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  送友人入蜀 / 李白

  見説蠶叢路 崎嶇不易行
  山從人面起 雲傍馬頭生
  芳樹籠秦棧 春流遶蜀城
  升沈應已定 不必問君平

  友人ゆうじんの蜀しょくに入いるを送おくる
  説いうならく 蚕叢さんそうの路みち
  崎嶇きくとして行ゆきやすからずと
  山やまは人面じんめんより起おこり
  雲くもは馬頭ばとうに傍そうて生しょうず
  芳樹ほうじゅ 秦桟しんさんを篭こめ
  春流しゅんりゅう 蜀城しょくじょうを遶めぐる
  升沈しょうちん まさにすでに定さだまるべし
  必かならずしも君平くんぺいに問とわず
 

 

 
 
   
   

2013/3/21-28

 
虫の漢字
虫に関わる漢字についてお話します。何故「蜀」の字の中には虫があるのでしょうか? 彼の中国の大詩人、李白の詩に「蜀道難」という長い詩があります。
■  蜀道難
   噫吁戯危乎高哉
   蜀道之難難於上青天
   蠶叢及魚鳧
   開國何茫然
   爾来四萬八千歳 
   不與秦塞通人煙
   西當太白有鳥道
   可以横絶峨眉嶺
   地崩山摧壮士死・・・
(「蜀に行く道はたいへんです」 うぉっと、この道は危ないし、高いで。蜀ちゅう国に行く道は、とてもや無いけど大変です。あの青う澄んだ天に登るより難しいんです。蠶叢さんと魚鳧さんが蜀という国を創ったのには驚くばっかりです。それから4万8千年(白髪三千丈より雄大です・・・)。秦からくることを塞いでるし、人も煙も通れません。それくらい大変やちゅうことです。西の方に太白山という有名な山が有りますけど、そこには鳥の道があって、峨眉山の嶺を横切っていくそうです。地面は崩れるし、山は砕かれるほどやそうで、元気な若者でも死ぬことがあるそうです。(「蜀に行く道はたいへんです」ちゅうのが判ってもらえますか・・・。)
まだまだ続きます。全部で44行にも亘る長い詩全編に古より蜀に至る道の困難さが詠われています。 「蜀道之難難於上青天」が3回も出てくるくらいですから・・・。
もう一つ、李白さんの詩に「送友人入蜀」というのがあります。これは五言律詩ですから短いです。
■  送友人入蜀   友人の蜀に入るを送る
   見説蠶叢路   説(い)うならく蠶叢(さんそう)の路(みち)
   崎嶇不易行   崎嶇(きく)として行きやすからず
   山從人面起   山は人面より起こり
   雲傍馬頭生   雲は馬頭に傍(そ)うて生ずる
   芳樹籠秦棧   芳樹(ほうじゅ) 秦棧(しんさん)を籠(こ)め
   春流遶蜀城   春流は蜀城を遶(めぐ)る
   升沈應已定   升沈(しょうちん)まさにすでに定まる
   不必問君平   必ずしも君平に問わず
「山は人面より起こり」、「雲は馬頭に傍(そ)うて生ずる」。なんとすごい光景でしょう。
両方の詩に蠶叢(蚕叢)が入っているところが素敵です。
さて、「蜀」は蜀という国の形をあらわしているといいいます。詳しく考える前に、まずは虫という漢字ですが、これは「まむし」を表しています。グネグネしているものを表しているのです。長くてグネグネしているものです。さらに進んで、動物を総称することになります。この地球上には「天地神人鬼、甲鱗毛羽昆」がいると古代中国人は考えました。
この世界には天と地が、あり、神と人と鬼がいる。そのほかに甲虫、鱗虫、毛虫、羽虫、昆(虫が生息している。甲虫とは甲羅のある動物(爬虫類)。鱗虫とは鱗のある動物(魚類)、毛虫は毛の生えている動物(哺乳類)、羽虫羽を持つもの(鳥類)、そして昆虫が棲んでいる。というわけです。虎は大虫、人は裸虫でもあるのです。
虫が使われている漢字は、本来の虫以外に、動物の名前を表すものとして数多く使われています。例えば、蛇、蝮、蛙、蚯、蚓、蜘、蛛、蝦、蟹、蠍、蝸、蜆、蜊、蝙、蚫、蛤、虷、蛸、蛜、蝌、虯、蛞、蛭、蝟、蟆、蟇、蟺、蛸等、いくつ読めましたか?
本来の虫達を表す漢字には虱、虻、蚕、蚤、蚊、蛍、蛆、蛾、蜂、蝗、蛹、蝶、蜩、蝉、蜻蛉等が有ります。それ以外に長いものクネッと曲がっているものなんかを表す漢字に虹、蠢等の字があります。そのほか蛋は卵を意味しますし、蛮という字や蜜、蝋なんかもあります。ざっと調べただけでも270字ほどが私の漢和辞典に記載されていました。本来のムシたちは「蟲」という漢字で表していました。
では何故に「蜀」という字に虫が入っているのでしょうか?一つの答えは先ほど掲げた李白の詩にあります。山肌に沿った、くねくねと曲がりくねって細くて危険な路。蜀という国にたどり着くまでの状況が蜀という字に表されているのです。蜀の国内も河川が数多く流れ、虫が持つ意味を含んだ蜀という漢字がぴったりと当てはまるというわけです。