地獄 天国 ノーベル賞

北朝鮮  地獄めぐりの準備完了 
「恐怖」の風 世界中に送る

天国づくり 南北融和の蓑を被る
蓑は隙間だらけ 本心不明
経済制裁逃れる 大芝居

平和演出  もしかしてノーベル賞の夢
 


 

 
 
 
 
核実験 大陸間弾道弾 実験成功
国内の地獄めぐり 準備完了
韓国は人質 
 

 

 
 
経済制裁
圧力をかけ続けました
とは言え 北朝鮮 我慢比べに勝ちました
 

 

 
 
 
 
韓国五輪外交、北朝鮮を利するだけに終わった「大失策」の裏側 2/10
「南北友好対話ムード」を演出してのピョンチャン・オリンピックの“主役”は、金正恩の妹で、朝鮮労働党副部長の金与正(キム・ヨジョン)だった。その「微笑み外交」の陰で、韓国・文政権の「5人組」と米国との間ではぎくしゃくした関係が目立った格好になった。それには理由がある。
五輪外交の主役は金与正 ソフトなイメージ戦略実践
2月10日午前11時過ぎ、北朝鮮高位級代表団が韓国大統領府の一室に姿を現した。
金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正(キム・ヨジョン)党宣伝扇動部第1副部長は青色のファイルを大事に扱い、テーブルの上に置いた。
ファイルには「朝鮮民主主義人民共和国 国務委員長」と表書きされていた。国務委員長は金正恩の肩書の一つ。文在寅韓国大統領に渡す金正恩の親書だった。
金与正は、会談が始まる前から、親書を何度も持ち替え、恭しくテーブルの上に置いた。なぜ、そんな行動を取ったのか。
周到に考えられたイメージ戦略だった。
それは、恐らく「南北の指導者は親書をやりとりするほど親しい関係にある」「南北関係は改善している」というイメージを世間に植え付ける狙いがあったのだろう。
金与正は、3歳ほど離れた兄、金正恩のイメージ戦略を支えてきた人物として知られる。
朝鮮中央テレビはしばしば、金正恩が視察先で大勢の人と間近で接する様子を伝えているが、写真撮影では、金正恩の脇に立った人々は必ずといっていいほど、金正恩と腕を絡ませる。
これらは「愛民政治」と呼ばれる市民重視の政治を進めるとした金正恩のイメージを売り込む戦略で、金与正が深く関与しているとされる。
護衛に囲まれ、一般市民と触れ合う機会がほとんどなかった父、金正日総書記との差別化を図る狙いが込められている。
金与正は聡明な人物とされ、金正日総書記は高英姫夫人との間に生まれた3人の子どもの中で最も愛したという。周囲には「与正が男性だったら後継者にするのに」と漏らしたこともあるとされる。
今回の訪韓中でも、その才能と職責を自ら遺憾なく発揮して見せた。
カメラの前では常に視線を前方上に向け、文大統領と握手するときもこの姿勢を貫いた。韓国にこびへつらっている、という印象が残るのを避ける狙いだろう。
朝鮮中央テレビが伝えた映像のなかの金与正と同様、常に笑みを絶やさず、ソフトなイメージを韓国に振りまいた。
北は「最高のカード」出した 「南北蜜月」は北の本音ではない
だが金与正の役割はそれだけにとどまらない。
実際、筆者が接触する元労働党幹部たちは、会談の前から親書には注目していなかった。元幹部の1人は「親書なら金永南(キム・ヨンナム、最高人民会議常任委員長)に持たせればいい。与正が来る以上、口頭で何かを伝えるはずだ」と話していた。
北朝鮮は中国と同様、政府当局者らはすべて党が作る「応答要領」を暗記している。
金永南氏の場合も、2009年8月にクリントン米大統領と会談した際、「労働新聞の社説と全く同じ応答をした」(同行したストラウブ元米国務省朝鮮部長)ことで知られる。
自由にモノが言えるのは、「白頭山血統」と呼ばれる最高指導者の直系血族しかいないのだ。
文大統領との会談では、案の定、金与正は「(金正恩)国務委員長の意思を受けてやってきた」と切り出し、文大統領が早期に訪朝して南北首脳会談に応じるよう求める、金正恩の言葉を口頭で伝えた。
金与正の派遣は、警備上の問題から金正恩がソウルに来られない以上、北朝鮮にとって韓国に対して切れる「最高のカード」(康仁徳元統一相)だ。口頭で伝えることも想定のうちだった。
ここまで検証してみると、北朝鮮が金与正を派遣した狙いが浮かび上がる。
「最高のカード」で韓国に恩を売り、同時に南北関係の蜜月ぶりを日米など国際社会に印象づける思惑だが、ただ、南北関係を蜜月にしたいというのは北朝鮮の本音ではない。
それを裏づけるように、会談でも、文大統領の訪朝を求めたものの、南北首脳会談の具体的な日時に触れることはなかった。会談後の昼食会で「早く平壌でお目にかかれたらうれしい」と、話した程度だ。
また北朝鮮は韓国が提案してきた南北離散家族の再会事業や南北軍事当局者会談の開催などには依然、応じていない。
強硬な米国を意識し 韓国を「盾」にすべく接近
金与正は、南北首脳会談を実現させるための具体策にも触れなかった。
つまり韓国側が首脳会談の前提と考える核・ミサイル開発の放棄について何ら前向きな発言をすることはなかった。
核・ミサイル開発問題での譲歩なしに、国際社会の制裁緩和はありえず、ひいては南北首脳会談の開催も現実のものとはならない。それは北朝鮮もわかっているはずだ。
では北朝鮮は「南北関係の蜜月」を演出することで何を得たいのか。
米韓関係筋は「北朝鮮は、韓国を米国の攻撃に対するシールド(盾)にするつもりではないか」と語る。
米軍は最近、核兵器を搭載できるB52戦略爆撃機6機やステルス性能を持つB2戦略爆撃機3機をグアムに前進配備した。
ソウルの情報関係筋によれば、北朝鮮側は最近、米国や韓国の専門家らと頻繁に接触し、トランプ米政権が本気で攻撃する考えを持っているかどうか探っているという。
北朝鮮も従来はもっと強気だった。南北関係の改善で韓国を揺さぶり、国際社会の制裁網に穴を開け、あわよくば米韓合同軍事演習の中止や縮小などももくろんでいた。
しかし、昨秋ぐらいから、米国・ワシントンで北朝鮮に対する、「鼻血作戦」と呼ばれる限定先制攻撃案が取りざたされるようになり、一気に緊張が高まっている。
北朝鮮は当面の間は、米国の攻撃を避ける一時しのぎの策として韓国に近づいたと言えるだろう。
“知米派”いない文政権首脳「5人組」 パイプなく国際世論ともズレ
これに対し、韓国政府はどう対応して来たのか。
2月10日、青瓦台(韓国大統領府)で、金与正らとの会談に臨んだのは、文大統領のほか、趙明均統一相、徐薫国家情報院長、任鍾ル大統領秘書室長、鄭義溶国家安保室長の計5人だった。
1月1日、金正恩が「新年の辞」で、平昌冬季五輪への代表団派遣や「南北関係改善」を表明したとき、青瓦台に急遽集まって対応策を協議したのも、この5人だったとされる。
問題なのは、この5人の中に「知米派」と呼ばれる人物がいないことだ。
このことが、今回、五輪を舞台に展開された「南北関係改善」と「米韓連携」が明暗を分け、米韓がぎくしゃくする要因になった。
鄭国家安保室長は元々職業外交官だったが、国際機関や経済畑の勤務が長く、米韓同盟の専門家ではない。
国家安保室には韓国外交省から出向した外交官たちが大勢詰めているが、実はまったく機能していない。外交省との連携が取れていないからだ。
南北関係が活発になった1月以降、国家安保室メンバーは文在寅氏の外交ブレーンや政治家と連れだってワシントンを訪れているが、米政府当局者らと面会した彼らの決まり文句は「訪問の事実を外交省には伝えないでほしい」だ。
国家安保室は、外交省と連携して動いているのではなく、文大統領につながる政治的な思惑を持った勢力を支える「部下」として活動していることを、自ら告白した格好になっている。
文政権になって青瓦台(大統領府)が外交官を憎むのは、同じ進歩(革新)系政権だった盧武鉉政権当時に外相で起用した潘基文、宋旻淳の二人が、昨年5月の大統領選を巡って文在寅に不利な動きをしたからだとされる。
対立を裏づけるように韓国外交省では最近、対米・対日外交などを担ったエリート外交官たちが主要ポストから次々外されている。
また、韓国政府にはもう一つ、軍事チャンネルという米国と韓国を結ぶ貴重なラインがある。米韓同盟が正常に機能していれば、米韓関係をある程度補うことができる。
だが、上記の「5人組」のなかに、宋永武国防相は含まれていない。
宋国防相は、軍事チャンネルが機能にくくなっている状況に大いに焦り、このことが1月26日のハワイでの米韓国防相会談が実現する大きなきっかけの一つになった。
当然、文在寅政権「5人組」の視界には、米国を始めとする国際社会の動きは見えていない。それが、様々な「制裁破り」という形になって現れた。
「米朝対話」実現を焦って米韓に溝  結局、北を利しただけに終わる
五輪をめぐっても、米国とのぎくしゃくが続いた。
2月6日に北朝鮮と韓国が金剛山地区で開催予定だった南北合同文化行事では、韓国は軽油など計3万リットルを北に提供することを計画。6日に江原道墨湖港に入港した北朝鮮の貨客船「万景峰92号」は、燃料500トンの支援を要求した。
韓国は平昌冬季五輪に絡む行事であることを理由に、軽油やガソリンなど石油精製品の北朝鮮への年間輸出量を50万バレル(約7950万リットル/約71500トン)に制限した国連制裁決議の「例外扱い」としたい意向を示したが、米側はいずれも慎重な態度を崩さなかった。
しびれを切らした北朝鮮は1月末に突然、金剛山での行事の中止を通告。万景峰92号への燃料支援要請も撤回した。
韓国が、今回の金永南最高人民会議常任委員長らの訪韓を機に、無理やり「米朝対話」を実現させようと強引な手法に出たことも、米国の顰蹙を買った。
五輪開会式のあった9日夜に開かれた歓迎レセプション。
韓国はペンス米副大統領が文大統領の隣に座るよう提案していた。
同じテーブルには北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長もいた。米側は「北朝鮮に誤ったメッセージを送るのを避けたい」と判断し、レセプションへの不参加を決めた。ペンス氏は会場に来たが、関係者にあいさつだけして引き揚げた。
続く開会式でも米韓の摩擦は続いた。
韓国は当初、最前列に文在寅、ペンス、金永南らが座り、第2列に金与正らが座る案を提示。これに対し、米側は「北朝鮮と同じ列には座れない」と拒否し、金永南は第2列に座ることになった。
さらに、韓国は翌10日に、ペンスと金与正の会談をセットしようとした。
青瓦台は当初、「金与正は南北合同女子アイスホッケーチームの試合を見に行かず、別に行動する」と記者団に説明。その間に、米側に「金与正と会談してはどうか」と誘ったのだ。
だが米国側はこの誘いを一蹴したという。
「制裁破り」に絡むやりとりや9日の行事での混乱から、米国の韓国に対する不信感は頂点に達していたからだ。
だがそればかりか、北朝鮮側も米国との会談に関心を示さなかった。
情報関係筋によれば、北朝鮮も米側に嫌われていることは9日の行事から感じており、「自尊心を傷つけられた」(同筋)という。
「微笑み外交」の陰で展開された米韓北の綱引きと今後を、どう評価するか。
北朝鮮にとって、どうなろうとも損はない。
南北が接近した形にすれば、韓国を米国の攻撃に対する盾にできる。南北対話が進んでいる間であれば、米国もおいそれとは攻撃しにくい。
南北関係が改善できなくても(そもそも、北朝鮮は南北関係改善には関心がないが)、米韓同盟が弱体化すれば、これまた北朝鮮の安全保障を強化できるからだ。
1月の北による突然の「南北関係改善」の表明から五輪に至るこれまでの韓国の動きは、北朝鮮を利する方向にだけ作用している。 
平昌オリンピックに見る北朝鮮外交 2/12
平昌オリンピックは南北朝鮮それに日米の外交舞台となった。きっかけとなったのは金正恩委員長が新年の辞で北朝鮮は参加する用意があると発言したことだったが、北朝鮮は昨年秋から外交姿勢の転換を図っていた。それを象徴的に表していたのが、金正恩委員長の、「ついに国家核戦力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現された」との宣言であった。核・ロケット戦力は完成したと過去形で述べていたのである。この発言は、11月末、新型の大陸間弾道ロケット「火星15」型の発射実験を「成功」させた際に行われた。当然注目すべきであったが、その後どの国もこの発言を重視しなかった。各国はこの実験が完全な成功でなかったと分析し、とくに米国は、北朝鮮が「今後短期間に米本土を攻撃可能なICBMを開発する恐れが大である」として核・ミサイル開発の完成は将来のことだという認識を示していたからである。金委員長の発言が正しいか、米国の認識が正しいかを論じる必要も気持ちもないが、北朝鮮と各国との間でまたもや認識のずれが生じたことだけは指摘しておきたい。
金委員長は、当然だが、自己の発言に沿って核・ミサイル戦力完成後の外交方針を立てていた。平昌オリンピックは新方針を実行するために格好の舞台となり、新年の辞で参加の意向を示したのであった。北朝鮮の新方針は、その後韓国とオリンピック参加のための協議をする段階でもにじみ出ていた。韓国に対して強く出るときと我慢するときを使い分けていたことである。これには微妙なかじ取りが必要だ。推測に過ぎないが、金正恩委員長には強力な側近がおり、その一人が妹の金与正なのかもしれない。同氏は、以前から、金正恩委員長が演説を行うときなどに柱の陰で見え隠れしていたが、それは実妹としての自由な行動というより、側近中の側近として見守っていたとも考えられる。訪韓後、金永南最高人民会議常任委員長の金与正に対する気の使い方は尋常でなく、何度勧められても先に着席しようとしなかった。テレビで報道されたので見ていた人は多かったはずである。
ともかく、オリンピックへの参加問題は北朝鮮の描いたシナリオ通りに展開した。もちろん、文在寅韓国大統領による全面的な協力があったから順調に準備が進められたのであったが、北朝鮮としてはそれも予想通りであったのだろう。韓国としては、制裁の関係でできることは限られていたはずだが、北朝鮮のオリンピック参加という名目のために例外的措置として北朝鮮側の要求を次々に認めた。
金正恩委員長が打った手はオリンピックへの参加だけではなかった。文大統領との首脳会談の提案は、南北間の関係改善を一時的なものとせず継続するための仕掛けでもあった。金委員長はオリンピック後になすべきことをも文大統領に投げかけたのだ。このような北朝鮮の新方針は、米日両国はもちろん、中国も北朝鮮への圧力強化に積極的になろうとしている状況が背景となっているものと思われる。国連の制裁決議が効いているというのは自然な観察と分析だろうが、正しいかどうかは別問題である。北朝鮮は韓国に抱きつき、突破口を開こうとしたのであるが、これは以前にも採用した手法であった。圧力をかけ続ければ北朝鮮は非核化のための話し合いをしたいと言い出すということは実現しないのではないか。文大統領としてもさすがに首脳会談の提案はすぐにもろ手で賛成することはできなかった。提案実現には明らかに困難が待ち受けている。米国がそのような行為を認めるか疑問であり、また、そもそも現在の厳しい制裁下であえて平壌を訪問しても韓国としてオファーできることは非常に限られている。開城工業団地の再開も無理である。したがって、文大統領としては、金委員長からのせっかくの提案ではあるが、「今後、条件を整えて実現させよう」と答えるほかなかった。今後、金委員長は新方針にしたがってソフトムードで攻勢をかけ続けるだろう。そして、文大統領は逆に困難な立場に立つだろう。
当面の最大問題は米韓合同軍事演習である。これは毎年2月末から3月初めにかけて行われるが、今年は北朝鮮のオリンピック参加のためにとくに延期されている。これが再開されるか、またそれはいつかである。文大統領はこれを再開したくない。再開せざるを得ないとしてもできるだけ遅らせたいのが本音だろう。米韓演習を再開すれば、北朝鮮が文大統領を非難するのは必至だ。また、核・ミサイルの実験を再開するだろう。北朝鮮は、これらの実験を停止すると発表したことはないが、米韓演習が行われない間は実験もしない形になっている。両者は実質的に関連しているのである。
一方、米韓演習をめぐって奇妙な状況が現れた。安倍首相はオリンピック会場の近くで文大統領と会談し、その内容は、日韓双方が発表ぶりを合わせることなく、各自の判断で発表することとなった。重要な会談内容がこのように扱われること自体異例であるが、さらにおかしなことに、米韓演習について安倍首相と文大統領が会談したことが説明にまったく含まれていなかった。日本の主要メディアの報道にもこの問題は触れられなかった。しかし、韓国のメディア、それに中国のメディアも安倍首相が米韓演習に言及し、「延期する段階ではない。予定通り実施することが重要だ」との考えを示し、それに対し文大統領は「この問題はわれわれの主権問題であり、内政の問題」と反発したと伝えはじめた。そして、日本のメディアも1日遅れで報道を始めた。小さな記事で。推測するに、安倍首相と文大統領との会談では、合同演習問題は発表しないように打ち合わせたのだろう。それで済むと思ったとしか考えられないが、お粗末きわまる外交感覚である。日本政府は韓国政府がメディアにリークしたと思っているだろうが、リークされないと思うほうがおかしい。
米国、というよりペンス米副大統領は北朝鮮に対する圧力をさらに強化するということしか言わなかったことも注目された。ペンス氏は文大統領主催の歓迎レセプション(と言っても着席するもので席が決まっている)に欠席した。北朝鮮の金永南氏と言葉を交わしたくなかったのだろう。ペンス氏は韓国入りする前から北朝鮮側とは会わないと明言しており、その通りに振舞ったのだ。トランプ大統領は文大統領と会談する際、もっと幅のある物言いをする。自分は金正恩委員長と話し合いしてもよいと言わんばかりの発言もする。それに比べ、ペンス副大統領が圧力しか念頭にないという姿勢を示したのはなぜか。トランプ政権のなかでの自分の立ち位置をそのように決めているからではないか。平たく言えば、ペンス氏はトランプ大統領の忠実なしもべに徹しているのだ。ペンス氏はトランプ氏から安倍首相とよく相談するようにとアドバイスされていた(くぎを刺されていた?)可能性もある。平昌でもペンス氏はしきりに安倍首相と対応をすり合わせようとしていたことが目撃されていた。このようなペンス大統領の姿勢は安倍首相にとって都合のよいものだっただろうが、今後も米国はそのような姿勢を続けるか。安倍首相をはじめ日本政府の関係者は「日米は同じ立場にある」とさかんに主張するが、はたしてそうなのか。現在のような人為的にゆがめられた北朝鮮に対する政策はほころびが生じるのではないか。 
北朝鮮の「ほほ笑み」外交で揺らぐ日米韓連携 2/13
平昌五輪の露骨な政治利用ともみえる北朝鮮の「ほほ笑み外交」の行き着く先を国際社会が注視している。安倍晋三首相は主要国首脳の中で唯1人五輪開会式に出席、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領と日韓首脳会談を行った。だが、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長を開会式に送り込んだことで、五輪外交の主役の座を奪われたのは「想定外の事態」(政府筋)だった。
金一族の初訪韓は世界の耳目を集め、金委員長の名代として文大統領の早期訪朝を招請した与正氏の笑顔を、世界のマスメディアは競って報道した。韓国取り込みで日米韓連携を揺さぶろうとする北朝鮮の意図は明白だが、文大統領は南北首脳会談実現に意欲満々で、日米両政府は不信と警戒の念を強めている。
北朝鮮を支配し続ける金一族はロイヤルファミリーと呼ばれるが、今回の訪韓で初めて西側メディアに素顔をさらした与正氏の立ち居振る舞いは、訪韓団団長の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長より「格上」であることを印象付け、事実上の北朝鮮ナンバー2であることを世界にアピールした格好で、当初五輪外交の目玉とされた安倍首相訪韓は完全にかすんだ。
与正氏は北朝鮮での「南北首脳会談」を提案
与正氏の訪韓は開会式の直前に決まったとされるが、文大統領ら韓国政府は開会式への参加各国首脳との外交行事を素早く組み直し、北代表団の接遇を最優先することで南北対話進展への熱意と意欲をにじませた。
とくに、「金正恩委員長に意見具申できる唯一の人物」(外務省)とされる与正氏を「国賓待遇」で歓迎したことは、ともに開会式に乗り込んだ安倍首相とペンス米国副大統領へのけん制とみられ、「北朝鮮制裁で日米が完全に一致している『最大限の圧力』を形骸化しかねない状況」(外務省幹部)ともなった。
9日の開会式に合わせて、同日午後に金委員長の専用機で訪韓した与正氏は、空港では硬い表情を崩さなかったが、金永南団長とともに文大統領と面会した際は笑顔を振りまき、文字通りの「ほほ笑み外交」を展開した。与正氏は開会式でも文大統領の近くの席で南北選手団の同時入場に大きく手を振り、10日には南北合同チームが出場した女子アイスホッケーの試合を文大統領やバッハIOC会長と並んで観戦、美女軍団と騒がれた北朝鮮応援団の派手なパフォーマンスに拍手を送った。
さらに11日にはこれも北朝鮮が送り込んだ三池淵(サムジヨン)管弦楽団の特別公演を文大統領の隣席で観賞し、同夜に専用機で帰国した。この3日間の与正氏を中心とするメディアの報道ぶりは「平昌五輪が平壌五輪に化けた」(韓国主要紙)との印象を世界に振りまいた。
もちろん最大の外交行事は10日の文大統領と北代表団の公式会談だったが、この席で与正氏は金委員長の親書を文大統領に手渡したうえで、早期訪朝による南北首脳会談の開催を呼びかけた。文大統領は「米国との調整」などを理由に即答を避けたが、南北会談への意欲は隠さなかった。
一方、安倍首相は9日の開会式前に文大統領との日韓首脳会談に臨んだ。首相訪韓は約2年3カ月ぶりで、文政権発足後では初めてだ。
五輪会場近くのホテルで行われた会談で、首相は慰安婦問題での日韓合意の履行を強く迫ったが文大統領は「政府間交渉では解決できない」などと主張し、平行線に終わった。両首脳は対北朝鮮では日米韓による「圧力強化」の方針を文大統領も確認したとされるが、10日の北との会談で文大統領が日米が大前提とする「北朝鮮の非核化」への言及を避けたことも考え合わせると、「日米韓連携は後退した」(外務省)との印象は拭えない。
このため、あえて国内の反対論を押し切って「言うべきことは言う」と訪韓を決断した首相にとって、日韓首脳会談は「物足りない結果」(自民幹部)に終わった。
ペンス副大統領との事前会談で「北への圧力強化」を確認し、開会式前後の一連の日米韓外交で日米が歩調を合わせたことで、「韓国取り込みを狙う北朝鮮のほほ笑み外交に日米で対抗した」(同)ことは成果といえる。しかしその一方で、首相が文大統領に「(平昌五輪後の)米韓合同軍事演習を延期すべきではない」と要請したのに対し、文大統領が「我が国の内政問題で、直接取り上げて論じては困る」と反発したことは、日韓の溝を浮き彫りにした。
しかし、こうした首相訪韓について、国内では目立った批判は出ていない。国会では週明けにも「外交集中審議」が実施される見通しだが、首相訪韓に反対したのは自民党内保守派で、むしろ首相訪韓を後押ししてきた野党側は、「訪韓は安倍外交の失敗」と追及しにくいのが実情だ。
開会式直前の与正氏も含めた各国首脳の顔合わせの会合では、ペンス副大統領が米朝接触を拒否して着席せずに退出したが、首相はあえて金永南氏と言葉をかわした。日米の事前打ち合わせを踏まえたものとされるが、北側に拉致問題解決を直接働きかけたことで、「安倍外交」の独自性もアピールした格好だ。
首相訪韓は「何とか帳尻が合った」
10、11両日に産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が合同で実施した世論調査では、平昌五輪開会式に合わせた首相訪韓について「良かった」が76.9%に上った。さらに、首相が文大統領に慰安婦問題の日韓合意の着実な履行を迫ったことを「支持する」は83.8%と圧倒的多数だった。
同時期に実施された他の大手紙の世論調査でも内閣支持率は現状維持か微増となっており、党内保守派の「国民の批判で政権が失速しかねない」(参院若手)との懸念は払しょくされつつある。
10日夜帰国した首相が、11、12日両日を完全休養に充て、政府要人とも会わずに自宅で静養したのも「訪韓批判がなく、ほっと一安心の心境」(側近)からだという。首相は12日に珍しく東京・富ケ谷の私邸周辺を散歩したが、ジョギング中の小野寺五典防衛相と出会い、短時間だが会話するというハプニングもあった。
小野寺氏は今回の南北接近について10日に「対話のための対話ではあまり意味がない」とけん制しており、このタイミングで自衛隊の最高指揮官の首相と防衛省トップが顔を合わせるというのは「まったくの偶然とは思えない」(自民幹部)と勘繰る向きもある。首相にとってハプニング続きの訪韓だったが「何とか帳尻が合った」(側近)ことは間違いなさそうだ。 
北朝鮮の「ほほ笑み外交」 日本の懸念 2/16
第2ピリオドの途中まで来たところで、ランディ・グリフィン選手が右ウィングから攻め、日本のゴールキーパー、小西あかね選手の脚の間にパックをすり抜けさせた。
パックがネットに滑り込むと、観客は歓喜に沸いた。観客席では、赤に身をまとった北朝鮮のチアリーダーたちが喜びを爆発させた。
五輪史上初めて、韓国と北朝鮮の合同チーム「コリア」の女子アイスホッケーチームが得点を入れたのだが、ただの得点ではない。日本戦で1点取ったのだ。
コリア・チームが勝ちそうなのだと勘違いしても、許されただろう。実のところ、試合は1対4で負けてしまった。しかし得点したのだ。そして勝利への熱意のみが試合の勝敗を決めるのだとしたら、コリア女子チームは、日本チームを圧倒的な差で打ち負かしていただろう。
「北朝鮮選手の思いは私たちと同じだ」。韓国代表のチョイ・ジヨン選手は試合に先立ち、こう述べていた。「日本相手のこの試合には、何が何でも勝たなきゃいけないと、お互いに声を掛け合った」。
北朝鮮と韓国は、正式には今も戦争中だ。非武装地帯を挟み、今も何千もの大砲やミサイルが互いに向けられている。しかし、日本を打ち負かすという共通の思いほど、北と南を1つに結びつけるものはないだろう。
韓国の英字紙コリア・タイムズに対し高校生のミン・スンウォンさんは、今の状態を次のように要約した。「私は当初、北朝鮮チームが韓国チームに加わるのに反対だった。でも日本戦は私たちにとって、国として大きな意味を持つ。歴史的な緊張から、日本戦に勝つために北と南の選手がもっと団結して協力できればいいなと思う」。
ミンさんが言っている「緊張」とは、多くの北朝鮮人および韓国人が日本に抱く、怒りというより憎しみでさえある感情を指す。日本が20世紀前半に朝鮮半島でした残忍な占領が原因だ。
この占領は、第二次世界大戦中に何万人という朝鮮半島の女性が性奴隷として働いた出来事も含まれる。
日本海、あるいは韓国語で「東海」と呼ばれる海を挟んで見ている日本の安倍晋三首相にしてみたら、平昌冬季五輪で見られたこの行状は、試合観戦を居心地の良くないものにする。
韓国外交部でかつて副長官を務めたキム・スンハン氏は数日前に五輪について話した際、次のように断言した。「北朝鮮は、明らかに金メダルを勝ち取っているようだ」。
選手が、という意味ではない。ミサイル発射から平昌五輪の全面的な受け入れまでの、北朝鮮の類まれな変わり身を言っているのだ。中には北朝鮮の首都をもじって、「平壌五輪」と呼び始める人までいるほどだ。
「ほほ笑み外交」
安倍氏もほぼ確実に同意するだろう。五輪開始前のインタビューで河野太郎外相は筆者に対して、韓国が北朝鮮の「ほほ笑み外交」に取り込まれてしまう懸念について話した。
そしてなんと盛大なほほ笑み外交が行われたことか。最大の見せ場は疑いもなく、金正恩氏の実妹、金与正(キム・ヨジョン)氏が3日間訪韓したことだ。与正氏は魅力的な笑みを浮かべ、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を平壌に招待した。
これらは全て安倍晋三首相にとっては悪い知らせだ。日本政府による、北朝鮮の核の脅威を阻止するための政策を根幹から覆す恐れがある。
米国にとって、北朝鮮が核兵器の備蓄を増やすことは間もなく現実の脅威となるだろう。日本にとってはすでにそうだ。昨年に北朝鮮が発射した2発の長距離ミサイルは日本の上空を飛んでいった。ここで大きく懸念されることは、どんな種類の軍事衝突であっても、北朝鮮が核を使うのはソウルではなく東京へ向けてではないかということだ。
「我々は広島や長崎が再び起きるのを絶対許してはいけない」と最近、日本の退役将校は筆者に話した。
よって安倍晋三首相は非常に強硬な立場を確立した。週末にソウルで見られた「愛の祭典」以来、全ての声明で、文大統領に訪朝してほしくないという立場を明確にしている。
ソウルにある国民大学校のアンドレイ・ランコフ教授は、北朝鮮の思惑に対する日本の懸念をうまく説明している。北朝鮮情報に特化したウェブサイト「NKニュース」の記事中で、「北朝鮮の外交手腕は卓越している。敵の弱点と分断を利用することに精通している」とランコフ教授は書いている。
「12月中旬以来、北朝鮮の外交は大きく分けて2つの目標に向かっている。まず北朝鮮は、米国が先に軍事攻撃に出る可能性を低くしようと懸命に取り組んでいる。第2に、米韓の間にくさびを打ち込むことに精力を傾けている」
日本の河野外相は北朝鮮に対する経済制裁が「効き始めている」との認識を筆者に示した。昨年の晩夏に課された制裁措置により、いよいよ北朝鮮経済に影響が出始めている、と。だからこそ北朝鮮は五輪大会というほほ笑み外交の手段を講じ時間稼ぎをして、息が止まりそうな状態を緩和している、と。 
幻の米朝接触”〜五輪外交の舞台裏に迫る〜 2/20
一糸乱れぬ北朝鮮の「美女軍団」の声援、高まる南北融和ムード、「このままではムン・ジェイン大統領、北朝鮮に行ってしまいそうだね」 ピョンチャンオリンピックの開会式を見て、日本政府の関係者はつぶやきました。日米韓の首脳らに加え、北朝鮮の高位級代表団も顔をそろえたピョンチャンオリンピックの開会式。華やかな舞台の裏側では、首脳らも巻き込んだ激しい外交戦が繰り広げられ、米朝接触の可能性もあったことが見えてきました。オリンピック開会式にあわせて行われた各国の外交戦や駆け引きの様子を報告します。
ピョンチャン開会式
ピョンチャンオリンピックの開会式が迫る中、報道各社の関心は安倍総理大臣が開会式に出席するのかどうかに集まっていました。
オリンピックの成功と南北対話の推進を目指す韓国のムン・ジェイン大統領は、日本に加えて同盟国アメリカ、周辺の中国やロシアなどにも首脳クラスの派遣を要請していました。
しかし、安倍総理大臣は明確な返答をしていませんでした。背景には、慰安婦問題をめぐる日韓合意に対して、ムン大統領が去年末、否定的な考えを表明したことがありました。
「私の支持層は出席にみんな反対だ」
安倍総理大臣は周辺にこのように漏らしていました。また政府・自民党内からも「開会式に出席すれば韓国側に誤ったメッセージを与える」などと慎重論が公然と出ていました。
安倍総理 出席を決断
ところが開会式まで2週間余りとなった1月24日。安倍総理大臣は出席を表明しました。
「ムン大統領との日韓首脳会談で日韓の慰安婦合意について日本の立場をしっかりと伝えたい。また北朝鮮の脅威に対応していくために、日韓米3か国でしっかりと連携する必要性や、最大限まで高めた北朝鮮に対する圧力を維持する必要性についても伝えたい」
異例の画像公開
同じ日、北朝鮮情勢に関連して、もうひとつの動きがありました。
日本政府は、東シナ海の公海上で、北朝鮮船籍のタンカーがドミニカ船籍のタンカーに横付けしている様子を撮影した画像をホームページに公開したのです。4日前の1月20日未明、海上自衛隊の哨戒機P3Cが撮影したものでした。
この北朝鮮船籍のタンカーは去年11月、洋上で物資の積み替えを行っていたとしてアメリカ政府が公表していましたが、船名が偽装されているのが確認されました。
日本政府は、北朝鮮のタンカーが国連安保理決議で禁止されている、洋上での物資の積み替え、いわゆる「瀬取り」を行っていた疑いが強いとして国連安保理に通報したのです。
巧妙化する制裁回避の動き、瀬取りは頻繁に?
度重なる国連安保理の制裁決議を受けて、ペルーなど、北朝鮮と関係の薄い南米でも北朝鮮の外交官の国外退去などの取り組みが進んでいるほか、中国やロシアも、石油精製品の輸出制限や北朝鮮労働者の送還などを発表しました。日本政府はかつてなく制裁の効果は出始めていると見ています。
一方で、北朝鮮による制裁回避の試みも巧妙化しています。国連安保理の専門家パネルは、北朝鮮が、制裁を逃れて日本円で少なくともおよそ220億円を得たとする報告書を2月3日、取りまとめました。
政府関係者によりますと、日本政府が「瀬取り」を発見したケースは、公表された1月20日、そしてそれに続く2月13日以外にもあり、北朝鮮の船を追尾するなどして阻止したこともあるということです。
ただ東シナ海の公海上を日本単独で長期間カバーするのは困難で、この政府関係者は、抜け道を防ぐにはアメリカや韓国の協力が不可欠だと話していました。
高まる南北融和ムード
一方、ピョンチャンオリンピックの開会式を前に、韓国と北朝鮮の融和ムードはどんどん高まっていきます。きっかけは、ことし1月1日のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の演説でした。「アメリカ本土が核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンがわたしの事務室の机の上にいつも置かれている」とトランプ政権をけん制する一方、オリンピックが成功裏に開催されることを「心から望む」と、参加に前向きな姿勢を示したのです。
ムン政権はこれを大歓迎して、一気にアクセルを踏み込みました。
演説の2日後の1月3日には韓国と北朝鮮の連絡チャンネルを再開、9日には閣僚級協議を開き、北朝鮮は選手団や「美女軍団」とも呼ばれる応援団の派遣を表明しました。
警戒強める日本政府
日本政府は、北朝鮮が、南北対話に前向きなムン政権を利用して国際的な包囲網を崩そうとしていると警戒感を強めます。
菅官房長官は記者会見で、「北朝鮮は、南北の協議を通じて、核、ミサイル開発に対する国際社会の目をそらし、開発を継続するための時間稼ぎとともに、制裁解除や財政的支援、米韓合同軍事演習の中止、各国間の離間といった狙いを有していると考えられる。北朝鮮のほほえみ外交に目を奪われてはならない」と指摘。
いつにもまして厳しい発言で、北朝鮮だけでなく、対話に積極的なムン政権に向けたメッセージとも受け止められました。
安倍総理大臣は、トランプ大統領に電話会談を打診。電話会談は開会式7日前の2月2日に行われました。
続いて、7日には、開会式を前に日本に立ち寄ったペンス副大統領とも会談。日米と韓国の間に対応の差が生まれつつある中、ムン大統領との会談を前に、日米の結束をアピールし、韓国に釘を刺す狙いがありました。
しかし、ムン政権は、オリンピックに伴う例外措置として、アメリカや韓国の独自制裁の対象となっていた貨客船マンギョンボン92号の入港や国連安保理の制裁対象となっていた北朝鮮高官の入国などを容認していきます。
韓国国内でも、与党で革新系の「共に民主党」の議員が、「ペンス副大統領は祭りの家にわめきに来るし、安倍総理大臣はよその家にいらぬお節介をしにくるつもりだ」とツイッターに書き込むなど、日米の姿勢に批判的な意見も出始めていました。
表面化した温度差
こうした中、オリンピック開会式当日の9日、韓国のヤンヤン空港に降り立った安倍総理大臣。ムン大統領との3回目の首脳会談は、開会式会場近くのホテルで行われました。
1時間に及んだ会談の後、安倍総理大臣は、同行した私たち記者団に対し、北朝鮮が核・ミサイル開発を追求し開発を続けていることを忘れてはならないと指摘し、「対話のための対話は意味がないとムン大統領にはっきり伝えた」と述べました。そのうえで「北朝鮮が政策を変更するまで圧力を最大限まで高めていく必要があるという日米で完全に一致した確固たる方針をムン大統領と確認した」と述べ、圧力強化に向けた連携を確認したと強調しました。
これに対し、韓国大統領府は、ムン大統領が安倍総理大臣に対し、「南北間の対話が北朝鮮に核放棄を迫る国際的な連携を乱すことはき憂に過ぎない」と述べ、日本にも北朝鮮との対話に乗り出すことを望む考えを示したと発表しました。安倍総理大臣も日本政府も、こうしたやり取りは公表していませんでした。
さらに韓国大統領府は、翌日の10日、安倍総理大臣が会談で、オリンピック・パラリンピックの後に延期された米韓合同軍事演習を着実に行うよう求めたことを明らかにした上で、ムン大統領が「わが国の主権の問題、内政問題だ。安倍総理大臣からいわれても困る」などと述べたと発表しました。
このやり取りについても安倍総理大臣は明らかにしておらず、日本政府も、首脳会談後の記者発表の際に、記者団から米韓合同軍事演習についてのやり取りがなかったのか質問されたのに対し、「日米、日米韓で圧力を強化していくことで一致している。それ以上は控えたい」と説明するのにとどめていました。
前日の首脳会談の内容を、翌日になって補足するようなことは日本ではほとんど見られません。韓国大統領府には、圧力強化を求める安倍総理大臣に、きぜんとした姿勢を示したことを自国の国民にアピールする狙いがあったことは明らかです。
日本政府の関係者は「日本は、首脳会談での相手国の首脳の発言を、相手国の同意なしに発表するようなことはしない」などと述べ、不快感を示していました。
両首脳は、首脳会談で、未来志向の関係構築に向けた緊密な連携をアピールしましたが、北朝鮮との対話のあり方をめぐっては立ち位置の違いが浮き彫りになる結果となりました。
北朝鮮との接触は?
首脳会談に続き、ムン大統領主催のレセプションがあり、安倍総理大臣やペンス副大統領は、北朝鮮の高位級代表団を率いるキム・ヨンナム最高人民会議常任委員長らと同じ円卓テーブルにつく予定となっていました。
私たちの緊張感も高まっていきます。というのは、政府関係者が事前に、安倍総理大臣と北朝鮮との高位級代表団の接触の可能性を示唆していたからです。さらにアメリカ政府が、事前に日本政府に対して、仮に北朝鮮側との会談が行われた場合には、核開発などの放棄が前提でなければ本格的な協議には応じられず、それが約束されない限り最大限の圧力をかけていくという考えを伝達するという方針を伝えていたことも分かってきました。
こうした中、安倍総理大臣は、レセプションの直前、わずかな時間を使って、ペンス副大統領と改めて会談していたことが判明。2日前に会談したばかりの2人が、再度会談するのは極めて異例なことです。
またムン大統領は、安倍総理大臣に北朝鮮との対話に乗り出すように働きかけたのと同様に、ペンス副大統領にも北朝鮮との会談を促していました。
安倍総理大臣とペンス副大統領は、レセプションなどで北朝鮮との接触があった場合の対応について、綿密にすり合わせていたと見られました。
私たちの緊張はピークに達しようとしていました。しかし、レセプションで、北朝鮮側はアメリカ側と接触する姿勢を見せず、ペンス副大統領も5分ほどで退席し、接触は発生しませんでした。
一方、安倍総理大臣は、キム委員長と短時間、ことばを交わし、拉致問題の解決と拉致被害者の早期帰国などを求めました。緊密に連携してきた日本とアメリカで対応が分かれた瞬間でした。
安倍総理大臣には、ムン大統領が日米双方に北朝鮮との対話を促す中で、日本が蚊帳の外に置かれたり、拉致問題が置き去りにされたりすることは避けたいという判断があったものと見られます。
このあと、韓国大統領府は、日本政府に先立って安倍総理大臣とキム委員長の接触を公表しました。ホスト国という立場で発表したものと見られますが、当事国に先立って他国の首脳の動向を発表するのは極めて異例で、対話ムードを盛り上げたいという韓国側の意向があったのかもしれません。
外交戦は開会式会場でも
レセプションに続いて開かれた開会式。安倍総理大臣、ペンス副大統領、ムン大統領、それにキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の妹、キム・ヨジョン氏を含む、北朝鮮の高位級代表団が顔をそろえました。
安倍総理大臣は、ここでも長時間にわたってペンス副大統領と言葉を交わしていました。政府関係者によりますと、この際にも、北朝鮮との対話などをめぐって意見が交わされていたということです。
一方、ムン大統領は、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の妹、キム・ヨジョン氏などと笑顔で言葉を交わすなどしていて、その対応は日米とは対照的なものでした。
ただ、開会式は、日朝、米朝の接触はなく終了。警戒を強めていた私たちも緊張の糸を緩めることになりました。
幻の米朝接触
日韓首脳会談翌日の10日、ムン大統領は、ソウルに移動して大統領府で、キム・ヨジョン氏など、北朝鮮の高位級代表団を招き昼食会を開きました。私たちは、これで日朝、米朝の接触はもうないだろうと見ていました。
一方、昼食会で、キム・ヨジョン氏が、ムン大統領との昼食会で、南北首脳会談の開催を提案していたことが分かると、日本政府内からは、「このままではムン大統領、北朝鮮に行ってしまいそうだね」などという感想も漏れていました。
そうした中、ペンス副大統領もソウルに移動したという情報が入りました。
「米朝対話があるのか?」 私たちの緊張感が再び高まりました。
しかし、結局、何事もなく、ペンス副大統領は10日夜に韓国を離れました。
安倍総理大臣も、アイスホッケー日本女子の試合観戦などを終えて帰国の途につきました。
こうしてピョンチャンオリンピックを活用した外交戦は幕を閉じ、ムン大統領が仕掛けたとも言える、米朝の接触は幻に終わったのでした。
南北首脳会談への懸念
日本政府は、南北の対話がさらに進むのか、神経を尖らせています。
安倍総理大臣は、帰国後の衆議院予算委員会で、南北の融和ムードが高まっていることに関連し、北朝鮮で行われた過去2回の南北首脳会談に言及しながら、その後も北朝鮮が核開発を継続してきたことを指摘したうえで、圧力強化の必要性を強調しました。
そして2月14日には、トランプ大統領と改めて電話会談。最新の北朝鮮情勢をめぐって意見を交わし、北朝鮮が核開発などを放棄するまで圧力を強化していく方針を改めて確認しました。
政府内からは、南北首脳会談が実現した場合、核などの放棄が約束されないまま、何らかの財政的な支援を行うことにつながるのではないかと懸念する声が出ています。
また、ある政府関係者は、北朝鮮が、オリンピック後の米韓合同軍事演習の中止を狙って、核やミサイル開発の「凍結」などを打ち出す可能性を指摘した上で、それが非核化につながるのかどうかは極めて不透明だという認識を示しました。
2度あることは3度ある?
日本政府は、アメリカ政府と連携して引き続き北朝鮮に対する圧力を強化し、核や弾道ミサイル開発の放棄、そして拉致問題の解決を目指す方針です。
一方、韓国のムン政権は、南北統一を目標に引き続き融和路線を取り、対話を推進していくものと見られます。
中国やロシアは、北朝鮮の核保有は容認しない姿勢を示していますが、隣国北朝鮮の崩壊や韓国との統一は、アメリカの影響力拡大につながることから何としても避けたいところです。
「私たちはひとつ」 美女軍団が繰り返す声援は、同胞である韓国の人たちの心の琴線に触れていることでしょう。
北朝鮮は、こうした周辺国の思惑の違いを巧みに突きながら、各国から支援を引き出し核開発を推進してきました。アメリカに対峙しながら体制を維持するには核保有が不可欠だと考えているからです。
オリンピックを利用して北朝鮮が仕掛けた外交戦は、ムン政権を揺り動かし、一定の成果を上げつつあるように見えます。
日本政府は、韓国がさらに融和路線に傾けば、中国やロシアも圧力を弱めかねないと危機感を強めています。
過去に2度繰り返された、南北首脳会談と、非核化などを前提とした北朝鮮に対する財政的支援。みたび同じことが繰り返されるのか。それとも対話による非核化が実現できるのか。
北朝鮮は、オリンピック・パラリンピック後に延期された米韓合同軍事演習の中止を強く求め、中国やロシアも凍結を主張しています。
一方、日本とアメリカは予定通りの実施を韓国に働きかけています。メダル争いや美女軍団の一糸乱れぬ応援に関心が集まる中、対話と圧力をめぐる各国の駆け引きは、オリンピック・パラリンピック後を見据えて続いています。 
北朝鮮、平昌五輪の“ほほえみ外交”という虚飾の裏側 2/21
平昌冬季オリンピックでは、韓国と北朝鮮がアイスホッケー女子の南北合同チームを結成するなど平和ムードが演出されているが、その裏側では北朝鮮によるサイバー攻撃が止むことはない。北朝鮮による“ほほえみ外交”の裏側で、いったい何が起きているのか。
オリンピックのニュースだけで世界情勢を判断しようとしている人たちには、北朝鮮はほとんどカリスマ的な存在に見えるかもしれない。アイスホッケー女子の南北合同チームは、金正恩が韓国との関係改善を求めていることを象徴する国際的な出来事になった。独裁者の妹は笑顔を振りまいたし、『ステップフォードの妻たち』のように不気味なチアリーダーにすら感動した人もいるようだ。
しかし、アイスホッケー外交の虚飾の裏で、北朝鮮のハッカーたちは南の隣人を標的にした攻撃を止めていない。オリンピックに先立ち金正恩が態度を軟化させた矢先に、北朝鮮は韓国の金融機関や仮想通貨関連企業から何百万ドルもの金を盗むという恥知らずなサイバー犯罪に関与したのだ。
このほどサイバーセキュリティ大手のマカフィーは、北朝鮮のハッカー集団「Lazarus」が金融機関を標的にしたフィッシングメールの送信を再開したと明らかにした。同社は『WIRED』US版の取材に対し、この攻撃が1月24日まで(そしてかなりの高確率でそれ以降も)続いており、欧米だけでなく韓国の金融機関も標的に含まれていた証拠があるとしている。
つまり、金正恩が新年の辞で「南の国境での平和的解決」を呼びかけた数週間後にも、北は南への攻撃を続けていたわけだ。シンクタンクの米大西洋評議会でサイバー情勢を担当する上級研究員ケネス・ギアーズは、「サイバースペースは間違いなく国家間の安全保障の場です。そこでは片手でオリーブの枝を差し出しながら、もう片方の手には銃を握っているような意思表示もできます」と語る。
金銭目的のハッキングが増加
では北朝鮮は、なぜ韓国との関係改善に努める一方で、裏では窃盗行為を続けるのだろう。ギアーズは、財政状況の悪化を考えれば金政権に選択肢はあまりないと指摘する。「資金が必要なうえ刑罰も受けないで済むので、ハッキングをするのです」
ネットの世界における北朝鮮の脅威を巡っては、金銭的な要素が大きな比重を占めるようになっている。同国はバングラデシュからポーランドまで、さまざまな国の金融機関に攻撃を仕掛けており、被害総額は数千万ドルに上る。
もちろん韓国も頻繁に標的となっており、例えば昨年4月から10月にも一連のスピア型フィッシング攻撃が行われていたことをマカフィーは突き止めている。英語と韓国語との両方で書かれ不正なファイルを添付した偽の求人メールが送られており、標的には銀行や暗号通貨の取引所に加え、おそらくは諜報目的だが軍の関係者も含まれていた。韓国の政府関係者は今月初め、昨年に行われた北朝鮮のハッカーによる攻撃で、数百万ドル相当の暗号通貨の被害が出たと話している。
マカフィーはその後、同じ活動が1月半ばから再開されたことを発見しており、攻撃元は北朝鮮のLazarusだと確信しているという。以前は不正な添付ファイルを開かせるものだったが、今回は通常のWordファイルが添付されている。
ファイルを開くとVisual Basicで書かれたスクリプトが実行され、「Haobao」と呼ばれるトロイの木馬のようなマルウェアがダウンロードされる。Haobaoという名前は、マルウェアを起動する際のコマンドの一部から取られたものだ。
マカフィーの主任研究員ラジ・サマニは、「特に洗練されているとは思いませんが、非常に的を絞った活動です」と指摘する。このマルウェアがパソコンにインストールされるのは、これまでに見たことがないという。
手段を選ばぬサイバー犯罪の真の目的
オリンピック外交と並行して、ほかにも北朝鮮からの攻撃が続いている可能性はある。マカフィーは1月、五輪関連団体や平昌の地方政府、観光協会、ホテルなど300以上の組織に送信された韓国語のフィッシングメールを発見した。同社が「GoldDragon作戦」と呼ぶこの活動の目的はスパイ活動とみられ、3種類のマルウェアが使われている。
マカフィーはこのフィッシング攻撃もLazarusや北朝鮮によるものだと断言はしていないが、サマニは“ほほ笑み外交”とは関係なく、背後には金政権がいるのではないかと示唆する。彼は『WIRED』US版の取材に対し、映画『ゴッドファーザー』のセリフを引用して説明した。「『友は近くに置いておけ、敵はもっと近くに置いておけ』という言葉がありますが、そういうことでしょう」
外交関係があっても諜報活動が行われることはあるが、隙を狙っての窃盗行為は許されないだろう。しかし「北朝鮮はその外交政策のゴールにも関わらず、手段を選ばないサイバー犯罪を続けるしか選択肢がないのです」と指摘するのは、戦略国際問題研究所(CSIS)でテクノロジー・公共政策プログラムを専門とするジェームス・ルイスだ。サイバースペースにおける強奪は、北朝鮮が過去に手を染めた犯罪行為(偽造、麻薬の生産、木材の密輸など)と併せて、経済制裁や貿易収入の枯渇に耐える手段として必要不可欠になっているという。
ルイスは「北朝鮮は必死です」と言う。サイバー犯罪で得た資金は腐敗した政権上層部に贅沢品を買い与えるためだけでなく、より重要な計画に使われている。欧米の侵略から自国を守ってくれると金正恩が信じている、核兵器システムの開発だ。「最優先事項は、米国を黙らせるために核の抑止力を手に入れることです。そのためになら、もちろん盗みだってやるでしょう」
一方で、韓国はより広い意味での平和のために、オンラインでの多少の不正行為には目をつぶるのではないかとも指摘する。「(外交は)より大きなゲームであり、朝鮮半島の平和という目標に集中する必要があります」とルイスは話す。「韓国はオリンピックを利用してリスクを軽減しようとしています。あと数週間だけ諜報活動や犯罪行為に耐えさえすればいいのであれば、喜んでそうするでしょう」 
 

 

 
 
 
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金正恩氏が韓国特使と会談 韓国側、米朝対話促す 3/5
韓国大統領府は5日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が同日午後6時(日本時間)から平壌で会談し、晩さん会に臨んでいると発表した。韓国側は会談で、米国が求める北朝鮮の非核化実現に向け、米朝対話に応じるよう北朝鮮に促すとみられる。核開発に固執してきた金委員長がどう応じるかが注目される。
金委員長が2012年に最高指導者になって以降、韓国高官と会談したのは初めて。特使の一行は5日午後2時50分頃、空路で平壌に到着。宿泊所に立ち寄った後、金委員長と会談し、文大統領の親書を手渡したもようだ。6日午前1時時点で韓国、北朝鮮から会談結果に関する発表はない。
韓国政府は特使が、平昌冬季五輪の開幕に際し北朝鮮が金正恩委員長の実妹、金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長を韓国に送ったことの答礼と位置づける。
特使団は大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長を首席とする5人で構成。過去2回の南北首脳会談に携わり、北朝鮮通とされる情報機関、国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長を含め、閣僚級2人の異例の態勢で会談に臨んだ。6日に韓国に戻る予定。
北朝鮮入りに先立ち記者会見した鄭氏は「五輪を機に生まれた南北関係改善の流れをいかし、朝鮮半島の非核化と平和に向けた大統領の確固たる意思を伝える」と述べた。一方、非核化前提の対話には応じないとする北朝鮮が、核問題と切り離した南北対話などを持ち出すことも予想される。
鄭氏と徐氏は帰国後に訪米する見通しだ。訪朝結果をトランプ米大統領に直接説明することも検討している。韓国政府関係者は日本や中国にも「適切な方法で説明する」と述べた。 
金正恩氏が韓国特使団と面会 非核化向け米朝対話、意向確認へ 3/5
韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長を首席とする文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使団が5日、特別機で北朝鮮の平壌に到着した。大統領府は、特使団が同日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と面会、晩餐(ばんさん)会に同席すると発表。面会は順調に行われたもようで、特使団が文氏の親書を手渡したとみられている。金正恩氏と韓国政府当局者の面会は初めて。
平壌の空港では、祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長らが一行を出迎え、宿泊先では、平昌五輪の閉会式に派遣された金英哲(ヨンチョル)党副委員長が面談。この場で金正恩氏との面会が決まったという。特使団は6日まで滞在し、非核化をめぐる米朝対話について金正恩氏の意向を確かめる方針。
鄭氏は出発前、記者団に「朝鮮半島の非核化と恒久的平和を目指す文大統領の確固たる意志を明確に伝える」と述べた。
文氏は、特使団の訪朝で米朝対話に向けた糸口を探りたい考えだが、北朝鮮は、米国との対話の用意を表明する一方、非核化を前提とした対話には応じない立場を鮮明にしている。逆に、南北首脳会談の早期開催を促し、文政権の取り込みを強めたり、米韓合同軍事演習の中断を迫ったりする可能性がある。
特使団には、情報機関、国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長や文氏の最側近で大統領秘書室の尹建永(ユン・ゴンヨン)国政状況室長も含まれる。鄭、徐両氏は帰還後、間を置かずに訪米し、トランプ政権に訪朝結果を説明する。大統領府関係者は「中国や日本にも結果を説明する予定だ」としている。  
金正恩氏が韓国特使団と会談 「再統一に向けた新たな歴史を」 3/6
北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は5日、韓国の特使団との会談で、南北統一に向けて緊密な関係を築きたい意向を示した。北朝鮮国営・朝鮮中央通信(KCNA)と韓国大統領府が発表した。
KCNAは、正恩氏が韓国側に「国の再統一の新しい歴史を書きたい」と伝えたと報じた。委員長は、南北の関係強化を「積極的に進める固い意志」を抱いていると韓国特使団に伝えたという。
正恩氏が韓国政府高官と会合を持ったのは、2011年の就任以来初めてとなる。
韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長や国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長など10人からなる特使団は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の親書を携えて訪朝した。正恩氏は両氏と会談し、意見交換や関連分野の実務面における重要な指示を行った上で、満足のゆく合意を得たという。また、この日は晩餐会が開かれた。
一方の韓国側は、朝鮮半島の非核化に向け米国との対話を行うよう北朝鮮側に求めた。米国は南北関係の改善については楽観的だとする一方、北朝鮮との対話については同国が核兵器を放棄することが条件だとしている。北朝鮮はこれまで、この条件を認めていない。
特使団の鄭氏と徐氏は今後、米国へ向かい、今回の訪朝について米国高官に報告するとみられている。
会合を受けてKCNAは、正恩氏が代表団を「温かく歓迎」し、「心を開いた」話し合いをしたと伝えた。
KCNAはさらに、「南側の特別代表から首脳会談について文在寅大統領の意向を聞いた後、(正恩氏は)意見を交換し、満足のいく合意をした」、「そのため実務的対応を速やかに行うよう関係各部に重要な指示をした」と伝えた。
昨年就任した文大統領は、北朝鮮との対話に積極的。また、昨年から米朝関係は緊張状態にあったものの、今年1月の正恩氏の提案を機に2年ぶりの高位級会談が開かれ、2月に行われた平昌冬季五輪の開幕式に南北統一旗で合同入場するなど、朝鮮半島を巡る関係性は軟化の傾向にある。 
 

 

 
 3/25-28
活発化する北朝鮮外交 2018/3
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、首脳外交で朝鮮半島情勢の局面転換を図っている。3月下旬には電撃訪中し、習近平国家主席と会談。3回目となる南北首脳会談も4月27日に開催が決まった。中朝関係を好転させ、南北首脳会談で「和解」を演出し、最大の外交懸案である5月末までの米朝首脳会談を優位に進めるための布石を打っている。
複雑さ増す外交戦
「朝中両国関係を立派に継承し、発展させる上で巨大な意義を持つ歴史的出来事だ」。朝鮮労働党機関紙・労働新聞(電子版)は3月30日、1面トップに正恩氏の訪中をたたえる社説を掲載した。
同紙は28日にも1〜7面を使って中朝首脳会談などを詳報。朝鮮中央テレビも連日、訪中の様子をまとめた約40分にわたる映像を繰り返し放映し、訪中成功を北朝鮮国内で強く印象付けた。
4月中旬には北朝鮮の李容浩外相がロシアを訪問すると伝えられ、プーチン大統領とのロ朝首脳会談もささやかれ始めた。韓国紙・東亜日報は正恩氏の狙いについて、「トランプ米大統領との米朝会談に向け、交渉力を高める味方を確保し、全体の構図を揺さぶる意図」と分析。核問題をめぐる外交戦は複雑さを増しつつある。
「非核化」に条件
正恩氏は3月26日、習氏との会談で非核化に応じる構えを見せたが、「段階的で歩調を合わせた措置」と条件を付けた。河野太郎外相は同30日、北朝鮮の意思は「現時点で極めて不明確。行動を伴うのかしっかり見ていく」と警戒を強める。
「段階的」という言葉も波紋を呼んでいる。2005年9月の核問題をめぐる6カ国協議の共同声明では「行動対行動」の原則の下、合意事項の履行に合わせ見返りを提供する形で、段階的に核放棄の実現を目指した。だが、北朝鮮は結局、核開発を継続。段階的なアプローチは実を結ぶことはなかった。
北朝鮮は条件付きの非核化を打ち出すことで米国の「軍事的選択肢」をけん制。また、対価として体制保証のほか、米韓合同軍事演習の中止を求める可能性もある。一方のトランプ政権は「言葉でなく具体的な行動がカギになる」との立場で、米朝首脳会談を前に両者の駆け引きは激しくなりそうだ。  
金正恩氏が訪中 習主席と会談 3/28
中国と北朝鮮の国営メディアは28日、北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が中国を訪問していたと報じた。26日に日本のメディアが故・金正日氏が2011年に使ったものと類似する21両編成の列車が北京駅に到着した様子をとらえて以降、金委員長が訪中したとの憶測が流れていた。
報道によると、金委員長は李雪主(リ・ソルチュ)夫人と共に25〜28日に訪中した。金氏にとっては2011年に最高指導者となって以来、初めての外国訪問となる。
金委員長は4月に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と、5月にはドナルド・トランプ米大統領と会談する予定で、今回の訪中はこれに向けた準備とみられている。
中国国営新華社通信は、金委員長が習近平国家主席と「実りある会談」を行ったと伝えた。
新華社によると、金氏は会談で非核化への強い決意を表明し、「米韓が北朝鮮の努力に友好的な態度で応じ、平和的・安定的な雰囲気を作り出し、前向きで歩調が合った平和実現に向けた措置を取れば、朝鮮半島の非核化問題は解決できるだろう」と話したという。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は今回の訪問を、北朝鮮の主要な友好国である中国との相互関係を深める「一里塚」だと表現した。
また、習主席が北朝鮮への招待を受け入れたと報じている。
金委員長の訪中は、今年初めに始まった南北関係の緊張緩和が先月の平昌五輪でさらに進展し、北朝鮮をめぐる外交が活発になるなかでの最新の動きとなった。
北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返し、米国との激しいやりとりが続いていたが、トランプ大統領は先月、金委員長による首脳会談の要請を受諾。実現すれば、現職の米大統領としては初めて北朝鮮首脳と会談することになる。 
外交で笑顔の金正恩氏 裏で住民統制の徹底を開始していた 3/31
政権トップになって6年間、実質的に外交活動ゼロだった金正恩氏が、韓国政府の特使に会ったのを皮切りに、中国の習近平国家主席、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長に会うなど、外交の表舞台に姿を現した。国際社会には緊張緩和ムードが広がっているのたが、北朝鮮国内はまったく逆で、大々的な住民統制が始まっている。
去る3月19日、北部地域の取材協力者たちから、公共の場に「布告文」が張り出されたという報告があった。「反社会主義、非社会主義の行為をする者を厳罰に処すことについて」という題目で、全国で掲示されているものと思われる。まだ現物の写真を入手できていないが、住民に対しては、所属する機関、組織の会議で別途に、中国への越境、密輸や麻薬販売、中国の携帯電話の不法使用、資本主義的な経済現象、資本主義的な服装や髪形などを厳重に取り締まると、口頭で説明しているという。
街の辻々には「糾察隊」と呼ばれる取締り組織が立って道行く人々の身なりを検査している。これは昨年末に金正恩氏が演説で号令をかけて始まったものだ。「『糾察隊』はハサミを持って立っていてジーパンは切られてしまう」と北部地域に住む女性が怯えて伝えてきた。
金正恩政権は、2017年中は核・ミサイル開発にまっしぐらだった。国際社会から厳しい非難と制裁を受けた。年明け、平昌五輪参加を機に対話ムードに局面を転換させるのに成功した。それを見越して、あらかじめ国内引き締めを準備していたものと思われる。
なぜ融和をアピールしながら国内統制強化?
南北首脳会談が4月27日に開催されることが決まった。合わせて音楽やスポーツなどで韓国との文化交流が数多く行われる。金正恩氏自らも文在寅大統領と会談して和解や融和をアピールするのは間違いない。だが、これら交流は、北朝鮮の人々の心理や社会のムードに少なからぬ影響を及ぼす。韓国に対する警戒が緩み、洗練され先進的な韓国文化に対する憧れが増すことになる。
実際、2000年6月に金大中氏が平壌を訪れて金正日氏と会談して以降、北朝鮮の人々の韓国に対する敵対意識は、見事に溶解してしまった。国の絶対指導者が韓国を受け入れたのだから、人民もOKなのだろうというムードが拡散したのであった。
今、金正恩政権が進めている強力な国内統制は、南北接触の拡大を警戒してのことだ。韓国の存在を恐怖していることの現れである。
個人食堂を強制閉鎖 資本主義への警戒
もう一つ、対話局面が進むことの「副作用」として金正恩政権が警戒しているのは、国内で「資本主義でいいではないか」という空気が拡散することだと思われる。
咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者は3月初めに次のように報告してきている。
「突然、高利貸しの摘発が始まって騒ぎになっている。清津(チョンジン)市では月利50%で金を貸していたグループが捕まった。これまで放置されていたのに『金貸しは資本主義的現象だ』と容赦ない」
また、3月26日から個人が運営する食堂に対して閉鎖命令が出されたと、両江道の取材協力者が伝えてきた。
「市場周辺では、個人の家や屋台でそばやクッパ(汁ご飯)などの食事を出す食堂がたくさんある。おいしいと評判の店には列ができ、出前サービスをする店もあってはやっている。ところが、突然、商業管理所や公的機関、貿易会社に登録されていない個人運営の食堂は許されないと、保安署(警察署)が閉鎖させている」
社会主義の看板下ろすことは金一族の敗北
今や、北朝鮮の誰もが資本主義の韓国が豊かなことを知っている。南北朝鮮の体制間競争はすでに決着がついている。だからこそ、金正恩政権は社会主義の看板を絶対に下ろせない。なぜなら、それは金日成-金正日時代から唱え続けて来た「社会主義の優越性」を否定することになるからだ。つまり金一族による統治を根本否定することになるのだ。
人々の間に、「朝鮮民主主義人民共和国は必要なのか、大韓民国でいいではないか」という根源的かつ危険な考えが広がることが、金正恩政権にとっては何より恐ろしい。南北の融和・交流は、北朝鮮の絶対独裁体制にとって、国内統制強化とセットになって初めて踏み切ることができる。これが悲しい現実なのである。  
北朝鮮外交でカヤの外 安倍政権が1兆円で懇願する日朝会談 4/1
「最後のチャンスだ」――。
北朝鮮による拉致被害者家族らが30日、安倍首相と官邸で面会。4月中旬の日米首脳会談の際、金正恩委員長と会談する予定のトランプ大統領に対して拉致被害者の救出を働き掛けるよう求める決議文を手渡した。安倍首相は「日本の立場を改めてよく説明する。被害者の帰国をしっかりと実現する」と応じたが、手詰まり感は拭えない。南北会談、中朝会談も実現し、米朝会談も決まった今、北朝鮮問題で日本だけがカヤの外に置かれているからだ。「圧力」一辺倒で突き進んできた安倍外交「大失敗」の責任は重い。
「対話のための対話には意味がありません」
韓国・平昌冬季五輪の開会式に出席するために訪韓した安倍首相が、文在寅大統領との会談でこう迫ったのは2月9日。対北包囲網を強めるべき――とドヤ顔だったが、あれから約2カ月で状況はガラリと様変わりした。
気が付いたら“独りぼっち”になっていた日本政府は慌てて日朝首脳会談のシグナルを北に送っているようだが、北はもちろん、韓国や中国とも真摯に向き合ってこなかった安倍政権が相手にされるはずがない。米朝会談も中朝会談も日本は事前に何ら知らされておらず、報道で知って右往左往。安倍首相は「地球儀俯瞰外交」と自画自賛していたが、しょせんはこんな低レベルの外交だったのだ。
それなのに日本はいまだに「北が望むなら首脳会談をしてもいいよ」みたいな態度だが、北は安倍政権の“本音”をとっくに見透かしている。
3月29日付の労働新聞は〈永遠に平壌の敷居を越えられない〉と題した記事でこう書いている。
〈安倍一味は、軍事大国化に拍車を掛けながら、憲法を変え、日本を「戦争のできる国」にするために発狂している。軍国主義復活の妄想を持った日本にとって、朝鮮半島の緊張緩和は非常に面白くない〉
〈安倍一味が反共和国対決に悪辣にしがみついているのは、また他の邪悪な目的がある。安倍は森友問題をはじめとした不正醜聞事件で苦しい立場に陥り、文字通り辞任直前に置かれている。日本の各階層人民は、あちこちで「嘘つき内閣には、政治をする資格がない」「退陣しろ」と叫びながら、反政府闘争を展開している〉
〈慌てた安倍一味は、向けられた憤怒の矛先を他に向けるために「拉致問題」や「最大の圧力」と騒ぎ、政権を維持しようと必死になっている〉
いやはや、安倍政権の現状を的確に分析しているとは驚きだ。デイリーNKジャパン編集長の高英起氏はこう言う。
「米国は表向き、対北朝鮮で圧力を強調しつつ、裏では対話ルートを模索していた。しかし、日本は圧力一辺倒で何もなかったわけです。北が米中韓との関係改善を模索し始めた今、あえて日本と会談を持つ必要性は低い。北からすれば『どうしてもというのであれば平壌宣言の履行を確約しろ』と主張するでしょう」
小泉首相と金正日国防委員長が2002年9月に結んだ「平壌宣言」では、〈無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施(略)経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議する〉ことが盛り込まれた。一部報道では当時、経済協力の規模は総額100億ドル(1兆円)とも報じられた。
日朝会談に1兆円――。無為無策の安倍外交の成れの果てである。  
北朝鮮が「全方位外交」に舵を切った真の理由 4/4
 米国の先制攻撃リスクに屈したわけではない
北朝鮮が今年に入り、韓国や米国、中国、ロシアなどとの「全方位外交」に舵を切り、対話攻勢に大きく出ている。北朝鮮は昨年、国連決議に反して多くの弾道ミサイルを発射し、水爆とみられる核実験も強行した。しかし、今やこれまで何も問題を起こさなかったかのごとく対外的に「普通の国」として振る舞い始めている。
北朝鮮が積極的な外交攻勢にシフトした背景には何があるのか。4月末の南北首脳会談と5月の米朝首脳会談のポイントは何か。北の非核化ははたしてあり得るか。今後の展開はどうなるのか。本稿では、そうした点を考察していきたい。
この春は「サミット」が次々と開かれる
東アジアを舞台にした国際政治では今春、3月25〜28日の中朝首脳会談を皮切りに、「サミットシリーズ」が開幕したところだ。4月17〜20日の日米首脳会談、4月27日の南北首脳会談、5月上旬の日中韓首脳会談、そして同月中に行われる見込みの史上初の米朝首脳会談、さらには同月下旬には日ロ首脳会談も予定されている。それぞれの会談で北朝鮮問題が主要テーマになるとみられる。
北朝鮮情勢の分析で定評のある共同通信客員論説委員の平井久志氏は、3月31日に早稲田大学で行われた北朝鮮問題をテーマにした国際シンポジウムで、現在の情勢が北朝鮮の予想をも超えたドラスティックな展開に至っているとの見方を示した。
平井氏は「おそらく北朝鮮も平昌オリンピック参加と南北首脳会談までは計画していたと思う。しかし、米朝間での『早く会いたい』とのメッセージに対し、(ドナルド・)トランプ大統領がその場ですぐにオッケーするとは、北も予測していなかったのではないか」と述べた。
トランプ大統領が3月8日に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長の米朝首脳会談提案を即決で受諾したことが引き金となり、金委員長による電撃訪中も起きたとの見方が専門家の間では支配的になっている。
また、そもそもトランプ大統領が米朝首脳会談に応じる意向を示したことを受け、日本の安倍晋三首相も4月の日米首脳会談を急きょセットした経緯もある。
なぜ北朝鮮は対話攻勢にシフトしたのか
金委員長がここに来て、中朝首脳会談、南北首脳会談、米朝首脳会談の順で外交攻勢をかける背景には何があるのか。
慶應義塾大学の小此木政夫名誉教授は前述の国際シンポジウムで、北朝鮮が過去2年にわたってミサイル発射と核実験を行い、「軍事的な技術革新」と「軍事的な挑発」を結び付けた形で瀬戸際政策を継続してきたと指摘。そのうえで、今年に入ってからの対話路線への転換の背景には、「軍事力が持っている二面性や二義性を金正恩委員長が非常に鋭敏に理解している」ことがあると述べた。
小此木氏は、金委員長が過去に「軍事力が抑止力と外交力の2つの意味を持ち、果敢な外交を展開するためには軍事力が必要」との主旨の発言をしていたことを指摘。軍事的な技術革新と軍事的な挑発によって「抑止力の構築」と「外交力の蓄積」が図られ、現在の対話路線の外交政策に転換されたとの見方を示した。
この金委員長の考えは、奇しくも米国のジェームズ・マティス国防長官が常々言う「防衛力の強化は、外交の後ろ盾となって国際問題の外交的解決に資するためにある」との考え方に通じるものがある。
筆者は北朝鮮のこのところの外交攻勢の背景として、主に2つの理由を挙げてきた。
1つ目の理由としては、核ミサイル開発を巡る国際社会の経済制裁がじわじわと効果を上げてきていることがある。中国税関総署がまとめた最新のデータによると、2月の中国への輸出額は2009年以来の低水準に陥った。中国が北朝鮮の外貨獲得源となっている石炭や水産物などの輸出品などをことごとく禁輸にしたせいだ。中国は北朝鮮の貿易額の9割強を占める最大の貿易国だ。
2つ目の理由として、小此木氏の指摘通り、北朝鮮が米国相手にすでに十分な抑止力を確保し、自信を持ったことが背景にあるとみられる。北朝鮮は昨年11月29日、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である「火星15」の発射成功を受け、「米国本土全域を攻撃できる」と主張、「核武力完成」を宣言した。
このほか、日本のメディアでは、北朝鮮が米国による軍事攻撃の可能性に恐れをなして米国との交渉テーブルについたとの見方がある。しかし、筆者はこの見方にくみしない。
米国が北朝鮮を攻撃できるのなら、とうの昔にやっていたはずだ。北朝鮮を攻撃し、反撃を受けた場合の韓国や日本の被害リスクが甚大であると見込まれてきたことから、米国はこれまでも手を出せないまま、現在の混沌とした北朝鮮情勢に陥っている。
先制攻撃は困難
実際に米国は1994年の朝鮮半島第1次核危機や2003年の第2次核危機の際にも、北朝鮮への先制攻撃を検討したが、実行に移せなかった。当時、核兵器を開発中でまだ核保有国ではなかった北を、なぜ米国は攻撃できなかったのか。北朝鮮が軍事境界線からわずか40キロにあるソウルを狙って長射程砲とロケット砲を発射しただけでも、甚大な被害リスクが見込まれていたからだ。
1994年時や2003年時と比べ、今の北朝鮮の攻撃能力は核ミサイル能力を含め、格段に高まっており、日韓の被害はもっと大きくなる可能性が高い。また、北は自存自衛のための最後の手段として、核兵器のほか、炭疽(たんそ)菌や天然痘、ペストといった生物兵器、サリンなどの化学兵器のほか、既に北が示唆した電磁パルス(EMP)攻撃を行う可能性もある。北朝鮮の反撃による日韓の被害リスクを考えれば、米国の先制攻撃は到底考えられない。
文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁(ムン・ジョンイン)延世大名誉特任教授も前述の国際シンポジウムで、北朝鮮はこれまで常に米国からの攻撃を想定して備えてきた国であるため、トランプ大統領の強硬姿勢に恐れをなして対話に出てきたとの見方をきっぱりと否定した。
一方、小此木氏は、北朝鮮が平昌オリンピックを利用し、韓国との関係を改善したうえで米国との交渉に臨むという『先南後米』の路線を数年前から計画を立ててきたと指摘。そのうえで、北朝鮮が対話に出てきた理由としては、「計画的なものが半分、制裁の影響が半分」との見方を示した。
小此木氏は、経済制裁で北朝鮮を取り巻く将来の見通しが厳しくなっているのは事実と述べたものの、昨年9月以降の国連決議に基づく制裁の多くは、今年に入ってから実施されていると指摘。そのうえで「北朝鮮が直ちに制裁の効果のために膝を屈して、アメリカとの交渉に臨んでいるかといえばそうではない」と述べた。
また、小此木氏は、圧力に屈して北朝鮮が対話に臨んできたとトランプ大統領が判断すれば、北に対して即時の非核化など無理難題を押し付ける可能性があると述べた。
その一方、北が圧力に屈せずに計画的に米国との交渉に臨んでいるとトランプ大統領が考えれば、適当なところで北と手を打たなければいけない可能性が出てくると述べた。
南北首脳会談の焦点
4月27日に韓国側の板門店で予定される南北首脳会談の議題について、韓国は朝鮮半島の非核化や平和定着問題、南北関係の発展を中心とし、引き続き協議していく方針を示している。
このうち、北朝鮮が目指す「朝鮮半島の非核化」は、一筋縄ではいかない。在韓米軍の戦術核兵器は南北非核化共同宣言に基づき、1992年に撤去されている。北朝鮮のいう朝鮮半島の非核化とは、アメリカによる韓国の核の傘を外せというもの。つまり、在韓米軍の撤退を示唆している。また、北朝鮮はこれまで韓国とは核ミサイル問題を原則協議せず、米国とのみ話し合うとの立場を貫いてきたために、南北首脳会談で文大統領が金委員長を相手にどこまで北の非核化問題に詰め寄れるかに注目が集まる。
いずれにせよ、南北首脳会談は、米朝首脳会談に橋渡しをする「準備会合」の役割を果たすことになりそうだ。米朝首脳会談は、トランプ大統領と金委員長の予測不可能な言動を含め、不確実な要素が多いため、南北首脳会談が事前の「実務者会議」として重要になる。
自らに天賦の才が与えられ、ディール(取引)をさせれば世界一だと考えているトランプ大統領は米朝首脳会談でどのような合意を目指すのか。私は北朝鮮の金委員長との間で、朝鮮戦争の終結宣言や平和宣言が行われる可能性が高いとみている。会議場所が韓国のソウルや板門店になれば、文大統領も交えて、3者会談となる可能性もある。北朝鮮に拘束中の米国人3人の釈放も合意されるかもしれない。
金委員長は、非核化をちらつかせているが、実際には「行動対行動」「約束対約束」の原則にこだわり、時間を稼いでパキスタンのように事実上、核保有国として将来的に容認されることを目指しているとみられる。金日成から金正日、金正恩と親子3代、半世紀にわたって核ミサイル開発に注力してきた国がいとも簡単に「核の宝剣」(金委員長の言葉)を手放すとは考えられない。
北朝鮮に融和的な文政権も永遠に続くわけではなく、4年後には再び北に厳しい保守政権が誕生するかもしれない。国内でスキャンダルまみれのトランプ政権の先行きも定かではない。いまだ30代半ばで長期独裁体制が見込まれる若き金委員長は、米国との交渉や詳細な査察検証体制づくりの間、自らを核保有国として既定事実化し、体制を保証されていくことを狙っているとみられる。 
北朝鮮、核開発を中止へ 4/5
 中国に奴隷外交開始、米国からの軍事攻撃時の支援を嘆願
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が3月下旬の中国の習近平国家主席との首脳会談で、「トランプ米大統領は我々(北朝鮮)に何を求めているのか?」「中国は米軍が我が国に軍事侵攻しようとした際、助けてくれるのか?」などと再三にわたって、習氏に詰め寄っていたことがわかった。
習氏は「朝鮮半島の平和的環境を維持することは重要であり、中国は朝鮮半島問題に関して引き続き建設的な役割を果たしていきたい」と応じて、北朝鮮を支援することを約束した。米国を拠点にする中国問題専門の華字ニュースサイト「博聞新聞網」が明らかにした。
習氏は支援の条件として北朝鮮に対し、核実験や大陸間弾道ミサイル発射実験などの核開発を中止すること、中国に対する誹謗中傷をやめることなどを要求。このうえで、習氏は北朝鮮との国境に位置する中国・新義州に中朝経済開発区を創設するほか、対北経済支援の再開も了承したという。
朝貢外交
今回の首脳会談は明らかな朝貢外交だった。「中国は米帝国主義の走狗(犬)」などと最大級の対中非難を繰り返していた北朝鮮が、手の平を返して中国を礼賛し、あろうことか金氏が習氏を「兄貴」と呼んだからだ。これは北朝鮮の国営メディアである朝鮮中央通信が報じた、3月26日の習氏主催の晩さん会における金氏の挨拶全文を読めば明らかだ。
はじめに金氏は、今回の中国訪問は金氏が要請したことを明らかにしている。「朝中両国関係を代を継いで立派に継承・発展させる一念を抱き中華人民共和国を電撃的に訪問しました」として、金氏が自分の都合で「電撃的に訪問」したにかかわらず、習氏は「党と国家事業を導く多忙ななかでも自ら時間をつくって」、金氏ら一行を受け入れたと明かしたのだ。そのうえで、金氏は「我々を真の兄弟のように熱烈に歓待してくださっている尊敬する習近平総書記同志と彭麗媛女史に心から謝意を表します」と習夫妻に丁重にお礼を述べている。しかも、このなかで「真の兄弟のように」という表現で、金氏自身が習氏よりも下位の「弟」であることを認めてもいるのである。
このあとにも、金氏は「兄弟」という言葉を使っている。「川一つはさんで接する兄弟的隣人である両国」との表現で、北朝鮮は中国にとって「弟」であることを認めている。北朝鮮の最高指導者である金氏が、北朝鮮は中国の従属的立場にあることを明言するのは初めてであり、極めて異例。さらに、これを北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信が報じていることから、金氏は「自分は習近平主席の弟分」であると宣言しているようなものだ。
これはほんの3カ月前まで考えられない。まさに、朝貢外交そのものとしかいいようがない事態である。つまり、金氏は米朝会談に臨む前に「中国カード」を手に入れて、自身の身の安全を確保するために「電撃的に訪中」して、核兵器開発などの中止を受け入れたのである。これが、金氏の習氏に対する貢物(みつぎもの)だったわけだ。
訪中自体は大成功
それならば、習氏から金氏への返礼は何かというと、その一部は、すでに大きな話題になっているように、1本2000万円以上もするという最高級茅台酒である。金氏は晩さん会の挨拶の最後で、「尊敬する習近平総書記同志と彭麗媛女史の健康と幸福を祈念し、出席されたすべての同志の健康のため、乾杯を提案したいと思います」と述べて、乾杯の音頭をとったが、その際に飲み干したのがこの最高級茅台酒だった。
米政府系報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によると、この茅台酒は1960〜80年代産の限定版ブランド「矮嘴(ウェイズェイ)」で540ml入り。もうすでに生産されておらず、在庫もほとんどないことから、オンライン・ショッピングモールでは1本128万元(約2170万円)の値段がついている。小さいコップ一杯分が10mlとしても、それだけで40万円もする代物だ。
中国側は金氏一行に「矮嘴(ウェイズェイ)」を数本プレゼントしたほか、ほかの高級茅台酒やブランド物の高級酒、高級ブランド時計、高級タバコなどなど、数々の高級品を持たせて返したという。金氏が21輌編成のお召列車できたのも、中国からの大量のお土産を期待していたためとの見方も出ているほどだ。
いずれにせよ、今回の電撃訪中によって、金氏は中国の後ろ盾を得て米朝首脳会談に臨む環境を整えることができたわけで、訪中自体は大成功との見方が一般的だ。
一方の習氏にとっても、朝鮮半島情勢をめぐる一連の首脳会談が決まるなかで、中国は蚊帳の外とみられるなか、南北首脳会談や米朝首脳会談が行われる前に、いち早く中朝首脳会談を行ったことで、「北朝鮮カード」を手に入れることができたのは外交上極めて重要なファクターとなった。しかも北朝鮮の「兄貴分」として、金氏への大きな影響力を手にしたことは中国外交の本領発揮といえ、中国の存在を大きく誇示したかたちとなったのは間違いない。 
脱北した元北朝鮮外交官が警告「日本も対岸の火事ではいられない」 4/24
トランプがツイッターで北朝鮮に脅しをかける一方で、金正恩の真意がどこにあるのかは、まるで表に出てこない。北朝鮮の外交官だった韓氏が、日本メディアのインタビュー取材に初めて口を開く。
金正恩、恫喝外交の狙い
「アメリカと北朝鮮が一触即発になってきていますが、日本も対岸の火事ではいられません」
こう警告するのは、元北朝鮮の外交官で、'15年1月に韓国に亡命した韓進明氏(43歳)だ。金正恩外交について知り尽くした韓氏が今回、亡命後、初めて日本メディアの取材に応じた。
まず、金正恩政権がなぜあのような恫喝外交を行うのかを、考えてみる必要があります。
その目的は、ただ一つ。すなわち、アメリカとの2国間交渉を行いたいからです。金正恩政権が見据えているのは、トランプ政権だけなのです。
金正恩だって、単なる暴君ではありません。自分たちの行為が、一歩踏み誤ると、悪夢をもたらすことは自覚しています。
だからこそ私は、北朝鮮がいますぐ6度目の核実験を強行することはないと見ています。
トランプ政権は周知のように、今年1月20日に始動したばかりで、まだ海の物とも山の物とも知れない。それなのに、北朝鮮のほうから大きく動くことはありません。
特に、金正恩政権にとって、核実験は「最終カード」です。いずれ核実験に踏み切るとは思いますが、それは今後、最も効果的な時機を見計らってということになるでしょう。
それよりも、まずは首都・平壌で派手な軍事パレードを行って、新型ミサイルを誇示する。そしてそのミサイルの発射実験を、4月25日の朝鮮人民軍85周年に向けた「祝砲」として、強行する可能性が高い。
その新型ミサイルは、ICBM(大陸間弾道ミサイル)ではありません。ICBMの発射実験を行うと、万が一、アメリカ大陸、もしくはその近海に着弾したら、取り返しのつかないことになるのは自明の理です。
そのため、ICBMの発射実験は封印し、その代わりに、以前発射したことがあり、現在急ピッチで改良を加えている中距離ミサイルを撃つわけです。
北朝鮮では、私が所属していた外務省も、ミサイル実験や核実験に、間接的に関与していました。もし実験したら、どの国がどのような反応を示すかといったことを、上層部に報告していました。
金正恩委員長は、そういったことをすべて勘案した上で、決断するわけです。
金正恩はカネが欲しい
私が日本人に知っておいてほしいのは、今後、北朝鮮のミサイルの性能が上がっていくにつれて、日本の危険度が増すということです。
すなわち、いまは北朝鮮の近海に落下しているようなミサイルが、今後は日本列島のすぐ手前に着弾したり、もしくは日本列島を越えて着弾するようになるということです。
さすがに日本列島を標的にして発射実験を行うことはないでしょう。しかしミサイルというのは、どこに落下するか予測が立たないものです。
その意味では、ある日突然、北朝鮮のミサイルが、日本の都市部などを直撃するかもしれない。日本はしっかりと、その備えをしておくべきです。
ただ金正恩自身は、日本との関係修復を切望しています。なぜなら、日米韓3ヵ国の連携を断ち切りたいからです。
現状を見ると、アメリカ、日本、韓国の中で、最も北朝鮮との関係を修復しやすいのは日本なのです。
金正恩という指導者は、おそらく日本人が想像する以上に、経済発展に並々ならぬ意欲を抱いています。だから4月13日には、80棟の高層マンションなどが並ぶ黎明通りの竣工セレモニーを華々しく挙行したのです。
こうした点は、父親の故・金正日総書記と、まったく違います。そのため金正恩としては、一日も早く日本との国交正常化を果たして、日本から多額の経済援助を得たいのです。
私は、金正恩は南北赤化統一(北朝鮮による半島統一)を考えていないと見ています。金正恩が望むのは、自分の政権を維持することだけで、そのためには経済発展が必須なのです。
金正恩の心情を察すると、4月6日にアメリカ軍がシリアの空軍基地を初めて空爆した時、次は自国を空爆されるかもしれないという不安よりは、むしろホッとしたことでしょう。再びアメリカの視線が中東へ向かってくれると思ったに違いないからです。
そのため、オーストラリアへ向かっていた空母カールビンソンが急遽、北朝鮮に向かい始めたことは、意外だったでしょう。いずれにしても、北朝鮮は何とかして、アメリカとの2国間交渉に持ち込みたいのです。
だが、アメリカがなかなか振り向いてくれない中で、北朝鮮は世界各国に「橋頭堡」を築こうとしています。その先兵役を担っているのが、われわれ外交官です。
例えば、東南アジア地域では、2月13日の金正男暗殺事件で話題になったマレーシアの北朝鮮大使館が、橋頭堡になっています。私は'14年12月まで、ベトナムの北朝鮮大使館に勤めていたので、事情をよく知っています。
'11年12月に死去した金正日総書記は、「中国に対する依存度を減らして行くように」との遺訓を残しました。それを受けて金正恩委員長は、東南アジア外交を重視するよう外務省に命じていました。
一例を示すと、以前は東南アジアの物品を輸入する際、必ず大連港を経由して北朝鮮に運んでいました。それがいまでは、ベトナムに一度集めてから、貨物船で直接、北朝鮮に運んでいます。そのためハノイの北朝鮮大使館には、陸海運送代表部を置いています。
処刑に怯える外交官たち
北朝鮮の外交官は、金正恩委員長を偶像崇拝する洗脳教育を、徹底的に受けさせられます。そのため私も、自分が韓国に亡命するまでは、金委員長は偉大な存在なのだと、純粋に信じていました。
いまからちょうど5年前に、金正恩体制が本格始動した際、「外務省指針書」が下達されました。そこには、「即時接手、即時執行、即時報告」というスローガンが書かれていました。要はモタモタせず、直ちに仕事を処理しろということです。
特に、金正恩委員長から指示が来た場合には、その日のうちに執行して報告しなければなりません。
かつて金正日総書記は、「外務省は海外に勤務する軍隊だ」と言っていました。そのため金正日時代に、外務省は軍隊式の組織に変わりました。
それがいまの金正恩時代になってからは、軍隊式に加えて、自分のちょっとしたミスや親属関係が、命取りになるようになったのです。そのため先代の時とは、緊張感がまるで違います。
例えば、'13年12月に、金正恩委員長は叔父の張成沢党行政部長を処刑しました。その直後、北京の北朝鮮大使館で、各国駐在大使の会議を開くと通知して、大使たちを北京に集めました。
その上で、張成沢の長兄の次男・張勇哲駐マレーシア大使と、張成沢の姉の夫・全英鎮駐キューバ大使だけを、国家保衛省が引っ捕らえて、平壌に連行したのです。
両大使はその後、家族もろとも処刑されました。北京では大使会議など開かれず、駐ベトナム大使はすぐにハノイに戻って来て、私たちに恐怖の体験を語りました。
今年2月13日に起こった金正男暗殺事件に関しても、私にはピンとくることがありました。
当日、クアラルンプール空港にいたとされる4人の実行犯の中の1人、リ・ジヒョン書記官は、ベトナムの北朝鮮大使館で私の前任者で、よく知っています。彼は一度、ベトナム大使館時代に、視聴が禁止されている韓国ドラマにハマりました。
それを、大使館の国家保衛省員が発見。平壌でベトナム代表団の通訳が足りないからという口実で、リ書記官を一時帰国させ、政治犯収容所送りにしたのです。おそらく、今回の犯行を成功させることで、その罪を贖わせたのだと思います。
ともあれ、金正恩からいったん暗殺命令が下されれば、われわれは地球の裏側まで行ってでも、対象者を暗殺しなければなりません。
いまの金正恩は、外部がありのままに見えない状況に陥っています。
例えば、金正恩は平壌駐在の中国大使に、一度も接見したことがありません。そのことによって、自分が中国よりも偉い存在だと勘違いしている。
確かに政治的には、北朝鮮は中国から、完全に独立していますが、経済的には大きく依存しています。中国との関係をぞんざいにしてはならないのに、アメリカとさえ2国間交渉できれば、道は開けると思っている。
ところがそのアメリカは、ますます金正恩政権に冷淡になっているのだから、皮肉なものです。 
 

 

 
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南北首脳会談 金正恩の野望と対日方針 
キーワードは「一致」
まるで南北離散家族の親子が再会したかのような、晴れがましい握手と抱擁−−。
4月27日、3回目となる南北首脳会談が、南北を隔てる板門店の韓国側で行われた。2000年6月の金大中大統領と金正日総書記の会談は、「和解」だった。2007年10月の廬武鉉大統領と金正日総書記の会談は「発展」だった。そして今回の会談のキーワードは「一体」である。
午前9時29分、南北境界線の北側「板門閣」から金正恩委員長が現れ、南側に立って待つ文在寅大統領の方に、のっしのっしと歩き出した。そして南北境界線の「板」を挟んで、二人は握手を交わした。
この両首脳の初対面の挨拶の場面を、少しでも臨場感を持たせるために、ハングルをカタカナ表記してから訳出する。
金正恩:パンガプスムニダ(お会いできて嬉しいです)
文在寅:オシヌンデ ヒムドゥルジ アナッスムニカ?(いらっしゃるのに大変でなかったですか?)
金正恩:アニムニダ(いいえ)
文在寅:パンガプスムニダ(お会いできて嬉しいです)
金正恩:チョンマル マウム ソルレミ クチジアンコヨ、クロッケ ヨクサジョギン チャンソエソ マンナニカ、ト テートンリョンケソ イロン プンゲソンカジ ナワソ マジヘジュンデ テヘソ チョンマル カムドンジョギムニダ(本当に胸がドキドキして止まらないです、こんな歴史的な場所で会ったので。また大統領がこんな境界線まで来て迎えてくれたことに対して、本当に感動的です)
文在寅:ヨギカジ オンゴスン ウィウォンジャンニム アジュ クン ヨンダンイオッスムニダ(ここまで来ることは、委員長様はとても大きな勇断でした)
金正恩:アニアニ、アニムニダ(いやいや、そんなことありません)
文在寅:ヨクサジョギン スンガヌル マンドゥロッスムニダ(歴史的な瞬間を作りました)
金正恩:パンガプスムニダ(お会いできて嬉しいです)
文在寅:イッチョグロ ソシルカヨ?(こっち側にお立ちになりますか?)
(金正恩委員長が、よっこいしょと南北境界線をまたいで、韓国側に立った)
文在寅:キム ウィウォンジャヌン ナムチョグロ オシヌンデ ナヌン オンジェッチュム ノモガルスイッケンヌニャ(金委員長は南側にいらっしゃったのに、私はいつになったら越えることができるだろうか)
金正恩:クロム チグム ノモガボルカヨ(それなら今、越えてみますか)(そう言って文在寅大統領の手を取って、南北境界線をまたいで北朝鮮側に渡った)
このように、通訳を通さずにスラスラと会話が進んでいくところに、同じ民族の「心地よさ」を感じる。 
金正恩「無言の意思表示」
それにしてものっけから、金正恩委員長が突然、文在寅大統領の手を取って、境界線の北側に「案内」したことはサプライズだった。世界中から集まった4000人以上の記者たちが、このビッグ・サプライズの見証者となった。
私は、NHKの生中継で見ていたが、この直後に興味深いことが起こった。二人で再び手を取り合って、境界線を南側に渡る際、文在寅大統領は慎重に境界線を跨(また)いだ。ところが金正恩委員長は、境界線を踏んづけて渡ったのである。「境界線などなくしてしまえ!」という無言の意思表示に思えた。
両首脳は、境界線から歩いて、300人の儀仗隊による栄誉礼の歓迎を行った。衣装や音楽は、朝鮮民族の伝統的な様式である。金委員長の後ろには、妹の金与正党第一副部長がついている。与正副部長はこの日、兄の秘書役を務め、李雪主夫人は晩餐会になって参加した。
文在寅:外国の人々も、わが伝統の儀仗隊が好きです。ただ、今日お見せしている伝統的な儀仗隊は略式で、残念です。「青瓦台」(韓国大統領府)にいらっしゃれば、素晴らしくよい場面をお見せすることができるのですが。
金正恩:あっ、そうですか? 大統領が招待してくだされば、いつでも青瓦台に行きますよ。
この金委員長の返答は、2番目のサプライズである。1968年1月、青瓦台に朴正煕大統領暗殺部隊を送り込んだ祖父・金日成主席は、草葉の陰で何と思うだろうか?
儀仗隊の奏でる伝統音楽を聞きながら赤絨毯の上を歩いた両首脳は、共に笑顔だった。
金正恩:今日この場所に来て、閲兵が終わったら戻らなければならない者たちもいる。
文在寅:それなら帰られる前に、南北公式随行員が皆で、写真を撮ったらいい。
朝鮮半島の人たちは、基本的にアドリブで生きているから、予定になかった全員での写真撮影となった。 
自虐と最上級敬語
それが終わると、南北首脳会談を行う「平和の家」に入った。金正恩委員長は、与正第一副部長から万年質を渡され、芳名録に記帳した。
「新しい歴史はこれから。平和の時代、歴史の出発点にて。金正恩 2018.4.27」
北朝鮮国民には、「主体107年」を徹底させているというのに、ここでは主体暦でなく西暦でサインした。
ロビーには、ミン・ジョンギ画伯の「北漢山」(ソウル北郊の山)の大型の絵(452・5p×264・5p)が掛かっていた。そこは板門店だが、ソウルに招待した気分になってもらおうと、国立現代美術館から借り受けたのだという。
金正恩:これはどんな技法で書かれたのか?
文在寅:西洋画ですが、われわれの東洋的な技法で書かれた。
両首脳は、1階の歓談室に入った。陪席者は、北朝鮮側が金与正党第一副部長と金英哲党統一戦線部長、韓国側が任鍾ル大統領秘書室長と徐勲国家情報院長である。
テーブルの後ろの壁には、写真作家・金重晩の作品『訓民正音』が掛かっていた。以下、歓談内容を訳出する。
文在寅:この作品は、世宗大王がお創りになった訓民正音のハングルを作品にしたものだ。ここを見ると、「サロ サマッディ」とある。「互いに通じる」という意味で、文字に「□」(m音)が入っている。「メンガノニ」とは「作る」という意味だ。そこに「フ」(k音)を特別に表示してある。「互いに通じ合って作る」という意味で、文在寅の頭文字の「□」と、金正恩委員長の頭文字の「フ」になっているのだ。
金正恩:細部に至るまで、心使いしていただいているんですね。
文在寅:ここまでは、どうやって来られたのか。
金正恩:明け方に車に乗って、開城を経由して来た。大統領も早朝に出発なさったのでしょう。
文在寅:私はたったの52q下ってきただけで、1時間程度で着いた。
金正恩:大統領は、われわれ(北朝鮮)のせいで、国家安保会議(NSC)に何度も出席されているのだから、明け方に起きるのが、習慣になっているでしょう。
文在寅:金委員長が、われわれの特使団が(3月5日平壌に)行った時、前向きなお言葉を下さってからは、枕を高くしてなられるようになった。
金正恩:大統領が明け方に寝そびれないよう、私が保証しよう。わずか200mを来ながら、なぜこれほど遠く見えたのか、また、なぜこれほど困難だったのかを考えた。もともと平壌で大統領と会おうとしていたのだが、ここで会った方が、さらによかったです。
対決の象徴である場所で、多くの人が期待を持って見ています。来ながら思うに、故郷を追われた人や脱北者、延坪島の住民など、いつ北朝鮮軍の砲撃を受けるか知れないという不安感に苛まれていた方々も、今日われわれの出会いに、期待を持っていると思いました。この機会にを大事にして、南北間の傷が癒やされる契機になれば嬉しいです。分断線は高くもないのだから、多くの人たちが踏んで進んだなら、なくなってしまうのではないか。
文在寅:青瓦台から来たのですが、道路に多くの住民たちが歓声を上げてくれた。それほど今日はわれわれの出会いに対する期待が高いのだ。(軍事境界線近くの)大成洞の住民たちも皆集まって、写真を撮った。
われわれの肩は重い。板門店をスタートとして、平壌とソウル、済州島、白頭山でも続けて会えればよいと思う。(歓談場の前に掛かっている)左の絵が「長白の滝」で、右側が済州島の「城山日出峰」の絵だ。
金正恩:文在統領は、(北朝鮮の革命の聖山)白頭山に対して、私よりもよく知っておられるようだ。
文在寅:私は、白頭山に行ったことがない。だが中国側から白頭山(中朝国境の山となっている)に行く韓国人が多いのだとか。私としては、北(朝鮮)の方を通って、必ず白頭山に登りたいと思っている。
金正恩:文大統領がいらっしゃれば、正直言って心配なのは、わが国の交通が不備で、不便をかけるのではということだ。平昌オリンピックに行ってきた人たちが言っていたが、平昌の高速列車がとてもよかったのだとか。南側のそのような繁栄に較べて、北に来れば本当に貧乏くさいと思うだろう。われわれも準備して、大統領がいらっしゃる時には心地よく接待しようと思う。
文在寅:今後は北側と鉄道が連結すれば、南北がすべて、高速鉄道を利用できるようになる。そのようなことが、(2000年)「6・15合意」と(2007年)「10・4合意」に込められているのに、10年の間、それらを実践できなかった。南北関係が完全に変わってしまい、それが続いてきたことが恨めしい。金委員長におかれては、大きな勇断によって、10年間切れていた血脈を、今日再び繋いだのだ。
金正恩:期待が大きい分、懐疑的な見方もある。大きな合意を果たしておいて、10年以上も実践できなかった。今日会ったのも、ただ会っただけでその結果どうなるというのだという懐疑的な見方もある。
短い時間歩いてここまで来たというのに、本当に11年もの年月がかかったのだと思ったものだ。そのようなわれわれが、11年間果たせなかったことを、100何日の間に、頼もしく駆け寄ってきたのだ。固い意志を持って共に手を握ってゆけば、いまよりもできないということがあろうか。
大統領様は、私とここで会えば不便ではないかと思ったりもしたが、それでも親書と特使を通して、事前に対話をしていたので、心は軽かった。互いに対する信頼と信心が重要だ。
文在寅:(陪席した金与正第一副部長を指して)金副部長は、南側では大スターになったよ。今日の主人公は、金委員長と私だ。過去の失敗を鑑として、うまくやることだ。過去には、政権の中間や終わりごろになって合意がなされたため、政権が変われば実践されなくなった。私の政権は、まだ始まって1年だ。私の任期のうちに、金委員長の新年賀詞から今日に至るまで駆け上がってきた速度を、今後とも維持すればよいと思う。
金正恩:金与正副部長の部署で、「万里馬速度戦」という言葉を作ったが、南と北の統一の速度のこととしよう。
任大統領秘書室長:薄氷の上を歩く時は落っこちないようにするためには、速度を遅くしてはいけないという言葉がある。
文在寅:過去を振り返れば、最も重要なものは速度だ。
金正恩:これからは何度も会おうではないか。これからは心をしっかり固くして、再び原点に立ち戻ることがないようにしないといけない。期待に応えて、よい世の中を作ろうではないか。今後われわれも、しっかりやりましょう。
文在寅:北側で大事故が起きたと聞いた。収めるのに大変だったことだろう。金委員長におかれては、直接病院まで見舞いに行かれ、特別列車も仕立てて配慮したという話を聞いた。
金正恩:対決の歴史に終止符を打ってきて、われわれの間に引っかかっている問題に対して、大統領と膝を合わせて解決していこうとして来た。必ずやよい未来が来ると確信が持てるようになった。
文在寅:韓半島(朝鮮半島)の問題は、われわれが主人だ。それでも世界と共に進んでゆくわが民族とならねばならない。われわれの力でもって統率し、周辺国がついてこられるようにしなければならない。
以上である。だいぶ長くなってしまったが、両首脳のホンネが透けて見える。
まず、金正恩委員長が自虐ネタを連発したのことが、3つ目のサプライズだった。自分たちがミサイルを打ちまくるから文在寅大統領が早起きしないといけなくなったとか、白頭山は北朝鮮側から上るとみすぼらしいとかいったことだ。それらを、非常にきちんとした最上敬語の中で使っている。
一方、文在寅大統領は、31歳年下の金正恩委員長に対して、語尾に敬語を使っていない。また、「速度が最も大事だ」とか「韓半島の問題はわれわれが主人公だ」と強調しているのは興味深かった。総じて言えば、金正恩委員長の方が開放されていて、文在寅大統領の方が北朝鮮ぽいイメージなのである。 
独裁者がジョークを飛ばすとき
続いて、10時15分から11時55分まで、午前中の南北首脳会談が行われた。
首脳会談に参加したのは、北朝鮮側は10人だった。金正恩委員長以下、金永南最高人民会議常任委員長、金与正党第一副部長、金英哲党副委員長、李明秀総参謀長、朴英植人民武力相、崔輝党副委員長、李勇浩外相、李洙ヨン党副委員長、李善権朝鮮平和統一委員長である。
一方の韓国側は8人。文在寅大統領以下、宋英武国防部長官、任鍾ル大統領秘書室長、康京和外交部長官、趙明均統一部長官、鄭義溶大統領国家安保室長、徐勲国家情報院長、鄭景斗軍合同参謀議長である。
冒頭の発言は、金正恩委員長の方から行った。
金正恩:私は軍事境界線を越えてきたが、越えがたい高さではないし、いとも簡単に越えた。11年もかかったのに、今日歩いて来ながら思うに、なぜこれほど、こんなに時間がかかったのか、なぜかくも大変だったのかという思いが湧いた。
今日、この歴史的な場所で、さっきも話したが、期待している方も多く、過去の時のように、いくら素晴らしい合意や文が発表されても、それを履行できなければ、むしろこのような会合を持っても、よい結果がよく発展させられないならば、期待を抱いた方々に、むしろ落胆を与えてしまうのではないか。
今後、しっかりした気持ちを持って、われわれが失われた11年の歳月を惜しむほどに、何度も会い、引っかかっている問題を解きほぐしていき、心を合わせ意志を結集させる。そうした意志を持てば、失われた11年を惜しまなくなってよいのではないかと、そのようなことが万感胸を交差する中で、200mを歩いてきた。
平和と繁栄の北南関係に、新たな歴史が記される出発点から、信号弾を放つのだという、そんな気持ちを持ってやって来た。今日、懸案問題の数々、関心事項の問題を消し去るよう話をして、よい結果を作り出し、この場所を借りて過去の時期のように履行できずに原点に戻っていくことよりも、しっかりした心を持って、未来を見据えながら、指向性を持って手を携えて歩いてゆく契機となり、期待に応えられるようになればよい。
今晩の晩餐の料理を持って、もう話が多く出たように、大変だったけれども、平壌から平壌冷麺を持ってきた。大統領におかれては、気持ちよく遠くから持ってきた平壌冷麺を、あっ、遠いという言葉を使ってはダメだったな(金与正を眺めて笑う)。おいしくいただいてもらえばよい。
今日は本当に虚心坦懐に、真摯に、正直にと、そのような気持ちで本日、文在寅大統領様とよい話をして、必ず必要な話をして、よい結果を作り出していけたらよいということを、文大統領の前で申し上げ、記者の皆さんに対しても言っておく。ありがとう。
文在寅:本日、われわれの会談を祝福するように、快晴の天気に恵まれた。韓半島は春の真っ盛りだ。そして韓半島の春に、世界中が注目している。世界の目と耳が、板門店に注がれている。
南北の国民と、海外の同胞たちが抱いている期待も、大変大きい。それだけにわれわれ二人の肩は重たいと思う。わが金正恩委員長が、史上初となる軍事境界線を越えてきた瞬間、板門店は分断の象徴ではなく、平和の象徴となったのだ。国民たちと世界の期待が大きく、今日この状況を作り出した金正恩委員長の勇断に対して、いま一度敬意を表したい。
今日われわれはしっかりと対話を交わし、合意に至り、われわれの全民族及び平和を願う世界のすべての人々に、大きな贈り物を与えられたらよいと思う。今日は一日中、話をする時間があるから、10年間待ってきただけに、十分な話ができることを願うものだ。
会談の冒頭から再び、金正恩委員長のジョークが飛び出した。一般に、独裁者がジョークを飛ばす時は、ものすごく機嫌がよい時だ。
一方、文在寅大統領が述べた「分断の象徴から平和の象徴へ」というフレーズは、この日の首脳会談のテーマだ。また、「10年間待ってきた」という言葉の裏には、いかに李明博、朴槿恵の両政権がひどかったか、そして両元大統領が監獄へ行くのは当然だというメッセージが込められている。思えば、韓国にしても北朝鮮にしても、トップ同士は笑って握手しているが、その周囲は死屍累々だ。 
南北首脳会談の内容は、朝鮮半島の非核化、朝鮮戦争の休戦協定処理、南北間交流の3本立てである。これについては後述する。
両首脳の締めくくりの言葉は、以下の通りだ。
金正恩:私が申し上げれば、高低差は飛行機でいらっしゃれば便利ですから。われわれの道路というのは、さっきも申し上げたが不便です。私が今日、下りてきてみて、やはりいらっしゃるなら、空港で歓迎の儀式を行いと、このようにすればうまくいくと思います。
文在寅:その程度は、また置いておいて、時期が迫ってきたら論議する風にしてもよいでしょう。
金正恩:今日ここで、次の計画まですべてやってしまう必要はないでしょう。
文在寅:今日はとてもよい議論がたくさんなされて、われわれはとても南北の国民たちに、全世界の人たちに、とてもプレゼントがあげられるようです。
金正恩:たくさん期待しておられた方々に対して、もちろんこれは始まりで、氷山の一角にすぎないけれども、われわれは今日、初めて会い、今日初めて話をして発表してとなれば、期待されていた方々に少しでも満足していただければと願います。
文在寅:ありがとうございました。
金正恩:ありがとうございました。 
二人きりで話したこと
11時55分、午前中の南北首脳会談が終わると、金正恩委員長は、いったん一行を引き連れて南北境界線を越え、北朝鮮側に戻った。金正恩委員長が乗ったベンツを、12人の青ネクタイをしたSPが取り囲んで走るという北朝鮮独特の光景が見られた。
ここから長い作戦タイムとなった。
次に金正恩委員長が南北境界線を越え、記念植樹を行ったのは、すでに西日が差した午後4時半になっていた。予定では、昼食は別々に取り、昼食後すぐに記念植樹となっていたが、4時間半も延々と作戦会議が続いたのである。これが、4つ目のサプライズだ。
南北境界線から200mしか離れていない場所で、1953年に芽が出た松の木に、「平和と繁栄を植える」作業を行った。まずは金正恩委員長が漢拿山(済州島にある聖山)の土をかけた。続いて文在寅大統領が、白頭山の土をかけた。その後、金委員長が漢江の水をかけ、文大統領が大同江(平壌を流れる河)の水をかけた。
植樹イベントの後、5つ目のサプライズが起こった。予定では、両首脳が歩道を散策し、1953年の休戦協定の時に作られた「徒歩橋」と呼ばれる青い橋(青色は国連軍の色)を渡って戻ってくることになっていた。ところが両首脳は、徒歩橋の麓に置かれたベンチに腰かけて、4次36分から5時12分まで、36分間も話し込んだのである。この「徒歩橋会談」が事実上、午後の南北首脳会談となった。
36分中、最初の8分間は、両国の代表カメラマンが近くで撮影していたが、残りの28分は、通訳も速記係もなく、完全に二人きりである。
私はテレビの生中継で、二人の表情を追っていたが、多くは文在寅大統領が話し、金正恩委員長が、真剣な眼差しで聞き役に回っていた。
これは私の推測だが、金正恩委員長には、計り知れない内外のプレッシャーがかかっていたはずだ。内については、これまで党是だった核開発をストップするというのだから、120万朝鮮人民軍の反乱が起こるリスクがある。また外については、5月か6月に行われる予定のトランプ大統領との米朝首脳会談が、北朝鮮の存亡を決める「世紀の会談」となることは確実だ。
そんな中で、どこまで文在寅政権に託してよいかについて、北朝鮮としては逡巡を極めたものと思われる。上記の「10人組」で言うなら、最も文在寅政権にのめり込んでいるのは、金正恩委員長本人である。一方、文在寅もトランプも信用ならないというのが、軍強硬派の李明秀総参謀長と朴英植人民武力相あたりではなかったか。残りは日和見主義者だが、このまま経済制裁が続いたら国が崩壊してしまうのは、誰の目にも明らかだった。
そんなことで侃々諤々の議論になって、午後一杯かかってしまった。つまり、北朝鮮内部で揉めたのだ。そして最後は、金正恩委員長に一任となり、金委員長は韓国側に、絶対に文大統領と一対一で話せて、しかも盗聴されにくい場所を希望した。それには、戸外しかなかったのである。金委員長にしてみれば、文大統領の部下たちも信用できないが、自分が連れてきた部下たちも信用できないのだ。
そこで、徒歩橋のベンチに、冷たい水と温かい茶が用意された。金正恩委員長は水を飲み、文大統領は茶を啜っていた。金委員長は、極めつけのヘビースモーカーなので、本当ならタバコを口にしたかったはずだが、そこは儒教社会の朝鮮民族だけあり、31歳年上の文在寅大統領に遠慮して我慢した。その分、喉が渇いて仕方なかったのだろう。
金委員長は、自らが納得いくまで文大統領に質問をぶつけ、それに対して文大統領は、真剣に答えた。南北の対立関係をどう終わらせるか、トランプ大統領をどう御していくか、国連の経済制裁をどうやって解くか、在韓米軍をどうやって撤退させるか、そしてどうやって統一作業を進めていくか……。
結論として、若い金正恩委員長は、やはり文在寅大統領に託すことにした。彼なら「同盟より同胞を選択する」と判断した。朝鮮語で言うところの「ミドゥム」である。
ピッタリ来る日本語がないのが残念だが、一番近いのは「信」の漢字だろう。文在寅大統領の政治の兄貴分である故・廬武鉉大統領が訪日した際、私は会見に参加したが、「政治はミドゥムである」と言って、この単語を連発していた。この一年の文在寅政治も、北朝鮮に対するミドゥムがベースになっている。
金正恩委員長は、徒歩橋のベンチを離れて「平和の家」に向かう帰路の約10分間も、引き続き、食い下がるように文在寅大統領に問いかけていた。 
日本は共通の敵?
両首脳は一度、「平和の家」に戻ってから、再び戸外へ出て、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」の署名式を行った。この「板門店宣言」に関しては、日本のいくつかのメディアがすでに日本語に訳しているので、ここでは時事通信社版を引用する。

大韓民国の文在寅大統領と朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長(朝鮮労働党委員長)は平和と繁栄、統一を念願する全民族の一致した思いを込め、朝鮮半島で歴史的な転換が起こっている意義深い時期に、2018年4月27日、板門店平和の家で南北首脳会談を行った。
両首脳は、朝鮮半島にこれ以上戦争はなく、新しい平和の時代が開かれたことを8000万のわが民族と全世界に厳粛に宣明した。
両首脳は冷戦の産物である長い間の分断と対決を一日も早く終息させ、民族の和解と平和繁栄の新たな時代を果敢に開いていき、南北関係をより積極的に改善し発展させていかなければならないという確固たる意志を込め、歴史の地、板門店で次のように宣言した。
1、南北は、南北関係の全面的、画期的な改善と発展を成し遂げることにより、断たれた民族の血脈をつなぎ、共同繁栄と自主統一の未来を引き寄せていく。南北関係を改善し発展させることは、全民族の一致した望みであり、これ以上先送りできない時代の切迫した要求だ。
(1)南北は、わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則を確認し、既に採択された南北宣言とあらゆる合意を徹底して履行することにより、関係改善と発展の転換的局面を開いていくことにした。
(2)南北は、高官級会談をはじめとした各分野の対話と交渉を近く開催し、首脳会談で合意された問題を実践するための積極的な対策を立てていくことにした。
(3)南北は、当局間協議を緊密に行い、民間交流と協力を円満に保障するため、双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所を(北朝鮮の)開城地域に設置することにした。
(4)南北は、民族の和解と団結の雰囲気を高めていくため、各界各層の多方面の協力と交流、往来と接触を活性化させることにした。今後は6月15日をはじめ南北共に意義がある日を契機にして当局と国会、政党、地方自治体、民間団体など各界各層が参加する民族共同行事を積極的に推進し、和解と協力の雰囲気を高め、外では18年アジア大会をはじめとした国際競技に共同で出場し、民族の技術と才能、団結した姿を全世界に誇示することにした。
(5)南北は、民族分断により発生した人道問題を早急に解決するために努力し、南北赤十字会談を開催し、離散家族・親戚再会をはじめとしたさまざまな問題を協議、解決していくことにした。当面、来る8月15日を契機に離散家族・親戚再会事業を行うことにした。
(6)南北は、民族経済の均衡の取れた発展と共同繁栄を成し遂げるため、10.4宣言(07年の南北平和宣言)で合意された事業を積極的に推進していき、一次的に東海線ならびに京義線の鉄道と道路を連結し現代化して活用するための実践的な対策を取っていくことにした。
2、南北は、朝鮮半島で先鋭化した軍事的緊張状態を緩和し、戦争の危険を実質的に解消するため、共同で努力していく。
(1)南北は、陸上と海上、空中をはじめとしたあらゆる空間で軍事的緊張と衝突の根源となる相手に対する一切の敵対行為を全面中止することにした。当面、5月1日から軍事境界線一帯で拡声器放送とビラ散布をはじめとしたあらゆる敵対行為を中止し、その手段を撤廃し、今後非武装地帯を実質的な平和地帯にしていくことにした。
(2)南北は、黄海の北方限界線(NLL)一帯を平和水域にし、偶発的な軍事的衝突を防止し安全な漁業活動を保障するための実質的な対策を立てていくことにした。
(3)南北は、相互協力と交流、往来と接触が活性化されるのに伴うさまざまな軍事的保障対策を取ることにした。南北は、双方の間に提起される軍事的問題を遅滞なく協議、解決するために、国防相会談をはじめとした軍事当局者会談を頻繁に開催し、5月中にまず将官級軍事会談を開くことにした。
3、南北は、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築のために積極的に協力していく。
朝鮮半島で不正常な現在の休戦状態を終息させ、確固たる平和体制を樹立することは、これ以上先送りできない歴史的課題だ。
(1)南北は、いかなる形態の武力も互いに使用しないことについての不可侵合意を再確認し、厳格に順守していくことにした。
(2)南北は、軍事的緊張が解消され、互いの軍事的信頼が実質的に構築されるのに伴い、段階的に軍縮を実現していくことにした。
(3)南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を積極的に推進していくことにした。
(4)南北は、完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認した。南北は、北側が取っている主動的な措置が朝鮮半島非核化のため非常に意義があり重大な措置であるということで認識を共にし、今後、それぞれが自らの責任と役割を果たすことにした。南北は、朝鮮半島非核化に向けた国際社会の支持と協力(獲得)のため、積極的に努力することにした。
両首脳は、定期的な会談と直通電話を通じて民族の重大事を随時、真摯(しんし)に論議し、信頼を固め、南北関係の持続的な発展と朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた良い流れをさらに拡大させていくために、共に努力することにした。当面、文在寅大統領は今秋平壌を訪問することにした。
2018年4月27日 板門店
   大韓民国大統領 文在寅
   朝鮮民主主義人民共和国国務委員長 金正恩

この長文の板門店宣言を精読して、思わず唸ってしまった。一言で言えば、アメリカを抜きにして南北で行けるところまで突き進んで行く。そして日本を「共通の敵」としていくことが暗示されている。 
「共同反日戦線」
もう少し整理してみよう。「板門店宣言」の主な合意点とポイントは、以下の通りだ。
○わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則を確認した。→朝鮮半島のコアの部分は、あくまでも韓国と北朝鮮の2ヵ国であるという主張で、文在寅政権が「同盟より同胞を重視する」ことを示唆している。
○南北共同連絡事務所を開城(ケソン)地域に設置する。→2000年の南北首脳会談後の和解の象徴だった開城工業団地は、国連の経済制裁が解かれるまで再開できない。そのため、早く再開できるよう国際社会にプレッシャーをかけているという意味合いがある。
○南北共に意義がある日を契機にして民族共同行事を推進する。→日本にとっては、この部分が警戒ポイントの一つである。「南北共に意義がある日」とは、3月1日の抗日独立運動記念日、8月15日の光復節など、日本を共通の敵とした日のことだ。つまり、竹島問題や歴史問題などについて、今後は堂々と「共同反日戦線」を張ると言っているのだ。
加えて、近未来に日朝国交正常化を果たす際には、北朝鮮は35年間の植民地支配の代償として多額の経済援助を日本から得ようとしているが、韓国がそのサポートを行うという伏線も張られている。
○18年アジア大会をはじめとした国際競技に共同で出場する。→これは、2月の平昌オリンピック参加で、「スポーツは政治に利用できる」と、北朝鮮が味をしめたため、ジャカルタで今夏に開かれるアジア大会(8/18〜9/2)でも同じ手を使おうということだ。
○8月15日を契機に離散家族・親戚再会事業を行う。→離散家族の再開は、両親が北朝鮮出身である文在寅大統領にとって、北朝鮮の「原体験」であり、強く希望していたことだった。8月15日に行うのは、「植民地支配した日本に責任がある」ことを強調する目的もある。
○鉄道と道路を連結し現代化して活用する。→「鉄道と道路を繋げれば統一は早まる」というのは、文大統領の兄貴分・廬武鉉大統領の遺志である。実際、2007年10月の廬武鉉大統領と金正日総書記の南北首脳会談では、2008年の北京オリンピックの合同応援団を、京機線の列車に乗って派遣することを決めていた。
○南北は、一切の敵対行為を全面中止する→これは、米トランプ政権に向けたメッセージの意味合いが強い。「南北は平和にやっているのだから、敵視政策を早くやめろ」ということだ。
○黄海の北方限界線(NLL)一帯を平和水域にする。→陸の国境と共に、海の国境もいまだ定まっていない。国連軍(アメリカ+韓国)は一方的にNLLを定めたが、北朝鮮はこれを認めていない。そこで、朝鮮戦争の平和協定締結に向けて、できるところから外堀を埋めていこうということだ。
○5月中にまず将官級軍事会談を開く。→これも同様に、アメリカに対するプレッシャーである。金正恩委員長は、トランプ大統領との会談時に、少しでもリスクを減らしておきたいのである。
○南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言する。→この部分は、北朝鮮側はこの日の「板門店宣言」で「終戦宣言」したかったが、韓国側が米トランプ政権に背中を引っ張られてかなわなかった。そこで「今年中に」として、韓国側が北朝鮮側に配慮を見せたのだろう。
○平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を推進する。→2003年に中国が主催した「6者会談」が有名だが、ロシアを外したいアメリカ、日本を外したい中国の思惑が重なり、4者となったのだろう。3者が並記されている理由は不明だ。1953年の朝鮮戦争の休戦協定は、国連軍、北朝鮮、中国によってなされており、当時入っていない韓国を「当事者枠」として加えるのは当然としても、中国を外す理由は見当たらない。いずれにしても、日本は「蚊帳の外」に置かれることがはっきりした。
○南北は完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認した。→この部分を肯定的に評価するか、否定的に評価するかは、意見が分かれるところだ。英BBCテレビのニュースを見たら、「ニュークリア(核)・イズ・ノット・クリア」と、うまいことを言っていた。

まず「非核化」の主語がない。そして「核のない朝鮮半島」となっているが、これは北朝鮮の非核化と在韓米軍の撤退が同時進行されるという解釈も成り立つ。さらに述語部分は、「〜という共通の目標を確認した」と、曖昧な表現になっている。
おそらくこの部分は、両首脳がサインする直前まで、何度も推敲したのではなかったか。結局、非核化の方向性のみ示して、今回の第一ステップに続く、米朝首脳会談の第二ステップに、結論を委ねた格好である。
だが私は、非核化の方向性を示したというだけでも評価する。
○両首脳は、定期的な会談と直通電話を通じて論議する。
○当面、文在寅大統領は今秋平壌を訪問する
この二つの文は、金正恩政権が、文在寅政権を抱き込んで担保を取った格好だ。 
一気にケリをつけるつもりか
続いて、午後6時39分から9時12分まで、「平和の家」3階で、晩餐会が開かれた。
文在寅大統領と金正恩委員長の挨拶は、以下の通りだ。全文はかなり長いので、要旨のみ訳出する。
文在寅:金正恩委員長が特別に準備してくださった平壌冷麺が、今晩の意味をより深いものにしてくださいました。このような一つの席に腰掛けるまで、わが同胞(はらから)は皆、よく我慢しました。互いに拳(こぶし)を上げ合った時もあったのです。それが本日、われわれは全世界が見守る中、歴史的な出会い、そして貴重な合意を成したのです。
一つの春を待っていてくださった南北8000万のはらから全員に感謝します。
金正恩委員長が、軍事境界線を越えてくる姿を見ていて、11年前に廬武鉉大統領が軍事境界線を越えて行った姿を思い起こしました。しかしその後の10年間、何と恨めしい歳月を過ごしたことか。
本日、分断の象徴だった板門店は、世界平和の出産室になりました。金委員長と私は、真心を込めて対話しました。心が通じ合いました。われわれは今日、平和と繁栄、共存の新たな道を開いたのです。
南と北が、わが民族の運命を主導的に決定していき、国際社会の支持と協力を共に受けていかねばならないという共通認識を持ちました。これからは困難な問題にぶち当たったら、今日のように南北が向かい合って解決方法を探っていきます。金正恩委員長と私は、定期的な会談とホットラインの対話を通じて議論し、ミドゥムを育んでいく所存です。
北側には「同行者がよければ遠距離も近い」という諺があります。まさに金委員長と私は、またとない同行者となったのです。南と北が自由に行き来できる日のために乾杯!
金正恩:この席で、誰が北側の人間で、誰が南側の人間かなんて、まったく見分けがつかない。まさに感動的な場であり、われわれは分け隔てのできない一つの存在なのだという事実を、再認識した瞬間だ。嬉しくて、胸がときめいている。本当に夢のように嬉しいです。
文大統領の果敢な決断力と意志は、時代の歴史の中で高い尊敬を受けるでしょう。文大統領に感謝の意を表します。
今日われわれは、悪夢のような北南間の凍りついた長い日々に、おさらばすると宣言します。そして暖かい春の始まりを、全世界にお知らせしました。本日4月27日は、新たな出発点なのです。
崇高な使命感を忘れずに、共に手をしっかりと繋いで、たゆまず努力し、たゆまず歩んで行きましょう。そうすれば必ず、よい方案を作ることができるでしょう。
私は今日、そのような気持ちを、再び持つようになりました。今後とも文大統領と会って、われわれが進む道を模索し、議論していきます。必要な時はいつでも電話でも議論します。
平和的で強大な国という終着点に向かって、力強く走ってゆかねばなりません。この土地の永遠なる平和を守り、共通の繁栄という新たな時代を、私と文在寅大統領は作っていきます。それはわれわれすべての意志にかかっているのです。
夜9時12分に晩餐会が終わると、金正恩夫妻を始めとする北朝鮮代表団一行は、闇夜の南北境界線の北側へ帰って行った。
誤解を恐れずに言えば、朝鮮民族は、バクチ性に富んだ民族である。ハイリスクを恐れずに、ハイリターンに向かっていく。大国に囲まれた半島国家の特性として、大国の狭間で活路を見出すべく、常に激しい動きに出る。そのダイナミックさは、四方を海に囲まれた平和な島国に生きる日本人の理解を、大きく超越している。
ともあれ、こうして第一幕が終了し、舞台はトランプ大統領との第二幕へと移っていく。金正恩委員長にとっては、さらにハードルは高くなるが、この34歳の青年指導者は、朝鮮半島の問題に、一気にケリをつけようとしているように見える。 
 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
南北首脳会談で浮き彫り 安倍首相“吠えるだけ” 4/28
金正恩が脅威でなければ困るのか
「歴史的な和解」への第一歩としては十分だった。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領のきのう(27日)の南北首脳会談。午前と午後たっぷり3時間、顔を突き合わせ、2人だけの散策でベンチに腰掛け話し込む親密さも見せ、融和ムード全開だった。
「南北は完全な非核化を通して、核のない朝鮮半島を実現するという共通目標を確認」「年内に朝鮮戦争の終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換するため米国や中国を交えた会談を推進することで合意」などの「板門店宣言」に署名した後、2人は熱い抱擁を交わした。金正恩が文在寅とともにメディアの前で合意文書を発表する場面まであり、これは過去2回の首脳会談にはなかった演出だ。
注目の会談を、世界はおおむね好感を持って受け止めている。
トランプ米大統領は、<朝鮮戦争は終わる! アメリカもすべてのすばらしい人たちも朝鮮半島で起きていることを誇りに思うべきだ>とツイートして大ハシャギ。中国は外務省の副報道局長が「政治決断と勇気を称賛する」とし、ロシアも大統領報道官が「会談結果を極めて前向きに評価する」と語った。
NATO(北大西洋条約機構)の事務総長も「非常に重要な第一歩だ」と評価し、国連事務総長は「2人の指導者が一緒になって朝鮮半島の平和を前進させようとする姿に、世界の多くの人々が感動した」と手放しの賛辞だった。
○トンデモ指導者という印象操作
非核化への具体的な道筋はまだこれからではあるが、朝鮮半島が戦争状態でなくなり、平和になるのを世界が歓迎するのは当然だ。ところが、日本のリーダーは素直に喜べない。首相官邸で取材に応じた安倍首相は「歓迎」とは言いながらも、こうクギを刺すのを忘れなかった。
「北朝鮮が具体的な行動を取ることを強く期待する」
「過去の声明との比較・分析も行いながら、今後の対応をよく考えていきたい」
金正恩との直接会談の設定すらできず、トランプと文在寅に拉致問題解決を託すしかないくせに、なんともまあ上から目線のエラソーな態度なのである。
今月14日の国会前デモで、安倍のことを「歴代で最も愚かな首相」と断言した演説が話題になっている立教大院特任教授で慶大名誉教授の金子勝氏がこう言う。
「安倍首相は、金正恩委員長について『トンデモない人物』という“印象操作”を続けたい。そういうトンデモない人物と戦っている安倍首相という構図が、『外交の安倍』の演出につながっているからです。もっとも安倍首相にとって外交自体が、デフレ脱却失敗など国内の失政を隠すための“印象操作”なのですけどね」
○口先外交で蚊帳の外
安倍にとって金正恩は、いつミサイルをブッ放すかわからない狂った指導者じゃなきゃ困るのだ。
国連演説で「対話による問題解決の試みは、無に帰した」と高らかに宣言した安倍は、北の脅威をあおり、国民を恐怖に陥れることで、「強いリーダー」という幻想を振りまいてきた。北を政治利用して求心力を維持してきたのである。
だから安倍は、本音では南北首脳が笑顔で会談する姿なんて見たくない。「虚心坦懐、率直に話したい」などと真摯な金正恩も見たくない。しかし世界は、安倍の願望とは真逆の方向に動き始めている。政治評論家の野上忠興氏が言う。
「世界は安倍首相を中心に回っているわけではないのですよ。世界の各国はどこも国益のために知恵を絞って、動いている。それなのに、安倍首相は口先だけのオレ様外交で世界から相手にされなくなってしまった。北朝鮮問題では、南北の戦争の当事者でもなく、平和憲法を持っている日本だからこそ、少し引いた距離で仲介役をやることもできたはずです。それこそ本当の外交です。しかし安倍首相は、北の脅威をあおり、勇ましい発言をするだけの口先外交で結局、蚊帳の外に置かれてしまいました」
昨夜、記者から「日本が蚊帳の外に置かれてしまうという懸念は?」と問われた安倍は、「それは全くない」と即座に否定。先日の訪米時に「トランプ大統領と11時間以上ゆっくり会談したから、方針は一致している」と説明した。そんな強弁しかできないところが悲し過ぎる。
個人的な好き嫌いで政治をしてきたツケ
北朝鮮問題で日本にとっての最大の懸案は拉致被害者救済だが、南北会談の共同宣言や合意文書の発表では全く触れられずじまい。日本政府には落胆の色が見えたが、文在寅からの電話報告に期待をつなぎ、会談翌日のきょう、安倍は中東歴訪の出発を遅らせた。文の電話を受けられるよう、国内に滞在することにしたのだ。
つくづく情けない。安倍は26日の参院予算委でも、拉致問題について「私が司令塔となって全力で取り組む」と毎度のセリフを吐いていたが、自分でやれないから、トランプや文在寅に「首脳会談でテーマにして欲しい」と“懇願”したのであり、電話を待つしか手がないのである。
今年2月の平昌五輪時の訪韓で、安倍が文在寅に「圧力姿勢がぶれてはならない」と訴えた際、逆に「日本も対話に乗り出して欲しい」と諭されたことを思い出す。今ごろになって「蚊帳の外」「拉致問題置き去り」に慌てている安倍の姿は、日本国民として顔から火が出るほど恥ずかしい。
「かつて北朝鮮とのパイプを持っていた田中均元外務審議官を、安倍首相は個人的に嫌いだという理由で切ってしまった。その後は、新たなパイプをつくる努力もせず、他国に頼むしかないお粗末な状況です。個人的な好き嫌いで言えば、中国や韓国に対する態度もそうです。しかし、日本が植民地支配や侵略戦争をしかけたことはどう否定したって事実。そうした近隣諸国は日本に対する猜疑心も強く、謙虚な姿勢で付き合うべきなのに、それをやってこなかったツケが今、表面化しています」(野上忠興氏=前出)
○ディールができない無能
安倍は自分の外交能力のなさを、トランプとの「個人的な関係」で糊塗してきた。だが、ハク付けのためにすり寄っていることがトランプに見透かされ、3度目の日米会談は散々。TPP復帰を一蹴され、鉄鋼・アルミの輸入制限の日本への適用除外も拒まれ、「外交の安倍」は形無しだ。さすがに多くの国民が安倍の薄っぺらさに気付いた。もはや保身のための見え透いた嘘は通用しなくなっている。
「トランプは外交もディールだと思っている人。安倍首相のように、すべて言われるがまま付いていくだけでは、軽視されて当然です。それに引き換え、韓国の文大統領は五輪を利用して北朝鮮を対話に誘い込み、南北だけでなく米朝会談の道筋までつけた。北朝鮮の金委員長だって、米朝会談が決まるとすぐに中国を訪問し、習近平国家主席に会うなど、少なくともディールを実践しています。安倍首相の無能さが際立っています」(金子勝氏=前出)
安倍政治はすべて口先の出まかせだから、結局、何も実行していないし、何の成果も上げられないのである。
26日の衆院予算委の集中審議で、野党が証人喚問を求めている柳瀬唯夫元首相秘書官について、安倍は「何らかの機会があれば、柳瀬氏には知っていることを全て明らかにしてもらいたい」と答弁していた。野党が審議拒否で欠席する中での威勢のいいセリフ。だがそれなら、柳瀬氏の証人喚問を設定するよう自民党に指示すればいいだけの話だろう。その気もないのに、口先だけのやっているフリ。嘘とごまかし。これほど徳のない政治家がかつていたか。 
金正恩委員長「日本と対話する用意ある」 4/29
安倍晋三首相は29日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と約40分間電話で協議し、27日の南北首脳会談の結果について説明を受けた。文大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談で日本人拉致問題を提起したことや、金委員長が「いつでも日本と対話する用意がある」と話したことなどを報告した。日韓両首脳は、拉致問題の早期解決に向けて連携することや、完全な非核化に向けて北朝鮮に具体的行動を促すことで一致した。
韓国の青瓦台(大統領府)によると、文大統領は電話協議で、首脳会談の際に金委員長に「安倍首相も北朝鮮と対話する意思があり、特に過去の歴史の清算に基づいた日朝国交正常化を望んでいる」と伝えたことを説明したという。電話協議で首相は「日本も、北朝鮮と対話する機会を設ける」と述べ、文大統領は橋渡し役を引き受けると応じた。青瓦台関係者によると、文大統領が会談で拉致問題について「相当具体的に」説明したことに対し、首相は謝意を示したという。
首相は協議後、首相官邸で記者団に、「文大統領の誠意に対し感謝申し上げたい」と語った。ただし、金委員長の反応など具体的なやりとりについては、「詳細を紹介することは控えたい」と述べるにとどめた。
電話協議では、首相は南北首脳が27日に署名した板門店宣言に「朝鮮半島の完全な非核化」が明記されたことを「前向きな動き」と歓迎し、「北朝鮮が具体的な行動を取ることを強く期待する」と伝えた。文大統領は「今後とも日韓で緊密に連携したい」と応じ、「北朝鮮から非核化に向けた具体的な行動を引き出す必要がある」との認識で一致した。首相は、核兵器に加え、日本を射程に収める短・中距離ミサイルを含む全ての弾道ミサイルの廃棄に向け、日米韓で緊密に協力する考えも示した。
また、両首脳は、5月に東京で日中韓首脳会談を開く際に、日韓首脳会談を行うことでも一致した。
首相は電話協議の後、来日した韓国の徐薫(ソフン)国家情報院長と官邸で会談し、南北首脳会談についてより詳細な説明を受けた。徐氏は会談後、記者団に「首相は北朝鮮との対話についても深い関心を表明した」と語った。
文大統領は29日午前の首相への電話に先立ち、28日夜にトランプ米大統領と電話で協議。トランプ氏はこの後、首相とも約30分間電話で協議した。 
正恩氏、日本の“カネ”意識 制裁網の崩壊も狙う 4/29
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、韓国の文在寅大統領との会談で「日本との対話の用意」を伝えることで中国、韓国、米国に続き全方位で“修好外交”を展開する姿勢を見せた。国際社会の制裁網の揺さぶりとともに、日本から巨額の支援を引き出し、経済再建の起爆剤にする思惑もにじむ。
「安倍は『拉致』問題まで持ち出し、制裁・圧迫を哀願した」。北朝鮮の党機関紙、労働新聞は29日、トランプ米大統領に米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるよう求めた安倍晋三首相をこう批判。「今のように振る舞うなら、平壌に通じる道に自ら高い壁を築く結果を招く」と主張した。
1月の金委員長の対話攻勢以降、北朝鮮メディアは韓国非難を抑え、安倍政権への非難が突出して目立っていた。北朝鮮は、トランプ氏に最大限の圧力維持を呼びかけてきた安倍首相が対話攻勢を進める上で最大の障壁の一つだと熟知しており、それだけ日本を意識している証左といえた。
金正恩政権発足後、最初に本格的外交工作を仕掛けた対象も日本だった。2014年にはストックホルム合意で日本人拉致被害者の再調査に応じた。当時、調査を受け持った機関が対日利権を見越して貿易事業所を拡張する動きも伝えられた。調査は経済的な恩恵が狙いなのは明らかだった。
だが、日本人配偶者らの帰国や日本人遺骨の返還など人道問題でお茶を濁そうとする北朝鮮と、拉致被害者の帰国を最優先する日本の認識の差は埋まらず、16年に合意は事実上破綻する。北朝鮮高官は昨年、合意は「既になくなった」とし、拉致問題に「誰も関心がない」と主張する一方、他の人道問題には「取り組む用意がある」と述べた。今回も日本との対話に応じても“拉致外し”をもくろんでくる疑念は拭えない。
半面、文氏は日朝間の対話の橋渡しに意欲を示しており、対話攻勢に日本も巻き込めば、韓国や中国が制裁を緩める口実にもなりかねない。金委員長にとって対日交渉で支援を引き出せなくとも制裁網を崩せれば、大きな成果となる。 
文氏、金氏にUSBメモリー 散歩中手渡す 4/30
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は30日、南北首脳会談後初めてとなる青瓦台(大統領府)の幹部会議を開いた。文氏は「(合意に基づき設置される)南北共同連絡事務所で常に協議ができる枠組みを準備するように」と述べ、南北対話の推進を各省庁に指示した。最初の措置として、軍事境界線付近で、北朝鮮向け宣伝放送のため使用していた拡声機の撤去を5月1日から始める。
任鍾※(イム・ジョンソク)大統領秘書室長をトップとする南北首脳会談準備委員会は、今後、履行推進委員会に移行する。
会議で文氏は「軍事境界線付近の拡声機放送と宣伝チラシ配布をはじめとするすべての敵対行為を中止し、非武装地帯を事実上の平和地帯にする」と明言した。北朝鮮に向けて韓国のニュースや音楽を大音量で流す拡声機放送は首脳会談に先立つ23日に中止したが、放送手段も廃棄し、南北融和の象徴とする狙いがあるとみられる。
ただ、北朝鮮の人権侵害を訴える複数の市民団体は、風船に食料と宣伝ビラを入れて飛ばす活動を実施しており、「北朝鮮住民が自由を獲得するまでやめない」(自由北韓運動連合)などの反発も出ている。文政権が今後、市民団体への取り締まりを強行した場合には摩擦が予想される。
一方、文氏は会議で、27日の首脳会談後に金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と散歩しながら「単独会談」した際、発電所を含む南北共同の「新経済構想」の資料が入ったUSBメモリーを手渡したと明らかにした。「(制裁)解除後に備え、一緒にどんな経済協力ができるか研究しようという趣旨だ」と説明した。会談では議題にはしなかったという。
韓国は、北朝鮮に対する国連の経済制裁に同調し、独自に解除はしない立場だが、南北共同連絡事務所を通じて、経済協力の「準備」は進める方針とみられる。  
北朝鮮政策のカギ握る?ポンペオ氏の発言 4/30
次期国務長官に指名されたポンペオCIA長官は、3月に北朝鮮を極秘裏に訪問し金正恩と会談したと報じられ、米朝首脳会談をはじめとする直近の北朝鮮政策のカギを握る人物として注目されている。同氏は、4月12日、上院外交委員会の国務長官指名公聴会に臨んだ。まず、議会側に提出された書面証言の北朝鮮政策に関連する部分は、概要、以下の通りである。
「北の核を除去するために外交努力が進められている。国務省のチームにとり、この数十年来の脅威を解決することは、最重要の外交的タスクである。国務省は、北との関係を絶ち、対北制裁を科するべく、世界を結集することに成功してきた。しかし、トランプ大統領の金正恩との会談を支持することを含め、やるべき外交的な仕事はまだ多く残っている。北を非核化し米国を北の核の脅威の下に置かれるのを阻止するための大統領のコミットメントを背景に、米朝首脳会談は行われる。私は、これまでの北朝鮮との交渉についてのCIAの歴史を読み、我々は過去の過ちを繰り返さない自信がある。トランプ大統領は、交渉のテーブルでゲームをする人物ではない。そして、私もそうである。」
上記書面証言では、トランプ政権による北朝鮮への「最大限の圧力」作戦が功を奏し米朝首脳会談に至ったことを示唆し、北の非核化への外交努力の重要性を説くなど、抽象的なことしか述べられていないが、ポンペオは、質疑応答で重要な発言をしている。
第一に、ポンペオは、北朝鮮のレジームチェンジは考えていない、と明言した。そして、「北朝鮮の指導者は、体制の存続、そのための手段や保障措置は何かを考えているのであろう」と述べている。なお、ポンペオは、昨年「金正恩体制を核システムから切り離し得る」と述べ、レジームチェンジを示唆するものと指摘されたことがある。
第二に、米国にとっての北の核のリスクの評価に関する発言である。The Atlantic(電子版)は、ポンペオは「首脳会談の目的は、北朝鮮が核兵器によって米国にリスクを与えるための努力から完全かつ検証可能な形で手を引く合意の条件を整えることである」と述べた、と報じている。これは、米国に到達し得るICBMと、そうでない中短距離ミサイルの取り扱いを区別することを示唆しているとも受け止め得る。
この点は、日本としては極めて重要な問題である。かねてより、米朝間でICBMの撤廃のみ合意され、日本に到達し得る中短距離ミサイルが残存することで、日米間で北朝鮮に対する安全保障上の利害が一致しなくなることが懸念されてきた。4月20日、朝鮮労働党は、核実験とICBMの発射実験を中止し、豊渓里の核実験場を廃棄するとの決定書を採択した。同時に行われた金正恩による報告では、ICBMと中長距離ミサイルの実験中止を言っているが、中長距離ミサイルというのはグアムに到達し得る「火星12」(射程5000km)や「北極星2型」(同2000km)を指すものとみられる。4月20日の日米防衛相会談では、米国が米朝首脳会談で中短距離ミサイルを含む全ての弾道ミサイルの廃棄を北側に求めることが確認された。しかし、ポンペオの発言やトランプ大統領のこれまでの突発的な言動を考えると、やはり懸念は払拭しきれない。
北が米朝首脳会談に応じるに至った背景については、日米とも、「最大限の圧力」が功を奏したとするのが公式見解である。しかし、核実験の中止、ICBM等の発射実験の中止は、北朝鮮としては十分な能力を獲得できたので不要になっただけである可能性は排除できない。つまり、北朝鮮が米朝首脳会談に応じるのは、十分な力を背景に会談に臨むことができるようになったためであるという可能性もある。もちろん、「最大限の圧力」は適切であり、今後とも継続すべきものであるが、米朝首脳会談に過度の期待をすべきではないように思われる。 
 

 

北朝鮮が突然、核開発・外交スタンスを豹変させた理由 5/1
驚くほど豹変した北朝鮮の対外的スタンス
3月下旬以降、北朝鮮の対外的なスタンスは驚くほど豹変した。これまでの頑強な核開発に対する積極姿勢が、少なくとも表面的には和らいでいる。
これまで北朝鮮は、米国を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射技術を確立し、核の脅威を強調することで体制維持や制裁緩和などの譲歩を米国に求めてきた。4月20日、その北朝鮮が核実験場の廃棄とミサイルの実験中止を発表し、「経済開発を優先する」と政策を修正した。中国はこの発表を歓迎し、北朝鮮への圧力重視の考えを後退させつつある雰囲気になっている。
北朝鮮が方針を豹変させた重要な理由は、中国への「恭順の意」を示すことだ。金正恩政権が独裁体制を維持するには、どうしても後ろ盾である中国との関係を改善し、その関係を維持する必要がある。
昨年の複数回に及ぶミサイル発射および核実験の結果、中国は北朝鮮への懸念を強めてきた。中朝国境地帯での50万人規模ともいわれる難民収容施設の設営や、大規模な軍事演習は、ある意味、中国から北朝鮮への警告とも受け取れる。
もう一つは、制裁措置が徐々にではあるが、北朝鮮を窮状に追い込んでいることがある。北朝鮮のイカ釣り漁船が東北地方沿岸に漂着したことや、洋上での積荷引渡し(瀬取り)の横行にみられるように、制裁は北朝鮮をかなり疲弊させてきた。
こうした状況が続くと、民衆の不満が高まり体制維持への不安が出るだろう。その中で核開発を続ければ、中国からの警戒は一段と高まる。その結果、金委員長は独裁体制を維持することが難しくなる可能性もある。
当面、北朝鮮は強硬姿勢を封印して対話を重視する可能性が高い。それは、中国からの配慮を取り付ける“点数稼ぎ”だ。その一方、北朝鮮が本気で核の能力を放棄するとは考えづらい。北朝鮮の態度は冷静に分析することが重要だ。
中国に恭順を示すため対話重視に転じた北朝鮮
3月25〜28日、金委員長は非公式に中国を訪問し、習近平国家主席らと会談の場を持った。これは、国際社会からの制裁に加え、軍事演習などを通した中国からの圧力を受けて、金委員長が自らの将来に対して不安を強めたことの表れと考えられる。中国の庇護(ひご)を受け、体制を維持していくことが、訪中とミサイル発射の中止表明などの理由だろう。
突き詰めていえば、「命綱」の確認だ。制裁などによる米中からの圧力を受け、金委員長は“米・中に殺される”と恐怖を覚えているとの報道や分析もある。その真偽を確認するすべはないが、中国の対北朝鮮政策は同委員長に恐怖心を植え付けたはずだ。
近年、中国は北朝鮮の核開発に対して懸念を表明することはあったが、国境地帯での演習を実施するほどに警戒感を示すことはなかった。韓国メディアによると、演習中、人民解放軍の兵士には「止まれ」などのハングル語の教育も実施されているという。中国は朝鮮半島での有事の発生、体制の不安定化による難民の大量発生を想定している。
長期の支配基盤を築きたい習国家主席にとって、難民の流入や金政権の体制維持が困難となり米国との直接対峙(たいじ)を強いられる状況は、何としても避けたい。中国にとっては、北朝鮮という緩衝国があるからこそ、米国との対峙という緊張状態を回避することができる。それを分かっているから北朝鮮は、中国の顔色をうかがいつつ核開発を進めて体制の維持を目指してきた。
問題は、金日成、正日の時代に比べ、若い独裁者である正恩氏が中国への配慮を軽視し、傍若無人にふるまってきたことだ。中国が保護してきた金正男氏の暗殺、中国からの対話に関する提案の拒否など、金委員長は聞く耳を持たない独裁者との印象を中国に与えてきたといえる。言い換えれば、金委員長はようやく自らの言動の危うさに気づき、中朝関係の改善の重要性を認識し始めたということだろう。
中国がうまく利用した米国の強硬姿勢
中国とともに対北朝鮮対策で重要な役割を持つのが米国だ。トランプ大統領は度重なる北朝鮮からの軍事挑発を非難し、先制攻撃も辞さない考えを示してきた。マクマスター前大統領補佐官は、“ブラッディー・ノーズ(鼻血)作戦”の存在を否定したが、軍事作戦の臆測が高まったということは、政権、あるいは共和党内で北朝鮮への強硬な対応が必要との主張が出たことの裏返しだろう。それも北朝鮮に相当の危機感を与えたはずだ。
トランプ大統領の言動は、中国にとっても利用価値のあるものだと考えられる。北朝鮮を巡る米中の対応を見ていると、まず、トランプ政権が強硬な姿勢を示した。それに対し、当初、中国は慎重姿勢をとった。つまり、金委員長に一定の配慮を示し、対話の余地を確保したわけだ。
その後、北朝鮮の挑発が増加するにつれて米国の強硬姿勢が強まった。それに合わせるようにして、中国も圧力をかけた。同時に、中国は韓国にも圧力をかけて融和姿勢を重視させ、北朝鮮が“ほほえみ外交”に方針を修正するチャネルを確保したといえる。
以上をまとめると、中国は米国の北朝鮮への圧力をうまく利用して、北朝鮮を自らの意に従わせる環境を整備してきたと考えられる。この見方が正しいとすれば、強硬論者をそろえるトランプ大統領に比べ、習国家主席の対北朝鮮政策の方が上手だ。ある意味では、国際政治の常識をわきまえないトランプ大統領がいたからこそ、こうした状況がもたらされたともいえる。
中国の動きを受けて、米国も極東政策にエネルギーを傾け始めた。ハリス太平洋軍司令官が駐韓大使に指名されるとの報道は、米国が極東の安全保障に一段のコミットメントを示し、中国をけん制しようとしていることの表れだ。
北朝鮮はミサイル発射の中止を表明し、中国の庇護を受けようとしている。米国は、北朝鮮問題が中国主導で解決されることを食い止めようとしている。6月上旬までに開催されると見られている米朝の首脳会談の注目点は、米国が非核化に向けた取り組みを北朝鮮から引き出し、査察受け入れなど国際社会全体での問題解決への道筋を示すことができるか否かだ。
北朝鮮に核を放棄する意思はない
4月20日を境に、一部では北朝鮮が本当に核を放棄するのではないかとの期待、臆測も出始めているようだ。この点は、今後の展開を注視しなければならず、断定的なことは言えない。
ただ、歴史的にみても、北朝鮮が核兵器の開発や攻撃能力の保有を完全に放棄することは想定しづらい。なぜなら、金独裁政権にとって核兵器の保有こそが体制維持のための必須手段に他ならないからだ。
金日成、正日の時代も北朝鮮は非核化を宣言した。しかし、いずれも国際社会との協約が順守されることはなく、秘密裏に北朝鮮は核攻撃能力を開発してきた。その延長線上に、今日の金正恩委員長があるわけだ。表向きは対話を重視して国際社会からの圧力を減殺しつつ、核兵器を捨てなかったことが独裁政権を支えてきたのである。
リビアのカダフィ政権は核を不可逆的に放棄したが、それは内戦に米欧が軍事介入を行う余地を作った。もし、リビアが核を保有し続けていれば、状況はかなり違ったとの見方もできる。
北朝鮮が同じ轍を踏むことはないだろう。地下や山中に場所を移して、核兵器の開発が続けられる可能性はある。一部では、すでに北朝鮮が運用可能なミサイル発射技術を確立したとの指摘もある。そう考えると、対話は体制を立て直す時間稼ぎにすぎないといえる。
22日に起きた中国人観光客を巻き込む交通事故への対応で、金委員長は初めて中国大使館を訪問した。同氏は、かなり中国に気を遣っている。あくまでも、北朝鮮が目指しているのは当面の社会を安定させるための支援を中国から取り付けることだ。そのために北朝鮮は核施設の廃棄を示したのだろう。
今後、米国の役割が一段と重要になる。米朝の首脳会談で北朝鮮が最終的かつ不可逆的な核放棄の意思を示さなかった場合、トランプ大統領が会談の席を立つことも想定される。それは、交渉を一段と困難にし、朝鮮半島情勢の緊迫感を高めるだろう。中間選挙を控える中でトランプ氏は強硬姿勢を示すことで有権者の支持を得たい。
それだけに、米国が中国などと協力し、対話を進めつつも従来の制裁を維持して一切の妥協を許さない姿勢を粘り強く北朝鮮に示すことができるか否かが問われる。  
金正恩委員長が日程中にこらえた「2つ」 5/1
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が会った27日、金正恩委員長が我慢したものが2つある。「たばこ」と「眠気」だ。青瓦台(チョンワデ、大統領府)は30日、南北首脳会談の夕食会の裏話を公開した。
金正恩委員長は普段から「愛煙家」として有名だ。2012年に李雪主(イ・ソルジュ)夫人とともに競技を観戦した金正恩委員長の手にもたばこがあった。当時、李雪主夫人は妊娠中だった。しかし今回の会談で金正恩委員長が喫煙する姿は見られなかった。
青瓦台の関係者によると、金正恩委員長は首脳会談当日に12時間ほど過ごした板門店(パンムンジョム)でわずか一度だけ喫煙したという。「徒歩の橋」会談当時も南側が灰皿を準備したが、喫煙はしなかった。ある関係者は「金正恩委員長が夕食会の途中、午後8時ごろ外に出て一度だけ喫煙した」とし「文大統領に対する礼儀を守っているようだった」と語った。
夕食会では公演を見ながら眠気をこらえるような姿も見られた。なんとかまぶたを持ち上げようとしているようだった。金正恩委員長はこの日の夕食会で少なからず酒を飲んだという。青瓦台関係者は「数えてはいないが、金委員長がかなり多くの酒を飲んだを聞いている」とし「夕食会のムンベ酒をワンショットした」と伝えた。
夕食会は出席者が席を離れて自由に和気あいあいとした雰囲気の中で進行し、時間のためにやむを得ず終えるほどだったという。 
見せ物だった南北首脳会談 「韓国は米制裁の対象に」と米専門家指摘 5/2
非核化は「共同の目標」とうたった南北首脳会談は米朝首脳会談にどんな影響を及ぼすのか。「板門店宣言」を米国はどう見ているのか。歴代米政権の対北政策に関わり韓国政治にも詳しい米ジョージ・ワシントン大のヤン・C・キム名誉教授は「南北合作に基づいた世界の見せ物、宣伝であり、とうてい受け入れ難いと米政府は判断するだろう」と批判した。
核問題の前進はゼロ
米朝首脳会談への影響についてキム教授は、「北朝鮮は『核放棄』の意志を述べなかった。トランプ米大統領が金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に会うだけで、北朝鮮を実質的に核保有国と認めることになるとの警戒感が米側には根強い。しかし一方、4月29日のABCインタビューでポンペオ国務長官は訪朝時『金正恩氏と完全非核化について深度ある協議をした』と明かしていることにも注目すべきである」と概括する。
板門店宣言で南北は「平和」をアピールし和解を印象付けたうえで、北朝鮮の開城(ケソン)に連絡事務所を設置▽鉄道・道路の接続▽黄海の共同水域化−などの具体策を列挙した。これらについてキム教授は、「米政府は人道問題を除くすべての支援は国連制裁決議違反との立場だ。最大限の圧力を継続している米政策を無視し韓国が北朝鮮支援を行えば、米国は韓国にセカンダリー・サンクション(第2次制裁)を課すだろう」と指摘。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は南北首脳会談を米朝に向けの「橋渡し」と位置づけたが、韓国は北朝鮮の平和攻勢に手を貸した共演者とみなされるだろうとの見解を示した。
キム教授は、金正恩氏が対話攻勢を打ち出した年初からの経緯は、文政権が発足した昨年以来から周到に準備されたもので、「南北による合作であり対米牽制の一環だとみるだろう」とみる。
そのうえで、米政府には文政権の融和的な対北政策に懐疑的な意見が多数だとし、板門店宣言を受けた今後の動向次第で「米韓関係は悪化する可能性が高い」と予測した。
交渉決裂回避が最優先
米朝首脳会談で北朝鮮は「非核化」についてどう説明するのか。キム教授は金正恩氏が米国の求める完全かつ検証可能で不可逆的な核解体(CVID)を「実行する」と言明するだろうと予測する。それは「金正恩氏にとっては対米交渉を決裂させないことが最優先」だからであり、「米国のCVID要求をいったん受け入れて時間稼ぎを行うと米政府はみている。その間に米国の軍事行使へのモメンタム(機運)が落ちると米政府は懸念している」と述べた。
一方、キム教授はトランプ大統領側の受け止め方について、「トランプ大統領は金正恩氏が(米朝トップによる)会談を要望したのは自身の政策が成功したからだと自負している。ロシア・ゲート(ロシアによる米大統領選干渉疑惑)や中間選挙などさまざまな事情があるトランプ大統領にとって、金正恩氏との会談での一定の成果は、有効な生き残りカードになっていると米国の政治エリート層は主張している」とした。
北は核を手放さない
米国の政府内外の圧倒的多数の専門家が「北朝鮮は決して核を手放さない」と確信しているという。
北朝鮮は核保有国として米国を含む世界的核軍縮を協議する用意があると主張している。これに対し米政府は「北朝鮮が過去の米朝枠組み合意違反や6カ国協議でみせた欺瞞(ぎまん)を再度、繰り返して米国を欺いた場合、特定施設の爆撃と海上封鎖、あるいは全面攻撃の準備は現在も継続している」と明言してきた。
トランプ氏は強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ポンペオ国務長官(前中央情報局=CIA=長官)に加え、南北首脳会談直前に駐韓米大使にハリス前太平洋軍司令官を内定。これについてキム教授は「各国は米国による軍事オプション採択に備えた傾斜を示唆する行為と捉えるだろう。まさに地政学的戦略的思惑が入り交じった激動期に直面している」と述べた。(編集委員)
ヤン・C・キム 米ジョージ・ワシントン大学名誉教授。韓国ソウル生まれ(米国籍)。米ペンシルベニア大学政治学博士。バンダビルド大学、ボストン大学などを経てジョージ・ワシントン大教授、1986〜96年、北朝鮮・軍縮平和研究所と米朝学術交流を推進、歴代米政府で対北政策アドバイザー。ソウル大、慶応大などでも教鞭をとってきた。 
 

 

 
金正恩の2次電撃訪中…中国固め米国内強硬派を牽制 5/8
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が7〜8日に中国遼寧省の大連を電撃訪問し、習近平・中国国家主席と会談した。彼の予想外の訪中が、朝米首脳会談にどんな影響を与えるかが注目される。史上初の朝米首脳会談を控えた金委員長が、たった40日後に再び習近平国家主席に会ったというのは、その意図と意味が深長にならざるをえない。
3月末の訪中と同じように、金委員長の今回の訪中は型破りだ。金委員長は当時、習主席の平壌(ピョンヤン)答礼訪問を約束されたが、答礼訪問がなされていない状態で再び中国に行った。生前に中国を頻繁に訪れた金委員長の父である金正日(キム・ジョンイル)国防委員長も最短訪問間隔は3カ月だった。
金委員長は、目前に迫った朝米首脳会談での交渉力を高めるためにこうした外交的破格を選んだと見られる。中国中央テレビ(CCTV)など中国メディアは、金委員長が習主席との会談で「再度中国に来て総書記(習主席)に会い、通知しようと思う」、「中国との戦略的疎通と協力を強化しようと思う」と話したと伝えた。南北首脳会談の結果および朝米交渉について、中国の最高指導者と相談するために訪中したということを明確にしたわけだ。「戦略的協力」という言葉は、北朝鮮と中国が朝鮮半島の非核化や対米戦略で共通の理解を持ったことを“誇示”したものと分析される。3月末の金委員長の“電撃訪中”も、根本の目的は中国という伝統的後援国の確実な支持を確保することだった。
米国行政府が最近、朝米首脳会談を目前に控えて“基準”を高めるような態度を見せたのも、金委員長の訪中動機に含まれた可能性がある。1次訪中で“裏庭”を確かにしておいたが、こうした突出変数が朝中協力を強化しなければならない契機になりうるという話だ。金委員長は、朝鮮半島の非核化実現が北朝鮮の「確固不動で明確な立場」であることを再確認した。それと共に、朝米対話で「相互信頼を構築し、関連各国が段階別に同時的に責任ある措置」をとりながら「朝鮮半島非核化と永久的な平和を実現することを願う」と述べた。1次訪中で議論した「段階的・同時的措置」に再言及した。北朝鮮に対して無条件に譲歩ばかりを要求してはならないというメッセージを米国に再び送ったわけだ。
これに先立って米国側が間もなく発表するという朝米首脳会談の日程と場所が公開されないことに“異常気流”をいう人々が増えた。米国側は最近、伝統的な北朝鮮非核化方法論である“CVID”(完全で、検証可能で、復元不能な非核化)の代わりに“PVID”(永久的で、検証可能で、復元不能な非核化)という用語を使い始めた。ジョン・ボルトン新任ホワイトハウス国家安保補佐官らは、生物化学兵器も永久に廃棄しなければならず、北朝鮮の人工衛星発射も不可とする強硬な立場を明らかにしてきた。
ク・ガブ北韓大学院大学教授は「金委員長の歩みは、米・中の狭間で交渉力を高めようとする、すなわち北朝鮮版バランス外交とみられる」と分析した。また「6日に北朝鮮外務省報道官がマスコミインタビューを通じて米国に警告したが、米国が(朝米首脳会談の)議題を(生物化学兵器、人権問題などに)拡大しようとしているのが事実ならば、北朝鮮としては不快な状況だ。中国と相談しようとしたのかもしれない」と話した。
中国の立場としても、北朝鮮の“ラブコール”はうれしい。朝鮮戦争の終戦宣言、さらに平和協定や平和体制議論で戦争当事国として明確な一役を担当する機会につながるためだ。習主席は、金委員長との会談で北朝鮮の非核化意志を評価し「朝鮮半島問題の平和的解決プロセスを推進し、永久的平和の実現に積極的役割」を発揮すると明らかにした。
キム・ドンヨプ慶南大学極東問題研究所教授は、朝鮮半島の主導権をめぐって進行される米中葛藤という脈絡で北朝鮮と中国の動きを解釈した。彼は「金委員長が望んで行こうが、中国に呼ばれて行こうが、米国と中国のうちどちらが北朝鮮核問題と朝鮮半島の平和体制の主導権を握るかという、米中関係の未来と関連している」と話した。 
金正恩氏、習主席と再会談=「後ろ盾」を誇示−米へ段階的な見返り要求 5/8
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は7、8両日、中国遼寧省大連を訪問し、習近平国家主席と会談した。中国側の発表によると、正恩氏は6月上旬までに開かれる見通しの米朝首脳会談を念頭に「朝米対話を通じて相互信頼を確立し、関係国が責任を負って段階的で同時的な措置を取ることを望んでいる」と主張した。
正恩氏は対米関係改善への期待を表明するとともに、非核化に段階的に応じる上での見返りとして、米国に対し相応する融和措置を取るよう改めて求めた形だ。
中朝両国の国営メディアが8日夜、同時に報じた。正恩氏は初の外遊先として3月末に訪中したばかり。1カ月余りの短期間に習氏との2回目の会談に臨んだのは、米朝首脳会談を控える中、「後ろ盾」となる中国との連携を誇示し、対米交渉を有利に進める思惑があるとみられる。
中国側によると、正恩氏は習氏との会談で「関係国が敵視政策と安全保障上の脅威を取り除くなら、核を持つ必要がなくなり、非核化が実現できる」と「非核化」への意思を重ねて強調。習氏はこれに対し、北朝鮮が核実験場廃棄などを表明したことを評価した上で、「(北朝鮮が)経済建設に戦略の重心を移し、発展の道を進むことを支持する」と応じた。
朝鮮中央テレビによれば、正恩氏は朝鮮半島に「重大な変化が起きている」と主張したほか、「朝鮮半島と北東アジアの平和と繁栄を成し遂げるため、中国の同志と手を携えていく」と中朝協力の強化を訴えた。しかし北朝鮮メディアは、正恩氏が非核化に言及したことは触れていない。
正恩氏は7日午前、専用機で平壌を出発し、電撃的に大連を訪問。正恩氏が専用機で外遊するのは初めて。  
金正恩委員長が電撃訪中 “非核化”言及か 5/9
北朝鮮の金正恩委員長が電撃訪中し、再び、習近平国家主席と会談した。金委員長の狙いとは?
日本時間の8日午後4時すぎ、NNNのカメラは北朝鮮の政府専用機を中国・大連の空港で捉えた。約4時間後、この専用機の主が明らかになった。
日本時間の8日午後8時頃、中国中央テレビのOAに映し出されたのは、黒塗りの車列。現れたのは金正恩委員長だ。そして、習近平国家主席との映像に切り替わる。場所は中国・遼寧省の大連。3月に続き、2度目の極秘訪中で中朝首脳会談を行っていたのだ。
中国中央テレビ「金委員長は『北朝鮮と中国の間の絆をより強めていくことと、地域の平和安定を推進していきたい』と述べた」
今回の訪中には妹の与正氏も同行。また、映像では2人の首脳が海岸沿いを並んで歩く様子も。通訳だけを交え、立ち話をしている。南北首脳会談の時と同じような光景にも見えるが、あの時の融和ムード演出を再現し、首脳同士の親密さをアピールしているのか。
再び、中国へ電撃訪問を果たした金委員長。北朝鮮の朝鮮中央テレビによると、中朝の友好関係を強調。さらに、朝鮮半島情勢について分析し、両国の協力関係を強化していくための方法に言及したという。
朝鮮中央テレビ「(金委員長は)両国の往来と対話が前例のない水準で行われていると高く評価した」
一方、中国メディアは、金委員長が会談で“朝鮮半島の非核化”に言及したと伝えた。
金委員長(中国中央テレビより)「関係各国が敵視政策と安全への脅威をなくせば、北朝鮮が核を持つ必要はなくなり、非核化の実現は可能になる」
金委員長はさらに、「アメリカとの対話を通じて信頼関係を築き、関係各国が責任を持って段階的で同時に措置をとることを望む」として、改めて段階的に非核化を進めたい意向を示した。
また、北朝鮮のメディアは、アメリカとの交渉役を務めてきた北朝鮮外務省の崔善姫次官が金委員長に同行していたことを明らかにした。北朝鮮情勢に詳しい慶応義塾大学の礒崎敦仁准教授は──
礒崎敦仁准教授「崔善姫外務次官は、長年アメリカとの外交を担ってきた。対米外交を動かすためのフルメンバーが行っているような感覚。アメリカとの首脳会談を控えて、中国との意思疎通を図っておく(ことが目的)」
米朝首脳会談を前に、金委員長と習主席がくりだした新たな一手。トランプ大統領はどう反応するのだろうか。  
ポンペオ米国務長官が北朝鮮入り 3人解放も交渉へ 5/9
米国のポンペオ国務長官は9日午前、6月初旬までの実現を目指す米朝首脳会談の最終調整のために北朝鮮を訪問した。ポンペオ氏は中央情報局(CIA)長官として3月末から4月初旬にかけて極秘訪朝したが、国務長官としては初めての訪朝となる。北朝鮮の要人と会談し、拘束中の米国市民3人の解放についても交渉する意向だ。
ポンペオ氏を乗せた飛行機は7日深夜(米国時間)、ワシントン郊外のアンドリュース空軍基地を出発し、9日午前に平壌に到着。ポンペオ氏は給油で立ち寄った日本の米軍横田基地で記者団に対し、米国の目標は「完全」かつ「検証可能」で「不可逆的」な核兵器の廃棄であることを改めて強調。「我々の目標が達成されない限り、(北朝鮮への)制裁を緩和するつもりはない」と語った。ポンペオ氏のツイッターによると、今回の訪朝は北朝鮮側の招待という。
一方、米国のトランプ大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席は8日午前(米国時間)、電話協議を行った。ホワイトハウスの発表によると、両首脳は習氏と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との2回目の中朝首脳会談について意見交換し、その上で「北朝鮮が核とミサイル計画を恒久的に廃棄するまで、経済制裁をかけ続けることの重要性で一致した」という。
トランプ氏は8日午後(米国時間)の記者会見で、米朝首脳会談をめぐり、「我々は会談をセットした。時間と場所も決まった」と語った。 
金正恩氏「2度目の電撃訪中」なぜ? ポンペオ長官もまた電撃訪朝 5/9
北朝鮮の動きも活発化しています。金正恩(キム・ジョンウン)党委員長が再び中国を電撃訪問して首脳会談をしていたことが明らかになる一方で、アメリカ・ポンペオ国務長官はまさに今、平壌(ピョンヤン)を訪問中です。
専用機が大連の空港に到着し、金正恩党委員長がにこやかにタラップを降ります。9日、朝鮮中央テレビが金党委員長の2度目の訪中をトップで報じました。金党委員長と中国・習近平国家主席による首脳会談は、皇帝のリゾート地として古くから知られる島で行われました。
「両首脳はビーチを歩きながら温かい会話を交わされました」(朝鮮中央テレビ)
「きのう(8日)、2人が歩いていた大連市内の海岸です。きのうは一般の人は入ることはできなかったんですが、きょうは大勢の観光客でにぎわっています」(記者)
「びっくりしました。なぜ大連に来たのだろう。数十日前に来たのに。(正恩氏は)やはり中国好きですね」(迎賓館を訪れた市民)
その後、レストランで休憩した両首脳。2人が座った椅子がまだありました。
「金正恩党委員長は、こちらのイスに座って、習近平国家主席とお茶を飲みながら、30分にわたり談笑したということです」(記者)
会議場の外には、会談の際に使われたとみられる赤絨毯も・・・。中国政府は今回の会談について「北朝鮮側がもちかけた」としています。
「(短い期間に2度の訪中は)大変異例です。金正恩党委員長が自ら何か相談する必要があった、何かがあると考えた方がいいわけで、米朝首脳会談に向けて大きな取引を考えていたとしても、必ずしも北朝鮮の思うようにいっていない」(慶応義塾大学 礒崎敦仁准教授)
中国国営メディアによると、会談で金党委員長はアメリカを念頭に、「関係国家が北朝鮮に対する敵視政策と安全保障面の脅威を取り除くのであれば、核を保有する必要はない」と強調。非核化の実現には関係国の「段階的、同時的な措置」が必要との立場を示しました。一方、習主席は非核化に向けて積極的な役割を果たす考えを示し、後ろ盾としての北朝鮮への影響力を誇示しました。
30分弱におよぶ北朝鮮の放送は、見送りの中国政府高官に機内から金党委員長が手をふり、専用機で飛び立つ姿で締めくくられていました。
一方、日本時間の9日・・・。
「まさにこの瞬間、ポンペオ国務長官は、来るべき金正恩党委員長との会談の準備のため北朝鮮に向かっている途中だ」(アメリカ トランプ大統領)
アメリカのポンペオ国務長官が米朝首脳会談の最終調整のため平壌に到着したのです。大連から帰ったばかりの金党委員長と面会するかは不明ですが、ロイター通信は、ポンペオ長官が平壌市内の高麗(コリョ)ホテルに入り、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長と昼食を共にしながら会談したと伝えています。
さらに、北朝鮮に拘束されているアメリカ人3人について、ポンペオ長官は訪朝直前に「解放されれば北朝鮮からの素晴らしい意思表示になる」と述べていて、解放の可能性が高まっています。
「北朝鮮としては、アメリカ人3人を解放することによって、米朝首脳会談を本気で臨むというメッセージにはなるが、アメリカも譲歩してほしいという思いは強い」(慶応義塾大学 礒崎敦仁准教授)
果たして米朝首脳会談は予定通り行われるのか。その前に拘束されたアメリカ人の解放はあるのか。北朝鮮をめぐる外交は、さらに急展開しています。 
ポンペオ、平壌でキム・ヨンチョルと首脳会談終盤調整 5/10
朝米首脳会談の準備を総括するマイク・ポンペオ米国務長官が、約1カ月ぶりに北朝鮮を電撃的に再訪問した。ポンペオ長官の2次訪朝で、朝米間の事前調整過程で生じた“異常気流”を解消する突破口が開かれるかに関心が集まっている。
ポンペオ長官は9日、金英哲(キム・ヨンチョル)北朝鮮労働党副委員長兼統一戦線部長との昼食の席で「数十年間、私たちは敵国だった。もう私たちはこうした軋轢を解決し、世界に対する脅威を一掃することを望む」と強調したとAP通信が報道した。
この席でポンペオ長官は、金副委員長を朝米首脳会談準備のために共に仕事をする“素晴らしいパートナー”と称し、金副委員長は、最近の北朝鮮の政策は自国に賦課された国際社会の制裁の結果ではないと主張したと、この通信は伝えた。
これに先立ってドナルド・トランプ米大統領は8日午後(現地時間)、イラン核協定脱退を発表するホワイトハウス記者会見の席で「今ポンペオ長官が目前に迫った金正恩(キム・ジョンウン)との会談準備のために北朝鮮へ行っている」とし、訪朝の事実を電撃公開した。彼は「(朝米首脳)会談が予定されている。場所を選択したし、日時も決まった」として「私たちはきわめて大きな成功を期待している」と明らかにした。トランプ大統領はさらに「取引がうまく行くことを望んでいる。中国、韓国、日本の助けで皆のために偉大な繁栄と平和の未来に達することができることを願う」と話した。ポンペオ長官は、金正恩国務委員長と中国の習近平国家主席の首脳会談が公開される数時間前の7日夜に平壌(ピョンヤン)に向けて出発した。
復活節の週末(3月31日〜4月1日)に北朝鮮を極秘訪問し、金正恩委員長と会談したポンペオ長官の再訪朝の目的は大きく分けて3つあると見られる。
第一に、北朝鮮に抑留中の米国人3人の釈放問題協議だ。トランプ大統領が先週彼らの釈放が差し迫っているとツイッターを上げたが、釈放のニュースはまだ出て来ていない。ワシントンポストは「(ポンペオ長官の再訪朝で)3人の米国人がまもなく釈放されるという期待が高まっている」と伝えた。
第二に、首脳会談を控えた北朝鮮との議題調整だ。最近の朝米間の主な対立は、北朝鮮の非核化措置とこれに対する相応措置の順序をどのように配列するか、また、非核化以外にどんな議題を扱うかであった。ポンペオ長官も8日、日本の横田空軍基地へ向かう飛行機内で同行記者団に「今まで首脳会談の議題の概略的内容を作った。今回の訪朝ではその中から数種類を確定し、成功的な朝米首脳会談のための枠組みを用意することを希望する」と明らかにした。
相応措置の核心に挙げられる制裁緩和と関連して、ポンペオ長官は「少しずつ緩和することはしない」としながら「そのような方法は、金正恩が願ったり、トランプ大統領が要求する結果にはつながらないだろう」と明らかにした。これに伴い、北朝鮮が繰り返し要求してきた“段階的接近”を譲歩して、朝米が“果敢な”措置を交換する“ビッグディール”がなされるかに関心が集まっている。
最後は、朝米首脳会談の場所と日時を確定することだ。これは事実上確定したと言われているが、議題の調整問題と連動して発表が延ばされているという。ポンペオ長官の2次訪朝が成功的に行われれば、その結果は一両日中にも公開されると予想される。 
北朝鮮、米国人3人を解放 ポンペオ長官と共に帰国 5/10
米国のトランプ大統領は9日、北朝鮮で拘束された米国人3人が解放され、米国への帰国の途に就いたと発表した。
トランプ大統領はツイッターへの投稿で、「ポンペオ国務長官は、誰もが会いたいと待ち望んでいる3人の男性とともに、北朝鮮から帰国する機内にいる。3人の健康状態は良さそうだ」と説明した。
さらに、ポンペオ長官と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の会談は「良い会談」だったと述べ、米朝首脳会談の日程と場所が決まったことも明らかにした。
ポンペオ長官と「ゲスト」は現地時間の10日午前2時、メリーランド州のアンドルーズ空軍基地に到着予定。トランプ大統領は現地で出迎える意向だとしている。
ポンペオ長官も、「平壌で金正恩氏と生産的な会談を行い、進展があった。3人の米国人を連れて帰れることをうれしく思う」とツイートした。
トランプ大統領は9日の閣議で、「3人の男性の帰国を誇りに思う。会えることを楽しみにしている」と語った。
ホワイトハウスは声明を発表し、トランプ大統領が「3人の米国人を解放した金正恩氏の行動を評価し、善意の証と受け止めている」と指摘した。3人とも健康状態は良好で、手助けなしで自分で歩いて搭乗したという。
解放されたのはキム・ドンチョル、キム・ハクソン、キム・サンドクの3氏。ドンチョル氏はトランプ氏が大統領に選出される前に北朝鮮で拘束され、残る2人はトランプ大統領が就任して、北朝鮮との対立が深まる中で、昨年春に拘束されていた。 
 
 
 
 
 
 

 



2018/5