的に65歳へ引き上げる国家公務員法改正案と一緒に、検察官の定年を65歳にする検察庁法改正案も国会へ提出したことだ。
この改正案の事前審査で自民党総務会はいったん了承を見送った。東京高検検事長の定年を延長した閣議決定に関し「三権分立を脅かす」「官邸の人事介入だ」など異論が出たという。 その後の総務会で政府が「黒川氏の人事とリンクしていない」と説明し、了承されたが、程度の差こそあれ、野党と同様の懸念や問題意識が与党の一部にもあるという証左だろう。
14〜16日に実施した共同通信社の世論調査で東京高検検事長の定年延長に「納得できない」との回答は6割を超えた。民意を踏まえ、混乱の発端である閣議決定を見直すべきである。 
●首相「撤回必要ない」 高検検事長の定年延長  3/23
安倍晋三首相は23日の参院予算委員会で、黒川弘務東京高検検事長の定年延長に関し「撤回する必要はない」と述べた。「検察庁の業務遂行上の必要性に基づいて、法相からの閣議請議により決定され、引き続き勤務させることとした」と説明した。社民党の福島瑞穂氏への答弁。
福島氏は政府が今国会に提出した検察官の定年を63歳から65歳に延長する検察庁法改正案を巡り、検察の独立性が脅かされかねないと指摘した。「すべての検察官を個々に定年延長するかを決めるのはおかしい」と述べた。
首相は「定年延長の問題によって、なぜそれで首相官邸が恣意的に人事を行えるようになるのか論理がまったくわからない」と反論した。
首相は「検察官も一般職の国家公務員であり、国家公務員法の勤務延長に関する規定が検察官に適用される解釈については法務省で適切になされた」とも強調した。
現行の検察庁法は検察官の定年を63歳と定める。国家公務員法の延長規定は検察官には適用されないとの政府答弁があったが、政府は黒川氏の定年延長の閣議決定の前に法解釈を変更した。 
●黒川検事長の定年延長 やはり白紙撤回しかない 3/24
脱法的だと指摘されて、法解釈を変えたと言い出す。それでも批判が続くと、法律を変えようとする。つじつま合わせというほかない。
政府は、検察官の定年を段階的に65歳へ引き上げる検察庁法改正案を国会に提出した。黒川弘務・東京高検検事長の定年延長への疑問が全く解消されない中での動きである。
改正案は63歳になったら検事長や次長検事に就けないとしつつ、内閣が特別な事情があると判断すればポストにとどまれると規定している。
国家公務員法の定年延長規定は、検察官に適用されないとの解釈を政府は続けてきた。黒川氏の定年延長が問題視されると、安倍晋三首相は法解釈を変更したと述べた。改正案は定年延長を明文化する内容だ。
検察官の定年延長を巡る森雅子法相の答弁は、迷走を重ねている。野党に指摘されるまで、政府の解釈に言及しなかった。解釈変更は文書によらず口頭で決裁したと語った。
解釈変更の理由に挙げた社会情勢の変化について問われ、「東日本大震災の時、検察官は最初に逃げた」などと脈絡のない答弁をした。首相から厳重注意を受け、謝罪した。
経緯をきちんと説明できないばかりか、法相としての資質が疑われる事態になっている。改正法案を議論できるような状況にはないだろう。
そもそも、当初の検察庁法改正案に、検事長らの定年延長は盛り込まれていなかった。黒川氏の処遇に批判が収まらないため、後付けで法制化を図ったとしか思えない。
首相はきのう、国会で内閣による人事介入だと追及されて「なぜ定年延長で官邸が恣意(しい)的に人事を行えるようになるのか。(質問者は)妄想をたくましくしている」と答えた。
しかし、黒川氏は政権に近いと目されており、定年延長によって検事総長就任に道が開けた。
検察官は裁判官に準ずる「準司法官」の性格を持つ。起訴する権限をほぼ独占しており、政治的中立性が求められる。法律で「特別な事情」による定年延長を規定しても、お墨付きが得られるわけではない。
毎日新聞の世論調査で半数超が黒川氏の定年延長を問題だと答えた。このまま法改正すれば検察への信頼が揺らぎかねない。やはり黒川氏の定年延長を白紙撤回するしかない。  
●揺らぐ“検察への信頼”〜検事長定年延長が問うもの〜  3/25 
「筋が通った説明ができないなら検察は死んだも同然だ」 「人事による事実上の“指揮権発動”だ」 これは東京高等検察庁の検事長の定年延長をめぐる現職の検察幹部のことばです。NHKは歴代検事総長などの検察OBや現職の幹部たちに徹底取材。危惧していたのは「検察の独立性」に対する信頼です。
検察内部の会議で異論
「不偏不党でやってきた検察に対する国民の信頼が疑われる。国民に対して丁寧に説明すべきだ」 2月19日、東京 霞が関の法務省。検察トップの検事総長や全国の地方検察庁トップの検事正らが一堂に集まる会議の終盤、参加した検事正の1人がこう声を上げました。会場には問題の渦中にいた東京高検の黒川弘務検事長、そして黒川氏とともに総長候補とみられている名古屋高検の林眞琴検事長が顔をそろえていました。会議で議題以外の意見が出るのは極めて異例。会場の雰囲気は凍りついたといいます。
総長候補のライバル
任官同期の2人は検事総長の「登竜門」とされる法務省のポストをそれぞれ歴任し、早くからライバルと目されてきました。検事総長の在任期間は2年前後が多く、現在の稲田伸夫検事総長はことし7月で就任から丸2年を迎えます。検察庁法で定められた検察官の定年は検事総長が65歳で、それ以外の検察官は63歳。このため黒川氏は63歳になる2月8日までに退官し、63歳の誕生日が7月30日の林氏が後任の検事総長に就任するとみられていました。ところが政府は誕生日の直前に黒川氏の定年をことし8月まで延長することを閣議決定。この定年延長で黒川氏が検事総長に就任する道が開けたのです。
突然の“定年延長” 検察に激震
定年延長が閣議決定された1月31日。取材した法務・検察の幹部の多くが驚きの声を上げました。「全く想定していなかった」 「定年延長なんてできるの?そんな法律があるのか?」 なぜ定年を延長することができたのか。政府は検察庁法ではなく、定年延長が可能な国家公務員法の規定を適用したと説明しています。国家公務員法の定年延長が審議された昭和56年の国会では人事院の幹部が「検察官はすでに定年が定められており、国家公務員法の定年制は適用されない」と答弁していました。しかし政府はこの法解釈を変更し史上初めて検察官の定年を延長したのです。政府は「検察庁法を所管する法務省が適切に法解釈を行いそれを政府として是とした。勤務延長させると法務省から建議されたことを決定した」としています。しかし政治家との調整役を担う法務省の官房長や事務次官を長年務め「官邸に近い」と見られていた黒川氏の定年延長について検察関係者の間では「官邸の意向で黒川氏を検事総長にするための措置ではないか」という見方が広がりました。NHKの取材に対し、検事総長経験者の1人は「検察は厳正中立でなければならず、人事も同様に運用されてきた。今回の人事は検察権の行使にも影響する介入にあたり、ゆゆしき事態だ」と不快感をあらわにしました。また検事長経験者の1人は「黒川氏は非常に優秀な人材だが定年延長というのは特別扱いが過ぎる」と述べました。
“定年延長”問題の核心は?
1人の公務員の定年延長がなぜここまで議論を呼ぶのか。背景には検察庁の職務や組織の特殊性があります。検察は捜査や公判を通じて権力の不正をチェックする役割を担っているため政治からの「独立性」や「中立性」が求められます。被告を起訴し、裁判にかける権限は原則、「準司法機関」である検察だけに認められ、田中角栄元総理大臣を逮捕したロッキード事件や、「濡れ手に粟」の未公開株が政治家や官僚にばらまかれ、竹下内閣の退陣につながったリクルート事件など、政権の中枢に切り込む汚職事件も手がけてきました。一方、検察庁は法務省に属する行政機関でもあります。このため、一般の検事の任命権は法務大臣が、検事総長のほか全国に8か所ある高等検察庁のトップ検事長などの任命権は内閣が持っていますが、実際には検察側が作成し、総長の了承を得た人事案を大臣や内閣が追認することが「慣例」とされてきました。
「定年制」こそが“政権の介入”からの防波堤
リクルート事件の捜査を担当した元検事の高井康行さんは、厳格に守られてきた「定年制」こそが、検察の独立性を守る防波堤だったと指摘します。
高井さん 「以前から政治は検察に影響を及ぼそうとするし検察は独立を保とうとする綱引きはあったが、これまでは何とかバランスを保ってきた。それを支えてきたのが検察庁法で規定された『身分保障』と『定年制』で、政権は懲戒などを除いて検事を罷免できず、逆に検事は定年が来れば必ず退官する。つまり政権は人事を通じて検察にアメもムチも与えることができず『定年制』こそが政権からの介入を防ぐ『防波堤』の1つになっていた。今回のいちばん大きな問題は政治がこの『防波堤』を勝手に動かしてしまったことだ」
もう1つの“防波堤”検事総長
元検事の高井さんが「定年制」のほかに、検察の独立を守る防波堤の役割があると指摘したのが「検事総長」という存在そのものです。
高井さん 「検事総長がもっとも存在意義を発揮するのは検察の独立性が脅かされる事態になったときだ」
検察庁法には法務大臣が個別の事件を指揮することができると定められ、「指揮権」と呼ばれています。ただしその対象は個別の検察官ではなく、トップの検事総長だけに制限され指揮権が発動された場合の対応は総長に委ねられます。検事総長経験者の1人はその意味を次のように述べました。
検事総長経験者 「『指揮権』には検察の独善を抑制するとともに政権から検察への不当な介入を排除するという両面の意味がある。政権が『指揮権発動』以外の形で検察の捜査に介入することは許されない。そして、指揮権が発動されそうになったとき大臣と対等に交渉し、反論できるのは検事総長しかいない」
“指揮権発動” そのとき検事総長は?
これまで指揮権が発動されたのは昭和29年の「造船疑獄」のただ1回。検察は与党・自由党の佐藤栄作幹事長(当時)を収賄の容疑で逮捕する方針でしたが、犬養法務大臣は、佐藤藤佐検事総長に対して指揮権を発動し、逮捕を阻止しました。佐藤総長はこの直後に、「前例のないもので遺憾だ」とする談話を発表。世論の批判は高まり、吉田内閣の退陣につながります。検事総長経験者の1人は当時の総長の判断をこう評価しています。指揮権はその後、60年以上、発動されていません。
検事総長経験者 「指揮権発動を公表することで結果として、内閣は崩壊し、検察の独立を守った。検察の独立は検察のためでなく民主国家のためにあるものだ」
検事総長たちの覚悟
後の検事総長で「ミスター検察」と呼ばれた伊藤栄樹は昭和38年に初版が出版された著書「検察庁法 逐条解説」で指揮権発動を受けた場合の検事総長の対応として、1 不服ながら従う、2 従わない、3 辞職するという3つの選択肢を記しました。その後、昭和58年になって「大臣の指揮権に従わない」という記述が自民党の国会議員から「非常に問題だ」と批判され、伊藤は総長就任後の、昭和61年に出版した新版では、これらの記述を削除しました。しかし伊藤はこの新版にも「大臣の指揮と、意見が食い違った場合、検事総長はこれに盲従するという態度をとることは許されない」という一文を記し、防波堤としての総長の“生き様”を示しました。今回、取材した複数の検事総長経験者は「指揮権が発動されれば辞める覚悟を持っていた」と話し、胸に秘めていた検察トップとしての矜持(きょうじ)を明かしました。歴代の検事総長が背負ってきた「検察の独立性」。検察幹部の1人は定年延長によってその独立性が侵されかねないと危機感をあらわにしました。
検察幹部 「今回は人事による事実上の指揮権発動ではないか。時の内閣が都合のよい総長を選べば、もはや大臣が指揮権を発動しなくても万事、政権に都合よく進むことになる」
国民への説明が不十分
法務・検察の現職幹部の間では政府の説明が十分でないことに不満や疑問を持つ声も相次いでいます。国家公務員法で定年を延長できるのは「退職によって公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」と定められています。人事院は定年延長を認める例として 『名人芸的技能を要する職務に就いている場合』 『離島勤務で欠員補充が困難な場合』 『大型研究プロジェクトチームの構成員で退職によって研究の完成が著しく遅延する場合』などを挙げています。一方、森法務大臣は定年延長の理由について「重大かつ複雑、困難な事件の捜査や公判に対応するため」と説明していますが、「捜査機関の活動に関わる」として具体的な内容は明らかにしていません。幹部の1人は「これまでの国会での政府の答弁は国民が納得する説明になっていない。東京高検の管内で黒川氏の定年を延長しなければ処理できない事件とは何なのか、具体的に聞きたい」と述べました。
危惧されるのは“検察の独立性”への信頼を失うこと
現場の検察幹部からは「法と証拠に基づいて事件ができればトップは誰になってもよい」とか、「今回の人事で事件ができなくなることはないと思う」などの意見がある一方、「今後、政治がらみの問題を不起訴にすれば、すべて黒川さんがいるから不起訴にしたと見られてしまう。組織として非常にマイナスだ」と述べた幹部もいました。元検事の高井さんは、今回の定年延長でもっとも懸念されるのは検察の独立性への国民の信頼が失われることだと指摘します。
高井さん 「民主国家が健全に運営されていくためには、絶大な権力を持つ検察が『政治から独立している』と国民から信頼される必要がある。信頼がなければ正しい判断で不起訴にしても世間から『政治にそんたくした』と誤解され、正しい捜査をしても政権のためにやったと思われてしまう。国民の信頼を失うことは検察の組織運営を揺るがす障害になる」
黒川氏は総長になるのか?
今後は、黒川氏が検事総長に就任するかどうかが焦点になります。鍵を握るのは稲田検事総長です。稲田氏は検察庁法で規定された「身分保障」によって、懲戒などを除いて定年まで意思に反して職を解かれることはありません。稲田氏の65歳の誕生日は来年の8月14日でそれまではみずからの判断で総長の地位にとどまることができます。稲田氏が定年延長の期限のことし8月7日までに辞任しない場合、黒川氏が総長になるためには、内閣は再び定年延長などの措置をとる必要があります。稲田氏に対しては検察トップとして今回の混乱を招いた責任の一端があると指摘する声もあり、みずからの進退をどのように判断するかが注目されます。
岐路に立つ検察の“独立”と“信頼”
NHKが今月6日から3日間行った世論調査で、検事長の定年を延長する政府の決定について、適切だと思うか聞いたところ、「適切ではない」と答えた人が54%と半数を超え、「適切だ」は22%でした。多くの検察関係者が危惧する「国民からの信頼」はすでに揺らいでいるようにもみえます。不偏不党の立場から時に政権の不正にも切り込むことで民主主義社会の一翼を担ってきた検察。一方、政治との距離をめぐっては「国策捜査だ」などと世論の批判を浴びることも少なくなりません。検察の独立や信頼はどこへ向かうのか。今、岐路に立たされています。 
 
 
 2020/4
●黒川検事長の定年延長「撤回を」 日弁連会長が声明 4/6
日弁連の荒中会長は6日、黒川弘務東京高検検事長の定年を延長した閣議決定の撤回を求める声明を発表した。検察官の定年の63歳から65歳への引き上げや、定年延長規定を盛り込んだ検察庁法改正案にも反対した。
声明では、これまで検察官に定年延長が適用されないと解釈されていたのは「人事に政治の恣意的な介入を排除し、独立性を確保するためだ」と指摘。解釈を変更し、黒川氏の定年を延長したことは「法の支配と権力分立を揺るがすと言わざるを得ない」と批判した。
政府は1月31日、黒川氏の定年を半年間延長することを閣議決定。検察庁法改正案は今国会の成立を目指している。 
●千葉地検検事正に神村昌通氏 4/7
千葉地方検察庁の検事正に神村昌通氏が就任し、記者会見で「県民・国民の検察に対する負託に応えられるよう精一杯努める」と意気込みを語りました。新たに千葉地検の検事正に就任した神村昌通氏は、長野県出身で、東京大学法学部卒業後、これまでに静岡地検検事正や甲府地検検事正を歴任しています。
「県民、国民の検察に対する負託に応えられるよう精一杯努めて参ります」(千葉地検 神村昌通 新検事正)
就任会見の中で神村検事正は、感染が拡大する新型コロナウイルスについても触れて、「検察庁を感染の場にしてはいけない」と述べ、感染対策を徹底するとしました。また、検察「ナンバー2」である黒川検事長の定年を安倍内閣が延長した問題について、神村検事正が今年2月、批判的な意見を述べたとされる件について記者から問われると、発言の有無について言及することは控えたものの、「検察は不偏不党、公平でなければならない」と強調しました。  
●「検察は不偏不党」 千葉地検・神村検事正が着任会見 4/7
千葉地検に3月30日付で着任した神村昌通検事正(59)が7日、記者会見し、「県民や国民の検察に対する負託に応えられるよう、精いっぱい努める」と抱負を語った。
神村検事正は、前任の静岡検事正時代、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題に異論を唱えた人物。会見で神村検事正は「検察は厳正で不偏不党であるところに根幹がある。県民や国民の信頼を得るため、そうでなくてはならない」と語った。
長野県上田市出身。平成元年に検察官となり、甲府地検検事正や最高検検事などを歴任した。千葉地検は初だが、大学時代に所属していた地質部の活動で、銚子市に琥珀(こはく)の採取に行ったことがあるという。  
●「黒川東京高検検事長“定年延長”の真実」 安倍政権の思惑  4/27 
何としてでも“政権の守護神”の異名をとる東京高検検事長の黒川弘務を「検事総長」の座に就かせたい首相と官房長官。人事案をめぐり、検察と官邸の熾烈な駆け引きは続いた。そして飛び出した“黒川定年延長”というウルトラC。圧力をかける官邸、検察としての信念を抱いてそれに抗う検事総長。果たして、この戦いはどうなるのか。
迷走する政府答弁
宮内庁のホームページを開くと、「認証官任命式」という表示がある。こう説明している。
〈任免につき天皇の認証を必要とする国務大臣その他の官吏(認証官といいます)の任命式です。任官者は、内閣総理大臣から辞令書を受け、その際、天皇陛下からお言葉がある〉
霞が関の高級官僚である事務次官といえど、認証官ではない。検察庁トップの最高検察庁の検事総長と次長検事、そして8つの高等検察庁の各検事長がそれにあたる。文字通り天皇の認証を必要とされ、特別に位置づけられているポストだ。
宮内庁が検事総長や検事長の認証官任命式のため、あらかじめ天皇のスケジュールを確保しておかなければならない。天皇拝謁の前に内閣の閣議決定があり、検察庁はそれまで最短でも3週間前に本人へ内示し、周囲が任官準備を始める。それが通例だった。
だが、今度は様子が違った。東京高検検事長の黒川弘務は2月8日の63歳の誕生日をもって検察官の定年を迎える。新たな検事長の交代に備え、年の初めにはその内示があるはずだった。松の内が明ける1月7日の初閣議前になっても、その内示がない。動きがまったくなかったのである。
そうして1月31日を迎えた。検察関係者たちは、当日の閣議決定に仰天する。それが黒川の半年間の勤務延長だった。東京高検検事長は検事総長の待機ポストと位置付けられている。退官するはずだった黒川は定年延長により、8月7日まで東京高検検事長として勤務する。この間の7月、検事総長の稲田伸夫は任期の2年を迎え、慣例通りなら黒川検事総長が誕生する。それが「政権の守護神」の異名をとる黒川のために首相官邸が描いた人事のシナリオではないか――。
すぐさま野党が、検察庁法で守られてきた司法の独立をないがしろにした政治介入だ、と国会で追及の火の手を上げた。対する首相の安倍晋三は、従来の法解釈を変更した、と言い逃れる。法務大臣の森雅子や政府の役人たちは首相を庇おうと答弁が二転三転していく。まるでモリカケ国会の再来を見ているようだ。
だが、政府答弁の迷走も無理はない。検事長の定年延長という前代未聞の政治介入は、あまりに度が過ぎている。その裏には、検事総長レースの曰く言いがたい因縁がある。安倍政権と検察の熾烈な攻防が繰り返されてきた末、ありえない事態を招いているのである。
「政権を守ってくれた」恩義
法務検察組織はその名称通り、行政機関の法務省と捜査機関の検察庁で構成される。検事が準司法官と称されるのはそのためで、検察幹部の大多数を占める。準司法官である以上、検事は政治権力の不正をただす務めを国民に託され、とりわけ東京や大阪の地検特捜部は国会議員や高級官僚の汚職摘発を担ってきた。
法務検察の幹部は赤レンガ派と呼ばれる東大や京大出身の法務官僚と現場捜査畑の検事に大別され、検事総長の多くは法務官僚から選ばれる。法務省には、およそ130人の検事が勤務する。黒川はその法務省勤務経験が長い典型的な法務官僚として、検事総長候補の呼び声が高かった半面、政治と検察とのパイプ役を担ってきた。それ自体珍しくはないが、問題は政治との距離感にある。
黒川は2011年8月、法務省官房長に就任し、その明くる12年12月、第2次安倍政権が発足した。以来、官房長として16年9月まで5年以上国会対策を担い、さらに19年1月まで2年あまり、事務次官として省内の事務方トップを務めてきた。官房長として3年10カ月、事務次官として2年4カ月の合計6年あまり、黒川は安倍政権を支えてきたといえる。
この間、安倍政権は数々の不祥事に見舞われてきた。官房長時代の14年10月には経産大臣の小渕優子、16年1月には経済財政政策担当特命大臣の甘利明に、事務所の不正経理が明るみに出る。さらに事務次官時代の17年から18年にかけ、森友学園の国有地取引や加計学園の獣医学部設置を巡り、政権を揺るがす事態が続いた。加計学園では文科大臣の下村博文の裏献金疑惑が浮上し、森友学園では財務省の役人たちによる公文書の改ざんまで発覚する。ことに森友事件は市民による背任容疑の告発を受けた大阪地検特捜部が捜査に乗り出し、捜査渦中の18年3月、近畿財務局の職員が自殺した。つい先頃、当人の遺書が発表されたのは記憶に新しいところだ。
これらの事件は、いずれも検察が捜査に乗り出している。しかし、捜査は政権中枢どころか議員本人にも届かなかった。事件で黒川自身がどう立ち振る舞ったか、そこは必ずしも明らかではない。だが、長く務めた政治とのパイプ役として政権を守ってくれた、と首相官邸が恩義を感じてきたのは間違いない。それが、安倍政権の守護神とあだ名される所以である。
しかも安倍政権の不祥事は今なお絶えない。昨年の参院選挙では、法務大臣だった河井克行夫人の案里の秘書が選挙違反を引き起こし、首相自ら主催する「桜を見る会」でも有権者買収の疑いが持ちあがる。
黒川の高検検事長定年延長は、そんな折に飛び出した出来事なのだ。官邸による霞が関の官僚支配はかねて指摘されてきたが、ついに検察のトップ人事にまで手を突っ込んできた、と感じるのは、野党や政府の役人ばかりではないだろう。なぜ安倍政権はここまでしたのか。
ライバルは筋を曲げない男
司法修習35期の黒川には、検事総長レースを争ってきた同期のライバルがいる。それが名古屋高検検事長の林真琴だ。法務検察の関係者は、どちらが検事総長になってもおかしくない逸材だと評す。その35期には、東京地検特捜部で副部長を務めた元衆院議員の若狭勝もいる。
「黒川とは今も家族ぐるみの付き合いをし、林とは修習生時代に同じクラスでした。だからともに親しく、よく知っています。2人は甲乙つけがたく、どちらも検事総長をこなせる人材です。ただ、若い頃の黒川は愛すべき人物で、他人を押しのけてまで俺が、という出世欲を感じなかった。35期で最初から総長候補に挙がっていたのは林で、検事の任官のときには裁判所からも引きがあるほど優秀だった。同期の他の候補でいえば、佐久間(達哉・元東京地検特捜部部長)でしょうか。その2人が総長候補だと見られてきましたが、黒川はそこには入っておらず、将来の総長候補には挙がっていませんでした」
林もまた赤レンガ派のエリート法務官僚として出世してきた。東大法学部ストレート組だ。かたや黒川は早大から東大法学部に編入して司法試験に合格している。その苦労とともに人当たりがいい分、林より政治の世界と同化できた面があるのかもしれない。官房長官の菅義偉などはいたく黒川を買っている。
政治から独立していなければならない準司法官とはいえ、その実、ときの政権は法務省人事をいじれば、検事の出世レースを左右することもできる。ことに安倍政権下の黒川を巡る人事では、過去、幾度となく政治介入が取り沙汰されてきた。有体(ありてい)にいえば、官邸は黒川を官房長や事務次官にとどめることにより、ライバルの林を出世から遠ざけていった感がある。
最初の煮え湯
事務次官や官房長は、法務検察組織全体の序列で見れば、5番手、6番手だが、検事総長の登竜門に位置付けられている。黒川のライバルである林は安倍政権下でどちらのポストにも就いていない。つまり安倍政権下の検事総長レースでは、官房長と事務次官を7年も譲らなかった黒川が林をずっとリードしてきたことになる。安倍政権はそのためにかなり強引な手段を使ってきた。先の若狭がこう苦笑する。
「林も(2014年1月から)法務省で刑事局長を務め、共謀罪の導入では非常に苦労した。官邸に押し切られたところはあるけど、国会答弁を頑張ってこなし、法の成立にこぎ着けたのです。だから、次は事務次官になるつもりだった。ただ林はいい意味で典型的な法務官僚で頑ななところがあり、法の筋を曲げない。官邸はそこが気に入らなかったのかもしれませんね」
16年から17年にかけ、安倍内閣は共謀罪法案の成立を目指した。その国会審議で法務大臣の金田勝年がしどろもどろになり、刑事局長の林が代って答弁した。その功績もあり、法務検察は林を事務次官に昇進させようとした。
法務省が16年7月、林の事務次官就任人事を起案し、内閣人事局に提出した。検事総長の大野恒太郎の9月退官に伴い、東京高検検事長の西川克行が検事総長に昇格し、事務次官の稲田伸夫が仙台高検検事長へ異動する。そこまでは官邸にとって異論のない人事だった。
問題は林の事務次官昇任である。ここで法務検察は黒川を官房長から地方の高検検事長に異動させようとした。すると、黒川より先に林が事務次官になり、総長レースで黒川を逆転する。
奇しくもこのとき事務次官として、検察人事を起案し、官房長官の菅に了解を求めたのが、今の検事総長の稲田である。官邸関係者が打ち明ける。
「内閣人事局に提出された検察の人事案では、黒川さんを広島高検検事長に異動させる予定でした。それで、7月の終わり頃、事務次官だった稲田さんが官邸で菅さんと会った。ところが、黒川さんの人事を差し戻されてしまうのです。差し戻しを薦めたのは杉田和博官房副長官で、このとき黒川さんの事務次官への昇進を求めてきた」
元警察官僚の杉田は、安倍が最も頼りにする側近の1人だ。内閣人事局長として、霞が関の部長職候補以上840人の幹部人事を差配する。差し戻しはむろん菅が了承した上でのことである。
官邸にとって林は、黒川の出世に邪魔な存在に映ったのかもしれない。いわばこれが官邸による最初の政治介入といえる。おかげで16年9月、黒川は政権の悲願だった共謀罪導入の立役者として官房長から事務次官に昇進する。この異例の黒川の事務次官昇進人事が、のちのちまで政権と検察とのあいだにしこりを残した。今度の黒川の定年延長問題はこれが伏線になっている。後述するが、そこでは杉田の警察庁の後輩にあたる国家安全保障局長の北村滋もまた、大きな役割を果たしている。北村も官邸を支える中枢人物で、稲田と北村は旧知の間柄である。
検察の本命は名古屋へ転出
一方、検察首脳は林を総長候補に残したかったのだろう。事務次官就任にこだわった。18年1月、再び林を事務次官に起用しようとする。森友学園の国有地取引や公文書廃棄を巡り、大阪地検の捜査や会計検査院の調査がおこなわれていたさなかのことだ。ある検察OBが解説してくれた。
「検察首脳は国民から不信をもたれないよう、黒川を名古屋高検検事長に転出させるつもりでした。ところが、ここでもまた官邸に人事案を差し戻された。表向き法務省の国際部門設置を巡り、上川(陽子)法務大臣が林にバツをつけ、黒川を残留させたことになっているけど、ここも杉田さん、というより北村かも」
そうして黒川が事務次官に留任する結果となり、逆に林が刑事局長から名古屋高検検事長に転出した。検察幹部たちにとって2度の政治介入はショックだったに違いない。政権との関係がますますおかしくなっていった。
黒川はその1年後の19年1月、前任の八木宏幸の退官を受け、東京高検検事長に就任する。稲田と同じ56年生まれの八木はショートリリーフと見られ、法務検察首脳としても八木の退官は織り込み済みだった。代わって東京高検検事長ポストを射止めた黒川は、念願の検事総長に昇りつめるまであと一歩のところまで来ていた。とうぜん官邸は、これで黒川が稲田の次の総長の椅子を手中にしたものと見ていた。
総長の静かなる反抗
だが、実は何度も煮え湯を飲まされてきた法務検察の真意は、別のところにあった。検事総長の稲田は、黒川に後継の椅子を譲るつもりはなかったようだ。ある検察関係者が打ち明けてくれた。
「稲田総長は、あくまで林を後継総長にすると決めていました。その意思を固めたのが、まさに黒川の東京高検検事長就任を認め、内示をした18年末。このときから20年2月の黒川の定年を見越し、検察庁の総意として林後継総長で動くつもりだった」
人事でさんざん官邸にしてやられ続けてきた検察による静かなる反抗といえる。
検察の首脳人事は、定年と密接にかかわっている。検事総長の定年は65歳なので、1956年8月14日生まれの稲田は、来年8月の誕生日前日まで総長として務めることができる。ただ、検察の慣例人事として検事総長は2年を任期とし、後進に譲るパターンが多い。稲田も今年4月に京都で開催される予定だった「第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)」の出席を花道に、7月に退官するつもりだった。世界最大規模の司法会議は新型コロナのせいで流れてしまったが、それは誰も予想していない。
稲田が7月まで総長として務めれば、2月8日が誕生日の黒川は、7日をもって定年退官しなければならなくなる。そして7月30日で63歳の誕生日を迎える名古屋高検検事長の林がその後釜の東京高検検事長に就き、改めて検事総長に着任すればいい。稲田の腹積もりはそんなところだった。
そうして首相官邸と検察の思惑がすれ違ったまま、19年の春が過ぎ、夏を迎えた。官邸が検察の動きを警戒し始めたのは、その頃だ。官邸側で稲田に探りを入れていたのが、国家安全保障局長の北村だった、と先の検察関係者が続ける。
「もともと北村と稲田は同い年。2人は警察庁と検察庁との違いこそあれ、各省庁で見込みのある若手官僚が語学研修する人事院研修(2年間の海外派遣研修)でいっしょになったと聞いています。研修先は北村がフランスで稲田はアメリカですが、それ以来、最近までときどき飲んでいるような間柄でした。その中で総長人事について、北村が稲田の腹を探り、早期辞任は間違いないと思い込んだようです」
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●検察庁法改正案 4/28
4月16日、国家公務員の定年を60歳から65歳に引き上げる国家公務員法改正案が衆院本会議で審議入りした。これとあわせて、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げる検察庁法改正案も審議される。
安倍内閣はこれに先立つ1月31日、まだ二つの法改正が行われていないにもかかわらず、2月7日に63歳で退官予定だった東京高検検事長の黒川弘務氏の定年延長を閣議決定した。安倍晋三首相の肝いりとみられる異例の人事には、どんな背景があるのだろうか。
官邸が描いたシナリオ
東京高検の黒川弘務検事長は2月8日の誕生日をもって、63歳の定年を迎える予定だった。東京高検の検事長といえば、次期検事総長をほぼ手中に収めたといえる待機ポスト。このポストの人事は検察内の幹部人事にも大きな影響を与えるため、通常、ひと月前の年初にはその内示がある。ところが、松の内が明ける1月7日の初閣議前になっても、その動きが見られなかった。
検察内部でさまざまな憶測が行き交うなか、黒川検事長の誕生日が日一日と迫り、このまま定年を迎えるとみる向きが増えていった。ところが1月31日、検察関係者はこの日の閣議決定に仰天することになる。
黒川氏の半年間の勤務延長だった。退官するはずだった黒川氏は、この決定により8月7日まで東京高検検事長として勤務を続けることになった。この間の7月には、稲田伸夫検事総長が任期の2年を迎えるため、慣例通りなら黒川検事総長が誕生する。この異例中の異例ともいえる人事に安倍首相の強い意向があることは誰の目にも明らかだった。
安倍政権と検察の熾烈な攻防
すぐさま野党が、検察庁法で守られてきた司法の独立をないがしろにした政治介入だ、と追及の火の手を上げた。対する安倍首相は、従来の法解釈を変更したと言い逃れる。この首相答弁に森雅子法相や、法務省・人事院の役人は焦り、答弁は二転三転していった。まるでモリカケ国会の再来だった。
総理の意向で「政権の守護神」(黒川氏の異名)が検事総長に就任すれば、国民の目には、もはや検察は政権の軍門に降ったと映る。なぜ安倍首相は、検察組織の独立性に触れる禁じ手に手を出したのか。それには、首相官邸と法務検察との深くて長い因縁がある。
実はこの異例の人事の裏で、例によって「官邸官僚」たちが暗躍していた。
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  5/9
●検事長人事問題が再燃 定年延長、野党に賛成論も 5/9
黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題が8日、再燃した。新型コロナウイルスの感染拡大で、一時下火となったが、与党は同日、検察官を含む国家公務員の定年を延長する関連法案について、衆院内閣委員会で実質審議入りさせ、立憲民主党など野党は反発して欠席した。ただ、野党内には支援を受ける労組の意向を踏まえて賛成論もあり、難しい判断を迫られそうだ。
野党は、黒川氏の定年延長について「検察人事への介入」などと批判してきた。8日の審議をめぐっても、法務委との連合審査で森雅子法相への質疑を求めたが、与党は応じなかった。
立憲の枝野幸男代表は8日の記者会見で「一般公務員と検察官は人事法体系が違うのに、束ね法案にしたのはむちゃくちゃだ」と指摘。野党側は引き続き、連合審査の実現を求める構えだ。
ただ、自治労には国家公務員の定年延長への強い期待もある。このため、労組出身の野党幹部は立憲などが賛成するとの見方を示し、「採決時の賛成討論で理由を説明すればいい」と語る。一方、別の幹部は「黒川氏の問題を追及してきたのに、賛成するのは簡単ではない」と漏らす。
関連法案は、現在60歳の国家公務員の定年を2022年度から段階的に65歳に引き上げる内容。検察官の定年を63歳から65歳に延長する検察庁法改正案も含んでいる。  
 
 
 5/10
●検察庁法改正で「安倍政権ベッタリ」の検事総長が誕生する 5/10
検察官の定年を65歳に引き上げ、内閣の判断で検察幹部の「役職定年」を延長できるようにする法改正案。ツイッターを中心に抗議の輪が広がり、「検察庁法改正案に抗議します」の投稿は5月10日の午前中に一時250万件を超えた。  
●「検察庁法改正案に抗議します」で大炎上! 5/10 
検察官の定年を63歳から65歳に引き上げる「検察庁法改正案」に対し、抗議の声が高まっている。ツイッターでは9日から「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿が相次ぎ、5月10日午前には250万件を突破。俳優の井浦新氏や浅野忠信氏、音楽家の大友良英氏など、各界の著名人も同ハッシュタグで投稿し、事態は“大炎上”している。  
●前川喜平氏、黒川氏に「辞めるに辞められぬ事情があるのでは」と推測 5/10
元文部科学事務次官の前川喜平氏が10日夜、ツイッターに新規投稿。黒川弘務・東京高検検事長(63)の定年延長を閣議決定し、今月8日から改正案の委員会審議が与党の強行で始まったことを受け、「政権を握る者の犯罪はすべて見逃されることになるだろう」と危惧し、黒川氏については「辞めるに辞められぬ事情があるのでは」と推測した。
前川氏は「黒川氏が普通の常識人なら、これだけ批判を浴びれば自ら身を引くはずだ。辞めるに辞められぬ事情があるのではないか」と、その背景を指摘。その上で「アベ首相はどうしても彼を検事総長にしたいのだ。彼が政権の傀儡になってくれるからだ。政権を握る者の犯罪はすべて見逃されることになるだろう」とつづった。 
●「どこまで国民をばかにする」検察官定年延長法案に抗議ツイート250万超 5/10
「検察庁法改正案に抗議します」。検察官の定年を段階的に65歳へ引き上げる検察庁法改正案に反対するハッシュタグをつけた投稿がツイッター上で急速に増え、10日午後1時現在で250万件を超えた。俳優や漫画家ら著名人も声を上げ、異例の盛り上がりを見せている。
「どこまで国民をばかにしてるの」 「これ以上看過できない」 「今ここで抗議の声を上げないと、本当に国が終わる気がする」
ツイッター上では、「検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグとともに続々と意見が投稿され、2位の「母の日」を超え、長時間「トレンド」のトップに。関連では「定年延長」というキーワードも上位に入った。
「このコロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。どうみても民主主義とはかけ離れた法案を強引に決めることは、日本にとって悲劇です」。演出家の宮本亜門さんは10日朝、同じハッシュタグで投稿した。
俳優の井浦新さんも「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」と投稿。賛意を表す「いいね」は3万を超えた。
また、女優の小泉今日子さんも自身が代表を務める事務所のツイッターで、法改正に関する国会のやりとりの動画をハッシュタグをつけて繰り返し投稿。10日未明には、関連ツイートが100万件を超えたことに触れ、「この目に焼き付けました」と書き込んだ。
他にも俳優の浅野忠信さん、秋元才加さん、漫画家のしりあがり寿さん、音楽家の大友良英さん、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんら幅広い著名人が同じハッシュタグで投稿し、反響が広がっている。
仕事への影響を恐れ、芸能人らは政治的発言を控える傾向にあるとされるが、今回の抗議の広がりは異例だ。人気バンド「いきものがかり」の水野良樹さんは「どのような政党を支持するのか、どのような政策に賛同するのかという以前の問題で、根本のルールを揺るがしかねないアクションだと感じています」と投稿。多くの人が、今回の法改正の動きは、支持政党やイデオロギーとは別次元で問題があるととらえていることが、賛同の幅の広さにつながっているようだ。
検察庁法改正案は8日、衆院内閣委員会で実質審議入りした。野党側は、今年1月に現行法の解釈変更で黒川弘務・東京高検検事長の定年が延長されたことを問題視し、今回の改正案との関連をただすため、森雅子法相出席のもとでの衆院内閣委・法務委の連合審査を求めた。しかし、認められなかったことなどに反発し、審議を欠席。自民、公明、日本維新の会の3党のみで質疑が強行された。
検察官定年を巡っては、官邸に近いとされる黒川氏の勤務延長が1月に閣議決定され、野党が過去の国会答弁との不整合から「脱法行為」と追及。政府は国家公務員法の解釈を変更して検察官の定年も延長できると説明したが批判を受けている。  
●「検察庁法改正案に抗議します」投稿広がる 380万超に  5/10
検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、ツイッター上では、9日夜から10日にかけて、俳優や演出家などの著名人による抗議の投稿が相次ぎ、同じハッシュタグをつけた投稿が10日午後の時点で380万件を超えるなど、広がりを見せています。
検察官の定年を段階的に65歳に引き上げ、内閣が認めれば定年延長を最長で3年まで可能にする、検察庁法の改正案は、今月8日から衆議院内閣委員会で審議されています。
これについて、ツイッター上では、9日夜から10日にかけて、俳優や演出家、漫画家などの著名人による抗議の投稿が相次ぎ、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿は10日午後3時半の時点で380万件を超えるなど、広がりを見せています。
このうち演出家の宮本亞門さんは「このコロナ禍の混乱の中、集中すべきは人の命。どうみても民主主義とはかけ離れた法案を強引に決めることは、日本にとって悲劇です」と投稿しているほか、俳優の井浦新さんは「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」と訴えています。
検察官の定年延長をめぐっては、政府がことし1月、これまでの法解釈を変更して東京高等検察庁の黒川検事長の定年を延長し、野党側や日弁連=日本弁護士連合会などから批判が相次いでいて、今後の法案の審議の行方が注目されています。 
●検察庁法改正 いま急ぐ必要があるか 5/10
新型コロナウイルス対策に国会が全力を尽くすべきいま、危う さをはらんだ議案の審議を急ぐ必要があるのか、首をかしげざる を得ない。検察官の定年を延長する検察庁法改正案のことだ。先週末、衆 院内閣委員会で実質審議入りした。政府は今週中の衆院通過を目 指している。改正案は、検事総長以外の検察官の定年を現行の63歳から、 検事総長と同じ65歳に段階的に引き上げるのが柱である。国家 公務員の定年を引き上げる国家公務員法改正案と合わせた「束ね 法案」として国会に提出された。問題なのは、63歳に達した幹部検察官は役職を降りる「役職 定年制」を導入する一方で、内閣か法相の判断で役職の延長を可 能とする文言が盛り込まれたことだ。政治家の不正摘発も含め厳 正中立が求められる検察の人事に政権の思惑で介入を許すよう では、国民の信頼が揺らぐ。政府は1月31日、2月が予定だった黒川弘務東京高検検事長 の定年を延長する異例の閣議決定をした。安倍政権の信頼が厚い 黒川氏を次の検事総長に据えることを見越した人事とみられ、批 判を浴びたことは記憶に新しい。法務省などの説明によると、昨年秋の臨時国会に向けてまとめ た当初の改正案では、従来の解釈通り、検察官の定年延長はでき ないことを前提にしていた。ところが法案の国会提出が見送られ、法務省が改めて検討した 結果、一転して適用できると結論づけ、解釈を変更したという。 再検討した理由を森雅子法相は「時間ができた」ためとするが、 いかにも説得力に欠ける。政府は黒川氏の定年延長も法解釈変更で押し切った。国会で決 めた法律の運用が、内閣による解釈変更で容易に動かされては法 の安定を損なう。なぜ変更したのか、丁寧に説明すべきだ。検察人事を巡る追及が続く中、政府は3月13日に改正案を閣 議決定。同じ日に新型コロナ特措法が成立し、4月に入ると緊急 事態宣言が出された。改正案は、特措法に関する質疑もある内閣委で審議されるため、 急を要する新型コロナ対策と同時並行で進むことになる。十分に 議論する時間が取れるのか心もとない。8日の内閣委で立憲民主、国民民主両党などの野党会派は森法 相の出席を求めたが、自民党が応じなかった。多くの野党議員が 欠席する中、政府側は検察庁法改正部分を含む国家公務員法改正 を「少子高齢化が進む中、時代のニーズだ」と答弁した。確かに重要な法案に違いない。ならばなおさら、国民が内容を 十分理解できるよう議論を尽くす必要がある。政府与党には、コロナ禍のどさくさにまぎれて拙速に成立させ ることのないよう慎重な対応を求めたい。 
 
 
 5/11
●「えこひいき」 検察官の定年延長、いま急いで決める必要はある? 5/11
検察官の定年延長問題が再燃している。国民が不要不急の用件を控えるように求められる中、国会では検察官を含めた国家公務員の定年を65歳に引き上げる法案が審議され、可決されようとしているからだ。
もともとは「生涯現役社会」実現のため
そもそも、国家公務員の定年を延長するのは、意欲さえあれば高齢者でも働けるという「生涯現役社会」の実現に向けた国の政策の一環だ。年金の支給年齢が段階的に引き上げられることから、定年から年金支給までの空白期間を埋めるため、2013年施行の改正高年齢者雇用安定法でも、民間企業に再雇用や定年の引き上げが求められている。年金支給が65歳からとなる2025年までには、定年も65歳になることが望ましい。そこで、国が先陣を切り、国家公務員の定年を段階的に引き上げることで、民間企業にもその輪を広げていこうとしているわけだ。その方針自体は理解できる。地裁や高裁の裁判官の定年が65歳であるのに、検察庁法が検事総長の定年を65歳とするのみで、ほかの検察官を63歳としていることにも、かねてから異論があった。定年が65歳に延長されたからといって、そのこと自体で個々の検察官が政権の言いなりになるというわけでもない。
単純な定年延長の話ではない
ただ、公務員は年次が上がれば基本給が増える。とりわけ検察官は、国家公務員の中でも高給取りだ。意に反する減給が禁じられるなど、裁判官並みの身分保障もある。検察組織の中で最も高給取りが集まっているのは最高検だが、現実には仕事らしい仕事などしていない。検察を引っ張っているのは現場の第一線で働く若手や中堅の検察官、検察事務官であり、むしろそこにこそ手厚さが求められる。60歳以上の給与を3割減らして従前の7割分としたり、退職金を見直すなどの方法で総人件費を抑制するにせよ、個々の検察官の能力の高低を問わない定年延長など、ムダに高給取りを増やすだけだ。併せて能力給やリストラの制度も採用すべきだし、人手が必要なら、まずは就職難が予想される若手の採用を最優先にすべきではないか。一般の国家公務員と異なる検事の強みは、たとえ辞めても弁護士になり、それこそ定年なしで働いていけるという点だ。しかも、改正法案は単に定年を63歳から65歳に引き上げるだけではない。次長検事や高検検事長、地検検事正といった幹部ポストに63歳の「役職定年制」を設ける一方で、法務大臣が公務の運営に著しい支障が生ずると認めれば、その職を続けられるという特例まで設けている。もし幹部が大臣やその背後の政権の顔色をうかがうようになれば、関係者らに対する捜査や裁判に手心が加えられるのではないかと懸念されているわけだ。
いま、急いで決める必要がある?
ここまで大きな制度改革を行う以上は、国会でも相当長時間にわたって腰を据えた議論を重ねる必要がある。しかし、今はコロナショックで経営難に陥り、明日にも倒産するかもしれない危機的状況の事業者がおり、失業者や自殺者の増加も見込まれるという緊急時だ。コロナショックの影響で例年4月の検察官の定期人事異動が凍結されるなど、検察ですらも異例の事態に至っている。少なくともこうした時期に、あえて国会で議論のための時間と人を割かなければならないほど、優先順位の高い話でないことだけは確かだ。まずはコロナショックのための立法措置を急ぎ、落ち着いてから議論を進めても決して遅くはない。
ねじれの発端は「えこひいき」
ただ、ここまで事態にねじれが生じたのは、やはりこの法案の提出に先立つ2020年1月に、黒川弘務・東京高検検事長の定年延長が強引に進められたからだ。政権による究極の「えこひいき」にほかならず、検察人事さえも法規範をねじ曲げて意のままにできるという姿勢のあらわれにほかならない。労組を支持母体とする野党も、単に検察官を含めた国家公務員の定年延長だけの話であれば、賛成に回ったはずだ。もちろん、今回の改正法が成立したからといって、黒川氏が検事総長にならない限り、その定年が自動的に65歳まで延びるわけではない。施行予定日は2022年4月1日であり、黒川氏はその年の2月8日に65歳になるからだ。しかも、2020年2月8日に63歳になった黒川氏の6か月間の定年延長は、国家公務員法の特別な規定によるものだ。最大で3年まで可能だが、延長を繰り返す必要があり、そのたびに理由や必要性が吟味される。だからこそ、いっそのこと黒川氏を次の検事総長に据えるほうが手っ取り早く、それこそが政権の意図ではないかと見られているわけだ。本来であれば黒川氏の件と検察庁法の改正とは直接の関係などなかったはずだが、黒川氏の定年延長をめぐる違法状態を、あとから作る法律で正当化しようとしているのではないかといった色に染まり、「いわくつき」の法案になってしまっている。
黒川氏が身を退くべきでは
そもそも、検察庁法が規定している定年を、しかも個別の検察官の定年を、閣議決定で延長するなどといった馬鹿げた話はない。しかも、検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されないという過去の政府答弁との矛盾を指摘されるや、解釈を変えた、口頭決裁を経たなどと、ご都合主義も甚だしい。巻き込まれた人事院が気の毒だ。そればかりか、是が非でも黒川氏の定年を延長するとか、次の検事総長に据えなければならない理由も必要性もない。2月に定年が延長されて3か月経ったが、黒川氏が彼でなければできないことを何かやっただろうか。重要なのは、黒川氏の定年延長問題が、今後、さらに法的な紛争の火種になりかねないということだ。例えば、高検が最高裁に上告する際の書面は検事長名になっている。上告審で弁護側から「黒川氏は2020年2月に定年退職した『元検事長』であり、『検事長』ではないから、上告を行う法的権限などない。上告は不適法で無効だ」などと主張されるかもしれない。また、同様の理屈により、黒川氏に対する給与支払いの差し止めや、既払い分の返還請求訴訟が提起されるかもしれない。黒川氏が定年延長を打診された際に固辞しておけば、こんな騒動にはならなかった。前例のない異常な人事であり、検察内外で紛糾することなど目に見えていたからだ。最高検が明らかにしている『検察の理念』には、「自己の名誉や評価を目的として行動することを潔しとせず、時としてこれが傷つくことをもおそれない胆力が必要である」という一文がある。地位や権力に恋々とする醜さはもたないという検察官なりの矜持だ。次の検事総長に目されているにせよ、ケチが付いた人事になることは明らかだから、黒川氏が一刻も早く職を辞し、事態の正常化を図るべきではないか。もし「退くも地獄」ということであれば、悲劇というほかない。 
●水原希子、黒川東京高検検事長の定年延長に 抗議署名活動に賛同 5/11
モデルで女優の水原希子が10日、ツイッターを更新。東京高検・検事長黒川弘務氏の定年延長に抗議し、辞職を求める署名活動を引用し、これを支持する姿勢を示した。
この署名活動は、著名サイト「Change.org」で行われている。安倍首相宛てで、署名は11日午前8時30分現在、30万人を超える反響となっている。
安倍首相に近いとされる黒川氏の定年は1月に現行法の解釈変更で延長された。署名サイトでは定年延長を「違法」と指摘、「桜を見る会」など安倍首相の疑惑が追及できなくなると警鐘を鳴らしている。
署名活動の発起人は「政治権力の検察官人事への介入は、独立公正であるべき検察庁の地位を侵し、刑事司法制度の独立を損なうものです」と断じ、三権分立を維持するべきだと訴えている。
これに付随した検察官の定年を段階的に65歳へ引き上げる検察庁法改正案には多くの著名人が反対を表明。女優の小泉今日子、俳優の浅野忠信、演出家の宮本亜門、俳優の井浦新らが抗議の意を示している。 
●検察官の定年延長法案 何のために成立急ぐのか 5/11
検察庁法改正案の審議が衆院で始まっている。検察官の定年を引き上げるとともに、内閣や法相の判断で定年を延長できる規定が新たに盛り込まれた。政府は、今国会での成立を目指している。
なぜ、今、法改正する必要があるのか。政府は説得力のある説明を全くできていない。そもそも法務省は昨秋、改正案を作成する際に、定年延長の規定は特段必要ないとの立場を取っていた。
発端は、1月に黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことだ。これにより政権に近いと目される黒川氏は、検察トップの検事総長就任に道が開けた。
脱法的だとの批判が相次ぎ、検察内部からも説明を求める声が上がった。安倍晋三首相は後になって、法解釈を変更し定年延長を可能にしたと言い出した。
変更後の解釈を法制化するのが改正案の内容である。黒川氏の人事について、つじつま合わせを図ろうとの思惑は否めない。
改正案は、検事総長を除く検察官の定年を63歳から65歳に引き上げる。63歳になったら検事長や次長検事、検事正などの幹部には就けない役職定年制を導入する。
一方で、役職定年や定年を迎えても、内閣や法相が必要と認めれば、最長で3年間、そのポストにとどまれる。
これでは時の政権の思惑によって、検察幹部の人事が左右されかねない。政権にとって都合のいい人物が長期間、検察組織を動かすという事態も起こり得る。
検察官は行政組織の一員であると同時に、刑事訴追の権限をほぼ独占する「準司法官」でもある。社会の公正を保つ立場として、政治的中立性が求められる。
そのため、一般の公務員とは任免の取り扱いが異なるべきだと考えられてきた。検察庁法に定年延長の規定は設けられず、国家公務員法の定年延長規定も適用されないとの解釈が続けられてきた。
検察庁法改正案は、国家公務員の定年を引き上げる法案の一つとして、一括で国会に提出されている。しかし、検察官の定年は権力の分立にも関わる問題だ。別に議論されなければならない。
新型コロナウイルス対策の審議に紛れて、成立を急ぐことなど許されない。  
●検察官定年延長法案が「絶対に許容できない」理由 5/11
5月8日に、反対する野党が欠席する中、自民党、公明党の与党と「疑似与党」の日本維新の会だけで、「検察庁法改正案」が強引に審議入りしたことに対して、ネットで「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグで、昨夜の段階で470万件ものツイートが行われるなど、国民が一斉に反発している。多くの芸能人や文化人が抗議の声を上げている。
今回の法案は、国家公務員法(国公法)の改正と併せて、検察庁法を改正して、検事総長を除く検察官の定年を63歳から65歳に引き上げ、63歳になったら検事長・次長検事・検事正などの幹部には就けない役職定年制を導入するのに加えて、定年を迎えても、内閣や法相が必要と認めれば、最長で3年間、そのポストにとどまれるとするものだ。それによって、検察官についても、内閣が「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由がある」と認めるときは、定年前の職を占めたまま勤務させることができることになる。
これは、安倍内閣が、検察庁法に違反して、黒川検事長の定年延長を強行したことと同じことを、検察庁法上「合法に」行われるようにしようというものだ。これによって、違法な閣議決定が、その後の法改正によって事実上、正当化されることになる。
このような法案を、法務大臣も、法務省も関わらず、「内閣委員会」で審議をして、成立させようとしているのである。
このようなやり方は、検察庁法の立法趣旨に著しく反するものである。
検察庁法が定める検察官の職務と、検察庁の組織の性格は、一般の官庁とは異なる。一般の官公庁では、大臣の権限を各部局が分掌するという形で、権限が行使されるが、検察庁において、検察官は、担当する事件に関して、独立して事務を取り扱う立場にある一方で、検事総長・検事長・検事正には、各検察官に対する指揮監督権があり、各検察官の事務の引取移転権(部下が担当している事件に関する事務を自ら引き取って処理したり、他の検察官に割り替えたりできること)がある。それによって「検察官同一体の原則」が維持され、検察官が権限に基づいて行う刑事事件の処分・公判活動等について、検察全体としての統一性が図られている。
検察官の処分等について、主任検察官がその権限において行うとされる一方、上司の決裁による権限行使に対するチェックが行われており、事件の重大性によっては、主任検察官の権限行使が、主任検察官が所属する検察庁の上司だけでなく、管轄する高等検察庁や最高検察庁の了承の下に行われるようになっている。
少なくとも、検察官の職務については、常に上司が自ら引き取って処理したり、他の検察官に割り替えたりできるという意味で「属人的」なものではない。特定の職務が、特定の検察官個人の能力・識見に依存するということは、もともと予定されていないのである。
黒川弘務東京高検検事長の「閣議決定による定年延長」は、定年後の「勤務延長」を規定する現行の国家公務員法81条の3の「職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」という規定に基づいて行われたものだが、検察庁という組織の性格上には、そのようなことが生じることは、もともと想定されていない。それを検察庁法の改正によって法律の明文で認めようとするのであれば、検察庁法が規定する検察官や検察庁の在り方自体について議論を行うのが当然であり、国会でそれを行うのであれば、「内閣委員会」ではなく、法務大臣が出席し、法務省の事務方が関わる「法務委員会」で審議すべきである。
これに対して、いわゆるネトウヨと呼ばれる安倍首相支持者の人達が、ネット上で必死の抵抗を試みている。高橋洋一氏は、以下のようなツイートで、この法案は、国家公務員一般の定年延長に関する国公法の改正案であり、それに伴って、検察官の定年延長を制度化するのは当然であるかのように言って、法案を正当化しようとしている。
しかし、高橋氏が言う、「検察官だけが定年延長できないのは不当な差別」というのは、検察官の職務の実態を全く知らない的はずれの意見だ。
そもそも、検察官には、法曹資格が必要とされており、退職しても、能力があれば、弁護士として仕事をすることが可能だ。そして、それに加えて、法務省では、従来から、退官後の処遇を行ってきた。
検察庁法上、現在の検察官の定年は、検事総長が65歳、それ以外は63歳だが、実際には、検事正以下の一般の検察官の場合は、60歳前後で、いわゆる「肩叩き」が行われ、それに従って退官すると、「公証人」のポストが与えられる。公証人の収入は、勤務する公証人役場の所在地によるが、概ね2000万円程度の年収になる。そして、認証官である最高検の次長検事、高検の検事長の職を務めた場合には、63歳の定年近くまで勤務して退官し、この場合は公証人のポストが与えられることはないが、証券取引等監視委員会委員長など、過去に検事長経験者が就任することが慣例化しているポストもあるし、検事長経験者は、弁護士となった場合、大企業の社外役員等に就任する場合が多い。
検察官の退職後の処遇については、上記のような相当な処遇が行われているのであり、一般の公務員のように、定年後、年金受給までの生活に困ることは、まずない。
だからこそ、今回、国家公務員法改正での定年延長制度の導入に併せて、検察官の定年延長を根本的に変えてしまうのであれば、従来行われてきた検察官の退職後の処遇の在り方も根本的に見直すことになる。それを、違法な定年延長を行って批判を受けたからといって拙速に行い、しかも、その審議に、法務大臣も法務省の事務方も関わらないなどということは、全くあり得ないやり方だ。
検察官の退職後の処遇の現状からしても、検察官に定年延長を導入する必要性は全くない。それを、強引に導入しようとしているのは、安倍政権が、違法な黒川検事長定年延長を閣議決定して検事総長人事に介入しようとしたことを正当化するため、事後的に国会の意思に反していないことを示そうとしているとしか思えない。
それは、どんな不当・違法なことも、国会の多数の力さえあれば、あらゆるものが正当化できるという、安倍政権の傲慢さそのものである。
このような法改正は、絶対に認めてはならない。 
●検察定年延長、野党が一斉批判 「火事場泥棒」、撤回要求 5/11 
立憲民主党など野党は11日、新型コロナウイルス感染のさなかに検察官の定年を63歳から65歳に引き上げる検察庁法改正案の成立を急ぐ政府・与党を「火事場泥棒」などと一斉に批判した。与党は週内の衆院通過を狙うが、野党は著名人が相次いで抗議の声を上げたことを追い風に、国家公務員全般の定年延長を含む「束ね法案」から検察官関連の一部規定削除を求め、徹底抗戦の構えだ。
検察官の定年延長は、首相官邸の信任が厚い黒川弘務東京高検検事長の人事と密接に絡むとみられている。同氏は63歳の誕生日を控えた今年1月末に定年が半年間延長され、次期検事総長への昇格含みの措置と批判された。63歳の「役職定年」を設けた上で、それを越えても役職にとどまれる規定を盛り込んだ改正法案は、黒川氏の処遇を正当化するものというわけだ。
これについて、演出家の宮本亜門さんや人気音楽グループ「いきものがかり」の水野良樹さんら著名人が続々と「根本のルールを揺るがす」などとツイッターに書き込んだ。
立憲の枝野幸男代表は11日の衆院予算委員会で「危機を政治的に悪用している。火事場泥棒だ」と強く非難。国民民主党の玉木雄一郎代表は記者団に「忖度(そんたく)が発生し、検察の独立性を毀損(きそん)する」と指摘した。 
●検察官の定年延長法案/何のために成立急ぐのか 5/11
検察庁法改正案の審議が衆院で始まっている。検察官の定年を 引き上げるとともに、内閣や法相の判断で定年を延長できる規定 が新たに盛り込まれた。政府は、今国会での成立を目指している。なぜ、今、法改正する必要があるのか。政府は説得力のある説 明を全くできていない。そもそも法務省は昨秋、改正案を作成す る際に、定年延長の規定は特段必要ないとの立場を取っていた。 発端は、1月に黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決 定したことだ。これにより政権に近いと目される黒川氏は、検察 トップの検事総長就任に道が開けた。 脱法的だとの批判が相次ぎ、検察内部からも説明を求める声が 上がった。安倍晋三首相は後になって、法解釈を変更し定年延長 を可能にしたと言い出した。 変更後の解釈を法制化するのが改正案の内容である。黒川氏の 人事について、つじつま合わせを図ろうとの思惑は否めない。 改正案は、検事総長を除く検察官の定年を63歳から65歳に 引き上げる。63歳になったら検事長や次長検事、検事正などの 幹部には就けない役職定年制を導入する。 一方で、役職定年や定年を迎えても、内閣や法相が必要と認め れば、最長で3年間、そのポストにとどまれる。 これでは時の政権の思惑によって、検察幹部の人事が左右され かねない。政権にとって都合のいい人物が長期間、検察組織を動 かすという事態も起こり得る。 検察官は行政組織の一員であると同時に、刑事訴追の権限をほ ぼ独占する「準司法官」でもある。社会の公正を保つ立場として、 政治的中立性が求められる。 そのため、一般の公務員とは任免の取り扱いが異なるべきだと 考えられてきた。検察庁法に定年延長の規定は設けられず、国家 公務員法の定年延長規定も適用されないとの解釈が続けられて きた。 検察庁法改正案は、国家公務員の定年を引き上げる法案の一つ として、一括で国会に提出されている。しかし、検察官の定年は 権力の分立にも関わる問題だ。別に議論されなければならない。 新型コロナウイルス対策の審議に紛れて、成立を急ぐことなど 許されない。  
 
 
 5/12
●安倍政権「姑息の集大成」 検察庁法改正案  5/12 
《あまりに不自然である。黒川氏の定年延長ありきで恣意的に法解釈を変更したと疑われても仕方があるまい。》 これは2月24日の産経新聞の社説「検事長の定年延長 『解釈変更』根拠の説明を」だ。あの産経師匠も政府の対応に驚いていたのだ。本来のルールなら、2月8日に63歳の誕生日を迎えた黒川弘務東京高検検事長は「定年」で「退官」するはずだった。しかし安倍内閣は1月31日の閣議決定で、黒川氏の定年延長を決めたのだ。そこからすべての騒動が始まった。近年、これほど誕生日が注目されたおっさんを私は知らない。
読売が解説した政権との「近さ」
では黒川氏の定年が延長される意味とは? 2月21日の読売新聞に「解説」が載っていた。《政府関係者によると、次期検事総長の人選は、昨年末から官邸と法務省との間で水面下で進められた。同省から複数の候補者が提案されたが、安倍首相と菅官房長官は黒川氏が望ましいとの意向を示したという。》なんと……。黒川氏についてよく「官邸に近いとされる」という表現があるがハッキリと「近い」のだ。政権と「密」なのである。黒川氏の定年が延長されることで次期検事総長への道が開けた。これぞゴリ押しである。ちなみに黒川氏の誕生日についてネットで調べてみたら、2月8日生まれは「冒険的な水瓶座です」とあった。《チャレンジする事に魅力を感じます。「不可能」が「可能」となった時に、大きな快感を覚えるでしょう。》(無料星座占い) ああ、すごいぞ! 不可能を可能にする男・黒川。この占いが本当なら今まさに大きな快感を得ているに違いない。
検察庁法改正案に至るまで
政府は閣議決定のおかしさを批判されるとそのあと慌てて無理筋の解釈変更をし、それも炎上すると今度は後付けで法律そのものを変えようとしている。それが検察庁法改正案である。そこには現政権のこれまでの「手法」が垣間見える。安保法制でもあった“解釈”や、NHK人事にも見られた“お友達優遇”。モリカケ&桜を見る会でも顕著だった“公私混同”。そして「官邸の意向に合わせ、つじつま合わせに走る大臣や役所」(日刊スポーツ2月24日)はまさに“忖度”である。言わば、今回の検察庁法改正案、黒川定年延長問題は「姑息の集大成」なのである。コロナ禍の今、国会で検察庁法改正案の審議が進められることに批判が集まるが、姑息だから当然なのである。ステイホームの我々に集大成を見せてくれているのだ。
最初のツイートを投稿した女性の声
しかし、そんな振る舞いにはさすがにツッコミが飛んできた。《ツイッター上では9日夜から10日朝にかけ「検察庁法改正案に抗議します」という投稿が相次いだ。コロナ禍が続くなか成立を急ぐ姿勢にも反発が出て、リツイートも含め、その数は10日夜までに470万件を超えた。》(朝日新聞デジタル) この記事にはきっかけとなった人の言葉が紹介されている。8日夜に、ハッシュタグを含んだ最初のツイートを投稿したのは東京都内の会社員女性(35)。もともと政権に強い不満があったわけではないが、新型コロナウイルス騒ぎが見方を変えたという。「みんなが困っているのに対応できていない。そういう政府の思うままになったら危ないと思った」(朝日・同) ここで注目したいのは女性が政府のコロナ対応で思い知ったという点だ。そう、すべてつながっているのである。
新型コロナ対策に「いつもの手口は通用しない」
すでに2月26日に次のように書いていた新聞もあった。《公文書の改ざん、廃棄、虚偽答弁、勝手な法解釈、官僚人事の操作…あり得ない手口を駆使して維持してきた憲政史上最長政権だが、新型コロナウイルス対策にいつもの手口は通用しない。》(東京新聞) 現政権は選挙の強さや支持率の高さでこれらの振る舞いでもしのげてきたが、新型コロナウイルスという忖度してくれない相手に出会ってしまったとき、難局が来た。これまでモリカケ桜、黒川定年延長問題があってもどこか遠いことだと思っていた人たちもコロナ対応を見ていたら「自分に直接関係があること」だとひしひしと感じたのだろう。これはヤバいと。
なぜ多くの人が異議を唱えたのか
たとえば相変わらずこんなことをやっている。「一斉休校要請決めた会議も『議事録なし 』」(毎日新聞WEB) この怖さは何かといえば、今の子どもたちが将来またウイルスと対峙したときに「あの時、政府はどう決断、判断をしたんだろう? 」と確認しようにもプロセスが不透明だと役に立たないのである。未来の日本人に迷惑をかけているのだ。先人の歴史に学び、未来に受け継いでいくという伝統を破壊している。そういえば今回の検察人事も従来の慣習をあっさり破ったものだ。改革ではなくただの破壊。自分たちに都合がよければ過去や未来は関係ない。これはもう保守の態度でもなんでもない。「検察庁法改正案に抗議します」のきっかけをつくった人が「新型コロナ騒ぎが見方を変えた」というのは象徴的だ。見えないウイルスのせいで見えてしまったのだ。現政権の態度が。今回の件は検察人事という専門的な話ではない。コロナ対応にもつながっているし、そもそも主権者のピンチでもある。だから多くの人は異議を唱えた。
「姑息の集大成である、検察庁法改正案に抗議します」 
●検察定年延長「黒川氏と無関係」 森法相 5/12 
森雅子法相は12日の記者会見で、検察官の定年を延長する検察庁法改正案について、黒川弘務東京高検検事長の定年が今年1月に延長されたこととは無関係との認識を示した。
森氏はツイッターで著名人らから反対の声が上がっていることに関し「国民の誤解や疑念に対し真摯(しんし)に説明したい」と強調。記者団から「疑念とは何か」などと問われると、黒川氏の定年延長問題を挙げた上で、「黒川氏の人事と今回の法案は関係ない」と語った。  
●検察庁法改正 国民を愚弄する暴挙だ 5/12
権力の暴走を防ぐためにどんな仕組みをつくるか。三権の均衡 と抑制をいかに図るか――。この民主主義の基本を首相は理解し ていないし、理解しようともしない。その事実が改めて明らかに なった答弁だ。先週末、検察官の定年を延長する検察庁法改正案の審議を強行 した安倍政権に対し、SNS上で批判や抗議が広がった。きのう 衆参両院の予算委員会でそのことを問われた首相は、検察官もふ つうの国家公務員と変わらないとの認識を示し、「高齢職員の知 識と経験を活用するための改正だ」と繰り返した。なぜこれだけ多くの市民が懸念をもち、異を唱えているのか立 ち止まって考えるべきだ。定年を延長することが問題だと言っているのではない。法案は、 次長検事や高検検事長ら幹部は63歳になったらその地位を退 くとしつつ、政府が「公務の運営に著しい支障が生じる」と判断 すれば留任できる規定を潜り込ませている。現在65歳が定年の 検事総長も、政府の意向次第でその年齢を超えてトップの座にと どまれるようになる。社説で何度も指摘してきたように、検察官は行政府の一員では あるが特有の権限と責務をもつ。捜査や裁判を通じて司法に深く 関わり、ときにその行方が政権の浮沈を左右することもある。政 治権力からの独立性が強く求められるゆえんだ。だからこそ戦後制定された現行検察庁法は、ふつうの国家公務 員とは異なる独自の定年制を設け、裁判官に準じて身分や報酬を 保証した。歴代内閣はその趣旨を踏まえ、幹部人事についても、 現場の意向を尊重して謙抑的に振る舞ってきた。だがこの法案が成立すれば、誰を幹部にとどめ、誰を退任させ るかは時の政権の判断に委ねられる。検察の独立、そして権力の 分立という、戦後積み重ねてきた営為を無にするものだ。きのう安倍首相は「内閣が恣意(しい)的に人事をするという 懸念は当たらない」と述べた。だがことし1月、長年の法解釈を あっさり覆して、東京高検検事長の定年を延長したのは、当の安 倍内閣ではないか。法案は、この脱法的な行為を事後的に正当化 するものに他ならない。加えて政権は、検察庁法を所管する森雅子法相を法案審議の場 に出席させないという暴挙に出た。「公務の運営に著しい支障が 生じる」とはどんな場合を想定しているのか。検察官の職責をど う考えるのか。法相に問うべきことは山ほどある。コロナ禍で人々は検察庁法どころではないし、最後はいつも通 り数の力で押し切ればいい。政権がそう思っているとしたら国民 を愚弄(ぐろう)すること甚だしい。  
●検事の定年延長/ツイートの抗議に耳を 5/12
「検察庁法改正案に抗議します」のSNS投稿が四百七十万 件に達した。政権が検察人事に介入しうる法改正への異議申し立 てだ。コロナ禍のどさくさ紛れの早期成立を与党は断念すべきだ。会員制交流サイト(SNS)のツイッター上で、九日から十日 にかけて、検察庁法の改正案に抗議意思を示すツイートが相次い だ。市民ばかりか、政治的な発言を控える傾向がある芸能人らも 投稿した。俳優の浅野忠信さん、演出家の宮本亜門さん、小泉今 日子さんとみられる投稿もあった。「三権分立が破壊される改悪です」「護符としてモンテスキュ ーの肖像を貼る」−そんな著名人の投稿は市民を巻き込んで、う ねりとなった。十日午後十時時点で四百七十万件超。コロナ禍で 集会ができない現在、SNSを使った「ネット・デモ」の様相で ある。六十三歳の検察官の定年を六十五歳にすることへの異議では ない。政権が認めた人物に限り、六十三歳以降も検事正や検事長 などの役職を続けられ、定年延長も可能になる特例への異議であ る。この規定で政権が準司法機関たる検察をコントロールするようになり、三権分立が危うくなる。そんな危機感が広がったのだ。契機は八日の衆院内閣委員会だった。野党側が法相の出席や法 務委員会との連合審査を求めていたのに、与党側は拒否。野党欠 席のまま実質審議に入った。同法案は国家公務員法改正案などとまとめた「束ね法案」とし て提出され、内閣委での審議となった。法務・検察の根幹の法な のに法務委で審議せず、法相が答弁しないのは明らかにおかしい。そもそも黒川弘務東京高検検事長の定年を延長する閣議決定 をめぐり、安倍晋三首相は「解釈の変更」と述べた。だが、解釈 とは条文から複数の読み方ができる場合のみ可能となる。検察庁法には国家公務員法を適用しないことが確定している 以上、読み方は一つで、解釈変更はありえないはずだ。政権の都合でルール変更が可能なら、その政権は事実上、法律 に拘束されていないことになる。解釈変更という実質的な法改正 を政権自身が行っているのに等しい。これは「法の支配」が崩壊 している姿である。内閣委では与党側が近日中に強行的に法案採決する可能性が ある。緊急事態宣言の中、火事場泥棒的な法案の成立は阻止せね ばならない。  
●検察庁法改正案 審議に値せず、撤回せよ 5/12
検察官の定年を65歳まで延長する検察庁法改正案が審議入 りした。政府は今国会での成立に向け、今週中にも衆院委員会で 採決を目指す。「生涯現役社会」の土台づくりで公務員の定年も 引き上げる趣旨だとしても、何をそう急ぐのだろう。真意を疑われている。63歳以降は幹部ポストに就けなくしな がら、同時に内閣や法相の意向次第で居座れる規定も盛り込んだ からだ。時の政権が検察人事に介入したいがための法案とみられ るのも当然である。きのう衆参両院の予算委でも取り上げられた。安倍晋三首相は 「恣意(しい)的な人事」の「懸念は当たらない」としながら、 歯止め策は何ら示さなかった。不誠実さの際立つ姿勢が反感を買うのだろう。会員制交流サイ トのツイッター上で<検察庁法改正案に抗議します>の投稿が 相次ぐ。「三権分立崩壊の危機」といった文化人の発信も目立つ など、すでに400万件を超えている。「不要不急」の外出を止められている人々から、「こんな法案 こそ不要不急だ」との反発も聞こえる。新型コロナウイルス感染 の対策が急がれる国会で、貴重な時間を割くに値する法案ではあ るまい。そもそも、これまでの経緯からして疑わしい。発端は今年1月、 政権に近いと目される黒川弘務(ひろむ)東京高検検事長の定年 延長を閣議決定したことだ。だが、その根拠とした国家公務員法 の延長規定は過去、政府見解で「検察官には適用されない」とし てきたものだった。食い違いに気付いた野党から閣議決定の違法性を指摘され、首 相は「法解釈を変更した」と後になって答弁。森雅子法相も「口 頭で決裁した」と述べ、決裁文書なしに法解釈を見直す、あしき 前例を作った。今回の法案が、つじつま合わせも同然だと受け止められている のは無理もない。検察庁法には、同じ年にできた憲法でうたう「司法権の独立」 を守る役割があるという。検察官が厳正中立、不偏不党のモット ーを重んじるのも、行政と司法双方の性質を持つがゆえだ。早い 話が「戦後最大の汚職」とされるロッキード事件のように、首相 経験者を逮捕することもある。昨年夏の参院選を巡り、現在も河 井克行前法相夫妻にまつわる公選法違反疑惑の捜査を進めてい る。政治家の犯罪も摘発をいとわぬ検察の威信は、国民の信頼があ ってこそのものだ。公費で賄う首相主催の行事に後援会員を招い た「桜を見る会」疑惑で検察は動かず、今はむしろ不信感が増し ている。四方八方から嫌疑がかかってもなお、ポストにかじりついてい るように映る黒川検事長の真意は計りかねる。共同通信社の世論調査で先日、新型コロナへの政府対応を「評 価しない」とする声が過半数の57%に上った。首相はどう受け止めているのだろう。身勝手な解釈変更にもかかわらず、記録文書を残さない…。そ んな首相の姿勢は、国民の信を失いつつあるのではないか。この ままでは、肝心の新型コロナ対策でメッセージや施策を発しても 空回りしかねない。政治に信頼を取り戻すためにも、政府自らが、法案撤回で白紙 に戻すべきである。  
●独立性巡る論戦 徹底的に/検察庁法改正案 審議入り 5/12
世の中の注目が集まる新型コロナウイルス感染症への対応に 紛れさせるかのように、与党は、検察官の定年を延長する検察庁 法改正案の早期成立を目指し、肝心の森雅子法相抜きで審議を始 めた。改正案は、検察官の定年を現在の 63 歳から 65 歳に引き上げ、 63 歳を迎えた検事長や検事正など幹部はポストを退く「役職定 年制」を導入する一方で、内閣が認めれば役職の延長も可能とい う規定を盛り込んだ。政治との一定の距離が求められる検察に、時の政権が介入でき る恐れ、つまり人事によって政権の意向を検察の捜査に反映させ かねない危うさをはらむ内容とも言える。国家公務員の定年を 60歳から65歳に段階的に引き上げる国家公務員法改正案と一体 で審議する手法をとったのは、検察官の定年問題を、目立たせな い思惑があるからに違いない。検察庁法改正案の作成過程を振り返ると、不自然な点が浮かぶ。 昨年秋の段階では、役職の定年延長の部分はなかったという。と ころが、臨時国会の提出が見送られると、法務省は延長できるよ うに見直した。それは、検察官には定年延長を適用しないとしてきた従来の法 律の解釈を、1月に政権の独断で変更し、定年となる東京高検の 黒川弘務検事長の続投を閣議決定した人事と無縁ではあるまい。立法府の手続きを踏まずに、事実上の法改正を実行、しかも文 書に残さず、口頭で内閣法制局や人事院の決裁を得るという、お よそ「法の支配」と呼べない行為だった。当の法相自身が国会で これまでの解釈を問われても即答できず、しどろもどろになった のは、道理の欠落を象徴している。首相官邸の信頼が厚いとされる黒川氏を次期検事総長に据え る布石とみられ、野党は政治介入と厳しく追及した。日弁連も「法 の支配と権力分立を揺るがすと言わざるを得ない」と批判する声 明を発表した。今回の法改正も、野党は検事長人事を正当化する ための「つじつま合わせ」と激しく反発する。検察は行政機構の一部だが、捜査から起訴までの強力な権限を 持ち、時に政権与党の政治とカネなどの疑惑にもメスを入れる。 だからこそ、高い独立性や中立性が欠かせず、それが国民の信頼 の源泉でもある。政権の恣意(しい)的な人事の余地は、可能な 限り排除すべきではないのか。実際の検事長人事に疑念が生じているにもかかわらず、検察庁 法を所管するはずの法相が答弁にも立たないというのはもって のほか、国会軽視以外の何物でもない。与党は、国家公務員法改 正案と併せ、答弁を武田良太行政改革担当相に一本化したと主張 するものの、検事長の続投を巡り、発言が二転三転した森法相を“隠す”意図があるのは明白だろう。このまま、強行突破すれば、検察の独立性は根底から揺らぐ。 まず検事長人事を白紙に戻し、検察庁法改正案の審議は切り離す べきだ。法相を答弁席に座らせ、検察の在り方を含め、徹底的な 論戦が必要である。ツイッターでは「検察庁法改正案に抗議します」に同調する投 稿が数百万に達した。「法治国家」の存在意義が問われているこ とを忘れてはならない。 
●検察庁法改正/恣意的人事の余地残すな 5/12
こんな筋の通らない振る舞いが許されるのか。世の中の注目が 集まる新型コロナウイルス感染症への対応に紛れさせるかのよ うに、与党は、検察官の定年を延長する検察庁法改正案の早期成 立を目指し、肝心の森雅子法相抜きで審議を始めた。 改正案は、検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ、 63 歳を迎えた検事長や検事正など幹部はポストを退く「役職定 年制」を導入する一方で、内閣が認めれば役職の延長も可能とい う規定を盛り込んだ。 政治との一定の距離が求められる検察に、時の政権が介入で きる恐れ、つまり人事によって政権の意向を検察の捜査に反映さ せかねない危うさをはらむ内容とも言える。国家公務員の定年を 60歳から65歳に段階的に引き上げる国家公務員法改正案と一体 で審議する手法をとったのは、検察官の定年問題を、目立たせな い思惑があるからに違いない。 検察庁法改正案の作成過程を振り返ると、不自然な点が浮か ぶ。昨年秋の段階では、役職の定年延長の部分はなかったという。 ところが、臨時国会の提出が見送られると、法務省は延長できる ように見直した。 それは、検察官には定年延長を適用しないとしてきた従来の 法律の解釈を、1月に政権の独断で変更し、定年となる東京高検 の黒川弘務検事長の続投を閣議決定した人事と無縁ではあるま い。 立法府の手続きを踏まずに、事実上の法改正を実行、しかも 文書に残さず、口頭で内閣法制局や人事院の決裁を得るという、 およそ「法の支配」と呼べない行為だった。当の法相自身が国会 でこれまでの解釈を問われても即答できず、しどろもどろになっ たのは、道理の欠落を象徴している。 首相官邸の信頼が厚いとされる黒川氏を次期検事総長に据え る布石とみられ、野党は政治介入と厳しく追及する。日弁連も「法 の支配と権力分立を揺るがすと言わざるを得ない」と批判する声 明を発表した。今回の法改正も、野党は検事長人事を正当化する ための「つじつま合わせ」と激しく反発する。 検察は行政機構の一部だが、捜査から起訴までの強力な権限 を持ち、時に政権与党の政治とカネなどの疑惑にもメスを入れる。 だからこそ、高い独立性や中立性が欠かせず、それが国民の信頼 の源泉でもある。政権の恣意(しい)的な人事の余地は、可能な限 り排除すべきではないのか。 実際の検事長人事に疑念が生じているにもかかわらず、検察 庁法を所管するはずの法相が答弁にも立たないというのはもっ てのほか、国会軽視以外の何物でもない。与党は、国家公務員法改正案と合わせ、答弁を武田良太行政改革担当相に一本化したと 主張するものの、検事長の続投を巡り、発言が二転三転した森法 相を“隠す”意図があるのは明白だろう。 このまま「火事場泥棒」的なやり方で、強行突破すれば、検 察の独立性は根底から揺らぐ。まず検事長人事を白紙に戻し、検 察庁法改正案の審議は切り離す。法相を答弁席に座らせ、検察の 在り方を含め、徹底的な論戦が必要だ。 ツイッターでは「検察庁法改正案に抗議します」に同調する 投稿が数百万に達した。「法治国家」の存在意義が問われている ことを忘れてはならない。  
●検察庁法改正案/批判受け止めて撤回を 5/12
検事長らの定年延長を可能にする検察庁法の改正案に対する ツイッター上の抗議が、9〜10日にかけ一時約380万件に達 した。人事を通して検察庁の独立性がゆがめられかねない、との批判 が広がった。抗議は記録的な数といっていい。コロナ禍への対策が不十分で国民の疲弊が深まっている。それ なのに、感染対策と無関係な法案の成立を急ぐ政府、与党への不 信感も抗議を後押ししたのだろう。野党は「政府は感染症による危機状況を悪用している」と批判 している。当然の反応だ。安倍首相はきのうの衆院予算委員会で「懸念は全く当たらない」 などと述べ、抗議の拡大について正面から答えなかった。政府は 批判を受け止めるべきだ。改正案に問題が多いことは明白である。まず内閣によって恣意 (しい)的な検察官の人事が行われる可能性があることだ。国家公務員の定年を65歳に段階的に引き上げるのに合わせ、 検察官の定年も65歳に引き上げ、幹部に63歳の役職定年制を 設ける内容だ。看過できないのは、内閣が必要と認めた場合は役 職定年を延長、再延長できることだ。これでは政権の意向に沿う人物を、上層部に配置し続ける懸念 が拭えない。検察官は起訴権限をほぼ独占し、政治家の不正も捜査する重い 職責がある。時の政権からの独立が欠かせない。改正案が成立す ると三権分立が脅かされる。安倍政権は1月末、国家公務員法の条文を適用し、黒川弘務・ 東京高検検事長の定年延長を閣議で決めている。安倍首相は違法 性を指摘されると、法解釈を変更したと突然表明した。森雅子法相や人事院幹部は筋の通らない答弁を繰り返し、撤回 や修正を余儀なくされた。法違反を指摘されたため、後付けで解 釈変更を持ち出した疑念がある。改正案には混乱を終息させる狙 いも透けている。改正案は、国家公務員法改正案と一体となった「束ね法案」と して衆院内閣委員会で一括審議されている。これでは十分な審議 ができない。検察庁法改正案は切り離して議論する必要がある。 黒川氏の定年延長との関連をただす必要があるのに、与党が森法 相の出席を拒否したことも問題だ。改正案は認められない。コロナ禍への対応に追われる現状では 十分な議論も困難だ。急ぐ理由はない。政府は撤回して修正し、終息後に再提出するべきだ。 
●検察庁法改正 コロナ禍になぜ急ぐか 5/12
新型コロナウイルス対策に注力すべき時に、なぜ、そんなに国 会審議を急ぐのか。検察官の定年を延長する検察庁法改正案だ。政府与党は今週中 の衆院通過をめざしている。黒川弘務東京高検検事長の定年延長をめぐり、安倍晋三政権の 人事介入の疑惑がいまだ拭えない。後付けで定年延長を正当化す るための法改正ではないのか。単に疑念で済むまい。何より危惧すべきは、法改正によって検 察の独立性が揺らぎ、ひいては国民の信頼が損なわれることだ。重大な問題を含みながら、コロナ対応で十分な審議時間が見込 めない。「不要不急」の改正案と言っていい。ここは、すみやか に撤回すべきだ。改正案の要点は、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げ るとともに、63歳に達すると幹部ポストから降りる「役職定年 制」を導入するというもの。日弁連などが問題視しているのは、延長となった定年が特例で さらに延長できる点だ。内閣や法相が「職務の遂行上の特別の事 情を勘案」すれば、検事総長や幹部検事のポストは継続可能とな る。政権にとって都合のいい人事介入の余地が生じるというわけ だ。検察は強大な捜査権を持ち、起訴権限をほぼ独占している。疑 惑があれば、捜査は首相ら政権中枢、有力政治家にも及ぶことは、 ロッキード事件など過去の汚職事件をみれば分かる。それだけに政治からの中立性や独立性が求められるのである。 職務に重い責任を負う「準司法官」とみなされ、憲法の三権分立 に基礎を置いているとも言われる。検察官は戦後制定された検察庁法で身分保障され、一般の国家 公務員と一線を画された経緯がある。ところが、今回の改正案は 国家公務員の定年を延長する国家公務員法改正案と一緒にされ た「束ね法案」として提出されている。改正案を審議するなら、問題点について質疑を尽くす必要があ る。そのためには法案を別にして提出し直すべきだ。そもそも黒川検事長の定年延長が唐突に閣議決定されたこと が発端だ。安倍首相は改正案について「恣意(しい)的に人事に 介入することは絶対にない」と主張するが、これまでの言動から 真に受けることはできない。改正案が審議される内閣委員会では、コロナ対策の議論が進め られている。休業補償など問題が山積する中で、改正法案成立が 国民の求めることとは思えない。  
●検察庁法改正/いま急ぐ必要があるのは 5/12
検察官の定年を延長する検察庁法の改正案が、国家公務員の定 年を引き上げる法改正案と一括して衆院内閣委員会で実質審議 に入った。検察官の定年を63歳からトップの検事総長と同じ65歳に 引き上げ、内閣が必要と認めれば延長もできる特例措置が盛り込 まれている。改正法が成立すれば検察幹部の人事に時の政権が介入する余 地が生じる。司法の一角を担う検察官の政治的中立と独立性を脅 かし、三権分立をも揺るがしかねない。国会提出に至るいきさつを含め、多くの問題を抱えた法案に野 党は反発している。政府、与党は週内に衆院を通過させる方針だ が、数の力で成立を強行すべきではない。改正案を審議する内閣委は新型コロナウイルス対策の特別措 置法に関する質疑も扱う。与野党の対立をあおる「不要不急」の 法案で時間を費やしている場合ではない。多くの著名人がツイッ ター上で抗議を表明したのは、そのいら立ちからだろう。与野党の協力を得て新型コロナウイルス対策に集中すべき時 に、政府はなぜ成立を急ぐのか。検察官は「準司法官」として首相ら政治家の犯罪にも切り込む 強大な権限を持つ。その分、一般の国家公務員のような定年延長 は適用しないと解釈されてきた。昨年秋に内閣法制局が了承した 当初の改正案には延長の特例規定はなく、法務省も不要との見解 を示していたはずだ。唐突な方針転換は、政権の信頼が厚い黒川弘務東京高検検事長 を定年後も続投させる脱法的な閣議決定を正当化するための、つ じつま合わせと見られている。検察内部や弁護士有志から「法の 支配の危機」などと反発が出たのは当然と言える。経緯を改めてただそうと野党は森雅子法相の出席を求めたが、 与党は応じないまま審議に突入した。法務省が主導した法案の審 議に当の法相がいないのでは筋が通らない。重大な法案であれば なおさらだ。一般の国家公務員の定年引き上げとひとくくりにした上に、コ ロナ対策のどさくさに紛れて通過を図る対応は許されない。現行 法に反する黒川氏続投の閣議決定は撤回し、政治介入を許す検察 官の定年延長規定は削除して仕切り直すべきだ。政府がもう一つの重要法案と位置付ける年金制度改革関連法 案は、与党や立憲民主党なども賛成してきょうにも衆院を通過す る見通しだ。2022年からパートら非正規労働者の厚生年金加入を拡大 するのが柱となる。だが、感染拡大で業績が悪化している中小企 業には保険料負担が重くのしかかる。いまは、当面の事業継続の ための支援策を急がねばならない。 
●検察定年延長/法案成立を急ぐ必要ない 5/12
新型コロナウイルス対策が急を要する中、国会で急ぎ成立させ なければならない法案ではない。検事長らの定年延長を可能にする検察庁法改正案のことであ る。政府、与党は週内にも衆院を通過させる方針だが、三権分立 を脅かしかねない内容をはらんでいる。拙速は許されない。検察庁法は検察官の定年を検事総長は65歳、それ以外の検事 長らは63歳と規定している。延長については規定していなかっ た。改正案では検事総長以外も65歳に引き上げる。63歳に達し た幹部は役職を降りる「役職定年制」も導入する。看過できない のは、内閣か法相の判断によって役職の延長を可能とすることを 盛り込んだ点だ。成立すれば検察人事に政権が介入する道が開かれよう。政権に 近い幹部が長期間、検察を動かす立場に居続けることもできるだ ろう。政治家も捜査対象とする検察の政治的中立性を脅かし、司 法の独立を揺るがす恐れがある。そもそもこの問題がクローズアップされたきっかけは、東京高 検の黒川弘務検事長が63歳になる直前に定年の半年延長が閣 議決定されたことだった。官邸と親密とされる黒川氏の、次期検 事総長への就任をにらんだ措置とされる。検察庁法に規定がないため、安倍晋三首相は「(退職で公務運営に著しい支障を生じる場合に定年を延長できる)国家公務員法 の規定が適用されると解釈することとした」と国会で答弁してい る。検察庁法改正案は、この「法解釈の変更」を後付けで法制化し、 つじつまを合わせるようなものではないか。歴代政権が国会でも 説明し定着してきた法解釈を、時の内閣の一存で都合よく変更す るのは法治国家として極めて危険である。無理に無理を重ねるような手法が国民に理解されるはずもな い。共同通信の3月の世論調査で、黒川検事長の定年延長を巡り6 割強が「納得できない」とした。コロナ禍で集会などが開きにく い中でも、会員制交流サイト(SNS)のツイッター上で抗議す る市民や著名人らのツイートが相次いでいる。検察庁法改正案は、国家公務員の定年を65歳へ段階的に引き 上げる国家公務員法改正案と一緒に、「束ね法案」として提出さ れている。安倍首相は「高齢期の職員の豊富な知識、経験を最大 限活用する」と意義を強調する。それも大切なことだろう。しかし法の支配に関わる検察官の定 年延長は切り離して、より慎重に審議するべきだ。改正案は新型コロナ特別措置法に関する質疑もある内閣委員 会で、コロナ対策と同時並行で審議されている。国民が注目し、 内容を理解するに十分な審議が尽くされるのか。疑問を禁じ得な い。「どさくさ紛れ」「火事場泥棒」といった批判がつきまとう審 議では将来に禍根を残す。  
●検察庁法改正案 一体誰のため 何のため5/12
検察官の定年を現行の63歳から65歳に引き上げる検察庁 法改正案の実質審議が8日から始まった。ツイッター上に抗議の声があふれたのは、翌9日から10日に かけてのことだ。「検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(検索 目印)を付けた投稿が、市民だけでなく著名人からも相次いだ。「摩訶不思議で理解不能。なんのために?誰のために?この大 変な時期に姑息(こそく)な事をやってんだい?」(元格闘家、 高田延彦さん)。高田さんをはじめ俳優の井浦新さん、浅野忠信さんら著名人の 投稿が相次いでリツイートされ、その数は一時480万件を超え た。投稿は週末の夜から急増した。読み取れるのは、法案の中身に 対する強い危機感と、この時期にあえて不要不急の問題法案を提 出したことに対する怒りである。政府の新型コロナウイルス対策そのものが、国民から厳しい批 判を浴びている。それなのに、火事場泥棒のように法案を押し通 そうとする。その姿勢に、強烈な不信感が示されたのである。野党が反対しにくいように政府は、国家公務員の定年を65歳 へ段階的に引き上げる国家公務員法改正案と検察庁法改正案を 一緒にして「束ね法案」として国会に提出した。検察官の定年延長問題をただすため野党が森雅子法相の出席 を求めたのに対し、自民党は応じなかった。とてもまっとうなやり方とは言えない。発端は、1月末、定年退職間近だった東京高検の黒川弘務検事 長の定年を半年間延長するという異例の閣議決定を突如として 行ったことだ。現行の検察庁法では検察官の定年は63歳(検事総長は65歳) と定められており、延長規定はない。森法相は当初、国家公務員法の延長規定を当てはめたと説明していた。いわば脱法的に延長を強行しようとしたわけだ。その後、同法の延長規定は検察官には適用されない、との政府 答弁が存在することが明らかになり、閣議決定の違法性が浮上。 ここに至って安倍晋三首相は2月13日、法解釈を変えた、と衆 院本会議で答弁した。行政府がみだりに法解釈を変更すれば、三権分立が損なわれる のは明らかだ。ましてや黒川氏は政権に極めて近いことで知られ る人物。定年を半年延長すれば検事総長就任の道が開ける。法案は、黒川氏の定年延長を後付けで正当化するものであり、 特例を設けることで政府の意向が人事に反映されやすい仕組み になっている。検察官が持つ公訴権は、極めて重く大きな権限だ。1985年 に検事総長に就任した伊藤栄樹氏は、部下にこう訓示したといわ れる。「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘(うそ) をつくな」このような形で安倍政権まる抱えの検事総長が誕生した場合、 国政全般に及ぼすマイナスの影響は計り知れない。黒川氏の定年 延長の閣議決定を早急に見直すべきだ。  
 
 
 5/13
●検察庁法改正案/疑念もたれぬ説明尽くせ 5/13
検事長らの定年延長を可能にする検察庁法改正案をめぐり、衆 院内閣委員会が紛糾している。政府・与党は週内にも衆院を通過させたい方針だが、新型コロ ナウイルスの感染収束が見通せない中で、野党側は「火事場泥棒 だ」などと反発している。これに多くの芸能人らがツイッターへ の投稿で参戦して、論争は茶の間にも飛び火している。事実の整理が必要である。コロナ対策を優先すべきだとの批判は当たらない。重要法案で あればいくらでも並行して審議することは可能である。改正案は検事総長以外の検察官の定年を現在の63歳から6 5歳に段階的に引き上げ、63歳に達した次長検事と検事長らは 役職を外れる「役職定年制」を設けるというものだ。これは国家 公務員法の改正に伴うもので、野党も基本的に反対はしていない。問題は特例として、内閣が「公務の運営に著しい支障が生じる」 と認めた場合、引き続き次長検事や検事長を続けられると定めた ことだ。これに野党などは「内閣が恣意(しい)的に人事介入で きる」と反発している。しかもこの特例は、黒川弘務東京高検検事長の定年を半年間延 長するという前例のない閣議決定が行われた直後に加えられた。 森雅子法相がいくら「東京高検検事長の人事と今回の法案は関係 ない。法案自体は数年前から検討されていた内容で問題ない」と 強弁しても、疑いは簡単に晴れない。そもそも森法相は内閣委の審議に参加していない。「国民の誤 解や疑念に真摯(しんし)に説明したい」というなら、検察庁法 の改正案は内閣委から分離して法務委員会で審議することが筋 である。黒川氏の定年延長について森法相は2月、「検察官としての豊 富な経験知識等に基づく部下職員に対する指揮監督が不可欠で あると判断した」と述べた。こうした属人的判断が改正案の特例に反映されるのか否かが 問われている。疑念をもたれぬ説明を尽くすには、法務委での審 議が必要だろう。検察は捜査や公判を通じ、社会の安全と公平、公正に重大な役 割を担う。時に捜査のメスは政府・与党に及ぶこともある。検察 がその仕事を全うするには、国民の信用、信頼が欠かせない。そ れは政治も同様である。  
●検察庁法改定案 与党は国民の怒りの声を聞け 5/13
安倍晋三政権が国会での審議入りを強行した検察庁法改定案 への抗議が、インターネット上で空前の広がりを見せるなど、国 民的な怒りの声として沸き上がっています。同改定案は、検察の 幹部人事に政府が干渉・介入できるようにするもので、ツイッタ ー上の「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿は数百万件に上 りました。安倍政権は今週中にも衆院通過を図り、今国会での成 立を狙っています。新型コロナウイルスの感染収束のために与野 党の違いを超えて力を合わせなければならない時に、火事場泥棒 のようなやり方は断じて許されません。 三権分立を揺るがす検察庁法改定案は、自民・公明の与党が野党の反対を無視し、 8日の衆院内閣委員会で審議入りを強行しました。安倍政権は、 同改定案が憲法の基本原則である三権分立に関わる重要法案で あるにもかかわらず、国家公務員法(国公法)等改定案の中に含 めて一つの法案として国会に提出しました。これに対し野党は、法案の切り離しや、検察庁法を所管する森 雅子法相の出席、法務委員会との連合審査を求めてきました。し かし、与党はこれらの要求をことごとく拒否し、野党欠席のまま 衆院内閣委を開会しました。安倍政権のコロナ対応が後手後手に 回る中で改定案の成立を急ぐ与党の姿勢に怒りが沸騰したのは 当然です。ツイッター上の投稿は急速に拡大し、著名な俳優や歌手、演出 家、漫画家らも次々と抗議の意思を表明しました。これを受け日 本共産党の志位和夫委員長をはじめ、立憲民主党、国民民主党、 社民党の野党4党首が10日にそろって動画でメッセージを投 稿し、三権分立と民主主義を守るために力を合わせようと呼びか けました。法曹界からの反対の声も高まっています。11日には日本弁護 士連合会(日弁連)の荒中(あら・ただし)会長が先月に続き2 回目の反対声明を発表しました。「法の支配の危機を憂う弁護士 の会」が先月発表した反対アピールには、日弁連の会長・副会長 経験者を含む2000人を超える弁護士が賛同しています。現行の検察庁法は、検察官の定年年齢を定め、その延長を認め ていません。準司法官として首相をも逮捕できる強力な権限を持 つ検察官には、定年になれば例外なく退職するルールを設け、政 府が人事への恣意(しい)的な干渉をできないようにしています。 ところが、改定案は、高検検事長や地検検事正など役職者の勤務 延長を認め、その判断を内閣や法相に委ねます。検察官に求めら れる政治的中立性や独立性を脅かす重大問題です。 撤回する以外にない今回の検察庁法改定の動きは、安倍政権が定年目前の黒川弘務東京高検検事長の勤務延長を、国公法の定年延長規定を根拠に閣 議決定したことが発端でした。これは検察庁法に違反し、政府が 検察官に国公法は適用されないとしてきた解釈も覆すものでし た。改定案は、黒川氏の違法な勤務延長を正当化し、政府が検察 官の人事に恒常的に介入できる仕組みを制度化するものにほか なりません。安倍首相は「内閣の恣意的な人事が行われるとの懸念は当たら ない」とうそぶいていますが、国民の怒りをいっそう大きくする だけです。検察庁法改定案は撤回しかありません。  
●検察庁法改正/一度白紙に戻して出直せ 5/13
政府、与党がもくろむように法案の早期成立を許せば、法治国 家の存在意義が根本から問われかねない。検察官の定年を延長する検察庁法改正案である。衆院内閣委員 会で審議されている。改正案は検察官の定年の63歳から65歳 への引き上げと、検事長などの検察幹部が63歳で一般の検事と なる「役職定年制」が柱だ。この点には野党も理解を示している。問題なのは、内閣が認めれば役職定年の延長を可能としている ことだ。検察は刑事事件の捜査、起訴の権限を与えられている。行政府 の一部でありながら、必要であれば「首相も逮捕できる」という 高い独立性を保ってきた。時の政権の意向で人事が左右されるよ うになれば、独立性や中立性が侵される危険性をはらむ。そもそも昨年秋の段階でまとめた改正案には、役職定年延長の 部分はなかったという。それが今年になって付け加えられた。政府は検察官に定年延長を適用しないとしてきた従来の法解 釈を1月に突然変更し、定年となる東京高検の黒川弘務検事長の 続投を閣議決定した。この人事と密接に絡むと野党は指摘してい る。黒川氏は首相官邸の信頼が厚いとされる。次期検事総長に黒川 氏を据える布石とみられている。そのことも野党は政治介入と問 題視しているが、今回の法改正は続投人事を後から正当化するた めの「つじつま合わせ」と激しく反発している。衆院での審議に、検察庁法を所管する森雅子法相は出席してい ない。政府が他の国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的 に引き上げる国家公務員法改正案と一体で審議する手法を取っ たため、審議の場が法務委員会ではなくなったからだ。森法相は黒川氏の検事長続投を巡る国会審議で、発言が二転三 転した経緯がある。森法相を表に出したくないからだと批判され ても仕方あるまい。恣意(しい)的な検察人事につながるとの批判に対し、自民党 の森山裕国対委員長は「内閣は国民が選んだ人たちで構成される。 非常に公正公平なやり方だ」と反論している。しかし黒川氏の続投決定を立法府の手続きを経ない、事実上の 法改正と言うべき解釈変更によって強引に行ったのは安倍内閣 だ。しかも文書に残さず、口頭で内閣法制局や人事院の決裁を得 たと、信じがたい釈明をしている。内閣の「公正公平」を疑わせ ているのは安倍内閣自身だろう。ツイッターで、検察庁法改正に抗議する投稿が数百万を超えた。 新型コロナウイルスの感染拡大で直接行動ができない国民の意思の表れだ。まず黒川氏の人事を白紙に戻し、検察庁法改正案の審議は切り 離して法相を交えて徹底的に行うべきだ。  
●検察庁法改正 国民無視の成立ありきか 5/13
新型コロナウイルスの感染拡大により多くの国民が行動制限 を強いられ、経済的に苦しんでいる。そうした中で、不急の法案 成立にこだわる政府与党に批判が高まるのは当然だ。法案は、検察に対する国民の信頼を揺るがす恐れもはらむ。「成 立ありき」の拙速審議は断じて許されない。検察官の定年を延長する検察庁法改正案を巡り、与野党の攻防 が激しさを増してきた。自民党の森山裕国対委員長は11日、検察庁法改正案を含む国 家公務員法改正案について週内に衆院を通過させる方針を記者 団に表明した。野党は批判を強めている。検察庁法改正案は、検事総長以外の検察官の定年を63歳とし ている現行規定を65歳に引き上げるものだ。63歳に達した幹 部は役職を降りる「役職定年制」も導入する。政府は1月末、黒川弘務東京高検検事長の定年を半年延長する 異例の閣議決定をした。官邸の信頼が厚い黒川氏を次期検事総長 に据える布石とみられ、政治介入との疑念が強まった。野党は、法改正は黒川氏の定年延長を正当化する「つじつま合 わせ」「後付け」などと厳しく批判している。役職定年を設ける一方、内閣が認めた場合は勤務を延長できる。 検事総長の定年は65歳と変わらないが最長68歳まで延長が 可能となり、検察の独立性や中立性を脅かすとの批判もある。安倍晋三首相は国会で「恣意(しい)的な人事が行われるとい った懸念は全く当たらない」としたが、疑念は解消されていない。検察は、時の権力者の刑事責任を追及してきた捜査機関でもあ る。その検察組織の根幹に関わる法案だけに、慎重な審議が不可 欠だ。驚くのは、政府与党に疑問に正面から向き合おうとの姿勢がう かがえないことだ。与党側は野党の要求に耳を傾けず、森雅子法相を法案審議で答 弁させない「森隠し」で臨んでいる。森氏は検察官の定年延長を巡る国会答弁が混乱を招いたとは いえ、検察の所管大臣である。検察庁法改正案を国家公務員法改正案と束ねる形で提出した ことで、丁寧な審議が難しくなったとの指摘もある。さらに看過できないのは、国民の批判や疑問を無視して法案成 立に突き進もうとするような態度だ。検察庁法の改正を巡っては最近、ネット上で著名人らの抗議が 急速に広がった。歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんは「コロナの件で国民が大変 な時に今急いで動く必要があるのか、自分たちの未来を守りたい」 との思いから抗議の声を上げたという。共感を覚える人は少なく ないはずだ。共同通信社の直近の世論調査では感染拡大で生活に不安を感 じているとの回答が、「ある程度不安」も含め8割を超えた。こうした状況下で検察庁法改正を急ぐ政権の態度は、あまりに ずれているとしか思えない。 
●検察庁法改正案/国民の抗議に耳を傾けよ 5/13
「三権分立」は権力の濫用(らんよう)を防ぎ、国民の政治的 自由を保障するため、国家権力を立法、司法、行政の3機関に委 ねる仕組みであり、憲法の基本的原則だ。その原則を脅かす法案 が週内にも衆院で成立する事態となっている。法案は検察官の定年を延長する検察庁法改正案で、検察官の定 年を63歳から65歳に引き上げる狙いがある。定年延長自体は 人生100年時代を迎え、民間でも導入が進んでいる。問題は6 3歳を迎えた検事長や検事正など幹部がポストを退く「役職定年 制」を導入する一方で、内閣が認めれば役職の延長も可能とする 規定を盛り込んだことだ。首相をも逮捕できる権限を持つ検察に、時の政権が介入できる 恐れは否めない。政権に都合のよい人物を幹部に残すことで、政 権の意向を捜査に反映させかねない危うさをはらむ。司法の一翼 を担う検察が行政に絡め取られる構図に危機感を抱く人も少な くない。現にツイッターでは法案への抗議に同調する投稿が数百 万に達した。政府は真摯(しんし)に耳を傾ける必要がある。国家公務員法改正案と一体で審議する手法もおかしい。本来、 法務委員会で森雅子法相出席のもとで審議するのが筋だが、現状 は内閣委員会での審議となっている。検察官の定年問題をスルー させようとの思惑が透ける。何より、新型コロナウイルス禍のど さくさ紛れ狙いは言語道断だ。前段は、定年となる東京高検の黒川弘務検事長の続投を閣議決 定したことにある。検察官については定年を延長しないとしてき た従来の法解釈を、政権の独断で変更。首相官邸に近いとされる 黒川氏を次期検事総長に据える布石とみられるが、決定に関する 正式な文書もなく、口頭で人事院などの決裁を得るという、およ そ法治国家と呼べない経緯だった。今回の法改正は、この検事長 人事を正当化するための「つじつま合わせ」であり、野党の激し い反発も当然だ。野党からは「法相隠し」との批判も上がっている。黒川氏の対 応を巡って、森法相は国会でこれまでの解釈を問われても即答で きず、全く無関係の答弁をするなど、しどろもどろの体だった。 政府、与党はこれを恐れ、内閣委での審議としたのではないか。 ただ、検察庁法を所管する法相が答弁にも立たないというのは無 理筋で、国会軽視も度が過ぎるというほかない。野党の指摘通り、このまま「火事場泥棒」的な手法で強行突破 することは断じて許されない。検察の独立性が揺らぐようでは国 民の信頼も得られない。検事長人事を白紙に戻し、検察庁法改正 案は別途、法相出席の下、審議を仕切り直し熟議を尽くすべきだ。 
●検察庁法改正/恣意的人事の余地残すな 5/13
こんな筋の通らない振る舞いが許されるのか。世の中の注目が 集まる新型コロナウイルス感染症への対応に紛れさせるかのよ うに、与党は、検察官の定年を延長する検察庁法改正案の早期成 立を目指し、肝心の森雅子法相抜きで審議を始めた。改正案は、検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ、 63歳を迎えた検事長や検事正など幹部はポストを退く「役職定 年制」を導入する一方で、内閣が認めれば役職の延長も可能とい う規定を盛り込んだ。政治との一定の距離が求められる検察に、時の政権が介入でき る恐れ、つまり人事によって政権の意向を検察の捜査に反映させ かねない危うさをはらむ内容とも言える。国家公務員の定年を6 0歳から65歳に段階的に引き上げる国家公務員法改正案と一 体で審議する手法をとったのは、検察官の定年問題を目立たせな い思惑があるからに違いない。検察庁法改正案の作成過程を振り返ると、不自然な点が浮かぶ。 昨年秋の段階では、役職の定年延長の部分はなかったという。と ころが、臨時国会の提出が見送られると、法務省は延長できるよ うに見直した。それは、検察官には定年延長を適用しないとしてきた従来の法 律の解釈を、1月に政権の独断で変更し、定年となる東京高検の 黒川弘務検事長の続投を閣議決定した人事と無縁ではあるまい。立法府の手続きを踏まずに事実上の法改正を実行、しかも文書に残さず、口頭で内閣法制局や人事院の決裁を得る、およそ「法 の支配」と呼べない行為だった。当の法相自身が国会でこれまで の解釈を問われても即答できず、しどろもどろになったのは、道 理の欠落を象徴している。首相官邸の信頼が厚いとされる黒川氏を次期検事総長に据え る布石とみられ、野党は政治介入と厳しく追及。日弁連も「法の 支配と権力分立を揺るがすと言わざるを得ない」と批判する声明 を発表した。今回の法改正も、野党は検事長人事を正当化するた めの「つじつま合わせ」と激しく反発する。検察は行政機構の一部だが、捜査から起訴までの強力な権限を 持ち、時に政権与党の政治とカネなどの疑惑にもメスを入れる。 だからこそ、高い独立性や中立性が欠かせず、それが国民の信頼 の源泉でもある。政権の恣意(しい)的な人事の余地は、可能な 限り排除すべきではないのか。実際の検事長人事に疑念が生じているにもかかわらず、検察庁 法を所管するはずの法相が答弁にも立たないというのは国会軽 視以外の何物でもない。与党は、国家公務員法改正案と合わせ、 答弁を武田良太行政改革担当相に一本化したと主張するものの、 検事長の続投を巡り、発言が二転三転した森法相を”隠す”意図 があるのは明白だろう。このまま「火事場泥棒」的なやり方で強行突破すれば、検察の 独立性は根底から揺らぐ。まず検事長人事を白紙に戻し、検察庁 法改正案の審議は切り離す。法相を答弁席に座らせ、検察の在り 方を含め、徹底的な論戦が必要だ。ツイッターでは「検察庁法改正案に抗議します」に同調する投 稿が数百万に達した。「法治国家」の存在意義が問われているこ とを忘れてはならない。  
●検察官定年延長/不要不急の法案でないか 5/13
2次補正予算などコロナ対応の課題がめじろ押しの状況で、そ れこそ不要不急の法案でないか。そんな疑念が拭えない。8日か ら実質的な審議が始まり、安倍晋三首相が今国会中での成立を掲 げている検察庁法改正案である。改正案は、検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ る。併せて63歳を迎えた検事長など幹部はポストを退く「役職 定年制」を導入する一方で、内閣が認めれば役職の延長も可能と いう規定を盛り込んだ。問題なのは、この延長規定である。内閣が検察幹部の役職定年 をコントロールできることで、政権の意向を検察捜査に反映させ ることができるのではないか−と指摘されている。そもそもこの法案は、提出前から指摘のような疑念を抱かれて も仕方のない不自然な経過をたどっている。発端は今年1月31日、黒川弘務・東京高検検事長の定年延長 を閣議決定したことだ。安倍政権に近いとされる黒川氏は2月7 日に定年を迎えるはずだったが、これで検事総長就任の道が開け た。政府はこの人事を、国家公務員法の延長規定を適用したと説明 していたが、1981年の政府答弁で、この規定は「検察官には 適用されない」としていたことが、2月10日に野党側の指摘で 判明。同13日に「閣議決定前に、適用されると法解釈を変更し ていた」と説明内容を変えたものの、「口頭で決裁した」と決裁 文書も示さず、後付けでの正当化が疑われた。検察庁法改正案についても昨年秋の作成段階では、法務省は役 職定年延長規定は必要ないとしていた。にもかかわらず今年3月 の国会提出では役職定年延長が盛り込まれていた。これも黒川氏 人事の後付けの正当化ではないか。問題視されていない国家公務 員法改正案と一本化して提出したことも、詳細な論議を避け早期 成立を狙う姑息[こそく]な手段に映る。検察官は、刑事訴追の強い権限を持ち一般公務員以上に政治的 中立性が求められる。それが検察に対する国民の信頼の源泉でも あろう。だからこそ過去の政府は、国家公務員法の規定は適用さ れないという解釈を続け、人事介入には一定の距離を取っていた のではないか。それを一挙に覆す安倍政権の姿勢はあまりにも強 引だ。検察庁法改正案を巡っては、批判のツイートが急速に広がるな ど多くの国民から不信の目が向けられ始めている。発端である黒 川氏の定年延長から説得力のある説明が全くできていない以上、 この人事は白紙に戻し、検察庁法改正案については国家公務員法 改正案とは切り離して、コロナ対応が一段落した後に徹底した論 議を行うべきだ。今国会ではほかにも、農家の自家増殖を制限する種苗法改正案 など、賛否が分かれ熟議が必要な法案が提出されている。これら も、コロナ対応にまぎれて拙速な審議がなされないか、注視して おかねばなるまい。 
●検察庁法改正に抗議/国民の声に耳傾け撤回を 5/13
会員制交流サイト(SNS)のツイッター上で、9〜10 日に かけ、「検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(検 索目印)を付けたツイートが相次ぎ、一時は380万件以上を記 録した。検察庁法の改正は国家公務員法改正案に含まれている。8日に 衆院内閣委で審議に入ったが、自民党は森雅子法相への質疑を拒 否した。法相抜きの審議はあり得ない。本来なら法務委で議論す べきだ。 抗議の広がりは、成立を急ぐ政府に対する国民の強い不信感の 表れだ。日頃、政治的な発言をしない人も声を上げているようだ。 「これだけは黙って見過ごせない」「民主主義とはかけ離れた法 案」「三権分立が壊される」「(コロナ禍のさなかの)火事場泥棒」 といった意見が相次いだ。 女優の小泉今日子さんや作家のメンタリストDaiGoさん、 歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんら著名人による投稿もあった。 政府は、こうした国民世論を重く受け止め、検察官人事への恣 意(しい)的な介入を可能にする法改正については速やかに撤回 すべきだ。 改正案は、検事総長以外の検察官の定年を 63 歳とする現行の 規定を 65 歳に引き上げる一方、63 歳に達した幹部の「役職定年 制」導入を定める。 ただし「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由と して内閣が定める事由があると認めるとき」は 63 歳になった後 も最高検の次長検事、高検検事長の役職を延長できる。地検トッ プの検事正も「法務大臣が定める準則で定める事由がある」場合 に同様の措置が可能になる。 「内閣が定める事由」「法務大臣が定める準則」がどういう内 容になるかは決まっておらず、法の運用を決定付ける肝心な部分 が不明なままだ。それ自体、適切さを欠く。仮に厳格な要件が付されたとしても、解釈し運用するのは内閣 や法相だ。事実上、いくらでも人事に介入できる余地はあろう。 今般、検察庁法に反し、黒川弘務東京高検検事長の勤務を延長し たのはその疑念を裏付けるものだ。 法解釈を変更し国家公務員法を適用したと政府は強弁したが、 同法も無制限に定年延長を認めるわけではない。 人事院規則は、後任を容易に得られないとき、勤務環境から欠 員補充が容易でないとき、担当者の交代で業務の継続的遂行に重 大な障害を生ずるとき―と条件を挙げる。高検検事長にはどれも 当てはまらないのは明らかだろう。 検察庁法は、原則として検察官がその意思に反して官を失うこ とはないと定める。外部の圧力から守り、公正な職務の執行を担 保するためだ。内閣等の意向で人事に介入し厚遇も冷遇もできる 仕組みは検察の独立を脅かす。 今や法曹関係者のみならず、幅広い層から危機感を訴える声が 上がっている。政府は国民の声に耳を傾けるべきだ。改悪の強行 は許されない。  
 
 
 5/14
●要求に折れ…森法相が答弁へ 迷走の蒸し返しを自民警戒 5/14
検察庁法改正案をめぐり、与党は14日、同法を担当する森雅子法相を衆院内閣委員会に出席、答弁させることに応じた。ずっと拒んできた政府・与党だが、ツイッター上の抗議に後押しされた野党の要求に折れた。ただ、検事長の定年延長問題で迷走を続けた森氏の答弁は、納得を得る決め手にはなりそうもない。
同法改正案は他の法案と一本化され、提出。中核となる国家公務員法改正案を所管する内閣委で審議されており、法務委員会と違って慣例上、森氏に出席義務がなかった。森氏の出席を認めた後、自民党の森山裕国会対策委員長は記者団に「極めて例外的な取り扱い」と語った。
野党が森氏の出席を求めるのは、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長で一貫して答弁してきたから。数々の疑問を改めて浮き彫りにする狙いがある。
1月末に閣議決定された黒川氏の定年延長について、安倍晋三首相が2月、延長を可能にするよう従来の法解釈の変更を行った、と表明。森氏への追及と答弁の迷走は加速した。
野党は定年延長の決定と解釈変更の経過が時系列でわかるような明確な資料や作成日時などを示す電子記録を求めたが、森氏は提出を拒否。変更のための法務省内の決裁は口頭で行ったと説明し、「口頭決裁もあれば文書決裁もある。どちらも正式だ」と強弁した。3月6日の参院予算委では黒川氏の定年延長について「個別の人事」など「個別」の言葉を使って答弁拒否を連発。野党の反発を招いた。
3月9日の参院予算委員会では ・・・ 
 
 
 5/15
●内閣委員会答弁前に 森法相「真摯に説明したい」 5/15
森まさこ法務大臣は15日午後、検察庁法の改正案について衆議院の内閣委員会で答弁するのを前に、改めて「真摯に説明したい」と語りました。
「本日の内閣委員会においても真摯に説明をしてまいりたいと考えています」(森まさこ 法相)
国会では15日午後、森法務大臣出席のもと、検察官の定年延長を可能にする法案の審議が行われます。これに先だって行われた閣議後の記者会見で、記者から「特に委員会で言いたいことがあるか」と問われると・・・
「そうですね、あのー・・・国会での・・・あのー・・・答弁のあり方については、国会の運営に関わることですので、国会でお決めになることというふうに、これまでお答えしてきましたが、国会からお招きがございましたので、お招きがあった場合には出席しますとこれまで答えておりましたとおり出席をさせていただきます」(森まさこ 法相)
森大臣はこう述べたうえで、「検察庁法の改正案が三権分立に反せず適切だと国民に伝わるよう答弁にのぞみたい」と話しました。 
●検察定年、与党が午後採決の構え 森法相答弁へ、衆院内閣委 5/15
衆院内閣委員会は15日午後、検察官の定年延長を含む国家公務員法改正案の質疑を実施した。森雅子法相も出席。内閣や法相が認めた場合に検事総長ら幹部がポストに残る特例を巡り、森氏が要件を明示できるかどうかが焦点だ。審議後、与党は採決を求める方針。立憲民主党など野党側は国対委員長会談を国会内で開き、森氏の答弁に納得できなければ採決を認めないと確認した。与党が強行するなら松本文明内閣委員長(自民党)の解任決議案提出を含め徹底抗戦すると申し合わせた。 
●閣僚は苦しい答弁、元検察トップも批判 「検察庁法改正案」 5/15
抗議の声が相次いでいる検察庁法改正案が、5月15日の衆院内閣委員会で審議された。野党が求めていた、森雅子法相が出席しての開会となった。
法案の内容は、時の権力者ですら捜査・起訴できる権限を持ち、政治からの独立性・中立性が求められる検察官の身分に関するものだ。
国民民主党の後藤祐一議員は、定年延長を想定する具体的な基準について質問。森法相は「人事院で定められる規則に準じて定める」と繰り返し回答し、苦しい答弁に終始。定年延長の具体的な例を示せなかった。
立憲民主党や共産党など野党は、政府の説明が不十分だとして強く反発。Twitter上でも著名人が「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグで法案への反対を表明している。
新型コロナウイルスへの対応が求められる中で浮上したこの問題。検察庁法改正案とは、どのような内容なのか。なぜ、強い反発を招いているのか。今日までの議論を総ざらいしてみよう。
検察庁法改正案、焦点は「検察幹部の定年3年延長」
政府は国家公務員の定年を60歳から段階的に65歳まで引き上げるため、国家公務員法の改正案のほか一連の関連法案を「国家公務員法等の一部を改正する法律案」として国会に一括提出している。
検察庁法改正案もその一つだ。
野党は国家公務員の定年延長そのものについては理解を示している。だが、検察庁法案の改正には強く反対している。
それはなぜか。検察庁法改正案では、内閣や法務大臣が認めれば、検察幹部の定年を最長3年間延長できるとする特例措置が含まれているからだ。
現行の検察庁法では、検事総長は65歳、それ以外は63歳と定めている。
「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。(検察庁法第二十二条)」
たとえ検事総長を補佐する最高検の次長検事、高検の検事長、各地検トップの検事正などの検察幹部であっても、検事総長以外は63歳が定年だ。
逆の視点で見れば、検察官は63歳までは身分が保証されている。年齢以外の理由で、検察官の政治的な独立性・中立性が侵害されないように図るためだ。
そのため改正案が成立した場合、時の政権が恣意的に検察幹部の定年を引き伸ばすことが可能になるとして、野党は反対している。
安倍内閣の「解釈変更」が全てのはじまりだった
検察庁法改正案への反発を招いたきっかけ。それは、今年1月31日、定年間際だった東京高検の黒川弘務検事長(63)の任期を半年間延長すると安倍内閣が閣議決定したことだった。
これまでの政府は、国家公務員の定年延長の範囲に検察官は含まれないと解釈していた。
国家公務員の定年延長は1981年に規定されたが、当時の総理府人事局が作成した国会での想定問答では(検察官の)「勤務(定年)の延長」について「適用は除外される」と記していた。同年、人事院も「検察官は適用外」と国会で答弁している。
野党側は、安倍政権が黒川氏を検察トップの検事総長に就任させるために定年を延長したのではないかと批判している。
そもそも検察官の定年延長規定は、昨年10月ごろに法務省が作成した当初の原案には含まれていなかった。
こうした背景もあり、検察庁法改正案への反対の声は日ごと増していった。
東京弁護士会、会長声明で法案の問題点を指摘
検察官は「公益の代表者」(検察庁法第4条)とされ、刑事事件を捜査・起訴できる公訴権を持つ唯一の機関だ。
仮に定年延長の法改正が実現した場合、時の内閣の意向次第で黒川検事長の定年延長のような人事が可能になってしまうのではないか。東京弁護士会は5月11日の会長声明で、
「政界を含む権力犯罪に切り込む強い権限を持ち、司法権の適切な行使を補完するために検察官の独立性・公平性を担保するという検察庁法の趣旨を根底から揺るがすことになり、極めて不当である」 「内閣が、恣意的な法解釈や新たな立法によって検察の人事に干渉することを許しては、検察官の政権からの独立を侵し、その職責を果たせなくなるおそれがあり、政治からの独立性と中立性の確保が著しく損なわれる危険がある」
と批判している。
Twitter上では、アーティストのきゃりーぱみゅぱみゅさん(後にツイートを削除)や、「いきものがかり」の水野良樹さん、漫画家の羽海野チカさん、しりあがり寿さん、声優の緒方恵美さんやイラストレーターの岸田メルさんが「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを投稿した。
武田行革担当相は答弁で迷走、野党はさらに反発
13日には、衆院内閣委員会で検察庁法改正案が審議されたが、与党は検察を所管する森法相を出席させなかった。
与党側は「検察庁法の改正案は、あくまで国家公務員法の改正に関連する法案。検察を所管する法務委員会ではなく内閣委員会で審議する」という姿勢を堅持。森法相の出席を拒否した。
代わりに答弁に立ったのは、公務員制度改革を担当する武田良太行政改革担当相だった。
ただ、武田行革担当相は「検察庁法に関する質問なので本来は法務省から応えること」など、あいまいで苦しい答弁に終始。検察官の定年延長基準について答えられず、野党はこのままでは審議に応じられないとし、途中退席した。
与党側は法案の施行は2022年度であり黒川氏の人事と関係ないと反論しているが、自民党内からも法改正に反対する声が出ている。
ロッキード事件を捜査した元検察トップも反対
15日には、松尾邦弘元検事総長(77)ら「ロッキード事件」の捜査に関わった検察OBらが法案に反対する意見書を法務省に提出した。
「安倍総理大臣は『検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした』旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる『朕は国家である』との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる」 「検察が萎縮して人事権まで政権側に握られ、起訴・不起訴の決定など公訴権の行使にまで掣肘(せいちゅう)を受けるようになったら検察は国民の信託に応えられない」
検察の元トップが、公の場で法案に反対を表明することは極めて異例だ。
意見書を提出した検察OBが捜査したロッキード事件とは、1976年に発覚した戦後最大の政界疑獄のこと。米ロッキード社が航空機の売り込みをめぐり、日本の政界に多額の賄賂を送った事件だ。
米上院の外交委員会でロッキード社の極秘資料が誤って配布されたことが発覚の発端と言われている。
疑惑の中心は、時の権力者だった自民党の田中角栄元首相が5億円の賄賂を受け取ったというものだ。これ以外にも橋本登美三郎・元運輸省、右翼団体の児玉誉士夫なども捜査対象になった。
同年7月、検察は田中元首相ら複数の政治家を逮捕・起訴。検察が政界汚職にメスを入れ、公訴権を通じて権力の不正をチェックした代表的な例となった。
検察庁法改正案への危機感、その根っこにあるもの
ロッキード事件に代表されるように、公訴権という強大な権限を持つ検察官には、時の政権からの独立性や中立性が常に求められてきた。そのために手厚く身分が保障されているが、定年になれば退官する。これが検察の独立性に寄与してきた。
一方で検察庁法には、法務大臣が個別の事件について検事総長のみに指示できる「指揮権」が明記されている。
「定年制」が検察の独立性を保つためのルールであれば、検事総長への「指揮権」は政治が検察の暴走を抑えるためのルールである。
もし検察庁法改正案が実現すれば、政権と検察の権力バランスを保つ装置の片方が崩れるおそれがある。
時の政権が定年延長を用いて、恣意的に検事の人事に介入できるようになるのではないか。こうした危機感が、反対意見の根っこにはある。
安倍晋三首相は14日の記者会見で「今回の改正で三権分立が侵害されることはもちろんないし、恣意的な人事が行われることはないことは断言したい」と述べた。森法相も15日の内閣委員会で「(検事総長には)時の政権が望む人物を選んではならない」と答弁した。
しかし、政治権力が検察に介入できる余地が新たに生まれる以上、改正案への反対意見が簡単に止むことはないだろう。
検察官の証である記章(バッジ)は「秋霜烈日」のバッジと呼ばれる。秋の厳しい霜と夏の烈しい日差しのように、刑罰や志操を厳正に追求する検察官の理想に例えられてきた。
「ミスター検察」と呼ばれた元検事総長の伊藤栄樹氏は、こんな言葉を残している。
「不幸にして法務大臣の指揮に関し、法務大臣と検事総長の意見がくい違ったというような場合に、検察権を代表する者としての検事総長は、指揮が違法でないかぎりこれに盲従するという態度は許されない」 
●検察官定年延長の採決先送り…森法相、適用基準明確化「全ては困難」  5/15
衆院内閣委員会は15日、検察官の定年を延長する検察庁法改正案の質疑を行った。立憲民主党など野党4党は説明が不十分だとして、改正案を担当する武田行政改革相の不信任決議案を衆院に提出した。与党が目指した同日の委員会採決は来週以降に先送りされた。
この日の質疑には武田氏に加え、野党の要求に応じて森法相が出席した。内閣や法相の判断で検察幹部の定年を最大3年延長できる特例規定について、野党は適用基準の明確化を求めた。これに対し、森氏は新たな人事院規則が策定されていないと指摘し、「具体的に全て示すことは困難だ」と応じた。
野党は改正案について、国家公務員法に基づき定年延長した黒川弘務・東京高検検事長(63)の人事を「後付けで正当化するものだ」と追及している。森氏は「関係がない」と強調した。
質疑後、与党は委員会採決を主張し、野党はこれを阻止するため武田氏の不信任案を提出した。与党は19日の衆院本会議で不信任案を否決し、改正案の来週中の衆院通過を目指す方針だ。野党は徹底抗戦する構えで、松本文明衆院内閣委員長の解任決議案の提出も視野に入れている。 
 
 
 5/16
●森法相「真摯」「丁寧」連発、回りくどい答弁に怒号 5/16
著名人が次々と抗議のツイートを投稿し、松尾邦弘元検事総長ら検察OBは反対の意見書を提出するなど、異例の展開をみせる検察庁法改正案。森雅子法相が15日、ついに衆院内閣委員会で答弁に立った。政府与党は、混乱を恐れ“失言の美魔女”が答弁する必要のない内閣委を審議の場に設定したが、世論の反発が高まり、法案責任者として森氏を表に出さざるを得なくなった。しかし森氏の答弁は不十分で、この日の採決は見送りに。与党が目指した採決の日程はどんどんずれている。大誤算だ。

白のスーツに白のマスク。森氏は、質問に立った国民民主党の後藤祐一氏に「森大臣、ようやくお越しいただけました。お待ち申し上げておりました」と迎えられた。与党の「森隠し」作戦が失敗し、答弁の最前線に。しかし、1時間後の委員会は「答えになっていない!」「これを許したら、国会の意味がないよ」と、森氏に怒号が飛び交う修羅場になっていた。
冒頭、14人の検察OBが法務省提出法案に反対の意見書を出した感想を問われたが「さまざまなご意見があることは承知している。引き続き真摯(しんし)に説明してまいりたい」。その後も「真摯に」「丁寧に」を連発したが、首相官邸の恣意(しい)的な判断が入り、検察の中立性を損なうと最も懸念される定年延長の要件については「新たな人事院規則ができましたら、それに準じて定めていきたい」と、10回以上も繰り返した。
「人事院規則ができるまで、委員会で具体的なイメージは出せないのか」という「イエスかノー」の質問にも「人事院になるべく早く作っていただけるよう要請した上で、準じる形で作ってまいりたい」と、回りくどい答弁。こわれたレコードのようだった。
森氏は12日の会見で「法改正と黒川検事長の定年延長は無関係」と説明したが、改正案は、法解釈を変更して強行した黒川氏の定年延長を事後的に正当化するための「後付け」と疑われている。「63歳以降も検事長が居座らなければいけないケースは、黒川さん以外あったのか」と尋ねられた森氏は、「ございませんでした」。野党、傍聴者からは「関係あるじゃないか」と、怒りの声が飛んだ。
与党側は審議再開と採決への切り札で森氏の出席を受け入れ、質疑後の採決を目指したが、そんな環境は吹き飛んだ。野党は与党の採決提案直後に、公務員制度を担当する武田良太行政改革担当相の不信任決議案を提出。改正案採決は20日以降にずれ込んだ。野党は採決阻止へあらゆる手段を想定。安倍政権には思わぬ誤算が続いている。 
●検察官の定年延長問題 森法相答弁に著名人が辛らつツイート 5/16
衆院内閣委員会は15日、検察官の定年延長を含む国家公務員法改正案の質疑を実施した。内閣や法相が認めた場合に検事総長ら幹部がポストに残る特例の要件を明示できるかどうかが焦点だったが、野党の要請を受けて出席した森雅子法相から具体的な回答はなし。
検察庁法改正案を巡り、弁護士や野党の国会議員、著名人らが採決強行に反対する投稿をツイッターに相次いで書き込んだ。内閣委で森法相が答弁に立つと、リアルタイムで「一言一句ぜんぶメモ読んでる」「質問に答えていない」などと批判する投稿も。この日の採決は見送られたが、改正案に反対する声はインターネット上で拡大。俳優の浅野忠信は「国会中継見てます。テレビで見られたらもっと見やすいのに」と注文。漫画家の羽海野チカさんは「“話し合いをしなくても何でも決められる”という風になって行きそうなのがとても心配」とつぶやいた。  
●安倍首相、黒川高検検事長との関係を否定 5/16
「2人で会ったことはない、個人的な話をしたこともない」
衆院内閣委員会は15日、検察官の定年延長を含む国家公務員法改正案の質疑を実施した。内閣や法相が認めた場合に検事総長ら幹部がポストに残る特例の要件を明示できるかどうかが焦点だったが、野党の要請を受けて出席した森雅子法相から具体的な回答はなし。
こうした中、安倍晋三首相は15日夜、ジャーナリストの桜井よしこ氏のインターネット番組で、黒川弘務東京高検検事長の定年延長を閣議決定したのは、黒川氏が安倍政権に近いからだとの見方を否定した。「私自身、黒川氏と2人で会ったことはないし、個人的な話をしたことも全くない。大変驚いている」と語った。
法務省や検察庁の人事案を、官邸が介入して変更させる可能性については「あり得ない」と明言した。同時に「イメージをつくり上げられている。全く事実ではない」と不快感を示した。 
●“官邸の守護神”黒川弘務・東京高検検事長 5/16
官邸による検察人事への介入
「黒川氏は68歳(2025年)まで検事総長として君臨できる」法務省が公式見解 (5/12)
定年延長とか法改正とか、話がややこしいので、官邸がどのような思惑で検察人事に横やりをいれているのかわかりやすく解説したウェブ記事を紹介。
「最大の論点は、「国家公務員法によって検察官の定年を延長できる」という法解釈の正当性だ。検察官の定年は検察庁法で定められており、人事院は1981年4月の衆院内閣委員会で「検察官には国家公務員法の定年規定は適用されない」と答弁していた。この通りだと、今回の定年延長は検察庁法に違反して行われた疑いが出てくるのだ。… 適用範囲の広い一般法である国家公務員法に対し、検察庁法は、特定の事項を定める「特別法」の関係にある。「特別法は一般法より優先される」というのが普通の法律解釈だ。」
「東京高検検事長の黒川弘務は2月8日の63歳の誕生日をもって検察官の定年を迎える。新たな検事長の交代に備え、年の初めにはその内示があるはずだった。松の内が明ける1月7日の初閣議前になっても、その内示がない。動きがまったくなかったのである。そうして1月31日を迎えた。検察関係者たちは、当日の閣議決定に仰天する。それが黒川の半年間の勤務延長だった。東京高検検事長は検事総長の待機ポストと位置付けられている。退官するはずだった黒川は定年延長により、8月7日まで東京高検検事長として勤務する。この間の7月、検事総長の稲田伸夫は任期の2年を迎え、慣例通りなら黒川検事総長が誕生する。それが「政権の守護神」の異名をとる黒川のために首相官邸が描いた人事のシナリオではないか――。すぐさま野党が、検察庁法で守られてきた司法の独立をないがしろにした政治介入だ、と国会で追及の火の手を上げた。」
「定年云々を上記3氏でおさらいしておきます。稲田検事総長(定年65歳)……2021年8月14日定年 / 黒川氏……2020年2月8日定年→半年延長され8月8日定年  / 林氏……2020年7月30日定年 / 【慣例1】検事総長の任期は2年である / 【慣例2】検事総長は東京高検検事長が昇格する   まず【1】により稲田氏(2018年7月25日総長就任)は今年7月末ぐらいに退任します。延長がなければ黒川氏は検事長を最後に退官しており、後継の東京高検検事長に林氏が就いて【2】を満たした上で誕生日の7月30日までに総長へ就任というシナリオでした。ところが黒川氏の定年延長で林氏は【2】を満たせず、稲田氏が【1】通り退官したら黒川氏が次期総長になると変更されたのです。ここで検察幹部やOBらが「検察権の政治介入だ」「独立性を揺るがす」果ては「検察は死んだ」とまで批判の嵐。」
「状況が一変したのは、2019年11月中旬。辻次官が2020年1月上旬発令に向けて、黒川検事長退官の人事案に対する官邸の感触を探ったところ、官邸側は、法務省側の意に反して黒川氏の検事総長昇格を求めていることが分かった。黒川氏を検事総長にするには、稲田氏が退官するしかない。その後、辻次官は何度か官邸の意向を探り、官邸側の「黒川総長」希望が固いことを確認。」
2020年5月15日(金)内閣委員会
2020年5月15日(金)に開催された内閣委員会では、森法相は機械的な答弁を繰り返すばかりで、真摯な説明はなされませんでした。しかし、後藤議員の質問に答えるうちに、結果的に、森法相が黒川氏ありきの法律改正であることを認める展開になりました。
「NEW23 ではソーシャルディスタンスをキープしたサイレンデモ 0515国会個人包囲 の様子を交えながら、現在の状況を詳しく報道。引き続き 週明けの強行採決に反対します の声をあげていきましょ。」
TBS NEWS23ダイジェスト 「5月15日 【検察庁法の改正案 “採決先送り”に】検察官 の定年延長 を可能にする 検察庁法改正案。元検察トップが異例の意見書を提出し、国会前で サイレントデモ が行われる中、ようやく国会審議に臨んだ森法相。「真摯な説明」は尽くされたのでしょうか。」
「森法相、黒川定年延長と法改正は関係ないと会見したが、法律改正理由の「複雑困難な事件捜査の対応」は、これまで「見当たりませんでした」と昨日答弁。やはり法案改正は、黒川定年延長と一体のもの。」
強行採決が行われるのではないかと危惧された、2020年5月15日(金)の内閣委員会ですが、森法相は真摯に説明すると最初に言っておきながら、型通りの発言を機械的に繰り返すのみで、誰も納得しない内容でした。その後、武田大臣に対する不信任案が野党から提出されたため、休憩後ただちに散会となり、強行採決はとりあえず回避された状況です。
この日行われた内閣委員会の質疑応答の中では、森法相が黒川氏と法改正との関連を認める発言をしたことが最大のニュースなのではないかと思いました。
検察官の定年を政府の判断で延長できるようにする検察庁法改正案を巡り、森雅子法相は十五日、衆院内閣委員会で初めて答弁に立った。政府が定年延長を認める基準について「現時点で具体的に全て示すのは困難だ」と明示しなかった。
〇衆院内閣委 論戦のポイント 森法相「黒川氏以外具体例ない」
〇法解釈では無理だった!? 黒川氏人事で検察庁法改正案一変 批判浴び「事後正当化」
〇検察庁法改正案めぐり与党側“採決を” 野党側“阻止”  与党側は来週19日の衆議院本会議で武田大臣に対する不信任決議案を否決したうえで、翌20日の委員会で改正案を採決したい考えです。
〇検察庁法案、採決先送り 野党、担当相不信任案提出 高検検事長らの定年延長を特例的に可能とする検察庁法改正案などの関連法案は15日、法案を担当する武田良太・行政改革担当相の不信任決議案を立憲民主党などの野党が提出したため、衆院内閣委員会での採決が来週以降に持ち越された。
〇検察官定年延長の採決先送り…森法相、適用基準明確化「全ては困難」 (2020/05/15 20:09 読売新聞オンライン)内閣や法相の判断で検察幹部の定年を最大3年延長できる特例規定について、野党は適用基準の明確化を求めた。これに対し、森氏は新たな人事院規則が策定されていないと指摘し、「具体的に全て示すことは困難だ」と応じた。野党は改正案について、国家公務員法に基づき定年延長した黒川弘務・東京高検検事長(63)の人事を「後付けで正当化するものだ」と追及している。森氏は「関係がない」と強調した。
〇森法相ようやく登場 武田大臣と同じ答弁に騒然(有料記事 2020年5月15日 19時11分 朝日新聞DIGITAL)野党4党が武田良太・国家公務員制度担当相の不信任決議案を衆院に提出した。これを受け、同委理事会中だった松本文明委員長(自民)が委員室に戻り、不信任案提出を報告。「次回は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて解散いたします」と発言した。内閣や閣僚の不信任決議案は法案よりも優先して審議される。きょうの衆院本会議はすでに散会しているため、不信任案の採決は来週の本会議になる。不信任案の採決が行われるまで、委員会の法案審議が止まるため、検察庁法改正案のきょうの採決はなくなった。
〇野党4党、行革相不信任案提出 検察庁法改正案に反発(2020/5/15 19:00 日本経済新聞)衆院内閣委には森雅子法相が出席して検察庁法改正案を審議した。内閣委に法相が出席するのは異例で、野党の求めに与党が応じた。森氏は内閣や法相が認めた場合に検事総長ら幹部がポストに残る特例要件について「具体的に全て示すことは困難だ」と述べた。新たな人事院規則が策定されていないことを理由に挙げた。
〇検察定年延長、採決先送り 野党が武田担当相不信任案 森法相、幹部留任基準示せず。
〇今日の新聞、一斉に。「やはり撤回しかない」(朝日・社説)「疑念は何も解消されない」(毎日・社説)「法が終わり、暴政が…」(東京・社説)「拙速な改正は禍根を残す」(日経・社説)「政治とのバランスに危惧」(読売・解説記事) 圧倒的な流れになっています。
国民の怒りの声
PAGEはYOUTUBEで生配信しましたが、30万人以上が視聴し、ライブ時のコメントの書き込みが非常に多くて書き込まれた文が滝のように流れ落ちていきほとんど読めない状態でした。また国会前にデモにいた人たちもいたようで法案改正に反対する声が後ろで響いていました。
「検察庁法改正案の強行採決に反対します。衆院内閣委員会。後藤議員「みなさん、ちょっと静かにしてください。この声、聞こえますか」。国会議場に響く、強行採決反対の声。「これが国民の声なんですよ。ネットの上だけじゃないんですよ」。きょう国会前に行ってくださってるみなさんありがとう。」
1.検察庁法改正に抗議するツイッターの動きをどう見るかは大事な問題だ。鳥海不二夫・東大准教授による分析では、5月8〜11日の約473万件の投稿のうち自分で投稿したアカウント数は約32万人、投稿数は約56万件。リツイートは約417万件になるが、重複を除いたアカウント数は約59万人だったという。
2.政治に対して声を上げ始めた芸能人──「検察庁法改正案に抗議します 」の背景。「検察庁法改正案に抗議します」──Twitterをこのハッシュタグが席巻している。その数はすでに600万ツイートを超えると見られるが、注目されるのは多くの芸能人たちも声をあげたことだ。その一部を列挙すると、小泉今日子、浅野忠信、ラサール石井、大久保佳代子(オアシズ)、井浦新、城田優、Chara、秋元才加、西郷輝彦、大谷ノブ彦(ダイノジ)、緒方恵美、高田延彦、水野良樹(いきものがかり)、日高光啓(AAA)、末吉秀太(AAA)などである(敬称略)。なかでも、きゃりーぱみゅぱみゅのツイート(現在は削除)に対し、保守系の評論家が「歌手やってて、知らないかも知れないけど」と前置きしたうえで反論したことは強く注目された。
3.芸能人の政治発言、今もタブー? ファン意見割れ削除も 。「検察庁法改正案に抗議します」。10日に急速に広がった投稿は、11日午後8時過ぎで680万件を超えた。
4.検察庁法改正に抗議、ツイッターで470万超 著名人も 有料記事 検察庁法改正案。「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」。俳優の井浦新さんが10日朝に投稿すると、昼までに2万件以上リツイートされた。歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさん、音楽グループ「いきものがかり」の水野良樹さん、俳優の浅野忠信さん、秋元才加さん、芸人の大久保佳代子さん、漫画家の羽海野チカさんらも同様に、ハッシュタグ付きで抗議の意思を示した。
検事の定年延長の基準に関して森法相は何も説明できず
時の政権が検事長の定年を恣意的に延長することで支配が可能になってしまいます。恣意的にはやらないというのであれば、どんな基準で延長するのかを説明せよということが今回の論点になったのですが、森法相は人事院が新たな基準をつくるのでそれに準じるという答えを何回も機械的に繰り返しただけでした。必要性を説明できないのに、法改正が必要というのは順序がひっくり返っていて、意味不明です。
後藤議員は、3つの基準を逆に提案しそれらが受け入れられるのか?という質問をすることにより、森法相から言質を取ろうとしていました。
「今日の後藤議員と森法相の議論は久しぶりに満足の行くやりとりだった。内閣の裁量権の判断基準を改めて3つの論点から議論し、最終的には森法相が答弁に困るところに至った。少なくともこういう議論を毎日やって欲しい。誤魔化しも嘘も求めてない。
「後藤議員の質疑は良かった。「反対」でなく導入した場合の3つの具体的な運用基準を提案。過去事件基準、引き継ぎ不可能基準、黒川基準。この基準に従うと恣意的な人事介入により忖度や萎縮を引き出したい政権の目論見は骨抜きになるという巧妙な展開。」
森法相が黒川氏と法改正の関係性を認める
後藤議員による一連の論理的な質問構成により、論理的な帰結として、森法相は黒川さんと今回の法改正は無関係と言いつつ、黒川さんのための法改正であるという矛盾を認めた形になったと思います。
「検察庁法改正 森法相「黒川人事と関係ない。複雑捜査に対応するのが理由だ」→後藤「延長するような複雑事件はあった?」 森「そんな事件は見あたりませんでした」後藤「黒川さん以外にないということか?」 森「そのとおり」。」
「昨年十月までは、検事長が六十三歳以降も居座れる規定を作らなくても『公務の運営に著しい支障が生じる』事例はなかったか」国民民主党の後藤祐一氏は十五日の衆院内閣委員会で、国家公務員法が定める定年延長の要件を挙げ、森雅子法相に見解を求めた。法務省が昨年十月にまとめた検察庁法改正原案には、定年延長を認める特例規定は含まれていなかったからだ。森氏は「見当たらなかった」と説明した。後藤氏は続けて「昨年十月以降は黒川さんの件だけか」と確認した。森氏は「その通り」と認めた。後藤氏は「黒川氏の人事と法案は関係がある。唯一の立法事実だ」と断じた。森氏は十二日の記者会見では、黒川氏の人事と法案の関係を否定していた。」
「森まさこ法務大臣、検察庁法改正案の立法事実が安倍首相を含めた自民党議員の犯罪を悉く不起訴にして定年を迎えた官邸の番人・黒川弘務検事長の検事総長昇格である事を半ば認める。」
「後藤議員「黒川氏が特例が適用された唯一の例ということでよろしいか?」 森法相「そのとおりでございます」 黒川氏が唯一の立法事実だということです。」
「森法相、あいまい答弁どころか、明確でしたね。他の検事長はみんな業務を引き継いで定年を迎えるが、黒川氏のみ例外で、黒川氏にしかできない高度な業務があると。とにかく安倍政権は、黒川一押しだと。」
「news23を見て驚いた。15日に森法相が検察の定年延長案件は黒川検事長の案件以外にないと正直に答弁。12日の会見では黒川検事長と法案は無関係と嘘をついていた。新たな安倍政権の嘘つき事例に。これ極めて重要なことだがnhkニュースでは報道しなかったのか。」
強行採決は回避
「検察庁法を含む国家公務員法改正案の担当大臣である武田大臣の不信任決議案を提出しました。この不信任決議案の処理が先議事項になり、今日の委員会での採決は出来ないのが先例です。ただし、滅茶苦茶に強引な与党の議会運営ですので、委員会が散会になるまで気を緩めることはできません。」
東京高検検事長の定年延長についての元検察官有志による意見書
内閣委員会で後藤議員が話題にしていましたが、5月15日には検察官OBによる意見書も提出されました。法務大臣 森まさこ氏宛てで、名を連ねているのは、元仙台高検検事長・平田胤明(たねあき) 、元法務省官房長・堀田力、元東京高検検事長・村山弘義、 元大阪高検検事長・杉原弘泰、 元最高検検事・土屋守、 同・清水勇男、 同・久保裕、 同・五十嵐紀男、 元検事総長・松尾邦弘、 元最高検公判部長・本江威憙(ほんごうたけよし)、 元最高検検事・町田幸雄 、同・池田茂穂、 同・加藤康栄 、同・吉田博視の諸氏。
森法相の人となりについて
同情する必要はないのでしょうが、見ていて可哀そうにすら感じる答弁でした。理性が完全に崩壊していない限り、あの場はしのげないでしょう。
「今日聞いた神保哲生さんの話で興味深かったのは、森法相が国会質疑で迷走している理由。彼女には、現政権に求められる「明らかに論理の破綻した答弁を、表情を変えずに言い切る能力」がないのだという。ニューヨーク大学ロースクールで学んだ知性が邪魔をして、非論理的な答弁に本能的な抵抗が生じる。」 
 
 
 5/17
●難事件があるから「定年延長が必要」? 森法相の答弁迷走 5/17
高検検事長らの定年延長を特例的に可能とする検察庁法改正案を巡って激しい論戦が行われた15日の衆院内閣委員会。森雅子法相は「定年延長が必要な理由」を追及され、法務省が選ぶ「複雑困難事件10選」を挙げる一幕があった。捜査が難しい事件を具体的に挙げることで定年延長の特例規定への理解を得る狙いがあったとみられる。ところが森氏の答弁では、10件の事件を通じてなぜ定年延長が必要なのかを明確に示せず、野党側もあきれ顔。国会の議論はますます混迷し、論戦の先行きは「複雑困難」さを増している。
この日の審議で、立憲民主党などの統一会派の後藤祐一氏は、ここ数年の国際的組織犯罪とサイバー犯罪のうち「最も複雑困難化した」と思われる事案で「捜査・公判中に検事総長、次長検事、検事長、検事正が異動したケースがあると思う。その場合に業務の継続的遂行に重大な障害が生じたことはあるか」と質問した。検察幹部が交代しても捜査や裁判に影響がないことをあぶり出すのを狙った質問だった。
しかし、森氏は「『最も複雑困難化した』と思われる事案であるかどうかを明らかにすることは、捜査機関の具体的な活動内容を推知させるものであって、治安への影響の観点から難しい」と前置き。そのうえで突然、具体的な事件名を列挙した。
国際的組織犯罪として挙げたのは5件。
1フィリピンに拠点を置いた特殊詐欺事件(2020年起訴)
2韓国籍の被告人による韓国からの金塊3キロ密輸事件(18年起訴)
3北海道・松前小島に着岸した北朝鮮の船長による発電機などの盗難事件(17年起訴)
4韓国人の被告人が共犯者と共謀し、韓国から金塊30キロを輸入した事件(同)
5横浜市の韓国総領事館に排せつ物が投げ込まれた事件(16年起訴)
森氏はさらにサイバー犯罪として、IDを不正取得してネットショッピング用のポイントを盗む電子計算機使用詐欺事件(19年起訴)▽ウェブサイトに仮想通貨の獲得手段「マイニング」を設けた不正指令電磁的記録保管事件(18年起訴)▽仮想通貨・ビットコインの取引所「マウント・ゴックス」から巨額資金が消失した私電磁的記録不正作出・同供用事件(15年起訴)▽他人のIDを不正取得するため遠隔操作ウイルスをメールで送った不正指令電磁的記録供用事件(14年逮捕)▽ウイルスに感染したパソコンを遠隔操作した偽計業務妨害などの事件(13年以降、順次起訴)――の5件を挙げた。
後藤氏は具体的な事件名の公表を求めたわけではなかったため、「事件名を示せとまでは言わなかった」と戸惑いを見せつつ、「これらの事 ・・・  
●首相、定年延長「法務省が提案」 異例の検察人事、官邸介入を否定 5/17
首相官邸の介入が取り沙汰される黒川弘務・東京高検検事長の定年延長に関し、安倍晋三首相は、法務省側が提案した話であって、官邸側はこれを了承したにすぎないとの説明に乗り出す構えだ。検察官の定年に関する従来の法解釈を変更し行ったと説明している異例の人事は、あくまでも同省の意向に基づくと主張し、理解を求める。
黒川氏の定年延長を法務省が持ち出したとする説明は、首相が15日のインターネット番組で言及した。問題の発端となった黒川氏人事への政治介入を明確に否定することで、検察庁の独立性が揺らぎかねないと反発する世論の沈静化を図る狙いがあるとみられる。  
 
 
●“元凶”黒川検事長は林氏と共倒れか 検察内部で「第3の男」が浮上 5/18
「検察庁法改正案を巡るゴタゴタも含め、ここまでブラックな印象が定着してしまった以上、黒川氏の総長就任は無理ではないか」(法務省関係者)
検察官の定年引き上げを盛り込んだ検察庁法改正案を巡る国会の攻防が繰り広げられる中、黒川弘務・東京高検検事長が「予定通り」検事総長に就任できるのかという焦点が浮かんでいる。黒川氏が総長に就くか否かは、今回の法改正と直接は関係ないが、法改正のきっかけが黒川氏の定年延長にあったからだ。
一方で、検察組織が元々予定していた林真琴・名古屋高検検事長の総長就任も、今になって内閣が首を縦に振るとは思えない。既に検察内部からは「黒川、林の両氏ではない第三者を総長に」との声が上がっている。それは、誰なのか——。
そもそも内閣が描いていた「黒川検事総長」の筋書きとは
改めて経緯を整理しよう。現在の検事総長、稲田伸夫氏は司法修習33期。既に34期はおらず、次に35期の黒川氏と林氏の2人が続く。稲田氏は2018年夏に総長に就任しており、約2年間という慣例の在任期間を考えると、今夏、退任が見込まれている。現行制度では、検事総長を除く検察官の定年は63歳で、黒川氏は林氏より早い今年2月に定年を迎える予定だったが、内閣が「異例の閣議決定」で半年延長した。
表向きの理由は「検察庁の業務遂行の必要性」。具体的には、海外逃亡してしまった日産自動車前会長、カルロス・ゴーン氏の事件に関わる捜査などに、黒川氏の捜査指揮の手腕が不可欠という。閣議決定の結果、黒川氏の定年は今年8月まで延び、対する林氏は今年7月に63歳の誕生日が来る。唯一無二のライバルである林氏が定年退職した後、内閣が黒川検事総長を任命するという筋書きが描ける。
そもそも、この黒川氏の定年延長自体が、前代未聞として悪評を招いた。検事総長の任命権者は内閣だが、これまで検察組織の意向が受け入れられてきた。
仮にこのまま黒川氏が検事総長になっても……
今回、検察組織は林氏の就任をイメージしていたが、内閣が恣意的に黒川氏の総長就任のための線路を敷いた。そして、検察庁法改正案は「黒川氏問題」を後付けで正当化する意味合いを持つとされる。この改正案がこのまま成立したとしても、施行は2020年4月。黒川氏が改正法の恩恵を即座に被るわけではない。それでも、黒川氏は「元凶」として各メディアに取り上げられ、悪印象が定着してしまった。
仮にこのまま黒川氏が次期検事総長になっても、最初からダークなイメージがつきまとい、検察に対する国民の信頼はおぼつかなくなる。
黒川氏はとりわけ菅義偉官房長官と親密な関係があるとされるが、内閣もここに至っては黒川氏を総長に任命することへのハレーションに耐えきれなくなるのではないかと考えられる。かといって、今更、7月に定年を迎える前に林氏を総長に充てるという選択肢も想定しにくい。
そうした中、検察内部からは「いっそのこと、次の36期から次期総長を」との声が上がっている。36期といえば、まず名前が挙がるのが、最高検次長検事の堺徹氏だ。
東京地検特捜部長経験者で、特捜部長時代は大王製紙の特別背任事件やオリンパスの損失隠し事件を手がけている。
「仏の堺」vs.「甲斐の壁」
特捜部の副部長時代には、防衛装備品の調達を巡る贈収賄事件で防衛事務次官を逮捕している。特捜部長というと、「鬼の」という形容詞を付けたくなるが、堺氏はむしろ「仏」をイメージさせる温厚なタイプだ。
あるいは、高松高検検事長の甲斐行夫氏。法務省在籍期間が長く、同省刑事局刑事課長、同局総務課長とエリートコースを歩み、刑事裁判への被害者参加制度や少年法改正などを担った刑事法制のプロだ。
いわゆる「捜査現場派」ではなく「赤レンガ派」(法務省在籍期間が長い検事のこと)だが、最高検刑事部長、東京地検検事正という要職を経て、現職に至っている。明晰な頭脳をうかがわせる鋭い眼光で、法制のプロだけに特捜部事件でも決裁ラインの「甲斐の壁」をクリアすれば、無罪になることはないと評された。
他に、公安調査庁長官の中川清明氏。法務省秘書課長経験者で、最高検公安部長などを務めている。「鬼平犯科帳」を愛する人情の厚さで、慕う同僚や部下も多い。最近では、オウム真理教による地下鉄サリン事件から25年という契機に各メディアの取材に応じるなどしており、露出度も高い。
いずれも5月現在、60〜61歳で定年を延長しなければならないような問題も生じない。「第3の男」は果たして、この中から現れるのか。
「花の35期」が皮肉な結果に?
元々、法曹界で検察の35期は「花の35期」と言われてきた。それだけ、優秀な人材が35期に集中していたからだ。黒川、林の両氏以外に、いずれも既に検察官を退職しているが、東京地検特捜部長として陸山会事件を手がけた佐久間達哉氏(法務総合研究所長が最終ポスト)や、消費者庁長官を経て最高裁判事になった岡村和美氏がおり、メディアでの露出度が高い弁護士としては若狭勝氏(元衆院議員)や郷原信郎氏がいる。
もし、黒川氏も林氏も検事総長にならなければ、特に人材が豊富と言われた35期から、検察トップが輩出されないことになり、皮肉な結果となってしまう。
次期総長が見通せないという難局に、検察組織はどう向き合うのだろうか。法改正の是非のみならず、検事総長の後任問題も目が離せない。 
 
 


2020/4-