アベノマジック 数字が踊る

アベノミクスの大嘘

円高円安  為替操作 付加価値は生れません
メリット・デメリット 両面の影響が生れます
儲かる人損する人 両者が発生します

アベノミクスで 一般庶民は大損しました
2%のインフレなど 達成されることはありません
 


日本経済の問題(2014)インフレ率2%の目標は死守すべきか(2017)2%インフレ目標不要論の自己矛盾(2017)インフレ率2%目標は必要か(2018)物価が上がると暮らしはどうなる(2018)日銀の2%インフレ目標(2018)「2%」実現に必要な政策(2018)・・・
 
 
 
 
 
 
庶民は大損
質素倹約に努めています
まして 霞のかかった将来 無駄使いなどできません
 
 
 
食料品 多くの輸入品
生活必需品が値上がりしました
 
 
 
石油は100%輸入品
ガソリン・灯油が値上がりしました
当然 加工品も値上がり
物流費も値上がり
 
 
 
石油は100%輸入品 
電力会社 電気代に転嫁
電気代が値上がりしました
 
 
 
アベノミクスが成功と言うなら
庶民の犠牲の上のこと
 
 
 
デフレ脱却政策
○所得税・住民税・相続税・固定資産税・軽自動車税増税
○年金支給・児童扶養手当・生活保護費減額 
○医療費・介護保険料・国民年金保険料負担増
○石油石炭税増税・電力料金・高速料金値上げ
○後期高齢者特別控除・配偶者控除廃止
○給与所得控除を縮小
○増税による消費者物価上昇
○公務員給料・議員報酬引上げ  
 
 
 
日本1人当たり 名目GDP ( IMF統計 )
 年 国際順位  US$   総理大臣
1990   9   25,196  海部俊樹
1991   4   28,718  海部俊樹/宮澤喜一
1992   4   31,194  宮澤喜一
1993   3   35,657  宮澤喜一/細川護熙
1994   3   39,224  細川護熙/羽田孜/村山富市
1995   3   43,455  村山富市
1996   3   38,453  村山富市/橋本龍太郎
1997   4   35,042  橋本龍太郎
1998   6   31,931  橋本龍太郎/小渕恵三
1999   4   35,912  小渕恵三
2000   2   38,534  小渕恵三/森喜朗
2001   5   33,860  森喜朗/小泉純一郎
2002   8   32,301  小泉純一郎
2003  12   34,845  小泉純一郎
2004  14   37,701  小泉純一郎
2005  15   37,228  小泉純一郎
2006  20   35,465  小泉純一郎/安倍晋三
2007  22   35,342  安倍晋三/福田康夫
2008  24   39,454  福田康夫/麻生太郎
2009  17   41,014  麻生太郎/鳩山由紀夫
2010  18   44,674  鳩山由紀夫/菅直人
2011  17   48,169  菅直人/野田佳彦
2012  15   48,633  野田佳彦/安倍晋三
2013  26   40,490  安倍晋三
2014  27   38,143  安倍晋三
2015  26   34,493  安倍晋三
2016  22   38,883  安倍晋三  
2017  25   38,449  安倍晋三  
2018  26   39,304  安倍晋三
 
 
 
大儲けした人
証券会社・海外投資家
株式投資家(含み益)
輸出企業
 
 
 
経済学者・マスコミ・野党
そろそろ 真面目にアベノミクス成果を検証してみませんか
 
経済学者・マスコミ 忖度 口を瞑る
野党 知恵がない
 
 
 
与党
マイナス金利 中止の出口を検討してみませんか 
財政健全化への道筋を検討してみませんか
 
知恵がない
総理が恐い 手が出せない 口出しできない
 
 
 
安倍総理
財政健全化 マイナス金利 
ほったらかして引退ですか
 
 



2018/3

 
●日本経済の問題 2014 
アベノミクスとインフレターゲット
今回は、アベノミクス(安倍内閣による経済政策)についてお話しします。アベノミクスはいろいろな見方がありますが、これまでの経済政策と決定的に異なるものとして「インフレターゲット」があります。これは「中央銀行がインフレ目標を明示し、その達成を優先する金融政策」です。安倍政権はこのインフレターゲットを達成するために、「量的緩和(通貨供給量の拡大)」を日本銀行に要請しました。インフレターゲットのアイディア自体は第2次安倍政権以前からあったのですが、その執行機関である日本銀行が頑強に抵抗してきました。通常、日本銀行などの中央銀行は「物価の安定」を最優先とするため、インフレを招くような金融政策を嫌がります。にもかかわらず、今回、安倍政権がインフレターゲットを強行したのは、過去20年の景気対策があまり有効でなかったためです。たとえば、政府は毎年10~20兆円規模の景気対策を行ってきたにもかかわらず、金融不安等によるデフレ拡大を止められませんでした。
ここで理解を深めるために、「インフレ」と「デフレ」について説明します。まず「インフレ」はインフレーションの略称で、物価水準が持続的に上昇することです。これは主に需要が供給を大幅に上回ることによって発生します。このときインフレの要因には主に2種類あって、需要側に原因があるインフレを「ディマンド・プル・インフレ」、供給側に原因があるインフレを「コスト・プッシュ・インフレ」と呼びます。またインフレは貨幣の供給量が増えることによっても発生します。物価の上昇は、貨幣価値の低下を意味します。つまりインフレ前に1万円で買えたものは、インフレ後は1万円では買えなくなります。これは貯金しているとその貯金額が目減りしていくことになるので、人々に貯蓄よりも消費や投資を促します。したがって緩やかなインフレ傾向は、景気刺激策となり得る、というのが「インフレターゲット」を推進する人々の意見です。ただしインフレの速度があまりにも速いと、「ハイパーインフレーション」という物価水準を制御できない状態になります。このような状態になると、消費や投資は減退し、経済は大混乱に陥ります。これは、第1次世界大戦後のドイツや最近ではジンバブエなどで発生しました。一応、ハイパーインフレには「デノミネーション(デノミ)」という通貨単位の切り下げ手段により終息することもありますが、うまくいかないこともあります。「インフレターゲット」に反対する人たちは、インフレの増進がやがてこのような物価水準を制御できない状態になることを懸念しています。
逆に「デフレ」はデフレーションの略称で、物価水準が持続的に下落することです。これは主に需要が供給を下回ることによって発生します。また通貨供給量の減少によっても需給ギャップからデフレを発生させます。物価の下落は貨幣価値の上昇を意味するため、(名目ではない)実質的な金利や賃金の上昇を招き、企業収益を圧迫します。これが企業による投資や雇用の抑制につながり、景気後退につながります。こうした景気後退が購買力の低下(需要の減少)を招き、企業収益をさらに圧迫するようになると、「デフレスパイラル」という悪循環に陥る状態になります。またデフレは円高も誘発します。つまり日本のデフレは日本円の価値の上昇を意味するため、ゼロ金利であっても外国から見ると実質的に高い金利と同じ状態です。するとドルやユーロを売って円を買う動きが強まり、円高となります。
このようなインフレとデフレ、景気との関係を示したものに「フィリップスカーブ」があります。A.W.フィリップスが発見したこの関係は、「物価上昇率と失業率の間のトレードオフ(または逆相関)」を示しています。つまり(急激でない)物価上昇は、モノが高く売れるので企業はより多くの人を雇い、生産拡大しようとします。その結果、失業率は低下するため、このような関係が見られるわけです。
アベノミクスでは、「2%のインフレ目標」を掲げ、そのために「無制限の量的緩和(通貨供給量の拡大)」を公約しています。2013年末現在、その1年前よりマネタリーベースは46%上昇し、消費者物価指数は約1%上昇しています。また失業率はそれほど変化ないものの、株価は約64%上昇、為替レートも20円近く円安となりました。国民全体が景気回復を実感するまでには至りませんが、数字の上では今のところ、アベノミクスの金融政策は奏功していると言えそうです。
政府と日銀の経済政策 / 財政政策と金融政策と国債
今回は、政府と日銀による経済政策についてお話しします。景気を良くするためには、2つの政策があります。それが政府による「財政政策」と日銀による「金融政策」です。まず「財政政策」は主に2つの手段があり、ひとつは公共事業等によるもので、雇用拡大・所得増加を図るものです。もうひとつが所得税や法人税等の減税によるもので、個人の可処分所得増加や企業収益改善を通じて消費や投資を促すものです。これら2つの手段は、財源の歳出増加(公共事業等)、あるいは歳入減少(減税)を伴うので、いずれも財源確保が重要になります。もし財源が十分でなければ赤字国債による補填が必要となり、国の借金が増大することになります。
次に日銀が実施する「金融政策」について説明します。金融政策は主にマネーサプライや金利を調整することにより、物価の安定や雇用の拡大などを目的としています。金融政策の手段のひとつとして、「公開市場操作」があります。これは日銀と一般銀行の間で国債等を売買することによって、マネーサプライや金利を調整するものです。たとえば「買いオペレーション(買いオペ)」と呼ばれる操作では、日銀が一般銀行から国債を買い、その代金が日銀から一般銀行に支払われることによって市中通貨量が増加します。また銀行は手持ち資金が増加する訳ですから、「低い金利でもお金を貸してもいいよ」という状態になり、金利が低下します。逆に「売りオペレーション(売りオペ)」と呼ばれる操作では、日銀が一般銀行に国債を売り、その代金を一般銀行から日銀に支払われることによって市中通貨量が減少します。また銀行は手持ち資金が少なくなって「高い金利でないとお金を貸せない」という状態になるため、金利が上昇します。通常、「買いオペ」は景気を刺激するために行われ、「売りオペ」は景気が過熱するなど引き締めが必要なときに行います。
この金融政策で重要な役割を果たすのが、国債です。通常、国債金利は預金金利より高いため、銀行等は保有しているだけで利鞘が稼げます。したがって銀行などの金融機関は、特に不況時には貸出先に困るので、国債を大量に保有しています。2013年末現在、国債の総計約970兆円のうち、主な保有比率は金融機関63%、日銀15.5%、海外8.5%となっています。
実はこの国債、発行することは法律によって禁止されています。財政法第4条には「国の予算は国債発行に頼らず、税収で何とかすること」とあります。ただしこの法律にはつづきがあって、「将来、国の財産として残るような建設的なモノであれば、国会での承認のもとに国債発行は可能」とあり、この条文にもとづき「建設国債」が発行されています。建設国債発行は例外的に認められているものの、現在の予算はそれだけではとても足りません。平成25年度予算92.6兆円のうち、税収43.1兆円(46.5%)、建設国債5.8兆円(6.2%)ですから、残りの約40%を「赤字国債」を発行することで何とかしている状態です。
この「赤字国債」は財政法で明確に禁止されています。にもかかわらず、実際には赤字国債を発行しなければ予算を組めない状況です。そこで「特例公債法案」、つまり「今年1年限りの例外的な事なので赤字国債発行を認めてください」という法案を国会で承認して赤字国債を発行している訳です。この法案は「1年限りの例外」のはずですが、実際には予算を組むために、国会ではこの法案を毎年毎年、何十年も承認しています。逆に言うと、この法案が承認されなければ、年度予算はストップしてしまいます。そのため「ねじれ国会」等、少数与党の状況では政争の具とされることもあります。このように現在の日本の国家予算は、莫大な借金の上に成り立っているのが実情です。
円高と年金問題
今回は日本経済が直面する問題として、円高と年金問題を取り上げます。まず円高に関してですが、日本円と米ドルの為替レートは、変動相場制に移行した1973年以降、基本的に円高ドル安傾向で推移してきました。この理由は、日本製品の輸出増大にあります。つまり日本から輸出された製品の代金は、基軸通貨である米ドルで受取ることになります。しかし日本企業は社員に対する給料や銀行への融資返済のためには日本円が必要ですから、外国為替市場でドルを売って円を買います。その結果、円高ドル安となる訳です。またここ数年の急激な円高傾向に関しては、2008年のリーマンショック後のアメリカにおける金融不安や財政赤字による米ドルへの不安感、あるいはギリシャ、スペイン、イタリア等EU加盟国の財政赤字によるEUユーロへの不安感から、消去法で日本円が買われている結果です。また日本の長引くデフレ傾向による通貨価値の上昇も、この傾向に拍車をかけています。
このような円高による影響は、輸出企業の業績悪化を招きます。たとえば$1=\110として、110万円(=1万ドル)の車を輸出しているとします。ここで$1=\100と円高になった場合、110万円は1.1万ドルとなります。しかし買い手側としては、これまで1万ドルで買えたものに1.1万ドルを払おうとはしないでしょう。したがって売り手側としては、110万円の車をコスト削減などをして100万円(=1万ドル)で販売することになります。日本企業はこのようにして、コスト削減しながら円高に対応してきました。しかしそうした対応の結果、ますます日本製品への需要が高まり、輸出が伸びることになります。そして輸出が円高を招き、円高が企業にコスト削減を促し、それがまた円高を促す、ということがこれまで続いている訳です。
このように日本企業は円高傾向に対応してコストを削減してきましたが、それにも限界が出てきます。そこで為替の影響を受けない輸出先(北米やEU諸国)や人件費の低い国(中国やASEAN諸国等)に工場を移転する企業も増えてきます。このような減少を「産業空洞化」と言います。産業空洞化が生じると、本来、日本の工場で働くはずだった人が働き口を失うことになります。また日本政府としては、本来日本の工場から得られたはずの法人税等の税収を失うことになります。こうした状況を避けるために、政府・日銀が通貨を売買し為替介入を行うことがあります。ただし、最近の外国為替市場は、ヘッジファンド等の参入により非常に大きなものとなっていて、一国の単独介入ではあまりうまくいっていません。そこで数か国が協議して一斉に為替介入を行う協調介入が行われることもあります。
次に年金問題についてお話しします。年金保険は職種によって年金の種類が異なります。まず学生や自営業の人たちは「国民年金」に入ります。民間企業のサラリーマンは「厚生年金」、公務員や(私立学校も含む)教員は「共済年金」です。「厚生年金」や「共済年金」は、被雇用者だけではなく雇用主(企業や自治体など)も年金保険料を積み立てているため、「国民年金」より高い金額がもらえます。
現在、年金については様々な問題が議論されています。その中で一番大きな問題は、「少子高齢化」による影響です。現在の年金は「賦課方式」と呼ばれる「現役世代の積立金を現在の高齢者に支給」する制度になっています。年金制度の発足当初は「積立方式」と呼ばれる「現役時代の積立金を老後に受け取る」制度だったのですが、1970年代以降、現方式に段階的に移行してきました。賦課方式の場合、現役世代が高齢者を支えるため、全人口における現役世代の割合が高ければ問題ないのですが、現在のように少子高齢化が進むと、現役世代で高齢者を支え切れなくなってしまいます。したがって現在では国民年金のうち半分は税金で賄われています。また年金積立金の運用(株式投資の失敗、グリーンピア事業など)や管理体制(消えた年金記録など)に関しても様々な問題が指摘されています。これらの問題はまだ解決されていないものあり、将来の年金制度に不安を残すものとなっています。
このように年金の一部は税金で賄われており、将来の年金制度は国の財政状況にも依存してきます。国の借金については諸説あるものの、2013年度末見込みで1107兆円(うち国債750兆円)となっています。現在は家計資産等で何とか賄っているものの、将来的には国債の国内消化が困難になる可能性もあります。もしそのような状況に陥った場合、(海外で日本の国債を買ってもらうためには)国債金利を上げざるを得ず、借金が雪だるま式に拡大していくことになります。
そうした状況を避けるために、2014年4月から「消費税」が増税されます。所得税や法人税ではなく、なぜ消費税なのか、というと、その背景には「直間比率の見直し」というものがあります。「直接税」とは所得税、法人税などで、景気の影響を受けやすいと言われています。それに対し「間接税」とは消費税などで、景気の影響を受けにくいとされています。現在、日本の直間比率は6:4で、比較的景気の影響を受けやすい税収構造となっています。他の国では、先進国の平均は5:5なので、日本もそれに近づけていこう、という議論があります。またもうひとつの消費税増税の根拠として、世界的に、特に先進国では消費税が高い、という傾向があります。たとえばデンマークやスウェーデンなどの北欧諸国では25%、イギリス、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国では20%程度となっています。こうした国々の消費税は非常に高いように思えますが、実際には医療費や教育費は無料であり、食料品への課税は0-10%程度です。したがって老後や将来への不安が少ないため、貯蓄の必要性が高くなく、消費が旺盛となる傾向があります。このようにヨーロッパ諸国では「高福祉高負担」の傾向があり、それと比較すると、現在の日本は「中福祉低負担」と言えます。今後、日本が年金をはじめとする社会保障制度を維持していくためにも、消費税増税を含む「高負担」の方向へ舵を切るのかどうか、検討していく必要がありそうです。 
 
●インフレ率2%の目標は死守すべきなのか? 2017/7 
インフレ率2%達成には時間が必要
日銀は、20日発表の「展望レポート」の中で、インフレ率の予想(政策委員の平均)を公表していますが、それによれば、2019年度頃にはインフレ率が2%の目標に達することになっています。
しかし、民間エコノミストの予想は、それとは大きく異なっています。ESPフォーキャスト(著名なエコノミスト42名・機関による予測の集計)によれば、2018年度のインフレ率は0.9%程度、2019年度のインフレ率も、消費税増税の影響を除くと1%程度にとどまるというのが平均となっているのです。
日銀の審議委員も民間エコノミストも、優秀な人々ですから、ここまで大きく見解が異なるのは不思議な気がします。もしかすると、日銀側にメンツがあり、正直に回答していないのかもしれませんね。そうだとすると、当分の間、インフレ率2%の目標は達成されないかもしれません。
ちなみに筆者は少数説で、ヤマト運輸の値上げなどを見ていると、インフレが来そうな気がしていますので、日銀と民間の中間あたりをイメージしています。氷を熱していくと、ある時突然温度が上がり始めます。そんな可能性も感じる今日この頃です。そのあたりについては、拙稿『ついにインフレ時代の到来か? 地震や国債暴落などのリスクも…』をご覧下さい。
しかし、仮に物価が上がらないとして、何か問題でしょうか? 物価が下落しているデフレであれば、問題でしょうが、すでにデフレは脱却しており、物価は安定しています。「インフレも失業も無い、理想的な経済状況」が続いているのです。素晴らしいことだと思いませんか?
2%を目指すのは、インフレ率は「ピンポイントの操作が困難だから」
日銀は物価の番人として、インフレもデフレもない経済を目指しています。しかし、金融政策で物価を誘導することは容易ではありません。金融を緩和すると何時、どれくらい景気が良くなり、それによって何時、どれくらい物価が上がるのか、予想するのは極めて難しいことなのです。従って、ピンポイントに「物価上昇率をゼロにしよう」と考えるのは非現実的です。そこで、「物価上昇率の目標を定め、目標プラスマイナス2%に収まればマズマズ」といった目標の定め方をします。
ここで重要なことは、金融政策にとって、インフレを止めるよりもデフレを止める方が遥かに難しい、ということです。インフレ率が10%の時、これをゼロにするためには、金利を20%にすれば良いのです。借金をして家や工場を建てる人が激減し、景気が悪化し、物価は安定するでしょう。
しかし、インフレ率がマイナス10%の時、これをゼロにするのは大変です。来年まで待てば値段が10%下がると思えば、人々は買い控えをするでしょうから、物が売れず、景気が悪化して一層物価が下がるでしょう。
これを「名目金利はマイナスにできないから、実質金利が高止まりして景気を抑制してしまう」などと表現する場合もあります。実質金利とは、金利マイナス物価上昇率のことです。金利が10%でも物価が20%上がっている国では、人々が借金をして物を買い急ぐので、金融引き締めではなく金融緩和になっている、という考え方です。実質金利がマイナス10%だから、というわけですね。
そこで、インフレ目標を0%に定めると、困ったことになりかねません。インフレ率がプラス2%になってしまった場合には、ゼロに引き下げることは容易ですが、マイナス2%になってしまった場合、これをゼロに引き上げるのは容易ではないのです。
それならば、インフレ率目標を2%に設定しておけば良いでしょう。4%になってしまっても引き下げるのは簡単です。0%になってしまっても、特に困りませんし、2%に引き上げることもそれほど難しくはありません。先進各国の中央銀行の多くがインフレ率目標を2%としているのは、こうした理由からなのです。
将来の不況に備えた「のりしろ」という議論も
インフレ目標を定める際には、通常時のことだけではなく、次回の景気後退のことも考えておく必要があります。インフレ率が小幅なプラス程度だと、景気悪化に伴って物価に下押し圧力がかかるため、次回の景気後退時にインフレ率がマイナスに陥ってしまうかもしれません。そうならないためには、通常時にはある程度のインフレ率を保っておくことが必要だ、ということになります。
さらに言えば、将来景気が悪化した時に、金融緩和によって景気を回復させることができると良いですね。そのためには、景気が悪化した際にもインフレ率がプラスでないと困ります。インフレ率がプラスならば、金利をゼロにすることで「借金をして来年使う物を買う、買い急ぎ」を誘発することができるからです。「景気悪化によってインフレ率が押し下げられてもある程度のプラスを維持する」ためには、通常時には2%程度のインフレ率が必要だ、ということも言えそうです。
今回の金融緩和はコストが高い
従来のインフレ目標は、「高いインフレ率を2%程度まで押し下げることが必要だが、それ以上押し下げる必要はない」といった意味合いでした。「2%まで高めよう」という話は、本当に最近出てきたに過ぎません。せいぜい、「インフレ率がマイナスからプラスになった時点では、インフレ率を押し下げる必要はなく、従って金融を引き締めるべきではない」といった話だったわけです。
本来、インフレ率はゼロが好ましいに決まっています。「すべての物の値段や賃金等々が一律に2%ずつ上昇していく」ならばともかく、そうでない場合には「インフレ率が2%だが金利が低いので預貯金が目減りする」等の歪みが生じますから。つまり、現在のインフレ目標は、「インフレ率を2%にするコストを支払っても、デフレ再発のリスクを減らそう」、ということなのです。
今ひとつ、今回の金融緩和には通常以上のコストがかかっている、ということも重要です。日銀の国債保有額が膨れ上がり、国債市場の機能を歪めている上に、日銀自身の出口戦略を難しくしているのです。金融緩和が長引けば長引くほど、こうしたコストは拡大していくわけです。
コストとベネフィットの比較が必要
物事を決める時は、コストとベネフィットを比較する必要があります。量的緩和等をやめて単なるゼロ金利政策に戻した場合(もちろん、市場への影響を考えながら時間をかけて少しずつ、ですが)、量的緩和を続けた場合と比べて、どの程度インフレ率に差が出るでしょうか? その認識の差が本稿の議論に決定的に重要でしょう。
筆者は、大したことはないと考えています。量的緩和等は「偽薬効果」で景気を回復させただけであり、これを中止しても景気が悪化したり物価が下がったりすることはないだろう、と考えているからです。偽薬効果だと考える理由については、『アベノミクスの七不思議を考えながら、今後を占ってみた』をご参照ください。
重要な点は、日本経済が既にデフレを脱しているということです。消費者物価指数の上がり方が日銀の目標に達していないだけで、下がっているわけではないのです。つまり、「金融政策による物価のコントロールが難しいから、ゼロより2%を目指す」「次回景気後退に備えたのりしろを持つ」といったことさえ考えなければ、まさに理想的な「失業もインフレもない経済」なわけです。
これを、大きなコストを払ってまで2%インフレに持っていくインセンティブは小さいと思います。次回の景気後退ですが、国内要因で景気が悪化するとは考え難い状況ですから(政府日銀が景気を冷やすことは考えられず、バブル崩壊による景気後退も考え難いでしょう)、あるとしたら海外発ですが、海外経済にも特段のリスクは見当たりません。
一方で、国内の労働力不足は一層深刻化しつつあり、非正規労働者の賃金は上昇しています。中小企業の賃金も、上昇し始めているようです。こうした中、物価が下落していく可能性は大きくないと考えて良いでしょう。
景気が悪化して物価が下落する可能性が大きくないのに、比較的大きなコストをかけて「景気が後退した時への備え」をするのでは、コストとベネフィットの釣り合いが取れないでしょう。インフルエンザが流行する見込みが大きくないのに、通常より高い費用を支払って予防注射を接種するようなものですから。
日銀としては、「メンツ」があるので2%インフレの旗を下ろせない、と考えているかもしれませんが、筆者としては、総裁が交代したタイミングで政策の転換があっても構わないと考えています。
「現在の日本は、インフレも失業もない、望ましい状況にあります。日銀はこれまでインフレ率2%を目標に量的緩和等を行なって来ましたが、それは物価を上昇させて景気を回復させることが主目的でありました。物価が上がらなくても、景気が回復したのですから、主目的が達せられた以上、金融政策の正常化に向けた第一歩を踏み出すことが適当と考えるに至りました」と新総裁が発表したら、筆者は大いに納得すると思います。
金融市場関係者の多くは、これを「テールリスクとして扱う必要もないほど起こり得ないことだ」と思っているでしょうが、皆が起こらないと思っていることが起きかねないのがテールリスクですから。 
 
●2%インフレ目標不要論の自己矛盾 2017/9 
日銀が掲げる2%の物価目標に対する批判が強まっている。その最大の理由は実現性の乏しさに加え、無理に物価上昇率を引き上げようとすると副作用のリスクが高まり、日銀の信認が失われるということのようだ。
足元の景気回復が、戦後2番目の長さかそれを超えると期待されるなか、労働市場の改善とともに、所得・収入に「満足」とする回答の割合が「不満」とする回答の割合を21年ぶりに上回ったことなども、「物価目標にそこまでこだわらなくてもよい」という雰囲気につながっているのかもしれない。
また、米連邦準備理事会(FRB)と欧州中銀(ECB)がそろって金融緩和の修正に踏み切っていることで、日銀だけが「周回遅れ」となっている現状に不安を覚えるということも考えられる。
しかし、FRBとECBが金融緩和の修正に踏み切っているのは、もともと予想物価上昇率が2%近辺に固定されていることに加え、現実の物価上昇率が1%を上回るところまで回復してきたということがある。そのことと、日本のように予想物価上昇率と現実の物価上昇率のいずれもがゼロ%前後にとどまっていることを同列に論じるのは随分と無理があると言えるだろう。
確かに、欧米でも構造的な変化を理由に、2%の物価目標を達成することは困難との指摘はあるが、その際にFRBとECBが求められているのは、物価目標の引き下げや撤回、金融緩和の修正ではなく、物価目標の引き上げや金融緩和の強化である。このことだけでも、日本の物価目標に絡む議論が欧米と異なることが分かるだろう。
<物価観が低位安定していた訳>
こうしたことを指摘すると、日本経済の実力や国民の物価観から考えて2%という水準が高過ぎるとも言われる。しかし、物価は一般的に需給ギャップ(潜在成長率と実際の成長率との差)と予想物価上昇率で決まると考えられている。日本経済の実力が潜在成長率を指しているのだとすると、少なくとも日本経済の実力と2%の物価目標との間に直接的な関係は見当たらない。
もちろん、潜在成長率の低下が景気にとって中立的な金利水準を引き下げることで、伝統的な金融政策だけで潜在成長率を上回る成長率を実現するのが困難になることは、長期停滞の原因としてすでに指摘されている。しかし、その際の焦点は、非伝統的な金融政策によって実際の金利を中立金利よりも低い水準とするか、財政政策などで中立金利を引き上げるかであって、物価目標をどうこうすることではない。
一方、国民の物価観については、日本の物価上昇率が長らく低位安定してきた現実と比べて高いとの指摘に異論はない。しかし、そもそも国民の物価観はどのようにして形成されるのだろうか。
日銀の「総括的な検証」によると、日本での物価観は足元の物価上昇率に引きずられる傾向が非常に強いとのことだ。物価が一般的に需給ギャップと予想物価上昇率で決められるという前提に加え、予想物価上昇率そのものが足元の物価上昇率に引きずられるということも踏まえると、日本で実際の物価が低位安定してきたのは、需給ギャップを拡大させる(デフレ的な)政策を長期間にわたって続けてきたことの結果とは言えないだろうか。
需給ギャップを拡大させる典型的な政策は、無理な財政健全化路線である。しかし、それだけではない。財政政策の需給ギャップに与える影響が一定だとしても、日銀が金融政策を引き締めれば、それが景気抑制効果を生んだり、予想物価上昇率を(限界的に)引き下げることで、現実の物価上昇率は低くなる。
筆者は、仮に日銀が現実の物価上昇率が非常に高かった時代に2%の物価上昇率を適切と考えて金融政策を行っていれば、国民の物価観が2%で安定していた可能性が高いと考えている。つまり、国民の物価観は理由もなく低位安定しているわけではなく、日銀がゼロ%程度を適切な物価上昇率とみなして金融政策を運営した結果なのである。
<すり替わった批判の矛先>
このように整理すると、日本経済の実力や国民の物価観から考えて2%という水準が高過ぎるとの批判は、非常に大きな問題をはらむことが鮮明になるだろう。特にそうした言葉が、実際の政策担当者や、その政策判断に強く影響を与える立場にあった人などから発せられる場合、本人の意識はともかく、外形的には過去の誤った判断に対する自己弁護としての色彩が強くにじんで見えてしまう。
誰にでも誤った判断を下すことはあり、当時はその判断が最善だったということはよくある。それを筆者が今になって批判することを適切だとも全く思わない。しかし、明らかにデフレではなくなった現状をほとんど評価せず、2%に届かないことだけを強調して、物価目標の取り下げや下方修正を求めることには釈然としないものがある。
筆者が釈然としないのはこれだけではない。そもそも物価目標の導入には、具体的な目標を明示することによって中央銀行がその達成に向けて努力することを促すとともに、その結果がつまびらかになることで、国民と明快なコミュニケーションが可能になるというメリットがある。
一方、デメリットは中央銀行が「目標達成至上主義」に陥ることでファンダメンタルズにそぐわない極端な金融政策に踏み切ることだ。したがって、物価目標の導入を巡っては柔軟な政策運営ができなくなるのではないかとの懸念が指摘されてきた。日本でも物価目標の導入に反対ないし、慎重な人々の多くは当初、「目標達成至上主義」のリスクを指摘していた。
しかし上述した通り、今や批判の矛先は物価目標が未達なことに向かっている。しかも、筆者がみる限り、当時、物価目標が達成できない場合、日銀が国民や政治家からその責任を追及され、極端な金融緩和策を打ち出す恐れがあると批判していた人ほど、足元の物価目標の未達を厳しく追及しているのである。
日銀が「質的・量的金融緩和」の導入にあたって「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」という強いコミットメントを示したにもかかわらず、達成時期を繰り返し先送りしたことは事実である。そのことが日銀の信認を毀損(きそん)させるリスクも否定しない。しかし、そのことで、デフレではないと言い切れるほどのファンダメンタルズの改善がもたらされたことも事実であろう。
最近の物価目標に対する批判の多くは、物価目標の導入とそれに伴う政策の変化がもたらした成果をほとんど評価しないどころか、否定さえしているものも少なくない。仮に物価目標を導入しなかったり、導入したとしても従来と同様に弱いコミットメントしか示さないでいたりしたら、今のようなファンダメンタルズを実現することはできただろうか。批判すべきは、物価目標を掲げたことではなく、デフレ的な政策を20年近くも放置した不作為にあると感じるのは筆者だけであろうか。  
 
●報道されぬ2020年危機 日本経済があと3年で「どん底」に落ちる 2017/11 
凋落は避けられないのか? 2020年の日本を襲うトリプルパンチ
実態的に衰退している日本
メディア上では、内閣府発表の最新の経済統計に基づいて、「7−9月GDP年率1.4%増、16年半ぶり7期連続プラス成長」などと報道されています。もちろんこれは誤報ではありませんが、この見出しから受けるイメージほど、日本経済は好調では決してありません。
そもそも、今期の成長は「外需主導」でもたらされたもので、国民の暮らしに直結する内需は大きく冷え込んでいるのが実態です。実際、(GDPの1%程度を占める「純貿易」を差し引いた)「内需GDP」に着目すれば、前期比の実質成長率はなんと「-0.18%」(532.1兆円→531.1兆円)です。
これは文字通りのマイナス成長。つまり「衰退」局面にあるのが今の日本経済なのです。
さらにデフレータに着目すれば、前年同月比でみれば「0%プラス」、つまり、完全な横ばい(102.8→102.8)となっています。ちなみに前年同月比のデフレータは、四期連続「マイナス」だったのを考えれば、いくぶん改善したとも言えますが、成長局面にないことは明白。
16年半ぶりの好景気なのであれば、デフレータは対年前年比でも明白にプラスで、内需実質GDPも明確にプラス成長しているはずですから、好景気だなんて絶対に言えない状況にあるのが、我が国の今の実情なのです。
事実でなく「イメージ」が幅をきかす、悲しき日本
ちなみに、これらの数字はいずれも政府がホームページで公表しているもので、誰でもすぐに確認できます。
しかし、メディアも学者もエコノミストも、そうした確認作業をしてまで情報発信している方はごく一部。政治家、官僚、エコノミストを含めた大半の国民が「新聞の見出し」だけに基づいて意見(あるいは「発言」内容)を形成しているのが実情です。
結果、「今、日本経済は景気が良い!」というイメージが世間を席巻し、結果的に、今、景気回復のために必要不可欠な補正予算の水準も、当方の主張の「5分の1程度」の水準に落ち着きそうな気配となっています。
そもそも補正予算の規模を検討する際、その趣旨に「景気対策」という目的を付与するか否かが決定的に重要なのですが、今回は景気対策という趣旨が付与されなかったのです。
それもこれも「今、日本経済は景気が良い!」というイメージが支配的だったから。
言うまでもありませんが、事実でなくイメージを判断基準にするような人物や企業や国家の将来はロクでもないものになるのは必定。(万が一にもこの意味が分からないという方がいるなら是非、「闇金ウシジマくん」でも見て人生勉強してください)
だからイメージが幅をきかせる今の日本は、「どん底」へと落ちぶれることもまた必定なのです。
日本をどん底にたたき落とす「3つの要因」
実際、具体的に状況を確認すれば、このまま行けば日本経済は確実に「3年以内」にどん底へとたたき落とされてしまうことがハッキリと見えてきます。
その理由は3つ。
第1に、2019年秋の10%の消費税増税。これによって日本の消費はさらに冷え込み、デフレ化は決定的なものとなるでしょう。
第2に、残業を規制する「働き方改革」。このまま無為無策で働き方改革を進めてしまえば、日本人の給与所得がトータルで5〜8兆円も縮小するだろうと試算されています。それはもう、消費税を2〜3%程度上昇させる程のインパクトを与えます。そして今のまま行けば、この制度は2019年頃、実施される見通しです。
第3に、オリンピック特需の終焉。今、特定指標を見れば全国の建設需要は微増しているように見えているのですが、それもこれも皆、オリンピック特需があるから。実際、オリンピック特需がない東北や近畿では激しく建設需要が縮小しているのが実情です。ですから、2020年のオリンピックが終わればその特需がなくなり、一気に全国の景気全体が冷え込むことは必定です。
しかも増税と働き方改革による景気へのブレーキがかかる2019年には、このオリンピック特需が最も盛んですから、その両者の悪影響がにわかには表面化してこない、という事態が予期されます。
今の日本は事実や理性でなく、単なる「イメージ」で政治的決定も下されてしまうほど愚かな国に成り下がっていますから、このまま行けば、オリンピック特需のせいで2019年には抜本的な対策が取られないという最悪の事態となる事が予期されます。
そうなると、2020年にオリンピック特需が消えた途端に、増税、働き方改革、オリンピック特需の終焉という「トリプルパンチ」が襲いかかり、日本経済が一気にどん底へとたたき落とされることになるわけです。
イメージを捨てて理性に基づいて判断すれば、日本を救い出せる
無論、それまでに世界のどこかで大型のバブルが崩壊したり、朝鮮有事が起きたり、あるいはそれらの帰結として円高が一気に進めば、日本経済の凋落はさらに早まることになるでしょう。
――こんなこと、少し考えれば誰でも分かる簡単な未来です。
だから普通ならそんな当たり前の予想に基づいて、
1.大型補正予算をただちに組んで景気を上向かせる
2.残業規制の悪影響を最小化するための徹底的な賃上げ対策を図る
3.それらの対策が成功しているか否かを逐次モニタリングする
4.必要に応じて増税延期やさらなる追加大型補正や、当初予算の拡充を進める
という対策が図られ、そんな「悪夢」はいともたやすく回避されることになるはずなのですが――残念ながら我が国は今、「理性」に基づく予想や議論よりも、「イメージ」の方がはるかに強い力を持っているので、どれだけ簡単に回避できる「悪夢」でも、その到来を止めることができないのです。
政治の劣化が「亡国」に直結する
つまり政治の劣化は、亡国に直結しているのです。
これから確実に訪れるであろう「2020年危機」を回避するためにも、まずは1人でも多くの方に本稿の趣旨をしっかりと理解いただき、そして、1人でも多くの方々にこの情報を伝えて頂きたいと思います。
経済危機は、地震や台風のようにその発生自体を止められないという種類の危機ではなく、「政治の力」によって食い止め得る危機なのです。「国民の力」で、そしてそれに裏打ちされた「政治の力」で、これから確実に訪れるであろう2020年の経済危機を乗り越えたいと――切に願います。 
 
●日本のインフレ率2%目標は必要だったのか 2018/1 
物価が上がらないのは「ミステリー」?
たとえば米国のインフレ率は、2017年11月の最新値で対前年比2.2%(消費者物価指数、CPI)と、中央銀行である「米連邦準備制度理事会(FRB)」が目指す2%に届いている。しかしながら、FRBが重視する消費者物価指数から価格変動の激しいエネルギー価格や食品価格を取り除いた「CPIコア指数」は、同月の最新値で対前年比1.7%とわずかに届いていない。
FRBのイエレン議長は、かつて物価が上昇しない現象を「ミステリー」と呼んだ。それでも、FRBは2017年12月に景気の過熱を警戒して、同年3回目、リーマン・ショック以後4回目となる金利引き上げを実施した。
一方、欧州中央銀行(ECB)も、同様に物価には悩んでいる。ユーロ圏の消費者物価指数の最新値は1.5%(2017年11月、対前年比)となり、このところ1.5%前後を揺れ動いている。2017年2月には目標の2%に達したものの、その後はまた元に戻ってしまった。
ECBのドラギ総裁は、こうした状況を「忍耐が必要だ」とコメントしている。どんなにおカネをばらまいても物価は上昇しない――。中央銀行のトップの多くは頭を抱え続けている。
それでも利上げをするとはどういうことなのか。株価が上昇を続けており、一部、景気の過熱を心配する声があるのも事実だが、FRBがときどき口にする「屋根の修理は晴れているうちに済ます」という、将来の株価下落や景気低迷に備えて、少しでも金利を上げておきたいという狙いがあるのも事実だろう。
そもそも、現在の世界経済を見渡すとリーマン・ショック以後の景気後退以降始まったデフレ経済から、物価に関してはきちんと立ち直った地域はほとんどないのではないか。ブレグジット(EU離脱)の影響か、2017年11月の消費者物価指数が3.0%を記録したイギリスはむしろ例外だ。
カナダ、オーストラリアなども、不動産など一部の業種でインフレ傾向が強まっているものの、すべての物価が上昇していく脱デフレには至っていない。
米国の物価は、総合的に見るとすでに目標達成済み?
FRBもコアCPIで見て物価上昇率が2%に届いていないのにもかかわらず、2017年だけで3回の利上げを実施し、さらに事実上利上げと同じ効果がある「バランスシート」の縮小にも、この10月から取り組んでいる。インフレ状態になっていないにもかかわらず、なぜFRBは利上げを急ぐのか。
その根拠の一つとして一部でささやかれているのが、「ニューヨーク連銀」が最近になって公開を始めた「基調的物価指数(UIG指数)」というデータだ。UIG指数とは、長期的に安定した動きを示す243の価格指数をベースに、企業の景況感や雇用統計、金融指数など、合計で346の指数を使って算出した物価統計指数のひとつである。
そのUIG指数の最新値は、2017年11月の段階で前年同月比2.8%に達している。
UIG指数は、FRBやニューヨーク連銀が公式見解として見てはいないことが明記されているものの、「物価」の見方の一つではある。日銀のホームページなどでは、コア指数の一種といった紹介をしているが、むしろCPIの先行指数的な意味合いが高い。つまり、今後の物価がどうなるのかを見るにはベターな数値と言っていい。
実際に、現在の米国経済は「絶好調」と言ってもいい。
2017年11月の「新築一戸建て住宅販売件数」では73万3000戸(商務省調べ、季節調整済み、年換算)で、前年同月比では26.6%の増加。住宅価格も同6.2%(ケース・シラー住宅価格指数、主要20都市、9月)と大きく伸びている。
新築住宅が、凄まじい勢いで販売されているのが現在の米国経済の状況だ。リーマン・ショック以前のように「借金してでも不動産に投資したほうが良いパフォーマンスを得られる」と考えて実行している人が多くなっているということだ。不動産市場に再びバブルが起きている可能性は否定できない。
さらに、歴史的な税制改革と言われる大型の「減税法案」が議会を通過。個人に対する所得税も、期限付きではあるが、数多くの国民に恩恵をもたらしそうだ。米国の個人消費が、今後さらに拡大する可能性が出てきた。UIG指数が示すように、米国はすでに「インフレ」に突入している、ということかもしれない。
物価一つをとっても、さまざまな指数があり、異なる見解があることは留意したい。
「官製バブル」に振り回される日本経済?
ひるがえって日本の状況を見てみよう。政府の発表する数字を見ると絶好調だ。もともと日本は、リーマン・ショック以前からデフレに苦しんできたが、第2次安倍政権が2012年12月に誕生し、当時FRB議長だったバーナンキ氏などが推奨する異次元の金融緩和を実現させていく。
日本銀行の人事も刷新されて、黒田東彦総裁が誕生して「インフレ率2%を目標に2年でデフレから脱却する」と宣言した。いわゆるアベノミクスの第一の矢が放たれたわけだ。
これを受けて、2012年12月に始まったとみられている今の景気拡大局面が現時点で、「いざなぎ景気」(1965年11月〜1970年7月)を超え、戦後2番目の長さとなる景気拡大局面となっている。
あれから5年、日本の消費者物価指数は目標とする2%にはまだ遠い位置にある。直近の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、0.6%(総合指数、前年同月比、2017年11月)で低迷し、消費者物価指数から価格変動の大きなエネルギーや生鮮食品などを除いた「コアCPI指数」でも0.3%(同)あたりを低迷している。
黒田総裁も、当初日本銀行が「マネタリーベース(供給する資金量)」を260兆円にすれば、2%のインフレ率が達成できると豪語していたのだが、5年後の現在、その額は476兆円に達しているにもかかわらず消費者物価指数は、2%をかすめることさえできていない。
日銀の当座預金にはおカネがたっぷり供給されていて、しかも金融機関はマイナス金利で国債などの金利では稼げない。もし、今後景気が過熱してバブルが発生したとすれば、それは紛れもない「官製バブル」と言っていいだろう。
にもかかわらず、物価が上昇しない。最近になって、黒田総裁が「リバーサル・レート」に言及してしまったこともうなずける。リバーサル・レートというのは、金利を引き下げすぎると、銀行の利ザヤを縮小させ、自己資本比率が圧迫されて、かえって金融緩和政策を反転(リバース)させてしまう現象のことだ。
言い方を換えれば、アベノミクスが限界を迎えつつあるのかもしれない。
問題なのは、UIG指数の米国や英国のCPI=3%越えのように、将来のインフレを示唆するような兆候が日本にはまったくないことだ。
たとえば、安倍政権が始まる前と後とでは、スーパーマーケットで日常的に使った額が、わずかだが上昇したという感覚を持っている人が少なくないはずだ。たとえば毎回2000円台で買い物が済んでいた人は3000円台になったというようなケースだ。
にもかかわらず、統計ではデフレ脱却できていない。同じ異次元の金融緩和を実施しているのに、なぜ日本には統計上、現れてこないのか。あるいは、われわれは日本のインフレの兆候を見落としているのかもしれない。
そもそもここ数年、安倍政権下では景気のいい統計ばかりを前面に押し出してきて、メディアもそのまま報道することが多い。いざなぎ景気を超えて、現在は戦後2番目の長さの景気拡大局面ということになっているが、国民の大半は景気回復の実感はないと言っている。実質賃金が一切上昇していないからだ。
戦後2番目の好景気なのに、なぜインフレ目標2%が達成できないのか。なぜ、実質賃金が上昇しないのか。残念ながらその説明はほとんどなされていない。
インフレによる財政再建を目指しているのではないか?
ここで日本政府はこのまま異次元の金融緩和をどこまでも続けていこうとしているのではないか、という疑問が持ち上がる。
日本銀行は、すでに年間の国債買い入れ額は年間80兆円から60兆円程度に減額しており、そういう意味では国債買い入れは限界に来ているふしがある。その代替案として、現在は「マイナス金利」や「イールドカーブ・コントロール」をメインの金融政策にしているわけだが、米国や欧州のように出口戦略に対してはいまだに具体的な対応はない。
日本銀行は、以前から対応が遅れるので有名だが、今回も漫然とマイナス金利を続け、イールドカーブ・コントロールを続けるのかもしれない。とりわけ、いまだにどの国の中央銀行もやったことのないETFの買い入れは、その副作用が心配だ。
副作用がどんな形で出るのかはわからないが、いずれにしても漫然と金融緩和策を続ける根拠となっているのが、消費者物価指数が目標に届かない、という理由だけではないのか。政府の統計を鵜呑みにすれば今は戦後2番目の長さの好景気を続け、失業率も24年ぶりの低さとなる2.7%(11月、完全失業率、季節調整値、総務省)、有効求人倍率も44年ぶりの高い水準になっている。
これだけ好景気だというなら、物価が上昇しない原因をきちんと分析して、その結果を公表するのが望ましいだろう。日本銀行が金融緩和の手綱を緩めようとしない説明も、物価だけを根拠にするのでは不可解に映る。
確かに、この10年、日本の物価はある部分では大きく値下がりしたものも多い。パソコンやテレビ、デジタルカメラなどのデジタル製品は技術革新のおかげで安くなり、冷蔵庫や洗濯機などの白モノ家電も高機能になった割には値が上がっていない。価格下落は技術革新に伴うケースが多い。
海外生産の衣料品や海外の牛肉なども全体的に値下がりしたといっていいだろう。これは、円高の恩恵を国民が享受してきた、と言っていい。とりわけ、食料品などの生活必需品の大半は、円高の恩恵を受けてきた。
また、インターネットの普及で情報などは「無料」で提供されるのが当たり前になった。高齢化社会が急速に襲い、多くの高齢者が老後に不安を覚えて、消費を手控えてしまっているのも大きな原因だろう。
そもそも日銀が実施した「目標2%のインフレ率達成」という政策そのものは必要だったのだろうか。ただ世の中のマネーの流通量を増やせば景気が回復する、というリフレ派の考え方そのものはすでに結論が出ているのではないか。 
 
●インフレ目標は2%。物価が上がると暮らしはどうなる? 2018/1 
日本銀行は、2013年の春から、インフレ率(物価上昇率)が安定的に+2%になることを目標に掲げて金融政策を実施しています。その後、4年以上経過していますが、現時点ではまだインフレ率は目標に達していません。今後、物価が毎年一定の割合で上昇するようになった場合、私たちの暮らしはどのように変化するのでしょうか。
足元のインフレ率(物価上表率)は前年同月比+0.9%!
2017年11月のインフレ率(前年同月比)は、+0.9%です。これは、1年前の同じ時期と比較してモノの値段が平均して+0.9%上昇していることを示しています。
インフレ率の物差しは、一般的に毎月総務省が公表する「消費者物価指数」の中の「生鮮食品を除く総合指数」が使われます。生鮮食品が除かれる理由は、経済以外の天候要因で価格が大きく変動するからです。
過去のインフレ率の推移を見てみましょう。
【消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の前年比(前年同月比)】
   2012年平均 0.1%
   2013年平均 +0.4%
   2014年平均 +2.6%
   2015年平均 +0.5%
   2016年平均 0.3%
   2017年 1月 +0.1%
   2017年11月 +0.9%
2014年は、消費税率が5%から8%に上がった影響で前年比+2.6%上昇していますが、それ以外は、+−1%の範囲内で推移していることがわかります。まだ、目標の「+2%」にはほど遠いと言っていいでしょう。しかし、今年に入ってから上昇傾向を示していることがうかがえます。
緩やかなインフレ率(物価上昇)は、経済にとって好ましい
1990年代半ばから続いたデフレ(物価下落)局面では、モノの値段が下がり続けることを見越して買い控えがおこり、そのため企業の商品・サービスが売れなくなって収益が上がらず、その結果、賃金が下がったり失業したりして世帯収入が下がり、家計が苦しくなっていきました。さらに、苦しい家計の中でモノの値段が下がるのを待って買い物をするという悪い循環が生じました。
このように長く続いたデフレから脱却するための手段のひとつとして、2013年の春から日本銀行がインフレ率(物価上昇率)目標2%を掲げ、一段と大規模な金融緩和政策をスタートさせました。
私たちは長い間、インフレ(物価上昇)の状態を経験していません。急激で大幅なインフレはその国の経済を悪化させますが、緩やかなインフレが継続することは経済にとって良いことだと言われています。
物価が継続的に上昇するインフレ局面では、人々は値段が上がらないうちに早めにモノを購入しようとします。需要が拡大すると商品・サービスの生産も拡大し、企業の収益がアップします。その結果、個人の賃金も上昇して家計にゆとりが生じます。そしてより豊かな暮らしを目指して消費行動も活発になります。このような循環が生まれると景気が拡大します。企業の利益や個人の賃金が増えると国や地方の税収も増加します。
また、厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料など公的社会保険の保険料収入も拡大し、社会保険財政が改善します。
インフレ(物価上昇)になると、暮らしはどうなる?賢い家計の運営方法は?
インフレ(物価上昇)は、私たちの暮らしにも大きな影響を及ぼします。
物価上昇率ほどには賃金が上がらない業種や会社に勤務している方は、世帯収入は変わらないのにモノの値段だけ上がることになるので、家計のやりくりが大変になります。
住宅や自動車のように元々値段の高いものの価格が継続的に上昇するようになると、たとえ上昇率は低くても金額が大きくなるため、いつそれを購入するかという判断に大きな影響を与えます。
○預貯金の金利や住宅ローン金利がアップする
物価が上昇すれば、現在超低金利と言われている預貯金の金利も上昇に転じます。住宅ローンなどの借り入れの金利もアップします。金融機関が多様化している中で、どの金融機関が魅力的な金利を提示しているか、きちんと見極める力が必要になりそうです。
住宅ローンについて、変動金利タイプで返済中の方は、金利が上がらないうちに固定金利タイプへの借り換えを検討したほうがいいかもしれません。
資産運用も真剣に検討する必要があります。金融資産の運用利率が物価上昇率を下回った場合、それは資産が目減りしているのと同じことになります。
○金融資産の運用の視野に
たとえば、年率2%で物価が上昇する場合、現在100万円の商品が10年後には単純計算で120万円になります。この間、100万円の金融資産を運用せずに増やさないでおくと、10年後に勤労収入などから20万円を補填しなければその商品を手に入れることができません。
つまり、金融資産を最低でも物価上昇率と同じ2%で運用して増やさなければ、お金の価値が下がって徐々に買えるものが少なくなってしまうのです。 したがって、物価上昇率以上の利率で運用できそうな金融機関や金融商品は何かということを意識して資産の管理をしたほうがいいでしょう。

現在の物価上昇率は、日本銀行が金融政策の目標にしている2%に到達しておらず、インフレだとも言われていません。しかし、足元の物価は徐々に上昇する兆しを見せています。私たちもこれからは、インフレ率(物価上昇率)がどれくらいの水準なのかを時々は意識し、それを生活設計に役立てるようにしたいものです。そうすれば、ワンランクアップの賢い家計の運営ができるようになるでしょう。 
 
●日銀の2%インフレ目標 2018/3 
なぜ日銀が2%のインフレ(物価上昇)を目標としているか
日銀が2%のインフレ目標を定めたのが2013年1月の金融政策決定会合ですので、既にかなり時間が経過しています。現在の日本のインフレ率はCPI(総合)で1%を超えてきましたが、エネルギー価格上昇の影響が大きく、コアコアCPIは0.5%を下回る水準です。今のところ大きな政策効果は出ていませんが、マイナス金利導入やETF買入れ増額等、追加の金融緩和を積極的に行い目標達成に向けて邁進中です。
では実際に2%のインフレが実現できた場合、具体的にどのような変化があるのでしょうか?言い換えますと日銀はなぜ2%のインフレを目標としているのでしょうか?
一般の人であれば「2%のインフレになるということは購買活動も活発になっており、景気も良くなっているはず」という答えで良いと思いますが、プロの金融マンはこれでは少し物足りません。富裕層のお客様には相手にされなくなります。
2%のインフレは様々な効果をもたらすと思いますが、その中でも日銀が本当に重要視しているのは次の2つです。
   1 円高トレンドのストップ
   2 財政再建
円高が是背されれば企業業績は改善し、株価の上昇や個人消費の拡大につながります。財政に関しては国の債務残高がGDPの約2.5倍と断トツで世界ワースト1であり、早急な改善が必要です。
2%のインフレは円高トレンドをストップさせることができる
○購買力平価
これは一言でいうと、購買力平価の円高シフトをストップさせるということです。
以前から日本以外の多くの先進国では中央銀行がインフレ目標(インフレターゲット)を公表しています。米国のFRB、欧州のECBは共にインフレ目標を2%としており、他の多くの国でも2%前後となっています。
日本は長期間デフレが続いており、常に「外国のインフレ率>日本のインフレ率」という状態が続いてきました。これが長期の円高トレンドの大きな要因となっています。
具体的に説明すると、米国のインフレ率が2%、日本のインフレ率が0%とすると、ドル/円の購買力平価が毎年2%ずつ円高方向にシフトしていきます。これをストップさせるため、日銀は日本も2%のインフレ率に持っていき購買力平価が少なくとも円高トレンドにならないようにしようとしています。
実際に米国と欧州はインフレ率の格差がほとんどないため、ドル/ユーロの為替レートは、どちらか一方向にトレンドを持ってシフトしていくということはありません。その時々で上下はあるもの長期的には1ユーロ=1.2ドル程度を中心値にレンジで推移しています。
○実質金利
実質金利とは「名目金利−インフレ率」です。インフレ率の上昇は実質金利を低下させます。逆に日銀が低金利政策を行っても、インフレ率が低いと実質金利は低下しません。
例えばドル円レートの場合、日米の実質金利差が短中期の為替レートに大きく影響を与えます。
よって上記の「購買力平価」と同様に、インフレ率の上昇は円高をストップする要因となります。
日本全体でみると輸出企業の比率が高いため、円高は企業業績を悪化させます。実際、円高になると日経平均も下落し、円安が進むと上昇します。
アベノミクスが始まって日経平均が8000前後から20,000円超まで上昇しましたがかなりの部分は円安で説明できるといわれています。
インフレ率を他国並みにし、購買力平価の円高シフトを止めることは、長期トレンドでの円高をストップさせることになりますので、日本の景気や株価に大きくプラスになります。また、実質金利の低下により短中期でも円高になりにくい環境が期待できます。
2%のインフレは財政を改善させる
インフレによる財政再建については2つの側面からの効果があります。
1つ目はかなり一般的な話ですが「インフレによる実質負債の減少」です。
これは個人や企業でも同じですが、物価が上昇すると、既にある借入金は実質的に減少するということです。
仮に2%の物価上昇が10年間続くと1.02の10乗ですので物価は約22%上昇します。借入金は物価が上昇しても変化しませんので、実質的に22%減少したことになります。
10年スパンで見るとかなり大きな効果となります。公的債務は現在約1,200兆円ありますので、実質的に約250兆円以上の削減効果となります。
2つ目は「公的年金の支給額が実質的に減少する」ということです。
老後に受け取る公的年金は少子高齢化の影響もあり財政上大きな圧迫要因となっています。しかし年金の支給額を減額することは選挙にも大きく影響するため政府としてもなかなかできません。
そこで2004年から「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されました。それまでは「物価スライド」といって年金の支給額はインフレ率に連動していたのですが、2004年からは「インフレ率−0.9%」に連動するようになりました。これによりインフレ率が0.9%以上になると実質的な年金支給額は0.9%減額されていることになります。仮にこれが10年続くと実質的に約10%の年金支給額の減額となります。
現在の公的年金支給額は年間約50兆円ですので単純計算ですが、年間約5兆円の財政収支改善に貢献します。20年ですと、年間10兆円の効果です。
現在、日本の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は20兆円程度の赤字です。巷ではプライマリーバランスの黒字化は100%無理と言われています。
しかし消費税を5%上げると税収は10兆円増え、上記のインフレによる実質的な年金支給額の減額を加えると、必ずしも無理とは言い切れないのではないでしょうか?

現状、日本が本当にインフレになると思っている人はそれほどいないのではないでしょうか?
しかし、わずか2%のインフレは上記のとおり、日本を劇的に変化させます。企業業績は向上し、所得は増え、株価は大幅に上がり、更に財政問題までも解決させることができます。
ただ、そのためには物価上昇(インフレ)が必要ですので、日銀には結果が出るまで頑張ってもらう必要があります。  
 
●「2%インフレ」実現に必要な政策とは何か 2018/4 
内閣支持率「持ち直し」も、カギ握る北朝鮮情勢
「安倍晋三首相らの土地取引関与」については昨年から新しい材料が出ていない。この「疑惑」と、「財務省による文書改ざん」の関連性が低いことが時間とともに明らかになり、大手メディア調査による内閣支持率をみると3月末には一部で持ち直しがみられている。
今後、秋の自民党総裁選挙にかけて、自民党内での政治力学に変化が起こる展開もありえる。だが、長期間安定してきた安倍政権の支持率を前提にすれば、今後は「北朝鮮有事」があるのか、いずれにしても北朝鮮情勢への対応が日本の政治情勢を変える最大の要因になるとみてよいだろう。
3月の森友学園問題再燃で国会での時間が割かれてしまったが、日本経済が脱デフレと経済正常化の途上にあるなか、財政金融政策が引き続き経済成長率や株式リターンを大きく左右する。この意味で、国会が機能不全となったことは不幸なことだが、日本の経済成長にとって大きなダメージにならないと筆者は考えている。
金融政策については、3月12日のコラム「ドル安円高は、いつになったら終わるのか」では、年初からの為替市場でのドル安円高については、「日銀が早期に金融引締めに踏み出す」との観測が影響している、と指摘した。
その後再任された黒田東彦日銀総裁などからのメッセージに変わりはないが、市場の一部にあった早期金融引き締めの思惑は薄れている。米国株の乱高下とともに最近はドル円が上下しているが、為替は1ドル=105円付近で底固めしつつあるようにみえる。先のコラムで、筆者は、4月から新たな日銀執行部になることをきっかけに、「緩和強化策の是非などについての政策決定会合での議論が活発化するため、円高懸念が和らぐ」、と述べたがこの見通しは変わらない。
確かに、米国のトランプ政権による強硬な通商政策が引き続き金融市場の市場心理を悪化させ、この政策がドル安をもたらすとの因果関係不明な思惑は根強い。筆者は経済を停滞させるような米中間の貿易戦争が激化するとは予想しておらず、またユーロドルでみても2月中旬がドル安のピークとなっており、ドル安は止まりつつあると筆者は考えている。仮に筆者の楽観的な見方が正しければ、日銀への信認復活による緩やかなドル高円安が日本経済の浮上を後押しすることになる。
金融・財政政策についての建設的議論が必要
財政政策については、将来の財政収支想定が柔軟になったことに加え2019年度の予算策定について官邸がリーダーシップを握ろうとする姿勢、がみられる。2019年10月に予定されている消費増税の判断を含めて、安倍政権は経済成長優先で財政政策を柔軟に使うだろう。だが3月以降の森友学園問題による政治混乱を経た、官邸のポリティカル・キャピタル(政治的資源)の変化が、今後の財政政策運営にどのように影響するかは現状明らかではない。
岩田規久男前日銀副総裁は、2013年の大規模な金融緩和でインフレ率が上昇したが、2014年の消費増税がダメージとなり、2%インフレ実現のシナリオが崩れたとの認識を示し、金融緩和政策を成功させるために緊縮財政のペースを落とす必要性に言及している。同氏によるこうした見解は筆者にとってはほぼ想定どおりだが、2014年の消費増税の必要性を強く示していた黒田日銀総裁と異なる本音を、退任直後に示したことになる。
この岩田氏の発言によって、財政政策の是非について、日銀自身が立場を示すことが難しい状況が改めて明らかになった。ただ、金融・財政政策の双方が総需要、インフレ率に及ぼす限り、金融・財政政策のポリシーミックスについて建設的に議論することは必要だろう。米国では、FRB(連邦準備制度理事会)議長などが財政政策について見解を示すことは普通である。金融・財政政策それぞれの縄張り意識が、経済正常化・脱デフレのために建設的な議論を妨げているのであれば、それは不幸なことではないか。
そこで、以下では、1日銀による量的金融緩和のプラス効果、22014年の消費増税に伴う緊縮財政政策のマイナス効果、を定量的に筆者なりに比較してみる。日銀のマクロ経済モデルによる試算では、日銀による2013年以降の金融緩和政策により、1年間で最大1.4%GDPを押し上げるとされている。
一方、消費増税による約8兆円の家計の可処分所得押し下げはGDPの1.6%に相当する。
増税の乗数効果は通常1未満なので、増税によるGDP押し下げは最大で1.6%程度。また、増税前後の駆け込み需要(2014年1−3月)とその反動減(同年4−6月)の影響を取り除くために、暦年ベースの実質個人消費の変動をみてみよう。
すると、2013年は+2.4%の伸びだったが、2014年には-0.9%で、リーマンショックによる景気後退時2008年(-1.0%)、2009年(-0.7%)と同規模の大幅な落ち込みとなった。仮に+1%が個人消費の定常的な伸びとすると、それと比べて2%pt個人消費が下ぶれたことになる。こうした試算から、消費増税によるGDP押し下げは1%を上回った可能性が高い。
2014年の消費増税が2%インフレ実現を「妨げた」
これらの試算を踏まえると、金融緩和強化による1年分のGDP押し上げに相当するインパクトと、同程度の景気押し下げが2014年度の消費税率引き上げで生じたことになる。
つまり、大幅な消費増税による緊縮財政政策が金融緩和による総需要刺激効果を相殺し、ちぐはぐな金融政策と財政政策のポリシーミックスとなっていた。こうした政策効果の誤算が、2%インフレが実現に至らなかった大きな要因になったと筆者は考えている。
筆者の試算や認識の妥当性についていろいろ議論はあるだろうが、岩田前副総裁のこうした見解が、今後の安倍政権の財政政策運営に影響する可能性があるだろう。なお、4月3日に、浜田宏一内閣府参与が安倍首相と面談していることも注目される。