処理水放出で流出 トリチウム
地元漁業者
説明不足 あきらめ 補償頼みか
補償の
元手は税金らしい
東電なら 電気代の値上げ
お鉢 尻ぬぐい 結果的に全て国民負担が待っています
中国 外交絡みでややこしそう
科学は無視 ・・・
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●「トリチウム」 | |
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●「トリチウム」とは?
トリチウムは普通の水素に中性子が2つ加わった水素の仲間で、三重水素とも呼ばれる放射性物質です。水素とほぼ同じ性質を持っているため、酸素と結びついて、主に水として存在し、自然界や水道水のほか、私たちの体内にも存在します。ベータ線という弱い放射線を出しますが、そのエネルギーは小さいため、紙1枚で遮ることができます。日常生活でも飲水等を通じて体内に入りますが、新陳代謝などにより、蓄積・濃縮されることなく体外に排出されます。 |
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●浄化処理した水はどうするのか? 汚染水を浄化処理した水は、福島第一原子力発電所構内でタンクに貯蔵し管理しています。この水の取扱いについては、現在、国が、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の報告書、ならびに福島の皆さまをはじめとした幅広い関係者から伺ったご意見を踏まえ、風評被害対策も含めた基本的な方針を示す、としています。国の示す方針を踏まえ、丁寧なプロセスを踏みながら適切に対応していきます。どのような処分方法であっても、法令上の要求を遵守することはもちろんのこと、風評被害の抑制に取組んでまいります。 |
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●処理水って、人体への影響はないのか?
処理水は、汚染水に含まれる放射性物質を、トリチウムを除き国の安全基準を満たすまで浄化処理して取り除いたもので、人や環境に与えるリスクを可能な限り低減しています。環境に放出する場合は、トリチウムも、国の安全基準を満たすよう処理してから放出を行います。 |
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●「汚染水」「処理水」とは?│
「汚染水」とは、福島第一原子力発電所の事故により発生している、高濃度の放射性物質を含んだ水のことです。溶けて固まった燃料デブリを冷やすための水が、燃料デブリに触れ放射性物質を含んだ「汚染水」となります。さらに、地下水や雨水が原子炉建屋・タービン建屋といった建物の中に入り込み、汚染水と混ざり合うことで、新たな汚染水が発生します。「処理水」とは、この「汚染水」を、複数の設備で放射性物質の濃度を低減する浄化処理を行い、リスク低減を行った上で、敷地内のタンクに保管している水のことです。 |
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●トリチウムは放射性物質であり危険でないのか?
トリチウムから発生する放射線のエネルギーは非常に弱く、規制基準を守る限りにおいては、危険ではありません。トリチウムから発生する放射線のエネルギーは非常に弱く、空気中を5mmしか進むことが出来ません。皮膚も通過できないため、外部被ばくによる人体への影響はありません。また、体内に入っても水と一緒に最終的に排出されるため、体内で蓄積・濃縮されることはありません。これまでの動物実験や疫学研究から、「トリチウムが他の放射性物質と比べて、特別に生体影響が大きい」という事実は認められていません。 ALPS処理水を海洋に放出した場合の1年間の放射線影響は、自然界から受ける放射線の影響の10万分の1未満、と非常に小さい。 |
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●トリチウムは体に悪い?
普段の暮らしの中で健康への影響を心配する必要はありません トリチウムから出る放射線はベータ線です。トリチウムからのベータ線はエネルギーが小さいので物体を通り抜ける力(透過力)が弱く、人間の皮膚を通り抜けることができません。水や食べ物として莫大な量のトリチウムが体内に取り込まれた場合には、健康に影響が出る可能性があります。しかし、人工的なトリチウムを環境中に出せる量は制限されており、普通に暮らしていて、健康を心配するような量のトリチウムを体内に取り込む機会はありません。原子力・放射線施設については、国などによる厳しい排出基準が定められており、周辺の住民の方々にトリチウムによる健康影響が出たことはありません。 体内に取り込れたトリチウムの動きは、普通の水素と変わりません。特別な動きをしたり、特別に濃縮されたりすることはなく、身体に備わっている代謝の働きによって体外に排出されます。 |
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●「トリチウム」とはいったい何? | |
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●「トリチウム」って何?〜自然界にも存在する“水素”のなかま
トリチウムとは、水素の「放射性同位体」です。放射性同位体とは何でしょう?ここで、理科の授業をちょっと思い出してみましょう。水素や炭素などのさまざまな原子は、陽子や中性子でできた「原子核」と「電子」で構成されています。普通の水素原子を構成しているのは、陽子1個でできた原子核と、電子1個です。しかし、ごくたまに、原子核が陽子1個+中性子1個でできていたり、陽子1個+中性子2個でできていたりする水素原子があります。 水素原子と水素原子の同位体を図解した絵 これが、水素原子の「同位体」です。水素だけでなく多くの原子に「同位体」が存在しています。水素原子の同位体は、陽子1個でできた原子核を持つ普通の水素原子と、ほとんど同じ化学的性質を持っています。 水素原子の同位体のうち、陽子1個+中性子2個でできた原子核を持つ同位体は、「三重水素」と呼ばれます。三重水素の原子核は不安定な状態にあり、原子核は、その不安定さを解消するため、陽子と中性子の個数を変えてバランスを取り、異なる原子核へと変化しようとします。 トリチウムの原子構造を図解した絵 この時、三重水素は放射線を出します。こうした同位体を「放射性同位体」と呼びます。この三重水素こそが、トリチウムなのです。 |
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●トリチウムってどうやってできるの?〜自然界にもたくさん存在
トリチウムは、宇宙空間から地球へ常に降りそそいでいる「宇宙線」と呼ばれる放射線と、地球上の大気がまじわることで、自然に発生します。そのため、酸素と結びついた「トリチウム水」のかたちで川や海などに存在しています。雨水や水道水、大気中の水蒸気にも含まれており、富士山周辺における地下水の年代測定にも活用されています。また、人の体内の水分量と、日本の水道水や大気中に存在するトリチウムの量から試算すると、水道水などを通じてトリチウムを摂取することで、人体内にも数10ベクレルほどのトリチウムが存在していると言えます。 「トリチウム水」の分子構造を図解した絵 自然界では、1年あたり約7京ベクレル(Bq、放射性物質の量をあらわす単位)のトリチウムが生成されており、自然界に存在するトリチウムの量は、約100〜130京ベクレルと見られています。 一方、トリチウムは、人工的に生成されることもあります。まず、1945年〜1963年におこなわれていた核実験で放出されたトリチウムがあります。また、国内外にある原子力施設(原子力発電所や再処理施設)でも、核分裂などを通じてトリチウムが生成されています。なお、原子力施設由来のトリチウムは、各国が、それぞれの国の規制に基づいて管理されたかたちで、海洋や大気などに排出しています。 |
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●トリチウムが放出する放射線とは?〜紙で遮ることも可能
トリチウムは、「放射性物質」の一種です。ただ、トリチウムが放出する放射線の種類は、「アルファ(α)線」「ベータ(β)線」「ガンマ(γ)線」といった放射線のうち、β線のみです。このβ線は、薄い金属板などでさえぎることができます。さらに、トリチウムが放出するβ線はエネルギーが弱いため、空気中を約5mmしか進むことができず、紙1枚あればさえぎることが可能です。 α線、β線、γ線などを、紙や金属板でさえぎることができるかを示した図 |
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●トリチウム水 | |
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[tritiated water] 三重水素(トリチウム)を含む水のこと。水素・トリチウム・酸素各1分子で構成されたもの(化学式HTO)、重水素・トリチウム・酸素各1分子で構成されたもの(化学式DTO)、トリチウム2分子・酸素1分子で構成されたもの(化学式T2O)の3つがある。広義の重水である。
トリチウム水分子に含まれるトリチウムは水素の放射性同位体の一つで、12.32年を半減期として、β崩壊を起こしてヘリウム3となる。 |
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●概要
原子の化学的な性質は原子の電子殻の各軌道の収容電子数によって決まる。この電子配置は原子核を構成する陽子の数(陽子数)によって決まり、同じく原子核を構成する中性子の数(中性子数)は関係しない。陽子数が同一で中性子数が異なる原子をその原子の同位体と呼ぶ。特に放射性崩壊を起こして放射線を出す同位体は、放射性同位体と呼ばれる。 三重水素(トリチウム)は水素の放射性同位体(記号は3H、一般にTで表される)である。同位体であることから原子の電子配置は同一であり、その化学的振る舞いは他の水素の同位体(主な安定同位体であるプロチウム1Hおよびもう一つの安定同位体である重水素2H)と同じである。質量数の違い(重さの違い)からの(化学的ではない)物理的振る舞いに起因する差異は同位体効果と呼ばれる。 トリチウムは、主に液体あるいは蒸気の形の水の形(HTO)として人間に触れることになる。これをトリチウム水(tritiated water; HTO)と呼ぶ。 トリチウム水は化学的には水(H2O)と電子配置が同一であるので、軽水(H2O)、重水(HDO)とトリチウム水の化学的な分離は不可能である。ただし、同位体効果の分挙動に違いがあるので、原理的に物理的な分離についてはその余地がある。ただし、化学反応を利用しないので、その効率は悪く、コスト高につながっている。 ●健康影響 飛程の短い低エネルギーのβ粒子を放出するトリチウムは、内部被曝の結果として健康リスクを生じる。トリチウム内部被曝の生物学的および健康への影響を考慮する場合、1HTO、2有機結合型トリチウム(OBT)、3トリチウム化生化学物質、4不溶性化合物、5トリチウム化ガスの5つの主要な化学形態が重要であるとされる。なお、トリチウムの潜在的放射線毒性に影響する可能性のある他の要因としては、核変換と同位体効果がある。いずれの効果も主たる効果であるトリチウム放射壊変から放出されるβ粒子からのエネルギー付与に比べれば放射線毒性への寄与は小さい。 トリチウムは、自然界で主に宇宙線粒子と空気分子の原子核との相互作用によって大気上層で生じるとともに、原子炉や他の産業の操業の結果としても生じる。 |
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●原子力施設から環境中の放出と基準
国際的に原子力施設から出るトリチウムのトリチウム水としての形での自然環境中への放出は広く行われており、イギリスでは1998年から2002年の期間、毎年3ペタベクレル程度のトリチウムが放出されている他、カナダ、アルゼンチン、フランス、スペイン、アメリカ、ドイツ、日本、中国でも放出されている。この期間、トリチウム以外の放射性物質の放出ベクレル数はトリチウムの1%にも満たない水準である。これらは国際放射線防護委員会がトリチウムの線量係数が極めて低く、人体に対する影響も極めて少ないと判断しているためであり、各国は線量係数をもとに放出できる量を法律で定め、各原子力施設はこれに従って放出計画を立てている。 トリチウムは、米国内の65の原子炉のうち48か所から漏れたことがある。1つのケースでは、リーク水は、リットル当たり7.5マイクロキュリー(280 kBq)のトリチウムを含み、飲料水の米国環境保護庁基準の375倍であった。 米国核規制委員会は、2003年の通常運転では、56基の加圧水型原子炉が40,600キュリー(1.50 PBq)のトリチウム(最大2,080 Ci、最小0.1 Ci、平均725 Ci)を放出し、24の沸騰水型原子炉が665キュリー(24.6 TBq)(最大:174 Ci;最小:0 Ci;平均:27.7 Ci)である。 米環境保護庁によれば、都市の埋立地に不適切に配置された自照式出口標識が、最近、水路を汚染することも判明している。 ●各国における規制上の基準 トリチウムの水質基準は国・機関によって異なる。いくつかの数字は以下の通りとなっている。 国・機関ごとのトリチウム水質基準 国・機関 飲料水基準(Bq/l) / 排水基準(Bq/l) オーストラリア 76103 / 日本 / 60000 フィンランド 30000 / WHO 10000 / スイス 10000 / ロシア 7700 / オンタリオ州(カナダ) 7000 / 米国 740 / 37000 EU 100 / フランス / 40000 ●日本における状況 日本においては、発電用原子力施設で発生する液体状の放射性廃棄物については、時間経過による放射能の減衰、大量の水による希釈といった方法で、排水中の放射性物質の濃度を規制基準を超えないように低減させた上で排出することとなっている。 トリチウム水については、周辺監視区域外の水中の濃度が60 Bq/cm3( = 6×104 Bq/L)を超えてはならないと定められている。通説では、トリチウムには海産生物による濃縮効果がないと考えられている(それに異を唱える研究が存在すると主張するものも居るが、当該研究の対象は有機化されたマーカーであり、原発等からの排水等に含まれるトリチウム水とは同列には語れない)。そのため通説に従い、他の核種の100倍を越える量が海洋に放出されている。 一般的な原子力発電所では年間約1.0〜2.0×1012 Bq(1〜2兆ベクレル/年)ほどトリチウム水を海洋に放出している。 実用発電用原子炉施設からの年度別トリチウム水放出量(単位:Bq) 施設名 / 2007年 / 2008年 / 2009年 / 2010年 東京電力(株)福島第一原子力発電所 1.4×1012 / 1.6×1012 / 2.0×1012 - 東京電力(株)福島第二原子力発電所 7.3×1011 / 5.0×1011 / 9.8×1011 / 1.6×1012 |
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●福島第一原子力発電所の処理水問題
2011年3月11日の東日本大震災により大津波が発生し、福島第一原子力発電所は1〜4号機が全交流電源喪失に陥り、原子炉冷却を行うことができなくなるという事態となり福島第一原子力発電所事故へと至った。事故の収束にあたっては原子炉を冷却する必要があったが、1〜3号機の原子炉圧力容器の底部は核燃料のメルトスルーにより破損しているとみなされており、原子炉冷却の注水に伴い必然的に原子炉で放射性物質を取り込んだ高レベル汚染水が1〜4号機の建屋地下に滞留することとなった。 この滞留し続ける汚染水を処理するために、暫定の循環冷却注水システムが応急的に組み上げられたが、この滞留汚染水は炉心冷却のための原子炉注水だけではなく、地下水などの流入もあったため、注水量に対して汲み上げる水の量が多かった。そのため一部をタンクに貯水する必要があったが、このたまり続ける水の処分の問題が処理水問題である。 福島県浜通り地方を中心に周辺地域の水産業が深刻な風評被害を受け続けていた為、地下水などに混入した各種の放射性核種を処理したトリチウム水の太平洋への海洋放出などによる削減は、世論の批判・反対が強いため行われておらず、原発敷地内に保管している。 政府は、2021年4月13日に、東京電力福島第一原発の処理水(トリチウム水)を海洋放出する方針を決定した。これは上記の原発敷地内のタンクが増加したためである。また、放出する処理水の濃度は、世界保健機関(WHO) の飲料水水質ガイドラインにおける約7分の1の濃度である約1500Bq/Lである。 ●総量計算 1秒間に崩壊する原子核の数を放射能(radioactivity)という。また、単位時間に崩壊する確率は原子核によって固有の値が存在し、その確率を崩壊定数(decay constant)と呼ぶ。今、原子数をN、崩壊定数をλとすると次の関係が成り立つ。 d N / d t = − λN 右辺は単位時間当たりに崩壊して減少する原子の数であり、これは放射能(ベクレル数)の定義に他ならない。すなわち、 (放射能(Bq)) = λN である。したがって、放射性同位体全体の総原子数 N(個)は、放射能 X(Bq)で放射性崩壊しているとすると、 N = X / λ となる。 この考え方に基づいて処理水に含まれるトリチウム水のトリチウムの原子数を計算する。 ●処分方法 分離技術処理水からトリチウム水を分離する技術が研究されている。東京電力も実用的な技術を募集はしている。近畿大学工学部(広島県東広島市)は、水を微細な穴を持つアルミニウム製フィルターに通すことでトリチウム水を分離する装置を東洋アルミニウムなどと共同開発したと2018年6月に発表した。 |
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●中国はなぜ原発処理水の海洋放出に反対するのか、5つの理由 2021/4
日本政府が4月13日に発表した「処理水の海洋放出」の決定は、中国にも波紋が広がった。中国の専門家らも反発の声を上げているが、中国の原発も放射性物質を排出している。それでも、なぜ日本の対応は不安視されているのか。複数のレポートから客観的にその不安の原因を探った。 ●中国の専門家らも批判する5つの根拠 福島第一原発におけるデブリの冷却などで発生した放射性物質を含む汚染水を処理し、2年後をめどに海洋放出するという決定を日本政府が発表した。これに、中国の一般市民から強い反対の声が上がった。 中国の原発も環境中にトリチウムを放出している。にもかかわらず、日本政府の決定には、中国の政策提言にも関わる専門家や技術者も声を上げた。その主な理由として、下記の要因を挙げている。 (1) 10年前(2011年3月)の福島第一原発事故が、チェルノブイリ原発事故(1986年4月)に相当する「レベル7」の事故であること (2) 排出される処理水が、通常の稼働下で排出される冷却水とは質が異なること (3) 事故の翌年(2012年)に導入した多核種除去設備(ALPS)が万全ではなかったこと (4) 日本政府と東京電力が情報やデータの公開が不十分であること (5) 国内外の反対にもかかわらず、近隣諸国や国際社会と十分な協議もなく一方的に処分を決定したこと さらに、復旦大学の国際政治学者である沈逸教授はネット配信番組で、国際原子力機関(IAEA)が公表した2020年4月の報告書を取り上げた。 報告書によると、IAEAの評価チームは「『多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)』の報告は、十分に包括的な分析と科学的および技術的根拠に基づいていると考えている」としている。しかし、同教授は「それだけで、IAEAが処理水の海洋放出に対して“通行証”を与えたわけではない」とし、この報告書に記載されている次の点について注目した。 「IAEAの評価チームは、ALPS処理水の処分の実施は、数十年にわたる独特で複雑な事例であり、継続的な注意と安全性に対する再評価、規制監督、強力なコミュニケーションによって支持され、またすべての利害関係者との適切な関与が必要であると考えている」(同レポート6ページ) つまりIAEAは、ALPS技術が理論上は基準をクリアしていたとしても、実践となれば「独特で複雑な事例」なので、しっかりとこれを監督し、“すべての利害関係者”との調整が必要だとしている。IAEAは原子力技術の平和的利用の促進を目的とする機関であり、「原発推進の立場で、日本とも仲がいい」(環境問題に詳しい専門家)という側面を持つものの、今回の海洋放出を「複雑なケース」として捉えているのだ。 同教授は「果たして日本は、中国を含む周辺国と強力なコミュニケーションができるのだろうか」と不安を抱く。 他方、日本の政府関係者は取材に対し、「あくまで個人的な考え」としながら、「中国のネット世論は以前から過激な部分もあるが、処理水の海洋放出について疑義が持たれるのは自然なこと」と一定の理解を示した。 ●放射性物質の総量は依然不明のまま 今回の処理水放出の発表をめぐっては、日本政府の説明もメディアの報道も、トリチウムの安全性に焦点を当てたものが多かった。東京電力はトリチウムについて「主に水として存在し、自然界や水道水のほか、私たちの体内にも存在する」という説明を行っている。 原子力問題に取り組む認定NPO・原子力資料情報室の共同代表の伴英幸氏は、取材に対し「トリチウムの健康への影響がないとも、海洋放出が安全ともいえない」とコメントしている。その理由として、海洋放出した場合に環境中で生物体の中でトリチウムの蓄積が起き、さらに食物連鎖によって濃縮が起きる可能性があること、仮にトリチウムがDNAに取り込まれ、DNAが損傷した場合、将来的にがん細胞に進展する恐れがあること、潮の流れが複雑なため放出しても均一に拡散するとは限らないこと、などを挙げている。 ちなみに中国でも「人体に取り込まれたトリチウムがDNAを断裂させ、遺伝子変異を引き起こす」(国家衛生健康委員会が主管する専門媒体「中国放射能衛生」の掲載論文)ため、環境放射能モニタリングの重要な対象となっている。 国際的な環境NGOのFoE Japanで事務局長を務める満田夏花さんは「トリチウムは規制の対象となる放射性物質であるにもかかわらず、日本政府は『ゆるキャラ』まで登場させ、処理水に対する議論を単純化させてしまいました」と語る。同時に、「私たちが最も気にするべきは『処理水には何がどれだけ含まれているか』であり、この部分の議論をもっと発展させるべき」だと指摘する。 「ALPS処理水には、除去しきれないまま残留している長寿命の放射性物質がある」とスクープしたのは共同通信社(2018年8月19日)だった。これは、東京電力が従来説明してきた「トリチウム以外の放射性物質は除去し、基準を下回る」との説明を覆すものとなった。 このスクープを受けて東京電力は「セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129などの放射性物質が残留し、タンク貯留水の約7割で告示濃度比総和1を上回っている」と修正し、「二次処理して、基準以下にする」という計画を打ち出した。 現在、東京電力のホームページには、トリチウム以外の放射性物質が示されているものの、公開データはタンクごとに測定した濃度(中には1万9909倍の濃度を示すタンクもある)にとどまり、いったいどれだけの量があるのかについては不明、わかっているのは「トリチウムが860兆ベクレルある」ということだけだ。 ●海洋放出以外の代替案が選ばれなかった理由 一方、海洋放出以外の代替案には、(1)地層注入、(2)海洋放出、(3)水蒸気放出、(4)水素放出、(5)地下埋設、の5案が検討されていた。ALPS小委員会の報告書(2020年2月10日)は、それぞれが必要とする期間とコストを次のように説明している。 (1)地層注入 期間:104+20nカ月(n=実際の注入期間)+912カ月(減衰するまでの監視期間) コスト:180億円+6.5n億円(n=実際の注入期間) (2)海洋放出 期間:91カ月(*) コスト:34億円 (3)水蒸気放出 期間:120カ月 コスト:349億円 (4)水素放出 期間:106カ月 コスト:1000億円 (5)地下埋設 期間:98カ月+912カ月(減衰するまでの監視期間) コスト:2431億円 (*) 91カ月を年換算すると8年未満となる。2020年2月10日の報告書にはこの数字が残っているが、2018年の説明公聴会では「1年当たり放出管理基準の22兆ベクレルを超える」という指摘が上がった。現在の政府の基本方針では、年22兆ベクレルが上限であり、年22兆ベクレルを放出すると、東京電力の試算では放出に要する期間は30年以上となる。 上記からは、(2)の「海洋放出」が最も短時間かつ低コストであることが見て取れる。これ以外にも、原子力市民委員会やFoE Japanが、原則として環境中に放出しないというスタンスで、「大型タンク貯留案」や「モルタル固化処分案」の代替案を提案していた。 これについてALPS小委員会に直接尋ねると「タンクが大容量になっても、容量効率は大差がない」との立場を示し、原子力市民委員会やFoE Japanの「タンクが大型化すれば、単位面積当たりの貯蔵量は上がるはず」とする主張と食い違いを見せた。この2つの代替案は事実上ALPS小委員会の検討対象から除外され、(2)の「海洋放出」の一択に絞られた。 ●日中の国民の利害は共通 環境問題と中国問題は切り離して 対立する米中が気候変動でも協力姿勢を見せたこともあるのか、今回の取材では「中国に脅威を感じているが、海洋放出をめぐっては日本の国民と中国の国民は利害が共通する」という日本の市民の声も聞かれた。 実は中国側も同じ意識を持っている。海洋放出について、中国の国家核安全局の責任者は「日本政府は自国民や国際社会に対して責任ある態度で調査と実証を行うべき」とメディアにコメントしていることから、中国側が“日本の国民と国際社会は利害が共通するステークホルダー”とみなしていることがうかがえる。 原子力市民委員会の座長代理も務める満田氏は、「海洋放出についての中韓の反応に注意が向き、論点がナショナリスティックかつイデオロギー的なものに傾斜していますが、もっと冷静な議論が必要です」と呼びかけている。 そのためには、国民と国際社会が共有できる自由で開かれた議論の場が必要だ。日本政府と東京電力にはよりいっそう丁寧な対応が求められている。 |
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●処理水に関するQ&A 在中国日本国大使館 2021/5/24
●(問1)日本は東電福島第一原発からの「汚染水」を海に放出するのですか? ・今回、安全性を確実に確保した上で、東電福島第一原発からの海洋放出を行う方針を決定したのは、「汚染水」ではなく、「ALPS(アルプス)処理水」です。これは、ALPSと呼ばれる装置により「汚染水」に浄化処理を行い、トリチウム以外の放射性物質について、環境放出の際の規制基準を満たすまで取り除いたものです。ALPS処理水の海洋放出に当たっては、トリチウムの濃度が日本の規制基準の40分の1を下回るまで、海水で100倍以上に大幅に希釈します。この希釈に伴い、トリチウム以外の放射性物質についても、規制基準値から更に大幅に希釈されることとなります。 ・日本政府は、規制基準を満たさない「汚染水」を海洋放出することを決して認めません。 ・実際の放出は、実施主体である東京電力が処分に係る計画を提出し、科学的・技術的な最新情報に基づき判断を下す独立機関である原子力規制委員会による必要な認可を取得した上で、約2年後を目処に開始されます。 ・引き続き、ALPS処理水の安全性について、科学的根拠に基づき、中国を含む国際社会に対し透明性をもって説明を継続します。 ●(問2)事故由来の「汚染水」については、海外の著名な科学者や団体が様々な問題を指摘しています。やはりこれは通常の原発からの排水とは違うのではないですか? ・国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告等に基づき、世界各国の規制基準は、事故炉か通常炉かを問わず、含まれる全ての核種の放射線影響の合計で判断するものです。すなわち、含まれる核種の種類や量のみでなく、ヒトへの影響に換算した合計値が一定の基準値を満たしているか否かで判断されています。 ・したがって、事故炉から生じる放射性物質についても、こうした規制基準を守る限り、これまでと変わらず、人体や環境への安全が確保されるものと考えています。 ・また、処理水の処分に当たっては、こうした規制を確実に遵守し、処理水が通常の原発からの排水と同様に安全なものであることを、科学的根拠に基づいて確保します。更に、放出前の処理水のサンプリング結果や放出後の海洋モニタリング結果について、IAEAによるレビューを受け、透明性と客観性を確保することとしています。 ●(問3)放出される水に含まれるトリチウムの濃度は一定の基準をクリアしているとしても、今後海洋放出する「ALPS処理水」の量は大量であり、通常の原発が定期的に排出する量よりも多くの量を排出せざるを得ないのではないですか。このため、放出実施期間中、通常以上の放出量になるのではないですか。また、改めて処理・浄化するプロセスによっては海洋環境に別途影響を与えるのではないですか。 ・東電福島第一原発のALPS処理水の海洋放出に関する年間の放出量は、事故前の管理目標値である22兆ベクレルを下回る水準とすることとしています。なお、これは、中国にある寧徳原発の2018年の放出実績(約98兆ベクレル)の5分の1程度です。 ・事故後に東電福島第一原発を冷却するために使用された水や、原子力発電所建屋内に流れ込む地下水や雨水を、ALPSという62種の除去対象核種を取り除くシステムで浄化します。浄化後に水の中に含まれるトリチウム以外の放射性物質の含有量が、国際基準や国際慣行に沿って定められた日本の規制基準値未満になった水は、いわゆる汚染水とは異なり、「ALPS処理水」として区別しています。 ・ALPSでの処理でも水とほぼ同じ化学的性質を持つトリチウム(三重水素)という弱い放射性を発生する物質を取り除くことはできません。ただし、このトリチウムという物質は自然界にも存在しており、身の回りの雨水や河川、水道水にも含まれています。また、世界中の原子力発電所でも発生します。各国の原子力発電所では、国際基準や国際慣行に沿って各国が定める規制に基づき、原子力発電所で発生するトリチウムなどの放射性物質を含む水を管理された形で、希釈した上で、海洋や大気に放出しています。 ・ALPS処理水については、放出に際して、トリチウムの濃度が日本の規制基準の40分の1、WHOの飲料水ガイドラインの7分の1を下回るまで、海水で100倍以上に大幅に希釈します。この希釈に伴い、トリチウム以外の放射性物質についても、規制基準値から更に大幅に希釈されることとなります。 ・また、トリチウム以外の放射線物質が規制値を超えている処理途上水や新たに発生した汚染水については、海洋放出する前にトリチウム以外の放射性物質が規制基準以下となることが確認できるまで浄化し、その上で海水で100倍以上に大幅に希釈をするため、これらの放射性物質の濃度は規制基準に比して極めて低い水準となります。 ・なお、2020年2月10日に公表されたALPS小委員会の報告書においては、水蒸気放出及び海洋放出について、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の手法を用いて放射線影響評価を行った結果、年間放出量を22兆ベクレルで処分したときに、日本における自然放射線による影響(2.1mSv/年)の10万分の1以下になるとされています。 ・日本政府及び東京電力は、海洋放出が環境に与える影響について、これまで多様な角度からの検討を実施してきました。ALPS処理水の海洋放出に先立ち、我が国として、科学的根拠に基づき、関連する国際法や国際慣行も踏まえ、海洋環境に及ぼす潜在的な影響を評価する措置をとる予定です。また、IAEAによるレビューを受けつつ、環境への影響を把握するための措置を講じるとともに、中国を含む国際社会に対して透明性をもって丁寧に情報公開を行っていきます。 ●(問4)トリチウム以外の放射性物質について、通常の原発からの排水には決して含まれてはいないのに対して、「事故」由来の「処理水」から完全に除去することは不可能ではないのですか。その意味で、「事故」由来の水は、微量とは言え、通常の原発からの排水には含まれない放射性物質を一定量含んでいるのではないのですか。 ・国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告等に基づき、日本を含む世界各国の規制基準は、事故炉か通常炉かを問わず、含まれる全ての核種の放射線影響の合計で判断するものです。すなわち、含まれる核種の種類や量のみでなく、ヒトへの影響に換算した合計値が一定の基準値を満たしているか否かで判断されています。 ・したがって、事故炉から生じる放射性物質についても、こうした規制基準を守る限り、これまでと変わらず、人体や環境への安全が確保されるものと考えています。 ・なお、通常の原子力発電所からの排水にも、トリチウム以外の放射線物質が含まれており、その内容については、各国の政府部門等が個別に公表しています。 ・東電福島第一原発からの排水も、放射性物質の浄化や海水による希釈により、各国の原子力発電所からの排水と同様に、国際基準に沿って策定された日本の規制基準より人体や環境の安全を十分に確保した上で放出を行い、その上でIAEAによるレビューを受けることとしています。 ・また、放出を開始した後もIAEAと連携し、モニタリングやレビューを継続し、データの公表等、国際的に高い透明性を確保し、丁寧な説明を行っていきます。 ●(問5)日本国内でも反対があると聞きます。そのような中で海洋放出を行うのはやめるべきではありませんか?そもそも日本国内から処理水の海洋放出に対して批判や懸念の声があがっているのは、日本政府として懸念を払拭できるほど完全に影響がないと言い切れない状況が実はあるからではないのですか。 ・日本国内、特に漁業関係者においては、水産物等への風評被害に対する強い懸念を持っていることは事実です。日本政府としては、このような不安や懸念を払拭するため、第三者の関与を得た放射性物質の分析や、海洋放出の前後でのモニタリング拡充・強化などの対策を実施していく予定です。 ・原子力発電所からの放射性廃棄物の海洋放出は、中国を含め世界各国において、国際基準に沿った各国それぞれの基準の下で一般的に行われており、ALPS処理水の海洋放出も同様に国際基準に沿った国内基準を確実に遵守することとなり、これについては、中国では広く報じられていませんが、IAEAからも、「技術的に実現可能であり、国際慣行に沿ったもの」と評価されています。 ・将来海洋放出する際には、各国が参照・遵守している国際基準及び国際慣行に沿った措置を日本でも行い、科学的根拠に基づいて検証・準備を進め、IAEAの協力の下で国際社会に対しても高い透明性をもって丁寧に説明していきます。 ●(問6)「ALPS処理水」は人体の健康に悪影響を与えるのではないですか?水産品など食品への影響も生じるのではないですか?米国も同事故以来日本産の農水産品の輸入を規制しているのではないですか? ・日本政府は環境及び人の健康と安全への影響を最大限考慮しており、国際基準に準拠した規制基準を満たさずにタンクに保管している水を海洋放出することを認めません。タンクに保管している水を海洋放出する際には、再浄化や海水による100倍以上の大幅な希釈といった措置により規制基準を確実に遵守した上で行います。 ・なお、2020年2月10日に公表されたALPS小委員会の報告書においては、水蒸気放出及び海洋放出について、UNSCEARの手法を用いて放射線影響評価を行った結果、年間放出量を22兆ベクレルで処分したときに、日本における自然放射線による影響(2.1mSv/年)の10万分の1以下になるとされています。また、このUNSCEARの手法は、海洋生物の摂取による内部被ばくも考慮しています。 ・また、日本産食品の安全は、我が国が科学的根拠に基づいて実施する厳格な食品監視システム及び制限措置により確保されています。具体的には、日本では、国際基準であるCODEXにおける一般食品の放射性セシウムの基準値(1,000ベクレル/kg)の10分の1(=100Bq/kg)という厳しい基準値を設けて管理することにより、食品の安全性を担保しております。 ・こうした状況を踏まえ、ALPS処理水の処分方針の決定後に、米国の食品医薬品局からは、「海洋放出が、(1)日本から輸入される食品や、(2)米国の沿岸で漁獲される海産物を含む米国の国産食品の安全性に与える影響はないと考える。」との評価がなされています。 ・さらに、米国は、日本が出荷を制限した農産品を輸入停止しているに過ぎません。海産物も含め日本から米国に輸出される主要な農林水産物・食品については、日本国内で出荷制限を行っていないことから、米国においても、いかなる輸入規制措置もとられていません。 ・なお、2011年の原発事故から10年が経過した今なお、日本国内での出荷制限対象以外の日本産農林水産物に対して輸入停止措置を行っている国・地域は、全世界のうち、中国・韓国・台湾・香港・マカオのみです。 ●(問7)今回の基本方針の決定に先立って、日本は同盟国の米国にのみ特別の説明をしたのではないですか。最も影響を被り、故に現在も農林水産品の輸入を禁止している中国と韓国に対する説明を怠り、了解も得ないまま、一方的に方針を発表したのは不適切ではありませんか。 ・米国に対してのみ特別の説明をしたという事実はありません。中国とも然るべくやり取りを行ってきています。 ・これまでも、東電福島第一原発のALPS処理水をめぐる状況については、日本は透明性を以て国際社会に対して情報発信を行ってきており、具体的には、中国を含む在京外交団等向け説明会の開催、原則毎月1回の在京外交団等とIAEAへの廃炉に係る通報、IAEAを始めとする様々な国際会議における説明、政府のホームページにおける情報提供等を実施してきています。 ・また、日本は責任あるIAEA加盟国として、東電福島第一原発の事故後、IAEAレビューミッションを16回受け入れてきました。 ・引き続き、日本政府は、東京電力福島第一原発の廃止措置に係る取組について、IAEAとも連携しながら、透明性をもって、科学的根拠に基づく正確な情報の提供を続けていきます。 ●(問8)国連海洋条約等に基づけば、近隣諸国の了解を得てから方針を決定するべきではないのですか。 ・ALPS処理水の海洋放出は、各国の原子力発電所からの排水と同じく、いずれも国際基準に沿った国内基準に従って、人体や環境への安全を十分に確認した上で行われます。このような海洋放出について他国の事前了解を得る義務を規定する条約等はありません。 ・これまで、中国を始めとする近隣諸国に対しては、国際社会に対する情報発信に加えて、個別に説明の機会も複数回にわたり設けてきています。今後とも、透明性をもって、科学的根拠に基づく正確な情報提供を続けていきます。 ●(問9)日本が海洋放出を一方的に決めたことはおかしいと思いますが、いかがでしょうか?利害関係者や周辺国に事前に十分な説明を行うべきだったのではないでしょうか? ・日本は、東電福島第一原発事故後、IAEAからの度重なるモニタリングやレビューを受けています。「ALPS処理水」の処分についても、こうしたIAEAとの協力に加え、各国在京外交団等への説明会を開催するなどの対応を行ってきました。加えて、中国側には、個別の要請を受け、複数回にわたり日中間のあらゆるチャネルで個別の説明の機会を設けてきており、決して一方的に決定したものではありません。 ・引き続き、日本政府は、東京電力福島第一原発の廃止措置に係る取組について、IAEAとも連携しながら、透明性をもって、科学的根拠に基づく正確な情報の提供を続けていきます。 ●(問10)なぜ海洋放出なのですか?タンクが一杯になったというのは理由にならず、他の方法もあるのではないですか?日本政府は、費用が安いことを理由に、海洋放出を選んだのではないですか? ・日本がALPS処理水の処分方法を決定した際に、IAEAのグロッシー事務局長は、「日本が選択した海洋放出は、技術的に実現可能であり、国際慣行に沿ったもの」とコメントをしています。 ・今後、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉を安全に行うためには、原子炉に残っている燃料デブリの取出しに向けた施設の建設などに大きなスペースが必要となります。そのため、現在、タンクが建設されているスペースも含め、敷地を最大限有効活用していく必要があります。こうした、敷地がひっ迫する中で、ALPS処理水の処分は避けられない課題です。 ・なお、日本では、ALPS処理水の処分方法について、専門家による6年以上にわたる議論の中で、長期保管に加え5つの方法(地層注入、地下埋設、水素放出、水蒸気放出、海洋放出)について検討を行いました。その中で海洋放出は、現実的に実現が可能であり、すでに中国を含め国内外に多くの例があること、そして、環境放出後のモニタリングを確実かつ安定的に実施可能であることを踏まえ、方針を決定しました。このため、「費用が安いことを理由に、海洋放出を選んだ」との指摘は当たりません。 ●(問11)「ALPS処理水」に問題がないのであれば、日本国内の湖や川に放出すべきではないのですか。人造湖やせき止めをつくって、海洋に放出したとしても影響が領海内にとどまり、他国も利用する海洋には影響が出ないような工夫をすべきではないのですか。たとえ、「ALPS処理水」の影響が小さいとしても、責任ある国家として、他国への影響を最小限にするために、コストをかけてでも、でき得る限りの措置をとるべきではないですか。 ・福島第一原発周辺の海洋環境におけるトリチウムの放射能濃度は、自然の状態でも0.1〜1ベクレル/リットルです(いわゆる「バックグラウンド・レベル」)。これまでに実施したシミュレーションによれば、年間22兆ベクレルのALPS処理水を放出した場合に、トリチウムの放射能濃度がバックグラウンド・レベルを超えるのは福島第一原発近傍の半径2kmの範囲内に限られます。 ・原子力発電所からの放射性廃棄物の海洋放出は、中国を含め世界各国において、国際基準に沿った各国それぞれの基準の下で一般的に行われており、ALPS処理水の海洋放出も同様に国際基準に沿った国内基準を確実に遵守することとなります。ALPS処理水の海洋放出についてはIAEAからも、「技術的に実現可能であり、国際慣行に沿ったもの」と評価されています。 ・日本政府及び東京電力は、海洋放出が環境に与える影響について、これまで多様な角度からの検討を実施してきました。ALPS処理水の海洋放出に先立ち、我が国として、科学的根拠に基づき、関連する国際法や国際慣行も踏まえ、海洋環境に及ぼす潜在的な影響を評価する措置をとる予定です。また、IAEAによるレビューを受けつつ、環境への影響を把握するための措置を講じるとともに、中国を含む国際社会に対して透明性をもって丁寧に情報公開を行っていきます。 ●(問12)そもそも日本政府や事業者はデータを隠しているのではないですか? ・日本は「ALPS処理水」の海洋放出に当たり、IAEAの協力を得つつ、高い透明性のもとで取り組みを進めます。また、第三者の関与を得た放射性物質の分析や、海洋放出の前後でのモニタリング拡充・強化やデータの公表などを含め、今後も国際社会に対して透明性の高い説明を行っていきます。 ●(問13)今回の海洋放出が過去の公害と異なるとするのであれば、その根拠は何ですか。過去の水俣病のようなことを起こすのではないですか。 ・ALPS処理水の海洋放出は、各国の原子力発電所からの排水と同様に、国際基準に沿った国内基準に従って、人体や環境への安全を十分に確保した上で行います。 ・国際基準や国際慣行に沿って、IAEAによるレビューを経て実施されるALPS処理水の海洋放出を、水俣病などの公害事案と関連付けることは極めて不適切かつ不正確です。 ●(問14)国際的なレビューは受け入れましたか。今後も受け入れますか。 ・日本は責任あるIAEA加盟国として、東電福島第一原発の事故後、IAEAレビューミッションを16回受け入れてきました。今後もIAEAからの専門家の受入れなどにより、客観性・透明性を確保していきます。 ●(問15)国際機関のみならず、影響を懸念する近隣諸国や太平洋島嶼諸国等直接の利害関係を持つと思われる国にはレビューに参画させるべきではないですか。 ・日本は責任あるIAEA加盟国として、IAEAによるレビューミッションを受入れてきました。今後も専門的知見を有する国際機関であるIAEAと連携し、科学的、客観的、透明な議論を積み重ね、国際社会に丁寧に説明していきます。 ●(問16)日本としても、日中韓の専門家会合を開催すべきではないですか。 ・東電福島第一原発からの処理水の処分については、これまで中国や韓国を含め周辺国や関係機関等に対して、在京外交団等向け説明や国際場裏での説明、個別の説明の機会等を設けてきました。今後もこれまで同様に、透明性、客観性、科学的な議論を積み重ねてまいります。 |
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●中国の複数原発がトリチウム放出、福島「処理水」の最大6・5倍… 6/23
中国が国内で運用する複数の原子力発電所が、今夏にも始まる東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出の年間予定量と比べ、最大で約6・5倍の放射性物質トリチウムを放出していることが、わかった。日本政府が外国向けの説明用に作成した資料から判明した。中国政府は東電の処理水放出に強く反発し、官製メディアも動員した反対キャンペーンを展開している一方で、自国の原発はより多くのトリチウムを放出している。 日本政府は、中国の原子力エネルギーに関する年鑑や原発事業者の報告書を基に資料を作成した。それによると、2020年に浙江省・秦山第三原発は約143兆ベクレル、21年に広東省・陽江原発は約112兆ベクレル、福建省・寧徳原発は約102兆ベクレル、遼寧省・紅沿河原発は約90兆ベクレルのトリチウムを放出していた。東電は、福島第一原発の年間放出総量を22兆ベクレル以下に抑える計画で、放出後のトリチウムの濃度は、世界保健機関(WHO)などの基準をはるかに下回るとしている。 中国政府は福島第一原発の「処理水」放出を「一方的に強行しようとしている」(中国外務省報道官)と反発し、官製メディアも連日、「日本は世界の海洋環境や公衆の健康を顧みない」(共産党機関紙・人民日報)などの主張を展開している。だが、日本政府関係者によると、中国は自国の原発のトリチウム放出について、周辺国との間で合意はなく、説明もしていないという。 |
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●トリチウム放出量、中国では福島第1の6・5倍の原発も 欧米は桁違い 7/4
東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、計画の安全性を検証してきた国際原子力機関(IAEA)は4日、放出計画は「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を公表した。ただ、中国や韓国など周辺諸国からは反発も予想される。日本政府は科学的な根拠を基に、粘り強く理解を求めていく構えだ。 福島第1原発の処理水の海洋放出を巡り、諸外国から安全性への理解を得ようと、政府が情報発信を強化している。近隣の中国や韓国が非科学的な批判を繰り返し、政治利用しているためだ。だが、中韓には、放射性物質トリチウムの年間排出量が福島第1の6倍を超える原発もある。政府はこうした客観的な事実も対外的に示しながら、諸外国に冷静な対応を求めている。 福島第1のトリチウムの年間排出量は事故前の管理目標と同じ22兆ベクレル未満を予定する。濃度を国の規制基準の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1に希釈した上で流す計画だ。放出後には海水と混じり、さらに薄まっていく。 トリチウムの除去は技術的に難しく、海外でも基準値以下に薄めてから海洋や大気中に放出している。中には、福島第1の排出量を大きく超過する事例も少なくない。 経済産業省によると、中国では秦山第3原発が約143兆ベクレルと福島第1が予定する6・5倍、陽江原発は5倍、紅沿河原発は4倍。韓国でも月城原発が3・2倍、古里原発が2・2倍に上る。 欧米では、数字がさらに跳ね上がる。フランスのラ・アーグ再処理施設は454・5倍。カナダのブルースA、B原発は54倍、英国のヘイシャム2原発は14・7倍とけた違いだ。 これらのデータは経産省が海外向けに開設したサイトにも盛り込まれている。政府は諸外国から求めがあれば説明の機会も設けてきており、今年5月には韓国政府が派遣した専門家が福島第1を視察した。 西村康稔経産相は4日、IAEAのグロッシ事務局長に対し、「海洋放出の安全性について、国際社会に対してもしっかりと透明性をもって情報発信していきたい」と伝えた。 |
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●原発処理水放出に中国猛反発、デマや科学的根拠なき批判を放置する男 7/10
●「人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほど」なのに中国猛反発 東京電力福島第1原子力発電所のトリチウムが残った処理水の海洋放出について、中国が反発を強めている。 国際原子力機関(IAEA)は4日、処理水を海洋放出する日本の計画について「国際的な安全基準に合致している」と結論づける包括的な報告書を公表した。報告書では「処理水の放出が人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できるほどわずか」としている。 ところが、これに中国が反発。 中国外務省は報告書公表後に談話を発表し、処理水放出の中止を求め「強行すれば日本があらゆる結果の責任を負わなければならない」と対抗措置をとることを示唆。 中国外務省の毛寧副報道局長は同日の記者会見で「IAEAの報告書は日本の海洋放出を正当化するものではない」とまで言ってのけると、6日には汪文斌副報道局長が、日本の計画について「国際社会と十分な協議をしていない。身勝手で傲慢だ」と批判。 7日には中国の税関総署が談話を発表し、「中国の消費者は日本から輸入される食品の安全性を憂慮しており、食の安全を確保するため事態の推移を見ながらあらゆる措置をとる」として、日本からの食品輸入を規制する方針を示した。つまり、中国は日本の食品を“毒食”と認定するつもりのようだ。 いったい、どの口が言うのか。 そもそも、原発から大量のトリチウムを海洋に放出しているのは中国だ。 ●中国の原発の方が桁違いの量のトリチウムを放出しているのに 日本政府が作成した資料によると、2020年に浙江省にある秦山第三原発から約143兆ベクレル、21年には広東省の陽江原発が約112兆ベクレル、福建省の寧徳原発は約102兆ベクレル、遼寧省の紅沿河原発は約90兆ベクレルのトリチウムを放出していたことがわかっている。 それに対して、福島第1原発の処理水は年間の放出量を22兆ベクレル以下に抑える計画で、それも国の基準の40分の1未満に薄めて放出する。それだったら、よほど中国の海産物のほうが危ない。 また、中国のSNSでは日本の化粧品の不買運動が展開。「化粧水の製造工場がある地域で放射性物質を含んだ木片が放置されている」というデマがきっかけで、日本製の化粧品を購入したという書き込みには、「幸いなことに、いくつかまだ未開封なので、返品しようと思います」というものまであって、偽情報が拡散したばかりか、日本の化粧品メーカーの株価が下がる事態にまでなった。 中国政府、中国共産党の批判はすぐさま封殺するくせに、日本叩きのデマ拡散には知らん顔を決め込む。むしろ、このデマの発信元は中国当局ではないかと疑いたくなる。 処理水の海洋放出をきっかけに、どうしても中国は日本の製品は健康被害をもたらし、日本の食品は汚染にまみれた“毒食”のレッテルを貼りたいらしい。 それは、かつて日本が中国の毒食問題を厳しく追及してきた意趣返しのつもりなのかもしれない。日本と中国の食料事情について取材してきた私にとっては、そう思えてならない。 ●プライド高い中国人が耐えられなかった日本の「毒食」報道 「どうして日本の報道は、中国の悪いことばかりなのですか」 2000年代、2010年代と、中国の毒食問題が日本で騒がれる度に、取材で訪れた中国の人たちからそう言われたことがある。「中華」といえば、世界の中心に咲く花(華)のことを指す。その国の歴史ある「中華料理」だから、世界で一番優れて美味しい料理であると自負している。その料理が毒にまみれて健康を損ねると言われることに、中国人のプライドが傷ついていたことも事実だった。 しかしながら、日本人が食の安全・安心にとても気を使うこともあって、その問題を大きく取り扱わないわけにはいかなかったこともまた事実だ。 それがここへきての、中国の根拠を欠いた日本批判と毒食扱い。ならば、根本に返っていま一度、中国の毒食の歴史を振り返っておく。これはすべて、現地取材で知ったことだ。 ●毒食の始まりはコメの見栄えを良くしようとして塗った工業用ワックス 中国共産党支配下の中国における毒食の歴史は、人民公社の廃止にはじまる。人民公社がなくなって、収穫された米が個人のものになると、みんな備蓄するようになった。相場を見て売るためだ。ところが、蓄えておいた米にはカビが生えてしまう。だからそれをもう一度精米して売ろうとする。するとこんどは削りすぎて見た目が悪くなる。そこで艶出しに工業用ワックスを塗って販売したことが、中国の毒食のはじまりとされている。 さらに中国国内でも有名なのは、1980年代に白酒に工業用アルコールを混ぜて販売して、飲んだ人たちの目が悪くなった事実だ。 四川省などでは、牛脂を使うはずの鍋料理に、見た目がいいからと工業用ワックスを混ぜたこと、湯葉を漂白剤で白くしていたことなどが相次ぐ。 「中国人でもそんなのは信じられないよ」と、過去を知る中国人がこぼしていたほどだ。その原因をたどれば、どれも無知と欲望が混ざり合った、人為的で確信犯的な毒食汚染の蔓延に尽きる。その原点を無視して、意図的に日本の食品を毒食扱いするのであれば、意趣返しどころか悪意以外のなにものでもない。 1990年代になっても、中国の薬物による毒食汚染が問題になった。それで知られるのが『痩肉精』の問題だ。 中国では「肉」といえば、豚肉のことを指す。豚肉でも赤身肉が多いほど高額で取引される。そこで豚の脂身を減らして赤身肉を増やすために、餌に混ぜる添加物が中国で出回った。それが『痩肉精』だった。「痩肉」は赤身肉のことをいう。 ところが、この添加物による中毒事件が中国各地で頻発する。『痩肉精』の主成分は喘息の治療にも使われる「塩酸クレンブテロール」で、人体に入ると吐き気、めまい、無気力、手が震えるなどの中毒症状が出て、毒性も高い。 ●中国の食品汚染の実態を熟知している習近平 この豚肉汚染に正面から取り組んだのが、現在の国家主席である習近平だった。2000年に当時としては最年少で福建省の省長に就いた習近平は、翌年に出演したテレビ番組の中でこの問題について言及している。 「私の友人に画家がいるんですが、彼は豚のレバー料理が大好きで、酒の肴は決まって豚レバーでした。ところがある時、絵筆を握る手が震え出し、描けなくなったというのです。病院で診察してもらった結果、肉赤身化剤、つまり塩酸クレンブテロールが原因だとわかりました。その後、豚レバーを食べるのをやめたら、良くなったそうです。肉赤身化剤は非常に危険なものだと思いますよ」 そう語ると、省内に検査機器を導入して豚肉の検査体制を徹底したことを強調していた。中国の毒食問題の根源がどこにあるのか理解していたし、同時に食品汚染には関心が高く、積極的に問題解消に取り組んでもいた。それが日本から中国の毒食を指摘され続けてきたことが、悔しくて堪らなかったのだろう。いまにして科学的根拠を欠いた日本の毒食批判に結びつく。 因みに、このテレビ番組に出演した習近平は、冒頭でこう述べている。 「私が福州(省都)に着いて最初にしたことは、ちゃんとしたレストランを見つけることでした。正直な話、いま、ものを食べたり飲んだりするのは実に煩わしいことです。米を食べる時には有毒米かどうかを心配し、野菜を食べる時は残留農薬を心配しなければならないんですからね」 中国の毒食汚染のレベルの違いを一番よく知っているのは他でもない、習近平のはずだ。それがいま、日本叩きの確信犯となっている。 |
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●IAEA事務局長もあ然、韓国野党「処理水、日本人に飲料用に勧めたら」発言 7/14
7月7日から韓国を訪問した国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、韓国の最大野党「共に民主党」(以下、民主党)の福島原発汚染水海洋投機阻止対策委員会の招待で国会民主党院内代表室を訪問、1時間30分にわたり野党議員と面談した。このときの民主党のあまりにも常軌を逸した非礼ぶりは国際社会で類例のないものであった。 これを見て、国際社会では民主党と手を組もうとするのは、中国、北朝鮮、そして日本の一部野党くらいと言っても過言ではないだろう。 ●民主党に政治闘争の標的にされたグロッシ事務局長 9日午前、グロッシ事務局長は民主党の招きで韓国の国会を訪問、同党執行部と面会した。 まずはグロッシ事務局長がIAEA報告書に対して「(日本の原発処理水放出計画が)国際安全基準に合致している方式であるとの結論が下された」と強調した。「タスクフォースチームには韓国など10余カ国から来た科学者が参加した」とし「非常に忠実に業務を行った」と説明した。 さらに「皆さんの心配を理解しており、特に計画実践に対する憂慮についても知っている」とし「このためIAEAは日本政府に対して放流計画がしっかり守られているかどうかを完全に検討するために数十年間日本に常駐することを提案し、先週(モニタリングのための)IAEA事務所を福島に開設した」と明らかにした。 ところがこれに対して民主党議員たちは、処理水放出について問題を科学的に論じるのではなく、一方的に「IAEAの報告書は中立性を欠いたものである」と決めつけ、集団バッシングを浴びせた。 民主党執行部は、IAEAの報告書に対し、「中立性と客観性を失い、日本に偏向した検証」と糾弾した。 海洋投棄阻止対策委員会の禹元植(ウ・ウォンシク)議員は、「IAEAは日本に合わせて調査を行った」「汚染水が安全ならば、飲料水などに使うよう日本政府に勧告する意思はないか」と詰め寄った。また同委の委員長・魏聖坤(ウィ・ソンゴン)議員は「IAEA最終報告書のずさんさを指摘しないわけにはいかない」と批判した。 グロッシ氏は、最初はメモを取りながら民主党側の主張にうなずいていたが、理不尽な追及が続くと表情をこわばらせ、眼鏡をはずしてため息をついたりした。 そもそも民主党には真摯に対話をする意思はなかった。あくまでも政府与党との対決にあたり、IAEA報告書が邪魔だったのである。ただ、グロッシ氏としても韓国に来た以上、民主党をスルーすることはできなかった。 ●IAEAに関しメディアで「虚偽」を述べる民主党議員たち 民主党の李在汀(イ・ジェジョン)議員はMBCラジオのインタビューで「IAEAは核兵器使用を防いで核発電と核使用を奨励するための機関」とし「多くの国民がこのような問題に関与できる機関だと誤認している」と発言した。 また、同党の梁李媛瑛(ヤンイ・ウォヨン)議員もKBS第1テレビの時事番組に出演して「IAEAは原発国家が分担金を出して運営する機構」だと主張した。 民主党議員はこのように国際社会の仕組みと常識を無視した主張を繰り広げた。 また、こうした事実関係を無視した主張を韓国の公共放送であるKBSやMBCが取り上げることも問題である。もともと韓国の放送局は革新系の主張に偏った報道をしており、中立・公正な報道とは言えない内容で韓国政府との対立が目立ってきている。政府が報道機関に圧力をかけることは好ましいことではないが、放送局の報道姿勢に問題があることも明らかである。 ●グロッシ事務局長に執拗に付きまとう「反IAEA」デモ グロッシ事務局長には2泊3日の滞在中、常に抗議デモが付きまとった。 それは同氏の到着直後から起きた。グロッシ事務局長が7日午後10時47分頃に金浦空港に到着すると、デモ隊が入国通路をふさぎ、「グロッシ、ゴーホーム」などのシュプレヒコールを繰り返した。グロッシ事務局長は、2時間以上も空港に足止めされ、ようやく貨物用通路から空港を出たのは2時間余り後だった。 デモ隊はホテルにも押しかけたし、政府庁舎で韓国原子力安全委員会の劉国煕(ユ・グクヒ)委員長、外交部庁舎で朴振(パク・チン)長官と会った際も付きまとった。 野党系メディアの記者の取材も酷いものだった。「IAEAは日本から100万ユーロ(約1億5000万円)を受け取り、処理水放出が安全だという報告書を書いた」という陰謀説に基づく質問をぶつけたのだ。グロッシ氏は不愉快そうな表情で「何も受け取っていない、とんでもない」と答えていたが、心底呆れ果てたことだろう。 潘基文(バン・ギムン)前国連事務総長は、韓国の国会議員会館で開かれた「国家懸案大討論会――世界秩序大転換期、国会は何をなすべきか」の基調演説で、グロッシ事務局長に対する行為が「韓国の地位を大きく失墜させる極めて恥ずかしいこと」と述べた。 同氏は「国際機関の首長が訪韓したのに空港で入国を阻止して困らせたり、IAEAが日本から金を受け取って報告書を作ったなどという話は実に無責任で危険だ」「国の品格を害するもので、こうしたことに対して議員が市民社会を指導して教え導くことが重要」と述べた。さらに「グロッシ事務局長が辱めを受けた翌朝、私に電話をしてきて、私が慰労した」という。 潘氏としては実に恥ずかしい気持ちだったのだろう。これを国会議員会館で述べたということは民主党に対する大きな批判のはずだ。 某大学教授は今回の“グロッシ氏糾弾”について「落ち着いて意思表示をするデモは国民の権利」とする一方で、「外交日程を妨害するほどのこうした過激なデモは国の品位を傷つけることになる」と嘆いた。 韓国では狂牛病騒ぎやセウォル号沈没事件、哨戒艦「天安」沈没事件の際などに様々なデマ政治が繰り広げられてきた。国民の多くもそれに嫌気がさしている。IAEA事務局長への常識外れの態度を目の当たりにして、国際社会も韓国国内政治に嫌気を感じたはずである。 しかし、この出来事を契機に民主党の異質な体質が国際社会に明らかになったことは、韓国政治にとっていいことかもしれない。これによって、民主党が韓国国内で中間派からも徐々に阻害されていくことになるかも知れないからである。 ●民主党にとって処理水問題は科学でなく政治闘争 今回の処理水放出問題は、狂牛病の輸入問題で李明博政権を窮地に追いやった成果を再現しようとする民主党の政治闘争でしかない。朝鮮日報は、狂牛病問題の際、最前線で闘争を主導したミン・ギョンウ氏の「反省の弁」を報じている。 同氏はソウル大学文学部学生会長出身で、利敵団体「祖国統一汎民族連合」南側本部事務処長を10年、韓米FTA汎国民運動本部政策チーム長を07年から08年に務めた人物であり、この運動本部には北朝鮮の主体思想派の人々が入っている。同氏は狂牛病デモの後疑念を感じ運動家から手を引いている。 同氏によれば、「狂牛病について、ファクトについて会議を開いたことはない。李明博政権退陣にいかに使えるかという次元でのみ話のやり取りをしていた」とし「政務的判断が専門家の判断より優位にあるという世界観を持っているのが学生運動出身者」だと述べている。まさにそれが今の民主党を貫通している世界観である。 ミン氏は、処理水放出問題は狂牛病問題のようにはならないだろうと言い、こう述べている。 「狂牛病に関しては当時韓国に専門家がいなかった。逆に処理水は、声を上げる専門家がいる」 「私も韓国科学技術院(KAIST)原子力科の教授の話を信頼する」 「国民の目で見て、(民主党の)意図が不純だという考えが広がっている」 だが、いまのところ民主党の“運動”が終わる様子はない。 ●韓国のテレビ局の悩み「処理水放出に反対する科学者が見つからない!」 朝鮮日報によれば、逆にテレビ局では、処理水放出に反対する科学者の出演のオファーに困難を来しているという。これまで、「汚染水の放出は危険だ」と主張していた専門家が、13年に「福島原発事故が韓国の海に及ぼす影響は微々たるもの」と正反対の主張をしていたことがわかり、時事・討論番組から姿を消した。 各放送局では「汚染水の放出が問題になることはない」と主張する科学者はすぐに見つかるが、「汚染水の放出は危険だ」とする科学者は事実上、ほとんど見つからず、環境運動を展開する市民団体に主に出演オファーをしている有様だという。 放送局としては敢えて科学者を出演させる必要はないという指摘もあるそうである。科学の問題としてアプローチすれば、危険性を主張する人々の方が不利になることを制作スタッフの人々は本能的に知っている。「だからニュースでも、与野党の主張が対立する『論争問題』としてテーマを扱っている」そうである。 なんとも姑息なやり方である。 ●日本でも一部の野党にしか相手にされない民主党 韓国の処理水放出反対派の国会議員は、日本にもやってきた。 民主党議員と無所属の議員(尹美香議員と梁貞淑議員)で構成される「福島核汚染水海洋投棄阻止国会議員団」の10人が7月10日に来日し、首相官邸前で抗議集会を開催するなどしたのである。これには日本の市民団体「さよなら原発1000万人アクション実行委員会」なども同行した。 また民主党議員らは参議院議員会館前でも座り込みを行ったが、このとき掲げていた横断幕には「福島核汚染水の海洋投棄反対!」などの文字こそ見えるが、ほとんどはハングルで書かれたもので、韓国国内からも「国内向けアピール?」と揶揄される有様だ。 また来日した議員団は、日本の超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」の共同代表・近藤昭一衆院議員(立憲民主党)や事務局長の阿部知子衆院議員(同)と面会。続いて、福島瑞穂氏ら社民党議員団とも面会した。 ちなみに社会民主党の大椿裕子副党首は、7月上旬に訪韓。韓国野党の正義党や民主党の議員と面会、福島第一原発の処理水海洋放出反対で連携していくことを確認してきている。 この時のことを、「朝鮮日報」は<日本で3議席しか持たない没落野党・社民党と手を組んだ韓国167議席の第1党・共に民主>とのコラム記事(7月7日付)で、皮肉的に取り上げた。 同記事にはこう書かれている。 <韓国で167議席を持つ共に民主党が日本で0.4%の議席しか持たない没落した政党と連帯しているのだ。共に民主党が社民党から学ぶべきことは国際的な連帯ではなく、時代に逆行した政党の末路ではないだろうか> 「処理水放出反対」、「反日」、「反尹錫悦政権」のためなら、すがれるものはなんでもすがろうという民主党の哀れさを、韓国世論も感じ取っているのであろう。 実は民主党の議員の間からも、処理水問題に対する強硬な場外闘争の進め方に懸念の声が上がっているという。民主党は処理水放出に反対できても、それを阻止することはできない、という反省が聞かれるようになってきた。 グロッシ事務局長を罵倒した民主党は国際社会では誰も相手にしなくなったことを思い知るべきである。韓国国内で民主党が歴史問題や処理水問題でどのような主張を展開しようとも、日本では全く見向きもされないだろう。 ●国際的にも責任ある政党と認識されなくなった民主党 民主党と一緒になってIAEA批判をするのは、日本の立憲民主党や社民党などの野党以外では、中国と北朝鮮くらいのものである。 中国は外交部報道官の定例記者会見で「IAEAは日本側の海洋放出の正当性と合法性を証明できず、日本が負うべき道義的責任と国際法上の義務を免除するものではない」と声を荒らげた。 北朝鮮は9日、国土環境保護省対外事業局長名でIAEA報告書について「想像するだけでおぞましい核汚染水の放出計画を積極的に庇い、助長する」として非難する声明を出した。また、グロッシ事務局長については、北朝鮮の核開発を非難する一方で、日本の汚染水放出を擁護しているとして「極端なダブルスタンダード」の典型と非難した。 民主党・中国・北朝鮮は、IAEAが報告書で示した科学的な根拠には耳を傾けず、狂牛病闘争で先導役を務めた、ミン氏が反省の弁で述べた「政務的判断が専門家の判断より優位にあるという世界観を持っているのが学生運動出身者」と何ら変わらない。民主党の実態を韓国国民が直視することが韓国政治の健全化につながっていくだろう。 |
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●税金ですけど何か?処理水放出、科学的根拠のない批判対策に800億円 7/20
・経済産業省は科学的に無害なことが証明されているALPS処理水の海洋放出に関して、風評被害対策として800億円の予算を計上したが、その資金で実施される補償や対策は地元漁協に対する救済が中心だ。 ・福島第一原発事故により、生活の基盤が脅かされた漁業関係者の経済基盤を復興することは必要なことだが、風評被害対策の基金を漁協にばらまくのはEBPM(根拠に基づいた政策立案)としていかがなものか。 ・科学的に無害にもかかわらず、不安を煽り、予算を組めと主張しているに等しいメディアも共犯関係にある。 ●処理水の海洋放出で始まった税金つかみ取り大会 これ、完全に「ゴネたやつ勝ち」の究極形だと思うんですよ。 経済産業省は今年1月、科学的に無害が証明されている多核種除去設備(ALPS)処理水の海洋放出に対して、風評被害対策として800億円の予算を計上しました。 廃炉・汚染水・処理水対策チーム事務局の取りまとめによれば、エネルギー特別会計などからALPS 処理水の海洋放出に伴う需要対策として300億円、ALPS 処理水の海洋放出に伴う影響を乗り越えるための漁業者支援事業として500億円が予算計上されています。これ、政府の予算案通りに概ね承認されました。 また、こちらもそもそも論ですが、従前から政府や東京電力と福島県地元漁協(県漁連)との間では、「(福島県漁業)関係者の理解なしには(ALPS処理水の)いかなる処分もしない」という約束があります。 経済産業大臣の西村康稔さんはこれを踏襲しただけであって、西村さんが率先してカネをばらまいて地元を黙らせているという批判は筋違いだろうと思います。「態度が偉そうだから」と能力の割に評判の低い西村さん、あらぬ叩かれ方をして可哀想です。 ただ、この基金で実施される補償や対策は、その中身を見る限り、こじつけでも理由がつけば、割と何でもありです。「新たな魚種・漁場の開拓等に係る漁具等の必要経費を支援」や「省燃油活動等を通じた燃油コスト削減に向けた取組を支援」って話です。 要するに、ALPS処理水の放出にこじつけて、直接漁協を救済するための仕組みにほかなりません。漁場の開拓に500億円も予算かかるかよ、ってことですよね。福島県の漁業全体で500億円も突っ込まなければならないほど、充分な納税をしてくるような産業だったのかっていうのは問い直されるべきだと思うんです。原発事故の被害者であったのだとしても。 もちろん、福島第一原発事故により、生活の基盤が脅かされた福島県の漁業関係者の立場は被害者そのものであって、このような凄惨な事故を引き起こした政府や東京電力は真摯に反省し、再発の防止だけでなく、地元経済の復興に尽力するよう各種政策を打ち出し粛々と実行することは必要だとは思うんですよ。 ただし、現代日本のEBPM(根拠に基づいた政策立案)は一定程度貫徹されているべきであって、とりあえず不安だから過去に決まっていた基金800億円を取り崩して地元対策費としてばらまいてしまえというのは、「税金のつかみ取り」に等しい事案と見られても不思議はありません。 ●実体は地元漁協を黙らせるためのバラマキ予算か いわゆる福島復興予算は、東日本大震災に伴う事故後11年間(22年度末)までの累積額(復興予算の執行額)で39兆4000億円余りに上ります。 「復興に費用対効果は考えないのだ」「被害者については救済しなければ政府の責任は果たせないのだ」という声もあり、それはそれで正論とは思いますが、一方で、年間の国家歳入(税収)の7割に匹敵する金額を福島に突っ込み続けてきたのは、採算度外視の“お気持ち”の延長線上にあるものとも言えます。 途方もない金額を使って実施した除染や今回のALPS処理水の海洋放出は、いずれも「科学的根拠は乏しいが、安心安全のために使われるおカネ」です。 その中でも、今回の件は誠に残念なことに、根拠のない処理水海洋放出への批判を主とする風評被害対策費と称した800億円もの税金投入であり、実際には処理水海洋放出に反対する地元漁協を黙らせるためのばらまき予算なのだと指摘されても致し方ない面があります。いまのままの福島県の漁業に、いままでの復興予算とは別に800億円も突っ込む価値があるとでも思ってるんですか。 そうであるならば、福島・浜通りの漁業を合理化するために投資し、ノルウェーのような養殖を主体とした水産業への脱皮も考えられたはず。それなのに、あくまで処理水放出のことだけ考え、地元の理解が得られればいいのだろうと予算を積んだ結果がこれだろうと思うのです。 東京海洋大学の勝川俊雄さんや水産業に詳しい片野歩さんら、福島県の漁業が取り組むべきアプローチについては、より発展的な議論が展開されてきました。 さらに、かねて問題視されてきた、中国や韓国の民情対策も今回改めて浮上しています。 そもそも、日本の今回の処理水放出で出るトリチウムの濃度問題よりも、はるかに多くの汚染物質が中国や韓国の原子力発電所から海洋放出されているという現実があります。 この点は、風評被害対策の観点から、日本国内だけでなくもっと国際的に主張されなければなりません。「不安だと文句を言っているお前らのほうが、圧倒的に多くの汚染を行っているのをどう考えているのか」と。 ●根拠のない話で不安を煽る大手メディア 国際原子力機関(IAEA)も、公式の声明で、繰り返し今回の日本のALPS処理水の海洋放出には問題がないと発表しています。 科学的根拠という点では、むしろ日本は海洋放出に対して不必要なぐらい慎重に希釈化し、わざわざ放出用パイプを這わせて沖合まで伸ばして放出しているのです。もちろん、科学的根拠はまったくありません。 ここで使われた敷設費用の総額約120億円は、ただただ周辺住民が不安に思ったり、中国・韓国が文句を言ってきたりすることに対抗してのものと言えます。 これらの問題においては、通常の生活に戻っていく福島県民の立場をあえて被害者のままにとどめ、問題があると不安を煽り続けるメディアも共犯関係にあると言えます。被災地とはいえ、もう12年も経過している以上は、福島県民もいい加減自立できるでしょうし、いつまでも「フクシマ」のままにしてはらなないと思うんですよ。 例えば、朝日新聞はつい先月も、ALPS処理水の海洋放出に関して「科学的根拠のまったくない不安を軽視せず対話しろ」という社説を掲載しています。これは、根拠のないお気持ちを鎮めるために、予算を組んでカネを出せと言っているに等しいと思います。読みようによっては、ある種のタカリ容認の姿勢と見られても仕方がありません。 わざわざ「政府と東電は今後も丁寧な説明を続ける必要がある」とまで書いているのは、不安だと言い続ければ政府や東京電力から資金が出て、どこか関係先のふところに流れていくからにほかならないのではないかという反論も出るでしょう 朝日新聞に限らず、本来のメディアの役割は、根拠のないガセネタを流して国民の不安や不満を煽ることではなく、根拠のない不安を打ち消して「そこに問題はないのだ」と解説を重ねて、意味や価値のある方向に社会を向かわせることではないのかと思います。 ●不安を煽って税金の無駄遣いを誘発するマスメディアの罪 福島復興とマスメディアの関係は、いま我が国で起きている社会問題と非常に似た緊張状態にあると言えます。 接種後の副反応はあれど、コロナの重症化阻止や死亡率の引き下げに効果の高いmRNAワクチンの薬害を煽ったり、諸外国では当たり前のように運用されている国民番号は問題だとマイナンバーカードの事案で騒いだり。問題はそこじゃないだろというところで話題を作り上げ、ネットで不安や不満を輻輳させてしまっています。 放っておくと暴走しかねない権力の監視という本来のマスコミの機能とは異なる、国民の不安を適当に煽って注目を集めてカネを稼ごうとするマスメディアが、本来不必要な税金の無駄遣いを誘発しているのは問題です。 今回のALPS処理水の海洋放出についても、これには何の意味があって、どういう決着を目指すべきなのか、真摯に考え直すべき時期なのではないかと思います。 |
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●IAEA報告書は「処理水の海洋放出」を承認していない。日本の傲慢 7/28
福島第一原子力発電所で発生した、いわゆる処理水(詳細は後述)を海洋放出する日が近づいている。 日本政府やメディアは、国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致している」とした調査報告書(7月4日)によって、海洋放出の安全性と正当性が示されたかのように主張する。 だが、この報告書に、海洋放出の方針を「推奨するものでも承認するものでもない」との記載があることに、どれほどの人が注意を向けているだろう。 報告書で「お墨付きを得た」とし、地元・福島の漁民や市民団体、中国や太平洋の島しょ国など海外の反対を「非科学的」「外交カードにしている」などと決めつけるのは、あまりに傲慢な態度ではないか。 ●報告書提出までの経緯 まずは「処理水」問題を振り返ろう。 2011年の福島第一原発事故でメルトダウン(炉心溶融)を起こした原子炉には、その後も核燃料と構造物が溶けて固まった「燃料デブリ」を冷却するため、現在も毎日大量の水が注入されている。 燃料デブリに触れて高濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」は、原子炉建屋に流れ込む地下水や雨水と混ざり合うことで、新たな汚染水を発生させている。 現在は、汚染水に含まれる放射性物質を「多核種除去設備(ALPS)」で浄化処理しており、除去の困難なトリチウムを残しつつ、それ以外の放射性物質について規制基準を満たしたものを、日本政府は「(ALPS)処理水」と呼んでいる。 処理水は1000基余りのタンク(約137万トン分)に保管されている。 東京電力はこのタンクが2024年には満杯になると計算し、処理水のトリチウム濃度を国の規制基準の40分の1を下回るように海水で薄め、海底トンネルを通じて沖合約1キロ先の放水口から海に流す計画を立てた。 日本政府は2021年4月、東京電力が作成した「処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」と、原子力規制委員会による海洋放出計画の審査プロセスが、IAEAの安全基準に整合しているか確認を求めた。 そして冒頭でも触れたように、IAEAは7月4日、海洋放出計画が「国際的な安全基準に合致している」とする内容の調査結果を公表し、同機関のグロッシ事務局長が岸田首相に報告書を提出した。 ●中国などが反対する「論理」 処理水の海洋放出に対しては、全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)や地元・福島の漁業協同組合をはじめ、市民団体が強く反対してきた。 さらに、IAEAの調査報告書公表を受け、中国や太平洋島しょ国からも反対の声が上がり、外交問題に発展している。 まずは中国の主張に耳を傾けよう。 呉江浩・駐日大使と駐日大使館報道官は7月4日の記者会見で、海洋放出に反対する理由を次のように列挙した。 1 日本側は周辺近隣国など利益関係者と協議せず、一方的に決定した原発事故で生じた汚染水を海に放出した前例はない 2 「各国も原発から汚染水を排出している」との日本の主張について、排出しているのは冷却水であり、事故で溶けた炉心に接触した汚染水ではない 3 溶け落ちた炉心と直接接触した汚染水には60種類以上の放射性核種が含まれ、その多くには有効な処理技術がない 呉大使はその上で、「日本はただちに海洋放出計画を中止させ、国際社会と真剣に協議し、科学的、安全、透明で、各国に認められる処理方式を共同で検討すべき」と主張した。 中国政府の反対を受け、特別行政区である香港の食品衛生管理当局は7月12日、放出が実際に行われれば、福島や東京を含む10都県からの日本の水産物の輸入を禁止すると発表。 さらに、中国税関当局が日本の水産物に対する放射性物質の検査を7月から厳格化、鮮魚などの輸出が停止していることが分かり、放出問題は日中間の外交問題へと発展した。 放出開始を前に対抗措置に出たとも映る中国の対応について、日本では「中国政府は処理水問題を利用しているのではないか、との疑念を禁じ得ない」との社説や、「処理水問題が科学的議論を離れ外交カードと化している」といった政府関係者の見方を紹介する記事など、メディアが「日本政府応援団」と化して対中非難を煽っている。 だが、放出に反対しているのは中国だけではない。 オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアなどの太平洋島しょ国が加盟する「太平洋諸島フォーラム(PIF)」は、IAEAが報告書を公表する直前の6月26日、プナ事務局長が声明を発表した。 笹川平和財団主任研究員の塩澤英之氏の抄訳によれば、「放射性廃棄物その他の放射性物質」の海洋投棄は「太平洋島しょ国にとって、大きな影響と長期的な憂慮をもたらす」ため、「代替案を含む新たなアプローチが必要であり、責任ある前進の道である」と、プナ事務局長は海洋放出に反対する態度を表明した。 なお、日本は菅前首相時代の2021年7月、太平洋地域の19カ国・地域の首脳と「第9回太平洋・島サミット(PALM9)」をオンラインで開いている。 菅氏はその際、「権威主義との競争など新たな挑戦に直面」しているとして、中国の脅威に対抗する結束を呼びかけたが、太平洋島しょ国側の同意を得られず、議論は海水面の上昇や海洋ゴミ、核廃棄物など汚染物質対策に集中した。 サミット後の首脳宣言には、太平洋諸島フォーラムの加盟国・地域が「海洋放出に係る日本の発表に関して、国際的な協議、国際法及び独立し検証可能な科学的評価を確保する」のが優先事項であるとの文言が盛り込まれた。 ●報告書は海洋放出を推奨も承認もしていない そもそも、今回のIAEAによる調査報告書を、海洋放出の安全性や正当性を保証するものとみなしていいのか。 最も注意しなければならないのは、報告書の中に「処理水の放出は日本政府が決定することであり、その方針を推奨するものでも承認するものでもない」と明記されていること。政治的判断として海洋放出を行うべきかどうかについて、報告書は一切判断していないのだ。 政府の説明やメディア報道に接した多くの国民は、この点を誤解してはいないだろうか。 IAEAのグロッシ事務局長はNHKとのインタビュー(7月7日)で、次のように語っている。 「日本政府は処理水をどう扱ったらよいか聞いてきたわけではなく、基本方針を評価してほしいという要請だった。政治的にいいか悪いかを決めたわけではなく、放出に対する日本の取り組みそのものを調査した」 また、原子力に依存しない社会の実現をうたう認定NPO「原子力資料情報室」の関係者は、筆者にこう説明する。 「IAEAの報告書は、汚染水の海洋放出を正当化する内容ではありません。放出設備の性能や保管タンク内の処理水に含まれる放射性物質の環境影響などを評価しただけです」 原子力資料情報室は7月6日に発表した声明で、以下のように指摘している。 1 IAEAの安全審査の範囲には、日本政府がたどった正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていない 2 汚染水の海洋放出は廃炉作業のみに適用される利益であり、漁業や観光業、住民の生活、海外への影響も含めた社会全体としての利益をもたらすものではない 3 海洋放出に社会的合意が取れていないことは全漁連、福島県漁連の放出反対の決議や、太平洋沿岸諸国から懸念が上がっていることからも明らか。国際基準の基本原則に則れば、海洋放出は正当化されない ●問題をすり替える自民党幹事長 自民党の茂木敏充幹事長は7月25日の記者会見で、海洋放出を批判する中国について、「科学的根拠に基づいた議論を行うよう強く求めたい。中国で放出されている処理水の濃度はさらに高い」と反論した。 しかし茂木氏の態度は、溶け落ちた原発の炉心に直接接触した汚染水を処理した水を史上初めて海洋に放出するという事実を無視し、放射性物質の含まれる濃度の問題にすり替えているように筆者にはみえる。 市民団体からは「タンク貯蔵されている水の7割近くには、トリチウム以外の放射性核種が全体としての排出濃度基準を上回って残存している」との指摘もある。放水前に処理するにせよ、指摘に対する確認や追加の調査もないまま、中国の主張を「非科学的」と決めつけることの方が、非科学的ではないのか。 「タンク貯蔵されている水の7割近く」との指摘については、市民団体が指摘しているだけでなく、日本原子力文化財団が「原子力総合パンフレット2022年度版」の中で、次のように説明している。 「事故から2年後頃までは、ALPSの設備導入を検討している段階であったため、セシウム以外の放射性物質が除去できていない高濃度汚染水があり、その時期はタンクに貯蔵する際の放射性物質の濃度の基準を下回ることを優先していたため、環境へ処分するための基準を満たしていない処理途上水もタンクに貯蔵されています。これらは、処分するための基準が満たされるまで浄化処理されますが、その間タンクに貯蔵されています(保管中の水の約7割)」 ●代替案含め再検討を IAEA報告書は、海洋放出以外の選択肢については一切触れていない。中国も指摘するように、東京電力と日本政府が海洋放出以外の代替案を考慮した形跡も見当たらない。 しかし、専門家からは「大型堅牢タンクでの保管」や「モルタル固化」などの選択肢が提示されている。 海洋放出を実施した場合、放出を開始してからも増え続ける汚染水と放射性物質の総量がどこまで膨れ上がるのか、環境への負荷が未知数であることも今後の大きな問題として残されている。 8月にも開始されるという海洋放出はいったん中止し、代替案を含め再検討すべきだろう。 最後に、今後の対中関係に触れておきたい。 日本政府はバイデン政権誕生以来、台湾問題で中国を軍事抑止する安全保障政策を最優先し、対中関係は悪化の一途をたどってきた。 海洋放出を決定したことで関係悪化が加速した上、日本側は先端半導体の製造装置の対中輸出規制を強化し、軍事抑止に続いて経済安保でも中国排除に動き、日中関係は「負のスパイラル」に陥りつつある。 アメリカと中国は対立が衝突に発展しないようブリンケン国務長官をはじめ高官が相次いで訪中、首脳交流再開に向けた対話パイプを維持しているが、一方の岸田政権は対中外交の展望とパイプの欠如が否めない。 中国経済はコロナ下での経済封鎖の落ち込みからの回復力が弱く、いまなら日中双方に経済関係を強化するモチベーションがある。「負のスパイラル」に陥らぬよう、関係改善に向けた手当てが必要だ。 |
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●福島原発処理水に猛反発の韓国、中国のトリチウム放出には沈黙のなぜ? 7/29
・福島第1原子力発電所の処理水海洋放出に対する韓国の猛反発が、かつての勢いを急速に失っている。 ・放出本番を前に勢いを失った理由は定かではないが、そもそも科学的根拠がない抗議だったために持続力はなかったのかもしれない。 ・福島第1原発以上に放射性物質を放出している中国の原発には関心が薄く、「日本だから粗探しをしたくなる」という韓国特有のメンタリティーがありそうだ。 韓国は謎である。もう20年近くも住んでいるが、今でも時折、よくわからないことが起きる。福島第1原子力発電所の処理水放出に対する大騒ぎもその一つだ。 7月中旬、私は日本に2週間ほどの間一時帰国していた。その間に、すっかり様子が変わってしまったのだ。処理水の海洋放出に対してあれほど猛反発していたのに、嘘のように静かになった。 もちろん、そうした声が消えたわけではない。だが、ニュースで取り上げられる時間が圧倒的に少なくなっている。 反発の声は7月上旬まで徐々に大きくなっていた。今年4月に札幌で開かれた先進7カ国(G7)環境相会議では福島での海洋放出についても議論され、それから1カ月後には韓国からの視察団が福島原発を訪問。そして7月初めには、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が韓国を訪問し、海洋放出に強く反対する野党議員と面会した。 このとき野党議員らは強硬な姿勢を崩さなかった。革新系メディアのハンギョレ新聞によれば、「当初から中立性と客観性を失っている日本偏向的検証」といった批判が何度も連呼され、これにはグロッシ事務局長も苦笑いを禁じ得なかったと報じられている。 会場となった国会の周辺では海洋放出反対の集会が開かれた。だいたいこういう集会では、敵の顔写真をつかった戯画的な絵がプラカードに掲げられる。数カ月前まではソウルの中心部で岸田首相、韓国の尹大統領、米国のバイデン大統領が一緒に描かれ、顔に×印までつけられていた。日米韓の連携が気に入らないのだろう。まるで見世物だ。個人的には好きなやり方ではないが、経験上、これがコリアンスタイルである。 どうやらグロッシ事務局長も同じような扱いをされたらしい。韓国のネットニュースでは岸田首相と並んだ写真に手を加え、さらに「100万ユーロの賄賂」との文言が書かれたプラカードが確認できた。ちなみに100万ユーロは今のレートで、1億6000万円近くになる。 ●急にしぼんだ処理水抗議の声 私が一時帰国で韓国を離れたのは、そうした一連の出来事で盛り上がっていた頃である。だからその時期に「福島汚染水」という言葉が連呼されるのは、当然の流れであるといえる。 海洋放出はこの夏に実施される見込みと報じられている。そうであるからには、これからさらに反対の声が高まるのだろうと考えていた。しかし、グロッシ事務局長と野党議員の面会以降、なぜか反発の声はしぼんでいく。 そもそも、科学的根拠に乏しかったから反対運動に持続力がなかったか、野党支持率が低下して処理水ばかりにかまけていられなくなったか、豪雨による災害でそれどころではなくなったか。明確な理由は定かではないが、野党議員やその支持者たちは信念もなく、尹政権を揺さぶるために政治利用しただけともいえる。 そんな中途半端で不可解な点は、中国に対する態度にも表れている。福島処理水の海洋放出に反対しているのに、中国の原発から放出されている放射性物質トリチウムには沈黙していることだ。 中国の原発から放出されるトリチウムについては、5月に韓国メディアが「福島の1000倍も危険」と報じた。6月23日付の読売新聞によると、中国の原発によるトリチウムの年間排出量は、福島の処理水の海洋放出と比べて、2021年のデータでは最大で約6.5倍に及んでいたという。 その1つが大連市に位置する遼寧紅沿河原子力発電所で、ここでは福島の4倍を超えるトリチウムが黄海に放出された。19年のデータでもほぼ同じ排出量で、その98%が海洋放出である。だが、この報道は韓国で一部のネットメディアが引用して紹介するにとどまった。 黄海は東西北の三方が塞がっているため、放射性物質はそのまま南に向かい、朝鮮半島の東海岸沿岸を流れていく。その海域は韓国の大きな漁場のひとつであり、とりわけ盆や正月の祝いの席で食べられるイシモチの一大生産地である。 イシモチというと日本ではあまり重宝されないが、この沿岸のイシモチは味も良い。特に干物は味が濃厚で高値がつく。また、塩田が広く分布しており、天然塩が多く生産される。 ●中国原発もトリチウムを放出 この中国原発によるトリチウム大量放出は、福島の処理水に大きな声を上げているのであれば、極めて由々しき問題になってしかるべきだろう。ところが李在明(イ・ジェミョン)代表をはじめとする野党の議員たちの声が上がった記憶はない。 しかも報じられたのは21年のデータであり、その前後でも放出されているだろう。そのトリチウムが流れ込んでいる黄海産のイシモチと天然塩を、私も含めて韓国に住む人は喜んで食べてきた。 この話を韓国人にしてみると「知らなかった」というのが大半である。それに知ったところで、「韓国をいつも敵視している中国のことだし、どうでもいい」という返答が多かった。 ではどうして福島のことが気になるのかというと、「よく報道されているから」という答えが最も多い。「日本は中国よりも身近だ」とか、「日本に行く予定もあるし、日本のものを食べる機会がある」という回答も少なくなかった。 韓国で福島の海洋放出反対の声が高まったのは、日韓関係改善を劇的に進めている今の尹政権下である。ノージャパンからゴージャパンへ移行し、そのぶん余計に気になっているとも言える。 ●日本の粗探しは関心が高さゆえ 6月の世論調査では、福島からの海洋放出について韓国人の80%ほどが反対した。ただし、目くじらを立てているのはごく一部にすぎない。周りの韓国人でも「海洋放出しか方法はないのか」と単純に疑問に思う程度の人がほとんどで、80%という数字はそうした人を含めてのことである。 環境省などでの説明を見るかぎり、私は海洋放出に拒否感はない。放射性物質はこの地球上から消し去ることはできないのだ。普段も食べ物などを通してそれなりに摂取もしている。 この件をめぐる韓国での盛り上がりには、科学という範疇を越えて、日本に対して何かと疑問を探し出してしまう韓国社会の複雑な感情が根底にある。それは、日本への関心の高さの裏返しだ。 そこから見えてくるのは、中国に対してはもはや諦めが先立ち何も言う気にならないが、日本に対しては関心が高いだけに苦言が真っ先に口をつくという韓国社会の風土である。 韓国ではイシモチは食べても福島県産のものはしばらく輸入しないのだという。しかし私は、一時帰国の折には福島産の魚介類をこれまでのように積極的に食べるだろうし、日本へ行く韓国人にもトリチウムの説明をしながらお薦めしたいと思う。何らかのきっかけで処理水問題への関心が韓国国内で再び高まり、根拠のない批判が巻き起こらないことを願いながら。 |
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●原発処理水 中国とロシアは大気放出の検討要求 海洋計画阻止へ共同歩調 8/20
中国、ロシア両政府が東京電力福島第1原発の処理水を巡り、大気への水蒸気放出を検討するよう7月に日本政府に直接求めたことが20日分かった。複数の外交筋が明らかにした。日本に海洋放出計画を先送りさせ断念に追い込むことを目指し、共同歩調を取ったとみられる。日本政府は中ロに反論していく方針だ。 中ロが7月下旬、日本政府に20項目の質問リストを共同で提出し、水蒸気放出は海洋放出より「周辺諸国への影響が少ない」と主張した。国際原子力機関(IAEA)にも同様の文書を送った。日本政府関係者は要求の「受け入れは不可能」と話した。近く海洋放出に踏み切る見通しだ。 水蒸気放出は放射性物質トリチウムを含む処理水を蒸発させ大気中に排出する方法。日本政府内で一時検討されたが、大気中の放射性物質のモニタリングが海洋よりも難しいなどとして見送られた。 中ロは質問リストで、大気中の放射性物質のモニタリング手法は技術的に確立されていると指摘して日本政府の見方を否定。海洋放出の必要経費は約34億円で水蒸気放出の10分の1にとどまるとする日本側の試算を引用して「日本の選択が経済的コストの考慮に基づくのは明らかだ」と主張した。 IAEAのグロッシ事務局長は海洋放出以外の選択肢に否定的な見解をCNNテレビのインタビューなどで表明している。中ロ両国は昨年にも2度にわたり質問リストを日本政府に提出していた。 過去の原発事故では、1979年のスリーマイルアイランド原発事故で大気放出を実施したことがある。 |
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●海洋放出以外の検討要求 中国、原発処理水巡り 8/22
中国外務省の汪文斌副報道局長は21日の記者会見で、東京電力福島第1原発の処理水を巡り「海洋放出以外の選択肢を議論し、責任あるやり方で福島核汚染水を処置するべきだ」と求めた。大気への水蒸気放出を検討するようロシアと共同で日本に求めた対応を念頭に置いているとみられる。 日本政府は21日までに、大気への放出について「拡散の予測が困難であり、放射性物質のモニタリングに課題がある」と中ロに伝えた。外交筋が明らかにした。 汪氏は海洋放出に関し「経済的コストを考慮して選択した計画であり、隣国や世界に不必要なリスクをもたらす」と改めて批判。「日本は国際社会の正当で合理的な懸念を直視し、周辺国をはじめ利害関係者と十分に意思疎通を図るべきだ」とも指摘した。 さらに、処理水放出に関し「風評被害が起きる」と懸念する声が計88・1%に上った共同通信の電話世論調査に触れ「日本政府のつじつまの合わないやり方は、国民の信頼を失っている」とも語った。 |
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●福島第一原発「処理水」放出開始:国際世論の理解・支持獲得の努力を 8/23
●1.「処理水」の放出開始へ 福島第一原発事故から12年が過ぎ、政府は8月24日にも「処理水」の海洋放出を開始することを決定した。処理水とは、核燃料を冷却するために注入され、汚染された水を専用装置で浄化したものである。処理⽔はタンクに入れ、原発構内に保管されているが、2024年春には、原発の空き地がタンクで埋め尽くされるため、放出に踏み切る。 処理水には、放射性物質の一つであるトリチウムが含まれているが、専用装置でも取り除けない。摂取量によっては、血球成分の減少などの影響を人体に与えることが知られており、世界各国の原子力施設では、人体や環境に影響がない程度まで希釈したうえで、処理水を海洋など自然界に放出している。この通例に沿い、福島第一原発の処理水も、濃度を国の基準の約40分の1(1,500ベクレル/リットル)未満に薄め、数十年かけて処分する方針である。 日本政府の決定は必ずしも国内外の理解を得られているわけではない。風評被害に苦しんできた福島県漁連を中心に国内の漁業者は一貫して処理水の海洋放出に反対しているほか、中国が、韓国や太平洋島嶼国に「海洋の放射能汚染を許すな」と共闘を呼びかけている。処理水放出は30年以上の時間を要するため、日本政府は一過性の対策ではなく、国家としての信頼を喪失しないための戦略を準備しておく必要がある。 本稿では、福島第一原発事故後の処理水問題の経緯を概観し、海洋放出を長期間、適切に実施するための方策を検討する。 ●2.処理水の現状と海洋放出に対する国内外の動き ●(1) 処理水放出計画の概要 福島第一原発では、事故により溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷却するため、大量の水を循環させる必要がある。その結果、放射性物質を含んだ汚染水が1日あたり90トンほど生じており、多核種除去設備(ALPS)と呼ばれる専用装置で放射性物質を国の基準値以下まで取り除き、敷地内のタンクに保管している。2023年7月31日現在、1,073基の保管用タンクがあり、貯蔵量は130万トンを超え、貯蔵率は98%を超えている。原発内に空き地はもうないため、国は海底トンネルを敷設し、原発敷地から1キロメートル沖合に希釈した処理水を放出することを決定している(図1参照)。 図 1:処理水放出計画の概要 この計画に対し、国際原⼦⼒機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は7月4日、IAEAに独自に設置している「ALPS処理水に関するタスクフォース」の包括報告書を岸田文雄総理に提出し、「海洋放出は国際的な安全基準に合致している」との評価結果を伝えた。原子力規制委員会も同月7日、海底トンネルを使った沖合への放出計画に「合格証」を与え、処理水放出を政府の決断で実施できる体制が整った。 写真 1:処理水を保管するタンクがたまり続ける福島第一原発 ●(2) 当事者能力を失った東京電力と近隣諸国の反発 表1に、処理水放出に至る主な経緯を紹介しているが、中でも影響が大きかったのは、2011年の事故直後、東京電力が緊急避難措置として低濃度汚染水を海洋に放出した事実である。関係者に対する十分な事前周知がなかったため、国内外から多くの批判を招くことになった。その結果、東京電力が当事者能力を喪失し、国が対応を迫られることになった。 表1:汚染水の処分に関する経過 年月日 / 措置 / 目的・結果 2011年4月4日〜10日 / 東京電力が低濃度汚染地下水を海洋に放出 / 高濃度汚染水が海洋に漏れないように貯水先を確保するため、やむなく低濃度汚染水を海洋放出することになったが、事前の周知が不十分だったため、地域住民だけでなく、近隣諸国からも批判 2013年3月〜 / 汚染水を浄化する多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System、ALPS:アルプス)が稼働。 / トリチウムを除くすべての放射性物質を除去する能力があるとされたが、除去しきれない事例も発生 2013年5月13日 / 地下水バイパス整備のため、くみ上げた地下水を海洋放出する東京電力の提案に、福島県県漁連が反対表明 / 「東京電力だけだと漁業組合の信用がない。国の方針で説明してほしい」との声を受け、以降は地域に対する説明を経済産業省と共同実施 2013年9月8日 / 東京五輪招致を目指した国際オリンピック委員会総会において、安倍晋三総理(当時)が汚染水について、「状況はコントロールされている」とスピーチ / 国際社会の海洋汚染に関する懸念の払しょくが目的 2016年11月 / 経済産業省が「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」を設置 / 第三者的視点で、汚染水処理の解決策を議論 2018年9月 / 「トリチウム以外の放射性物質をすべて除去できる」と説明していたしていたALPSについて、東京電力がほかにも除去できない物質があり、基準値を上回っていたと公表 / 当初自社のホームページでのみ公表していたため、東京電力の情報公開の姿勢に批判 2019年8月 / 東京電力が「2022年夏ごろに福島第一原発内の空き地が貯水タンクで満杯になる」との見通しを表明 / ALPSで処理された水の最終処分が喫緊の課題に 2020年2月 / 2020年2月、小委員会が報告書を公表 / 海洋放出を最有力とする結論 2021年4月 / 中国が処理水の海洋放出に絡み、日本批判を激化 / 海洋放出が日本の国際的な評価を左右する問題へ 2023年7月 / IAEAがALPS処理水に関する包括報告書を岸田文雄総理に提出 / 「ALPS処理水の海洋放出は国際的な安全基準に合致」と結論 特に、中国は処理水問題への批判を強め、2021年4月以降は日本批判を激化させている。同月、趙立堅外交部報道局副局長(報道官、当時)が記者会見で「海洋は日本のごみ箱でなく、下水道でもない」と発言した。同氏はさらに、葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をモチーフに、富士山を原発に書き換え、防護服を着た人物が船からバケツで液体を海に流す姿などを描いた風刺画を自身のツイッターに掲載した。さらに、米国との覇権争いの主戦場となりつつある太平洋島嶼国にも、処理水放出問題での共闘を呼びかけた。 ●3.日本の対応 ●(1) 科学による「安全立証」と限界 こうした動きに対し、日本はまず、第三者による科学的な検証により、処理水放出の安全を立証しようと試みた。トリチウムは、放射性同位体が減少し半分になる半減期は12.33年で、放射性核種の中では寿命が短いこと、体内に入っても内部被ばくの発生は極めてまれであることから、基準値以下であれば、海洋放出に理解が得られると判断したためである。 具体的手段として、IAEAに協力を求めた。2021年4月、IAEAに中国を含む11カ国の専門家で構成するタスクフォースが設立され、先の包括報告書を岸田総理に提出した。また、現在タンクに貯蔵されている130万トン超の処理水中に含まれるトリチウムの総量はわずか20グラム弱であり、放出に伴い想定される年間の放射性物質の総量が中国を含む他国の原子力施設に比べ、低水準であることを繰り返し発信している(表2参照)。 表2:各国の原子力施設から排出されるトリチウムの総量 国名 施設名 排出量 基準年 日本 福島第一原発 22兆ベクレル 2023年以降 韓国 月城原発 23兆ベクレル 2016年 中国 泰山第三原発 143兆ベクレル 2020年 米国 キャラウェイ原発 42兆ベクレル 2002年 カナダ ダーリントン原発 241兆ベクレル 2015年 フランス ラ・アーグ核燃料再処理施設 1京3,700兆ベクレル 2015年 ●(2) 対話と外交による情報戦への対応 しかしながら、科学による「安全」の立証は心理的な「安心」を提供することにつながらず、国内では、福島県および近隣県の水産業者を中心に、処理水放出による風評被害の発生を訴える声が絶えなかった。「安全」と「安心」の隙間をつく形で、中国は繰り返し、処理水の放出が海洋汚染に直結するかのような国際世論への訴えを仕掛けている。 日本政府は2023年初頭から、「国際世論への対策」を本格化させた。まず、太平洋島嶼国14か国に岸田総理の親書を届けるため、林芳正外務大臣を特使として派遣し、キリバスを除く13カ国を訪問して、親書を手渡すとともに、処理水放出の安全性を直接説明した。 政権交代を契機とした関係改善を追い風に、韓国の取り込みも図った。5月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との首脳会談で、岸田総理は韓国側が求める同国の専門家による福島第一原発の視察を受け入れた。視察は「韓国国内におけるALPS処理水放出への理解醸成」(日本外務省)が目的で、5月22日〜26日に実施された。 ●4.長期戦に備えた戦略確立を パラオのウィップス大統領が6月、福島を訪問し、ALPS処理水に関する日本の対応への信頼を表明するなど、外交は一定の成果を挙げつつある。しかし、この程度では中国は引き下がらない。同国の駐韓大使が6月、韓国最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表をソウルの大使公邸に招き、海洋放出阻止に向けて協力していくことで一致した。日本に協力的な尹大統領に対し、最大野党との連携で揺さぶる狙いとみられる。さらに、7月には水産物を含む日本の食材への輸入検疫を強化し、海洋放出に向けた動きをけん制している。 ALPS処理水の海洋放出は30年超に及ぶ。海洋放出を適切に実施できるかどうかは、風評被害の発生防止のみならず、日本の国家としての信用をも左右する。そのため、長期戦に備え、政府一体で連携して対応する必要がある。情報発信の遅れや事前説明の欠如により、国内外から厳しい反発を招いた過去から教訓を学ばなければならない。具体的には、関連省庁が常に情勢分析や対応策に関する議論ができるよう、内閣官房国家安全保障局にALPS処理水に関する対策室を設置することや、そこにコミュニケーションの専門家を招へいすることを検討するべきだろう。 |
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●福島第一原発の処理水、海洋放出始まる 8/24
東京電力は24日午後1時ごろ、東京電力福島第一原発にたまる処理水を太平洋に放出する作業を開始したと発表した。 東京電力はこの日、海洋放出時の遠隔操作室の様子を報道陣向けにライブ中継。海水輸送ポンプ付近のバルブが開く様子などを公開した。 福島第一原発では2011年3月の東日本大震災以降、原子炉の冷却に使用された134万立方メートルの水が処理され、貯められてきた。これまでに1000基以上のタンクが満杯になっている。 日本政府は22日、処理水の放出作業を24日にも開始すると決定。これを受けて東電は、処理水を海水で希釈する作業を始めていた。 放出完了には、30年程度という長期間が見込まれている。最初となる今回の放出は、7800トンの処理水を海水で薄めた上で17日間の予定で連続して行う方針。今年度の放出量は約3万1200トンを予定しているという。 日本政府は2021年4月に、海洋放出計画を発表。国際原子力機関(IAEA)は2年にわたる評価の末、今年7月に計画を承認した。 しかし、原発周辺に住む住民や近隣のアジア・太平洋諸国の一部からは、海洋汚染や風評被害への懸念の声が上がっており、なお物議をかもしている。 東電は福島原発の汚染水を多核種除去設備(ALPS)でろ過し、トリチウムと炭素14以外のほとんどの放射性物質を、許容できる安全基準まで減らしている。 トリチウムと炭素14はそれぞれ、水素と炭素の放射性同位体で、水から分離するのは困難だ。ともに地球の大気中で生成されて水循環に入り込むため、広い範囲で存在しており、自然環境、水、そして人体にも存在する。どちらも放射線量は非常に少ないが、大量に摂取すると危険だという。 ●多くの科学者が安全性指摘 今回の海洋放出について、多くの科学者が安全だと述べている。 水の処理過程と放出計画は、国際機関によって綿密に精査され、保守的な安全基準さえ順守していることが判明している。IAEAは報告書で、処理水の放出が人や環境に与える影響は「無視できる程度」だとした。 予測される一般市民の被曝線量は、年間0.002〜0.030マイクロシーベルトの範囲。一方で、年間1000マイクロシーベルトまでは安全だとされている。 たとえば、歯科での簡単なレントゲン撮影での被ばく量は約5マイクロシーベルト、乳がん検査のマンモグラフィーで浴びる量は200〜300マイクロシーベルトだ。 ●中韓からは激しい反発 日本は、処理水の放出が安全であることを近隣諸国に保証するために、あらゆる手段を講じてきた。IAEAもこの計画を受け入れている。 しかし、誰もがその言葉を受け入れているわけではない。 中国外交部は24日、処理水の放水が始まった直後に声明を発表。日本が「利己的な利益」のために人々に「二次的な被害」を与えていると非難した。また、汚染された水の処理は国境を越えた原子力安全上の大きな問題だと指摘した。 中国の税関当局は同日午後、日本の水産物の輸入を全面的に禁止すると発表した。同国はこれまでも、福島県や周辺地域の水産物を禁止していたが、これをさらに拡大した。 中国は、日本の水産物の最大輸出先。 中国政府は先に、海洋環境や食の安全、公衆衛生を守るために「必要な措置」を取ると表明していた。 香港とマカオ当局は、24日から東京や福島周辺の水産物の輸入を禁止すると発表した。 韓国でも野党・民主党や市民団体による抗議があり、ソウルでは23日夜、発光ダイオード(LED)ろうそくを持った人々が国会議事堂前に集まった。 民主党の李在明党首は、日本の計画は「水のテロリズム」であり、「第2の太平洋戦争だ」と批判した。 24日には、大学生とみられるグループが在韓日本大使館に突入しようとし、騒ぎとなった。 BBCのジーン・マケンジー・ソウル特派員は、6月の世論調査では回答者の84%が処理水の放出に反対すると答えたと報じた。 ●太平洋諸国からは 太平洋地域でも、海洋放出に反対する声が上がっている。 太平洋の島国には約230万人が住んでおり、そのほとんどが食料と収入を海に頼っている。各国首脳らは、海洋放出が人々に与える長期的な影響が分からないことに懸念を表明している。 また、太平洋諸島フォーラム(PIF)は6月、日本の放出計画が核廃棄物の処分を検討している他の国々にとって危険な前例となると指摘した。 しかしその後、クック諸島やフィジーなどは日本の計画に理解を示していると表明した。 クック諸島のマーク・ブラウン首相は22日、IAEAの評価や説明、日本政府の説明を踏まえ、「放出が国際的な安全基準を満たしていると考える」と声明を発表した。 フィジーのシティヴェニ・ランブカ首相もこれまでたびたび、IAEAの科学的評価に納得していると発言。反対派の中には、処理水放出をまるで太平洋での原爆実験のように語る発言もあるが、それはいたずらに恐怖をあおり立てているだけだと、首相は批判している。 豪シドニーで取材するBBCのティファニー・ターンブル記者は、「太平洋地域にとって、他国の核活動の結果に対応するのは初めてではない。アメリカとフランスが20世紀の数十年間、この地域で核実験を行ったからだ」と指摘し、「こうした事情から、日本の処理水の放出計画は多くの島々に既視感を与えている」と説明した。 日本国内でも反対の声は根強く、東京の東電本社前では24日朝、海洋放出に反対する人々が集まって抗議を行った。 NHKなどによると、北海道や香川県を含む日本各地で抗議集会が開かれている。今週初めには、首相官邸前でも抗議が行われた。 ●口をつぐむ福島の漁業者、複雑な事情も 請戸の漁港は静かだ。沿岸の緑の向こうに福島第一原発の煙突が見えるこの場所は現在、漁業者よりもテレビ局の取材クルーの方が多い状態だ。 私たちがかろうじて話すことのできた漁業者は、「このことについて話さないよう言われている。話して何になるのか」とだけ語った。 日本政府が処理水の放出を決めた2年前からの不安と怒りを思えば、その放出当日には大勢が抗議しているはずだと、はたからはそう思うかもしれない。 しかし漁業者の多くは、2011年の東日本大震災以降、政府から援助を受けてきた。その一方で、処理水の放出に激しく反対している。彼らの状況は非常に複雑だ。 こうした人たちは、原発事故による風評被害との戦いに何年もを費やしてきた。そして今、処理水の放出を、生活に対する2つ目の災害とみている。 いわき駅で取材した人は、「いわきは魚で有名です。処理水の放出が飲食店に与える影響が不安です」と語った。 政府は、必要な技術的承認はすべて得ているかもしれない。しかし、この地域や周辺の人々を安心させることはほとんどできていない。 |
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●反対していた太平洋諸島18カ国 「懸念はあるが海洋放出を受け入れる」 8/24
日本の福島原発汚染水海洋放出問題を巡り太平洋に接する関係国の立場の違いが鮮明になっている。中国やロシアなどは反発しているが、一時反対の立場を明確にしていたフィジーやクック諸島など太平洋の島国は「懸念はあるが放出を受け入れる」として立場を見直した。海流の流れから汚染水が最初に到達する米国やカナダなど北米やシンガポール、マレーシアなど東南アジア諸国は特に反応を示していない。 汚染水放出に強く反対しているのは中国とロシアだ。中国は22日、北京駐在の日本大使を呼んで放出に抗議した。中国外交部(省に相当)は「孫衛東・中国外交部副部長が垂秀夫・駐中国大使を呼んで強く抗議した」と発表した。孫副部長は日本の汚染水放出決定について「中国を含む周辺国と国際社会に対して公然と核汚染水のリスクを押し付け、地域と世界各国の民衆の福祉よりも自国の私利私欲を優先した」「非常に利己的で無責任だ」などと非難した。その上で孫副部長は「日本が他国の意見を聞かず、独断的に行動するのであれば、中国政府は必要な措置を取り、(中国の)海洋環境、食品安全、公衆保健を確実に守るだろう」と警告した。 中国は日本産水産物の輸入規制を強化した。香港環境生態局の謝展寰局長(閣僚級)は22日「日本産水産物の輸入を禁止する」と発表した。輸入が禁止されるのは福島、東京、千葉、茨城、栃木、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉の日本の10都県産水産物だ。全ての種類の魚や冷凍・冷蔵・乾燥水産物、海の塩、海藻加工品などが対象だ。香港はすでに東日本大震災(2011年3月)後の福島原発爆発事故直後から福島とその周辺5県産の農産物輸入を禁止してきたが、今回輸入禁止の対象を大幅に拡大した。 香港の李家超行政長官は22日、ウェイボー(中国版SNS=交流サイト)に「日本の汚染水放出決定に強く反対する」「香港の食の安全と市民の健康を保証する」との考えを示した。中国本土でも先日から日本産水産物の輸入規制が全面的に強化された。先月以降、日本から輸入される水産物の放射能検査を強化したことを受け、日本産魚介類が中国の税関で足止めされる事態が相次いでいる。中国は昨年まで日本の水産物を最も多く輸入する国だった。香港環境生態局の謝展寰局長は23日「規制対象となる地域の水産物には放射能問題とその危険性があることを明確に認識すべきであり、これらの地域産水産物は香港に持ってこないよう提案する」と呼び掛け、日本旅行から帰国する際には日本から水産物を持ち込まないよう勧告している。 中国とロシアは日本政府の放出決定について「科学的理由ではなく経済的理由で行われた」と非難してきた。両国は先月、日本側に「汚染水を蒸気とした上での大気中への放出」を検討するよう要求した。しかしこの提案について日本政府は「受け入れられない」との考えを伝えてきた。 太平洋の島国は国際原子力機関(IAEA)が先月発表した調査結果を受け入れるという。18カ国からなる太平洋諸島フォーラム(PIF)の議長を務めるクック諸島のマーク・ブラウン首相は23日に声明を出し「日本政府による汚染水放出の決定はPIFと日本政府、並びにIAEAが28カ月以上かけて検討した末に出されたものだ」と説明した。ただしその一方で「全ての太平洋諸島の指導者が同じ考えではなく、太平洋諸島フォーラムとして一致した立場には到達できない可能性もある」とも明らかにした。各国で今も意見が一致していないことを認めた形だ。 米国や欧州各国は放出を受け入れている。米国は「厳格な処理を経たと理解している」としてIAEAの検証結果を信頼する従来の立場を維持している。欧州連合(EU)は原発事故直後から行われてきた日本産水産物の輸入規制を今月3日に解除した。EU加盟国ではないノルウェーやアイスランドなども同じ日に輸入規制を撤廃した。米国は2021年、英国は2022年に福島県産食品に対する輸入規制を解除している。 |
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●英国研究者ら「処理水のトリチウム濃度は、中国の放出の半分以下」 8/24
日本政府が早ければ24日に開始することを決めた福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、イギリスの研究者らが23日、オンラインで会見を開きました。「トリチウム濃度は、中国の原発から放出される水の半分以下の数値であり、人体への大きな影響はない」として、科学的見地から問題はないとの見解を示しました。 23日に、オンラインで会見を開いたのは、イギリスで福島第一原発の事故について研究している大学教授らです。 会見で、チョルノービリ原発の事故と、福島第一原発の事故の環境への影響を研究しているポーツマス大学のジム・スミス教授は、「今回放出される予定の処理水のトリチウム濃度は、中国の原発から放出される水の半分以下の数値であり、人体への大きな影響はない」と述べ、放出について、科学的見地から問題はないとの見解を示しました。 また、「放射線の影響について研究している人々の中で、今回の処理水の放出に反対している人はいないと思う」とも述べた上で、中国の日本産の食品への規制強化について、「科学的理由は何もない。経済的影響は、健康への直接的な影響よりもはるかに深刻で、規制の強化は漁業関係者の生活を損なうものだろう」と批判しました。 さらに、処理水の放出計画の信頼性については「人々が東京電力の対応を信用していないようだが、IAEA(=国際原子力機関)が独立した研究所にサンプルを送り、問題がないことを確認しているため、隠蔽(いんぺい)するのは非常に難しいだろう」としています。 IAEA(=国際原子力機関)も22日、「放出は国際安全基準に合致していて、環境などへの影響は無視できるものだと結論付けている」とする声明を発表しています。 |
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●中国 日本の水産物の輸入全面停止 処理水放出受け 8/24
福島第一原子力発電所にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水について、東京電力が基準を下回る濃度に薄めた上で海への放出を始めたことを受けて、中国の税関当局は、日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表しました。 中国の税関当局は、発表の中で「福島の『核汚染水』が食品の安全に対してもたらす放射性物質による汚染のリスクを全面的に防いで中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保する」として日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると明らかにしました。 また税関当局は「日本の食品の汚染リスクの確認を続け、日本から輸入される食品に対する監督管理を強化する」としていて、水産物以外の食品の輸入にも影響が及ぶおそれがあります。 中国ではすでに7月から、各地の税関当局が日本産の水産物を対象に放射性物質の検査が強化されていて、7月、日本から輸入された水産物は去年の同じ月と比べて金額にしておよそ3割減ったことが明らかになっています。 これまで中国は水産物については福島、宮城、それに東京など10の都県からの輸入を停止してきましたが、今回の措置でそれが全国に拡大された形で、日本の漁業に影響が出ることは避けられず、今後の日中関係のさらなる悪化も懸念されます。 ●中国向けに輸出している水産加工会社では影響を懸念 函館市川汲町にある水産加工会社では、近年、需要が高まっているホタテを中国向けに輸出していました。 しかし、中国が先月、日本から輸入する水産物などの食品について規制強化を示して以降、中国向けの輸出が滞り、工場にある冷凍庫には数十トンほどの冷凍ホタテが出荷待ちとなっています。 会社では、対応策として国内の消費者向けに新たにインターネット販売なども行っていくということですが、今回の中国政府による輸入停止の措置で今後、さらに影響が出ることを懸念しているといいます。 水産加工会社「きゅういち」の餌取達彦取締役は「すごく厳しく中国らしい対応だと感じるが、北海道産の水産物は中国の人たちに人気があると思うので早く元の状態に戻ることを願っている。今後の日本政府の対応なども注視していきたい」と話していました。 ●福岡の仲卸会社「対象にはならないと思っていた 頭が真っ白」 福岡市中央区にあり“博多の台所”とも呼ばれる長浜鮮魚市場では、アジアに近く福岡空港へのアクセスがよい立地を生かし、多くの仲卸会社が輸出の拡大に力を入れています。 このうち、福岡市に本社のある「昭徳」は競りを行う仲買人に中国人を雇うなど、特に中国や香港向けの輸出を強化してきました。 今では会社の売り上げの4割を輸出が占めていて、中国が水産物の輸入を停止することで事業への影響は避けられないといいます。 社長の湯浅俊一さんは「福岡は対象にはならないと思っていたので、突然の発表に頭が真っ白の状態です。今後は香港も輸入を停止する可能性があり、今の時点では対策も考えられていません。この地域の水産業者への影響はかなり大きいと思います」と話していました。 ●大分の養殖業者 出荷先を中国から台湾や国内に切り替えへ この発表に大分県内の水産関係者も対応に追われています。 このうち中国に2万匹のハマチを輸出する手続きを進めていた大分県佐伯市の養殖業者は、出荷先を台湾や国内に切り替えることにしました。 浪井大喜社長は「風評被害に近いものがある。輸出する予定だった魚を国内向けにも出すことになるので価格が値崩れすることが心配です」と話していました。 大分県では昨年度、養殖クロマグロの輸出額が中国向けを中心に大幅に伸びるなど、水産物の輸出が拡大していただけに中国の輸入停止の影響が懸念されます。 ●東電 小早川社長「被害発生した場合 適切に賠償 相談応じたい」 中国の税関当局が、原産地が日本の水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表したことについて、東京電力の小早川智明社長は、記者団に対して「詳細はまだ把握できていないが、外国からの禁輸措置で事業者に被害が発生した場合は、適切に賠償していく。しっかり相談にも応じていきたい」と述べました。 そのうえで「中国は日本にとって非常に重要な貿易相手国なのでそうした判断が早期に撤回されるよう安全性について、しっかりと説明を尽くしていきたい」と述べ、安全性に関する情報発信に引き続き取り組んでいく考えを強調しました。 |
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●ホリエモン「中国の手先!」処理水海洋放出反対派にブチギレ 8/25
ホリエモンこと、実業家の堀江貴文氏が25日、YouTubeチャンネルで、福島第一原発の処理水の海洋放出について、ブチギレながら解説した。 24日から始まった海洋放出については否定的な声もあるが、堀江氏は「アホが大騒ぎしているんで、こいつら本当に頭が悪すぎて。薄めるっていう概念が理解できないみたい」とあきれ顔。 「今回の処理水は自然放射線よりも(低い)。自然放射線と人工の放射線って違うと思っているんですよね。味の素のグルタミン酸と自然に作られたグルタミン酸が違うものというふうに思ってたりするから、マジで始末に負えないんだよな。放射性物質は人工だろうが天然だろうが、同じです」と話した。 さらに処理水は、汚染物質をできるだけ除去し、トリチウムが本当に微量という「環境にほぼ影響がない状態」で海洋放出されていると説明した。 その上で、「いつ放出しても、文句いうやつは文句言う。放射性物質を盾にしたヤクザみたいなもん。それが利権化している。政府の税金に寄生しているようにしか思えない」とし「難癖」と断言した。 堀江氏の周囲でも否定的にとらえる人物はおり「堀江さんの言ってることは科学的には正しいと思うんだけど、感情的には受け入れられない」と話していることを明かした。 日本の放水に合わせて、中国が「日本産の海産物の輸入を全面禁止する」措置に出たが、堀江氏は「それを報じるわけ。中国の思うつぼですよ、これ。中国は何かにつけて日本にけん制球を投げるその機会を狙っているだけ。なんだっていいんです。口蹄疫が出たときも輸出禁止になったけど、カンボジア経由で密輸しているわけ。バックドアをつくっている」と裏ルートを用意して難癖をつけている中国の措置を報じることが「中国の手先になっている。バカじゃないか」と憤った。 堀江氏は「(反対の声をあげる)そういう人たちの声は無視していいんです。芸能人とかインフルエンサーで『福島の魚は食わねえ』とか言っているやつ。お前ら中学校からやり直せ。化学の教科書を読め。胸に手を当てて考えろ。感情的にあなたたちが煽っていることが国益を害している。東北の人たちを苦しめている」とブチギレ、締めくくった。 |
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●123トンの魚を輸入しているイタリアが報じた福島のALPS処理水海洋放出 8/25
イタリアは、8月24日(木曜日)に、『福島では放射性水を海に放出を開始した。中国の怒り。IAEA「放射能は限界値以下」』という見出しでテレビ報道各社、イタリア国内の大手新聞社も全社、福島第一原発の処理水を海洋放出開始を報じた。 内容は、IAEA=国際原子力機関が放出計画を「国際的な安全基準に合致している」と結論づけられたあと、日本政府は発表通り、福島原子力発電所のタンクにある12年間保管されていた放射性処理水の海洋放出を現地日本時間8月24日13時(イタリア時間6時)に始めたというもので、その詳細についてや、日本の近隣諸外国である中国と韓国の反応も紹介している。 原子力発電所の敷地内に配備されている1,000基以上のタンクには、現在、約134万トンの処理水が蓄えられており、早ければ2024年にはその最大容量に達すると予測されている。そのため、発電所の運営者である東京電力(東京電力)は、日本の安全基準で許容される限度を尊重して液体を海水で希釈し、その後、現場から1kmに位置する海底トンネルを通じて放出を開始する予定である。 今後、この計画は少なくとも30年間続く予定であり、議論が分かれていると、イタリアでは説明されている。 「ALPS処理水」についてはの表記・表現は新聞社によって様々で、"東京電力福島第一原子力発電所の「処理水(l' acqua trattata)」の太平洋への放出が始まった。"と書いている記事と、"日本は原子力発電所からの「汚染水(l'acqua reflua contaminata)」の海洋放出を開始した。"と書いている記事があった。 共同通信や日本の某新聞社の記事をそのままイタリア語に翻訳しているANSA.itやそれを意訳して紹介したイタリア人記者のコラム記事には、「海は人類のものである。日本は、海洋放出が安全で海洋環境や人間の健康に無害であること、尚且つ、モニタリング計画が有効かつ効果的であることを実証する必要がある。日本の強制汚染水海洋放出開始は、世界公共の利益を無視した極めて利己的で無責任な行為であり、将来の世代に傷跡を残す危険性がある。」と厳しく批判している記事も散見された。 ・「ALPS処理水」 / 事故で発生した放射性物質を含む汚染水を多核種除去設備 (ALPS : Advanced Liquid Processing System) 等により、 トリチウム以外の放射性物質を環境放出の 際の規制基準を満たすまで浄化処理した水を 「ALPS処理水」という。 ・飲料水の基準 / WHOの飲料水水質ガイドラインにおけるトリチウムのガイダンスレベル(10,000Bq/L)は、ガイダンスレベルのトリチウム濃度の水を、1年間毎日2リットル(年間730リットル)摂取したと仮定した場合に、個人の年間線量が 0.1 mSv となるように計算された値。 また、『〜「水産物輸入阻止、無責任な選択」という中国の怒り、「透明性を求めている」韓国〜』というサブタイトルで、 この操業は、環境への影響の可能性を巡る近隣諸国や製品の評判を懸念する地元漁師らの抗議にもかかわらず、日本政府は強行したものであるとも、イタリアでは紹介されている。 ●中国政府は、 「身勝手で無責任な放水」と、悲惨な福島原子力発電所の処理水の海洋放出事業開始後、日本を改めて厳しく批判し、この動きを「極めて利己的で無責任」と定義した。 「日本政府は、放出に関する決定の正当性と合法性、浄水場の長期信頼性、核汚染水に関するデータの信頼性と正確性を証明できなかった」と中国は非難した。そして、中国が下した日本の魚類輸入禁止は、日本の10都府県からの食品輸入を阻止し、日本の魚製品に対して大規模な放射性物質検査を導入している中国を納得させるものではない。両国間の領海をめぐる紛争をさらに激化させる新たな機会となる可能性がある。 と、中国の反応をイタリアは紹介した。そして、 ●韓国政府は、 日本の計画の分析に基づくIAEAの審査結果を尊重するが、国民の間で根強い懸念を考慮する必要があると述べ、日本の決定を支持はしているが、データ公開の透明性を求めている。 韓国のハン・ドクス首相は、処理水の海洋処分計画は、策定された基準と手順に従って実行されれば重大な被害を引き起こすことはないはずであるとして、「過度の懸念」について言及した。また、日本政府に対し、今後30年にわたって続く排水プロセスについて、透明かつ責任ある方法で情報を発信するように求めている。 こういった、日本の近隣諸国の反応と批判や懸念を見た ●イタリアは、 処理水を海洋放出開始以後、日本は国際社会の前で自らを被告席に置き、今後、何年にもわたって国際的な非難に直面することになる。彼らは "生態系の破壊者であり、地球規模の海洋環境の汚染者"として非難されている。日本は国際社会の前で自らを被告席に置き、今後何年にもわたって国際的な非難に直面することになるだろう。と、辛辣に批判している。 ●「そのプロセスは安全なのでしょうか?」 海に放出する前に、水は「Advanced Liquid Handling System」(ALPS)と呼ばれる濾過プロセスを通じて処理される。1つを除いて、放射性物質のほとんどを除去する作業であると、Corriere della Seraが報じた。その一つが、トリチウムであり、既存の技術では除去することができない。これは海水中に自然に存在する放射性同位体、放射性核種であり、放射線による影響は低い。トリチウムは、吸入または摂取した場合、非常に高用量の場合にのみ危険をもたらす。 コッリエーレ・デッラ・セーラ誌は、「トリチウムは何十年もの間、世界中で稼働中の原子力発電所や、フランスのラ・アーグなどの核廃棄物再処理工場から定期的に水中に放出されてきた。」と、近隣国で原子力発電所を国内に56基所有・運転するフランスの実態も報じた。 ●日本から123トンの魚が到着するイタリア イタリアの農業生産者団体コルディレッティ(Coldiretti)によると、年間で日本からイタリアに到着した魚は12万3000kg以上で、これは世界中からの重要な魚製品の総量の0.02%未満に相当する。 これは、2011年3月の災害で破壊された福島原子力発電所からの廃水を放出する決定に応じて、日本からの魚製品の輸入を禁止する中国の決定に関連して、コルディレッティが2022年イタリア国立統計研究所(ISTAT)の データを分析した結果から浮かび上がった。 コルディレッティによると、「実際には、日本海の水域で漁業を行うすべての国からの輸入を考慮すると、イタリアは魚製品を外国に大きく依存しているため、その量は増加し、日本からの警鐘は、イタリアで消費される鮮魚の80%以上が海外産である状況において、イタリア国内の魚資源を保護することの重要性を浮き彫りにしている。」と言う。 それどころか、コルディレッティは続けて、「漁業に関するEUの新たな規則は、イタリアの魚の3匹に1匹が食卓から消える危険性をもたらし、イタリア漁船の最も生産性の高い部門に影響を与えるトロール漁の禁止により、真の自国漁獲への道を開くことになる」と述べた。 ●海外製品の侵入から消費者を守れ、原産地を管理しイタリアの魚の伝統を保護する イタリアは、「イタリアの日本からの魚輸入量は輸入魚全体の0.02%に過ぎないが、福島の排水が流れ込む海は日本の漁民だけではないことを考慮すべきである。」と、福島の新鮮な魚と冷凍の魚について、消費者の懸念と憶測記事が飛び交っている。 イタリア製品もヨーロッパの国境を跨いで入ってくるすべての製品も、 "同じ基準" を尊重し、店頭で販売されている。イタリアや近隣諸外国の食品の背後には、環境、労働、健康に関わる同様の品質経路があることを保証する必要がある。これは、7,500キロメートルの海岸線を有し、品質と安全性の点で独特の食文化を提供するイタリアのような国は、国家漁業を保護するためには特に重要なポイントとなる。 イタリア人は年間一人当たり約28キロの魚を食べており、ヨーロッパ平均の25キロを上回っている。そこで、農業生産者団体コルディレッティ(Coldiretti)のアドバイスでは、購入した魚の産地を直接確認するには、法律で漁場を表示する必要があるカウンターのラベルを確認し、地中海の魚を購入したい場合は「Fao 37地域」を選択することだと言っている。 ●イタリアは福島産の魚の見分け方を紹介した「Fao 37地域」とは イタリー24プレスというニュースサイトでは、「日本政府や原子力機関(IAEA)の安心を信用できない人のため」にと題し、雑誌『イタリア・ア・ターヴォラ』が、日本近海、特に全土で獲れる魚を見分ける方法というものを提案した。 それが、Fao 37地域:FAO漁獲統計海区(FAO Fishing Area)の水域名というものだ。 消費者には大規模な流通で販売される魚のパッケージに表示される数値コードが提供されている。これは、製品がどこから来たのかを理解するための重要な数字で、いわゆるFao漁場地域であり、魚の起源を知るための重要な情報となること、そして、 "福島地域を特定する番号はないが、日本の海域は番号61(ZONA 61 Pacifico Nord-Occidentale)で指定されている" したがって、このデータがパッケージに表示されている場合、その魚が太平洋(正確には北西太平洋)の海域で捕獲されたものであることは間違いない。この海域には、日本に加えて、ロシアと中国の海岸、太平洋沿岸の海域も含まれると言う情報は消費者に与えていると、イタリアでは紹介されている。 東電は、同日中に原発近海の放射性物質を監視し、明日データを公表する予定だ。 国際原子力機関(IAEA)は先月、ダンピング計画は世界の安全基準に沿っており、人々と環境への影響は「無視できる」との判決を下した。 ・「安全対策・風評対策の取組」 / トリチウムについても安全基準を十分に満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。薄めた後のトリチウムの濃度は、国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満になります。 ●IAEA、福島の水中のトリチウムは基準値をはるかに下回る 日本が放出した福島の放射性水中のトリチウム(水素の放射性同位体、編)の濃度は危険限界値を「はるかに下回っている」と国際原子力機関(IAEA)は述べた。 IAEAの専門家は今週、準備された水のサンプルを収集し、「独立して実施された現地分析では、放射性トリチウムの濃度が「運用限界の1リットル当たり1,500ベクレル(Bq)を大幅に下回っていることが確認された。」と、作戦を監督する国連機関は声明で述べた。 ・トリチウムと「被ばく」 / 年間約2ミリシーベルトの放射線で遺伝子が受ける損傷の頻度は、紫外線などによる損傷の頻度の100万分の1以下です。このため、トリチウム原子がヘリウム原子に変化することで遺伝子にもたらされる影響については、自然界と同程度の放射線による被ばくの場合、測定可能なレベルのものにはならないと考えられます。 |
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●中国が水産物禁輸で報復、福島第一原発の処理水放出が生み出した論争 8/25
日本は24日、福島第一原発の処理水を太平洋に放出する作業を開始した。アジア・太平洋地域からは抗議の声が上がり、特に中国は報復措置に踏み切っている。 中国はこの日、日本産水産物の全面禁輸を発表した。日本にとって中国は、水産物の最大の輸出先。 日本政府は、処理水は安全だとしており、多くの科学者が賛同している。国際原子力機関(IAEA)も、放出計画を承認している。 一方で、さらに研究が必要だ、放出は停止されるべきだとの意見もある。 計画では、原発に貯められている100万トン以上の処理水が、これから30年にわたり放出されることになっている。 2年前の計画発表以来、最も声高に反対してきたのが中国だ。放出は「極めて利己的で無責任な行為」で、日本は「人類の未来の世代に傷口を広げている」と述べた。 その直後、中国の税関当局は、福島県や周辺地域にの水産物に課していた禁輸措置を、日本全土に拡大すると発表。「中国の消費者の健康を保護するため」としている。 この措置は経済的損失を与えるためのもので、日本も水産業に「甚大な」打撃があると認めている。中国と香港は毎年合わせて11億ドル(約1600億円)相当の水産物を日本から輸入している。これは、日本の水産物輸出の半分近くに相当する。 ●「政治的な動機も」と専門家 しかしアナリストらは、特に中国からのこうした反応は、海洋放出への純粋な懸念によるものであると同時に、政治的な動機も同じくらい含まれていると指摘する。 日中関係はここ数年、悪化の一途をたどっている。アメリカにますます接近し、歩調を合わせる日本は、中国が領有権を主張する台湾への支持を表明している。 アジア・ソサエティー政策研究所の中国外交政策専門家、ニール・トーマス氏は、「今回の出来事は、日中関係悪化の原因というよりも、日中関係悪化による症状だ」と述べた。 「日本との関係が良好だったなら、中国も海洋放出をここまで問題視しなかっただろう」 一方で、日本はおそらく「批判を否定するだろうが、挑発的な行動に出る可能性は低い」と、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェイムズ・DJ・ブラウン教授(日本外交政策)は指摘する。 「日本政府は、中国共産党の攻撃的な行動と見る対応を憂慮しているが、大きな隣国との安定した関係を維持することが国益になることも理解している」 そう長くはかからないかもしれない。一部のオブザーバーは、中国が禁輸を続けないかもしれないと述べている。 前出のトーマス氏も、「中国で経済状況の悪化が広がる中、中国の輸入業者や企業景況感などへの悪影響を抑えるため、あらゆる禁輸措置は比較的、短期間で対象も限定的なものになる可能性がある」と述べている。 韓国も長らく、日本の一部の水産物輸入を禁止している。しかし24日の海洋放出開始を受けた反応は、中国より静かだった。 韓悳洙(ハン・ドクス)首相は、「今重要なのは、日本が国際社会に約束したように、科学的基準を厳格に守り、透明性をもって情報を提供するかどうかだ」と述べた。 日本と韓国には歴史的な深いあつれきがあるものの、外交関係を深めつつある。北朝鮮と中国の脅威を前に、アメリカを含めた関係で団結している。 しかし、多くの韓国人が処理水の放出に反対している。24日には首都ソウルで、抗議者らが日本大使館に突入しようとする騒ぎがあった。香港や東京でも、抗議集会が開かれた。 太平洋側では、太平洋諸島フォーラム(PIF)の議長を務めるクック諸島のマーク・ブラウン首相が、「放出が国際的な安全基準を満たしていると考える」と声明を発表した。PIFは6月には、日本の放出計画が核廃棄物の処分を検討している他の国々にとって危険な前例となると表明していた。 ●環境への影響は「無視できる程度」 2011年の東日本大震災による津波で福島第一原発が破壊されて以降、オペレーターの東京電力は原子炉の燃料棒を冷却するため、水をくみ上げ続けている。そのため、同原発では毎日、汚染水が発生しており、巨大タンクに保管されている。 東電は福島第一原発の汚染水を多核種除去設備(ALPS)でろ過し、トリチウムと炭素14以外のほとんどの放射性物質を、許容できる安全基準まで減らしている。ろ過された水は、さらに海水で希釈されてから海に放出される。 これまでに1000基以上のタンクが満杯になっている。日本はこの措置について、持続可能な長期的解決策ではないと説明。処理された水は安全だと主張している。 多くの科学者が安全だと述べている。国際原子力機関(IAEA)も報告書で、計画は国際基準を満たしており、環境に与える影響は「無視できる程度」だとした。 当局は、海の放射線レベルを継続的に観測し、高い透明性を維持して計画を進めると約束している。 しかし、東電の過去の行動から、この説明に懐疑的な見方もある。同社は福島第一原発の事故をめぐり、不透明な対応で非難された。同社はこの事故について謝罪している。 また、原発が処理水を海洋放出するのは一般的なことだが、福島第一原発から放出される量は前例のない大規模なものだと指摘する声もある。 科学者の中には、海底や海洋生物にどのような影響を与えるか、もっと研究を進めるべきだと言う者もいる。環境保護活動団体グリーンピースは、より優れた処理技術が発明されるまで、水をタンクに貯留するよう求めている。 この計画に特に怒っているのは、日本の沿岸地域コミュニティーと漁業者だ。2011年の震災以来、経済的に完全には回復していない同地域の水産物を避ける消費者がいることを懸念し、自分たちの生活が心配だと訴えている。 それ以外の日本全般の世論も、この問題について割れている。最新の世論調査によると、放出を支持する人は半数にとどまっている。 東京で放出に対する抗議活動を行った女性は、ロイター通信の取材に対し、「海洋放出以外の、他の方法がたくさんあるはずだと思う」と話した。 「なのに政府は放出を選んで、世界に問題を引き起こした。まったく受け入れられない」 |
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●中国SNS “処理水の海洋放出は問題ない”とする投稿を削除か 8/25
福島第一原発にたまる処理水が海へ放出されたことについて、中国のSNSでは「科学的に問題ない」などと投稿されたコメントが削除され、中国政府が神経をとがらせているとみられます。 削除されたのは、中国の原子力専門家を名乗るアカウントから24日に投稿されたコメントです。 コメントでは「中国国内の原子力発電所で、中国当局が定めるトリチウムを放出する上限は福島第一原発の8倍であり、心配するに値しない」などと説明し、処理水の海洋放出は問題ないと結論づけています。 しかし、このコメントはすでに削除され、投稿したアカウントも閉鎖されたとみられ検索しても見つからない状態になっています。 ただ、SNS上には投稿内容を保存した写真が拡散していて、「内容が間違っているならば反論すればいいのになぜアカウントまで閉鎖するのか」とか「国民の素質が向上するのを待つしかない」などと削除を疑問視するコメントも書き込まれています。 アカウントが閉鎖された理由について、運営会社は「SNS上の規定に違反した」としていますが、中国政府が国内の世論に神経をとがらせているとみられます。 |
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●処理水放出で中国国内パニックに 「ざまあ見ろって言ってる方が楽しい」 8/26
元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏が26日、自身のYouTubeチャンネルを更新。福島第一原発の処理水の海洋放出が始まったことで起きた、中国国内の反応について、「面白い。ざまあ見ろって言ってる方が楽しい」と話した。 処理水にはトリチウムが微量に含まれているが、高橋氏は、「トリチウムなんて、物理的な半減期は12、3年。生物的な半減期は1カ月だから、ほとんど影響ないというのは常識なんだよね。体の中にもあるし、たいした話じゃない」と断言した。 にも関わらず、中国政府は日本の海産物の輸入を禁止。その影響で、中国国内では塩の買い占めなど、パニックが起きているという。「まったく非科学的なんだけど、面白い。中国政府が変に言ってるから自国民も信じちゃって、こういうふうな国内の動揺を見てると面白いよね」と笑った高橋氏。「対抗措置とかは、もうちょっとあとにしてもいいのかな。国内の混乱を見てもいいのかな」と、しばらくは泳がせておくのが得策とした。 中国に輸出している海産物の半分はホタテだとして「『帆立食えないからざまあみ』」って言ってる方が楽しい。帆立食べたくて日本に来る中国人もいるだろうから、料金高くして食わしてもいいんだよ」「日本で食っちゃえばいい。中国の人が悔しくて暴動でも起こしてくれたらちょうどいい」と、中国政府の失策を利用して、国民をあおることも手段の一つと提案した。 |
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●処理水放出後、周辺海域の魚からトリチウム「不検出」…水産庁 8/26
東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を受け、周辺海域の魚類を対象に行った調査で、水産庁は26日、放射性物質のトリチウム(三重水素)は検出されなかったと発表した。24日に始まった放出後、水産庁による検査結果が出たのは初めて。 水産庁は、処理水放出の影響を調べるため、研究機関「海洋生物環境研究所」に調査を委託。放出開始翌日の25日早朝、放出口から4〜5キロ離れた海域でヒラメとホウボウを1匹ずつ採取し、宮城県内の施設で、筋肉組織に含まれるトリチウムの濃度を分析した。 その結果、いずれの検体も専用の装置で検出できる限界値(1キロ・グラムあたり8ベクレル程度)を下回り、放出前から実施している検査と同じ「不検出」となった。 水産庁は今後1か月、魚類を毎日採取し、検査結果をウェブサイトを通じて日本語と英語で公表する。10月以降は、頻度を減らして調査を継続する。 一方、東京電力は26日、同原発の周辺海域10地点で採取した海水の分析結果を公表。トリチウム濃度は25日に続いて検出限界値(1リットルあたり約10ベクレル)を下回り、異常はみられなかった。 |
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●「処理水海洋放出」に大騒ぎの中国で起きている塩“爆買い”騒動 8/26
日本政府は8月24日、福島第1原発の処理水の海洋放出を開始した。放出期間は30年に及ぶが、日本政府は「環境や人体への影響は考えられない」との立場だ。国際原子力機関も「国際的な安全基準に合致している」と、妥当性を認めている。 だが、この処理水を「汚染水」だとして、海洋放出に激しく憤っているのが中国だ。日本の処理水放出を受け、中国は科学的根拠を示さないまま、日本産水産物の輸入を全面停止した。24日には日本政府が駐日中国大使に電話で抗議し、即時撤廃を要求。緊迫した状況が日中間に漂っている。 一方、中国現地では混乱が生じているという。香港在住のジャーナリスト・角脇久志氏が解説する。 「中国のニュースでは、市民による塩の“爆買い”が報じられています。もともと、22日に日本が処理水の放出を決定した際から、この騒動は始まっていました。この日、中国と韓国で製塩関係会社の株が高騰しているんです。というのも、現地では、塩が放射能に対して効能がある、という通説が流布されており、大きな購買が期待されたからです。韓国の株価市場では、製塩関係会社であるInsanの株価が一時30%、大象ホールディングスは9%の株価上昇を記録したと報じられています」 はたして、24日の放出を受けて、中国では塩の買い占めが現実に発生しているという。角脇氏が続ける。 「スーパーなどでは、奪い合いにまで発展したところもあるようです。じつはこの現象は、2011年の福島第1原発事故の発生時にも見られました。中国の塩は完全精製ではなく、ヨード分が添加されています。それが、体内の放射線除去に効果があると信じられているのです」 現地の様子は、すでにネット上で拡散されている。本誌が確認した動画では、塩を買い占めるためだろうか、スーパーのレジに長蛇の列ができる様子が映っていた。さらに、塩を箱買いする客、奪い合いの末に塩の袋が破れたのか、床に塩が散乱する様子まで記録されていた。 日本への反発が続いている「処理水海洋放出問題」。24日には、香港で日本への抗議デモがおこなわれたことも報じられた。科学的な根拠もなく大騒ぎするのは、国家も国民も同じということか……。 |
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●中国側、国内の不安定化に懸案 処理水放出反対貫く 山口氏訪中延期 8/26
東京電力福島第1原発の処理水を中国側は「核汚染水」と呼び、一貫して海洋放出に反対してきた。放出後の25日にも、中国外務省の汪文斌(おうぶんひん)副報道局長が定例記者会見で「日本側はデータの真実性や正確性、海洋環境や人類の健康への安全性、無害性を証明していない」と強調。「極めて身勝手で無責任な行為であり、日本側は直ちに誤りを正し、責任ある方法で汚染水を処理することを求める」と改めて停止を要求している。 中国側からすると、強く反対してきた海洋放出の直後に、日本の政権与党である公明党の山口那津男代表の訪問を受け入れるのは難しいと判断したとみられる。 中国国内では処理水の放出と前後して、海洋汚染への不安から、各地で食塩の買い占め騒動が発生。当局が沈静化に動く事態となっている。中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」でも処理水放出に関する話題の検索が上位にランクインし、コメント欄には日本に批判的な書き込みが急増している。処理水の問題で対応を誤れば国内の不安定化につながりかねず、習近平指導部はこのタイミングでの山口氏受け入れを見送ったとみられる。 |
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●「汚染水を飲みましたか?」原発処理水放出で中国から迷惑電話相次ぐ 8/26
福島第一原発の処理水の放出が、 思わぬ事態を招いています。 福島や東京の飲食店などに処理水の放出を非難するような迷惑電話が、 相次いでかかっていることがわかりました。 ●中国から“迷惑電話”か 『こんにちは、あなたたちはどのように過ごしていますか?あなたたちは昨日、汚染水を飲みましたか?おいしかったですか?まだ健在ですか?』 中国国内から日本に迷惑電話をかけているとみられる映像。機械翻訳と音声読み上げ機能を使っているようです。 『私たちは富士山の爆発を期待して、あなたたちがそれと一緒に存亡することを望みます。さようなら、二度とお目にかかれません』 福島第一原発の処理水放出をめぐり、日本の飲食店やホテルなどの電話番号を調べて迷惑電話をかける、いわゆる「電凸動画」の投稿が中国各地で相次いでいることが、ANNの取材で分かりました。 『もしもし、なぜ汚染水を海に捨てるかを聞きたい。何を言ってるのかわからない。なぜ汚染水を海に捨てるのか聞いている。きれいなら自分で飲んでみろ。Can you speak English?』 数十万回再生された動画もあり、処理水の放出を口実にした閲覧数稼ぎが目的のものも多数あるとみられます。北京の日本大使館は「犯罪行為に当たる」と警告。中国のSNSは、中国政府を批判したり、犯罪行為を助長したりするような動画は削除されるほか、デマを広げた場合は処罰の対象になります。しかし、こうした動画は現在も増え続けていて、中国政府は実質的に迷惑動画の投稿を放置している状況です。 『こんにちは、核水の排出を…禁止しろ』(日本へ迷惑電話をかける人) 『もう一度うかがってもよろしいですか?』(電話を受けた日本人) 『こんにちは、核水の排出を…禁止しろ』(日本へ迷惑電話をかける人) 『タクシー?の配車?』(電話を受けた日本人) ●国連安保理でも“異例の応酬” 国連安保理でも、処理水について“異例の応酬”がありました。北朝鮮の軍事偵察衛星打ち上げをめぐり、開かれた会合でしたが… 北朝鮮 金星 国連大使『核汚染された水の海への放出は、明らかに生態学的環境を破壊し、人類の存在への脅威となる犯罪行為である』 この北朝鮮の発言に便乗したのが中国です。「日本政府は誤った行動を修正し、核汚染された水の放出の責任を取るべきだ」と非難しました。日本の石兼国連大使は「科学的根拠に欠ける主張は受け入れられない」と反論しています。 水産庁は26日、処理水放出後に福島第一原発周辺でとれた魚の検査結果を初めて公表。トリチウムの濃度は検出できる限界値を下回り、「不検出」でした。 |
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●処理水の波紋 IAEAの約束に信頼感 最後まで監視継続 8/27
「処理水の最後の一滴を放出するまで、IAEAはこの地にとどまる」。7月上旬、いわき市で開かれた東京電力福島第1原発周辺の市町村長や関係者が集まる会議に遅れて現れた国際原子力機関(IAEA)の事務局長グロッシ(62)は参加者一人一人と握手を交わし、そう約束した。 「英語は分からないが、とても分かりやすい言葉で話してくれていると思った」。参加者の一人、NPO法人ハッピーロードネット理事長の西本由美子(70)は、グロッシが話す言葉一つ一つに響くものを感じたという。「国や東電にはどうしても不信感を抱いてしまう。(グロッシは)東電が絶対に言わないようなことをさらっと話していた。だからこそ余計に信頼感を持ったのかもしれない」と振り返る。 IAEAは、原子力に関する専門家が集まる世界唯一の国際機関だ。日本政府の依頼を受けて2021年から、第1原発で発生する処理水の放出計画を調査してきた。公表した包括報告書は計140ページに上り、放出計画を「国際的な安全基準に合致している」「人や環境への影響はごくわずかだ」と評価。政府が放出を決める大きな根拠の一つとなった。 一方で科学的な安全性評価とともに、利害関係者との協議や情報提供の必要性なども指摘した。海洋放出以外の処分方法には踏み込まず、政府の判断についても「その方針を推奨するものでも、支持するものでもない」と中立的立場を強調した。 福島大環境放射能研究所長を務める同大教授の難波謙二(58)は、報告書を「国内外への発信の点では十分で、科学的な安全性の理解につながる内容」と評価する。IAEAからの「お墨付き」を得た政府は報告書の公表後、県内漁業者だけでなく国内外で安全性を繰り返し訴え、最終的に24日の放出開始に踏み切った。ただ難波は「原発事故後、農家や漁業者は放射線量の厳しい自主基準を設けて努力してきた。科学的な理解はイコール安心ではない」と指摘する。 IAEAは原発構内に現地事務所を開設し、放出開始後も計画の安全性評価や処理水の継続監視を続ける方針だ。帰国直前、報道陣を前にグロッシが語りかけたのは理解や安心を得るには時間が必要だということだった。「丁寧な説明を重ねて、何も包み隠さず全ての質問に応じることだ。正しいことを説明し続ければ最終的に理解は得られる」 |
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●「スピード感のなさ」 処理水放出めぐる中国側対応に「外交の岸田」? 8/27
「先送りできない困難な課題に、1つ1つ答えを出していくことに尽きる」。岸田文雄首相が国会答弁や記者会見で、何度も繰り返している言葉だ。この言葉は、だから「衆院解散しない」など、政局的な話題を否定するため使われることも多かったが、答えを出したところで政局どころではなくなってしまったのが、今回、政府が踏み切った東京電力福島第1原発の処理水海洋放出ではないだろうか。中国側が、日本産水産物の輸入全面停止の措置に踏み込んだことで、さまざまなところで大きな影響が出始めている。 政府は処理水については、国際原子力機関(IAEA)による安全性の科学的根拠が示されていることを強調している。ただ、岸田首相が中国側の「いいがかり」(政府関係者)のような対応に毅然(きぜん)と反論した姿は、見えない。首相は中国側の方針が明らかになった8月24日、中国側に、措置の「即時撤廃」を求める申し入れを行ったとし「海洋放出の影響について科学的根拠に基づき、専門家同士がしっかり議論を行っていくよう中国政府に強く働き掛けていきたい」と述べた。IAEAが示した科学的根拠に触れながら、風評被害対策にも動く考えを示した。 ただ、この時の言葉は記者会見ではなくぶら下がり取材の対応で、時間も10分弱。コメントを述べたという感じだった。しかも、これが「言いっぱなし」になっているように感じる。国としては手順どおりに進めてきたことで、他国にとやかく言われる筋合いはないという立場なのだろう。しかし、最も影響を受けるのは漁業者や水産事業者という現場だ。言葉だけではなく行動ですぐに向き合わなければならないと感じる。 ただ、中国側の対応に伴う事態の深刻さがどんどん明らかになってきた翌25日も、首相が積極的に発信した形跡は見えない。この日は、沖縄市で開幕したバスケットボール男子W杯の日本−ドイツ戦観戦などで沖縄を訪れ、試合前のセレモニーにも出席した。日本代表の初陣ですでに決められた日程でもあり、それ自体は批判されることではないかもしれない。ただ、結果的にタイミングは悪かったのではないかと感じる。 取材した永田町関係者からは「応援する相手が違うのではないか」との声も聞いた。沖縄入りが悪いのではなく、要は、中国側の対応にスピード感を持って対応していない、ということだった。岸田首相に対しては今夏、全国で相次いだ豪雨災害被災地の訪問についても「遅い」との指摘があった。国の少子化対策やマイナ保険証の問題などでも同様だ。スピード感のなさは、もはや岸田首相「あるある」なのだが、今回の問題は、これまでとは少し異なる。岸田首相の「得意分野」で起きている問題だからだ。 岸田首相は外相経験が長く、第2次安倍政権で1682日を務めた。連続、専任日数では最長だ。今年5月の広島サミットではホスト国として議長を務めたが、立場が人をつくるということなのか、各国首脳とのコミュニケーションなども慣れた様子で、首相自身も「外交の岸田」を自負してきたといわれる。 一方で、外交の舞台というのは本来、事務方同士の水面下の交渉がベースとなっており、表舞台で展開される「首脳外交」というのは、そんな地道な地ならし上に成り立つと、かつて外交に当たった関係者に聞いたことがある。しかも、水面下の交渉すべてがうまくいくとは限らない。今回の中国側の強硬な態度も、「何を言ってもまったく聞く耳を持たない」(関係者)状態が解消されなかったことが一因とされる、野村哲郎農相が25日の会見で「(全面停止は)大変驚いた。全く想定していなかった」とぶっちゃけ発言したことにも疑問や批判の声が出ているが、ここにも政府内の混乱がにじむ。 先日の共同通信社の世論調査によると、処理水放出前の岸田首相の説明が不十分だという指摘は、81・9%にのぼったという。首相は、放出方針を表明した22日の関係閣僚会議で「数十年の長期にわたろうとも、処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組む」と述べたが、岸田政権以降、いくつもの政権に引き継がれるだろう責任の「決意表明」としては、少し弱い内容だと感じた。加えて、放出後の説明も同様だ。そんな中で公明党の山口那津男代表の中国訪問も延期されるなど、外交にも影響が出てきた。 新たな「チャイナリスク」を背負う形になった岸田首相。長年培った「外交の岸田」の判断力、発信力を使うのはまさに今でしょ!というタイミングに、岸田首相は今、立たされているのではないかと感じている。 |
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●処理水放出「評価」49% 説明は「不十分」60% 毎日新聞世論調査 8/27
毎日新聞が26、27の両日に実施した全国世論調査で、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が開始されたことについて「評価する」との回答が49%あり、「評価しない」(29%)を上回った。「わからない」も22%あった。 一方で、海洋放出に関して政府と東電の説明が十分かを尋ねたところ、「不十分だ」が60%で、「十分だ」(26%)を大きく上回った。国民の中には海洋放出に対し一定の理解があるものの、政府や東電の説明が不足しているとの不満がありそうだ。 海洋放出は24日に開始された。政府は、海洋放出が「国際的な安全基準に合致する」とした今年7月の国際原子力機関(IAEA)の包括報告書などを踏まえて放出開始を決定したが、地元漁業者らは風評被害を招くとして反対している。 調査は、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)機能を使う方式と、固定電話で自動音声の質問に答えてもらう方式を組み合わせ、携帯521件、固定518件の有効回答を得た。 |
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●太平洋の親中勢力、処理水放出を非難 中国に同調 8/27
ソロモン諸島政府やフィジー野党などの太平洋の親中勢力は25日、東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の処理水海洋放出を非難し、中国に同調した。 海洋放出について、国際原子力機関(IAEA)は国際的な安全基準に合致しており、「環境への放射線による影響は無視できる程度」だと評価し、日本政府も安全性を保証している。しかし、中国は猛反発。太平洋の親中勢力も追従している。 ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ(Manasseh Sogavare)首相は「(海洋放出は)ソロモン諸島の国民や海、経済、暮らしに影響を与える」と主張し、「日本の決定に強く反対する」と表明した。 ソガバレ氏は中国の小切手外交を受け入れる一方、選挙を延期し、西側主要国を猛批判している。 フィジーの首都スバでは25日、フランク・バイニマラマ(Frank Bainimarama)前首相率いる野党フィジーファーストの呼び掛けで、数百人規模の抗議デモが行われた。参加者は「核のない海を!」「Pacific Lives Matter(太平洋の命も大切)」などと書かれたプラカードを掲げた。 バイニマラマ氏は在任中、中国との関係強化を目指していた。フィジーファーストは「日本がわが国の海に核廃棄物を投棄することを許し、将来世代を見捨てた」と自国政府を非難した。 だが、他の国々の首脳らはIAEAや日本を信頼しているようだ。 太平洋諸島フォーラム(PIF)の議長国、クック諸島のマーク・ブラウン(Mark Brown)首相は、「日本は太平洋地域に対し、(放出される)水は処理済みだと確約している」「海洋放出は、国際的な安全基準を満たしていると信じている」と述べた。 豪カーティン大学(Curtin University)のナイジェル・マークス(Nigel Marks)教授(物理学)は、放出される処理水に含まれる放射性物質トリチウムの量は無視できる程度だと述べた。 マークス氏は「太平洋の海水にはすでに8400グラムの純粋なトリチウムが含まれているが、日本が放出するトリチウムは年間0.06グラムにすぎない」「微量の放射性物質が放出されたところで、何ら変わりはない」と指摘した。 |
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●処理水放出「中国の反応も外交力の欠如」「不信の中でのスタート」 8/27
毎日新聞の元村有希子論説委員が27日、「サンデーモーニング」に出演し、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まったことについてコメントした。 元村氏は「リスクはゼロにはできない。トリチウムという放射性物質が少しでも含まれている水を海に流すわけですから」と発言。「どこまでのリスクが許容できるかをみんなで模索するっていう作業になるはずなんですけれども、結果として政府の説明や東電の説明が足りずに、不信の中でのスタートになってしまっているのはとても残念」と苦言を呈した。 さらに「国内外への誠実な対応」も求めた。「中国の反応も外交力の欠如の結果だと、わたしは思っています」と断言した。中国税関総署は24日、処理水の海洋放出が始まったことを受け、日本の水産物輸入を同日から全面的に停止したと発表した。日本の食品や農産品の放射性物質汚染のリスクを注視しているとし、日本から輸入する食品への監視を強化する措置も取った。中国外務省は「断固とした反対と強烈な非難」を表明する談話を発表し、海洋放出の中止を求めるなどした。 なお、中国が国内で運用する複数の原子力発電所が、福島第一原発の「処理水」の海洋放出の年間予定量と比較して、最大で約6・5倍のトリチウムを放出しているとされている。元村氏は中国の原発については一切触れなかった。 元村氏はさらに「データをきちんと透明性高く公表し続けるっていうことは最低限の責任だと思います」とコメントした。東電は公式ページでデータは公表している。 |
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●処理水放出【国内外動き】投石相次ぎ中国の日本人学校警備強化 8/27
東京電力福島第一原発にたまる処理水の放出に中国が反発を強めるなか、政府・与党はさまざまなレベルで処理水をめぐる対応を改めるよう働きかける方針です。環境省は放出開始の翌日の25日、福島県沖のあわせて11地点で海水の採取を行い、トリチウムの濃度はすべての地点で今回検出できる下限値としていた1リットルあたり10ベクレルを下回ったと発表しました。一方、中国の日本人学校では、敷地に石や卵が投げ込まれる事件が相次ぎ、警備を強化するということです。 ●“日本の水産物販売停止” の看板 北京の飲食店 処理水を薄めて放出する措置が始まって以降、中国では、一部の飲食店で日本から輸入した水産物を使っていないと強調する動きも出ています。福島第一原子力発電所にたまる処理水について、東京電力が基準を下回る濃度に薄めた上で海への放出を始めたことを受けて、中国は、日本を原産地とする水産物について輸入を全面的に停止したほか、中国国内で加工や調理を行うことなども禁じました。こうしたことを受け、中国にある一部の飲食店では、日本から輸入した水産物を使っていないと強調する動きが出ています。このうち、首都・北京にある日本料理店が集まる施設では入り口に「原産地が日本の輸入水産物は販売を停止しました」と大きく書かれた看板が設置されていました。これについて、北京市内の人から「合理的で大勢の人が望むものだ」といった声が聞かれました。 ●日本人学校の敷地に投石や卵投げ込まれる事件も また、現地の日本総領事館によりますと、放出が始まった今月24日には、山東省青島にある日本人学校では、敷地に石が投げ込まれる事件が起きています。また、関係者によりますと、翌日の25日、東部・江蘇省蘇州にある日本人学校でも複数の卵が投げ込まれたのが見つかったということです。いずれも児童や生徒などのほか、建物への被害はなく、学校では、警備を強化するということです。さらに中国にある日本の大使館や総領事館には放出に対する抗議の電話があったということで、日本大使館などでも不測の事態に備えて警備を強化しています ●“日本の化粧品の利用を避けるべき” 中国のSNSに投稿も 福島第一原子力発電所にたまる処理水について、東京電力が基準を下回る濃度に薄めた上で海への放出を始めて以降、中国のSNS「ウェイボー」では、日本の化粧品の利用を避けるべきだという投稿も見られるようになっています。このうち「日本の核放射線ブランドを避けるためのリスト」というタイトルがつけられた投稿では化粧品に関連した日本の企業名やそのブランド名などが列記されています。ただ、こうした投稿には明確な根拠は一切示されていません。これに対して、日本の複数の化粧品メーカーは中国国内向けのサイト上などで中国で販売されている商品は様々な基準を満たしていて安全性に問題ないと説明しています。 ●処理水放出の現場 報道陣に初公開 処理水の海への放出が始まった東京電力福島第一原子力発電所で、27日に放出が行われている現場が初めて報道陣に公開されました。このうち、放出に関係する設備を遠隔で操作する集中監視室には、処理水を保管するタンクの水位が計画通り低下しているかなどを確認するモニターが並び、設備の稼働状況の監視が行われていました。また、大量の海水で薄めた処理水をためる巨大な設備では、いっぱいになった処理水があふれ出して海につながる海底トンネルの方へと流れ落ちる音と思われる大きな音が聞こえ、放出が続いていることが確認できました。東京電力によりますと、28日午後5時までに1420トンの処理水を放出しているということです。設備の稼働状況に問題はなく海水のモニタリング調査でも異常はみられないことから、当初の計画通り、9月10日ごろまでにタンク8基分にあたる7800トンを放出するとしています。 ●立民 枝野前代表「プロセスに深刻な問題」 立憲民主党の枝野 前代表はさいたま市で講演し「処理水を海に流す話がいきなり落ちてくるようなスタートから間違っていて、プロセスに深刻な問題があった。もうちょっと納得感を得られるようなやり方はいくらでもあった」と指摘しました。また、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことについて「政府が想定していなかったなら論外だ」と批判しました。 ●国際電話 復興と風評ふっしょくに向けた商業施設にも 相馬市にある「浜の駅 松川浦」は、震災と原発事故からの復興と風評のふっしょくに向けて3年前に開設され、主に地元で水揚げされた魚などを販売しています。施設によりますと、処理水の海への放出が始まった翌日の25日、中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信があり、応対すると、男性らしき声の人物が中国語のようなことばで一方的にまくしたててきたということです。それ以降、同じような電話には応対せずにすぐに切るようにしたということですが、着信は日中だけで少なくとも60件相次ぎ、特に多い時間帯には、34件続けてかかってきたということです。26日になると着信件数は減ったものの、27日も散発的にかかってきているということです。「浜の駅 松川浦」の山田豊店長は「客や取引先への対応があるため電話線を抜くことはできずとても迷惑だ。このようなことが起きるとは思ってもみなかった」と話していました。福島県警察本部によりますと、県内の自治体や飲食店などからは、中国の国番号から始まる国際電話の着信で、業務に支障が出ているという相談が数多く寄せられているということで、迷惑電話を受けないようにするサービスに登録するなどの対応を呼びかけています。 ●福島県の調査でもトリチウム濃度 下限値下回る 福島県は原発事故の前から福島第一原発周辺の海水のモニタリング調査を6つの地点で開始し、処理水の放出に向けた工事などが本格化した昨年度からは9つの地点に増やして調査を続けています。県は、処理水の海への放出が始まった翌日の25日に採取した海水の分析を行い、26日、結果を発表しました。それによりますと、9つの地点の1リットルあたりのトリチウムの濃度はいずれも今回検出できる下限としていた値を下回ったということです。県は分析結果をウェブサイトで公開していて、次の調査を来週中に行う予定です。 ●福島県沖のトリチウム“全地点で検出下限の濃度下回る” 東京電力福島第一原発にたまる処理水の海への放出を受けて、環境省は放出開始の25日、放水口の付近や遠いところでおよそ40キロメートルの地点など福島県沖のあわせて11地点で海水の採取を行い、研究所でトリチウムなどの濃度について分析しました。そして26日、分析結果についてトリチウムの濃度は11地点のすべてで今回検出できる下限値としていた1リットルあたり10ベクレルを下回ったと発表しました。処理水の放出前に同じ海域の海水を分析した際は、高いところで1リットルあたり0.14ベクレルだったということで、環境省は今後、より詳しい分析を進めることにしています。今回の結果を受けて西村環境大臣は「分析の結果、11カ所すべてでトリチウム濃度が検出下限値未満であり、人や環境への影響がないことを確認した」などと談話を発表しています。環境省は結果についてホームページやSNSで公表し、当面は、1週間に1回の頻度でモニタリングを続けることにしています。 ●中国の日本産水産物の輸入停止 即時撤廃求める考え 経産相 西村経済産業大臣はNHKの日曜討論で、「データを透明な形で公表していくことが非常に大事で、きのうおとといの数値はすでに公表され、検出の限界値より低い」と述べ、今後も分析結果を公表し、安全性と放出への理解を促していく考えを示しました。一方で、処理水の放出に反発し、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止するなど、影響が広がり始めています。政府は漁業者を支援するための総額800億円の基金を活用し、風評対策などに取り組む方針で、西村大臣は、「水産物が売れない場合に一時的に保管をすることを含めて使え、すでに宮城県や北海道の漁業者から相談を受けているので活用を急ぎたい」と述べました。また、中国政府に対しては「即時撤廃を申し入れたところで科学的根拠に基づいた対応を強く求めたい」と述べ、引き続き輸入規制の即時撤廃を求めていく考えを強調しました。一方、福島県の内堀知事は「福島の漁業者の皆さんが望んでいるのは、自分たちの大切な海で、いまの世代、そして将来の世代も漁業を継続していきたいということだと思う。政府には、漁業者の葛藤を胸にきざんで将来にわたって安心して漁業を継続できるよう万全を期していただきたい」と求めました。 ●政府・与党 さまざまなレベルで対応改めるよう働きかけへ 福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する措置が始まったことを受けて、中国政府は日本産の水産物の輸入を全面的に停止しました。これについて自民党の萩生田政務調査会長は「科学を根拠にせず政治的な思惑で輸出入を止めることはあってはならない」と批判しました。こうしたなか、公明党は28日から予定していた山口代表の中国訪問を延期すると発表しました。中国側から「日中関係の状況に鑑み適切なタイミングではない」と伝えられたとしていて、処理水の放出が影響したものとみられます。今回の事態について政府・与党内からは山口氏自身が「日中関係全体に影響を及ぼすことは好ましくない」と述べるなど、中国との関係が冷え込むことへの懸念が出ています。一方で中国の姿勢がすぐに変わるとも思えずきぜんと応じていくべきだという意見もあります。こうした状況も踏まえ政府・与党は、日本が科学的な根拠に基づいて安全に放出を行っていることを国際社会に粘り強く発信していくとともに、中国に対してさまざまなレベルで対応を改めるよう働きかける方針です。 ●福島県内に中国からの着信相次ぐ 警察が注意呼びかけ 福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まった24日以降、福島県内の自治体や飲食店、学校などに中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信が相次いでいます。警察によりますと、警察のほか、県や自治体に県内の事業者などから「業務に支障が出ているのでなんとかならないか」といった相談が数多く寄せられているということで、福島県警察本部は26日夜県民に対し注意喚起を行いました。このなかで警察は、身に覚えのない電話番号や番号非通知の電話には出ないこと、固定電話では身に覚えのないのにかかってきた電話番号をNTTの「迷惑電話おことわりサービス」に登録すること、携帯電話は国際電話の受信拒否の設定をすることといった対策をとるよう呼びかけています。警察は自治体などと連携して、必要な捜査を進めるとしています。 ●北京の日本大使館 反日デモなどの警戒強める 北京にある日本大使館によりますと、処理水の放出とは関係のない日本国内の個人や団体に対して中国から嫌がらせの電話などが相次いでいるということです。大使館は、中国当局に対して法律に基づいて厳正に対応するよう求めています。また、大使館で26日開催される予定だった日本人ピアニストによるコンサートが延期となりました。現地に住む日本人が多く集まるため、安全を考慮したとしています。中国では2012年、日本政府が尖閣諸島を国有化したことをきっかけに反日デモが暴徒化し、日系企業などが被害を受けたことがあります。これまでのところ大きなトラブルや騒ぎは確認されていませんが、日本大使館は「不測の事態が発生する可能性は排除できない」として反日デモなどへの警戒を強め、現地に住む日本人に対して、外出する際には不必要に日本語を大きな声で話さないことなど注意を呼びかけています。 ●中国のSNSに日本を非難するよう呼びかける投稿相次ぐ 福島第一原子力発電所にたまる処理水をめぐる日本の対応を受け、中国のSNSには、日本を非難するよう呼びかける投稿が相次いでいます。SNSウェイボーの投稿の中には「『核汚染水』を海に流した日本を非難したい人は、この番号に電話してください」という文言とともに、日本の参議院の電話番号が記載されたものもあります。また、東京都内の施設に電話をしたとされる動画では、男性が「なぜ『核汚染水』を海に放出するのか」などと一方的に中国語で話す様子がうつされています。 ●日本人学校の敷地には投石も 容疑者は拘束 中国 山東省青島にある日本総領事館によりますと、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を薄めたうえで海への放出を開始した24日、中国人が青島の日本人学校の敷地に石を投げ込む事件が起きたということです。学校の施設や子どもなどに被害はなく、容疑者はすでに警察に拘束されたということです。 ●外務省「極めて遺憾で憂慮」 中国国民に冷静な行動呼びかけ こうした事態を受けて、外務省の鯰アジア大洋州局長は26日、東京にある中国大使館の楊宇・次席公使に対し電話で「極めて遺憾で、憂慮している」と伝えたうえで、中国国民に冷静な行動を呼びかけるとともに、中国に滞在している日本人や大使館の安全確保に万全を期すよう求めました。また事態が深刻化しないように、中国政府が処理水について正確な情報を発信するよう要請しました。 |
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●処理水放出で中国反発 松野官房長官「極めて遺憾で憂慮」 8/28
処理水の海洋放出を受けた中国側の嫌がらせや反発について、松野官房長官は「極めて遺憾であり、憂慮している」と述べました。 中国で相次ぐ日本人学校への投石や嫌がらせ電話などについて、松野官房長官は先ほど、「極めて遺憾であり、憂慮している」と述べました。 一方で、今年は日中平和友好条約の締結から45年にあたり、政府は来週インドネシアで行われるASEAN=東南アジア諸国連合の関連会合の場で、岸田総理と中国の李強首相との首脳会談を行えないか模索しています。 複数の政権幹部は「日本のスタンスは変わらない」としていますが、ある外務省幹部は中国側の反応について「想定以上だ。長期戦になるかもしれない」などと戦略を見直す可能性に言及しています。 |
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●日本の“原発処理水”放出に揺れる近隣諸国…中国猛反発の一方、韓国は 8/28
日本が原発“汚染水”(日本では処理水)の海洋放出を本格化したことで、韓国でも苦慮する声が増えている。 韓国では2011年、福島原発の事故発生当時に水産物の消費が急減したことがある。また、日本政府が汚染水の流出を認めた2013年も、韓国流通業界は危機を経験した。 ただ、今回の汚染水放出は30〜40年がかかる本格的なものとなるだけに、関連業界は消費低迷の長期化など今後に神経を尖らせているようだ。 ●にぎわう鮮魚コーナー 8月24日、日本政府は福島第1原発汚染水の海洋放出を開始。これにより、韓国流通業界、特に水産業界は売上の急減を予測していたが、現時点では主要水産物の販売量に大きな推移は見られないという。 消費者の間でも、まだ大きな変化は生まれていないようだ。実際、26日にソウルの大型スーパーに訪ねてみたところ、消費が急減という予想とは異なり、鮮魚コーナーは多くの人で賑わっていた。 7月には「天日塩の買い占め」が起こったが、今の消費者は全く異なる反応を示している。韓国では、海水を加熱処理せず、太陽の日差しのみで乾燥させた塩は安全だというデマが広まったことで、“パニックバイ”が起きたことがある。 処理水の放出が始まった当日、大型スーパーでも水産物を中心とした売上急増現象が起きた。しかし、これは、「まだ食べても大丈夫」あるいは「汚染されていない水産物は今回が最後」という心理が作用したと分析されている。 25日、ある大型スーパーでは、前日(24日)の水産物売上は昨年同日比、約35%増加していたという。貯蔵性の高いカタクチイワシ、スケトウダラなどの商品は130%、乾燥海藻類は100%も売上が増えたことが分かった。 また別の大型スーパーでも、乾燥海産物の売上が40%ほど増加していた。全体の水産物売上が約15%増えた中で、カタクチイワシは150%、わかめは180%増加し、特に塩の売上は250%増加で最も売上幅が大きかった。 韓国流通業界は日本の処理水放出を念頭に置きつつも、「ひとまず買ってみよう」という心理が作用したことで異例の売上になったと見ている。 ソウルの大型スーパーで勤務する水産物販売者A氏は「処理水の放出発表以降、まだ売上に大きな変化は見られていない」とし、「スーパーを訪れる消費者の数も普段と同じような水準だ」と答える。 また、大型スーパーを訪れたある消費者は「今食べる水産物が一番安全だと思う」とし、「処理水が長期間放流されるだけに、今回を最後にもう買って食べないかもしれない」と話した。 ●猛反発の中国 このように、韓国では不買が続くという憂慮とは異なり、水産物販売量は大きな推移を見せていない。一方、中国は汚染水の放出に対して反日感情を強く示し、激しく反発している。 中国政府は「日本が福島原発事故の汚染水を、世界各地で通用する原発の正常稼動を通じて出た排出水と同じように言うのは概念を巧妙に変え、世論を誤導すること」とし、海洋放出に反対している。 先立って中国政府は7月7日、「適宜、必要な措置を取る」と発表し、海洋放出について綿密に注視する姿勢を見せていた。中国現地でもSNSを中心に日本商品不買運動の訴え、日本団体旅行の予約取り消しなど、海洋放出に対して強い批判が相次いで噴出。結局、中国では刺身などの日本産水産物は新鮮な状態での輸入が難しくなり、事実上、規制を受けている状況だ。 中国海関総署(税関)の統計によると、中国が7月輸入した日本産水産物のうち、刺身などに使われる魚(切り身を除く)は約2263万元(約4億5000万円)で、前月よりも53%、前年同月より54%も減少していた。水産物全体で見ても、日本産の輸入は30%ほど減少していたことが分かった。 このように、中国などは日本を圧迫し、汚染水の放流に激しく反発しているが、韓国国内では消費心理の萎縮などの大きな変化は起きていない。しかし、長期的な観点から見ると、流通業界の懸念が現実化する可能性は非常に高いだけに、今後も細心の管理と注意が必要な状況であることには変わりない。 なお、来年3月まで放出される汚染水の量は3万1200トンで、これは現在保管中の汚染水全体の2.3%ほどだという。東京電力は一日に約460トンの汚染水を海水で希釈して放出する作業を17日間進め、一次的に汚染水7800トンを放出する計画だ。 |
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●三浦瑠麗氏「困るのは中国のほう」「わたしは粛々と日本の魚や貝を食べる」 8/28
国際政治学者の三浦瑠麗氏(42)が28日、自身のX(旧ツイッター)を更新。。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に対する中国の対応に言及し、自身の見解を示した。 中国政府は日本からの水産物輸入を全面的に停止するなど海洋放出に強く反発。中国国内では日本人学校に石や卵が投げ込まれ、日本では中国の国番号「86」で始まる迷惑電話が相次いでいる。 また、中国のインターネット上では「小日本」という蔑称を使って海洋放出を非難する書き込みが続出。日本製品をバッシングし、不買運動を扇動する動画も多数投稿された。日本への渡航を禁止するように訴える声もあり、訪日団体旅行は予約キャンセルが続出。対日世論は急速に硬化し、日中関係の冷え込みは必至な状況になっている。 三浦氏は「中国による日本バッシングだが、処理水についての不安を煽る形でそれに同調する人は自ら風評被害の加害者になってしまうし、国際的な調整不足を言うのは事実と異なる上、“でも不十分だった”というのはいつでも言えてしまうことなので、不毛だと感じる。中国を絡めず言いたいことを言えばよいのでは」と、中国に便乗して持論を展開する人々の発言を指摘。 続けて「こういう時には同じ人間としての連帯の気持ちが大切であって、政権のやり方が気に入らない場合であっても、あるいは原発そのものに思うところがあっても、もともと日本を非難する動機がある外国の反応を根拠にするのは、外国の国内政治に巻き込まれにいくようなものだ」と説明した。 その上で「だから、わたしは粛々と日本の魚や貝を食べるし、困るのはむしろ中国のほうだと思っている」と私見を吐露。「それを心配してあげる義理はないので、わたしたちは漁業を育てていく、漁業資源の保全に取り組む、処理水は常にモニタリングする、でよいのではないか」と呼びかけた。 |
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●インバウンド銘柄に冷や水、処理水放出に中国反発で影響 8/28
28日の東京株式市場でインバウンド(訪日外国人)関連株に売りが広がっている。東京電力福島第1原子力発電所からの処理水の海洋放出を巡り、中国からの旅行需要や日本製品の売り上げに影響が広がりかねないとの警戒が出ている。 この日はディスカウントストアなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが一時6.3%安と昨年5月以来の大幅な下げとなった。高島屋やマツキヨココカラ&カンパニーがそれぞれ5%超下落するなど小売関連株が軒並み下げたほか、資生堂などの化粧品や、良品計画、FOOD&LIFE COMPANIESといった専門店や外食にも売りが広がった。 東京電力ホールディングスが処理水放出を始めた24日以降、中国からの反発が強まっている。中国政府が日本の水産物の輸入を全面的に停止したのに加え、一部報道によると中国国民の間で日本製品の不買運動が発生。現地の日本人学校に石が投げ込まれる事件が発生したとも伝わった。中国が10日に日本行き団体旅行を解禁したことでインバウンド関連株には需要拡大への期待が高まったばかりだったが、株高の流れは早くも水を差された形だ。 水戸証券投資顧問部の酒井一チーフファンドマネジャーは、「処理水に対する中国政府の反応が意外なほど厳しい」と指摘する。現地メディアで日本ツアーのキャンセルの動きや不買活動に関する報道が出ているとし、「中国で旅行需要シーズンを控える中でインバウンド関連にも意外に影響が広がりそうとの懸念が出ている」と言う。 酒井氏は「ようやくインバウンド需要が回復してきた矢先の出来事」だとし、「しばらくは現地の旅行会社の日本向け旅行の予約状況などを注視する必要がある」とみていた。 |
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●中国から嫌がらせ電話殺到、日本が対応要求 処理水放出めぐり 8/28
福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を受け、日本の企業や団体に、中国から嫌がらせの電話が殺到している。日本は中国政府に対応を求めている。 大量の迷惑電話は、発信元として中国の国番号「86」が表示されている。 福島県のあるレストランチェーンには、1000件以上の電話がかかっている。 東京電力は、24日の放出開始後に発電所から3キロ以内の10カ所で採取した海水のトリチウム濃度は、いずれの地点でも検出限界値(1リットル当たり約10ベクレル)を下回っていたと、25日に発表。「分析値が放出停⽌判断レベル(1リットル当たり700ベクレル)および調査レベル(1リットル当たり350ベクレル)以下であることを確認」したと説明した。 日本当局によると、迷惑電話は福島第一原発からの処理水放出開始後に始まった。政府機関や学校のほか、水族館にまでかかってきているという。 電話をかけてくる人たちは中国語や日本語、英語を話し、時には乱暴な言葉も使っている。その内容は、処理水を放出するという日本の決定に反対するものだ。 中国側は、放出は「極めて利己的で無責任な行為」だとしている。 中国の税関当局は24日午後、日本の水産物の輸入を全面的に禁止すると発表した。同国はこれまでも、福島県や周辺地域の水産物を禁止していたが、これをさらに拡大した。 日本政府は原発周辺で採取した海水の放射性物質の検査を定期的に行い、近隣諸国や漁業団体の懸念を和らげようとしている。 今後3カ月間は、毎週の検査結果が公表される。 原発にためられている100万トン以上の処理水は、これから30年にわたり放出されることになっている。 |
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●福島第一原発の処理水放出に、なぜ中国は過剰に反応するのか 8/28
日本が福島第一原発の処理水放出を開始したことで、日中間で摩擦が拡大している。中国政府はそれへの対抗措置として日本産海産物の輸入を全面停止にすると発表した。東北や関東だけでなく、その範囲が北海道や沖縄まで拡大したことに大きな動揺が走っている。 処理水放出について、米国や欧州、韓国や南太平洋など他の国々は容認、問題はないというスタンである。韓国でも一部反対勢力が抗議デモを行っているが、ユン政権は処理水放出を容認する姿勢だ。これまでのところ、これに真っ向から反発しているのが中国であるが、なぜ日本産海産物の輸入を全面停止という過剰な対抗措置を取ってきたのか。この措置は科学的根拠もなく、その背景には近年溜まりに溜まり続ける「中国の日本への強い政治的不満」がある。それを最も助長しているのが「台湾」と「先端半導体」だ。 台湾を巡り、蔡英文政権は米国を中心に欧米との結束を強化しているが、最近は日本の政治家らとの結束も密になっている。筆者もここ数年台湾のシンクタンクや大学と共同研究することが増えているが、そういった中には蔡英文氏に近い人物、元大物政治家などがいることも少なくない。 台湾有事については日本国内でも懸念が広がっているが、日本政府もそれを想定した邦人避難などで台湾政府との協力を進め、南西諸島では自衛隊のプレゼンス強化、シェルター設置などを急ピッチで進んでいる。こういった日本側の対応に、中国は「反中的行動」として不満を募らせている。 そして、昨年以降の先端半導体を巡る動きも影響しているだろう。バイデン政権が昨年秋、中国によって軍事転用される恐れから先端半導体分野で対中輸出規制を開始したが、日本も米国の要請に答える形で7月下旬から先端半導体23品目で輸出規制を開始した。 半導体に限らず、スーパーコンピューターやAIなど先端分野を巡って米中の競争は激しくなるばかりで、中国としては先端半導体を是が非でも獲得したいなか、米国と足並みを揃える日本への不満は強まるばかりだ。 しかし、日本への不満が積もりに積もったとしても、中国としても対抗措置をドミノ現象のように次々に打ち出すことはできない。 日本への経済制裁を次々に強化すれば、返って他の国々から対中警戒論が強まり、中国経済にとって大きなマイナスにあるリスクがある。よって、中国は何らかの正当性を見つけようとする。それが福島第一原発の処理水放出だ。 既に多くの国々や国際機関が問題なしと発表している中、処理水放出は対抗措置の正当な理由には客観的にもならないが、今回、中国はそれを利用する形で日本へ強烈な不満を示したのだ。 今日、中国国内のSNS上では反日的メッセージに対して何ら規制はなく、普通に見える状態だという。これは中国政府が市民の反日感情を黙認しているに等しい。中国は今後も「正当な理由」を見つけ、それを「根拠」にして強い対抗措置を講じてくることだろう。 |
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●イチャモン<Gスカレート…中国漁船を日本近海から追い出すチャンス! 8/28
中国の「非科学的な狂乱」がエスカレートしている。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に反発して、日本産水産物の輸入を全面的に停止したのに続き、日本の水産物の加工や調理、販売を禁じると発表したのだ。国際機関が次々と、日本の放出計画を評価するなか、中国と韓国の左派野党などが大騒ぎを続け、風評被害を煽っている。識者の中には、日本近海に侵入する中国漁船を追い出すチャンスと見る向きもある。 「処理水放出についての日本の規制基準は、国際的な放射線の安全基準に基づいている」 世界保健機関(WHO)報道官は25日、日本の対応に問題はないとの見解を示した。国際原子力機関(IAEA)も以前から、「国際基準に合致する」と語っており、複数の国際機関が評価したことになる。 東京電力は25日、処理水の海洋放出後、第1原発の周辺10カ所で採取した海水を分析した結果、放射性物質トリチウムの濃度は「全地点で機器が検出できる下限値を下回っていた」と発表した。 環境省も同日、周辺の海水を採取したほか、水産庁は魚の分析に着手し、科学的な処理水の監視が本格化した。 こうしたなか、中国はイチャモンのレベルを上げた。 中国の国家市場監督管理総局は25日、食品業界の経営者に対し、日本の水産物の加工や調理、販売を禁じると発表した。中国税関総署が前日、日本産水産物の輸入を全面的に停止したのに続き、日本産水産物を徹底的に排除する措置を打ち出したが、これはおかしい。 第1原発が今年度放出するトリチウムの総量は年間22兆ベクレル未満だが、中国・秦山第3原発は約143兆ベクレル(2020年)で6倍以上なのだ。自国周辺の水産物を警戒すべきではないのか。 異様な対応の背景として、中国国内で不動産危機が金融危機に発展するなか、習近平政権への批判の矛先をかわす狙いも指摘されている。 評論家の八幡和郎氏は「中国の対応は、政治的側面が強い。来年1月の台湾総統選や、来年4月の韓国総選挙を見据えて、処理水放出で『反日』ムードを煽って、中国に都合のいい結果が出るように動いている。国内経済の苦境も一因だが、経済回復のためには日本との関係改善は不可欠のため、天に唾する状況となっている。日本としては、中国の矛盾を突くのはどうか。中国が危険だという日本近海には、中国漁船が大挙して侵入して漁をしている。事実上の無法状態となっている。そうした中国漁船の写真や名前を、中国語で発信するのはどうか。日本近海から中国漁船を追い出すチャンスだ」と語っている。 |
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●「適当に電話しよう」日本への嫌がらせ数千件 怒鳴る中国人の心理 8/28
東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をきっかけに、日中間の亀裂が深まっている。中国から日本への苦情や嫌がらせ電話は東電だけでも6千件にのぼり、日本人学校に石や卵も投げ込まれる事態に。外務省は27日、中国に渡航・滞在する人に注意を呼びかけた。相手国に対するお互いの国民感情がさらに悪化しかねない状況だ。 「適当に東京に電話してみよう」。Tシャツ姿の若者が中国のぶっかけご飯を片手でつつきながら、スマホの地図アプリで無作為に選んだ番号に電話をかけた。若者は「モシモシ」と話しかけ、「なぜ核汚染水を海に流すんだ」と中国語で一方的にまくし立てた。そんな動画が中国のSNSで出回っている。 中国のネット上では、参議院受付とみられる場所にかけ、中国語を話した途端にすぐに切れた様子の動画なども拡散している。 福島県では、旅館や飲食店、道の駅などに中国からとみられる迷惑電話が相次ぎ、「非常に状況を憂慮している」(内堀雅雄知事)。電話は病院や薬局などへも相次ぎ、業務に支障が出ているという。 東京電力は28日、処理水の海洋放出を始めた24日からの4日間で、中国の国番号「86」が表示される番号から6千件以上の電話を受けていると明らかにした。放出への抗議や苦情とみられる。東電は「類似案件を喚起する可能性があるので、電話の内容の説明は差し控える」としている。・・・ |
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●「知らない人からののしられ」 暴言も 処理水放出後 8/28
福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まった8月24日以降、中国からとみられる迷惑電話が国内の公共施設や観光施設などに相次いでいます。警察は迷惑電話を受けないようにするサービスに登録するなどの対応を呼びかけています。一方、政府は、中国側に国民に冷静な行動を呼びかけるなど適切な対応を行うよう強く求めていくとしています。処理水放出後、相次ぐ迷惑電話をめぐる国内の動きをまとめました。 ●処理水放出後 迷惑電話が100件以上 暴言も 宮城 白石市 宮城県白石市にある観光施設、「宮城蔵王キツネ村」には、処理水の放出開始後、中国からとみられる迷惑電話が100件以上かかっているということです。施設によりますと、福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まった今月24日以降、中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信が相次ぎ、電話に出ると一方的に暴言を吐かれることもあったということです。こうした電話は1分間隔でかかってくる日もあり、今月24日から28日までにかかってきた迷惑電話は少なくとも100件以上にのぼるということです。この施設は放し飼いにしたキツネと触れ合えることで人気の観光スポットで、28日も多くの人が訪れていましたが、事務所の電話機には中国からとみられる国際電話がかかり、従業員などが対応に苦慮していました。施設では着信を受けた記録とともに警察に被害届を出したということです。「蔵王キツネ村」の佐藤文子村長は「意味の分からない内容の電話が多すぎて困っています。『バカ』や『死ね』など日本語もありますが、多くは中国語でかかってきます。相手にしないようにするしか対策のしようがありませんが、このようなことをしてもしかたないのでやめてほしいです」と話していました。 ●「ののしられ、本当に疲れた」 山形 南陽市 中国からとみられる迷惑電話は、山形県南陽市にある赤湯温泉の旅館にもかかってきています。南陽市の赤湯温泉旅館協同組合には13軒の旅館が所属していますがNHKが取材したところ、処理水の放出が始まった今月24日以降、少なくとも6軒の旅館で中国の国番号「86」で始まる番号から迷惑電話がかかってきたことが分かりました。このうち「湯宿 升形屋」では、こうした迷惑電話が連日、20件から30件ほどかかってきているということです。いずれも電話に出ると中国語とみられることばで一方的にまくしたてたり、片言の日本語で「バカ」や「コノヤロー」などと暴言を吐いたりしてきたということです。旅館のおかみの歌丸あき子さんは、「関係のない人からののしられ、本当に疲れました。組合や国などで早く対策を取ってもらいたいです」と話していました。 ●迷惑電話各地で 福島には2000件以上 茨城 原子力科学館にも 中国からとみられる迷惑電話は、福島県内では県や福島市などの自治体に少なくともあわせて2000件以上かかっていることが分かりました。中国からとみられる迷惑電話についてNHKが福島県と県内の主な7つの市を取材をしたところ、これまでに福島県がおよそ1000件、福島市がおよそ800件、いわき市と郡山市がそれぞれおよそ150件、相馬市がおよそ50件かかってきていると回答しました。電話の多くは中国語とみられることばで一方的にまくしたてたり、自動音声の外国語が流れたりするもので、中には海への放出を指してか「流さないでくれ」ということばを発したケースもあったということです。福島市は現場が混乱しないよう急きょ、応答する際のマニュアルを作るなどの対応をとっていて福島市管財課の高田豊一 課長は「市役所なので電話に出ないわけにもいかず、対応に時間を取られ業務に支障が出ている。今後も様子を見て対応する」と話していました。また、茨城県東海村にある原子力や放射線のしくみについて展示する「原子力科学館」や、東京・江戸川区の公共施設にも業務と直接関係の無い国際電話の着信が、24日から相次いだということです。このほか、NHKの取材では青森県や岩手県、静岡県でも迷惑電話が確認されています。 ●東京電力にも6000件超の国際電話 東京電力によりますと処理水の海への放出が始まった今月24日から27日までの4日間で、中国の国番号「86」から始まる国際電話の着信は、グループ会社を含めて6000件以上に上っているということです。電話の詳しい内容については模倣につながる恐れがあるとして明らかにしていませんが、無言電話などもあるということです。東京電力は1件1件対応しているとした上で「風評の払拭や処理水への理解を得られるよう引き続き海域モニタリングのデータなど科学的な根拠に基づく情報発信に取り組みたい」としています。 ●中国のSNS 日本非難するよう呼びかける投稿相次ぐ 福島第一原子力発電所にたまる処理水を巡る日本の対応を受け、中国のSNSには、日本を非難するよう呼びかける投稿が相次いでいます。SNSウェイボーの投稿の中には「『核汚染水』を海に流した日本を非難したい人は、この番号に電話してください」という文言とともに、日本の参議院の電話番号が記載されたものもあります。また、東京都内の施設に電話をしたとされる動画では、男性が「なぜ『核汚染水』を海に放出するのか」などと一方的に中国語で話す様子がうつされています。 ●外務次官 中国大使呼び出し抗議 “冷静な行動国民に呼びかけを” 外務省によりますと、中国・北京にある日本大使館などにも同様の電話がかかってきているほか、青島の日本人学校では敷地に石が投げ込まれたということです。これを受けて、外務省の岡野事務次官は28日午後、中国の呉江浩駐日大使を外務省に呼び出し、「状況の改善がみられず、極めて遺憾で憂慮している」と抗議しました。その上で、中国政府に対し、冷静な行動を国民に呼びかけるなど適切な対応を早急に行うことや、中国に滞在している日本人や大使館の安全確保に万全を期すこと、人々の不安をいたずらに高めないよう、正確な情報を発信することを強く求めました。 ●岸田首相 “遺憾と言わざるを得ない” 岸田総理大臣は28日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「中国に対しては、まずは専門家どうしの科学的な意見交換をしっかり行いたいとあらゆる機会をとらえて要請してきたが、こうした場が持たれないまま、中国発とされる多数の迷惑電話や日本大使館、日本人学校への投石などが行われていることは遺憾なことだと言わざるを得ない」と述べました。その上で「日本政府として邦人の安全確保に万全を期すことは当然だが、中国側に対してはきょうも駐日中国大使を招致し、中国国民に冷静で責任ある行動を呼びかけるべきである旨強く申し入れを行っている。アメリカからは日本の安全で透明性が高く科学的根拠に基づいたプロセスに満足しているとの見解が示されており、こうした国際社会の声もあわせて中国政府にしっかり伝えていきたい」と述べました。 ●専門家 “嫌がらせ 中国政府が容認か” 中国からとみられる嫌がらせの電話が相次いでいることについて、中国の政治や社会に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「中国ではどういう情報を流すのか、あるいは削除するのか、当局によって情報が統制されている。ネットなどに、一斉に一時期に集中して一つのテーマで統一した見解が流れるのは政府が容認しているとみられる」と話していました。背景について「中国の経済が非常に悪く、若者の失業率が高いなど深刻な問題を抱えていて、不満のマグマがあちこちにたまっているので国民の安全を守るという大義名分のもとで、外に目をそらすガス抜き的な部分もある」と指摘しました。その上で「いまは日本を批判する立場だが日本人に被害が及ぶような事態になると、中国側が国際的に批判され、不利な立場になる。過激な行動が目立ち始めると抑え込むことになるだろう」と分析していました。 ●警察 “身に覚えない番号や非通知の電話出ないで” 相談が多く寄せられていることを受け、福島県警は26日、注意喚起を行いました。この中では身に覚えのない電話番号や番号非通知の電話には出ないこと、携帯電話は、国際電話の受信拒否の設定をすることといった対策をとるよう呼びかけています。警察は自治体などと連携して、必要な捜査を進めるとしています。 |
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●西村経産大臣 処理水放出をうけて、福島の水産物の安全性をアピール 8/28
東京電力福島第一原発にたまる処理水の海洋放出が先週から始まったことをうけて、西村経済産業大臣が福島県のスーパーを視察し、東北地方の水産物の安全性を訴えました。 先週、福島第一原発の処理水の海への放出が始まったことを受けて、西村経産大臣が28日、福島県のスーパーを視察しました。 西村大臣は、三陸や常磐で水揚げされた水産物の販売促進への協力を求めたほか、福島県産のヒラメやホッキ貝を試食しました。 西村経済産業大臣「本当に美味しく、いま一切目をいただきました。漁師さんたちの誇り、思いを噛みしめていただきたい」 そのうえで西村大臣は、視察したスーパーの担当者に対し、安全性に関するデータの公表が「一番の風評対策になる」と述べ、消費者が安心できるよう万全な対策をとる姿勢を強調しました。 |
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●「汚染水を海に流すな!」 市民らが首相官邸前で抗議 8/29
岸田文雄首相が日米韓首脳会談で渡米中の8月18日、東京電力(東電)福島第一原子力発電所の敷地内に貯まり続けるトリチウムなどの放射性核種を含む汚染水(政府のいう処理水)の海洋放出をめぐり「政府は早ければ週明けの8月22日にも関係閣僚会議を開き、具体的な放出開始の時期を判断する」と福島の報道機関が報じた。 同日、市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(以下、これ海)、「さようなら原発1000万人アクション」が「汚染水を海に流すな!8・18首相官邸要請行動」を東京・永田町で共催。福島や首都圏各地から市民約250人(主催者発表)が平日・猛暑の首相官邸前に集結し、「約束を守れ! 汚染水を海に流すな!」の声を上げた。 汚染水の処分方法について政府・東電は2015年8月、福島県漁業協同組合連合会と「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」との書類を交わした。漁業関係者は海洋放出に強く反対し続けている。首相と東電・小早川智明社長は共にこれを「順守する」とはしているが、市民は「約束を破るな!」と訴えているのだ。 集会で佐藤和良さん(これ海共同代表)は「福島の沿岸漁業は水揚げがやっと事故前の2割に戻った。ここで汚染水を流されたら生業がなりたたない」と訴えた。 ●「安全」示すデータなし 参議院議員会館に場を替え、会場が満席の中で「政府要請」が行なわれた。谷田部裕子さん(これ海)が「漁業者との約束を守り、海洋汚染につながる海洋放出をやめ、陸上保管案を検討するように」との旨の要請書を内閣総理大臣・東電社長あてに提出。8月31日までに回答を求めた。野党の国会議員も駆けつけあいさつ。市民・有識者らも多数スピーチした。 その一人、福島・いわき市から参加した米山努さんは、トリチウムが体内に取り込まれた場合の〈内部被曝〉のリスクを解説し、「国は危険性の限界値を調べ示すべきだ。国際機関が安全だと言えば『科学的に安全』というがそのデータは出てこない」と訴えた。 弁護士の海渡雄一さんは「汚染水は東電と政府が遮水措置をとらなかったために増えた水。国際法上、危険物質は出してはならないという予防原則がある。処理水にはトリチウム以外の放射性核種も含まれ、薄めても〈生体濃縮〉する恐れがあり、それに対する評価はされていない」と批判した。 内部被曝や食物連鎖による生体濃縮の影響を検証していない政府・東電と、危険だとする市民側の違いが浮き彫りになった。この不安が払拭されなければ当然、買い控えは起こる。風評の原因は政府にあり、これこそ実害だ。 集会のあと織田千代さん(これ海共同代表)は「私のような普通の市民が行動しているのが『これ海』です。普通、約束は守らないとだめでしょう!」と話した。 市民が望んでいるのは当たり前の判断だ。内部被曝や食物連鎖の影響を検証もせず約束を破るのは許されるものではない。たとえ関係閣僚会議で流すと決まっても次はそれを止める闘いだ。 |
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●中国「反日」暴徒化、日系企業襲撃≠ノ警戒 大使館にレンガ片… 8/29
中国で尋常でない「反日」暴挙が続いている。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まってから、中国各地の日本人学校に石や卵が投げつけられていたが、北京の在中国日本大使館にレンガ片が投げ込まれていたことが分かった。香港では、岸田文雄首相の遺影≠フような写真を掲げた抗議デモも発生した。中国では過去にも「反日」が過熱し、暴徒化した群衆が日本大使館や日系企業などを襲撃したことがある。中国では不動産危機が金融危機に発展しつつあり、習近平政権が人民の不満を日本に向けさせた可能性もある。日本政府は在留邦人に警戒を呼び掛けているが、それで十分なのか。識者からは、非科学的「狂乱」への毅然(きぜん)とした対処と、早急な「脱中国」の必要性を指摘している。 「中国発とされる多数の迷惑電話や、日本大使館、日本人学校への投石などが行われている。『遺憾なことである』と言わざるを得ない」「日本政府として邦人の安全確保に万全を期す」 岸田文雄首相は28日夜、官邸で記者団に、中国政府の対応をこう批判した。外務省の岡野正敬事務次官も同日、呉江浩駐日中国大使を外務省に呼び出し抗議した。中国の暴挙は異常というしかない。 罪のない子供たちが通う日本人学校への攻撃だけでなく、北京の在中国日本大使館の敷地内に24日、レンガ片が投げ込まれていた。日本政府関係者が28日に明らかにした。ネット上では、日本製品の不買運動を扇動する動画が数多く投稿されている。福島県内の飲食店や市役所などには、中国発信とみられる迷惑電話が相次いでいる。 在中国日本大使館は、中国に住む邦人らに対し、「外出の際、不必要に日本語で大きな声で話さない」などと注意を呼びかけた。外務省は、中国に滞在中だったり、訪問を予定している日本人への注意喚起を行っている。 宮崎氏「2012年は『反日』暴力デモ」 今回の「反日」暴挙をどう見るか。 中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「共産党主導の『反日』行動だろう。日本への抗議電話も、ネットで具体的な連絡先や嫌がらせの手順などが指令として回っているようだ。現時点で、大規模なデモや襲撃はないが、同じように官製だった2012年の『反日』暴力デモでは、最終的なターゲットが日本から中国共産党に移る大騒動になった。民衆の一番の不満は、習国家主席の失政や独裁だ。共産党政権はそれを警戒して、慎重にガス抜きをはかっている」と分析する。 中国ではこれまでも、「反日」デモが繰り返されてきた。 中でも、民主党政権下の12年、沖縄・尖閣諸島の国有化などに反発した「反日」デモは、過去最大級にエスカレートした。デモ隊が日本大使館や日系スーパー、日系企業の工場や店舗を襲撃し、大規模な破壊・略奪行為が発生した。日本車を狙って襲撃する事件も相次いだ。 今回の暴挙について、違う背景を指摘する声がある。 M&Aのプロで、中国事情に詳しい経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「中国の念頭にあるのは『半導体』ではないか。半導体分野での技術的躍進が、台湾侵略やアジアでの覇権確立をもくろむ中国の国家戦略の根幹となっている。処理水放出への抗議を装って日本に無理難題をふっかけ、中国の国家戦略の障害になっている『日米協調の半導体規制』を分断する狙いだ。現地の情報によると、雰囲気はかなり不穏だ。さらにエスカレートする恐れがある。『反日』攻撃は当分、やまないだろう」と語る。 共産党独裁で覇権拡大を進め、ウクライナ侵略を続けるロシアとも連携する中国とは違い、日本や米国は「自由」「民主」「人権」「法の支配」といった基本的価値観を共有している。 平井氏は「中国リスク」の高まりを受け、「中国デカップリング(切り離し)を急ぐべきだ」といい、説明する。 「いざとなれば、中国国内の日系工場は中国に接収されることを想定すべきだ。日本国内や東南アジアに製造拠点を移転することが急務だ。中国には『法の支配』という常識が通じず、経済で圧迫を加えてくる。今回、日本産水産物の禁輸で、日本が打撃をこうむる事態が懸念されるが、新たな市場を開拓するチャンスでもある。『脱中国』を推し進めなければならない」 外交は相互主義である。日本も経済的に反撃すべきではないか。 福井県立大学の島田洋一名誉教授は「中国共産党が重視するのは、何よりも『行動』だ。口先で反撃しても、付け込まれるばかりだ。禁輸措置に対しては、同様の禁輸措置で対処するなど、痛み≠感じるかたちで反撃しなければならない。ただ、岸田政権にはそうした気配をまったく感じない」と危惧する。 島田氏「中国の経済的威圧があれば自由主義国が連携して対処」 親子2代で超党派の日中友好議員連盟会長を務め、「政界屈指の親中派」と呼ばれる林芳正外相だが、今回も目立たない。 公明党の山口那津男代表は28日から訪中予定だったが、中国側から「当面の日中関係の状況に鑑み適切なタイミングではない」と連絡があり、訪中延期となった。 事態の長期化が予想されるが、日本は非科学的な中国に一歩も譲歩すべきではない。 島田氏は「中国の処理水放出への批判には科学的根拠がなく、『反日』カードの典型例だ。放出計画は、国際的な安全基準に基づき、世界保健機関(WHO)や、国際原子力機関(IAEA)の評価を受けている。中国の行為は経済的威圧だ。5月の広島G7(先進7カ国)サミットでは、『中国の経済的威圧があれば、自由主義国が連携して徹底対処する』ことで合意した。今回は最初のケースであり、岸田首相はG7議長国として、自由主義国の対応を主導しなければならない」と語っている。 |
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●処理水放出、日本の透明性を支持 8/29
林芳正外相は29日、米下院のウィットマン軍事委員会副委員長(共和党)ら共和、民主両党の下院議員4人と外務省で面会した。ウィットマン氏らは東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に関し、透明性を持った日本の取り組みを支持する考えを伝えた。 林氏は「安全保障環境が厳しさを増す中、日米同盟の抑止力・対処力を強化すべく日米で協力する必要がある」と強調。双方は、弾道ミサイル発射を含む北朝鮮や中国の情勢についても意見交換した。 |
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●西村経産相が処理水放出「幅広い地域が支持」連日発信のミスリード… 8/29
西村経産相は28日、福島市のスーパーマーケットで行われたキャンペーンに出席。福島県産のヒラメやホッキ貝の刺し身を試食して「おいしい」と満面の笑みだったが、処理水の海洋放出に注ぐ国際社会のまなざしは依然として厳しい。 放出が始まった24日以降、西村氏は連日にわたって自身のX(旧ツイッター)に処理水放出の安全性を訴える内容を投稿。〈日本やIAEAの科学的根拠に基づく取組に対し、G7各国、太平洋島嶼国はじめ幅広い地域の国々や科学者から理解・支持の表明が行われ、国際社会の正確な理解は確実に進んできています〉などと主張している。 西村氏は、処理水放出が〈国際的な安全基準に合致する〉と結論付けたIAEA報告書を「錦の御旗」にしているが、報告書は放出に“お墨付き”を与えたわけではない。 実際、報告書には〈処理水の放出は日本政府による決定であり、本報告書はその勧告でも支持でもないことは強調しておきたい〉と、わざわざ明記されている。 本当に〈G7各国、太平洋島嶼国はじめ幅広い地域の国々〉から理解や支持を得られているのかも、疑問だ。海洋放出に強く反対しているのは何も中国だけではない。 太平洋の島しょ国などで構成する太平洋諸島フォーラム(PIF)のヘンリー・プナ事務局長は24日の声明で、海洋放出について〈国際社会とフォーラムメンバー内で見解と対応が依然として分かれていることは明らか〉と指摘。パプアニューギニアやフィジーなどPIF構成国の一部からなる「メラネシアン・スピアヘッド・グループ(MSG)」は共同文書で〈疑問の余地なく科学的に処理水の安全性が証明されない限り、日本は放出すべきではない〉とキッパリ非難している。 エネルギー環境研究所所長のアージャン・マクジャニ博士(原子力工学)は28日、日本外国特派員協会で会見し、日本政府の姿勢を厳しく批判。こう憤りをあらわにした。 「日本政府はPIFとの対話において、太平洋地域をひとつの社会と見なして各国が被る被害を評価する必要はない、との立場を取ってきた。その上で、日本政府は放出が廃炉を促進し、日本や太平洋地域全体に利益をもたらすため、正当化されると主張している。日本は太平洋地域各国の意思決定を顧みずに一方的に(放出を)決めてしまった。日本だからこそ、受け入れがたいし、ショッキングでもある」 放出強行が周辺国の目にどう映っているか。西村大臣はよーく考えるべきじゃないか。 |
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●上海滞在…記者が聞いた現地の本音と相次ぐ日本への嫌がらせ 8/29
福島第1原発処理水の海洋放出が始まった今月24日以降、日本国内の飲食店や自治体、学校などに、中国の国際電話の国番号「86」からこんなカタコトの迷惑電話や抗議電話が相次いでいる。内容は「汚染水をなぜ流すのか」といったもので、中には1000件を超える電話が殺到したところも。ネット上では海洋に放出した液体により、海水が黒っぽい色に変わったフェイク動画までアップされている。 中国では、化粧品など日本製品の不買の動きや、訪日旅行のキャンセルが次々発生するなど、反日感情が拡大。日本人学校に、石や卵が投げつけられる事態も起こっている。 外務省はこれらの事態を受け、在留邦人や日本の公館の安全確保に万全を期すよう中国政府に要求し、中国国民に冷静な行動を呼びかけるよう強く求めた。中国への渡航や滞在を予定する法人に対し、不用意に大きな声で日本語を話さず、処理水放出に対する抗議活動に遭遇しても、近づいたり、スマホで撮影しないなど、慎重な行動を取るよう求めている。 「中国政府は今月、日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁したばかりです。ようやく日本をまた訪問できると思っていた中国人も多く、インバウンドが本格復活することが期待された矢先のことだったので、観光業などはガッカリです。ただフェイク画像をうのみにし、それを真実だと受け止めている中国人も少なくなく、正確な情報がまだ国民まで伝わっていません」(現地在住者) 中国国内の不穏なムードが日本に伝わる中、日刊ゲンダイ記者は処理水放出の翌25日から3日間、上海市と、その西方160キロに位置する常州市に滞在した。 ●市内は平穏なムードも… 地元の中国人と交流したが、この話題が上ることもなく、至って普段と変わらない雰囲気。市内を歩きながら日本語で話していても、通りがかりの中国人に何か言われるなど、身の危険を感じたり、トラブルに巻き込まれたりすることもなく、この問題に関する騒動や抗議活動を見ることもなかった。 表立って反日感情をブツけられることはなかったが、現地の人々は放出問題について、正直、どう思っているのだろうか。現地で知り合った上海在住の27歳女性に話を聞いた。 「汚染水の排水に関しては、人道的にも義務に違反しているのでひどい行為だと思います。中立的な立場の私は微妙ですが友人は『恥ずかしいと思わないのか。日本人は大嫌いだ』と激怒していました。日本国内で嫌がらせの電話が相次いでいることについて? 日本人の中でも海洋放出に反対する人がいるわけですから、そういうことがあるのは当然だと思います」 迷惑電話をかける“暴徒”はひと握りとはいえ、海洋放出はおおむね、否定的に捉えられているようだ。 日本は中国に理解を求め、中国外務省は「汚染水の海洋放出を直ちにやめるべきだ」と、お互いの主張は平行線。国だけでなく、両国民の関係もしばらくギクシャクするのは間違いない。 |
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●処理水「海洋放出」で日中関係に暗雲 …東京電力が国内外から不信の理由 8/29
日本政府が尖閣諸島を国有化したことに反発し中国国内で反日デモが暴徒化する事件が起きた、2012年のような事態となってきた。24日から始まった、東京電力福島第1原発から出た処理水海洋放出をめぐり、中国政府が神経をとがらせている問題のことだ。 海洋放出を受け、中国政府は日本産水産物の輸入全面中止措置を決定。その後、同国内では日本製品の不買運動や訪日観光旅行の取り消しなどの動きが広がっており、日本の外務省は27日、中国への渡航・滞在を予定する邦人に対し、外出の際に不必要に大きな声で日本語を話さないことや、大使館や日本人学校を訪問する時には周囲に細心の注意を払うことなどを要請した。 毎日新聞が26〜27日に実施した全国世論調査によると、処理水の海洋放出について「評価する」との回答は49%で、「評価しない」は29%、「わからない」は22%。海洋放出に関して政府と東電の説明が十分か、との問いには「不十分だ」が60%に達したというから、中国だけでなく日本国内からも政府や東電の説明不足を指摘する声が出ているのが分かる。 東電は27日、福島原発にある放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出設備を報道陣に公開。稼働中の施設の運転状況や監視について、担当者は「手順通り実施できている」などと説明し、「問題ない」との姿勢を示したが、それでもなぜ、いまだに国内外から信用できないとの声が上がり続けるのか。 ●福島原発事故の際に飛び交った「噓つきは東電の始まり」 ネット上でみられるのは、《そもそも東電は信用できない》《トラブル隠しの常習企業のいうことを信用できるわけがない》《いつも何かを隠している》といった投稿で、考えられるのは過去の東電による「虚偽説明」の問題が背景にあるようだ。 2011年3月に発生した福島第1原発の事故をめぐっても、事故当時、東電側はメルトダウン(炉心溶融)の可能性を否定していたものの、実際は溶融燃料の一部が圧力容器の外側にある原子炉格納容器(格納容器)に漏れ出すメルトスルーが発生していた。 被ばくを避けながらの長期間の核燃料冷却という作業、状況確認の難しさ、現場の混乱が重なったとはいえ、説明が二転三転する東電に対し、「嘘つきは東電の始まり」「盗電(とうでん)マン」といった言葉や不満の声が飛び交った。 福島原発事故の原因などを調査する国会事故調査委員会に対する東電の「虚偽説明」疑惑も浮上。2012年2月、国会事故調の委員が事故と地震の関係を調べようと現場を訪れた際、東電側の虚偽に基づく非協力姿勢により、1号機原子炉建屋内の非常用復水器、ICの事故調査が行えなかった――という問題で、衆参両院の議長に徹底調査を求める文書が提出され、国会でも質疑が繰り返された。 こうした経緯を振り返れば、東電や政府がいくら「安全、安心」を訴えたところで、「怪しい」「信用できない」という声が出るのも無理はないのかもしれない。 《東電が当事者意識を持ち、前面に出てきて説明するべき》 《とにかく東電は本当のことを話してほしいだけ》 これ以上、日中関係をこじらせないためにも、東電も中国メディアなどを積極的に現地に招き、あらゆる質問に真正面から答え、説明することが必要ではないのか。 |
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●ロシア、ALPS処理水放出の影響を慎重に見守る構え 8/29
8月24日の福島第1原子力発電所のALPS処理水(注)の海洋放出を受けて、ロシア政府は検査強化など慎重な姿勢を打ち出したものの、反応はおおむね冷静だ。海洋学の専門家からは海流などの関係でロシア極東沿岸への影響はほぼないとの声が強い。水産物をはじめとした日本製品の輸入に対する市民による反対運動も見られない。 衛生当局である連邦消費者権利保護・福利監督局(ロスポトレブナドゾル)は8月24日、2023年7月に導入済みの日本産水産物の輸入検査強化措置(2023年7月10日記事参照)の実施状況について発表した。検査を強化した7月8日以降、7トンを超える日本からの水産物を検査したところ、放射性物質の基準値を超えるものは見られなかった。 8月24日には連邦動植物検疫局(ロスセリホズナドゾル)が日本からの水産品、魚介類の検査体制を強化すると発表したほか、連邦水産庁も全ロシア水産海洋研究所(VNIRO)に対して、大気や海、漁獲物中に含まれる放射線物質のモニタリングを実施するよう指示した。 ロシア外務省は、処理水の海洋放出の影響に関して日本政府が完全な透明性を持って、関係各国に対し情報を提供し続けるべきとのコメントを発表した(ノーボスチ通信8月24日)。中国外交部発表(8月9日)によると、同国とロシアは共同で日本に対しALPS処理水の海洋放出に関する技術的質問書を提示している。 ロシア国内では、処理水放出のロシアの漁業や水産加工業にとっての影響は大きくないとの見方が主流だ。連邦水理気象学・環境モニタリング局沿海地方支部のボリス・クバイ支部長は「福島県沖からの海流の流れは太平洋側へ向かっており、日本海側への流入はない。ロシア極東の主要な漁場であるオホーツク海、ベーリング海からも遠い」との見解を示した(ロシア新聞8月22日)。消費者の反応も冷静だ。中国や韓国、日本国内での処理水放出への反対の動きは報じられるものの、ロシア国内での目立った動きは聞こえてこない。日本からの水産物の輸入が多くないこともその一因とみられる。 (注)ロシア機関によって表現が異なり、外務省は「原発冷却のために使われた水」や「放射能汚染水」(英語のradioactive waterに相当)」、ロスポトレブナドゾルは「放射能汚染水」(同)、ロスセリホズナドゾルは「処理水」としている。 |
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●中国はなぜ「日本叩き」に必死なのか…? “過剰反応”する「5つの理由」 8/29
中国の「日本叩き」が喧(かまびす)しい。福島第一原子力発電所のALPS処理水(トリチウム以外を取り除いた冷却水)を、8月24日午後1時から、太平洋に放水している問題だ。 たしかに、まだ記憶に新しい12年前、福島第一原子力発電所の事故を起こした東京電力という会社は、大問題である。東電がその責任を、半永久的に免れないことは、論をまたない。とはいえ、先週からの中国の反応は、日本から見ると、いささか過剰だ。経済産業省の資料によれば、中国の原発では、もっと濃度の高い処理水を、平然と海中に放出しているのだから。 なぜ中国は、かくもヒステリックなのか? 縷々思い連ねるに、そこから浮かび上がってくるのは、「5つの理由」である。以下、詳細に見ていきたい。 ●【1】中国の「正義」をアピール 日本で今回の処置を決めたのは、いまの岸田文雄政権ではなく、前任の菅義偉政権である。2021年4月13日、菅首相が「海洋放出を2年程度の後に開始します」と宣言したことがきっかけだ。 実は中国は、この日から一貫して反対してきた。同日の外交部定例会見では、「戦狼外交官」と呼ばれた趙立堅報道官(現在は左遷されて外交部国境海洋事務局副司長)が、早くも怒りをあらわにしている。 「日本の福島の原発事故の核廃水処理問題は、国際的な海洋環境と食品の安全、人類の健康に関わることだ。国際的な権威ある機関や専門家は、福島原発のトリチウムを含む廃水を海洋に排出することは、周辺国の海洋環境と公衆の健康に影響を与えると、明確に指摘している!」 この時点では、「ただ反対を唱えている状態」だった。かつ隣国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、中国以上に声高に、怒りの声を上げていた。 それから2年あまり経って、日本では東京電力の「処理水保管タンク」の水量が98%を超え、岸田政権が8月後半に放出を始めると決めた。7月4日には、来日したIAEA(国際原子力機関)のラファエル・グロッシ事務局長が、岸田首相に対して、安全にお墨付きを与える「包括報告書」を手渡した。 すると中国は、7月18日に李強首相が主催して、北京で全国生態環境保護大会を開いた。共産党のトップ7(党中央政治局常務委員)が全員出席する重要な大会と位置づけ、習近平主席が重要講話を述べた。 「今後5年は、麗しい中国を建設するのに重要な時期だ。(習近平)新時代の中国の特色ある社会主義生態文明思想を、深く貫徹していくのだ。人民が中心であることを堅持し、『緑水と青山はまさに金山銀山』(2005年8月に当時の習近平浙江省党委書記が同省湖州を視察した際に唱えた言葉で、現在は習政権の生態保護のスローガン)の理念を固く樹立、実践していくのだ。 麗しい中国の建設を、強国建設と民族復興の突出した位置に置き、都市と農村の住居環境の明瞭な改善を推進し、麗しい中国建設に明確な成果を作り出していくのだ。ハイレベルの生態環境をハイレベルの発展の支えとし、人と自然の和諧共生の現代化を、いち早く推進していくのだ……」 こうして、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義生態文明思想」を、改めて採択。その中で「藍天・碧水・浄土」を、「三大保衛戦」として、強く推進していくと定めたのだった。 「碧水」とは、中国の自然な碧(あお)い海洋や河川を保持していくということだ。そしてそこに、福島原発の処理水が中国の海域に流入してくるということが、引っ掛かってくるのだ。 そのため、中国では連日、福島の処理水の問題を報じているが、「悪の日本」を報じる前に、必ず「正義の中国」をアピールしている。 例えば、「習近平主席は南アフリカで行われているBRICS(新興5ヵ国)首脳会議に出席して、『人類運命共同体』を唱え、世界の称賛を浴びた」というニュースが先に来て、その後に「一方、日本では福島の核汚染水が……」となるのだ。さらにその後には、「アメリカではハワイの山火事の後処理が進まず……」と、「悪のアメリカ」が続くので、「3点セット」とも言える。 ちなみに、先週24日の午後1時に、日本が海洋放出を開始するや、日本と1時間の時差がある中国では、CCTV(中国中央広播電視総台)で放映中のニュース番組『新聞30分』(12時〜12時半)が、「緊急ニュース」として伝えた。 中国のテレビ番組は、それがニュースだろうが、ドラマ、バラエティ番組だろうが、すべて国家広播電視総局の検閲を受けないと放映できない。そのため、基本的に「生放送」「生中継」はない。 その習慣を破ったのは、2011年3月11日に日本で起こった東日本大震災である。この時、100人を超える中国のマスコミが現地に入り、ほとんど初めて「生中継」を開始した。当時、北京に住んでいた私は、中国のテレビもようやく生中継、生放送の時代を迎えたと、感慨深げに観ていたものだ。 ところが、2013年に「習近平新時代」に入ると、「新鮮な空気窓」は閉じられ、再びもとに戻っていった。それどころか、CCTVのナンバー2以下、幹部や看板記者らが次々にひっ捕らえられ、CCTVは習近平主席の「偉大さ」を延々と宣伝する「習近平礼賛テレビ」と化していった。 そんなCCTVが、福島の件に関して「生放送」「生中継」したということは、よほどのビッグニュースと捉えているということだ。しかも福島にわざわざ「特別取材チーム」を送り込み、ヘリコプターからの映像もふんだんに使っていたから、おそらくチャーターまでしたのだろう。 そういうことは、前述の国家広播電視総局と、さらにその上部組織である中国共産党中央宣伝部の指示がないと行われない。 現在の国家広播電視総局長は、中国信息通信研究院長を務めていた通信技術者出身の曹淑敏(女性)で、党中央宣伝部副部長を兼務している。また中央宣伝部長は、習近平主席が共産党の中央党校校長時代(2008年〜2012年)に副校長として仕え、覚えめでたくなった李書磊である。 つまり、習近平主席の意向か、もしくは「トップの意向を忖度した」李書磊部長か曹淑敏局長から、CCTVに「特に強調して報道するように」という指示が出たことが推測できる。それは、「正義の中国」と「悪の日本」を対比させるということに他ならない。 ●【2】日本社会の「分断」を図る これは中国の「アメリカ批判報道」でよく見られるパターンだが、北京のテレビスタジオからではなく、アメリカ人にマイクを向けて、自国政府の批判をさせるのだ。例えば、ドナルド・トランプ政権時代には、「反トランプ」の人々に、いかにトランプ大統領が悪辣な政策を行っているかを言わせていた。 昨年からは、バイデン政権下の高インフレで、いかに庶民が生活で苦しんでいるかを、アメリカ人に語らせている。今月のハワイの山火事の時も、ハワイの住民に当局の批判をさせていた。 同様に、今回の福島の一件では、CCTVが日本で日本人にマイクを向けて、岸田文雄政権批判をさせるということが、連日行われている。放水に反対する地元の漁業関係者はもちろん、例えば「日本環境保護組織代表・山崎久隆」という日本人が登場し、処理水の海洋放水がいかに危険に満ちたものであるかを説いている。 そうやって、「善意の市民と圧制を強いる岸田政権」という日本人同士の対立構図にしているのだ。日本の分断を図る高等戦術とも言える。 後述する日本産の水産物の輸入を禁止する措置も、同様だ。これによって、日本の水産物関連業者たちに「岸田政権に対する怒りの声」を挙げさせ、日本社会の分断を図っていく。そうした声に野党も加わってくれば、中国としては望ましい限りだ。 ●【3】中国国内の混乱を恐れている 現在、中国のSNSやネット上で流布している一篇の論文がある。2021年11月26日、英オックスフォード大学が発行する『ナショナル・サイエンス・レビュー』誌に、中国人の5人の専門家(劉毅・郭雪卿・李孫偉・張建民・胡振中の各氏)が、連名で寄稿したものだ。 タイトルは、「福島原発事故で処理された汚染水の放出:巨視的・微視的なシミュレーション」。そこでは、以下のような論を展開している。 〈 マクロシミュレーションの結果、汚染物質排出の初期段階では、汚染地域は急速に増加し、30日以内に緯度40°×経度120°に達することが明らかになった。海流の影響で、汚染物質の拡散速度は、経度方向よりも緯度方向の方がかなり速くなる。 放出から1200日後、汚染物質は東方と南方に拡大し、北米とオーストラリアの海岸に到着。北太平洋地域のほぼ全体を覆う。その後、これらの汚染物質は、赤道海流に沿ってパナマ運河に移動し、南太平洋に急速に広がる。2400日以内に、太平洋への拡散とともに、汚染物質のごく一部が、オーストラリアの北の海域を通ってインド洋に広がる。 3600日後、汚染物質は太平洋のほぼ全体を占めるようになる。日本列島付近では汚染物質の排出が起こるが、時間の経過とともに、汚染物質濃度の高い海水が、北緯35度に沿って東に移動する…… 〉 この論文に添付された資料によって、「放水から240日(8ヵ月)後に、中国に核汚染水が押し寄せる」としているのだ。つまり、「日本の核汚染によって中国の海も汚される」という主張だ。 そのため、中国はまず、日本産の水産物を水際でストップするという挙に出た。日本が放水を開始した8月24日、中国海関(税関)総署が、「2023年第103号公告」を発令した。 〈 日本の福島の核汚染水の海洋放出が食品の安全にもたらす放射能汚染の危険を全面的に防止し、中国の消費者の健康を保護し、輸入食品の安全を確保するため、「中華人民共和国食品安全法」及びその実施条例、「中華人民共和国輸出入食品安全管理弁法」の関係規定、及びWTO(世界貿易機関)の「衛生と植物衛生措置の実施協定」の関係規定に基づき、税関総署は決定した。2023年8月24日(この日を含む)から、一時的に日本産の水産品(食用水産動物を含む)の輸入を、全面的に禁止する 〉 日本はこうした動きを「過剰反応」と捉える。だが中国では、「北朝鮮の核実験」という前例がある。 いまから10年前の2013年2月12日、北朝鮮が3回目の、かつ金正恩(キム・ジョンウン)政権になって初めての核実験を行った。この時、中国環境保護部は、「東北地方の核汚染による大気汚染は逐一発表する」という緊急声明を発表した。 北朝鮮の核実験は、中朝国境から約100kmしか離れていない豊渓里(プンゲリ)という実験場で行われる。実際、核実験が行われた時、中国吉林省の国境付近では地震が発生し、中国側の住民たちが青ざめた。さらに、「大気が核汚染されていく」という風評被害が広まった。 そのため、国境沿いの吉林省や遼寧省ばかりか、北京の北朝鮮大使館前や、南部の広州などでも、「朝鮮の核実験を許さない!」「朝鮮への援助を停止せよ!」といったプラカードを掲げたデモが起こった。当時の中国政府は、こうしたデモを抑えるのに四苦八苦した経験があるのだ。 今回も、「日本からの核汚染水がやって来る」という風評被害が発生。食塩の買い占めや、放射能計測器の買い占めまで起こっている。 このまま放っておいては、いずれ市民の「怒りの矛先」が、日本政府から中国政府に転化するかもしれない。何せ周知のように、現在の中国経済は最悪で、街には失業者が溢れているのだ。中国政府は、そのことを一番恐れている。 ●【4】市民の怒りの矛先を日本に向けさせる 前述【3】と表裏一体のことだが、中国政府には、いまの大不況の状態を、日本に転嫁したいという思惑も、チラリとあるのではないか。 8月24日に山東省の日本人学校に中国人男性が投石、25日に江蘇省の日本人学校に卵が投げ込まれる……。 北京の日本大使館は24日、10万2066人(昨年10月1日時点での外務省発表)の中国在留邦人に向けて注意喚起を出した。 〈 8月22日、日本政府は、ALPS処理水の具体的な放出時期を8月24日と発表し、24日から放出が開始されました。現時点では、当館において、ALPS処理水の海洋放出に起因して日本人が何らかのトラブルに巻き込まれた事例は確認されておりませんが、不測の事態が発生する可能性は排除できないため、注意していただきますようお願いします 〉 さらに翌25日にも、注意喚起が追加された。 〈 昨日(24日)、不測の事態が発生する可能性は排除できないため注意していただくようお願いしましたが、以下の点について留意していただきますよう改めてお願いいたします。 (1)外出する際には、不必要に日本語を大きな声で話さないなど、慎重な言動を心がける。(2)大使館を訪問する必要がある場合は、大使館周囲の様子に細心の注意を払う 〉 これはかなり異常事態だ。さらに、中国のレストランなどでは、「食材産地調整公告」が入口に立てられ始めた。これは、日本を原産地とする食材は一切使っていないという意味だ。 こうした状況は、2012年9月11日に、日本政府(野田佳彦民主党政権)が尖閣諸島を国有化した時に似てきた。当時ほどインパクトは大きくないが、中国の経済状況は、当時とは比べ物にならないほど悪い。 ●【5】日本を使った「中南海」の権力闘争 現在の中国外交トップは、かつて駐日大使を務めた王毅党中央外交工作委員会弁公室主任で、7月25日からは、秦剛外相を失脚させて、再び自ら外相に返り咲いた。 いまや中国外交部は、「王毅部」と揶揄されるほど、王毅部長(外相)の力が強い。王毅部長は、対外強硬派として知られ、「戦狼(せんろう)外交」(狼のように吠える外交)の旗振り役を務めてきた。今回の処理水問題についても、日本に対して極めて強硬だ。 王毅部長率いる外交部は、8月24日、日本が海洋放出を始めた時間に合わせて、わざわざ「日本政府が福島の核汚染水の海洋放出を始動させたことについての外交部報道官談話」を準備し、発表した。 「8月24日、日本政府は国際社会の強烈な疑念と反対を無視して、一方的に福島の原発事故の汚染水の海洋放出の始動を強行した。これに対し、中国は決然たる反対と強烈な譴責を示す。すでに日本に対して、厳正な申し入れを行い、日本にこの誤った行為の停止を要求した。 日本の福島の核汚染水の処置は、重大な核安全の問題であり、国を越えて世界に影響を与えるもので、絶対に日本一国の私事ではない。人類が原発を平和利用して以降、人為的な核事故汚染水の海洋放出は前例がない。かつ公認された処置の基準もない。 12年前に発生した福島の核事故は、すでに厳重な災難をもたらしたというのに、大量の放射性物質を海洋放出したのだ。日本は私利私欲に走ってはならず、現地の住民及び世界の人々に二次災害を与えてはならない……」 続いて、アメリカ東部時間の25日には、国連安保理で突然、王毅外相の忠臣として知られる耿爽中国国連次席代表が、この問題で吠えた。 「日本は、いまだ国際社会が、未解決な核汚染水の浄化装置の長期信頼性、核汚染水のデータの真の正確性、海洋放出観測の方法の的確な有効性について、重大な懸念を示している中で、放出を開始した。 中国など関係各方は、何度も指摘してきた。もしも核汚染水が安全だというのなら、そもそも海洋放出する必要はない。安全でないなら、なおさら海洋放出すべきでない。 私は皆さんに提起せざるを得ない。IAEA(国際原子力機関)の報告は、必ずしも日本が核汚染水を海洋放出する『通行証』にはならないと。報告は日本に、海洋放出の正当性と合法性を与えるものではないと。 また日本に、責任の負担、道義的責任、国際法の義務を免除するものでもない。誤った決定を正し、核汚染水の海洋放出を即刻停止することを求める!」 このように、王毅外交部を挙げて、対日批判キャンペーンを張っている。 それに対して、おそらくこうした強硬姿勢に異を唱えていると思われるのが、経済外交を重視する李強首相だ。 李首相は、「北戴河会議」(中国共産党の非公式重要会議)が明けた8月16日、国務院(中央政府)第2回全体会議を招集した。テーマは、「ハイレベルの発展の揺るぎなき推進」。その中で、国務院の幹部たちを前に力説した。 「国内の需要を拡大し、引き続き消費を拡大して投資の政策余地を促すのだ。一般商品の消費を振興し、民間の積極的な投資を引き出し、重要項目の早い時期の研究と準備をしっかり実行していくのだ。 現代化の産業システムの構築に着手し、新たな技術と業態を使って急ぎ、伝統産業を改変し、引き上げていくのだ。戦略的かつ思い切り新興産業グループの発展を推進し、製造業のデジタル化の転化の歩みを全面的に加速させるのだ。 改革の深化と開放の拡大に着手し、新たな国有企業改革の行動を深く引き上げて実施するのだ。民営企業の発展環境を整え、外国との貿易を安定した規模でしっかりした構造で推進し、さらに大きく外資を吸引し、利用するのだ……」 李強首相は、悲壮感に満ちた表情で、幹部たちに訴えた。おそらくは、「戦狼外交なんかやっている場合ではなく、西側諸国を味方につけないと中国経済が崩壊してしまう」と言いたかったのだ。CCTVの映像で見ると、幹部たちもこの上なく暗い表情をしていて、中国経済の悪化ぶりを想起させた。 李強首相の中国共産党での序列は、習近平総書記に次ぐ2位で、党中央政治局常務委員(トップ7)。王毅外相は、その下の党中央政治局委員(トップ24)の一人。すなわち力関係で言うなら、「李強>王毅」だ。 実際、日本が放水を開始した24日のCCTVの大仰な報道は前述の通りだが、翌25日夜のメインニュース『新聞聯播』では、おしまいから2番目の「外国ニュース速報」のコーナーに下がった。以後も同様である。CCTVは国務院傘下のテレビ局なので、李強首相の意向が働いた可能性がある。 だが、李強首相の弱点もある。多勢(強硬派)に無勢(穏健派)なことだ。いまから10年前にも、李克強首相が、現在の李強首相と同じ立場にあったが、その後の権力闘争で敗れ去っていった。 「李強vs.王毅」の綱引きは、これからも続いていくだろう。処理水の問題で言えば、今後のポイントは、9月5日から7日までインドネシアで開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)関連の首脳会議で、岸田首相と李首相の会談が実現するかだ。 会談が開かれれば、日本側の何らかの譲歩と引き換えに、中国側が福島の処理水問題に関して、こぶしを振り下げる可能性がある。逆に開かれなければ、「王毅戦狼外交」が続いていくと見るべきだろう。 いずれにしても、この問題で決定を下せるのは、経済失速とともに、このところやや存在感が薄れてきている「皇帝様」(習近平主席)だけである。 |
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●中国からの嫌がらせ電話「責任は日本政府」共産・小池氏の発言に批判殺到 8/29
「28日の夕方5時前、店の電話が鳴りました。出ると、英語で何か話している。番号をみると『86』から始まるものだったので、『これはワイドショーで観たやつだ』と思い、『何か用か?』というと、『バカ!』と言われ、電話を切られました。 その後すぐ、もう一度、同じ番号から電話がかかってきたので、『やめなさい』というとまた『バカ!』と言われ、電話は切れました。開店準備で忙しい時間に、本当に迷惑です」 そう話すのは、東京・中野区内にある居酒屋の店長だ。福島第1原発の処理水をめぐり、中国から相次いでいる迷惑電話。福島のみならず、都内でも多くの迷惑電話がかかっていることが確認されている。 「中国のSNSには、日本に電話をかける様子が多数、投稿されています。処理水放出に対して怒っている人だけでなく、『自分はこうして日本に嫌がらせをしてやった』とSNSで誇示することを目的としている人、遊び半分でやっている人も多いようです」(週刊誌記者) こうしたなか、注目を集めているのが、共産党書記局長・小池晃参院議員の発言だ。 小池氏は8月28日、国会内でおこなわれた会見で、処理水の海洋放出中止を政府に要求。中国から嫌がらせ電話が多数あることについては「近隣諸国の理解を得ることも、日本政府としての大事な責任だ。これまで、きちんと説明する外交努力を怠ってきたと言わざるを得ない」と指摘。そして「いまの事態を解決する責任は、日本政府にある」と断言した。 このことを報じた『FNNプライムオンライン』の記事には、約4000のヤフーコメントが集まっており、そのほとんどが 《小池さんはどの国の国会議員なんでしょうか?》 《科学的根拠もあるし中国側が言いがかりをつけているのに乗じて責任を転嫁する政党は支持できない》 と、小池氏の発言に批判的な意見だ。SNSでは 《それこそ中国の思うツボだろ。騒げば日本はなんでも言うことを聞く、というお墨付きを与えるようなもんだ》 《日本の共産党は中国とは違うとか言うけど、むしろ同調して政府叩きに熱心に取り組んでるよね 今、福島県民が泣いてるのにそれすら政治利用ですか》 《こんなこと言ってるから維新の馬場さんに「要らない政党」と言われるんですよ》 など、あきれかえる声があふれている。さらには 《科学的社会主義を標榜する日共にあって、しかも医師でもある小池が客観的データの重要性がわからないはずがないんだが…》 という意見も。 「小池氏は東北大学医学部を卒業、10年以上の病院勤務の経験もある医師です。処理水が、放射性物質の安全基準を満たしていること、しかも海洋放出で大幅に希釈され、環境や人体への影響がないことを、理解していないとは考えづらい。中国からのいわれなき誹謗中傷に対し、多くの国民が憤るなか、中国政府の肩を持つかのような発言が支持されないのは、当然でしょう」(同前) 小池氏は「日中両国政府は、冷静な話し合いで問題を解決する努力をしていくべき」と主張する。しかし、「冷静な話し合い」ができない相手だから、こうなっているのでは――。 |
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●中国の日系飲食店や日本企業、「安心・安全の日本産」一転で苦慮 8/30
東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、中国で日本産水産物の使用が全面的に禁止され、現地の日系飲食店や日本企業が対応に苦慮している。安心・安全の代名詞とされてきた「日式」が一転して逆風にさらされ、巨大市場でどう事業を継続するか難しい判断を迫られている。(柿沼衣里、北京 山下福太郎) ●全店取りやめ 回転ずしチェーン「はま寿司」は25日までに、中国本土内にある全34店舗で日本産食材の使用を取りやめた。26日に現地の公式SNS上でこれを告知する投稿を行ったが、翌日に削除した。 投稿は「一緒に食の安全を守りましょう」と題しており、日本産を使用しないことで安全性を確保すると受け取られる可能性がある表現だった。 はま寿司を運営するゼンショーホールディングスは「中国側で文面を作成した際、現地の報道や消費者の見方を意識して周囲の店の表現に合わせた。日本のはま寿司としての思いとは違う」(広報)とする。 「日本食材は使用していません。安心して選んで食べてください」 北京市郊外にある商業施設。中国資本の寿司店「池田寿司」では、海洋放出が始まった24日以降、店頭にそう表示している。今までは日本風の店舗名が強みだったが、一転して消費者の厳しい目にさらされるリスクを踏まえた。 同じ商業施設にある家具大手ニトリの店舗では、「日本製造」「日式」と書かれた掲示が随所に並ぶ。主力の家庭用品で日本製の品質を前面に打ち出す狙いだが、店舗関係者は「最近は逆に日本製であることを気にするお客様が増えつつある」と話す。 ●追加検査 帝国データバンクによると、中国向け輸出を手がける企業は今年8月現在で国内に9270社。食品(727社)や化粧品を含む美容製品(264社)を輸出する企業も多い。 P&Gが展開する高級化粧品「SK―2」は処理水放出の決定以降、中国向け製品は自社での品質検査に加え、中国政府が認める第三者検査機関でも放射線量の自主検査を行っている。 花王も原発事故後の2011年から、日本から中国を含む海外に正規に輸出する化粧品や日用品は放射線量の検査を実施。広報担当者は「全ての工場内の環境や製品に安全性の問題はない」とする。 化粧品業界では「不買運動がどこまで広がるかは未知数だが、影響は楽観できない」(関係者)との声もある。 ●国内でも 中国から日本への団体旅行は8月に解禁されたばかり。百貨店ではコロナ禍前ほどではないものの、中国人訪日客の消費が戻ってきている。大手百貨店の担当者は「12年の尖閣問題の時は来店数が落ちた。今回はそのような動きはない」とひとまず胸をなで下ろす。 ある大手飲食チェーンでは先週末、新宿や渋谷など都心の店舗に迷惑電話がかかってきたという。「通常の問い合わせに応対できなくなるなど、営業に支障が出ている」と広報担当者は語った。 ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎上席研究員は「中国一般市民の対日感情が悪化している点で、尖閣問題当時と構図は似ている。海産物が直接的な影響を受けているが、団体旅行が解禁された訪日客の回復にも水を差す可能性がある」と指摘する。 ●対話継続求める 同友会代表幹事 経済同友会の新浪剛史代表幹事は29日の記者会見で、中国で日本製品への反発が広がっていることについて「政治的な対話が非常に重要だ」と述べ、両国政府間で対話を継続するよう求めた。 新浪氏は「日本製品に問題があるという理解で動いているのではなく、若い人の失業率の高さなどストレスの矢面として、問題が起こっている可能性がある」と指摘。「日本政府は科学的根拠に基づいて対応しており、解決できない問題ではない」とし、対話による解決に期待を寄せた。 |
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●外交部「特定の国は政治目的で原発汚染水海洋放出にゴーサイン」 8/30
外交部(外務省)の29日の定例記者会見で、汪文斌報道官が日本による原発汚染水の海洋放出に関する質問に答えた。 記者「日本が最近、海洋放出措置は米国等の肯定を得ており、国際社会の声を中国に伝えていくと表明したと報じられた件についてコメントは。」 汪報道官「世界には200近くの国々があるが、日本は原発汚染水の海洋放出を支持している国々の名前を、米国以外に挙げることができるだろうか。」 日本による原発汚染水の海洋放出を公に支持している国はいくつもない。日本を含む圧倒的多数の国の人々は、いずれも海洋放出に対して批判的で反対の姿勢であるうえ、相応の防備措置を講じている。これは事実である。この事について、日本は見て見ぬ振りをするべきではないし、ましてや自他ともに欺くようなことをしてはならない。 原発汚染水の海洋放出は海洋環境と人類の健康に関わり、日本だけの問題では決してないし、特定の国が政治的目的から「ゴーサイン」を出せば滞りなく進行できるものでもない。日本のやり方は、国際社会を無視して強権を重視し、国際的な公共の利益よりも自国のみの利益を重視するという本質を一層露呈した。 |
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●中国の常軌を逸した「日本叩き」…自国の「汚染水」には沈黙 8/30
日本政府は、8月24日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を開始した。科学的データに基づき、またIAEA(国際原子力機関)のお墨付きを得た上での決定である。その後の海水のモニタリング調査でも、数値が計測できないくらいに問題のない状態である。 ところが、中国政府は、「核汚染水」と称して問題化し、日本からの水産物を全面禁輸したのみならず、中国国内での加工や調理を行うことも禁じた。また、中国からの抗議電話が日本に殺到し、公的な機関でもない民間の商店などに被害が相次いでいる。青島では、日本人学校が投石される被害も出ている。常軌を逸したこの反応の裏には何があるのだろうかーー。 ●海洋放出に至るまでの経緯 2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所が大事故を起こした。1986年4月のチェルノブイリ原発事故以来の深刻な事故で、炉心融解(メルトダウン)という事態になった。 今年の4月15日にドイツは全ての原発を停止したが、その政策の発端はこの事故である。福島第一原発事故を受けて、当時のメルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故停止中の1基を稼働停止にし、残り9基も2022年末までに段階的に廃炉にする方針を決めた。ところが、ウクライナ戦争によって電力危機が生じたため、実施時期が昨年末から今年の春まで延期されたのである。 福島では、事故によって、放射性物質が広く放出されたが、その後、除染作業が進み、帰還困難地域も少しずつ減少している。今は、廃炉作業が行われているが、完了は20〜30年後になると見られている。 原子炉の中には核燃料(燃料デブリ)があり、これを常に水で冷却しているが、原子炉建屋には雨水や地下水も流入するため、冷却に必要な分以上の水が溜まってしまう。放射性物質で汚染されたこの水をどこに、そしてどのようにして捨てるかが問題なのである。 そこで、先ずはこの汚染水から放射性物質を多核種除去設備(ALPS、アルプス)によって除去する。セシウム、ストロンチウム、ヨウ素、コバルトなど、ほとんどが除去できるが、トリチウムだけは除去できない。 ●そもそもトリチウムとは何か ALPSで処理した後の水(これを処理水と呼び、汚染水とは呼ばないようにしている)は、トリチウム濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満まで海水に薄めてから放出されるが、これは国の安全基準の40分の1であり、WHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1である。 IAEA(国際原子力機関)も、処理水の海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価している。 トリチウム(三重水素)は水素の一種で放射線を出す放射性元素で、自然界にも存在するが、原発の運転や核実験によっても生じる。トリチウムは、酸素と結びついたトリチウム水として、海水、淡水のほか、雨水や水道水などに普通に存在しているし、われわれの体内にも常に数十ベクレルのトリチウムが存在している。 トリチウムの人体への健康影響は、セシウムの約700分の1であり、食品については影響の考慮は不必要なので、食品の基準値の規制対象にはなっていない。また、人や魚介類に取り込まれたトリチウムは、水と同様に速やかに対外に排出され、体内に蓄積されたり、濃縮されたりはしない。 処理水は、約1000基の貯蔵タンクに保管されるが、全容量は137万㎥である。東京ドームに水を貯めると124万㎥なので、その量の多さが想像できる。2023年2月現在で、既に132万㎥メートルまで埋まっており、今年の夏〜秋頃には満杯になると見られていたので、今、海洋放出を開始したのである。 ちなみに、中国も原発の処理水を海洋放出しているが、その中のトリチウムの量は、日本の6.5倍にものぼる。年間の処理水の量を見ると、福島は22兆ベクレル、中国では、紅沿河原発が90兆ベクレル(2021年)、泰山第三原発が143兆ベクレル(2020年)、寧徳原発が102兆ベクレル(2021年)である。 自国の処理水については沈黙し、日本を非難するという余りにも姑息な手法である。 以上に説明してきたような内容を、政府はもっと内外に発信し、英語のみならず、中国語、ハングルなどで懇切丁寧に説明すべきである。広報戦略で日本は負けている。 ●低迷が続く中国経済 北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げを試みた件をめぐり、8月25日に開かれた国連安保理の緊急会合で、北朝鮮や中国は日本の処理水海洋放出を厳しく批判した。 そもそも安保理決議違反の衛星打ち上げと処理水の問題は全く次元が異なり、言及すること自体が難癖をつけているとしか言えない。日米韓3ヵ国による中国や北朝鮮の封じ込めに反発するのは理解できるが、それへの対抗措置として処理水問題を取り上げるのは筋が悪い。 汚染水の処理は、今後30年以上も続く話であり、中国は、日本産の水産物の禁輸をこれから30年以上も続けるのであろうか。拳を振り上げるときには、振り下げる条件とタイミングをきちんと計算しておかなければならない。 ところが、今回はそのような計算もないようで、愚策としか言いようがない。習近平や王毅が関わらない形で政策決定が行われるはずはないが、二人の顔が見えない。習近平にしては、慎重熟慮した結果とは思えない。禁輸措置は、誰の得にもならないからである。 日本の漁業関係者には大きな打撃であるが、中国でも日本の水産物輸入で生計を立てている人がたくさんいる。中国政府は彼らに補償などを与えないであろう。中国の経済には何のプラスもない。習近平政権の舵取りに異変が生じているのではないか。 中国経済は不調である。4〜6月期の実質GDP成長率は、前期比年率で+3.2%であり、1〜3月期の同+9.1%から大幅に低下している。企業の景況感も悪化している。 この不振の原因は、まずは個人消費の低迷であり、旅行需要も落ちている。団体旅行の解禁で、日本に来る中国人の爆買いに期待したいところだが、その期待はかなえられそうもない。 ●迫り来る不動産危機 次は、不動産業の業績悪化である。 中国のGDPの4分の1を占める不動産業の4〜6月期のGDPは、前年同期比マイナス1.2%となっている。48兆円の負債を抱える不動産大手の「恒大集団」が、8月18日、ニューヨークの裁判所にアメリカ連邦破産法15条の適用を申請した。また、最大手の「碧桂園」は、8月10日、今年前半の最終利益が1兆円前後の赤字に転落するという見通しを示し、米ドル建て社債の利払いができないとした。 バブルが崩壊した30年前の日本の再現である。日本政府が総量規制を講じ、加熱した不動産投資を抑えた。その結果、バブルが潰れ、今に続くデフレ、不況、沈滞の原因となったのである。 習近平政権は、現在、同じような政策を採用し、不動産会社に借り入れ上限を設けた。多額の借金でマンション開発を続けてきた不動産会社は、建設工事を継続することができなくなり、新たに売却する物件がなくなり、多額の負債を抱えることになった。また、代金を払ったにもかかわらず、新築マンションを入手できなくなった多くの国民の不満が爆発している。住宅販売の低迷が続く。 さらに、輸出入も落ち込んでいる。また、1〜6月の対中直接投資は、前年同期比マイナス9.6%(ドル建て換算)と減少している。今年の経済成長率目標は5.0%であるが、これが実現できるかどうかは微妙である。 言論の自由という観点からも、習近平政権は毛沢東時代に逆戻りしたかのように締め付けを強めている。 中国社会には閉塞感が漲っている。国民の不満への“ガス抜き”として、処理水問題で日本叩きを実行しているようにしかみえない。 |
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●日本は中国に言い掛かりをつけても汚染水海洋放出という汚点を浄化できない 8/30
日本は国際社会の疑問や反対を顧みず、福島第一原発にたまる放射能汚染水の海洋放出を強行し、全世界の海洋環境と全人類の健康に予測不可能で巨大なリスクをもたらし、国際社会の憤慨を引き起こしている。しかし日本は、過ちを正すどころか中国に矛先を向けている。多くの日本メディアが「中国国内の反日感情が激化」「中国人が日本に嫌がらせ」などと盛んに言いふらしている。 これは日本が周到に用意した世論戦の一環だ。日本政府は2年前に放射能汚染水の海洋放出計画を発表し、関連する「宣伝」や「浄化」活動も始めた。復興庁の2021年度予算を例に取ると、福島第一原発事故の風評被害を払拭する費用として20年度から4倍増の20億円を計上した。海洋放出開始当日のNHKの報道によると、外務省はいわゆる「偽情報」対策や戦略的な対外発信を強化するため、来年度予算案の概算要求でおよそ700億円を盛り込むことにしているという。日本が20年に発表した放射能汚染水の処理に関する報告書を参照すると、この「宣伝費」は、汚染水海洋放出予算のほぼ20倍に相当する。 こうしたことから容易に見て取れるのは、日本が、放射能汚染水の海洋放出という安上がりな方法を選ぶ一方で、「言い逃れ」や「口封じ」のためには金を惜しまないということだ。ある分析によると、日本が中国に言い掛かりをつける目的は、世論を惑わし、被害者面し、環境の安全と人類の健康に対する加害者としての本性を隠し、外部からの非難をかわすことだ。 中国は一貫して法に基づき中国に在住する外国人の安全と合法的権益を保障している。実際、在日中国大使館は、日本国内から大量の迷惑電話を受け、正常な運営が妨げられていることを明らかにしているが、なぜ日本の政治家やメディアはこれについて取り上げないのか。 別の角度から見ると、日本が中国に矛先を向けるのは、日本国内の政治生態と関係がある。目下、日本の政界は保守化が進み、日本社会は中国に対する否定的な認識で満ちている。「中国の脅威」を誇大宣伝し、中国に言い掛かりをつけるのが、一部の日本の政治家の常とう手段となっている。 日本は、放射能汚染水の海洋放出を強行する一方で、防衛力を強化し、米国との結託を密にし、アジア太平洋で分裂と対抗を引き起こそうとしている。そのような日本に対し、周辺国や国際社会は警戒を強めるだけだ。日本が今すべきなのは、直ちに過ちを正して放射能汚染水の海洋放出をやめることであり、その逆ではない。 |
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●高市早苗氏「対抗措置を検討」 中国をWTOへ提訴 8/30
習近平国家主席率いる中国が、在外公館への暴力を「容認」する姿勢を示した。東京電力福島第1原発処理水の放出開始後、北京の在中国日本大使館にレンガ片が投げ込まれた事件について、中国外務省報道官は日本側に責任があると主張し、危険な暴力行為を非難しなかったのだ。外国公館の安寧と尊厳を守るウィーン条約に反する可能性がある。岸田文雄政権は、国際原子力機関(IAEA)などの科学的評価を無視した、中国の日本産水産物禁輸などに対し、「万全の対応を取る」構えだ。高市早苗経済安全保障担当相は、中国を世界貿易機関(WTO)へ提訴するなど、「対抗措置を検討していく」と明言した。 「日本政府は一方的に福島の『核汚染水』の海洋への放出を始め、世界中の憤りを引き起こしている。これが現在の状況の根本原因だ」「日本がなすべきことは、直ちに過ちを正し、『核汚染水』の海洋放出をやめることだ」 中国外務省の汪文斌報道官は29日の記者会見で、北京の在中国日本大使館にレンガ片が投げ込まれた事件について聞かれ、こう答えた。 AFPの記者は「(大使館へのレンガ片投げ込みのような動きに)あなたは賛成ですか、反対ですか」と再質問した。汪氏は「私は、中国の立場を明確にしたところだ」と明確な回答を避けた。 ●「反日」過熱放置 IAEAや世界保健機関(WHO)も評価する第1原発処理水の海洋放出を、何の証拠もなく「核汚染水」と非難して、中国国内の「反日」の過熱を放置しているのは中国政府だ。 ウィーン条約第22条には、在外公館の損壊に対して受け入れ国である「接受国」は「適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」と記されている。 実は、中国政府の在外公館も、損壊被害を受けたことがある。2013年9月、在シリア中国大使館に迫撃砲弾が着弾した。中国政府は当時、「ウィーン条約を厳守し、中国と各国のシリア駐在外交機関と人員の安全を確実に保障するよう強く促す」と求めていた。 ダブルスタンダードと言われても仕方ないのではないか。 中国に詳しい評論家の石平氏は「在外公館への暴力行為は許されるものではなく、それを許した中国政府には責任がある。中国外務省の汪氏の発言は、事実や科学を無視した一方的な決めつけで暴力を容認する中国という国の本性を表している。日本がこれまで、中国の暴挙に対しても強い対抗措置を取らず、嵐が過ぎ去るのを我慢していたことから、やりたい放題やっているのだろう」と語る。 第1原発処理水の海洋放出に伴う、日本への嫌がらせ行為は今も続いている。 ●迷惑電話4千件 日本政府関係者によると、処理水放出が始まった24日以降、中国から日本の警察関連施設に4000件以上の迷惑電話の着信があった。中国の国番号「86」から警察施設への迷惑電話は東京の警視庁管内に集中し、2000件を超えた。神奈川県警管内への発信も目立った。電話はいずれも中国語で、処理水の海洋放出に抗議の意を示しているとみられ、中には電話を受けた直後に自動音声に切り替わるケースもあるという。 中国のSNSでは、日本の電話番号を複数書き込んだ画像が投稿され、抗議電話を呼びかける書き込みが確認されている。日本への迷惑電話はこうした投稿がきっかけとみられるが、中国政府は放置している。 中国の「反日暴挙」に対し、日本の政治家も対抗措置に言及し始めた。 高市氏は29日の記者会見で、中国が日本の水産物の輸入全面停止に踏み切ったことについて、中国をWTOへ提訴するなど「対抗措置を検討していく段階に入っていると思う」と語った。G7(先進7カ国)各国などと連携して対処することなども挙げた。 自民党の世耕弘成参院幹事長も同日の会見で、「科学的な根拠なく、政治的・恣意(しい)的に、特定の国の特定の水産物を全面禁輸するような国には、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に加入する資格は全くないと思う」と述べた。中国はTPPへの加入を申請している。 日本は今後、中国にどうアクションを起こすべきか。 前出の石平氏は「(暴走している)中国に対して『話し合い』は何の意味もない。彼らに『痛み』を感じさせるような対抗措置が必要だ。WTOへの提訴は当然だし、中国が国連安全保障理事会の常任理事国であること自体がおかしい。米国など西側諸国と連携して、国連の場で中国政府の振る舞いが常任理事国の地位にふさわしいかどうかについて問題提起すべきだ」と話した。 |
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●中国に変化?処理水への反発“抑える動き”も…懸念は“2012年反日デモ”か 8/30
福島第一原発の処理水放出が始まってから、31日で1週間ですが、波紋は収まりません。街を歩く中国人観光客の数は明らかに減りました。ただ、全くいないわけではありません。 中国人観光客:「(Q.お母さんは心配しない)大丈夫だと思います。もちろん心配はあります。このこと(処理水放出)が発生した後に、電話しました」 中国メディアによりますと、東京と大阪行きのチケットを検索する人は、24日以前に比べ、ほぼ半分に減ったことが分かりました。航空券の予約数も約3割減ったということです。 中国人向けに日本旅行の手配をしている会社『東日本国際旅行社』では、30日も1件キャンセルがありました。 『東日本国際旅行社』謝善鵬代表取締役:「(Q.損失額は)100万円くらい。(Q.何人の予約)10人です。これで100万円なくなりました」 コロナ前の売り上げは約16億円。それが2000万円まで減り、“さあ取り返すぞ”と新たに3人を雇い、意気込んでいましたが…。 謝善鵬代表取締役:「実際に影響が大きいのは団体旅行だと思うんですけど。解禁になったじゃないですか。中国側の旅行業者と話し合って、これからどういうツアー、企画をしようかって本当に相談しているところなんですね。急に相談が中断して、団体は今、企画を出しても応募者がいない」 上海市内の大学へ入学を控える女性。新たな生活への期待と不安が交錯します。 留学する日本人:「(Q.来週入学式ですか)9月1日です。学校が始まったら、中国人の学生と接した時に、どう思われているか、どう言われるか、私もまだ分からない。(Q.『日本人』と言うか)大々的には、たぶん言わないと思います」 不動産業を営む日本人女性は…。 不動産業の日本人:「国慶節を前にして、このような騒ぎになっているのは少し残念。近隣の国民の皆さんに安心して頂くような説明、理解を求めたうえで(放出を)始めても遅くなかったのでは」 処理水をめぐる中国国内の反発。一部の欧米メディアからは、中国政府の対応を問題視する論調も出始めています。 フランス AFP(28日):「中国では、科学的裏付けのない荒唐無稽な理論がSNSで拡散している。これらは中国国営放送や同系列のコメンテーターによって広められている」 アメリカ ワシントン・ポスト(29日):「反日感情の激化と国営メディアによる巧みな操作は、巨大な市場を利用して他国の気に入らない行動を懲らしめるという、中国政府の長年の手法と一致している。しかし、ナショナリストの“熱狂の発作”は、制御不能になった場合の潜在的リスクも含む」 アメリカ CNN(29日):「中国国外からは、こうした爆発的な非難について『どちらかと言えば、政治的要因によって引き起こされたもの』との声も出ている」 第三国からも「やりすぎじゃないか」と見られ始めるなかで、中国当局は一応、手を打ち始めました。西安市警察当局の投稿では、処理水放出をめぐり「日本車が破壊された」という投稿を、2021年のもので「デマだ」と否定し、拡散を防ぎました。 さらに、共産党系の有力紙『環球時報』は30日の社説で、日本に対する迷惑電話について触れ、中国の国民に対し、極端な言論を注意するように呼び掛けました。 過激な行動が中国全土に広がり、日本政府との対立が深まるのは、中国政府にとっても避けたいことではあります。実際、2012年には、尖閣諸島の国有化をめぐって、デモが全土に広がり、大きな混乱が起きました。ただ、「弱腰だ」と捉えられたくないのも本音なので、書きぶりはこうなります。 環球時報社説(30日付):「中国社会が憤慨しているのは、日本の海への放出を強行したという、自己中心的な行為そのものであり、日本国民に向けるものではない。これに関して、日本政府は百も承知だ。しかし、政府自身への指摘を一般の日本人に転嫁しようと試み、2つの国の国民の対立を引き起こそうとしている」 ●処理水放出への反発…鎮静化は? 現代中国に詳しい東京大学大学院の阿古智子教授に聞きます。 (Q.中国の一連の動きをどうみていますか) 阿古教授「中国政府は、日本の処理水放出を認める気はないと思います。ただ、これほどエスカレーションしてしまうのは、中国にとっても不利な要素が出てきます。2012年の反日デモの時の苦い経験もあるので、何とか抑えようとしているのではないでしょうか」 2012年9月、日本の尖閣諸島国有化に対して、日本車襲撃事件や、日本大使館前でのデモなど、中国各地でデモが多数発生しました。阿古教授によりますと、これらのデモが中国政府への批判のデモにもつながっていったということです。 (Q.反日デモが、なぜ中国政府批判のデモにつながっていったのですか) 阿古教授「2012年のデモでは毛沢東の写真を掲げる人たちもいました。中国では過去に、薄熙来という政治家が、毛沢東を持ち上げて『貧富の差を解消していこう』と主張していました。中国は社会主義ですが、権力を持つ者が富を牛耳る形になっていて、役人の腐敗も深刻になっています。そうしたなかで『政府は弱腰で、社会を良い方向に変えていっていない』『国際的にもっと強い国になるべき』と。反日でデモが始まりましたが、中国が抱えている問題に目を向けている人たちが、反日と全く関係ないプラカードを掲げ始めました」 (Q.今と重なる部分もありますか) 阿古教授「重なる部分は非常にあります。中国では今、不動産の状況も深刻で、非常に多くの会社が倒産に追い込まれているということです。会社を維持しているだけでも損益がどんどん出てしまうため、整理していこうとする人が増え、新たに投資しようとする人たちが減っているということです。公務員なども給料が下がっている地域もあるということです」 (Q.今回も反日デモが中国政府へのデモになる可能性がありますか) 阿古教授「過激な行動や、集団が街頭に出てきて暴力行為に発展してしまうことは、いくら反日と言っても、社会的矛盾を抱えている状況で、中国政府にとっても非常に恐いと思います」 (Q.中国政府が速やかに沈静化を図ることはありませんか) 阿古教授「そうですね。一つは、中国にある社会問題から目を背ける部分もあるかもしれません。反日デモを全て押さえてしまうと、そういった人たちのガス抜きをすることができないからです。その辺の経験を、中国はたくさん積んでいて、ネット空間にどんな意見が出ているかを常時チェックしています。そのなかでバランスを取っていく。削除などは容易にできるので、コントロールできます」 (Q.中国国民は反日で固まっていますか) 阿古教授「固まっていません。中国では、日本の食べ物やグッズなどが日常的にあります。日本料理店などもコロナ後、非常に増えました。そのため、過激な反日感情は中国にも影響を与えてしまいます」 (Q.日中の草の根レベルも含めたつながりが維持されていけば、一縷の望みになりますか) 阿古教授「コミュニケーションをしっかりして、どういう人たちがどういう意見を出しているのかを、日本でも分析する必要があります。処理水の問題は世界的に注目されているので、しっかりとコミュニケーションしてほしいと思います」 |
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●中国メディア 処理水めぐり 日本への批判を連日報道 8/30
東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水を薄めて海に放出する措置をめぐり、中国メディアは連日、新聞やテレビなどで日本を批判する報道を続けています。 このうち、中国共産党系のメディア「環球時報」は30日の社説で、日本国内で中国の国番号で始まる嫌がらせの電話が相次いでいることなどを日本政府が非難していることについて、「日本を中国にいじめられる被害者に仕立て上げ、同情を買おうとしている」と主張しました。 その上で「この問題の本質は両国間の争いではなく、日本が全人類に危害を及ぼす悪事を働いたことにある」と強調し、強く反発しています。 環球時報は29日も「日本が卑劣な手段で逆ギレしている」と題した社説で「日本が国際世論にうその情報を大規模かつ集中的にばらまき、無責任な行為を覆い隠した上に、正当性まで求めている」と批判していました。 中国では、メディアが厳しく統制されていることから、当局の意向を受けているとみられますが、これまでのところデモなど、大きな抗議活動は起きていません。 ただ、来月には▽3日に中国政府が定めた「抗日戦争勝利記念日」が、▽18日に満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日などが続くことから、現地の日本人社会では警戒感が強まっています。 ●中国の垂日本大使 日系企業の代表と意見交換 北京に駐在する日本の垂秀夫大使は29日、処理水の放出をめぐり、中国で事業を行う複数の日系企業の代表と意見交換を行いました。 北京の日本大使館によりますと、意見交換では、垂大使が処理水の放出をめぐる日中関係の現状などを説明したということです。 企業側からは、処理水の放出に対する中国国内の反応によるビジネスへの影響について懸念が示され、垂大使は、問題が起きた場合は大使館にいつでも連絡してほしいと呼びかけたということです。 中国では処理水の放出以降、日本産の水産物の輸入が全面的に停止されたほか、一部の日本の商品を買わないよう呼びかける動きも見られています。 日本大使館は今後も日系企業への聞き取り調査を行いトラブルがないかなど、情報収集を続けることにしています。 ●中国 “措置は正当で合理的で必要なもの” 処理水の放出をめぐり、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止するなど反発を強めていることを受けて、日本国内では、WTO=世界貿易機関への提訴も検討するよう求める意見が出ています。 こうした動きについて、中国外務省の汪文斌報道官は30日の記者会見で、「日本政府が『核汚染水』の放出を強行した身勝手で極めて無責任な行動に対し、国際社会は、みな批判し関連する防止措置をとっている」と述べました。 そのうえで、「中国の担当部門が、中国の法律とWTOの関連する規定に基づいて原産地を日本とする水産物に対し緊急の措置をとったのは完全に正当で合理的で必要なものだ」と述べ、日本の水産物に対する輸入停止措置の正当性を主張しました。 ●外務省に中国から電話500件 外務省の小野日子外務報道官は記者会見で、今月25日から29日までの間に外務省の代表電話に、中国の国番号から発信された嫌がらせの電話が、およそ500件かかってきたことを明らかにしました。 電話の件数は減少傾向にあるということです。 小野外務報道官は「極めて遺憾で憂慮している」と述べました。 |
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●「汚染水」呼称見直しを韓国で与党が主張 「汚染処理水」への変更を提案 5/30
東京電力福島第1原発の処理水を巡り、韓国で一般的に使われている「汚染水」との呼称を見直すべきだとの主張が30日、与党「国民の力」から相次いだ。水産物への風評被害を懸念する水産業界は「処理水」と呼ぶよう訴えている。 聯合ニュースによると、国民の力の報道官が記者団に「『汚染処理水』として公式化するべきだ」と述べた。別の与党議員も「(野党などが)汚染水や核廃水と呼ぶのは(政府に対する)政治攻勢のためだ」として、汚染処理水と呼ぶよう提起した。 金起Rキムギヒョン代表は、党として公式の立場を決めた段階ではないとしつつ「国際的には『処理水』と表現している」と理解を示した。 ●漁業者団体は「汚染水」に拒否反応 水産業協同組合中央会の盧東進ノドンジン会長は同日、「今後すべての漁業者は『汚染水』から『処理水』へ呼称を変更する」と表明。「多核種除去設備(ALPS)で浄化された水を、しきりに汚染水と言うことに拒否反応がある」と訴えた。 尹錫悦ユンソンニョル政権が処理水の海洋放出を事実上容認したのに対し、最大野党「共に民主党」などは連日強く批判している。政府は当面、汚染水の呼称を維持する方針。ただ、韓悳洙ハンドクス首相は30日の国会で呼称変更について「検討する」と述べた。 |
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●迷惑電話沈静化見えず 処理水海洋放出 福島県内で29日に1800件 8/31
東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が始まって1週間となる中、中国からとみられる福島県内への迷惑電話は沈静化の動きが見えない。県と各市によると、29日だけで少なくとも1800件の電話があった。一部の自治体で急増したり、学校や文化施設などに関連施設に電話があるなど関係者は対応に苦慮している。 県よると、県庁には29日だけで、それまでの総数に迫る約1300件の電話があった。代表の番号に昼夜を問わずにある状況という。福島市でも29日、市役所や学校などに合わせて前日の3倍に当たる450件の迷惑電話があった。発信先は中国以外の国もある他、「処理水を流さないで。なぜ流したんだ」「日本の食べ物を食べられない」という旨の翻訳テープが流れるなど内容は多様になっているという。担当者は「29日の政府への緊急要望に反応しているのかもしれない。今後も状況把握に努める」と話した。 県警本部によると、本部や各署には29日昼までに107件の相談が寄せられているという。 |
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●処理水放出「福島で黒い水・魚が突然変異・イワシ多量死」中国で偽情報拡散 8/31
福島第一原発の処理水の放出を巡って、中国のSNSでフェイク情報が蔓延(まんえん)しています。福島で黒い水が流れているとされる映像を検証しました。 ●ニセ映像…動画を送られた男性「怒り」 「日本はひどいことをする」。そうした言葉とともに、中国人の知人が日本人の男性に送ってきた動画です。 海に黒い水が流れ込み、広範囲に広がっていく映像。中国人の知人は、「日本にいる中国人が処理水放出の様子を撮ったもの」だとして送ってきました。 動画を送られた男性「(Q.映像を見て、どう思った?)怒りですね。ふざけるなという感じですね」 動画内で撮影者が話している言葉をよく聞いてみると、話しているのは中国語ではなく、スペイン語です。 撮影者(スペイン語)「排水だ。完全に真っ黒な水。そしてゴミ。直接、我らが海へ」 動画が撮影されたのは、スペイン語が公用語となっているメキシコだとみられます。 これは2020年に撮影された映像で、ロイター通信は、海に未処理の下水が流れ込み、原因は下水管の破損とみられると報じていました。 動画を送られた男性「日本人はみんな(偽映像と)分かると思うが、日本を見たことも行ったこともない人は、すぐ(信じてしまう)ですね」 ●魚の“大量死”“突然変異”…中国でニセ情報拡散 中国のSNSには、関係のない映像を処理水の放出と結び付けたとみられるフェイク情報が、次々と拡散しています。 日本製化粧品の不買を呼び掛けた動画では、福島県の近くで魚の大量死が起きたかのような主張を展開しています。 中国のSNSから「今年2月のニュースで、新潟県で大量の死んだ魚が出現しましたが、新潟県は福島県の隣に位置しています」 一方、テレビ朝日が2021年に撮影した映像です。場所は新潟ではなく、東京の三宅島。波浪警報が出て強い風が吹くなか、イワシが大量に打ち上げられたニュースで使用されました。 同じ動画の中では、突然変異したと主張する魚まで登場します。 中国のSNSから「1月から5月にかけて、漁師たちは福島県の海域で、放射能で変異した魚を捕獲しました」 ●魚釣り上げた日本人の男性「在来の魚です」 SNSで使われていたものと同じ写真がありました。2015年、8年前にすでにSNSに投稿されています。魚を釣り上げたのは、日本人の男性です。 この男性が取材に応じました。 生物ライター 平坂寛さん「(Q.魚の名前は?)オオカミウオという魚です」「(Q.元々、日本にいる魚?)そうですね。日本では北海道の道東、オホーツク海に主に分布している在来の魚です」 黒潮生物研究所で客員教授を務める平坂さん。海洋生物の捕獲・研究を行っています。 画像は福島ではなく、北海道・知床の周辺海域で撮影したものでした。 平坂さん「こういうふうな使われ方をしているとは知らなかったので、驚いている。元々が、この姿の魚なので。敬意をもって接してほしいと思う」 ●韓国は冷静な対応 一方で中国は… 処理水の放出については、韓国でもSNSを中心にフェイクニュースが流れていますが、尹錫悦大統領をはじめ政府側は冷静な対応をしています。 韓国・海洋水産部(28日)「8月24日、汚染水の放出が開始された直後、福島原発付近の海域の色が変わる写真がインターネットで拡散していることを確認しました。海面が黄色く見えるのは、潮の流れが強いためであり、これは福島沖でよく見られる現象です。つまり、当該写真での現象は極めて自然な現象であり、汚染水放流と連携する事案ではありません」 一方、中国では30日、共産党系の有力紙・環球時報の社説で、日本に対する迷惑電話について触れています。中国の国民に対し、極端な言論には注意するようにと呼び掛けました。 中国の国番号から相次いでいる日本への迷惑電話をやめるよう求める内容かと思いきや、迷惑電話を受けた日本が被害者ぶって同情を買おうとしているので、日本の悪だくみに乗らないよう自制すべきだと主張しました。 環球時報の社説(30日付)「東京の悪だくみに警戒を。この問題で騒ぐ日本政府の意図は陰湿で、日本を中国にいじめられる被害者にして、同情を買おうとしている。中国社会で極端な感情をあおるような発言には特に注意が必要だ」 ●三重の旅館にも迷惑電話「こんな身近なところにも」 一方、迷惑電話は、今も各地に掛かってきています。 実際に掛かってきた電話音声「(中国語)お前たちは、全人類を滅ぼした!」「(中国語)おまえたちは、やめろ!」 福島の原発からおよそ500キロ。三重県志摩市の旅館に掛かってきた電話には、笑い声がまじった罵声が記録されていました。 実際に掛かってきた嫌がらせ電話音声「(中国語)もしもし、こんばんは」「(中国語)中国語は?俺の中国語は分かるのか?」 季彩の宿 沙都邑 支配人「(電話番号の)86は中国ですよね。ニュース等で内容は聞いておりましたが、どちらかでいうと他人事的な話じゃないですか。こんな身近なところにも、自分の周りにもそういうことが起きるんだなというのは感じました」 外務省は中国側に対し、国民に冷静な行動を呼び掛けるよう強く求めてます。 |
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●処理水問題で中国猛反発を「想定外」とする拙劣さ 8/31
岸田文雄首相の”裁断“を受けて、東京電力福島第一原発事故に伴って発生し続ける「アルプス処理水」の海洋放出が始まってから1週間。猛反発する中国政府が「国民的な日本製品ボイコット」の動きを煽るなど、国内だけでなく国際社会での日本政府と東京電力による「放出強行」への不信や反発が拡大し続けている。 放出を主導した岸田首相は連日、外交ルートを通じて中国政府への抗議と「水産物全面禁輸措置」の撤回要求を繰り返すが、中国側は「聞く耳も持たない態度」(官邸筋)だ。そもそも、今回の中国側の対応を「想定外」とすること自体に「岸田外交の拙劣さ」(自民幹部)が際立ち、支持率低迷による政権危機も加速させかねない状況となっている。 ●「最後は自分が収める」と岸田首相 内外に複雑な波紋を広げる「処理水海洋放出」決定までの経緯を振り返ると、岸田首相の8月18日のアメリカ・バイデン、韓国・尹錫悦両大統領との日米韓首脳会談からの帰国を受け、政府は22日午前、関係閣僚会議で24日の海洋放出開始を決定。これに先立ち岸田首相はアメリカからの帰国翌日の20日に福島第一原発を視察、翌21日には漁業者代表らと面会して、理解と協力を求めた。 もともと政府は、関係者の説得を含め、ぎりぎりまで“円満決着”を狙っていたが、「岸田首相がアメリカからの帰国時に『最後は自分が前面に立って収めるしかない』と腹を決めた」(官邸筋)のが実態とされる。 もちろん、風評被害の当事者となる福島、宮城、岩手各県などの漁業者には「安全と安心は別問題」との政府への不信、不満が渦巻いている。このため政府は、風評被害対策と漁業継続支援に計800億円の基金を設置して「損害が生じれば東電が賠償する」方針を打ち出し、岸田首相も「基金活用や東電による賠償など、漁業者救済のため万全の体制を取る」と決意表明した。 岸田首相は24日の放出開始を受け、漁業者支援に総力を挙げる方針をアピール。中国の「日本の水産物・加工食品の全面禁輸」という厳しい措置には、すぐさま外交ルートを通じて即時撤廃を求めるとともに、風評被害対策への「万全の取り組み」(農水省)を決めたことなどは、「『放出強行』による政権運営へのダメージ回避を狙ったもの」(官邸筋)だったが、状況はさらに悪化しかねないのが実態だ。 ●日程上から「8月24日放出開始」決定 そもそも、政府が処理水を「夏ごろ」に放出する方針を決めたのは今年1月。それを受けて政府部内では、放出時期について「8月の上、中、下旬のいずれか」とする方針を固めた。ただ、放出に強く反対する中国との国際会議での厳しいやり取りを避けるため、まず「上旬」を断念。さらに18日の日米韓首脳会議と重なる「中旬」も見送られ、「下旬」だけが残った。 さらに8月25日は被災地の岩手県議選の告示日で、9月3日は県議選と同県知事選の投開票日となるため、「選挙への悪影響を最小限とするには24日しかないとの結論に達した」(官邸筋)というのが実状だ。 その際、政府関係者が腐心したのが漁業者らの「理解とりつけ」。政府は2015年、「関係者の理解なしに放出しない」と福島県漁連に約束していたためで、岸田首相らは、今年7月に西村康稔経済産業相が福島県漁連と面会した際、同漁連側が「40〜50年後に廃炉がなされた時、福島の漁業が存在していて、初めて理解が成り立つ」との主張に着目。「『廃炉』を処理水放出の理由とすれば、『一定の理解』が得られる」(官邸筋)と判断し、「廃炉まで政府と東電が寄り添い続ける姿勢を示すことにした」(同)という。 これを受け、岸田首相は8月20日の福島第一原発視察に合わせ、東電幹部と面会して「廃炉の期間中、長期にわたって万全の対応を持続し、内外の信頼を裏切らない決意と覚悟を」と檄を飛ばした。 ただ、処理水海洋放出を受けた大手メディアなど各種世論調査の結果をみると、国民の間で「放出への一定の理解」が多数派となった反面、「政府の説明不足」との反応は半数を大きく上回っている。さらに政界でも、24日放出に至った経緯を踏まえ「政権側の都合だけを優先した弥縫策の積み重ね」(立憲民主幹部)との批判が相次ぎ、30日の与野党協議の結果、9月8日に衆院で閉会中審査を実施することが決まった。 ●「中国はいずれ国際社会で孤立」と強気だが… こうした状況下、岸田首相ら政府・与党幹部は「そもそも放出している処理水の安全性は国際原子力機関(IAEA)のお墨付きを得ているし、国際社会の大多数が今回の日本の対応を理解している」(官邸筋)と力説。「異常な対応を続ける中国は、いずれ国際社会で孤立する」(自民幹部)と表向きは強気の構えだ。 しかし、中国国内では「すべての日本製品の不買運動」が広がり、中国発とみられる国際電話での嫌がらせなども急拡大。官公庁の関係部署だけでなく、食料品や飲食の個別店舗まで「嫌がらせ抗議電話」に悩まされ、商売に悪影響を及ぼすような状況が続いている。 もちろん、中国在住の日本人の不安は拡大するばかりで、政府は駐中国の日本大使館広報から「外出の際は大声で日本語を話すことは控えてほしい」などと要請している。こうした中国の現状には、「日本政府が尖閣諸島を国有化した際に、中国国内で反日デモが続発、デモ隊が暴徒化して日本の店舗などを襲撃した状況に似てきた」(在中国の日本人経営者)との見方も広がる。 そもそも、独裁体制を確立した習近平主席が下した「全面禁輸措置」は、「面子にこだわる中国にとって、振り上げた拳は余程のことがない限り降ろすはずがない」(日中関係者)のは当然だ。「いくら政府が科学的根拠に基づく協議を求めても、中国は取り合わない」(同)という状況は、年単位での長期化となる可能性が少なくない。 その一方で、「その間、日本の対中貿易が停止・凍結状態になれば、日本国内の影響だけでなく、中国の経済危機にもつながる」(同)ことも想定され、「まさに我慢比べの状況に陥るが、解決への展望はまったく見通せない」(日中議連幹部)からだ。 すでに、日本国内でも中国の対応についての批判、反発が拡大の一途。SNS上などでも「中国の製品は廃棄すべき」「中国大使館に抗議デモをかけろ」などの書き込みがあふれている。 その一方で、多くの国民の間で、福島原発事故とその後の政府と東電の対応について、「両方とも嘘つき。まったく信用できないとの声が根強い」(福島県幹部)のも事実。それだけに、今後、世論調査で際立つ「説明不足」との批判に対し「岸田首相が『語る力』を示せないと、衆院解散どころか政権危機を加速させるだけ」(自民長老)との不安は広がるばかりだ。 |
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●岸田首相、福島県産魚介「おいしい」アピールも…批判強める中国の対処は? 8/31
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出が進む中、岸田文雄首相は30日、官邸で開いた閣僚との昼食会で福島県産の食材を使った定食を食べて安全性をアピールした。 鈴木俊一財務相らとテーブルを囲んだ首相。食卓に上がったのは29日に福島県沖で水揚げされたヒラメ、スズキ、タコの刺し身のほか福島県産のコメや野菜、スイカなど。首相はヒラメをかみしめて「歯ごたえがやっぱり違うね。コリコリ感が。大変おいしいです」と舌鼓を打ち、完食。中国が日本産水産物の輸入を全面停止する中、安全性をアピールし風評払拭につなげるためのパフォーマンスを披露した形となった。 日本政府にとって煮ても焼いても食えない状態になっているのが中国だ。海洋放出からきょう31日で1週間。周辺の海水や魚の放射性物質トリチウム濃度に異常はないが、放出に反対する中国では当局やメディアによる対日批判が過熱し、国民の不信感をあおっている。 国営通信新華社は「国際社会は日本の核汚染水放出をやめさせるべきだ」といった英文の論評などを連日配信。SNSでは食品に限らず化粧品や電化製品など処理水と無関係な日本製品も標的に不買の呼びかけが拡大している。日本全国への中国からとみられる迷惑電話も止まる気配がない。中国外務省の報道官は「現在の局面を招いた根本的な原因は、日本政府が核汚染水の海洋放出を強行し、国際社会の憤慨を引き起こしたことにある」と日本への嫌がらせを非難する気配はない。 こうした中国の反応に対し、30日に開かれた自民党外交部会では日本政府に対して情報発信を強化するよう要請する声が続出。青山繁晴参院議員は、首相らが迷惑電話などを遺憾と表現していることを念頭に「遺憾の表明だけでは全く足りない。むしろ国民の不満を呼ぶ」と訴えた。 首相は9月上旬に李強首相との首脳会談を調整しているが、日中関係の急速な冷え込みで困難との見方が強い。過熱する対日批判の収束に向けて中国に太いパイプを持つ二階俊博元幹事長に頼らざるを得ない緊急事態だ。くしくもこの日の夕食どきに日本料理店と中華料理店をはしごした首相には、パフォーマンスだけでなく結果が求められている。 |
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●日中関係は「氷河期」に逆戻りか。処理水放出問題で再燃する反日感情 8/31
●ALPS処理水放出を決定した岸田政権と各国の反応 8月24日、日本政府が福島第一原発ALPS処理水の海への放出を開始しました。原子力分野で専門的知見を持った国連組織であるIAEA(国際原子力機関)から、ALPS処理水の海洋放出について、国際安全基準に合致していることを結論付ける報告書が7月4日に公表されたのを受けての措置と言えます。これを受けて、EU(欧州連合)やスイス、ノルウェー、アイスランドは日本産の水産物輸入に課していた規制を撤廃すると発表しました。 EUは日本のこれまでの取り組みを評価する一方、福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に流す計画を念頭に、日本政府に対し国内の放射性物質の監視を続けるよう求めています。報告書を発表したIAEA、放出中・放出後についても長年にわたってALPS処理水の海洋放出の安全性確保にコミットするスタンスを堅持しています。 IAEAからお墨付きをもらい、海洋への放出が実現して終わり、では決してないことは疑いありませんし、日本政府だけでなく、地域社会、関連業界、国民を含め、「フクシマの悪夢」は決して終焉(しゅうえん)したわけではないことを、肝に銘じ、行動していく必要があるでしょう。 日本に近い韓国、台湾も、IAEAという専門家集団が提示した科学的根拠を尊重する、同時に、日本が国際的な基準に合致する形で放出を行うようモニタリングをし、促していくという立場を保持しつつ、日本からの水産品に対しては一定の輸入規制を維持していくもようです。 ●中国は反発。香港も同調 そんな中、日本の決定と行為に対して断固たる反対を展開しているのが中国です。ALPS処理水を「核汚染水」と定義し、官製メディアを含め、この文言で日本政府の決定がいかに危ないかに関してネガティブキャンペーンを張っているのが現状です。 具体的には、次のような動向が見られます。 8月22日 中国外交部 孫衛東副部長が日本の垂秀夫駐中国大使に抗議 8月24日 中国外交部 外交部報道官が「六つの『していない』」という観点から日本政府の決定に反対 8月24日 中国駐日大使館 呉江浩大使が岡野正敬外務次官に抗議 8月24日 中国税関総署 日本全国からの水産物輸入を全面的に禁止 8月25日 国家市場監督管理総局 中国国内の食品業界に対し、日本の水産物の加工、調理、販売を禁止 垂駐中国大使を呼び出した孫副部長は、「日本政府は国際社会からの強烈な疑念と反対を無視し、福島の核汚染水を海に排出することを頑なに発表した。この行動は、中国を含めた周辺国家、国際社会に核汚染のリスクを転嫁するものである」と主張。 外交部報道官が韻を踏むように、「日本政府」を主語に提起した「六つの『していない』」というのは、次のものです。 1.海への放出に関して決定の正当性、合法性を証明していない 2.核汚染水の浄化装置を巡る長期的信頼性を証明していない 3.核汚染水をめぐるデータの真実性、正確性を証明していない 4.海への放出が海洋環境や人類の健康安全に無害だと証明していない 5.観測方法を巡る十分性、有効性を証明していない 6.ステークホルダーと十分な協調をしていない 中国政府が堅持するスタンスは、香港政府にまで波及しています。処理水放出を受けて、香港政府(マカオ政府も)は、福島や東京など10都県からの水産物輸入を禁止すると発表しました。私自身、2018〜2020年まで香港に住んでいましたが、率直に言って、香港ほど日本の食材や商品が市民の日常生活で普及していて、市民が日本食に親しみを感じている地域を私は目撃したことがありません。ある意味、香港は世界一「親日的」な社会だと思いました。 農林水産省の統計によれば、昨年、日本から香港への水産物の輸出額は755億円で、中国本土(871億円)に次ぐ2位の輸出先となっています。人口750万人の香港が、人口14億人の中国本土に近い額の水産物を輸入しているわけですから、日本の水産物はいかに香港社会に浸透しているかがよく分かります。 日本の水産業界への打撃という観点から見ると、昨年の中国本土、香港へ輸出された水産物が水産物輸出総額に占める比率はそれぞれ22.5%、19.5%で、全体の42.0%にも達しています。今回の中国の禁輸措置、香港の輸出制限措置が日本の水産業界に与える影響は決して小さくないということです。 特に2020年の「国家安全維持法」施行以降、政治や外交で中国政府への同調を求められてきた香港政府ですが、今回の措置はその典型と言えます。香港は引き続きアジア有数の国際金融センターであり、ビジネスハブです。そんな香港の「北京化」は、アジアを舞台にビジネスを展開する日本企業にとってもリスクになるでしょう。 ●再燃する「反日感情」と懸念される経済活動への影響 日本政府による処理水放出開始、中国政府による猛烈な反発を受けて、中国国内では再び「反日感情」が再燃しているように見受けられます。ここ数日、日本メディアをにぎわしているように、中国で日本人に対する嫌がらせの電話が相次ぎ、確認できているだけでも、山東省青島市にある日本人学校に石が投げ込まれ、江蘇省蘇州市にある日本人学校に複数の卵が投げ込まれています。北京市の日本人学校にも無言電話があったといいます。 北京にある日本大使館は在留邦人に対し、外出時に不必要に大きな声で日本語を話さないようにするなどの慎重な行動を呼び掛けていますが、同館がこのような警告を出すこと自体、異常事態だと思います。 私は2003年から2012年まで北京で生活をしていましたが、特に2005年、2010年、2012年は、歴史や領土に関わる問題を引き金に、北京や上海といった大都市を中心に「反日デモ」が吹き荒れました。私自身、目の前で日本の飲食店や日本車がデモ隊に攻撃されるといった場面を見てきました。自らが日本人であること、日本語を話すことで、道端で殴られるんじゃないか、差別的な扱いを受けるのではないかといった恐怖を感じたのを覚えています。 今現在中国で生活している日本人、および日本関連の事業に関わっている中国人は、同じような恐怖を感じているのだと察します。中国における日本料理店では、お店で出している刺身が日本産ではないことを必死にアピールするといった現象が散見されます。 言うまでもなく、「反日感情」の再燃は日中経済関係に不可避的に影響を与えるに違いありません。水産物(品)だけでなく、他の業界、商品にまで「日貨排斥」運動が波及する可能性は十分にあります。日本企業で働くこと、日本語を勉強すること、団体旅行が解禁された後になっても、日本に旅行に行くことをやめる中国人はゴマンと出てくると思います。 と同時に、中国でビジネスを展開する日本企業が中国政府、企業、世論、地域コミュニティから嫌がらせを受けたり、場合によっては、昨今「反スパイ法」の観点から懸念される邦人拘束リスクが上昇したり、といった事態も十分考えられます。 中国における「反日感情・運動」は日本経済と切っても切り離せない関係にあるのです。 |
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●日本が処理水海洋放出も、韓国では「ノージャパン」再熱見られず― 8/31
2023年8月30日、韓国・アジア経済は「日本が福島第一原発の処理水の海洋放出を開始したが、韓国でノージャパン(日本製品不買)運動再熱の動きは見られていない」と伝えた。 韓国のノージャパン運動は19年に日本の対韓輸出規制強化措置を受けて始まり、車やビール、衣料品が主なターゲットとなって日本企業に大きな打撃を与えた。 記事によると、韓国の大手コンビニチェーン「GS25」の最近1週間(22〜26日)の日本産ビールの販売数は前月同期比35%増加し、輸入ビールが1.2%減少したこととは対照的だった。コンビニチェーン「CU」の状況も同じで、日本産ビールの販売数は前月同期比13%以上増加したが、輸入ビールは1桁台の成長にとどまったという。 記事は「日本が処理水放出を開始したことで、日本製品に対する不信感が不買につながるとの見方が強かったが、消費者の選択は違っていた」とし、「特に韓国で5月に発売されたアサヒスパードライ生ジョッキ缶は入荷されるとすぐに完売している状況で、コンビニごとに差はあるものの、発注数も1店舗当たり20本前後に制限されている」と説明した。 大型スーパーの状況も同様で、ある流通業界関係者は「アサヒスパードライがなければ他の日本産ビールでもいいから買って飲むという消費者が増えたことで、1年前に比べ販売数は数百パーセントアップした」「処理水放出の影響はないと見るべきだ」と話したという。 韓国の政界では野党を中心に、処理水放出をノージャパン運動につなげようとする動きがあったが、仁荷大学のイ・ウンヒ消費学科教授は「過去の狂牛病騒動とノージャパンから学習した消費者は各々の判断で消費するかどうかを決めるだろう」とし、「政治問題と消費を連結させようとすることに対しても違和感を覚える消費者が多いため、不買運動を過熱させるのは難しい」と指摘したという。 この記事を見た韓国のネットユーザーからは「政治家の扇動にはもうだまされない」「輸出に頼る国で不買運動をすることは、愛国ではなく異常な状態といえる」「仕方ないよ。日本のビールはおいしいから」「ノージャパンうんぬんじゃなく、日本のビールを飲んだらもう韓国のビールは飲めない」「いまだに生ジョッキ缶が買えていない。みんなそればかり飲んでいるのか?」などの声が寄せられている。(翻訳・編集/堂本) |
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●野村農水相が謝罪、処理水を「汚染水」と表現 「言い間違い」と撤回 8/31
東京電力福島第一原発の処理水をめぐり、野村哲郎農林水産相は31日に首相官邸であった関係閣僚会議に出席した後、処理水を「汚染水」と表現して記者団に説明した。岸田文雄首相は直後に野村氏の発言について謝罪し、撤回するよう指示。野村氏は「言い間違った」と陳謝した。 野村氏は、首相や西村康稔経済産業相らとの会議に出席後、記者団に会議の内容について「汚染水のその後の評価等について意見交換をした」などと述べた。閣僚会議後に記者団の取材に応じた首相はこの発言について「遺憾なことであり、全面的に謝罪するとともに撤回することを指示した」と語った。 首相の指示を受け、野村氏は農水省内で記者団に「処理水を汚染水と言い間違った。全面的に謝罪して、撤回したい。福島県の皆さんをはじめ、関係者に不快な思いをさせて申し訳なかった」と語った。辞任は否定した。 野村氏は「反省を踏まえ、改めて緊張感を持ち、水産事業者に寄り添った対策の実施に尽くしたい」と述べた。そのうえで、「普通の会話で『汚染水』は使っていない。なぜこの言葉が出てきたのか分からない」と弁明した。 処理水は、核燃料を冷やす冷却水などと混じった汚染水から多核種除去設備(ALPS)で大半の放射性物質を除去し、海水で薄めたもの。中国は処理水を「核汚染水」と呼んで海洋放出に強く反発し、日本の水産物の全面禁輸に踏み切った。 |
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●原発処理水海洋放出 この一週間トリチウム濃度はいずれも「検出限界値未満」 8/31
東京電力によると、2023年度は、約3万1200立方メートルの処理水を放出する計画だ。 放出開始が始まり8月31日で8日目。 1日当たり約460トンの処理水が放出されていて、31日午後5時の時点であわせて3244トン放出した。 東京電力が現在毎日発表している海域モニタリング。福島第一原発から3キロ以内の10地点で海水のトリチウム濃度を調査している。これまでの測定結果はいずれも「検出限界値未満」で、30日採取した海水も最大でも1リットルあたり7.7ベクレル未満で基準の700ベクレルを下回っている。 水産庁は、放出口から4〜5キロ地点で採った魚からトリチウム濃度の検出を行っていて、30日の採取では検出されなかったということだ。 このほか、福島県や環境省もホームページで海水の濃度を週に1回程度公表するということ。この1週間のタイミングで福島県の内堀知事は、改めて政府に責任ある対応を要望した。 |
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●処理水放出1週間 中国の日本産水産物輸入停止で各地に影響 8/31
東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まってから31日で1週間です。中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことで、各地に影響が広がっています。 ●宮城 水産加工会社 “ホタテ約100トン 4億円相当”出荷できず 宮城県内の水産加工会社の中にはホタテの出荷量が大きく減ったというところもあり影響の広がりが懸念されます。今月24日に福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まったことを受けて、中国の税関当局は日本産の水産物の輸入を全面的に停止しました。中国は日本の水産物にとって最大の輸出先で、輸出額の半数をホタテが占めています。宮城県石巻市の水産加工会社「ヤマナカ」は週に1回、香港にホタテの貝柱を生の状態で出荷していましたが、放出後は出荷が止まっているということです。また、国内向けとして市場に出しているホタテも放出日以降、買い手が付きにくくなったため、現在の1日の出荷量は放出前の半分から3分の2程度に減ったとしています。こうした影響もあり、早めに仕入れていたホタテおよそ100トン、4億円相当が倉庫の中で出荷できない状態だということです。千葉賢也社長は「保管するだけでも大きな負担ですが、この先も販売先がないのではないかと懸念しています。『放出前に水揚げしたホタテをお願いします』という話も聞こえてきていて、販売に制限がかかると、商売への影響は大きいと感じます」と話していました。 ●高知 水産事業者「長期的な影響は計り知れない」 中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止したことで、高知県内の水産事業者にも影響が出ています。このうち大月町でマグロなどの養殖事業を手がける「道水中谷水産」は、中国に向けてクロマグロとハマチを輸出していますが、先月はじめに中国側の通関が滞るようになり、輸出を止めざるを得なくなったということです。この会社の中国向けの出荷量は、クロマグロは全体の17%、ハマチは全体の10%をそれぞれ占めているということです。唐澤薫社長は「中国本土だけではなく、香港やマカオへの輸出も止まっているため、養殖業全体への影響は大きい。クロマグロは例年10月ごろから出荷量が増えるので、長期的な影響は計り知れない」と話しています。また、宿毛市でブリの養殖や加工・販売を手がけている「勇進」は、ことし初めて中国に輸出した「ブリのわら焼きタタキ」が好評だったため、来年は倍の3トンを輸出する予定だったということです。しかし、輸出できるかが見通せなくなり、代わりの販売先が見つからなければ、およそ900万円の損失につながるということです。 ●福島 卸売市場で変わらぬ取り引き 高値の落札も 福島県いわき市の中央卸売市場では福島沖で水揚げされた魚が放出前と変わらない様子で取り引きされ、中にはふだんより高値で落札されるものもありました。いわき市中央卸売市場では、31日朝6時ごろから取り引きが始まり、競り場には福島沖で水揚げされたタイやスズキ、それにヒラメなどの魚が並びました。威勢のよい掛け声が響き渡り、「常磐もの」を代表するヒラメの中にはふだんより1割ほど高値で落札されるものもありました。処理水の放出をめぐっては水揚げされた魚への風評被害が懸念されていますが、この市場によりますと、これまでのところ取り引き価格に大きな変化はないということです。いわき市で水産仲卸会社を経営する鈴木孝治さん(62)は、「最初は不安でしたが、全国の人が買って応援してくれているので、売値に影響はありません。あすから底引き網漁が解禁され、市場に出回る魚も増えるので、さらに活気づいていくといいと思う」と話していました。 ●高知 レストラン 嫌がらせ電話や予約キャンセル相次ぐ 高知市のレストランでは、中国からと見られる嫌がらせの電話や中国人の団体客からの予約のキャンセルが相次いでいます。福島第一原発で今月24日に処理水の放出が始まって以降、中国は日本産の水産物の輸入を全面的に停止したほか、全国の飲食店などには中国の国番号から始まる国際電話による嫌がらせが相次いでいます。こうした中、高知市のレストランでも30日までに中国からとみられる嫌がらせの電話が相次ぎ、その数は、およそ20件に上っているということです。このほか、高知名物のカツオのたたきなどを予約していた中国人の団体からのキャンセルの連絡も相次ぎ、店では、影響の拡大を懸念しています。このレストランの常務は「中国からと見られる電話は、いまだにかかってきていますが、何もすることができない状況です。インバウンドが盛り上がっているので、おいしい料理を食べに来てほしいとです」と話していました。 ●中国の日本料理店“店の継続に不安” 中国にある日本料理店では、客が減るなどの影響が出ていて、店の継続に不安を募らせています。このうち、上海中心部にある海鮮などが人気の日本料理店では、処理水の海洋放出に反対する中国政府が、日本産の水産物などの検査を厳しくする方針を示した先月上旬以降、日本の鮮魚を全く仕入れられなくなり、水産物は中国国内で水揚げされたものなどに代え、提供する料理も工夫して営業を続けています。さらに、海洋放出が始まった今月24日以降は、中国人の客が8割ほど減り、売り上げにも大きな影響が出ているということです。また、店のオーナーシェフ、谷口義忠さんによりますと、この1週間、知り合いの料理店の中には嫌がらせの電話を受けたり、日本の水産物を仕入れていないか当局による抜き打ちの検査が行われたりしたところがあったということです。上海で料理人として20年近く働いてきた谷口さんは「この1週間、店が今後どうなるのか不安で眠れない日もありました。厳しい状況ですが、季節が感じられる日本料理をなんとか伝えていけるよう前向きに頑張ります」と話していました。日本人の客は「中国の人たちも日本料理を好きになっていたので、残念です。日本の立場が伝わるような情報発信をしてほしいです」と話していました。 ●埼玉 ラーメン店“激励や謝罪の声”を寄せる中国人も 東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の放出をめぐって中国からとみられる国際電話による嫌がらせが各地で相次いでいる問題で、埼玉県春日部市の飲食店では、嫌がらせの一方で日本への好意を伝える声も寄せられています。埼玉県春日部市のラーメン店「会津ラーメン和」では処理水の放出に関する報道があった今月19日ごろから中国の国番号「86」から始まる国際電話がかかりだし、これまでにおよそ150件の着信があったということです。電話はいきなり罵声を浴びせるなどの内容で、昼夜問わずかかってきたことから店主の西條剛さんは「当店『会津ラーメン』だからなのでしょうか…当店にも時間を問わずイタ電が続いています」と店のSNSなどで状況を訴えました。すると、激励のメッセージが相次ぎなかには中国から「すべての中国人がそうではない」とか、「日本が大好きだ」などのメッセージが電話やダイレクトメールで数件寄せられたということです。また29日は、中国人だという若い男性が来店し、食事をしたあと、「中国人がご迷惑をおかけし、申し訳ない」と西條さんに声をかけてきたということです。これについて、西條さんはSNSに「お心ある振る舞いに心が潤います。日中友好です」と感謝の気持ちを記しました。店主の西條さんは、「嫌がらせの電話には困惑したが回数は減ってきていてこうやって激励や謝罪の声を寄せてくれる中国の方もいます。今回のことで日本人も中国人に対する偏見を抱くべきではないと感じました」と話しています。 ●高知 団体客を乗せた中国船寄港もツアーの一部が変更に 中国が反対する中、31日、中国からの団体客を乗せた豪華客船が放出が始まって以降初めて高知市に寄港しましたが、ツアーの一部を変更するなどの影響も出ています。31日、高知新港に寄港したのは中国の豪華客船「チャイナ・マーチャンツ・アデン」です。中国からの乗客などおよそ300人が乗っていて、今月27日に中国・上海を出港して日本各地を巡っています。この船が高知に寄港するのは6回目ですが、処理水の放出が始まって以降では初めてとなります。乗客に尋ねたところ「『核汚染水』の排出はやっぱりよくないと思う」とか「中国人は反感を持っていると思う。日本がこういう選択をするときは、慎重になってほしい」と話す人もいました。一方で「中国の方針が私たちの方針だが、私個人としては科学を信じたい。もしそんなに深刻なら、原子力発電所は必要ないと思う」とか、「今回の旅行には影響はないと思う。高知では焼き魚を食べたい」という人もいました。乗客たちは船をおりた後バスに乗り込み、高知県内の観光地に向かっていました。中国人のツアー担当者は、NHKの取材に対し「前回までは魚が含まれているプランがあったが、今回は魚のプランはキャンセルした」とツアーの一部を変更したことを明らかにしましたが、処理水の影響かどうかという問いに対しては「答えられません」と話していました。海外からの豪華客船の誘致を進めている、県港湾振興課は「今のところ高知新港への寄港を取りやめたいという船の連絡は入っていない」としたうえで、「今後、影響があればできることはしていきたい」話しています。 ●水産物輸出会社経営の中国出身男性“日本のイメージ悪化懸念” 福島第一原発にたまる処理水の海への放出が始まったあと、中国で誤った情報をもとに日本の食品などを危険視する声が広がっていることについて、東京で水産物の輸出会社を経営する中国出身の男性は、日本に対するイメージの悪化を懸念し、心を痛めています。東京の豊洲市場から香港や台湾などに水産物を輸出する会社を経営する高岩豊さんは、中国・青島出身で、2003年に留学で来日し、おととし日本国籍を取得しました。学生時代に築地市場でアルバイトをしていたことをきっかけに水産物の流通業界で人脈を築き、2013年に輸出会社を設立したということです。処理水の放出開始後、中国で、SNS上の批判的な投稿や誤った情報などから、日本の食品などを危険視する声が広がっていることについて高岩さんは、「自分のアクセスを増やすために完全なデマをどんどん流して、無責任なことを言っている人が多い。日本の食品を食べるかどうかだけでなく、日本に対するイメージが悪くなる可能性もあり、とても悲しい。日本にいる中国人の人たちはみんな同じだと思う」と話しています。その上で、「正しい情報をこちらから発信しないといけない。新聞やテレビは信用しないかもしれないので、市場で放射線を測って、数値がゼロだったので大丈夫だといったことを、SNSで中国にどんどん発信しようかと思っている。私たちの影響力はほとんどないが、東京の市場で仕事をしている中国出身者として、正しい発信をしていきたい」と話していました。高岩さんの会社では、香港への輸出が売り上げの3分の1ほどを占めているということですが、処理水の放出開始を受けて香港政府が東京や福島を含む10の都県からの水産物の輸入を禁止したこともあり、注文が4分の1ほど減っているということです。また、輸出可能な水産物についても現地の取り引き先から安全性の証明を求める依頼が多く来ているということで、会社では、仕入れた魚を自主的に検査機関に送って放射性物質の検査を行っているということです。高岩さんは、「私自身は処理水の安全性に不安はないが、取り引き先からは、『本当に大丈夫か』と聞かれるし、現地の飲食店や客の不安の声も多い。何とか頑張ってやっていきたい」と話していました。 ●福島 郡山 意見交換会で放出中止求める声相次ぐ 東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出について、30日夜、福島県郡山市で地元の住民グループが国と東京電力との意見交換会を開き、住民からは「理解が十分得られていない」として放出を中止すべきだという意見が相次ぎました。意見交換会は、住民グループの求めに応じて30日夜、郡山市の施設で開かれ、およそ150人が参加しました。はじめに、国と東京電力の担当者が、処理水は放射性物質の濃度が基準を下回るように薄めてから放出していることや、原発周辺の海水のモニタリングを継続して行っていることなどを説明しました。参加した住民からは、「環境中に放射性物質を出すこと自体が間違いで、市民に寄り添った結論の出し方がなされていない」などと、放出計画についての理解を醸成する取り組みが不十分だとする意見が出ました。これに対し、国の担当者は、漁業関係者などさまざまな団体に説明を繰り返してきたとして、「処分の必要性や安全性には一定の理解を得られたと考えている」と答えました。しかし、住民からは「一定の理解では納得できない」などとして、放出を中止すべきだという意見が相次ぎました。主催した住民グループによりますと、意見交換会はことし6月から求めていましたが処理水を放出したあとの開催になったということです。 ●福島県漁連会長「放出状況を冷静かつ真剣に見守りたい」 東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海への放出が始まってから1週間となる31日、放出後としては初めてとなる福島県内の漁協の組合長が集まる会議が開かれ、県漁連の野崎哲会長はこれまで魚の取り引きに問題は出ていないとした上で「放出の状況を冷静かつ真剣に見守りたい」と述べました。福島第一原発にたまる処理水を薄めた上で海に放出し始めてから1週間となる31日、福島県いわき市で開かれた会議には県内の漁協の組合長のほか政府や東京電力などの担当者が出席しました。はじめに、県漁連の野崎会長が「放出されたことは苦しいが、漁業を存続させるために冷静かつ真剣に放出の状況を見守りたい。漁業者には苦労をかけるがなんとか頑張っていきたい」とあいさつしました。その後、政府の担当者が、海水や魚の検査の結果、トリチウム濃度は検出できる下限の値を下回っていることや、中国の全面禁輸で影響を受けている事業者に支援をすることなどを説明していました。これまでのところ県内で水揚げした水産物の取り引きは放出前と同様に行われているということで、野崎会長は「この1週間は大きな問題はなく進んでいるので少し安心した。漁業者には引き続き頑張って魚をとりましょうと呼びかけたい」と話していました。 ●北京 冷静な対応呼びかける声も 首都・北京では改めて放出に反対する声が聞かれた一方、日本各地で中国の国番号から始まる国際電話による嫌がらせが相次いでいることについて冷静な対応を呼びかける声も多く聞かれました。このうち、40代の男性は「日本は完全に自分の利益しか考えていない」と海洋放出に反対する一方、嫌がらせについては「そんなことをする必要はなく正しい方法ですべきことさえしていればいい」と話していました。また、20代の女性は「嫌がらせは理解はするが支持はしない。痛快かもしれないが実際には何の進展ももたらさない。冷静になるべきだ」と話していました。さらに、30代の女性は北京にある日本大使館の敷地にレンガの破片が投げ込まれたことについて「社会の治安を乱す行為は慎み、特に大使館のエリアでは大国としてのそぶりを保つべきだ」と述べたうえで「海洋放出は心配だが私は突然、日本製品や日本料理店をボイコットするような過激なことはしない。中国自身の経済に影響するだけだ」と話していました。一方で30代の男性は「トリチウムの濃度が低いかどうかは重要ではなく、原発から出てきたものは当然よくない。迷惑電話も一般市民の心の声であり嫌がらせではない」と話していました。 |
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●“海洋放出は犯罪だ”処理水の安全性を「あからさまなウソ」 中国国営通信 9/1
8月24日、東京電力が福島第一原発敷地内に貯留されている「ALPS処理汚染水」の海洋放出を開始した。その影響は国内外に広がり、特に中国は日本政府の対応を猛批判している。反日運動や禁輸措置、迷惑行為が相次ぎ、根拠のない偽情報まで出回る始末だ。果たして日本政府はこの問題にどう立ち向かっていくのだろうか。 ●中国メディアで相次ぐ「日本批判」 データで語れ、しかし、説得力のないデータで独り言を言うな。核汚染水の海洋放出という重要な問題について、日本側は万全を期す前に軽率な行動をとるべきではない──そう日本に対して厳しく断じたのは中国・新華社通信だ。 記事では、東京電力が、過去に何度もデータを改ざんし、原発の安全上の問題を隠してきた「黒歴史」があるとして、東京電力による原発処理水の海洋放出を止めるよう呼びかけている。5月18日付の記事だ。 他にも新華社は、以下のように報じて中国人民に処理水海洋放出の危険性をあおり続けてきた。 「特に福島の汚染水処理のように、生命と健康に重大なリスクをもたらすプロジェクトは、実施前にその正当性を評価する必要がある。しかし、福島の汚染水処理に関するさまざまな選択肢の中で、汚染水を海に流すという選択肢は最も正当性が低い」 「この『処理水』の処理方法として、蒸発させて大気中に放出する方法、電解処理する方法、パイプラインを通じて地中深くに放出する方法、固形化する方法など、さまざまな選択肢を提示しているが、このうち、海に放出する方法が『最もコストがかからない』とされている」 「日本政府と東京電力が原発汚染水を海に流すという選択をしたことは、極めて利己的な行為であり、本来日本が負担し吸収すべき原発汚染水の『リスク』を、太平洋沿岸諸国や島嶼国、さらには全世界に広げるものである。日本の “お得 ”は、海の汚染の可能性と海洋生物と人命への脅威を犠牲にしてのものであり、これは犯罪である」 新華社以外にも中国メディアは、今回の処理水の海洋放出について、厳しい姿勢が目立つ。 「日本人は “I’m faking it ”(私は嘘をついています)と平然と書いている」 「日本の東京電力(TEPCO)は初めてメディア取材を企画し、複数の外国メディアを招いて福島第一原子力発電所の内部を視察させ、(中国国営テレビ局の)CCTVを含む7カ国9社のメディアが視察を許可された。しかし、視察の結果は疑念を払拭するものではなかったばかりか、海外は日本が原発汚染水の海洋放出問題を明らかにごまかしていると感じている」(2023年8月28日・中国ニュースサイト「搜狐」より) ●中国側の止まらない暴動と過剰反応 たしかに、2011年に起きた福島原発の事故は世界的にセンセーショナルな報道がなされ、その後の民主党政権による稚拙な事後処理も含めて、近隣諸国に不安を与えるに十分なものだったのだろう。今回の騒動も、さまざまな陰謀論が飛び交っているが、背景には非常事態をきちんと処理できなかった東日本大震災当時の日本政府に責任の一端はある。 しかし、である。 まったく事実を踏まえない意味不明な中国側の対応には、あきれてしまうしかない。人民が暴動を起こすのは致し方がないのかもしれないが、中国政府もそれに追随する形で、日本製品の禁輸処置まで断行したのである。 新華社は恐ろしいまでに日本の一面のみを切り取る姿勢に徹しているようだ。海洋放出後の報道を見ていこう。 「福島第一原発を運営する東京電力には、いい加減な対応や隠蔽・ごまかしが多すぎるため、国民はこの主張を信じなかった。福島第一原発を運営する東京電力(TEPCO)には、いい加減な対応や隠蔽・ごまかしの『黒歴史』が多すぎて、もはや国民の信頼を勝ち取るのは難しい」 「『体質隠し』という言葉は、東京電力の体質隠蔽を批判する言葉として、各界で定着している」 「東京電力と日本政府はずっと、汚染水を海に放出することが『現実的な選択肢』だと信じてきた。反対の声を鎮めるために、東電はあからさまな嘘までついた」 新華社通信の手にかかると、処理水におびえ、怒っているのが日本人の側であるかのような書きぶりになってしまう。怒っているのは、中国人だけではない、世界も、そして日本でもみんな処理水には反対しているのだという報道姿勢である。 ●安心・安全な日本産も「光速」チェンジ 中国の原発処理水についての報道をみていくと、クスッと笑ってしまうものもあった。 8月29日、中国メディア 『法治日報』が報じた「日本の魚介類がないレストランを「日本料理店」と呼べるのか?」がその一つである。 この報道によれば、日本が処理水の海洋放出をした後で、中国では「核汚染水を注いだ(在中国)日本料理店が閉店する」「日本食材を使わない日本料理店に虚偽宣伝の疑い」「日本料理店が日本食の排除に躍起になっている」などに関連する話題で激しい議論が交わされているという。 同メディアの記者が北京市内の日本料理店に、日本産の食材をどう扱うのですかと、インタビューへと赴いたところ、「日本食レストランのオーナーは、実際には、日本産の食材は、輸入サイクルが長すぎ、コストが高すぎる、あまりない」「日本産は使ったことがない」という回答が次々と寄せられた。 「店主たちの話を聞いていると、どの日本食レストランも日本の食材に大きく依存しているわけではない」という。他にも原材料が「日本産」だったものが「光速」で、韓国産やオーストラリア産などと違う海外産のものだという表記が増えているのだという。 これまで「日本産」は安全・安心というイメージが定着していたが、今回の騒動でそうはいかなくなったと感じた瞬間の「光速」チェンジである。 読んでいて、本当に、そもそも日本産のものを使っていたのか、大いに疑問が残ったのは私だけではないだろう。 また同記事では、「発表翌日の8月25日、『法治日報』の記者が北京市東城区にある懐石料理店を訪ねたところ、平均的な家庭で1,500元ほどを使うという懐石料理店に、ひっきりなしに客が訪れていた。“日本の核汚染水の排出は知っているし、今、日本食レストランの食材に問題はないはずだから、急がないと後で食べられなくなる”と食事中の客が言った」という記述があった。海洋放出をする前の日本産なら大丈夫ということなのだろう。 ●日本政府は「毅然」とした態度で対応を ほとんどの人が知っているであろうが大事なことなので、あえて記すと、今回放出される処理水による放射線影響は、自然界で人間が1年間に受ける放射線量2.1ミリシーベルトの10万分の1未満でしかないレベルに薄めたものだ。 韓国の月城(ウォルソン)原発では、1年間に液体で31兆ベクレルのトリチウムを海洋や河川等に放出している。 中国の原発では、1年間に液体で、紅沿河原発が87兆ベクレル、寧徳原発が98兆ベクレル、陽江原発が107兆ベクレル、泰山第三原発が124兆ベクレルのトリチウムをそれぞれ海洋や河川等に放出している。 日本の福島では、「ALPS処理水」を海洋放出するにあたり、放出するトリチウムの年間の総量は、事故前の福島第一原発の放出管理値(年間22兆Bq)を下回るように設定されている。数字だけ見れば、むしろ危ないのは中国である。 韓国では、中国より海洋放出について反対意見は根強かった部分があった。ユン大統領の強いリーダーシップのもとに、騒動が限定的なものにとどまっているのと比較しても、中国人のこの大騒ぎの責任は中国政府にあるということになる。 日本政府には「粛々」とではなく、「毅然」とした態度で、中国政府の方針を改めさせなければならない。福島を救おう。 |
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●処理水放出で中国から「電凸」攻撃、SNSの人気アカがデマを拡散し反日扇動 9/1
・処理水の海洋放出に対する中国の嫌がらせが激しさを増している。日本製品の不買運動や日本料理店の破壊など愛国心を証明するパフォーマンスが広がっている。 ・特に、組織的に迷惑電話をかける「電凸」攻撃はかつてない現象で、背後に当局に忖度するデマを拡散する「自媒体」と呼ばれるSNSの人気アカウントの影響力増大がある。 ・9月は「反ファシスト抗日戦争勝利記念日」(3日)や「国恥日」(18日)など反日機運を刺激しかねないイベントがあり、嫌がらせのエスカレートが懸念される。 日本が8月24日、福島第1原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)処理水を海洋放出したことに対し、中国は激しく抗議し、即日、日本の水産品を加工品も含めて全面禁輸する措置をとった。それだけでなく、一種の「反日キャンペーン」のような形で、官製メディアが一斉に日本を「核廃水」問題でたたき始めた。 それを合図に人民の「日貨排斥運動」(日本製品の不買運動)や日本の福島関連の飲食店や企業や公共施設に「電凸」(組織的な抗議電話)を始めた。さらには日本大使館や日本人学校への投石、嫌がらせ、日本料理店経営の中国人が愛国を証明するために自分の店を破壊するようなパフォーマンスなどが全国で起きている。 9月は中国にとって「反ファシスト抗日戦争勝利記念日」(3日)や「国恥日」(18日、満州事変勃発日)などがあり、こうした過剰反応がどこまでエスカレートするかは不明だ。日本政府は29日、中国側は禁輸措置に対して世界貿易機関(WTO)に提訴する、としている。だが、問題の本質は経済問題ではないので、中国側のこうしたアクションに歯止めをかける効果にも限界があろう。 では問題の本質はどこにあるのか。中国と中国人はなぜここまで「核廃水」に過剰反応するのか。 ●エスカレートする日本たたき 日本メディアも連日、処理水放出に対する中国の過剰反応について報じている。中国メディアのネットアカウントは処理水放出の様子をものものしくライブ配信し、あたかもこの処理水によって恐ろしい汚染が起こると喧伝した。 ネットでは「この処理水に汚染された海産物を食べると遺伝子が傷つく」「影響は子々孫々まで続く」「子どもが奇形になる」といった発言がSNSで拡散。これによってパニックになった一部人民が汚染前の食塩の買い占めに走ったり、日本の海産物だけではなくその他の製品についても不買運動が呼びかけられたりした。 また、日本料理店のオーナーが自分の店を破壊して日本料理店をやめる宣言を行うパフォーマンスも各地で起きている。日本大使館や日本人学校への投石、嫌がらせもあった。 デマ、パニック、日貨排斥、日本公館や施設、企業に対する嫌がらせ・・・。これは過去にも中国政府が日本に圧力をかけたいときに、中国社会で発生してきたおなじみの現象だ。これがさらにエスカレートすれば在中国邦人に対するタクシー乗車拒否や入店お断りなどの嫌がらせ、日本車や日本製品を愛用する中国人への攻撃、抗議デモからの日系企業や工場、日系店と間違われた中国人商店への攻撃、破壊を伴う暴動という展開になる。 実際に、過去に何度もこうした経験してきて、中国にはこうしたカントリーリスクがある、ということは中国に進出している日本企業ならば熟知しているだろう。 ●ネットインフルエンサーがあおる「電凸」 今回の騒動で特徴的なのは、中国のネットインフルエンサーたちが福島に関連する飲食店や企業や公共施設に抗議電話をするように呼び掛け、実際に自分で「抗議電話」をかけて、暴言を吐いている様子の動画をSNSでアップするなどしていたことだろう。実際、数千単位の海を越えた「嫌がらせ電話」が日本・福島県にかかっているとされ、多くの飲食店、施設、役所、人の命を預かる病院までが業務を妨害された。 日本大使館はこうした嫌がらせ電話は「犯罪行為だ」として、中国政府に対応するよう要請した。だが中国政府はまだ対応しておらず、嫌がらせ電話の動画もSNSでは削除対象になっていない。それどころか、日本を擁護しようとしたり、発表されている福島の処理水のデータと、中国の沿岸部の原発が海洋放出している廃水のデータを比較したりしている情報、論評が削除対象となっている。 このネットインフルエンサーによる「電凸」現象は、これまでの反日現象にはなかった。これは単に時代の変化なのか。 2012年秋の尖閣諸島国有化に対する反日ムーブメントは、中国全土100カ所以上で「反日デモ」が相次ぎ、打ち壊しや略奪、焼き討ちなどの破壊行為を伴って日本人に大きなショックを与えた。この時、デモの一部は当局の動員に応じた官製デモであった。 だとすると、今回のネットインフルエンサーたちの嫌がらせ電話も当局の動員だろうか。 ●セルフメディア(自媒体)の影響力が拡大 中国にはかつて「五毛」という、当局から金をもらって中国政府に有利な書き込みをして、ネット世論を誘導するオンラインコメンテーターが存在した。ここ10年くらいは五毛ではなく、表向きPR会社の世論誘導引き受け企業が雇う通称「ネット水軍」と呼ばれる世論誘導員や、大学などで共産党組織が就職や学位のインセンティブの代わりに募集する「ネットボランティア」が、共産党のプロパガンダをネット上で効果的に拡散し、世論を中国当局の望むように誘導する任務を請け負ってきた。 ネット水軍やネットボランティアは、一行書いていくらの「五毛」と違い、世論浸透度など成果を評価されるので、世論誘導テクニックは格段に洗練された。彼らは、解放軍のサイバー部隊とはまた別の司令系統で動いている。 一方で、金銭やインセンティブがなくても、自らの意志で中国を宣伝し反体制派や外国を攻撃するネット紅衛兵ともいうべき愛国民族主義のネットユーザーも少なからず存在する。彼らは海外に留学したり駐在したりしていても、西側諸国への強いコンプレックスから、習近平が打ち出す「中華民族の偉大なる復興」に一層共感をもって、こじれた愛国心をこじれた形で表現しがちだ。 では、今回のネットで、日本に対する嫌がらせをするのが、いずれのネット民たちか、それは正直、区別はつかない。 ただ留意する点は、7月10日に「セルフメディア(自媒体)」の監督管理強化のための13条の要請が、党中央インターネット情報弁公室から通達されていた。自媒体とは、中国の公式メディアとは違い、識者や専門家、記者ら個人がSNSなどを使って情報発信するメディアで、今や中国では公式メディア以上の影響力をもっている。 いわゆるネットインフルエンサー、KOL(キーオピニオンリーダー)と言われる人たちも、中国では自媒体の範疇に入るだろう。中国版の「ユーチューバー」のような存在だが、その定義や認証制度が徐々に進められているところだ。 ●自媒体が当局の「代弁者」に かつては「大V」(多くのフォロワーやファンを抱える公式アカウントもしくは実名登録アカウント)と呼ばれるアカウントがネット上の影響力を誇っていた。彼らの生息地帯は主に短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」や対話アプリ「微信(ウィーチャット)」だった。 短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」や対話アプリ「微信(ウィーチャット)」、豊富な動画配信機能を持つ「抖音(ドウイン)」などが競合する中で、SNSはより多様で便利な配信機能を備えるようになっていった。それに伴い、KOLらはフォロワー数を大幅に増やし、芸能事務所のようなプロダクションにマネージメントされるようになったり、企業とコラボレーションしたりして巨額の広告収入を得るようになった。もはや単なる個人というよりメディアとも言える存在だ。 こうした自媒体は急速に増え、就職難の若者にとって新しい人気職種となっている。14億人を抱える中国では、バズれば動く金は小さくない。バズるために、フェイクニュース、過激な発信なども含まれるようになった。 中国は数年前からこうした自媒体に対する監督管理統制強化に動いている。今回の13条は、自媒体のルールとルール違反罰則について一段と細かく規定された。通達の中にはSNS、ライブ配信、ショート動画、知識問答(知恵袋形式の発信)、フォーラムコミュニティ(掲示板)などのネットプラットフォームに対する監督管理統制強化も、自媒体管理の一貫として強化されている。中国当局が自媒体とみなす範囲はかなり広い。 この中国の自媒体に対する管理強化策は、将来的に自媒体を中国公式メディアと同様の統制下に抑えこもうという狙いがあると見られている。中国の公式メディアの第一任務は党と政府の宣伝任務、「党の喉舌(スピーカー)」であることだ。 今のところ通達では、「デマ」「流言」「社会に悪影響をもたらす発信」規制を建前に、社会に動揺を与えたり党や政府を批判したりする話題を牽制するような内容にとどまっている。だが、そのうち当局の公式メディアのようにプロパガンダを積極的に発信することが、自媒体として生き残れるかどうかの踏み絵になるのではないか、といわれている。 ●日本攻撃は「ガス抜き」 公式メディアが日本の「核廃水」問題攻撃報道を一斉に行い、ネット上では日本を攻撃する内容の情報発信は電凸のような下品なものも削除されていない。これに対し、日本を擁護するような発信は削除されている。そうした状況を見れば、自媒体は日本を攻撃するのが生き残りのための踏み絵と考えるかもしれない。具体的に指示書、通達などで動員をかけられなくても、率先して日本に対する攻撃的世論を扇動し、電凸というパフォーマンスがバズることに気づけば、それを繰り返す。 中国がこれを放置しているのは、この現象に満足しているからだ。日本への電凸は、国内で反日デモを起こされるよりはいい。国内で起きる反日デモは、コントロールしきれなくなる場合があり、下手をすれば、反日デモだと思っていたら、いつのまにかスローガンに反体制的なものも混じり、矛先が党中央や地方政府に向くこともありうる。 中国が今のタイミングで日本を攻撃したい最大の理由は、中国内政ののっぴきならない状況のガス抜きをしたいことが大きいと、私は見ている。 中国経済は低迷し続け、不動産市場救済策の失敗が明らかになっている。若者の失業率は上昇中、相次ぐ災害への対応は遅れ、党内では異様な粛清人事が起きている。 こういう状況を放置しておけば、人民の生活苦や暮しの展望への不安、不満の矛先が党中央や政府に向かいかねない。そのため、不満や不安の矛先を対外的に発散させる方法が、これまでもよくとられてきた。人民の不満の矛先を対外的に一番誘導しやすい対象は日本だ。 ●秋は反日の季節 もともと秋は反日の季節だ。2012年の尖閣国有化(9月11日)に対する反日デモの暴徒化も、秋の国恥日に近いことがエスカレートにつながった。 こういう中国の事情や時期を考えると、日本の海産物の全面禁輸も、中国の海を越えた「反日しぐさ」もすぐに収束するとは思えない。8月10日に日中間の団体旅行が解禁されたが、少なくとも10月の国慶節休みの日本行きツアーは期待していたような集客は見込めないだろう。 日本の水産企業や対中輸出企業が打撃を受ける以上に、中国側の各種業界も打撃を受ける。一部の冷静な中国人たちは、このやり方を「自分で持ち上げた石を自分の足の上に落とす行為」とため息をつく。 こういう状況が起きてしまうことについて、日本政府や企業、日本人側にできることは少ない。改めて中国市場に依存しすぎることのリスクを肝に銘じると同時に、中国側が自分の足の上に落とした痛みの大きさに耐えきれなくなるタイミングを待つしかなかろう。 |
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●中国の露骨な反発だけではない、世界の専門家が表明した「処理水への懸念」 9/1
●もう魚は食べられないのか 8月24日、福島第一原発から出た処理水の海洋放出が始まった。タンクにある100万トン以上の処理水は30年程度をかけて排出する計画だ。 その前夜、筆者のスマホに中国・上海の友人からしばらくぶりにメッセージが入った。普段は冷静で寡黙で、年金生活をしている張さんが切り出したのは次のような内容だ。 「明日から日本で汚染水の排出が始まりますが、私たち庶民はこれから海の魚は食べられなくなります。上海には日本料理店も多く、影響は避けられず、訪日客も減るのではないでしょうか。放射能汚染は怖いですが、私たちにはどうすることもできません」 海洋放出したその日、中国当局は日本産水産物の輸入を全面的に禁止した。この禁輸を「日本産の魚は危険だというサイン」と捉えた中国人も少なくなかった。筆者が接した日本在住の中国の友人たちも「今後、日本のおいしい魚は食べられなくなる」と話していた。 実は2011年にも中国の住民はまったく同じ反応を示していた。同年3月14日に福島第一原発の事故が報道されると、当時筆者が住んでいた上海でも市民がパニックに陥った。ネット上で「海水は汚染された、今後は食塩が危険、食用できなくなる」というデマが広がり、流言に弱い中国の庶民は塩の買い占めに奔走した。そして今、再び「塩の買い占め」が繰り返されている。 中国では張さんのように海洋放出を「怖い」と捉える住民は少なくない。しかし、筆者は張さんを「流言に弱い人」だとは責められなかった。「汚染水が安全であれば海洋に放出する必要はなく、安全でなければ海洋に放出すべきではない」という主張は、他のアジア・太平洋諸国でも共通してあるためだ。 ●海外研究者の視点、「今からでも遅くはない」の意見も 海洋放出に懸念を示しているのは“反日国”の住民だけではない。 米誌「ナショナルジオグラフィック」は8月24日、「福島原発から処理水を段階的に放出する計画は、各国と科学者の意見を分裂させている」とし、アメリカの科学者たちの懸念を伝えた。 ハワイ大学ケワロ海洋研究所所長のロバート・リッチモンド氏は「海に放出されたものは、1カ所にとどまることはできない」とし、文中では「放射性物質を運ぶ太平洋クロマグロが2011年の事故後6カ月以内にサンディエゴの海岸に到達した」とする研究事例があることが指摘されている。 米国内の100以上の研究所が加盟する全米海洋研究所協会は、「安全性の主張を裏付ける、適切かつ正確な科学的データが欠如している」とし、放出計画に反対する声明を昨年12月に発表した。 海洋放出について、太平洋の島国は理解を示していると認識されているが、かつて米国の水爆実験で強いられた苦痛もあり、水面下では意見が割れている。ロイターは8月23日、「太平洋の首脳全員が同じ立場を取っているわけではない」とする記事を掲載した。24日、ニュージーランドのメディアRNZは「データには『危険信号』があり、中にはIAEAを批判する者もいた」とし、16カ国と2地域が加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)の一部の原子力専門家らの懸念を伝えた。 PIF事務総長ヘンリー・プナ氏による「すべての関係者が科学的手段を通じて安全であることを確認するまで、放出はあってはならない」とするコメントは米誌「サイエンス」にも掲載された。 8月24日、「NIKKEI Asia」は米ミドルベリー国際研究所のフェレンク・ダルノキ=ベレス氏の「今からでも遅くはない」とする寄稿を公開した。同氏は「東京電力と政府にその気があれば対処できる」とし、環境中に放出せず、コンクリートで固化させる代替案を提案している。 ちなみに代替案については日本の複数の市民団体が政府に対し再検討を迫った経緯がある。しかしながら都内のある団体代表は、「当時、経済産業省には『何を言われても路線は見直せない』という雰囲気が強かった」と振り返っている。 ●合理的に考えて影響が出ることは考えられない 2021年の放出決定から2年あまり、トリチウムの安全性が問題になってきた。福島第一原発から出た“汚れた水”は、多核種除去設備(通称ALPS)を使って浄化するが、トリチウムはそれでも除去できない放射能物質の一つである。 日本政府や東京電力はトリチウムを「自然界にも存在する水素の仲間」として説明し、今回の海洋放出に当たっては、トリチウムの濃度を国内規制基準の40分の1に薄めるので安全だとしている。 もっとも、トリチウムの海洋放出は今に始まったことではない。過去、日本の原発でも、世界の原発でも冷却水とともに海に流してきた。日本には「世界の原発からも日本を上回る量の排水を行っている。今さら騒ぐのはおかしい」という意見もある。 そこで改めて茨城大学理工学研究科の田内広教授に人体への影響を尋ねると、「高濃度については過去から調べられており影響が生じるのが明らかな一方、今回のような低濃度のトリチウム水については報告されている実験データを見ても影響が見えません。科学的に100%証明するのは無理ですが、合理的に考えて影響が出ることは考えられません」という回答だった。 一方で見逃せないのは、トリチウムも含め、研究は“予算”に左右されるという一面が潜在するということだ。 ●タンクの中の処理水研究は手つかずのまま 京都大学・放射線生物研究センター特任教授の小松賢志氏はトリチウムを研究した日本の古参の学者だ。福島第一原発の事故が起きる前の1997年、「事故対策としていまだ不明な点が残される放射線障害やトリチウム固有の生物的効果に関する正確な知識の確立は急務である」と論文で指摘している。 このように、小松氏は「拡散漏えいしやすいトリチウムは取り扱いが難しい核種の一つ」と指摘してきたのだが、やがてトリチウムの研究を打ち切ってしまう。背景にあったのは「予算削減という厳しい台所事情だった」と回想している。 原発問題の政策提言を行う原子力資料情報室の共同代表である伴英幸氏も「トリチウム問題がクローズアップされるまで、少なくともこの20年ほど日本のトリチウムの研究データはほとんどありません。理由は日本に研究者が少ないためです」と話している。 また福島第一原発から出た水は、炉心に触れた処理水である点が、通常の原子力発電所から海洋放出されているトリチウムを含む水とは条件が異なる。「炉心に触れた水」の研究はどうなっているのだろうか。 「タンクの中で有機結合型のトリチウムが生成されているとの指摘もあり、分析でこれをチェックする必要があると考えています。しかし、タンクの中の処理水については基本的に持ち出せないことになっているので、在野の研究者は誰も分析していないはずです」(伴氏) 海洋放出を巡っては、日本弁護士連合会が昨年1月20日付で、他の方法の検討を促す意見書を岸田文雄首相に提出していた。その理由の一つをこう掲げている。 「通常の原子力発電所から海洋放出されているトリチウムを含む水は、福島第一原発とは異なり、炉心に触れた水ではなく、トリチウム以外の放射性物質は含まれていない。規制基準以下とはいえ、トリチウム以外の放射性物質が完全には除去されていない福島第一原発における処理水は、通常の原子力発電所の場合とは根本的に異なるものである」 ●処理水放出は次世代革新炉への布石か 汚染水から水とトリチウムを分離することは困難だと言われてきたが、今後、新たな日本の技術が注目を集めそうだ。 東京電力は処理水からトリチウムを分離する実用技術を公募しているが、東洋アルミニウム(本社・大阪市)がこれに応募したのだ。 同社の技術は処理水を加温して蒸気化してフィルターを通過させ、トリチウムを除去するというもので、現在、実現可能性を確認している段階にある。東京電力の担当者によれば、「もし実現可能となった場合は、濃いトリチウム水と薄いトリチウム水に分けることができ、薄いトリチウム水から流していくとともに、濃いトリチウム水は構内で保管し続けることで、約12年という半減期を活用し、トリチウムの量を保管の中で減らすことができる」という。 分離して水を取り出した後にはトリチウムが残留したフィルターが残るため、今後の取り組み課題はフィルターの体積をいかに減らしていくかが焦点となる。 一方、政府は福島第一原発の廃炉を進行させた先に、次世代革新炉の計画を描いている。 30年後にも運転が迫るといわれる核融合炉でも、薄めたトリチウム水を海洋放出する計画で、学会誌には、「この核融合の成功のためには福島第一原発のトリチウム処理水問題の速やかな解決が不可欠」だとする文言(『Journal of Plasma and Fusion Research Vol.99』)がある。24日から始まったトリチウム水の海洋放出は、そのための布石でもあるといわれている。 国際環境NGOのFoE Japanの満田夏花事務局長は次のように語る。 「ほとんど動かなかった高速増殖炉『もんじゅ』で税金が1兆円以上も使われたように、次世代革新炉でも国民の金が投入されようとしています。省エネ、再エネのための電力需給のしくみを構築しようというなら将来性ある話ですが、潤うのは一部の原子力産業だけであり、結果として、何万年も管理が必要な放射性廃棄物を生み出してしまいます」 ●「日本はパンドラの箱を開けた」 海洋放出後、中国の人民日報WEB版は「日本はパンドラの箱を開けた」と世界に向けて報じた。一方、日本には中国から“抗議の電話”がかかるようになり、関係のない個人や民間事業者までが巻き添えになっている。 今回の事態は、2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件とその後の事態を想起させる。そして、2011年に起きた原発事故と“塩パニック”、尖閣諸島国有化を発端にした翌年2012年の反日デモは直接の関連性はないものの、その後「日本製品の全面ボイコット」に突入するきっかけとなった。反日デモは“官製デモ”とされ、中国政府が国民を動員したといわれている。この時悪化した両国関係が“雪解け”するまでに6年かかった。 今回の海洋放出に対して、「やめろと言ったのにやっただろう」と激高した中国は、海洋放出を外交カード化し、今後、国民を動員しながら日本を追い詰めてくるかもしれない。 ただ今回の中国や韓国の露骨な反発が、かえって日本人の私たちの気持ちを逆なですることにもなっていて、冷静な議論から目をそらせることにもなっている。 原発問題のもっとも本質なる部分は、人間の力で制御できるというおごりが悲劇を生むところにある。その人間の愚かさは、神にしか操れない「日輪の馬車」に無理やり乗り込み暴走し、ついには地上を焼き払ったというギリシャ神話「パエトーン」に重なる。 原子力に頼らず、再生可能エネルギーへのシフトを進める――これが日本の歩むべき道であり、福島の原発事故で多大な被害を受けた人々に報いることができる唯一の道ではないだろうか。 |
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●宮城県の福島魚店にも中国から迷惑電話 斎藤石巻市長が影響を聞く 9/1
東京電力福島第一原発から処理水が放出された後、中国からとみられる迷惑電話が数多くかかってきていますが、宮城県大崎市の「フクシマ」という名前が付いて鮮魚店にも、同様の電話がかかってきていたことが分かりました。 鮮度の良さで地元の人たちに親しまれている、大崎市古川の福島魚店です。 定休日だった30日、中国から発信されたとみられる電話が2件あり、留守番電話が残されていました。 「ジャパン日本ジャパン。死ね死ね死ね」 電話は、片言の日本語で罵声を浴びせた後、切られていました。 福島魚店井上政子さん「まさかとは思いましたが、中国語の全然分からないような言葉で、若干日本語で死ねなども中国語で頻繁に言われて大変びっくりしました。福島魚店という店名なのでそれでかかってきたのかなと」 処理水の海洋放出に反発を強める中国を訪れていた人に、現地の反応を聞きました。 「処理水放出をどう考えてるというのは聞かれたことはありますけど。話を合わせる形で深く触れないようにして。領事館から日本語であまり話さないようにっていう勧告は来ているのでそこは気を付けるようにはしてました」「処理水の放出について友達からもちょっと聞いたけど、あまり文句とかもないと思います。(中国の友達から)逆に中国での生活とか大丈夫かと心配されて」 処理水の放出後、日本の関係機関に対して嫌がらせが相次いでいることから外務省は中国に渡航する人に対して注意を呼び掛けています。 処理水の海洋放出による水産業への被害状況を把握しようと、宮城県石巻市の斎藤正美市長が水産関係者と意見を交わしました。補助金などの必要な支援を国に求める考えです。 1日午後に石巻魚市場を訪れた斎藤正美市長は、水産加工業者などから処理水放出の影響について聞き取りました。 出席した事業者からは、石巻市の水産加工会社の多くが売り上げが下がったり、過剰な在庫を抱えたりしているとして、産業を維持するための支援策を国に働き掛けてほしいと訴えました。 石巻魚市場買受人協同組合布施三郎理事長「従業員に対して不安を払しょくしていかないと、我々も笑って仕事ができない。我々の考え方を中央に行って訴えてもらいたい」 斎藤正美石巻市長「(国に)今の現状を訴えて、石巻市ならではの取り組みをしっかりと認識していただいて、それに対する手厚い助成制度、補助金等を支援いただければと思っております」 |
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●ALPS処理水の海洋放出に関する中国政府コメントに対する中国側への回答 9/1
8月28日、駐日中国大使館ホームページにおいて、ALPS処理水の海洋放出に関するコメントが掲載されました。これらのコメントには、事実及び科学的根拠に基づかない内容が含まれていました。しかし、日本政府としては、これまでも、中国側から直接提起された指摘には、誠意をもって、科学的根拠に基づき回答してきており、今回のコメントに関しても同様に、本日、中国側に対して以下のとおり回答しました。 日本政府は、今後もALPS処理水について、高い透明性をもって、科学的根拠に基づく丁寧な情報提供を続けてまいります。中国政府に対しては、こうした科学的根拠のない発信により人々の不安をいたずらに高めるのではなく、正確な情報を発信するよう引き続き求めていきます。 ●中国側の1つ目のコメントへの回答 中国政府は、1つ目のコメントとして、日本側は、トリチウムは希釈・処理されている点を説明する一方で、他の核種については説明していないとしています。また、中国政府は、ALPS処理水には60種類以上の放射性核種が含まれており、トリチウムのほか、多くの核種の有効な処理技術がないとしています。さらに、中国政府は、「基準値を満たすこと」と「存在しないこと」は別であり、ALPS処理水の海洋放出は、海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらす可能性があるとしています。 これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。 ALPS(多核種除去設備)は62の核種を確実に除去するように設計されていますが、半減期を考慮すべきなどのIAEAの指摘を受け、処理前の水に現実的に存在し得る核種は29核種であると考えています。IAEAは、包括報告書において、この選定方法は「十分保守的かつ現実的」と評価しています。また、日本の分析に加え、IAEA及び第三国機関の分析でも、その他の核種は検出されていません。こうした内容については、原子力規制委員会の審査やIAEAのレビューを通じて公開されています。いわゆる「60種類以上の放射性核種が含まれている」とする中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。 これらの核種については、ALPSによる処理を経た後、規制基準未満まで除去します。処理後に検出されたことのある核種は、29核種のうち9核種だけであり、それらも規制基準を十分に下回るまで浄化できています。これまでの運転実績から、ALPSは十分な浄化性能を有することが実証されており、IAEAも、それらのうち多くの核種は検出されることはないほど濃度が低いと評価しています。 ALPS処理水の海洋放出による人及び環境への放射線影響は、国際的な基準及びガイドラインに沿って、海洋拡散、核種の生物濃縮や長期の蓄積も考慮して入念な評価を行った結果、無視できるものです。IAEAは、包括報告書において、この点についても結論として明記しています。いわゆる「海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらし得る」との中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。放出される水は、中国側が言うような「汚染水」ではなく、十分に浄化された「ALPS処理水」を更に希釈したものであり、放射性物質の濃度が規制基準を大幅に下回るレベルの水です。IAEAは、公衆の混乱を避けるためには用語への理解が重要であり、用語を区別すべきと指摘しています。日本政府は、中国政府に対し、IAEAの指摘を真摯に受け止め、不適切な表現を行わないよう求めます。 ●中国側の2つ目のコメントへの回答 中国政府は、2つ目のコメントとして、日本側はすべての核種をモニタリングしているわけではなく、モニタリング対象となる海洋生物の種類も少ないので、日本側が公表しているモニタリング・データだけでは、ALPS処理水の放出が安全で無害とすることはできないとしています。また、中国側は、日本側が発表しているデータの大部分は東京電力自身がサンプリングし、検査し、公表しているものであるが、東京電力が発表したデータは信頼できないとしています。 これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。 日本は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、政府が定める「総合モニタリング計画」に基づいて、包括的かつ体系的な海域モニタリングを行っています。同計画においては、東京電力のみならず、環境省、原子力規制委員会、水産庁及び福島県がモニタリングを行っており、その結果については各省庁のウェブサイト及び包括的海域モニタリング閲覧システム等において公開されています。放出開始後のモニタリング結果は、ほとんど検出下限値未満であり、検出されたものも極めて低い濃度であり、安全であることが確認されています。ALPS処理水は、計画どおりに放出されています。 東京電力のデータの信頼性については、原子力分野において国際的な安全基準の策定・適用を行う権限のあるIAEAのレビューを受けており、東電の分析能力や信頼できる業務体制を有するか等も含め評価されています。このレビューには中国の専門家も参加しており、中国の専門的知見も踏まえた上で評価されたものです。 海洋放出されるALPS処理水の安全性については、放出前のモニタリングを徹底した上で、海域モニタリングにおいて、海水中のトリチウムの観測点を増やす等の強化を行っているほか、放出開始後は、東京電力のみならず、各機関が、トリチウムの分析を頻度を高めた上で迅速に行い、その結果を速やかに公表しています。 また、トリチウム以外の核種についても、例えば、環境省は、上述の29核種を含めた幅広い核種のモニタリングを行うこととしており、特に、海洋放出開始後は、海水中のγ線放出核種を毎週スクリーニング的にモニタリングし、結果を公表しています。原子力規制委員会は、以前より、定期的に、海水のセシウム134及び137、ストロンチウム90の濃度や全β核種をモニタリングし公表していますが、海洋放出開始後もそれを継続しています。 このように、現在のモニタリング制度は、放射性物質濃度の変動があった場合には速やかにこれを探知し、放出の停止を含め適切な対応をとることが可能なものとなっています。 IAEAは、包括報告書において、政府と東京電力のモニタリングに関する活動は国際基準に沿ったものであるとし、政府と東京電力は充実した環境モニタリング計画を実施していると評価しています。 ●中国側の3つ目のコメントへの回答 中国政府は、3つ目のコメントとして、「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」として、日本側に対し、各利害関係者が参加できる長期的モニタリングの国際的取組の立ち上げを積極的に支持すべきとしています。 これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。 ALPS処理水の海洋放出については、これまでIAEAの関与を得ながら、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で進めてきています。海洋放出開始後も、東電福島第一原子力発電所におけるIAEA職員の常駐に加え、同発電所からリアルタイムでモニタリング・データを提供しています。今後とも、IAEAの関与の下、国際社会が利用できるデータを公表します。また、IAEAは、日本のモニタリング活動に関するレビューを継続します。 ALPS処理水のモニタリングについては、IAEAレビューの枠組みの下で、IAEA及びIAEAから選定された複数の第三国分析・研究機関が、処理水中の放射性核種を測定・評価するソースモニタリングの比較評価及び環境中の放射性物質の状況を確認する環境モニタリングの比較評価を実施してきています。現在実施されているIAEAによる比較評価には、IAEAの放射線分析機関ネットワーク(ALMERA)から、米国、フランス、スイス及び韓国の分析研究機関が参画しています。IAEAによるモニタリングは、IAEAを中心としつつ、第三国も参加する国際的・客観的なものです。例えば2022年11月7日から14日にかけて、IAEA海洋環境研究所の専門家に加え、フィンランド及び韓国の分析機関の専門家が来日し、現場において試料採取及び前処理を確認しています。 したがって、いわゆる「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」という中国側の主張は、事実とは異なるものです。 IAEAは、原子力分野において、関連安全基準を策定・適用する権限を有しており(注1)、関係国際機関及び中国を含む全IAEA加盟国との協議を経て、人・環境への影響に関するIAEA安全基準を策定し、様々なレビューを実施してきています(注2)。政治的な目的によってIAEAの活動を貶めることは受け入れられません。また、IAEAの権威・権限を否定することは、IAEAの安全基準に依拠して設定された中国の安全基準さえも否定するものであり、原子力の平和的利用の促進を阻害する極めて無責任な主張です。 (注1) IAEA憲章第3条A6(IAEAの権限) 国連機関等と協議、協力の上、健康を保護し、人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準を設定し又は採用する。 (注2) 「IAEA安全基準作成に係る戦略及び手順」 |
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●処理水放出、中国へ反論 外務省「事実に基づかず」 9/1
外務省は1日、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に関し、在日中国大使館がホームページ(HP)に掲載した批判は事実や科学的根拠に基づかない内容が含まれ、国際原子力機関(IAEA)の見解にも反するとして反論したと発表した。 「IAEAの権威・権限を否定することは、IAEAの安全基準に依拠して設定された中国の安全基準さえも否定するものだ」とも強調した。 中国側は先月28日、(1)海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらす可能性がある(2)日本側のモニタリング(監視)データだけでは安全と言い切れない(3)モニタリングには第三国の参加がなく透明性を欠く―との主張をHPに掲載した。 これに対して外務省は、海洋放出による人や環境への影響は無視できるものであり、IAEAも包括報告書に明記していると説明。政府と東電のモニタリングはIAEAの基準に合致し、IAEAに選定された複数の第三国の分析・研究機関も参画していると指摘した。 |
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●処理水海洋放出、新たな「反日カード」に …鈍すぎる日本政府 9/2
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出から1週間が過ぎた。設備や運用にトラブルはなく、周辺海域のトリチウム濃度にも異常は確認されていない。ところが、習近平国家主席率いる中国は科学的根拠を無視して、処理水を「核汚染水」と呼び、日本産水産物を禁輸した。北京の日本大使館や各地の日本人学校にはレンガ片や石が投げ込まれ、咸陽市のすし店では、放火の可能性がある火災が発生した。岸田文雄首相は、中国の暴挙(水産物禁輸)を世界貿易機関(WTO)に提訴するなど、毅然(きぜん)と対抗措置を取るべきだが、「親中派のドン」である自民党の二階俊博元幹事長に訪中を要請していたという。岸田政権に「外交戦」を勝ち抜く知恵と気概はあるのか。経済危機に直面する中国の狙いとは。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、峯村健司氏による最新リポート。 福島第1原発処理水の海洋放出を受け、中国内では日本に対する批判が高まっている。北京の日本大使館や日本人学校に、レンガ片や石などが投げ込まれている。日本の自治体や企業、飲食店などに中国からとみられる迷惑電話が相次いでおり、被害は広がっている。迷惑電話自体が偽計業務妨害であり、営業に影響が出ていれば威力業務妨害罪となる。 こうした犯罪行為は、中国政府が指揮しているのだろうか。 複数の日本政府関係者によると、警察庁が迷惑電話の発信元を探ったところ、ほぼ中国全土から発信されており、個人の携帯電話からかけられているものがほとんどだった。特定の機関や組織による行為である可能性は低いとみていいだろう。 中国では、インターネットを含めた通信は厳しく監視されている。にもかかわらず、ネット上には日本に迷惑電話をかける方法や、政府機関や店の電話番号などを紹介する書き込みが削除されずに残っている。一方、処理水が「安全だ」「科学的根拠がある」などという書き込みは次々と削除されている。 中国政府が黙認しているとみて、間違いないだろう。 中国では今、コロナ禍後も経済の回復が遅れている。不動産大手「中国恒大集団」は経営危機に陥っており、バブル崩壊の様相を帯びている。 就職率にも影響しており、今年7月の16―24歳の若者の失業率は過去最高の21・3%となり、実際は40%を超えるという試算もある。若者の失業の増加は、社会不安に直結しかねず、1989年の天安門事件のような抗議運動にも発展しかねない。危機感を抱いた中国政府はとうとう失業率の発表自体を取りやめたほどだ。 こうした社会の不満のガス抜きとして習近平政権が目を付けたのが、「処理水の放出」だった。胡錦濤前政権までは、頻繁に「反日デモ」が起きていたが、習政権下ではこれまで起こらなかった。習氏は就任後、大規模な反腐敗キャンペーンを展開して、「一強体制」を確立して政権基盤が安定していたことが、その背景にある。 習政権は、これまでの「歴史問題」に取って代わり、処理水を新たな「対日カード」にしようとしているのだ。だからこそ、国を挙げたネガティブキャンペーンを展開し、国民の対日批判を煽っているのだろう。日中関係は出口の見えない対立のフェーズに入ったといえよう。 にもかかわらず、日本政府の反応は鈍いと言わざるを得ない。 中国政府による日本からの水産物の全面輸入禁止について、野村哲郎農水相は8月25日の会見で、「全く想定していなかった」と述べた。日本政府は中国側とのコミュニケーションが十分ではなく、情報収集が不十分だったことが露呈した形だ。 日本政府は「中国側との長期戦」に備えることが不可欠だ。WTOへの提訴や、中国からの輸入する水産物の輸入制限など、対抗措置を早急に打ち出す必要がある。 |
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●処理水放出1週間 本県沖底引き網漁再開、常磐もの風評影響なし 9/2
東京電力福島第1原発で発生する処理水の海洋放出開始後、初めてとなる本県沖での底引き網漁が1日、2カ月の休漁期間を経て再開された。処理水放出による風評が懸念される中、県水産海洋研究センターは、海洋放出開始後1週間の魚の平均単価に大きな変動はなかったと発表。各地の漁港ではこの日も、ほとんどの魚種が例年通りの価格帯で取引された。 相馬市の松川浦漁港には午前11時半すぎ、相馬双葉漁協所属の沖合底引き網船20隻が次々に帰港、ヤナギダコ、スルメイカ、ミギガレイ、マサバなど、昨季初日を上回る19・8トンが水揚げされた。ほとんどの魚種はほぼ通常通りの価格帯で取引されたが、オキナマコが昨年同期に比べて大幅に値を下げた。同漁協によると、中国による日本産海産物の全面禁輸などの影響を受けたとみられるという。 同漁協所属の沖合底引き網船は、原発事故前の2010年に比べ2割程度まで落ち込んだ漁獲量を段階的に戻す計画に取り組んでおり、来年6月までの漁期で10年の55%に当たる2610トンの水揚げを目指す。目標達成に向けて、今季は原発事故後見送られていた宮城県沖での操業を再開させる。 原釜機船底曳船船頭会の高橋英智会長(60)は「処理水の放出が始まっても、やるべきことは変わらない。水揚げ拡大に向けて進み続ける」と話した。 このほか、いわき市漁協では沖合底引き網船と小型底引き網船21隻が出漁し、マアジやサバなどを中心に約5・6トンを水揚げ。小名浜機船底曳網漁協は3隻が出港し、マイカやメヒカリなど約1トンを漁獲した。それぞれの港の市場の取引でも、例年と比べて極端な価格の変動はなかった。 ●魚の平均単価、変動なく 県水産海洋研究センターが1日発表した漁海況速報によると、処理水の海洋放出が始まった8月24〜30日に県内3漁協の市場で取引された魚の平均単価は前回調査(8月9〜23日)と比較して大きな変動はなく、同センターは「風評に起因するような影響は確認されなかった」との見解を示した。 「常磐もの」を代表するヒラメ(活魚)の1キロ当たりの平均単価は、相馬双葉漁協の固定式刺し網漁で取れたもので前回調査は2314円だったが、今回は1804円と下がった。一方、船引き網漁のシラスは前回の1キロ当たり840円から955円と上昇した。 調査結果について石田敏則所長は「価格の変動は取引量などによる影響の範囲内と考えられ、大きな変化はみられなかった」との見方を示し「引き続き推移を見守っていきたい」とした。 |
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●『食材は全て福島産』と看板に書き炎上した飲食店店主が「ジョークだった」告白 9/2
8月24日にはじまった福島第一原発処理水の海洋放出をめぐり、中国政府は日本の水産物の輸入を全面停止するなどの対抗措置を行なった。それに合わせて、中国国内での反日感情も高まりを見せており、日本の飲食店や公共施設への「イタズラ電話」が頻発しているほか、24日夕方には、中国国内の日本人学校に石や卵が投げこまれる事件が起きた。 ●「中国から頻繁に電話がかかってくるようになったね」 国際原子力機関(IAEA)が公表した報告書によると、福島第一原発の処理水は「国際安全基準に合致している」とするものの、8月24日にはじまった同施設の処理水の海洋放出を受け、中国外務省は「日本政府は国内外の声を無視し、世界の海洋環境と人類の健康を損なうリスクを無視し、放出計画を頑なに進めている」と強く批判した。 その結果、中国国内でかつてないほどの高まりを見せているのが「反日感情」だという。 「処理水の海洋放出がはじまった8月24日以降、福島県をはじめとした全国各地の自治体や飲食店、学校、それに個人の住宅などに中国の国番号『86』からはじまる迷惑電話が相次いでいる。なかには、『あなたはバカですか?』などと一方的に暴言を吐いたり、ののしるような言葉を使って処理水をめぐる対応に抗議するような内容もあり、同日夕方には、中国国内の日本人学校に石や卵が投げこまれる事件も起きた」(情報番組ディレクター) そんな中国での「反日感情」が激化するなか、29日に東京・新宿にある一軒の居酒屋の外観写真が、ユーザーによってX(旧Twitter)に掲載された。そこに立てかけられた黒板には「中国人へ。当店の食材はすべて福島県産です」との文字が書かれており、投稿を知った中国人が該当の店を警察に申告するといった内容の動画がSNSで拡散されていった。 なぜこの居酒屋は、このような内容が書かれた黒板を掲示したのか。8月31日、店主が取材に答えた。 「あの看板は、ちょうど福島の処理水放出のニュースがあった翌日の25日に立てかけたんだけど、ちょっとした俺のジョークだったんだよ。あそこの看板には日替わりでジョークを交えたカキコミをしていて、その日も軽い気持ちで『当店の食材は全て福島県産です』って書き込んだんだけど、そんなの嘘に決まってるじゃん。あれは、俺がよくやる時事ネタのひとつだよ。 でも、お店の休みを挟んだ月曜日に、いつもどおり看板の内容を書き換えようとしたところに、中国人の兄ちゃんがやってきて動画に晒されたってわけ。本当にただのジョークのつもりだったんだけど、あの動画がアップされてから、中国から頻繁に電話がかかってくるようになったね」 「あくまでジョークだった」と語る店主だが、いまだに中国の「TikTok」や「Weibo(ウェイボー)」といったSNSでは「日本批判」が相次いでいる。 「中国のSNSには現在、処理水の海洋放出を反対する人たちのインタビューや動画などが数多く投稿され、『悪魔日本』『畜生国家』のほか、『小日本』という蔑称を使って『あいつらは地球上に生存させるのにふさわしくない』などの過激なカキコミも目立つ。批判はどんどんエスカレートし、『富士山、早く爆発しろ。もう待ちきれないよ』という声もあり、歯止めが聞かない状況になっている」(前出・情報番組ディレクター) ●「反日感情」を持った人たちが煽っているだけな気もします このようなSNSの投稿に、戸惑いを隠せない中国人も少なくない。都内の日本語学校に通う中国人の男性(20代)もその一人だ。 「今回のニュースは中国でも話題になっていて、『TikTok』や『Weibo』では『処理水の危険性』に関する情報が毎日のように流れていますが、正直いうと半信半疑って感じ。日本のテレビでは『処理水は安全だ』と報じているので、日本と中国、どちらを信じればいいのかわからない。日本にいる僕の友達のなかには食品の安全性を心配している子も少なくないんですが、僕は寿司やお刺身が大好物なので、ちょうど昨日、我慢できなくて食べてしまいました。そもそも中国では、いまだに反日感情を抱いている人が少なくないので、今回のニュースは、そういった人たちが煽っているだけな気もします」 日本の生鮮食品店で働く中国人男性(40代)も、中国からのイタズラ電話には迷惑しているという。 「あのニュースが流れてから、この1週間で20〜30件ほどのイタズラ電話がきて、ここで働くみんなが迷惑しています。電話の声を聞くに若い人が多いようで、中国語で『なぜあなたたちは汚い水を海に流す?』とまくし立てられたり、『あんなことしやがってバカ野郎!』と言って電話を切る人までいて、本当に嫌な気分になります。さらにお客さんまで減ってしまったので、まさに踏んだり蹴ったりの状況です」 また、日本語学校に通う中国人の女性(20代)は、「処理水に関しては気にしていない」と答えつつも、今回の騒動には迷惑しているという。 「中国に住んでいる両親から電話がかかってきて『大丈夫? 魚とか食べてないよね?』と聞かれて、『もちろん』と答えたのですが、ウソです、普通に食べてます(笑)。でも、私のように親から心配されている子は多くて、今は外食を控えていたり、スーパーでは外国の産地の食材しか買わないようにしている子もいます。私の両親も10月の国慶節(大型連休)に合わせて日本に来る予定なんですけど、今回のニュースを見て迷っているそうで…」 ●キャンセルするのはツアーでくる人、金持ちは気にしてない ただし、中国本土の人たち、特に富裕層の多くは今回のニュースをほとんど気にしていないとの声も。中華フードコートの従業員の中国人女性(50代)がこう言う。 「先日、驚いたことがありまして...。まだ日本にきて数ヶ月のお客さんが来たんですけど、『海老餃子』を注文しようとして、途中で『やっぱりこれ、海鮮入ってるからやめます』と言ってきたんです。それを見て『やっぱり一部の人は過敏になってるのかな?』と思いました。ただ、訪日旅行のキャンセルのニュースも見かけますけど、あれはツアーで日本にくる人でしょう。本土でも階層の高いお金持ちで、いろいろな海外に行ってる人はまったく気にしていませんから」 岸田総理は8月29日の自民党役員会で、中国政府に対し、輸入停止の即時撤廃を求めるとともに、「専門家同士でしっかりと議論するよう強く働きかけを続ける」との考えを示したが、しばらく事態は収まりそうにないようだ。 |
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●「多くの中国人は政府のウソに白けている」若年層“雇用不満”の矛先に? 9/2
福島第一原発の処理水放出以降、中国政府は日本産水産物の禁輸措置を取り、日本を激しく非難している。そんな中、中国人による日本の嫌がらせの電話が相次ぎ、訪日ツアーがキャンセルされるなど広範囲に影響が出ている。 中国のSNSでは、福島や東京の飲食店などへ迷惑電話をかける様子を撮影した動画が数多く投稿されている。 「もしもし、なぜ汚染水を海に捨てるかを聞きたい。何を言ってるのかわからない。なぜ汚染水を海に捨てるのか聞いている。きれいなら自分で飲んでみろ。英語は話せるか?」 「こんにちは。あなたたちはどのように過ごしていますか?あなたたちはきのう汚染水を飲みましたか?おいしかったですか?まだ健在ですか?」(※中国のSNSに投稿された動画より) 機械翻訳による音声読み上げ機能を使い電話をかけているようだ。これらの迷惑行為について中国外務省の報道官は28日、「把握していません。日本政府に対する批判、反対の姿勢は国際社会においても代表的なものです。これについて日本側によく考えていただきたい」と、政府として対応する方針を示していない。 中国が処理水放出に反発姿勢を強める背景について、中国の政治・経済・外交問題に精通する評論家、石 平氏に話を聞いた。 ――中国政府の激しい日本への非難、中国国民の行動をどう見る? 「24日の処理水の放出以来、中国政府が日本の処理水を汚染水だと決めつけて猛反発している。中国共産党系の有力紙『環球時報』も連日、社説を出して日本を批判するなど政府が煽り立てることで、一部の国民は過激な行動に出ている」 「しかし、今回の件で1つ注目すべきなのは、処理水放出から7日経つが実際には大規模デモが未だに起きていないことだ。2005年に何万人もの大規模な反日デモが起きて暴動までエスカレートしたが、今回はそこまで発展しなかった」(以下、石氏) ――それは何を意味している? 「中国の政府やメディアがこの問題を誇張して日本を攻撃するよう煽っているが、民衆の反応がいまいち盛り上がらない。この批判は最初から無理がある。というのも、国際原子力機関(=IAEA)が処理水の安全性を公表し、日本側も国際機関も科学的根拠を出している一方、中国政府側は何も根拠を出していない。さらに中国に都合が悪いのは、環太平洋の諸国の動きだ。中国政府は処理水が太平洋全体を汚染していくと宣伝しているが、アメリカやオーストラリア、台湾など、中国以外の国や地域は反発しておらず、むしろ中国自身の孤立が目立っている。そうなると、多くの中国国民は馬鹿ではないので『なぜ他の国々は抗議しないのか?』と疑問を持つ。もし本当に汚染水ならば、日本はなぜ日本の海を汚染するのか辻褄が合わない。一部の人は政府の情報を鵜呑みするが、多くの中国人は政府のウソに白けている」 この件について、ノンフィクションライターの石戸諭氏は、「僕も今回は中国側の主張はかなり無理があるという立場をとる。科学的な議論に基づいて協議しようという日本側の呼びかけに応じてこなかったのはあくまでも中国側だ。他の国はそれに応じ、情報共有も進めている。今回の処理水放出もIAEAのチェックも入れている。科学的な争点は全くない。そもそも科学的な問題は決着がついているのに、かなり無理がある主張を中国が繰り返している」と指摘する。 ――中国による日本産水産物の全面禁輸はいつまで続くのか。 「習近平政権は一旦拳を上げたらなかなか下ろさない。禁輸は今後も続くが、中国自身が困ることになる。中国政府は日本の水産物が汚染されているからと禁輸したが、海は繋がっているので、その理屈なら中国で獲れた魚も食べられないことになる。すでに中国国内では、政府の禁輸措置を受けて中国近海で獲る魚も敬遠されている。禁輸が長引くと日本だけではなく、中国自身も将来的に大きな打撃を受けることになる」(以下、石氏) 「また、中国は今後この禁輸措置をカードに、日本が中国に対して行っている半導体の輸出規制解除の交渉材料にしてくる。しかし、おそらくしばらくは禁輸措置を解除しないと思う」 ――中国経済がいま非常に大変な状況にあることが影響している? 「中国バブルはもう崩壊している最中で、特に中国政府にとって一番危機感があるのはやはり若者たちの失業問題だ。中国国家統計局が公表した数字では、16〜24歳までの若年層の失業率が、21.3%と前代未聞だ。7月に公表をやめたが、北京大学の副教授の調査では『すでに46%を超えるだろう』というデータもある。政府は国内で爆発寸前な不満の矛先を日本に向けたい狙いだろう」 ――4月以降、外国企業からの直接投資などが大幅に減っているが、これをどう見るか? 「中国経済は消費不足の中で、経済成長の頼りが外国への輸出だが7月で前年同月比14.5%減、成長の大きな原動力の1つである海外からの投資が4〜6月期で前年同期比約9割減、さらに中国経済の崩壊を象徴的に示している数字が人民銀行の新規融資で、前月比約9割減っている。企業がもう生産、設備投資をやめて意欲を失っている」 ――日本はどのように対応していくべきか。 中国の禁輸措置への対応について、石戸氏は次のように話す。 「短期的に見れば、中国が禁輸措置を止める要素がない。今後も交渉を続けていくときに外交ルートでは難しいと思うので、国際的に、淡々と自分たちの法的な正当性を訴えていくのが良いと思う。また、本来中国に輸出するはずだった物が国内に余ることになるので、それに対する支援や新しい販路を開拓、国内で消費するなど、中国への依存を減らしていってほしい」 |
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●西村経産相 宮古市魚市場を視察 “処理水”風評被害「強い決意で応援」 9/2
原発処理水の海洋放出が始まり風評被害が懸念される中、西村康稔経産相が9月2日、岩手・宮古市魚市場を視察し「強い決意で水産を応援する」と述べました。 2日正午に宮古市魚市場を訪れた西村経産相は、県漁連の大井誠司会長に処理水放出の風評被害に対する政府の対応などを説明しました。 西村経産相「風評やフェイクニュースに負けない強い決意で、水産を応援していきたい」 そのうえで、西村経産相は風評被害対策など政府が既に創設している合わせて800億の基金に加え、さらなる水産支援策を予算化する意向を示しました。 このあと、西村経産相は、宮古のブランドとして売り出している養殖トラウトサーモンやマダラの刺身などを味わい、生きの良さを感じていました。 大井会長は、西村経産相に対し今のところ影響はないものの補償をしっかりしてほしいと話しました。 県漁連 大井誠司会長「(政府は)ちゃんとした心配のない補償をやるつもりだと言ったから、それを実行してもらうことが大事だと思って(西村経産相に)言った」 政府は追加の予算案を週明けにもまとめる方針です。 |
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●豊洲市場「応援の声多い」 処理水放出後の福島県魚介類 売れ行き変わらず 9/3
福島県漁業の主力である底引き網漁が解禁され、県産魚介類「常磐もの」の流通が増える時期に入った。常磐ものは東京電力福島第1原発事故前から大消費地の首都圏で評価されてきた。処理水の海洋放出後、福島の海の幸はどう受け止められているのか。底引き網漁で取れた海産物が出回り始めた2日、都民の台所・豊洲市場で買い手や売り手の声を聞いた。(いわき支社報道部・吉田雄貴) 「三陸常磐の刺し身だよ!見ていって!」。小型運搬車「ターレ」が行き交う通路に、店員の張りのある声が響く。水産仲卸売場棟の4階にある「三陸常磐 夢市楽座」は2日午前、買い物客でにぎわっていた。福島、宮城、岩手の水産物を扱う店は東京魚市場卸協同組合(東卸)が7月に開設し、今月からは毎月第1、3土曜に営業している。 36平方メートルの売り場には放出後に水揚げされた本県産ヒラメや宮城県産カツオの刺し身などが並んだ。鮮魚類は午前8時の開店から2時間ほどでほぼ完売した。東卸によると処理水放出前後で売れ行きに大きな変化はみられない。市場ではメヒカリなど、1日に解禁された本県沖の底引き網漁で取れた魚も例年並みの価格で取り引きされたという。 消費者心理に放出による影響はないのか。夢市楽座にいた人に尋ねた。都内などですし店を26店舗展開する「寿司田」仕入部長の石井亨さん(62)は「お客さまが嫌がらない限り、東北産を使い続ける」と話した。普段から福島や宮城の魚介類を仕入れている。「品質が良いし、お客さんにも応援するという声のほうが多いよ」と店での反応を説明した。宮城県産サバフレークを買い求めた都内の気象予報士加藤史葉さん(45)は「処理水は全く気にしていない。応援の意味を込めて福島のものを意識的に購入している」と思いを語った。 「みんな冷静に受け止めている」。水産仲卸業「亀谷」社長で東卸副理事長の亀谷直秀さん(63)は売れ行きを眺め、つぶやいた。常磐ものは高級魚も大衆魚も品質に優れ、東京の仲卸界では築地時代から評価が確立されていると太鼓判を押す。「一般にもっと浸透すれば、需要が増えて魚もいっぱい取れるようになる」。「それに」と続けて「福島の原発でつくった電気は東京に来てたよな。世話になったんだからね、協力させてもらいたいのよ」と心情を明かした。プロの目に認められる「常磐もの」のブランド力を改めて感じた。 |
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●「サンモニ」 処理水は「普通の原発と違う」他の放射性物質含有の可能性指摘 9/3
ジャーナリストの松原耕二氏が3日、「サンデーモーニング」に出演し、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出について「処理水はまったく違う水」と指摘した。 海洋放出が始まったことを受けて、中国が日本の水産物を全面禁輸とした。中国からとみられる迷惑電話が日本のさまざまな自治体、施設、店などにかかってくるなど、波紋が広がっている。 松原氏は「中国があれほど危険をあおるのが、科学的だとは全然思わないです」と前置き。続けて「ただ、普通の原発が海に流しているものと処理水はまったく違う水なわけですよね」と福島第一原発の処理水が特別なものだと指摘した。 「普通の原発が流すものはトリチウムだけが入ってる。今の処理水はですね、燃料デブリに直接当たってるので、トリチウムだけじゃなくてセシウムとかストロンチウムとかいろんな放射性物質が入ってるわけです」と説明。「これが明らかに違うんだということで、日本はただ、政府はですね、そっちに意識が行かないように『トリチウム、トリチウム』という風に持って行くようにも見えるわけですね」と政府が意識的に他の放射性物質に目が行かないようにしむけていると分析した。 「ですから、ほかの放射性物質についても、安全なら『安全だ』と積極的に説明して、データを開示することが、信頼につながるんだろうと思います」と詳細なデータの開示を求めた。なお、東京電力が公開している処理水についてのサイトでは「ALPS処理水の海洋放出を行う際には、トリチウム以外の放射性物質の濃度が国の基準を満たすまで再浄化処理(二次処理)を行い、トリチウムの規制基準を十分に満たすよう海水で希釈します。」と他の放射性物質について説明している。再浄化処理(二次処理)については「多核種除去設備は、汚染水に含まれる62種類の放射性物質(核種)を、環境へ放出する場合の国の基準以下の濃度に低減する浄化能力を持っています。」とし「多核種除去設備出口の放射能濃度」という項目では放射性物質の濃度のデータを開示している。 |
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●「サンモニ」またやらかし 「処理水はまったく違う水」との発言 9/3
3日の「サンデーモーニング」に出演した、松原耕二氏の福島第一原発のALPS処理水の海洋放出について「処理水はまったく違う水」との発言が、ネット上で波紋を呼んでいる。 ●風評加害者として一線を超えた この発言に対して、作家・ジャーナリストの門田隆将氏は、SNS上に「ALPSで核種を取り除き、IAEAの厳格な検査を受け、その上、トリチウムもWTOの飲料水基準の1/7未満まで薄めて流す事がダメなら『その根拠と数字を出す』のが報道と論評の基本」。 「サンモニと松原耕二氏は風評加害者としての一線を超えた。これを許すならBPOは日本に存在する意味がなくなる」と投稿。 ●またサンモニですか ネット上では、「またサンモニですか。炎上案件ですね」「サンモニは毎週ながら、内容に問題ありですね」「日本の報道番組が風評被害を拡散させている」といった批判の声が。 また、この件に関するワードが複数トレンド入りするなど、波紋が広がっている。 ●地元は風評被害防止に必死 福島県内では、風評被害が起きないように、必死に努力を重ねている最中。 福島県郡山市に本社があるスーパー・ヨークベニマルは、国立大学法人茨城大学に、鮮魚のトリチウム検査に関する受託研究を申し込み、自主検査を開始。 この目的について、「東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水放出開始後の福島県沖を中心とする太平洋沿岸の鮮魚のトリチウム濃度を測定し、情報を提供することで、安全性を確認いただき、魚を安心しておいしく食べていただくこと」。また、「ALPS処理水放出により予想される風評被害を防ぎ、地域の水産業を守ること」をあげている。 風評被害を拡大させることは、地元が許さない。 |
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●「核汚染水でラーメンを作って欲しい」中国から“迷惑すぎる電凸”が殺到… 9/3
「(日本語)もしもし!(以下、中国語)核汚染水を海に流すのですか!?」 地図アプリを使って適当な店を見つけて電話をかけ、言うだけ言って電話を切る中国人の若者の動画が話題になっています。 また、福島県会津市から取り寄せた材料を使用しているラーメン店に“迷惑電話”をかけた中国・四川省の23歳無職の男性は、ニュース番組で「なんでラーメン屋に電話かけた?」という問いに対し、「核汚染水を使ってラーメンを作って欲しくて」と答えていました。 ほかにも、「事件です! 今新宿にいますけども、なんで(居酒屋は)中国人に対して『当店の食材は福島産です』と書いているのですか!?」と110番通報し、“バズ狙い”をする中国人インフルエンサーの動画も、SNSを騒がせています。 ●電凸、投石、店舗破壊…過激な行動の中心は? 「日本料理店を中華料理屋に変える!」と自ら開いた日本料理店の内装を壊す中国・貴州の若い中国人オーナーなど、福島第一原発のALPS処理水(福島第一原子力発電所で発生した放射性物質を含む水を浄化した処理水)の放出に抗議して過激な行動を取る中国人が増えています。中国在住、日本在住、無職から経営者まで、共通しているのは若い人という点です。 2012年以来、11年ぶりに反日の雰囲気が中国を駆け巡っています。中国のネットメディアや、「微博(Weibo)」「微信(WeChat)」「抖音(中国向けTikTok)」といったSNSで処理水の海洋放出に抗議する声や悲しむ声が目立っています。現地では、中国から日本への抗議の電凸(電話突撃)だけでなく、日本人学校への卵の投げ込み・投石まで起きています。在中国日本大使館や日本総領事館は、在留邦人に対して、抗議や嫌がらせに十分に注意するよう促しています。 もちろん現地中国人の誰もがそういった行動をしているわけではありません。アクションを起こしているのは、一部の若い人ばかりです。地域によって多少の差はありますが、多くの日本料理店で利用客が食事を楽しんでいることも報告されています。 とはいえ、中国メディアやSNSでは、処理水放出に反対する中国政府の意見に同調するような発信が続いています。多くの現地中国人の間では「日本は有害な海洋放出をしている」という前提を共有した上で、「排出を仕方ないと思うか否か」「日本に抗議するか否か」を議論するという状況になっています。 ●2012年以前の反日活動と今回の“違い” 中国の反日活動は今回が初めてではなく、11年ぶり数回目となるわけで、筆者は最初「またか」と見ていたのですが、11年前とは前提が変わっていることに気づきました。それがひいては、今回の反日活動の特徴に繋がっていると感じています。 まずこの11年で中国が強くなった。ご存知の通り経済力が上がり、それだけでなく日本でも中国製品の存在感が高まってきました。この11年で中国人観光客の爆買いがあり、中国製のスマートフォンやゲームが世界で台頭。さらに、中国のITやチャイナコスメなど、様々なジャンルで中国を過剰に褒める「中国スゴイブーム」が起こり、それをインフルエンサーが宣伝し、日本の若者が中国に惹かれたわけです。 中国製スマホのシャオミ、ファーウェイ、OPPOなどは世界的に有名で、日本でもよく売れています。反中感情の強いインドでも中国製スマホは売れていて、使われています。コスパは良いし性能は悪くないし撮影クオリティも高い。 対して、2012年以前の反日デモではスマートフォンが普及していなかったので、中国人が日本のデジカメや業務用ビデオカメラで日本製品不買を訴えるデモを撮影していました。反日なのに日本製品を使うことは、当時ずいぶん話題になったもので、デモをしていた人は矛盾と屈辱を感じていたでしょう。 スマホだけではありません。11年前と比べてEVも普及したため、それまで人気だった日本のガソリン車は投資価値がないと判断され、中国で売れなくなっています。中国では、家電も自国のメーカーが席巻。ハイテク産業や車だけでなく、これまで安全でないと思われていた食品分野でさえも、「HEYTEA」などのティードリンクをはじめ、多くの“中国ブランド”が売れるようになりました。 中国では、自国の伝統的な文化と現代のトレンドを融合させる「国潮(グオチャオ)」と呼ばれるブームが起きて、ベンチャー企業が資金を調達しては奇抜なデザインの商品を次々と出すようになり、中国製や中国ブランドが特に若い世代から信頼されるようになりました。「国潮」という大きなブームの中、様々なジャンルで中国的なモノが次々と登場し、流行して、あっという間に廃れていったのです。 今回の反日電凸を行う若い世代は、自国のトレンドの流行り廃りを経て「他人とは違う自分でありたい」とオリジナル志向を示すようになった、と様々な調査結果で言われています。 ●「スマホはアヘン」と注意喚起が出るほどネット漬けの中国人 しかし、中国人にとって日本は無視できる存在になったかというと、そうではありません。日本への旅行は身近になり、爆買いをするだけでなく、生の日本を感じるために来日する人が増えたのはご存知の通り。この10年で、日本のグルメドラマ「深夜食堂」や「孤独のグルメ」の中国版が製作されて人気を得たり、中国の大手ゲームメーカー・ネットイースが開発した、日本の平安時代を舞台にしたゲーム「陰陽師」も大ヒットして若者に支持されました。日本の様々なアニメが中国の小中高生のハートを掴んで、日本語も身近になりました。 「ガチ中華」の逆版ともいえるリアル日本料理志向も進み、焼き鳥と日本酒のバーが中国で人気になっています。 さらには日本料理や日本旅行ブームに乗っかって、日本のネオン街をそのまま中国国内につくり、ニセ江ノ電車両やニセ和歌山電鐵車両が置かれ、「映えスポット」として中国の若い世代に注目されています。日本らしいものに多くの若い世代が関心を持つようになったわけです。 そうした中国のブームを下支えしたのが、爆発的に普及したスマートフォンと、動画系を含むSNSです。中国のネットユーザーは、2012年末で5億6400万人だったのが、2022年末には10億6700万人まで増えました。しかも情報取得方法がパソコンからスマホに変わったことで、ユーザーは四六時中ネットの情報を見るようになり、「スマホはアヘンだ」と注意喚起が出たほどなのです。 昔に比べて圧倒的に情報が多くなり、バスや列車内も含めてテレビなどの公式情報を見るのではなく、スマホを使ってSNSで情報を得て、それを発信するようになりました。その代わりに、習近平体制下でさらにSNSの規制が強化され、前向きな中国情報ばかりが配信されるようになりました。 今回の福島第一原発のALPS処理水海洋放出の件でも、日本やIAEA(国際原子力機関)の情報や、ガイガーカウンター(放射線量計測器)を買って調べたら中国国内のほうが放射線量が高かった、といった情報をSNSに投稿したら、爆速で消されるように。中国で無数に雇われているネット検閲員は、近年にないブラック労働を強いられて、さぞかし大変ではないだろうかと推察します。 ●一過性のブームだという指摘も…それでも日本叩きがなくならない理由 日本料理店の店長から無職、インフルエンサー、“電話ガチャ切り”の名もなき若者まで、今回の反日活動は、勢いのある中国を見て育ち、なおかつスマホと動画に強い若者が参加しています。しかし、「国潮」ブームの瞬間的な盛り上がりを踏まえると、今回も一過性のブームだと思います。バズりを狙い、新しいストレス解消を求める若者が湧いて出てきて、新たな嫌がらせで集中的に盛り上がって引いていく動きは、今後もあるかと思います。しかも「他人と違う感じがいい」という若者の風潮から、予想だにしない嫌がらせの手法が生まれるかもしれません。 迷惑電話をはじめとする今回のアクションを起こした20代は、まだ結婚や子育てをしておらず、養育費やローンを抱えていません。それより上の世代のアクションがほとんどないあたり、若気の至りでやっているように思えてなりません。中国でも20代は夢見る世代で、30代以上になると落ち着くものです。活動に加わった若者も30代や40代になれば、今回のような行動は取らなくなるでしょう。 しかし、結局また下の世代が憤って行動を起こしてしまうわけで、今後も反日活動は何年かに1回発生するのではないかと思います。日本車や日本施設の破壊、日本への電凸は、これまで政府がぴしゃりと禁止すれば最終的に鎮まったので、今回も早く日本への嫌がらせを禁止してほしいものです。ただ、9月3日の「抗日戦争勝利記念日」や、9月18日の「柳条湖事件式典」、9月23日から杭州ではじまるアジア競技大会もあるので、まだまだ反日活動は続きそうです。 |
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●中国女優 中国のトリチウム大量放出「知らなかった 日本も信じられない」 9/3
日本で活躍する中国出身の女優、高陽子(37)が3日、「ビートたけしのTVタックル」に出演した。福島第1原発の処理水の海洋放出を開始したことに対して、中国政府は、日本の水産物を禁輸。また、中国からは日本国内へのいたずら電話が殺到するなど、過敏な反応が続いている。 番組では、中国からは毎年、大量のトリチウムが処分されていることを伝えた。秦山第三原発の約143兆ベクレル(2020年)、陽江原発の約112兆ベクレル(2021年)をはじめ、22兆ベクレル未満という福島第一をはるかに上回る数値が紹介された。 MCのビートたけしは「中国から電話かけてくる人は知らないのかね。日本政府も知らせてあげればいいのに」と疑問を投げかけると、専門家は「政府は出しているんですけど、中国では情報が規制されているので、国民は知らない」と話した。 高も「この数値は知りませんでした」と認め、どう思う?と問われると「こういう数値は…日本の数値もそうですけど、どこまで本当か分からないと思っていて。基本的には数値を信じられないなと思っている」と話した。 元宮崎県知事でタレントの東国原英夫が「これは全部、基準以下なんですよ。以下だけど、日本の5、6倍出しているということです」と説明すると、高は「日本の数値は本当なんですか?」と問いかけ。東国原が「IAEAが出しているんで、IAEAに聞いてもらえませんか?」と返した。 高は、上海出身。中国と日本を行き来する生活を送り、2011年に映画「チンゲンサイの夏休み」にヒロインとして出演した。インスタグラムでは、日本への愛も含めた投稿でファンを喜ばせている。 |
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●処理水は「日本国民に害悪」 韓国野党代表が主張 9/3
韓国最大野党「共に民主党」の李在明代表は3日、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出について「危険なごみを皆の海に捨てるテロで、長期的に日本国民にとっても害悪になる」と主張した。尹錫悦政権に対抗して行っているハンガーストライキ中に共同通信の取材に応じた。放出に理解を示す尹政権に対しても「理由は知らないが日本の肩を持っている」と批判した。 李氏は処理水放出に対する国際社会の批判が強まり「日本国民も海外旅行先で(問題を)指摘されるようになる」とし、政府もいずれ耐えきれなくなり放出を止めるのではないかと述べた。 |
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●二階氏訪中、処理水で暗礁 首相期待も早期は困難 9/4
自民党の二階俊博元幹事長の中国訪問に向けた調整が暗礁に乗り上げている。 超党派の日中友好議員連盟会長として9月にも訪中する方向だったが、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出への中国側の反発が収まらないためだ。悪化する日中関係の打開策として岸田文雄首相が強い期待感を示したが、側近議員は「様子を見るしかない」と話しており、早期訪中は困難な情勢だ。 首相は8月30日、二階氏と党本部で面会し、「日中関係は難しい状況だが、対話は切らしたくない。中国と話ができるのは二階先生しかいない」と訪中を要請。中国側の軟化に向け、中国と独自の人脈を持つ二階氏に協力を呼び掛けた。 二階氏は4月に議連会長に就任し、中国政府も歓迎した。二階氏が日中議員外交を長年けん引し、習近平国家主席ともたびたび会談するなど両国関係の維持・改善に尽力してきたことを中国側も重視し、訪中調整を続けてきた。 だが、中国が処理水放出への対抗措置として日本産水産物の全面禁輸に踏み切ったことで暗転。公明党の山口那津男代表が8月28〜30日に予定していた訪中が直前で延期となった影響も大きく、二階氏の周囲からは「中国側が気持ちよく受け入れられる状況ではない」「今は時機ではない」との悲観論が相次いだ。 首相は6〜7日にインドネシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に合わせ、中国の李強首相との会談を模索するが、実現するかは不透明。日中の溝が広がる中で二階氏の外交手腕も問われているが、側近議員は「年内訪中は難しい」との見通しを示した。 |
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●日本の処理水放出に猛反発する中国、ASEAN首脳会議に暗い影 9/4
東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が今週、インドネシアの首都ジャカルタで開催される。同会議には岸田文雄首相と中国の李強首相が参加する予定だが、東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出に猛反発する中国との関係改善は見込みにくい状況だ。 同会議は日中関係を安定化させる機会となり得たが、今や参加国首脳を前に李首相が岸田首相を攻撃する場と化す可能性がある。 中国は、処理水の海洋放出に踏み切った日本に対し最も強硬な姿勢を示している。国際原子力機関(IAEA)がまとめた日本の処理水放出計画に関する報告書では、人体や環境への放射性物質の影響は軽微との見解が示されたが、すぐさま猛烈に批判した。同報告書には少なくとも中国の科学者1人が関わっている。 中国政府は日本産水産物の輸入全面停止を発表。これに対し日本政府は世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない構えをみせているが、中国国営メディアは日本批判を強め、中国国民の間では日本製品の不買を呼び掛ける動きが出ている。中国の日本大使館や総領事館、日本人学校では、卵や石が投げ込まれる事件が起きた。 5日から始まるASEAN関連首脳会議では、米国と韓国との友好関係を一強める日本を中国が攻撃する可能性がある。バイデン米大統領と岸田首相、韓国の尹錫悦大統領が8月に首脳会談を行ったことで、中国は孤立を深めた。 アジアソサエティー政策研究所中国分析センターのエグゼクティブディレクター、ベイツ・ギル氏は、「日本と地域のパートナー国を分断するために、中国はできることは何でもするだろう」と述べた。 日中関係の緊迫化は、処理水の海洋放出を巡る中国国民の不信感をあおる要因となっている。中国国営メディアは、放射能汚染により突然変異したとみられる海洋生物を描いた漫画などを掲載。中国共産党機関紙系の環球時報前編集長、胡錫進氏は米人気アニメ「ザ・シンプソンズ」に三つ目の魚が登場するエピソードの動画をX(旧ツイッター)のアカウントに投稿した。 人工知能(AI)による真贋(しんがん)判定サービスを提供するロジカリーの中国専門研究員、ハムシニ・ハリハラン氏は、処理水海洋放出を巡る偽情報キャンペーンには地政学的な意味があるとみている。 同氏は「これは米国と同盟国が世界の国々や人々をいかに失望させているかを言い立てる大々的なキャンペーンの一環だ」と指摘。 「日本の信用をおとしめるためであることは間違いないが、中国のより大きな外交目標の一環でもある」と語った。 中国政府にとって、処理水海洋放出に対する非難は国内問題から国民の目をそらせるという点でも有効かもしれない。中国経済は減速しており、債務が増加、不動産市場は悪化し、若者の失業率は記録的な水準に上昇している。 中国の行動が日本経済にどの程度影響を及ぼすのかはまだ分からないが、日本の国内総生産(GDP)に占める水産物輸出の割合は極めて小さい。ブルームバーグ・エコノミクスによると、対日感情の悪化で中国からの観光客が抑制される可能性はあるものの、過去にこうしたマイナスの影響は長続きしなかった。 岸田首相と中国の習近平国家主席が昨年11月のアジア太平洋経済協力機構(APEC)首脳会議に合わせて公式会談を行った際、両首脳は日中の安定的関係の構築に向けて協力を確認している。 シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の呉木鑾(アルフレッド・ウー)准教授は日中関係について、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化をきっかけに中国で大規模な抗議活動が起きた2012年当時ほど事態が悪化するとは予想していないものの、迅速な解決も見込めないと語った。 同氏は正常な関係に戻るには数週間か数カ月、ないしはそれ以上かかるとし、「その後、中国側が徐々に冷静になっていく」とみている。 |
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●政府がWTOに反論書面を提出 中国による水産物の輸入停止「受入れない」 9/5
福島第一原発の処理水の海洋放出を受け、中国が日本産水産物の輸入を全面停止したことについて、外務省は4日、WTO(世界貿易機関)に対し、「輸入停止措置は全く受け入れられるものではなく、即時撤廃を求める」などとする書面を提出した。 外務省によると、中国政府は、8月31日に、緊急措置として日本を原産地とする全ての水産品の輸入を停止することを決定した旨をWTOに通報していた。 これに対し、日本政府は4日、「中国が通報した措置は、日本にとって全く容認できないものである」と反論し、「中国に措置の即時撤廃を求めており、引き続き求めていく」などとする書面を、WTOに提出した。 書面では、処理水の海洋放出後のモニタリング結果について、「海域の様々なモニタリングポイントにおけるトリチウム濃度レベルが、放出放出基準より大幅に低いことを明確に示している。また、放出は計画通りに実施されており、現在までに問題が発生していないことも示している」などと記し、放出の安全性についてあらためて説明している。 また、「福島第1原発が年間に放出するトリチウム量は、例えば中国の秦山原子力発電所から放出されるトリチウム量の約10分の1である」とも指摘した。 そして、中国の輸入停止措置は「科学的原則に基づくものとは見なし得ない」として、「遺憾の意を表明する」とともに即時撤廃を求めた。 さらに、この書面提出とは別に、日本政府は中国政府に対して、日中両国とも締約国となっているRCEP(地域的な包括的経済連携協定)の規定に基づき討議の要請を行った。 |
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●処理水放出で政府が反論書「トリチウム量は中国原発の10分の1」 9/5
岸田首相は、東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、6日に始まる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議などの場で積極的に安全性を訴える方針だ。 首相は5日、会議が開かれるインドネシアへの出発前、「透明性を持ち、国際原子力機関(IAEA)と協力しながら取り組んでいる我が国の取り組みについて、理解や協力が得られるよう説明を尽くす」と首相官邸で記者団に強調した。 ASEAN関連首脳会議と、インドでの主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)には、中国の 李強リーチャン 首相が出席する見通しだ。岸田首相は一連の会議で李氏から科学的根拠に基づかない主張があれば、反論する。個別の会談なども呼びかけ、李氏に直接、日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃を働きかける考えだ。 日本政府は4日には、世界貿易機関(WTO)に対し、輸入停止措置の撤廃を求める反論書を提出した。 反論書では、IAEAの継続的な関与のもとで、「モニタリング(監視)を重層的に実施している」と説明。海水の放射性物質トリチウム(三重水素)濃度は、計画の放出基準(1リットル当たり1500ベクレル未満)より大幅に低く、「現在までに問題が発生していない」と明記した。 処理水に含まれる年間のトリチウム量は、中国の秦山原発の約10分の1だとも例示し、中国の措置は「科学的原則に基づくものとはみなせない」と厳しく批判した。 |
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●「海産物を食べて福島を応援」処理水の海洋放出受け百貨店が応援フェア 9/5
東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が始まって10日余り。 風評被害を防ごうと、長野県松本市の百貨店が福島県産の海産物などを販売するフェアを開いています。 長野県松本市の井上で開かれている「食べて応援!ふくしまフェア」。 地下1階の海産物売り場には、福島県で水揚げされた天然ヒラメの刺し身やカットわかめが販売されています。 処理水の海洋放出を受け、中国が日本産水産物の輸入を全面的に停止するなど影響が広がる中、福島県の漁業者を応援しようと9月から始めました。 井上食料品グループ長・荻澤健二さん「消費して福島を盛り上げていただくことが、一番のメインかと思います」 フェアでは海産物のほかに福島県産のナシや野菜も扱っていて、井上では、期限は定めずさらに品ぞろえを増やしていきたいとしています。 |
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●国の2024年度予算編成 概算要求で処理水の海洋放出への対応拡充 9/5
国の2024年度の予算編成に向けた概算要求で、処理水の海洋放出への対応が拡充された。 2024年度の予算編成に向けては、2023年6月福島県の内堀知事が経済産業省など中央省庁を訪問し、処理水の海洋放出について風評を防ぐ対策など責任ある対応を要望していた。 各省庁からの概算要求は8月末に締め切られ、漁業に関わる人材を確保するための支援事業は、今年度の当初予算から14億円多い21億円。水産物のモニタリングなどには6億円多い21億円が盛り込まれ、処理水の海洋放出への対応が拡充された。 内堀知事は「おおむね福島県の要望を踏まえた対応がされた」としている。 |
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●中国、処理水の国際評価参加拒否 9/5
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡り、福島沖で採取した海水の放射性物質のモニタリング(監視)結果を当事国・日本を除いた形で客観的に分析・評価する国際原子力機関(IAEA)の国際的枠組みに加わるよう日本政府が中国政府に提案したのに対し、中国が拒否したことが5日分かった。日中関係筋が明らかにした。処理水の海洋放出に反発する強硬姿勢が改めて鮮明になり、日本が求める科学的根拠に基づく議論は困難となっている。 インドネシアの首都ジャカルタで5日開幕の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議には岸田文雄首相と中国の李強首相が出席。処理水を巡り対立が深まる日中の首相が接触するかどうかが焦点だ。ただ、正式な首脳会談は調整が進んでおらず、見送られる公算が大きい。 日中関係筋によると、日本政府は今年に入ってから複数回にわたり外交ルートで中国側に対しこの国際枠組みへの参加を促した。中国側は「分析・評価の独立性が担保されていない」などと実効性を疑問視し、受け入れなかったという。 |
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●汚染水海洋放出後の水産物消費 「減らす・食べない」が3分の2=韓国調査 9/6
韓国の国家基幹ニュース通信社の聯合ニュースと聯合ニュースTVは6日、調査会社メトリックスを通じて全国の成人1000人を対象に行った意識調査(2〜3日実施)の結果を発表した。同調査では、日本で8月24日に東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出が始まってからの水産物の消費量について、以前より減らすか安全性が保証されるまでは食べないとの回答が3分の2に達した。 海洋放出後、自身の水産物消費量がどのように変化するかを問う質問に対し「以前より減らす」という回答は32.9%、「安全に確信が持てるまで食べない」という回答は32.4%だった。「以前と同じように食べる」という回答は31.1%だった。 「以前より減らす」という回答は「18〜29歳」(42.6%)、「無党派層」(42.2%)、進歩性向(44.0%)などで高く、「安全に確信が持てるまで食べない」は30代(42.4%)と40代(41.0%)、革新系最大野党「共に民主党」支持層(52.3%)などで多かった。 「以前と同じように食べる」という回答は「60歳以上」(45.0%)、与党「国民の力」支持層(62.5%)、保守性向(52.2%)などで高かった。 |
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●「処理水の海洋放出への反発 利害関係者と合意形成のプロセス不可欠」 9/6
今回の日本の処理水の海洋放出は、内外で大きなハレーションを起こしています。なかでも水産物の全面輸入禁止に打って出た中国に対する反発で、両国の間の敵愾(てきがい)心が高まりつつあります。海という公共財の保護や漁業・水産加工業の持続可能な維持、食の安全といった問題が、国家間の地政学的な対立やナショナリズムの相剋(そうこく)という問題にスライドしつつあるのは本末転倒です。 問題の核心は、肝心のデブリ(溶解した核燃料棒や炉心構造物)の安全な取り出しのメドがたたず、ALPS(多核種除去設備)によって処理される以前の汚染水の増加を防ぐ決定打が見つからないことです。福島第一原発の構内に設置されたタンクは約1千基、137万トンとも言われています。トリチウムの濃度が海洋放出の際、近隣諸国の原発から放出されている排水より低濃度だとしても、トリチウム以外の放射性核種の除去が完璧なのか。また、南海トラフなどで巨大地震が起きた場合の不安や疑念にも答えていく必要があるはずです。 被害が近隣諸国や太平洋の島嶼(とうしょ)にまで及びかねない以上、様々な利害関係者の多層的なラウンドテーブルを日本政府の肝煎りで開催し、自然生態系にダメージを与えず、内外の利害関係者も一定の理解を得られるような合意形成のプロセスは不可欠です。個人的には出来るだけ早く、処理水の「固体化」の作業を進め、固体化で体積が増大しても福島第二原発構内をはじめ第一原発近くの場所に管理する、第一原発構内のタンクが限界であるというなら、第二原発構内を差し当たりの保管場所にするといった案もいいと思います。そうしたアイデアも含めてラウンドテーブルで妙案を募る作業が必要です。 地震大国・日本は、30年以内に巨大地震に見舞われる可能性が高いと言われて、被害の規模と形状によっては近隣諸国の援助が必要でしょう。また四川地震では日本のレスキューが活躍し、東日本大震災では中国からの救援物資やレスキューもあったように、緊急事態における相互援助の歴史が共有されています。議論の本位を定め、ナショナリズムに逃れてしまうような愚行は避けなければなりません。 姜尚中 |
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●処理水問題の“落としどころ”は?過去に重なる反日の機運 9/6
●影の立役者・公明党トップの訪中も拒否 水産物の全面禁輸。鮮度が重要な生鮮品の輸入は実質的に止まった。それに冷凍品や乾物も含めて、日本からの全ての水産物の輸入を禁止された。公明党の山口那津男代表が中国訪問を予定していたが、これも直前になって延期された。 山口代表は、岸田総理の親書を携えて、習近平主席との会談を希望していた。訪中のキャンセルは、中国からあった。「当面の日中関係の状況に鑑み、適切なタイミングではない」「今はその環境にない」というのが理由だ。「岸田総理の親書は受け取れない」ということを意味する。 1972年の日中国交正常化に至る前は、公明党、それに支持母体・創価学会が中国側と関係を築いてきたという経緯がある。半世紀が過ぎても、影の立役者だった公明党とは、中国側とは長年培ってきた信頼がある。中国の要人がよく使う「水を飲む時は、井戸を掘った人のことは忘れない」という存在だ。自民党内にある、時に強硬な対中姿勢を、公明党は補う役割をしてきた。 その公明党のトップであっても、「今は来てもらっては困る」というのは、それだけ、難しい局面にある、と言えそうだ。 ●処理水の海洋放出は向こう30年間続く 水産物の全面輸入停止は、福島から遠く離れた、例えば、沖縄産だろうが、北海道産だろうが対象になっている。日本から中国への農林水産物の輸出は増え続け、輸出相手の国別で中国が最も多い。中国向けの水産物の輸出は全体の3割を占める。ホタテやアワビは高級中華料理の食材として、日本産の品質は、中国人から高く評価されてきた。 ほかにも、青森県・大間のマグロの刺し身、大分県の関サバ・関アジなど、我々日本人も滅多に口に入らない高級品まで高値で取り引きされてきた。それに、日本で盛んな陸上でのサーモン養殖には、中国市場をターゲットにしたものもあるという。 それにしても、中国の一連の対応は、冷静さを欠き、頑なすぎるようにも思える。報道についてもそうだ。24日の午後1時、福島第一原発から処理水の海洋放出が始まると、間髪入れずに「人民日報」のアプリに、ニュース速報が飛び込んできた。そのほか、このアプリには、海洋放出に関するニュースがあふれ返っている。たとえば、処理水放出について「漁業者が怒っている」、「市民団体が反対集会を開いた」、また「別の第三国が放出に懸念を表明した」とか…。 報道内容は、放出を否定する動きが目立つ。このスタイルは、ほかの例で紹介すると、沖縄県名護市・辺野古への米軍基地移転問題についての報道とよく似ている。自分たち、つまり、中国の主張に合った出来事、動きを中心に報道するスタイルだ。 そういう報道を見聞きした中国の国民は、日本への反発・反感を強めていく。中国のニュースサイトの載っている読者の書き込み欄には、ここで紹介するのをためらう表現で、日本を非難している。そして、中国当局もそれを容認している。 ●過去に何度もあった反日デモ・不買運動 処理水の海洋放出が始まって以降、中国側で起きた動きを見ていると、苦い思い出がよみがえってくる。過去、中国国内で発生した反日デモだ。大規模なケースでいうと、2005年、2010年、それに2012年に起きた。 2005年は3月下旬ころから歴史教科書問題、日本の国連安保理常任理事国入りに反対する署名活動が始まった。それが中国各地に拡大した。暴徒化した市民によって、日本の資本が入ったスーパーに対する暴動が発生した。 2012年は、中国本土や香港の活動家が沖縄県の尖閣諸島に上陸し、この活動家らが逮捕・強制送還された。さらに日本政府が尖閣諸島を国有化したことで、国営メディアが中国国民の反日感情をあおり、反日デモが繰り返されるようになった。 反日デモは、日本が中国へ抗議したことに対し、中国政府は「そもそもの原因は日本側にある」として謝罪を拒絶した。今回も、中国各地にある日本人学校に石や卵が投げつけられるといった、嫌がらせが相次いでいる。児童・生徒が乗ったスクールバスも標的にされかねない。 また、中国からかけているとみられる嫌がらせや苦情の電話が福島県などで多発している。「ショリスイ」「バカ」「シネ」などの単語も含まれる。山東省青島の日本総領事館の近くでは、「日本鬼子(日本人の蔑称)を叩け」と書かれた大きな落書きが見つかったという。 「日本鬼子」――。「化け物と同じ日本人」という翻訳すべきか。清朝末期、日清戦争が始まる頃に、清朝の政府関係者が発言した言葉が元で、その後、日中戦争を経て定着し、今なお中国で日本人に対する蔑称。さげすんだ表現だ。 日本製品に対する不買運動を呼び掛ける動きも出ている。「化け物のような、鬼のような日本人」という蔑称。それに不買運動が加われば、数年前、十数年前の反日デモより、もっと過去の出来事を連想してしまう。 「日貨排斥」という言葉がかつてあった。日本の商品(=日貨)を排除するという中国の反日大衆運動。第一次大戦中の大正4年(1915)、日本は中国に「21か条の要求」を突き付けた。中国において、日本の権益を認めるよう要求したものだ。 日本は中国に受諾させたが、これに対し、中国国内では反日運動が巻き起こった。中国民衆は日本の商品の排斥、それに4年後の「五・四運動」につながる抗日運動を、連想してしまう。100年以上前の日本と中国の間の歴史がよみがえる思いだ。 ●9月は「ある記念日」に要注意 中国政府は「国際的な公共利益を無視した極めて自分勝手な行為」として処理水の海洋放出をやめるよう日本側に要求している。中国はなぜ、科学的根拠も示さず、これほど頑ななのか? 経済が停滞し、若者の失業率も高い。国内に溜まってきた不満のガスを、日本に向けて発散させている――。そんな見方がある。 ただ、海洋放出が決まった当初から、中国はずっと反発してきた。この間、日中間の政治レベルで、事態の収拾を図る努力がなされてきただろうか。もちろん、台湾有事を含めた安全保障でアメリカと同一歩調を取る岸田政権への不信感が背景にあるのだろう。 そして、処理水放出はずっと続く。中国は、挙げたこぶしをいつ、どこかでおろすか――。中国だって、難しい立場にある。 気になるのは、まもなく、日中間での「ある記念日」がやってくる。それは9月18日、満州事変が起きた日だ。日本軍が旧満州(=現在の中国東北地域)への軍事行動のきっかけとなった事件は1931年(昭和6年)の9月18日に起きた。中国では過去においても、この日に、反日運動の炎が各地で燃え上がったことがある。9月は要注意だ。 |
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●処理水と中国反応 各紙とも理不尽と糾弾 「WTO提訴せよ」産経 9/6
政府と東京電力が、福島第1原発の処理水の海洋放出を始めて2週間が経過しようとしている。海洋から検出される放射性物質トリチウムの濃度は、計画の基準を大きく下回っている。 こうした海洋放出は世界の原発などで広く行われており、国際原子力機関(IAEA)も安全性にお墨付きを与えている。だが、中国政府は日本産水産物の輸入を全面停止し、中国から日本に嫌がらせ電話が相次いでいる。在中国日本大使館や日本人学校への投石も発生した。 主要各紙は、科学的根拠を欠く日本産水産物の輸入停止や嫌がらせ電話などを一斉に非難した。 8月29日付の産経は「処理水は科学的根拠に基づき安全な方法で放出されている。抗議されるいわれは少しもない」と強調し、「中国発の卑劣な嫌がらせは直ちに中止されるべきだ」と断じた。 同日付の朝日は「正当な抗議も認められるべきだ」としながらも、「現に起きているのは無関係の市民や施設を標的としたいやがらせだ」と指摘し、「中国政府には事態の沈静化を図る責任がある」と論じた。 読売も同日付で「中国からの、科学的根拠を無視した一方的な嫌がらせを中国が放置していたら、日本の対中友好感情を著しく傷つけ、両国関係を悪化させる恐れが強い」と懸念を示した。そして中国政府に「沈静化に動くべきだ」と注文をつけた。 「度を越した迷惑行為は看過できない」と表明した30日付の毎日は、「日本国民の対中感情がさらに悪化するだけでなく、自らの国際的なイメージの低下を招くことを中国政府は認識すべきだ」と論難した。 さらに日経も同日付で「中国政府には、自国民による理不尽な嫌がらせ、危険な行為をやめさせる強い措置をとる義務がある。放置は許されない」と糾弾した。 こうした中国の暴挙をめぐり、各紙はその隠れた意図についての分析でも足並みをそろえた。 産経は29日付で「中国経済の変調から生じた自国民の不満を日本に向けたり、歴史問題と同様の反日カードにしたい思惑が中国政府にはあるのだろう」と論考した。 朝日も同日付で「中国経済の停滞で、若年失業率は20%を超える深刻な状況にある。日本が不満のはけ口になりかねないリスクは十分にある」と警鐘を鳴らした。 毎日は30日付で「不動産不況や若者の失業率悪化で国民の不満が高まっている」と分析したうえで、「日本に対する嫌がらせ行為を黙認することで、『ガス抜き』を図る狙いがあると見られても仕方ないだろう」と批判した。 中国による日本産水産物の全面輸入禁止についても、各紙とも厳しく批判した。 産経は26日付で「不当な禁輸で日本の水産業に多大な経済的打撃を与える暴挙に他ならない。岸田文雄首相が即時撤廃を申し入れたのは当然だ」と主張した。さらに産経は、9月2日付で「岸田政権は中国政府の不当さを一層明確に批判し、世界貿易機関(WTO)への提訴に踏み切るべきだ」と訴えた。 朝日も8月26日付で「巨大市場を武器に、貿易で他国に圧力をかける『経済的威圧』にも等しいふるまいだ。合理性を著しく欠いた措置に、強く抗議する」と難じた。 交流サイト(SNS)への投稿を厳しく統制しながら、反日的投稿を放置する中国政府の態度は、大国とは思えぬ無責任な振る舞いである。 中国が対日禁輸を即時撤廃するのは当然だが、水産物禁輸の打撃を少しでも緩和するため、日本政府は中国への過剰な依存をやめ、官民一体で新たな販路の開拓などに努めるべきだ。それは経済安全保障を強めることにもつながるはずだ。 ●処理水放出と中国をめぐる主な社説 【産経】・科学無視の暴挙をやめよ(8月26日付)・中国政府に「責任」がある(29日付)・WTO提訴をためらうな(9月2日付) 【朝日】・筋が通らぬ威圧やめよ(8月26日付)・冷静な対話こそ必要だ(29日付) 【毎日】・即時撤回へ外交の強化を(26日付)・沈静化へ責任ある対応を(30日付) 【読売】・中国は不当な措置を撤回せよ(26日付)・中国は嫌がらせを放置するな(29日付) 【日経】・中国の日本産水産物の禁輸は理不尽だ(25日付)・中国は理不尽な迷惑行為をやめさせよ(30日付) 【東京】・日中は理性的な対話を(30日付) |
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●中国も福島の10倍のトリチウムを海洋放出 9/6
日本にとって宝の持ち腐れなのは、経産省が処理水放出にあたって作成した「世界の主要な原発におけるトリチウムの年間処分量」という図表である。 同省や環境省などのウェブサイトで公開されているが、これを見ると福島が海洋放出する年間予定量と比較し、中国の原発は最大で約6.5倍のトリチウムを放出していることが分かる。例えば2020年には東シナ海に面した浙江省の秦山第三原発で143兆ベクレル。翌21年には広東省の陽江原発で112兆ベクレルと、日本が今回実施する年間22兆ベクレルという水準を遥かに上回るトリチウムを放出していたのだ。 中国駐在経験のある外報部記者が言う。 「中国の原子力専門書『中国核能年鑑』によると、秦山原発は21年には218兆ベクレルと、日本の約10倍に当たるトリチウムを放出していたことも分かっています。こうした中国の二枚舌をもっと国際社会に訴え、日本批判の異常性を浮き彫りにすべきです」 ●公務員の給与さえ払えない地域も 現代中国に詳しい東京大学教授の阿古智子氏も、 「日本政府は中国に毅然とした態度で臨み、科学的根拠やデータを示していく必要があります。今回の一件で、中国国内でも日本の海産物を扱う水産加工業者や貿易会社などが打撃を受けるわけで、中国政府は科学的にも経済的にも、合理的な判断をしているとは到底思えません。ご存じの通り中国は不動産不況で、経済が冷え込み公務員の給与さえ払えない地域も出て、社会が不安定な状況になりつつあります。国内で起きている反日活動を今後しっかりコントロールできなければ、不満の矛先が自分たち中国共産党へ向かう危険性もあります」 中国にとっては因果応報、自ら生み出した偽情報が、体制の終わりの始まりとならないことを祈るばかりだ。 |
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●日本はなぜ海洋放出したのか…アメリカの核関連施設に見る原発処理水対応 9/6
TOKYO MX 朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」。8/24 放送の「New global」のコーナーでは、アメリカの原発処理水の対処法について取り上げました。 ●米核関連施設の原発処理水の対応は? 8月24日、日本は原発処理水の海洋放出を開始しました。放出前から各国さまざまな反応がありましたが、特に中国の対応は厳しく、中国の影響が強まる香港も足並みを揃えるように批判的な姿勢を見せています。しかし、韓国は尹錫悦大統領が世論をうまく抑えながらコントロールし、台湾も科学的な知見に基づき、国際的な安全基準に合致していると認めています。 一方、当事国・日本の福島県では、以前から原発処理水に関してはさまざまなオプションを検討。世界中の核関連施設を分析し、情報を発信してきました。この日は、福島県がまとめたその報告書からキャスターの堀潤がアメリカの核関連施設が処理水をどう対処してきたのか紹介しました。 まずは堀も現地を取材したことがある「スリーマイル島原発」。ここでは長い時間をかけて汚染水を蒸発させました。この案は国内でも2010年代初頭に議論されたそうですが、福島では地下水が流れ込んでいたり、冷却水が大量に必要だったりといったさまざまな理由から「蒸発で対応できるのか」が疑問視されていました。 そして、もうひとつが「ハンフォード核施設」。こちらでは処理水を地下に浸透、地中に流していく方法を選択。ただ、そのために大規模な設備を設置したそうです。 このようにさまざまな核施設の処理水の対応を研究し、日本でも蒸発させるか、地下に流すかなど検討につぐ検討が重ねられましたが、「日本では新たな規制の強化策や新たな設備の設置、予算など現実的な路線を考えると大量の水を処理するには海に流すしかないんじゃないかということで、これまで議論が重ねられてきた背景がある」と堀は現在に至る状況を解説します。 つまり、日本も何もやってこなかったわけではなく、議論を重ねてきたのですが、経済ジャーナリストの荻原博子さんはそれも理解しつつ「でも、私たちにはそういうことを説明されていないし、世界の状況も聞かされていないし。そういうことをしっかりとレクチャーしないとまずい」と指摘。 堀は「おっしゃる通り、それはすごく大事なこと」と頷きつつ、最後にメディアに関して言及。2013年、廃炉に関する団体が立ち上がった際、その初日の説明会では上記のような説明を経産省や東京電力が行い、民間、そして世界へと理解と協力を求めたものの、その日、現場にテレビカメラは1台も入っていなかったそう。堀は「なんで報道しないのか」と嘆き、「当時も憤りを感じたが、やはりまだまだ我々メディアが果たさないといけない責任はたくさんある」と話していました。 |
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●中国の印象操作、日本の科学的反論 処理水巡る日中対立≠フ行方 9/6
6日にインドネシアの首都ジャカルタで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議は、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出をめぐる日中の応酬の場となった。中国の李強首相が処理水を「核汚染水」と繰り返して印象操作を試みる一方、岸田文雄首相は科学的根拠を基に反論する構図だった。 「日本の立場を申し上げた」。首相は会議終了後、記者団にこう繰り返した。「日本の立場」とは中国の日本産水産物の全面禁輸措置に対し徹底抗戦するものだ。日本政府は4日に禁輸の即時撤廃を求める反論文書を世界貿易機関(WTO)に提出。国際的なルールと放出に関する情報公開の透明性を盾に中国の批判を封じ込める戦略だ。 中国政府が輸入停止をWTOに通知したのは8月末。今月4日にWTOに提出した反論文書では、禁輸措置について「まったく容認できない」という日本の立場を盛り込んだ。 日本政府は中国政府に地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に基づく討議の要請も行った。中国側は科学的根拠に基づく説明の場を求める日本側の呼びかけを無視しており、討議に応じるかは不透明だ。 こうした中、与党内には、政府に対し、WTOへの提訴検討を促す意見が出ている。日本は欧米諸国に先駆けて2001年に実現した中国のWTO加盟を後押しした経緯がある。中国のWTOへの通知は、WTOを一方的な反日政策の場に悪用し、こうした日本側の努力を踏みにじる行為といえる。 西村康稔経済産業相は4日、訪問先のイスラエルでの記者会見で「中国がWTOに通知したので、それに対抗してWTO上の対応を考える」と述べた。中国側の反応によっては、日本政府は提訴も含めより厳しい措置を取る可能性がある。 |
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●福島第1原発の処理水、海洋放出にまつわる誤情報 9/6
東日本大震災で被災した東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出をめぐり、誤情報や不正確な情報、さらにはデマの波が広がっている。 その一部は、中国国営メディアによって配信されている。中には、怪獣「ゴジラ(Godzilla)」が海に出現するというAI生成画像を含む報道もあった。 先月始まった処理水の海洋放出は、国連(UN)の国際原子力機関(IAEA)や国際的な専門家らによって安全と宣言されている。にもかかわらず、中国は日本産水産物の輸入を全面禁止した。 日本政府は、在北京日本大使館にれんがが投げ込まれるなど、中国国内の日本人や日本企業への嫌がらせが急増しているとして懸念している。 AFPのファクトチェックチームは、処理水放出をきっかけに特に広く拡散した一部の情報について、その真偽を検証した。 ●「太平洋に放射能汚染」 処理水が海に放出されれば、57日以内に太平洋の大部分が汚染されるとする主張が、中国系SNSのティックトック(TikTok)や微博(ウェイボー、Weibo)、さらにフェイスブック(Facebook)などでグラフィック付きで拡散した。 この投稿は中国と韓国からのものが主だが、日本国内でも拡散した。微博ではこのグラフィックに関連したハッシュタグの閲覧数が7億回を記録し、他のSNSでも拡散した。 さらにこのグラフィックは中国中央テレビ(CCTV)や中国国際電視台(CGTN)といった中国国営メディアでも使用された。 しかし、これは2011年の福島第1原発での事故後にセシウム137の海洋拡散をシミュレーションしたもので、出どころは翌12年に発表された論文だった。 ドイツ・キール(Kiel)にあるヘルムホルツ海洋科学センター(GEOMAR)が行ったこの研究に関する論文の主著者を務めたエリック・ベーレンス(Erik Behrens)氏はAFPに対し、グラフィックは「メルトダウンが起きてから最初の数週間におけるセシウム137の初期放出のみを捉えており、長期的な放出シナリオについて作成されたものではない」と語った。 ●「魚の死骸」 ユーチューブでは、処理水放出開始後に福島県近海に無数の魚の死骸が打ち上げられたとする動画が投稿され、再生回数が15万回を超えた。この動画はフェイスブックやティックトックでも拡散した。 中国は日本からの水産物の輸入を禁止し、日本の企業には中国から多数の嫌がらせ電話がかかってきた。また水産物販売店には、商品の安全性を疑う苦情が殺到した。 CGTNは、日本が「汚染水と毒魚」を海に流していると主張するミュージカル風のパロディー動画まで制作した。 だが、AFPがファクトチェックを行ったところ、この魚の映像は今年2月、日本海に面した新潟県糸魚川市の海岸に大量のイワシが打ち上げられたときのものだった。 ●「放射性物質の拡散予測」 7月に日本政府が海洋放出を準備していた段階で、ソーシャルメディアには米海洋大気局(NOAA)による太平洋への放射性物質の拡散予測とする画像が出回った。 元となった韓国語の投稿は、日本が「ジオサイド(地球破壊)」を行っていると糾弾していた。この投稿はフェイスブック上で、韓国語および中国語で広くシェアされた。 SNSのX(旧ツイッター〈Twitter〉)では、中国人実業家の宋文洲氏が取り上げ、80万回以上閲覧された。 だが、NOAAの広報担当者はAFPに対し、この画像は2011年に日本近海で発生した海底地震による津波の最大波高を予測したものだと述べた。 ●「黒い水」 微博上には、福島から排出されたものだとする黒い水が海に流れ込む動画が投稿された。中国語のキャプションは「日本は原発廃水を放出している。わが国の生態系や生命に影響はないのか」と問い掛けていた。 元の投稿は1万6000回以上再生され、さらにフェイスブック、ユーチューブ、微博、X、ティックトックの中国語版の抖音(ドウイン)などで計80万回再生された。 だが実際には、この動画はメキシコ・アカプルコ湾で2020年に撮影され、報道されたものだった。メキシコ国家水委員会は当時、アカプルコの下水道を管轄する自治体機関を刑事告発したと発表していた。 |
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●「中国・李強首相と立ち話を行いました」岸田総理が海洋放出の理解求める 9/6
インドネシアを訪問中の岸田総理は、中国の李強首相と短時間立ち話し、東京電力・福島第一原発の処理水を海洋に放出する方針について直接理解を求めました。 岸田総理「中国・李強首相と“立ち話”を行いました。アルプス処理水の我が国の基本的な立場について説明をしたということであります」 日中首脳の立ち話は、岸田総理から声をかける形でASEAN関連の首脳会議の前に短時間行われました。 岸田総理は日中関係の重要性に触れつつ、処理水放出について、「国際的基準にのっとって対応している」などとした日本の立場を説明し、理解を求めたとしています。 |
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●高橋洋一氏が猛批判 「サンモニ」松原耕二氏の処理水発言 9/6
元財務官僚で経済学者の高橋洋一嘉悦大教授が5日、自身のYouTubeチャンネルに動画を配信。TBS「サンデーモーニング」でジャーナリストの松原耕二氏が福島第一原発の処理水に関して発言した内容を酷評した。 海洋放出が始まった処理水について、松原氏は3日の「サンデーモーニング」で「処理水は普通の原発の水と違う」という主旨のコメントを行った。 高橋氏は「よく分かってないだけじゃないの?基本的な知識がない」と失笑。日本の水産物を禁輸した中国政府と「ロジックがまったく一緒」と話した。 処理水は、放射性物質を含んだ汚染水をALPSという浄化設備によって処理されている。高橋氏は「この技術は元々アメリカとフランスなんだよね」「それを日本のメーカーが努力して国産化をやった」と導入した経緯を説明した。 さらに「62種類除去するっていうと他のものは除去していないって話になるんだけど、ほかのものは検出できないんだよ。出てくる核種は全部除去しているから」と話した上で、「デブリに触れたから未知のものが出てくるというんだけど、教えてくれよって。ここまで来るとホラーでしかない」と笑い飛ばした。 その上で「サンモニの松原さんが科学知っているといったら、知らないんでしょ。単なるド文でしょ。そうすると、どっかの受け売りをするんだけど、科学ではやられるに決まっている」と切り捨てた。 処理水の議論については、社会学者の宮台真司氏もX(旧ツイッター)で「トリチウムは生体濃縮する」という主旨の発言をして、話題になった。高橋氏は「あれも傑作だったな。一番簡単なのは、そこら辺の魚獲ってみたら分かるよ。トリチウムはそこら辺にあるから」と論破した。 生物濃縮による水銀中毒が原因となった水俣病を引き合いに出す意見については「トリチウムは水に似ている性質(だから溜まらない)。(水銀は)金属だから溜まる」「基本の科学的な知識がないのがバレる」「ド文の人は、中学高校のときに勉強しないとダメだと思うよ」とぶった切った。 |
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●〈小名浜漁港ルポ〉処理水海洋放出で頭を悩ませる漁業関係者たちの本音 9/7
8月24日にはじまった福島第一原発の処理水の海洋放出にともない問題となっているのが、日本の飲食店や公共施設などへの中国からのいたずら電話と、SNSで拡散されるフェイク動画だ。9月1日に処理水放出後、初めて底引き網漁が解禁された福島県いわき市の小名浜漁港で関係者たちの声を聞く。 ●処理水放出以降、基準値を超えたトリチウムの検出はなし 「何日か前にも韓国のメディアが来て『取材させてください』と言われたから『じゃあ取材を受けたら、福島の海産物の輸入禁止を止めてくれるのか?』と言ってやったよ」 そうポツリと漏らすのは、福島県漁業共同組合連合会の担当者だ。 ことの発端は8月24日にはじまった福島第一原発の処理水の海洋放出を受け、中国外務省が「日本政府は国内外の声を無視し、世界の海洋環境と人類の健康を損なうリスクを無視し、放出計画を頑なに進めている」と強く批判したことだった。 「国際原子力機関(IAEA)がまとめた日本の処理水放出に関する報告書では『国際安全基準に合致している』との見解が示されたが、中国政府は日本の水産物の輸入を全面禁止するなどの対抗措置を行なった。韓国の最大野党『共に民主党』の代表も、日本の水産物の“無期限断食”を宣言するなど、しばらく事態は収まりそうにない」(情報番組ディレクター) 取材班が訪れたこの日も、小名浜漁港にはメヒカリ、スルメイカ、伊勢エビ……といった旬の“常磐もの”が次々と水揚げされていく。 そんな賑わいをみせる市場の奥にあるのが、透明の窓ガラスで仕切られた「検査室」だ。 前述の漁業組合担当者は言う。 「検査室で水揚げされた魚の放射能検査を行なっています。いわき市内全域の魚が検査対象になりますが、福島第一原発の処理水放出がはじまって以降も、限界値を超えたトリチウムが検出されたことは一度もありません」 小名浜漁港では放射能物質の量が50Bq/kgを超えた魚介類は出荷しない方針。この日も検査室のパソコンのモニターには、安全基準を満たした「〇」というマークが映し出されていく。 担当者によると、今から4、5年ほど前にフィーレ状(三枚おろしの状態)で計測できる非破壊装置が導入されたことで、5分ほどで放射能検査を実施できるようになっているそうだ。 ●SNSで「原発処理水がゴジラに変える」と中傷 こうして安全性が保たれているいわき市の海産物だが、いまだに中国のSNSでは「悪魔日本」「畜生国家」のほか、「小日本」という蔑称をつかって「あいつらは地球上に生存させるのにふさわしくない」などの誹謗中傷が相次いでいる。 さらに誹謗中傷はエスカレートし、フェイク動画が拡散される事態となっている。 2020年にロイター通信が、メキシコで海に未処理の下水が流れ込んだと報じた動画を「日本の処理水放出」、北海道のオホーツク海に生息する「オオカミウオ」という巨大魚を「放射能で変異した魚」として紹介するなど、まさに無法地帯だ。 そして、直接的な迷惑行為をする中国人も出現している。 「福島県をはじめ、全国各地の自治体や飲食店、学校、個人宅などに中国の国番号“86”からはじまる番号による迷惑電話が相次いでいる。なかには『あなたはバカですか?』と一方的に暴言を吐いたり、ののしるような言葉を使って処理水をめぐる対応に抗議する内容もあり、歯止めの効かない状況になっている」(前出・情報番組ディレクター) もちろん、小名浜漁業のあるいわき市もそのいやがらせに頭を悩ませている。いわき市内の鮮魚店の30代女性従業員もそのひとりだ。 「うちのお店のインスタグラムに見知らぬアカウントから中国語で『原発処理水は彼をゴジラに変える(原文翻訳ママ)』と送られてきたんです。そのアカウントは普段は友達と遊んだり、旅行先での思い出の写真を投稿しているような普通の人だったので、腹も立ちましたけど、なんだか悲しくなりました」 ●現状影響はないものの「不安は尽きない」 いわき市内の50代飲食店店長も、中国からのいたずら電話が鳴り止まず、地元警察に相談までしたという。 「初めにいたずら電話があったのは処理水を放出開始した24日。発信は“86”から始まる番号でしたが、うちは普段から外国のお客さんが多いから気にせず電話を取ったんだけど、無言電話で。気になってかけ直したら、ののしるような口調で中国語が飛んできたんです。これ以降、中国人から昼夜問わずに電話がかかってくるようになり、この1週間ほどで60件を超えました。あまりにも多いので警察にも相談したんだけど、いたずら電話がなくなる気配はなくて本当に困っています」 幸いなことに中国からの迷惑行為があった店も「今のところ、処理水放出以降も売り上げは変わらない」と話しており、全体で見ても中国の水産物輸入全面禁止によって懸念されていた「値崩れ」も今のところは起きていない。しかし、いわき市内で30年ちかく鮮魚店を営む50代男性は将来への不安を口にする。 「処理水の影響かはわからないけど、これまで外国人に人気だった伊勢エビの売れゆきが悪くなった。その他にそこまで大きくお客さんが減ったわけではないとはいえ、処理水の放出は30年もかかるんでしょ?その間に何か問題が起きれば、『やっぱり福島の魚は危ない』ってイメージになってしまうし、震災の記憶が薄まればみなさんの『福島を応援しよう』という気持ちもなくなってしまう。政府がきちんとしたプランを出してくれれば状況はまた違うんだろうけど、全然先が見えないし、不安は尽きないよね……」 岸田総理は9月4日、記者団の取材に対して「水産業を守り抜く。しっかりと責任を果たしていきたい」と強調し、中国による日本産水産物の輸入停止の影響を受けた水産業者への追加支援策に207億円を拠出する考えを示した。しかし、これで福島の漁業関係者の不安を払しょくできるかどうかとは、また別の話だろう。 |
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●処理水巡り日中首脳が主張、相違浮き彫りに−ASEAN首脳会議 9/7
岸田文雄首相と中国の李強首相は、インドネシアの首都ジャカルタで開催されている東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議の場で、東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出について双方の立場を主張した。 日本の外務省の発表資料によると、両首脳は6日、ASEANプラス3(日中韓)首脳会議開始前に短時間立ち話を行った。韓国の尹錫悦大統領も出席した同会議では広範な分野にわたり意見交換が行われた。 岸田首相は処理水の海洋放出について、安全性に万全を期した上で実施されていると説明し、日本の立場を改めて表明。中国政府による日本産水産物の輸入全面停止に触れ、科学的根拠に基づく行動を求めていく考えを示した。 中国国営の新華社通信によると、李首相は処理水放出について、世界の海洋生態環境と人々の健康に関わると懸念を示し、日本に対して責任ある対応を要請するとともに、近隣諸国と十分な協議を行うよう求めた。 中国は処理水の海洋放出に踏み切った日本に対し最も強硬な姿勢を示している。国際原子力機関(IAEA)は処理水放出計画は国際安全基準を満たしていると評価したものの、中国政府は日本産水産物の輸入全面停止に踏み切った。今回の海洋放出に反発して、中国国内では日本人に対する嫌がらせ行為などが報告されている。 岸田首相は6日、記者団に対し、「日本の対応については、国際社会の多くの国から広く理解をされている」とし、中国による日本産水産物の輸入全面停止は「突出した対応」だと指摘した。 今週末インドで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議の場で李氏との会談が行われるどうかについて岸田首相は、まだ何も決まっていないとした。同会議には李首相は出席する予定で、習近平国家主席は欠席する見通し。 松野博一官房長官は7日の会見で、岸田首相と李首相による立ち話は「建設的かつ安定的な日中関係の構築に向け極めて重要であった」との認識を示した。会話の詳細は明らかにしなかったものの、日中間の課題や懸案の解決に向けて対話を重ね、「ハイレベルを含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を図ることが必要だ」と語った。 輸入停止措置に関して日本政府は4日、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の規定に基づき、中国政府に対し討議の要請を行ったと発表。世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない構えをみせており、中国に「即時撤廃」を求めるとの反論をWTOに書面で提出した。 |
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●英政府、処理水放出を「全面支持」 西村経産相明かす 9/7
西村康稔経済産業相は6日、訪問先の英国で記者会見し、福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出について、英政府から「科学的根拠に基づく日本の対応を全面的に支持する」という趣旨の表明があったと明らかにした。日本政府は今後も国際社会に放出への理解・支持を広げ、理不尽に日本を批判する中国の勢いをそぎたい考えだ。 日英両政府は同日、貿易や投資の促進に向けた閣僚級の政策対話を創設。経済安全保障の観点から、重要鉱物などのサプライチェーン(供給網)の強化やエネルギー分野で協力していくことに合意した。 これに先立ち、西村氏は英シンクタンク国際戦略研究所で講演。人権や環境に関する国際基準を満たすことを条件に、半導体や蓄電池、磁石などの重要物資を購入する企業に補助金を出す新制度を導入する方針を正式に表明した。 英国をはじめ米欧の有志国にも同様の取り組みを呼びかけた。新たな経済連携枠組みを立ち上げ、重要物資の国産化促進とサプライチェーンからの中国排除を狙う。 |
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●処理水問題で猛反発の中国…上海の「日本酒」「町和食」店にどんな影響が 9/7
「世の中いろいろ大変ですが、おかげさまで日本酒は順調に売れてきています」 上海市内で酒屋を経営する知人のYさん(日本人・40代)が、8月29日にSNS「微信」へ書き込んだ内容に目が止まった。 福島第一原発の処理水が海洋放出された8月24日以降、中国のニュースサイトやSNSには“核汚染水”のワードとともに、日本人であれば誰もが気が滅入るような書き込みがあふれている。不買を求める書き込みも多かった。そんななか目にしたのがこのYさんの書き込み。なぜ売れてきているのか聞いてみると、ここ最近、上海の人々の中で、日本酒が非日常品から日常品へ移行してきているからではないか、という。 「非日常を楽しむものであれば高いお金を払ってもいいのですが、日常品であれば1円でも安いほうがいいからです。飲食店では飲まず、うちから買う人が増えてきているという状況です」 日本酒が身近な存在になった結果、ほかで替えがきかないため、たとえ不買の風潮になろうとも人気は衰えないということだろう。Yさんの酒屋には、日本でもなかなか出合えない銘柄の日本酒が揃っている。 小売店なので日本料理店で飲むより安く、しかも試飲をしながら好みの日本酒を選ぶことができる。常連には、趣味で唎酒師(ききさけし) の資格を取るほどの日本酒好き中国人も多い。 日本酒を好むほどに日本に理解が深いため、不買をしないというのもあるのだろう。 「(中国国内の)報道を鵜呑みにするような人はもともとウチの店に来ていないと思います。主な客層は、20〜30代の女性。高学歴で生活に余裕がある方が多い。お客さんと、今回の件が話題になったことは一度もありません。ただ、来店してそういう話題になるなど、揉めごとになるのを避けるためか、配達での注文が多くなっていますね」 日本製の食品は危険だという人と、平気だと思う人、ネットに書き込んだり苦情の電話を入れるような層が混在している。いつもどおり家で晩酌を楽しんでいる層は、そんなやりとりと日本酒を結びつけたくないようだ。 ●「町和食」や日本のイベントの人気は… 上海では、「町和食」という呼びかたがぴったりの、中国人オーナーによる手づくり和風料理の店が流行している。半年ほど前に「上海で『町中華』ならぬ『町和食』が流行中 “すき焼きパスタ”を生んだナルホドの食事情」という記事でも取り上げたが、こちらはどうだろう。 「すき焼きパスタ」や「筑前煮」が人気の行列店「FINE」を経営する提子さん(中国人・34歳)は、「私の店は全然影響なし。大丈夫です。心配、ありがとう」と笑顔で答える。 この秋は、カボチャ、栗、柿などを使った和風カフェメニューとおにぎりの新メニューを出す予定だという。 口コミアプリ「大衆点評」には5つ星の評価と、利用客が撮った映える写真が連日何件もアップされている。ランチタイムがはじまる前には店の前に行列ができている。すべて通常通りだ。 街やショッピングモールを見ると、昨年あたりからブームのどら焼き専門店や、人気のすき焼き店、焼き鳥専門店は変わらずにぎわっている。映画やイベントチケットのECアプリ「淘票票」では、9月の上海市内の展覧会の人気ベスト10に隈研吾展、天野喜孝展が入っている。毎年暑い時期に開催されているホラー漫画家・伊藤潤二のイベントも盛況だ。 ●日本への旅を計画する中国人に話を聞くと 中国で流れる情報に影響を受けている人も少なくないが、普通の上海人たちは、日本の水産物の輸入停止措置を心の片隅で気にしつつ、普段通り自分の趣味や日々の生活を楽しんでいる空気が伝わってくる。日本の魅力的なコンテンツや文化、日本の友人たちと政府の判断は別だと考えている人は多い。 むしろ上海にいる日本人や日本を心配する声も。「仕事がなくなって日本に帰ってしまうのではないか」、「日本政府があんなことをして日本人が心配」といった声も聞こえる。 日本に中国の食文化が入り込んでいるように、日本の食文化が上海の日常のように浸透している現実がある。日本酒と町和食の変わらぬ人気ぶりからは、今回の問題を、食文化と区別してとらえる上海人は多いことがわかる。中国人は日本人が考える以上に多様な人々だ。 上海市内の欧米系企業で働くCさん(中国人・35歳)は、遅めの夏休みをとって9月6日から3泊4日の日本への一人旅を予定しているという。東京での街歩きと食事をメインに楽しみ、神奈川方面か群馬方面へふらっと出かけたいとのこと。 「この時期の日本旅行? 大丈夫でしょう。中国人も日本人も、気にする人は気にするというだけの話だと思う。みんなそれぞれですよね。私はどんな食材でも、おいしそうなものを目の前にしたら我慢できないけど」 Cさんはそういって、「それより、最近の東京で話題のエリアはどこ?」と話を続けた。 |
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●処理水放出で妄言爆発£国首相、自国トリチウム棚に上げ 9/7
習近平国家主席率いる中国が、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出について、「妄言」を爆発させた。中国ナンバー2の李強首相は6日、インドネシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議で、処理水を「核汚染水」といい、「放出により地球規模で海洋の生態環境に懸念が生じた」などと言い放ったのだ。日本の放出計画は、国際原子力機関(IAEA)が「国際基準に合致する」と評価している。そもそも、中国の原発は、福島第1よりもはるかに多い放射線物質トリチウムを放出しており、中国は世界最大の温室効果ガス排出国でもある。岸田文雄首相は今回、「中国は突出した行動を取っている」と抗議したが、傍若無人な隣国には、さらに強い対応が必要だ。 岸田首相と李氏は首脳会議に先立ち、短時間、立ち話を行った。会場の待合室で、岸田首相から声をかけるかたちで始まった。 政府関係者によると、処理水放出が主題となり、十数分続いたという。岸田首相は終了後、李氏に対して科学的見地に基づいた行動と正確な情報提供の重要性を指摘したと記者団に明らかにした。 注目のASEANプラス3首脳会議では、両氏が主張を展開した。 岸田首相は放出開始後に海水のモニタリングデータを公表し、科学的観点から問題が生じていないと説明し、各国の理解を求めた。中国による日本産水産物の禁輸について、「(放出は)国際社会で広く理解が得られているが、中国は突出した行動を取っている」と批判し、中国が国際社会で孤立している現状を指摘した。 この後、李氏が発言した。 中国の国営新華社通信によると、李氏は処理水を「核汚染水」と呼び、放出により地球規模で海洋の生態環境に懸念が生じたとして「人々の健康に影響する」「日本は責任ある方法で『核汚染水』を処理すべきだ」などと批判したという。 ただ、ASEAN各国や韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は処理水放出に言及しなかった。当然のことだ。非科学的な「イチャモン外交」を繰り広げている中国こそが、「世界屈指の環境汚染国」であることは周知の事実である。 福島第1が今年度に放出を予定する放射性物質トリチウムの総量は年間22兆ベクレル未満であるのに対し、中国・秦山第3原発は約143兆ベクレル(2020年)と6倍以上に上る=図参照。 中国は自国に不利な科学的事実に目を背け、日本産水産物の禁輸に踏み切った。さらに、北京の日本大使館にはレンガ片が投げ込まれ、各地の日本人学校には石や卵が投げ付けられたが、「反日暴挙」を抑える気配もない。 中国は、世界最大の温室効果ガス排出国としても知られている。 環境問題に詳しいジャーナリストの石井孝明氏は「中国は世界の二酸化炭素(CO2)排出量の2〜3割程度を占めている。経済成長や農地の拡大に伴う砂漠化の拡大、ウイグル地域などで住民の人権侵害にもつながる草原破壊、森林伐採による生態系破壊、飲料水にも影響する水質汚染などが指摘されている。今回の李氏の発言は、自国の環境汚染を棚に上げ、国民に目を背けさせたいという思惑もあるのではないか。日本政府の中国に対する姿勢は評価でき、引き続きデータを突き付けながら、反論していくことが重要だ」と話す。 一方、岸田首相の対応を問題視する意見もある。 福井県立大学の島田洋一名誉教授は「岸田首相と李氏との立ち話で気になったのは、メディアで『岸田首相が李氏に理解を求めた』と報じられたことだ。こういった岸田政権の姿勢が、中国に『岸田政権は及び腰だ』と付け込まれる要因となっている。地球規模で環境を破壊しているのは中国共産党であり、李氏の発言は自分たちのことを言っているという感じだ。対外的に発表する場合には、『中国の非科学的で理不尽な対応に、日本がクギを刺した』というような格好の発信をしなければならない」と語る。 岸田政権はどうすべきか。 島田氏は「岸田政権は『中国を刺激したくない』と、対中外交で腰がひけている。これが問題だ。IAEAは日本の味方であり、ジョー・バイデン米政権にも『日本を支援しよう』という構えが見られる。G7(先進7カ国)議長国として各国に呼びかけ、『日本産水産物の共同買い付け』を国際規模で行ったり、中国への半導体輸出規制を厳しくするなど、強い『行動』として反撃していくべきだ」と語った。 |
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●韓国・野党党首が処理水に“断食抗議”も、茶番扱い 「悪あがき」 9/8
8月末、「無能・暴力政権に対する国民抗争の最前線に立つ」として、韓国野党第1党の党首が国会議事堂前で無期限のハンガーストライキを始めた。日本が福島第一原発の処理水を海洋放出していること、そしてそんな日本との関係性維持に努める与党を批判するためだという。しかし無期限の断食という命を懸けた抗議行動に対し、韓国世論はさほど支持も同情もしていないようだ。そもそもなぜ野党党首がこんな手に打って出たのか? 何がなんでも、政権批判と日本へのネガティブキャンペーンを成功させたいようである。韓国の野党第一党「共に民主党」の党首、李在明(イ・ジェミョン)氏の話だ。 これまでにも「共に民主党」や左派系市民団は、日本の福島第一原発の処理水の海洋放出と、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権がこれを容認しているとして強く反発し、週末にソウルをはじめとする都市部でデモ活動を行ったり、メディアを通じて政権批判と処理水の危険性を訴えたりしている。 8月31日、李氏が抗議として無期限のハンガーストライキに入ることを宣言した。国民に国の危機的状況を訴えることが目的というが、どうやら支持や同情を得られているとは言い難い状況のようである。 ●文在寅前大統領もハンガーストライキを激励 李氏のハンガーストライキは国会の前で「共に民主党」の議員たちと共に行われているのだが、一般的にハンガーストライキのイメージといえば、一定の場所で座り込みをして、そこを動かずに抗議する活動である。しかし李氏の場合は、ハンガーストライキの合間を縫って、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領を訪問したり、市民団体主催の週末のデモに参加したりと党首としての活動も行っている。これに対して「これだけ活動しながらハンガーストライキをするヤツは初めて見た」と李氏を皮肉ったコメントも見られる。 ハンガーストライキについてのニュース記事のコメント欄をのぞいてみると、「あなたの勇気ある決断と行動を支持します」「李氏の健康をとても心配しています」「文前大統領、どうか李氏を勇気づけてください」といった、文氏や李氏の熱烈的な支持者と思われる書き込みも一部あるが、大多数のコメントは否定的だ。国民の多くは今回の李氏のハンガーストライキを「単なるパフォーマンスに過ぎない」「国や国民のためを思ってのものではない」と考えている、ということである。 さらに文氏が「尹政権の暴走は目に余るものがあり、(李氏が)ここまでしなくてはならないことを心配している」とねぎらいの言葉を李氏に送り、「現政権がすべてを破壊し、国民に戦争を仕掛けている」と李氏が返したというやりとりも報道されている。調子のいい言葉を述べながら、常に国民を分断するよう扇動しているのはどちらかと問いただしたくなるが……。 9月6日、李氏のハンガーストライキは7日目に入った。おそらく、そう遠くない時期に「ドクターストップがかかった」といった理由で打ち切りになるのではないかと筆者はみている。 ●水産市場に大きな変動、影響はなしと判断 李氏のハンガーストライキによる訴えは、話題性はあっても国民の支持を受けることは難しそうだ。確かに、韓国ギャラップが9月1日に発表した世論調査では、日本が処理水を放出することに対して75%が「不安」と答えるなど、高い数字が出た。しかし、4年前の文前政権による反日政策の「NO JAPAN」や、現在中国で激化している日本に対する不買運動と比較すると、今回、韓国国民の反応は総じて冷静であると感じるのだ。 李氏が先頭に立って韓国水産業の危機や、飲食業に関わる人々が苦境に立たされることを訴えているものの、目に見える変化や大きな反応は見られない。尹政権の支持率が急落するなど、目立った動きは起きていない。 「共に民主党」や市民団体がいくら強く処理水放出を非難しても、韓国国内の水産市場への来場者数や水産物の売り上げは例年通り、あるいは増加という報道もある。 例えば、海産物が有名な韓国第2の都市・釜山(プサン)では、水産市場のチャガルチ市場や、国内有数の海水浴場として人気のある海雲台(ヘウンデ)、広安里(クァンアンリ)など、どこでも海鮮料理店や回転寿司店が混雑している。 また、夏から秋にかけては韓国各地で水産物を扱ったイベントが多く開催される。これらのイベントは今年も予定通り開催される見込みで、既に実施されたイベントも客足は好調だったという。 ●2008年の狂牛病騒ぎの時とは何が違うのか 尹政権が保守政権で日本との関係改善に重きを置いていることから、今回の処理水の件については国内、さらに日本との関係に波風が立たないように慎重になっている様子がうかがえることに加え、SNSなどで拡散される真偽不明の情報や写真などに対して「フェイクの情報に惑わされないように」と国民に呼びかけたり、野党や市民団体の批判に毅然と対応したりという印象がある。 今回、韓国国民が冷静な反応をしていることについて、過去にも度々起こった歪曲(わいきょく)報道やデマの拡散によって世論が混乱、翻弄されたことへの免疫と学習能力が付いたとする見方もある。 似たような事象として名前が挙がるのは、2008年のBSE(狂牛病)問題である。この時には、一部マスコミと左派系市民団体が虚偽の情報を拡散したことにによって、米国産さらには牛肉全体への安全性のイメージが低下し、風評被害が広がった。この他、旅客船セウォル号の沈没事故や、昨年の梨泰院(イテウォン)の群衆事故が起きたときにも、危機管理の杜撰(ずさん)さなどを槍玉に挙げて、政権批判やデモが繰り広げられた。セウォル号については、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権へのダメージにつながっていったことは言うまでもない。 このように、保守政権のときに大きな事件や事故が起きると、左派政党や左派市民団体によって、政権批判や政治対立の火種がまかれる。これは韓国では“お約束”になっている。しかし、前述のBSE問題や、反日「NO JAPAN」キャンペーンの時に“ターゲットに対してはなりふり構わず何をしてもいい”という公平さやモラルを欠いた手法に異を唱える人や、若い世代を中心に中国や北朝鮮寄りの文前政権や「共に民主党」の姿勢を嫌う人たちは増えている。過去に韓国で起きた騒動に比べると、尹政権になってから起きた梨泰院の群衆事故や今回の処理水問題では、政権批判デモに対する世論の関心は薄いといえる。 ●李氏自身の身に迫る“Xデー” それでも、李氏がここまで必死に尹政権や日本への批判を展開する背景には、自身の身に迫る捜査の手と、党首としての評価がはかばかしくないことがある。 李氏といえば、ソウル近郊の城南(ソンナム)市長や、京畿道(キョンギ)道知事を歴任し、その威勢の良さと豪快さから昨年の大統領選挙では尹氏と最後までデッドヒートを繰り広げ、わずかな差で落選した。 そんな彼の周辺には、いつも多くのスキャンダルが付きまとっていた。女性関係や言動の悪さに加え、親族である甥が交際相手を殺害した事件の弁護を行って「寛大な処罰を望む」と発言したり、市長、知事時代に土地開発にまつわる疑惑があったりと、以前から政治家としての人間性や資質が常々問題視されてきた。 さらに、北朝鮮との親密な関係も指摘されている。韓国の下着メーカーが北朝鮮へ不正に送金を行っていた問題に李氏が関与していた疑いから、前述の土地開発の背任疑惑と併せて捜査対象となっている。 検察への出頭日を巡って攻防を続けている李氏だけに、今回のハンガーストライキに対しても「逮捕Xデーへの最後の悪あがき」「往生際が悪い」などと言われているほどだ。今や、日本に対して何か言うだけで「中国や北朝鮮にもそれぐらい言ってみろ」と揶揄(やゆ)される始末である。 身内である「共に民主党」党内からも、思うように現政権を追い込めず、国民の支持を得られないことにしびれを切らし、李氏の党首としての指導力や資質を疑問視する声が出始めている。党内は既に分裂状態にあるとも言われる。 ハンガーストライキという手に出た李氏はこれからどうするつもりなのか、今後の動向に注目が集まるが、筆者としては、ターゲットをたたく以外に、国民を団結させることも世間の注目を集めることができない彼のやり方はいかがなものかと思うのである。 |
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●中国にらみASEAN外交 岸田首相、処理水で異例批判 9/8
岸田文雄首相は7日、インドネシアで開かれた一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議出席を終えた。 加盟国への影響力を増す中国をにらみ、ASEANとの関係を格上げすることで一致。東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡っては、異例の強い調子で中国を批判した。米国と歩調を合わせ、取り込みを図っている。 「中国は日本産水産物の輸入を全面的に一時停止するなど突出した行動を取っている」。首相は日中韓3カ国とASEAN首脳による6日の会議で、中国の李強首相を前に力説した。政府関係者は「外交の場では極めて強い表現だ」と解説する。 各国首脳が居並ぶ場で岸田首相が発言したのは、処理水に対する反応で「異常性が際立つ」(外務省幹部)中国の姿勢を浮き彫りにする狙いがある。 日本とASEANは今年、友好協力関係50周年を迎え、12月に東京で特別首脳会議を開く。首相は双方の関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に引き上げることを確認。質の高いインフラ整備や海上保安能力向上への支援を強調し、中国を意識した発信に力点を置いた。 会議の合間には、今年訪中したマレーシアのアンワル首相や、親中路線を取ってきたカンボジアのフン・マネット首相らと相次いで会談。12月の会議へ地ならしにも努めた。 ただ、一連の首脳会議に米国はハリス副大統領を送り込んだ。外務省幹部はバイデン大統領の欠席について「この地域に関心が低いというメッセージになる」と懸念を示す。 岸田首相は6日の日ASEAN首脳会議で、「日本は世界に先んじて1973年にASEANとの対話を開始した」と自負を見せた。経済面で中国との結び付きが強い加盟国も多く、日本政府関係者は「日米と中国の対立に巻き込まれたくないのがASEANの本音だ」と指摘する。 中ASEAN間には、南シナ海の大半を「中国領」とした中国の新しい国土地図を巡り、対立も芽生えている。12月の特別首脳会議を通じてASEANを引き寄せられるか、日本外交の力量が問われる。 |
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●習近平体制は「支離滅裂」…全世界が首を傾げる 中国は破滅の一途へ 9/8
●処理水で大ブーメラン 習近平体制の中国が、いよいよ支離滅裂になってきた。原発処理水の海洋放出批判が、逆に「中国へのブーメラン」になったと思えば、肝心の経済政策は、民間企業を弾圧しながら「民間経済の発展が重要」などと呼びかけるトンデモぶりだ。いったい、何が起きているのか。 習政権は原発処理水を「核汚染水」と呼び、大々的な反日キャンペーンを展開している。ところが、汚染を心配した国民が放射線を測るガイガーカウンターで自宅を調べたところ、なんと東京の976倍も汚染されていることが判明した。 建材が汚染の原因である可能性が高く、バブル崩壊で冷え込んだ不動産市場に追い打ちをかける結果になっている。それだけではない。上海ガニを食べた家族が娘のお腹を測ってみたら、アラームが鳴り響いたという。上海ガニは淡水性なので「河川や湖が汚染されている」という懸念が出てきた。 消費者は、日本産だけでなく、中国産も含めた水産物全体を敬遠し、中国の業業関係者を苦境に追い込んでいる。当局は慌てて「普通の消費者がガイガーカウンターを買う必要はない」と火消しに追われているが、爆売れ状態という。 汚染水キャンペーンが建材や河川、湖の汚染疑惑、風評被害の「大ブーメラン」となって、中国自身に跳ね返ってしまったのだ。トンチンカンな政策が国民の正しい反応を招いた。まさに、起こるべくして起きた悲喜劇である。 経済政策も同じだ。掲げたお題目と実際の行動が逆で、問題を改善するどころか、悪化させている。以下、具体的に指摘しよう。 中国共産党委員会と国務院は7月14日、民営経済発展の促進に関する意見を発表した。国営の新華社通信が19日に伝えた。以下のとおりだ。 〈民営経済は中国式近代化を推進する重要な基礎だ。市場化、法治化、国際化の一流のビジネス環境の構築し、環境を最適化し、法律に基づいて民営企業の財産権と企業家の権益を保護する。法律に基づいて生産要素を平等に使用し、市場競争に公平に参加し、同等に法律の保護を受け、民営企業は自身の改革発展、コンプライアンス経営を通じて、発展の質を絶えず向上させる〉 ●さすがに懲りたかと思いきや 〈安定、公平、透明、予測可能な発展環境を持続的に最適化し、民営経済の活力を十分に刺激する。各部門は記録、登録、年次検査、認定、認証、指定、支社設立要求などの形式でアクセス障害を設定したり、偽装して設定したりしてはならない。行政審査、許可、記録などの条件と審査基準を整理し、法律の根拠がなければ、企業に自ら検査、検査、認証、鑑定、公証、証明書の提供などを要求してはならない〉 〈行政権力の濫用を阻止し、競争を制限する反独占法の執行を強化する。公正な競争なしには経営者に特許経営権を付与し、特定の経営者が提供する商品やサービスを限定的に経営、購入、使用してはならない〉 〈法律に基づいて民営企業の財産権と企業家の権益を保護する。行政または刑事手段を利用して経済紛争に介入し、司法における地方保護主義を執行することを防止し、是正する。財産権に関する強制措置をさらに標準化し、権限超過、範囲超過、金額超過、時間制限の差し押さえ、財産の凍結を避ける〉 民間経済を発展、強化する施策を31項目にわたって、列挙している。ここで示されたのは、市場経済を法に基づいて規律付け、透明性を高め、全体として民間経済を強化しようという方策であり、まことに結構な内容と言っていい。 これだけ読むと「バブル崩壊に懲りて、習政権もようやくマトモになったか」と思われるかもしれない。ところが、そうとは言えない。習政権は発足間もない2013年11月12日に開かれた中国共産党中央委員会で、ほとんど同じ内容を採択していたからだ。 〈中国共産党第18期中央委員会第3回総会は、次のように指摘した。資源配分における市場の決定的な役割を中心に経済システム改革を深め、基本的な経済システムを遵守し、改善し、現代の市場システム、マクロ制御システム、オープン経済システムの改善を加速する必要がある〉 ●言ってることとやってることが違う 〈総会は、経済システム改革が改革を包括的に深める焦点と指摘した。根本的な問題は、政府の役割と市場の役割のバランスを取り、市場が資源の配分において決定的な役割を果たし、政府がその機能をよりよく果たすようにすることだ〉 〈オープンで競争力のある秩序ある市場システムの確立は、市場が資源の配分において決定的な役割を果たすための基礎だ。私たちは、企業が独立した管理と公正な競争を享受し、消費者が自由に選択し、自律的な消費決定、生産フローの製品と要因を自由に行い、平等に交換され、市場障壁を取り除くために努力し、資源配分の効率と公平性を高める近代的な市場システムを導入しなければならない〉 〈公正でオープンで透明な市場ルールを制定し、価格が主に市場によって決定されるメカニズムを改善し、都市部と農村部の両方で統一された建設土地市場を形成し、金融市場を改善し、科学技術の管理システムの改革を深める必要がある〉 これで明らかなように、習政権は発足当時から「資源配分で市場が決定的な役割を果たす」重要性を認識していた。とくに「市場の決定的役割」というフレーズは、同じ声明の中で3度も出てくる。 だが、実際にやってきたことは、まったく正反対だった。 2021年9月17日公開の本コラムで指摘したように、習近平政権は2年前の夏から、政治、経済、文化活動の全面的な統制強化に乗り出した。それは、まさに習氏が崇拝する故・毛沢東の文化大革命を彷彿とさせるような大弾圧の始まりだった。 有名女優らを脱税などで摘発し、アイドル・タレントをテレビから一掃する一方、学習塾や英語教育を廃止、共同富裕というスローガンの名の下に、情報技術(IT)などの有力企業に多額の寄付を強制した。アリババの系列企業、アント・グループの上海と香港株式市場への上場を中止させた。 それ以来、中国経済は民間重視どころか、国営企業優先の逆コースを辿り、現在に至っている。バブル崩壊は、そうした政策の結果である。市場が決定的な役割を果たすどころか、文字通り、党と国家が経済運営を差配してきた。 ●中国でビジネスは不可能 6月2日公開の本コラムで指摘したように、習政権は反スパイ法を改正し、外資企業を弾圧した。米系のデュー・デリジェンス会社、ミンツ・グループの現地社員5人の身柄を拘束し、米コンサルタント会社、ベインや多国籍調査企業のキャプビジョンを摘発した。 英エコノミスト誌は6月11日付で「中国で外国人がビジネスをするのは不可能なのか」という、そのものズバリの見出しの記事を掲載したほどだ。答えは「不可能」である。 中国専門家として名高いオックスフォード大学中国センターの経済学者、ジョージ・マグナス氏もコラムで「中国は民間企業を支援する新たな方策を明らかにしたが、過去の歴史を見れば、疑わしい」と突き放している。 民間企業と言っても、中国は「共産党の下請け」としか見ていない。それは、国家発展改革委員会が7月24日に発信した「民間投資を促進するための通知」でも明らかになった。文書は17項目にわたって具体的な政策を列挙している。たとえば、次のようだ。 〈(3)民間資本の参加を奨励する重点細分化産業を明確にする。我が委員会は交通、水利、クリーンエネルギー、新型インフラ、先進製造業、現代施設農業などの分野で、市場空間が大きく、発展潜在力が強く、国家の重大戦略と産業政策の要求に合致し、高品質発展を促す細分化産業を選び、民間資本の積極的な参加を奨励する〉 〈(15)民間投資業務のスケジューリング評価メカニズムを確立する。我が委員会は民間投資業務のスケジューリング評価メカニズムを設立し、業務目標を明確にし、プロジェクトリストを整理し、公開プロモーションプロジェクト、業務メカニズムを確立し、金融機関とのドッキングを強化し、要素保障をしっかりし、反映問題を処理するなどの業務進展、民間投資の成長率、民間投資の割合、プロモーションプロジェクトの数、金融機関の融資支援規模、プロジェクト要素保障力、民間投資問題の解決効率などの業務成果を誘致し、毎月のスケジュール、四半期ごとの通報、毎年の評価を行い、業務責任を固める。関連状況は適時に国務院に報告する〉 国が具体的な投資分野を指定して支援する産業政策は西側にもあるが、中国の場合は比較にならない。まさに、党と国家が完全に支配、監督している。「資源配分で市場が決定的な役割を果たす」と掲げた2013年当時と比べても、国の統制は強まり、民間部門の自主性は実質的に後退した。 こうしてみると、習氏の独裁体制は経済を立て直すどころか、独裁強化で習氏個人の思いつきや裁量によって政策が左右される結果、むしろ、経済の動揺は一段と大きくなる可能性が高い。原発処理水問題が壮大なブーメランを招いたのは、ほんの一例なのだ。 習近平体制の支離滅裂は激しくなりこそすれ、和らぐ見通しはない。このままなら、自滅は必至だ。 |
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●原発処理水放出差し止め求め提訴 9/8
東京電力福島第1原発で8月に始まった処理水海洋放出の差し止めを求めて、福島、宮城県などの住民ら約150人が8日、国と東電を福島地裁に提訴した。原告側弁護団によると、処理水放出の差し止め訴訟は全国初。 訴状によると、処理水放出は市民が平穏に生活する権利を侵害するとともに、漁業関係者のなりわい回復を困難にすると主張。放出に関する東電の実施計画、関連設備の検査を合格とした国(原子力規制委員会)の処分取り消しのほか、東電に放出禁止を求めている。 第1原発では、高濃度の放射性物質を含む汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化し、処理水としてタンクで保管してきた。 |
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●野党 政府の「危機管理のなさ」追及 処理水海洋放出巡り 閉会中審査 9/8
福島第1原発からの処理水の海への放出について、国会で閉会中審査が行われ、野党は政府に対し「危機管理がなさすぎる」と追及している。 国会記者会館から、フジテレビ政治部・鈴木祐輔記者が中継でお伝えする。 中国が日本からの水産物の輸入をすべて禁止している状況を「想定していなかった」と発言した野村農水相について、内閣改造を目前に、その資質を問う声が高まっている。 立憲民主党・長妻昭政調会長「全く想定していなかったということは事実でございますか?」 野村農水相「それは私が個人的な話をしたところでありまして、政府としては、そういう可能性も想定して影響対策を講じてきたところでございます」 立憲民主党・長妻昭政調会長「ちょっと危機管理がなさすぎるんじゃないかと」 立憲民主党はさらに、風評被害をめぐる政府の対応をただしたのに対し、西村経産相は、水産業への支援について「機動的に予算を確保して万全を期したい」と述べ、追加の予算措置をとる可能性も示した。 また処理水の放出以降、福島県に限らず飲食店や、事業者に嫌がらせ電話などが続いていることについて野党側は、補償の対象を広げるべきと求めた。 これに対し西村大臣は、嫌がらせ電話などについても「因果関係があれば補償の対象になる」として、賠償を行う東京電力を指導すると答弁した。 |
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●処理水への不安を煽り、中国人を喜ばせる…NHK国際放送の大問題 9/8
東京電力福島第一原発の処理水放出を、日本のメディアはどのように報道しているか。早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「NHKの国際ニュースは、処理水の安全性よりも中国からの批判や風評被害の不安に重きを置いており、視聴者にネガティブな印象を与えている。年間35.9億円にも上る交付金に見合った内容ではない」という――。 ●「国益にかなう内容の放送」のための交付金 NHKが国際放送するために国から35.9億円の交付金を受け取っているのをご存じだろうか。NHKは国営放送ではなく、受信料によって経営をまかなう特殊法人なので、税金が使われているのはおかしい。ではNHK自身は、どう説明しているのかといえば、およそこのようなことをいっている。 「NHKの国際放送は、時事問題や国の重要な政策、国際問題に関する政府の見解、日本の文化などについて正しく外国に伝えるもので国益になる。これは、放送法でNHKの本来業務と定められており、受信料で賄われることが原則だが、先に述べたような国益にかなう内容の放送については、国から交付金をもらっている。」(NHK公式ホームページ「よくある質問集」より) ほかの例にもれず、NHKのこの説明もおかしい。放送法のもと、すべての放送局は「公共の利益にかなう放送」をすることになっている。「公共の電波」つまり、国民共有の有限な資産である電波を使わせてもらっているからだ。公共のためになる放送をするのは、放送法上の放送業者の義務なのだ。 ●国民からの受信料と国の交付金の「2重取り」 まして、NHKは受信料を国民から強制徴収している。それでも足りずに、国益のために放送するのだから交付金をもらって当然だと思っているらしい。2重取り、3重取りで、いかにもNHK的である。 では、NHKは、35.9億の国費に見合う国際放送を行っているのだろうか。福島第一原発ALPS処理水の海洋放出の国際ニュースを見る限り答えはノーである。巨額の国費が浪費されているといわれてもしかたがない内容である。 NHKは処理水が海洋放出された8月24日以降、この件に関して数本の国際ニュースを流しているが、「国の重要な政策、国際問題に関する政府の見解」を海外に明確に伝えているとはいいがたい。 ●処理水放出にネガティブな報道が目立つ たとえば、8月24日の放出直後に放送された「Japan begins releasing treated water from Fukushima Daiichi plant」は、処理水は安全基準をクリアしたものだという東京電力の説明に触れてはいるが、それより中国やフィリピンのネガティブな反応や福島の漁民の風評被害への不安などに重きが置かれている。 これを見た海外の人びとは、処理水の海洋放出には問題はないという日本政府のメッセージではなく、それを非難する中国やフィリピンのメッセージを受け取ってしまうだろう。そして、地元福島の漁民も懸念を持っているとして、ネガティブな印象を強く持ってしまうだろう。 少なくとも、この問題に関する日本政府の見解が、見る人にしっかり伝わっているとはいえない。このニュースの他にも、NHKのレポーターが福島の漁民にインタビューし、彼らの風評被害に対する不安な気持ちを吐露させているニュースもある。 ●中国が日本政府を非難するため、報道を悪用 案の定、かねてから処理水の海洋放出に反対し、日本政府を猛烈に非難してきた中国は、これを徹底的に利用している。地元漁民ですら不安に思っているではないかというのだ。漁民が恐れているのは風評被害なのだが、このようなニュースの常として、そのような区別は曖昧になり、海洋流出そのものを懸念していると受け止められてしまう。 中国は科学的根拠に基づいて日本政府を非難しているのではなく、プロパガンダとしてやっているのだから、日本政府の主張が基づいている科学的根拠をはっきり示さなければならないのだが、NHKはそういうことはことはやるつもりがないらしい。 たとえば、日本政府は海洋放出に関する中国の非難が科学的ではないと反論したが、それに対して、中国は次のように再反論した。 1.日本側は、トリチウムは希釈・処理されている点を説明する一方で、他の核種については説明していない。 2.日本側はすべての核種をモニタリングしているわけではなく、モニタリング対象となる海洋生物の種類も少ないので、日本側が公表しているモニタリングデータだけでは、ALPS処理水の放出が安全で無害とすることはできない。 3.IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている。 ●中国の再反論に対し、外務省が“再々反論”する事態に これに対して、外務省は公式ホームページを通じて、次のように“再々反論”し、珍しいことに、朝日新聞や共同通信、TBSなどのメディアが、国内向けではあるが、この要約をこぞってニュースとして流した。TBSなどの場合は「公共の電波」を使わせてもらっているのだから、義務を果たしたということだろう。 1.ALPS(多核種除去設備)は62の核種を確実に除去するように設計されているが、半減期を考慮すべきなどのIAEAの指摘を受け、処理前の水に現実的に存在し得る核種は29核種であると考えている。IAEAは、包括報告書において、この選定方法は「十分保守的かつ現実的」と評価している。また、日本の分析に加え、IAEA及び第三国機関の分析でも、その他の核種は検出されていない。こうした内容については、原子力規制委員会の審査やIAEAのレビューを通じて公開されている。 2.日本は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、政府が定める「総合モニタリング計画」に基づいて、包括的かつ体系的な海域モニタリングを行っている。同計画においては、東京電力のみならず、環境省、原子力規制委員会、水産庁及び福島県がモニタリングを行っており、その結果については各省庁のウェブサイト及び包括的海域モニタリング閲覧システム等において公開されている。放出開始後のモニタリング結果は、ほとんど検出下限値未満であり、検出されたものも極めて低い濃度であり、安全であることが確認されている。 3.ALPS処理水のモニタリングについては、IAEAレビューの枠組みの下で、IAEA及びIAEAから選定された複数の第三国分析・研究機関が、処理水中の放射性核種を測定・評価するソースモニタリングの比較評価及び環境中の放射性物質の状況を確認する環境モニタリングの比較評価を実施してきている。現在実施されているIAEAによる比較評価には、IAEAの放射線分析機関ネットワーク(ALMERA)から、米国、フランス、スイス及び韓国の分析研究機関が参画している。IAEAによるモニタリングは、IAEAを中心としつつ、第三国も参加する国際的・客観的なものだ。 ●NHKより在日米国大使のほうが「国益に寄与」 ところが、NHKの国際放送は、中国への反論としてもっとも有効なこの説明を、いまだ海外向けに報道していない。巨額の交付金を受け取りながら、「国の重要な政策、国際問題に関する政府の見解」を海外に伝え、国益に資することには興味がないようだ。 駐日アメリカ大使ラーム・エマニュエル氏は、どうしたら伝わるかについてNHKよりはるかによく理解しているようだ。彼は、処理水の放出後、さっそく福島まで出かけて地元の魚を食べて、その様子をX(旧ツイッター)で流した。この投稿は、処理水を海洋放出しても福島の海は安全であるということを強く印象付けただろう。 ●単純でインパクトのある映像をなぜ海外報道しないのか エマニュエル氏のこの行為は、東日本大震災のあと、日本へやってきて、カメラの前でコップの水を飲み干してみせたレディー・ガガを思い起させる。彼女のその姿を見て、アメリカ人は原発事故のあとも日本は安全だと確信した。エマニュエル氏もガガ女史も、NHKよりはるかに日本のことを思っているようだ。 日本側でも、西村康稔経産大臣が、テレビの前で福島産の魚の刺身を食べて、処理水の海洋放出に問題がないことをアピールした。そのあと、テレビカメラが入った官邸の昼食会で、岸田文雄首相、鈴木俊一金融担当相などが福島産の魚介類を使った料理を食べた。 テレビでは複雑なことは伝わらない。このような単純な、インパクトのある映像が、見る人に強く訴えるのだ。ところが、NHKは、中国の非難に対するきわめて効果的なカウンターとなるこのような映像を国際放送で流していない。これまで流したどの国際ニュースも、日本の国益という観点が盛り込まれているようには見えない。 とはいえ、こういったNHKの体質の問題は、お金を出している日本政府がもっと厳しく要求すれば改善する問題かもしれない。なんともならないのは、NHKの国際放送のシステム上の問題だ。この問題が、海外でNHKがまったく見られていないという残念な事実に直結している。 ●中国発の国際放送のほうが海外に浸透している 2014年の総務省の調査「国際放送の現状」では、NHKの国際放送を視聴した経験がある人は、イギリスでは4.5%、アメリカ(ニューヨーク)では4.6%、フランスでは4.3%だった。「経験がある人」というのは、一生に一回でも見たことがある人という意味で、直近1カ月とか1年で見たことがあるという意味ではない。 これまでの記事でも、NHK総合放送を週に5分以上見ている日本人はおよそ半分しかいないことが明らかになったが、海外ではさらに惨憺たる有様なのだ。 これに対して中国の中央電視台の国際放送の視聴経験者は、イギリスでは16.2%、アメリカでは12.9%、フランス8.5%いる。 ※日本放送協会「令和2年度収支予算と事業計画の説明資料」 私は海外出張によく行くが、ホテルのテレビの番組表や番組案内にNHKの番組を見たことがない。BBCとCNNは標準だが、最近は中央電視台がそこに入り込んできている。 国際放送において、日本は世界的には信頼度が低い中央電視台にすら水をあけられている。これは国益にかかわる問題だ。というのも、中央電視台は、国営放送だと勘違いされているが、実際は中国共産党が指導・監督するプロパガンダ機関だ。その内容はソフトタッチではあっても中国のプロパガンダだ。今回の処理水の海洋放出をめぐる中国側の非難を見ればあきらかだ。 ●国際広報はコストの低いYouTubeでいい 日本政府もほとんど効果がないと分かってはいても、何もしないよりはましだというので、NHKの国際放送に交付金を出しているのだろう。だが、拙著『NHK受信料の研究』でも詳しく書いたように、このようなことはもうやめるべきだ。なぜなら、このような国際広報も、もう放送ではなくネット配信の時代になっているからだ。 現在のNHKの国際放送は、衛星通信を使ってなされている。このため巨額の回線使用料を払っている。しかし、現在ではこれはインターネットでできる。実際、先進国はインターネットで、とりわけYouTubeで、国際広報を行うようになっている。実は、最近はNHK自身もYouTubeにコンテンツをアップしている。 YouTubeのメリットは、回線使用料がほとんどかからないというだけではない。海外の人びとに直接届き、よく見られているというメリットもある。前回の記事で、Z世代はテレビではなく、YouTubeを見ると述べたが、これは世界的現象である。 それにひきかえ、衛星回線による国際放送は、見る側が衛星アンテナを購入しなければならず、面倒な配線やチャンネル設定もしなければならない。YouTubeならばこのようなことは一切必要ない。ただ、YouTubeのサイトに入って、好みのコンテンツをクリックすればいい。設備やシステムの切り替えも必要なく、明日にでもできる。 ●NHKへの交付金廃止、NHK解体が最善の道 そもそも、私も何度か記事に取り上げている総務省のワーキンググループは、これまでNHKが本来業務としていた放送を補完業務とし、ネット配信を補完業務から本来業務にすることを勧告している。 国際放送も放送法においてNHKの本来業務として位置付けられている。それならば、勧告にしたがって、国際放送のコンテンツをネット配信すればいいのではないか。ただし、それでNHKの国際放送がみられるようになるかは疑問だ。もともと国際的認知度がほとんどないからだ。 日本政府は、これまでの放送の時代では、国際広報をNHKに頼らざるを得なかった。だが、ネットが発達した今日、状況はまったくかわり、NHKに依存する必要はなくなった。 内容の問題もあり、認知度もほとんどないことを考えれば、政府はこの際NHKに出している交付金を廃止して、そのお金で独自の国際広報機関を創設し、外務省や経産省などのYouTubeを使った広報を支援させたほうがいいのではないか。それより先に、放送法を廃止か大幅改訂し、時代に合わなくなったNHKを解体し、受信料を廃止してくれればもっといい。 |
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●処理水放出に中国が反発、米紙の読者「また日本中傷、うんざり…」 9/8
東京電力福島第一原発から出た処理水の海洋放出をめぐり、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、「福島の処理水放出、中国のデマが怒りを増幅」と題した記事を掲載した。 この記事には多数の読者コメントが寄せられ、この問題に関する米紙の読者の関心の高さがうかがえる。そこではどんな意見が記されているのだろう? ●中国の反応は「外交上の騒乱をあおる戦略」 記事は、中国が処理水の安全性に関するデマを広めるために組織的な宣伝活動をし、反発や混乱が広がっていると記している。 相次ぐ日本批判のSNS投稿については、「日本が放出前に放射性物質を実質的にすべて除去しているという事実などの重要な詳細が省かれ」ており、「中国の原発そのものが福島の処理水よりもはるかに高レベルの放射性物質を含む水を放出しているということには言及していない」と批判した。 さらに、一連の中国側の反応については、2012年に沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題で日中関係が極度に緊張した際にも見られたような「外交上の騒乱をあおる昔からの戦略」と指摘している。 ただ、当時とは世界秩序が劇的に変化し、米中対立が激化し世界の分断が進むなか、今回の中国の処理水をめぐる反応は、「より大きな意図があるかもしれない」とし、米カーネギー国際平和財団の核政策プログラムの研究員のトン・ジャオの見方を紹介。それによると、中国の意図は、日本とその同盟国が「地政学的な利害に振り回され影響を受けており、基本的な倫理基準や国際規範を尊重せず、科学を無視している」という構図を作り出すこと、だという。 一方、記事では「中国がリスクを誇張しているのは、日本側がそうした隙を与えてしまったため」という識者の意見も記されている。放射線レベルを追跡する環境モニタリング団体「セーフキャスト」の研究員のアズビー・ブラウンは、初期段階における「国際的な協議が欠如」していたため「中国や韓国がもっともな疑問を提起するだろうと予想できたはず」と指摘した。 ●「中国だって放出しているのに!?」 この記事に対し、コメント欄では106件の意見が寄せられた。 なかでも、読者間で選ぶSNSの「いいね!」に相当する「おすすめ」という反応を最高の90件以上集めたコメントは、中国の原発も放射性物質を含む水を放出しているという記事中の文章を引用し「これは興味深い事実なので、中国政府も国民に広めてくれればいいいのだが」というものだった。 2番目に多い70件以上の「おすすめ」を集めたのは、中国に2年間住んでいたという読者による「中国共産党の産業安全基準こそジョークだ」とするコメント。この読者は、住んでいた都市で有害物質の放出があったため窓を閉めて外出しないよう警告が出たが、それ以前から有毒な空気の臭いがしていたという経験を説明。一方で、「日本はプロセス全体について非常に透明性が高い」などと比較し、中国の反応については「共産党の日本中傷キャンペーン。日本人も自分もうんざりしている」と記した。 ●「米国だって同じことがあれば…」 記事本文では、日本の外務省が「X(旧ツイッター)」で「#LetTheScienceTalk」というハッシュタグを使って、科学的根拠に基づいた中国への反論や各国政府の意見を紹介していることが記されている。 しかし、科学は一般市民にとってわかりにくく、しばしば感情的な反応を引き起こすこともあるとし、原子核物理学の社会学と歴史を研究する青山学院大学の岸田一隆教授の「人々がよくわからないものについて、心配したり怖がったりすることは理解できる」というコメントを紹介している。 このように、一般市民の反応に一定の理解を示す意見もあった。 3番目に多い50件以上の「おすすめ」を集めたコメントは、放射能や処理水の安全性に関して懸念を抱くことは「現実的で、デマなどではない」と指摘。「(米国沿岸の)メキシコ湾にこうした水が放出されたら、米国市民も同様の懸念を抱くだろう」と、思いやりをみせた。 |
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●処理水海洋放出の差し止め求めて提訴 1都5県の151人 9/8
東京電力福島第1原発で8月に始まった、汚染水を浄化処理後の水の海洋放出の差し止めを求め、福島や東京など1都5県の住民ら151人が8日、国と東電を福島地裁に提訴した。原告側弁護団によると、海洋放出の差し止めを求める訴訟は全国初。10月末に追加提訴を予定している。 ●「汚染のない環境で平穏に生活する権利を侵害」 訴状によると、海洋放出が漁業価値の減少を招き、漁業関係者の生存権や、市民が汚染のない環境で平穏に生活する権利を侵害しているなどと主張。国に対し、海洋放出の計画認可や関連施設の検査適合の取り消しを求め、東電には海洋放出禁止を求めた。 原告弁護団の広田次男弁護士は提訴後の記者会見で「東電は二度と放射能被害を起こさないと言ってきた」と指摘した。原発事故で今も多くの人たちが苦しむ中、放射性物質を流す海洋放出を二重の加害行為と批判。国と東電が漁業者に、関係者の理解なしにいかなる処分もしないと約束したことを踏まえ「ことごとく約束を破っている。民主主義の在り方が問われている」と憤った。 この日は雨の中、原告ら約70人が「海を汚すな」などと書いた横断幕を掲げ、地裁周辺をデモ行進した。いわき市の織田千代さん(68)は「安心して福島の物を食べて生活したい。一刻も早く海洋放出を止めてほしい」と訴えた。 原子力規制委員会事務局の原子力規制庁は「訴状が届いておらず、コメントは差し控える」とし、東電は「訴状が届き次第内容を確認し、適切に対処したい」とコメントした。 |
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●処理水の海洋放出で国と東電を提訴 福島県内の漁業関係者 9/8
福島第一原発の処理水の海洋放出について、漁業関係者などが国と東京電力に差し止めを求め提訴した。 訴えを起こしたのは、福島県内の漁業関係者など約150人。 原告団は福島第一原発の処理水の海洋放出について、国が「関係者の理解無しにいかなる処分も行わない」とした約束をなかったことにしたと主張。 また、周辺の土地を利用すれば処理水を溜めるタンクの増設が可能で、海洋放出の必要性がないとして、東京電力に放出の差し止めを、国には実施計画の認可を取り消すよう求めている。 原告団は、10月末にも新たに原告を募り2次提訴する予定だ。 |
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●原発処理水の海洋放出、差し止め求め国と東京電力を提訴 漁業者 9/8
海への放出が始まった福島第一原発の処理水をめぐり、漁業者などが国と東京電力に対して放出の差し止めを求め、8日、福島地裁に提訴しました。 行進する人たち「汚染水の海洋放出反対!」 訴えを起こしたのは、福島県の内外の漁業者や市民などおよそ150人です。 福島第一原発では、8月24日から処理水の海への放出が始まっています。訴状によりますと、処理水の放出について、国に対して、「設備の性能に問題がない」とする使用前検査の終了証の交付の取り消し、東電に対しては、処理水の放出をやめることなどを求めています。 原告団は、これまでに「処理水が海に放出されれば水産物の販売が困難になることは明らかであり、将来、健康被害を受ける可能性があるという不安をもたらす」などと主張しています。 原告団「私たちは安心して生きていきたいと願うことをやめるわけにはいきません。一刻も早くALPS処理汚染水の海洋放出をストップさせる、希望を捨てずにがんばりましょう」 原告の弁護団によりますと、処理水の放出、差し止めを求める裁判は全国で初めてだということです。 提訴を受け、東京電力は、「訴状が届き次第、内容を確認して適切に対処したい」としています。 |
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●「中国人エリート」が処理水を嫌がるワケ、「見えない」「身体に悪い」中国事情 9/9
8月24日に東京電力が福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を開始し、中国がこれに水産物全面禁輸措置などで強く反発している。おりしも10日に中国団体旅行が解禁されたばかりで、インバウンドの本格回復が期待される中、業界関係者は「また逆風が来たか」「訪日中国人はもう来なくなるか」との懸念を募らせている。実際、筆者はこの2週間で3回講演や取材に応じたが、この質問を毎回受けた。 そこで本稿では、中国の生活者がなぜ「処理水」に強く反応しているかについて、彼らの深層心理に迫り、インバウンド業界が持つべき視点を提供したい。 ●「見えない不安」に追われる人々 インバウンド戦略を練る際には、まず中国で暮らしている人々がどういう生活をしているのかを知ることが重要である。なぜなら現代中国人の多くはさまざまなストレスにより不安を抱いているからだ。 38歳の男性Aさんは北京で暮らしているが、出身は北西部の小さな町だ。親と親戚のほとんどは農民である。故郷と大都市で激しい格差があることを学校で習い、衝撃を受けた。現状から脱出しもっとよい生活を送るための唯一の機会はいい大学に入ることだともわかっていた。 勉強に没頭した青春時代が報われ、北京にある一流大学のエンジニア専攻に合格。大学院まで成績がよく、卒業する頃は、ちょうどIT人材が求められている時期だった。学校からの推薦もあり、北京の戸籍がなかったが(企業所在地の戸籍がないと就職に不利だといわれる)、日本人でもよく知っている中国大企業に就職した。 Aさんの能力と996(朝9時から夜9時、週6出勤)を超えた働きぶりが評価され、30代初めに管理職に昇進し、年収1500万円以上となった。大学時代に知り合った同じ町出身の女性と結婚し子供2人に恵まれている。北京の住まいは両家が一生かけて貯めた貯金を頭金と、自分の貯金を頭金として購入した。古いマンションだが、車もあって不自由はない。 貧しい暮らしから大都市で著名な企業で管理職に就き、理想な家族を持つ、まさに現代のチャイナドリームを実現したのだ。だが、筆者は彼と知り合って15年以上となるが、彼は会うたび「僕は、いつも不安だ」と話す。 ●将来に対する不安が尽きない 中国の社会は競争が異常に激しく、コネがなければ、欲しいものは奪い合いになる。特にIT業界だと、「コスパ」のよい若者が重宝される傾向があるため、30代後半で給料の高い彼は、「いつクビになってもおかしくない」と毎日ドキドキしているという。 その結果、自分のパフォーマンスを維持し、周囲にアピールするために、今でも新人と同じぐらい働き、連日の徹夜もよくあることだ。Aさんの同僚によると、通常6人体制で行う短期的プロジェクトを、Aさんは自らが猛烈に働くことで、2.5人で完成したそうだ。「Aさんは働きすぎだ。すごいと思う。でも我々にはできない。身体も心も持たないよ」と同僚は心配と不安を口にする。 Aさんに「何でここまでするの?」と聞くと、「不安だ。とにかく不安なんだ」といつも返してくる。 「今のマンションは何とか買えたが、住宅ローンの完済まで何十年もかかる。子供たちも大きくなったので、よい学校に近いもっと大きな家を買い替えたい。だが、いつまでこの仕事(給料)でやっていけるかがわからない。妻は一般大学卒だし北京の戸籍がないので働いてもたいした給料しかもらえない。今は専業主婦で私1人の収入で何とかやり繰りしている。 何より、子供の教育は大きな投資だ。子供の教育費用だけはケチってはいけない。私たちは海外に行ったことがないが、子供を海外留学させたい。競争の激しい国内で彼らのいい将来が見えない。 そして郷里に住む親たちは今も元気だが、これからどうやって遠距離で面倒を見るかの答えが見つからない。だから、働けるときにいっぱい働かないと。とにかく不安で、とにかく心配なんだ」 こうした競争の激しい、ストレスの大きい社会環境に置かれた彼らにとって、「自分の生活に与える不安」は感情の発露のトリガーになる。「仕事でもう精一杯頑張って疲れているから、せめて安心な暮らしをさせてほしい」「子供に健康な環境で生きてほしい」「見えない不安を取り除いてほしい」という心の声が聞こえてくる。 ●「見えない不安から守るのは何より大事」 中国人の多くは食品安全に関する懸念をつねに抱いている。外食をするときや加工食品を買うとき、「これはそもそも本物の肉を使っているのか」「食品添加物はがんを誘発するものか」「食材をちゃんと洗ってくれているか」などなど、つねに疑問を持ちながら暮らしているのだ。製品になっているものも、原材料はどこから来たのかは不安なので疑ってしまう。 日本ではあまり知られていないかもしれないが、日本の「貝殻で作られた野菜洗剤」が中国ではバカ売れだったのもこの不安から来たものである。日本では野菜や果物を洗剤で洗うのをあまり聞かないが、中国では実はごく普通に行われている。 特に子供がいる家庭では、子供の安全を考慮して何もかも丁寧に洗う。食材だけではなく、子供食器専用食洗機・消毒器、子供服専用洗濯機などさまざまある。農薬は見えないが、食べてしまうと身体に悪そう。 大人は子供よりいろいろなものを食べているし、いろいろなところに行っているから、見えないウイルスや菌をきっといっぱい持っている……。それを子供にうつしてはいけないという発想から、子供専用の食器から洗濯機まで用意するわけだ。 「放射線」が見えないことにも大きな不安を持っている。「電子レンジの放射線は身体に悪いから、電子レンジが稼働するとき、必ず離れて!」と言う人もいるし、持っていない、あるいは、使いたがらない人もいる。胎児に悪いので、1枚何万円もする「放射線防御服」も人気が高い。携帯電話の「電磁放射線」が身体に悪いと、妊娠した息子の妻に携帯電話使用を禁止する姑の話も少なくない。 ●「見えない」「身体に悪い」には敏感 こうした「見えない」「身体に悪い」「放射線」は中国人の心の不安を引き起こすキーワードであり、今回の処理水は見事に全部当てはまっている。 Aさんもそうした1人で、今回の処理水放出についても懸念を抱いている。「日本ではどう報道されているかわからないし、事実もわからないが、ただ、安心できる魚を食べたいし、子供に健康で安心な食事を取ってほしい。それだけだ。日本は学費が安いし中国にも近いので子供の修学旅行先として考えていたけどやはりやめる。劉さんも帰ったほうがいいのでは?」というスタンスだ。 冒頭のインバウンドの話に戻ると、放出開始から時間が経っていないため、現段階では、インバウンドへの影響を見定めるのは難しい。時々刻々、状況は変化していくと思われるので、随時にウォッチする必要がある。 ただ、上述の中国国内における不安を乗り越え、今でも来てくれる訪日中国人は、真の日本ファンであり、自治体でも企業でも大事にしたい存在だと言えよう。食事はもちろん、日本に何を求めてきたのか、そこをきちんと把握することが今後の成功につながる「カギ」になるのではないか。 |
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●中国の処理水「過剰反応」へ3つの対抗策、内閣府“廃炉・汚染水対策チーム” 9/9
●処理水への中国の過剰反応に早急に追加すべき三つの対策とは 福島第一原発の処理水の海洋放出が8月24日に始まりました。国内での風評被害が懸念されていた一方、事態は予想を超えて、中国では日本産の海産物の輸入禁止や日本製品の不買運動にまで拡大しています。 筆者は、2013年12月から内閣府「廃炉・汚染水対策チーム事務局」のプロジェクト・アドバイザーを務めていました。当時、「また福島第一原発で汚染水が漏れた」といった報道が続いていたので、その対応にプロジェクト・マネジメントの観点でアドバイスが必要とされたからです。(※編集部注「汚染水」という言葉を当時のまま記載しています) アドバイザー着任以降、実態を確かめようと、福島第一原発の爆発した建屋の原子炉のごく近くまで、マスクに防護服を着用して入ったこともあります。そして、福島では郡山のJビレッジで行われる現地調整会議に参加し、東京では土曜と日曜の午前9時から午後5時まで東京電力本社で行われるプロジェクト定例会に詰めるというハードな2年余りを過ごしました。 プロジェクトは関係各所の尽力の結果、発生する汚染水の量を1日約500立方メートルから大幅に減少させることに成功しました。また、汚染水の漏洩が多発したボルト式の旧型タンクから安全性の高い溶接型タンクへ入れ替えを実現し、安全に汚染水を保管することが可能になりました。(※編集部注「汚染水」という言葉を当時のまま記載しています) その後、このプロジェクトからは離れていましたが、今般のALPS処理水の海洋放出について思うところがあります。そこで、守秘義務や公開情報の範囲でしかお伝えできませんが、私の考えを述べたいと思います。 まず、「処理水の海洋放出を関係者・世論のコンセンサスを形成し実施に漕ぎ着けること」をゴールとするプロジェクトに対して、プロジェクト・マネジメントの観点で分析すると、基本的にはよく練られた計画であり着実かつ丁寧に進めてきたものだと評価できるでしょう。しかし、今回の中国のような過剰な反応が出てきている以上、現状プランでは不足があることも確かです。そこで、早急に追加すべき対応を三つ提案します。 ●全世界へ情報発信を強化せよ データをグラフィカルに公開 1点目は、「品質データによる管理とコミュニケーション」です。ALPS処理水には、海洋放出するための基準が設けられていますが、これを厳密に守っているかをリアルタイムに継続的に測定し、国内外に分かりやすく情報提供する必要があります。 そもそも今回のALPS処理水の海洋放出は、基準をシンプルに設定し、その評価について国際的な第三者機関からリポートしてもらっています。こうしたコミュニケーションについては、大変効果的だったと思います。 なぜなら、下記を見てもらえれば分かるように、「核種」の測定値が出ている表(いわゆる生データ)を見ても、その評価は専門家でなければ難しいからです。 そこで、評価基準の軸をトリチウム中心に据えて、それ以外の核種については総和に絞り、その基準に対する合否で海洋放出する・しないを決める手法が取られたのでしょう。この手法は大変効果的だったと思います。 しかし、結果的にこのようなシンプルさが“あだ”となった面も否めません。中国の反発が継続し、フェイク動画が出回るような事態に対抗するには、情報力の強化が必要です。ALPS処理水についての情報をリアルタイムに、統合的かつ継続して提供することが重要だと思います。 ところが現状は、データが散在して全体像をつかむことは容易ではありません。 例えば、福島第一原発の海域の海水をモニタリングした結果は、ウェブ上で公開されているものの、適切な検索ワードを入力し、かなり深くまでクリックしていかないとその情報にたどり着けません。 実際にやってみましょう。まず、「ALPS処理水」で検索するとトップに出てくる経済産業省の「ALPS処理水の処分」というページを開きます。が、ここから先が、なかなか目的の情報(福島第一原発海域の海水モニタリング結果)を見つけることができません。 また、東電はAPLS処理水に関して、放出の直前に「放水立坑」でのリアルタイム・モニタリングも行っています。こちらも東電のウェブサイトにはあるのですが、一般の人がすぐに見つけることはできないと思います。 このように、ALPS処理水のオペレーションの品質管理としてリアルタイムかつ詳細なデータが実は存在しているのですが、マスコミを通じて報道されることも少なく、一般に広く認識されないのは非常に残念なことです。 無用なデマをなくすためにも、早急に、散在しているデータを分かりやすく(例えばグラフィカルにするなど)、放出工程の流れに沿ってリアルタイムかつ一覧的に見ることができるサイトを構築し、国内外への情報発信を強化すべきです。加えて、福島第一原発の内部に、工場や高速道路の管制センターと同様の機能を持つ施設(外部公開を前提にしたもの)を作るのもわかりやすい方法だと思います。 また、こうした情報共有は、今後数十年続くと予想される海洋放出オペレーションでの操作ミスなどの防止、さらには事故や自然災害による処理水や処理流出などが発生した場合の原因究明や対策にも役立つはずです。 ●PMの鉄則「利害関係者を呼び込む」 韓国に続き中国も参加させる 2点目は、「中国に対しての呼びかけ」です。国際原子力機関(IAEA)傘下での海洋放出に関して長期的なモニタリング体制への参加を呼びかけるのです。 IAEAは、ALPS処理水の海洋放出について、国際安全基準に合致していることなどを結論付ける「包括報告書」を7月4日に公表しています。実は、この包括報告書の作成に当たっては、IAEAだけでなく、米国のロスアラモス国立研究所、韓国の原子力安全研究院、スイスのシュピーツ研究所、フランスの放射線防護・原子力安全研究所も協力しています。 協力したこれらの研究所を有する国の中で、米国と韓国は、今回の海洋放出の前に、国のトップが一定の理解を示しています。これは、プロジェクト・マネジメント(PM)として大きな成果だったと思います。 プロジェクト・マネジメントの鉄則として、プロジェクトの一部作業やり直しや失敗を防ぐために、キックオフ時に、将来クレームを言ってきそうな利害関係者をプロジェクトに呼び込んでおくことは重要です。その点では、韓国をこのIAEAのスキームの中に取り込んでいたことは大きな意味がありました。なので、可能であれば中国も取り込んでおくべきだったのです(もちろん、簡単なことではないので今回は致し方ない面もあると思います)。 今からでも遅くありません。政府や東電は、IAEAと共同し継続運営していく予定のモニタリングの国際体制の中に、中国または中国の研究所にも参加を呼びかけるべきです。 中国が、IAEA主導のモニタリングプロジェクトへの参加を断ることは、「中国国民の健康を守る」という建前上、難しいのではないかと思います。もし断った場合、その主張は単なる空虚なプロパガンダの一種だと自ら証明することになるでしょう。 ●廃炉のロードマップ見直しこそ より本質的な問題解決だ 3点目は、「福島第一原発の廃炉」というプロジェクトの最終ゴールまでのロードマップの見直しを図ることです。処理水の海洋放出というマイルストーンをようやく超えた今、その次の段階を議論できる環境になりつつあるはずです。 そもそも、処理水が発生するのは、原子炉建屋に地下水が流入するからです。いまだに、1日100トン前後流入しています。これを止めることが、処理水を作らないための本質的な解決策です。このための工法もずっと検討されていますが、今こそロードマップを見直す時期ではないでしょうか。 さらに本質的な問題として、溶解した燃料棒のデブリの回収もあります。19年に廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議において決定された「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」では、本来なら21年度中にはデブリの取り出し開始だったはずです。しかし、23年度になってもその見通しは立っていません。こちらも、新しい工法も含めてロードマップを見直す必要があります。 今般の事態解決に向けて、外交的な交渉や、風評被害対策をすることも重要ですが、これらのロードマップを積極的に見直すことこそ、より本質的な問題解決策だと考えます。 なぜなら、福島の漁協トップは、「海洋放出と廃炉の終了時に、福島の漁業が継続していて初めて約束が果たされる」というコメントをしています。政府や東電はこの約束に真摯(しんし)に向き合い、責任を果たす必要があるはずです。 |
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●「訪日キャンセル続出」の中国報道に疑問 国内旅行会社「影響軽微」 9/9
東京電力福島第1原発からの処理水海洋放出を受けた中国人の訪日旅行への影響を巡り、首をかしげるような状況が生じている。中国現地メディアは「キャンセル続出」と報じる一方、日本国内の旅行会社は産経新聞の取材に「影響はあまり感じていない」と口をそろえる。専門家は厳格に統制された現地メディアが中国政府の政治的な意図を受け、影響を過大に喧伝している可能性を指摘する。 「あたかもキャンセルが続いているかのように報じられるのは迷惑だ」 取材に応じた国内旅行会社の担当者は、中国人観光客を巡る一部の報道に眉をひそめる。 8月24日に始まった処理水放出を受け、中国メディアは「核汚染水の放出」「訪日キャンセル続出」と盛んに報道した。 斉藤鉄夫国土交通相も今月8日の定例記者会見で、8月末までに中国の旅行会社に聞き取り調査をしたところ、実際にキャンセル事例が報告されたことを明らかにした。ただ、調査対象の会社によって、問い合わせが一切なかったとするケースもあるといい、影響については「現時点で申し上げることは避けたい」と述べた。観光庁幹部は「中国側の報道については冷静な判断が必要」と語った。 これまでに産経新聞が中国人観光客の受け入れ業務を担う国内の旅行会社十数社に聞き取りを行ったところ、「影響はあまりない」と口をそろえた。若干のキャンセル事例があった旅行会社でも「全体から見ればごくわずかだ」と話す。 処理水放出を巡っては、中国からとみられる迷惑電話も多数報告されているが、別の旅行会社担当者は「訪日旅行を計画できるのは基本的に富裕層。迷惑電話を掛けている人たちとは明らかに違う印象だ」とし、訪日需要への影響は限定的とみている。 中国側の姿勢にも変化の兆しがうかがえる。中国共産党の機関紙である人民日報系の環球時報は、8月30日に国民に冷静な対応を呼びかける社説を掲載。一部の行き過ぎた国民の反応を抑制する狙いがあるとみられる。 昨年10月の日本政府による新型コロナウイルスの水際対策緩和以降、中国人の訪日客は順調に増加しており、8月には日本への団体旅行も解禁された。9月末からは中国で国慶節の大型連休も控え、旅行会社関係者からは「このまま何もなければ」と事態の収束を期待する声が上がる。 今回の事態の背景について、九州大大学院の益尾知佐子教授(国際関係学)は「中国には習近平政権の長期独裁や不動産バブルの崩壊による経済失速など、国内の不満の矛先を外に向ける目的があった」と指摘。処理水放出がその格好の材料とされたとの見方だ。 |
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●鮮魚店悲鳴「中国人客が買ってくれない」 処理水放出 沖縄にも影響 9/9
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出から2週間が過ぎ、県内の観光業や水産業にも少しずつ影響が広がっている。沖縄と中国を結ぶ航空路線でキャンセルが相次いでいるほか、魚介類の出荷や商談が中断し、頭を抱える水産事業者も。アジアからの観光客でにぎわう那覇市松尾の第一牧志公設市場の鮮魚店からは「中国人客が全く買ってくれなくなった」との悲鳴も漏れる。 新型コロナウイルスの感染症法の扱いが5類に移行し、沖縄と海外を結ぶ航空路線は運航再開が進む。コロナ禍で停止していた中国人客の団体旅行も8月に解禁された。9月8日には上海-那覇線が復便、17日には北京路線が予定されており、観光業界は期待を寄せているが、予約状況は思わしくない。 8日の上海-那覇線は約10人が予定をキャンセルしたほか、中国航空大手「中国国際航空」が17日から運航する北京路線は座席が埋まらない状況だ。また中国のある旅行社では、少人数の個人旅行でキャンセルが相次いでいるという。 コロナ禍前の2018年度の外国人観光客数300万800人のうち、中国人観光客は23%を占め、その影響は小さくない。 沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB、下地芳郎会長)の担当者は「中国国内では日本の処理水問題のニュースは徐々に減っていると聞く」と話し、今後も注視する考えを示した。 水産業にも影響が出ている。県農林水産部には、香港やマカオへの魚介類の出荷や商談がストップしているとの声や、先行きが見通せないことへの不安の声が水産事業者から寄せられている。県の担当者は、風評被害から水産業を守るための国の支援パッケージを事業者に積極的に活用してもらい、「影響を少しでも緩和したい」と話す。今後も影響の調査を続ける。 第一牧志公設市場の鮮魚店の中には、中国人客向けの売り上げがすでに落ちている店もある。香港や台湾からの観光客は変わらず買ってくれるものの、鮮魚店の中には「『(処理水の影響は)本当に大丈夫なのか』と客から頻繁に聞かれる」店も。また別の鮮魚店担当者は「(団体旅行の解禁後)客足が戻っていないだけかもしれないが、中国の観光客はかなり少ない印象だ」と話す。 |
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●“中国が嫌だ”という感情が韓国で一気に広がった納得の理由 9/9
「今は国民に親日と思われることよりも、親中派だと思われる方がアウトですよ」 韓国のある保守系国会議員がこう言って肩をすくめた。しかも「アウト」というのは議員生命どころか「韓国人として」だというから驚いた。 韓国において「親日」はかつて日本の植民地時代に日本に協力した者を指し、売国奴のニュアンスを持つ。しかし現在は中国寄りのスタンスをとることが何よりも嫌われるようになったというのだ。保守陣営と進歩陣営、男性と女性、世代間など国内に多くの葛藤を抱える韓国だが、「反中」だけは国内がほぼ一致しているという。 福島原発処理水の海洋放出に関しても、強硬に反発する中国とは一線を引いた立場を取っている。 中道系の新聞記者は、中国が日本の水産物輸入を全面的に停止すると発表したことについてこう憤る。 「日本の処理水排出に反対するのはあまりにも政治的で、日米韓の足並みを崩そうという意図が見え見えです。そもそも中国は自国のPM2.5や原発汚染水の処理が不透明なことを棚に上げている。大国然とするのもいい加減にしてほしい」 とはいえ韓国政府も、福島を含めた8県の水産物を輸入禁止にしており、その措置が解除される見通しは立っていない。それでも「科学を一切無視して韓国や日本を小国扱いする中国とはまったく違う」と語気を強める。 ●「中国の好感度が日本を下回って最下位」 韓国で中国に対する好感度が急速に落ち込んだのはここ数年のことだ。 なかでも2021年6月に時事雑誌「時事in」が発表した「中国の好感度が日本を下回って最下位」という世論調査は衝撃が大きかった。韓国で広がる「中国が嫌だ」という“時代の雰囲気”の背景の深層を探る内容だった。 調査会社「韓国リサーチ」と共同で大規模な世論調査を行い、「韓国周辺の5カ国(日本、米国、中国、ロシア、北朝鮮)の好感度」で、2018年以来はじめて中国が日本を下回ったのだ。韓国国内の反応は、驚きと当惑が入り混じったものだった。 かつて中国は、韓国にとって恐れの対象だった。2000年に起きた「ニンニク紛争」(韓国が国産ニンニク保護のために中国産冷凍ニンニクの関税率を高めると、中国が報復で韓国の携帯電話などの輸入を禁止。韓国はわずか1カ月で関税率を下げるはめになった)から「恐中症」という言葉も生まれた。 その「恐中症」が「反中感情」に転じる大きなきっかけは、2017年4月の米THAAD(高高度防衛ミサイル)配備といわれている。北朝鮮のミサイルから国を守るために韓国に配備された米THAADに、中国はミサイル軍の動きが監視されるとして猛反発していた。 実際にTHAADが配備されると、中国政府は駐韓米軍に土地を提供した財閥のロッテグループに対して、法令違反を理由に中国での営業を停止させた。さらに市民の韓国製品不買運動を煽り、中国にあったロッテマートを撤退に追い込んでいる。 さらに報復として中国人の団体観光客の渡韓を禁止し、K-POPなどのエンタメ公演やファンミーティングも禁止した。韓国製ゲームの輸入も禁止された。これらの一連の報復措置は「限韓令」と呼ばれている。 ●「現在の韓国が小国扱いされるいわれはありません」 当初は慌てふためいた韓国だが、中国外相が言い放った「小国(韓国)が大国(中国)に楯突いてもよいのか」という発言が報じられると雰囲気が一変した。 「限韓令の中身以上に、中国外相のこの言葉が韓国人の感情を揺さぶりました。たしかに韓国には中国の属国だった時代がありますが、それも昔のこと。産業も文化もグローバルに大きく発展した現在の韓国が小国扱いされるいわれはありません」(前出・中道系新聞の記者) 前出の『時事in』によると、韓国内の「反中感情」は広がっているが、中でも嫌悪感が強いのが20代の若者だという。2020年にアメリカの「ピュー研究所」が行った意識調査でも、他の国では高齢者の「反中感情」が強い傾向があったが、韓国だけ唯一Z世代の「反中気分」が際立っていたのだ。 韓国の20代がもっとも強く拒絶している対象は中国共産党(81.1%)だ。 実際に20代の若者たちに話を聞くと、「コロナ禍での中国政府の対応をみると、国民を刑務所に閉じ込めているような印象を受けました。人権を重んじない国なんだなあと思いました」「コロナも中国政府が最初に処置を適切に行っていれば広がり方も違ったのではないかと思ってしまう。米国で起きているアジアン・ヘイトも中国が原因だと思う」などの声が聞かれた。 民主化後の韓国で育った若い世代にとっては特に、中国政府の強権的な対応への違和感が強いようだ。 さらに韓国で反中感情が広がった背景には、社会的な雰囲気もあっただろう。THAAD配備の翌月に就任した文在寅前大統領は、悲願の北朝鮮との関係改善のために中国との関係改善に力を入れた。そのため中国から突きつけられた「追加のTHAADを配備しない」などの3つの条件を呑み、韓国が得るもののない「3無」と非難を浴びた。 また、韓中首脳会談では文大統領(当時)が「ひとり飯」の屈辱的な扱いを受けたと大々的に報じられたこともある。保守系の新聞記者は、「中国に対して弱腰な韓国政府の態度も、積もり積もって反中につながったのかもしれません」と分析する。 2022年5月に誕生した尹錫悦政権では、大統領直属の情報機関である国家情報院の中で対中国チームが拡大したといわれ、中国に対する警戒感が窺える。さらに最近は、中国語や中国文化を広げる「孔子学院」や中国の「秘密警察」にも厳しい目が向けられている。 そんな中、中国は8月10日に「限韓令」の一部を解除して、6年ぶりに団体旅行客の渡韓を認めた。メディアには「中国人団体客 免税ショッピングへ 国内免税店に活気」(聯合ニュース、2023年8月27日)、「帰ってきた中国人観光客 仁川に3年間で4万人がやってく…限韓令以来最大」(朝鮮Biz、同8月29日)などの見出しがおどったが、手放しで喜んでいる雰囲気は感じられない。 ●「どこまで行っても“小国”扱いなんですよ」 「日本と韓国を『アメリカと中国のどちらに付くのか』と試しているのだと思います。韓米日が結束を強めることは中国にとっては厄介。アメリカに面と向かって喧嘩を売ることはできないので、今は日本を原発問題で叩き、韓国には飴を差し出して懐柔しようとしているのでしょう。どこまで行っても“小国”扱いなんですよ」(前出・保守系新聞記者) 韓国が中国に対して強気に出られるようになってきた背景には、貿易相手国としての中国の比重が下がってきた事実もある。今年1〜7月の輸出内訳をみると1位の中国(19.6%)と2位のアメリカ(18%)はわずか1.6ポイント差で、中国経済の停滞も伝えられている。最近では、「安保も経済もアメリカとともに」と書くメディアさえ現れている。 「反日」の時のようなデモによる抗議や声明は今のところ少なく、「反中」の具体的なアクションは見えづらい。もやもやと広がっているだけだ。ただ韓国は、政治と安保面では確実に「アメリカや日本とともに中国と対峙する」方向へ傾いている。 |
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●原発処理水の海洋放出 台風13号の影響なく1回目終える見通し 9/9
福島第一原発で行われている処理水の海洋放出は、台風13号の影響なく作業が行われている。東京電力は2023年度、タンクのまとまりごとに4回に分けてあわせて3万1200トンの処理水を放出する計画で1回目の放出は7800トン分を予定している。 東京電力によると、台風13号による海洋放出作業への影響はなく、9月9日午後5時までに7347トンが放出された。 9月10日の午後には、予定されている量の放出を終える見通しで、9月11日に処理水を移送する配管を水で洗浄し、1回目の放出を終える計画。 2回目の放出は、9月末から10月上旬にかけて始める方針。 |
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●処理水放出、オランダ首相「完全に支持」…岸田首相が各国首脳に説明 9/9
インド訪問中の岸田首相は9日午後、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、オランダのマルク・ルッテ首相、インドのナレンドラ・モディ首相と個別に会談した。 9日、ニューデリーで岸田首相(左)の到着を歓迎するモディ印首相=AP9日、ニューデリーで岸田首相(左)の到着を歓迎するモディ印首相=AP 岸田首相は各会談で東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出について説明した。アルバニージー氏は「日本は国際原子力機関(IAEA)と連携し、責任ある形で取り組んでいる」と評価し、ルッテ氏は「日本政府の取り組みを完全に支持する」と述べた。 8日夜にはトルコのタイップ・エルドアン大統領とも会談。エルドアン氏は「日本政府の誠実な取り組みを承知している」と語った。 |
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●福島処理水 あきれる福島への偏見と差別 フランスの「風刺画」 9/10
●中国、韓国の猛反発ばかりが報じられるが? 8月24日の放出から約2週間。福島第一原発の処理水について、国内世論は概ね“放出容認”に傾くが、海外からの見え方われわれ々が考えるほど好意的なものではない。中国、韓国の猛反発ばかりが報じられるが、フランスの報道機関の風刺画を見てみると、ジョークでは通らないほどひどい内容で――。 まずは有名な風刺週刊紙「シャルリー・エブド」に掲載されたもの。そこにはこう書いてある。 「フクシマの放射能水はどこに捨てるべきか?」「セーヌ川がもっときれいになれば」 オリンピック開催を来年に控えて、なお汚いセーヌ川を批判するのが主旨とはいえ、引き合いに福島を持ち出すのは見当違いと言うしかないだろう。 ●「放射能で魚が光る」 ある有名イラストレーターの“作品”もヒドい。 「フクシマの水、海に放出」というタイトルを掲げて、光る魚を見つけた釣り人が、「静かに! 魚が来るぞ」と話すシーンを描く。 放射能で魚が光るというのは、かつて時計文字盤の夜光塗料にトリチウムが使われていたことに由来するのだろうが、日本人からすればちっとも笑えない。 ●放射能=奇形の“迷信” そしてフランスのテレビ情報誌「テレラマ」に掲載されたものにいたっては、さらに非科学的で、内容もエゲツない。 「フクシマの汚染水、海洋放出へ」というキャプションを添えて描かれた、楽しそうな海水浴シーンを注意深く見ると、奥には原発の建屋があって、脱いだ服は防護服。 そして右側の男性の足が……なんと3本! 処理水で奇形が生まれるようなデマが、いまだに垂れ流されているのだ。 こうなるとフランス人自慢の「エスプリ」も「ユーモア」もあったものじゃなく、単なる悪趣味な誹謗中傷である。 ●トリチウムの排出量はフランスの方が多い 実際には、福島の処理水125万トンに含まれるトリチウムが860兆ベクレルであるのに対し、フランスの再処理施設が年間に排出するのは実に1京(=1兆の1万倍)ベクレルという規模。 この数字からも、少なくとも処理水の安全性について“風刺”されるいわれはないはずなのだが…。 原子力の先進国で、原発に理解があるはずのフランスでも平気でこんな報道がなされることに目まいを起こしそうになるが、批判の矛先は日本の「広報文化外交(パブリック・ディプロマシー)」の至らなさにも向けられてしかるべきなのかもしれない。 |
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●福島第一原発処理水放出 トリチウム水準は制限値以下 IAEA分析 9/10
東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、IAEA=国際原子力機関は、海水の分析の結果、放射性物質「トリチウム」の水準は日本の制限値以下だったことを確認したと明らかにしました。 IAEAは8日、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出開始以降、初めて海水を独自に分析した結果を発表しました。 海水はIAEAの専門家が原発から3キロ以内の複数の場所で採取し、分析の結果、トリチウムの濃度は日本が設けた制限値を下回っていたということです。 また、「東京電力や環境省から報告を受けた値と矛盾がなかった」としています。 |
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●中国の全面禁輸、背景に複数の意図 9/10
「処理水放出に関する中国政府の対応は、日本側からどれだけ科学的な対応が示されようともそれを一蹴し続けるもので、一般市民が感情論から反対するものとは性質が異なる」 8月24日配信の記事「中国の全面禁輸『想定外』 政治問題化する処理水放出…不信募る日本」に、国際政治学者で一橋大学大学院法学研究科教授の市原麻衣子さんは、こうコメントした。 記事では、東京電力福島第一原発の処理水が海洋放出されたことを受け、中国が日本産の水産物を全面禁輸としたことに、日本政府内で「想定以上」との受け止めが広がっていることを報じた。また、中国が強硬姿勢を貫くのは、低迷が続く日中関係も背景にありそうだと伝えた。 市原さんは、今回の中国の対応について「背後には、複数の政治的意図があると考えられる」とコメント。まずは、日本国内で処理水放出への反対論がある中、中国がそれを後押しする材料を提供することで、日本国内での対立をあおって日本社会を不安定化させる狙いがあると指摘した。 また、中国への監視・対抗力が増すとして、中国は日韓の接近に警戒している点に言及。韓国でも処理水放出への反対論があることから、「韓国内での対日感情の悪化を促進しようとしている可能性が高い」との見方を示した。 さらに、中国の国内世論を意識したポピュリズム的な動きであることも挙げた。市場経済化に舵(かじ)を切り、よって立つイデオロギーとして共産主義を掲げることができない中、代替的に用いられてきたのがナショナリズムだと指摘。反日ナショナリズムは時にカードとして用いられてきたことから、「今回の動きにもその要素が見られる」と記した。 そして、これらの中国側の「意図」を踏まえた上で、次のようにコメントを締めくくった。「日本社会としては、中国政府のこうした政治的な動きに過度に反応しないことが肝要である」 |
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