過去最大の国家予算

過去最大 「異次元」の23年度国家予算

新規国債発行 35.6兆円
財政健全化 ・・・ 遥か 遠退くばかり
毎年 増え続ける予算 後は野となれ山となれ

政治家の先生方 「先生」で居続けることが最優先 
地元・後援団体・所属団体 バラマキ政治
税金の分捕り合戦 お役人 バラマキのお手伝い

監視役のメディア 気楽な忖度メディアに生まれ変わりました
嫌味な記事は書きません


日本の未来 どなたか絵を描いてください
 


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●厚労省 薬剤費3100億円削減 社会保障関係は前年比4100億円増 12/22
鈴木俊一財務相と加藤勝信厚労相は12月21日、予算編成の大臣折衝で、23年度薬価改定の改定範囲を平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目とし、同時に不採算品と新薬創出等加算品への臨時的特例的な措置を講ずることで薬剤費を3100億円削減することを確認した。国費ベースの削減額は722億円となる。このほか診療報酬上の対応として、医薬品の供給不安に対する医療現場の協力促進として、23年12月末を期限に一般名処方、後発品の使用体制に係る加算、薬局の地域支援体制に係る加算の上乗せ措置を合意した。
大臣折衝では23年度社会保障関係費の伸びを薬価引き下げなどで圧縮し、4100億円程度とすることを了承した。薬価改定による薬剤費削減額は3100億円。内訳は、新薬780億円、うち新薬創出等加算対象が10億円、長期収載品1240億円、後発品1210億円、その他品目+130億円。改定対象品目数は、全体で1万3400品目(69%)。内訳は、新薬1500品目(63%)、うち新薬創出等加算対象240品目(41%)、長期収載品1560品目(89%)、後発品8650品目(82%)、その他品目1710品目(36%)となった。
診療報酬上の対応 オンライン資格確認、医薬品供給不安への医療現場の対応
このほか診療報酬上の対応として、オンライン資格確認の導入・普及の観点から、23年12月末を期限に、初診時・調剤時における追加的な加算、再診時の加算を設定する。さらに加算に係るオンライン請求の要件を緩和するとした。一方、後発品を中心に医薬品の供給不安が医療機関や薬局にも広がっていることを踏まえ、23年12月末を期限に般名処方、後発品の使用体制に係る加算、薬局の地域支援体制に係る加算の上乗せ措置を講ずることで合意した。これら診療報酬上の対応の財政影響額は、医療費で250億円、国費ベースで63億円。
加藤厚労相 医薬品が無い場合の処方替えなど「(医療現場の)負担になっている」
加藤厚労相は大臣折衝後の記者会見で、「医薬品の供給についての理由は2つある。一つはコロナの関係で需要が増えていること。もう一つは後発品メーカーの経営的な問題や生産の問題で結果的に需要が下がっている」と指摘。「実際の医療現場では医薬品が無い場合に処方替えすることがかなりある。これが(医療現場の)負担になっている。そういったことを踏まえて今回は臨時的な対応ではあるが、それに対する加算措置を取ることにした」と説明した。
●23年度予算案の社会保障費36兆円台後半 12/22
政府は22日、2023年度当初予算案の社会保障関係費を36兆円台後半とする方針を固めた。一般会計の歳出総額は114兆円台前半とし、23日に閣議決定する。
●長野県、23年度予算要求 1兆921億円 12/22
長野県は22日、2023年度予算の要求概要を発表した。一般会計の要求総額は22年度当初予算比で0.7%増の1兆921億円だった。新型コロナウイルス対応に関係する予算が高い水準を続けたうえ、社会保障関係費などが膨らんだ。
新型コロナ対応の予算は21年度当初予算比3.2%減の2122億円となった。患者を受け入れる病床の確保に240億円、ワクチン接種体制の確保に47億円、経営が悪化した中小企業向けの制度融資に1668億円を盛り込んだ。
産業関連の新規事業では、電気自動車(EV)関連産業の創出に2500万円、地域ブランド商品を商談会などでPRする事業に3500万円、県内へのデジタル地域通貨導入に向けた研究に3200万円などを盛り込んだ。 

 

●過去最大の23年度予算、日銀緩和修正で超低金利依存から脱却急務 12/23
政府は23日、過去最大規模となる2023年度当初予算案を閣議決定する。日本銀行による予想外の政策修正を受けて市場は来年以降の利上げを織り込み始めており、異次元緩和による超低金利に依存した財政政策からの脱却が急務となる。
ブルームバーグが入手した資料によると、23年度予算案の一般会計総額は114.4兆円程度と防衛費を中心に22年度当初予算から約6.8兆円増え、11年連続で過去最大を更新。税収の増加で新規国債発行は35.6兆円程度と22年度当初の36.9兆円から抑制するものの、国債残高の累増に伴い、国債費は25.3兆円程度と22年度当初から0.9兆円増える見通しだ。
日銀は20日、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策における長期金利(10年国債金利)の誘導水準を0%程度に維持しつつ、許容変動幅を従来の上下0.25%程度から同0.5%程度に拡大した。黒田東彦総裁は「利上げや金融引き締めではない」としたが、唐突な政策修正だったこともあり、日銀が再び豹変(ひょうへん)するリスクを市場は意識せざるを得ない状況だ。
21日の債券市場では一時、2年国債利回りがマイナス金利導入前の15年以来のプラス圏に浮上。ブルームバーグのデータによると、先行きの金融政策に対する市場の見方を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS、2年)は0.25%程度と08年のリーマンショック直後以来の水準に上昇している。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの田口はるみ主席エコノミストは、「日銀は利上げではないと言っているが、正常化に向けた流れだとの見方が市場で強まっている」と指摘。「そろそろ政府の方も国債費が増え続けていく可能性に注意を払うべき時期に来ている」との見方を示した。
財務省によると、日銀による金融緩和の長期化によって普通国債の加重平均金利は低下を続け、17年度末に1%を割り込み、21年度末は0.78%まで低下している。一方で国債の利払い費は2000年代半ばを底に緩やかな増加傾向にあり、超低金利下にもかかわらず、国債残高の累増が徐々に財政を圧迫しつつある。
金利が上昇しても発行済みの国債の表面利率は変わらず、利払い費が直ちに急増するわけではないが、残高1000兆円を超える国債が次第に高めの金利に入れ替わるインパクトは小さくない。財務省は、金利が予算編成上の想定(10年国債利回り)よりも1%上昇した場合、国債費は23年度に0.8兆円、24年度に2.1兆円、25年度に3.7兆円増加すると試算している。
「ミスターJGB(日本国債)」と称される財務省の斎藤通雄理財局長は8月のインタビューで、日銀の大規模な国債買い入れと超低金利政策が「未来永劫(えいごう)続くわけではない」とした上で、「発行当局としてできることは何か、何が残っているのか総点検を行い、市場を整備していく必要がある」と述べた。
来年の春闘で相応の賃上げが実現すれば、さらなる異次元緩和の修正も視野に入ってくる。仮に2%の物価安定目標の実現に近づいたにもかかわらず、日銀が緩和政策の継続に固執すれば、今度こそ「財政ファイナンス」との批判から逃れられない。政府と日銀は後手に回らないよう、金融市場の安定確保に向けた一層の連携が必要となる。
岸田文雄政権はこのほど、30兆円近い一般会計の追加歳出を伴う総合経済対策を取りまとめたばかり。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の対策のような大きな財政拡大はなかなか続けられないとし、「長期政権をにらんで政権基盤を強くしていくならば、財政再建は必須だ」と語った。
●23年度予算案、過去最大114兆3812億円 政府決定 12/23
政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決定した。22年度当初予算から6兆7848億円増え、11年連続で過去最大を更新した。110兆円超えは初めて。高齢化による社会保障費の膨張に加え、1兆4192億円の大幅増で6兆7880億円を計上する防衛費が総額を押し上げた。
税収は69兆4400億円と過去最高を見込む。堅調な企業業績や雇用者数の伸びが背景にある。歳出の拡大に追いつかず、35兆6230億円の新規国債を発行して歳入不足を穴埋めする。全体の31.1%を借金に頼る。
政府は今後5年間の防衛費を従来の1.5倍の43兆円程度とする方針。初年度の23年度は前年度から1兆4192億円増やした。伸びは近年の500億〜600億円程度から一気に拡大した。
一般会計の3割を占める社会保障費は36兆8889億円計上した。高齢化による医療や介護の費用の自然増で、前年度から6154億円上振れした。地方自治体に配る地方交付税に一般会計から出す額は5166億円増え16兆3992億円とした。国債の元利払いに充てる国債費は、25兆2503億円と9111億円膨らんだ。
新型コロナウイルス禍で始まった巨額の予備費も引き続き計上した。コロナ・物価高対策で4兆円、ウクライナ危機対応で1兆円を盛った。予備費は政府が閣議決定で具体的な使い道を決められる。国会の監視が及びにくいとの批判がある。 
●予算案を閣議決定、防衛費は過去最大6兆8219億円…GDP比1・19%  12/23
政府は23日、2023年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は114兆3812億円と、22年度当初予算から6兆7848億円増え、11年連続で最大を更新した。防衛力の抜本的な強化に向け、防衛費は過去最大の6兆8219億円を計上し、国内総生産(GDP)比では前年度の0・96%から1・19%に伸びた。〈予算案のポイント12・13面、関連記事3・4・8・9面〉
一般会計の増加幅はリーマン・ショック後の09年度(5・4兆円)を上回り、過去最大となった。予算総額が100兆円を超えるのは5年連続だ。
防衛費では、反撃能力の要となる米国製巡航ミサイル「トマホーク」購入に2113億円を計上。「12式地対艦誘導弾」の改良、量産費用として計1277億円を盛り込んだ。自衛隊の施設整備や艦船建造などの財源に、初めて建設国債4343億円を充てる。
政府は防衛費と関係費の総額を27年度にはGDP比2%に引き上げる方針で、今後5年間の増額分を賄う防衛力強化資金(3兆3806億円)も新設した。
歳出の3分の1を占める社会保障費は36兆8889億円。薬価の引き下げなどで計約1500億円を圧縮したが、自然増などで6154億円増えた。子ども政策では、出産時に給付する出産育児一時金を1人当たり原則42万円から50万円に引き上げる。23年4月に創設するこども家庭庁の関連経費も盛り込んだ。
23年度に初めて発行する国債「グリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債」は、22年度補正予算の事業分と合わせ、計約1・6兆円分を措置する。
公共事業費は26億円増の6兆600億円を確保した。岸田内閣が成長戦略の柱と位置づける「デジタル田園都市国家構想」の交付金には1000億円を充てた。
歳入は、税収を69兆4400億円とし、当初予算として過去最大だった22年度より4兆2050億円増えた。新たな国債(国の借金)の発行額は35兆6230億円と1兆3030億円減ったが、歳出の3分の1を借金で賄う厳しい財政状況は継続する。
前年の22年度当初予算の一般会計歳出は107兆5964億円だったが、その後に1次、2次補正が編成され、総額は139兆2196億円に膨らんだ。23年度も同様に巨額の補正予算が加わり、歳出がさらに膨張する恐れがある。
政府は23年1月に召集される通常国会に予算案を提出し、3月末までの成立を目指す。
●23年度予算案決定、過去最大114兆円 国債依存なお3割 12/23
政府は23日、一般会計総額が過去最大の114兆3812億円となる2023年度予算案を決めた。新型コロナウイルス禍で拡張した有事対応の予算から抜けきれず、膨らむ医療費などの歳出を国債でまかなう流れが続く。米欧で1〜2割前後に下がった借金への依存度はなお3割を超す。超低金利を前提にしてきた財政運営は日銀の緩和修正で曲がり角に立つ。
23年1月召集の通常国会に予算案を提出する。一般会計で当初から110兆円を超えるのは初。
歳出は社会保障費が36兆8889億円。高齢化による自然増などで6154億円増えた。国債の返済に使う国債費は9111億円増の25兆2503億円。自治体に配る地方交付税は一般会計から5166億円増の16兆3992億円を計上した。
切り込み不足で増大するこうした経費をまかなう歳入は綱渡りだ。税収は企業業績の回復で69兆4400億円と過去最大を見込む。それでも追いつかず、新たに国債を35兆6230億円発行して穴埋めする。うち29兆650億円は赤字国債だ。
歳入総額に占める借金の割合は31.1%と高水準。00年代半ばまでは2割台だったのがリーマン危機後の09年度に4割近くに跳ね上がって以降、3〜4割台で推移する。
大規模緩和前の00年代半ば、日本の長期金利は1%を超えていた。10年代に入って長期金利0%台以下になるのに合わせるように政府は国債への依存度を高めた。
各国で基準をそろえた公債依存度をみると日本も米国やドイツといった他の先進国もコロナ下の20〜21年度は一様に4〜5割前後に高まった。米独は22年度に2割台前半に下がった。日本だけが3割台で高止まりする。
コロナ禍や物価高、ウクライナ情勢に柔軟に対応するための予備費は計5兆円を盛り込んだ。危機対応の予算編成がなお続いていることを示す。
結局、次の成長への予算配分は乏しい。脱炭素の研究開発にはエネルギー特別会計で約5000億円を積んだ。量子や人工知能(AI)などの科学技術振興費は微増の1兆3942億円。これらを足し合わせても2兆円程度にとどまる。
経済が停滞したまま債務だけが増大する悪循環の出口は見えてこない。
●次年度予算のポイント 12/23
2023年度一般会計予算案に盛り込んだ「日本が直面する内外の重要課題への対応」の主なポイントは以下の通り。
安全保障・外交
・日本を取り巻く安全保障環境を踏まえ、新たな国家安全保障戦略などを策定。5年間で防衛⼒を抜本的に強化するため、43兆円の防衛⼒整備計画を実施。防衛⼒を安定的に維持するための財源を確保
・主要7カ国(G7)広島サミットや⽇本・ASEAN(東南アジア諸国連合)友好協力50周年などを見据え、「新時代リアリズム外交」を展開するための予算を確保(外務省予算:5年度7560億円、4年度補正と合わせ1兆0233億円)
・地⽅交付税交付金は、リーマンショック後最高の18.4兆円を確保
地⽅・デジタル田園都市国家構想
・デジタル田園都市国家構想交付金(23年度1000億円+22年度補正800億円)により、自治体のデジタル実装の加速化や、デジタルの活⽤による観光・農林 水産業の振興など地⽅創生に資する取り組みを支援
こども政策
・来年4⽉にこども家庭庁を創設
・出産育児⼀時金を42万円から50万円に引き上げ
・妊娠時から出産・子育てまで⼀貫した伴走型相談支援と、妊娠・出生を届出た妊婦・子育て家庭に対する経済的支援(計10万円相当)をあわせたパッケージを継続実施
GX
・「GX経済移⾏債」の発行により、民間のGX投資を支援する仕組みを創設
・2050年カーボンニュートラル目標達成に向けた革新的な技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入などの支援を開始
メリハリの効いた予算
・社会保障関係費+4100億円程度(高齢化による増、年金スライド分+2200億円程度除く)
・社会保障関係費以外+4兆7400億円程度(税外収入の防衛力強化対応4兆5900億円程度を除き、+1500億円程度)
・新規国債発行額を減額(22年度当初36.9兆円→23年度35.6兆円)  

 

●「防衛増税」で自民にしこり、「政治とカネ」でさらなるダメージ… 12/24
続落する内閣支持率
師走は政治が激しく動いた。
旧統一教会をめぐる被害者救済法を臨時国会最終日に成立させた岸田政権は、間髪を入れず「反撃能力」の保有を打ち出し、防衛増税の議論を推し進めた。
防衛力の強化と財源問題で首相自ら陣頭に立ち指導力の回復を狙ったが、自民党内の対立が表面化。増税に対する世論の反発も強く、内閣支持率は軒並み過去最低を更新。
「政治とカネ」の問題も相次いだ。岸田文雄首相は政権浮揚への決め手を欠いたまま、立て直し策を思案している。
「戦後の安保政策を大転換」
政府は23日の臨時閣議で、一般会計総額114兆3812億円の来年度予算案を決定。
このうち防衛費は今年度当初予算比26.4%増、過去最大の6兆7880億円となった。1兆4192億円の増額だ。500〜600億円程度だった近年の伸びから大幅に拡大した。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、岸田首相はかねて「防衛力の抜本的強化」に言及してきた。中国は東アジアで覇権主義的な動きを強め、北朝鮮は性能を向上させたミサイル発射を重ねている。
5月に行われたバイデン大統領との日米首脳会談で岸田首相は、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」との決意を伝えていた。
外交・防衛の基本方針を定める「国家安全保障戦略」など「安保関連3文書」改定の閣議決定は12月16日。
「反撃能力」の保有や防衛関連の予算を2027年度に対GNP比2%へ倍増させることを明記し、23年度から5年間の防衛費総額を現行計画の1.6倍に当たる43兆円とすることを盛り込んだ。
岸田首相は記者会見で「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ」と強調した。
1兆円増税に自民紛糾
国土と国民を守るための防衛力の整備と防衛費の増額は必要だ。そのための財源の確保も。だが、財源確保策をめぐっては、岸田首相の方針に閣僚や自民党議員から異論が噴出した。
岸田首相が示したのは年間1兆円強の増税方針だ。27年度以降に毎年4兆円の追加の財源が必要だとし、このうち3兆円は歳出改革などで賄うが「残りの1兆円強は国民の税制で協力をお願いしなければならない」と増税を検討するよう与党に求めた。
これに噛みついたのが高市早苗経済安全保障担当相だ。「賃上げマインドを冷やす発言をこのタイミングで発信された真意が理解できない」とツイッターに投稿。
西村康稔経産相も記者会見で、「大胆な投資のスイッチを押そうとしている時であり、増税は慎重にあるべきだ」と異論を唱えた。
自民党の政調全体会議では「バカヤロー」と怒号が飛び交う事態に。
「拙速だ」、「プロセスに問題がある」など発言者の7割が反対の意見を述べた。また、党内有志議員の会合では「内閣不信任案に値する」といった過激な発言も飛び出していた。
最終決着を先送り
激論の末、自民党税制調査会は増税反対派に譲歩する形で決着を図った。
岸田首相の指示通り税目と税率を税制改正大綱に記載するものの、実施時期は明示せず。判断は来年に先送りとなった。岸田首相がこだわった防衛力強化の内容と予算、財源を「三位一体」で年内に決着させる方針は、あいまいな部分を残す結果に終わった。
政府は27年度に法人税で7000〜8000億円、所得税とたばこ税で各2000億円、合わせて1兆円強を防衛費増額のための財源として確保することを目指している。
しかし、FNN世論調査(17、18日実施)では、防衛費増額の財源の一部を増税で賄うことを決めた岸田首相の方針について、「評価しない」が69.5%と「評価する」の25.6%を大きく上回っている。
自民党内の対立が再燃するのは確実で、増税を実現できるかは不透明だ。
「政治とカネ」で議員辞職
岸田政権では「政治とカネ」をめぐる問題が続いている。
収支報告書への不適切な記載が原因で寺田稔総務相が11月に辞任。秋葉賢也復興相は選挙運動費をめぐる疑惑が指摘され、野党から厳しい追及を受けている。
こうした中、自民党の薗浦健太郎衆院議員が「政治とカネ」をめぐる問題で議員辞職。政治資金パーティーの収入を収支報告書に実際より少なく記載したとして政治資金規正法違反の罪で略式起訴された。
岸田政権へのさらなる打撃は避けられそうにない。
記載しなかった金額は合わせて4900万円に上る。罰金刑が確定すれば、原則5年間、公民権が停止され全ての選挙に立候補できなくなる。
薗浦氏は当初、報道陣の取材に対し「会計責任者が全部やっていた」と説明していた。しかし、東京地検特捜部の事情聴取には一転、「秘書から事前に聞いて知っていた」と自身も認識していたことを認めた。
議員辞職の際、「私にも一定の責任がある。国民の政治不信を招きかねないもので、誠に申し訳なく、心より反省している」とコメントを発表したが、公の場には姿を見せず、説明責任から逃げたままだ。
当選5回、麻生太郎副総裁の側近として知られ、首相補佐官や外務副大臣を歴任したベテラン議員にしては極めて無責任な対応だと言わざるを得ない。
通常国会を乗り切れるか
秋葉復興相をめぐっては、ここに来て政府・与党内で交代論が浮上。来年1月下旬召集の通常国会で野党から追及を受ける前に交代させ、政権運営を安定させたいとの狙いだ。時期も含め岸田首相が最終判断するが、早ければ年内にも交代との見方が出ている。
通常国会は正念場だ。予算案の審議を通じて野党の攻勢にさらされるのは必至。岸田首相の真価が問われる場になる。政権の立て直しなくして150日間の長丁場を乗り切ることはできないだろう。
第二次岸田改造内閣が掲げる基本法方針は「国民の信頼と共感を得る政治」だ。防衛力強化をはじめとする重要課題や「政治とカネ」の問題に改めて正面から向き合い、国民に対する説明責任を果たす。このことに全力を挙げるべきだ。「信頼と共感」はその先にある。
●23年度予算案、閣議決定 12/24
23年度予算案の概要
一般会計総額     114兆3812億円(6.3)
【歳入】
税収        69兆4400億円(6.4)
税外収入      9兆3182億円(71.4)
新規国債      35兆6230億円(3.5)
赤字国債      29兆650億円(5.2)
建設国債      6兆5580億円(4.9)
【歳出】
一般歳出      72兆7317億円(8.0)
地方交付税交付金等 16兆3992億円(3.3)
国債費       25兆2503億円(3.7)
政府は23日の閣議で、2023年度予算案を決定した。コロナ禍や物価高、ウクライナ危機などの難局を乗り越え、未来を切り拓くための予算と位置付け、一般会計総額は114兆3812億円と11年連続で過去最大を更新。子育ての伴走型相談支援と経済的支援の継続実施や出産育児一時金の増額、自治体の脱炭素化促進など、公明党の提言や主張が大きく反映された。政府は来年1月に召集の通常国会に予算案を提出し、年度内成立をめざす。
社会保障費は高齢化で医療費などが増加し、過去最大の36兆8889億円を確保する。地方に配分する地方交付税交付金などは16兆3992億円。防衛費は6兆7880億円とする。
歳入面では、23年度の税収見通しが69兆4400億円となり、過去最高だった22年度当初予算の65兆2350億円を大幅に上回る。税収が増加するため、新規国債の発行額は35兆6230億円と、22年度当初予算(36兆9260億円)から減額する。
23年度予算案は、公明党の強い主張を受け、子育て支援を大きく拡充。22年度第2次補正予算で創設した、妊娠期からの伴走型相談支援と妊娠・出産時に計10万円相当を給付する経済的支援を一体的に行う「出産・子育て応援交付金事業」の継続実施を盛り込んだ。
出産時に支給する出産育児一時金は、現行の42万円から50万円に増額。過去最高の引き上げ幅とした。来年4月に「こども家庭庁」を創設し、子ども・子育て支援を強化することも明記した。
脱炭素化の促進に向けては、「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を発行し、民間のGX投資を支援する仕組みを創設。また、自治体による脱炭素の取り組みや再生可能エネルギーの普及に対する支援を手厚くする。
このほか、自治体のデジタル実装の加速化や、デジタル活用による観光・農林水産業の振興も支援する。
予備費については、新型コロナ・物価高対策予備費に4兆円を確保。22年度第2次補正予算で新設した「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」にも1兆円を計上する。
閣議決定に先立ち、政府・与党は23日午前、首相官邸で政策懇談会を開催。公明党から山口那津男代表らが参加した。公明党は同日の政務調査会部会長会議で同予算案を承認。その後、持ち回り中央幹事会でも承認した。
政府・与党政策懇談会の終了後、山口代表は首相官邸で記者団に対し、23年度予算案について、「出産・子育て応援交付金」の継続実施や、出産育児一時金の増額など子育て支援が拡充されることに触れ「公明党が一貫して推進してきたものだ。その後の継続的な取り組みへの議論も重ねていきたい」と力説した。
また、防衛費増額や脱炭素投資を促進するため創設する「GX経済移行債」発行が同予算案に盛り込まれている点に関し、国民の理解が広がるよう「政府においては、丁寧で分かりやすい説明を求めたい」と強調した。
●復興庁23年度予算、福島国際研究機構に146億円計上 12/24
政府が来年4月に浪江町に設立する福島国際研究教育機構について、復興庁は2023年度予算で主に研究開発を進める事業費として146億円を計上し、東京電力福島第1原発事故からの本県の産業再生を目指す国家プロジェクトに着手する。ただ、自前の研究施設の整備に向けた関連予算は含まれておらず、国内外の研究者が集う本格的な研究体制の構築は24年度以降となる見通し。
復興庁は、機構の設立時から当面の期間は浪江町に置く仮事務所を拠点に、まずは県内の大学や既存の研究機関などに委託して研究開発事業を進める。委託事業はロボットやスマート農業、創薬医療など機構が掲げる5分野の研究テーマに基づき、地域のニーズも踏まえて決める方針。
機構関連の予算を巡り、復興庁は今夏の概算要求の段階では金額を明示しない「事項要求」としていた。秋葉賢也復興相は確保した146億円について「満足している。事務方を含めて調整を頑張った結果だ」と強調した。機構の目的と同様に「世界最高水準の研究拠点の形成」を掲げ政府の主導で12年に開学した沖縄科学技術大学院大学(沖縄県)への予算措置が年間約80億円とし「(146億円は)県民の期待に応えうる相当な水準」とも語った。
一方で、復興庁は最先端の研究開発の推進に向け「国内外から優秀な研究者を集める」との方針だが、研究者の活動拠点となる自前施設については現段階で規模や用地取得の見通しが定まっておらず、施設整備関連の経費は盛り込まなかった。施設は復興庁が存続する30年度までに順次開設する方針だが、被災地の住民からは「施設がない環境の中で本格的な研究開発を進められるのかどうか疑問だ」との声も上がる。機構設立の効果を最大限に発揮できるよう、復興庁には施設整備の前倒しに向けた不断の取り組みが求められる。
●米国防権限法成立、国防予算は前年度比10%増… 12/24
米国のバイデン大統領は23日、2023会計年度(22年10月〜23年9月)の国防予算の大枠や国防政策の方針を定める国防権限法案に署名し、法律を成立させた。中国やロシアとの競争激化や、歴史的なインフレ(物価上昇)を背景に、国防予算総額は前年度比10%増の8580億ドル(約113兆円)とし、過去最大となった。
法案は上下両院で超党派の賛成を得て議会を通過していた。台湾への支援を強化するため、対外軍事融資制度を使い、武器購入や訓練資金として今後5年間で最大100億ドルを支援する。米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」に台湾を招待することも求めた。
一方、下院は23日、総額1・7兆ドル(約225兆円)規模の23会計年度歳出法案を賛成多数で可決した。ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)同盟国への支援に約450億ドルを計上した。上院は既に可決しており、バイデン氏の署名を経て近く成立する。
23会計年度はこれまで予算が成立しておらず、暫定予算(つなぎ予算)で政府資金を確保してきた。23日夜に政府機関の閉鎖につながる予算の期限切れを迎えることから、バイデン氏は23日、期限を30日まで延長する法案に署名した。 
●政府予算案 財政健全化へ吟味尽くせ 12/25
無駄な支出はないか。不要不急の事業が紛れ込んでいないか。年明けに召集される通常国会で、吟味と精査を尽くさねばならない。
政府が2023年度予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は114兆3812億円に上り、11年連続で過去最高を更新した。防衛力強化を最優先課題と位置付け、防衛関連予算を大幅に積み増したことや、高齢化に伴い医療などの社会保障費が膨らんだのが主な要因である。
防衛関係では、米軍再編経費を含めた防衛費は過去最大の6兆8219億円となり、22年度当初の1・26倍に増えた。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に向けて、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費を計上した。
政府は防衛力を抜本的に強化するため、今後5年間の防衛費総額を約43兆円と決めており、23年度はその初年度に当たる。ただ「防衛力強化の中身、予算、財源をセットで詰める」と繰り返してきた岸田文雄首相が今月上旬、内容が固まる前に予算規模を打ち出したことには、唐突感が否めない。
23年度の防衛費に関しても、防衛力強化の中身や必要性について、精緻な議論が行われたのか疑問だ。政府はしっかりと説明すべきだ。
高額な防衛装備品の購入費を複数年度でローン払いする「後年度負担」が22年度の約5兆8千億円超から約10兆7千億円へと一気に拡大したのも気掛かりだ。高額装備品は完成までに時間がかかるため、支払いを複数年度に分けるのが通例となっている。とはいえ、ローン払いがかさめば、将来の予算の硬直化を招きかねない。
歳入面では、依然として借金頼みの財政運営が続いており、財政規律の緩みも目立つことが懸念される。税収は景気回復を前提に過去最大の69兆4400億円を見込むものの、全体の約6割を賄うにとどまる。そのため35兆6230億円の国債を発行して歳入の約3割を賄う。
国債を軸とした国の借金は6月末で約1255兆円に上っている。今後、金利が上昇すれば、利払いなどに回す国債費は増大し、他の政策経費を圧迫することになる。日銀は大規模な金融緩和策の修正に動いているだけに、金利上昇への備えが急がれる。
内閣が使い道を決められる予備費として、22年度当初に続き5兆円を計上したことも問題だろう。機動的にお金を使える利点があるのは確かだが、財政規律の軽視につながるとの指摘は根強い。
施策の効果を見極め、無駄な支出を洗い出す一方で、捻出したお金を経済成長や社会の安定につながる政策経費に重点配分するのが本来あるべき姿だ。
今後の審議では、国会のチェック機能をしっかりと発揮してもらいたい。財政を立て直し、健全化を図ることが強く求められる。  

 

●「防衛費だけでない」2023年度予算案のポイント  12/26
岸田文雄内閣は12月23日、2023年度予算政府案を閣議決定した。一般会計歳出総額が、114兆3812億円と過去最大となった。直前に、防衛費をめぐり将来の増税を提起したこともあり、何かと防衛費に注目が集まりがちだが、2023年度予算案にはどんな特徴があるか。詳しく見てみよう。
歳出総額の増加幅は6.7兆円と過去最高
まず、一般会計歳出総額は、2022年度当初予算の107兆5964億円から6兆7848億円ほど増えるのだが、この増え幅は過去最高である。
どうしてこんなに歳出が増えたのか。それは、逆説的な言い方になるが、収入が増えたからである。一般会計予算は、歳入総額と歳出総額が同額になるように編成する。歳入が増えないと、歳出は増やせない。増やす歳出を賄うための財源を、いろいろと工面した結果ともいえる。
歳入が増えた最も大きな要因は、税収増である。消費税の標準税率を10%にした2019年10月以降の税収は好調で、コロナ禍でありながら、2020年度以降過去最高を更新し続けている。2023年度予算案の一般会計税収は、69兆4400億円と2022年度当初予算と比べて4兆2050億円も増えて過去最高となる見通しである。
2023年度予算案の税収増を支えているのは、消費税と法人税である。2022年度当初予算と比べて、消費税は1兆8110億円、法人税は1兆2660億円増えると見込んでいる。
それに加えて、防衛力強化の影響もある。12月16日に閣議決定された「防衛力整備計画」で、2023年度からの5年間で防衛経費の総額を43兆円程度とすることとしたのに伴い、その財源として「防衛力強化資金(仮称)」という財源管理をする「財布」を別に設けることとした。
その防衛力強化資金に繰り入れるとともに2023年度の防衛費に充てるために、特別会計の剰余金や独立行政法人の積立金、国有財産の売却収入などをかき集めて4兆5919億円の収入を得る(ただし、ほかの税外収入が減ることから、税外収入としては全体で3兆8828億円の増加となる)。この収入増も、歳入増に貢献した。
日銀納付金は防衛力強化資金の財源にしない
ちなみに、量的緩和政策をめぐり注目を集める日本銀行の財務状況に関連して、日銀納付金は税外収入として9464億円計上されているが、これは防衛力強化資金の財源にはしないこととしている。
防衛費のためにかき集めてきた財源のうち、1兆2113億円を2023年度の防衛費に使い、残りの3兆3806億円は防衛力強化資金に貯めておき、次年度以降の防衛費に充てる予定である。防衛力強化資金に回す支出は、例年の予算にはなく、それも歳出の増加要因として加わっている。
歳入面でのもう1つの注目点は、国債の新規発行額である。2023年度予算案では35兆6230億円と、2022年度当初予算より1兆3030億円ほど減った。この国債発行額が歳出総額に占める割合である公債依存度は、31.1%となり、3分の1を下回るところまで低下し、ようやくコロナ前の水準に戻ってきた。
コロナ禍が直撃した2020年度決算では、公債依存度が73.5%という異常な水準に達していた。2023年度は依然として高い水準ではあるものの、平時に戻る兆しが見え始めた。
ただ、前述のように税収が約4.2兆円増えているのに、公債発行額は約1.3兆円しか減っていない。それだけ、税収増を公債発行の抑制よりも歳出増に充てていることがわかる。財政健全化に向けてはまだまだ道半ばである。
歳出に目を移すと、やはり防衛費の増加が目立つ。防衛費(防衛力強化資金への繰り入れを除く)は、6兆7880億円と、2022年度当初予算より1兆4192億円増える。
2023年度予算案の歳出総額は、2022年度当初予算と比べて、防衛力強化資金への繰り入れを除くと3兆4042億円ほど増えるが、その4割強を占めるのが防衛費ということだ。それだけ、防衛費増加のインパクトは大きい。
例年ならば、政策的経費で最大費目である社会保障費がどれだけ増加するかに注目が集まるが、社会保障費の増加は6154億円で、そのうち年金給付のための支出増が物価スライドなどにより2200億円程度を占めている。
2023年度の社会保障費では大きな改革事項はなかったから、比較的静かな決着といえよう。ただ、翌2024年度予算で診療報酬・介護報酬の同時改定を控えており、山場は1年後に迎えることになる。
巨額予備費が常態化、補正予算はもはや不要だ
ただ、予算編成上の課題も多く残されている。巨額の予備費は、2023年度予算案でも計上されている。新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費が4兆円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費が1兆円、計5兆円である。
コロナ前の補正予算の規模が3兆円だったことを踏まえると、当初予算から補正予算が上乗せされたような規模である。使途について議決を経ない巨額の予備費を常態化させれば、財政民主主義を形骸化させかねない。
この予備費があるのなら、2023年度はもはや巨額の補正予算は不要だといえるだろう。おまけに、過去には補正予算の財源になった決算剰余金を、今後は防衛費増加の財源に充てるつもりなのだから、補正予算はまともに組めない。これを機に、巨額の補正予算を断ち、日本経済の財政依存からの脱却を目指すべきである。
そして、もう1つの懸念は利払費である。2023年度予算案の利払費は、2022年度当初予算と比べて2251億円増える。これは、国債金利がほぼゼロといいながら、塵も積もれば山となり、残高が増えるだけ利払費も増える可能性を示唆している。
日銀政策修正ですぐに利払費増とはならないが…
日銀が12月20日に決定した長短金利操作(YCC)の運用見直しで、10年物国債利回りの許容上限を0.25%から0.5%に引き上げた。これにより、直ちに一般会計の利払費が増大するわけではないが、中長期的には利払費の増加要因となる。
そもそも、決算段階でみても7兆円を超える利払費を国の一般会計で支出している。これは、増やした2023年度の防衛費(防衛力強化資金への繰り入れを除く)よりも多い。それだけ、国民が納めた税金が利払費に食われて政策的経費に回せないのだ。
確かに、この利払費は、国債保有者にとっては収益源にはなる。しかし、銀行預金などを通じて間接的に国債を保有している国民にしか、その収益は得られない。金融資産を持たない国民は、ただそのコストを税金の形で払わされるだけである。
国債の発行がほぼコストなしにできるという認識は早急に改め、いかに国債への依存を減らして財政政策を運営できるかを、もっと真剣に考えるときである。
●岸田大軍拡予算 暮らし置き去り政治の転換を 12/26
岸田文雄政権が23日に閣議決定した2023年度政府予算案(一般会計総額114兆3812億円)で軍事費は「防衛力強化資金」への繰り入れ3兆3806億円を合わせて10・2兆円となりました。財務省も「防衛関係費」は前年度比89%増と説明し、1・9倍の増額です。歳出総額の9%が軍事費という異常な大軍拡です。その一方、社会保障や暮らしの予算を軒並み削りました。コロナ危機や物価高騰への対応はまったく不十分です。
抑制続ける社会保障費
「防衛力強化資金」は23年度の軍事費6兆8219億円とは別建てで、24年度以降に使う軍事費を先取りする、異例の予算です。外国為替特別会計からの繰り入れ、政府が保有する不動産の売却のほか国立病院の積立金やコロナ対策資金の一部まで流用します。
自衛隊の艦船建造、施設建設に4343億円の建設国債を充てます。「軍事費の財源として公債を発行することはしない」(1966年の福田赳夫蔵相答弁)とした政府見解をほごにするものです。
社会保障費は、高齢化で増える「自然増」の伸びを1500億円、圧縮します。75歳以上の高齢者の医療費窓口負担の2倍化などで「自然増」を削減します。公的年金の支給額は抑制し、物価高で実質減となります。首相が言う「子育て予算倍増」は実現の見通しがありません。
中小企業対策費は22年度当初予算から9億円減らされ、1704億円しかありません。トマホーク巡航ミサイルの購入費2113億円すら下回っています。賃上げ支援として計上されている生産性向上の助成金は以前から使いにくいと指摘され、実効性がありません。雇用全体の7割を占める中小企業には、社会保険料の軽減など抜本的な賃上げ支援が必要です。
不公平税制の是正は置き去りです。首相が就任前に掲げた「1億円の壁の打破」「金融所得課税の強化」は影も形もありません。
物価高騰で一段と必要性が高まっている消費税減税は相変わらず拒んでいます。消費税収の23年度見込みは23兆円超です。国民が困窮を深める中、4年連続で最大の税目となります。
原発については「次世代革新炉」の研究開発支援に新規で123億円を計上しました。東京電力福島第1原発事故の教訓を投げ捨てるものです。取り返しのつかない重大事故を起こした原発の推進を「グリーントランスフォーメーション」(GX)と称して強行することは許されません。
使途を事前に国会にはからず、政府の判断で使える予備費は5兆円を計上しました。巨額の予備費の常態化は財政民主主義に反しています。
戦争への道を繰り返すな
国民の暮らしを犠牲にし、「戦争する国づくり」に財政を総動員するのは、日本がアジアへの侵略戦争でたどった道です。戦費調達を目的とした国債を大量に発行し、際限のない軍拡に突き進んだ歴史を繰り返してはなりません。
23年度予算案は平和と暮らしを守るものに抜本的に組み替えなければなりません。大軍拡に対するたたかいは日本の進路にかかわる重要な意義を持っています。憲法、暮らし、平和を守る世論と運動を大いに広げましょう。
●政府の23年度予算案、大阪万博「日本館」に24億円 12/26
政府が23日閣議決定した2023年度予算案で、経済産業省は25年国際博覧会(大阪・関西万博)に出展する日本政府館(日本館)の建設などに24億円を計上した。資材の購入費や人件費を含む建設関連費に22億円、広報・周知活動に2億円を充てた。同館の建設は23年度中に開始される予定だ。
日本館では、ものを大切に使い切る日本文化のあり方を示し、来場者に「循環型社会」を体験してもらうことを目指す。設計図の作製などに5.5億円、広報活動に3.1億円の合計8.6億円を計上した22年度当初予算より、約2.8倍多い規模となった。建物には新建材のCLT(直交集成板)を使用する計画で、万博後の再利用も検討されている。
経産省は23年度予算案に、大阪・関西万博での飛行を目指す「空飛ぶクルマ」や、近年注目が集まるドローンの社会実装に向けた関連費用31億円も計上。22年度当初予算より2億円増額した。民間企業や研究機関が、機体の安全性を評価する手法などを開発する際に必要な委託料や補助金の原資として活用される。
また、23日に閣議決定された23年度税制改正大綱では、万博に参加する企業への税制優遇措置も盛り込まれた。参加企業は、建設したパビリオンに対する不動産取得税や固定資産税、万博会場内に設けた事業所に対する事業所税が、開催期間中は免除される。都市計画税も免除の対象だ。
●23年度政府予算案 防衛以外の歳出にも目配りを  12/26
他の政策にしわ寄せが及ばぬよう、財源確保が重要だ。
政府の2023年度予算案は一般会計の総額が114兆3812億円と、前年度当初予算比6・3%の大幅増となった。予算の増額は11年連続になる。
ただ歳入面では税収増とその他収入の増加を見込んで国債発行を抑制し、公債依存度を22年度の34・3%から31・1%に引き下げてはいた。
一般歳出の増加の主役は、前年度までの社会保障関係費から防衛関係費に転換した。社会保障の増加額が6154億円だったのに対し、防衛費は1兆4192億円もの増額だ。さらに「防衛力強化資金」という新たな制度を設け、3兆3806億円をプールする。この資金は24年度以降の防衛費増に振り向ける予定としている。
自衛隊の強化に関する岸田文雄政権の意志は明確で、国民も一定に理解している。ようやく、その財源確保をどうするかが明らかになった。
「防衛力強化資金」は特別会計からの繰入金、コロナ禍対策予算の不使用分、国有財産の売却益、決算剰余金、歳出削減を主体に確保。それでも不足する年間1兆円を増税で賄い、現行の防衛費5・2兆円を27年度に8・9兆円程度に引き上げる。
増税を圧縮したように見える。しかし特別会計からの繰り入れや決算剰余金は景気対策などの補正予算の財源であり、一部は国債償還に充当して財政再建に寄与してきた。
これらの使途が防衛費に限定されることは、国の財政自由度の低下を意味する。歳出削減も「従来より相当の努力をしないと(防衛費が)確保できない」(財務省幹部)という。今後、社会保障と防衛以外の政策にしわ寄せが及ぶ懸念がある。
さらに防衛費の一部を新たに建設国債で賄うことにしたことも、長期的に財政の悪化につながろう。
経済安全保障に関わる新政策や脱炭素・エネルギー対策など、産業社会を維持・発展させていくには相応の予算が必要だ。景気浮揚による税収増など財源確保に努めてもらいたい。  

 

●革新炉・量子コンピューター・EV…政府・23年度予算案を紹介 12/27
政府はグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタル変革(DX)、宇宙など科学技術への重点投資を盛り込んだ2023年度予算案を決定した。成長分野への大胆な投資でイノベーションを生み出し、脱炭素など社会課題を成長エンジンに転換する。ロシアによるウクライナへの侵攻の長期化などを背景に、世界経済は景気後退懸念が高まっている。日本経済の強靱(きょうじん)化を図り、持続的な成長の実現を目指す。
経産省 次世代革新炉で新規/環境省 中小のCO2削減に補助拡充
世界的な脱炭素化の潮流とエネルギー安全保障の重要性の高まる中で、政府が原子力の活用を打ち出した。経済産業省は23年度当初予算案で原子力関連の新規事業を盛り込んだ。高速炉実証炉開発事業に76億円、高温ガス炉実証炉開発事業に48億円を計上。原子力産業の人材や技術、産業基盤の維持・強化につなげ、米仏との協力で高速炉などの技術開発を推し進める。
再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代ネットワークの構築加速化事業に10億円、系統用蓄電池の導入や配電網を合理化する事業に40億円、それぞれ新規で計上。引き続き再生エネの主力電源化も進める。水素サプライチェーン(供給網)構築に向けた技術開発事業も新規で80億円を充てた。
電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などクリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金に200億円、充電・充てんインフラ導入促進補助金に100億円を計上した。
環境省はGX関連として中小企業の支援策を並べた。二酸化炭素(CO2)の排出削減計画に応じて補助を拡充する設備投資支援事業に36億円を計上した。22年度補正予算との合計で76億円を充て、中小企業の脱炭素化を後押しする。
さらに商工会議所などと連携し、地域ぐるみで中小企業を支援する新規事業に14億円を盛り込んだ。業界別では135億円を充てて、商用車の電動化を支援する事業を創設する。
ほかにも、民間の脱炭素事業を資金支援する官民ファンド「脱炭素化支援機構」関連は、財政投融資で22年度当初予算比2倍の400億円を計上。温暖化対策に積極的な「脱炭素先行地域」を集中支援する事業に同75%増の350億円を充てる。22年度補正予算との合計は400億円となり、事業2年目で増額した。
文科省 量子コンピューターと「富岳」融合 新技術に23億円
文部科学省は、量子コンピューターとスーパーコンピューター「富岳」を組み合わせて高度な計算を実行する基盤技術の開発に新規で23億円を計上した。両方のコンピューターが得意な分野を分担して計算することで、全体の計算能力を高める。経済安全保障の強化や地球規模の生態系予測など社会課題の解決に向けた幅広い分野で活用でき、研究DXの強化につながる。
宇宙航空分野の研究開発には1560億円を盛り込んだ。23年2月に打ち上げ予定の新型の大型基幹ロケット「H3」や固体燃料ロケット「イプシロンS」の開発や高度化を進め、宇宙輸送分野の国際競争力を高める。さらに米国主導の「アルテミス計画」に向けた研究開発として、新型補給機「HTV―X」や火星衛星探査計画「MMX」などのプロジェクトを加速させる。宇宙分野の国際競争が激化する中で、日本の技術力や信頼性などを生かして開発を進める。
国交省 運輸業界の脱炭素化支援
国土交通省は運輸業界の脱炭素化を積極的に支援する。航空分野では、植物油や廃食用油を原料とする「持続可能な航空燃料(SAF)」導入促進や空港における再生エネの拠点化などに22年度当初予算比16%増の21億円を計上。SAF導入に向けた環境整備、航空機の脱炭素化に貢献する新技術の実用化を進める。 
港湾・海事分野では、脱炭素に配慮した港湾機能の高度化を進める「カーボンニュートラルポート」の形成など、同29%増の427億円を盛り込んだ。このほか、液化天然ガス(LNG)燃料船の普及促進や温室効果ガス排出量ゼロに向けた国際戦略の推進、洋上風力発電の導入を促す基地港湾の整備などを促進する。
また建設、運輸、海運・造船、宿泊・観光業での人材確保・育成や生産性向上に34億円を盛り込んだ。
総務省 量子暗号通信網に15億円
総務省はDX分野に力点を置く。量子関連では、グローバル量子暗号通信網の構築に向けた研究開発事業に15億円を計上。量子コンピューターの出現で、これまでの暗号の安全性の破綻が懸念されていることを踏まえ、国家間や国内重要機関間の機密情報のやりとりを安全に実行できるようにする。
新規で盛り込んだ、量子インターネット実現に向けた要素技術の研究開発事業には25億8000万円を充てる。将来の量子コンピューターの大規模化や量子暗号通信の高度化に向けて、量子状態を維持し、安定した長距離量子通信の実現につなげる。
第5世代通信(5G)の次の世代「ビヨンド5G」の技術戦略の推進には、22年度当初予算比1・5倍となる150億円を計上した。電波の有効利用に資する重点技術などの研究開発を支援していく。
厚労省 医療・介護でDX化推進
厚生労働省は、医療・介護分野でのDXを進めるため、総額19億円を盛り込んだ。中でも、国内の医療機関を標的としたランサムウエアによるサイバー攻撃が増えてきていることから、サイバーセキュリティー対策の調査事業として、1億円を盛り込んだ。専門家の派遣による感染原因の特定や対応の指示などの初動支援体制を強化する。併せて、従来のサイバーセキュリティー研修に加え、サイバー攻撃を想定した訓練拡充など、実用性のある研修を実施する。
電子カルテ情報の標準化の推進費として、5億3000万円を充てる。異なるカルテの医療機関同士でも医療情報が共有できるように、必要なカルテ情報を早期に標準化し、その情報を全国の医療機関や患者本人が安全に閲覧できる仕組みを構築する。
併せてこれらの情報を利活用する環境整備に取り組む。
●23年度政府予算案 巨額予備費の”バラマキ”を警戒  12/27
予備費は支出決定のたびに従来以上の内容説明を求めたい。
政府の2023年度予算案は、子ども政策の充実やデジタル田園都市国家構想、GX(グリーン・トランスフォーメーション)などを重点項目として掲げた。だが実際には一般歳出の増分の大半は防衛関係費と社会保障関係費で占められた。
こうした窮屈な予算の中で、異色なのは予備費である。22年度予算では「新型コロナウイルス感染症対策及び原油価格・物価高騰予備費」として5兆円を計上していた。23年度予算案はこれを4兆円に減らしてはいるものの、一方で「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」を1兆円規模で新設している。
政府予算の本来の予備費は5000億円。衆院の解散・総選挙や自然災害の被災地支援などを想定する。3500億円規模の時代が長く、19年度に5000億円に増額した。この10倍に当たる5兆円の予備費はコロナ禍が始まった21年度に新設したもので、3年連続となる。
予備費は閣議決定だけで支出できる。国会審議が必要な補正予算に比べて使いやすい。「非常時に機動性の高い執行が必要だ」と財務省は説明する。
しかし政府予算の一般歳出のうち、1割近くが予備費という状況が3年も続くことは、予算執行の不透明さにつながりかねない。リーマン・ショックに揺れた09年度予算に「経済緊急対応予備費」を計上した前例があるが、その規模は1兆円だった。コロナ禍が落ち着きを見せる中で、5兆円もの予備費を継続する理由はあらためて問わなければならないだろう。
むろん政府の機動的な経済政策には期待したい。しかし予備費が安易な“バラマキ”型の給付金などの財源になることは許されない。また予備費の使い残しも増大するため、翌年度の財政当局の予算裁量範囲は拡大する。経費別の予算額の増減では政府の方針が見えにくくなる。
予備費の支出決定について十分に国民に説明すること。そして24年度以降に巨額予備費を収束させていくこと。これが政府に課せられた使命である。
●食料安保強化へ構造転換に予算 総額2兆2683億円 農林水産予算 12/27
12月23日に閣議決定した2023年度予算のうち農林水産関係予算は2兆円2683億円となった。
22年度予算にくらべて99.6%だが、22年度補正予算の追加額8206億円と合わせ3兆889兆円となる。
「食料安全保障の強化に向けた構造転換対策」では283億円を措置。畑作物の本作化対策として、定着までの一定期間の支援のほか、農地利用の団地化に向けた関係者間の調整や種子の確保、排水改良による水田の畑地化・汎用化、畑地かんがい施設整備、草地整備などを支援する。
23年度当初予算では畑地化促進助成(水田活用の直接支払交付金のうち22億円)、国産小麦・大豆供給力強化総合対策(1億円)、農業農村整備事業(150億円)などを活用する。22年度補正予算でこれに該当する事業として確保した1144億円と合わせて畑作物の本作化を進める。
そのほか米粉の利用拡大の支援策(8億円)では、製粉企業、食品製造者の施設設備、専用品種増産に必要な機械・設備の導入を支援する。加工業務用野菜の生産拡大対策(8億円)では、必要な栽培技術の導入、冷凍野菜の安定供給に向けた施設整備などを支援する。
「生産基盤の強化と経営所得安定対策の着実は実施」のうち、水田活用の直接支払交付金の総額は3050億円で前年度と同額とした。
ただし、このうち22億円は畑地化促進助成にあてる。畑地化支援は高収益作物で10a17.5万円、高収益作物以外の畑作物(麦、大豆、牧草など飼料作物、子実用トウモロコシ、そばなど)で同14.0万円。
それに加えて畑地化を定着させる支援策として、高収益作物には10a2万円(加工業務用野菜は同3万円)を5年間交付する。高収益作物以外の畑作物には10a2万円を5年間交付する。
そのほか産地づくり体制構築支援として農地利用の団地化など関係者の話し合い、調整などを行う地域協議会に300万円を上限に支援する。
そのほか子実用トウモロコシには10a1万円を交付する。
また、コメ新市場開拓等促進事業として110億円を確保する。輸出など新市場開拓米への10a4万円と加工用米への同3万円に加えて、パンと麺用の米粉専用品種には同9万円を交付する。パン用の専用品種には「ミズホチカラ」、「笑みたわわ」など、麺用品種には「亜細亜のかおり」、「ふくのこ」などがある。
そのほか、野菜、果樹、花き、茶・薬用作物などの「持続的生産基盤強化対策事業」に160億円、「畜産・酪農の環境負荷軽減型持続的生産支援事業」に63億円などを盛り込んでいる。
「2030年輸出5兆円目標の実現」に向けた予算は109億円で、マーケットインによる海外での販売力の強化(23億円)、輸出産地・事業者の育成・展開(7億円)、輸出向けHACCP対応施設整備(21億円)、知的財産の実効的な管理・保護と海外流出の防止(5億円)などのほか、「適正な価格形成」のため消費者理解醸成と適正取引推進に関する調査などで1億円を確保している。
「みどりの食料システム戦略の実現に向けた政策の推進」では、環境負荷低減と生産性を両立する新技術・品種開発などの実証事業に32億円、環境負荷低減と持続的発展に向けた地域ぐるみのモデル地区を創出する総合対策として7億円などを確保する。
そのほかスマート農業の総合推進対策(12億円)、めざす地域の将来像に向けた地域計画の策定推進(8億円)、新規就農者の育成・確保に向けた総合的な支援(192億円)なども盛り込まれている。 

 

●岸田首相の持ち味「変わらぬ力」 何があっても表情も言うことも常に同じ会見 12/28
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、岸田文雄首相の”変わらない”会見について。

今年、印象に残った会見について振り返ってみようと思ったところ、浮かんできたのは冴えない一人の顔。いやいや印象に残ったというのではない。毎回毎回、代わり映えのしない発言を繰り返して、メディアも国民の間にも、いい加減うんざりしてきたという雰囲気が色濃くなってきたと思っていたら、突然、朝令暮改のような発言をする。さらに自分が選んだ閣僚までもが反旗を翻すような発言をする。それなのにどの会見を見ても表情はいつも同じ、口調もほとんど変わらない。
内閣の閣僚辞任ドミノと言われた政治家の辞任や、企業の不祥事や芸能人の不倫など謝罪会見もあれば、先日まで開催されていたFIFAワールドカップカタール大会で活躍した日本選手団による会見や羽生結弦選手の競技からの引退会見、芸能人たちのおめでたい結婚会見もあった。日本だけでなく世界に目を向けると、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア侵攻による実情を訴えるオンライン会見も印象的だった。なのに岸田首相の顔が思い浮かんだのだから、それだけ首相の顔をニュースなどで見た1年だったということだろう。
さて今年は首相の口から「指摘は真摯に受け止める」「丁寧に説明を行うべき」「説明責任を果たすべき」という言葉を数えきれないくらい聞いた。失言する閣僚が出た時も、安倍晋三元首相の国葬の費用が問題視された時も、旧統一教会と政治家との関係が取りざたされた時も、内閣改造を行ってすぐ後任の大臣の発言が批判を浴びた時も、いつも言うことは同じ、使われる表現も同じだった。
政権発足時に自らアピールした「聞く力」は、思いがけないところで突然発揮された。10月には旧統一教会の問題を巡り、宗教法人への解散命令の要件に関する答弁を一夜で修正。議員たちや官僚たちは、メディアはもちろんのこと国民みんなを驚かせた。今国会では成立は難しいと思われていた旧統一教会の問題を受けた法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律(被害者救済法)の早期設立を目指すと述べ、審議入りからわずか5日で救済法を成立させ、それなりに評価もされたが、支持率は上がらなかった。
首相の決断力が問われたこともあった。旧統一教会との関係で任命した閣僚らが煮え切らない発言や失言を繰り返しても、なかなか決断せず、首相自らも煮え切らない発言をしてみせた。相手がきっちりと説明責任を果たすのを待つという姿勢を鮮明にしていたのに、自分は時々、その説明責任とやらをどこかに忘れてしまうらしい。
10月には30年間岸田首相に仕えたベテラン秘書を辞任させ、公設秘書を務めていた長男の翔太郎氏を政府担当の首相秘書官に就任させ、批判を浴びた。そうかと思えば防衛費を大幅増額させるために増税を行い、その中には東日本大震災の「復興特別取得税」を一部転用することも検討していると伝えられた。防衛の中身を説明するより財源の話が先行したことで、自民党内からも批判が集中。高市早苗・経済安全保障担当相には「賃上げマインドを冷やす発言を、このタイミングで発信された総理の真意が理解できません」とTwitterで批判され、西村康稔経産相にも「このタイミングでの増税は慎重になるべきだ」と言われる始末だ。
それでも岸田首相の会見は変わらない。それが良いか悪いかではなく、あまりに変わらないことが逆に印象的だったのだ。まるで同じ情報に触れることで、それが真実だと感じられる「真実性の錯覚」みたいに、変わらないことが岸田首相の存在感を増している。聞く力や決断力などより、この変わらなさが岸田首相の一番の持ち味かもしれない。
●来年度予算案 子育て支援、脱炭素など強力に推進 12/28
2023年度予算案が23日に閣議決定された。
日本の未来を切り開くため、少子化対策や脱炭素化、デジタル化の推進などが柱となっている。来年の通常国会での早期成立を期したい。
公明党の強い主張を受けて大きく拡充されるのが子育て支援策だ。
出産育児一時金は現行の42万円から50万円に増額する。これは過去最高の引き上げ幅である。また、22年度第2次補正予算で創設された、妊娠期からの伴走型相談支援と妊娠・出産時に計10万円相当の給付を一体的に行う「出産・子育て応援交付金事業」を23年度も継続実施する。
今年の出生数は初めて80万人を割り込むとみられ、想定を上回るスピードで少子化が進んでいる。子育て支援を強力に進めねばならない。
脱炭素の分野では、二酸化炭素の排出量に応じて企業などに費用負担を求める「カーボンプライシング」を導入。これを活用した新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を約1兆6000億円発行し、民間のGX投資を支援する。
温室効果ガス排出削減に向けた革新的な技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入などを促進するための重要な取り組みだ。
デジタル化では、「デジタル田園都市国家構想交付金」に1000億円を盛り込み、地方のデジタル化や地域活性化を支援する。
安全保障環境の悪化を踏まえ、防衛費は22年度当初比26.3%増の6兆8219億円を計上した。
このほか、新型コロナ・物価高対策として4兆円の予備費を確保した。状況の変化に応じて機動的に対処できるよう万全を期す。
23年度予算の一般会計総額は114兆円3812億円となり、11年連続で過去最大を更新した。
ただ、企業業績の回復を背景に税収は過去最高の69兆4400億円を見込む。これにより新規国債の発行額が22年度当初予算より減額されていることも強調しておきたい。

 

●どこまでアメリカファーストなのか 日米同盟にすがりつくための防衛費増額 12/29
日本政府が防衛予算を大幅に拡大させるのに伴い、以前より危惧していたとおりアメリカからの武器弾薬調達費が爆発的に膨張しそうである。
2023年度防衛予算案はおよそ6兆8219億円と今年度(2022年度)当初予算のおよそ1.26倍である。それに対して米国からの武器輸入(注)予定額はおよそ1兆4768億円であり、昨年の3797億円の3.9倍に上る。
また国防予算に占める米国からの兵器システム購入予定費がおよそ22%も占めている。これではどこの国の国防費かわからない。あるいは明治期のように、近代海軍を誕生させたばかりで、自ら軍艦どころか鉄鋼すらまともに大量に生み出すことができなかった時代に逆戻りしたかのような状態である。
(注)より正確には、米政府が米連邦議会の承認を得て米国製武器弾薬を有償で援助する武器弾薬供与制度(FMS)に基づいた形の購入である。FMSでは米国軍需企業が利益を得るだけでなく米国政府も手数料収入を確保できる。もし、供与先の国が購入資金に困っている場合には、FMSを担当している国防総省内の機関が資金融資も行う制度がある。つまり、米国が売りたい兵器は金を貸し付けてでも売却し、売りたくない兵器は、政府や議会の拒否手続きにより売却しない、という国家兵器弾薬売り込みシステムを米国防総省は担っている。
アメリカの情報戦にはまった日本政府
以前指摘したように、懐が潤うアメリカ政府や軍需産業界は当然ながら、“相互運用性”向上という表看板の下でますます自衛隊を属軍化できることになる米軍当局も、日本政府が打ち出した新防衛方針を“高く評価”し、諸手を挙げて支持している。
日本政府が打ち出した新防衛方針と言っても、実態はアメリカの情報戦に見事にはまった結果と考えられる。
つまり、アメリカ政府・軍当局・軍需産業界が、中国による台湾への軍事的圧力の強化およびロシアによるウクライナへの軍事侵攻といった軍事情勢を、日本やフィリピンや韓国のようなアメリカの軍事的依存国に軍備拡張を促進させる絶好の好機と捉えて、「ウクライナの次は台湾だ、台湾の次は日本だ」あるいは「中国の台湾侵攻は日本の危機だ」といった軍事的恐怖を煽り立てた。日本政府はその策略に陥り、アメリカ側が望んだ通りの新防衛方針を打ち出したというわけだ。
もっとも日本とアメリカの間には、日米安保条約、というよりは地位協定ならびに実質的にはかつての占領軍の継続のような日米合同委員会などが存続している。アメリカの軍事同盟国のうち最も独立性が乏しく属国度が高い日本に対しては、日米合同委員会などを通して、露骨に防衛政策の変更ならびにアメリカからの兵器システム大量購入という“ガイアツ”が加えられた可能性は高い。
以前より存在していたトマホーク調達案
今回の米国からの大量武器輸入の中には、反撃能力の象徴的兵器として500発のトマホーク長距離巡航ミサイル(以下「トマホーク」)の購入が組み込まれている。
これこそ、まさに日本が望んでもアメリカが望まなければとても輸入などはできない、米国による武器輸出戦略の典型例である。
そもそも、自衛隊がトマホークを調達するというアイデアはかなり以前より存在していた(本コラム、2013年1月17日、2017年3月16日、2020年12月24日などを参照)。それは、中国や北朝鮮の、直接日本そのものを主敵として本格的な軍事攻撃を実施する対日軍事攻撃能力に対抗する、日本自身が保持する最小限度の抑止力を期待しての調達案であった。
ただし、アメリカからの調達はあくまでも第1段階であり、トマホークを輸入調達している期間に自国で長射程ミサイルを開発・製造し始めて、将来的には「最小限」の抑止力としての国産長距離巡航ミサイルならびに国産弾道ミサイルを配備するというアイデアの流れであった。
しかしながら、この数年の間に、中国が保有している対日攻撃用弾道ミサイルや長距離巡航ミサイル、それにサイバー攻撃能力などは質・量ともに飛躍的に強化されている。北朝鮮の弾道ミサイル戦力もしかりである。したがって、「最小限」の度合いはさらに限定的なものになりつつある。
日本がこのアイデアを持ち出した当時は、米軍関係者も純軍事的に日本の防衛を分析した場合には、自衛隊がとりあえずトマホークを手にすることにより限定的とはいえども自前の報復戦力を用意することに意義を認めていた。ただし、米政府や連邦議会が日本にトマホークをそれも大量に供与することを認めるか?  というと、ハードルは高いとも指摘していた。
なぜならば、その当時、アメリカとしては、日本の軍事力を強化して中国を刺激したくはなかったからである。したがってアメリカ側としては、日本にトマホークを売るつもりはなかった。
アメリカ製兵器システムを売り込むチャンス到来
しかしながら状況が変わった。1995〜96年の台湾海峡危機のときのように、もはやアメリカの軍事力では中国を威圧することはできなくなってしまった。
アメリカは、もしも中国による台湾に対する軍事攻撃が現実のものとなった場合、自由と民主主義を擁護するリーダーを表看板に掲げつつ築き上げてきた国際的覇権を維持するために、なんらかの軍事介入を行わなければならない。とはいっても、アメリカ政府も連邦議会も、そして米軍当局も、中国との直接的な軍事衝突は絶対に避けなければならないと考えている。第3次世界大戦あるいは核戦争に発展しかねない中国との直接衝突を覚悟してまで米中戦争に突入する気などないのは当然だ。
そこでアメリカは、ウクライナ戦争と類似した方式を用いることになる。すなわち、中国による軍事攻撃が発動される以前に、台湾の防衛戦力に資する兵器弾薬を供与して、台湾軍が島内で抵抗を続ける能力を増強させるのである。もちろん米当局としては、その程度の軍備増強によって台湾軍が中国侵攻軍を撃退できるなどとは考えていない。
同時に、アメリカの軍事力に頼り切り自主防衛力強化を等閑視してきた日本が、ウクライナ戦争をきっかけとして本気で中国の強大な軍事力に脅威を感じ始めたため、日本に対してアメリカ製兵器システムを売り込むチャンス到来と判断したのである。
要するに、アメリカ当局は「日本にトマホークを売ってやろう」と考えたのだ。
そもそも、トマホークという1つの兵器取引に限らず、国防予算案のおよそ4分の1がアメリカからの兵器システム購入、それもアメリカ側が日本に装備させたいと考えている兵器システムの購入に当てられている事実を見れば、日本政府が新たに打ち出した防衛政策が、アメリカの意向を忖度しつつ、日米同盟に縋(すが)りつくために生み出されたものとみなされても致し方ない。
日本政府・国会は、アメリカが「敵」と名指しすれば、日本の国益に関する利益衡量なしにアメリカに迎合して敵視し、アメリカが「反撃準備をしろ」といえば日本の国益に資するかどうかの慎重な分析も行わずにあわてて攻撃能力を手にしようとする。こんなアメリカの国益を優先させる属国根性からいい加減に脱却して、日本自身の国益の維持進展を最優先させる観点から、国防政策を希求するべきである。 
●国債支払利子2倍に引き上げへ 日銀緩和修正で 12/29
財務省が来年1月に発行する10年物国債の入札で、国債の買い手に支払う利子の割合を示す「表面利率」を現在の2倍に引き上げる方針を固めた。日本銀行が大規模な金融緩和策の修正を決め、実質的な利上げに動いたことを反映し、現在の年0・2%から0・4〜0・5%へと引き上げる。次回の入札を予定する1月5日朝の市場利回りの動向をもとに表面利率を最終的に判断する。
引き上げは0・1%から現在の0・2%とした今年4月以来。0・4%以上の表面利率は平成27年11月以来、7年2カ月ぶりとなる。普通国債の発行残高は1千兆円規模に上る。国債を投資家に安定的に買ってもらうには表面利率を市場金利に合わせて上げる必要があるが、政府の国債利払い費が増えることになり、その分だけ財政が圧迫されることになる。
表面利率は国債の額面価格に対する利子の割合を示しており、額面100万円で表面利率が0・4%の場合、10年物国債の保有者は毎年4千円の利子を満期までの10年間、国から受け取れる。10年物の表面利率はバブル期の平成2年に7・9%まで上昇した。平成25年4月に日銀の大規模な金融緩和が始まってからは大きく下がり、マイナス金利政策導入後の28年3月からは0・1%が続いた。
政府が今月23日決定した令和5年度予算案では、国の借金返済や利払いに回す国債費として25兆2503億円を計上。このうち利払い費は8兆4723億円を見込んだ。財務省は、仮に5年度から金利が1%上昇した場合、7年度の国債費が3兆7千億円程度膨らむと試算している。

 

●欺かれるのはやっぱり国民 「虚構」の防衛財源スキーム 12/30
防衛財源スキームは虚構なのか。防衛費を国内総生産(GDP)比2%の規模に増額する財源の枠組みが決まった。2027年度に必要になる総額約4兆円の追加費用を剰余金や歳出削減、増税などで賄う。岸田文雄首相は赤字国債には頼らなかったと胸を張るが、恒久財源とは名ばかりで、結局は国債増発に追い込まれる可能性がある。
結局は赤字国債発行か
政府は12月16日、国家安全保障戦略など安保関連3文書を閣議決定し、23〜27年度の防衛費を現行計画の1.5倍となる総額43兆円とした。27年度時点で必要になる約4兆円を増税(法人税、復興特別所得税、たばこ税)で1兆円強、防衛力強化資金(外国為替資金特別会計からの繰り入れなど)で0.9兆円、決算剰余金で0.7兆円、歳出改革で1兆円強をそれぞれ賄うとしている。
防衛力強化の内容、予算、財源を一体で年末に決めると言い続けてきた岸田首相は同日の記者会見で「借金で賄うのが本当に良いか、自問自答を重ね、安定的な財源で確保すべきだと考えた」と胸を張った。
「フィクション(虚構)のような部分が含まれている」。こう語るのは、東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹。財務省主税局の出身で、社会保障・税の一体改革に携わった。理論から制度、霞が関・永田町の力学まで知り尽くした税のプロフェッショナルだ。
森信氏がまずやり玉に挙げたのは剰余金だ。予算として計上したものの、年度中に使われず余ったお金を指す。防衛財源スキームでは予算を作る前から剰余金を見込んでいるが、本来なら決算を締めてみるまで剰余金が出るかどうかは分からないはずだ。それを可能にする裏技が「剰余金が出るように当初から予算を組む」ことだという。
どういうことか。例えば、歳出を高く見積もっておき、税収で足りない分は赤字国債を発行する。そうすれば使わない「不用額」が生じ、剰余金の一部になる。逆に税収を低く見積もって当初予算で赤字国債を多めに発行し、税収が増えた分が剰余金の一部になる。そういった裏技めいた手法が考えられるという。
また剰余金はこれまで補正予算の財源として活用してきた。防衛費に転用するからと言って、災害や景気対策のための補正予算を編成しないわけにはいかない。結局、赤字国債を増発して補正を組むことになる。
防衛費であれ何であれ、予算のお金に色は付いていない。防衛財源スキーム上は国債発行を回避できたように見えても、財源に転用した費用の穴埋めとして借金が新たに発生し、その分だけ国家財政は悪化する。剰余金を転用したつけを赤字国債で払うことになると、「国民を欺くことになる」(森信氏)。
歳出削減についても、予算の付け替えに終わってしまう可能性があるという。防衛力強化資金は為替介入の原資となる外為特会の剰余金が主で、安定的に繰り入れられるものではない。
すなわち増税1兆円以外は決して恒久財源とは言えないものばかりだ。これは岸田政権のポリティカル・キャピタル(政治的資本)の減少によるところが大きい。参院選に大勝した岸田首相は最長25年まで国政選挙がない「黄金の3年」を手にしたはずだった。だが世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題への対応に手間取り支持率は低迷。体力の低下した政権に、消費税増税以来となる大型増税を与党や国民に説得できる力は残っていなかった。約束した年末の予算編成が迫る中、4兆円のうち残る3兆円の財源ねん出を迫られた財務省は、数字合わせに走らざるを得なかった。
請求書だけ国民に押し付け
一方、増税1兆円に問題はないのか。森信氏は復興特別所得税ではなく、富裕層を対象にした金融所得課税強化で対応すべきだったと考えている。所得1億円を境に急速に税負担率が下がる「1億円の壁」の是正にもつながり、「一石二鳥」だからだ。富裕層は戦争で失う財産が多くなるため、国防強化で得る恩恵も大きく、応分の負担をすべきだという考え方もできる。実際、時事通信が9月に報じたように、秋の段階では金融課税は防衛財源として政府・与党内で検討の俎上(そじょう)に上っていた。だが昨年秋の就任時に金融課税強化を掲げて株価が急落した「岸田ショック」に懲りたのか、日の目を見ることはなかった。
また増税は実現するのかという懸念もある。年内に決めるはずだった時期は、自民党内の反対で来年に持ち越された。来年10月末で衆院議員は任期4年の折り返しを迎え、解散・総選挙の風が徐々に吹き始める。内閣支持率の低迷が続けば、増税の決断はさらに先送りされる可能性がある。
12月の時事通信・世論調査では、防衛費増に賛成の人でも増税を支持する人は2割にとどまる。防衛論議はGDP2%という規模ありきで始まった。長射程ミサイルの開発などスタンド・オフ防衛能力に5年間で5兆円を計上するが、いつごろ完成するのか、抑止力にふさわしい性能なのか、どこに配備し、どう運用するのか。国民に十分な判断材料は与えられていない。「中身が分からないまま請求書だけ押し付けられる」(森信氏)国民が反発するのも無理はない。何に使うのかという説明を尽くさなければ、増税に対する国民の理解が得られないのは言うまでもないだろう。
さらに23年の世界経済は、インフレと金融引き締めで多くの国がリセッション(景気後退)に陥るとみられている。日本は内需に支えられるが、外需は期待できない。月を追うごとに景気が厳しくなる中で、増税の決断はますます難しくなる。財務省が年内にこだわったのはこうした理由からだ。
増税ができないからと言って、これまでのように安易に国債を発行して低利で財政資金を調達する道は閉ざされつつある。日銀は12月20日、突如として長期金利の変動許容幅を0.25%程度から0.50%程度に引き上げた。黒田東彦総裁は否定したが、事実上の「利上げ」と受け止められ、21日の東京債券市場で長期金利は7年ぶりとなる0.48%まで急上昇(債券価格は低下)した。10年間続く大規模緩和を縮小する「出口戦略」は来年4月の黒田総裁退任以降と思われたが、タイミングは早まりつつある。国債発行のコストは増え、財政運営は厳しさを増す。
戦前の日本は軍事費の公債依存を高めて軍拡に走った。21世紀の日本は民主主義陣営の一員だ。国家安全保障上の理由から防衛費増強が必要なら、真正面から負担増を訴えるしか国民の理解を得る方法はないと思う。ウクライナを見るまでもなく、国民に支持されたリーダーは強く、外交力と国際的立場を高める。それも抑止力になるはずだ。いばらの道ではあるが、岸田首相には王道を歩んでほしい。
●「経済破綻してよかった」中国に借金漬けにされたスリランカの現状 12/30
2022年5月、スリランカはデフォルト(債務不履行)に陥りました。1948年のイギリスからの独立以来、初めてのことです。6月にはインフレ率が54.6パーセントまで上昇しました。反政府デモ隊が当時のラージャパクシャ大統領の公邸に迫り、大統領は7月に家族を連れ国外に逃亡しました。
これまでスリランカは、ラージャパクシャ一族に強固に支配されてきました。一族は、スリランカが破綻する前、国家予算の75パーセントを握る政治のポストを牛耳り、中国から大金を借りて、私腹を肥やしていました。そして気づけば、中国に借金漬けにされ、従属化していました。僕はある意味で、スリランカは今回破綻してよかったと思っています。一族と中国の影響力を取り除き、再スタートするチャンスなのです。
神格化された、初代ラージャパクシャ
スリランカは、多民族・多言語・多宗教国家ですが、シンハラ民族が多数派で、約70パーセント。少数民族のタミル人の過激派との間で、26年に渡る内戦がありました。僕の友達もそこで亡くなりました。その戦争が、2009年に終わりました。中国から政府軍への武器の提供もあったと言われています。その頃から国内に華僑が増えていったという記憶があります。
その時の大統領が、初代(マヒンダ・)ラージャパクシャでした。彼の弟で、当時国防次官だったのが、逃亡した2代目の(ゴーターバヤ・)ラージャパクシャです。初代ラージャパクシャは、戦争を終結させたということで、神格化されました。彼は10年に渡って大統領の座にあり、その間に、一族を政治や企業の要職につける文化を作っていきました。その後、今度は弟を大統領選に担ぎ出します。彼も戦争のヒーローなので、少数派のタミル人からの支持は得られませんでしたが、勝利しました。
その際彼は、人気を得るためのマニフェストを掲げました。それがその後の経済破綻に繋がっていくわけですが。
経済破綻につながった、3つの政策
まず1つ目は、税金の引き下げです。観光業関連の税金は、3分の1に下げられました。半分にしたものもあります。2つ目が、有機栽培の徹底。農業を全て無農薬でやること。3つ目が、「ワンカントリー・ワンロー」(一国一法)という政策です。多数派のシンハラ民族のナショナリズムに、他の民族も合わせてもらいます、というものです。結局、1つ目と2つ目は失敗しました。その失敗を誤魔化すために、3つ目を使いました。つまり、少数民族をいじめることによって、国民の不満のガス抜きをしたのです。
では、2つの政策はなぜ失敗したか。そもそもスリランカの経済は、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字と言われ、それが慢性化していました。スリランカは農業国家であり、第1次産業や観光業が主要な産業で、外貨が稼げるものはたかがしれている。外国から支援も受け、なんとか誤魔化してきたのが実情です。こんな状況で税金をカットしてもうまくいくはずがない。
また、農業の全面無農薬化を進めたら、米の生産量が半減し、外貨がないのに米を輸入しなければいけない状況になってしまいました。さらに、輸出産業の大きな柱となっていた紅茶の生産量も半減しました。そこにコロナ禍となり、観光業は大打撃を受けました。
ラージャパクシャ一族と中国の蜜月
このような経済状況の一方で、一族は徐々に中国との関係性を強めていました。それには、先ほどの内戦が関係しています。政府軍が勝利したものの、戦後、世界の人権団体から軍の戦争犯罪が指摘されるようになります。少数民族のタミル人が無差別に殺されたり、レイプされたりしていたのです。そのためスリランカは国際社会から孤立していきました。そこに中国が入りこむ隙間があったのですね。
実は86〜08年までは、スリランカへの支援額は日本がトップだったのです。それが、09年からは中国に代わります。借り入れ額も一気に増加していきました。普通、お金を借りる時には、返済も計画に入れて考えますが、中国とラージャパクシャ一族の間ではそのようなことは全くなく、好きなだけ借りていたのです。それを使い、一族は選挙基盤の土地に、港や空港、スタジアムなど色々なものを作るわけです。そうして建設されたハンバントタ港は、世界で一番暇な港と呼ばれています。
そんな状況なので資金難に陥り、港湾運営権が中国国有企業に99年に渡って貸し出されることになりました。この港は偶然にも、中国の一帯一路政策のルート上にあるのです。22年8月にはハンバントタ港に、中国の調査船が入港しました。海洋調査が目的だとしていますが、隣国インドは、インドの弾道ミサイルや人工衛星などの監視が目的ではないかと警戒しています。
スリランカは「性悪説に基づいた社会」
そんな中でのデフォルトは、ある種の祭りでした。物が何も入ってこないため、生活が追い込まれたと実感した人々が団結し、不満の矛先がとうとう大統領に向いて、デモが起きました。ただし、一族の影響を全て排除できたとは思えません。彼らは今でも政治に大きな影響を与えています。また国民の大多数は、一帯一路という言葉を知りません。今回デモが起き、大統領を追放できたのは生活が困窮したからであって、彼らが中国と蜜月にあったことまでは見えていないのです。
スリランカは家族、一族の繋がりを大事にする文化です。逆に言うと、性悪説に基づいた社会です。家族しか信用できる人がいないのです。ですからビジネスでも、自分の周囲に家族を置いておくということはよくあります。スリランカではかつて、母親が首相で、娘が大統領になったというケースもありました。しかし、民主主義の国で、ここまで品格のかけらもなく一族が国を私物化したのは、歴史上でもほとんどないと思います。
私は、中国が政治・軍事的にスリランカを支配したいのだとは思いません。ただ、世界の経済を牛耳りたいのです。しかしその力は、軍事力と不可分なのです。
●受信料見直しで揺れる「BBC」はNHKの見本になるか、公共放送の行方 12/30
NHKとよく比較されるのがイギリスの公共放送である「BBC」だ。NHKと同じ受信料制度を取るが、その制度の見直しを迫られている。イギリス在住の筆者が最前線をレポート。今年夏以降、スキャンダルや財政政策の失敗で3人目の首相を迎えたイギリス。トップすげ替え劇の影で年明けに持ち越しが確実になったのが、公共放送BBC(英国放送協会)の料金徴収のあり方だ。日本のNHKの放送受信料に相当する、BBCの「テレビ・ライセンス料」(以下、「受信料」)制度が今後も続くべきなのかどうか。
イギリスの放送・通信業を管轄するデジタル・文化・メディア・スポーツ(DCMS)省のナディーン・ドリス大臣は今年1月、ツイッターで受信料制度の廃止を暗示した。ドリス大臣は反BBCの強硬派で知られる。もし廃止となれば、BBCの将来が危うくなる。新聞各紙は大きな見出しでこれを報じた。
追って4月、政府は放送業の未来を描く「白書」で制度見直しを明記。これを踏まえて夏には政府とBBCが話し合いを始めるはずだったが、7月上旬、ボリス・ジョンソン首相(当時)がコロナ禍でのパーティー疑惑で与党党首を辞任し、9月に引き継いだリザ・トラス首相も大型減税案が金利の急騰と通貨下落を招き、超高速で辞任した。
「受信料制度は不公平な税金だ」
10月末に成立したリシ・スナク政権で文化相を担うのは、トラス首相時代に任命されたミシェル・ドネラン氏だ。かつて「受信料制度は不公平な税金だ。いっさい廃止するべき」と発言した人物である。
年の瀬も押し迫る12月6日、下院のDCMS委員会に召喚されたドネラン文化相は過去の発言からは一定の距離を置いたものの、「受信料制度が長期的に持続可能なモデルでないことは否定できない」と述べた。
代替の制度決定には調査委員会を立ち上げ、メディア市場が今後どうなっていくのか、ほかの収入源としてどんなものがあるかなど、「根拠となるべき情報に基づいて」決定したい、と語った。調査委員会はこの時点では設置されておらず、12月末日現在、設置の発表はない。
BBCは民間放送企業としての開局から、今年10月で100周年を数える。1927年に公共的な放送局として組織替えした。
1920年代から、BBCの国内活動の資金ほとんどは受信料収入による。支払い対象となるのは、BBCを含むいずれかのテレビ局の番組を放送時にあるいは後で視聴する世帯だ。さらにBBCの放送と同時配信および見逃し視聴ができるオンデマンドサービス「BBCアイ・プレーヤー」を使って番組を視聴あるいはダウンロードする世帯も対象となる。テレビ受像機のあるなしにかかわらない。
金額は一律徴収で年間159ポンド(約2万6000円)。ただし、低所得の高齢者など一定の条件を満たす人は支払いが免除される。
ちなみに、NHKの受信料は衛星放送も受信できる場合を選択すると、クレジットカード払いで2万4180円。物価や賃金体系が異なるため単純比較はできないが、それほど変わらないレベルであろう。
最新の年次報告書(2021-2022年)によると、受信料収入の総額は38億ポンド(約6100億円)に達する。これに国際ラジオ放送「BBCワールド」運営のための政府の交付金、制作コンテンツを海外市場向けに販売する商業部門関連の収入を合わせると、53億3000万ポンドに上る。職員数は約2万1000人だ。
BBCは約10年ごとに更新される「王立憲章(ロイヤル・チャーター)」によって、その存立が定められている。現行の王立憲章の有効期間は2017年1月から2027年12月末。この期間内は受信料制度が継続されることが決まっている。焦点となるのは、2028年以降、どうなるかだ。
受信料の金額は政府とBBCの話し合いで決定される。1月、ドリス前文化相は159ポンドの受信料を今後2年間、2023年−2024年度まで値上げをしないと発表した。その後はインフレ率に上乗せした形で上昇する。
現行の金額は2020−2021年度から続いているが、イギリスは今、物価とエネルギー価格の急騰が国民の生活を直撃している。10月のインフレ率は前年同月比で11.1%上昇し、過去41年で最高水準になった。11月は微減に転じたものの10.7%。インフレ率を加味すると、受信料収入は実質的に2桁台の減収となる。
受信料制度の土台が崩れてきている
受信料制度が「維持できない」理由はメディア環境の激変だ。
放送局が提供する番組を局側が設定した番組表に沿って放送と同時に視聴する、いわゆる「リニア視聴」から、好きなときに番組を視聴する「オンデマンド視聴」へと視聴形態が変わってきている。デバイスもテレビ受像機からノート・パソコン、スマートフォン、タブレットなど複数の選択肢がある。
BBCを含むイギリスの主要テレビ局は15年ほど前からオンデマンド・サービスに力を入れ、無料で利用できることもあって広く普及したが、若者層は既存の放送局が提供する番組コンテンツではなく、動画投稿サイト「ユーチューブ」や短尺の動画をシェアする「TikTok」を好むようになった。
同時に、アメリカ発祥の有料動画サービス「ネットフリックス」「アマゾンプライム」などが巨費を投じて番組制作し、その配信コンテンツは多くの人を魅了している。
つまり、「同じ番組を放送時に視聴する」という行為が次第に脇に追いやられてしまった。視聴者はそれぞれ好きなときに好きなデバイスで好きな番組やコンテンツを視聴している。同額を一律徴収する現在の受信料制度の土台が崩れてきているのである。
NHKは2008年か12月から見逃し・アーカイブ配信サービス「NHKオンデマンド」を有料で開始しているが、受信料契約者の世帯を対象に放送同時・見逃し配信サービス「NHKプラス」を無料で提供したのは2020年からだ。
イギリスではBBCが当初から無料で「BBCアイ・プレーヤー」サービスを開始し、ほかの主要放送局も原則無料でサービスを展開したことによって、オンデマンド市場が一気に発展していった。
また、NHKのネット配信サービス(NHKオンデマンド、NHKプラス、NHK防災アプリなど)は従来NHKが行なってきた放送業務を補完する「任意業務」として位置づけられている。イギリスでは、ネットが生活の一部になった今、放送局によるネット配信は本業の一部である。ゆくゆくは日本もそうなっていくだろう。
オンデマンド市場で先を走るBBCの今後は、NHKの将来を考える上でヒントになりそうだ。
では、「公共のための放送局」BBCはどのようにして収入を得ればよいのか。
今年7月、貴族院の通信・デジタル委員会が受信料制度に代わる資金調達方法について調査を行った結果を報告書としてまとめている。
複数の例が紹介されているが、1つ目が広告収入のみの場合だ。BBCの収入が減り、広告収入を主要な収入源とする民放への負の影響がある。また、広告主の要求に沿う番組作りとなり、質が落ちる可能性がある。
2つ目が有料購読制。これも収入が減る見込みで、視聴者の幅を大きく限定することになる。国内全体に価値あるサービスを提供するというBBCの存在目的を満たすことができなくなる。
3つ目は、所得額と関連付けた金額を徴取する案。価格が上下する、不公平感が出る可能性などが指摘された。
4つ目が、通信税を導入する案。ブロードバンド環境の違いによって、これも不公平感が出る可能性ある。
5つ目が、普通税の一部とする案だ。視聴する・しないにかかわらず一定金額を徴取するが、住宅の価値によって決まるカウンシル税(地方税に相当)にひもづけるなどで不公平感を解消させる。ただし、住宅の価値が高くても収入が低い場合、逆に不公平感が増す場合もありそうだ。
ほかには、公共サービスとしての意義が高い番組に公的資金を投入するハイブリッド型として、国内の活動は受信料で海外市場では有料購読制とする、なども提示された。
受信料制度を廃止する国が相次いでいる
欧州各国では、公共放送の受信料制度を廃止する国が相次いでいる(委員会調査などによる)。ドイツ、フランス、フィンランド、スイス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどがそうである。 
ドイツやスイスでは普通税の一部が使われ、フィンランド、スウェーデンでは所得税から公共放送用の資金を捻出。ノルウェーとデンマークは国家予算として割り当てられ、フランスは消費税を資金源とする。何らかの形で税金を投入し、公共放送を維持する流れがある。
欧州の他国で一定の金額を一律に徴収する受信料制度の維持が困難になったのは、イギリスの場合同様、メディア環境の変化とそれに伴う不公平感の広がりだった。
しかし、イギリスの場合、税金と関連付ける収入源は時の政府や政治家の影響を受けやすく、報道機関としての独立性を重要視するBBCにはそぐわないという見方が強い。
欧州放送連合(EBU)は公共放送の資金繰りについて考えるときに守られるべき指針を出している。「安定し、適切かどうか」「政治的および商業上の利益から独立しているか」「国民および市場から見て公正か」「調達方法に透明性があるか」である。
イギリスでは、クリスマスから年末にかけての休暇期間後、元旦の翌日2日から通常業務モードに切り替わる。政府とBBCは、2028年以降の公共放送の新たな資金調達方法について、年明け早々本格的な話し合いを始める見込みだ。 

 

●規模先行の防衛費増 遠のく「財政正常化」 負担は将来世代に 12/31
政府の2023年度当初予算案は、防衛力の抜本強化に向けた経費がかさみ、過去最大の114兆円台に膨らんだ。社会保障費の拡大が続く中、国債増発に歯止めがかからず、先進国で最悪の財政状況は一段と悪化。ウクライナ危機や物価高も重なり、新型コロナウイルス禍からの「財政の正常化」は見通せない。「規模ありき」の巨額予算のツケは将来世代に回されることになる。
建設国債で「禁じ手」
「今までの防衛力整備も国債を使ってきた。将来世代に負担を求めることが十分に許容され得る」。23年度予算案で建設国債の対象経費を初めて自衛隊の艦船に広げた根拠について、鈴木俊一財務相は記者会見でこう強調した。
財政法は、歳入不足を補う赤字国債の発行を原則禁止する一方、資産として残る道路や橋といった公共事業などを使途とする建設国債は例外的に認めている。戦前、国債を乱発して軍備を拡張し、敗戦後には超インフレを招いて国債が紙くずになった苦い教訓があるためだ。
今回、財務省は防衛費の増額に対応するため、戦闘で破壊されかねない防衛装備品の財源に建設国債を充てる「禁じ手」に手を出した。
不透明な防衛増税
一方で、安定財源の見通しは立っていない。当面は外国為替資金特別会計(外為特会)など特別会計からの繰入金や、国有資産売却などの税外収入で財源を捻出するが、法人税などを増税する具体的な時期の決定は来年に先送りした。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「来年には景気情勢が厳しさを増し、増税議論がさらに先送りされる可能性もある」と指摘。「そうなれば、なし崩し的に国債発行で防衛費増額が賄われるようになる」と懸念する。
日銀は20日、大規模金融緩和策の縮小にかじを切った。大量の国債発行を買い支え、長期金利を低く抑え込んできた日銀の政策転換により、金利が上昇すれば国債の利払い負担は増加する。財政悪化懸念は一段と高まっている。
「党高政低」で膨張
今月成立した22年度第2次補正予算を巡っては、財務省は当初25兆円規模を主張したが、自民党の要求で約4兆円が積み増された。今後5年間の防衛費を定めた「防衛力整備計画」でも、48兆円を求めた防衛省に対し、財務省は30兆円台半ばに抑えようとしたが、最終的に43兆円に押し切られた。
岸田文雄政権の下、政府(官邸)と与党の力関係は、それまでの「政高党低」から「党高政低」に変化したとされる。「コロナ対応からの財政の正常化」に向け、パイプの太い岸田首相の指導力に期待した財務省だが、「政権が弱体化すると財務省の力は低下する」(経済官庁幹部)ことを図らずも示した。
自民党内の積極財政派が主導する「財政政策検討本部」は年明けから、現在の財政健全化目標の妥当性などを議論する見通し。政府は、国と地方の政策的経費を借金である国債に頼らず、税収でどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支の25年度黒字化目標を維持しているが、与党内では「予算が必要なのは防衛費だけではない」(中堅議員)と、目標見直しを求める声が日増しに強まっている。
●防衛費5年間で大幅増の43兆円、実際は60兆円近くに膨張 そのわけは…  12/31
政府が2023〜27年度の5年間の次期計画で打ち出した防衛費の大幅増に関し、実際の規模は60兆円近くに膨れ上がることが分かった。政府は5年間の規模を43兆円としているが、それ以外にも、期間中に新規契約する装備品購入費で28年度以降にローンで支払う額が16兆5000億円あるためだ。保有を決めた敵基地攻撃能力(反撃能力)向けのミサイルや戦闘機などの高額兵器を一気に増やすことが影響しており、防衛費のさらなる膨張や予算の硬直化につながる恐れがある。
28年度以降のローン支払いが16兆5000億円にも
5年間で43兆円という金額は、政府が今月に閣議決定した安全保障関連文書の一つ「防衛力整備計画」で示した。現計画の1.6倍近い大幅増となる。内訳は自衛隊員の給与や食費など「人件・糧食費」11兆円、新たなローン契約額のうち27年度までの支払額27兆円、22年度までに契約したローンの残額5兆円となっている。
5年間に組む新たなローンの総額は、現計画の17兆円から43兆5000億円へ2.5倍にはね上がる。27年度までに支払う27兆円を差し引くと、16兆5000億円が28年度以降のローン払いで、政府が5年間の規模とする43兆円と合わせれば、59兆5000億円になる計算だ。
国の予算は、その年の支出はその年の収入や借金を充てる単年度主義が原則だが、高額な装備品や大型公共事業は1年で賄えないため「後年度負担」と呼ばれる分割でのローン払いが認められている。安倍政権はこの仕組みを使って、米国製兵器の購入を大幅に拡大させ、岸田政権も「防衛力の抜本強化」を掲げてその流れを加速させた。
積み残しの16兆5000億円は28年度以降に返済を迫られ、仮に28年度から5年間の防衛費が同規模の43兆円とすれば、4割弱をローン払いが占めることになる。その場合、新たに必要となる装備品購入にしわ寄せがいくが、防衛省の担当者は「試算では大丈夫だ」と主張する。
財務省「通常あり得ない」 防衛省、全体像示さず
一方、予算を査定する財務省幹部は「これだけ期間外のローン払いが膨らむのは異例で、通常はあり得ない」と懸念。防衛費の次期計画の上限額を前提とせずに、必要性を精査して圧縮していくべきだと訴える。
防衛省がホームページで公表する防衛力整備計画は30日時点で、16兆5000億円に関する記述がなく、国民に説明責任を果たそうという姿勢は見えない。
一橋大の佐藤主光もとひろ教授(財政学)はローンが重荷となり「次の計画で新しく買うべき装備品が買えなくなる可能性がある。そうでなければ年間の防衛費が国内総生産(GDP)比2%を超えて膨張する恐れもある」と指摘。ローンの財源や年1兆円強の増税方針について「政府は国民に全体像を丁寧に説明すべきだ」としている。  
 
 

 

●年頭のあいさつ・自民茂木幹事長「統一地方選で最後のジャンプ」 1/1
自民党の茂木敏充幹事長は1日付で年頭所感を発表した。

あけましておめでとうございます。
昨年の参院選で、わが党は議席を大幅に伸ばし、改選過半数となる63議席を獲得することができました。国民の皆さまから「政治の安定」という大きな力を与えていただいたと受け止めており、皆さまからの期待に、政策の実現力、改革の実行力でしっかりと応えてまいります。
昨年10月には、足元の物価高への対応、世界経済の下振れリスクへの備え、さらにはデジタル、グリーンなど成長分野への投資拡大に向け、事業規模71・6兆円の「総合経済対策」を取りまとめ、12月に総額29・1兆円の「補正予算」を成立させました。景気の回復を図り、日本経済をさらなる成長軌道に乗せるため、さまざまな施策を速やかに執行していきます。
また、過去最大114・4兆円となる「令和5年度予算」には、新たな成長分野であるGX(グリーントランスフォーメーション)への投資促進や、42万円から50万円に増額する出産育児一時金はじめ子育て支援の拡充に加え、前年度の5・4兆円から6・8兆円に拡充した防衛関係費などを盛り込んでいます。
これは、わが国を取り巻く安全保障環境が加速度的に厳しさを増していることに、対応していくためのものです。昨年12月、新たな「国家安全保障戦略」をはじめとする「安保関連3文書」を策定し、わが国の防衛力の抜本的強化に向けた中長期の基本方針を示しました。この中で、今後5年間の防衛費については、これまでの1・6倍の43兆円と大幅に増額し、反撃能力の保有や、能動的サイバー防御、自衛隊と海上保安庁の連携強化など、防衛体制を充実していきます。
また、安全保障政策の推進とともに、平和外交を力強く展開していきます。今年1月から日本は国連安全保障理事会の非常任理事国となり、5月にはG7サミット(先進7カ国首脳会議)が広島で開催されます。ウクライナ情勢などで揺れる国際秩序の維持・強化に、G7議長国として日本が主導的役割を果たしていきたいと思います。
今年は4月に統一地方選挙が行われます。地域経済や教育、医療・福祉など、暮らしに直結する政策が争われる選挙であり、わが党にとっても、党の基盤を支える地方議員・地方組織の強化と拡大を図る重要な戦いとなります。
今年の干支は「うさぎ」です。跳躍力に優れたうさぎの如く、2年前の衆院選がホップ、昨年の参院選がステップ、そして今年の統一地方選で、最後の力強いジャンプを実現したいと思います。選挙戦の勝利に向け、党の総力を結集して戦い抜く決意です。
国民の皆さま、党員・党友の皆さまにとっても、本年が飛躍の一年となりますことを心よりお祈りいたします。
●「国民を守る日本」へ進もう 1/1
「日本が努力しなかったら、戦後初めて戦争を仕掛けられるかもしれない。戦争したくないから抑止力を高めようとしているんですよ」
このように語ると、たいていの人が首肯してくれた。
昨年は仕事柄、なぜ岸田文雄首相が防衛力の抜本的強化へ動いているのか―と問われる機会がしばしばあった。それへの説明である。
ロシアがウクライナを侵略し、岸田首相は「東アジアは明日のウクライナかもしれない」と語った。日本の首相が戦争の危機を公然と憂えたのは、少なくともこの数十年間なかったことだ。安全保障環境はそれほど深刻である。
世論は防衛強化を支持
岸田政権が決めた国家安全保障戦略など安保3文書は、反撃能力の保有や5年間の防衛費総額43兆円などを盛り込んだ。安保政策の大きな転換で岸田首相の業績といえる。
安倍晋三政権は集団的自衛権の限定行使を容認する安保関連法を制定した。軍拡を進める中国や北朝鮮に比べ防衛力が十分でないという課題が残ったため、岸田政権は防衛体制の質と量を整える実践面の改革に着手した。それは平和を追求する日本外交の発言力も高める。ウクライナ人が祖国を守る姿を見た国民の多数は防衛力強化を支持している。
もちろん、政策文書だけでは安全は手に入らない。今年は3文書の抑止力強化措置を講じる最初の年だ。令和5年度予算成立なしには防衛費増額も始まらない。関係者の努力や同盟国米国との協力が重要だ。
台湾への中国軍の侵攻があれば、地理的に極めて近い南西諸島が戦火に見舞われる恐れはある。中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)を台湾の付属島嶼(とうしょ)とみなしている。「台湾統一」が中国の夢なら尖閣も含めようとするだろう。台湾有事と日本有事が否応(いやおう)なく連関する点から目を背けて、備えを怠れば本当に戦争がやってくるかもしれない。抑止力と対処力の向上が急がれるゆえんだ。
北朝鮮の核・ミサイルも問題だ。ところが、反撃能力保有をめぐり一部野党や多くのメディアは「相手国が発射する前の反撃能力行使は先制攻撃になる恐れ」や「歯止め」を専ら論じている。核ミサイルも抑止しなければならないのに、バカも休み休み言ってもらいたい。
日本が参考にすべきは同じ民主主義の欧米各国の防衛政策だが、ミサイル対処で日本のような見当違いの議論が横行する国はない。理由なく相手を叩(たた)く先制攻撃が国際法上不可なのは自衛隊も先刻承知だ。反撃能力の円滑な導入を論じてほしい。
それでも反撃能力の運用は何年も先になる。既存の部隊や装備を十分活用するため弾薬、整備部品の確保を急ぎたい。特に弾薬庫増設は重要で地元自治体は理解すべきだ。
「シェルター」担当相を
ロシアは国際法を無視してウクライナの民間人・施設をミサイル攻撃している。このような非人道的な戦術を中朝両国が有事に真似(まね)ない保証はない。台湾のように、日本でも地下シェルター整備は急務だが、内閣に整備促進の担当相がいないのは疑問だ。政府はウクライナや台湾、欧米、イスラエルへ調査団を派遣し、国民保護の手立てを学ぶべきだ。
残された問題はまだある。
中朝露が核戦力増強に走っているのに、安保3文書に国民を守る核抑止態勢強化の具体策がない。岸田首相には取り組む責務がある。
何より、北朝鮮に拉致されたり、それに似た状況に置かれた国民を、自衛隊は海外で救出することが許されていない。憲法9条の解釈で海外での武力行使が禁じられているせいだ。現地政府の了解を得た警察権の代行なら余地があるというが、敵対的な国で日本国民が非道な目にあっている場所が分かっても、救出作戦の選択を端(はな)から放棄しているのが戦後日本だ。国民を守らない9条の呪縛である。
1976年にイスラエル軍は、ウガンダのエンテベ空港で、テロリストがハイジャックした民航機を急襲し、人質だった自国民のほとんどを解放した。このとき、ウガンダ政府は反イスラエルの姿勢だった。
日本が国民を守れる国になるには乗り越えるべき壁がまだある。
●日本人から徴税してアメリカから兵器を買う 岸田首相の防衛増税の矛盾 1/1
2022年12月、突如として「防衛費増額のための増税」を表明した岸田文雄首相。自民党内からも反対の声が噴出したが、結局、防衛費の総額は2023年度から2027年度の5年間で43兆円規模(過去5年間の約1.5倍)と決まり、2027年度からは不足する年1兆円の財源補填のため、所得税・たばこ税・法人税の「増税」が政府与党の方針として固まった。岸田首相は「(防衛増税は)将来世代への責任として対応すべきもの」などと国民に理解を求めるが、その後、閣議決定された2023年度当初予算案で、建設国債の使い道に戦後初めて「防衛費」が含まれることになり、「(防衛予算確保のための)国債発行は将来世代にツケを回すこと(借金)」と否定してきた首相発言との矛盾を指摘する声もある。
しかし、岸田首相の経済政策の一貫性が問われるのは、それだけではないようだ。金融・経済を題材にした小説『エアー3.0』を執筆する小説家・榎本憲男氏が、首相が2021年の就任以来、看板に掲げる経済・財政政策「新しい資本主義」との整合性について考える。

岸田首相が防衛予算を確保するための増税を発表して、議論を引き起こしている。この防衛予算のための増税について、岸田首相が唱える「新しい資本主義」や「新自由主義からの脱却」とどのように整合性が取れるのかについて考えてみたい。
そして、判断材料として使うのは昨今巷を賑わしている経済理論「MMT(現代貨幣理論=Modern Monetary Theory)」だ。というのは、実は僕は、この増税の発表がある前までは、岸田首相はMMT支持者ではないかと思っていたのである。たとえ口では否定しているかのような報道に接してさえ(2022年1月26日の衆院予算委員会での発言「(岸田政権では)MMT政策は採っていない」など)、MMTがあまりにも異端の学説であるので、一国の首相としては支持を表明しにくいだけではないか、と勘ぐっていたのである。実はいまMMTはひそかにパワフルな経済理論になりつつある。経済政策や財政政策の議論は大きくは、MMTを有効と見なすか、それとも異端の経済論として退けるべきかに二分されている。
けれどこの度、防衛予算確保のための増税を発表したことで、ちょっと分からなくなった。なぜなら、MMTによれば防衛費増額のためには増税などする必要はないからだ。では、まずMMTとはなんなのか、簡単に紹介しよう。
MMTでは「税は財源確保のためではない」
MMTは、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授らが提唱したことで有名になった理論だ。財政出動と公共事業で市中にお金を回して不況からの脱却を図ろうとするときに、「そんなことしたらとんでもないことになる」あるいは「そんなことをしても無駄」という市場原理主義的な批判を無力化する理論ともいえる。つまり日本の場合は、「日本円で政府が借金してお金をこしらえても、インフレにならない限り、政府の赤字は気にしないでよい」と主張するのがMMTだ。
新自由主義に異を唱えたポストケインジアンの理論とも言えるMMTを推し進めることは、「新自由主義からの脱却」を目指すことでもあるし、MMTの貨幣論のチャータリズムを押し進めれば、資本主義は新しい局面(「新しい資本主義」)を迎えることにもなるだろう。なぜそうなるかについて、MMTの理論と絡めて考えてみよう。
まず、チャータリズムという貨幣理論がある。この理論はお金の価値はその中に含まれている原材料(貴金属)にあるのではなく、「国家が価値があるものだと保証しているから」価値があるのだと唱える。
そして、主権国家における政府の借金というのは、「自国通貨で負っている限りは債務不履行など起こさない。日本政府の借金が円建てでさえあれば、円は政府(中央銀行)が発行しているのだから問題ない」とも主張する。これによって財政赤字、プライマリーバランスの問題はほぼなくなる。
さらにケインズ経済学が MMTの理論的支柱に加わる。不完全雇用にある場合、財政赤字なんか気にせず公共事業をやるべしとケインズは主張したが、この不完全雇用つまり「失業者が街にあふれているならば」を「極端なインフレにならない限り」に置き換えると、ケインズ経済学はMMTにぐっと近づく。
以上、MMTについては、このような紹介がよくされるが、税に対してもMMTは非常にラジカルな捉え方をしている。MMTは「税は財源を確保するためのものではない」という驚くべき主張を展開するのである。実はMMTの真のラジカルさはここにある。財源確保のために徴税があるのでないのなら、なぜ国民は納税しなければならないのか。
MMTによれば、「日本国民に日本円を持たせるため」である。極端な例で思考実験してみよう、すべての資産をドルで持っている日本人がいる。この人が日本政府に税金を払おうとすれば、ドルを円に変えて円で納税しなければならない。つまり、日本政府の徴税には「日本人は日本円を持て」「日本人は日本円を持つことによって日本人となる」というメッセージが込められているのである。
外国製兵器の購入は防衛(=公共事業)にならない
さて、ここで防衛力強化のための増税に話を戻そう。岸田政権は、「新自由主義からの脱却」を宣言し、また成長を目されている産業への投資に積極的な姿勢を示すなど(内閣官房の資料「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を読む限り)、MMTを意識しているのではないか、と思っていた。というか、ここまでのことはMMTのバックアップなしには言えないだろうと思っていたわけである。しかし、防衛費について岸田首相は、「借金で賄うことが本当によいのか、自問自答を重ね、やはり、安定的な財源で確保すべきであると考えた」と語って、増税に理解を求めたので、僕は「えっ!?」となった。明確な理由を示さないまま、借金(国債)で防衛費を賄うことが悪いと言い、借金は安定的な財源ではないと決めつける、これはまったくMMTの主張と反する。
では、MMTの観点から、防衛費のための増税について、考えるとどうなるだろうか。防衛というのは公共事業だと考えることができる。実際、アメリカでは防衛産業は巨大な公共事業のひとつだ。ならば、政府が国債を発行し、その金で防衛のための戦闘機やミサイルをはじめとする諸々の武器を作って防衛省に納めるというのは、道路を作って国に納めるのと、お金の流れで見ればまったく同じだ。国内に有効需要が生まれ、お金が市場に回り出し、景気回復に役立つ、ということになる。MMTではこうなる。
岸田首相は増額した防衛費をなにに使うのかというと「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということ」だと言う。では、どこから買うのかというと、まちがいなくアメリカだ。しかし、このお金の流れはかなり問題である。例えて言うならば、お湯が足りないからとコックをひねってお湯を足している(増税)のに、バスタブに穴が開いてそこからお湯が(アメリカへ)漏れているようなものだ。これではMMT支持者が目論むような公共事業にはなっていない。
ではどうすればいいかと言うと、MMTでは、武器は外国から買わずに自国で作ってそれを使えばよい、ということになる(武器を作れるかどうかという技術的な問題はいったん横に置く)。必要なだけ国債を発行して、政府は借金をし、政府は防衛のための戦闘機やミサイルを作れと国内企業に発注して金を払う、企業は戦闘機やミサイルを防衛省に納品する。そうすれば、日本国内でお金が回る、という理屈になる。
岸田首相は2022年12月13日の自民党役員会で、「責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる国民が自らの責任としてしっかりその重みを背負って対応すべきものである」と発言した。後日「国民が自らの責任として」ではなく「我々が自らの責任として」だったと訂正したが、“我々”の中に国民が入っていないわけがない。せめて、どうしても税を取りたいのであれば、日本を守るための武器は日本人が自らの責任として作ったものを使ったほうがいい、ということにならないだろうか。
また、岸田首相の「新しい資本主義」や「新自由主義からの脱却」のロードマップの実現性はどのような経済理論に立脚しているのだろう。政府官房の資料「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」では、さかんに「官も民も」という言葉と「投資」という言葉がくり返されている。MMT的な発想なくしてこの財源をどこから調達しようとしているのだろうか?
●新年を迎えて 本物の安心醸成しよう 1/1
燃えさかる戦火が消えぬまま2023年を迎えた。ロシアが昨年2月下旬、ウクライナ侵攻を始めて10カ月余。多くの命を奪い続ける侵攻をいかに終わらせるか。世界が突き付けられた課題はあまりにも重い。
核使用という脅しを振りかざすロシアによって世界の安全保障環境は著しく傷ついた。不安の影を落としたのはロシアだけではない。昨年、北朝鮮は数知れぬミサイルを発射。中国は台湾へ軍事圧力を強めた。
日本が自衛目的で他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費の大幅増にかじを切ったことにも影響した。ただ安保環境悪化を防衛力強化だけで解決することはできない。むしろ軍拡競争を招く恐れすらある。
今年は日本が先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の議長国を務める。G7の連携を強化し、外交の力で緊張緩和を粘り強く働きかけることが大切だ。
また今月、日本は国連安全保障理事会の非常任理事国に就任する。紛争の解決や人道支援などへ、いかに貢献できるのか。国連の果たす役割が試されよう。
ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギーや穀物の供給不安が高まり、世界的なインフレを招いている。日本ではこれに円安が加わり、食料品や石油製品の値上がりが深刻化。国民生活が脅かされている。
日本はエネルギーの多くを輸入に頼り、食料自給率も低い。これでは有事の際に国民の生活を守れないのではないか。
21年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%と低水準が続く。農業従事者は減少の一途だ。いざというときの食料確保は暮らしの安全の基本。自給率向上に本腰を入れたい。農業県である本県はその向上に寄与できよう。
気候変動対策が喫緊の課題とされる中、エネルギーの化石燃料依存は見直す必要がある。しかし政府が原発政策を転換し、新増設や運転期間延長に踏み切ろうとしているのは疑問だ。安全性、コスト、発電開始時期などを考えれば、風力などの再生可能エネルギー拡大こそ急ぎたい。
能代港湾区域内で昨年末、国内初となる大規模な洋上風力発電所の商業運転がスタート。秋田港でも今月中に運転が始まる見込みだ。洋上風力の一大拠点へ第一歩を踏み出した本県が再生エネ生産を後押しする。
一方で少子化という静かな有事が進行中だ。22年の全国の年間出生数は初めて80万人を割り込む見通し。日本の総人口は2100年に6千万人弱まで落ち込むとの推計もある。4月発足の「こども家庭庁」をしっかり機能させ、少子化に歯止めをかけなくてはならない。
日本の国債発行残高は既に1千兆円を超え、主要国最悪の財政状況。それでもなお国債発行を膨れ上がらせるのは人口減少が確実な未来の世代に重荷を背負わせることになる。
この3年間、猛威を振るってきた新型コロナウイルスは現在、流行「第8波」。医療の逼迫(ひっぱく)が生じるなどまだ気は緩められないが、人々の暮らしは日常を取り戻しつつある。
コロナの非常時から抜け出し、日本も本来の姿を目指す時だ。エネルギーや食料の自給率を高め、国債依存から脱却する。そんな当たり前のことを一つ一つ前進させていくことで本物の安心を醸成しよう。
●日本経済は大転換へ〜市場の圧力が「日銀の不合理な政策」を変更させた 1/1
日銀の政策変更は、金融緩和政策の終了に向かっての第一歩だ。日本経済は、これから大きく変わる。これは日銀が望んで行なったことではない。市場の圧力に押されて行われたことだ。こうしたメカニズムが、健全な経済を支える。
2023年の日本経済は、これまでと大きく変わる
日本銀行は、昨年12月20日に長期金利の変動幅を引き上げた。
決定直後から、長期金利が急上昇し、為替レートが急激に円高になった。金利の上昇と円高方向への為替変動は、さらに続くだろう。
これは、企業の業績やさまざまな経済活動に大きな影響を与える。2023年の日本経済は、2022年のそれとは大きく変わるだろう。
ところで、上記の日銀決定は、日銀が自ら望んで行ったものではない。市場の圧力に追い詰められて、行われざるを得なかったものだ。
では、どのような経緯で日銀は上記の決定に追い込まれたのか? それについて、以下に説明しよう。
矛盾した政策が投機の対象となった
2022年の3月以降、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が金利を引き上げ、世界各国の中央銀行もそれに追随した。ところが、日本銀行はそれまでの金融緩和政策をかたくなに続け、金利を抑制し続けた。その結果、様々な歪みが生じた。
何より大きな問題は、日米の金利差が拡大した結果、急激な円安が進み、輸入物価が高騰して、国内の物価が上昇したことだ。
これに対処するため、政府はガソリン価格や電気料金の凍結等の物価対策を行った。物価高騰の原因を日銀が作り、政府が火消しに回るというのは、全く矛盾した事態だ。
矛盾した政策は、投機の対象となる。事実、そのような投機が生じた。
海外のヘッジファンドが、日銀の金利抑制策が近い将来に変更されるだろうとの見通しの下で、投機を仕掛けた。これは、日本国債のショートポジション(先物売り)を取るという戦略だ。
見通しどおりに日銀が金利抑制策を解除して金利が上昇すれば、この取引は利益をあげられる(このメカニズムは若干複雑だ。詳しい説明は、拙著『円安と補助金で自壊する日本』〈2022年10月、ビジネス社〉を参照されたい)。
2022年の6月には海外ヘッジファンドによるこのような取引が急増し、日本の国債市場で取引が1時停止になるなどの混乱が生じた。
ただしこのときには、日銀が巨額の国債を市場で購入して防戦し、結局のところ、長期金利の上限は維持された。ヘッジファンドは敗退した。
国債市場が機能不全に陥った
2022年の秋には、以上で見た投機取引だけでなく、国債市場が機能不全に陥り、正常な取引ができないという事態が生じた。
10月、11月には、10年物国債の業者間取引が成立しない日が続いた。日銀が設定している10年国債の利回りの上限が低すぎるために(つまり、国債の価格が高すぎるために)、日銀以外に買手がいなくなってしまったのだ。
11月には、10年物の地方債の利回りが急上昇した。これらは日銀の購入対象ではないので、市場原理に基づく金利が成立する。それが、日銀が設定する国債の利回りよりずっと高くなったのだ。つまり、日銀が直接コントロールしてないところでは、すでに金利が上がり始めたのだ。社債等についても同様の問題が生じた。
さらに、イールドカーブ(残存期間に応じて、利子率がどのように変化するかを示す曲線)が、歪んだ形になった。日銀が購入の対象とする10年債の利回りが極端に低く、それ以外のコントロールされていない金利が高くなるという形になったのだ。
投機ではなく、市場が日銀を屈服させた
冒頭で述べた日銀の決定は、日銀対ヘッジファンドの戦いで日銀が敗れたことの表れだと言われることがある。確かに、日本国債のショートポジションをとっていたヘッジファンドは、日銀の政策変更によって巨額の利益を手に入れた。
しかし、日銀の政策変更が、ヘッジファンドの投機の圧力によって行なわれたとは考えられない。
事実、前述のように、6月には日銀はヘッジファンドの攻勢に対して国債購入でうち向かい、これを敗退させている。
この戦いは、投入できる資金額の規模で決まる。これに関して中央銀行が圧倒的な有利性を持っていることは間違いない。
日銀が民間銀行から国債を購入するのは、銀行が日銀に持っている当座預金を増やすという操作によって行われる(しばしば、「日銀は紙幣を刷って国債を購入する」と説明されるが、この説明は誤りだ)。だから、事実上、いくらでも購入できるわけだ。
2022年における日銀の国債買い上げ額は、100兆円を超える。いかに巨大ファンドといえども、これだけの資金を簡単に調達するのは不可能だろう。
だから、資金額で中央銀行(とくに、日銀のような巨大な中央銀行)に対抗することはできない。
しかし、それは、中央銀行が何でもできるということではない。
中央銀行の行動が経済合理性を欠くものであれば、それはマーケットに様々な歪みを作り出すのである。それが上で述べた国債マーケットの機能喪失に他ならない。これによって、中央銀行の行動に制約がかかる。
いかなる権力者も市場の判断に逆らえない
以上で述べたことは、財政資金との関係で極めて重要な意味を持っている。いまの日本では、防衛費の増額を国債でまかなってよいかどうかという問題だ。
日本の総理大臣経験者には、「日銀は政府の子会社だ」と言った人がいる。その人は「防衛費増額は国債で賄えばいい」と簡単に言った。
しかし、マーケットがそれを日本経済にとって望ましくないと判断すれば、市場金利が上昇して資金調達コストが上昇し、そうした財政支出は抑圧される。
日本の政治システムには極めて問題が多いが、金融のシステムは、最終的には不合理な政策に対してノーをつきつけることができる。だから、いかなる権力者も好き勝手なことはできない。
それが証明されたという意味で、12月20日の決定は極めて重要な意味を持っていた。
ただし、このことは、無条件で成立つわけではない。仮に財政法第5条で禁じられている国債の日銀引き受けが許されると、以上のメカニズムは働かない。したがって、財政法第5条を堅持することは、極めて重要な意味を持っている。
2022年の12月1日に発行された10年国債の半分以上がその日のうちに日銀に買い上げられた。このニュースはさして注目されなかったのだが、大変重要なものだ。このような行為は、財政法第5條の脱法行為と考えざるをえない。
幸いにして、このような事態は、12月1日だけで済んだようだ。そして、事態は、第5条脱法という誤った方向ではなく、長期金利の引上げという正しい方向に向かいつつある。
財政支出を市場の判断にさらすというメカニズムを維持することは、財政支出の無制限な膨張を防ぐために、本質的な意味をもっている。
●2023年展望 国の行く末 確かなものに 1/1
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、2023年を迎えた。日本国内での感染拡大から間もなく丸3年となるものの、死者は連日400人前後に上り、昨年1年間だけで4万人近くに達するなど、収束には程遠い。国民の命と暮らしに関わる重い課題を抱え岸田文雄政権は国内外の懸案にどう対応していくのか。
G7議長として
ロシアによるウクライナ侵攻はさらなる長期戦の様相にある。世界の分断と民主主義や人権の危機は一層深まっている。ロシアと欧米など民主主義陣営が対峙(たいじ)する戦争は世界大戦にもつながりかねない、ぎりぎりの地点に踏みとどまっている状態だ。自制のたががはずれれば、さらなる大きな悲劇が待ち受ける。
まずは、ロシアが核兵器を使用しないように、西側同盟は結束を図りながら強いメッセージを発し続けなければならない。5月に広島で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)で議長を務める岸田首相は唯一の被爆国のトップとして時計の針を1945年に逆戻りさせないよう、指導力を発揮する必要がある。
大転換論戦へ
今月下旬にも召集される通常国会での当面の焦点は23年度予算案で過去最大の6兆8219億円を計上した防衛費の妥当性だろう。他国のミサイル発射拠点などを攻撃可能とする反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に向け、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費も盛り込んでいる。
首相は「1年以上にわたる丁寧なプロセス」を経ていると説明したが、政権内の議論にとどまる。先制攻撃と映れば、日本攻撃の口実を与え国内に被害が及ぶ恐れも否めない。増税方針は「自問自答」を重ね、公明党との与党協議に諮ったと強調。首相判断に国民の賛同が得られるのか。国会で徹底論戦が必要だ。
原発回帰政策も同様に大転換となる。福井県内の立地自治体などが長年求めてきた建て替えに応じた形だが、脱原発を望む国民も少なくない。60年超運転延長については、古い原発を使い続けることに不安を感じる県民もいる。その前に、今年末までに関西電力が使用済み核燃料中間貯蔵施設の県外計画地点を示さなければ、美浜3号機と高浜1、2号機は運転できない。
子ども予算の行方
少子化対策の行方も大きな焦点となろう。政府は全世代型社会保障構築本部の報告書で、子育て支援の拡大を求めながら、必要となる財源に触れず、首相肝いりの「子ども関連予算倍増」の議論を今年夏まで先送りした。
22年の子どもの出生数は初めて80万人割れする見通しで想定よりも8年も早いペースで減り続けている。報告書は「地域社会を消滅に導き、経済社会を縮小スパイラルに突入させる。国の存続にかかわる」と警鐘を鳴らしている。
米ブラウン大学経済学教授のオデッド・ガロー氏は近著「格差の起源」で、産業革命以前と以後を分析。後者では人口が減少傾向にあったものの人的投資、つまり教育の充実により新たな技術開発が進展し、持続的成長につながっていると説いている。
子どもへの投資が繁栄の鍵となるならば、子育て支援への公的支出が主要国で見劣りする日本はますます取り残されてしまうのではないか。教育の無償化などを推し進め、あまねくチャンスを得られる仕組みが必要だ。防衛増税も重要だが、国の行く末を確かなものにするには、手厚い子ども施策が欠かせない。  
●2023年度当初予算案は「過去最大」114兆円...止まらない肥大化 1/1
「行き着くところまできた感がある」
霞が関の某省庁幹部はため息まじりに、こうつぶやいた。
政府が22年12月23日に閣議決定した2023年度当初予算案のことだ。
将来にわたる防衛費の大幅増額に踏み出したことで、日本という国の借金拡大は、新たな段階にステップアップした。
国債頼りの厳しい財政状況に拍車 23年度は35兆6230億円の国債発行
2023年度の一般会計の総額は114兆3812億円。22年度当初予算から6兆7848億円も増え、11年連続で過去最大を更新した。
これに対し、歳入の柱である税収は69兆441億円。法人税収などの増収を見込んだ結果、当初予算としては最大になるものの、歳出全体の6割程度しか賄えない。
このため、23年度も当初段階で国の借金に当たる国債を35兆6230億円発行する。国債頼りの厳しい財政状況に拍車がかかることになりそうだ。
冒頭の省庁幹部が嘆くのは、23年度当初予算の肥大化要因が従来の当初予算とは決定的に違うためだ。
従来の当初予算の押し上げ要因は、歳出の3分の1を占める社会保障費の増大だった。少子高齢化に伴う自然増が避けられず、これが財政を圧迫し続けてきた。
だが、2023年度はこれに防衛費の増額が重なる。
防衛力強化を目指す岸田文雄政権は、防衛費と関係費の総額を27年度に国内総生産(GDP)比2%に引き上げる方針を掲げている。今後5年間で43兆円を防衛費に充てるとしており、従来に比べ計17兆円も積み増す必要がある。
その初年度に当たる23年度は防衛費に過去最大となる6兆8219億円を計上した。22年度当初比1兆4214億円の増額となり、GDP比は22年度の0.96%から1.19%に拡大する計算だ。
さらに政府は、防衛費増額に対応するため、複数年度にわたって使える「防衛力強化資金」を新設。23年度は特別会計の剰余金や国有財産の売却などから23年度の防衛費を除いた3兆3806億円を計上した。
歳出削減など耳が痛い話題からは顔を背ける...政治の無責任
もっとも、最大の問題は、防衛費増額の財源がいまだ不明確なことだ。
政府・与党は2022年末の税制改正議論で、防衛費増額の財源に、法人税、所得税、たばこ税の増税で対応する方針を23年度税制改正大綱で示したものの、引き上げ時期の明記は見送られた。
23年度以降の税制改正議論で増税に向けた道筋を具体化するというが、国民受けの悪い増税には自民党内などの反発が強く一筋縄ではいかない。
新設の防衛力強化資金に充てた国有財産の売却なども、あくまで一時的な収入に過ぎず、安定財源とはとても言えない。それも27年度までの5年間分を決めただけで、その先の見通しは立っていない。
「防衛費増額の財源が不足すれば、国債発行でまかなうしかなくなる。それだけでは何としても避ける必要がある」
政府関係者はこう指摘するが、23年度当初予算でさえ、本来は他の事業に充てるべき財源をかき集めて、何とか体裁を整えたに過ぎない。岸田政権は財源が固まらないまま、防衛費増額へと見切り発車したのだ。
「社会保障費に、防衛費増額が加わり、歳出の拡大は確実に新たなステージに突入した」
財務省からはこんな声が聞こえてくる。
当初予算の止まらない肥大化は、国民受けのいい政策に熱を入れ、歳出削減など耳が痛い話題からは顔を背ける政治の無責任体質の象徴といえそうだ。
●岸田首相、逆風克服か失速か 解散へ駆け引き、人事も焦点 23年政局展望 1/1
岸田文雄首相が逆風を克服できるのか、あるいはさらに失速するか。
2023年は、閣僚辞任ドミノで苦境が続く岸田政権の浮沈が懸かる分かれ道となる。5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、首相は地道に求心力回復を図る考え。衆院解散・総選挙をにらんだ与野党の駆け引きも活発化しそうだ。
重要課題「動かす年」
「未来の世代に責任を持って日本を引き継ぐ」。首相は22年暮れ、内外情勢調査会で講演し、新年の抱負をこう語った。防衛力強化や「新しい資本主義」、少子化対策といった重要課題に「布石」を打ったとして、「実際に稼働させ、動かしていく。これが23年の位置付けだ」と力説した。
とりわけ重視するのが、G7指導者を地元・広島に集めるサミット。だが、首相がこの「晴れ舞台」にたどり着くまでには数々の試練がある。
最初の関門は、1月23日召集の通常国会だ。政府・与党は、過去最大の114兆3812億円に上る23年度予算案を提出し、年度内成立に全力を挙げる。「政治とカネ」の疑惑を抱えた秋葉賢也前復興相らを年の瀬に更迭した首相に対し、野党は任命責任を厳しく追及する方針。防衛費増額やそのための増税など首相が矢継ぎ早に決めた重要政策を主な論点に、与野党が冒頭から激突しそうだ。
経済運営も成果が問われる。4月8日に任期が切れる黒田東彦日銀総裁の後任人事案を、政府は3月までに国会に提示する方針。異次元金融緩和を推し進めてきた黒田路線は修正されるのか。経済界も政界も首相の判断に目を凝らす。
物価高の痛みを和らげる賃上げの動きを広げられるかも課題だ。春闘の結果は、首相が掲げる新しい資本主義の成否につながる。
4月は統一地方選が行われるほか、欠員が生じた衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区で補欠選挙も実施される見通し。自民党は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の影響を懸念する。
「常在戦場」で選挙準備
次期衆院選は小選挙区の「1票の格差」是正のため、定数を「10増10減」する新たな区割りで行われる。10月に衆院議員の任期満了まで残り2年の折り返しを迎えることから、与野党とも「常在戦場」(政権幹部)と身構える。
解散権を握る首相は、自民党総裁の任期切れまで9月で残り1年となることを念頭に、総裁再選に向けた解散戦略を慎重に探る。解散の選択肢の一つと目されるのが広島サミット後だが、内閣支持率の低迷が続けば政治決戦はおぼつかない。
首相は防衛費増額のための増税実施までに衆院選を行う考えも示している。増税の時期は、自民党内の反対派に配慮して「24年以降の適切な時期」と曖昧にしており、23年は増税を巡る党内対立が再燃する。首相が解散をちらつかせて反対派をけん制する可能性もある。
内閣改造・党役員人事も、首相の局面打開のカードだ。党幹部は「夏に人事がある」との見方を示す。「ポスト岸田」に意欲を隠さない茂木敏充幹事長の処遇が焦点。首相と距離を置く菅義偉前首相の要職起用も再び取り沙汰されそうだ。国民民主党を連立政権に加える案もくすぶり続ける。
立・維の共闘は
野党は巨大与党にどう対峙(たいじ)するのか。立憲民主党と日本維新の会は先の臨時国会での「成果」に味をしめ、共闘を継続する方針だが、憲法改正や安全保障政策など基本政策で溝が深く、一枚岩にはほど遠い。統一地方選では競合し、国政選挙でも「野党第1党」を競う敵同士だ。
●やられる前に「先に攻撃」も 「経済安全保障」が本格始動 1/1
政府は、去年12月20日に、経済安全保障を強化するため、11項目の「特定重要物資」を閣議決定した。経済安保を巡っては、物資のサプライチェーン(供給網)の強化を国が支援する取り組みが現状では先行しているが、2023年以降は、サイバーセキュリティなど新たな経済安保の議論が本格化、国の「規制色」が強まることで、「国会が荒れる」と指摘する政府関係者もいる。
「国民の生活を守る第一歩に」
「国民の生存や生活、経済活動を守るために、我が国にとって重要な物資のサプライチェーンの強靭化を進める取り組みの第一歩となった」高市経済安全保障相は、12月20日の記者会見で「特定重要物資」指定の意義を強調した。
「特定重要物資」とは、「国民の生存に直接的な影響が生じる」「供給が特定の少数の国に偏っていて、供給が途絶えた場合に甚大な影響が生じる」などのおそれがあるもの。政府は、5月に成立した「経済安全保障推進法」の基本方針に基づき、半導体や蓄電池、肥料など11項目の指定に向けた作業を進めてきた。
政府は、特定重要物資の安定したサプライチェーンの構築に向け、中国など特定の国に依存することを避けるため、物資の製造や材料を扱う企業に対して、春ごろをめどに認定作業を開始し、国内や他国への工場移転などの支援を行う方針だ。
臨時国会では、「特定重要物資」の安定的な供給を強化するための予算として総額1兆円超を確保し、日本の「経済安保」が初めて本格始動した形だ。
下水からリンを回収
ロシアによるウクライナ侵攻は、「資源小国」の日本にとって大きな転換点となった。LNG(液化天然ガス)などのエネルギー以外でも深刻な影響が及んだ。例えば、「肥料」について、政府は「ウクライナ情勢による影響により輸入困難になるなど、減に供給途絶リスクが顕在化している」としている。こうした中、国内で、肥料の安定確保に向けた画期的な取り組みが始まっている。
神戸市は、肥料の主要な成分となるリンが、人体で吸収しきれず大量に下水道へ排出されている点に目をつけた。市内の下水処理施設に特殊な設備を使い、リンを回収する技術を開発。2015年から再生リンを使用した農家向けの肥料を販売しているほか、一般向けの販売も開始した。
リンは、2020年7月からの1年間での輸入量について中国からが9割を占めるなど、“中国依存”が顕著になっており、経済安保上の喫緊の課題の一つと言える。
神戸市は、現在市内に1つしかない再生リンを回収できる施設を今後増やしていく考えだが、リンが原材料の肥料が特定重要物資に指定されたことで、「こうした企業を大きくしていく」(政府関係者)という国の方針に則り、国の予算が使われるかもしれない。
サイバーめぐり「国会が荒れる」
年末になって具体的に動き出した「経済安保」だが、「特定重要物資」の指定を含む安定供給の確保は、4本柱のうちの一つでしかない。政府は今後、電気やガスなど「機能が停止・低下した場合、国家・国民の安全を損なう恐れが大きい」とされる「重要インフラ」の安定的な確保について議論を進めていく方針だ。
サイバー空間で不正アクセスを行い、データを盗むなどの「サイバー攻撃」は近年、高度化している。このため、サイバー攻撃から重要インフラを守る「サイバーセキュリティ」をいかに高めるかも経済安保上の重要な課題となる。
政府が16日に改定した外交安全保障の基本指針「国家安全保障戦略」では、「重要インフラ等に対する重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、これを未然に排除し、被害の拡大を防止するために能動的サイバー防御を導入する」と明記された。
「能動的サイバー防御」は明確な定義がないものの、政府関係者は、サイバー攻撃について「防御だけでは守り切れない」としていて、攻撃を未然に防ぐためには「先にサイバー攻撃をする」ことなども視野に入れているという。
一方で、政府による「能動的サイバー防御」は、場合によっては、メールなどの内容を第三者が把握することを禁止する「通信の秘密」に触れるとの見解もあるため、野党が厳しく追及する展開が予想され、「次の通常国会は荒れる」との指摘が早くも出ている。
国民の生活を守るためにますます重要度が増す「経済安全保障」だが、一方で国民の権利や自由な活動を規制しかねない側面も持ち合わせている。日本を取り巻く環境が厳しさを増す中で、経済安全保障が重要となる分、岸田総理には、国民が納得し、安心する説明が求められている。

 

●トマホーク「役に立つか立たないか論争」に見える日本の課題 1/2
日本政府は、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の導入を決めた。12月16日の閣議で新たに決めた反撃能力は、敵の射程圏外から攻撃できる長射程のミサイルを使った「スタンド・オフ防衛能力」を活用する。国家防衛戦略は「2027年度までに、地上発射型及び艦艇発射型を含めスタンド・オフ・ミサイルの運用可能な能力を強化する」としている。トマホークはその「つなぎ」とみられ、政府は来年度予算にトマホーク取得予算として2100億円余りを計上するという。
そして今、一部でかまびすしいのが「トマホーク役に立たない論」だ。トマホークは1980年代から配備が始まり、湾岸戦争やイラク戦争など、様々な戦闘で使われてきた、「現存するなかで、最も信頼性の高い巡航ミサイル」(自衛隊幹部)だ。ただ、弾頭重量は1千ポンド(約450キロ)で、2千ポンド級もある地上攻撃用爆弾と比べれば、見劣りがする。「鉄筋コンクリートの建物に穴は開けられるが、完全に吹き飛ばすほどの力はない」(同)。トランプ米政権は2017年4月、シリア軍の基地などにトマホーク59発を発射したが、大きな打撃を与えるには至らなかったとされる。速度も900キロ足らずのため、携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」で撃墜されることもあった。
事前に目標の座標と画像を入力し、GPS機能と画像照合システムで飛行するため、精密攻撃に適しているが、米軍に現在配備されているトマホークは移動する標的は狙えない。米軍はすでに、地上や海上を移動する目標を攻撃できる改良型トマホークの実験を終えているが、配備は2〜3年ほど先になると言われている。こうしたことが、「トマホーク役に立たない」論者の根拠になっている。
元海上自衛隊海将補で徳島文理大人間生活学部の高橋孝途教授(国際政治・安全保障論)は「役に立たない論」について2種類あると指摘する。高橋氏は「それは、持ってはいけない論者と、論理的に考えた結果論者に分類できます。前者は、そもそも反撃能力は憲法・専守防衛違反だから、トマホークを持つなどとんでもないという人々。こうした方たちは、トマホーク役に立たない、という議論を積極的に支持します」と語る。
これに対し、後者の人々は、日本政府は、これから反撃能力を構築するのに、装備の導入を先に決めるのは「順番が違うのではないか」と主張する。日本が反撃能力の導入を正式に決めたのは12月16日だ。これから、反撃能力を使うための情報収集の仕組み、指揮体系、発射プラットフォーム、配備場所などについて詳細に詰める必要がある。関係者の1人によれば、「トマホーク導入」は確かに、こうした議論の積み重ねの結果決まったのではなく、どちらかといえば、政府高官らの「トマホークがあるじゃないか」といった「半ば思いつき」(同)によって決まったという。
高橋氏は、後者の主張は傾聴に値すると評価しつつ、「それでも導入を決めた背景を理解する必要があるのではないでしょうか」と語る。「日本の安全保障環境はかつてないほど悪化しています。一日も早く準備をしなければならない以上、とりあえず、手に入るものは先に手に入れるという発想は間違いではありません。トマホークもスーパーで野菜を買うようなわけにはいきません。発注してから生産、引き渡し、操作員の養成などに時間がかかります。その間に、反撃能力の全体システムを構築しようということなのでしょう」
それでも、「役に立たないトマホークを買っても意味がないではないか」という主張は残る。自衛隊幹部は「確かに、中国やロシアが保有するS300やS400といった近代的な防空システムがあれば、トマホークの相当数は撃墜される可能性があります。でも、相手に届く兵器があるのとないのでは、まったく効果が違います」と語る。「トマホークがあれば、相手がそれを防衛している間、こちらが作戦を遂行する時間を稼ぐことができます。評論家の方々は、トマホークの能力にだけ注目しがちですが、作戦全体を考えた場合、トマホークは有力な手段になり得るのです」
また、今回の反撃能力に否定的な主張の論拠には2つの種類があるようにみえる。ひとつは、「護憲・平和論」だ。理念は貴いものがあるし、大事にしたいが、こうした人々もロシアによるウクライナ侵攻や、中国軍が今年夏に台湾周辺で行った軍事演習に賛成しているわけではない。国家安保戦略が反撃能力の根拠として掲げる「日本周辺の安保環境の悪化」にはある程度の理解があるとみられる。つまり、こうした人々は「令和の状況」を認めながら、「主張は昭和のまま」という状態に陥っているようにも見える。
もう一つは「増税反対論」だ。この反発の背景には、岸田文雄首相がまず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に出てきた「国防費のGDP(国内総生産)比2%」の流れに乗り、「金額先行」の流れを作ったという事情がある。ただ、自民党ベテラン議員の言葉を借りれば、「自分の財布を開けてでも、平和と安全を守ってくださいという気分になれない」という心理状態もあるだろう。政府が議論の進め方を間違えたために起きた反発が、「自分の財布を開けてでも、平和を守ってもらわないといけない状況」を直視できない状況を生み出している。
来年の通常国会での予算審議で、政府が走りながら考えている、「トマホークを、どのような状況で使うつもりなのか」「どんなシステムを構築し、どんな目標を狙うのか」といった具体的な議論が絶対に必要だ。ここで論理破綻したら、導入を諦めるしかない。逆に政府が議論から逃げたら、トマホークを持っても、国民の支持や団結を得られない。
日本は、そのくらい切迫した状況に直面している。
●岸田首相は遂に「増税派の傀儡」としての本性をむき出しに 1/2
’23年の何月から景気が悪くなるかの議論はあっても、良くなるかもしれない、との議論は成立し得なくなってしまった。それほど決定的な事件が起きていたことに、どれほどの日本人が気付いているだろうか。’22年2月のウクライナ事変をきっかけに、防衛費倍増の議論が待ったなしとなった(それでも5年後に、などとヌルい結論になったが)。政府は参議院選挙後、これ一本にかかりきりになった感があるが、曲がりなりにも与党をまとめた。また、(安倍晋三元首相の側近だった)与党幹部の萩生田光一政調会長が「財源として来年からの増税はしない」と押し切った。ところが、突如として岸田文雄首相は「防衛増税」を打ち出した。岸田首相は遂に「増税派の傀儡」としての本性をむき出しにした。
増税派が狙うは「日銀人事」
これに対し、先週号で「高市の乱」を伝えた。閣内にいながら、高市早苗経済安保担当大臣が反旗を翻したのだ。既に趨勢(すうせい)は見えていたが、案の定、腰砕けとなった。SNSでは「どうせ、いつものガス抜きだろ」と冷ややかな視線が圧倒的多数だった。だが、そんな単純な話ではない。自民党良識派も決起、反対論が燎原の火の如く広がり、「来年からの増税」は阻止した。結果、「再来年以降のどこかで増税」となった。要するに先送りであり、玉虫色の決着だ。むしろ良識派は「来年からの増税を阻止した」「その先の事は後でいくらでも潰せる」と怪気炎を上げるかもしれない。ここで問題である。増税派は、最初から「再来年以降のどこかで増税」を考えており、織り込み済みの結論だったのだ。では、増税派は何を狙っているのか。  日銀人事である。
「史上最強の財務事務次官」が副総裁に急浮上
黒田総裁と二人の副総裁の任期切れ後、どのような人事を望むのか。  総裁は、雨宮正佳現副総裁の昇格が有力視されてきたが、ここにきて中曽宏前副総裁が有力視されるようになってきた。雨宮氏と中曽氏のいずれも、日銀プロパー。副総裁には、木下康司元財務事務次官が急浮上している。自民党総裁選・衆議院選挙・東京都議選挙・参議院選挙と連戦連勝、経済もアベノミクス絶好調だった、絶頂期の安倍首相に対し真っ向から喧嘩を売り、消費増税8%を押し付けた。いわば、「史上最強の財務事務次官」「増税大魔王」である。5年後には総裁に昇格する含みの副総裁である。もう一人の副総裁は、金融緩和を中核とするアベノミクスを支持したリフレ派を追放できれば、なんでもいい。「初の女性副総裁」として複数の名前、たとえば翁百合日本総研理事長のような名前が挙がる。要するに「リフレ派以外の学者で、女であれば誰でもいい」のである。
利害の一致した財務省と日銀による「増税派」
従来、財務事務次官出身者と日銀プロパーが交互に正副総裁を出し合う「たすきかけ人事」を行ってきた。政治介入を防ぎ、官僚が勝手に人事を、そして経済政策を壟断(ろうだん)する体制を再び築きたいのだ。財務省にとって日銀総裁は最高の天下り先でロイヤルロードと呼ばれる。日銀総裁に就いた元事務次官は彼らの世界で「ドン中のドン」の地位を手にする。事務次官を経験していない黒田氏の総裁就任を苦々しく思ってきた。日銀は自分たちの思想に反する金融緩和を行ってきた黒田路線を一刻も早く否定したい。ここに財務省と日銀の利害は一致した。かくして「増税派」が形成された。そして支持率低下で窮地に追いやられている岸田首相に手を差し伸べて、今回の防衛増税を仕掛けてきた。日銀人事を制し、金融緩和を潰すために。
岸田政権が存続する限り、黒田路線は……
金融緩和とは、低金利政策である。日銀は、一刻も早く金融緩和を止めて利上げをしたい。ようやくデフレ脱却が見えてきたところで、借金の利子を高くしてしまえば、デフレに逆戻りするのは目に見えている。例えば、変動金利で住宅ローンを組んでいる人など、地獄だろう。給料が上がりそうな直前で景気回復策をやめる。なぜそこまで日銀は金融緩和を憎むのか。「そういう宗教だから」としか言いようがない。また、財務省は増税を実現した者が出世する、日銀理論では「利上げは勝利!」なのである。始末に負えないが、総理大臣を取り込んで、我々国民に対して増税を仕掛けてきた!と思わせて、囮である。結果、’23年の増税は避けられた。しかし、岸田首相は生き残った。おそらく1月下旬に通常国会が開かれ、2月あたりに岸田首相が人事を提示する。となると、正副総裁候補に、今ごろ打診が行く。岸田政権が存続する限り、今の黒田路線を否定する人事が行われるだろう。誰も抗することができない。私は蟷螂之斧(とうろうのおの)の如く、「リフレ派の若田部昌澄副総裁の総裁昇格を!」と、狂ったように言い続けたが、風前の灯火だ。
長期金利の上限引き上げは“実質利上げ”だったのか
そんな中、12月の日銀政策決定会合で、長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた。発表された直後、円高が4円も進んだ。これは「実質利上げか」と報じられた。かなり高度で技術的な話なので詳細は省略するが、黒田総裁の説明および専門家の言を総合すると、これは「利上げ」ではない。この種の技術的な利上げは、過去の黒田日銀も行っている。では、金融緩和を否定したいマスコミが煽ったから円高が進行したのか。’22年に入り、国債の市場が歪んでいるので、是正を図ったとのことだ。すなわち、10年債の金利と7〜9年債のそれが逆転する現象が起きていた。だから引き上げただけ、とか。確かに、金融緩和によって生じた歪みはあった。だが、黒田後任の総裁がそれを理由に大きく金融緩和を修正したら、余計に悲惨になりかねない。だから、先手を打って衝撃が大きくない時期とやりかたを選んで、今回の「実質利上げ」と受け取られかねない挙に出た、とのことだ。
黒田日銀総裁は「敗戦処理」をしたのではないか
ここで、経済知識が無くても、政治センスがあれば気付くことがある。つまり、黒田総裁の後任は、絶望的な人選が動いているということではないか。今回の行動は、「敗戦処理」だったということではないか。さあ、どうする?岸田首相に代わる、マトモな総理大臣を選び直すしかないではないか。それが自民党の中と外の、どちらにいるかはともかく。そして個人としては、不況に備えるしかない。
●「防衛増税」政局の裏の猿芝居=@1/2
野党の政権追及が尻すぼみに終わった臨時国会の最終盤に、岸田文雄首相が「独断専行」で打ち出した「巨額防衛費の財源を増税で賄う」との方針が、国民や野党だけでなく自民党内でも大炎上し、党内政局の様相を呈した。結果的に決着先送りの「妥協案」によって短期で収束したが、その舞台裏を探ると、「最大派閥・安倍派内の覇権争い」(自民長老)が浮き彫りとなり、「政局を装った手の込んだ猿芝居=v(同)との冷ややかな見方も広がる。
永田町を騒がせた「防衛増税」政局のきっかけは、首相が臨時国会の会期末を前に、唐突に打ち出した相次ぐ独断決定≠セ。まず、2022年度第2次補正予算の成立を受け、12月5日に23〜27年度の5年間の防衛費総額を約43兆円とするよう関係閣僚に指示。続いて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の被害者救済法に会期内成立のめどがついた同8日には、27年度以降に必要となる年4兆円の防衛費増加分のうち1兆円強を増税で確保する一方、23年度は増税せず、所得税については増税を行わない方針を表明した。
これを受け自民党税制調査会(宮沢洋一会長)は、直ちに法人税、たばこ税、復興特別所得税(復興税)を増税の対象とする内部協議を開始。37年までの時限措置だった復興税の活用では、上乗せ分の1・1%を復興財源、1・0%を防衛財源に振り分ける案を打ち出した。課税期間を延長することで復興財源の総額は確保するとの理屈だが、これが党内外の猛反発を招いた。本来なら38年になくなるはずの上乗せ分が延長される一方、1・0%分の使途を防衛費に限定(防衛特定財源化)すれば事実上、防衛費増額のための所得増税となるからだ。
安倍氏遺児≠スちのアピール合戦
同案が表沙汰になると、野党では立憲民主党の安住淳国対委員長が「被災地に対する背信行為」と猛批判、日本維新の会の馬場伸幸代表は「あまりにもひどい発想」と酷評した。政府・与党内でも、自民の萩生田光一政調会長が「当面、国債発行も選択肢」と異論を述べ、高市早苗経済安全保障担当相はツイッターに「真意が理解できない」と書き込んだ。西村康稔経済産業相も「このタイミングでの増税は慎重にあるべきだ」と批判した。3氏は、いずれも故安倍晋三元首相の「腹心」を自任する内閣・党の要職者で、高市氏は「罷免も覚悟」とまで踏み込んで党内の安倍派議員の造反を誘発。その時点で「防衛増税」政局となった。
ただ首相の最側近である宮沢氏が、15日に「防衛増税の無期限延期」とも解釈できる妥協案を示すと、状況は一変。論議の舞台となった税調会合は約2時間で宮沢氏に対応を一任し、騒ぎは沈静化した。妥協案は、増税対象として法人・所得・たばこの3税を列挙する一方、増税時期を「24年以降の適切な時期」として、最終決定を先送りしたのがポイントだ。
16日には与党が23年度税制改正大綱を、政府が安保関連3文書の改定を相次いで機関決定し、政府・与党内の混乱はわずか1週間余で収束。首相は16日夜の記者会見で「国家・国民を守り抜く使命を果たす」と大見えを切り、自らの決断の正当性をアピールした。
一連の経過を振り返ると、首相の「防衛増税」を攻撃したのはいわゆる安倍チルドレン≠ホかりで、「首相がかねて用意の妥協案で譲歩すると、あっという間に退散した」(岸田派若手)のが実態だ。「結局、安倍氏を信奉する遺児≠スちのアピール合戦」(同)に終わった格好で、永田町では「安倍派の内紛を利用した首相らの狡猾(こうかつ)なガス抜き作戦」(自民長老)との皮肉な見方も広がる。
●増税に国債も…防衛費の大幅増を誰が負担? 国民が考えるべき「3つの財源」 1/2
岸田政権は防衛力強化に大きくかじを切り、2023年度の予算案で防衛費の大幅な増額を閣議決定した。ここで問題になっているのが財源だ。国債や増税などで賄うとされているが、防衛費増額については国債で賄うべきではない。その理由で一般に言われるのは「国債で、将来世代に負担を移転しているから」である。しかし本質的にはそうではない。この財源問題は日本経済に大きな影響を与えるため、日本国民は「国債の負担」に関する正しい理解の上に、この問題を議論する必要がある。
防衛費増額の財源問題が“簡単ではない”ワケ
防衛費の増額と、その財源をどうするかが問題となっている。
世論調査を見ると、「国債で賄ってはならない」という意見が大多数だ。「国債は将来世代に負担を強いることとなるので問題だ」という考えによるものであり、この考えはごく普通に受け入れられている。
では、国債による財源調達は、本当に負担を将来に移転するのか。実は、この問題は一般に考えられているほど簡単なものではない。
家計が借金をする場合を考えてみよう。
この場合には、たしかに負担は将来に移転する。借金をしたときには、収入を超える生活資金を使うことができるので、豪勢な暮らしができる。しかし、借金を返済する時点になれば、収入の多くを返済に充てなければならないので、生活は貧しくなってしまう。
家計で考える、「外国債」と「内国債」の違い
上で述べたのは、これと同じようなことが国債についても起こるという考えだ。たしかに、外国債については家計の借金と同じことが起きる。しかし、内国債については事態がまったく異なる。その理由は、次のとおりだ。
第一に、国債を発行した時点で、国が全体として使える資源の総量が増えるわけではない。国債は国内の誰かが購入するので、その人の支出が減少している。
第二に、将来、国債を償還する時点では国全体として使える資源の総量が減るわけではない。なぜなら、国債の償還金は国内の誰かが受け取るからだ。利子の支払いについても同様だ。
つまり、国債の発行・償還・利払いに伴う資金移動は国内で起こるので、国全体として使える資源の総量には変化が生じない。この点で、外国債と内国債は基本的に異なるのだ。
家計にたとえれば、内国債は夫が妻から借金するようなものなのである。家計全体で見れば、このような借金をしても借金時に使える金額が増えるわけではないし、返却時に貧しくなるわけでもない。
では、財政支出を国債で賄っても、内国債であるかぎり、何も問題はないのだろうか?
「現代貨幣理論」(MMT)の信奉者は、内国債なら問題ないとし、財政支出のすべてを内国債によって賄うべきだと主張した。しかし、この考えは誤りなのだ。その理由を次で説明しよう。
「内国債で財政支出を賄うべき」が誤りである理由
財政支出のすべてを内国債によって賄うべき、という考えが誤りである理由は以下のとおりだ。
家庭内の貸し借りであっても、将来に負担が生じる場合がある。たとえば、妻が店を経営しているとしよう。酒飲みの夫が妻から借金をして飲み代に使えば、店の維持に使える額は減る。それによって、店の収入は減ってしまうだろう。店の収入が減れば、将来の家計は貧しくなる。このような意味において、家庭内の貸し借りであっても、問題が生じるのだ。
これから分かるのは、借金した金を夫が何に使うかが重要であることだ。飲み代に使ってしまうのでは、将来に負担が生じる。しかし、妻から借金した金で夫が事業を興し、それが成功したのだとすれば、将来に負担が生じることはないだろう。
これと同じことが、国の場合にも生じる。国が国債を発行して財政支出を増大させると、金利が上昇し、民間が設備投資にあてるための資金は減る。その結果、資本蓄積が減少し、将来の生産性が低くなるという問題が生じるのだ。
国の借金が家計の借金と違うからといって、MMTが主張するように、借金財政がいくらでも許されるわけではない。以上で述べたことは、「国債の負担」として知られる問題で、1940年代から50年代ごろに、経済学者の間で議論された。
その結果の要約が、以上で述べたことだ。国債の負担は、普通言われるような意味(つまり、利払いや償還が将来行われること、それ自体)によって生じるのではなく、金利上昇−投資減少−資本蓄積減少という過程を通じて、将来の生産性が低下することにより生じるのだ。この考えは、A.ラーナーなどの経済学者によって定式化された。
防衛費を賄う「建設国債」の問題点
国が、国債発行で調達した資金を社会資本の整備にあてるのであれば、上の家計の例で、夫が新しい事業を興すようなものだ。それは、経済全体の生産性向上に寄与する。だから、国債発行で民間設備投資が減少することになっても、経済全体としては問題がない。
このような考えから、日本では、「建設国債」という制度が導入された。これは、次のように財政法第四条に定められている。
「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金および貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。 」
しかし、現実には「赤字国債」が発行されている。これは、建設国債の限度を超えるものだ。家計のたとえで言えば、夫が妻から借金した金を消費してしまうようなものだ。だから、将来に負担を残すわけで、問題だ。
防衛関係費は、将来の生産力を増やさない。したがって、国債で賄うとすれば、赤字国債になる。自衛隊の建物などであれば建設国債で賄って良いという考えもあるが、それは、空虚な形式論にすぎない。自衛隊の建物が将来時点での生産力に寄与するとは考えられない。
防衛費増額は国債で賄うべきか?
以上の議論はかなり複雑だ。そこで、これを踏まえながら、防衛費財源に関する議論の状況をまとめておこう。
第一に、「増税は政治的に抵抗が大きいから、国債で財源を調達すれば良い」という意見がある。これは、与党野党を問わず、政治家の間で強い意見だ。しかしこれは、まったくの無責任な議論としか言いようがない。
第二に、これへの批判として、「国債は、負担を将来世代に移転するから望ましくない」との意見がある。これは、新聞などのマスメディアで、正論として受け取られている意見だ。しかしこれは、国の借金と家計の借金を混同しているという意味で、間違いだ。
防衛費の財源をどうするかは、将来の日本経済の生産性に重大な影響を与える大問題である。今、必要とされるのは、本稿で説明したような意味での「国債の負担」が存在することを考慮しつつ、財源問題を議論することだ。
防衛関係の支出は、将来の日本経済の生産性を高めることにはならないので、国債で賄うことは避けなければならない。
防衛費の財源で議論されるべき「支出削減・国債・法人税」
防衛費の財源問題は、次の方向で検討すべきだ。
第一に、現在の財政支出を徹底的に再検討し、ムダな支出を削減する。特に、人気取りのためのばらまき補助金を削減することが必要だ。
第二に、国債は上で述べたような意味で将来の生産性を低下させるので、これによるべきではない。また、負担が明示的でないために、財政支出が安易に増大しやすいという問題もある。
第三に、以上で足りない分を、増税によって賄うことになる。法人税の増税は投資に悪影響を与えるという意見が強いが、これは次の理由で誤りだ。
法人税は利益に対する課税である。利益は、企業が雇用や投資に関する最適化行動を行った後に結果として残るものなので、法人税の税率は投資行動には影響を与えないはずである。だから、その税率を高めても、国全体としての資本蓄積には影響が及ばないはずだ。  

 

●安全保障戦略の転換と新年度予算案 1/3
昨年12月16日、政府は「国家安全保障戦略」を閣議決定し、同24日、防衛費の大幅増を含む来年度当初予算案を閣議決定した。これは戦後日本の安全保障政策の大転換であり、憲法9条に基づく「平和国家」と「専守防衛」の国是を揺るがすものだ。
記者会見で「唐突な決定ではないか」との質問に対して、岸田首相は「国家安全保障会議(NSC)や有識者会議で意見を聞いたし、与党のプロセスも経ているので、問題はない」と答えている。国民への説明は後回しということであろう。
さて、新聞各紙はどのように報じたろうか。社説を比較読みして、以下に見出しを列記してみた(「」内が見出し、・印が小見出し)。各紙の主張、その概略を把握できると思う。
茨城「信問うべき平和国家の進路」
毎日「国民的議論なき大転換」・揺らぐ専守防衛・緊張緩和する外交こそ
朝日「平和構築欠く力への傾斜」・反撃でも日米一体化・中国にどう向き合う・説明と同意なきまま
読売「国力を結集し防衛体制固めよ」・反撃能力で抑止効果を高めたい・硬直的な予算を改めた・サイバー対策が急務・将来の財源は決着せず
日経「防衛力強化の効率的実行と説明を」・戦後安保の歴史的転換・安定財源確保進めよ
産経「平和守る歴史的大転換・安定財源確保し抑止力高めよ」・行動した首相評価する・国民は改革の後押しを
国会熟議と国民説明が必要
茨城、毎日、朝日の3紙は批判的論調、読売、日経、産経の3紙は肯定的論調と、ほぼ予想通り。防衛予算についても同様の論調であった。意外だったのは、安保戦略の歴史的転換を扱っているにしては、各紙とも抑えた書き方をしている、そんな印象を受けたことだ。その分、今回は軍事や外交の専門家の発言が目立った。その中からいくつか拾い出してみよう。
香田洋二氏(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)は、大幅増となった防衛予算について現場サイドによる検討がなされた形跡がないとし、予算の無駄は本当に必要な防衛力とトレードオフの関係にあるとして、予算の中身に深刻な懸念を表明している。
田中均氏(元外務審議官)は、防衛予算の拡充も必要だが、それ以上に経済、技術、エネルギーなどの国力を強化すべきだといい、さらに外交とインテリジェンス(情報の収集と分析)の役割の大きさを強調した。
藤原帰一氏(東大名誉教授・国際政治論)は、新安保戦略の本質を「日米同盟のNATO化」であると喝破した。その上で、抑止力に頼るだけの対外政策は戦争のリスクを高めるとし、外交による緊張緩和の努力が欠かせないとした。岸田政権は抑止力強化には熱心だが、外交努力が足りず、そこが危ういと藤原氏はいう。
ともかく、安全保障について次の通常国会で熟議を重ね、国民に十分に説明しなければならない。国会議員自ら超党派で勉強会を開き、専門家の知恵を借りるなどすればと思うのだが、現状の国会では無理だろう。安全保障環境を整えるための最優先課題は、「この国の国会と国連それぞれの待ったなしの改革だ」と考える国民は少なくないはずである。
●2100年までの未来 世界人口の行方について断言できる6項目 1/3
1 人口規模には重い意味がある
どれほどテクノロジーが進歩しようが、どれほど社会がポストモダンになろうが、やはり人口規模には重い意味がある。そして、基本原則は変わらない。すなわち、「多ければ多いほどいい」だ。
この原則にはある程度、文字どおりの意味がある。とはいえ、大半は、認識の問題だ。
歴史的に見ても、人間が構築してきた部族や国家、さまざまな政体は、常に数の多さを強みとしてきた。同時に、数の減少は弱みと認識してきた。政治経済学の理論もまた、この考えを現代まで支持してきた。
富の集積こそが国家権力を左右すると考えた重商主義の経済思想も、人の蓄積が富の主要な源であると見なしていた。根本的に、人的資本は国力を考えるうえで重要な要因であり、とりわけ軍事力や経済力には欠かせない。
社会の人口とその構造は、社会のほかの要因にダイレクトに影響を及ぼし、ある集団がほかの集団と比べて自分たちにはどんな強みがあるかを認識するうえで、大きな比重を占めている。
2 人々はある程度、予測可能なパターンで移動する
今後数十年、紛争や経済危機が起こるたびに移住者が大量発生し、そのたびに世界が「驚く」ことになるのは確実だ。しかしながら、そのように、突然、大量の移住者が発生する状況を正確に予測するのは不可能だ。
ただし、経済的な理由(危機がない状態)による移住は予測しやすい。資本主義はグローバル化し、資本は大きな見返りが得られる場所へと、労働者は賃金が高い場所へと動いていく。
移住労働者の大半は、規模の小さい中所得国から規模の大きい高所得国へと移動する。2019年には、国際移住者の3分の2が高所得国に住んでおり、29%が中所得国に住んでいた。
ヨルダンやフィリピンなど1人当たりGDPが約1万ドルの国からの移住者は、ニジェールのように1人当たりGDPがわずか1000ドルほどの国からの移住者の2.5倍も多い。
だが、国が下位中所得国のランクに近づくにつれ、より多くの国民が移動に必要な金銭的余裕と、そのための技能や手段を持つようになる。
高所得国のランク、すなわち1人当たりGDPが1万〜1万2000ドルと世界銀行が定義しているランクにまで上がると、国外への移住率は減り始める。というのも、この時点で国内に魅力的な雇用機会が増えてくるからだ。
世論調査によれば、サハラ以南のアフリカ諸国では国外への移住を希望する人が多いものの、そうした地域の国はたいてい所得水準が低すぎるため、集団での移動は難しい。だが、所得が増えるにつれ、移住を実行しやすくなる。
同様に、開発が進むにつれ、人口は高齢化し、労働力の需要が高まるので、高所得国に仲間入りした国は多くの移住者を引き付けるようになるだろう。これには労働力としての移住者と、紛争による移住者の両方が含まれる。
後者の例を挙げれば、2020年を迎える頃、メキシコで庇護申請を行う人の数が急増し、2013年から17年のあいだに11倍にもなった。
暴力が蔓延する中央アメリカから逃れてきた人の庇護申請数は、18年、19年、そして20年初めの3ヵ月まで上昇を続けたが、新型コロナウイルス感染症の流行によって国境管理が厳しくなり、メキシコへの入国が困難になった。
メキシコは歴史的にずっとアメリカへの移住者を排出する国だったが、国内の所得が上昇し、人口が高齢化するにつれて、メキシコ自体が移住者の目的地となりつつある。
3 世界では都市化が進んでいる
西半球とヨーロッパの都市人口が飽和状態であることを考えれば、今後、成長が見込める都市の大半は、アジアとアフリカのものになるだろう。これまでと比較して、アフリカの都市ははるかに速いスピードで成長している。
1800年から1910年の工業化の最盛期、ロンドンは年2%のペースで成長した。つまり、ロンドンの人口が25年ごとに倍増していたのである。
一方、ルワンダの首都キガリの人口は、1950年から2010年にかけて年7%で成長し、南アフリカの研究者グレッグ・ミルズによれば、10年ごとに倍増しているそうだ。
また、インドでは4億9500万人が、中国では8億9300万人が都市に暮らしている。さらに、2018年から2050年にかけての世界の都市人口増加において、インド、中国、ナイジェリアが35%を占めることになるだろう。
インドでは4億1600万人、中国では2億5500万人、ナイジェリアでは1億8900万人、都市生活者が増加すると見込まれている。
2050年には、世界人口の70%が都市に暮らすことになると予測されるが、その大半は中・低所得国で起こるだろう。
今日の先進国は都市化によって経済的な恩恵を享受しているが、いまなお世界では約8億人がスラムで暮らしている一方で、基本的にいわゆる「スーパースター」的な都市だけが、イノベーション、資本、人材、投資のすべてを引き付けている。
都市化により莫大な経済的利益が生じているわけだが、所得や生活の質の向上を損なうかたちで、環境変化ももたらしている。
さらに、低所得国や下位中所得国における都市化は、食糧不安という危機をもたらす。増加する人口が輸入品に大きく依存していたり、いまだに自給的農業が主流であったりするからだ。
人口が増えれば必ず食糧危機に見舞われると、話を単純化しているわけではないし、厳格なマルサス主義に基づいて分析するつもりもないが、気候変動がすでに干ばつや洪水を悪化させていることは否定できず、急増する都市部はそうした自然災害にいっそう弱くなっている。
4 高齢化「世界」がやってくる
122歳を超える長生きはできないかもしれないが、いま100歳以上の人は以前より増えている。そして、日本では興味深い事態が生じている。
これまで日本政府は、100歳を迎えた高齢者に記念品として銀杯を贈ってきたが、100歳以上の長寿者の数はこの50年間、連続して増加している。
1963年に記録を開始したときにはわずか153人だったのに、2020年には8万人近くに増えているのだ。あまりにも人数が増えたことから、政府は経費削減のため銀杯を純銀製から銀メッキに変更した。これは懸命な対策だった。
なにしろ日本の100歳以上の人は、2027年には17万人になると予測されているからだ。
死ぬよりは老いるほうがましだ。そう考える人は多い。こうした考え方は高齢化社会にもある程度、当てはまる。
これからも高齢者の平均余命は延びるだろうし、乳児死亡率も減り続けるだろうから、それほど子どもをせっせと産まなくても大丈夫だと人々が自信を持てるようになるのは寿(ことほ)ぐべきことだ。
ところが、高齢になれば誰もが痛みや負担を感じるように、高齢化社会にも痛みや負担が生じる。20歳から69歳の人口は、2050年には韓国で16.2%、台湾で14.9%、中国で8.9%も減少するだろう。
高齢者への給付金支給や早期退職を保障している国が、このまま政策を変えずに高齢化すれば、経済は縮小する可能性が高く、政府は責務を果たすうえで難題に直面するだろう。
また、長期介護が可能な施設がほとんどなく、給付金の支給額が低い国では、高齢者の介護の負担を家族が負うことになり、出生率をさらに押し下げるだろう。
経済発展がきわめて早く起こった国は、高齢化においても第1波に乗ったため、近視眼的な年金対策しか立てておらず、莫大な予算を割かなければならない。
というのも、労働力が減少している高齢化国では、必要な財源をその時々の保険料収入から用意する賦課(ふか)方式の年金制度は持続不可能だからだ。
たとえ年金制度を回避したとしても、失業などによって早期に労働市場から退出することを高齢者に認めてしまえば、やはりコストがかかる。よって最先進国は、前例のない超高齢化に直面し、政策改革の難しい舵取りを迫られている。
あらゆる年齢の女性を労働市場に参入させ、高齢の労働者がもっと長く労働力人口にとどまれるようにする政策(たとえば定年制の廃止)を実施すれば、女性と高齢者の労働力率が低い社会(つまり最先進国)における労働力を、劇的に増加させることができるだろう。
こうした国々はまた、経済成長に貢献する労働力以外の要因に目を向け、対策を練ることもできる。
たとえば、生産性と効率性はテクノロジーで改善できるだろう。オートメーション化と移民の受け入れを実施すれば、高齢化に伴う労働力不足をいくぶんは埋め合わせできるだろうが、完全に相殺するのは無理だ。
健康もまた、高齢化する世界で生活の質を高く保ち、コストを下げ、生産性を上げて繁栄を続けるうえで、カギを握ることになるだろう。
5 適切な政策を実施すれば、望む未来へと歩めるようになる
人口は、私たちをのみ込む波ではない。何をしようと、人口の波が私たちをさまざまな場所へと押し流すわけではない―その流れの方向は、政策で変えることができる。そして、ありがたいことに、私たちはその政策を選ぶことができる。
つまり、因果関係を示す矢印は双方向で、一方には人口があり、その反対側には政治、社会関係、経済がある。言い換えれば、方程式の片側で行動を起こせば、反対側の変数が変わってくるのだ。
だが、これは問題にもなりうる。たとえば、人口ボーナスを最大限に利用したい国は、成長への土台となる政策を先行させなければならない。
そうした政策には、人口ボーナス期に生産年齢に達する若者の教育と訓練、海外からの投資を促すマクロ経済政策や、投資家がリスクを冒すだけの魅力がある平和で安定した国の構築などがあり、あらゆる手段を講じなければならない。
どれも簡単なことではないが、国際政策に詳しいメリリー・グリンドルは「十分なガバナンス」を目標にすることを推奨し、小さな変化のパワーを評価すべきだと論じている。
また、社会学者のジャック・ゴールドストーンと政治学者のラリー・ダイアモンドは、そうした政策のリストを簡潔に挙げている。
「教育、健康、インフラへの賢明な投資、自発的な家族計画への支援、基本的な財産権の保障、より包括的な経済成長の実現、非生産的で有害な目的のための国富や歳入の流用の防止」がそれである。
私たちに新型コロナウイルス感染症のパンデミックから学んだことがあるとすれば、優れた医療体制が整備されている国のほうが、不測の事態に向けた準備を整えられるということだ。
何がうまく機能したのかを検証し、そうした方策を幅広く実施するようにすれば、世界全体の健康状態を改善する道筋をつくることができる。
たとえば、マラリアはいまだに年間43万人の命を奪っているが、2010年から17年のあいだにマラリアの患者数は18%減少し、死亡者数も28%減少した。
2019年にはアルジェリアとアルゼンチンがマラリア根絶を宣言し、ガーナ、ケニア、マラウイではマラリアワクチンの接種が試験的に実施された。
また、エイズに対する世界的な闘いにおいても、大きな前進が見られている。ほんの数年前まで、アフリカ南部の一部の国々では、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に人口の3分の1を超える人々が感染していて、平均余命を最大15年も縮めていた。
だがWHOの報告によれば、2000年から18年のあいだに、HIVの新規感染者数は37%も減少した。感染に関連した死亡者数も37%減少し、抗レトロウイルス療法(ART)のおかげで1360万人の命が救われた。
その一方で、新型コロナウイルス感染症が本来ほかの医療分野に充てられるべき資金を奪っているため、従来の重点分野における前進のスピードが短期的に遅くなるのではないかという懸念の声が、専門家のあいだから上がっている。
先進国がパンデミックへの備えに尽力した結果、途上国の医療や健康問題に充てる資金が実際に減っていくかどうかを論じるのは時期尚早ではあるものの、ほかの疾患との闘いをパンデミックへの備えに置き換えるだけでは、一つの政策を近視眼的で不完全な政策に置き換えることになってしまう。
そうではなく、私たちはもっと全般的な健康問題に資金を投じる必要がある。そうすれば、健康に関する数々の課題に長期的かつ包括的に取り組むことができるだろう。
政策はまた、人口高齢化の強い影響力を評価する際にも役立つ。人口統計学的に見れば、ブラジルはロシアや中国よりもずっと若い国だ(中位数年齢は中国が38.4歳、ブラジルが35.5歳)。とはいえ、中国同様、ブラジルでも急速に高齢化が進んでいる。
そして人口統計のデータから得られるもっとも有益なことは、人口転換がかなり進んだ国は、ほぼ予測可能な道筋をたどって発展していくということだ。つまり、これから何が起こるかが、だいたい予測できるのだ。
ブラジルの合計特殊出生率は1.7で人口置換水準を下回っているため、ブラジルの政策立案者やビジネスリーダーは国が高齢化していることを認識している。にもかかわらず、ジルマ・ルセフ元大統領は1期目に、なんと年金支給額を増やしたのだ。
ブラジルはGDPに占める年金支給額の割合が、世界でもっとも高齢の国である日本よりも大きい。しかも平均退職年齢は日本が71歳であるのに対し、ブラジルはいったい何歳だと思われるだろうか?
なんと、56歳。人口高齢化に対処するうえで、これでは基盤が弱すぎる。
インドについても考慮すべきだろう。インドと中国を同列に語る人がいるのは、どちらも巨大な国であり、隣国であり、近年、似たような経済成長を遂げたからだ。
しかし、インドと中国を合わせれば世界人口の37%を占めるという、その人口規模を除けば、人口統計学的にも、その他多くの点でも、この2国は似ても似つかない。
国が導入する教育、都市化、年金といったありとあらゆる政策によって、人口動学(ダイナミックス)がどう作用するかが変わってくる。
インドと中国はさまざまな政策によって、人口動態が異なる道筋をたどっている。中国全土の人々がほぼ全員、文字の読み書きができる一方で、インドの女性の識字率はわずか66%だ。
中国の大規模な都市化は経済成長を大きく牽引したが、インドの都市化は2021年にはわずか35%で、世界平均の55.7%よりはるかに後れを取っている。
中国はその潜在能力を活かし、人口統計学を最大限に活用しているが、インドはそうした施策を行っていないのだ。
6 人口統計値に見られる格差が国の命運を分ける
人口のデータを見ると、世界の先進国と途上国のあいだの格差がどんどん広がっていることがわかる。2020年から50年の世界人口の増加の89%以上が、下位中所得国または低所得国で生じ、高所得国のそれは3%にすぎないだろう。
サハラ以南のアフリカは世界でもっとも急速に成長している地域の一つで、国連の推計によれば、この亜大陸における出生率が、現在の平均である女性1人当たり約5人から3人と少しに減らせたとしても、2045年までに人口は倍増する。
出生率が現在の水準でとどまった場合、この地域の人口はこれよりも10年早く倍増し、2035年には17億人を超えるだろう。
さて、この格差の反対側では、世界人口の42%が少子化の国(大半が先進国)で暮らしている。
一方、世界でもっとも人口が若い10ヵ国のうち、ソマリア、コンゴ民主共和国、ウガンダといった国はとりわけ若い。と当時に、これらの国は開かれた平和な民主国家ではないうえ、活発な経済成長を遂げているわけでもない。
年齢構造はすべてを物語るわけではないものの、さまざまな国の政治・社会・経済の問題に関する明確なヒントを伝えている。
出生率と年齢構造の関係、そして年齢構造と紛争や発展の関係を考慮すると、出生率がきわめて低い国(中年以上の年代が多い)と高い国(きわめて若い年代が多い)の経済は、それぞれが従属人口の要求を満たすうえで課題に直面するだろう。
その一方で、多くの新興国のように中間の年齢構造を持つ国は、高い経済成長と平和というボーナスを得るだろう。こうした変化がどのように列強に影響を及ぼし、世界に平和や繁栄をもたらしていくかは、今後、注目していくべきだろう。
また、地球規模で不平等がさらに広がり、悪化していくだろう。中東と北アフリカの地域(MENA)を見れば、この格差の大きさがよくわかる。
イランやチュニジアなど、この地域の多くの国が比較的出生率が低く、人口も高齢化しつつあるのに対し、イエメンといった国はいまだに出生率が高く、年齢構造も若い。
後発開発途上国は引き続き、国内での過酷な不平等に苦しむだろうし、これが不満の種となって政治的暴力を引き起こす可能性がある。
気候変動はさらなる課題をもたらすだろう。貧困国は割が合わないほどの悪影響を受けるだろうし、先進国でさえ貧困層は同様に苦しむことになるだろう。
貧困国や貧しい地域は、高温や極端な異常気象に適応する能力が低いからだ。人口増加と収入増加が続けば、とくにアメリカや中国が明確なリーダーシップを発揮しないかぎり、温室効果ガス排出量も増え続けるだろう。
温暖化と気候変動はまた、感染症を新たな地域に広げることになる。たとえば蚊の分布域は拡大しており、黄熱病などの感染症が伝播するリスクがある地域も広がりを見せている。
●連鎖する危機の時代 戦略国家への日本改造の論点  1/3
連鎖する危機の時代:戦略国家への日本改造の論点
疫病が地球を覆い、戦禍に伴うエネルギー・食糧危機が迫り、世界分断、インフレ、スタグフレーション、進んでは世界恐慌の足音が聞こえ、挙句には「死ぬのがいいわ」が世界的ヒット曲として紅白歌合戦の掴みとなる等、時代は2、30年遅れの世紀末感が漂っている。
こうした中で、ことさら主体性を欠落した我が国の漂流が加速している。
防衛財源論と外交
防衛費を倍増するに当たって、財源を増税によるのか国債にするのか等で揉めているが、答えは諸外国並みに近付けて「武器輸出の範囲を広げ国産武器のコストを下げ競争力を高め、それによる税収増等で極力埋める事を図り、海外武器輸入に当たってもバーゲニングパワーを高めつつ、それまでの間は国債で繋ぐ」という方向以外にない。
当事者意識無く世論のバランスボール乗りに長けただけの岸田首相がお茶を濁すのは詮無い事だが、保守言論までもがそこに言及する事を躊躇するのは何事であるのか。
なお外交全体としては、来るべき激動乱流の時代に於いてこそ横井小楠の謳った「大義を四海に敷かんのみ」を旨とし情勢を読みつつ先手を打ちながら、国際的大義を伴う長期的国益の追求へ向け性根を入れ直してブレずに行くべきではある。
コロナ対策
オミクロン株以降は、諸外国並みに日本でも感染症法の2類相当である分類を5類以下に下げて普通の風邪のように扱うべきだったろう。
しかしこれが為されないのは、民間病院が多くかつ医師会の政治力の前に統制が取れず、医療逼迫した際のリソース配分の緊急対応シフトが出来ぬため、ただただ行動制限、営業制限に頼る他ないからである。なお、万が一の際の医療トリアージを許さぬ国民意識にも一因があると言えよう。
また世界の趨勢が、コロナワクチンの効果と副作用・死亡リスクのバランスから、若年層への接種非推奨等の脱ワクチンに向かっている中、何に忖度しているのか、我が国は幼児にまで接種を努力義務化する等、倒錯した姿を世界に曝しているザマだ。
その他、ゼロコロナ明けの中国からの春節観光客に対し、ビザ発行停止等の断固する手を打たず、検査・隔離の強化はすれど強制力が弱く穴だらけのザル体制。
こうしたポンコツ医療・検疫体制の逆を行くべきだが、各種利権に塗れた立法府も居眠り状態である。
エネルギー・食糧危機
ウクライナ戦争を巨視的に見れば、戦略物資であるエネルギー・食糧を武器とした世界覇権争いの一現象であるとも言える。
この戦争は、ロシアのアイデンティティー vs ウクライナのアイデンティティー + 軍産複合体の利益、米英による大陸ヨーロッパ分断統治指向の伝統、ネオコン・ソロス等の「民主主義への理想追及」、冷戦時代のソ連・ルッソフォビア等の構図でもあった。
だが、ノードストリーム爆破の翌日にノルディックパイプラインが開通し、天然ガスに窮したドイツに米国が液化天然ガス供給を申し出る等、いつの間にかエネルギー・食糧大国のロシア + 市場大国の中国 vs 西側諸国の構図が浮かび上がり、インドを筆頭としたBRICS諸国、中東、アフリカ、東南アジアが前者に靡きつつある風情である。
こんな中、我が国が取るべきスタンスは、食糧に於いては、コスト面をある程度犠牲にして自給率を高める事であり、その中心となるのは穀物によるカロリー及びタンパク質ベースである。この2つが押さえられてしまえば、有事には戦わずして城を明け渡す事になろう。
エネルギーに於いては、CO2温暖化原因説は、両者に相関性はありそうだが因果関係が逆である可能性が高い。一方エネルギー自給率が低い我が国は、化石燃料輸入への依存度を下げる事自体にはメリットがある。このため「脱炭素」には、温暖化説ではなくエネルギー自給強化、多様化の観点にシフトしながら付き合うのが国益となる。新型原発、地熱を中心に拡充するとともに、太陽光、風力については国土破壊等にならぬよう規制しつつ行い、電圧安定化のため水素、アンモニア変換によるものの他、例えば重力蓄電等、蓄電技術の開発を図るべきである。
内政・経済
結局、年金財政・健康保険を現役世代で支えるのは不可能であり早晩破綻する。
これに対するには健康寿命を延ばし、老齢者が週休3日で亡くなる数年前まで働く体制、生命維持装置に頼った寝たきり等の過剰医療の抑制、人材流動化の奨励策とセーフティーネット構築、少子化対策と敵性国家と不良外国人を実質的に排除し、生涯想定国益貢献度をベースにした移民システム等を「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会の建設」のベクトルのもと整備すべきである。
以上、筆者は警鐘を鳴らすべく縷々書いたつもりだが、恐らく今後も日本は主体性無く、茹でガエルの状態のまま目覚める事無く底辺まで転げ落ちて行くだろう。
主体性欠如の象徴、キッシーこと現首相の「岸田」は幻であり実在ではない。在るのは日本人の意識であり、それが投影され「岸田」として現れているに過ぎない。
転げ落ちたとして、その沈没した日本が極東の小島としてそのまま歴史の波間に消えて行くのか。あるいは再び浮かび上がる事が出来るのか。その運命は国民の自覚一点に掛かっている。 
●防衛増税、首相が理解獲得に努力 1/3
岸田文雄首相は3日放送の文化放送ラジオ番組で、防衛費増額に伴う増税に対する国民の理解を得るため、説明に努める意向を示した。国債発行に頼らずに財源を確保することが「未来の世代への責任」と主張。早期に米国を訪問し、防衛力強化の方針をバイデン米大統領に伝えて信頼関係を高めていく考えを強調した。番組は昨年12月19日に収録された。
2023年度から5年間の防衛費総額約43兆円のうち、歳出改革を進めても不足する財源に関し「戦闘機やミサイルを買うのに国債を発行して未来の世代につけを回すのがいいのか、今を生きるわれわれの責任として払うのか」と提起した。
●日本の金融政策は「軍拡」を支えるか? 1/3
日本の金融政策が先週突如「転向」し、日本国内及び国際市場から持続的に注目されている。10年国債利回りの許容変動幅の上限を0.25%から0.5%に引き上げたほか、日本銀行は長期金利の上昇を認める上限を従来の0.25%から0.5%に引き上げた。日本メディアは、これは日本が10年維持している超量的緩和策の調整の前兆と解読した。今回の政策の「急変」は、日銀が国内外の経済情勢の変化、危機的な円相場、政府の財政出動などの各方面を総合的に考慮した結果と見られている。(筆者=陳友駿 上海国際問題研究院研究員)
(一) 実際の効果は利上げに近く、日米間の「金利差」問題を和らげ、持続的な円安に歯止めをかける有利な条件を作った。過度な円安は日本の貿易発展に不利で、かつ日本国内の恐慌ムードを引き起こしやすい。急激な円安が日本経済のシステマティックな崩壊を起こすことが広く懸念されている。そこで日銀の今回の政策調整は、為替問題を考慮したものと見られる。
(二) 日銀の政策の「バランス感」を高める。黒田東彦氏が2013年に日銀総裁に就任すると、日本の金融政策は急進的な「高速道路」に入った。超量的緩和はその象徴の一つ、アベノミクスの重要な構成部分になった。しかし10年続く超量的緩和策は最近、日本国内で一定の批判を浴びている。そのため日銀の国債利回りなどの調整は、積極的に対策を講じ経済情勢の変化に対応しようとする日銀のイメージを作り、国内の批判を和らげることができる。
(三) 国債市場の活性化は、日本の財政出動の条件を作る。日本国内の政界は現在、右翼・保守勢力の働きかけを受け、過激な軍拡路線を歩もうとしている。岸田政権は日本の防衛費の対GDP比を2%に引き上げようとしており、5年後の防衛費は過去最大の43兆円にのぼる見込みだ。防衛予算の増額には資金の負担者が必要だ。先ほど自民党内及び日本国内で盛んに議論されていた増税案については現在、反対の声が多く出ている。岸田政権はその他の案の考慮を迫られており、「赤字財政」が再び選択肢になる可能性が高い。そうなれば日本国民及び企業が事実上の主な税負担者になる。
(四) 指摘しておく必要があるが、日銀の今回の重大な政策調整には「諸刃の剣」の効果がある。国債利回りの引き上げは日本の未来の財政に大きな困難をもたらす。これは日本政府の金利の負担と借金返済の圧力を直接拡大する。日銀の政策調整が発表されると、日本の株価が急落した。これはこの決断に対する市場のネガティブなマインドを反映している。この心理は市場の動向を決める主なバロメーターの一つと言える。日本経済、政府財政、金融政策などが今後、より大きな圧力、挑戦、不確実性に直面することになる。

 

●新年に日本経済を考えるヒントにしたい「30の命題」 1/4
年始なので、筆者が日頃考えている日本経済に関する「30の命題」を挙げてみた。命題は、【「資本主義」論の勘違い】【労働と賃金と生産性】【セーフティーネット】【財政】【国としての日本のリアルな形】の5カテゴリーに6個ずつリストアップしている。2023年の日本経済を考える上でヒントになったら幸いだ。
2023年の日本経済を 「30の命題」から考える
あけましておめでとうございます。本年もご愛読をよろしくお願いいたします。
さて、年の初めなので、今回は広く日本経済全般を考えてみたい。筆者が日頃考えている日本経済に関わる命題を30個ほど挙げてみた。個々には、自信度に差があったり、前提条件が付くものもあったりするのだが、筆者が概ね「YES」だと考えている命題だ。読者には幾つ賛成してもらえるだろうか。
30個の命題を5つのカテゴリーの6個ずつに分けて、思考の筋道に従ってさらっと並べてみた。賛否は読者にお任せするが、日本経済を考えるヒントになると幸いだ。
【「資本主義」論の勘違い】 に関わる6つの命題
1. 日本は総体として資本主義の国ではない
2. 日本経済の上層は資本主義的競争を回避した「日本的縁故主義」である
3. 日本経済の下層はカール・マルクスの想定よりも苛烈な「ブラック資本主義」だ
4. 経済成長がなくても資本主義システムは維持可能だ
5. 日本の低成長の大きな原因は新自由主義がなかったからだ
6. 上層も劣位者は経済停滞によって下層に飲み込まれつつある
岸田文雄内閣では「新しい資本主義」が相変わらず検討されているものの、議論の大筋では何ら進展が見られない。それもそのはずだ、と筆者は思う。なぜなら、日本経済の運営は総体として資本主義ではないからだ(1)。
何よりも、経済力的に大企業正社員から上の層の運営にあっては、生産手段(労働力・資本とも)が十分商品化されていない。正社員をクビにできないシステムは少なくとも資本主義ではない。
大企業正社員、医師などの高級専門職、官僚、政治家はいったんメンバーになったら仲間内で保護し合う日本的縁故主義とでも呼ぶべきシステムに組み込まれる(2)。この時点で日本は資本主義的なダイナミズムから大きく遠ざかっている。
ところが、非正規労働者や下層正社員は、「取り替え可能な商品」のように扱われて低賃金でかつ雇用が不安定な、まごうかたなき資本主義下の労働者だ。彼らの賃金水準は、かつてマルクスが考えた「次世代の労働力を含めて明日の労働力を再生産するコスト」以下にとどまっており、マルクスの想定以上に苛烈な「ブラック資本主義」とでも呼ぶべきシステムの支配下にある(3)。子ども2人を育てられる賃金ではない世帯が少なくない。
ところで、世間では「資本主義の限界」を語ることが時々はやる。その中で、もっともらしく聞こえるけれども間違った意見の典型として、資本主義は成長のフロンティアを失うと維持できないとするものがある。
投下される資本の量は機会(環境と技術に依存する)に応じて調節されるので、資本主義は低成長やマイナス成長でも維持可能だ。リスクに見合うもうけがないと判断された場合、利潤は資本として投下されず、株主に返されて消費されるだけのことだ(4)。例えば、自社株買いについて考えてみるといい。
ところで、「新しい資本主義」の検討会議の資料にあるように、新自由主義は格差拡大や環境問題などの問題をはらんだものの、先進国の経済成長に一定の役割を果たした。過去30年、元は先進国であった日本がほとんど成長できなかったのは、日本には新自由主義がなかったからだ、と考えるのが自然だ(5)。
日本経済では上層の停滞と、下層の拡大による利潤追求の結果として、上層のメンバーが下層に滑り落ちる動きが起こっている。現象としては、中間層の崩壊として表れている(6)。
筆者は、上層の活性化とその成果の国による大規模な再分配が求めるべき解だと思っているが、「上層の活性化」への道は遠い。
【労働と賃金と生産性】 に関わる6つの命題
7. 有能な社員が会社に囲い込まれ交渉力が乏しく賃金が上がらない
8. 報酬の上限が見えているので有能な社員はベストまで努力しない
9. 正社員を捨てる機会コストが大きいので起業のハードルが高い
10. 賃上げとROE(自己資本利益率)を同時に求めると経営者は自分に得な後者を選ぶ
11. 労働組合は賃金を生産性が下回る「働かないオジサン」のためにある
12. 能力主義的競争の徹底には前提としてセーフティーネットが必要だ
日本の生産性も賃金も上がらない理由は、それらが可能なはずの「有能な人」が生産性を上げないし、賃金を上げられないからだ。
労働市場の流動性が低く組織に人が囲い込まれる日本的縁故主義では、有能な社員であっても会社に対する交渉力が弱い。彼らの賃金が上がりにくい仕組みだ(7)。
有能な社員は、努力をしても報酬はたかが知れているのだし、組織内相対競争上は高い報酬を確保できるのだから能力のベストを尽くして働くモチベーションが乏しい(8)。
かくして、生産性は上がりにくく、イノベーションが起こりにくい。また、有能な社員は、正社員の安定とまあまあの生涯収入を捨てる機会コストが大きいので、独立・起業に向かいにくい(9)。
さて、政府から賃上げと資本効率を上げるガバナンス改革の相反する要求を受けた経営者は、賃金を抑えてROEを上げ、自分の報酬が上がりやすくなる道を選ぶのが自然だ(10)。上場企業経営者の報酬が一貫して上昇する一方で、勤労者所得の伸びが停滞した背景の一つだ。
ところで、多くの労働組合は、非正規社員の保護よりも、正社員の権利保護を優先する「正社員クラブ」だ。そして、主に自由な経済原理の下では解雇されたり賃下げされたりするような正社員、つまり俗に「働かないオジサン」と揶揄(やゆ)されるような社員の経済条件を守ることが主な機能になっていると理解できる(11)。この働きは、間接的に有能な社員の報酬を圧迫する。
労働生産性の改善と経済成長のためには、雇用の流動化を通じた能力主義の徹底が有効であることが明らかなのだが(これに反対する勢力こそが日本経済の実質的な「敵」だといえよう)、徹底的な能力主義の世界は「生まれてくるのが怖い」のも事実だ。実は、経済取引への政府の介入を非とする自由主義的な能力主義は、いわば「社会的保険」としての政府の手厚いセーフティーネット(富の再分配や、教育コストの公的負担、職業訓練の提供など)を必要とする(12)。
私見では、新自由主義の徹底よりも、セーフティーネットの整備が先だ。柔道で、投げ技よりも先に受け身を教えるのと同じだ。
【セーフティーネット】 に関わる6つの命題
13. 価格介入する物価対策は資源配分を歪め、同時に富裕者をより多く援助する
14. 子どもの教育と親の介護を家庭に求めると、子どもと結婚が減り家族が痩せる
15. 福祉を企業に求めると、企業は正社員雇用に消極的になり正社員層が痩せる
16. 個別の価格介入政策は近視眼的な国民、官僚、政治家、業界に好まれる
17. 現物支給やクーポン券よりも同額の現金の方が効用は大きい
18. 現金給付政策は追加的にお金を配っているのだから必ず財源がある
ガソリン代、電気代の補助のような物価対策は、富裕者に対する補助効果の方が大きいし(アパートの一室よりも豪邸の方が電気代は高い)、価格メカニズムを歪めている(13)。例えば、少し前までは炭素税による価格上昇を通じて環境を守ることが検討されたのではなかったか。SDGs(持続可能な開発目標)は、それ自体はいいことだが、金持ちが気まぐれに行う寄付のように頼りないことが分かる。
人的投資や福祉・セーフティーネットにあって家庭の役割、企業の役割を重視するほど、重い負担を嫌って家庭も企業も痩せていく(14、15)。家庭や企業を健全に守るためにも、国のセーフティーネットが重要だ。いわゆる「保守派」の人々もそろそろ気付いた方が賢いのではないか。
ガソリン代のような個別商品の価格対策にお金を使うよりも、困窮者にのみ現金で補助を行って、お金持ちには価格を見て消費を考え直してもらうといいことが、予算の面でも資源配分の面でも明らかだろう。
しかし、「自分に今よりもメリットがあること」を評価してとりあえず満足する国民と、個別の対策で「やっている感」や相対的なメリットが得られる官僚・政治家・業界など多くの関係者が喜ぶ個別対策は、メンバーが近視眼的利益にのみ反応する世界では多数に好まれ、実現する(16)。妙に安定的な「愚民均衡」が方々で成立する。全体の効率性やよりよい調整の可能性は「近視眼的視野」の外にあり、検討の対象にならない。
さて、子ども1人にひと月2万円補助するとして、「教育クーポン」や衣料、食糧などの「現物給付」よりも、同額の現金の方が個々の家庭で最も有効な目的に使える。従って、受け取った側の効用はより大きい(厳密には「決してより小さくならない」)はずだ(17)。給付のコストも小さいだろう。
国民の支出に対して政府は余計な介入をしない方がいい。補助するなら国民を信じて現金を渡そう。
ところで、ベーシックインカムをはじめとする現金給付政策に対して、「財源がない」という反対があるのはどうしたことか。追加で現金を配っているのだから課税できる対象が必ずある(18)。
仮に国民へ一律に7万円配るとしよう。所得の下半分の国民に4万円、上半分に10万円課税したらどうなるか。財政収支はプラスマイナスゼロで、上半分の国民から下半分の国民に3万円移転する効果が生じる。
もちろん、マイナンバーで所得を把握してこの「差額の移転」のみを行うことも理屈上できるが、「一律給付+貧富差を課税で調整=再分配」ならIT化が遅れているわが国でも導入可能だ。
後述のように同様の課税を給付と同時に「直ちに」行うのが適切だとは限らないが、長期的な状態において「財源はある!」。思うに、ベーシックインカム導入を主張する人は、時々のマクロ経済対策と話を混ぜないで、「ベーシックインカムと財源の話」を独立させて説く方が分かってもらいやすいのではないか。
【「財政」のあれこれ】 に関わる6つの命題
19. 個別の支出に個別の財源を対応させる論法が財政の非効率を生む
20. 財政収支の正負大小は経済環境によって調節されるべきで一定ではない
21. 国が支出を決めなくても減税や現金給付で財政赤字の供給は可能だ
22. 財政赤字供給のあるべき「不足」と「過剰」はインフレ状況で区別できる
23. 雇用にも物価にも金融政策と財政政策の一方だけで対応する必要はない
24. 財政赤字は国債も相続されるので世代を越えた負担にはできない
2022年は内外の中央銀行の金融政策が注目されたが、その背後で財政が重要なテーマだったと筆者は考えている。そして、日本の財政はあまりに非効率的なのだが、その仕組み自体が論じられることが少ない。
さて、お金に色は着いていない。その柔軟性こそがお金の長所だ。だが、財政の運営はこの長所を殺そうとするのだからもったいない。例えば、社会保障(増)=消費税(増)、防衛費(増)=所得税(増)のように、個別の支出に対して個別の財源を対応させるやり方は財務マネジメントとして硬直的に過ぎる(19)。
また、財政にはマクロ経済の調節機能がある。財政収支の大きさは経済環境に応じて調節すべきであって、個別の支出が税金で賄われるか国債でファイナンスされるかは時により異なる(20)。一律に「○○費は××税を財源とすべきだ。国債で賄うのは無責任だ」と言い張るような議論はマクロ経済に対して無責任であり、硬直的で不毛だ。
国の債務残高やその中で貨幣化された「マネー」の分量は時々に調節されるべきだが、経済成長と共に大きくなっていくのが自然だ。国の債務とマネーを供給することは財政(と中央銀行)の任務だが、財政赤字の追加的な供給の手段は、国が支出の中身を決める「財政出動」である必要はない。減税や現金給付など、国民に支出の内容(ひいては付随する資源配分)を決めてもらってもいい(21)。
この点は、しばしば盲点に入りがちで、財政赤字や財政支出の金額の国内総生産(GDP)比は現金給付で大きくても、政府が支出の内容に関わらないという意味で、「大きな支出で、小さな政府」が成立し得る。
大まかには、インフレを目指す場合には財政赤字の追加的供給が必要で、特に政策金利ゼロまで金融緩和を行ってしまうと、マネーを有効に増やすためには財政の協力が必要だ。他方、インフレを抑制するには財政を引き締める(赤字を減らしたり、黒字にしたりする)必要がある(おそらく今の米国には必要な政策だろう)。財政赤字の供給過剰の主な副作用はインフレだ。インフレ率が高すぎる場合には財政を引き締めたらよく、そのためのめどとしてインフレ目標がある(22)。
いわゆる政府と日銀のアコード(政策合意)にあっては、財政側をマクロ経済運営に協力させることの必要性こそが大きいのではないか。いずれにしても、景気や雇用の対策にも物価対策にも、「金融政策のみ」あるいは「財政政策のみ」を割り当てなければならないということはない。両者の組み合わせを使うことが必要であり自然だ(23)。
ところで、時に財政赤字について「将来世代に負担を先送りすることはできない」と叫ぶ政治家がいるのは困ったものだ。国債は将来税金で償還しなければならないかもしれないが、他方将来の税金の負担者の中には資産としての国債の持ち主(相続でもらった次世代かもしれないが)いる。そうであるから、国債が国内で消化されていたら「将来世代全体としては」世代内で貸し借りの清算が行われるだけで負担が増えるわけではない(24)。
損得は発生するかもしれないが(国債の保有者は例えば将来予想外のインフレになると実質的に損をするし、その逆もある)、それは将来の課税や再分配で調整可能だ。大きな声では言えないが、「将来世代へのツケ回し論」を大っぴらに言うか否かを、政治家の知能テスト代わりにするといい。
【国としての日本のリアルな形】 に関わる6つの命題
25. 日本は米国の意思を権威と仰ぐ「ソフトな権威主義国家」だ
26. 現状の日本は日本人が自由に自己決定できる国ではない
27. 大砲を独占すると「大砲もバターも」独占できる
28. 日本国憲法には「子会社の定款」のような拘束力と有用性とがある
29. 国の管理職である官僚は大金持ちの強化も経済的弱者の救済も好まない
30. 「手による投票」も大事だが、真に有効なのは「足による投票」だろう
昨年はウクライナで戦争が始まって、国というものについて考える機会が増えた。好き嫌いを排して現実的に考えたい。
日本は、建前として自由な言論と選挙制度を持っている自由な民主主義国家だ。しかし、実質的には独裁者の代わりに米国の意思を権威と仰ぐ「ソフトな権威主義国家」なのだと理解しておくと物事の見通しが良くなる(25)。
ウクライナ戦争は米国の軍産複合体にとって、米国人の血を流さない軍需創出を可能にした新しいビジネスモデルの成功例となった。そして、日本はこれに呼応して、防衛予算のGDP比2%への倍増と敵基地攻撃能力の保持をすんなり決めた。仮に政党ベースで政権交代があっても、実質的に米国の支配下にある体制に変化はあるまい。日本は事実上、体制や国としての大きな行動方針を自分では決められない(26)。
日本が米国に追従する以外に当面の選択肢がない理由は、軍事力を米国に依存しているからであり、軍事的な自立が不可能だからだ。前の戦争の負け方が響いている(今の国民には「サンクコスト(埋没費用)」なので仕方がない)。「大砲か、バターか」は軍事と民生のバランス選択に関する古い例えだが、大砲で圧倒すると、他人のバターも自分の支配下に置くことができるという嫌な現実に気が付く(27)。
日本は日米地位協定の支配下にあり、良くも悪くも米国の子会社のような存在だ。日本国憲法は、子会社の運営について定めた「子会社の定款」のような存在だ。「押しつけられた憲法だ」というのは、その通りなのだが、子会社の社員(=日本国民)としては「親分(=米国)、定款を変えてくれないと、われわれは直接戦争には行けないのです」と言い訳できる楯のような有用性が存在する(28)。
時間稼ぎくらいには使えるだろうから、「方便として護憲派になる」という選択肢もある。ただし、「解釈改憲で何でもできる」との悪知恵もあるし、選挙の有権者数のかたよりのように違憲でも実行して開き直るという方法もある。将来世代には「時間稼ぎにしかならないと思っておけ」と言っておきたい。
日本という国を実質的に動かしているのは、弱体化しつつあるとはいえ官僚組織だろう。政治家はシンクタンク機能を欠いた投票装置にすぎないし、メディアは官僚と同質のサラリーマンなので根本的な批判機能は持っていない。そして官僚組織は、経済の上層が活性化して羽振りのいい金持ちが大いにもうけることが嫌いだし、下層に対して手厚く再分配を行うことも好まない(努力と生産性が不足していると思っているのだろう)。
つまり、「セーフティーネット構築を前提とした自由競争による経済活性化」は起こりそうにない(29)。この状況は「愚民均衡」(16)的な構造によって強固に支えられているので、変えることが極めて難しい(不可能だと断言はしないが、解決策は提示できない)。
日本にあって、建前上は選挙を通じて社会を変えることができる。しかし、国のシステムと運営を根本的に変えることはあまりにも難しい。「手による投票」による選挙権は使える限り有効に使うといいので投票には行くべきだが、影響力に大きな期待はできない。個人として無駄が小さくかつ社会に対しても有効なのは、海外移住、国内移住、転職、ライフスタイルの変更など、広義の「足による投票」の方だろう(30)。
個人としては、日本をより良くする機会を求めつつも、仕事、人間関係、資産、生き方などのフットワークを強化しつつ日本と現実的に付き合いたい。
最後に一つ付け加える。筆者は、脱日本や海外投資を推奨したいと思っているわけではない。現在の「安いニッポン」には、個人や企業がお金、時間、努力などを「投資」する上でむしろ大きなチャンスが存在しているように思う。
●外務省が創設する防衛装備品支援事業の危うさ  1/4
外務省は2023年度予算で、民主主義などの価値観を共有する「同志国」との安全保障上の協力を深化させるためとして、相手国の軍に防衛装備品や物資の提供を行う新たな国際協力の経費20億円を初めて盛り込む。開発途上国の貧困対策などを目的とした従来の政府開発援助(ODA)とは別の新たな無償資金協力の枠組みで、提供する装備品の候補として防弾車や沿岸監視用レーダーなどが検討されているもようだ。
防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転3原則」に基づき、「国際紛争との直接的な関連が想定しがたい分野に限る」という条件をつけたうえで、今後、実施方針を定めるという。
この支援事業は22年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」に盛り込まれた。「同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上」を目的としたもので、「総合的な防衛体制の強化のための取り組みの1つ」と説明されている。
ODA予算でも、これまでに東南アジア諸国に巡視船や沿岸監視用レーダーなどを供与してきた実績がある。だが、「非軍事原則」により相手国の軍との直接の協力関係を結ぶことが難しいという制約があるため、今回、別のルートを設ける。国際協力を通じて、日本企業が製造した防衛装備品の移転を推進するという狙いもある。
人権弾圧に悪用の懸念も
だが、こうした支援事業については、途上国支援に関わるNGO(非政府組織)などから危惧の声が上がっている。ODAなど開発協力のあり方を議論する外務省の懇談会で委員を務める稲場雅紀氏(特定非営利活動法人アフリカ日本協議会共同代表)は、「日本が掲げてきた国際協力における『平和主義』の原則を掘り崩すことになりかねない」と懸念する。
稲場氏は「日本が同志国と認めて防衛装備品などを供与する対象国には、非民主的な国が含まれる可能性もある。日本が供与した資機材が市民への弾圧などに用いられない保証はない」と説明を続ける。
12月16日の記者会見で林芳正外相は「いずれの国が『同志国』に当たるのかについては、日本と目的を共にするかといった観点から個別に判断しているところである」とし、明確にしなかった。
ただ、国家安全保障戦略などの政府文書によれば、インド太平洋地域における平和と安定を確保するという理由から、同地域で中国などの進出を抑止するうえで連携が期待できる国などが対象になりそうだ。
支援事業の多くの問題
いったん供与すると、適正使用のモニタリングが難しいといった問題もある。すでにこれまでODAによって供与した資機材が軍事利用されたと疑われているケースもある。最近では、17年から19年にかけミャンマーに供与された旅客船3隻のうち2隻を、軍事クーデターを起こして政権を奪取したミャンマー国軍が軍事目的に利用したという指摘がなされている。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、独自に入手したミャンマー当局の文書には、22年9月に旅客船が100人以上の軍人と物資を戦闘状態にあるラカイン州で移送したことが記されているという。この問題については同NGOの指摘からすでに2カ月以上も過ぎているにもかかわらず、外務省は「事実関係について確認が取れていない」という。
今後、相手国の軍に直接、防衛装備品が供与されるようになれば、誤って利用されるリスクは今までにも増して大きくなる。外務省によるモニタリングが機能する保証もない。装備品提供の新たな支援事業は多くの問題を抱えている。
●23年県内政局展望 軍備増強の流れに対峙を 1/4
平和な沖縄を願う県民の声を国政に届けるという意味において、2023年は重要な一年となる。南西諸島の軍備増強がこのまま推し進められれば、基地負担は増大し、県民の生活は深刻な打撃を受けるからだ。危機感をあおって強行される軍備増強の流れにどう対峙(たいじ)するか、県内政党の真価が問われる。
政府与党が主導した安保関連3文書の改定で敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が明記された。防衛費倍増も決まった。ことしの政局は防衛費増額に伴う増税が論戦の柱になるとの報道各社の見立てもある。
軍備増強の財源に焦点が移っているとの見方にも取れるが、沖縄の実情に照らしても強い違和感を拭えない。外交努力を尽くして緊張を緩和し、地域の安定を図るのが平和国家の役割ではないのか。
ロシアのウクライナ侵攻や中国の海洋進出、北朝鮮の動向が軍備増強の理由に挙がるが、有事をあおることに終始し、戦後一貫して守った平和国家の国是を曲げるような防衛政策の大転換に関する論戦は低調だった。
米軍基地の集中する沖縄においては、自衛隊の増強によって基地負担が増幅される。ミサイル基地などを置くことによって、諸外国から狙われることになるのではないかとの懸念が強まるのは当然のことだ。
石垣市議会は市内の駐屯地内に配備が見込まれる長射程ミサイルに関して意見書を可決した。「専守防衛のための自衛隊配備」とのこれまでの説明とは異なっているとして十分な説明を求めるものだ。背景には市民の間に不安が高まっていることがある。
通常国会は1月下旬召集予定だ。県民の不安を一顧だにしない審議に終始し、県民生活に逆行するような施策や予算が素通りするようなことがあってはならない。沖縄の民意を体した論戦を県選出・出身国会議員に強く求めたい。
国政では4月に統一地方選、衆院補欠選が控えるが、ことし県内では全県選挙の予定がない。来年の県議選に向け、県内各党は党勢拡大や政策の浸透を図る大事な一年になる。
昨年の県内選挙では、執行された7市長選で自民・公明陣営が全勝した。対抗する「オール沖縄」は知事選と参院選に勝利し、互いに影響力を保った。
有権者にとって身近で切実な問題である貧困や生きづらさといった暮らしの課題を解決する政策を打ち出す努力が各党に求められる。
「誇りある豊かさ」の実現に向け、生活者の視点から政策を組み立ててもらいたい。
日本復帰から半世紀が過ぎ、新たな50年を刻み始める年でもある。50年後の沖縄を見据えた大局的な政策論争を展開する必要もある。
各党ともに復帰100年の沖縄を展望した活発な論議を望みたい。
●令和の「空洞首相」は政権危機をどう乗り切るか? 2023年の政局を読む 1/4
昨年7月、参院選期間中に起きた安倍晋三元首相銃撃事件は永田町の景色を一変させた感がある。安倍氏の急死で生じた「権力の空白」は今も埋まらず、オウンゴールの連発で迷走を続ける岸田文雄政権を前に、野党側も明確な対立軸を打ち出せずにいる。不透明感を増す政局の行方を、岸田政権発足時から定点観測を続けてきたノンフィクション作家の塩田潮氏に占っていただいた。
耐用年数10年を超えた自民党政権
2023年が始まった。自民党政権の復活は12年12月26日で、満10年が過ぎた。当時の石破茂幹事長が後にインタビューで「何があっても最低10年は政権を維持しなければ」と語った。その言葉が今も耳に残っている。石破氏は「自民党政権の賞味期限は最低でも10年」と唱えたが、そのとき、復活した自民党政権の耐用年数も10年かも、と勝手に思った。
耐用年数の10年目という場面で政権を担っているのが現在の岸田文雄首相である。ところが、22年9月、内閣支持率の低迷が始まった。時事通信調査で、8月は44.3%だったのに、9月は32.3%、10月に27.4%に落ちた後、12月までずっと30%以下が続いている。
岸田首相は21年10月の就任後、衆参の選挙を乗り切った。「与党1強」を維持し、政権基盤は盤石のように見えるが、実際は青息吐息で、賞味期限切れ寸前という見方も多い。
就任以来、22年7月の参院選までの10カ月は、計画どおり安全運転第一で、「不挑戦・課題先送り」に徹した。参院選後に初めて「政権の自前走行」に踏み出した途端、「裸の実力」が露呈した感がある。掲げた「新しい資本主義」は生煮えの看板倒れ、政権運営力も危機対応力も未熟で、首相としての条件と資質を疑問視する国民が急増した。
宏池会出身首相の巡り合わせ
岸田首相が安全運転第一を続けていた22年前半、皮肉にも内外で「戦後初」という大きな異変が発生した。「内」では戦後初の元首相射殺事件、「外」では第2次世界大戦後初の核兵器保有大国の隣国軍事侵略となるロシアのウクライナ侵攻が起こった。
過去に同じく最大派閥の長だった田中角栄元首相が突然、病気で永田町から姿を消し、自民党内の権力構造が大きく変化するという事例もあったが、誰も予期しなかった暗殺・退場による「権力の空白」と、以後の政権の漂流は、初めての出来事である。
岸田首相のウクライナ危機との遭遇も、不思議な歴史の巡り合わせと背中合わせだ。岸田首相は1993年退任の宮沢喜一元首相以来、28年ぶりの「宏池会首相」である。「保守本流・経済重視・軽武装」が理念の派閥・宏池会(岸田派)の会長として、池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮沢の各氏に次いで5人目の首相となった。
歴史の巡り合わせとは、安全保障問題で伝統的に「平和外交・リベラル」が基本路線の宏池会の首相が、なぜか旧ソビエト連邦・現ロシアによる「安保危機」とぶつかるという因縁だ。古くは62年に旧ソ連がキューバ危機を引き起こしたとき、日本は池田首相だった。79年のソ連のアフガニスタン侵攻は大平首相時代に始まった。宮沢首相の91年、ソ連が崩壊してウクライナが独立した。さらに岸田首相の2022年にウクライナ戦争が勃発した。
現実主義か、場当たり対応か
岸田首相は安倍晋三内閣の時代、専任外相として戦後最長在任記録を残した。その経験から、自身の武器は「岸田外交」という自負がある。他方、17年暮れ、インタビューしたとき、「軽武装、経済重視が宏池会の理念と言う人がいるが、その時代に徹底した現実主義を貫いた結果と思っている。イデオロギーや主義主張にとらわれず、時代の変化に応じて徹底した現実主義で」と自ら語った。
「自前走行」に転じて5カ月後の22年12月16日、岸田首相はウクライナ危機や中国の膨張主義への備えなどを視野に、戦後の防衛政策の大転換を決めた。国家安全保障戦略(NSS)など、安保3文書を閣議決定し、敵基地攻撃能力(文書では「反撃能力」)の保有と、向こう5年間の防衛費の 1.5倍増への拡大などを明記した。専守防衛による平和主義が基本方針だった戦後の安保政策を大きく変更する決断を行った。
首相にすれば、自身の武器の「岸田外交」と、宏池会流の「時代の変化に応じて徹底した現実主義」に基づく対応、と自任しているのかもしれない。対して、一方で現実主義という名の無原則の状況順応主義、実態対応優先の後追い型政治という批判も強い。
岸田流の現実主義政治は、安保や防衛の問題に限らず、政権運営と各種の政策決定で、場当たり主義というマイナス面が色濃く表れる形となっていると映る。政権漂流は「権力の空白」の下での首相の空念仏と空振りによる空回りが原因ではないか。
政権の空転が続くのは、実質的権力を掌握していない「空洞首相」という素顔が露呈した点が大きいと思われる。岸田首相は就任前、自民党国会対策委員長、外相、政務調査会長などを経験したが、政権運営と与党操縦の中枢を担う内閣官房長官、官房副長官、自民党幹事長はすべて未体験だった。1960年代以降の21人の自民党首相では、超短命だった宇野宗佑氏、「自民党をぶっ壊す」と言った小泉純一郎氏と岸田氏の3人だけだ。
岸田流政治は霞が関の官僚機構への依存が目立つ。官僚主導型は宏池会政治の特徴という側面だけでなく、岸田首相の場合、本質的に政権運営や権力行使の実質に対する理解が乏しいのも影響しているという分析もある。その結果、国民の間に「期待外れ、役立たず、ご用済み」という失望感が広がったのが支持離れの要因と見て間違いない。
1998〜2000年に在任した小渕恵三元首相は「空洞首相」という冷評を逆手に取って、重心の低さを武器に何でものみ込んで実績を上げ、「真空総理」と評判になった。岸田首相は23年、「空洞首相」の壁を克服して長期政権の基盤を確立できるかどうかの正念場だ。
2度あることは3度ある?
一方、野党側も10年ぶりというこの政権漂流を見逃さなかった。長らく「水と油」だった野党第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が、22年秋の臨時国会で「呉越同舟」の国会共闘に舵を切った。野党側には「非自民・非共産」による勢力結集を待望する声も強いが、将来の選挙共闘を含めた新野党体制作りは簡単ではない。
国民の間には、実際には「政権交代可能な政党政治の復活」を望む声は小さくないが、現実には「自民1強」の突破、つまり自民党の過半数割れが生じない限り、政権交代は起こりえない。それには野党側による与党分断の成否がかぎとなる。
実は今、分断の起爆剤となりそうな大きなテーマが目の前に横たわっている。安保政策、それと背中合わせの防衛予算と財源としての増税対策、その根幹の憲法問題の3点だ。
そんな潮流の中で、最も気になるのは岸田首相の23年の取り組みである。真っ先に必要なのは政権の立て直しだ。危機突破策として、23年1月の通常国会開会前の内閣改造説、一点突破で政局転換を図るための衆議院の「リセット解散」説がささやかれている。それどころか、4月の統一地方選挙前の首相交代説という憶測も流れる。
実際には衆参与党多数という形を手にしている岸田首相は、奇手奇策は選択せず、おそらく「忍」の一字で、当面の課題を処理しながら、5月開催の広島サミット(主要先進国首脳会議)に臨み、それを転機に再浮上という正攻法で危機突破を図る作戦だろう。最大の問題は、民意がどこまで気長に岸田首相に政治を託し続けるかだ。
「政治の節目の年」という意味で、23年はもう一つ、自民党の野党初転落の1993年から数えて30年目に当たる。その間、自民党は野党を2度、経験した。「2度あることは3度ある」という言葉があるが、23年以降、3度目の下野が起こるかどうか。
岸田首相が「現実主義」という名の下で、表面を糊塗するだけの後追い・先送り政治に終始するなら、民意は本気で「政権交代可能な政党政治の復活」に動き出す可能性がある。「2度あることは3度」で、3度目の自民党下野という展開もゼロとは言い切れない。
●日本経済再生 大きく賃上げへ踏み出す年に  1/4
日本経済は、物価高という新たな課題を抱えて今年を迎えた。経済環境の変化を的確に捉えた政策と、企業の意識変革が問われる1年となる。
日本はデフレに苦しみ、過去10年、毎年の消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率を平均すると0・5%に届かなかった。
ところが、昨年11月は前年同月比で3・7%上昇し、第2次石油危機の影響が残る1981年12月以来の高い伸び率となった。
「国際分業」は岐路
企業同士が売買するモノの価格動向を示す企業物価指数は、11月に9・3%上がっている。原材料価格の高騰ぶりを示しており、物価の上昇圧力はなお強い。
そうした動きの背景には、世界的な経済構造の変化があることに留意する必要がある。
世界経済は得意分野を補い合う国際分業で発展してきた。人件費の安い中国が「世界の工場」として成長したのが典型例だ。日本も資源など多くを輸入に頼る。それは自由貿易が前提となる。
だが、米中対立で自由貿易体制が揺らいだ。追い打ちをかけたのがロシアのウクライナ侵略である。供給網の分断で、安価なものを世界中どこからでも買える状況ではなくなりつつある。影響は長引くことが想定される。
物価高の中で人々の収入が伸びなければ、消費が落ち込み、コロナ禍からの回復途上にある景気が失速しかねない。それを防ぐには賃上げが不可欠だ。
今春闘が焦点となる。連合は賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)3%を含めて5%程度の賃上げを要求するという。特にベアは賞与や退職金にも反映され、賃上げを実感しやすい。物価上昇に見合うベアが重要だ。
海外と比べて賃金が伸び悩み、日本の平均賃金は主要先進国の中で最低水準となった。各企業の横並び意識が強く、好業績の企業も経営が厳しい他企業に配慮し、賃金上昇を抑える傾向があったことが一つの要因だろう。
横並びからの脱却を
好調な企業は率先して賃上げを行い、全体を 牽引けんいん すべきだ。
政府は以前から、賃金を引き上げた企業に対する税制優遇などを実施しているが、成果を上げたとは言い難い。赤字企業や収益力が低い企業にとっては、活用の機会が限られるとの指摘がある。
企業のニーズも精査し、広く恩恵が届く施策を講じてほしい。
日本企業は利益の蓄積である内部留保をため込み、500兆円を突破した。過去10年で200兆円以上増えている。先行き不安もあって、賃上げや設備投資を手控えてきた結果であろう。
脱炭素やデジタル化の進展で企業の経営環境も変化が激しい。だからこそ今、積極的な投資で成長を確かなものにすべきだ。
日本銀行の金融政策の行方も今年の大きな注目材料となる。
金融政策は転換の時か
黒田東彦総裁は4月に退任する見通しだ。黒田氏は2%の物価上昇率目標を掲げ、異次元の金融緩和を続けてきた。当初は為替を円安に導き、企業業績と株価を押し上げるなどの成果を上げた。
しかし、緩和の長期化で超低金利による銀行の収益力低下など副作用が目立ってきた。最近は米国の利上げに反して緩和を維持したため日米の金利差が広がり、過度な円安が進んで物価高を加速させていると批判された。
それでも、黒田氏は金融緩和の見直しを否定してきたが、昨年12月に突然、長期金利の変動幅拡大を容認し、政策を修正した。事実上の利上げと受け止められた。
市場では、金融緩和が転換されるとの見方が広がっている。総裁交代を機に論議が活発化する可能性が高い。新総裁には、緩和策の効果と副作用を点検し、政策を柔軟に運営することが望まれる。
国の財政悪化が深刻だ。新年度予算案は、一般会計総額が当初予算で初めて110兆円を超えた。約69兆円を見込む税収を大きく上回る規模で、3割以上を国債発行に頼る状況が常態化している。
国の長期債務残高は1000兆円を上回る。借金は将来世代へのつけ回しにほかならない。
防衛費や社会保障費に加え、脱炭素や少子化対策にも多くの支出が必要だ。むだな事業を徹底的に洗い出し、歳出構造を再構築する時ではないか。国会による予算のチェック機能強化も求めたい。
今後は日銀の政策修正による金利上昇で、国債の利払いに充てる国債費が増える恐れがある。財政再建にどう取り組むか、国民的な論議に着手することが急務だ。 
●岸田内閣総理大臣年頭記者会見 1/4
【岸田総理冒頭発言】
皆さん、明けましておめでとうございます。
冒頭、この年末年始、大雪と災害に見舞われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。引き続き各自治体と連携しつつ、国としても万全の対策を採ってまいります。
先ほど私は伊勢神宮に参拝し、国民の皆さんにとって今年がすばらしい1年になるよう、また、日本、そして世界の平和と繁栄をお祈りしてまいりました。
今年の干支(えと)は、「癸(みずのと)卯(う)」です。「癸卯」の「癸」は、十干の最後に当たり、一つの物事が収まり、次の物事へ移行する段階を、そして「卯」は、「茂(しげる)」を意味し、繁殖する、増えることを示すと言われています。この両方を備えた「癸卯」は、去年までの様々なことに区切りがつき、次の繁栄や成長につながっていくという意味があると言います。
私は、本年を昨年の様々な出来事に思いをはせながらも、新たな挑戦をする1年にしたいと思います。
今、世界、そして日本は、経済についても、国際秩序についても歴史の分岐点を迎えています。政権をお預かりして1年3か月、この時代の大きな転換期にあって、未来の世代に対し、これ以上先送りできない課題に正面から愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出していく、それが岸田政権の歴史的役割であると覚悟し、政権運営に臨んでまいりました。
この覚悟の下で取り組んだのが、国際社会が分断し、急速に安全保障環境が厳しさを増す中で、国民の命や暮らしを守るために待ったなしの課題である、防衛力の抜本的強化、エネルギーの安定供給のためにも、多様なエネルギー源を確保するためのエネルギー政策の転換とGX(グリーン・トランスフォーメーション)の実行、さらには、日本における第二の創業期を実現するためのスタートアップ育成5か年計画、資産所得倍増に向け、長年の課題であったNISA(少額投資非課税制度)の恒久化など、先送りの許されない課題でした。昨年に引き続き、本年も覚悟を持って、先送りできない問題への挑戦を続けてまいります。
特に、2つの課題、第1に、日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動する。第2に、異次元の少子化対策に挑戦する。そんな年にしたいと考えています。
この30年、世界では、グローバル化の進展とともに、マーケットも生産・製造も物流も一体化が進んできました。そして、我々は世界の一体化とともに、垣根が取り払われ、平和と繁栄を手にできると信じてきました。しかし、現実には、格差の拡大、地球環境問題などの課題の深刻化に直面しています。また、権威主義、国家資本主義的な国々と、自由主義、資本主義を掲げる我々民主主義国家との対立を深刻化させています。我々は、協力と対立、協調と分断が複雑に絡み合う、グローバル化の第二段階に入ったと認識しなければなりません。
グローバル化を利用し、コストの安い国に工場を移すことが効率的だ、グローバル化で拡大するマーケットを低価格の商品、サービスで確保することが先決だ、企業の利益を上げるため、賃金や研究開発、設備投資等もできるだけ抑えよう、こうした考え方を私たちは、言わば常識として信じてきました。
しかし、グローバル化の第2弾とも言える国際社会の現実を前に、我々は正にこの常識への挑戦を求められています。コロナ禍でマスクや半導体の不足に直面したように、生産拠点の海外移転は国の安全保障にまで影響を与えています。安売り競争に勝つための強力なコストカットにより、人への投資が十分になされず、賃金も上がらず、さらに、研究開発投資等も抑制された結果、新たな価値創造も停滞し、日本企業は競争力を失う一方で、現預金は増え続けてきました。
こうした現実を前に、今こそ我々は新たな方向性に踏み出さなければならない。私の掲げる新しい資本主義はそのための処方箋です。新自由主義的発想から脱却し、官と民の新たな連携の下で、賃上げと投資という2つの分配を強固に進め、持続可能で格差の少ない、力強い成長の基盤をつくり上げていきます。そのためには、成長と分配の好循環の中核である賃上げを何としても実現しなければなりません。企業が収益を上げて、労働者にしっかり分配し、消費が伸び、企業の投資が伸び、更なる経済成長が生まれる。こうした経済の好循環が実現されて初めて国民生活は豊かになります。しかし、この30年間、企業収益が伸びても、期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった。私はこの問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくります。
今年の春闘について、連合は5パーセント程度の賃上げを求めています。是非、インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたいと思います。政府としても、最低賃金の引上げ、公的セクターで働く労働者や政府調達に参加する企業の労働者の賃金について、インフレ率を超える賃上げが確保されることを目指します。
そして、この賃上げを持続可能なものとするため、意欲ある個人に着目したリスキリングによる能力向上支援、職務に応じてスキルが正当に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給の確立、GXやDX(デジタル・トランスフォーメーション)、スタートアップなどの成長分野への雇用の円滑な移動を三位一体で進め、構造的な賃上げを実現します。本年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめ、働く人の立場に立って、三位一体の労働市場改革を加速します。
もちろん女性の積極登用、男女間賃金格差の是正、非正規の正規化なども経済界と共に進めていきます。また、女性の正規雇用におけるL字カーブや、女性の就労を阻害する、いわゆる103万円、130万円の壁などの是正にも取り組んでまいります。
官民連携でのこうした取組を通じて、実質賃金の上昇が当たり前となる社会、そうした力強い経済の実現を目指します。賃上げはコストだという時代は大きく変わり、能力に合った賃上げこそが企業の競争力に直結する時代になっています。賃上げによる人への投資こそが日本経済の未来を切り開くエンジンとなります。
加えて、重要な2番目の柱が、国内での研究開発投資や設備投資による日本企業の競争力強化です。一部の権威主義的国家は、サプライチェーンを武器として使い、外交上の目的を達成するために経済的威圧を使うようになりました。もはやコストが安いというだけで海外に生産を依存するリスクを無視できません。そして、世界では、官民連携の下での投資促進によって、技術力、競争力を磨き上げる熾烈(しれつ)な競争が起こっています。今こそ、国内でつくれるものは国内でつくり、輸出する、また、研究開発投資、設備投資を活性化し、付加価値の高い製品サービスを生み出す、日本の高度成長を支えたこうした原点に立ち返るときではないでしょうか。
そのために、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、企業に対して期待成長率をはっきりと示すことで企業の投資を誘引していく、そうした官民連携が不可欠です。官民合わせて150兆円のGX投資を引き出す成長志向型カーボンプライシングによる20兆円の先行投資の枠組みは、その先行事例の一つです。今後、半導体、人工知能、量子コンピューター、バイオ技術、クリーンエネルギーなど、次世代の経済を支える戦略産業について強固な官民連携を打ち立て、国内で大胆に投資を進めていきます。
こうした新たな官民連携の成否を最終的に決める鍵は、民間のアニマルスピリットです。幸い、我が国には、社会課題を解決しよう、社会変革を促そう、世界に打って出よう、挑戦の心を持った方々が多数おられます。そうした方々の挑戦を妨げる規制は、断固、改革していきます。また、皆様が失敗を恐れず果敢に挑戦できるよう、昨年決定したスタートアップ育成5か年計画を着実に実行していきます。その中でも、日本をスタートアップのハブとするため、世界のトップ大学の誘致と参画による「グローバルキャンパス構想」を本年、具体化していきます。
そして、今年のもう一つの大きな挑戦は少子化対策です。昨年の出生数は80万人を割り込みました。少子化の問題はこれ以上放置できない、待ったなしの課題です。経済の面から見ても、少子化で縮小する日本には投資できない、そうした声を払拭しなければなりません。こどもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転させなければなりません。本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において必要とされるこども政策を体系的に取りまとめた上で、6月の骨太方針までに将来的なこども予算倍増に向けた大枠を提示していきます。
しかし、こども家庭庁の発足まで議論の開始を待つことはできません。この後、小倉こども政策担当大臣に対し、こども政策の強化について取りまとめるよう指示いたします。対策の基本的な方向性は3つです。第1に、児童手当を中心に経済的支援を強化することです。第2に、学童保育や病児保育を含め、幼児教育や保育サービスの量・質両面からの強化を進めるとともに、伴走型支援、産後ケア、一時預かりなど、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充を進めます。そして第3に、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実です。女性の就労は確実に増加しました。しかし、女性の正規雇用におけるL字カーブは是正されておらず、その修正が不可欠です。その際、育児休業制度の強化も検討しなければなりません。小倉大臣の下、異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現するべく、大胆に検討を進めてもらいます。
以上、今年は、賃上げ、投資促進、子育て支援強化に全力で取り組みます。賃金が増え、日本企業が強くなり、子供が増える、そんな社会を次の世代に引き継いでいきます。
そして、この伊勢の地を訪れるたびに思い出すのは、7年前の伊勢志摩サミットです。G7議長としての安倍(元)総理の卓越したリーダーシップの下で、世界経済の安定化、海洋秩序の維持など、多くの成果が上げられました。7年の時を経て、本年、再び我が国はG7議長国を務め、5月にはサミットを開催します。今年の開催地は広島です。ロシアのウクライナ侵略という暴挙によって国際秩序が大きく揺らぐ中で、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜くため、そうしたG7の結束はもとより、G7と世界の連帯を示していかなければなりません。同時に、対立や分断が顕在化する国際社会をいま一度結束させるために、グローバルサウスとの関係を一層強化し、世界の食料危機やエネルギー危機に効果的に対応していくことが求められます。
また、世界経済に様々な下方リスクが存在する中で、G7として世界経済をしっかりと牽引(けんいん)していかなければなりません。さらに、感染症対策や地球温暖化問題などの地球規模課題においてもリーダーシップの発揮が求められます。そして、ロシアの言動により核兵器をめぐる深刻な懸念が高まる中、被爆地広島から世界に向けて、核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージを発信してまいります。こうした考えの下、まずは、諸般の事情が許せば、1月9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国を訪問し、胸襟を開いた議論を行う予定です。G7サミット議長として今年1年強いリーダーシップを発揮してまいりたいと思います。
このうち、米国バイデン大統領との会談は、G7議長としての腹合わせ以上の意味を持った大変重要な会談になると考えています。我が国は年末に安全保障政策の基軸たる3文書の全面的な改定を行いました。そして、それを形あるものにする防衛力の抜本的強化の具体策を示しました。これを踏まえ、日本外交、安全保障の基軸である日米同盟の一層の強化を内外に示すとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた更に踏み込んだ緊密な連携を改めて確認したいと思います。
最後に、新型コロナウイルス対応について申し上げます。
年末年始、基本的な感染防止対策、適切な換気、さらにはワクチン接種など、国民の皆様に多大な御協力を頂き、ありがとうございます。まだ安心できる状況にはありませんが、こうした皆様の御努力を力に変えて、足元の感染状況に十分注意しながら、いわゆる第8波を乗り越え、今年こそ平時の日本を取り戻してまいります。そして、今後いつ襲ってきてもおかしくない感染症に適切に対応するため、感染症危機管理統括庁や、いわゆる「日本版CDC」の設置などのための法案を次期国会に提出いたします。引き続き、国民の皆様の御協力をお願いいたします。
なお、中国本土からの入国者に対する年末年始の検査結果や各国の水際措置を踏まえ、臨時的な措置を強化します。8日より中国本土からの入国者の検査を抗原定量又はPCR検査に切り替えるとともに、中国本土からの直行便での入国者に陰性証明を求めることとします。あわせて、検疫に万全を期するため、中国本土便の増便について必要な制限を引き続き行うことといたします。詳細は担当部局より公表いたします。
今年は4月に統一地方選挙があります。国民に最も近い地方自治体における選挙は、我が国民主主義にとって非常に重要な選挙です。デジタル田園都市国家構想を進め、地方創生につなげていくためにも、与党としてもしっかりとした成果を出してまいりたいと思います。
結びに、国民の皆様にとって本年が実り多い1年になりますことを心から御祈念申し上げて、年頭に当たっての御挨拶とさせていただきます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
【質疑応答】
(内閣広報官) それでは、これから記者の皆様より御質問いただきます。御質問される方は挙手の上、社名とお名前を明らかにしていただいた上で質問をお願いいたします。それでは、まず内閣記者会の代表の方から御質問をお願いいたします。
(記者) 西日本新聞の岩谷です。総理、明けましておめでとうございます。さて、岸田政権は昨年、政治とカネや、旧統一教会をめぐる問題で短期間に相次いで閣僚が辞任するなどし、内閣支持率も低迷したまま年明けを迎えました。重要課題が山積する中、今月、通常国会を迎えます。何を政権の最優先課題として国会に臨み、そして政策を進めていくのか、お考えをお聞かせください。また、総理は、防衛増税が段階的に実施される前には衆議院選挙があるという認識を示されていますが、年内に解散に踏み切る考えはあるのかお伺いします。
(岸田総理) まず前段の方の質問ですが、先ほども申し上げたように、今の政権の歴史的な使命は、我々が歴史的分岐点を迎える中、未来の世代に対しこれ以上先送りできない課題に正面から、そして愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出していくことだと考えています。課題は山積しておりますが、本年は特に3つの課題に取り組まなければならないと思っています。第1に、日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動していくこと、そして第2に、異次元の少子化対策に挑戦すること、そして第3に、G7議長国、また安保理非常任理事国として、日本、そして世界の平和と繁栄に主導的役割を果たしていくこと、この3つに重点的に取り組んでいきたいと思います。そして、後段の解散についての質問ですが、その質問は恐らく先日のテレビ番組での私の発言に関わる御質問だと思いますが、あの番組での私の発言は、今の衆議院の任期満了は令和7年10月であり、それまでに衆議院選挙はいつでもあり得るということ、そして他方、防衛費の財源確保のための税制措置については、令和5年の税制改正大綱において、令和6年以降、そして令和9年度に向けて複数年かけて段階実施する、このことが決まっており、その間の適切な時期に実施されることとなっております。よって、この結果として、税が上がる前に選挙があることも、日程上、可能性の問題としてあり得るということを申し上げた、こうした次第であります。いずれにせよ、解散総選挙については、専権事項として時の総理大臣が判断するものであると認識しております。
(内閣広報官) それでは、続きまして、三重県政記者クラブの代表の方から御質問をお願いいたします。
(記者) CBCテレビの越智と申します。新型コロナについてお伺いします。東海地方でも感染者数が再び増加傾向にありますが、今後の感染対策についてのお考えをお聞かせください。特に観光圏である三重県はインバウンド需要に期待が寄せられていますが、今後の旅行支援の在り方やインバウンド増加に向けた具体的な政策についてのお考えをお願いいたします。
(岸田総理) 新型コロナについては、社会経済活動との両立を図るということで取組を進めてきています。新型コロナの5類への引下げ、感染症法上の取扱いについても議論になってきていますが、厚生労働省においてコロナウイルスの病原性の評価等について専門家の議論も開始いたしました。こうした専門家等の意見も聴きながら、最新のエビデンスに基づきながら議論を進めていきたいと思っています。また、基本的な感染防止対策として、換気などに加えて場面に応じた適切なマスクの着脱、これもお願いしているところです。こうした感染対策の在り方については、科学的な知見を踏まえ、不断に見直しを行っていかなければならないと考えています。マスクの着用に対する考え方についても、インフルエンザとコロナの同時流行ですとか、ワクチンの接種の進展ですとか、飲み薬の普及、こういったものを踏まえつつ、専門家の意見も聴きながら考えていかなければならない、このように思っています。そして、観光政策についての御質問ですが、今後の観光政策に関して、全国旅行支援については3連休明けの今月10日より再開し、できる限り多くの方々に地域を訪れていただけるよう、全国的な旅行需要の喚起、これを着実に進めていきたいと考えます。また、インバウンドの本格的な回復に向けて昨年成立した補正予算と来年度当初予算の合計で2,000億円を超える額を計上しており、訪日外国人旅行消費額5兆円超の速やかな達成を目指して集中的な政策パッケージに基づく取組、これを進めていきたいと考えています。
(内閣広報官) それでは、再び内閣記者会の代表の方から御質問をお願いいたします。
(記者) よろしくお願いします。NHKの唐木と申します。日本は今年、G7の議長国です。ロシアのウクライナ侵攻は収束の糸口が見いだせないまま、間もなく1年を迎えようとしています。G7を含め、国際社会をどのようにリードしていくお考えでしょうか。そして、自身の手腕で侵攻停止を実現することは可能だと考えますか。また、5月には岸田総理大臣の地元でもある被爆地広島でG7サミットを開催する予定です。どのような会議にしたいとお考えでしょうか。よろしくお願いいたします。
(岸田総理) まずG7として取り組む課題、これはたくさんあります。世界経済についても議論を行わなければなりません。また、ウクライナ、あるいはインド太平洋といった地域情勢について、さらには核軍縮、気候変動、あるいは保健、開発といった地球規模の課題、さらには経済安全保障、こうした課題も重要な議論となると思います。G7の議長国としては、こうした様々な課題をリードしていかなければならないと思いますが、その中にあっても、今、ロシアによるウクライナ侵略が行われ、国際秩序の根幹が揺るがされています。こうした力による一方的な現状変更は世界のどこであっても許してはならないという強力なメッセージを示すこと、これは今回のG7広島サミットにおいて大変重要なメッセージになると思います。あわせて、我が国は唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核による威嚇、これは断じて受け入れることはできない。核兵器のない世界に向けてもG7として世界にメッセージを発することがG7広島サミットでできればと思っています。そして、ウクライナ情勢の今後の帰趨(きすう)につきましては、確たることを申し上げることはできませんが、まずはロシアに対する制裁、そしてウクライナ支援、これを改めてしっかりと確認するとともに、グローバルサウスと言われるような国々、要は中間国に位置する多くの国々とも連携し、思いを一つにして、停戦に向けて、平和に向けて努力するべきだというメッセージを世界に広げていく、こういったことが停戦にもつながるということになると思います。是非G7からそういったメッセージを世界に広げていく、こういった手掛かりをつかむことができればと思っています。
(内閣広報官) それでは、最後に三重県政記者クラブの代表の方から御質問をお受けいたします。
(記者) 毎日新聞の朝比奈といいます。よろしくお願いします。昨年の骨太の方針では、リニア中央新幹線について2023年に名古屋−大阪間の環境影響評価に着手できるよう必要な指導や支援を行うと明示して、昨年6月には岸田首相も三重県と奈良県の両知事に協力を要請されました。一方で、県内外にはリニア計画への不信感ですとか環境への影響を懸念する声も強くあります。工事には多くの国民が計画に納得できることが必要と考えますが、計画を後押しする政府としてどう取り組むか教えてください。あわせて、県内ではG7の関係閣僚会合である交通大臣会合が6月に志摩市で開催される予定です。リニア中央新幹線を含めて日本が交通分野で強みとする技術をどのように発信して成果につなげていくか、会合を開催する意義を含めて総理のお考えをお聞かせください。
(岸田総理) リニア中央新幹線は、デジタル田園都市国家構想を実現するためにも重要な基幹インフラであると思っています。本年はリニア中央新幹線の全線開業に向け、大きな一歩を踏み出す年にしたいと思います。その中で、まず静岡工区に関しては、水資源と、そして環境保全について地元自治体との調整、あるいは国交省の有識者会議での議論、これを更に進めてまいります。また、リニア開業後の東海道新幹線における静岡県内の駅等の停車頻度の増加について、本年夏をめどに一定の取りまとめを行い、関係者に丁寧な説明を行っていきたいと思います。そして、名古屋−大阪間については、駅位置の絞り込みが進められており、本年から環境影響評価に着手できるよう政府としても指導、支援を行っていくほか、三重、奈良、大阪の各駅を中心としたまちづくりに関する検討が進むよう関係者と連携して取り組んでまいります。また、今年の夏に策定予定の新たな国土形成計画にリニア中央新幹線を位置づけ、総合的、長期的な国土づくり、これを進めてまいります。そして、G7の交通大臣会合についてですが、6月16日から18日にかけてG7三重・伊勢志摩交通大臣会合を開催する予定にしておりますが、その中で、現在、各国が直面する少子高齢化に伴う地域格差、あるいは地球規模の気候変動などの課題の解決に向けて、リニアを含めた日本の技術革新、あるいは先進的な取組、これは大きな意義を有していると認識をしています。是非、こうした大臣会合において、今後の交通政策に関する議論にこうした日本の技術革新や先進的な取組を反映すべくしっかりと取り組み、そして、交通大臣会合において共同声明として世界に発信をする、こうしたメッセージを発することができればと期待しております。
(内閣広報官) 以上をもちまして、岸田内閣総理大臣の令和5年年頭記者会見を終了させていただきます。
御協力どうもありがとうございました。   

 

●「防衛国債」実現に消費増税も 防衛費“ゴリ押し”開く「亡国の扉」 1/5
岸田文雄首相が突如として打ち出した1兆円の「防衛増税」に、波紋が広がっている。いくら防衛力強化が必要といっても、国民が疲弊してしまっては元も子もない。なりふり構わぬ防衛費の膨張の先に待つのは、いつか来た道なのか──。
臨時国会が終わった途端、岸田文雄首相は唐突に「防衛増税」へと舵を切った。拙速に増税の方針を打ち出したことで、自民党内からも異論が噴出。党内では防衛費の増額は当面、国債で賄うべきとの声が強まっていた。
高市早苗経済安全保障担当相は「総理の真意が理解できない」とツイッターに投稿。萩生田光一政調会長も「増税はさまざまな努力をした後の最後の手段だ」と批判した。もっとも、2023年春の統一地方選を前に国民に負担を強いる増税論議は避けたいとの意向が透ける。
政府は12月16日、外交・防衛政策の基本方針である「国家安全保障戦略」など安保関連3文書を改定し、閣議決定した。相手国のミサイル基地などを直接たたく敵基地攻撃能力の保有を明記するとともに、23年度から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上となる43兆円とすることを盛り込んだ。27年度から年間11兆円とし、GDP(国内総生産)比2%に増額する。
27年度時点で新たに約4兆円の財源が必要となるが、岸田首相はこのうち1兆円強を増税で捻出することを表明。対象となるのは、法人税、所得税、たばこ税の3税だ。
岸田首相は「未来の世代に対する私たちの世代の責任だ。増税が目的ではなく、防衛力の強化が目的だ」と強調した。防衛増税について国政選挙で国民の信を問うこともなく、国会の審議も経ないまま決めたことへの批判に対しても、「1年以上にわたる丁寧なプロセスを経て決定した」などと反論した。立憲民主党代表代行の逢坂誠二衆院議員が厳しく批判する。
「日本にどのような防衛力が必要なのか。その中身の議論を全くせずに金額だけ先に決めて、増税か国債かを議論しています。通常の予算審議ではあり得ないことで、基本姿勢として“丁寧なプロセス”以前の話です。安全保障環境も変化していますから、防衛は確かに大事です。きちんと必要な議論を積み上げて、その結果として防衛費がこれだけ増えるということを、国民に説明できなければなりません」
特に悪評ふんぷんなのは、東日本大震災後に創設された「復興特別所得税」の転用だ。まず所得税に税額1%を上乗せする新たな付加税を課し、そのうえで復興特別所得税の税率を現行の2.1%から1%引き下げる。復興財源に影響が出ないよう、37年までの課税期間を最長13年延ばすという姑息な手段だ。
経済学者の浜矩子・同志社大学大学院教授はこう憤る。
「被災地の人々の神経を逆なでする感覚の鈍さに、唖然とするというほかない。課税期間を延長するから総額は変わらないのでいいでしょうという言い訳がさらに怒りを買うことに思いが至らない想像力の欠如が、また一段と許せません」
復興特別所得税は旧民主党政権下の11年11月、復興財源として創設された。逢坂氏は当時、総務大臣政務官として制度設計に関わった。
「被災地のみなさんに様々なお叱りを受けながら議論をして決めていきました。それをぶん捕るように防衛費増額の財源に充てるというのは、言語道断です。いくら何でも筋が悪すぎるし、無責任極まりないと思います」
今回、戦後初めて防衛費のために建設国債を充てるという“禁じ手”も使う。23年度から1.6兆円の発行に踏み切る。建設国債は道路や橋、港湾施設など公共事業の財源に充てるために発行される国債だ。それを自衛隊の隊舎や倉庫などの施設にも使えるというアクロバティックな理屈でゴリ押しした。浜氏がこう解説する。
「将来、国民のための資産が残るような投資なので一時的に借金をしてもいいというのが建設国債の趣旨です。自衛隊施設にも使えるという理屈は通りません。それより建設国債で国防関係の支出を賄うという前例をつくると、艦船や戦闘機など武器調達にも使えるという道を開いてしまう可能性がある。安倍晋三元首相が生前、提唱していた『防衛国債』が実現してしまう恐れがあるのです」
軍費膨張させた戦前の特別会計
日本がNATO(北大西洋条約機構)と歩調を合わせ「GDP比2%防衛費」へ邁進すれば、中国、北朝鮮、ロシアなど近隣諸国との緊張を高めるばかり。浜氏が続ける。
「外交による対話にはほとんど触れられず、防衛力強化一辺倒です。かくして軍拡競争はどんどん進む。海外メディアは、日本が戦後一貫して保持してきた平和主義を放棄したというふうに報道していますが、それでいいんですか」
現代の日本を取り巻く喫緊の課題は、防衛問題に限らない。逢坂氏が挙げるのは、人口減少問題と教育問題だ。22年の出生数は1899年の統計開始以来、初めて80万人を割る見通し。また、世界で18〜20年に発表された自然科学分野での上位論文数で、日本は12位。統計がある1981年以降、初めて10位以内から脱落した。逢坂氏がこう警告する。
「限られた予算をどう案分するのか。人口減少問題や教育問題を含めて財源の議論をしなければならないのに、防衛費だけ決めて後は知らないでは、日本は潰れます」
今回の増税議論に対し、軍事評論家の前田哲男氏はこう指摘する。
「かつて、日中戦争以降に設けられた臨時軍事費特別会計を連想しました。軍事費捻出のため、いわば『つかみ金』でした。国会に上程はされるのですが、何に使われたのかは一切説明不要。この特別会計によって、軍事費はどんどん膨張していったのです」
政府は防衛費捻出のため他にも歳出改革、決算剰余金の利用、防衛力強化資金の創設を掲げているが、いずれも目算どおりにいくかは不透明だ。
「一番手っ取り早く、広く薄く徴収できるということで、結局、消費税が狙われることになるのではないか」(前田氏)
敵基地攻撃能力は相手国が攻撃に「着手」した段階で行使できるのか。その判断基準を問われた岸田首相は「安全保障の機微に触れる」として回答を避けた。説明責任はすべて棚上げ状態だ。
●国債の利率0.5%に引き上げ、8年ぶり高さ 財務省 1/5
財務省は5日に実施する10年物国債入札で、毎年支払う利息を示す表面利率を0.5%と従来の0.2%から引き上げた。引き上げは0.1%から0.2%に上げた2022年4月以来で、水準は14年12月以来8年ぶりの高さ。日銀が金融緩和修正で10年債利回りの上限を0.5%程度と従来の0.25%程度から引き上げたことで、市場で取引される国債利回りが上昇したことに合わせた。
財務省は5日午前の10年債の取引利回りを元に表面利率を決めた。投資家が得る利益や財務省の支払総額を示す「利回り」は、表面利率と債券の価格で決まる。表面利率が市場実勢より低すぎると同じ利回りでも債券の発行価格が額面を大きく下回ってしまうため、表面利率は市場実勢の利回り水準に合わせている。
表面利率が上がると財務省が毎年支払う利払い費が増額することになる。財政悪化が続くなかで利払い費の負担が増せば、経済政策にも悪影響を及ぼす可能性がある。 
●経済安保「自分の国は自分で守る」 高市早苗氏、単独インタビュー 1/5
高市早苗経済安全保障担当相が、夕刊フジの単独インタビューに応じた。日本を取り巻く安全保障環境は極めて厳しい。中国は軍事的覇権拡大を進め、ロシアなどと合同軍事演習を繰り返している。北朝鮮は核・ミサイル開発を強行している。「台湾有事」「日本有事」に備えた防衛力強化は急務で、経済の側面から日本の国益を守り切る経済安保が注目されている。激動の時代を乗り切る、意気込みを力強く語った。
――2022年を振り返り、どう感じるか
「とにかく、激動だった。ただただ無念なのが7月8日。安倍晋三元首相が、ああいうかたちでお亡くなりになった。辛さを、ずっと、引きずっている」
――安倍氏は、21年の自民党総裁選で高市氏を推した。外交・安全保障などの理念継承も期待される
「1997年ごろから、教育問題に始まり、さまざまな勉強会でご一緒した。安倍氏の理念は突き詰めると『国力を強くする』ということだったと思う。国力は経済力であり、国防力でもあり、今や情報力、サイバー防御力など、多様な分野に広がった。安倍氏はずっと、『自分の国は自分で守る』という信念を語っていた。日本はまさに、その局面にある。力をつけなければならない」
――自民党政調会長から岸田文雄内閣入りした
「試行錯誤のなか、自分なりの達成感はある。総裁選に名乗りを上げた後、政調会長を務めた。22年8月10日からは、経済安全保障担当相として、新たな挑戦が始まった」
――日本を取り巻く情勢をどう見るか
「拡大する中国の軍事動向、ロシアのウクライナ侵略、北朝鮮の核・ミサイル開発など、国際社会は戦後最大の試練を迎えている。日本も『新たな危機の時代』に突入したといえる」
――「台湾有事=日本有事」の懸念が高まる
「有事では、まず日本が主体的に対応する。これを忘れず、必要な能力をつけなければならない。日米同盟は重要だが、『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)』でも、何か事があれば、まずは日本が主体的に対処し、米国はこれを補完、支援する立場だ。有事に米軍が最初から戦ってくれるのではない」
――戦略、政策が問われる
「まさに国防もそうだが、政調会長として短期間で政権公約を作り、全国遊説し、21年の衆院選に勝利できた。22年の参院選の公約もうまくまとまり、結果もよかった。その点での達成感はある」
――経済政策の指針となる「骨太の方針」で、プライマリーバランス(PB=基礎的財政収支)の黒字化にこだわる財務省とのせめぎあいがあったと聞く
「政調会長として、やはり『骨太の方針』が一つの山だった。党全体の会議でさまざまな意見が出たが、最後は一任していただいた。岸田首相と対面で議論し、『ただし、重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない』との一行を加筆していただいた。財政規律を重んじる内閣の中にあっても、非常に影響力のある一行を盛り込めた。食料やエネルギー、経済などの安全保障を徹底し、政策の安定性、継続性を確保するうえで、重要政策は当初予算で措置することなどが盛り込まれたのも成果だろう」
――防衛費増額では、岸田首相の「増税」方針が波紋を呼んでいる
「政調会長としてまとめた自民党公約には、『NATO(北大西洋条約機構)諸国並みの対GDP(国内総生産)比2%以上を念頭に』と書き込んだ。参院選ではさらに踏み込み、『5年以内に抜本的に強化』『NATO諸国並みの対GDP比2%以上』と明記した。中国、ロシア、北朝鮮。日本は、隣国すべてが核保有国だ。3カ国のリーダーへのメッセージでもあることを意識して、公約を打ち出した」
――閣僚として初めて、亡命ウイグル人でつくる「世界ウイグル会議」のドルクン・エイサ総裁と面談した
「中国の人権侵害の実態について、さまざまな話をお聞きした。有意義だった。人権尊重も自民党の公約だ。岸田首相も人権担当補佐官に中谷元氏を置いている。人権外交にしっかりした問題意識をお持ちだと確信している」
――自身の担当にも関連する
「人権問題は経済安全保障にも関わる問題だ。中国の人権状況に対して、欧米では、強制労働で生産された製品の輸入を規制した」
――日本の姿勢が問われる
「中国をめぐっては近年、サイバー攻撃などが主要課題だったが、人権が重視されるようになった。米国は昨年から、エンティティリスト(=米商務省が管轄する貿易取引制限リスト)で、人権侵害に関与する団体・企業を対象に追加した。米国の輸出管理は日本にも適用され、罰則もある。欧州も同様だ。人権は、経済安保にも関わるテーマだ。政界、経済界を含め日本全体が高い意識を持たないと、サプライチェーン(供給網)から弾き出される」
――具体的な課題は
「いま歯を食いしばって頑張っているのは、機密情報の取り扱い資格『セキュリティー・クリアランス』(適格性評価=SC)だ。これを確実に法制化しなければならない。すべてが手探りで、まずはG7(先進7カ国)の情勢を調べた」
――G7は進んでいたか
「詳細は機微に触れ、なかなか教えてもらえなかった。恥を忍び、英国のシンクタンクに個人的に依頼して調べると、G7各国が、相当しっかりしたSCを持っていることが分かった」
――日本の現状は
「日本唯一の法定のSC制度は、安倍氏が政権の命運をかけてつくった『特定秘密保護法』に基づく適性評価の仕組みだけだと思う。ただ、秘密の指定対象は『防衛』『外交』『テロ』『スパイ行為』の4類型で、各大臣が『特定秘密』指定した情報などにアクセスすることにしかならず、対象が非常に限定的だ。その経済版を作りたい」
――具体的には
「特定秘密保護法改正で対応する手もあるが、目的を考えると少し違うと思っている。例えば、最近の社会では、民生と軍事の両方で活用される『デュアルユース』の先端技術があふれている。民間でも活用される技術を、特定秘密に含めて指定するのは現実に即していないだろう。そこで、経済安全保障推進法の改正案で、『産業版SC制度』をつくりたいと私は考えている」
――法制化の課題は
「G7は友好国だ。このチームから弾き出されるのは、国益や経済上、得策ではない。特定秘密保護法では、対象情報の範囲のほか、適性評価で調査できる事項も法律で限定されている。一方、海外のSCでは、国籍をはじめ、家族の渡航歴、思想信条、忠誠心などまでが調査項目だ。隣人や知人へのヒアリングも行われる。日本が受け入れられるかが難しい」
――なぜ導入が必要なのか
「このままでは、日本企業が、海外との共同研究、外国政府の調達、民間企業同士の取引などから排除される恐れがある。これが大きな理由だ。特定秘密保護法では、特定秘密にアクセスしたくない人は、国家公務員でも適性評価を受ける必要はない。強制ではなく拒否できる。一方、SCを有していないと、積極参入を希望する日本企業や個人が大変苦労することになるかもしれない。政府に限らず、海外の民間企業との取引でも、情報通信、量子技術、AI(人工知能)など、多くの分野がデュアルユースだ。SCだけでなく、他国企業からの調査を求められる状況まで出てくる。なお、企業における従業員に対する自主的なバックグラウンドチェックについては、労働法制がネックとなってやりづらいという声があり、ここへの対応も考えなくてはならない」
――新年への意気込みと目標を
「いま申し上げたSCを、いかに法制化できるか。日本政府として、大変な作業に挑むことになる。1年で出来上がるかどうかも分からない、気が遠くなるような作業だが、何とか法律にしたい。もう一つは、G7の科学技術相会合の議長を務める。さまざまな技術の共有をめぐる意識を議論したい。宇宙担当相として『デブリ(ごみ)』の問題にも取り組みたい。宇宙空間を浮遊する中国やロシアの衛星破壊実験で生じた破片など、危険なデブリが問題化している。日本は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と民間企業が協力してデブリ回収技術を開発している。ビジネスの可能性にもつながる話だ。国際ルール策定も含め、壮大な宇宙分野にも挑戦したい」
――多忙な日々だ
「録りためたドラマを見る暇もなくなったが(笑)。国民の期待に応えられるよう、力を尽くしたい」
●経済3団体共催2023年新年祝賀会 1/5
令和5年1月5日、岸田総理は、都内で開催された経済3団体共催2023年新年祝賀会に出席しました。
総理は、挨拶で次のように述べました。
「皆様、新年おめでとうございます。御紹介にあずかりました内閣総理大臣の岸田文雄でございます。本日は経済3団体の新年祝賀会にお招きいただきました。心から厚く御礼を申し上げます。会員企業の皆様方がこうしておそろいで、健やかな新年をお迎えになられましたこと、心からお慶(よろこ)びを申し上げます。
先ほど小林会頭の御挨拶の中にもありましたように、今年の干支(えと)は、『癸(みずのと)卯(う)』であります。『癸卯』の『癸』は、十干の最後に当たり、一つの物事が収まり次の物事へ移行する段階を、そして、『卯』は『茂(しげる)』を意味し、繁殖する、あるいは、増える、を示すと言われています。
この両方を備えた『癸卯』は、去年までの様々なことに区切りがつき、次の繁栄や成長につながっていくという意味があると言われています。
私は、本年を、昨年の様々な出来事に思いをはせながらも、新たな挑戦をする一年にしたいと思っています。
政権をお預かりして1年3か月。歴史の大きな分岐点にあって、未来の世代に対し、これ以上先送りできない課題に、正面から愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出していく。それが、岸田政権の歴史的役割であると覚悟し、政権運営に臨んでまいりました。
昨年に引き続き、本年も、覚悟を持って、先送りできない課題への挑戦を続けてまいります。
具体的には、特に、2つの課題。第1に、日本経済の長年の課題に終止符を打ち、新しい好循環の基盤を起動する、第2に、異次元の少子化対策に挑戦する、そんな年にしたいと思っています。
この30年、世界では、グローバル化の進展とともに、マーケットも生産・製造も物流も、一体化が進んできました。そして我々は、世界の一体化とともに、垣根が取り払われ、平和と繁栄を手にできると信じてきました。
しかし現実は、格差の拡大、地球環境問題などの課題の深刻化に直面しています。また、権威主義・国家資本主義的な国々と、自由主義・資本主義を掲げる我々民主主義国家との対立を深刻化させています。
こうした現実を前に、今こそ、我々は、新たな方向性に踏み出さなければならない、私の掲げる新しい資本主義は、そのための処方箋です。
官と民の新たな連携の下で、賃上げと投資という2つの分配を強固に進め、持続可能で格差の少ない、力強い成長の基盤をつくり上げていきます。
まず実現を目指すのは、成長と分配の好循環の中核である、賃上げです。能力に見合った賃上げこそが、企業の競争力に直結する時代です。
連合は、今年の春闘において、5パーセント程度の賃上げを求めています。是非、インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたいと思っています。政府として、最低賃金の引上げなどの取組を進めてまいります。
今、日本経済は大きな分かれ道にあります。輸入物価だけでなく、経済全体の物価上昇が欧米のように進行し、賃上げがそれに追い付かなければ、スタグフレーションに陥ってしまうと警鐘を鳴らす専門家がいます。
一方で、コロナ禍からのリバウンド需要、円安環境をいかしたインバウンドや輸出の増加、GX(グリーン・トランスフォーメーション)等の投資ニーズの拡大など、日本経済の体質転換を図る上で、数十年に一度のチャンスを迎えていると言う専門家もいます。
どちらの見方にも共通するのは、今年の賃上げの動きによって、日本経済の先行きは全く違ったものになるということです。日本全体の賃上げを引っ張り上げるのは、ここにいらっしゃる企業の皆さんです。グローバル企業から、賃上げに向けた様々な前向きな取組が出てきており、心強く思っています。
政府は、財政規模39兆円の経済対策、防衛政策、エネルギー政策の大きな転換、そして、GX投資の促進を始め、引き続き、果敢な取組を続ける決意です。
産業界の皆様にも、是非御協力いただきたいと思っています。
さらに、この賃上げを持続可能なものとするため、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、GXやDX(デジタル・トランスフォーメーション)、スタートアップなどの成長分野への雇用の円滑な移動、これらを三位一体で進め、構造的な賃上げを実現いたします。そのために、本年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめ、三位一体の労働市場改革を加速いたします。
加えて重要な2番目の柱が、国内での研究開発投資や設備投資による、日本企業の競争力強化です。
一部の権威主義的国家は、サプライチェーンを武器として使い、外交上の目的を達成するために、経済的威圧を使うようになりました。また、世界では、官民連携の下での投資促進によって、技術力・競争力を磨き上げる苛烈な競争が起こっています。
今こそ、国内でつくれるものは、国内でつくり、輸出する。また、研究開発投資・設備投資を活性化し、付加価値の高い製品・サービスを生み出していく。これらに官民挙げて、取り組もうではありませんか。
そのために、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、企業に対して期待成長率をはっきり示すことで、企業の投資を誘引していく、そうした官民連携を行ってまいります。
官民合わせて150兆円のGX投資を引き出す成長志向型カーボンプライシングによる20兆円の先行投資の枠組みは、その先行事例の一つです。
半導体、人工知能、量子コンピュータ、バイオ技術、クリーンエネルギーなど、次世代の経済を支える戦略産業について、強固な官民連携を打ち立て、国内での大胆な投資を進めていこうではありませんか。
あわせて、民間の皆さんの力を引き出すための、規制改革、スタートアップ育成にも全力で取り組みます。
そして、今年のもう一つの大きな挑戦は、少子化対策です。
昨年の出生数は80万人を割り込みました。少子化の問題は、これ以上放置できない、待ったなしの課題です。経済面から見ても、少子化で縮小する日本には投資できない、そうした声を払拭していかなければなりません。
本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において必要とされるこども政策を体系的に取りまとめた上で、6月の骨太方針までに、将来的なこども予算倍増に向けた大枠を提示していきます。
対策の大きな柱の一つに、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実があります。女性の就労は確実に増加しました。しかし、女性の正規雇用におけるL字カーブは是正されておらず、その修正が不可欠です。その際、育児休業制度の強化も検討しなければなりません。産業界の皆様にも、是非お力をお貸しいただきたいと思っております。
最後に、外交についても一言申し上げます。本年、我が国はG7議長国を務め、5月には、広島サミットを開催いたします。
ロシアによるウクライナ侵略という暴挙によって国際秩序が揺らぐ中で、自由・民主主義・人権・法の支配といった普遍的価値を守り抜くため、そうしたG7の結束はもとより、G7と世界の連帯を示していかなければなりません。同時に、対立や分断が顕在化する国際社会を、いま一度結束させるために、グローバルサウスとの関係を一層強化し、世界の食料危機やエネルギー危機に効果的に対応していくことが求められます。
また、世界経済に様々な下方リスクが存在する中で、G7として世界経済をしっかりと牽引(けんいん)していかなければなりません。
さらに、感染症対策や地球温暖化など地球規模課題においても、リーダーシップの発揮が求められます。また、被爆地広島から世界に向けて、核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージを発信してまいります。
結びに、本日御参加の皆様方、経済3団体の会員企業の皆様によって、本年が実り多い1年となりますことを心から御祈念申し上げまして、年頭に当たっての私の御挨拶とさせていただきます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。」
●要警戒、日本がアジア最大のイージス艦隊を構築へ 1/5
日本の自衛隊は軍拡の動きを繰り返している。米国の海軍情報サイトは3日、日本はイージスシステムを搭載する最新型のミサイル駆逐艦2隻を建造し、米国製イージス駆逐艦の数と性能でアジア一を維持することを検討していると伝えた。
報道によると、日本は先ほど閣議決定した安保政策文書「国家防衛戦略」の中で、海上自衛隊のイージス駆逐艦の数を現在の8隻から10隻に増やすとした。この規模は韓国をはるかに上回り、また在日米海軍第7艦隊が保有する9隻をも上回る。日本は米国製イージス駆逐艦の保有数がアジアで最多の国になる。
規模を拡大するほか、日本はさらにこれらのイージス駆逐艦の全面的なアップデートを検討している。日本政府は米国製巡航ミサイル「トマホーク」を500発調達し、イージス駆逐艦に搭載することを決定済みだ。そのため日本は防衛予算に、現役イージス駆逐艦の必要な改造を行うとして1104億円を計上した。
●国債金利、2・5倍の0・5%に 財務省、利払い増で財政負担懸念  1/5
財務省は5日、1月に発行する10年物国債の表面利率を従来の年0・2%から2・5倍の0・5%へと引き上げた。0・5%は8年1カ月ぶりの水準だ。国債の利払い費の増加につながり、今後も上昇が続けば財政運営の重荷となる懸念がある。
政府は23年度当初予算案で金利を1・1%と想定して利払い費を算定。実際の金利が想定を下回ることで生まれる余剰分を、これまで補正予算の財源に活用してきたが、利払い費の増加で補正の財源が減少する恐れがある。
財務省は25年度予算案で想定する長期金利を1・3%とし、金利がさらに1%上昇すれば、国債費が3兆7千億円程度上振れると算出している。
●10年物国債の「表面利率」を0.5%に引き上げ 約8年ぶりの水準に 1/5
財務省は10年物国債の入札を行い、毎年支払う利息を示す「表面利率」をおよそ8年ぶりの水準にまで引き上げました。
財務省は5日、10年物の国債の入札を行い、毎年支払う利息を示す「表面利率」をこれまでの0.2%から0.5%に引き上げました。利率が0.5%になるのは、2014年12月の入札以来、およそ8年ぶりのことです。
財務省によりますと、日本銀行が先月、金融緩和策を修正したことを受け、市場で取引される10年債の利回りが上昇していることを反映したということです。
表面利率の上昇で、国が毎年支払う利払い費は増加することになります。
2023年度予算案でも3割以上を国債に頼る中で、利回りがさらに上昇すれば財政に一定の影響を与える可能性もありそうです。
●岸田総理が異次元の少子化対策「大胆に検討」、小池知事「本来は国が…」 1/5
所得制限を設けず、18歳までの子に月5000円を支給する方針を打ち出した小池都知事。異次元の少子化対策を大胆に検討するとした岸田総理大臣に苦言を呈しました。
5日朝、総理官邸に設置されたのはG7広島サミットまでの日数を表示するカウントダウンボードです。サミットが開幕する5月19日まで134日。日本が議長国だけにその手腕が問われます。
岸田総理大臣「未来に向けて明確なビジョンやメッセージを発する貴重な機会を設けたいと思っています」
国内外に課題が山積する岸田総理ですが、今年特に取り組む課題の1つとして挙げたのが少子化対策です。
岸田総理大臣「異次元の少子化対策に挑戦する。大胆に検討を進めてもらいます」
目指すは子どもファーストの経済社会を作り上げること。
実に40年以上にわたって下がり続けている日本の出生数。去年は初めて80万人を割り込む見通しで、国の予測より8年も早いペースで少子化が進んでいます。また、男性・女性ともに結婚しない人が増えていて、各年代で未婚率が増加。少子化の一因になっているとみられています。岸田総理は異次元の少子化対策の基本的な方向性として、経済的支援やサービスの拡充など3つを挙げていますが、具体策はこれから検討する段階。
岸田総理大臣「少子化の問題はこれ以上放置できない、待ったなしの課題です」
将来的に子ども予算を倍増させる方針です。
そんななか、国に先駆けて具体的な対策に着手したのが東京都です。
東京都・小池知事「今回、0歳から18歳まで切れ目なく毎月5000円、これを給付致しますと。ただ1回のショットだけでなく子育てはずっと続くわけですね。やはり子育てをするんだという安心感に少しでもつながるように、都としてのメッセージをお伝えをしたいと」
小池知事は4日、都内に住む0歳から18歳の子ども1人に月5000円を給付する方針を表明。国の児童手当では去年10月から一定の所得を超えると支給されなくなりましたが、都独自の新たな子育て支援策は所得制限を設けず、児童手当が適用されない16歳以上も対象としています。
東京都・小池知事「所得制限があることによって、夫婦で一生懸命働いて納税をしているがゆえに逆にそういった給付が受けられないというのは、ある意味で子育てに対しての罰、罰ゲームのようになってしまうと。子育て、そして人口減少、色んなキーワードがありますけれども、一つひとつ丁寧に、だけど一貫性のあるものを本来は国がやるべきだと思いますが、都として行っていく」「(Q.なぜこのタイミングなのか?)(出生数が)80万人を切ったことですね。これに反応しないのは無責任だというふうに思いました」
5000円給付について都民は…。
都内在住(子ども2人)「5000円頂けるのはすごくありがたいと思います。塾とか習い事とかもあるので」
都内在住(子ども1人)「子どもを産む時に、やっぱり子育てとの両立は難しいかなと思って退職もしたので、少しでも補填して頂けるのはありがたかったかなと思います」
都内在住(子ども2人)「金額としては少ないかもしれないんですけれども、それが刺激になって、流れが変われば良いなとは思ってますけれども」
一方、岸田総理が掲げる異次元の少子化対策については。
都内在住(子ども3人)「『異次元』という言葉をどう解釈するんだろうなと。1回、児童手当を削減、所得制限を設けたという事実を覆すことはないのであまり期待していないです」
都内在住(子ども1人)「(Q.期待できそうですか?)期待したいなという思いはありますけど」
東京都・小池知事「子どもに対してこのような形でしっかりとサポートするというのは、まさに将来への社会の宝への投資であり、それぞれが一人ひとりの自己実現ができる、そういう東京であると、そしてそういう国であるという、こういう流れができてくれば良いなと」
政府が準備を進めるなか、岸田総理に近い議員からは。
自民党・岸田派議員「小池さんはやっぱり良いタイミングで打ち出してくるな。カネのある東京都だからできることだ」
5000円給付について、東京都は2023年度からの開始を目指して検討を進めていく方針です。
●出産一時金が50万円に増額、岸田首相は「過去最高」と誇示するが… 1/5
子どもを産んだ際に受け取れる出産育児一時金が、2023年度から8万円増の50万円となることが決まった。岸田文雄首相が2年以上取り組んできた肝いりの政策で「引き上げ幅は過去最高だ」と誇示した。子育て世帯からは歓迎の声が上がったものの、一方で「これだけではもう1人産もうと思わない」と冷静な声が聞こえてくる。(共同通信=若林美幸)
菅前首相に対抗する形で打ち出した政策
岸田首相が出産育児一時金に言及したのは、2020年9月の自民党総裁選。当時政調会長だった岸田首相は初めて出馬し、当時官房長官だった菅義偉氏の少子化対策に対抗する形で、一時金の引き上げによる「出産費用の実質無償化」を掲げた。一方、菅氏は「不妊治療の保険適用」を掲げた。
総裁選に敗れて菅政権が発足した後、出産費用の負担軽減に関する国会議員連盟を立ち上げ、共同代表に就いた。議員連盟として出産育児一時金の引き上げを政府に提言したものの、待機児童解消など他の子育て政策に財源が必要となり、見送られた経緯がある。首相に就任した今回はリベンジの意味合いが強く、2022年6月に「大幅に増額する」と早々に宣言した。
出産にかかる費用は、年々上昇している。2021年度の公的病院の平均額は約45万5千円に上る。これに加え、出産事故に備える「産科医療補償制度」の掛け金1万2千円もかかる。合計約47万円が必要だ。
現行の出産育児一時金は42万円で、出産費用の支払いの際には平均で5万円足りない計算だ。一時金の引き上げ幅はこれまで5万円が過去最大だったが、今回は8万円増の50万円になった。理由は、岸田首相が「47万円では大幅増額とは言えない」として一層の上積みにこだわったからだ、と政府関係者は説明する。引き上げにこだわった背景には「せめて出産時にかかる平均費用は一時金でカバーしたい」との思いもあったという。
ただ、出産育児一時金の主な財源は、現役世代の公的医療保険の保険料。増額すれば、負担は若い世代にのしかかる。このため政府は2024年度以降、75歳以上の保険料からも一部を拠出する仕組みへ変更することも決めた。
政府はさらに、出産前後で計10万円相当を配る「出産・子育て応援交付金」も新たに創設した。相次ぐ閣僚の不祥事や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などの逆風に直面する中、政府一丸での少子化対策をアピールする狙いだ。
「地方では子どもを大学に進学させることが一番の出費」
出産育児一時金の額は全国一律だが、出産は病気ではないため原則自由診療で、かかる費用は地域や医療機関によって大きく異なる。
東京都のフリーランスの明日香さん(35)=仮名=は2021年、都内の有名病院で無痛分娩により長男(1)を出産した。夫婦ともに実家は遠方にある。新型コロナウイルス禍のため里帰りは諦め、自宅から近くて設備や体制が整った病院を希望した。
出産育児一時金を超えて支払った自己負担分は約90万円。明日香さんは、安心のための必要経費だったと納得している。ただ、こうも思った。「一時金の増額はありがたいが、お金がかかるのは出産後だ」
「もっと保育所に子どもを預けやすい社会にしてもらいたい。現状は保育所に入れるのはフルタイム勤務の母親が中心だ。パートやフリーランスでも入りやすくなるよう充実させてほしい」と訴えている。
熊本市の会社員の真弥さん(37)=仮名=は2022年、個室で豪華な食事が付き、新生児集中治療室(NICU)もある病院で長男を出産した。自己負担は5千円で済んだ。出産育児一時金が増額されれば出産費用は全て賄え、数万円が余ることになる。
それでも、真弥さんも財源を注いでほしいのは出産費用ではないと言う。「地方では、子どもを都会の大学に進学させることが一番の出費。出産時や子どもが小さい頃に比べ、高校や大学進学にかかる負担の方が大きい。県外の高校や大学に行けば、都会に住む家庭よりも費用がかさむ」
出費が同時期に集中することを避けるため、長女の出産から6年空けて長男を産んだ。「夫婦ともに正社員でも、子どもは2人が限界。高等教育への補助を増やしてもらう方が良い」
明日香さん、真弥さんの2人に共通するのは「出産前後の支給が若干増えるくらいでは、もう1人産もうという動機にはならない」という思いだ。
女性が産み育てやすい環境を
日本は少子化に歯止めがかからず、2022年の国内の出生数は統計開始後、初めて80万人を割る見通しとなっている。女性の出産年齢も上昇。背景には、低賃金で子どもを持つ余裕がなかったり、キャリア確立のため先送りせざるを得なかったりする事情がある。
日本総研の西沢和彦主席研究員は、そもそも出産費用を抑える工夫も必要だと指摘する。出産年齢が上がると高度な措置が必要となるケースも増えるなど、費用も上昇する相関関係があるため「女性が産みたい時に産めるように環境を整えることが必要だ」。政府にはこう注文を付けた。「政府は各論に終始するのではなく、労働環境の整備や男性の意識改革など、複数の政策を組み合わせた『青写真』をきちんと描くべきだ」
●岸田首相の「異次元の少子化対策」に明石市長・泉氏が言及…「増税やめて」 1/5
岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」について、さまざまな意見が上がっている。兵庫県明石市の泉房穂市長も5日までに、ツイッターで言及した。
明石市では、泉市長のもと次々と少子化対策を打ち出し、出生率を2018年には1・7にまで上げた実績がある。「総理が年頭会見で『異次元の少子化対策』を表明したとのこと。かねてから『子ども予算のグローバルスタンダード化』(諸外国の半分程度の予算額を諸外国並みに)を訴え続けている立場からすると、異次元でなく普通でいいので、すぐに予算倍増を実行していただきたいとの思い」。子供予算を6月に倍増するという事について、「どうして『今』じゃないのか。『防衛費』だと即断なのに『子ども予算』だと先送りの理由がわからない。ちなみに財源不足を理由に『増税』や『保険料増額』はやめてくださいね。財源捻出は政治家の仕事ですから」とツイート。続けて「『日本がすでに低い方での“異次元”』とはそのとおりで、日本は昔から『子どもへの冷たさ(子ども予算の少なさ)』において“異次元”のレベルにあった。『子どもを応援しない日本に未来はない』とレポートに書いたのは、今から40年前のこと。総理、“異次元”じゃなく、“普通”に少子化対策をお願いします」とした。
昨年の6月にも少子化問題の参考人として参院で明石市の取り組みについて話し、所得制限なしで18歳までの医療費無料、第2子以降の保育料全員無料、おむつ満1歳まで宅配、中学生の給食費自己負担なし、遊び場では親子共に自己負担なしなど経済的施策が有名。所得制限なしという点も強く訴えている。お金だけではなく親子に寄り添う施策も行っている。

 

●針路問われる日本外交 国際秩序の構築最優先に 1/6
「外交には裏付けとなる防衛力が必要であり、防衛力の強化は外交における説得力につながる」。これは昨年12月に「国家安全保障戦略」など3文書を改定した際、記者会見で岸田文雄首相が発した言葉だ。外相を4年半余り務め、外交を得意とする首相だけに違和感を持った人も少なくないのではないか。
首相は今月9日からフランス、イタリア、英国の欧州3カ国に加えカナダを訪問し、13日にはワシントンでバイデン米大統領と会談する。5月に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に向けた地ならしの一方で、各国との首脳会談で防衛力を強化する新しい国家安保戦略を説明し、同盟強化を確認するのが狙いだろう。
首相は、改定された国家安保戦略について「力による現状変更の試み」を批判し、多国間の協力による国際協調への取り組みをアピールしている。日本の防衛力強化は、米国や欧州諸国には「説得力」があるのだろう。アフガニスタン撤退を決断した際のバイデン氏の発言にもあるように「自ら助くる者を助く」という理屈が同盟強化の基盤にもなるからだ。
一方で、防衛関連予算の倍増や、他国の領域内を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有などに踏み込んだのは、軍備拡張を進め台湾統一に武力行使も辞さない中国や、核・ミサイル開発にまい進する北朝鮮、さらにはウクライナ侵攻をやめないロシアが念頭にある。「力」に「力」で対抗する日本の動きに対して、中国などは反発を強め北朝鮮はミサイル発射など軍事行動も示唆するなど、およそ「説得力」たり得ない反応ぶりだ。
日本は今年、G7の議長国と、国連安全保障理事会の非常任理事国という二つの重要な役割を担う。「平和国家」を掲げてきた日本の外交・安全保障政策の針路が問われる重要な1年となろう。非常任理事国として機能不全に陥っている安保理をどう立て直すのか。指導力が試される。首相は広島サミットで「核兵器のない世界に向けた大きな目標への歩みを世界に発信したい」と意気込む。
ただ、こうした主張が説得力を持つには平和国家の立場を堅持してこそではないか。国家安保戦略は安保政策を大転換させながらも「平和国家として専守防衛に徹する」とし、「他国との共存共栄、多国間の協力を重視する」と「多国間主義」も強調している。資源が乏しく他国との協調が欠かせない日本が目指すべきは、近隣諸国との対話を進め平和と安定に向かわせる以外にないはずだ。基本原則を忘れずに、分断解消へ国際秩序を構築する外交戦略を最優先に求めたい。
●安保3文書の運用で鍵となる「政策の統合」と「国力としての技術力」 1/6
3文書改定は外交・防衛のみならず経済安全保障、サイバー、海洋、宇宙、エネルギー、食料といった多元的な安全保障政策を「高次のレベルで統合」する指針を明確にした。ただし、日本の国力の重要な要素である「技術力」について、「民生用か、安全保障用か」という非現実的な議論の呪縛を解くという課題が残っている。
日本は太平洋を背に、中国、北朝鮮、ロシアという3つの核保有国を前にし、民主主義国家と専制主義国家の対立の最前線に位置している。同時に、インド太平洋地域は世界の人口の半数とGDP(国内総生産)の約6割を擁し、世界経済の成長エンジンである。地政学的競争が激化するなか、日本はいかにして平和と安全、繁栄、国民の安全、国際社会との共存共栄など自らの国益を守っていくべきか。いわば、荒れ狂うインド太平洋の海で、日本はどう生き延びていくのか。2022年12月16日、岸田政権が閣議決定した安全保障3文書は、その荒れ狂うインド太平洋における航海の海図となるものである。
防衛力の統合から「総合的な国力」の統合へ
戦略に求められる要素とは、脅威を分析したうえで、守るべき国益を明確にし、目標(ends)を設定し、とるべき政策のアプローチを手段(means)と方法(ways)として示すことである。新しい国家安全保障戦略は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」という国際情勢認識に基づき、「国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略が必要」であるとの視点に立ち、旧戦略と比べ国益や安全保障上の目標をより明確にし、反撃能力の保有など新たなアプローチを示した。また目標達成のための手段として、外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力の5つを束ねた「総合的な国力」を活用すると明記した。さらに昭和51年(1976年)に防衛計画の大綱が策定されてから46年、政府は国家防衛戦略を初めて策定した。安全保障に関する国家戦略の体系化が進んだと言えよう。日本の安全保障政策にとって歴史的な転換点である。
2013年12月、第二次安倍政権は史上初の国家安保戦略を策定し、あわせて防衛計画の大綱(25大綱)を定めた。25大綱は陸・海・空の統合機動防衛力の構築を、さらに2018年の30大綱では宇宙・サイバー・電磁波といった新領域を含めた多次元統合防衛力を構築することとした。政府はこうして統合運用体制の整備を進めてきたが、はたして有事に、自衛隊を真に統合して運用できるのか、という懸念が提起されてきた。こうした中、2021年に発足した米バイデン政権は統合抑止(integrated deterrence)を提唱し、あらゆる領域、戦域、紛争の烈度において、米国の全ての国力に加え、同盟国や同志国とのネットワークもフルに動員して、中国をはじめとする脅威を抑止する、という方針を掲げた。自衛隊は統合運用の実効性を高めつつ、統合抑止を旗印に掲げる米軍とともに、日米共同運用のオペレーションを、より一層、進化させる必要がある。
そのため今回の国家防衛戦略は、常設の「統合司令部」創設を定めた。これまで有事となれば自衛隊はその都度、統合任務部隊を編成する必要があった。東日本大震災では東北方面総監を指揮官とする災統合任務部隊が編制された。今後は平素から統合司令部が一元的に部隊運用を行い、有事となれば統合司令部の長である統合司令官が部隊を指揮し、統幕長は防衛大臣や総理など政務の補佐に徹する、という体制が見込まれている。
このように防衛力の統合は着実に進んできたが、今回の安保3文書で重要なことは、統合が防衛力に留まらなくなった、という点にある。岸田文雄総理は3文書の閣議決定後の記者会見で「防衛力だけでなく、総合的な国力を活用し、我が国を全方位でシームレスに守っていきます。このため、海上保安庁の能力強化、経済安全保障政策の促進など、政府横断で早急に取り組みます」と明言した。
日本の国益を守り抜く。その手段として総合的な国力を統合するというアプローチが、「国家の対応を高次のレベルで統合させる」最上位の戦略である国家安保戦略で明記された。
経済安全保障という新機軸
その国家安保戦略の新機軸として盛り込まれたのが、経済安全保障である。ポイントは以下のとおりである。
第一に、経済安全保障を「我が国の平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済上の措置を講じ確保すること」と定義した。これは自民党が2020年12月に発表した「『経済安全保障戦略』策定に向けて」における定義を修正した表現になっている。2022年5月に国会で成立した経済安全保障推進法、そして同年9月に閣議決定された基本方針(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針)のいずれも、経済安保の定義付けを行ってこなかった。
第二に、経済安保政策のアプローチは、おおむね既存の政策体系を踏襲したものとなった。国家安保戦略は、我が国の自律性を向上し、優位性、不可欠性を確保すべく、サプライチェーン強靭化、重要インフラ、先端重要技術に関する措置に言及した。そのうえで、「セキュリティ・クリアランスを含む我が国の情報保全の強化の検討」を進めると明記した。
第三に、経済安保政策について、「取り組んでいく措置は不断に検討・見直しを行い、特に、各産業等が抱えるリスクを継続的に点検」することとした。政府は安定供給を確保すべき重要物資の特定を進め、2022年12月20日、抗菌薬、半導体、蓄電池、重要鉱物、工作機械など11物資を政令で指定した。このプロセスで各省庁が実施したのが、サプライチェーンの全体像や脆弱性を把握する調査――サプライチェーン・マッピング――である。経済安保をめぐる脅威はダイナミックに変わるため、リスクは「継続的に点検」し、措置も「不断に検討・見直」すことが肝要である。
第四に、経済安保と密接不可分なサイバーセキュリティについて、「サイバー安全保障分野での対応能力の向上」を掲げた。対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させるべく、能動的サイバー防御を導入し、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を発展的に改組し、サイバー安全保障分野の政策を一元的に総合調整する新たな組織を設置する。この政策の対象は、国のみならず「重要インフラ等」の安全等となっている。これは経済安保推進法で取り組む、基幹インフラ役務の安定的な提供の確保と、直結している。サイバー攻撃を仕掛けてくる、あるいは、その兆候が見られるサーバを検知するためには、国内の通信事業者の情報も必要となる。経済安保政策とサイバー安保政策を統合するため、法制度整備や運用強化がこれから課題となる。
第五に、「エネルギーや食料など我が国の安全保障に不可欠な資源の確保」は、「経済安全保障政策の促進」と別のセクションで論じた。書きぶりからは、エネルギー安全保障は経済産業省や資源エネルギー庁、食料安全保障は農林水産省が主管省庁として想定されているように見える。しかし、いずれも経済安全保障担当である高市早苗大臣の担務である、特定重要物資の安定供給確保と重なる。特定重要物資には天然ガスや肥料が候補にあげられている。
改めて2013年の国家安保戦略と比べてみると、国力や国益の拡がりとともに、アプローチとしての安全保障政策の対象も拡大したことがわかる。優先順位も変わった。旧戦略でとりあげられた国際平和協力や人間の安全保障は、新戦略でトーンダウンした。地政学的競争が激化し、日本を取り巻く安全保障環境が変わったことによる変化なのであろう。
これからの3文書の運用では、外交、防衛のみならず、新機軸である経済安全保障、そしてサイバー、海洋、宇宙、エネルギー、食料といった多元的な安全保障政策の統合が求められる。
国力としての技術力に不可欠なマルチユース技術と社会実装力
総じて言えば、国家安保戦略は高く評価されるべき文書となった。
一方で、取り残された課題もある。最大の課題は、技術力をめぐる指針である。
新戦略が「総合的な国力」を構成する要素に技術力を含めたこと自体は画期的なことであった。その技術力について、有識者からもイノベーティブな概念が提唱された。岸田総理は2022年9月から11月にかけ「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を開催した。有識者会議の報告書は、「最先端の科学技術の進展の速さは、これまでの常識を遥かに超えており、基礎研究の成果がすぐに実用技術で展開されるようなケースが増えている」とし、次のように論じた。「先端的で原理的な技術は、ほとんどが民生でも安全保障でも、いずれにも活用できるマルチユースである。言い換えれば、民生用基礎技術、安全保障用の基礎技術といった区別は、実際には不可能になってきている」。
ここで注目すべきは、マルチユース、つまり技術の多義性である。
これまで技術をめぐっては軍民両用のデュアルユースの是非が問題となってきた。それは民生か安全保障かという二項対立での議論を惹起し、時として先鋭化した論争を巻き起こしてきた。マルチユースは、そうした議論を過去のものとし得る、包摂的で、知的にイノベーティブな概念である。それは重要新興技術をめぐる最近の動向にも合致している。たとえば、火災報知器がビルや住居、オフィス、工場、軍などで幅広く使われるように、CBRN(化学・⽣物・放射性物質・核兵器)脅威の検知技術は、産業、防災、治安、防衛など様々な分野で活用できる。
国家安保戦略は「技術力の向上と研究開発成果の安全保障分野での積極的な活用のための官民の連携の強化」について指針を定めた。そして、内閣府が所掌する経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)を含む研究開発の成果を、安全保障分野へ積極的に活用すると記した。5000億円規模のK Programは無人航空機(UAV)、衛星通信、AI、量子、ロボット工学、先端センサー、バイオ領域などの重要技術を支援対象とする。いずれも民生や防衛のみならず、防災、治安などマルチユース技術としての可能性を秘めている。
興味深いことに、3文書では、国家防衛戦略が有識者会議の提言を受け止め、マルチユースに言及した。しかしそれは「装備化に資するマルチユース先端技術を見出し、防衛イノベーションにつながる装備品を生み出すための新たな研究機関を創設する」との指針であり、あくまで防衛技術基盤の強化という文脈である。そこには、GPSのように、防衛分野で開発された先端技術を、民間や防災、治安など、マルチユースに還元させるという発想は見られない。
本来であれば、マルチユースという包摂的な概念は、最上位の国家安保戦略にこそ書き込まれるべきであったろう。その意味で3文書は、民生か安全保障かというデュアルユースの呪縛から逃れることができなかったとも言える。
今後は3文書の運用において、内閣府が進める経済安保のK Programや、総理主催の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が推進する科学技術政策と、防衛省・自衛隊が進めていく防衛基盤技術の強化について、政策を統合していくことが必要である。国による新興技術の開発支援政策を「高次のレベルで統合」していかなければ、支援の分散、重複、逐次投入につながりかねない。
海外に目を転じれば、日本にとって「これまでにない最大の戦略的な挑戦」である中国は、「科学技術の自立自強」を掲げ、米国、日本、欧州など西側諸国にチョークポイントを握られている技術とサプライチェーンの内製化、そのためのイノベーション推進に躍起になっている。
これに対し米国は、自らの国力の源泉が経済力と技術的優位性にあると考えている。バイデン政権が2022年10月に策定した国家安保戦略(NSS)は技術のセクションに1ページ以上を割き、「技術は、今日の地政学的競争、そして国の安全保障、経済、民主主義の将来にとって中心的な存在である」と力説した。
国の存亡が、新興技術にかかっている。そうした切迫した危機感は、残念ながら日本の国家安保戦略からは伝わってこない。
新型コロナは日本で5万8000人以上の国民の命を奪ってきた。そのコロナ危機の初期、日本はPCR検査とmRNAワクチンについて優位性のある技術を持ちながら、社会実装できなかった。日本のある企業は全自動PCR検査機器を開発していた。日本でPCR検査の目詰まりが指摘されていた2020年3月頃、この検査機器に飛びついたのは日本政府でなく、フランス政府だった。また2015年頃から日本で進んでいたmRNAワクチンの研究開発も、国から臨床試験の予算が得られず途中で打ち切られ、国産mRNAワクチン計画は頓挫した。その結果、日本は2.4兆円をかけて海外からワクチンを調達することになった。
米中が新興技術をめぐって覇を競うなか、日本は、アカデミアやスタートアップ企業が有望なマルチユース技術を持っていても、社会実装まで仕上げることができていない。
日本の技術力には、社会実装力が欠けている。その現実を直視しなければ、科学技術の研究開発にどれだけ国費を投じても、有望なイノベーションを創出し、国益を発展させることにつながらないのではないか。
荒れるインド太平洋を生き抜くために
国家安保戦略は、「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」ことを強調した。戦後日本の安全保障にとって大きな転換点となった3文書は、1年間におよぶ政府横断、そして有識者や財界も交えた政官財学での議論の結晶である。
戦略は、政策当局のオペレーション(作戦)と戦術と組み合わされることで、現場で実践されていく。国民の決意を引き出すため、安全保障政策の統合が、これからますます重要となる。
その鍵を握るのが技術力である。
天然ガスを冷却して液化し、船に積み、輸入して電力を供給するLNG(液化天然ガス)発電。その社会実装に世界で初めて成功したのは日本であった。日本は1969年にアラスカからLNG輸入を実現し、1970年にはLNGを燃料にした火力発電に成功した。そして1970年代、日本は石油危機で原油輸入の中東依存という課題に直面した。それを克服するため日本は東南アジアや豪州へ、太平洋を渡ってLNG確保に奔走した。いまやLNGは日本の発電の約4割を占めるに至った。
荒れるインド太平洋を生き抜くため、日本には安保3文書という海図とともに、技術が要る。日本がLNG発電というイノベーションを社会実装したように、スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力も、無人アセット防衛能力も、技術を社会実装させねば、国力とならないのである。
●子ども政策 予算倍増へ道筋示せるか 1/6
昨年生まれた赤ちゃんの数が統計開始以来、初めて80万人を下回る見通しとなった。国が想定していたよりも8年早く、少子化は加速度的に進んでいる。
子どもを持つかどうかは個人の選択であることは言うまでもない。ただ、少子化が進めば、年金や医療・介護などの社会保障制度の支え手が減るというだけでなく、生産や消費活動の担い手が減って経済規模が縮小し、国力が衰退していく恐れがある。
各種の調査から、少子化の背景に経済問題があるのは明らかだ。若い世代の中には雇用や所得が不安定で、結婚や出産、子育てに不安を感じ、ためらう人が少なくない。安心して子どもを持てる社会への転換を急がねばならない。
岸田文雄首相は年頭の記者会見で「子どもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転させなければならない」と述べた。言葉通り、対策を前に進められるかどうかが今年の焦点となる。
首相が対策の1番手に挙げたのは、児童手当の拡充など経済的支援の強化だ。拡充する方針は昨年12月、政府の全世代型社会保障構築本部が決定した報告書で示されており、児童手当の拡充のほか、育児休業給付の対象外となっている自営業やフリーランスへの給付、子育て中に時短勤務をする人への給付などが並ぶ。2023年中の具体化を目指すとしている。
日本は子育て支援への公的支出が少ないことが以前から指摘されてきた。国内総生産(GDP)に対する子育て関連支出は、出生率が高いスウェーデンやフランスなどの欧州主要国が3%を超えているのに対し、日本は2%程度にとどまる。
首相は政権発足当初からたびたび「子ども関連予算の倍増」を表明。年頭会見では、倍増に向けた大枠を6月の経済財政運営指針「骨太方針」までに示すと明らかにした。
驚いたのは「異次元の少子化対策」との強い表現で意欲を示したことだ。ただ、どれだけ言葉を並べても、財源の裏付けがなければ絵に描いた餅である。首相は防衛費をGDP比2%へ「倍増」させる議論を先行させ、そのしわ寄せを受ける形で子ども関連予算の財源を巡る議論が先送りされた経緯がある。
政府は4月に、子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」を発足させる。厚生労働省や内閣府の関連部署が移り、少子化に加え、児童虐待防止などの対策強化を目指す。同庁の23年度の予算案は約4兆8千億円。倍増するなら、将来的に5兆円近い上積みが必要ということになる。
現状では実現可能性に強い疑問を抱かざるを得ない。どのように「異次元の少子化対策」を実現するのか。主導する首相の姿勢が問われる。
●岸田首相 少子化対策強化へ “具体策のたたき台3月末めどに”  1/6
少子化対策の強化に向けて、岸田総理大臣は小倉担当大臣に対し、児童手当を中心とした経済的支援の拡充など、具体策のたたき台を3月末をめどにまとめるよう指示しました。
岸田総理大臣は6日午前、総理大臣官邸で、小倉少子化担当大臣と会談しました。
この中で、岸田総理大臣は、小倉大臣に対し、少子化対策の強化に向けて、厚生労働省や内閣府など関係府省による新たな会議を設置して検討を進め、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめるよう指示しました。
これを受けて小倉大臣は、近く会議の初会合を開き、児童手当を中心とした経済的支援の拡充や、幼児教育や保育サービスなどの充実、それに育児休業制度の強化などの議論を始める方針です。
政府は、会議がまとめるたたき台をもとに「こども家庭庁」が発足する4月以降、さらに詰めの検討を続けることにしています。
少子化対策をめぐっては、岸田総理大臣が6月の「骨太の方針」の策定までに、子ども予算の倍増に向けた大枠を明らかにする方針を示していて、政府内では、対策強化のための財源の確保についても議論が進められる見通しです。
小倉大臣は、会談のあと記者団に対し「スピード感を持ちながら、多くの方から納得と共感をいただけるたたき台をまとめたい」と述べました。
小倉少子化相「幅広く財源を議論する土台に」
小倉少子化担当大臣は記者会見で「社会全体での費用負担のあり方を考えるには、まずは必要な子ども政策が何かをしっかり議論する必要がある。岸田総理大臣の指示はそのための大きなスタートで、たたき台が国民各層の理解を得ながら、幅広く財源を議論する土台になるよう努めたい」と述べました。
また、少子化対策を検討する新たな会議について、みずからが座長を務め、内閣府や厚生労働省、それに文部科学省などの局長級のメンバーで構成する方針を示しました。
そして、早ければ通常国会召集前に初会合を開催し、学識経験者や子育ての当事者からヒアリングなどを行いたいという考えを示しました。
松野官房長官「財源確保で消費税は当面触れること考えず」
松野官房長官は記者会見で「少子化の問題は待ったなしの課題であり、恒久的な施策には恒久的な財源が必要だ。歳出の内容に応じてさまざまな工夫をしながら、社会全体で負担のあり方について幅広く検討を進めていくことが必要だ」と述べました。
そのうえで、財源を確保するため、将来的な消費税の引き上げも検討の対象になるかどうかについて「消費税については社会保障の財源として今後も重要な役割を果たすべきものだが、当面触れることは考えていない」と述べました。
●政府 少子化対策で新たな会議設置 経済的支援の拡充など検討へ  1/6
岸田総理大臣が少子化対策を強化する意向を示したことを受けて、政府は小倉少子化担当大臣のもとに関係府省による新たな会議を近く設置し、児童手当を中心とした経済的支援の拡充など具体策の検討を始めることになりました。
岸田総理大臣は先に行った年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と述べ、小倉少子化担当大臣に対し、子ども政策の強化策の取りまとめを指示する考えを示しました。
これを受けて、政府は小倉大臣のもとに厚生労働省や内閣府など関係府省による新たな会議を近く設置し、具体策の検討を始めることになりました。
この中では、児童手当を中心とした経済的支援の拡充や幼児教育や保育サービスの充実、育児休業制度の強化を含めた働き方改革の推進などの検討を行う方針です。
少子化対策をめぐり、岸田総理大臣は、ことし6月の「骨太の方針」の策定までに子ども予算の倍増に向けた大枠を示す方針も示していて、政府内では、今後の具体策の検討状況も踏まえながら、恒久的な財源確保の在り方についても議論が進められる見通しです。
●自民 甘利氏“少子化対策の財源 消費税率引き上げも検討対象”  1/6
今後の少子化対策を進めるための財源について、自民党の税制調査会で幹部を務める甘利前幹事長は、将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。
岸田総理大臣は、先の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と述べたうえで、児童手当を中心にした経済的支援の強化などの検討を進める方針を示しました。
これに関連して自民党の甘利前幹事長は、5日夜出演したBSテレ東の「日経ニュースプラス9」で「岸田総理大臣が少子化対策で異次元の対応をすると言うなら、例えば児童手当なら財源論にまでつなげていかなければならない」と指摘しました。
そのうえで「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければならず、将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、少子化対策を進めるための財源として、将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。
一方、甘利氏は防衛費増額に伴う増税に関する自民党内の議論について「財源は確定していて、要するにいつから増税を実施するかだ。ことしは年末ではなく、通年で早くから根本的な議論をしようとなっていて、そこで防衛費の議論は終結する」と述べました。
●少子化対策に私見「所得制限撤廃などのほうが希望が持てるのでは?」 1/6
5児の父であるタレントつるの剛士(47)が6日までにツイッターを更新。少子化対策に向けた自身の考えをつづった。
岸田文雄首相は4日に行った年頭の会見で、少子化対策を進めるとの意向を示し、児童手当などの経済的支援や、幼児教育、保育サービス等を強化すると表明した。
ただ、児童手当は現在、中学校修了前までの子どもを養育する世帯を対象に、子ども1人あたりに月5000円〜1万5000円が支給されているが、所得制限もある。また、財源の問題もあり、SNS上では首相の打ち出した「異次元の少子化対策」を冷ややかに受け止める声が少なくない。
つるのは「税金を一時的な給付金や出産一時金増額…などに回すよりも、子育て世帯からの回収を継続的に減らす、例えば子どもの人数に応じて累進所得税減税や、所得制限撤廃…などのほうが希望が持てるのでは?と思う子育て世帯主のつぶやき」と提案。
フォロワーからは「それいいですねぇ!政府がお金をばら蒔くよりも、各家庭が申告してくれるようになればお役所の方も管理・確認がしやすいでしょうし、家庭持ってる人たちも免税されるならと正しく報告しようとしてくれますよ。お互いにとって優しい提案だと思います」「ほんとそれ!!です。付け加えるならば、年少控除を復活させることで、納税額を減らせる&多子世帯に大きくプラスに影響するので、対策の一つにぜひ加えていただきたく!」「同意します!もう一人産めるかな…と思えるのは子育て期間中の支援です。ただ、一番欲しいものは、大学までの学費など教育費の完全無償化です。それならば絶対にもう一人産みます」などといった賛同の声が多数寄せられた。 
●消費税率の引き上げ「当面触れることは考えていない」官房長官会見 1/6
松野官房長官は、6日午前の会見で、子ども予算の倍増のために、消費税の増税により財源を賄うことに否定的な考えを示しました。「恒久的な施策には恒久的な財源が必要」としながらも「当面触れることは考えていない」と述べました。
会見トピックス / 閣議の概要・岸田首相のウクライナ訪問・岸田首相G7各国への歴訪・甘利前幹事長の消費増税発言・ウクライナ情勢
○松野官房長官 閣議の概要について申し上げます。一般案件1件、政令、人事が決定されました。大臣発言として、外務大臣臨時代理である私からハイチにおけるコレラの感染拡大に対する緊急無償資金協力について申し上げ、小倉大臣および国家公安委員会委員長から、交通安全対策の推進について。岸田総理大臣から海外出張不在中の臨時代理等について、それぞれご発言がありました。私からは以上です。
――岸田総理のウクライナ訪問について伺う。ウクライナ大統領府長官は松田大使と会談し、大統領の意向として、岸田総理のウクライナ訪問を要請したと明らかにしました。どのようなやり取りがあったのか。G7議長国日本の総理の訪問の意義、今後の検討方針を伺います。
○松野官房長官 1月4日、松田駐ウクライナ大使がイェルマークウクライナ大統領府長官と会談した際に同長官から岸田総理のウクライナ訪問について招待がありました。我が国は祖国を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民と共にあります。そのような中で、対露制裁とウクライナ支援を強力に推進しつつ、ウクライナ政府をはじめ G7や同志国との間でも緊密に連携して対応してきています。両首脳間においても、これまで累次にわたる首脳電話会談を通して緊密に意思疎通を行ってきています。本年はG7議長国であることも踏まえつつ、引き続き日本として適切な形で対応していく考えであります。
――関連で、岸田総理のG7各国への歴訪について伺います。岸田総理は9日からG7各国を歴訪します。5月の広島サミットの成功に向け今回の歴訪を通じて どういった連携を確認する方針でしょうか。また、今年はG7の議長国として重要な舵取りを担う1年になります。ウクライナ支援などどのような外交方針で臨んでいく考えなのか、政府の外交方針についてもあわせて伺います。
○松野官房長官 諸般の事情が許せば、岸田総理は1月9日からフランス、イタリア、英国、カナダ、そして米国を訪問し、各国首脳との会談を行う予定であります。今回の岸田総理によるG7各国訪問では、G7広島サミットに向けた議長国としての考え方を説明するとともに、世界がロシアによるウクライナ侵略、大量破壊兵器の使用リスクの高まりなど未曾有の危機に直面する中で、広島サミットにおいて法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7のビジョンや決意を示していくことを確認したいと考えております。また、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、核軍縮・不拡散、経済安全保障、また、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題などについて、G7が結束して取り組んでいくことを確認する考えであります。ロシアによるウクライナ侵略に対しては、これまでもG7は結束して対応してきました。我が国としては、G7議長国としてこれまで以上にG7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、対露制裁およびウクライナ支援を引き続き強力に推進していきます。
――自民党税調幹部の甘利前幹事長は今後の少子化対策を進める財源について将来的な消費税の引き上げも検討の対象になるという認識を示しました。受け止めを。
○松野官房長官 ご指摘の発言については承知しています。政府としては少子化の問題はこれ以上放置できない待ったなしの課題であり、経済的支援の強化、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実という基本的な方向性のもと、まずは子ども政策として充実させる内容について、具体化していく考えであります。その上で、恒久的な施策には恒久的な財源が必要であり、その歳出の内容に応じて、様々な工夫をしながら、社会全体での負担のあり方について、幅広く検討を進めていくことが必要と考えていますが、消費税についてはこれまでも総理が述べられているとおり、社会保障の財源として、今後も重要な役割を果たすべきものでありますけれども、当面触れることは考えていません。
――ウクライナ情勢について伺う。ロシア大統領府は、プーチン大統領が6日から7日の36時間は停戦するよう命じたと発表した。 アメリカなどからは、懐疑的な見方も出ているが、政府としての見解とロシアに求めることをお聞きする。
○松野官房長官 1月5日、プーチン大統領はロシア正教のクリスマスに合わせ、1月6日12時から1月7日24時までウクライナにおけるすべての戦線で停戦体制を導入するよう国防大臣に指示したと承知しています。これに対し、ウクライナ政府は1月5日に発表したゼレンスキー大統領のビデオメッセージにおいて、より早期に戦争を終結させるためには、クレムリンの休戦提案は全く必要とされていないと述べて、ロシア側の提案を拒絶していると認識しています。いずれにせよ、一刻も早くロシアが侵略を止め、ウクライナから部隊を撤退させるため、国際社会が連携してロシアに対して断固とした措置を取っていくことが重要であります。我が国として引き続き、今後の状況を注視しつつ、G7等と連携し、適切に取り組んでいきたいと考えております。
●防衛費の大幅増も令和臨調で議論へ 「財源に国債はあまりに安易 1/6
経済界や学識者でつくる「令和国民会議」(令和臨調)共同代表で、日本生産性本部会長の茂木友三郎キッコーマン名誉会長らは6日、東京都内で年頭会見を開き、3月末までに取りまとめる令和臨調の提言に関して「立場や党派を超えて取り組まねば解決困難な課題に取り組む。本格的に世論喚起や合意形成に踏み出す1年とする」と述べた。
提言は、選挙制度や国と地方の関係を考える「統治構造」、持続可能性が問われる「財政・社会保障」、人口減少や高齢化を踏まえた「国土構想」の3部会で議論してまとめる。令和臨調共同代表で元総務相の増田寛也日本郵政社長は、本紙の取材に「政府が6月に策定する経済財政運営指針の骨太方針に提言が反映され、その後の政策選択に影響を与えられる内容にしたい」と語った。
茂木氏は、政府が昨年末に決定した防衛費の大幅増に関しても、令和臨調で議論する考えを示した。歴代政権はこれまで、国債発行で軍事費の膨張を招いた戦前の反省を踏まえ、戦後は建設国債を防衛費に充てるのを避けてきたが、岸田政権は2023年度当初予算案で、建設国債で自衛隊の施設整備費や艦船の建造費を賄うことを決めた。
令和臨調共同代表の小林喜光よしみつ東京電力ホールディングス会長は会見で「大変な財政状況の中で国債はあまりに安易で、たがが緩んでいる」と指摘した。

 

●「日本の国際貢献度が低すぎる」とアメリカ議会が「暴発」寸前… 1/7
戦後政策の大転換
岸田文雄首相は1月13日、念願かなって米ワシントンのホワイトハウスでジョー・バイデン米大統領と首脳会談を行う。
岸田官邸が2023年初っ端の首相外遊として日米首脳会談を想定し、早くから準備していたのは事実である。それにはもちろん、理由があった。
岸田政権は外交・防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の安保関連3文書を、昨年12月16日夕に官邸で開催した国家安全保障会議(NSC)、続いて開いた臨時閣議で決定した。
この戦後政策の大転換を示す「国家安全保障戦略」(概要)を作成したのはNSC事務局に当たる国家安全保障局(NSS。秋葉剛男局長)である。同概要III.に「我が国の国家安全保障に関する基本的な原則」5項目が記述されているが、筆者は本稿で第4項「日米同盟は我が国の安全保障政策の基軸」を取り上げたい。
今年は主要7カ国(G7)首脳会議(5月19〜21日)の議長国が日本であり、岸田首相の地元・広島で開催される。一昨年10月に政権の座に就いた岸田氏が当初からG7広島サミット実現に強い想いを胸中に秘めていたことは周知の事実である。
そして昨年は、2月のロシアによるウクライナ侵略に始まり、米中対立が先鋭化するなか中国の台湾侵攻が現実味を帯び、且つ北朝鮮の相次ぐミサイル発射など日本を取り巻く国際環境が激変した1年間だった。
成功への必須条件
では岸田氏自らが主宰するG7サミットを成功裏に終えるための必須条件は何か。それこそ日米同盟の緊密化と、件のバイデン氏の全面協力である。確かに、閣議決定した国家安全保障戦略には「日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、我が国の安全保障のみならず、インド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定の実現に不可欠な役割を果たす」と書かれている。
しかし、同盟国の米国が果たしている役割と比べて日本が果たしているそれは彼の国を十分に納得させるものなのか。要するに米側に日本への不満が無いのか、ということなのだ。答えは否である。
昨年夏前から日米両国の外交・安保担当高官は様々なレベルで意見交換を重ねてきた。そして秋葉NSS局長はカウンターパートであるジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)や米議会有力者との協議の中で、民主、共和党を問わず米議会には日本の「国際貢献」に対する不満が高まり“暴発”寸前であることを知らされたというのだ。
岸田官邸が行き着いた結論は、ある意味で極めてシンプルな結論だった。求められる役割を果たす我が国の“本気度”を示すのは「防衛予算」と「防衛装備」であると。
23年度当初予算案で防衛費は過去最大の6.8兆円とした。27年度までの5年間に防衛費総額43兆円、現行5年間の計画の約1.5倍に増やすことも決めた。しかもその財源として自民党内の反対論を抑え込んで防衛増税(法人・所得・たばこの3税)を打ち出したのである。
一方、安保関連3文書改定の柱である「反撃能力」保有として、相手のミサイル発射拠点を叩く反撃能力を持つ米製巡航ミサイル「トマホーク」取得費2113億円を計上した。さらに反撃能力向上のために、相手の脅威圏外から撃つ長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」の導入も盛り込まれた。
付言すべきは、3文書改定の重要項目であるサイバー安全保障の強化を盛り込んだことである。改めて指摘するまでもなく、我が国はサイバー防衛で米欧主要国に大きく後れを取っているからだ。
それにしても、である。これまで見てきたように、今回の安保関連3文書改定は、一にかかってバイデン米政権を安堵させるものであったということである。事実、12月16日の閣議決定後の米側の素早い反応が全てを物語っている。
バイデン大統領は16日午後7時1分(米東部時間)、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)も同9時1分(同)それぞれツイッターで歓迎の意向を表した。それだけではなく、米議会のジャック・リード上院軍事委員長(民主党)、ミット・ロムニー上院外交委員(共和党)ら有力者も歓迎のツイートをしているという。異例のことである。
以って懸念された米議会の“暴発”を未然に防いだと言っていい。すなわち、岸田氏は13日のバイデン氏との首脳会談に万般の自信を持って臨むことができるのだ。
●平和を生む日本の「変わり身の早さ」と「節操のなさ」がおかしな方向に… 1/7
きのうまで「鬼畜米英」を唱えていた人たちが、敗戦となった途端、「アメリカ大好き、民主主義バンザイ」を唱えた。この変わり身の早さと節操のなさゆえに日本は滅びなかったといえる。
日刊ゲンダイの保阪正康さんのコラム「日本史縦横無尽」によれば、なんと8月15日のポツダム宣言受諾直後に、当時の警視総監(前日まで風俗紊乱や反戦主義者を取り締まっていた右翼の先鋒)が米軍相手の「特殊慰安施設」をつくれと命じたという。総監は都内の主要な接客業組合の代表者を集めて、「米軍が駐留中は愉快に過ごしてくれることが望ましい」とのたまったとか。
そんな節操のない日本が、おかしな方向に走り出そうとしている。岸田総理は自民党の麻生副総裁から「有事の宰相」と持ち上げられ、政治的難題に答えを出すのが「私の歴史的役割」と述べた。
政治家の歴史的役割の第一は「平和を守ること」だ。
戦時中、軍医見習だった故・箕輪登議員は自民党きってのタカ派だったが、「先制攻撃は絶対にいかん」「政治家が考える一番の人間の幸せは平和だ」と言ったという。田中角栄も「戦争を知らない世代が政治の中枢となったら危ない」と言ったそうだ。
そもそも総理が属する宏池会は吉田茂、池田勇人の流れをくむもっともリベラルな派閥だった。中国を“仮想敵国”としたところで、日本の10倍の超大国にはかなわないに違いない。かつての対米戦争と同じだ。北朝鮮の軍備増強も日本などハナから問題にしていない。
だがマスコミはそれを報じない。岸田総理らへのお追従の記事ばかり載せるさまは、戦前のマスコミが軍国政府の言いなりだったのと同じだ。
先の戦争で死んだ兵士たちは、日本をこんな国にするために犠牲になったのではない。当時もみな「生きて虜囚の辱めを受けず」という東条英機が作った“戦陣訓”に縛られて亡くなった。敗戦後、当の東条本人が連合軍に虜囚の辱めを受けて裁かれる結果となったが、彼は平和をどのように考えていたのだろうか。
もちろん国の守りは必要だ。自衛官(国家公務員)の給料は警察官や消防士(地方公務員)よりも低く、定年も早い。国防の重責を担う彼らはもっと優遇されるべきだが、武器や兵器を買うために予算を増やす必要はない。
ロシアのウクライナ侵攻の遠因は、欧米人から侮蔑され、三等国扱いされてきたことへのプーチンの恨みである。その行いはむろん非道だが、西側諸国にも責任はある。日本人は明治以来、ロシアの文物に親しんできた。私も若い頃は歌声喫茶で「カチューシャ」や「黒い瞳」などのロシア民謡を聴いたが、欧米人はロシアを“敵性国家”だと差別してきたのだ。
人が生きる権利は何よりも尊い
シベリア抑留経験者は、米軍が捕虜の労働に給料を払っていたと聞いて仰天したという。70万人の日本兵を不法に連れ去り、うち10万人を理不尽な強制労働で死なせたソ連に比べると、アメリカは人道的に映る。だがそのアメリカも朝鮮戦争やベトナム戦争で蛮行を重ねた。60年代の公民権運動で黒人差別を撤廃したのは素晴らしいが、いまだに人種差別は根強く、多くの問題を抱えている。
日本が彼らにならう必要はない。国を挙げての差別や殺戮とは、永久に決別しなければならない。命が大事、平和が第一だ。人が生きる権利は何物にも代えがたく尊いものだ。それを奪うことは、国家にさえも許されないのだ。
●なぜいま消費税率アップ発言?「自民党は経済政策の正常化を」 森永卓郎氏 1/7
岸田文雄首相が防衛費増額のための増税の考えを公表し、国民から反発の声が上がる中、自民党の甘利明前幹事長が、少子化対策のために「将来的な消費税率の引き上げも」などと発言。火に油を注いだかたちとなり、SNSでは批判のコメントが殺到して“炎上”した。「岸田首相は『税金倍増計画』を断行している」と苦言を呈する経済アナリストの森永卓郎氏に、岸田首相の狙い、今後の国民生活などについて聞いた。
――防衛増税について、どう見ていますか?
防衛費の増額の必要はないと私は考えていますが、最近の国際情勢を踏まえて、増額するということは受け入れたとしても、増税でその費用を賄う必要はないです。
現在でも国民の税負担はかなり過酷なものになっています。国民の所得がどのくらい税金や社会保障費に持っていかれているかを示す国民負担率を見ると、2021年度は48%です。11年度は38.9%だったので、この10年で10%近く上がっています。
岸田首相は「10年程度は消費増税はしない」、「国民の所得を倍増させる」と言った人です。その人がなぜ、国民の生活にしわ寄せがくる増税をしようと考えたのか。それは、増税による財政の健全化に固執する財務省の考え方を受け入れたからでしょう。
今のような社会経済状況で、増税などするべきではありません。安倍(晋三)元首相は「防衛費増額の財源は国債でやればいい」と主張していました。私もこの主張には賛成です。
岸田首相は、国債だと「将来の子ども世代の負担になる」という考えのようですが、国債を日銀に買ってもらい、満期になったら日銀が再び国債を買えば、国は元本の返済の必要はなくなります。国が日銀に支払う利子は、日銀の経費を差し引いて、ほとんどが国民の財産として国庫に戻ってきます。ここには将来世代への負担などありません。
これをやりすぎると「インフレになる」という、リスクを指摘する声もあります。ただし、アベノミクスで行われた日銀の異次元緩和で、14年から年間80兆円もの国債を購入できるようになりました。それでもインフレは起きなかった。日銀の購入できる“天井”はものすごく高いことがわかっています。80兆円からすれば、増税で賄おうとしている1兆円くらいは“ゴミ”のような金額ですよ。
――国債以外に財源を賄う方法はないのでしょうか。
もし国債がダメでも、庶民への増税に頼らない方法はいくらでもあります。政治家の文書通信費(現、調査研究広報滞在費)や、赤坂にありながらも超格安の議員宿舎など、見直しをするべきです。国家公務員の給与も大企業の正社員の給与並みになっており、非正規や中小企業なども含めた民間給与の平均より54%も高いです。極論ですが、国家公務員の給与を民間給与並に削減すると、2・9兆円も捻出できます。
年間所得が1億円を超えると、所得税の負担率が下がる「1億円の壁」もおかしな話です。財務省によると、所得税と社会保険料の負担率が、年間所得300万〜400万円の人と比べ、100億円の人のほうが低いことがわかっています。
また、日本人がドバイで暗号資産を売ってもうけると課税されない、といった抜け道もある。富裕層に課税すれば、2兆円でも3兆円でも出てくるのではないかと見ています。
増税前にこうした構造的な問題を一つひとつ議論していくべきです。こうした状況を放置して、搾れるところから搾り取ろうなんて、こんなバカなことがあっていいわけありません。
――岸田首相は当初、「所得倍増計画」を掲げていましたが、負担が増えています。
防衛費増額による増税のほかにも、岸田首相が掲げる「子ども予算の倍増」のためには「消費増税が必要」と自民党から声が上がっています。さらには、これまで免税事業者だった中小企業や個人事業主から消費税を徴収しようとしています。
このままでは国民負担率は50%を超えるように思えます。江戸時代では四公六民(収穫高の4割が税、6割が農民の所得)だったのが、幕府の財政悪化で五公五民になり、農民が窮乏化した結果、全国で百姓一揆が起きました。今の日本でもこれ以上負担が増えると経済が窒息し、国民の生活も回らなくなりますよ。
岸田首相は就任当初、金融所得課税を強化し、富裕層からの富を分配すれば、経済成長の好循環が始まると主張し、国民の所得を増やす「所得倍増計画」を掲げていました。それを聞いたときは、「正しい考えだな」と思いましたね。だけど、いまや完全にうそつきだとわかりました。これまでの施策を見ていると、「税金倍増計画」を断行しているように見えます。
私からすれば岸田首相は、弱い農民から搾り取ろうとする江戸時代の悪代官のようです。昔、小学校で、江戸幕府の役人が「菜種と百姓は絞れば絞るほど出る」と発言したのを学びましたが、この思想はいまの岸田首相の考え方と重なって見えます。
――岸田首相はどのような政策を目指しているのでしょうか。
岸田首相の政策では、これから国民の生活はどんどん厳しくなります。
現在、輸入原材料が高騰しており、物価も上がっています。他方で、輸入品を除いた物価指数を表すGDPデフレーターを見ると、実はマイナスになっている。つまり、日本の経済はいまデフレになっている。賃金が上がらないのも、そのためです。
デフレ下では金融緩和と財政出動をしないといけないのに、岸田首相は逆に財政と金融の引き締めをやろうとしています。
例えば、国の借金を見てみると、一昨年度に102兆円増えましたが、昨年度は25兆円と、大幅に赤字の増加額が減りました。これは岸田首相が財政引き締めに、すでに舵を切っている証拠だと見ています。
また、金融引き締めについては昨年12月、日銀は長期金利を引き上げる方針を出しました。これは岸田首相の意向を反映したものだと見るべきです。今年4月、日銀の黒田東彦総裁が任期を終えます。金利を上げる、つまり、金融引き締めをする新総裁が選ばれ、超低金利政策は、おそらくここで終わると見ています。
岸田首相の財政健全化と金融正常化は、信念なのでしょう。そこには経済政策という科学的な論理はなく、宗教的な信仰に見えます。岸田首相のような政策から財政再建や経済成長を実現できた国を、私は一つも知りません。逆に大不況に陥った事例ならあります。
1929年に就任した浜口雄幸首相の時代です。世界で景気が後退し、日本でもデフレ下にあるときに、財政と金融を引き締めてしまい、昭和恐慌になりました。
――国民生活は今年、どうなるでしょうか。
日本では今年、経済が一気に失速するかもしれません。金利が上がることで、住宅ローンも上がります。住宅ローンの4分の3は変動金利ですから、住宅ローン破産が増えるでしょう。
また、コロナ禍で中小企業を支援するために行われた「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保)が今年5月ころから有利子化、つまり、利子を払う必要が出てくるため、ここでも破綻する企業が出てくるでしょう。
政府はリスキリング(学びなおし)をして成長産業に転職すればいい、と考えているようですが、中高年にとってそれはかなりハードルが高い。結局は、非正規職にしか就けず、年収が激減。そうした人たちを、強い企業が安い賃金で雇うような状況になるのではないでしょうか。
昭和恐慌では4人に1人が失業しましたが、同じような恐慌になるかもしれません。私は、大学を卒業する学生の就職口がないような社会にはしたくないと思っていますが、就職氷河期が再び来るような強い懸念を持っています。
岸田首相は、憲政史上最悪の首相になるかもしれません。今年の統一地方選で、自民党は惨敗するのではないでしょうか。早く経済政策が正常化することを望んでいます。
●消費税13%に現実味…岸田政権の目玉「子ども予算倍増」必要財源は6兆円 1/7
「異次元の少子化対策に挑戦する」──。4日の年頭会見で岸田首相が力を込めた「子ども予算倍増」。財源について市場関係者の間では「消費税増税しかないだろう。またしても景気の腰を折るつもりか」と警戒感が強まっている。これまで消費税増税のたびに消費を冷え込ませてきたからだ。案の定、自民党の甘利明前幹事長が少子化対策の財源に消費税率の引き上げも検討の対象になるとの認識を明らかにした。ホントに消費税増税はあるのか。
2022年度の少子化対策予算は約6兆円。倍増なら、新たに6兆円の財源が必要になる。なぜ、消費税が有力なのか。市場関係者がこう説明する。
「すでに財務省は、防衛費増額に向けて歳出削減に動いているだけに、これ以上の歳出カットは簡単ではない。子ども予算の財源を歳出削減で捻出するのは難しいでしょう。かといって赤字国債の乱発も容易ではない。財務省は5日、10年国債の金利を前月の0.2%から0.5%に引き上げました。今後も金利は上昇するとみられ、利払い負担は増えます。財政圧迫につながる国債で子ども予算を賄うことは考えにくい。現実的に6兆円もの財源は基幹3税で賄うしかないが、“法人税”と“所得税”は防衛費増額で増税を予定済み。残るは“消費税”ということです。少子化対策なら社会保障という消費税の使途にも合致します」
財源議論 防衛費増額を優先させた思惑
早速、松野官房長官は5日、児童手当の拡充について「恒久財源」の検討を表明している。赤字国債の発行や、歳出見直しによる財源確保を否定した格好だ。
立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏(税法)が言う。
「岸田政権が子ども予算倍増について夏まで先送りし、防衛費増額の議論を優先させたのは、子ども予算の財源に消費税増税を充てる計画が念頭にあったからでしょう。子ども予算を先に議論すると、法人税や所得税など、あらゆる財源が候補になってしまい、必ずしも消費税に結びつかない。先に防衛費で消費税以外の財源を押さえてしまおうということです」
しかし、岸田首相は21年秋の総裁選で「(消費税は)10年程度は上げることを考えていない」と発言していたはずだ。昨年11月の衆院予算委員会でも、この発言について問われ「申し上げたように変わっておりません。上げることは考えていない」と答弁している。もし、消費税増税を強行したら、大モメになるのは確実だ。
子ども予算の新たな財源6兆円をまるまる消費税で賄えば、税率は13%に跳ね上がる。
「消費税は低所得者ほど負担が重くなり、税の役割である富の再分配に逆行する悪税です。ましてや物価高騰下に消費税率を上げられたら国民生活は壊滅的になるでしょう」(浦野広明氏)
“異次元の消費大不況”に見舞われそうだ。
●憎まれ役を買って出た? 甘利明氏の消費増税発言の真意 1/7
岸田文雄首相が打ち出した防衛増税についての議論も収まらないうちに、今度は消費税増税を念頭においた発言が、自民党元幹事長の甘利明氏から飛び出した。負担に次ぐ負担に、国民はいつまで耐えればいいのか。なぜこのタイミングでその発言が出るのか。真意は? 自民党関係者らはこの発言をどう受け止めたのか。
岸田文雄首相が「防衛増税」を視野に入れるなか、1月5日、テレビ番組に出演した自民党前幹事長の甘利明氏は、「岸田首相は少子化対策についても異次元的に新たな対応をすると言っている。消費税も含めて、論議しなければならない」と消費税増税に言及した。
そして、さらに踏み込み、「子育ては国民に関わることで、幅広く支える体制を取らねばならない」と述べ、岸田首相が唱える防衛増税については、「いつから増税を実施するのかである」とすでに自民党内では決着済みという認識まで示したのだ。
この発言にさっそく反応したのは、大阪府の吉村洋文知事。
SNSで、「少子化対策の為に消費税増税? 勘弁してよ。一体我が国の国家運営はどうなってるんだ? 逆だよ、逆。減税」とコメント。
少子化対策で実績をあげている、兵庫県明石市の泉房穂市長は取材に、「国債など発行できない明石市は、予算のやりくりで子ども関連予算を倍増させています。その結果、人口、出生率は増加し、経済も活性化しました。明石市でできたことがなぜ国でやれないのか。増税しなければ少子化対策ができないと、政治家と官僚が増税ありきの思い込み」と甘利氏の言動を批判した。
岸田首相は2020年10月の就任当初、子ども関連予算の倍増を公約としていた。
しかし、実際は子ども関連予算には見向きもせず、昨年12月、突然、防衛増税をぶち上げた。
自民党のある閣僚経験者は、「新しい年に入って、あまりに防衛増税ばかりがクローズアップされることもあってか、岸田首相は急に子ども関連予算倍増を復活させた。そこに、甘利氏が消費税増税を言い出した。税金をアップさせるのが政治家の役目と言わんばかりに。春に統一地方選と衆院補欠選挙という大きな“審判”があるのに、防衛増税で批判される中での甘利氏の消費増税発言は、火に油を注ぐようなものだ」と厳しい見方だ。
●子ども財源、岸田政権また難題 増税論浮上、世論の反発危惧 1/7
岸田文雄首相が表明した「異次元の少子化対策」を巡り、財源をどう確保するかが政権の難題になってきた。
念頭にある児童手当の拡充などに向け、国民負担増は不可欠との見方が浮上。ただでさえ防衛力強化に伴う増税への反対論が根強い中、世論のさらなる逆風を危惧する声も漏れ始めた。
首相は今年に入り、子ども政策を政権の中心課題に位置付けるようになった。4日の年頭記者会見で、「静かな有事」と称される少子化の進行に対する危機感を表明。経済財政運営の基本指針「骨太の方針」を決定する6月ごろまでに、子ども予算の倍増に向けた大枠を提示する考えを示した。
しかし、焦点となる児童手当などの拡充には、恒久的な財源の議論が欠かせない。今後、児童1人当たりの支給額引き上げや、第2子以降の加算、所得制限の緩和などが論点となる見通しで、少なくとも数千億円規模に上る可能性もある。
このため、自民党の甘利明前幹事長は5日のBS番組で「消費税も含めて地に足を着けた議論をしなければならない」と述べ、消費税率の引き上げに言及した。
一方、松野博一官房長官は6日の記者会見で「(消費税は)当面触れることは考えていない」と述べ、沈静化を図った。新たな子ども政策の具体像が見えないまま、増税のイメージが先行するのは避けたいのが本音だ。
子ども政策を巡っては、東京都が都内の0〜18歳を対象に1人当たり月5000円程度の給付を検討。しかし、政権幹部は「都とは連携していない」と明かす。支援の適正な規模や、国と地方の連携など、政府内の議論が熟しているとは言い難い。
政策課題を多く抱えながら、優先順位を決めないことへの懸念も漏れる。昨年末に首相が打ち出した防衛力強化のための増税は、開始時期の決定を今年に持ち越した。子ども政策の財源論を並行して議論することについて、公明党幹部は「増税しか考えない内閣のように見られる」と指摘した。
首相は6日、自民党の萩生田光一政調会長と首相官邸で会談。子ども政策について、防衛力強化や脱炭素などの取り組みとバランスを取りながら議論を進める方針で一致した。
●「異次元の少子化対策」実現に必要なたった一つのこと 1/7
岸田文雄首相が1月4日の年頭の会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げ、有識者で作る新たな会議の設置を指示した。この会議は小倉將信少子化対策担当大臣をトップとし、有識者のほか、財務、厚生労働、文部科学各省などで構成されるようだ。
なお、岸田首相が「異次元の少子化対策」を発表した同日に、東京都の小池百合子知事が所得制限なしで月5000円の給付金支給を発表した。機を見るに敏といえばそれまでだが、新型コロナウイルス対策でロックダウンを先走って口にした結果、その後の政府の新型コロナ対策が先鋭化していったことを思えば、単なるバラマキ合戦に堕してしまうのではないか、悪い予感しかしない。
なぜ、過去の少子化対策は失敗≠オたか
それはさておき、日本の少子化対策は、1990年のいわゆる1.57ショックを契機に開始されたエンゼルプランを嚆矢(こうし)とする。
エンゼルプラン以降、児童手当、子どもの医療費無償化、高校無償化等、さまざまな少子化対策が拡充されながら実施されているにも関わらず、少子化に歯止めがかかっていない。この点に鑑みれば、これまでの少子化対策はいずれも控えめに言っても失敗だったと評価せざるを得まい。
岸田首相が「異次元の少子化対策」を実施するにしても、なぜこれまでの少子化対策が失敗したのか検証が必須だ。3月末までにたたき台を示すというのは拙速にすぎる。結局、時間とおカネの浪費にしかならないのではないか。
そもそもこれまでの少子化対策は、出生数を目標にしたものか、出生力を目的にしたものなのか、そして何のための少子化対策なのか、その目的がハッキリしていなかった。今回の対策はどうだろうか。
出生数の変動の要因は、子を持つ適齢期(と考えられている)15歳から44歳までの女性人口と総出生率に分けられる。
1980年と2020年を比較すると、15歳から44歳までの女性人口は24%減少、総出生率は30%減少している。つまり、社会の出生力が低下しているのに加えて、女性人口が減少しているので少子化が進行しているのだ。その意味では、出生数の増加は現時点では移民を認めない限り、絶望的だ。
22年の出生数は80万人を下回ったのは確実だが、足元の15歳から44歳までの女性人口を前提に、例えば100万人程度(15年では出生数は100.5万人で16年には97.7万人と100万人を下回った)の出生数を実現しようと思えば、総出生率を41.8‰から49.7‰(1987年が50.4‰、1988年が49.1‰)へ引き上げなければならない。もしくは、現在の総出生率を前提として出生数を増やすには、女性人口を453万人増やさなければならない。
財源調達方法で変わる少子化対策の効果
報道を見る限り、今後設置される会議では児童手当を中心とした経済的支援の強化、子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進が検討項目として上がっている。その中で、児童手当の恒久財源として消費増税が検討されているようなので、子育て予算の充実と、その財源調達の違いが出生数に与える影響を考えてみたい。
筆者は、過去の出生率の推移を、婚姻数、税引き後所得、女性所得、家族向け社会保障給付、高齢者向け社会保障給付、社会保険料、消費税負担、政府債務残高を用いて推計した。その関係性を示した推計式が以下である。
出生率=10.96+0.213×婚姻数+0.369×税引き後所得-0.306×女性所得+0.014×家族向け社会保障給付-0.105×高齢者向け社会保障給付-0.330×社会保険料-0.003×消費税負担-0.0004×政府債務残高 この推計式を用いて22年の出生数を試算したところ、78.2万人、さらに、20年以降の3年間で新型コロナ禍で失われた出生数は11.4万人となった。
この推計結果を用いて、以下の政策の効果を比較・検討する。
(ケース1)家族向け社会保障給付10兆円増加。これは20年度現在の家族向け社会保障給付は10.8兆円なので子育て予算倍増に相当する。
(ケース2)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の国債を発行する。
(ケース3)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の消費税を引き上げる。
(ケース4)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の高齢者向け社会保障給付を引き下げる。
(ケース5)ケース1を実現するための財源調達手段として、同額の社会保険料負担を引き上げる。
 以上のケースの結果は表の通りとなった。
結果からは、高齢者向け社会保障削減の効果が最も大きく、ついで全世代で広く負担を分散できる消費増税による財源調達、赤字国債による財源調達は結局将来の負担増なので少子化政策拡充の効果が消費増税よりも多く相殺されてしまうことがわかる。何より子育て適齢世代を含む勤労世代に負担が偏る社会保険料負担増による財源調達は子育て政策拡充の効果を打ち消してしまうことが指摘できる。
つまり、もし岸田首相が「異次元の少子化対策」を実行されるのであれば、子育て関連に関しては特段の政策を講じる必要は全然なく、ましてやそのための消費増税は不要で、高齢者向け社会保障給付を削減するだけでよいのだ。
必要なのは高齢者向け社会保障のスリム化
要するに、なぜ幾たびの少子化対策が講じられても少子化が進むかといえば、重すぎる社会保障の存在があるからである。社会保障制度のスリム化が何よりも重要であるにも関わらず、歴代政権が政治的に多数派の高齢世代に遠慮して、高齢者向け社会保障制度のスリム化を怠ってきたからに他ならない。
また、少子化対策のための新たな財源を増税で手当することは、実質的に子どもを持たない者や子育てが終了した世帯に対して罰金を課すのと同じであることにも留意が必要だ。日本では子を持つ世帯は相対的に裕福であるので、子育て対策は低所得層から中高所得層への逆社会保障としても機能してしまっている。つまり、高齢者向け社会保障給付のスリム化が実現できれば、異次元の少子化対策や月々5000円程度の追加的な給付に期待しなくても大幅に手取り所得増になるし、そうなれば結婚や子どもを諦めていた若者にも希望が出てくる。
したがって、岸田首相が、シルバーデモクラシーに真っ向から挑戦して高齢者向け社会保障制度のスリム化を実現し、クレクレ民主主義とバラマキ政治と決別できれば、それこそ「異次元の少子化対策」が実現される。シルバーファーストからチルドレンファーストな日本社会へと舵を切り、日本の国難ともいえる少子化を反転させた名宰相として歴史にその名が刻まれるのは確実だ。
やるべきことは明らかなのだから、あとは岸田首相の覚悟次第だ。 
●防衛費増額で「財源にこだわる人」が抱える根本的な問題点 1/7
「防衛について考え直す」のは当然だが・・・
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本でも防衛について考え直すこと自体に違和感はない。むしろ当然だろう。
敵基地攻撃能力の保持については、「この手」によって敵が日本に手を出しにくくなって日本の安全性が増すのか、むしろ攻撃対象のターゲットとなりやすくなって危険が増すのかなどについて、納得できるゲーム論的な説明を聞きたい。
一般論として「戦いというもののコストパフォーマンス」を考えた場合、「受け一方」ではよほど戦力的に優位な差がないと勝ちにくいのが普通なので、反撃能力の保持は検討すべき選択肢の1つだろう。
平和主義を掲げて戦力を最小限の受動的防衛にとどめるという選択肢は、相手側に独特の合理性を仮定したときに有効かもしれない。だが、潜在的な敵に関して、そこまで信頼できるものかとも思う。
また、戦争を放棄した日本国憲法との関係については、解釈改憲という悪知恵に社会も司法もすっかり協力的なわが国では、今さら気にしても仕方がないのだろう。善し悪しは別として、これも想定の範囲内だ。
防衛予算を対GDP比2%に倍増させる方針があっさり決まったことについては、岸田内閣に似合わない決断スピードに驚くが、実質的に決めたのが日本の「親会社」的存在であるアメリカの意思なのだと考えると、これも容易に納得できる。
アメリカの軍産複合体は、ウクライナでの実質的な代理戦争を通じてアメリカ人の血を流さずに武器・戦争ビジネスの需要を作るビジネスモデルの開発に成功した。
この種のビジネスにとって潜在的に有力なお得意さんである日本に、購買予算の増額を迫るのは自然だ。純粋にビジネスの問題として考えると、日本企業にとっても大きな成長市場が登場した。
こと「戦争」に関しては、平時の想像を超えるようなスピードで物事が決まって既成事実化される可能性が大きいことについて、いかにも戦争に駆り出されるかもしれない若い世代だけでなく、今やその上の世代も含めて心の準備をしておく必要がありそうだ。
さて、「頭を抱えたくなった」のは、防衛費増額をめぐる財源の議論に関してだ。防衛予算増額の必要性をきっかけとして増税を決めたいとする意見と、現在の経済状況で増税は不適切であるとして国債を財源とすることを検討すべきだとする意見とがぶつかった。
メディアの論調では、防衛費を増額する以上、その財源を決めずに議論することは無責任だとして、国債による資金調達を「増税の先送り」として批判する意見が優勢だったように見えたが、はたしてこれでいいのか。
「支出・財源対応システム」の何が問題なのか
財政支出を伴う政策が論じられるときに、その支出の「財源」が反射的に問われることが多いが、これは適切なのか。
そもそも、お金は、その使い道と使うタイミングに関して柔軟性を持っていることが長所だ。個々の支出項目に、個々の収入項目を対応させる必要はない。
国の財政は、比較的毎期きっちりと支出と収入の収支が見合う必要がある「家計」よりも、複数の事業を行いながら全体の必要性に応じて資金を調達したり運用したりする「企業財務」により近い。
そう考えると、個々の支出ごとに個別の資金調達を対応させるのでは、まるで事業部がたくさんあって、財務部がない会社のような非効率であることがわかる。
企業なら、資金調達さえできるなら低収益な事業でも行っていいというものではない。個々の支出項目が財源さえ見つかるならば承認されるということなら、異なる支出項目間の優先度や効率性(例えばコスト・ベネフィットの比較)が問われる仕組みがないことになる。
また、例えば消費税の増税は、社会保障支出と軽重を比べるのではなく、まずほかの税目と比較されるべきだった。
現在の支出・財源対応システムでは、支出間、財源間それぞれの内部で適否に関する比較が十分働かない。この仕組みがもたらしている累積的な非効率性の影響はすでに莫大だろう。
現実の予算編成にあっては、個々の項目の査定や省庁間の交渉は行われても、異なる分野のコスト・ベネフィット分析を行ったことがないのが現実かもしれない。しかし、それでは知的に怠惰であると同時に、国民の財産を預かる政府として無責任だろう。
「財政のマクロ政策的責任」とは?
加えて、国の財政には、国家の債務と適切なマネーの量を供給するという、マクロ経済政策にかかわる調整機能がある。国債は、信用リスクがない資産として金融取引の基準になり、また中央銀行のマネー供給の見合いの資産にもなるべき存在なので、その残高はゼロが望ましいのではなく、国の経済規模の拡大とともに残高が拡大することが自然だ。
また、物価や景気の調節は主に中央銀行の金融政策を通じて行われるとしても、金利がゼロに達した段階では財政赤字の増減に大きく影響される。一層の金融緩和が必要な場合に緊縮財政方向に変化するべきではないし、逆の場合には財政の引き締めが必要かつ有効な場合がある。
ゼロ金利にまで達した金融緩和政策の下で消費税率を引き上げて財政再建方向に舵を切るような政策がいかに不適切なのかは、近年の経験が雄弁に語るところだ。
あるいは、財政出動をやりすぎて過剰なインフレを招いたケースについては、コロナ対策で財政を使いすぎた現在のアメリカの状況を見るといい。「緩和」と「引き締め」のどちらが適切かの判断基準は、主にそのときのインフレ率で判断できる。そのためのメドとしてインフレ目標がある。
ある年の防衛費で生じたにせよ、ほかの支出で生じたにせよ、財政の帳尻の変化を、国債で負担するのがいいか、何らかの税金の増税で負担するのがいいかは、時々の経済状況による。
なお、財政収支の赤字を追加する必要がある場合に、必ずしも政府がお金の使い道を決めて「財政出動」する必要はない。とくに投資の決定にあって政府の非効率性は、古くから指摘されるところだ。減税あるいは給付金で国民が使えるお金を増やす方法のほうが、資源配分の歪みは少なく済むことを付記しておく。
経済状況に対する判断の議論を抜きに、国債が財源であるべきだとか、国債で賄うのは無責任だとか言い合っていて、しかも後者の議論には無用に硬直的な支出・財源対応システムが付随していたので、昨年末の防衛費財源をめぐる議論にはうんざりした。
短期的には「アコード」、長期的には効率分析
個々の財政支出の項目間の比較がなされていないし、税金についても税目ごとの適切性の比較が網羅的になされることはない。加えて、財政収支に対するコントロールも金融政策とバラバラで、国債の発行額がいくらなら適切なのかが論じられることもない。ただ毎年の数字に任せて、いつも一様にキャッチフレーズとして「財政再建」が語られるだけだ。しかも、そもそも「再建」が必要なのか、それがいつなのかの議論抜きにだ。
国家財政を再び企業財務にたとえるなら、支出も、収入も、ファイナンスもコントロールできずに漂う会社の財務部門のようだ。財政支出間、さらには税目間の相互比較の作業は必ず要るものだと思われるが、率直に言って、方法を作るにも実施するにも時間が必要だろう。
一方、財政収支とそのファイナンスについては、毎年コントロールが必要だし、直ちに手をつけることができる。
巷間、政府と日銀の「アコード」(政策合意)を見直す必要性について話題になるが、アコードがもっぱら日本銀行の金融政策の修正に関連するものであることはバランスを欠いている。とくにマクロ的な影響を考えた場合の財政のあり方について「縛り」を設けるためにこそ「アコード」が必要なのが現実だろう。
日銀は、財政の問題に口を出さないのが不文律であるかのように見受けるのだが、財務省や政治家に対して専門的な見地から注文をつける言語を持ってもいいのではないだろうか。
何はともあれ、個々の財政支出について、個別に対応する財源を論じる議論はすでに「有害」の域にある。「財源」「財源」と言い立ててドヤ顔をするのは古手の新聞記者などに多いように思うが(記者としては「上がり」で論説委員などが多い)、もう少し頭を使って欲しいものだと思う。
●東京都、リスキリング支援拡充 離職者の資格取得など 1/7
東京都は2023年度、企業人材や個人のリスキリング(学び直し)支援を拡充する。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める企業などのニーズに応える。不登校の児童・生徒への支援も強化する。
7日に23年度予算案を査定した小池百合子知事が明らかにした。「リスキリングプロジェクト」と称し、産業構造の変化に対応できる人材を年間で約2万人育成する目標を掲げる。業務に人工知能(AI)やロボットの活用が進むなか、成長産業分野への労働移動を促す。
具体的には再就職を目指す離職者を対象に、ウェブデザインのようなデジタル技術などの国家資格の取得を後押しする。専門人材の育成・訓練の事業費として3億円を予算案に盛り込む。リスキリングプロジェクトの一環で女性の正規雇用へのキャリアチェンジ、高齢者の再就職の支援にも取り組む。
小中学校では不登校の児童・生徒をサポートする専門教員や支援員を配置し、学習や人間関係づくりを手助けする。オンライン上の仮想空間に学びの場を構築する事業も拡充する。
小池氏は査定後の取材に「都民一人ひとりが輝くことで都市の力は高まる」と施策の意義を強調した。
●放漫財政 次世代へ責任ある政治を 1/7
先進国最悪の債務(借金)を抱えたまま、政府は底が抜けたような財政運営を続けている。
今後、膨らむ社会保障費や不測の有事に対応できるのか。国民の将来不安に拍車をかけ、経済発展の潜在リスクにもなっている。
岸田文雄政権は持続可能な財政に向け、早急に健全化の道筋を明示すべきだ。
日本の長期債務残高は1千兆円に及び、国内総生産(GDP)比2・6倍と先進国で突出する。来年度当初予算案でも新たに35兆円の国債を発行する。
政府は2025年度に基礎的収支を黒字化する財政再建目標を掲げてきたが、岸田政権は昨年の骨太方針で時期を削った。財政規律のたがを外したのか。
約3年前からの新型コロナウイルス禍と、昨年勃発(ぼっぱつ)したウクライナ危機に伴う物価高が歳出を拡大させている。生活や経済への緊急対応はやむを得ないが、手法には問題が多い。使い道を定めず、内閣の裁量で使える「予備費」や、規模ありきの補正予算が目に余る。
さらに岸田氏は国防と子ども予算の「倍増」方針を示す。
防衛費は5年で総額43兆円が必要とし、初めて建設国債を自衛隊の艦船建造などに使うという。借金による軍事拡大で歯止めを失った戦前の教訓から、歴代政権が禁じ手とした方針の大転換だ。防衛増税の時期決定が先送りされる中、「借金軍拡」の恐れは現実味を帯びる。
岸田氏は年頭会見で子ども予算増も6月に大枠を示すとしたが、財源に踏み込まなかった。
身の丈に合わない歳出増大の背景には、日銀の金融緩和と自民党からの圧力がみえる。
マネー供給と金利抑制のため、日銀が買った国債は発行分の5割を超えた。悪性インフレを起こすと法が禁じる国債の直接引き受けに等しく、危うい。
一方、10年に及ぶ強引な緩和策は限界にある。金融を引き締める米国との金利差が広がり、円が売られ、物価高を助長する。日銀の相場支配が債券市場の機能を損ねる。年末に事実上の利上げに踏み切ったのは、市場に追い込まれた修正にほかならない。利上げは、国の利払い増で跳ね返る。緩和のつけだ。
自民内で財源不足は国債で賄えばよいとする勢力は、多くが故安倍晋三氏を支えたグループと重なる。党内基盤が弱い岸田氏は配慮をにじませる。
だが債務を積み、巨費を投じた過去の財政出動をみても経済効果は一時的だった。政治主導の非効率なばらまきや無駄な公共事業が、地域で執行する自治体にのしかかり、財政難や住民福祉の切り下げを招いてきた。
何より、通貨の価値は市場が決めることを忘れてはなるまい。英国では昨年、財源のない大型減税策が市場の不信を呼び、通貨や債券が暴落。首相が辞任した。
市場の信認が揺らげば、国が不安定化し、経済や暮らしに多大な悪影響を及ぼす。人口急減が進み、「災害列島」と呼ばれ、安全保障上の脅威も増す日本である。次世代へ可能な限り財政余力を持たせ、引き継ぐのは今の政治の責務である。
●「安倍路線」継承か脱却か 岸田首相にじむ独自色 1/7
岸田文雄首相は安倍晋三元首相の死去から半年間、「安倍路線」の継承と脱却のバランスに苦慮しつつ、独自色の打ち出しを進めてきた。昨年末には安倍氏から引き継いだ防衛力強化のため、令和5年度からの5年間で43兆円を確保する方針を決定する一方、財源論では安倍氏が生前、提唱した国債発行を否定した。政権の安定に向け、党内の不満を抑えられるかが焦点となる。
「ミサイルを買うために、国債をばんばん発行するというのは違うんじゃないか」。昨年12月、防衛費増額のための増税方針に関し、自民の安倍派(清和政策研究会)を中心に反発の声が相次いだことについて、首相は周囲にこう漏らした。防衛力強化の方針では一致しながらも、財政規律に目配りする首相と、防衛国債に言及した安倍氏の遺志を尊重する議員らとの乖離(かいり)が表面化した形だ。
昨年7月の安倍氏の死去直後、首相は憲法改正や北朝鮮による日本人拉致問題への取り組みなど「安倍路線」の継承を打ち出した。最大派閥の安倍派の支持をつなぎ留めなければ政権運営が安定しないからだ。
厳しい党運営を強いられる首相だが、「岸田カラー」へのシフトは徐々に進めている。象徴的なのが経済政策だ。今年1月4日の年頭会見では「この30年間、企業収益が伸びても期待されたほど賃金は伸びず、トリクルダウン(経済活性化による利益の再分配)は起きなかった」と安倍氏が進めたアベノミクスを含む施策を総括。その上で「この問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくる」と訴えた。
焦点となるのは4月8日に任期満了を迎える日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁の後任人事だ。安倍派内では大規模金融緩和の継続を求める声が根強いが、政権内では市場から金融緩和の弊害が指摘されていることを踏まえ、「機動的かつ柔軟にやるべきだ」との意見がある。
ただ、首相が後任人事で「脱アベノミクス」を鮮明に打ち出せば、安倍派などの不満が高まり、政権運営が不安定化する恐れもある。

 

●年のはじめに考える 「平和外交」を立て直す 1/8
昨年十二月、新しい「国家安全保障戦略」が「国家防衛戦略(旧防衛計画の大綱)」「防衛力整備計画(旧中期防衛力整備計画)」とともに閣議決定されました。
安保戦略は、おおむね十年の期間を念頭に、外交、防衛など安全保障に関連する分野の政策に戦略的な指針を与えるもので、安倍晋三内閣当時の二〇一三年に初めて策定されました。
岸田文雄首相が九年ぶりに改定した背景には、中国が軍事力を急速に増強し、力による現状変更の圧力を高めるなど国際情勢の変化があります。
安保戦略策定の目的は、日本の「主権と独立を維持し、領域を保全し、国民の生命・身体・財産の安全を確保する」という国益のためですから、情勢の変化に応じて戦略を不断に見直すこと自体に、異論はありません。
問題は内容です。国民の命と暮らしを守るための安保戦略が周辺国との緊張を高め、逆に日本国民の命と暮らしを危険にさらすことになれば本末転倒だからです。
専守逸脱の敵基地攻撃
新しい安保戦略は主に二つの点で従来の防衛政策と異なります。その一つが政府が反撃能力と呼ぶ「敵基地攻撃能力」保有です。
日本がミサイルで攻撃された場合、歴代内閣は「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない」として、敵の発射基地をたたくことは自衛の範囲内としつつ、攻撃可能な装備を平素から整えることは「憲法の趣旨ではない」としてきました。
戦争の反省から、戦後日本は戦争放棄、戦力不保持の憲法九条に基づいて他国に軍事的脅威を与えない「専守防衛」に徹してきました。長射程ミサイルなどこれまで持たなかった敵基地攻撃能力を一転して保有すれば、専守防衛を逸脱すると指摘されて当然です。
もう一つが防衛費です。関連予算と合わせて二七年度に国内総生産(GDP)比2%まで増額することを打ち出しました。
二二年度当初予算の防衛費は約五兆四千億円。明確な決まりはありませんが、防衛費はGDP比1%程度で推移していますので、2%への増額はほぼ倍増です。
これを五年間で実現するというのですから、軍事大国化の意図を疑われても仕方がありません。
抑止力としての効果が不明な敵基地攻撃能力の保有と合わせて挑発と受け取られれば、周辺国にさらなる軍事力増強の口実を与えます。防衛政策の転換には地域情勢が好転する確証がありません。
改定前の旧安保戦略には次のような記述があります。
「我が国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた」「こうした我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない」
平和国家としての歩み自体が、日本への信頼と国際的地位を高めてきた国家戦略と言えます。
「ハードパワー」と呼ばれる軍事力とは対照的な非軍事の「ソフトパワー」、もしくは二つを組み合わせた「スマートパワー」としての外交・安保戦略です。
国際的信用という資産
新しい安保戦略はそうした視点を欠いています。「平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と記すだけで、平和国家の歩みをどう生かすか、言及がないのです。
「日本も戦後、他国を攻撃しないという専守防衛で培った世界的な信用資源がある。その延長線上で防衛体制を強化する方策があるのに、反撃能力を持って自らその信用資源をかなぐり捨てる必要はない」。国際政治学者で東大大学院教授の遠藤乾氏は本紙のインタビューでこう指摘します。
戦争とは政治の延長線上にあると指摘したのは、プロイセンの軍事学者クラウゼビッツです。長年読み継がれる「戦争論」の慧眼(けいがん)に学べば、軍事的衝突は政治・外交の失敗にほかなりません。
情勢の変化に対応するため、戦後日本が平和国家として歩み、築き上げた「信用」という外交資産を最大限生かす形で国家戦略を磨き上げたらどうでしょうか。
不透明で不安定な時代だからこそ、やみくもに軍事に走らず、冷静な視点で「平和外交」を立て直すことが必要とされるのです。
●自衛官の憂鬱すぎる「第二の人生」―― 「金」は増えても「人」が増えない理由 1/8
「結婚するなら警察や消防の人」
「防衛力の抜本的強化」に伴う防衛費増額が実現する。いわゆるNATO(北大西洋条約機構)基準では、沿岸警備費用やPKO(国連平和維持活動)拠出金、そして軍人恩給なども防衛費に含まれているため、これらを計上し、さらに「安全保障の観点」から他省庁の予算もそこに入れて、GDP(国内総生産)比2%を達成できないか検討されているという。
一方で、防衛省は長年、自衛官募集に苦労しているが、私は今回の「防衛力強化」が実現しても「募集問題」の解決にはつながらないと思っている。
いつだったか、電車の中でたまたま聞こえてきた母娘の会話には苦笑せざるを得なかった。母親が娘に「結婚するなら警察か消防の人がいいわよ。自衛隊は危ないわりに処遇が悪いからダメ」とアドバイスしていたのだ。
この母親の指摘はあまりに鋭く、否定のしようがない。昨今、子供が自衛隊を目指し合格しても、親が反対して諦めさせるケースが少なくないと聞くが、その背景が分かる気がした。
自衛官は特別職国家公務員であり、警察や消防と比べて給料が低いわけではない。ただし、定年問題については「処遇が悪い」のは事実だろう。自衛隊では「精強性の維持」のため「若年定年制」をとっている。階級によって定年の年齢は異なり、2曹や3曹(外国の軍隊でいう下士官)は54歳で制服を脱ぐ。1曹と曹長、そして准尉、3尉〜1尉は55歳だ。3佐と2佐は56歳、民間企業でいえば部長クラスに相当する1佐が57歳で、役員クラスの将官(将補および将)は60歳である。当然、退職後は年金が支給される65歳になるまで何らかの形で仕事に就く必要がある場合がほとんどだ。
一方で、警察や消防、海上保安庁では階級に関係なく60歳定年となっている。さらに、2021年には国家公務員と地方公務員の定年を65歳まで延ばす関連法が成立したため、これらの人々は定年と同時に年金が受給されることになる。
この格差を解消すべく、自衛官には退職金とは別に「若年定年退職者給付金」が支払われるが、給付は退官後の4月または10月と、翌々年の8月の合わせて2回だけ。民間の定年延長に伴い増額も予定されているようだが、現行制度では総額1000万円前後で、年金受給開始まで10年かそれ以上であることを考えると、1カ月あたり8万円ほどにすぎない。
再就職をしなければ生活は成り立たないが、50歳を過ぎてからの就職は簡単ではなく、年収の大幅減を余儀なくされている。それでも適職が見つかればいいが、仕事のマッチングが上手くいかず無職になると、退職金と給付金を切り崩して暮らしていかなくてはならないのである。
冒頭、NATO基準では防衛費に「軍人恩給」が含まれると書いたが、日本の軍人恩給は旧軍人並びにその遺族に支給されるもので、現在の自衛官には支給されない。
あらかじめ断っておくが、ただでさえ募集が厳しいと言われている中で、わざわざネガティブな情報発信をして追い打ちをかけたいわけではない。しかし「防衛力の抜本的強化」と言うならば、この人的基盤問題こそ真っ先に手をつけるべきであり、とにかく良い方向に進むことを心から願いながらこの原稿を書いている。
自衛官の退官行事を何度か見たことがあるが、見送りのために集まった多くの隊員の中に退官者の家族の姿もあり、そこにはまだ幼い子供がいる場合も多い。一般社会で50代半ばといえばまだまだ働き盛り。その年齢で、父親は門を出た瞬間から家族を養うため次の働き口のことを考えなくてはならないのだ。
因みに米軍などでは、軍人向けの年金があり、20年以上の勤務で退役時からすぐに給付を受けられる。それだけでなく、医療ケアなど、退役軍人のためのサービスも充実している。
基本的に戦地に行かない自衛隊は米軍とはリスクの大きさが違うとは思うが、自衛官は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応える」という「服務の宣誓」を行っている。
約30年間「身をもって責務の完遂に務め」、自衛隊に人生を捧げ、部下を育て、災害派遣で人々を助けていた自衛官に、この処遇が適切なのか。
スキルを活かせない再就職
若年定年制の自衛隊では、退職者の再就職のサポートをする必要があるということで、防衛省内に「就職援護」という部署があり、企業に対して再就職の依頼ができるようになっている。だが、様々な事情で再就職先を辞めてしまう例もある。保険会社に再就職したものの、元部下たちへの勧誘を期待されていることに苦痛を感じて退職したという話も聞いた。
そもそも斡旋される再就職先も、元自衛官としてのスキルが活かされているとは言えないものが多い。例えば、警備員や、高速道路の料金所、運送業、荷物の仕分け、旅館の送迎バスや幼稚園のドライバーなどである。中にはスーパーマーケットで勤務する人もいる。特に地方の場合、かなりのキャリアがあっても時給750円の仕事にも就けないという現実が実際にある。子供の進学、親の介護などの理由から、よりマシな収入を得るために転職先を探さざるを得ない場合も多いと考えられる。
以前、ある雑誌で幹部自衛官の退官後のリポートがあり、〇〇小学校に再就職したとあったので、その方のキャリアからしててっきり教育者の立場で赴任したのかと思ったら、肩書は「用務員」だった。その立場で子供たちへの情熱を語られていたことに感動を覚えた。もちろん仕事に貴賤などなく、どんなポジションであれ、世のため人のために働くのは尊いことだが、自衛官時代に築いた実績や人物としての価値が十分に活かされていないと感じざるを得ない。
こうした場合、再再就職までは自衛隊でも支援しきれず自力での就職活動となるが、「20社受けて全滅でした」などと肩を落とす人もいた。
そうした中で近年、自治体の危機管理監や防災監として自衛官OBの採用が増えているのは朗報だ。経験豊富な自衛官OBが、都道府県のみならず市区町村の防災監などで一層活躍することを期待したい。ただ、採用されても、低位のポジションになることも少なくないようで、収入は大幅に減る場合が多い。それだけでなく、問題は首長に直接に意見具申できる地位でないとその存在意義が薄くなってしまうことだ。
まして週に1日しか出勤しないようでは形式だけになってしまう。自治労(全日本自治団体労働組合)との関係などもあるだけに難しい課題だとは思うが、有効にスキルを活かせる仕組みを望みたい。そうならないと、自衛隊側も優れたOBを提供できないという悪循環に陥ってしまいかねないからだ。
将官がハローワークに
働き手不足や年金支給年齢の引き上げを受けて、2020年、自衛隊でも定年が延長された。2曹・3曹は53歳から54歳へ。1曹〜1尉は54歳から55歳へ、2佐と3佐は55歳から56歳へ、1佐は56歳から57歳へと引き上げられた。
しかし、定年を伸ばしてもすべてが解決するわけではなく、逆に新たな問題が生起してきている。その一例が、1佐と将官との差が近くなり過ぎることだ。
現在、将官の退職年齢はトップの統合幕僚長が62歳といった例外はあるが、基本的には60歳定年である。だが実際には将官のポストは極めて限られるため、将補は人事の都合上、60歳を前に退職を勧告されるケースがほとんどなのだ。そして、1佐には若年定年退職者給付金が支給される一方、将官にはそれは適用されないため、仮に今後、さらなる定年延長で1佐が58歳で退職するようになると、60歳手前で退職する将補と1佐との差が、金銭上ほとんどなくなる。
この問題は今後調整が進められるものと思われるが、現時点でも、退官と同時に将補になる1佐、いわゆる「衛門将補」も存在することから、現役の時に頑張って将補になるインセンティブがなくなっている可能性があり、さらに退職時の支給金額も1佐の方が多くなれば、将補の魅力はますます薄れてしまうことになる。
自衛隊内でも「階級の高い人は退官後も悠々自適」といった怨嗟の声が聞かれることがよくあるが、事情は大きく変わってきている。
2020年7月、陸上幕僚監部の募集・援護課が退官予定の将官に関する情報を企業に渡していたとして、歴代の課長など関係者が軒並み処分される事案があった。当時の河野太郎防衛大臣は「あってはならないこと」と厳しく断罪した。実は将官に関しては、再就職の斡旋もない。将官になると60歳が定年のため一般職国家公務員と同じ扱いになることが2015年の自衛隊法改正で定められた。そのため、再就職の斡旋が禁止されたのだ。
いわゆる「天下り」が社会問題となったためなのだろうが、退官直前に災害が起きるなど、現役時に自力で就職活動などできない場合もザラにあるだろう。昨今のように北朝鮮が連日ミサイルを発射し、中国の艦船や航空機が毎日のように領海・領空に接近している中、隊員の上に立つ将官に自分で仕事探しをしろと言うのだから、どうかしていると言わざるを得ない。
常識で考えれば、高級指揮官が任務に集中できるよう組織として支えるのは当たり前のことだ。しかし「後は任せて下さい」と本人の代わりに援護活動にあたった担当者たちが厳しい処分を受けることになったのである。彼らは詰め腹を切らされ、厳しい減給や異動などの処分を受けた。それが根本的な問題解決に繋がるとは到底思えない。
このような出来事を横目に、自衛隊幹部の中には「頑張って昇任しても何もいいことがない」という思いが蔓延しつつある。将官にまで出世しても、退官した翌日にハローワークに行くような実態では、キャリアアップに何も魅力を感じなくなるだろう。実際、退官した元将官が、再就職先も見つからないまま1年以上経っているといった話をしばしば聞くようになっている。
減っていく再就職先
将官に限らず、3佐以上の自衛官には、利害関係のあった企業に自己求職できないなどの規制が設けられるようになった。これらは特定の企業への不正な利益誘導を防ぐ目的ということだが、いちOBの影響で装備品の決定を左右するなどあり得ず、あまりにも現実離れしている。
米国などでは、退役軍人が軍需産業に入って開発の助言をしたり、軍と会社の橋渡しをしたりするのは当たり前であり、長年の知見を活かせる適切なあり方だとみられている。全く畑違いの仕事に就くより、よほど国のためになるだろう。防衛関連企業に再就職先を頼りきることがいいとは思わないが、これらの企業にOBが入ることはそれなりの理由と必要性があるだろう。ただし、民間企業に依存するだけではない、国としての責任ある援護も求められるところだ。防衛関連企業への再就職がそんなにいけないことなら、恩給制度を復活させて退官後の生活を国費で支えるべきだ。それもない中で放り出すような国家を一体誰が守るというのか。
実際には再就職先が減っていることも確かだ。これは、装備品を国内調達せず、輸入が増えていることが主な原因だ。防衛産業の防衛事業からの撤退が相次ぎ、これは自衛隊にとって、再就職先を失うことも意味している。すると、これまで1佐のOBを採用していたところに将官OBが入るようになって在籍していた元1佐を追い出す形になり、1佐が2佐の就職先を、2佐が3佐の就職先を浸食するような形になってしまっているという。そうなると、みんなが従来より低い給与に甘んじることになる。
現役のうちに自分で人脈を広げ、資格の取得などに動き始めるべきとも言われるが、そのように器用にできる人ばかりではない。また、自衛隊に国防という重責を担わせている国民の側がそれを言うのは、僭越であり間違っているだろう。
辞めたくないのに制服を脱ぐ任期制隊員
ここまで主に定年制の自衛官について説明してきたが、一方で、短期間で任期を終える「任期制」自衛官もいる。
正確には採用時は「自衛官候補生」といって、一般企業における契約社員のような位置付けとなる。2018年に採用年齢が約30年ぶりに改定され、18歳以上27歳未満の者に限られていた採用年齢の上限が一気に33歳未満へと引き上げられている。
安倍晋三元首相殺害が元任期制自衛官によるものだったことから、初めてこの制度について知った人も多いようだ。
多くの任期制自衛官は2〜3年で任期を終え、20〜30歳代で退職することになる。本人が自衛隊に残ることを望んでも、そのためには曹に昇任する試験に合格しなければならず、階級ごとに定員が限られていることもあり、ハードルは極めて高い。自衛官を続けたいのに泣く泣く辞めていく人は多い。
現在、募集難だと言われている大部分が、実はこの任期制隊員だ。高卒の若者が減っていることや将来への約束がない有期雇用ということもあり、確保が困難になっているのだ。
それだけに、この隊員たちについては、警察や消防などへの再就職といった危機管理組織内での人事運用の融通性や、自衛官としての経験を活かした再就職先の確保などが一層求められるところだ。
任期制隊員のことをまるでアルバイトのように言う向きもあるようだが、この人たちがいなければ組織は成りたたない。貴重な隊員を少しでも増やせるような魅力化政策が必要だ。
少子化を言い訳にしてはならない
縷々述べてきたが、巷間言われている「少子高齢化が進み、自衛官募集が大変な時代になっている」云々という話を聞く度に、私には自衛官になる人が少ない理由をごまかしているように思えてならない。このような「人に冷たい職場」に人気が集まるわけがないのだ。
一方で、人口減少や少子化が進んでいることもまた事実であり、今後、さらなる定年延長は既定路線となるだろう。ただし、むやみに定年を延ばして、給料が下がったり退官後の暮らしがますます厳しくなるようでは本末転倒だ。
例えば第一線部隊と後方部隊を区分けして、定年も含めて柔軟に適材適所で運用する制度を構築することや、国が長年育てた人財である自衛官を地方の守りに活かせる方策などのフレームワークを早急に検討する必要があるだろう。
応募が減って大変だと言う前に、現在の退官後の事情が、子供たちに夢を与えるものなのかどうかをぜひ考えてもらいたい。元将官がハローワークに行くような光景を見て、誰が自衛官になることを目指すだろうか。しかしこれが「抜本的防衛力強化」を目指そうとしている国の実態だ。
自衛官の多くが誕生日に退職するシステムになっていることから、今日もどこかで退官行事が行われ、その数は毎年8千人近くとなる。定年制であれ任期制であれ、すべての自衛官が「自衛隊にいてよかった」という気持ちで門を出てもらいたいし、そうでなくてはならない。国費を投じて育てた人材を、もっと国のために活かせる施策を講じる必要がある。これは間違いなく国の責務だ。
●少子化対策 充実させるための財源めぐり各党に聞く 1/8
少子化対策を充実させるための財源をめぐり、岸田総理大臣はNHKの日曜討論で、給付と負担の問題などを含めきめ細かに議論していく考えを示したのに対し、立憲民主党の泉代表は財源は歳出改革や国債の発行で賄うべきだという考えを示しました。
この中で、岸田総理大臣は「少子化対策について、給付と負担の問題や社会保険のあり方なども含め、さまざまな財源について考えていかなければならずきめ細かな議論をしていきたい。それは政策に見合った財源でなければならず、政策の整理をまず行ったうえで予算や財源の議論を進めていきたい。経済の好循環を動かしていくには、物価高に負けない賃上げがポイントになる。中長期的には構造的な賃上げが重要だ」と述べました。
公明党の山口代表は「妊娠から子どもが社会に巣立つまで、継続的に支援できる政策をそろえることが大事だ。まず、何をやるかを見えるようにし、財源についても、責任を持って見通しを立てることが必要だ。保険も含め、幅広く財源を確保していくべきだ」と述べました。
立憲民主党の泉代表は「異次元の少子化対策と言うが、生まれた年によって大幅に政策が異ならないような安定的な対策を実現すべきだ。子どもや教育の政策は未来への投資でもあり、財源として国債を考えてもよい。歳出改革と国債を前提に考えていきたい。また、物価上昇を上回る賃上げでなければ、給付も考えるべきだ」と述べました。
日本維新の会の馬場代表は「国民全員で少子化対策や子育てを応援することが必要で、幼児教育から高等教育まですべてを無償化することが必要だ。税と社会保障と働き方の3つをパッケージで改革すべきで、財源問題は、借金や負担増という考え方だけでは立ち行かなくなる」と述べました。
共産党の志位委員長は「大学の学費の無償化を目指して、まずは半分にし、入学金を廃止すべきだ。消費税の増税こそ少子化を加速させた元凶の1つで、5%に減税し、富裕層の負担や大軍拡の中止で財源をつくるべきだ」と述べました。
国民民主党の玉木代表は「教育国債の発行で子育てや教育の予算を倍増し、所得制限を撤廃すべきだ。賃金が上がると支援の対象から外れるので、頑張って納税することが『子育て罰』になるのは見直すべきだ」と述べました。
れいわ新選組の櫛渕共同代表は「消費税を増税すれば少子化はさらに加速し、国家の自滅の道だ。子ども国債や教育国債を発行して徹底的に財政出動を行い、最大の投資をすることが必要だ」と述べました。
●どうなる2023年の金利・為替・物価・賃金〜低金利時代の終了に日本経済は 1/8
2023年の日本経済の最大の課題は、大きな混乱なしに、低金利時代から脱却できるかどうかだ。賃金については、これまでの停滞状態は変わらないだろう。
長期金利が1%になるか?
日本銀行は、昨年12月20日に、長期金利の許容上限を0.5%に引き上げた。
それまで日銀は10年債利回りを0.25%に抑え込んでいたが、他の年限の利回りが上昇し、10年金利だけが不自然に低い状態になっていた。これが、地方債や社債による資金調達に障害を与えていた。12月の上限引き上げは、これに対処したものだ。
しかし、不自然な金利構造は、いまだに変わっていない。このため、海外のヘッジファンドが10年物国債を空売りする投機取引も収まっていない。また、企業が固定金利での借り入れを増やしたいとの要請が増えているという。これも、金利をさらに押し上げる要因になる。
だから、0.5%への引き上げでは収まらず、今後もさらに金利を引き上げる圧力が続くだろう。
では、日銀が長期金利の抑圧策をやめれば、長期金利はどの程度にまで上昇するだろうか? 
2013年初め頃の長期金利は、日本が0.7%程度で、アメリカが2.6%程度だった。アメリカのいまの長期金利は3.8%程度だ。仮に日米金利の比率が13年と変わらないとすれば、いまの日本の長期金利の水準は、1.2%ということになる。
もちろんこれは、大雑把な目安にすぎない。現在のアメリカの長期金利の水準は長期的な傾向に比べて高いので、今後インフレがおさまれば、低下する可能性が高い。しかし、日本のいまの水準が低すぎることは、間違いないと思われる。
長期金利の動向は、為替レートなど、様々な変数に大きな影響を与える。金利がさらに上昇すれば、住宅金利の上昇や、企業の金利支払いなどの問題が生じるだろう。
住宅ローン金利が上がる
大手銀行の一部は、1月から住宅ローンの固定金利を引き上げる。今後日銀が短期金利も引き上げれば、変動金利も上がる。
日銀の資金循環統計によれば、家計の住宅ローンの融資残高の対前年増加額は、2015年までは、6兆円程度でほとんど変わらなかった。ところが、マイナス金利が導入された2016年から急速に増加し、最近時点では12.8兆円程度となっている。残高は、16年始めの165兆円から、2000年9月末の200.7兆円まで、35兆円増えた。
固定金利が上がると、住宅ローンは、減少する可能性がある。また変動金利が上がれば、変動金利での借入れの金利負担は増加する。
金利上昇によって、国債による財政資金調達も困難になる。
財務省の「令和4年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、金利が1%上昇した場合、3年後の国債費は3.7兆円増加する。
また、株価にもマイナスの影響がある。
ゾンビ企業が破綻する
企業が資金調達する際の金利も上昇する可能性がある。
これは、とりわけゾンビ企業に大きな影響を与えるだろう。「ゾンビ企業」とは、借入金の利払いに必要な利益を生み出していない企業だ。これまでの低金利時代に生き延びてきたゾンビ企業は、金利が上昇すれば苦境に立たされる。
日本の場合、「ゼロゼロ融資」の後遺症がある。これは、実質無利子・無担保融資のことで、コロナ禍で売上高が減少した企業を支援するため、政府主導で2020年3月から始まった。民間と政府系金融機関から、22年9月末までに43兆円の融資を行った。新規融資が2022年末で終了し、2023年から返済を開始する。
融資を受けた企業の倒産がすでに増え始めていたが、日銀の利上げによって、短期融資を受けにくくなり、倒産が増加する可能性がある。
帝国データバンクによれば、ゾンビ企業の現状はつぎのとおりだ。
1. 2021年度でのゾンビ企業は、約18万8000社。19年度と比べると約3割増。ゾンビ企業率は12.9%。
2. ゾンビ企業の売上高経常利益率は、4.94%に悪化。
3. ゾンビ企業のなかで、コロナ関連融資を「現在借りている・借りた」企業は約76.3%。返済を不安視する企業が20.5%。
4. 業種別では「小売」が19.5%と、もっとも高い。従業員数別では20人以下のゾンビ企業が全体の12.9%。
春闘賃上げ3%でも、経済全体の実質賃金は大幅減
2022年には物価が高騰したのに、賃金は上がらなかった。この状況は、2023年には変わるか? 
連合は、春闘で5%程度の賃上げを要求するとしている。ところが、日本経済新聞が12月28日に行った国内主要企業の社長に対するアンケート調査によると、春闘での賃上げ率は3%が最も多かった。
春闘賃上げ率はこれまでも2%程度だったから、それが1%ポイント上がるだけのことだ。物価上昇率は3%を超えているから、実質賃金の上昇率はマイナスになる。
なお、「中長期の方針として消費者物価の上昇を上回る賃上げを実施する意向があるか」に対しては、約8割が「わからない」と答えた。大企業の中には、 物価高騰に対する手当を一時金として支給するところもあるが、賃金の引き上げには至らないだろう。
さらに重要な点は、春闘で3%が上がったとしても、それは、全体からみればごく一部である製造業などの大企業に限られたものであることだ。就業者全体の4割近く(2022年12月で36.8%)を占める非正規労働者には、恩恵が及ばない。
安倍内閣は春闘に介入し、それまで1%台であった春闘賃上げ率が、2014年以降は2%台になった。しかし、そうなっても、一般労働者の賃上げ率は0.5%程度にしかならなかった。
以上から考えると、仮に2023年の春闘賃上げ率が3%になっても、一般労働者の賃上げ率は せいぜい1%程度にしかならないだろう。他方で消費者物価上昇率はすでに3%を大きく越えている。したがって、実質賃金伸び率はマイナス2%程度になってしまうだろう。
さらに注意すべき点がある。それは、政府の物価対策によって、消費者物価の上昇率が1.2%ポイント程度、抑えられていることだ。このことを考慮すれば、実質賃金の実際の下落率はもっと大きくなっている。
急激な円安は止まったが、円高は進まず
2022年には春から秋にかけて急激な円安が進み。1ドル150円まで進んだ。
12月20日の政策変更で、前日の1ドル=135円台後半から、130円台半ばまでの円高になった。しかし、その後はほぼ同じ水準で推移しており、傾向的な円高への動きは生じていない。
その原因は、日米の金利差が縮まらないことだ。アメリカでは、インフレの高止まりを背景に、金融引き締めが長引くとの観測が根強い。
もう1つの円安要因として、貿易赤字がある。11月の貿易統計によると、貿易赤字は約2兆円。4カ月連続で2兆円を超える赤字が続いた。貿易赤字になれば、円を売って外貨を買う必要がある。金融取引に比べれば額は少ないが、金融取引とは違って、恒常的な円安圧力となる。
以上を考慮すると、為替レートは、元の水準には戻らない可能性が強い。
OECDが計算している購買力平価は、2021年で1ドル102.3円だが、この水準に戻せるかどうか、大いに疑問だ。すると、日本の国際的な地位は回復しない。
働く場所としての日本の地位は低下したままだ。人材が日本に来なくなり、日本の人材が外国に流れる。
介護施設等では、労働力の不足が深刻な問題になる。すでに深刻な問題になっているが、これがさらに進む可能性がある。どうしたら賃金を引き上げられるかが、大きな課題だ。
●「衆議院解散」が筋道の通し方 1/8
4日に岸田文雄総理が年頭会見をされました。岸田総理は年末年始に心穏やかにお休みになれたのか心配ではありますが、会見内容を含め、私の考えを述べたいと思います。
ロシアのウクライナ侵攻から世界的な経済不安が広がりました。収束が全く見えない中で、先進諸国はどのようにロシアに働きかけ、日本はどのような立ち位置でこの問題に取り組むのか、「外交の岸田」の力を示す機会でもあると思います。
また、「異次元の少子化対策」を掲げられた岸田総理。具体的な政策はこれからでしょうが、「新しい資本主義」に続くパワーワードが飛び出してきました。我が国においても数十年間、解決することができなかったこの難題を乗り越えていただきたいと切に願います。
年末から議論になっている防衛費の財源問題。国債発行論と増税論で自民党内も大きく分かれています。萩生田政調会長をはじめ党内の有力者たちも増税をするなら信を問うべきだと述べていますが、衆議院解散が筋道の通し方だと私は考えます。実際、安倍政権下では、消費増税延期という理由だけで2度も解散総選挙を行いました。
その気になればいつだってできるのが解散。4月には統一地方選挙があり、千葉5区、山口4区、和歌山1区で衆議院補欠選挙もあります。5月には広島でG7サミットもあります。この後あたりをベストタイミングとされている気がしますが、聞く力を無視するならば、統一地方選挙前、または同時期に解散総選挙をぶつける方が、全国の地方議員も躍起になって選挙戦を戦うので自民党にとっては勝率が上がるでしょう。ただ、公明党は嫌がるでしょうが…。
難題が多い中で、岸田政権の低空飛行は続くでしょうが、2023年はどんなドラマが待っているでしょうか。
●少子化、政策整理後に財源論 首相「きめ細かく議論」 1/8
岸田文雄首相は8日のNHK番組で、少子化対策は政策の整理を優先した上で、財源論の議論を進める意向を表明した。「政策の整理をまず行った上で、予算や財源の議論を進めていきたい。きめ細やかな財源の議論をしていく」と述べた。公明党の山口那津男代表は、財源論が先行する議論は避けるべきだと指摘した。立憲民主党の泉健太代表は国債発行による充当を主張した。
少子化対策の財源を巡り、自民党の甘利明前幹事長が消費税率の引き上げに言及し、野党は一斉に批判。政府、与党内でも異論が相次いだ。首相の発言は財源問題に議論が集中するのを避ける狙いがあるとみられる。
●立民・泉代表、少子化対策「歳出改革と国債を財源に」 1/8
立憲民主党の泉健太代表は8日のNHK番組で、少子化対策の財源について「子ども政策や教育政策は未来への投資だ。歳出改革と国債を前提に考えたい」と述べた。日本維新の会と歳出改革や国会議員の「身を切る改革」で連携する考えを示した。
少子化対策のほか、防衛費増税の財源論も念頭に「(23日召集の)通常国会の課題は歳出改革だ。予備費や基金でも相当な無駄を削減できる」と主張した。
維新の馬場伸幸代表は少子化対策の財源に関し「借金か増税か、ととらわれないように、税と社会保障と働き方の改革をパッケージでやるべきだ」と唱えた。
公明党の山口那津男代表は「財源も責任をもって見通しを立てることが必要だが、先行するような議論は避けるべきだ」と強調した。保険を財源に活用する案を検討する必要があると触れた。
共産党の志位和夫委員長は少子化対策の財源を確保するために消費税を増税するのに反対の意向を示した。消費税の5%への減税に加え「富裕層、大企業に応分の負担を求める」と訴えた。
国民民主党の玉木雄一郎代表は教育国債の発行による財源確保を提唱した。
●少子化対策 消費増税は本末転倒だ 1/8
少子化対策は待ったなしだ。予算倍増も不可欠だ。しかし消費税増税による「支援」というのは本末転倒である。
岸田文雄首相が年頭会見で示した「異次元の少子化対策」を巡って、裏付けとなる財源議論が政権の課題として浮上している。
岸田首相は子ども予算倍増に向けた大枠を、6月に策定する「骨太方針」に盛り込むという。
月内には少子化対策強化の政府会議で、児童手当拡充や仕事と育児の両立などの支援策議論を始め、3月末をめどに、たたき台となる方針を取りまとめる予定だ。
たたき台を踏まえ、「こども家庭庁」が発足する4月以降、財源を含む議論を加速させるとする。
子ども関連政策の司令塔となる同庁の初年度予算は約4兆8千億円。倍増には数兆円規模の予算が必要だ。
岸田首相が「異次元」という表現を使い強い意欲を示した背景には、2022年に生まれた赤ちゃんが80万人を割り、過去最少になる見通しとなったことがある。
合計特殊出生率が戦後最低となった1990年の「1・57ショック」を契機に少子化は社会問題化した。あれから30年余、政府はエンゼルプランに始まる計画を次々と打ち出したが、失敗続きで少子化に歯止めをかけることはできなかった。
これまでにない思い切った支援策と、支援を具体化する財源をセットで示さなければ同じ轍(てつ)を踏むことになる。

財源を巡って自民党内からは、消費増税論も出ている。
同党税制調査会幹部でもある甘利明前幹事長がBS番組で「将来の消費税も含め、地に足をつけた議論をしなければならない」と述べ、税率引き上げも検討対象になるとの認識を示したのだ。
財源議論は避けては通れないが、物価高騰と実質賃金の下落で家計が逼迫(ひっぱく)する今、子育て世代にさらに負担を課すことになる消費増税は選択肢としてあり得ない。
日本の子育て支援への公的支出の低さはよく知られている。所得から税金や社会保険料をどれだけ払っているかを示す国民負担率も50%近くに達している。
子育てにお金がかかるため2人目、3人目を諦めたという夫婦も少なくない。
倍増は必要だ。ただし無駄な予算の削減や富裕層優遇の税制の見直しなど手を付けなければならない課題は他にある。子育て世代への支援となる方法を模索すべきだ。

昨年12月の全世代型社会保障の報告書で、子育て支援拡大が打ち出されたものの、財源論には触れていない。
防衛費大幅増のあおりで、予算枠が狭まったしわ寄せが及んだのだ。
岸田首相は自民党総裁選の時から子ども予算の倍増を明言している。
「異次元」と表現する割には、のんびりし過ぎではないか。
人口が社会のさまざまな分野や政策に影響を及ぼしていることを考えると、むしろ優先順位が高いのは少子化対策の方だ。 
●年間1兆円の“防衛費増税”「反対」71% 「賛成」22%を大きく上回る 1/8
政府は来年度から5年間の防衛費を43兆円に増額する方針ですが、この防衛費の増額について「賛成」と考える人が39%、「反対」と考える人が48%であることが最新のJNNの世論調査で分かりました。
また、政府は防衛費増額の財源として、2027年度には1兆円あまりを増税で確保する方針ですが、こうした防衛費を増やすための増税については「賛成」22%、「反対」71%でした。
政府・与党はこの増税の実施時期について「2024年以降の適切な時期」としていますが、岸田総理が増税の実施前に衆議院の解散・総選挙を行い、国民に是非を問う必要があるか聞いたところ、「必要がある」76%、「必要はない」17%でした。
また、防衛費を増やすための財源として何が適切かを聞いたところ、「増税」8%、「国債の発行」12%、「他の予算の削減」72%でした。 

 

●成人の日 平和で希望ある未来をともに 1/9
きょうは成人の日です。民法改正で昨年4月に成人年齢が18歳に引き下げられ、今年は18歳、19歳、20歳の341万人が新成人となりました。新たな門出を迎えたみなさんを心から祝福します。
政治が若者を苦しめる
大学や専門学校へ進学したり、就職したりするなかで「おかしい」「なぜ」と感じる機会が多くなったのではないでしょうか。若者がぶつかる問題の背景には、社会や政治のあり方が横たわっていることが少なくありません。18歳以上は選挙権を手にしています。その権利を使えば、暮らしと未来は大きく変えられます。希望を持って、平和で豊かな人生を送れる社会を一緒に考えていきましょう。
「物価が上がっても給料は上がらない」。多くの若者があえいでいます。学生の8割が従事するアルバイトは、時給が最低賃金近くに抑え込まれています。
若者自身に責任がある問題ではありません。自民党・公明党政権の間違った経済政策が、日本を「賃金の上がらない国」にしてしまいました。賃金の底上げには、最低賃金の引き上げが不可欠です。
岸田文雄政権は最賃を過去最高に引き上げたと言うものの、全国加重平均は時給961円で、増えたのは31円だけです。ドイツでは昨年10月、12ユーロ(約1690円)となりました。昨年3回にわたって計2割増額しました。物価高騰で大幅に引き上げている欧米と比べ、日本はあまりにお粗末です。
高学費と貧弱な奨学金制度も若者を苦しめています。低所得世帯の学生に給付奨学金を支給する「修学支援制度」は成績要件などが厳しく、利用者31万人のうち5人に1人が打ち切りや警告を受けています。政府は、中所得世帯の学生にも支援を広げると言いますが、「理工農系の学生限定」など差別・選別の強化と一体です。
若者に「自己責任」を迫り、格差と貧困を拡大させた新自由主義の経済政策をただし、最低賃金引き上げや学費半額、本格的な給付奨学金など若者の切実な願いを実現することが急がれます。
戦争と平和の問題は、若者の現在と未来に関わる大きな焦点となっています。岸田政権は日本を「戦争国家」につくりかえる動きを急速に強めています。
昨年末に閣議決定された安保3文書は、米国の軍事戦略に日本を組み込み、軍事費を5年間で43兆円にするという途方もない方針を決めました。来年度予算案には、他国領土を攻撃する兵器の購入などが盛り込まれました。敵基地攻撃の兵器を持てば、周辺国との緊張が高まり、戦争の「抑止」どころか、戦争を近づけます。
大軍拡は、大増税と社会保障や教育の切り捨てへの道です。戦争で若者の未来を壊すことは許されません。憲法9条に基づく徹底的な平和外交の努力こそ強める時です。
「声を聞け」と迫ろう
気候危機打開に真剣に取り組み、ジェンダー平等社会の実現に力を尽くす政治の実現も若者にとっての大きな希望です。
若者や国民の声を聞かずに、暴走を続ける岸田政権を終わらせなければなりません。3〜4月には統一地方選挙があります。若者の1票でまず政治を動かし、衆院の解散・総選挙で、国民に信を問えと迫っていきましょう。
●20歳の3割弱「政治に期待できない」 少子化対策に関心も 1/9
20歳の若者を対象に日本の政治について聞いた調査が公表され、「期待できない」と答えた人がこの10年間で最も高い30%近くに上りました。
調査会社の「マクロミル」が2022年度に20歳を迎える500人に調査した結果、日本の政治に「期待できる」「どちらかと言えば期待できる」と答えた人は、去年より5.6ポイントマイナスの18.4%でした。
一方、「期待できない」は7.2ポイントプラスの27.6%で、調査を始めた2013年以降で最も高くなりました。
関心を持っているニュースについては、1位が「少子化対策」で2位に「経済・金融政策」が続きました。
また、「理想の大人」は誰かという質問では、母親の45.8%に対し、父親は32.1%にとどまりました。
●異次元の少子化対策 規模より政策まず示せ 1/9
取り組む内容も固まらないのになぜ「異次元の少子化対策」と大見えが切れるのだろうか。
岸田文雄首相が、少子化対策の強化に向けた具体案の検討を小倉将信こども政策担当相に指示した。3月末をめどに大枠をまとめる方針で、児童手当の拡充などが柱となるという。
2022年に生まれた赤ちゃんの数は統計を始めた明治以来、初めて80万人を割ることが確実だ。子どもが急減し、社会保障制度が立ちゆかなくなりそうな将来には不安が広がる。首相が「先送りできない課題」と述べ、新年の新たな「挑戦」に掲げたこともうなずける。
だが議論の進め方はいただけない。首相は「子ども、子育て関連予算の倍増を目指す」と強調したものの、具体策は後回し。財源の裏付けもないまま予算倍増だけを打ち出す手法は到底納得できるものではない。
首相は重点事項として、1児童手当を中心とした支援拡充2幼児教育・保育、一時預かりなどのサービス充実3仕事と育児の両立支援や働き方改革―などを小倉氏に指示したという。
新たに設ける会議でたたき台をつくって検討を本格化させ、6月にまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で全体像を示したい考えだ。
ただ、少子化対策はこれまでも充実の必要性が指摘されてきた。4月にはこども家庭庁が発足する。それなのに首相が指示した内容には思い切りも目新しさも感じられない。これだけ重要なテーマを新しい省庁が始動してから詰めるというのも随分のんびりした感じがする。
学校給食の無償化に独自財源で踏み切る自治体も出てきた。東京都は今春から所得制限なしに子ども1人に月5千円を支給する方針を打ち出した。地方が政府より先行する現実に岸田政権は危機感を持つべきだろう。
与党幹部は早くも増税を口にしている。混乱を招いた防衛費増額と同じ構図ではないか。
21年度税収は過去最高の67兆円で、22年度も伸びる見込みだ。にもかかわらず、歳出を膨張させて財源が足りなくなり、増税や国債発行で穴埋めする手法は無責任過ぎる。事業に優先順位を付け、限りある財源で最大効果を上げることが政治の使命であることを忘れられては困る。
国会議員は月100万円の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開を果たしていない。「政治とカネ」問題にもけじめをつけていない。自らに甘いまま底の抜けたバケツに水を注ぎ込むようなやり方では国民の理解は得られまい。
子育てに金がかかり過ぎ、子どもを持ちたくてもかなわない社会構造は深刻だ。フランスは多子世帯ほど税負担が減る制度などを導入して出生率が劇的に改善した。税額控除や、控除しきれなかった分を給付する国もある。参考にすべきだろう。
学歴偏重に対する意識改革も必要だ。とりわけ親の経済的負担が重いのは大学進学である。学歴を問わない能力重視の採用を促すことや、働きながら大学で学べる仕組みの充実など、取るべき方策はあるはずだ。
給付に偏った旧来型の対策では不十分だ。省庁の枠を超え、税制などにも切り込んだ、「挑戦」に値する抜本的メニューをまず示してもらいたい。予算規模を語るのはその後でいい。 

 

●日本の本気度を「予算」と「装備」で米に示した 意気揚々と首脳会談に臨む 1/10
岸田文雄首相は1月8日深夜、欧米歴訪のため最初の訪問地パリに向けて羽田空港を発つ。
欧米5カ国(フランス→イタリア→英国→カナダ→米国)訪問のメインイベントは、もちろん最後の訪問地ワシントンでバイデン大統領とのトップ会談である。
「外交の岸田」を自任する岸田氏にとって、今年はまさに外交・安保政策で正念場を迎える。
主要7カ国(G7)首脳会議(5月19〜21日)を地元・広島で、しかも自ら議長として主宰するのだ。これ以上の晴れがましい舞台はあるまい。
岸田氏のG7広島サミットへのこだわりは想像を超えたものである。然るに、ロシアによるウクライナ侵略、中国の台湾進攻懸念などからも、日米同盟の緊密化は絶対不可欠であり、そのためにも日本が果たすべき役割を具体的に米側に示す必要を痛感していたのだ。
首相周辺によると、昨年12月16日に閣議決定した国家安全保障戦略に「日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、我が国の安全保障のみならず、インド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定の実現に不可欠な役割を果たす」と記述されたことに尽きる、と岸田氏は語ったという。
平たく言えば、日本の本気度を「予算」と「装備」でバイデン氏と米議会に示したのである。
2027年までの5年間に防衛費総額43兆円、現行5年間の計画の約1・6倍に増やす。27年度に国内総生産(GDP)比2%にする。23年度予算案で防衛費は過去最大の6・8兆円とした。その財源は、基本的に防衛増税で充当する。防衛装備品についても、相手の発射基地を叩く反撃能力を持つために当面は米製巡航ミサイル「トマホーク」などを導入する。英・伊両国と次期戦闘機を開発生産する。
要するにこういうことだ。自分がやるべき事は自分でやります――。ある意味で、至極簡単なことなのだ。それを今までやってこなかった事のツケが回ったのである。
極論すると、一発のミサイルが日本国民を覚醒させた。昨夏のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に激怒した中国は、同女史が韓国に向けて発つや周辺海域で軍事演習を再開、中国軍弾道ミサイルが沖縄県与那国島沖80kmに着弾したのだ。同島から台湾の距離は約110kmである。「台湾有事」を実感したと言っていい。
こうして万感の思いを胸に岸田氏は13日にホワイトハウスでバイデン氏と会談する。岸田氏は「ジョー!やったぜ」と切り出すに違いない――。
●「イージスシステム搭載艦」とは何か 2208億円の巨額予算 1/10
防衛省が「イージスシステム搭載艦」の整備費として2208億円を計上しました。これは建造費ではなく、エンジンや装備の取得費です。ミサイル防衛の要となる装備ですが、建造方針から2年を経て、“大風呂敷”になってきています。
イージスシステム搭載護衛艦とは違う イージスシステム搭載艦
防衛省は2022年12月23日(金)に発表した令和5(2023)年度予算案に、「イージスシステム搭載艦」の整備費として2208億円を計上しました。「統合防空ミサイル防衛能力」約9867億円のうちの主要項目であり、単独項目として大きな予算を占める「イージスシステム搭載艦」とは何なのかを紐解きます。
政府は2017年、北朝鮮(朝鮮人民民主主義共和国)の相次ぐ弾道ミサイルの発射実験などにより、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増し、その対処に追われる海上自衛隊の、いわゆるイージス護衛艦の負担が増加していたことから、イージスシステム搭載護衛艦の戦闘システムを地上に設置した「イージス・アショア」の導入を決定していました。 しかし2020年6月、河野太郎防衛大臣(当時)がイージス・アショアの配備プロセス停止を表明。弾道迎撃に使用するSM-3の補助推進装置(ブースター)を演習場内へ確実に落下させるためにはソフトウェアの修正に多額の経費が必要となることや、防衛省の設置予定地に対する説明に不手際があり、地元自治体の理解が得られなかったことなどが背景にあります。 この時点で防衛省は、イージス・アショアで使用するAN/SPY-1(V)1レーダーなどを発注しており、政府はこのレーダーを活用する、イージス・アショアに代わる新たなミサイル防衛の手段を模索。その結果、2020年12月にAN/SPY-1(V)1レーダーなどを搭載するイージスシステム搭載艦2隻を建造する方針が示されました。 当時の防衛省はイージスシステム搭載艦をミサイル防衛能力に特化した艦と位置付けており、弾道ミサイルの迎撃以外の防空、対艦、対潜戦能力を持つイージスシステム搭載護衛艦とは一線を引くため、「イージスシステム搭載艦」と呼ばれるようになったと言われています。 ただ、イージスシステム搭載艦をミサイル防衛に特化した艦とする事に対して、運用を担当する海上自衛隊は難色を示していました。
やっぱり護りの装備も必要だ
イージスシステム搭載艦は有事の際に真っ先に狙われる可能性が高く、日本に本格的な武力攻撃を試みる国家の航空機や潜水艦などには格好の標的となります。イージスシステム搭載艦が航空機や潜水艦などの攻撃から自らを護る能力のない艦になってしまった場合、イージスシステム搭載艦を護るための護衛艦が別に必要となります。 イージス・アショアの導入は海上自衛隊の負担を軽減することを目的の一つとしていたわけですから、海上自衛隊が難色を示すのは当然だと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。 このような背景からイージスシステム搭載艦は、イージスシステム搭載護衛艦と同等の対潜、対空、対艦戦闘能力が与えられることとなりました。
また、巡航ミサイルや極超音速兵器の終末段階での迎撃能力を持つSM-6ミサイルのほか、日本に侵攻してくる艦艇や上陸部隊の脅威の外側から対処する「スタンド・オフ・防衛能力」を構成する長射程対艦ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型(海発型)」の運用能力の付与も決定しています。後者は12月23日に発表された国家安全保障戦略で、日本の防衛力を抜本的に強化するための重点整備項目の一つと定められたものです。 なお、令和5年度予算案には「トマホーク」巡航ミサイルの取得費が計上されており、予算案の説明資料「我が国の防衛と予算(案)」には「イージス艦」に搭載するとの記述があります。防衛省は予算案の記者説明会で、トマホークはイージスシステム搭載護衛艦に搭載し、イージスシステム搭載艦に搭載する予定がないことを明らかにしています。
陸自隊員が乗組員に
国家防衛戦略には、陸上自衛隊員3000名を海上自衛隊と航空自衛隊に移籍させる旨も明記されています。これについて酒井良海上幕僚長は、12月20日の記者会見で、海上自衛隊に移籍する陸上自衛隊員をイージスシステム搭載艦の乗員に充てると明言しています。 海上自衛隊は「我が国の防衛と予算(案)」で、イージスシステム搭載艦の耐洋性と乗員の居住性を高めるとしていますが、これは陸上自衛隊から移籍する隊員の乗務への考慮によるところも大きいのではないかと筆者は思います。 また「我が国の防衛と予算(案)」には「既存イージス艦と同等の機動力を保持」し、かつアメリカミサイル防衛庁が開発を進めている極超音速兵器を迎撃する新型ミサイルの搭載などを可能にする拡張性を与える、とも明記されています。 防衛省は令和5年度予算案でイージスシステム搭載艦のエンジンやVLS(垂直発射装置)などの取得を計画していますが、2208億円という予算額は、イージスシステム搭載護衛艦「まや」の建造費約1680億円を上回っています。 これは2隻分のエンジンやVLSの取得費です。「まや」が建造された当時(2017〜2020年)に比べれば円安が進み、また物価が上昇していることなどを考慮して比較する必要はありますが、そうしたとしても、イージスシステム搭載護衛艦より大型で強力なエンジンを搭載し、VLSの数も多い艦になるのではないかと筆者は思います。
●統一地方選へ試練続く岸田首相 :求心力回復見通せず―2023年政局展望 1/10
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係などを世論に厳しく問われ、内閣支持率が30%前後まで低下した岸田政権。2023年の政局を展望する。
岸田文雄首相は昨年後半、わずか2カ月の間に「政治とカネ」の問題などが原因で閣僚4人の更迭に追い込まれ、防衛財源確保のため唐突に打ち出した所得税などの増税方針には自民党内から反発が噴出した。辛くも乗り切ったが、野党の攻勢に譲歩を重ねたばかりか、重要政策を巡る首相の方針に足元から公然と異論が出たことは、政権の迷走を強く印象付けた。年明けはまず1月23日召集予定の通常国会で長丁場の予算審議が行われ、4月には世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で自民党の苦戦も予想される統一地方選が待ち構える。求心力回復への道筋は見いだせておらず、首相は2023年も守りの政権運営を強いられそうだ。
広島サミットで「核なき世界」訴え
首相は今月13日に、バイデン米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談する。昨年12月に改定した、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」保有を明記した国家安全保障戦略など安保関連3文書の内容をバイデン氏に直接説明し、東シナ海などで軍事的活動を強める中国や、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を念頭に、日米同盟の一層の強化を確認したい考え。首相にとっては2021年10月の就任以来初めてホワイトハウスを訪れる機会となる。5月に議長として地元の広島市で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)への協力を取り付けるため、首相は9日からG7メンバーのフランス、イタリア、英国、カナダも歴訪し、各国首脳と会談する。
通常国会の会期は6月21日までの150日間。冒頭の首相施政方針演説など政府4演説と衆参両院での各党代表質問に続き、衆院予算委員会で23年度予算案の審議が始まる。首相は予算案を3月下旬までに成立させて実績を積み、統一地方選に臨む構え。その後、広島でのG7サミットでは、ロシアのウクライナ侵攻により国際社会の分断が深刻化する中、ライフワークとする「核兵器のない世界」実現へ向けたメッセージを内外に発信する方針だ。首相には、外交を足掛かりに政権浮揚を目指す狙いもあるとみられる。
当面の政治日程
1月中旬 岸田首相が訪米、日米首脳会談(調整中)
1月23日 通常国会召集
3月下旬? 2023年度予算成立
4月8日 黒田東彦日銀総裁の任期満了
4月9日 統一地方選前半戦
4月23日 統一地方選後半戦(衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区補欠選挙の見通し)
5月19日 G7広島サミット(21日まで)
旧統一教会問題なお重荷
だが、思惑通りに運ぶかは不透明だ。昨年の臨時国会では、旧統一教会との関係が次々と明らかになった山際大志郎前経済再生担当相を首相はぎりぎりまで擁護しながら、10月下旬、一転して更迭に踏み切った。それから1カ月足らずの間に、死刑執行を軽視する失言をした葉梨康弘前法相、「政治とカネ」の問題を抱える寺田稔前総務相も相次ぎ辞任。12月10日に国会が閉幕し、23年度予算編成も終わると、首相は政治資金問題などが指摘された秋葉賢也前復興相も事実上、更迭した。いずれのケースも首相は更迭判断が遅れたという「後手」批判にさらされ、反発する野党が求めた本会議での閣僚交代を巡る説明に応じるなど、譲歩を重ねた。
臨時国会で成立した旧統一教会問題を受けた被害者救済新法についても、首相は国会閉幕後の記者会見で「成立に強い覚悟で臨んだ」と胸を張ったが、実際は異なる。創価学会を支持母体とする公明党への配慮もあり、もともとは通常国会に提出を先送りする方向だったが、閣僚の辞任ドミノなどで守勢に回り、早期立法を求めて共闘した立憲民主党と日本維新の会に押し切られたのが実態だ。
昨年末には薗浦健太郎前衆院議員が政治資金パーティーの収入を過少に記載していた疑惑を巡り議員辞職し、所属していた自民党も離党。東京地検特捜部は薗浦氏を政治資金規正法違反罪で略式起訴し、岸田政権にはさらなる打撃となった。通常国会が始まれば、野党側が政治とカネの問題や首相の任命責任を厳しく攻め立てるのは確実だ。防衛費増額のための増税方針や、原発の建て替え、運転期間の延長など首相が短期間で打ち出した重要政策の是非も論戦の焦点となる見通しで、首相は臨時国会と同様、防戦に追われる展開となりそうだ。
4月に実施される4年に一度の統一地方選は、旧統一教会と接点がある議員が集中する自民党に逆風となりかねない。首相は救済新法の成立によってこの問題に一区切りを付け、政権の立て直しを急ぎたい考えだが、教団票を差配していたとされる故安倍晋三元首相について、首相は自民党としての調査実施に否定的だ。同党出身の細田博之衆院議長は文書で教団との関係を認めたが、記者会見など公の場での説明はしておらず、野党から批判されている。そもそも教団との結び付きは国会議員以上に地方議員の方が深いと指摘されている。4月は衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区で補欠選挙も実施される見通しだ。自民党からは、旧統一教会問題が一連の選挙戦でクローズアップされることを懸念する声が漏れる。
首相、政策調整で矢面に
首相は就任直後に臨んだ2021年10月の衆院選に続いて昨年7月の参院選でも大勝し、長期政権も視野に足場を強化したはずだった。だが、時事通信の世論調査で7月に50%近くあった内閣支持率は、12月には29.2%にまで下落。旧統一教会問題や安倍氏の国葬に対する世論の批判、閣僚の辞任ドミノが響いたとみられ、こうした問題への対応で政権の体力は大きくそがれた。
安倍氏の突然の死去により政権の権力構造が一変したことは、首相には誤算だったに違いない。参院選までは、首相は防衛費や原発、社会保障といった国論を二分するような重要課題について判断を先送りし、政権の安定を最優先に臨んできた。保守派を代表する安倍氏は安全保障や経済財政政策で「高めの直球」を投げて首相に圧力をかけつつも、最後は落としどころを探り、自身が率いる自民党内最大勢力の安倍派を抑えてくれる実力者だった。
最大の「後ろ盾」を失ったことで、首相は重要テーマを巡る調整で自ら前面に出て仕切らざるを得なくなり、それが今日の迷走につながったとも言える。防衛財源確保のための1兆円強の増税を首相が唐突に打ち出し、安倍氏に近かった閣僚や議員から反対論が噴き出した昨年暮れの光景は、首相の党内掌握力低下を露呈し、政権運営に禍根を残した。「安倍政権の菅義偉官房長官のように、盾となって首相を守り前さばきをする『悪役』が今の首相官邸にはいない」(自民党中堅議員)。首相の意向を受けて与党と調整に当たるのは、本来は松野博一官房長官や首相側近の木原誠二官房副長官の役回りだが、党側からはこうした冷ややかな指摘が尽きない。
経済の動向も依然、政権の懸念材料だ。ウクライナ侵攻や円安を背景とした物価高、エネルギー価格の高騰は家計を直撃。政府・与党は昨年の臨時国会で、物価高対策の財源を裏付ける22年度第2次補正予算を成立させたが、内容は電気・都市ガス料金の負担軽減策など「小手先」の対症療法にとどまった。13年春から続ける異次元の金融緩和でアベノミクス路線を下支えしてきた日銀の黒田東彦総裁は、4月8日に任期満了を迎える。昨年12月20日に日銀が長期金利の許容変動幅を拡大すると、市場は事実上の利上げと受け止め、長期金利は急騰した。次期総裁は円安・物価高の要因である金融緩和策の本格修正に動くのか、それとも緩和路線を継続するのか、首相の人選を市場関係者は注視している。
サミット後は解散含み
「歴史の分岐点で先送りできない問題に正面から愚直に取り組み、答えを出すことに挑戦するのが自分の歴史的役割だ」。首相は昨年12月26日の講演でこう語り、政権運営への決意を強調した。支持率は低迷するものの、衆目の一致する「ポスト岸田」候補が自民党内に見当たらないことに加え、当面は国政選挙が予定されていないことが、首相の強気の背景にはある。領袖を失った最大勢力の安倍派が後継会長を決められず、漂流状態にあることも、首相にはデメリットばかりではないとの見方がある。岸田派は総裁派閥ながら党内第5勢力に過ぎず、首相は第2勢力の茂木派、第3勢力の麻生派をそれぞれ率いる茂木敏充幹事長、麻生太郎副総裁と引き続き連携し、失地回復を図る構えだ。
自民党内の一部で取り沙汰された年末年始の内閣改造を首相は見送ったが、広島サミットを経てなお浮揚が見通せない場合、局面打開に向けて内閣改造・党役員人事を求める声が再び高まりそうだ。自民、公明両党の連立に国民民主党を加える構想もくすぶり続けている。一方で、首相は昨年暮れ、防衛費増額のための増税実施前に衆院解散・総選挙に踏み切ると言及し、波紋を広げた。増税開始時期について、23年度税制改正大綱では「24年以降の適切な時期」と記すにとどめ、結論を先送りした。政府・与党は今年中に決める方針だが、安倍派などには異論が強く、党内対立の再燃も予想される。広島サミットが終われば、首相の自民党総裁任期満了まで残り1年余り。衆院議員の任期は25年10月までだ。首相が総裁再選を目指すのであれば、サミット後の政局は衆院解散含みで推移する可能性が大きく、判断が注目される。
●異次元の少子化対策 挑戦で済ませず確かな処方箋を  1/10
岸田文雄首相は4日の年頭会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。歯止めがかからない少子化がさらに進行すれば社会保障制度の持続可能性が危うくなり、国力の大幅な弱体化は避けられない。岸田首相は「挑戦」で済ませず、財源の確保を含め、有効な対策を確実に講じる実行力が強く求められる。待ったなしの課題だ。
2022年の出生数は初めて80万人を割り込み、80万人割れは政府機関の想定より8年も早まる見通しだ。政府は12年に「社会保障と税の一体改革」をまとめ、これまで消費税を財源に少子化対策を講じてきた。保育の受け皿整備や幼児教育・保育の無償化などに取り組み、17年度に約2・6万人だった待機児童が22年度に約3000人まで減少するなどの成果を上げた。
だが若者の多様な人生観や経済的負担、さらにコロナ禍も加わって少子化は一向に歯止めがかからない。政府がこれまで講じた対策がなぜ機能しなかったのか、新たな支援策を策定する上で、若者の実態を十分に把握する作業を怠ってはならない。
岸田首相は経済財政運営の基本方針「骨太の方針」をまとめる6月までに、子ども予算倍増に向けた大枠を提示するよう関係閣僚に指示した。児童手当を中心とする経済的支援、幼児教育・保育サービスの強化、育児休業制度の改善などが柱になる。支援が手薄だった非正規労働者や自営業者などにも目配りするため、兆円単位の安定財源の確保が必要とされる。
だが岸田政権は22年に防衛力増強とその財源確保の議論を最優先し、少子化対策は財源に踏み込んでいない。自民党内には将来的に消費増税を財源とする案もあるが、ハードルは高い。
少子化対策の中身も、出産をためらう既婚者や未婚者にインセンティブとなる対策を探るのは容易ではない。経済支援に加えて職場の理解と協力、さらにキャリア志向の女性の働き方なども勘案する必要がある。保育士の負担も軽減したい。課題山積の中、「異次元」と形容できる処方箋を打ち出せるのか、岸田政権の真価が問われる。 
●防衛費増額の財源確保、法案が焦点 通常国会、1月23日召集へ 1/10
23日召集予定の通常国会は、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や防衛費増額を明記した国家安全保障戦略など新しい「安保3文書」や、原発の最大限活用を盛り込んだエネルギー政策の基本方針が焦点となる。政府は防衛費の財源を確保するための法案など60本程度の新規法案提出を予定しており、与野党の厳しい綱引きも想定される。
「経済も国際秩序も歴史的な転換点を迎えている。先送りできない課題に正面から向き合っていきたい」
岸田文雄首相は8日放送のNHK番組でこう強調した。
通常国会で政府は令和5年度予算案の3月末までの成立に万全を期す。野党は引き続き世界平和統一家庭連合(旧統一教会)や「政治とカネ」問題で政権を追及する構えだ。また、立憲民主党は反撃能力の保有について「容認できない」(泉健太代表)と対決姿勢を示している。
政府が提出予定の法案では、防衛費増額の財源を確保するための法案に注目が集まっている。国有財産の売却益などをためておく「防衛力強化資金」の設置を規定し、税以外で財源を賄う内容だが、自民党内の増税慎重派は、足りない部分の増税が確定しかねないと神経をとがらせている。萩生田光一政調会長をトップとする特命委員会でも法案を精査する方針だ。
また、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)実現のための関連法案を提出し、原発の最大限活用を進めていく。平成23年の東京電力福島第1原発事故後の政府方針を転換するもので立民や共産党は「原発回帰」にかじを切ったとして撤回を求めていく方針だ。
また、政府は強制退去処分となった外国人の収容長期化を解消する入管難民法改正案などの提出も検討している。
国会同意人事である日本銀行の総裁人事も焦点だ。大規模金融緩和を進めた黒田東彦(はるひこ)総裁は4月8日に任期満了を迎える。後任人事次第では安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」からの転換と受け取られ、自民安倍派(清和政策研究会)を中心に不満が高まり、火種となりかねない。
国会議論の行方は、4月の統一地方選や同月行われる見通しの3つの衆院補欠選挙にも影響しそうだ。
●考えよう! 日本の安全保障 1/10
1月23日に始まる通常国会で審議される来年度予算案は、財政難の中、歳出(国債費などを含む一般会計歳出)総額が114兆円と大幅に増えたことで話題となっています。11年連続で過去最高を更新し、初めて110兆円を突破したということです。中でも防衛費が一気に膨らみ、「防衛費はGDP(国内総生産)の1%を超えてはならない」というこれまでの不文律をあっさり破ってしまいました。今年は日本の防衛政策、安全保障政策が歴史的な大転換を遂げる重大な1年になると思います。昨秋、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中で、岸田文雄首相が「防衛力の抜本的強化」を明確に打ち出したからです。
政府は防衛政策の大枠を検討してもらうために9月に「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を立ち上げました。有識者会議は4回の会議を経て11月に報告書(11月22日公表)をまとめています。この報告書の趣旨にそってただちに防衛政策の中身の検討が開始されました。
事実関係を追いますと、政府はこの報告書を踏まえて12月16日、いわゆる防衛3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)を閣議決定しています。次いで12月23日、来年度の防衛予算案を組み込んだ「税制改正大綱」、続けて来年度予算案を閣議決定しました。
防衛3文書に基づき2023年度から5年間で防衛費総額を43兆円程度と現行計画(2019年度から2023年度までの5年間で27兆5,000億円)の1.6倍程度の規模にする目標を設定しました。この計画が実現すれば目標年度の2027年度の防衛費はGDPの2%程度とNATO(北太平洋条約機構)加盟国の目標に並ぶことになります。2023年度予算案の防衛費が急増したのは5カ年計画の初年度に当たるからです。具体的にみますと、来年度の防衛費総額(案)は今年度に比べ1兆4,192億円増の6兆8,200億円になっています。実に26%も増えているのです。この結果、来年度の防衛費の対GDP比は1.19%(今年度は0.96%)と大きく「1%の壁」を突破することになっています(政府経済見通しのGDPをもとに計算)。
この防衛政策、安全保障政策の大転換をどう考えたらよいのでしょうか。岸田政権の防衛力強化の考え方、内容を整理しておきましょう。11月にまとめられた政府の有識者会議の報告書は次のように述べています。
・インド太平洋におけるパワーバランスの変化や周辺国による変則軌道のものを含む相次ぐミサイル発射など日本の安全保障環境は厳しさを一段と増している
・日本および日本周辺での戦争を抑止し、力による現状変更を許さないという日本の意思を国内外に示し、有事の発生を防ぐ抑止力を確保しなければならない
・自分の国は自分たちで守るという当たり前の考え方を明確にすることは同盟国などからの信頼をゆるぎないものにするために不可欠である
・厳しい安全保障環境を考えるとき、なにができるかだけではなく、何をなすべきかという発想で、5年以内に防衛力を抜本的に強化しなければならない
・防衛力の財源は歳出改革を優先し、なお不足する部分については国民全体で負担すべきだ。国債発行が前提になってはならない
日本はこれまで平和憲法と日米安保条約のもとで、軽武装、専守防衛を標榜し、防衛コストを最小限に抑えてきました。米ソ冷戦時代は両陣営のもとで世界情勢は安定していました。社会主義帝国のソ連が崩壊し、天安門事件で経済制裁を受けていた中国がケ小平の南巡講話をきっかけに市場経済化に突き進んだ30年前、世界は1つになったという楽観論が広がりました。両国が豊かになれば、人々の間に民主主義が浸透し、もう専制国家の昔には戻らないだろう、という見方も有力でした。加えて日本では、唯一のスーパーパワーだったアメリカと緊密な同盟関係にあることから「日本は攻められることはない」とする考え方が一般通念になっていたといってよいでしょう。
しかし、国際ルールを踏みにじるロシアのウクライナ侵攻、習近平一極体制の中国の国内外への強権的行動、急速に核保有国となった北朝鮮の威嚇的行為、さらにアメリカ・パワーの相対的減退など、日本を取り巻く世界の安全保障環境は明らかに変わってきています。この点、有識者会議の報告書で示されている政府の認識はきわめて妥当だと思います。
問題は、重大な政策変更にもかかわらず、きわめて短期間に一方的に結論を出したことです。政治の場ではもちろん、広く国民の間で議論がないまま「1%の壁」が破られ、抑止力強化のために敵基地攻撃能力を保有することが固まったのです。拙速に過ぎると言わざるを得ません。「国民の覚悟を問う」議論がぜひとも必要でしょう。日本国民が防衛政策、安全保障政策を「自分ごと」として考えなければならないはずです。これまでのように専門家や関係者の間でのいわば抽象的な議論に終わらせてすんでいた時代は過去のものになったのです。
そのためには、巨大化する防衛費用をどうまかなうか、という財源論がキーポイントになると思います。いうまでもなく「国を守る」というサービスは、日本国民の誰ひとりも取り残さず、全国民に恩恵がおよぶ、経済学でいう「純粋公共財」です。だから税金でまかなう必要があるのです。この点は有識者会議の報告書でも触れている通りです。自民党の一部に当面は国債でまかなおうという議論がありますが、とんでもない暴論です。国防の便益を享受する今の国民が身銭を切ってまかなうべきなのです。痛みを受け入れてこそ本当に「自分ごと」になるからです。すでに紙数がつきましたが、この問題の門外漢の筆者も自分ごととして考えてゆきたいと思っています。
●麻生太郎氏 「防衛増税は国民の理解得た」発言に集まる憤激 1/10
1月9日、自民党の麻生太郎副総裁が福岡県直方市で講演し、岸田文雄内閣が打ち出した防衛力強化に伴う増税について、国民の理解を得られているとの認識を示した。
「もっと反対の反応が出てくる可能性もあると覚悟して臨んだが、多くの国民の方々の理解を得た。真剣に取り組んでいる(政府の)姿勢を評価していただいている」
ロシアによるウクライナ侵攻について「国連は何も機能していない。自国のことは自分で守らなければならないという現実が示されている」と指摘。
「ロシアが北海道に攻めてこないという保証はない」、「(中国は)台湾を支配する意欲をまったく隠していない。台湾への侵攻を開始する可能性は否定できない」と、危機感を示した。
そのうえで、「少なくとも防衛費の増強は、やむを得ない。それに伴って、ある程度、増税があり得るかもしれないということを含めて、私どもはこの問題に真剣に取り組んでいるという姿勢を評価していただいている。そう思って、私どもは、その方向で今、進めつつあります」と、増税への理解を求めた。
大阪市の松井一郎市長は1月10日、自身のTwitterに、麻生氏の発言を取り上げた記事を貼りつけたうえで、痛烈に批判した。
《麻生御大、増税の理解って、いくらなんでも無理筋ですよ》
政府は、2023年度から5年間の防衛費を43兆円に増額する方針で、法人、所得、たばこ3税を段階的に増税し、2027年度に1兆円超を確保する方針だ。1月7、8両日、JNNが実施した全国世論調査では、防衛費の増額について「賛成」39%、「反対」48%だったが、2027年度に1兆円超を増税で確保する方針には「反対」が71%に上った。
また、防衛費を増やすための財源については「増税」8%、「国債の発行」12%、を引き離し「他の予算の削減」が72%。さらに、岸田首相が増税の実施前に衆議院の解散・総選挙をおこない、国民に是非を問う必要があるか聞いたところ、「必要がある」76%、「必要はない」17%という結果になった。
麻生氏が、防衛増税について「多くの国民の方々の理解を得た」と発言したことが報じられると、SNSでは憤激する声が巻き起こった。
《何を見て多くの国民に理解を得たと判断してるのか 麻生太郎には何も見えてないんだろうな》 《「敵が来るぞ」と煽る危機感。「敵が来る理由」の合理的な説明はない。要するにこの人たち「とにかくヤバい」としか言ってない》 《防衛費増は理解できる。でも増税の前に政策に失敗してる政治家達の減給に特権の廃止・使途不明金をなくすのが先でしょ。そんなムダ金使ってたら共感は得られないし増税も認められないよ》
2022年6月には、日銀の黒田東彦総裁が、物価高について、講演で「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言。家計の苦境を軽視する発言として批判を浴び、「誤解を招いた表現で申し訳ない」と発言を撤回することとなった。麻生氏の発言は、果たして……。
●経団連会長、賃上げは「物価を最重視」 春闘対応方針 1/10
経団連の十倉雅和会長は10日の記者会見で、近く公表する経団連の「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」に令和5年春季労使交渉(春闘)に関連して「物価動向を一番重視し、持続的で構造的な賃上げを目指して企業行動を転換する絶好の機会」といった内容の表現を盛り込み、「企業の社会的責務」として大幅な賃金の引き上げを会員企業に求める考えを明らかにした。
経労委報告は春闘に臨む経営側の指針。同日開かれた経団連の会長・副会長会議で最終案が了承された。
今回の経労委報告について、会見で十倉氏は「『成長と分配の好循環』を実現しようというのが基本的な考え方」とした上で、賃上げに加えて働き方改革や円滑な労働移動の推進、多様性の浸透などを明記すると説明。さらに、企業が働き手から選ばれる魅力と、働き手の価値を共に高める必要性も打ち出すとした。
十倉氏は「日本はデフレマインドが染みついて値上げに消極的だったが、それが崩れてきている」として、デフレマインドの払拭が日本経済の転換に向けたポイントになると指摘。賃金と物価が適切に上昇する「賃金と物価の好循環」の実現に向け、「物価高に負けない賃上げを呼び掛けていきたい」と述べた。
一方、岸田文雄首相が表明した「異次元の少子化対策」の財源に関して「広く薄く社会全体で負担すべきではないか」と述べ、法人税などの増税で財源を賄う方針を政府が決定した防衛費増額とは異なる方式が望ましいとの考えを示した。
十倉氏は「少子化問題は『静かな有事』といわれ、日本の社会経済構造に大きな影響を与えるので、しっかり対応する必要がある」と指摘。対策は長期にわたるため「財政規律の問題もあり、安易に国債というわけにはいかない」と述べ、財源に国債を充てるべきでないとの認識を強調した。

 

●コロナとウクライナ、2つの危機で露呈した「MMTの弱点」 1/11
存在感薄れたMMT 世界経済はインフレ局面に
通貨発行権を持つ主権国家は財政赤字の増大によって破綻することはないとして、積極財政政策を掲げる現代貨幣理論(MMT)が、経済の長期停滞脱却の理論として少し前に話題になった。
日本でも、デフレで苦しむ日本が取るべき経済戦略を教えてくれる有望な理論として2019年頃、注目されたが、それから3年以上たった現在ではほとんど無視されているといってもよい。
新型コロナ感染禍でも米国をはじめ主要国で国債増発による大規模な現金給付など、MMTを地でいくような財政政策が行われてきたが、ウクライナ危機での資源価格高騰もあって、いまでは多くの国がインフレ抑制で懸命に政策のかじを切りはじめている。
どうして、そうなったのか。
その原因を探ると、市場経済における国家の役割と同時にその限界も見えてくる。
コロナ危機当初は高い期待 MMTを地でいった巨額給付金
MMTが強調するのは、(1)通貨発行権を持つ政府はデフォルトのリスクや予算制約はないということのほかに、(2)財政赤字は民間資産の増加、民間への資金供給になる(3)貨幣は税の徴収のために政府が流通させたもので、価値は政府の信用で支えられる(4)租税や公債は財源調達ではなく、資金供給や金利、購買力などを調整する手段―といった点だ。
財政の積極活用を肯定するケインズ理論など従来の経済学の考え方と変わらない部分もあるが、ケインズ理論が不況時に需要が不足している際の財政出動の必要性を言っているのに対して、MMTは財政赤字を平時でも活用して財政主導で経済を回そうという考え方がにじみでる。
とりわけ貨幣については、民間金融機関の信用創造や他国の経済や通貨との関係、国民の国家に対する信頼など、貨幣の流通をめぐる複雑な要因を捨象して、貨幣の本質を極めて単純化して捉えていることが特徴だ。
筆者は、MMTをそのまま財政政策に応用することには懐疑的だが、シンプルな仮定に基づいているおかげで、MMTの前提に立てば、こういう時にはどうするかシミュレーションしやすい。
それによって、どういう政策にどういう原理的な問題があるのか考えるヒントが与えられ、思考実験をするのには有用だと思っている。
主要国では長期停滞といわれる時期が続いてきたが、2020年春からのコロナ禍でも、MMTに対する期待が高まった。
感染拡大で多くの国がロックダウンなどの行動制限を導入して外出や営業が抑えられたため、リモート対応に特化した一部のIT企業や医療産業などを除いて、企業活動は停滞し、収入が低下する人や職を失う人が増えた。
リーマン・ショックに匹敵する経済危機に対応するため、欧米や日本も財政均衡を無視して、債務証書(貨幣+国債)を大量に発行し、巨額の現金給付や支援事業が行われた。
事実上のMMT政策が、2年以上にわたって実行されたわけだ。財政赤字を気にする必要はない、と堂々と主張するMMTは頼もしく思えた。
貯蓄は増えても消費に回らず 米国では供給制約でインフレに
ただしコロナ禍での財政赤字拡大は、財政政策というよりは不可避的な措置であり、MMTが積極的に追求しようとする財政政策とは異なる。
MMTは、市場経済を前提にし、国家が債務証書を発行し、財政支出を通じて需要を作ったり貨幣を供給したりして、それを国民(納税者)に(納税の手段として)受け取らせることができるようにする。
財政が主役となって経済を望ましい状態に維持し、国家経済が回るようにすべきだというのがMMTの基本的な考え方だ。
とりわけ、これはケインズ理論も同じだが、需要と供給のアンバランスのせいで、資源や労働力が有効活用されずにいる状態の際は、国家の役割が必要だということになる。
しかし、コロナ禍で政府が財政を通じて給付するのは、休業などで売り上げや所得が激減した企業や家計が生き残りや生活を維持するためで、財政からの支出が消費を刺激し、生産を拡大するために用いられる可能性は低い。
早期に生産活動が再開されないと、赤字が増えるだけで、資源や労働力は十分に有効活用されないままだ。それどころか、企業の稼働していない生産体制が劣化し、労働者のスキルが落ちる恐れもある。
実際、日本では家計に給付された一律給付金は消費にそれほど回らず貯蓄が増えただけだったということが確認されているし、企業向けの持続化給付金なども不正受給が問題になったものの、給付金が前向きな投資に使われたという話は聞かない。
米国で景気がいち早く回復したのは、バイデン政権の家計への給付金や雇用補償金など、従来の慣例にとらわれない大型経済対策を――日本とは違って――速やかに実行したからだといわれている。
しかし需要回復の一方で、サプライチェーンの分断や物流の混乱、さらにはコロナ禍で離職した人が労働市場に戻らないなどの供給面の制約でインフレが高まることになった。
ウクライナ危機でインフレ加速 主権国家のコントロールに限界
MMTは中長期的にも財政を均衡させる必要はないとしているが、ただし財政赤字を無条件に肯定しているわけではない。インフレのリスクは認識しており、民間の生産能力を超えて財政出動をすることは否定する。
生産手段や雇用などの資源の活用につながる形で物価が上昇するのならいいにしても、これはMMTから見ても、望ましくないインフレだった。
そしてその後、ようやくコロナ禍が終息しそうな雰囲気になってきた2022年2月に起きたのが、ロシアによるウクライナ侵攻だった。
戦争それ自体と、ロシアに対する各国の経済制裁のために、エネルギーや食料を中心に物価が一段と高騰し始め、欧米では2桁に近いインフレ状況になった。
このインフレは、(軍需産業などを除いて)資源の有効活用にはつながりそうにない。MMTにとっても明らかに悪性のインフレということになる。
ただ、ウクライナ危機がインフレの主要な原因かについては議論の余地がある。
渡辺努・東大教授は近著『世界インフレの謎』(講談社現代新書)で、2021年春頃からすでにインフレ傾向が始まっていて、ウクライナ危機はインフレを加速させたが、主要な原因ではないと主張している。
渡辺教授ははっきりと原因を特定していないが、コロナ禍で、人々の経済行動が根本から変化したことで、従来の需給均衡のメカニズムが効かなくなったのではないかと示唆している。
例えば、リモートやソーシャルディスタンスに対応した商品やサービスへの需要が増える一方で、そうした分野で働こうとする人、そこに投資する企業が増えなければ結果的に需要が過剰になるというわけだ。
いずれにしても、いまのインフレが、パンデミックと戦争という、いかなる主権国家も自らの意思だけでコントロールできない二大要因の連鎖によって引き起こされているのは、間違いない。
MMTの立場からしても、インフレを抑制する必要があるが、インフレの原因が単なる貨幣の供給過剰と見るのであれば、増税か財政出の削減で抑え込めばいいということになるが、それは現状とはあまりにもかけ離れている。
むしろインフレ退治を唯一の目的にした過激な政策を取れば、コロナ禍から回復しきっていない経済に更なるダメージを与えることになる。
スタグフレーション突入の懸念 増税はさらに事態を悪化させる
実際、欧州諸国は、米国ほどコロナ禍から経済が回復していない状況で、生産活動の停滞と物価高というスタグフレーションの懸念が強まりつつあるといわれている。
日本は、アメリカやEUほどインフレ率が高くはないが、それでも、CPI(消費者物価指数、除く生鮮食品)は15カ月連続で上昇し、直近の11月は前年同月比3.7%増と1981年12月以来の高さだ。
第四次中東戦争に起因するオイルショックの打撃を受けたまさにスタグフレーションの時代以来の上昇幅であり、戦争とその機に乗じた資源価格値上げがきっかけになった点で、現在の状況と似ている。
不況で、収入が減るのに、物価が上昇し続ければ、人々の生活はどんどん苦しくなる。
従来の経済学では、物価が上昇するにつれて、失業率が減少することを示すフィリップス曲線に基づいて、財政や金融政策を決定すべきだとされていたが、スタグフレーションになると、フィリップス曲線通りに経済は動かなくなる。
渡辺教授は、失業率の改善に対するインフレの上昇幅の比率が従来よりも大きくなっているため、政府や中央銀行のインフレへの対処が遅れた、と分析している。
いずれにせよ、スタグフレーションへの懸念が強まりつつあるこの時期に増税を断行すれば、何が起こるか分からない。
就業保証プログラムの二つの困難 事業の選定や賃金水準をどう決める
MMTは、フィリップス曲線が頼りにならない現状に対して、どういう処方を考えるのだろうか。
MMTはもともとフィリップス曲線を絶対視しておらず、JGP(Job Guarantee Program:就業保証プログラム)によって、インフレ率と失業率を同時にうまくコントロールできると主張する。
JGPとは、政府が資金を出して、地方のインフラ整備など公共性の高い領域で、失業者を一定の賃金水準で雇用できるようにするというものだ。
中央政府は賃金を保証するだけで、運用は地域のニーズを知っている地方公共団体に任せる。
不況になると、JGPの利用者が増えるので、政府の財政支出も増えるが、好況になると、民間企業がそれ以上の賃金水準で人を雇うので、JGPの利用者は減り、財政支出も減る。
これによって、失業率と財政支出(によるインフレ)のバランスが自動的に取れ、悪性インフレに陥ることなく、完全雇用を目指す政策が可能になる。
加えて、JGPは職業訓練と就労の習慣の維持につながるので、長期失業によって労働力の質が低下するのも避けられると、MMTは主張する。
これは一見理想的に見えるが、JGPには二つの問題がある。
一つは、地方に事業の選定を任せるとしても、地方の担当者たちは、どうやって地域のニーズに合う事業とそうでないものを判別するのか、という問題だ。
もう一つは、政府が保証する賃金水準をどう決めるのか、という問題だ。
賃金が低すぎると雇用維持や景気浮揚の効果はあまりなく、従来からある失業対策のための公共事業と大差ないだろうし、高すぎると、景気の動向に関係なく多くの人がJGPにとどまることになるだろう。
また、JGPが効率よく成果を上げることを考えれば、すべての人が同一賃金というわけにはいかず、技能の種類とその時々のニーズで差を付けざるを得ないだろうが、これを決めるのはかなり難しい操作になるだろう。
国民全体の雇用状況や生活水準と、企業の設備投資動向などとの間の相関関係に関するデータを広く収集し、最も均衡が取れた状態を導き出したうえで、それを再現するように、プログラムの初期設定をした場合だろうが、これは至難の業になるだろう。
戦争やパンデミックで、サプライチェーンが寸断されたり、消費と労働を中心とする人々の行動変容が起こったりしているとすれば、プログラムの初期設定が狂ってしまうので、JGPが機能不全に陥りそうだ。
どこでどのように、どれくらいの時間働きたいのか、そして生活において何を必要とするかに関する人々の志向や、世界的な人と物の流れが急速に変化した時には、MMTは対応しきれない。
パンデミックなどでの経済行動の変容 経済理論だけで「解」は出ない
MMTは、グローバルに発達した資本主義市場経済で、需給のアンバランスが生じて不況になった時などに、国家に何ができるか、何をすべきかを考えるうえで、有用だ。
しかし、あくまでも、国内の(市場)経済の視点から財政の機能や役割、経済政策について考察する理論だ。新型コロナのパンデミックや、ウクライナ危機のような資源・軍事大国が深く関与した戦争のような事態が起こると、その理論的な弱点が目立ってくる。
もちろん、これはMMTだけの課題ではない。ケインズ理論なども一国の国民経済を対象としたものだし、ゼロコロナ政策と成長減速の間で揺れ動き、国民の不満が強まる中国のような統制的な経済体制についてもいえることだ。
戦争やパンデミックのような経済外の出来事によって、エネルギーや食糧価格が急騰、医療などの社会的インフラやサプライチェーンが機能不全に陥り、さらにその余波で、人々の経済行動が変容する時、国家はどう振る舞い、どのような対応や政策をすればいいのか、正解を出すのは難しい。
経済学だけでなく、政治学や人類学の知見も動員して考えるべき問題なのだろう。
●年頭の社説 産読「安保政策転換を評価」 毎日「国民的な議論を欠いた」 1/11
ロシアによるウクライナ侵略が越年し、北朝鮮は従来にない頻度でミサイル発射を重ねた。尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国は、武力による「台湾統一」を否定しない。日本をめぐる安全保障環境が格段の厳しさを増す中、主要各紙の元日付社説は、昨年末に決まった防衛力の抜本的強化など、日本が取るべき備えや国際社会での役割について提起した。
通常の「主張」に代えて論説委員長の署名論考を掲載した産経は、防衛力の抜本的強化が岸田文雄政権で進められている理由とその意義を「日本が努力しなかったら、戦後初めて戦争を仕掛けられるかもしれない。戦争したくないから抑止力を高めようとしているんですよ」とかみくだいた書き出しで解説した。
反撃能力の保有や5年間の防衛費総額43兆円などを盛り込んだ国家安全保障戦略など安保3文書を「安保政策の大きな転換で岸田首相の業績といえる」と評価したうえで、「今年は3文書の抑止力強化措置を講じる最初の年だ。令和5年度予算成立なしには防衛費増額も始まらない。関係者の努力や同盟国米国との協力が重要だ」と強調した。
一方で一部野党やメディアが主張する「先制攻撃になる恐れ」などの反対について、「理由なく相手を叩(たた)く先制攻撃が国際法上不可なのは自衛隊も先刻承知だ」と一蹴し、「反撃能力の円滑な導入を論じてほしい」と説いた。
読売も「備える力」の重要性を訴えた。「うかつに手を出したら手痛い反撃にあい、損害がわが身に及ぶとわかっていれば、無謀な攻撃に踏み切る可能性は低くなる。万一に備える防衛力の強化こそが、カギとなる」とし、「その備える力を、いま最も必要としているのが日本である」と論じた。
ロシア、中国、北朝鮮という日本周辺の3カ国が独裁体制を固めて日本への挑発行為を繰り返していることを取り上げ、「これまでの、『迎撃』本位の防衛体制では対応しきれない。日本を取り巻く安全保障の環境が一変したのだ」と指摘した。そのうえで「政府が『反撃能力』の保有など、防衛政策の大転換となる新しい安全保障政策を決定したのは当然だ」と断じた。
原発の新増設方針も含めたこれら政策転換の決定過程に異を唱えたのは毎日だ。同紙は「看過できないのは、危機を口実にした議会軽視である。日本では、専守防衛に基づく安全保障政策の大転換が、国会での熟議抜きに決定された。国民的議論を欠いたのは原発の新増設方針も同様だ」と批判した。
日経は「岸田文雄首相は昨年末に相次いで決めた防衛力強化や原発新増設などの大きな政策転換について、国民に丁寧に説明し理解を得る努力が必要になる」と主張した。
朝日は戦禍で暮らすウクライナの人々の願いや訴えを詳細に紹介するとともに、先人が模索し続けてきた「国家の暴走を止めるための仕組み」が機能しない現状を憂える主張を掲載した。
「眼前で起きている戦争を一刻も早く止めなければならない。そしてそれと同時に、戦争を未然に防ぐ確かな手立てを今のうちから構想する必要がある」とし、「英知を結集する年としたい」と述べた。ただし、岸田政権の安保政策への言及はなかった。
日本は今年から国連安全保障理事会の非常任理事国を務め、5月には議長国として広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)を主催する。日経は「政権発足時に『分断から協調へ』を掲げた岸田首相の真価が問われる年になる」とし、読売も「平和を再構築する作業を始めねばならない」「日本はその先頭に立つべきだ」と訴えた。
主要各紙の年頭の社説
【産経】年のはじめに/「国民を守る日本」へ進もう
【朝日】空爆と警報の街から/戦争を止める英知いまこそ
【毎日】危機下の民主主義/再生へ市民の力集めたい
【読売】平和な世界構築へ先頭に立て/防衛、外交、道義の力を高めよう
【日経】分断を越える一歩を踏み出そう
【東京】年のはじめに考える/我らに「視点」を与えよ
●防衛増税「先送り」の見切り発車で高まる、なし崩しの国債増発リスク 1/11
防衛費増強、見切り発車 増税は「24年度以降」に先送り
2023年〜27年度の防衛費総額を43兆円に増やすことが閣議決定されたが、「規模と中身と財源を一体で決める」という岸田文雄首相の当初の方針にもかかわらず、実際には規模を先に決めた上で財源の議論に終始した。
とりわけ政府が財源の一部に増税を充てる考えを示し、短時間での決着を目指したことが、与党内の反発を招き、昨年末にまとめられた与党税制改正大綱では、増税は「24年度以降の適切な時期に実施」とし、来年度に改めて具体策を議論するという問題先送りの着地になった。
防衛増税のほかにも財源確保の手段として挙げられた歳出削減や決算剰余金の活用も具体的なことは決まっていない一方、艦艇などの防衛装備品の調達でタブーとされてきた建設国債が充てられることにもなった。
財源確保のめどが立たないまま、防衛力増強が23年度から見切り発車で始まる。
「取りやすいところから取る」 増税では受益と負担の議論深まらず
増税案は、法人増税、所得増税、たばこ増税の3つの項目を組み合わせで、2027年度までに1兆円強の財源が捻出される。
法人増税は、納税額に4.0%〜4.5%を上乗せする付加税方式となる。法人税額から500万円を引いた額にこの税率を掛けるため、納税額500万円以下の中小企業は増税の対象とならない。
所得税については、現行2.1%の復興特別所得税の税率を1%引き下げる一方、37年度までの期限を13年間延長することで総額を変えないようにする。
その上で、1%分を防衛費の財源に充てる。合計の税率は2.1%で変わらないが、復興特別所得税の支払期間を延長することで、実質的な増税策となる。
新たな歳出増加を賄うために適切な増税項目を選択する際には、「応益原則」と「応能原則」という2つの考え方がある。
新たな歳出増加、つまり政府サービスの利益を受ける人や企業が負担するのが応益原則、負担する能力がある人や企業が負担するのが応能原則だ。
これは財政学での基本的な考え方だが、現実には、「取りやすいところから取る」という3番目の選択肢が取られることが少なくない。
今回の増税案でも、この3つの考え方が組み合わされた。
たばこ増税は取りやすいところから取るものだ。特に喫煙者が防衛費増額の負担をすべきという理由はない。
ただ、たばこ増税によってたばこの消費量が減れば、健康を害するリスクが下がるということなどから、国民に比較的受け入れやすいということなのだろう。
また、大企業を中心にする法人増税についても、大企業は巨額の利益を上げる一方で、それを賃上げなどで労働者に還元していないとの認識が国民の間に広がっていることから、やはり国民に受け入れやすい増税項目となっている。
他方、大企業中心の法人増税としたところは、応能原則に従っているといえる。そして、防衛力強化のメリットを受けるのは、企業や個人の全体だから、応益原則に照らせば、法人税と所得税が組み合わされるのは自然ともいえる。
ただし増税の選択は、応益原則を基本とし、必要に応じて応能原則を取り入れるのが適切だ。「取りやすいところから取る」という増税の在り方は大いに問題である。
不安定な財源の設計の下 先行き大きな財源不足の懸念
懸念されるのは、こうした形で増税の枠組みは作られたものの、2024年以降も実施の先送りが繰り返され、結局、増税が行われないという可能性だ。
世界経済の減速によって、おそらく23年の日本経済の状況はかなり悪化する可能性が予想される。その場合、23年中に増税実施時期が24年度とは決まらず、またまた議論が先送りされる懸念がある。
そして先送りが繰り返される中、なし崩し的に国債発行で防衛費増額分が賄われていくことにならないのか。
政府が、増税以外に防衛費増強の財源確保の手段として掲げているものにも、実効があやしいものがある。
政府は27年度までに防衛費が4兆円程度増加し、その財源として1兆円強を増税で見込むほか、1兆円強を歳出削減、7000億円程度を決算剰余金の活用、9000億円程度を防衛力強化資金で賄うとしている。
しかし、27年度までに1兆円強の歳出削減ができるのかは明らかでなく、いまだ具体策も示されていない。
また、決算剰余金や、特別会計の決算剰余金、国有財産の売却などによる防衛力強化資金も非常に曖昧な財源確保の手段だ。
毎年の剰余金の額は変動が大きい上に、そもそも今でもその一部は一般会計に繰り入れられている。それを新たに防衛費増額の財源と位置付けるだけに終わり、実際には新たな財源確保にはならない可能性もあるだろう。
そして、国有財産の売却などは、明らかに1回限りの財源でしかない。
結局、27年度で3兆円程度が歳出削減や決算剰余金、防衛力強化資金の3つで確実に賄われる保証はなく、また27年度以降についてはそのリスクはさらに高まるだろう。
その場合、仮に1兆円強の増税実施が決まっても、それだけでは防衛費増額分を賄えなくなることから、穴埋めに国債発行がなし崩し的に行われる可能性が高まる
タブー破った23年度防衛予算 艦艇建造に初めて建設国債
防衛力増強の初年度となる2023年度予算案では、ほかにも、将来の国債発行のさらなる拡大につながりかねない、気になる点があった。
それは、艦船など一部の防衛装備品の経費に建設国債が充てられたことだ。
昨年末の防衛費の財源議論でも、一時は建設国債を防衛施設の更新・修繕などの費用に充てることが検討されていた。
23年度当初予算案で防衛装備品一部に建設国債が充てられたことで、今後、防衛費増額の財源で建設国債の対象をさらに拡大させるといった声が強まることになる可能性がある。
橋や道路のように、将来世代もそれを利用し利益を受ける政府の歳出については、将来世代もその費用を負担するのが妥当だとの考えから、60年間で完全に償還される建設国債が充てられてきた。
防衛関連費の中にも将来世代が利益を受ける部分が全くないとは言い切れないが、それでも、防衛関連費を建設国債で賄うことを今まで政府は避けてきた。
国債発行で戦費を調達し、戦争を継続・拡大させてきた、第2次世界大戦あるいはそれ以前の教訓を踏まえてのことだったはずだ。
23年度予算で建設国債の対象となる防衛装備品は、運用期間が数十年間と比較的長い護衛艦や潜水艦といった防衛装備品であり、航空機は対象外だという。
しかし、技術進歩が激しい軍事分野で、装備品の多くは比較的早期に陳腐化してしまう。60年間で完全に償還される建設国債で賄うのにはなじまないのではないか。
防衛関連費の中のごく一部については、建設国債を財源にすることが正当化されるかもしれないが、重要な問題は、防衛費は建設国債で賄わないという政府が長らく堅持してきた方針を変更することが、さらなる国債増発に道を開いてしまうリスクだ。
“拡大解釈”が進んでいかないか タガが外れる危険、監視が必要
今回の建設国債発行は、自民党内の保守派が主張したと考えられるが、一部の装備品で実現したことを理由に、今後の防衛費増額についても、増税ではなく建設国債の発行で賄うべきとの議論を展開していく狙いがあるのかもしれない。
さらに、防衛関連費を建設国債で賄うことが認められれば、その他の予算項目でも、将来世代が利益を受けるのだから、建設国債を賄うことが妥当との議論が安易に広がることにもなりかねない。
すでに教育費を国債で賄うべきとの主張をしている野党がいる。現在の教育関連支出が将来の教育水準を高め、それが将来の経済成長を後押しすれば、将来世代もその恩恵に浴することができるとの考えなのだろう。
こうした考えをさらに発展させれば、社会保障給付のような支出でも、社会の安定や治安の安定につながり、そうした安定した社会が将来に継承されることで将来世代もその恩恵に浴することができるといった解釈も可能となってしまうだろう。
だが現実には現在政府が行っている公共サービスの大半は、現役世代がその利益を受けており、現役世代がその対価を払うべきものだ。
長らく堅持された防衛費に建設国債を充てないという方針を撤回することで、一気にタガが外れてしまい、多くの分野で国債発行が正当化されるリスクはないのか。
上記のような拡大解釈が展開されていく中、国債増発が正当化され、将来世代への負担の転嫁が一段と進むようなことにならないよう、防衛費を賄う建設国債の発行が、今後の議論にどのように影響していくかについて、国民はしっかりと目を光らせておく必要がある。
国債発行がなし崩し的になる 最も望ましくない方向に道を開く
防衛費増額を増税や歳出削減、国債発行のいずれの手段で賄うとしても、それは国民の負担となる。フリーランチはあり得ない。
歳出削減や増税は現在に生きる国民の負担であり、国債発行は将来世代も含めた国民の負担だ。このことを正確に理解した上で、どのような財源で賄うのかは、国民が最終的に判断しなければならない。
さらに防衛費増額について、国民がその大きな負担を受け入れるには値しない、あるいはその負担が経済や生活に大きな打撃を与えてしまうと考えれば、防衛費増額の妥当性を改めて検証するというプロセスが必要だろう。
岸田首相が当初示した防衛費増額は規模、中身、財源の3つを一体で決めるという方針はまさにそういうことを意味するのだろう。
しかし実際には、中身と財源よりも規模が先に決まってしまい、負担を踏まえて規模を再び検証するという機会は失われてしまったのだ。
今回の防衛費増額は、その妥当性や負担の在り方を国民が明確に判断しないまま、先行き、なし崩し的に国債発行で賄われる部分が広がり、将来世代に負担が転嫁されていくという、最も望ましくない方向に道を開く決着になったといえないか。
国会での予算案審議はこの点を徹底的に議論する必要がある。
●日銀緩和修正の副作用 / 市場機能改善も財政圧迫に懸念  1/11
日本の10年物国債利回り(長期金利)は日銀が許容する上限の0・5%程度に達している。日銀が17、18の両日に開く金融政策決定会合でさらなる金融緩和の縮小に動くかを金融市場は注視する。ただ金融緩和の修正は国債や社債などの市場機能改善につながる半面、財政の圧迫や日銀の財務に影響を及ぼす副作用を伴うことに留意したい。
日銀は2022年12月の決定会合で金融緩和を修正し、10年物国債利回りの許容変動幅の上限を0・25%程度から0・5%程度に上げた。政策変更を受けて長期金利は上昇し、財務省が1月発行分の10年物国債の表面利率(額面価格に対する利率)を前月比2・5倍の0・5%に引き上げるなど、日銀が上限とする金利水準に達している。
金利上昇の余地がなくなったことで、日銀が次回会合で再びサプライズとなる政策修正に動くかを注視したい。ただ、政策の修正はプラス、マイナスの両面がある。プラス面は市場の歪みを是正し、市場機能を改善できることだ。日銀は前回の決定会合まで10年物国債を大量購入し、10年物の利回りは他の国債より突出して低下幅が大きかった。日銀が10年物利回りの抑制を緩和することで歪みは改善される。市場動向を反映した柔軟な政策修正が求められる。
ただ日銀が長期金利の上限をさらに引き上げれば、それだけ財政は圧迫される。金利が1%上昇すると、政府による国債の元利払いは25年度ベースで想定より3・7兆円増加するという。政府は決算剰余金の一部を防衛費の増額財源に充てる方針だが、金利上昇で剰余金が目減りする事態も想定されてくる。
日銀が保有する国債の評価損も膨らむ。金利1%上昇で日銀の保有国債に28・6兆円の評価損が発生するという。また金融機関が日銀に預ける当座預金の利払い負担も増えるなど、財務面での副作用が懸念される。
政府による大量の国債発行を日銀が引き受ける大規模金融緩和は限界を迎えている。金融政策の正常化を見据え、政府には確かな財政健全化計画を早期に打ち出してもらいたい。
●岸田政権が少子化対策の財源に保険料値上げ画策 1/11
“異次元の負担増”が到来するのか。政府・与党が新たな少子化対策の財源として、年金、医療、介護、雇用の社会保険料の引き上げを画策している。
政府・与党が検討しているのは、非正規労働者らを対象に子育て支援を給付する制度の創設。月額保険料を国民1人あたり数百円程度引き上げ、拠出金を積み立てる。来年の通常国会への法案提出を目指しているという。
実際、岸田首相は8日のNHK「日曜討論」で、少子化対策の財源をめぐり「雇用保険、医療保険をはじめ、さまざまな保険がある」などと指摘。公明党の山口代表も同番組で、「保険も含めて幅広くさまざまな財源を確保していく議論が必要」と岸田首相に同調する姿勢を見せた。
子育て支援の財源を子育て世代にも求める“異次元”の計画に、ネット上は〈子育てのための金を子育て世代から金巻き上げてどうする〉〈国民への押しつけじゃん〉などの批判が続出。子育て世代だけでなく、子どもがいない人や高齢者も負担増となる。経済ジャーナリストの荻原博子氏がこう言う。
「現状でも社会保険料の引き上げが続いています。増税や保険料アップで給料の手取りが減る中、ただでさえ新型コロナ禍と物価高のダブルパンチに見舞われているのに、さらなる保険料の引き上げは国民の理解を得られるとは到底思えません。本当に少子化対策に取り組むつもりなら、一時給付金などではなく、奨学金を返済不要にするとか、教育無償化を推し進めるとか、切れ目のない支援が必要です」
中学生以下の子どもに1人あたり原則1万〜1万5000円を支給する「児童手当」はあるが、その前身である「子ども手当」の創設に伴い、16歳未満の子どもに対する年少扶養控除が現在も廃止されたまま。児童手当には所得制限があるため、子育て世代の負担はむしろ重くなっている。
行きつく先は「所得倍減」
「控除を復活させたら拍手喝采でしょうが、財務省主導の岸田政権が復活させることはないでしょう。行きつく先は『所得倍増』どころか、『所得倍減』ですよ」(荻原博子氏)
最新のJNN世論調査によれば、5年間で約43兆円を目指す防衛費増額について、「反対」(48%)が「賛成」(39%)を上回った。国民の声は防衛費より子育て予算だ。年少扶養控除の廃止に伴う増収分は、所得税と住民税を合わせて約9000億円。岸田首相は今こそ国民の声に耳を傾け、控除復活に防衛費を回したらどうか。
●少子化対策めぐり 菅氏「消費税は全く考えてない」 1/11
菅前総理大臣は少子化対策の財源を消費税の増税で賄うことについて「全く考えていない」と強く否定しました。
菅前総理大臣「消費税を増税してそこ(少子化対策)をやることは全く考えていません。ただ、少子化対策は極めて重要だと思います」
少子化対策を巡って自民党内では甘利前幹事長が消費税に言及していて、菅前総理はこれを批判した形です。
菅前総理はまた派閥の在り方に触れ、政治家は自らの理念や政策を重視すべきで「派閥の意向を優先すべきでない」と強調しました。
岸田総理が派閥会長を続けていることについては「歴代総理は派閥を出て総理を務めた」と苦言を呈しました。
●菅前総理「消費増税は全く考えていない」少子化対策の財源めぐり 1/11
政府が進める「異次元の少子化対策」の財源をめぐり、菅前総理は訪問先のベトナムで記者団に対し“消費税の増税は全く考えていない”と話し、財源を消費税の増税で賄うことに否定的な認識を示しました。
菅義偉前総理「消費税を増税してそこ(少子化対策)をやるという、そういうことは私自身全く考えていません」
岸田政権が掲げた「異次元の少子化対策」の財源をめぐり、菅前総理はこのように述べ、消費税の増税による財源の確保に否定的な認識を示しました。一方、「少子化対策は極めて重要だ」として、少子高齢化対策を自身の今後の政治活動の中心のひとつに据えていく考えを示しました。
政府は児童手当など経済的支援の拡充や育児休業制度の強化などに向けて、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめる予定ですが、その裏付けとなる財源の確保が課題となっています。
●「まずは国会議員から取り上げろ」橋下徹氏の “ナイスツッコミ” に賛同の声 1/11
元大阪府知事の橋下徹氏が1月6日、自身のTwitterを更新した。
《国民負担の前に、国会議員の特権の旧文通費約70億円、立法事務費約50億円、各党政党交付金剰余(内部留保)金数十億円、政治資金領収書不明金(組織活動費)数十億円を取り上げるところから》
このツイートは、産経新聞が報じた「少子化対策財源、消費増税も検討対象 自民税調幹部の甘利氏」という記事を引用し、「まずは国会議員の経費のムダを見直すことから始めよ」とするものだ。
甘利明・自民党前幹事長は、1月5日放送のテレビ番組で少子化対策の財源について、「将来的には消費税率引き上げも検討対象になる」との認識を示したことが話題となっている。
橋下氏は続けて、《開催されていない特別委員会の日当や公用車費用もまず廃止》《JR乗り放題パスも廃止》と、ツイートした。
橋下氏は同日、やはり産経新聞の「自民、防衛増税以外の財源探し特命委 萩生田氏トップ」との記事を引用し、同様の投稿をおこなっている。こちらも、防衛費増額の財源探しの議論以前に、国会議員の無駄遣いをやめよというものだ。
これらのツイートに対し、SNSでは《橋下さんの言う通り、特権的なものをまず廃止して、税金の無駄遣いもやめて、尚且つ必要なところにお金が足りないなら我慢します!》《その通りです。領収書いらない公金てなに?》《国会で寝ている議員数の削減も必須》《やること、やってくれたら年棒1億でもいいと思うよ。公約や日本のGDPxx%成長させたら年棒アップ、未達成なら減棒とかいいんじゃない》《なんでこの国はそんな簡単な事ができないんですか?》など、賛同するコメントが多数集まっている。
国会議員には給与とは別に月額100万円の「調査研究広報滞在費」(旧文書通信交通滞在費)が支給される。2021年10月の総選挙では、当選した新人議員が在職1日で1カ月ぶんの100万円を満額支給されたことが問題となり、その後、名称を変更し日割り支給するよう法改正された。だが、領収書は不要で、使途報告や残金返還の義務はなく、議員にとって「第2のサイフ」と言われている。
立法事務費は、議員個人ではなく各会派に所属議員の人数に応じて支給されるもので、月額は議員ひとりあたり65万円。これも領収書の提出や使途報告の必要はないことで、「第3のサイフ」と言われ、不透明な政治資金の温床になっているという指摘もある。
国会議員の給与は月額129万4000円(コロナ禍で2割削減中)。300万円以上のボーナスが年に2回。JRは乗り放題、議員宿舎もある。 
「まず隗(かい)より始めよ」ということだ。 
●全国旅行支援再開 「政府はある程度の犠牲は仕方ないと判断」 1/11
年末年始に中断していた政府の観光活性化策「全国旅行支援」が1月10日、再開された。
割引上限額は、交通と宿泊がセットの商品の場合5000円、宿泊のみか日帰りの場合は3000円。飲食やお土産を買う際に使える地域クーポンは、平日2000円分、休日1000円分がもらえる。同支援は、都道府県に割り振られた予算がなくなり次第、順次終了。3月末ごろがメドとされる。
斉藤鉄夫国土交通大臣は、2022年11月の会見で、同支援により「コロナ前の賑わいを取り戻した観光地もあるなど、全国的に需要喚起の効果があらわれているものと認識」していることを強調し、観光は今後の「日本の経済の柱になるべき項目であり、地域振興の意味でも重要な産業の柱のひとつ」として、年明け以降も実施していく、と宣言していた。
しかし、SNS上での国民の声は厳しい。
《今のタイミングで? 連日死者過去最大を記録してるのに? 新規陽性者数世界一なのに?》《別に今のご時世、行きたい人は勝手に旅行行くんだし、支援しなくてももう新幹線だって飛行機だって乗車率回復してたよね? 子育て支援に全振りしてもまだ足りないくらいなんだから》《いや、それ以上に苦境に喘ぐ業界はないの? 一度こっきりの支援金で「自助共助」で喘ぎ続けてる困窮者は?看護師さん始めとする医療従事者は?保育士、介護士さんは?》
新型コロナウイルスに感染し、亡くなる人の数が過去最多を記録する自治体も登場し、そのほかにも物価高や少子化など、差し迫る課題があるなか、旅行支援の必要性、実効性はどこまであるのか。
経済アナリストの森永卓郎氏は、今回の支援再開を「超経済優先」の発想だと指摘する。
「経済効果があるのは間違いないんですよ。これだけ感染者が増えているということは、人が動いているということですから。2020年7月にスタートした『Go To トラベル』は、税金を使って感染を拡大させたと猛批判され、今回も同じことが起こっているのですが、前回と違うのは、政府は口では言いませんが、高齢者や基礎疾患をもつ人がある程度、犠牲になるのは仕方ないと判断した、という点です。第8波の死亡者数は過去最大になるのはほぼ確実で、1カ月あたり2万人以上が亡くなるかもしれないなか、超経済優先の方針になったということです。かつて日航機がハイジャックされたとき、実行犯は拘束中だった日本赤軍メンバーの釈放と引き換えに乗客を解放すると要求し、政府はそれに応じたわけです。その理由について、当時の福田赳夫総理は、『人命は地球よりも重い』と言ったんですね。私は日本はそういう国だと思っていたんですが、それが大きく変わったということだと思います。つまり、経済は人命よりも重いんだという判断を岸田内閣は事実上、したということ。私も2022年に高齢者の仲間入りをして、『年寄りよりも経済』というのは個人的には賛成しかねます。一部の医療機関はもうパンパンになってしまっていて、これ以上増えると対処できないと悲鳴を上げている状況で、もし私が政権を握っているなら、とりあえず予算を先送りし、この段階での支援の再開はしません」
本当に人命を犠牲にして経済を優先させる発想なら、日本はかなり危険な国家となったということか……。
●先制攻撃をしないためにこそ必要な核抑止力 1/11
【まとめ】
・岸田政権が「安保3文書」を閣議決定した。各政党からは『反撃能力』について様々な意見が出た。
・問題は、中国や北朝鮮が日本に対し「核の恫喝」に出てきた場合である。
・英国型の独自核抑止力を整備すべき。すなわち潜水艦に核弾頭搭載ミサイルを装備し潜行させる「連続航行抑止」という戦略である。
岸田政権が国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定(2022年12月16日)したことを踏まえ、同12月20日、立憲民主党が「外交・安全保障戦略の方向性」と題する文書を発表した。
玄葉光一郎元外相(ネクスト外務・安全保障大臣)が中心になってまとめたという。
その中で、「我が党は、政府与党が容認したスタンド・オフ防衛能力等による『反撃能力』については以下の懸念を持っている」として、こう述べている。
《政府見解では、「我が国に対する攻撃の着手」があれば先制攻撃にあたらないとされているが、正確な着手判断は現実的には困難であり、先制攻撃となるリスクが大きい》
これは理論的には正当な懸念である。
後で触れるように、政府の安保3文書は「着手」の時点で反撃とは書いておらず、「相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、…更なる武力攻撃を防ぐために」としているが、ともあれまず、政界におけるここ数年の議論を振り返っておこう。
2021年9月19日、自民党総裁候補の1人としてフジテレビの番組に出演した河野太郎は、敵基地攻撃能力について次のように発言し、否定的態度を取った。
《敵基地なんとか能力みたいなものは、こっちが撃つ前に相手が撃たなかったら相手の能力が無力化される。(相手に先制攻撃の誘惑を与え)かえって不安定化させる要因になる(カッコ内島田)》
「なんとか能力」という小バカにした言い方や、建設的代案を示さない辺り、河野の不見識が表れているが、相手の予防攻撃を惹起しかねないというのは1つの論点である。
同様に、公明党の山口那津男代表も、「敵基地攻撃能力が国会で議論されたのはもう70年も前のことで、いささか古い議論の立て方だ」と繰り返し述べていた(例えば2022年1月9日のNHK番組で)。山口も建設的な代案を示していない。
山口のいう「70年も前」の議論とは、次の鳩山一郎首相答弁(1956年)を指す。
《わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います》
山口発言が出た同じNHKの番組で、立憲民主党の泉健太代表も、「今の時代は発射台付き車両からミサイルを射出する」と強調し、移動式ミサイルの位置を把握して、発射前に無力化するのは不可能との趣旨を述べている。
一方、日本維新の会の馬場伸幸共同代表は「わが党は敵基地攻撃能力とはいわず、領域内阻止能力と呼んでいる。抑止力として一定の反撃能力を持つことは絶対に必要で、領域内阻止能力は予算をつけて高めていくべきだ」と力説した。
国民民主党の玉木雄一郎代表も「敵基地攻撃能力という言葉はどうかと思うが、相手領域内で抑止する力は必要だ」と同調した。
自国領域内で超音速ミサイルの迎撃を試みるより、相手領域内で発射前のミサイルを叩く方が効果的との議論は、自民党の小野寺五典安全保障調査会長(元防衛相)などが夙(つと)に行ってきたところである。
その場合、敵基地攻撃と言ってもあくまで迎撃の一種であり(場所が自国内か敵国内かの違いだけ)、専守防衛と矛盾しないとの理論構成が採られてきた。
問題は、中国や北朝鮮が日本に対し「核の恫喝」に出てきた場合である。
その場合、発射直前に相手の核ミサイル基地を叩くという発想は現実的ではなく、非常な危険を伴う。
まず、中国も北朝鮮も移動式発射台(輸送起立発射機)をすでに運用しており、常時正確な位置情報を得るのは不可能に近い。防衛白書も移動式ミサイルは「発射の兆候を事前に把握するのが困難」と記している。
しかも、緊張が高まる状況下では、点検や修理などのメンテナンス活動を発射準備と誤認してしまう可能性も常に付きまとう。結果的にかなりの死傷者を出す不意打ち攻撃となり、相手に核ミサイル使用の口実を与えかねない。
実際、2022年4月1日、韓国の徐旭国防部長官が「(北朝鮮の)ミサイル発射の兆候が明確な場合には、発射地点や指揮・支援施設を精密攻撃できる能力を備えている」と発言したのに対し、北の独裁者金正恩の妹、金与正朝鮮労働党副部長が「南朝鮮が我々と軍事的対決を選択するなら、我々の核戦闘武力は任務を遂行せざるをえない」と核報復を示唆している(同5日)。
さらに9月8日、北朝鮮は最高人民会議で「核戦力政策に関する法令」を成立させ、「指揮統制システムが敵対勢力の攻撃により危険に瀕する場合、核打撃が自動的に即時に断行される」(第3条)と明確に規定した。
さらに金正恩は、同年の朝鮮労働党中央委員会総会最終日の12月31日、「核心的な攻撃型兵器で、敵を圧倒的に制圧できる。本当に感慨無量だ」と述べた上、「核戦力は戦争の抑止と平和・安全を守ることを第1の使命とするが、抑止が失敗したときは、防衛とは異なる第2の使命も決行する」と先制攻撃の意思を明言した。
こうした状況下では、発射前に基地を叩く戦術では、危険な相手との危険な神経戦となり、先制核攻撃を受ける可能性が高まる。
やはり、事前ではなく事後、すなわち相手が大量破壊兵器を用いたり、非人道的な無差別攻撃を行ったりした時点で、その指令系統中枢に「耐えがたい被害」を与える反撃戦略を抑止の基本とすべきだろう。
先に触れたとおり、小野寺を会長とする自民党安全保障調査会は「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」と題する文書で、次の認識を示した(2022年4月26日)。
《弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力(counterstrike capabilities)を保有し、これらの攻撃を抑止し、対処する。反撃能力の対象範囲は、相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含むものとする》
攻撃対象をミサイル発射台に限定とも取れる従来の「敵基地攻撃能力」(それゆえ河野太郎や山口那津男、泉健太らの非建設的反論を生んだ)が、対象に相手司令部など「指揮統制機能」も含むことを明示した上で「反撃能力」という言葉に変えられた。適切な修正と言える。
その後政府が発表した「国家防衛戦略について」(安保3文書の一つ)では次のように書かれている。
《相手からミサイルによる攻撃がなされた場合、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、我が国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力を保有する必要がある》
正しい発想である。ただし通常戦力による反撃では、相手司令部の無力化は困難で、抑止力として充分ではない。反撃ミサイル1発につき、地上の構造物を一つか二つ破壊できる程度だろう。
核の脅しに対しては、やはり相手の指令系統中枢を壊滅させられる核による対抗手段の明示が不可欠である。
私は英国型の独自核抑止力を日本も整備すべきだと思っている。すなわち発見されにくい潜水艦に核弾頭搭載ミサイルを装備して潜行させる「連続航行抑止」と呼ばれる戦略である。
英国の場合、具体的には戦略原潜4隻が、それぞれ16基のトライデントUミサイルを搭載し(=1基当たり核弾頭3発を装備できる。4隻合わせて約200カ所の目標を攻撃可能)、常時1隻は外洋に出るシステムを維持している。なおフランスもほぼ同様の核抑止システムを採っている。
ちなみに、ソ連が人工衛星の打ち上げに成功し、ミサイル開発で先行したことを印象付けたスプートニク・ショック(1957年)を受け、NATO首脳会議が核共有を決めたのが同年12月であった。英仏は同時に独自核抑止力の開発も加速させた。先に引いた鳩山一郎首相答弁の約1年後である。
山口公明党代表の言うように、日本が70年前の議論に固執しているのが悪いのではない。70年前に始めるべきだった本格的な核抑止力論議をいまだに始めていないことが問題なのである。
●小池知事の少子化対策に懐疑的な見方が出るワケ 都の出生数6年連続低下 1/11
「もう国会には戻れないし、誰も国会に戻ってきて活躍するのを期待してません。そうすると、何か打ち出さないとジリ貧になっちゃうし、国会に戻れないってことは来年の選挙でもう一回都知事やるっていうことしか、生きていく道は政治家としてはないんで。そうすると目立つことをやらないといけないんで、これをやった」
前東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏(74)は8日、出演した「ABEMA TV」で、小池百合子・東京都知事(70)の少子化対策案をこう断じていた。
新年早々に打ち出された「都内に住む0〜18歳の子供に1人当たり月5000円程度を給付する」という内容で、SNS上では、岸田文雄首相(65)が明言した「異次元の少子化対策」と並んで、今も賛否両論が飛び交う事態が続いている。
ネット上では《岸田さんの異次元対策という漠然とした言葉よりも、小池さんの方が具体的な内容でいい》、《小池さん、よくぞ決断してくれた》などと、小池知事の方針を歓迎する声が少なくないが、その一方でみられるのが、《いい話だと思うけれど、舛添さんの言う通り、小池さんには何か別の思惑があるのでは…》、《なんか胡散臭いんだよね》といった投稿だ。
「都が後塵を拝している」のが実態
「社会の存立基盤を揺るがす、まさに衝撃的な事態だ」
「都が先駆けて具体的な対策を充実させないといけない」
今回の少子化対策を打ち出した思いについてこう熱く語っていた小池都知事だが、昨年12月に東京都福祉保健局が公表した「令和3年東京都人口動態統計年報(確定数)」によると、都の出生数は9万5404人で、前年より4257人も減り、6年連続の減少。合計特殊出生率も1.08で、5年連続の低下となった。
都の合計特殊出生率は全国の1.30に及ばず、小池知事が言うように「都が先駆けて」どころか、全国と比べて「都が後塵を拝している」のが実態だ。
しかも、区部で最低だったのは豊島区の0.93だったため、SNSなどでは、《都内の出生数6年連続で減少って、2016年に小池さんが知事になってからずっとだよね。今まで衝撃的な実態に対して何してたの》、《確か豊島区は小池さんが衆議院時代の選挙区だったのに…。少子化に気付かなったのかな》との皮肉も。
小池都知事が自民党国会議員時代、民主党政権下で実施されていた当時の「子ども手当」(15歳以下の子供を扶養する保護者等に対し、月額1万3000円を支給)について、国会で「ただ有権者におもねるばらまき政策」などと強く批判していた過去もあるからなのか、小池知事の少子化対策について懐疑的な見方を示す国民は少なくないようだ。
●“消費増税の前に徹底的な行政改革を” 少子化対策の財源めぐり菅前総理 1/11
政府の少子化対策の財源を消費税の増税で賄う案について、菅前総理は、「物価高の中、消費増税の議論をすること自体が国民から理解されない」と述べ、増税の前に徹底的な行政改革をして、財源を確保すべきとの考えを示しました。
菅義偉前総理「これだけ物価が高騰してるときに消費税の議論をすること自体、私は国民から理解をされない」
少子化対策の財源について、菅前総理は訪問先のベトナムで記者団にこのように述べたうえで、増税の議論をする前に“徹底的な行政改革”をして財源を確保することが増税する前の最低条件だとの考えを示しました。
菅氏はきのうも、消費増税による財源確保に対し、否定的な認識を示していました。
政府は、児童手当など経済的支援の拡充や育児休業制度の強化などに向けて、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめる予定ですが、その裏付けとなる財源の確保が課題となっています。

 

●2023年のキーワードは「DX」「GX」「リスキリング」...その本質は・・・ 1/12
読者の皆様、遅ればせながら本年もよろしくお願い申し上げます。さて年初に当たり今回は、昨年の企業経営を巡る情勢を象徴するトレンドキーワードから、本年企業経営者が改めて念頭におき行動に移すべきことを整理してみたいと思います。
言葉の意味、正しく理解している?
まずなんと言っても、長引くコロナ禍で今年も引き続き強力なキーワードとなるのが「DX=デジタル・トランスフォーメーション」でしょう。DXはすでに一般用語として広く浸透していますが、その意味が広く正しく理解されているかと言えば、実はそうでもないと感じています。というのは、私自身の仕事の中で、いまだにIT化とDXを同義語として捉えているビジネスマンがけっこういる、という肌感があるからです。
いまさらですが、IT化は英語で「Digitize」であり、デジタルテクノロジーを活用した効率化や省力化という生産性の向上です。それに対して、DXは「Digitalize」と英訳され、一般にデジタルテクノロジーを活用した「顧客価値の向上」と理解するのが肝要です。
すなわち、IT化は内向きなデジタル化であるのに対して、DXは外向きなデジタル化なのです。キーワードは「トランスフォーメーション=変換」であり、デジタルテクノロジーを使い、顧客サービスを通じ、「顧客価値の向上」への変換をはかることこそ、DXの正体であるという点に注目です。
同じようなことが、昨年後半に盛んに耳にするようになったSDGsがらみの新たなキーワード、「GX=グリーン・トランスフォーメーション」にも言えます。GXとカーボンニュートラル(CN)もまた同義語と誤解されているフシがあるのですが、これもまた同じような誤解です。
CNは単純に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させることであるのに対して、GXは温室効果ガスを増やさないクリーンエネルギーを使って、「顧客価の値向上」に資するサービスに変換することという違いがあるのです。
さらにもうひとつ、昨年政府が5年で1兆円の予算を投じると宣言した「リスキリング=Re-skilling」というキーワードにもまた、同じような誤解が見られます。直訳は、「再びスキルを磨くこと」で一般には「学び直し」と訳されるこの言葉ですが、これが今注目を集める理由はリスキリングが単なる「学び直し」ではないからなのです。
正しい解釈のヒントは、リスキリングで学ぶ主な対象が、「DX知識」や「DXスキル」であるという点にあります。すなわち、最終的に直接「顧客価値の向上」に資するような知識やスキルの習得であるか否かが、一般的な「学び直し」とは異なるということなのです。
このように、今を象徴する3つのキーワードのベースに共通して存在するのは、「顧客価値の向上」であることが分かります。ではなぜいまさら、「顧客価値の向上」なのでしょう。
消極的ともいえる危機対応策から、「弱い日本」に...
日本は約10年前後おきに、経済的に大きなダメージを被るような出来事が起きています。
1990年代末にバブル経済崩壊のツケを払わされるかたちで金融危機があり、そのおよそ10年後の2008年秋から09年にかけては米国発のリーマンショックの余波で、我が国にも大きな経済的悪影響が及ぼされました。そしてさらにそれから10年余り、2020年春からのコロナ禍に襲われ、今経済活動には大きな変革がもたらされているわけなのです。
90年代末の金融危機と00年代末のリーマンショックに襲われた後の企業活動では、急速に発展したITテクノロジーを活用して効率化や省力化に力を注ぎ、コスト削減、スリム化を軸に不況からの復活を遂げてきたと言えるでしょう。
しかし、これらある意味で、消極的ともいえる危機対応策によってもたらされたものは、経済の長期デフレ化、結果として、賃金が上がることのない失われた20年と、「弱い日本」への凋落をもたらしたのです。
これら過去の反省に立てばこそ、長引くコロナ禍経済においてはDX、GX、リスキリングという新たな概念を通じて、いまさらながらに「顧客価値の向上」が訴えられているわけです。
内向きな体質強化やコスト削減ではなく、外向きにトップラインを押し上げる策としての「顧客価値の向上」。「顧客価値の向上」があってはじめて、経済はプラスに振れ、「弱い日本」の返上につながる。だからからこそ、国を挙げてDX、GXが叫ばれ、リスキリングに多額の国家予算が投じられるということなのです。
「多くの収益を上げるか」から「多くの顧客価値を生み出すか」への転換を
過去にも何度となく、「顧客重視」「顧客優先」は企業活動の中で叫ばれて来たものの、先に述べたように、いざ大きな経済的危機に対峙すると、企業は守りの改善にばかり走って、成長のバッファを食いつぶしてきてしまったのです。
結果として長期にわたるデフレ経済と低成長が、日本経済の地盤沈下を生んでしまった。だからこそ今、コロナ禍という経済的大変革の中で三度同じ轍を踏まないために、DX、GX、リスキリングの言葉を借りて企業経営者は改めて、「顧客価値の向上」に目を向けさせられている、そんな潮目の変化を感じるのです。
言変えれば、令和5年(2023年)の企業経営における大きなテーマが、「いかに多くの収益を上げるか」から「いかに多くの顧客価値を生み出すか」への転換であるということでもあります。
企業経営者が皆、「顧客価値の向上」が最終的には自社の収益増強につながり、さらには日本経済の新たな発展につながるとの理解をもって、自社における「顧客価値の向上」を改めて見つめ直し行動に移す――。今年はそんな一年であってほしいと願っています。
●再び中国からコロナが世界にばら撒かれる…習近平の「コロナ放置政策」リスク 1/12
中国でコロナ感染が再拡大している。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「習近平総書記はあえて積極的な抑止策をとっていないように見える。世界中に再び感染を広げるリスクがあるが、日本にとってはチャンスでもある」という――。
「ゼロコロナ」緩和で中国国民が移動し始めた
中国は今、新型コロナウイルスの再拡大で極めて厳しい局面に直面している。
習近平指導部が続けてきた厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ政策」(中国語で「動態清零」が全面的に緩和されてから1カ月半になる。1月8日からは、中国国民の海外渡航も段階的に再開され、中国国民の出国制限や帰国後の隔離がなくなり、香港でも中国本土への渡航が1日6万人(中国籍の市民のみ)を上限に許可された。
しかし、筆者が、北京、上海、香港の識者に取材する限りでは、中国のコロナ事情は悪化の一途をたどっているというほかない。
「お金を落としてくれるのはありがたいが、正直、今は来て欲しくない」
これは、東京・浅草の商店街で聞かれた声だが、中国政府がいくら反発しようと、日本政府は中国からの渡航者に対する水際対策を維持すべきだ。それほど中国の実情はひどい。
ほぼ国民全員が感染していてもおかしくない
「今では『もう感染した? 』が日常のあいさつになっています。行動制限がなくなり、平常な生活が戻りましたが、それも一瞬。感染を恐れて街から人がいなくなりました。車での移動が増え渋滞が深刻化しています」
こう語るのは、北京に住む清華大学の研究者だ。彼によれば、清掃業者や宅配業者にも感染者が急増したため、ゴミ収集所にはゴミがあふれ宅配物も届かない毎日だという。さらに彼はこう続けた。
「北京よりも地方は医療体制が脆弱(ぜいじゃく)。すでに国民の80%から90%が感染しているのではないでしょうか?」
もちろん推測の域を出ないが、中国疾病予防センターの首席科学者、曽光氏も、2022年暮れの時点で、「首都・北京での感染率は80%を超えた」との見解を示している。
その中国疾病予防センターでは、日々、感染者数を公表している。ただ中国は、従来WHOなどから「実数を過少申告している」と指摘され続けてきた。加えて今は大規模なPCR検査が実施されていないため、感染がどこまで広がっているのか把握するのは困難だ。
こうしてみると、今や14億人を超える中国国民のほぼ全員が感染していると考えても差し支えないかもしれない。
再び、中国から世界へウイルスが広がる
中国で感染が拡大しているコロナウイルスは、感染力が強いオミクロン株の変異型で、アメリカで猛威を振るい始めた「XBB.1.5」も含まれる。
「高熱が出て倦怠(けんたい)感もひどく、しばらく休職しました。個人差はあるにしても毒性が強いウイルスだと感じました」(上海在住テレビディレクター)
もっともWHOなどはこれらの変異株の毒性について「従来の変異株より重いとは言えない」と分析している。しかし、感染力が強いことは確かで、これが、延べ21億人が帰省や旅行に出かけるとされる春節(2023年1月21日から始まる大型連休)を経て国際社会に広がれば、中国・武漢からウイルスが世界に広がった3年前と同じ事態を招きかねない。
こうした中、香港中文大学の教員、小出雅生氏は筆者の問いに、香港市民から相次いで上がっている本音を紹介してくれた。
「中国本土との往来が再開されれば、香港は感染者だらけになる」
「中国本土から来た人たちに買いあさられ、薬局から薬がなくなってしまう」
コロナを放置する習近平総書記の“思惑”
こうした中、注目すべきは習近平総書記の思惑である。
習近平総書記は、2023年の新年のあいさつで、自身の「ゼロコロナ政策」の成功を強くアピールしてみせた。
「苦しい努力を経て、我々は前代未聞の困難と挑戦に勝利した」
つまり、「ゼロコロナ政策」をとったからこそ国民の生命と健康を守れたと自画自賛したのである。その上で、「防疫体制は新たな段階に入った」と政策の転換を正当化した。
しかし、コロナ感染者の爆発的な拡大を招いているのは、習近平指導部が拡大を食い止めるための努力を全くしていないためだ。
「ゼロコロナ政策」が遂行されていた期間には、中国共産党最高意思決定機関の中央政治局や政治局常務委員会が幾度となくコロナを議題にした会議を開催してきた。
ところが、2022年12月7日、政治局の会議で「ゼロコロナ政策」を方針転換させて以降、目ぼしい会議は開催されていない。あれほど国民の基本的人権や自由を縛る政策を推し進めてきたのがうそのように無為無策。言うなれば「放置政策」をとってしまっている。
この背景には、2022年11月、「ゼロコロナ政策」に反発する国民の抗議行動が中国全土に波及し、習近平体制を揺るがしかねない規模になったことがある。
効き目のない中国製ワクチン接種を奨励
筆者が注目したのは、習近平が新年のあいさつを収録した執務室に、江沢民、胡錦濤といった歴代の総書記経験者と一緒に映った写真が飾られてあったことだ。これは、国内のさまざまな声に配慮し、団結を求める意図があったからにほかならない。
さらに背景を探れば、国民全員を感染させることでウイルスの変異株への免疫をつける狙いがあったとも考えられる。
中国政府はワクチン接種を奨励しているが、習近平総書記は、シノバックをはじめとする中国製ワクチンに効き目がないことなど百も承知だ。
しかし、そのワクチンと「ゼロコロナ政策」で国民の生命を守ったと自画自賛した以上、今さら欧米に「ワクチンをくれ」などとは言えない。
だからこそ、習近平指導部は、日本や欧米諸国などが複数回のワクチン接種によって集団免疫をつけようとしているのとは対照的に、あえて対策をとらず、自然感染によって同じ効果を狙っているのではないだろうか。だとすれば、中国の国民は気の毒と言うしかない。
“異例の3期目”で注目すべき人事
2022年10月の共産党大会で異例の3期目に突入した習近平総書記。彼にとっては、どんな手を使ってでも早期にコロナを抑え、国内経済を再生させることが最優先課題になる。それが国民の反発を和らげ、権力基盤を盤石なものにする特効薬になるからだ。
ただこれだけでは、マイナスをゼロに戻すだけのことだ。自身が目指す「中華民族の偉大なる復興」、すなわち台湾統一は実現しない。
そこで注目すべきは、外相だった王毅を共産党中央外事工作委員会弁公室主任に据えた人事である。
共産党が全ての上に立つ中国では、この主任ポストが外相より格上になる。つまりこの人事は、習近平総書記に忠誠を尽くし、「戦狼外交」と呼ばれる強気の外交を続けてきた王毅が中国外交のトップとなったことを意味している。
さらに注目は、香港行政長官として、2019年の香港の民主化デモを鎮圧した李家超を起用した点だ。李家超はこのときから習近平総書記の信頼を得て、側近の1人になったとされる人物である。
台湾統一に動くまでの猶予は1〜2年
習近平総書記は、国民にコロナに対する集団免疫をつけさせる「放置政策」と並行して、王毅を通じ対外的に中国に有利な状況を作らせ、李家超に香港の「1国2制度」を完全に骨抜きにさせようとしている。
そして、コロナ抑制にメドがつき、2024年1月の台湾総統選挙の結果や同年11月のアメリカ大統領選挙の展望を分析しながら台湾統一に乗り出す、と筆者は見る。
そのため日本やアメリカからすれば、中国国内でコロナ感染が爆発し、習近平総書記が足踏みせざるを得ない状況は、ある意味チャンスだと言える。
この1〜2年の間に、離島防衛をはじめサイバー戦や宇宙戦に備えた協力関係を強化し、有事に即応できる体制を作り上げられるからだ。日米が結束し防衛体制を構築できれば、それが「おいそれとは侵攻できない」と思わせる抑止力にもなる。
岸田外交は「合格点」を取ることができるか
岸田首相は2023年の年明け早々、欧米5カ国歴訪をスタートさせた。その最大の目的は、言うまでもなく、5月19日から21日までの日程で開催される地元・広島でのG7サミット(先進7カ国首脳会議)に向けた地ならしである。もっと言えば、中国、ロシア、北朝鮮の専制主義の軍事国家に対し、民主主義国家の結束を示すという狙いも込められている。
なかでも、1月13日に行われるアメリカ・バイデン大統領との日米首脳会談は極めて重要な意味を持つ。
日本政府は2022年の暮れ、「反撃能力」の保有を明記した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の防衛3文書を改定し、防衛費も今後5年間で43兆円規模(来年度の防衛費に関する予算は過去最大の6兆8000億円)にまで増やすことを決定した。
これは、2022年5月、東京都内で行われた日米首脳会談で、岸田首相がバイデン大統領に約束した「相当額の防衛費増額」を忠実に実行したことを意味する。
岸田首相は自らの言葉でバイデン大統領に「約束を守り、安全保障政策を大幅に転換しましたよ」と説明し、その賛同を得て、日米の結束をアピールする共同文書を発表できれば「合格点」ということになる。
政権浮揚策が「お得意の外交・安保」
もっとも、防衛費の増額をめぐっては、1月23日から始まる通常国会で、野党側から「防衛費増額分の財源問題」や「反撃能力の保持と専守防衛という基本路線との矛盾」を追及されることになる。
それでも、欧米歴訪で成果を上げられれば、秋葉前復興相、山際前経済再生相、寺田前総務相、それに葉梨前法相、杉田前総務政務官の相次ぐ更迭劇により、永田町で「秋の山寺、枯葉散る。杉の根元の水飲めず」などと揶揄(やゆ)され、内閣支持率が30%前後にまで落ち込んだ惨状はいくらか挽回できるだろう。
岸田首相は、今年4月、任期満了で勇退する日銀・黒田総裁の後任人事、統一地方選挙、そして衆議院補欠選挙(千葉5区、和歌山1区、山口4区)というヤマ場を迎える。
それまでの岸田首相の政権浮揚策は、防衛費増税前の衆議院解散をちらつかせて政局の主導権を握ることと、「春闘での賃上げ」ならびに「得意とする外交・安保」しかないのだ。
バイデン大統領にとっても外交は切り札
一方のバイデン大統領にも事情がある。
バイデン大統領は、北米首脳会議開催とアメリカ議会開幕という過密なスケジュールの中、岸田首相をホワイトハウスに招き入れる。
これは、2022年12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領による電撃訪問を受け入れたことに続くものだ。
80歳と高齢のバイデン大統領は、まだ2024年の次期大統領選挙に出馬するかどうかを明確にしていないが、アメリカ国内での世論調査では、「バイデン大統領の再立候補を望まない」とする声が過半数を超えている。
その最大の要因は未曽有のインフレだが、これは一朝一夕には改善できない。2023年、国際社会が陥るとされるリセッション(景気後退)もバイデン政権だけでは対処が難しい。
しかし、外交であれば、これらの会談によって、ロシアと中国を強く牽制し、「強いバイデン」を国内外にアピールできる。つまり、バイデン大統領にとっても切り札となるのは外交ということになる。
台湾統一は習近平総書記にとっても、日米にとっても負けられない戦になる。迎え撃つ形となる日本やアメリカにとっては、習近平指導部の「コロナ放置政策」によってできた1〜2年の猶予が、まさに勝負どきなのだ。
●国債の償還ルール見直し、市場の信認損ねかねない論点ある=官房長官 1/12
松野博一官房長官は12日午前の記者会見で、防衛費増額の財源確保を巡って、自民党内で国債の「60年償還ルール」の見直しが検討課題に浮上していることについて、ルールを変更して償還年数を延長した場合、財政に対する市場の信認を損ねかねないという論点があると指摘した。
松野官房長官は、償還年数を延長した場合、毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字公債は減るものの、特別会計で発行する借換債が増えるため、「全体としての国債発行額は変わることはない」と説明した。また、60年償還ルールが「市場の信認の基礎として定着している現状を踏まえれば、財政に対する市場の信認を損ねかねないことなどの論点がある」と語った。
自民の萩生田光一政調会長や世耕弘成参院幹事長は、国債の60年償還ルールを見直し、防衛費増額の財源を捻出することを検討すべきとの考えを示している。
一方、松野氏は、中国による日本人と韓国人を対象とした査証(ビザ)発給の制限措置が長期化した場合の影響について「影響を注視しつつ、日本企業などへの支援をしっかりと行っていく」と語った。
中国は10日、日韓両国の水際措置への対抗措置としてビザ発給を一時停止すると発表。日本政府は外交ルートで抗議し、措置の撤廃を求めている。
●異次元の少子化対策で「消費税増税」あるのか 背後に潜む「財務省の思惑」 1/12
岸田文雄首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べた。
そもそも少子化対策について、天の邪鬼な筆者はその必要性がストンとこない。人口減少しても、一人あたりGDPで見る限り、必ずしも低下するとは言い難い。世界中で人口減少している国は30ヶ国程度あるが、一人あたりGDPが成長している国も少なくない。端的にいえば、人口減少しても電子化やロボット化でかなりの程度補えると思う。
なんでもありの世界
これまでの人口論も、有名なマルサスのものをはじめとして人口増加は等比級数だが食料生産は等差級数なので人口増加には対応しにくいと言った議論ばかりだ。一方、人口減少に対しては人への機械装備率を高めれば対応できるとの議論があった。筆者は後者の代表例だ。
何しろ人口動向の根本要因が分からないが、金銭要因による人口増誘導について、政治家のみならず在野の方から夥しい政策提言がある。少子化対策ほど、客観的なエビデンス・ベースト・ポリシーからほど遠い分野もなく、なんでもありの世界だ。
人口動向は人の生物としての本能的な営みが大きく関係するのは自明だが、それを金銭要因でどこまで誘導できるかについて、実証分析なしにもかかわらずだ。逆にいえば、基本的なメカニズムが分からないので、人口問題は政治課題なのだろう。とにかく、人口問題は国民に人気があり、政治家には人口問題に関心を持つ人が多い。
財務省の思惑
財務省から見れば、政治課題なので無視することはできない。しかし、どうせ政治要求が来るのであれば、それを逆手にとることを考えているはずだ。
そこで、少子化増税だ。人口を増やすために増税とはちょっと意表をついているが、少子化対策には安定財源をという例のフレーズだ。その財務省の思惑をつい口にしたのが、甘利明前幹事長だった。本人は、趣旨は違うのに一部を切り取られたと弁明しているが、いかにも脇が甘かった。財務省にとっても、本音が漏れたので焦っただろう。
財務省の戦略は、少子化対策について多くの政治家から語ってもらう、ただし財源論抜きでは語らせないというものだ。そして、最終的な取りまとめ段階になったら、政治家のいう少子化対策にはエビデンスがないと理由をいい、大幅に換骨奪胎するが、安定財源論だけはしっかり残して少子化増税に持っていくのだろう。少子化対策は広い意味での社会保障になるので、社会保障財源である消費税増税にもっていくのが目に浮かぶ。これはあってはならない。
●18歳の結婚観 「必ず結婚すると思う」は20%未満 1/12
2023年の新年を18歳で迎えた新成人は総務省の推計によると112万人。少子化の進行を反映して過去最小となった。
日本財団は成人年齢前後にある若者の「価値観・ライフデザイン」をテーマにした18歳意識調査の結果を発表。全国の男女計1000名を対象にしたリサーチでは、結婚観や子供を持つことへの考えが明らかになった。
「将来結婚したいか」を尋ねると、「したい」が全体で43.8%となり、男女とも4割を超える結果に。しかし、「実際には結婚すると思うか」という質問には、「必ずすると思う」と答えた人の割合が男性で2割弱、女性で1割強にとどまった。男性では「考えたことがない」の回答が1割強に上り、女性の2倍になった。
さらに、「将来子どもを持ちたいか」を聞くと、 「持ちたいと思う」「どちらかと言えば持ちたいと思う」の回答が合わせて男性で6割強、女性で6割弱が「将来子どもを持ちたい」と回答。一方で、「実際には将来子どもを持つと思うか」については、「持つと思う」(「必ず持つと思う」と「多分持つと思う」の合計)が男女とも4割台となった。
日本財団は、結婚や子どもを持つことにおいて希望する人の割合と、実際にそうすると思う人の割合に差がある傾向について、「特に女性は、精神的・経済的な負担感や不安感を感じていることが見て取れる。周囲の人やメディアなどから見聞きした情報を基に結婚・ 出産・子育てに対して漠然とした不安を抱えている若い世代に対し、その不安を軽減するような情報提供や体験者とのコミュニケーションなどの支援が必要ではないか」と分析した。
また、少子高齢化への危機感について質問すると、全体で「感じる」と答えた人の割合が74.1%に(「非常に危機感を感じる」と「やや危機感を感じる」の合計)。
少子高齢化についての考え
少子高齢化対策に対する政府の対応については、全体で「不十分」が82%を占め(「不十分である」「どちらかといえば不十分である」の合計)、「十分」とした人の割合が2割を下回った。 
少子高齢化に対する現在の政府の対応について
実施してほしい少子化政策としては、全体で「教育の無償化」が最多(39.3%)となり、「子育て世代への手当・補助金の拡充」(32.9%)、「妊娠・出産に係る手当・補助金の拡充」(23.8%)が続いた(複数回答可)。少子化の背景には、経済的な理由が存在することが見て取れる。
また、政府の少子化対策が「どちらかというと不十分である」または「不十分である」と回答した人を対象に少子化対策の財源について聞いたところ、最多が「法人税率を上げる」(29.5%)。2位「年金関連支出を減らす」(22.2%)、3位「国際協力関連支出を減らす」(21.5%)となった(3つまで回答可)。
岸田首相は年頭「異次元の少子化対策」を行なう方針を打ち出したが、具体的な財源はまだ発表されていない。日本の未来を担う新成人の多くが少子化に危機感を抱くなか、その本気度が今、試されている。  
●日・カナダ共同記者会見 1/12
【岸田総理発言】
トルドー首相、そして、カナダ国民の皆様。新年のお祝いの余韻も残るこのタイミングで温かくお迎えいただき、深く感謝申し上げます。Thank you, Justin, Merci Beaucoup.
2016年に外務大臣として訪問して以来7年ぶりに、また総理大臣としては初めてカナダを訪問することができ、うれしく思っています。7年前の2月はオタワの厳しい寒さとカナダの皆様方によるおもてなしの温かさのコントラストがとても印象的でしたが、今回もそれは変わることはありません。誠にありがとうございます。
近年、日本とカナダの関係は著しく深化しています。両国は、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する、インド太平洋地域の重要な戦略的パートナーです。今、国際秩序が様々な挑戦にさらされ、安全保障環境が一層厳しくなる中、国際社会全体の平和と安定の維持・強化のため、カナダとより一層連携を強めていきます。
本日の首脳会談では、まず私から日本の防衛力の抜本的強化及び防衛予算の増額の決定を含む新たな国家安全保障戦略について説明し、トルドー首相から、改めて、全面的に支持いただきました。
また、カナダが昨年11月に発表した「インド太平洋戦略」についても取り上げました。これは、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」実現に向けた日本とカナダの具体的な取組を取りまとめた、昨年10月発表の「自由で開かれたインド太平洋に資する日加アクションプラン」と軌を一にするものです。日本は、カナダが太平洋国家として地域への関与を強めていることを歓迎いたします。両国は、「アクションプラン」の着実な実施を通じてFOIPの実現に向けて連携していきます。
続いて、ロシアによるウクライナ侵略に対しては、G7が結束を維持し、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を引き続き実施していくことで一致いたしました。また、ロシアによる核の威嚇を深刻に懸念し、これを断じて受け入れられないこと、ましてやその使用は決してあってはならないことを改めて確認いたしました。
北朝鮮については、核・ミサイル活動の活発化への深刻な懸念を共有し、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化に向け、引き続き緊密に連携していくことを確認いたしました。この点から、日本は、カナダによる「瀬取り」警戒監視を高く評価しています。また拉致問題への対応においても引き続き協力していくことを確認いたしました。
また、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みに強く反対することでも一致し、地域の諸課題への対応に当たり、引き続き日本とカナダが緊密に連携していくことを確認いたしました。
経済面については、「LNG(液化天然ガス)カナダ」や重要鉱物資源を含め、エネルギーや食料を含む各分野で協力関係を強化すること、また、サプライチェーン強靱(きょうじん)化や経済的威圧への対応を含む経済安全保障の分野、さらに不透明・不公正な開発金融への対処においても連携していくことで一致いたしました。
会談では、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)についても率直な議論を行い、協定のハイスタンダードを維持することの重要性を確認するとともに、引き続き両国で協働していくことで一致いたしました。
また、会談では、私から本年5月のG7広島サミットに向けたG7議長としての私の考え方を説明し、サミットの成功に向け緊密に連携していくことを確認いたしました。
G7広島サミットでは、力による一方的な現状変更の試みや核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7のビジョンや決意を示していきます。
さらに、トルドー首相との間で、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、核軍縮・不拡散、経済安全保障、また、気候変動、保健、開発といった地球規模の課題などの分野でもG7が結束して取り組むことが重要との認識で一致いたしました。
7年前から多くのものが変わりましたが、変わらないものも多くあります。日本とカナダが共有する普遍的価値、そして両国が様々な分野で連携していくことの意義は、これからも変わることはないと確信しております。今回も極めて有意義な訪問となりました。心から感謝申し上げます。
本年5月にジャスティンを広島でお迎えできることを楽しみにしております。
●日本はまだ「平和国家」なのか  1/12
次のG7サミットで議長国となる日本の岸田文雄首相は1月9日、欧米歴訪をスタートさせた。G7加盟国のうちフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を訪れ、各国首脳と会談する。13日には米国でバイデン大統領と会談する予定だ。岸田氏のワシントン訪問は首相就任後初めてであり、今回の欧米歴訪のハイライトとされている。世界的な地政学的緊張の高まりと日本の軍備拡張の動きを背景に、岸田首相の今回の訪問は大きな注目を集めている。
岸田首相は訪米に先立ち、バイデン氏に多くの「贈り物」を用意した。英国と防衛協定を結び、両国が互いの領土に軍隊を駐留することを認めるなど、米国の対中抑止戦略への積極的な協力もそのひとつだ。しかし、最大の「贈り物」は日本政府が12月16日に審議・可決した改訂版の『国家安全保障戦略』『国家防衛戦略』『防衛力整備計画』だ。この『安保3文書』の発表は、日本の防衛戦略の重大な変容を意味するものであり、「専守防衛」の原則を完全に放棄し、日本国憲法の平和理念から完全に逸脱し、地域の平和と安定に新たな脅威をもたらすものとして懸念されている。
軍拡目標の達成に向け、『安保3文書』では2023年度から2027年度までの防衛費総額を約43兆円とした。また、2027年度の国内総生産(GDP)に占める防衛費の割合を2%に引き上げる目標を定めている。これまで日本は「防衛費1%枠」を基本的に守ってきた。この基準を遵守するかどうかは、日本が平和主義へのコミットメントを示す重要な指標とされている。これについて、中国国際問題研究院米国研究所の蘇暁暉副所長は、「安全保障の観点から言えば、『反撃能力』の保有であれ、防衛予算の倍増であれ、最近の日本の一連の動きは、中国を主要ターゲットとし続けている」と分析している。日本は中国を封じ込めと抑止の対象と見なすだけでなく、中国を凌駕し、インド太平洋地域でより大きな影響力を持とうとしている。日本の対中圧迫政策は、米国側の戦略配置に積極的に協力するだけでなく、自国の利益の最大化を図るものでもあるのだ。
13日の日米首脳会談で岸田首相は、『安保3文書』の改定や防衛費の大幅な増額について米側に報告・説明を行い、日米首脳会談を通じて日米同盟のさらなる強化を目指したいとの考えを示した。岸田首相の今回の外遊は、表面的にはG7議長国就任に向けた準備だが、その核心は、現日本政府による「専守防衛」原則の打破、さらには憲法改正といった一連の目標の達成にある。このような事前設定された目標を達成するには、他国、特に米国の支持が必要というわけだ。
日本のこうした動きを米国も歓迎している。『安保3文書』では、米国志向がより鮮明になり、外交・安保戦略での米国への追随と同調が明らかになっている。これについて、中国国際問題研究院米国研究所の蘇暁暉副所長は、「日本の一連の大きな動きには、独自の計算がある。また、米国の懸念も考慮しながら、日米同盟を基軸とした安全保障や外交政策などを打ち出し、日米関係をさらに密接なものとしている」と分析し、「岸田氏は、米国を今回の最後の訪問地に据えた。これは、歴訪で得た情報をまとめ、米国とのより深い対話に役立てるためだろう」と語った。
2022年の日本外交は、従来の「米国追従」モデルを継続し、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」や「日米豪印クアッド(QUAD)」を利用して北大西洋条約機構(NATO)への接近を行った。日本は「専守防衛」の束縛の打破に向かっており、その「平和国家」のイメージを失墜させた。今年、日本はG7議長国を務め、さらに国連安全保障理事会の非常任理事国という重要な役割を担うことになる。分裂主義を排し、多国間主義と平和共存の原則に基づいて各国との対話を進め、地域と世界の平和と安定を守り、調和のとれた国際秩序を再構築することこそ、日本政府が負うべき国際的責任ではないだろうか。
●「助かる」「ありがたいけど…」都の少子化対策・1年分6万円“現金一括”給付 1/12
東京都の小池知事は12日、子どもに対する月5000円の給付を正式に発表しました。来年1月ごろから1年分にあたる6万円を現金で一括して給付する方針です。岸田総理が「異次元の少子化対策」を掲げるなか、先行する形で具体策を打ち出しました。
小池知事「本来であれば、国家が国家百年の計に位置付けて取り組むべき。今、待ったなしの状況を踏まえて、都独自の給付に踏み切ることにした」
さらに、2人目について、こう述べました。
小池知事「2人目を育てるための経済的負担を軽減するために、第2子の保育料につきまして無償化とします」
ほかにも、都として、結婚支援のためのマッチング事業を始めるなど、子育て支援予算に1.6兆円を充てると打ち出しました。
小池知事「東京から少子化を止める。皆、誰かがいつか何かやるだろうと言っている間に、議論ばかり重ねていて、住宅がどうだ、未婚化がどうだ。いろいろ議論ばっかりしていて、こうなったわけですから」
急激に進む日本の少子化。2022年の出生数は77万人台程になるとみられ、初めて80万人を下回るのが確実です。これは、政府の予想より8年も早いペースです。なかでも、東京都の出生率は全国最低の1.08です。
小池知事は、今回の手当に所得制限を設けない理由について、こう話していました。
小池知事「夫婦で一生懸命働いて納税をしているがゆえに、逆にそういった給付が受けられないというのは、ある意味で子育てに対しての罰ゲームのようになってしまう」
一方で、国は去年の10月から世帯主の年収が1200万円以上の家庭について、児童手当を廃止したばかりです。
政府は、3月末までに子ども政策のたたき台を取りまとめる方針で、児童手当の支給額や、所得制限の見直しも議論される方向です。
本当に実効性のある政策は何なのか。子育て中の人々の声です。
2児の母親(30代)「所得制限とかなくて、一律に給付してくれるなら、いただけるものはいただけたら助かる。やっぱり子どもがいれば、いるだけお金がかかるので、平等にいただけるのなら、それはいいのかなと思う」
1児の母親(30代)「ありがたいといえば、ありがたいが、月5000円あって、何ができるかというところもあるし、少子化の対策ということですよね。5000円あるから2人目、3人目という前向きな気持ちにはならない」
2児の母親(30代)「お金ばらまくじゃなくて、有効なことないのかなと思う。(Q.第2子、保育料無償化については)2人目、3人目って増えていけば、それだけ子育てにお金がかかるので、子ども増やしたいけどお金が…という方も多いんじゃないかなと思うので、良いと思います」

 

●アゴは弛み「髪がどんどん抜けている…」岸田首相の冬休みと近影に絶句… 1/13
1月9日未明の専用機で、フランス・パリに旅立った岸田文雄首相。完全オフのクリスマス週末から年末年始の休暇を経て、体力気力とも充実の外交が期待される。が、
「髪がどんどん抜けている…」
政権発足以来、下がり続ける支持率、安倍晋三元首相の銃殺によって露呈した自民と統一教会の密接な関係、閣僚の辞任ドミノ…。かつて「イケメン」と言われた男も65歳。頭髪が薄くなってもおかしくない年齢だ。
年末、酒を飲み倒す
「内輪の慰労会で総理は『夏以降どうなることかと思った』と漏らしていました。支持率急落のストレスか、最近急に脱け毛が多くなったことに気づいたそうです。スマートな外見に自信のある人ですから、かなり気にしていました」(首相周辺)
12月28日の19時少し前、岸田首相は、東麻布の中国料理店「富麗華」に向かった。2022年の仕事納めは、中華の高級レストランで秘書官たちの労をねぎらう会食だった。
「秘書官の慰労会とはいえ、総理自身もこれまで控えていた酒を、思い切り飲むつもりだったと思います。ビールに紹興酒、焼酎にウイスキーと、店のあらゆる酒を飲んでいました(笑)。年末には、防衛強化策を打ち出して財源を所得税で賄うとした総理案を押し切りましたから、その達成感もあったでしょう。絶好調でした。
とはいえ、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、菅義偉元総理から、『統一地方選が終わるまで増税は言うな』と釘を刺されていたのを振り切ったわけです。達成感と同時に不安もあり、酒が進んでしまった。泥酔です」(首相周辺)
国民の声を書き記した「岸田ノート」を掲げ、「聞く力」を標榜した政権は、新しい資本主義を期待させて2022年5月には68%台の内閣支持率最高値をたたき出した。前任の菅前首相が「秋田出身のたたき上げ&パンケーキ」の泥臭い演出でアピールしたのに対し、そのシュッとした「スマートさ」が売りだった。
潮目が変わったのは、安倍氏銃撃事件。安倍氏国葬儀からはジェットコースター並みの急降下で以来半年、生きた心地がしなかっただろう。
ストレスの原因は…
ある宏池会代議士は「あの辞任ドミノが、岸田首相の体力気力を激しく消耗させた」と、はっきり言う。
「山際(経済再生担当大臣)の答弁は、まったくもっていただけなかった。葉梨は、なんですぐに法務大臣を辞退しなかったのか。寺田(総務相)の事務所費問題だって、はやくケリ(辞任)をつけるべきだった。大失敗は、秋葉(復興相)。首相に近い記者から『どう見ても真っ黒』と進言され、頭が真っ白になって制御不能になってしまった」
「あのころ首相は、イメージ回復のため、メディア各社に露出の機会を頼み込んでいましたが、各社に断られ続けたんです。ただ1社、BSフジだけが応じてくれましたが、支持率はその後も下がり続けました」(自民代議士)
「情報漏洩」疑惑の長男秘書官とともに
そんな2022年だったけれど、28日には「無事」仕事納めで痛飲。大みそかには、裕子夫人、情報漏洩疑惑の長男・翔太郎秘書官、そして次男とともに、八重洲ブックセンターを訪れる様子をメディアに公開した。
「1時間ほど店内を回り、15冊を購入していました。公表されたタイトルは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟 1〜5巻』、落合陽一『忘れる読書』、そしてベストセラー1位の和田秀樹『80歳の壁』です。正直、今、これ?というチョイスですが(笑)」(政治部記者)
正月は、大好きな酒を飲んで、本を読んで、のんびり過ごすつもりだったのか…。
「元日の北朝鮮によるミサイル発射で、内閣危機管理監、官房副長官補、内閣情報官、防衛省防衛政策局長らが公邸に緊急参集しました。首相も『年が明けて2時間で起こされた』とこぼしてました。その後、皇居で新年祝賀の儀に出席。読書の時間はなかったかもしれませんね」(岸田首相に近い代議士)
元日を慌ただしく過ごした岸田首相だが、その後3が日まで、首相に会いに来る仲間議員は誰一人なかった。
「今年の岸田政権の目玉政策は、子ども対策の強化。しかし、『異次元の挑戦』とは意味が不明です。この人、本気でやる気あるのかなと思いましたね。政権の花道を5月の広島サミットと定めて、すでに幕引き気分なのかもしれませんね」(自民党重鎮)
マスクを外した欧州からの映像では、薄くなった髪と、たるんでシャツの襟に肉がのっかった顎のラインに驚かされた。そこにはもう、スマートに「新しい資本主義」を声高く語っていたあの岸田文雄はいない。
●日本の防衛費大幅増額が意味するもの 「増税」方針に揺れる世論 1/13
2023年度からの5年間で総額43兆円、27年度にはGDP(国内総生産)比で2%に膨れ上がる防衛費。大幅増の意味を多角的に分析する。
日本の安全保障・防衛政策は大きな転換点を迎えた。2022年12月に決定された新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、および防衛力整備計画のいわゆる「戦略3文書」は、日本の安全保障・防衛の新たな姿を示すことになった。具体的な中身に関しては、反撃能力の保有やサイバーや宇宙の重点化などが注目されるが、ここでは、全体にかかわる重要な問題としての防衛費に着目し、大幅な増額の意味、直近の課題、そして財源問題に関する世論と政治における課題を検討したい。
今後5年で43兆円へ
今回の防衛費大幅増額に関して注目されるのは、GDP(国内総生産)比で2%という目標である。新たな防衛力整備計画が対象とする2023年度からの5年間の最終年である27年度にこれを達成するとされた。防衛費は、安倍晋三政権下で小幅な増額を続けてきたが、それでもGDP比で1%強であったため、単純に考えれば倍増に近い。
ただし、これには若干のトリックがある。GDP比2%の対象に含まれるのは、防衛省の予算としての防衛費に加え、「それを補完する取り組み」として、海上保安庁の予算や安全保障関連の研究開発費、インフラ整備など、安全保障関連経費として算出されるものである。防衛費自体は23年からの5年間で43兆円とされた。これは、従前5年間の総額だった27兆円の約1.6倍にあたる。
23(令和5)年度の当初予算案は米軍再編などを入れて約6兆8000億円になった。27年の防衛費は約8兆9000億円と計画されている。日本のGDPは現行で540兆円から550兆円であり、この2%とすれば、11兆円程度になる。したがって、27年時点で2兆円強は、他の予算から安全保障関連経費として算入される想定になる。これに何が含まれるかについては、依然として不明な点が多い。
GDP比2%は「政治的意思」
GDP比2%目標については、「数字ありき」だとの批判も根強い。岸田首相は3文書決定後の会見で、「(自衛隊の)現状は十分ではありません」と述べたうえで、GDP比2%という数字は、「防衛力の抜本強化の内容の積み上げ」であると説明した。予算不足によってこれまで手が回ってこなかった分野を集めれば、必要な金額はすぐに膨れ上がる。
他方、 GDP比2%という数字が、純粋な積み上げの結果だという説明を信じる人はいないだろう。これは象徴的な数字であるし、北大西洋条約機構(NATO)における目標値としてのGDP比2%は、特に自民党内における議論で「参考」としてたびたび言及されてきた。積み上げたら偶然2%になったのではない。
NATOにおける2%という数字にも軍事的根拠はない。2000年代半ばに、各国の国防予算のそれ以上の低下を食い止めるために、1990年代後半の平均値だったGDP比2%が持ち出され、「せめてその当時のレベルにまで戻そう」という趣旨で使われ始めたに過ぎない。
日本において長年使われてきたGDP(当初はGNP:国民総生産)比1%という数字も同様である。軍事的根拠があるわけではなく、積み上げでもない。しかし、防衛費を抑制することで、日本が再び軍事大国にならないことを示す政治的メッセージだった。その意味では、2%も同じである。日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中で、日本が安全保障において応分の責任を果たすことへの政治的意思の表明だ。
したがって、「数字ありき」との批判はある意味で正しい。政治的な数字であることは否定できないからだ。しかし、政治の本質的な役割は資源配分である。しかもその資源には限りがある。そのため、優先順位を付けなければならない。そうした中で、「防衛を重視する」という政治の意思表示がGDP比2%なのである。
あえて加えれば、もし2%を「数字ありき」だとして批判するのであれば、防衛費の歯止めとされた1%も批判していたのでなければ筋が通らない。それこそ「数字ありき」の象徴だったからだ。ちなみに、日本を取り巻く安全保障環境がさらに悪化した場合、必要分の積み上げで予算額を決めれば、GDP比で2%では収まらず、3%やそれ以上になることも考えられる。その場合、2%は新たな歯止めとして主張されるようになるかもしれない。
抜本的強化に向け、まずは足腰強化
増額された防衛費を何に使うのか。2022年末に決定された2023(令和5)年度予算案の防衛費をみると、防衛省の考える優先順位が明らかになる。総額約6兆8000億円の中では、反撃能力を構成するスタンド・オフ能力――敵の射程圏外からの攻撃を可能とする長射程のミサイルなど――関連も多いが、従来と比較して特徴的なのは、交換部品不足を解消して可動率を上げるための装備品の維持整備費(約1.8倍となる2兆355億円)、継戦能力への不安が高まっていた弾薬の整備費(約3.3倍となる8283億円)、強靭化の必要性が指摘されていた施設整備費(約3.3倍となる5049億円、宿舎除く)などである。これに、研究開発や隊員の生活・勤務環境改善のための予算も大幅増となっている。
これらはいずれも、新たに必要になったものというよりは、これまで手当できていなかったものであり、防衛費が増額される中でようやく実現できたものということができる。施設関連では、空調関連が22年度当初予算では20億円(補正で40億円)しか認められていなかったが、23年度は424億円が計上されている。これまで自衛隊の関連施設がいかに劣悪な環境に置かれていたかを象徴的に示している。
防衛省は23年度予算を「防衛力抜本的強化『元年』予算」と呼んでいるが、実際には、反撃能力の構築などの前に、まずはこれまでの宿題を片付けることに主眼があるといえそうだ。そうした基礎がなければ、抜本的強化も砂上の楼閣になってしまう。そのことへの正しい危機感が防衛省にはあったのだろう。
増税提示に揺れる国民世論
その上で、そうした状況を見守る国民の目はどうか。2022年に入ってから、防衛費増額に対する世論の支持は高くなっていた。2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻や台湾をめぐる緊張の高まり、そして北朝鮮による記録的な頻度でのミサイル発射などで、一般の人々も日本を取り巻く安全保障環境の悪化、さらには国際秩序の動揺を意識せざるを得なくなったのだといえる。22年4月の日本経済新聞による世論調査では、防衛費をGDP比2%以上にすることに対して55%が賛成し、反対は33%だった。
しかし、「防衛強化が必要」という一般論は、「自ら負担する用意がある」ことを必ずしも意味しない。つまり「誰かがどこかで負担」するのであれば防衛費増額に賛成でも、増税などを通じて、自らの負担になるのであれば賛成できない人が多い。これは驚くには値しないだろう。
実際、同じ日本経済新聞による、3文書決定後の12月の世論調査では、防衛費を向こう5年で43兆円にすることに対して、賛成47%、反対45%と拮抗し、そのための増税について、岸田総理の説明が不十分だとする声が84%に上った。ただし、政府が増税開始の時期に関する決定を先送りしたことに対しては、「適切でない」が50%、「適切だ」が39%となった。
負担を嫌う国民感情が示された一方で、財源に関する決定が先送りされることへの不安のようなものも示されている。10月末の同じく日本経済新聞による世論調査では、防衛費増額の財源として、「防衛費以外の予算の削減」が最多の34%になり、「国債の発行」の15%、「増税」の9%を大きく上回った。ちなみに、「増額は必要ない」が31%であり、これを除けば、(防衛費増額を支持する人の中では)「防衛費以外の予算の削減」が半数近い支持を受けたことになる。
これは、国民が単に負担を嫌っているのではないことをも意味しているのだろう。もっとも、それでも、自らが利益を受けている予算が削られるとすれば、反対するかもしれないが、単に国債発行に頼ってよいという声が多数でない背後には将来への不安があるのかもしれない。そこには、揺れる国民世論が存在する。
「負担なき防衛費増額」の幻想
防衛費増額をめぐっては、増税の方針を示した岸田首相に対し、自民党内で反対の声が湧き上がった。ただ、増税反対論の中身については分類が必要だろう。マクロ経済政策として、この経済状況で増税すべきではないとの主張もあれば、財政政策として、そもそも財政赤字・政府債務の大きさは気にする必要がないという主張もある。また、外為特会などの特別会計や国有財産の売却などによる利益を活用すべきという声や、増税ではなく歳入増を目指すべきとの声もある。増税反対が一枚岩なわけではない。
今後5年間で必要となる増額分は17兆円であり、何か1つの手段によって全てをまかなうことは不可能である。増税として法人税、所得税、たばこ税の引き上げが想定されているが、そのための法案提出時期は明示されていない。実際には、増税に加え、歳出改革(他の予算の削減)や国債、特別会計など、さまざまな手段を組み合わせることになる。税収増も期待されている。岸田政権による増税方針が注目されたものの、今後5年の43兆円のうち、増税による財源確保は最終年度で1兆円程度とされる。それにもかかわらず、増税問題がここまで論争的になり、内閣支持率の低下にもつながったと考えるのであれば、問題の扱い方を間違ったというほかない。
いずれにしても、「負担なき防衛費増額」という幻想が拡大するのは問題である。国防は「誰かがどこかで負担」する他人事ではなく、国民一人ひとりの問題なのであり、そこには負担が含まれる。そしてそれに国民も気付きつつある。そのために上記のように世論は揺れているのだろう。
経済成長による歳入の自然増や国有資産の売却分を防衛費に充てることは、誰にも追加的負担がないようにみえるかもしれない。しかし、それを防衛費に充当すれば、他には使えなくなるわけであり、他の予算費目との関係ではゼロサムの関係にある。それらを合わせて、政府としての優先順位付けが問われるのである。持続可能な防衛費増額のためには、なぜそれが必要かに関する政治指導者による正直な発信がいままで以上に求められる。
●予算編成や新規事業 協議する前に持つべき視点と対話 1/13
早くも2023年を迎え、国会では来年度予算に向けた審議が始まろうとしている。昨年暮れには、防衛費の増額に対してその予算をどのように捻出するのか、与党内で活発に議論されていたことが報道で明らかになっている。国家予算としてある程度のパイが決まっている中でそれをどのように分配することが、国を発展させる最も効果的で効率的な最善策であるのか、慎重な検討は欠かせない。
しかし実際には、そのような観点から国益を追求するというよりも、縦割りの弊害により官僚間で対立する場合も多い。それが最も顕著に現れるのが予算編成である。今回は、官庁間での意見の相違や対立を例に挙げながら、交渉学におけるミッション、すなわち、俯瞰的見地から考えた最終目標を共有することの重要性について解説する。
日本に多く存在する縦割りの弊害
最近筆者の目を引いたのが、22年12月18日に日本経済新聞に掲載された「コンパクトシティー阻む「縦割り行政」 見えぬ成功例」である。
この記事は、コンパクトシティーの構築がうまく進んでいない理由は、縦割り行政だと指摘している。つまり、駅前などの開発は国土交通省、郊外の大規模開発は経済産業省とそれぞれ管轄が異なるため、調和のとれた開発が進まない状況を生み出しているという。
本来であれば、国や地方自治体が旗振り役となって、国づくり、まちづくりの主役となるべき、そこに住む人々を巻き込んだ形でどのような開発を進めるべきか議論することが成功への鍵と言えるだろう。しかし、これには相当な労力と時間を要するため、実際にそうした橋渡し的な調整が行われることはあまり期待できない。
それでもやり遂げて成功した貴重な事例として、富山市を挙げたい。森雅志前市長が、住民はじめ関係者のコンセンサスを得るために回を重ねて説明に努め、特筆すべきリーダーシップを発揮して実現したコンパクトシティー政策は、世界でも評価されている。
国の根幹に関わる「インテリジェンス」の部分においても、縦割りの問題点が指摘されている。インテリジェンスとは、収集した情報を分析・評価して、それを政策決定や危機管理に反映させることをいう。
特に、冷戦が終わる頃までは、インテリジェンスを扱う機関として、内閣調査室、外務省、防衛庁、警察庁、公安調査庁などがあったが、これらの間で情報が共有されることはほとんどなかったと言われている。いずれも秘匿性の高い組織であるとは言え、各機関が個別に対応していたということであり、当然相乗効果は望めず、日本の危機管理の甘さが官庁間の非協調性に求められ得る状況であった。
また、筆者が専門家の立場から見てきた規制緩和・規制改革や、司法制度改革についても縦割り行政の弊害が垣間見える。
規制改革は、日本の産業がいわゆる護送船団方式で構築されてきたことに端を発する問題である。これは言い換えれば、破綻させない仕組みであり、各省庁は各産業分野における旗振り役として強大な権限を持っていた。
これに対し、1990年代の日米構造会議などにおいて、日本のこうした行政運用が強く問題視され、結果として、企業間で自由に競争させ、ときに破綻もやむを得ないという方向性に日本は舵を切ることになった。これまでの権限を失うことになるため各省庁からは強力な抵抗もあったが、小泉純一郎政権の誕生によって、政治の力でそれをある程度は乗り越えてきたと言えよう。
また、司法制度改革については20年ほど前、「法科大学院(ロースクール)」導入をめぐる議論に参加させていただいたことがある。学校としての法科大学院は文部科学省の管轄になるが、法曹になるための司法試験は法務省の管轄である。
法科大学院を卒業した人に法曹資格を与えたい文科省と、一定の試験をクリアした人材を法曹として認めたい法務省、という考え方の違いが残されたまま現在に至っている。法務省と文科省の共通のミッション、問題意識を再確認した上で、法曹人材の教育・養成機関としてより意義のある法科大学院を構築していくことが今後の展開として期待される。
自らのミッションは何なのか
いずれの問題も、冒頭に論じた予算編成の議論に大きく関係してくる。そして、予算は省庁毎に編成される制度である以上、各省庁が自らの権限の範囲内で考えざるを得ない側面も理解に難くない。
ここで大切なのは、それが省益ではなく、国益にかなっているか、という俯瞰的な判断基準をもって進められているかどうかである。交渉学的に説明すると、「バルコニー(桟敷席)から見ている」かどうか、ということになる。
ビジネスの交渉現場でも、たとえば、ある製品Aをいかに安く買うか、高く売るか、といった目先の議論だけにとらわれてしまい、業界全体を見渡して他社製品との関係ではどうか、あるいは相手会社と将来的にどのようなことがしたいのかといったミッションを忘れた議論に陥ってしまうことがまま起きる。しかし、これでは新たな可能性や創造性が生まれないことは目に見えている。
したがって、国の政策となれば、このような観点がより重要であることは明らかだろう。官庁横断的な政策こそ「大局的視点」を重視する必要がある。まずは、省庁にとらわれない議論を行い、国として目指すべき方向を見定めたうえで、各省庁がそれぞれの政策を進めることができれば、予算や権限の奪い合いという駆け引きに陥ることを防ぎ、各々の専門に集中するという縦割りの良さを生かした、一体感を持った政策が展開できるのではないだろうか。
ミッションを構築する際には、「利害関係者」を把握することも重要である。特に、国レベルの政策となれば、利害関係者は多岐にわたるだろう。
例えば、国の財政健全化に向けて公共工事を減らす、と言えば、多くの国民にとってはよい方向性だと感じられるだろう。しかし一方で、工事事業者の仕事が減り、そこで働く労働者の生活が難しくなる、という側面もあわせ持つ。また、官庁間の意見の相違について前述したが、その際の利害関係者として政治家が絡んでいることも多く、どのような考えに基づいて物事が進められているのか政治的視点からも注視する必要がある。
このように、政策決定の際には、常に全方位に目を配ってさまざまな利害関係者を把握し、ある政策を実行した場合にはどのような影響を及ぼすのか、多面的に検討し熟慮することが極めて重要である。
一昨年には、「デジタル庁」という新しい官庁が発足した。アナログで非効率な業務や仕組みを、デジタル技術導入により効率の良い行政運用に変えていくという目的を考えれば、どの省庁もデジタル庁と連携し推進していくことが求められる。
すなわち、デジタル庁は、官庁横断的な政策を担うだけでなく、庁自体が横断的組織であると言える。だからこそ、さまざまな政治家や官僚が集まってこの国の未来を考えるときに、日本が今後どのようにあるべきかというミッションの共有を行い、それを具現化する手段として個別具体的な政策が展開されることを期待したい。
意外と社内で共有されていない
「わが社のミッションは何ですか?」
ある会社の取締役会で、新任の取締役が問いかけた。これを聞いた社長は、「そんなことは新任のあなた以外わかっているに決まってるじゃないか」と不満気だったが、実際に聞いて回ると、それぞれが語る内容が一致していないことが明らかになった、というエピソードがある。
取締役会という会社の中枢が集まる場ですら、意外にもミッションが浸透していない、ということである。そのような状況下で会社の経営について討議したところで、そもそも目指すべきゴールが異なっている以上、かみあわない議論になることは明らかである。
あなたの所属する会社では、従業員一人ひとりが会社としてのミッションを理解しているだろうか。近年ではパーパス経営という言葉も聞かれるが、いずれにせよ、組織が目指すべき方向性を全体で共有することの大切さにスポットを当てていることには変わらない。
国家や企業、その他あらゆる組織におけるミッションの重要性を理解していただけただろうか。新年や年度始まりという機会に一度腰を据えて、われわれのミッションは何か、という確認や議論を行うことが、より良い組織づくりへの第一歩になる。
●「矛の一部」になろうとする日本 1/13
日本は最近、野心を露わにしている。過去の自衛隊が「盾」で米軍が「矛」という分業に甘んじず、「矛の一部」になろうとしている。
日本政府は昨年末に重要な安保3文書を閣議決定した。うち「国家安全保障戦略」は、日本は「反撃能力」、すなわち「敵基地攻撃能力」を保有すべきとした。
日本政府は昨年末、さらに2023年度当初予算案を閣議決定した。防衛予算は6兆8219億円にのぼった。うち米国性巡航ミサイル「トマホーク」の調達費は2113億円で、長距離攻撃ミサイルの調達費及び関連予算は1兆4000億円。
呂氏は、「注意すべきは、米国が国家安全戦略を発表した後に、日本も安保3文書を閣議決定したことだ。つまり日本の安全はかつて米国に保護されていたが、現在の日本はその同盟国の米国も保護しようとしており、そのため攻撃的な武器が必要だと称しているのだ」と述べた。
外交学院国際関係研究所の周永生教授はさらに、「日本が反撃能力を保有すれば、かつて称していた専守防衛政策が放棄され、平和憲法も形骸化されることを意味する。戦後の自制的な軍事戦略と完全に異なる、何ら制限のない軍事戦略が見えてきた」と指摘した。
●日米2プラス2 沖縄の自由使用認めない 1/13
日米両政府は外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、米軍と自衛隊の一体化を加速させる姿勢を鮮明にした。南西諸島における施設の共同使用を拡大し、共同演習・訓練を増加させることを確認。空港・港湾を柔軟に使用することにも言及している。
県内の民間インフラを平時から日米で軍事利用し、実戦的な演習を各島で展開していくことが予想される。米軍基地の過重負担に自衛隊の配備強化が加われば、沖縄の住民の負担は増大し、多くの危険に巻き込まれる。
日米の軍事一体化と連動する沖縄全体の自由使用を認めるわけにはいかない。
2プラス2から見て取れるのは、中国との覇権争いの片棒を日本が担ぎ、米国の要求に従って軍備と借金を膨張させる構図だ。発表された共同文書は、日本側が「防衛予算の相当な増額を通じて、反撃能力(敵基地攻撃能力)を含めた防衛力を抜本的に強化するという決意」を表明し、米側は日本の新たな国家安全保障政策を強く支持した。
安保3文書は国会の議論もなく内閣の閣議決定で決めた。増税や国債発行を伴う防衛費の大幅増額にも国民の反発は大きい。23日召集の通常国会で最大の議論となるはずだ。そのような国民の同意を得ていない政策を国会よりも前に外国に約束することは、主権者に対する背信行為だ。
2プラス2では、離島での戦闘に特化した「海兵沿岸連隊」を在沖米海兵隊に創設することや、自衛隊による嘉手納弾薬庫地区の共同使用の追加なども確認された。
弾薬庫の共同使用は、長期戦に備えて南西諸島の各地に弾薬を分散・保管する一環だろう。沖縄市には陸上自衛隊の新たな補給拠点が整備され、弾薬や燃料などを備蓄する。与那国駐屯地を拡張してミサイル部隊を配置し、火薬庫を建設する計画もある。
島嶼(とうしょ)県の沖縄は保安距離をとる広大な土地はない。沖縄全体が火薬庫となれば、住民地域は危険物と隣り合わせになってしまう。
民間インフラの軍事使用を巡っては、自民党国防議員連盟が11日に宮古島市を視察し、佐藤正久参院議員は下地島空港を「県管理ではなく国管理にしたら」などと主張した。施設ごと国の管理にし、地元の反対を無力化しようとする強権的な発想だ。
1971年に屋良朝苗琉球政府行政主席と日本政府が交わした「屋良覚書」で、下地島空港の軍事利用が否定されている。79年に県と国の間で交わされた「西銘確認書」も屋良覚書の趣旨を再確認している。平和利用を続けてきた歴代県政の取り組みを反故(ほご)にすることは許されない。
抑止力一辺倒は軍事的な緊張を高め、かえって地域の安全保障環境を不安定にする。日本は外交の主導権を発揮し、中国との関係を安定させる役割を担うべきだ。
●リスキリング1兆円予算で賃上げできるのか? 1/13
要旨
• 岸田首相は2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明した。それ以来、政府は矢継ぎ早に推進策を講じ、今や「リスキリング」という言葉は流行語大賞の候補に入るほどの脚光を浴びている。
• 政府は今後、「1.労働移動」、「2.リスキリング」、「3.賃上げ」の三つの課題を「同時に取り組む」としているが、筆者は三つの課題の「解決に向けた道筋」は、「2.リスキリング」によって、成長分野への産業転換に必要な「1.労働移動」を円滑に進め、その結果「3.賃上げ」につなげることだと考えている。
• リスキリング1兆円予算を賃上げにつなげるためには、企業の「生産性・付加価値向上」によって持続的な賃上げの好循環を形成することが重要である。マクロ経済の視点からも、賃上げには企業が成長分野の事業から収益を拡大することで「1付加価値」を増やし、同時に「2労働分配率」を上げる必要がある。その際、スキルを高める労働移動(=効果的なリスキリング)を促すことが、賃上げの実現性を高めるポイントとなる。
• 「学び直しをして新しい仕事に就く」までが広義のリスキリングである。政府の5年間で1兆円の投資は、「1労働移動支援」、「2転職支援」、「3学び直し支援」を3本柱として今後施策が展開される。その際も、3の学び直しをいかに12の労働移動・転職支援によって仕事へとつなげるかが、成功のカギを握る。
• 国家戦略としてリスキリングを推進するドイツ、フランス、カナダが優れているのは、AIによる労働市場分析・提案といったデジタル技術を活用し、官民連携により、学び直しを仕事へつなげる仕組みを構築している点にある。
• リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのか。まずは、企業が主体となり2つの軸(「1付加価値」「2労働分配率」)を改善し、持続的な賃上げに向けた好循環を形成することが急務である。さらに、1兆円の予算を基軸に、個人がリスキリングを積極的に行える土壌を社会全体でつくることができれば、実現は可能である。
1. 政府が急ピッチで進めるリスキリング
政府は「人への投資」を新しい資本主義の柱として位置付けている。岸田首相は、2022年10月3日の所信表明演説で、リスキリング支援として「人への投資」に5年間で1兆円を投じると表明した。また、10月12日に開催された日経リスキリングサミットでは、首相自らパネルディスカッションに登壇し、この1兆円投資策の3本柱(5節で詳述)を発表した。さらに、10月下旬に発表された総合経済対策においてはその具体策が示され、現在、リスキリングに伴う労働移動を加速させるための「企業間・産業間の労働移動円滑化に向けた指針」策定に向けて政府内で議論が行われている。
こうした政府による矢継ぎ早の動きが影響し、「リスキリング」という言葉は、流行語大賞にノミネートされるほど、一躍脚光を浴びることとなった。今後の方針として、首相は「労働者に成長性のある産業への転職の機会を与える『1.労働移動』の円滑化。そのための学び直しである『2.リスキリング』。これらを背景とした構造的『3.賃金引き上げ(以下、賃上げ)』の三つの課題に同時に取り組む」としている。筆者はこの三つの課題の「解決に向けた道筋」は次の通りだと考えている。それは、「2.リスキリング」によって、企業を成長分野への産業転換を促す際に必要な「1.労働移動」を円滑に進め、「3.賃上げ」につなげるという道筋だ。果たして、このような道筋を描き、リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのだろうか。本稿では、まず賃上げに向けた道筋を解説した上で、5年間で1兆円予算の中身を検証し、国家戦略として進める海外のリスキリング事例を参考に、賃上げの実現性について企業からの視点で考察していく。
2. 「リスキリング1兆円予算で賃上げ」に向けた道筋
政府の「三つの課題(1.労働移動、2.リスキリング、3.賃上げ)」の解決に向けて筆者が考える道筋を図解したものが資料1である。前提として、低迷する日本経済の成長を促すためには、デジタルやグリーンといった新しい成長分野に企業がビジネスの活路を見出す「産業構造の転換」が必要となり、その際に既存分野から成長分野へ働き手を動かす「1.労働移動」が求められている。この労働移動を「2.リスキリング」によって円滑に行うことで、政府は「3.賃上げ」の実現を目指していると考えられる。
このリスキリングを「3.賃上げ」につなげる際、岸田首相は前述のサミットで「賃上げが高いスキルの人材を引き付け、企業の生産性向上につながり、さらなる賃上げを生むという『好循環』を機能させていく」という「賃上げによる好循環の形成」について述べた。賃上げを一時的なものではなく、継続的なものにするにはこうした好循環の形成は急務である。一方で、筆者は持続的な賃上げのためには、企業の「生産性・付加価値向上」による好循環の形成が重要だと考える。資料1の下部分にあるとおり、企業の生産性・付加価値の向上を起点として、それを原資に賃上げが行われ、より高いスキルの人材を採用できるようになる。こうした人材が活躍する分野で生産性・付加価値がさらに上がるという「持続的な賃上げに向けた好循環」を目指すべきだと考える。
   資料1 リスキリング1兆円よさんによる賃上げ実現に向けた道筋
企業の「生産性・付加価値向上」には様々な戦略があるが、産業構造の転換を目指す際、「成長分野での挑戦」に向けた後押しが重要となる。例えば、既存分野を持つ伝統的企業では、既存事業の生産性向上とともに、新規成長分野への拡大に果敢に挑戦するマインドを経営者が持つことが大きな一歩となる。一方で、特に成長分野でビジネスをスタートさせるベンチャーやスタートアップ企業を中心とした新興企業には、マインドの実現に向けて不足するヒト・モノ・カネ・情報等への支援が求められる。こうした「成長分野での挑戦」に必要となるリソースを社会全体で補っていくことが今後必要となっていくだろう。
3. リスキリングは賃上げに結びつくのか?
政府が賃上げを目指す背景には、平均賃金が伸びない日本の現状がある。日本では1990年代から約四半世紀にわたり賃金水準が伸び悩んでおり、国際比較においてもその傾向は顕著である(資料2)。その要因の一つに、労働市場の硬直化がある。日本では、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムの下、従業員は企業に長期間勤めることが良しとされてきた。一方の企業も、たとえコロナ禍であっても雇用を守り、政府も雇用調整助成金等の措置で雇用を下支えするなど、社会で雇用を守る姿勢を維持してきた。その結果、労働市場の流動性が低く、賃金が伸びない状況となっている。加えて、非正規雇用比率の上昇も平均賃金の押し下げ要因となってきた。
   資料2 平均賃金の伸び(国際比較)
一方、マクロ経済の観点から見ると、他の要因も見えてくる。資料3は賃金が生み出される構造を簡略化して示したものである。企業活動から新たに作り出される付加価値のうち、労働者へ分配される「人件費」を付加価値で割った割合を「労働分配率」と呼ぶ。企業の低成長により「1付加価値」が増えない、および/もしくは「2労働分配率」が上がらないことが、賃金が伸びない要因となってきた。
   資料3 日本の賃金が伸びない理由
資料4は日本の名目GDPと労働分配率の推移(1994-2021年)を見たものである。世界金融危機(2008年)と新型コロナウィルス感染症蔓延(2020年)の影響を受け浮き沈みはあるものの、日本は「1付加価値」を示す名目GDPが長年伸び悩み、「2労働分配率」は減少傾向にある(注1)。今回、政府がリスキリングを含む投資によって賃上げを目指す際も、この二つの軸を改善していけるかがポイントとなる。つまり、企業が自社の成長分野や新規分野での事業を拡大し、そこからの収益を拡大することで「1付加価値」を増やし、企業の賃上げマインドを醸成する。そして、同時にリスキリングで成長分野への労働移動を円滑に行うことによって、前述の資料1における「持続的な賃上げに向けた好循環」を形成し、「2労働分配率」の上昇につなげるということである。
   資料4 名目GDPと労働分配率の推移(1994-2021年)
なお、少し古いデータにはなるが、経済産業省の産業構造審議会(2016年)は、産業構造の転換を促す変革シナリオに沿って企業が成長した場合の試算を示している。資料5にあるとおり、「付加価値」の指標である名目 GDP 成長率は +2.1%ポイント、賃金上昇率は +1.5%ポイント現状放置シナリオを上回るとの結果が出ている。産業構造の転換に伴って付加価値、賃金とも大きく増加する中、名目 GDP 成長率(年率3.5%)を賃金上昇率(同3.7%)が若干上回ることで労働分配率も改善することが見込まれている(注2)。こうした変革シナリオを実現し、労働移動の円滑化および賃上げにつなげるためにも、リスキリングが重要な役割を果たすことが期待されている。
   資料5 産業構造の試算結果
また、今回の政府の施策には転職を後押しするものも含まれているが、転職で賃金は上昇するのだろうか。資料6は、転職前後での賃金の変化を雇用形態別に見たものである。正社員から正社員への転職は、男女とも約65%の人がその前後で給与は変わらない、もしくは減少している。年齢によっても異なるものの、転職しても賃金は増えにくいという事実は、日本の労働市場の実情を表しているといえる。一方、非正規社員から正社員への転職の場合、男女とも約6割が賃金が上昇している。
   資料6 転職前後の賃金の変化(2020年)
もちろん賃金体系の違いから上昇は当然だという解釈もあるが、「(正社員転身に向けて)スキルを磨いたうえでの転職(=リスキリング)は賃金上昇する」と前向きに捉えられる面もあろう。既に示した賃上げに必要な2つの軸(「1付加価値」「2労働分配率」)の改善を行う中で、スキルを高める労働移動、つまりは効果的なリスキリングを展開していくことにより、正社員から正社員の転職も含めた、幅広い層での賃上げを促すことが重要となる。
4. 改めてリスキリングとは?
ここまでリスキリング1兆円予算による賃上げの実現のための道筋を考察してきた。では、この実現性を高めるためには、どのようなリスキリング施策を推進したらよいのだろうか。本章以降では、改めてリスキリングについて解説したうえで、その効果的な施策について考えていきたい。
リスキリングとは、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)といった大きな社会の変革で生まれる新しい仕事に、労働者が円滑に移行できるようスキルや知識を身に付けさせる企業戦略・国家戦略を指す。「個人のリスキリング」という表現も聞かれるものの、リスキリングは主に企業が主導する人事戦略であり、それを政府が支援及び協働することで国家戦略として推進する動きが広がっている。さらにリスキリングは「学び直し」と言い換えられることもあるが、「学び直しをして新しい仕事に就く」までが広義のリスキリングであると筆者は考える。後述するが、この学び直しで終わらせずに仕事へつなげる仕組みづくりが、1兆円投資における成功のカギを握る。
また、リスキリングには2パターンあると考えている(資料7)。1つは、社外への転職に向けたリスキリングであり、これを「市場リスキリング」と呼ぶことにする。もう一つは、社内の成長部署や新しい職務に移行するためのリスキリングであり、これを「企業内リスキリング」とする。
   資料7 リスキリングの2つのパターン
資料7が示すとおり、「市場リスキリング」は社外への転職を軸とするものであり、受け入れ企業にとっては新しい労働力の受け入れを、また結果として従業員を送り出す企業にとっても社外でも通用する人材の育成を意味する。いわば「労働力の社会共有」が企業の目的となる。労働移動の例としては、転職のほかに社外副業(注3)、ボランティア活動等が含まれる。転職するかもしれない従業員のために会社が支援するというのは、日本企業の文化としてはなかなか受け入れ難い考え方かもしれない。しかし、欧米の大企業中心に従業員の社外への移動を支援する「アウトスキリング」と呼ばれる動きも出ており、日本でも退職した従業員向けのカムバック制度等が広がり始めている。今後は従業員を囲い込むのではなく、転職や副業を中心とした企業への出入りを許容し、人材を社会全体で共有することが重要になると考える。
一方の「企業内リスキリング」は、成長部署への異動や新しい職務の遂行が目的となり、企業にとっては「労働力の高度化」と位置づけられる。労働移動の例としては、ジョブポスティング等による社内異動、在籍型出向、社内副業(注4)、社内起業等が挙げられる。リスキリングを行う目的によって、労働移動の方法は異なり、それに伴い適切な施策も異なる。ここを整理せずに議論されるケースも散見されるが、この2つのタイプを念頭に、政府や企業は支援策を講じていくことが重要である。
5. 1兆円予算の中身は?
次に、政府が掲げる「人への投資」としての5年間で1兆円の中身を検証していきたい。首相が前述のサミットで発表した人への投資の3本柱は、1転職・副業を受け入れる企業や非正規雇用を正規に転換する企業への支援(労働移動支援)、2在職者のリスキリングから転職までを一括支援(転職支援)、3従業員を訓練する企業への補助拡充(学び直し支援)であった(注5)。
そこで、資料8に、この3本柱に沿って今後どのような施策が展開されるか筆者の予測をまとめた。具体的には、総合経済対策で示された施策からリスキリングに沿った施策を抜粋し(注6)、3本柱に分類した上で、前章で挙げた「市場リスキリング」と「企業内リスキリング」のどちらに該当するかを示した。
   資料8 1兆円の主な施策
その上で、各省の令和5年度予算概算要求(22年夏頃)および令和4年度補正予算(22年12月)より、予算規模をわかる範囲で掲載している。仮にこの右枠の予算額を積み上げていくと、合計で約1900億円となる(注7)。概算要求と補正予算が混在しているため正確な数字ではないが、5年間で総額1兆円の予算を単純計算で年2000億円組むとすると、大体このような規模感になると予測する。次に各施策の内容を具体的に見ていきたい。
まず、「1労働移動支援」には、転職者や転籍、正規雇用への転換、在籍型出向、中小企業での副業といった多種多様な労働移動を実践する企業への支援が含まれている。注目すべきは、22年12月に成立した経済産業省関連の補正予算において追加された「副業・兼業支援補助金(43億円)」である。副業促進をメインとした施策として、今後、人材を送り出す企業・受け入れる企業への補助が加わることとなり、労働移動を促す強力な支援策となりそうである。
次に、「2転職支援」では、「市場リスキリング」への支援、つまり転職を主眼とした個人への支援がメインとなる。個人の支援ではあるものの、どのような学び直しをするのか、受け入れ企業とのマッチングをいかに行うか等が焦点となるだろう。岸田首相は「学び直しから転職へ一気通貫で支援していくような制度を新設」と述べており、個人が民間の専門家に転職相談できる仕組みとして人材派遣会社への支援金の拡充が予想されている。22年12月成立の経済産業省関連の同補正予算では、「リスキリング(学び直し)を通じたキャリアアップ支援事業」として753億円が計上され、今後どのような企業がどう支援していくかに注目が集まりそうである。
最後に、「3学び直し支援」については、失業者が新たな職業に就くための従来からの職業訓練支援や、従業員に職業訓練を行う企業への支援等がある。また、文部科学省の「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」では、社会人向けにデジタルやグリーン分野のプログラムを提供する大学への支援も盛り込まれた。今後、官民連携に加えて「学」との連携を推進していくこともますます重要になるだろう。前述の通り、広義のリスキリングは「学び直しをして、新しい仕事に就く」までを指す。政府の1兆円予算においても「3学び直し支援」を、いかに「1労働移動支援」および「2転職支援」によって新しい仕事につなげていくかが成功のカギとなるだろう。
6. 国家戦略として推進する海外リスキリング事例
では、日本が今後、リスキリングを推進する際、どのように施策を拡充・新設していけばよいだろうか。国家戦略としてリスキリングを推進しているドイツ、フランス、カナダの事例を見ていきたい(資料9)。
   資料9 国家戦略としてリスキリングを進める海外事例
資料9では、ドイツの雇用エージェンシーによる「AIキャリア診断を活用した国家戦略リスキリング」、フランス職業安定所とEdtechベンチャー連携による「学習伴走型・官民連携リスキリング」、そしてカナダ政府と人材育成ベンチャー協働の「AIによる労働市場分析・提案型・官民連携リスキリング」の3つの事例を紹介している。
こうした海外事例で共通しているのは、「学び直しで終わらせない仕組み」が施策に組み込まれている点である。単に職業訓練のメニューを提供する、就職先を斡旋するだけでなく、AIによるキャリア診断・労働市場分析・提案、専門家との毎週の1on1セッション等を活用し、学び直しを仕事へとつなげる仕組みが構築されている。また政府が、技術を持つベンチャー企業と協働し、AIなどの最新技術を駆使した効果的なリスキリングを行っているのも特徴である。
日本で国家戦略としてのリスキリングを展開する際も、学び直しは学び直し、仕事は仕事と支援体制が縦割りにならないよう留意しなければならない。その上で、民間企業や大学等との協働による施策を積極的に展開していくことが期待される。このように、学び直しを仕事につなげる仕組みを構築し、大企業だけでなく中小企業の従業員、非正規雇用者、女性や高齢者、潜在的な労働者も含めた多様な層にリスキリングを促していくことが、賃上げの実現性を高めるために必要となる。
7. 「企業」が賃上げの好循環をリードし、「社会全体」でリスキリングを推進していくべき
リスキリング1兆円予算で賃上げは実現できるのか。まずは、企業が主体となり2つの軸(「1付加価値」「2労働分配率」)を改善し、持続的な賃上げに向けた好循環を形成することが急務である。さらに、企業は、従業員がリスキリングを積極的に行える環境整備を行う必要がある。例えば、学び直しをして移動する意欲のあるリスキリング人材を積極的に受け入れ、社内で適正な評価・処遇を与える体制を整えるといったことも必要となるだろう。
その上で、1兆円の予算を基軸に、個人がリスキリングを積極的に行える土壌を社会全体で形成していくことが求められる。1兆円予算を投じた施策を、学び直しから仕事へとつなげる効果的ものとすることはもちろんのこと、産官学のリソースをフル活用し、社会全体でリスキリングを支援していくことが重要である。例えば、社会人が学びやすいよう、産学が連携して成長分野に関するオンラインや夜間講座の開設をすることや、海外事例のように技術を持つ民間企業と政府が連携してより効果的なリスキリングの仕組みを構築するといったことも挙げられる。最近では、日本でもリスキリングコンソーシアム(官民連携により学び直しや転職・副業等の労働移動を支援する場)が形成されており、こうしたコンソーシアムと政府および企業とのさらなる協働および社会全体での活用についても検討に値する。加えて、転職や副業、出向といった意欲的な「労働移動」は社会にとってプラスなものだという意識の醸成も必須となるだろう。
このように、企業がリードして賃上げの好循環を形成し、社会全体でリスキリングを推進していくことができれば、リスキリング1兆円予算で賃上げは「可能」だと考える。2022年、骨太の方針をはじめとした日本の政策パッケージに初めて「リスキリング」という言葉が盛り込まれ、その後5年間で1兆円もの予算が投じられることとなった。さらに、足元でも賃上げのモメンタムが形成されつつある。こうした流れを絶好の好機と捉え、今こそリスキリングによる持続的な賃上げを産官学が一丸となって実現していくべきである。
【注釈】
1.労働分配率が2008年(世界金融危機)、2020年(新型コロナ感染症蔓延)に上昇しているのは、経済的ショックにより付加価値が急激に減少したため。労働分配率は人件費÷付加価値額で計算されるため、分母の付加価値額が下がる一方、分子の人件費は下方硬直性があるため、労働分配率は上昇する。
2.1付加価値および2労働分配率も増加すれば、賃金は増加するが、労働分配率が一定でも、付加価値が増大すれば賃金は増加する。逆に、付加価値が一定でも労働分配率が上がれば、賃金は増加するということに留意したい。
3.社外副業は、社内異動や新しい職務遂行を目的に行われるケースもあるが、将来的に転職につながる可能性が比較的高いと考え、ここでは「市場リスキリング」と定義した。
4.社内副業とは、業務時間中に所属している部署以外の別部署で働くことを認める制度。将来的な異動や新しい職務の遂行が目的となるケースが多い。
5.1労働移動支援、2転職支援、3学び直し支援の名称は筆者の命名。
6.総合経済対策における「人への投資強化と労働移動の円滑化」に掲載された全施策は載せず、筆者の判断にて施策の影響範囲が大きいと考えられるリスキリング施策を抜粋。
7.総合経済対策で示された施策からリスキリングに沿った施策を抜粋し、積み上げた額が1916億円。実際に記載された全施策を積み上げた場合はそれ以上になる。
●国債ルール、自民に緩和論 防衛財源に充当、政府は慎重 1/13
防衛費増額の財源を確保するため、国債の「60年償還ルール」の見直し論が自民党内で浮上している。
国の借金の返済財源に充てる債務償還費を減らし、防衛財源に振り向ける構想だ。これに対し、政府は財政規律を維持するため慎重だ。防衛費増額のための増税時期と絡み、争点となりそうだ。
60年償還は、国の借金である国債について、期限を迎えた国債の一部を新たに発行する借換債と現金による払い戻しを組み合わせ、発行60年後までに完済するルール。2023年度当初予算案で債務償還費は約16兆円と、一般会計歳出総額114兆3812億円の15%近くを占める。
見直しの検討を主張する自民党の萩生田光一政調会長は、償還年数を80年に延長する案に言及している。延長すれば、毎年度の債務償還費を減らせる。自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と話す。
自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。
政府は予防線を張っている。松野博一官房長官は12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。財務省も、財政規律の観点から見直しに否定的だ。 
●非正規男性、岸田首相「異次元の少子化対策」に苦笑…悲惨すぎる給与額 1/13
岸田首相の「異次元の少子化対策」発言に「非正規社員を対象とした子育て支援」が加わり、大きな波紋を広げています。確かに「今までにない」政策かもしれませんが、当の本人たちからは「そんなの意味ない」という声も。みていきましょう。
話題になっている、岸田首相の「異次元の少子化対策」。2022年の年間出生数が80万人割れと危機的な状況のなか、飛び出した発言ですが、その基本的な方向性は「児童手当中心とした経済的支援の強化」「学童保育や病児保育、産後ケアなどすべての子育て家庭への支援拡充」「育児休業の強化を含めた働き方改革の推進」と既存政策であったため、異次元というワードに違和感を覚えた人が続出。波紋を広げていました。
そこにきて、さらに「非正規労働者などを対象とした新たな子育て支援の給付制度を新設」という報道。給付対象は、育休を取得できない非正規労働者や自営業者など。問題となる財源は、年金や医療保険、社会保険料を合わせて月に数百円程度引き上げ、拠出金を積み立てる形をつくるといいます。
そもそも原則として1歳未満の子どもを養育するために従業員が休業した場合に支給される「育児休業給付金」。受給対象は、雇用保険制度に加入している会社員だったため、自営業者などは含まれていませんでした。今回はその対象外だった層に対してお金の援助を行うというもののようです。
さらに岸田首相は「従来の省庁の縦割りではなく、横断的な取組み」を強調。しかし実質的な増税が前提となるだけに、このまま支持を受けられるか微妙です。
世間からは「非正規を理由に子どもを諦めている人たちはいると思うから、有意義な政策だ」という声が上がる一方で、当事者の非正規社員の人たちからは「非正規で子育てって……対象者がどれほどいるんだろう」と疑問の声も多く聞かれます。
厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』で、非正規社員男性の給与事情をみていくと、平均月給は(所定内給与)は24万1,300円、年収で342万7,300円。一方で日本の男性会社員の平均給与は月33万7,200円、年収で546万4,200円。月給で10万円、年収で200万円ほどの差があります。
男性非正規社員の給与を年齢別にみていくと、20代後半で月給が20万円台になったのち、30万円台に達することはありません。
【男性非正規社員の給与の推移 : 所定内給与/年収】
20〜24歳 : 187,800 円/2,590,500 円
25〜29歳 : 212,800 円/2,992,500 円
30〜34歳 : 218,700 円/3,057,600 円
35〜39歳 : 225,100 円/3,139,900 円
40〜44歳 : 230,400 円/3,225,300 円
45〜49歳 : 236,200 円/3,320,600 円
50〜54歳 : 246,900 円/3,446,700 円
55〜59歳 : 242,800 円/3,385,400 円
60〜64歳 : 274,700 円/4,101,600 円  
●君たち、中国に勝てるのか。安倍晋三元首相の警告を忘れるな 1/13
日本は中国に勝てるのか
日米両政府はワシントンで外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、日本の「反撃能力」に関し協力を深化させることで合意した。これにより日本の有事への備えは強固なものとなる。だが我々は安倍晋三元首相が生前、自衛隊幹部に言った「君たち、中国に勝てるのか」という言葉を忘れてはならない。
安倍氏のこの言葉がタイトルになった本が産経新聞出版から刊行された。安倍政権で国家安全保障局次長だった兼原信克氏や岩田清文元陸上幕僚長ら自衛隊幹部OBによる共著だ。
この中で、2018年に策定された防衛大綱を作る際に、「居並ぶ自衛隊最高幹部を前にして、いきなり安倍総理から『君たち勝てるのか』と聞かれたことがありました」と兼原氏が明かしている。
安倍氏は早くから中国の軍事的脅威に危機感を持っていたが、残念ながらこれまでの首相の中にはほとんど危機感を持たない人もいた。
米軍と協力すれば負けない
この本を読んでいて思い出したのだが、僕は10年以上前に防衛省の首脳に「戦争になったら日本は中国に勝てるのか」と、安倍氏と同じ質問をしたことがある。首脳の答えは「今は特に海軍力で比べ物にならず日本が強いから負けないが、相手はものすごい勢いで航空機などを増やしているのでいずれ負ける。ただ米軍と協力して戦えば負けることはない」ということだった。
安倍氏はこの首脳の分析と懸念をよくわかっていた。集団的自衛権の行使を容認し、国家安全保障局を作り、国家安全保障戦略を策定し、米国との軍事同盟を強固にしたのだ。岸田首相がこの安倍路線を継承し、防衛力の強化、防衛予算の増加を打ち出しているのは評価すべきことだ。
ただ先日、米国のペロシ前下院議長が訪台した際に中国が日本のEEZ内にミサイルを撃ち込んだにも拘らず、日本政府の対応は外務次官が駐日大使に抗議しただけで、事実上黙認しているようにも見えた。
これについて兼原氏は「外務省の国際法局の意見がそのまま出てしまった」もので、「安保政策上の考慮が欠如している」と政府の対応を批判している。
私の島に手を出すな
つまり岸田氏は安倍氏の安保政策を忠実に引き継いではいるものの、詰めが甘い。というか現場対応がゆるい。このままでは海千山千の中国やロシアにいいようにやられてしまうのではないか。
この本にはもう一つ面白いことが書かれている。安倍氏は中国の習近平主席と会った際に「私の島に手を出してはいけない」と言い、さらに「私の意志を見誤らないように」と言ったというのだ。台本にはない発言でみんな驚いたが、同席していた兼原氏となぜか目が合った習近平は「このまま憑り殺されるかもしれないと思うほど冷たい視線」だったそうだ。これが外交だ。
台湾有事は、あるかないかではなく、いつあるかだ。岸田氏は早い時期に習近平に会って「私の島に手を出すな」と言わなければいけない。
●中長期「1ドル200円」円安予想に変更なし ワタミ今年のテーマは「耐える」 1/13
今年の日本経済を一言でまとめるなら「厳しい」となる。円高と円安の乱高下が続き、賃金は上がらず、一方で物価は上がっていく。外食業も業績がコロナ前の70〜75%で変わらないだろう。中小の飲食店はいわゆる「ゼロゼロ融資」の返済も本格的に始まる。つまり、いい話はない。
事実上の利上げに踏み切った日銀も「追い詰められたな」というのが感想だ。新総裁になっても何もやりようがないだろう。私は国会議員時代に日銀に対して「出口戦略はどうするのか」と質問し続けた。出口とは、日銀以外が国債を買ってくれる状況を作ることである。今の状況では、10年物国債の利回りを0・5%にしても買ってくれる人はいない。これ以上金利を上げれば日銀は債務超過となり円は信頼を失う可能性が高い。
為替に関しては、どう考えても中長期では、円高にはならないだろう。世界はもうばらまいたお金の回収の局面に入っているのに、日本だけがお金をまだ、どんどんばらまいている。相対的に通貨の価値が下がる「円安」は避けられない。今年は1ドル115円から155円のレンジ内を見込むが、この先2、3年では1ドル200円から300円になるという見通しを変えるつもりはない。
本来は財政再建に取り組むべきなのに、岸田政権は唐突に「異次元の少子化対策」を打ち出した。昨年、防衛費の財源が足りないから歳出改革や、増税を打ち出したばかりだ。その財源の件が片付いていないのに、さらにまた大きな問題を持ち出した。統一地方選前の人気取りとしか思いない。
少子化対策といえば、東京都が18歳以下に所得制限なしで月5000円を給付することにした。月5000円もらえるからといって、子供を産もうと思う人がどれだけいるのだろうか。私は以前から3人目以降の子供には1000万円を支給すべきだと主張してきた。今でも無駄を省けば原資は捻出できる。その3人以上の子供たちが将来、働いて納税してくれればGDPで見ても元がとれる。税金の投資対効果とは本来こういう政策だ。
ワタミでは今年のテーマに「耐える」を掲げ、内なる充実、改革に徹する。これまで、こうした消極的なテーマを掲げたことはないが、若い時よりも、冷静に経済や会社を俯瞰して見るようになった証しだ。ここは「耐える局面」だ。各事業、何があっても潰れない強い体質を作り、今までやってきたことを深く掘り下げる一年としたい。
今年に続く2024年には日銀の債務超過をきっかけとした財政破綻や、中国の台湾進攻など大きな変化があってもおかしくない。ワタミ本社近くの東京・羽田神社で引いたおみくじにも偶然「今年は根を張る年。美しい花を咲かすには土台が必要」と書いてあった。人気取りの政策が並ぶ日本の政治も、根っ子から変えるべきに思う。
●東京都、23年度予算案過去最高 - 8兆円超、少子化対策柱に 1/13
東京都は13日、2023年度当初予算案の概要を明らかにした。一般会計の総額は2年連続で過去最高を更新し8兆400億円となる見通し。都税収入の増加を背景に、少子化対策で18歳以下の子どもに月5千円を給付する新規事業などを盛り込んだ。
小池百合子知事は「歴史的な転換点を迎えている今、次の時代に先鞭をつける施策を構築することができた」と述べた。
歳出は、少子化対策や子育て支援に総額1兆6千億円を計上。第2子の保育料無償化や、将来の出産に備えた健康な女性の卵子凍結への助成を始める。災害対策など都市強靱化に向けた取り組みに7400億円を確保した。

 

●国債60年償還ルールを廃止する歳出改革で増税なしの防衛費増額は可能 1/14
• 防衛費増額のための財源確保法が通常国会を通り、歳出の事実上のキャップで、積極財政から緊縮財政に転じてしまえば、新しい資本主義は失敗をしてしまうリスクが大きくなる。
• 国債60年償還ルールに基づき国の債務を完全に返済するという恒常的な減債の制度を先進国で持っているのは日本だけである。
• 日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革すれば、歳出は債務償還費分の16.8兆円程度も削減できることになる。
• 防衛費増額分は増税なしに十分にカバーでき、新しい資本主義の成長投資に本予算でしっかりコミットすることまで可能となる。
• 60年償還ルールを廃止するような柔軟な(国民を苦しめない)歳出改革ができれば、積極財政の方針を維持でき、新しい資本主義で「成長と分配」の好循環の実績を出すことも可能となるだろう。
防衛費増額にともなう財源確保法の扱い
2023年1月23日に通常国会が召集された。この通常国会での注目は、防衛費増額にともなう財源確保法の扱いである。防衛費をGDP対比2%程度に増額するために、2027年度時点で4兆円程度の財源が必要とされている。その内、法人税を中心とする増税で1兆円強、特別会計などから組み入れる防衛力強化資金で0.9兆円程度、決算剰余金の活用で0.7兆円程度、そして歳出改革で1兆円強が捻出される計画である。増税の開始は「2024年度以降」とされ、年末の税制改正で最終決定されるとみられる。増税以外の財源を確保するための法律が財源確保法となる。
防衛費を除く歳出には事実上のキャップがかかってしまう可能性
財源確保法がそのまま国会を通り、1兆円強の歳出改革とされる削減が決まると、防衛費を除く歳出には事実上のキャップがかかってしまう可能性がある。岸田政権の新しい資本主義は、「人への投資」、「化学技術・イノベーション」、「スタートアップ」、「グリーン・デジタル」を中心に、政府の成長投資で民間を刺激して、「成長と分配」の好循環を目指す戦略である。歳出の事実上のキャップで、積極財政から緊縮財政に転じてしまえば、新しい資本主義は失敗をしてしまうリスクが大きくなる。新しい資本主義で実績が出なければ、岸田首相の求心力は更に低下し、退陣に追い込まれるリスクが大きくなるだろう。
歳出は過去最大
もし歳出改革を柔軟に行うことができれば、防衛費増額と成長投資の財源を簡単に確保することができる。日本の2023年度の国の一般会計当初予算政府案は114.3兆円となり、歳出は過去最大となっている。過去の借金に対応する利払費と債務償還費を含む国債費は歳出の15%を占めている。過去の借金への対応で歳出構造が硬直化している(首が回らない)と言われる。米国の国債費の歳出に占める割合である6.8%と比較し、とても悪いように見え、日本には歳出拡大余地はないという見方を支配的にしてしまっている。日本には、発行した国債は60年で現金償還することを定めた「国債60年償還ルール」がある。毎年の予算に国債の利払費だけではなく、債務償還費も計上している。
減債の明示的なルールはない
グローバル・スタンダードでは、原則的に、政府の債務(国内で自国通貨で発行されたもの)は完全に返済(債務をゼロに)することはなく、事実上永続的に借り換え(満期が来た国債を償還する際、償還額と同額の国債を発行する)され、債務残高は維持されていくことはほとんど知られていない。完全に返済する(現金償還する)のは、景気の過熱などで税収が増加しすぎたりした時など、国債需給の調整の例外的なもので、減債の明示的なルールはない。財政黒字の半分を減債に回すことを定めている日本のルールも異常だ。(このルールだけでもなくなれば、決算剰余金は2倍の額を防衛費に回すことができ、増税はいらなくなる。)償還ルールに基づき国の債務を完全に返済するという恒常的な減債の制度を先進国で持っているのは日本だけである。減債は民間の所得・需要を奪うことになるので当然だ。
日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革
グローバル・スタンダードでは積み上がった国の債務をどう返していくのかという問いそのものが存在せず、利払いを続けながら債務残高を経済状況も安定させながらどう維持していくのかという問いのみ存在する。その理由は、政府の負債の反対側には、同額の民間の資産が発生し、国債の発行(国内で自国通貨で発行されるもの)は貨幣と同じようなものとみなされるからだ。日本の異常な財政運営をグローバル・スタンダードに改革すれば、歳出は債務償還費分の16.8兆円程度も削減できることになる。防衛費増額分は増税なしに十分にカバーでき、新しい資本主義の成長投資に本予算でしっかりコミットすることまで可能となる。60年償還ルールを廃止するような柔軟な(国民を苦しめない)歳出改革ができれば、積極財政の方針を維持でき、新しい資本主義で「成長と分配」の好循環の実績を出すことも可能となるだろう。
●異次元ではない「確かな少子化対策」が身近にある 1/14
1月5日、時事通信社の新年互礼会に出席してきた。
2021年、2022年の2年間はコロナ禍で中止や人数制限を行っていたそうだが、今年は来客も多士済々であった(なにしろ筆者が呼んでもらえたくらいだ)。しかも、立食パーティーが復活していた。久々に食べた帝国ホテルのローストビーフは、やはり美味でありましたぞ(笑)。
パーティー会場がずっと「ざわざわ」していたワケ
この新年互礼会、ときの総理大臣がかならず出席して挨拶することが「売り」になっている。今年もちゃんとお見えになりましたよ、岸田文雄首相が。
ところが壇上に上がるときに、大きな「黒いバインダー」を手にしておられる。瞬間、いや〜な予感が走りましたな。案の定、総理は長々と原稿をお読みになる。しかも、前日4日の総理記者会見とほとんど同じ内容である。「異次元の少子化対策に挑戦する」という例の一節も飛び出しましたな。
以前の小泉純一郎首相や安倍晋三首相は、「紙」なぞは持たずに壇上に立ち、当意即妙なパーティートークで会場を大いに沸かせたものであった。
しかるに、総理の後に壇上に立った新聞協会長や経済団体長も同様に「紙」付きだったから、会場はざわざわしたままで「み〜んな聞いてない〜」モードであった。どうやら長らくパーティーが「自粛」されている間に、わが国のパーティー文化は劣化してしまったようである。
それはさておき、問題は「異次元の少子化対策」である。別に「異次元」である必要はないと思うが、岸田首相は少子化問題に本腰を入れるようだ。1月6日には小倉將信・こども政策担当相に対し、3月末までに具体策をまとめるように指示し、1月中に新たな検討会の初会合を開く。そして6月の「骨太方針」には、子ども関連予算の倍増を決めるという。
防衛費倍増や原発再稼働などと同じく、岸田首相が「有言実行」スタイルであるのは結構なことだ。しかし財源として、消費増税に踏み込んだ甘利明前幹事長の発言はいただけない。そんなことをすれば、諸事物入りな子育て世代をガッカリさせること間違いなしではないか。
予算規模はおろか、政策メニューが決まる前から財源について触れたがるのは、財務省のDNAを色濃く受け継ぐ現・宏池会政権の「よろしからぬ傾向」であるように見受けられる。
かかる岸田首相の方針発表に対し、マーケットの反応が興味深かった。さぞかし「子ども関連株」が買われるかと思ったら、誰でも知っている「ピジョン」(育児用品)や「ベネッセHD」(教育)、「西松屋チェーン」(子ども服)などはほとんど変化なしだった。
上がったのは、どちらかというと「SERIOホールディングス」(育児支援)や「タメニー」(婚活サービス)、「ベビーカレンダー」(育児サイト)など、聞いたことがない銘柄ばかり。要は皆さん本気にしていないから、大型株には手を付けずに、小型株の思惑買いの材料に使われたようである。いつものことながら、こういうマーケットのぶっちゃけで現金な反応って、好きだなあ。
2022年の出生数はついに「80万人割れ」へ
あらためて少子化問題の深刻さを確認しておこう。2022年の出生数は80万人割れの見込みである。厚生労働省の公表によれば、2022年1月から10月までの累計で出生数は66万9871人、死者数は128万9310人である。するとこの10カ月分の人口減少は、61万9439人というゾッとするような数となる。この勢いが継続するようなら、わが国の人口は遠からず1億人を割り込むことだろう。これはやっぱりエライことである。
しかし冷静に考えてみれば、岸田内閣が出産育児一時金を増額し、不妊治療の拡大を図ったところで、効果はたかが知れている。それというのも出生数とは、「出産可能な女性の数」に「合計特殊出生率」を掛け合わせたものである。出生率が少しくらい増えたところで、今後は若い女性の数が減るから「焼け石に水」である。わが国の少子化対策は周回遅れもいいところで、岸田内閣の政策もせいぜい「ダメージコントロール」と見ておくべきだろう。
「第3次ベビーブーム」どころか「就職氷河期」に
個人的なことを言わせていただくならば、筆者が高齢化や人口減少の問題に関心を持つようになったきっかけは、1987 年に長女が生まれたことであった。彼女の同年代(134万6658人)は、1966年の「ひのえうま」生まれ(136万0974人)よりも少ないことに気がついた。日本の人口動態はユニークな形をしているが、新生児の数がいよいよ「ひのえうま」を割り込んだのかと驚いた。
さらに1989年になると、出生数のみならず合計特殊出生率も1966年を下回り、世にいう「1.57ショック」が世間を騒がせた。この辺の事情はすでに忘却の彼方かもしれないが、当時の日本国内はバブル経済に沸いていたこともあり、まだまだ楽観的であった。
「もうじき第2次ベビーブーマー世代(1971〜74年生まれ)が20代になって、子供を産むようになる。それを考えれば、出生率は上昇に向かうだろう」という説明がなされていた。第2次ベビーブーマー世代はマイホーム主義で育った世代だけに、あっけらかんと子供をつくるんじゃないか、という見通しにはそれなりに説得力があった。
ところが1990年代半ばに訪れたのは、「第3次ベビーブーム」ではなく、「就職氷河期」であった。若者たちにとって受難の時代の始まりであった。
日本政府も、まったく手をこまねいていたわけではない。当時の厚生省は「エンゼルプラン」を打ち出し、「駅型保育」などの施策を打ち出した。
しかるに当時の日本経済は、多くのサラリーマンが夜遅くまで残業や「付き合い」をして、タクシーで帰宅するのがデフォルトであった時代。筆者も身に覚えがあるけれども、共働きで郊外に住んで、都心に通いつつ子育てするのはまことに大変なことであったのだ。
第2次ベビーブーマー世代は、年間200万人以上もいる。彼らは現在すでに50歳代に突入しつつある。これに比べると、現在の20代後半に当たる1993年から1998年生まれの人口は年間120万人前後である。これが2016年生まれ以降は年間100万人を切ってくる。いや、もちろん少子化対策はやらないよりもやったほうがいい。ただし「人口減少を食い止められる」などという幻想を持つべきではあるまい。
強調しておきたいのは、2022年の80万人割れは従来の予測を大きく上回る落ち込みであるということだ。国立社会保障・人口問題研究所は、80万人割れを2030年と推計していた。言わずと知れた新型コロナの影響である。行動制限を呼び掛けたために若者が外に出られず、出会いの機会も失われたからだ。なにしろ「若者が外へ出て感染するから、高齢者の命が危うくなる」などと言われていたからね。
いわば高齢者という過去を守るために、若者という未来が犠牲になるという、わが国が得意とするパターンである。この国の「ゼロ・リスク」症候群が、少子化の加速という形で報復を受けていると言えようか。だったら今後の「子育て支援予算」は、高齢者向けの予算を削って充当するのが「筋」ではないかという気がするが、もちろんそんなことを口にする(できる)政治家がいるわけはないのである。
少子化問題の「着手小局」は流山市にあり
さて、子育てをほぼ終えた世代として申し上げたいのは、少子化のかなりの部分は都市問題だということである。都市部における共働き世代の子育てには、依然として社会的なニーズがある。いわゆる「待機児童問題」はさすがに改善に向かっていて、2025年には利用者のピークを迎えるそうだ。それでも「量的」な問題とは別に、さまざまな「質的」な問題が残っている。
少子化問題に対しては、政府は今までにいろんなことをやってきた。企業もワークライフバランスを考えるようになりつつある。この後に重要なのは、地域社会の変容であろう。特に地方自治体の役割が大きいのではないだろうか。
この点で参考になるのは、ジャーナリスト大西康之氏の近著『流山がすごい』(新潮新書)である。近年の流山市は、「子育て中の共働き世代」に的を絞った政策を行ってきた。「母になるなら、流山市。」というキャッチフレーズは、お隣の柏市の住民である筆者にとっても目が覚める思いがしたものだ。
かかる行政の実験に対し、さまざまな住民が流山にやってきて、思い思いの冒険を行っている様子が描かれている。その多くが女性である、という点がいかにも今日的なサクセスストーリーズである。
少子化対策における「着眼大局・着手小局」を考えてみたい方にお勧めしたい。
●国の評価は人口だけでは決まらない 「あるべき女性像」を強いる少子化対策 1/14
暴論を恐れずに言えば、日本は人口を無理に増やす必要はない。人口が少なくても、国民が能力を生かして活躍できる土壌があればよいのだ。
G7各国の人口を見ると、アメリカ3億3000万人、日本1億2000万人、ドイツ8300万人、イギリス6700万人、フランス6500万人(本土)、イタリア6000万人、カナダ3700万人となっていて、独英仏伊加は日本より人口が少ないが、存在感は大きい。文化や歴史の魅力、社会保障の優位性などへの高い評価ゆえだ。国の評価は人口だけでは決まらない。
少子化問題もそうだ。岸田総理は年頭会見で「異次元の少子化対策」を発表した。現状6兆円の少子化対策予算を倍増させるという。だが、この対策自体を空しく感じるのは私だけだろうか。すべての女性がそれを望んでいるわけではないことが忘れられている。
そもそも少子化対策の根本には「女性は子どもを産むもの」という古い社会通念があるように思う。語弊があるかもしれないが、出産は女性にとって人生最大の負担だろう。
優秀な女性たちが、人生で最も仕事もプライベートも充実するであろう若い時期を妊娠や育児に費やさなければならないことは──もしそれを自分が望んでいないのだとしたら──とても残念だと思う。
「そうするものだから」と自分を曲げてまで古びた社会通念に従う必要はないのだ。
もちろんそうしたい人はすればよい。「子どもが欲しい」と望むのはごく当たり前だし、皆に与えられた権利だ。
ただ同時に、結婚や出産をしない選択をする自由や権利もある。信条として独身を選ぶ人もいれば、従来の“男女による夫婦”という枠組みを求めない人もいる。いずれも等しく尊重されるべきだ。
アメリカの研究者によれば、いま人類の「中性化」が進行中で、男性が育児に時間を費やすほど、闘争心を生み出すホルモンのテストステロンが減少し、「愛情ホルモン」のオキシトシンが増えるのだとか。逆にテストステロンは女性に増えているそうだ。
もとより闘争心のあるなしは男女を問わない。「皆が穏やかになれば無益な争いがなくなる」という意見もあろう。だが闘争心とはすなわち野心、向上心だ。誰も「上を目指そう、現状を打破しよう」と考えなくなれば、社会を変革する覇気もなくなり、国は衰退するのではないか。
「親はなくとも子は育つ」のだ。野生動物のほとんどは子どもを産みっぱなしでオスは面倒を見ないし、とても早い時期に子離れする。これだけ子育てに手をかけるのは人間だけだ。そこにも一考の余地はある。
私は男女が協力しての子育てに反対はしない。それも大切だし、保育施設を増やすことも大切だ。「男性が働きに出て、女性が子育てをする」「夫婦がともに働き、協力して子育てもする」「女性が働きに出て男性が子育てをする」「子どもは持たない」──どれを選ぶかは個人の自由だ。
人間には性別に関係なく自由な生き方が保障されているはずだ。「出生率の低下は問題だ」「子育て家庭に手厚いケアを」という考えばかりを前面に出すのは、古びた「あるべき女性像」を国民に強いる行いである。
政府はカネさえ出せば子どもが増え、人が増えれば日本は安泰だとでも思っているのか。何が国を繁栄させるのか、性根を据えて考えるべきだ。  
●フランス、イタリア、英国、カナダ及び米国訪問等についての内外記者会見 1/14
【岸田総理冒頭発言】
今回の欧州・北米訪問を終えるに当たり、一言所感を申し上げます。日本は、今月1日からG7の議長国となり、また、国連安保理非常任理事国を務めています。各国首脳と意見交換を重ねる中で、国際社会を主導していく責任の重さと日本に対する期待の大きさを改めて強く感じる歴訪となりました。
今回訪問した、G7メンバーであるフランス、イタリア、英国、カナダ及び米国のそれぞれの首脳とは、二国間の懸案・協力について、そして、緊迫している地域の情勢認識について率直な意見交換を行いました。また、私から、G7広島サミットに向けた議長国としての考え方を説明し、今年1年を通じたG7の活動の在り方について、じっくり話し合うことができました。その結果、G7が結束して法の支配に基づく国際秩序を守り抜いていくべく連携していくことについて、改めて確認することができました。
広島サミットに向けての腹合わせを行う中で、言うまでもなく最も大きな課題だったのは、開始からまもなく1年を迎えるロシアによるウクライナ侵略です。私からは、ウクライナ侵略は欧州のみの問題ではなく、国際社会全体のルール・原則そのものへの挑戦であることを指摘し、各国首脳との間で、G7広島サミットにおいては、法の支配に基づく国際秩序を堅持していくとの強い意志を示すべきだとの認識で一致し、また、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続・強化していくことを確認しました。
そして、世界のリーダーが広島の地に集まることは、単なるG7サミットにとどまらない意味を持っています。広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは、人類の生存のために決して許されないことです。被爆地広島から、こうしたメッセージを、力強く、歴史の重みをもって世界に発信したいと考えています。
また、国際社会が直面する諸課題に対応するためには、G7として、グローバル・サウスへの関与を一層強化する必要があります。各国首脳との間では、そのために、気候変動、エネルギー、食料、保健、開発等のグローバルな諸課題への積極的な貢献を通じて、グローバル・サウスへの関与の強化を進めるべきとの認識を共有し、G7で連携して対応していくことで一致いたしました。
これらのアジェンダに加え、G7は、様々な下方リスクが指摘される世界経済への対応、地域情勢や経済安全保障等、国際社会の重要課題について取り組んでいく必要があります。各国首脳との議論も踏まえ、引き続きG7としての対応を調整し、主導していきます。
今回訪問した各国首脳との間では、G7広島サミットに向けた議論に加え、二国間関係についても腰を据えて議論を行いました。
とりわけ、昨日のバイデン米国大統領との会談においては、昨年末に策定した新たな国家安全保障戦略等の3文書の内容に関し、反撃能力の保有や防衛費の増額等を含め我が国の安全保障政策を大きく転換する決断を行ったことについて、私から説明し、バイデン大統領から全面的な支持が表明されました。
日米両国が近年で最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、こうした我が国の取組は、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化にも繋がるものです。バイデン大統領のみならず、昨日意見交換を行ったハリス副大統領やペローシ前下院議長を始めとする超党派の上下両院の議員の皆さん、またジョンズ・ホプキンス大学での聴衆など、幅広い層から高い評価と支持を得たのは、その証左だと受け止めています。
また、バイデン大統領との間では、両国の国家安全保障戦略が軌を一にしていることを確認するとともに、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくとの決意を新たにし、日米共同声明を発出いたしました。サプライチェーンの強靭化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携もますます高まっています。今後とも、日本の総理大臣として、日米同盟を強化し、経済・技術まで裾野が広がった日米間の安全保障協力の強化に取り組み、もって我が国国民の安全と繁栄の確保・進展に一層努力してまいります。
ロシアによるウクライナ侵略が我々に示した教訓は、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるということです。私は、ウクライナは明日の東アジアかもしれないとの強い危機感を持って、欧州との間でも、インド太平洋地域等における安全保障協力の強化に取り組んできました。
英国のスナク首相とは、日英安全保障・防衛協力の新たな基盤となる円滑化協定に署名し、フランスのマクロン大統領との間では、インド太平洋協力の推進や、本年前半に2+2の開催を目指すことで一致いたしました。また、スナク首相及びイタリアのメローニ首相との間では、昨年12月、次期戦闘機の共同開発を発表しました。今後とも、これらパートナー国との安全保障協力を深化していきます。
なお、今回、日程の関係でお会いできなかった、ドイツのショルツ首相とは、できるだけ早く意見交換の機会を持ちたいと考えています。
我が国の周りに目を向けると、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化など、情勢は一層厳しさを増しています。各国首脳に対しても、こうした東アジアの安全保障環境や北朝鮮による拉致問題に対する私の強い危機感を改めて伝えました。
アジアで唯一のG7メンバーである日本で開催されるサミットだからこそ、インド太平洋の地域情勢についてもしっかりと議論をする必要があります。今回、カナダのトルドー首相はもとより、各国の首脳からも、インド太平洋についての高い関心が示されました。インド太平洋地域での英国やフランスの艦船の寄港、共同演習の活発化や、カナダやイタリアのインド太平洋戦略等の策定。これらは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けたG7のコミットメントの表れです。G7広島サミットでは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた一層の協力も確認したいと考えています。
長期化するウクライナ侵略、核・ミサイル能力の強化や急速な軍備増強など、緊迫の度を強める東アジア地域の情勢。さらに、不透明感を増す世界経済の先行き、世界的なエネルギー危機、食糧危機、気候変動や感染症などの地球規模課題。これらはいずれも待ったなしの喫緊の課題です。G7の結束と協調が従来以上に世界の動向を左右するものになっています。2023年、1年間を通じてG7議長国である日本は、単に5月の広島サミットの開催にとどまらない、国際社会を1年間にわたって主導していく重責を負っています。
こうした重責を果たしていく上で、今回の歴訪で各国首脳との間で様々な分野の意見交換を行い、トップ同士の信頼関係を深め、今後に繋がる結果を残すことができたことは、何よりの成果だと感じています。
以上、今回の歴訪を終えるにあたっての所感を申し上げさせていただきました。
【質疑応答】
(NHK 徳丸記者)
先ほど、総理、G7の結束の重要性を強調されましたけれども、一方で世界情勢、国際情勢を見ますと、中国が影響力を増しているという現実があります。G7だけでは国際課題に対応しきれないという状況になっていると。総理自身も仰るように、中国をどうマネージメントしていくのかというのが、大きな課題で一方であると思うのですけれども、対話は常々続けると仰っていますけれども、サミットまでに日中首脳会談を行う考えがあるかをお聞かせください。そして同じ近隣諸国のことで言えば、韓国との関係改善も重要かと思います。その韓国、太平洋戦争中の徴用をめぐる訴訟でですね、日本企業に代わって政府傘下の財団が原告への支払いを行う案を軸に検討していることを明らかにしました。これについてどう受け止めていらっしゃるかということと、今後の対応をお伺いします。
(岸田総理)
まず中国ですが、日中関係はその様々な協力の可能性があるとともに、多くの課題や懸案にも直面しています。しかし同時に、日中両国は、地域と国際社会の平和と繁栄にとって、共に重要な責任を有する大国であると考えています。中国に対しては、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかり重ねていかなければならないと思っています。そしてその上で、共通の課題については協力をする、建設的かつ安定的な関係を構築していく。そのために、双方の努力でこの関係を進めていくこと、これが重要であると思っています。そして、サミットまでに首脳会談の予定があるかという質問ですが、先般、昨年11月行われた日中首脳会談において、首脳レベルを含め、あらゆるレベルで緊密に意思疎通をしていく、このことで一致していますが、今後の日中首脳会談について、現時点で何か具体的なものが決まっているというものはないというのがこの実状です。
そしてもう一方の質問の韓国の方ですが、日韓関係については、同じく11月行われた日韓首脳会談において、私と尹(ユン)大統領は、日韓関係の懸案の早期解決を図ることで一致し、この外交当局間の意思疎通を今継続しているところです。韓国国内の具体的な動きについて、一つ一つコメントすることは控えますが、昨年の日韓首脳会談に基づいて、首脳間の合意があり、そして関係当局、外交当局等が、今努力をしているということです。ぜひこの努力を続けてもらいたいと思っています。1965年、日韓関係は国交正常化を果たしました。以来築いてきた友好関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な形に戻し、更に発展させていくため、韓国政府と引き続き緊密に意思疎通を図っていきたいと考えています。
(エル・ティエンポ・ラティーノ紙 ラファエル・ウジョア記者)
岸田総理は、日本が今年G7の議長国、また国連安全保障理事会の非常任理事国に就任したと仰いました。国際社会が民主主義陣営と権威主義陣営に分かれ、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、米国内で存在感を増しているヒスパニックの出身である中南米諸国を始め、中間国を同志国側に取り込むことがますます重要になっています。実際、ウクライナも恐らく年内に中南米戦略を発表すると表明したと承知しています。先般の外務大臣による中南米訪問の成果を踏まえ、国際社会のリーダーである日本は、今年、米国とも連携の上、中南米諸国を中心にグローバル・サウスへの働きかけをどのように強化していくお考えでしょうか。
(岸田総理)
まず、中南米諸国は、我が国と長い信頼と友好の歴史を有しています。民主主義や人権といった、この基本的価値を共有する、大変重要なパートナーであると考えています。ウクライナ情勢をめぐる国連関連決議においても、他地域に比べても、多数の中南米諸国がロシアに対する批判の声を上げていると承知しています。
また、中南米諸国は、食料、エネルギー、また鉱物資源の重要な供給源でもあります。ウクライナ情勢を契機として、グローバル・サプライチェーンの脆さが露呈している。こうした現状において、世界からの注目が中南米諸国に集まっていると感じています。
そして御指摘ありました、今般行われました、林外務大臣によるメキシコ、エクアドル、ブラジル、そしてアルゼンチンへの訪問ですが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた協力を確認いたしました。とりわけ、本年、我が国は、ブラジルとエクアドルと共に安保理非常任理事国を務めており、国連の機能強化に向けて緊密に連携していくことを確認いたしました。また、気候変動対策や中南米地域の安定的発展に向けた協力、あるいは経済関係や交流についても強化していく、こうしたことでも一致しています。
我が国は、米国を始めとする様々な国々と共に、様々な国際課題について、中南米諸国と緊密に連携していきたいと考えています。
(産経新聞 田村記者)
内政についてお聞かせください。総理はバイデン大統領との会談でも、日本の防衛力強化や防衛費の増額の決意を表明されました。一方、23日に召集予定の通常国会に向けては、野党が防衛費の財源確保のための増税については反対し、政府に行財政改革も求めています。政府、与党としてこれにどのように対応していくお考えでしょうか。またですね、国民の中にも防衛増税についてはやはり否定的な意見がありますが、いかに理解を得ていこうという風にお考えか、お聞かせください。
(岸田総理)
まず、5年間で緊急的に防衛力を強化するにあたっては、財源がないからできないといった立場はとらず、必要な防衛力とはまず何なのか、内容について議論をし、そして合わせて予算の規模を考えました。
さらに、5年間かけて強化する防衛力は、その後も維持・強化していかなければなりません。そのためには、裏付けとなる、毎年約4兆円の安定した財源が必要になる。令和9年度以降、安定した財源が確保されなければならない、こうしたことであります。
そして、この安定的な財源として、国民の御負担をできるだけ抑えるべく、必要な財源の約4分の3については、歳出改革等の取組に加えて、特別会計からの一時的な受け入れ、また、コロナ対策予算の不用分の活用、また国有財産の売却など、あらゆる工夫を行うことを確認しました。
そして残りの4分の1について、様々な議論がありましたが、私は、内閣総理大臣として、国民の生命、暮らし、事業を守るために、防衛力を抜本的に強化していく、そのための裏付けとなる安定財源は、将来の世代に先送りすることではなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものであると考えました。
防衛力を抜本的に強化するということは、端的に言うのならば、戦闘機やミサイルを購入するということです。こうした資金をすべて未来の世代に付け回すのか、あるいは自分たちの世代も責任の一端を担うのか、これを考えた次第です。
侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を行った上で、一つの結論をしっかりまとめていくのが責任政党自民党の伝統です。今回もその伝統を背負った決定ができたと思っています。
そして、次は野党との活発な国会論戦を通じて、防衛力強化の内容、予算、財源について国民への説明を徹底していきたいと考えています。
(ザ・ヒル紙 ローラ・ケリー記者)
中国の半導体生産能力を制限するために米国が行ったように、半導体生産に関する米国の輸出規制と同じような輸出規制を貴国政府も行うのでしょうか。
(岸田総理)
はい。半導体についての御質問をいただきました。具体的な対応について今確定的に申し上げることは控えますが、日本は、先ほど説明させていただきました新しい国家安全保障戦略の中でも、経済安全保障という考え方を明記し、そして重視する、こうしたことを明らかにしています。
経済安全保障の考え方に基づいて、重要物資のサプライチェーンの強靱化などを考えていかなければならない。重要物資をいかに確保していくのか、これを考えていかなければならない、こうした考え方をより一層重視していかなければならないと思っています。
そして、御指摘の半導体、言うまでもなく経済あるいは安全保障にも関わる重要物資です。日本として、半導体についても、経済安全保障の考え方に基づいて、米国を始めとする同盟国あるいは同志国と緊密に意思疎通を図りながら、取扱いを考えていかなければならないと考えています。
こうした考え方に基づいて、半導体についても、日本として責任をもって、取扱いを考えていきたいと思っています。
●脱炭素でも実質大増税≠fDPの3%、防衛費よりも巨額 1/14
岸田文雄政権は昨年末、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開き、今後10年間の基本方針を取りまとめた。世界的なエネルギー危機のなか、東日本大震災以降、停滞していた原発について、「ベースロード(基幹)電源」「将来にわたって持続的に活用」と明記し、建て替え(リプレース)や運転期間の延長などを盛り込む英断を下した。一方で、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標達成には、官民合わせて150兆円もの巨額投資が必要で、「防衛増税」をはるかに上回る「実質大増税」が不可欠だという。これで国民生活や日本経済は維持できるのか。エネルギー政策研究の第一人者であるキヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹が緊急寄稿した。
「GDP(国内総生産)の2%」という防衛費騒動の陰で、より巨額な「GDP3%」もの費用を伴う「脱炭素」の制度が、公開の場でほとんど議論されることなく、導入されようとしている。今月末に始まる通常国会で守るべき国民の利益は何か。
岸田首相肝いりで政府が進めてきた「GX実行会議」は昨年12月22日、「GX実現に向けた基本方針」をまとめ、1月22日までの期間でパブリックコメントを募集している(https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221223011/20221223011.html)。
GXとは「脱炭素」のことだ。
政府は昨年末のわずか3カ月ぐらいの短期間に、官邸主導のGX実行会議でこの案をまとめた。しかし、審議会などの公開の場での議論はほとんどなかった。
同案では「安定・安価なエネルギー供給が最優先課題」とし、「原子力の最大限活用」を掲げた。ここまでは良い。
だが、政府は「10年間で150兆円を超えるGX投資」を実現し、脱炭素と経済成長を両立する、としている。そして、この投資を「規制・制度的措置」と政府の「投資促進策」で実現するとしている。
これは年間15兆円だから、実にGDPの3%である。防衛費よりも巨額の費用の話になっている。
そして、中身を見ると「再生可能エネルギーを大量導入する」(約31兆円〜)、「水素・アンモニアを作り利用する等」(約10兆円〜)、となっている。
これは既存技術に比べて大幅に高コストだ。政府はこれを丸抱えで進める。研究開発、社会実装を補助し、既存技術との価格差の補塡(ほてん)までする。
これでは防衛。
政府が「脱炭素と経済の両立」と言い始めたのは2009年の民主党政権にさかのぼる。当時の目玉は、太陽光発電の大量導入だった。だが、その帰結として、いま年間3兆円の再エネ賦課金の国民負担が発生し、「経済の重荷」になっている。今の政府案は、これを何倍にもして再現するものに見える。
政府はまた投資に充てるため20兆円の「GX経済移行債」を発行する。これを新設の「GX経済移行推進機構」が運営する「カーボンプライシング」制度で償還するとしている。
カーボンプライシングとは、エネルギーへの賦課金とCO2排出量取引制度で、実質的にはエネルギーへの累積20兆円の増税だ。
だが、これは論理的におかしい。政府は新しい制度が経済成長に資すると言うが、ならば一般財源の増収があるはずで、それで償還できるはずだ。これは建設国債と全く同じ話である。新たな償還財源など要らないはずだ。
読者諸賢はパブコメを
そして累積20兆円もの規模で特別会計のごときものを作り、その運営のための外郭団体である「機構」を設立するというのは問題だ。行政の本能として、この機構を維持・拡大しようとするようになる恐れがある。そのためにカーボンプライシングが強化されるならば、これも「経済の足かせ」になる。
排出量取引は欧州が先行したが、失敗の連続だった。排出権割当ての制度変更が延々と続き、不安定で経済は混乱した。行政は肥大化した。なぜ、日本が追随するのか。
一連の新しい制度を通じて、政府はエネルギーの生産・消費に関連する投資に、ことごとく関与するようだ。だが、何に投資するか政府が決めるというのは計画経済で、経済成長は望めない。
以上のように、現行の政府案には、巨額の国民の財産が関わっており、重大な問題が山積している。まずは読者諸賢に置かれてもパブコメを出してほしい。そして、月末に始まる通常国会は、公開の場で大いに議論し、制度の性急な導入を阻止すべきだ。

 

●対中国軍事同盟」露骨化した米日同盟…韓国、戦略的位置づけ狭まるか 1/15
「皆さん、こんにちは。ロイド・オースティン長官と私は、我々の仲間である林芳正外相および浜田靖一防衛相と、非常に生産的で幅広い対話を今終えました。米日同盟は非常に重要であり、70年以上にわたりインド太平洋地域の平和と安定の礎石となってきました」
11日午後6時6分から40分間ほど行われた米日外交・国防長官会談(2プラス2)を終えた後、閣僚らは速い足取りで米国務省の記者会見場であるベンジャミン・フランクリンルームに向かった。アントニー・ブリンケン米国務長官は軽い微笑を浮かべ、米日同盟の重要性を強調した後、日本が先月16日に公開した国家安全保障戦略など3文書の改定を歓迎し、「2027年までに防衛予算を2倍に増やすという日本の誓約に拍手を送る」と述べた。
続いてブリンケン長官が間髪を入れず言及したのは「中国の脅威」だった。ブリンケン長官は「中華人民共和国(PRC)は、我々と我々の同盟国・パートナー国が直面している共通の戦略的挑戦(strategic challenge)だという点で意見が一致した」と強調した。その後を継いだオースティン米国防長官は「今回の会合で、我々は『反撃能力』(敵基地攻撃能力)を確保するという日本の決定を強く支持する」とし、「この能力を使う上で両国が密接に調整することが米日同盟を強化するものだと断言する」と述べた。
第2次世界大戦以降、米国は米日同盟の役割分担について、“外部の敵”に向け米国は攻撃(矛)を担当し、日本は防衛(盾)に専念するという基本方針を維持してきた。だが、2010年代に入り東シナ海や南シナ海などで中国の軍事的脅威が高まると、2015年4日に日本は集団的自衛権を行使できるようにし、「日本の盾」が及ぼす範囲を米軍にまで拡張した。それに続き、米国はこの日、ついに日本が反撃能力という名の「攻撃能力」を持つことを認め、その力で中国の軍事的挑戦に対抗するという意向を明確にした。このような米国の要請に、林芳正外相は「中国はかつてない最大の戦略的挑戦」だとしたうえで、「自らの利益のために国際秩序を作り変えることを目指す中国の外交政策に基づく行動は、同盟及び国際社会全体にとっての深刻な懸念」だと述べて応じた。
この日の会談を通して中国に対する「戦略的認識」を共有した両国は、米日同盟の抑制力と対処力を拡大するために、安全保障について全方向的な分野で協力を強化していく予定だ。具体的には、日本が敵基地攻撃能力を通じて北朝鮮と中国を直接攻撃するために米国の情報提供が必須だ。日本経済新聞は「(日本が)反撃能力を行使する際は自衛隊と米軍が敵の軍事目標の位置情報を共有する」とし、「日米でミサイル探知から反撃まで連携する共同対処計画の策定を始める」と報じた。日本は反撃能力確保のために、射程距離が1250キロメートル以上となる米国の巡航ミサイル「トマホーク」を導入し、自衛隊が運用中の「12式地対艦誘導弾」の射程距離を1000キロメートル以上になるよう改良し、実戦配備する予定だ。
また両国は、米日安保条約の適用範囲に宇宙を含める▽サイバー上の脅威に対する協力強化▽平時から台湾に近い日本の南西諸島の基地・港湾・空港の共同使用の拡大▽沖縄県駐留の米海兵隊の『海兵沿岸連隊』(MLR)への改編(2025年まで)などにも合意した。日本は自主的に陸海空自衛隊の部隊運用を担当する「常設の統合司令部」を設置し、米軍との意思疎通を強化する。
米日同盟が中国に対抗する軍事同盟という性格を露骨化するにつれ、米日から軍事協力を深めるよう要求されている韓国の戦略的位置づけは、ますます狭まることになった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、先月28日に公開した「自由・平和・繁栄のインド太平洋戦略」で、中国を「戦略的挑戦」とみなす米国や日本とは異なり、「地域の繁栄と平和を達成するにあたって重要な協力国」と規定した。
●岸田首相の記者会見要旨 防衛増税「国会論戦通じ説明」 1/15
岸田文雄首相が14日(日本時間15日未明)、ワシントンで開いた内外記者会見の要旨は次の通り。
【冒頭】
フランス、イタリア、英国、カナダ、米国の各首脳と2国間の懸案や協力、緊迫する地域の情勢認識について率直な意見交換をした。広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に向けた議長国としての考え方を説明した。
最も大きな課題だったのはまもなく1年を迎えるロシアによるウクライナ侵略だ。欧州のみの問題ではなく国際社会全体の原則そのものへの挑戦であることを指摘した。
各国首脳とはG7広島サミットで法の支配に基づく国際秩序を堅持していく強い意思を示すべきだとの認識で一致した。厳しい対ロ制裁と強力なウクライナ支援の継続、強化も確認した。
世界のリーダーが広島に集まることは単なるG7サミットにとどまらない意味を持つ。被爆地・広島からメッセージを力強く歴史の重みをもって世界に発信したい。
長期化するウクライナ侵攻や東アジア地域の情勢、不透明感を増す世界経済の先行き、世界的なエネルギーや食糧危機などはいずれも待ったなしの喫緊の地球規模の課題だ。G7の結束と協調が従来以上に世界の動向を左右する。
【質疑】
――中国とどのように向き合いますか。G7広島サミットまでに習近平(シー・ジンピン)国家主席と首脳会談をする考えはありますか。
日中関係は様々な協力の可能性があるとともに多くの課題や懸案にも直面している。両国は地域と国際社会の平和と繁栄にとってともに重要な責任を有する大国だ。中国には主張すべきは主張して責任ある行動を求めつつ、諸懸案を含め対話を重ねなければならない。その上で共通の課題について協力し、建設的かつ安定的な関係を構築していく。双方の努力で関係を進めていくことが重要だ。2022年11月の日中首脳会談で首脳レベルを含めあらゆるレベルで緊密に意思疎通をしていくことで一致した。次の日中首脳会談について現時点で具体的に決まっているものはない。
――韓国政府は元徴用工問題を巡り韓国の財団が日本企業に代わり賠償金相当の額を原告に支払う解決案を示しました。
22年11月の日韓首脳会談で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と日韓関係の懸案の早期解決をはかることで一致した。外交当局間の意思疎通を継続している。韓国国内の具体的な動きについて一つ一つコメントすることは控えるが、22年の首脳会談に基づき首脳間の合意があり外交当局などが今努力をしている。この努力を是非続けてもらいたい。1965年に国交正常化を果たして以来築いてきた友好関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な形に戻して発展させるため韓国政府と引き続き緊密に意思疎通をはかりたい。
――国際社会の指導国家としてどのようにグローバルサウス(南半球を中心とする途上国)に連携を訴えていく考えですか。
日本と中南米諸国は信頼と友好の歴史をもつ。民主主義や人権といった基本的価値を共有する大変重要なパートナーだ。ウクライナ情勢を巡る国連関連の決議でも多数の中南米諸国がロシアへ批判の声をあげている。中南米諸国は食料やエネルギー鉱物資源の重要な供給源でもある。ウクライナ情勢を契機として国際的なサプライチェーンのもろさが露呈している。世界の注目が中南米諸国に集まっている。
――野党が防衛費増額の財源となる増税について反対しています。
5年間で緊急的に防衛力を強化するにあたり、財源がないからできない立場は取らなかった。必要な防衛力とは何か内容とあわせて予算の規模を考えた。防衛力は将来も維持・強化しなければならず、裏付けとなる毎年4兆円ほどの安定した財源が27年度以降確保されなければならない。十分な議論の上で結論をまとめるのが自民党の伝統だ。今回も伝統を背負った決定ができた。次は野党との活発な国会論戦を通じ、防衛力強化の内容や予算、財源について国民への説明を徹底したい。
――米国は中国の半導体生産能力を制限するため規制をしました。日本も米国と同様の輸出規制をしますか。
具体的な対応について確定的に申し上げることは控える。経済安保の考え方に基づき、重要物資のサプライチェーンの強靱化や確保策を考えなければならない。半導体は経済や安全保障にも関わる重要物資だ。日本として経済安保の考え方に基づき米国をはじめとする同盟国らと緊密に意思疎通をはかりながら、責任を持って取り扱いを考えていかなければならない。
●日米首脳会談 対中緊張緩和を第一に 1/15
岸田文雄首相はバイデン米大統領とホワイトハウスで会談し、防衛力強化や防衛費増額の方針を説明した。バイデン氏は賛意を示し、日米同盟の深化への決意を共有。対中国を念頭に連携強化で一致した。
ただし反撃能力(敵基地攻撃能力)保有をはじめ日本の政策転換を巡っては、国内議論が尽くされたとは言い難い。にもかかわらず日米間で既定方針とされることは、国民や国会を軽視することにつながりかねない。防衛力強化に偏ることなく、中国との緊張緩和に向けて外交努力を第一に取り組むべきだ。
両首脳は会談後、共同声明を発表。台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を指摘したほか、ロシアのウクライナ侵攻については「強く反対する」とした。力による勢力拡大を図る中ロへの対抗姿勢を鮮明にしたと言える。
バイデン政権が最大の競争相手と位置付けるのは、急速な軍事力拡大を進める中国。日本の防衛力強化を評価する背景には、台湾有事が起きれば、もはや米国だけでは対抗できないとの危機感があるとされる。
首脳会談に先立ち開かれた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、日本の反撃能力を巡り「効果的な運用へ協力を深化させる」と合意。反撃対象に関する情報収集などは米国への依存が避けられず、自衛隊と米軍の一体化が加速しそうだ。米国の軍事行動にいや応なく巻き込まれる可能性は捨てきれない。
日米両国に求められるのは、抑止力強化だけでない。共同声明も「両岸問題の平和的解決を促す」と記している。中国との意思疎通を図り、地域の緊張を紛争に発展させないための取り組みが重要になる。
同盟関係にあるとはいえ、日米間では利害が異なる場合もあり得る。独自の平和外交など日本は主体的な戦略を維持する必要性を忘れてはならない。
日本が反撃能力として導入する米国製巡航ミサイル「トマホーク」の配備は2026年度の予定。中国の核・ミサイル力増強は急速に進んでいる。反撃能力保有が果てしない軍拡競争につながる恐れもある。
政府は、防衛費を倍増させ、国内総生産(GDP)比2%とする方針。裏付けとなる財源は歳出改革で捻出するほか、法人税、所得税、たばこ税の増税も行うとする。果たして増税に国民の理解が得られるだろうか。
防衛費には本来、安定した恒久財源が必要だ。国民の理解を得た上で、国民が負担に耐えられる範囲にとどめる努力が欠かせない。安易に国債を発行することは、財政悪化をさらに深刻化させるだけとなりかねず、あってはならない。
23日に開会見込みの通常国会で政府、与野党は徹底的に議論を深めるべきだ。岸田首相は国民の声に耳を傾け、自ら説明を尽くす責任がある。
●岸田首相、防衛増税「国会論戦通じ国民への説明徹底」 米で会見  1/15
訪米中の岸田文雄首相は14日(日本時間15日未明)、ワシントンで記者会見し、防衛費増額に伴う増税について、23日から始まる通常国会で説明する考えを示した。「野党との活発な国会論戦を通じて防衛力強化の内容、予算、財源について、国民への説明を徹底していきたい」と述べた。防衛力強化に向け「裏付けとなる安定財源は将来の世代に先送りすることではなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものだ」と理解を求めた。
5月に広島で開催する主要7カ国首脳会議(G7サミット)に関しては「77年間核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは人類の生存のために決して許されない。被爆地広島からこうしたメッセージを力強く、歴史の重みを持って世界に発信したい」と決意を述べた。「アジアで唯一のG7メンバーである日本で開催されるサミットだからこそ、インド太平洋の地域情勢もしっかりと議論する必要がある。『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた一層の協力も確認したい」とした。
米国が主導する半導体の対中輸出規制を巡る対応に関しては「経済安全保障の考え方に基づいて、米国をはじめとする同盟国、同志国と緊密に意思疎通を図りながら取り扱いを考えていかなければならない」と述べた。
今回のフランス、イタリア、英国、カナダ、米国の5カ国歴訪の成果については「G7が結束して法の支配に基づく国際秩序を守り抜くべく連携していくことについて改めて確認できた」と語った。今回、ドイツのショルツ首相とは日程の都合で会えなかったとし「できるだけ早く意見交換の機会を持ちたい」とした。
●リーマン危機を予見した経済学者が懸念「世界はゆっくりと大災禍に向かう」 1/15
2008年の世界金融危機を予言したことで知られる経済学者ヌリエル・ルービニが、英経済紙に登場。“破滅博士”の異名を持つルービニが、景気低迷や気候変動といった脅威にさらされる世界の行く末を大胆に予測し、歯に衣着せぬ論調で警鐘を鳴らす。
「現在の不況は深刻なうえに長引く」
深夜便でロンドンに到着したヌリエル・ルービニは、憂うつだった。
レストラン「ノブ」の席が予約できなかったからでも、経済学上の懸念のためでもない。いま世界で起きている新旧の問題すべてが、彼を憂うつにしているのだ。
「世界はゆっくりと大災禍に向かっています。以前は存在しなかった新しく大きな脅威がいくつも生まれていますが、人類はそれにほとんど対応できていません」とルービニは言う。
2006年、住宅価格の暴落により、70%の確率でアメリカは経済不況に陥るとルービニは警告した。当初、彼は変人扱いされ、この予測は無視されていたが、2008年にリーマンショックに端を発した世界金融危機が起きるとその予測の正しさが証明された。
彼はにこりともせず、断固として悲観的だ。それを目の当たりにすると、普通の人間が物事に対処する方法とルービニのそれは、明らかに違うとわかる。
昨今、悲観論はいたるところで聞かれるが、ルービニの主張の暗さはそのなかでも抜きん出ている。彼の著書『MEGATHREATS(メガスレット)』(日本経済新聞出版)には、インフレ、AI(人工知能)、気候変動、第三次世界大戦など、ありとあらゆるリスクが登場する。こうした問題の積み重ねが、最悪の状況を引き起こすだろうと彼は主張する。
本書でルービニは「もっと強い警戒心を持つべきだ」と書く。状況を好転させるには、運と、国際社会の相互協力と、前例のないレベルの経済成長が必要だと彼は言う。
ルービニは、政策立案者たちを過小評価しているのではないかという疑問が湧く。2020年にコロナ禍が始まったとき、「各国政府は大がかりな財政政策を打ち出さないだろう」と彼は予測した。だが、実際にはその反対だった。各国の中央銀行は、インフレ抑制ために本格的に金利を上げているが、ルービニはそうした対応を評価していない。
「政策立案者や金融機関の対応は、体系的に間違っています。まず彼らは、『インフレは一時的なものだ』と言います。今回のインフレの場合は当初、単なる不運か政策の失敗によるものと見られていました」
こうした見解は、ロシアのウクライナ侵攻や、中国のゼロコロナ政策によって物資の供給が停滞する状況を念頭に置いての発言だった。世のなかは「不況が半年も続いているなんて、一大事だ」と騒いでいるが、ルービニはこう釘をさす。
「いまの不況は、短期間では終わりません。その影響は深刻で、しかも長引くでしょう」
ルービニはさらに悲観的な話を続ける。
「アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)や欧州中央銀行、ウォール・ストリートやシティ・オブ・ロンドンの金融機関では、今回のインフレは『ソフトランディング(景気を後退させない程度に、インフレを抑制すること)するだろう』と見ています。しかしながら、ここ60年のアメリカの金融史で、インフレ率が5%以上かつ失業率が5%以下だったとき、金利を上げてソフトランディングしたことはありません。現在のインフレ率は7.1%、失業率は3.7%です。景気が急激に悪化してもおかしくない状況です」
欧州の状況は、さらに悪いとルービニは言う。
「イギリスはすでに不景気です。インフレ率は10%以上で、英中央銀行ですら少なくとも5四半期はマイナスの経済成長になると予測しています。そのうえ、イギリスにとってブレグジット(EU離脱)は自殺行為でした。それもスタグフレーションの一因となるでしょう」
1999年、世界の債務の合計は世界全体のGDPの約220%を占めていた。それが2019年には約350%に増加している。だから各国の中央銀行は金利を充分に上げられないだろう。
金融バブルがいつ来るかを突き止めるため、経済学者たちは歴史的なパターンに着目することが多く、今回も例外ではない。だが、現在の危機的な状況においては、脅威がおよぶ範囲が異なる。
この75年が「例外」だった
「私は1958年にトルコで生まれ、テヘラン、さらにイスラエル、イタリアへと移り住みました」とルービニは言う。彼の父親はミラノで絨毯の輸入業を営み、のちに家族全員でアメリカに移住した。ルービニは自身を世界市民だと考える。
現在起きている危機を、彼は次々にまくしたてる。
「かつて大国間の戦争を心配したでしょうか? まったくしていません。1970年代に緊張緩和があり、ニクソンが中国を訪問して、核戦争の危機もゼロになりました。気候変動の心配をしていたでしょうか? 気候変動なんて言葉は聞いたこともありませんでした。パンデミックを心配したでしょうか? 新型コロナ前に最後にパンデミックが起きたのは、1918年でした。
AIが人間の仕事を奪うと心配したでしょうか? 脱グローバル化や貿易戦争を心配したでしょうか? 答えはノーです。極右・極左のポピュリスト政党が権力を持つかもしれないと心配したでしょうか? 過去には、現在ほどの分断はありませんでした。深刻な景気後退や大不況を心配したでしょうか? もちろんしていません。1970年代には、スタグフレーションを経験しましたが、その後は『大いなる安定期』(経済指標の変動が小さく金融市場全体が安定していた期間)に入りました。経済危機を心配したでしょうか? 私は経済危機なんて言葉、聞いたこともありませんでした」
ルービニはさらに続ける。
「現在の状況は特別に見えるかもしれませんが、それは過去と比べてのことです。これまでの75年は、比較的平和で、世界は繁栄し続けました。しかしながら、それ以前は、干ばつ、戦争、流行り病、大量殺戮などが起きていました。この75年が例外だったのです。それが基準になるわけではありません」
ルービニは、ハエをハエ捕り紙で捕るように、悪いニュースを集めてくる。気候変動への対策が、あまりにもお粗末だと彼は指摘する。
「COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)で合意した取り決めをすべて実践しても、気温は2.4度も上がります。すべてを実践しなければ3度の上昇に向かいます。これは本当に恐ろしい数字です。アメリカでは国民の半分が気候変動を信じていないか、陰謀だと思っていますし、共和党が政権をとれば、いままでの取り組みも無に帰するでしょう」
老人も若者も身勝手すぎるのだとルービニは言う。
「世界中で排出される二酸化炭素の多くは、畜産業に由来します。私たちはビーガンになるべきですが、そうはなっていません。私も3ヵ月挑戦して、挫折しました」
ルービニは、AIがホワイトカラーの仕事を奪うという主張も曲げない。
「私が生業としているFEDウォッチャー(金融政策を中心に、米連邦準備制度理事会を観察・分析する専門家)が、完全に時代遅れになるのは時間の問題です。10年後、AIは理事全員の演説とあらゆる経済データを分析し、人間の有能なFEDウォッチャーよりも正確な予測を下すでしょう」
彼の悲観論を鎮めるには、何が有効なのだろうか。「テクノロジーです」とルービニは言う。彼は核融合でのエネルギー生成には肯定的だが、「あと15年から20年かかり、そのときには私たちは破滅していますね」と言う。
ルービニに対しては、彼が「メガスレット(大いなる脅威)」と呼ぶもの同士が、よい方向に作用しあう可能性を無視しているという批判もある。たとえば、気候変動によって移動を強いられた人たちが、欧米に移住し、高齢化社会を救うかもしれない。だが彼はこれによって、仕事の奪い合いが起きると考える。
いま「安全な投資先」は
「壊れた時計も一日2回は正しい時刻を指す」──それが自分に対する周囲の評判だとルービニは言う。彼は2020年に「米国とイランの戦争が起きる可能性が高い」と予測していた。これについて「常に正確に将来を予測できる人はいません」と彼は述べる。
世界金融危機を予測したのは、すばらしい偉業だ。彼のチームには一時期、60人の研究員が所属していたが、薄給で長時間労働だったことから、2016年に解散したという。ルービニは当時をこう振り返る。
「その頃は人生をまったく楽しめませんでした。シンガポールの正午は、ニューヨークの真夜中ですからね。医者には『あなたはタバコも酒もドラッグもやっていないけど、このペースで出張を続けていたら心臓発作か脳卒中を起こしますよ』と言われました。いまよりさらに太っていましたし」
ここ10年、ルービニは収入の20%を貯金している。彼は現在、アラブ首長国連邦の都市アブダビに拠点を置く投資会社アトラス・キャピタルでアセット・マネジャーとして働いているが、高インフレのせいで通常のヘッジ戦略はうまくいっていないという。
「2022年は誰もが、株主資本より事業債で資産を失いました。それにこのインフレの先行きを予測するのが、難しくなっています」
だから、投資家は別の安全な投資先を探す必要がある。「米国短期国債かインフレ連動債、金が選択肢となるでしょう」とルービニ。金利の上昇から、不動産価格は下落している。中央銀行は及び腰になるだろうから「土地は良いヘッジです」と彼は付け加えるが、ただし条件があるという。
「気候変動に耐えられる物件のみです。アメリカの国土の半分は気候変動によって破壊されるでしょうから、私たちはすべての国のすべての建物のデータをチェックし、どの不動産投資信託がこの点で信頼できるかを確認しています」
ルービニがロンドンのイベントに登壇した際、司会者は彼を「破滅博士」と呼んだ。ルービニはこのニックネームが嫌いで、むしろ「リアリスト博士」と呼ばれたいと思っている。その理由として、彼が2015年に「ギリシャはEUを離脱しないだろう」と予測し、2016年には「中国はソフトランディングする」と述べていたことを引き合いに出した。「私は世論よりもずっと楽天的なんです」と彼は言う。
だが、この取材中にルービニが口にしたのは不吉な話題ばかりだった。「アメリカが中国への半導体の輸入を大幅に規制した2022年10月に、第三次世界大戦が始まっていたのだ」と彼は主張する。貿易で生まれる敵対心は広範囲に影響するし、まもなくあらゆるものに半導体が使われるようになるからだ。炭酸水のボトルを指さしながら、「これにも5Gチップが埋め込まれるでしょうね」と彼は言う。
世界は発展すると予測する人は、いまはいない。「次の10年は素晴らしい時代になるという本を書く人を、私は知りません」とルービニも同調する。そんな人がもしいたら、いわゆる逆張りだろう。
ルービニの悲観論は、彼の人生に影を落としているのだろうか。64歳の彼には子供はいない。
「子供はほしくありません」とルービニは言うと、さまざまな脅威を羅列した後にこう続けた。「もしこうした危機が起きたら、ディストピア的世界に生きるより、死にたいですね」
ルービニはパーティー好きという評判だが、旅行は疲れると言う。
「旅行中はちゃんと食べられないし、運動もできないし、睡眠時間も減るし、瞑想する余裕もなくなります。ニューヨークにいるときのほうが、ずっとほっとします」
コロナ禍で彼は料理を始めた。毎週金曜には安息日のディナーに20人ほどを招き、人生の意味やその他の問題について議論する。これが「リアリストの、人生最上の喜び」のひとつだそうだ。
別れ際にルービニは私に言った。
「今日私に会ったことで、あなたが失望していないといいんだが。私たちはきっと生き残ります。私は自分だけでなく他の人についても、心配しているんです」  
●自民・麻生副総裁、少子化の最大の原因を“晩婚化”との見方を示す 1/15
岸田総理大臣が今年の主要テーマに少子化対策を掲げる中、自民党の麻生副総裁は少子化の最大の原因は晩婚化との見方を示した。
「(少子化の)一番大きな理由は出産するときの女性の年齢が高齢化しているからです」(自民党・麻生太郎副総裁)
麻生副総裁は講演で、女性の初婚年齢が「今は30才で普通」だと指摘し、複数のこどもを出産するには「体力的な問題があるのかも知れない」と指摘した。
そのうえで、少子高齢化で「医療や介護の費用が増え負担が重くなる」と強調し、「中長期的には日本の最大の問題」だと危機感を示した。
●少子化対策の拡充で“増税” 反対56% 1/15
NNNと読売新聞が今月13日から15日まで行った世論調査で、少子化対策を大幅に拡充するための財源として増税を含めた国民負担が生じることについては「反対」が56%で「賛成」の38%を上回りました。
岸田首相が示した、少子化対策を大幅に拡充する方針については「評価する」が58%、「評価しない」が34%でした。

 

●サミット手応えも効果見えず 政権浮揚になおハードル 欧米歴訪終える 1/16
岸田文雄首相は15日、欧米5カ国歴訪を終えた。
5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向け、各国首脳と連携を確認。自身が重視する核軍縮のメッセージを発信するための地ならしに努めた。ただ、近く開幕する長丁場の通常国会は不安要素が多い。支持率が低迷する政権の反転につなげられるか、道筋は見えていない。
首相は帰国を前に米ワシントンで内外記者会見に臨み、「国際社会を主導する責任の重さと日本に対する期待の大きさを強く感じる歴訪だった」と振り返った。
4年7カ月の外相経験を持つ首相は外交を得意分野とする。同時に、今後の政治日程を見渡すと、首相が議長として仕切る広島サミットは「政権浮揚の数少ないチャンス」(政府筋)。準備に万全を期し、機運を盛り上げるため、今年最初の外遊先をメンバー国の仏伊英加米5カ国とし、9日未明に羽田空港をたった。
各首脳会談では、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、G7が結束して「核兵器による威嚇とその使用」「力による一方的な現状変更の試み」に断固反対すべきだ、とする考えを表明。核軍縮をサミットで議論することに「理解と支持」を得た。バイデン米大統領とは「核なき世界」に向けた協力でも一致した。
歴訪のもう一つの目的は、軍事的威圧を強める中国へのけん制だった。5カ国の首脳に対し、「アジアで開くサミットだからインド太平洋について議論したい」と伝達。安全保障協力の強化も打ち出した。
具体的には、自衛隊と英軍の相互訪問時の法的地位を定めた円滑化協定(RAA)に署名。仏伊両国とは外務・防衛当局間の連携推進を決めた。ウクライナ危機に比べて東アジア安保への関心が薄い欧州勢を引き寄せておく狙いがある。
歴訪のハイライトとなった日米首脳会談では、日本の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を踏まえた一体運用の強化を確認。政府高官は「だいたい目的を果たした」と語る。
ただ、G7サミット開催は5月19〜21日。それまで首相の前には難関が続く。
今月23日召集の通常国会では、防衛力強化のための増税、「異次元の少子化対策」に必要な財源、原発政策の転換を巡り、野党が追及ののろしを上げる。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題はなおくすぶり、閣僚の不祥事などが新たに持ち上がる可能性もある。展開次第で4月の統一地方選や、同時期の実施が見込まれる衆院の補欠選挙に影響が及ぶ。
自民党内では首相の求心力に陰りが見える。反主流派に位置付けられる菅義偉前首相は「派閥政治を引きずっている」と公然と批判。外交で手応えをつかんだ首相だが、苦しい日々が待ち構える。
●「平和予算ODAを軍事に使える」国民が知らない“安保3文書”恐るべき全貌 1/16
日本政府が2022年12月16日に閣議決定した、安全保障関連の3文書。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記したことが注目を浴びているが、実はあまり気付かれていない重要で大きな改定が他にもある。それは、政府開発援助(ODA)の使い道に関する大変革だ。
敵基地攻撃能力の保有の明記以外に注目すべきはODA使途の変革
革命的転換であった「安全保障3文書」の、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有をダイヤモンド・オンライン『「日本は世界屈指の防衛能力を手に入れる」シン安保戦略の衝撃の中身』で詳しく述べた。そして今回は、「安保3文書」のもう一つの大転換である「政府開発援助(ODA)の使途変革」について述べていく。
日本政府は2022年12月16日、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を同時に改定、閣議決定した。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記したことが注目を浴びているが、実は日本国内も周辺国、そしてメディアでさえも気付いていない重要で大きな改定が他にもある。
これまで政府開発援助(ODA)の予算だったものの一部が、軍事目的に使われ得る――。その大変革の扉を開く文言が盛り込まれているのだ。その文言を紹介するとともに、それが意味するところについて防衛政策に詳しい自民党中堅議員の言葉を引用しながら解説する。
安保3文書の改定 米主要メディアはどう報じたか
まず、日本政府の「安保3文書」閣議決定についての各国のメディア報道を見ていこう。これから紹介する報道を通じて、「安保3文書」がどのような安保上の意味を持つのかが理解できるはずだ。たかが他国の閣議決定ともいえる話についての報道の「分厚さ」から、各国のこの問題に関する関心の高さがうかがえるといえよう。
米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(22年12月16日)は次のように報じている。
「日本は中国を安全保障上の最大の課題とし、他国を攻撃可能なミサイル購入費を含む軍事費の大幅な引き上げを発表した。日本にとって、第2次世界大戦以降において、平和主義からの最も大きな転換の一つとなる」
「中国を脅威と呼ぶかについて与党で議論した後、日本政府は中国を『これまでにない最大の戦略的な挑戦』と表現することに落ち着いた。この文言は、最近発表された米政府の国防戦略と重なる。(中略)米国との協力関係の強化は安保3文書のテーマである」
平和主義からの転換、中国への踏み込んだ表現が評価を受けたようだ。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」(22年12月16日)は、次のように指摘している。
「何十年もの間、日本を平和主義的な制約のない、いわゆる普通の国にしようとする努力は、主に日本の強力な右翼の関心事だった。日本の軍事力に対する憲法の制限が、日本の自衛や日本が世界情勢の中での適切な役割を果たすことを妨げてきたと主張してきた」
「しかし今月、岸田氏が防衛倍増計画を発表すると、その後の議論の焦点は計画が認められるべきかどうかではなく、財源をどう調達するかに当てられた」
おそらくロシアによる侵略行為を目の当たりにした国民にとっては、防衛力の強化は当然の前提であり、その是非には焦点が当たらなかったということであろう。
米紙「ワシントン・ポスト」(22年12月16日)は、「日本は軍備を強化する、これは良いことだ」という見出しで、次のように中国を非難するとともに日本を絶賛している。
「米国とその民主主義同盟国が中国の侵略を封じ込めるのであれば、日本の防衛費倍増は必要なことだ。(中略)米国人は日本の勇気に拍手を送るべきだ。米国は効果的なアジア全域における防衛構想の基幹国であり続けるが、単独でその重荷を背負うことはできない。(中略)中国は憤慨するだろうが、非難されるべきは中国自身だ」
安保3文書の改定 韓国・中国メディアはどう報じたか
韓国メディアはどうだろう。韓国3大保守紙の「東亜日報」(22年12月17日)は「(日本の)専守防衛の原則は77年ぶりの大転換を迎えた。今回改正された安保戦略は、平和憲法9条を完全に無力化する内容だ」とした。
「聯合ニュース」(22年12月17日)は、「自衛隊は米国に対する攻撃が発生した時も、敵国のミサイル基地等を攻撃できるようになる。自衛隊の朝鮮半島介入は、日帝侵略と植民地支配に対するトラウマがある韓国には想像もできないことだ。いかなる場合であれ、韓国の同意なしに日本または日米の決定だけで朝鮮半島で日本が軍事行動をすることがあってはならない」とした。
やはり同じ民主国家であっても、お隣の韓国は、日本への警戒が極めて高いようだ。
中国の人民日報グループにある「環球時報」(22年12月17日)は、以下のように報道をしている。
「注目に値するのは、『防衛計画大綱』を『国家防衛戦略』に改称したことであり、日本が『平和憲法』の理念から乖離し、『防衛力』を高めて国益を追求する戦略的意図が表れている。反撃能力の保有は、平和憲法が定めた『専守防衛』を突破し、日本がもはや平和憲法の束縛を受けるつもりはなく、軍事的により攻撃的になり、政治・軍事大国になることを追求する意図を示している」
台湾への侵略意図を隠そうともせず、日米から仮想敵国のような扱いを受けている中国は、今回の改定に際して、批判的な立場に回るのは当然であろう。
各国の報道に共通するのは、平和憲法を日本がいよいよ捨てたという認識だろう。財源論に議論が集中した日本ではそのような話が一つも盛り上がっていないが、周辺国には大きなインパクトを与えたようだ。
反撃能力と聞いて、日本人は「第二撃」(相手が撃ってきたことに対する撃ち返し)を想像するだろう。しかし、今回の「反撃能力」とは、相手国がミサイル攻撃に着手した時点で国際法上は「攻撃」であり、実際の被害が出なくても敵基地を攻撃することができることを意味する。平和憲法を捨てたと思われても仕方がないぐらいの重大な閣議決定であるということだ。
ODA予算の使途に大変革をもたらす 目立たないが重要な文言とは?
しかし、今回の「安保3文書」の閣議決定において、日本国内も周辺国も、そしてメディアでさえも気付いていない大きな改定がある。ほとんどの人が気付いていないようだ。
それは、「国家安全保障戦略」の「VIー2ー(1)ーキ」の項目「ODAを始めとする国際協力の戦略的な活用」の最後の段落にひっそりと記されていることである。以下、当該文言を引用する。
「同志国との安全保障上の協力を深化させるために、開発途上国の経済社会開発等を目的としたODAとは別に、同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上を目的として、同志国に対して、装備品・物資の提供やインフラの整備等を行う、軍等が裨益者となる新たな協力の枠組みを設ける。これは、総合的な防衛体制の強化のための取組の一つである」(※「裨益者」とは、受益者のこと)
霞が関の官僚による作文なのか、この文からは意味が判然としない部分もある。どういう意味を持つのかについて、防衛政策に詳しい自民党中堅議員に背景を含めて解説してもらった。
「この非ODAの安保協力は、外務省にとって10年以上にもわたる悲願がやっと成就した形です。実施体制をつくるのすらこれからですが、これまで日本に対して非常にリクエストが多かったのが安保面での援助・協力です」
「例えば、途上国にはたくさんある軍民共用の飛行場や港の補修などはこれまでODAではできませんでした。他にも軍用病院の補修・建設、レーダー、巡視艇の供与などに対するニーズが多かったです。少しでも軍事利用の可能性があると“純血主義”のODAでは実施できず、支援する日本も支援される側にとっても使い勝手が悪いものになっていました」
「非ODAとはあるものの、実態としては一緒に運用されます。三菱電機製のレーダーを欲しいと思っている国はたくさんあります。これらを無償であげるのです。この条文、本当はもっと踏み込んだものでしたが、公明党から物言いがつき、少し後退した表現となりました」
このODAと一体的に運用される非ODAは、来年に実施体制を構築し、どんどん大きな規模の予算になっていくという。大きな枠組みで考えれば、これまでODAの予算だったものの一部が、今後は軍事目的にも使われるという大変革なのである。
ウクライナ戦争を機に大きく変わった世界の安全保障環境だが、日本政府は防衛戦略について予算を増やすだけでなく、その位置付けや役割を根本から変える戦略を打ち出した。これが台湾有事を未然に防ぎ、東アジアの平和と繁栄につながることを願ってやまない。
●政府の管理下から消えた3200億円 イラクで汚職、首相が返還訴え 1/16
世紀の窃盗事件――。そう呼ばれるスキャンダルがイラクを揺るがしている。日本円で3200億円以上の現金が政府の管理下にある口座から消えたのだ。
調査報告書を入手したAP通信や中東のメディアによると、事件は公務員や実業家らの広範なネットワークによって画策されていたという。合計金額は、2021年のイラクの国家予算の3%弱に相当する約3兆7千億ディナールだった。
現金は、2021年9月から22年8月の約1年間、国営銀行の支店から五つの企業に渡っていた。引き出された口座には、政府と取引がある企業などが税金の支払いのために一定の金額を預けていた。関わった5社のうち3社は、引き出しが始まる数週間前に設立されたばかりだった。
容疑者の一人で実業家の男は22年10月、首都バグダッドの空港からプライベート機で国外に逃亡しようとしていたところを拘束された。日本円で1千億円以上を受け取ったと供述しているという。一方、税務当局者らも拘束されている。
「この件に関わる容疑者に自首と、盗んだ金を返すことを求める」。スダニ首相は22年11月27日、回収できた大量の札束を前に演説し、不正の撲滅を訴えた。だが、総額の10%も回収できていないという。
各政治勢力の対立が長引くイラクでは昨年10月、総選挙から1年を経てようやく新政権が発足した。世界屈指の産油国だが、汚職が国家運営の障害となっている。
●「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が… 1/16
財務省はまた否定的だが
防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く国債を返済する仕組みである「60年償還ルール」を見直す議論を始める。
自民党の萩生田光一政調会長は、自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。償還年数の延長や償還ルールの廃止は財源捻出になる。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と同調している。
この動きを後押しするのは、自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表は中村裕之、顧問城内実)。同連盟はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。
一方、政府は消極的だ。松野博一官房長官は1月12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。その背後には財務省があり、財政規律の観点から見直しに否定的だ。
60年償還ルールとはどのようなものでなぜ作られたのか。緩和や撤廃をすると問題は生じるのか。
筆者は、今から30年ほど前の大蔵省(現・財務省)の役人時代に、国債整理基金の担当をしたことがある。その当時、海外の国債管理担当者に対して、「日本では減債基金があるので国債が信用されている」と言った。それに対し、海外の先進国から「うちの国は減債基金がかつてあったものの今はないが、なぜ日本にはあるのか」「借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものか」と反論され、まともな再反論が出来ずに参ったことがある。まったく彼らの言うとおりだからだ。
よく考えてみたら、日本でも民間会社は社債を発行しているが、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でもわかる話だ。
異例の「減債基金」存在の理由
民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたが、今ではなくなっている。
さらに、金利環境に応じて買入償却するなど国債全体をいかに効率的に管理するかが重要なので、金融のプロを国債管理で配置し、債務管理庁などのプロ組織にしている。
減債基金は、債券関係の用語だ。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とあるが、国債に限らず地方債にもある。国債の減債基金を「国債整理基金」という。
60年償還ルールは、減債基金のためにどのように繰り入れるかを示すものだ。建設国債の場合、社会インフラの構築のために発行されるが、その耐用年数が60年程度なので、それに合わせて60年償還とされている。減債基金への毎年の繰入額は国債残高の60分の1で1.6%ということになる。
それではなぜ日本では減債基金が存在しているのだろうか。地方は国の国債整理基金があるからというだろう。では国の国債整理基金はなぜあるのか。建前としては、国債の償還を円滑に行い、国債の信認を保つためという。これは筆者が30年前に言わされた公式見解だ。しかし、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからだ。
まず、国債費のうち債務償還費(国債整理基金への繰入)といって、毎年10兆円程度以上(2023年度予算で16.4兆円)の予算の水増しが可能になる。本来であれば、債務償還費は不要なので、その分国債発行額を減らせる。少なくとも日本以外の先進国ではみなそうなっている。しかし、日本では国債発行額が膨らむが、財務省にとって財政危機を煽れるメリットがある。
また、国債金利の市場金利は低いにもかかわらず、予算上の積算金利は市場金利より高めに設定し、国債費のうち利払費を水増ししている。こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなくそう目くじらをたてることもないが、この点からも、必要以上に国債発行額を膨らまして、財政危機を煽るという悪い面が目立っている。
的外れの反論
総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとする。筆者が総務省にいた2007年頃、公募地方債金利を自由化したが、総務省官僚は猛烈な抵抗を示した。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものだ。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのだが、それは違うだろう。
いずれにしても、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在している。大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困るだろう。
国際基準からの正解は、まず60年償還ルールを廃止してプロの債務管理庁を創設することだ。
60年償還ルールを廃止すると国債の信任が失われると財務省はいうが、他国の例から的外れだ。また、過去に1.6%の債務償還費を計上しなかったことも、1982〜89年、1993〜95年と11回もあるが、国債の信任という問題になっていない。
60年債務償還ルールを持ちだすと、財務省からは、アメリカでは債務上限ルールがあり、ドイツでは国債発行を例外とするルールがあるという、やや的外れの反論もある。それらに対し、筆者は、アメリカの債務上限はあまりにバカげていて、毎年のように政治取引に使われており、参考とすべき例でない、ドイツについては欧州の国は債務をEU機関に振り替えられるので全体として見れば緩く、一部だけを切り取りのは不適切と再反論してきた。財務省は筆者が当時の大蔵省見解を言った30年前からまったく進化していないのは驚く。
国で60年償還ルール、減債基金を見直し・廃止すると地方まで波及する。それは地方財政に無用な制約をなくして財政余力が高まることを意味する。
地方の場合、減債基金残高は2〜3兆円であるが、そのほかに満期一括償還に備えた積立金が10兆円程度ある。国の償還ルール変更により、地方もおそらく10数兆円程度の財政余裕になるだろう。
国と地方をあわせて30兆円程度の財源になり得る。これは令和の埋蔵金だ。4月に統一地方選があるので、国の償還ルールの見直しを是非とも政治課題にすべきだ。
●日本の防衛政策の変化、民意はどこへ行くのか 1/16
ロシアによるウクライナ侵攻の終わりが見えないまま新しい年を迎えた。新年の挨拶では、今年はよいことがあるように祈るというのが定番だが、多くの日本人は2023年を安全保障と経済の両面で大きな不安を抱える中で迎えることとなった。ロシアがウクライナに侵攻したのと同じように、中国が台湾を攻撃する可能性があるという認識が日本における防衛力増強の根拠となっている。そして、昨年12月に岸田文雄政権はこれからの5年間で防衛費を倍増し、GDP比2%にすること、敵国の基地を攻撃する能力を保持することを柱とする新しい安全保障戦略を決定した。
防衛力強化自体には、国民の支持が存在する。岸田政権の政策転換を受けて日本経済新聞が昨年12月末に行った世論調査では、防衛力強化について支持が55%、不支持が36%だった。倍増させる防衛費でどのような装備をそろえ、自衛隊の編成をどのように変えていくかという具体的な議論は、まだない。東アジアにおける緊張の高まりに漠然とした不安を抱く国民にとって、巨額の防衛費はお守りのようなものだろう。
国民が本気で日本の安全保障について憂慮し、防衛力強化を自分の問題として受け止めるならば、そのための費用負担についても国民的合意ができるはずである。しかし、現実に防衛費の財源探しを始めると、国民の反応は複雑となる。民間放送のTBSが1月初めに行った世論調査によれば、防衛費増額について、賛成が39%、反対が48%と、先に紹介した日本経済新聞の調査に比べて反対論が急増している。その理由は、昨年末の政府、与党の政策論議の中で、防衛費の財源として近い将来に1兆円の増税を行うことが決定されたことへの反発が考えられる。TBSの調査では、防衛費増額のための増税について、71%が反対と答え、賛成はわずか22%だった。
防衛政策をめぐる民意の動揺を見ると、日本国民が直面している政策課題について冷静な議論を行うことが難しいと感じる。政治とは国民に共通する困難や課題を協力して解決するという活動である。今の日本人にとって、人口の急速な減少、経済的停滞と科学技術の遅れ、安全保障環境の険悪化など難問が山積している。他方、日本の財政赤字はGDPの2倍を超え、先進国で最悪である。また、昨年末以来、国債の金利が上昇し始め、日本銀行による国債購入と低金利誘導という政策が限界に突き当たっている兆候が表れている。いくらでも国債を発行できる時代はもうすぐ終わるのだろう。
この時代、未来に不安を持つことは自然な心理だと思う。課題についてイメージだけで受け止め、漠然とした不安を抱くという思考停止状態が続けば、日本の凋落が続くばかりである。人口減少であれ、経済的停滞であれ、問題には原因がある。不安を招いている原因を正確に認識し、その上で対策について費用・効果の両面から吟味し、合意された政策に限りある資金を投入するという意思決定が今の日本には必要である。
日本の古い俳句に、「幽霊の正体見たり枯れ尾花(枯れ尾花とは枯れたススキのこと)」というものがある。我々を怖がらせているものの正体を見据えるには知性が必要である。知や文化を軽んじる日本の政策は根拠のない恐怖を蔓延させ、政府は不安な気分に乗じて効果不明の政策を進めようとしている。
民主主義の歴史をさかのぼれば、増税によって懐を痛められることに対する反発が民主主義拡大の契機であった。防衛増税への反発が大きいことは、とりあえず健全な民意ということはできる。しかし、それが民主主義を進化するための突破口になるのかどうかは不明である。私たちが若者や子供たちにどのような社会を残したいのか、そのためにどれだけのコストを払う決意があるのかが問われている。
●米海軍作戦部長、「日本の原子力潜水艦」に言及 1/16
15日、米海軍研究所が運営する軍事専門メディア「USNI News」によると、マイケル・ギルディ作戦部長が最近オンラインフォーラムで「日本が原子力潜水艦を建造しようとする決定は、数年間にわたり政治的および財政的に国家的次元の支援が求められる大きなステップ」と述べた。
ギルディ氏は米国・英国・オーストラリア間で2021年9月に締結した安全保障同盟「AUKUS(オーカス)」を通じて豪政府が2040年代までに攻撃型原子力潜水艦を建造することができるだろうとし、日本がAUKUSと類似の形で原子力潜水艦の確保に出る可能性があることを示唆した。
日本の原子力潜水艦保有論に弾みがつくことになれば、韓国海軍の念願である原子力潜水艦確保にも影響を与える見通しだ。
ギルディ氏は韓国SBS(ソウル放送)のインタビューでは、米海軍艦艇が西海(ソヘ、黄海)に進入して合同演習を行う可能性も示唆した。
●「東京の電車賃は安い」はウソである…乗り換えのたびに「初乗り運賃」 1/16
東京では鉄道会社の相互乗り入れが進み、移動が便利になった。日本女子大学の細川幸一教授は「利便性は向上したのに、東京の鉄道運賃は高い。鉄道事業者の料金体系はバラバラで、利用者は乗り換えるたびに新たな運賃を各社に支払わなければいけない」という――。
東京の鉄道運賃が高いと言える理由
首都圏の鉄道を利用していると急速にバリアフリーが進んでいることを実感する。エレベーターやエスカレーターの設置が進み、お年寄りや障害のある人の鉄道利用もだいぶ容易になった。
また、相互乗り入れも増え、乗り換えが不要になるケースも増えた。例えば、東京メトロ副都心線の開通で西武池袋線・東武東上線方面と東京メトロ、東急東横線、みなとみらい線(横浜高速鉄道)が一本でつながった。
一方で、日本の鉄道運賃で問題となるのは、運賃のバリアだ。
「失われた30年」で日本は物価の安い国という評価が定着してきた。円安もあって海外の旅行者が日本の物価安を口にすることが多い。しかし、それでも彼らの多くが口にするのは、日本の交通運賃の高さだ。
特に地域観光に必需の交通手段と言える鉄道運賃の高さを指摘する旅行者は多い。乗り換えるたびに新たな運賃を取られるという不満が中心だ。
まずはフランスのパリ、韓国のソウルの運賃を見てほしい。東京の運賃がいかに重い負担になっているかが分かる。
フランス・パリは「ゾーン制」を採用
日本人が海外の都市を旅行するときに交通運賃の安さを実感することも多いだろう。パリの鉄道には区間運賃がなく、ゾーン別の共通運賃だ。
しかも、メトロ、路面電車(トラム)、バス、郊外へ行きの電車RER線、国鉄(SNCF)線すべての公共交通がこの共通運賃で利用可能となっている。
1回の移動ごとに購入する切符が1.9ユーロ(約260円)。この切符が10枚セットになったカルネを購入すると14.5ユーロで、1枚当たり1.45ユーロ(約200円)。日本の都市交通の初乗り運賃程度でパリ中心部(メトロ全線とゾーン1のパリ20区すべての交通機関を網羅)を移動できる。一定時間内であれば乗り継ぎもこの切符で可能だ(ただし、メトロ/バス、メトロ/トラム、RER/バス等には制約がある)。
またフリーパスも充実している。このパスを利用すればすべての交通機関が乗り降り自由だ。
パリとその郊外はゾーンで区間が区切られている。パリの中心部をゾーン1とし郊外に向けて放射線状にゾーン1、2、3、4、5というように広がっている。パリ市内はゾーン1、2のフリーパスで移動可能だ。
1日フリーパスは「ゾーン1ー2」が7.5ユーロ(約1050円)だ。1週間用、1カ月用のフリーパスもあり、さらに格安で定期券代わりになる。日本の定期券にあたる1カ月用のフリーパスはゾーン1〜5すべて利用できて、75.2ユーロ(約1万520円)だ。
韓国・ソウルも共通運賃制でより安く
韓国・ソウルでは李明博元大統領がソウル市長だった頃、都市交通の大改革を行い、料金制度が一新された。
首都圏電鉄という広域電鉄の概念でソウル首都圏の鉄道事業者が網羅され、韓国鉄道公社・ソウル交通公社・仁川交通公社・空港鉄道等が運営する路線の運賃は、通しで計算される通算運賃制度を導入している。
ソウル市内の鉄道、バスの運賃支払いが一元化され、ICカードである「T-money」を利用すると初乗り料金1250ウォン(約130円)で10キロメートルまで乗車でき、バスと地下鉄、あるいはバスとバスの乗り換え等の際にも10キロメートル以内なら追加料金はない。10キロメートルを超えると、5キロメートルごとに100ウォン(約11円)が加算される。
すなわち、鉄道だけでなく、バス等も含めてゾーン制あるいは通算運賃となっているのだ。
これらでは事業者ごとの自立採算制をとらずに運輸連合体を設立し、各社からの事業収入を運輸連合でいったんプールしたうえで一定の基準で参加事業者に再配分する共通運賃制度を導入する施策をとっている。
先述のパリの場合も、パリ運輸組合に地下鉄、バス、フランス国鉄など50社余りが加入しており、乗継割引制度という概念ではなく、ゾーン制の共通運賃だ。
複数の会社路線を利用すれば運賃が跳ね上がる
日本の首都圏を例に取ると、鉄道網はかなり充実しており利便性も高い。一鉄道会社線だけを利用する場合は、北総鉄道、東葉高速鉄道などの一部の高額運賃路線を除けば、安く移動できる場合も多い。
一方で事業者数がかなり多く、それぞれが独立採算で経営しているため、目的地まで複数の事業者路線をまたがって利用すると、それぞれの鉄道会社の初乗り運賃を含む運賃が加算され割高となる。東京でも「フリーパス」の名のキップはあるが、利用範囲は限定的だし、定期券も同様だ。
都内に路線を持つ旅客鉄道会社はいくつあるのだろうか。列記してみよう。
JR東日本、JR東海(新幹線のみ)、東京地下鉄(東京メトロ)、東京都交通局(都営地下鉄等)、東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄、京王電鉄、小田急電鉄、東急電鉄、京浜急行、東京モノレール、ゆりかもめ、東京臨海高速鉄道、多摩都市モノレール、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、北総鉄道、埼玉高速鉄道(都内では短距離)。
以上18社もある。首都圏に広げればさらに鉄道会社数は増える。2社間の短い区間同士等では数十円程度の乗継割引運賃制度はあるが、基本、各社の初乗り運賃を含む運賃が単純加算されるから、複数会社線を利用しての移動は高額となる。
例えば、前述した西武鉄道の飯能駅からみなとみらい線の元町・中華街駅への交通運賃で考えてみたい。
電車を利用すると、西武線から東京メトロ副都心線、東急東横線の直通運転を経て、みなとみらい線に乗り入れる。このルートでは、西武、東京メトロ、東急、みなとみらいの4社線を乗り換えなしで利用できるが、運賃は480円+250円+280円+220円の計1230円となる。
東京にはパリやソウルのような異なる事業者の路線を乗り継いでも高額にならないような制度はない。直通運転でバリアフリーは格段に進んだが、運賃は各社に支払わなければならず、運賃のバリアはそのままだ。
東京メトロと都営地下鉄はいまもバラバラ
乗継割引制度は一部の区間で適用されているが、割引率が高いのは東京メトロと都営地下鉄を利用した場合の70円割引(普通運賃の場合の「連絡特殊割引普通旅客運賃」)だ。
両社とも都内の地下鉄同士で、利用者から統合すべしという意見がことさら強い。そのため比較的大きな乗継割引額となっている。経営統合などを求める声は大きく、猪瀬直樹都知事時代、東京オリンピックを控えた頃、議論は盛んになった。
2017年6月29日、東京メトロの山村明義社長が就任会見で、「両社の乗り継ぎ時には70円の運賃割引をしているが、どちらかだけを利用した場合に比べて割高になる。将来は乗り継いでもどちらか1社だけの利用とみなし、初乗りの徴収を一度だけにするしくみを検討している」という趣旨の発言をしたが、現在まで割引額の拡大は行われていない。オリンピックが無観客開催となり、「喉元過ぎれば……」の状態ということだろうか。
そもそも日本ではJR、私鉄、地下鉄を当たり前のように区別する発想があるが、JRも民営化したし、地下鉄も多くが地下を走っているというだけで、この区分に意味があるのだろうか。
しかも、小田急バス、西武バス、京急バスなど、鉄道運営会社のグループ会社が経営するバス会社も数多いが、これらのバスと鉄道を乗り継いでも運賃は別々だ(一部地方都市では割引制度がある)。鉄道の出発駅、到着駅でバス利用も必要だと交通運賃はさらに高額になるのが日本の実情だ。
日本は鉄道会社ごとに運賃を支払うため割高に…
問題の根本は、国策として交通網の社会資本をどのように位置づけるかという点にある。
例えば、高速道路などの一部の有料道路を除き、道路網は全国的に整備され、誰でも無料で利用できる。郵便はハガキや封筒などは全国一律料金であり、遠隔地・僻地などコストがかかる郵送でも都市部の近場の郵送でも一律料金だ。
これはユニバーサルサービスと言われる。社会全体で均一に維持され、誰もが等しく受益できる公共的なサービスのことだ。
この考え自体も時代とともに揺らいではいるが、鉄道などの交通網についてはこうした考えが貧弱だ。
JR各社はもともと日本国有鉄道(国鉄)であったがゆえに運賃は全国一律、通し運賃となっている(幹線・地方交通線の運賃差はあり、運賃以外の特急料金、グリーン料金等については異なる)が、私鉄を含めた運賃体系は前述のように各社が独立採算で鉄道事業を行っているため、運賃水準はバラバラで、乗り換えごとに運賃が加算されてしまう。
海外では運賃の共通化から、無料化へ
海外に目を転じれば、運賃の共通化のみならず、無料化まで実施されている。現在、世界の100以上の都市で公共交通が無料で利用できる。そのうちおよそ30がフランスの都市であるという。なぜそのようなことが可能なのだろうか。
フランスでは、都市内の公共交通は、国の方針に基づいて各都市が方針を定め、運営している。基本となる国の方針は各種法律によって定められているが、国内交通基本法(LOTI)、交通法典(Code des transports)が重要法だ。
国内交通基本法は1982年に制定され、現在フランスの公共交通運営理念の基軸とも言うべき、交通権の保障を明文化している。交通権とは、「利用しやすい施設・設備で、一定以上のクオリティの交通を、利用しやすい料金で誰もが享受して移動できる権利」を指す。その後、国内交通基本法の内容の多くは、2010年制定の交通法典に移行されている(交通経済研究所・石島佳代氏の論文による)。
フランスにおける運営費用に関しては都市によって多少の割合の違いはあるものの、運賃収入のほかに国・地方行政による費用負担や、都市圏内の企業から徴収される交通負担金(Versement transport/VT)が充てられるのが特徴だ。フランスの都市内交通公共料金運営支出の割合は以下の通りだ(2013年全国平均)。
フランスで重視される「交通権」
運賃収入による収支カバー率は全国平均(2013年)で全体の17.3%にすぎないが、フランスにおいてこの収支状況は不採算とは考えられていないという。そもそも運賃収入は全体の収入の10%〜40%ほどと考えた上で運賃水準が設定され、それを念頭に置いて交通負担金の税率や国・行政の費用負担額が決められている。
「公共交通料金の財政補助状況が教育などと並列して説明されることが多かったりする現状を考えると、フランスの公共交通の運賃は、日本における医療費の患者負担分や義務教育期間中の教育費のような位置づけとなっていることが窺われる」(石島氏)という。
日本では交通権という発想がそもそも乏しいし、鉄道運営費に関しては一般的な公的財政支援もない。また、フランスの交通負担金というような制度もない。
この制度は興味深い。交通負担金制度は、都市自治体が域内の事業所(企業および公的機関・学校や病院など)に対して、従業員の給与を課税ベースとして都市公共交通の財源を課税する地方税制度である。交通負担金は事実上の法定目的税であり、定められた条件の範囲内で、自治体が自らの裁量で徴税するか否か、および税率の決定を行うことができる(南聡一郎氏の論文による)。
SDGs、持続可能性が叫ばれ、高齢者の自動車運転事故が社会問題にもなっている。そうした中で環境負荷が少なく、比較的安全な鉄道網をどう維持し、バスも含めて公共交通手段の利便性を少子高齢化が進む今日、どのように図るかは大きな政治課題だろう。
大学生の貧困も近年話題になっているが、学生と話していると就活時の交通運賃の高さを指摘する声も多い。日頃は通学定期券で通学する学生も就活であちこちに移動するときは定期券が使えず、高額な運賃負担を強いられるからだ。
東京の運賃は時代遅れになっている
日本の鉄道を中心とした交通政策は、民間が行う収益事業であることを基本としている。
国交省が、企業の開業や運営方針を尊重した上で、総括原価方式により独立採算の中で適正利潤を確保できように運賃認可を行う。フランスのように公共性を重視して事業体制や運営方針を決める仕組みではない。
路線拡張などにあたっては新たな鉄道会社がタケノコのように設立され、役人の天下り先になっている側面もある。東京臨海高速鉄道の代表取締役社長は元東京都収用委員会事務局長、代表取締役専務は元東京都交通局建設工務部長、ゆりかもめの代表取締役社長は元東京都港湾局技監だ。これも東京の交通運賃が高い一因と言えるだろう。
本稿では、東京の都市交通と運賃について取り上げたが、地方の交通はその維持が重要な課題になっている。特に国鉄の分割民営化で誕生したJR北海道は経営難が指摘されている。だが、JR各社がそれぞれ独立して経営を行う今日、高収益を上げるJR東海などがJR北海道を直接財政支援することは困難だ。
交通運賃政策は、都市交通利用者の負担軽減に加え、地方の公共交通の維持についても、政府が中心になってデザインし直す必要があるのではないだろうか。 例えば、全国一律に1回乗車当たり10円程度のユニバーサル料金を運賃に加えて徴収し、全国の鉄道網維持の財源にするとか、上下分離方式(線路などの施設は公有とし、それを利用して鉄道会社が運行する)などもアイデアとしてはあるが、実質的議論や動きはない。不採算路線をどうするかという議論は必要であるが、このままでは日本の近代化のなかで国民の財産として築かれてきた全国的鉄道網がなし崩し的に崩壊する。
岸田総理は「異次元の少子化対策」を表明したが、公共交通運賃政策についても既存の枠組みにとらわれない異次元の政策表明を望みたい。
●税制改正大綱の評価と課題 所得税、課税ベースの拡大を 1/16
2023年度の税制改正大綱を巡る議論の焦点は、防衛費増額の財源確保に向けた増税の是非だった。政府は23年度から5年間の防衛費総額を約43兆円とする方針を決めた。27年度には約4兆円の追加財源が必要になり、うち1兆円強を増税で賄うとした。税目は法人税、所得税、たばこ税だ。
法人税には税率4〜4.5%の付加税を課して7千億〜8千億円を確保する方針だ。所得税については事実上、東日本大震災の復興財源である復興特別所得税の一部を回す。同税は13年から25年間、所得税額に2.1%を上乗せする形で徴収されてきたが、税率を1%引き下げ、その分を新たな付加税として課す一方、復興財源の確保のため課税期間を延長する。所得税およびたばこ税の増税によりそれぞれ2千億円程度の財源を賄う方針だが、増税時期は「24年以降の適切な時期」として明記しなかった。

今回の増税には反対論が根強い。建設国債が社会インフラ整備に充てられるのと同様、防衛予算を「次の世代に祖国を残す予算」として国債も恒常的な財源とすべきだとの意見もある。公共事業はデフレギャップを埋める経済対策としても実施されてきた。防衛費を公共事業と同一視して積極財政論的に正当化することは、その増加に歯止めがかからなくなる懸念がある。
「政府の借金は民間の借金とは違う」と指摘されるが、それは政府が債務を返済しなくてよいことを意味しない。政府が民間と異なるのは、軍事権と課税権が与えられていることだ。家計や企業のように比較的短期に借金返済が求められないのは、政府が長期では課税権を行使し元利償還に充てられるからである。今後も増税をしないまま、つまり課税権を放棄した形で国債を発行し続けるのは持続可能でなく、市場からの信認を損ないかねない。
世界的に金利は上昇しており、日本だけが低金利を維持するのは難しいかもしれない。英国ではトラス前首相が減税を主張した途端に、財政赤字拡大への懸念から国債利回りの上昇に直面した。防衛の分野では最近、弾丸の補充など戦闘の継続能力を指す「継戦能力」が重視されるが、財政の持続性も有事に欠かせない。
ところが今回の税制改正では増税時期の決定は先延ばしされた。その増税案にしても法人税への付加税を中心とするが、法人税収は景気に左右されやすく不安定だ。コロナ禍の中でも法人税収は堅調だったが、今後も続く保証はない。従って防衛の充実に安定的に取り組むには、法人税は「安定した財源」とは言い難い。加えて、課税所得2400万円以下の中小企業は負担が増えないなど、一部の企業に負担が偏っている。
政府は増税以外で確保する約3兆円について、既存の予算配分を見直す歳出改革により捻出したり、税収の上振れや年度内に支出されなかった決算剰余金で充当したりするほか、「防衛力強化資金」を新設して国有財産売却などの税外収入を繰り入れるという。
だがコロナ禍前は決算ベースで100兆円台だった歳出が140兆円規模に膨らんでいる。非常時に拡大した財政をそのまま引き継いで防衛費に充てるなら、一度広げた風呂敷(財政)が続くことになる。また、使途が決まっていない予備費を予算に計上し、実際に支出しなければ決算剰余金は生じるが、これは当初から防衛費に充てていたことになるのではないか。
防衛費の増加は一時的でなく、将来にわたり継続すると見込まれる。恒常的な支出増には安定的な財源が求められる。防衛費に関して政府の有識者会議は「防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていく」ことを強調する。もっとも、当初25年間だった復興増税の期限を延長することで、現在の負担を増やすことなく財源を捻出する。結局、将来の納税者に負担が先送りされた格好だ。増税の実施時期が24年よりも遅れるほど、その先送りが進む。
経済状況を踏まえれば個人の負担を当面増やせないとの声もあるが、将来の経済状況が今より良好とは限らない。新たな感染症や大規模災害などの非常時は今後も発生しうる。赤字国債であれ増税期間の延長であれ、コロナ禍や安全保障など現在のリスクを将来世代に転嫁する一方、われわれは将来に生じるリスクを分担しているわけではない。将来世代が自身のリスクに対処できるだけの財政余力を残すためにも、現在のリスクは現世代が負うべきだ。さもなければ将来に危機が生じたとき、将来世代が財政的に窮しかねない。

具体的な防衛費増の内容より先に増税を打ち出すことには「順番が違う」との反発もある。ただ、国民の負担があればこそ歳出の質や効果が真摯に問われる。むしろ赤字国債は防衛費への国民自身の当事者意識も希薄化させてしまいかねない。近年「規模ありき」の補正予算が常態化しているのも、赤字国債の発行を前提にしているからだろう。増税の痛みを伴う分、所得税への付加税ならば増税への政府の説明責任が問われるという意味で、防衛費への規律付けになりうる。
また、防衛は国民の生命と財産を守るものとされるが、財産には格差がある。守られることで、より利益を得る所得の高い人に応分の負担を求める所得税が応益原則にもかなうだろう。
ただし、現行の所得税の財源調達機能は決して高くない。政府は年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が低下する不公平、いわゆる「1億円の壁」の批判を受け、分離課税される配当・譲渡益を含む合計所得金額が30億円を超える富裕層を対象に課税を強化する仕組みを25年から適用する方向だ。だが合計所得1億円あたりの負担率26.52%を維持するよう1億円超の所得層に増税しても、税収増は2200億円程度にすぎない(表1参照)。
   表1 ・ 図2
加えて所得税の課税ベースは狭い。給与所得などの「総合課税対象となる収入」が約270兆円に対し、給与所得控除や公的年金等控除などの所得控除が手厚く、さらに基礎控除など人的控除や社会保険料控除を含む所得控除後の課税所得は120兆円まで減る(図2参照)。この結果、税率1%あたりの税収は1兆2千億円で、税率1%あたり約2兆8千億円の税収を上げる消費税の半分以下だ。
当面は現行税制の下で付加税などで課税強化するとしても、これを契機に給与所得控除や公的年金等控除を抑えるなど所得控除全般を見直して、所得税の課税ベース自体の拡大を図るべきだろう。いざ増税の必要に迫られたとき、税収増効果を高められる。
コロナ禍や安全保障などの非常時は平時の構造の不備を露呈させる。以前から政府税制調査会などでも所得税の「再分配機能の回復」に加えて「財源調達機能の向上」が求められてきた。所得税の不備(狭い課税ベース)が防衛費の財源確保を困難にしかねないとすれば、税負担の公平性に配慮しつつも、その是正に取り組むことが喫緊の課題だ。
●増税、二番煎じ…岸田首相が唱える「異次元の少子化対策」は不安だらけ 1/16
2022年は参院選が実施され、自民党・公明党の連立与党が勝利しました。これにより、岸田文雄首相の政権運営が安定化したことは言うまでもありません。そのほかに昨年はロシアによるウクライナ侵攻が起き、その影響によって原油高となりました。円安も加速し、物価高となって私たちの生活を圧迫しています。
2023年は、どんな1年になるのでしょうか? 首相官邸取材歴が約15年のフリーランスライター・カメラマンの小川裕夫が、岸田政権の新たな1年間を予測します。
「異次元の少子化対策」に注目
2023年1月4日、仕事始めとして三重県の伊勢神宮を参拝した岸田文雄首相。これは歴代の首相が毎年恒例としているもので、岸田首相は2022年も伊勢神宮を参拝しています。参拝後、現地で年頭会見を実施。これも毎年恒例です。ただ、例年なら翌日に首相官邸でも年頭記者会見を実施しますが、今年は首相官邸での年頭会見がありませんでした。
参拝後の記者会見は、時間が短いうえに、形式的な話が大半を占めました。そうしたこともあり、2023年に岸田政権が重点的と考えている政策が明確に伝わりませんでした。それでも年頭記者会見で、岸田首相は3つの柱となる政策を述べています。そのうちの2つは以前から口にしている政策でした。
目新しかったのは、2番目に触れた「異次元の少子化対策」です。この政策が、今年の岸田内閣の最重要課題になることは間違いありません。なぜなら、2023年4月には「こども家庭庁」が発足するからです。
「こども家庭庁」は少子化を改善できるのか
岸田首相は、異次元の少子化対策として、児童手当を中心に経済的支援を強化、学童保育や病児保育を含め、幼児教育や保育サービスの量・質の両面から強化するとともに伴走型支援、産後ケア、一時預かりなどすべての子育て家庭を対象としたサービスの拡充、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実を挙げました。
岸田首相の言葉だけを見ても、いまいち何をするのか理解できません。あくまで岸田首相は少子化対策の柱となる大枠について言及しているので、具体的な政策内容はこども家庭庁の発足以降に詰めていくと思われます。
しかし、こども家庭庁が発足する以前から、同じような少子化対策は取り組まれていました。にもかかわらず、日本の少子化は依然として深刻です。少子化が改善する気配すらありません。こども家庭庁は従前の少子化対策を深化させなければならず、生半可では国民は納得しないはずです。
どんな取り組みをするのか?
岸田首相が言及したように2022年の出生数は80万人を割り込んでいます。もはや少子化対策は待ったなしの状況にあり、本来ならこども家庭庁の発足を悠長に待っている時間はありません。できることは、すぐにやらなければならない状況です。
例えば、政府は2023年4月から出産一時金を42万円から50万円へと引き上げることを決めました。予算の都合もあるのでしょうが、もっとタイミングを早めて2023年1月から開始することも可能だったはずです。
実際、菅義偉首相は内閣が発足した際の所信表明で不妊治療の保険適用に言及し、不妊治療の保険適用は2022年4月から始まりました。菅内閣が発足したのは2020年9月ですが、保険適用のスキームを決めるまでには時間がかかる。その間も出産適齢期の女性たちは不妊治療を続けなければならない。待ったなしだから、保険適用のスキームが決まるまでの間は不妊治療費助成の増額で対処するとし、2021年1月から不妊治療費助成額は増額されています。
やる気がないと言われても仕方がない遅さ
そうしたことからも、岸田首相が宣言した異次元の少子化対策はやる気がないと言われても仕方がない遅さです。もっと言えば、出産一時金の増額は2022年の出産分に遡って適用もできるはずです。すでに出産を終えた人に対して、出産一時金を増額しても意味がないのでは?と思うかもしれません。
しかし、東京都における出産費用は50万円を超えています(公立病院に限る。厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)」)。42万円では出産時に不足してしまうのです。さかのぼって増額した出産一時金を支給することで、「あと1人、子どもを産みたい」という気持ちを抱いてもらうことができれば、出生率の改善につながります。
また、岸田首相は子育て支援策として2023年1月以降に出産した世帯に対して、妊娠・出産に関する用品や産前産後ケアに活用できる10万円分のクーポンを配布することも表明(自治体の判断で現金給付も可)。
これは東京都が2021年4月より独自に取り組んでいる「出産応援事業 赤ちゃんファースト」の全国版といえるものです。岸田内閣が打ち出した10万円クーポンは東京都の二番煎じなので、支援の遅さが際立ちました。
出産を控える家庭の経済事情を理解していない
また、出産を控える家庭の経済事情をまるで理解していないことも浮き彫りになりました。なぜなら、妊娠・出産に関する用品は出産前に買い揃えておくからです。つまり、出産前に出費が重なるわけです。出産前にクーポンを配布しなければ、経済的な負担は軽減されません。経済的な負担が軽減されなければ、出生数を増やすための政策としては意味がありません。
福岡県福岡市は、2022年12月に出産した人に対して一律10万円を支給する「出産・子育て応援交付金制度」をスタートさせています。しかも、制度開始前に出産した人でも、2022年中の出産ならさかのぼって交付金が支給されることになっています。
そして、福岡市の交付金は妊娠時に5万円、出産時に5万円といった具合に段階的に支給するので、交付金を使って妊娠・出産に関する用品を出産前に買い揃えておくことができます。こうした交付金で出産をサポートすることは重要な政策ですが、スキームがまずければ、その効果は限定的になってしまうのです。
岸田首相が言及した2022年に年間出生数が80万人を割り込んだ理由のひとつに、2020年からつづく新型コロナウイルスの影響があります。コロナ禍は長期間にわたって日本社会全体を閉塞感で覆いました。
若者が経済的に困窮していれば…
もちろん、コロナだけが少子化の原因ではありません。コロナ以前から日本経済の停滞は深刻で、先の参院選でも多くの候補者が「日本は30年にわたって賃金が増えていない」ことを問題視していました。
30年間も賃金が増えない一方で、物価は確実に上がっています。実質的に可処分所得は減り、生活から余裕を奪うのです。特に自分の生活で精一杯という若者が増えていることは深刻な問題と受け止めなければなりません。
大学進学のために1000万円近い奨学金を借り、卒業後にそれを返済していく。経済が右肩上がりを続けてきた時代なら、そうした奨学金を返済することも可能でした。けれども、近年は非正規採用が増え、正規雇用は大学新卒でも狭き門となっています。
自己責任と片付けることは簡単なものの、若者が経済的に困窮していれば、当然ながら結婚を考えることはできません。結婚しても、子供をもうけようという気にはなれないでしょう。若年層を経済的困窮から救うことは、少子化対策にもつながるのです。
足立区が始めた「返済不要の奨学金制度」
実際、文部科学省は2022年の有識者会議で、返済不要とされる給付型奨学金の拡充を打ち出しました。実は、すでに返済不要の奨学金制度を決めた自治体があります。東京都足立区です。
これまでにも足立区は、独自に貸与型奨学金制度を導入していました。しかし、貸与型奨学金を利用する学生は年を追うごとに減少していきます。その背景には、先述したように大学を卒業しても返済できる見込みが薄いことがあります。返せるメドが立たないから、最初から借りない、というわけです。
そうした事情を勘案し、足立区は2023年1月に給付型奨学金を創設。貸与型から返済不要の給付型へと切り替えました。同制度は始まったばかりですが、年間40人に奨学金を支給することを目標にしています。
この奨学金を受け取った学生が、大学を卒業するのは4年後です。その後に就職、もしくは大学院進学するわけですが、いずれにしても給付型奨学金が創設されたからといって少子化がすぐに改善に向かうわけではありません。
私立大学から公立大学に鞍替えするパターンも
それでも大学卒業後に約1000万円の返済金を背負わされることがなくなります。そうした経済的負担が軽減されることで、就職後してから数年後に家庭を持とうと考える若者が増える効果は期待できそうです。足立区とは違った形で、進学時の経済的負担を軽減する取り組みをしている自治体もあります。
近年、地方都市では私立大学を公立大学へと切り替える事例が増えているのです。当初、私立大学を公立大学へと切り替える政策は過疎化対策が主眼にありました。18歳の高校卒業時に、進学を選択した若者たちの多くは県外へ転出します。大学が多く立地する東京・大阪・名古屋などに若者が流出してしまうのです。 
大学を卒業した後に戻ってきてくれるなら、自治体側は4年間辛抱すればいいだけです。とはいえ、いったん進学で地元を離れると、そのまま進学先の都市で就職してしまうケースが多いわけです。なんとか地元にとどまってもらい、地元で就職してもらう……そんな思いから私立大学を公立化していったのです。
地方自治体の活性化につながるか
公立化された大学は全国にたくさんあります。2016年には京都府福知山市の成美大が福知山公立大学に改称する形で公立化し、2017年には長野大学が同じ大学名のまま公立化、2022年にも徳山大学が周南公立大学に改称して公立化しています。
私立大学の公立化は、先述したように地元に残ってもらうという過疎化対策から始まりました。また、経営危機に直面した大学を救済するという目的もありました。私立大学の公立化は、そうした思惑とは別に副次的な効果をもたらしていきます。
東京・名古屋・大阪に進学すれば、通常は地元を離れて1人暮らしをすることになります。1人暮らしをするには、大学の授業料のほかにアパート代・食費・光熱費など年間100万円前後の費用が余分に発生します。その費用を捻出できないために進学を諦めていた若者も存在するでしょう。
地元に、しかも授業料が比較的に安価な公立大学があるなら、その大学へ進学するという選択が生まれたのです。進学にかかる経済的な費用を軽減することは、間接的に少子化対策にもつながります。子育て支援のためにお金を配ることを否定するわけではありませんが、こうした経済的負担を軽減する取り組みによって少子化を解消することもできます。
消費税増税に疑問符が
少子化対策は、政府よりも地方自治体の方が先行しています。岸田首相が「異次元の少子化対策」を宣言するなら、まずは先を行っている地方自治体の少子化対策を模倣することから始めることが理想です。良い政策は、国の施策であっても地方自治体の施策であっても関係ありません。最終的に国全体が富めばいいのです。
ところが前幹事長の甘利明衆議院議員が「異次元の少子化対策」の財源捻出のために消費税を増税する考えがあることをBS番組で言及しました。消費税は、その名の通り消費にかかる税金です。一般的に、高齢者層よりも若年層のほうが飲食や買い物など消費を伴う行動が多い傾向にあります。
つまり、消費税の増税により、ますます若者は可処分所得が減り、それが結婚や出産を控える傾向を強くし、出生率を下げるには十分の効果を発揮することは間違いありません。これでは何のための少子化対策なのか疑問です。本末転倒でしかありません。
岸田首相が宣言した「異次元の少子化対策」は、いかなるものになるのか? 2023年は、それを見極める1年になるかもしれません。  
●木原官房副長官が大炎上! 米での岸田首相会見中に“エラソーな態度” 1/16
あれでは批判が殺到するのも当然だ。自民党の木原誠二官房副長官が炎上している。
きっかけは、朝日新聞がツイッターにアップした一本の動画だ。訪米した岸田首相が、ホワイトハウスの前に立ちながらマスコミ対応している場面を公開した。
首脳会談を終えた岸田首相が「バイデン大統領自らホワイトハウス正面玄関に出迎えていただいた……」などと話している時、あろうことか、木原氏が、ズボンのポケットに手を突っ込みながら、尊大な態度で首相の話を聞いている姿がバッチリ映っているのだ。
岸田首相が「個人的な関係を深めることができた」「日米関係の連携を確認できた」と語るたびに、まるで部下を見守るようにウンウンとうなずく様子も映っている。
●防衛費「増税以外の財源」検討へ 自民党が“特命委”準備会合 1/16
岸田首相が打ち出した「防衛費増額のための増税」をめぐり、自民党は増税以外の財源を検討する特命委員会の準備会合を開催しました。
会合には特命委員会の委員長をつとめる萩生田政調会長らが出席し、増税以外の財源として歳出改革や決算剰余金などを検討することを確認しました。
自民党内に「増税」への根強い反対論がある中、出席者からは「最初から増税という政府の説明は間違っている」といった厳しい意見が出ました。
自民党・西田参院議員「最初から増税するような話になったりしてるのは、ちょっと財務省が、政府側の説明がね、良くないということを含め、様々な問題提起があった」
また、国の借金である国債について、一部を借り換えながら60年間かけて安定的な返済を目指す「60年償還ルール」の見直しも議論していくということです。
「60年償還ルール」をめぐっては、松野官房長官が先週、「財政に対する市場の信認を損ねかねない」などとして、見直しに懸念を示していました。出席者からは「党内で議論をする前に政府が否定するのは、ケンカを売っている」などの批判が出たということです。
特命委員会は19日に第一回の会合を開く予定です。

 

●「自分の国は自分で守る」、戦後最大の転換を米国に示した岸田首相 1/17
岸田首相とバイデン米大統領が1月13日、首脳会談に臨んだ。早稲田大学の中林美恵子教授は「日本が示した安全保障政策の転換は戦後最大」と評価する。そのポイントは「自分の国は自分で守る」こと。日米はこの先に、統合抑止の実現を描く。
――岸田文雄首相とジョー・バイデン米大統領が1月13日、ホワイトハウスで首脳会談を行いました。今回の会談をどう評価しますか。
中林美恵子・早稲田大学教授(以下、中林氏):これからお話しする3つの意味で重要な会談だったと思います。第1のポイントは、日本の安全保障政策が大きく変わりつつあることを示したこと。第2は米国の大きな変化を示していること。そして第3は、5月に予定される主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)への道筋をつけたことです。
吉田ドクトリンから脱却する戦後最大の変化
第1について、この変化の大きさは戦後最大と言っても過言ではありません。大きく捉えれば、これまでの安保政策は吉田ドクトリン*を継承するものでした。日本が攻撃を受けたときには「米国が守ってくれる」「米国が攻撃してくれる」という考えが根底にありました。盾と矛の役割で言えば、日本は盾の役割だけを担う。米国の軍事力に頼ってきたわけです。
*=吉田茂首相(当時)が進めた軽武装、経済重視の路線。安全保障は米国に依存することになった
これが「自分の国は自分で守る」に変わりました。この変化を後押ししたのは、ロシアによるウクライナ侵攻です。ロシアが隣国を侵略。同じく強権国家である中国も同様の行為に及びかねない。すなわち、日本の周辺でウクライナ侵攻のようなことが起こりかねない。仮にそうなったら、ウクライナのように、自分の国は自分で守るべきだ。そうしなければ、どこの国も助けてくれない――。日本の国民の間でこうした理解が進みました。岸田政権はこの機を捉え転換を明確にしました。
それが顕著に表れているのは防衛費の増額です。2027年度にGDP(国内総生産)比2%にする方針を打ち出し、2023年度予算案で過去最大の約6兆8000億円を盛り込みました。加えて、反撃能力やアクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)の導入も、この変化の一環です。
――反撃能力とアクティブサイバー防衛は、自衛隊が取る行動の作用が相手国内に及ぶため、専守防衛という基本政策との兼ね合いが議論の的になってきました。
中林氏:その議論を乗り越えて決断したのは重要です。
専守防衛の骨子は「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使」すること。つまり、日本から先制攻撃はしないことです。日本にその意図はありません。ミサイルの発射拠点をたたくことは「自衛のための必要最小限」にとどまるものです。
――日米同盟は「日本が盾、米国が矛」という役割分担とされてきました。日本が盾の役割を担う背景に専守防衛があります。今回の首脳会談で、この役割分担は修正されたのでしょうか。
中林氏:役割の修正というより、盾と矛の間に線を引くことが困難になったのだと思います。弾道ミサイルの進化など科学技術の進歩が、これを困難にしました。
――それぞれの役割を盾と矛に分けること自体が合理的でなくなったわけですね。
中林氏:そう考えます。
米国から「上から目線」が消えた
――第2のポイントは米国の変化。どのような変化ですか。
中林氏:日本の政策転換を米国がそのまま受け入れ、歓迎していることです。この転換を米国の安全保障関係者は大歓迎。私が知るある米軍関係者は「床に頭をこすりつけて感謝したいほどだ」と語っていました。かつてのような上から目線はなくなっています。
バイデン政権は同盟国との連携を強めたい考えです。その背景には、米国の軍事力が相対的にかつてより低下していることもあります。例えば、ウクライナに武器を提供していることの余波で、米国自身の充足率が低下しています。「日本や韓国、オーストラリアにライセンスを供与して生産してもらうべきだ」との声が耳に入るようになりました。
――日本は、航空自衛隊が使用する戦闘機F-2の後継機を英国、イタリアと共同開発する方針を決めました。これまでの米国だったら、口をはさんできたかもしれません。実際に、F-2開発プロジェクトは、日本は国産で開発・生産する考えでしたが、米国の介入を経て、日米共同開発になりました。それも米国が運用する既存機F-16の改造開発でした。
中林氏:そうですね。日本の次期戦闘機開発への態度も米国の変化を示す象徴の1つと言えます。
――ポイント1と2から考えて、日米同盟は今後、どのようなものになっていくのでしょうか。
中林氏:米国が言う「統合抑止」*を目指すのだと思います。
*=軍事だけでなく経済や外交も含めて、米国と同盟国が共同で実施する抑止
ポイント1で指摘した日本自身の防衛力増強は必要なことではありますが、それだけで日本を守ることはできません。中国はその経済力を高めるのと軌を一にして軍事力を高めてきました。
――2021年度の防衛予算は中国が約3242億ドルであるのに対して日本は約530億ドル。6倍を超える開きがあります。
中林氏:さらに、日本の周辺にはロシアも北朝鮮もあります。日本だけで太刀打ちできるものではありません。したがって、米国をはじめとする民主主義国・同志国との連携が欠かせません。そして、ポイントの2で述べたように、米国も日本をはじめとする同盟国の協力を必要としています。
ポイント1とポイント2のベクトルを伸ばしていった交点に統合抑止があります。例えば、陸・海・空の自衛隊を束ねる統合司令部の創設は、統合抑止に向けた動きの典型例と言えるでしょう。米軍との連携をしやすくする取り組みです。
日本が自ら率先して変化し、米国を動かした
――日米の変化について、日米首脳会談後の共同声明より、日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)後の共同発表の方が明確かつ具体的に書いています。2プラス2は、首脳会談に先立って1月7日に開かれました。2プラス2共同発表が非常に重要な意味を持っていると考えられます。過去にも、2005年の日米2プラス2の後に署名された「日米同盟:未来のための変革と再編」が「日米安全保障条約に取って代わった」と評価されたことがありました。
中林氏:確かに、2プラス2での合意文書が重要な意味を持つことがあります。
ご指摘のように、1月7日の日米2プラス2はとても重要なものでした。ただし、これと13日の首脳会談はセットで捉えるべきです。2プラス2で話し合われた内容を、首脳同士が承認したことが大事です。
――その意味で言うと、今回の首脳会談と日米2プラス2も、それだけで評価することはできないですね。過去からの積み重ねを集大成したものとの観があります。
バイデン政権が2021年1月に発足するとすぐ、日米政府は3月に2プラス2を開催しました。そのときの共同発表に「一層深刻化する地域の安全保障環境を認識し、閣僚は、日米同盟の役割・任務・能力について協議することによって、安全保障政策を整合させ、全ての領域を横断する防衛協力を深化させ、そして、拡大抑止を強化するため緊密な連携を向上させることに改めてコミットした」と盛り込みました。
その後、米国が国家安全保障戦略と国家防衛戦略を改定。日本は国家安全保障戦略を改定すると共に、国家防衛戦略を新規に策定しました。そして、今回の日米2プラス2で、両国の安全保障・防衛政策は「軌を一にしている」と承認しました。宣言した、両国の政策を「整合させ」たわけです。
そして、整合した政策の一環として米国は、在沖縄の海兵隊「第12海兵連隊」を「第12海兵沿岸連隊」に改組し、第1列島線*を守る体制を強化する方針を今回の2プラス2で打ち出しました。これは「拡大抑止を強化」につながります。「日本の反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間の協力」を深化させることも同様です。
宣言したことを着々と実現している印象を受けます。
*=日本列島および日本の南西諸島から台湾、フィリピンを経て南シナ海にかかるライン
中林氏:その通りです。さらに言えば、10年以上前から日本が警鐘を鳴らしてきた中国の脅威について、ようやく米国が理解し、政策のかじを切ったと考えることもできます。日本は中国と至近の距離にあるため、その脅威を米国よりずっと早く、そして強く感じてきました。
――振り返れば、2009年には、日中が共同開発で合意していた東シナ海のガス田「樫」(中国名・天外天)において、中国が単独で掘削していたことが判明しました。さらに遡れば、中国は1992年に領海法を制定し、尖閣諸島を中国の領土であると定めています。
中林氏:日本に比べて米国は鈍感でした。中国を脅威と捉えるどころか、対テロ戦争をともに戦うパートナーと位置づけていたのですから。中国に対するエンゲージ政策が間違いだったと明確に位置づけたのはトランプ政権になってからです。それを、現在のバイデン政権が引き継ぎました。今は共和党、民主党を問わず超党派で中国の脅威を理解しています。
第1のポイントである日本の政策転換は、中国がもたらす脅威に早くから気づいていた日本が、ロシアのウクライナ侵攻を契機に主体的に行いました。米国にせかされて、いやいや決めたものではありません。この意味で大きな変化と言えます。他方、日本はこの脅威について米国への説得に努めてきた。それが、統合抑止という青写真の策定につながったわけです。その背景に、第2のポイントである米国の変化があります。
なぜ、ガイドラインの改定に踏み込まなかったか?
1つ、課題として残ったのは、「日米防衛協力の指針」いわゆるガイドライン*の改定です。日米2プラス2でも首脳会談でも言及されることがありませんでした。実際の改定は将来の課題にするとしても、「改定を進めることで合意した」と合意文書に盛り込むべきだったと考えます。改定すること自体が、統合抑止に向けて日米が本気であることを示す象徴となるからです。
*=日米が防衛協力する際の基本的な枠組みや方向性について定めた合意文書。法的拘束力はない
――この点は気になりました。うがった見方かもしれませんが、私は次のことを考えました。岸田政権が国内世論をおもんぱかって、ガイドラインの改定に触れないことにした――。
理由は、2015年に改定された現行のガイドラインの中に、存立危機事態において日本が戦闘に参加するとは限らないという趣旨の記述があることです。
存立危機事態は、(1)日本と密接な関係国に武力攻撃が発生し、(2)日本の存立が脅かされるなどの明白な危険があるケースで、武力行使以外(3)他に適当な手段がない場合。政府がこの事態を認定すれば、武力行使ができるようになります。
ガイドラインは、日本政府が存立危機事態を認定したものの、日本が武力攻撃を受けるに至っていないとき、日米が協力して行う作戦として以下を挙げています。(1)アセットの防護、(2)捜索・救難、(3)海上作戦、(4)弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦、(5)後方支援――。(1)〜(5)はいずれも直接の戦闘行為を指すものではありません。
ガイドラインを改定するならば、台湾有事が現実となり日本政府が存立危機事態を認定したときは、日本が攻撃されていない状態でも、日本は戦う――。こうした趣旨の文言への差し替えを議論することになります。
そうなると、日本国内で反対の声が上がる可能性があるでしょう。岸田政権は防衛費の増額を増税で賄う方針を打ち出しました。これに対し、野党が反対を表明しています。NHKが1月7〜9日に実施した世論調査でも「反対」が61%に上りました。岸田政権は、こうした世論の動向を鑑みて、民意をさらに刺激しかねないガイドラインの改定を持ち出すのは得策でないと判断したのではないでしょうか。
中林氏:その可能性はあり得ると思います。
米国の視点に立てば、日本が戦う姿勢を明確にする方が好ましいでしょう。日本の強いコミットメントを感じると考えます。また存立危機事態は「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」です。日本が戦わないとすれば不思議な話です。戦う意志を示さなければ抑止になりません。
しかし、岸田政権の視点に立てば、事の重要性を鑑みて、慎重・着実にならざるを得ないのも理解できます。
台湾有事の抑止に欧州を巻き込む
――第3のポイントについて、G7広島サミットで日本がリーダーシップを発揮するメドはついたのでしょうか。
中林氏:ついたと考えます。
岸田首相は訪米に先立って、欧州諸国を訪問。民主主義や自由貿易を掲げる陣営が連携を取っていく点において欧米諸国から合意を取ることができました。加えて、台湾有事の抑止について、欧州諸国の協力を得ることにも道筋をつけました。
――日本は、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐって、対ロシア制裁に参加し、この問題を欧州にとどまらないグローバルな問題にすることに協力しました。台湾については「欧州諸国が協力してね」ということですね。
中林氏:その通りです。
米国に言うべきことは言えたのか?
――今回の日米首脳会談は安全保障の話に終始していた印象が強くあります。他に、話し合うべきこと、もしくは日本が米国に要求することはなかったのでしょうか。
例えば、米国で成立したインフレ抑制法のEV(電気自動車)条項について強く苦言を呈するとか。同条項は、EVを購入する米国の消費者に税額控除の優遇措置を与えるもの。その対象車両を、北米で最終組み立てが行われたものに限定しています。韓国やEU(欧州連合)は自由貿易を阻害するものとして強く反発しています。
中林氏:そうですね。べき論で言えば、主張すべきだったと思います。ただ、今回の首脳会談は安全保障政策に焦点を絞ったのだと考えます。お皿の上にいろいろなものを載せると、焦点がぼやけてしまいます。日本のこの考えは功を奏し、安全保障政策を転換するとのメッセージはきちんと米国に伝えることができたと評価します。
日本がこれまで米国に言いたいことを言えずにきたのは、安全保障において負い目を感じていたからです。韓国は徴兵制を敷き、自国の防衛に努力しています。NATO(北大西洋条約機構)諸国も米国と相互に防衛義務を負い、アフガニスタンでは対テロ戦争を米国と共に戦いました。これらに比べると、日本は敗戦国のままで、米国の軍事力に依存してきました。
安全保障政策を転換した日本が防衛力の強化を続けていけば、おのずと発言できるようになると考えます。
――もう1点、対中半導体規制についても言及がありませんでした。米国は2022年10月、半導体をめぐる対中規制を大幅に強化しました。米国は半導体製造装置や素材で力を持つ日本やオランダに同調するよう要請しています。これに対し、日本はまだ姿勢を明らかにしていません。
中林氏:そうですね。半導体をめぐる米国の危機感は非常に強く、死活的問題と捉えています。中国の軍事力強化を直接支えるものだからです。
ただ、中国とのビジネスにおいてどこまでが許されて、どこからが許されないのか、米国自身もまだ明確な線を引くことができていません。日本としては、ロビー活動などを通じて、日本に好ましいところに線が引かれるよう努力している段階だと思います。
ただし、日本は米国と協調して経済安全保障政策を推し進めるという大枠は決めました。この点はぶれずに進むと考えます。
●岸田総理がバイデンから異例の「おもてなし」を受けるが…「防衛力の拡大」 1/17
日本を高く評価
「バイデン氏は新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画に示されているような、防衛力の抜本的強化とともに外交的取り組みを強化する日本の果敢なリーダーシップを称賛した」――。
これは、日本時間の先週土曜日(1月14日)未明、米国の首都ワシントンで行われた岸田総理とバイデン大統領による日米首脳会談の後、公表された「日米首脳共同声明」に盛り込まれた一文だ。
長年、事実上の上限となっていた「国内総生産(GDP)比1%」の壁を打ち壊し、防衛費を北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国並みの2%に増額する方針を引っ提げて訪米した岸田総理を米国側は異例の歓待をもって迎えたという。
ロシアや中国、北朝鮮、イランなどが傍若無人に振る舞う中で、軍事力と経済力の相対的な低下に直面する米国にとって、日本がようやく自ら本格的な防衛力強化を打ち出したことは高く評価すべき動きだというのである。日本の防衛力強化は対米公約になったことになる。
しかし、米国で歓待されればされるほど、昨年末のドタバタ劇の中で防衛力の強化と防衛予算の拡大を打ち出した岸田政権が本当に防衛力の強化を実現できるのか。増税という難題がある以上、総理が背負い込んだ課題はあまりにも重く、政権の先行きに思いを巡らさざるを得ないというのが実情ではないだろうか。
時計の針を昨年12月に戻そう。岸田内閣は、国家安全保障戦略など安保関連3文書を改訂。今後5年間で43兆円という巨費を防衛費に注ぎ込む防衛力の増強方針を打ち出した。
増額の最大の柱は、これまで実際に戦争が起きることを想定せず、必要な資金の投入を怠ってきた弾薬や装備の維持整備費などの「継戦能力」(持続性・強靱性)の強化だ。充てる予算は16兆円と、前回の2018年に策定した中期計画の予算(6兆円)の2.7倍弱を計上した。
国民的な合意形成のプロセスを経ていない
2番目に多い額となったのは、宇宙やサイバーのほか、日本列島を取り巻く領海や領空、離島の防衛に充てる車両、艦船、航空機を確保する「領域横断作戦能力」だ。予算額は8兆円と、こちらも前回の(3兆円)2.7倍弱を確保した。
3番目は、新設の、敵基地や指令所に対する反撃能力を意味する「スタンドオフ防衛能力」の確保だ。従来はやらない前提だったことから、戦略上の大きな目玉で、今回は5兆円と前回(0.2兆円)の25倍を計上した。必要な能力確保のため、2012年度から調達されてきた陸上自衛隊の地対艦ミサイルシステムである、12式地対艦誘導弾を改良して反撃能力を持つように改造して調達する予算や、米国製の巡航ミサイル・トマホークといった敵基地攻撃用のミサイルの調達費用がこの部分となっている。
4番目は「教育訓練費、燃料費」だ。こちらは、今回、4兆円と前回(2兆円)の2倍を確保した。
5番目は、既存の戦略上にもあったミサイル防衛システムの強化だ。「統合防空ミサイル防衛能力」というカテゴリーに区分けされている。予算額は3兆円と従来(1兆円)の3倍に膨らんだ。この中には、03式中距離地対空誘導弾の改良やイージス・システム搭載艦の建造などの費用が含まれている。
その他は残りの合計で8兆円。基地の地元対策費や研究開発費が主な項目となっており、これまでの4.1兆円に対し、1.95倍に膨らんだ。
ただ、こうした予算の投入で本当に過不足なく必要な防衛力を確保できるのか。昨年末の2週間余りの間に、政府が打ち出し、自民・公明の連立与党の議員でさえ納得しない間に閣議決定をしてしまったのが、国策・防衛力整備の決定過程だった。
つまり、国民的な合意形成のプロセスを経ていないのである。
財源決定の経緯
それゆえ、今月23日召集の通常国会における与野党の論戦を見ないと、日本国民として、それらの適否が判断できない状況になっている。
国民的な合意形成のプロセスを経ていないのは、財源の問題も同じだ。岸田政権は、同じく昨年末のドタバタの中で、自民党税制調査会がとりまとめた「2023年度の税制改正大綱」を閣議決定しただけで、国民生活に大きな影響を与える法人税や所得税の増税を既成事実化できたかのような姿勢で、防衛費強化を対外的に説明している。この点が先行きを考えるうえで気掛かりな点になっている。
財源決定の経緯をおさらいすると、岸田総理は昨年12月8日に、防衛費を2027年度以降に毎年度4兆円増額する必要があり、歳出削減や剰余金・税外収入の洗い出しによって年3兆円ほどを確保するものの、それでも足りない1兆円強を増税で賄う必要があると明かした。
一方、その2日後の12月10日の記者会見では、「個人の所得税の負担が増加するような措置はとらない」と強調。増税に対する国民の警戒感を和らげる発言をした。
ところが、その舌の根も乾かない12月16日に、防衛費をGDP比で2%に倍増する方針を定めた防衛3文書を、そして同23日には、その安定財源を確保するために増税するとした2023年度与党税制改正大綱を、それぞれ閣議決定したのだった。
この税制大綱には、法人税、たばこ税、金融・不動産税、所得税などの増税方針が盛り込まれた。選ばれた過程を見ると、まず安倍政権時代の消費増税が景気の足を引っ張ったことを勘案して増税のメニューから消費税を早々に外したり、「1億円の壁」で有名になった金持ち優遇税制にメスを入れたりした点で、政府・与党なりに企業や国民の理解を得ようとの配慮を示した形跡はある。
岸田発言との矛盾
とはいえ、今回の金融・不動産税制の見直しによって、実際に増税の網がかかるのは、1億円以上の所得がある人ではなくて、30億円以上の所得がある人だ。その人数で言えば、ほんの300〜400人程度の超高額所得者に限られるとされている。これでは、典型的なやったフリに過ぎないと断じざるを得ないだろう。姑息過ぎて、却って、増税への国民のコンセンサスを取り付けるうえで、反感を買いかねないリスクが残った。
また、所得税の増税手法も姑息といえば、姑息だ。というのは、防衛費の財源としての個人所得税の増税について、岸田政権は、東日本大震災の被災地などの復旧・復興のために設けられている「復興特別所得税」の付加分の2.1%のうち1%を引き下げる代わりに、その1%分を防衛費のために引き続き付加するという手法を採用するとしたからである。結果として、「復興特別所得税」の割引分を徴収するために、2037年に終了するはずだった「復興特別所得税」の徴収期間が延びることになる。この延長期間は、最長で、実に13年程度に達する見込みだとされている。
長期にわたる増税の継続が、12月16日の「個人の所得税の負担が増加するような措置はとらない」と強調した岸田発言に矛盾することは明らかだろう。
加えて、税制大綱が増税の時期に関して、「令和6年(=2024年)以降の適切な時期」としか記していないことも、火種を残した形になっている。いずれにせよ、野党の多くは増税反対論を展開しただろうが、身内である自、公の両与党からも多くの議員が2024年以降になっても「適切な時期ではない」と主張して、岸田政権に造反しかねない書き振りになってしまったということだ。
最新の岸田内閣の支持率をみると、今年1月調査では読売新聞社が39%。NHKが33%、昨年12月の調査では、日本経済新聞社が35%、産経新聞社が37%、共同通信社が33.1%、朝日新聞社が31%と低水準に喘ぎ、いずれも不支持率を下回っている。
各社の内閣支持率の推移を振り返ると、新型コロナ・ウイルス感染症の第6波が収束して行動制限が緩和された去年5月頃にピークを記録。その後、物価高の進展や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題、相次いだ閣僚の辞任などを原因として、ほぼ一貫して下がり続けてきた。ダメ押し的に、12月の増税後に一段と下げた調査が多い。
こうした支持率を前提にすると、岸田政権にとって、防衛力増強のためとはいえ、増税について国民的なコンセンサスを取り付けることが大変な事業になることは、確実だ。
今回、岸田総理の訪米を歓待した米国でも、政府高官の中には、同総理がいつまで政権を維持できるかに関心が高まっているという。
対米公約にもなった防衛力強化を本当に実現できるのか。岸田氏の総理の座を賭した政権運営の幕は切って落とされたばかりなのである。
●平和外交だけで日本を守れるのか  1/17
岸田政権の「反撃能力」保有と防衛費増額閣議決定
自由民主党岸田文雄政権は、国際法違反のロシアによるウクライナ侵略の脅威をはじめ、中国による台湾への軍事的圧力の増大や常態化した尖閣諸島への領海侵犯を含む力による現状変更の試み、北朝鮮による核開発や度重なる軍事的挑発など、日本を取り巻く厳しい安全保障環境に即応するため、昨年12月16日に国家安全保障戦略などの「安保3文書」を閣議決定した。
そして、ミサイル防衛の困難性から敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有と防衛費増額を決定した。さらに、今年1月14日の日米首脳会談では、上記「反撃能力」保有等を踏まえ、中国・北朝鮮・ロシアの専制主義国家による脅威に対して日米同盟の抑止力と対処力を強化することで一致した。
平和外交一辺倒の「反撃能力保有反対論」
これに対し、日本共産党や、一部のマスコミ、市民団体、左翼系学者、日本弁護士連合会などは、「反撃能力」保有と防衛費増額について、「憲法9条の専守防衛をかなぐり捨て、軍事大国を目指す危険な戦争への道であり国を亡ぼす暴挙である」などと激しく反発し、閣議決定の撤回を求めている。
このような「反撃能力」保有と防衛費増額への反対論の根底には、自衛隊や日米同盟による抑止力を一切認めず、これに反対する反戦イデオロギーがある。とりわけ、日本共産党は、党綱領において「自衛隊違憲解消」と「日米安保条約廃棄」を明記し「非武装中立政策」を取っている。
日本共産党や上記諸団体等の反対論に通底するのは、軍事対軍事の悪循環に陥る戦争への危険な道であるとして「反撃能力」保有と防衛費増額による日本の抑止力強化を否定し、何よりも憲法9条に基づく「平和外交」による話し合い解決を主張する平和外交一辺倒だということである。
米国の抑止力で担保されている「専守防衛」
しかし、自衛のための抑止力を持たず、「平和外交」だけで国が守れるならば、古今東西を問わず、世界各国が常備軍を持つ根拠を説明できず、ロシアによる国際法違反のウクライナ侵略もない。そして、反対論者が金科玉条とする、日本を守る「専守防衛」も、その実態は日本国内における米軍基地と米国からの「核の傘」の借用による抑止力の存在を大前提としているのである。
反対論者は、これらの抑止力によってこそ、日本を守る「専守防衛」が担保され持続可能である厳然たる事実に目を背けている。もちろん、そのために日本は米国に対して基地提供の負担や思いやり予算等の重い代償を払っている。
平和外交だけで日本を守れるのか
このように、日本を守る「専守防衛」自体が日米同盟による抑止力の存在を大前提とするのであり、この抑止力がなくなれば、反対論者が金科玉条とする、日本を守る「専守防衛」自体が成り立たないのである。
このことからも、反対論者が共通して主張するような、自衛隊や日米同盟の抑止力を否定する「平和外交」一辺倒では到底日本を守れないことは明らかである。今回の岸田政権による「反撃能力」保有と防衛費増額は、日米同盟の抑止力を補強し日本の「平和外交」を補完することによって、反対論者が金科玉条とする、日本を守る「専守防衛」を持続可能とするものに他ならないのである。
●日米首脳会談で協議された「中国対策」、「中国の暴走」への懸念 1/17
「歴史の転換点における日本の決断」
日本時間の1月14日午前5時(アメリカ東部時間の13日午後3時)、フランス、イタリア、イギリス、カナダを経てアメリカを訪問した岸田文雄首相は、ワシントンDCのジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)で講演を行った。
タイトルは、「歴史の転換点における日本の決断(Japan’s decisions at history’s turning point)」。強調したのは、「中国への対応」だった。
首相官邸HPより
「中国と日本、中国と米国、中国と世界との間には、様々な可能性と共に数多くの懸案や課題があります。より根本的な問いかけは、中国が持っている国際秩序に関するビジョンや主張には我々と異なるものがあり、その中には我々が決して受け入れることのできない要素があることです。私は、国家安全保障戦略で、中国のもたらす挑戦は、『我が国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携により対応するべきもの』と位置付けました。我々は、中国に、確立された国際ルールを守り、これに反するような形で国際秩序を変えることはできず、またそのようなことはしないという戦略的な判断をしてもらう必要があります。そのための取組は息の長いものとなるでしょう。その過程では、力による一方的な現状変更の試みは決して認めない、抑止力は強化していく、その上で、我々は中国と共にインド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定に貢献することを希望しており、共通の課題については協力をしていく。つまり、関係を平和裡にマネージしていく必要があります。これが今の時代のステーツマンシップの成否を決める点であります。昨年11月、私は習近平国家主席と会談を行いました。その際には、尖閣諸島を含む東シナ海、昨年8月の中国によるEEZ(排他的経済水域)を含む我が国近海への弾道ミサイル発射等の軍事活動について懸念を表明しました。中国との間では、首脳を始め、できるだけ高いレベルで言うべきことは言っていくことがますます重要になります。先ほど述べたように、国際秩序の在り方について、中国と共通の理解に至るためにも、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め、対話をしっかり重ね、共通の課題については協力する、『建設的かつ安定的な関係』の構築を、双方の努力で進めていきたいと思います」 以上である。
また同日、ジョセフ・バイデン米大統領との首脳会談を、ホワイトハウスで行った。会談はランチを含んで約2時間に及び、終了後のブリーフィングで、外務省幹部はこう誇った。
「会談に先立ち、岸田総理大臣は、ホワイトハウスの南正面玄関でバイデン大統領による出迎えを受けた。両首脳は、庭園を見渡す柱廊を二人で歩きながら会談の会場へ向かうなど、会談の節々にバイデン大統領の岸田総理大臣に対する歓迎の意が見られた」
岸田政権が先月決めた「43兆円防衛予算」によって、今後ますます大量の武器をアメリカから購入することを思えば、大統領が正面玄関まで迎えに来ることくらい当然ではないのか。ともあれ、日米首脳会談での話題の中心も、「中国対策」だった。
「日米共同声明」の中身
実際、発表された「日米共同声明」では、「中国」と直接明記した箇所、間接的に中国を想定した箇所などを含めて、相当部分が「中国対策」に割かれた。以下に共同声明の一部を抜粋する。
〈 インド太平洋は、中国によるルールに基づく国際秩序と整合しない行動から北朝鮮による挑発行為に至るまで、増大する挑戦に直面している。(中略) こうした状況を総合すると、米国及び日本には、引き続き単独及び共同での能力を強化することが求められている。そのため、バイデン大統領は、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略、及び防衛力整備計画に示されているような、防衛力を抜本的に強化するとともに外交的取組を強化するとの日本の果敢なリーダーシップを賞賛した。日本によるこれらの取組は、インド太平洋及び国際社会全体の安全保障を強化し、21世紀に向けて日米関係を現代化するものとなる。(中略) バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、日米安全保障条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを改めて表明した。バイデン大統領はまた、同条が尖閣諸島に適用されることを改めて確認した。(中略)両首脳は、日本の反撃能力及びその他の能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するよう、閣僚に指示した。(中略) 我々は、台湾に関する両国の基本的立場に変化はないことを強調し、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を改めて強調する。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。(中略) 我々は、日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)等を通じ、半導体等重要・新興技術の保護及び育成を含む経済安全保障、新たな二国間での宇宙枠組協定を含む宇宙、そして我々が最も高い不拡散の基準を維持しながら原子力エネルギー協力を深化させたクリーン・エネルギー及びエネルギー安全保障に関し、日米両国の優位性を一層確保していく。(中略)インド太平洋経済枠組み(IPEF)はこれらの目標達成の軸となる。(中略) 我々はまた、世界中の公衆衛生当局が感染拡大を抑制し、また新たな変異株の可能性を特定するための体制を整えられるよう、中国に対し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関する十分かつ透明性の高い疫学的データ及びウイルスのゲノム配列データを報告するよう求める。我々はまた、強固な二国間関係を基盤としながら、インド太平洋及び世界の利益のために、域内外の他の主体と協働していく。豪州及びインドと共に、我々は、日米豪印が、国際保健、サイバーセキュリティ、気候、重要・新興技術、海洋状況把握において成果を出すこと等により、地域に具体的な利益をもたらすことにコミットした善を推進する力であり続けることを確保する。我々は、引き続き、ASEANの中心性・一体性及び「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を支持していく。我々は、安全保障及びその他の分野における、日本、韓国、そして米国の間の重要な三国間協力の強化にコミットする 〉 以上である。
「中国の脅威」への対抗策として
こうした動きを受けて、例えば『日本経済新聞』(1月15日付)は、一面トップで「日米同盟、新段階に 首脳会談 対中『共同で抑止』」との見出しを掲げた。
確かに、私も岸田政権が先月策定した「防衛3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を熟読したが、日本の防衛戦略が新時代を迎えていることを痛感した。それはとりもなおさず、「中国の脅威」が差し迫っていることに他ならない。
ただ一点、「防衛3文書」を読んでいて気になったことがあった。それは、憲法第9条との整合性である。あまりにも有名な条文だが、改めて掲げてみる。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
ここから通常の国家が保有する「軍隊」ではなく「自衛隊」が誕生し、いまに至っているわけだ。私の疑問は、かなり踏み込んだ内容が明記された「防衛3文書」は、果たして近未来に、この憲法第9条を改正することを前提として書かれたものなのか、ということだった。
この点を防衛省幹部に確認すると、言下に否定した。
「それは違う。逆に、現行の憲法第9条をそのまま残しながら、どこまで日本の防衛が可能なのか、日米同盟はどこまで踏み込めるのかということを模索しながら行き着いたのが、今回の『3文書』だ。もう一つ付け加えると、韓国で少しずつ議論が始まってきた『核兵器の保有』も、前提としていない。岸田総理は、5月のG7(主要先進国)サミットを、お膝元の広島で開催するほど、核軍縮を自らの最大の政治的課題と捉えている。そのため、少なくとも岸田政権が続く限りは、日本の核兵器保有に関する議論さえ起らない。また岸田政権は、憲法9条を改正することも考えていない。そうしたことを踏まえた『3文書』ということだ」
中国が大量の核搭載ミサイルを日本に向けているであろうことを思えば、「軍隊も核兵器も保有しない」日本は、完全に中国と対等な軍事力の拮抗を目指しているわけではない。相手が「真剣」を振り回しそうなのに、こちらは「木刀」を構えることにしたと言えばよいだろうか。
『環球時報』が掲載した長文記事
だがそれでも、中国は、今回の「防衛3文書」と日米首脳会談によって、「日本の脅威」がワンランク上がったと捉えている。
中国を代表する国際紙『環球時報』(1月14日付)は、一面全体と二面の一部を使って、「岸田が門を登ってバイデンを拝見 日米の安保協力強化でアジア太平洋は攪乱!」と題した、7人もの記者による長文の記事を掲載した。その要旨は、以下の通りだ。
〈 何週か前に、日本は「地域の脅威」を口実に、軍事費支出の増額や「反撃能力」を含む大規模な軍事改革の発展を進め、アジアの国々を心配させた。かつ今回の岸田の外遊は、日米同盟を強化すると同時に、NATO(北大西洋条約機構)のパワーを引き入れてアジアでの業務に参画させようとしている意思が見て取れる。それはさらに未来のアジアを、一種の不安定な状況に直面する可能性があると、外側の人々を心配させるものだ。中国外交部の汪文斌報道官は、13日の定例会見で、こう述べた。アジア太平洋は平和と発展の高地であり、地域政治の格闘場ではない。われわれはアメリカと日本が、冷戦的思考とイデオロギーの偏見を破棄することを促す。「仮想敵」を作り出すことを止め、「新冷戦」的思考にアジア太平洋を引き込むことを止め、アジア太平洋の安定に逆流を惹き起こし、攪乱させるべきではない。『環球時報』の記者は13日夕刻、東京新宿の繁華街で、多くの労働団体や学生団体がこぶしを振り上げ、「日米首脳会談に反対」「軍事費倍増を決して許さない」といった横断幕を掲げているのを目撃した。彼らは、「『敵基地攻撃能力』の保有反対」「国民生活を破壊する大軍拡を阻止」などのスローガンを叫び、抗議していた。『環球時報』の記者の理解によれば、今回の抗議活動の主催者が考えるに、新たな安保3文書に基づき、中国を対象とした日米共同作戦計画は、まさにさらに一歩、実戦化・具体化してきており、日米首脳会談は「戦争会議」と同じだ。日米首脳会談をもとに、日本政府は6.8兆円に上る軍拡予算の支出を国会で通そうとしている。「岸田政権は自分をアメリカの戦車の上に差し出し、戦争の方向に一路狂奔している。こんなことをしていれば、日本は遠くない将来、戦争の当事者となるだろう」一般庶民は物価の高騰に苦しんでいる。生計を立てるのに必死な中、岸田政権は惜しみもなく増税して防衛費を増やそうとしている。日本の一般庶民はこのことに決して納得しない。長年にわたって、日本は対外戦略上、アメリカに全方位的に縛られていて、とりわけ対中戦略ではアメリカの「首にぶら下がる」状態となっている。13日に『環球時報』の記者の取材に答えた多くの専門家が、岸田政権の最新の軍事推進改革は、日本に戦略的な自主性を失わせるだけでなく、さらに日本がアメリカの「駒」となり、アメリカの利益を実現させるための道具となってしまっていると認識している。中国現代国際関係研究院の胡継平副院長は、13日に『環球時報』の記者にこう述べた。日本は軍事能力を強化し、軍事費をアップさせ、米欧国家との安保協力を強化。事実上、中国を含む一部の隣国を「仮想敵」としている。このことは疑いもなく、東アジア地域の安全情勢に、巨大な緊張と不確実性をもたらす。「日米首脳会談では、軍事問題に関することの他にも、いわゆる経済分野に安保を拡大させようともした」。胡継平はこうも述べた。日米は手を組んで、サプライチェーンのデカップリング(分断)などの手段で、自身の競争的優位を狙って、その他の国の科学技術や経済発展を阻止しようと目論んでいる。そのようなやり方の結果、必然的に世界の「陣営化」は加速される。かつ「陣営化」はそれらの国々をすべて巻き込み、影響を与える。この過程の中で勝者はいないのだ 〉
以上である。中国は、本来なら1月22日の「春節」を前に、早くも「正月気分」となるところなのだが、日本に対してかなりエキサイトしていることが、文面から読み取れるのである。
突然の「日本人入国拒否」の背景
そんな中で、先週10日に起こったのが、中国が日本を相手に取った「入国拒否措置」だった。すなわち、日本人の短期ビザ発給を一時停止するという措置だ。それによって、早くも日本企業の中国ビジネスや、日本人の中国留学などに影響が出始めている。
また、中国は長く、15日以内の観光目的に限って、日本人の入国ビザを免除していた。だが、新型コロナウイルスの防止を理由に、2020年3月にこの措置を一時停止し、いまに至っている。そのため、日本人は中国に観光旅行へも行けなくなったのだ。
この措置が日中関係に与える影響は甚大である。おそらく中国側は、そうしたマイナスの影響も理解した上で、今回の岸田政権の「防衛3文書」改正と、日米首脳会談が看過できないと判断したのだろう。
ともかく、単なる新型コロナウイルスの防止が理由でないことは確かだ。これは中国が日本に対して仕掛けた新たな「戦狼(せんろう)外交」(狼のように戦う外交)と捉えるべきだろう。
昨年10月に開かれた第20回中国共産党大会を経て、中国外交の方針は「習近平−王毅ライン」で決定されることとなった。今回の「日本人入国拒否」も、習近平主席と王毅国務委員が話し合って決めた措置に違いない。少なくとも、先月30日に就任したばかりの秦剛外交部長(外相)は関わっていなかったはずだ。
なぜそう断言できるかと言えば、秦剛部長は9日夜、韓国の朴振外務長官(外相)に就任挨拶の電話をかけ、より緊密な中韓関係の構築や、より大幅な人員交流などで合意した。その翌日、すなわち10日昼に、中国は韓国に対しても、日本に対してと同様の「入国拒否」を通告しているからだ。
このことからも、おそらくは9日の夕刻か10日朝、習近平主席と王毅国務委員が話し合って、即席で決めたことが推定されるのである。ちなみに秦剛外交部長は10日から、アフリカ諸国歴訪に出てしまった。中国の外相は過去33年間、新年を迎えるとまずアフリカ諸国を歴訪する習慣があるのだ。
過去を振り返れば、習近平政権はこれまで何度も、「戦狼外交」を行ってきた。例えば2016年に、韓国がTHAAD(終末高高度迎撃ミサイル)を配備することに反発し、中国国内の韓国企業を締め出したり、韓ドラを放送禁止にしたりした。
2018年の年末には、ファーウェイの孟晩舟副会長がバンクーバー空港で拘束されたことに反発し、中国国内のカナダ人たちを拘束していった。2020年には、スコット・モリソン首相が、新型コロナウイルスの原因が中国にあった可能性について言及したことに反発。オーストラリア製の牛肉やワインなどを、中国市場から締め出した。
こうした「戦狼外交」の延長線上に、今回の「日本人入国拒否」があるとも言える。いや、その背景に、岸田政権が進める「防衛の大転換」があると見られるだけに、上述の過去の「戦狼外交」よりも根が深いとも言える。もしかしたら解決までに、数ヵ月間を要するかもしれない。
「中国の暴走」を止められるか
気になるのは、今後の中国外交の行方である。
3月5日から始まる全国人民代表大会(国会に相当)を経て、3期目の習近平政権が、正式に発足する。共産党の序列でナンバー2になった李強常務委員が新首相に就くことは内定しているが、王毅国務委員が副首相に昇格するとの声も囁かれている。
ともあれ、3月に正式に発足する3期目の習近平政権は、さらに「習近平一強体制」となるのは確実だ。そして習近平皇帝に、王毅党中央外事活動委員会弁公室主任が忖度する形で、外交方針を決めていくことだろう。
だが、今回のような「行き当たりばったり外交」が横行すれば、世界が混乱するのは見えている。そしてその「最悪の形」が、「中国の暴走」ということになる。中国には、「プーチンの暴走」を奇禍としてほしいものである。
●利上げ、防衛費増額で社会保障の将来に不安の種  1/17
昨年12月、岸田文雄政権による防衛費増額の閣議決定と日本銀行による事実上の利上げがそろって実施された。いずれも日本の財政の先行きを左右する重大な出来事だ。
財政健全化の必要性を説く有識者が従前から指摘していたのは、国債費(利払い費を含む)増大が持つ潜在的な負のパワーだ。
これまで消費増税の必要性については、「社会保障制度を維持・強化するための、財源不足(財政赤字)への対応」と説明されることが多かった。国民のウケは必ずしもよくないものの、われわれが享受する便益と負担という関係で考えれば、納得感のある話ではある。
しかし財政赤字を放置した結果、公的債務残高の増大や金利上昇によって国債の利払い費が大きく増える段階まで進んでしまうと、政府は「利払いに充てるために増税する」という状況に追い込まれる。事ここに至ると、優先されるのは社会保障の給付水準の維持ではない。増税幅を抑えるため、給付の削減も俎上に載せられるだろう。
国債費増大による予算圧迫
そもそも、国債費は政府にとって最優先の支出先だ。債務不履行が起きれば、政府は市場の信認を失い、新たな借金ができず財政が持続困難になる。中には「日銀がお札を刷って元利払いに対応すればいい」という人もいるかもしれないが、それをやればなおさら政府・日銀の信用は失墜し、円自体の価値が暴落するだろう。
社会保障費は、法律で政府の支出が定められた「義務的経費」だ。行政が裁量的に減額することはできない。しかし、政府は追い込まれれば、法律を変えてでも社会保障給付の削減へ動くだろう。まさにそのような事態を回避するために、社会保障制度を担う関係者は財源確保を叫び、年金や医療・介護の制度内で支出抑制に努める姿勢も示してきたわけである。
世界の歴史的な高インフレや金利上昇を受け、日銀もついに異例の超低金利政策の修正に動き出した。もちろんまだ、緊急を要する事態には遠いが、国債費増大による予算圧迫という悪夢が頭をかすめる局面になってきたのも事実だ。
岸田政権の戦略的失敗
日銀の利上げと同じタイミングで、岸田政権は来年度から5年間の防衛費を総額43兆円(従来の1.5倍超)とする方針を決めた。ドタバタの中での決定であり、財源確保策は完全な付け焼き刃だ。本来なら国債償還に回すべき決算剰余金や過剰な積立金の国庫返納などを活用する。2027年度ベースで年1兆円分(増額の約4分の1)を増税で賄うというが、その時期や中身は不透明な部分が多い。
防衛費もまた国債費と同様、政府が支出を優先する大義名分の立ちやすい項目である。とくにロシア・ウクライナ戦争や中国・台湾情勢の緊迫化を考えれば、「国民の安全や財産を守るために防衛費を拡大しろ」との声が広がりやすい。
防衛費総額を先に決めるやり方で政策転換を行った岸田首相だが、そうではなく、仮に「財源の中心は増税とし、その中でどのような防衛装備品がどの程度必要かを決めていく」という政治的調整方法を採ったとすればどうだったか。
増税という国民負担と必要な防衛力強化という便益とのバランスを考えながら、安全保障政策の落としどころを探ることになったのではないか。地政学的危機を叫ぶ声は高まる一方だが、税金を財源とする手法は、むやみな防衛費拡大に一定の歯止めをかける機能を果たすことも忘れてはならない。
国債費に加え、防衛費による将来の予算圧迫の懸念も高まった。そのあおりで社会保障が割を食う未来にはしたくない。
●長期金利の上昇、直ちに財政へ影響生じるとは考えてない−鈴木財務相 1/17
鈴木俊一財務相は17日の閣議後会見で、足元の長期金利の上昇による財政への影響について、「今直ちに影響が生じるとは考えていない」との認識を示した。
鈴木財務相は、2023年度予算では過去の金利上昇を踏まえて積算金利を1.1%に設定し、「十分な予算を計上している」と説明した。一方、公的債務残高が国内総生産(GDP)の2倍以上に累積するなど厳しい状況下で「金利が上昇すれば利払い費の増加が起こり、それにより政策的経費が圧迫されて財政が硬直化する恐れがある」とし、財政規律を維持する重要性を改めて強調した。 
債券市場では、新発10年国債利回りが0.505%と日本銀行の許容上限0.5%を3営業日連続で上回って取引されている。
ロイター通信は17日、日銀の正副総裁の後任人事について政府が2月10日を軸に国会に提示する方向で調整していると複数の政府・与党関係者の情報を基に報じた。
鈴木財務相は「私はそういう話は全く聞いていない」と述べた。日銀の金融政策については「今後とも経済・物価金融情勢を踏まえつつ、適切に金融政策を行っていただくことを期待する」と語った。
●防衛費財源 “国債返済ルール見直し案” 公明・山口代表は難色 1/17
防衛費増額の財源を確保するため、国債を安定的に返済する仕組みを見直す案が自民党内で浮上していることについて、公明党の山口代表は慎重な考えを示しました。
公明党・山口代表:「現在、償還のルールを決めて財政規律を保っているわけであります。これを変更することによって財政規律が緩んで負担の総額がいたずらに増えていくということは慎重に考える必要があると思います」
防衛費増額のための財源確保を巡り、自民党は国の借金である国債を一部、借り換えながら返済する「60年償還ルール」の見直しも含めて議論する方針で、山口代表はこれに難色を示した形です。
また、防衛費増額の財源を国債で賄うことについて「将来の世代にツケを先送りするのは避けるべき」と否定的な考えを示しました。
そのうえで、増税については「個人や中小企業の負担が増えないよう、可能な限り小さくするような対応が望ましい」と注文を付けました。  
●財務省 想定金利を1.6%に 国債費は4.5兆円増 1/17
財務省が来年度の予算案をもとに、今後の歳出や歳入の見通しを示す「後年度影響試算」で、3年後の2026年度は想定金利を1.6%まで引き上げ、国債費は4.5兆円ほど増える見通しであることがわかりました。
「後年度影響試算」は国会で予算を審議する際の資料として、財務省が毎年、予算委員会に提出するものです。
政府関係者によりますと、今回の試算では足元の長期金利を考慮して、3年後(2026年度)の10年債の想定金利を1.6%と引き上げました。
その結果、国債費は29.8兆円となり、23年度の予算案から4.5兆円ほど膨らむ見通しだということです。
前回の試算では、23年度から25年度の長期金利を1.2%から1.3%としていて、今後の金利上昇次第では、さらに利払い費が増える可能性もあります。

 

●岸田首相は欧州歴訪の効果なく前途多難…足を引っ張る自民党「問題3人衆」 1/18
ガッカリだろう。5泊7日の欧米歴訪を終え、15日に帰国した岸田首相。5月のG7広島サミットへ向け、外交成果による政権浮揚を期待したが、全くもって振るわなかった。読売新聞が外遊中の13〜15日に実施した世論調査では、内閣支持率が39%と前回12月調査から変化なく横ばいだったのだ。
23日からの通常国会を控える中、今後も支持率回復は絶望的。自民党内の“問題3人衆”が、岸田首相の行く手を阻みかねないからだ。
筆頭は細田博之衆院議長。旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係について、これまで再三説明を求められながら全く応じず、いまだに問題がくすぶったまま。野党は徹底追及の構えを見せている。
「立憲の安住国対委員長は、細田さんについて『頬かむりしたまま何の説明もしてない』『逃げられると思ったら大きな間違い』と語るなど、追及する気満々になっている。旧統一教会の問題は昨年の臨時国会で被害者救済法が成立し、解散命令請求についても文科省が検討を重ねている状態で、下火になりつつある。ところが、細田議長については本人が説明から逃げ回っていて、まだまだ炎上する可能性が高い。春の統一地方選まで引っ張られると、自民は大打撃だろう」(永田町関係者)
岸田批判を展開した菅前首相の思惑
2人目は月刊誌「文藝春秋」(2月号)のインタビューで、異例の岸田批判を展開した菅前首相だ。菅氏に近い自民党関係者はこう言う。
「菅先生は宴席でも軽率なことを言う人ではないので、考えがあって岸田総理に苦言を呈したはず。戦う気になっているのは間違いないだろう」
菅氏は岸田首相がブチ上げた「異次元の少子化対策」の財源について、「消費税増税は国民から理解されない」と発言。防衛増税についても「唐突だ」と批判していた。
折しも16日、防衛費倍増について増税以外の財源確保策を検討する特命委員会(委員長・萩生田政調会長)の役員会が開かれ、19日に初会合を開催することが決まった。今後、岸田首相にとって厄介な「増税反対派」が勢力を拡大させることも考えられる。
最後の問題人物は麻生副総裁だ。15日に講演で、「少子化の最大の原因は晩婚化」と発言し、ツイッターが〈少子化の最大の原因は貧困化だろうがボケ!〉〈自民のせいだろ〉と大炎上。完全に岸田首相の足を引っ張っている。
党内にこれだけの火ダネを抱える岸田首相。どれか1つでもハジケれば、立ち往生しかねない。
●自民 茂木幹事長が万博会場視察 “予算確保や規制改革検討” 1/18
大阪・関西万博について、自民党の茂木幹事長は大阪市の会場を視察し、松井市長らに対し、万博の成功に向けて必要な予算確保や規制改革を検討する考えを強調しました。
自民党の茂木幹事長は、2025年の大阪・関西万博の会場となる大阪の夢洲を訪れ、日本維新の会の共同代表を務める吉村 大阪府知事や、前の代表の松井 大阪市長も同行しました。
工事現場を視察した茂木氏は、松井市長から「万博は国家プロジェクトであり、政府・与党の力を貸していただきたい」と要請されたのに対し、「必要となる予算の確保や制度設計、規制改革をしっかり検討していく」などと応じていました。
このあと、茂木氏は記者団に対し、「国や自治体、企業が一体となって機運を盛り上げていくことが何より大切で、しっかりと取り組みたい。ことし、G7の議長国である日本では国際的なイベントが開かれるが、2年先には万博があることを世界に向けても発信したい」と述べました。
●ヤバいのは防衛増税だけじゃない!岸田政権が強行する「ステルス改憲」 1/18
物価高が止まらない。調査会社『みずほリサーチ&テクノロジーズ』のリポートによると、2022年度の家計支出は前年比で年間9万6000円の増加。今年はさらに4万円も増える見込みだ。それに加えて上がらない賃金、減る一方の年金……。庶民の暮らしは厳しさが増すばかりで、安心・安全にはほど遠い。
防衛費の増額は「増税」で負担
そうした中、岸田政権は昨年12月16日、外交・防衛政策の基本方針が記された3つの文書「安全保障関連3文書」(以下、安保3文書)を改定し、閣議決定した。
安保3文書には'23年度から5年間の防衛費について、現行計画の1・5倍に当たる約43兆円に増額する内容が盛り込まれている。しかも5年目に当たる'27年度には4兆円が不足するため、このうち1兆円を増税でまかなうと表明している。
これが「防衛増税」として批判を集めたのは周知のとおり。岸田文雄首相は「未来の世代に対する私たち世代の責任」と理解を求めるが、世論の反発は大きい。名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学・平和学)も、こう批判する。
「生活困窮者が増え、非正規雇用の多い女性の自殺も問題になっています。こうした社会保障には“財源をどうするのか”という話になるのに、防衛費には“予算を増やして税金を充てます”と言い出す。国民の理解を得られるわけがありません。
そのうえ岸田政権は'27年度から、従来はGDP(国民総生産)比1%程度だった防衛費を同2%に増やす方針です。日本はアメリカ、中国に次いで、世界3位の軍事大国となってしまいます」
「防衛力」を超え「戦力」に拡充
問題はそれだけではない。安保3文書では、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の保有を明記している。日本が攻撃を受けていなくても、相手国が攻撃に着手したと判断できれば、日本から相手国に向けてミサイルを撃ち込むことを可能にするものだ。
「2015年に成立した安保法制では、“集団的自衛権の行使容認”と言って、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本が直接攻撃を受けていなくても自衛隊は武力行使ができると認められました。
ただし憲法9条は、外国を攻撃する戦力を持つことを禁じています。そのため歴代の政府は、外国領域を攻撃できる兵器を持たない方針をとってきました。
ところが岸田政権はその方針を変えて、外国を攻撃できる兵器を持てるよう安保3文書の中に明記したのです」(飯島教授、以下同)
これは「戦力」の保持を禁止した憲法9条に違反している。また、自衛のための必要最小限度の実力行使しか許されないという「専守防衛」からも逸脱する。
憲法違反してまで増強するのに、軍事的には「周回遅れ」
「安保法制の際、安倍政権は歴代政府の憲法解釈を独断で変えて、集団的自衛権の行使を閣議決定で容認しました。それと同じ問題が安保3文書でも繰り返されています。
外国を攻撃できる武器は憲法で禁じられた“戦力”です。それを持ちたければ、憲法改正の手続きを行い、主権者である国民の判断を仰ぐため国民投票を実施すべき。時の政権が独断で国のあり方を変えることは、憲法が定める国民主権からも許されません」
一方、敵基地攻撃能力を軍事的に見て「周回遅れ」と指摘するのは、軍事ジャーナリストの前田哲男さんだ。
「日本には“相手国が攻撃に着手した”と判断する手段がありません。中国や北朝鮮との間にホットラインを敷いていないため、アメリカの情報に頼らざるをえない。
加えて、日本が'25年の配備に向けて開発を進めているのは巡航ミサイルです。100キロ以上を飛ぶには、1時間はかかります。一方、日本に飛んでくるのは北朝鮮も含めて弾道ミサイル、つまりロケットなんです。最長10分で日本列島のどこにでも命中させる能力を持っています。これでは抑止力になりません」(前田さん、以下同)
「中国脅威論」はどこまで真実か?
そもそもなぜ今、軍備増強に走る必要があるのだろうか。岸田政権は「厳しく複雑な安全保障環境」を理由に挙げるが、説明不足は否めない。
「ウクライナ戦争がきっかけになったことは間違いない。以来、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国が台湾海峡に攻め込むのではないかという“台湾海峡危機”が喧伝され、自民党内で大々的に言われるようになりました」
現に、ウクライナ戦争の勃発直後の昨年2月、安倍晋三元首相は「台湾海峡危機は日米同盟の危機であり、日本有事である」と強調していた。
「こうした考えは安保3文書にも色濃く表れています。中国脅威論という立場に立ち、中国に対抗するために防衛費を増やし、抑止力を高めるという発想です」
ウクライナのように、中国が台湾に、そして日本に侵攻するのか
実際にどの程度、差し迫った危機にあるのだろうか。
「アメリカの調査会社『ユーラシア・グループ』は'22年に続き、今年も台湾有事を“リスクもどき”に分類しました。将来的に事情が変わればともかく、現状で中国が台湾を武力で侵略する可能性は極めて低いと分析しています」と、前出・飯島教授。前田さんもこう続ける。
「起こりえないと思います。台湾のような島を武力制圧するのは、軍事作戦的に極めて難しいからです。それよりも中国の傾向から見て、ジワジワと圧力を加えながら、時間をかけて民心を掌握していく方法をとるでしょう」
日本と連動するかのように、アメリカも中国への警戒心を高めている。
「とりわけバイデン政権になってからは、その傾向が顕著です。昨年11月に発表された日米共同声明には“岸田総理は日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、バイデン大統領はこれを強く支持した”とあります。対中国を念頭に、アメリカから日本へ圧力を強めている様子が読み取れます。
日本列島は中国を取り囲むように連なり、日米安保条約に基づく米軍基地も点在しています。アメリカとしては、日本を盾にすると中国に軍事的な威圧感を与えるのに都合がいい、と考えているのでしょう」(前田さん、以下同)
日米の軍事的な協力がますます強化されている
日米が軍事的に一体化する動きは近年、強化されてきた。
「現在、沖縄に駐留している陸上自衛隊の第15旅団を、より規模の大きな師団に改変する計画があります。2000人ほど増員することになるため、新たな駐屯地を作らなければなりませんが、今でさえ基地被害が深刻な沖縄では実現不可能。
となると、米軍基地の中に自衛隊が入り、共同使用することになる。まさに日米が軍事的に一体化するわけです。地元との軋轢がさらに深まるのは必至でしょう」
安保3文書を受けてアジア周辺では緊張が高まっている。飯島教授は懸念を隠さない。
「中国、ロシア、北朝鮮は安保3文書を批判し、対抗措置をとると明言したり、軍事訓練を強化させたりしています。今の中国や北朝鮮の行動にも問題はありますが、それは外交で対応すべきこと。軍事力で対抗すれば、かえって脅威が煽られ、東アジアの軍事的緊張を高めかねません」
平和国家を謳う日本はどこへ向かうのか。その行方は、私たちの今後の選択にかかっている。
●財務省政権≠ノ日本が喰われる 1/18
自民党の甘利明前幹事長が少子化対策の財源として「消費税増税も検討対象」と発言し、また麻生太郎副総裁は「防衛増税は国民の理解を得た」と講演で言い切った。コロナ禍で冷え込んだ経済がまだ十分に回復していない中での自民党の大物たちの発言は、国民感情を逆なでした。
そもそも岸田文雄首相が防衛増税をこのタイミングで打ち出したことが問題だ。物価上昇などで生活が苦しくなっているタイミングで、増税を政治のメインテーマにするのは、あまりにも下策である。
春闘で賃上げの機運が高まっているところに、「将来、増税しますよ」という政府のメッセージはあきれるレベルだ。また岸田政権が掲げる「資産所得倍増プラン」からいっても、法人税を引き上げれば株価に悪影響が出る。その一方で「貯蓄するよりも株に投資を」と国民に呼びかけるのだから意味がわからない。
もちろん消費増税など、日本経済をわざわざ低迷させるためにやるとしか思えないものだ。「消費増税はしない」と政府は火消しに一生懸命だ。だが、国民は財務省に洗脳されている岸田政権ならば、いずれやるだろうと予想している。
どう考えても今は増税ではなく、減税のタイミングだ。コロナ禍で打撃を受けた観光や飲食業、そして地方経済や低所得者の生活を立て直すには、消費減税が最も有効だが岸田政権は一切の減税を拒否している。財務省がその方針だからだろう。ひょっとしたら岸田首相は、「岸田文雄財務事務次官」の方がお似合いかもしれない。
中国など周辺国との軍事的緊張が高まる中で、防衛費の拡充は必要だ。「異次元の少子化対策」も優先課題で間違いない。だが、その財源は、まずは経済成長による税収増で行うべきだ。そのためには減税など機動的な財政政策、そしてインフレ目標達成に強くこだわる金融緩和政策を採用することだ。
後者については、日本銀行の新総裁人事が非常に心配である。ダメな総裁を選んで、さらに政府と日銀の共同声明を安易に行えば、日本経済は致命傷を負うだろう。
政府の無駄をなくす行政改革も財源捻出の手段としてありだ。菅義偉前首相が、最近この点を指摘し、岸田首相の方針を、かなりはっきり批判したのは注目すべき動きだ。日本の財政運営をおかしくしている「国債償還60年ルール」見直しの動きも与党内にある。与野党ともに積極的に、経済を立て直す政策を競うべきだ。そうしないと財務省政権≠ノ日本が喰(く)われてしまうだろう。
●22年の訪日客383万人=水際緩和で回復、コロナ前の1割 1/18
日本政府観光局が18日発表した2022年の訪日外国人数(推計値)は、前年比約15.6倍の383万1900人となった。新型コロナウイルスの水際対策が段階的に緩和され、訪日客が激減した前年から回復に転じた。ただ、過去最多だったコロナ禍前の19年(約3188万人)との比較では88.0%減と1割強の水準にとどまり、回復は道半ばだ。
同時に発表した22年12月単月の訪日外国人数は前月比約1.5倍の137万人。円安も追い風に6カ月連続で増加し、コロナ禍前の19年12月の5割強の水準まで持ち直した。入国者数の上限が撤廃され、外国人の個人旅行やビザなし渡航も再開された昨年10月の大幅な水際緩和以降、回復ペースが加速してきた。
●26年度の国債費、4・5兆円増 29・8兆円、財政一段と厳しく 1/18
財務省が将来の財政状況を見通す上で、2026年度に想定する長期金利を1・6%に引き上げたことが18日、分かった。23年度当初予算案では1・1%だが、債券市場での上昇傾向を反映させた。引き上げにより、国の借金返済や利払いに必要な26年度の国債費は、23年度より約4兆5千億円多い29兆8千億円に膨らむ。一般会計の歳出総額の25%を超え、国の財政運営はますます借金返済に追われる形となる。
国債費の増加で社会保障や公共事業、教育といった政策経費が大きく切り詰められる恐れがある。また歳出規模に比べ税収などが不足したままでは、国債発行と国債費の膨張が止まらなくなる。  
●ロシア外相「日本は見せかけの平和主義すら失った」安全保障政策転換を批判 1/18
ロシアのラブロフ外相が、「日本は軍事化政策を取り入られるようにしている」と批判した。
ラブロフ外相は18日、年頭恒例の記者会見で、日本政府が新たに反撃能力の保有を決めるなどした安全保障政策の転換が、「ロシアや中国を念頭に置いていることは、誰もが理解している」と指摘した。
日本の方針転換を軍事化だとも強調し、「日本は見せかけの平和主義すら失った。日本がロシアとの関係を正常化することに関心を抱いているとは思えない」と突き放した。
そのうえで、「日本列島付近の安全保障を、どのように確保するか結論を出す」と日本海沿岸のロシア極東(きょくとう)や、ロシアが不当に実効支配する北方領土の軍備増強を示唆した。
空席となっている駐日大使については、「後任がもうすぐ東京に行く」と明言。ただ、「日本側が勝手に関係を凍結し、傲慢(ごうまん)で好戦的な発言をし始めた。これは無視できない。しっかり考慮して決める」とロシアのウクライナ軍事侵攻にともなう日本の経済制裁を引き合いに、責任転嫁した。
●財務省 将来の“財政状況試算”で長期金利の想定引き上げへ 1/18
財務省が行った将来の財政状況の試算で、長期金利の想定を引き上げることが分かりました。利払いが増えるため、2026年度に想定する国債費は4.5兆円増える見込みです。
関係者によりますと、財務省が来年度の予算案をもとに行った、今後の国の歳入と歳出の見通しを示す「後年度影響試算」で、3年後の2026年度の国債費は4.5兆円増え、29.8兆円になることが分かりました。
試算では、3年後の長期金利の想定を1.6%にまで引き上げています。
これは現在の長期金利の上昇傾向を考慮し、利払いが上がると見込んでいるためで、今後の金利上昇次第で日本の財政運営は、さらに借金返済に追われる形となります。
●近隣諸国のマンションバブル崩壊%本にも波及目前か 1/18
21世紀の現代、世界経済は緩やかにつながっている。お互いに、そこそこ影響し合っているのだ。不動産市場についても、そういった傾向がみられる。
約1年と少し前の2021年の後半、中国のマンション・バブルが崩壊し始めた。大手のデベロッパーがデフォルトに陥ったのだ。昨年は中国で「住宅ローンを支払っているのにマンションを引き渡してもらえない」という人々の、悲惨な状況を伝えるニュース記事を何度も見かけた。
実のところ、あの国では実際にどういう状況になっているのか、今ひとつよく分からない。報道規制や検閲があるのも大きな障壁だが、中国の地方政府が正確な情報をメディアはおろか中央政府にも報告していないと推測される。
だから、トップである習近平氏も正確な現況を把握していないのではないか。恐ろしいことである。
一説には「人口14億人の国で34億人分のマンション建設が計画された」とか、「誰も住んでいないマンションが1億戸ある」などという記事も、わりあいメジャーなサイトで見かける。要は、正確な統計データがないので、憶測記事が乱れ飛ぶのだ。
しかし、本来の実需に対して数倍以上のマンションが供給された、あるいは供給されようとしたのは事実のように思える。その結果、バブルが崩壊しているのだ。
お隣の韓国でもマンション・バブルが崩壊している様子が伝えられてきている。文在寅(ムン・ジェイン)前政権の失策続きで、ソウルのマンション価格が約2倍に高騰したらしい。しかし、今では下落に転じたとか。めいっぱいの借金で物件を購入した層が、金利上昇による返済負担増で苦境にあえいでいる様子が伝わってくる。今年は個人破産の激増がありそうだ。
ベトナムでは経済の高度成長下で不動産バブルが生じたらしい。ハノイやホーチミンでは、平均年収の20倍もするマンションが売り出されて、好調に売れていたという。だが、最近ではそれが崩壊して、値下がりが始まったとも聞く。
日本でも東京の湾岸エリアのタワーマンションは平均年収の20倍くらいの価格設定だが、それなりに好調な売れ行きが続いている。購入しているのは、値上がり狙いの「転売ヤー」さんたちと、世帯年収が1000万円を超えるパワーカップル。
今年は近隣諸国のマンション・バブル崩壊が、日本にも波及するかもしれない。この10年続いた東京都心とその周辺の緩やかなバブルも、いよいよ終わりを迎えそうだ。
黒田東彦(はるひこ)日銀総裁が始めた異次元金融緩和は、すでに10年。これが日本の局地的な急騰の原因で、ちょっと長すぎた。
1970年代のフォークソングではないが「長すぎた春」もそろそろ終わりを迎えるべきだろう。年収の10倍以上、場合によっては20倍もする物件が売れる市場は、どう考えても普通ではない。
●「原発の政策方針の大転換」 エネ庁、規制委が福井県に説明 1/18
県内には現在、運転可能な原発が7基あります。そのうち、運転開始から40年を超えた原発が、美浜3号機、高浜1、2号機と3基あります。去年12月、岸田総理は原則40年、最長で60年とされる原発の運転期間について、定期検査などで停止していた期間は運転期間に含まず、運転開始から30年以降は、原子力規制委員会による10年ごとの安全審査に通れば、事実上60年を超える運転も可能とすることを盛り込んだ「原発の政策方針の大転換」を示しました。そんな中、18日、資源エネルギー庁と原子力規制委員会の幹部が県庁を訪れ、政府が示した原子力政策の基本方針案や、原発の新たな安全規制について櫻本副知事に説明しました。ただ、資源エネルギー庁からは、原発の新たな基本方針案の実現に向けた具体的な言及はほとんどありませんでした。
去年12月、岸田総理大臣が座長を務める「GX=グリーン・トランスフォーメーション実行会議」で、運転開始から60年を超える原発の運転延長の認可や、リプレースの推進などを盛り込んだ政府の基本方針案を取りまとめ、「原発を最大限活用する」方針を示しました。
これを受け、GX実行会議を主管する資源エネルギー庁の山田統括調整官が県庁を訪れ、櫻本副知事に新たな方針案について説明しました。
会談の中で、山田統括調整官は、去年示された基本方針案の閣議決定を目指すとし、櫻本副知事は、「基本方針案の閣議決定を目指すことは、原子力政策の明確化を求めてきた福井県にとっては一つ前進」と評価しました。
ただ、閣議決定などの具体的な時期についての言及はなく、櫻本副知事の質問に対しても明言を避ける場面が目立ちました。その他、「可能な限り原子力の依存度を低減する」としている国のエネルギー基本計画の見直しについては、「ただちに見直すことは考えていない。必要に応じて適切なタイミングで見直しを図る」と述べました。
最長60年とする運転期間から除外するとした「停止期間」が、具体的にどの期間を指すのかについては、「法令で可能な限り明確化を図る」と述べるに留まりました。
加えて、県内の、運転から40年を超えている美浜3号機、高浜1,2号機の場合、何年が「停止期間」にあたるかも「個別の答えは差し控える」としました。
一連の説明を受け、櫻本副知事は、「立地地域にとっては重要な事柄。出来る限り早期に方針を示して欲しい」と話しました。
また、原子力規制庁との会談では、この他、60年を超える運転を想定した新しい安全規制は、これまで以上に厳格なものになるよう進めることなどが説明されました。
●26年度の国債費、4・5兆円増 29・8兆円、財政一段と厳しく  1/18
財務省が将来の財政状況を見通す上で、2026年度に想定する長期金利を1・6%に引き上げたことが18日、分かった。23年度当初予算案では1・1%だが、債券市場での上昇傾向を反映させた。引き上げにより、国の借金返済や利払いに必要な26年度の国債費は、23年度より約4兆5千億円多い29兆8千億円に膨らむ。一般会計の歳出総額の25%を超え、国の財政運営はますます借金返済に追われる形となる。
国債費の増加で社会保障や公共事業、教育といった政策経費が大きく切り詰められる恐れがある。また歳出規模に比べ税収などが不足したままでは、国債発行と国債費の膨張が止まらなくなる。

 

●いくら防衛費が増えても、誰も装備を使いこなせない…「戦わない軍隊」 1/19
実行力のある戦いは?
バイデン米大統領は日米首脳会談で日本の防衛力強化を称賛し、岸田文雄首相を「素晴らしいリーダー、真の友人」と呼んだ。内閣支持率が30%台に低迷するなど暗い話題が多かった岸田首相だが、「日米同盟新時代」を開けて満足だったろう。
少なくとも防衛政策は、国民から支持されているのは事実だ。政府は昨年12月16日、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定した。来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、敵基地をたたく「反撃能力」を保有することになったが、この防衛力強化の方針は、「支持する」が55%で「支持しない」の36%を上回った(昨年末の日経新聞とテレビ東京調査)。
ロシアのウクライナ侵攻は覇権主義国家による理不尽な侵攻が、今も起きうることを認識させた。北朝鮮によるミサイル発射は、いつ日本に着弾してもおかしくない恐怖を与え続けている。中国が台湾に侵攻する「台湾有事」はタイムスケジュールに入っており、台湾と指呼の間にある日本に緊張が走るのは避けられない。
日本はロシア、北朝鮮、中国の隣国である。岸田首相が公約した「防衛費をGDP(国内総生産)比2%にする」という負担は重いが、軍備増強で生じるリスクを含め、国民には引き受ける覚悟に加え、それが本当に防衛力の強化として国益に適うかどうか、あるいは国民を守ってくれるどうかを見守ることが必要だ。
筆者は、本サイトで北朝鮮のミサイル飛来に合わせ、「望ましいミサイル防衛の在り方」について、識者の意見を紹介してきた。
政府が掲げる「防衛力強化策」は、そうした各種提言を生かすものになっているが、一方で、「予算」と「装備」を強化しても、それを使いこなして戦う能力と、実行力のある戦いを可能にする体制が整っていないという現実がある。そこに踏み込みたい。
まだショッピングリストの段階
予算1兆円の地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の是非が問われた際、筆者は《噴出する反対論といくつもの問題点》(2019年8月15日配信)と題して、民主党政権下で防衛政務官、防衛副大臣を歴任、自民党に移ってからも防衛問題に一家言を持つ長島昭久代議士が推奨する「統合防空システム(IAMD)」を紹介した。
イージス・アショア利用の弾道ミサイル防衛(BMD)では、低高度飛翔の巡航ミサイルや極超音速滑空弾には対応できないため、米軍と情報を共有し、迎撃対象を広範囲にしたIAMDが将来の北朝鮮以外の脅威にも備えるシステムになる、ということだった。
「国家防衛戦略」では長島氏の言うようにBMDからIAMDに移行したうえで、相手国のミサイル拠点などをたたく「反撃能力」を明記した。そのために敵の射程外から攻撃できるスタンド・オフ防衛能力を持つ米国巡航ミサイルの「トマホーク」や国産の「12式地対艦誘導能力向上型」を配備することになった。
また、ウクライナに侵攻したロシアが、超高音速ミサイル「キンジャ―ル」を初めて実戦で使用し、北朝鮮が新型大陸間弾道ミサイル「火星17号」の発射実験を行った際には、《プーチン、金正恩の脅威で岸田政権が迫られる「本気のミサイル防衛」》(22年3月31日配信)と題して、坂上芳洋元海将補にミサイル防衛の在り方を聞いた。
坂上氏は、イージス艦に配備された迎撃ミサイル「SM-3」と地上で迎え撃つ地対空誘導弾パトリオット「PAC-3」の2段構えでは、複数同時ミサイル攻撃や極超音速ミサイルには対応できないとして、長距離艦対空ミサイル「SM-6」の実戦配備など具体的な「統合対空ミサイル防衛」の数々を語った。
坂上氏は今回、「予算」と「装備」を増強して米軍との連携を強める「安保3文書」を評価しつつも、「まだショッピングリストの段階。制度や法律を整えて自衛隊の質を向上させてこそ意味がある」という。
確かに日本のこれまでの防衛力向上は、「ショッピングリスト」を満たすのに汲々としていた。象徴するのが、自衛隊の運用能力と稼働率の低さ、弾薬やミサイルの備蓄不足である。
日経新聞コメンテーターの秋田浩之氏は、同紙「オピニオン欄」(23年1月5日)で、「部品不足で稼働率は5割強」「弾薬やミサイルは不足。迎撃ミサイルは必要量の約6割」「自衛隊施設の約8割は防御態勢が不十分」としたうえで、「23~27年度に約43兆円の防衛費を投じるとはいえ、約15兆円は負の問題を解決するために吸い取られてしまう」と指摘した。
弾を撃つにも上官の許可が
「反撃能力」を保有し、GDP比2%の予算で歴史的転換期を迎えた自衛隊は、戦略的にも装備的にも新たなスタートラインに立ったといっていい。だが、そのためには制度やシステムを実戦向きに整える必要がある。ここから先は自衛隊OBや防衛産業関係者などの「本音」である。
「自衛隊は立派な装備を有し、海外では陸海空軍の扱いを受けているが、実態は『軍隊のように見える警察』に過ぎない。通常、軍隊は国際法・交戦法規が禁じること以外は何でもできるネガティブ・リスト(否定されることが決まっている)型でなくてはならない。しかし本質的に警察である自衛隊は、法令に即して行動するポジティブ・リスト(やれることが決まっている)型だ。これではダイナミックに動く戦場で戦うことなどできない」(自衛隊OB)
確かに戦闘を起こすに際し、実施可能かどうかを法令で判断、弾を撃つのに上官の許可を必要とするようなポジティブ・リスト型では敵にやられてしまうだろう。
有事の際、戦闘を継続できるかどうかの「継戦能力」にも疑問符がつけられている。
「長年、専守防衛を金科玉条としてきたために、攻撃を防ぐことしかできない。つまり継戦能力を持っていない。なのに幼児がかっこいい玩具を欲しがるように、ハイテク正面装備の調達にこだわってきた。攻撃できない弱みを装備でカバーしようとした。でも、戦えないので弾薬や兵站の準備をおろそかにした。砲弾もミサイルも圧倒的に不足している」(別の自衛隊OB)
戦いを前提とした軍隊ではないということだ。それが自衛隊の質を落とし、非戦と武器輸出三原則が防衛産業を弱体化させた。
「防衛庁(07年から防衛省)・自衛隊は、長く『違憲で無駄な存在』と見なされ、社会的に認知されなかったので優秀な人材が不足している。しかも『戦えず、戦わない自衛隊』という矛盾が、事なかれ主義者の出世を許してきた。しかも国家安全保障局(NSC)が設けられて重要な政策立案機能が内閣官房に集中するようになった結果、内局が空洞化している。一方で特殊な『自衛隊仕様』にこだわって武器装備品を製作、武器輸出三原則(2014年から防衛装備移転3原則)に縛られている間に防衛産業は衰退していった」(防衛商社幹部)
こうした弱点は防衛省・自衛隊のせいではないものの、「中途半端」に据え置かれたことで、そんな存在となった。
一挙に増えた「予算」と「装備」は猛々しく頼もしいが、反撃・継戦能力を持つということは、「戦わない自衛隊」から「戦う軍隊」に変わったことを意味する。
日米の同盟強化、豪・英・仏・伊・独などの準同盟国との関係を進展させている岸田政権に必要なのは、国会で論議を尽くして自衛隊から「戦えない」要因を取り除き、法的・システム的な環境を整えることだろう。
●新年にあらためて誓う、日本を「絶望の国」にしてはならない。 1/19
あけましておめでとうございます。僕の年明けは、例年のように、「朝まで生テレビ!」の生放送で始まった。テーマは「激論!ド〜する?! 日本再興2023」。
2000年には一人当たりGDPが、世界2位だった日本。しかし、2021年時点では27位と大きく後退した。少子化と高齢化、増大する国家予算と赤字国債……、日本はいったいどうしたらいいのか。
自民党の片山さつきさん、慶応大学准教授の小林慶一郎さん、京都大学大学院教授の藤井聡さん、国際政治学者の三浦瑠璃さんらと、なんと4時間も議論した。以前このブログでも紹介した、元ゴールドマン・サックス証券トレーダーの田内学さんにも初めて登場いただいた。田内さんは日本の喫緊の課題は、「少子化」と「生産性向上」だと言った。僕もまったく同感だ。
これまで政府は、「少子化対策」と言いながら、本腰を入れてこなかった。少子化対策担当大臣が、創設された2007年から、現在までに21人が就いている。1人あたりの在任期間は、平均1年にも満たない。
こんなにコロコロ大臣が変わって、本気の対策ができるわけがない。その結果、昨年の日本の出生数は、ついに80万人を切った。すると1月4日、岸田文雄首相が年頭の記者会見で、この問題について「異次元の少子化対策に挑戦する」と明言した。いろいろ批判はあるが、僕は岸田首相の「本気」を感じた。
「朝生」では、教育についてもおおいに議論した。かつて宮澤喜一さんが僕にこう言った。「田原さん、サミットなど、外国との議論の場で、日本の政治家は発言できないんですよ。どうしてだと思います?」僕が「英語力ですか?」と言うと、宮澤さんは「違う」と否定してこう語った。
「日本の教育は、『正解』のある問題しか与えない。しかし、いざ社会に出て、さらに国際社会においては、『正解』のない問題ばかりなんです。だから日本はもっと『正解』のない問題を、考えさせる教育をしなければならない」
「朝生」内では、お笑いタレントでジャーナリストとして活動しているたかまつななさんも、「若者が社会を変えていくことが必要。そのためには教育が大事」と語った。ヨーロッパの主権者教育は、学校のルールを子どもたちに考えさせるなど、「ルールは従うもの」という日本の教育とは、全く違うという話をした。僕は宮澤さんとの対話を思い出しながら、ほんとうにその通りだと思った。「正解を覚えればいい」「従えばいい」という教育では、日本は世界のなかで取り残される。
ところで、たかまつさんとのやりとりが、ネットを騒がせてしまった。顛末はこうである。僕がたかまつさんに、「日本はよくなると思ってるの?思ってないの?」と聞いた。たかまつさんは、「思ってないです」と答えた。その時僕は、「だったらこの国から出ていけ。この国に絶望的だったら出て行けばいい」と言った。
少し釈明したい。僕は、みんなが、「日本はよくならない」と絶望していたら、本当に「よくならない」方向に行ってしまうと思う。逆に希望を持って、「絶対によくなる」と思って進めば、よい方向に行くと信じている。
たかまつさんとは、番組以外でも親しくしており、僕が定期的に開く討論の場、「田原カフェ」にも来ていただいた。とても期待している方だし、希望を持って頑張ってほしいからこそ、瞬間的にその気持ちをぶつけてしまった。その後たかまつさんと話をして、僕の気持ちもわかってもらえた。たいへん失礼しました。
●【食料・農業問題 本質と裏側】「通常時」「緊急時」の議論は意味をなさない 1/19
昨年11月25日の衆院予算委員会では野党が政府に対し乳製品のカレント・アクセス枠全量を輸入する必要はないのではないかと追及した。野村哲郎農相は、カレント・アクセスの全量輸入は国際ルール上義務付けられてはいないと述べる一方、「通常時は全量輸入を行うべき」という政府統一見解を説明した。
野党からの「今は間違いなく平時ではなく、全量輸入の継続はおかしい」との指摘に対し、岸田文雄首相は「国内需給に極力悪影響を与えないよう需給動向を踏まえながら、脱脂粉乳やバターを輸入しており、国内需給への影響回避に向け脱脂粉乳とバターの輸入割合を調整できる余地はあると承知している」などと述べるにとどめた。
また野村農相は11月29日の閣議後会見で、1994年に公表したコメのミニマム・アクセスに関する政府統一見解(表参照)に触れ、「輸出国側が凶作で輸出余力がないような状態が例外的なケースであり、(25日の答弁でも)『今は通常のケース』だと申し上げた。WTOの中で決めたルールなので、輸出国に余力が十分あるにもかかわらず日本が輸入を拒否することはなかなか難しい。酪農もコメと同じで日本から拒否するということにはいかない」と述べている。
この説明・議論は、すべて間違いである。「低関税を適用すべき枠」としか定められていないのだから、通常時には全量輸入すべき必要など、国際的な約束にもどこにもない。「通常時」「緊急時」と言って、「緊急時」の定義を議論することに意味はない。
国家貿易だから義務が生じるという説明も、GATT協定における国家貿易企業(STEs)の定義に照らしても、明らかな間違いである。「関税及び貿易に関する一般協定」第17条は、国家貿易企業について「商業的考慮(価格、品質、入手の可能性、市場性、輸送等の購入又は販売の条件に対する考慮をいう。)のみに従って(a)の購入又は販売を行い、かつ、他の締約国の企業に対し、通常の商習慣に従って購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を与えることを要求するものと了解される」とされている。
このように、WTOでも、国家貿易企業が100%の充足率を達成すべきであるとの問題意識を持っておらず、我が国のミニマム・アクセス米などに関する取扱いは、他に例を見ないものである。・・・
●防衛費増額はだけでは日本は守れない なぜ防衛はここまでダメになった? 1/19
「反撃能力」の保持、そして、「防衛費」の増額をめぐって、与党内も国会全体も大荒れだ。メディアの報道も一貫していない。すでになにもかもが決まっているかのように報道されているが、国防議論自体があまりにも絵空事であり、しかも議論の順序が逆だ。どうやって日本を守るのか、その具体的な方策が明確でないままの増額にどんな意味があるのか? そこで、今回は、現在の日本の安全保障、防衛について、いったいどうして、こんなお寒いことになってしまったのかを考えてみたい。
アメリカ全面依存の安全保障は通用しない
世界中で日本ほど、国家と国民の安全をどうやって守るかについて、国民も政治家も無関心で、まるで他人事のように考えている国はないだろう。世界がグローバルなワンワールドなら別だが、いまところ、世界には国家と国境があり、そのなかでしか安全保障は成立しない。
しかも、日本は島国とはいえ、周囲に友好国は台湾ぐらいしかない。ロシアも中国も北朝鮮も、海を隔てているとはいえ、日本の安全保障を脅かす存在だ。
とくに北朝鮮にいたっては、日本の方向に向けたミサイルの発射を繰り返している。さらに、中国の習近平政権が3期目に入り、台湾を武力併合する可能性が高まっている。
こんな現実、脅威があれば、おそらくどんな国家も防衛力強化を図る。軍事的なバランスを維持しなければ、安全保障は担保されないからだ。
同盟を結んでいるのだから、日本の安全はアメリカが担保してくれるという考えは、ウクライナ戦争を見ても明らかなように、いまはもう通用しない。
財源が明確でない増額に国民は猛反対
したがって、岸田政権が前政権から引き継いで実現させてようとしている「反撃能力」(ついこの前まで「敵基地攻撃能力」と言っていた)の保持は間違っていない。2023年から5年間の防衛費を、これまでの約1.5倍となる総額43兆円に増額するという方針もおおむね正しいだろう。
しかし、その中身となると、首を傾けざるをえない。まず、「反撃能力」を持つとしながら、「専守防衛」を維持するということ自体が矛盾している。次に、なにに予算を割くのかという中身を吟味もせず、ただ増額だけを決めるというのは順序が違う。
しかも、岸田首相は増額の財源をはっきりさせず、増額のうちの1兆円を増税でまかなうことだけは表明してしまった。これには、世論が猛反発、与党・自民党内でも反論が続出した。メディアにおける論議も紛糾し、いまだに収束がついていない。
先月のFNNの世論調査(11月12、13日実施)では、岸田政権が目指す防衛費の増額を所得税や法人税の増税でまかなうことについて「賛成」13.2%、「どちらかと言えば賛成」16.8%に対し、「反対」45.9%、「どちらかと言えば反対」20.1%だった。じつに66%が「ノー」を示していたのである。
「反撃能力」保持なのに「専守防衛」維持?
世論がどうであろうと、「反撃能力」を持つことと防衛費の増額は既定路線となっている。年末に政府が策定する「国家安全保障戦略」の3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)には、すでに、反撃能力の保持が明記されていることが明らかになっている。
ところが、この反撃能力というのは、自民・公明両党の合意によって、「必要最小限度の自衛の措置」などと定義され、憲法や国際法の範囲内で行使されるとしたうえで、「先制攻撃」は許されないとして「専守防衛」の考え方に変わりがないと強調されている。
まったく、耳を疑うとはこのことだろう。こんな机上でしか成立しない理論を国家の安全保障の根本に据える国など、この世界のどこにもない。そもそも専守防衛などというのは、現実的にありえない。
防衛も攻撃も戦うなら同じことだからだ。「反撃できなければ抑止力にはならない」のは自明の理であって、こんなことを国会やテレビ番組で議論するのは無意味だ。なのに、それをやっているのだから、結論など出るわけがない。
こんな不毛な議論より、現実的にどうやって日本を守るか、そのためにどれほどの「攻撃能力」(わざわざ反撃能力などと言う必要はない)=「抑止力」を持つかを議論しなければならない。・・・
●異次元の少子化対策 “大胆なたたき台を” 小倉少子化相  1/19
岸田総理大臣が目指す「異次元の少子化対策」の具体化に向けた、関係府省の新たな会議が開かれ、小倉少子化担当大臣は、各府省の垣根を越え、過去にない大胆な少子化対策のたたき台をつくりたいという考えを示しました。
政府は岸田総理大臣の指示を受けて、小倉少子化担当大臣のもとに関係府省による新たな会議を設置し、3月末をめどに、具体策のたたき台をまとめる方針で、19日は東京・永田町の合同庁舎で初会合が開かれました。
小倉大臣は「これまでの漸進的な対策にとどまらず、積年の課題の解決に向けて一気に前進させられるよう、政策強化の目指すべき姿や、当面加速化して進めるべきことを示していきたい」と述べました。
そのうえで「少子化対策は岸田政権にとって最重要課題だ。少子化を解決することは、社会の存立を左右する最も大切な未来への投資であり、省庁の垣根を越え、政府一丸となって、いまだかつてない大胆なたたき台をつくっていきたい」と述べました。
そして会議では、今後有識者などにヒアリングをするなどして、たたき台をまとめる方針を確認しました。
関係府省会議の経緯と今後の予定
少子化対策をめぐり、岸田総理大臣は今月4日に行った年頭の記者会見で、ことしを「異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と決意を述べました。
そして2日後には、小倉少子化担当大臣を総理大臣官邸に呼び、対策の強化に向けて、関係府省による新たな会議を設置して児童手当を中心とした経済的支援の拡充など、具体策のたたき台を3月末をめどにまとめるよう指示しました。
関係府省の会議は小倉大臣が座長を務め、内閣府や文部科学省、厚生労働省など、子ども・子育て政策に直接関わる府省に加えて、予算に関わる財務省や総務省、さらに、住宅政策を担当する国土交通省からも局長級の職員がメンバーとなり、合わせて18人で構成されています。
会議は3月末のとりまとめまでに19日を含めて5回開かれる予定で、有識者や子育ての経験がある人などから意見を聞くことにしています。
そして、岸田総理大臣が対策の基本的な方向性として示した、児童手当を中心とした経済的支援の拡充、幼児教育や保育サービスの充実、育児休業制度の強化を含めた働き方改革の推進の3点を中心に議論を行い、たたき台をまとめることにしています。
その後、4月に発足する「こども家庭庁」のもとでさらに具体的な検討を進め、岸田総理大臣が6月の「骨太の方針」の策定までに、子ども予算の倍増に向けた大枠を明らかにする方針を示していることを踏まえ、具体策のとりまとめを目指す予定です。
●「異次元の少子化対策」3月末メドにたたき台…政府が初会合  1/19
政府は19日午前、「異次元の少子化対策」の実現に向けた関係府省会議の初会合を東京都内で開き、3月末をめどに具体策のたたき台をとりまとめる方針を確認した。たたき台をもとに財源を含めた具体策を詰め、6月に子ども関連予算を倍増させる方向性を示す見通しだ。
座長の小倉少子化相は「子どもや子育て世代を支援し、少子化を解決することは社会の存立を左右する最も大切な未来への投資だ」と述べた。「いまだかつてない大胆な少子化対策に関するたたき台を作っていきたい」とも語った。
関係府省会議は、内閣官房や内閣府、厚生労働省などの局長級で構成し、計5回開催する。〈1〉児童手当などの経済的支援〈2〉幼児教育や保育サービスなどの支援拡充〈3〉働き方改革の推進――が議題となる。有識者や子育て世帯、若者らの意見を聴取する際は、岸田首相が出席する方向だ。
この日の会合では、政府の全世代型社会保障構築会議が昨年12月に取りまとめた報告書の概要について、清家篤・同会議座長が報告した。報告書では、子育て世帯への経済的支援を強化するよう求めている。
児童手当の拡充など少子化対策を巡っては、財源の確保策が焦点となる。首相はこども家庭庁が発足する4月以降、財源を含めた具体策を調整し、6月に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に、子ども関連予算の倍増に向けた道筋を明記する考えだ。  

 

●「最大の未来の投資」防衛費は国債にすべき 1/20
通常国会が23日に召集される。防衛力強化の財源や、物価高対策、脱炭素の「GX(グリーントランスフォーメーション)」などが焦点になる見通しだ。私は「増税方針の是非」が、最も重要だと思っている。
岸田文雄首相は、ジョー・バイデン米大統領との首脳会談後の記者会見で、防衛費増額に伴う増税について、「野党との活発な国会論戦を通じ、国民への説明を徹底したい」と語っていた。昨年末、他の選択肢もあるのに、たった1週間で「増税」を決めたことは理解できない。
コロナ禍や物価高で、国民生活は苦しくなる一方だ。春には日本銀行の黒田東彦総裁が任期を迎え、従来の「大規模な金融緩和」という政策が大転換する観測も広がっている。自民党幹部からは「少子化対策での消費税増税」も浮上している。
岸田政権が、このタイミングで大増税に踏み出すとすれば、日本経済にとってプラスにはならない。大きなダメージになる可能性が高い。防衛力は経済力に直結する。中国は急速な経済成長を背景に国防費を増大させた。不況になって安定的な財源を確保できなくなれば、防衛力強化も難しくなるのだ。
私は以前から、安倍晋三元首相が提案した「防衛国債」の発行が最も望ましいと考えてきた。
自民党の萩生田光一政調会長は新年早々、防衛費増額をめぐり増税以外の財源について議論する特命委員会を設ける考えを示した。最近では、萩生田氏と世耕弘成参院幹事長が、国債の「60年償還ルール」を見直し、防衛費増額の財源を捻出することを検討すべきとの考えを示している。
これに対し、岸田首相はラジオ番組で、「戦闘機やミサイルを買うのに国債を発行して未来の世代にツケを回すのがいいのか、今を生きるわれわれの責任として払うのか」と発言している。
松野博一官房長官も「財政に対する市場の信認を損ねかねないことなどの論点がある」などと否定的な姿勢だ。
安全保障や国民生活よりも、「市場の信認」や「財政再建」の方が重要と言っているように聞こえる。岸田首相が知恵を振り絞って、やむを得ず、増税方針を選択したとは到底思えない。「防衛国債」や「埋蔵金」など、まだまだ議論の余地はある。
複数の野党が、岸田首相の「大増税方針」に批判的な姿勢を示しているが、共産党などは防衛力強化に反対している。通常国会では、いつも通り、政権批判に終始する可能性が高い。
ともかく、財務省の呪縛から離れて、予算全体の見直しに着手すべきだ。国家運営や国民生活に必要な予算を並べて、優先順位をつける。有意義な国会論戦を期待している。
●「国債償還60年ルール」見直しとは? 防衛費の財源として浮上 1/20
防衛費増額の財源として国債の償還期間を延長し、自民党内で毎年の返済額を減らして財源に充てる案が浮上している。政府の借金である国債の「60年償還ルール」を見直そうというのだ。この仕組みと、見直した場合の影響をまとめました。
Q 60年償還ルールとは何ですか。
A 国債を60年かけて返す日本独自の制度です。例えば10年で返す国債を600億円発行した場合、10年後に一般会計から国債返済のための特別会計への繰り入れで100億円返し、残り500億円は借換債(借金を返すために発行する国債)の発行で返します。こうした手法を繰り返し、60年後に完済する手法です。
毎年度、一般会計からの繰り入れ額は、国債発行残高の約60分の1(1.6%)に相当する額と法律で定められています。先月閣議決定した2023年度当初予算案では、16兆円超が計上されています。
Q なぜ返済期限が「60年」なのですか。
A このルールは当初、公共事業に投資する建設国債のみに適用されていたため、道路や橋などの平均耐用年数から「60年」となりました。しかし、1985年度には単に財源不足を補う赤字国債の返済にも適用されるようになり、借金の膨張を招いたとされます。
Q 自民党はどんなルールの見直しを検討しているのでしょうか。
A 借換債を増やし、一般会計からの繰り入れを止めたり額を減らしたりする案です。繰入額を減らした分、防衛費に使える一般会計のお金を増やそうというのが狙いです。
Q 問題点はないのですか。
A 単年度では一般会計からの返済費は少なくなりますが、返済総額が減るわけではありません。借換債を余計に発行することになり、将来世代の負担はさらに増えます。明治学院大の熊倉正修まさなが教授(日本経済論)は「赤字を減らそうという力も働きにくくなる」と指摘し、財政赤字の拡大につながりかねません。
●岸田首相が残した外遊課題 ウクライナへどう貢献するか 1/20
岸田文雄首相の外遊冬の陣≠ェ終わった。一定の成果をあげたようだが、もどかしい印象もぬぐえなかった。期待されたウクライナ訪問が実現しなかったためだろう。
主要7カ国(G7)サミット首脳の中で、ゼレンスキー大統領とひざ詰め会談を未だ行っていないのは、岸田氏だけだ。今回の訪米歴訪は、そうした状況を解消するチャンスだった。諸般の事情がそれを許さなかったのはやむをえないとしても、国内事情を考えると日程はますます窮屈になってくる。
キーウを訪問できないまま、5月の広島サミットに議長として臨むのか。そうした最悪の事態だけは避けなければならない。
避けられなかった防衛予算増額
首相のウクライナ訪問問題の前に、今回の外遊について触れたい。
首相が訪米を見据えたタイミングで、安全保障戦略の改定、防衛予算の大幅増額を決断したことに対する見方は分かれる。「日本とインド太平洋地域の平和に寄与する」(産経新聞、1月15日「主張」)という好意的な評価から、「国民的議論のないまま同盟進化にひた走る」(朝日新聞、1月15日「社説」)などの批判まで、侃々諤々(岸田首相)ともいえるさまざまな議論がなされている。しかし、首相にしてみれば、以前からの懸案を積極的に解決したにすぎないだろう。
日本を取り巻く脅威が高まる一方のなかでは早晩、反撃能力(敵基地攻撃能力)を保持し、防衛予算を手厚くすることは避けられなかった。中国、欧州連合(EU)などをはじめ国防予算を増額する国が相次いでいる事実は日本だけがそれを抑制していいのかという疑問を生じさせる。
韓国を例にとってみれば、その一般会計予算が2兆7000億円程度だった1988年ごろ、日本の防衛予算は約3兆7000億円前後にのぼっていた。先方から見れば、自らの国家予算を上回る防衛予算を日本が計上していたわけで、外務省の韓国専門家が「韓国の警戒心を掻き立て反日感情につながらなければいいが」と気がかりな表情で漏らしたのを覚えている。
その韓国の国防費が2023年度は日本円で5兆9000億円。前年度から1兆5000億円と大幅に増えた日本の6兆8000億円(予算政府案)には及ばなかったが、日本の22(令和4)年度の防衛費は上回った。
日本の防衛予算がいかに抑制され続けてきたかを明確に示す事実だ。  
尖閣諸島での中国の度重なる領海侵犯、北朝鮮の相次ぐミサイル実験など今日の厳しい国際環境を考えれば、防衛予算が今の水準にとどまることが許されないことは、理屈抜きで多くの人が理解できよう。
今回の安保政策転換について、朝日新聞は米国知日派のコメントを紹介した。このなかで、外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は、「米政府は日本の戦略的思考と外交の方向性に満足している」と岸田内閣の決断を高く評価した。
政権に批判的で、岸田首相個人への攻撃とも思える紙面作りを展開している朝日新聞にして、好意的な分析記事を掲載せざるを得なかったことは、批判勢力の勢いを失わせるに十分だ。
首相に失策があったとすれば、結論を急ぐあまり、必要経費を積み上げた場合に大幅増額にならざるをえないという説明ではなく、最初から国内総生産(GDP)比2%を提示して「数字ありき」という印象を与えてしまったことだろう。
日米首脳会談決まり、キーウ訪問が困難に
今回の外遊を通じ、安全保障政策の転換は、欧州各国からも評価されたようだ。首相自身、帰国直前にワシントンで行った記者会見で、G7議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国の任期が始まったことを念頭に、「国際社会を主導していく責任の重さと日本への期待を感じた」と歴訪を振り返った。
そうならば慶賀にたえないというべきだろうが、それだけに、キーウ訪問を今回見送らざるを得なかったのは残念というほかはない。国際社会を主導していくというなら、キーウを電撃訪問して、存在感を各国に示すべきではなかったか。
首相はもともと昨年6月、スペインのマドリードで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した際、キーウ行きを検討したが、日程の都合で見送られた。今回の外遊前、首相は同じ時期に開かれるダボスの世界経済フォーラムへの出席を予定、それにあわせてウクライナに足を伸ばすことを検討したようだ。
しかし、その日程と前後して日米首脳会談がセットされたことでダボス行きがをとりやめとなり、年末からロシアによるキーウへの攻撃が激化したことなどもあって、立ち寄りも断念されたと伝えられる。
5月19日からの広島G7首脳会議の前に、首相がゼレンスキー大統領を訪ねる機会はあるのか。
1月23日に通常国会が召集され、予算審議が始まる。外務省関係者らは、情勢が厳しくなったことは認めている。しかし、チャンスが潰えてしまったわけではない。
予算委員会の審議が一段落するのを待って、週末に弾丸訪問≠キることも可能だし、4月から5月の大型連休を利用することもありうる。首相は今回訪問できなかったドイツのショルツ首相とも「できるだけ早く意見交換の機会をもちたい」(帰国前のワシントンでの記者会見)と述べており、この時に同時に訪問することも選択肢の一つだ。
ただ、週末訪問の場合は、制裁への報復として、ロシアが航空機の上空通過を禁止していることから、時間のかかる北極回りか南回りの航路をとらざるを得ず、ごく短期間での往復には障害となる。5月の連休をあてるにしても、G7首脳会議に間に合わせるため、訪問それ自体が目的になってしまったという印象をもたらすのは避けられない。
あらたな大型支援も難問
一方、訪問を実現させたとしても、手土産≠どうするか――という大きな問題が残る。
岸田政権はロシアのウクライナ侵略開始後、G7各国と歩調をあわせてロシアへの強い制裁、ウクライナへの積極支援に踏み切った。ロシア外交官8人の一挙追放、ヘルメット、防弾チョッキなど準軍事装備品の供与などで、こうした機会に、「遅い、少ない」などと揶揄される日本政府には似合わない健闘ぶりだった。
しかし夏以降、予算の問題などもあって息切れ≠オ、このところ大規模なウクライナ支援は滞ったままだ。
現在、日本は、電力不足、厳しい寒さをしのぐための発電機、ソーラー・ランタンや防寒具などのほか、最近は、地雷除去のための金属探知機の供与を開始、市民生活に有用な機材、物資を供与している。しかし、3兆円を超える軍事支援を行っている米国、陸軍の主力戦車を供与する英国、装甲車を送るフランスなどほかのG7各国に比べると、地味な印象はぬぐえない。
G7以外でも韓国は、米国に対して砲弾10万発を供与する方針で、最終的にウクライナに提供されるとの見方もなされている。
ロシアの侵略から2カ月後の2022年4月、ウクライナ政府が作成した動画の中で、支援に感謝する国としてあげられたG7各国やスペインなど31カ国のなかに日本の名前がなかった。日本の抗議を受けてわが国を追加したあらたな動画が制作されたが、このことは、1991年の湾岸戦争の際の悪夢≠思い起させるに十分だった。日本は当時、多国籍軍に多額の資金拠出を行ったにもかかわらず、クウェートが米紙に出した感謝広告では無視され、国民を失望させた。
日本の支援は重要な貢献ではあるが、目立たないのは残念というほかはない。
首相、短期間で困難な決断迫られる
広島G7サミットのウクライナ問題討議では、岸田氏を除く各国首脳が、オンラインで参加するゼレンスキー大統領と親しげあいさつを交わしたり、大統領との会談の様子について話題が及んだりすることがあろう。大統領との会談が実現しない場合、岸田首相はその輪に加わることができず、「蚊帳の外」に置かれてしまう。わが国の支援が派手さに欠けることに対しても各国から批判的な指摘がなされる可能性がある。
しかし各国並みの軍事的貢献はわが国には不可能だ。サミットまで、あまり時間がない。 
短期間のうちに首相は、予算審議に縛られながら、ウクライナ訪問の時期を探り、法律や政府方針の枠内で可能な限り大規模、各国と比べて見劣りのいない支援をどうするかなど、困難な決断を迫られる。
●戦争国家宣言はクーデター 1/20
先制攻撃準備は国連憲章違反
岸田文雄首相とバイデン米大統領の日米首脳会談を報じた1月15日の朝日新聞1面トップの4段縦見出しは「防衛強化 バイデン氏支持」で、横見出しは「安保政策転換 『同盟を現代化』」だった。他のメディアも米側が日本の防衛強化を歓迎したと報じたが、実際は、「バイデン氏支持」は「バイデン氏指示(命令)」だったのではないか。
岸田氏は「敵基地攻撃能力」(日本政府は「反撃能力」と言い換え)の保有や軍事費の大幅増を決めたと報告。バイデン氏は昨年12月16日に閣議決定した「国家安全保障戦略」など軍事関連三文書を「歴史的だ」と評価し、「我々は軍事同盟(ミリタリー・アライアンス)を現代化している」と応じた。岸田氏は日本国憲法違反の攻撃兵器である米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークを導入する考えも伝え、日米共同で敵基地攻撃を行うことで合意した。
中朝ロを先制攻撃の対象に
会談後に発表した共同声明では、中国、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)、ロシアを名指しし、日本の敵基地攻撃能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するとした。また、「広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)成功へ緊密に連携」などを謳った。
岸田氏は会談後、「大統領みずからホワイトハウスの南正面玄関に迎えに出てもらった」と記者団にコメント。報道各社は、バイデン氏が執務室に案内する際、何度も右腕を大きく岸田氏の背中に回しながら歩き、ご満悦の様子の岸田氏のどや顔を映した。会談前のメディア対応でも、バイデン氏は人差し指を岸田氏に向けるシーンもあった。
日本は第二次世界大戦のポツダム宣言受諾・無条件降伏後、米軍が単独占領し、独立後も在日米軍基地(70%が沖縄)を置き、10万人以上の米軍関係者が駐留している。国家の基本である軍事・外交は77年間、米国に統制され、在日米軍トップと日本官僚で構成する日米合同委員会(月2回開催)が三権の上に君臨しており、米国の植民地状態になっている。
バイデン氏はカメラの前で、日米軍事同盟の現代化と述べたが、朝日新聞が15日夕刊でそのまま報じた以外、報道各社は「日米同盟の近代化」「同盟関係の強化」と伝えた。単なる同盟と軍事同盟ではまったく意味が異なる。
岸田氏は首脳会談後、ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院で「歴史の転換点における日本の決断」と題して行った講演で、軍拡の「決断」を吉田茂首相の日米安保条約締結、岸信介首相の安保改定、安倍晋三首相の集団的自衛権行使の一部容認に続く、「歴史上最も重要な決定の一つ」と言い放った。
岸田氏は国会での議論をせず、人民に信を問うこともなく、閣議決定だけで強行した政策転換は、日本国憲法を順守する義務のある首相による憲法蹂躙であり、安倍氏が乗り移った岸田氏によるクーデターに等しい。
岸田氏は戦後、自民党政権が掲げてきた専守防衛を廃棄し、米国の対中侵略戦争に日本列島、とりわけ琉球の人民を差し出すと公約し、米国製武器を爆買いする契約を結んだ。戦後最も危険で愚かな首相だ。
岸田氏が訪米した14日、チョ・チョルス朝鮮外務省国際機構局長は国連のグテレス事務総長が12日に安全保障理事会で朝鮮の核開発を「非合法」と指摘したことを糾弾した談話で、国連憲章で日本は「敵国」と明記されていると指摘し、朝鮮半島の植民地支配を清算していない日本に安保理メンバーとなる「道徳的、法的資格はない」と主張した。
談話が指摘するように、国連憲章は日本など7カ国を連合国の「敵国」と規定し、加盟国(戦勝国)は戦犯国である「敵国」に再び侵略戦争を起こす兆しのある時は、安保理決議なしに先制攻撃できると3つの条項で明記している。米国と共に侵略戦争を構えると宣言した日本は、先制攻撃の対象になったと言えるのではないか。
広島サミットは被爆者への裏切り
米国の核の傘の下にあって、米国の対中戦争に全面加担を公約した岸田氏が「G7広島サミット」で核戦争の悲惨さを訴えるというのは、広島・長崎の歴史に対する冒涜だ。
広島県庄原市議会は昨年12月23日、「防衛予算の倍増を閣議決定した政府方針の撤回を求める意見書」を、賛成多数(10対4)で可決した。決議は「武器等の増量の理由が主権者にまったく説明されていない」と批判した。
広島県朝鮮人被爆者協議会の金鎮湖会長は日米首脳会談について、筆者の取材に「広島サミットが核兵器をなくす大きな契機になればいいのだが、日本の岸田政権は軍備増強一辺倒で米国の言いなりで、南朝鮮の現大統領も米国の言うことは何でも聞く状況になっている中で、我々が願う核兵器廃絶ができるのかという不安感がある。朝鮮半島にとっては非常に危険なことになっている」と指摘した。金氏はまた、「サミットを控える広島の雰囲気は、広島県・広島市の注目度が高まり、観光客が増えるなどの経済効果とか、そういう話ばかりになっている。サミット開催に批判的な声が多い。広島県人、市民への裏切りという声が強まると思う」と述べた。
安保3文書の撤回を求めないメディア
新聞各紙は社説で「国民への説明 後回しか」(朝日新聞15日付)「対中緩和へ外交も語れ」(東京新聞18日付)と題して、増税を伴う安保政策の大転換を国会で説明する前に、バイデン氏に報告したのは順序が逆だと批判し、23日から始まる通常国会で厳しく追及すべきだと主張した。主要メディアで軍事三文書の白紙撤回を求める報道機関はない。
岸田氏は敵基地攻撃能力保有に踏み切るため、昨年9月に政府の有識者会議(委員10人)を立ち上げたが、そのメンバーに船橋洋一・元朝日新聞主筆、山口寿一・読売新聞社長、喜多恒雄・元日経新聞社長が入っていた。
私が懸念するのは「左翼リベラル」文化人の中に、「中国の覇権主義の行動や北朝鮮の軍事挑発などの無法が許されないのは当然」(しんぶん赤旗15日付)「近年は中国が軍事大国化し、北朝鮮も派手な動きを見せている。日本を取り巻く国際環境が厳しさを増しているのは間違いない」(朝日新聞16日付、山田朗・明治大教授)などの言説があることだ。
いずれも、「しかし、防衛費増大は問題」と続けるのだが、米韓日、NATOの圧倒的な軍事力に触れず、中朝ロ3国の「無法」を持ち出すのは不当だ。
日米のトップは「あらゆる力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対」と言うのだが、米国こそ世界各地で武力による侵略を繰り返してきた戦争中毒、ならずもの国家ではないか。日本の侵略・強制占領の被害国である朝鮮と中国が日本を攻めるという仮説を持つこと自体が加害国として恥ずべきことだと思う。
古賀誠・元自民党幹事長ら自民党の長老が岸田氏の暴走を批判している。元宏池会会長の宮澤喜一首相(当時)は1992年にジャカルタを訪問した際の記者懇談会で、国会で議論されていた国連平和維持協力(PKO)法案に関し、「戦争を知らない若い世代の議員は、憲法の平和主義を理解していない。自衛隊の海外派遣で歯止めがなくなる危険性がある」と話していた。宮澤氏は岸田氏と同じ広島選出の議員だった。ハト派とされる宏池会からの久しぶりの首相になった岸田氏が安倍氏の敷いた路線を突き進んでいる。
●言い値で武器買う“飼い犬”にご褒美 バイデンが岸田首相を大歓迎 1/20
首相として初となる訪米でバイデン政権から予想を上回る歓待を受け、上機嫌で帰国した岸田文雄氏。なぜ米政府は岸田首相に対してここまでの厚遇ぶりを見せたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新恭さんが、そのもっともすぎる理由を端的に解説。さらにやみくもに米国の軍事戦略に追従する危険性を訴えるとともに、そのような日本政府の姿勢に対して批判的な見解を記しています。
バイデン政権が岸田首相を厚遇した本当の理由
「朝食会も含め、バイデン政権は首相を非常に歓迎し厚遇いただいた」
防衛費倍増のお土産をたずさえ、意気揚々とワシントンを訪れた岸田首相。同行した木原誠二官房副長官は記者団にそう語った。
バイデン大統領がわざわざホワイトウスの南正面玄関まで他国の首脳を出迎えてくれるというのは「極めてまれだ」と木原氏は言う。バイデン氏は岸田氏の肩に手をまわし、にこやかな笑顔を浮かべてローズガーデン沿いの廊下を歩いた。
日本国内では、やることなすこと批判され、ついには無策だ、無能だとレッテルをはられるにいたった岸田首相だが、バイデン大統領と握手するその顔はいかにも晴れがましい。
5月19日から21日まで広島で開かれる「G7サミット」の議長をつとめるためのプロローグとして、フランス、イタリア、英国、カナダと続いた花道から本舞台のワシントンにやってきたのだ。
内閣支持率の下落に悩みながらも長期政権を貪欲に狙う岸田首相にとって、来年秋の自民党総裁選は最大の関門である。その意味で間違いなく、これからG7サミットまでの約5か月が岸田政権の正念場となる。
通常国会を無難にこなし、サミットを成功させて、内閣支持率が上向きになったタイミングで衆議院を解散し、総選挙に勝利すれば、国民の信任を得たとして「岸田おろし」の動きを抑えることができる。そう希望的算段をしているはずだ。
トランプ前大統領に対する安倍元首相のように、昨今、米大統領の気に入られるのが外交的成果だとする風潮が日本にはある。バイデン大統領はそれを承知のうえ、岸田首相のイメージアップに協力している。それというのも、岸田首相がバイデン政権の要求を忠実に守ろうとしている点を、高く評価しているからであろう。
昨年5月にバイデン大統領が来日したさい、岸田首相は防衛費の「相当な増額」を確保することを約束した。そして、それを履行するため12月には国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定、相手のミサイル発射拠点などを直接攻撃できる「敵基地攻撃能力」(反撃能力)を保有することにし、23年度から5年間の防衛費を、これまでの1.5倍の約43兆円へと増額した。27年度にはGDPの2%に防衛予算が膨らむことになる。
この決定に米側は沸き立った。バイデン大統領はもちろん、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、サリバン大統領補佐官から手放しでほめたたえる声明が出された。
バイデン政権には、政治的にリベラルだが外交・防衛面ではタカ派で、軍需産業とも深い繋がりを持つ、いわゆる“リベラルホーク”が多い。ブリンケン国務長官、ビクトリア・ヌーランド国務次官、サマンサ・パワー国際開発庁長官がその代表格だ。オースティン国防長官は前職が巨大軍需企業レイセオン・テクノロジーズの取締役である。米軍産複合体の利益が彼らの政治判断と不可分に結びついているのだ。
彼らが望むからといって、日本が予算を倍増させて防衛力もそれに比例するかといえば、甚だ疑問である。たとえば「5年間43兆円」は米側の要求をかなえたイメージをつくるための「規模ありき」の数字であって、必要な装備などを積み上げたものではない。
それでも一応は、43兆円の内訳というものがあるらしい。東京新聞の記事によると、自衛隊員の給与や食費など「人件・糧食費」11兆円、新たなローン契約額のうち27年度までの支払額27兆円、22年度までに契約したローンの残額5兆円だという。ローンとは「後年度負担」と呼ばれる分割払いであり、1年では賄えない高額な装備品や大型公共事業に適用される。
安倍政権はこのローンの仕組みとアメリカ国防総省が行っている対外軍事援助プログラム「FMS」を使って、米国製兵器の購入を拡大した。グローバルホークやオスプレイ、イージス・アショア、戦闘機(F-35A)などがそうだ。
だが「FMS」は、メーカーではなく米政府を窓口として兵器を調達するシステムだ。対価は前払いに限られ、納期が年単位で遅れることや、支払い時には当初の見積りより価格が高騰することもざらにある。つまり米側の「言い値」と「条件」に従わなければならないのだ。
イージス・アショアの場合、2020年6月15日、河野太郎防衛相(当時)が導入計画の停止を発表したが、その代わりにイージス・システム搭載艦の採用を迫られ、その後もイージス・アショアのレーダー取得費として277億円を支払っている。
新たなローン契約額とされる27兆円のなかには、2027年度までをメドに最大500発の購入を検討しているとされる巡航ミサイル「トマホーク」も含まれるのだろうが、なぜ40年前に開発された旧式の兵器を導入するのかが明確ではない。目標までの射程は十分でも、速度が弾道ミサイルよりも遅いために、打ち落とされる可能性が高いといわれている。
しかも、日本がトマホークを使おうと思っても、米国の了解を得て、高度な情報の提供を受けねばならず、良し悪しは別として、あくまでも米国のコントロールのもとに置かれる。
「FMS」は米軍産複合体にとって、莫大な利益を生み出す仕組みである。バイデン政権の高官たちが、FMSで兵器を大量購入することを決めた岸田首相の訪米をこぞって歓迎するのは、実に素直な反応といえるだろう。
いうまでもなく、第2次安倍政権以来の“軍拡路線”は、米国政府の意向に沿ったものだ。憲法解釈を変更してまで集団的自衛権の行使を容認し、米国とともに戦うことのできる国をめざしてきた。しかしそこには、日本が危機に瀕した場合、米国は本当に守ってくれるのかという不安がつきまとっている。
だからこそ安倍晋三氏は総理在任中、米国が攻撃されたときに自衛隊が血を流す間柄になってこそ、米国も本気で日本の防衛にあたってくれるという趣旨の発言を繰り返してきたのだ。
岸田首相は安倍政権で5年近く外務大臣をつとめたこともあり、米国との無難な付き合い方を身につけているのかもしれない。つまり、米国を怒らせては政権は長続きしないという悲痛な戦後史を知悉しているのではないか。
古くは田中角栄元首相の例がある。米国の了解を得ずに日中国交正常化をなしとげ、アラブ寄りの資源外交を進めようとしたためにニクソン大統領やキッシンジャー大統領補佐官の怒りを買い、「キッシンジャー意見書」などの米側資料が東京地検の手に渡った。それがロッキード事件の引き金になり、田中氏は逮捕された。
2009年に誕生した民主党政権で首相の座に就いた鳩山由紀夫氏は米軍普天間基地の県外移設を打ち出したために、外務・防衛官僚から総スカンを食い、1年ももたずに退陣した。
日本の官僚と在日米軍幹部との協議機関「日米合同委員会」が米国側の意向を押しつける装置になっていることを鳩山首相は気づかなかった。この会議においては、日本の憲法や法律より日米安保条約が上位にある。
「砂川裁判」の最高裁判決(1959年)以来、日米安保にかかわる問題なら、たとえ憲法に反する場合でも、最高裁は違憲判決を下さないということが定着したが、それも日本の官僚が米国の言いなりになることを保身の道と考えるきっかけになった。
安倍晋三氏は野党時代に、外務・防衛官僚の組織的サボタージュで身動きがとれない鳩山政権の姿を見て、米国に取り入ることこそが政権維持のカギだと確信を深め、ジャパンハンドラーといわれる知日派米国人やトランプ前大統領らとの蜜月関係を築いていったと思われる。
そして今、米国における安倍氏の地位を継ぐべく岸田首相がワシントンに詣でて、43兆円の朝貢外交におよんだのである。それに対するバイデン大統領の“返礼”は、この言葉だった。
「米国は日本の防衛に完全かつ徹底的にコミットしている」
これさえ言えば、日本の首相は魔法にかかったように納得することを米側は心得ている。
国会で審議もせずに防衛政策の大転換方針を決め、すぐさまワシントンに飛んで米大統領から「よくやった」とばかりに歓待を受け、成功、成功と手を叩いて帰ってくる。日本国内では「岸田という『あまり頼りない』と言われた人の下で1年半、間違いなく日本は世界の中で、その地位を高めつつある」と惚けたことを言う麻生自民党副総裁のような人が待ち受ける。これで本当に日本の安全が保たれると自信を持って言えるのだろうか。
もとより良好な日米関係は日本外交の基本である。その首脳会談について中国政府は「茶番だ」と罵るが、事実より政治宣伝が優先される国に言われる筋合いはない。しかし、やみくもに米国の軍事戦略に追従し、中国との敵対関係を強めた挙句、米国に梯子を外されるようなことになったら、どうするつもりなのか。
ロシアのウクライナに対する非人道的な振る舞いを見て、中国や北朝鮮への恐怖がつのる心情は誰しも同じだ。世論調査で防衛力強化に賛成する人が半数近くを占めるのはそのために違いない。だが、軍拡競争の先には徴兵制の復活もありうるだろう。いざ有事となれば、高みの見物ではすまない。
●石破茂氏“異次元の少子化対策”に「精神論が何の意味も持たない」 1/20
自民党の石破茂衆院議員(65)が20日、自身のブログを更新。岸田内閣が打ち出した「異次元の少子化対策」などについて言及した。
石破氏は「先日の護衛艦の事故に続き、一昨日は新潟県柏崎沖で海上保安庁巡視船が座礁事故を起こすという、にわかには信じられないことが起こっています」と10日に山口県・周防大島沖の瀬戸内海を航行していた海上自衛隊の護衛艦「いなづま」が自力航行不能になったことや、18日に海上保安庁の巡視船が新潟県柏崎市沖で座礁した事故に言及。「我が国はどこか根幹でおかしくなりつつあるように思われてなりません。一般の事故とは異なり、国家の独立と平和、国民の生命・財産と公の秩序を守る任にあたる艦や船が事故を起こした重大性を強く認識すべきであるところ、組織にその危機感が薄いように思われるのは私だけなのでしょうか。ただ防衛費や海上保安庁の予算を増やしさえすればよいというものでは勿論ありません」と防衛増税が議論されている中での事故を重く受け止めるべきと指摘した。
また、政府が掲げる「異次元の少子化対策」についても「少子化対策は『異次元』を謳って臨むのですから、従来の政策の量的な拡大に終わるものであってはなりません。この問題に対して精神論が何の意味も持たないことはすでにわかりきっています」ときっぱり。「望む人が『結婚して家庭を持ち、子供を産み育てるほうが、経済的に余裕ができる』ような仕組みを構築することが必要です」とつづった。
また、23日招集の通常国会に向けて「質問する側も答弁する側も万全の体制で臨み、有権者に日本国の問題点を提示し、解決に向けての方向性を明らかにしなくてはなりません」と決意を新たにしている。
●高市早苗氏は「増税派」なのに「増税否定派」のように報じてもらえる理由  1/20
安倍晋三元首相の後継者的ポジションを自認し、「保守派のスター」とも呼ばれる高市早苗氏。しかし、彼女の人気を支える一面である「増税否定派」であるかのようなイメージは、実態と大きなギャップがある。なぜ高市氏は「増税派」なのに、「増税否定派」のようにメディアに報じてもらえるのか。今回は、高市氏の巧みなロジックとポジション取りに焦点を合わせる。
高市早苗氏は「増税派」なのに なぜ「増税待った」のような報道に?
自民党の前政務調査会長で、現在は岸田内閣の経済安全保障担当大臣である高市早苗氏。近年における彼女のメディアでの大活躍には目を見張るものがある。
2021年に行われた自民党総裁選挙で、安倍晋三元首相の支援を受けて以来、「安倍元総理の意思を継ぐ覚悟がある」として保守系言論誌の常連となり、表紙を飾ることも多くなっている。
迷走を続ける岸田政権に、閣内にあって公然と立ち向かっている姿は、新聞やテレビで大きく取り上げられることとなった。今や「保守派のスター」(「朝日新聞」、22年11月26日)とも呼ばれている。
特に注目を浴びたのは、防衛費の大幅増額に伴う財源の議論だ。新聞の見出しをいくつか並べてみよう。
   読売新聞
(22年12月11日)高市早苗氏、増税検討指示に「理解できない」「会議に呼ばれず」…現役閣僚として異例の批判
(22年12月12日)高市氏の防衛増税「理解できない」発信、松野長官「考えは閣内で共有」…閣内不一致を否定
   朝日新聞
(22年12月10日)「首相の真意理解できない」 高市経済安保相、防衛費増税の方針に
(22年12月12日)高市氏「覚悟はもって申し上げている」 防衛増税で首相に反論の全容
   産経新聞
(22年12月12日)高市早苗氏「先に財源論で戸惑った」 防衛費増税
(22年12月14日)首相へ異論の高市氏、政権に傷 くすぶる内閣改造論
これらの見出しを見て分かる通り、防衛費捻出のため1兆円の大増税に突き進む岸田政権に待ったをかけているかのように見えるポジションを、高市氏がうまく獲得しているのが分かる。見ようによっては「減税派」、もしくは現政調会長の萩生田光一氏が主張するように、財源は国債で賄うべきという一派に所属していてもおかしくはなさそうである。
実際に、総裁選で高市氏を応援した安倍派に所属する議員や無所属議員には、増税に否定的な議員も多くいる。高市氏が、増税を否定しているという見方をする人がいてもおかしくはない。
今、「(大増税に)待ったをかけているかのように見えるポジション」と意地悪のような書き方をしたが、これは意地悪でもなんでもなく、高市氏の実態である。それなのに、あたかも「増税否定派」のようにメディアに報じてもらえるのはなぜなのだろうか。
高市氏の巧妙な立ち回りをひもとくとともに、その理由を明らかにしたい。
高市氏が防衛増税で 岸田首相に苦言を呈した巧みなロジック
ダイヤモンド・オンライン『W杯の裏で「増税日本代表」が暗躍、政治家の実名・言動・手口…全て暴く』で詳しく述べたが、高市氏は、これまで増税政策に熱心な議員であった。
高市氏はかつて、月刊誌や自身の著作、発言などにおいて、50万円以上の金融所得に対する課税を20%から30%に引き上げる増税案や、企業が保有する現預金への課税の導入、炭素税などに言及。17年の衆議院選挙候補者アンケートでも消費税率10%への引き上げに「賛成」していた。
NHKの「日曜討論」(22年6月19日)で行われた討論の中で、「日本ほど国民負担率が低い国っていうのはなかなかないです」という認識を示し、消費税減税についても明確に否定している。
高市氏が筋金入りの増税派であるということを前提に高市氏に関する報道を読み返すと、まったく別の姿が見えてくるのである。
22年12月12日付の朝日新聞の記事『高市氏「覚悟はもって申し上げている」 防衛増税で首相に反論の全容』には、高市氏に直接、真意を問いただした内容が詳しく掲載されている。長くなるので詳細は、原文を読んでほしいが、要約すると以下のようになる。
(1)高市氏が驚いたこと
→国家安全保障戦略の全文を見せてもらっていないのに、財源の話が出てきたこと。
(2)高市氏が疑問に思ったこと
→順番。具体的に国防力の何を強化するのか、いくらかかるのかを報道や首相の記者会見で知った。
(3)高市氏は増税に反対なのか
→国民へ一つ一つ順を追って説明をして「じゃあ、みんなで負担しようよ」ということになることが大事。
非常に巧みな論法だが、結局のところ増税に反対など一度もしていない。防衛政策の全貌の共有について、自分が先でなく、記者会見や報道が先になったことにご立腹だったということだ。はっきり言って、言いがかりや難癖をつけるのに近いものを感じる。
やはり譲れない議論ではなかったようで、実際に、高市氏は岸田首相と10分会談をしたところで「みんなが納得する着地点が見いだされた」と一方的に宣言し、矛を収めてしまった。
毎日新聞(22年12月19日)での世論調査(22年12月17〜18日実施)では、防衛費の大幅増額の方針については「賛成」が48%で、「反対」の41%を上回った。一方、防衛費増額の財源を増税とすることについては、「賛成」が23%で、「反対」の69%を大きく下回った。
増税は「みんなが納得する着地点」でもなんでもないのだが、「みんな」が、自民党議員や内閣を指すのであれば、次の選挙で堂々と大増税を掲げてほしいものだ。
日本は本当に増税する余地がある? 消費税率だけを見ても意味はない
それにしても、高市氏に代表される「まだ増税する余地がある」という議論が日本を覆っているようだ。
先ほど「日本ほど国民負担率が低い国っていうのはなかなかないです」という高市氏の発言を紹介したが、岸田政権は今年にも「異次元の少子化対策」に充てる「子ども予算」の財源として、消費税増税を企図している。消費税増税について話し合われた第20回税制調査会においても、多くの委員から消費税は上げるべきとして「消費税はまだ海外に比べて低いので、いつどのような形で上げていくのか」「消費税率が先進国の中のかなり低い方のレベル」という発言があった。
しかし、財政赤字を加味した日本の潜在的国民負担率は、56.9%だ。「重税だが福祉が手厚い」ことで知られるスウェーデンでさえ、56.4%である。米国は40.7%、英国は49.7%だ。日本ほど国民負担率が高い国はなかなかない、というのがファクトだ(財務省「国民負担率の国際比較」〈2022〉、数値は日本が22年度、他国は19年)。
消費税だけを見れば確かに低いのかもしれない。ところが実際の国民負担率は、高福祉政策で知られる北欧のスウェーデンよりも高い、重負担国家なのである。世界的にも高い国民負担率をより高めることになれば、民間活力を奪うのは間違いない。消費税率だけを比較しても意味がない。
日本は、増税ではなく政府支出を減らし、国民負担を減らす政策へと転換しなければならないのだ。日本は国民負担率が低いなどという高市氏の勘違いは、国益を大いに毀損(きそん)している。
このまま大増税で経済成長を止めてしまえば、防衛費を増額・維持することなどできなくなるのは目に見えている。手順ということに高市氏はこだわり、岸田首相へ言いがかりをつけていたが、手順で言えば、まず日本が経済成長をし、その余力で防衛力を強化していく、というのが当たり前の手順だ。
高市氏は筋金入りの増税主義者であり、防衛費の大幅増額を巡って、有権者やメディア、自民党内の自身の支持基盤に対して、あたかも増税に反対したかのように、うまく立ち回ったにすぎない。安倍元首相と近いか遠いかという違いはあるものの、自民党内ではまったく人気のない石破茂氏と政策的ポジションはほぼ一緒であることも付言しておく。
●コロナ、今春にも「5類」移行 岸田首相が指示 1/20
岸田文雄首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の扱いを巡り季節性インフルエンザと同じ「5類」へ今春に移すよう指示した。首相官邸で加藤勝信厚生労働相や後藤茂之経済財政・再生相と協議し伝えた。
首相は協議後、官邸で記者団に「原則として春に5類とする方向で専門家に議論してもらいたいと確認した」と述べた。医療費の公費負担などに関し「平時の日本を取り戻していくために様々な政策措置を段階的に移行する」と話した。
変更後は緊急事態宣言などの措置がなくなり、感染者や濃厚接触者の待機は不要になる。推奨してきた屋内でのマスク着用も原則不要とする方針だ。首相は「一般的なマスク着用の考え方など感染対策のあり方も見直していく」と言明した。
ワクチン接種を巡っては「類型の見直しにかかわらず予防接種法に基づいて実施する」と語った。足元の感染状況に触れ「感染対策や医療体制の確保に努める。第8波を乗り越えるべく全力で取り組む」と強調した。
首相の指示を受けて厚労省が月内にも厚労相の諮問機関である厚生科学審議会に5類への見直しを諮る。政府内には移行時期を4〜5月にする案がある。
直近で新型コロナの新規感染者数は減少傾向にある。それでも感染力は依然強いとされ、死者数は過去最多の水準が続く。政府は感染状況や医療の提供体制も見極めながら最終判断する。
感染症法は新型コロナを「新型インフルエンザ等感染症」に分類しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)や結核と同様の2類以上に相当する。
現状では新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象だ。特措法は飲食店の営業や個人の移動を制限する緊急事態宣言の発令、まん延防止等重点措置の適用の根拠になっている。
感染症法に基づきいまは感染者らに入院を勧告したり外出自粛を要請したりすることもできる。感染者に原則7日間、濃厚接触者には原則5日間の待機を求めてきた。
5類は風疹やはしかと同じ扱いだ。移行した後は感染が拡大しても緊急事態宣言などは出せない。入院勧告や外出自粛、待機といった行動制限も課さない。
医療も通常に近い体制に戻る。診察を受けられる場所は特別な感染防止策を講じる発熱外来に限らず、一般の診療所や病院でも可能になる。
政府は治療や入院にかかる医療費などの公費負担、患者を受け入れた医療機関への診療報酬の加算は段階的に減らしていく。感染者数を把握する方法はさらに簡素に変えることをめざす。
屋内でのマスク着用は発熱などの症状や基礎疾患のある人らを除いて原則不要とする見通しだ。満員電車など感染リスクが特に高い場所での扱いは検討する。
●「増税で福祉無償化」永田町が注目 慶大・井手教授が唱えるこの国の理想 1/20
ひと昔前に政界で話題となった「オールフォーオール」(皆が皆のために)というフレーズを覚えているだろうか。消費税増税などを通じて介護や保育、高等教育を無償化するとの主張だ。看板政策に掲げた当時の民進党が2017年秋に分裂したことに伴い、フェードアウトしていった。
だが、その生みの親だった慶応大の井手英策教授(50)が改めて唱える「ベーシックサービス(BS)」論が、今、永田町や霞が関で静かに注目を集めている。増税による福祉サービスなどの無償提供を訴え続ける井手氏に、理想とする社会・経済・政治像を聞いてみた。(時事通信政治部 纐纈啓太)
公明党が「共鳴する考え」
昨年9月に東京都内で開かれた公明党の定期党大会。この場で井手氏の名が登場したことは、政官界の関係者を少なからず驚かせた。
石井啓一幹事長は党の活動方針を示す「幹事長報告」で、日本の高齢化ピークと見込まれる40年に向けた社会保障改革を盛り込む「2040年ビジョン」の策定を表明。「BSの考え方などを踏まえて検討していく」と説明し、「井手教授によると、BS論は教育、医療、介護など不可欠なサービスを無償化し、負担を皆で分かち合う。公明党の『大衆福祉』の理念とも共鳴する考え方だ」と付け加えた。
実は、公明党は4年ほど前から、井手氏との意見交換を定期的に続けてきた。
「話を聞きたいと言われれば話す。立憲民主党からも国民民主党からも呼ばれた。このところ一番回数が多いのは公明党です」。昨年12月、研究室で数年ぶりに会った井手氏はそう説明してくれた。
自民党議員とも交流があるほか、民進党代表だった国民・前原誠司元外相とは折に触れて連絡を取り合う。立民議員との会合にも足を運ぶ。各種寄稿、講演などの依頼は引きも切らないといった様子だ。
「年収360万円で子ども3人」を
井手氏が展開するBS論は、「経済成長最優先」「財源としての国債大量発行」といった自公政権の政策の潮流とは真逆の内容に映る。
経済見通しについては、異次元とも称される金融緩和を伴ったアベノミクス下でも「実質GDP(国内総生産)成長率は年1%程度だった」ことを引き合いに、「70〜80年代のような年率4%成長などはもう不可能だ」とみる。低位成長が常態化した日本社会においては、「経済成長で所得・貯蓄率を上げ、生活保障は自己責任で、というモデルが破綻している」と指摘する。
そこから導き出す方向性は、「年収180万円同士のカップルでも、子どもが3人いて大丈夫という社会をつくろう」というものだ。
日々の暮らしや人生に密接な医療、介護、子育て、大学教育、障害者福祉といった施策をBSと位置付け、無償でサービスを提供。財源は消費税を柱とする増税で賄う。消費税の税率は段階的にさらに10%引き上げ、「BSに6割、財政健全化に4割。6対4の比率で使っていけばいい」と主張する。
「極端に走らない覚悟」
歳出カットを伴う財政健全化でもなければ、専ら国債発行頼みの積極財政路線でもない。この点が井手氏の独特の立ち位置だろう。
自民党内などで根強い支持を集める現代金融理論(MMT)については、「財政を膨張し続ければハイパーインフレになり、経済は破綻する」と明確に批判的な立場だ。野党が軒並み主張する消費税減税は、「所得を増やして不安に備えるという前提。新しい社会モデルに全然なっていない。消費税の減税は購買力のある富裕層ほどお金が返ってくる。大きな見当違いです」とばっさり切る。
無論、反発もある。財務省幹部は「政策というより思想だな」と皮肉交じりに評し、立民の若手議員は低所得者ほど税負担が重くなる消費税の「逆進性」に関し、「井手氏が答えていない」と話す。井手氏本人も「MMT支持者や左派からはののしられ、学者ではなく扇動者だと言われたこともあります」と苦笑を浮かべる。
それでも与野党からアプローチが途切れない理由は何なのか。交流のあった自民党議員に尋ねると、こういう答えが返ってきた。「アカデミズムから出て社会への問題意識を訴えつつ、極端に振り切れず現実的な路線を探ろうとする姿勢に覚悟を感じる。主張を聴いてみたいという気になる」。
「中庸」のカギは財源論
実際、井手氏の現状に対する危機感はひときわ強い。MMTや消費税減税といった世論へのインパクトが強い政策に走りがちな「極端主義」が「明らかに今の政治には存在している」と懸念を示し、「言葉の巧みさで競い合う極端主義を排し、『正しい中庸』を探っていくのがあるべき政治の本質だと思う」と話す。
政治をこう位置付ける井手氏にとって、カギとなるのが財源論だ。「何が社会に必要なものか。そのために必要な財源を考え、どんな税をどのくらいの税率で、どういう人たちに負担をお願いするか皆で真剣に話し合っていく中で、両極端の主張の間の中庸を探っていく。これが財政民主主義という考え方です」。
政府は昨年末、駆け足でGDP比2%程度への防衛費増額を決定。新型コロナウイルス禍の中では、かつてない規模で国債発行による現金給付が繰り返された。こうした政界の動きは、井手氏の目に「民主主義の本質に関わる危機」が近づいていると映る。
「議論もせず、どんぶり勘定で防衛費を倍にしようと言っているだけ。これは最近の日本政治に通底する傾向です」
「膨大な国債を押し付けられる今の子どもや未来の子どもたちはその意思決定に関わることさえできない。民主主義が息絶えつつあるということ。こんなことは絶対にだめですよ」。井手氏の口調は厳しい。
「終わった人間」の使命
ブレーン役を務めた民進党は、小池百合子東京都知事率いる希望の党への合流騒動を境に、混乱の中で事実上解党した。「僕の敗北でもある。学者生命を賭けて政治に身を投じ、結果は出た。僕はもう終わった人間なんです」。今後、特定の政党に肩入れする気は一切ないと言う。
井手氏が「敗北」と総括する一方で、「オールフォーオール」で掲げた幼保無償化は、安倍政権がほぼ抱きつく格好で19年秋に実現させ、野党からは今、大学教育無償化を求める声が絶えない。政策論議に及ぼした影響は、決して小さなものではない。
「もし最後の仕事があるとすれば、税の見方を変え、財源論をきちんと社会に根付かせること」。そう考える井手氏は、「今こそ『ばらまき』か民主主義かの戦いであり、与野党から財源論を直視する若手が出て来なければ日本の政治は終わる」とみる。
●世界各国が「デフレを放置した日本」を反面教師に不況を逃れる皮肉な現実 1/20
世界中で、インフレが止まらない。中でも、日本は物価上昇にもかかわらず、景気低迷でお金の価値が下がるスタグフレーションの様相を呈している。
しかし、「スタグフレーションのほうが、デフレよりマシ」と指摘するのは、第一生命経済研究所で首席エコノミストを務める永濱利廣氏だ。未だ日本が抜け出せないデフレという名のアリ地獄の恐ろしさを、対話形式で誌上講義してもらった。
「合理的な選択」の結果、みんな貧しくなる悲劇
【やすお】改めて、デフレとは何ですか?
【永濱】デフレーション(deflation)の略で、インフレの逆です。物価が下がり続けることで、お金の価値が上がり続けることを指します。一時的な物価下落はデフレとは言いません。
BIS(国際決済銀行)やIMF(国際通貨基金)は、デフレとは「少なくとも2年間の継続的な物価下落」をしている状態だと定義しています。
【やすお】さきほど、永濱先生が「インフレーションよりも、スタグフレーションよりも、デフレは悪い」とおっしゃった理由はなんですか?
【永濱】これが持続すると「デフレスパイラル」に陥るからです。
【やすお】デフレスパイラル。なんか、飲み込まれそう。
【永濱】そうです。まさに「アリ地獄」ですね。先ほどの良いインフレ(ディマンドプルインフレ)の逆の状態が起こります。そもそもデフレは、景気が悪く、需要が少ないので、値段を下げないとモノが売れなくなることから起こります。すると、企業は商品やサービスの販売価格を下げざるを得ません。
【やすお】消費者の立場から見ると、価格が下がるのは嬉しいですけどね。企業から見ると、儲けが減っちゃって困るよな...。
【永濱】企業が十分な利益を得られなくなりますからね。すると、そこで働いている人の給料も減らされることになります。給料が減れば、購買力が下がるので、モノが買いにくくなります。
すると世の中全体の需要が落ち込むので、さらに企業は値段を下げざるを得ない...。このような悪循環が起こるわけです。これがまさにデフレスパイラルです(図3-3)。
【やすお】そのデフレスパイラルに日本は陥っているわけですね。
【永濱】はい。90 年代後半以降はずっとデフレですね。ではなぜデフレが最悪かというと、個人も企業も合理的な行動を選択すると、より景気が悪くなるからです。
【やすお】合理的な行動を取ると、景気が悪くなる? それって、本当に合理的なんですか? 結果的に損してるじゃないですか。
【永濱】デフレは持続的に物価が下がる、という話をしましたね。そうなると、消費者が合理的に行動するとしたら、どうしたらいいと思いますか?
【やすお】そうですね...。今後、物価が下がるなら、いま買ったら損するかもしれないですね。
【永濱】それです。できるだけ購入を我慢したら安く買えるわけだから、合理的に行動すると、みんなあまり買い物しなくなるのです。するとモノやサービスが売れないから、企業が儲からないので、給料が減る。すると買い控える。このデフレスパイラルが止まらなくなるのです。
【やすお】ううう。
【永濱】その結果、30年間は経済がほとんど成長しなくて賃金も上がっていない。こんな国は日本だけ。これがまさにデフレスパイラルのもたらした弊害です。
なぜ、日本はデフレを放置したのか?
【やすお】デフレスパイラルは困った問題ですが、そもそもなぜそうなってしまったのか。
【永濱】90年代後半以降、20年近くデフレを放置してきたからです。こんなに長期間デフレを放置してしまった国は、過去を振り返ってもありません。
【やすお】なんで放置しちゃったんだよ! なんとかしようよ!!
【永濱】一言でいえば、対応を誤ったからです。そもそもバブルが崩壊するきっかけは、1989 年の年末に3万8000円台まで上昇した日経平均をはじめとした株価が暴落したことです。
ここで上手に対応すれば、ここまでひどいデフレにはならなかったのですが...。このとき、不動産の総量規制と利上げを一緒に行ったのが大きな影響をもたらしました。
【やすお】不動産の総量規制?
【永濱】不動産バブルによる異常な地価高騰を抑えるために、国は金融機関が行う不動産向け融資を規制したのです。1990年3月に実施されました。
その結果、金融機関がこれまで不動産融資をしていた企業に対して、融資の凍結や打ち切りなどを行うようになりました。これにより、不動産投資家は得られる予定の融資が得られなくなり、資金がショートしました。その結果、不動産バブルが崩壊してしまったのです。
【やすお】規制する必要はあったんですかね...?
【永濱】異常な不動産バブルを抑えるためには、総量規制は仕方ない面もありました。しかし、影響を大きくしてしまったのは、総量規制に加えて利上げをしたことです。金利を上げることで、世の中に出回るお金を減らして、経済の過熱を抑えようとしたのですね。
具体的には1989年5月に公定歩合を2.50%から3.25%へと引き上げ、10 月には3.75%に引き上げました。12月に日本銀行総裁が三重野康氏に交代すると、さらに引き締めるようになり、就任直後に公定歩合を4.25%に引き上げ、1990年3月に5.25%、8月に6%とものすごい勢いで引き上げを続けました。
【やすお】1年とちょっとで、3.5%上昇! けっこうすごいペースですよね!?
【永濱】ものすごいペースですよ。今の日本じゃ考えられません。景気が悪くなりつつあるなかで利上げをしたら、景気がますます悪くなってしまいます。この利上げによって、国は景気の息の根を完全に止めてしまいました。
【やすお】あちゃー。
【永濱】さらに悪かったのは、アベノミクスが始まるまでデフレを放置してしまったことです。日銀も、バブル崩壊後の景気悪化に危機感を覚え、1991年7月以降は公定歩合を引き下げ、つまり金融緩和に転じました。
91年7月に6.0%から0.5%引き下げると、数カ月おきに0.5〜0.75%ずつ引き下げ、93年2月の第6次引き下げによって、引き上げ前の水準である2.5%にまで下がりました。その後も利下げを続け、99年2月にはゼロ金利に達しました。しかし、これでは「too little, too late」でした。
【やすお】トウーリトル、トウ...?
【永濱】要は、金融緩和の規模が小さすぎたし、タイミングも遅すぎたということです。ゼロ金利に達するまで約8年弱かかっていますからね。
今から振り返ってみるとバブルが崩壊したタイミングで、一気に金利を下げるべきでした。当時はそんな大胆なことをした国はなかったので、仕方がないところもあったのですが...。
景気の低迷によって、企業も消費者もお金を使わないので、物価が上がらず、デフレスパイラルが長く続きました。失われた30年のもとになったわけです。
【やすお】そうだったんですね...。
【永濱】デフレを放置すると取り返しのつかないことになることを、海外諸国はバブル崩壊以降の日本から学びました。それを反面教師に、大胆な金融・財政政策をいろいろやってきたから他国はデフレを逃れているのです。
【やすお】えー、そうなんですか...。
【永濱】たとえば、コロナショック以降にアメリカでインフレが深刻になったのは、経済対策をやり過ぎたことが原因の1つです。しかし、「経済対策が足りずに日本みたいにデフレに陥るくらいなら、やり過ぎたほうがマシ」「デフレ絶対阻止」という考え方があったはずです。
先日ノーベル経済学賞を取ったベン・バーナンキ氏は、FRBの議長のときにリーマンショック後の不況を量的緩和政策によって脱しましたが、これも日本の失敗を研究した成果なのは明らかです。
【やすお】わあ、日本の失敗のおかげでノーベル賞が取れたなんて、喜んでいいのか...。
【永濱】それが理由でノーベル経済学賞を取ったわけではないんですけどね。また、中国も2022年に利下げをしましたが、これも日本を反面教師にしています。今、中国も80年代後半の日本と同様に不動産バブルの状況で、不動産の融資規制をしています。
もっとも、2022年以降は市場の急激な冷え込みを受けて、緩和しているようですが...。日本と大きく違うのは、利上げではなく利下げをして、金融緩和を行っていることです。
日本のように、不動産の融資規制(総量規制)と利上げ による金融の引き締めの両方を行うと、デフレになって取り返しのつかないことになるので、アメとムチの政策を行っているわけです。
【やすお】完全に反面教師...。授業料くれないかな。
●原材料高騰下、製品値上げ・賃上げの好循環をどう作るか?  1/20
「今が日本再生にかける最後のチャンス」─。日本商工会議所会頭に就任した小林健氏(三菱商事相談役)はこう現状認識を示しながら、”失われた30年”と言われるほどの停滞をなぜ、日本は招いたのかを謙虚に振り返りつつも、「わたしは、まだ日本に余力が残っていると思います」と強調。「やはり、経済を成長させ、国力をつけ、そして次の世代に引き継ぐという使命がわれわれにはある」と日本再生を図る決意。折しも、『新しい資本主義』がいわれ、成長と分配の循環を適正にどう進めていくかという課題がある。コロナ禍とウクライナ危機の中で、原材料・エネルギーコストが高騰し、その分を自らの製品価格に転嫁できないという中小企業の苦しみ。商工会議所は、特に大企業と中小企業の”取引適正化”に努力してきたが、その成果はまだまだというところ。日本の生産性アップのカギを握るのは中小企業。全企業の99%強を占める中小企業の生産性をどう引き上げていくか。日本銀行の金融緩和策終了で”金利引き上げ”の局面を迎え、緊張感も漂う。
日本が停滞したことの責任は経済人にも……
「失われた30年≠ニ言われる停滞からどう抜け出すか。結果的に成長できなかったというのは、わたしも含めた産業界にも責任があると思いますし、政治にも責任があると思います」
日本再生をどう図っていくかという課題を前に、日本商工会議所会頭の小林健氏はこの失われた30年≠招いたことについてこう触れる。
「バブル崩壊後の30年、長く日本は停滞してきました。世界全体を見ても、欧米、中国、あるいは東南アジアを見渡しても、日本は成長の速度が最も遅かったわけです。この間、日本の物価、賃金、生産性は停滞し、デフレマインドが染みついてしまいました。更に新型コロナウイルス感染症によって停滞期間が長引いたわけです」
1990年代初め、バブルがはじけて不良債権が顕在化、金融危機が起こり、アジア通貨危機、そしてリーマン・ショック、さらには東日本大震災と危機が続いた。この間、政治も不安定になり、1年ごとに首相が変わるという混乱も生じた。そうした中で、個々には一生懸命にやってきたのだが、結果的に経済の停滞を招いてしまった。
ここは「謙虚に振り返って、どこに原因があったのかを突き詰める必要がある」と小林氏はしながらも、「日本にまだ余力は残っている」という認識を示す(後のインタビュー欄を参照)。
そして、今が日本の再生にとって、「最後のチャンス」として、「日本再生の最後のチャンスだと思います。経済を成長させ、国力をつけ、もう一度豊かな国にしていく。そして、次の世代に引き継ぐという使命が我々にはある」と小林氏は訴える。
小林氏は2022年11月、第22代の東京商工会議所会頭に就任。3期9年、東商会頭を務めた三村明夫氏(日本製鉄名誉会長)の後を受けての会頭就任。東商会頭は歴代、日本商工会議所会頭を兼任する習わし。
その日本商工会議所は傘下に全国515商工会議所を抱え、会員数は123万社を数える。
中小企業の振興、育成を図るのが商工会議所の役割。日本の企業総数は約360万社。このうちの99%強の約359万社が中小企業という構成である。労働力人口(全体で約6860万人)で言えば、その7割を中小企業で働く人たちが占める。
つまり、日本の生産性を上げられるかどうかは、中小企業の生産性の引き上げ如何にかかっているということ。
小林氏もそうした現状を大前提に、「家族を含めれば、日本の人口の半数以上は中小企業を頼りにして生活している」として、次のように語る。
「やはり、日本の国力をアップするためには産業力の強化が大事であると。日本の企業の99%は中小企業ですから、その方々の生活を向上させないと日本全体の成長もない。そのことを強く強調したいと思います」
全企業の99%強、全労働者数の7割を占める中小企業ということだが、この中小企業の経営にはいろいろな種類、タイプがある。
大企業を中心にしたピラミッドの中に所属する中小企業。これは下請け、孫請けというサプライチェーンの中で活動。他方、独自の技術やサービスを開発し、主体的に動く独立型もある。
そうしたいろいろな種類の中小企業がある中で、中小企業の生産性とは一体何だろう? という小林氏の問題意識。
「中小企業の生産性を考える際、参考となるのは、付加価値に占める人件費の割合、すなわち、労働分配率です。中小企業の労働分配率は75%〜80%で非常に高い。したがって、残りの20%ないし、25%で税金を払い、投資をしているわけです」
小林氏は、賃上げ問題を含めて、いろいろな問題がこの中小企業の労働分配率の高さに関わってくると指摘する(インタビュー欄参照)。
ちなみに、大企業の労働分配率は45%前後。この数字を見ても、賃上げをする余裕が中小企業と比べてあることが分かる。
では、生産性をどうやって引き上げていくか。
大企業も中小企業も日本が相当遅れているのはIT、DX(デジタルトランスフォーメーション)として、小林氏は「まずはDXへの取り組みを通じて生産性を高める。これについては、商工会議所も伴走型で支援していきます」と語る。
DX化は世界的な流れであり、当然これはやるとして、日本の場合は、大企業と中小企業の間の『取引の適正化』問題を抱えているということがある。
この『取引の適正化』問題は、三村前会頭時代も大きなテーマとして取り上げられてきた課題。
大企業と中小企業の間の『取引適正化』問題
小林氏は三菱商事社長時代(2010―2016)に東商副会頭を務めている。この『取引適正化』問題は副会頭時代から腐心しており、次のように述べる。
「高度経済成長の時代は、大企業はコストカットのために、下請け、孫請け企業に相当負担を強いてきました。コストカットが成長の源泉だったのです。生産性向上のためにはコストカットが近道だと考えた企業経営者が多かったのかもしれません」
小林氏は、自分が東商に入って以来、中小企業が大企業のコストカットに追随していく姿を目の当たりにしてきた。
「10年くらい前の円高不況局面でも大企業によるコストカット要請があり、中小企業は相当な努力をして、この要求に応え、日本全体で円高をしのいでいきました。そして、今は逆に円安局面になって、再びコスト負担を押し付けられるのかと、中小企業は非常に辛い思いをしています」(インタビュー欄参照)。
大企業と中小企業間の、この『取引適正化』は、日本の産業構造において相当に根深い問題。
本来、民間同士の取引は自由に任せるのが資本主義の基本である。ところが、現実には大企業の力が相対的に強い。このため、中小企業が大企業に納める製品の価格値上げを訴えようとしても、なかなか通らない。
とりわけ、下請けという関係になると、交渉の場さえないという現実が続く。
今、コロナ禍、ウクライナ危機の影響で、資源・エネルギーや食糧の供給が制約され、世界的にインフレ、物価上昇が進む。原材料コストが上昇し、企業は製品価格にそれを転嫁しようと動く。
この製品値上げは欧米をはじめ、各国で相次ぐ。コスト上昇に伴う製品価格の引き上げという新価格体系の構築ということだが、日本ではそれが一向に進まない。
海外の動きはどうか?
実際、国産の醤油だが、キッコーマンは戦後間もない頃から、海外販売、そして50年前から欧米での生産を開始。今や売上高の7割強を海外で販売し、全利益の4分の3を海外であげている。グローバル企業で、海外では生産コストアップ分を反映した製品値上げをすでに実施済み。
名誉会長の茂木友三郎氏は日本生産性本部会長を務め、日頃、日本の生産性向上に腐心している。その観点で茂木氏が語る。
「値上げが海外はできる。米国も欧州もきちっとできる。コストが上がっている事情をしっかり説明すれば、流通業者も消費者も納得する。コスト上昇があっても、日本はそれに抵抗する。これは日本経済をひん曲げていると思いますね」
産業向けで個人消費関連にもなる段ボールメーカーの首脳は2022年4月に第1回目の値上げ意向を表明、「顧客にもよりますが、大体、半年ぐらいかけて少しずつ浸透していった。まさに2回目をやらなければいけない所に追い込まれていますが、今度は結構抵抗が強くて……」と苦笑する。
顧客の紙卸(問屋)まで値上げの話が浸透したとして、そこから先の飲料メーカーや食品製造会社に卸す段階で抵抗が根強く、実現できないでいる。
物価は上がっているのに、賃金は上がっていないという現実の中で、消費者の抵抗は強く、新価格体系の構築もままならない。
物価は上がっているのに、賃金は上がらないという現実が2022年まで続いた。
『取引適正化』は 賃上げ問題と直結する
賃金を上げて、物価高騰を吸収する経済をどうつくり上げていくか?
賃金引き上げで所得向上を図る。そのことが消費を高めることにもなり、引いては企業間の取引も適正化されることにつながる。結果的に経済全体が上手く循環するということである。
この賃金引き上げは、菅義偉・前首相時代に最低賃金引き上げ≠ニいう形で始まっている。
三村・前東商会頭は、菅内閣の『成長戦略会議』にメンバーとして参加。同会議のメンバーの大半が「賃上げすべき」としたとき、「賃上げは必要だが、中小企業には賃上げ余力が乏しい」と発言。
中小企業の場合、付加価値の80%程度は人件費として支払われているという現実の中で、どう解決策を見出していくか。
元来、付加価値を高めるには、コストダウンという手法と製品価格の引き上げという2つのやり方がある。後者は、原材料価格の引き上げを製品価格に転嫁できるということ。それが全体に浸透していくには、経済合理的な土壌作りが広まる必要がある。
「日本全体が活性化するためには、99・7%を占める中小企業が活性化しないといけない」
小林氏はこう語り、「大企業と中小企業との取引を適正化すること。要するに、サプライチェーン(供給網)全体で利益もコストも適正に分かち合う」という方向でソリューション(解決策)を見出していくことが大事と強調。
大事なのは、『取引適正化』問題は、今の賃上げ問題と直結しているということである。
『取引適正化』を実現していくために、東商はパートナーシップ構築宣言≠すでに行っている。
「『パートナーシップ構築宣言』には国の後押しもあり、宣言企業数は増加しています。すでに1万7千社以上の企業に参加してもらっていて、これはわたしが商工会議所の会頭に就任して、第一に力を入れていこうと。サプライチェーン全体でコストを負担し、利益をシェアしていって、共に成長していこうという考え方が大切です」
大企業と中小企業のパートナーシップの実践である。
デフレ払拭へ「勇気を持って」
失われた30年≠ナデフレマインドが定着。経営資源が投資へ向かわず、内部留保は高まる一方なのに賃金は上がらないというので、全般的に士気が振るわない。
「ええ、日本企業はデフレマインド、あるいはコロナマインドによって、殻の中に閉じこもってジッと耐えることが性になってしまった部分があると思います。ですから、このマインドを勇気をもって払拭していこうということです」
段取りをどう進めるか?
「やはり、大企業も中小企業もそうですが、値上げをする勇気を持とうということです。大企業としても、孫請け、下請けがいなくなってしまったら成り立たない。これは別に我が儘を言っているのではありません。そうしないと、中小企業は倒産してしまうのです」
サプライチェーン内での交渉で解決策を見出す企業もあれば、良質の品やサービスを届けることで消費者に直接、新価格体系を訴えられる中小企業もいる。
こうやって、原材料のコストアップ分を製品価格に反映させ、そして社員の賃金アップにつないでいく。そうやって、経済全体が適正に循環していく仕組みをつくろうということである。
もっとも、日本は同じ業種に多くの企業が参入し、過当競争といわれるぐらいにシノギを削ってきた。
だから、コスト圧迫を受けて、製品価格引き上げという段になっても、「自分だけが値上げをすると、マーケットを失うのではないか……」と不安を抱く。これがデフレマインドにもつながり、結果的に経済の縮小均衡を招くという現実。
「適正利潤を生めない事業は長続きしない」という小林氏の指摘はまさにその通りで、デフレマインドをどう払拭するかという課題。
現状はどうなっているのか? 金利が付く時代≠ヨの転換
「わたしどもの調査によれば、1年前と比較してコスト負担が増加している企業のうち、発注側企業との価格交渉の協議については、7割の企業が話し合いに応じてもらえていると回答しています。しかし、中小企業は千差万別で、苦しい所もあれば、大活躍している所もあります。企業によって自ら変革を行ってきた所と、何も手を打ってこなかった所の差が出てきているのは確かです」と小林氏。
経済原則からいえば、淘汰される所も出てくるが、コロナ禍の間は政府の経営支援の補助金が出たりして、息をつぐことができた所もある。ウィズコロナ政策になった今、ある程度の淘汰は避けられないという現状。
特に、日本銀行が昨年12月20日金融の異次元緩和策≠転換させたこと。長期金利の変動許容幅を0・25%程度から0・5%程度に広げたが、これを市場では、金利が付く時代≠ヨの転換と見ている。
徐々に、今の緩和状態が転換され、金利引き上げの動きが強まった場合、一定の企業選別が出てくる可能性はある。
「コロナ禍では、政府の支援策を活用して何とか倒産を免れた企業も多いと思います。ただし、今後返済が始まり、中には借り換えの必要に迫られる企業も出てきています。しかし、政府は未来永劫、支援し続けてくれるわけではありません。これからはウィズコロナで経済社会を回していく段階になり、中小企業も生き残りをかけた大変な時期になります」と小林氏。
現状は少しずつ動いている。
賃上げができる所と できない所との差
先述の賃上げ問題に関しても、流れが変わり始めている。
賃上げに関しては、有力企業の間で実行する所が出始めた。
日本生命が7%賃上げ、日揮ホールディングスが10%、サントリーホールディングスが6%、アサヒグループホールディングスもそれ相当の賃上げに踏み切るなど、経営者の決断が相次ぐ。
一方で、賃上げまでできない所もある。まさに、今は時代が大きく動こうとする転換期。
この大きな時代の流れをどう捉えるか─。
「わたしのような、いわゆる団塊世代の経営者は、2025年には後期高齢者になります。そうなると、事業承継の問題に直面します。わたしの回りの中小企業の経営者はみな事業承継の問題を抱えています。事業承継というのは、自分の家族が継がない場合、M&A(合併・買収)をするか、廃業するかという選択に迫られます。こうした状況も考慮して、次の段階に発展できる企業はどういう企業かというと、自ら変革出来る企業だと思います」
では、そうした環境下にあって、次のステージに進める企業はどういう所なのか?
「中小企業の場合は、オーナーと従業員の距離がものすごく近いです。そういう意味では、状況に応じて素早く変化する力は十分あるし、やろうと思えばできるんです」
小林氏は出身母体の三菱商事で事業構造改革を体験。この時の構造改革をどう受けとめているのか?
「商社の場合は業態の変革ですね。わたしが中堅社員くらいの頃までは、いわゆる、商事会社というのは、仲介取引、仲介貿易を主としてやっていました」
仲介≠ニいうのがポイント。商流、つまりモノ(商品、貿易材)の流れの袂に立って、タイミングをよく見て、「流れの中からビジネスチャンスをつかむ。それを自分の仕事として収益を上げていく。こういうことをずっとやってきた」と小林氏。
いわば、商流を傍から見ていて、他者の取引を手助けする形。小林氏が部長クラスになった時から、そうした業態からの改革を迫られる。1990年代から2000年初めにかけてである。
時あたかも、バブル経済がはじけ、金融危機が起こり、日本全体が失われた10年≠ニいわれ、現状のままでは事業の持続性が失われるという危機感。
商社はどう業態変革を進めていったのか?
「ビジネスの相手方や他の産業の方々と一緒に商流の中に入って、流れの中からビジネスチャンスをつかんでいく。即ち、事業に投資をして、投資した会社に人を送り、長期的に経営のサポートをして、企業価値を高め、さらには業態転換のお手伝いをするということ。そういう意味では、仲介から経営に舵を切ったと言っていいと思います」(インタビュー欄参照)。
業態は時代の移り変わりで変革させていかないといけないが、企業経営の本質は変わらない。
三菱商事は創業以来、『所期奉公(社会のために)』、『処事光明(何事もオープンに)』、『立業貿易(グローバルな視野で)』を綱領、つまり経営指針にしてきた。
言葉は古いが、今の企業経営に求められるものも同じである。
東京商工会議所の初代会頭・渋沢栄一は明治期、約500の会社を興した。その理念は、社会(国)に貢献し、国民のためになる事業を営むということ。その著『論語と算盤』は企業経営の規範を説いたものとして知られる。
もっと言えば、渋沢は江戸末期から明治維新を経ながら、いくつもの危機や試練をかいくぐってきたということ。「逆境の時こそ、力を合わせて」コトを成していくという生き方であり、働き方であった。
コロナ禍、ウクライナ危機の今、いろいろな危機が訪れる。そして国内では、この10年近く続いた金融緩和の時代が終わり、金利上昇という新しい経済局面を迎えて緊張感も漂う。
経営を担うのは「人」。「人への投資」を含め、大企業と中小企業のパートナーシップで日本再生を図ろう─という小林氏の訴えである。
危機や試練は人を鍛える。
(新しい資本主義)「わたしはアベノミクスからの延長と捉えています。金融緩和と財政出動に次ぐ成長戦略は道半ばにして、菅(義偉)元首相、岸田首相へ引き継がれたということだと思います。菅元首相は自助・共助・公助を強調しました。それが岸田首相になって、成長戦略をより具体化するために新しい資本主義を掲げたということですよね。人への投資、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の4つは、われわれ商工会議所としても必要不可欠なことだと認識していました。新しい資本主義を実現するためにも、ウイズコロナで社会経済活動を正常化することが、一番有効かつ最大の経済対策であると考えています」
(パートナーシップ精神)「サプライチェーン全体で、コストも利益も適正に分かち合っていく。これも新しい資本主義です。なぜならば、取引の適正化を通じて生産性が上がる。要するに、労働分配率が下がって、賃上げの原資が出せるということです。持続的な賃上げが実現できれば、経済が成長して回っていくわけですから、これらは全て繋がっているということです。いま新しい資本主義実現会議で議論しているのは、どこにプライオリティー(優先度)をつけるのかということ。総花的にあれもやる、これもやるでは、なかなかうまくいかない。例えば、スタートアップ企業への支援を考えると、支援してもらう側の人間にどのようなニーズがあり、どのレベルまでスキルを身につけさせるのか。その人間が意欲を持てるような施策とすることが大事だろうと」
(中国との関係)「日本は今でこそ経済大国ですが、戦後は資源もない中で、経済力を高めて生きてきた。貿易をしなければ成り立たない国です。一方、好き嫌いにかかわらず、中国は日本の隣国です。政治的には意見の相違もありますが、中国はとにかく世界一の大きなマーケットで、14億人以上の国民が生活しているわけです。そうなると、日本は中国のマーケットにかかわっていかざるを得ない。経済的に中国を切り離すということは全く考えられません。(今後の関係では)例えば、汎用品をつくっているような所は、中国へ行って地産地消でやるのが一番効率もいいです。しかし、それ以外の半導体やIT技術など、経済安全保障にとって重要なものについては、なるべく早く国としての指針を出していくべきであろうと。ケースによっては、国内回帰が必要ならば、ある程度補助金をつけることも必要だと思います」
(習近平体制)「現地の情報によれば、あれ(白旗を掲げる運動)は暴動ではなく、国民の意思表明の一種だと捉えられているということでした。一部には、中国が民主化に向かっているなどとする見方もあるようですが、それほど単純ではないと思います。なぜ、ああいうことが起こったかというと、人の心の中は支配できないということです。ケ小平氏の改革開放政策以降、共産党政権のもと、ここまで中国が経済成長して、より良い暮らしができるようになった。そのことを国民も理解しているわけです。しかしながら、ゼロコロナ政策によって、心だけでなく、移動などの点で、体も物理的に拘束されるようになってしまった。拘束されるとか、家から出られないというストレスは相当なもので、抗議活動が活発化。そこで、ゼロコロナ政策を緩めなければならないという判断だったのではないでしょうか」  
●国や自治体が打ち出す「少子化対策」をチェック!住む街でこんなに違う!? 1/20
今月4日、岸田首相が「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。同じ日、東京都独自の給付金制度を発表した小池百合子知事。政府と都との間で、先陣を争って“さや当て合戦”の様相になっている。元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんがRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演し、国や自治体の子育て支援策について解説した。
統一地方選を前に、政府・与党に先手を打った?
小池知事って、好き嫌いは別に、世間の風というか世論をつかむことに関しては、ある意味、天才的というか、うまいですよね。マクロミルが行った「2023年・新成人に関する調査」で、新成人が関心のあるニュースの1位は「少子化対策」でしたが、これを予期していたかのように矢継ぎ早に都独自の対策を打ち出して、注目を集めています。
小池知事は首相の年頭会見と同じ日、首相会見の前に「来年1月から、18歳以下の子ども全員に、親の所得制限なく月額5,000円を給付する」と表明して、そのあと岸田首相が言った「異次元の少子化対策に挑戦する」という抽象的な話はすっかり霞みました。
しかも小池知事はその後、この5,000円は1年分の6万円を一括給付すると表明し、さらに2人目の子どもについては、今年10月から2歳までの保育料を無償化すると畳みかけました。
会見に臨んだ報道陣は「区議会議員選挙もある4月の統一地方選を前に、政府・与党に先手を打った」と思ったのでしょう。「国より早く少子化対策をする狙いがあったのか?」という質問が出ました。これに対する知事の切り返しがまた“小池節”です。「そうではなくて、国が遅いだけの話です」と来ました(笑)「国民にささる、そういう政策を掲げ、かつ速やかに実行することが必要だ」とも述べ、首相をはじめ、政府・与党幹部は歯噛みしたでしょうね。
「異次元の少子化対策」首相表明の舞台裏
実は、この舞台裏を垣間見ることができる記事が、毎日新聞デジタルの名物コラム「14色のペン」にあったのでご紹介します。1月17日、くらし医療部・横田愛記者の記事で、タイトルは「霞が関をざわつかせた年頭の首相の一言」です。
何が、霞が関をざわつかせたのか――。先ほど、岸田首相は4日の年頭会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明したと言いましたが、何もメニューを示さなかったわけではなくて、その第一に「児童手当を中心とした経済的支援の強化」を挙げました。
ところが、これが厚生労働省をはじめとする霞が関の官僚たちには寝耳に水、想定外だったんです。記事には「テレビ中継でこの発言を聞いた事務方幹部は『びっくりした』と目を丸くし、別の政府関係者は『迷走している』と吐露した」とあります。
岸田政権の少子化対策はこれまで「全世代型社会保障構築会議」で議論を重ね、2022年末に公表された報告書で優先課題とされたのは、生まれてから2歳までの支援拡充や、育休を希望する自営業者・フリーランス向けの給付創設などでした。それが、年頭会見でいきなり、児童手当の拡充が最優先になったわけです。小池発言があったからかどうかは分かりませんが、「報告書のメニューでは地味だ」という官邸の判断だったようです。
まあ、有識者の意見は意見として政治判断することは、あっていいと思います。ただ、この件に関していえば、児童手当の拡充を後回しにせざるを得ない事情がありました。「財源」です。
児童手当は中学生までの子どもに1人あたり月5,000円〜1万5,000円を支給するもので、2022年度の給付総額はおよそ2兆円。国と地方、事業主などが負担し、国の負担分だけでおよそ1兆1,000億円です。拡充となればさらに兆単位の財源が必要で、防衛費増額の財源もままならない中、見通しは立っていません。首相は否定しましたが、自民党の甘利前幹事長は消費増税の可能性に言及して、野党の反発を招きました。それくらい難しい話なんです。
また、横田記者は「そもそも自民党は、所得制限なくすべての子どもに現金を給付するとした旧民主党の『子ども手当』を真っ向から批判し、撤回させた政党」ではなかったか、と、その厚顔ぶりにも驚きます。だって、子ども手当撤回に際して自民党は「民主党の『子どもは社会で育てる』というイデオロギーを撤回させ、第一義的に子どもは家庭が育て、足らざる部分を社会がサポートする、という我が党のかねてからの主張が実現した」と、自慢していたのですから。凄い“宗旨替え”ですよね(笑)財源も含めて、首相がどういう説明をするのか、国会論議を見守りたいと思います。
こんなに違う保育料! 首都圏での子育て支援格差
一方、小池知事の少子化対策は、子育て世代にも大きな波紋を広げています。首都圏での子育て支援格差です。
実はそもそも、財政が豊かな東京都の子育て支援は充実しています。例えば医療費は23区全てで、所得制限なしに中学卒業まで無料。千代田区や武蔵野市などはさらに高校生まで無料で、今年4月からは都内全域で高校生まで無料になる方向です。認可保育園の保育料も、全国水準に比べて安く、首都圏で比べると特にそうです。
保育料は2019年に始まった「幼保無償化」で3歳から5歳は無料ですが、0歳から2歳は有料です。この額、自治体によってかなり開きがあって、保育園を考える親の会が発行する「100都市保育力充実度チェック 2022年度版」によると、都内で一番保育料が安い渋谷区は、モデル世帯で月額8,850円。23区内は最高でも3万2,500円で、ほとんどが1、2万円台です。
一方、横浜市は同じ比較で月額3万8,000円、さいたま市は4万4,000円ですから、ただでさえ差があるのに、さらに2人目は東京ならタダ。そのうえ月5,000円の給付もあるとなれば、「東京へ引っ越したい」という声が上がるのも、もっともです。だって、家賃が上がっても、その分ある程度は吸収できますから。
ちなみに、この「100都市保育力充実度チェック」によると、全国主要都市の0〜2歳児の保育料は、安い順に名古屋市29,400円、堺市3万円、札幌市3万250円などで、残念ながら福岡市は3万9,300円、北九州市は3万9,900円と、高い方にランクされています。
ただ、保育園の入りやすさ=入園希望者が実際に入れた割合=で言えば、福岡市は主要都市で2番目に高い93.4%です。先ほど、保育料が都内一安いと紹介した渋谷区は73.9%ですから、いくら安くても入れなければ意味はないわけで、子育てのしやすさは、もちろん一つの指標だけで決まるものではありません。
それでも、支援策に関して「格差」があるのは事実で、国が一律で拡充しない限り、自治体間の格差はさらに広がると考えられます。若い世代の定着や流入を増やすための競争ともいえるもので、東京都が子育て支援を充実する背景にも、コロナ禍のリモート勤務などで住環境の良い周辺部や地方に人口が流出したことがあると考えられます。
各地の支援策や政治家の声をチェック
折しも、間もなく引っ越しシーズン。これから結婚や出産を考えている方や、子育て中の方はぜひ、候補地の子育て支援策も比べて探すことをお勧めします。特に、東京や大阪など大都市圏に就職したり転勤したりする方は、市や区をまたぐだけでずいぶん違うので、必須です。私が今回、データを引用させてもらった「100都市保育力充実度チェック」を参考にしてください。
今年は統一地方選の年。そこに向けて各党・候補はおそらくこぞって子育て支援の拡充を打ち出すでしょうが、言うのは簡単、でも実現は財源問題などで厳しいのが現実でもあります。さて、どうするんでしょう? まずは国会で与野党が示すメニューに注目しています。

 

●防衛力増強には結局「消費税増税」しか道はない  1/21
岸田首相が「防衛力の増強」と「異次元の少子化対策」を打ち出しました。いずれも兆円単位の巨額の予算が必要で、財源の確保が課題になっています。
防衛費増額の財源として、政府は法人税・タバコ税などの増税を閣議決定しました。加えて国有財産の売却益、剰余金の活用などが財源になっています。少子化対策については、自民党の甘利明前幹事長が消費税増税に言及しました。他にもいろいろな財源が取りざたされ、さながら宝探しの様相です。
財政難の日本で、いろいろな財源を探すのは当然のこと。ただ、防衛力増強も少子化対策も国家の大計なので、「安定した大きな柱がなくて大丈夫なのか?」という疑問・不安が湧いてきます。
柱となる財源の候補は、1歳出削減、2国債発行、3増税の3つです。各種世論調査によると、国民の希望は高い方から1→2→3で、政府とは真逆のようです。今回は、この3つのうちどれが適切なのか、順を追って考えてみましょう。
歳出削減は必要だが、財源にはならない
まず1つ目の歳出削減。財源の議論で真っ先にやり玉に挙がるのが、「税金の無駄遣い」です。とくに、ガーシー参議院議員の一件もあって、「国会議員の報酬を減らせ」「そもそも国会議員を減らせ」という国民の批判が噴出しています。
困難を伴う大きな改革を進めるには、国民の理解を得ることが大切。そのためには、まず政治家が率先して範を示すべきで、議員報酬と(公約である)議員定数の削減が喫緊の課題です。
ただ、国会議員1人当たりの報酬は、文通費や公設秘書の報酬などを含めて年間7500万円くらい。衆参合わせても713人分の総報酬は500億円あまりにすぎません。地方議員を含めてゼロまで減らしたとしても、「焼け石に水」です。
主たる財源にするなら、やはり予算規模が大きいものがターゲットになります。2023年度当初予算案の一般会計歳出総額114兆3812億円のうち最大は、社会保障関係費36兆8889億円です。
日本では、2040年代後半まで高齢者が増え続けるので、医療・介護などの社会保障関係費はどんどん膨らみます。こうした中、逆に社会保障関係費を削減するというのは高齢者や病人の切り捨てを意味し、国民の猛反発が必至。実現は到底不可能でしょう。
社会保障関係費は、削減するどころか、大きく増やさないのが精一杯。2番目に予算規模が大きい国債費も同様で、歳出削減は主たる財源として期待できません。国が歳出削減に努めるのは大切ですが、財源の問題とは分けて考える必要があります。
国債発行は安定財源として不適切
2つ目の主たる財源の候補が、国債発行です。国債を新規に発行するのがオーソドックスな方法ですが、それに加えて最近、「60年償還ルール」の見直しという方法が議論されています。
「60年償還ルール」とは、期限を迎えた国債の一部を新たに発行する借換債と現金による払い戻しを組み合わせ、発行60年後までに完済するという財政運営ルールです。この償還年数を60年から80年などに延長すれば、年ごとの償還費用を減らすことができます。
ただし、償還費用の減少で一般会計の赤字国債は減りますが、その分、特別会計の借換債が増えます。つまり、政府全体で見ると、償還年数を延長しても収入が増えるわけではなく、実質的には財源になりません。
日本では1990年代以降、国債発行で財政出動を繰り返してきたことから、防衛力増強・少子化対策でも国債発行を財源にしようという意見があります。国債発行は財源の3つの候補の中で実行は最も容易ですが、財源として適切でしょうか。
日本の国債残高は1029兆円(2022年末)で、地方債なども合わせた国の借金はGDPの2.6倍に達し、主要国で最も高い水準です。IMFなど国際機関・アメリカ系格付け会社・海外投資家などが日本の財政の持続性に懸念を表明している通り、安定性が課題です。
海外からの懸念に対し、「日本国内で国債を消化できているのだから、外国人が何を言おうと関係ない」という反論をよく耳にします。しかし、この反論は日本国債の置かれた厳しい現実から目を背けているのではないでしょうか。
今でも、低金利で魅力に欠ける日本国債の買い手の主体は日銀という状態です。今後、高齢化で高齢者が預金を取り崩すようになったら、外国人投資家に買ってもらう必要が出てきます。今日本国内で消化できているから将来も大丈夫だと考えるのは、楽観的すぎます。
もちろん、他の財源がどうしても見つからない場合の最終手段や一時的に財源が不足する場合の緊急措置として、国債発行は必要です。したがって、「国債発行はまかりならん」ということではありませんが、主たる財源に据えるのは不適切です。
消費税の増税がベスト
歳出削減も国債発行も財源として不適切となると、3つ目の増税がクローズアップされます。税収規模が大きい法人税や消費税の増税が候補になりますが、どちらが適切でしょうか。
岸田首相が決めた法人税の増税には、大きな問題があります。1法人税は税収が景気などに左右される、2日本の法人税率は国際的に見て高水準で、増税は企業の競争力に悪影響を与え、企業の海外移転を加速させる。
また、日本では赤字法人の割合が65.4%(国税庁、2019年度)に上ります。少子化対策も防衛力増強も国民全体に関わることなので、法人税を支払っている一部の優良法人に負担させるのは、課税の公平性という点でも疑問です。
その点、消費税は、税収が景気に左右されにくく、税率も国際的に見て低く、国民に広く薄く負担を求めるという点で、安定財源として合理的です。増税するなら、法人税よりも消費税です。
ここで消費税増税には、「GDPの半分以上を占める個人消費を冷やし、経済に大きな打撃を与える。増税で経済が崩壊したら元も子もない」という強い批判があります。
たしかに、消費税増税は、短期的には経済成長率を下押しします。しかし、長期的には経済成長率に与える影響は軽微であることが、経済学の研究で明らかになっています。「そんなバカな」と思うかもしれませんが、日本よりはるかに消費税率が高い諸外国の経済成長率を見てください。
以上から、消費税増税を財源の中心に据えるのが、最も合理的です。防衛力増強も少子化対策も、一刻を争う課題。「やらない」という選択をしないなら、いかに消費税増税を円滑に進めるか、早急に議論する必要があります。
結局、増税は立ち消えか
では、向こう数年のうちに、消費税増税は実施されるのでしょうか。自民党内外で「増税するなら国民に信を問うべき」と言われる通り、カギを握るのは国民の世論です。
昭和の時代から「消費税に関わると選挙に負ける」と言われ、消費税は歴代政権を悩ます鬼門とされてきました。逆に、土井たか子社会党党首が消費税について「ダメなものはダメ」と言い放ち、国民の圧倒的な支持を集めました。
岸田首相は、法人税増税の先に消費税増税を視野に入れているようです。しかし、今後、世論の風向きが悪くなったら、政権を維持するために方針転換するでしょう。筆者は次のような展開を予想します。
国民の「増税はまっぴらごめん」「今はコロナ禍とインフレで緊急事態。増税するとしても今じゃない」という声に押されて、岸田首相は法人税の増税を「当面見送り」、そして「経過的な措置」として国債発行で賄う。数年後コロナが終息するが、すでに岸田首相は政権の座になく、消費税も含めて増税の話はすべて立ち消えになっている……。
ということで、消費税はもちろん法人税の増税も実現せず、国債発行が主たる財源になるでしょう。増税が回避されて、国民は「やれやれ」と胸をなでおろすわけですが、それが本当に国民・国家にとって良いことなのでしょうか。冷静に議論を深めたいものです。
●コロナ「5類移行」をここまで引っ張らせた真犯人 1/21
私は、毎朝、全国紙5紙と神戸新聞・東京新聞・福島民友など自らが関係する地域の地方紙、さらにいくつかの海外媒体に目を通すことにしている。
1月19日、毎日新聞以外の全国紙は、一面で感染症法上のコロナの扱いに関する記事を掲載した。毎日新聞も翌20日の一面で、この件に関する記事を報じた。朝日新聞の「コロナ5類緩和検討」から産経新聞の「コロナ『5類』4月移行」まで、論調に若干の差があるものの、全紙が一斉に報じるのだから、官邸が強い意志でコロナを2類相当から5類へ変更しようとしていることが分かる。
そして、翌20日の午前、岸田総理は、加藤厚労大臣に今春を目処に5類に変更することを指示し、ようやく、5類変更のプロセスが始まった。
専門家は2類への留め置きを求める
これまで、官邸は何度も2類から5類への見直しを提起してきた。その度に、専門家たちが、危険性を指摘し、2類に留め置くように求めてきた。たとえば西浦博・京都大学教授は、最近も「社会全体で緩和に伴う自由を手に入れることは、ヨーロッパの規模の感染や死亡を受け入れることにも通じるものです」(「8割おじさんはもう卒業」 新型コロナ第8波に向けて西浦博さんが訴えたい3つの対策/バズフィード、11月10日配信)と語っているし1月11日、厚労省の専門家組織「アドバイザリーボード」は、5類への変更に対し、「必要な準備を進めながら段階的に移行すべきだ」という声明を発表している。
いまや普通の風邪に近いコロナを、強毒性の鳥インフルエンザと同列の2類として扱うのは異様だ。そんなことをしている先進国はない。なぜ、彼らは5類変更に反対し、2類にこだわるのだろうか。それは、2類であることが、厚労省が保健所を介して医療現場に介入できる法的根拠だからだ。医療機関に対して、検査や治療を指示し、感染者の情報の提供を求めることができるのは、この感染症が、感染症法の2類相当とされているからだ。
感染症法の2類相当は金にもなる。病床確保名目などで、さまざまな予算が措置されるからだ。表は昨年8月段階の首都圏、関西圏の主要病院、および厚労省管轄の独立行政法人のコロナ患者受入状況、および補助金の受入額をまとめたものだ。
特に酷いのが、厚労省管轄の3つの独立行政法人だ。第7波の真っ最中であるにも関わらず、国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)、国立国際医療研究センターの即応病床あたりの受け入れ割合は65%、72%、42%に過ぎなかった。一方、2021年に受け取った補助金は1272億円(2019年比2803%)、556億円(同4279%)、45億円(同675%)だ。他の大学病院の受け入れとはレベルが違う。コロナが5類に変更されれば、このような「旨味」は全てなくなる。
コロナ対策の法的根拠は感染症法だ。日本のコロナ対策を論ずるなら、この法律を理解することが大切だ。
感染症法の強烈な権限
感染症法の雛形は、明治時代に確立された。基本的な枠組みは、国家の防疫のために、感染者・家族・周囲の人を強制隔離することだ。殺人犯でも、現行犯以外は、警察が逮捕するには裁判所の許可が必要だ。
ところが、感染症法では、実質的に保健所長の判断で感染者を強制隔離できる。基本的人権などどうでもいい。戦前、感染症対策は、内務省衛生警察が担当していた。当時の雰囲気がご理解いただけるだろう。戦後、感染症法は廃止し、基本的人権を保障した形で、新しく立法すべきだった。ところが、感染症法の雛形は、そのまま生き残った。
この結果、現行の感染症法は、エボラ出血熱や鳥インフルエンザのような強毒な病原体が侵入した非常事態に対応すべく、厚労省などの関係者に強い権限を与えている。いわば戒厳令のような存在だ。
権力者がいったん強い権限を得たら、自らは、なかなかその権限を手放したがらない。メディアを含め、そのおこぼれにあずかる人たちが、彼らを擁護する。戦争はいったん始めれば、なかなか終われないし、戒厳令はいったん出せば、容易には解除できない。
感染症法は、厚労省健康局結核感染症課が所管する。局長、課長ポストは医系技官の指定席だ。だからこそ、医系技官とその周囲の公衆衛生や感染症を専門とする医師たちが、前述したようにさまざまな理屈をつけて抵抗した。
余談だが、隔離一辺倒の公衆衛生は、世界標準ではない。世界の公衆衛生の雛形は、19世紀のイギリスで生まれた。産業革命で都市に人口が流入し、コレラが流行した。これを克服したのは、資本家階級による上下水道の整備だった。イノベーションが感染症を抑制したのだ。成功体験は引き継がれる。今回のコロナでも、民間企業が開発したmRNAワクチン、大規模検査、遠隔診療、デジタル医療が、コロナ克服に大きな役割を果たした。
隔離一辺倒の政策で日本に起きたこと
幕末の開国で、日本にも感染症が流入する。残念なことに、当時の日本には、イギリスのような資本家階級は存在しなかった。当時、できたのは、国家による強制隔離だった。その影響が、感染症法という形で今も残っている。検査やワクチンが発達した現在、このような隔離一辺倒の対応は合理的でない。感染者をスティグマとし、差別を生む。また、国民に過剰な恐怖心を植え付け、国民に負の影響を与える。
現に、隔離一辺倒の政策が、今回のコロナパンデミックで、日本国民に甚大な被害をもたらした。それはコロナ以外の理由での死亡の急増だ。昨年3月、ワシントン大学がイギリス『ランセット』誌に発表した研究によれば、日本の超過死亡数は、コロナ死亡数の約6倍だ。普通は0.5〜2倍の間で、日本の超過死亡は先進国で最大だ。
なぜ、死亡が増えたのだろうか。医療ガバナンス研究所の山下えりかは、厚労省の「人口動態統計」を用いて、2019年と2021年の死因の変化を調べた。
驚くべきことに、2019年と比べて、2021年に人口10万人あたりの死亡数が最も増えたのは老衰(25人増、25%増)だった。次いで、コロナ(14人増)、誤嚥性肺炎(7人増、23%増)、心疾患(6人増、3.4%)、悪性新生物(4人増、1.3%増)、アルツハイマー病(2人増、10.8%増)と続く。逆に肺炎(18人減、23%減)、脳血管疾患(2人減、1.8%減)、不慮の事故(1人減、2.1%減)は減っていた。感染症対策や自粛が影響しているのだろう。
国民に過剰な自粛をさせた結果
老衰、誤嚥性肺炎、アルツハイマー病は、老化による身体や認知機能の低下が原因だ。自粛による運動不足や、社会的な孤立が影響したと考えるのが自然だ。これは前述したように、隔離一辺倒の感染症法が、国民に過剰な恐怖心を植え付け、国民を過剰に自粛させたためだ。
いまだに専門家は、自らの誤りを認めていない。彼らにとっての関心は、国民の命より、コロナ感染者数と言っていい。ただ、これは、国家の防疫を何よりも優先する感染症法の主旨に合致している。
今こそ、感染症法は、根本から見直さなければならない。国家権力が国民を統制するのではなく、国民は医療・検査を受ける権利があると保障すること、さらに「戒厳令化」する2類認定のストップ・ルールを明確化することだ。国民が中心となり、技術官僚や専門家が暴走できない枠組み、つまりシビリアンコントロールの体制を整備しなければならない。
●通常国会開会へ 「言論の府」存在問われる 1/21
突っ込みどころ満載の通常国会が23日に開会する。岸田文雄首相が日本の針路に関わる重大な政策の「大転換」を相次いで打ち出したからだ。国会は存在意義が問われる正念場にあることを自覚し、時の政府の行政執行をしっかりと監視した上で、修正すべきは修正させなければならない。
最大の焦点は、中国や北朝鮮など厳しさが増す安全保障環境に対処するとして2023年度から5年間で約43兆円を当てる防衛力整備計画と、その財源確保に向けた増税の是非だ。23年度予算案にも反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有するための米国製巡航ミサイルの取得費が含まれている。
首相が防衛費の大幅増額や1兆円強を増税で賄う考えを表明したのは先の臨時国会が最終盤に入ってからだ。しかも、自民、公明両党の与党協議を経た最終決定は閉会後の昨年12月半ばだった。国権の最高機関である国会の関与が全くないまま、大転換の方針が決まっていった経緯がある。
加えて、首相はこうした方針を欧米の首脳との会談で「国際公約」ともいえる支持取り付けを図り、既成事実化を図った。「言論の府」をおとしめたといっても過言ではないだろう。与党が予算案や関連法案の国会審議を拙速に進めることはあってはならないし、与野党は国民の判断材料となるような熟議を政府との間で尽くすべきだ。
とりわけ、反撃能力の保有は先の大戦の反省を踏まえた専守防衛の理念から逸脱し、軍拡競争に陥る恐れも否めない。防衛増税にしても共同通信社の世論調査で6割強が「支持しない」と答えている。法人税や復興特別所得税の増税方針は政府が呼びかける賃上げや物価高に苦しむ家計に逆行するものではないか。
原子力政策の転換もしかり。首相は昨年8月に原発の活用方針の検討を指示したが、議論は主に政府内で進行。運転期間の延長や次世代型原発への建て替え方針を決定したのは国会閉会中の12月下旬だ。長年建て替えを求めてきた福井県内の立地自治体でも唐突な受け止めが少なからずあったようだ。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機などが背景にあるが、状況が変われば再び翻意することはないのか、踏み込んだ国会質疑を求めたい。
首相が施策内容や財源も曖昧なまま打ち出した「異次元の少子化対策」、2年前に一度は廃案になった入管難民法改正案、閣僚が相次いで更迭された「政治とカネ」の問題、国会議員に月100万円が支給される旧文通費の使途公表など、課題は山積みだ。国会を再生できるかどうかの瀬戸際にあることを与野党とも肝に銘じ、実りある論戦を展開する必要があろう。
●自民、巨額財源で対立先鋭化も 少子化・防衛巡る議論スタート 1/21
自民党は19日、国民の税負担を左右する二つの党内論議をスタートさせた。政府の議論着手に合わせ、「こども・若者」輝く未来創造本部で少子化対策の検討を開始。防衛費増額に向けた増税以外の財源確保策を検討する特命委員会の初会合も開いた。次期衆院選などを見据え、巨額財源を巡る財政規律派と積極財政派の対立が激化しそうだ。
財源後回し
「まずは一つ一つの政策を積み上げる」。茂木敏充幹事長は19日、党本部で開かれた少子化対策を巡る本部の会合でこう表明。会合では少子化対策の中身の議論を先行させ、財源論は4月以降に後回しにすることが了承されたという。
昨年7月から休眠していた本部が再開したのは岸田文雄首相が4日の年頭記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と打ち上げたのがきっかけだ。首相は6月までに「子ども予算倍増」の大枠を示す意向で、3月末までに具体策のたたき台をまとめるよう指示した。
もっとも、首相が周到に準備していた形跡はない。霞が関には「寝耳に水だ」との声が広がる。関係者によると、支持率低迷を受けて「反転攻勢の起爆剤に」と付け焼き刃で発言した側面が強い。
財源論議も手つかずだ。政府・与党は防衛費増額を巡る昨年末の議論で1兆円強の増税方針を決めたばかりで、党内からは「もう増税の余地はない」(中堅)との声も漏れる。党関係者は「国民が確かに異次元だと納得する少子化対策を打ち出した後でなければ、財源論には入れない」と語った。
議論蒸し返し
増税慎重論の背景にあるのは岸田政権への逆風だ。19日発表の時事通信の世論調査で内閣支持率が過去最低の26.5%に落ち込むと、党幹部は「増税論の影響だろう」と断じた。
4月には統一地方選と衆院補欠選挙が控える。10月には衆院議員任期の折り返しも迫り、増税慎重論が勢いを増すとの見方が強い。若手の一人は「選挙前に増税論議なんていいかげんにしてほしい」と吐き捨てる。
19日に開かれた特命委の初会合でも、積極財政派から「防衛費増額の財源は工夫して見つけるべきだ」などと、政府が否定的な国債償還ルール見直しを求める声が続出した。
防衛費増額のため2027年度以降に毎年必要となる約4兆円を巡っては、1兆円強を増税、約3兆円を増税以外の財源で賄うことが昨年末に決まった。しかし、複数の出席者から「増税すべきではない」「3兆円の上積みで増税幅圧縮を」などと議論を蒸し返す声が出た。
関係者によると、萩生田光一政調会長は会合の最後で「昨年末に固まった大前提は崩さない」とクギを刺したが、防衛増税への反対論が息を吹き返す可能性も否定できない。
「増税内閣VS野党」
「ダブル増税」の可能性に野党は勢いづく。増税を争点に選挙に臨めば、野党に有利とみるからだ。野党6党1会派は17日、「安易な増税路線」への反対を確認。立憲民主党は「岸田増税内閣対野党だ」(安住淳国対委員長)と息巻く。
立民は19日、少子化対策に関するヒアリングを国会内で開催。「何が異次元の対策か」「消費税増税が財源か」などと政府側を追及した。共産党の小池晃書記局長は取材に「今必要なのは国民に信を問うことだ」と衆院解散を迫った。
●日本・中国・韓国が深刻な少子化、もう「国家存続の危機」レベル 1/21
近年、日本だけでなく東アジア諸国でも少子化が深刻になっており、その対策が重要な政治課題として議論されている。
日本では、岸田文雄首相が、年頭の記者会見で「異次元の」少子化対策に挑戦すると表明した。この首相会見の3時間前には、小池百合子都知事が「チルドレンファースト」社会の実現を目指すとして、2023年度から所得制限を設けずに、0歳から18歳の子どもに、1カ月5000円の給付を行うことを華々しく打ち出した。
子どもを産まない社会は、日本だけではなく、お隣の中国も韓国も同じである。
中国、61年ぶりに人口が減少
1月17日、中国国家統計局は、2022年末の中国の人口が、2021年比で85万人減少し、14億1175万人だったと発表した。これで、人口世界一はインドとなるようである。
中国の人口減少は、1961年以来、実に61年ぶりのことである。出生数は前年比106万人減の956万人で、6年連続の減少である。人口1000人当たりの出生率は過去最低の6.77人であった。
65歳以上の人口は2億978万人、総人口に占める割合は14.9%で、2021年の14.2%から増えている。まさに少子高齢化社会の到来である。
新型コロナウイルスが流行する前、私は毎年、中国の大学に招かれて講演してきたが、私が厚生労働大臣だったこともあって、講演テーマについてのリクエストは少子高齢化問題がいつもトップであった。日本の介護保険制度などについて解説し、官民で協力して高齢者の介護に当たっている現状を説明したものである。
2019年に、中国社会科学院は、中国の人口がピークに達するのが2029年で、2030年から減少に転じるという予測を出していたが、その予測よりも8年も早く人口減少の波が押し寄せてきたのである。
1960年代以降に人口が爆発的に増加する状況に鑑み、中国政府は、1979年に「一人っ子政策」を開始した。この政策の効果も出てきたため、2015年末にはこの人口抑制策を廃止し、2016年からは2人目、2021年からは3人目を解禁している。しかし、一人っ子政策を止めても人口は増えず、逆に減っているのである。
中国では1963年〜1975年には毎年2000万人以上が誕生していた。いわゆるベビーブーム世代である。1963年生まれは、今年60歳の定年退職を迎え、これから10年で2億3400万人が退職する。ところが、労働市場に参入する若年人口は1億6600万人で、日本経済新聞の試算によると、今後10年で生産年齢は6700万人(9%)減少する。
この働き手の減少は、中国の経済成長を支えてきた柱の1つが崩壊することになる。それは、世界経済にも大きなインパクトを与える。
中国経済も失速
中国の昨年のGDP伸び率は3.0%で、これは政府目標の5.5%よりも低い。ウクライナ戦争の影響で世界的にインフレが起こり、経済成長を減速させたことが響いている。また、ゼロコロナ政策によって上海などで都市封鎖が続いたことがこの事態を招いている。この中国の低成長は、世界経済に大きなマイナスとなっている。
それに、先述した人口減少が今後とも成長の阻害要因となると考えらえる。今でも厳しい状況にある不動産不況も、人口減少でマンション購入者が減り、さらに加速化されそうである。不動産を購入する若い世代の人口が増えないからである。
しかも、昨年12月になって、習近平政権は突然ゼロコロナ政策を止めることを決めたのである。それは、11月26、27日の週末、ゼロコロナ政策に反対するデモが全国で起こり、習近平や中国共産党の退陣を叫ぶ声まで上がったからである。
この政策転換によって、コロナ感染が爆発的に増え、12月だけで人口の2割に当たる2億〜3億の人が感染したと推計されている。この感染拡大は個人消費を冷やし、生産も減速させる。12月の失業率は5.5%で、16〜24歳の若者だと16.7%の高さである。春節で多くの人が帰郷するなど移動するため、大都市から地方に感染が広まるのではないかと懸念されている。
コロナが終息すれば、一気に景気が良くなる可能性はあるが、毒性の強い新たな変異株が出現すれば、また3年前の武漢に戻ってしまう。まだ不安定要因は多々あると見なければならないであろう。
少子化は東アジアのアキレス腱
岸田政権もまた、少子化対策を重要政策として掲げている。さらには、韓国、台湾、香港、マカオ、シンガポールといったアジアの国や地域もまた少子化の問題に直面している。
2020年の合計特殊出生率は、日本が1.34、中国が1.28、韓国が0.84、台湾が1.07、香港が0.87、マカオが1.07である。とくに韓国の合計特殊出生率は世界最低である。テスラCEOのイーロン・マスクが、昨年5月に「出生率が変わらなければ、3世代のうちに韓国の人口は現在の6%になり、大部分が60代以上の高齢者になるだろう」とツイートして話題になったことは記憶に新しい。韓国の2021年の合計特殊出生率は0.81まで下がっている。
日本について詳しく見ると、日本の出生数は、終戦直後のベビーブームのときが約270万人(1949年)、第2次ベビーブームのときが約200万人(1973年)と多かった。ところが、2021年が約81万人、2022年が約77万人(推計)と減少しているのであり、この減少傾向は今後も続くと見られている。
では、なぜ日本、中国、韓国、台湾などで少子化が進むのか。様々な要因があるし、国によって特有の事情もあるが、最大の問題は子育てにおカネがかかることである。とくに教育費が問題である。
日本では、幼稚園から高校まですべて私立にすると、15年間で学習費の総額は1700万円となる。全部公立でも500万円かかる。中国や韓国では、教育費は日本以上に必要で、子ども一人の教育費を捻出するのに精一杯で、二人目は無理なのである。
東アジアの国々では、教育費の公的負担が欧米に比べて少なく、とりわけ高等教育(大学など)がそうである。私の体験も踏まえて、日本と欧米を比べて見よう。
フランスとアメリカの例
ヨーロッパでは、フランスが少子化対策に成功している。合計特殊出生率は、1993年には1.66だったのが、2020年には1.83に上がっている。これは家族手当、低所得者への保育料無料など、様々な支援策を実行に移したからである。大学も含め、教育は無償である。
とくに注目すべきは、結婚していない独身女性に対しても生殖補助医療が行われる。日本の保守派が眉をひそめるような多様性を認めているのである。結婚しないで子どもを持つ人が増えている。
フランスは、婚外子比率がヨーロッパ第一位の、実に57%にのぼっている。2位はスウェーデンで55%、以下、デンマーク53%、オランダ49%、イギリス48%である。因みに、日本の婚外子比率は僅か2.3%である。日本よりも婚外子比率が低いのは韓国のみで、1.9%である。婚内子であれ婚外子であれ、子どもの数が増えれば良いのだという認識が持てるかどうかである。
国家が費用を含め、教育に全責任を負うというフランスと対極にあるのがアメリカである。アメリカの大学は私学が基本で、授業料も高い。しかし、奨学金制度が拡充している。返還義務のないものもある。卒業生で事業に成功した実業家などは、こぞって大学に寄付をする。そのおかげで、授業料も安くなる。
このような寄付(チャリティ)の文化のあるアメリカでは、ビジネスで成功した者は、稼ぎの1割は社会に還元すべきだという考え方が広く行き渡っている。この寄付が、大学の門戸を貧しい者にも開いているのである。
日本の場合、フランス型でもアメリカ型でもない。岸田首相は、どのような「異次元の」少子化対策を国民に提示するのだろうか。
パックス・シニカは難しいか?
ウクライナ戦争でロシアが疲弊する中で、これからの世界の覇権競争はアメリカと中国によって展開されると考えられている。
要するに、パックス・アメリカーナからパックス・シニカに移行するのかどうかということである。習近平政権は、建国100周年の2049年までに世界一の大国になることを目指している。
しかし、人口減少という要因はその野望に暗い影を投げかける。合計特殊出生率は、中国が1.28なのに対し、アメリカは1.64である。しかも、アメリカは移民の流入によって若い働き手が増えている。人口という点では、はるかにアメリカのほうが優位に立つ。
最新兵器を備えても、兵隊が集まらなければ、戦える軍隊にはならない。一人っ子だと、親は子どもを生命の危険を伴う軍隊に就職させようとはしない。
習近平政権の3期目は、コロナ政策の失敗をはじめ、多難な門出となっている。  
●「毎年賃金が下がる。もう限界…」日本人の給料を上げるには「移民を・・・」 1/21
大山昌之氏の著書『財政再建したいなら移民を3000万人受け入れなさい』より一部を抜粋・再編集し、「日本の財政が悪いワケ」、そして「財政再建のための2つの方法」についてみていきます。
どんなに消費税を増税しても、日本は財政再建できない
皆さんがその融資担当者の立場だったとして、どんな会社にお金を融資したいと考えるでしょうか? もちろん、きちんと返済できる企業に融資したいに決まっていますが、仮にその融資をする事によって、その後その会社にどんな影響を与え、これから先どれだけ儲けられるのか?
返済期間を仮に十年とした場合、十年間の経営計画を作成し、その計画の信頼度を銀行に説明する。私はいつもこんな風に銀行に説明してきました。
私が、経営者として一つだけ自慢できる事があるとするならば、現在の日本政府と同じように財務内容が苦しく、明日にでも倒産しそうな会社の経営再建計画を、長年、数多く作り続けてきた事です。このため、今では会計事務所を少しもアテにせず、どんな会社の再建計画も作成できるようになりました。
政府の財政再建も、一般の企業と同じように、仮に日本政府を一つの企業として捉え、自分がその経営者になったつもりで、今後の日本政府の経営計画のシミュレーションを、いくつか組んでみました。
するとそこから、意外な事がわかってきたのです。
それは、今の日本経済の状態では、どんなに消費税を増税しても、単に税収を増やしただけでは財政再建を果たす事ができないという事です。
しかし、それもよくよく考えたら至極当然の事です。
例えば現在、少子高齢化によって国の社会保障費が増大し、毎年二十三兆円の国債を発行し続けなければならなかったとします。そこで、政府がその補填のために消費税を増税し、その時の財政の帳尻がそれで一旦合ったとしても、十年後、少子高齢化が更に進み、再び国の予算が十兆円足らなくなる……。
財務省は、こんな事が起こるたびに、これから先ずっと永遠に消費税を上げ続けるつもりなのでしょうか? 
「日本の財政は絶対に破綻しない」という真っ赤な噓
結局、日本の財政が悪いのは、困ったらその時にその原因をきちんと解決する事を避け、安易に消費税増税に頼ってきた事に原因があるのです。
ハッキリいって、財務省が提案している緊縮財政では、悪化し続ける日本の財政を再建する事は絶対にできません。そもそも財務省が国民にいつもいっている、
「財政の健全化と安心できる社会福祉のためには、消費税の増税は必要不可欠な事である」という話すら、実は真っ赤なウソなのです。
私は、日本の多くの経済学者がいっているような「日本の財政は絶対に破綻しない」という説(MMT現代貨幣理論)を全く信用していません。また、自分の事をれっきとした財政再建論者だとも思っています。
しかし、それでは財務省がいっているように、財政再建をするためには、政府はもっと強く緊縮財政を推し進めなければならないのかといえば、それについても全く同意していません。しかも、当の財務省の官僚や麻生太郎氏ですら、緊縮財政では国の財政は再建できない事を、本当は彼らもわかっているのです。
彼らの本音は、何をやったらこの多すぎる借金の返済のメドが立つのか全く見当がつかず、とりあえず緊縮財政を行う事で、これ以上日本の財政を少しでも悪化させないようにする事しか、もはや今の彼らにはできないという事なのです。
それは、「日本の財政は絶対に破綻しない」と唱える知識人も同じです。生粋のMMT論者は別として、彼らも本当はこの多すぎる財政赤字に対して、どう対処して良いのか全く見当がつかないのです。
しかしながら現在の深刻な経済恐慌に対しても、けっして放置してはおけない状況も自覚しています。そこで彼ら自身も「日本の財政は絶対に破綻しない」というMMT理論にすがるしかなかったのです。
しかし長年、会社経営をしてきた者として、ここでハッキリいわせてもらえば「いくら借金をしても、政府は絶対に財政破綻(デフォルト)しない」なんて都合のいい話、この世に存在するはずがありません。
日本経済のため「移民を三千万人受け入れるべき」ワケ
それでは、財政再建はもう完全に手遅れなのでしょうか? いえいえ、そんな事はありません。いろいろシミュレーションをかけてみたところ、私の計算では、再建できる方法は何と二つもありました。
その一つが、現在の年金、介護、医療の社会保障制度を整理、清算する事です。これを行う事ができれば、年々増え続ける国の予算の増加を抑え込む事ができます。
しかし残念ながらこの方法では、日本政府の財政を立て直す事はできても、デフレを脱却し、日本経済を立て直すところまでには至りませんでした。
それでは、日本の財政だけでなく今の弱り切った日本経済をも立て直すには、一体どうしたら良いのでしょう?
それが、日本に移民を三千万人受け入れる事なのです。
もし、政府がこの政策を実行する事ができれば、財政だけでなくデフレ、所得格差、人手不足、中小企業の低収益化など、長年この日本で苦しめられてきた様々な経済的な問題を一気に解決する事が可能となります。もちろん、皆さんの給料も上がります。
単純に考えてみればわかると思いますが、三千万人移民を受け入れるという事は、日本の人口が一億五千六百万人……、現在の約24%増えるという事を意味します。
確かにこの事は、電車やバスに乗れば乗客の五人に一人が外国人になるばかりか、会社の同僚や学校の同級生の中にも外国人の割合が増え、日本人にとっては大なり小なり今より違った生活環境になる事だけは間違いありません。
しかし、商売をしている人の立場から考えれば、お客さんの数が24%増える事をも意味します。皆さんが働いている会社の業績も、同じように最低でも24%以上上がる事は間違いないでしょう。
そして、ここで皆さんに考えてもらいたいのは、もしあなたが会社の経営者だったら、次にあげるどちらの状況の方が従業員の給料を上げやすいのか? という事です。
⒈ 会社が儲かっている時
⒉ 会社の業績は下がり気味だが、人手が足らない時
もちろん、気分良く上げられるのは、1番の会社が儲かっている時に決まっています。
「我々の給料も同じように下がってしまうのでは?」
反対に、現在の日本の企業が置かれている2番の状況では、働く従業員の給料を上げる代わりに、人数を絞り、莫大な仕事の量を少数精鋭でこなしていくしか方法がありません。最近、ブラック企業が増えてきているのは、実はこのためなのです。
もちろん、「安い働き手が日本に大量に入ってくれば、我々の給料も同じように下がってしまうのではないのか?」と危惧される方も大勢いらっしゃるでしょう。しかし、移民を大量に受け入れている先進国の全てが、皆さんの予想に反して、実は平均賃金は年々上昇し続けているのです。
反対に、移民を全く受け入れていない現在の日本だけが、残念ながら毎年賃金が下がり続けています。結局、「給料」というものは働き手が多いか少ないかではなく、その国の景気の良し悪しで決まるものだったのです。
結論から先にいってしまえば、もはやこの弱り切った日本経済を立て直すためには、日本人の力だけでは不可能で、移民による大量の輸血が必要なのです。
●自民・森山選対委員長「挑戦しないと国が危うく…」少子化対策が急務 1/21
自民党の森山選対委員長は鹿児島県内で講演し、「安心して子どもを産み育てる社会の実現に挑戦しないと国が危うくなる」と述べ、少子化対策が急務だと強調しました。
森山選対委員長「どこに政策を打てば、安心して子どもを産み育てる社会が実現できるかということに、我々はどうしても挑戦していかなければ、この国が危うくなります」
森山氏は「子どもへの現金給付がいいのか教育の無償化がいいのか、市町村の意見を聞いてやっていくのが大事だ」と述べました。
また、森山氏は「少子化対策に加え、国の安全保障、食料安全保障への取り組みが急務だ」と指摘した上で、「自衛隊設備の更新など防衛力の強化と、小麦や肥料の国産化を進めるべき」と強調しました。
一方、新型コロナウイルスの「5類」への引き下げについては、「急いで間違いが起きてはいけないので慎重に対応するのが大事だ」と述べました。

 

●防衛増税や異次元の少子化対策…詳しい説明を避けてきた岸田文雄首相 1/22
第211通常国会が23日に召集される。敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を含む防衛力強化とその財源確保のための増税方針、岸田文雄首相が「異次元」と称する少子化対策が主要な焦点となる。国民の関心が高い政治課題を巡り、首相が説明を尽くせるかが問われる。4月の統一地方選や、実施が見込まれる衆院補欠選挙もにらんだ与野党の論戦は、政権の浮沈を左右する。(曽田晋太郎)
「山積する課題に対応する予算や法律がめじろ押しだ。政府・与党で作り上げてきた政策を国民の前で野党とも正面から議論し、実行に移していく」。首相は17日の自民党役員会で、論戦を通じて国民の理解を得ていく考えを示した。
具体的なテーマとして最初に挙げたのが防衛力強化だ。政府は昨年12月の安全保障関連3文書改定で「専守防衛」から大きく踏み出し、5年後の予算倍増に向けた増税方針も打ち出したが、詳しい説明は一貫して避けてきた。
今国会には、敵基地攻撃を想定した米国製ミサイル「トマホーク」の取得費も盛り込んだ2023年度予算案や、防衛費に回す税外収入を管理する「防衛力強化資金」新設法案などが提出される。
野党は防衛増税反対で結束
野党は防衛増税への反対を旗印に結束。立憲民主党の泉健太代表は、国会審議を経ずに重要政策を決める岸田政権の姿勢を批判し、首相らに「国民の疑問をぶつける」と意気込む。政府答弁が不十分なら、自民党内の増税反対論を勢いづかせる危うさもはらむ。
首相が「社会全体を維持できるかという大きな課題で、先送りできない」と強調する少子化対策にも注目が集まる。政府は3月までに大枠をまとめ、6月に策定する経済財政運営の基本指針「骨太方針」で将来的な予算倍増への道筋を示すと説明している。
子ども関連予算は「増税」の有無も議論に
国会では、児童手当などの経済的支援強化、幼児教育や保育などのサービス拡充、働き方改革の3分野を中心に、これまでの政策の検証や改革の方向性、財源確保策などを巡って議論が交わされる見通し。
野党側は防衛力強化と同様に「増税路線に走るのではないか」(立民の安住淳国対委員長)とみており、政府から具体的な見解を引き出したい考えだ。子ども・子育て政策の拡充に関する与野党の違いが明確になれば、次の国政選挙での有権者の判断材料にもなる。
首相の説明責任は統一地方選にも影響
2月前半と見込まれる日銀総裁の同意人事は、ひずみが目立つ金融政策の先行きを占う。原発の60年超運転を認めた政府の方針転換を法的に裏付ける電気事業法改正案、日本学術会議の新会員選考に第三者委員会を関与させる仕組みを導入し、菅政権で問題になった任命拒否を追認することになりかねない日本学術会議法改正案、2年前の廃案を経て再提出する入管難民法改正案などは、与野党の対決が激化しそうだ。
5月に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)を含め、会期中は政治日程が立て込んでおり、与党内からは「大変厳しい国会運営になる」(自民党の世耕弘成参院幹事長)との声が漏れる。23年度予算案を審議する前半国会の論戦を通じ、首相が重要な政治課題についての説明責任を果たせなければ、内閣支持率の低迷は続き、統一地方選や衆院補選への影響も避けられない。
●岸田政権キモ入り少子化対策は「異次元」のショボさ 1/22
やっぱり看板倒れの気配だ。岸田首相がブチ上げた「異次元の少子化対策」の目玉は、児童手当の拡充。子育て世代への支援拡大でイイ顔しようとしているが、そう簡単に少子化に歯止めがかかるわけがない。諸外国の対策に比べても、「異次元」とはほど遠い。人気取りにもなりゃしない。
児童手当は現在、中学生までの子ども1人当たり月1万〜1万5000円。政府は今後、増額や所得制限の見直しを検討する方針だが、肝心の財源論は4月の統一地方選後に先送りした。
人口問題に詳しい日本総研上席主任研究員の藤波匠氏がこう指摘する。
「支援拡充などの方向性は良いと思いますが、それと並行して若い世代の経済状況も改善する必要があります。40代の大卒社員の実質年収は、10歳上の世代に比べて今は約150万円少ない。奨学金を借りた学生は、社会に出た段階ですでに借金を抱えている状態であり、高等教育費用をどうするのかも重要な課題です。学費無償化や奨学金の給付枠を増やさない限り、教育費用問題は子どもを持たないという諦めにもつながります」
少子化は、「合計特殊出生率が約2.1を下回る状態」と定義されている。OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国のうち、出生率2.1を上回っている国はイスラエルのみ。出生率2.08と、ギリ少子化のメキシコを除けば、残り36カ国は子どもが減る問題に直面している。出生率1.33の日本はワースト4位だ。
世界の中でも超少子化社会の日本なら、なおさら諸外国以上に大胆な政策が求められる。しかし、先進事例に目を向けると、本気で取り組むハードルの高さは半端じゃない。
ハンガリーは「GDP比5%」を投下
右派政権のハンガリー政府は「国家が家族を守る」とうたい、少子化対策にGDP比5%の予算を投入。その規模は2020年のGDPベースで、約77.3億ドル(約1兆円)に上る。19年からは出産を控えた夫婦を対象に、最大1000万フオリント(約360万円)を金融機関から無利子で借りることができ、3人目の子どもが生まれたら返済不要とする「出産ローン」を実施。11年に1.23だった出生率は18年に1.55まで上昇した。
ハンガリーはGDP比5%の国費を投下する大胆な対策によって出生率が上向いたが、手厚い政策でも改善しない国もある。その一例が、アーダーン首相の突然の辞意表明に揺れるニュージーランドだ。
アーダーン政権は有給の育児休暇を18週間から26週間に延長。新生児を育てる世帯に週65NZドル(約5500円)を支給するなど、政権が発足した17年以降、子どものいる10.9万世帯の収入が平均で週175NZドル(約1万5000円)増えた。
ところが、現実は厳しい。手厚い子育て政策にもかかわらず、出生率は20年に過去最低の1.61を記録した。
「保育サービスの充実などに注力してきたドイツでは、12〜16年に出生数が増えたものの、17年から出生率が減少に転じました。子育て関連の政策効果が時間を経るにつれて薄まっていったと考えられます。少子化対策は思い切った取り組みを打ち出して終わりではなく、持続性も求められるのです」(藤波匠氏)
岸田首相の打ち出す対策が、「異次元」のショボさになること必至だ。
●米軍の「共同交戦能力」搭載へ=イージス・システム艦2隻―防衛省  1/22
防衛省が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替として建造する「イージス・システム搭載艦」2隻に、米軍が導入している「共同交戦能力」(CEC)を搭載する方針を決めたことが、政府関係者への取材で分かった。日米の情報共有が加速化するが、集団的自衛権行使の目標選定に使われる可能性もある。
CECはミサイルなどの目標をリアルタイムで共有する情報ネットワーク。最新型の海上自衛隊のイージス艦2隻には搭載されており、防空網が拡大する。
防衛省は国家安全保障戦略など3文書改定に基づき迎撃、反撃能力(敵基地攻撃能力)を一元的に運用する統合防空ミサイル防衛(IAMD)の構築を決定。CECはその一角を担い、2023年度予算案に計上したイージス・システム搭載艦の整備費2208億円にCEC取得費が含まれる。
CECは複数のイージス艦や早期警戒機が探知、追尾したミサイルや敵機の情報を同時に共有する。レーダーの死角になってもCEC機能があれば別のイージス艦が追尾したデータを共有して迎撃することが可能だ。自艦のレーダーに見えなくても、共有した情報で撃墜する手法は「エンゲージ・オン・リモート(EOR)」と呼ばれ、米軍が採用している。
海自トップの酒井良海上幕僚長は記者会見で、米艦と連携してEORを行うことは「理論上は可能」と述べている。
昨年11月に米ハワイ沖で実施されたミサイル迎撃試験では、海自イージス艦「まや」(神奈川県・横須賀基地)が探知した情報をCEC経由で同艦「はぐろ」(長崎県・佐世保基地)に提供した。
日米のイージス艦がネットワーク化されれば、北朝鮮がミサイルを米領域に向け発射した場合、海自が探知した情報を迎撃する米艦に提供することが可能だ。一方、提供した情報が米国の武力行使に使われれば、憲法解釈上認められない他国の武力行使と一体化する恐れもある。防衛省は「具体的に『この目標を方位何度・角度何度で撃て』と伝えない限り、一般的な情報提供の範囲にとどまり憲法上の問題は生じない」などとしている。
日本が米国の情報に基づき武力行使する事態もあり得る。台湾有事に米軍が介入し、集団的自衛権を行使できる存立危機事態に認定されれば、米艦を標的にしたミサイルを迎撃できる。中国軍が米艦にミサイルを発射し、海自イージス艦が米国の要請を受けて撃墜すれば、中国から日本が「参戦」したとみなされる可能性もある。 
●都心回帰が鮮明、地方移住で支援金「大盤振る舞い」のお寒い実態 1/22
東京一極集中の是正、地方移住の流れは進むのか。昨年暮れ、政府は東京圏からの地方移住者を2027年度に年間1万人に増やす目標を掲げた。東京圏からの移住世帯について、世帯分100万円に加え、18歳未満の子ども1人当たりの支援金も100万円に引き上げる方針(現行は30万円)と報じられ、「大盤振る舞い」と話題になったが、現実はどうなっているのか。実態を探ってみた。
政府が移住政策を強化する背景には、東京一極集中の是正が一向に進まず、地方活性化が掛け声倒れになっているという現実がある。コロナ禍で、東京都の転出超過が一時話題になり、地方移住が進んでいるかのような報道もあった。しかし、詳細を分析すると、転出者の多くは外国人だったり、日本人の転出先も東京近郊にとどまっているケースが多かった。
公表されている直近の人口移動報告データをみると、東京都は昨年、3万5746人の転入超過(日本人対象。2022年1-11月の累計)となっている。コロナ前2019年の年間8万6575人と比較するとまだ半分以下の水準だが、2021年の年間1万0815人と比べると3倍以上だ。東京への人口流入の動きが完全に復活してきている。
東京都心の人口増が顕著
その一極集中だが、データを詳しく見ると都心部の人口増加が顕著であることがわかる。2019年と比べて2022年に日本人人口が増加したのは、23区のうち半分の12区。増加数が最も多かったのは江東区の8595人だ(増加率は1.75%)。
増加率のトップは中央区で3.27%(5216人増加)、次いで千代田区が2.99%(1874人増加)、3位の台東区が2.67%(4976人増加)となっている。2%以上の増加はこの3区のみだ。
中央区は、1月1日現在の人口(住民基本台帳)が17万4074人(うち日本人は16万4750人)となり、「70年ぶりに過去最多を更新した」と話題になった。銀座や日本橋といった繁華街を抱える中央区の人口は、バブル期に家賃をはじめ住宅コストが高騰し、バブル崩壊後の1997年には過去最少の約7万2000人まで落ち込んでいた。その後の四半世紀で2.4倍も増えたことになる。臨海部の再開発によるタワマン増加や職住近接人気で、コロナ禍でも人口は増え続けた。
さらに特徴的なのは、年齢3区分人口の割合である。最新の1月のデータ(区の発表)を見ると、年少人口(0-14歳)は2万3759人で13.6%。生産年齢人口(15-64歳)は12万4796人で71.7%、老年人口(65歳以上)は2万5519人で14.7%と、全国平均(年少11.6%、生産59.4%、老年29.0%/2022年12月)と比べて、極めて良好なバランスとなっているのだ。
このため、出生数も毎年2000人以上と高水準が続き、人口減に苦しむ地方の自治体からすれば羨むような状況となっている。東京一極集中の光を象徴するデータである。
移住支援の実績は3年間で3067人
さて、移住の話に戻ろう。岸田政権は5カ年計画の「デジタル田園都市国家構想総合戦略」の一環として移住支援策を強化しようとしているのだが、はたしてどれだけの効果が見込めるのか。実は政府の移住支援金政策は2019年度から実施されていて、2021年度までの3年間の実績が公表されている。
3年間での移住支援事業総計は1545件、移住者数の総計は3067人だった。初年度はわずか71件、123人だったのが、徐々に増えていき最多の2021年度は、1184件、2381人となった。
一方、政府の地方創生関連に注ぎ込んだ当初予算は、令和3年度だけで1兆2356億円に達する。そのうち移住支援金などにあてられる地方創生推進交付金は1000億円。それだけの予算を組みながら地方自治体からの交付申請は思ったほど伸びず、移住者数は3年間で3000人強程度の実績しか出せていない。
政府は、2027年度には支援により年間1万人の移住を実現する目標を掲げている(2021年度実績の4倍超)。だが、東京圏への転入超過は8万0441人(2021年度実績)に達しており、1万人程度の移住では一極集中是正には程遠い。
移住支援政策のあまりにも寒々しい状況を紹介してきたが、政策自体の方向性は決して間違っていない。問題は、その内容だ。今回の移住支援金増額報道では、「子ども3人の一家5人家族なら最大400万円」と金額の大きさを強調するものがあったが、移住問題のネックは目先の金銭だけではない。
仕事や子育て環境、教育、医療、気象条件、近隣との人間関係など、移住環境をトータルで考慮しなければ若者や子育て世代の定着は困難だ。政府も地方自治体も、金銭的な支援で関心を惹くのではなく、移住環境の充実をいかに図り、実態に即した情報を可視化できるかがポイントだろう。
北海道のある町は、移住者向けの住宅地として町有地を無料提供する一方で、太陽光発電事業者から得られた固定資産税を子育て支援の財源に回し、18歳までの医療費無料化、保育料・給食費無料化、小中一貫教育体制の構築などを実現した。
こうした「子育て支援」をアピールして移住者が増えている。町長は「人口は増やさなくても今の水準程度でいい、住民が幸せになるまちづくりを進めていきたい」とビジョンを語っていた。明確なビジョンと具体的な施策がかみあっていないと移住政策は結実しないということだ。
地方移住が関心テーマになって久しい。いまでは全国津々浦々の自治体のホームページに移住支援策が掲載され、「大自然のなかで生活を満喫しています」といった移住者の声があふれかえっている。メディアの報道も似たようなものだ。今年に入ってからも「高齢者の町に都会からの若者が増えている」といった記事がいくつか見られた。
だが、そんなうわべの情報では本当のところはわからない。ネット上には、実際には移住先になじめず、都会に舞い戻ったケースなど失敗例が生々しく紹介されている。どれだけ自然環境に恵まれていても、冬場は毎日雪下ろしという状況では、都会暮らしに慣れた家族はとても住み続けることはできないだろう。コロナ禍では人間関係の難しさも浮き彫りにされた。
移住は昨日今日始まった話ではない。政府や各自治体はこれまでのデータを蓄積しているはずだ。うわべの情報を流すだけでなく、たとえば過去の移住者の5年後、10年後の定着率を算定し、公表してみてはどうか。移住希望者にとっては欠かせない情報だ。定着率の低い自治体にとってはその原因を検証し、対策を考えるきっかけになる。金銭支援やデジタルインフラ整備を目玉にするだけでは、状況の改善は期待できそうもない。
●国債の「60年償還ルール」を見直しても、新たな財源は1円も捻出できない  1/22
防衛費増額の財源を巡って、国債の「60年償還ルール」の見直しが争点の一つになりつつある。争点の一つに浮上した理由は、このルールを見直すことで、増税せずに新たな財源を生み出せるという「幻想」があるからだ。
しかし、この議論はまさに「幻想」でしかない。完全に間違った議論であり、国債の「60年償還ルール」を、例えば80年償還に延長しても、新たな財源は1円も捻出できない。
この事実を正確に理解するためには、その前提の予備知識として、1「60年償還ルール」の概要や、2「財政赤字の定義」を把握しておく必要がある。なので、最初に1・2を順番に説明しよう。
1の「60年償還ルール」とは何か。
このルールは、国債を発行してから必ず60年での完済を義務付けるものだ。大雑把なイメージでは、ある年度に60兆円の国債を発行した場合、それ以降は毎年度1兆円ずつ返済し、60年後に完済することを義務付ける。
では、いま日本財政は概ね1000兆円の債務(国債発行残高)を抱えているが、これを60年で完済しようとすると、毎年いくら返済すればよいか分かるだろうか。計算方法は極めて簡単であり、1000兆円の債務を60年で割り算すればよい。つまり、答えは約16兆円(=1000兆円÷60年)だ。
なので、このルールに従うと、現在の財政状況では、約16兆円の返済を行う必要があることになる。専門用語では、この約16兆円を「債務償還費」といい、この債務償還費は、毎年度における国の予算(一般会計)の歳出項目として計上される。例えば、2023年度予算案(当初)では、債務償還費として、約16.3兆円が計上されている。
なお、厳密には、法律に基づき、国債発行残高の1.6%に相当する金額を、債務償還費として国の予算(一般会計)に計上し、後述の「国債整理基金特別会計」に繰り入れた上で返済を行っている。
2の「財政赤字の定義」とは何か。
財政赤字とは「その年度における債務(国債発行残高)の増加分」として定義される。つまり、「債務がどの程度増加したか」が財政赤字の定義であり、例えば、1000兆円の債務が、翌年度に1030兆円に増加したら、30兆円がその年度の財政赤字となる。
これが財政赤字の定義だが、以下の図表の2023年度予算案(当初)ではどうか。税収や公債金収入といった歳入、社会保障関係費や国債費といった歳出として、約114兆円を計上している。このうち、新規に国債を発行して調達した「公債金収入」が約35.6兆円と計上されており、一般的なイメージでは、予算案のうち、税収を上回る歳出の超過分が財政赤字と思われるので、歳入の約35.6兆円(公債金収入部分)が財政赤字と思う人々も多いのではないか。
だが、これは間違いだ。なぜなら、財政赤字の定義は「財政赤字=その年度における債務(国債発行残高)の増加分」であるからだ。既に説明したとおり、国債の「60年償還ルール」により、2023年度予算案では、約16.3兆円の債務償還費を計上しており、この分の国債は返済している。
つまり、新規に国債を約35.6兆円発行しているが、それと同時に約16.3兆円の国債は返済しているので、この年度の債務の増加分は「約19.3兆円」(=約35.6兆円−約16.3兆円)だ。なので、財政赤字は約19.3兆円になる。このことから、財政赤字は「公債金収入」と「債務償還費」の差額であり、「財政赤字=公債金収入−債務償還費」として定義することもできる。
以上が予備知識だ。では、この60年償還ルールを見直して、60年の償還を80年に延長したら、新たな財源が生まれるのか。答えは「No」だ。新たな財源が生まれるということは、この見直しだけで財政赤字が縮小しないといけないが、それは起こらない。この事実を次に確認しよう。
まず、80年の償還に延長する場合、1000兆円の債務を80年で割り算すると約12兆円なので、債務償還費は約12兆円になる。60年償還ルールの下では、2023年度予算案で、債務償還費は約16.3兆円であったので、80年に延長すると、約4兆円(=約16.3兆円−約12兆円)も債務償還費が減少する。2023年度予算案の歳出合計は約114兆円であったので、債務償還費が4兆円減となると、歳出合計は約110兆円になる。
だが、2023年度予算案の歳入合計は約114兆円であったので、60年償還ルールを見直したとき、歳入の構造が変わらず、歳入合計が約114兆円であるとすると、あと4兆円分、防衛費などの歳出を増やすことができる錯覚に陥るが、これを実行すると、財政赤字は拡大してしまう。
思い出してほしいが、財政赤字の定義は「公債金収入−債務償還費」であった。いま歳入の合計や構造が変わらず、歳入合計が約114兆円であるとすると、このうち公債金収入は約35.6兆円だ。にもかかわらず、60年償還ルールの見直しにより、債務償還費が約12兆円になると、財政赤字は「約23.6兆円」になる。ルールを見直す前の財政赤字が約19.3兆円であったので、約4兆円も財政赤字が拡大してしまう。
なぜ、財政赤字が拡大してしまったのか。それは、ルールの見直しにより、約16.3兆円であった債務償還費が約12兆円に減少して、歳出合計が約114兆円から約110兆円に減少したにもかかわらず、歳入合計を約114兆円に維持したからだ。歳出合計が4兆円減少したなら、歳入合計も4兆円減らすのが自然である。60年償還ルールを見直しても歳入項目の税収(約69.4兆円)やその他収入(約9.3兆円)は変わらない。それにもかかわらず、歳入合計を約114兆円に維持すれば、公債金収入(約35.6兆円)も維持しないといけなくなる。
もう既に読者の多くは気づき始めていると思われるが、債務償還費が約12兆円に減少したら、歳出合計が約110兆円になるので、歳入合計も約110兆円に減額するのが自然な姿だ。なぜなら、歳出合計に対し、税収(約69.4兆円)やその他収入(約9.3兆円)が不足していたから、新規に国債を約35.6兆円も発行して資金を調達していたわけだが、歳出合計が約4兆円減少すれば、新規の国債発行もその分だけ減額できるからだ。この場合、新規の国債発行も約4兆円減となり、公債金収入は約31.6兆円となる。
このときの財政赤字を計算すると、どうなるか。「財政赤字=公債金収入−債務償還費」なので、財政赤字は約19.6兆円(=約31.6兆円−約12兆円)となり、この値は60年償還ルールを見直す前の財政赤字と完全に一致する。
以上から分かることは、国債の「60年償還ルール」を見直しても、財政赤字は全く変わらず、新たな財源は1円も捻出できないという揺るぎない事実だ。これは、60年償還ルールの見直しで、80年償還に長期化せず、40年償還に短期化しても同じことが言える。
不思議に思う読者もいるかもしれないが、このような問題が発生するのは、日本財政が膨大な債務を抱え、もはや自転車操業に陥っているためだ。
2023年度予算案をみても、歳出は税収を上回っており、そもそも1000兆円もの債務を返済する税財源はない。では、1000兆円もの債務はどう返済しているのか。先に答えをいうならば、実質的に1円も返済していない。1000兆円もの債務の中身は、2年や5年、10年・30年といった期間で返済すること約束した国債の合計額だが、平均的な返済期間(専門用語で「平均償還年限」という)は約10年だ。なので、日本財政は平均的に毎年度100兆円もの返済を迫られている。
しかしながら、図表(2023年度予算案)をみても分かるとおり、100兆円もの税収はなく、むしろ社会保障関係費や防衛費などの歳出を賄うため、新規に国債を発行して歳入を確保しているのが現状だ。このため、債務の返済はできておらず、財政当局は、債務を管理する「国債整理基金特別会計」を設置し、返済が迫られる国債を返済するために、図表とは異なる国債を新たに発行して返済している。この処理を「国債の借り換え」、そのために発行される国債を専門用語で「借換債」といい、最近は、毎年度100兆円以上もの借換債を発行している。
というのも、100兆円は平均的な返済額で、厳密には年度毎によって国債の返済額が変動するためで、2023年度の借換債の発行額は157.6兆円だ。なお、図表の国債を「新規国債」というが、この新規国債と借換債の合計だけで約194兆円の発行になり、それ以外の財投債を含め、2023年度の国債発行計画では概ね205.8兆円もの国債を発行予定だ。
以上から分かると思うが、60年償還ルールに従い、債務償還費を計上して、債務(国債発行残高)を返済しているように見えるが、実際の日本財政は借金漬けで、返済しておらず、毎年度、国債発行残高が増加し続けている。
一部でも返済するためには、債務(国債発行残高)が減少する必要があり、それは財政赤字がゼロとなり、財政収支が黒字化したときだ。黒字化の条件は、財政赤字の定義から、「債務償還費>公債金収入」となり、2023年度予算案では、債務償還費が35.6兆円を超えない限り、債務の増加が止まらないことを意味する。
もっとも、経済学的には、債務(国債発行残高)が増加しても、名目GDP比で評価した「債務残高(対GDP)」が安定的に推移していけば問題ないが、既に日本の債務残高(対GDP)は200%を超え、現在も膨張し続けているという現実も忘れてはいけない。
●財源確保で本格的な子育て支援を 小黒一正・法政大学教授 1/22
人口減に対して、積極的な政策を打ち出していくには、相当規模の財源が必要だ。さらに、効果を上げていくには複数の政策を同時に、インパクトが出る規模で展開することも肝要だ。政府は2023年4月にこども家庭庁を設置し、本格的にテコ入れを図る。今後、ほぼ確実に訪れる人口急減にどのように向き合っていくのか。人口や財政について詳しい、法政大学の小黒一正教授から話を聞いた。
研究者の間で出生率低下の原因は分かっていない
Q)将来推計人口に注目が集まっています。推計と現実を合わせるのは難しいのでしょうか。
小黒) 我が国の人口動態はおおむね、出生率と寿命の延伸の2つの要因で決定されます。このうち、寿命の延伸は高齢化率(65歳以上の人口が全人口に占める割合)として反映されますが、高齢化率の予測はおおきく外れません。他方、予測が難しいのが「出生率」の推計です。過去に外れたことも多々あり、当たったことの方がまれです。少子化の原因は一見すると簡単に思えますが、これまで様々な研究者がその原因究明を試みているものの、「なぜ出生率が低下したのか」についても基本的な合意が形成されていません。
Q)今年は5年に1度の新たな将来推計人口の発表を控えています。
小黒)国立社会保障・人口問題研究所の出生率の推計も、ブレを想定して低位・中位・高位で公表されていますね。このうち中位推計は基本シナリオを示すはずですが、基本的にそれを上回るスピードで出生率が下落しています。外れる原因を実証分析や理論モデルで解明しようとする研究者もいますが、精度が高いとは言えず、「なぜ外れるのか」はわかりません。
有配偶出生数(夫婦の完結出生児数)は、1970年代頃から結構安定していて、おおむね「2」なんですよね。つまり結婚した夫婦はだいたい2人の子どもをもつに至っています。このため、出生率低下の原因は、生涯未婚率が上昇していることがポイントだということがわかります。なぜ生涯未婚率が上昇しているのか、賃金低迷の議論もありますが、戦後直後などの方がはるかに貧しかったはずで、原因究明は難しいところです。
Q)日本に婚外子が少ないことを指摘する人もいます。
小黒)婚外子が増えれば、子どもが増えるという意見もありますが、これは誤解の可能性があります。イタリアやスペインの2カ国では、婚外子が増えているにもかかわらず、出生率は下がっているんですよね。つまり、婚外子を増やせば出生率が上昇するというのは誤解で、出生率に関係があるとは限らないんですよね。
強い支援策がないと好転しない可能性
Q)子育て支援を充実させれば、出生率は上がるのでしょうか?
小黒)フランスなど、子育て支援が充実している国で出生率が伸びているという言い方がされます。フランソワ・エラン氏(フランス国立人口研究所長、当時)が執筆した『移民の時代―フランス人口学者の視点』(明石書店)という書籍がありますが、この統計データが明らかにしているとおり、フランスでも人口が維持できている主因は「移民」なんですね。
Q)子育て支援に注力しても、少子化が緩和すとは限らないのでしょうか。
小黒)国際比較データで、「家族関係社会支出(対GDP比)」という指標がありますが、日本の数値が低いのは間違いないです。スウェーデンやフランス、ドイツなどと比較して、現在のところ、日本が子育て支援に本腰を入れていないというのは事実だと思います。ただ、子育て支援にテコ入れしても、出生率がどの程度増えるかはわかりません。でもテコ入れをしないと、増えない可能性が高いことは確かで、しかも、よほど強い支援策をしないと増えないのではないか。子どもを産めば産むほど、家族への支援金が増えるという仕組みを取り入れることも一案かもしれません。
Q)少子化対策の財源はどうあるべきでしょうか。
小黒)普通に考えれば、増税か国債発行という手段があります。でも国債発行にすれば、財政破綻リスクもあり、将来負担が大きい。増税は政治家が支持を得られないでしょう。小選挙区だと、落ちてしまいますよね。政治的に増税がクリアできるのであれば、消費税を2%ぐらい高めた方がいいです。その場合、5兆円強の財源が手に入るが、4兆円の財源でも、現在の出生数は約80万人だから、出産手当金として、1人当たり500万円を配れます。これだけ少子化が深刻化しても、少なくとも、我が国では本格的な子育て支援策を打ち出したことは過去に一度もないことは断言できますね。
個人を尊重した環境整備必要
Q)妊娠・出産が高齢化し、苦労している例もあるようです。
小黒)そうですね。「高齢出産でこんなに苦労するなら若いうちに産んでおけばよかった」という人もいるのは確かだと思います。ですが、20代は女性も仕事を習得する時期にあり、自己実現を目指す重要な時期であることも確かです。このため、妊娠・出産に関する知識をしっかりとつける仕組みをつくることは、選択肢としてあり得るとは思います。しかしそこから先に踏み込んで、若いうちに出産を促すというような意見は個人の領域に踏みいるので、私は国民的コンセンサスを得られないと思います。むしろ、労働市場の流動性を高め、どの年齢で妊娠・出産をしても自らの選択で自由に労働市場に戻れる環境の整備や、そのための子育て支援の充実が求められているのではないでしょうか。
Q)日本は危機的な状況という指摘については。
小黒)私は人口減が国力の減退につながるということについて、国民に意識が浸透していないように思います。人口動態変化と財政が専門で、各地で講演することがあります。大学という教育産業に身を置く一人として、18歳以下の人口減を実感しており、日本の将来が心配になります。ですが、人口問題について、10年前は地方で講演しても、危機感は薄いように思えました。ようやく最近は「大変だ」という人も出てきている。地方が先に人口減を体感することになりますので。でも、地方の考えの多くは、首都圏や他の自治体から人口を呼び込むという方法で「ゼロサムゲーム」的です。いずれ首都圏や日本全体が人口減になる。本格的に人口を増やすなら「出生率の底上げ」か「移民」しかないのが現状です。ただ、移民は国内で根強い反対論があり思考停止状況ですから、静かな有事である人口減少の解決策としては、前例のない規模での子育て支援しか残されていないのではないかと思います。
●菅義偉が死ぬ覚悟で「岸田増税」と闘いを始めた、石破茂は黙りなさい… 1/22
菅義偉元総理大臣が岸田文雄政権の増税規定路線に異を唱えた。不景気+インフレで生活が厳しくなっている中で、多くの国民の声を代弁した。ジャーナリストの小倉健一氏が「なぜ今岸田下ろしが起きないのか」「菅義偉氏の公然批判の意図は何か」を解説する――。
この状態でそもそもなんで岸田下ろしが起きないのか
なぜ、自民党はこの人を首相の座から引きずり下ろし、岸田文雄氏を首相の座につけたのか。私が、自民党に対して、強い不信感を持たざるを得ないのは、この点だ。
普段は「自民党は懐が深い」だの、「国益のためには、不人気な政策をも実行する」などと言いふらしておきながら、自民党国会議員たちは、自分たちの選挙が近づくと、菅義偉氏という有能な指揮官をさっさと引きずり下ろした。今、支持率が超低空飛行の岸田首相を下ろそうという動きがほぼ皆無なのは、4月に実施される統一地方選挙において改選となるのは、あくまで地方議員であり、自分たちの地位が脅かされないためだ。
「岸田を下ろすと次が河野太郎氏か、茂木敏充氏という永田町や霞が関から支持を得ていない人になるから、岸田下ろしが起きていない」などとする風説が、まことしやかに出回っているが、完全に出鱈目(でたらめ)。岸田首相が増税政策を連発する中、自民党国会議員で減税を訴えた人は100人以上いるが、とにかく国会議員という椅子にしがみつきたいから、何もしないのだ。
総理大臣にあと一歩となったところで、増税を一旦封印した岸田氏
岸田首相はこれまで、筋金入りの増税主義者として、政治家の道を歩んできた。政調会長時代には「財政健全化の道筋を示すことが、消費を刺激して経済の循環を完成させる」「財政出動が将来への不安を増大させかねない」「最優先の課題として消費税引き上げが必要」と発信してきた。つまり、増税すると世間が安心して消費をするようになる、増税が消費を刺激して景気が良くなるという摩訶不思議な理論を、政治家として実践してきた。
それが総理大臣にあと一歩となったところで、増税を封印。その後、衆議院選挙、参議院選挙を経て、何事もなかったかのように、昔の自分を取り戻し、増税を推進しはじめたのだ。
最近の例では、国が二酸化炭素(CO2)の排出に課金して削減を促す「カーボンプライシング(炭素課金)」の導入だろう。「課金」という言葉で誤魔化(ごまか)しているが、要するに「税金」のことである。昨年の防衛増税に続いて、また国民負担を増やす。
日本の潜在的国民負担率は、56.9%
財政赤字を加味した日本の潜在的国民負担率は56.9%だ。「重税だが福祉が手厚い」ことで知られるスウェーデンでさえ56.4%である。米国は40.7%、英国は49.7%だ。日本ほど国民負担率が高い国はなかなかない、というのがファクトだ(財務省「国民負担率の国際比較」〈2022〉、数値は日本が2022年度、他国は19年)。
「あらゆる国民負担を消費税で賄ったら」という試算をしたが、現在の日本人の実質消費税は115%だ。第一生命研究所の調査(2005)によれば『主要OECD諸国に関するパネル分析を行った結果、国民負担率と家計貯蓄率は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、家計貯蓄率が0.28%ポイント低下する』『また、国民負担率と潜在成長率との関係についても同様に分析を行ったが、両者は有意に負の相関にあり、国民負担率1%ポイントの上昇に対し、潜在成長率が0.06%ポイント低下する』ことがわかっている。「炭素課金」「社会保険料」など、どんな名前をつけようともそれは国民負担であり、国民負担が増えれば、経済は失速し、家計にダメージを与えるのだ。
今、増税などしたら、日本の景気が失速するのは誰の目にも明らかであり、岸田政権が増税を政策の中枢に置き、妥協を許さないのであれば、引きづり下ろすことでしか、日本の経済成長に活路は見出せないということだ。
公然と批判をしはじめた菅義偉前総理の狙い
萩生田光一政調会長が中心になって増税を回避する動きに期待したいところではあるが、どこまで頑張ることができるのか。ガス抜きで終わるのではないかという疑念は拭えない。
岸田首相は今年初めに「異次元の少子化対策」なるものを発表したが、この具体策・財源が決まるのが6月だという。これもまた統一地方選挙では増税を言わずに、終わった後に増税と言い出す腹積もりなのであろう。2021年の総裁選で、岸田首相が「10年は上げない」と約束したはずの消費税の増税が見えてきた。
そんな閉塞感漂う自民党で、一人声を上げたのが、菅義偉前首相である。
菅前首相は、1月18日のラジオ日本の番組で、岸田文雄首相の増税方針表明について「突然だった」「特に増税については、丁寧な説明が必要だ」「例えば行政改革でいくら(財源を捻出した)とか、いろんなことを示した上で、できない部分は増税させてほしいとか、そういう議論がなさすぎた」と指摘した。さらに、岸田首相が表明した「異次元の少子化対策」に関しては「思い切った少子化対策は必要だ」「一時、消費増税の話が出たが、まずは少子化対策のメニューをきちっと出すことが大事ではないか。まだそこが見えていない。これだけの物価高で、何をやるかのメニューが出ていない中で消費税の議論というのはあり得ない。現実的ではない」と公然と批判をしたのである。
そんな菅前総理にのっかろうとする石破氏
それでは、なぜ、改めてこのタイミングで菅前首相は声を上げたのだろうか。はっきり言って、狡猾な考えに立つなら、今はおとなしくしておいて、国会議員たちが浮き足立つ国政選挙の前のタイミングで批判を始めたほうが良かったはずである。時の政権を批判することで、冷や飯も覚悟せねばならない。菅前首相は相当な覚悟、恐らく自民党内の自分の立場などどうなってもいいぐらいの決死の覚悟で、「このまま増税ばかりが先行しては日本経済がダメになってしまう」、そんな思いに駆られて今回の発言を行ったのではないのだろうか。
そんな菅前首相に乗っかろうと企むのが、石破茂氏(自民党元幹事長)だ。石破氏はメディアや世論からの評価は高いが、自民党内では著しく評判が悪い。なんで評判が悪いのかわからないので、私自身、石破氏の発言を調べてみたが、はっきり言って、ズルいの一言だ。例えば、石破氏は赤字のローカル線を税金(補助金)で維持しろという持論を持っているが、メディアの前では「そもそもお客様を増やす努力をせずに、補助金に頼る経営姿勢そのものも問題です」などと、聞こえのいいことをこれでもかと主張する。本音では鉄道維持に補助金が必要であることがわかってるくせに、それをひた隠して、ライバルたちを攻撃・批判するのである。デタラメもいいところだ。
岸田政権によって追い詰められる日本経済
そんな石破氏は増税派でありながら、反岸田というポジションを得るために菅前首相の行動を高く評価しはじめた。理由は、菅前首相が岸田首相に対し「(これまでの自民党政権の慣例通りに)派閥のトップをやめなさい」と苦言を呈したことだった。
はっきり言って、迷惑だ。菅前首相の強い思いも、そんな石破氏と一緒にされることで、弱体化する。石破氏が味方になることで、離れていく人たちは多い。石破氏は、自分が疫病神であることを自覚して、言動を慎むべきではないか。大人なのだから、それぐらいの分別は身につけてほしいものだ。
日本経済は、岸田政権によって追い詰められつつある。
●コロナ禍の困窮さらに厳しく 「借金頼り」の国支援、良かったのか 1/22
国内で初めて新型コロナウイルス感染者が確認されてから3年。コロナ禍で減収した世帯を対象としたコロナ特例貸付の返済が始まる。全国的に過去に例がないほど多くの人がこの3年間、借金でしのいで生活してきた。兵庫県内で約4割が免除となる半面、残る6割の対象者は返済していかなければならない。収入がコロナ以前に戻らず、さらに厳しい生活となる人も多いとみられ、貸付が基本となった国の支援のあり方に疑問の声も上がる。
当初から「返済免除」強調、申請相次ぐ
コロナ特例貸付が始まる前、困窮者への支援を国会で問われた当時の安倍晋三首相はこんな答弁をした。
「返済免除要件付きの個人向け緊急小口資金の特例を創設し、生活立て直しを支援いたします」(2020年3月11日)
「厳しい状況が続けば償還が免除されるわけでございまして、そういうことについてももっと広報していきたい」(同年3月23日)
当初から「返済免除」が強調され、20年3月25日に受け付けが始まると、一斉休校で働けず減収に苦しんだ人らの申請が相次いだ。
その後も流行の波ごとに営業自粛や外出自粛が求められ、コロナの影響は長引いた。特例貸付もそのたびに10回の延長、追加の貸付が重ねられ、多い人で200万円の借金を背負った。そして、県内で約4割の返済が免除された。
困窮「コロナが問題?」生活保護は横ばい
阪神・淡路大震災以降、生活困窮者の支援活動を続けてきた「神戸の冬を支える会」事務局長の青木茂幸さんは、免除が4割に上ることについて「生活が苦しい状況なのは、本当にコロナの影響なのか」と疑問を投げかける。
08年のリーマン・ショック時は「派遣切り」などが問題になり、多くの非正規労働者が職を失った。その影響はすぐに生活保護に表れ、兵庫県内でも受給世帯は一気に増えた。
コロナ禍では、非正規労働者だけでなく、飲食や観光業から高齢者までさまざまな影響が出ているにもかかわらず、20年以降の生活保護の受給世帯数は横ばいが続く=グラフ。
青木さんは「貸付があったから、本来は増えていたはずの生活保護が横ばいになっている。返済が始まるこれからが大変だ」とし、「これだけ多くの人がすぐに借金に頼らざるを得なかった状況がある。国はコロナのせいにしているが、背景にはコロナ禍以前からの雇用のあり方、最低賃金などに問題があったのではないか」と指摘する。
返済「10年では終わらない」
コロナ特例貸付の返済期限は長くて10年。25年から返済が始まる分も含めて34年末には終わる予定だが、県社協の担当者は「10年では終わらない」と見通しを語る。
阪神・淡路では「震災特例貸付」で約103億円、災害弔慰金法に基づく「災害援護資金」で約1309億円が貸し付けられたが、28年がたった今も震災特例貸付は約4700件、約7億5600万円が未返済のまま。災害援護資金は未返済が多い中で国が免除要件を拡大したものの、まだ約6億3700万円が未返済で、兵庫県などは解決のために免除する方針だ。
コロナ特例貸付でも免除にならないまま返済もできず、数十年にわたって借金を背負い続ける人が出かねない。県社協の担当者は「災害と違うのは、政府が国民に行動制限を求めたことだ。そこへの補償は貸付ではないはず」と指摘。「今後、返済が始まる人への支援はもちろん、免除になった人も生活が苦しく支援が必要だ。一人でも多くの人が生活を再建できる環境づくりに目を向けてほしい」と訴えた。
●「日本がギリシャのように財政破綻することはあり得ない」 3つの理由 1/22
「毎年借金が膨らむ日本は近い将来財政破綻するのでは」と心配する人がいる。経済アナリストの森永康平さんは「日本が財政破綻することはない。日本は過去に財政破綻したギリシャとは置かれている状況がまったく異なる」という――。
「財政破綻」とは債務を履行できなくなること
【森永】日本の財政破綻があり得るかどうか考えていきたいと思いますが、その前に中村くん、そもそも「財政破綻」ってどういう状態かわかりますか?
【中村】ええと……借金を返せなくなること……?
【森永】正解です。専門的にいうと「債務不履行」ですね。債務(借金)を負った人が債権者(お金を貸した人)に対して、返済義務を履行できなくなる(借金を返せなくなる)ことを指します。また、債務には利息がつきますので、その利払いができなくなることも「財政破綻」と言えるでしょう。ではもう1つ質問です。過去に財政破綻した国で、ギリシャとレバノンがどのような理由で破綻したかわかりますか?
【中村】ギリシャは欧州中央銀行(ECB)に対するユーロ建て、レバノンはアメリカに対するドル建てという外貨建ての借金で破綻したんですよね。
【森永】その通りです。よく理解できています。
日本銀行が発行する通貨で日本が財政破綻することはあり得ない
それではここから、日本について復習しましょう。日本政府が発行した国債は誰が何で買うと説明しましたか?
【中村】民間銀行が、日銀当座預金で買います。
【森永】そうです。日銀当座預金は民間に絶対に出回らない種類のお金ですが、通貨単位は「円」で共通です。また発行者は日本銀行です。自国の中央銀行が発行している通貨で、日本政府が債務を負って、その債務が不履行になると思いますか?
【中村】い、いや、ならないと思います……。
【森永】そういうことです。日本政府が円建ての日本国債で財政破綻を起こすことはまずあり得ません。これが答えです。ここから、日本の財政破綻が起こらない理由をより詳しく解説していきます。
日本は外貨建て国債を発行していない
1自国通貨を運用している
日本が財政破綻しない1つ目の理由は、何度も説明している通り、自国通貨を運用しているからです。日本では日本円が流通しており、“国の借金”はすべて日本円建てです。日本円は日本銀行と日本政府が発行することができるので、債務不履行が起きることはまずないでしょう。
【中村】日本はレバノンのように、外貨建ての国債は発行していないのでしょうか?
【森永】発行していません。2022年5月現在で、日本政府が発行している外貨建て国債はゼロですね。
【中村】過去にも一度も外貨建て国債を発行したことはなかったのでしょうか?
【森永】過去にはあります。例えば1904年から1905年にかけて行われた日露戦争では、戦費調達のためにポンド建て国債が発行されました。当時も日本円建ての国債発行や、増税による戦費調達は行われていましたが、武器や戦艦がすぐに必要だったため、外国から直接買い入れる必要がありました。そこで、イギリスで製造中だった艦隊を購入するために、イギリスに対してポンド建て国債を発行して購入したのです。
【中村】なるほど……戦争のためにお金が必要だったんですね。
【森永】そうです。当時は金本位制といって、政府が発行できる貨幣の量は保有する金(ゴールド)の量によって制限されていました。増税や外貨国債が必要だったのです。ちなみにこのポンド建て国債の返済が終わったのは、1988年の6月です。
【中村】そんなに最近なんですか? ギリギリ昭和くらいなんですね。
【森永】借入から返済まで約100年ですね。これだけ長期にわたって債務を負い続けられるのが、政府と個人の違いでもあります。
日本は国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力がある
2十分な供給能力を有している
2つ目の理由が、日本は十分な供給能力を有していることです。中村くん、レバノンの財政破綻の理由は覚えていますか?
【中村】はい、ドル建て国債を返済できなくなったからですよね。
【森永】その通りです。しかしレバノンはレバノンポンドという自国通貨も持っていましたよね。ドル建て国債で借金を負った理由は覚えていますか?
【中村】えーっと……国内でモノやサービスを生産する力がなくて、いろんなものを輸入するしかなくて……。
【森永】輸入物価を維持するために固定為替相場制にして、レバノンポンドの価値を維持するためにドルが必要で、国内で保有しているドルが不足してドル建て国債を発行し、その国債を返済できなくなって財政破綻、ですね。
【中村】あ、そうでした。あらためて聞いても、ちょっと難しいですね。
【森永】いろいろとプロセスがあり難しく思うかもしれませんが、ここでもっとも重要なのは「レバノンにはモノやサービスを生産する能力がなかった」ということです。自分の国で食糧や医療など、国民の需要を満たすモノやサービスの生産能力があれば、海外から輸入する必要がなく、外貨建て国債を発行する必要もなかったわけですから。
日本は潤沢な対外純資産がある
【森永】ここでまた日本のことを考えてみましょう。日本の経済成長は25年も停滞していますが、それでもGDP500兆円以上のモノやサービスの生産能力を有する、世界3位の経済大国です。日本政府が発行する国債は毎年大部分を民間銀行が購入していますし、政府支出も国内の事業者がモノやサービスを生産することで概ね完結しています。もちろん食糧や石油などのエネルギーは輸入に頼らざるを得ませんが、日本国民の需要は概ね日本国内の行政や民間企業で満たすことができています。
【中村】この状況なら、外貨建て国債を発行する必要もないということでしょうか?
【森永】その通りです。
【中村】でも森永先生、エネルギーや食糧は輸入に頼っているわけですから、そこで外貨建て国債は必要ないのでしょうか?
【森永】今のところ必要ありません。日本は潤沢な外貨準備と対外純資産を持っているため、外貨建て国債を発行しなくても、輸入の際に問題なく支払いを行うことができます。
【中村】外貨準備……対外純資産……。
【森永】要は、外貨建て国債に頼らなくとも、外国貨幣を豊富に持っているということです。中村くんも海外旅行の経験があるようですが、日本製の自家用車が外国で走っているのを見かけませんでしたか? あれは貿易によって日本の自動車会社から外国へ輸出しているのですが、企業が得た外貨は、どこかのタイミングで日本円に両替されます。両替のタイミングで、政府や日本銀行が外貨を手に入れるというわけです。
日本の対外純資産は約356兆円
【中村】なるほど、そういうことなんですね。ちなみに日本にはどれくらいの外貨があるのでしょうか?
【森永】財務省の発表によると、2021年5月25日時点で日本の対外純資産は356兆9700億円、2022年3月7日時点で外貨準備は1兆3845億7300万ドルです。日本のモノやサービスを海外に販売することによってこれだけのお金を稼ぐ力があるので、外国から食糧やエネルギーを購入する際も、外貨建て国債を発行する必要はない、ということですね。
なお「対外純資産」とは、外国に対して負っている債務(負債)と、外国に対して持っている債権(資産)との差額です。例えばアメリカに対して10兆円の債務を負っていても、イギリスに対して20兆円の債権を持っていれば、対外純資産は10兆円となります。なお、「純資産」の中には土地や建造物などの有形資産も含まれます。つまり、日本の対外純資産が356兆円だからといって、356兆円分の外貨を持っているわけではない、ということですね。
世界が変動為替相場制に移行した背景
3変動為替相場制を採用している
【森永】3つ目の理由は、変動為替相場制を採用していることです。レバノンは国内にモノやサービスを生産する力がなく、外国からの輸入に頼らざるを得ず、輸入物価を維持するために固定為替相場制を採用した、と説明しましたね。
【中村】はい、なんとか理解できました。
【森永】では今度は日本です。日本は変動為替相場制を採用しています。夕方のニュースで「本日の為替は1ドル130円、1ユーロ142円……」と流れるやつですね。レバノンはモノやサービスを生産する能力が不足していたために固定為替相場制にする必要がありましたが、反対に日本は十分な供給能力があるから変動為替相場制を採用することができる、と言えます。
【中村】日本も昔は固定為替相場制でしたよね? 1ドル360円の時代があったと、歴史の授業で習った記憶があります。
【森永】よく覚えていますね。その通り、かつては日本も固定為替相場制の時代がありました。変動為替相場制に移行したのは、1973年のことです。アメリカの「ニクソンショック」をきっかけとした為替相場の大転換でした。
【中村】あ、それです! 授業で出てきました。
【森永】当時、アメリカは金本位制を採用していました。国内に保有する金(ゴールド)の量によって、政府が発行できる貨幣の量が制限される、というものです。これはアメリカが世界の金のうち7割を保有していて、ドルが基軸通貨として機能していたことが理由です。
しかし、1955年から20年間も続いたベトナム戦争で、武器を海外から購入するなどしてドルがアメリカ国外に流出しました。加えて、欧州各国がモノやサービスをアメリカへ輸出し、アメリカがドルでそれを購入したことも重なりました。流出したドルは、今度はアメリカの金を購入するために使われ、アメリカ国内の金が流出することになります。
【中村】ふむふむ……。
【森永】アメリカドルと金の流出が続き、アメリカ国外にあるドルが、国内の金の量を上回る寸前まで達しました。そうすると、通貨の裏付けである金が不足することになり、ドルに対する信頼が揺らいで価値が暴落する、という流れです。
アメリカも、ドルが暴落したまま傍観するわけにはいきません。そこで国内外に向けたいくつもの経済対策を打ち出しました。その1つが、ドルと金(ゴールド)との兌換だかんを停止することだったのです。
1ドル360円という価値の根拠が失われた
【中村】でもそれでなぜ、日本が変動為替相場制に移行しなければならないのでしょうか?
【森永】ニクソンショックによって、日本だけでなく世界中が変動相場制に移行したのです。変動為替相場制とは、当該国間の経済状況によって、その国の通貨の価値が変動する制度のことです。ドルは金という裏付けを失ったため、1ドル360円という価値の根拠を失い、世界中で変動為替相場制に移らざるを得なかった、ということですね。
【中村】なるほど、そういうことなんですね。
【森永】変動為替相場制を採用できているということは、MMTを考える上で非常に重要です。なぜなら固定為替相場制では、自国通貨の価値を保つために、レバノンのように外貨建て国債を発行する必要があるからです。自国通貨を運用しながら外貨建て国債を発行していれば、それを税金などで返済する必要がありますから、MMTの考え方の外にあることになります。実際にレバノン以外にも、自国通貨を運用しながら外貨建て国債の返済や利払いができずに財政破綻を起こした国は多数あります。
【中村】あ、そうなんですか。
   【図表1】財政破綻した国とその理由 ・・・
【森永】例えば1998年のロシアです。ロシアは直近でもウクライナ侵攻により外貨資産が凍結され、ロシアの主要銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除されたことで、ドル建て国債が債務不履行となりました。しかし実は過去にも同じようにドル建て国債が破綻しています。これは当時のロシアが「ドルペッグ制」という実質的な固定為替相場制を採用していたためです。図表1は、財政破綻した国とその理由を簡単にまとめたものです。どの国も日本とは状況がまったく違うことがわかりますね。
●政府は「日本人の9割を正社員にする」覚悟を…「厳しすぎる現実」 1/22
岸田文雄政権が掲げる「異次元の少子化対策」。1月19日に政府が対策会議の初会合を開いた。3月末をメドに具体策のたたき台をとりまとめ、6月の「骨太の方針」までに、こども予算倍増の道筋が示されるとしている。
この異次元の少子化対策では、(1)児童手当などの経済的支援の強化、(2)産後ケア、保育などの支援の拡充、(3)働き方改革、が3本柱となる見通しだ。
『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』では、平均年収があったとしても、子どもの教育費にかかる不安が大きい。本当に必要な少子化対策とは何か、問題提起したい。
深刻すぎる少子化の根本原因
「政治家なんて、物の値段はもちろん、私たちの生活なんて分かってないと思うのです」
『年収443万円』に登場する北海道に住む女性(20代)は、寒い冬でも灯油代を節約するためストーブをつけるのは一部屋だけ。小学生の子どもの習い事も減らして出費を抑えている。食品の価格も高騰するなか、玉ねぎが1個80円もしたら買えないでいる。
新型コロナウイルスの感染拡大でアパレル店舗での職を失った。第二子が保育園から退園にならないよう清掃のパートでつなぎ、副業を始めた。夫の収入が頼りだが、その夫もコロナの影響で仕事を失いかねない状況だ。正社員の職を探しても賃金は低く、子育てと両立できないのが目に見えている。
「政府が賃上げと言っても、地域の実情なんて知らない」と、女性は憤りが隠せない。
少子化の大きな原因は、失われた30年の間に蔓延した「雇用の劣化」と「政治不信」だ。
子どもを望む世代、子どもが授かった世代が抱える不安は、大きく2つあるのではないだろうか。ひとつは、「今、抱えている不安」。もう一つは、「将来の不安」。この2つの不安の解消が必要だ。
究極の自己責任の世界
「今、抱えている不安」には、雇用や収入の不安と保育園問題がある。経営者を向いた政治が長く続くなかで、雇用の規制緩和が繰り返されて、企業は非正規雇用を増やして利益を確保するという麻薬のようなうま味を覚えてしまった。
雇用については、非正規雇用が増えたことによる歪が少子化となって現れている。バブル崩壊前の1990年の労働者に占める非正規雇用の割合は約2割だった。それが今では約4割という異常な事態に陥っている。
数ヵ月単位、1年単位で雇用契約が結ばれ、いつ失職するか分からないなかで、子どものいる生活を考えることができるだろうか。
非正社員の増加は、正社員にとっても無関係ではなかった。正社員も人件費削減の煽りを受けて、「非正社員よりいい」「嫌なら辞めろ」「不況だから働けるだけまだいい」というプレッシャーのなかで労働条件の悪化を受け入れざるを得ない状況だ。
安倍晋三政権下の働き方改革の一貫で、残業時間の上限規制が緩和され、いわゆる「働かされ放題」状態に。さらには高所得者層も狙われ、高度プロフェッショナル制度が導入された。
高プロ制度とは、年収1075万円以上で、金融界で働くディーラーやアナリスト、経営コンサルタントなどを対象に、年間104日以上の休日確保や健康管理が行われていれば、労働基準法の労働時間、休息、休日や深夜の割増賃金が適用されなくなる制度。これでは、究極の自己責任の世界で生きることになる。
残業時間の上限規制が緩和され、副業が推奨されるなど、正社員であっても安心して子どもを持てると思える労働環境にない。
規制緩和を行ってきた自民党の重鎮でさえ「正社員で9割を占めるようでなければならない」と言及している。非正規雇用の比率が高い小売り業のなかで業績を伸ばし続けている企業は正社員比率が高いことも珍しくない。
これまで行ってきた雇用の規制緩和が失政だったと認め、「格差是正法」のような新法を作って、雇用や収入が安定する手立てを打たなければ、少子化は止まらないだろう。
たとえ早期に正社員比率を高めることが難しくても、岸田政権が「勤労者皆社会保険」に言及している点は評価できそうだ。筆者は『年収443万円』でも、働くすべての人に社会保険、特に労災保険の適用が必要だと提起している。
社会保険料の負担や固定費増を嫌う企業は、法制度の網の目をすり抜ける。業務請負契約にすることで社会保険の加入が避けられるため、ウーバーイーツなどをはじめ、業務請負で働く人が増えているが、労災保険がかけられないまま事故に遭えば、失うものが大きい。
働くうえでの"足元"が揺らいでいるようでは、倒れないでいるので精一杯。安定した雇用や社会保障がない不安定な地盤のうえでは、個人も経済も成長できないのではないか。非正規雇用の増加が日本の成長を止め、世界の賃金上昇から置いていかれた現実が、雇用施策の失敗を物語る。
労働で対価を得る人全てが社会保険に加入できる仕組みを作ることでセーフティネットを作りつつ、正社員を増やす。もはや、ここから逃げるわけにはいかないだろう。
少子化対策で忘れてならないのが、事実上の「妊娠解雇」が依然として多いことだ。連合の調査では、第一子妊娠を機に退職しているのは正社員で5割、非正社員で7割に上る。
現在、平均年収を得ていたとしても中間層が沈みつつあり、いわゆる"普通"の生活が難しくなるなかでは共働き収入は必要不可欠だ。生活を維持するため、あるいは仕事のやりがいを失わないために妊娠を躊躇してしまう労働環境にある。
労働基準法や男女雇用機会均等法によって、妊娠や出産を理由にした解雇、左遷や降格処分などの「不利益な取り扱い」は禁止されている。法制度があるにもかかわらず、妊娠解雇が横行することに歯止めをかけなければならない。
「2人目なんて考えられない…」
少子化を招くもう一つの「今、抱える不安」は、孤立する育児環境や保育園の問題によるところが大きい。
妊娠を望む時期から子育てまで切れ目ない支援を拡充する必要がある。核家族化が進み、雇用の分断が社会の分断をもたらすなかでは、「子どもをちょっと見ていて」と気軽にいえる人がいなくなり、育児を辛くさせている。シングルマザーシェアハウスのように、近所の人と気軽に交流できる場を作ることが望まれている。
ある女性は「ワンオペ育児で、2人目なんて考えられない」と話す。また、第二子を妊娠中の別の女性は「夫は仕事でほとんど家にいない。2人目が生まれたら、2歳の子と赤ちゃんをどうやって私一人でお風呂に入れたらいいのか? どうやって寝かしつけたらいいのか」と頭を悩ます。依然として、夫のワークライフバランスも重要なテーマだ。
育児で孤立しないよう、仕事を辞めていても、育児休業中でも、フリーランスや個人事業主でも、保育園に預けやすくできるよう入園・利用の要件を緩和し、保育園で気軽に育児相談ができるようにすることも必要だ。そして最も重要で、待ったなしの対策は、保育の質の向上だ。
保育園が利用しやすくなったとしても、保育士による園児への虐待、不適切な保育、ケガや死亡事故などが起こっていては、本末転倒だ。
不適切保育が散見されるなか、保育の質の向上のための急務の課題は、保育士の処遇改善と最低配置基準の引き上げをセットで行うことだ。
現在、私立の認可保育園では運営費を指す「委託費」の大半を占める人件費を他に流用できる「委託費の弾力運用」という制度が国から認められている。そのため、本来は保育士にかける人件費が経営者の報酬、株主配当、事業拡大などに回ってしまっているのが現状だ。
委託費のうち8割以上が人件費を占めるが、実際には保育士の賃金が低く抑えられているケースが少なくない。そのうえ人員配置をギリギリにすることで、人件費支出を4〜5割に抑えて利益を確保する事業者が散見されるようになった。これではいくら国や自治体が処遇改善費を出しても、バケツの底に穴が空いたまま水を注ぐようなもの。
公費で出ている人件費をきちんと人件費に使う。この当たり前の規制を行うだけで、保育士の処遇は大きく改善する。公的な保育園の運営費は税金がベースとなっているのだから、使途に制限をかけるのは当然のこと。自民党政権下で委託費の使い道が自由になりすぎ、今や年間収入の4分の1も流用することができる。保育園で正しく税金が使われたのか、少なくとも園ごとに運営費の使途を公開するべきだ。
それと同時に、長年問題視されてきた保育士の最低配置基準の引き上げを今こそ断行しなければならない。認可保育園では、0歳児3人に保育士1人(「3:1」)、1〜2歳児は「6:1」、3歳児は「20:1」、4〜5歳児は「30:1」となっている。4〜5歳児の基準は、戦後まもなく決められたまま、約70年と変わっていない。
「もう高卒で良いのでは」
そして、「将来の不安」の解消も同時に行わなければならない。
『年収443万円』では、子どものいる世帯では教育費の不安が大きかった。神奈川県に住む男性(40代)は、「小学生の一人娘の学資保険が月2万円、私の小遣いは月1万5000円です。妻の体調がよくないため働けず、私の年収520万円では毎月赤字が出る生活です」と嘆く。
私大に進学したばかりの子どものいる家庭では、初年度に大学に120万円を支払い、一部は奨学金で賄った。保育士である母(40代)は、「大学は無償化か、せめて学費の安い国公立を増やしてほしい」とため息をつく。
奨学金は借金、その子が苦労することになる。学費がねん出できず、「もう高卒で良いのでは」という声が、予想を超えて多かった。
都内在住で世帯年収が約1000万円のケースでも、小学生と保育園の子の学費をためるのに、母は昼食220円、父も370円の弁当で節約。ペットボトルのお茶は飲まない、スタバは高いから我慢。常に最安値で買い物をする日々だ。
出産年齢が上がっているため、近い将来に訪れるだろう親の介護も切実だ。やはり『年収443万円』で就職氷河期世代の近未来の姿となるであろう50代半ばの男性は、介護度は低いが認知症のある親をみるため家を空けられない。デイサービスを週3日しか使えず、仕事に制約がかかって年収200万円という水準から脱せなくなっている。
介護施設を利用するには本人の介護度が基準となるため、介護度が低ければ施設を利用しにくくなり、それでは家族が働けなくなることもある。介護も保育園のように、家族が働いていれば介護施設を使えるようにするなど、抜本的な制度改革の必要性が目の前に迫っている。
政治家は、分かりやすい給付型の「ばら撒き」をしたがる傾向があるが、児童手当の拡充は「ばら撒き」の域を超えないのではないか。もはや、わずかばかりの児童手当などでは解決できない少子化のフェーズに入っている。
日本は不況を理由に非正社員を増やすことで利益を確保するという、人を大切にしない企業文化を作ってしまい、それが社会全体に及んでいる。雇用の分断が社会を分断する。これが少子化をはじめ、日本が沈みゆく一番の原因だ。
「異次元の少子化対策」をきっかけに政治に目を向け、他者に関心を持つことからはじめなければ、少子化が止まることはないだろう。
●異次元の少子化対策を「防衛増税議論一色になるを避けるため、打ち上げた」 1/22
ニュースキャスターの松原耕二さん(62)が22日、TBS系の情報番組「サンデーモーニング」に生出演。岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を発表したタイミングを思案した。
「気になるのは政策を打ち出したタイミング。防衛増税議論一色になるのを避けるため、受けの良い少子化対策を打ち上げたのでは」などと指摘した。
番組では海外に比べて子育て関連の公的支出比率が低いこととともに、岸田首相が児童手当の充実、保育サービスの拡充、子育てしやすい働き方改革などを表明しながら具体的議論が進んでいないことなどを紹介した。
松原さんは「間もなく統一地方選、補欠選がある。受けのいい政策で乗り切って、そこまでは財源議論を封印しようという動きもある。しかも、防衛の議論と違って少子化(予算)倍増は期限を区切っていない。いつまでやるかはっきりしていない」と語った上で「つまり本気度が分からないわけですよ。本気度、そして財源の裏付け。今年は金利の上昇局面になりますから、財政がますます厳しくなるかもしれない。きちんとチェックする必要がある」と断じた。
●橋下徹氏 “異次元の少子化対策”で「政府にやってほしいN分N乗方式」  1/22
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏(53)が22日、フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」(日曜前7・30)に出演。深刻化する少子化に歯止めをかけるため新設した関係府省会議(座長・小倉将信こども政策担当相)の初会合を開いたことに言及した。
岸田文雄首相は「異次元の少子化対策」を掲げており、3月末に具体策のたたき台をまとめる。関係府省会議は(1)児童手当を中心とした経済支援策の充実(2)学童保育や一時預かり、産後ケアなどのサービス拡充(3)子育てしやすい働き方改革―を主要議題に据えた。児童手当は原則子どもが中学校を卒業するまで月1万円か1万5000円が支給されている。対象年齢の拡大や、子が多い世帯への加算、所得制限の見直しが検討される見通し。初会合では教育費の負担軽減や、保育所や幼稚園に通っていない未就園児への支援の必要性も議論された。
橋下氏は「政府にぜひやってほしいのがN分N乗方式」と、フランスなどで導入されている、子供の数が多くなればなるほど所得税が減税される方式への転換を提案。「今、子供1人当たりにかかるお金がいくらなのかっていう議論が全然ないんですけど、N分N乗になると、子供1人当たりにかかるお金がいくらなのかっていう議論をしながら、じゃあそれぞれの世帯で子供1人当たりの収入額はいくらなのかっていう、その世帯の収入で税率を決めるんじゃなくて、子供1人の収入額に引き直して税率を決めていく。要は、子供1人にいくらかかるのか、そこの収入が賄えないところの人たちには、しっかりサポートをする。しかし高額所得者に対しても子供が増えれば増えるほど、税率は下がっていくってことにすることでバランスを取っていく」と説明し、「子供1人にかかるお金って視点でこの政策議論をやっていってもらいたいですね」と自身の考えを述べた。  
●中国も食指伸ばす中、ベトナムが日本に支援要請した「高速鉄道計画」 1/22
ベトナム政府が国民の長年の夢である北部の首都ハノイと南部の主要都市ホーチミンを結ぶ高速鉄道計画に関して、日本に支援を要請したとのニュースがベトナムで大きく伝えられた。
南北に約1650キロと細長く続く国土は、東側が南シナ海に面し、西側はラオス、カンボジアに接しており東西は広い所で約600キロ、狭い所で約50キロとなっている。計画されている高速鉄道はその国土を南北に縦断することになる。
在来線ではハノイ-ホーチミン間が29時間
すでにベトナムには国土を縦断する「在来線」が存在する。その中のメイン路線となるのがハノイとホーチミンを結ぶ南北線、通称「統一鉄道」だ。ベトナム戦争で一時分断されていたこともあるこの鉄道は、ベトナム人の南北往来を支えてきた。もちろん国内線の航空便もあるが一般市民にはやはり鉄道が馴染みの「移動の足」として利用されてきた。
しかし非電化で単線の統一鉄道では、ハノイからホーチミンまで29時間もかかるという不便さがあり、高速で走る新たな鉄道の建設が早くから国民の念願となっていた。
ベトナム首相が鈴木財務相に支援要請
ベトナム・ハノイを訪問していた鈴木俊一財務相は1月13日、ベトナムのファム・ミン・チン首相と会談し、その中で高速鉄道計画への支援を要請された。
ベトナムは2022年7月にも日本の「国際協力銀行(JBIC)」に対しても高速鉄道計画への財政的支援を求めており、今回の鈴木財務相への支援要請は「同計画の実現のためにはなんとしても日本の支援が必要である」とのベトナム政府の強い姿勢を改めて印象付ける形となった。
建設に関わる費用総額は最大で648億ドル(約8兆3000億円)に上るとされる。高速鉄道計画では、現在ある在来線の南北線が狭軌であることや老朽化していることなどから、新たに高速走行が安定する標準軌で全路線を新設することが計画されている。
この新たな高速鉄道は旅客専用の路線とし、在来線は改良を加えながら貨物専用の路線として残し、活用する計画だという。
日本との関係深いベトナム鉄道
在来線の南北線は1935年に全線が開通し、その後ベトナム戦争などで北ベトナム側と南ベトナム側に分断された。しかし戦後の1976年に再び南北が開通し「統一鉄道」として南北の大動脈の役割を果たすようになった。
この在来線の南北線にも日本は協力しており、1993年には南北線橋梁のリハビリ計画を円借款で行い2004年までに19の橋梁を整備している。
このようにベトナムの鉄道と日本の関係は深く、こうした経緯から高速鉄道計画も「一帯一路」構想により鉄道建設でもベトナム進出を狙っている中国を差し置いて日本に「秋波」を送っているのだ。
中国が手がけるインドネシアの高速鉄道建設には問題がボロボロ
ベトナム南北を縦断する高速鉄道計画では車両基地を5カ所設け、全区間の60%を高架区間として高速走行を可能にし、30%が地上走行区間、残る10%がトンネル区間となる計画だ。
この高速鉄道計画には中国も強い関心を抱いているとされる。ただ、中国が受注して現在建設途上にあるインドネシアの首都ジャカルタから西ジャワ州の州都バンドンを結ぶ約150キロの高速鉄道建設は、費用の膨大化、完工時期の遅れ、死者も出る事故などで、中国への風当たりが強くなっている。
こうしたことからベトナム政府はこの高速鉄道計画への中国の関与を極力排除し、日本の支援を頼みとしているという。
ベトナムは中国の鉄道乗り入れを警戒
また中国はベトナムとは2つの路線で結ばれている。ひとつは、中国雲南省の昆明から同省・河口を経て、ベトナムのラオカイ、ハノイ、港湾都市ハイフォンに至る路線だ。この路線は、もともと仏領インドシナ時代に建設された滇越鉄道で、レール幅は1000ミリ、いわゆるメーターゲージの路線。ただ老朽化も進んでいるため、現在は中国-ベトナム間の運行はほぼ行われていない模様で、中国側は1435ミリの標準軌へのリニューアルを進めている。
もうひとつは、中国の広西チワン族自治区南寧市とハノイ市のザーラム駅を結ぶ路線である。こちらは中国側は標準軌、ベトナム側はメーターゲージだったが、ベトナム側が1000ミリの列車にも1435ミリの列車にも対応できるよう、レールを3本設置する三線軌条にすることで、中国からの乗り入れを可能にしている。
こうしたこともあり、中国はメーターゲージが主流のベトナムに、1435ミリの標準軌に変更するようたびたび求めている。
昨年秋、中国の習近平主席とベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長は北京で会談しているが、会談後に発表された「中越の全面的な戦略的協力パートナーシップのさらなる強化と深化に関する共同声明」にも、<ラオカイ-ハノイ-ハイフォンの標準軌鉄道計画の見直しをできるだけ早く完了する>と明記されていた。
中国は、ベトナム最大の港湾都市ハイフォンへ続く鉄路を確保したがっているのだ。しかしそのためには、手前にある首都ハノイを通過することになる。ベトナム政府にとってみれば、これは安全保障上の大きな問題になる。
共産党の一党支配にあるベトナムは、1979年に勃発した中越戦争を経て、その後は年々、中国共産党との共産党同士の関係を深めており、現在、経済的には中国に大きく依存している。一方で、南シナ海では中国との間に領有権問題を抱え、経済での蜜月ぶりとは異なり、安全保障分野ではしばしば対立している。
そうした中国に対する警戒感から、ベトナム政府は1435ミリの標準軌への転換をためらってきた経緯がある。
そのために、今回再浮上した高速鉄道計画では、中国ではなく、日本に対して協力を要請したということなのだろう。
ベトナムからの支援要請に日本は……
では日本政府はこの要請にどう応じるのか。
ベトナムの高速鉄道計画は、2010年に閣議決定されたものの、その後の国会で「建設費用が巨額である」として否決されている。近年のベトナム経済の急成長ぶりからして、資金面では当時よりも余力があると見られるが、国会の同意をどう取り付けるかも大きな問題だ。
そして何より、日本は要請に応じるのか、そして協力するとしたらどこまで協力するのか、も大きなテーマとなる。かつてインドネシアの高速鉄道計画の入札で、日本にほぼ決まりかけていたににもかかわらず、インドネシア政府に裏切られるような形で、土壇場で中国にさらわれるという事態が発生した。
そのような事態は論外だが、だからと言って採算度外視で建設や運営にまで携わるのも問題だ。また一方では、経済的に昔からかかわりが深いベトナムとの関係や、一帯一路の拡充を目指す中国の存在を考えれば、ここは日本が積極的にかかわりベトナムのインフラ整備を推進すべきという考え方にも大いに理がある。
ファム・ミン・チン首相との会談で、鈴木俊一財務相がどのような反応を示したのかまでは伝わってきていないが、日本としては熟考が必要な案件になるだろう。
2030年までに一部区間の工事を終え、2045年までに全線の開通を目指すというベトナムの高速鉄道計画。ベトナム国民の夢はどのような形で帰結するのだろうか。

 

●日本の医薬品貿易赤字4兆5千億円超:これでいいのか日本の医療は! 1/23
今週発表された財務省貿易統計の速報値で、医薬品貿易赤字額は、4兆5584億円となった。輸出額は増えて1兆1428億円と初めての1兆越えとなったが、それをはるかに上回る5兆7012億円の輸入額となり、貿易赤字は昨年度より1兆円以上の増となった。
円安の影響で5兆円を超えるかも・・と思っていたが、昨年度よりも大きく悪化し、この分野の赤字は、日本の昨年度の貿易赤字の20%を占めている。円安の影響があったとはいえ、本当にこれでいいのかと思う数字だ。
下図からわかるように2010年以降の赤字急増は国家的な危機意識があってしかるべきだが、この国の打つ手は同じ失敗のくり返しだ。
日本が画期的新薬の開発競争に乗り遅れた最大の要因はゲノム研究に対するリテラシーの低さだ。20世紀から21世紀に代わる頃、薬剤標的になる分子を見つけて、それをもとに薬剤を開発するといったパラダイムシフトが起こった。標的を見つけるためには、ゲノム研究が鍵となったが、そこで決定的な差がついた。ゲノム研究そのものは国際的に高いレベルの時もあったが、それと創薬が結びつかなかった。
そして、国際治験の一翼を担っていることだけで医師をもてはやす風潮が、画期的新薬を日本から発出するための逆風となった。日本発の薬剤を開発するには、日本の中で第1相・第2相臨床試験に挑むことが必要だが、この部分は依然として非常に弱い。役所などはベンチャー支援と叫んでいるが、その支援は中途半端な限りだ。コロナワクチンに関しては、気前よく研究費が配分されていたが、その審査もかなり政治的だった。
ワクチン開発をするには、ある程度感染症が広がっている時期(地域)を対象にしない限り、意味のある差が出るはずもない。リアルタイムでの情報収集が不可欠だ。
コロナ感染症の経口治療薬開発は現状のままでは絶対に国内で臨床試験はできない。そもそも、タミフルやリレンザのようなインフルエンザ治療薬には発症早期に服用するようにとの注意が書かれている。臨床試験を速やかに進めるためには、リアルタイムで、どこに、どの程度の重症度の患者さんがいるのかをリアルタイムで把握する必要がある。
コロナ騒動から3年間も経つのに、残念ながらリアルタイムでの情報収集システムができたという話を聞かない。この状況でどのように対象患者を見つけるのか?
永田町や霞が関、そして大手町で、感染症対策として大きなプロジェクトが動き出している。ワクチンや治療薬を開発する方向に向かっているのはいいことだが、有効性を検証する仕組みについては全くと言っていいほど検討されていない。
日本が医学・医療分野で失地挽回を図り、国際競争力を取り戻すためには、すべてを俯瞰的に見て考えていく人材の発掘が必要だ。視野狭窄の研究者と現場を知らない役人が鉛筆を舐めながら国家予算を差配する。この仕組みが日本をダメにしている。
私が2000年前後にお世話になった科学技術庁の官僚には、大きなビジョンを理解できる人たちがたくさんいたが、今はほぼ皆無と言っていい。20〜30年後の医療の姿をシミュレーションして、将来を見据えた戦略を立て、戦術に落としこむことができるような若手研究者と若手官僚を見つけ出すことが急務だ。
今日の遅れを取り戻すために四苦八苦しているような状況では、彼我の差は拡大する一方で、日の丸の誇りは日々失われ、霞んでいく。
●安保転換と原発回帰 歴史の教訓、忘却の先に  1/23
昨年十二月、岸田文雄首相は安全保障や原発を巡る政策転換に踏み切りました。国際情勢の変化、脱炭素の要請とエネルギー危機に対応するためとしていますが、戦争や原発事故という歴史の教訓を忘れてはなりません。
新年早々、林芳正外相と浜田靖一防衛相に続き、首相がワシントンを訪問しました。新たな国家安保戦略に敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛予算「倍増」を明記したことを伝え、米政権から支持を取り付けるためです。
米側は「同盟の抑止力を強化する重要な進化」と支持。バイデン大統領は首相の「果敢なリーダーシップを称賛」したそうです。
日米の首脳や閣僚同士が結束を固める背景には、軍事的台頭著しい中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの警戒感があります。
日米など民主主義国が協調して対処する必要があるとしても、日本の対応には限界があります。
敵基地攻撃という威嚇
憲法九条はこう定めます。
《日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又(また)は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する》
戦後日本は「軍隊」を持たず、日米安保条約で米軍の日本駐留を認める道を選びました。その後、必要最小限の自衛力として発足した自衛隊は専守防衛の「盾」に徹し、攻撃力の「矛」は米軍に委ねる役割分担が定着しました。
これを根本から変え、自衛隊も攻撃力を持ち、米軍の役割を一部肩代わりするのが、敵基地攻撃能力の保有です。政府は、日本攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を高め、結果的に日本の平和と安全が維持できる、と説明します。
安倍晋三内閣当時の二〇一四年に憲法が禁じてきた「集団的自衛権の行使」が内閣の一存で容認され、翌年の安保関連法成立の強行で、外国同士の戦争への参加が法的には可能になっています。
その上、自衛隊が、海を越えて外国の領域にある施設を攻撃できる装備を実際に持てば、地域の軍拡競争の火に油を注ぎ、逆に情勢が不安定化する「安全保障のジレンマ」に陥るのは必至です。
そもそも、そうした攻撃的兵器を大量に備えることは憲法九条が禁じる「武力による威嚇」にほかなりません。歴代内閣も「憲法の趣旨でない」としてきました。
日本周辺で衝突が起き、日本も参戦すれば損害は甚大です。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は中国の台湾侵攻に日米が参戦した場合、日米は艦艇数十隻や航空機数百機を失うほか人的被害も数千人に上ると報告します。民間被害も不可避です。
戦争をしない、他国に軍事的脅威を与えるような国にならないという戦後日本の「平和国家としての歩み」は、国内外に多大な犠牲を強いた先の戦争への反省に基づく誓いそのものです。そうした安保政策を根本から転換した岸田首相には、過ちの歴史で得た教訓と誠実に向き合う姿勢が感じられません。歴史への冒涜(ぼうとく)です。
「死亡事故なし」の虚言
原発への回帰も同様です。
岸田内閣は六十年としてきた原発運転期間の延長を認めました。政府は福島第一原発事故後「新増設や建て替えは想定していない」と繰り返してきましたが、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むともしています。
事故が起きれば収束が困難で、多くの人から故郷を奪い続ける原発は、徐々に依存度を下げ、廃止することが歴史の教訓です。
再稼働にとどまらず、老朽原発を延命し、将来の新増設まで視野に入れるとは、過酷な事故を忘れているとしか思えません。
自民党の麻生太郎副総裁は講演で「原発は危ないというが、死亡事故が起きた例はゼロだ」と強調しましたが、実際には死者は出ています。首相経験者が事実を曲げてでも原発を推し進める。日本の指導層はいつからそんな恥知らずになってしまったのでしょう。
ドイツの宰相ビスマルクの格言に「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」があります。愚かなる者は歴史から学ばず、自らの経験にしか学ばないとの意味です。
戦争や原発事故を再び経験しないと学ばないのか。でも起きたら取り返しがつかない。歴史の教訓を忘れた先にあるのは破局です。きょうから始まる通常国会が、先人たちが残した教訓をいま一度思い起こす場となるよう願います。
●きょう通常国会召集 国の形 正面から論じよ 1/23
通常国会がきょう召集される。物価高、少子化対策、安全保障、新型コロナウイルス対策など論点は多岐にわたる。
個別の論点を掘り下げてほしいが、与野党双方に望むのは、日本という国の形、針路を正々堂々と論じることだ。
岸田文雄首相は安全保障、エネルギーといった政策を、国会論議もなく大転換した。首相自身の言葉で日本の未来を語り、各党がその是非を徹底して点検してもらいたい。
首相は2021年衆院選、22年の参院選を乗り切り、衆院解散がなければ25年まで国政選挙がない「黄金の3年」を手中にした。
政策を実現するのに十分な時間を得た。では首相のこの間の「実績」とは何だったか。
国是の専守防衛を逸脱する恐れのある敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を明記した安全保障関連3文書の閣議決定があった。原子力発電所の運転期間を最長60年から「60年超」とし、原発を最大限活用する方針も決めた。
安全保障政策の転換は、戦後日本が積み上げてきた平和国家の根幹を揺るがす。エネルギー政策は東京電力福島第1原発の事故を受けて、原発依存度を低め安全なクリーンエネルギーに転換する目標があったはずだ。岸田政権の方針は時代に逆行している。
何より問題なのは、これら国の方針を大きく変えるに当たり、国民に問うことなく閣議決定など政権内部で決めたことだ。国民には政権の方針のみが伝えられ、議論の過程が全く見えない。
敵基地攻撃は先制攻撃と同じ意味ではないのか。東アジアの安全保障環境の変化に対応するのに外交努力を尽くしたのか。物理的な力の増強しか道はないのか。エネルギー危機を乗り切るのに原発以外の手法を模索したか。
県民からすれば、再び国の「捨て石」として南西諸島を戦場にしかねない安全保障政策は認められない。東アジアに軍拡競争を招く可能性もある政府の方針も、とうてい納得できるものではない。
疑問や懸念は数多くある。国会の論戦を通じ、国民の不安を解消するのは当然だ。
同時に安全保障関連の議論では防衛費の増額、その財源をどうするかが盛んに語られる。だが安全保障政策の大転換に当たっては、国民的合意を得ることが前提のはずだ。
防衛費増額ありきとする議論は、そもそも前提が間違っている。政府、各党はその点を認識すべきだ。
防衛費増額については、昨年7月、海上自衛隊呉地方総監部の伊藤弘総監が「(個人的感想として)もろ手を挙げて喜べない」と記者会見で語った。社会保障にさらなる予算が必要であり、防衛費を増額できるほど日本経済に余裕はないのでは、という理由だ。
伊藤総監の言葉はコロナや物価高で生活にあえぐ国民感情と重なる。必要なのは勇ましい言葉でなく、地に足の着いた国民視線の議論だ。
●異次元の少子化対策など  1/23
石破茂です。
来週月曜日より通常国会が開会されます。質問する側も答弁する側も万全の体制で臨み、有権者に日本国の問題点を提示し、解決に向けての方向性を明らかにしなくてはなりません。
我々のように当選期数を重ねた者にはなかなか質問の機会が回ってこないのですが、常に自分が質問し、答弁する立場に立ったつもりで本会議や委員会質疑に臨みたいと思います。
先日の護衛艦の事故に続き、一昨日は新潟県柏崎沖で海上保安庁巡視船が座礁事故を起こすという、にわかには信じられないことが起こっています。我が国はどこか根幹でおかしくなりつつあるように思われてなりません。
一般の事故とは異なり、国家の独立と平和、国民の生命・財産と公の秩序を守る任にあたる艦や船が事故を起こした重大性を強く認識すべきであるところ、組織にその危機感が薄いように思われるのは私だけなのでしょうか。ただ防衛費や海上保安庁の予算を増やしさえすればよいというものでは勿論ありません。
昨朝は三か月ぶりに自民党のウクライナ関係合同会議が開催されました。ロシアによるウクライナ侵攻が開始された頃は、参加する議員も多く、白熱した議論が展開されたものですが、一年も経つと議員数も少なく、論議も低調なものとなりました。このようなことに流行り廃りがあってはなりませんし、事態は今の方がより深刻というべきでしょう。
NATOは今までウクライナに主に防御的武器を供与してきていますが、ロシアに対してこれ以上のウクライナ侵攻を思いとどまらせるような支援のあり方を考える必要があり、この戦争の出口を見出す努力をしなければならないのではないでしょうか。
国連安保理の非常任理事国となり、今夏のサミットの議長国も務める我が国は、たとえアメリカの意に全面的に沿わなくても、停戦に向けた積極的な提案をすべきです。ウクライナの独立を保つための方策を議論することこそが重要です。
少子化対策は「異次元」を謳って臨むのですから、従来の政策の量的な拡大に終わるものであってはなりません。この問題に対して精神論が何の意味も持たないことはすでにわかりきっています。望む人が「結婚して家庭を持ち、子供を産み育てるほうが、経済的に余裕ができる」ような仕組みを構築することが必要です。
知らなかったのですが、浜松市(秘書官であった中野祐介氏が目指す市長への政治活動の応援に行きました)は、太平洋戦争において最も多い34回という空襲を受けた都市であり、かつ米英艦船による艦砲射撃も受けた数少ない都市の一つだったそうです(他には室蘭市、釜石市、日立市、清水市)。
B-29爆撃機は陸軍機であり(米空軍の創設は1947年)、陸軍のマッカーサー元帥と海軍のニミッツ提督との主導権争いもあって、海軍の存在感を示す目的もあったとのこと。各軍の対立は古今東西変わらないもののようです。
統一地方選も近づき、選挙区の鳥取県のみならず、全国いくつかの地域から応援のご要請を頂いております。自民党は地方組織あってのものであり、国会議員だけのためのものではないのですから、できるだけ、ご要望にお応えしたいと思っております。
皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。
●米大統領首席補佐官にザイエンツ氏 米メディア報道 1/23
バイデン米大統領はクレイン大統領首席補佐官の後任に、ホワイトハウスで新型コロナウイルス対策調整官を務めたザイエンツ氏を起用する見通しになった。米主要メディアが22日、相次ぎ報じた。政権の要となる重要ポストで、2024年大統領選での再選出馬に意欲を示すバイデン氏を支える。
ザイエンツ氏は米デューク大を卒業後、民間企業の経験が長い。経営コンサルタントを経て、オバマ政権で初めて政府職員になった。ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)や国家経済会議(NEC)などの要職を歴任し、バイデン氏が当選した20年大統領選で陣営に参画。政権移行チームの共同議長を務めた。現在56歳。
バイデン氏は2021年1月に就任直後、ザイエンツ氏を政権のコロナ対応を指揮するコロナ対策調整官に充てた。22年4月に調整官を退任するのを前に発表した声明では、ワクチン普及などの実績を挙げ「ジェフ(・ザイエンツ氏)ほど結果を出せる人物はいない」とたたえた。
米メディアによると、クレイン氏は職務の過酷さなどを理由にバイデン氏が2月7日に米連邦議会で臨む一般教書演説の後に退任する。ザイエンツ氏はバイデン氏が副大統領時代の機密文書を不適切に扱っていた問題で劣勢に立たされる政権の立て直しをめざす。
大統領首席補佐官は連邦政府を統括するホワイトハウスの運営を取り仕切り、大統領の長年の側近が就くケースが多い。ザイエンツ氏は副大統領だったバイデン氏の首席補佐官などを務めたクレイン氏ほど深い関係にない。
米紙ニューヨーク・タイムズはザイエンツ氏について「これまでの典型的な首席補佐官のような政治経験はほとんどない」と指摘。ザイエンツ氏が政策調整を中心に取り組む一方、バイデン氏は大統領顧問ら他の側近に再選に向けた選挙戦略を任せる役割分担を想定している可能性があると伝えた。
政府高官が目まぐるしく代わったトランプ前政権と対照的に、バイデン政権はこれまで骨格を維持してきた。現時点で閣僚はひとりも代わっておらず、ホワイトハウスの高官では22年5月に大統領報道官が交代した例がある。
●国会と憲法改正 条文案の策定に着手せよ 「9条」でも合意形成を急げ 1/23
通常国会の召集日を迎えた。与野党は今年こそ、憲法改正原案の策定に着手すべきである。
ロシアによるウクライナ侵略は越年し、今も続いている。中国は軍備の増強を進め、台湾併(へい)吞(どん)に向け、武力行使も辞さない構えを取り続けている。北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返し、7回目の核実験に踏み切る可能性が指摘されている。
日本は専制国家に囲まれているにもかかわらず、国の根幹をなす憲法は、安全保障上の危機を乗り越えるのに、十分とはいえない。早期の改正が必要なのは、論をまたない。
首相が先頭に立つ時だ
政府は昨年12月、抑止力と対処力の向上に向け、国家安全保障戦略など安保3文書を閣議決定した。国民を守るためには、憲法改正も必要だ。
岸田文雄首相(自民党総裁)は先の臨時国会で「(総裁任期中の憲法改正という)思いは全く変わらない」と語っておきながら、年頭の記者会見で具体的に触れることはなかった。改憲の必要性を繰り返し訴え、国会での議論をリードすべきである。
憲法改正の本丸は第9条である。改めて指摘しておきたいのは、これまで日本の平和を守ってきたのは9条ではなく、自衛隊の存在と日米安保条約に基づく抑止力である、という点だ。9条を唱えていれば平和が訪れると考える勢力の無理解により、抑止力の構築は妨げられてきた。
世界の民主主義国は軍隊をもち、抑止力にしている。自衛隊は日本の平和と独立を守る任務を担っており、国際法上は軍隊として位置付けられている。その自衛隊を、「憲法違反」とする解釈が出てくるような存在にさせてはならない。憲法に自衛隊を明記するのは当然である。
最終的には「戦力不保持」を定めた9条2項を削除し、軍の保持を認めるべきだ。
国の根幹に関する重要な課題は山積している。与野党は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題など足元の課題に忙殺され、安保政策では防衛費増額の財源確保策の議論に汲(きゅう)々(きゅう)としている。大局からの改憲論議はおざなりにされ、9条の議論は低調のままだ。先の臨時国会で、自衛隊明記は焦点にならなかった。
その一方で、緊急事態条項の新設を巡り、国会議員の任期延長について、各党別に論点が整理されるなど、議論が進んだのは望ましかった。
南海トラフの巨大地震や首都直下地震などの大災害やテロはいつ起きるか分からない。日本有事に直結する台湾有事は、現実味を帯びている。国政選挙が実施できず、国会が機能不全に陥るなどの事態は当然、想定しておかなければならない。
憲法は衆参両院議員の任期を規定している。緊急時に国会の機能を維持できるよう延長を可能にしておく必要がある。
意見開陳に終始するな
ただ、それだけでは不十分だ。外部からの武力攻撃や大規模テロなどが発生した際に首相が緊急事態を宣言し、一時的に内閣に権限を集め、法律に代わる緊急政令を出し、予算の変更などを認める緊急財政処分を行えるよう、憲法に定めておくことが欠かせない。
衆院憲法審査会で自民党は、議員任期延長の規定創設を主張し、併せて、緊急政令の制定や緊急財政処分についても規定が必要だと唱えた。
日本維新の会、国民民主党もほぼ同様の姿勢を取っており、前向きで評価できる。
これに対し、公明党は「白紙委任的な緊急政令制度を設けることには慎重であるべきだ」とするなど、与党内で考え方に温度差がある。公明の見解は、国民を守る責務を踏まえたものとは、とても思えない。
立憲民主党は、そもそも緊急事態条項の創設に動くことに後ろ向きだ。このため衆院憲法審で「緊急事態に特化した議論ではなく、国会の召集義務や解散権などを幅広く議論することが求められる」と主張していた。意見集約を警戒しているのか。立民も改憲の対案を条文の形で示すべきだ。
通常国会では、衆参の憲法審を積極的に開催し、合意形成を急いでもらいたい。いつまでもだらだらと意見を述べ合っている場合ではない。
●戦略と意志で少子化に対応 1/23
米ジョージタウン大教授を務めたレイ・クライン博士の「国力の方程式」をご存じだろうか。「人口・領土」+「経済」+「国防」の3点に、「戦略目標」+「国家意志」を掛け合わせて国の力を算出するものだ。この明快な方程式はいわばカントリーリスクを計るためのツールでもある。残念ながら、最近のわが国の現状は、各項目を眺めても、決して楽観的なものとはいえない。特に、後半の戦略とそれをやり抜く意志が問われている。
合計特殊出生率が1・57にまで下がり大きなショックをもたらしたのは平成2(1990)年。その後、右肩下がりの数字が毎年、風物詩的な扱いで公表されるうちにも「静かな有事」は進行。生産年齢人口はこの四半世紀に約1300万人が消えた。ほぼ東京都の総人口に匹敵する。
昨年秋頃から、令和4(2022)年の出生数が初めて80万人を下回るとの予測は出ていた。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が「2030年」と推計していた80万人割れは、10年近くも早まる状況である。このまま行けば、二十数年後に日本の人口は1億人を下回ることになる。ちなみにコロナ禍は欧米で人口増をもたらしたが、日韓では減少傾向を加速させた。
社人研の令和3(2021)年の調査によれば、夫婦が理想とする子供の数は平均2・25人だ。希望する子供を持てない理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最多である。合計特殊出生率は全国平均1・30に比べ、東京は1・08で5年連続の減少となる。若年層が多い人口構成を反映しているが、「point of no return(回帰不能点)」の危機を受け止め、戦略と意志を持って、都としてのできうる対策を講じる。
一方、国全体が人口縮減するなかで、パイの奪い合い、移し替えだけでは問題の解決にはならない。内向き、縮み志向こそが、これまでの「経済」「国防」にも歪(いびつ)な影響を与えてきたのではないか。基本的な話だが、国民、都民の自己実現や幸せの追求という基本的なニーズを可能にする環境整備をスピーディーに進めることだ。
国会議員時代から、「婚活・街コン推進議員連盟」「ニーゼロニーゼロ議員連盟」「女性が暮らしやすい国は、みんなにとっていい国だ(1192)議員連盟」などを立ち上げ、政策提言を行ってきた。ダイバーシティー(多様性)の勉強会では、男性議員から「そのシティーはどの駅が近いのか」と質問が飛び出た。「女性議員比率が最も高いルワンダの研究をしよう」「婚活は行政の仕事ではない」「女性管理職を増やしても、業績は伸びない」「育休は他の社員にしわ寄せがいくだけ」など、意見交換は活発だったが、主要政策にはならなかった。議連会議には各省庁の担当局がずらりと並んでくれたものだ。
このような経過もあり、都知事に就任後は、これまで重ねてきた子供、女性政策の実践に加速度的に取り組んだ。
待機児童数は6年間で約8466人から300人へと、96%減を実現。子育て応援「赤ちゃんファースト」事業や第2子以降の保育料負担軽減、医療的ケア児支援、高校授業料実質無償化など、総合的、継続的に対策を進めてきた。参考までに、都議会も全国最下位だった女性議員比率は28%に急増し、全国最多となっている。
都はチルドレンファースト社会の実現こそ「未来への投資」との考えの下、昨年4月に「子供政策連携室」を発足し、都庁全局の関連施策を束ねる司令塔として検討を重ねてきた。新年度予算案においては、少子化対策は前年度予算から約2千億円増となる1兆6千億円に増額する。出会いから結婚、妊娠・出産、子育てという全ステージでのシームレスな支援を行う考えだ。財源は、政策・事業評価による「東京大改革」を進め、毎年約1千億円、6年間で総額5800億円をひねり出しており、「未来への投資」に充てる。
予算案では「結婚支援マッチング事業」でAI(人工知能)によるサポートや、「出会いのきっかけ創出プロジェクト」として都有施設を活用した交流イベントも行い、結婚の機運を醸成していく。結婚を予定する人を対象に交通利便性の良い都営住宅などを計300戸確保する。
子供を望む人の不妊治療支援も拡大する方針だ。これまでも東京都はAYA世代(思春期や若年成人)のがん患者が卵子凍結を望む際の費用を支援してきた。来年度予算では健康な女性が卵子凍結を行う場合の助成制度をつくるため医療機関と連携した調査も行う。
戦後初の衆院選で当選した39人の女性議員が訴えた政策は産児制限などであった。時代と国家課題の変遷を感じる。
孫子の兵法にある「兵は拙速を聞くも、未(いま)だ巧の久しきをみざる」はスピード感の重要性を教えてくれる。今後も「人」に光を当て、誰もが輝ける環境を整えてこそ都市も成長すると確信する。子供を大切にできない国には未来がない。国を挙げて危機感と意志を持って取り組むときだ。
●23年度予算案を国会提出 防衛力強化へ過去最大114.4兆円 1/23
政府は23日、2023年度予算案を国会に提出した。一般会計総額は22年度当初予算比6.3%増の114兆3812億円と、11年連続で過去最大を更新。110兆円を超えるのは初めて。防衛力の抜本的強化に向け、23年度から5年間の防衛費総額を43兆円に増やすため、「防衛力強化資金」の創設を含め約10兆円超の防衛関係費を計上する。3月末までの成立を目指す。
23年度予算案の歳出は、全体の3割超を占める社会保障費が1.7%増の36兆8889億円と過去最高を更新。防衛費は26.3%増の6兆8219億円に積み増す。これとは別に、24年度以降の防衛費増額に充てるため、特別会計からの繰入金などの税外収入3兆3806億円を「防衛力強化資金」に繰り入れる。国債の償還や利払いに充てる国債費も3.7%増の25兆2503億円に膨らむ。
歳入では、税収が6.4%増の69兆4400億円と過去最高を見込む。税収増により、歳入不足を補う新規国債の発行額は3.5%減の35兆6230億円と、2年連続で減少。新規国債のうち、赤字国債は29兆650億円、建設国債は6兆5580億円。建設国債は道路や橋など公共事業の財源に使われてきたが、初めて自衛隊の施設整備や艦船建造費に4343億円を充てる。
●第211通常国会が召集 防衛・原発・教団問題で論戦 1/23
第211通常国会が23日召集された。政府・与党は内閣支持率が低迷する中、2023年度予算案や防衛・原発政策の転換に関連する法案を早期に成立させ、国民の信頼回復を目指す。野党は4月の統一地方選などをにらみ、防衛費増額に伴う増税方針や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で対決姿勢を強める構えだ。
岸田文雄首相(自民党総裁)は同日の党会合で「昨年末に防衛力の抜本的強化を図り、エネルギー政策の見直しも行った。これから始まる国会は決断の中身を実現するため、与党が力を合わせて努力する国会だ」と強調。立憲民主党の泉健太代表は「防衛増税、しかも復興特別所得税を流用するなんてあり得ない。しっかりと訴えて戦っていきたい」と語った。
●岸田首相、少子化対策に全力 「構造的賃上げ」訴え―施政方針演説 1/23
岸田文雄首相は23日午後の衆院本会議で、施政方針演説に臨む。子ども・子育て支援を政権の最重要政策に据えて、全力で取り組む意向を強調。春闘での「物価上昇を超える賃上げ」を呼び掛けつつ、学び直しや成長分野への労働移動などを通じた「構造的な賃上げ」実現を訴える見通しだ。
首相は20日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、今春に現在の「2類相当」から「5類」に引き下げることを検討するよう指示。マスクの着用ルールの見直しも表明した。演説では、第8波を克服した上で段階的に移行させる考えを示すとみられる。
通常国会では、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の度重なる弾道ミサイル発射などを受け、防衛費の大幅増に伴う増税が焦点だ。日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、首相は将来世代につけを回さず、今を生きる世代の責任として対応する必要性を説明し、国民に理解を求めるもようだ。
5月に地元広島で開催する先進7カ国首脳会議(G7サミット)に関しては、ライフワークとする「核兵器のない世界」実現に向け議論を主導する意欲を示す方向だ。
●岸田政権が明言しない「消費増税」の現実…「将来のために」は方便! 1/23
「将来のため」と言われてきたが
新しい年を迎え、昨年よりも、少しはマシな年になってほしいと思ったのに、正月早々に飛び出してきたのは、消費税増税の話。
自民党税制調査会の幹部の甘利明前幹事長が、少子化対策の財源として将来的な消費税の引き上げも検討対象になるとの認識を示しました。これに対して松野博一官房長官や鈴木俊一財務大臣は、「当面は増税を考えていない」と火消しに躍起です。
当然でしょう。10月には「インボイス制度」の導入で、売り上げ1000万円以下でインボイス登録をした業者から消費税をとるという実質増税が始まります。その前に、消費税増税で騒ぎ立てて欲しくない。表立って波風を立てず、何事もないかのごとく静かに一部に消費税増税をしたいのですから、火消しに躍起になるのは無理もないこと。
ただ、インボイス制度を導入したら、その先には全ての国民を対象とした本格的な消費税増税が待ち構えていることに変わりはありません。
みなさんの中には、もちろん消費増税は嬉しくないが、消費税を上げてもそれがすべて将来の子育て財源に使われるのなら仕方ないと思っている人も多いのではないでしょうか。
消費税は、増税のたびに「将来の社会保障費にあてられる」と、言われ続けてきましたから、そう思うのも当然です。
けれど、将来の子供のために消費税を使うと言うのは、嘘だと私は考えています。
なぜなら、「社会保障」を錦の御旗に税率を上げてきた消費税の大部分は、国の借金の穴埋めに使われているという事実があるからです。
消費税の8割は、国の借金の穴埋めに使われてきた
2017年の衆議院選挙で、故安倍晋三首相が、「今まで増えた税収の8割は国の借金返済に使っていたので、この額を減らします」と訴えました。
これを裏付けるように、同年6月22日に内閣官房社会保障改革担当室が出した、「消費税が5%から10%に上がったら、値上げした5%分が何に使われるのか」を説明するための資料では、そのうちの2割に当たる2.8兆円が社会保障の充実に使われ、あとは国の借金の穴埋めなどに使われるということを、解説図入りで丁寧に説明しています。
もちろん、借金の穴埋めなどという身も蓋もない言葉ではなく、8割が「社会保障の安定化」に使われ、2割が「社会保障の充実」に使われると書かれていますが、「社会保障の安定化」というのは、要は国の借金の解消や基礎年金の国庫負担分などの穴埋めです。国の借金を穴埋めするために消費税を増税しますとはいえないので、「社会保障の安定化」という言葉でオブラートに包んでいるだけなのです。
さらに、2019年9月20日、官邸で開かれた全世代型社会保障検討会議の席上で、故安倍首相は「消費税の使い道を見直し、子供たち、子育て世代に投資することを決定しました」と言いました。
この首相の発言を受けて、読売新聞が、「(首相は)消費税10%の引き上げに合わせ、増収分の使い道を“国の借金返済”から“社会保障の充実”に振り向けると国民に訴える考えだ」と書きました。さらに、「首相は“増えた税収の8割は借金返済に使われた”と周囲に不満を漏らしてきた」とも続けています。
故安倍首相は、賛否両論ある方ですが、意外にストレートな物言いをする人で、「社会保障の安定化」を「実は今まで増えた税収の8割は国の借金返済に使われた」と端的な言葉で指摘しました。
ちなみに、2022年の公費ベースの消費税増収額は14兆3000億円で、このうち幼児教育の無償化や年金生活者への給付金、医療・介護サービスなど「社会保障の充実」に使われたお金は4兆100億円に過ぎず、それ以外は「社会保障の安定化」に使われています。少しは「社会保障の充実」に使われるお金が増えましたが、それでも3割にも届いていません。
もちろん、今の国の借金も、多くは社会保障を始めとする無秩序な大盤振る舞いに起因するものなので、それを是正する意味で「社会保障の安定化」と言うのはあながち間違いとはいえないかもしれません。
しかし、これはあくまでも過去の尻拭いに使われるお金です。少なくとも、子供たちの「将来のため」に使われ、家計を楽にするものではない。そこを言葉の使い方でわざと誤魔化し、みんなに「子供の将来のために使われるならしかたない」思わせているところが姑息です。
しかも「将来のため」という欺瞞は、消費増税だけにとどまりません。後編記事『岸田首相の「ムダな少子化対策」のせいで、社会保険料がまた「値上がり」しそうだ』では、岸田政権が進めている「子育て連帯基金」構想の問題点について、詳細に論じていきます。
●岸田首相の「ムダな少子化対策」のせいで、社会保険料がまた「値上がり」 1/23
新年早々、自民党内から「少子化対策の財源として将来的な消費税の引き上げも検討対象になる」といった意見が飛び出し、政府は「当面は増税を考えていない」と火消しに躍起です。
これまで消費増税のたびに、国民に向けて「将来の社会保障費にあてられる」と説明されてきました。しかし実際には、その8割が国の借金返済に使われていたことは、前編記事『岸田政権が明言しない「消費増税」のヤバい現実…「将来のために」は方便だった!』で説明した通りです。
庶民に金を出させて「子育て連帯基金」つくる!?
実は、子供を盾に、焼け太りを図ろうとしているのは、消費税だけではありません。
岸田首相が少子化対策で「こども予算の倍増」を打ち出したことで、「子育て連帯基金」という、新たな仕組みづくりも浮上してきています。
今年の春に誕生するこども家庭庁の予算はおよそ4兆8000億円です。令和4年度第2次補正予算から前倒しで実施するものも含めると、5兆2000億円規模になります。これとは別に、22年度の少子化対策予算は約6兆円です。
岸田総理の言葉どおりこの予算を倍増させるとなれば、さらに10兆円以上のお金が必要ということになります。
そこで、「子育て連帯基金」というものをつくり、年金や医療保険、介護保険から一定額ずつお金を拠出してもらって、それを財源にしようという構想です。
実際に岸田首相は、新年の会見でも、異次元の少子化対策のために、財源として各種保険料を引き上げて当てると言っていました。
そうなれば、当然ながら値上げした保険料というのは、皆さんの懐から徴収されることになります。
それでなくても、昨年10月に雇用保険料の引き上げで、年収500万円くらいのサラリーマン家庭では、年間1万円弱の負担増になっているのですからたまりません。
すでに子育てを終わっている世代などには、「自分の子供のためでもないのに、医療保険や介護保険や年金保険などの保険料値上げを強いられるのは理不尽だ」と思っている人が少なくないでしょう。
無駄遣いの温床の「基金」を増やす岸田政権
批判が多い「子育て連携基金」ですが、百歩譲って、これをつくることで将来の子供たちの支援が万全に行えるのなら異議は唱えないという方も多いでしょう。
ただ、私などは「基金」ときいただけで、無駄遣いしか連想できません。
なぜなら、いま日本は「基金バブル」ですが、特に岸田政権になって、その傾向は顕著になっています。
毎日新聞の集計では、複数年度にわたって実施する事業の予算を積み上げる政府の基金が乱立していて、公益法人や地方公共団体に設けられた基金の総数は1900を超えているとのこと。
政府が昨年11月に国会に提出した第2次補正予算案では、基金への予算措置が8兆9000億円と過去最大でした。このうち新たな基金は16事業2兆4821億円で、それ以外の既存の基金への積み増しも膨大になった結果です。
確かに、新型コロナや物価高など、危機的な状況の中で資金を機動的に運用していくために、効果を発揮した基金もないとは言えません。
けれど、中には意味がなかったどころか、弊害となったのではないかと疑いたくなる基金もあります。
たとえば、ガソリン価格の高騰に対応するためにつくられた燃料価格激変緩和基金。当初800億円で設立され、その後令和3年度予算一般会計予備で3,500億円 、令和4年度一般会計予備で2,774億円、令和4年度一般会計補正予算で1兆1,655億円と、どんどん予算が増えていきましたが、そのすべてがスタンドでのガソリン代の値下げに使われたわけではないことが、財務省の調査で指摘されています。
だとしたら、こんな基金などつくらずに、最初からトリガー条項の凍結を解除してガソリン1リットルあたり一律に25円の値下げをしたほうが透明性も高く、納税者にも納得感があったのではないでしょうか。
「基金」は、国の監視も一般会計ほどは厳しくなく、使い勝手がいいので今や便利な「財布」と化しつつあり、無駄遣いや使われない予算の積み上げ場所にもなっていると言われています。これについては、会計検査院などもたびたび苦言を呈しています。
そうした中で、私たちの社会保険料の負担を増やしてまでつくるという「子育て連携基金」。コロナや物価高で疲弊している家計から、税金や保険料を搾り取り、使い切れずに余ったお金は基金と称して貯めているのです。
岸田政権がどんなに「異次元の少子化対策」を声高に語ろうと、現実に食事すら満足に取れない子供がいる中で、消費税を増税するだの基金を創設するだのというのは、それこそが「異次元」の話だと思うのは、私だけでしょうか。
●通常国会スタート なぜ岸田総理は増税に固執するのか? 「財源確保法案」 1/23
1月23日から始まった通常国会で注目されるのが、防衛費増額と、その財源となる増税を既成事実化する「財源確保法案」だ。増税に躍起な岸田総理と背後で暗躍する財務省。はたして両者の暴走を止めることはできるのか?
5年間で43兆円もの防衛費増額
昨年末から増税話が世間を賑わしている。
コトの発端は防衛費を5年間で43兆円増額するという話。そのための財源の一部は増税によって確保するという方向性が決まったのだが(「方向性」としたのは、いつからやるのか等についてはまだ完全に決まったわけではないから)、岸田総理が増税によって防衛費増額の財源の一部を確保すると表明してから、なんとわずか8日間、途中土日を挟んでいるので実質的には6日間で決まってしまった。
これに対しては増税に明確に反対している自民党議員たちのみならず、増税に賛成しうる議員たちからも、さすがに異論や非難の声が上がったようである。
更に、防衛費増額の議論とほぼ時を同じくして打ち出された子ども政策関連予算の倍増も、安定財源と称して増税によることが想定されているようだ。それが証拠に、岸田総理の盟友とも言われる甘利明前幹事長がテレビ番組出演時に、子ども予算の財源として将来的な消費税増税に繰り返し言及している。
官邸は火消しに躍起になり、松野官房長官は「甘利氏の意見」として事の鎮静化を図ろうとしている。だが、防衛費増額の財源としての増税のメニューの検討に際して、岸田総理は当初「所得税は考えない」としていたのに、舌の根も乾かぬうちに所得税がその対象として上がってきたことを思い出せば、火消しはごまかしなり煙幕であって、そのうち何食わぬ顔で消費税増税を表明することなど容易に想定できる。
それにしても岸田総理はなぜそんなに防衛増税の方向性という結論を急いだのだろうか? それ以外についてもなぜここまで増税に熱心なのだろうか?
それを考えるには、岸田内閣とは、岸田総理とはどういう存在なのか、そして、財務省とはどういう機関なのかについて知っておく必要がある。
岸田氏に「実現したい政策」はあるのか?
まず、岸田総理は内閣総理大臣になりたくて自民党総裁選に立候補し、国会における首班指名を経て今の職に就いた人物である。
「何を当たり前のことを」と思われたかもしれないが、「内閣総理大臣になりたくなった」の意味するところは、何かやりたいこと、実現したい政策があるわけではなく、ただただその職に就きたい、就いていたいだけ、というのがほとんどで、岸田総理も同様のケースに見える。
ただ単に政治家になりたいだけ、議員バッジを付けたいだけで立候補して運よく当選した議員も少なからずいるし、知事や市長についても同様である。しかし、一国の総理大臣がそれでは日本の行く末は暗いとしか言いようがない。
何もやりたいことがなく、唯一のやりたいことと言えば出来るだけ長く総理の地位にい続けたいということであるから、岸田総理の行動様式は、地位にしがみつくこと、つまり保身が中心となる。保身につながるならば、自ら進んで言いなりになる。
一方で保身につながらないか、立場を危うくしかねないことには、たとえそれが必要であっても検討しかしない。検討ばかりの“検討使”と揶揄された所以である。
そんな岸田総理が率いる内閣だから、やりたいことに向かって突き進むのではなく、岸田総理の保身に振り回されて動く、何がしたいのかわからないものになってしまう。総裁選で掲げた「令和の所得倍増計画」がいつの間にか「資産所得倍増プラン」に取って替わってしまったことがその象徴だろう。
岸田総理と財務省の蜜月
では、岸田総理が言いなりになる財務省とはどのような機関なのか。端的に言って、隙あらば増税をしようと画策する機関であり、また、何らかの政策の結果として税収が増えたことは評価されず、増税を実現出来たことが評価される機関である。
日本の経済状況がどうあろうと、国民生活がどうなろうと、多くの事業者が苦しい状況にあろうと、そうしたことにはお構いなしに増税に突き進む、そんな機関である。そんな機関出身者が今や岸田官邸を仕切っている。安倍内閣は経産省内閣とも呼ばれたが、今や岸田内閣は財務省内閣である。
岸田政権はその迷走ぶりや、何も決めない姿から支持率は低迷し、自民党内では既に「岸田降ろし」が始まったとも言われている。保身のために財務省の言いなりになってくれる岸田総理はいつまでその地位にい続けられるのかわからなくなってきた。
だからこそ岸田氏が総理の座にいるうちにできる増税はやってしまおう、そう財務省が考えて拙速に動き、岸田総理は言われるがままに動いた、ということのようである。端から見ると、検討しかしてこなかった決められない男であった岸田総理が、突如決める総理になったかのようであるが、背景にはこうしたことがあったのだ。
そもそも今回の防衛増税の方向性の決定の更に背景には、アメリカから大量の武器を買うことでバイデン政権の覚えがめでたくなり、保身につながるという目算もあったようだ。
財務省による「岸田総理のうちに増税」作戦は防衛費増額にとどまらず、増税できる大義名分があればどんどん実行される。その絶好の対象が子ども関連予算倍増である。これではまさに増税のための増税なのだが、増税はいきなり、一気に実施するのではなく、ジワジワと進められる。
今回の防衛費増額では法人税、所得税、たばこ税が増税の対象として上がっているが、一緒に歳出改革、つまりは様々な予算を「無駄」のレッテルを貼って削減するということも行われる。「そうだ、行政の無駄を無くせば増税は必要なくなる」と、一般国民にわかりやすく、受け入れられやすそうな考え方だが、政府の財政支出の削減は経済の縮小を意味する。GDPの計算式に政府の支出が入っていることを思い出せば理解できるだろう。
とはいえ「無駄」の削減にも限度が出てくる。「無駄」な予算の削減が難しいとなれば、「予算の削減がこれ以上できないから仕方がない」、「必要な政策の財源確保のためには避けられない」として、次なる増税が検討の俎上に乗っかってくる。それこそが消費税増税である。
しかもこのシナリオを財務省が既に考えており、それに沿ってことを進めている可能性も否定できないこのだが、もしこれらの増税が実施されれば、日本は没落の道を進むことになる(財務省はそんなことはお構いなし)。
そもそも国は税収を前提にして支出をしているわけではなく、また国債を借金と位置付けて60年で償還(返済)しなければならないとしているのは日本だけである(こうした点については別稿で改めて解説したい)。
財務省の言いなりになって、保身のためならなりふり構わぬ岸田総理の暴走を早々に止めなければならない。その最大の山場は1月23日から始まる通常国会である。この国会には、防衛増税を既成事実化するための「財源確保法案(仮称)」が提出される予定である。
この法案を国会に提出させないか、少なくとも審議入りさせてはならない。
●通常国会召集 防衛費増額「反撃能力」各党の主張は 1/23
1月23日は第211通常国会の召集日。
この国会で政府・与党は、物価高騰への対応や防衛力の強化などに向けて、新年度予算案の早期成立を目指す方針です。
これに対し野党側は、防衛費増額に伴う政府の増税方針などを追及する構えで、冒頭から激しい論戦が展開される見通しです。
召集日の1月23日は、天皇陛下をお迎えして開会式が行われたあと、衆参両院の本会議で、岸田総理大臣による施政方針演説など政府4演説が行われます。
施政方針演説で岸田総理大臣は、子ども・子育て政策を最重要政策に位置づけ、次元の異なる少子化対策を実現することや、5年間で43兆円の防衛予算の確保を通じ、防衛力の抜本的な強化を進める方針を示すことにしています。
政府・与党は、新型コロナや物価高騰対策に備えるための費用などを盛り込んだ新年度予算案の年度内成立を図るとともに、脱炭素社会の実現に向けて原発の運転期間を実質的に延長し、最大限活用することなどを盛り込んだ法案などの成立を目指す考えです。
これに対し、野党側は、岸田政権は国会での議論を行わずに重要な政策を次々に決めていると批判を強めていて、防衛費増額に伴う増税の方針や原発の活用を含む今後のエネルギー政策などを追及する構えです。
また、2022年の臨時国会で岸田内閣の閣僚が相次いで辞任したことを受けて、政治とカネの問題や、旧統一教会と政治との関係などをただしていく方針です。
通常国会の会期は、6月21日までの150日間で、4月に統一地方選挙を控える中、通常国会は冒頭から与野党の激しい論戦が展開される見通しです。
通常国会の焦点1 どうなる防衛費増額
防衛力の抜本的な強化に向けて、政府・与党は、新年度から5年間の防衛力整備の水準をこれまでの計画の1点6倍にあたる43兆円程度とするとしていて、2027年度には、防衛費と関連する経費をあわせてGDPの2%に達する11兆円の予算措置を講じる方針です。
これに対し、野党側は、日本維新の会が、GDPの2%の基準まで引き上げることは不可欠で、国際的な責務だとしています。
立憲民主党は、必要な予算を積み上げた結果として一定の増額はありえるとする一方、政府が示している43兆円程度は、数字ありきで合理性に欠けると批判しています。
国民民主党は、必要な防衛費は増額すべきとする一方、予算額ありきではなく、10年程度の期限を区切って徐々に増額すべきとしています。
一方、共産党は、大軍拡につながるとして、防衛費増額に反対しています。
れいわ新選組も、経済対策に最優先で取り組むべきだとして、防衛費増額には反対しています。
通常国会の焦点2 防衛費増額の財源は
防衛費増額の財源について、政府・与党は去年の年末、4分の3は歳出改革などで確保した上で、残る4分の1は、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目で増税を行って賄うとする方針を決定しました。
ただ、自民党内には、増税への反対論も根強く、先週から、党内の特命委員会で、増税以外の財源の上積みを探る議論が始まりました。
これに対し、野党5党は、防衛費増額に伴う政府の増税方針は、国会の審議を経ずに決定されたもので容認できないと反発していて、安易な増税には反対することで一致しています。
通常国会の焦点3 「反撃能力」の議論は
政府・与党は、迎撃によるいまのミサイル防衛だけで敵の弾道ミサイル攻撃などに対応することは難しくなっているとして、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有を打ち出しています。
これに対し、野党側は日本維新の会が、侵略を受けた場合に敵対国を直接攻撃する能力を保有することは、一定の条件のもとで認められるのが当然だとして、保有すべきとしています。
国民民主党は、安全保障環境が厳しさを増す中、アメリカに依存してきた打撃力が十分に期待できる状況ではないとして、保持するとしています。
立憲民主党は、憲法に基づく専守防衛と適合するものにかぎり、反撃能力を保有することは否定していませんが、政府が示す「反撃能力」は、日本への攻撃着手の判断が現実的に困難で「先制攻撃」となるリスクが大きいなどとして、賛同していません。
共産党と、れいわ新選組は、専守防衛の変更につながるものだとして、反対しています。
●警官、自衛官のなり手がいない! 2744集落が消滅! 少子化に打つ手なし! 1/23
人口減が予想を上回るスピードで進んでいる。岸田総理は「異次元の少子化対策」に挑戦するとぶち上げたが、もはや人口は増えないというのが大方の見解である。では私たちにはどんな未来が待ち受けているのか。「若さ」を失い衰退するだけの社会をご案内しよう。【河合雅司/ジャーナリスト】
日本が瀬戸際に追い詰められつつある。人口減少が、政府の予想を上回る勢いで進んでいるのだ。
コロナ騒動の陰に隠れて大きな話題になることはなかったが、実は2019年の年間出生数は前年比で5.8%ものマイナスを記録するという危機的な状況に陥っていた。
年間出生数が100万人を下回る「ミリオンショック」となったのは16年(97万7242人)だが、それからわずか3年後の19年には80万人台に突入する異常な速さで減っていたのである。
加えて、コロナ禍が出生数の減少に一層の拍車をかけた。非嫡出子が少ない日本においては、婚姻件数が減ると翌年の出生数も連動して減る傾向にあるが、新型コロナウイルス感染症が拡大した20年と前年19年を比べると12.3%もの大激減となったのである。21年はさらに4.6%も落ち込んだ。
この結果、21年の日本人の年間出生数は前年より3万人ほど少ない81万1622人となり、22年はついに80万人を割り込む見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は80万人を割り込む年について30年と推計していたので、かなりの前倒しである。
周回遅れの少子化対策
婚姻件数は22年も力強い回復が見られず、出生数の急落傾向は23年以降も続くものとみられる。
新型コロナウイルス感染症をめぐって政府や地方自治体は「高齢者などの命を守るため」としてやみくもに人流抑制を繰り返したが、それは多くの若者の収入を減らし、あるいは出会いの機会を奪った。結果として、将来を展望できなくなった人たちが恋愛の余裕をなくし、結婚や妊娠を思いとどまったのである。未知の感染症であり、やむを得ないところもあるが、「実質的なゼロコロナ」を目指してきた日本社会は取り返しのつかない痛手を負った。
これに対し、岸田文雄首相が出産育児一時金を現行の42万円から50万円へと大幅に引き上げる方針を表明するなど、政府や国会は「少子化対策の強化」に向けた議論を重ねている。
だが、それは周回遅れだと言わざるを得ない。いまさら出産育児一時金の増額や不妊治療の拡充といった対策を講じたところで焼け石に水だからである。出生数の減少ペースを多少緩めるくらいの効果しか期待できない。というのも、出生数の減少は過去の少子化の影響で子供を産める年齢の女性の数が少なくなってきているという構造的な問題によって引き起こされているからだ。
出産可能女性は25年で25パーセント減少
出生数の減少を加速させている要因は複雑である。男女の出会いの機会が減ったことや低収入の若者が増えたことなどが挙げられるが、これらはいまや根源的な要因ではない。しかも、日本にとって深刻なのは、子供を出産し得る女性数がこれから驚異的に減っていくことである。
出産可能な女性がどれぐらい減るのかは、年齢別人口を比較すれば簡単に予測できる。厚生労働省の人口動態統計によれば、2021年に誕生した子供の母親の年齢の85.8%は25〜39歳である。
そこで総務省の人口推計(同年10月1日現在)においてこの年齢の日本人女性数を調べてみると943万6千人だ。一方、25年後にこの年齢に達する「0〜14歳」は710万5千人なので24.7%も少ない。四半世紀で4分の3になるのでは、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供数の推計値)が多少改善したとしても出生数は減り続ける。
人口減少問題と少子化問題は別
出生数の減少が避けられない以上、日本の人口減少は止まらない。万が一、これから爆発的なベビーブームが長期にわたって起きるならば話は別だが、成熟した国家でそれは望むべくもないだろう。われわれは、人口減少は止まらないという「不都合な真実」から目をそらしてはならない。むしろ、人口減少を前提として、それでも豊かな社会を持続していくためにどうすべきかを考えることが求められている。
出生数の減少が避けられないからといって、出産育児一時金の増額などの少子化対策をおろそかにしてもいいというわけではない。今の日本にとっては出生数の減少ペースがわずかばかり緩むだけでも大きな意味がある。ペースが遅いほど、人口減少に取り組むための時間が稼げ、選択肢も増えるからだ。
厚労省の人口動態統計によれば、21年の自然増減数(年間出生数と年間死亡数の差)は62万8234人の減少となり過去最大を更新した。今後も人口減少幅は拡大していく見通しとなっているが、出生数の減少ペースの加速を許したならば毎年の減少幅は政府の想定よりも大きくなるだろう。社人研は総人口が1億人を下回る時期を53年と推計しているが、これもかなり早く到来することとなってしまう。速すぎる減少は社会の混乱を招く。
人口減少問題を考えるとき、中長期的な効果を狙って実施する少子化対策と、現実問題としてすでに進行している人口減少への備えとでは時間軸が異なっており、全く別の政策であるということを間違ってはならない。
政府や国会の議論が周回遅れになっているのは、この点を混同しているからである。両政策の目的や目標を明確に分け、双方に同時進行で取り組んでいくことが大切なのである。
外需依存度の低い国ゆえに…
現在の政策で圧倒的に足りないのは、人口減少への備えのほうである。喫緊の課題であるにもかかわらず、政府や国会が少子化対策ばかりに力点を置いてきたため、ほとんど手つかずできた。
まず取り組むべきは、人口減少によって何が起きるかを正しく理解することである。人口減少社会の未来図をしっかり把握しなければ、人口が減っても経済を発展させ、社会を維持し得る方策を考えることはできない。
人口減少は日本社会をどう変質させていこうというのか。本稿はその一端を展望することにする。まずは経済に与える影響だ。即座に思い浮かぶのは、国内マーケットの縮小や勤労世代(20〜64歳)の減少だ。
日本は外需依存度の低い国である。一般社団法人日本貿易会の「日本貿易の現状2022」によれば、20年の貿易依存度(GDPに対する輸出入額の割合)のうち輸出財は12.7%だ。コロナ禍前の11〜19年を見ても12〜14%台で推移してきた。20年のドイツは35.9%、イタリアは26.3%なので、日本はかなり低い。すなわち、国内マーケットの縮小が経営の打撃となる企業が多いということである。
「ダブルの縮小」
しかも、国内マーケットの縮小というのは単に実人口が減少するだけでは済まない。高齢化率は伸び続けており30年代半ばまでに消費者の3人に1人が高齢者となるが、高齢になると現役時代のようには収入が得られなくなるというのが一般的だ。
一方で「人生100年時代」と言われるほどに寿命が延びたこともあって、今後の医療費や介護費がいくらかかるのか見当がつかず、節約に走りがちだ。収入の低下と老後生活の不安で財布のひもが固くなっているのである。
そうでなくとも、加齢に伴って食べる量が減り、住宅などの「大きな買い物」をする人は少なくなる。今後の国内マーケットは、実人口が減ると同時に1人あたりの消費額が縮小する「ダブルの縮小」に見舞われるのである。
すでに始まっている社会の縮小
すでに社会の縮小は始まっている。コロナ禍による一時的な需要の減少もあって誤解されがちだが、ファミリーレストランやコンビニエンスストアの24時間営業の見直しはコロナ禍前から進められてきたことだ。鉄道会社の終電時間の繰り上げや運行本数の削減もそうである。
一極集中が続き人口減少とは無関係のように思われてきた東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)もいよいよ転換期を迎える。東京都は25年に人口がピークを迎えて本格的な人口減少局面に転換する見通しだ。東京圏以外も含めて政令指定都市も人口減少を記録するところが増えてきた。
東京圏の場合、これから高齢化が一気に進む。21年から40年までに高齢者人口は299万2千人増えるが、このうち東京圏が180万9千人で60.5%を占める。
人口減少が先行している地方の企業には東京圏での販売に活路を見出そうとしてきたところも少なくないが、こうしたやり方は長く続かない。
「シェア100%」でも売上減
「ダブルの縮小」など無関係とばかりに、売上高の拡大を目指してシェア争いにまい進し続ける企業はいまだ少なくない。将来的な需要をどこまで織り込んでいるのか分からないような大規模開発も全国で目白押しである。空き家が問題となる一方で新築住宅はどんどん建てられていく。足元の需要に応えていかなければならないという事情もあるだろう。また、大規模開発の場合には関係する企業が多く、人口が増えていた時代に作成された計画であっても途中で大幅に変更することが難しい面がある。だが、人口減少社会で拡大路線を続けたならば、どこかで行き詰まる。
「ダブルの縮小」が続く以上、売上高を拡大しなければ利益を増やすことのできない経営モデルは続かないのだ。シェア争いに勝利したとしても展望は開けない。仮に「シェア100%」を達成できたとしても、消費者数が減れば売上高は減っていく。日本経済に余力が残っているうちに、相当思い切って経営モデルを変えなければ倒産や廃業に追い込まれる企業が続出することとなる。
送配電工事で人材不足が深刻化? 
勤労世代(20〜64歳)の減少も社会を停滞させ、企業経営を大きく変える。
勤労世代は旺盛な消費者でもある。例えば、住宅や自動車を購入し始める30代前半の人数を、過去の年間出生数を基に計算すると、今後30年で3割ほど少なくなる。どちらも裾野が広い産業だけに、この減り方は日本経済にかなりのインパクトを与えることだろう。「20年後の20歳人口」もおよそ3割少なくなる。新規学卒者がここまで減ったのでは、あらゆる分野で人手不足が深刻化する。
大企業であっても求める人材を十分獲得できないところが出てこよう。技術者が少なくなれば、さまざまな機器のメンテナンスが遅滞する。
中でも社会への影響が大きそうなのが送配電工事だ。鉄塔の老朽化が進み建て替え需要は大きくなってきているが、巡視や保守を含めた作業は重労働で人手不足が常態化している。
政府は原子力発電所の新増設や建て替えは「想定していない」としてきた方針の転換を図る構えを示すなど「発電の在り方」ばかりに力を入れているが、送電網の老朽化対応が停滞したのでは脱炭素化どころか電気の安定供給がままならなくなる。
「若い力」の不足
新規学卒者の減少による人手不足は公務員も例外とはいかない。市役所や町村役場は45年には必要とする職員数の8割程度しか確保できなくなるとの民間シンクタンクの予想もある。
さらに警察官や自衛官、消防士といった「若い力」を必要とする職種で人手不足が深刻化すれば、日本が誇ってきた安全神話は崩壊につながる。警視庁は42年には警察官の4割が50歳以上になると推計している。
自衛隊は定年退職後の再任用者を部隊などでも活用する方針だ。防衛力強化のための財源をめぐり政府・与党内で激しい議論が起きているが、このまま少子高齢化が進んでいったならば、「60代の退職自衛官が80〜90代の国民を守るために命懸けで戦う」といった日が来るかもしれない。
若者の減少は日本の労働慣行も大きく変え、年功序列による人事制度を崩壊させることだろう。年功序列は退職する人と同規模かそれ以上の新人が入ってくることを前提としているためだ。
多くの企業は人手不足を定年延長や再雇用の拡大で補おうとしているが、年功序列の人事制度を残したままでは、賃金の上昇カーブを全体として抑えざるを得ない。そうなれば若い世代ほど割を食い、閉塞感が広がる。転職者も増えるだろう。結果として終身雇用も崩れ、成果主義的な人事評価制度が広がることとなる。すべてで人手が足りなくなる人口減少社会は、雇用の流動化が必然的に進む社会でもある。
そうでなくとも、デジタル技術が急速に進歩・普及し、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が不可避となっている。リスキリングをはじめとして従業員個々人の能力アップが問われ、かつてのように「勤務年数の長さ=職能の高さ」とはいえなくなってきた。入社年次に必要以上にこだわる制度が続くはずがない。
イノベーションが生まれなくなる
若者の減少は、日本からイノベーションも奪っていく。「新しいこと」「楽しいもの」は若者の無鉄砲とも思える挑戦と失敗の中から誕生することが多い。だが、人手が少なくなると社会は失敗に不寛容となる。勤務経験の浅い人に対して、新しいことへの挑戦より目の前の成果を出すことを求めるようになったならば、どんな優秀な若者であっても力を存分に発揮できない。こうなると組織はマンネリズムに支配されることとなる。
資源小国にとって技術力の衰退や新しき発想の欠如は致命的だ。人口減少の最大の弊害は、日本社会が「若さ」を失うことにあるといってよい。
2744集落が消滅
人口減少は地域社会にも深刻なダメージを及ぼす。鉄道の赤字ローカル線の存廃問題が急浮上している。都市圏での乗客数の減少に苦しむJR各社に経営上の余裕がなくなってきたことが理由だ。一方、廃線をきっかけとして人口流出が加速することを恐れる沿線自治体からは存続を求める声が上がっており、路線バスへの転換ではなく、地方自治体などが施設や車両を保有し、鉄道会社は運行のみを担う「上下分離方式」を模索する動きもある。
だが、鉄道の存続か路線バスへの転換かは本質的な問題ではない。どちらにせよ、利用者が増えなければ持続できないからだ。すでに代替の路線バスまで廃止になったケースが出てきている。ここで問われているのは、地域の商圏人口なのである。
ローカル線の赤字問題は鉄道会社特有の事例ではない点にも気付く必要がある。「今日の鉄道」は「明日の水道や電気」の姿なのだ。
「地方」といっても、過疎地域ほど人口の減るスピードは速いが、人口減少が進めばそうした地域は全国各地にどんどん増えていく。総務省の「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査(最終報告)」(19年度)によれば過疎地域の集落の総数は6万1511で、15年度の前回調査と比べて0.6%(349集落)減った。人口にすると6.9%(72万5590人)減だ。このうち139の集落は無人化した。住民の半数以上が65歳以上という限界集落は22.1%から32.2%へと増加しており、2744集落はいずれ消滅すると予測されている。
簡単には撤退できない
過疎化が進み商圏人口が少なくなれば、民間事業者は経営を維持できなくなり撤退を始める。水道や電気などの公共サービスは人口が減ったからといってただちに撤退するわけではないが、利用者が減れば事業者の収入が減るという点においては一般の民間事業と違いはない。
簡単に撤退できない以上、値上がりは避けられなくなる。EY新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構事務局がまとめた「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?」(21年版)は、1カ月あたりの平均料金について18年の3225円から、43年には1.44倍の4642円へと1400円ほど上昇すると予測している。
事業の性質上、コストの削減には限界がある。過疎地域に1軒でも利用者があればメンテナンスを続けなければならないためだ。水道管など設備の点検や修繕は商圏人口の減少に合わせて単純に縮めるわけにはいかない。こうした制約がある中で過疎エリアが広がり利用者が減り続けたならば、経営効率はどんどん悪化していく。
人口稠密(ちゅうみつ)地と過疎地を比較して1世帯あたりにかかるコストに大きな差が出てくれば、人口稠密地の利用者の中に「本来負担すべき額より多く支払っている」と感じる人が現れても不思議ではない。過疎地の住民に対して「受益者負担」を求める声へとつながることも考えられる。
人口減少社会でこれから起きることの一端を明らかにしてきたが、このままでは社会を根底から覆す大変化がわれわれを待ち受ける。発想を大きく切り替え、覚悟を決めて大胆に社会の仕組みを変えていかなければ、日本は沈むこととなる。  
●「危機管理欠如」か「パフォーマンス」か 岸田首相ウクライナ訪問報道=@1/23
岸田文雄首相が、2月中にウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と首脳会談を行う方向で本格的な検討に入ったという報道が飛び出した。ロシアによる昨年2月の侵攻後、英国のボリス・ジョンソン首相(当時)や、フランスのエマニュエル・マクロン大統領らがキーウを訪ねているが、戦争中だけに予告なしの電撃訪問で到着後の発表だった。首相の戦地訪問という情報が、事前に報じられる岸田政権の情報管理体制は大丈夫なのか。通常国会開会中でもあり、別の意図も推測されている。
「首相、キーウ訪問検討」「ゼレンスキー氏会談へ」「戦況見極め最終判断」
読売新聞は22日朝刊の1面トップで、このような見出しでスクープした。岸田首相は、G7(先進7か国)議長国として、ウクライナの支援継続を主導していく意向を表明するという。
記事では、ウクライナの隣国ポーランドを経由する形での陸路で入国する行程が有力とし、通常国会(23日召集)の審議に影響しないよう週末を活用する方向などと記されていた。
ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアが昨年2月、国際法を無視してウクライナへの侵攻を始めて以降、欧州各国の首脳は現地を訪れ、支援を表明している。
国連安全保障理事会常任理事国や、G7の首脳として昨年4月9日、最初に訪問した英国のジョンソン氏は、予告なしの「電撃訪問」だった。
フランスのマクロン氏、ドイツのオラフ・ショルツ首相、イタリアのマリオ・ドラギ首相(当時)による同6月16日のウクライナ訪問も、仏大統領府が発表したのは当日だった。
当時の報道をみると、米CNNは「取材班が現場で確認した」とまで伝えている。それだけ、一国の首脳が、戦地であるウクライナに行くことは安全保障上、重大な情報である。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「通常、首脳の安全面を考えると、事前に旅程を発表することは考えられない。ロシアからすると、(敵国や敵対国の)首脳2人を一度に狙えるチャンスとなる。日本やウクライナとしては、岸田首相に加えて現地で出迎えるゼレンスキー氏の安全も考えないといけない。ゼレンスキー氏が昨年12月に米国を電撃訪問した際には直前に情報が洩れ、共和党が厳しく批判していた。ポーランドから陸路でウクライナに向かうとすると、警護はNATO(北大西洋条約機構)軍が行うことになるが、そちらの安全にも響いてくる。岸田首相が本当に行くつもりで報道されたとしたら、『安全管理』や『情報管理』の面で問題がある」と話す。
岸田首相は9〜15日、欧米5カ国を歴訪した。この直前、ウクライナ大統領府は、岸田首相のウクライナ訪問を招請した。このため、歴訪中の「電撃訪問」の可能性がささやかれたが、結局、見送られた。
政治学者の岩田温氏は「平和な地域を訪問するわけではない。政府の意思とは別に、訪問検討が漏れたとすれば、首相の安全や、情報管理など、危機管理上、問題がある」といい、次のように語った。
「きょう(23日)に通常国会が召集された。日本の場合、会期中は首相以下、閣僚が予算委員会に出席する必要がある。国会に諮ることになる。地域の危険性や、国会のスケジュールからみても、現実的に訪問できるのかかなり疑問だ。訪問したい思いはあるとしても、現実に訪問できないことを見据えてリークし、岸田政権が『訪問できなかったが、行く気はあった』と示すためのパフォーマンスの可能性もあるのではないか」
現在でも、ロシア軍のキーウに対するミサイルや自爆型ドローンによる攻撃は続いている。
前出の島田氏は「欧米歴訪の際、『なぜ、ウクライナに電撃訪問しなかった』という批判も一部で聞かれた。国会でも追及される恐れがあるため、その動きを牽制(けんせい)する狙いがあるのかもしれない。万が一、国会対策のために外国の首脳の安全にまで関わる情報を漏らしたとしたら、何が重要かを分かっておらず問題だ」と語った。
●基礎的収支均衡、25年度達成へ「歳出入両面で改革」=鈴木財務相 1/23
鈴木俊一財務相は23日の財政演説で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字を2025年度までに解消するため「歳出、歳入両面の改革を着実に推進していく」と述べた。経済再生と財政健全化の両立を図ることが重要との認識も示した。
日本の財政状況については、新型コロナ対応や累次の補正予算編成で「例を見ないほど厳しさを増している」と指摘した。
鈴木財務相は「財政は国の信認の礎」との認識を改めて示し、「日本の信用や国民生活が損なわれないようにするため、平素から財政余力を確保しておくことが不可欠」と強調した。
財政演説では、防衛力強化を念頭に「戦後日本が直面し、積み残してきた多くの難しい問題の解決を図っていく」との考えも述べた。日本経済を立て直し、財政健全化に向けて取り組んでいくことで「豊かな日本社会を次の世代にしっかりと引き継いでいかなければならない」と語った。
●「未来を切り拓くための予算」鈴木財務大臣が財政演説で早期成立求める 1/23
鈴木財務大臣は財政演説を行い、過去最大となるおよそ114兆円余りとなった令和5年度の予算案について、「歴史の転換期に重要課題の解決に道筋をつける未来を切り拓くための予算」だとして、速やかな成立への協力を求めました。
政府は、きょうの閣議で、一般会計の総額が114兆3812億円となる、過去最大の来年度予算案を通常国会に提出しました。
鈴木財務大臣は財政演説で、「令和5年度予算は歴史の転換期にあって重要課題の解決に道筋をつける未来を切り拓くための予算」だと強調しました。
また、「財政は国の信頼の礎で財政余力を確保しておくことが不可欠」として、2025年度にプライマリーバランスの黒字化を達成する目標にむけて、歳出・歳入両面の改革を着実に進めると述べました。
来年度予算案のうち、「防衛費」は防衛力の抜本的な強化のため、6兆7880億円と今年度より1兆4192億円増えているほか、将来の防衛力強化に充てる「防衛力強化資金(仮称)」として3兆3806億円を計上しました。
社会保障費も高齢化などで、36兆8889億円と今年度より6154億円増えています。
新型コロナや物価高騰対策の予備費として4兆円、ウクライナ情勢に対応するための予備費、1兆円と合わせて5兆円が計上されていて、こうした巨額な予備費についても国会で議論となりそうです。
なお、借金にあたる新規の国債発行額は今年度の当初予算より1兆3030億円減りますが、歳入の3割以上を国債に頼る構図は変わっておらず、厳しい財政状況が続いています。
●物価高克服し、経済成長へ 鈴木財務相が財政演説 1/23
鈴木俊一財務相は23日、2023年度予算案の国会提出を受け、衆参両院の本会議で財政演説を行った。
鈴木氏は「物価高を克服しつつ、日本経済を民需主導で持続可能な成長経路に乗せていく必要がある」と述べ、早期成立への協力を呼び掛けた。
防衛費増額や物価高対策に伴い、過去最大の114兆円台に膨らんだ23年度予算案に関しては、「重要課題に正面から向き合い、一定の道筋を付けた」と強調した。
財政状況を巡っては、新型コロナウイルス対応や度重なる補正予算編成によって、「過去に例を見ないほど厳しさを増している」と指摘。その上で「有事であっても日本の信用や国民生活が損なわれないようにするため、平素から財政余力を確保しておくことが不可欠だ」と訴えた。 
●ウクライナ融資、最大6850億円「保証」 世銀に国債拠出 1/23
政府は23日、世界銀行によるウクライナへの融資の実質的な保証額が最大6850億円になると明らかにした。財政支援に向け、政府は今国会への関連法の改正案提出を目指している。2023年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国として、米欧が先導してきたウクライナ支援の枠組みを強化する。
23日に国会提出した23年度予算案の予算総則に、円換算の上限額を6850億円とすると記した。ドル建てで50億ドル。政府は外貨建ての支出のための為替レートを定めており、23年度は1ドル=137円としている。実際の金額は関連法案などの成立後に、世銀と調整する。
世銀のウクライナ融資は一国に対する上限額に迫りつつある。世銀グループの国際復興開発銀行(IBRD)がウクライナ融資の信用リスクを移転する基金を新設し、日本は基金に対して「拠出国債」と呼ぶ特殊な国債を発行する。万一の際の債務負担を約束する。信用を補完し、世銀の融資の余地を広げる。
政府は関連法の改正で、基金に拠出国債を出せるようにする。拠出国債は相手の求めに応じて現金化する小切手のような仕組みで、市場には流通しない。世銀は他の債権者より優先的に返済を受けられるため、日本が実際に財政負担する可能性はほぼないとみられている。
●物価上回る賃上げ実現へ、経済次第で機動的に政策運営=後藤経財相 1/23
後藤茂之経済財政相は23日の経済演説で、足下の物価上昇を上回る賃上げ実現に万全を期すとともに、経済状況次第ではデフレ脱却に向け、機動的な政策運営を行う意思を示した。
後藤経済財政相は「物価上昇に負けない継続的な賃上げの実現に向け、賃上げに取り組む中小企業等への支援を大幅に拡充するとともに、価格転嫁対策を強化する」と述べた。
同時に「経済状況等を注視し、民需主導の自律的な成長とデフレからの脱却に向け、躊躇なく機動的なマクロ経済運営を行う」と述べ、経済の下振れリスクに十分対応する姿勢も見せた。
政策運営の姿勢として「経済あっての財政であり、順番を間違えてはいけない。必要な政策対応に取り組み、経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に取り組む」との原則を改めて確認した。
賃上げが物価上昇に追いつかず実質賃金が前年比でマイナスの状況が続いている一方、賃上げの実現には生産性の向上が必要である点を踏まえ、「失業なき労働移動を進め、構造的な賃上げを実現していくため、労働円滑化のための指針を6月までに取りまとめる」と強調した。
通商政策について、日本が「自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮してきた」と指摘。 環太平洋経済連携協定(TPP )への英国加入を踏まえ「その他の加入要請を提出しているエコノミーについても、協定の高いレベルを満たす用意ができているかについて、引き続き見極めている」とし、さらなる拡大への意欲を表した。
●「建設国債の買いオペ」は実行可能か――国債の「60年償還ルール」 1/23
防衛費の増額分の財源確保の問題をめぐって、国債の「60年償還ルール」のことが話題になっている。このルールを見直せば、「埋蔵金」が発掘できて増税なしで防衛財源が確保できるという話もあるようだが、そのようなことは実現するのだろうか。以下ではこの点について論点整理を行い、それを踏まえて財政運営をめぐる課題について考えてみることとしたい。
あらかじめ記しておくと、60年償還ルールをめぐる議論をながめるうえでの大事なポイントは、財源不足を補填する手段という財政運営の面から見た場合の「国債」と、国が資金調達をするために発行する債券(金融商品)としての「国債」をきちんと分けて考えるということだ。赤字国債・建設国債というのは前者(財政面)から見た場合の国債の区分であり、短期国債・長期国債というのは後者(金融面)から見た場合の国債の区分である。
この両者の違いを意識的に分けて考えると、議論の見通しがよくなる。まずはこの点を確認するために、「建設国債の買いオペ」について考えてみよう。
1.「建設国債の買いオペ」は実行可能か
10年前、「日銀に建設国債を買ってもらう」という安倍晋三自民党総裁(当時)の発言が話題になったことがあった(2012年11月17日の熊本市での講演における発言)。この発言については、日銀に国債の引き受けを求めるのかという批判があったことから、日銀による建設国債の買い入れを求めたものだという趣旨の補足説明がなされたが、日銀引受ならともかく、日銀がオペ(公開市場操作)で建設国債のみを選択的に買い入れるというのは、とても厄介な作業である。
というのは、市場では建設国債と赤字国債を分けて国債の取引がなされることはなく、発行根拠法のいかんによらず10年債は10年債として取り扱われているからだ(場合によっては同じ銘柄の国債が、発行根拠法からすると建設国債でもあり、赤字国債でもあり、借換債でもあるということもある。たとえば、2022年3月に発行された第365回債)。
上記の補足説明では「建設国債が発行できる範囲の中で買いオペを進めていく」との例示もなされたが、もし仮にこの方針にそって国債を買い入れることにしていたら、「異次元緩和」(量的・質的金融緩和)はほどなく買い入れの壁に直面して、これほど長い期間にわたって続けられなかっただろう。建設国債の年間の発行額は6兆円程度しかなく、「長期国債の保有残高を年間約50兆円(2014年10月以降は約80兆円)のペースで増加させる」という買い入れの規模には耐えられないからだ(たとえば建設国債が10年債として発行された場合、10年経って借り換えが行われる際に発行される国債は建設国債ではなく借換債となるから、この点を踏まえると既発行の分を含めても建設国債を十分なロットで確保できないことに留意)。
このエピソードは、財政運営において財源不足を補填する手段として利用される「国債」の話と、金融商品として市場で流通している「国債」の話をひとまず分けて考えないと、議論が混乱するもとになるということを物語るものだ。となれば、まずは財政面から見た国債と、金融面から見た国債の概要を整理しておくことが、議論の見通しをよくすることに役立つだろう。
   建設国債・赤字国債・借換債
いま発行されている普通国債の大半は建設国債と赤字国債(特例国債)と借換債である(この他に、東日本大震災の復興財源を確保するために発行される復興債などがある)。財政法では国債発行が原則として禁止されているが(第4条)、公共事業費と出資金、貸付金の財源としては国債発行が認められている(第4条ただし書き)。この規定に基づいて公共事業費の財源をまかなうために発行される国債が建設国債である。
もっとも、実際には建設国債の金額をはるかに上回る規模の赤字国債が発行されている。法律は法律によって変えられるから、財政法第4条の規定にかかわらず国債発行を可能とする法律(特例法)をつくれば、赤字国債の発行が可能となるからだ。これが特例公債法に基づく国債発行であり、このようにして発行される国債は法律の名称に因んで特例国債と呼ばれることもある(こちらのほうが正式名称である)。
建設国債も赤字国債も実際に発行される債券としては5年債、10年債などの形で発行されることになるが、発行された国債の償還時には新たに国債を発行して財源を確保することが必要になる。この目的で発行される国債が借換債(借換国債)であり、この国債は国債整理基金特別会計において発行されることとなっている(特別会計に関する法律第46条)。
ここで留意が必要なのは、建設国債と赤字国債の間に、一般に持たれている印象ほど大きな違いはないということだ。財政運営の面からいうと、これらの国債の償還についてはいずれも「60年償還ルール」が適用されており(この点については後半で詳述)、発行や償還について両者の間の取り扱いが異なることもない。あり体にいえば、一般会計(国の基本的な予算を経理する会計)の財源不足をまかなうために発行される国債のうち公共事業費の金額に相当する分を「建設国債」、それ以外の分を「赤字国債(特例国債)」と呼んでいるに過ぎないということになる。
   中期国債・長期国債・超長期国債
建設国債と赤字国債はあくまで財政制度上の区分の仕方であり、実際に金融商品(債券)として国債が発行される際には、建設国債と赤字国債は一体のものとして取り扱われる(借換債についても同様)。この意味においても建設国債と赤字国債の違いは、一般に思われているほど大きなものではない。もちろん、国債の発行にあたっては、根拠法が財政法なのか(建設国債)、特例公債法なのか(赤字国債)、特別会計法なのか(借換国債)が入札時に公表されるが、同一の銘柄の国債が複数の根拠法に基づいて発行されることもしばしばあり、市場では財政上の区分は特に意識されることなく国債の発行・流通が行われている。
国債の取引においてむしろ大事なのは、その国債の年限が何年で、償還日がいつで、利回りがどのような水準になっているかということだ。年度内の資金繰りなどのために発行される短期国債(国庫短期証券)を除くと、普通国債は中期国債(2年・5年)、長期国債(10年)、超長期国債(20年・30年・40年)の形で発行されている。
   「建設国債の買いオペ」は実行できるか
このようにみてくると、「建設国債の買いオペ」は、やろうと思えばできないわけではないが(発行される各銘柄の国債について発行根拠法が明示されているため)、建設国債だけを選り分けて日銀が買い入れを行うことに実質的な意味はなく(そもそも建設国債と赤字国債の区分が今では形式的なものとなってしまっているため)、このようなことを行うことのコスパ(費用対効果)は著しく低い(金融調節という点からはどの年限の国債をどれだけ買うかが大事なのであって、買い入れる国債が建設国債であるか赤字国債であるかはどうでもよいことであるため)ということになる。
ここで心配されるのは、「60年償還ルール」の見直しをめぐる議論も同じような「財政錯覚」に陥っていて、そのために議論の混乱が生じていたりすることはないのだろうかということだ。そこで、以下ではこの点について考えてみることにしよう(なお、財政の話なので毎年の予算・決算については「年度」という表記を用いるのが一般的であるが、記述が徒に煩雑になるのを避けるため、以下では「年」と表記することを基本とする)。
2.「60年償還ルール」の見直しで「埋蔵金」は生まれるか
   60年償還ルールとは
建設国債と赤字国債については(借換債を含む)、その発行残高の1.6%に相当する金額を償還財源として毎年の一般会計予算において確保し(国債費の一部)、それを国債整理基金特別会計に繰り入れることで(定率繰入)、発行された国債を60年間で計画的に償還するという仕組みがある。これが国債の「60年償還ルール」の基本をなすものだ(実際に計算するとわかるように、この定率繰入のみでは国債の現金償還に必要な金額を60年で確保できないが、不足分については剰余金の繰り入れなどによる補填を行うことで、事実上の60年償還が確保されている)。
もっとも、ここで留意が必要なのは、現状では定率繰入の財源が税収ではなく国債発行によってまかなわれているということだ。つまり、「貯金(国債整理基金への繰り入れ)をするために借金(国債発行)をする」という状況が生じているわけであり、このような対応の仕方が資産負債管理の観点かららみて適切なものといえるのかという点については、改めて考える必要があるということになるだろう。
   見直しで新たな財源は確保できるか
「貯金をするために借金をする」というのが合理的な対応といえるかは、その時々における資金の運用と調達の状況によるため一概にはいえないが、もしこのようなやり方が非効率なものとなっているということであれば、「貯金をやめ、そのための借金もやめる」というのも一案といえるかもしれない。
地方自治体が赤字地方債(臨時財政対策債)を発行する一方、基金への積み立てを行っていることについて、以前(2017年)、財務省から問題点の指摘がなされたことがあったから、そのことに即して考えると、赤字国債を発行する一方で国債整理基金への繰り入れを行っていることの妥当性についても同様の精査が必要となるだろう。国債整理基金への定率繰入をやめれば、その分だけ国債費として確保すべき財源の額が減り(その分だけ歳出総額の圧縮が可能になる)、その結果、赤字国債の発行を減らすことができるようになる。
だが、話はここで終わらない。新たに借り入れを起こして工面したお金(定率繰入によって確保された国債償還の財源)は、過去に借りたお金の返済(既発債の償還)に充てられているからだ。60年償還ルールや定率繰入の有無にかかわらず、過去に発行した国債の満期は必ずやってくる。これは発行した国債が10年債であれば10年、20年債であれば20年で必ず生じるものであり(これは金融商品としての国債の性質から自然にしたがうものである)、定率繰入がなくなれば、それによって不足する償還財源は借換債の増発でまかなう必要が生じることになる。
したがって、60年償還ルールをなくすと赤字国債の発行はたしかに減るが、それに見合う分だけ借換債の発行が増えることになるから、総じてみると国債の発行額は減らないということになる。このような状況のもとでは、60年償還ルールの見直しによってただちに財政に余力が生じるということはなく、したがって「埋蔵金」の発掘を通じた新たな財源の確保もできない。
ではなぜこうしたもとにあっても「60年償還ルールを見直せば…」という話が盛り上がるのかといえば、それは伝統的に用いられてきた「財政赤字」の定義が歪んでいるからだ。
3.財政運営ルールの正常化に向けて
ここまで見てきたことからわかるように、「60年償還ルール」の見直しは新たな財源を生み出すことにはつながらないが、見直しそのものは債務を膨らませる要因ともならないものだ。この点からすると、「貯金をするために借金をする」ということが資産負債管理の観点から見て非効率であれば60年償還ルールと定率繰入を見直せばよく、そうでなければあえて見直す必要はないという程度の話ということになる。
それにもかかわらず、60年償還ルールの見直しが大きな話題となるのは、見直しによって赤字国債の発行が減る分だけ借換債の増発が生じるということへの認識がなく(あるいはそのことが意図的に無視されて)、定率繰入の分だけ赤字国債の発行を減らすことができるということが強調されるためだ。60年償還ルールを見直せば財政に余力が生じる(「埋蔵金」が発掘できる)という議論は、この話の延長線上にある。
もっとも、このような話が盛り上がるのは、伝統的に用いられてきた財政赤字の定義が歪んでいることによるものだ。その歪みを適切に補正したり、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を財政赤字の指標として利用するということをきちんとやれば、この問題は解消できることになる。
   「財政赤字」についての不思議な定義
財政赤字についてはしばしば不思議な定義が登場する。それは新規国債発行額(公債金収入)、すなわち「国債費を含む歳出と税収・税外収入の差額」を財政赤字の指標とするものだ。
国債費(国債の償還や利払いに要する経費として歳出に計上される費目)のうち債務償還費相当分は国債整理基金への繰り入れに充てられるものであり、現状ではその財源は国債発行によってまかなわれているが、財政赤字の額を算定する際にこの分を歳出に含めると、赤字が過大に計上されてしまうことになる。「お金を借りてそのお金を貯金する」という操作によって債務残高が増えることはなく(見かけ上の債務残高は増えるが、この場合は金融資産も増えていることに留意)、債務を増やす要因とはならないものを「赤字」として認識する必要はないにもかかわらず、それを含めて財政赤字の額を算定していることになるからだ(このような歪みが生じることがないよう、IMFの統計では適切な調整がなされている)。
したがって、新規国債発行額(公債金収入)をもとに財政赤字の額を算定するのであれば、新規国債発行額から債務償還費相当分を控除した額を利用しなくてはならないということになる。
このことは政府債務残高の定義についても同様にいえる。政府債務残高については政府の保有する金融資産を控除しない総債務(粗債務)の指標がしばしば用いられるが、政府による「貯金」の効果を適切に評価するには、金融資産を控除した純債務を債務残高の指標として用いることが適切である。G7(先進7か国)の中で日本は政府金融資産の保有額が顕著に多いため、そのことを適切に考慮したうえで国際比較を行わないと、財政状況の把握に歪みが生じてしまうおそれがあることに留意が必要となる。
   財政運営ルールの正常化に向けて
上記の点については令和3年度(2021年度)予算から、財務省の予算説明資料において適切な改善がなされている。それは「予算フレーム」の資料において歳出側の国債費について内訳(債務償還費と利払費)の金額が明示され、歳入側でも公債金収入(新規国債発行額)について同様の取り扱いがなされるようになったことだ。
こうしたもとで、「債務償還費相当分を財政赤字に含めるのは赤字を過大に計上していることになる」ということについての適切な認識が広まっていけば、その反射的な効果として、「60年償還ルールを見直せば新たな財源を生み出すことができる」ということにはならないということも適切に理解されるようになるだろう。もちろん、このことは防衛費の増額分を税と国債のいずれで調達すべきかという議論とは別の問題であり、両者はきちんと分けて考える必要がある。
ここまで、防衛費の財源確保をめぐる議論を踏まえつつ、「60年償還ルール」の見直しと財政運営をめぐる課題について論点整理を行ってきた。財政をめぐる問題については、財政状況を懸念する側からも、財政出動を志向する側からも、ともするとやや極端な議論がなされがちなところがあるが、落ち着いた環境のもとで堅実な議論がなされていくことが望まれる。 

 

●「次元の異なる少子化対策を実現」、岸田首相が施政方針演説 1/23
岸田文雄首相は23日、衆議院本会議で施政方針演説を行い、日本の持続性や社会的包摂を考える上で「子ども・子育て政策」は最重要政策だとし、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と意気込みを語った。防衛力の抜本的強化や「新しい資本主義」の前進に向け、予算案や法案を野党とも正面から議論し実行に移していくとも述べた。
歴史の分岐点に立つ日本
首相は冒頭、近代日本にとって、明治維新と、その77年後の大戦の終戦が大きな時代の転換点となったと指摘し、「奇しくもそれから77年が経った今、我々は再び歴史の分岐点に立っている」と語った。
ロシアのウクライナ侵略が法の支配による国際平和秩序を揺るがし、国連の安全保障理事会は機能不全に陥っている。気候変動や感染症対策など地球規模の課題、世界中で生じている格差なども待ったなしの問題だとし、5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)の成功を含め、G7議長国として世界を先導していく決意を示した。
積極的な外交を優先させつつ、防衛力も抜本的に強化する。首相は、日本の安全保障政策の大転換となるが「憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としてのわが国としての歩みをいささかも変えるものではない」と改めて説明した。
また、日本の外交の基軸は日米関係だとし、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するとともに、サプライチェーンの強靭化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野の連携に取り組むとした。
物価上昇を超える賃上げを改めて強調
経済面では、社会課題の解決と成長を同時に実現する「新しい資本主義」を前に進める。まずは補正予算の早期執行で足元の物価高に対応。経済を立て直し、財政健全化に取り組むと語った。
首相は、企業が収益を労働者に分配し、消費が伸びて経済成長するという好循環のカギを握るのが賃上げだと指摘。足元で物価上昇を超える賃上げが必要だと改めて強調した。中小企業の賃上げ実現に向け、下請け取引の適正化や価格転嫁の促進といった対策も強化すると語った。
ロシアが原油や天然ガスなどの供給を「武器」に利用する中、エネルギーの安定供給も課題となる。安全確保と地域の理解を大前提としつつ、原発の次世代革新炉への建て替えや、運転期間の一定期間の延長を進めると語った。国が前面に立って最終処分事業にも取り組むという。
6月までに子ども・子育て予算倍増に向けた大枠提示
急速に進展する少子化によって、日本の昨年の出生数は80万人割れが見込まれている。首相は「わが国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と問題意識を示し、「子どもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」と語った。
首相は、子ども・子育て政策について「最も有効な未来への投資だ」とも指摘。4月に発足する「こども家庭庁」のもとで体系的に政策を取りまとめつつ、「6月の骨太方針までに将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と表明した。
憲法改正も先送りできない課題
首相は、憲法改正も「先送りできない課題」と位置付けた。「今国会で制定以来初めてとなる憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待する」と語った。
首相はまた、旧統一教会との関係や、政治とカネなど、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民から厳しい声が出たことを重く受け止めていると語った。日本を次の世代に引き継いでいくため、課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くしていくと締めくくった。  
●首相が施政方針演説で強調した「防衛費増」…その財源は何?  1/23  
岸田文雄首相は23日の施政方針演説で「5年間で計43兆円の防衛予算を確保する」と強調しました。少子高齢化で増え続ける社会保障費や借金(国債)返済で財政が逼迫ひっぱくする中、防衛費増額の財源をどう賄おうとしているのかをまとめました。(山田晃史)
財源未定の2.5兆円は「さまざまな工夫」で
Q 防衛予算の規模は大きくなるのですか。
A 政府は先月、2023年度から5年間で総額43兆円となる防衛力整備計画を決めました。現行計画に比べて1.6倍の規模で、17兆円の追加予算が必要です。そのうち、14兆6000億円の想定財源は決まっていますが、残り2兆5000億円は未定で「さまざまな工夫」で確保するとなっています。
Q 現段階で想定されている財源は。
A (1)支出を効率化する歳出改革で3兆円強(2)予算の使い残しのうち翌年度に繰り越されなかったお金(決算剰余金)から3兆5000億円(3)特別会計の剰余金や国有財産の売却など税外収入で4兆6000億〜5兆円強(4)法人税や所得税の増税で残りの金額—を賄います。27年度以降も年4兆円ほどの追加財源を確保するとしています。
Q 想定通りうまくいくのでしょうか。
A 決算の剰余金は毎年平均で1兆4000億円あり、半分を国債の返済、残りを防衛費に充てる計画です。しかし、23年度予算案では前年度の大型経済対策に剰余金を充てたので、防衛費には使えませんでした。今後は剰余金を防衛費に充てますが、経済対策にお金を使うと玉突きの形で、防衛費増を賄うために借金が増える事態も考えられます。
Q ほかに問題は。
A 歳出改革は23年度に2100億円をひねり出しましたが、この水準を毎年続けるのは困難といえます。財務省幹部は社会保障費が毎年増える中「簡単に達成できるわけではない」と認めます。税外収入は23年度に1兆2000億円使い、3兆4000億円ほどを防衛力強化資金として翌年度以降の支出に備えます。ただ、継続的に収入を探すのは簡単ではありません。
Q 増税はいつからですか。
A 24年以降ですが、具体的には決まっておらず、経済や政治の状況に左右されそうです。増税への反発が強い自民党では、政府の借金返済を先延ばしするなどのルール変更で、防衛財源にする議論が始まり、増税回避を探る声も出ています。  
●首相、施政方針演説「次元の異なる少子化対策」 最重要と位置付け 1/23
第211通常国会が23日召集され、岸田文雄首相は衆院本会議で施政方針演説に臨んだ。子ども・子育てを「最重要政策」に位置づけ、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と表明。必要財源の確保に向け、社会保険料の引き上げを模索する考えを示唆した。会期は6月21日までの150日間。
首相は、2022年の出生数が80万人を割るとの見通しに触れ、「我が国は社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況」だと強調。「子ども・子育て政策への対応は待ったなし」だとし、出生率の反転に努める考えを示した。政府は1児童手当を中心とした経済的支援強化2子育て家庭向けのサービス拡充3仕事と育児の両立促進――に取り組む方針だ。
高等教育の負担軽減に向け、出世払い型の奨学金制度を導入すると説明。4月発足の「こども家庭庁」で必要な施策を体系的に取りまとめつつ、6月までに「将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と語った。
数兆円必要になるとみられる追加財源の確保に向け「各種の社会保険との関係、国と地方の役割などさまざまな工夫」を図るとし、社会保険料の見直しを念頭に置く構えを示した。
新型コロナウイルス対策では、今春にも感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げる方針を説明した。政府は今後の感染症危機への備えとして内閣感染症危機管理統括庁の設置法案を今国会に提出する。
物価高対策に引き続き取り組むとし「物価上昇を超える賃上げが必要」だとも強調。持続的な賃上げ環境整備に向け1リスキリング(職業能力の再開発)による能力向上支援2日本型職務給の確立3成長分野への円滑な労働移動――といった労働市場改革を進めるとした。
リスキリングについては企業経由が中心の在職者向け支援を個人への直接支援中心に見直す。「6月までに日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルを示す」とも語った。
エネルギーの安定供給に向け「多様なエネルギー源を確保しなければならない」と強調。安全確保と地域の理解を前提に「廃炉となる原発の次世代革新炉への建て替え」や「原発の運転期間の一定期間の延長」を進めるとした。
防衛費増額や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に理解を求めた。27年度以降、年1兆円強不足する防衛費増の財源を巡っては「今を生きる我々が、将来世代への責任として対応する」と語り、増税で対応する考えを改めて示した。
5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)議長国として「核兵器のない世界」への意欲も語った。 演説終盤、22年は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や「政治とカネ」を巡る問題で「国民の皆さんから厳しい声をいただいた」と振り返り陳謝した。その上で「今後、こうしたことが再び起こらないよう、さまざまな改革にも取り組んでいく」と述べた。
●岸田首相、少子化「次元異なる対策実行」 施政方針演説 1/23
第211通常国会が23日召集され、岸田文雄首相は午後の衆院本会議で施政方針演説に臨んだ。子ども・子育て政策で「従来とは次元の異なる対策を実現する」と表明し、「出生率を反転させなければならない」と訴えた。防衛力の抜本強化や原子力発電所の活用拡大を説明した。
子ども政策に関し「経済社会の持続性と包摂性を考える上で最重要政策と位置付けている」と明言した。2022年の出生数が80万人割れとなる見込みに触れ「社会機能を維持できるかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と説いた。
政府は4月にこども家庭庁を発足させる。6月にも決める経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)までに関連予算の倍増に向けた大枠を示す。首相は「年齢・性別を問わず皆が参加する従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と強調した。
財源について「各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など様々な工夫をする」と語った。高等教育の負担軽減に向け出世払い型の奨学金制度を導入すると唱えた。
22年12月に決めた国家安全保障戦略など安保関連3文書が示す防衛力の強化策も話した。反撃能力の保有や南西地域の防衛体制充実などを挙げ「今回の決断は日本の安全保障政策の大転換」と指摘した。
5年間で43兆円の防衛予算を計上するため、必要な安定財源の確保に向け「今を生きる我々が将来世代への責任として対応する」と言明した。
エネルギーを安定供給するため原子力発電所の活用を提唱した。廃炉予定の原発の次世代革新炉への建て替えや原発の運転期間の延長に取り組むと述べた。今国会で関連法案の提出をめざす。
放射性廃棄物に関し「国が前面に立って最終処分事業を進める」と明らかにした。
少額投資非課税制度(NISA)の総口座数と買い付け額を5年で倍増する方針を示した。「国家戦略として資産形成を支援し長期的には資産運用収入そのものの倍増も見据える」と発言した。
分配と経済成長の好循環のため「物価上昇を超える賃上げが必要だ」と訴えかけた。リスキリング(学び直し)の支援や職務給の確立、成長分野への雇用の移動という三位一体の改革を打ち出した。
リスキリングに関し「企業経由が中心となっている在職者向け支援を個人への直接支援中心に見直す」と提起した。「6月までに日本企業に合った職務給の導入方法を類型化しモデルを示す」と主張した。
新型コロナウイルスの感染症法上の分類を今春に5類に変更する方向を明示した。マスクの着用ルールについて「考え方を整理していきたい」と言及した。感染症対策を担う「内閣感染症危機管理統括庁」を新設するための法案を出す。
岸田政権では世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点や政治とカネの問題で22年10〜12月に4閣僚が相次ぎ職を辞した。首相は「信頼こそが政治の一番大切な基盤だと考えてきた一人の政治家としてざんきに堪えない」と反省した。
旧統一教会問題での被害者救済と再発防止に向けて「21年の臨時国会で成立した新法などの着実な運用、実態把握と相談体制の充実に努める」と力説した。
●岸田文雄首相の施政方針演説 1/23
一 はじめに
第211回国会の開会にあたり、国政に臨む所信の一端を申し述べます。
先日の欧州・北米訪問の際、ある首脳から、「なぜ日本では、議会のことを、英語でparliamentではなく、dietと呼ぶのか」と問われました。
確かに、ほとんどの国は、議会を英語でparliamentと呼ぶようです。調べてみたところ、dietの語源は、「集まる日」という意味を持つラテン語でした。
国民の負託を受けたわれわれ議員が、まさに、本日、この議場に集まり、国会での議論がスタートいたします。
政治とは、慎重な議論と検討を積み重ね、その上に決断し、その決断について、国会の場に集まった国民の代表が議論をし、最終的に実行に移す、そうした営みです。 
私は、多くの皆様のご協力の下、さまざまな議論を通じて、慎重の上にも慎重を期して検討し、それに基づいて決断した政府の方針や、決断を形にした予算案・法律案について、この国会の場において、国民の前で正々堂々議論をし、実行に移してまいります。
「検討」も「決断」も、そして「議論」も、すべて重要であり必要です。それらに等しく全力で取り組むことで、信頼と共感の政治を本年も進めてまいります。
二 歴史の転換点
近代日本にとって、大きな時代の転換点は2回ありました。
明治維新と、その77年後の大戦の終戦です。そして、くしくもそれから77年がたった今、われわれは再び歴史の分岐点に立っています。
ロシアによるウクライナ侵略。世界が堅持してきた「法の支配による国際平和秩序」への挑戦に対し、国連安保理は機能不全を露呈しました。
さらに、この機に乗じて、ロシアとの連携を強める国、エネルギーなどで実利を追う国、核ミサイル開発を進める主体など、国際平和秩序の弱体化があらわになっています。
そして、もはや待ったなしとなっているのが、深刻さを増す気候変動問題、感染症対策などの地球規模の課題、世界中で生じている格差問題など、広い意味での持続可能性の問題です。
不安定で脆弱なサプライチェーン(供給網)、世界規模でのエネルギー・食料危機、さらには、人への投資不足など、世界の一体化と平和・繁栄をもたらすと信じられてきたグローバリゼーションの変質・変容も顕著です。
こうした現実を前に、今こそ、新たな方向に足を踏み出さなければならない。
これまでの時代の常識を捨て去り、強い覚悟と時代を見通すビジョンをもって、新たな時代にふさわしい、社会、経済、国際秩序を創り上げていかねばなりません。
先々週、G7(主要7カ国)議長として訪問した国、すべての首脳も、私と同様の認識を示しました。
日本は、5月の広島サミットの成功はもちろん、G7議長国として、強い責任感をもって、今年一年、世界を先導してまいります。
私は、皆さんと一緒に、この歴史の大きなうねりを乗り越え、次の世代に、この日本という国を着実に引き継いでいきます。
力を合わせ、共に、新時代の国づくり、安定した国際秩序づくりを進めていこうではありませんか。
三 防衛力の抜本的強化
そのために、今われわれが直面するさまざまな難しい、先送りできない課題に、正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく。
その強い覚悟で、昨年末、1年を超える時間をかけて議論し、検討を進め、新たな国家安全保障戦略などを策定いたしました。
まず優先されるべきは積極的な外交の展開です。同時に、外交には、裏付けとなる防衛力が必要です。
戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、いざという時に、国民の命を守り抜けるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った上で、十分な守りを再構築していくための防衛力の抜本的強化を具体化しました。
5年間で43兆円の防衛予算を確保し、相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の抜本強化、サイバー・宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実、海上保安庁と自衛隊の連携強化、防衛産業の基盤強化や装備移転の支援、研究開発成果の安全保障分野での積極的活用などを進めてまいります。
こうした取り組みを、将来にわたって維持・強化していかなければなりません。そのためには、2027年度以降、裏付けとなる毎年度4兆円の新たな安定財源が追加的に必要となります。
歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入の確保などの行財政改革の努力を最大限行った上で、それでも足りない約4分の1については、将来世代に先送りすることなく、27年度に向けて、今を生きるわれわれが、将来世代への責任として対応してまいります。
今回の決断は、日本の安全保障政策の大転換ですが、憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての我が国としての歩みを、いささかも変えるものではないということを改めて明確に申し上げたいと思います。
四 新しい資本主義
   (一)総論
世界のリーダーと対話を重ねる中で、多くの国が、新たな経済モデルを模索していることも強く感じました。
それは、権威主義的国家からの挑戦に直面する中で、市場に任せるだけでなく、官と民が連携し、国家間の競争に勝ち抜くための、経済モデルです。
それは、労働コストや生産コストの安さのみを求めるのでなく、重要物資や重要技術を守り、強靱(きょうじん)なサプライチェーンを維持する経済モデルです。
そして、それは、気候変動問題や格差など、これまでの経済システムが生み出した負の側面である、さまざまな社会課題を乗り越えるための経済モデルです。
私が進める「新しい資本主義」は、この世界共通の問題意識に基づくものです。
官民が連携し、社会課題を成長のエンジンへと転換し、社会課題の解決と経済成長を同時に実現する。持続可能で、包摂的な経済社会を創り上げていきます。
新型コロナ(ウイルス)から、全面的に日常を取り戻そうとする今年、日本を、本格的な経済回復、そして、新たな経済成長の軌道に乗せていこうではありませんか。
   (二)物価高対策
まずは、22年度第2次補正予算の早期執行など、足元の物価高に的確に対応します。今後も、必要な政策対応にちゅうちょなく取り組んでまいります。
経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組みます。
   (三)構造的な賃上げ 
そして、企業が収益を上げて、労働者にその果実をしっかり分配し、消費が伸び、更なる経済成長が生まれる。この好循環の鍵を握るのが、「賃上げ」です。
これまで着実に積み上げてきた経済成長の土台の上に、持続的に賃金が上がる「構造」を作り上げるため、労働市場改革を進めます。
まずは、足元で、物価上昇を超える賃上げが必要です。
政府は、経済成長のための投資と改革に、全力を挙げます。公的セクターや、政府調達に参加する企業で働く方の賃金を引き上げます。
また、中小企業における賃上げ実現に向け、生産性向上、下請け取引の適正化、価格転嫁の促進、さらにはフリーランスの取引適正化といった対策も、一層強化します。
そして、その先に、多様な人材、意欲ある個人が、その能力を最大限いかして働くことが、企業の生産性を向上させ、更なる賃上げにつながる社会を創り、持続的な賃上げを実現していきます。
そのために、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を、働く人の立場に立って、加速します。
リスキリングについては、GX、DX、スタートアップなどの成長分野に関するスキルを重点的に支援するとともに、企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直します。
加えて、年齢や性別を問わず、リスキリングから転職まで一気通貫で支援する枠組みも作ります。より長期的な目線での学び直しも支援します。
一方で、企業には、そうした個人を受け止める準備を進めていただきたい。
人材の獲得競争が激化する中、従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務です。
本年6月までに、日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルをお示しします。
   (四)投資と改革
賃上げとともに、成長と分配の好循環の鍵となるのが、投資と改革です。その具体的な取り組みについて、5点申し上げます。
   (GX)
第1に、GX、グリーントランスフォーメーションです。
戦争の武器としてエネルギー供給を利用したロシア。国民生活の大きな混乱に見舞われた各国は、脱炭素と、エネルギー安定供給、そして、経済成長の3つを同時に実現する、「一石三鳥」のしたたかな戦略を動かし始めています。
日本のGXも、この3つの目的を実現するためのものです。
官民で、10年間、150兆円超の投資を引き出す「成長志向型カーボンプライシング」。国による20兆円規模の先行投資の枠組みを新たに設けます。
徹底した省エネ、水素・アンモニアの社会実装、再エネ・原子力など脱炭素技術の研究開発などを支援していきます。
これは、国が複数年の計画を示し、予算のコミットを行い、予見可能性を高め、期待収益率を見通せるようにすることで、企業の投資を誘引していく、新しい資本主義が目指す官民連携の具体化です。このための法案を今国会に提出いたします。
官民の持てる力を総動員し、GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していきます。
エネルギーの安定供給に向けては、多様なエネルギー源を確保しなければなりません。
長年の懸案となっていた、北海道・本州間の送電線整備など再エネ最大限導入に向けた取り組みに加え、安全の確保と地域の理解を大前提として、廃炉となる原発の次世代革新炉への建て替えや、原発の運転期間の一定期間の延長を進めます。
また、国が前面に立って、最終処分事業を進めてまいります。
世界規模のエネルギー危機に直面し、アジアにおける現実的なエネルギートランジションの重要性がますます高まっています。我が国は、昨年来提唱してきたアジア・ゼロエミッション構想を今春から具体化させ、アジアの脱炭素化を支援していきます。
   (DX)
第2に、DX、デジタルトランスフォーメーションです。
まず、強調したいのは、デジタル社会のパスポートであるマイナンバーカードです。
さまざまな工夫を重ね、昨年初めに、5500万件だった取得申請を、8500万件まで増やしました。今や、運転免許証を大きく超え、日本で最も普及した本人確認のツールです。
このカードによって、運転免許証、各種国家資格の証明書などのデジタル化や、確定申告の際に、オンラインで医療費控除やふるさと納税の手続きを完結することが可能となります。
医療面では、今後、スマートフォン一つあれば、診察券も保険証も持たずに、医療機関の受診や薬剤情報の確認ができるようになります。さらには、学生証への利用、買い物時の年齢確認や、コンサートのチケット購入などでの活用も進み始めています。
本人確認が必要な、あらゆる公的・民間サービスを簡単・便利に利用できる社会を創るため、官民で取り組んでまいります。
アナログ規制の一括見直しにも取り組みます。
具体的には、オンライン上で、さまざまな行政手続きを完結できるようにしたり、フロッピーディスクを指定して情報提出を求めていた規制を見直したりといった改革を、来年までの2年間で一気呵成(かせい)に進めます。
4万件の法令を点検し、準備が整ったものについて、一斉に見直すための法案を今国会に提出します。
   (イノベーション)
第3に、イノベーションです。
つい先日、日米の企業が共同開発し、世界で初めて、本格的なグローバル展開が期待される、アルツハイマー病の進行を抑える治療薬が、米国においてFDA(米食品医薬品局)の迅速承認を受けました。
日本発、世界初のイノベーションが、国境を越えて、認知症の方とそのご家族に希望の光をもたらすことは、大変うれしいことです。
こうしたニュースを次々にお届けできるよう、中長期的かつ国家戦略的な視点をもって、半導体、量子、AI(人工知能)、次世代通信技術、さらには、バイオ、宇宙、海洋。
戦略分野への研究開発投資を支援するとともに、イノベーションを阻む規制の改革に取り組みます。
社会のニーズに応じた理工系の学部再編や、若手研究者支援も進めます。
さらには、教職員の処遇見直しを通じた質の向上、教育の国際化、グローバル人材の育成に向け、日本人学生の海外派遣の拡大や、有望な留学生の受け入れを進めます。
25年には、大阪・関西万博が開催されます。空飛ぶ車など、未来社会の実験場として、イノベーティブで活力ある日本の姿を世界に向けて発信してまいります。
   (スタートアップ)
第4に、スタートアップの育成です。
5年でスタートアップへの投資額10倍増を目指し、卓越した才能を発掘・育成するプログラムの拡充や、研究開発ベンチャーへの資金供給の強化、欧米のトップクラス大学の誘致によるグローバルスタートアップキャンパス構想の実現、さらには、税制による大企業とスタートアップの協業によるオープンイノベーション支援に取り組みます。
また、創業時に、経営者保証に頼らない資金調達ができるよう、新たな信用保証制度を創設します。
さらに、世界に伍(ご)する高度人材の新たな受け入れのための制度を創設するなど、外国人材が活躍できる環境整備も行います。
今は、日本経済をけん引する大企業も、かつては、戦後創業の「スタートアップ」でした。戦後の創業期に次ぐ、第2の創業ブームを実現し、未来の日本経済をけん引するような企業を生み出していきます。
   (資産所得倍増プラン)
第5に、資産所得倍増プランです。
長年の懸案である「貯蓄から投資へ」の流れを実現できれば、家計の金融資産所得の拡大と、成長資金の供給拡大により、成長と資産所得の好循環を実現できる。
そう考え、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充や、恒久化を実現し、5年間でNISAの総口座数と、買い付け額を倍増させることにしました。
国家戦略として資産形成の支援に取り組み、長期的には、資産運用収入そのものの倍増も見据えて対応してまいります。
今こそ、これらの政策を力強く、実行していこうではありませんか。
五 こども・子育て政策
そして、今年、新しい資本主義の取り組みを次の段階に進めたいと思っています。
新しい資本主義は、「持続可能」で、「包摂的」な新たな経済社会を創っていくための挑戦である、と申し上げてきました。
我が国の経済社会の「持続性」と「包摂性」を考える上で、最重要政策と位置付けているのが、「こども・子育て政策」です。
急速に進展する少子化により、昨年の出生数は80万人を割り込むと見込まれ、我が国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれています。こども・子育て政策への対応は、待ったなしの先送りの許されない課題です。
こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければなりません。
こども政策担当相に指示した、3つの基本的方向性に沿って、こども・子育て政策の強化に向けた具体策の検討を進めていきます。高等教育の負担軽減に向けた出世払い型の奨学金制度の導入にも取り組みます。
検討に当たって、何よりも優先されるべきは、当事者の声です。まずは、私自身、全国各地で、こども・子育ての「当事者」である、お父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方、若い世代の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます。
年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。
そして、本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において、必要とされるこども・子育て政策を体系的に取りまとめつつ、6月の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)までに、将来的なこども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示します。
こども・子育て政策は、最も有効な未来への投資です。これを着実に実行していくため、まずは、こども・子育て政策として充実する内容を具体化します。
そして、その内容に応じて、各種の社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方など、さまざまな工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えてまいります。
安心してこどもを産み、育てられる社会を創る。すべての世代、国民皆にかかわる、この課題に、ともに取り組んでいこうではありませんか。
あわせて、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支えあう、持続的な社会保障制度の構築に取り組みます。
六 包摂的な経済社会づくり
老若男女、障害のある方も、ない方も、すべての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会。
意欲のあるすべての方が、置かれている環境にかかわらず、十全に力を発揮できる社会。
そうした包摂的な経済社会を創るため、これから、特に、「女性」「若者」「地方」の力を引き出していくための政策に力を入れていきます。
   (女性)
これまでの取り組みにより、女性の就労は大きく増え、いわゆるM字カーブの問題は、解消に向かっていますが、出産を契機に、女性が非正規雇用化する、いわゆるL字カーブの解消、そして、男女間の賃金格差の是正は、引き続き、喫緊の課題です。
また、女性登用の一層の拡大も進めていかなければなりません。
そのために、女性の就労の壁となっているいわゆる103万円の壁や、130万円の壁といった制度の見直し、男女共に、これまで以上に育児休業を取得しやすい制度の導入などの諸課題に対応していきます。
さらには、配偶者による暴力防止の取り組みを強化するため、DV(ドメスティックバイオレンス)防止法の改正にも取り組みます。
   (若者)
こども・子育て政策の強化、男女共に働きやすい環境の整備、全世代型社会保障改革、構造的賃上げ、スタートアップなどの成長分野への投資などは、日本の未来を担う若い世代のためにこそ進めるべき取り組みです。
こうした各般の取り組みを通じ、若者、そして若い世帯の所得向上を実現し、若者が、未来に希望をもって生きられる社会を創っていきます。
   (孤独・孤立対策)
孤独・孤立対策にも本格的に取り組みます。対策の基本となる法案を、今国会に提出し、孤独や孤立に寄り添える社会を目指します。
   (地方創生)
地方創生を進め、地方が元気になること。それが日本経済再生の源です。
地方の基幹産業の活性化に全力を注ぎます。
観光産業については、全国旅行支援による需要喚起に加え、高付加価値化の推進、国立公園なども活用した観光地の魅力向上に取り組み、外国人旅行者の国内需要5兆円、国内旅行需要20兆円という目標の早期達成を目指します。
農林水産業については、肥料・飼料・主要穀物の国産化推進など、食料安全保障の強化を図りつつ、夢を持って働ける、稼げる産業とすることを目指します。
農林水産品の輸出については、25年2兆円目標の前倒し達成を目指し、更なる輸出拡大支援を進めます。
地方経済の基盤である高速道路網について、老朽化対策と、4車線化などの進化・改良の取り組みを着実に実施するための制度整備を行います。また、地域公共交通の「リデザイン」に向け、国の支援を拡充します。
さらには、地方への企業立地支援や海外からの人材・資金の呼び込み、官民連携によるスタジアム、アリーナ、文教施設の整備、地方議会活性化のための法改正にも取り組みます。
地方創生に向けた全ての基盤となる取り組みが、デジタルの力で地域の社会課題を解決し、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を実現するデジタル田園都市国家構想です。
光ファイバー、(高速通信規格)5G等のデジタルインフラの整備を着実に進めつつ、今後、全国津々浦々で、本格的なデジタル実装を進めます。
まずは、スマート農業、ドローンによる配送、遠隔見守りサービスなどを組み合わせたプロジェクトを日本の中山間地域150カ所で実現します。
また、今年4月には、レベル4、完全自動運転を可能にする新たな制度が動き始めます。25年をめどに、全都道府県で自動運転の社会実験の実施を目指します。
全国津々浦々、すべての方々が輝ける日本を創っていこうではありませんか。
七 災害対応・復興支援
今年、関東大震災から100年の節目を迎えます。激甚化・頻発化する災害への対応も、先送りのできない重要な課題です。
5カ年加速化対策の着実な推進に加え、中長期的・継続的・安定的に防災・減災、国土強靱化を進めるため、新たな国土強靱化基本計画を策定します。
機動的に自治体を支援するなど、大雪や鳥インフルエンザなどの対応に万全を期します。
台風や豪雨などに対応するための予報高度化、猛暑から人命を守るための熱中症対策の強化、さらには、北海道知床の遊覧船事故を受けた、旅客船の安全性確保のための法案を提出し、災害や事故への対応力を強化します。
政権の最重要課題である福島の復興も、地元の皆さんとともに、取り組みをさらに前に進めます。
昨年、長期にわたり、帰還が困難であるとされた区域で初めて、住民の帰還が実現しました。
引き続き、残る復興再生拠点の避難指示解除を目指すとともに、拠点区域外についても、意向のある方が帰還できるよう取り組みを具体化していきます。
あわせて、映画など文化芸術を通じた街づくり、廃炉・アルプス処理水対策や福島国際研究教育機構の整備を、政府一丸となって推進し、責任をもって福島の復興・再生に取り組みます。
八 新型コロナ
新型コロナの感染拡大から、約3年。国民の皆さん、そして、現場で働く医師・看護師・介護職員などエッセンシャルワーカーの皆さんの協力をいただきながら、感染の波を乗り越え、ウィズコロナへの移行を進めてきました。
足元の感染状況については、感染防止対策や医療体制の確保に努め、いわゆる第8波を乗り越えるべく、全力を尽くしてまいります。
そして、原則この春に、新型コロナを「新型インフルエンザ等」から外し、5類感染症とする方向で、議論を進めます。これに伴う医療体制、公費支援などさまざまな政策・措置の対応について、段階的な移行の検討・調整を進めます。
マスクの着用についても、5類感染症への見直しと併せて、考え方を整理していきたいと思いますが、まずは、今一度、「原則、外ではマスク不要」といった現在の取り扱いについて、周知徹底を図ります。
GDP(国内総生産)や、企業業績は、既に新型コロナ前の水準を回復し、有効求人倍率も、コロナ前の水準を回復しつつあります。家庭、学校、職場、地域、あらゆる場面で、日常を取り戻すことができるよう、着実に歩みを進めてまいります。
そして、今後の感染症危機に適切に対応するため、内閣感染症危機管理統括庁や、いわゆる日本版CDC(疾病対策センター)設置に関する法案を今国会に提出します。
九 外交・安全保障
「歴史の分岐点」を迎える中、普遍的価値に立脚しつつ、国益を守り抜くため、積極的かつ力強く、新時代リアリズム外交を展開していきます。
我が国は、今年、G7議長国および国連安保理非常任理事国を務めます。その立場をいかし、世界の平和と繁栄に向けた取り組みを主導します。
ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙が継続し、また、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく、複雑な状況にあります。
力による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる地域においても許されない。広島サミットの機会に、こうした原則を擁護する、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するとの強い意志を、改めて世界に発信します。
そして、世界が直面する諸課題に、国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束し、いわゆるグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)に対する関与を強化していきます。
そのために、エネルギー・食料危機や、下振れリスクに直面する世界経済についても、一致結束した対応を行ってまいります。また、対ロ制裁、対ウクライナ支援を引き続き強力に推し進めます。
被爆地、広島で開かれるサミットの機会を捉え、「核兵器のない世界」に向け、国際的な取り組みを主導します。「ヒロシマ・アクション・プラン」を始め、これまでの取り組みの上に立って、国際賢人会議の叡智(えいち)も得ながら、現実的かつ実践的な取り組みを進めていきます。
他にも、地域情勢、経済安全保障、人権、気候変動、保健、開発といった課題にも広く対応していく必要があります。山積する諸懸案への対応に、我が国が主導的役割を果たしてまいります。
加えて、安保理改革を含む国連の機能強化にも取り組みます。
戦後日本が積み重ねてきた信頼関係に基づく2国間関係の強化も、引き続き進めます。
我が国外交の基軸は、日米関係です。先日の日米共同声明に基づき、引き続き、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化し、地域の平和と安定および国際社会の繁栄に貢献していきます。
また、経済版「2プラス2」を含む、さまざまなチャネルを通じ、サプライチェーンの強靱化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携にも取り組みます。
日米同盟の強化とあわせて、基地負担軽減にも引き続き取り組みます。普天間飛行場(基地)の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、強い沖縄経済を作ります。
日米豪印等も活用しつつ、また、アジア、欧州、大洋州をはじめとするパートナー国との連携を深め、「自由で開かれたインド太平洋」を推進するための協力を一層強化します。
そして、G7議長国として達成した成果を、インドが議長国を務めるG20(20カ国・地域)に引き継ぎ、友好協力50周年を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)との特別首脳会議につなげ、アジアから世界に向け発信していきます。
また、CPTPP(包括的・先進的環太平洋経済連携協定)の着実な実施と高いレベルを維持しながらの拡大や、IPEF(インド太平洋経済枠組み)、DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)等の取り組みにおいて具体的な成果を目指します。
地域の平和と安定も引き続き重要です。中国に対しては、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを含め、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めてまいります。
そして、本年が日中平和友好条約45周年であることも念頭に置きつつ、諸懸案を含め、首脳間をはじめとする対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。
国際社会におけるさまざまな課題への対応に協力していくべき重要な隣国である韓国とは、国交正常化以来の友好協力関係に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、さらに発展させていくため、緊密に意志疎通していきます。
日ロ関係は、ロシアによるウクライナ侵略により厳しい状況にありますが、我が国としては、引き続き、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。
北朝鮮による前例のない頻度と態様での弾道ミサイル発射は、断じて容認できません。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。
中でも、最重要課題である拉致問題は深刻な人道問題であり、その解決は、一刻の猶予も許されません。すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で果断に取り組みます。
私自身、条件を付けずに金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接向き合う決意です。 
このような多国間・2国間外交の最も重要なツールの一つが、開発協力です。
今後10年間の方向性を示す開発協力大綱を、「人間の安全保障」の理念を踏まえ、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた議論をリードするようなものとするべく、今年前半をめどに改定します。
十 憲法改正
憲法改正もまた、先送りできない課題です。先の臨時国会では、与野党の枠を超え、活発な議論をいただきました。
この国会において、制定以来初めてとなる、憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待します。
十一 政治の信頼
昨年は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係、政治とカネなど、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民の皆さんから厳しい声をいただいたことを、重く受け止めております。
信なくば立たず。信頼こそが、政治の一番大切な基盤であると考えてきた一人の政治家として、ざんきに堪えません。今後、こうしたことが再び起こらないよう、さまざまな改革にも取り組んでまいります。
旧統一教会の問題については、被害者の実効的な救済と再発防止に向け、昨年の臨時国会で成立した新法等の着実な運用、そして、実態把握と相談体制の充実に努めます。
十二 おわりに
総理就任以来、私は、全国各地を訪問し、多くの皆さんと直接話をしてきました。新潟でモノづくりの技術を身に着けようと一生懸命学ばれている学生の皆さん、鹿児島で子育てをしながら、和牛生産に取り組んでおられるお母さん、渋谷の子育て支援施設で育児に取り組まれていたお父さん。
こうした日本全国の皆さんが輝ける、未来に希望を持てる、そんな日本を創っていきたいと思います。
この日本という国を、次の世代に引き継いでいくために、これからも、私に課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くします。共に、一歩一歩、前に進んでいこうではありませんか。
引き続き、国民の皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。
ご清聴ありがとうございました。  

 

●国債「60年償還ルール」見直しで防衛費捻出の悪手  1/24
防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党内で国債「60年償還ルール」の見直し議論が急速に高まっている。そもそも60年償還ルールとは何か。また、その見直しは何を意味するのか。
自民党内で国債の「60年償還ルール」見直しの議論が始まっている。
岸田文雄政権が決めた防衛費増額では、その財源として歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、増税の4つの確保策が検討されている。積極財政派が多数集まる安倍派では、増税への反対意見が強いが、同派の幹部である萩生田光一政調会長、世耕弘成参議院幹事長らが中心となって浮上させたのが、国債60年償還ルールの見直しだ。
現在のところ、2027年度ベースで年1兆円強(防衛費増額の約4分の1)を増税で確保するというのが政府の計画だが、償還ルール見直しによって新たに防衛費財源を捻出できれば、増税幅は圧縮できる。安倍派を中心とした積極財政派の狙いはそこにある。
60年償還ルールとは何か
建設国債を財源とした公共事業の建築物は、耐用年数がおおむね60年であるため、その建築のための借金(国債)も60年で現金償還を完了させるのが望ましいのではないか――。そうした考え方から生まれたのが60年償還ルールだ。
具体的には、国債発行残高の1.6%(約60分の1)を毎年度の国債償還費として一般会計に計上する。実際には誤差が生じるものの、そうやって60年かけて元本を償還していく形を取る。
一般会計に計上された国債償還費は、特別会計(国債整理基金特別会計)へ繰り入れられ、全体の償還の一部に毎年充当されている。しかし、国債償還費だけでは償還費全体を賄うには遠く及ばない。2022年度当初予算ベースで見ると、国債償還費は15.6兆円だが、借換債発行は149兆円にも上っている。つまり、現金償還(国債償還費)の10倍弱については、新たな借金(借換債)で政府はロールオーバーしている。
ただ、これまでのところ、借換債発行は大きな混乱もなく行われている。であれば、60年償還ルールは止めてしまって、借換債発行で全部対応すればいいという考え方も成り立つ。世界を見渡しても日本のような元本償還ルールを定める国は多くなく、利払い費だけを国家予算に計上する国が多い(日本の場合は、利払い費+国債償還費=国債費として計上)。
イギリスなどのように借換債発行さえ省略したような永久国債(償還が不要)も存在し、60年償還ルールの是非を議論すること自体はおかしなことではないだろう。
問題はその狙いである。萩生田政調会長を委員長とする自民党の特命委員会では、60年償還ルールを廃止したり、償還期間を延長したりすることによって浮く一般会計の国債償還費を防衛費に使おうという議論がなされている。
一般の国民から見れば、ある歳出項目を減らし、その分をほかの歳出に使うのだから財政には中立であり、よいアイデアのように映るかもしれない。だが、それは間違いだ。下図を見てほしい。
日本の一般会計は足元で年30兆円台の新規国債を発行しないと賄えない慢性的な財政赤字状態にある。もっとも、不要となった国債償還費の代わりに防衛費をそこに置けば、一般会計内での新規国債発行額には変わりはない(図の上側)。なるほど、一見、財政に中立のようだ。
借換債の増発が起きる
しかし、特別会計まで含めて考えるとどうか。現在は一般会計の国債償還費の繰り入れ分だけ借換債発行は抑制できている。この国債償還費を止めてしまえば、その分、借換債発行額は増やさなければならない。図の下側の紫部分のように借換債発行は増加する。
金融市場においては、借換債、財政赤字による新規国債発行、公共事業目的の建設国債もすべては普通国債であり、変わりはない。つまり、60年償還ルール見直しによって生まれる財源を防衛費増額に使うということは、単なる国債増発にほかならないわけだ。
これでは、安易な国債増発に頼らないとした元々の岸田政権の方針とは齟齬を来す。
こうした国民の目をくらますようなトリッキーな議論が自民党の中枢部、しかもこれまで主要官庁の大臣を経験し、将来の首相候補としても名の挙がるような人たちから出ていることには驚かされる。
加速する財政ルールの弛緩
財政赤字が常態化した1970年代の石油ショック以降、日本の財政ルールは基本的に緩む方向一辺倒で進んでいる。先述したように60年償還ルールはもともと公共事業の建築物=建設国債を想定して作られたものだ。1970年代までは、今のような赤字国債(特例国債)は、それが10年国債なら10年後にきっちりと全額現金償還するというルールだった。しかし、赤字国債は一向に減らすことができず、こちらもなし崩し的に60年償還ルールに組み込まれるようになった。
また、民主党政権時の2010年前後までは、1年限定の特例法によって赤字国債発行を認めるという国会の手続きを取っていた。しかし、その特例法を通すか通さないかが「ねじれ国会」の中で政争の具となったため、それ以後は複数年度の赤字国債発行を認める形に特例法のあり方も変わってしまった。その分、赤字国債発行のハードルは低くなった。
極め付きは、安倍晋三政権が2017年に決めた消費増税の増収の使途変更だろう。2012年に民主党政権と自民・公明の3党合意で決めた消費増税の使途について、当初の国の借金返済から、安倍政権の看板政策である幼児教育無償化などに替えてしまった。その決定直後に行われた衆議院解散総選挙では、安倍政権が圧勝。使途変更自体は、国債増発による幼児教育無償化と同じことなのだが、財政規律を重視する声はかき消されてしまった。
もともと防衛費の増額に加え、国債60年償還ルールの見直しも、安倍元首相やその周辺から出ていた話だ。泉下からいまだ影響力を及ぼし続けている安倍元首相。今度こそは度を過ぎたトリックだと国民は見破ることができるのだろうか。
●日本人が知らないフランス「少子化対策」真の凄さ 1/24
岸田文雄首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。柱となるのは、1児童手当を中心とする経済的支援強化、2幼児教育や保育サービスなどの支援拡充、3働き方改革で、6月の「骨太方針」の策定までに、将来的な予算倍増の大枠を提示するとしている。
出生率を高める政策で成果を上げているのがフランスだ。とくに2010年に合計特殊出生率が2.03人に達したことから、日本のみならず、少子化に苦しむ多くの先進国がフランスで実施されている家族政策に注目した。
では、フランスの政策は何が成功しているのだろうか。
家族政策に多くの予算を投じる
フランスも1993年から1994年にかけて出生率が1.65まで落ち込んだ。筆者が5人の子どもの子育てをフランスで開始した時期と重なる。ミッテラン政権末期で手厚い社会保障が実りを迎えておらず、移民家庭は子どもを増やした一方、白人カップルの少子化に歯止めがかからなかった時期だ。
1995年に中道右派のシラク政権に転じ、さらに1997年にはジョスパン左派内閣が発足し、週労働35時間制や同性婚カップルを含む事実婚も法律婚同様の社会保障を受けられるパートナーシップ協定の民事連帯協約(PACS)が1999年に施行された。その結果、2006年には出生率は2.0に達した。
その後、2014年を境に下がっており、2020年は1.83となったが、それでもEUの中では最も高い。出生率低下の理由は15歳から49歳の女性の数がベビーブームのときに比べて減少に転じたこと、出生率を押し上げていた移民1世の女性の数が減少し、フランス生まれの移民2世、3世の女性の出産する子どもの数が減ったことが影響しているといわれる。
また、フランスは国力と人口減に敏感で、家族政策に多くの予算を投じ続けた。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、子ども・子育て支援に対する公的支出(2017年)は、フランスが国内総生産(GDP)比で3.6%に上る。
ちなみに日本は1.79%で、OECD平均の2.34%も下回っている。ただし、3.23%のイギリスや3.17%のドイツの出生率は高くないので、フランスの出生率の高さには、予算の多さ以外の要因もあることを指摘しておく必要がある。
実はフランスの子育て支援政策は他の欧州諸国より非常にきめ細かい。毎年、家族政策に関係する公的機関や私的組織関係者らからの丁寧な聞き取りを行い、費用対効果を検証している。子ども・子育て支援に対する公的支出に3.6%も投じているのだから、当然とも言えるが、地道に課題解決に取り組んでいる。簡単に紹介すると、
  1 第3子から支給され、所得制限はあるものの大半の世帯が受給する家族手当
  2 子育て世代、とくに3人以上の子育て世帯に対して、大幅な所得税減税を適用するN分N乗方式
  3 子育てのために仕事を全面的に休むのか、週4日や3日勤務、半日勤務などの時短労働を選択できる就労自由選択補足制度
  4 育児で保育ママに子どもを預ける選択をした場合に支給される保育方法自由選択補足手当
  5 妊娠後の産科の受診料、検診費、出生前診断、出産費用など妊娠出産から産後のリハビリテーションを含む費用の全面無料化
  6 母親同様の有給扱いで育休を取る父親も賃金の80%を保障
  7 不妊治療を公費で実施(43歳まで)
  8 高校までの授業料無料、大学も少額の登録料のみ(私立は例外)、返済不要の奨学金制度
  9 3歳まで育児を引き受ける認定保育ママから学童保育まで無料
 10 PACSで事実婚の社会保障への組み込み、非摘出子という言葉の民法からの削除
 11 子どもを3人養育すると年金が10%加算される年金加算
などだ。筆者もその恩恵を受けている。30年以上、フランスの家族政策を取材してきた筆者から見ると、フランスの家族政策に学ぶべき最重要事項の1つは、政策立案段階から実施後にかけて、正確な現状把握を継続的に徹底して行っていることだ。
効果を上げるために粘り強く試行錯誤
1982年に家族全国会議(現家族児童高齢者協議会=HCFEA)が設置され、首相以下、関連省庁の大臣、自治体議会の議長、労使団体、家族協会全国連合、専門家などで構成されるメンバーが、現状の正確な把握に努めており、問題点の洗い出し、施行された政策の進捗状況や成果の検証、課題の抽出を毎年行っている。
結果として政権の人気取りと官僚の一方的な政策策定による予算のばらまきは回避されている。実質的成果を上げるための試行錯誤が粘り強く、長期にわたって積み重ねられ、結果として非常にきめの細かな家族政策が実施されてきたことは大いに評価すべき点だ。さらに政権交代に左右されないよう継続的に超党派で取り組んでいることも重要だ。
例えば、0歳から2歳までの子どもの約17%が国家資格を持つ保育士がいる保育園に預けられている一方、33%が日本でいう保育ママに相当する母親アシスタントに預けられている。政府はオランド政権時代から、母親アシスタントのスキルの平準化のため、専門性重視の研修制度を実施しており、マクロン現政権も踏襲している。
この例でも権威ある児童心理学者、シルヴィアーヌ・ジャンピノ氏が中心となり、保育士や保育園運営者、地方自治体の長や保育担当官、代議士、親など保育に関与するありとあらゆる人々への徹底したヒアリングを実施している。同氏は「何を改善するかを判断するには、現場をできるだけ近くで見て、全体像を把握する必要がある」と述べている。
現在、フランスの家族政策の政策立案、実施、運営を行っているのは、家族・児童・女性の権利省(通称、家族省)だ。それまで特命担当大臣の管轄だったのを2016年2月から省に格上げし、少子化、高齢化、女性問題に本腰を入れた。
ただその後、少子化と女性問題を結びつけたことが批判され、マクロン政権では首相府が主導する首相府付男女平等・多様性・機会均等担当大臣と、子どもの保護に特化した首相付子ども当副大臣が任命された。家族と女性人権分野の大臣は基本的に女性が任命されている。
マクロン大統領は、関係者との討論会を繰り返し、浮上した幼児を取り巻く環境格差拡大を抑制するため、5歳から7歳の幼児教育では、1クラス24人以下という少人数制導入と教師のスキル向上を方針として打ち出した。
コロナ禍で田舎に移住する若い夫婦が増加
フランスでは近年、育休事情も変化してきている。コロナ禍でテレワークが浸透したことから、都会を抜け出して田舎に移住する若い夫婦が増えた。狭い都会のアパートから庭の広い自然環境に恵まれた田舎暮らしを選択する主な理由の1つが子育てだ。
ここで注目されるのが、都会にはなかった住民たちで構成されるコミュニティーの存在だ。地域コミュニティーこそ、子育てにおいてきめ細かな支援サービスができるという考えで、6歳未満の子ども向けの保育サービスを開発するための複数年計画を自治体は採用することができると家族法に定められている。このコミュニティーで子育てを行う有効性が、今注目されている。
託児所や学童保育など集団保育施設では、保護者が就労中、研修中、求職中の6歳未満の子どもを日中受け入れることができる。最近は就労だけでなく、親が気晴らしをするための食事会やリクレーションも受け入れ理由に含む場合が多い。フランスでは集団保育施設に営利目的の民間企業が入り込むことはほとんどない。
テレワーク中心の働き方の世帯が都会から引っ越してきた場合、これらの施設は欠かせない。コミュニティー全員が子育てに参加する意識が醸成され、その安心感は子どもを産むモチベーションを後押ししている。これらの施設およびサービスは、母子保護の部門サービスを担当する医師の管理および監督の対象となっている。さらに子どもが身体的、心理的脅威にさらされた場合、自治体は施設の閉鎖命令も出せる。
人口減に苦しんできた過疎化が進む小規模の町や村では、移住してきた家族のコミュニティーによる子育て支援の充実が不可欠な要素と考えられている。政府も少子化対策の一環として地方分散とともにコミュニティーの育児施設やサービスへの支援を積極的に行っている。
「子育ては女性が中心」という概念がなくなった
フランスの特筆すべき点は、「子育ては女性が中心」という概念が長年の女性の権利、男女平等政策の積み重ねにより、完全になくなっていることだ。結果、子育てに関心のない男性はいない。同時に子どもを産むのは女性であり、その女性が何を必要とし、何を望んでいるのかという女性の要求や幸福感を尊重する段階に入っている。
家族政策は、国の成り立ち、歴史と文化、宗教を含む価値観などが複雑に絡み合っているので、どの国の少子化対策が優れているとは簡単に言えない。実際、似たような家族支援策を講じている国でも効果を上げている国もあれば、そうでない国もある。
フランスのまねをすればうまくいくわけではないが、ストレスなく出産し、仕事と子育てを両立できる環境整備は急務であり、社会全体で子育てに取り組む点でフランスの政策は参考にはなる。
「異次元の少子化対策」に挑む日本でも幸せを追求する持続可能な発展につながる政策が期待される。
●ミャンマー 日本政府の建設事業が国軍を利する 1/24 
株式会社横河ブリッジは、日本政府の開発援助事業のためにミャンマーの軍系企業ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に100万米ドル以上(約1.3億円以上)を2022年に支払ったとみられると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
日本政府は、ミャンマー国軍を利する人道支援以外の開発援助をすべて停止すべきだ。国軍は2021年2月1日の軍事クーデター以降、広範かつ組織的な人権侵害を犯してきた。また日本政府は、横河ブリッジを含む日本企業が軍系企業などと事業関係を断つよう促すべきだ。
「日本政府は、横河ブリッジとMECの事業関係を通じて、資金面でミャンマー国軍の人権侵害に事実上加担した」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平は述べた。「日本政府は、ミャンマー国軍に人道支援以外の開発援助を提供すべきではない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチが分析した取引履歴によると、横河ブリッジは2022年7月から11月の間にMECに約130万米ドル(約1.7億円)をバゴー橋建設事業のために支払った。支払いは、日本のみずほ銀行からミャンマー外国貿易銀行のMECの口座に複数回行われた。
日本政府は2016年に、対ミャンマー政府開発援助(ODA)であるバゴー橋建設事業を承認。同事業には国際協力機構(JICA)による約310億円の借款が含まれる。横河ブリッジは2019年3月に同事業の工事を受注した。
外務省の担当者はヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡に対して、クーデター以降停止していたバゴー橋の工事が、2022年4月1日に再開したと回答した。また、横河ブリッジによるMECへの支払いに関しては、「下請け契約に基づく民間企業間の取引に係る事柄であり、日本政府として説明する立場にありません」とした。
横河ブリッジはヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡に対して、「個別案件についての回答は差し控える」とした。みずほ銀行は「個別の案件については守秘義務の観点からお答えすることができない」とした。
2021年2月1日のクーデター後、米国、イギリス、欧州連合とカナダは、国軍の膨大な資金源であるとして、MECと軍系企業ミャンマー・エコノミック・ホールディングスに制裁を科した。クーデター以降、ミャンマー国軍は超法規的殺人、拷問、そして「人道に対する罪」や戦争犯罪である民間人に対する無差別攻撃を行ってきた。
政治囚人支援協会によると、ミャンマーの治安部隊はクーデター以降、277人の子どもを含む2700人以上を殺害し、1万7千人以上を恣意的に拘束した。
バゴー橋建設事業におけるMECの関与は、現地メディア「ミャンマー・ナウ」が、建設にMECが保有する製鉄所が携わっていることを2021年3月に報じたことで明らかになった。JICAは報道後、ヒューマン・ライツ・ウォッチの問い合わせに対して、横河ブリッジが2019年11月にMEC及び関連会社と下請契約を締結したと認めた。2021年4月、横河ブリッジの親会社である横河ブリッジホールディングスは、工事は「現地の情勢から実質的にストップ」しており、「人権を尊重した企業行動を行って」いくとした。
以前ヒューマン・ライツ・ウォッチが記録した通り、横河ブリッジとMECの事業関係はバゴー橋建設事業の前から存在している。2015年の決算説明会資料によると、横河ブリッジは2014年3月にMECと覚書を締結しており、同資料によると、横河ブリッジはMECと「技術協力について関係を構築」し、MEC の「友好ファブへの育成」を目指している。
国連が設置した事実調査団は、2019年9月の報告書でMECはミャンマー国軍に保有されており、製造、鉱業や通信などあらゆる事業を通じて国軍に膨大な利益を生み出していると指摘。事実調査団は、ミャンマー国軍やMECを含む軍系企業が関与する「あらゆる外国の企業活動」が、「国際人権法および人道法違反に寄与あるいは関与するリスク」が高いと結論付けた。最低でも、「こうした外国企業がミャンマー国軍の財政能力を支援している」とした。
国連の人権高等弁務官事務所は、2019年の事実調査団の報告書のフォローアップとして、2022年9月に新たな報告書を発表。国際社会が、ミャンマー国軍を財政的に孤立させるために十分な行動を取っていないと指摘した上で、「ミャンマーの人々の支援を強化しつつ、国軍の財政的孤立を一丸となり実現すべき」とした。
また、国連の人権高等弁務官事務所はバゴー橋建設事業を引用する形で、各国政府は「人道支援や開発援助が国家行政評議会や軍系企業の利益にならないよう対処すべきだ」とした。その上、「ミャンマーで事業や取引、投資など行っている企業らは、サプライチェーン事業も含み、ミャンマー国軍及び国軍が所有・指揮する企業(子会社を含む)や国軍個人と事業関係を新たに持たない上継続しないようデ ューデリジェンスを実施すべきだ」と指摘している。
2021 年 5 月 21 日に国連ビジネスと人権に関するワーキンググループは、「企業 は人権に対する責任を全うし、ミャンマー国軍が深刻な人権侵害を止めるよう働きかけるべきだ」と声明を発表した。具体的には、企業は「国連のビジネスと人 権の指導原則に沿い、人権侵害の助長」を避けるべきであり、行動を取らない場合は国軍の人権侵害に「加担」してしまうと指摘した。
「国連ビジネスと人権に関する指導原則」には、企業は「自らの活動を通じて人権に負の影響を引き起こしたり助長することを回避し、そのような影響が生じた場合にはこれに対処」すべきであり、「たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める」と定められている。
日本政府は未だに、各国政府と連携しておらず、ミャンマー国軍に対して具体的な措置を取っていない。日本政府は速やかにミャンマー国軍幹部及び軍系企業らに標的制裁を科した上で、横河ブリッジを含む日本企業に制裁の規定に従うよう促すべきだ。
「日本政府はミャンマー国軍に資金を提供するのではなく、ミャンマーの人々のために行動すべきだ」と笠井は述べた。「日本政府はミャンマー国軍による人権侵害の加担者であるべきではない。」
●開いた口がふさがらない″燒ア省の言い分、国債償還ルールは不要だ! 1/24
「ワニの口」という言葉がある。財務省が持ち出した話で、政府の予算である一般会計歳出と税収の差がどんどん拡大し、その差がまるで「ワニの口」のようだ、と表現するものだ。
税収よりも歳出の方が大きいので、その差は「政府の借金」である国債の発行で埋め合わせることになる。しかもこの「ワニの口」は拡大を続けている。つまり財務省は、この「ワニの口」の開き具合が大きければ大きいほど、借金漬けで日本の財政状況は深刻だ、と言いたいわけだ。
この財務省の言い分はデタラメだ。歳出をみてみると、2022年度では、国債の利子支払い分(8兆3000億円)と元本支払い分に相当する債務償還費(16兆円)が計上されている。
だが、エコノミストの永濱利廣氏が指摘するように、国際標準では、後者の債務償還費は予算に計上されていない。米国、英国、フランス、ドイツなどの主要国は、単に利払いしか計上していないのだ。
なぜだろうか。簡単にいえば、国債を返す必要が特段ないからだ。多くの国は国債の償還期限がくれば、借換債を発行して、それで済ませている。言葉は悪いが、借金をまた借金で返済するわけだ。それで何の問題もない。
実際に日本の財政の破綻確率は、先進国の中でもドイツと並んで最も低い。だが、財務省はなぜか元本払いを続けている。それは自分たちで勝手に「国債償還60年ルール」と呼ぶ方針に異常にこだわっているからだ。どんなルールかというと、いまある国債残高を60年後には完済するというものだ。60年という目安は、その昔は公共建築の耐用年数に基づいていたが、景気対策などでも国債は発行するので現在はまったく意味をなさない。
この国債償還を完済するために、日本は「減債基金」と呼ばれる制度を運用している。正式名称は、国債整理基金特別会計だ。ここに毎年度、政府の予算からおカネが流れる。その資金を利用して、国債の償還、つまり借金の精算をしているわけである。だが、主要国の大半はこんな減債基金など持っていない。なぜなら借換債を発行すればすむ話だからだ。
「国債償還60年ルール」とこの減債基金をやめれば、防衛増税も不要だし、また「異次元の少子化対策」や減税もできる。この点を指摘したのは、日本ではエコノミストの会田卓司氏が最初だが、実は元祖がいる。ジョン・メイナード・ケインズだ。彼は減債基金をなくせば、不況を克服する財政政策を行えて、国民経済は繁栄するとした。財務省がこだわるこのルールと基金を否定することが、日本の復活の道だ。 
●岸田首相の「ムダな少子化対策」のせいで、社会保険料が「値上がり」 1/24
新年早々、自民党内から「少子化対策の財源として将来的な消費税の引き上げも検討対象になる」といった意見が飛び出し、政府は「当面は増税を考えていない」と火消しに躍起です。
これまで消費増税のたびに、国民に向けて「将来の社会保障費にあてられる」と説明されてきました。しかし実際には、その8割が国の借金返済に使われていたことは、前編記事『岸田政権が明言しない「消費増税」のヤバい現実…「将来のために」は方便だった! 』で説明した通りです。
庶民に金を出させて「子育て連帯基金」つくる!?
実は、子供を盾に、焼け太りを図ろうとしているのは、消費税だけではありません。
岸田首相が少子化対策で「こども予算の倍増」を打ち出したことで、「子育て連帯基金」という、新たな仕組みづくりも浮上してきています。
今年の春に誕生するこども家庭庁の予算はおよそ4兆8000億円です。令和4年度第2次補正予算から前倒しで実施するものも含めると、5兆2000億円規模になります。これとは別に、22年度の少子化対策予算は約6兆円です。
岸田総理の言葉どおりこの予算を倍増させるとなれば、さらに10兆円以上のお金が必要ということになります。
そこで、「子育て連帯基金」というものをつくり、年金や医療保険、介護保険から一定額ずつお金を拠出してもらって、それを財源にしようという構想です。
実際に岸田首相は、新年の会見でも、異次元の少子化対策のために、財源として各種保険料を引き上げて当てると言っていました。
そうなれば、当然ながら値上げした保険料というのは、皆さんの懐から徴収されることになります。
それでなくても、昨年10月に雇用保険料の引き上げで、年収500万円くらいのサラリーマン家庭では、年間1万円弱の負担増になっているのですからたまりません。
すでに子育てを終わっている世代などには、「自分の子供のためでもないのに、医療保険や介護保険や年金保険などの保険料値上げを強いられるのは理不尽だ」と思っている人が少なくないでしょう。
無駄遣いの温床の「基金」を増やす岸田政権
批判が多い「子育て連携基金」ですが、百歩譲って、これをつくることで将来の子供たちの支援が万全に行えるのなら異議は唱えないという方も多いでしょう。
ただ、私などは「基金」ときいただけで、無駄遣いしか連想できません。
なぜなら、いま日本は「基金バブル」ですが、特に岸田政権になって、その傾向は顕著になっています。
毎日新聞の集計では、複数年度にわたって実施する事業の予算を積み上げる政府の基金が乱立していて、公益法人や地方公共団体に設けられた基金の総数は1900を超えているとのこと。
政府が昨年11月に国会に提出した第2次補正予算案では、基金への予算措置が8兆9000億円と過去最大でした。このうち新たな基金は16事業2兆4821億円で、それ以外の既存の基金への積み増しも膨大になった結果です。
確かに、新型コロナや物価高など、危機的な状況の中で資金を機動的に運用していくために、効果を発揮した基金もないとは言えません。
けれど、中には意味がなかったどころか、弊害となったのではないかと疑いたくなる基金もあります。
たとえば、ガソリン価格の高騰に対応するためにつくられた燃料価格激変緩和基金。当初800億円で設立され、その後令和3年度予算一般会計予備で3,500億円 、令和4年度一般会計予備で2,774億円、令和4年度一般会計補正予算で1兆1,655億円と、どんどん予算が増えていきましたが、そのすべてがスタンドでのガソリン代の値下げに使われたわけではないことが、財務省の調査で指摘されています。
だとしたら、こんな基金などつくらずに、最初からトリガー条項の凍結を解除してガソリン1リットルあたり一律に25円の値下げをしたほうが透明性も高く、納税者にも納得感があったのではないでしょうか。
「基金」は、国の監視も一般会計ほどは厳しくなく、使い勝手がいいので今や便利な「財布」と化しつつあり、無駄遣いや使われない予算の積み上げ場所にもなっていると言われています。これについては、会計検査院などもたびたび苦言を呈しています。
そうした中で、私たちの社会保険料の負担を増やしてまでつくるという「子育て連携基金」。コロナや物価高で疲弊している家計から、税金や保険料を搾り取り、使い切れずに余ったお金は基金と称して貯めているのです。
岸田政権がどんなに「異次元の少子化対策」を声高に語ろうと、現実に食事すら満足に取れない子供がいる中で、消費税を増税するだの基金を創設するだのというのは、それこそが「異次元」の話だと思うのは、私だけでしょうか。  
●官庁エコノミストについて改めて考えてみる 1/24
1月19日の朝日新聞に、原真人編集委員の「岸田政権の巨額予算 司令塔なき政策の矛盾と欺瞞」という記事が掲載された。この記事については、私もインタビューを受け、その内容が記事中で紹介されている。この記事では、かつて存在した官庁エコノミストが政府から消えてしまったことが、近年、矛盾と欺瞞に満ちた経済政策が行われるようになった一因であるという主張が展開されている。この原氏の論説を題材にして、官庁エコノミストについての私の考えを述べてみたい。
官庁エコノミストの代表選手
この記事では以下のような記述がある(以下、引用は筆者が適宜編集した部分がある)。「かつてマクロ政策の総合司令塔として政府内や日銀との調整役を担ったのは経済企画庁(現内閣府)だった。官庁エコノミストと呼ばれる学者顔負けの専門家たちが集い、経済白書(現内閣府)に大きな国家構想を描いた。‥都留重人、宮崎勇、大来佐武郎、金森久雄、香西泰、吉冨勝ら戦後を代表する著名エコノミストたちがひしめいていた」としている。
いずれも懐かしい名前で、私自身も個人的に接したことのある人たちばかりである。最近、社会人を相手に経済の話をしている時に、金森さんや香西さんの名前を出して、「皆さんご存知ですか」と聞いてみたら、ほとんど全員が「知りません」という答えだったので、やや愕然としたことがある。
記事について細かい点も含めてコメントしておこう。まず、記事中に「経済白書に大きな国家構想を描いた」とあるが、経済白書で国家構想を描くことはない。国家構想を描くとすれば、経済計画であろう。経済白書は、経済の実態を分かりやすく国民に伝えるのが主なミッションだと私は考えている。また、これも後述の議論と関係するが、官庁エコノミストが国家構想を描いていいのかという疑問もある。国家構想は、選挙で選ばれた国会議員、または国会議員から選ばれた閣僚を中心に描かれるべきだろう。
また、これを読む人にとってはやや意外かもしれないが、ここで登場する代表的官庁エコノミストの中で、香西氏や吉冨氏は白書を書いていない。私から見ても、この二人が内国調査課長にならなかったのはやや不思議だし、この二人の経済白書を是非見たかったという思いがある。
ここで話はやや脱線するが、経済企画庁の歴史の中でも群を抜いた実力エコノミストであった香西、吉冨両氏が白書を書くポジションにつかなかったのはなぜだったのかを考えてみよう。私は、香西さんとの接点が多かったので、香西さんについての「なぜ白書を書かなかったのか」問題を色々考えたことがある。香西さんは、ちょうど内国調査課長の適齢期になった頃、退職して東京工業大学に移るという、多くの人にとって驚愕の行動をとったのだ。当時私も企画庁で働いていたのだが、次官をはじめとする幹部も含めて、多くの人が口々に「香西さんはなぜ役人を辞めちゃったんだい」とつぶやいていたのを覚えている。それはなぜか。私の結論は、比較優位によるというものだ。
かなり単純化して説明しよう。経済企画庁における官僚の進路には、エコノミスト路線と行政官路線の二つがある。エコノミスト路線は、経済分析を担う仕事を中心とするキャリアパスである。自分で言うのもどうかとは思うが、私自身が典型底なエコノミスト路線人間だ。私は、「内国調査課の新人」→「経済研究所研究員」→「内国調査課課長補佐」→「日本経済研究センター主任研究員」→「内国調査課長」→「経済研究所長」→「調査局長」(途中の非エコノミストポストは省略)といったコースを進んできた。多分これほど経済分析的な仕事を渡り歩いた人間は、経済企画庁の歴史の中でもあまりいなかったのではないか。
世間では、企画庁のエコノミスト的な仕事が目立つのだろうが、これは企画庁の仕事の一部であり、実際には経済政策の調整、経済見通しの作成、物価行政、消費者行政、経済計画づくりなど行政的な仕事の方が多い。
なお、企画庁の中での最高ポストである事務次官になるのは、どちらかと言えば行政的なキャリアパスを歩んできた人に多い。逆に言えば、エコノミスト路線の人間が次官になることは少ない。歴代の経済白書執筆者で、次官にまで上り詰めた人が非常に少ないことからもそれは明らかである。
さて、香西さんはエコノミスト的な仕事も行政的な仕事も両方抜群の能力を発揮していた。私が新人として経済企画庁に入った時には、香西さんは課長補佐のポジションだったのだが、既にその能力の高さは企画庁になり響いていた。経済学の知識は卓越していたし、行政的な手腕も優れている。そしてさらに宴会でも愉快にお酒を飲む。面倒見もいい。私たちの同期生が企画庁に入る直前に、先輩諸氏が歓迎会を開いてくれた。同期の中には地方から出てきた者もいたのだが、その中の一人T君を香西さんは自宅に連れて行って泊めてくれた。T君の話によると、香西さんは家に着くと、T君が泊まる手配をした後、「Tさん、人にはそれぞれの人生があるのですよ」という謎のような言葉を残して、自室で原稿書きの仕事を始めたのだという。エコノミストとしての仕事が忙しいから後輩の面倒は手を抜くということはしない人だったのだ。
例えば、こうした香西さんの行動を、僭越ながら私と比較してみよう。各分野の香西さんのパフォーマンスを100として、私と比較すると、経済的分析では40、行政能力は30、面倒見は20、宴会は10という感じだろうか。すると、香西さんは各分野での絶対優位を持っているのだが、私の比較優位は経済分析だということになる。香西さんは経済白書を書かなかったが、私は白書を書いたのはこの比較優位のためである。
というわけで、香西さんは行政分野における比較優位を発揮して、将来の次官への道を歩むよう期待されたのではないか。それを知った香西さんは、「それは自分の意に反する」と思ったのだが、「経済白書を書けないのであれば辞めます」といって幹部を脅迫するようなことはせず、すっきりと辞めてしまったのではないか(完全に私の想像です)。
官庁エコノミストへの期待
この記事中のインタビューで、原氏は私に「あなたがいま官庁エコノミストだったらおかしな政権方針を批判できますか?」と質問し、私はこれに対して「いや無理でしょう。私も財政はいつか破綻するのではないかと心配だし日銀の政策もどうかと思う点が多い。でも官僚は表だって時の政権の方針を批判できません」と答えている。これを受けて原氏は、「官僚たちが率直な意見を上げにくい風通しの悪さにこそ、理が取らぬ政策が横行する原因がある」と書いている。これはストーリーとしては分かりやすいし、確かに、私が勤務していた頃よりは、官僚が官邸の意向を気にする度合いがかなり強まっているという感じはする。この辺は微妙で、なかなか私の真意を伝えるのは難しいのだが、以下、若干の見解を述べてみたい。
まず、先ほど名前が挙がったような官庁エコノミストの代表選手たちは、現役時代に時の内閣の方針を批判していたかというと、多分そんなことはなかっただろうと思う。官僚であれば、組織の論理というものは身についているから、政治的決断が下された問題については、たとえ自分は反対であっても、組織としての決定に異を唱えることはしなかったはずだ。ましてやそれを外部に公表するようなことはあり得ない。もしそれが許されたら、組織は動かなくなってしまう。
ただ、これら官庁エコノミストの代表選手たちは、官僚を辞めた後は、政府の政策批判をすることはあった。私もそうだった。おそらく多くの人は、役人を辞めた後のこれらの人の活躍を見ており、その印象が強かったので、現役時代にも同じような発言をしていたと思ってしまったのではないか。
また、私が、「いや、無理でしょう」と答えたのは、「言いたくても言えない」というよりも、「そもそもそんなことはできないものだし、やるべきでもない」という意味での発言である。官僚は、国民に選ばれたわけではないのだから、国の方針に口をはさむことは控えるべきだというのは私の考えだからだ。もちろん、例えば私が局長で、私の所管する分野について、大臣が無理な政策を行おうとしたら、次官に相談した上で、大臣にその政策の問題点を説明して、止めた方がいいと説得することはありうる。もし局長より下の地位、例えば課長補佐であったら、まず課長を説得し、局長を説得して、局長から大臣に伝えてもらうという手順を踏むことになる。それは、実務家の官僚として、気が付いたことを進言するということであり、官僚の責務の一つだ。ただその場合でも、その内容を外部に公表するようなことは絶対にしないはずだ。
官庁エコノミストはいなくなったのか
原氏は、「次第に官庁エコノミストは重きを置かれなくなり、今や絶滅危惧種だ」と厳しい。私自身もしばしば「小峰さんが最後の官庁エコノミストですね」などと言われることがある。
これは官庁エコノミストの定義の問題だと私は思う。前記のような官庁エコノミストのビッグネームたちは、現役時代から、本を書いたり、講演したり、マスコミに登場したりして華々しく活躍した。官僚を辞めた後は、制約がなくなるのでさらに華々しく活動した。私も、これらビッグネームほどではないが、現役時代からかなり多くの本を書いたり、原稿を書いたり、外部の講演をこなしたりした。そういう人種が官庁エコノミストだと定義するのであれば、確かに官庁エコノミストは絶滅危惧種だと言えるかもしれない。
しかし、官庁エコノミストを「経済学の知識を備えて、それを政府内での経済分析、政策立案に活かそうとしている人たち」と定義すれば、官庁エコノミストはたくさんいる。企画庁の後を継いだ内閣府を見ても、私はそういう官庁エコノミストを具体的に知っている。しかし、こうした人たちはほとんど外部への発信がないので、外から内閣府を見ている人たちはその存在を認識できないのだと思う。
私は、かつてのような外部発信型の官庁エコノミストを復活させることはかなり難しいと思う。これからも、EBPMの実践やビッグデータの分析やマーケットデザインなどの経済学の新手法の応用など、経済学の知識を経済政策に生かす道は多く存在する。外部の人に名前を知られなくても、こうした分野で実践型の官庁エコノミストが活躍する道は開かれているのだと思う。
しかし、それにしても外部発信型の官庁エコノミストを輩出していた時代の経済企画庁というのはどんな雰囲気だったのだろうか。この点については、最近、私はかなりの量の新資料を発見したので、次回はこれを使って、当時の雰囲気を探ってみることにしよう。
●自民 “防衛費増額” 国債の償還見直しでの財源確保に賛否  1/24
防衛費増額の財源について議論する自民党の特命委員会の会合が開かれ、国債の償還ルールの見直しで財源を確保する案をめぐり、賛成・反対双方から意見が相次ぎました。
自民党の特命委員会は、先週の初会合に続いて、24日午前、2回目の会合を開き、防衛費増額の財源確保策の1つとして、国有資産の売却など、税金以外の収入を活用する「防衛力強化資金」を創設するための政府の法案について議論しました。
ただ会合では、防衛費増額に伴う増税の方針に否定的な立場の議員らが、国債の償還ルールを見直して財源を確保すべきだと主張したのに対し、増税に理解を示す議員が「国債に頼るのは将来世代に借金を背負わせることとなり、無責任だ」と反発するなど、法案と直接関係しない意見が相次ぎました。
これを受けて、特命委員会の幹部が「きょうは法案を検討する場で、党内を二分するような議論を行うべきではない」と指摘し、会合では、法案の国会提出に向けて党内手続きを進めていくことを確認しました。
特命委員会では次回以降、増税以外で賄う財源についての議論を本格化させることにしています。
●高成長実現で26年度にPB黒字化、歳出改革継続なら25年度も視野 内閣府 1/24
内閣府は24日、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)について、高成長を前提とした場合は2026年度に黒字化するとの試算を経済財政諮問会議に提出した。26年度の黒字化は昨年7月の試算でも示しており、見通しを維持した。一方、23年度の実質国内総生産(GDP)成長率見通しは1.5%程度とし、前回の1.1%から引き上げた。
内閣府は年に2回、今後10年程度のPBの推移などを含む「中長期の経済財政に関する試算」を諮問会議に提出している。試算では実質2%・名目3%程度の成長を前提とする「成長実現ケース」と、実質・名目ともに0%台半ば程度で推移することを前提とする「ベースラインケース」の2パターンを提示した。
プライマリーバランスは、社会保障関係費や公共事業など毎年の歳出(除く国債費)と税収など歳入との差額で、財政健全化の目安となる。今回の試算(グリーントランスフォーメーション対策の経費・財源を除く)によると、25年度は成長実現ケースで1.5兆円程度の赤字、ベースラインケースで5.1兆円の赤字が残る。
内閣府は、成長実現ケースで1年あたり1.3兆円程度の歳出改革を継続していけば、PB黒字化は25年度へ1年程度の前倒しが視野に入るとしている。一方、ベースラインケースでは32年度においても目標達成は難しい。
国・地方の公債等残高(対GDP比)は23年度に216.0%程度となる見込み。成長実現ケースでは32年度の171.7%程度まで安定的に低下していくシナリオだが、「長期金利の上昇に伴い、低金利で発行した既発債についてより高い金利による借り換えが進むことには留意が必要」とした。長期金利が継続的に0.5%ポイント程度上振れた場合は、32年度のGDP比残高は175.0%となる。
ベースラインケースでは、32年度で216.8%程度(長期金利0.5%ポイント程度上振れなら220.1%)でほぼ横ばいの見通しだ。
23年度の実質GDP成長率、1.5%程度見込む
22年度のGDP成長率見通しは、実質1.7%程度、名目1.8%程度とし、前回の実質2.0%程度、名目2.1%程度からそれぞれ引き下げた。コロナ禍からの緩やかな持ち直しが続く一方、エネルギー・食料価格の上昇や世界経済の減速が懸念されている。23年度は、政府の経済対策の効果が本格化することなどから、実質1.5%程度、名目2.1%程度の成長を見込んでいる。
成長実現ケースの先行きでは、「新しい資本主義」の実現に向けて「人への投資」や成長分野への投資が促進され、潜在成長率が着実に上昇する見通し。所得の増加が消費に結びつくことで、実質2%程度、名目3%程度の成長を実現する。
消費者物価上昇率は、成長実現ケースで26年度に2%程度に達し、32年度まで同水準を維持。ベースラインケースでは、23年度を1.7%程度とし、24─32年度にかけて0.6─1.0%程度で推移するシナリオとなっている。
●英国の景気後退リスク強まる−生産は低迷、財政赤字は過去最大 1/24
英国企業は新型コロナウイルスの流行初期以来の急激なペースで生産が落ち込んでいると示唆し、英経済がリセッション(景気後退)に陥ったとの観測を強めた。同時に、政府の財政赤字は過去最高の水準に拡大した。
S&Pグローバルが24日発表した1月の英総合購買担当者指数(PMI)は、予想以上に大きく悪化した。以前は景気を支えたサービス業の落ち込みが激しかった。英政府統計局(ONS)によると、12月の財政赤字は過去最大に上った。金利上昇で国債費が増加した。
こうしたデータは、英国が景気の落ち込みを回避できるとの期待を後退させる。一部の業種を停滞させている労働争議や通商問題の解決策や、景気対策を打ち出すようスナク首相には圧力が強まりそうだ。
S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのチーフビジネスエコノミスト、クリス・ウィリアムソン氏は「労働争議や人員不足、輸出の減少、生活費の高騰、金利上昇などの全てが景気の落ち込みをいま一度加速させている」と指摘。英国は「労働力不足や通商問題など欧州連合(EU)離脱に関連した長期的な構造問題による経済への打撃」にも直面していると同氏は論じた。
PMI発表後、ポンドは一時0.6%安の1.2302ドルまで下落。英国債は上げを拡大した。短期金融市場ではイングランド銀行(英中央銀行)のピーク金利見通しが後退し、市場が織り込む8月までの追加利上げ幅は101ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と、前日の105bpから縮小した。
●「総動員して環境整備」“賃上げ国会”論戦スタート… 1/24
国会では、今年初の論戦が行われました。
無所属・芳賀道也参院議員 「通常国会を本気で“賃上げ国会”にすると約束して下さい。賃上げも“異次元”の内容を行うのか、それとも企業任せの従来型のやり方なのか」
岸田総理 「民間だけに任せることなく、国も政策を総動員して、賃上げに向けた環境整備に取り組む」
物価高対策も急務です。24日に公表された内閣府による世論調査。「今後、政府が、どのようなことに力を入れるべきか」という質問に「物価対策」と答えた人は64.4%と、前回調査から倍増しました。
野党からは、減税を求める声も上がりました。
日本維新の会・石井苗子参院議員 「消費税減税を実施して、国民の消費を拡大させ、日本経済を成長の軌道に乗せる最大のチャンスではないか」
岸田総理 「足元の物価高騰の要因は、基本的にはエネルギー・食料品を中心とした物価高。こうした分野に重点を置きながら、これまでスピード感を持って、きめ細やかな対応を重層的に行ってきた。消費税は、社会保障制度を支える重要な財源、減税を考えてはいません」

 

●防衛力強化 有識者会議の議事録要旨  1/25
反撃能力 「発動」見据え議論 急務…黒江氏
中西氏  防衛力について抜本的強化が必要であることには全く賛成で、その中に反撃能力の装備等も加えて拡充する(べきだ)。
黒江氏  ロシアによるウクライナ全土に対する大量のミサイル攻撃、あるいは北朝鮮のミサイル能力がすでに非常に向上している状況を考えた時、反撃能力を保有するかどうかを議論するのはもう遅いと思う。むしろ、その能力をどのようにして発動するのか。他国の領域にあるアセット(装備品)を攻撃するという非常に重大な決断になる。例えば、国会承認といったことも視野に入れた議論をお願いしたい。
山口氏  最も優先されるべきは、有事の発生それ自体を防ぐ抑止力であって、抑止力に直結する反撃能力、つまりスタンド・オフ・ミサイルではないか。国産の改良を進めつつ、外国製のミサイルを購入して、早期配備を優先すべきだと考える。
浜田防衛相  2027年までの5年で我が国への侵攻に対し、我が国が主たる責任を持って対処し、同盟国から支援を受けつつ、これを阻止・排除し得る防衛力を構築する。おおむね10年後までに、この防衛構想をより確実にするための努力を行い、より早期かつ遠方で我が国への侵攻を阻止・排除する体制を確立したい。
防衛関係費 増額 丁寧な説明必要…翁氏
翁氏  防衛関係支出は、北大西洋条約機構(NATO)基準の国内総生産(GDP)比2%を機械的に追い求めるのではなく、真に実効的な防衛力・抑止力に資する支出内容の検討、NATO加盟国とは異なる日本の国情に即した検討が必要だ。 防衛費増額をどの程度にすべきか。負担の議論まで視野に入れる以上、防衛費増加について国民の理解を得るには丁寧な説明が必要だ。規模ありきではなく、積み上げで検討を行うと報告書に書いてほしい。防衛費増額への転換点となる報告書で、歴史の検証にも堪えられるようにする必要がある。
喜多氏  防衛というと装備品に目が行きがちだが、最前線で国を守る人たちの処遇を良くすることも忘れないでいただきたい。金額ありきではなく、有効に効率的に資金を使うことが大切だ。
山口氏  研究開発費を包含した防衛力を測る物差しが必要だ。NATO基準を参考にしつつ、日本の課題解決に適した、海上保安庁と海上自衛隊の連携強化にも資する、新たな基準を持つことが検討されてよい。防衛力の抜本的強化は、戦略性・実現性の観点から優先順位をつけ、着実に成果を上げていただきたい。予算を国会で議決された通りに執行する実現性が求められる。費用対効果を吟味することも重要だ。既存の装備品のスクラップ・アンド・ビルドを行いつつ、予算を確実に執行し、防衛力を強化して国民の信頼を一層高めるといった望ましい循環を作っていく必要がある。
佐々江氏  日本として安保関連経費の算定基準を作っていくことが非常に重要だが、我が国の努力を国際的に公正に評価してもらう視点も重要だ。日本固有の事情に配慮することは当然だが、NATO基準と大きく乖離(かいり)する算定基準とすることは問題が生じる。
上山氏  防衛とは、戦争を起こさないための努力であり、軍事力の均衡が戦争の抑止力になる。同時に、経済成長の基盤となる新たな産業構造を作り出し、新たな税収入を生み出すことも、国力としての防衛予算の大きな役割だ。
中西氏  防衛については、ある程度の複数年次が必要なものと、毎年どれだけ予算をつけていくかという話を一緒にやるのは、現場の議論としてかなり難しいのではないか。交通整理をしていただきたい。日本の防衛問題は予算の話が非常に比重が大きい。予算の話だけではなく、何のためにやるのかを議論する場を考えてもらいたい。
船橋氏  研究開発やシステム開発の優先順位、実現可能性、費用対効果などの検証が必要だ。防衛費を増やす場合は、検証してから増やす。増やした後は、必ず検証する。それを踏まえてスクラップ・アンド・ビルドを行うサイクルを作る。その上で増税をお願いするべきだ。
財源 最適な財政 あり方検討…中西氏
翁氏  無駄を取り除く歳出改革を一層進めるとともに、私たちの世代の負担が必要だ。ただ、負担能力に特段に配慮しながら具体的な道筋をつける必要があり、持続的な経済成長実現と財政基盤確保という視点に立った検討が重要だ。英国政府の大型減税策が大幅なポンド安を招いた。既に公的債務残高のGDP比が高い日本は、そのリスクを認識する必要がある。財源確保策の結論を早急に得ることが重要だ。新型コロナウイルス対策などでは、社会保障費であっても無駄の事例が指摘されている。無駄をなくして財源確保につなげる工夫が必要だ。負担が偏りすぎないよう、様々な税目で検討する努力をすべきで、将来世代のためにも責任ある選択が求められる。
喜多氏  防衛力強化は単年度の話ではなく、将来にわたって継続して取り組む課題だ。必要な財源を安定して確保していかなければならない。財源を安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担することが必要ではないか。自衛隊の隊舎など防衛費から捻出するものには建設国債が充てられない。こうした伝統的な考えも、財源確保を検討する中で見直すことが必要ではないか。
国部氏  有事に経済活動や国民生活の安定を維持していくには、機動的に財政出動できるよう、一定の財政余力を平時から保持しておく必要がある。防衛費が恒常的な歳出であることを踏まえ、全てを国債に頼るということではなく、それを賄う恒久財源についても併せて議論すべきだ。財源の一つとしての法人税については、成長と分配の好循環の実現に向け、多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいる中、こうした企業の努力に水を差すことのないよう議論を深めていただきたい。財政状態が金融資本市場に与える影響にも注意が必要だ。金融資本市場に強いストレスがかかった際、我が国経済の安定を維持できる財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない。国民に痛みを伴う負担について、首相自らの言葉で語りかけていただき、国民の生命と財産を守り抜く決意を表明いただきたい。
中西氏  有事にも経済財政状況が安定した基盤を維持できるような公債管理政策についてのシミュレーションが必要だ。経済財政諮問会議のような組織があるわけだから、最適な財政のあり方を検討すべきだ。
山口氏  「つなぎ国債」はよいとしても、恒久的な財源を確保していかなければならない。既存の歳出の削減と併せて具体的な議論が急務だ。国民負担の議論を進めるためにも、戦略性・実現性・費用対効果を踏まえた防衛力強化の中身・道筋を分かりやすく示していただきたい。
佐々江氏  防衛力の強化が待ったなしであり、国民の将来のために財政状況の改善も必要だということを率直に話して理解を求める必要がある。
船橋氏  国民に幅広く負担してもらうことが大切だ。為政者は襟を正し、意を尽くしてその必要性を国民に説明する責任がある。幅広く国民に負担していただくのが筋だ。個人の所得税の引き上げも視野に入れる必要がある。
黒江氏  国民にさらなる負担増をお願いしてでも、防衛力を強化しないといけない時期に来ている。
鈴木財務相  歳出・歳入両面にわたる財源措置は、2027年度予算までの財政需要だけではなく、その後の歳出水準の継続等を視野に入れて、恒久的な財源確保を図るものとしなければならない。不足する財源については国会・与党での議論も踏まえ、税制上の措置を含め、多角的に検討する必要がある。安定した財源の確保が基本で、今を生きる世代全体で分かち合っていくべきだとの指摘を重く受け止める。
西村経済産業相  デジタルやグリーンなどを中心に民間投資が上向くなど、日本経済にようやく変化の兆しが出てきている。この5年間がまさに成長軌道に乗るかどうかの重要な時期であることを踏まえ、財源については慎重に検討すべきだ。
情勢認識 国際秩序に深刻な挑戦…秋葉氏
秋葉剛男・国家安全保障局長  ロシアによるウクライナ侵略、中国の力による一方的な現状変更の試み、北朝鮮の繰り返される弾道ミサイル発射など、国際秩序は深刻な挑戦を受けている。ウクライナ侵略のような事態は、将来、インド太平洋地域でも発生し得るもので、我が国が直面する安全保障上の課題は深刻で複雑だ。
黒江氏  最大の脅威である中国について、ロシア以上に洗練されたやり方で(情報戦など非軍事の手法も組み合わせた)ハイブリッド戦を展開してくるだろう。現在、既に尖閣に侵入しており、サイバー攻撃を毎日仕掛けている。日中間の状況は既にグレーゾーンだ。台湾有事の際には、容易に武力侵攻につながっていくという認識を持つ必要がある。自衛隊が強くなければ、国を守れないということは、ウクライナ侵略が端的に表している。最も懸念している事態は、中国による台湾の武力統一だ。自衛隊をどこまで強くしなければならないかを示す必要がある。台湾有事で国と国民を守れる防衛力を作る必要があると、国民に明らかにすることが大事だ。
山口氏  東アジアの軍事バランスが不安定化し、新たな危機の時代に突入したと認識すべき状況だ。日本にとって脅威が高まっている現実を直視し、防衛力強化の目的を明確にすることが求められている。目的は、日本の平和を守り、東アジアの安定を図ることにある。
船橋氏  日本の周囲の国々のうち、日本に脅威を与えうる中国、北朝鮮、ロシアはいずれも専制主義国で、個人独裁体制を特徴としている。そのような体制では、政策決定過程は不透明で意図は不可測的だ。これらの国々に対しては意図よりも能力を中心に把握することが重要だ。
林外相  力による一方的な現状変更の試みが、正面から行われるようになった。防衛力の抜本的強化は急務で、防衛力が強化されると、外交も力強い展開がさらに可能になる。外務省としては、日米同盟を深化させ、抑止力・対処力の強化に努める。
浜田防衛相  我が国はロシア、中国、朝鮮半島の最前線に位置している。欧州で起きていることがインド太平洋地域で起きないよう、次の防衛目標を達成する能力を持つ必要がある。
防衛産業 開発担う基盤を強化…国部氏
喜多氏  民間の力を活用することが不可欠だ。防衛産業を育成する政策が必要になるのではないか。長い間、日本は武器輸出を制約し、日本の防衛企業の成長を妨げてきた。制約をできる限り取り除き、民間企業が防衛分野に積極的に投資する環境を作ることが必要だ。企業が防衛部門から撤退するケースが出ている。競争力のある国内企業がなければ、優れた装備品などを国産化することは不可能だ。これから強化しなければならないサイバー部門に民間企業が人や資金を投入しやすい環境を作るのも国の責務だ。
国部氏  防衛力を総合的に強化するには、装備の生産やデュアルユース分野を含めた技術開発を担う基盤の強化が欠かせない。企業に撤退を余儀なくさせている商慣行の見直しなどを通じて、サプライチェーン(供給網)の再構築に取り組むべきだ。防衛産業に携わる企業が成長事業として取り組める環境を整備する必要がある。自律的な成長を可能にする観点から、買い手が日本政府だけという構造から脱却し、政府として海外に市場を広げる方策についても議論してもらいたい。
山口氏  防衛産業を国力の一環と捉え直し、自由で開かれたインド太平洋の安保環境の整備につなげるといった大きな視点に立って、防衛装備品の輸出拡大を、日本の安保の理念と整合的に進めていくための対策が検討されるべきだ。官民一体で取り組むべきで、何が原因で企業の撤退が続いたのか、企業側は何を望んでいるのか、防衛装備品の輸出を妨げていた要因は何か、外国の防衛産業との競争に勝つにはどうすればいいかなど、課題を総ざらいすべきだ。その上で、防衛産業強化に必要な制度設計と工程表策定を進めるべきだ。諸外国は政府と企業が一体となって防衛装備品の輸出を拡大している。研究開発や公共インフラと同様に、防衛省に関係府省を加えた体制で取り組む必要がある。
黒江氏  防衛装備品は、研究開発から製造、修理、弾薬の補給まで、実際に実行しているのは全て防衛産業だ。防衛産業はまさに防衛力の一部だと考え、これまでのように、単に調達契約で対価を支払うだけではなく、育成・強化を図る必要がある。
上山氏  防衛予算の拡大は、単なる技術開発のみならず、広範囲な人材育成と産業展開に関して用いられるべきだ。
西村経済産業相  防衛力強化のために、強い防衛産業基盤が不可欠だ。収益率が低い防衛部門、防衛産業は撤退が続く状況だ。このまま推移すれば、国内の産業基盤が毀損(きそん)される恐れがあり、防衛装備に関する仕組みを見直す必要がある。防衛部門の利益率の改善や、厳格な輸出管理の下で、国、制服組が前に立った形での装備移転、輸出の抜本的拡大などに取り組む必要がある。
浜田防衛相  防衛産業にはレピュテーション(評判)・リスクや低い収益率、サプライチェーン・リスクやサイバーセキュリティーなどの課題が山積している。防衛生産・技術基盤は防衛力そのものであり、防衛省として維持・強化に努めたい。
研究開発・先端技術 民間・学界の協力必須…橋本氏
上山氏  我が国では、科学技術者がデュアルユース(軍民両用)をはじめとして、安全保障(目的の研究)を避ける傾向がある。安心して安全保障上の研究ができる特別の空間を大学の内と外に作ることも必要だ。米国の防衛関係の投資は、単に軍事力や軍事技術への資金供与ではない。経済・社会全体の国力を見据えた国家投資になっている。
喜多氏  日本の科学技術は世界的にも高い水準にある。研究開発予算もそれなりに計上されている。大学や政府機関に残る、軍民両用技術の研究を避ける傾向を転換して、防衛力の強化につながる仕組みを作ることが大切だ。(政府の)科学技術関係予算は約4兆円あるが、防衛省は約1600