「こき使え」法案 経団連大喜び

裁量労働 大手をふって「こき使え」
働き方改革 経団連大喜び

詭弁法案
労働環境 ますます悪化の一途
 


裁量労働制 
 
 
 

 
使う側 使われる側
裁量労働 時間 給料 あてがい扶持
 
裁量労働制報道
新聞・テレビ マスコミの立ち位置 
多くの マスコミ 政治に興味なし お題目報道 
 
昔の経験
商品開発  思い出
一匹狼
 
時間は一杯あります
無制限
自由にお使いください
 
仕事を出す側 仕事をお願いする人 依頼する人 発注する人
仕事をする人
対等な立場ではありません
 
そもそも この手のお仕事
お仕事の完成度 物差しがありません
営業職なら 絶対の物差し「売上げ」
この物差しも 過重ノルマで崩壊します
 
仕事を出す側 仕事をする人
お互い相談で 仕様・目標を決め 
仕事スタート
 
お仕事
お尻の時間 決まっています
自分の時間 総動員
 
仕事を出す側 仕事をする人
途中 何度も摺合せ
 
仕事を出す側 仕事をする人
タイムアップ
評価 我慢 妥協 手打ち 丸く収め 完成 
 
仕事をする人
疲れます
余分なお仕事 仕事を出す側との人間関係
 
仕事を出す側 
神様仏様 趣味の世界
評価 物差し不明
生半可な知識 無理を押し付けます
 
仕事を出す側 
お任せ 知識なし 不勉強
評価 物差しの目数不明
気分 雰囲気 人間関係が落としどころ
 
仕事を出す側 
仕様・目標 摺合せ 適切な指示
評価 正確な物差し
生真面目 理想 あれば夢 (私の知る限り僅かだった)
 
「改革」
本来 皆が良い方向に向かうもの
裁量労働制なら
経営側 良い方向に向かう
労働側 悪い方向に向かう
資本主義です
 
 

 
2018/2-
 
 
 
 
●裁量労働制 
日本において労働者が雇用者と結ぶ労働形態のひとつであり、労働時間と成果・業績が必ずしも連動しない職種において適用される。
裁量労働制は労働基準法の定めるみなし労働時間制のひとつとして位置づけられており、この制度が適用された場合、労働者は実際の労働時間とは関係なく、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなされる。業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務に適用できるとされる。適用業務の範囲は厚生労働省が定めた業務に限定されており、「専門業務型」と「企画業務型」とがある。導入に際しては、労使双方の合意(専門業務型では労使協定の締結、企画業務型では労使委員会の決議)と事業場所轄の労働基準監督署長への届け出とが必要である。
法律及び告示に基づく規定
裁量労働制を採用するには、労働基準法第38条の3及び第38条の4の要件を満たす必要がある。
専門的職種・企画管理業務など、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある職種であることが条件である。当初は極めて専門的な職種にしか適用できなかったが、現在では適用範囲が広がっている。 厚生労働大臣指定職種も含めた主な職種は以下の通りである。
1. 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2. 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
3. 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
4. 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5. 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7. 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9. ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12. 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13. 公認会計士の業務
14. 弁護士の業務
15. 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
16. 不動産鑑定士の業務
17. 弁理士の業務
18. 税理士の業務
19. 中小企業診断士の業務
1から5までは、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項により、 6から19までは、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項より厚生労働大臣が指定する業務を定める平成9年2月14日労働省告示第7号による規定である。
給与
みなし労働時間制のひとつであることからも明らかなように労働時間の概念は残されている。実労働時間にかかわらず、みなし労働時間分の給与が支給される。みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超える場合には労使で36協定の締結が必要であり、超過分の時間外労働に対する手当は割増支給される。また、深夜および法定休日の勤務に対しては深夜労働および休日労働に対する手当は割増支給される。管理監督者は労働時間や休憩、休日の規定が適用されない適用除外で時間外労働や休日出勤をしても割増賃金は支給されないが、深夜労働に関しては管理監督者も適用を受ける。長時間の時間外労働を行っていた労働者は、みなし労働時間の長さによっては裁量労働制の適用により「給与額が減る」場合がある。 実際の運用では、実労働時間が不確定であってもみなし労働時間分の給与を支給すればよいため、他の制度と比較してもっとも給与管理のコストは低い。
勤務時間
勤務時間帯は固定されず出勤・退勤の時間は自由に決められ、実働時間の管理もされない。 一方で、過重労働による労災事故および過労死予防のための安全配慮義務として、2003年から使用者側に実労働時間の記録および管理が義務づけられることとなり、一部に混乱が生じた。 一定期間ごとの「職務成果」が評価され給与に反映される場合は、裁量労働適用以前より長く働かざるを得ない場合もある。
職能との対応
職能に応じた社内資格を設定している企業では、特定の資格から上位に対して裁量労働制を適用することが多い。
批判
日本経団連は現行の裁量労働制の問題点として、あくまでみなし労働時間であって労働時間の適用除外でないこと、対象業務の範囲が狭いこと、導入要件が厳格にすぎることを指摘した上で、現行制度以上にホワイトカラーの柔軟な働き方に柔軟に対応可能な労働時間制度としてホワイトカラーエグゼンプション(労働時間等規制の適用除外)制度の導入を提言している。一方で、時間外労働手当て(残業代)の支給を逃れ、人件費削減を図る企業側のエゴイズムであるとする批判が存在している。また、裁量労働制とは名ばかりで、実際には勤務時間に制限を設けている企業も存在する。  
 
●裁量労働制 審議
 2/14
首相答弁撤回 裁量労働、募る不信 別調査結果は「労働長い」 
安倍晋三首相が14日の衆院予算委員会で、裁量労働制で働く人の労働時間が一般の労働者より短いデータがあるとした国会答弁を撤回し、陳謝したのは、データに不自然な点が見つかり、野党から調査結果の信頼性に疑問符を突き付けられたからだ。首相の答弁は、裁量労働制が長時間労働につながるとのイメージを払拭(ふっしょく)する狙いだったが、逆に不信感を募らせる結果となった。
首相は1月29日の衆院予算委で、厚生労働省の「2013年度労働時間等総合実態調査」を基に「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁した。実態調査では一日当たりの労働時間は、裁量労働制で9時間16分、一般で9時間37分となっていた。
この調査は、全国11,575社を対象に労働基準監督官が働く人の労働環境について聞き取りしたもの。労働時間について、裁量労働制が適用されている人とそうでない人、平均的な労働時間の人、長時間労働の人に分けて聞き取り調査した。
国会で不自然さが指摘されたのは、裁量労働制ではない平均的な労働時間のグループに分類された9,449人のうち、9人の一日の残業時間が15時間超だった点だ。一日23時間超も働いた計算になり、調査の信頼性が揺らぐ結果になった。
野党が、厚労省の調査結果に疑問をぶつけ続けたのは、裁量労働制が長時間労働につながるとの別の調査結果があるからだ。
厚労省の要請を受けて独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が全国13,000社を対象に行った2013年の調査では、一般労働者の一月あたりの平均労働時間は186時間。専門業務型裁量労働制の人は203時間だった。
裁量労働、問題運用が横行 対象外に適用 過大業務を命令 
安倍晋三首相は14日の衆院予算委員会で、裁量労働制で働く人の労働時間が一般の労働者より短いというデータがあるとした自らの国会答弁を撤回し、「おわび申し上げたい」と陳謝した。野党からデータの疑義を指摘されていた。裁量労働制を巡っては、企業による不適切な運用が相次いで発覚している。野党は長時間労働につながると批判するが、政府は柔軟な働き方で生産性が上がるとして、今国会で成立を目指す「働き方」関連法案に対象拡大を盛り込んでいる。
裁量労働制は、仕事の進め方を労働者の裁量に任せ、残業代を定額で支払う制度。個人の能力を生かす働き方として導入された。現在はゲーム制作やシステムコンサルタントなど19の専門職「専門業務型」と、事業運営で企画や立案、調査を行う「企画業務型」が対象となっている。
企業にとっては、労働者がいくら働いても残業代を上乗せする必要がない。このため対象外の職種に適用したり、過大な業務を命じて長時間労働につながったりと、さまざまな問題点が指摘されている。
昨年8月に発足した労働組合「裁量労働制ユニオン」(東京都)には、約30件の相談が寄せられた。不適切な制度運用は出版やゲーム制作などの業界に多いという。
不動産大手の野村不動産(同)は昨年12月、裁量労働制が認められていない営業職の社員600人に適用していたとして、東京労働局から是正勧告と指導を受けた。厚生労働省は全国13,000社の実態調査に乗り出した。
働き方関連法案には、企画業務型に、品質管理など管理的な業務を行う人と、一部営業職を加える内容が盛り込まれている。
厚労省は対象人数を明らかにしていないが、全産業で営業職は342万人に上り、多くの労働者が「定額残業代」で働くことになる可能性が指摘される。
労働問題に詳しい市橋耕太弁護士は「裁量労働制は企業の残業代抑制につながるが、労働者のメリットは乏しい。現行でも問題があるのに、なし崩し的に対象を拡大するのは問題」と指摘する。
<裁量労働制> 実態にかかわらず、あらかじめ決まった時間を働いたとみなす制度。出退勤の時間や仕事の進め方に裁量が与えられる一方、深夜や休日以外の割増賃金は支払われず、残業代は定額となる。1987年の労働基準法改正でシステムエンジニアなどの専門職に導入され、98年の同法改正で事業の運営で立案や調査を行う事務職に適用が拡大された。
衆院予算委初対決 枝野代表、2時間首相追及 
立憲民主党の枝野幸男代表が14日、昨年十月の結党後初めて衆院予算委員会で質問に立ち、安倍晋三首相との「直接対決」に臨んだ。2時間近くにわたって改憲や待機児童問題、労働法制など幅広いテーマを取り上げ、政権の姿勢を追及した。
予算委で一人が2時間近く質問するのは珍しい。昨年、一回も国会で党首討論が開かれなかったことも踏まえた異例の対応だ。
「間違った事実に基づき、政府は説明してきた。議論の時間を空費させた責任を取るべきだ」
枝野氏は冒頭、自身に先立つ自民党議員の質問に対し、裁量労働制に関する過去の国会答弁を撤回した首相を厳しく非難。誤ったデータを前提に政策立案が行われた可能性を指摘した。
改憲を巡っては、戦争放棄や戦力不保持を定める九条一、二項を維持した上で自衛隊の存在を明記しても、自衛隊が日本を守るために武力行使できる要件は変わらないという首相の主張を疑問視した。首相は「一、二項の制約は当然受ける。今までの政府見解が変わるわけではない」と反論した。
枝野氏は横畠裕介内閣法制局長官から「どのような条文を規定するかによるので一概に言えない」という答弁を引き出した上で、「条文の書き方を見ないと分からないのに、首相は『変わらない』と予断を与えている」と畳み掛けた。
待機児童問題では、保育所の利用を初めから諦めている保護者の存在を指摘。自民党が先の衆院選で掲げた幼児教育の無償化よりも、潜在的なニーズも満たす受け皿整備を優先すべきだと強調した。「良い方向に変えるのであれば『公約違反だ』と鬼の首を取ったように追及したりしない。大賛成する」と語り、提案を受け入れるよう求めた。
質問を終えた枝野氏は記者団に「時間が短かった」とこぼし、首相の答弁について「根拠なく、いいかげんなことを言っているというのが典型的な姿だ」と批判した。  
 2/15
裁量労働制調査データ ミス?捏造? 厚労省、19日に精査結果公表 
安倍晋三首相が裁量労働制で働く人の労働時間についての国会答弁を撤回した問題を巡り、加藤勝信厚生労働相は15日の衆院予算委員会で、首相が引用した厚労省調査を精査した結果を19日に国会で報告すると明らかにした。この調査では、裁量労働制ではない一般労働者が不自然に長く働いたケースが見つかっており、専門家や野党には「長時間労働の温床とされる裁量労働制への懸念をなくすために、捏造(ねつぞう)された数字ではないか」との疑いも出ている。
問題の調査は、2013年度の労働時間等総合実態調査。一般労働者9,449人の一日の残業時間を聞き取り、平均1時間37分とした。法定労働時間(8時間)を足すと9時間37分。裁量労働制で働く人の平均労働時間も調べ、約20分短い9時間16分とした。首相はこれを根拠に、今年1月、裁量労働制の労働時間が一般労働者より短いデータがあると答弁した。
一般労働者の残業時間の内訳を公表するよう野党が同省に求めたところ、一日15時間超残業した人が9人いたことが判明。一日23時間超働いた計算だ。
また、調査は一般労働者の一週間の平均残業時間を2時間47分としていた。それなのに一日の平均が1時間37分というのは不自然との指摘もある。
厚労省の担当者は、15時間超の残業について「残業時間ではなく、一日の総労働時間を間違って聞き取った可能性もある」と、単純ミスだった可能性を指摘する。
一方、立憲民主や希望など野党六党が15日、合同で厚労省から事情を聴いた会合では「官邸の指示で作った数字ではないのか」といった声が相次いだ。
会合に出席した法政大の上西充子教授は「裁量労働制が長時間労働にならないことを示すため、調査の後から作られたデータと考えるのが自然だ」と話す。
15日の予算委で厚労省は、裁量労働制の労働時間が一般労働者より短いとする調査は、今回問題になった厚労省調査以外にないことを明らかにした。
首相は同日の政府与党連絡会議で、答弁撤回に触れ「気を引き締めて細心の対応をしたい」と与党に陳謝した。  
 2/19
裁量労働制 首相答弁データ不適切 厚労省謝罪 
安倍晋三首相が裁量労働制の労働時間に関する国会答弁を撤回した問題で、厚生労働省は19日午前、答弁の根拠となった厚労省の調査データの検証結果を公表した。裁量労働制で働く人については実際の労働時間を調べる一方、一般労働者は「一カ月における残業が最長の日」を調査。異なる手法の結果を比較し、一般労働者の方が長いと結論づけていた。厚労省は午前の野党会合で不適切な手法だったことを認め「おわび申し上げる」と謝罪した。
問題となったのは、厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」。一般労働者の一日の労働時間が残業1時間37分を含め9時間37分、裁量労働制の労働時間は9時間16分となっており、これを根拠に首相は1月29日の衆院予算委で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、一般労働者より短いというデータもある」と答弁した。だが、一般労働者のデータに、一日の労働時間が23時間の計算になる「残業が15時間超の人が9人」といった不自然な点が含まれ、野党の指摘を受けて答弁を撤回、謝罪していた。
厚労省の検証結果によると、一般労働者の労働時間は一カ月のうちで「残業時間が最も多い一日」を聞いていた。裁量労働制は帳簿の記録などにより、実際の労働時間を調査。この結果、一般労働者の時間が不自然に長くなったとみられる。残業が「一日45時間」などの誤記もあった。厚労省幹部は記者団に「意図的ではなく、最長という概念が抜け落ちたまま比較してしまった」と説明した。
政府が今国会での成立を目指す「働き方」関連法案には、裁量労働制の対象を営業職の一部などに拡大する内容が盛り込まれており、野党側は「長時間労働を助長する」と批判している。不適切な調査手法が明らかになったことで、法案の見直しや撤回を求める動きを強めるのは確実だ。
<解説> 長時間労働の温床とされる裁量労働制を巡り、安倍晋三首相が「一般労働者より短いデータもある」と国会答弁した根拠が崩れた。実態調査を手掛けた厚生労働省は、一般労働者の労働時間が長くなる不適切な方法で調査していたことを認めた。政府はこの調査も参考に、裁量労働制の対象拡大を盛り込んだ「働き方」関連法案を策定しており、内容の妥当性をゼロから議論し直すべきだ。
首相が国会答弁したのは1月だが、厚労省は2015年以降、国会などで調査結果を裁量労働制で働く人が一般労働者より労働時間が短いデータとして繰り返し引用してきた。裁量労働制の対象拡大に対して、難色を示す野党や労働界への反論材料に使ってきたのは明らかだ。この間、労使の代表や有識者による厚労省の審議会でも働き方法案の策定に向けた議論が進み、昨年に衆院解散がなければ、秋の臨時国会で成立していた可能性もある。
調査の手法が不適切だったと認めた以上、国会や審議会の議論でデータがどのように使われ、どう法案に反映されたのかを検証する必要がある。政府は「このデータのみを基礎に法案づくりをしたわけではない」と釈明しているが、ほかに裁量労働制の労働時間の方が短いことを示すデータは存在しないことも認めている。3年間にわたる説明の正当性が揺らいだ事実は重く、政権の責任も問われる。 
「裁量労働」と「一般」異なる基準 厚労相、11日後に報告
安倍晋三首相が裁量労働制の労働時間に関する国会答弁を撤回した問題で、加藤勝信厚生労働相は19日の衆院予算委員会で、答弁の根拠となった調査と集計方法について不適切だったと認め、陳謝した。厚労省が同日に公表した調査データの検証結果では、裁量労働制の人と一般労働者との間で、基準が異なる調査を比べていたことが分かった。野党は、裁量労働制の対象拡大を含む「働き方」関連法案の撤回を求めた。 
検証結果によると、裁量労働制の人については実際の労働時間を調査した。一般労働者に関しては一カ月のうちで「残業時間が最も長い一日」を聞き取ったが、調査結果をまとめる段階で「最長」を「平均」の数字として扱い、裁量労働制で働く人と比べていた。その結果、一般労働者の方が労働時間が長くなっていた。さらに、残業が「一日45時間」などの誤記が3件もあった。
加藤氏は19日の衆院予算委で「一般労働者と裁量労働制で、異なる方法で選んだ数値を比較したのは不適切だった」として陳謝した。また、加藤氏は集計方法に不備があることについて今月7日に報告を受けていたと明らかにした。しかし、首相に正式に報告したのは、11日後の18日夜だったと説明した。
立憲民主党の高井崇志氏は「(検証内容を)知っていて答弁しなかったのは虚偽ではないか」と批判し、辞任を求めた。加藤氏は「どういう形で調べていたのか精査していた」と釈明を繰り返した。
加藤氏は「最終的には責任は全て私にある」と述べるにとどめた。データを不適切に集計した経緯を改めて調べる考えを表明した。
野党六党は国対委員長らの会談で、働き方法案の提出は認められないとの認識で一致。菅義偉官房長官は記者会見で「今国会での成立方針に全く変わりはない」と強調した。
衆院予算委は加藤氏が7日に報告を受けていたことを巡って紛糾し、質疑が断続的に中断した。
首相は調査データを基に、1月29日の衆院予算委で「裁量労働制の労働時間は、一般労働者より短いというデータもある」と答弁したが、14日に撤回した。  
 2/20
裁量労働制 独法調査では「一般」上回る 首相、労働時間増認めず
安倍晋三首相は20日の衆院予算委員会で、裁量労働制で働く人の労働時間が一般労働者より長いことを示した独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査結果に関し、「裁量労働制が適用されることで、適用前より労働時間が長くなることを示したものではない」と強調した。
機構の2013年調査は、裁量労働制の人の月平均労働時間(194時間)が一般労働者(186時間)を上回っており、首相が裁量労働制の方が短いデータもあると答弁する根拠となった厚生労働省の同年調査とは逆の結果になっている。
希望の党の山井和則氏は、厚労省が不適切な比較となった調査データを撤回、首相も答弁を撤回したことを受け「裁量労働制が一般より労働時間が長いというデータしかない」と指摘し、首相の見解をただした。
首相は、機構の調査について「裁量労働制と一般労働者の労働時間をそれぞれ調査したもの」と話すにとどめ、裁量労働制による労働時間増は認めなかった。
一方で、首相は野党側が求める労働時間の再調査について「考えていない」と必要性を否定した。データの集計方法については「不適切であり、深くおわびする」と陳謝した。
立憲民主党の長妻昭氏は「データは捏造(ねつぞう)ではないか」と追及。首相は「私や、私のスタッフから指示したことはない」と、恣意的(しいてき)なデータ利用を否定した。
長妻氏は、裁量労働制の対象拡大について審議した13年の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)に厚労省が労働時間に関する不適切な調査データを示していたと指摘した。
厚労省が示したのは、一般労働者の平均的な人の一週間の残業時間を平均2時間47分とした数字。一カ月で「残業が最長の1週間」を調べたが、厚労省は労政審で説明しておらず、平均的な1週間の数字と扱われた可能性があるとした。
加藤勝信厚労相は、調査データについて「労政審で裁量労働制と比較はしていない。委員がどこまで理解していたのかは分からない」と話すにとどめた。  
 2/21
働き方法案 主要部分次々延期 成立急ぐ理由乏しく
政府は3月にも国会に提出する「働き方」関連法案について、主要部分の施行を軒並み遅らせようとしている。あらかじめ労使で決めた時間を超えて働いても残業代が支払われない裁量労働制の対象拡大についても、施行を予定より1年延期し、2020年4月施行とする方向。安倍政権は今国会を「働き方改革国会」に位置付けるが、法案の柱となる制度のスタートを遅らせることで、成立を急ぐ必要性は乏しくなりつつある。
安倍晋三首相は21日、官邸で加藤勝信厚生労働相と関連法案の取り扱いを協議。加藤氏は会談後、記者団に「さまざまな周知や手続きを考えた時に、どういう(施行)時期がいいのかを議論している」と述べ、施行延期の検討を認めた。高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」創設も一年遅らせる方針だ。
両制度は労使交渉の大きなテーマとなる労働条件の変更に当たるため、現行のままでは周知や準備が間に合わないと判断。厚労省が裁量労働制に関する調査データを不適切に処理した問題を受け、周知や準備の時間を確保することで懸念を和らげる狙いもある。
政府は、中小企業への残業時間の罰則付き上限規制、非正規社員の待遇改善を図る「同一労働同一賃金」の施行も一年遅らせることをすでに決めている。労務体制が弱い中小企業は制度変更に短期間で対応できない懸念があるためだ。予定通りに19年4月から実施するのは大企業の残業時間規制だけとなった。
こうした政府の姿勢に対し、立憲民主党の辻元清美国対委員長は21日の党会合で「小手先でごまかそうとしている」と批判。野党六党の幹事長・書記局長は国会内で会談し、法案の提出見送り、裁量制で働く人の労働時間の再調査を求める方針で一致した。
衆院予算委員会は21日、2018年度予算案採決の前提となる中央公聴会を開いた。野党推薦の公述人として出席した過労死遺族の会代表や専門家は、裁量労働制を巡る厚生労働省の不適切なデータ処理を批判し、「働き方」関連法案に盛り込まれる裁量労働制の対象拡大を撤回するよう求めた。
寺西笑子(えみこ)・全国過労死を考える家族の会代表世話人(希望推薦)は、データ問題について「人の命にかかわる問題を全く無視している。怒りを禁じ得ない」と語った。
裁量労働制の対象拡大についても「年収要件がなく、多くの若者が『定額働かせ放題』のターゲットになる。実際は裁量がない中で成果を求められ、長時間労働をやらざるを得ない。拡大すればさらに死人が増える」と強調した。
上西充子・法政大キャリアデザイン学部教授(立憲民主推薦)は、データ問題について「裁量制が長時間労働を助長するとの指摘を野党側がしにくくなるように野党対策として作られた」と非難した。裁量制を拡大すれば「サービス残業を違法に労働者に強いている企業が合法的にできるようになる」と指摘。労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)で再度議論すべきだと主張した。
伊藤圭一全労連雇用・労働法制局長(共産推薦)は関連法案に関し「今のままでは労働者の命と健康に悪影響を及ぼす」と訴えた。
与党推薦の公述人は、経済情勢や財政について意見を述べた。  
新たに117件 裁量労働データ不適切処理
裁量労働制を巡る不適切なデータ処理問題で、厚生労働省は21日、野党六党の会合で、一日の残業時間が一カ月分より長いなど新たな不適切データが、少なくとも117件見つかったと明らかにした。調査に使った事業所別の原票が同省の地下室で見つかったことも公表。14日の国会答弁で加藤勝信厚労相が「なくなった」としていた。
問題となっているのは「2013年度労働時間等総合実態調査」。新たな不適切データ117件は、87事業所の一般労働者の残業時間を記入した欄で見つかった。具体的には、ある労働者の一日の残業時間が「45時間〇分」、一カ月では「13時間24分」とされ、一日の方が一カ月の合計より長い結果になるケースなどで、聞き取りをした労働基準監督官のミスや集計時の入力ミスの可能性があるという。
新たな不適切処理は、19日に厚労省が公表した資料を、立憲民主党の長妻昭代表代行が精査し発見。厚労省は指摘があるまで気付かなかったといい、長妻氏は批判している。
 2/22
裁量労働「4時間以下」120件 厚労省データ 野党「不自然だ」
裁量労働制を巡る不適切なデータ処理問題で、厚生労働省は22日、不適切なデータの件数が今後増える可能性を認めた。立憲民主など野党六党は同日、国会内で開いた合同の会合で、裁量労働制で働く人の一日の労働時間が「4時間以下」というデータが120件あるなど、不自然なデータが新たに見つかったと指摘。厚労省は精査する考えを示したが、データの信ぴょう性がさらに疑われる事態となった。
問題となっているのは厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」。野党が22日明らかにした集計によると、裁量労働制で働く人の一日の労働時間が「4時間以下」としたのは120件。このうち「1時間以下」は25件あった。希望の党の山井和則氏は「極端に短く、不自然だ」と追及。厚労省幹部は「にわかには答えられない」と回答を持ち帰った。
これに先立つ衆院予算委員会で、立憲民主党の岡本章子氏が、厚労省が21日に認めた117件以外に不適切なデータがあるのかをただすと、加藤勝信厚労相は、さらに増える可能性を否定しなかった。
続いて安倍晋三首相が掲げる「働き方改革」をテーマに実施された集中審議では、同党の逢坂誠二氏が裁量労働制の対象拡大を審議した労働政策審議会(厚労相の諮問機関)について「議論の材料が適切ではなかった」と指摘。裁量労働制に関するデータの内容次第では「(対象拡大を容認した)労政審の結果が変わる可能性は否定できない」と主張した。
加藤氏は「(現状の)裁量労働制に問題があることは共通の認識。それも含めて(対象拡大は)『おおむね妥当』という答申をもらった」として、労政審での再検討を否定した。
逢坂氏は「これ以上の不備が出れば、厚労相の進退に関わる」と迫ったが、首相は「(法案の)準備を進めてほしい」として、加藤氏の更迭を拒否した。
公明党は22日、国会内で会合を開催。出席者からは不適切なデータに関し「これだけで済むのか。もっとぼろぼろ出るのではないか」と懸念する声が出た。
与野党は23日、幹事長・書記局長会談で、今後の審議について協議する。
不適切データ 増える可能性 裁量労働制 厚労相が示唆
加藤勝信厚生労働相は22日午前の衆院予算委員会で、裁量労働制を巡る不適切なデータ処理問題で、新たに117件の不適切なデータが見つかった事実を認め、今後もさらに増える可能性を示した。
立憲民主党の岡本章子氏が、117件以外にも不適切なデータがあるのか質問し、加藤氏は「手元にあるのは少なくとも今申し上げたものだ」と答えた。
問題となっている厚生労働省の2013年度労働時間等総合実態調査について、加藤氏は、14日の国会答弁で「なくなった」としていた調査の原票が、省内の倉庫に残っていたことも認めた。原票は「出せる限り(国会に)提出したい」と語った。
3月にも国会に提出予定の「働き方」関連法案については「データのあやまちは認めるが、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の結論を変えるということには至らない」と、修正はしない考えを示した。同法案で、裁量労働制の対象拡大の施行日延期を検討していることについては「一定の時間が必要だ」と話した。
公明党は22日、裁量労働制を巡る不適切なデータ処理問題を議論する会合を開いた。「データが国民に信頼を得られるものなのか説明できないと与党として持たない」という意見や、新たな不適切データが少なくとも117件見つかったことに関し「これだけで済むのか。もっとぼろぼろ出るのではないか」と懸念する声が出た。
裁量労働「4時間以下」120件 厚労省データ 野党「不自然だ」
裁量労働制を巡る不適切なデータ処理問題で、厚生労働省は22日、不適切なデータの件数が今後増える可能性を認めた。立憲民主など野党六党は同日、国会内で開いた合同の会合で、裁量労働制で働く人の一日の労働時間が「4時間以下」というデータが120件あるなど、不自然なデータが新たに見つかったと指摘。厚労省は精査する考えを示したが、データの信ぴょう性がさらに疑われる事態となった。
問題となっているのは厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」。野党が22日明らかにした集計によると、裁量労働制で働く人の一日の労働時間が「4時間以下」としたのは120件。このうち「1時間以下」は25件あった。希望の党の山井和則氏は「極端に短く、不自然だ」と追及。厚労省幹部は「にわかには答えられない」と回答を持ち帰った。
これに先立つ衆院予算委員会で、立憲民主党の岡本章子氏が、厚労省が21日に認めた117件以外に不適切なデータがあるのかをただすと、加藤勝信厚労相は、さらに増える可能性を否定しなかった。
続いて安倍晋三首相が掲げる「働き方改革」をテーマに実施された集中審議では、同党の逢坂誠二氏が裁量労働制の対象拡大を審議した労働政策審議会(厚労相の諮問機関)について「議論の材料が適切ではなかった」と指摘。裁量労働制に関するデータの内容次第では「(対象拡大を容認した)労政審の結果が変わる可能性は否定できない」と主張した。
加藤氏は「(現状の)裁量労働制に問題があることは共通の認識。それも含めて(対象拡大は)『おおむね妥当』という答申をもらった」として、労政審での再検討を否定した。
逢坂氏は「これ以上の不備が出れば、厚労相の進退に関わる」と迫ったが、首相は「(法案の)準備を進めてほしい」として、加藤氏の更迭を拒否した。
公明党は22日、国会内で会合を開催。出席者からは不適切なデータに関し「これだけで済むのか。もっとぼろぼろ出るのではないか」と懸念する声が出た。
与野党は23日、幹事長・書記局長会談で、今後の審議について協議する。
裁量労働制 先行事例から知る本当の怖さ
安倍晋三首相が「一般の労働者よりも労働時間が短くなる」と国会で答弁したものの、その根拠となるデータが重大な誤りがあることが発覚、安倍首相が謝罪するという顛末で、にわかに注目されるようになった裁量労働制。安倍政権は、「働き方改革」関連法案の柱の一つとして、現在、一部の専門職のみに適用されている裁量労働制を、営業職などにも拡大しようとしているが、果たして本当に長時間労働の是正につながるのか?既に裁量労働制を導入しているITやデザイン、ゲーム開発など業界の現場では、どんなに長時間働いても、残業代が支払われず、一定の時間以外は労働したという事実すら無かったことにされるという、最悪のブラック労働環境となっているという。
「定額働かせ放題」の実例
裁量労働制とは、実際の労働時間がどれだけなのかに関係なく、労働者と使用者の間の協定で定めた時間=「みなし時間」だけ働いたとみなし、労働賃金を支払うという制度だ。仕事の段取りや時間配分を自分の判断で決められる働き手が対象となり、SEや、デザイナー、メディア関係者などの19業務が対象となる「専門業務型」と、企業活動の企画や立案、調査業務などを行う「企画業務型」の2種類に大別される。
裁量労働制は、一見、働く人が時間に縛られず、自分のペースで仕事ができるように見えるが、実際の案件では、労働者に選択の余地はなく、ひたすら働かせ続けるということが起きている。中でも最近、人々の注目を集めたのは、ゲーム制作等を手がけるIT企業サイバードでの労働争議だ。裁量労働制での労働問題の相談に応じている「裁量労働制ユニオン」の坂倉昇平氏が解説する。
「私達が相談を受けたAさんは、2016年にサイバードに入社、専門業務型裁量労働制を適用され、1日10時間8分をみなし労働とし、ゲーム用ソフトウェアの創作を業務とすることになりました。ところが、『ゲームの体験イベントの開催』、『ゲーム宣伝用のサイトおよびSNS運用』など、裁量労働制が禁じられている仕事もさせられたりするなどして、時間外労働が100時間を超える月もあるなど、長時間労働を強いられました。しかし、どんなに働いても毎月の給料は変わらず、正に『定額働かせ放題』という状況に陥りました」
いわゆる残業代ゼロ法と異なり、高収入でなくても「定額働かせ放題」
「しかも、裁量労働制なのに、長時間労働で適応障害になったAさんが就業時間から大きく外れた出勤をしていたことを理由として、サイバードはAさんを退職勧奨で辞めさせています。同社では、就業時間が10〜19時とされていましたが、裁量労働制の対象者については、雇用契約上は『基本とし労働者の決定に委ねる』とされていたにもかかわらずです」(同)。
Aさんの相談を受けた、坂倉氏ら裁量労働制ユニオンは、渋谷労働基準監督署に申告。同署はサイバード側にも調査を行ったうえで、Aさんの労働実態が、本来の業務以外の仕事もさせられるなど、裁量労働制を適用できないものと判断。サイバードに対して2017年8月、行政指導を行った。これに伴い、裁量労働制を免罪符とした月70時間以上の残業や、残業代未払いも労働基準法違反として是正勧告された。
蔓延する裁量労働制の悪用
坂倉氏は「裁量労働制の対象業務の規定自体が曖昧でザルであるため、ITやデザイン、ゲーム開発などの業界を中心に、裁量労働制が悪用される例が後を絶ちません」と言う。「しかも、労働相談を受ける側にも、裁量労働制について理解している人が少なく、Aさんのケースでも、サイバード側の弁護士、Aさんが最初に相談した法テラスの弁護士、東京労働局の斡旋担当の弁護士ですら、Aさんの業務に裁量労働制が適用されることの問題点に気が付かなかったのです」(坂倉氏)。
Aさんの事例では、上司の指示で徹夜での業務を余儀なくされたりすることもあった。坂倉氏は「裁量労働制なので、本来、上司が指示できること自体がおかしいのですが、現実には働き手が裁量できない、というケースが多いのです」と指摘する。
いざという時のための証拠集めが重要。
裁量労働制で過労死認定が困難に!
裁量労働制の恐ろしさは他にもある。「あらかじめ定めたみなし時間以上の労働は、労働とみなされず、企業側がタイムカード等、労働時間の記録すらしてないことが多々あります。つまり、膨大な量の仕事を押し付けられ、長時間労働の結果、労働者が過労死しても、それを立証することが非常に難しくなるということです」(坂倉氏)。厚労省の統計によれば、一部の企業で既に行われている裁量労働制で、2012年から2015年の間に13人の過労死が労災として認定されているものの、それですら、氷山の一角であるかもしれないということだ。
安倍政権は「働き方改革」の一環として、裁量労働制の適用範囲を拡大しようとしているが、これまでの事例を観ても、むしろブラックな労働環境がさらにはびこることになりかねない。国会での審理に大いに注目する必要があるだろう。
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裁量労働制 1万社分 全データ精査へ 厚労相
裁量労働制を巡る不適切なデータ問題で、加藤勝信厚生労働相は23日午前の記者会見で、全国約一万社から聞き取り調査したデータすべてを精査する考えを示した。「労働基準局だけでなく統計を扱う部局も含めてしっかり対応したい」と省内でチームをつくり作業を進める考えを示した。調査期限は明らかにしなかった。 
野党が新たに指摘した裁量労働制で働く人に関する不適切なデータ120件について「報告は受けている」と認めた。これは裁量労働制で働く人の一日の労働時間が「4時間以下」となっていたデータで、「1時間以下」25件も含まれている。希望の党の山井和則氏の集計で22日に発覚し、山井氏は「極端に短く、不自然だ」として厚労省幹部に事実確認を求めていた。
一般労働者を巡っても一日の残業時間が「45時間」などと記入されるなど、不適切なデータ117件が既に発覚。安倍晋三首相は22日の衆院予算委員会で「(調査)原票と打ち込んだデータを突き合わせ、精査しなければならない」などと話した。
一般労働者だけでなく、裁量労働制を巡るデータにも不適切な点が見つかった責任を問われた加藤氏は「しっかりと今回のことを説明し、職務を行っていきたい」と話し、辞任する考えはないとした。
一連の不適切なデータは、厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」結果に含まれていた。一般労働者に関しては一カ月のうちで「残業時間が最も長い一日」を聞き取ったが、調査結果をまとめる段階で「最長」を「平均」の数字のように扱い、裁量労働制で働く人と比べていた。その結果、一般労働者の方が労働時間が長くなった。野党は「ねつ造」と批判している。  
 
●裁量労働制 
そもそも裁量労働制って?
裁量労働制ってどんななの?という人もいると思いますので、簡単に説明します。
裁量労働制は、現行法にもあります。
現行法では、労働基準法38条の3以下に定めがあります。
本当は、ここで条文を引用したいところですが、たぶん、条文をそのまま読んで理解できるような内容ではないので、かいつまんで説明します。
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2つあります。
専門業務型の業務とは、厚労省が定めています。ここに書いてあります。
企画業務型の業務はちょっとわかりにくいのですが、企業の中枢で、企画立案などの業務を自律的に行っている労働者が該当するとされています。
どちらも、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」(労基法38条の3)、「業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある」(労基法38条の4)など、業務を遂行するのに裁量が必要な業務だ、という点がポイントとなります。
それゆえに、裁量労働制と呼ばれるのです。
さて、ここでハタと気づきますね。
裁量労働制って、全部、裁量があるんじゃないのか・・・と。
そうです。
裁量労働制は、あくまでも、業務の進め方に労働者に裁量がある制度、ということになります。
ここがミソです。
業務量に裁量はない
労働者は、使用者から下る業務命令を遂行することで労務を提供します。
すなわち、
1.使用者から「これをやれ」と命令がなされる
2.労働者はそれを遂行する
3.労働者は仕事の結果を使用者へ渡す
これが労働者のお仕事サイクルです。
このうち、2.だけに裁量がある制度ということです。
そうです。1.には労働者に裁量はないのです。
これは、要するに、業務量については労働者には裁量がないということを意味します。
定額働かせ放題
どれだけ長く働いても、あらかじめ、みなすとした時間だけ働いたとしかされません。
たとえば、1か月10時間の残業があるとみなすとした場合は、100時間残業しても10時間しか残業していないとみなされます。
そのため、給料もみなされた労働時間分しか払われません。
使用者にとっては、ラッキーです。
仕事を目いっぱい与えて、あとはどうぞご自由にとすれば、いいのです。
どんなに長く働いても払う給料は一定です。
これが裁量労働制の実際です。
それゆえに、定額働かせ放題とネーミングしたわけです。
裁量労働制についての幻想
よく、裁量労働制だと早く帰れるとか、病院に行けるとか、子育て時間ができるとか、そう言う人がいます。
裁量労働制があったから早く帰れた・・・・と。
果たして、そうでしょうか?
実は、意外と思うかもしれませんが、裁量労働制と早く帰れることは無関係です。
たとえば、9時始業で、18時が終業時刻(休憩1時間)の会社で働くある労働者がいたとします。
その人が、15時に帰っても、使用者が18時まで働いたとみなすことは、裁量労働制に関係なくできます。
これはなんにも制限されていません。
しかし、21時まで働いた労働者の終業時刻を18時とみなすことは、裁量労働制でないとできません。
裁量労働制でない場合は、21時までの残業代を払う義務が使用者にあるのですが、裁量労働制だとこの義務を免れます。
これぞ、裁量労働制の真の意味なのです。
なので、残業代を払わないで働かせられる裁量労働制の方が、一般的な時間管理のある労働者よりも長く働く傾向にあることは、ある意味、当然なのです。
撤回しかない
この裁量労働制の拡大をしようとしているのが、「働き方改革」です。
これが、本当に「働き方改革」なのでしょうか?
喜ぶのは労働者ではなく、ブラック企業ではないでしょうか?
裁量労働制は速やかに撤回すべきだと思います。
あと高プロも一緒に撤回すべきだと思います。  
 
●裁量労働制レポート 1 
要旨
1月29日の衆議院予算委員会で長妻昭議員は、裁量労働制のもとで働き、過労死に追い込まれた事例を複数紹介した。これに対し安倍首相は、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁した。
この「平均的な方で比べれば」について、データの出所である平成25年度労働時間等総合実態調査結果を確認したところ、裁量労働制で働く労働者と一般の労働者のそれぞれの労働時間の平均値の比較ではなかった。それぞれについて、「平均的な者」のみを取り出して、その労働時間の平均値を比べたものであった。裁量労働制では長時間労働に歯止めがなくなるという指摘に対して示すデータとしては、不適切である。
裁量労働制の方が通常の労働時間制の労働者よりも長時間労働の者の割合が高く、平均で見ても労働時間が長いという傾向は、厚生労働省の要請に基づき労働政策研究・研修機構が実施した2013年の調査における労働時間の分布にはっきりと出ている。同調査では、労働時間の平均で見ても、通常の労働時間制の労働者で186.7時間であるのに対し、企画業務型裁量労働制では194.4時間、専門業務型裁量労働制では203.8時間と、長い。
安倍首相がそのデータを参照するのではなく、平成25年度労働時間等総合実態調査から「平均的な者」のみを取り出して比較したデータをあえて紹介したことは、データを示すことによって反証ができたかのように装うものでしかない。そのような答弁は不誠実であり、さらに言えば、国民を欺くものだ。安倍首相に続いて同じデータに言及して答弁した加藤厚生労働大臣も同様である。
さらに、1月30日の読売新聞社説と同30日の日本経済新聞の記事は、裁量労働制で働く者の労働時間が一般の労働者の労働時間よりも短いと安倍首相が答弁したかのように報じており、誤報と言える。報道機関は、不誠実な答弁については検証を行うべきだ。不誠実な答弁に追随して国民をさらに誤誘導することは、あってはならない。
裁量労働制のもとで働く労働者の過労死の事例に対し、
 データで反論したかのように装った安倍首相
働き方改革関連法案に関する国会論戦が始まった。この法案(現在公開されているのは法案要綱のみ)は、時間外労働に罰則つき上限を設けるなどの規制強化を前面に出しつつも、高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働制の拡大という規制緩和を同時にねらう「抱き合わせ」法案であり、現在の野党の質疑では裁量労働制が長時間労働を助長するという問題が大きく取り上げられている。その中で、安倍首相と加藤厚生労働大臣の答弁において、データへの言及の仕方に大きな問題があった。
1月29日の衆議院予算委員会では立憲民主党の長妻昭議員が、裁量労働制のもとで働き、過労死に追い込まれた事例や、あわや過労死、という状況に至った事例を複数、列挙した(議事録(速記録)はこちら。下記はその要約)。
30代の女性。みなし労働時間は1日8時間だが、残業は長いときは月100時間。繁忙期は深夜1時ぐらいまで残業し、早朝は6時頃出社。昨年11月27日に編集プロダクションの会社で深夜に倒れる。息をしない状況、昏睡のような状態になり、深夜働いていた同僚が気づいて救急車を呼んで一命をとりとめた。
47歳のアナリスト。残業は月40時間までとみなされていたが、発症前の1か月の残業は133時間。亡くなられた。
大手印刷会社の男性。27歳で過労死。みなし労働時間は1日8.5時間だったが、メール(の記録か)では、1時過ぎに帰宅して、3時に就寝して、6時半に起床して、7時過ぎには出社。過労死。
出版社のグラビア担当の編集者。入社2年目で過労死。
機械大手の34歳で過労死された方。1日の労働時間は8時間とみなされたが、月の残業は100時間以上が多かった。
そのうえで、全国過労死を考える家族の会の代表の方の声として
「今でさえ裁量労働制で働く労働者の過労死、過労自殺が後を絶たない状況にもかかわらず、適用範囲をさらに拡大すれば、労働時間の歯止めがなくなり、過労死が更に増えることは目にみえています。」
という指摘を紹介している。
そして、労働法制を岩盤規制とみなして、ドリルで穴をあけなければならないという趣旨の発言を安倍首相がこれまでに行っていることを紹介し、そのような間違った労働法制観を改めていただきたいと長妻議員は求めた。しかし安倍首相は、規制緩和への意気込みを隠すことなく、こう語った。
「その岩盤規制に穴をあけるには、やはり内閣総理大臣が先頭に立たなければ穴はあかないわけでありますから、その考え方を変えるつもりはありません。」
この発言自体も注目に値するのだが、今回とりあげたいのはこの発言ではなく、それに続く次の発言だ。
立憲民主党・長妻昭議員に対する安倍首相の答弁(衆議院予算委員会2018年1月29日)
「それと、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。」
皆さんはこの答弁の内容を、どう理解されるだろうか。労働時間の平均で見れば、裁量労働制で働く者の方が、一般労働者よりも労働時間が短い、という趣旨の答弁と理解するのではないか。
筆者もそのように聞き取った。しかし同時に、それはおかしいと思った。筆者が知る調査データは、逆の傾向を示しているからだ。
労働政策研究・研修機構の調査によれば、
 裁量労働制の労働者の方が長時間労働である
よく知られている労働研究・研修機構の調査データによれば、裁量労働制のもとで働く労働者は、通常の労働時間制のもとで働く労働者に比べ、長時間労働の割合が高い結果になっている。具体的には下記のグラフが示す通りだ(略)。
これは労働政策研究・研修機構、労働者を対象として2013年に行った大規模アンケート調査の、結果報告書に掲載されているものである(p.22)。下記に報告書の全文が公開されている。
裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果(2014年5月)
労働政策研究・研修機構(略称JILPT)は、厚生労働省の管轄のもとにある独立行政法人であり、この調査は裁量労働制の実態をとらえるために、厚生労働省の要請に基づき行われた調査である。
この調査報告書には、上記のグラフに対応するクロス表も公開されており(p.77)、それによれば1か月の実労働時間の平均は、専門業務型裁量労働制で203.8時間、企画業務型裁量労働制では194.4時間、通常の労働時間制で186.7時間となっている。つまりこの調査結果では、裁量労働制で働く労働者の方が通常の労働時間制のもとで働く労働者よりも、月あたりの実労働時間の平均で見ても、長くなっているのだ。
なお、上記のグラフにある「厚労省抽出分」という注意書きは、専門業務型裁量労働制または企画業務型裁量労働制について届け出等を行った事業場から厚生労働省労働基準局が無作為抽出した5,414事業場に対し、一事業場当たり計10人の常用正社員、合計54,140人の労働者を対象に行った調査の結果であることを示している(有効回収票は10,023票、有効回収率18.5%)。
この調査報告書には他に、民間調査会社の事業所データベースから無作為抽出した7,586の事業所を対象に、一事業所当たり10人の労働者、合計75,860人を対象に行った調査の結果も示されている(有効回収票は12,983票、有効回収率17.1%)。
そちらの調査結果(事業所DB抽出分)から1ヵ月の実労働時間を見ると、下記のグラフの通りであり(p.13)、やはり通常の労働時間制のもとに働く労働者よりも、裁量労働制のもとで働く労働者の方が、実労働時間が長い労働者の割合が高いことがわかる(略)。
こちらも対応するクロス表があり(p.189)、それによれば、1ヵ月の実労働時間の平均は、専門業務型裁量労働制で206.5時間、企画業務型裁量労働制で197.2時間、通常の労働時間制で185.0時間である。やはり平均で見ても、裁量労働制のもとで働く労働者の方が、実労働時間が長い。また、上記の「厚労省抽出分」の調査結果と見比べても、類型ごとにほぼ同様の平均労働時間となっていることがわかる。
では安倍首相はいったい、厚生労働省の要請に基づき実施されたこの調査ではない、何のデータに言及したのか。
加藤厚労大臣も同じデータに言及
もやもやした思いでいたところ、2日後の1月31日に、今度は加藤厚生労働大臣がやはり同様の答弁を行った。参議院予算委員会で、民進党の森本真治議員の質疑に答える中で、だ。
森本議員は、裁量労働制の拡大により、長時間労働がむしろ助長されるのではないかという問題を質疑で取り上げた。日本労働弁護団や過労死を考える家族の会の皆さんにそのような懸念があることを紹介し、これらの皆さんの認識は誤りなのか、と問うた。
それに対する加藤大臣の答弁はこうだ。
民進党・森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁
 (参議院予算委員会2018年1月31日)
「どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。」
「どういう認識のもとにお話しになっているのか」「それぞれのファクトによって、見方は異なってくる」という答弁は、「そちらが依拠するファクトは偏っているのではないか」という印象を聞く者に与える答弁だ。では加藤大臣があげたファクトとは、どのようなファクトであったのか。
この答弁に対し森本議員は、裁量労働制の方が長時間労働になっているという調査結果を2つ紹介していた。1つは上に挙げた労働政策研究・研修機構の調査結果だ。もう1つは情報労連がNPO法人POSSEと共同で行った調査結果であり、次のグラフに示す通りだ。この情報労連の調査結果もやはり、裁量労働制が適用されている労働者の方が、長時間労働の割合が高いことを示している(略)。
このような調査結果を森本議員が紹介したのに対し、加藤大臣は改めて前述のデータに次のように言及した。
民進党・森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁
 (参議院予算委員会2018年1月31日)
「議員ご指摘の資料があることも事実でございます。また私どもの平成25年度労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども、平均的な一般労働者の時間が9時間・・・、これは1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と、こういう数字もあるということを、先ほど申し上げたところでございます。」
「議員ご指摘の資料」に「厚生労働省が調べたもの」を対置させる語り方には、「こちらのデータの方が、信頼度が高いデータである」と言わんばかりのニュアンスを感じるが、ここでデータの出典がわかった。ネットにその調査結果が公開されている。
厚生労働省労働基準局平成25年度労働時間等総合実態調査(2013年10月)
この内容を確認してわかったことは、安倍首相と加藤大臣が語ったデータは、裁量労働制で働く労働者と一般の労働者のそれぞれの労働時間の平均値を比較したものではなく、「平均的な者」のみを取り出して、その労働時間の平均値を比べたものであり、答弁に使うには不適切なデータである、ということだ。
こう書いただけでは、何が違うのか、にわかには理解していただけないだろう。ややこしい話で恐縮だが、順を追って以下に説明したい。
なお、加藤大臣は、1日の実労働時間が平均的な一般労働者では9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と語っているが、企画業務型裁量労働制の「平均的な者」の労働時間の平均が9時間16分であることは同調査結果の表52(p.68)で確認することができるが、一般労働者については同調査結果からは確認できない。独自集計によるものと思われる。
平成25年度労働時間等総合実態調査における「平均的な者」とは
平成25年度労働時間等総合実態調査は、全国の労働基準監督署の労働基準監督官が11,575の事業所を訪問して実施したものであり、2013年4月時点での実態を調査したものである。対象事業所は無作為に選定されているが、裁量労働制に係る事業場数を一定数確保するため、専門業務型裁量労働制導入事業場及び企画業務型裁量労働制導入事業場が優先的に選定されている(p.1の記載による)。
この調査の調査項目に「平均的な者」と「最長の者」についての労働時間を把握した項目がある。一般労働者の時間外労働・休日労働の実績を紹介したページ(p.7)に、「最長の者」と「平均的な者」について、次のように説明がある。
「5 時間外労働・休日労働の実績
※この項の「最長の者」とは、調査対象月における月間の時間外労働が最長の者のことをいい、「平均的な者」とは、調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のことをいう。 」
ここで注目したいのは、「平均的な者」とは、「最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働数の層に属する労働者」のことであって、労働時間の平均値を表すわけではないという点だ。
調査結果の「7.裁量労働制」の「3)労働時間の状況」にも同じように「最長の者」と「平均的な者」が登場する(p.11)。この「7」には、それぞれの用語について特に説明はない。
ただし、この調査結果を紹介した第104回労働政策審議会労働条件分科会(2013年10月30日)の議事録では、一般労働者の「5 時間外労働・休日労働の実績」の項の説明として、
「ここから「最長の者」と「平均的な者」という概念が出てきますが、「最長の者」というのは、調査対象月における月間の時間外労働が最長の方を指しております。 「平均的な者」というのは、多くの方が属すると思われる層に属する労働者ということで、後ろを見ていただきますと、一定の幅で集計をしておりますので、具体的な表は、そこで最も多く属していると思われるところが平均的な方ということです。」
という説明が村山労働条件政策課長より行われており、裁量労働制の場合の「最長の者」については、
「ここで言う「最長の者」というのは、1日の平均時間が最長の方の最長の日ということで見ていただければと思います。」
という説明が、同じく村山労働条件政策課長より行われている。
裁量労働制の「平均的な者」についての説明は、この分科会でもない。
そこで裁量労働制における「平均的な者」とは、上記の一般労働者の場合と同様に、「多くの方が属すると思われる層に属する労働者」であり、より具体的には、「一定の幅で集計をしておりますので、具体的な表は、そこで最も多く属していると思われるところが平均的な方ということ」だという理解で話を進める。
そうすると、どういうことになるか。「平均的な者」のデータは、平均値とは、ずれるのだ。
仮想例で考えてみよう。ある事業所に、一般労働者(この調査における一般労働者とは、1年単位の変形労働時間制の対象労働者及び限度基準適用除外業務等に従事する労働者以外の労働者のこと)が100人、企画業務型裁量労働制のもとで働く労働者が10人いたとしよう。そしてそれらの労働者の1日の実労働時間は下記のように分布していると仮定しよう(略)。
この場合、「平均的な者」を、先の定義のように「最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者」と理解して選び出すならば、一般労働者についても企画業務型裁量労働制についても、もっとも割合が高い「9時間超10時間以下」の層の中から選び出すことになるだろう。
しかし、上の仮想例の場合、企画業務型裁量労働制のもとで働く労働者は、一般労働者よりも、長時間労働の者の割合が高い。それぞれの累計の労働者について、平均労働時間を算出すると、一般労働者は9.6時間であるのに対し、企画業務型裁量労働制の労働者は10.6時間である(各階級の中央値をもとに算出)。
にもかかわらず、「多くの方が属すると思われる層に属する労働者」を「平均的な者」として選び出すと、企画業務型裁量労働制についても「9時間超10時間以下」の層から選び出されてしまうのだ。
そのように選び出された「平均的な者」の1日の実労働時間のデータを各事業場から集め、そのデータをもとに平均値を算出して比較したところで、それは一般労働者と企画業務型裁量労働者の労働時間の平均値の比較とはならず、乖離した結果になることは、お分かりいただけるだろうか。
企画業務型裁量労働制に関する調査の回答数は、十分に確保されていたのか
この平成25年度労働時間等総合実態調査結果における「平均的な者」のデータを裁量労働制のもとで働く労働者の労働実態をとらえるものとみなすことが不適切と考える理由は、他にもある。主なものを4つあげておこう。
第1に、この調査は11,575の事業場に対して訪問して実施した調査であるが、そのうち企画業務型裁量労働制導入事業場が実際にいくつあったのか、実数を示していない。調査結果に示されているのはパーセンテージのみである。調査対象として「裁量労働制に係る事業場数を一定程度確保するため、専門業務型裁量労働制導入事業場及び企画業務型裁量労働制導入事業場を優先的に選定した」とあるが、実際に訪問したうちのいくつの事業場がそれに該当するのかは、示されていないのだ。
この点について第104回労働政策審議会労働条件分科会(2013年10月30日)で使用者代表の秋田委員は、
「もう一つ質問ですが、裁量労働制は、実数ということでお話がありましたけれども、実際に表のほうはパーセンテージのほうで出ているのですが、裁量労働制、例えば専門型と企画型を導入している事業場の総数はお知らせいただけるのでしょうか。」
と質問しているが、村山労働条件政策課長は、
「この調査自体は、パーセンテージで表章はしているけれども、結局実数なのだなという御指摘だと思いますが、これ以上のお示しはなかなか難しいということ」
としか回答していない。
この回答を受けて秋田委員は、裁量労働制の労働者の集計データについて、
「例えば表45とか46に出ているパーセンテージは、サンプル数が極少である可能性があるということなので、かなりばらつきがありますけれども、それが全国的な裁量労働制の実態をあらわしているのかどうかというのは、若干疑問があるような気はします。」
と語っている。
先に見た労働政策研究・研修機構の調査は、「厚労省抽出分」については、専門業務型裁量労働制については協定を届け出た事業場、企画業務型裁量労働制については有効な決議書又は定期報告をした事業場を対象に実施され、その事業場を経由して労働者に調査票が配布されているため、企画業務型裁量労働制について1,167の回収票が確保されている。しかし平成25年度労働時間等総合実態調査の場合は、そのような十分な回答数が確保されているか、疑問が多い。
裁量労働制のもとで働く労働者について、
 事業場では実際の労働時間は把握できているのか
第2に、平成25年度労働時間等総合実態調査結果は、裁量労働制のもとに働く労働者について、実際の労働時間を把握しているものなのか、という問題がある。
同調査結果には裁量労働制のもとで働く労働者について、「1日のみなし労働時間」と「労働時間の状況」の結果を公表している。
「実労働時間」と表記せず「労働時間の状況」と表記していることには理由がある。裁量労働制の労働者については、事業主は、実労働時間を把握する義務を課せられていないからだ。
そのため「労働時間の状況」の項(p.11)には、
「※この項で「労働時間の状況として把握した時間」とは、労働基準法第38条の3第1項第4号又は第38条の4第1項第4号に規定する労働時間の状況として把握した時間をいう。」
という注意書きがある。ただし、これだけでは何を言っているのかわかりくい。
この調査結果の説明にあたり、第104回労働政策審議会労働条件分科会(2013年10月30日)で村山労働条件政策課長は、次のように語っている。
「「3)労働時間の状況」で違和感を持たれる委員もいらっしゃるかもしれませんが、※印にも書いていますように、「労働時間の状況として把握した時間」は、指針等に書かれております健康・福祉確保措置等を講ずる観点から、入退室の時刻等を把握していただいておりますけれども、そうした形で把握した時間も含めた把握できる範囲の数字ということで見ていただければと存じます。」
つまり、指針によって、健康・福祉確保措置等を講ずる観点から、入退室の時刻等の把握を求めているということだ。しかし「指針」なので、把握の義務はない。
裁量労働制の実態について「この数字が具体的にどういった記録なり聞き取りなどから把握をされたものなのかということを少し詳細にお示しいただきたい」という労働者代表・冨田委員の質問に対しても、村山課長の回答は、
「裁量労働制のみなし労働時間が導入されている中において、どのように把握しているのかという御質問がございました。説明のときも若干申し上げたかもしれませんけれども、特に健康・福祉確保措置の一環として、使用者が対象労働者の労働時間の状況等、勤務状況を把握する手法として、まず労使委員会でもよく話し合っていただきながら、いかなる時間帯、どの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったかを、例えば出退勤時刻であるとか、入退室時刻のさまざまな記録であるとか、労使のチェックであるとか、そういったことで努めていただきたいということは申し上げているところであり、そうしたことを使用者の方に行っていただいている中で把握しているところを今回も見ているということで、御理解いただければと考えております。」
とあるのみで、どれだけこのような方法によって実際の実労働時間が把握されているものなのか、疑問が残る。
また、村山労働条件政策課長の同分科会における説明によれば、この調査は
「調査的監督と一般に言われるもの、すなわち労働基準監督官が全国の無作為抽出した事業場に足を運び、労働時間の実態調査をやっている」
ものであり、
「全国の労働基準監督署の労働基準監督官が実際に事業場を訪問し、臨検監督する手法によって実施」
しているという。
となると、労働基準監督官が事業所を訪れて「平均的な者」の労働時間の状況を把握しようとした際、「みなし労働時間」との乖離ができるだけ少ない(実態とは異なる)データを事業主が揃えていたり、乖離ができるだけ少ないデータを選んで提出したりすることも考えられるのではないか。
他方で、先に紹介した労働政策研究・研修機構の労働者調査は、事業場の人事担当者を通して調査票を配布することによって実施されているが、回答するのは労働者本人であり、人事担当者を介さずに直接返送する方法で実施されている。こちらの方が、実労働時間が適切に回答されている可能性が高いとは言えないだろうか。
なお、前述の通り加藤大臣はこのデータについて、「これは1日の実労働時間ですが」と答弁していたが、ここで見た通り、これは1日の「実労働時間」を把握したものではない。かなり適切な把握がされているか疑問が残る中での、「労働時間の状況」を1日単位で把握したものである。
裁量労働制の場合の労働時間の状況を1日単位で尋ねることは、適切なのか
第3に、平成25年度労働時間等総合実態調査結果は、裁量労働制の労働時間の状況を1日単位で調査しているが、それは適切なのか、という問題がある。
裁量労働制とは本来は、労働者が労働時間を自由に設定できるものであるはずだ。仕事が集中する時期とそうでない時期の労働時間の変動が大きいことも考えられる。であれば、「1日」ではなく、月単位、もしくは年単位で労働時間を把握することの方が、適切ではないのか。
第104回労働政策審議会労働条件分科会(2013年10月30日)でも、1日という単位で労働時間を把握していることの適切性について、使用者代表の鈴木委員から問いが示されている(ただし「最長の者」のデータについて)。それに対する村山労働条件政策課長の回答は、
「おっしゃるとおり、月とか年単位まで個人を追いかけておりませんので、掛け算するのは適当でない。1日として長いということで、把握の限界もありまして、従来からこの手法で調査していますので、従来と同様の調査方法で調査しているということでございます。」
というものであり、これは、1日の労働時間の状況を把握することで実態がわかるかという点については、限界があることを認めている発言と考えられる。
先に紹介した労働政策研究・研修機構の労働者調査は、回答するのは労働者本人であり、実労働時間は1か月の単位で尋ねられている。また人事担当者を介さずに直接返送する方法で実施されているため、事業主がその労働時間の実態について労働基準監督署から目をつけられることを恐れる必要はない。こちらの調査の方が、裁量労働制のもとで働く労働者の実労働時間を把握する方法として、より適切と言えるのではないか?
なぜ「最長の者」のデータには目を向けなかったのか
第4に、平成25年度労働時間等総合実態調査結果には、「平均的な者」の他に、「最長の者」に関するデータもある。裁量労働制のもとで働く労働者の場合の「最長の者」とは、先の説明に見たように、「1日の平均時間が最長の方の最長の日」の労働時間を表すものだ。
しかし、安倍首相や加藤大臣が言及したのは、「最長の者」に関するデータではなく、「平均的な者」に関するデータだった。
裁量労働制が長時間労働を助長するという野党の批判に対し、データをもって適切に反論できるのであれば、「平均的な者」よりも「最長の者」のデータを示せばよかっただろう。
裁量労働制では、「みなし労働時間」を超える実労働時間があったとしても、それに対応する残業代は払われない(深夜労働と休日労働は別)。よく言われるように、残業代が出ないのであれば「だらだら残業」をすることがなくなり、手早く仕事を済ませて帰宅するようになる、といった効果が本当に見られるのならば、「最長の者」の労働時間は、一般労働者よりも裁量労働制の方が短いだろう。
しかし安倍首相も加藤大臣も、「最長の者」についての比較データには言及していない。
なぜなのか。不都合だから、ではないだろうか。
なお、前述の通り、「一般労働者」については比較できるデータが公表されていないため、実際のところがどうであるのかは、公表されている調査結果からはわからない。
他方で、裁量労働制のもとで働く労働者については、「平均的な者」についても「最長の者」についても1日の実労働時間のデータが公表されている。企画業務型裁量制については、表51と表52だ。また「1日のみなし労働時間」については表48に示されている。それらをグラフにすると下記の通りとなる(略)。
「最長の者」の1日の労働時間は、「平均的な者」に比べて、かなり長時間労働の方に偏っていることが分かる。1日12時間超の労働者の割合は45.2%に及ぶ。
このグラフを見る限りでは、裁量労働制であれば「だらだら残業」することがなくなり、効率よく仕事を済ませて帰宅することができ、ワーク・ライフ・バランスをとりながら働けるとは、イメージすることは難しい。
改めて加藤大臣と安倍首相の発言を振り返る
以上、平成25年度労働時間等総合実態調査結果の内容を検討し、この調査の「平均的な者」のデータから一般労働者と企画業務型裁量労働者の労働時間を比較することがいかに不適切かを説明してきた。
このような問題の多い調査結果を利用するよりは、労働政策研究・研修機構が裁量労働制の実態把握を目的として行った冒頭の調査結果を利用する方が、はるかに実態を知る上で有益と考えられる。
にもかかわらず、立憲民主党の長妻議員と民進党の森本議員も労働政策研究・研修機構の調査結果に言及しながら質疑を行ったのに対し、安倍首相や加藤大臣はその調査結果には反応せずに、この平成25年度労働時間等総合実態調査結果に依拠して「反証」らしきデータを提示したのだ。
改めて両者の発言を振り返ってみよう。
民進党・森本真治議員に対する加藤厚生労働大臣の答弁
 (参議院予算委員会2018年1月31日)
「どういう認識のもとにお話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が一般の働き方に比べて長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。」
議員ご指摘の資料があることも事実でございます。また私どもの平成25年労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども、平均的な一般労働者の時間が9時間・・・、これは1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と、こういう数字もあるということを、先ほど申し上げたところでございます。
加藤大臣の、「平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございます」という発言。これを聞いた普通の人は、「平均で比べれば、(裁量労働制の方が一般の働き方に比べて労働時間は)短い」と理解するだろう。野党が示すデータとは逆の結果が、厚生労働省の調査では出ていると受け取るだろう。そして、厚生労働省の調査なのだから、そちらの方が、より信頼性が高いと受け取るだろう。しかしその調査の実際は、上に見た通りなのだ。
裁量労働制のもとで働く労働者の過労死の事例を複数挙げた長妻議員に対する安倍首相の答弁はこうだった。
立憲民主党・長妻昭議員に対する安倍首相の答弁(衆議院予算委員会2018年1月29日)
「それと、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。」
裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間の「平均値」とは異なり、しかし言葉として紛らわしい「平均的な者」に関するデータを、なぜ安倍首相や加藤大臣はわざわざ示す必要があったのか。
労働政策研究・研修機構が厚生労働省の要請により行った調査データが、裁量労働制のもとで働く労働者の方が長時間労働者の割合が高い結果を示していることに、向きあいたくなかったからではないか。
しかしそのような政府の姿勢は、あまりに不誠実だ。これらの安倍首相と加藤大臣の答弁は、国民を欺く答弁と言ってもよいだろう。
やはり実際のところ、裁量労働制では長時間労働に歯止めがかからないという野党の指摘の方が、もっともなのではないか。
政府は小細工によって国民を欺くような真似はやめて、現在でも裁量労働制のもとで働く労働者が長時間労働になりやすいという調査データが示す現実にどう対処し、どう過労死を防ぐかという問題に、真摯に向き合うべきだ。
日本経済新聞と読売新聞も、国民を誤誘導か
国会答弁については以上だが、さらに問題がある。報道機関も、政府による誤誘導に追随しているように思われのだ。
先に見た長妻議員と安倍首相の質疑を、日本経済新聞は次のように紹介している。
日本経済新聞2018年1月30日 働き方法案巡り応酬 国会、本格論戦スタート
「立憲民主党の長妻昭代表代行は裁量労働制を取り上げて「労働者の過労死がさらに増える」と訴えた。安倍晋三首相は「裁量労働制で働く人の労働時間は平均で一般の労働者より短いというデータもある」と説明するとともに「多様な働き方を認めていく必要がある。70年ぶりの大改革だ」と改革の意義を強調した。」
先に詳しく見たように、平成25年度労働時間等総合実態調査結果の「平均的な者」に関するデータを、「裁量労働制で働く人の労働時間は平均で一般の労働者より短いというデータ」であるかのように紹介するのは、不適切である。誤報と言ってよいだろう。
しかし、この記事を読んだ人は、野党の指摘がデータによって反証された、と受け取るだろう。
果たして日本経済新聞は、どのようなねらいでこの記事を書いたのだろうか。安倍首相や加藤大臣の、あたかもデータによって反証しているかのような答弁に、騙されてこのような記載になったのだろうか。それとも、国民を欺く答弁であることをわかった上で、同じように国民を欺くことにみずから進んで加担しているのだろうか。
同日の読売新聞の社説も問題である。
読売新聞 2018年1月30日 衆院予算委 政府・自民党は「緩み」を排せ
「立憲民主党の長妻昭代表代行は政府が提出する働き方改革関連法案について、裁量労働制の拡大を批判した。「残業の上限を青天井にする。過労死が増えるのは目に見えている」などと訴えた。安倍首相は「裁量労働制で働く人は、一般労働者より労働時間が短いとの調査もある。多様な働き方が求められる」と反論した。あらかじめ決められた時間を働いたとみなす裁量労働制は、専門職や企画職らに適用される。全労働者を対象にはできないが、漫然と残業するより、短時間で結果を出せる職種は少なくない。バランスの取れた働き方改革へ国会で議論を深めたい。」
「裁量労働制で働く人は、一般労働者より労働時間が短いとの調査」という紹介は、これまで見てきたように、不適切であり、誤報と言える。また、安倍首相が「反論した」とあるが、実際には適切なデータの紹介による反論ではない。しかし、この社説を読んだ人は、安倍首相はデータを用いて適切に反論することができており、裁量労働制であれば「漫然と残業」せずに、短い労働時間で働くことができるようだ、という印象を持つだろう。
さて読売新聞は、安倍首相や加藤大臣の答弁の不誠実さをわかった上で、このように書いているのだろうか。
日本経済新聞も読売新聞も、朝日新聞などとは異なり、裁量労働制が労働時間規制の緩い働かせ方であって長時間労働を助長する恐れが強いということを、普段の記事で積極的に取り上げない。他方で、このように反論になっていない反論を、適切な反論であるかのように取り上げる。果たしてそれが、報道機関の取るべき姿勢であるのか、強い疑問を抱く。
報道機関は、不誠実な答弁については検証を行うべきだ。不誠実な答弁に追随して国民をさらに誤誘導することは、あってはならない。
おわりに
以上、非常に長くなったが、1月29日の安倍首相と1月31日の加藤大臣による、信頼性の低い調査データへの言及の問題点について検討してきた。
この記事を公開することのもっとも大きな目的は、このようにデータを示すことによって一見もっともらしく聞こえ、しかし実際は不誠実で国民を欺くような答弁を、これ以上、国会で行わせないことである。
野党の皆さんには奮闘していただきたいし、報道機関もみずからの役割を適切に果たしていただきたい。 
 
●裁量労働制レポート 2 
要旨
裁量労働制のもとで働く労働者の方が一般の労働者よりも平均で比べれば労働時間が短い「かのような」データに安倍首相と加藤大臣は国会答弁で言及したが、そのデータは、検証に耐えられない問題だらけのものだった。
2月9日の衆議院予算委員会で山井和則議員はこの問題を取り上げ、1月29日の安倍首相の答弁の撤回を求めている。
「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」という安倍首相の答弁は、4つの点において問題がある。
第1に、これは調査結果ではない。一般労働者のデータは、調査結果であるとされる未公表のデータを使い、かつ不適切な計算式による加工も施した上で算出されたデータであり、実態ともかけ離れた過大な数値となっている。
第2に、この調査のデータは、定義された「平均的な者」のデータであるが、安倍首相は「平均的な者」のデータであることを説明せずに、あたかも平均値であるかのように答弁していた。
第3に、この調査における一般労働者のデータと裁量労働制のもとで働く労働者のデータは、把握している内容が異なり、比較することは不適切なものである。
第4に、比較が不適切なものを比較して「短い」と判断することは間違いであり、さらに、一般労働者のデータは実態とかけ離れた過大な数値となっているため、その意味においても「短い」という判断は妥当でない。
安倍首相と共にこのデータに言及した加藤大臣の答弁にも、同じ問題がある。さらに加藤大臣はその後の答弁で、当初の答弁の内容について、過去の事実の書き換えを試みようとしており、その点においても問題がある。
はじめに
「働き方改革」関連一括法案に含まれる予定の企画業務型裁量労働制の拡大。これは長時間労働を助長し、過労死を増やすものだと野党が批判している。その批判をかわすために安倍首相と加藤大臣が持ち出したデータに、予算委員会で疑義が呈されている。
2月9日の衆議院予算委員会では山井和則議員(希望の党)が、答弁の根拠となるデータに疑義を呈した。それに対し加藤厚生労働大臣は、適切な説明ができず、「精査させていただきたい」とひきとった。山井議員は安倍首相の答弁の撤回を求めており、13日の衆議院予算委員会で改めてこの問題が取り上げられることが予想される。
安倍首相のウソ露呈 裁量労働で「労働時間短縮」根拠ナシ
 日刊ゲンダイDIGITAL(2018年2月10日)
筆者はこの問題について、下記の4本の記事を公開してきたが、明日の予算委員会に向けて、改めて論点整理を試みたい。この問題の経緯を知らない方にもこの記事だけを読めばわかるように、心がけて書いていきたいと思う。
(1)なぜ首相は裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」データに言及したのか(2018年2月3日)
(2)裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」答弁のデータをめぐって(2018年2月6日)
(3)裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」答弁のデータの問題性(2018年2月10日)
(4)裁量労働制の方が労働時間は短いかのような安倍首相の答弁。撤回は不可避だが、事務方への責任転嫁は間違い(2018年2月8日)
安倍首相の答弁(1月29日衆議院予算委員会)
問題となっている安倍首相の答弁は、1月29日の衆議院予算委員会で、長妻昭議員(立憲民主党)の質疑に対して行われた。
長妻昭議員は、労働法制を「岩盤規制」とみなして、それにドリルで穴をあけようとするのは、間違った労働法制観であると指摘した。それに対する安倍首相の答弁は次の通りだ。
「その岩盤規制に穴をあけるにはですね、、やはり内閣総理大臣が先頭に立たなければ、穴はあかないわけでありますから、その考え方を変えるつもりはありません。それとですね、厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。」
この答弁には4つの問題がある。「厚生労働省の調査によれば」は間違いだ。「平均な、平均的な方」という表現も間違いだ。「比べれば」とあるが、これは比較できるデータではない。そして、「短い」も間違いだ。詳しいことはあとで述べる。
加藤大臣の答弁(1月31日参議院予算委員会)
加藤厚生労働大臣も同じデータに1月31日の参議院予算委員会で言及した。森本真治議員(民進党)の質疑に対するものだ。裁量労働制の拡大によって長時間労働が助長するという懸念が過労死を考える家族の会の皆さんや日本労働弁護団にあるが、これらの皆さんの認識は間違っているのかと森本議員が問うたのに対し、加藤大臣はこう答えた。
「ま、どういう認識のもとでですね(笑)、お話しになっているのかということがあるんだと思いますけれども、確かにいろんな資料を見ていると、裁量労働制の方が実際の、一般の働き方に比べて、長いという資料もございますし、他方で平均的な、平均で比べれば、短いという統計もございますので、それは、それぞれのファクトによって、見方は異なってくるんだろうと思います。」
これに対し森本議員は、裁量労働制の方が長時間労働になっているという調査結果を2つ紹介した。1つは労働政策研究・研修機構の調査結果であり、もう1つは情報労連がNPO法人POSSEと共同で行った調査結果である。
それに対して加藤大臣は再度、問題のデータに次のように言及した。
「今、議員ご指摘の資料があることも、その通りであります。また、私どもの平成25年度労働時間等総合実態調査、これ、厚生労働省が調べたものでありますけれども、平均的な一般労働者の時間が9時間・・・、これは1日の実労働時間ですが、9時間37分に対して、企画業務型裁量労働制は9時間16分と、こういう数字もあるということを、先ほど申し上げたところでございます。」
これらの加藤大臣の答弁の問題についても、後ほど改めて検討したい。
安倍首相の答弁(1月29日衆議院予算委員会)にみられる4つの問題点
山井議員が撤回を求めている安倍首相の答弁に話を戻そう。1月29日の衆議院予算委員会における安倍首相の答弁はこうだった。
「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。」
この答弁には4つの問題がある。「厚生労働省の調査によれば」「平均な、平均的な方」「比べれば」「短い」、いずれも問題がある。具体的に説明したい。
(1) 第1の問題点:「厚生労働省の調査によれば」
加藤大臣が1月31日に答弁しているように、「厚生労働省の調査」とは、「平成25年度労働時間等総合実態調査」を指している。しかし、安倍首相が言及したのは、調査結果そのものではない。
公表されている調査結果報告書には、企画業務型裁量労制について、加藤大臣が紹介した9時間16分というデータは掲載されている(表52)。しかし、一般労働者について、加藤大臣が紹介した9時間37分というデータは、実は掲載されていないのだ。
山井議員に対して2月9日に加藤大臣が行った答弁によれば、この9時間37分という数値は、次のような計算式によって算出されたものである。
法定労働時間(8時間)+1日の法定時間外労働の平均値(1時間37分)
この計算式には4つの問題がある。
第1に、1日の法定時間外労働の平均値である1時間37分というデータは、調査結果報告書に記載されていない未公表のデータである。
第2に、山井議員が紹介しているところによれば、異常値であることが疑われるデータが含まれている。その平均値を算出するにあたって用いられた1日の法定時間外労働の分布(これも未公表)には、15時間超というデータが9件含まれているという。それだと、1日の労働時間が8時間+15時間=23時間超となってしまう。
第3に、そのような異常値であることが疑われるデータを含んで平均値が算出されているためか、1日の法定時間外労働の平均値は1時間37分と、実態とかけ離れた過大な数値となっている。同じ調査結果の表24には、1週の法定時間外労働の実績(一般労働者)(平均的な者)の平均が2時間47分となっており、これは1日に換算すると33分の法定時間外労働となり、1時間37分という数値と整合しない。どちらが実態に近いかと言えば、表24の数値が実態に近い。厚生労働省「平成25年版 労働経済の分析」のp.45に示されている一般労働者の総実労働時間は、月間で169.2時間であり、これを21日で割ると、法定時間外労働は平均で1日5分だ。
第4に、上の計算式は実労働時間を算出するには不適切である。実際には実労働時間が8時間を下回る労働者はいるはずだ。所定労働時間が7時間30分で、定時退社している労働者などがそうだ。その労働者の労働時間が、上の計算式では8時間とみなされてしまうため、結果として平均値は過大な数値となってしまうのだ(詳しくは3番目の記事を参照)。
このように、一般労働者についての9時間37分という数値は、公表された調査結果にないものであり、間違った計算式によって算出されたものであり、その計算式のもととなったデータは公表されておらず、かつ異常値と思われるものが含まれており、さらに計算された9時間16分という数値は実態とかけ離れたものであるという、幾重にも折り重なった問題を含んでいるのだ。
にもかかわらず、安倍首相は「厚生労働省の調査によれば」と、あたかも公表されている調査結果そのものにそのようなデータがあるかのように答弁している。加藤大臣も同様だ。
(2) 第2の問題点:「平均な、平均的な方」
この調査のデータは、特別に定義された「平均的な者」のデータであるが、安倍首相は「平均な、平均的な方」という言い方をしており、平均値であると受け取られる言い方になっている。
同調査における「平均的な者」の定義は、一般労働者については、「調査対象月において最も多くの労働者が属すると思われる時間外労働時間数の層に属する労働者のことをいう」とされている(p.7)。度数分布のグラフで言えば、一番高い山の層に属する労働者のことだ。
1番目の記事に書いたように、そのように選び出された「平均的な者」の労働時間は、実際の平均値とはずれが生じる。例えば下のような会社の場合、「企画業務型裁量労働制」の「一般的な者」は、一番高い山の層である「9時間超10時間以下」の中から選ばれてしまい、実際の平均時間10.6時間とは離れた結果につながってしまうのだ(略)。
「平均的な者」とはそのようなものであるため、平均値とは違うということは、当初から説明されなければいけない。少なくとも、定義に従った正しい名称である「平均的な者」として言及されるべきだった。
しかし安倍首相は「平均な、平均的な方で比べれば」と語り(1月29日)、加藤大臣は「平均的な、平均で比べれば」と語った(1月31日)。
両者の言及の仕方は、平均値であると誤認させるものであり、いずれも不適切だ。
なお、加藤大臣は、2月5日の衆議院予算委員会において玉木雄一郎議員(希望の党)からこの調査における「平均的な者(もの)」の定義を紹介されたのちには、「平均的な者(しゃ)」と、言及の仕方を変えている(この点については改めて後述する)。
もし最初から安倍首相や加藤大臣が「平均的な者(しゃ)」と言及していれば、それが平均を表すものと誤認されることはなかっただろう。しかし、そのようには言及されていなかったのだ。
特別に定義されたものについては、正確にその定義の表現通りに言及しなければならない。例えば学校基本調査では、「正規の職員等でない者」と「一時的な仕事に就いた者」は、それぞれ別のカテゴリーであるため、それぞれの名称で正確に言及される必要がある。調査結果に言及するとは、そういうことだ。
(3) 第3の問題点:「比べれば」
この調査における一般労働者のデータと裁量労働制のもとで働く労働者のデータは、把握している内容が異なり、比較することは不適切なものである。
一般労働者については、9時間37分という数値について、加藤大臣は「これは1日の実労働時間ですが」と語っていた(1月31日)。実際は上に見たように、間違った計算式を用いていることや、計算式に用いられたデータに異常値と思われるものが含まれていることなど様々な問題があるのだが、一応、実労働時間を近似的に表したものとみておこう(本当は、実態とはかけ離れた数値なのだが)。
それに対し、企画業務型裁量労働制についての9時間16分という数値(表52に記載)は、「労働時間の状況」として記されたものであり、実労働時間ではない。
これも定義の問題であり、この調査における「労働時間の状況」とは、「労働基準法第38条の3第1項第4号又は第38条の4第1項第4号に規定する労働時間の状況として把握した時間をいう」とされている(p.11)。
詳しいことは1番目の記事を参照していただきたいが、実労働時間ではないからこそ、「労働時間の状況」という、異なった表記がされているのだ。
「労働時間の状況」として把握されたものは実労働時間とは異なるのだから、異なるものの数値を比較しては、そもそも行ってはいけないのだ。
にもかかわらず、安倍首相も加藤大臣も、比べることができる数値であるかのように語っている。
なお、加藤大臣は、玉木雄一郎議員に2月5日にデータに関する疑問を呈されたあとの2月8日の岡本あき子議員(立憲民主党)に対する答弁では、企画業務型裁量労働制のもとに働く労働者の労働時間について、
「法に規定する労働時間の状況として把握した時間」
と語っており、上述の「労働時間の状況」の定義に言及している(3番目の記事を参照)。
しかしこれは、データについて追及される中での言及であり、当初はそのようには言及していなかった。
(4) 第4の問題点:「短い」
比較が不適切なものを比較して「短い」と判断することは間違いであり、さらに、一般労働者のデータは実態とかけ離れた過大な数値となっているため、「短い」という判断は二重の意味において、妥当でない。
1月29日の安倍首相は具体的な時間数には言及していないが、1月31日の加藤大臣は一般労働者について9時間37分、企画業務型裁量労働制について9時間16分という数値を挙げ、「短い」という判断を示していた。安倍首相も同じ数値に基づき、「短い」と答弁している。
しかし、「第1の問題点」に指摘したように、一般労働者の9時間37分という数値は、計算式も間違っており、計算式に用いられた数値にも問題があり、結果を実態と照らし合わせても過大であるという、とても信頼できない数値である。そして「第3の問題点」で指摘したように、一般労働者の数値と企画業務型裁量労働制の数値は、そもそも比べるべき数値ではない。従って、いずれの意味においても、「短い」という判断は不適切である。
答弁を撤回する姿勢を見せなかった加藤大臣
このように、安倍首相の答弁は問題だらけであり、撤回は不可避だ。しかし2月9日の予算委員会で加藤大臣は、
「いずれにしても調査の結果としてはそういうものが出ているわけでありますから、それを総理はお述べになられました。ただ、今、委員からもご指摘がございますので、もう一度私どもとしては、個々のデータにあたって精査をさせていただきたいと思います。」
と、答弁を撤回する姿勢を見せていない。
だが、上に見たように、「調査の結果としてはそういうものが出ている」というのは事実と異なる。公表されている調査結果報告書には、そのような結果は出ていない。
調査の結果のように出されたデータは、不適切に加工されたデータである。未公表で異常値を含んでいると考えられるデータを利用し、間違った計算式でそれを加工し、比較すべきでないものを比較した上で、「短い」という判断を下したものである。そのような行為に問題があるのだ。
筆者は4つ目の記事において、これは調査結果の問題ではなく、安倍政権の政治姿勢の問題だと指摘した。
当初の答弁の内容を書き換えようと試みている加藤大臣
裁量労働制の方が平均で比べれば労働時間は短いかのような答弁は、上に見たように、安倍首相によって1月29日の衆議院予算委員会において行われ、1月31日の参議院予算委員会において行われた。加藤大臣はさらに2月5日の衆議院予算委員会でも、同様の言及をしている。
2月5日に玉木雄一郎議員は、労働政策研究・研修機構の調査結果によれば、裁量労働制のほうが実労働時間が長いという調査結果を示した(1か月の実労働時間が、通常の労働者186.7時間に対して、企画業務型裁量労働制だと194.4時間、専門業務型裁量労働制だと203.8時間)。それに対して加藤大臣はこう答弁している。
「実態については、今ご指摘がある数字があったり、あるいは、平均的な働く人の時間でみると、一般労働者が9時間37分、企画業務型裁量労働制が9時間16分、こういった調査結果もあるということは、申し上げて、しかし、今おっしゃるような数字もあるということも、もちろん、その通りではあります。」
しかし玉木議員が
「今、加藤大臣がおっしゃった、「平均的な人? 者(もの)?」を比べたらですね、裁量労働制の方が少ないということなんですが、それは何のデータですか?」
と尋ね、「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」における「平均的な者(もの)」の定義を紹介すると、まずいと思ったのか、とたんに、これまでの答弁の書き換えを試み始めるのだ。
「すいません、今、ちょっと手元に、そこまで細かい、おっしゃった調査の結果がないので、正確にはちょっと申し上げられませんが、手元の資料を見ると、「平均的な者(しゃ)」、先ほども「平均的な者(しゃ)」と申し上げましたけれど、その数値ということであります。」
加藤大臣の言及は、上に見たように、実際には「平均的な働く人」だ。にもかかわらず、
「先ほども「平均的な者(しゃ)」と申し上げましたけれど」
と加藤大臣は答弁しているのだ。
これは単なる言い直しではない。過去の事実の書き換えである。
ご存じの方も多いと思うが、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の主人公は、「真理省記録局」の役人として、日々、歴史記録の書き換えを行っている。都合の悪い事実は、国家によってなかったことにされ、その事実の記録は、書き換えられるのだ。
加藤大臣がやっていることは、それと同じではないか。
データへの疑義が呈された後には、加藤大臣は「平均的な、平均で比べれば」という言い方はしなくなり、「平均的な者(しゃ)」という専門用語を使い始める。「実労働時間」であるとも語らなくなる。企画業務型裁量労働制については、「法に規定する労働時間の状況として把握した時間」という定義を紹介し始める。
しかしそれらすべては、データへの疑義が呈された後のことであり、何の訂正もされずに言及されているものだ。
2月9日の予算委員会では加藤大臣は、1月29日の安倍首相の答弁について、山井議員が撤回を求めたことに対し、次のように語り、やはりここでも過去の事実の書き換えを試みている。
「総理はですね、厚生労働省の調査によれば、私どもの労働時間等総合実態調査の結果によれば、そして平均的な、総理は働く人とおっしゃったですかね、平均的な者(しゃ)については、こうだということを申し上げたので、平均が、とか平均値が、とかという言い方をしているわけではございません。」
実際の安倍首相の答弁の表現は、「平均な、平均的な方で比べれば」だ。インターネット審議中継に録画が残っている。大臣なら、速記録も確認できる。にもかかわらず加藤大臣は、
「平均的な、総理は働く人とおっしゃったですかね、平均的な者(しゃ)については、こうだということを申し上げたので」
と、あたかも当初から「平均的な者(しゃ)」について答弁していたかのように語るのだ。
間違っていた答弁や不正確な答弁ならば、訂正するなり、撤回するなり、すればよい。しかし、加藤大臣が試みていることは訂正や撤回ではない。それと気づかせない形での、過去の事実(過去の答弁)の書き換えである。
このように、過去の答弁をそれとなく書き換えていこうとする者に、最重要法案と位置づけられている「働き方改革」関連一括法案の審議の答弁を任せることは適切なのだろうか。
訂正も修正もせずに、とても注意深く聞かない限りは、過去の事実(答弁)を書き換えていることもわからない語り方をする、そういう者には、大臣の職はふさわしくないと筆者は考える。安倍首相や加藤大臣が答弁を撤回すれば、それで済むという問題ではないだろう。
山井議員はこの一連の質疑の中でこう語った。
「国会ってそんな、いいかげんなものなんですか。人の命がかかってるんですよ、この議論に。」
野党が指摘しているように、裁量労働制のもとで働いていた労働者の過労死は、実際に数多く起きており、この問題には人の命がかかっている。過労死を考える家族の会の方々も、国会に傍聴に行き、日々の審議を見守っている。
「働き方改革」の法案審議は、正しい事実に基づいて、真剣に議論すべきものだ。人を騙すことを得意とする人に、委ねるべきものではない。  
 
●裁量労働制レポート 3 
「働き方改革」における企画業務型裁量労働制の導入をめぐって 2018/2/21
衆議院予算委員会 中央公聴会 公述人意見陳述 上西充子
1. はじめに
法政大学キャリアデザイン学部の上西充子と申します。今日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。私は、現在の国会質疑の中でも大きな論点となっている、裁量労働制の労働時間の実態把握をめぐる問題を取り上げます。
予算委員会の公述人意見陳述のテーマとしては、テーマ設定が狭すぎるとお感じの方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、この問題は、単にデータの不備という問題ではなく、政府の審議会における政策立案プロセスの問題や、政府の国会対応の問題を凝縮して示してみせた事例と考えています。つまり、氷山の一角のように問題が顕在化した例であると考えられるのです。そのため、単にデータをめぐる問題としてではなく、そういった広がりをもった問題として、国会議員の皆さんや、この国会審議を見守っている国民の皆さんにも捉えていただきたいと思います。
一般の労働者に比べて企画業務型裁量労働制の労働者の方が、平均的に見れば、労働時間が短いかのような安倍首相の1月29日の答弁は、2月14日に撤回されました。19日には厚生労働省から報告があがり、明らかに比較すべきでないデータが比較されていたことが判明しました。しかしながら昨日20日の国会審議の中で、安倍首相と加藤大臣は、撤回した答弁で言及したデータについては、撤回するのかどうか、わかりにくい答弁をしています。そして、調査結果は労働政策審議会に示されたものの、比較データは労働政策審議会に示されていたものではないとして、予定通りの一括法案を国会に提出する姿勢を示しています。
私はそのような政府の一連の対応に、強い疑問を抱くものです。政府の政策立案と政策の実行が適正なものであってほしい、国会も正常に機能するものであってほしいという気持ちで、この参考人意見陳述の場に立っています。
2. 裁量労働制とは
裁量労働制とはどのような働き方であるか、この点は、既に午前中の公述人意見陳述と質疑の中でも明らかにされていますが、あらかじめ決められた「みなし労働時間」について賃金を支払うものです。そのみなし労働時間を超えて働いたとしても、残業代を支払う必要はありません。そのような働き方を大幅に拡大しようというのが、今回の「働き方改革」一括法案で行おうとしていることです。
この裁量労働制を拡大することは、違法状態の合法化につながります。サービス残業は違法ですが、みなし労働時間を超える残業に残業代を支払わないことは合法です。つまり、今は「サービス残業」を労働者に強いている企業が、同じことを合法的にできるようになるのです。経営者にとっては「おいしい話」ですが、労働者にとっては長時間労働の歯止めがなくなります。「定額・働かせ放題」と言われるゆえんです。
にもかかわらず、政府は、「長時間労働が助長される」、あるいは「過労死が増える」という野党の指摘に、誠実に向き合おうとしていません。健康確保措置は、医師の面接指導でもよいとされています。「みなし労働時間」と実労働時間が大きく乖離する場合には労働基準監督署が厳しく是正指導を行うかのような答弁もされていますが、その乖離だけをもって是正指導を行う根拠規定は法改正の内容には盛り込まれていません。労働基準監督官の増員も計画されておらず、厳しい指導に期待することはできないのが現実です。
政府は答弁で、メリハリをつけて働くことができるとか、病院にも行けるようになるとか、育児との両立がしやすいとかのイメージを広げていますが、印象操作の域を出ないものです。現行の労働時間法制のもとでも、柔軟に働くことは可能です。有給休暇も、より活用されるべきものです。
このように労働者にとってはメリットが見えにくく、一方で経営者にとっては「おいしい」制度である裁量労働制は、1987年に初めて導入され、1998年の法改正によって、企業の中枢部門のホワイトカラー労働者に拡大されました。今、この後者の企画業務型裁量労働制を、さらに提案型の法人営業職などに対象を広げることが予定されています。高度プロフェッショナル制度とは異なり、年収要件もなく、有期契約労働者にも適用が可能な制度であるため、かなりの範囲の労働者に適用される可能性があるにもかかわらず、これまで「働き方改革」の中で、裁量労働制を拡大することは、政府は積極的に語ってきませんでした。あえて、そこに注目が集まらないように、時間外労働の上限規制と同一労働同一賃金という、働き方改革の二枚看板を表に掲げ続けてきた、とも言えます。
3. 裁量労働制の労働時間をめぐって
(1) JILPTの調査結果
この企画業務型裁量労働制を拡大しようというのであれば、まずは実態として長時間労働になっていないのか、なっているとすれば、それはなぜであり、どう対処すべきなのかが、法改正に先立って検討されなければなりません。その意味で、裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間の実態を把握することは、きわめて大切です。にもかかわらず、その労働時間をめぐって、政府が答弁で使い続けたデータの比較が、極めて不適切なものであったことが判明した、というのが現在の状況です。
裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間を把握した調査結果は、他に、より適切なものが存在しています。野党がしばしば言及している、労働政策研究・研修機構、JILPTと略称で呼ばれますが、その調査研究機関が2014年に実施した調査であり、労働者と事業場、それぞれに調査を行っています。調査結果は、調査票や基本クロス表と共に、このように冊子で公開されています。調査シリーズの124と125です。冊子の内容は、ホームページで全文をPDFで読むことができます。
このJILPTは厚生労働省の管轄の調査研究機関であり、これらの調査はまさに厚生労働省の要請に基づいて行われたものです。
労働者調査の結果によれば、お手元の配布資料の2ページ目のグラフにあるように、企画業務型裁量労働制のもとで働いている労働者の1か月の実労働時間は、通常の労働時間制のもとで働いている労働者の実労働時間よりも、長い傾向が見て取れます。平均で見ても同様に、企画業務型裁量労働制の場合は194.4時間であるのに対し、通常の労働時間制の場合は186.7時間と、企画業務型裁量労働制の方が、労働時間が長くなっています。政府答弁の内容とは反対の傾向を示しているのです(略)。
   平均労働時間(1か月)
   専門業務型裁量労働制 203.8時間
   企画業務型裁量労働制 194.4時間
   通常の労働時間制 186.7時間
(2) 比較データ
では、他方で政府がこれまで答弁に用いていた比較データの方は、どのようなデータだったでしょうか。安倍首相が1月29日の本予算委員会で言及し、2月14日に答弁撤回に至ったデータは、3ページの表の「平均」の欄にある9時間16分と9時間37分を比較して、企画業務型裁量労働制の方が、平均的な方で比べれば、労働時間は短い、とするものでした(略)。
この比較データに基づいて、1月29日に安倍首相はこの予算委員会でこう答弁しています。
厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均な、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもあるということは、御紹介させていただきたいと思います。
この比較データは2015年に山井和則議員に対して、また2017年に長妻昭議員に対して、当時の塩崎厚生労働大臣が示したものです。また、その答弁に先立って、先の比較データは、2015年3月26日に厚生労働省が民主党の厚生労働部門会議にはじめて提供したものであったことが、最近になって厚生労働省から明らかにされています。
つまりこの比較データは、2015年の国会審議に向けて、野党に議論の前提となるものとして、共通認識をもってもらうために、厚生労働省から示されたデータであったと考えることができます。私は、裁量労働制が長時間労働を助長するという指摘を民主党がしにくくなるように、また政府の反論をデータに基づくものだと誤認させるように、民主党対策として、また広く野党対策として、この比較データが作られたものと考えています。
このあたりはぜひ、検証作業を進めていただきたいですが、2015年の塩崎大臣の答弁の中で、「実は」「むしろ」という形でこのデータに言及があること、また2017年の塩崎大臣の答弁の中で、他の調査結果を「いろいろな調査」と位置づけた上で、それに対して「厚生労働省自身の調査によりますと」と、より信頼度が高いもののようにこの比較データが言及されていることから、やはり野党の指摘に対する反証データとして、この比較データが使われていたことは明らかと考えます。
1月29日の安倍首相の答弁と、1月31日の加藤大臣の答弁も、まさに長時間労働や過労死の観点から裁量労働制の拡大に反対する長妻昭議員や森本真治議員に対して、それぞれ反証として示された比較データでした。「それぞれのファクトによって、見方は異なってくる」という加藤大臣の答弁は、まさにそのような狙いを示しているものととらえることができます。
(3) 比較データの問題点
この比較データについては、2月5日以降、野党から次々に問題点の指摘があがり、2月14日の安倍首相による答弁撤回に至ります。2月19日には厚生労働省より、根本的に比較に適さないデータであったことがようやく明らかにされました。
ここで簡略に、この比較データは何が問題なのか、紹介させてください。
まず、この比較データは、「厚生労働省の調査によれば」と答弁で言及されましたが、調査結果そのものではありません。一般労働者についての9時間37分というデータは、公表冊子である「平成25年度労働時間等総合実態調査」には含まれていません。
第2に、答弁では、あたかも平均を比べたものであるかのように紹介されていましたが、これは「平均的な者(しゃ)」についてのデータでした。加藤大臣は2月8日になってから、「平均的な者(しゃ)」と、言及の仕方を変えています。
本来であれば、特別な定義がある「平均的な者(しゃ)」については、2015年の答弁の当初から、そのようなものとして紹介されるべきでした。2015年3月26日に厚生労働省が民主党に比較データを提供したときも同様です。にもかかわらず、いずれの場合も、定義は紹介されていませんでした。
第3に、一般労働者の「平均的な者(しゃ)」の労働時間の9時間37分とは、実労働時間ではありませんでした。加藤大臣は1月31日にこれを「1日の実労働時間ですが」と答弁していますが、2月9日に山井議員に対して加藤大臣が答弁したように、これは調査結果そのものではなく、1日の法定時間外労働の平均に法定労働時間の8時間を足し合わせるという計算式によって求めた値でした。しかし計算式によるものであることは、民主党に提供された比較データに記載はなく、答弁でも言及がありませんでした。
また、この計算式は労働時間をとらえる上では、不適切なものでした法定時間外労働の平均に8時間を足すという計算式では、例えば7時間30分の実労働時間である者も8時間働いたものと過大にみなされてしまいます。そのような過大評価は、個票データを見直しても修正することはできません。法内残業の値を調べていないからです。従ってこの計算式によって算出した9時間37分という数値は、1万件のデータを精査するまでもなく、不適切なものとして撤回されるべきでした。
さらに19日になって厚生労働省から明らかにされたところによれば、法定時間外労働の1時間37分という平均値は、1日の法定時間外労働の平均値と説明されていましたが、実は「最長」の日の1日の法定時間外労働の時間を尋ねてその平均値をとったものでした。
2月9日に山井議員に対して加藤大臣が計算式を説明した際には、すでに7日に厚生労働省担当者から「最長」であることの説明を受けていたはずですが、加藤大臣は「最長」の1日のデータを使っていることを説明していません。これは、いたずらに質疑を長引かせるものであり、また虚偽答弁であったと考えます。
さらに、この1日のデータは、公表冊子に収録されていないものでした。不自然な数値がそこに含まれていることも指摘されています。
第4として示したものは、先ほど言及した通りです。一般労働者の「平均的な者(しゃ)」の9時間37分という労働時間を算出するために使われた計算式では、「最長」の1日のデータが使われました。企画業務型裁量労働制の方は、「最長」の1日について尋ねているわけではありません。
このことは配布資料に掲載した調査票を見れば一目瞭然ですが、野党の追及に対し厚生労働省は、この調査が臨検監督の一環であるという理由で、調査票の開示を拒んでいました。
このように、様々な意味で、一般労働者の9時間37分という数値は実態よりも過大なものでした。それと比べて企画業務型裁量労働制が9時間16分で20分ほど短いからといって、「実は」「短い」という判断を下せるものではないことは、これまでの説明で明らかでしょう。
さらに第5に示したように、企画業務型裁量労働制については、把握したものは労働時間ではなく、「労働時間の状況」と調査結果に示されているものであり、出退勤時刻などによって把握されていた時間です。このように違うものを測っているのですから、そもそも比較すること自体が不適切なものです。これも、1万件の個票データを精査するまでもなく、あきらかなことでした。
4. 労働政策審議会の議論との関係
さて、このように比較データの不適切さが明らかになる中で、政府はこの比較データは労働政策審議会に示したわけではないと答弁し、法案審議に影響を及ぼさなかったと強調しています。しかしながら、この比較データが労政審に示されなかったからといって、労政審で適切な審議が行われたと判断することはできません。
私がそう考える理由を2点、述べさせてください。
第1に、この平成25年度調査の結果は、2013年の9月27日の第103回労政審労働条件分科会で、裁量労働制の見直しのための実態把握をおこなうものとして分科会委員に示されており、今後の労働時間法制の検討の際に必要となる実態把握をおこなったものと位置づけられています。議論の出発点にしていただければとも紹介されています。実態把握調査を踏まえて裁量労働制の見直しをはかることは、同年6月14日の日本再興戦略の閣議決定に定められていることです。
にもかかわらず、労働条件分科会では、比較データは示されなかったものの、一般労働者の「平均的な者(しゃ)」の1週の法定時間外労働のデータが、「最長」の週のデータであることの説明がないまま、普通の週のデータであると受け取られる形で第104回の労政審労働条件分科会(2013年10月30日)に紹介されています。それはつまり、実際には過大な数値であったものが、通常の数値であるかのように紹介されたということです。
その分、裁量労働制の労働時間との比較において、一般労働者の労働時間の実態について、不適切な情報を労政審の委員に与えたことになります。
第2に、これは質疑の中で明らかになっていることですが、この労働条件分科会には、より詳細で、より調査設計がきちんと行われているJILPTの調査結果のうち、労働者の労働時間の実態に関する部分が紹介されていません。
加藤大臣は、逢坂議員との昨日の質疑の中で、当初に厚生労働省から平成25年度調査のデータを議論に資するものとして出しており、その後、委員のご議論の中で追加的な資料が必要であれば、できるだけお答えする形で運用されていたという理解を示しています。
しかしながら、この平成25年度調査が紹介された第104回の労政審労働条件分科会(2013年10月30日)には既に、使用者代表委員より、企業が裁量労働制を取り入れる前と取り入れた後で働き方や労働時間の実態がどのように変化していったのかという切り口の調査が必要との指摘が行われており、事務局の村山労働条件政策課長は「承りました」と発言していることが、議事録に残っています。
JILPTの調査はそのような「変化」をとらえる調査ではありませんが、平成25年度調査よりは、詳細に裁量労働制による働き方の労働実態を通常の労働時間制のもとで働く労働者の労働実態を比較した調査であり、その結果は先の使用者代表委員の求めに答える上でも、当然に提示されるべきものでした。建議までのプロセスで、既に冊子はできあがっており、配布できる状態にありました。冊子ができあがっていることへの言及も、第116回の議事録(2014年9月30日)に残っています。しかし「改めて精査したうえで、・・・ご報告したい」と村山課長がそこで説明していたものの、結局冊子は配布されず、本来委員に提供されるべき、労働時間の実態に関する調査結果は、存在していたものの、委員に提供されませんでした。
私はこのような経過に、不自然なものを感じざるを得ません。裁量労働制のもとで働く労働者の労働時間は通常の労働時間制のもとで働く労働者よりも長いという実態を労働政策審議会に示してしまえば、裁量労働制を拡大するという建議を出せなくなる、だからあえて実態調査結果を審議会に出すことを控えた、そう思えてなりません。
ですので、不適切な比較データが労政審に示されなかったからといって、法案提出に問題はない、とは言えません。裁量労働制の拡大の是非については、労政審の議論まで差し戻し、まずはJILPTの調査結果をそこできちんと検討し、必要があれば追加の調査を行い、そして実際に長時間労働になっているのであれば、どう実行的な歯止めをかけられるのか、そこから議論をやりなおすべきです。
今、政府は一括法案を提出する方針を変えていないようですが、そのような姿勢は、法制定プロセスとしての正統性を失ったまま法制定を強行しようとするものです。また、国会審議に誠実に向かった姿勢とも言えません。
もし、何も聞かずにとにかく数の力で法案成立を強行しようとしているなら、実態調査に基づく政策立案も、公労使三者構成による政策形成プロセスも、真剣な国会審議も、すべての土台を損なうことになります。
政策立案プロセスを正常化するためにも、また国会審議を正常化するためにも、今、政府には立ち止まって、裁量労働制の拡大と、さらに、同種の趣旨の高度プロフェッショナル制度の創設は、一括法案からはずすという決断をまず行い、そのうえで、改めてそれらについては検討プロセスをやりなおすことを求めます。また、今回の事態に至った原因究明と再発防止を求めます。  
 
 
 
●扱き使う、こき使う  
扱き使う(こき使う)とは、人を酷使するという意味で、人間味や恩情といったつまらない感情と、労働基準法などのいらぬお世話の法律さえなければ、会社の利益をあげる最善の方法であり、現在でも企業は「人材第一」などとうそぶきつつ、世間の風当たりをかわして社員をこき使う方法を模索し続けている。扱き使うの「扱く」は、「稲扱き(脱穀のこと)」のように、細長い棒の表面や管の内部にしがみついているものを無理やりはぎとる、搾り取る行為をいう。つまり、細長い人間の身体にわずかに残っているエネルギーを搾り取って、自分のために働かせる行為が「扱き使う」である。 
 
 
 
●「こき使う」類語、関連語、連想語 
運営する・グループを引っ張る・作用させる・厚遇する・吸い上げる・統率する・しぼり取る・はからう・統括する・動員する・強いる・追い使う・させる・使い捨てにする・導く・人間扱いしない・指揮する・人を使う・働かす・搾取・せき立てる・雇用・使役する・ボロ雑巾のように扱う・かじ取りをする・暗黒大陸と化す・登用・奴隷のように使う・酷使・手下・鎖でつなぐ・情け知らず・御する・思うままに動かす・手なずける・人心掌握術・人使い・管理する・マネジメントする・扱う・操縦する・見事な手綱さばきで・処遇する・発揮させる・動かす・用兵の妙・管理監督する・誘導する・チャンスを与える・組織を動かす・組織を預かる・使う・酷使する・働かせる・追い立てる・搾取する・指導する・督励する・思いどおりにさせる・尻をたたく・腕をふるわせる・追い回す・采配を振る・手荒く使う・情け容赦なく働かす・人使いが荒い・過重労働をさせる・馬車馬のように働かす・人扱いしない・労働力としか見ない・重労働・消費・牛馬のように使う・奪う・取り上げる・横取りする・ひとり占めする・搾り取る・奴隷制度・収奪する・寄生・強制的にさせる・業務につかせる・仕事をさせる・やらせる・使用・使役・従事させる・雇う・駆り立てる・労役・徴兵する・独楽鼠のように働かす・追いまくる・機能させる 
 
 
 
●ブラック企業 
給与、勤務時間、休日など労働条件が労働法に違反している、もしくはその企業が行っている事業そのものがなんらかの法令に違反しているなど、決して他人に入社を勧められない企業のことを「ブラック企業」という。
入社して、この会社おかしいと思ったなら?
どのような会社でも、入社前、外からでは、その内情をうかがい知ることはできない。では、もしブラック企業に入社してしまった場合は、どうすればいいのだろうか。できるだけ早く、まっとうな企業に転職するしかないだろう。決して我慢して長く勤めようと考えてはいけない。なぜなら、そもそもブラック企業の経営者は、社員の人生を背負っているという発想がないのだ。労働の対価である給与もできるだけ安く抑え、なんだかんだ理由をつけて、踏み倒すことさえ厭わない。事実、従業員30名程度を擁するあるIT企業経営者のA氏は、自らをブラック企業経営者と認めたうえで、「従業員は敵だと思っている。いかに安くこき使い。文句を言わせず、上手に辞めさせるかだ」と言い切る。従業員サイドに立ってみれば、こんな企業に長居し、忠誠を誓ったところで人生を空費するだけだ。A氏は採用時、労働時間、待遇などに文句を言わず、黙々と働きそうな「使い勝手のいい人材」のみを採用するという。A氏に詳しく話を聞いてみた。
使い勝手のいい人間を採用して、こき使う
ーー「使い勝手のいい人材」の基準というか、見分け方は?
A氏 人の上に立とうとか、そういう野心がない人間。人に使われるしか能のない人間だ。学歴はあまり関係ない。真面目で、人を疑うことを知らず、そこそこ育ちがよくて、素直に人の言うことを聞く、それでいて責任感が強いかどうかだ。
ーー御社における社員の待遇は? 給与や、勤務時間、休日などを教えてください。
A氏 給与は月に13万5000円。残業代はない。勤務時間は一応、朝9時から夕方5時まで。昼休みも1時間ある。しかし社員はみんな、自発的に朝は8時には会社に来ている。夜も自発的に終電に乗れるまでは働いている。泊まり込みも自発的に行ってくれている。月2回は土曜日も出勤。そうしないと仕事が回らないからね。
ーー本当に、それだけの勤務時間を要するほどの仕事があるんですか?
A氏 ない。意図的に「仕事のための仕事」をつくって、長時間働かせているだけだ。
ーーなぜ、そのようなことを?
A氏 長時間働かせ、ピリピリした社内の空気に長く触れさせることで、余計なことを考えさせないようにするためだ。今の言葉でいえば「社畜」というのかな。そうすることが目的だな。
ーーそれにしても、条件面ではかなり厳しいですよ。社員の方は文句を言わないですか?
A氏 文句を言うような人間は採用していない。文句や不満を言わせないよう、社内の雰囲気を日頃からつくっている。また最初にガツンとやっているので、社員から不満だの文句だの出ない。
ーー最初にガツンとやるとは、どういうことをやるのですか?
A氏 仕事でミスがなくても、些細なことで厳しく叱責する。そしてそれをしばらく続け「このような仕事ぶりでは給与は払えない」と言う。「お前はこんなにミスが多いが、それでも給料を払ってやってる」と刷り込む。つまり経営者である私を怖いと思わせることだね。
ーーミスは徹底的に責めるというわけですね?
A氏 ミスに限らない。勤務時間中の私用メールや電話、新聞など読んでいても「私用」としてどやしあげる。これで社員へのにらみは利く。もっとも、褒めるときには褒める。「アメとムチの使い分け」も重要だ。
劣悪な環境に慣れさせて、たまに優しくする
このIT企業経営者がいう「アメとムチ」は、劣悪な環境、雰囲気に慣れさせ、たまに優しくすることで、社員の喜びをくすぐるというものである。例えば、この企業では、労働基準法で定められた休暇の取得すら、一切認めていない。休暇が認められるのは、風邪をひいたなどの病欠時のみだ。この部分がムチである。ただし、たまに仕事量が少なくないとき、1000円程度の昼食をおごる、3000円程度の夕食をおごり、早めに帰す……これがアメだという。A氏は、「日頃から厳しくしている分、たまにある『アメ』の部分で、社員は自分が認められていると思い込む。その心理につけ込むというわけ。これで社員は私の言うことを聞く」という。引き続き、話を聞いてみよう。
ーーもし社員が、労働基準監督署にでも告発したら?
A氏 そういうことを考えさせないために、仕事を増やし、拘束時間を長くし、にらみを利かせてプレッシャーをかけている。
社員が定着しないための環境づくり
ーー長くいる社員の方は、やはりその方が定年を迎えるその日まで、大事にされるおつもりですか?
A氏 それはない。年齢が高くなれば、それだけ給料も上げなければならない。長くてもせいぜい5年、できれば3年くらいで出て行ってもらいたい。
ーー誰しも、せっかく就職した会社を3年から5年で退職したいとは思わないでしょう?
A氏 それは居心地がいいところなら、それでもいい。しかしうちは、まだまだそんな居心地のいい会社にできる余裕もなければ、するつもりもない。3年から5年で自発的に辞めてもらう。
ーー皆さん、そのくらいの期間で都合よく辞めてくれるものですか?
A氏 1年目、2年目で、とにかくどやしつける。ただし、少し仕事を覚えてきたら褒める。この頃が一番使い勝手がいい。でも、仕事の振り分けで、うちに長居しても同業他社で通用しそうなスキルなどは絶対に身につけさせないようにしている。それに本人が気づいて、休暇も認めていないので、転職するにはうちを退職するしかないと気づかせるのです。もちろん自発的に退職するときには、盛大な送別会はする。それが退職金代わりになるというわけだ。
ーー古株で、仕事を覚えているような方の場合は、どうやって辞めさせるのですか?
A氏 仕事の面で無視する。使い勝手がよくなると、ある程度権限を与えて、新人の指導もさせているが、些細なきっかけでいいので、新人の前で叱りつけ、それまでの権限を取り上げる。これで普通は辞めていく。
ーー起業家として、そうした経営に思うところはありませんか?
A氏 まったくない。今は一人一人が経営者という時代だ。社会保険料まで、こちらが支払って、その恩恵を受けているのだから、それで十分だろう。嫌なら自分が経営者になればいい。企業経営とは、従業員をいかに効率よく働かせるかだ。もっともそれは社員のためではなく、私の会社のためだ。そこを履き違えてはいけない。
さっさと見切りをつけるにしても……
これでは、とても企業として発展するとは思えないのだが、ある経営コンサルタントは、こうした経営姿勢について「確かに発展はしない。しかし経営を維持するという面では、あながち間違いではない」という。また、こうしたブラック企業、経営者の下で働いた経験のある人は、「少ないながらも貯金ができて、退職し、失業保険で食いつなぎつつ、再就職に向けた活動を行うと、労働基準監督署に告発しようという気もうせた」と話す。もしブラック企業に入社してしまった場合、さっさと見切りをつけて退職したほうがよさそうだが、一歩間違えればドツボにハマる可能性があるという。ある労働基準監督官は、次のような本音を漏らす。
「早期退職で、きちんと仕事をしていない……、ゆえに会社に迷惑をかけたなどの理由で給与の支払いを拒んだり、逆に違約金を支払えという企業もある。あまりに労働者側に立った労働基準監督行政を行い、企業を閉鎖、倒産に追い込むと、それはそれで問題となり、我々もそうしたことを嫌う傾向がある。どのような仕事でも、給料をもらえる仕事をしている以上、従業員側が耐えてもらいたいというのが本音」
いやはやブラック企業に入社してしまうと、泣き寝入りしかなさそうだ。  
 
 

 

「裁量労働制の拡大」は後回し 働き方法案から削除、首相が指示 3/1
政府が今国会の最重要法案と位置づける働き方改革関連法案について、安倍晋三首相は28日、裁量労働制の対象拡大を法案から全面削除することを決めた。裁量労働制をめぐる労働時間の不適切データ問題による混乱の収拾を図り、法案の今国会での成立をめざすが、法案の根幹部分の変更は政権にとって打撃だ。
首相は28日深夜から、加藤勝信厚生労働相、自民党の二階俊博、公明党の井上義久の両幹事長らと首相官邸で会談。残業時間の上限規制などに関連する8本の法案を束ねる働き方改革関連法案から、裁量労働制部分を全面削除する方針を伝えた。
首相は会談後、記者団の取材に応じ、「国民が(裁量労働制の労働時間の)データに疑念を抱く結果になった。厚労省で実態を把握したうえで議論し直すようにしたい」と削除する理由を説明した。残業時間の上限規制や「同一労働同一賃金」、専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)は法案に盛り込んだまま、予定通り今国会に提出、成立をめざす方針だ。
加藤厚労相はデータ問題の実態把握について「それなりの時間がかかる」としたうえで、別建てとなる裁量労働制の法案について「今国会への提出は難しい」との見通しを示した。
法案の根幹部分について削除する大きな方針転換によって、裁量労働制の拡大を求めてきた経済界の反発も予想されるうえ、法案審査を控える自民党内にも不満の声が出始めている。野党は攻勢を強めており、今国会を「働き方改革国会」と名付けた首相の責任も問われることになりそうだ。
衆院は28日夜の本会議で、一般会計総額97兆7128億円の2018年度予算案を自民、公明両党の賛成多数で可決した。憲法の規定で予算案は参院に送られてから30日で自然成立するため、年度内に成立する。高齢化で膨らむ社会保障費や、北朝鮮のミサイル対策などを盛り込んだ防衛費が過去最大となり、全体を押し上げた。待機児童の解消に向けた保育施設の運営費や大学生らの給付型奨学金などの費用も計上している。
予算案の本会議採決に先立ち、立憲、希望、民進、自由、社民の野党5党は、河村建夫・予算委員長が「野党の要求を見過ごした」として解任決議案を提出したが、本会議で自公の反対多数で否決された。 
裁量労働制 調査やり直しへ 首相、高プロは維持
菅義偉官房長官は1日午前の記者会見で、裁量労働制の実態を把握する新たな調査を行うことを示唆した。また安倍晋三首相は1日午前の参院予算委員会で、今国会に提出する働き方改革関連法案に関し、裁量労働制に関わる部分を削除する方針を説明する一方、高収入の一部専門職を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)の創設方針は維持する考えを示した。
政府はこれまで、異常値が続出している厚生労働省の調査結果を精査するとしてきたが、菅氏は会見で「これだけ(厚労省調査の)信頼がなくなってしまった。今までの方法というより、新しく具体的なことを検討するのだろう」と述べた。また、高プロに関し、政府は予定通り2019年4月施行とする方針を固めた。政府は裁量労働制と高プロの施行時期を1年遅らせる修正案を検討していたが、裁量労働制の今国会成立を断念したため、高プロを予定通り施行する方向だ。
参院予算委は1日午前から、首相と全閣僚が出席し18年度当初予算案に関する基本的質疑を始めた。首相は「裁量労働制は今回の改正から全面的に削除し、実態を厚労省で把握し直した上で、議論し直す」と述べた。首相は法案の三つの柱として、高プロ創設▽時間外労働の上限規制▽同一労働同一賃金−−を盛り込むと説明。「働く人がより良い将来の展望を持ちうるよう改革を進めたい。三つの柱は(今国会に)提出をさせていただく」と理解を求めた。裁量労働制に関わる部分を切り離した法案は3月中旬の提出を目指し、今国会で成立させる方針。
質問に立った民進党の大塚耕平代表は「時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金は我々も賛成だ。高プロを取り下げる考えはないか」とただした。首相は労働者の健康確保措置の強化などを挙げ、「高プロはまさに柔軟な働き方を可能にし、生産性の向上につながっていく。連合の意見も取り入れている」と述べた。