1

木綿の帯で 暮らせるならば 貝紅(べに)もいらない 洗い髪
あいつの情けで 染まった様な 紅い葉桜 波が打つ
紅いバラも嬉しかった 気にかかる人だけど 夜汽車が表で待ってるの
赤く口紅の色を変えた 私を咲かせて もっと ああ
祭り盆ござ 小桜おせん  白い指先 紅のあと
ひと色濃い 寒紅を 人刺すように 唇(くち)に指す
色香でかくした 勝気なこゝろ うす紅色が わたしの彩(いろ)よ
初の契りは尾上の桜  薄紅のぼんぼりが  瞬たきはじめた
コスモスが舞う風の音色  薄紅の空に染まる雲
口紅がついた煙草 あなたの口元へ 差し出す右手
緋(ひ)

2

燃えて赤々 色付く紅葉  女心を染め抜いて
口紅(べに)が赤くなる 大人の恋と決めているから 今は踊らせて
泣いて散る散る 恋紅葉(こいもみじ)
冷たい雨に濡れながら  垣根に咲いてる紅い花
この世で咲かせない  強がりは赤い紅ひく恋化粧
恋して信じて 傷ついて いつしか濃くなる 口紅(べに)の色
紅を忘れた女の唇に  愛しつづけるボレロだけ
髪も切らず 紅も変えず  ずっと前の昨夜のままなんて
ほほ紅も一粒また一粒  こぼれる涙に消されます
黄昏に岬を紅く染めながら  入江の灯台今も変わらない

3

紅花すかしの便箋に  想い出抱いてと書いてある
あなた指さす岩の蔭  小さな虹がゆれている
紅い椿でひとみも濡れる  若い僕らの生命の春よ
青い流れにほろほろと 風もないのに紅い花散る 熱いおもいにふるえる心
甘く切なくからみ合う  闇に溶けゆく紅い糸
落葉が落ちる 紅い落葉  あなたを憎んで落ちる
生きて添えぬ 辛い宿命(さだめ)なら 命深く沈め 堕ちてゆきたい紅い川
哀しい別れの あの日から  口紅引く気も なれなくて
髪をやさしく解かれて この生命燃えてゆく あヽ紅い月
おんな写し絵 走馬灯 束の間に 躰(み)を焦がす あヽ紅い月
猩々緋(しょうじょうひ)

4

口紅をうすめにさして  くる筈もないあなたを待つの
海の色は青 潮の香匂う 紅の波止場だぜ 太陽は燃える
琥珀のグラスに  浮かんで消える 虹色の夢
咲いてふたり雨に咲く花  紅い花
淋しくないのよ 独りが好きと 爪をかんでる ああ 紅い花
紅い雪にかくれ 白い花に埋もれ あなたの影が 浮かんで消える
新宿駅裏 紅とんぼ  想い出してね時々は
襷はずして口紅でもつけりゃ  女らしさがでるかしら
紅葉を濡らし 降りつづく  おもいで たそがれ 秋しぐれ
桜吹雪よハマナスよ  紅い椿よ白百合よ

 


5

十六夜(いざよい)の夢枕 淡い紅さしながら 誰を想ってる
口紅ふたつに折りながら  泣いては駄目だと自分を叱る
つくり笑顔に口紅をさし  今日も私は生きている
だけど枯れないしおれない  待つほど紅(べに)が濃くなる日々を
演歌の心には愛がある  桜も紅葉もいいね  雨でも雪でもいいね 
紅い花の香りに導かれ  たどる街道は瑠璃色にあふれ
抱いて下さい白い素肌  紅く染まるまで
花のさかりを 美しく  燃える紫ほんのり紅く
咲いて彩るあじさいの花 赤く真紅に燃える 愛の強さで飾っていたい
肌の寒さが欲しいとせがむ 淋しさに夜に紅ひく 北の女は春を待ち
紅(くれない)




6

こぼれ灯(び)たよりに口紅ひいて  詠(よ)み人知らずの恋歌に
恋しさひとつ逢いたさふたつ  肩にハラハラ散る紅葉
見送る肩に散る花の  夜風にはらり名残り紅
この世に薄い緑でも  なんで切れよう紅の茶
遥か彼方にゃ オホーツク  紅い真っ紅なハマナスが 海を見てます泣いてます
うわさ世間の 流れ川 決めた覚悟の うす紅化粧
お菓子を食べて 紅茶を飲んで  いつでも二人で 割り勘よ
いまさら出せる義理じゃない 紅い切手を貼(は)る手さえ ほそく震えるなさけなさ
酒のグラスに残り紅 泣いたあの日の傷あとが 酔えばせつなくわかれを責める
窓に汽笛が しぐれる夜は 口紅(べに)がぬれます こころもぬれる

7

薄紅化粧のその裏で  強く生きると涙を拭いた
あなたをおぼえたわたしが悪いの  一つ紅茶を飲んだあの夜から
真紅の野バラを胸に  飾って私は今日も
お酒 くち紅 港の酒場  雨の降る夜は恋しくて
酒場横丁に雨が降るよ  誰が捨てたか紅ダリア
指にからんだ想い出の  色はうす紅恋の花
うすい紅いろひと色に  せめて野に咲く花でいい
色づく紅葉待ちきれないで  何故だかせかれる恋でした
あなた愛した秋桜の  うす紅こぼれるしぐれ駅
秋に別れの木枯し吹いて  燃えた紅色消してゆく
茜(あかね)

8

ああ紅の命を 逢わずに愛して  いついつまでも
口紅拭き取る宿鏡 雪よ降れ降れ 列車も止まれ
はしゃいだあとの 口紅(べに)がせつない  淡雪のひと
アンコ可愛いや紅椿  どこのどなたに落ちる気か
こゞえる命抱きしめて  せめてキリリと紅をさす
ここは紀の国旅路の果ての 紅い明かりの点る巷(まち)
海辺の坂道 駆けてゆく  紅い椿の散る道で
頬にうす紅さしたなら  胸のすき間をうずめてくれる
三年先でもいいのです せめてあなたと暮らせたら 紅を引く度 女です
返すお前の移り紅 海に揺れてる灯火のように 燃えて死ねたらいいと言う

9

明日もわからぬ契りとしって  ほどけば泣けます紅の帯
紅いくちびる噛んで 何処へ何処へつづく この旅のはては
天城椿は別れた女を  想い出させる紅化粧
田笠の紅緒がちらつくようじゃ  振り分け荷物重かろに
残る想い出十二橋  紅緒きりりとすげ笠かぶり
紅椿(つばき)の花よりあゝまだ赫(あか)く  あなたのためだけ咲き続けたい
拭きとる口紅悲しさ残る  小雨にまじる靴音ひとつ
その日が過ぎて紅葉の季節  やがては雪の舞い
現世(うきよ)にごり絵心の筆に  涙にじませ紅をさす
火のような通り魔がゆく ぼんやりと紅灯(あんどん)ながめ 文綴る
臙脂(えんじ)

10

強めの口紅凍(こご)えた足で  降りつむ雪に立ってるか
勘太郎さんも一目惚れ  泣いて別れた紅つつじ
もえる紅葉の天竜下り  秋はよいとこ飯田街
生まれる前から結ばれていた  そんな気がする紅の糸
血の色よりもなおまだ紅い  罪の香りの寒椿
朱いしごきで結んだ身体  紅い絆で結んだ心
優しさだけでは結べない  おとことおんなの紅い糸
目の前の紅茶を 飲み干したなら 二人並んで散歩しよう
薄紅の空落ちてく太陽に  明日も笑って ああいられますように
二十才間近の女のひとの  くちづけを待つ紅の色ね

 


11

窓をゆらして風が鳴る  溶けてはじける紅の息
そっとくちづけ したいのよ  あー あなたは遠く口紅あかく
忘れさせるの下手なひと  紅が紅が哀しい左褄
紅のかおりの舞う午後は 好いた惚れたに酔うもよし 浮世まかせの春だもの
今夜は乱れそうな 気がするの  髪をとけば 紅さえにおう
薄めの紅を 小指で描いて あなたに着物を 褒められたくて
今夜は何かが起きそうな  そんな予感の赤い紅
どうかしてます今夜のわたし  唐紅(からくれない)の血がさわぐ
うす紅の明日も見えない ふたりなら この身を埋(う)めてよ ああ冬の華
春は桜のあや衣 秋は紅葉の唐錦 夏は涼しき月の絹 冬は真白き雪の布
紅(べに)

12

燃えてみじかい空蝉の  命いとし残り紅
紅も艶よくかえました  これでいゝのよ振りむかないわ
頬に染まる紅き落日  愁くな心のたてがみを洗え
海は真っ赤な夕焼けだろう  草鞋を濡らす漣も 紅いべべ着てはしゃぐだろ
林檎(りんご)かじって海を見る 口紅いろした陽が沈む 粋な別れがほしかった
はるか今帰仁(なきじん)の 紅(あか)いサクラ花 海の夕焼けが 染めた紅(あか)だよ
せめて冥途の草枕 紅い血が舞う 雪が舞う
夜の鏡に紅をひいても  無口な心は晴れません
薄い口紅細い肩  男の心が 心がまた揺れる
風が奏(かな)でるふれあいしぐれ 肌に紅さすほり炬燵(ごたつ)

13

お腹をすかせお乳をねだる  紅葉(もみじ)の手をしたこの命
小千谷(おぢや)つむぎの残り香抱けば  紅の名残りに涙がにじむ
夢の灯りを覗いただけで 涙 幕切れ 紅殼格子(べにがらごうし)
噛んだ小指ににじんだ紅が  生きる支えの扇の要
忘れたいのに忘れられない  ひとり紅ひくとまり木で 春を待ちます
苦しいの切ないのもうすがれない  夢に紅さす女の花は
白い雪野を染め返し  紅い椿はその身を投げる
なんで替えましょ この口紅を  替えりゃあんたに嫌われる
傷つき紅い痛みに耐えて  炎のように燃える眼は
紅の振袖鹿の子の帯も よその娘となに変ろ すねて甘えて絵日傘日傘
紅梅

14

山をいくつ越えてもうすい紅いろの  エリカの花はまだ見えぬ
紅の花咲く出羽路の人の  あつい情けに解くわらじ
こゝろ炎情あーあかあかと  恋は血のいろただ紅い
夜の帳が下りる頃 紅蓮の炎に包まれて  阿修羅の姿も熔けてゆく
紅くさやかに実を結ぶ  ここにいるよのななかまど
石楠花(しゃくなげ)の紅色は  契り交したあの日のおまえ
燃えて一輪紅ひと色に  日ごと身体(からだ)に咲き誇ります
もみじが紅を まだ残すのに  粉雪ちらつく逢瀬橋
唐紅のおんなの性が  二つの枝に狂い咲き
浮気封じにあんたの胸に  紅で名を描く大江戸そだち

15

ひとつ花びらふたつ紅 花の隅田の恋の隅田の 水に流れた宵化粧
12時過ぎたら口紅つけて  おばけになって出てやろか
口紅を濃いめにひいたとて  隠しきれない胸の古傷
惚れたら一途よ深なさけ 戻りゃ天国大間崎 口紅(べに)をひくよな暇なかろ
女将一代苦労の水で 涙とかして引く紅に  こめた念願はただひとつ
昨夜(ゆうべ)の嵐が 散らした紅葉(もみじ) ひとひら荷物に忍ばせる
旅の始まり二枚の切符 紅葉の駅からバスに乗る
決(き)めて決まらぬ紅緒笠(べにおがさ)  ままよ一天地六(いってんちろく) 渡り鳥
祖国の声が聞こえるか  せめて紅差せあかね空
紅屋のエ 娘にエ とことん惚れてもサ  年季明けまでおあずけと しょんぼり小名木川
薄紅梅

 


16

器量ばかりで実らぬ花か  お駒うす紅黄泉路(よみじ)の旅化粧
真っ赤な着物きて口紅さして  膝をくずした小夜格子
紅葉あかりの風の中  雪虫舞えば冬仕度
花の音羽屋お徳のいのち  髪をほどけば紅が散る
紅で染めるか涙のあとか  どちら先でも待ってると
浮かべて流れる浮き世川 気がつきゃ場末の紅灯川(ねおん)
口紅も拭かず眠りにつかせて 優しさが逃げるどんなに抱かれても
誰が棄てたか紅薔薇ひとつ  白い夜霧の道に咲く
紅い紅い炎の大松明が  燃えて南部の夜空を焦がす
やさしい女へと逢いに行く 黒い瞳よ白いうなじよ 紅いくちびる細い指先

17

高くかかげた大漁旗を  待っているだろう紅椿
線香花火の紅い火よ  夢はちりちり燃え残る
花の袂を噛みしめる  涙と情けの紅殻格子
急に冷え込んで 楓が色づき くちびる染めてる 紅よりあざやかに
月のきれいな伊豆の宿  紅いろの灯(ともしび)に かざす扇舞いすがた
紅いくちびる重ね重ね 今は何も言うな 二人のからだが輝く 鬼火のように
紅提灯のともる道  お百度まいりの法善寺
裏をみせ表をみせて 散る紅葉 山鳩ほろほろ 小淵沢
後ろ髪引く小紅の渡し  母に不幸の手を合わす
肩を抱きよせ 眸(め)をのぞきゃ 頬に紅さす おまえに惚れた
珊瑚

18

紅い鼻緒がなぜかうらめしくて  あの人あの町に行っちゃうなんて
盛りの花も移ろえば 冬木の櫻の返り花  色もほのかな薄紅に 雪よ積もるな枝折るな
季節だけがひと巡りね  紅がひと色増えたら 何もいらなくて恋がうすれた今よ
生きることにもため息ついて ひとり口紅ふきとるだけの 生き方だけなら淋しい
さびしい顔に紅をさし  微笑ってみせたいとしいおまえ
花もはじらう年頃を  紅もひかずに束ね髪
おりおりの酒に夢を見て  そっと拭き取る濡れた紅
口紅が折れたのはどんな意味でしょう  つらい想いがつづくのでしょうか
おれにゃすぎるぜ恋女房 すこし酔うわと盃に ほろり紅さすお前の目もと
こんな男のどこがいい 聞けばほんのり紅をさす 素顔の花の 花のいじらしさ

19

紅いバラの花びら一つ  夜の暗さに泣いていたお前だよ
いいの待つのは 慣れている 切りたくないの 紅い絆
髪をほぐしてうす紅ひけば  窓に祭りの灯(ひ)がゆれる
胸の晒しにこぼれる紅に  風もはじらう花えくぼ
ちいさな背中でため息ついて 鏡にむかい口紅をひく 更けて灯りが消えてゆく
こんどいつ逢うあてもなく 冷えた紅茶をひとり飲む ああさみしい私に 私にもどるのね
乾いたくちびる紅で染めて  この身を焦がして  あなたを焼いて
口紅(べに)をひく  乳房(むね)の奥に眠る揚羽蝶(あげはちょう) 
こころ空蝉(うつせみ)聞く夏も  窓の紅葉(もみじ)に雪舞う冬も
もいちど抱いてね あなた雪が泣く おんなの未練ね あなた口紅(べに)が泣く
鴇(とき)

20

女一匹 花なら椿 吹雪の白にも染まらずに 紅燃えるその姿
髪を切り出直すの まだ間に合うかしら 鳳仙花爪紅さして 
煙草はおやめ口紅も  うすくといつでも叱られたわね
きりりと口紅(べに)をひき みれん町あとにして  生きてゆくのよ もう一度
紅をひと刷毛(はけ) 湯あがり化粧  おんな信濃路 ひとり旅
度胸あるなら抱いてみな  紅い炎が燃えてるうちに
汽笛よ叫べたとえひと冬  待とうとも春は 笑顔のうす紅化粧
おんなは情けに死にますと 風の山科あなた 紅もせつない秋ざくら
あの世で一生みちづれに 旅もはればれあなた 雪が散ります紅の雪
姫鏡台に口紅で  きっと二人は逢えると書いた

 


21

恋した女は口紅の  色彩(いろ)にもこころが迷います
合せ鏡でほつれ毛を  指で梳(と)かして紅をひく
抱いて下さい鎌倉夜風 花が散りますあなた  薪能紅いいのち 炎の愛を舞う
恋は せつない祭りだよ 紅を引きたい夜もある
紅さす目もとがキリリと燃える どうせ人生まつりじゃないか
口紅が濃すぎたかしら  着物にすればよかったかしら
安らぎあげる愛あげる  男は羽根を止め女は口紅を引く
わたしゃ浜のたき火に地酒を温め  迎え化粧の口紅をひく
加賀友禅の紅色よりも  いのちは熱く燃えたのに
雨や嵐に晒されたって  紅の一刷毛忘れずに 咲いてみせますおんな花

22

髪を切り口紅の色も変えたのに  忘れないあの日のぬくもり
飛沫がとび散る船室の窓で  口紅も一度引き直す
紅い血潮が燃えてるうちに  あの娘の情けを受けとめろ
書かれた文字のなつかしや 弥生祭りの短冊に あの娘が添えた口紅も
ひとりぼっちを支えてくれる そんなあなたがいればこそ 明日もここで 山の紅葉に染まりたい
何もいらないあなたが欲しい  あなたの好みの口紅ひけば
剣をかざして鎌足が  蘇我の入鹿と紅葉狩り
湯気で曇った天窓の  朝陽が肌に紅を差す 
紅をひく手のひとり言  寒い春です風花の恋
割れた鏡に紅をひく  痩せた右手のあわれさよ

23

この世に咲いた赤い花  真紅の恋の華
あいやで小泊(こどまり)  よされで津軽 紅(べに)がちる
わたしゃ白粉紅つけて  揃い浴衣に深編笠で
紅蓮炎に落ちてもいいと  泣いてすがった坂の町
沈む夕陽の真紅に  心の真ん中熱くなる
寿の都に咲いた  花はハマナス紅く燃え
少し酔ったみたいね 頬が紅く染まった 夜更けの空に声あげて
日陰に咲いても花は花  叶わぬ夢の口紅を差す
抱かれる夢を見るたびに  そっと小指で口紅落とす
誰が情けのほろ酔いきげん  襟の口紅がちょいと気にかかる
東雲(しののめ)

24

黒い衣裳(ドレス)の紅バラが  褪せりゃ女の夢も散る
晒しに隠した白い肌 紅のはち巻き  そろいの法被 命ときめくはじけ飛ぶ
紅殻格子に積もった雪を  噛めば涙の味がする
ひがし茶屋街紅殻格子 泉鏡花の面影残す おもいで訪ねて蓮如堂
古都の金沢 うす紅 未練 捨てますか さて酔いますか
夜のグラスの酒よりも もゆる紅色色さえも 恋の花ゆえ口づけて 君に捧げた薔薇の花
追えぬ女のみれんに変えて  頬に残した口紅のあと
咲いてみたいの紅葉の秋に 耐えて待ちます段葛(だんかずら)
好きで会えない運命でも 心にあなたを忍ばせて ひとり佇み紅を引く
愚かなおんなと知りながら  背中にはしらす紅い爪

25

ひとり小窓でくち紅ひけば  夜の海峡霧笛が走る
乳房(ちちふさ)の尖(さき)に点(とも)れる螢火の  ほとほと紅(あか)しほとほとやわし
霧に消えゆく一本刀  泣いて見送る紅つつじ
あなたひとりと心にきめて 命かさねる恋だから 紅もふるえる寒椿
貸してあげたいこの傘を  紅さえ凍える寒牡丹
誰の泪を秘めて  落ちているのかいとし紅バラ一ッ
髪を短く切り口紅も落として  黒い服を着るわ
傷つきながら 赤い口紅捜しても  暗闇の中指が 指が乱れてしまう
木曽はよいとこ あの娘(こ)のすまい 笠(かさ)に紅葉(もみじ)の 花が散る
見初(みそ)めたあの娘  どこか似てるよ 紅ツツジ

 


26

娘ざかりを赦せと詫びりゃ  風にこぼれる紅つばき
雨の降る日は化粧して  紅も濃いめにひくという
ハマナス岬あなたの面影も  紅く凍った冬の砂
淋しさしのぎに覚えたの  グラスの口紅そっと拭く
紅の唇おしあてて  送った手紙があゝ片だより
北に咲いた浜茄子の 花のような頬紅よ 生まれ住んだ故郷を捨てても 歩きたい明日へと
ああ ハマナス色の口紅で  名前は雪子の雪という
おなごは口紅ひきながら  浜で大漁の船を待つ
元気でいろよと 一筆鏡につづれば  折れた口紅 思い出させるあの女
つらい恋ほど女を磨く 口紅(べに)もきりりと  撥(ばち)を持つ 三味を叩いて 冬空夜空

27

恋紅ふいた白い指  そっとお酒に持ちかえながら
夢が欲しさに人恋しさに  今日は濃い目の口紅をひく
風に打たれて添えない恋が  落ちて点々紅椿
夢で逢うのもこの世の罪か 紅きくちびる忘られず 男泣きする影法師
君恋しともしびうすれて  えんじの紅帯ゆるむもさびしや
長い黒髪紅きくちびる  あゝ初めての恋美しき恋
わが名を書けぬ恋文よ 紅を落としたくちびるで 閉じる悲しさ君知らず
うすい口紅祭りの浴衣  瞼をよぎる君の酒
青空につばめがおどって  うす紅の花びらこぼれた
まわす未練の糸車  雨の木屋町紅殻格子
牡丹

28

夾竹桃が今も咲いている  紅色の花びらが心を揺らす
時計見つめていつも待っていた  鉢植えの紅い花
今宵はあなた何処をさ迷い  口紅染める肌の下
内気装ったその裏に 夜叉を隠して先斗町  川は紅葉の 紅をさす
情あやとり乱れる心  紅い手絡が目に沁みる
抱いて行きます三下り半を  指にくいこむ紅緒の草鞋 
燃えて紅葉(もみじ)の紅より赤く  命までもと染めた恋
あなたのために綺麗でいたい  鏡をのぞいてなおす紅
涙ぐませるあなたとわたし  熱い紅茶に レモンひときれ愛をこめて
紅を散らしたななかまど  風が泣く夢が泣く涙が凍る

29

口紅いろの赤い灯が  挽歌の街に滲む頃
命にしみたくちづけが  紅をさす指こんなに熱くする
赤き紅の色一途でも  決して届かぬ愛なのに
湾岸道路を塗りかえる  口紅みたいな夕陽のしずく
思い出すのはふるさとの  雨に咲いてた紅い花
しい葉書の切手の裏は  そっとそっと そっと染まった紅のいろ
あなたに咲きたい薫りたい  春を夢みる口紅水仙
愛を重ねた夢から覚めて  口紅がせつないわかれ町
胸に残した虹のかげ  にぎる輪ッパは俺の命さ
せめて百日咲いて散る  命燃やした紅の花
今様(いまよう)

30

そっとブルースくちずさみ  真紅のベッドに涙をこぼす
暮六ツ 流行の色の紅をさし 逢瀬はいつも晴れ舞台
家を出たあの子が はるばる越えた  汐路の渦に 紅い花がしずむ
咲いて儚い冬椿  紅が泣いてるこの縁(えにし) 
どうせあなたの心には 住めるはずない水の花 恋はうたかた 紅蓮の花よ
紅いキャンドルライト フロアに揺れる  はじめて出会った夜
暁靄を衝いて剣を振ってたら  紅い花びらが眉に落ちてきた
暗い部屋の鏡の前で 口紅をつけてはみても 頬つたう涙とめどなくこぼれて
熱い心に真紅なぼたん  登り竜なら似合いの夫婦
大漁旗の真紅の文字がよ 入江の向うに見えたなら 酒と肴を お膳に作ってよ 紅のひとつもつけようか

 


31

紅い灯かげのグラスに浮かぶ 影がせつない夜更けのキャバレー
胸のときめき紅さす指が  なぜ震える夕化粧
恋のマッチを二人ですろうよ  すれば火がつく紅い火が
深深(しんしん)花びえ春がくる うす紅染めた爪さえも あなた乾いてやつれます
季節のさだめ濡らす秋 舞い散る雪に山茶花の 紅色胸にしみる冬
秋には赤い紅葉酒 冬には白い雪見酒 分けた寝酒の酔いが冷めぬまに
風の吐息か高遠囃(たかとうばや)し  聞いてひく口紅(べに)湯のかおり
紅い葡萄の酒に 別れの香りゆれて 誰も愛せない あなた以上は
ガラスの窓にくち紅を うつして頬の薄さになける 恋は女の命の華よ
瀬音したたる いで湯宿 ふたり渡ったあの橋は 女と男の紅い橋
古代紫

32

紅をふいたら泣かぬまい  手鏡の白い息恥かしがるけど
紅をひと掃け心にさして  あなたを待ちたい宵の口
季節忘れた北向きの  部屋に飾った紅の花
弥生夜桜紅させど ふたりの春はかくれんぼ 背中あわせの春ならば
口紅忘れたくちびるが  あなたを恨んで恋しがる
みどりの川の紅い橋  渡れば揺れる藤の花
燃えろ螢火海山越えて 北の大地に踊る夜は  無理に濃い目の 口紅をひく
もしもあたなが月になり 私の窓を叩くなら 今宵紅さし髪を解き この黒髪を乱したい
あふれるほどの優しさで  白き乳房を真紅に あふれるほどの恋しさで
紅花染めの浴衣を羽織り  白い素肌が紅くなる

33

焦がれる想い 断ち切れず 手持ち無沙汰に 紅を引く
あなた忘れた振りをして  紅を引く手もふるえます
恋に生きても明日がない この私  赤く燃えて風に舞う 恋紅葉
恋の架け橋お江戸の春は  咲いて嬉しや薄紅桜
銀の首飾りむせび泣くテナー  ゆれてとける髪恋は紅いバラ
山は錦秋舞鶴城の  月はほろよい紅葉映え
好きだから二人どちらも好きだから 姫鏡覗き込み紅をひく
紅灯の海に漂い ひとつふたつの思い出を抱き 紅灯の海は優しい 海と名の付くものは優しい
あなたははしゃいで歌ってる 紅(あか)い頬になればいいと 心でしみじみと思う
通ればあの子を思い出す 達者でいろよ元気でくらせ 故郷の花はいつでも紅い
京紫

34

逢いみての恋しさ切なさに  紅(べに)をさす指を噛む
夏痩せですとつぶやけば 嘘が哀しいやつれ紅 未練です愚かです 女です
露地に紅引く赤ちょうちんで  酒は熱かん人肌ごころ
惚れたよ憂き世の川で  紅い契りのこころ舟
紅は濃いめにひいたって  酒におぼれる泣き虫だから
二人迎えた最後の夜明け  別れ口紅(べに)さす鏡がくもる
岐阜の根尾谷 薄墨桜 京都平安紅枝垂れ 吉野山なら千本桜
春知らぬ厚岸草(あっけしそう)の  紅は怨みの色なのか
淡紅の秋桜が秋の日の  何気ない陽溜りに揺れている
別離は人の常なるを 銀漢冴えて水清く ゆきて還らぬ紅唇よ 熱き心よ今何処

35

たとえ世間に背いてまでも  紅ははんなり 今宵 修羅の道
うす紅の似合う女でいてくれと 別れまぎわに抱いた人 ここで待つのは みれんでしょうか
なんで濡れよか男の胸が かつら下地にともしび揺れて いつか浮き名のこぼれ紅
紅を拭きとるグラスの淵に  写る寂しいこぼれ月
紅い野薔薇がただひとつ  荒野の隅に咲いている
築地河岸(がし)大川づたい  人目忍んで寄せ合う肩に 月の雫かこぼれ紅
お嫁にいくのと花嫁衣装 見ればせつないまたやるせない 無邪気なおまえのこぼれ紅
流れてゆく時間ふたりで歩く  色づく山々紅葉(もみじ)の路(みち)を
いのち短し恋せよ乙女 紅き唇あせぬ間に 熱き血潮の冷えぬ間に
止まるも行くも 風まかせ  お前が見送る酒田港 紅花積んで浪花を目指す
葡萄染(えびぞめ)

 


36

紅を今夜は濃い目につけて  せめて淋しさまぎらせましょか
肩にうっすらなごり紅  指でなぞれば 揺れておぼろな狭霧の宿
おまえの口紅とりあげて  あの海はるかに投げたっけ
ほのぼのとうす紅染むるは  わが燃ゆるさみし血潮よ
薄紅の花びらひとつ  手の平から零れて舞うよ
揺れる木漏れ日 薫る桜坂 悲しみに似た 薄紅色
きっと帰ると信じて待って  咲いて薄紅 さくら草
染まってうれしい あなたの色に 春はうす紅 櫻橋
紅葉(もみじ)しました我が家の桜  元気を貰った気がします 
流れる闇のなさけ川 紅が哀しいおくれ毛泣いて つれて行ってとすがる女

37

酔ってあなたがわたしにくれた  紅がかなしい水中花
泣かぬつもりが袖を噛む  紅を散らせたくずれ帯
紅茶がさめるわさあどうぞ  それには毒など入れないわ
今夜も口紅拭かずに眠る  とぎれる命の果てまでも
耐えた者ほどやさしく生きる  しだれ紅梅見て思う 
島のつばきとこのわたし  紅く咲いてる燃えている
誕生日にはワインを買った  おまえは紅くその頬そめた
人も通わぬ山奥に  咲いた紅葉のこころ意気
辛くなるから捨てて下さい  涙の紅がついたハンカチは
夢に酔いたいうたかたの  紅が乱れて黒髪濡れる
蘇芳(すおう)

38

サルビアの花の朱紅さに  つきあげるあなたへの愛
春の雨でも花冷えの  夜が淋しい残り紅
夢紅く誰(たれ)を待つ 柳の小窓 泣いているおぼろな瞳
私もひと口いいかしら  口紅拭きとる盃は愛々酒です
またいつの日か逢える気がしてた  再び引き合う紅い糸
忘れることなどできないけれども  あしたを夢見て口紅も変えて
うす紅色のシクラメンほど まぶしいものはない 恋する時の君のようです
みれん残して旅路をゆけば  山の紅葉の間から  泣いて見送る
せめて別れの紅化粧 綺麗でいたい最後まで いいの二人の思い出は 流して下さいこの川に
ひとりで紅茶のみながら  絵葉書なんか書いている

39

母と呼べずにわが子と抱けず  嘘とまことでとく紅かなし
君待つ宵は欄干(おばしま)の雨に  花も散る散る紅も散る
姉さん女房の柄ではないと 指輪を包む紅袱紗 包みきれない未練は燃える
三ヶ月(みつき)待たせて 逢うのはひと夜 口紅(べに)をさす手が震えます
抱いた長脇差振り分け荷物  縞の合羽に紅緒の笠も 人目忍んで草のつゆ
世間の冷たい風に泣かされ ほおずえかむ紅差指(べにさしゆび)
泣いて拭きとる口紅みたい  雨の残り灯こぼれ灯よ
紅をひと刷毛(はけ)あかね雲 想い四十九里大佐渡小佐渡
拍手をくれるあなたの顔が  夕陽に紅く染まり
紺色(あい)の絣(かすり)に紅させば  思い出すのよ椿(はな)祭り
葡萄(ぶどう)

40

独(ひと)り咲いてる紅山百合(やまゆり)に  足が止まるよ三度笠
聞いてお帰り八十八夜 駿河茶どころ菜摘み唄  囃す紅緒の あああん 晴れ姿
真紅に燃えている 恋の炎を  消せるもんなら 消してみな
ドレスの据さえ妖しく揺れた  紅いランタン石だたみ
紅いくちびる夜霧に溶けて  溶けて外灘の華になる
紅いランタン仄かにゆれる  宵の上海花売り娘
紅の月さえ瞼ににじむ  夢の四馬路(すまろ)が懐しや
化粧で変わったわけじゃない  口紅ひとつの色もそのまま
紅い花咲く峠の道を  越えて涙を拭くつもり
山の紅葉に照り映えて 色づく夢がまだあった ふるえる愛がまだあった

 


41

海の漁師の祭りも近い  帰ろかなァ紅い夕陽の知床漁港
胸にひっそり咲く花は もえて紅さす 白牡丹(しろぼたん)
愛のしるしだとふれたくちびるに  今朝は口紅さしてみました
嘆きの空の夕焼けは  ばらの花よりなお紅い
ねぶた祭りが終わってヨー  林檎が真っ紅に色づきゃヨー
紅はさしても心は美人  ふたり水棹に手を重ね
紅い沈丁花グラスに活けて  淋しさまぎらすひとり酒
熱い紅茶を入れる指先ふるえる  カップが立てる音にあなたが笑う
今度生まれてくるなら 孔雀よりすずめ 口紅も香水もつけないで 誰かと暮すわ
口紅を落として爪の色変えて  出来るだけ素顔で眠りましょう
江戸紫

42

私には消えない想い出があるの 口紅の色さえもあなたを捜すわ
髪の冷たさ寂しさの果てか  うす紅のさくら貝
螢を追いかけせせらぐ道を  君は浴衣の紅い帯
君紅の唇も君が緑の黒髪も またいつか見んこの別れ 雪中花
肌寒い秋の夜に ワインをのみながら  マニキュアの紅の色 見つめてるのです
紅い鼻緒の緒が切れて 捨てられたのは雪の夜 雪の化粧に紅を差す
あゝ咲き誇れ愛よ高らかに 紅い糸(さだめ)導くままに 美しくオーラを添えて
うんざりなのよ 信じた唇噛んでにじむ嘘 口紅より赤く
あなたの好きな口紅をさし  逢瀬を重ねる戻り川
紅がら格子の軒ばの影に  ゆれて咲いてる恋の白百合

43

待つ人ひとり 誰もいないけど 口紅をひきなおす それは女の意地かしら
深いこの哀しみ  紅に染め上げて恋の彩はジェラシー
酔わせてよあなた今夜だけ  あの時と同じ口紅ひくわ
顔残して去りゆく左近 哭(な)いて見送る内蔵之助 庭の紅葉の霜白く
北の岬に咲く浜茄子の 花は紅みれんの色よ 夢を追いかけこの海越えた
行けばおもいで風が吹く 紅葉色づく大和路で 黙って別れたあの人の
君もまだお下げ髪だね 紅もつけずに  白壁の土蔵背にして
わざとひと汽車遅れてついた  山の湯の町はらはら紅葉
恥じる心をいさめるように  うす紅の桃の花屋根
名もなき花に唇(くち)をあて  紅さし指の君想う
濃色(こいろ)

44

人の心と八重桜  赤に黄色の花紅葉
歌を忘れた唇 に  いつか染めたい春の紅
赤い口紅似合う女は  恋が実ると云うけれど
乱れた口紅(べに)もそのままに  罪なあなたと知りながら
言ってふり向きゃ眸(め)をうるませて  ほゝに紅さす可愛い女
真冬の空をまっ紅に焦がす  花火は一夜で終わるけど ふたりの恋は永遠と
紅いはまなすの立待岬  いつまでも待つと寂しげにすがりつく
お岩木山から紅葉の帯が 里にひろがりゃヨー  津軽の冬はもう近い
あんたを迎えるうす紅化粧  だけど汽笛がしみただけ
わたしを燃やす街灯り 紅くせつなくやるせなく 涙の中でゆれている

45

惚れちゃならない堅気に惚れて  解いた絣の紅の帯
夢で逢いたい逢えたらつらい  口紅(べに)がせつない月の宿
忍ぶ哀しみ手紙にしたゝめて  紅のくちびるおしあてる
すすり泣くよな汽笛の音に 眠れないまま口紅をひく あなた旅からいつ帰る
弦月(ゆみはり)の月の先が よこしまな紅を引く 悪い女になったのは
電話さえせめて鳴れば着替えも出来る  口紅をときめく色に
惚れてもいいじゃない 紙でこさえて紅で色づけ 恋のつくり花
馬鹿よ馬鹿なのそうよ私も女よ 伝わりますか 淡い紅をかるくのせて
恋の色は夕暮れの空  うす紅にはかなく落ちた
離したくない離さない  女うす紅九十九(つづら)坂
本紫

 


46

紅い椿はね紅い椿は  おんなの涙
紅い椿の花咲く季節  飛んでゆきたい南の島へ
未練涙(みれんなみだ)を湯けむりの  向こうに流す紅椿
紅色に思い出を染めあげて  夜空いっぱいに散りばめてみても 涙がゆれるだけ
そばで暮らすと決めました 乗り継ぐ夜汽車を待ちながら 口紅ひきなおす指先に
逢いに行ってもいいですか 人目かまわずあなたの頬に 口紅をつけてもいいですか
結ぶ草鞋に絡まる紅緒(べにお)  乙な木曽路のわたり鳥
愛の手で織る大島紬  紅の色柄花模様 
真っ赤に染まれば紅椿  白く開けば玉椿
春で十九になったよな 赤い口紅買ったよな 逢いたいな逢いたいよ

47

夢で逢いたくて眠る夜は  口紅を一色指します
紅い色して散る花は  風のせいじゃない
ひとり手鏡紅ひけば  未練宿して胸がなく
問わず語りで夜が更ける 夏の夏の恋 水面に紅く映る
哀しみが似合う女だけで生きてるよりも  口紅をふいて暮らせば
一夜(いちや)泊まりの妻籠の宿で  逢うて見初(そ)めた紅つつじ
真っ紅なドレスがよく似合う  あの娘想うてむせぶのか
紅い雨傘あの笑くぼ  ひと夜の温もり忘れない
帰るあなたのシャツの襟もと  わざと口紅つけてみた
紅蓮の炎に身を焦がし  生きて行くのかおんな道

48

眠る前の紅茶の白い湯気に  故郷の冬が揺れている
時には娼婦のように 淫らな女になりな  真赤な口紅つけて
春にはきれいなさくらを咲かす 紅をひくたび唇に うたがでるのよ恋歌が
口紅の色もこの髪形も  知らないあいだに変えてたわたし
真紅な角巻舞いとぶ雪の華  忘れちゃいないさあの日の北の駅
わずか三月(みつき)でも 口紅変えるほど 心のどこかで ときめいてたけど
夢をください消えない夢を  泣いて紅ひくとまり木の花
荒野に咲いた一輪の  色は薄紅可憐(かれん)花
この川でひとり春を待つ  燃えてさみしい紅い唇
紅い灯青い灯わきめもふらず  死んだつもりのこの戻り船

49

映えて真紅な口びるに  倖せあげたい人だった
紅ひく仕草が絵になるこんな夜  おまえは空行く雲になれ 
紅の月さす窓際に  肩を寄せれば流れる涙
湯の花祭りのいたずらに ちょっとだけよが あゝ命とり紅椿
とかせた帯ひも南蛮屏風 ガラスの絵にさえ紅がつく 男と女の恋ごころ
薄情な人の名を口紅でかけば  こぬか雨降る夜の丸山
小指で紅さす宵化粧  ひとりで 咲かせる水中花
ときめきがほしいから いつまでも口紅は同じ色 心もあの日のまま
水のしぶきに濡れた夜 襟を合わせる手をほどき 胸に紅葉の長良川
命燃やした浜辺の宿で 肌は紅色深酒すれば 涙ほろほろ心に沁みる
桔梗(ききょう)

50

涙ほろり にがいわ夏の味  赤い口紅塗りなおす
熱い涙が止まない夜は  月のしずくで紅化粧
約束のうれしさ胸に 口紅をさす 待ち人待つ夜の 宵化粧
問わず語りの遠い日に あんた泣かせて  生姜の紅がまたにじむ
なみだ下地のお化粧に  倖せ薄い口紅さして
夜の化粧口紅をさす  信じても逢う瀬短かい いで湯妻
口紅拭いてもみれんは残る  まして雨降るこんな夜は
杏の花が薄紅色だよ  丁度去年の別れの頃のよに
潮が渦巻く心が痩せる 頬の涙が人を恋う  紅の紅の寒椿
乙女の殻を脱ぎ捨てて 静かが似合う大人となりぬ 紅うすくつけ

 


51

紅く染まる夕陽に追いかけられて  誰もいない海岸また一人で歩く
夢も今市(いまいち) 紅緒傘(べにおがさ) 賽(さい)の目数(めかず)は
口紅(べに)をさすさえもどかしく  涙ばかりがあふれます
紅(べに)のかすかなささやき  胸が痛くなる
口紅さす小指の先までが  あなた欲しさにまた燃える
胸が燃えるわ想い出されて あの人が誘いに来るような 紅が気になる
寒い女の 子守唄 知っているのか一人の夜を 枕ならべて紅をひく
灯りおとして紅ひもとけば  匂うほのかな湯上がり化粧
お染久松切ない恋に 残る紅梅久作屋敷 今も降らすか春の雨
朝(あさ)靄(もや)はるか 深山(みやま)の里の 薄紅色の山桜
紫苑(しおん)

52

何故に私につきまとう あなた偲んで泣いてます 紅も悲しい博多川
月の那珂川中州の紅燈(あかり)  縋りつけない恋の舟
そうよ待ちます逢える日を  紅もほんのり薄化粧
紅もつけずに恥じらいながら  甘いくちづけ待つ私
風の情念(おもい)が紅葉を散らし  恋の情炎(ほむら)が衣を燃やす
林檎をわれにあたえしは 薄紅の秋の実に 人恋い初めしはじめなり
空を紅く夕陽が染めて 今日も落ちるよ水平線に 海の藻屑と消えた友
恋の形見の口紅を  暗い波間に投げすてる
恋も着きます夢もゆく  春の紅さすネオン町
吐息もからむ襟あしに  花びらふたつのこぼれ紅

53

女ごころの花道に  揺れて切ないこぼれ紅
とく髪の指先がたまらなく愛しくて  紅を引く
爪をたてればはじける命 あなたに焦れ夕べに紅く 咲いて一夜の花しぐれ
夢じゃないのね 抱きしめて  今夜の私は紅いバラ
白い花なら別れの涙  紅い花なら嬉しい心 
恋の吐息のその森で  紅椿心に咲き濡れるよ
深みを増したその森で  紅椿ひときわ咲き揺れるよ
戯れの紅はこべ 遊ぶこでまりそぞろ咲き 行きずりのゆずりはか
薄紅 (うすくれない)のその中に  白く咲いてる花もある
紅をささないくちびるは  愛の言葉にふるえがち
藤納戸(ふじなんど)

54

泣いたあの日も想い出話 そうよ今夜は うす紅さしてつきあいましょうね
春は桜に夏菖蒲 秋に紅葉に冬の梅 光りに集う蝶のよに
谷の紅葉をこぼれた露も  流れて千曲の川になる
落ち葉焚いてる煙が沁みて  にじむ紅葉の大原野
吹き荒れる風 舞い踊る木々 薄紅色の吹雪に 愛も凍ります
紅の闇 一人寝の夜 溜め息つけば 心が千千に乱れます
乱れ髪指で直し 鏡に映し薄紅差すの 滝音ながれる山の宿
清き流れの台川に  染めて散りゆく深山の紅葉
あの日の涙は乾いたか  薄眼の口紅そのままだろか
別れなさいと人がいう 花水木薄紅かなしく 愛しすぎてる女から

55

水の鏡を朱に染める  沈む夕陽の紅い帯
知っていながら瞼が濡れる さよなら うるむロビーの紅い灯よ
桜山吹風船かずら 秋の紅葉で冬が来る 何も心配 いらないと
心づくしの宅配便に 一枝添えた紅梅の 花は わが子に賭ける母の夢
紅をひく度あなたを忍ぶ  ひとり忍んで惚れ直す
人の出逢いは罪のもと はまなすの花紅い花 一途な愛のくれないを
浜に咲いてる北の花 幼ごころに美しかった 母が差してた口紅の色
噂追いかけ紅緒笠 逢える逢えない 逢えない逢える 旅の気休め花占いに
両掌(りょうて)合わせりゃ梅一輪 紅もうれしいあゝ春仕度
素直さが美しく お化粧も紅少し 見る夢も懐しく よく笑うあなただけ
菫(すみれ)




56

あゝ春に追われて 口紅ひとつ 綺麗なときは きっと短い
肌にひとひら紅い花  それはあなたの愛の跡
春よとまれこの手にとまれ  紅をさす手がかじかむよ
君よ青春の紅(あか)い薔薇  召しませ薔薇を
あなたが死ぬと言うのなら ついて行きます迷わずに 命火の紅い花びら悲願花
紅葉(もみじ)灯りの手摺(てすり)にもたれ  深いため息またひとつ
女心の嬉し泣き あなた好みの口紅は 色も春待つさくら色
人知れず咲いた 紅い朝顔ひとつ  日照りつづきの軒かげに 忍ぶ恋しさよ
ほんのり薄紅の 香りをただよわせ 恋は一夜で結ぶお話
鏡の中で女が燃える 好きな男に逢うのならなおさら 心の色は口紅の色

57

紅で染った奥入瀬川に  散って流れた恋いくつ
秋は紅葉の薩摩路へ ふたり旅するはずでした うしろを見ないで歩いたら
濡れた枕に口紅で  愛(いと)しい似顔をかきました
命尽くすわ灰になるまで 螢  炎の螢紅々と 髪も乱れて闇に飛ぶ
愛の紅ばら恋の花  もゆる心のささやきか
柳がくれの大川に 紅い灯りが一、二、三 水にこぼれてゆらゆらと
夜更けの雨に打たれて落ちた  紅が哀しい落椿
紅い千代紙情念をこめて  折ればあなたに逢えますか
淋しくはないか 真紅(あかい)浜昼顔 もの言わぬ海に 恋の身を焦がす
昼顔の花薄紅が  真夏の陽にも涼しげだった
桜鼠(さくらねず)

58

茜くれない金色(こがね)べに  ぬれて色増す祗王寺(ぎおうじ)紅葉
叶わぬ恋に身を焦がし  胸の谷間に散らす紅
情け知らずが情けに泣いて  紅を散らせた傘踊り
夫婦ちゃりんりん水面にふたつ  落ちて流れる恋紅葉
季節変わって紅葉にも  揺られて語って風鈴が 色づき燃えて秋の木に
惚の字書きたやこの紅で  粋な藍染めエー 半纏に
紅を濃いめによそゆきの  顔で笑って生きてきた
誕生日にはワインを買った  おまえは紅くその頬そめた
私の気持は決まってる 色も知らない口紅は あなたに見せたい薄化粧
あなたを困らせわがままでした 女なら紅く紅く きれいに咲いて 咲いて いたいから

59

長めの指紅茶が好き  低い声でよく笑う
泣いてるのか 夜更けてひとりよ 遠い空見たネ 口紅の花 
噛んでおくれよあたしの耳を  紅葉の色に染まるまで
あなたに私見えますか  紅も悲しい冬化粧
捨てるなら時間をかけて ひとひらふたひら 紅バラも花びら散らす
色褪せた紅い糸  いまでも小指に巻いている
けなげに生きたい尽きるまで 口紅塗りました きれいに見えますか
紅はあなたの好きな色  熱い素肌をすべる衣(きぬ)の音
棄てちゃいやよと紅ひもで  ふたつからだを縛ったおまえ
泣かない迷わない  冬の花咲いた 紅も薄いろ冬牡丹
端色(はしたいろ)

60

あなたいいのよ来なくとも あゝ泣くだけ泣いて 情けひと枝すがる冬紅葉
恋のなやみを鏡に写し  うすい口紅つけてみる
秋の紅葉十三夜  冬は雪原に針葉樹
春は若葉夏は青葉  秋は紅葉冬は落葉
淋しくて細く身も痩せて それなのに今日も うかれ化粧の紅をひく
山はくれない色付く紅葉(もみじ)  心ひとつに結ばれて
きっとあなたは紅いバラの  バラのかおりが苦しくて 涙をそっと流すでしょう
咲いておくれよ 淋しい頬に 熱いくちづけ 紅の花
やさし過ぎるわ春の海 こぼれ散る紅椿 流れにひきこんで
髪梳かし 口紅塗り 香水つけ 催促のベル気にして




61

私の部屋に紅紫の  野あざみの花びらが
紅筆も折れそうなときめき  今夜逢えば苦しみへと墜ちて行くのに
ああ いっそ待てたら  浮かぶ瀬もある紅の川
耐えて女は女です 口紅を引き直し おんな一輪 
雨にふるえる紅いろ椿 生きる別れるどちらもつらい
恋しい名前を口紅で  なぞればポキリとはじけとぶ
抱けばほんのりほほ染める  俺の花だよおまえは紅桜
似合うと貴方に褒められた  口紅色した紅水仙よ
似合うでしょうか口紅が 答えてくださいそばにきて
わたしはあなたのこころ妻 紅花とかした恋化粧
紅藤(べにふじ)

62

足音を待てば 雪になります あなた 今日で最後と 決めて紅を引く
いのち濡らしてまた泣かす  あなたつれない紅花しぐれ
女心に春呼ぶような  霧笛ひと声紅花の宿
吹雪地吹雪(じふぶき)紅吹雪 雪よ降れ降れ 命しんしん雪よ降れ
春にはぼたん 秋には紅葉(もみじ) 粧(よそお)い彩(いろど)り季節が巡る
夜店で買った紅ほうずきを  おとこのくせに上手に鳴らす
隅田川(おおかわ)あたりでお酒を飲んだわね  ほんのり薄紅色の  私の手を取って歩く
胸にたまった恨み言こめるように いつでも鳴らしていたっけね 紅いほおずき
ほお紅を水で落してみたら  想い出がパッと鏡に咲いた
北緯五十度カムチャッカ沖だ こんな時にも心の中で 紅く燃えてる命の恋よ

63

まだくちびるに紅もなく 前髪さえも切りそろえ 頬をうぶ毛で光らせて 
霧にけむった途中駅  車窓に映して口紅をひく
心の区切りできるまで  北陸本線口紅(べに)が啼く
誰からも愛された紅白のユニフォーム  月日は流れても胸にずっと生きてる
一目逢いたいお母さん 唇紅(ルージュ)哀しや 唇かめば闇の夜風も泣いて吹く
春なら伏見か京の町  秋なら紅葉(もみじ)能登の国
彩どりどりの口紅ならべ  風の音にも戸を開ける
惚れたが悪いか  唐紅(からくれない)の彼岸花
ほろりお酒せつなく抱けば  熱い命の紅の花
それでも生きててよかったと  風に風に微笑む紅芙蓉

64

藁を絡めた緋襷(ひだすき)模様  肌を刺すよな紅の色
雪に埋れて眠ります  あなたあなた  命尽きたら紅の花になります 牡丹雪
白い肌を うす紅(くれない)に 染めた今夜を 忘れない
あなたが恋しくて 鏡にうつした口紅は  いまでもあなたの好きな色
口紅を拭きとりそして涙と  飲めばあなたを忘れられない
だめと思えばなおさら燃える  口紅(べに)が哀しい迷い川
ひとり旅する寒いくちびるに 紅いハマナスうす化粧 あなたをたずねてひとすじ
私を見る私がいるのよ 頬紅が青く青く 変わるのが映る映る
報われないならそれもいい 窓に満月この身を焦がし あなた浮かべて紅をさす
曼珠沙華恋する女は 曼珠沙華罪作り 白い花さえ深紅に染める

65

大切なのは心じゃないの  鏡のぞいて紅をさす
あの日と同じに黒髪結(ゆ)えば  似合うと言われた口紅淋(くちべにさみ)し
鏡に向かいおもいでを  口紅引いてなぞるだけ
桜映した掘割りを  秋は紅葉が朱に染める
花という名の口紅寒い  酒で心をぬくめてみても
ひと目に触れずに椿の花は  雪にひと色紅を増す
障子に映った山紅葉  あなたの胸で燃える肌
髪のみだれに手をやれば  紅い蹴出しが風に舞う
宿の紅葉が水面に揺れて  あかあかキラキラ燃えたのよ
惚れてふられて又惚れりゃ  おばこ嬉しや紅の花
紅殻(べんがら)

 


66

白いうなじが ほんのり紅をさす  どうした乱れて泣いたりしてさ
煮〆ならべて熱燗つけて  迎え化粧の口紅をさす
紅を落として島田をくずし  せめて一夜を都鳥
指でおくれ毛撫でつけて 紅もひと刷け冬の花 あなた早く早く気付いてよ
紅をひく手が汽笛で止まり  揺れる小窓にあなたの名前
こころの渇きをグラスの酒で  そっと湿らせ口紅を拭く
君ゆえに麗しき紅きくちびる  思い出せば今も尚胸が熱くなる
街のくらしがあう人じゃない ひょっこり帰ってくるようで 紅さす指先ふるえます
倖せが似合う女になりたい  あなた色した紅が悲しい
たどって夜汽車にゆられてはてない旅路 今でも口紅をつけずにいるのか

67

紅を拭き髪乱し キリリと眉を吊り上げて 抱かれたいのか憎いのか
半年待ったら待たされついで  紅いはまなす枯れるまで
娘十八□紅させど  わたしゃ淋しい船頭むすめ
紅(べに)ひく指の先までも 想いあふれて待つ夜毎(よごと)
湯の香ほんのり口紅させば  夫婦盃おまえはきれいだよ
こんなに泣き疲れ心泣きはらし  口紅折るほど憎みはしない
青い青い海が見える さよならを描こうとした口紅が 折れてはじけた
回す心の盃に  紅はさしても晴れぬ胸
あなたを抱きしめ もう離さない 月のあかりに紅の帯 
明日は明日さ今日じゃない  秋から冬へと散る紅葉
深緋(ふかひ)

68

紅葉の紅を手ですくい  わたしの色よとすがる胸
襟元なおす手をほどき  胸にも紅葉を散らすひと
船が舟が揺れれば飛沫がかかる  飛沫は紅花絞り染め
ひとひらふたひら散りゆく紅葉  恋の終わりを見るように
たたむ浴衣に散り染めた  夢のなごりか口紅の花
おもかげ酒になみだ唄 ごめんごめんね 紅く燃えつつ枯れていく
足踏みばかりさせないで あなた恋しい心も肌も 紅葉前線はかなく燃える
あなたは霙それとも氷雨  紅葉のわたしを打ちのめす
強く生きます恨みはしない  女一途の 紅葉舟
胸にきかせて戻り橋 幸福なんて 表と裏の紅葉雪

69

紅を散らした顔のぞかれて  知らぬふりするはずかしさ
みこしなら肌ぬいで  向う鉢巻紅だすき
命絡めて只ひとすじに  明日も咲きます紅い花
惚れたあなたに辿りつくまで  乱れた紅のまま
右と左に泣き別れ  口紅を拭く手も涙に濡れる
今年も幾千幾万  幾億の薄紅色の花びらで
口紅も引かずに働く女房  もんぺ姿で網を刺す
露草で描いた恋の 行くすえは水に流れる これがさだめか紅殻格子
優しささえも失くしてたあの頃 あなたのために選んだ口紅
紅を紅を紅を薄めに ひけばでる涙 みれん心が意地悪に
小豆(あずき)

70

紅がら格子に九十九小路(つづらみち)  雪降りやまず足袋を凍す
冬がひと足早いから  もう散り急ぐ雪国紅葉
お堀城跡 紅殻格子(べんがらごうし)  汽笛北風汽車は行く
港はきょうも雪に暮れ  酔ってわたしは口紅をひく
小指に残る口紅のあと  夢なら泣いて忘れもしよう
七夕祭りを惜しむうち  おんなを泣かせ紅葉が散った
紅い炎に言ったひと  冬になったらまた燃え上がる
雪の谷間に紅さす母の  愛は越後の雪椿
聞いて下さい寒い夜は 耐えて椿の蕾の中に ひとつ幸せ紅の花
叶わぬ恋が運命でも しんそこ惚れて  焦がれ咲きする紅の花

 


71

頬にさらさら舞い散る雪は  紅も哀しい あゝ雪化粧
好きと云う字を手鏡に  口紅(べに)で愛しく書いて待つ
ああ堅むすび 紅ひもを  ほどかせたあなたよ
まわり道でも倖せ探す 肩にひとひら冬紅葉(ふゆもみじ)
道さえも見えぬ眸に  沁みとおる花の薄紅
ぬくもりひと夜の肌恋し  山間の雪紅葉定山渓
雨に散る散る無情の雨に  紅も はかない岩つつじ
あなたと一緒に暮らせたら わたしは死んでもいいの ひとり紅ひく夜ふけの酒場
拭いても残るくち紅の  色さえさみしく身をせめる
紅色(べにいろ)の匂い漂う露地に  小雨のこる夕暮れどき
栗梅(くりうめ)

72

はらりほろり帯ほどく秋  哀しくて追い橋の紅(べに)まくら
夢を夢を夢を飾って一人で泣いた  涙いちりん口紅の色
紅く燃え尽き窓の外舞う紅葉  恋の名残りの愛しさか
たよれる胸でやすらぎほしい  おんな紅ひく夢化粧
苦労七坂峠を超えて 育て咲かせた紅の花 嫁ぐ娘の花嫁姿
夢破れ道は果てなく デイゴの花は紅く燃え 還るあてない思い出が 
紅筆で唇なぞり  あなた想って蛍になった
この手につかめぬ幸福ならば  虹のかからぬあすなし人よ
あなた待つ夜は三十路が十九  恋は耳まで紅をさす
夢一夜一夜限りと  言い聞かせては紅をひく

73

今日は逢えない夜だから  紅をふきとるこの指に
湯の香に咲いた紅い実ひとつ  似た者同志の夢もどき
雪見障子に紅柄(べにがら)格子  あなたと歩く路地裏あたり
酒はにがいし煙草はからい  紅はとけるし寝床は寒い
あなたのそばで過ごせることは  いとしさ余って残る紅
ひとり口紅拭きとりながら  鏡のわたしに声かける
花は花ゆえ花と散る 紅(くれない)燃ゆる色香(かんぱせ)も
青いネオンが泣いている 紅いネオンも涙ぐむ チャコ チャコ 帰っておくれよ
青い夜霧に灯影が紅い どうせ俺らはひとりもの 夢の四馬路かホンキュの街か
女なんかになれないわ あなた口惜(くや)しい あぁ口紅(ルージュ)もひとり 

74

口紅をつけてティッシュをくわえたら  涙がぽろりもひとつぽろり
口紅(べに)を噛み切り投げつけりゃ  死んだふりして夢ん中
提灯の紅あかり  浮きたつ桜に誰を待つ
紅葉みたいなその手のひらに  取らせますともこの国を
線香がやけにつき難(にく)い さらさら揺れる吾亦紅
そっと紅をさせば肌寒く  桜の吹雪を浴びて眠り合えたら
今夜は赤い口紅をひいたけれど  燃えるキャンドルライトあせてしまう
紅い椿が しおれちょる  女房にしたけりゃ 網を引け
今年も咲いている 無花の紅い花 光り映える街角に
紅のたすきが 今も揺れてる  あゝ目の中に

75

鄙びた籠宿 小指立て紅を指す あなた待つ夜の薄化粧
紅と小さな夢ひとつ  詰めてきました荷物の中に
くもり硝子の向うは風の街  さめた紅茶残ったテーブルで
紅い帯締め花嫁人形  明日は売られてどこへゆく
越えてあなたの後を追う  夜なべ藁打ち 紅緒の草履
燃えろ 若い太陽  恋の炎でいつまでも 紅い炎でいつまでも
情とかした鮎川に  燃えて散りゆく深山の紅葉
虹色の夢なんか  見られるでしょうか万華鏡
白い小さな風蘭の 花が咲いてた城の跡 紅がら格子 小浜まち 
別れの朝ふたりは さめた紅茶飲みほし さよならのくちづけ 

 


76

戻らない季節(とき) 別離のルージュは紅く 思い出ぬりかえて
橋を渡れば軒に紅い灯が  ゆれて誘った雪どけの道
ゆれもせず消えてゆく口紅の色  罪の重さに耐えながら 
淡い口紅似合うひと  肩を抱き寄せ歩いてた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   

 

旅の出逢いもさだめでしょうか あれは霜月かずら橋
燃えて紅葉(もみじ)の紅より赤く 命までもと染めた恋