「アナログ」 再考

人との関わり コミュニケーション

デジタル環境  インターネット  PC スマホ SNS
短時間に 広く 情報を拡散できます
裏返し 一方通行 情報の真偽は見る人の自己責任

コミュニケーションの基本
表情 言葉 立ち居振舞い
個性の表現 知識 常識 知恵 
 


デジタル社会GAFA・・・
 
 
 
情報 (発信直後)
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表情
喜怒哀楽 感情表現
 
 
文章構成
起承転結 バランス
 
 
言葉選び
上品下品 杓子定規 子供言葉 
 
 
立ち居振舞い
行動表明
 
 
知識 
一般人 専門家  
 
 
常識 
社会人
 
 
知恵
社会経験 人生経験
 
 
一方通行
聞く耳の有無
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
デジタル環境
気がつけば主要サービス 寡占・独占状態
 
 
PC・OS マイクロソフト独占
Windows7 から Windows10 への移行お勧め 
お誘い手順が巧妙 しつこいものでした
骨董品ソフトとの関わり Windows7 今も使用しています
検索エンジン グーグル独占
(HP創生期には5-6社ありました)
グーグルクロームお勧め ロボット遊び 定期的に継続中
IEに慣れています
レンタルサーバー ソフトバンク
HP創生期からの付き合い サービス低下・突然の撤退
便利さに一社に頼りきりでした
新レンタルサーバーと契約
 
 
 


2019/6
 
 
 
●デジタル社会
●SNS 
SNSとは、インターネットを介して人間関係を構築できるスマホ・パソコン用のWebサービスの総称です。古くはブログや電子掲示板でもそうした機能の一部は実現できていましたが、SNSでは特に「情報の発信・共有・拡散」といった機能に重きを置いているのが特徴です。また、SNSはSocial Networking Service (ソーシャル・ネットワーキング・サービス) の略で、ソーシャル (社会的な) ネットワーキング (繋がり) を提供するサービス、という意味になります。
代表的なSNS
Twitter (ツイッター)
Twitterは10代・20代の若年層の間で特に流行っているSNSで、ツイート(つぶやき)と呼ばれる140文字の短文を投稿することで気軽な人間関係を築けるサービスです。他人のつぶやきをコピー・転載できるリツイートという機能があり、情報がねずみ算式に広まる(拡散)という特徴を持っています。ただ、このリツイートによる拡散が世間の思わぬ反応を生み、いわゆる炎上という現象を起こしてしまうことが問題として挙げられます。
Facebook (フェイスブック)
Facebookは自己紹介(プロフィール)や日記を書いて、それに対してコメントをもらうといういわゆる元祖SNSの世界標準です。他のSNSがハンドルネームなどの匿名を許可しているのに対して、Facebookは基本的に本名(実名)での登録を義務化していて、30代〜40代の社会人を中心に利用されています。実名制であることに加えて顔写真を掲載しているユーザーも多いことから、ビジネス面での利用が活発で現実社会への影響力が強いことも特徴です。
LINE (ライン)
LINEは若年層から年配層までの幅広いスマホユーザーが利用しているSNSアプリで、スタンプと呼ばれるユニークな画像を使ったチャット機能(トークと呼ばれる)が特徴です。登録にはケータイ番号が必要なので複数アカウントを取得することが難しく、家族や友人といった比較的親しい間柄でのコミュニケーションに利用されています。また、サークルやクラスメイトといった複数人での会話に便利なグループチャット・グループ通話という機能があり、旧来のキャリアメールやSMS(ショートメッセージ)からの置き換えが進んでいます。
Instagram (インスタグラム)
インスタグラムは通称インスタとも呼ばれる写真を中心としたSNSで、テキスト中心だった時代とは違う新しいユーザー層(流行に敏感な20代〜30代の女性)を中心に急速に利用が広まっています。芸能人や有名人のアカウントも増加傾向にあり、オシャレで見栄えの良い写真を意味するインスタ映え(SNS映え)という流行語を生み出すなど、SNSの中でもとりわけ華やかなイメージで語られることが多くなっています。また、特にフォロワー数が多く影響力の強いユーザーの中には、企業からの依頼をもとに商品紹介やプロモーションを請け負って報酬を得る”インスタグラマー”と呼ばれる人たちも登場しています。 
●デジタル社会のきざし 
交通や金融、医療など、私たちの生活を支える多くの分野で、デジタル技術を活用した新しいサービスが展開され始めています。ネットワークにつながったセンサ、AI、ロボットなどが社会のいたるところに入りこんだ「デジタル社会」では、多くのことが効率化され、社会の構造は大きく変わることでしょう。これらの技術やサービスは、やがて人々の考え方や行動に大きな影響をもたらすかもしれません。デジタル社会のきざしは、そこで暮らす人々の考え方や行動がどのように変わりうるのかを示したものです。これを通じた議論によって、将来の社会課題を生活者の視点で考えることをうながします。
コミュニティファーストな社会
コミュニティとは小さなグループ。地域の中のつながりや、「それいいね」という共感で結びついたものなどいろいろだ。たとえば人口が増減し、街に暮らしにくさを感じるようになったとしよう。人々は交通や医療のシステムに新たな仕組みを求めるが、国など大きな社会の意思決定が、いつも柔軟にそこに寄り添えるとは限らないのではないか?これまで顕在化しなかったコミュニティの意思を可視化するAIや、斬新なアイデアを提供するIoTなどのテクノロジーを背景に、コミュニティは自分たちの価値観に合うやり方で、使い勝手のよい仕組みを創造する。小さな共感が、新たな社会のスタンダードを生み出す社会が、もうすぐやってくるかもしれない。
生きることは態度表明の連続
スポーツ選手のパフォーマンスがデータ化されているのは、もはや常識だ。客観的に計測された、選手の心身の状態に応じて繰り広げられる最高のプレーは観戦者を熱狂させる。同時に、選手自身も気づかない些細な弱点につけ込まれて、愕然とするようなことも避けられない。何かをデータ化することは、これまで見えなかった事実を明らかにする。データ解析は人々の生活を豊かにする反面、時には予想外の不都合な事実を突きつけても来るのだ。それを「仕方ない」と受け入れるか、「関係ない」と無視するか。これからの私たちはその意思決定を繰り返して生きていくのだろう。さまざまなデータといかにつきあうかは、私たちの未来の大きな課題だ。
ずっと変わり続ける街
車の多い急カーブに、住民からは「いつか事故が起こるよね」と声が上がる。今までなら自治体に対策を要請し、後回しになった時にはいらだちを感じてきたのだろう。しかし技術の発達は「だったら自分で作ってしまえ!」を実現する。3Dプリンタは近い将来、ガードレールくらい簡単に作り上げるだろう。住民主導の新しい生活インフラがどんどん生まれ、街はカスタマイズされ続けるのだ。しかし、一度作ったインフラやサービスの維持は、新しく作るより難しい。廃棄はなおさらだ。それでも住民の高齢化や生活スタイルの変化に合わせたメンテナンスは避けられない。新しいモノやサービスの誕生、維持、廃止…その素早い循環が、魅力的な街を創造する。
実感のある幸福感
AIが人間の多くの仕事を取って代わるようになる時代は、もう目の前だ。特にそれは、AIが得意とする医者や弁護士、エンジニアなどの知的労働から進んでいく。たとえば、1人の研究者が修得できる論文の数には限度があるが、AIであれば大量に読みこなすことができる。そこから異分野の知見を結びつけることで、難病の治療法の発見や想像を超えた技術革新など、社会的意義のある価値が生み出されると予想されている。そのため、自由にできる時間が増えるケースが多くなるが、そこで社会貢献に取り組んでみるのはどうだろう?身近な人や街のために貢献することは、自分自身の新たな居場所の獲得や幸福感の実感につながるものである。
やりたいことからはじめる学び
現在の学校の主な役割は、計算や文学などの基礎と応用の修得だ。しかし、最近では別のアプローチが出てきている。たとえば「デジタルコイン刻印機を作ろう」など、1人ひとりがやりたいことをまず目標に据え、その完成に向かって基礎知識やスキルを学ぶというものだ。確かに基礎や応用を積み重ねていないゆえの不安やトラブルが起こるが、自分なりの実践とAIが補ってくれるだろう。目標達成までの過程でもっと知りたいと思えば、インターネットには無料で大学の授業が受講できる仕組みができている。今後、学校は机を並べて学ぶ基礎訓練ではなく、それぞれがやりたいことに集中できる場所になる。そして、集団生活の中で人間性を育むことが主な目的となるだろう。
ほどよい不便
マッチングサービスは、自分に合った情報を提供してくれる。それは衣食住に関するモノやサービスにとどまらず、職業の選択、時には友人や恋人探しまで。私たちは短い時間で、手軽に、欲しかった情報に出会うことができ、そこには無駄がない。確かに便利だが、「それだけでいいの?」と考えると疑問だ。たとえば、毎日の服装を選んでもらうサービスを利用すると、自分でセンスを磨く、または判断する力を失ってはしまわないだろうか。あるいは「今は好みではないが、見たら気になるかもしれないもの」との出会いのチャンスを失ってはいないだろうか。偶然が引き起こすワクワク感は、時に便利さの上をゆく。ほどよい不便さも生活には必要なのだ。
個人の遊びが築く社会の基盤
デジタル技術は、日常生活を快適にする「手作りの工夫」を簡単にする。外出先の気象情報や、目の前で起こっている電車の遅延、あるいはおいしいラーメン屋がどこにあるか。1人が「これがあれば毎日が便利で楽しくなるぞ」とひらめいて作ったサイトやアプリが、あっという間に社会に広がってしまうのだ。もちろんトラブルも起こる。手軽に作ったゆえに起こるアプリの設計ミスなど、ちょっとしたツメの甘さが思いがけない事態を引き起こしていることは否めない。だが、そんなリスクがあっても、個々のひらめきが作り出す力はとどまらない。それは政治や経済の制約を軽々と乗り越え、社会を楽しくし続けるだろう。
瞬間満足
その時々で達成感や自尊心を満たす「瞬間満足」が、生活のモチベーションとなっている。今やSNSで反応を得ることが他者とのコミュニケーションの中心で、そのために「SNS映えする」レストランのメニューや旅行先が選ばれるほどだ。その反面「いつかは高級車」の合言葉とともに、努力と根性で乗り越えるようなライフスタイルが通じなくなってきた。今や高級車は「コスパ重視」の名の下に、いきなり月額低料金で乗れるサービスが確立している。刹那的にも見えるが、彼らは社会貢献や慈善活動にも興味があれば積極的に参加するし、それが社会を変える大きな力にもなる。デジタル技術は苦労さえも、瞬間的に楽しむツールに変貌させたのだ。 
●デジタル社会がもたらす変化への対応 
世の中のあらゆるもの(家電、放送、映画、自動車、電話、記録媒体、医療、貨幣等)がデジタルへと大きくシフトしている今日、社会のデジタル化がもたらす影響を予測し、先取りした対応が求められるのは避けられない状況になりました。そこで、我々のライフスタイル、ビジネスのやり方、余暇の過ごし方等に起こるであろう変化をチャンスと捉えて、時代の変化に置き去りにされないための対応策を考えて見ると以下のようなポイントがあげられると思います。
(1)デジタルがもたらす変化を前向きに考える
家庭で使う、なべ、かま、ポットまでデジタル化される時代は、すべての産業にとって大きなチャンスとなるはずです。ある専門家の話では2005年末には、今、家庭を構成する製品のうち少なくとも30種類以上がデジタル化されるだろうと述べています。その意味では製造業も流通業も、サービス業も、何らかのチャンスが生まれると前向きに考えるべきです。そのチャンスが何なのか?アンテナをのばして情報を収集すべきです。
(2)スモールメリットの時代変化を認識する
モノ作り中心の工業化社会では、人、物、金、情報をもつ大企業が必ず勝つのが常識でした。しかし、デジタル化社会では、スモール、スピード、知恵、発送(想像力)が決め手となる社会です。その意味では、過去の成功事例にとらわれることなく、未知の新しい分野(ビジネス)にすばやく挑戦できる身軽な、個人や小企業にも大きなチャンスがめぐる時代です。この時代変化をはっきりと認識する事が重要です。
(3)スピードは最高の経営資源
デジタル化社会では、1ヶ月が1日ぐらいの感覚で捉えられるスピーディな時代になります。つまり、わかりやすく言うと5人で担当しているような仕事は、1人で処理出来るような仕事の進め方を工夫できないとデジタル社会では、取り残されます。何故なら、デジタル技術を高度利用、スピーディに効率利用出来ない事業、企業は世間から見捨てられるからです。競争に耐えうるスピード感覚、スピードのある経営実現のためにも、デジタル技術に精通しましょう。
(4)企業と個人と家庭の大変化を認知しましょう
デジタル社会がもたらす、最大の特徴は、企業と個人と家庭との関係を大きく変える可能性があるという事です。個人はデジタル技術を使って、SOHOと呼ばれる自宅やリモートオフィスで仕事する社会になります。そこでは、組織よりも、個人が大切であるという価値観へ変化し、これまでのような企業と個人と家庭の関係ではなり立たない事が明らかになってきます。このような大変化をまず認知して、今から対応策を準備しておきましょう。
(5)高度情報化と自然環境のバランス
これから始まる本格的なデジタル社会においては、溢れるような情報とスピード重複の価値観の中で、デジタル文化と人間性のバランスが失われやすい状況になります。従って自然との触れ合い時間を重視した、心の癒しや、直接的なあたたかい人間関係が大きなテーマになってきます。このテーマをどのような形で実現していくのか?千載一遇のチャンス到来です。  
●デジタル社会がもたらすマイナス面 
タブレットやスマートフォンの普及、交流サイトや各種アプリの普及により、何時でも何処でもリアルタイムに情報アクセス、情報共有が出来るデジタル社会が加速している。それがもたらすものはプラス面だけではない。ポール・ロバーツ著、東方雅美訳「『衝動』に支配される社会」は、欲望と衝動に突き動かされる消費者と、目先の利益と株価対策に追われ、長期ビジョンや人材育成をないがしろにする企業など、現代社会(資本主義経済)の危うさを考察した書籍である。本書はデジタル社会のマイナス面についても言及している。その中から印象に残る話題を幾つか紹介する。
同質なコミュニティは極端な方向に進む
シカゴ大学のキャス・サンスティーン氏によると、
「似たような思考の人々のコミュニティは、集団心理により考え方が極端になり、異なる意見に寛容ではなくなっていく。その理由は、似たような思考の人々のグループにいると、自分の見解に自信が持てるようになるからだ。
政治や社会の多くの問題について、人は一般的に強い意見を持っていない。なぜなら、あらゆる議論を分析して結論を導き出すという困難な作業を行っていないからだ。
その結果、自分の見解に自信が持てなくなる。だから私たちは周囲にいる人の平均的な見方を採用して自分の意見をヘッジする。すると、様々な人で構成される多様なコミュニティでは自分の意見は中心に近づいていく。
しかし、考え方の似た同質のコミュニティでは個人は他の全員と意見が合い、それによって自信が得られる。コンセンサスがあると、熟考という作業をしなくとも自分の見解が良いと考える。しかも、自信を持つにつれ信念は強固になる。多くの状況で人々の意見はより極端になっていく」という。
すなわち、「異質なコミュニティはグループの行き過ぎを抑えるが、同質なコミュニティは極端な方向に突き進む」。
インターネットの交流サイトや掲示板には、趣味や思想、考え方が同じ人々が集まるコミュニティーが形成される。サンスティーン氏の説に従えば、このようなコミュニティー上の意見は極端な方向に進む傾向があると言えるだろう。特にインターネットの場合は、(例えばTwitterに代表されるように)その時々で思い付いたことを、その時の感情に任せて投稿することがあるから、この傾向は増幅される可能性がある。近年、日本の社会は寛容と余裕が失われてきたと言われるが、その要因の一つにネット上のコミュニティの発達が考えられるのではないだろうか。
デジタル社会では、自分達とは異なる意見にも耳を傾ける寛容さを失わないよう、自戒が必要である。
オンラインでのコミュニケーションがつながりを壊す
デジタルでの交流を数十年研究してきた社会学者で臨床心理学者のシェリー・タークル氏によると、
「いまではいつでも他者とコンタクトを取ることが可能になったので、私たちはそれを過剰に行いがちで、たとえわずかな空白が生じても孤独を感じ、忘れられたと感じる。」
「デジタル時代以前の人々は、誰かから数時間や数日間、あるいは何週間も連絡がなくとも気掛かりだとは思わなかった。しかし、デジタル時代の人々は、すぐに返事が来ないと落ち着かず、不安になる。」
これは、例えば、LINEに関わる問題点や事件をWebで検索してみれば分かる。”既読なのに返信してこない”ことが原因で、喧嘩やトラブルに発展することがある。また、 その時の感情がストレートに出て事件に発展する事例などが見られる。
QLP (Quantitative Legal Prediction:定量的法予測)
「QLPとは映画マネーボールで描かれた野球における統計分析のようなもので、その弁護士版のプロセスである」
「QLPの背後にある考え方はシンプルだ。それは、弁護士に依頼される業務のほとんどは将来の予測である、というものだ。例えば、幾つかの事実をもとに判断すると、訴訟の結果はどのようになりそうか。契約が破棄される確率はどのくらいか。あの裁判官はどのような判決を下しそうか。」
「専門家によると、今でさえ、コンピューターは75%の確度で判決を予測できるという。これに対して人間の予測の正確さは59%だ。この新たな労働力節減の技術が本格展開されつつあるなか、法律事務所はそれを使わないという選択はできないだろう。」
弁護士の仕事には高度な専門知識とスキルが要求され、従って収入もそれに見合う高額なものだと思われているが、弁護士の仕事の多くをコンピューターが肩代わりする日が近い将来やって来るだろう。
「AI(人工知能)の進歩が人間から仕事を奪う」という類の話をよく聞くが、これは必ずしも間違いとはいえない。本来、イノベーションが起きると新たな産業や仕事が生まれ、それに伴って新たな雇用が創出される。産業革命以降の製造業やサービス業の発展(およびそれに伴う雇用の創出)を考えれば明らかだ。
しかし、昨今のIT利用の動向をみると、必ずしもそのようにはなっていない。これは、企業におけるITの利用が、主にプロセスのイノベーションに利用されてきたからである。
プロセスイノベーションとは、従来の業務プロセスにIT技術を活用することで、仕事の効率をあげ、必要な人的資源を削減する取り組みである。業務プロセスの改善によってそれに携わる要員(コスト)が減少する。
本書によれば、プロダクトイノベーションよりもプロセスイノベーションが好まれる理由は、企業が短期利益と株価(株主利益)を重視するからである。プロダクトレベルのイノベーションには、中・長期の取り組み(研究開発や人材育成)が必要になる。一方、プロセスレベルのイノベーションは比較的短期間に成果を出せる。
昨今の企業は、人員整理を中心としたコスト削減による短期利益の造出や、自社株買いによる株価の維持・向上など、目先の利益を重視する傾向が強い。短期利益の追求が、中・長期的な成長を阻害するというジレンマに陥っているようだ(これは主にアメリカ企業の話であるが、昨今日本で起きている企業の不祥事を見れば、日本企業も同じ傾向にあると言わざるを得ない)。
追記 1
上記ブログ記事で、企業におけるITの利用が主にプロセス・イノベーションに利用されてきたことを記載した。これによって人件費コストの削減は進むが、新たな雇用の創出は望めないことを記した(新たな雇用を生み出すのはプロセス・イノベーションではなく、プロダクト・イノベーションである)。ITを活用するユーザー企業の団体である日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が、「企業IT動向調査2018」を発表した。これによると、「IT投資で解決したい中長期的な経営課題」のトップは、「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」で27.3%(2017年度調査から5.8ポイント増加)となっている。近年、労働力不足やホワイトカラーの生産性向上、あるいはワークライフバランスなどが声高に叫ばれ、ITを業務プロセスの効率化に利用する傾向が益々強まっている。業務プロセスの効率化に資する技術のなかで今一番ホットなのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だろう。IT系のメディアを見ていても、RPAの事例や、RPAを導入する際の注意点、などの記事が随分と増えている。
追記 2
「宝くじで1億円当たった人の末路」(鈴木信行、日経BP社)に「同調圧力」に関する指摘がある。日本は極めて同調圧力(みんなと同じことをしなければならないというプレッシャー)が強い。諸富祥彦氏は、この理由の一つに、多くの人が小学校高学年から中学校にかけて体験する集団生活があるという。クラスの中はいくつかの”排他的集団”に別れ、子どもたちはいずれかの組織に属さなければ平和な学校生活を送れない。安定して集団に属するためには、とにかく周りと同じであることが要求される。周りと違うとどんなひどい目に遭うか、この時期多くの人は無意識のうちに体に叩き込まれて青年期を迎える。同調圧力は人々のストレスになっている。さらにこの同調圧力、群れたがる気質が企業の生産性を阻害する要因にもなっている。日本の企業は無駄な会議が多いが、これは会議や打ち合わせと称して群れること(責任を分散すること)を好むからだという。みんなが同調していたら革新的なアイデアなども生まれてこないだろう。SNSなどのネット上のサービスを利用する人が増えたことで、この同調圧力が強まっているという。ネット上にも多数の排他的集団が形成され、ある集団に属する人はその集団の考え方に同調するようになる、ということだろう。先に引用した「同質なコミュニティは極端な方向に進む」と同じ理屈であるが、これが現代の日本(文化)の特徴(欠点)であるという指摘は重要だ。
追記 3
デジタル社会がもたらす負の側面に関して、他の書籍からの引用を追記する。
文脈的知識の欠落
「クラウド時代の思考術」(ウィリアム・パウンドストーン、青土社)に以下の指摘がある。「知識を知能へ変化させるためには、常に文脈を捕捉することが必要である。インターネットの知識が危険なのは、文脈が完全に剥ぎとられていることだ。」 少々解りづらい説明だが、(私が思うに)インターネット上の知識が断片的であることを指摘しているのだろう。例えば、ある言葉(概念)を理解するには、それと関連する概念や、歴史的背景、文化的背景なども理解していかないと体系的で正確な知識(知能)にはならない、ということだろう。
合理的無知
同じく、「クラウド時代の思考術」という書籍には「合理的無知」に関する言及がある。いつでもどこでもスマホさえあれば情報を取得できるようになると、新しい言葉や概念を覚える必要性を感じなくなる。我々の脳は無意識のうちに、わざわざ脳に記憶させなくとも、必要な時にネットから取り出せば良いと考えるようになるようだ。
脱感作効果と共感力低下
「アナログの逆襲」(デイビッド・サックス、インターシフト)によれば、現在のアメリカでは若者の「共感力」が著しく低下しているという。その主な理由として、デジタルテクノロジーの「脱感作効果(刺激に対する感情、感覚が鈍化すること)」があげられる。共感的な人間の減少は深刻な事態を招く。自己陶酔的、自己中心的な人間が増え、協力的な人間が減り、暴力的傾向が強まる、と警告している。
賃金格差の拡大
同じく、「アナログの逆襲」によれば、「デジタル経済は2つの職種を生み出すことに長けている。1つは社会上層の高賃金の高度な専門職、もう1つは社会の底辺の低賃金、低スキルの仕事。その結果として起きるのは、さらなる格差の拡大だ。欧米では1992年から2010年にかけて中級スキルの雇用が激減する一方で、高スキルと低スキルの仕事は増えている」 日本でもこの傾向が見られる。コンビニや外食産業では低賃金の外国人労働者が増加している。今後は介護などの分野でも外国人労働者の増加が見込まれている。日本の場合、主な原因は生産年齢人口の減少にあるが、デジタル社会になって高賃金の職種と低賃金の職種の格差が広がっている可能性はありそうだ。
「アナログの逆襲」(デイビッド・サックス、インターシフト)
(アメリカでは)いくつかの分野でアナログの良さが見直され、再評価されるという現象が見られる。レコードや、録音技術(アナログ録音)、凸版印刷、写真フィルム、ボードゲームなど。(本書を読んだ限りでは)これらアナログの復権は年配者の懐古趣味ではない。これらのアナログの支持者には若者が多いという特徴があり、主にクリエイティブな活動においてアナログの良さが見直されているようだ。考えてみればこれはごく当たり前のことだと思う。なんでもデジタルが良いというわけではないだろう。デジタル、アナログそれぞれに良いところがあり、適材適所で使い分けていくということだろう。  
●デジタル社会に求められる人と組織とは 
デジタル社会とは
デジタル社会について、人によって捉え方は異なるものの、大まかに言えば、リアルな「モノ」や「サービス」を「デジタル化(非物質化)」することで新しい事業価値が生み出され、文化、産業、人間のライフスタイルを一変させていく社会と定義することができます。
その出現の原動力は近年のテクノロジーです。センサーやデバイスの技術進化はリアルな社会の状態をデジタル化させ、高速通信、メモリやディスクの大容量化によって、それらのデジタル情報をビッグデータとして収集することが可能となりました。更に、コンピュータ性能の向上により膨大なビッグデータの解析が可能となったことで、ディープラーニングなどのAI技術を発展してきました。このように、データを活用した産業革命が進行しつつあります。
デジタル社会に求められる新たな仕掛け
デジタル社会は、多様な集団がつながることで新たな価値が創出されていく社会です。ここで求められる仕掛けが「オープンイノベーション」になります。オープンイノベーションは大きく以下の4つの要素から成ります。
ビジネスモデル
テクノロジーイノベーションだけではなく、テクノロジーを活用して事業価値を上げ、収益モデルを変革することで新たなビジネスが生まれます。
エコシステム
大学、公的機関、企業がつながり資金やモチベーションが循環する仕組みが重要となります。この循環の中で、再び新たなテクノロジーが生み出されるという成長のサイクルがデジタル社会を支えます。
開発プラットフォーム
デジタル社会はスピーディに変化し、価値を生み出すためのテクノロジーもどんどん進化していきます。より俊敏に立ち上げる環境と顧客からのフィードバックをスピーディに受ける仕組みが必要になります。
データプラットフォーム
デジタル化の本質はデータです。データを活用する仕組み(収集、分析、活用)が根底にあり、特に膨大なビッグデータを解析するデータサイエンスが最も重要と言えます。
デジタル社会に求められる組織と人
デジタルビジネスは、既存のビジネス形態と異なる部分が多く、従来の組織から新たな組織への変化が求められます(表1)。
   表1 従来の組織とデジタル社会に求められる組織の特徴
従来の組織           デジタル社会に求められる組織
責任とKPIによる縦割り組織    フラットでオープンな集合体
綿密な計画/ウォーターフォール 柔軟な対応/アジャイル
マスマニュファクチャリング   マスカスタマイゼーション
効率性重視           創造性重視
モノ思考            体験思考
コントロール          自律
専門知識、画一性        ソフトスキル、多様性

上に述べたようなオープンイノベーションを推進する人材として、「デジタルビジネスデザイナ」、「デジタルエンジニア」、「データサイエンティスト」が求められています。三位一体のチームを編成し、活動することができれば未来のデジタル化社会を発展させることができるでしょう。
デジタルビジネスデザイナ
デジタルビジネスを企画し推進していく人材。ビジネスデザイン力に加えて顧客体験のデザイン力が求められるため、日頃から、観察力や洞察力を養う訓練が必要になります。更に、エコシステムを作り上げるための社内外の有識者とのコラボレーション力やファシリテーション力も身に付ける必要があります。
デジタルエンジニア
デジタル情報を活用した仕組みやシステム構造(アーキテクチャ)を設計し、実装していく人材。技術力に加えて、要求を把握するための顧客体験の理解力や人間中心のデザイン力が必要となります。
データサイエンティスト
デジタルデータから社会課題の原因やビジネス高度化の要素などを導き出すために、データ分析力に加えてビジネス分野で物事を捉える力が必要となります。
産学連携による人材育成の仕組み
このような人材はどのように育成すればよいでしょうか。ここでポイントとなるのが産学連携です。デジタルエンジニアは、従来の育成の枠組みを多少変更すれば対応できると思われるので、その他デジタルビジネスデザイナとデータサイエンティストの側面から考えます。
1デジタルビジネスデザイナ
今までデザインスクールなどのデザイン専門の教育機関を除いて、顧客体験を洞察する能力やイノベーションを起こす能力を意識的に教育する場所は極めて少なかったと思われます。最近では、企業でもデザイン思考を含めたイノベーション教育が多く実施されるようになってきました。また、学校でもアクティブラーニングという個々を生かす教育が試行されています。しかし、イノベーティブな人材を育成するには、思考訓練を行う場と体系立ったプログラムが必要です。体系立った理論を研究できる大学と実際にイノベーションを起こそうとしている企業の協力が求められています。
2データサイエンティスト
日本はデータドリブンの考え方が根付いておらず、日本の社会には数理的な思考やデータ分析・活用を持つデータサイエンティストが極めて少ないと言えます。大学では実ビジネスで使うビッグデータを入手しにくいという課題がある一方、企業では、数理的なモデルや、数学、統計学を教育できる人材が極めて少ないという課題があります。お互いの課題を解決するのが産学連携の肝になります。CTCでも、データサイエンス分野の人材育成及び産学連携促進を目的として滋賀大学と連携協力の協定を締結し、データサイエンティストの育成に努めています。
   課題解決のための産学連携モデル
将来のデジタル社会が夢のある豊かな社会となるために、オープンな協力のもとで価値の創造を図っていくことが、私たちに今必要なことです。  
●デジタル社会に"効く"マーケティング 
デジタル化の進展に伴い、企業を取り巻く経営環境が大きく変化している。こうした中、新たな市場を切り開くための武器となるのがデジタルマーケティングだ。しかし、多様化・複雑化するユーザーの動向をつかみ、的確な手を打つのは容易ではない。では、企業はデジタルマーケティングとどう向き合えばよいのか。その答えを探るため、デジタルマーケティングの専門家集団であるアイレップで取締役副社長を務める永井敦氏に話を聞いた。
パソコンやスマートフォンなどの普及率の高まりとともに、生活者のメディアへの接触方法が変化している。メディア環境研究所の調査によると、メディア総接触時間におけるモバイルのシェアが伸長。東京では2018年に初めて3分の1を超え、モバイルシフトが着実に進行しているという。
   メディア総接触時間の構成比
永井氏は次のように解説する。
「これは、デジタル社会の到来による、ユーザーの特徴的な変化です。メディア環境研究所が『メディア生活フォーラム2018』で発表していたように、モバイルの使い方も変化してきていて、従来は自分で検索して能動的に情報を収集していましたが、モバイル自体が逐次大量の情報を引き寄せている中で、気になる情報があれば、スクリーンショットで保存したり、リツイートしたりして、後から確認するのが通例となっています。つまり、瞬間ごとに触れる情報をためておいて、いつでも見られるようにしておく。ユーザーがさまざまな工夫をして、あふれる情報とうまく付き合うスタイルが広がっているのです」
モバイルを使った購買行動にも変化が起きているという。
「例えば、実店舗で商品を買うとき、半数近くのユーザーがスマホを使って店舗情報を検索するようになっています。店舗にふらっと立ち寄るのではなく、事前にスマホで商品があるかどうかや定休日などを調べて店舗に行くというケースが増えているのです」
重要なのはユーザーを立体的に捉えられるかどうか
では、こうしたユーザー行動の変化に対し、企業はどう対応しているのだろうか。
「十分に対応できている企業はまだまだ少ないと思います。ユーザーが、いつ、どこから、どうやって自社の商品やサービスに接触してくるのか、読みづらくなっています。店舗など、従来の販売ポイントにユーザーがやってくる前後の行動が複雑で、それを分析するには最新計測技術への理解が必要です。さらに、計測したとしても意味を読み取るには、自社のデータだけでは足りないことが多いのが実情です。読み取り不足のまま、ユーザーに安易に接触すると、情報過多の時代においては無視されます。こうした現象が従来のマーケティング手法を混乱させる要因となっています」
従来から、ユーザーの価値観は多様化・複雑化しているといわれているが、それだけではなく、行動や接触様式も多様化・複雑化しているという。だからこそ、ユーザーを立体的に捉えられるかどうかが重要なのだ。そこで注目されているのがデジタルマーケティングである。
デジタルマーケティングで押さえておくべきポイント
「デジタル化の進展によって、ユーザーの多面性を可視化してマーケティング活動を行うためには、企業内外のデータを統合しなければなりませんが、これがことのほか難しいのです。例えば、テレビやスマホ、店舗、ECモールなど、さまざまなチャネルがある中、一気通貫で連関性を持って対応できるようにして、そのつながりの中で、どう投資配分して、いかにユーザーと向き合うかを考えるには、専門部署の機能目標を超えて、企業全体の戦略に落とし込まなければなりません。しかしながら、データ統合となった瞬間、関係部署が多岐にわたるということもあり、部署間調整が難航するケースをよく拝見します」
デジタルの世界は技術の進歩のスピードが速いため、各専門部署でのデジタル化ですらままならない場合も多く、全体最適論と部分最適論のバランスが難しい。
「デジタル社会が到来する中で、われわれは他社に先駆けて新たな広告手法活用を担ってきた会社です。これからは広告手法にとどまらない複数の手法を組み合わせること、あるいはデジタルの枠組みの中で終わるのではなく、手法活用をオフライン領域まで広げることで、トータルでクライアントに貢献できる統合デジタルマーケティングのコンサルティングサービスを提供していきます。システムの開発・解析や自社独自のマーケティングロジック作り、営業部門支援など、幅広い手法活用能力を持つことで、マーケティングマネジメントを再編・高度化するべくクライアントに並走してまいります」
捉えようによってはゲームチェンジのチャンス
インターネット広告市場に参入して以来、デジタル時代に合った組織に改編していく中で、クライアントと同じような悩みに直面し、独自に解決してきた経緯がある。そこで培った専門能力と統合化のノウハウを、今後クライアントに提供していく方針だという。
「われわれの特長は、デジタルオペレーションの実務をわかったうえで、戦略性を持ったトータルサポートができることです。さらに、グループ企業全体で蓄積した膨大なデータを企業戦略に転換し、そこから派生した戦術を確実に実行する能力を持っています。いわば、データと頭脳、そして腕力を兼ね備えていることが大きな強みになっているのです」
消費が世の中に活力を生む源泉であるということに疑問を差し挟む余地はないだろう。アイレップは、その消費を生むことをいい意味で刺激できるようなソリューションを持った会社を目指しているという。
「ユーザー動向の多様化・複雑化をはじめとする、企業を取り巻く経営環境の変化は、経営者を悩ませます。しかし、捉えようによってはゲームチェンジのチャンスでもあります。歴史を見ても、ゲームチェンジができる時代はそれほど頻繁には訪れません。データによってあらゆるものが可視化されようとしている中で、情報流通の最適化を実現するためにも、クライアントの新たな挑戦をサポートできる存在であり続けたいと思っています」 
●デジタル社会とデジタル化の価値 
T.デジタル社会の到来
ここ数年で社会のデジタル化はものすごい勢いで進んでいますね。
電車の中を見れば、ほぼ全ての人がスマートフォンをさわっており、Facebookなどソーシャルメディアで友達の近況を知っている。多くのアプリケーションで自分に適した広告がそれとなく置かれ、ときにAmazonで注文しその日にモノが届く。 社会を見れば、デジタル化の速度は多くの人の想像を超えるスピードで浸透してきている。
さらに、スマートウォッチやスマートグラスなど身に付ける機器も多様化し、IoT(モノのインターネット化)が進むと、人がデジタル化しなくてもモノが発信するようになってくる。
通勤の際、電車の中でデジタル化の進展を目にするわけですが、さて、会社に到着したら、どのようなデジタル化を目にするでしょうか?
書類の束、年初に立てた目標(どこまで達成できたか良くわからない)の貼り紙、なかなか欲しいデータに辿りつけない社内システム、数日放置しているお客様や社内関係者とのメール。
企業の中よりも社会のほうが先にデジタル化が進んでいるというのが正直なところではないでしょうか。 逆に言えば、企業がデジタル化の恩恵を受ける余地が大きいとも言えるのではないでしょうか。
U.デジタル化の価値
ITに関わる方ですとデジタル化の価値は理解されている方が多いと思いますので、そのような方はこの章は読み飛ばしてください。
デジタル化されると何が良いのか、というと、1処理が速い、2複製しても劣化しない、3分析できる(時に予測もできる)といった点が特性として挙げられます。このような特性をもとに、4無料化、5個別対応化、6データ活用ビジネスなどのビジネスへの適用の可能性があります。
先の電車の中の例であげた、個人別の広告などは分かりやすい例だと思います。 アナログの世界であれば、チラシを作って新聞に挟んで撒くといった形が一般的でした。 デジタル化されることで、配信コスト0円(正確には異なりますが便宜的に)、個人別、即時配信、クリック記録が取れるので顧客属性別の志向や傾向の把握などができます。
IoT(モノのインターネット化)の時代になり、人が登録したデータだけでなく、モノ自体もデータを発信します。また、モノに対して指示を出しモノの動きを制御することもできます。
世の中の物理的なモノをいったんデジタルの世界にデータ化し、高速処理、複製、分析を行い、人やモノに対して指示を出していくことで、新しいビジネスの進め方や新しいビジネスモデルを築くことができる可能性があります。
V. デジタルの脅威
社会のデジタル化が進む中で、デジタルの価値を最大に利用する新興企業も増えてきました。Uber社やAribnb社の例は良く知られています(詳しくは「今、日本に求められる変革の力」をご覧ください)。またコマツ社の例も多く取り上げられていますね (詳しくは「走るトラックの「すべて」を24時間見える化」をご覧ください)。自動車業界も大きく変わってきています (詳しくは「つながるクルマが新たな価値をもたらす時代が到来」をご覧ください)。
タクシー業界、ホテル業界などのBtoCの業界において、デジタルを活用した企業が業界の構図を変え、BtoBの業界も変えようとしている。
デジタル化をいち早く成し遂げた企業が、業界の垣根を超え、新しい価値基準を作り、市場を短期で席捲してしまうという大いなる変化の時代だと思います。
   他業界から参入される脅威
   顧客の価値基準を変えられる脅威
   市場を短期間に席巻される脅威
W. ITとデジタルの違い
さて、ここまで「デジタル」という言葉を使ってきましたが、ITとはどのように違うのでしょうか?
『基本的』には一緒ですね、これまでの文章の「デジタル」を「IT」と変換しても違和感がないでしょう。『基本的』には一緒なのですが、実は大きな違いがあります。
これまでのIT化は、人が行っていた記録や集計の業務の自動化が価値でした。 紙とソロバンの代替品です。ITがなくても多くの人が努力すれば実現できる世界でした。 また、多くの人がITにデータ入力をして、ITから利益を得る人は限られているというのが現状でした。IT用語では、System of Recordとも呼びます。
いま起きているデジタル化は、人が努力して実現できる世界を超えています。 1処理が速い、2複製しても劣化しない、3分析できる(時に予測もできる)、4無料化、5個別対応化、6データ活用ビジネス。これらの特性は、人の努力の域を超えています。 また、システムによる受益者が多く、システムと人が一緒に活動することが一般的になります。IT用語では、System of Engagementとも呼びます。
『基本的』には一緒ですが、デジタルはこれまでのITとは一線を画す概念として捉えていただくと良いと思います。  
●人のためのデジタル社会 
2017年11月に湘南慶育病院という名前の病院が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の隣接地に開院した。隣接地といっても中高等部や環境情報学部、総合政策学部、大学院と看護医療学部の間に位置しているので、地元藤沢市とも連携してSFCとの共同研究を病院の理念として掲げていただいている。初代病院長である松本純夫先生と議論し、我が国の課題である在宅医療や遠隔医療への貢献を連携テーマの一つとして2年前から準備に取り組んでいた。我が国における少子高齢化や医療費の課題は深刻であり、在宅医療がその鍵の一つであることは議論の余地がない。しかしその深刻さは度を増しているので、デジタル技術によるイノベーション、いや、革命的な改善が要求されていることになる。そのためには、個人を主人公とした自律的な健康管理、家族やコミュニティと地域、医療や介護などが、病院などの専門施設と結んで連携する環境をインターネット上に構築する必要がある。このようなシステムの理想像には既に社会の中で一定のコンセンサスがあると考えている。
概要としては、ブロードバンドインターネットを前提として、主人公とその信頼を得る家族やヘルパー、介護師、看護師、医者などのコミュニティとコミュニケーションができて記録されていること。これらと、薬事、医事の専門者がデジタルデータとその共有によって主人公の健康のために作業可能な環境を構築することなどである。これを実現すればいいのならば、そのための基礎技術やサービスアプリケーションの体系はそろっている。家庭には健康をモニターするための、IoT(Internet of Things)デバイスとしての健康測定器、主人公とそのまわりのコミュニティの会話や活動を記録するソーシャルネットワーク、電子お薬手帳などの薬事系のデジタル記録、電子カルテや医療画像などのデジタル化とその管理、医療費支払いの電子支払いシステム、薬の配送システム、そして、病院への通院交通スマートシステム。理想の社会への要素はそろっているように見えながら、実現できていない。ここを突破するのがSociety 5.0の正念場だろう。
昨年12月から3月末まで湘南慶育病院と共同でプロトタイプの設計・開発と小さな実証実験を行った。医療従事者の使用する電子カルテと連携しているシステムに在宅患者とのコミュニケーションの機能を加え、遠隔対面の診療、患者宅のカメラ操作、在宅の健康測定機器の蓄積と共有、患者個人認証など、時間が許す限り詰め込んだ実装を行い、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)準拠の実験倫理規定に従って30名の患者と担当医師の実験を経て、双方の側面での評価と調査を行った。実験の範囲は限定的だが、評価も上々で、医者からの貴重なアドバイスを集めることができ、通院と在宅の組み合わせを具体的にイメージできた患者も大きな期待を寄せてくれた。
しかし、社会の中で運用を展開するためにはたくさんのハードルがある。そもそも医療にとっての遠隔診療の診療報酬は緒についたばかり。これまでは遠隔医療がデジタル社会を前提に議論されていなかったのだから無理もない。私達の分野の主戦場であるスマートハウスとなった患者宅でも、今やIoT機器となった家庭の健康測定デバイスはデータ形式も通信形式もベンダーごとに独立していて標準化されていない。そもそも今回の医師との遠隔対話は高齢者を意識して家庭のテレビを利用しているが、スマートテレビにはスマートフォンのようなオープンな開発環境はない。家庭の電気、空調など患者の状態や移動を認識し観測できるデータはあるが、そのデータを共有できる環境はない。患者の健康が目的であっても、患者の生活のプライバシーとの関連の合意形成の方法は確立していない。薬事との関連での処方薬のやりとりを遠隔で機能的に行うための制度的な準備はできていない。そもそも多様なステークホルダーに正しく対価を支払う洗練された電子取引やマイクロ電子支払いの仕組みはまだ我が国には存在しない。
ただ、ここまでくれば、解くべき課題も具体化し解決のアクションが取れる。個人の健康に関する正しい生活のデータが病気になる前から分析でき、安全に共有できるとなれば、健康な社会には飛躍的に貢献するし、それを支える保険制度も抜本的に改善できる。
2017年に世界の人口の51.7%がインターネット利用者となった。我が国は既に83.5%である。インターネットを前提とした、デジタル社会が私達の生活に普遍的に貢献できる社会のイメージは情報の専門家でなくてもデザインできるようになった。これからは、多様な役割を持つ人が連携してこれからのデジタルテクノロジーが正しく機能できる、人のためのデジタル社会の構築が開始される。 
●デジタル革命は「助走期」から「飛翔期」へ 
過去20年間はデジタル革命の「助走期」
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの創設者、ニコラス・ネグロポンテが書籍『Being Digital』を著したのは1995年だった。ネグロポンテは「アトム(物質)からビット(情報)へ」という言葉で、デジタルがメディア、ライフスタイル、職場環境などあらゆる社会構造を根本的に変容させると予測した。
その予測から20年。インターネット、スマートフォン、有線・無線のブロードバンドがもたらした影響は、「デジタル革命」と言っても過言ではない。いまやテレビはスマホアプリの一つとなり、放送事業者とメッセンジャーアプリ事業者がライバルになっている。金融分野では、銀行とIT企業が競うフィンテックブームが起きている。デジタル化の進行が業界の垣根を壊し、社会に大きな影響を与えつつある。
しかし私は、過去20年間はデジタル革命の「助走期」にすぎず、本当の意味でのデジタル革命はこれから幕を開けるととらえている。まもなくICT(情報通信技術)が真価を発揮する「飛翔期」に入り、デジタルが社会の隅々まで浸透していくだろう。
これまでの「助走期」は、デジタル革命のインフラが整備されるまでの期間と言い換えることができる。そのインフラの主な柱は、インターネット、スマートフォン、クラウド、センサ、無線通信などのテクノロジーである。
インターネットが登場し多くの人が使い始めたことによって、通信環境を整備するために光ファイバへの投資が行われ、巨大な光ファイバ網が出来上がった。光ファイバ網が充実したことで、そこからクラウドの技術が発展していく。
モバイルの発展により、有線から無線へと舵が切られ、無線技術が発展した。この無線技術は、スマホの普及によって飛躍的に成長していく。さらにスマホの普及は、センサ技術も高めていった。1台のスマホには、加速度センサ、近接センサ、照度センサ、磁気センサ、指紋認証センサなどさまざまな種類のセンサが必要となる。これがセンサの小型化、省力化、コストダウンを促した。
助走しながら、必要となる技術をつくり込んでいった。そこに莫大な資金が投下され、ふと振り返るとそれらがインフラになっていた。いわば、偶然の産物だ。インフラを整えようとして計画的に整備してきたわけではなく、たまたま状況が整ってきて現在がある。2015年にIoTという言葉が出てきたのも、テクノロジーが成熟したことによって、これらのインフラがさまざまな地域で安価に利用できる環境が整ったからといえる。
これからの「飛翔期」にはデジタルが社会の隅々に浸透していく
インターネットの登場から現在に至るまで、さまざまなICTが生み出され、それらをもとにIT革命が起こった。eコマースがリアル店舗を脅かし、スマホが急速に社会に普及していった。少し前までCDやDVDで楽しむのが当たり前だった音楽や動画も、いまではアップル(Apple)やネットフリックス(Netflix)などが提供するストリーミング配信が主流となりつつある。
こうした現象を見る限り、これまでの「助走期」にもデジタル化はかなりのスピードで進展してきたように思える。
実際、B2Cの分野では、デジタルが人々の生活を大きく変え始めている。スマホを利用している私たち自身も、もはやデジタルとは無縁ではない。日々のニュースや天気予報を、紙の新聞やテレビではなくスマホアプリでチェックしている人も多いだろう。
しかし、一歩引いた視点で見渡してみると、世の中はアナログで溢れている。そこにはデジタル化されていない膨大な量の物的資産がある。私たちの仕事や生活のなかにも、経験や勘に頼って行われている膨大な量のアナログプロセスがある。これまでデジタル化されてきたのは主にインターネット上で生成されたウェブデータであり、リアルな世界でデジタル化されているものはごく一部にすぎなかった。
ビジネスの領域でも、デジタル化が求められてきた業界は少数だった。IT企業やネット企業、一部の先進的な企業がデジタルを積極的に取り入れてきたものの、その他の大部分の企業は依然としてアナログの世界でビジネスを展開してきた。
しかし、これまでの「助走期」を経て、デジタル化に舵を切るためのインフラは整った。データ収集やデータ分析のツールも安価に利用できるようになった。グローバル化や経済の成熟化を背景として企業間の競争はますます激しくなっている。デジタルを取り入れて生き残りを図ろうとする企業は、確実に増えていく。
ここ数年、グーグルなどのIT企業がテクノロジーを武器にして異業種に参入する動きが活発になっている。いわゆるディスラプション(創造的破壊)である。これらの業界では、強い危機感を持ってデジタル化を図ろうとする企業が少なくない。また、製造業のなかには、コマツのように競合他社に先駆けてIoTを取り入れ、競争力を大きく高めた企業も現れ始めている。
こうした動きは、今後、少しずつ加速していく。「助走期」から「飛翔期」への移行はすでに始まっていて、これからデジタルは長い年月をかけて社会の隅々に浸透していくだろう。
ただし、それがどの業界、どの企業から進むのかはわからない。業種や企業規模というよりも、属人的な要素が大きいからだ。経営トップが強い危機感を持っている企業、デジタルの必要性を強く意識している企業から、デジタル化が始まっていく。そして、それらの企業が一定の成果をあげることによって、さまざまな企業・業界に広がっていくのではないだろうか。
デジタルの浸透には長い時間がかかる
先ほど私は「デジタルは長い年月をかけて社会の隅々に浸透していく」と述べた。その根拠は、デジタル化を推進するICTが現代における汎用技術だからである。
汎用技術とは、特定の生産物だけに関係するものではなく、あらゆる経済活動で利用され、関連する分野が非常に広い技術を指す。18世紀の産業革命で生み出された蒸気機関や、その後、蒸気機関に代わって導入された電気が、代表的な汎用技術として挙げられる。
電気は19世紀末に電灯事業で利用が始まったが、工場の動力としての利用は遅れ、工場の電化によって産業の生産性が上昇したのは1920年代以降のことだった。その間、およそ40年が経っている。働き方や組織の体制を変えなければ、工場の蒸気機関を電気に替えることができなかったからだ。
現代の私たちは電気の利便性をよく知っているので、「さっさと電気に替えればよかったのに」と思いがちだ。しかし、電気に替えるためには工場の設備やレイアウトをガラリと変えなければならないし、職人さんの働き方も変えなければならない。彼らには変わった後のことが想像できないので、心理的な抵抗が強く、なかなか意識を変えることができない。汎用技術が行き渡るまでに長い年月がかかる大きな要因はここにある。
現代の汎用技術であるICTについても同じことがいえる。デジタル化を進めるには、組織や働き方などの変革が必要となる。
モノづくり企業では、デザインから設計、原材料調達、製造、物流、販売に至るまで、一方向の意思決定の流れに適した組織が構築されている。しかし、製造したモノにセンサが組み込まれ、センサから得られたデータを設計や製造に反映できるようになると、情報が双方向にスムーズに流れる必要がある。一方向の流れに適した組織では、情報が双方向に流れにくいので、最適な組織形態を模索することが求められる。
組織の体制を変えれば、それに合わせて従業員を配置し直す必要が生じる。一人ひとりの仕事のやり方も変えなければならない。それが現場の反発を招き、変革の障害となる。ICTが進化するスピードは蒸気機関や電気よりもはるかに速いが、人の意識は昔も今もほとんど変わらない。
真のデジタル社会はいつ到来するのか
では、デジタルが社会に浸透し、真の意味でデジタル社会が到来するのはいつごろになるのか。ある産業がバブルの崩壊を経て台頭するまでの歴史を振り返ると、30〜40年で本物になるという見方ができる。
1850年にイギリスで「鉄道バブル」が崩壊した。1840年代に鉄道会社が相次いでロンドン市場に上場すると、鉄道が儲かりそうだということで投資家が鉄道株に殺到した。鉄道会社にお金が集まり、各社が競って全国に線路を敷設するようになるが、6000マイル(1万キロ弱)もの線路を敷設したところでバブルが弾けた。しかし、結局のところイギリスの鉄道が黄金期を迎えたのは、それから30〜40年後の1880年代から90年代になってからだった。
1929年の世界大恐慌は、ニューヨーク証券取引所における自動車株と電力株のバブルが崩壊したことがきっかけと言われている。自動車株と電力株が急上昇したことでバブルが始まり、一時はアメリカだけで自動車メーカーが300社もあった。しかし道路が舗装され、高速道路が整備されて自動車が社会のインフラとなったのは、1950年代から60年代だった。ということは、やはりバブルが弾けて30年ほど経ってからということになる。
それらを踏まえると、インターネットバブルが2000年ごろに弾け、2008年にリーマンショックで再びバブルが弾けてから、まだ10年ほどしか経っていない。そう考えると、デジタルが社会の隅々に行き渡り、真の意味でデジタル社会が到来するのは、いまから約20年後の2040年以降になるのではないかと考えられる。
ただ、私が言っているのは「行き渡る」までの期間であって、その動きはすでに始まっていることを忘れてはならない。ひとたび流れができれば一気に加速していく。初期の段階で主導権を握った者が勝つのは間違いない。つまり、早く動いた者が勝ち、後れを取った者は負ける。それはどの分野のどんな競争でも変わらない。
すでに、デジタル化とは距離がありそうな農業の分野でも、デジタル化に意欲的に取り組んでいる生産者がいる。その一方でデジタル化は必要ないという生産者も多く、この人たちの意識が変わりデジタルが浸透するまでには長い年月がかかるという意味だ。後れを取ったら、たとえ生き残れたとしても先頭グループを走るのは難しいだろう。 
●デジタル化とは何か 
最近、モノづくり系の取材やセミナー講演を聞いていると、デジタル化やデジタルトランスフォーメーション(転換)というような言葉があちらこちらから聞こえてくる。時にはデジタルツイン、サイバーフィジカルシステム、などの言葉も登場する。これらの言葉は、長くエレクトロニクス技術に携わってきた者たちには異質な言葉に聞こえ、これまでエレクトロニクス技術とは無縁だった人たちには新鮮な言葉に聞こえる。ここでは、言葉の意味をもっと明らかにして整理する。
一昔前はeコマース、電子商取引など
まず、これらの言葉の使われ方が少しずつ変わってきていることにも注意する必要がある。例えば、インターネットを使って決算するビジネスを、かつては「電子商取引」あるいは「eコマース」と言った。当時はデジタルという言葉はあまり使われず、「電子○○」「e○○」という呼び方が主流だったのだ。その根底にあるものは、「電子」や「e」が表すエレクトロニクス(Electronics)技術であった。エレクトロニクス技術のベースは、半導体集積回路(IC)技術である。eコマースで実際に使っているのは、インターネットのブラウザであり、銀行口座の登録情報にすぎない。「電子」と言いながら電子を元にする「エレクトロニクス技術」を使っている訳ではなかった。
インターネットのブラウザを表示する、パソコンやスマートフォンの基本技術となっているハードウエアがエレクトロニクス技術なので、「電子○○」「e○○」と言いつつも、「電子」は間接的に使われていただけであった。
しかし最近は電子という言葉は聞かれなくなり、デジタル化やデジタル変換という言葉が使われるようになってきた。これらの言葉も「電子」と同様に、これまでエレクトロニクス技術が使われていなかった分野をエレクトロニクス化することを意味している。実際、エレクトロニクス技術――センサや、アナログ回路、デジタル回路、CPU、メモリなど――を使えば、システムを自動化したり、自律的に動作させたりすることができる。つまり、これまでエレクトロニクス技術と無縁だった分野で、その技術を使って社会を変えることを、デジタル化あるいはデジタル変換(トランスフォーメンション)と呼んでいるのである。
裏返せば、エレクトロニクス技術とそれを支える半導体IC技術が、社会やインフラ、建設、鉱業、金融、さらには農業やホワイトカラーのオフィス作業、ビル管理など、人間が関わるあらゆる仕事の分野に及んできたことを意味している。
デジタル化を実現するために必要なアナログ回路
だからこそ、長年エレクトロニクスに携わってきた人間にとって、デジタル化という言葉には違和感があるようだ。というのは、スマートフォンやIoT端末に使われるアナログ回路は今後ますます増えていくからだ(図1)。スマホやIoT端末の中に入っているセンサは、元々電気(電圧や電流、電力など)ではない物理量を電気に変換するデバイスであり、ほとんどアナログ信号として取り出している。ほかにもスマホには、圧力センサや加速度センサ、ジャイロセンサ、温度センサ、磁気センサなど、さまざまなセンサが搭載されており、しかもアナログICもふんだんに入っている。
   [図1] 1980年から現在までアナログICの比率は増えている
最新型のデジタル機器ほど、実はたくさんのアナログICが使われているのだ。ユーザーエクスペリンスと呼ばれる人間にとって親しみやすい機能は、全てアナログ回路で実現し、その後でデジタル回路に変換している。人間の自然なふるまい、ジェスチャーや手足の動き、音声、頭を振るようなしぐさなどは、全てアナログ。だからこそ、人間とのインターフェースはアナログでデータを拾い、演算や制御などの処理を容易にするためデジタル変換する。
それでも、新しさを表現するために、あえて「デジタル」という言葉で表現しているのが現状なのである。デジタルやITという言葉を使えば、新しさを感じるからだ。「デジタル=新しい」「アナログ=古い」という図式だが、実はデジタル技術そのものはもう50年以上前からある。アナログICも同じような時期からあるが、30年以上前から取り続けているデータによるとアナログICはずっと増え続けているのだ。
エレクトロニクス技術がようやく社会に浸透
しかし、今までエレクトロニクス技術は社会まで浸透してこなかった。工場は自動化されても、オフィスでは人海戦術がまかり通っていたからだ。かつて、オフィスからは紙がなくなると言われたが、実際は紙の消費量はむしろ増加している。紙ベースで作業しないと仕事をした気にならないという古い人間もいまだに多い。そのため、オフィスへのエレクトロニクス技術の導入は非常に遅れていたのだ。
最近になってようやくオフィス業務の改善が叫ばれるようになり、省エネ化やITロボット(RPA:ロボティック・プロセス・オートメーションという、ソフトウエアで作る自動処理装置のこと。フォーマットの異なる情報を一つにまとめる、さまざまなウエブサイトから簡単なURLなどの情報を取っていく)の活用による残業削減などが実行段階に入りはじめた。ここで使われているのがコンピュータ技術であるため、一般にデジタル化というイメージが生じているのだろう。しかし、エレクトロニクス技術に含まれるのは、コンピュータ技術だけでなく、通信技術、半導体技術、そしてアナログやデジタルの回路技術も含まれる。
エレクトロニクス化のカギはコンピュータ
これまでもこれからも、最大の技術要素はやはりコンピュータ技術である。コンピュータというのは、ハードウエアを共通にして、ソフトウエアを変えるだけで自分の欲しいマシンに変えられる機械である。だから、必ずしも「コンピュータ=計算機」ではない。コンピュータはもちろん計算もするが、むしろ多くの場面で使われる機能は、データを交通整理する制御機能である。例えば、ワープロソフトで文字を書く場合、コンピュータは計算をせず、キーボードで打たれた文字列の変換を行っているにすぎない。「あい」と打てば「愛」「会い」「合い」「相」「藍」などの漢字を候補として表示してくるだけで、人間がその中から正解を指定する。ここでは、文字列の候補をメモリに記憶させておき、「あい」と読む漢字を読み出しているだけだ。どの順番で表示するかは制御するソフトによって変えることができる。
コンピュータ技術はもはや目に見えなくなってきており、人間生活や働く場所などあらゆるところに埋伏されるようになった。このことをコンピュータトランスペアレントと呼ぶ業界人もいる。最も大きなコンピュータはスーパーコンピュータやメインフレームであるが、最も小さなコンピュータはパソコンやスマホではなく、ほとんどの電気製品の内部に使われているマイコンと呼ばれる半導体チップだ。たとえば自動車には、コンピュータ(ECUと呼ばれる)が数十台も入っている。
繰り返しになるが、コンピュータ技術の最も重要なことは、ソフトウエアを変えることでいろいろな用途に使えることだ。コンピュータが生み出されたきっかけは、ミサイルの弾道を計算するためであったが、今は計算よりもはるかに制御する目的が増えている。計算も制御もソフトウエアでカスタマイズできるが、ソフトウエアの進歩だけでは性能に限界が来るので、ハードウエアとソフトウエアは、歩調を合わせながら進歩してきた。またハードウエアは半導体技術の進歩により、小さく軽く、しかも安く作ることができるようになっている。
小さなコンピュータがあらゆる所に浸透
1980年代後半に登場したスーパーコンピュータ「クレイ2」よりも、アップル社のiPadの方が性能は高く、消費電力は低く、価格は圧倒的に安い。しかも、大きさを格段に小さくすることが可能になった。また、コンピュータシステムと同じ構成を取りながらコンピュータではない装置は、組み込みシステムと呼ばれている。これが通信機能を持てばIoT端末やセンサ端末と呼ばれ、今後大きく期待される分野になっているが、これも小型化により実現した製品だ。
メモリを介してCPUで演算や制御を行うコンピュータシステムを、従来のような企業の大きなシステムだけではなく、もっと身近にあるモノ、例えば玄関のドアノブやエアコンなどにも組み込んだものがIoTである(図2)。IoTが組み込まれた製品は、いつどのような状況で動作させたかという履歴データを得られるようになる。すると、ユーザーは外出先からでもドアの施錠の有無やエアコンの稼働状態の確認などを行えるし、メーカーは各ユーザーの特性を知り、それをマーケティングに利用しビジネス効率を上げることができるのだ。
   [図2] 玄関のドアノブやファン、エアコンにIoTを導入、インターネットに接続する
つまり、これまでエレクトロニクスとは無縁だった、照明やドアノブ、エアコン、冷蔵庫などにもエレクトロニクスや半導体を取り入れ、業務を改革したり、生活を便利にしたりできるようになったため、新しいイメージを表す言葉である「デジタル化」が登場してきたのである。
ITに対してOTという言葉も
インターネットやコンピュータを利用するサービスをIT(Information Technology:情報技術の略ではあるが、本質的には技術ではない)と呼んでいるが、ITという言葉が浸透してきた今、ITを活用しない労働環境をあえてOT(Operational Technology:運用技術)と呼ぶことも増えてきた。
いま、ITというべき3次元CADやCAE(シミュレーションツール)などを活用して、現場(OT)の状況をパソコンなどの身近な製品で表現できるようになった。例えば工場で働く人間やライン、作業台をグラフィックスで描き、実際の作業状況をパソコン画面上のシミュレーションツールで見ることができる。作業台から次の工程の作業台までの距離を画面上に表し、その距離をもっと短くする長くするなど最適化のシミュレーションを行い、現場の作業時間の短縮を図り効率を上げる。グラフィックスによる画面上の人間の手の位置や身長なども表現しておけば、手が届きやすい位置に作業台があるのかどうかといったこともわかる。これは、実際に工場のラインを設計する場合にたいへん役立つ。
現場の状況をITで再現するとデジタルツイン
このように実際の現場をコンピュータで全く同じように再現したITの世界を「デジタルツイン(デジタルの双子)」と言う。デジタルツインを使って、現場を構築する前から現場の作業や製品そのものをシミュレーションすることで、設計ミスや設計変更をなくし、短期間で製品を市場に出すことができるようになる。それも、従来は平面図に描いた設計図(2次元CAD)であったものが、コンピュータグラフィックスを駆使する3次元CADへと変わってきた。2次元CADでは専門家しか製品や現場をイメージできなかったが、3次元CADになると経営者や顧客にも直感的に理解しやすい。こうしたITとOTの融合は、「サイバーフィジカルシステム」「IT/OTシステム」と言われることもある(表1)。
   [表1] 現実とITの言葉の対比
現実             仮想
現場・図書館・モノ      インターネット
OT(Operational Tech)     IT(Information Tech)
フィジカル          サイバー
実験             シミュレーション
コンピュータ(オンプレミス)  クラウド
セミナーイベント       ウェブ情報提供

IoT / デジタルツイン / インダストリー 4.0 /インダストリアルインターネット / サイバーフィジカルシステム / AR/VR
また、バーチャル(仮想)という表現は、実際の現場をグラフィックスなどコンピュータ画面上で表すことに使われる。グラフィックスとは、コンピュータ上で絵を書いたり作図したりする技術である。だからゲーム機で遊ぶ人たちはグラフィックスに慣れ親しんでおり、VR(仮想現実)という言葉にも抵抗がない。VRは、まるで自分が現場にいるような感覚にさせるマシンである。いまのところ主な用途はゲームで、その没頭体験を強めるために、ゴーグル型のデバイスを用いて体験させることが多い。ゲーム以外でも、建築物や工場などを臨場感のあるグラフィックスで表現することもでき、例えば不動産屋でマンションの間取りを体験させるVRもある。
これに対してAR(拡張現実)は、現実のビデオ映像にグラフィックスを重ね合わせて、そのグラフィックス画像が動くなどの表現を行うシステムである。ゲームの中では「ポケモンGO」に出てくるキャラクターがARの代表例である。実際のカメラ映像にポケモンが重なって動く。ARもゲーム以外の分野でも用いられており、例えば工場のモータやポンプなどに取り付けたIoTデバイスにスマホやタブレットをかざすと、モータの回転数やポンプでくみ上げる液体の流量などのデータをARで見せるシステムも実用化*1している。
[脚注] *1 テレスコープマガジン013号Series Report連載01 第2回「事例は産業用IoTの世界から」でも取り上げている。
ビジネスモデルも変えるインダストリー4.0
生産機械にIoTを組み込むことによって機械の故障を予知できれば、故障する前に部品を取り換えることができ、ダウンタイムを削減できる。また、歩留まりを悪くする要因を分析し改善すれば、良品率が高まり生産効率が上がる。これらを可能にするのが、IoTを利用した製造業の革新「インダストリー4.0」である。
GE社やロールスロイス社などの大企業は、インダストリー4.0によってビジネスモデルを変えつつある。機械の故障を予知し、前もって壊れるであろう部品を取り換えるようにすれば、20年間故障しないジェットエンジンや風力発電タービンを作れるようになる。エンジンやタービンを製造販売するだけではなく、ジェット機が何マイル飛ぶごとにいくら、風力発電機が何kW発電するたびにいくらという従量制の料金体系のビジネスも可能になっていくのだ。すぐに故障する機械では時間の単位で保証できない。インダストリー4.0は生産効率を上げるだけではなく、ビジネスモデルも変えてしまうのである。
IoTとは、実は単なるセンサ端末を意味する言葉ではなく、センサからのさまざまなデータを収集、整理、保存、解析して、意味のある情報に変換するシステム全体を指す言葉である(図4)。だから端末の設計・生産業者だけでなく、ビッグデータを解析する業者やその解析ツールを設計・販売する業者なども、IoTチームには加わっている。IoTで収集したデータは情報に変換した上で、データを収集したセンサにフィードバックしてセンサをチューニングすることが欠かせない。
   [図4] IoTシステムのコンセプト 
このため、部品メーカーはデータの意味を理解する必要がある。データから変換された重要な「情報」を手に入れ、センサのキャリブレーションやIoT端末の特性改善に生かさなければ、IoTシステムの主導権を握ることはできない。また、顧客の信頼を勝ち取ることもできないのだ。
デジタル化は半導体チップの増加を意味する
以上、見てきたように、「デジタル化」という言葉は、これまでコンピュータとは無縁の世界にコンピュータ技術が入ってきたことで、使われるようになったという側面がある。これまでできなかったことが、これからはできるようになるということを、端的に示すために使われるようになったのだ。デジタル化が進めば進むほど、エレクトロニクスの世界が広がり、半導体チップがますます多く使われるようになる。これまでは用途が民生機器や産業機器にとどまっていたエレクトロニクスが、社会やインフラという世界にまで入り込んできたことによって、新しい言葉「デジタル化」が登場した。デジタルとはエレクトロニクスの言い換えであり、決して新しい言葉ではないが、社会やインフラの世界から見ると非常に新しい飛びつきやすい言葉なのだ。
デジタル化というのは、エレクトロニクス・半導体が普及するということであり、半導体はこれからの世界のインフラとなるものだ。  
●「デジタル社会指標」と「デジタルニーズ充足度」 2019 
株式会社電通の海外本社「電通イージス・ネットワーク」(本拠地:英国ロンドン市)は、オックスフォード大学の研究機関であるOxford Economics※と共同で、世界24カ国、43、000人が自国について回答する形式で実施した調査と二次データに基づく分析を行ない、「デジタル社会指標」と「デジタルニーズ充足度」を発表しました。
前者の「デジタル社会指標」とは、各国内で、社会・人々に資するデジタル経済がどの程度構築されているかを示すものです。"人"視点で捉えた当社独自の3つの分析軸、即ち1「ダイナミズム(デジタル経済の成長度合い・活力)」、2「インクルージョン(デジタル成長の恩恵を受ける層の広さ、人々のデジタル活用度)」、3「トラスト(成長の基盤となるデジタル社会への信頼度)」)を用いて「Digital Social Index(DSI)」スコアとして指標化したものです。2018年に10カ国を対象に調査を開始し、2019年は24カ国へと対象を広げました。
後者の「デジタルニーズ充足度」は、デジタル経済が人々のデジタルニーズを満たしているかどうかを示すものです。当社がマズローの欲求段階説を参考に独自開発した「基本的ニーズ」「心理的ニーズ」「自己実現ニーズ」「社会課題解決ニーズ」という4つの切り口で、各国別に測定したものです。なお、この充足度調査については今回が初めてとなります。
これら2つの調査分析の結果、日本は「デジタル社会指標」では24カ国中22位、「デジタルニーズ充足度」では24カ国中24位となりました。国際比較において、日本はデジタル経済が社会において上手く機能しておらず、また日本人のデジタルニーズをあまり充足できていない状況が明らかになりました。
1.「デジタル社会指標」(DSIスコア)の国別順位
DSIスコアはシンガポール、米国、中国がトップ3で、シンガポールは3つの分析軸すべてで高い数値となりました。米国は「ダイナミズム」が高い一方で「トラスト」は低く、これは他の西欧諸国でも見られる傾向でもありました。中国は「ダイナミズム」は中程度ですが、「インクルージョン」と「トラスト」は最高レベルとなっています。
日本は「ダイナミズム」では一定の評価がありますが、「インクルージョン」と「トラスト」は最下位レベルとなっています。

・「ダイナミズム」は、デジタル成長の核となる企業のデジタルセクターの強さを示し、ICTセクターの規模や成長率、R&Dの投資額、デジタル技術に卓越した教育機関や人員の数をベースにしています。
・「インクルージョン」は、デジタル経済によってもたらされた恩恵を享受できる人々の層の幅を示しており、デジタルインフラやデジタル教育の質なども包含しています。
・「トラスト」は、企業・団体のデータ保護・利用に関する人々の信頼性、デジタル社会がもたらす未来への人々の期待の大きさ、サイバー犯罪の発生可能性の低さ、データ保護規制の厳格さ、データ利用の透明性から算定しています。
2.「デジタルニーズ充足度」 国別デジタルニーズへの充足度(%)
世界24カ国では、5割未満の人々しかデジタルニーズが満たされていないという結果になりました。デジタル経済が進展する中で、人々の実際のニーズは見過ごされており、持続的経済成長への懸念が浮かび上がる結果となりました。
45%の人が、企業・団体が自身のプライバシーを保護してくれるとは考えておらず、約半数の人々がオンライン上の自身のデータを段階的に削減していこうと考えています。また、3分の1の人々が、デジタルが自身の健康や生活の質に悪影響を及ぼすと考えています。一方で、全体の3分の2の人々が、「ネガティブな影響があるにせよ、5〜10年先にはデジタル化による恩恵の方が大きい」と捉えていることが分かりました。
世界24カ国中24位となった日本の特徴は次のとおりです。
・ 利用しやすさ:デジタルのインフラが高品質であると考える人が少ない。(基本的ニーズ)
・ 信頼性:企業・政府による個人データの取り扱いに関する信頼性が低い。(基本的ニーズ)
・ 消費者行動:デジタルに対する行動を変えようとする人が少なく、デジタル製品・サービスの利用率が低くとどまっている。(心理的ニーズ)
・ スキル/教育:多くの人が自分のデジタルスキルは高くないと考えており、デジタルスキルが正しく利用され、役立っていると考える人の比率が低い。(自己実現ニーズ)
・ 将来の期待:5〜10年後にデジタル技術が社会にとって良い影響をもたらすと考える人の比率が低い。(社会課題解決ニーズ)

・「基本的ニーズ」は、デジタル製品やサービスに接するために必要な環境条件で、デジタルインフラやデータを使用する企業・団体への信頼性を測るものです。
・「心理的ニーズ」は、心理面での安心・健康やクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)に対するデジタル経済の寄与、期待の充足度を測るものです。
・「自己実現ニーズ」は、自己のスキル・教育の向上・報酬の高い仕事を得る機会の増加への、デジタル経済の寄与、期待の充足度を測るものです。
・「社会課題解決ニーズ」は、デジタル技術が社会課題や地球規模の課題の解決や新しい仕事を生み出すことに貢献しているかどうかについての、人々の認識を測るものです。

Oxford Economics
1981年設立。民間の独立系マクロ経済シンクタンクとしては世界最大の250名のエコノミスト・チームを擁する。80カ国以上の相互作用を考慮した世界マクロ経済モデルをベースに、200カ国以上・100超の産業セクター・約4、000都市に関する経済実態・予測のデータを提供している。
調査概要
実地調査(デジタル・ソサエティ・インデックス・サーベイ〈DSIサーベイ〉)は、2018年7〜8月に、24カ国、43、000人以上を対象に実施。対象国は、アジア太平洋は日本、オーストラリア、シンガポール、中国、インド、タイ、米州は米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、欧州は英国、ドイツ、フランス、デンマーク、オランダ、フィンランド、ノルウェー、エストニア、アイルランド、スペイン、イタリア、ポーランド、ハンガリー、ロシア。調査対象者の抽出に当たっては、各国の人口構成に合わせて代表性を保てるようサンプル数を調整。「デジタル社会指標」(DSIスコア)の算出には、上記に加えて二次データ(文献調査)を利用。二次データは最も信頼度の高いデータ提供者(Oxford Economics、世界銀行、国連など)が発行した最も直近で入手可能なものを利用。指標の設計は、すべての項目で均等加重を適用。「デジタルニーズ充足度」の算出はDSIサーベイのみを利用。  
●科学・技術の総合化の手法  
1. 手段の目的化を避ける
手段の目的化とは、本来他の成果を得るための手段である行動について、その行動をと ること自体を目的としてしまう社会行動のことです。
たとえば、「目的は何なのか。」考え出すとわからなくなることがあります。子供を叱 っている時、何のために叱っているのだろうと思う事があります。自分の中ではっきりと した目的が見当たらないのです。つまり、「叱って」いるのではなく、感情にまかせて「怒 って」いるだけなのです。目的があり、その達成手段として「叱る」という行為がありま す。目的を明言できない時、それは間違いなく「怒って」いるのです。僕も含めて反省し なければならない人が多いのではないでしょうか。
これが科学/技術の開発となれば、問題はさらに深刻です。手段が目的化しないような 手法をここで紹介します。なお、目的を達成するという観点からは、手段の目的化は目的 を見失って堕落した結果であると批判する向きもありますが、時として文化は、そのよう な傾向を強く持っており、一概に批判できない問題でもあり、難しい点があるのは確かで す。
目的と手段
目的とは、実現を「目指すこと」であり、すべての目的は、目的−手段の連鎖の中にあ ります。手段とは、目的実現のために(使える)必要なすべての「道具、手立て」をいい ます。何が、使える(必要な)手段かを限定的に決めつけてはなりません。目的実現に有 効ならば、すべては手段となりうるものですが、すべてをつかう時間的、コスト的余裕が あることは少ないため、「どれが目的実現に有効か」優先順位のつけ方が必要になります。
目的・手段分析の流れ
選択可能な具体的行動レベルまでブレイクダウンしていきます。解決に有効なものを、ど ういう手順で実施していくかをプランニングしていきます。
1 「目的」を実現するには、「何をすればいいか」「どうすることが必要か」と、その手段を洗い出します。
この場合、いきなり細部に入るより、おおまかに必要なこと(その目的達成に必要な要素、必要な要因、必要な事柄、必要な役割等々)を洗い出し、それをするために必要な行 動、働き、機能、作用を表現します。
たとえば、会議を成功するのに必要な手段を洗い出す前に、おおまかに、「開催目的」「議題」「人」「雰囲気」「進め方」「決定」「実行」といった項目を挙げ、「開催目的を明 確にする」とか「全員に事前に会議目的を知らせる」等といった表現に置き換えていきます。この作業を通して、目的−手段の大まかな上下関係が図式化できます。
2 手段は、(原則として)「〜を〜する」と、「名詞」+「他動詞」で表現します。
「が〜している」や「〜が〜なっている」という自動詞では、主体的に何かをするとい う意思が見えません。ここでは、分析自体を目的とした作業をしているのではありません。 動詞は、一語一動作、に分けましょう。
3 仕事や作業の手順・進め方を意識しましょう。
目的・手段の洗い出しは、目的実現に向けたストーリーづくり(起承転結、入口→出口、増 やす→維持する→減らす)をどう設定するか、にあります。
・PDCA(Plan→Do→Check→Action)、PDS(Plan→Do→See)(ただし、PDCAの、PがなくDCAのみ、AがなくPDCのみ、DがなくてPCのみ、等もあります)
・「頭で考える」→「やり方を工夫する」→「チェックの仕方を工夫する」→「再起動する」
・「計画を立てて」→「計画通り実行し」→「計画との違いをチェックし」→「計画に戻す」
・「確認する」→「選択する」→「手に入れる」→「チェックする」
・「案を出す」→「評価する」→「選択する」→「実行する」
・「入口」→「プロセス」→「出口」
・「ヒト」→「モノ」→「カネ」→「トキ」
たとえば、「職場のコミュニケーションをよくする」というとき、「コミュニケーショ ンとは何か」「よくするとは何か」「どういう状態が必要なのか」「「何か仲介者が必要 なのか」といった疑問が出たら、それをそのまま、必要な手段に、とりあえず置き換えて みる(検討の後で、消えたり、置き換わったりする)のがよいでしょう。
4 他人ではなく自分がすることを忘れないようにしましょう。
手段分析はそれ自体が目的ではありません。それによって目的実現の手段を洗い出し、 実現への具体的行動につなげることが目的です。その意味では、手段分析者=実行者であ ることを忘れてはなりません。
5 目的−手段の洗い出しが適正かどうかのチェック・その手段があれば、目的が達成できるのかを問い直し、直接の目的−手段の関係をチェ ックします
・その手段の目的は何かを問い直して、直接の目的−手段の関係をチェックします
たとえば、「その手段がない(やめる)と困ることは何か」「それから期待できること(何 が起こること)は何か」「それは何のために働いているか」「それによってどういう結果 になるか」「その手段のある理由は何か」等々です。
6 目的−手段体系の整合性を整える
細部にこだわるより、全体の流れを体系化することを先行させます。全体図を俯瞰しなが ら、目的−手段の整合性(目的と手段が親子関係として適切か)を整えていく方が全体の 構造がみやすくなります。たとえば、「減量する」という目的の手段分析をする場合、あ る程度体系化したとき、いくつかのヌケがわかっているが、何をいれていいかを考えてそ こで立ち止まり、全体像を描いて考えると、たとえば「脂肪の吸引」といった手段が入る 枝ができていないことに気づいたりするものです。
手段分析から実施手段を具体化する
1 行動を選択可能なところまで具体化する
「上位目的」を達成するための手段を展開した、最下位(どこが最下位かは展開している ものによる)の手段は、「具体的に複数の方法を列挙し、そのどれかを選択すればすぐ実行 可能なところ」まで、具体化されていなくてはなりません。
2 具体的な行動を選択する
各手段を実現するために、何から、どうやってやっていくかを、優先順位をつけ、選択、特 定していきます。その場合、現実的な実行可能性だけでなく、実現しようとしている「目標」 に照らして、必要不可欠な行動を抜かないことが大切です。そうでなくては何のためにこ の分析をしたのかの意味がなくなります。多少のむずかしさはあっても、目標実現にどう いうアクションが必要かの視点を見失わないことです。
3 条件を明確にする
誰(と誰)が、何を、どこで、いつからいつまで、どれだけ、どういう手順で等々を決定 していくに当たって、
《前提条件》どういうことを前提に考えなくてはいけないか
《制約条件》どんな制約があるか
《使用条件》どういう状況、条件で、実行しなくてはいけないか
があれば、明確にしておくことができます。これによって、選択がピンポイントに限定さ れます。
2. 融合と学際
融合とは、性質の異なる二つ以上のものがとけて合わさりひとつになることと言われて います。例えば農学と工学の融合による植物工場や新エネルギーの開発などがあげられま す。また、学際とは、研究などがいくつかの異なる学問分野にまたがって関わる様子を示 しています。これらの言葉と総合化との関係は一概には言えませんが、少なくとも「水土 の知」の領域においては、融合や学際よりも広く、複雑で高度な科学/技術の意味を有し ていると考えられます。また学際的な分野を融合研究で取り組むといった表現もあります。
融合
融合という分野の異なるものが、その境界を超えて研究に取り組むのは、境界を壊すため に行うのではなく、システムとして有益な目的があるからです。境界によって分かれた複 数のセクターの利害が一致することが大切です。
境界があるということは、コンセプトや用語がわかれているということに他なりません。 問題解決の思考方法、研究手法なども異なることが多くあります。思考方法、手法は、他 の分野にとっても有益なことがおおくあるため、無理に統一する必要はありませんが、共 通のコンセプト、目標の確立や用語の統一を可能な限り行うことが望ましいです。
さらに、境界を超えた研究ツールの開発も大切です。研究を進める上でも、成果を評価 する上でも、実験、実証試験は必要不可欠です。
作物に有用な水は水質も水量も必要なツールですが、作物に有用な土となれば、微生物、 化学などの尺度が必要となります。しかし、最終的には質のよい安全な農作物となるとそ の評価尺度は農産物そのものの量と質が問題となってきます。共通のツールを見つけるこ とは意外と困難を伴う場合が多くあります。
そして、境界を超えた研究には、部分の最適化ではなく、全体の最適化が必要となりま す。そのためには部分の最適化を抑えたり、組み合わせを工夫したりすることも必要にな ります。また犠牲となるような代償も新たに支払わなければならなくなることさえありま す。全体を俯瞰する、観察する力が必要となります。
学際
「学際」interdisciplinaryとは、本来、学問の一専門領域とそれに隣接する他の領域の間に 存在する中間領域を意味します。したがって、その中間領域の研究を試みようとするのが 学際的研究ということになります。
しかし一般的には、学際的研究は、一つの目的と関心のもとに、多くの隣接する学問領 域が協業して研究するものとされています。実際に協業的研究に基づく学際的研究は、公 害問題から平和研究、さらに宇宙開発などさまざまな領域において行われ、それなりの成 果をあげつつあります。
こうした学際的研究が要請される背景には、これまでに専門化、細分化を進行させてき た学問のみではとうてい対処できない問題が今日の社会のなかで噴出し、それらの解明が 急務とされるようになったことがあげられます。それゆえに、社会からの現実的要求は学 問の総合化志向を生み出し、各専門領域において達成してきた成果の結集を強く求めるこ とになっています。
今後、学際的研究は広範な分野においてその必要性を高めることはいうまでもありませ ん。しかし、同研究において重要なことは、どの学問領域を協業させるかという点であり、 研究の具体的目的にとらわれすぎて協業の範囲を少なく限定することのないように注意す る必要があります。つまり、各研究テーマに対して、自然、社会、人文の各科学を網羅し た異専門間協業を図りうるよう努力することが必要です。
学際研究を進める上で、最初に取り組みやすい方法を二つ紹介します。
1 「呉越同舟」アプローチ
例えば、異なった専門用語を使用している自然科学と人文・社会科学分野の協同として、 課題のある現場を調査する場合、全行程を同行し、すべてのイベントを共有体験する「完 全な共同」フィールド調査があります。参加者全員が、意見を交換し、議論を共有する場 を確保して目標と課題を共有するのです。
2 ピンポイント・アプローチ
焦点を絞った学際的研究により、多様な現実を複合的に捉え、多面的に解釈し、包括的 な戦略を提示することができます。ただし、多様で複雑、かつ膨大な対象を多面的に分析 することは実質的に困難なところもあります。
3. 川上と川下
川上と川下という言葉は、直接河川における上流と下流という関係にとどまらず、生産 者と消費者、農村と都市のような関係についても使われることがあります。科学/技術を 総合化する場合にも、広く俯瞰するためには、この川上と川下という視点での捉え方が大 切になります。
川下にある都市生活の恩恵は川上が支えます。生活に欠かせない毎日の上水道の水をは じめ工業用水や農業のかんがい用水も川上から流れ下る河川に依存しています。また、豊か な森林や河川は、漁業資源の育成にも役立っています。過疎化と高齢化が進んで川上流域だ けでは支えきれなくなった国土の保全を、川上と川下が一体となって「流域単位」で相互に 支え合うシステムづくりが進んでいます。
都市部からは、豊かな自然、夜神楽や椎葉平家まつりなどすぐれた伝統芸能を求めていこい の空間として都市と農山村が交流し合います。また西米良村では、都市部との交流や山村の 活性化を目指す「ワーキングホリデー」など山村おこしの新しい取組がはじまっています。 グリーン・ツーリズムのうねりが宮崎県に広がって交流の輪が広がり、国土を守る運動につ ながります。
川上と川下が一体となって. 国土保全を支え合うシステムづくり. 川上と川下が連携して 初めて大河が維持されることを認識する必要があります。
森林と木材の循環をうまく回していくためには、木材を生産する川上の「もり」と木材 を利用する川下の「まち」の連携が必要です。この流れに携わる方々の業種は多様ですが、 これらの業種間のネットワークを充実させることは、各業界、地方の活性化にもつながり ます。
国産材が生産されて住宅に利用されるまでの流れを、それに携わる業種と共に図として 示しました。また、 この図は同時に、現在の標準的な構法で建てられた30坪程度の木造住 宅に利用される木材が、各業種にどのように関連するかを示しています。30 坪程度の日本 の一般的な木造住宅に蓄積されている約20m3の木材を生産するために必要な丸太は、約2 倍の40m3です。これは、丸太から製材品等を加工する工程で、半分が端材やおがくずとな るためですが、これらは、燃料やパルプチップ等に利用されます。
30坪の木造住宅1棟に必要な良質な丸太を確保するためには、数倍の量の丸太が必要と なります。これは、伐採された丸太全てが製材に適した良質な材ではないからです。
一方、日本で最も蓄積量の多いスギの7〜9齢級(31〜45年生)の人工林1ha当たりの蓄積量 は、全 国平均で約311m3とされています。これらの森林から間伐の際に出される丸太を 製材品に使用することを前提とし、間伐対象となった木材材積割合や、良質な丸太の割合 を勘案すると、 30坪の木造住宅1棟に必要な丸太を産出するには、約2haの人工林が必要と なります。
効果
1 地方・地域の活性化
木材の生産は森林資源が豊富な地方で行われる一方、住宅や建築に蓄積される木材は、 その多くが都市部に存在します。したがって、森林・木材の循環を強化する試みは、その まま地方・地域の活性化につながります。
2 木材の循環の担い手・大工の育成
住宅や建築を長持ちさせ、木材の循環を適切に保つには、大工・棟梁といった技能者に よる維持管理・更新が欠かせません。
各地においては、技能者を育てるための専門校や大工塾が展開され、また、大工・工務店 と設計者、木材販売業者、製材業者、木材生産者の連携を模索する動きも出てきています (「顔の見える木材での家づくり」等)。
こういった活動に対する行政による支援は今までも行われてきましたが、今後は、森林と 木材の循環を考えたより広い視点での支援が必要となっています。
3 長期優良住宅と木材の循環
国産材を多く利用するためには、住宅の寿命が短い方が良いのではないかという疑問が 生じますが、森林の質を保ちながら循環させることを考えると、住宅の長寿命化は重要で す。住宅の寿命が30年程度では、木材が生長する時間がありませんが、住宅の寿命が100年 になれば、それに利用する木材も十分に育ち、その木材が形成していた森林の環境も長く 良好な状況が保てます。また、こうした森林から生産される地域材を活用することにより、 地域の大工・工務店や林業・木材産業など多くの関連産業を通じた地域の活性化が期待さ れます。
4. デジタル化の科学/技術における意味
現代はデジタル社会と言われています。インターネットをはじめとするITすなわち情報 技術の急速な発展ぶりを眺めれば、そういう言葉が出てくるのも当然かもしれません。今 やITは生活のあらゆる面に浸透しています。
デジタル社会の特徴とはいったい何でしょうか。便利で効率がいい、という点がまず思 い浮かびます。かつては職場の書類はほとんど手書きでしたし、それを送るにも郵便が大 半でした。今はパソコンで作成し、電子メールで送るのが当たり前です。調べ物があると きは、昔のようにいちいち図書館に行かなくてもネットで検索できます。誰かに緊急の連 絡をとるにも、携帯電話ですぐ相手をつかまえることができます。
しかしまた一方、この便利さゆえに、私たちの生活がとても忙しくなったことは確かで しょう。休日でも、旅行中でも、電子メールや携帯電話でひんぱんに仕事の連絡が入って きます。いつでもどこでも、気の休まる暇はありません。またパソコンはよく故障します し、ネットがつながらないこともあります。そうすると予定が狂って混乱してしまいます。 デジタル社会では文書ファイルの数や種類も一挙に増え、その管理だけでも大変です。パ スワードなどを含め、管理は原則として自己責任なので、うっかりして貴重なデータを失 ったりしないよう、常に気を配らなくてはなりません。
こうしてデジタル社会では、便利さと引き替えに不安やストレスもまた増大していくの です。いや、あえて言えば、私たちは今や、「忙しくするために忙しくする」という自己 循環に陥ってはいないでしょうか。
デジタルとは何か
英語のディジットとは「指」のことです。指を折って数えることから、デジタルとは「数」 を表す言葉です。ですから、デジタル社会というのは実は「数値社会」に他なりません。 コンピュータというのは基本的には数値を扱う計算機械であり、したがってコンピュータ が活用される社会では、世の中のあらゆる対象が数値で表されることになります。
近年、組織や個人を数値で評価し、比較する傾向が非常に強くなってきました。このこ とはいわゆる市場原理と結びついていますが、それだけでなく、デジタル化とも深く関係 しています。定量的なデータにもとづいて競争させ、高い点数をとったものを選択するこ とが、もっとも客観的で合理的な方法だと信じられています。しかし、そこに落とし穴は ないのでしょうか。
企業では、よい製品やサービスを提供することより、売り上げや利益を増し、株価をつ りあげることが第一目標となります。従業員も、自分の業績の数値を向上させ、ノルマを 達成しなくてはなりません。学校も同じことです。教師は学生とのコミュニケーションよ り、さまざまな評価書類を作成し、数値的なデータを整理する作業に追いまくられます。 学生はともかく試験の点数をあげることが第一で、学ぶ楽しさなどどこかに行ってしまう のです。
こうして集められた数値データは、コンピュータで自動的に計算処理され、表やグラフ の形で提示されます。その結果をもとに、再び人間の行動計画がたてられていきます。つ まり、デジタル社会の中心は人間ではなく、高速回転する計算処理のメカニズムそのもの なのです。われわれ人間はすべて、その部品と化してしまうのです。これは、投資家も、 経営者も、労働者も、消費者も例外ではありません。チャップリンのモダンタイムズは肉 体労働の機械化を諷刺した映画ですが、今では知的活動をふくめ、人間のあらゆる活動が 機械化されてしまうのです。
デジタル社会の特徴は、欲望が際限なく増していくことです。そもそも、欲望とはデジ タルではなくアナログなものであり、一定程度みたされると飽和するのが普通でした。ど んなにおいしいご馳走も、お腹が一杯になるともう食べられません。食欲だけでなく、性 欲も睡眠欲も同じことです。アナログな欲望には生理的にストップがかかるのです。けれ ども欲望は、身体的・物質的なニーズを基盤としているものの、社会的な影響のもとにつ くられます。そしてデジタル社会では、欲望がどこまでも膨張していく恐れがあるのです。 百万円より一億円、さらに百億円、一兆円と、数値の桁はいくらでも増していきます。企 業の利益だろうと、個人の所得だろうと、数値を増していく操作に限りはありません。ア ナログとデジタルとでは、本質的な違いがあるのです。
先日のジェネラルモーターズの没落とサブプライムローンの破綻は、この違いを象徴し ていないでしょうか。キャデラックのように排気量の大きい豪華なクルマを運転したいと いうのは、物質的でアナログな欲望です。これは、ある程度みたされると飽和します。私 自身、若い頃、アメリカで大きなクルマを借りて乗り回した経験がありますが、しばらく すると飽きてしまいました。アメリカでは1980年代からコンパクトで燃費のよいクルマが 求められるようになりましたが、ジェネラルモーターズの没落の原因の一つは、そういう アナログな欲望の飽和に対処できなかったからだと考えられます。その後おくれてコンパ クト・カーを作ったものの、消費者のニーズを経営者がとらえ損なったわけです。
一方、サブプライムローンの破綻はまったく性格が異なります。これは土地や家屋とい うアナログな物質が、証券価格というデジタルな数値に変換され、それを操作して際限な く値をつりあげていくことが目的となりました。膨大な入力データと複雑な計算式にもと づき、コンピュータのなかで算定される金融商品の価格変動は、誰にも予測がつきません。
デジタルな欲望には歯止めがかからなくなってしまうのです。この結果、恐ろしい破綻が 起きてしまいました。その責任を、投資家や金融業界だけに負わせることはできません。
言うまでもなく金融もITも現代には不可欠ですし、組織や個人を数値で評価する方法が 有効な場合もあるでしょう。しかしそれらはあくまで、生き物であるわれわれ人間がより よい生活をおくるためのものです。われわれの欲望とは本来はアナログなものであり、飽 和するからこそ、生物はこれまで生きて来られたのです。
数値を究極の目標にするのではなく、人間が本当に必要とする目標に気づかなくてはな りません。人間を機械化しないITが、いま求められているのです。
科学/技術の総合化に向けても、自然を畏れ、敬い、自然の恵みの中で調和した営みが 人間が本来必要とする目標であることをアナログ的に知ることが大切です。
5. 常識の非常識
非常識とは、常識的でないこと、社会構成員として必要とされる価値観・知識・判断力 を欠いていること、またその人のことを言います。しかし、ここでは、本来当たり前であ ると認識していた事柄が、一歩視点を変えると非常時となることがあるという立場で話を します。
おやじの味
『女流作家』とは言いますが、『男流作家』とは言いません。それは『作家』は男がなる もの・・・と思われているからでしょうか。他にもあります。『女医』『女子大生』『女 社長』『婦人警官』などなど。これらも医者、大学生、社長、警官は男だと思われている からですか。
逆に、『教育ママ』や『おふくろの味』と言うのは、子供の教育や食事を作るのは母親 の仕事とされているからでしょうか。あなたはどう思いますか。一件当たり前のように認 識していても、それが現代社会においては、非常識になっていることが多くあります。そ のように考えられると、また新たな発想が生まれてくるものです。
高地トレーニングはボートに役立たず
高地トレーニングとは2000m級の高地、即ち空気中の酸素分圧の低いところで主に持久 力のトレーニングと定義できます。希薄な空気中でトレーニングすることにより酸素摂取 能力を向上させ、その結果として持久力能力を高めようとするものです。その持久力向上 はどのような体の順応が得られた結果かを考えないことにはすべてのスポーツの持久力ト レーニングに応用できません。先ず持久力を構成する要素をまとめると次のようになりま す。高地トレーニングでは主に肺のガス交換機能、赤血球(ヘモグロビン)量の増加によ り酸素摂取能を高めることに目的があります。しかし、酸素摂取運搬(トランスポーテー ション)能力は健康であれば充分の余力を備えています。つまり、運動時は体温の上昇、 血液のpHの変化、CO2等による末梢での血液からの酸素供給(酸素乖離)上昇、肺換気、心 拍数の増加等々により、安静時の20倍は容易に越えることができます。
ボート選手は2000mレース中で呼吸困難に陥り漕げなくなった経験はないと思います。 つまり、トランスポーテーションは足りているのです。ボート選手が高地トレーニングま でを行って赤血球を増やす努力がどれほど効果的なのか考えるべきです。このことでボー トの選手にとって大切なのは健康である(貧血、心肺の病気の有無)ことをチェックする ことで足ります。
反対に高地では疲労を溜めやすく、専門スタッフの監視のなかでやらないと失敗する恐 れがあります。トレーニング量が稼げないためにユーティリゼーショントレーニングが不 足することも痛いです。
さらに漕艇運動(特に技術不足の場合)では座位のため充分に大きな筋肉を動員して漕 ぐことは高度の技術を要します。このため最大心拍数(HRmax)がランニング時のように生 理的限界まで上昇しないことが多いのです。つまり、酸素運搬能力が漕能力を制限してい ることは考えにくいのです。逆に大量の筋肉が動員し易いと思われるスポーツの自転車、 ランニング、水泳等全身運動 の種目においては漕艇より高地トレーニングの効果が期待で きるでしょう。
結論として、低地でロングを漕ぎながらユーティリゼーション能力とテクニックをつけ、 筋肉の動員量を増やすことに並の選手は専心するべきです。
常識はすべて捨てなさい
農家の木村秋則氏は絶対不可能といわれたリンゴの無肥料、無農薬栽培を成功させまし た。苦難の時代に米と野菜の無肥料、無農薬栽培も会得し、自然栽培の技術はほぼ終着点 に近いところまで来たと言います。この木村氏の3つの提言は、次のようなものです。
1 すべては観察から始まります。ずっと見ていることが大事です。
2 農業では非効率なものが効率的なものになることがあります。
3 狂うほどバカになって取り組めば必ず答えは見つかります。
木村氏の畑では、あえて雑草を伸び放題にしています。畑をできるだけ自然の状態に近 づけることで、そこに豊かな生態系が生まれるといいます。害虫を食べる益虫も繁殖する ことで、害虫の被害は大きくなりません。さらに、葉の表面にもさまざまな菌が生息する ことで、病気の発生も抑えられます。
木村氏がやることは、人工的にりんごを育てるのではなく、りんごが本来持っている生 命力を引き出し、育ちやすい環境を整えることだそうです。害虫の卵が増えすぎたと見れ ば手で取り、病気のまん延を防ぐためには酢を散布する。すべては、徹底した自然観察か ら生まれた木村氏の流儀なのです。
「私の栽培は目が農薬であり、肥料なんです」りんごが実るまで長く壮絶な8年間、木村が農薬も肥料も使わない栽培を確立するまでには、長く壮絶な格闘がありました。か つて、農薬を使っていた木村氏。しかし、その農薬で皮膚がかぶれたことをきっかけに、 農薬を使わない栽培に挑戦し始めました。しかし、3年たっても4年たってもりんごは実 りませんでした。収入の無くなった木村は、キャバレーの呼び込みや、出稼ぎで生活費を 稼いだそうです。畑の雑草で食費を切りつめ、子供たちは小さな消しゴムを3つに分けて 使う極貧生活となったようです。6年目の夏、絶望した木村は死を決意しました。ロープ を片手に死に場所を求めて岩木山をさまよったそうです。そこでふと目にしたドングリの 木で栽培のヒントをつかむ。「なぜ山の木に害虫も病気も少ないのだろう?」疑問に思い、 根本の土を掘りかえすと、手で掘り返せるほど柔らかかったそうです。この土を再現すれ ば、りんごが実るのではないか?
早速、山の環境を畑で再現しました。8年目の春、木村の畑に奇跡が起こりました。畑一面を覆い尽くすりんごの花。それは豊 かな実りを約束する、希望の花でした。
当たり前のことが当たり前でなくなったのが今の農業です。昔は種もみ用のイネは優し く脱穀しました。脱穀の時にもみの傷ついたところから雑菌が入ると、ばか菌という病気 が発生し、不発芽や立ち枯れ病を生じるからです。今の脱穀は、コンバインが一定の回転 で能率良く処理します。種もみを傷つけないためには、コンバインの回転を少し抑えてや ればよいのですが、それをやりません。
農家では病気を防ぐため、種もみの消毒を行いますが、みな漫然と昔からやられていた からと答えます。防止するには塩水選や温湯消毒がありますが、私は泥水(土壌菌)で行 います。イネ作りの最大のポイントは、必ず田を乾かしてから春に耕起することにありま す。田起こしに湿った土では失敗します。乾いた田は好気性菌が働きます。私には土壌菌 が喜んで活躍する姿が想像できます。練りあんのようにトロトロになるまで代掻きをする 人がいますが、これも人間の勝手な想像です。粗末な方が間違いなくよいのです。 科学/技術の総合化にも非常識な視点が必要であると考えます。  
 
 

 
●GAFA (ガーファ) 
●GAFA 1 
世界的に個人データを圧倒的な規模で集めている勝ち組企業のことをいいます。これは、検索エンジンやクラウドなどを提供する「Google(グーグル)」、デジタルデバイス(iPhone・iPad・Mac他)やソフトウェアなどを提供する「Apple(アップル)」、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を提供する「Facebook(フェイスブック)」、世界最大のネット通販(電子商取引)を運営する「Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)」の4社の頭文字をつないだ呼称(造語)となっています。
インターネット時代において、検索や情報発信、買い物の履歴などの膨大な個人データが企業に蓄積され、事業に活用される中、GAFAは、個人データを集約して活用するプラットフォーマーとして、それぞれの分野で市場を席巻しています。その一方で、市場での公平な競争を阻害するとの懸念も上がっており、実際、日本においては、2016年12月に成立した「官民データ活用推進基本法」は、データ活用に関するGAFAへの危機感が背景にありました。  
●GAFA 2 
グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社のこと。頭文字を取って称される。いずれも米国を代表するIT企業であり、4社は世界時価総額ランキングの上位を占めている。また、世界中の多くのユーザーが4社のサービスをプラットフォームにしている。
グーグルは、検索エンジンやオンライン広告事業を始め、スマートフォンの基本ソフト(OS)である「Android」や「Pixel」ブランドのスマートフォン、スマートスピーカーの「Google Home」などの開発を手掛ける企業。アップルは、スマートフォン「iPhone」や、タブレット「iPad」、パソコン「Mac」などのハードウエアメーカーである他に、クラウドサービスの「iCloud」や、iPhoneやiPad用のアプリケーションを提供する「App Store(アップストア)」などの開発、販売を行っている。フェースブックは、世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)である「Facebook」を運営しており、アマゾンは、世界最大のインターネット通販サイト「Amazon」を運営する他、電子ブックリーダー端末の「Kindle(キンドル)」や、スマートスピーカー「Amazon Echo(アマゾンエコー)」の開発、販売を行っている。
4社に共通するのは、いずれもプラットフォーム企業である点だ。プラットフォーム企業とは、商品やサービス、情報を提供する基盤となる企業で、世界中の多くのユーザーが、4社の提供するサービスをプラットフォームとして利用している。ここで重要なのは、ユーザーは単に4社のサービスを利用しているだけではなく、氏名や住所、「何を購入したか」「何に興味を持っているか」などの個人情報を4社に提供している点だ。これら個人情報は、文字だけでなく、音声や写真、動画を始め、利用状況や通信記録などのログと呼ばれるものも含む、大容量のビッグデータと呼ばれるデータであり、4社は、これらビッグデータを分析し活用している。したがって、GAFAのサービスは、ユーザーの生活を便利で豊かにしてきた反面、個人情報を独占していることが世界各国の懸念材料になっている。日本では、2016年12月にGAFAへの対抗策ともいえる「官民データ活用推進基本法」が成立した。同法によって、特定の企業や団体がデータを囲い込むことがないように、国や自治体のデータを積極的に民間へ公開すると共に、企業間でも互いのデータを共用し、分析効率を高めようとする「オープンデータ」による戦略を推進、実践している。
一方、欧州連合(EU)では、18年5月に「EU一般データ保護規則GDPR(General Data Protection Regulation)」が施行され、個人情報の収集、開示、保管などを行う事業者は、データ保護に関する多くの義務が課せられることになった。  
●GAFA 3 
GAFAの意味
GAFAとは、売上・利用者数が桁違いの規模を誇るグローバルIT企業4社(Google・Apple・Facebook・Amazon)を総称する造語です。
4社の時価総額は2018年には3兆ドル(日本円で約330兆円)にまで上り、世界の多くの国においてすでに社会インフラとして市民生活にとって欠かすことのできない存在になっています。
GAFAはTVやニュースの報道などでは一般的に「ガーファ」と発音されます。4社のイニシャル(頭文字)をとってGAFA(ガーファ)です。
GAFA企業の概要
GAFAのG - Google(グーグル)
Googleの主な事業は皆さんもご存知のように検索エンジンですが、それ以外にも、モバイルOSのAndroid(アンドロイド)や動画共有サービスのYoutube・Googleマップ・Gmailなど実にさまざまなオンラインサービスのほとんどを無料で提供しています。
近年では、自社ブランドのスマートフォン「Pixel(ピクセル)」や自動運転車の「Waymo(ウェイモ)」、スマートスピーカーの「Google Home」などハードウェア開発にも力を注いでいます。
また、第三次AIブームの火付け役となり囲碁のプロ棋士を破ったことでも話題となったディープマインドもGoogleの傘下企業の一つです。
GAFAのA - Apple(アップル)
Appleの代表的な製品といえば日本で最も普及しているスマートフォンであるiPhone(アイフォン)ですが、その他にもタブレット端末のiPad(アイパッド)、Windowsと双璧をなすパソコン(iMac・MacBook Pro)でも有名です。
また、Apple Watch(アップルウォッチ)・Apple TV(アップルティービー)など完成度の高い革新的な製品を数多く手がけ、Apple信者と呼ばれる熱狂的なファンの存在もApple社の社風を物語っています。
これらハードウェア事業を基盤に、クラウドサービスの「iCloud」やアプリのダウンロードができる「App Store(アップストア)」などデジタルコンテンツ分野にも進出しています。
Apple最大の強みは、これらハードウェアとソフトウェアの融合と、卓越したブランディング及びマーケティングの力によるところが大きいと評価されています。
GAFAのF - Facebook(フェイスブック)
Facebookは世界最大のSNSとして月間アクティブユーザー数(月に1回以上ログインした人)が22億人以上を誇るなどすでに不動の地位を獲得していて、世界の利用者数は今も右肩上がりを続けています。
また、Instagram(インスタグラム)やWhatsApp(ワッツアップ)といったスタートアップ企業を次々と買収していることでも知られ、特にモバイル市場におけるコミュニケーション分野への投資に積極的です。
さらに、世界のアプリダウンロード数ランキング(2018年までの10年間)ベスト5のうちの4つが、フェイスブック及び傘下のインスタ・ワッツアップ・Facebook Messenger(フェイスブック・メッセンジャー)で占められており、もはやソーシャルメディアの世界では一人勝ちとまで言われています。
GAFAのA - Amazon(アマゾン)
Amazonの主力事業が世界最大のインターネット通販サイト「Amazon.com(日本ではAmazon.co.jp)」であるのは既知の事実ですが、近年は「個人間での出品・取引ができるマーケットプレイス」「動画・音楽・マンガなどが読み放題になる会員制サービス(Amazonプライム)」での売上が急拡大しています。
また、2018年の世界長者番付において総資産1120億ドル(約12兆円)で世界一位になったジェフ・ベゾスがCEO(最高経営責任者)を務めることでも有名です。
さらに、スマートスピーカーの「Amazon Echo(アマゾンエコー)」、無人コンビニの「Amazon Go(アマゾンゴー)」、電子書籍サービスの「Kindle(キンドル)」など新しいサービスを次々と発表しています。
GAFAの共通点
GAFA4社に共通しているのは、広く社会に浸透しプラットフォーム企業としての地位を確立している点です。
こうしたプラットフォーマーはその圧倒的な開発力と資金力で市場の大部分を独占し、もはや私達の生活になくてはならないインフラの一部となっています。
さらに、AI・IoTといったIT分野のみならず、積極的な企業買収を通じて金融(フィンテック)・ドローン・ヘルスケアなどの異業種にも進出しそれぞれの産業において覇権争いを繰り広げている点にも注目が集まっています。
GAFA4社の時価総額3兆ドル(約330億円)を国別GDPと比較した場合、1位アメリカ・2位中国・3位日本に次ぐドイツやイギリスと並ぶ規模となっています。
また、2018年にはAppleとAmazonが相次いで世界初の時価総額1兆ドル超えを果たし話題となりましたが、この金額は日本の国家予算100兆円にも匹敵するものです。
GAFAの問題点
GAFAはその圧倒的な規模でユーザーを囲い込み市場を独占しているという指摘がされています。GAFAの何が問題なのか?どんな影響があるのか?続いてはGAFAの問題点について解説します。
1)個人情報の扱い
GAFAのサービスを利用する際に必要となるアカウントには「氏名・生年月日・クレジットカード情報」だけでなく「どういったキーワードで検索をしたか」「何を購入し、何に興味があるか」「誰とどんな会話を交わしたか」といった個人情報が蓄積されています。
こうした膨大な情報はビッグデータと呼ばれ、ユーザーの趣味嗜好に合わせたおすすめ情報に生かされるなど、サービスの向上に欠かすことのできない重要な要素となっています。
しかし、過去には「数千万人規模での個人情報の流出事件」が報道されるなど、GAFAにおける個人情報の扱いやプライバシーへの配慮の低さが度々クローズアップされてきたのも事実です。
2)税金
さらに、GAFAに代表される多国籍IT企業は店舗を構えるようなオフライン事業とは違い、オンラインでのビジネスを中心としています。
GAFAはこうした特徴を最大限に利用し、タックスヘイブンと呼ばれる極端に税率の低い国に本社を移転するなど他業種では真似のできない特殊な節税策を講じています。
その結果、実際に収益を上げている地域に収めるべきだった本来の税金が少なすぎるとして「課税逃れ」「税金逃れ」であるという批判が度々あがっているのです。
GAFAへの対策
上記のような問題に対抗するため、GAFAの本拠地であるアメリカ以外の国において、何らかの規制をすべきであるという議論が巻き起こっています。
日本の取り組み
日本では、2016年12月に「官民データ活用推進基本法」というGAFA対策法ともいうべき法案が成立しました。官民データ法の基本理念は「オープンデータ」と呼ばれ、個人データを匿名化した上で積極的に利活用を進め社会の発展に貢献させるというもので、いわばGAFAによるデータの囲い込みに真っ向から対抗するものとなっています。
欧州の取り組み
EU(欧州連合)は2018年5月、個人情報の保護を目的に「EU一般データ保護規則(通称:GDPR)」というルールを制定しました。GDPRの発効により、欧州経済圏から第三者地域への個人データの移動は原則禁止となり、違反した場合は多額の制裁金が課されることとなりました。
デジタル課税
GAFAのような巨大なIT企業に対して、国内の売上の数%を直接的に徴収するデジタル課税という議論がヨーロッパ諸国を中心に進んでいます。イギリス・フランス・スペインなどを筆頭に、こうしたデジタル課税の導入に前向きな動きを見せる国も登場しています。
GAFA離れ
個人レベルでの対策に動き出す人たちも出始めていると言われています。無料の裏に隠されたリスクに目を向け、GAFAのサービス利用を中止する、場合によってはアカウントごと削除しGAFAとの一切の関係を断ち切るという、まさにGAFA離れとも呼ぶべき運動です。「GAFAに個人情報を握られている」という重大な問題に向き合うための新しい風潮の一つなのかもしれません。  
●「GAFAの恐ろしさ」 
Google、Apple、Facebook、Amazon――GAFA。現在の世界で最も影響力があるのが、これらの4社だ。これら4社は私たちの生活とビジネスのルールを根本から変えつつあり、これからも変え続けるという。そんなGAFAの強さの秘密を明らかにし、その影響力に警鐘を鳴らす書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』がいま、世界22カ国で続々と刊行され、話題を集めている。本書を読み、「本書に日本の大手インターネット企業が一度も登場しないことが気がかりだ」と指摘する塩野誠氏に、読みどころを解説してもらった。

あなたの生活は「地上の人間を殺す権威」を与えられた「四騎士」にコントロールされている。ヨハネの黙示録になぞらえて現代の「四騎士」とされる巨大企業を、人々はGAFA(ガーファ)と呼ぶ。そう、あなたもよく知っている、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンである。
『the four GAFA - 四騎士が創り変えた世界』(画像をクリックすると特設サイトにジャンプします)
本書の著者スコット・ギャロウェイ氏は、多様な背景を持つ大学教授だ。オンライン通販会社の株式上場を経験した起業家、そして投資家であり、懐かしい方もいるであろうゲートウェイ・コンピュータの役員を務めた経験もある。
さらに、ファッションブランドのエディー・バウアーでも役員を務め、ニューヨーク大学経営大学院(MBA)ではマーケティング論、ブランド戦略を教えている。
著者のつくったオンライン通販会社はアマゾンによって息の根を止められたという。著者が投資を行い、経営改革に乗り出したニューヨークタイムズ社のコンテンツはグーグルによって一瞬にして検索結果の奥底(下位)へと飛ばされた。四騎士たちGAFAを語るには、ギャロウェイ氏ほどうってつけの人間もなかなかいないだろう。
本書は、神にも擬せられるほどの力を持つようになったGAFAについての力作だ。その歴史とビジネスモデルを詳細に分析し、GAFAが支配する世界で企業はどうすべきか、個人はどう学び、どういうキャリアを目指すべきかを語っている。GAFA以後の世界について学ぶことは、現代人の必修科目だと著者は言う。
著者はMBAの2年生になった学生たちに、そんな講義を行っているようだ。既存のMBA2年目の授業は、教授陣に支払われる「年金」収入を支えるためのプログラムに過ぎないと主張し、生きた知識を教えるべきだと指摘している。
評者が人生で最初に触ったコンピュータは、1984年に誕生したApple IIcだった。グーグルの知名度がまだ低く、インターネット界隈で働く人間しか同社を知らなかった2000年ころには、同社をグルグルと誤って呼ぶ人間も多かった。
そんな経験を持つので、その後のGAFAの爆発的な成長、そして人々の生活スタイルを変えるまでに至った影響力について、常日頃から考えさせられている。
なぜ彼らはここまで成長できたのか? 彼らの影響力の源はどこにあるのか? 彼らは世界をどう変えたのか? 彼らが存在するこれからの世界はどうなっていくのか? 彼らに続く第五の騎士は、この後現れるのか?
評者を含む多くの人たちが抱くであろうそんな疑問に、真正面から答えてくれるのが本書だ。といっても、本書の分析は学者による堅苦しいものではない。GAFAについて、その「セクシーさ」や「かわいげ」についてさえも言及している。
たとえばこんな記述がある。著者はアップルの故スティーブ・ジョブズをイノベーションエコノミーのキリストのような存在だと述べ、アメリカ政府と国民がアップルを甘やかしていると見る。そして、「テクノロジー企業から高級ブランドへ転換する」というジョブズの決定を、「ビジネス史上、とりわけ重要な――そして価値を創造した――見識だった」と看破する。
なぜならその決定により、アップルというブランドの製品を持った人間は、世界で最も評価される、「イノベーティブな人間である」という評価を得られるようになったからだ。著者は、アップル製品を「モテるためのツール」と見立てるのだ。そして、格安で作れる製品に高い付加価値をつけることに成功したとして、アップルを讃える。
一方、著者は格安パソコンのデルを使っているようでは、異性へのアピール度が下がるだろうという、デルユーザー、関係者に同情したくなるような見解も述べている。
また、規模的にはGAFAを目指せる位置にいる中国企業アリババについても、「不可解なガバナンスと『親会社』である中国の悪印象のために共感を生みにくい」とブランド価値の劣後を指摘する。
GAFAは私たちの生活のインフラのようなものとなり、私たちのGAFAへの依存度は高まる一方だ。彼らは私たちにメリットだけをもたらしてくれるわけではない。
私たちは、GAFAに対して、「善良でないと知りつつ、最もプライベートな領域への侵入を無防備に許している」のだ。それも、GAFAが持つ圧倒的なパワーゆえだろう。
著者はアマゾンをロボティクスで武装した倉庫付きの検索エンジン、そして地球上最大の店舗ととらえる。買い物をするとき、人はグーグルでなく、アマゾンで検索をするようになっている。そしてアマゾンは、そのストーリーテリングの上手さから、安い資本を長期的に手に入れていると指摘する。
アップルのビジネスモデルの肝は、前述したとおり、ビジネス界の常識を打ち破って、低コストの製品をプレミアム価格で売るのに成功したことだろう。
フェイスブックはどうだろうか。著者によると、世界人口75億人のうち、12億人が毎日35分はフェイスブックを見ている。普及率と使用率を基準にすれば、同社は人類史上、最も成功している企業だと著者は言う。
グーグルに至っては、「現代人の神であり、我々の知識の源である」として、歴史上、ここまで世界中のあらゆる問いかけがなされた権威は存在しなかったと言う。検索エンジンに入力される質問は1日に約35億。その6つに1つは、それまで誰も問いかけることのなかった問いだそうだ。グーグルは、それほどの「信頼」を一身に受けているということだ。
圧倒的な力を持つGAFAであるが、GAFAの敵はまさにGAFAだ。私も含め、そこに異論を持つ方は少ないだろう。グーグルは製品の検索でアマゾンと争い、フェイスブックは広告の精度でグーグルと争っている。GAFAは私たちの生活のオペレーティング・システムになるべく、互いに壮絶な戦いを展開していると著者は指摘する。
生活のオペレーティング・システムに入り込む例として、アマゾンのアレクサを挙げ、広告会社、消費者企業のブランドマネージャーの消滅を著者は予測する。アレクサはある時から「他に商品が見つかりません」と答えるようになる。そして私たちは、アマゾンのプライベートブランドを買うようになるのだ。
またフェイスブックは、あなたの「いいね」が150件わかれば、あなたの配偶者よりもあなたのことを理解し、300件になれば、あなた以上にあなたを理解できるのだという。これだけの影響力を持つメディアであるフェイスブック、そしてグーグルは、メディアであることを拒否し、「プラットフォーム」と呼ばれようとしている。
グーグルはより一層、神へと近づき、人々の検索履歴から犯罪予測さえも行えるようになるだろう。それは映画『マイノリティ・リポート』で犯罪を予測する者たち、プリコグが存在する世界である。グーグルのいる世界では、人々は天を仰ぐかわりに、うつむき、スマホを見て、神に祈りを捧げるかのようである。
著者は絶大な力を持った四騎士(GAFA)に挑む第五の騎士としてテスラやウーバーなどの可能性も分析しており、興味深い。
著者は現代をこう考える。「超優秀な人間にとっては最高の時代だ。しかし平凡な人間にとっては最悪である」と。本書の後半ではそんな時代に「個人が成功するために必要な内面的要素」について詳述している。そんななか、もしあなたに「大企業で働くスキル」が欠けているのなら、この不透明な世界で起業することも選択肢として挙げる。
巨大テクノロジー企業が毎日の生活に入り込み、あなたの心の中まで探ろうとする時代だ。本書を読んで、四騎士のいる世界について概観するのも悪くない。むろん、インターネットビジネスに関わる人間にとって本書は必読書である。そして本書に日本の大手インターネット企業が一度も登場しないことが気がかりだ。
だがそれだけにとどまらない。なぜなら、四騎士のいる世界を描いた本書は、ビジネスパーソンだけでなく、あらゆる人々に関係する隠された真実を描いた「黙示録」なのだから。 
●GAFAとアメリカ株の「終わりの始まり」 
S&P500(NYダウと並ぶアメリカの代表的な株価指数)の2013年〜2018年9月末までの上昇分のうち、実にその4割弱はアマゾン、アップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、フェイスブック、マイクロソフト、ネットフリックスの6社がもたらしたものです。
リーマン・ショック以降、世界的に経済成長率の低下が指摘されているなかで、これら6社は新しいビジネスモデルを築いた成長株として、投資家の資金を過剰といわれるほどに集めることができたのです。
しかしながら2018年10月以降、これら6社の株価は総じて下落する基調を強めてきています。2018年7~9月期の決算は概ね好決算といえる内容であったものの、利益率が低下しているということが悪材料視されてしまっているためです。
たとえば、アマゾンやアップルは10月以降からのわずか1ヵ月半で株価が20%近くも下落しています。ヘッジファンドはこれらのIT株に資金を集中させ、市場平均を上回るリターンを得ることができましたが、10月の運用成績はマイナス6%に接近するまでに落ち込み、2008年のリーマン・ショックに次ぐマイナス幅を記録しています。
投資家にとって成長株と位置付けられているIT株の魅力というのは、その利益率の高さと投資(コスト)の少なさにあります。データという無形資産を武器に莫大な利益を稼ぐIT企業は、重厚長大な設備を抱える製造業のように大規模な投資を必要とせず、データを独占するビジネスモデルによって高成長を続けてきています。
それにもかかわらず、過度な節税によって正当な税金を払わないばかりか、他の大企業と比べて極めて少ない従業員でビジネスが事足りてしまうため、社会全体への還元には消極的な姿勢を取り続けてきたのです。
ところが最近では、これらのIT企業に対して、社会と共存するためのコストが求められ始めています。欧州を中心に課税を強化しようとする動きが広がっている一方で、賃上げによるコストや情報監視・情報流出の対策コストが膨らんできているのです。
たとえば、利益を従業員や社会に還元していないと批判されていたアマゾンでは、アメリカ国内の従業員の最低賃金を時給15ドルに引き上げるという決定をしています。大幅な賃上げは11月1日から実施するということですから、2018年10〜12月期決算からコスト増による利益率の低下は避けられない見通しです。
たとえば、偽ニュースの拡散や情報流出の問題が相次いだフェイスブックでは、これらの問題に対応するために新たに社員を増員し、正社員数は2018年9月末で約3万3600人と1年前の約2万人から7割近くも増えています。おまけに、今年に入ってデータの不正利用が発覚した反省から、個人データを第三者に渡さない選択権を利用者に与えるようになり、広告収入の伸びが鈍化してきているのです。
グーグルでも個人情報が大量に流出し、すべてのプラットフォーマーが個人情報保護に関する対策費の積み増しを迫られています。その結果、冒頭に挙げた6社のコストは2013年と比較して優に2倍超に膨らんできているというわけです。
利益率が低下する要因は、これらのコスト増だけではありません。
巨大IT企業はこれまでM&A以外では大規模な投資をする経験が乏しかったので、従来から大規模投資をしてきた大企業のような厳格さは持ち合わせていないようです。そのため、アマゾンが広告事業に新規に参入し、アップルが動画配信に事業の拡大を目指すなど、すでに強力なライバルがいる事業に巨額に資金を投じることによって、利益率の低下が避けられないのは仕方がない状況にあるのです。
さらに、巨大IT企業が無形資産のデータで稼ぎまくっているのに正当な税金を支払っていないとの批判が高まっているなか、先進各国では新たな課税も検討されています。
今までの国際課税ルールでは、国内に支店や工場といった恒久的な施設がない限り、外国企業の売り上げや利益には課税できないという原則がありました。ところが今や、欧州ではIT企業に対して利益ではなく売上高に課税する「デジタル課税」案が浮上しているのです。
実際に、英国が他の国々に先駆けるかたちで、大手のIT企業を対象にしたデジタル課税を2020年4月から導入すると決定しています。大手のIT企業が英国の消費者から稼いだ売上高に対して、一律に2%の税率で課税するというのです。
英国のデジタル課税の導入は、EUがデジタル課税を前向きに進める契機になるはずでしょうし、G20の議論にも大きな影響を与えることになるでしょう。利益率という尺度とは異なりますが、デジタル課税がIT企業の税引き後の利益を抑える要因になるのは間違いありません。
そこへ持ってきて、巨大IT企業がデータを寡占している立場を乱用し、取引先に不利な取引を強いている状況も改められる環境が整備されつつあります。
我が国でも経済産業省が実施した大掛かりな調査によれば、日本の中小企業は巨大IT企業との取引において、不利な取引条件を押しつけられるという実態が明らかになっています。経済産業省の調査を踏まえ、公正取引委員会も問題のある取引や契約がないかを調べる方針だといいます。
何も日本に限らず、多くの国々でIT企業の傍若無人さが認められない状況になっていくことになりそうです。
これらのいくつもの流れを見ていると、巨大IT企業の利益率が今より低下する傾向はもはや止めることができないでしょう。
いよいよアメリカ株の上昇基調を支えてきた成長株としてのIT株への資金集中は、大きな転換点を迎えたといっても過言ではないのかもしれません。過去数年で強気を貫いてきたウォール街でも、GAFMAや FANGと呼ばれるIT株が最高値を更新し続けるような相場に戻るのは困難だろうという見解が増えてきているようです。
成長期待から上昇トレンドを保ってきたアメリカ株は、2019年には本格的な調整の期間に入る可能性が高いと見ております。NYダウとS&P500の双方のチャートがダブルトップの形になり、今年の2月の調整時よりも先行きが不透明になっていることを知らせてくれています。
IT株の成長期待の剥落→アメリカ経済の大減速という経路を辿って、2019年のNYダウとS&P500が2018年の高値から2割〜3割下がることは十分にありえると覚悟しておいたほうが無難でしょう。 
●世界を席巻する「GAFA/BAT」の規制強化、デジタルは世界をどこに導く? 
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や中国のBAT(百度<バイドゥ>、阿里巴巴<アリババ>、騰訊<テンセント>)を代表とするデジタルプラットフォーム企業(以下、デジタルプラットフォーマー)の台頭により、世界で流通するデータの量は指数関数的に増加し、データを利用したビジネスの影響力は大きく拡大している。デジタルプラットフォーマーがもたらす光と影を、各国の政策の動きを読み解きながら解説する。
デジタルプラットフォーマーの台頭からリアル領域への事業拡大へ
デジタルプラットフォーマーの台頭によるデータの利用拡大に伴い、10年間で時価総額の世界トップ10企業は大きく変化した。
10年前は石油、製造、通信、金融といった企業がランキングの中心であったのに比べ、2018年はベスト10のうち6社がデジタルプラットフォーマーで占める状況だ。
これまでGAFAは、グーグルは検索エンジン、アップルはPCやiPhone、フェイスブックはSNS、アマゾンは電子商取引といったWeb中心のデジタル領域が事業起点となっていた。
近年、デジタル領域の事業起点から収集した膨大なデータとインフラ基盤を武器に、決済や実店舗での小売りやIT化した住宅(スマートホーム)、自動運転といったリアルな領域へ事業を拡大させている。
デジタルプラットフォーマーは、AI関連のサービスにも、注力している。
グーグルやアマゾン、マイクロソフトなどのクラウドサービスを提供するデジタルプラットフォーマーは、データ収集基盤を備えるだけでなく、プロセッサからフレームワーク、AI関連の技術や機能のAPI化、学習済みのモデル提供など、さまざまなクラウドサービスを網羅している。
デジタルプラットフォーマーの事業拡大で鍵を握るのがAPIだ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなどは、「学習済みAI機能」を、APIを通じサービスとして提供する。
自社で開発・学習済みのAIを「APIと計算能力」という形で提供することで、API利用料、クラウドサービス利用などの対価を得るビジネスモデルとなっている。
顧客企業からアップロードされるデータにより、デジタルプラットフォーマーは自社AIの更なる精度向上を見込む。これにより、顧客企業を自社クラウドサービスへ誘引する効果が期待できる。
これらのサービスを利用する顧客企業にとっても、自社での人工知能開発のコスト(時間など)を削減することができるというメリットがある。
AIをAPIで公開することで、膨大な学習済みのデータモデルを顧客企業から収集して精度を向上させ、さらに広範囲な事業に拡大するーー。デジタルプラットフォーマーは既存の枠組みを超えたデータエコシステムの好循環モデル生み出している。
デジタルプラットフォーマーがもたらすメリットと問題点
ユーザー企業は、デジタルプラットフォーマーが提供するサービスを利用してさまざまなメリットを享受しているが同時に、さまざまな問題点も指摘されている。
具体的なメリットや問題点については、経済産業省が2018年10月に実施した「オンライン・プラットフォームと事業者の間の取引関係に関する事業者向けアンケート調査(GAFAなどのサービスをビジネスで活用している事業者が対象)」から読み取れる。
中小企業・ベンチャーやフリーランスなどの層は、デジタルプラットフォーマーのサービスを利用することで、「メリット」を得ているという声が多数を占めた。
具体的には、新規顧客の開拓機会の獲得や売上金の回収コスト軽減、制作・販売ツールの利用が可能である点などだ。
その一方で、「取引するデジタルプラットフォーマーを切り替えることが困難」という回答が65%を超えた。
デジタルプラットフォーマーに依存する問題点としては、「個別交渉が困難」「規約などの一方的変更」「利用料・手数料が高い」「検索結果が恣意的・不透明」といった声も多くなっている。
政府が進めるデジタルプラットフォーマーに対するルール整備
政府では、経済産業省や公正取引委員会、総務省を中心に、2019年から具体的措置を進めるべき重要論点を掲げた基本原則を2018年12月18日に策定した。今後、これに沿った具体的措置を早急に進めるとしている。
基本原則の概要は以下のとおりだ。
基本原則の概要
1.デジタルプラットフォーマーに関する法的評価の視点
デジタルプラットフォーマーが、(1)社会経済に不可欠な基盤を提供している、(2)多数の消費者や事業者が参加する場そのものを、設計し運営・管理する存在である、(3)そのような場は、本質的に操作性や技術的不透明性がある、といった特性を有し得ることを考慮
2.プラットフォームビジネスの適切な発展の促進
革新的な技術・企業の育成・参入に加え、プラットフォームビジネスに対応できていない既存業法について、見直し要否を含めた制度面の整備を検討
3.デジタルプラットフォーマーに関する公正性確保のための透明性の実現
(1)透明性及び公正性を実現するための出発点として、大規模かつ包括的な徹底した調査による取引実態を把握、(2)各府省の法執行や政策立案を下支えするための、デジタル技術やビジネスを含む多様かつ高度な知見を有する専門組織等の創設に向け検討、(3)一定の重要なルールや取引条件を開示・明示する等、透明性及び公正性確保の観点からの規律の導入に向け検討
4.デジタルプラットフォーマーに関する公正かつ自由な競争の実現
データやイノベーションを考慮した企業結合審査や、サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係での優越的地位の濫用規制の適用等、デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用や関連する制度の在り方を検討
5.データの移転・開放ルールの検討
データポータビリティやAPI開放について、イノベーションが絶えず生じる競争環境の整備等、様々な観点を考慮して検討
6.バランスのとれた柔軟で実効的なルールの構築
デジタル分野のイノベーションにも十分に配慮し、自主規制と法規制を組み合わせた共同規制等の柔軟な手法も考慮し、実効的ルールの構築を図る
7.国際的な法適用の在り方とハーモナイゼーション
我が国の法令の域外適用の在り方や、実効的な適用法令の執行の仕組みの在り方について検討。規律の検討に当たっては国際的なハーモナイゼーションも志向する方向で検討

こういったデジタルプラットフォーマーに対するルール整備に取り組んでいるのは、日本だけではない。欧米を中心に、課税や競争政策、個人情報の扱いなどの検討が進められている。
欧州連合(EU)では、デジタルプラットフォーマーを対象に、EU域内の売上高に税率3%を課す「デジタルサービス税」を協議している。
3月末までの合意は断念しているものの背景には、現行の国際課税ルールでは防ぐことができない「税逃れへの不公平感」があるという指摘も散見される。
2019年6月に、大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議でもデジタルプラットフォーマーのデータ独占への対応に関する議論が検討されている。
巨大なデジタル空間で繰り広げられるデジタル戦争の幕開けか
GAFAのデータ独占の脅威や規制に対する報道が過熱し、規制が細かく規定されることになれば、技術革新やビジネス創出を阻害するという指摘も少なくはない。
各国や自企業の利益に固執するのではなく、世界の成長と公平性との難しいバランスの舵取りをしながら、どのような着地点を探るのか。
デジタルプラットフォーマーの活用と規制の動きは、世界全体を巻き込んだ巨大なデジタル空間でくり広げられるデジタル戦争の幕開けになるのかもしれない。  
●GAFA 巨大企業4社が覇権を握れた理由と今後創られる近未来について 
近年GAFA(ガーファ)という言葉をよく耳にするようになりました。GAFAとは、下記の巨大企業4社の総称です。
・ Google(Alphabet)
・ Amazon
・ Facebook
・ Apple
今やこの4社は覇権を握っているといっていいほど世界に大きな影響力を持っており、GAFA同士でしか競うことができない領域まで成長しました。そこで今回はGAFAを知っているようで知らない方のために、どうしてGAFAがここまで成長できたのか?現在、どんな分野で覇権争いが行われ、それが私たちの生活にどんな影響を及ぼすのか? 徹底解説していきます。
どうしてGAFAは覇権を握ることができたのか?
・大量のビッグデータを集めてビジネスにうまく利用する。
・人工知能などの最先端領域に莫大な投資をして、他社の追随を許さない。
・そして将来邪魔になる可能性のある企業はM&Aで飲み込んでいく…。
これがGAFAの必勝パターンです。
しかし、GAFAも最初から巨大企業だったわけではありません。どうしてGAFAは覇権を握ることができたのか? 他の企業と何が違うのか?まずは各社の成功要因を見ていきましょう。
Google(Alphabet)
Google(現在はAlphabet傘下であるが、以下グーグルと表記)の成功要因は下記の3つです。
・インターネットの入り口を抑えた
・検索結果の順位に意味を持たせた
・IT創世記に広告最適化に成功した
まだ多くの人々がインターネットに慣れていない時代に、インターネットの入り口(検索)を抑えたことが、グーグル最大の成功要因でしょう。もちろん検索webは他にもありましたが、グーグルは検索結果の順位に意味を持たせることにこだわりました。ユーザーにとって価値が高いであろう順番に並べられた検索結果の精度は年々上昇して、いつしか他社が勝負を挑むことすらない地位を築いたのです。また、IT創世記にも関わらず、ユーザーの検索ワードを利用することにより、広告最適化を実現しました。ユーザーが満足するから利用者が増えて、効果の高い広告にはお金が集まる。こうして莫大な富を手に入れたのです。現在ではYouTubeやアンドロイドOS、自動運転技術や寿命を延ばす研究を行う事業まで幅広く行い、その影響力を年々強めています。
Amazon
Amazon(以下アマゾン)は、テック企業に非常に注目が集まっていた1997年にナスダック上場して、その際に調達した資金を元に、投資最優先で赤字を垂れ流しながら成長してきたことで有名です。アマゾンの話になると、この長期投資家以外を徹底的に無視した経営に注目が集まりがちです。しかし、アマゾンが採用したロングテール戦略こそが、初期段階の成功に非常に重要な役割を果たしています。通常のリアル店舗の場合、売上の約8割をたった2割の売れ筋商品で稼ぐのが一般的です。そのため、売れ筋商品を大量に仕入れて、ほとんど売れない商品は陳列すらされませんでした。商品陳列スペースを有効に活用するのは当然ですね。これとは逆に、年間通してほとんど売れない商品でも、その商品数が莫大なら売れ筋商品上位20%の売上を凌駕するのがロングテール戦略です。まさに塵も積もれば山となるですね。ネット上ではいくら陳列しても、ほとんどサーバー代はかかりません。実際の商品も一等地の狭い店舗ではなく、1商品あたりの固定費がほとんどかからない巨大倉庫で保管しました。これがアマゾンの初期の最大の成功要因といえるでしょう。また、成功すれば大きなリターンがあったとしても、失敗する可能性が高いビジネスなら勝負をしない伝統的な企業と違い、企業存亡の危機になるようなものでなければ、期待値を重視してベットする経営を行っています。ダメなら少額の投資ですぐに撤退し、軌道に乗れば追加で莫大な資金を投入した結果、多くの失敗を繰り返しながらAWS(クラウド事業)やアマゾンエコーを生み出しました。莫大な資金を持っている伝統的な企業が自社株買いや配当をする中、短期的な投資家を徹底的に無視して期待値を重視したことが、アマゾン帝国を作り上げたのです。
Facebook
Facebook(以下フェイスブック)の成功要因は、人とつながりたいという決してなくなることのない人間の欲求にアプローチする領域で勝負したことです。また、下記の3つの要因が、フェイスブックの広がりに拍車をかけました。
・ハーバード大学というブランド
・優秀な異性とつながりたいという欲求
・周りが利用していると使わざるを得ない
もし、フェイスブックが誰も知らないような大学で生まれていたら、間違いなくここまで成長することはなかったでしょう。もともとフェイスブックは、ハーバード大学の学生だけが利用できるサービスでした。そして、次第に利用者を広げる際にも有名大学の学生が使えるように、的を絞って広げていきました。フェイスブックは利用することで優越感を得られるツールであり、将来有望な男性と簡単につながれるツールであり、初めて会ったばかりの女性との連絡手段を簡単に得られるツールであり、利用できるコミュニティに属していると利用せざるを得なくなるツールとなりました。うまくスタートできたらあとは簡単です。SNS特有の異常なまでのスピードで広がっていき、フェイスブックは莫大な個人情報を無料で手に入れることに成功したのです。現在では、アメリカのネット広告市場の半分以上を、フェイスブックとグーグルの2社だけで占めています(寡占状態)。
Apple
数々の逸話を残したスティーブ・ジョブズについては説明するまでもありませんね。確かに、彼が指揮を執るApple(以下アップル)が、革新的な商品を世に送り出したことが一番の成功要因でしょう。しかし、本当のアップルのすごいところはブランディング戦略です。実はアップルの世界でのスマホ市場のシェアは、約2割程度でしかありません。しかし、世界のスマホ市場の利益の約8割を独占しています。アップルはスマホを単なる無機質な機械から、宝石やバックのような高級ブランドにすることに成功して、高価格でも消費者は喜んでお金を払うようになりました。また、高級品でありながら徹底的にコストを抑えることにも成功しています。アップルは自社工場を持たずに、世界中の部品を集めて中国で組み立てています。低コストで安価な商品を作るのではなく、高コストで高級品を作るわけでもありません。他のスマホと同じように事実上メイドインチャイナでありながら、圧倒的な高価格帯で販売しているのです。これほど世界規模で、低コストの高級品が成功した事例があるでしょうか?こうしてアップルは、莫大な富を内部留保することに成功したのです。「世界最大の橋」でつながった香港とマカオ 世界有数のメガロポリスに成長するか?
GAFAの壮絶な覇権争いと未来予測
あらゆる市場でGAFAの壮絶な覇権争いは、今この瞬間も絶えず行われています。間違いなく今後数十年間は、私たちの生活に大きな影響を及ぼし続けることでしょう。ここでは、人工知能や量子コンピューターや宇宙などの壮大なものではなく、今後私たちの身近な生活にどのような影響があるのか?具体的に解説していきます。
検索・予約・買い物
人間から「知りたい」という欲求が消えることはありません。この分野では現在、グーグルがテキストと動画(YouTubeでの検索はGoogle検索に次いで世界で2番目のボリューム)で覇権を握っています。今後グーグルは予約や口コミ市場の駆逐を始めるでしょう。具体的には、美容院や飲食店の予約・口コミは、グーグルからスムーズに行えるようにしたいはずです。カカクコム(食べログ)やリクルート(ホットペッパービューティー)は、激しい猛攻にさらされるでしょう。ただ、検索の王者グーグルも安泰ではありません。今後、商品を購入する際にはグーグルではなく、直接アマゾンで検索する傾向が強まるはずです。この流れはすでに始まっており、最終的には文字を打たずとも、アマゾンエコーで商品のアドバイスを受けたり、そのまま注文するのが一般的になるでしょう。文字から音声の流れは、アップルのSiriにも言えることですが、グーグルが音声デバイスの覇権争いで引くに引けない理由でもあります。また、すでに直感的な検索(アパレルや料理)では、フェイスブック傘下のインスタグラムで調べる若者の増加が顕著で、これはグーグルだけでなく、アマゾンにも大きな影響を及ぼします。インスタグラムでアパレル商品を調べて、そのまますぐに購入する流れが今後も強まり、それが習慣化することをアマゾンは面白く思わないでしょう。なぜなら、アマゾンはすでに自社のアパレルブランドを立ち上げて、ECの中でもおいしいジャンルであるアパレルを抑えに来ているからです。この両者の争いは、ZOZO(ZOZOTOWN)や楽天(楽天市場)にも影響を与えるはずです。このように検索・予約・買い物の領域で覇権争いが行われた結果、私たちが直接欲しいものや情報を選ぶ時代が終わりを告げるかもしれません。
「 調べる前に欲しいであろう情報を与えられ、購入する前に届けられた商品から必要ないものを返品して、心地の良いサイクルで勝手に予約されているお店に足を運ぶことになる…。 」
最初は抵抗を感じるでしょうが、年々これらの精度が上がれば、誰もストレスを感じなくなるでしょう。そんなSFのような世界を本気で創造しようとしているのがGAFAなのです。
仕事と可処分時間
現在は人手不足と言われていますが、近い将来労働力をそれほど必要としない社会が形成されることは間違いありません。コンビニやスーパーのレジは必要でなくなり、タクシーや多くの物流でAIがコントロールされ、倉庫内作業も今以上に自動化がすすむはずです。特に事務作業などのホワイトカラー業務の必要労働力の減少は大きく、多くの仕事がRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)に取って代わられるでしょう。このように労働の最適化が進み、日本人の総可処分時間(当然世界でも)は右肩上がりになります。AIに隠れがちですが、可処分時間は今世紀最大級のビジネスチャンスが秘めています。当然、GAFAはこれを見逃しません。労働力の自動化を主導するのもGAFAであり、生まれた可処分時間を奪い合い、その覇権を握るのもGAFAなのです。YouTubeやアマゾンプライム、IGTV(インスタグラムが提供している動画サービス)で動画を楽しみ、グーグルを使って調べものをして、アマゾンで購入した書籍でさらなる知識の探求をします。スマホゲームやかわいく見せる加工アプリを利用するにも、App Storeでインストールする必要があります。旅行先ではグーグルマップを見ながら目的地に向かい、観光名所ではフェイスブックやインスタグラムなどのSNSに写真をアップします。これらはiPhoneを使って行われ、それ以外のほぼ全てのスマホにはグーグルのアンドロイドOSが搭載されています。すでにGAFAは、私たちの可処分時間に侵食しており、生活するうえでなくてはならない存在になっているのです。今後もこの流れは変わらないでしょう。
自動運転
現在最もGAFA(それ以外の企業も)がしのぎを削っており、数年後に私たちに大きな影響を与えるのが自動運転です。グーグルのウェイモ(Alphabet傘下)、アマゾンのオーロラ・イノヴェイション(出資)、アップルのProject Titan(社内部門)など、これらは間違いなく私たちの身近な生活だけでなく、自動車大国日本そのものを揺るがすことになるでしょう。自動運転は車体そのものより、脳(OS)が非常に重要な役割を果たします。この脳の部分を握られてしまえば、車体はただの箱になってしまうというわけです。日本の巨大自動車企業が、GAFAの下請けになる可能性も絶対にないとは言えません。ただ、私たちの身近な生活として自動運転を考えた場合には、非常に未来は明るいでしょう。人が運転する必要がなくなれば、駐車場に止めておく必要もありません。合理的に考えれば、使用していない自動運転車は、他の人々が利用することになるでしょう。要するに、自動車や駐車場を所有する必要がなくなるわけです。当然、所有コスト(車体や駐車場だけでなく、保険や税金も)は下がり、可処分時間での消費にお金を回すことができます。交通事故の件数は急激に下がり、数十年後には人が自動車を運転することを法律で禁止する国もでてくるでしょう。もちろん、完全に運転を禁止するわけではなく、車に乗りたければライセンス(現在の免許のような一般的なものではなくなる)を取り、可処分時間内に娯楽として、サーキットで楽しむことができる配慮をすると考えられます。
もはや敵はGAFAと国家しかいない
GAFAはあまりにも巨大になりすぎました。もはやGAFAと争えるのは、GAFA自身か国家のみです。すでに国家によるGAFA対策は始まっています。国をも動かすGAFAによって作られる近未来が、人類にとって明るい未来になることを願うばかりです。 

●「GAFA」でさらに化けるのはアマゾン 
マイクロソフトと4社の違いとは
「GAFA」の4文字を目にする機会が増えた。Google・Apple・Facebook・Amazonの4社は、マイクロソフトとあわせて、近年、世界時価総額ランキング上位5位の常連であり、その動向を世界が注目している(グーグルは親会社アルファベットの傘下)。
なぜマイクロソフトを除外した4社がことさら話題に上るのか。たしかに同社は約10年前の世界時価総額ランキングでも5位以内に食い込んでおり、当時上位を占めていたエクソンモービル、GE、ウォルマート・ストアーズ、中国移動などがランキングから姿を消す中、唯一、現在も5位内に留まっている企業である。
しかし、かつてWindowsで人々の生活を大きく変えた同社も、PC市場の衰退とスマホ市場の躍進の波で、いまや世界のOSの約8割はグーグルのAndroidに占められている。そして新興「GAFA」と決定的に異なるのは、「世の中を本気で変えよう」という情熱の温度差といえるかもしれない。前経営者時代にライバル企業との競争に力を傾けがちだったマイクロソフトに対し、「GAFA」4社は自らの理想を明確に持ち、その実現に邁進する姿勢がより鮮明という共通点がある。
いまや私たちの生活はこの4社抜きでは語れない。電話の概念を大きく変えたスマホを生み出したアップル、自宅にいながら気軽に商品を注文する便利な生活を定着させたアマゾン。グーグルが整理する膨大な情報を得て、フェイスブックを通じて世界中の人々とコミュニケーションする生活は「GAFA」なしでは実現しなかった。
だがこの4社は単なる検索エンジン会社やEコマース企業という範疇には収まりきらない広がりを持つ。彼らの守備範囲と強みと弱み、そして将来性を整理してみよう。
フェイスブックは将来性に不安あり?
まずは創業20年のグーグルだ。自由な企業風土のもと、世界中から奇想天外な天才たちが集うグーグルは、2015年にアルファベットを親会社とする組織再編を行ったが、依然として同社の中核事業は検索・広告・クラウド・Android・YouTubeなどを運営するグーグルが担い、実に売上高の99%を賄っている。ところが残りのわずか1%未満の売り上げしか生み出さない非中核事業に、積極的に人材・資力を傾けるのが同社の特徴でもある。それは自動運転車開発、生命科学研究、先端技術研究、ベンチャー投資などだ。
その理念は、人々の生活をより良いものにすることと一貫している。たとえば自動運転車の開発で、自動車メーカーの多くはより快適なドライブ体験を追求するが、グーグルは高齢者や障害のある人々でも自由に外出を楽しめることを目標に掲げる。直近の収益に結びつかずとも、人々が抱える課題を解決したいという努力を惜しまない。
一方で、ビジネス上の懸念材料もある。企業全体の収益の約9割を検索広告収入に依存しており、YouTube動画にヘイトスピーチや過激派テロ動画も混在しているという理由で、大手企業が続々と広告撤退処置に踏み切るなどすると、同社全体の収益に大きな影響が出る。また独占禁止法に敏感なEUから莫大な制裁金を科されたこと、巨大市場中国における検閲やハッキング問題をクリアできないジレンマなども今後の課題である。
次いでアップルだが、かつて斬新なPCでユーザーを魅了した同社は、いまやすっかりスマホ企業となり、同社の全売り上げの6割をiPhoneが稼ぎ出している。既存技術を応用し組み合わせることでより便利な商品を生み出す力、最高のデザインとクオリティを追求する妥協のなさが同社の強みだ。携帯型音楽プレーヤーiPodの発売、楽曲を一曲ずつ購入できるiTunes Storeの誕生、そして定額課金制音楽配信サービスApple Musicへの移行と、音楽業界大手と衝突、折衝を繰り返しながらも結果的に大きなビジネスチャンスも得てきた。
ただ、そのアップルも盤石ではない。圧倒的カリスマ性で同社をけん引してきたジョブズ亡き後、どこまでユーザーを魅了する商品を生み出し続けられるかが不安視された。はたして、一時人気だったタブレット端末iPadは不調。なによりスマホ市場の飽和により、同社の主力商品iPhone販売に陰りも出始めている。今後、自動運転車の開発や健康・医療分野での取り組みなどが、発展の鍵を握るだろう。
「GAFA」の中で、一番将来性に危うさがつきまとうのはフェイスブックである。いまや世界で20億人を超すユーザー数で、傘下のInstagramも好調だが、収益の9割近くを広告収入で稼ぐビジネスモデルの危険性はグーグルと同様だ。さらに利用者の約半数が日々のニュースをフェイスブックで読む中、16年の米国大統領選以降のフェイクニュースの蔓延に同社は頭を悩ませている。情報流出問題や、EUによる一般データ保護規制、さらには世代交代の波も無視できない。フェイスブック利用者の30〜40代層が年をとり、次世代がフェイスブックとは異なる他者との関係性を求めていったとき、変わらずSNS王者の地位を維持できるか確証はない。同社が注力しているAR(拡張現実)とVR(仮想現実)技術の将来性も気になるところだ。
何にでも化けうるアマゾンの可能性
さて、最後はアマゾンだ。結論からいえば、今後「GAFA」で覇権を握るのは同社ではないかと私は考える。その理由は一番何にでも「化けうる」業態だからだ。
1994年に書籍のネット販売から始まった同社は、いまや売上高で世界最大手のウォルマートを猛追する企業に成長した。成長の秘訣は、「稼いだ利益を惜しげもなく使い、投資を続ける」こと。電子書籍Kindleや、AIスピーカーAmazon Echo、ドラマや映画など大量の映像コンテンツを楽しめるAmazon Prime Videoなど、奇抜な商品やサービスを次々と繰り出す一方で、膨大な商品を世界中に届けるため、陸海空すべてを網羅する一大物流システムも整えつつある。巨大になりすぎたイメージがあるが、アメリカの小売り全体におけるEコマース市場のシェアは約10%。まだまだ成長する余地が残されている。小売業・物流業・メディア業、IoT分野など、どんな分野に進出してもおかしくなく、可能性が無限に広がるのがアマゾンという企業の最大の強みといえるだろう。
18年9月末、ルノー、日産自動車、三菱自動車の3社連合がグーグルAndroidを車載システムに搭載することを発表した。自社開発OSに執着してきた自動車メーカーがついに世界シェア8割を超えるOSの採用に踏み切ったのだ。既存ビジネスと熾烈な争いを経たのち、「競合から協力へ」市場が態度を変えていく様は4社ともに経験している。強すぎる商品に対して「勝てない」と悟った段階で対抗から手を組む相手へと変化するものである。
だからこそ、仮に将来「GAFA」が失墜することがあるならば、それは新たな市場が登場し、彼らのビジネスが用なしになったときだけだ。アップルにとっての脅威はiPhoneを超える高機能スマホの登場ではなく、全く次元の異なるデバイスの登場でスマホ自体が不要になることなのだ。
ただ、いかんせんこの4社は巨人に成長している。新ビジネスを立ち上げ彼らに立ち向かうベンチャー企業が現れても、ことごとく買収、吸収するだけの力を蓄えている。その隙をつくには、彼らが「こんなものは売れない」と無防備になっている盲点をつくしかないだろう。いま、世界のどこかに存在する課題を解決する糸口を見つけること。まだ意識化もされず概念も名称さえもないが、大きなビジネスに発展していく何かを見つけ、新たな市場を創出すること。そこにのみ「GAFA」を超える道が隠されている。